したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

【TRPG】ブレイブ&モンスターズ!第五章

1 ◆POYO/UwNZg:2019/09/24(火) 22:17:16
――「ブレイブ&モンスターズ!」とは?


遡ること二年前、某大手ゲーム会社からリリースされたスマートフォン向けソーシャルゲーム。
リリース直後から国内外で絶大な支持を集め、その人気は社会現象にまで発展した。

ゲーム内容は、位置情報によって現れる様々なモンスターを捕まえ、育成し、広大な世界を冒険する本格RPGの体を成しながら、
対人戦の要素も取り入れており、その駆け引きの奥深さなどは、まるで戦略ゲームのようだとも言われている。
プレイヤーは「スペルカード」や「ユニットカード」から構成される、20枚のデッキを互いに用意。
それらを自在に駆使して、パートナーモンスターをサポートしながら、熱いアクティブタイムバトルを制するのだ!

世界中に存在する、数多のライバル達と出会い、闘い、進化する――
それこそが、ブレイブ&モンスターズ! 通称「ブレモン」なのである!!


そして、あの日――それは虚構(ゲーム)から、真実(リアル)へと姿を変えた。


========================

ジャンル:スマホゲーム×異世界ファンタジー
コンセプト:スマホゲームの世界に転移して大冒険!
期間(目安):特になし
GM:なし
決定リール:マナーを守った上で可
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり
避難所の有無:なし

========================

173カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/12/02(月) 03:11:18
(そこまでして見届けたかったんでしょ!?
だったら今度こそベストエンディングを見届けようよ! 命を絶つなんて言ったら駄目だ!)

「でも……こいつに乗っ取られたら……みんなを殺しちゃうかもしれない……!」

カザハは膝を突いて大粒の涙を零して泣いていた。
風の精霊であるシルヴェストルが実際に泣くことがあるのかは定かではないが、ここは精神世界なのでそういうこともあるのだろう。
私はどうすることも出来ずに立ち尽くしていた。

「あ……」

ふと、手首につけてある札に目を止めるカザハ。
『聖女の護符』――出撃前に、何故か明神さんがカザハにくれたレアアイテム。
カザハがまず額に貼り付けて明神さんが「装備箇所がちゃうわ!」系のお約束(?)のツッコミを入れるというやり取りを経て受け取っていた。

「バカだなあ、明神さん……敵、地属性ばっかじゃん……。
でもさ、大正解だったよ。もしかしてこうなるの知ってた……?
それに“ちゃんと忘れずに装備しとくんだぞ”とかツボ押さえすぎだから!」

カザハは腕で涙を拭うと、すっくと立ち上がり、幻魔将軍をびしっと指差す。

「勝負だ幻魔将軍―― ボク達は昔一度勝ってるんだから……次だって負けない!」

《総力戦の末に二匹掛かりで相打ちで勝ってるって言うんかーい! あははは! 大した自信だね!》

「それにね……万が一乗っ取られたら……明神さん達が君を倒してくれる。
君なんて自分では凄い黒幕のつもりかもしれないけど地球出身のブレイブから見ればバロール様のパシリの単なる中ボスなんだから!」

《フフフ、曲がりなりにも仲間だった者と同一存在を倒せるのかな?》

「大丈夫、明神さんは史上最強のクソコテでレスバトラーだから! ボクの振りして騙そうったってそうはいかない!」

《クソコテでレスバトラーって全く褒めてるように聞こえないぞおい!》

「そんな事よりつよくてニューゲーム頼むよ? そういう契約だったよね?
君のお望み通り強さをアピールしてあげるからさ。ただし絶対君には出来ないボクなりのやり方でね」

《そう来なくっちゃ面白くない! せいぜい楽しませてもらっちゃおっかなー!》

174カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/12/02(月) 03:12:14
――意識が戦場に戻ってくる。どれくらい気を失っていたのだろうか。
それは定かではないが、エンバースさんも、なゆたちゃんもまだ持ち堪えていた。

「カケル、行くよ!」

カザハがひらりと背に飛び乗る。

《カザハ……》

「話は後だ! まずはアイツを倒すよ!」

背に乗ったカザハの魔力が爆上がりしているのを感じた。しかし考えてみれば、今までが弱すぎたのだ。
初期装備カードの謎の充実っぷりと飛行能力というゲーム上で表現される域を遥かに超えたアドバンテージでなんとなく誤魔化されていただけで。
なゆたちゃん達は本編クリアーは当然でその後のコンテンツまでやり込んだ状態のモンスターと一緒に転移してきたわけで、
本編のガザーヴァとの決戦時の能力値に補正されたところでまだ足りないぐらいかもしれない。
しかしそれでも相当な上級魔法系スキルをバンバン使えちゃったり!?

(……あっ、魔法思い出せない。復元されたの能力値だけみたいだわ。あ・の・アコライト解体工事総指揮官め!)

《はあ!? それじゃあ魔力だけ高くても意味無いじゃん!》

(まあ意味無くはないかな――術式はこのカードに入ってるからね)

カザハは思わせぶりにスマホから残り一枚の『真空刃《エアリアルスラッシュ》』のスペルカードを取り出した。

《でもそれ、さっき殆ど効きませんでしたよね……?》

「見てなって! ――『真空刃《エアリアルスラッシュ》』!」

カザハは腕を一閃して風の刃を放つ。案の定最初の時と同じようにカイトシールドに阻まれた――
……かと思ったが、一瞬後、カイトシールドはまるで漫画のようにスパッと真っ二つになって地面に落ちた。

175カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/12/02(月) 03:12:55
《嘘……!》

「寝てる間にレベルアップしちゃったみたいで。睡眠学習ってやつ?」

カザハは謎の言い訳をしながら、戦線離脱中に溜まっていたゲージを使って次のカードを切る。

「『烈風の加護《エアリアルエンチャント》』――対象拡大!」

『烈風の加護《エアリアルエンチャント》』の対象は通常一体。
カザハはそれを3倍――否、ブレイブとパートナー全員分なので6倍に拡大してかけた。
魔法自体は覚えていなくても、カード使用時に魔力を使って威力や範囲の強化が出来るということか。
ところで人間が使う魔法は学問的なものらしいが、魔法っぽいスキルを使うモンスターが皆が皆文字が読める程知能が高いわけではない。
両者は似ているように見えて根本的に別の物なのか、理論的に使うか感覚的に使うかの違いで本質的には同じものなのか――
それは私には分からないが、何はともあれ防御の要だったカイトシールドが破られ、全員の攻撃が相手の弱点属性である風属性となった。

「さあ――勝負はここからだ!」

個人の圧倒的な力で敵を薙ぎ払うのではなく皆を強化して連携して倒す―――
カザハはその宣言通り、友軍すら見境なく蹴散らしていたあの現場将軍には絶対不可能なやり方で勝利を掴もうとしていた。

176明神 ◆9EasXbvg42:2019/12/09(月) 01:04:53
油断も慢心も、なかったはずだった。
それでも、魔法とかいう超絶パワーを手にして、舞い上がってたとしか言いようがない。
中学生で卒業すべき全能感は未だに俺の脳みそにこびりついていて、そのツケは思ったより早く訪れた。

>「おい!冗談も大概にしろ!なにか!次の手は――」

頭の上をジョンの警句が通り過ぎる。
耳に入って来ない。想像以上の疲労感が、感覚器さえも埋め尽くす。
やべえやべえと理性が忠告するも、肝心の足はぴくちり動いちゃくれなかった。

魔法攻撃を受けたヒュドラの、多頭に光る無数の眼が、俺を見据える。
ばっちりヘイトを稼いじまって、奴らのタゲは今俺に向いていた。

蛇の首が鞭のようにたわむ。
……これはアレだ、キリンさんが縄張り争いでやるやつだ。
あの巨大質量で薙ぎ払われれば、この狭い屋根の上に逃げ場なんてない。

「やべ……」

風を切り裂くヘッドバッドが降ってくる。
回避は間に合わない――。

>「!!!!ああ!くそ!!!カザハアアアアア」

「ぐえっ!?」

瞬間、ジョンが俺の襟首を掴んで屋根の外へ放り投げた。
三半規管を蹂躙する慣性の暴力。血流が脳に届かず失神しそうになる。
吹っ飛ぶ寸前の意識の中、いやにゆっくり流れる視界に、俺をカザハ君に託したジョンの姿が映った。

