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【TRPG】ブレイブ&モンスターズ!第六章

1 ◆POYO/UwNZg:2020/03/27(金) 20:10:47
――「ブレイブ&モンスターズ!」とは?


遡ること二年前、某大手ゲーム会社からリリースされたスマートフォン向けソーシャルゲーム。
リリース直後から国内外で絶大な支持を集め、その人気は社会現象にまで発展した。

ゲーム内容は、位置情報によって現れる様々なモンスターを捕まえ、育成し、広大な世界を冒険する本格RPGの体を成しながら、
対人戦の要素も取り入れており、その駆け引きの奥深さなどは、まるで戦略ゲームのようだとも言われている。
プレイヤーは「スペルカード」や「ユニットカード」から構成される、20枚のデッキを互いに用意。
それらを自在に駆使して、パートナーモンスターをサポートしながら、熱いアクティブタイムバトルを制するのだ!

世界中に存在する、数多のライバル達と出会い、闘い、進化する――
それこそが、ブレイブ&モンスターズ! 通称「ブレモン」なのである!!


そして、あの日――それは虚構(ゲーム)から、真実(リアル)へと姿を変えた。


========================

ジャンル:スマホゲーム×異世界ファンタジー
コンセプト:スマホゲームの世界に転移して大冒険!
期間(目安):特になし
GM:なし
決定リール:マナーを守った上で可
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり
避難所の有無:なし

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101明神 ◆9EasXbvg42:2020/05/25(月) 07:02:14
「上だカザハ君!次は全方位から撃ってくるぞ!」

――遮蔽のしようのない、360°ぐるっと囲んで一斉射撃。
その仮説を立証するように、俺たちを囲んで位置取りするゴブリンの動きが見えた。

>「バードアタック!!」

こういう時即断即決で動けるカザハ君は本当に頼りになる。
召喚された鳥が屋根上のゴブリン共を飲み込み、はたき落としていく。

「『濃縮荷重(テトラグラビトン)』――プレイ!」

ゴブリンによる包囲網を覆うように荷重2倍の領域が発生する。
アサルトライフルはマガジンからバネの力で薬室に弾丸を送り込んでいる。
そしてそのバネは、『弾丸の重量が急に2倍になった』時のことを想定して設計されていない。

通常よりも重い弾丸をマガジンは十分に持ち上げられず、装填されるはずだった弾丸は中途半端なところで止まる。
その状態で撃鉄が弾丸のケツを叩けば――

俺たちの周りで今まさに引き金を引いたゴブリン達の銃が、一斉に爆発した。
――ライフルが給弾不良(ジャム)って、暴発したのだ。
弾丸を飛翔させる爆発力はそのまま銃手へ牙を向き、砕けた銃の破片が刺さってゴブリンがのたうち回る。

銃はデリケートな精密機器だ。
火薬の力を逃さないように隙間なく設計されてるから、ちょっとした砂埃やゴミが入り込むだけでも簡単に不良を起こす。
いわんや、ここにあるのは砂でも埃でもなく……魔法だ。

「剣と魔法の世界をナメ腐ってんじゃねえぞ」

ジョンとなゆたちゃんを包囲していたゴブリン達はこれで沈黙した。
残るは襲撃者ただ一人……でもねえな。まだまだ後詰のゴブリンどもがワラワラ湧いてきやがる。

102明神 ◆9EasXbvg42:2020/05/25(月) 07:02:58
>「なあ・・・僕一人じゃ手に負えないみたいなんだ・・・だから・・・」

襲撃者から目を離さずに、ジョンは呟く。
久しぶりに、こいつの声を聞いた気がした。

>「助けてくれないか・・・?」

「くひっ。言えたじゃねえか」

思わず笑いが溢れた。
救いようのないロクデナシだと、自分をそう呼んだジョンが。
俺たちに迷惑をかけまいと、自罰的な振る舞いを続けてきた男が。
ようやく……その言葉で、俺たちに助けを求めた。

「そいつが聞けただけでも、この旅には価値があったな。なゆたちゃん」

大親友から助けてって言われたんだ。
だったらやることはひとつしかねえよな。

「任せとけよ親友!今も、これからも!ちゃあんと助けてやっからよ!」

>「動くなーっ!」

「ヌルいぜカザハ君!動いてほしくない時はなぁーーー。
 動けなくしてやんだよ!こーやってなぁっ!」

スマホを手繰り、『工業油脂』の雨を降らせる。襲撃者の全身を油が染め上げる。
これも一時凌ぎにしかならないだろう。服脱げばいいだけだもんな。

それでも、ボディースーツを脱げば防御力が落ちる。
さっきみたいな被弾上等の立ち回りは出来なくなるはずだ。
ついでに――クソイキリライフル野郎の素顔も、ようやく拝める。

「ゴブリン共は俺たちで抑えとく。そこのデカブツの相手は――ジョン、『頼んだ』」


【ゴブリンのライフルを暴発させ、無力化。襲撃者に油をぶっかける】

103崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/05/31(日) 19:42:21
半月に渡るデリントブルグ横断の道のりは、襲撃のない至極平和なものだった。
ジョンのブラッドラストの発作も出ず、マルグリットおよびその親衛隊とパーティーが諍いを起こすこともなかった。
そう、平和。平和であったのだ。
だが――それだけに。それゆえに。
なゆたはいつしか警戒と緊張を忘れ、咄嗟の戦闘に対処することができなくなってしまっていた。

「はぁ、はぁ……ッく、ふ……は……!」

懸命に唾液で喉を濡らし、スペルを手繰ろうとしたが、巧くいかない。
スライムマスターと呼ばれ、ブレモンのトップランカーの一人に数えられるとはいえ、それはあくまでゲームの世界。
崇月院なゆたという人間は何の変哲もないただの一般市民に過ぎない。
幼馴染の道場で剣道をかじっていたり、クラスメイトよりも高い身体能力を持っているというのも、民間レベルでのこと。
FPSでもあるまいに、実際の戦場で戦った経験などあろうはずもない。
どこからライフルの銃弾が飛んでくるか分からない、そんな極限状態の中で、なゆたの心身は急激に疲弊していった。

ちゅんっ!

なゆたの右頬ぎりぎりを、ライフルの銃弾が掠めてゆく。
一発でも受ければ、そこでジ・エンドだ。なゆたの額をいやな汗が伝う。
ポヨリンはやや離れたところでATBが溜まるのを待っている。
この世界がブレイブ&モンスターズである限り、ゲーム内のルールは絶対だ。
パートナーモンスターはATBゲージが溜まらない限り行動できない。
一方で、武装したゴブリンたちは『異邦の魔物使い(ブレイブ)』のATBゲージなどお構いなしに攻撃してくる。
それは彼らゴブリンの軍勢が何者かのパートナーモンスターではない、独立した敵だということを示していた。

「か、は……」

ついに、息切れしたなゆたはその場に片膝をついた。
そして――その眼前に疾風のように漆黒の襲撃者が現れる。
タクティカルスーツにボディアーマー、ヘルメット。
無機質な強化アクリルゴーグル越しの眼差しが、なゆたの急所を捉える。
ゴブリンとは比較にならない大柄な体躯の割に、小柄な亜人たちよりもずっとずっと速い。
なゆたは反応できない。反応しようとしても、極度の疲労によって身体が動かないのだ。

「ッ―――!!」

襲撃者が逆手に持った大振りのコンバットナイフを振りかぶる。
なゆたは強く目を瞑った。

「ち……! モンデンキント!」

エンバースが救援に駆け付けようとするも、遠い。しかもゴブリンたちがそうはさせまいとエンバースに集中砲火を浴びせる。
ポヨリンはATBが溜まっておらず、ガザーヴァも一足になゆたへ近付くには距離がありすぎる。
突然の急襲によるなゆたの暗殺を阻む者は誰もいない――と思われた、が。

>させるかああああああ!

馬車から猛然と飛び出したジョンが、横合いから襲撃者に強烈な蹴りを喰らわせたのだ。
襲撃者は大きく吹き飛ばされた。

「……ジ……、ジョン……?」

>無事かい!?どこも怪我してない!?

ジョンが怪我がないかどうかを確認してくる。ジョンの身体に掴まり、なゆたはふらふらと立ち上がった。

「だ……、だいじょう、ぶ……。なんとか、生きてる……ょ……」

くらくらする意識を何とか奮い立たせ、やっとのことでそれだけ言う。しかし、このままでは戦闘継続は難しそうだ。

>本当によかった・・・頼むから僕の為に無茶しないでくれ・・・本当に・・・よかった

「ん……ゴメン、心配かけて……」

ジョンのことを守るはずが、逆に助けられてしまった。
リーダーの差配としては落第であろう。慙愧の念に堪えず、なゆたは軽く俯いた。

104崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/05/31(日) 19:45:18
>今のは手加減なしの全力蹴りだったから・・・最悪殺してしまったかと思ったけど・・・その心配はないみたいだね

ジョンと襲撃者が睨み合う。
喰らえば肋骨の何本かも折れるかという勢いの蹴りをまともに浴びたにも拘らず、襲撃者は何事もなかったように立っている。
恐らく蹴られる瞬間に自ら蹴られる方向に跳躍し、威力を殺したのだろう。むろんガードと受け身も忘れない。
瞬間的にそこまでの判断ができるとは、並の手合いではない。
襲撃者は緩く身構えた。ほんの僅かに体勢を前傾にし、逆手に持ったナイフを軽く掲げていつでも襲い掛かれる様子だ。
蹴りへの対処といい、その身ごなしは素人とは思えない。明らかに実戦慣れしている、戦闘のプロの姿だった。

>僕になゆとの約束を破らせてた責任・・・取ってもらおうか

刃物を向けられているというのに、丸腰のジョンは怯むこともなく襲撃者と対峙している。
なゆたを庇うようにその前に立ちながら、ジョンはなゆたに退避を勧告する。

>なゆ・・・隠れていてくれ・・・僕がやる
>対モンスターが君の本業なら・・・対人間は僕の本業だ

「……うん……でも無理だけはしないで、ジョン……」

危ないから下がって、と言いたいのは自分も同様だったが、今の自分は息の上がった完全なお荷物だ。
忸怩たる思いだが、ここはジョンに任せるしかない。なゆたは大人しく後方に下がった。
そして崩れた荷車の影に身を隠すと、震える手で『高回復(ハイヒーリング)』のスペルカードをタップする。
癒しの淡い輝きがなゆたを包み、瞬く間に重度の疲労が回復してゆく。
同時に、ポヨリンもなゆたに合流してくる。心配げな面持ちのポヨリンを抱き締めると、なゆたはほっと安堵の息をついた。

>降参しろ。抵抗する場合は足や手の一本二本・・・もしくは命の保障はできないぞ

ジョンが降伏勧告するが、聞き入れる相手ではない。ジョンと襲撃者の戦いが、目の前で繰り広げられる。
襲撃者の体捌きは凄まじいの一言だが、しかしジョンはそんな襲撃者にも一歩も引かず互角以上に渡り合っている。
いや、どちらかというとジョンの方が優勢か。
しかも、ジョンはまだブラッドラストを使ってはいない。血のような靄のエフェクトが彼を覆っていないのがその証拠だ。
とはいえ油断はできない。熾烈な戦いのうちに、いつブラッドラストのスイッチが入ってしまったとしてもおかしくない。

>・・・っ!!

ジョンの右膝に、襲撃者のナイフが深々と突き立つ。その右膝がみるみる濃い赤色に染まってゆく。
回復のスペルカードを使用しようと、なゆたは荷車の影から身を乗り出しかけた。

「ジ……」

>なゆ!手をだすな!そのまま隠れてろ!

すぐに、ジョンの怒声が返ってくる。
姿を現さなければ、ジョンにスペルカードを使うことはできない。
しかし荷車の影から出れば襲撃者は動きの鈍いなゆたを狙うだろう。みすみす敵の手に落ち、ジョンを不利にすることはできない。
不承不承、なゆたは身を屈めた。
その後もジョンと襲撃者の戦いは続く。
ジョンがゴブリンたちからの一斉掃射を襲撃者の身体を盾にしてやり過ごすのを見計らい、
なゆたはジョンと共に崩れた露店の影に移動した。

>ごめんなゆ・・・殺さなければ・・・僕が殺されていた・・・

「…………」

なゆたには何も言えなかった。
とても不殺を貫け殺すなと言える状況ではないが、といってやむを得なかったとも言えない。
だが、ジョンの予想に反して襲撃者は死んではいなかった。
それどころかぴんぴんしている。襲撃者は軽く両手を挙げた。一斉掃射のハンドサインだ。

>なゆ・・・!君だけでも逃げろ!

「そんなこと、できるわけ……!」

ジョンを見捨てて自分だけ逃げるなんて、出来るわけがない。
それが出来ないから、やりたくないからこそ、なゆたは今まで再三のジョンの見捨ててくれという要請を却下してきた。
今になって命を惜しみ主張を翻しては、何もかもが無駄になる。
といってアサルトライフルで武装したゴブリンたちに包囲された今、この窮地を凌げる方法はない。
絶体絶命――そう言うしかない状況。
だが、ジョンとなゆたはただふたりきりではなかった。

105崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/05/31(日) 19:46:57
>バードアタック!!
>『濃縮荷重(テトラグラビトン)』――プレイ!

「カザハ! 明神さん!」

カザハの召喚した鳥の群れが、そして明神のスペルカードがジョンとなゆたを包囲したゴブリンたちを駆逐してゆく。
包囲網は崩れ、周囲には首魁とおぼしき襲撃者だけが残された。
尤も、それで完全に戦況が覆ったわけではない。いったいどれほど、というほどゴブリンは次から次へと湧き出してくる。

>剣と魔法の世界をナメ腐ってんじゃねえぞ

「そーだそーだ! そんなカッケー武器持ってたって、ボクと明神に勝てるワケねーってんだこんにゃろー!」

現代兵器の弱点を逆手に取った明神の隣で、ふんすふんす! とガザーヴァが鼻息荒く言い放つ。
襲撃者の背後にゴブリン・アーミーが展開する。だが、まだ攻撃はしない。
銃口をジョンたちに向けたまま、整然と隊伍を組んでいる。
そんな敵の軍勢を見据えながら、ジョンがゆっくりと口を開く。

>なあ・・・僕一人じゃ手に負えないみたいなんだ・・・だから・・
>助けてくれないか・・・?

「……ジョン……!」

ジョンの隣に佇んでいたなゆたは、その言葉を聞いて顔を見上げた。
今まで、ずっと自分は殺人者だと。パーティーの仲間に値しない者だと。見捨ててくれと再三言っていたジョン。
そのジョンが、やっと救いの手を求めてくれた。こちらが伸ばしていた手を取ってくれた。
ずっとずっと聞きたかった言葉に、胸が熱くなる。
そして、それはカザハや明神も同様だった。

>うんうん……ん? やっと観念したか……!
>くひっ。言えたじゃねえか

「雑魚狩りは趣味じゃないが、あんたの頼みなら仕方ない。今回の見せ場は譲っておこう」

エンバースもいつもの調子で返す。

>そいつが聞けただけでも、この旅には価値があったな。なゆたちゃん

「……うん……! さあ、ここから逆転よ! わたしたち全員で……この戦いに勝つ!」

誰かひとりが頑張るのではなく。誰かが守られてばかりなのではなく。
この場にいる全員で、この理不尽な死と破壊を齎すニヴルヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を倒す。
なゆたは腰のレイピアを抜き放ってゴブリンたちに突きつけた。

>動くなーっ!

同時にカザハがライフルを拾い上げ、襲撃者に狙いを定める。
襲撃者は全く動じない。そもそも、部下のゴブリンの一斉掃射を受けても平然としているのだ。
カザハに撃たれたとしても大したダメージはないということだろうか。

>ヌルいぜカザハ君!動いてほしくない時はなぁ―――。
 動けなくしてやんだよ!こーやってなぁっ!

ライフルが脅しにならないと分かった瞬間、間髪入れず明神が『工業油脂(クラフターズワックス)』を発動させる。
粘性の強い油が襲撃者に降り注ぐ。たちまち襲撃者は油に汚染された。
しかし、それでも襲撃者は動じる気配を見せない。
と、そのとき。

「あ―――――――っ!!!」

ジョンたちの背後で声がした。
市街地に散開していたゴブリンたちをあらかた片付けたマルグリットと親衛隊がこちらを見ている。
その中で、きなこもち大佐が襲撃者に対して右手の人差し指を突き出し、驚きの表情を浮かべていた。

「あいつ……どうしてここに」

「ちぃ〜ッ、よりによってメンドくさいのが……!」

さっぴょんが苦い表情を浮かべ、シェケナベイベが忌々しげに歯噛みする。
きなこもち大佐、さっぴょん、シェケナベイベの三人は元々ニヴルヘイムに召喚された『異邦の魔物使い(ブレイブ)』である。
ならば、当然襲撃者とも面識がある、ということなのだろう。

106崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/05/31(日) 19:48:48
そして。

「……助けてくれ、だと」

アルフヘイムとニヴルヘイム、そして十二階梯の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』が一堂に会した場で、襲撃者が口を開いた。
低く冷たい男の声。明神もカザハも、もちろんなゆたも、その声を聞いたことはない。
だが――

ジョンは。聞いたことがあるだろう。

襲撃者はヘルメットに両手をかけると、一息にそれを脱ぎ去った。
くすんだ金色の髪が、硝煙のにおいの濃い風に揺らせてそよぐ。
さらにゴーグルを外すと、怜悧な眼差しの双眸が露になった。さながら猛禽類のそれを思わさせるような、鋭い碧の眼光。
精巧な、精悍な、どこかサイボーグだとかロボットを連想させるような、そんな無機質な相貌の男だった。
年の頃はジョンと同じくらいであろうか。背丈や身体つきまで似ている。

「貴様のような人殺しが。常人と相容れないはみだし者が。どの面を下げて助けなど求められる? 
 これまで貴様がしてきたことを思い出せ。貴様が考えてきたことを顧みろ。
 貴様は自分のことしか考えていないというのに」

襲撃者はグローブに包んだ右手でジョンを指さした。
襲撃者はジョンを知っている。自衛隊のヒーロー、ジョン・アデルではなく――ジョン個人を。
そして、ジョンもまたこの男のことを知っているだろう。

「進歩のない男だ、貴様は昔から過ちばかりを犯す。間違った道ばかりを選択する。
 そして、また殺すのか? 仕方なかった。やむを得なかった。そんな逃げ道を用意して」
 
男は告げる、ジョンを糾弾するごとく。弾劾するごとく。告発するごとく。
過去の行状を、法廷で証言するごとく。
そして、男は最後にこう言った。

「そう、『あのときのように』――」

男の名はロイ・フリント。
かつて、ジョン・アデルの友だった男である。

「――俺がここにいることが不思議、という顔だな。
 何も不思議ではないさ……誰だって、あのゲームをインストールしていれば召喚される可能性がある。公平にな。
 もっとも――俺はインストールしていただけで、プレイしたことさえなかったが」

「そ、そ、そ、そうッス!
 あいつは――『ブレモンをプレイしたことがない』んス!
 あいつは『異邦の魔物使い(ブレイブ)』でさえない、あいつは――」

「黙れ」

ちゅんっ! とゴブリンの威嚇射撃がアルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちの足許に命中する。

「ブレモンをやったことがない……? それなら、どうして……」

なゆたは眉を顰め、不可解な状況に怪訝な表情を浮かべた。
陣営によって違いこそあれ、アルフヘイムもニヴルヘイムも世界を救うという共通目的によって、
地球から『ブレイブ&モンスターズ!』のプレイヤーを召喚しているはずである。
特にニヴルヘイムにはアルフヘイムにはないピックアップ召喚という手段があり、高レベルプレイヤーを優先的に召喚できる。
ミハエルしかり、帝龍しかり、マル様親衛隊しかり、今まで出会ったニヴルヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』は、
皆錚々たるトップランカーばかりだった。
この世界を救うことができるのは『異邦の魔物使い(ブレイブ)』だけ。となれば、敢えて初心者を召喚する理由がない。
だというのに、なぜ――

「……そういうことか」

黙して遣り取りを見遣っていたエンバースが、得心したように呟く。

「奴は。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を狩る『異邦の魔物使い(ブレイブ)』ということらしい」

――『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を狩る、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』。

「そうだ。俺は貴様らを潰すために召喚された。
 ミハエルと帝龍は、貴様らと同じ土俵に立って勝負したから負けた。ゲームで遊んだばかりに敗退した。
 だが、俺は違う。貴様らの得意なゲームに付き合うつもりはない。
 俺は俺のやり方で貴様らを葬る――アメリカ陸軍仕込みの軍隊戦術でな」

剣と魔法の世界に銃器を持ち込み、ATBとスペルカードの戦いに実弾での戦いで乱入した男。
ブレイブハンター、フリントは冷淡に言い放った。

107崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/05/31(日) 19:50:29
幼いころのジョンは大きな体格の反面内向的で、ハッキリものの言えない子供だった。
幼稚園でも外人ということで色眼鏡で見られ、親しく話したり遊ぼうとする者はいなかった。
小学校に上がっても、それは変わらない。クラスの中でも、ジョンはいつもひとりぼっちのまま――
だった、けれど。
そんなジョンに声をかける子供が、ふたりいた。

《おれ、ロイっていうんだ! パパの仕事の都合でアメリカから引っ越してきた!
 おまえもアメリカ人なんだろ? ほら、髪と目の色が一緒だもん!》

転校生で生粋のアメリカ人であるロイは、ジョンのことを色眼鏡で見ない。
それどころかアジアで出会った同じ白人ということでジョンに大いに興味を示し、幾度もジョンを遊びに誘った。
ジョンが初めて母の言いつけに背き、稽古をさぼって遊びに行った相手がロイだった。

《来いよ、ジョン! 一緒に虫取りに行こうぜ!》

《ジョンをいじめるやつは、おれが絶対許さないぞ!》

《――ジョン、おれたち、ずっとともだちでいような――!》

ジョンは稽古のない時には、いつもロイ『たち』と『三人で』過ごした。
そう、いつも一緒だったのだ。どんなときだって、三人でやってきたのだ。

あの時までは。

『あの事件』が起こると、ロイの家族はアメリカ本国に戻り、それから二度と日本の土を踏むことはなかった。
ロイも両親に連れられ、アメリカへと戻った。それ以来ジョンとロイとは一度も顔を合わせずに、お互い大人になった。
そして――道を別ったふたりは今、この異世界でふたたび巡り合った。
敵同士として。

「アイツ、チョー洒落んなってないし! ブレモン知らんやつがアルフヘイム来んなし!」

「あいつには『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の戦い方が通用しないッス、ガチでヤバイ奴ッスよー!」

「ニヴルヘイムに召喚された他の地球人たちは、まだしも話の通じる相手だったけど……あの男ロイ・フリントは違うわ。
 あの男はそこの焼死体さんの言うとおり、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を殺す『異邦の魔物使い(ブレイブ)』。
 敵対する危険性のある『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を始末する殺し屋よ」

親衛隊が口々に言う。
親衛隊は三人とも一騎当千の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』だが、その肉体自体はなんの変哲もない一般人だ。
今までの戦いで実証されたように、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の戦い以外の戦闘には弱い。
そして、それはなゆたや明神達も同様だ。
ブレモンのデュエルでどれだけ強くとも、実戦で銃弾の一発も受けてしまえばそれで終わりである。
アルフヘイムやニヴルヘイムの住人が『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を倒すことは難しい。
なぜなら、こちらの世界由来の存在は誰しもが例外なくブレモンのゲームシステムの影響を受けるからである。
だが、地球から来た人間はその軛には縛られない。
まさしく『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を殺すために召喚された『異邦の魔物使い(ブレイブ)』――
それがこのフリントだった。

「わたしたちを殺すために、ゴブリンに地球の武器を持たせて戦わせるなんて……」

「知能の低い亜人どもにライフルの使い方と隊列の組み方を教えるのは、少々骨が折れたがな。
 だが問題ない。デリントブルグでの最初の実戦はまだまだ練度が低く、銃の命中率も低かったが。
 今回はそれなりの結果が得られた。この次はもっとうまくやれるだろう」

「……次があると思ってるの?」

なゆたが凄む。
ここでジョンがこの因縁の相手とおぼしき男を仕留め、帝龍と同じように無力化してしまえば、すべての決着がつく。
何より、ここで仕留めてしなければ益々ゴブリンアーミーの練度が上がってしまう。
今回はなんとか戦力拮抗からやや優位くらいまで持っていけたが、次回勝てるかどうかはわからない。
フリントを逃がしてはならない。なゆたはスマホをいつでもタップできるよう身構えた。
しかし、フリントは動じない。どころか、

「あるさ。今回の任務は完了した、撤退する」

と、無表情のまま言った。

「なんですって?」

「貴様らは本当に素人だな。俺が――ただ貴様らと会話がしたいから、ここで突っ立っているとでも思っているのか?」

「それ―――」

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!

なゆたが疑問を口にしかけたその時、フリントのはるか後方で耳をつんざく轟音と共に大爆発が起こった。

108崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/05/31(日) 19:53:40
アイアントラスはその名の通り、トラス式の橋桁を用いた鉄橋である。
見れば、フェルゼン公国側のトラス式鉄骨から黒煙が上がっている。そして、更に二度、三度の爆発。
強固なトラス式の鉄骨が吹き飛び、橋と大断崖とを繋げている巨大な鎖が弾け飛び、跳ねるように勢いよく谷底に落ちてゆく。
と同時に大きく地面が揺れ、橋梁都市は緩やかに傾斜し始めた。
近くにいたジョンにしがみつく格好になりながら、なゆたは瞠目した。

「まさか……!」

「俺は。俺のやり方で貴様らを葬ると言ったぞ、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』――」

ブレイブハンターが無表情のままで言い放つ。
フリントは自身の手でアルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を倒そうとしているのではなかった。
それよりももっと効率的、かつ確実な方法でなゆたたちを消し去ろうとしている。

「この橋梁都市ごとボクたちを大断崖に落っことそうってのか! うっひょー! すっげええええ!!!
 そういうド派手なの大好き! どーしよー、ボクちょっとコイツのこと好きかも!
 あ、でも心配すんなよな明神! パパが一番で二番目がオマエなのは変わんないから!」

派手好き楽しいこと好きのガザーヴァがスケールの大きさに歓喜する。どっちの味方だ。
橋梁の基部を爆破し、この橋を大断崖の藻屑と化す。そうすれば馬鹿正直にデュエルをする必要さえない。
パーティーがアイアントラスに到着してから行動を開始するのではなく、到着の遥か以前から作戦行動をしていたのも、
邪魔なアイアントラスの住人を始末し破壊工作をしやすくするためだったのだろう。
なゆたたちはそんなゴブリンの目先の残虐行為にばかり気を取られ、フリントの真の目的に気付かなかった。
だが。

「心配するな、そんな無駄なことはせん。
 最小の行動で最大の戦果を挙げる、それが戦闘の鉄則だ。
 今はまだ、そのときではない――だが次で必ず仕留める。さらに練度を上げた軍隊でな。
 そのとき貴様も俺の手で始末してやろう、ジョン・アデル」

どうやら、フリントはこのアイアントラスを奈落の底に落とそうとしているのではないらしい。
では、なぜ橋桁の一部を崩落させ都市を傾けるようなことをしたのか?
むろん、フリントはその疑問に答えを示しはしない。右手を水平に伸ばすと、途端に空間に裂け目が生じる。
もうすっかり見慣れた『形成位階・門(イェツィラー・トーア)』だ。
ゴブリン・アーミーたちが撤退してゆく。その銃口は絶えず『異邦の魔物使い(ブレイブ)』に向けられており、阻止は不可能だ。
なゆたたちはただ歯噛みしてニヴルヘイムの軍勢を見逃すことしかできなかった。

「あいつも――妹も貴様が地獄へ墜ちるのを望んでいるだろうよ」

最後にジョンへそう言うと、フリントは踵を返して空間の裂け目を潜り姿を消した。
多数のアイアントラス住人の犠牲と、都市の破壊。
大きな犠牲を払って、戦いは終わった。

「……わたしたちのせいだ」

戦火に包まれたアイアントラスを半ば呆然と眺めながら、なゆたが呟く。
フリントはアルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を葬るために召喚された、と言った。
であるなら、この惨状は間違いなくなゆたたちの手によって引き起こされたもの。
無辜の民を戦いに巻き込み、死に至らしめた――その事実が胸に濃い影を落とす。

「否。例えそうだとしても、ただ立ち尽くすにはまだ早いかと。
 我らが救える命は、まだあるはずです……諦念こそが人を殺す。参りましょうぞ」

マルグリットを先頭に、親衛隊たちが怪我人の救助に乗り出す。

「みんな、わたしたちも行こう。マルグリットの言うとおり、まだ助けられる人はいるはずだから……」

ぐっと拳を握り込み、感情を押し殺すと、なゆたはパーティーの仲間たちを振り返って言った。
それから仲間たちが手分けして救助に行くと、なゆたはジョンの許へと歩み寄る。

「ジョン、さっきはありがとう……危ないところを助けてくれて。
 あなたが来てくれなかったら、わたしはきっとフリントに殺されてた。
 あなたのことを助けるって。そう誓ったのに、あべこべに助けられてちゃしょうがないね」

ジョンの顔を見上げ、あはは……と困ったように笑う。

「……それから。助けてって言ってくれて、嬉しかった。
 やっぱり、わたしはジョンのことを見捨ててなんていけない。あなたの苦しみをすっかり取り除くことは難しくても――
 少しでも和らげられたらって思う。それはきっと、他のみんなも一緒のはず。
 だから……わたしたちに、あなたの力にならせて。
 その代わり……」

ジョンを戦いから遠ざければ、それで当面は上手くいくと思った。自分がジョンを守ってやるのだと息巻いていた。
けれどもそれは思い上がりだったかもしれない。ブレモンのトップランカーという自負が、驕りが、なゆたにはあった。
しかし、今度の敵には『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の、ブレモンプレイヤーの戦いの定石は通用しない。
相手は戦闘のプロだ。正真正銘の軍人、戦闘訓練を受けた地球の戦士。

「あなたの力を貸して。あいつに――フリントに勝つには、わたしたちだけじゃどうにもならない。
 あなたの力が必要なの。
 ジョンの持ってる、対人間のスキルが。きっとこれからの戦いの鍵になるはずだから」

なゆたは真っすぐジョンの瞳を見つめながら、その右手を取って両手でぎゅっと握った。

109崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/05/31(日) 19:56:02
アイアントラスの兵士や都市にあるプネウマ聖教会の僧侶たちと共に怪我人の救助を終えたなゆたたちは、爆破地点へ向かった。
爆破された地点は、魔法機関車の駅にもっとも近い橋桁だった。
橋桁が駅ごと爆破され、完全に崩壊している。
よほど強い爆薬を用いたのだろう。あまりに強い爆発が橋を固定していた巨大な鎖をも吹き飛ばしている。
お陰で橋が傾き、アイアントラスからフェルゼン公国方面へ行く橋と崖の間に上下10メートルほどの段差ができてしまった。
当然、魔法機関車の軌条も崩れてしまっている。
これで、当初予定していた魔法機関車と合流してフェルゼンへ――という計画は頓挫してしまった。
バロールが修理に梃子摺っているのか、魔法機関車がまだアイアントラスに到着していなかったのは不幸中の幸いか。
もし魔法機関車が先に到着していたなら、フリントはいの一番に魔法機関車を破壊していただろう。

「……これがフリントの目的だったんだ」

アルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちの移動手段を奪い、足止めする。
そうすることで襲撃の機会を増やし、いつでも軍事行動に移れるようにする。
狙われる側はいつ銃弾が飛んでくるかわからない恐怖におののき、精神を摩耗させてゆく。
一方で時間が経てば経つほどゴブリン・アーミーの練度は上がってゆき、その殺傷度と危険度は高くなる。
文字通り真綿で首を締めるような、確実かつ狡猾な手口だった。

「アイアントラスを離れよう」

なゆたが提案する。
魔法機関車が使えなくなった以上、ここに長逗留しても意味はない。
それに、いつまたフリントたちが『異邦の魔物使い(ブレイブ)』抹殺のために乗り込んでくるかも分からない。
フリントはアルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を葬ると言った。
なゆたたちがアイアントラスに残れば、また無用の犠牲が出るかもしれない。
アイアントラスがこのような惨状になったのは、自分たちのせいだ。
それを償いたい気持ちはある。まだまだ、助けを必要としている人々はいるだろう。
しかし、そうすることで更なる惨劇を招くかもしれない――その可能性を考えると、これ以上この場所にいる訳にはいかなかった。
幸い、橋は完全に陸地と分断されてしまった訳ではない。
爆破されなかった側の橋桁から、馬車を使ってフェルゼン公国へ抜けることは可能だ。

「俺たちがエーデルグーテへ行くという情報を、連中は既に掴んでいるのだろう。
 だとしたら厄介だ、連中はいつでも俺たちを狙える。連中の狙撃の腕がいつまでも下手なままであればいいんだが――
 奴の口ぶりからすると、それは期待薄だな」

腕組みしながらエンバースが口を開く。
魔法機関車が使えれば狙撃もある程度防げただろうが、現状の幌馬車では防御力はゼロだ。
といって馬車を武装させるのもナンセンスだろう。武装すればそれだけ馬車は重量が増える。一頭では引けなくなる。
パーティーには馬車用に用意した馬の他、カケルとガーゴイルを加えた計三頭の馬がいるが、
馬車自体は一頭立ての構造のため他の二頭が引くスペースはなかった。
ならば三頭立ての武装した馬車を用意すればという話だが、そもそもそんな馬車など存在しない。用意するならオーダーメイドだ。
そんな特注の馬車を作っている間にフリントはパーティーにとどめを刺そうと襲い掛かって来るに違いない。
第一、幌馬車プランにはもうひとつ難点がある。

「ちょっ、こっからエーデルグーテまでえっちらおっちら幌場所で行くつもりかよー!?
 ジョーダンじゃねーぞー! ボクはアイアントラスまでってことで、今までガマンして鈍足で旅してきたのに!
 話が違う! そんなんじゃ、うら若き乙女のボクがババーになっちゃうじゃんかーっ!」
 
案の定というべきか、ガザーヴァがゴネた。落ち着きのなさと堪え性のなさでは他の追随を許さない性格の幻魔将軍である。
今まではアイアントラスで魔法機関車に乗るまでの辛抱――と宥めすかされてきたのだが、
フリントの襲撃によってそれもままならなくなり、不満が噴出してしまった。
今回の旅は単にエーデルグーテに到着さえすればミッションクリア、という類のものではない。
ジョンを蝕むブラッドラストを一刻も早く解かなければならないという、期限付きのミッションだ。
今後も幌馬車での旅を続けるというのなら、エーデルグーテまでは10ヶ月はかかるだろう。
ジョンの精神と肉体が、そんな期間を耐え抜けるかどうか――甚だ心許ない。

「こんなとき、みのりさんかバロールのアドバイスがあればいいのに……」

なゆたは歯噛みした。
こういうときにこそパーティーのバックアップをしてくれるはずのキングヒルからの通信はない。
どころかこの半月、なゆた側からコンタクトを取ろうとしてもまるでみのり達からの応答は得られなかった。
通信障害というのは考えづらい。恐らくマルグリットらを警戒して、敢えて通信を切っているのだろう。
今は後方支援は期待できない。このパーティーだけで物事に当たらなければならないのだ。
だから。

「……明神さん、ちょっと」

軽く手招きすると、なゆたは明神を連れ出してふたりだけで物陰へと移動した。

110崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/05/31(日) 19:59:12
「ニヴルヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』に襲撃を受けたは痛手でしたが――
 これしきのことで、大義を胸に抱く我らの歩みを押し留めることなどできはしません。
 否、むしろ――斯様な策を弄してくるということは、それだけ彼奴等にとって我らが小さからぬ脅威であるという証左。
 いかなる艱難と辛苦が待ち受けていようと、これを打破するのみ! それが我らの為すべきことでありましょう!
 さあ――月の子よ、勇敢なる『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちよ! 参りましょうぞ、我が賢姉の待つ聖都へ!」

出発の支度を整えると、マルグリットが高らかに言い放った。
その瞳はキラキラと使命に燃えている。障害が多ければ多いほど士気も上がると、その眼差しが告げている。
正真、マルグリットは世界を救うという大義のために戦っているつもりなのだろう。
その佇まいは美しい外見と相まって、いかにも主人公! といった様子だ。
ゲームのメインビジュアルになりそうな絵面とも言う。
だが。

「……マルグリット、その話なんだけど。
 出発する前に、ひとつだけ教えてくれない?」
 
なゆたが馬車の傍でマルグリットと相対し、ゆっくりと口を開く。
マルグリットはすぐに頷いた。

「私の知り得ることならば、何なりと」

「ありがとう。マルグリットはローウェルの命令でわたしたちをスカウトしに来たのよね?
 あなたの他に、そっちには何人の十二階梯の継承者がいるの?
 全員揃ってるのかしら」

「いえ、私に貴君らの許へ行くようにと指示を下したのは師父ではありません。
 救世の大義のため御多忙であられる師父の代理として、現在は『黎明』の賢兄が陣頭指揮を執っておられます。
 本来ならば、斯様な危難の折。十二階梯全員が力を結集せねばならぬ処ですが――
 『真理』の賢兄や『覇道』、『黄昏』などは『黎明』の賢兄の招集にも応じぬ有様でして。
 尤も、それもおいおい解決するでしょうが……」

問われるまま、マルグリットは誠実に情報を公開する。
こういう莫迦正直な辺りが、マルグリットの底抜けの善人ぶりをよく示していた。
なゆたは頷いた。

「そう。『黎明』がいるのね、そっちには」

「無論です。『黎明』の賢兄こそは、侵食の脅威より諸人を救い出す文字通りの黎明たるお方。
 『創世』の師兄が野に下った今、我ら十二階梯とて『黎明』の賢兄の叡智なくしては立ち行きませぬ。
 賢兄に面会を望まれますか? それは重畳! 賢兄もそれを望んでおりましょう。
 我が賢兄と語らい、その深遠なる脳中を理解すれば、貴君らも必ずや――」

「いいえ。私が知りたかったのは、そっち側に『黎明』がいるかどうか、ってことだけよ。
 そして、あなたの言うとおり本当に『黎明』がそっちにいるのなら……。
 マルグリット、あなたたちとの同行はおしまい。ここからは、わたしたちだけでエーデルグーテまで行くわ」

「……え?」

突然の離別宣言に、マルグリットは目を瞬かせた。
それまで黙ってなゆたちマルグリットの話を聞いていた親衛隊の目に、殺気が宿る。
さっぴょんがなゆたを睨みつける。

「どういう意味かしら、モンデンキント」

「さっぴょんさん、ごめんなさい。シェケナさんもきなこもちさんも。
 あなたたちと一緒に旅した半月はとても助かったし、感謝もしてます。さっきの戦いだってそう。
 皆さんがいてくれなかったら、わたしたちはもっと苦戦してたし……仲間たちに犠牲だって出たかもしれない。
 それは、どれだけ感謝しても足りません。本当にありがとうございます」

なゆたは親衛隊に向き直ると、丁寧にお辞儀をした。
それからすぐに姿勢を戻し、決意を湛えた瞳でさっぴょんたちを見つめ返す。

「だからこそ、はっきりさせておきます。
 マルグリットや親衛隊の皆さんの協力に報いたいと、そう思うから――。
 あなたたちと一緒には戦えない。ローウェルの所へも行かない。
 エーデルグーテへ行ってオデットに会う方法は、わたしたちだけで考えます。だから……これでお別れにしましょう」

「な……、何故です……!
 我らは共に侵食に抗い、世界を救わんとする大望を抱いた同志のはず!
 私は貴君たちの力になりたい、師父のことはさておき今はそうすべきと! 私の中の正義がそう告げるのです!
 だというのに……何故……!」

端正な顔を悲痛に歪め、マルグリットが声を荒らげる。
なゆたは口を真一文字に引き結び、ほんの少しの静寂の後、

「ゴブリン・アーミーに地球の装備を与えたのは、『黎明の』ゴットリープでしょう?」

と、言った。

111崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/05/31(日) 20:01:54
『黎明の』ゴットリープ。

『創世の』バロール離反後の十二階梯の継承者を束ねる、筆頭継承者。
魔導組織『霊銀結社』の頂点に位置する『大達人(アデプタス・メジャー)』にして、アルフヘイム最高位の魔導師。
ゲームの中では基本的にプレイヤーの協力者として様々な便宜を図ってくれる、心強い味方である。
そんな、本来はなゆたたちの支援をしてくれてもいいはずの人物が、ゴブリン・アーミーの装備の提供者だとなゆたは言う。

