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俺は小説家を目指している。

207イチゴ大福:2005/03/04(金) 20:37:49 ID:5cN.MTjs
41.失われゆく記憶。再起する追憶。
インプレッサがT経済大学の正門の前に滑り込んだとき、すでに“こと”は始まっていた。誰もが想像していた、なのに誰も止められなかった恐怖の力は、今現実に、人の力によって咆哮をあげ、地獄の底から呼び起こされた堕天使の復活を祝福するかのように、キャンパスは暴力と死からの逃避のために阿鼻叫喚に包まれていた。
天使の姿をした悪魔の最初の生贄は、バスの運転手だった。運賃を支払わないこの美しき天使を止めようと追いかけたところを、彼女の鋭利な牙の餌食となった。血糊の着いた刃物を持った天使が正門から堂々と入るのを守衛が見つけ、警察に110番通報したが、その時、五号館の方からスクーターに乗った男子学生が、すれ違い様に刃物を胸部に突き立てられ、スクーターから放り出された。地面に背中から叩きつけられた学生は、息も絶え絶えにもがいたが、それも天使がナイフを抜き去るまでのことだった。
初老の守衛が木刀を手に取り、図書館の方へ向かう虐殺の天使を追いかけた。
「止まれ!」
守衛が叫ぶ。天使はこの世のものとは思えぬ優雅な仕草で振り返ると、緊張と恐怖で顔の強張った守衛に微笑みかけた。それは、他の場面であれば間違いなく天使のものと見紛えるものだったろう。しかし、眼前に立つのは血に塗れた堕天使のそれだった。
守衛は乾坤一擲とばかりに一撃を打ち込んだ。多少、剣道の心得があるのかもしれない、彼の木刀は天使の左鎖骨をとらえた。鈍い、硬質のものが砕け、折れる感触が、彼の手を伝わり、脳神経に伝わる。彼は途端に罪悪感にとらわれ、木刀を引いた。なぜ罪の意識を感じているのか、彼にはその理由が判然としなかった。それは、天使の微笑みのためだろうか?それとも、傷を負わせたことへの自責の念からだろうか?金閣寺の美しさに嫉妬して火をつけた僧侶の話を、三島由紀夫の本で読んだことが彼にはあった。美しいものを傷つけるとは、こういうものなのだろうか?どちらにしろ、天使は意に関せずといったようで、痛みに苦悶する様子もなく、表情一つ変えることはなかった。そして、その殺意の矛先が血を求めるのも、躊躇う必要などなかった。たじろいだ守衛の腹部にナイフを突き立てると、さもそれが当たり前の動作であるかのように抜き去った。守衛はその場に倒れた。血の海が、辺りに波打って広がっていた。
図書館からでてきた女子学生がそれを目撃する。自動ドアを抜け、誰だろうと目を凝らすと、守衛が血の海に溺れており、その目の前には美しい姿態と黒髪の女性がいる。彼女は瞬座に状況を察して、図書館の中に飛び込んだ。
「誰かぁぁぁぁぁ!!人殺しぃぃぃぃぃ!!」
彼女の腹の底から轟くあらん限りの声は、それまでコンピュータの駆動音が静かにまどろんでいたホールの沈黙を破るのに充分だった。そこにいた職員、学生、院生、たまたま来ていた一般人。全員がその声を聞き、そして声のする方向に振り向いた。


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