>「明神をたの――――」

声が最後まで俺の元に届くことはなく。
ジョンは、俺の代わりに部長ごとヒュドラの頭部に薙ぎ払われた。

「ジョン……!!」

同時、回り込んでいたカザハ君が俺を抱きとめる。
地面との激突はなんとか免れた格好だが、安堵できる要素は一つもなかった。

「助かった!けど俺よりジョンのことを……」

すぐにジョンの方へ目をやれば、あいつは血の尾を引きながらヒュドラの足元へ転がり、
息も絶え絶えになりながら立ち上がろうとしていた。
生きてはいる。だが負ってしまったダメージはあまりに甚大だった。

当然だ、あのクソぶっといヒュドラの頭部で打擲されて、生身の人間が無事でいられるわけがない。
それこそ車にハネられたようなもんで、即死してないのが不思議なくらいだ。

177明神 ◆9EasXbvg42:2019/12/09(月) 01:05:44
なんぼ武道の心得があろうが、人間は軽自動車にも勝てない。
空手も柔道もやってねえ軽自動車にだ。
事実、たった一撃でジョンは満身創痍。左腕は変な方向に曲がっちまっている。

「く……そ……」

今すぐにでもあいつを助け出してやらなきゃならないのに、俺は未だに身体が動かなかった。
目は霞み、耳に入ってくる音もどこか遠い。空気がうまく肺に入っていかない。
気を抜いたらそれだけで意識が飛びそうだ。

ジョンは俺を庇ってヒュドラの痛打を受けた。
否応なしに、リバティウムの記憶が蘇る。手の中で冷たくなっていく、しめじちゃんの感触を思い出す。

……ふざけやがって。二度もおんなじ思いしてたまるか。
俺がすべきことはお馬さんの上で打ちひしがれることか?違うだろ。
できることを今すぐ探せ。ジョンをあのクソ蛇の足元から救い出す方法を考えろ。

「ヤ、マシタ……『狙い撃ち』……」

曖昧すぎる指示にもパートナーは応え、ヤマシタが弓に矢を番える。
もう不意打ちは効かない。弱点に届く前に撃ち落とされるだろうが……それでも。
何も出来ずにエカテリーナにおんぶに抱っこだったあの時とは違うって、証明してみせろ!

風を切って矢が飛ぶ。
ヒュドラの頭部が翻り、ハエでも払うように叩き落とす。
俺にできることはこれが精一杯。だけど、少しでもヘイトが稼げたなら……今はそれで十分だろう?

ジョン。
あいつはスタボロになりながらも、無事な方の手でスマホを握っていた。
戦意を喪失していない。奴もまた、この状況でできることを模索している。

ヒュドラはジョンを『人質』にすると同時に、多頭の一つでその動向を観察していた。
なにか反撃に動こうものなら、すぐにでもトドメを刺せるように。
なら、わずかにでもヒュドラの注意を引いて、ATBゲージを消費する隙を作る。

>「雷刀(光)!プレイ!」

果たせるかな、ジョンはスマホを手繰った。
カードは発動し、生成された装備ユニット――雷刀を手に、立ち上がる。
同時に、奴の身体に赤いオーラめいた燐光がまとわりつくのを見た。

パーティクル・エフェクト――スキル発動の証だ。
俺が魔法をコソ練してたのと同じように。なゆたちゃんがお姉ちゃんに師事していたように。
あいつもまた、スキルを習得していたのか?

>『アハハハハハハ!』

人が変わったような哄笑を上げながら、ジョンは吶喊する。
一歩ごとに血がこぼれ落ちるような満身創痍で、足運びだってメチャクチャだ。
それなのに、気圧されたようにヒュドラは嘶く。全力で叩き潰しにかかる。

178明神 ◆9EasXbvg42:2019/12/09(月) 01:06:13
>『甘い!』

一度は瀕死にまで追い込まれた必殺の一撃。
それをジョンは身の捻りだけで躱し、カウンターまでぶち当てて見せた。
切り飛ばされた頭部が宙を舞う。

「どうなってんだあいつの身体……」

誰が見たって、飛んだり走ったりできるような怪我じゃなかった。
だけどジョンはダメージなど意に介さないかのように、凄まじい勢いでヒュドラの巨躯を登攀していく。
瞬く間に首の根本――弱点までたどり着き、間髪入れずに斬撃を加えまくった。

>『おら!おら!おら!暴れんじゃねえ!さっさと・・・』

罵声を浴びせながら刀を振るうその姿は、まるで別人だ。
少なくとも俺の知るジョン・アデルは、紳士的であらゆる振る舞いに理性を感じさせた。
だが目の前でヒュドラを蹂躙するこの男は……一体、誰だ?

>『しねええええええええ!』

雷刀の効果で麻痺したヒュドラ。
無防備なその中枢に、ジョンは刃を深く突き立て、刳りぬいた。
間欠泉のように湧き出す血飛沫を慈雨のように浴びながら、ジョンの顔には笑いが張り付いていた。
獰猛な、獣が牙を剥く仕草に由来する――笑みが。

>「ジョン君、またキャラ変わってる……」

「変わったんじゃなくて、『戻った』のかも、知れないぜ……」

ジョンは、メディアが囃し立てるような聖人君子のヒーローではないと、俺はもう知っている。
あいつの本当に護りたいものが、人類みんななんかじゃなくて、ごくわずかな『友達』だってことも。
カザハ君の身も蓋もないコメントを頭上で聞きながら、今度こそ俺は意識を手放した。

 ◆ ◆ ◆

179明神 ◆9EasXbvg42:2019/12/09(月) 01:07:23
目はすぐに覚めた。
多分カザハ君あたりがなんか回復魔法みたいなのをかけたんだろう。
朦朧とする意識でカケル君の背に臥せってる間、ずっと温かいなにかが流れ込んできていた。

「――そうだ!ジョンは!?」

ヤマシタに肩を借りながらあたりを見回す。
視界は明瞭、耳鳴りもしない。ゴリゴリ削れた精神力もなんとか持ち直してる。
ダメージの大きさで言えば、よほどジョンの方が心配だった。

ジョンもまた列車の上に戻ってきていた。
こっちも魔法による治療を受けたのか、出血は止まっている。

「足、ついてる、な……良かった。助けられちまったなヒーロー」

ばつの悪さを噛み殺して、俺はジョンの胸板を軽く叩いた。
俺が自分の能力も顧みずに魔法ぶっぱしてなけりゃ、こいつが庇って怪我することはなかった。
こいつのダメージの95割は俺の責任だ。

……「悪かった」とか、「もう無茶はしない」とか、言うべきなんだろう。
だけど、ジョンはそういう言葉を求めてなどいないと、なんとなく俺には分かった。
友達が友達を助ける。至極当たり前の行動規範に、こいつは準じてみせたのだから。
礼だけ述べて終わりになんてするつもりはない。

「借りひとつだ。こいつはデカいぜ」

俺もまた、その友情に、応えよう。

「しかしお前、ハンドル握ると豹変するタイプだったんだな……。
 ヒュドラ君ドン引きしてたもん。名古屋に来るときは俺呼べよ、運転するから」

こいつのアッパー加減で名古屋走りかまそうもんなら即日廃車確定だ。
生きて県境を跨ぐことはできまい。公道という名のバトルフィールドじゃけえの。

>「……みんな、無事みたいだな」

いつの間にか戻ってきたらしき焼死体が戯言を垂れた。

「はあーっ?お前目ン玉付いてんのか!?あっ付いてないね、ごめんね!
 『無事』ってのは『死んでない』って意味じゃないんですよ!」

残りのヒュドラが片付いている。しまった、こいつのバトルシーン見逃した。
奴の手には画面パキパキのスマホがある。いつの間に復活したんだ。

>「ん……そうね。とりあえず……」

なゆたちゃんも俺達の惨状を見てなにか言いたげだったが、言葉を飲み込んだ。
なにはともあれ、欠員が出ることなく、俺達はヒュドラを撃退しおおせた。
スペルも殆ど使ってない。戦力を温存したまま、本陣へ切り込める。

>「じゃあ……行くよ! マホたん! 『幻影(イリュージョン)』――プレイ!」
>「オッケー月子先生! みっんっなーっ! まっほまほにしてやんよーっ!」

「よっしゃああああああああああッッッ!!待ってました!!!」

スマホから光が降り注ぎ、俺の肉体が変性していく。
マホたんクリソツのホログラムをおっ被り、今ここに俺と言う名の美少女が爆誕する!!

「新米Vtuber・笑顔きらきら大明神……受肉完了!」

180明神 ◆9EasXbvg42:2019/12/09(月) 01:08:31
鏡がないのでイマイチ実感がないが、見える範囲では完璧にマホたんと化している。
わぁ……お手々ちっさいねぇ……足もめっちゃ細い。
背が低くなったのに視点に違和感がないのは、あくまでこれが幻影だからだろう。

「これが……俺……!?」

鎧もヘッドセットも実装されてるのに、重量は感じない。
そして視界の端に揺れる金色は、マホたんのアイデンティティであるツインテール!