「なぜ……そう思われるのです……?」

「わたしたち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』は、召喚される時に身に着けていた物ごとアルフヘイムにやってきた。
 フリントがヘルメットや銃を装備したまま召喚されてきたなら、それらがこの世界にあっても不思議じゃない。
 でも――それなら装備はフリントの分しかないはず。
 あの大量のゴブリンへ支給できるだけの装備は、どこから来たのか……? わたしはそれをずっと考えてた」

「そのフリントだかの装備をバラして分析して造ったんじゃないん?」

「ううん、それじゃ時間がかかりすぎるよ。でも――」

ガザーヴァが横合いから口を挟む。なゆたはかぶりを振った。
例えば戦争では敵方の装備や戦車、航空機などを鹵獲し、分析して似たようなものを造るという行為は常識だ。
フリントの装備をニヴルヘイムが分析し、それを元に大量生産する――というのは無い話ではないだろう。
が、その場合『分析から大量生産まで膨大な時間が必要』という弱点がある。
まして、地球産の装備は構造も材質も理論もまるでこちらの世界とは違う。
地球の科学知識のない者がすべてを解析し、理解した上で同等の物を造り上げるというのは並大抵の苦労ではない。
それに、複製ができたとしてもそれを継続して生産するというのがまた大変だ。
こちらの世界には、プログラムさえすれば同じものをオートメーションで大量生産してくれる工場など存在しないのである。
フリントは自らを『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を狩るために召喚されたと言っていた。
間違いなく、フリントはなゆたたちがニヴルヘイムの脅威であると認識されて以降に召喚されたのだろう。
となれば解析、試作、大量生産などというステップを踏む時間はとてもない。
……しかし。
それらすべての問題を一挙に解析する方法が、ひとつだけある。

「……なるほどな。業魔錬成か」

エンバースが頷く。

業魔錬成――
アイテム同士を掛け合わせ、高ランクのレアアイテムを作成する高位魔術。
それを使えば、構造など関係なく地球産の装備を大量生産することは可能であろう。
そして、この世界において唯一の業魔錬成の遣い手こそが――『黎明の』ゴットリープなのだ。

「そうよ。まったく文明や文化の異なる世界の装備なんて、そう簡単にコピーできるわけがない。
 でも魔法ならそれができる。これを増やしたい、と思いさえすればね。
 業魔錬成はその一番の近道――そして業魔錬成を使えるのはゴットリープだけ。
 どうして、あなたの兄弟子はニヴルヘイムに力を貸しているの?
 マルグリット。あなたは……どこまで知っているの? フリントのアイアントラス襲撃は知らなかったとしても。
 『ゴットリープがニヴルヘイムに武器を提供してる』ことは、知ってたんじゃないの……?」 

「………………!」

なゆたの指摘に、マルグリットは沈痛な面持ちで俯いた。
と同時、なゆたの追及に言葉を詰まらせるマルグリットの窮状に親衛隊が身を乗り出す。

「そこまでよ、モンデンキント。
 マル様に是非を問うなど言語道断。マル様のお心を曇らせることは、私たちが許さないわ」

「師匠……それ以上いけないッス。考え直してほしいッス。 
 現状、自分たちは師匠の『仲間』ではなくとも『味方』ッス。師匠と敵対はしたくないッス。
 今ならまだ、マル様も許してくださるはずッス……!」

さっぴょんが敵意を剥き出しにする一方で、きなこもち大佐がなゆたを説得しようとする。
しかし、もう決めたことだ。なゆたの決意は固かった。
なゆたが先ほど明神を呼び出し、物陰で話したことがこれだった。
ゴットリープが、そして十二階梯の継承者がニヴルヘイムに協力していることは明らかだ。
だとすれば、これ以上マルグリットと一緒に旅はできない。

「前に偉そうなこと言っといて、やっぱりやめるなんてカッコ悪いけど。
 ゴメンね、明神さん。やっぱりわたしたちはわたしたちだけで進もう。
 わたしたちは、今までずっとそうしてきた。だから、これからもそうする。
 今度だって、きっとうまいことやれる。……だよね」

明神とふたりで話をしたとき、なゆたはそう言ってばつが悪そうに笑ったのだった。

112崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/05/31(日) 20:03:57
「……確かに……私は知っていました……。しかしながら、『黎明』の賢兄のこと。
 何か深遠なお考えあってのこと……そう、そうに違いありませぬ……!」

マルグリットが搾り出すような声で言った。

「そうかもしれない。結果的に侵食を食い止められるような作戦があって、そのためにやったことなのかもしれない。
 でも。どんな素晴らしい作戦だって、人が死んだらなんの意味もないんだよ……。
 ゴットリープがフリントの装備をコピーして、ゴブリンに持たせた。それでアイアントラスの人たちは死んだんだ……!
 それは覆らない! 絶対に!! 生き物は、死んだらおしまいなんだよ! 生き返ることなんてできないんだ!
 『うまい作戦がある』とか! 『深い考えがある』とか! そんなこと、死んだ人たちに言えるの!?
 あなたたちの死は必要だっただなんて! そんなこと、口が裂けたって言えるもんか!」

「…………ッ…………」

「そんな作戦を考えて! 人が死ぬ武器をたくさん造って!
 それで『世界を救いたい』だなんて! どの口で言ってるんだ!
 『黎明』はローウェルの代理って言ったわよね、それはローウェルの意思でそんなことをしてるってことよね?
 じゃあ……わたしはローウェルを絶対に許さない! ローウェルや『黎明』の命令に従ってるあなたたちのことも!
 無碍に命を摘み取るニヴルヘイムの連中も! 絶対絶対……絶対に! 認めてなんてやらないわ!!」

声を限りに、なゆたは叫んだ。
その啖呵を聞いたガザーヴァがヒューッ! と口笛を鳴らす。

「いいねぇいいねぇ! 宣戦布告ってヤツ!? んじゃもうボクのコトも解禁でいーよな!
 おい、そこの頭ン中お花畑の三バカ恋愛脳トリオ!
 いつでもかかって来いよ、ブッバラしてやンよぉ! そう、『ボクがオマエらの聖地を更地にしたときみたいに』――! 
 この現場将軍! もとい、幻魔将軍ガザーヴァ様がなァ―――――――ッ!!!」

ガザーヴァがここぞとばかりに中指をおっ立てて挑発する。
と同時、黒い靄がその露出度の高い華奢な身体を取り巻き、漆黒の甲冑へと変化してゆく。
すぐにガザーヴァはブレモンプレイヤーならば誰もが見慣れた姿になった。
親衛隊は目を瞠った。

「ガ……、ガザ……!?」

「あの頭の緩いガキンチョが……!? いやでも確かにあの緩さは……!」

「きっひひひひッ! ビックリしたかァー? でも驚くのはまだ早いぞ!
 ここにいる明神、笑顔きらきら大明神なんて名乗っちゃいるけど大ウソだ!
 コイツの本当の名前は、うんちぶりぶり大明神――! そう、ブレモン史上最低最悪のクソコテ野郎だ!
 そんなことも気付かないでアホ面さげて、オマエらってばまったく笑えるったらありゃシナーイ! あーっはっはっはっ!」

ガザーヴァは明神の肩に右腕を回すと、いかにも馴れ馴れしげな様子でカミングアウトした。
混沌と修羅場を好む悪属性の本領発揮である。

「うんち……ぶりぶり……ですって……?」

「あの……マル様を愚弄し、聖地を喪って傷心の自分たちを煽るだけ煽ったガチクズ野郎……!」

「ヒィ―――――――――――ハ――――――――――――――――ッ!!! 殺す殺す殺すゥゥゥゥゥ!!!!」

不倶戴天の敵を前にして、親衛隊の怒りゲージが振り切れる。
どんっ! どどんっ! と地響きを立ててミスリル騎士団が現れ、スライムヴァシレウスが限界突破のオーラを纏う。
アニヒレーターが肩にかけているフライングV的なギターを構える。

「みんな!」

なゆたもポヨリンを足許に配置し、仲間たちに戦闘態勢を促す。
一触即発の事態。
しかし――

「……双方、矛を納められよ」

そんな状況を収拾したのは、他ならぬマルグリットだった。

113崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/05/31(日) 20:07:20
「月の子の申される通り、死を是として為さねばならぬことなどありますまい。
 されど……されど、必ずや! その死を無駄にせぬだけの結果を伴う目的が! あるはずなのです!
 この『聖灰』、伏してお願い申し上げる……何卒、何卒今は、今だけは堪えて頂きたい……!
 『黎明』の賢兄、そして我らが師父と貴君らがまみえ、直に会談する事が叶えば、その疑問も! 怒りも!
 必ずや氷解するに違いないのです……!」

マルグリットは地面に両膝をつくと、なゆたたちへ深々と頭を下げた。

「マル様……!」

親衛隊が驚きの声をあげる。
ブレイブ&モンスターズの顔、人気ナンバーワンの美形キャラが。
何をするにも絵になる美青年が、何もかもかなぐり捨てて頭を下げた。
マルグリットは心の底から願っているのだろう、兄弟子や師匠が世界を救ってくれることを。
だからこそ疑いもなくその指示に従い、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちを集めて回っている。
それが正義なのだと。この世界を護ることに必要なことなのだと――

「あなたは本当に、わたしたちの知るマルグリットなんだね」

頭を下げたまま動かないマルグリットへ、なゆたが呟くように言う。
ただひたすらに人の善性を、正義を、愛情を信じ、世界の平和のために邁進する。
他の継承者たちが悪に堕ち、或いは我欲のままに振舞ったとしても、マルグリットだけは決してぶれることはなかった。
ゲームの中でも、そしてこの現実のアルフヘイムでも。
マルグリットはただただ、世界平和の実現のためだけに戦っている。

だからこそ。

「……わたしにも信念がある。あなたと同じように。
 あなたの信念があなたにそこまでさせるなら、わたしも――わたしの信念を貫かなくちゃいけない。
 わたしたちは対等なんだ。状況や説得で自分の信念をすぐに引っ込めたりしたら、それが崩れちゃう。
 あなたはあなたの信念を最後まで通す。わたしはわたしの信念をどうでも変えない。
 ……そうすることが。あなたの信念に対する礼儀だと思う……から」
 
「……月の子……」

「そのうち、あなたの兄弟子やお師匠さまには会いに行くよ。
 でも、それは今じゃない。もっと世界を回って、色んな物事を見て。
 わたしたちにできることを全部やったうえで――この世界の真実を確かめたら。そのときに会いに行く。
 だから。もう少し待ってて」

今の自分たちは、まだ何も知らない。この世界で本当は何が起こっているのか、誰が何を考えているのか。
それらのすべてを解き明かしたとき。イベントやクエストを片端から網羅したとき。
そのときが、ローウェルとの決着をつけるときになるだろう。

「交渉決裂ね。分かったわ、モンデンキント。
 今はマル様に免じて、戦うのはやめておいてあげましょう。でも――次はないわ。
 フリントがあなたたちを殺すのを待つまでもない。私たちマル様親衛隊が、あなたたちを潰すわ」

「あーしたちを怒らせて、タダで済むと思ってんじゃねぇーってーの!
 おい、うんち野郎! てめぇーは特に念入りにバラバラにしてやっかんな!
 んでスクショ撮って拡散してやんよォーッ! 前に地球でそうしたみてーになァーッ!」

「……残念ッス。師匠」

マル様親衛隊が口々に言う。
そんな親衛隊に寄り添われながら、マルグリットが立ち上がる。

「……嗚呼。私は知らぬ間に、貴君らの信念を穢していたのですね……。
 心よりのお詫びを、勇気ある『異邦の魔物使い(ブレイブ)』。私が誤っていたようです。
 ならば。であるのなら……もはや何も申しますまい」

マルグリットは非難や恨み言を言わない。
ただ、そこには袂を別ったなゆたたちへの無念の想いだけがある。

「では、我らはこれにて。
 ……貴君らの旅が、実り多きものでありますように」

最後にそれだけ言うと、マルグリットは踵を返していずこかへと去っていった。
親衛隊もそれに倣う。

「……マルグリット」

去り行くマルグリットの背を見送りながら、なゆたは小さく名を告げた。
さっぴょんの言うとおり、次に会ったときは敵同士だ。
フリントという強敵が控えているというのに、その上マルグリットまで敵に回してしまった。
こちらにとっては不利と言うしかないが――それでも、この決別は避けられない事態だった。
マルグリットは自分の陣営の者たちがすることに従う他はないし、なゆたたちも我が道を進むしかない。
互いの道が、心が交わらないのであれば――そこにはもう、戦いしかないのだ。

ギリ、と奥歯を強く噛み締めると、なゆたもまた長い髪を揺らして大きく反転し、歩き始めた。
フェルゼン公国へ。アズレシアへ。聖都エーデルグーテへ――

この世界の真実へ。


【“『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を狩る『異邦の魔物使い(ブレイブ)』”ブレイブハンター・フリント登場。
 アイアントラス破壊により魔法機関車が使用不可に。
 意見の相違によりマルグリットと決別。】

114ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/06/03(水) 14:12:29
「うんうん……ん? やっと観念したか……!」
>「任せとけよ親友!今も、これからも!ちゃあんと助けてやっからよ!」

あぁ…夢みたいだ。

>「雑魚狩りは趣味じゃないが、あんたの頼みなら仕方ない。今回の見せ場は譲っておこう」
>「……うん……! さあ、ここから逆転よ! わたしたち全員で……この戦いに勝つ!」

ずっと欲しかった。自分を守って…信じてくれる仲間が。
あの日からずっと諦めていた…いや自分で思い込んでいた。
自分はそんな仲間ができるような人間ではないと、価値はないと。

本当にいいのだろうか?手を伸ばして…彼らの手を掴んでいいのだろうか。
もう十分苦しみ抜いた。だから…手を伸ばしていいのだろうか。

「みんな・・・みんな・・・ありがとう」

そう手を伸ばそうとしたその時。

>「……助けてくれ、だと」

今まで無言だった襲撃者の声で現実に戻される。

なぜ僕は今まで忘れていたのだろう?

いや違う。

>「貴様のような人殺しが。常人と相容れないはみだし者が。どの面を下げて助けなど求められる? 
 これまで貴様がしてきたことを思い出せ。貴様が考えてきたことを顧みろ。
 貴様は自分のことしか考えていないというのに」

違う。僕は自分の意志で思い出さないようにしていただけだった。
もう会わないなら…と自分の精神を守るために・・・。

>「進歩のない男だ、貴様は昔から過ちばかりを犯す。間違った道ばかりを選択する。
 そして、また殺すのか? 仕方なかった。やむを得なかった。そんな逃げ道を用意して」

顔を上げなくてもだれだかわかる。忘れてなんかいない。
自分の限界を超えないように記憶の片隅に封印していただけだ。

忘れるはずなんてない。

>「そう、『あのときのように』――」

「…ロイ…ロイなのか…?」

>「――俺がここにいることが不思議、という顔だな。
 何も不思議ではないさ……誰だって、あのゲームをインストールしていれば召喚される可能性がある。公平にな。
 もっとも――俺はインストールしていただけで、プレイしたことさえなかったが」

「だとしても…なんでこんなこと…」

>「奴は。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を狩る『異邦の魔物使い(ブレイブ)』ということらしい」

「ブレイブを狩る…ブレイブ?」

>「そうだ。俺は貴様らを潰すために召喚された。
 ミハエルと帝龍は、貴様らと同じ土俵に立って勝負したから負けた。ゲームで遊んだばかりに敗退した。
 だが、俺は違う。貴様らの得意なゲームに付き合うつもりはない。
 俺は俺のやり方で貴様らを葬る――アメリカ陸軍仕込みの軍隊戦術でな」

115ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/06/03(水) 14:12:49
《おれ、ロイっていうんだ! パパの仕事の都合でアメリカから引っ越してきた!
 おまえもアメリカ人なんだろ? ほら、髪と目の色が一緒だもん!》
《来いよ、ジョン! 一緒に虫取りに行こうぜ!》
《ジョンをいじめるやつは、おれが絶対許さないぞ!》
《――ジョン、おれたち、ずっとともだちでいような――!》

「違う!違う!僕の知ってるロイは・・・もっと優しいはずだろ!
 ブレイブを殺すとか・・・一般人を殺すような奴じゃないはずだろ!!」

>「ニヴルヘイムに召喚された他の地球人たちは、まだしも話の通じる相手だったけど……あの男ロイ・フリントは違うわ。
 あの男はそこの焼死体さんの言うとおり、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を殺す『異邦の魔物使い(ブレイブ)』。
 敵対する危険性のある『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を始末する殺し屋よ」

僕の知っているロイは…強きを挫き・弱きを助ける。
まさにヒーローを体現したような・・・日本風でいえば筋の通った男だったはずだ。

でも今この状況は?一般人が死に、なゆを殺そうとし、僕の膝にもナイフが突き刺さっている。

>「わたしたちを殺すために、ゴブリンに地球の武器を持たせて戦わせるなんて……」

>「知能の低い亜人どもにライフルの使い方と隊列の組み方を教えるのは、少々骨が折れたがな。
 だが問題ない。デリントブルグでの最初の実戦はまだまだ練度が低く、銃の命中率も低かったが。
 今回はそれなりの結果が得られた。この次はもっとうまくやれるだろう」

>「……次があると思ってるの?」

>「貴様らは本当に素人だな。俺が――ただ貴様らと会話がしたいから、ここで突っ立っているとでも思っているのか?」

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!

>「俺は。俺のやり方で貴様らを葬ると言ったぞ、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』――」
>「この橋梁都市ごとボクたちを大断崖に落っことそうってのか! うっひょー! すっげええええ!!!
 そういうド派手なの大好き! どーしよー、ボクちょっとコイツのこと好きかも!
 あ、でも心配すんなよな明神! パパが一番で二番目がオマエなのは変わんないから!」

「そ・・・そんな事したらここに住んでる人はどうなるんだよ・・・おい!」

>「心配するな、そんな無駄なことはせん。
 最小の行動で最大の戦果を挙げる、それが戦闘の鉄則だ。
 今はまだ、そのときではない――だが次で必ず仕留める。さらに練度を上げた軍隊でな。
 そのとき貴様も俺の手で始末してやろう、ジョン・アデル」

「なんでだよ・・・恨んでるのは僕一人だけのはずだろ?なんで・・・僕以外も・・・ほかのブレイブを巻き込むんだよ?
 そんな事を表情一つ変えずにできるような奴じゃないはずだ・・・君は・・・」

ゴブリン達が一斉に退却していく。
なゆ達は銃口を向けられ、この街を荒らした犯人達を見送る事しかできないでいた。

「なんで・・・なんで・・・」

僕ならこの状況を打破できるかもしれない。でも、僕の心はいろんな感情がまざり…それどころではなかった。

>「あいつも――妹も貴様が地獄へ墜ちるのを望んでいるだろうよ」

そう、僕にいい残すとロイは空間の裂け目に消えていった。

116ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/06/03(水) 14:13:07
>「……わたしたちのせいだ」

私【達】ではない・・・僕の責任だ。
ロイがああなってしまったのも・・・僕達を襲うことになったのも・・・

「僕が悪いんだ・・・」

酷く気分が悪い。
久しぶりにあった親友は小さい頃に一緒だった時にみせた優しさを全て捨て、人殺しになっていた。

その原因を作ったのは間違いなく僕だ。

優しい彼を僕が・・・殺したんだ。

彼一人じゃない、彼の家族も、みんな僕が殺したのだ

「うぷっ」

吐き気がする。
今までずっとみてみないフリをしてきた。どうせ二度と会わないのだからと。
でも相手はそうじゃない。恨んでた。僕を、僕が犯罪にならない世界を。

ちょっと考えればわかる事だった。いやわからなかったんじゃない・・・僕はわかっていて無視していたんだ。

自分を守る為に・・・。

>「あなたの力を貸して。あいつに――フリントに勝つには、わたしたちだけじゃどうにもならない。
 あなたの力が必要なの。
 ジョンの持ってる、対人間のスキルが。きっとこれからの戦いの鍵になるはずだから」

違う…僕は…こんな優しい言葉を掛けられていい人間じゃない。

なんで僕は許された気になって・・・舞い上がってたんだ?僕は人としての幸せを得ちゃいけないのに。

「すまない・・・一人にしてくれ」

なゆの手を弾き、膝からナイフを強引に引き抜く。
吐きそうになるのを我慢しながらゆっくりと歩き出す。

とにかくみんなから見えない位置に移動したかった。一人で考えたかった。楽になりたかった

でも路地にあったのは・・・さらに苦しい現実だった。

「おえええぇぇぇぇえ・・・」

そこで見たのは子供庇って銃に撃たれたと思われる男女の大人と・・・
その死体の下で死んでいる子供だった。

僕の過去の過ちのせいで、違う世界の幸せな家族まで壊れてしまった。

僕だけが苦しめばいいと思っていた。
全部目を瞑れば、僕だけが罪を償えばそれだけで済むと思っていた。

でもそれは現実逃避にしかならないのだと。罪は自分の手で最後まで…償わないといけないのだと。

117ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/06/03(水) 14:13:25
-------------------------------------------

「痛いよぉ〜やめてよぉ〜」

図体がでかい外人というだけで幼稚園でも・・・小学校でもいじめられていた。

反撃すればいじめはなくなるかもしれない。でも一生友達ができなくなるかもしれない。
という恐怖から反撃できず、毎日顔つき合わせれば体当たりされ、石をぶつけられる

「そこ!なにイジメてるんだ!」

そこに現れた一人の少年・・・それがロイだった。

この頃からすでにロイは人気者だった。
手を振れば女子が集まってくるし、男子でさえ嫌ってるいる者は少なく、誰からも愛されていた。

漫画や、ドラマの主人公になるのはこんな人なのだろうと思った。

もちろんただの八方美人の優男ではなく、ルールを破る悪には決して屈しない心と体を持っていた。

「お前も…反撃できないわけじゃないだろう?なぜ反撃しないんだ」

「僕が反撃したら相手に怪我させちゃうから・・・」

「自分より相手を優先したのか?イジメてるやつを?……お前気に入った!俺はロイ。ロイ・フリントだ」

一生仲良くなる事はないだろう人に手を伸ばされる。

「え…?」
「いいから!」

手を強引に引っ張られていく。

「これから俺とお前は・・・友達だ!」

「へ?・・・・・・・・・・・ええええええええええ!!??」

それから2年間は本当に幸せだった。
ロイ以外の友達はいくら頑張ってもできなかったけれど。

ロイと・・・それとロイの妹である・・・彼女と遊べるだけで十分だった。

本当に・・・幸せだった。

118ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/06/03(水) 14:13:41
「紹介するよジョン。これが妹のシェリーだ」

彼女との初めての出会いはロイの家に遊びにいったときだった。
ロイの後ろからひょっこりと少女が顔をだしていた。

「えーと…こんにちわ?」

黙って見つめている彼女はまるで人形のようで、美しいと感じたのを今でも覚えている。喋りだすまでは。

「体つきは良さそうなのにすごいザコそうな顔ね」
「こらシェリー!」

初めての彼女から言われたのはザコそうな顔だった。

「いくらロイの妹でも言っていい事と悪いことが・・・」

いくら僕でも一個とはいえ年下の少女にザコと呼ばわりされたら少しムッとしまったのも覚えている。

「ならちょっと軽く殴り合ってみましょうか?私と」

「な・・・殴り合い?」
「やめ----」

ロイが止めるよりも早く繰り出された彼女の鋭い蹴りは僕の腹部を直撃した。

「アガッ・・・!?」

その一撃は日ごろの特訓で鍛えられた僕の筋肉をたやすく貫通し、僕を地にたたきつけた。

てゆうか殴り合いって言ってるのに蹴りって・・・!

「ふーん・・・結構固いじゃん!」

怒ったロイを完全に無視し、僕に近寄ってきた彼女はこういった。

「聞いて驚きなさい!私は天才少女と呼ばれ!5歳にしてあらゆる格闘技に精通し、大人を殴り倒してきた!
 大人でさえ私とまともに戦って勝てるやつはいないわ!大人でさえ私に弟子入りを志願するのよ!そう!私は天才だから!」

口ぶりや身長、立ち振る舞いは完全におこちゃまだった。だが強さだけは
彼女の蹴りは間違いなく大人を超えた威力があった。

「大丈夫かジョン・・・すまない妹はこの通り見た目はいいんだけど性格が・・・」
「だれが性悪女だって!?」
「そ、そんな言葉どこで覚えてくるんだよ!大体お前な・・・」

「ふ・・・ふふ・・・あはははは!」

くだらない事で喧嘩する二人を見ていると自然と笑いが込み上げてきた。
僕にも兄弟がいたらこんな感じになれただろうか?いやロイだからこそ。シェリーだからこそいいのだろう。

「え・・・なんか笑ってるよ・・・もしかしてマゾ?」
「だからどこでそんな言葉覚えてくるんだよ!!!!」

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119ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/06/03(水) 14:13:58
生存者の救助を終え、駅を破壊された僕達は次の作戦を練り始める。

>「……これがフリントの目的だったんだ」

ロイはゴブリン達の練度がまだ足りないという事を仄めかしていた。
完璧な軍隊を作るのに必要なのは物資、そして時間だ。

「誰よりも真っすぐを信条としてた男がこんな狡猾な手段に出るなんて・・・」

僕が知っているロイと同じと思ってはいけないと、わかってはいても・・・姿をこの目で見ていても。
信じられなかった。信じたくなかった。これも現実逃避だとわかっていても・・・。

>「アイアントラスを離れよう」

>「俺たちがエーデルグーテへ行くという情報を、連中は既に掴んでいるのだろう。
 だとしたら厄介だ、連中はいつでも俺たちを狙える。連中の狙撃の腕がいつまでも下手なままであればいいんだが――
 奴の口ぶりからすると、それは期待薄だな」

「それに関しては僕が・・・これがあれば・・・かなり時間を稼げるはずだ」

僕はゴブリン達が使っていた銃を取り出す。

カザハがゴブリンから奪い取った銃一丁とゴブリン達が残していったマガジン複数が被害を免れていた。

「銃を僕が確保した以上・・・生半可な練度で、場所で襲い掛かっても無意味だという事は・・・ロイもわかってるはずだ
 僕ら軍人の真骨頂は・・・銃だからね。アメリカと日本じゃ差はあるけれど・・・戦い方は分ってる」

「ロイを止める為なら・・・僕はブラットラストの力を使うことを躊躇わない
 それに・・・能力の強さが不明確なこの力は・・・切り札になりえる」

向うには総数不明のゴブリンの軍隊。それに銃弾を耐えれる装備
本当にゴブリンだけなのかも怪しい。ロイはゲームはしたことがないと言っていたがそれをそのまま信じるほど馬鹿ではない。
だがブラットラストの力いまだ底が知れていない。ロイにも僕にも・・・。

この力は純粋に力を強化するだけじゃない・・・恐らくまだ使い方があるはずだ。
デメリットさえ恐れなければ・・・強力な切り札になるだろう。

「僕は・・・街で予備のパーツ、もしくは武器になりそうな物がないか漁ってくる。
 話し合いは・・・すまないが辞退させてくれ・・・ちょっと今は冷静になれないから・・・・」

そう言い残し、話し合いの場を離れる。

パーツ探しなんて言い訳だ。

とにかく一人になりたかった。とにかく不安に心が支配されていた。

これまでロイの犯してきた罪の話なんてされた日には激怒して大暴れしてしまうかもれしれない。

わかっている。恐ろしいほどの罪でロイの手が濡れているなんて事は。
今回の件だけでも多数の死者を出した。これだけでも絶対に許されるべきではない。

「僕が・・・僕が全てを終わらさなければ・・・僕のせいなんだから・・・」

自分で犯した罪は自分で償わなければならない。ロイがああなってしまった原因は僕にある。なら・・・。

「はは・・・ひどい顔だな」

窓に映った自分の顔はひどくやつれていた。

救助は完了したものの、街には死臭が漂っていた。これからこの街は一生この恨みを忘れないだろう。
僕の罪は・・・僕が見て見ぬふりしていた罪は・・・僕一人では償えない所まできている。

「絶対・・・ロイを止めてみせる・・・僕の命と引き換えにしても・・・」

120カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/06/07(日) 23:09:42
>「あ―――――――っ!!!」
>「あいつ……どうしてここに」
>「ちぃ〜ッ、よりによってメンドくさいのが……!」

いつの間にか戻ってきていた親衛隊の面々が驚きの声をあげている。

「コイツを知ってるんだね!? やっぱりニヴルヘイムのブレイブなの?」

正体がバレて開き直ったのか、襲撃者が口を開く。

>「……助けてくれ、だと」

襲撃者はヘルメットを外し、素顔を露わにした。ちょっとターミネーターっぽい雰囲気の外国人男性だ。

>「貴様のような人殺しが。常人と相容れないはみだし者が。どの面を下げて助けなど求められる? 
 これまで貴様がしてきたことを思い出せ。貴様が考えてきたことを顧みろ。
 貴様は自分のことしか考えていないというのに」

「コラ―――――ッ!! 大虐殺現行犯のお前が言うな! 大体お前誰だよ!」

せっかくいい感じに心を開いてくれたタイミングで何さらすねん!
という感じで抗議するが、華麗にスルーして言葉を続ける襲撃者。

>「…ロイ…ロイなのか…?」

どうやら襲撃者とジョン君は面識があるようだ。ロイという名らしい。

>「――俺がここにいることが不思議、という顔だな。
 何も不思議ではないさ……誰だって、あのゲームをインストールしていれば召喚される可能性がある。公平にな。
 もっとも――俺はインストールしていただけで、プレイしたことさえなかったが」

>「そ、そ、そ、そうッス!
 あいつは――『ブレモンをプレイしたことがない』んス!
 あいつは『異邦の魔物使い(ブレイブ)』でさえない、あいつは――」

ブレイブでさえないと言われてイラッとしたのか、ロイは威嚇射撃を放つ。

「碌にプレイしてなくてサーセーン! ……ん? インストールしてるだけでも召喚されるの?」

たまたまこのパーティーのガチ勢率が異常なだけで、
カザハみたいに碌にやってもいないのに召喚って別にUターン組の特殊事例じゃなかったんですね。
ド素人がわんさか召喚されていても何も不思議はないわけだ。――ただしそれがランダム召喚ならば。

>「ブレモンをやったことがない……? それなら、どうして……」

「アルフヘイムならともかくニヴルヘイムはピックアップ召喚だよね……?」

>「……そういうことか」
>「奴は。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を狩る『異邦の魔物使い(ブレイブ)』ということらしい」

121カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/06/07(日) 23:11:27
>「そうだ。俺は貴様らを潰すために召喚された。
 ミハエルと帝龍は、貴様らと同じ土俵に立って勝負したから負けた。ゲームで遊んだばかりに敗退した。
 だが、俺は違う。貴様らの得意なゲームに付き合うつもりはない。
 俺は俺のやり方で貴様らを葬る――アメリカ陸軍仕込みの軍隊戦術でな」

「ブレモンが強い奴じゃなくて普通に強い奴を選んで召喚したってことか……!
じゃあ……ニヴルヘイム陣営は召喚候補者の地球での人物像まで分かった上で召喚してる?」

バロールさんは皆のプレイヤーネームしか知らなかったし、なゆたちゃんと明神さんの因縁も全く関知していなかった。
ニヴルヘイム側はそうではないとなれば、コイツはジョン君と因縁があることまで分かった上で選ばれた可能性も濃厚なわけですね……。

>「アイツ、チョー洒落んなってないし! ブレモン知らんやつがアルフヘイム来んなし!」
>「あいつには『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の戦い方が通用しないッス、ガチでヤバイ奴ッスよー!」
>「ニヴルヘイムに召喚された他の地球人たちは、まだしも話の通じる相手だったけど……あの男ロイ・フリントは違うわ。
 あの男はそこの焼死体さんの言うとおり、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を殺す『異邦の魔物使い(ブレイブ)』。
 敵対する危険性のある『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を始末する殺し屋よ」

ガチでヤバくて話が通じないので有名な親衛隊の面々からガチでヤバくて話が通じないって言われてるよ、これアカンやつや……!

>「わたしたちを殺すために、ゴブリンに地球の武器を持たせて戦わせるなんて……」
>「知能の低い亜人どもにライフルの使い方と隊列の組み方を教えるのは、少々骨が折れたがな。
 だが問題ない。デリントブルグでの最初の実戦はまだまだ練度が低く、銃の命中率も低かったが。
 今回はそれなりの結果が得られた。この次はもっとうまくやれるだろう」

「そんなアナログな方法だったの!?
あまりにも統制が取れてるから魔法的な何かで操ってるのかと思ったわ……!」

>「……次があると思ってるの?」

「問答無用! ここで仕留めるよ! その能面みたいな顔に風穴開けたろかーっ!」

カザハはロイに狙いを定めて矢をつがえた。矢が魔力の風をまとう。
相手は先程とは違ってヘルメットを脱いでおり、いくら超強い軍人とはいえ
生身の地球人ならそれなりにビビる状況だと思われるが、相変わらず落ち着き払っている。

>「あるさ。今回の任務は完了した、撤退する」

>「なんですって?」

「どうせ追い詰められた敵の『今日のところはこの辺にしといてやる』みたいなもんでしょ!
一般人相手なら無双できるんだろうけどこっちのモンスター率の高さ考えろっつーの! 残念でしたーっ!」

確かに、普通はブレイブはほぼ一般人のはずが、このパーティーは何故か一般人の方が少数派なのは相手にとって誤算だったかもしれない。
ロイをビビらせるのを諦めたカザハは足元に矢を放つ。が、タクティカルスーツの脚甲部分に弾かれた。

122カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/06/07(日) 23:12:45
「それ一応エンチャントかかってんだけど……。
なるほどね、そういう感じのパワーバランスなのね。地球の技術力って半端ないんだ!」

《感心してる場合じゃないですよ!》

顔を狙ってはこないのは最初から読めていたんですかね……。
その時、フェルゼン公国の方で大爆発が起こった。

>ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!

「はぁ!? まさか……爆破しちゃったの!?」

>「俺は。俺のやり方で貴様らを葬ると言ったぞ、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』――」
>「この橋梁都市ごとボクたちを大断崖に落っことそうってのか! うっひょー! すっげええええ!!!
 そういうド派手なの大好き! どーしよー、ボクちょっとコイツのこと好きかも!
 あ、でも心配すんなよな明神! パパが一番で二番目がオマエなのは変わんないから!」

「これが本当の爆発オチ……ってシャレにならないよ!?」

>「そ・・・そんな事したらここに住んでる人はどうなるんだよ・・・おい!」

「今はとにかく脱出しなきゃ……!
フライトを2つ持ってるから……1人ボクと相乗り! 明神さんはガーゴイルに乗せてもらって!
親衛隊は……マル様任せた!」

早々に橋が落ちる覚悟を決めたカザハは私に跳び乗って脱出の算段を始めた。
が、相手はどうやら橋を落とすまでするつもりはないようだ。

>「心配するな、そんな無駄なことはせん。
 最小の行動で最大の戦果を挙げる、それが戦闘の鉄則だ。
 今はまだ、そのときではない――だが次で必ず仕留める。さらに練度を上げた軍隊でな。
 そのとき貴様も俺の手で始末してやろう、ジョン・アデル」

その言葉のとおり、地面がいくらか傾斜したところで橋の崩壊は止まった。
街ごと奈落の底という最悪の結末は免れたようだ。
橋の作りがしっかりしてたから良かったようなもののもしも意外とガバガバ設計だったらうっかり落ちちゃってた可能性も普通にありますよね……。
別に街ごと落とすのは流石に気が引けたとかいうわけではなく、
本人が言った通り橋を全部落とすのは大変だからコスパを考えてこうなった、ということなのだろう。
当然のようにスタイリッシュにドコデモ・ドーアを開いて撤退していくロイ。
そこだけはしっかりニヴルヘイム軍勢の様式美に則ってるんですね……。

「今日のところはこの辺にしといてやる……!」

《それ追い詰められた敵の台詞―っ!》

>「あいつも――妹も貴様が地獄へ墜ちるのを望んでいるだろうよ」

ロイが門に入る直前に告げた言葉から推察するに、彼はジョン君が”殺した”少女の兄、らしい。
偶然にしては出来過ぎている。
ニヴルヘイムの連中が、ロイがジョン君に恨みを持っているのを知った上で差し向けたのだろうか。

「ニヴルヘイムの奴ら……趣味悪すぎやろ!」

123カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/06/07(日) 23:14:02
>「……わたしたちのせいだ」
>「僕が悪いんだ・・・」

なゆたちゃんたちは街の惨状を前にどうすることも出来ずにただ立ち尽くしていた。

>「否。例えそうだとしても、ただ立ち尽くすにはまだ早いかと。
 我らが救える命は、まだあるはずです……諦念こそが人を殺す。参りましょうぞ」

>「みんな、わたしたちも行こう。マルグリットの言うとおり、まだ助けられる人はいるはずだから……」

「そうだね……。動けない人がいたら呼んで。カケルを行かせるから」

皆が怪我人の救助に散る。
スペルカードは何回もは使えないので、私の回復スキルが役に立った。
それにしてもすでに事切れている遺体がたくさんあり、酷い有様だった。
ジョン君の言葉からすると、ロイは昔はいい奴だったらしい。
妹が死んだのがきっかけでああなってしまったのだろうか。

「カケル、次はこっちの人お願い!」

《……》

「カケル?」

《……カザハが生きていて良かった》

「ボクが生き残ったのは思った以上に大きな意味があるのかもしれない……。
歴史に恒常性があるとすれば……ボクはアコライトで死ぬ運命だった。
皆が未来を変えてくれたおかげでジョン君は今度は兄弟の片割れを殺さずに済んだんだ」

《アコライトを超えて生きていることそのものが運命は変えられることの証……。
そうだと……いいですね。いえ、きっとそうですよ》

「そうだとしたら……ボク達は変えられぬ過去に屈したらいけない気がするよ。
過去に何があったとしてもジョン君の味方でいようね」

《うん》

「……安心しなよ、もう置いていかない」

《……私も》

「我ら生まれた日は違えど、死すときは同じ日・同じ時を願わん――か」

救助を終えた私達は、爆破地点の検証に向かった。
ロイの目的は、魔法機関車の軌道を断絶することだったようだ。

>「……これがフリントの目的だったんだ」

それなら、線路を一部分破壊するだけでも当面の足止めにはなったはずだ。
目的に比して、あまりにも被害が大きい。

>「誰よりも真っすぐを信条としてた男がこんな狡猾な手段に出るなんて・・・」

>「アイアントラスを離れよう」

「離れるったって……徒歩で!?」

124カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/06/07(日) 23:15:20
エンバースさんが道中の狙撃を懸念し、ガザーヴァが鈍足続行に文句を言う。
ただゴネているようにしか見えないが、彼女なりにジョン君のことを気にかけているのかもしれない。

>「それに関しては僕が・・・これがあれば・・・かなり時間を稼げるはずだ」
>「銃を僕が確保した以上・・・生半可な練度で、場所で襲い掛かっても無意味だという事は・・・ロイもわかってるはずだ
 僕ら軍人の真骨頂は・・・銃だからね。アメリカと日本じゃ差はあるけれど・・・戦い方は分ってる」

「うん……頼りにしてる……」

>「ロイを止める為なら・・・僕はブラットラストの力を使うことを躊躇わない
 それに・・・能力の強さが不明確なこの力は・・・切り札になりえる」

「ジョン君……! それ使ったら本末転倒だよ!?」

>「僕は・・・街で予備のパーツ、もしくは武器になりそうな物がないか漁ってくる。
 話し合いは・・・すまないが辞退させてくれ・・・ちょっと今は冷静になれないから・・・・」

ジョン君は逃げるように去ってしまった。

>「こんなとき、みのりさんかバロールのアドバイスがあればいいのに……」

なゆたちゃんと明神さんは秘密の打ち合わせを始めた。
その場に残ったカザハは、マル様に問いかける。

「マル様、本部に連絡取って乗り物チャーター出来ないの?」

残念ながら、そんな権力は無いようだ。まあチャーター出来るぐらいなら最初から乗って来てますよね。
今更ながら、世界を救う人材をスカウトして回るのに徒歩ってあまりにも悠長すぎやしません!?
世界の状況が予断ならないなら、一刻も早く人材を集めなければならないはず。
ローウェルなら飛空艇でも高級車(?)でも用意できそうですよね!? マル様、体よく泳がされてる気がする……。

>「ニヴルヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』に襲撃を受けたは痛手でしたが――
 これしきのことで、大義を胸に抱く我らの歩みを押し留めることなどできはしません。
 否、むしろ――斯様な策を弄してくるということは、それだけ彼奴等にとって我らが小さからぬ脅威であるという証左。
 いかなる艱難と辛苦が待ち受けていようと、これを打破するのみ! それが我らの為すべきことでありましょう!
 さあ――月の子よ、勇敢なる『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちよ! 参りましょうぞ、我が賢姉の待つ聖都へ!」

