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俺は小説家を目指している。
194
:
イチゴ大福
:2005/03/02(水) 11:31:29 ID:xLJuwFUE
33.思惟と死と、その使途。
「死が明確に知覚される状況とはどんなものだろう?」
まるで一個の意思をもった動物であるかのように、その足は大洗の意思とはかけ離れていた。すでに面会時間はすぎていたが、「荷物だけ届けたらすぐに帰る」と無理をいい、老練の看護士に入れてもらっていた。まだ消灯前とはいえ、暮れの病院はどこか薄気味悪く、悲しみと恐怖の詰まったような、言い知れぬ雰囲気を漂わせていた。
「その場に居合わせれば、理解できるだろうか?」
答えがでないのは、それを定義するにはあまりにも問題が複雑で、一般化の適わぬ現象だからだろう。そう、元々現実に一般化できる現象のほうが少ないはずなのだ。
エナメル張りの廊下に、彼の靴のあたる音だけが静かに響いていた。
一歩一歩、何かを確かめるような慎重さで、大洗は足を運んでいた。ともすれば、それはこれから訪れるであろう現実との対面を、少しでも遅らせようとするかのようだった。
だが、その思惟とは裏腹に、すでに彼は病室のドアの前で立ち止まっていた。
ノックする。中からか細い女性の「どうぞ」という声がした。
ドアを開ける。
「やぁ、調子はどうだ?」
彼の口からでた言葉は、職場で見せるいつもの調子とは異なり、物腰の柔らかな静かな口調だった。
起き上がろうとする彼女を彼は諌めた。
「そのままでいい、どうせすぐにでなくちゃならないから。」
「そお?悪いわね、お使いに行かせたみたいで。」
「いいんだよ、水臭いことはいうな。」
鼻腔をつくアルコールとアンモニアの混じった臭い。点滴の管が、静寂に満ちた病室に、ゆっくりと、そして静かに時を刻んでいる。命の鼓動も、躍動もない無機質の世界。小さな小さな、もっとも終わりに近い世界。
青白く力を失ったピアニストの手を、彼は手にとった。彼を見つめるその黒く、憂いに満ちた瞳は、儚くなりゆくものの残り香を放っていた。・・・・・・美しかった。
「ごめんなさい。私、死んでしまうわね。まだ、遣り残したことがあるのに。」
彼は咄嗟に、その意味を察した。それは姉妹を殺されたことの復讐を意味するのだろう。
彼は、もう一方の手で彼女の手を包んだ。
「君は死なないよ。これまでだって生きてきた。こんな簡単に人は死なない。しっかりしなさい。」
最後の一言は、まるで、駄々を捏ねる子供を諭すような優しさがあった。
彼女は愛らしい、三日月の瞳と共に彼に微笑みかけた。
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