「見てみ、これ見てみ?……ファサッ!」

ツインテールのあるあたりに手をやると、手応えもないのにツインテがふわりと翻った。
こ、これは……なにかに目覚めそうだ……!心まで美少女になろうとしている!
わたくし残酷ですわよッ!
オタク共に無自覚で無防備な愛を振りまきたいが、そいつらも一律マホたんと化していた。

>「美少女かぁ、前世を思い出すなあ! ……って言ってて自分で悲しくなるわ!」

カザハ君がしみじみと感慨を漏らす。
なんだぁおめぇ……美少女だった過去でもあんのかよ前世によ。
そういやこいつ当たり前のように女湯行こうとしてたし……転生で性別まで変わったのか?
どちらにせよ。

「少女って歳じゃねえだろお前……」

タッキー&ツバサでウケる年代は少女ではない。名推理。

>『間もなく終点、帝龍本陣に到着致しまス。皆さま、お手回りのお荷物などお忘れにならないようお願い致しまス』

ワイキャイ言ってる間に列車は敵陣を進む。
このまま滞りなく進軍すれば、直に決戦のバトルフィールドへと辿り着く。
本当の戦いは、ここからだ。

その時、みたび列車が大きく揺れた。
ヒュドラの体当たりより遥かに強い衝撃が車内を襲う。

>「ボノ! またヒュドラ!?」
>『不明でス。今までで一番の質量が車体側面に衝撃を加えてきましタ』

「ほ、砲撃かっ……!?この霧の中でどうやって狙ってきやが――」

>『第二波、来まス。お客様は衝撃に備えて下さイ。5、4、3、2、1――弾着。今』

遅すぎる警告に耐衝撃姿勢もとれないまま、列車は今度こそレールを逸脱した。
あまりの衝撃に車体が真横に傾く。高速で流れる地面がすぐそこに迫る!

「うぉわおおおおおおおおお!?」

>《問題ない! ボノ、火をくべるんだ! このまま突き進みたまえ!
 飛ばされた先にレールを敷く! どうあっても――君たちのことは帝龍本陣へ届けると約束したからね!》

万事休す、脱線事故もかくやの緊急事態に、バロールの声が響いた。
レールを敷き直す!?バカ言え、列車横転してんだぞ!?

>《そぉーれ! 創世魔法・『天翔ける虹の軌条(レインボウ・レイルロード)』に加え、『負荷軽減(ロードリダクション)』!
 ついでに『重力操作(グラビティデイズ)』もつけとこう!》

矢継ぎ早に魔法が発動し、地面と垂直にレールが形成される。
あろうことか列車は横倒しになりながら軌条を掴み、再び走り始めた!

181明神 ◆9EasXbvg42:2019/12/09(月) 01:09:20
「ウソだろおい……!空飛ぶ列車どころの話じゃねえ!壁走りまでしてんじゃねえか!」

重力操作によって真横に傾いたまま列車は進む。
げにおそるべきは、この大規模な魔法を『3つ同時に』展開したバロールの魔法技術だ。

>《慣れれば明神君もこの程度の芸当はできるようになるさ! 頑張ろう!》

「『慣れれば』?『この程度』!? む、無茶苦茶言うなぁーっ!」

何が起きてんのか殆ど理解出来てねえよ!
いくら魔法初心者の俺でも、バロールの芸当が練習すれば出来るようなもんじゃないってことは分かる。
どうなってんだあいつの脳みそ!左右と真上を同時に見るようなもんだぞ!

あいつは俺の『影縫い』に『負荷軽減』を組み合わせるようアドバイスしたが、
2つの魔法を同時に使うだけでも俺の脳みそは焼き切れちまうだろう。
参考にならねえ助言だなおい!!

そして奴の言葉が謙遜じゃあないのなら……バロールにとって魔法の同時行使など、大した負荷にもならない。
冗談じゃねえぞ。魔王の時より強いんじゃねえかこいつ!

>《もうすぐ本陣や! 突っ込むで、みんな耐衝撃体勢! 急ぎぃ!》

「ひいいいいいいっ!!!」

石油王の早めの警告超助かる。どこぞの車掌とは大違いだ。
皆で丸まり、防御魔法の使える兵士が複数人で緩衝結界を張る。
俺はといえばそんな高度な魔法はぴくちり覚えちゃいないので、手すりに掴まってひたすら縮こまった。

>『し……終点、帝龍本陣……帝龍本陣でございまス……』

軌条が途切れ、完全に脱輪した列車が本陣に突っ込む。
馬防柵をめちゃくちゃに破壊しながら、慣性を使い切った車体はようやく停止した。

>「いたた……。みんな、大丈夫……?」

「なんとかな……。ハードな一日だぜ、コナンの劇場版じゃねえんだぞ」

ベイカーストリートの亡霊でももうちっと安全に配慮するわ。
脱線した機関車で暴走した経験あんのコナン君と俺達だけじゃないの。

>「よし! みんな、行くわよ! 手筈通りに――!カザハ! エンバース! 帝龍を探しに行こう!」

目の前を回る星が掻き消える前に、なゆたちゃんと焼死体、カザハ君の強襲部隊が列車を飛び出した。
兵士の一人に気付けの魔法をかけてもらって、俺達も打って出る。

182明神 ◆9EasXbvg42:2019/12/09(月) 01:10:12
>「明神さん……またあとでね! ジョン君、明神さんを守ってあげて。
 ……ほら、《ラビリンスミスト》が切れたらみんな困るからさ!」

「お前も。気をつけろよ……伝令が真っ先にやられたら部隊はガタガタだ」

俺達は心にもない『合理的な』理由をつけて、お互いを慮った。
ウソじゃない。カザハ君がいなくなるのは……困る。

>「あたしたちも出るよ、みんな!
 300人ユメミマホロの押しかけゲリラライヴin帝龍、スタート!」

「うおおおおおお!!!セットリストは頭に入ってんな野郎共!
 今日の俺達は観客席でミックス打ってるオタクじゃない!
 300人からなる大合唱!裏声による輪唱――インバーテッド・カノンだ!」

無数のマホたんが次々に列車から飛び出し、帝龍本陣はかつてない混乱に見舞われた。
トカゲやヒュドラは出てこない。300人の誰がマホたんか分からないからだ。
代わりに出てきた人間の帝龍兵は、アコライトで歴戦を重ねたオタク殿たちの敵じゃない。

>「さあ――派手に始めちゃおう!
 あたしの歌……あたしの想い! 大切なみんなへ届けるよ!」

爆音でかかり始めた『ぐーっと☆グッドスマイル』のイントロをBGMに、
帝龍兵と300人のマホたんが激突する。剣戟の音を合いの手に、戦乙女の美声が響き渡る。
ユメミマホロの歌声は、血煙漂う戦場を綺羅びやかなライブ会場へと変えた。

「ハイ!ハイ!ハイハイハイハイ!フゥーワッフゥーワッ!!」

『迷霧』がいい感じにライブミストみたいになって幻想的な空間を演出する。
『信仰の歌』によって強化された防御力は、飛んでくる矢や魔法にカスダメすら発生させない。

「部長は出すなよジョン。召喚すれば一発でブレイブだってバレちまうからな。
 徒手空拳以外の攻撃もなるたけ避けたほうが良い。やるなら掌底だけぶちかませ。
 ちまちま削りながら強襲部隊が戦果を上げるのを、ここで待つ」

ジョン(マホたんスキン)と最低限の言葉を交わしながら、俺達は戦場を逃げ回る。
敵兵に追われればダッシュで退避し、その辺で歌ってるオタク殿にタゲをこする。

隣のフィジカルエリートはともかく俺には攻撃手段がない。
現状ヤマシタは召喚できないし、迷霧以外のスペルを発動するわけにもいかない。

「なゆたちゃん達の方はどうなってる。ちゃんと帝龍の元に辿り着けたのか?」

強襲部隊はとっくに霧の向こうで、こちらからは何も観測出来ない。
何かあればカザハ君がすっ飛んで来るはずだが、頼りがないのは元気な証拠ってことか?
その時、視界の端にウインドウめいた新たなホログラムが展開した。
映っているのは、霧中を駆けるなゆたちゃん達の姿。

『はっはっはーっ!こんなこともあろうかと!映像中継も実装済みさ!
 希望なら私の気合入った実況解説も添えるけど……聞きたいかい?』

スマホからバロールの呑気な声が響いた。

「要らないですぅ……どっからカメラ回してんだエロ魔王、いつから仕込んでやがった?」

『おっと!冤罪はよしてくれ、五穀豊穣君の私を見る目がますます冷たくなってしまう!
 これでもコンプライアンス意識は高いつもりだよ、プライバシーには配慮している』

183明神 ◆9EasXbvg42:2019/12/09(月) 01:10:43
魔王軍の福利厚生が充実してようが知ったこっちゃないが、バロールは監視の存在をはぐらかしやがった。
これは言外の警告か?『いつでもお前らを見ているぞ』、そう言いたいのか。

『モンデンキント君達は帝龍と対峙した。彼のパートナーはロイヤルガード、君の完全上位互換だね。
 苦戦しているようだよ、メイン火力のポヨリン君は属性的に不利だ』

「実況要らないって言ったんですけお!!
 属性不利がどうした、カザハ君の支援スペルで風属性を付与すりゃそんなもんは――」

『――おや、カザハの様子が……?』

不意にバロールの声が一段低くなる。
中継映像の中で、ロイヤルガードに殴られたカザハ君が倒れ込む。
地属性のワンパンでシルヴェストルが沈むわけがない。何があった?