なゆたちゃんと明神さんが戻ってきて、出発する運びとなった。
それにしてもよく毎度その辺の人が言ったら笑ってしまいそうな長台詞を思いつきますよね……。

>「……マルグリット、その話なんだけど。
 出発する前に、ひとつだけ教えてくれない?」
>「私の知り得ることならば、何なりと」

なゆたちゃんはローウェル陣営に黎明がいることを聞き出すと、突然の離別宣言をした。

>「いいえ。私が知りたかったのは、そっち側に『黎明』がいるかどうか、ってことだけよ。
 そして、あなたの言うとおり本当に『黎明』がそっちにいるのなら……。
 マルグリット、あなたたちとの同行はおしまい。ここからは、わたしたちだけでエーデルグーテまで行くわ」

125カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/06/07(日) 23:16:39
「急にどうしたの……?」

突然の離別宣言に、明神さん以外の全員が驚いた様子を見せる。
明神さんとは、先ほど打ち合わせ済みだったのだろう。

>「ゴブリン・アーミーに地球の装備を与えたのは、『黎明の』ゴットリープでしょう?」

>「……なるほどな。業魔錬成か」

>「そうよ。まったく文明や文化の異なる世界の装備なんて、そう簡単にコピーできるわけがない。
 でも魔法ならそれができる。これを増やしたい、と思いさえすればね。
 業魔錬成はその一番の近道――そして業魔錬成を使えるのはゴットリープだけ。
 どうして、あなたの兄弟子はニヴルヘイムに力を貸しているの?
 マルグリット。あなたは……どこまで知っているの? フリントのアイアントラス襲撃は知らなかったとしても。
 『ゴットリープがニヴルヘイムに武器を提供してる』ことは、知ってたんじゃないの……?」 

>「……確かに……私は知っていました……。しかしながら、『黎明』の賢兄のこと。
 何か深遠なお考えあってのこと……そう、そうに違いありませぬ……!」

「裏で繋がりまくってるじゃん! マル様、やっぱりゴッさん達に体よく騙されてるんじゃ……!」

なゆたちゃんがマルグリットを激しく糾弾する。

「なゆ……その辺に……」

親衛隊を怒らせて戦闘になったらシャレにならない。
道を分つのは仕方がないにしても、無用な戦闘は避けるべきと思ったのだろう。
が、修羅場が大好きな奴がいた。

>「いいねぇいいねぇ! 宣戦布告ってヤツ!? んじゃもうボクのコトも解禁でいーよな!
 おい、そこの頭ン中お花畑の三バカ恋愛脳トリオ!
 いつでもかかって来いよ、ブッバラしてやンよぉ! そう、『ボクがオマエらの聖地を更地にしたときみたいに』――! 
 この現場将軍! もとい、幻魔将軍ガザーヴァ様がなァ―――――――ッ!!!」

「火に油を注がないで―――――ッ!!」

>「きっひひひひッ! ビックリしたかァー? でも驚くのはまだ早いぞ!
 ここにいる明神、笑顔きらきら大明神なんて名乗っちゃいるけど大ウソだ!
 コイツの本当の名前は、うんちぶりぶり大明神――! そう、ブレモン史上最低最悪のクソコテ野郎だ!
 そんなことも気付かないでアホ面さげて、オマエらってばまったく笑えるったらありゃシナーイ! あーっはっはっはっ!」

「……これアカンやつや」

もう収拾がつかなくなった。諦めの境地に至り、魂が抜けたような顔で事態の行く末を見守るカザハ。

>「みんな!」

「ああもう、仕方ないなあ……!」

126カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/06/07(日) 23:17:28
もはや戦闘不可避かと思われたが――

>「……双方、矛を納められよ」

マル様の一声で親衛隊がぴたりと動きを止める。流石ですマル様。

>「月の子の申される通り、死を是として為さねばならぬことなどありますまい。
 されど……されど、必ずや! その死を無駄にせぬだけの結果を伴う目的が! あるはずなのです!
 この『聖灰』、伏してお願い申し上げる……何卒、何卒今は、今だけは堪えて頂きたい……!
 『黎明』の賢兄、そして我らが師父と貴君らがまみえ、直に会談する事が叶えば、その疑問も! 怒りも!
 必ずや氷解するに違いないのです……!」

マル様は地面に膝をついて頭を下げた。日本の奥ゆかしき伝統、土下座である。

>「あなたは本当に、わたしたちの知るマルグリットなんだね」
>「そのうち、あなたの兄弟子やお師匠さまには会いに行くよ。
 でも、それは今じゃない。もっと世界を回って、色んな物事を見て。
 わたしたちにできることを全部やったうえで――この世界の真実を確かめたら。そのときに会いに行く。
 だから。もう少し待ってて」

>「……嗚呼。私は知らぬ間に、貴君らの信念を穢していたのですね……。
 心よりのお詫びを、勇気ある『異邦の魔物使い(ブレイブ)』。私が誤っていたようです。
 ならば。であるのなら……もはや何も申しますまい」

「マル様はゴッさん達が世界を救ってくれるって信じてるんだね……。
ボクはなゆ達を信じてる。なゆ達が未来を変えてくれたから、ボクはここにいる……。
きっと世界の運命だって変えてくれる」

>「では、我らはこれにて。
 ……貴君らの旅が、実り多きものでありますように」

去っていくマル様を見送り、私達はジョン君を呼びに行く。

>「絶対・・・ロイを止めてみせる・・・僕の命と引き換えにしても・・・」

「ジョン君……」

私達はジョン君の前に降り立った。カザハは平静を装い、努めて明るくジョン君に声をかける。

127カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/06/07(日) 23:18:04
「こんなところにいたんだ。そろそろ行くよ! もう親衛隊もマル様もいないから安心して!」

怪訝な顔をするジョン君に、簡単に経緯を説明する。

「えへへ、喧嘩別れしちゃった。
ローウェル陣営がニヴルヘイムの連中に兵器を提供してたらしくて。
第三勢力っていったって思いっきり裏繋がりじゃーん、みたいな!
あ、マル様達がいなくなったってことは……」

試しにキングヒルへの通信を繋いでみるカザハ。繋がっているかも確かめずに一方的に喋る。

「全部聞いてたんでしょ? うかうかしてられないんだからね!?
今回はマル様達が徒歩だったから良かったようなものの……どっかの陣営が高級車で迎えに来たら寝返っちゃうかもよ!?
オープンカーで大草原を走り回ってバーベキューしちゃうんだからね!?」

ガザーヴァに聞かれたら大変なことになりそうである。
実際には向こうにみのりさんがいる以上、簡単には寝返れないんですけどね。

「それはそうとニヴルヘイムの連中、ボク達がエーデルグーテに行くの知ってるみたいなんだけど……。
おかしいなあ、どこから漏れたんだろう……」

素なのか揺さぶりかけてるのか分かりませんよ!?

「まあいっか。次のアズレシアはお魚がたくさん獲れるいいところだよ〜。
攻略本に書いてあったんだけど定住する人もいるらしくてハウスを建てる場所としても人気なんだって!」

カザハはジョン君を無理矢理私に乗せて、皆のところに戻った。

「馬車の中に閉じこもっとくのは飽きたでしょ。ジョン君はボクと一緒に哨戒担当ね」

ここからは少し強めのモンスターも出てくる。
馬車に閉じ込めておいたところで戦闘になれば出てくるのが目に見えているので、
哨戒担当という名目で出来るだけ戦闘を回避させる意図なのだろう。
それに、飛んでいる限り、一人で勝手に突っ込んで行ったり出来ない。
ある意味馬車の中に閉じ込めておくよりもずっと確実な拘束なのだ。

「んじゃ明神さん、親友お借りします」

カザハは地上組とウィンドボイスで音声を繋ぐと、早々に飛び立った。

128明神 ◆9EasXbvg42:2020/06/15(月) 04:36:40
ジョンの戦いに介入し、総力決戦が始まらんとする、その刹那――

>「あ―――――――っ!!!」

不意に後ろの方で素っ頓狂な叫び声が上がった。
振り返ればゴブリンを殲滅したマル公とのその親衛隊が駆け寄ってきている。
きなこもち大佐が襲撃者を指差し、他の二人もまたびっくりとうんざりの狭間みたいな顔をした。

「知ってるのか、大佐!」

どうにも親衛隊の連中は、襲撃者の素性を知悉しているらしい。
ってことはあの襲撃者も、やっぱりニブルヘイム側に召喚されたブレイブってことか。

>「……助けてくれ、だと」

誰何の声に親衛隊が答えるよりも先に、襲撃者が口を開いた。
初めて聞くそいつの声は、苦み走った男のものだった。
ヘルメットとゴーグルを外し、素顔が露わになる。

>「貴様のような人殺しが。常人と相容れないはみだし者が。どの面を下げて助けなど求められる? 
 これまで貴様がしてきたことを思い出せ。貴様が考えてきたことを顧みろ。
 貴様は自分のことしか考えていないというのに」

男は外人だった。
金の長髪に碧眼――ジョンのものと同じ色合いは、二人が同じ人種であることを意味している。
欧州系の白人。そしておそらくは、現役の従軍者。

「知り合い、みてーだな。ジョン……」

襲撃者の剣呑は双眸は、ジョンの姿を捉え続けていた。
こいつの人となりを知っているかのような口調は、実際知己の間柄だからだろう。
――『人殺し』としてのジョンの過去を、知る者。

>「――俺がここにいることが不思議、という顔だな。
 何も不思議ではないさ……誰だって、あのゲームをインストールしていれば召喚される可能性がある。公平にな。
 もっとも――俺はインストールしていただけで、プレイしたことさえなかったが」

>「そ、そ、そ、そうッス!
 あいつは――『ブレモンをプレイしたことがない』んス!
 あいつは『異邦の魔物使い(ブレイブ)』でさえない、あいつは――」

「ログイン勢……だと……?なんでそんな人間が、ニブルヘイムにいやがる」

インスコだけして特にゲームをプレイせず、ログボだけ受け取ってるようなプレイヤー層。
ソシャゲみたいな基本無料のゲームには珍しくもない、フェザーライトユーザー。
実際ブレイブの中にはそういうプレイヤーもいただろう。――アルフヘイム式の召喚術なら。

だがニブルヘイムは違う。奴らは特定のプレイヤーをピックアップして召喚出来る。
少なくないコストでブレイブを喚ぶなら、ハイレベルのガチ勢を選ばない理由はない。
だとすれば、何故。ニブルヘイムはこいつを召喚したのか。

>「奴は。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を狩る『異邦の魔物使い(ブレイブ)』ということらしい」

エンバースの見解が、すべての答えだろう。
ニブルヘイムはバロールと違って、明確な目的を果たすためにピンポイントで人材を登用している。
ゲームもやってない現役軍人を召喚するなら、それ相応の目的がある。

「ブレイブ狩りのブレイブ……クソが、ネトゲの諍いにリアルでカチコミかける奴があるかよ」

129明神 ◆9EasXbvg42:2020/06/15(月) 04:37:13
海外ゲーマーの間で一時期流行った、『スワッティング』って攻撃手段がある。
いけ好かない相手プレイヤーを物理的に害する為に、警察に虚偽の通報をかけ、特殊部隊を動員させる手法だ。
「あいつの家にテロリストが立てこもってる」って言われれば、警察もガチ装備で強襲かけざるを得ない。
SWATを送り込むからSWATING。馬鹿みてえな話だが、海の向こうじゃ実際それで死人も出てる。

ニブルヘイムの連中は、いけ好かない敵ブレイブである俺たちを、ゲームの外から殺すために。
ゲームとは無関係のガチの暴力を持ち込みやがったってわけだ。
ブレイブ式のスワッティング。そして派遣されてきた特殊部隊が、目の前に居るこの襲撃者――

ふざけんじゃねえぞ。入れ知恵しやがったのはどこのどいつだ。
ATBに依存しない攻撃でブレイブの戦術的優位を殺す『ブレイブ殺し』の有用性は、そこの焼死体が立証してる。
ニブルヘイムの連中は、似たような発想を最悪の形で具体化しやがった。

>「そうだ。俺は貴様らを潰すために召喚された。
 ミハエルと帝龍は、貴様らと同じ土俵に立って勝負したから負けた。ゲームで遊んだばかりに敗退した。
 だが、俺は違う。貴様らの得意なゲームに付き合うつもりはない。
 俺は俺のやり方で貴様らを葬る――アメリカ陸軍仕込みの軍隊戦術でな」

「くだらねえな、ゲーセンのリアルファイトじゃねえんだぞ。
 ここへ来たのはイブリースの差し金か?プライドとかねえのかあの武人気取りのクソ野郎が!」

>「違う!違う!僕の知ってるロイは・・・もっと優しいはずだろ!
 ブレイブを殺すとか・・・一般人を殺すような奴じゃないはずだろ!!」
>「ニヴルヘイムに召喚された他の地球人たちは、まだしも話の通じる相手だったけど……あの男ロイ・フリントは違うわ。
 あの男はそこの焼死体さんの言うとおり、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を殺す『異邦の魔物使い(ブレイブ)』。
 敵対する危険性のある『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を始末する殺し屋よ」

襲撃者――ロイ・フリントと呼ばれたその男は、ジョンの悲痛な叫びも、親衛隊の野次めいた糾弾も切って捨てる。
まずいな。さっぴょんの言葉通り、こいつには言葉が通じない。会話が成り立たない。

俺の得意とするレスバトルは、相手の弱みを突いてボロを出させ、それを突破口とするのが定石だ。
ガザーヴァに交渉が効いたのも、バロール絡みであいつの弱みが明らかだったからに過ぎない。
そもそも会話に応じてくれなきゃ、どれだけ舌が回ろうが打っても何も響かない。

フリントの野郎は、これまでの敵とまるで違う。この世界とは別のところに信念の核がある。
汚名だろうが罪だろうが背負う覚悟を決めた人間だ。俺が漬け込めるような精神的な弱みがない。
レスバトルが、通用しない――。

>「知能の低い亜人どもにライフルの使い方と隊列の組み方を教えるのは、少々骨が折れたがな。
 だが問題ない。デリントブルグでの最初の実戦はまだまだ練度が低く、銃の命中率も低かったが。
 今回はそれなりの結果が得られた。この次はもっとうまくやれるだろう」

「したり顔で反省会してんじゃねえぞアメ公。穀倉都市の襲撃は練習に過ぎなかったってか?
 そのクソみてえな『それなりの成果』で、何人死んだと思ってやがる。……どの口で、ジョンを人殺しと呼びやがった」

デリンドブルグで俺たちが全滅しなかったのは、ただゴブリンどもの練度が低かったから。
それを補った今回の襲撃では高い命中精度で――たくさん殺せた。
部下の成長に頷くようなフリントの言い草は、その犠牲になった人々への悔いが欠片も含まれちゃいなかった。

>「……次があると思ってるの?」

なゆたちゃんが低い声でそう問いかける。俺たちは多分、同じ気持ちだった。
殺すとか殺さないとか、あんまり言いたくはなかったけど、それでも。
――こいつは殺さなきゃならない。死ぬべき人間だと、そう感じた。

>「あるさ。今回の任務は完了した、撤退する」

殺意の籠もった怒りを叩きつけられても、フリントの表情に変化はなかった。
スマホに指をかけて一歩踏み出す。ヘルメットを脱いだ今、ヤマシタの矢なら、あの野郎の顔面をぶち抜ける。
殺せる――

130明神 ◆9EasXbvg42:2020/06/15(月) 04:37:40
>「貴様らは本当に素人だな。俺が――ただ貴様らと会話がしたいから、ここで突っ立っているとでも思っているのか?」

瞬間、胃袋の中身がまるごとひっくり返るよな爆発音が響いた。
アイアントラスの地面が大きく揺れ、絶望を伴う浮遊感が全身を持ち上げる。

「なっ……嘘だろ!?」

橋梁が、傾いている。
爆発があったのはフェルゼン公国側の橋梁の端だ。
つまりは――橋の根本。この街の土台だ。

>「この橋梁都市ごとボクたちを大断崖に落っことそうってのか! うっひょー! すっげええええ!!!
 そういうド派手なの大好き! どーしよー、ボクちょっとコイツのこと好きかも!
 あ、でも心配すんなよな明神! パパが一番で二番目がオマエなのは変わんないから!」

「そーかいありがとよ!俺も愛してるぜガザ公っ!
 あのヤンキー野郎のことはヘドが出るくれー嫌いだがなぁぁぁっ!!」

無駄口叩いている間に、俺はいよいよ地面に立っていられなくなった。
橋が落ちる?冗談じゃねえぞ、まだ街の住人の避難も終わってない。
俺たちが谷の下に落下して生きていられる保証もない。下は川が流れてるが、流木も残らない急流だ!

>「心配するな、そんな無駄なことはせん。
 最小の行動で最大の戦果を挙げる、それが戦闘の鉄則だ」

不意に揺れが収まった。
橋梁は傾いたままだが、それでもこれ以上崖からずり落ちることはない。
破壊されたのは橋桁の一部だけだ。巨大で頑強なアイアントラスは、それだけじゃ崩落しない。

>「今はまだ、そのときではない――だが次で必ず仕留める。さらに練度を上げた軍隊でな。
 そのとき貴様も俺の手で始末してやろう、ジョン・アデル」

俺たちが揺れに対処している間に、フリントは既に撤退を始めていた。
『形成位階・門』――ニブルヘイムのインチキテレポートが、虚空にその口を開いている。

「ざけんなっ!待ちやがれ――」

なんとか立ち上がって、追いすがろうとした。
フリントと共に門へ入っていくゴブリン達が、一斉に俺へ向けて銃を構える。
十を超える殺意の視線に晒されて、それ以上動けなくなった。

「く……そ……が……!!
 これだけ人を殺しといて、のうのうと生きていられると思うなよロイ・フリント!!
 てめえには絶対に報いを受けてもらう!俺のツラを覚えていやがれよ!!」

負け惜しみの言葉が届いてか届かずか、フリントは振り返ることなく門の向こうへ姿を消した。
あれだけいたゴブリン共もみな姿を消して、あとには何も残らなかった。

今ここにあるのは、流れた血と、人々のうめき声。
そして――わけもわからないまま殺された者たちの、絶望だけだった。

 ◆ ◆ ◆

131明神 ◆9EasXbvg42:2020/06/15(月) 04:51:32
>「……わたしたちのせいだ」
>「僕が悪いんだ・・・」

未だ火も消えないアイアントラスを前にして、打ちひしがれたようになゆたちゃんが零した。
ジョンもまた、薄暗い表情でつぶやく。

人がたくさん死んだ。街も、たくさん壊れた。怪我人だって数え切れないほど居る。
そしてそれらの被害は全て……俺たちがアイアントラスに来たから引き起こされたものだ。
この街の住人からすれば、俺たちは災いを運んできた疫病神にだって見えるだろう。

「……ちげーだろ。この街をこんなにしたのも、人が死んだのも。
 全部全部、あのフリントとかいうクソ野郎がやらかしたことじゃねえか。
 俺たちは何も悪くない。……誰にも悪いなんて言わせるかよ」

言葉の上ではそう言っても、俺自身自分を納得させられなかった。
もしも。俺たちが陸路でフェルゼンへ向かわず、アイアントラスを訪れなかったら。
あるいは、行き先をエーデルグーテに定めて、旅をしてこなかったら。
そんな仮定ばかりが頭に浮かんで、理性がそれを打ち消す。

>「否。例えそうだとしても、ただ立ち尽くすにはまだ早いかと。
 我らが救える命は、まだあるはずです……諦念こそが人を殺す。参りましょうぞ」

マルグリットの言う通り、打ちひしがれるのはもっと後で良い。
責任なんかあるとは思いたくもないが、それでも目の前の人間を助けない道理はない。
倫理観は、俺たちがブレイブ――地球の人間であり続けるための、最後の一線だ。

>「みんな、わたしたちも行こう。マルグリットの言うとおり、まだ助けられる人はいるはずだから……」

「了解。バロールに貰ったポーション類は全部出すぞ、回復魔法用の成形クリスタルもだ。
 トリアージなんかしてられっか、目につく人間は片っ端から助ける」

生き残った兵士たちとプネウマの僧侶たちからなる救助隊に物資を提供し、手当てと生存者の救出を手伝う。
パートナーを使って瓦礫を押し上げ、出血が酷い者は工業油脂で無理やり固めて搬送する。
王都の高級ポーションは外傷にも火傷にも覿面にはたらき、怪我人の殆どはなんとか容態を持ち直した。

それでも――助けられない命はあった。
内臓に銃弾を撃ち込まれ、摘出もままならないまま息を引き取った者。
焼け焦げた民家の瓦礫の中から、真っ黒になって発見された者。
頭が吹っ飛んじまって、もはや誰だったかすらわからなくなってしまった者。

命を拾った者の中にも、まともに四肢を動かせなくなったり、手足を失った怪我人が多い。
生身に近い人間が、銃弾を受ければこうなるんだと……生々しい実感があった。

「吐きそうだ……人が死ぬのを、間近で見んのは……」

結局、俺はほとんど現場で動けなかった。
救助隊の連中は物資の提供だけで十分だとばかりに礼を言ってくれたが、不甲斐なさが身に染みる。
我が子を探して喉が枯れるまで呼び続ける親の声が、いつまでも耳に残った。

血まみれの毛布にくるまれた何かがそこかしこに転がっている。
その中で、俺は蹲るように膝を抱いていた。
この惨状を引き起こしたのは誰だ。あいつだ。ロイ・フリントだ。
何も関係ない、ただ普通に暮らしてただけの人々を、殺した。

復讐なんてガラでもないし、顔も知らない死人のために命をかける道理もない。
それでも、フリントは生かしちゃおけないと思った。
この街に絶望を振りまいていったあの男が、何の報いも受けないまま目的を達成するのは、我慢がならなかった。

132明神 ◆9EasXbvg42:2020/06/15(月) 04:52:10
やがて、襲撃の知らせを受けたデリンドブルグあたりから応援隊が来た。
彼らに現場を引き継いで、俺たちはようやくお役御免になった。
救助の参加者には配給の糧食と酒が渡されたが、どちらも手をつける気にはなれなかった。

>「アイアントラスを離れよう」

一通りの救助が終わって、爆発の発生源を見に行った先で、なゆたちゃんはそう言った。
橋桁が一部まるっと吹っ飛んで、支柱に直接道路が乗っかってる状態だ。
10メートル近く地面が下がり、そこに架かっていたはずの線路がどこかに行ってしまっている。

「……だな。俺たちがここに留まって、第二波が来ようもんなら……次はきっと、耐えられない」

フリントの標的は俺たちだ。アイアントラスはその巻き添えを食ったに過ぎない。
とっととここを離れれば、これ以上アイアントラスが襲われることもないはずだ。

>「俺たちがエーデルグーテへ行くという情報を、連中は既に掴んでいるのだろう。
 だとしたら厄介だ、連中はいつでも俺たちを狙える。連中の狙撃の腕がいつまでも下手なままであればいいんだが――
 奴の口ぶりからすると、それは期待薄だな」

「人間の命でエイム練習してんだってよ、あいつらは。馬鹿馬鹿しい。
 これ以上クソ共の思い通りにさせてたまるか」

>「それに関しては僕が・・・これがあれば・・・かなり時間を稼げるはずだ」

今後の道程に関する懸念材料を話し合っていると、ジョンが黒光りする何かを取り出した。

「お前……それは、」

>「銃を僕が確保した以上・・・生半可な練度で、場所で襲い掛かっても無意味だという事は・・・ロイもわかってるはずだ
 僕ら軍人の真骨頂は・・・銃だからね。アメリカと日本じゃ差はあるけれど・・・戦い方は分ってる」

ゴブリンアーミーから鹵獲したM16。
それにマガジンがいくつか、ジョンの手元にあった。
素手でも人を殺せるジョンが、銃器を手にしたなら、これ以上ない戦力の増強になるだろう。
だけどそれは、ジョンにとって、『呪い』のトリガーを引きかねないリスクを抱えることと同義だ。

>「ロイを止める為なら・・・僕はブラットラストの力を使うことを躊躇わない
 それに・・・能力の強さが不明確なこの力は・・・切り札になりえる」

俺は――もうこいつに、力を使うなとは言えなかった。
ブラッドラストがフリントに対するジョーカーとなり得るなら、使うべきだ。
例えそれがこいつの寿命を縮めることになったとしても。

人が死んだ。大勢死んだ。
アルフヘイムとニブルヘイムの戦争なんかじゃなく、ブレイブによるテロの巻き添えになって。
もう……命を惜しむ段階は、通り過ぎちまった。

>「僕は・・・街で予備のパーツ、もしくは武器になりそうな物がないか漁ってくる。
 話し合いは・・・すまないが辞退させてくれ・・・ちょっと今は冷静になれないから・・・・」

「ジョン」

呪いの進行を無言で肯定した俺に、何も言う資格はないかもしれないが。
ふらりとその場を辞そうとするジョンに、一言だけ投げかけた。

「……戻ってこいよ」

フリントとの因縁は、お前が終わらせなくちゃならない。
お前があの男をぶん殴る為なら、俺はいくらでも力を貸してやる。

133明神 ◆9EasXbvg42:2020/06/15(月) 04:52:56
「問題は山積みだな。ジョンが迎撃に出るったって、狙撃相手じゃ限界がある。
 こっから聖都まで何ヶ月だ?ゴブリン共が古強者になるには十分すぎる時間だ」

>「ちょっ、こっからエーデルグーテまでえっちらおっちら幌場所で行くつもりかよー!?
 ジョーダンじゃねーぞー! ボクはアイアントラスまでってことで、今までガマンして鈍足で旅してきたのに!
 話が違う! そんなんじゃ、うら若き乙女のボクがババーになっちゃうじゃんかーっ!」

「……グズるお子様もいることだしよ」

ガザっちはさぁ……授業中に立ち歩いちゃうタイプの子?
ただ実際のところガザーヴァでなくても何ヶ月も馬車旅は正直現実的とは思えない。
アイアントラスを超えればその先はフェルゼン公国だ。バロールの意志も届きにくい。
何かと便宜が図られてきた王国領内と違って、今度こそ孤立無援の旅路だ。

山岳地帯に築かれたフェルゼン公国は、交通網が王国ほど充実してない。
整備も不十分な山道を馬車で通れば、落石や滑落のリスクだってある。
何よりこの辺の山は飛竜の棲息域だ。こんな馬車で襲われればひとたまりもない。

「対空防御が足りてねえ。せめて真ちゃんが居りゃあな、レッドラの実家ってこのあたりだろ」

確かレッドドラゴンの故郷、『竜の谷』はフェルゼンの山奥だったはずだ。
つまりはあのクラスのモンスター……成体ならレイド級にもなり得るドラゴンがうようよ棲息してる。
旅路の障害になるのはフリント一派だけじゃなく、野生のモンスターもだ。

>「……明神さん、ちょっと」

パーティ内であれこれ議論していると、不意になゆたちゃんからお呼びがかかった。
神妙な表情。これからの行末に頭を悩ませてるというよりは、何かを決心した、そんな顔。

「どうした、なゆたちゃん」

サブリーダーにだけ声をかけたその時点で、俺は予感がしていた。
そして予感は逸れることなく、なゆたちゃんから告げられた推論に、俺は目頭を揉んだ。

「……なるほどな。確かに銃器のリバースエンジニアリングから量産化までやってのけるのは、
 ゴッさん以外に居るめえよ。その推理で間違いねえと俺も思う」

『黎明の』ゴットリープ。"十三階梯"においてはバロールに次ぐ実力を持つ、凄腕の魔術師。
その固有スキル『業魔錬成』は、設計図なんかなくてもアイテムをたやすく複製できる。
この世界の技術水準で銃器を作り出せるのは、おそらく奴しか居ない。

「あの武装ゴブリン共に、ゴットリープが一枚噛んでやがんのか。
 ふざけやがってあのクソエルフ、始めっからアルフヘイムを裏切ってんじゃねえか。
 ……いや、まだ推定有罪だな。どう確かめる?そんで――どうする?」

もしも。なゆたちゃんの推理通りに、ゴットリープがニブルヘイムに武器の供与を行ってるとすれば。
俺たちは今度こそ結論を出さなきゃならない。このままマル公と一緒にいれば、早晩取り込まれるのがオチだ。
だから……どうするか。俺が聞くまでもなく、なゆたちゃんのハラは決まっていた。

>「前に偉そうなこと言っといて、やっぱりやめるなんてカッコ悪いけど。
 ゴメンね、明神さん。やっぱりわたしたちはわたしたちだけで進もう。
 わたしたちは、今までずっとそうしてきた。だから、これからもそうする。
 今度だって、きっとうまいことやれる。……だよね」

なゆたちゃんはそう、はにかみながら言った。
リーダーのお墨付きだ。俺たちは、自分の力だけでジョンを助けられる。
それなら、サブリーダーとして言うべきことはひとつだけだ。

「決まりだなリーダー。持てる知識を総動員してエーデルグーテを単独攻略する。
 ――ゲーマーが本気で早解きしたらすげえんだってこと、賢者共に見せてやろうぜ」

134明神 ◆9EasXbvg42:2020/06/15(月) 04:53:43
 ◆ ◆ ◆ 

アイアントラスを発つ準備が整ったところで、なゆたちゃんはマルグリットに問いかけた。
ローウェルの元で活動する十二階梯がどれだけ集まっているか。
そこに『黎明』は居るのか。

そしてマルグリットは、確かにゴットリープが陣頭指揮に立っていると述べた。
――決まりだ。ローウェルは、十二階梯は、俺たちの敵だ。

>マルグリット、あなたたちとの同行はおしまい。ここからは、わたしたちだけでエーデルグーテまで行くわ」

良いんだな、とは聞かねえよなゆたちゃん。
この道を選ぶのは彼女一人だけじゃない。俺が居て、こいつらが居る。

露骨に同様するマルグリット、一触即発の親衛隊をよそに、なゆたちゃんは舌鋒鋭く問い詰める。
マルグリットもまた、ゴットリープがフリントに武器を提供していたことを知っていた。
知っていてなおゴブリン共と闘ったのは、銃器が『こんな使い方』をされると思ってなかったからか。

ゲーム上でどんなに追い詰めようが涼しい顔を崩さなかった美男子が、苦悶の表情を浮かべている。
奴にとって、ローウェルやゴットリープは絶対だ。正しさを疑うことなどできない。
しかしその一方で、アイアントラスでこれだけの犠牲が出たことも、無視することは出来ない。

>「……確かに……私は知っていました……。しかしながら、『黎明』の賢兄のこと。
 何か深遠なお考えあってのこと……そう、そうに違いありませぬ……!」

「世界を救うためなら小さな街の数百人の犠牲には目を瞑るってか。高尚なこったな。
 命の取捨選択を否定するつもりはねえよ。だけどそれは……俺たちのやり方じゃあない」

アイアントラスで死んだ連中は。
たとえ明日世界が滅ぶとしても、今日を生きたかったかも知れない。
そいつらにまともな選択肢も与えず、強引に命を奪ったことを、俺は忘れない。

>「『黎明』はローウェルの代理って言ったわよね、それはローウェルの意思でそんなことをしてるってことよね?
 じゃあ……わたしはローウェルを絶対に許さない! ローウェルや『黎明』の命令に従ってるあなたたちのことも!
 無碍に命を摘み取るニヴルヘイムの連中も! 絶対絶対……絶対に! 認めてなんてやらないわ!!」

なゆたちゃんのこの言葉が、決別の合図だった。

>「いいねぇいいねぇ! 宣戦布告ってヤツ!? んじゃもうボクのコトも解禁でいーよな!
 おい、そこの頭ン中お花畑の三バカ恋愛脳トリオ!
 いつでもかかって来いよ、ブッバラしてやンよぉ! そう、『ボクがオマエらの聖地を更地にしたときみたいに』――! 
 この現場将軍! もとい、幻魔将軍ガザーヴァ様がなァ―――――――ッ!!!」

剣呑な気配にテンションをぶち上げたガザーヴァが正体をバラす。
その身に黒甲冑を纏えば、在りし日の幻魔将軍の再臨だ。
思わぬ仇敵の登場に、親衛隊は開いた口が塞がらない。勝ったな。

>「きっひひひひッ! ビックリしたかァー? でも驚くのはまだ早いぞ!
 ここにいる明神、笑顔きらきら大明神なんて名乗っちゃいるけど大ウソだ!
 コイツの本当の名前は、うんちぶりぶり大明神――! そう、ブレモン史上最低最悪のクソコテ野郎だ!
 そんなことも気付かないでアホ面さげて、オマエらってばまったく笑えるったらありゃシナーイ! あーっはっはっはっ!」

あ、俺のこともバラすのね?
親衛隊の3つの双眸が一斉に俺に集中する。

驚きと殺意がないまぜになったその視線に晒されながら、俺はきらきらな笑顔を脱ぎ捨てた。
代わりに出てくるのは、ニチャア……と粘着質なキモオタスマイル。

135明神 ◆9EasXbvg42:2020/06/15(月) 04:55:29
「ククク……バレちゃあしょうがねえなぁ?どうも改めまして親衛隊の皆さん、うんちぶりぶり大明神です。
 アコライトぶっ潰した幻魔将軍に、廃墟でお前ら煽りまくった荒らし野郎がここに揃っているわけだが……。
 一個だけ質問良いですか。――ねえ今、どんな気持ち?」

瞬間、親衛隊の背後にそれぞれのパートナーが出現した。
怒りが圧力を帯びた風となって俺の頬を叩く。人間一人くらい呪い殺せそうな濃密な殺意だ。

>「ヒィ―――――――――――ハ――――――――――――――――ッ!!! 殺す殺す殺すゥゥゥゥゥ!!!!」

「うひひはははは!NDK!NDK!そうフットーすんなよ狂犬共ぉ!
 感情に任せて俺を殺しますかっ!?おんなじ地球で暮らしてきたこの俺をぉ?
 お前らがニブルヘイムに見捨ててきた、スタミナABURA丸のようによぉ!!」

ミスリル騎士団も、スライムヴァシレウスも、アニヒレーターも、今にも襲いかかって喉笛を食いちぎらんとしている。
さっぴょんが号令のひとつでも出せば、ブレモン最強のプレイヤー集団がその破壊力を解禁するだろう。
それはもう遠くない。秒読み段階だ。

>「みんな!」

そして俺たちもまた、これから始まる殺戮をぼっ立ちで受け入れるつもりはなかった。
既にヤマシタは召喚し、遠くから弓で狙いを定めている。
ガザーヴァは言うまでもなく、エンバースもカザハ君も戦闘態勢だ。

「マル公とキャッキャウフフに夢中だったお前らは知らねえだろうがな!
 この対立は既定路線だ。こうなることを俺は前もって知っていたっ!
 これがどういうことか分かるよなぁ?悪いわんわんに輪っかつける準備はとっくに整ってんだよぉ!」

すわ、激突。
殺し合いの第二幕が火蓋を切らんとした、その時。

>「……双方、矛を納められよ」

敵意がぶつかり合うその渦中に身を投げだしたのは、マルグリットだった。
膝をつき、深々と頭を下げる姿すら堂に入って、見る者全てから毒気を抜く。
美しきその所作は、古式ゆかしき懇願の姿勢――土下座。

「あ?マジ……?」

つい一秒前まで俺にバリバリ殺意を向けていた親衛隊すらも、感じ入ったようにマル様に視線を向ける。
マルグリットは、どこまでも篤実に、誠実に、俺たちに翻意を乞うた。
あのイケメンが、五体を投地してまで、必死に場を収めんとしている。

なゆたちゃんは今度こそ、方針を違えることはなかった。
それでも、マルグリットの懇願は双方に響くものがあって、俺達は一様に毒気を抜かれた。
いつか。この世界の裏側で渦巻く陰謀が全部明らかになれば……きっとローウェルに会いに行く。
会って、その真意を確かめる。それは俺も望むところだ。

>「交渉決裂ね。分かったわ、モンデンキント。
 今はマル様に免じて、戦うのはやめておいてあげましょう。でも――次はないわ」

さっぴょんが最初に矛を収め、俺たちも臨戦態勢を解除する。
ここで戦うことがどちらにとっても利にはならないと、全員が理解していた。

>「あーしたちを怒らせて、タダで済むと思ってんじゃねぇーってーの!
 おい、うんち野郎! てめぇーは特に念入りにバラバラにしてやっかんな!
 んでスクショ撮って拡散してやんよォーッ! 前に地球でそうしたみてーになァーッ!」

「怖いねぇぇぇぇぇっ!そんときゃ真っ先に"いいね"つけに行ってやるよ!
 ぶっ倒したお前の目の前で、きらきら笑顔の明神さんのスクショになぁ!
 題名ももう決めてあるぜ!『解釈違いで憤死したサブカルクソ女、ここに眠る』ってよぉっ!!」

136明神 ◆9EasXbvg42:2020/06/15(月) 04:56:04
最後まで煽りまくってる奴も居たがな!!
俺とシェケナベイベはお互いに中指を立て合いながら袂を分かった。
失意にもめげないマル様とその親衛隊は、俺たちとは違う道へと消えていく。

「やってしまいましたなぁ……」

口ではそう言いつつ、俺はガザーヴァとハイタッチした。
スカっとしたぜ。ざまーみやがれ。あの最強無敵の厄介集団に嫌な気持ちにさせてやった。
すげえ久々にうんちぶりぶり大明神の面目躍如って感じで超気持ちよかった。

たったひとつ懸念材料があるとすればそれは――状況が何一つ好転していないことだ。
マル様と親衛隊っていう、おそらくブレイブの中でも最高の戦力を手放しちまった。
どころか奴らはもう敵だ。次会ったときは今度こそ、殺し合いが始まる。

俺たちの行く手を阻む障害は数え切れないほどある。
ジョンの呪い。ニブルヘイムに加担してる十二階梯共。その最強の腰巾着。そして。

「ブレイブハンター……か。ついにそんなもんまで出てきやがった」

ブレイブ狩りのブレイブ。アルフヘイムのブレイブを殺すためだけに召喚された存在。
それは明確に、ニブルヘイムがアルフヘイムのブレイブを排除すべき存在だと認識している証左であり――
どこか奔放に動き回っていたミハエルや帝龍とは違って、連中の統制がとれ始めていることも意味していた。

「当面、アシの確保は急務だな。どの道こんなペラい幌の馬車でちんたら進んでたら的にしかならねえ。
 魔法機関車が使えないなら……それこそ飛空船とか、どっかで都合が付きゃいいんだが」

飛空船は魔法機関車に代わるどこでも乗れてどこにでも降りられる上位互換の移動手段だが、
かなり高度な技術が使われてるせいか大陸全体でも数が少ない。
ゲーム本編でもかなり後半のシナリオでイベントをこなしてようやく借り受けられるような代物だ。
あれどこだったっけ……だいぶ昔のことだから詳しい場所は覚えてねえけども。

>「んじゃ明神さん、親友お借りします」

カザハ君がジョンを連れ立って空へと飛び立つ。
俺はその背中に闇魔法を投げつけて引っ張り下ろした。

「カザハ君ちょい待った。もうひとつ……アズレシアに行くの、やめにしねえか?」

アズレシアは海路におけるフェルゼン公国の玄関口となる港町だ。
俺たちがこれから向かう先のひとつであり、エーデルグーテに行くための船が出てる場所でもある。

「フリントは俺たちの行動をどういうわけか読んでて、常に先回りしてきやがる。
 まともにエーデルグーテを目指すなら海路をとる為にアズレシアに向かうってことも把握してるだろう。
 ……だからこの先、普通にアズレシアに行けば、次に襲撃されるのは十中八九あの街だ」

アイアントラスの惨状が、今でもまぶたの裏にこびりついてる。
フリントの口ぶりが正しければ、今度の襲撃の規模はあんなもんじゃ済まない。
俺たちがこのまま進めば、むざむざアズレシアに戦火を持ち込むことになる。

「それでもアズレシアに行くなら、今度こそ連中に気取られないっていう確証が要る。
 追跡を撒いて、変装してでも、奴らが気付く前に船借りて港を出なきゃならない。
 俺は……あの街まで燃やされるのは、見たくない」

137明神 ◆9EasXbvg42:2020/06/15(月) 04:56:23
あるいは、これもフリントの術中なのかもしれない。
街に立ち寄ればそこが襲われるとなれば、俺たちはもうどこにも寄れなくなる。
畢竟物資の補給も出来なくて、フェルゼンの山道で野垂れ死ぬしかなくなる。

それでも、思惑に乗っかると分かっていても。
俺はもうこれ以上、目の前で人が死ぬのを見たくなかった。

「必要なのはアシの他にもうひとつ。敵の行動予測だ。行く先を読むのは奴らの専売特許じゃない。
 フリントが今後どういう行動をとるかを類推して、その合間を縫って進む。
 例えば……奴が補給や訓練で動けないタイミングなら、俺達が街に入っても襲われない」

昨日今日会ったばっかのよく知らねえ奴の行動なんか憶測を重ねるしかないが、
憶測の精度を上げる方法ならある。――よく知れば良い。

「ジョン。お前あのメリケン野郎と知り合いみたいな感じだったな。
 フリントについてお前が知ってること、全部話せ。言いたくないことでも全部だ。
 奴はお前を恨んでるような口ぶりだった。『妹』ってのは、誰のことだ」

あれこれ遠慮すんのはもう終わりだ。
たとえこいつの傷を掻きむしることになったとしても。
俺たちは、ジョン・アデルという人間を……今度こそ知らなくちゃならない。

【アイアントラスの惨状にビビり、アズレシア行きに待ったをかける。
 ジョンに過去とフリントの素性を確認】

138崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/06/23(火) 02:12:22
マルグリットおよびマル様親衛隊と袂を別ったアルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』は、
単独で聖都エーデルグーテへ行くことになった。
結果的にジョンはマル様親衛隊と同行することによるストレスから解放されたが、その代わり新たな問題を抱えた。
『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を狩る『異邦の魔物使い(ブレイブ)』。
ブレイブハンター・フリント。
その男の正体は、ジョンのかつての親友ロイ。
アメリカ陸軍で兵役を経験した、現役の軍人。戦争のプロ。
なゆたたちを葬り去るために召喚された、ニヴルヘイムからの刺客――。

今や完全に敵に回ってしまったマルグリットとマル様親衛隊も含め、パーティーは多くの敵と対峙する羽目になってしまった。
状況は悪化の一途を辿っている。
が、こんなところで立ち止まってはいられない。どんな結果が待っているにせよ、歩みを止めることはできないのだ。

>当面、アシの確保は急務だな。どの道こんなペラい幌の馬車でちんたら進んでたら的にしかならねえ。
 魔法機関車が使えないなら……それこそ飛空船とか、どっかで都合が付きゃいいんだが

明神が思案げに呟く。
ここからエーデルグーテまで、徒歩とほとんど変わらない馬車での進行となればおおよそ10ヶ月はかかる。
10ヶ月もの間、いつ攻めてくるかもわからないフリントやマルグリット達を警戒して旅することなどできない。

>全部聞いてたんでしょ? うかうかしてられないんだからね!?
 今回はマル様達が徒歩だったから良かったようなものの……どっかの陣営が高級車で迎えに来たら寝返っちゃうかもよ!?
 オープンカーで大草原を走り回ってバーベキューしちゃうんだからね!?

