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俺は小説家を目指している。
189
:
イチゴ大福
:2005/02/28(月) 12:51:02 ID:Mo5eFkiY
30.Invisible incident.
彼女はなんのために人を殺しているのか、ともすれば理由など忘れてしまいそうなほど、彼女の肉体は苦痛に苛まれていた。
蒙昧とした意識は、既に彼女の視覚的作用を現実からのフィードバックとして耐えるものではなかったからだ。
平衡感覚の喪失、常時悩まされる嘔吐と頭痛。筋という筋が、神経という神経が、彼女を体内から蝕み、侵食する。五感は既に痛感を知覚するだけのものであり、痛感は彼女にとって、決して姿を現さない、体内に寄生する憎き存在でしかなかった。
見えない力に支配されている彼女の「痛み」は、その見えない恐怖は、苦痛によってのみその存在を知らしめようとする「幽霊」の存在の確固たる根拠となって、彼女の現実に悪夢となって顕在していた。
決して姿を現さない、しかし、確実に存在する「意思」が、彼女の中に憑いていた。
「殺したことの報いなの?」
彼女には殺す以外の方法は考えられなかった。
殺すことで、徐々に癒され、回復するはずだったのだ。
「何を間違っていたの?」
天空にぽっかりと浮かぶ月を仰いだ。欠け始めた月。闇にその支配の光を奪われ、ネオンや人工の厭わしい光線に存在感を奪われた、儚くも佇む無気力な月。
彼女はもの言いたげに口を開いた。黒い光沢のある染みが、彼女の口元にうっすらと浮かんでいた。
血だった。
彼女の足元に横たわる命の抜け殻。“力”を失い、動くことの適わぬ忌まわしき肉塊。
彼女は血を受けていた。喜びのための血、求めた血、“力”のための血。
血、血、血・・・・・・血だ。数分前まで人を動かし、知性を与え、精神を宿した血だった。
「まだ、足りないの?」
月は、彼女が答えを仰ぐには無口すぎた。
なにものも、この世の摂理を変えるものはないのだといわばかりに、その態度は毅然として無関心を装っているかのようにすら見えた。
月はすでに、その眼を彼女から背けていた。
「私を・・・・・・助けて。」
か細い声が、その薔薇の蕾のような唇から、朝露の一滴のような心もとなさで零れ落ちる。
「助けて・・・・・・助けて・・・・・・助けて・・・・・・助けて・・・・・・。」
白い吐息が彼女の声を凍らせ、無意味化しているようだった。
そう、呼吸のように当たり前で、意味のない動作だったのだのだ。
何一つ意味を成さず、何一つ変化をもたらさない現実。
時間と空間と場所によって与えられる同時性は、ただ単にそれを同定する以外の意味を見出すことはできなかった。
瞳から零れた一筋の涙が、月明かりを受けて一条の光を彼女の頬に灯した。
彼女は涙を拭い、その恩恵を手のひらに見ることができた。
「あと一人・・・・・・。あと一人できっと・・・・・・。」
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