「おい!起きろカザハ君!追撃食らっちまうぞ!!」

――もしも。

マホたんの言う通り、カザハ君の中にガザーヴァが居て。
一つの身体に二つの魂が主導権を取り合っているのだとしたら。
なにかのきっかけで、カザハ君優位のバランスが崩れてしまったのだとしたら。

あるいは、元から二つの魂に境目なんてなくて、カザハ君もガザーヴァも同じ存在で。
気まぐれや興味本位で、たまたま俺達に手を貸していたに過ぎないとして。
帝龍相手に苦戦するなゆたちゃん達を見限って、ニブルヘイムに『戻る』つもりだとしたら。

今が、その時なんじゃないか。

「くそ……ッ!ジョン、作戦変更だ!強襲部隊のケツ追っかけるぞ!」

今から行って何が出来るってわけじゃない。
戦いになって迷霧を切れば、撹乱していた敵の攻撃が自軍に直撃する。
ここは唇を噛んででも、帝龍戦の成り行きを遠方で見守るのが正しい。

だけど俺は、耐えられなかった。
カザハ君が『変わって』しまうその時に、傍に居られないことに。

この眼で、見極めなきゃならない。
カザハ君が――どちら側なのかを。

この手で、摘み取らなきゃならない。
ガザーヴァと化したカザハ君の、その命を。

184明神 ◆9EasXbvg42:2019/12/09(月) 01:11:34
「カザハ君――!!」

俺の叫びが届いてか届かずか、中継映像に変化があった。
やおら、カザハ君が立ち上がる。
その双眸に風と闇、どちらの光が宿っているのか……分からない。

>『カケル、行くよ!』

だが、復帰したカザハ君はカケル君の名を呼んだ。
幻魔将軍の愛馬、ダークユニサスの『ガーゴイル』ではなく。
シルヴェストルの半身、ユニサスの名前を、口にした。

>『見てなって! ――『真空刃《エアリアルスラッシュ》』!』

カザハ君がスペルを手繰る。
その対象は――ロイヤルガードだ。
振るった腕から放たれた風の刃は、重厚鉄壁を誇るカイトシールドを濡れ紙のように引き裂いた。

「なんだ、あの威力……!」

真空刃は大したレア度のスペルじゃない。
俺の知る限りじゃ、一撃でロイヤルガードを部位破壊まで持っていける代物じゃなかった。
こんなもんが使えるなら、王都でのバトルももっと優位に運べたはずだ。

>「さあ――勝負はここからだ!」

方向の良し悪しはどうあれ。
この僅かな時間で、カザハ君は明確に――変わった。

「今のお前は……どっちなんだ」

一樽のワインに一滴泥水を落とせば、それはもう一樽の泥水だ。
カザハ君の魂に落ちた一雫が、ワインなのか泥水なのか、俺には判断がつかない。

結論は出ないまま……戦況だけが流れていく。


【ジョンの豹変にビビる。疑心暗鬼続行】

185ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/12/10(火) 13:26:03
「ああ・・・それにしても・・・気持ちよかったなあ・・・」

目の前の動かなくなった肉塊を剣の先で弄りながら思う。

それなりに前に猟師に着いてって行って山でイノシシ狩りを経験したことがある。
当然、自分が持つ獲物は銃だ、昔から現代に至るまで、動物を狩るときはかならず遠距離武器だ。
身を潜め、息を殺し、相手が隙を晒した瞬間を待つそして殺す。

明確な武器のリーチ差は、恐怖をそれだけ和らげる、敵の殺意に怯えずに行動できる、怯えは行動を制限する。
その点、銃は完璧と言えるだろう。少し練習すればだれでも扱えるようになるし、明確な有利を一方的に突きつける事ができる。

その時はなにも感じなかった、当然だ、殺したのは間違いなく僕だが、だけど距離が遠すぎた。

「・・ん?」

その時ヒュドラからでてきた赤い塊に気づく。
左手を伸ばすと、その玉は左手に吸い込まれていった。

「・・・んん?」

気づけば左手が動かせるようになっている。
一体いつのまに?一体だれが回復をかけてくれたのだろう?集中しすぎて気付かなかった。

>「――そうだ!ジョンは!?」

明神のその一言で、まるで霧が晴れたように視界が、思考がクリアになっていく。

「明神!」

明神が心配になった僕は急いで部長を抱え、列車に戻る。

>「足、ついてる、な……良かった。助けられちまったなヒーロー」

「もう回復してもらったし、どうって事ないさ、僕の体は自慢じゃないけれど世界にいるどの人間よりも頑丈だからね」

>「借りひとつだ。こいつはデカいぜ」

異変に気づく、明神が明らか怯えている事に・・・。

「おいどうしたんだなにか・・・」

>「しかしお前、ハンドル握ると豹変するタイプだったんだな……。
  ヒュドラ君ドン引きしてたもん。名古屋に来るときは俺呼べよ、運転するから」

冗談を言いつつも明神の目は確かに訴えていた。

この化け物近寄るな



明神の怯えたその目をみた瞬間頭の中に情報が一気に流れてくる。

一時の感情に身を任せ、なゆとの約束を即効破った事、ヒュドラを部長なしで一人で圧倒した事。
そして、それを短時間とはいえ、自分で忘れていた事。

なにより・・・それを楽しんでいた、自分の事。

また・・・またなのか・・・?また・・・ぼくは・・・

186ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/12/10(火) 13:26:21
-----------------------------------------------------------------------
だいじょうぶ?

「ひえ・・・!やめて!こっちこないでよ!しにたくない!」

だいじょうぶだよ、ぼくはたすけにきたんだ
もうだじょうぶ、ここにいるてきはみんなたおしたよ

「もうやだあ・・・なんでわたしばっかりこんなめにあわなきゃいけないのよ!!!」

どうしておびえてるの?
ぼくといっしょにみんなの所にかえろう?

「こっちこないで!!やめて!やめてよ!・・・ばけもの!」

だめだ・・・そっちは・・・!

「あんたからはなれられるならどこでもいいのよ!ついてこないで!!・・・え?」

-----------------------------------------------------------------------

187ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/12/10(火) 13:26:40
>「……みんな、無事みたいだな」

その言葉で我に返る。

まただ、また、戦争中に余計な事を考えていた、今は・・・そうだ。
戦争の中の一人、その役割を全うしよう、この戦いを終わらせる事が今考えるべき事だ。

だから・・・今はなにも考えず・・・切り替えよう。

「ああ・・・おかげさまで・・・それで?次の工程は?」

僕が聞くよりも先になゆは準備をしていた。
マホロ計画、僕達全員にマホロの幻影を被せる作戦。

「いくら幻影で隠せてもこれだけ血なまぐさいと効果が薄いな・・・」

僕は部長の背中にあるトランクから水晶を取り出す。
それは魔法を記憶する水晶で、低レベルの魔法限定という制約があるものの。
この水晶に念じればだれでも魔法が発動できる夢のようなアイテムだ。

「えーと・・・対象は僕・・・発動!」

その瞬間僕の体が水の球体に包まれる。

これはメイドさんが、僕の体を洗う為に、使った魔法。
名前はたしか・・・洗濯機、僕も冗談かと思ったが本当に水球洗濯機という魔法らしい。
若干・・・いやかなり苦しいのは間違いないが、効果はたしかだ。

少しの間洗濯機に洗われた後、勢いよく水球からはじき出され、汚された水は扉から列車の外へ。
この魔法のいい所はちゃんと乾かしてくれるという所だろう。
本当にやられてる最中息ができないし!ぐるぐる回されるし!ほんとーに苦しいし、洗剤の味がするから飲み水にできないとか
本当に難点だらけだが!