何を思ったのか、カザハが突然虚空に向けて喋り始める。
マルグリットや親衛隊を警戒し、今までだんまりを決め込んでいたのであろうバロールやみのりに向かって話しかけたのだろう。

>それはそうとニヴルヘイムの連中、ボク達がエーデルグーテに行くの知ってるみたいなんだけど……。
 おかしいなあ、どこから漏れたんだろう……

>カザハ君ちょい待った。もうひとつ……アズレシアに行くの、やめにしねえか?

ジョンとタンデムでカケルに乗り、飛び立とうとするカザハを押し留め、明神がそう提案する。

>フリントは俺たちの行動をどういうわけか読んでて、常に先回りしてきやがる。
 まともにエーデルグーテを目指すなら海路をとる為にアズレシアに向かうってことも把握してるだろう。
 ……だからこの先、普通にアズレシアに行けば、次に襲撃されるのは十中八九あの街だ。

>それでもアズレシアに行くなら、今度こそ連中に気取られないっていう確証が要る。
 追跡を撒いて、変装してでも、奴らが気付く前に船借りて港を出なきゃならない。
 俺は……あの街まで燃やされるのは、見たくない

明神の危惧する通り。
フリントが今後も今回と同じ策を使い続けるとしたら、狙われるのは間違いなくアズレシアだ。
停泊する船に爆薬を仕掛け、片っ端から破壊して回る――そんなことさえ、手段を選ばないあの男ならやってのけるだろう。
当然、そんな暴挙は断じて許されない。
自分たちが原因で無辜の民が死ぬようなことは、もう二度とあってはならないのだ。
だから。

>必要なのはアシの他にもうひとつ。敵の行動予測だ。行く先を読むのは奴らの専売特許じゃない。
 フリントが今後どういう行動をとるかを類推して、その合間を縫って進む。
 例えば……奴が補給や訓練で動けないタイミングなら、俺達が街に入っても襲われない

>ジョン。お前あのメリケン野郎と知り合いみたいな感じだったな。
 フリントについてお前が知ってること、全部話せ。言いたくないことでも全部だ。
 奴はお前を恨んでるような口ぶりだった。『妹』ってのは、誰のことだ

明神が舌鋒鋭くジョンに問う。
それは、今までパーティーの中でタブーとなっていたこと。
ジョンの過去に何があって。彼が、誰を殺したのかという真実――その暴露。
明神はジョンの心の中にある、大きなかさぶたを剥ぎ取ろうとしている。
例え、剥がれたかさぶたから新たな血が流れようとも。
自分たちが生き残るために。この世界を救うために。

「……そう、だね。
 そろそろ……話して貰わなくちゃいけない時期なのかもしれない。
 気軽に打ち明けられることじゃないのかもしれない。ジョンにとって、痛みを伴うことなんだろうと思う。
 でも……お願い、ジョン。
 みんなが先へ進むために、これは……必要なことなんだ」

瓦礫に彩られた、フェルゼン公国へと続くアイアントラスの袂で。
なゆたはそう言って、まっすぐにジョンを見つめた。

139崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/06/23(火) 02:24:42
《話は一旦まとまった感じみたいやねぇ〜? ほんならそろそろ、うちらも通信再開してええやろか?》

ジョンの独白が終わったころ、突然なゆたのスマホから声が聞こえてきた。
聞き慣れた、間延びした声音は紛れもなくみのりのものだ。
スマホを見れば、どこかの書斎めいた場所の執務机に右眼に眼帯をつけたみのりが着いており、隣にバロールが佇んでいる。

《いやぁ、三週間ぶりくらいの通信かな? 久しぶりだね、みんな!
 君たちのことはモニターしていたんだけど、『聖灰』の前じゃ喋ることもままならなくてね。
 とにかく、カザハの言うとおり状況は把握している。さっきの話も聞かせてもらったよ。
 ジョン君の過去は、ブラッドラストを解く鍵になりそうだね》

バロールも通信に割り込んでくる。相変わらずの危機感の薄い様子だが、バロールもブラッドラストについて考えていたらしい。

《ニヴルヘイムの裏をかいての進軍、か。
 ところで……カザハと明神君は、どうして自分たちの行き先がニヴルヘイムにバレてるのか訝しんでいるようだけれど。
 簡単な話だろう? だって、君たちはご老人からわざわざGPSを受け取っているんだからね。
 というか――私は君たちがとっくに知っていて、わざとそうしているのかと思っていたんだが……違うのかい?》

そう言うと、バロールは画面越しになゆた達を指さした。
なゆたは首を傾げた。

「GPS? 何の話? わたしたちがローウェルから受け取ったものなんて――」

そう言いかけて、なゆたはあっ! と大きく声を上げた。
なゆたたちのこなした、最初のクエスト。その際に手に入れた、ローウェル秘蔵の超レアアイテム。

ローウェルの指輪。

考えてみれば当たり前の話だ。ローウェルの指輪は文字通りローウェルの魔力の宿ったアイテムなのだから、
十二階梯の継承者ならびにそれと手を組んだニヴルヘイムが現在地を追うことはたやすい。
フリントは明神の持つローウェルの指輪の位置情報を十二階梯から聞き出し、その先回りをしているのだろう。
つまり、ローウェルの指輪を持ち続ける限りなゆたたちの行き先はニヴルヘイムには丸わかりということだ。

「単純なことだったわね……」

がっくりと肩を落とす。

《まぁ……何にしても線路が壊されてまったのは痛手やねぇ〜。
 魔法機関車なら港のあるアズレシアまですぐと思てたけど、敵さんもそう簡単には進ませてくれへんなぁ。
 ほんなら、みんな一旦寄り道してもろてもええやろか?
 少なくとも、このまま馬車で移動するよりは早く問題も解決するやろしね》

「寄り道?」

なゆたが聞き返す。
みのりはふふん、と余裕たっぷりの表情を浮かべると、

「――飛行船や!」

と、言った。

飛行船。
古来よりファンタジーRPGの終盤の移動手段として有名なその乗り物を、ブレイブ&モンスターズ! も実装している。
それまでの移動手段であった船や魔法機関車、グラススプリンター(チョ○ボ的な乗用モンスター)と違い、
飛行船は地形の影響を受けずどこまでも自由にフィールドを移動できるようになるのだ。

「飛行船……!!」

実りの言葉を繰り返し、なゆたは目を見開いた。
ブレイブ&モンスターズ! には、三種類の飛行船が登場する。
ひとつは、クエスト『カーノレ爺さんの空飛ぶ家』をクリアすることで手に入る気球。
蒼穹都市ハイネスバーグに住む偏屈者、カーノレ爺さんの『空を飛びたい』という願いを叶えるため、
気球を作る材料を集めて東奔西走する――というイベントの報酬として入手できる。
もうひとつは、クエスト『グランド・ブルー・ファンタジア』コンプリートで入手できる機空艇・グランドセイバー。

「確かに飛行船を手に入れれば旅は捗るし、敵に狙われることもなくなるけれど――」

スマホを覗き込み、なゆたは眉間に皺を寄せた。
飛行船はストーリー終盤の移動手段だけあって、生半な苦労では手に入らない。
比較的簡単なのは気球だが、これは典型的お使いイベントで大量の素材を世界各地を巡って揃える必要がある。
第一、ここからカーノレ爺さんの住むハイネスバーグは遠い。
馬車でハイネスバーグまで行き、さらにクエストを受けて素材を揃える……などという悠長なことをしている時間はない。
まだしも、このまま馬車で全速力でエーデルグーテを目指した方が早いだろう。
ついでに、気球は移動速度も遅い。

140崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/06/23(火) 02:32:23
といって、二つ目の機空艇グランドセイバーも無理がある。
クエスト『グランド・ブルー・ファンタジア』は三部作の大規模シナリオから成り、
『グランド・ブルー・トリロジー』とも呼ばれる。他のクエストとは比較にならないテキスト量を誇る、
一大キャンペーンである。
幻の島・イースターシァを求めて旅をしている機空団に協力し、急速に台頭してきた軍事国家ヴェルデス帝国と戦う――
という壮大な話で、クリアまでの総プレイ時間は最短でも本編スタートからグランダイト討伐ほどもあるという、
サブクエストの範疇を大きく逸脱した話だ。
おまけに『グランド・ブルー・ファンタジア』第一章開始の舞台はアズレシアである。
クエスト攻略に時間がかかりすぎるし、そもそもこれから行くべき場所がスタート地点ではお話にもならない。
だとすれば。

なゆたたちが狙うべきなのは、三つの飛行船のうち最後のひとつ。

「……強襲飛空戦闘艇……ヴィゾフニール……!」

強襲飛空戦闘艇ヴィゾフニール。
三つの飛行船の中でも最高のスピードを誇る、いわゆる戦闘機である。
クルーザーほどの大きさの艦艇で、デザイン化されたワイバーンのような流線型の機体が美しい。
ゲーム内の設定では、魔王バロールが人間界の制圧のために大量生産しようとしていた新型飛行船で、
創世魔法により一隻だけ建造された試作機という触れ込みだった。

ヴィゾフニールを手に入れることができれば、海を越えてエーデルグーテまでひとっ飛びだ。
補給や休養のためにアズレシアやその他の都市に寄る必要もなくなるし、大幅な時間短縮にもなる。
また、ヴィゾフニールは面倒くさいお使いイベントや大規模キャンペーンシナリオをこなさずとも手に入る。
とあるダンジョンの隠し部屋にひっそりと格納してあるのを見つけ、取って来るだけでいいのである。尤も――
その『とあるダンジョンに行って取って来る』のが、大問題なのであるが。

「でも、ヴィゾフニールは……」

最後の希望の名を告げてはみたものの、なゆたはすぐに口ごもった。

《なゆちゃんの言いたいことは分かっとるよ〜。
 気球もグランドセイバーも手に入れるのには時間がかかりすぎるし、といってヴィゾフニールは――
 『もう手に入らない』ってなぁ》

「……うん」

ヴィゾフニールはいつでも入れる普通のダンジョンにあるのではなく、
ストーリー本編の終盤でバロールが創り出したとあるダンジョンでのみ、時間限定で獲得することができるのだ。
というのも、そのダンジョンはストーリーの都合上一度しか入ることができず、攻略後は崩壊し消滅してしまう。
おまけにそのダンジョンは攻略に時間制限があり、限られた時間内に隠し格納庫を発見しなければ、
永遠に入手することができなくなってしまうのである。開発側のいつもの底意地の悪さが発揮された悪意ある仕様だ。
もっとも、ヴィゾフニールは一番速度が出るという他は他の二種類の飛行船と大して変わらない。
一般のプレイヤーはグランド・ブルー・ファンタジアの報酬である機空艇グランドセイバーで事足りるし、
ヴィゾフニールはいわゆる隠し機体。あくまで廃人用のトロフィー代わりといった意味合いが大きかった。

「この世界が二巡目の世界であるなら、バロールはまだ『あれ』を投入してないから、存在しない。
 一巡目なら一巡目で、『あれ』は消滅してしまったはずだから、やっぱり存在しない……。
 ヴィゾフニールを手に入れることなんて――」

《ところがどっこい、や。
 うちらはみんなと交信を断っとる間『あれ』についての情報を集めとってなぁ。
 この世界には一巡目の遺物として『あれ』がまだ存在しとることを突き止めたんよ〜》

「え!?」

思わず声をあげる。
件のダンジョンはアルフヘイムの総戦力によって攻略され消滅したはずだ。
だというのに、まだ存在しているというのはどういうことだろう?

《きっとそれも『機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)』のバグかと思うんやけど〜。
 詳しいことはうちらにも分からへんのよ〜、ごめんなぁ。
 ともかく、うちらが調べたのは『あれ』がこの世界にまだあるってこと。中にも入れること。
 おそらくヴィゾフニールも無傷のまま残ってるはず……ってことだけやねぇ》

みのりの情報によると、件のダンジョンはアイアントラスから樹冠都市ブラウヴァルトへ向かう街道の外れにあるという。
ここからなら、だいたい馬車で十日くらいの距離だ。
十日で現地に到着し、ダンジョンと化した内部を攻略し、ヴィゾフニールを手に入れる。
少なくとも、ニヴルヘイムの襲撃に怯えながら馬車で海の果てのエーデルグーテを目指すよりよほど近道であろう。
……みのりが『あれ』と呼ぶダンジョンを攻略できるなら、の話だが。
スマホの液晶画面の中で、みのりが頷く。

《そう。『あれ』や。
 ストーリーの山場、ラスボスバトルより盛り上がる……なぁんて評判の。
 師匠の『創世魔法』の極致――》

「螺旋廻天……レプリケイトアニマ……!」

緊張感を拭い去れない強張った面持ちで、なゆたは『あれ』の名前を告げた。

141崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/06/23(火) 02:38:46
螺旋廻天レプリケイトアニマ。
ゲーム本編終盤に、魔王バロールがアルフヘイムの一切合切を崩壊させようと放った『創世魔法』究極の一撃。
大地を穿つ破滅の杭。

直径300メートル、全高80メートルの威容を誇る円柱状の構造物であり、バロールはこれを大地に突き立てて地面を掘削し、
大地の奥深くに鎮座する世界の要石『霊仙楔』を粉砕して、世界を丸ごと転覆させようと画策した。
レプリケイトアニマの強固な外殻を破壊することはほぼ不可能。
破滅の杭が霊仙楔に達するのを防ぐには、多層構造のダンジョンとなっている内部に潜り込み、
最深部にあるコアを破壊しなければならない。

ゲームではレプリケイトアニマを止めるため、今までプレイヤーが友誼を結んできた各地の味方勢力が一致団結し、
レプリケイトアニマ防衛のためにイブリースが差し向けてきたニヴルヘイムの軍勢と激突する一大決戦が行われた。
その果てにプレイヤーが最深部へと到達、コアの防衛機構であるレイド級ボス・アニマガーディアンを撃破。
コアを破壊されたレプリケイトアニマはその形を保てなくなり崩壊、消滅――した、はずだった。
しかし、この世界は時間遡行の魔法によりゲームの世界から剥離した、二巡目の世界。
数多のバグを残したまま巻き戻った世界の大地に、レプリケイトアニマは未だに突き立っているという。
そして――そのレプリケイトアニマの隠し格納庫に、強襲飛空戦闘艇ヴィゾフニールがひっそりと眠っている。

《いやー、趣味で作って後はそのままうっちゃっておいたヴィゾフニールが、こんなところで役に立つなんてね!
 なんでも創ってみるものだ、うん!》
 
バロールが身を乗り出し、さも自分の功績だと言いたげな様子で朗らかに笑う。
功績も何も、バロールがレプリケイトアニマなどという魔法を使ったお陰で一巡目は大量の死者が出たのだが。
そんなバロールの頬を左手で押しのけ、みのりが続ける。

《師匠、ちょっと黙っとってくれはります? 師匠が喋るとめんどいことになるやろし。
 ……まぁ、ともかくレプリケイトアニマで飛空艇を手に入れるのが一番の近道や思うんよ。
 そっちに行ってもらえへん? ちょくちょく計画変えてもうて、堪忍なぁ》

レプリケイトアニマは終盤の難関ダンジョンだ。
ゲームの中では最強クラスのモンスターが大挙して待ち受け、即死級のトラップがこれでもかと設置されている。
バロールの意地の悪さが全面に散りばめられている超難所であり、よほど周到な準備をしておかなければ初見クリアは難しい。
一度入ったら踏破するか全滅するかしない限り出られず、おまけに時間制限もあるので、慎重すぎる行軍も仇になる。
ストーリーでは多数の味方NPCたちが回復やバフなどの支援をしてくれ、プレイヤーの手助けをしてくれたが、
今回は勿論そんな援護は期待できない。徹頭徹尾、自分たちだけで戦い抜くしかないのだ。
多くのブレモンプレイヤーにとってトラウマになった、と言ってもいい場所。螺旋廻天レプリケイトアニマ――

それに。これから挑む。

《心配無用! 今のレプリケイトアニマは廃墟のようなものさ。
 防衛機構であるトラップの数々も、かつて私が召喚した番人たるモンスターたちも死に果てている。
 君たちは中に入ってヴィゾフニールを回収するだけでいいという寸法だ!
 楽ちん楽ちん、はっはっはっ!》

能天気にバロールが笑っている。
現在のレプリケイトアニマはなぜか消滅せずに残っているものの、そのシステムは完全にダウンしているという。
ただ大地に突き立っているだけなら、破滅の杭も単なる塔にすぎない。当然時間制限もない。
あとは、悠々と内部を探索してヴィゾフニールを手に入れるだけの、簡単なミッションというわけだ。

「ヴィゾフニールかぁー……。あれ、耳キーンってなるからイヤなんだよね……ボク……」

ガザーヴァが眉間に皺を寄せて呟く。
乗ったことがあるのか、地球で飛行機に乗った際、気圧差で耳が痛くなるアレをガザーヴァも経験しているということらしい。
ともあれ。飛空艇さえ手に入れてしまえば、いくらフリントがゴブリンアーミーの練度を上げたところで関係ないだろう。
その頭上を飛んでいけばいいだけである。もしゴットリープたちがフリントに他の飛空艇を与えていたとしても、
ヴィゾフニールは魔王バロールがユニークスキル『創世魔法』で建造したワンオフものの高速戦闘機。
いかに霊銀結社の『大達人(アデプタス・メジャー)』といえどそれに匹敵する速度のものは造れまい。

エーデルグーテに行った後どうするとか、教帝オデットと面会する方法はとか、まだまだ問題はあるものの、
それは目の前の問題をひとつずつ片付けて行ってから考えればいいだろう。
新たな乗り物、それも高性能の飛空艇を手に入れられる、という情報に、なゆたは喜色を湛えた。
そして、今まで苦境の連続で暗くなりがちになっていたパーティーの空気を払拭するように右腕を高く掲げる。

「分かった、みのりさん。
 みんなも聞いたわね、螺旋廻天レプリケイトアニマへ向かって、中にあるヴィゾフニールを回収する。
 ヴィゾフニールを手に入れたら、あとはエーデルグーテまで一直線……ね!
 目的変更、進路をアズレシアからレプリケイトアニマへ!
 レッツ・ブレーイブッ!!!」

声高に宣言すると、パーティーは飛空艇を他に入れるべく螺旋廻天レプリケイトアニマの突き立つ場所へと向かった。

142崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/06/23(火) 02:42:32
アイアントラスを出発して十日後、山岳地帯の一角に、遠目でもそれと分かる巨大な塔めいた構造物が見えてきた。
……が、何か様子がおかしい。
今のレプリケイトアニマは一巡目の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』達によって攻略された、ただの廃墟のはずである。
過去の遺物。
激戦の跡地。
一巡目の残骸、無力な抜け殻――

なのに。

『回転している』。

《動いてる―――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!??????》

がびーん! とバロールがスマホの画面の中で驚愕する。
そう、動いている。回転している。ゆっくり、ゆっくりと――しかし着実に大地を抉り、貫き、穿ち。
『下へと掘り進んでいる』。
パーティーがレプリケイトアニマへ近付くたび、その状況は確信となり、危機感となって重くのしかかってくる。
ゴゥン、ゴゥン、ゴゥン……と低い、腹の底に響くような駆動音が鼓膜を震わせる。
間違いない。螺旋廻天レプリケイトアニマは復活している、そしてかつて自分が成し得なかったことをしようとしている。
即ち――世界の奥底に存在する霊仙楔の破壊。アルフヘイムの転覆を。

《ふおお……すごい魔力だ! 計測値を振り切ってるよー!? 誰だ私のレプリケイトアニマを勝手に動かしてるのはーっ!?》

《師匠は黙っとき! みんな、見えてはるやろね!? もう説明不要や思うけど一応な!
 レプリケイトアニマが起動しとる――! おそらくニヴルヘイムの連中か、十二階梯か……!
 予定変更や、レプリケイトアニマの停止を最優先!》

「り……、了解!
 みんな、行こう!」

なゆたは慌てて返答すると、ポヨリンを伴ってレプリケイトアニマへと走った。
地表に近いアニマの側面には、かつて一巡目の世界で霊銀結社がやっとのことで開いた直径5メートルほどの風穴が開いている。
ゲームでは、プレイヤーはここから中に入りコアを目指したのだ。
先人とゲームに倣い、すっかり朽ちたその穴から中に入る。
中は石壁と石畳の通廊のような構造になっており、魔力で通電しているのか照明が内部を明るく照らしていた。
バロールの話ではもう完全に廃墟と化しており、魔物たちは全滅。防衛機構のトラップも死んでいる――
はず、だったのが。

「ギシャオオオオオオオオッ!!!」

パーティーがアニマの内部に降り立ったと同時、何者かの咆哮が周囲に響き渡った。
と同時、茶色い毛皮の二足歩行をした獣人めいたモンスターが牙を剥き出し、手指の鋭利な爪を振りかざして襲い掛かってきた。
アニマソルダート。このレプリケイトアニマの内部に巣食い、侵入者を排除するモンスターの一種である。

「ポヨリン! 『しっぷうじんらい』!!」

『ぽよよっ!』

なゆたの鋭い掛け声に反応し、ポヨリンが弾丸のようにアニマソルダートへ突進する。
アニマソルダートは一体だけではない。どこにこんなに、と思うほど湧き出しては、
明神やカザハ、ジョン、エンバースへ襲い掛かる。
終盤最難関のダンジョンだけあって、他にもアニマ内には要所に配置されタンク役をこなすアニマディフェンダー、
遠距離攻撃を得意とするアニマアーチャー、アコライト外郭でも戦ったロイヤルガードなど強敵が目白押しである。
そして――

「く……! このッ!」

ポヨリンに指示を出しながら、なゆたは身を翻して魔物から距離を取ろうとした。
『異邦の魔物使い(ブレイブ)』は戦闘中は無防備になってしまう。
フリントにも指摘された『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の弱点だ。それを避けるには魔物から離れ、
安全な間合いでパートナーに指示を出し続けるしかない。
しかし、なゆたがあるとき足元のタイルのひとつを踏むと――
がこんと音がして、足元のタイルが僅かに沈み込んだ。

「がこん?」

なゆたは怪訝な表情を浮かべた。……そして、その直後。
びゅおっ!! と音を立て、なゆたの左側の壁面から槍が飛び出してきた。

「ひょわわわわわわぁっ!!!??」

持ち前の身体能力、そして『蝶のように舞う(バタフライ・エフェクト)』を総動員し、間一髪で躱す。
なゆたの背を嫌な汗が伝う。あともう少しでも避けるのが遅れていたら、串刺しになっていたことだろう。

143崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/06/23(火) 02:47:38
「あ、危なかった……」

《う〜ん、この分だとどうやらトラップも復活しているみたいだねぇ!
 みんな気を付けてくれ! 大規模なやつは覚えているから解除や避け方を指示できるけど、小さいのは覚えてない!
 なんとか頑張って避けてもらいたい!》

「バロールのバカぁぁぁぁぁぁぁ!!」

アニマ内のトラップを作った張本人が無責任に丸投げしてくる。なゆたは思わず怒鳴った。

《みんな、遊んでる場合ちゃうで!
 うちの計算では、このままやと約四時間後にアニマは霊仙楔に到達! そうなったらアルフヘイムはおしまいや!
 それまでに何としてもコアを破壊して、アニマを止めたってな!》
 
「そっ、そんなこと言ったって……!」

そもそも廃墟だから楽なミッションだよと言われて来たのだ。ろくな対策もしていない。
といって今から手近な村などに戻っても仕方ないだろう。一旦入ってしまった以上、このまま最深部を目指すしかない。
ポヨリンがアニマソルダートを殴り倒す。アニマソルダートはアニマ内部の基本的なザコ敵なので、倒すのに苦労はしないだろう。
だが、他の敵が出てきたときには分からない。前述したロイヤルガードなど、深部に行けば行くほど強い敵も出てくる。

「きゃはははははッ! たーのしー!
 どんどん暴れちゃうからなー、ボク! そらそら、もっと来いよぉ!
 ぜーんぜん喰い足りねぇぞぉーッ!!」

ガザーヴァが甲冑を纏わない軽装姿で騎兵槍を手に大立ち回りを演じている。
さすがに純正レイド級のボスだけあって、アニマのモンスターたちが群れで押し寄せてもまったく怯まない。
ストーリーモードではプレイヤーがレプリケイトアニマを攻略する頃には、もうガザーヴァは死んでいるのだが――
しかしそんなことはまるで関係ないと、軽業師めいたアクロバティックな挙動で大暴れしている。

「あらよっとォ! ……あ、明神! そこの床落とし穴だかんな、気をつけろよ!
 ガーゴイルの後について歩け! そしたらトラップに引っかかんないで済むから!」

騎兵槍を力任せに振るい、群がるアニマソルダートの首を刎ね飛ばしながら、肩越しに振り返って言う。
ガザーヴァとガーゴイルはアニマ内のトラップが分かるらしい。元・敵キャラの役得である。
その他にもガザーヴァは基本的に明神の周囲に位置取りし、明神が被弾しないよう細心の注意を払っている。
アコライトからデリントブルグを経てアイアントラスに至り、レプリケイトアニマへ到着した今までの旅路でも、
ガザーヴァはまず明神の身の安全を第一に考えて行動していた。
今までバロールに対して向けられていた熱意が、紆余曲折を経て明神へと注がれている。
正式な契約をしておらず、正しい『異邦の魔物使い(ブレイブ)』とパートナーの関係ではないが、
明神が明確にガザーヴァを裏切らない限り、幻魔将軍は忠実に明神に仕えるだろう。
……構ってちゃんでトラブルメーカーなところに目を瞑る度量があれば、の話だが。

「みんな、体力とスペルカードは温存して!
 まだまだ先は長いし……何より最深部のコアはレイド級ボスのアニマガーディアンが守ってる!
 ゲームのストーリーモードと違って、途中の支援は期待できないから……!」

ゲームのレプリケイトアニマはNPCの支援前提で設定されているからか、全体的に難易度が高い。
その支援なしに、10人に満たないメンバーでこのダンジョンを踏破しなければならないのだ。
無駄にしていいスペルカードは一枚もない。出来る限り戦力を温存し、コアを守るボスまで辿り着く。
そして制限時間以内にヴィゾフニールを手に入れる――ミッションの達成は困難を極めるだろう。
フリントやマルグリット達の姿が見えないことは不幸中の幸いである。

《こちらからも援軍を送るよ、間に合うかどうかは分からないが――
 とにかく、なんとか生き残ってくれ!》

スマホからバロールの声がする。一応援軍を送るということだが、甚だ心許ない。
第一、今からキングヒルを出たとして、果たして四時間以内にこのフェルゼン公国まで援軍が到着できるのか。

「……俺がしんがりに着く。お前たちは先に行け。
 雑魚どもを殲滅している余裕はない。目の前の、最低限の敵だけを倒して行け」

エンバースが素早くスマホをタップする。そこから光輝く触腕が現れ、パーティーに追いすがるモンスターたちを薙ぎ払う。

「任せたわ、エンバース!
 さあ――行くわよ、みんな!」

なゆたはポヨリンと共に先頭を駆け、次の階層へと続く階段へ飛び込んだ。


【飛空艇を手に入れるため、螺旋廻天レプリケイトアニマ攻略へ。
 四時間以内に攻略できなければゲームオーバー】

144ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/06/30(火) 14:57:29
>「ジョン。お前あのメリケン野郎と知り合いみたいな感じだったな。
 フリントについてお前が知ってること、全部話せ。言いたくないことでも全部だ。
 奴はお前を恨んでるような口ぶりだった。『妹』ってのは、誰のことだ」

>「……そう、だね。
 そろそろ……話して貰わなくちゃいけない時期なのかもしれない。
 気軽に打ち明けられることじゃないのかもしれない。ジョンにとって、痛みを伴うことなんだろうと思う。
 でも……お願い、ジョン。
 みんなが先へ進むために、これは……必要なことなんだ」

「ふぅ〜・・・」

大きな溜息をつく。

今の社会。調べようと思えば調べられる程度の事件だ。別に隠すような事ではないが・・・だが別に話す必要もない話だ。
ロイを倒す為に・・・なゆ達の協力は必要不可欠。話をしたら最悪PTを抜けろなんて話に・・・それは困る・・・けど
話せと言っているなら・・・話すべきなのだろう。

「わかった・・・全部を話そう・・・」

なゆ達には世話になった。いろんな迷惑をかけてきたのに必要な事に答えない・・・そこまで不義理な人間にはなれない。

「ロイとロイの妹の・・・シェリーと出会ったのは小学生に上がった直後でね・・・僕がイジメられていたところをロイが助けてくれて
 そこから遊ぶようになったんだ。その頃の僕達は・・・たぶん親友と呼ばれるような間柄だった・・・と思う・・・家族ぐるみでの付き合いもあった。
 ・・・二年後に僕が事件を起こすまでは・・・」

僕はゆっくりと・・・少しずつ話を始めた。

145ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/06/30(火) 14:57:49
--------------------------------------------------------------
その時ロイとシェリーの家族と僕の家族でとある山に遊びに来ていた。
建前は修行って事だったけど・・・実際は遊びが9割だった。

お互いの家族も、体育会系だった事もあって知り合ってすぐ仲良くなった。

おいしい物を食べて。3人で遊んで、3人で川の字に寝て・・・。全てが楽しかった。

3日目のある日。朝起きたら問題が起きていた。
シェリーと愛犬の部長が消えたというのだ。

僕達は手当たり次第に探した。でも立ち入りが許可されている場所全てを探しても、シェリーも部長も見つからなかった。

すぐに捜索隊が編成されたがその時には既に夕方になりつつあり
天気が荒れる可能性もあって危険な為翌日から捜索が開始されることになった。

でもロイや家族達の不安そうな顔みて僕は諦められなかった。
ロイやシェリーは僕に一杯幸せを与えてくれた。その恩に報いる為にも、行かなくてはならないと。

今に思えばどう考えても愚かな考えだが・・・当時の僕はそんな事考えもなかった。
大人でさえ力で負かせる肉体があったからか・・・子供だったからなのか・・・。

僕はリュックに入る限りの水とお菓子、それとサバイバルセットを持って山小屋を飛び出した。

馬鹿な子供の僕にシェリーの場所なんてわからなかった。
当然飛び出して間もなく自分も遭難することになった。

ひたすら森の中を何時間か走って、おやつの時間から本当に辺りが暗くなってリュックから取り出したライトが必須になった頃・・・。

僕は遂に見つけた。

僕は森の中で毛玉を見つけた。そしてそれが犬の・・・コーギーの抜け毛で作られた毛玉である事を瞬時に理解した。

毛玉は木の枝に下敷きになるように置いてあって毛がなるべく風で飛ばないようになっていた。
僕は喜んだ。全力疾走でその毛玉の道を進んだ。僕でも役に立てるのだと。

そして僕がそこで見つけたものはシェリーと部長そして・・・

一匹の大きな・・・熊だった

146ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/06/30(火) 14:58:04
その時の僕は自分でもびっくりするほど落ち着いていた。

シェリーを救う為に思考を巡らせていた。
どうやったら熊を刺激せずにこの場を離れられるのか。

シェリー・部長は熊を見つめたまま動かない。
目を背けたら死ぬとわかっているから。

雨が降ってもお互い微動だにせず。じっと見つめあっていた。

だがその時・・・雷が落ちた。

大きな音が鳴り、眩い光が一瞬視界を包んだ

音に驚いたのか反射的に目を瞑ってしまったからなのか、熊はシェリーを襲い始めた。

僕は今まですべての思考を放棄し、サバイバルナイフを手に熊に襲い掛かった。
無謀なのは分っていた。でも、目の前でシェリーが襲われているのに無視するなんて僕にはできなかった。

がむしゃらに熊の体にナイフを何度も突き刺した。
振り降ろされても背中に飛びつきさらにナイフを突き立て続けた。
熊に突き飛ばされ、木にたたきつけられようともとも立ち向かった。

そして記憶が飛ぶほどの、過激な時間を過ごした後に残っていたのは
熊の死骸と全身血まみれになりがら立っていた僕だった。

体中が痛いとかいうレベルを遥かに超えていたけど、彼女を守れたという事実が僕の意識を保っていた。

「もう大丈夫だよ・・・敵は倒したから・・・」

「いや!こっちこないで!」

「大丈夫!僕だよジョンだよ!落ち着いて・・・」

「あんたなんかジョンじゃない!・・・ただの化け物よ!」

彼女は極限状態にさらされ続けて精神が相当に参っていたのだと思う。
遭難に熊、そして夜の山。子供には大変な事ばかりだったから・・・。

「なに言って・・・」

「私の知っているジョンは・・・そんな化け物みたいな笑顔で笑わない!!」

そういいながらシェリーは後ずさりで僕から距離を取る。
でも後ろに急な斜面があって・・・。

「やめろ!そっちは危ない!」

「危ない!?今のあんたに近づく事が一番危ないわよ!・・・どうしてこんなこと・・・きゃあああああ」

--------------------------------------------------------------

147ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/06/30(火) 14:58:18

「部長に・・・シェリーの愛犬に助けを呼んでくる事を頼み・・・僕は崖下までシェリーを追いかけた」

正直言えばこれ以上あの事を思い返したくない気持ちで一杯だった。
でも最後まで言わなくては・・・僕はいい奴じゃないとわかってもらうために。

「シェリーを見つけること自体は簡単だった・・・血が大量に流れていたからね」

「見つけた彼女は・・・呼吸しているだけで精一杯な状態だった」

足や手から骨が飛び出し、大きな木の枝が体に突き刺さっていた。でもこれは・・・言う必要はないだろう・・・。

「僕の持っている浅い知識と救急箱ではとてもじゃないけど応急処置すらできない大怪我だった
 おまけにその時は台風のような雨でね・・・彼女は確実に死に向かっていた」

「専門の知識もない・・・道具もない僕はただ彼女の上に覆いかぶさって雨が直接当たらないようにするしかなかった」

「僕は地獄な様な時間を過ごしながら思った。もし部長が本当に救助隊を連れて帰ってきて、助かったとしても
 彼女は恐らく今まで通りの生活はできないだろう、いや、人間として普通に生きていく事すらもできないだろう、と」

「そんな事を思っていたら彼女の目が開き、喋るのも辛いだろうに僕にかすれた声でこう言った」


「殺してくれ・・・ってね」


今おまえば僕のなにかが壊れたのはこの時だったのかもしれない。
なにが壊れたかがいまだにわからないし、知りたくもないけど。

「その言葉を聞いた僕は悲しくて、怖くて、気が狂いそうで・・・でもそれ以上にどんどん弱って緩やかに死んでいく彼女があまりにかわいそうで・・・」

「熊を殺したナイフでシェリーの事を・・・彼女の願いを叶えた」

「最後の・・・シェリーのあの恨めしく伸ばしてきた手と・・・聞き取れなかったけれど、恨みの言葉を必死に口に出そうとしてる姿は・・・永遠に忘れないだろう」

「その後は彼女の遺体の前でずっと座り込んでいた。
なにをするでもなぐただ彼女の遺体が他の動物に持っていかれないようにじっと・・・彼女を見つめていた」

「結局救助されたのはそれから3日後の事だった。僕はすべてを正直に話した。飛び出した事、熊と遭遇したこと・・・彼女を殺した事
でも大人達は誰一人僕の話を信じてくれなかった。当たり前だ・・・子供がナイフ一本で熊を殺したなんてあり得ない事だからね
結局彼女の死は崖下に落ちた事による事故死という扱いになった・・・僕は無罪放免で済んだ・・・済まされてしまった」

「それからロイは僕と合わなくなった。そして気づいたらアメリカに行ってしまった」

そして今違う国ですらなく、違う世界でまたロイと会う事になるなんて。
神のイタズラにしても悪趣味がすぎる。

「これが事件の全容だ・・・ところどころ端折ってはいるけど別に細かく聞きたいわけじゃないだろう?」

「同情なんて必要ない・・・僕にはそんな価値がないからね」

148ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/06/30(火) 14:58:32

「さて・・・もういいだろう。次の行先の話をしよう・・・みのりかバロールか・・・その両方かどうせ聞いてるんだろう?」

《話は一旦まとまった感じみたいやねぇ〜? ほんならそろそろ、うちらも通信再開してええやろか?》
《いやぁ、三週間ぶりくらいの通信かな? 久しぶりだね、みんな!
 君たちのことはモニターしていたんだけど、『聖灰』の前じゃ喋ることもままならなくてね。
 とにかく、カザハの言うとおり状況は把握している。さっきの話も聞かせてもらったよ。
 ジョン君の過去は、ブラッドラストを解く鍵になりそうだね》

もう僕にはブラットラストを解く気などないのだが・・・話がややこしくなりそうなので黙っておく。

《ニヴルヘイムの裏をかいての進軍、か。
 ところで……カザハと明神君は、どうして自分たちの行き先がニヴルヘイムにバレてるのか訝しんでいるようだけれど。
 簡単な話だろう? だって、君たちはご老人からわざわざGPSを受け取っているんだからね。
 というか――私は君たちがとっくに知っていて、わざとそうしているのかと思っていたんだが……違うのかい?》
>「単純なことだったわね……」

バロールという男は相変わらず掴みどころがなく、本気を出しているようで、出していない。
非常に気に入らない男ではあるが・・・ロイを追う為にはバロールに協力を仰ぐのが一番の近道だという事も間違いない。

「・・・ニヤケ顔は女性受けが悪いからやめたほうがいいよ・・・バロール」

《まぁ……何にしても線路が壊されてまったのは痛手やねぇ〜。
 魔法機関車なら港のあるアズレシアまですぐと思てたけど、敵さんもそう簡単には進ませてくれへんなぁ。
 ほんなら、みんな一旦寄り道してもろてもええやろか?
 少なくとも、このまま馬車で移動するよりは早く問題も解決するやろしね》
>「――飛行船や!」

>「確かに飛行船を手に入れれば旅は捗るし、敵に狙われることもなくなるけれど――」

「現実的に考えて、そんな物が調達できるなら苦労はしないだろう。簡単に調達できるとしてもロイの軍隊が待ち構えていると思うが」

街によるにしても前の戦いの二の舞になることは確実だろう。
そもそもロイがこっちの移動手段として使える物を残しているとは思えない。

>「……強襲飛空戦闘艇……ヴィゾフニール……!」
>「でも、ヴィゾフニールは……」
>《ところがどっこい、や。
 うちらはみんなと交信を断っとる間『あれ』についての情報を集めとってなぁ。
 この世界には一巡目の遺物として『あれ』がまだ存在しとることを突き止めたんよ〜》

僕のまったく理解できない会話が繰り返される。
ゲームに深く関わっているなゆ達はともかくストーリー関連初心者に僕からしてみればまったくちんぷんかんぷんである。

《そう。『あれ』や。
 ストーリーの山場、ラスボスバトルより盛り上がる……なぁんて評判の。
 師匠の『創世魔法』の極致――》

>「螺旋廻天……レプリケイトアニマ……!」

飛び交うブレモン用語、テンポよく決まる次の行先。きっと説明してもらうには途方もない時間がかかるだろう・・・
でも僕がわからないという事はロイにだってなゆ達の会話は理解できないし、想像する事はできないはずだ。

《心配無用! 今のレプリケイトアニマは廃墟のようなものさ。
 防衛機構であるトラップの数々も、かつて私が召喚した番人たるモンスターたちも死に果てている。
 君たちは中に入ってヴィゾフニールを回収するだけでいいという寸法だ!
 楽ちん楽ちん、はっはっはっ!》

ロイはゲームはしたことないと言っていた。ならなゆ達が今話している場所・内容は対策のしようがない。
その場所はブレモンプレイヤーにとって常識でも、ロイはブレモンのプレイヤーではない。

ブレモン知識を覚えようと思ってすぐに全部を知れるようなものではない。
特にまだ起きてすらいない歴史の知識はわからないはず・・・だが

>「分かった、みのりさん。
 みんなも聞いたわね、螺旋廻天レプリケイトアニマへ向かって、中にあるヴィゾフニールを回収する。
 ヴィゾフニールを手に入れたら、あとはエーデルグーテまで一直線……ね!
 目的変更、進路をアズレシアからレプリケイトアニマへ!
 レッツ・ブレーイブッ!!!」

149ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/06/30(火) 14:58:45
僕の考えが甘いと・・・すぐに理解することになった。

>『回転している』。

「ダンジョン?僕のダンジョンのイメージと遥かに違うんだが・・・普通に巨大なドリルだぞ・・・」

《動いてる―――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!??????》

《師匠は黙っとき! みんな、見えてはるやろね!? もう説明不要や思うけど一応な!
 レプリケイトアニマが起動しとる――! おそらくニヴルヘイムの連中か、十二階梯か……!
 予定変更や、レプリケイトアニマの停止を最優先!》

>「り……、了解!
 みんな、行こう!」

そうだ・・・なゆ達の敵はなにもロイだけではない。
なゆ達にロイとの事を手伝ってもらうのだ・・・せめてロイとの決着つくまでは俺が盾になろう

《う〜ん、この分だとどうやらトラップも復活しているみたいだねぇ!
 みんな気を付けてくれ! 大規模なやつは覚えているから解除や避け方を指示できるけど、小さいのは覚えてない!
 なんとか頑張って避けてもらいたい!》

>「バロールのバカぁぁぁぁぁぁぁ!!」

内部に突入した僕達に待っていたのは罠・魔物オンパレードだった。
壁から槍が飛び出し、中はモンスターだらけ。楽な廃墟探索とはいったいなんだったのか。

「バロールの言葉を信じた奴が馬鹿っていっても・・・限度があるぞこれは」
「ニャー!」

モンスターの大軍を蹴散らしながら少しづつ前進していく。

「あらよっとォ! ……あ、明神! そこの床落とし穴だかんな、気をつけろよ!
 ガーゴイルの後について歩け! そしたらトラップに引っかかんないで済むから!」

だがモンスターにだけ集中しているわけにもいかない。
カザーヴァが付きっ切りな明神はともかく・・・バロールが知らない罠が追加されている可能性もある。

>「みんな、体力とスペルカードは温存して!
 まだまだ先は長いし……何より最深部のコアはレイド級ボスのアニマガーディアンが守ってる!
 ゲームのストーリーモードと違って、途中の支援は期待できないから……!」

この先の事を考えれば、カードを使わず戦闘を行えるカザーヴァか、エンバースが適任だろう。
なゆや明神はこの先の事を考えれば一番温存してもらうべきだ。

>「……俺がしんがりに着く。お前たちは先に行け。
 雑魚どもを殲滅している余裕はない。目の前の、最低限の敵だけを倒して行け」

「おいおい・・・こんな時は君がなゆを守って先頭にいくんじゃないのか?」

>「任せたわ、エンバース!
 さあ――行くわよ、みんな!」

「・・・エンバースがいかないなら僕が先頭を務めよう。カザーヴァは明神を守るのに精いっぱいだろうからね」

150ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/06/30(火) 14:59:00
階段を下りた先には予想通りのモンスターの大軍が待ち構えていた。

「んん〜〜予想通りというかなんというか・・・」

こんな数をまともに相手していたら4時間なんてあっという間に過ぎ去ってしまうだろう。
ここが何階層まであるのかわからないが・・・躓いてる時間はない。

「みんな・・・離れてくれ・・・部長も・・・巻き込んじゃう可能性があるからね・・・」

部長から破城剣を取り出し、力を少しづつ解放する。
体の周囲には真っ赤な・・・不快なオーラが立ち込め、その強さを徐々に増していく。

「フン!」

目の前のアニマソルダートに勢いよく剣を振り下ろす。
アニマソルダートはそのまま綺麗に真っ二つになり、動かくなった。

「ウオオオオオオ!」

襲い掛かってくる敵を片っ端から真っ二つにしていく。
生物も、無機物も全部関係なく、例外なく、真っ二つに。

あらゆるトラップが僕を感知し、襲い掛かる。槍でも、岩でも!壁でも!関係ない!

