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俺は小説家を目指している。

193イチゴ大福:2005/03/02(水) 11:28:46 ID:xLJuwFUE
32.群青色の夢をみる。
八年前の事件と六年前の事件が「白血病」という病名によって抽象的な関係性を有している点は、前田にとって気になる点ではあったが、今のところ、T経済大生を狙うゴーストを検挙するのが、これ以上の被害の拡大を防ぐ最も有効な手段であり、前田にとっては、再び眠れない日々の到来を告げるものだった。
大洗の妻が入院しているのは国立病院で、前田は大洗をそこまで送り届けると、一時帰宅した。食事をし、しばしの仮眠をとる。寝起きが辛かったが、奥さんの笑顔に勇気づけられている自分がなんとも微笑ましく感じていた。
ノートパソコンと充電池、奥さんが淹れてくれたコーヒーと夜食を抱えた前田は、愛娘の寝顔に別れを告げると、ひとり、梧桐宅の張り込みに向かった。
梧桐が帰宅するのはだいたい午後十時過ぎである。講義の変更やイベントなどでスケジュールを変更することは考えられるが、梧桐冬樹のように長距離の通学をしている学生は、最終には間に合うように電車を選ぶはずだし、移動時間の窮屈を考えて、できるだけ効率よく時間を使おうとするはずだ。帰宅時間に大きな狂いはないとみてほぼ間違いはなかった。
実際、この日も十時過ぎには到着していた。
前田は梧桐冬樹の姿を確認すると、ノートパソコンを開いた。
うっすらとディスプレイの明かりが暗い車内に仄かに充満した。強い光が目に痛く、照度を下げる。暗い世界にぼんやりと浮かぶディスプレイは、群青色の淡い光を放ち、車内を異様な光で浮かび上がらせていた。
ネットに接続し、メールをチェックする。エロサイトや架空請求のメールがほとんどだったが、その中に間良からのメールを見つけた。
内容は先日の再会のことについてだった。勿論、彼の働きに報い、大変な量の食事を奢ったことへの、前田への些細なお礼だった。
前田は返信とともに、彼が指摘した“存在しない”五人目の被害者のことも報せた。また、事件が予想以上に複雑であり、根が深いこと。そして、大洗警部が戦列を離れたことで明日から単独での捜査になることを書き添えた。
返信の数十秒後に、メッセンジャーにログインしてきた間良は、開口一番こう書いた。
『ひとりで大丈夫か?』
いろいろな意味に取れなくはないが、「初めてのお使いじゃないんだ。何を心配してる?」と返す。きっと、仕事の片手間にメールを書いているのだろう。ソフトウェア関係の仕事は勤務時間が一定しないというのはよく聞く話だ。前田のタイピング速度を考えれば彼に文句をいう資格はないだろう。一分ほど経って、レスポンスがあった。
『お前みたいなガタイのいいおっさんの心配なんか誰がするか。昨日は相当煮詰まっていたように見えたが、仕事の相談相手がいなくなるのはマイナスじゃないのか、と訊いたんだ。』
間良の言うのはもっともだ、と前田は一人でうなずいた。
「今回の事件はまだ何一つ犯人に結びつく手がかりが得られていない。それでいえば煮詰まっているという原状に変わりない。おかげで今も張り込み中だ。」
『さっきのメールだが、六年前の事件には五人目がいたんだって?』
「そうだ。佐伯亜季という名前だ。双子の姉が、苗字のイニシャルが“O”で、それで間違われて殺害されたらしい。」
『で、その姉の名前は?』
「わからない。まだ生きているし、プライバシーの保護要請から記録に残っていなかった。」
『俺が当ててやろうか?』
「また、どこかのサーバにハッキングして調べるのか?」
『簡単なクイズだ。殺された妹は“亜季”だ。“亜”という漢字を辞書で調べたことはあるかな?』
突然先生口調になる。
「たしか、「主たるものの下になる」といった、準ずるという意味合いがあったはずだ。」
『その通りだ。しかし、被害者の名前から導かれる法則性から季節性を考慮する必要があるから、ここでは転じて“次ぐ”という意味で捉えたほうがいいだろう。そこから、亜季の名は、姉の次の季節を念頭に置いた名前だったといえないだろうか?つまり、姉の名前とは同時の次元にありながら、尚且つ姉に準ずる存在として認識されていた、ということだ。』
「じゃ、姉の名前は、その前の季節になることになる。しかし、亜季はどんな季節を表しているんだ?」
『やっぱりお前を一人で捜査に出すのは危険だな。姉の名前は“四季”だ。一年という、移ろいゆく季節の経過を見事に言い表した名前だよ。』
「ああ、なるほど!」
前田は思わず声を上げていた。目から鱗が落ちる、とはこのことをいうのだろうか、と一人ほくそえんだ。
そのとき、不審な影が梧桐宅から出てくるの発見した。
前田は「事件だ。切る」とだけ打ち込むと、OSのシャットダウンもままならずディスプレイを閉じた。光を遮る必要があったからだ。そして、後部座席から高感度カメラを引っ張り出し、そっとドアを開けた。


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