だが、身だしなみを整えられるというのはどんな状況でもありがたい。
そう思ってもってきたが、大正解だったようだ。

「よし・・・僕は大丈夫だ・・・やってくれ」

その合図を聞いたなゆがスペルを使う。

>「じゃあ……行くよ! マホたん! 『幻影(イリュージョン)』――プレイ!」
>「オッケー月子先生! みっんっなーっ! まっほまほにしてやんよーっ!」
>「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

>「新米Vtuber・笑顔きらきら大明神……受肉完了!」
>「見てみ、これ見てみ?……ファサッ!」

「ハハ・・・随分楽しそうだな、明神」

幻影だから実際に変わったわけじゃないが、手とか足とか・・・
自分の物じゃないとなんだか落ち着かない気分になる。

188ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/12/10(火) 13:27:09

>『間もなく終点、帝龍本陣に到着致しまス。皆さま、お手回りのお荷物などお忘れにならないようお願い致しまス』

「ここからが本番だな・・・」

その時、列車がヒュドラ以上の衝撃で揺れる!

>「アッ――――――!!」
>「ボノ! またヒュドラ!?」
>『不明でス。今までで一番の質量が車体側面に衝撃を加えてきましタ』
>「ほ、砲撃かっ……!?この霧の中でどうやって狙ってきやが――」

「砲撃か・・・相手の急所に近づいてきたっていう事だね
 しかし防御しようにも止まってない列車の上に立つのは無理だ・・・一体どうすれば」

>《問題ない! ボノ、火をくべるんだ! このまま突き進みたまえ!
 飛ばされた先にレールを敷く! どうあっても――君たちのことは帝龍本陣へ届けると約束したからね!》
>《そぉーれ! 創世魔法・『天翔ける虹の軌条(レインボウ・レイルロード)』に加え、『負荷軽減(ロードリダクション)』!
 ついでに『重力操作(グラビティデイズ)』もつけとこう!》

また、列車を回転させる気か、と思ったが体はなんともない。
だが確実に列車は回転しているようだ。

「この世界の人間は本当に凄いな・・・いやバロールが凄いだけか・・・」

《もうすぐ本陣や! 突っ込むで、みんな耐衝撃体勢! 急ぎぃ!》

部長の召喚を解除し、身近な物に捕まる。

ガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!

大きな衝撃、列車横転。

列車はダメになってしまったが、その役割を果たし。
僕たちは帝龍がいる本陣まできた。

>「よし! みんな、行くわよ! 手筈通りに――!
 カザハ! エンバース! 帝龍を探しに行こう!」

>「あたしたちも出るよ、みんな!
 300人ユメミマホロの押しかけゲリラライヴin帝龍、スタート!」

>「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

>「明神さん……またあとでね! ジョン君、明神さんを守ってあげて。
 ……ほら、《ラビリンスミスト》が切れたらみんな困るからさ!」

「ああ・・・安心してくれ、命を賭けて守るさ」

>「ハイ!ハイ!ハイハイハイハイ!フゥーワッフゥーワッ!!」

兵士達と明神のテンションはMAXだ!

「さあ・・・いこう!」

189ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/12/10(火) 13:27:29

>「部長は出すなよジョン。召喚すれば一発でブレイブだってバレちまうからな。
  徒手空拳以外の攻撃もなるたけ避けたほうが良い。やるなら掌底だけぶちかませ。
  ちまちま削りながら強襲部隊が戦果を上げるのを、ここで待つ」

「了解」

そう明神に伝え、敵兵士の群れに飛び込んでいく。

たとえ鎧を着込んだ兵士でさえ、人間なら僕の敵じゃない、一人、また一人と倒していく。

ドガ!バキ!ボコオ!

兜の上からでも衝撃を与えれば脳は揺れる。
目立たないように他のマホロ兵士に身を隠しながら、一人、また一人倒していく。

無意識の内に考える、なんで僕はこの世界に呼ばれたのだろうと。

僕個人の力は自分で言うのもなんだが凄まじいと思う、人対人という意味では僕は最強クラスである自信がある
たとえ相手がユメミマホロであろうとも、対人という意味では有利はこちらにある。
昨日の彼女の動きを見て確信した、対モンスターが基本の技である、と。
まだ隠し玉はあるだろうが・・・それでも僕は有利に戦える。

バロールのような魔法使いという人種に関しては・・・ちゃんと調べてみないとなんともいえないが・・・

だが『異邦の魔物使い』としてみた場合は?
部長は当然、サポートよりでパっとしない、コンボ組めばある程度火力は出せるがなゆや明神ほどじゃない。
僕も、ブレイブとしては下の中、よくて中の下、そのレベルだ。

みんながヒュドラを相棒と連携して倒してるなか、僕はそれができなかった。
それだけ他のみんなより劣っているのは事実だ。

なんで僕だけが、バロールのいた城についたのだろう?
野垂れ死にしたブレイブの中には僕よりもはるかに優秀な人材もいただろう。

おぞましい、化け物の力を持った僕じゃなく

僕は神様を信じているわけでも、いないと決め付けてるわけでもないが。
もしいると言うのなら・・・あの謎の力も・・・僕を選んだという人選も・・・あまりにも・・・残酷だ。

「うう・・・うう・・・うわあああ!痛いイイ・・・助けてくれ」

敵の兵士の悲鳴で我に帰る。

まただ・・・また戦闘中に余計な事を考えてしまった。
考え事をしながら戦っていたせいで、兵士を気絶させそこね、悲鳴を上げさせてしまった。

「うは! ごめ〜ん 私〜 なるべく兵士さんには痛く思いしてほしくなくて気を使ってたんですけど 
 私ったらうっかり!サービスしてあげるから ゆるしてね!」

ユメミマホロ風の口調を崩さず、兵士に詰め寄っていく。
決してふざけているわけではない、これも作戦というなら、僕はただ黙って遂行するのみだ。

倒れた相手の頭を思いっきり踏みつける
兵士は気絶したのか、動かなくなった。

「これだけ数を減らせば〜他のマホロちゃんで大丈夫だよね!」

敵兵士の数を大幅に削り、明神の所に戻るのだった。

190ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/12/10(火) 13:28:02
>「なゆたちゃん達の方はどうなってる。ちゃんと帝龍の元に辿り着けたのか?」

「わからない・・・がカザハから連絡がないということは戦闘に入ったか
 特に問題なく捜索を続けてるか・・・そのどちらかだろう」

>『はっはっはーっ!こんなこともあろうかと!映像中継も実装済みさ!
 希望なら私の気合入った実況解説も添えるけど……聞きたいかい?』
>「要らないですぅ……どっからカメラ回してんだエロ魔王、いつから仕込んでやがった?」
>『おっと!冤罪はよしてくれ、五穀豊穣君の私を見る目がますます冷たくなってしまう!
 これでもコンプライアンス意識は高いつもりだよ、プライバシーには配慮している』

「言いたい事は数あるが・・・この際見れるならなんでもいい、バロールこの映像はどれだけのラグがある?」

ラグは特にないらしい、ということはバロールはいつでも僕達をリアルタイムに監視できるという事がこれではっきりした。
が、ここで問い詰めてもなんの特にもならない、言いたい事を全て飲み込み、映像を見守る。

>『モンデンキント君達は帝龍と対峙した。彼のパートナーはロイヤルガード、君の完全上位互換だね。
 苦戦しているようだよ、メイン火力のポヨリン君は属性的に不利だ』

>「実況要らないって言ったんですけお!!
 属性不利がどうした、カザハ君の支援スペルで風属性を付与すりゃそんなもんは――」

あの程度でなゆが負けるなんてありえない、そんな事は僕も、明神もわかっていた。
だからある程度落ち着いた気持ちで映像を見ていた、だが・・・。

>『――おや、カザハの様子が……?』
>「おい!起きろカザハ君!追撃食らっちまうぞ!!」

ロイヤルガードの攻撃を受けたカザハはぴくりとも動かない。
致命傷を負ったという雰囲気ではない。

「一体なにが起きて・・・!?」

カザハがよろよろと立ち上がる。

その刹那・・・身の毛がよだつような感覚に陥る。

今までの悪意に塗れた生活の中で、僕は人の悪意を感じれるようになった。

だが・・・一言に悪意といってもいろんな種類がある。

恨みの感情からくる悪意、人を殺そう、殺したい!憎い!そんな感情
事情があるような悪意、こんな事をしたくないが、仕事、もしくは脅されたからやる。
快楽からの悪意、人を犯すもしくは殺す事、人をいたぶる事で満足感を得る。