「フッー!フッー!・・・もっと、もっと力を!」

理性を飛ばない限界を探りながら出力を高めていく。敵を潰しながら。

一回振るだけでも全筋力を使うはずの破城剣を自由に振り回し、周りの壁を敵の血やオイルのようなもので染めていく。
しかし敵の勢いは衰える事を知らず、先に進ませまいと攻撃を仕掛けてくる。

「ちょっと楽しくなってきちゃったな」

斬って・切れない相手は潰して。潰して・斬って・潰して・斬って。たまに飛んできたなにかを打ち落として。

空間が静まりきった時。そこにあったのは大量の残骸達と
次の階層への階段の前に佇む肌や服の元の色が何色かわからない程になにかで染まった僕だった。

「ふふふ・・・いくらバロールが作った兵器といえども僕みたいなイレギュラーは計算外だったみたいだな?」

力を行使したのにも関わらず、体に不調は感じられない。むしろ絶好調なほどだ。
幻覚も見えないし、これならまだまだ力を解放しても大丈夫かもしれない。

「どうしたんだ?早くいこう。時間がないんだろう?僕なら大丈夫!まだまだ壊したりないくらいさ!」

僕自身が気づいていないだけで異変は起こり始めていた。

「ロイを倒すのにこんな程度の力じゃ足りないしね」

不快な血のオーラよりも・・・さらに人を不快にさせる邪悪の笑みを浮かべていることに。

151カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/07/06(月) 21:27:20
>「カザハ君ちょい待った。もうひとつ……アズレシアに行くの、やめにしねえか?」

「あべしっ」

明神さんに闇魔法で引っ張り降ろされた。闇魔法、板についてきましたよね……。
確かにどの属性かと聞かれれば闇が一番似合ってる気がする。なんとなくだけど!

>「フリントは俺たちの行動をどういうわけか読んでて、常に先回りしてきやがる。
 まともにエーデルグーテを目指すなら海路をとる為にアズレシアに向かうってことも把握してるだろう。
 ……だからこの先、普通にアズレシアに行けば、次に襲撃されるのは十中八九あの街だ」
>「それでもアズレシアに行くなら、今度こそ連中に気取られないっていう確証が要る。
 追跡を撒いて、変装してでも、奴らが気付く前に船借りて港を出なきゃならない。
 俺は……あの街まで燃やされるのは、見たくない」

「それはそうだけど……エーデルグーデに行くにはアズレシア経由以外当てがないんでしょ?
ブラウヴァルトの方に行けば一時は撒けるかもしれないけど……」

>「必要なのはアシの他にもうひとつ。敵の行動予測だ。行く先を読むのは奴らの専売特許じゃない。
 フリントが今後どういう行動をとるかを類推して、その合間を縫って進む。
 例えば……奴が補給や訓練で動けないタイミングなら、俺達が街に入っても襲われない」

「参考になるとすればアメリカ軍の行動様式かな。ジョン君ならいくらか知ってるかも」

>「ジョン。お前あのメリケン野郎と知り合いみたいな感じだったな。
 フリントについてお前が知ってること、全部話せ。言いたくないことでも全部だ。
 奴はお前を恨んでるような口ぶりだった。『妹』ってのは、誰のことだ」

>「……そう、だね。
 そろそろ……話して貰わなくちゃいけない時期なのかもしれない。
 気軽に打ち明けられることじゃないのかもしれない。ジョンにとって、痛みを伴うことなんだろうと思う。
 でも……お願い、ジョン。
 みんなが先へ進むために、これは……必要なことなんだ」

「え、ちょっと……」

戸惑った様子を見せるカザハ。
個人的な因縁を聞き出したところで直接ロイの行動予測に繋がるのだろうか、と疑問に思っているのだろう。
プロファイラーのような技術があるなら別だが、そうでないならあまり直接は結び付かないかもしれませんね……。

>「わかった・・・全部を話そう・・・」

「……そうだね。何が役に立つか分からないもんね」

ジョン君が話す気になっているのを見て、それ以上反対するのはやめたようだ。

>「ロイとロイの妹の・・・シェリーと出会ったのは小学生に上がった直後でね・・・僕がイジメられていたところをロイが助けてくれて
 そこから遊ぶようになったんだ。その頃の僕達は・・・たぶん親友と呼ばれるような間柄だった・・・と思う・・・家族ぐるみでの付き合いもあった。
 ・・・二年後に僕が事件を起こすまでは・・・」

ジョン君が話している間ずっと、カザハは黙って聞いていた。

152カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/07/06(月) 21:30:53
>「これが事件の全容だ・・・ところどころ端折ってはいるけど別に細かく聞きたいわけじゃないだろう?」
>「同情なんて必要ない・・・僕にはそんな価値がないからね」

「安心して。アイツに対抗するための情報として聞いたんだ。それ以上でも以下でもないからね」

ここまでのジョン君の様子で、同情の言葉などかけても意味をなさないのを流石に理解している。
単なる情報だから同情もしないけど嫌ったり引いたりもしない、ということを伝えようとしているのだろう。

>《話は一旦まとまった感じみたいやねぇ〜? ほんならそろそろ、うちらも通信再開してええやろか?》
>《いやぁ、三週間ぶりくらいの通信かな? 久しぶりだね、みんな!
 君たちのことはモニターしていたんだけど、『聖灰』の前じゃ喋ることもままならなくてね。
 とにかく、カザハの言うとおり状況は把握している。さっきの話も聞かせてもらったよ。
 ジョン君の過去は、ブラッドラストを解く鍵になりそうだね》

唐突に王都からの通信が入り、場の空気にそぐわない明るい声が聞こえてくる。
みのりさん何故か眼帯付けてますけど……。そんなに激しい修行をやっているのか!?

「やっぱり見てたのか! みのりさん……どうしたの!?
バロールさん! 修行中に手が滑ってみのりさんに怪我させたんじゃないだろうね!?
顔面は狙わないのはプ〇キュアの鉄則だよ!?」

>《ニヴルヘイムの裏をかいての進軍、か。
 ところで……カザハと明神君は、どうして自分たちの行き先がニヴルヘイムにバレてるのか訝しんでいるようだけれど。
 簡単な話だろう? だって、君たちはご老人からわざわざGPSを受け取っているんだからね。
 というか――私は君たちがとっくに知っていて、わざとそうしているのかと思っていたんだが……違うのかい?》

「ローウェル陣営は敵なんだよね!? ……そんなもの普通没収しとかない?」

……バロールさんに普通を求めても無駄ですね。
もうそんな曰くつきのアイテムその辺で売り払った方がいいんじゃないですかね!?
「それを売るなんてとんでもない!」で売れない枠なんだろうなあ……。

>《まぁ……何にしても線路が壊されてまったのは痛手やねぇ〜。
 魔法機関車なら港のあるアズレシアまですぐと思てたけど、敵さんもそう簡単には進ませてくれへんなぁ。
 ほんなら、みんな一旦寄り道してもろてもええやろか?
 少なくとも、このまま馬車で移動するよりは早く問題も解決するやろしね》

>「寄り道?」

>「――飛行船や!」

>《心配無用! 今のレプリケイトアニマは廃墟のようなものさ。
 防衛機構であるトラップの数々も、かつて私が召喚した番人たるモンスターたちも死に果てている。
 君たちは中に入ってヴィゾフニールを回収するだけでいいという寸法だ!
 楽ちん楽ちん、はっはっはっ!》

「なーんだ、そんないいルートがあるんなら早く言ってよー!」

153カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/07/06(月) 21:33:11
>「分かった、みのりさん。
 みんなも聞いたわね、螺旋廻天レプリケイトアニマへ向かって、中にあるヴィゾフニールを回収する。
 ヴィゾフニールを手に入れたら、あとはエーデルグーテまで一直線……ね!
 目的変更、進路をアズレシアからレプリケイトアニマへ!
 レッツ・ブレーイブッ!!!」

「レッツ・ブレーイブ!!」

妙に威勢がいいのはもちろん、廃墟に潜るだけの楽なミッションだからである。

その夜、私は夢を見た。其れは、決して語られざる未実装クエスト。
私達は、屍累々の夜の街の広場のような場所にて、シナリオボスと対峙していた。
相手は、血を自由自在に操る化け物――とはいっても、ニヴルヘイムのモンスターではなく、
アルフヘイムの者ですらなく……異邦の魔物使い《ブレイブ》の成れの果て。
二人の異邦の魔物使い《ブレイブ》の声が重なる。

「「《ライドオン》!!」」

カザハは私の背に乗って風の槍を振るう。
違う飼い主同士のモンスターが一体化したらどっちが指示を出すとか混乱しなかったんだろうか。
……しなかったんでしょうね。
関係性のある者同士が召喚されやすい説に則るとすれば、親友か、恋人同士か、あるいは夫婦だったのかもしれません。
夢の中の私が、夢の中のカザハに問いかける。

《本当にいいんでしょうか……》

「いいの! 仕方がないの、もうこうするしかないの……!」

やがて、決着の時が訪れる。カザハの槍が、化け物の胸を貫いた。
今際の際に正気を取り戻した彼の者に、止めてくれてありがとうとでも言われたのだろうか。
カザハは頭を横にふって、謝った。

「ごめん、救えなくてごめんね……!」

カザハは化け物だった者の亡骸を胸に抱き、慟哭を響かせた。
私はカザハの横で、どうすることも出来ずに立ち尽くしていた。

“そして、また殺すのか? 仕方なかった。やむを得なかった。そんな逃げ道を用意して”

昼間ロイに言われた言葉が、何故か思い出された。

そのシナリオボスの名は――”血の終焉《ブラッドラスト》”。

154カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/07/06(月) 21:35:49
《―――――!!》

「ぎゃふ!」

私は、体の上に寝そべっているカザハが転げ落ちるのにも構わずに飛び起きた。

「カ、カケルぅううううううううううう!!」

転げ落ちたカザハが泣きながら私に抱き着いてきた。

《ご、ごめんなさい! 痛かったですよね!?》

ふるふると頭を横に振るカザハ。

「違うんだ。怖い夢を見て。血を操る化け物と戦って勝ったと思うんだけど。
何故だかとっても悲しい……」

《それ、多分私も同じ夢見てますよ……》

二人(二匹もしくは一人と一匹?)揃って同じ夢を見るのは偶然では在り得ませんよね!?

「と、いうことは……お前か―――――ッ!」

カザハはスマホ(に取り付いているらしき何か)に詰め寄った。
スマホ(に取り付いているらしき何か)は黙秘していた。
とりあえず今のところはカザハが脱走する気がないから静かなんでしょうねぇ。
またやる気を無くしてブレイブ廃業しようとしたら阻止してくるんだろうなぁ……。
何その積みゲー化防止機能付きスマホ。

カザハは道中ずっと口数が少ない代わりに、心の声はやたら多かった。
ジョン君から聞いた話について色々考えているようだ。

(あの話、不自然だと思わない? ジョン君、元々人間離れした何かがあったんじゃないかな……)

子どもがナイフ一本で熊を倒すのは普通ではありえない、というのは
当時の大人が誰一人ジョン君の話を信じなかった事が如実に示している。

《シェリーが熊を倒したジョン君を見て、まるで化け物を見たように怯えていたって言ってたよね?
あれはシェリーが錯乱していたわけじゃなくてジョン君が本当に化け物みたいになってたのかも……》

常人離れした力と化け物のような笑顔――確かに結び付いてしまいますよね。
しかし、こっちの世界ならともかく、あれはジョン君がここに来るずっと前の地球での話だ。
あのお堅い科学万歳の地球でそんなオカルト的なことがおいそれとは……

(この周回で呼ばれてる人って一巡目はどれぐらいの割合で呼ばれてるのかな……?)

《さあどうでしょう。あ、ジョン君が一巡目も呼ばれていたとしたら……!》

現に、あるはずのないヴィゾフニールが存在しているのだ。
デウス・エクス・マキナの影響下では、時間軸の整合性を無視してあらゆる前の周回の影響が現れ得る。
そしてバロールさんの話によれば、デウス・エクス・マキナは地球をも巻き込んでいる――
「気が付いたら巻き戻っていたらしい」という状態なので、どこの時点からどこの時点まで巻き戻ったのかも不明だ。

155カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/07/06(月) 21:37:29
(ボク達みたいな例もあることを考えれば……
一巡目の因果を微妙に引き継いで地球での人生をリスタートした人がいる可能性もあるよね?)

一巡目地球でも何らかの経緯でシェリーが事故死していてジョン君はアルフヘイムでブラッドラストを発現
一見リセットされているように見えて一巡目の影響を引き継いだ二巡目でまたしても
ブラッドラストを発現してしまったのだとすれば、周回を重ねている分ブラッドラストはより厄介になっていると考えられる。
が、全ては憶測だ。

《……考えすぎですよ。何にせよやることは一緒ですし》

(そうだね、これがジョン君にとって一回目でも二回目でも解呪するしかないんだもんね!)

あれ、考えない事に定評のあるカザハに”考えすぎですよ”なんて言うなんて槍でも降るかな?
いえ、そんな生易しいものじゃないかもしれません。
そんな予感(?)は的中してしまったのだった。
レプリケイトアニマに辿り着いてみると、巨大なドリルが地面を掘削していらっしゃいました。

>《動いてる―――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!??????》

「あのさぁ……」

カザハは最近十八番となった魂が抜けたような顔をしてそれだけ呟いた。

>《ふおお……すごい魔力だ! 計測値を振り切ってるよー!? 誰だ私のレプリケイトアニマを勝手に動かしてるのはーっ!?》
>《師匠は黙っとき! みんな、見えてはるやろね!? もう説明不要や思うけど一応な!
 レプリケイトアニマが起動しとる――! おそらくニヴルヘイムの連中か、十二階梯か……!
 予定変更や、レプリケイトアニマの停止を最優先!》
>「り……、了解!
 みんな、行こう!」

「ああ、このダンジョン攻略に挑めるなんて感慨深いなあ(棒)」

《語尾に思いっきり棒が付いてますよーっ!》

一巡目ではすでに故人でしたからね私達……。
カザハは諦めの境地といった様子でなゆたちゃんに続いていく。

>「ギシャオオオオオオオオッ!!!」

>「ポヨリン! 『しっぷうじんらい』!!」
>『ぽよよっ!』

そこは魑魅魍魎が闊歩する人外魔境でした。

>「がこん?」
>「ひょわわわわわわぁっ!!!??」

「ぎええええええええ!? なゆ!?」

なゆたちゃんが串刺しになりかけた。
……『蝶のように舞う(バタフライ・エフェクト)』を習得していて本当に良かったですよ。

156カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/07/06(月) 21:42:12
>《う〜ん、この分だとどうやらトラップも復活しているみたいだねぇ!
 みんな気を付けてくれ! 大規模なやつは覚えているから解除や避け方を指示できるけど、小さいのは覚えてない!
 なんとか頑張って避けてもらいたい!》

「あのさぁ……」

>「きゃはははははッ! たーのしー!
 どんどん暴れちゃうからなー、ボク! そらそら、もっと来いよぉ!
 ぜーんぜん喰い足りねぇぞぉーッ!!」

「全然楽しくね――ッ!!」

ガザーヴァ、甲冑着てないんですねぇ。流石にここでは甲冑着た方が安全なのでは……。
それとも甲冑を着ると防御力は上がるけど素早さが下がるとかあるんでしょうか。

>「あらよっとォ! ……あ、明神! そこの床落とし穴だかんな、気をつけろよ!
 ガーゴイルの後について歩け! そしたらトラップに引っかかんないで済むから!」

トラップの場所を知っているのはかなり助かりますよね。
本人は深いことを考えていないかもしれないが、多分パーティー最強のガザーヴァが明神さんの護衛に付くのは、戦略上も最善だろう。
明神さんは一般人の上に、なゆたちゃんのような強力な回避スキルも持っていないからだ。

>「みんな、体力とスペルカードは温存して!
 まだまだ先は長いし……何より最深部のコアはレイド級ボスのアニマガーディアンが守ってる!
 ゲームのストーリーモードと違って、途中の支援は期待できないから……!」

>「……俺がしんがりに着く。お前たちは先に行け。
 雑魚どもを殲滅している余裕はない。目の前の、最低限の敵だけを倒して行け」

>「おいおい・・・こんな時は君がなゆを守って先頭にいくんじゃないのか?」
>「任せたわ、エンバース!
 さあ――行くわよ、みんな!」
>「・・・エンバースがいかないなら僕が先頭を務めよう。カザーヴァは明神を守るのに精いっぱいだろうからね」

階段を降りた先にはモンスターの大群。
戦闘態勢に入る一同だったが、ジョン君が皆に離れるように促した。

>「んん〜〜予想通りというかなんというか・・・」
>「みんな・・・離れてくれ・・・部長も・・・巻き込んじゃう可能性があるからね・・・」

ジョン君が赤いオーラをまとう。

「ジョン君、それは……!」

>「フン!」

ジョン君は巨大な剣で、アニマソルダートを一撃で真っ二つにした。

157カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/07/06(月) 21:43:48
>「ウオオオオオオ!」

ジョン君が咆哮をあげながら、あらゆる敵やトラップを真っ二つにしていく。
ひとしきり敵を蹴散らしたジョン君は大量の残骸に囲まれ、邪悪な笑みを浮かべていた。

>「ふふふ・・・いくらバロールが作った兵器といえども僕みたいなイレギュラーは計算外だったみたいだな?」

その姿が、夢の中で見た、死体に囲まれて笑っていた狂人の姿と重なった。

「それ以上は駄目! もうやめて!」

同じことを思ったのだろうカザハが、尋常ではない様子でジョン君にすがりつく。

「ボクは知ってる気がする……。ブラッドラストに侵された者の末路を!
夢を見たんだ……。そいつは殺戮の化け物に成り果てて最後には殺されるんだ……!」

が、ジョン君は全く動じる様子はない。

>「どうしたんだ?早くいこう。時間がないんだろう?僕なら大丈夫!まだまだ壊したりないくらいさ!」
>「ロイを倒すのにこんな程度の力じゃ足りないしね」

「……。ごめん。取り乱した。」

カザハは案外あっさりと引き下がった。
確かにジョン君の言う通り時間がない。
ここで言い争うよりも早く踏破してしまう方が得策だと思いなおしたのだろうか。

「……ここ、微かに隙間風が通ってる。階段があるよ」

カザハは人間では感じられない風の流れや音を感じ取れるようになってきたようだ。
こっちの世界に来てからそこそこ日が絶つので、元々持っていた感覚が甦ってきたのだろう。
床のタイルの隙間に槍の先を入れて剥がすと蓋のように取れ、下の階への階段が現れた。

《随分あっさりと引き下がりましたね》

(諦めた! ありゃ何言っても無理でしょ!)

《はい!?》

諦めるの早すぎるでしょ!
さて、突入直後ということでここまでとりあえず下の階に歩を進めてきたが、そろそろ聞かねばなるまい。

「バロールさん、ヴィゾフニールの格納庫はどこ?」

コアを破壊したら1巡目と同じようにダンジョンごと消滅してヴィゾフニールが手に入らなくなる可能性がある。
格納庫がコアに向かう道中にでもあればそれ程問題はないが、問題はかなりの遠回りになる場合だ。
アニマが霊仙楔に到達してしまったら一巻の終わりなので、再び廃墟化して残ってくれる可能性に賭けてコアの破壊を最優先すべきだろう。

158カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/07/06(月) 21:46:57
が、カザハは突拍子もないことを言い始めた。

「もし遠回りになるならボク達がヴィゾフニールを回収しにいくよ」

《な、何ですってー!?》

(止めるのが無理なら猶更一刻も早くエーデルグーデに連行するしかないでしょ!
ダンジョンごと消えて馬車の旅になったら確実に終了じゃん!)

カザハはジョン君を止めることを諦めても、ジョン君を諦めてはいなかった。

(ボクには今のジョン君を説得することも力尽くで止めることもできない。
ジョン君が戦わなくて済むように敵を薙ぎ払う力もない……。
でも早く何かを回収することなら一番……いやガザーヴァの次ぐらいに!?適任でしょ?)

確かに誰かが回収しに行くとすれば、私達が適任かもしれない。
飛空タイプで移動力と素早さに特化した私達ならいわゆる「シンボルエンカウント方式のRPGで敵をすり抜けて戦闘を回避しつつ
ダンジョンを突っ切る作戦」が出来るし、徒歩を前提とした罠は全てスルー出来る。
格納庫に強い門番がいるという話もない。
なので普通にいけば、敵を倒しながら最深部まで潜った上にアニマガーディアンを倒さなければいけないコア破壊組よりも早く攻略できると思われる。
そして私たちはそれ程強力なアタッカーでもパーティーの生命線を担うタンクでもないので
アニマガーディアン戦の時にいなくても他の人がいないよりは影響は少ないだろう。
……とはいってもそれは「誰かが回収しにいくとしたら誰が行くのが一番マシか」という前提であって。
私、もうカザハの酔狂に付き合わされるのは嫌ですからね!?
バロールさん、「格納庫はコアに行く道と反対方向だよ」なんて言わないでくださいよ!?

159明神 ◆9EasXbvg42:2020/07/13(月) 06:32:05
>「わかった・・・全部を話そう・・・」

古傷を掻きむしり、再び血を流すように、ジョンは語る。
あるいは、傷は癒えてなど居ないのかもしれなかった。
表面にほんの少しカサブタが張っているだけで、その下では今でもドロドロした血が滞留している。
俺たちは今から、ジョン・アデルという人間に流れる血の色を――確かめるのだ。

>「ロイとロイの妹の・・・シェリーと出会ったのは小学生に上がった直後でね・・・

ジョンの語った過去は、あらゆる意味で俺の想像を超える壮絶なものだった。
まだ十歳かそこらのジョンは、遭難した幼馴染のシェリーを探すために単独で森の中に分け入り、
少女に襲いかかる熊をナイフ一本で殺して見せた。

あり得べからざる話だ。人間は接近戦じゃどうやったって熊には勝てねえ。空手や柔道をやってようがだ。
比較的小型なツキノワグマですら、大人の人間が食い殺されるニュースは毎年のように報道される。
いわんや、小学生がナイフ片手に熊を殺したなんて、誰が信じるってんだ。

俺だっていくらなんでもそりゃ嘘だろって思う。思ってたと思う。
アコライトでジョンがアジ・ダカーハの首をぶった切ってなけりゃ、今でも信じられなかった。

そしてそれは、目の前でジョンの大立ち回りを見たシェリーにとっても、そうだったんだろう。
熊を殺したのが、自分の友達であると、信じられなかった。
人間ですらないもっと別の――化け物。そう感じちまっても不思議はないだろう。

そうしてシェリーはジョンの前から逃げ出し、山から滑落して、致命傷を負った。
シェリーがもう助からないと悟ったジョンは。これ以上苦しまないように……彼女を『楽にした』。
これがジョンと、ジョンが介錯した少女の兄、フリントの因縁。その始まりだ。

「殺したってのは、そういうことか……」

160明神 ◆9EasXbvg42:2020/07/13(月) 06:32:25
『ミセリコルデ』という剣がある。欧州の言葉で『慈悲の剣』って意味の名前だ。
全身甲冑の鎧騎士が戦場で幅を利かせてた時代に、鎧の隙間を貫いて攻撃するために用いられた刺突特化の短剣。
本来スティレットと呼ばれるこの剣に、慈悲の二つ名がついたのには理由がある。

衛生状況も医療体制もまともに整わない戦場では、重傷を負った戦士はまず助からない。
手の施しようがなくても、即死しなければ長い時間傷の痛みに苦しむことになる。
だから武器とは別に、すばやく息の根を止めて楽にしてやる為の、鎧を貫く短剣が必要だった。

助からないなら、苦しませたくない。
同じようにシェリーにナイフを突き立てたジョンの心には、きっと『慈悲』があったんだろう。
だけど、ジョン自身が自分をそんなふうに許すことは出来なかったし、フリントの野郎もそうだった。
振り下ろす場所のない拳がいつまでも宙ぶらりんになったまま、二人はこの世界で再び出会ってしまった。

>「これが事件の全容だ・・・ところどころ端折ってはいるけど別に細かく聞きたいわけじゃないだろう?」

「……そうだな、もう十分だ」

これ以上詳しく突き詰めたって何が変わるってわけでもない。
ジョンという人間が何者なのか、知りたいことはこれで知れた。

>「同情なんて必要ない・・・僕にはそんな価値がないからね」

「同情なんかしねえよ。外野があれこれ言えるような話でもない。フリントとの因縁は、お前が決着をつけるべきだ。
 だけどこれだけは言っとくぜ、ジョン・アデル。……話してくれて、ありがとうよ」

幼馴染にトドメを刺したのを、『仕方なかった』で済ませられるような奴なら、俺はこいつを助けたいなんて思いやしなかった。
だがジョンは、十年以上経った今もなお、罪の呵責に苦しみ、のたうち回り続けている。
こいつの中から、在りし日の幼馴染の影は何一つ消えちゃいない。

――ジョンのパートナーモンスター、ウェルシュ・コカトリス。
そいつに付けられた名前は、幼馴染の愛犬――目の前で飼い主を殺された犬と同じ『部長』。
過日の罪の、唯一の目撃者を、今もこいつは傍に置き続けているのだから。

 ◆ ◆ ◆

161明神 ◆9EasXbvg42:2020/07/13(月) 06:33:10
>《話は一旦まとまった感じみたいやねぇ〜? ほんならそろそろ、うちらも通信再開してええやろか?》

不意になゆたちゃんのスマホから懐かしい声が響く。
見れば石油王とバロールが並んで画面に表示されていた。

「石油王!音沙汰なかったから心配したぜ。そっちは変わりないか――ってお前、その目どうした!?」

画面越しに再会した石油王は、左目に眼帯を巻いていた。
一体何があった。隣のバロールも、何なら石油王本人も平然としてんのはどういうこった。

>《いやぁ、三週間ぶりくらいの通信かな? 久しぶりだね、みんな!
 君たちのことはモニターしていたんだけど、『聖灰』の前じゃ喋ることもままならなくてね。

石油王から返事を聞く前に、バロールは話をさっさと前に進めやがる。
次またマル様チームの横槍が入るかわからない以上、情報共有は最低限に留めときたいってことか。

>ところで……カザハと明神君は、どうして自分たちの行き先がニヴルヘイムにバレてるのか訝しんでいるようだけれど。
 簡単な話だろう? だって、君たちはご老人からわざわざGPSを受け取っているんだからね。
 というか――私は君たちがとっくに知っていて、わざとそうしているのかと思っていたんだが……違うのかい?》

「じーぴーえすぅ?そんなもんいつ貰ったってんだよ、スマホの位置情報でもぶっこ抜けるってのか――」

隣でなゆたちゃんが何かに思い至り、俺も合点がいった。
ひとつだけ、俺たちがローウェルのジジイから受け取ったものがあった。

ローウェルの指輪。
所有者のスペル効果を極限にまで引き上げるバフ効果に、リキャスト全回復機能まで備えた超絶チートアイテム。
アコライトの決戦でも大活躍したおじいちゃんの指輪は、今も俺の中指に嵌っている。

こ、れ、かぁ〜〜〜!

「だっからよぉ!そういう重要な情報は先に言えっつってんだろうが!ソシャゲの運営かてめーはよぉ!!」

>「単純なことだったわね……」

「クソったれ……つうことはアレか?こいつは指輪じゃなくてジジイが手駒を管理するための首輪ってことかよ」

思わず指輪を外して遠くにぶん投げそうになって――思い留まった。
厄介な位置バレ機能はあるにしても、指輪自体のデタラメなバフ効果は俺たちにとっても非常に重要だ。
これなしには切り抜けられなかったピンチだっていくつもある。
ニブルヘイムの強力な軍勢相手に戦う上で、指輪の力はどうしたって必要になる。

「まんま呪いの装備だなこいつは……捨てるに捨てらんねえ。火山にでもぶち込みに行くか?」

とは言え、こうして情報の出処がはっきりしたのには意味がある。
奴らがこの指輪を手掛かりにして追いかけてくる以上、俺たちが連中の行動をコントロールする唯一の手段になり得る。
ここぞって時にその辺にポイ捨てでもして、奴らがエサに群がってる隙に遠くまで逃げることだって出来る。

>《まぁ……何にしても線路が壊されてまったのは痛手やねぇ〜。
 魔法機関車なら港のあるアズレシアまですぐと思てたけど、敵さんもそう簡単には進ませてくれへんなぁ。
 ほんなら、みんな一旦寄り道してもろてもええやろか?少なくとも、このまま馬車で移動するよりは早く問題も解決するやろしね》

162明神 ◆9EasXbvg42:2020/07/13(月) 06:33:32
寄り道。石油王は相変わらずのはんなりとした口調でそう言った。
どこに寄る場所があるってんだ。モタモタしてるとまたゴブリン共に囲まれるぞ。
石油王はどこか自慢気に、二の句を継いだ。

>「――飛行船や!」

「飛行船……?マジ?なんかアテがあんのか?」

さっき俺もちらっと言うには言ったが、本当に飛行船が使えるとは思っちゃいなかった。
つーのも、この世界の最上級の移動手段である飛行船は、ガチのマジで入手に手間がかかるからだ。

一番難易度の低い気球ですら、それこそアルフヘイム全土を巡って素材を集めなきゃならない。
もろもろ移動時間を省略できるゲームの中ならいざしらず、馬車旅じゃ何ヶ月かかるかも分からん。
うまいこと市場に素材が出回ってたとしても、ふわふわ浮かぶだけの気球じゃ対空射撃の良い的だ。

グランドセイバーは論外だ。クソ長い三部作の入手クエストは攻略に時間がかかりすぎる。
やれわけのわからん軍事帝国と戦えだの土地神と交渉して航空図をゲットしてこいだの、
古の戦場跡でつよつよモンスターとアホみたいな回数連戦しまくって素材集めてこいだの、
恐ろしい時間をかけた壮大な『寄り道』だ。

唯一入手までの時間が現実的なのは――

>「……強襲飛空戦闘艇……ヴィゾフニール……!」

とあるダンジョンの隠し部屋に眠る、不世出の戦闘用飛空艇。
北欧神話の神鳥の名を冠す、ニブルヘイムの最高傑作――ヴィゾフニール。
三種の飛空船の中で最も快速至便な『乗り物』としてのエンドコンテンツだ。

「ちょっと待て、ヴィゾフニールって確か、常設クエストで手に入る奴じゃなかったろ」

ヴィゾフニールはシナリオ中に一回こっきりしか攻略できない限定ダンジョンの隠し報酬だ。
いつでもクエストを始められる他の二種とは違い、入手機会が完全に限られてる。
そしてその限定ダンジョンは――この時間軸では、あるはずのないもの。

>《ところがどっこい、や。
 うちらはみんなと交信を断っとる間『あれ』についての情報を集めとってなぁ。
 この世界には一巡目の遺物として『あれ』がまだ存在しとることを突き止めたんよ〜》

石油王の言葉に、胸の奥の方が沸き立つのを感じる。
まさか……あるのか?メインシナリオで最高に胸アツ展開だったあのダンジョンが、この世界にも。
飛空艇未入手のままクリアしちまった連中がフォーラムで暴れまわった曰く付きの――

>《そう。『あれ』や。
 ストーリーの山場、ラスボスバトルより盛り上がる……なぁんて評判の。
 師匠の『創世魔法』の極致――》

――『螺旋廻天レプリケイトアニマ』。
ストーリー終盤で魔王バロールが放った大規模破壊魔法にして……ダンジョンだ。

 ◆ ◆ ◆

163明神 ◆9EasXbvg42:2020/07/13(月) 06:34:07
「楽しみだなぁヴィゾフニール。実装当初は運営のクソ共が情報公開すんの遅くてさ。
 結局俺も手に入らないままシナリオクリアしちまったんだよな。
 いや無理だって、あんな盛り上がってる流れ放置でダンジョン隅々まで探索すんのなんてよ」

アニマが『ある』と目される場所へ向かう10日の間、俺は誰ともなしに思い出話を垂れていた。
まぁこのパーティでゲームの方ちゃんと攻略してんの俺となゆたちゃんとエンバースくらいなもんだけど。
他の連中にもこの悔しさを知ってもらいたい!あんなん一気に駆け抜けたくなるって!

螺旋廻天レプリケイトアニマは、ラスダンであるガルガンチュアの一個前に攻略するダンジョンだ。
魔王が目論む世界の転覆、滅亡の危機の前に、プレイヤーだけじゃなく各国の戦士たちが一斉に蜂起する。
これまでメインシナリオで出会ってきたNPCたちと一緒に、援護を受けながら最深層のコア破壊を目指す戦いは、
ブレモンでも指折りの胸熱展開として多くのプレイヤーの記憶に残ってる。

攻略に時間制限があるのと、ダンジョン自体の難易度も相まって、アニマをゆっくり探索するのは難しい。
背景で奮闘してる連中を差し置いてお散歩なんて当時の心清らかな俺には出来なかった。
しかし開発はホントに性格悪いな……。前情報なしで飛空艇手に入れられた奴なんてほぼほぼ居らんのと違うか。

「当時のフォーラムは酷え荒れようだったぜ。シナリオしっかり読んでる奴ほど入手し損ねちまったからな。
 挙げ句の果てに『ヴィゾフニール持ってる奴は人の心がないサイコ』とか言われててよ」

まぁ例によってそれ言ったのうんちぶりぶり大明神とかいうクソコテなんだけど、
わりと共感を得たのか八方に飛び火してえらいことになった。
一時期はゲーム内でヴィゾフニール乗り回してると問答無用で撃墜されてたもんな。

「結局のところ、ヴィゾフニールは早いだけで他の飛空船と変わんないから、
 あくまでトロフィー扱いの隠しコンテンツでしかなかった。
 ファストトラベル駆使すれば航行速度もそんなに気にならないレベルだったしな」

アカウント作り直してヴィゾフニール入手まで爆速で進行するRTAなんてのも流行ったが、
スペックにそこまで大差がないと知れてからは人気も下火になった。
今は後発組が普通にヴィゾフニール乗ってるから、妬んだ連中から石を投げられることもない。

「だけど"この"アルフヘイムなら話は別だ。速さは正義、戦力で負けてようが逃げ切れるならなんも問題ねえ。
 フリントの野郎も流石に戦闘機までは持ち込んじゃ居ねえだろ。
 制空権ってもんがいかに重要か釈迦に説法かましてやろうじゃねえか」

ジョンの独白で落ちきったムードを払拭するように、俺は努めて明るい話題を選んだ。
今はまだ無理かもしれないけど、俺はこいつにもブレモンの楽しさを知ってもらいたい。
いつかは――普通にゲームを一緒にやりたい。そう思った。

ほどなくして、山道の向こうに巨大な建造物が見えてきた。
相変わらず趣味の悪い色調の巨塔は、俺がゲームの画面越しに見てきたものと同じ。

辿り着いた。
世界のリセットを免れ、在りし日の威容を遺す、ダンジョンの姿――
今はもう火の消えた、レプリケイトアニマの残骸が。

「……あ?ちょっと待って?待って?なんかすげえガリガリ言ってるんですけお……」

鬱蒼茂る木々をかき分ければ、そこに鎮座する停止したはずの削岩機は……

>《動いてる―――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!??????》

「はああああああっ!?お前止まってるって言っとったがや!言っとったがや!!!」

164明神 ◆9EasXbvg42:2020/07/13(月) 06:34:41
バロールの素っ頓狂な叫びは地盤の破壊音に負けず劣らず俺の耳を劈いた。
なんでお前が一番驚いてんだよ!自分で作ったモンくらい把握しとけや!!

