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俺は小説家を目指している。

196イチゴ大福:2005/03/02(水) 18:50:17 ID:XZIh7iwc
34.不在対象要件の偏在可能性。
一瞬先は闇、という言葉はあるが、先のことが知りえないからこそ、現実社会は複雑怪奇に錯綜した多様な人間の意志のもと、不整合を容認し、不合理を寛容し、その理解を妨げるものだといえる。所詮、一個人の触れることのできる情報の量などたかがしれているのだ。
「事実は小説よりも奇なり」
一瞬そんな言葉が浮かんだが、前田の意識はすぐに眼前に突きつけられた現実に引き戻された。
時刻は午前一時、すでに日付は変わり、二月八日である。自宅から梧桐冬樹が出てきて五分ほど歩いたが、携帯電話を取り出すと誰かと話し始めた。会話はすぐに途切れたが、それとほぼ同時に黒いFTOが彼の前で停車した。「しまった」と思う間もなく、梧桐冬樹は助手席に乗り込んだ。物陰に潜んでいた前田は飛び出し、去り行くFTOの後ろ姿を、望遠レンズを覗く間もなく一瞬の静止のあとシャッターを切った。
高感度のデジタルカメラだ。撮ったばかりの写真を小さな液晶パネルに呼び出す。前田の腕がよかったのか、ただ単に運がよかったのか、車のナンバはかすかに写っていた。
すぐに車に戻り、カメラをパソコンに接続してデータを転送する。
画像を呼び出し、拡大する。陰影をつけるとハッキリと字を見ることができた。
イグニッションを回し、後方確認もままならないまま自動車を走らせた。減速すら惜しいといった様子でコーナーに車体を滑り込ませる。日頃の彼の運転からはまるで想像のつかない荒い運転だった。コーナーからの立ち上がりで滑らかに車体を安定させ、アクセルを踏み込む。黒のFTOの姿は見当たらない。焦る前田。アクセルを踏み込む足にも力が入っている。すれ違う対向車のビームライトに悪態をつきながら、眠りについた市街地を走り抜ける。じきに十八号線にでた。
「どっちだ!?」
ハンドルをとる手に汗が滲む。そのとき、彼の目の前を黒のFTOが走り去った。彼は反射的に方向旗を挙げると、ハンドルを回し、アクセルを踏み込んだ。右手でハンドルを握りながら左手でカメラの望遠レンズを覗き込む。ナンバプレートを確認すると、梧桐冬樹が乗り込んだものだと確認できた。
「これも運がいいからか?」
思わずにんまりする。カメラを助手席に置くと、前方との車間を開け、追跡を開始した。
一定の距離が開いてはいたが、FTOは馬鹿に飛ばしていた。前田が自動車のメーターを見ると百二十キロを超えていた。いくら仕事中とはいえ、スピード違反で同業者に捕まりたくないものだという思いが頭を巡っていた。
経大通りに入り、更に加速する。細い路地を何度か曲がる。見失いそうになったが、なんとかテールランプの筋を追いかけ、そのうちアパートに入っていくのを突き止めた。通り過ぎた振りをして路肩に止めるとすぐにエンジンを切った。温まったエンジンが深夜の切るような冷気に悲鳴をあげるかのような金属音が小さく響く。自動車のドアを閉じる乱暴な音が二つ、続いて階段を上がる足音が聞こえた。
前田はカメラを構えて階段を見やった。梧桐冬樹と、その隣には学生風の男がいる。
前田はカメラを下ろした。「梧桐はあの男を殺す気なのか?」しかし、それでは男が車で梧桐を迎えに来た理由がわからない。わざわざ、見ず知らずの人間に「殺してやるから迎えに来い」といわれて、のこのこ出て行く人間はいないだろう。では、あの男は梧桐冬樹の知り合いなのだろうか?だとすれば、梧桐冬樹の共犯者だろうか?
二人がアパートの一室に入っていった。
エンジンを切ったためにすっかり冷え切ってしまった車内では、寒さなど気にもならないほどに前田は考えこんでいた。
「しかし、二人はどんな繋がりがあるというのだろうか?」
FTOの男がアパートに住んでいることから考えても、少なくとも市内出身者ではないだろう。榛名、安中、館林でも車か電車、バスで通学するはずだ。むしろ県外と考えるべきだろう。では、どうやって知り合ったのだろうか?大学間の交流で知り合ったか、ネットで知り合ったか、他にも考えればいくらでも説明のつく理由はあるだろう。
問題は、梧桐冬樹との関係性だった。FTOの男が今回の事件と関連している可能性があるとすれば、今夜、これから犯行を仕掛けるならば、このまま車内で見張っているのが確実だ。犯行現場で取り押さえれば、殺人未遂容疑の現行犯で逮捕できる。幸い、カメラのバッテリーはまだたっぷりとあった。いくらでも証拠を保存できる。
すべては、二人が動き出せば分かることだ。


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