大小様々だが、悪意には常にそうなるに足る、様々理由がある。

大きなほど歪で、歪んでいる感情、衝動が付き纏う。
色んな人間を見てきて、感じた事だ・・・だが・・・。

「なんなんだ・・・!?この感じは・・・!?」

カザハ達がいるであろう方向を向いて呟く、この距離でも感じる程の大きな悪意。

大きな悪意には何度も対面した事がある・・・だが・・・だが。

「これほど強大な悪意を持っているのに・・・まっすぐで・・・純粋?」

理解が追いつかない、正体不明の初めて感じる悪意に、ただ、ただ、怯える事しかできないでいる。

191ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/12/10(火) 13:28:39
>「くそ……ッ!ジョン、作戦変更だ!強襲部隊のケツ追っかけるぞ!」

「あ・・・あぁ・・・そうだな・・・いこう」

僕は明神の後ろを走る

>「カザハ君――!!」

映像の中のカザハが立ち上がる。

ゾっとした。不明の悪意の正体は・・・カザハだったのだ。

純粋で、それでいてまっすぐで無垢、だが誰よりも強い悪意を持っている。
その正体はカザハだったのだ。

夜、僕がみたカザハの様子を思い出す。

>「”君達の”リーダーは大したものだ。情に流されたと見せかけて最も勝率の高い作戦に皆を導いたのだから」
>「お前は誰かって……? そうだね、”異邦の魔物使い”に対して言うなら……”現地の魔物”――
  ……ってあまりにもダサッ! カケル、同じような意味でもっと格好いい単語を考えろ!」

あの時は冗談だと思っていた、だがあれが本当の事だとしたら?
本当にカザハの中に違うなにかがいたとしたら?

呼吸が乱れる、悪意の正体に近づくにつれ、呼吸を荒くなっていくのを感じる。
帝龍とかいう小物は真の敵ではなかった、真の敵は身内にいたのだ。

>「さあ――勝負はここからだ!」

現場にたどり着くと、帝龍と対峙しているなゆ達を見つけた、だがしかし。

>「今のお前は……どっちなんだ」

明神もなにかでカザハが異常である、と悟っているらしい。

そして今、僕達は即座に援護に入れないで居る。
答えは簡単だ、ノコノコでていってもしかしたらカザハに殺されるかもしれないという可能性があるからだ。

だがこのまま手をこまねいていてはなゆがエンバースが危険に晒される。
解決する為には僕達は、やはりでていかなくてはならない。

192ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/12/10(火) 13:29:31
「明神・・・君もカザハがなにかおかしいと、気づいているんだね」

明神に夜、僕がカザハから盗み聞きした情報を全て話した。

「カザハは自分を現地の魔物と称していた・・・その時は中二病の冗談だと思っていた、だが本当に中になにかいるんだな
 ・・・そしてカザハの中にいる悪意の正体を明神はしっているんだな?」

明神の顔色は見えない。

「別に、どんな理由でしっているのか無理に言わなくてもいいし、無理に聞く気もない
 ヒュドラ戦であんな戦い方してしまったせいで、信用がないのはわかっているしな・・・」

「だが、カザハの中にいる存在は異常だ、とてもじゃないがこの世にいていいレベルじゃない
 今のカザハの力を見れば力そのものも恐らく強大だ、今は落ち着いてはいるが、いつ暴走するかわからない」

懐からナイフを取り出し、明神に見せ付ける。

「もし次・・・あの悪意を振り撒いたり・・・暴走したら・・・その時は俺がこれでカザハを終わらせる」

友を殺すなど、正気の沙汰ではないが、それでもやらなければならない。
それだけ・・・カザハの中にいるナニカは・・・危険で・・・異質すぎる。

「説得が通用すると本気で思ってるのか?僕はそうは思わないな。あれは、あの悪意はそんなレベルじゃない」

マホロに殺すと、宣言した時の殺意を隠さず、僕は、本気でカザハを殺すつもりだ、と。
殺気だけで・・・そう明神に悟らせる。

「大丈夫さ・・・人を殺すのはこれが始めてじゃない」

おっとカザハは妖精だったな。と乾いた笑いをしながら覚悟を決める。

「安心してくれ、君に迷惑はかけない、僕一人でやるさ」

こうしてる間にもなゆ達の戦況を一刻、一刻と変化していく

「さぁ時間はないぞ!いこう明神」

僕は明神に向かって手を差し伸べた。




【あまりにも純粋な悪意を孕んだカザハ(カザーヴァ)を敵対視 
 事情を知らない為 次は暴走すると予想し、そうなった場合殺す決意を固める】

193embers ◆5WH73DXszU:2019/12/21(土) 08:21:48
【トライアル・マッチ(Ⅰ)】

『おかえり!』

「ああ」

焼死体が仲間の様子を見る――生命反応に陰りはない。

「……みんな、無事みたいだな」

『はあーっ?お前目ン玉付いてんのか!?あっ付いてないね、ごめんね!
 『無事』ってのは『死んでない』って意味じゃないんですよ!』
『ん……そうね。とりあえず……』

「……次の戦闘に備える。みんなも警戒を怠るなよ」

可憐な出迎え/簡潔な応答――左手のスマホから触腕が閃く。
歪んだ鉤爪が瞬時に焼死体の耳を掴み/引き寄せる。
必然、スマホを耳元へ添える形になる。

〈あなたは、バカですか。もっと気の利いた返事が出来ないんですか?〉

「いいや。俺も、みんなもバカじゃない。重要なカードを消費したなら、自分から――」

〈もう結構。思い出しました。あなたは「俺はバカだ」と告白する時に限り
 文学的表現に恵まれる、どうしようもない、ゲームだけが取り柄の――〉

「もう結構だ。俺も思い出したよ。お前が、俺をなじる時に限り、文学的表現に恵まれる事を」

194embers ◆5WH73DXszU:2019/12/21(土) 08:24:06
【トライアル・マッチ(Ⅱ)】

『じゃあ……行くよ! マホたん! 『幻影(イリュージョン)』――プレイ!』
『オッケー月子先生! みっんっなーっ! まっほまほにしてやんよーっ!』

〈……何故、槍を装備しているのです?バカすぎてマホたんのビルドも忘れましたか〉

「いいや、お前が忘れているんだ。俺にはマホたんに扮するメリットは、ない。
 偽物だと確定すれば攻撃は俺に集中する。だが、それで何か困る事があるか?
 どうせ、マホたんAtoYに対して無差別攻撃が行えない事は、変わらないのに」

〈……思い出しました。あなたは、そうやって減らず口を叩くのが上手だった〉

「ああ、俺も思い出したよ。お前は、俺の切り返しが予想外に鋭いと、すぐにそれを減らず口だと言うんだ」

〈……ふん。それこそ、減らず口だ〉

『うーん。300(スリーハンドレッド)って感じ』

「マホたんがVtuberである事を鑑みると、マトリックスって線もあり得る。
 全てが終わった後、このスキンが呪われた装備になってなければいいが」

『間もなく終点、帝龍本陣に到着致しまス。皆さま、お手回りのお荷物などお忘れにならないようお願い致しまス』

「テンポが良くて結構だ。ボス前の雑魚戦なんて、何も楽しくない――」

不意に列車が激しく揺れる/轟音が響く――咄嗟に少女を引き寄せ、支える。

『ボノ! またヒュドラ!?』
『不明でス。今までで一番の質量が車体側面に衝撃を加えてきましタ』
『一番の質量……!?』

「――違う、質量の正体はどうでもいい!今のをもう一度貰ったら――」

『第二波、来まス。お客様は衝撃に備えて下さイ。5、4、3、2、1――弾着。今』

轟音/衝撃/浮遊感――鎧戸の剥げた窓の外に、地面が見えた。

「――こうなるよな!ああ、分かっていたさ!」

焼死体が左手首のスマホを操作/カードを選択――【死に場所探り(ネバーダイ)】。
効果は、味方全体に時間経過によって減少していく特殊HPを付与する。
要するに、持続時間のあるバリアを展開する為のスペル。

一部のスペルは、その効果範囲の定義が使用者の認識に依存する。
味方全体を列車内の乗員全てと定義すれば、落下の衝撃を緩和する事は可能だ。
だがスペルの使用にはクリスタルの消費が伴う/そしてその消費量は、起こす現象の規模に比例する。

そこまでしても、乗員が衝撃に堪えられるかは、怪しい――それでも、少女はそれを望むだろう。

「……丁度いいハンデだ。そう思わないか、フラウ」

〈――やはり、あなたは減らず口を叩くのが上手だ〉

焼死体の右手、人差し指が、スマホの画面に触れる――

《問題ない! ボノ、火をくべるんだ! このまま突き進みたまえ!
 飛ばされた先にレールを敷く! どうあっても――君たちのことは帝龍本陣へ届けると約束したからね!》