>「ダンジョン?僕のダンジョンのイメージと遥かに違うんだが・・・普通に巨大なドリルだぞ・・・」

「普通に巨大なドリルなんだよっ!そういうダンジョンなの!あのクソ魔王が作ったなぁ!」

厳密にはトンネル掘削とかに使われるシールドマシンの超巨大版だ。
東京都心の摩天楼もかくやの高層ビルめいた構造物の先端には、回転する「やすり」が散りばめられている。
こいつが地盤をゴリゴリ削って穴を掘り進んでいく仕組みだ。

>《ふおお……すごい魔力だ! 計測値を振り切ってるよー!? 誰だ私のレプリケイトアニマを勝手に動かしてるのはーっ!?》

「バロールお前ホント……そういうとこやぞ!!」

アニマを誰が再起動したのかは知らんが、なんでこんなヤベえもん放っとくかなあ!
そらおじいちゃんもキレるわ。マル様も長兄マジやべえやつだって言うわ!
やってること世界滅ぼそうとした一巡目と変わんねえもんこいつ!!

>《師匠は黙っとき! みんな、見えてはるやろね!? もう説明不要や思うけど一応な!
 レプリケイトアニマが起動しとる――! おそらくニヴルヘイムの連中か、十二階梯か……!
 予定変更や、レプリケイトアニマの停止を最優先!》

「わ、分かった!突入口もまるっと再現されてんなら……こっちだな!」

メインシナリオでは、霊銀結社がしこたま砲撃ぶち込んで外殻にようやく開けた穴があった。
そこから内部に侵入し、最深部のコアをぶっ壊せばアニマはひとりでに分解する。
果たして穴は変わらずそこにあり、俺たちはまともな準備もしないままアニマに乗り込んだ。

「俺さぁ……すげえ嫌な予感がしますよ。ことアニマについてバロールの見立てはてんで見当違いだった。
 もしかすっと中で徘徊してるモンスターがみんな死んでるってのも――」

>「ギシャオオオオオオオオッ!!!」

「ほらぁ!」

案の定というか、突入した瞬間脇から聞こえる魔獣の咆哮。
駆け寄ってくるアニマゾルダートをポヨリンさんが油断なく迎撃し、このダンジョンが何も風化してないことを否応なしに理解する。

「ひひっ熱烈歓迎じゃねえの、テンション上がるなあ!固まれ固まれ、孤立すりゃ袋叩きにされんぞ!」

召喚したヤマシタが突撃してきたアニマディフェンダーとがっぷり四つ組み合う。
騎士モードで防御スキルの恩恵を受けてるとは言え、敵の平均レベルがこれまでと段違いだ。
単純にレベルだけで見るなら途中退場した幻魔将軍ガザーヴァより高い。
一匹一匹が準レイド級と真っ向から殴り合えるステータスだ。

そして、俺たちにとっての脅威はワラワラ湧いてくるモンスターだけじゃない。
ここはダンジョン。それも最終盤の高難易度コンテンツだ。

「番人共がリポップしてるってことは……なゆたちゃん!そっち行くな!」

>「ひょわわわわわわぁっ!!!??」

床に偽装されたスイッチを踏み抜いて、なゆたちゃんの側面から槍が伸びる。
すわ串刺しかと歯噛みした瞬間、回避スキルを発動して無数の槍衾を凌ぎきった。

165明神 ◆9EasXbvg42:2020/07/13(月) 06:35:34
>《う〜ん、この分だとどうやらトラップも復活しているみたいだねぇ!
 みんな気を付けてくれ! 大規模なやつは覚えているから解除や避け方を指示できるけど、小さいのは覚えてない!
 なんとか頑張って避けてもらいたい!》

「お前マジでっ……!マジで覚えとけよクソ魔王!インディ・ジョーンズじゃねえんだぞ!
 お次はなんだ?毒蛇か?巨大鉄球か!?魔王の癖に古代遺跡みてーな凝ったトラップ作りやがって……!!」

なんかだんだん思い出してきたわ……!
創生魔法で実体化した巨大攻撃魔法とかいう触れ込みの癖に、無駄にディティールの凝らした大量の罠!
ぜってーこれ趣味で作ってんじゃねえかって思ってたけど、今それが確信に変わった!

>《みんな、遊んでる場合ちゃうで!
 うちの計算では、このままやと約四時間後にアニマは霊仙楔に到達! そうなったらアルフヘイムはおしまいや!
 それまでに何としてもコアを破壊して、アニマを止めたってな!》

「四時間経つ前に俺たちが破壊されんぞ!十人そこらで攻略するダンジョンじゃねえってこれ!」

ヤマシタがアニマディフェンダーを抑え込み、その隙を突いて『呪霊弾』で駆動中枢を撃ち抜く。
急所さえ叩けりゃ俺の貧弱魔法でもどうにかなるが、それでも多勢に無勢だ。
この物量。アニマが難関コンテンツとされる最大の理由は、とにかく襲ってくる敵が多いこと。
味方NPCが引き付けてくれない現状じゃ、俺たちだけでこの大群を相手にしなきゃならない。

>「きゃはははははッ! たーのしー!どんどん暴れちゃうからなー、ボク! そらそら、もっと来いよぉ!
 ぜーんぜん喰い足りねぇぞぉーッ!!」

ガザーヴァは待ってましたとばかりに槍を担いで集団の中に躍り出る。
黒い嵐の如く、振り回した槍が的確にゾルダートたちの首を飛ばしていく。
あいつ生き生きしてんな……。ガザ公の小柄な体躯と槍さばきは、乱戦の中で大いに真価を発揮する。
瞬く間に集団を躯の山に変えて、敵の勢いを押し返した。

>「あらよっとォ! ……あ、明神! そこの床落とし穴だかんな、気をつけろよ!
 ガーゴイルの後について歩け! そしたらトラップに引っかかんないで済むから!」

「出来た娘さんでマジ助かる……どっかのお父様と違ってよぉ!」

見てますかバロールさん!娘にケツ拭かせて恥ずかしくないんですか!!
俺だって自分のケツくらい拭けますよ!ウォシュレットがあればなお良し!!!

実際のところ、シナリオとは違う俺たちだけのアドバンテージがガザーヴァの存在だ。
トラップの回避だけじゃなく、常に多勢を相手取ってきた幻魔将軍の力は対多数の戦いで猛威を振るう。
メインクエストでもしもガザーヴァが生き残ってたら、間違いなくアルフヘイム連合軍は壊滅に追いやられていただろう。
それを完遂できるだけの実力と、邪智が、こいつにはあった。

「誰も想像すらしなかったろうな。こうして幻魔将軍ガザーヴァと一緒にダンジョン攻略するなんてよ」

全然笑ってる場合じゃないのに、自然と口端が上がった。
俺たちは今、開発すら想定してなかったかたちで、レプリケイトアニマに挑んでる。
難易度は跳ね上がってるし、事情も全然違うけど、それでも。

「ひひっ。俺、いますげえブレモンやってるって感じするわ」

見てるかガザーヴァ。
お前は今、一巡目にどうやったってたどり着けなかった、『アコライトの先』に居るんだぜ。
俺と一緒にだ。

166明神 ◆9EasXbvg42:2020/07/13(月) 06:36:19
>「みんな、体力とスペルカードは温存して!
 まだまだ先は長いし……何より最深部のコアはレイド級ボスのアニマガーディアンが守ってる!
 ゲームのストーリーモードと違って、途中の支援は期待できないから……!」

「了解。今回は背景じっくり眺める必要もねえ、とっとと突破しちまおう」

レベルこそ高いが、アニマの道中に出るモンスターはあくまで雑魚敵だ。
デバフも効くし弱点も多い。対処法は研究され尽くしてる。
連戦を避けてうまく立ち回れば、削り殺される前に次の階層に行けるはずだ。

>《こちらからも援軍を送るよ、間に合うかどうかは分からないが――
 とにかく、なんとか生き残ってくれ!》

「増援?アルメリアからか?アイアントラスぶっ壊れてんだぞ、間に合うわけねえ――っつうか、
 お前にそんなコネあったの?」

バロールは今、ローウェルからも十二階梯からも爪弾きにあって孤立してる。
そんな状況で増援なんて寄越す余裕もアテもないと思ってた。
どの道期待は出来ねえな。こっちのことはこっちでどうにかするつもりでかからねえと。

囲まれないように慎重に位置取りしつつアニマのフロアを疾走する。
ふと、エンバースが足を止めて後方を振り仰いだ。

>「……俺がしんがりに着く。お前たちは先に行け。
 雑魚どもを殲滅している余裕はない。目の前の、最低限の敵だけを倒して行け」

「はあ!?お前この数相手に何言ってんだ!トラップだってガザ公がいなきゃ避けらんねえんだぞ!」

>「おいおい・・・こんな時は君がなゆを守って先頭にいくんじゃないのか?」

俺とジョンが口を揃えて反駁するが、エンバースは取り合わない。
こういう時何言ったってこいつが翻意することはない……ってのも、これまでの付き合いでよく分かってた。

>「任せたわ、エンバース! さあ――行くわよ、みんな!」
>「・・・エンバースがいかないなら僕が先頭を務めよう。カザーヴァは明神を守るのに精いっぱいだろうからね」

「……上階で待ってるからな、焼死体。死亡フラグなんてしょうもねえもん回収すんなよ」

返事もしないエンバースを残して、俺たちは次の階層に足を踏み入れた。

>「んん〜〜予想通りというかなんというか・・・」

階段の先では、既に大量の敵がポップしていた。
避けて進むのは無理だ。強引にでも道を切り開かなきゃならない。

「マップは頭に入ってる。最短ルートはこっちだ」

アニマの攻略自体は、ゲーム知識をフル動員すりゃそこまで迷うこともない。
問題は本来の目的、ヴィゾフニールがどこの部屋に隠されてるかだ。
このまま最短ルートを取り続ければどっかで通り過ぎちまう。
さりとて、湯水の如く湧いてくる敵を逐一潰していく猶予はない。

>「みんな・・・離れてくれ・・・部長も・・・巻き込んじゃう可能性があるからね・・・」

束の間の逡巡、不意にジョンが一歩前に踏み出した。

167明神 ◆9EasXbvg42:2020/07/13(月) 06:36:50
「あ?お前まさか――」

>「フン!」

いつの間にか傍らに出現した大剣――アジ・ダカーハの首をぶった切ったアレを掴み、
ジョンは敵の渦中へと飛び込んでいく。
瞬きすら追いつかない間に、鋼の旋風が巻き起こり、血潮が床を赤黒く染めた。

倒れ伏す敵の残骸は、バターみたいに平滑な切り口。
あの大剣が凄まじい切れ味をもっているにしたって、人間業じゃない。

「ジョン……ジョン!そのエフェクトは!!」

ジョンの肉体を赤く包むオーラは、ブラッドラストのエフェクト。
あれだけ忌避していたスキルを、意図的に発動している――

止める間もなく、ジョンは次の獲物目掛けて跳躍した。
血の匂いのする風が起こるたび、何かがひしゃげる音が響き、その数だけ敵の死体が積み上がっていく。
作動したトラップが八方からジョンに襲いかかるが、全てをその大剣で断ち切った。

>「ふふふ・・・いくらバロールが作った兵器といえども僕みたいなイレギュラーは計算外だったみたいだな?」

気づけば、フロア内の敵は全滅していた。
血潮と、臓物と、よくわからない液体に塗れて、ジョンは口端を上げて見せる。

「お前は――」

>「それ以上は駄目! もうやめて!」

俺がなにか言うより早く、カザハ君がジョンの懐に飛び込んだ。

>「ボクは知ってる気がする……。ブラッドラストに侵された者の末路を! 
 夢を見たんだ……。そいつは殺戮の化け物に成り果てて最後には殺されるんだ……!」

「どういうこった……」

カザハ君は確信をもったように言う。
なんでこいつがブラッドラストの最期を知ってる?
ただ『そういう夢を見た』ってだけじゃ説明のつかない迫真性が、カザハ君の言葉にはあった。

>「どうしたんだ?早くいこう。時間がないんだろう?僕なら大丈夫!まだまだ壊したりないくらいさ!」
>「ロイを倒すのにこんな程度の力じゃ足りないしね」

「受け入れちまうのかよ、その力を……」

ブラッドラストが、俺たちにとってワイルドカードになり得るのは確かだ。
超レイド級の装甲すらぶち抜く攻撃力。フロアを埋め尽くすような数の敵相手に一歩も引かない殲滅力。
戦力として、これ以上頼りになるものは他にないだろう。

だから――もしもジョンが、フリントと決着をつけるために力を望むのなら。
俺たちにそれを止めることは出来ない。戦力の増強で助かるのは、俺たちも同じだ。
ブラッドラストの力は欲しいがそれに染まるななんて、そんな都合の良いことは……言えない。

>「バロールさん、ヴィゾフニールの格納庫はどこ?」

さらに次の階層へ歩を進めると、カザハ君が不意にバロールに問いかけた。

168明神 ◆9EasXbvg42:2020/07/13(月) 06:37:34
>「もし遠回りになるならボク達がヴィゾフニールを回収しにいくよ」

「ちょっと待てや!お前ダンジョン内の単独行動はマジでヤバいって学校で習わなかったのかよ!」

ウソだろ……普通義務教育で習うだろ。
「エリクサーはケチらず使いましょう」とセットで中学あたりの必修科目だろ!?
これがゆとり教育の弊害って奴か……こいつ俺より年上じゃなかったっけ。

だけどカザハ君は、何も教育に対する反骨精神で提案したわけじゃなさそうだった。
空を飛べるって点で、カザハ君は間違いなくこのパーティで最高の機動力を持つ。
ヴィゾフニールの場所さえ分かってるなら、サクサクっと敵避けて取りに行くことも可能だろう。

「……だけどお前、囲まれようがトラップ踏もうが、誰も助けに行けねえんだぞ。
 その辺お散歩すんのとはワケが違う。怖いモンスターがウヨウヨ湧いてるんだぜ」

カザハ君はバッファー寄りのサポート型だ。
デバッファーの俺が言うのもなんだが、単独で戦い続けられるタイプじゃない。
攻撃も防御も自己完結できるビルドでなきゃ、ソロ攻略なんてまず不可能だ。

「どの道、道中に都合良くヴィゾフニールがありゃいい話だ。
 頼むぜバロール……底意地の悪い設計だけはしててくれんなよ」

次の階層も判を押したように襲いかかってくる敵を蹴散らしながら、俺は隣の奴に声をかけた。

「ガザーヴァ、ちょっと競争しようぜ。あ、俺とお前がじゃなくてね」

現状、俺はジョンに「ブラッドラストを使うな」とは言えない。
あいつの力を少なからずアテにしてるからだ。

ジョンは、自発的に力に呑まれようとしている。
ロイ・フリントを倒すために。――俺たちを、奴の手から護るために。
ブラッドラストなしには俺たちを守りきれないと、そう判断している。

……冗談じゃねえぞ。見くびってくれやがって。
何がブラッドラストだ。そんなわけの分からん呪いになんざ頼らなくても、俺たちは戦える。
あのフリントとかいうクソ野郎だって、呪いの力なしで叩きのめしてみせる。

169明神 ◆9EasXbvg42:2020/07/13(月) 06:37:51
そいつを証明する何よりの方法を、たった今思いついた。
――ジョンよりも速く、多く、敵を倒せば良い。あいつがスキルを使うまでもなく、困難に打ち勝てば良い。

ウジウジ悩むのにも飽きた。
苦しむあいつを前にして、オロオロするだけなんざ、もう御免だ。

「――ジョン!ブラッドラストを使うなとは言わねえよ。お前が力を受け入れるのなら、お前の選択を否定しない。
 だけど……ブラッドラストなんざ必要ねえんだよ。そんなもんアテ込まなくても、俺たちはフリントに負けねえ。
 そいつを今から証明してやる。俺とガザ公でなぁ!」

ジョンをビシっと指差して、それから並み居るアニマゾルダート共を顎でしゃくった。

「勝負をしようぜ。コアに辿り着くまでに、お前と俺たち、どっちが敵を多く倒せるか。
 お前がブラッドラストに頼るより速く、全部片付けてやるよ」

俺にはジョンの苦悩を理解することも、それを取り除いてやることも出来ない。
だけど、あいつが『助けて』って言ったことを、俺は忘れない。
助けられる資格がない?知ったことかよ。ハナから許可なんか求めちゃいねえぜ。

やるぞ、ガザーヴァ!
ジョンの返答を聞くより先に、俺はアニマゾルダートの群れに飛び込んだ。
ヤマシタがシールドバッシュを繰り出し、闇魔法で急所をぶち抜き、ガザーヴァが無双する。

笑っちゃうくらい不器用なやり方で、ガラじゃねえにも程があるけど、それでも。
不思議と心は動いた。


【ブラッドラストに張り合い始める】

170崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/07/17(金) 00:07:41
『ブラッドラスト』を自ら発動させたジョンが、恐るべき攻撃力でモンスターたちを駆逐してゆく。
その姿は、まさに破壊の暴風。血煙の化身。
モンスターを使役する『異邦の魔物使い(ブレイブ)』であるはずのジョン自身がモンスターになってしまったかのような、
そんな錯覚さえおぼえ、なゆたは呆然と立ち尽くした。

>ふふふ・・・いくらバロールが作った兵器といえども僕みたいなイレギュラーは計算外だったみたいだな?

《いやぁ……まったくだね。
 かつての私は結構厳選してモンスターを配置したつもりだったんだけれど。
 ジョン君のような存在のことは考えていなかった! だいたい、ブラッドラストなんてスキルはなかったからねえ!
 この場においては大いに助かるけれど、なんだか複雑な気分だなぁ!》

ジョンの言葉に、スマホ越しにバロールが妙な関心をしている。
血みどろ臓物まみれで嗤うジョンは、完全に常軌を逸しているように見える。
闘争バカで有名な十二階梯の継承者――『万物の』ロスタラガムさえ、ここまでの戦闘狂(バーサーカー)ではない。
これがブラッドラストの効果によるものなのか、それともジョンが元々内に秘めていたものなのか、なゆたには分からない。
だが――これだけは言える。
ジョンの破滅は、近い。

>それ以上は駄目! もうやめて!

なゆたと同じ危惧を抱いたのだろう、カザハがジョンに縋りつく。

>ボクは知ってる気がする……。ブラッドラストに侵された者の末路を!
 夢を見たんだ……。そいつは殺戮の化け物に成り果てて最後には殺されるんだ……!

そうだ。
ブラッドラストの習得者は、例外なく破滅している。血まみれで凄惨な死を迎えるさだめが待っている。
なゆたの錯覚が現実のものとなる。ジョンは早晩本物の怪物と成り果て、敵味方の区別さえもつかなくなって――
そして、死ぬのだ。

>どうしたんだ?早くいこう。時間がないんだろう?僕なら大丈夫!まだまだ壊したりないくらいさ!
 ロイを倒すのにこんな程度の力じゃ足りないしね

だが、そんなカザハの必死の説得さえ今のジョンには何も響かない。
カザハを押しのけ、ジョンは破城剣を片手に、さらに先へ進もうとした。

>受け入れちまうのかよ、その力を……

明神も、ジョンがブラッドラストを躊躇いなく使用したことに対して驚きとも落胆ともつかぬ呟きを漏らす。
その気持ちは分かる。
今まで明神やカザハ、なゆたはジョンにブラッドラストを使わせまいと骨を折り、神経を使い、あらゆる手を尽くしてきた。
問題児ばかりのマル様親衛隊と一時的に手を組んだのだって、エーデルグーテまでの旅の負担を減らそうとしたからだ。
アコライト外郭を発ってからのパーティーの旅は、すべてジョン中心に回っていたと言っても過言ではない。
ジョンを死なせないために。ブラッドラストを進行させないために。
そんな気遣いを、ジョンはいともあっさりと踏みつぶした。
これで何もかもご破算だ。ここ暫くのパーティーの苦労は、すべて水の泡になった。

パーティーはジョンを守ろうとしてブラッドラストを使わせないようにした。
ジョンはパーティーを守ろうとしてブラッドラストを使った。

目的は同じなのに、仲間のことを想っているのは共通しているのに。
なぜ、こうも気持ちがすれ違ってしまうのだろう?
どうすれば、この齟齬を修正することができるのか――?
それを考えるのが、リーダーである自分の役目だろう。パーティーの気持ちをひとつにできないリーダーに、
リーダーの価値などない。

だが――

今のなゆたには、その答えを出すことができなかった。
ジョンがひた隠しにし、そして幻覚を見るほどに悩まされている、過去の罪。
それを聞いてしまった今は、猶更。

171崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/07/17(金) 00:17:09
確かにジョンは過去、人を殺していた。
しかも、親友の妹を。家族のように、兄妹のように愛していた少女を。

『カルネアデスの板』という話がある。
緊急避難とも言う。あるとき船が難破し、乗組員のひとりが海に浮いた板切れにしがみついて一命をとりとめた。
その後もうひとり男が現れ、新たに板にしがみつこうと寄ってきた。
最初に板に掴まっていた男は、二人がしがみつけば板は沈んでしまい、二人とも溺れてしまう――と考え、
新たにやって来た男を突き飛ばした。
結果新たにやって来た男は死んだが、最初に板にしがみついていた男は助かった。
それは果たして、殺人に相当するのか――? という話である。

他者を救助する行動によって自らの生命が危ぶまれる場合、人間は自己の生命を優先してよい。
つまり、前述の逸話は殺人罪にはならない。
ロック・クライミングで崖から滑落し、一本のザイルに二人の登山者が掴まっているという場合でも、
上にいる人間は下にいる人間のザイルを切ってもやむなしと判断される。二人とも死んでしまうくらいなら、
ひとりを見捨てて片方が生き残った方がいいという話だ。
しかし。

ジョンとシェリーの話は、そういうことでは『ない』。

例えば、ジョンが自分が助かるためにクマに襲われるシェリーを助けなかった、ということなら、
緊急避難に該当しジョンの無罪は確定する。――ジョン自身の罪悪感はさておいて。
しかし、ジョンの話を聞く限りそうではない。ジョンは傷つきながらも、確かにクマを倒している。
問題はその後だ。致命傷を負ったシェリーを楽にするため、ジョンは自らシェリーを手にかけた。
シェリーは誰が見ても助からない状態だった。救助されたとしても、健常者には戻れないであろう怪我を負っていた。
殺してくれ、と。そんなシェリーの懇願を、ジョンは聞き届けた。
日本では尊厳死が認められている。末期がん患者などに対し、生命維持装置の使用を中止するなどして、
速やかな死を与えることは、長年の議論の対象ではあるが殺人罪には当たらない。
が、それはあくまで医療の現場の話である。医師がそれを是と判断した場合にのみ、尊厳死は適用される。

一般に、救急の世界では医師以外の者が患者の状態を勝手に判断することは厳禁とされている。
例え呼吸が止まっていようと、首と胴が泣き別れになっていようと、白骨化していようと。
医師以外の人間が「これは死亡している」と判断することは許されない。
同様、医師以外の人間が「この傷ではもう助からないだろう」と判断することは絶対にしてはならないとされ、
当然「助からないなら楽にしてやろう」と相手を手にかけることも許されないのである。

ジョンはシェリーが何と言おうと、自分の目の前で衰弱していこうと、
一貫してシェリーを守り救助を待つべきだった。
それがジョンの過ちである。優しさと愛を以てなされた行為が、結果的にフリントの恨みを買い自責の念の源になってしまった。
末期がん患者がベッドで苦しみのたうって、殺してくれと言ったからといって、
見舞い人が勝手に生命維持装置のスイッチを切ってもいいのか? という話である。
だから。

ジョンが人殺しなのは、間違いのない事実だった。
ジョンが無罪放免となったのは未成年だったことと、ただその話があまりに突拍子ないものだったから――たったそれだけだ。
だが。
フリントはそれを知っていた。ジョンの語った、大人たちが荒唐無稽なホラ話と切って捨てた話を信じた。
……親友だから。ジョンがウソをつく男ではないと知っていたから。
したがって、当然の帰結としてジョンを憎悪した。
お前の妹は助からない傷を負っていた、だから殺した、なんて。
そんなことを言われて、ありがとうと言える人間が果たして存在するだろうか?
例え健常者でなくなったとしても。一生ベッドで寝たきりになってしまったとしても。
それでも、生きていてくれるならそれが一番だと。そう考えるのが当たり前の家族というものだろう。

『お前が諦めさえしなければ、シェリーは助かったかもしれない。
 お前にシェリーは助からないなんて判断する権利があるのか? お前は人殺しだ。唾棄すべき殺人鬼だ――』

フリントにジョンを憎むなと言うのは、酷な話だ。

「……ジョン」

ブラッドラストが、シェリーを殺してしまったというジョンの罪の意識から発現したものだというのなら。
それを自ら率先して発動させ、破壊の快感にひたる姿のどこに贖罪があるというのだろう。
仮にその先に滅びの運命が待ち構えていようと、破壊の歓喜と共に嬉々として受け入れるのであればそれは罰たりえない。
呪いを受け入れることで、ジョンはずっと抱いていたシェリーに対する罪の気持ちさえ裏切ってしまった。
それは――ジョンが一番やってはいけないことのはずだったのに。

172崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/07/17(金) 00:24:07
このままでは、恐らくジョンはレプリケイトアニマの中で破滅する。
ジョンの呪いを解くために飛空艇を手に入れよう、そのためにレプリケイトアニマを攻略しようというのが今の流れだ。
しかし、レプリケイトアニマ攻略のためにはブラッドラストの力が必要不可欠――というのは皮肉以外の何物でもない。
ジョンを破滅から救う目的のためにジョンを破滅させてしまっては、本末転倒というものであろう。
いったいどうすれば、ジョンにブラッドラストの使用を思いとどまらせることができるのか?
なゆたは懊悩した。

>バロールさん、ヴィゾフニールの格納庫はどこ?
>もし遠回りになるならボク達がヴィゾフニールを回収しにいくよ

不意に、カザハがそんなことを言い出した。
機動力のある自分とカケルとで、一足先にヴィゾフニールを手に入れてこようと提案している。

>ちょっと待てや!お前ダンジョン内の単独行動はマジでヤバいって学校で習わなかったのかよ!

当然のように明神が反論した。ダンジョンにおいて単独行動は即、死に直結する。
しかも、このレプリケイトアニマはラストダンジョンである天空魔宮ガルガンチュアのひとつ手前のダンジョン。
つまりセミ・ファイナルだ。当然、待ち受けるザコ敵もストーリー中盤のボス敵くらいの強さを誇る。
ジョンやガザーヴァがアニマゾルダートを楽々相手にしているのは、ブラッドラストの力やレイドボスのステータスの高さゆえだ。
シナリオ上でもそれまでの味方勢が総力を結集しているという事実が示す通り、最難関のダンジョンのひとつである。
中には、時間制限のないラストダンジョンのガルガンチュアよりも難易度は高いとさえ言うプレイヤーもいる。
そんな中で単独行動するなど、自殺行為以外の何物でもない。

>どの道、道中に都合良くヴィゾフニールがありゃいい話だ。
 頼むぜバロール……底意地の悪い設計だけはしててくれんなよ

《ああ、それについては心配無用だ。
 格納庫はコアを破壊した後、レプリケイトアニマを脱出する途中にある。
 君たちはまずアニマガーディアンの撃破に集中してくれればいいよ。場所はね――》

ゲームの中では、アニマガーディアンを撃破しコアを破壊すると、レプリケイトアニマは崩壊を始める。
プレイヤーは崩れゆくレプリケイトアニマから制限時間内に脱出することを迫られるのだが、
その際も様々なNPCに助けられる。
中でも群青の騎士団長『蒼玉の竜騎兵(サファイアドラグーン)』デュカキスは、
出会った当初こそエリート気質の高邁で鼻持ちならないザ・騎士! という感じの人間だったのだが、
プレイヤーがストーリーを進め群青の騎士との友好度を深めてゆくとその実力を評価してくれ、何くれと便宜を図り、
頼りになる後ろ盾として活躍してくれる。
レプリケイトアニマ攻略戦は、そんなデュカキスが戦死する場所である。
デュカキスは崩壊を始めたレプリケイトアニマ脱出ルートの途中でモンスターを蹴散らし、プレイヤーを誘導してくれる。
最後のあがきとばかりに閉じてゆく隔壁を我が身をつっかえ棒として支え、プレイヤーに道を示してくれるのだ。
アニマゾルダート残党たちに滅多突きにされ、煌くばかりの蒼い鎧を真っ赤な己の血に染めながらも、
デュカキスは仁王立ちで隔壁を支えプレイヤーに先へ行くように促す。
プレイヤーを通し力尽きたデュカキス最期の科白、

「往け、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』……
 群青の光輝(ひかり)は、常に……貴公らと……共に――」

は、レプリケイトアニマ最後の見せ場として語り草になっている。
なお、プレイヤーが群青の騎士だった場合、レプリケイトアニマ攻略後に樹冠都市ブラウヴァルトの群青の騎士本部へ行くと、
デュカキスの乗騎である蒼飛竜アドミラヴルが貰える。
そして。
デュカキスのいる場所はY字型の通路で、デュカキスは下から退却してきたプレイヤーに対し左上へ行くよう指示するのだが――
それを無視して右上のルートを選ぶと、ヴィゾフニールの格納庫がある。

閉じつつある隔壁と制限時間、満身創痍のデュカキスの叱咤。
それらを丸無視しストーリー上の感動そっちのけで物色しに行かなければ飛空艇が取れないとは、悪趣味にも程がある。
『ヴィゾフニール持ってる奴は人の心がないサイコ』と言われる所以である。
なお、コア破壊前は格納庫への道は隔壁で閉ざされているので行くことはおろか発見もできない。
ちなみに通常ルートだとプレイヤーは元来た入り口から外に出ることになるが、
飛空艇ルートだとヴィゾフニールに搭載されている主砲『咆哮砲(ハウリング・カノン)』で格納庫の壁を破壊し、
そのままヴィゾフニールを発進させて脱出、という流れになる。

通常であればデュカキスの厚意を無にしなければいけないが、 今回はその心配はない。
アニマガーディアンを倒し、コアを破壊したのち速やかに反転。格納庫へ行ってヴィゾフニールを回収、壁を破壊して脱出。
それで、レプリケイトアニマでのクエストは完了だ。

「カザハに単独行動させないで済むのは有難いけど、趣味が悪いっていうのは変わらなかったわね……」

《はっはっはっ! いやぁ、面目ない!
 悪いのは全部運営だからね! 私じゃないからね! ブレモン運営には猛省を促したい!》

《うち、お師さんがそれ言うたらだめや思うわ》

なゆたの嘆息を聞いてバロールが朗らかに笑い、みのりが突っ込みを入れる。
ともかく、カザハの単独行動という事態は回避できた。今はとにかく一丸となって最深部へと突き進むだけだ。
尤も、仮に格納庫が離れた場所にあったとしても、なゆたは単独行動を許可しなかっただろうが――。

173崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/07/17(金) 00:29:35
そうこうしている間にも、敵はわらわらと湧いてきてはなゆたたちの行く手を塞ぐ。
レプリケイトアニマに突入して、すでに三十分ほどが過ぎている。あと三時間半でコアを破壊しなければ、アルフヘイムは終わりだ。
レプリケイトアニマはそれ自体が巨大なドリルであると同時、爆弾でもある。
霊仙楔に到達したレプリケイトアニマは爆発し、その威力でもって霊仙楔を完全に粉砕する。
そうなれば当然、レプリケイトアニマの中にいるなゆたたちも木っ端微塵だ。
制限時間内にコアに辿り着くためには、ブラッドラストの強大な殲滅力が必要不可欠だ。
しかし――

>ガザーヴァ、ちょっと競争しようぜ。あ、俺とお前がじゃなくてね

「んゅ?」

明神の提案に、ガザーヴァは小首をかしげた。
さらに、明神はジョンへ向けて声を張り上げる。

>――ジョン!ブラッドラストを使うなとは言わねえよ。お前が力を受け入れるのなら、お前の選択を否定しない。
 だけど……ブラッドラストなんざ必要ねえんだよ。そんなもんアテ込まなくても、俺たちはフリントに負けねえ。
 そいつを今から証明してやる。俺とガザ公でなぁ!

ブラッドラストは外法だ。
殺人者が殺人の衝動に身を任せることにより、恐るべき力を手に入れる外道の呪詛だ。
そんな人倫に悖る邪法の助けを借りずとも、自分たちはやっていける。勝てる。先へ進める――
それを。証明しようとしている。

>勝負をしようぜ。コアに辿り着くまでに、お前と俺たち、どっちが敵を多く倒せるか。
 お前がブラッドラストに頼るより速く、全部片付けてやるよ

そう言うが早いか、明神は群がるアニマゾルダートの只中へヤマシタ共々突っ込んでいった。

「ちょっ……! 明神さん!」

リーダーのなゆたが止めるいとまもあらばこそ。
明神の指示を受けたヤマシタがシールドバッシュで魔物を弾き飛ばし、明神がすかさず呪霊弾で心臓を射貫く。
無謀にも程がある。今しがた消耗は可能な限り抑えろと言ったばかりなのに、これでは意味がない。
だが――
この、一見無策で無計画な吶喊をしなければならない理由が、明神にはあるのだ。

「きひッ! なんだそれおんもしろそー! 乗ったぜ明神!
 でも勝負になんのかなー? だって、ボクと明神のタッグに敵なんていやしねぇーんだからなァーッ!」

派手好き、楽しいこと好き、そして命を懸けた火事場好きのガザーヴァである。
すぐさま明神の提案に乗った。その全身をたちまち禍々しい靄が包み込み、漆黒の甲冑を形成してゆく。
本気の幻魔将軍モードだ。それからガーゴイルを呼び、鞍に飛び乗ろうとして、ガザーヴァはふとジョンを振り返った。
兜のバイザーを跳ね上げて素顔を覗かせながら、ジョンに対して口を開く。

「ジョンぴー、それさ。そのブラッドラストさ。
 それ見たとき、スッゲェカッコイイなって。ボクも欲しいなーって、羨ましいなーって一瞬思ったんだけどさ。
 すぐ考え直したんだ。やっぱいらねーやって」

にひっ、と白い歯を見せて、ガザーヴァは屈託なく笑う。
人を殺すことがブラッドラスト習得の条件のひとつであるなら、ガザーヴァにも習得の資格がある。
が、幻魔将軍はそれを拒絶した。

「だってさ。それ、悪役のスキルじゃん。わりーヤツが使うヤツじゃん。
 パパみたいな魔王でモノホンの悪党ならともかく、オマエらは違うじゃん。セーギのミカタじゃん。
 なのにオマエ、なんでそんなスキル使って喜んでんだよ?」

ガザーヴァは無邪気に、素直に思ったことを口にする。
その言葉に煽る意図は一切ない。煽り気質が平素から沁みついているという点はさておき。

「カガミ見てみろよ。今のジョンぴー、すっげぇブッサイクな笑顔してんぜ。
 ボクの明神はな、世界を救うセーギのミカタなんだ。
 世界を救うセーギのミカタってのは、眩しいくらいに笑顔がきらきらなヤツって相場が決まってんだよ。
 そんなキッタネェ笑顔じゃ、出来ることだってタカが知れてるぜ」

ふん、と鼻白むと、ガザーヴァはバイザーを下げて身軽にガーゴイルに飛び乗り、馬腹を蹴った。
ガーゴイルが甲高い嘶きを上げて棹立ちになる。バサッ、とその巨翼が一度羽搏く。

「ボクもセーギのミカタになりたい。明神とずっと一緒にいたいから。
 だからさ。それ、もう全然羨ましくねーや! んじゃな!
 ――おらおらァーッ! 明神、ボクを置いていくなよなァーッ!!」

ガザーヴァはガーゴイルに跨り、黒い波動を纏って一気にアニマゾルダートの群れへと飛び込んでいった。
ミサイルさながらの強力無比な突撃(チャージ)に、モンスターたちが苧殻のように吹き飛ぶ。
そうして、明神&ガザーヴァvsジョンのモンスター殲滅戦が始まった。

174崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/07/17(金) 00:34:20
一行の目の前に、両開きの大扉がそびえ立っている。
この扉の向こうがレプリケイトアニマの最深部、コア・ステーションだ。
パーティーは激闘の末、数々のフロアを突破し最後の試練が待ち受ける場所のすぐ手前まで到達していた。

「うひぃ〜……さすがに疲れた……」

兜を脱いだガザーヴァがぱたぱたと右手で顔に風を送っている。
明神とガザーヴァ、ジョンの吶喊によって、前方の敵はあらかた撃破した。帰り道もこれでスムーズに格納庫まで行けるだろう。

「みのりさん、残り時間は?」

《あと30分強ってとこやね〜。
 さ、残すはアニマガーディアンだけや。おきばりやす〜。
 アニマガーディアンの特性はわかってはるやろね? ガーディアンは光属性やから、
 明神さんとガザーヴァちゃんを中心に攻めるのがええやろねぇ》

「うぇ、まーたボク達かよぉ!
 ちょっとは他の連中も働けよなぁー、だろー明神!」

「あはは、お疲れさま。
 そうだね、わたしたちも……ちゃんと役に立たなくちゃ」

「別に、後ろに下がっててくれてもいいんだぞ。
 後は俺がやる……真打登場って所か」

ガザーヴァがベロリと舌を出す。しかし戦闘が始まればすぐに嬉々として飛び出していくのだろう。
結果的に今まで力を温存することになったなゆたとエンバースも、アニマガーディアンとのボス戦は全力で行こうと決意する。
ガザーヴァがポーションをがぶ飲みするのを横目に、なゆたはジョンを見た。

「……ジョン、具合の方はどう? 身体は……痛くない?
 みのりさんの言うとおり、後はアニマガーディアンだけだから。
 ここへ来るまで、ジョンにはたくさん無理させちゃったし。
 あとは休んでて? もしわたしたちが危なくなったら加勢してくれる感じでお願い」

例えジョン本人がブラッドラストを使うことを躊躇わなくなったとしても、こちらは同じ気持ちではいられない。
ジョンの呪いを解きたい気持ちは変わらないし、そのためにできる限り手を尽くしたいと思っている。
それで戦力がダウンしたとしても、それはやむを得ないことだろう。
ブラッドラストというスキル自体がチートのようなものだ。正攻法以外の手段を使って勝つのは、
『スライムマスター』モンデンキントの矜持が許さない。

「じゃ……行こう。
 明神さんもカザハも、エンバースも。準備はいい?
 速攻で片付けるよ――!!」

ぱぁん! と自分の頬を両手で一度叩き、なゆたが気合を入れる。
アニマガーディアンは光属性のゴーレムである。
その外見は、無数の白骨によって構築された身長7メートルほどの骨の巨人。いわゆるボーンゴーレムというものだ。
使用されている骨の種類は人骨のみならず巨人や魔獣など多岐に渡り、
三対の腕にはそれぞれ成人男性の身の丈ほどもある長大な曲刀を握っている。
無数の人間の頭蓋骨が集まり、一個の巨大な頭蓋骨を形成している頭部の眼窩は爛々と輝き、
コアを破壊しようとする侵入者を完膚なきまでに叩きのめす、まさに山場ダンジョンのボスに相応しい強敵である。
高い物理攻撃力、耐物理防御力を誇り、半端に殴ったところでまるでダメージが通らない。
反面やや魔法防御力が低いため、プレイヤー側の攻撃は必然的に魔法が主体となる。

主力攻撃は三対六本の腕に握った曲刀による単体物理攻撃『ジェノサイドスライサー』と、
全身をバラバラに分解させ骨の嵐となって荒れ狂う全体物理攻撃『グレイブヤード・ストーム』。
さらに光属性の魔法も何種類か使用してくる。
特に注意すべきなのは大きく口を開け、魔力を集束させて放つレーザー『白死光(アルブム・ラディウス)』。
魔力のチャージに時間がかかるため対処する猶予はあるものの、喰らえば即死級の威力を秘めた全体魔法攻撃である。

