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【TRPG】ブレイブ&モンスターズ!第六章

103崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/05/31(日) 19:42:21
半月に渡るデリントブルグ横断の道のりは、襲撃のない至極平和なものだった。
ジョンのブラッドラストの発作も出ず、マルグリットおよびその親衛隊とパーティーが諍いを起こすこともなかった。
そう、平和。平和であったのだ。
だが――それだけに。それゆえに。
なゆたはいつしか警戒と緊張を忘れ、咄嗟の戦闘に対処することができなくなってしまっていた。

「はぁ、はぁ……ッく、ふ……は……!」

懸命に唾液で喉を濡らし、スペルを手繰ろうとしたが、巧くいかない。
スライムマスターと呼ばれ、ブレモンのトップランカーの一人に数えられるとはいえ、それはあくまでゲームの世界。
崇月院なゆたという人間は何の変哲もないただの一般市民に過ぎない。
幼馴染の道場で剣道をかじっていたり、クラスメイトよりも高い身体能力を持っているというのも、民間レベルでのこと。
FPSでもあるまいに、実際の戦場で戦った経験などあろうはずもない。
どこからライフルの銃弾が飛んでくるか分からない、そんな極限状態の中で、なゆたの心身は急激に疲弊していった。

ちゅんっ!

なゆたの右頬ぎりぎりを、ライフルの銃弾が掠めてゆく。
一発でも受ければ、そこでジ・エンドだ。なゆたの額をいやな汗が伝う。
ポヨリンはやや離れたところでATBが溜まるのを待っている。
この世界がブレイブ&モンスターズである限り、ゲーム内のルールは絶対だ。
パートナーモンスターはATBゲージが溜まらない限り行動できない。
一方で、武装したゴブリンたちは『異邦の魔物使い(ブレイブ)』のATBゲージなどお構いなしに攻撃してくる。
それは彼らゴブリンの軍勢が何者かのパートナーモンスターではない、独立した敵だということを示していた。

「か、は……」

ついに、息切れしたなゆたはその場に片膝をついた。
そして――その眼前に疾風のように漆黒の襲撃者が現れる。
タクティカルスーツにボディアーマー、ヘルメット。
無機質な強化アクリルゴーグル越しの眼差しが、なゆたの急所を捉える。
ゴブリンとは比較にならない大柄な体躯の割に、小柄な亜人たちよりもずっとずっと速い。
なゆたは反応できない。反応しようとしても、極度の疲労によって身体が動かないのだ。

「ッ―――!!」

襲撃者が逆手に持った大振りのコンバットナイフを振りかぶる。
なゆたは強く目を瞑った。

「ち……! モンデンキント!」

エンバースが救援に駆け付けようとするも、遠い。しかもゴブリンたちがそうはさせまいとエンバースに集中砲火を浴びせる。
ポヨリンはATBが溜まっておらず、ガザーヴァも一足になゆたへ近付くには距離がありすぎる。
突然の急襲によるなゆたの暗殺を阻む者は誰もいない――と思われた、が。

>させるかああああああ!

馬車から猛然と飛び出したジョンが、横合いから襲撃者に強烈な蹴りを喰らわせたのだ。
襲撃者は大きく吹き飛ばされた。

「……ジ……、ジョン……?」

>無事かい!?どこも怪我してない!?

ジョンが怪我がないかどうかを確認してくる。ジョンの身体に掴まり、なゆたはふらふらと立ち上がった。

「だ……、だいじょう、ぶ……。なんとか、生きてる……ょ……」

くらくらする意識を何とか奮い立たせ、やっとのことでそれだけ言う。しかし、このままでは戦闘継続は難しそうだ。

>本当によかった・・・頼むから僕の為に無茶しないでくれ・・・本当に・・・よかった

「ん……ゴメン、心配かけて……」

ジョンのことを守るはずが、逆に助けられてしまった。
リーダーの差配としては落第であろう。慙愧の念に堪えず、なゆたは軽く俯いた。


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