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俺は小説家を目指している。

209イチゴ大福:2005/03/04(金) 20:39:57 ID:5cN.MTjs
「その不満は死人のためのものだ。君はどう足掻いても被害者の遺族にしかなれない。」
「だから当事者になろうとしたの。由布子は警察から六年前の事件のことを聞いたといっていたわ。それとも、あなたは私に緩慢な死を要求するの?」
「その警察官は、白血病患者の会にいた、春子の友人、比呂の父親じゃないのか?」
「そうらしいわね。でも、そんなことどうでもいいことよ。」
「よくはない!その人間は嘘をついてるんだ。俺たちを罠にはめるために!」
「それでもいいのよ。分からない?これは必要なことなのよ。」
「なんのために必要なんだ?」
「必要だと認識するもののために必要なのよ。」
「必要を喚起する必要など、幻想と夢想の襞に包まれた虚像だ。」
「現実はそれを認識するものにとって現実たりえればいい。虚像が虚像だと気がつくまでは、それは現実に血の通った肉体の出来事なのよ。」
「亜季、君はこれを現実だと認識できるのか!?」
「ええ、だからしたの。現実にしたかったから、したのよ。四季を殺したゴミを、クソを、綺麗に排除してやりたくて。だから、あなたも分かって。ね?お願い。」
そして、右手に煌く白銀の殺意が、ゆっくりと女の子の背後に影を差した。
「さぁ、あなたもいっしょに・・・・・・。」
言い切らないうちに、静かな挙動が正確な機械の動作を実現していた。それは誰も望まなかった意志の発露であり、かといって誰かがすることを望んでいた、無責任な作動だった。
無用な爆炸音を、豆鉄砲のような空気の振動に変えて、鉛の玉は亜季の白い大理石の額に一点の穴を穿っていた。一瞬遅れて、薬莢の打つ、乾いた金属音が辺りに響いた。何一つ満足な終わり方でないことは、そこにいる誰もが理解していることだったが、なにより、彼ほどその“不満足”の意味を噛み締めている者はいなかっただろう。ひとりのかけがえのない人生であっても、それが愛した人であっても、死ぬときは一瞬の閃光の瞬きよりも短い時間の追憶に過ぎないのだから。
蹲り、泣き崩れる女の子を他所に、彼は亜季の死体を抱きかかえた。大きく見開かれた目を、赤子をあやすような優しさで閉ざしてやる。
「なんて馬鹿げているんだ?」
彼は既に活動を停止した亜季の形をした肉の塊を見つめ、呟いた。
「あんまりだ・・・・・・君はあんまりだよ。」
一粒の涙が彼の瞳から流れ落ちた。だが、それだけだった。
静かに、冷たいフロアに遺体を寝かせると、彼は立ち上がった。すでに涙の痕跡もなく、むしろ、双眸に宿る狂気じみた雰囲気のために、誰も彼が悲しんでいることなど気づかなかっただろう。
「あ、あの、あなた警察の方?」
職員らしき中年の男性がたどたどしい口で問う。彼は頷いた。
「ええ、そうです。警察と消防署に連絡して救急車を呼んで、現場はそのままにしておいてください。いいですね?」
それだけ言って彼は立ち去ろうとする。
「ちょっと、どこ行くんですか?あんた警察でしょ?これ、どうするの?」
四人もの死体を置いてまで一体どこに行く必要があるのか?それは至極まっとうな質問だった。しかし、彼はもう聞いてはいなかった。
その目は、憎しみしか見つめてはいなかった。


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