紛れもない強敵ではあるものの、明神やエンバース、なゆたらクリア経験者からすればそう手こずる相手でもないだろう。
エンバースがゆっくりと扉に手をかけ、力を込めて開いてゆく。
扉の向こうの光景が、全員の視界に入ってくる。
そこには紅く輝く巨大な球体アニマコアと、それを守護するように佇むアニマガーディアンの姿が――


……姿が。なかった。

175崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/07/17(金) 00:39:12
「……随分とのんびりした到着だな。
 レプリケイトアニマが霊仙楔まで到達するかと思ったぞ」

体育館ほどの広さの空間、紅く明滅するアニマコアの手前でアニマガーディアンの代わりに佇んでいたのは、
タクティカルスーツに身を包んだロイ・フリントだった。
同じくタクティカルスーツに身を包んだ50匹ばかりのゴブリンたちが、じゃきっ! と一斉にアサルトライフルを構える。
無数の銃口を向けられ、なゆたは緊張に身体を強張らせた。

「俺はそれでも構わなかったがな。
 俺の請け負った仕事は貴様らアルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の殲滅。
 世界の転覆は契約外だが――結果的に貴様らが死ぬのなら、同じことだ」

まるで仮面のように整った冷たい面貌を向け、フリントが淡々と告げる。
ジョン・アデルの親友だった男。ひとりぼっちだったジョンにただひとり手を差し伸べた男。
正義を貴び、悪を挫き、どんなときにも光を見失わなかった男――
ジョンに妹を殺され、その恨みと憎しみから闇に堕ちた男。
一巡目の遺物と化していたレプリケイトアニマを再起動させたのはフリントだった。
イブリースの持つ知識を用いれば、フリントがこの巨大なドリルを動かすのも不可能ではないということらしい。

「フリント……!」

「さて、約束だったな。
 貴様らが呑気に旅している間に、ゴブリンどもの練度も上がった。
 今ならどんな相手でも葬り去ることができるだろうよ。
 貴様らのようにゲームにうつつを抜かしている素人ならば、猶更だ」

フリントはデュエルに付き合う気がない。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』にATBを溜める間など与えない。
フリントがゴブリンに命令し、ゴブリンたちがライフルの引き金を引くだけで、なゆたたちは死ぬのだ。
ジョンがブラッドラストを使ったとしても、一斉射撃からパーティーの全員を守ることは不可能だろう。

「ジョン。死ぬ準備はできたか?
 安心しろ、貴様は俺がこの手で殺す。ゴブリンどもに手出しはさせん。
 このナイフで掻き切ってやろう、貴様の首を――貴様がシェリーにしたようにな。
 そして……あの世でシェリーに詫び続けるがいい」

左肩のナイフホルスターから大振りのコンバットナイフを引き抜くと、フリントはその切っ先をジョンへと向けた。
ゴブリンたちがなゆたや明神、カザハたちを射殺し、最後に残ったジョンをフリントが殺す。
それで何もかもが終わる。アルフヘイムも、ブレイブ&モンスターズも――
……いや。

「……お待ちください」

声は、フリントの背後から聞こえた。
よく通る、涼やかな美声。それをなゆたたちは聞いたことがある。
どころか、つい先日まで身近に聞いていた。
決して忘れ得ぬ、その声の主は――

「あなたは……」

なゆたは驚きに息を呑んだ。
流れるような金色の長髪、整った凛々しい顔立ち。
ローブに手甲足甲を装備し、トネリコの杖を持った美丈夫。
十二階梯の継承者、第四階梯――『聖灰の』マルグリット。

「アルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』よ、またお目にかかれて光栄の至り。
 斯様な少勢でこのダンジョンを踏破するとは、まこと驚嘆する他はありませぬ。
 貴公らこそまことの勇者。まことの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』でございましょう」

マルグリットは隊伍を組んだゴブリンたちを押しのけて前へと出、なゆたたちと向き合った。
お互いの目的と主義主張の違いからアイアントラスで袂を別ち、別々の道を行くことになった青年が目の前にいる。
もちろん、その親衛隊である三人組も一緒だ。
フリントとマルグリットが並んで立っている。その構図の意図するところは、ひとつしかない。

「……なんてこと。
 そう……マルグリット、あなた――ニヴルヘイム側についたのね。
 それもローウェルの指図かしら? わたしたち相手に、大賢者も随分余裕がないじゃない」

「弁解は致しますまい。私は『黎明』の賢兄の指示にてこの場へ赴きました。
 これなるフリント殿と、貴公らの戦いの見届け人となるために」

「見届け人……ね」

なゆたはフン、と一度鼻を鳴らした。
フリントと一緒に襲い掛かってくる気はないようだが、それでもマルグリット達が敵であることに変わりはない。
依然、こちらが窮地であることにはなんの変更もないのだ。

……と、思ったが。

176崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/07/17(金) 00:43:38
フリントが不快げにマルグリットを見遣る。

「……なんだ? 貴様の出る幕じゃない、引っ込んでいろ」

「いいえ。確かに、我らは見届け人として貴公に同行するよう賢兄より仰せつかりましたが――
 敢えて口出しさせて頂く。これでは一方的な虐殺ではありませんか」

「だから?」

「例え敵であろうとも、同等の条件で死力を尽くし戦うのが戦士の礼儀。
 小鬼どもを退けられよ。ここは正々堂々、真っ向勝負で戦うが筋というもの」

マルグリットは何を思ったか、フリントに諌言を始めた。
元々真っ直ぐすぎる気性の青年である。アイアントラスではフリントの起こした虐殺に義憤を感じていたし、
その気持ちは今でも変わっていないのだろう。
しかし、だからといってあっさりと言うことを聞くようなフリントではない。

「筋? ならば、敵が抵抗できない状態で一方的に攻撃しとどめを刺すのが軍隊の筋だ。
 貴様は黙っていろ。子供の遣いまがいの簡単な仕事もできん無能と、兄弟子へ報告されたくなければな」

「……気に入らないわね、フリント。
 マル様はあなたがアルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』に無様にやられないように、
 あなたの保険としてここにいらっしゃるのよ。あなたこそ、郷に入っては郷に従いなさい。
 カードを手繰ることさえできない無能と、雇い主へ報告されたくなければね」

フリントのマルグリットを愚弄するような発言に、さっぴょんが反論する。
マルグリットさえ良ければ後はどうでもいい、というのがマル様親衛隊である。アルフヘイムもニヴルヘイムも関係ない。

「そうッス! ここは自分たちに任せて引っ込んでろッス! このログボ勢のヘボ軍人!」

「こいつらはあーし達の獲物なんだよォ! テメェは手下とサバゲーでもやってな! ヒーハー!」

きなこもち大佐とシェケナベイベもここぞとばかりにさっぴょんに加勢する。
チッ、とフリントは舌打ちした。

「何が望みだ」

「ジョン殿以外のアルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』との戦い、どうか我らにお任せ願いたい。
 貴公の交わした契約は、ただ『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の殲滅のみ。誰が斃したかは問題ではございますまい。
 むろん手柄は貴公にすべて差し上げる。……何卒お願い致します」

マルグリットはなゆたたちがこのまま銃で無抵抗に殺されるよりは、
『異邦の魔物使い(ブレイブ)』としての勇敢な闘いの果てに斃れる方が良かろうと思ったらしい。
だが、フリントは肯わなかった。マルグリットから視線を外すと徐に右手を高く掲げ、

「構え」

と言った。すぐさま、ゴブリンアーミーが片膝立ちでなゆたたち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』に照準を定める。
そして――フリントの掲げた手が今にも下ろされようとしたとき。

「――御免!!」

ぶあッ!!

マルグリットの右の拳閃が、フリントを狙って繰り出された。
フリントがそれを紙一重で半身を引いて躱し、返礼とばかりに強烈な右のハイキックを繰り出す。

「ぐ……!」

胸の前で両腕をクロスさせ、蹴りを防御したマルグリットが大きく後退する。
親衛隊がマルグリットを守るようにフリントとの間に立ち、スマホを構える。

「マル様!」

「大事ありません。
 フリント殿……確かに我らは見届け人。であるがゆえ、闘いの不備を見過ごすことはできかねます」

マルグリットの身体から、サラサラと何かが零れる。
砂のように白い、けれど砂よりももっときめ細かい粉末状の『何か』――

「だったら?」

「――介入させて頂く。
 『異邦の魔物使い(ブレイブ)』には『異邦の魔物使い(ブレイブ)』らしき最期を。それが尊厳ある闘いの姿なれば!」

177崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/07/17(金) 00:52:09
さらさら、さらさら。
マルグリットのローブから零れる白い何かが、その足元に溜まってゆく。

「…………」

フリントが右手を挙げる。が、それはなゆたたちアルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を狙ってのものではない。
ゴブリンアーミーがマルグリットとマル様親衛隊へ銃口を向ける。
一触即発の雰囲気に、なゆたは一瞬背後を振り返って明神やカザハに目配せした。
あちらが始まったら、すぐにこちらも戦闘行動を開始しよう、と。
ATBの概念のないゴブリンアーミーと一戦交えるよりは、同じ『異邦の魔物使い(ブレイブ)』と戦った方が勝機はある。
とはいえ、相手はあのマル様親衛隊だ。特に隊長さっぴょんはなゆたさえ手も足も出ない剛の者である。
だが、それはあくまで地球での話。今闘えばどうなるかはわからない。
すでにポヨリンはなゆたの足許におり、切るべきスペルカードも決まっている。
あとは、戦闘開始と同時に全力でぶつかるだけだ。

だが。

なゆたは失念していた。
この場所へ足を踏み入れたとき、本来いるべきアニマガーディアンは存在せず、代わりにフリントたちがいた。
レプリケイトアニマが再起動した際にトラップやモンスターらがリポップしたというのなら、
アニマガーディアンも当然アニマコアを守護するために存在しているはずである。
だというのに、アニマガーディアンはこの場にいなかった。ならば――
アニマガーディアンは、果たしてどこに行ったのか?

「地の理、水の理、火の理、風の理。万象はなべて容を喪い、灰へと還るものなり。
 四つの理、其を束ねし天の神霊に希(こいねが)い奉る!
 今ぞ大いなる義に依りて万理をさかしまに塗り替え、灰たる者に在りし日の姿を与えん!
 聖灰魔術(キニス・インヴォカティオ)――顕現!!!」

ざざ。
ざ。ざざざざ……

マルグリットの足許に零れ落ちた白い粉がその形状を変え、マルグリットの前方で何かを描いてゆく。
それは、魔法陣。
直径10メートルほどの魔法陣が灰によって構築され、まばゆい光を発して膨大な魔力を生み出す。

「チ……! 撃て!!」

フリントが手を振り下ろす。ゴブリンアーミーが一斉にマルグリットを射撃する。
無数の弾丸がマルグリットめがけて発射される――
だが、マルグリットにアサルトライフルの弾丸が命中することはなかった。
ゴブリンたちの撃った銃弾は、すべて灰の魔法陣から出現した巨大な骸骨――アニマガーディアンの体躯に跳ね返されていた。
マルグリットのユニークスキル『聖灰魔術』。
自分の斃したモンスターの灰を触媒とし、使い魔として召喚し戦わせるという、変則的な召喚術。
アニマガーディアンは確かにリポップしていた。
それをマルグリットは先んじて討伐し、自らの手駒としていたのである。

ガォンッ!!

召喚されたアニマガーディアンが三対の腕で曲刀を振り下ろす。ゴブリンアーミーの何匹かが瞬時に細切れになる。
フリントは歯噛みして後退した。

「ヒィ――――――ハ―――――――ッ!! うんち野郎ォォォォ! 宣言通りバラバラにしてやんよォォォ!!!」

シェケナベイベが狂的な笑みを浮かべながら明神へと突進する。フライングVに酷似したギターを持ったゾンビ、
アニヒレーターが大きく跳躍し、ヤマシタめがけて唐竹割りにギターを振り下ろしてくる。

「明神ッ!」

「残念ね、そうはさせないわ……幻魔将軍。
 私が相手をしてあげる。――この私のミスリル騎士団が、ね。
 いい機会だもの……アコライト外郭を更地にしてくれたお礼、たっぷりしてあげる」

明神の援護に入ろうとしたガザーヴァとガーゴイルの前に、さっぴょんが優雅な所作で立ちはだかる。
さっぴょんの周囲には、既に白銀のチェスピースが幾何学模様の陣形を描いて展開している。
ガザーヴァはこれ見よがしに舌打ちした。

「くそッ! なんだよコイツ、数の暴力じゃん!
 おい、そこのバカ! オマエだよオマエ! ちょっとこっち来い! 力貸せっての!
 この女、速攻でブチのめして明神助けに行くぞ!」

カザハの姿を視界に捉えると、ガザーヴァは心底嫌そうな表情を浮かべながら手招きした。

178崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/07/17(金) 00:55:47
明神&ヤマシタvsシェケナベイベ&アニヒレーター。
カザハ&カケル&ガザーヴァ&ガーゴイルvsさっぴょん&ミスリル騎士団(ミスリルナイト、ルーク、ビショップ、ポーン)。

「ということは……わたしの相手はあなた、ってことみたいですね」

なゆたはスマホを握りしめたまま、緩く前方を見据えた。
その視界の先には、きなこもち大佐が不敵な笑みを浮かべて立っている。

「まさか、こんな異世界で師匠越えができるなんて……夢にも思わなかったッス」

「……わたしは、きなこもちさんを弟子に持った覚えはありませんけど……」

「謙遜ッスね。自分がここまで強くなったのは師匠のお陰ッス。だから、師匠と呼ぶのは当然ッス。
 そして……師匠越えは弟子の義務。地球で果たせなかった宿願、果たさせて頂くッス!
 ――勝負!!」

打倒モンデンキントを宣言すると、きなこもち大佐はすかさずスライムヴァシレウスを差し向けてきた。
ポヨリンがヴァシレウスの突進を迎え撃ち、二匹のスライムが勢いよく激突する。
なゆた&ポヨリンvsきなこもち大佐&スライムヴァシレウス。
三組の対戦カードまでが、これで決まった。

「では、俺は『異邦の魔物使い(ブレイブ)』外の戦いをする連中の相手をするとしよう。
 歯応えがなさすぎる気もするが……な」

エンバースがゴブリンアーミーたちへと疾駆する。
元々エンバースは『異邦の魔物使い(ブレイブ)』殺しの技に長けている。
エンバースが自ら的になってゴブリンアーミーたちを引きつけていれば、なゆたたちも自分の闘いに専念できる。
アニマガーディアンが巨大な顎を開き、身体を前にのめらせてエンバースを威嚇する。

「エンバース殿! 邪魔立て無用!」

マルグリットが叫ぶ。

「ああ、そういえばお前もいたな。お前は多少は歯応えがありそうだ。
 ……すぐに壊れてくれるなよ」

エンバースの罅割れた眼球に、ぼう……と炎が宿る。
黒衣の焼死体は、滑るように巨体の骸骨へと突進していった。
そして――

「予定とはずいぶん違うが……。
 まあいい、最終的な帳尻さえ合うのならな。
 ジョン、俺の手で貴様の息の根を止められるなら、他の誰がどうなろうが構わん」

コンバットナイフを右手に提げたまま、フリントがジョンと対峙する。

「……長かった。
 俺には貴様やシェリーのような才能はなかったのでな……あれから死ぬ思いで身体を鍛えた。
 軍隊に入り、人殺しの技を学んだ。貴様を殺す技を。戦場へ赴き、実戦で己を鍛えもした。
 すべて……すべて、貴様を殺すため。シェリーの仇を取るため。
 俺のこの十数年の時間は、ただそれだけのために費やされたのだ」

シェリーの無念を晴らすため。
救われないその魂に永遠の安らぎを与えるため、フリントはこの場にいる。

「だが、それも今ここで終わる。貴様の死で。
 このままでも充分、貴様を殺すことは可能だと思うが……。
 せっかくだ、貴様には更なる絶望を味わわせてやる。
 見るがいい――」
 
そう言ったフリントの肉体から、赤黒い波動が立ち昇る。
現れたそれはやがて鮮血よりも紅く、闇よりもどす黒い色彩をもってフリントに纏わりついた。
禍々しく邪悪なそれは、見間違えようもない――

「ブラッドラストは貴様の専売特許じゃない。
 さあ、始めよう。貴様の終焉を――ジョン・アデル!」

フリントの構えたコンバットナイフが、凶悪な死の輝きを帯びる。
因縁のふたりの闘いが、今その火蓋を切って落とした。


【レプリケイトアニマ最深部へ到達。
 フリント、マルグリット、マル様親衛隊が乱入。
 明神vsシェケナベイベ、
 カザハ&ガザーヴァvsさっぴょん、
 なゆたvsきなこもち大佐、
 ジョンvsフリント戦闘開始。
 エンバースは雑魚狩り+マルグリットの相手。
 フリント、ブラッドラストを発動】

179ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/07/23(木) 18:25:31

僕は冷たい人間だ。

シェリーの死以降、僕は人の死を悲しんだ事がない。哀れに思う事はあっても
人の事を殺す事だって、たぶんなにも思う事はないと思う。
他人は他人で、それ以上でもそれ以下でもなくて。

災害の時僕は英雄と称えられた。
多くの命を救ったのだと・・・僕のおかげで多くの人が幸せになれたと。
でもそれは・・・実際のところはかなり違くて。

他の人達より多くの人を助けられたのには身体能力だけではない他の理由がある

生きてはいるけど救助が恐らく間に合わない人を誰よりも早く見捨てる事で多くの人を救っただけなのだ。
瓦礫に下敷きになっていて致命傷を負った人に手を差し伸べてもどうせその人は死ぬ。なら最初から助けない。
助からないだろう人間を救助して、応急処置して、安全な場所に連れていく、そして死ぬ。その時間で助かる可能性がある人間何人が助かるだろうか?
僕はその選択が、誰よりも早く、多く選べただけに過ぎない。

見捨てた人達の中には有名人だって子供だって・・・まだ・・・生まれてきていない命もあったけれど。
助からない人間を助ける程僕はいい人じゃないから。

でもあの町でみた家族だけは事情が違った。
他人の家族なんて僕にとってはどうでもいい存在だ。悲しむ必要もないし、供養する必要もない。
でもあの街の惨状は・・・ロイが作り出した物だと思った瞬間・・・僕は口から逆流してくるなにかを止める事はできなかった。

善人という概念を自らで証明するような・・・あのロイがこんな事をした・・・そしてそれは間違いなく僕のせいだという・・・その事実が僕を蝕んだ。

そして苦しんだ末に・・・僕は決めた。
ロイにこんな事をやめさせようって。

もしやめてくれなかったら・・・ロイといっしょに僕のこの世界での旅の終着点をそこにすると。
わかっている・・・その終着点は必ずきて・・・そう遠くないことも。

だから僕はこの力を極めなきゃいけないんだ。次は負けちゃいけない・・・ロイをあのままにして死ぬなんて死んでも死にきれないから。
外法でもなんでもいい・・・僕にとってはこの世界も、元の世界も、なゆ達も今になっては些細なことに過ぎないのだから。

落ちるところまで堕ちよう。
それがきっとこの力を引き出す近道だから・・・。

180ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/07/23(木) 18:25:47
>「受け入れちまうのかよ、その力を……」

「みんなが力を温存するなら僕がこの力で道を開けるのが一番の近道だよ
 僕も結果的にカードを温存できているし、罠だって心配する必要がなくなっただろう?
 効率だけみればこれが一番・・・だろ?」

明神が心配している事はわかる。でももう不要の心配である事もまたたしかで。
長期の旅にどんなデメリットがあるかわからないこの力は、たしかにいかなる理由があっても使うべきではない。
だけど終着点が近い今となっては・・・。

>「バロールさん、ヴィゾフニールの格納庫はどこ?」
>「もし遠回りになるならボク達がヴィゾフニールを回収しにいくよ」
>「ちょっと待てや!お前ダンジョン内の単独行動はマジでヤバいって学校で習わなかったのかよ!」

「たしかにカザハなら最速で取りに行けるかもしれない・・・けど
 僕を襲ったトラップを見ただろう?足が速いだけで突破できるほどバロールの罠は甘くないよ」

バロールのトラップ熟知していて、もし発動したとしても対処できるカザーヴァ。そして僕。
みんなも後先考えずに力を使えば突破できなくはないだろうが・・・なにが起こるかわからないこの状況で強引に突破するのは現実的ではないだろう。

「さて・・・案の定敵もワラワラいるし、見えないだけで罠も満載なんだろう・・・ここも僕に」

>「――ジョン!ブラッドラストを使うなとは言わねえよ。お前が力を受け入れるのなら、お前の選択を否定しない。
 だけど……ブラッドラストなんざ必要ねえんだよ。そんなもんアテ込まなくても、俺たちはフリントに負けねえ。
 そいつを今から証明してやる。俺とガザ公でなぁ!」

「なっ・・・!」

>「勝負をしようぜ。コアに辿り着くまでに、お前と俺たち、どっちが敵を多く倒せるか。
 お前がブラッドラストに頼るより速く、全部片付けてやるよ」
>「きひッ! なんだそれおんもしろそー! 乗ったぜ明神!
 でも勝負になんのかなー? だって、ボクと明神のタッグに敵なんていやしねぇーんだからなァーッ!」

そういいながらカザーヴァと明神は戦闘準備を始める。

「話を聞いてなかったのか?なにが起こるかわからないんだ!力を温存しなきゃいけないんだって!君達が前にでたら意味が」

>「ジョンぴー、それさ。そのブラッドラストさ。
 それ見たとき、スッゲェカッコイイなって。ボクも欲しいなーって、羨ましいなーって一瞬思ったんだけどさ。
 すぐ考え直したんだ。やっぱいらねーやって」

「は・・・?」

>「だってさ。それ、悪役のスキルじゃん。わりーヤツが使うヤツじゃん。
 パパみたいな魔王でモノホンの悪党ならともかく、オマエらは違うじゃん。セーギのミカタじゃん。
 なのにオマエ、なんでそんなスキル使って喜んでんだよ?」

お前がそれを言うな。と口にでそうになったがカザーヴァ口撃はまだ続く。

>「カガミ見てみろよ。今のジョンぴー、すっげぇブッサイクな笑顔してんぜ。
 ボクの明神はな、世界を救うセーギのミカタなんだ。
 世界を救うセーギのミカタってのは、眩しいくらいに笑顔がきらきらなヤツって相場が決まってんだよ。
 そんなキッタネェ笑顔じゃ、出来ることだってタカが知れてるぜ」
>「ボクもセーギのミカタになりたい。明神とずっと一緒にいたいから。
 だからさ。それ、もう全然羨ましくねーや! んじゃな!
 ――おらおらァーッ! 明神、ボクを置いていくなよなァーッ!!」

そう・・・言いたい事だけを言って敵に向かって明神とともに突撃していく。

「僕が・・・悪役・・・そうだ・・・悪役・・・化け物なんだから悪役なのは当然なんだ・・・どんな事になったって僕は・・・」


【私の知っているジョンは・・・そんな化け物みたいな笑顔で笑わない!!】
【カガミ見てみろよ。今のジョンぴー、すっげぇブッサイクな笑顔してんぜ。】

「ぐうう・・・!」

頭が割れるように痛い。
深く考えようとすればするほど・・・頭痛がひどくなる。
あれは熊を殺した僕が怖かったからでた一言で・・・

僕はその場に蹲る。

頭が痛い。割れるように痛い。死にそうなほどに。
どうして?どうしてこんな痛いんだ?

そうだ・・・こんな事を考えてる場合じゃない・・・明神とカザーヴァを追いかけなきゃ・・・。

僕は剣を握り、明神とカザーヴァの後を追った。

181ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/07/23(木) 18:26:04

結果だけを言えば・・・僕VSカザーヴァ明神は明神たちの勝ちだった。

>「うひぃ〜……さすがに疲れた……」

僕が追いつくよりも先に敵を殲滅していた。
いや・・・正確に言えば僕が殴ろうとする奴をカザーヴァが殲滅し、明神をサポート。
そしてサポートされた明神は持ち前の戦い方で敵を殲滅する・・・。

「・・・完敗だ・・・これになんの意味があるのかはわからないが・・・」

自然と僕の体からはブラットラストは消えていた。
敵を定期的に潰さなかったのが原因かそれとも単に冷静になったからなのか・・・。

>「みのりさん、残り時間は?」

《あと30分強ってとこやね〜。
 さ、残すはアニマガーディアンだけや。おきばりやす〜。
 アニマガーディアンの特性はわかってはるやろね? ガーディアンは光属性やから、
 明神さんとガザーヴァちゃんを中心に攻めるのがええやろねぇ》

>「うぇ、まーたボク達かよぉ!
 ちょっとは他の連中も働けよなぁー、だろー明神!」

「ならこんどは僕が」

>「別に、後ろに下がっててくれてもいいんだぞ。
 後は俺がやる……真打登場って所か」

「あ〜・・・」

後方で敵を食い止めていたエンバースも合流し、最終戦を前にやる気十分だ。

>「……ジョン、具合の方はどう? 身体は……痛くない?
 みのりさんの言うとおり、後はアニマガーディアンだけだから。
 ここへ来るまで、ジョンにはたくさん無理させちゃったし。
 あとは休んでて? もしわたしたちが危なくなったら加勢してくれる感じでお願い」

「申し出はありがたいが・・・ロイと僕の力でなゆ達には迷惑をかけっぱなしだ。
 君達の旅に付いていける時間はもう残り少ないだろうけど・・・でも、だからこそ無理をさせてくれ」

なゆもなにかを察したのか諦めた表情を見せる。

>「じゃ……行こう。
 明神さんもカザハも、エンバースも。準備はいい?
 速攻で片付けるよ――!!」

エンバースが扉を開く。そしてそこにいたのは・・・
もちろん純粋なラスボスではなく

>「……随分とのんびりした到着だな。
 レプリケイトアニマが霊仙楔まで到達するかと思ったぞ」

「ロイ・・・」

182ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/07/23(木) 18:26:21
>「俺はそれでも構わなかったがな。
 俺の請け負った仕事は貴様らアルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の殲滅。
 世界の転覆は契約外だが――結果的に貴様らが死ぬのなら、同じことだ」

「なんでそんな事を言うんだ?・・・ロイ、君はそんな奴じゃないだろう?君にそんな悪役のような立ち振る舞いは似合わないよ。だから・・・」

>「フリント……!」

>「さて、約束だったな。
 貴様らが呑気に旅している間に、ゴブリンどもの練度も上がった。
 今ならどんな相手でも葬り去ることができるだろうよ。
 貴様らのようにゲームにうつつを抜かしている素人ならば、猶更だ」

「なあ!ロイ!頼む話を聞いてくれ!なんでこんな事するんだ?誰かに言われたのか?
 なんで僕以外も巻き込むんだ・・・?なあ!ロイ!」

>「ジョン。死ぬ準備はできたか?
 安心しろ、貴様は俺がこの手で殺す。ゴブリンどもに手出しはさせん。
 このナイフで掻き切ってやろう、貴様の首を――貴様がシェリーにしたようにな。
 そして……あの世でシェリーに詫び続けるがいい」

「頼む・・・僕の命は差し出す。好きな風に殺してもらってくれて構わない。だから・・・頼む。もうやめてくれ」

ロイはなにも答えず。ナイフを抜き、僕に見せる。

「・・・わかった」

分っていたさ・・・君がこう答えるなんて・・・
それでも・・・みんなに被害出すのだけは・・・イヤ・・・だったな

>「……お待ちください」
>「……なんてこと。
 そう……マルグリット、あなた――ニヴルヘイム側についたのね。
 それもローウェルの指図かしら? わたしたち相手に、大賢者も随分余裕がないじゃない」

「・・・邪魔をするならロイより先にお前らを始末するだけだ」

>「弁解は致しますまい。私は『黎明』の賢兄の指示にてこの場へ赴きました。
 これなるフリント殿と、貴公らの戦いの見届け人となるために」
>「見届け人……ね」

見届け人だろうがなんだろうが知ったことだじゃない。
重要なのはこいつが敵なはずなのに、ロイの攻撃をやめさせた事だ。

>「例え敵であろうとも、同等の条件で死力を尽くし戦うのが戦士の礼儀。
 小鬼どもを退けられよ。ここは正々堂々、真っ向勝負で戦うが筋というもの」
>「筋? ならば、敵が抵抗できない状態で一方的に攻撃しとどめを刺すのが軍隊の筋だ。
 貴様は黙っていろ。子供の遣いまがいの簡単な仕事もできん無能と、兄弟子へ報告されたくなければな」
>「……気に入らないわね、フリント。
 マル様はあなたがアルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』に無様にやられないように、
 あなたの保険としてここにいらっしゃるのよ。あなたこそ、郷に入っては郷に従いなさい。
 カードを手繰ることさえできない無能と、雇い主へ報告されたくなければね」

気になる事だらけだ。マルグリットはなにをそんなに固執しているのかがさっぱりわからない。
敵と正々堂々?したい奴だけしてろよっていうのは・・・悪いが同意見だ。
だがこの時間のおかげでケガ人が出ず、なゆ達はゲージも貯められている。

>「……気に入らないわね、フリント。
 マル様はあなたがアルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』に無様にやられないように、
 あなたの保険としてここにいらっしゃるのよ。あなたこそ、郷に入っては郷に従いなさい。
 カードを手繰ることさえできない無能と、雇い主へ報告されたくなければね」

雇い主・・・?ロイになにかを吹き込んだ奴がいる?
たしかに・・・この場所にいる事だって誰かがロイに入知恵をしなければこれないだろう・・・それに
ロイが自力でこの世界に到達したとは到底思いにくい・・・そしてあの虐殺・・・。

183ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/07/23(木) 18:26:45
>「構え」

「・・・えっ」

>「――御免!!」

少し考え込んだ間になぜかマルグリットとロイは敵対していた。
二人ともなかよくここで僕達を待っていたんじゃないのか?

「悪いが僕は・・・ロイとの勝負を邪魔されるわけにはいかない・・・!」

直ぐにスキルを発動し破城剣を持ち、マルグリットに切りかかる。

>「――介入させて頂く。
 『異邦の魔物使い(ブレイブ)』には『異邦の魔物使い(ブレイブ)』らしき最期を。それが尊厳ある闘いの姿なれば!」

「悪いが尊厳のある戦いとやらはお前らだけでやってろマルグリット!!」

>「地の理、水の理、火の理、風の理。万象はなべて容を喪い、灰へと還るものなり。
 四つの理、其を束ねし天の神霊に希(こいねが)い奉る!
 今ぞ大いなる義に依りて万理をさかしまに塗り替え、灰たる者に在りし日の姿を与えん!
 聖灰魔術(キニス・インヴォカティオ)――顕現!!!」
>「チ……! 撃て!!」

目の前に巨大な骸骨が現れる。
その骸骨はロイのゴブリンの放つ銃弾を防ぎ、そしてゴブリン達を勢いよく薙ぎ払う。

「死者は・・・死者のまま眠っていろ!」

召喚されたガイコツに思いっきり斬りかかる・・・が。
曲刀に攻撃をあっさりといなされ、逆にカウンターで吹き飛ばされる。

「チッ・・・!」

マルグリットの出したモンスターだ。
弱いなんて思っていたわけじゃないが・・・予想以上にできる奴らしい。
体制を立て直し・・・再び切りかかろうとした瞬間。

「ジョン」

背後から声が聞こえた。

184ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/07/23(木) 18:27:09

>「予定とはずいぶん違うが……。
 まあいい、最終的な帳尻さえ合うのならな。
 ジョン、俺の手で貴様の息の根を止められるなら、他の誰がどうなろうが構わん」

「・・・ああ・・・たしかにそうだね」

マルグリットが召喚した巨大なガイコツは襲い掛かられたから反撃しただけで
追撃をしてくるようなそぶりはない。それどころかわざと距離を取りどうぞやってくれと言ってるようにも見える。
マルグリットの命令通りに動いてるだけなのか・・・最初から眼中にないのか。

そんな事はどうだっていい

>「……長かった。
 俺には貴様やシェリーのような才能はなかったのでな……あれから死ぬ思いで身体を鍛えた。
 軍隊に入り、人殺しの技を学んだ。貴様を殺す技を。戦場へ赴き、実戦で己を鍛えもした。
 すべて……すべて、貴様を殺すため。シェリーの仇を取るため。
 俺のこの十数年の時間は、ただそれだけのために費やされたのだ」

「・・・うん」

>「だが、それも今ここで終わる。貴様の死で。
 このままでも充分、貴様を殺すことは可能だと思うが……。

「ごめんねロイ・・・正直言えば、あの時手加減してたんだ。もちろん、最初の蹴りは本気だったよ
 でもね・・・それ以降は相手を殺さないように手加減してた」

手加減という表現は少し正確ではない。
相手を殺さない・・・つまり病院送りにするぐらいの気持ちで戦う全力と。
相手を殺す・・・つまり最初から殺意全開で戦う全力。

そこに手加減は存在しなかったが、結果的に手を抜く形になる。という話だ

「それに・・・僕にはブラッドラストがある。あの時は使わなかったけれど・・・でも僕の状況なら君も把握してるはずだ
 ゴブリンとセットで来る君を・・・間違いなく持っているであろう切り札を・・・その為にこの力を強化したけれど・・・今は」

周りを見渡してもゴブリン達は阿鼻叫喚の地獄絵図だ。
命令を下してもちゃんと戦えるゴブリンがどれだけいるか・・・。

「才能のない凡人は、1%の才能を持ちそれを磨き続ける天才には勝てない」

これはシェリーの口癖だった言葉だ。1%も才能を持っていないものはどれだけ努力しても次にはいけず、同じところを回り続ける。
一見人を馬鹿にしたような言葉にとられるかもしれない。けど僕はこの言葉は優しさがある言葉だと思う。

才能ない者がどれだけがんばっても報われない。けど早く諦めて次にいけばそこでは才能が見つかるかもしれない。
シェリーは才能が無駄な事で捨てられていく事を一番嫌っていた。その優しさからでる言葉だと。・・・ちょっと言い方はきつかったが。

「なあ・・・頼む。僕の命だけで済ませてくれないか?どんな殺し方をしてくれっても構わない
 だから・・・こんな蛮行はもう二度としないでほしんだ。だから・・・」

>せっかくだ、貴様には更なる絶望を味わわせてやる。見るがいい――」

「なっ・・・それは・・・!」

なにも不思議ではない。
ゴブリンにあんな大量虐殺を命令できたのだから。自分だって幾らか殺してるに決まってる。

「なんて事だ・・・あのロイが・・・ロイが・・・」

>「ブラッドラストは貴様の専売特許じゃない。
 さあ、始めよう。貴様の終焉を――ジョン・アデル!」

185ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/07/23(木) 18:27:24

「だめだ・・・君は・・・そんな物に頼っちゃだめだ!ロイ!」

ロイの攻撃を間一髪でよけつつ、呼びかける。

「うぅ・・・うう・・・どうして・・・どうしてなんだよ・・・」

僕は彼女の願いを聞き届けただけだ。それはだれからみてもとっても悪い事なのかもしれない。
それでも・・・親友を・・・シェリーの兄が殺人鬼になって・・・自分に襲い掛かってくる?
なぜこんな目に合わなきゃいけないのだろう。なんで・・・あの時大人達は僕をさばいてくれなかったのだろう。

「くうっ」

ロイの攻撃が確実に僕の皮膚引き裂いていく。
このままいけばそう遠くないうちにナイフは僕の体を捉え、深く刺さる事になる。

覚悟を・・・決めなきゃ。終わらせるって・・・決めたんだから・・・!

「わかった・・・僕も・・・覚悟を決めたよロイ・・・ハッ!」

覚悟を決め、スキルを発動。そして素早くナイフを抜きロイに切りかかる。
斬って斬られて、殴って殴られて、蹴って蹴られて、お互いの肌に傷をつけながら、それでいてお互い致命傷は負わない。
並みのモンスターでは近寄る事さえできない激戦が繰り広げられ、素人目には互角の戦いのように見えるだろう。

しかし・・・確実に押されていたのは僕のほうだった。

「ハアッ・・・ハアッ・・・素の力は圧倒的に僕のほうが強いはずなのに・・・」

ロイのほうが圧倒的にうまく、ブラッドラストを使いこなしている。
僕だってこの力を引き出すためにできる限りの事はしたはずだ・・・それでも・・・届かない。
少しずつ、確実に、ロイのナイフは僕の体を捉えつつあった。

「はあああ!」

そしてその時は遂に訪れた。

焦った僕が繰り出してしまった右手の大振りの攻撃。
ロイはそれをひらりと避け、目にもとまらぬ速さで

「う、うわあああああああああああああああああああああ!!!!」

部屋に僕の悲鳴がこだまする。戦闘音で満たされた部屋でも聞こえるような大声で。

そしてその声に気付き、振り返った者は驚愕・悲鳴・その他色んな声を上げる事になる。

「僕の・・・僕の右腕がっ・・・」

切断された、ジョンアデルの右腕を見て。

186ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/07/23(木) 18:27:37

痛い。痛い。痛い。

僕の思考は完全にそれだけで埋め尽くされていた。僕の視界に、綺麗に切断された右腕が移っている事で、さらにその痛みは現実として反映された。

「あぁ・・・ぁぁ・・・」

生まれて初めての痛みに、僕はただうめき声を上げる事しかできなかった。
右腕を抑えている左手の隙間から止めどなく流れる血が辺りを染めていった。

熊に半殺しにされた時も、ヒュドラに半殺しにされた時も、死ぬほど痛かった。でもその時は五体満足だった。
痛みはその時よりマシかもしれない・・・でも右腕はもう帰ってこない。でも・・・

「痛い・・・痛いんだ・・・すごく・・・でも痛みがわかるって事は・・・僕はまだ生きているんだ」

僕の中で何かが治ったような気がした。

「父さんが言ってたんだ・・・生きてればやり直せるって・・・多少みっともなくても死ぬよりマシだって・・・」

自分の本当の気持ちは自分でもわからない時がある。だれかに言われた言葉だった気がする。
その時は自分の気持ちを自分が知ってないなんてありえないなんて笑い飛ばした。

「ふふっ・・・フフフ!」

僕はずっとこのブラッドラストの事を呪いだと思っていた。
自分の身を犠牲にして力を得て、最後には自分の意志に関係なく怪物と化して堕ちるか、それとも自ら命を絶つ事になる呪い。
人を殺めてしまった者に課せられる罰のような物だと。

でも実際は違って。

「えへへ・・・僕まだ生きてるんだあ」

この力は願う者に悪魔から贈られる祝福なのだ。
人を殺めて、それでも叶えたい願いがある者に与えられる。

ロイは復讐を願った。自分よりも高みにいる僕を殺すために願った。渇望した。だから力を手に入れた。

「僕はやっと気づいたんだ。いやあえて知らないフリをしてたのかも。
 もしくは誰かにそう仕向けられていたのかも・・・ま、もうどうでもいい事だけど」

なら僕は?

「僕は・・・殺し合いが好きなんだ。命と命の奪い合いが・・・真剣勝負の果てに勝利がほしいんだ
 この世界に来なければ一生気づかなかったかもしれない!英雄なんて肩書はいらない!僕はただ戦いたいだけだったんだ!」

その為に悪魔が僕に力をくれたんだ!この世界でも戦えるように!