その直前、少女のスマホから、声が聞こえた。
いけ好かない――だが信用には足る声だった。

《そぉーれ! 創世魔法・『天翔ける虹の軌条(レインボウ・レイルロード)』に加え、『負荷軽減(ロードリダクション)』!
 ついでに『重力操作(グラビティデイズ)』もつけとこう!》

「……戦力の逐次投入は愚策だと教えてくれるブレイブは、今までにはいなかったのか?
 だったら教えてやる。次は、最初からこんな事態を回避出来る手段で俺達を届けろ」

195embers ◆5WH73DXszU:2019/12/21(土) 08:24:49
【トライアル・マッチ(Ⅲ)】

《もうすぐ本陣や! 突っ込むで、みんな耐衝撃体勢! 急ぎぃ!》
『は、はいっ!』

レールが途切れる/列車が脱輪する/そのまま数十メートルを滑空――地面に不時着。
轟く掘削音/激しい衝撃/振動――それらが徐々に弱まり、やがて完全に、止まった。

『し……終点、帝龍本陣……帝龍本陣でございまス……』
『いたた……。みんな、大丈夫……?』

「問題ない――いつでも行ける」

『よし! みんな、行くわよ! 手筈通りに――!
 カザハ! エンバース! 帝龍を探しに行こう!』

「ああ、思うままに走れ――道は、俺が拓く」

少女が駆け出す/焼死体がその背を早足で追う。
亡者の視界が捉える、濃霧の奥から迫り来る兵士の輪郭。
左手を翳す/濃霧の中を音もなく泳ぐ白き触腕――兵士達を縛り上げる。
左手を掲げる/振り払う――身動き一つ取れぬまま兵士達は浮かび/投げ飛ばされた。

〈一つ、訂正を願います。この場合、道を拓いているのは、あなたではなく私だ〉

「俺一人で全部終わらせてもいいが、お前がつまらないだろ?」

少女は敵陣を駆ける/駆け抜ける――そして、辿り着いた。

『帝龍――――――ッ!!!』

『チィ……存外早かったアルネ。
 魔法機関車に乗って本陣に突撃し、兵士全員にマホロのスキンをかぶせて攪乱。
 我々が混乱している隙に、一気にワタシを拘束する……。なかなかの策アルネ。
 窮余の一策ではあるアルが、悪くないアル』

「財布でメンコ遊びするしか能のない男が、何を偉そうに」

『見つけたわ、帝龍! あなたの負けよ!
 ギタギタのボコボコにされたくなかったら、おとなしく投降しなさい!』

「おい、待て。それは困る。ギタギタのボコボコにされてから投降してくれないと――俺がつまらないだろ」

『寝言は寝て言うアルよ、アルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)。誰が負けたアルって?
 依然変わりなく、勝者はこのワタシただ一人アルネ。奇策で本陣に到達したからと、調子に乗るなアル』

「……なあ。それに関してなんだが、俺の記憶が正しければ――」

『強がりね。じゃあ、どうするのかしら?
 こっちには『異邦の魔物使い(ブレイブ)』が三人。あなたはたったひとり。
 あなたの大好きな、単純な数の計算でも――こっちが圧倒的に勝ってる! あなたに勝ち目なんてないわ!』

「――いや、俺の話は後にしよう」

『ふ……。小魚が何匹寄り集まったところで、長江を揺蕩う竜王には勝てないのが道理アル。
 それをこれから、たっぷり教えてやるアル! ここにいるオマエらは、手心を加えなくても問題ないアルからね!
 ――ロイヤルガード! この身の程知らずどもを蹴散らせアル!』

「そいつがお前のトカゲの尻尾か?大した事なさそうだな」

196embers ◆5WH73DXszU:2019/12/21(土) 08:25:52
【トライアル・マッチ(Ⅳ)】

瞬間、ロイヤルガードが地を蹴る/狙いは焼死体――彼我の距離が、急速に縮まる。
弧を描く斧槍が唸りを上げる/応じるように、朱槍が地から天へと逆巻く。
遠心力を帯びた斧刃をまともに受ければ、武器が耐えられない。
故に、狙いは斧槍を振り回せば必然、前へと伸びる左腕。
響く風切り音――初撃は、双方共に空振りに終わった。
互いが回避/攻撃の両立を図れば、必然そうなる。

初撃を振り抜いたロイヤルガードは、そのままハルバードを右へと振り被った。
重い斧槍も魔物の膂力であれば、右腕一本で容易く操り、振り回せる。
放たれるのは、初撃と対の軌道を描く薙ぎ払い。

代わり映えのない/しかし、それこそが工夫と言える一撃。
同じ命通わぬ五体故にロイヤルガードは理解している――刺突は無意味。
袈裟懸けの一撃を躱す為、体勢を低く沈めていた焼死体は、ほんの僅かに、出遅れる。

激音が響く/火花が散る――被弾したのは、初動を先んじたロイヤルガードの方だった。
命なき五体に対し、刺突は下策/だが――であるならば、ただ、突けばいい。
初撃を振り抜いた後、左手を逆手に変えての、石突による打撃。

ロイヤルガードが怯む/それを逃す焼死体ではない/朱槍を再反転/穂先を突きつける。
亡者の視覚には、見えている――肉体なき魔法生命体の、その心臓である魔力核が。

鋭い踏み込み/閃く刺突/響く金属音――焼死体が舌を鳴らす。
朱槍の一撃は、カイトシールドの表面を僅かに削り取るのみで終わった。
体勢を崩しながらも、刺突の先端を的確に逸らす――王室守護者の名に恥じぬ技巧。

「……やるじゃないか。思っていたよりは楽しめそうだ」

『三対一っていうのは卑怯な気がするけど、こっちも余裕がないからね……!
 カザハ! ロイヤルガードに攻撃よ!』

ポヨリン/カザハが加勢に入る――だが戦況は好転しない。
増援の一体は属性不利/もう一体はステータス不足。
致命打を与え得るのは結局、焼死体のみ。

『くふふ! 無駄無駄、無駄アルヨ!
 そのロイヤルガードはワタシが金に糸目をつけずに育成した特別製! そこらの同種族とはまるでモノが違うアル!』

「らしいな。さて、どうしたものか――」

焼死体の判断/更新された行動指針――撃破には何かしらの搦め手が必要。
左手をかざす――触腕は【シールドバッシュ】によって弾かれた。
その隙に焼死体が大きく踏み込む/ロイヤルガードの懐へ。

直後放たれる迎撃の前蹴り――防御は容易い/だが踏み留まれない。
単なる焼死体と総金属製の甲冑の、ウェイト差による必然的現象。

197embers ◆5WH73DXszU:2019/12/21(土) 08:28:14
【トライアル・マッチ(Ⅴ)】

『エンバースさんが引き付けてる間に地道に削るしかないか……カケル、『カマイタチ』!』

「……よせ。明神さんから対人戦の講義を受けてないのか?
 無闇にスキルやゲージを消費すれば、反撃の備えがなくなるんだぞ。
 相手からしてみれば、格好の的だ。手を出すなら、何かしらの工夫が必要――」

『――瞬足《ヘイスト》!』

「――ああ、そうだな。お前はそういう奴だった!」

ロイヤルガードが焼死体へ間合いを詰める/左腕の盾が唸りを上げて、弧を描く。
【シールドバッシュ】――焼死体はそれを防御/しかし、大きく跳ね除けられた。

『うわっ……ロイヤルガードのKY力、高すぎ……』

地に落ちた風精の頭部めがけ、斧刃を振り下ろすロイヤルガード。

「――フラウッ!」

叫び/左手を前方へ――それだけで、無二の相棒は要請を理解した。
触腕が伸びる/鉤爪が地面へと刺さる/収縮――円運動が焼死体を宙へ誘う。
遠心力を回転力へ変換/ロイヤルガードの頭上を取る――朱槍が描く、血霧の旋風。
一際強烈な金属音――分厚い金属板から成る兜が歪み/吹き飛び/数メートル後方に落下した。

「どうした――俺に勝てそうにないからって、弱い者いじめは良くないぜ」

ロイヤルガードは無反応/そのまま不意に背を向けて、数歩前進。
弾き飛ばされた兜を拾い上げ、頭部へ再設置――振り返る。
憤怒の色に染まった眼光/焼死体が、愛剣を抜いた。

