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俺は小説家を目指している。
205
:
イチゴ大福
:2005/03/04(金) 20:31:07 ID:5cN.MTjs
39.完璧なる間隙、そして惨劇。
車の中でマガジンに弾丸を装填し、グロックの台尻からセットした。セーフティを下ろし、スライドを後ろに引いて初弾を薬室に装填する。ロングマガジンの無骨さが、グリップからはみ出した鋼鉄の金属の冷たさに滲み出ていた。真上から除くと、黄金色の薬莢が南中の日差しを受けて煌めいている。スライドを固定していた手を離すと、機械の正確さで金属の摩擦音が車内に響いた。その先に伸びた延長バレルにはサイレンサーが装着してあり、こんなものを誰が日本に持ち込んだのか、と彼は眉間に皺を寄せた。「人間を殺す」という明快な目的と意図によって製造された軍用拳銃は、彼の手の中で、我関せずといった風体で、まさに俎上の鯉の姿をしてはいたが、その金属の光沢の放つ、火薬と血の臭いの予感は、充分に持つものに圧迫感と恐怖を与えていた。そこには、造られた目的も意図もなく、ただ銃の意志によって、そのグリップを握らされているような、自らの意識とはかけ離れた、何者かに手を支配されたような感覚があった。
彼はセーフティをロックすると、それを助手席に無造作に投げた。
彼には目的があった。まずは彼女を捜すこと。そして、彼女がするだろうことを止めること。
彼女が残した手紙は、六年前の事件の真相を書き綴ったものであり、それがどうして六年の歳月を経て、今再び現れたのか、そのすべてを説明するに足りるものだった。
一遍の詩の美しさで綴られた長い手紙には、その文面からは想像できない彼女の憎悪が込められていた。それは人間への憎悪であり、生きていることへの憎悪であり、彼女を蝕む“血”への憎悪だった。そして、最後の“血”の一滴のために、彼女はすべてを終わらせるつもりでいることがわかった。それを思い留まらせるか、それとも目を瞑るのか、彼はまだ迷っていた。迷ってはいたが、いずれにせよ、留まっている時間はなかった。
「思えば四日前、ここを走りながら愚痴をこぼしたのは自分だった。あの時気づいていれば、こんなにも彼女を悩ます必要はなかった。」
十八号を百キロ近いスピードで飛ばし、前方車輌にパッシングする。強引な車線変更は追い越す車の運転主の顔を強張らせ、悪態をつかせるのに充分だった。彼は「文句があるか」とでもいわんばかりに、露骨にスピードを上げ、猛然と追い抜いていった。
彼女のすることにどんな意味があれ、彼女の憎しみがどんなに深いものであれ、それを肯定するつもりは彼にはなかったが、かといって、それは自分にも責任があるのだと、彼は考えていた。そもそも、思い返せば、自分が陳腐な復讐心に駆られて、志ノ田の取引に乗ったのが間違いではなかったか、彼は今更ながら、身につまされる思いでいた。
「六年前、彼女を連れてドイツに帰っていればよかったのだ。静かに、音楽を続けていればよかったのだ。」
今更としかいいようがないことばかりだが、それでも何かに縋っていなければ、ハンドルごとどこかに吹き飛ばされてしまいそうなほどに動揺し、そのためか、アクセルを踏み込む力に加減がなく、彼は知らぬうちに百四十キロも出していた。一瞬、メーターに目を奪われた隙に、前方の減速していた自動車に追突した。いくら前方の車が走行中だったとはいえ、百四十キロでは、追突したほうもされたほうも無事ではいられないだろう。エアバックが作動したが、車体は大きく横滑りし、ガードレールに激突した。前方の車輌はそのまま横向きになって、車道を完全に塞いでしまった。
方向感覚を失った彼は、エアバックを除けるのもたどたどしく、朦朧とした意識のなか、助手席をまさぐった。金属の感触。グロックのグリップを握ると、ドアを開けて外に出た。後続の車輌は自動車を止め、何人か野次馬が事故を見物していた。まぶしいくらいの日差しで、風は少なかったが、空気は冷たい。野次馬の一人、若い男が彼に声をかけようと近づくが、彼の手に握られた黒い物体を見て後退りした。昼間から事故を起こして、しかも助手席からフル装備の自動拳銃を持って降りてくる人間がどんな人間か、少なくとも堅気の人間でないと誤解されるには充分だろう。そう予感させるに充分なほど、彼は殺気じみていた。面白半分で車を降りたその場の人間は、皆一同に自分の安易な好奇心を呪った。
彼は野次馬の一人に銃を向けた。
蛇に睨まれた蛙とはまさにこのことだろう、若い男は条件反射で手を上げていた。
「おい、君。緊急事態だ。車を貸してくれ。」
男は無言で頷き、キーを彼に投げた。
「どれだ?」
男が指を指したのは、インプレッサだった。助手席に滑り込み、イグニッションを回す。エンジン音が多少大きいと感じたが、マニュアルの感覚を取り戻すのに集中した。
事故車の間をかわすと、あとにはインプレッサの爆音の余韻だけが残った。
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