「あぁ・・・この世界にきてよかった!」

誰よりも純粋で、真っすぐな笑顔で僕はそう言い放った。

187ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/07/23(木) 18:27:54

「どうした!ロイ!僕の腕を切り落とした時のようなキレがないぞ!」

形成は完全に逆転していた。

右腕がないというハンデを背負ってなお、それ以上のパワーで僕はロイを圧倒していた。
力が増す度に、僕の体からさらに強く、濃く死のオーラを纏う。
そのオーラは見るだけで人を不快にさせ、触れた者から生きる気力を奪う。

「君にはこの力を扱う才能がないよ・・・ロイ・・・君は根が善人過ぎるんだ」

今ならわかる。この力を最大限に引き出す為には自分に素直にならなければいけない。
でも、きっとロイは根は真面目だから・・・僕のように狂人ではないから・・・この力を今以上に扱う事はできない。

「フフ・・・ハハハハハハ!アアハハハハ!」

「そうだ・・・ロイ。見せてあげよう・・・本当の絶望を」

力が腕としての機能を失ってしまった右腕に集中する。
そして右腕の切断面がまるで沸騰したかのようにブクブクと音を立てる。徐々に・・・右腕からなにかが生えてくる

「ウグウ!ウウウウウウ!」

肉の枝のようなものが腕から生え、それらが合わさり形を作っていく・・・。
あっという間。時間にしてみればわずか10秒にも満たない間に人間の腕ではなく・・・熊の腕が完成していた。

「さっきね・・・カザハに言われたんだ・・・このままじゃ君は殺戮の化け物になるって」

今度は力が体全体を包み、体全体から出血を始める。出血しているのとは実際は違う。体が傷がついてないが血のような物は汗のように体から流れている。
そしてその血が体全体を覆うと沸騰したかのようにうごめく。

「その時はなにかの冗談だと思って聞き流したよ。だって僕は人間だ。化け物と呼ばれた事はあっても実際はただの人間・・・だと思ってた」

血の中からでてきたジョン・アデルは・・・ブレモンプレイヤーなら察せるであろう弱点である首を除き、体を覆う頑強な鱗に包まれ
右手にはロイの着ているタクティカルスーツなど紙切れのように扱えるほど鋭い爪とパワーを持った巨大な熊の腕。
そしてそれらを支える2m近い身長を誇るジョン・アデルという男が持っている屈強な肉体。

「カザハがいう事が事実なら・・・おそらくブラッドラストの成れの果ての姿というのは
 殺した相手を取り込んで、取り込んで、力を重視するあまり人間である事を放棄した人間なのだろう」

バロールが言うにはブラッドラストの最後は必ず鮮血にまみれているという。
自殺する者。無理な突撃を繰り返して戦死する者。乱心する者。
最終的に血にまみれて死ぬことを強要される呪いだと。

「・・・人間はいくら力が欲しいと思っても、人間をやめてまで力が欲しい奴はいないって事だったんだだろうね
 みんな化け物になる前に・・・自分が人間じゃなくなる前に、死ぬ為に自殺・戦死をしようと思ったに違いない
 まあ単純に変化に体がついていかなかっただけの可能性もあるけど・・・まっどっちでもいっか・・・関係ないし」

今までとは比較にならない力を感じる。

「ロイ・・・僕は・・・本当はね、君が言う才能は最初はなかったんだ・・・たしかにシェリーから体の出来に関しては太鼓判を押されてた。
 でもいざ体を使う事に関しては僕は1%の才能すら持ち合わせてなかったんだ」

熊の手はジョンアデルが最初に殺した獲物だ。そしてこの鱗の持ち主のヒュドラは3番目。

「シェリーを殺したあの日から・・・僕はまるで別人のように自分の体を使いこなせるようになった・・・意味、わかるだろ?」

2番目のシェリーの人類最高峰の類まれなる才能。
そしてそれらを維持するだけに値する僕の鍛え上げられた肉体。

「さあ・・・もっと戦おうロイ。殺し合いをしよう。人間と化け物の戦いを・・・!
 安心しろ。君を殺した後に君を唆した奴を必ず見つけ出して、生まれてきたことすらも後悔させるような死を与えてやる・・・!」

辛くなんてない。悲しくなんてない。苦しくなんてない。
僕は最強の力を手に入れたんだ。本当に化け物になってしまっても。
この世界に来てから受けた優しさを全て無にしても。出会いを全部無にしても

僕は化け物になったんだからこれでいいんだ。この世界のどの存在とも対等に僕自身が戦える力を得た。もうブレイブなんて肩書だって必要ない。部長も。
なゆにだって明神にだってカザハにだってエンバースにだって、みのりにだって。あのカザーヴァでさえも、決着はどうであれ、戦える力を得たのだ。
これで・・・なにも考えず・・・快楽を。この衝動に身を任せればいい。それでいいはずなんだ・・・それで・・・

僕の本当の心はそれを望んでいるはずなんだ。

「・・・・・・・死にたくなければ化け物になった僕を殺してみろ!!!」

188カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/07/30(木) 23:41:12
>「ちょっと待てや!お前ダンジョン内の単独行動はマジでヤバいって学校で習わなかったのかよ!」
>「たしかにカザハなら最速で取りに行けるかもしれない・・・けど
 僕を襲ったトラップを見ただろう?足が速いだけで突破できるほどバロールの罠は甘くないよ」

当然のごとく、私達のお使いは皆に止められたが、皆の心配は杞憂に終わった。

>《ああ、それについては心配無用だ。
 格納庫はコアを破壊した後、レプリケイトアニマを脱出する途中にある。
 君たちはまずアニマガーディアンの撃破に集中してくれればいいよ。》

「意外と親切設計だった――ッ!?」

それならもっと多くの人がヴィゾフニールを持っていてもおかしくなさそうだが、所持している人は滅多にいないそう。
これは絶対何かありますね……。

>《場所はね――》

感動的なシーンでNPCが左に行けというところを右に行かないといけないらしい。

>「カザハに単独行動させないで済むのは有難いけど、趣味が悪いっていうのは変わらなかったわね……」

>《はっはっはっ! いやぁ、面目ない!
 悪いのは全部運営だからね! 私じゃないからね! ブレモン運営には猛省を促したい!》
>《うち、お師さんがそれ言うたらだめや思うわ》

出ました魔王ジョーク!
多分この世界の1巡目を模して作られたのがゲームのブレモンだから……それ、因果関係が逆ですよね!?
なゆたハウスの存在など、それだけでは説明が付かない点もあるのだが。
……あれ? ジョークと見せかけた真実だったらどうしましょう。
現実の1巡目においても”運営”にあたる黒幕が実際に存在して裏で糸を引いていたとしたら……。
……考え始めると訳が分からなくなるからやめましょう。

>「ガザーヴァ、ちょっと競争しようぜ。あ、俺とお前がじゃなくてね」
>「――ジョン!ブラッドラストを使うなとは言わねえよ。お前が力を受け入れるのなら、お前の選択を否定しない。
 だけど……ブラッドラストなんざ必要ねえんだよ。そんなもんアテ込まなくても、俺たちはフリントに負けねえ。
 そいつを今から証明してやる。俺とガザ公でなぁ!」
>「勝負をしようぜ。コアに辿り着くまでに、お前と俺たち、どっちが敵を多く倒せるか。
 お前がブラッドラストに頼るより速く、全部片付けてやるよ」

>「話を聞いてなかったのか?なにが起こるかわからないんだ!力を温存しなきゃいけないんだって!君達が前にでたら意味が」
>「ちょっ……! 明神さん!」
「明神さん、君本体が突撃していいタイプのキャラじゃないでしょ!?」

今度は明神さんが突撃すると言い始め総ツッコミをくらったが、当然聞くはずはない。
それにしてもジョン君はブラッドラストの影響下の尋常ではない好戦的な様子とは裏腹に妙に冷静なのが逆に不気味だ。
何かとんでもない事が進行しているような気がする……。

189カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/07/30(木) 23:47:14
>「だってさ。それ、悪役のスキルじゃん。わりーヤツが使うヤツじゃん。
 パパみたいな魔王でモノホンの悪党ならともかく、オマエらは違うじゃん。セーギのミカタじゃん。
 なのにオマエ、なんでそんなスキル使って喜んでんだよ?」

ガザーヴァがジョン君にナチュラルに煽りをかます。
が、彼女なりにジョン君を説得しようとしているようにも思えた。

>「ボクもセーギのミカタになりたい。明神とずっと一緒にいたいから。
 だからさ。それ、もう全然羨ましくねーや! んじゃな!
 ――おらおらァーッ! 明神、ボクを置いていくなよなァーッ!!」

どさくさに紛れて惚気ですか!?
カザハが遠い昔に失った何かを見るような暖かい目で見てますけど……。
生暖かい目の間違いではないかとか言っては駄目。

>「僕が・・・悪役・・・そうだ・・・悪役・・・化け物なんだから悪役なのは当然なんだ・・・どんな事になったって僕は・・・」
>「ぐうう・・・!」

頭を抱えて蹲るジョン君にカザハは慌てて駆け寄る。

「ジョン君!? もう休んでなよ。カケルに乗る?」

が、ジョン君はその声が聞こえなかったかのように、再び前線へと突撃していく。

「あ、待って……!」

伸ばしたカザハの手は空を切った。
そのまま明神さん&ガザーヴァとジョン君が敵をなぎ倒すこととなり、
結果的に私達含むその他のメンバーは驚き役もとい温存組となった。
やがて、最深部までたどり着く。
明神さん達の特攻が功を奏しジョン君からひとまずブラッドラストのオーラは消えているが……。
妙な冷静さはそのままで、嫌な予感は消えない。まるで嵐の前の静けさのような……。

>「・・・完敗だ・・・これになんの意味があるのかはわからないが・・・」

「それ、本気で言ってる?」

カザハ、ちょっと怒ってます?

>「うぇ、まーたボク達かよぉ!
 ちょっとは他の連中も働けよなぁー、だろー明神!」

「サーセーン!」

>「ならこんどは僕が」

「アンタ働いてた側の人間やん!!」

コントのようなやりとりを素でやっている。
問題はジョン君がわざとボケているわけではなく大真面目だということだ。
そんなジョン君を、なゆたちゃんがもう戦わないようにやんわりと諭す。

>「……ジョン、具合の方はどう? 身体は……痛くない?
 みのりさんの言うとおり、後はアニマガーディアンだけだから。
 ここへ来るまで、ジョンにはたくさん無理させちゃったし。
 あとは休んでて? もしわたしたちが危なくなったら加勢してくれる感じでお願い」

190カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/07/30(木) 23:49:12
>「申し出はありがたいが・・・ロイと僕の力でなゆ達には迷惑をかけっぱなしだ。
 君達の旅に付いていける時間はもう残り少ないだろうけど・・・でも、だからこそ無理をさせてくれ」

妙な冷静さは自らの破滅を悟っているがゆえだったのか――ついに決定的な発言が出てしまった。
突然、パァン!と無駄にいい音が響く。カザハがジョン君にビンタをキメていた。

「この分からず屋!!」

《カザハ!?》

モンスターが人間に手を上げたらあかんでしょ!
まあ……「親父にも殴られたことないのに!」の人と違って幼少期より激しい訓練を積んできたジョン君にとっては
虫がとまったようなものだと思われるのでその点はあまり心配しなくていいでしょうが。

「なんの意味があるかって!? 君がブラッドラストを使わなくてもいいようにするため!
君と最後まで旅がしたいからに決まってるじゃん!
なゆがここに来るのを決めたのだってそう! 一刻も早くエーデルグーデに連れていくため!
君はいざとなったら死ねばいい位に思ってるのかもしれないけどそんな都合のいいものじゃないんだから!」

バロールさんの話によると、ブラッドラストに侵された者は例外なく悲惨な最期を迎えるらしいが……
起こり得るそれより都合の悪い結末とはどういうことだろうか。

「思い出したよ。
今は消え去った時間軸でブラッドラストに侵された者の成れの果てと戦ったことがある……。
そいつは生き物を殺せば殺すほど強くなっていくんだ。
その時はたまたま勝てたけどもし負けてたら……
そいつは誰の手にも負えないところまで強くなり続けて最後には世界を滅ぼしていたかもしれない。
もしそうなったら誰にも止められないんだからね!?」

これは……ジョン君を思いとどまらせるためのハッタリ? それとも真実?
1巡目でもそれで世界が滅びてはいないので、当然今のところそのような前例はないと考えられる。
が、今後も絶対起こらないとは言い切れない。
今までにブラッドラストに侵されて暴走コースに入った者が、たまたま運よく全例討伐されてきただけという可能性もあるのだ。
というか真実だとしたらよくそんなのに勝てましたね1巡目の私達……。

「……だからお願い、そんなこと言わないで」

もうどんなに情に訴えても届かない。
だから、ジョン君自身が世界を滅ぼしてしまうかもしれないというとんでもない実害の可能性を持ち出したのだ。
それが虚にせよ実にせよ。

>「じゃ……行こう。
 明神さんもカザハも、エンバースも。準備はいい?
 速攻で片付けるよ――!!」

>「……随分とのんびりした到着だな。
 レプリケイトアニマが霊仙楔まで到達するかと思ったぞ」

191カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/07/30(木) 23:50:20
「一番出てきちゃあかん奴出てきた――ッ!!」

入った瞬間にゴブリンに取り囲まれていて一斉に銃口を向けられた。
何ですかねこの身も蓋もない感じ……。

>「俺はそれでも構わなかったがな。
 俺の請け負った仕事は貴様らアルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の殲滅。
 世界の転覆は契約外だが――結果的に貴様らが死ぬのなら、同じことだ」

ん? なら巨大ドリル起動させたのはなんのため?
まさか……ジョン君をおびきよせてここで待ち伏せするためだけに巨大ドリルを起動させたんですか!?

>「ジョン。死ぬ準備はできたか?
 安心しろ、貴様は俺がこの手で殺す。ゴブリンどもに手出しはさせん。
 このナイフで掻き切ってやろう、貴様の首を――貴様がシェリーにしたようにな。
 そして……あの世でシェリーに詫び続けるがいい」

>「……お待ちください」

これはこれはマル様、どうしてここに? ついでに親衛隊もいる。
よく分からないけどとりあえず一斉射撃止めてくれてありがとう。

>「アルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』よ、またお目にかかれて光栄の至り。
 斯様な少勢でこのダンジョンを踏破するとは、まこと驚嘆する他はありませぬ。
 貴公らこそまことの勇者。まことの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』でございましょう」

>「……なんてこと。
 そう……マルグリット、あなた――ニヴルヘイム側についたのね。
 それもローウェルの指図かしら? わたしたち相手に、大賢者も随分余裕がないじゃない」

ここで一緒に待ってたということは何らかの形でつるんでるんでしょうね……。
もう裏繋がりどころか普通に同盟関係じゃないですか!?
と思っているとマル様(とその取り巻き)とフリントがなんだかんだと仲間割れ(?)し始めた。
なんか知らないけどとりあえずゲージ溜まる時間稼いでくれてありがとう。
いや、冷静に考えると敵が増えただけでは!? あんまりありがたくない気がする!
でもゴブリンアーミーの一斉射撃止めてくれなかったら開幕と同時に終わってたからやっぱ有難いのか?

>「ヒィ――――――ハ―――――――ッ!! うんち野郎ォォォォ! 宣言通りバラバラにしてやんよォォォ!!!」

アニヒレーターがヤマシタさんめがけてギターを振り下ろしてくる。
ダイレクトアタックじゃなかったのがせめてもの救いだ。

>「明神ッ!」

>「残念ね、そうはさせないわ……幻魔将軍。
 私が相手をしてあげる。――この私のミスリル騎士団が、ね。
 いい機会だもの……アコライト外郭を更地にしてくれたお礼、たっぷりしてあげる」

明神さんの加勢に入ろうとするガザーヴァの前に、さっぴょんが立ちはだかる。
ガザーヴァは断トツで強いので余裕かと思いきや、そうでもない。
というのも皆さんご存じの通り、ガザーヴァ、誰かさん達のせいで(棒)本編途中退場なんですよ。
とはいっても退場したのは割と終盤で複数人でボコってやっと倒せるバランスなので
並大抵のブレイブには負けないとは思いますが……さっぴょんだしなぁ……。

192カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/07/30(木) 23:51:31
>「くそッ! なんだよコイツ、数の暴力じゃん!
 おい、そこのバカ! オマエだよオマエ! ちょっとこっち来い! 力貸せっての!
 この女、速攻でブチのめして明神助けに行くぞ!」

「えっ!?」

ナチュラルに驚いてるし!
さては驚き役になりかけてましたね!? かくいう私は解説役になりかけてました。
でもカザハが驚くのも無理はない。
黙ったら息が出来なくて死ぬ説があるガザーヴァが道中で殆ど話しかけてこなかったんだもの。

「ボクに頼みごとをするなんて殊勝になったじゃん……!」

これは頼み事というより命令な気がする……。
でも、どうして私達なんでしょう。助力を求めるならトッププレイヤーのなゆたちゃんの方が余程強いはず。
システム上パートナー扱いだったアジ・ダハーカの時とは違って、完璧な連携が出来る保証もない。
というか私達、よく毎度超レイド級に突っ込んで生きてますよね……。
その時の共通点といえば2回ともレイド級モンスターと組んでいたこと。
何か未実装の隠し要素でもあるんですかね……。

「コイツの戦術はチェスの戦術なんだって。つまりターン制が大前提にある……!」

パートナーモンスターではないためATBに縛られないガザーヴァと、ブレイブとして立ち回りつつも本体も多少戦えるカザハ。
相手目線で見ると厄介な相手を選んでしまったと言えるのかもしれません。

「俊足《ヘイスト》」

ただでさえ素早くてゲーム内では1ターン2回行動で表現されていたガザーヴァにヘイストかけるとか
相手から見ればもう嫌がらせ以外の何物でもない。

《気付かれないようにそいつらを少しずつ本体から引き離して!》

《ウィンドボイス》を使ってガザーヴァに秘密のメッセージを送る。
相手はブレモンプレイヤーなのでガザーヴァの戦略は知っているが、カザハの手札は当然知らない。
それを利用して奇襲をかける作戦だろう。
具体的にはガザーヴァがチェスの駒を引き離した隙に瞬間移動《ブリンク》で本体にチェックメイトするつもりですか!?
純粋に本体自体を比べると一般人の向こうはモンスターのカザハには敵わず、不意打ちに成功すれば無力化できるかもしれない。
チェスで1ターン複数回行動とか瞬間移動とか反則以前の問題ですね!

「風精王の被造物《エアリアルウェポン》」

カザハが作り出したのは銃――風の魔力でできた銃なので魔導銃といったところか。
あらゆる武防具を生成できる、とはいってもこの世界に無いものまで出来るのでしょうか。
もしかしたら銃が地球から持ち込まれたことで、作れる武器リストに加わったのかもしれない。
カザハは後方から魔力弾を連射するが、当然ながらガザーヴァに当たることはない。
魔力で出来た銃ということで撃ち出すのも物理的な弾丸ではなく風の魔力弾なので、軌道操作も可能というわけだ。
一方では、マル様達の介入を許した、というより諦めたフリントが、ジョン君に狙いを定め、
ついに二人の因縁の対決が始まっていた。

193カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/07/30(木) 23:52:36
>「う、うわあああああああああああああああああああああ!!!!」

同時進行で複数の対戦が繰り広げられる中、突然、ジョン君の尋常ではない絶叫が響いた、
それぞれ交戦中にも拘わらず皆が思わず注目する、それぐらいの絶叫だ。

>「僕の・・・僕の右腕がっ・・・」

「あ……」

右腕ポロリの惨状に、戦闘中だということも忘れて驚愕する。
それだけでも一大事だが、それをきっかけにジョン君はいよいよおかしくなってしまった。

>「僕は・・・殺し合いが好きなんだ。命と命の奪い合いが・・・真剣勝負の果てに勝利がほしいんだ
 この世界に来なければ一生気づかなかったかもしれない!英雄なんて肩書はいらない!僕はただ戦いたいだけだったんだ!」
>「あぁ・・・この世界にきてよかった!」

ジョン君は腕が一本無くなって弱体化するどころか、尋常ならざる力でロイを圧倒し始めた。
切断された右腕の場所に、熊の腕が生成され、頑強な鱗に包まれた異様な姿となる。
“終焉”の名を持つ魔獣がここに顕現した――

>「さっきね・・・カザハに言われたんだ・・・このままじゃ君は殺戮の化け物になるって」
>「その時はなにかの冗談だと思って聞き流したよ。だって僕は人間だ。化け物と呼ばれた事はあっても実際はただの人間・・・だと思ってた」
>「カザハがいう事が事実なら・・・おそらくブラッドラストの成れの果ての姿というのは
 殺した相手を取り込んで、取り込んで、力を重視するあまり人間である事を放棄した人間なのだろう」

「信じる気になったならもうやめて!」

このままいけば、ジョン君がロイを屠るのはすぐだろう。
そうなればジョン君はロイの力をも取り込み、力と引き換えにまた正気を失う――
その時点で完全なる化け物になり、敵味方の区別もつかずに無差別に襲い掛かるようになるかもしれない。

>「さあ・・・もっと戦おうロイ。殺し合いをしよう。人間と化け物の戦いを・・・!
 安心しろ。君を殺した後に君を唆した奴を必ず見つけ出して、生まれてきたことすらも後悔させるような死を与えてやる・・・!」

カザハは声を張り上げて叫んだ。

「みんな聞いて! そいつをジョン君に殺させたらいけない! これ以上殺せば手に負えなくなる!
そうなったら侵食以前に世界が終わってしまうかもしれない……!
ブラッドラスト同士の対決なんて……まるで蟲毒じゃないか!!」

194カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/07/30(木) 23:53:42
蟲毒――たくさんの毒虫を壺の中にぶち込んで食らい合わせ
最後の一匹になるまで弱肉強食の勝ち抜き戦を行い、最強の毒虫を爆誕させる呪術だとか。
確かに似ている気がしますね……。
“ブラッドラスト”は世界に血に塗れた終焉をもたらす者、という意味でもあるのかもしれません。
侵食が始まると同時に、今までに出現しなかったモンスターが出現するなどの様々な異変が起こったそうですが、
ブラッドラストもその一環として発生した呪いなのでしょうか。
カザハはマル様に、親衛隊を止めるように要請した。

「マル様! ロイがジョン君に負けるのは都合が悪いんだよね!?
今からそれを阻止しにかかるからさ……親衛隊大人しくさせて!」

>「・・・・・・・死にたくなければ化け物になった僕を殺してみろ!!!」

カザハや皆の制止を聞くはずもなく、ジョン君とロイは再び激突しようとするが――

「やめろって言ってるじゃん!! 竜巻大旋風《ウィンドストーム》!!」

カザハが二人の間の空間に攻撃スペルカードをいきなりぶち込んだ。
ダメージそのものが目的ではなく、吹っ飛ばして二人を引き離すためだろう。

「ジョン君……殺すのも駄目だけど殺されるのも駄目だよ。
余計なお世話なんて言わせない。”助けて”ってクエスト発注したでしょ? 受注リストに載っちゃってるよ?」

カザハはそう言ってスマホを見た。

「“化け物になった”――か。そうだね、確かにシステム上そうなってる」

カザハのスマホには、ジョン君が“ブラッドラスト”というモンスターとして表示されているらしい。
普通に考えればそれはジョン君が化け物になってしまったということを示しており、絶望するところだが、カザハはそんな様子ではない。
むしろ、一縷の希望を見出したような様子だ。

「モンスターならブレモンのゲーム的システムの支配下に置かれる。今なら呪いを解けるかもしれない……!」

195カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/07/30(木) 23:54:44
この世界のシステム上、異邦の魔物使い《ブレイブ》はモンスターに対して、各種の特権が働くようになっている。
システム上はモンスター枠と認識されていながらギリギリジョン君の意識が残っている今が、唯一にして最大のチャンスかもしれない。
ガザーヴァがモンスターであることを利用して捕獲によって分離に成功したのは記憶に新しい。
その前には、人間をゾンビ(モンスター)化してから捕獲することによって蘇生に成功した例もあるらしい。
今回も、例えばいったん捕獲してパートナーモンスター枠にしてしまえば、
その辺に転がっているような状態異常解除のスペルカードが効くかもしれない。
最悪すぐにはどうしようもなくても、そのままの状態でエーデルグーデでもどこへでも連行することができる。
そんなことを考えたのだろう。が、仮に理論上は出来るとしても、実際にやるのは至難の業だ。
肉体が無かったガザーヴァの時と違って捕獲難易度は格段に高いに違いなく、HPをギリギリまで削らなければならないだろう。
その過程で厄介なフェーズがある可能性も高い。

「ああっ、みのりさんの持ってたHP1残るスペルカードがあればいいのに……!」

確か……来春の種籾《リボーンシード》でしたっけ。
あったら今の状況では滅茶苦茶役に立ちそうですがいないものは仕方ないですね……。
カザハは、魔導銃を構えながら、所在無さげに立っている部長に目を向けた。

「今だけはジョン君の命令を聞かなくていい……。力を貸して! 一緒にジョン君を助けよう!」

196明神 ◆9EasXbvg42:2020/08/03(月) 04:38:52
ジョンとの競争は、結論から言えば俺たちの圧勝だった。
言うまでもなくガザーヴァが暴れまわったおかげだが、俺とて何も貢献してなかったわけじゃあない。
俺にはこれまでのゲーム遍歴で培ってきたMOB狩りの技術があるのだ。

古式ゆかしきMMOの迷惑行為がひとつ、『横殴り』。
読んで字の如く、他のプレイヤーが殴ってる敵を横から殴って報酬を横取りするクソプの極みだ。
インスタンスダンジョンの台頭によっていわゆる『狩り』はネトゲの世界じゃもっぱら見なくなったが、
マルチプレイのゲームで何したら他人に嫌がられるのかってのは今なおもって通底しているマナーだ。

当然ながら俺は、こうしたゲームにおける嫌がらせ・迷惑行為に精通している。
効率良く相手をイライラさせる横殴りの技術――そいつはこのアルフヘイムでも覿面に通用した。

ジョンがこれから何を殴るのか、今まさにトドメに入る瞬間なのか、俺には手に取るように分かる。
そこをかすめ取るように横からトドメさしてやれば、ソロプレイヤーを手玉にとるのは容易かった。
俺自身に火力足りなくてもガザ公にちょいと立ち回りを指示すりゃそれで良かったしな。

ほどなくして、積み上がったアニマのザコ敵の骸の先に、最深部への大扉が見えた。
ジョンは殆ど敵を殴れず、ブラッドラストのオーラも火が消えたみたいに静まってる。
とりあえず当面の目論見、1つ目はクリアってところだ。

>「うひぃ〜……さすがに疲れた……」

「ぜぇ……ぜぇ……ちょ、ちょっと飛ばしすぎたかな……」

言葉とは裏腹に涼しい顔のガザーヴァ。その隣で俺は水揚げされた魚みたいに喘いでいた。
休みなく連戦しまくったおかげで体力がすっからかんだ。
多分もうあと一歩でも動いたら俺は死ぬ。

「っどーだジョン!宣言通りだ、おめーの呪いも引っ込んじまって泣いてるぜ」

>「・・・完敗だ・・・これになんの意味があるのかはわからないが・・・」

「うっせ。ブラッドラストさんに嫌な思いさせられたら大勝利なんだよ俺たちは」

ジョンのボヤきに、俺は憎まれ口で返した。
まぁ実際のところ、たしかに意味なんざないんだろう。先走って敵全部倒すのも、自己満足でしかない。
来たるべくアニマガーディアン戦でガス欠すりゃ本末転倒ってのもなゆたちゃんの言う通りだ。

だけど――俺にとっちゃ重要な問題だ。ゲーマーとしての矜持が、ここに問われている。
俺は、ジョンの俺たちに対する過小評価が気に入らない。
呪いで命削んなきゃ守れねえような子羊ちゃんだとでも思ってんのか?舐めんじゃねーぞ。
守られるだけの弱者じゃないって、絶対に認めさせてやる。

それに。
ここまでの連戦を、俺は足を止めることなく完走した。
アコライトじゃ魔法二発撃つだけでぶっ倒れてた俺がだ。

キングヒルで出会ってから、俺はジョンに『訓練』と称して何度も薫陶を受けてきた。
貧弱な本体がウィークポイントとならないように、生身で生き残る術を、伝授されてきた。

疲れにくい体の動かし方や、効率よく酸素をとりいれる呼吸の仕方。
敵の行動を予測し、攻撃圏内に入らないようにする立ち回り方。
それらは何度も実戦を重ねるなかで、俺のなかに技術として染み付き始めてる。

こいつみたいにでっけえ剣を振り回したり、焼死体みたいな立体機動は出来ないけれど。
俺だって少しずつ、順当に成長してきてんだ。
そしてこれは、お前がいなきゃ出来なかった成長でもある。

197明神 ◆9EasXbvg42:2020/08/03(月) 04:39:32
見てるかジョン・アデル。
お前はちゃんと、俺たちのパーティに貢献してる。迷惑かけるだけの存在なんかじゃない。
ブラッドラストがなくたって、俺達の大事な仲間なんだ。

>「みのりさん、残り時間は?」
>《あと30分強ってとこやね〜。さ、残すはアニマガーディアンだけや。おきばりやす〜。
 アニマガーディアンの特性はわかってはるやろね? ガーディアンは光属性やから、
 明神さんとガザーヴァちゃんを中心に攻めるのがええやろねぇ》

「うっし、休憩完了。見せてやるぜ、俺の闇の力をよ……!」

>「うぇ、まーたボク達かよぉ!ちょっとは他の連中も働けよなぁー、だろー明神!」

「おいおいガザちゃん、もうヘバってんのか?俺はちょーど肩温まってきたところですよ」

例によってガザ公がぶーたれて、なゆたちゃんが宥める。
まぁそうね、今回お前が一番働いてるからね……僕もう頭上がんないかもしんない。

>「別に、後ろに下がっててくれてもいいんだぞ。後は俺がやる……真打登場って所か」

「おっ焼死体君、人をやる気にさせるの上手いねぇ。おめーこそ下がってろ、光属性で成仏したくなけりゃな」

減らず口をぶつけ合ってるうちに、なんとか動き回れるだけの体力は戻ってきた。
まだまだ戦える。ジョンの野郎に出番なんかくれてやるもんかよ。
と、なゆたちゃんに気遣われていたジョンの言葉が耳に引っかかった。

>「申し出はありがたいが・・・ロイと僕の力でなゆ達には迷惑をかけっぱなしだ。
 君達の旅に付いていける時間はもう残り少ないだろうけど・・・でも、だからこそ無理をさせてくれ」

「……は?何言ってんだお前」

死期を悟ったふうなこと言いやがる。
ちげーだろ。お前の死期を際限なく伸ばすために、俺達はここまで来てんだろうが。
思わず食ってかかろうとして、それより先に飛び出した影があった。

>「この分からず屋!!」

「カザハ君!?」

パァン!と快音ひとつ立てて、カザハ君のビンタがジョンの頬に直撃した。
持ち前の高AGIからくる早口でまくしたてるのは、ブラッドラスト被呪者の末路。
殺戮を重ねすぎて、文字通りの化け物となってしまった者達。
――俺たちの知らない、一巡目の記憶だ。

>「……だからお願い、そんなこと言わないで」

「なおのこと、ブラッドラストなんか使わせらんねえな。
 俺ぁお前の成れの果てを介錯すんのなんざ御免だぜ」

カザハ君の言ってることが、カンペキ事実とは限らないけれど。
それがジョンに呪いの行使を思いとどまらせる理由になるなら、全力で後押ししよう。

>「じゃ……行こう。 明神さんもカザハも、エンバースも。準備はいい?
 速攻で片付けるよ――!!」

「りょーかい。サクっと終わらせてヴィソフニールのツラ拝みに行こうぜ」

198明神 ◆9EasXbvg42:2020/08/03(月) 04:40:07
アニマガーディアンは確かに強敵だ。ガルガンチュアの前座を飾るに相応しいステのレイド級だ。
だけどエンドコンテンツと違って、こいつはメインシナリオのボス敵だ。
であるがゆえに、ライトユーザーでも頑張れば攻略できる程度の難易度に調整されている。

大技の前には必ず予備動作があるし、全体攻撃も軽減をきっちり入れれば十分耐えられる。
事前に予習しなくても、戦ってるうちに段々攻略法が見えてくるようになってるのだ。
いわんや、俺達には予備知識がある。負ける要素は万にひとつも、なかった。

……そう、負けるなんて思っていなかった。
『そもそも戦えない』とも、思っちゃいなかったけど。

>「……随分とのんびりした到着だな。
 レプリケイトアニマが霊仙楔まで到達するかと思ったぞ」

扉を開けた先に居たのは、上背7メートルの骨の巨人ではなく。
相変わらず黒尽くめの戦闘服で上下を決めた、軍人の姿だった。

あー。あー。そういうこと。そういうことね。完ッ璧に理解したわ。
バロールの埒外だった、レプリケイトアニマの再起動。
気にすべきだったのは、『何故起動してるのか』じゃなく――『誰が起動したのか』だった。
そしてその答えは、目の前にあった。

「ロイ・フリント……!!」

アニマについての知識は、当然俺たちやバロールだけの特権じゃない。
ニブルヘイムにもミハエルや帝龍みたいなブレモンプレイヤーは居るし、
イブリースに至っては一巡目の記憶を持ち越していやがる。

停止したアニマを発見して、アルフヘイム転覆のためにこれを再起動するのは、
ニブルヘイム側からすりゃ半ば当然の仕儀と言える。
フリントにとっても、アルフヘイムが阻止しに来るとすれば近場に居た俺たちだと、容易に想定できる。
利害がかっちり噛み合ってたってわけだ。

>「さて、約束だったな。貴様らが呑気に旅している間に、ゴブリンどもの練度も上がった。
 今ならどんな相手でも葬り去ることができるだろうよ。
 貴様らのようにゲームにうつつを抜かしている素人ならば、猶更だ」

「そいつぁ凄えや。人間マトにしたエイム練習でよっぽど自信がついたらしいなぁ?
 ……そのクソふざけた思い上がりを叩き潰してやるよ」

ずらり居並ぶゴブリン共はみな一様にアサルトライフルを構えている。
銃口がいくつも俺を捉えて冷や汗が出る。ビビリを気取られないよう、腿を強くつねった。

>「ジョン。死ぬ準備はできたか?
 安心しろ、貴様は俺がこの手で殺す。ゴブリンどもに手出しはさせん。

俺の煽りをガン無視してフリントはナイフを構える。
ゴブリン達が銃床を肩に当て直し、射撃体勢に入る。
その引き金が、引き絞られていく――

>「……お待ちください」

開戦の狼煙を遮るように、凛とした声が響いた。
フリントの背後から現れたのは、アイアントラスで袂を分かった十二階梯の一人、『聖灰の』マルグリット。
そいつがフリントの側から出てきた、その意味は小学生だってイコールで結びつけられる。

199明神 ◆9EasXbvg42:2020/08/03(月) 04:40:38
>「……なんてこと。そう……マルグリット、あなた――ニヴルヘイム側についたのね。
 それもローウェルの指図かしら? わたしたち相手に、大賢者も随分余裕がないじゃない」

「へっ、第三勢力が第二勢力にまとまってすっきりしたじゃねえか。
 俺たちはおじいちゃんに切り捨てられたってわけだ。もう懐柔の余地はねえってよ」

ローウェル一派がニブルヘイムにつくなら、これで連中との敵対関係も明白になった。
フリントが俺たちを付け狙う以上、俺たちがニブルヘイムに与することもないのだから。
未だに腹に一物抱えてるバロール側につくのは不安しかないが、他に選択肢もない。

と、覚悟の準備をしていた俺だったが、どうにもマルグリットの意図は別のところにあるらしい。
おやおやおや。なんだかマル様とフリント君が仲間割れみたいなこと始めましたよ?
マルグリットがゴブリンの撤収を要求し、フリントは当然それを撥ねつける。
そこへ当然のように控えてきた親衛隊の狂犬どもが噛みつき始めて……急に事態の雲行きが怪しくなってきた。

>「――介入させて頂く。
 『異邦の魔物使い(ブレイブ)』には『異邦の魔物使い(ブレイブ)』らしき最期を。それが尊厳ある闘いの姿なれば!」

マルグリットの出した結論。
それは、俺たちとフリントに『ブレイブとして戦わせる』こと。
ゴブリンによる火力制圧を取り下げて、代わりに戦場に出るのは――こいつらだ。

>「地の理、水の理、火の理、風の理。万象はなべて容を喪い、灰へと還るものなり。
 四つの理、其を束ねし天の神霊に希(こいねが)い奉る!
 今ぞ大いなる義に依りて万理をさかしまに塗り替え、灰たる者に在りし日の姿を与えん!
 聖灰魔術(キニス・インヴォカティオ)――顕現!!!」

「出やがったな、マル様の面目躍如!試掘洞じゃ渋ってたくせに、こんなとこで使いやがって……!」

『聖灰の』マルグリットの代名詞、『聖灰魔術』。
討ち滅ぼした魔物を、その灰から蘇らせて従える、オリジナルの召喚術だ。
振り撒かれた灰が燐光をまとい、輪郭をかたちづくり、確かな存在感を生み出していく。

>「チ……! 撃て!!」

異変に気付いたフリントが射撃を指示するが、既にマルグリットの召喚は成立していた。
灰の中から出現した巨大な骸骨が銃弾を阻み、その巨躯をゆっくりと持ち上げていく。

――レプリケイトアニマの番人、『アニマガーディアン』。
レイド級の名に相応しい威容が、マルグリットの傍らに屹立した。

「ひひっ、知らねえ間に随分でけえの従えるようになったじゃねえか!
 こっそりレベリングしてやがったな!?」

第十九試掘洞では、準レイド級のセイレーンですらレベルが足りなくて扱えないと言っていた。
だがそれより遥かに格上のアニマガーディアンを、マルグリットはこうして己がものとしている。
当然、レイド級のアニマガーディアンを手ずから討伐してだ。

ゲーム上でも、マルグリットはシナリオの進行に従ってより強いモンスターを扱うようになっていた。
同様にこの世界でも。
ガンダラで会った時は十二階梯の末席に過ぎなかったこいつも、旅を重ねて自分を鍛え上げたのだ。

>「ヒィ――――――ハ―――――――ッ!! うんち野郎ォォォォ! 宣言通りバラバラにしてやんよォォォ!!!」

「おっとぉ!いいのか楽器そんな風に扱って!チューニング狂っちゃうんじゃないのぉ?」

200明神 ◆9EasXbvg42:2020/08/03(月) 04:42:06
思わずマル様の雄姿に目を奪われていた意識を、シェケナベイベの奇声が現実に引っ張り戻す。
迫りくるアニヒレーターが大上段から振り下ろすギター。防いだヤマシタの大盾が陥没する。
なんつー硬さだ……フライングVはケンカで叩き壊すのがロックンローラーの流儀だろうが!

「まぁ構わねえよな!おめーのチューニング今まで合ってたことなかったもんなぁ!!」

マルグリットが俺たちの敵に回る以上、その親衛隊とも激突は避けられない。
シェケナベイベはここで会ったが百年目とばかりに真っ直ぐ俺の首を取りに来た。

>「明神ッ!」
>「残念ね、そうはさせないわ……幻魔将軍。

ガザーヴァの声が背後から聞こえる。
そしてそれを阻むさっぴょんの言葉も。
俺は振り返らずに、左手でガザ公を制した。

ガザーヴァが俺の安否をいの一番に気にしてるのは、これまでの戦いで分かってた。
バロールに向ける執着に似たその感情を、受け止めるのがあいつを仲間に引き入れた俺の責任だ。
だからこそ、今ここでガザーヴァに頼るわけにはいかない。

親衛隊長さっぴょんは、おそらくブレモン界隈で最強に名を連ねるプレイヤーだ。
対人ランク14位は伊達じゃない。アクティブ1000万人のこのゲームで、世界で14番目に強いってことだ。
おそらく日本に限るなら五本の指に入る実力者だろう。

単純なステータスだけで語るなら、シナリオ途中退場の幻魔将軍ガザーヴァより遥かに格上だ。
ボディを新造した『今の』ガザーヴァにシナリオのレベルキャップが適用されないとしても、
レイド級を従えられるクラスのプレイヤー相手にどこまで戦えるかは分からない。

あんまし認めたくはないことだが、このクラスの戦いじゃ俺は足手まといにしかならない。
俺を庇いながら戦えるほど、さっぴょんというプレイヤーは容易くない。

だから――この戦いで、俺はガザ公に頼らない。
いつまでもおんぶに抱っこじゃ、バロールの野郎にも鼻で笑われちまうからな。
全部ガザ公任せにするだけが能じゃないって、証明してやるぜ。

「さあ、ギグを始めようぜシェケナベイベ!お前の耳障りなデスボイスも今だけは謹聴してやるよ」

ギターを弾かれたアニヒレーターが二歩下がり、周囲に巨大スピーカーを展開。
同時に俺はスペルを手繰った。マル様が開戦を遅らせたおかげで、ATBゲージの蓄積は済んでる。

「『迷霧(ラビリンスミスト)』――プレイ!」

乳白色の濃霧があたりに立ち込めると同時、不可視の音圧がそれを吹き飛ばす。
俺は横っ飛びに音響攻撃の範囲から逃れ、霧の中に姿を隠した。

――『親衛隊のやべー奴』シェケナベイベ。
アンデッド最上位モンスター『アニヒレーター』を駆るコンボ使いだ。
俺は親衛隊包囲網で戦った経験から、こいつの戦術や火力の性質を知悉している。

シェケナベイベの特質を一言で表すなら、『範囲攻撃の専門家』ってところだ。
音に魔力を乗せて放つ、いわゆる楽器系の武器を扱うキャラはエリにゃんはじめ多数存在する。
おしなべて音速による攻撃速度や範囲、防御貫通なんかが特徴だ。

シェケナベイベの場合、攻撃範囲に極めて特化したビルドを組んでいる。
左右のスピーカーから放たれる魔力入りの大音響は、音の届く範囲全てに破滅的な破壊をもたらす。
音に由来する数々のデバフを付与し、高威力の音圧が全てを押しつぶす。
多数を相手に最大の火力を発揮できる、面制圧のスペシャリストと言えるだろう。


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