「そして……悪いが、こうなった以上、遊びはここまでだ」

溶け落ちた直剣を手放す/それを触腕が空中で掴み取る/槍を構え直す。

「どうせなら、お前の得意分野で負かしてやりたかったが……」

『カケル、行くよ!』

「……なんだ、起きたのか。悪いが、もう終わらせるところ――」

『見てなって! ――『真空刃《エアリアルスラッシュ》』!』

「――まぁ、いいさ。少しくらい見せ場がないと、可哀想だしな」

奔る風刃――ロイヤルガードの大盾が、両断される。

『寝てる間にレベルアップしちゃったみたいで。睡眠学習ってやつ?』

「ああ、それなら俺にも身に覚えがある――待て、お前もなのか?」

『『烈風の加護《エアリアルエンチャント》』――対象拡大!』

「……俺の手間を増やすような真似は、よしてくれよ」

ロイヤルガードが前へ踏み出す/盾を失った守護者の構えは、変化していた。
斧槍を両手で握っている/垣間見える、強者のみが知る武芸の真理。
即ち槍は――両手で振り回した方が、片手よりも、強い。

198embers ◆5WH73DXszU:2019/12/21(土) 08:31:40
【トライアル・マッチ(Ⅵ)】

躍動する甲冑/暴風を奏でる斧槍――焼死体の朱槍がそれをいなす。
斧刃の入射角は最小限/それでも、衝撃を完全に受け流せなかった。
燃え落ちた肉体は軽い/体勢が大きく崩れる――負の連鎖が始まる。
敵の守りは脆い/体勢は崩れている――火を見るより明らかな好機。

左の袈裟斬り/朱槍を支えに側転宙返りを打ち、回避。
右から迫る薙ぎ払い――足捌きでは避け切れない/深く身を屈める。
幹竹割り――どう足掻いても避けられない/朱槍を頭上に掲げ/柄で受け流す。
鉄心入りの朱槍が歪む/再び振り上がる斧刃/焼死体は地を蹴り――ロイヤルガードの懐へ。
【シールドバッシュ】はもう使えない――触腕から愛剣を受け取り/脚部装甲を切りつけ/そのまま離脱。

風属性の加護を受けた刃は、分厚い金属装甲を、容易く切り裂いていた。

「……その傷は、致命傷だ。槍を引いて、マスターに助けを求めろ」

斧刃を躱しざま、下段の斬撃を放った焼死体の姿勢は、片膝を突く形。
背を向け、跪いたまま紡ぐ警告/ロイヤルガードは応じない。
開いた間合いを詰め直し、斧槍を振り被る。

「やめておけ。今日はこれくらいで勘弁してやるって、言っているんだ」

ロイヤルガードは、聞く耳を持たない――斧刃が、振り下ろされた。
だが、それが焼死体に届く直前――ロイヤルガードの動きが止まる。
甲冑の内側から歪んだ面頬を貫き――白い触腕が、飛び出していた。

膝を突いたまま立ち上がらなかったのは、フラウを地中から、先に刻んだ裂傷へ通す為。

「だから言っただろう、致命傷だってな……だが、マジにとどめは刺すなよ、フラウ」

言われるまでもない、と言いたげに響く金属音。
甲冑が内側から関節を破壊され、分解される音。

「さて……邪魔者はいなくなったな。それで、さっきの話の続きなんだが――」

焼死体が立ち上がる/煌帝龍を振り返る。

「――俺の記憶が正しければ、世界王者はあのミハエルとかいう奴なんだろ?
 お前、あいつに負けたんだよな?なのに――なんで、そんな偉そうなんだ?」

挑発ではない/素朴な疑問を吐露する声色。

「まぁ……一応、代表選手だったのは覚えてるから、相手はしてやるけどさ。
 あんまり、強い言葉を使わない方がいいと思うぜ――弱く、見えるからな」

続く忠告――こちらは、言うまでもなく挑発だった。

199崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/01/06(月) 22:50:16
覚醒したカザハの『真空刃(エアリアルスラッシュ)』が、ロイヤルガードのカイトシールドを両断する。
恐るべき威力だ。もちろん通常の『真空刃(エアリアルスラッシュ)』にこんなバカげた威力はない。
ガザーヴァの力を使って増幅されたカザハの力が、元の術の威力を何倍も強化しているのである。

「何あれ……すごい……」

なゆたは瞠目した。ハルバードで吹き飛ばされたはずのカザハが、急に起き上がったかと思うと突然パワーアップしている。
シルヴェストルはそんなギミックのあるモンスターではないし、カザハがそういったスペルを持っていた記憶もない。
まったく理解不能な、唐突なレベルアップ。それに戸惑いを禁じ得ない。

《きゃははははははッ! いいね、いいねェ! もっともっとやっちゃってー!》

カザハの意識の中で、ガザーヴァが両手を叩いて無邪気に快哉を叫ぶ。

《そらそら、出し惜しみはナシだ! ボクの力をもっと使って戦ってよ! 愛と正義と友情のためにね……くくッ!》

>『烈風の加護《エアリアルエンチャント》』――対象拡大!

さらに、カザハはスペルカードの効果を拡大して全員にバフを付与した。
これもまた通常の『烈風の加護(エアリアルエンチャント)』にはない効果である。
なゆた、ポヨリン、エンバース、フラウ、カザハ、カケル。
六人分の風属性付与が発動し、パーティーは今までの不利から一転してロイヤルガードに優位を取る状況になった。

>さあ――勝負はここからだ!

《ホントホント! 勝負はここから、さぁー派手にいってみよぉー!》

カザハが凛然とした声で叫ぶと、ガザーヴァが心の中で相槌を打つ。
だが――カザハが使ったふたつのスペルカードはカザハ自身のものであっても、威力と範囲の向上はカザハのものではない。
カザハはあくまで、ガザーヴァの持つ幻魔将軍としてのパワーソースを借用しているだけである。
そして。
ガザーヴァは当然、単にボランティアや善意でカザハに力を貸しているわけではなかった。
カザハがスペルカードを切り、また何か行動を起こすたびに、カザハの身体の周りに黒い靄のようなものが浮かんでは消える。
それは、明らかに闇の力。風属性のカザハが本来持ち得ない、魔属性のエフェクトだった。

>カザハ君――!!

>明神・・・君もカザハがなにかおかしいと、気づいているんだね

魔法機関車の近くで、霧の維持のために後方待機しているはずだったふたりの声(CV:ユメミマホロ)が聞こえる。
なゆたはとっさに振り返った。

「あなたたち、もしかして明神さんとジョン!? どうしてここに……!」

マホロの姿をしているふたりを見て、なゆたは声をあげた。
作戦では、あくまで前線に出るのはなゆた、エンバース、カザハの三人だけだったはずである。
それが明神達まで来てしまっては、計画が台無しだ。
だが、自分がサブリーダーとして信用する明神が何の考えもなしに事前の作戦を変えてくるとは思えない。
彼らのいた後方で何かが起こったか、それとも自分たちの見えないものが、後方でこちらを見ていた彼らには見えてしまったのか――

「ポヨリンッ!」

『ぽよよよっ!!』

明神とジョンもまた、カザハの不自然な強化に気付いたのだろう。その視線は小柄なシルヴェストルに釘付けになっている。
その防御はガラ空きだ。すぐに、ワラワラと帝龍側の兵士たちが明神とジョンへ群がってくる。
なゆたは即座にポヨリンへ指示を飛ばし、ふたりの周囲の兵士を蹴散らしにかかった。

「何やってるの! 早くこっちへ!
 ……状況報告! どうしてここへ!? 魔法機関車で何かがあったの!?」

リーダーとしてサブリーダーに説明を求める。
明神から説明を受けると、なゆたは軽く唇を噛んでカザハを見遣った。

「普通、ブレモンではスペルやスキルを使うと、その属性に応じたエフェクトが出る……。
 炎なら赤い光が、水なら蒼い輝きが――でも、今のカザハから出ているのは……」

黒い。

カザハのATBゲージが溜まり、彼が攻撃や回避、何らかのアクションを起こすたび、その身体から黒い光が迸る。
それはまるで、今までの自分を否定するような。
自分の本来の姿はこちらなのだと、そう叫んでいるような――。

200崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/01/06(月) 22:50:32
>……その傷は、致命傷だ。槍を引いて、マスターに助けを求めろ

ざんっ! とエンバースが剣を一閃し、ロイヤルガードの胸部装甲をまるでバターのように切断する。
それでもロイヤルガードは斧槍を振り上げ、エンバースに肉薄しようとしたが、歴戦の焼死体の方が技量は上であった。
ロイヤルガードの動きが停まり、一瞬びくん! と痙攣したかと思うと、その内側から触手が飛び出す。
既にエンバースの――フラウの攻撃は、ロイヤルガードの中枢を破壊していたのである。
炯々と輝いていたバイザーの奥の双眸がフッと消え、重厚な騎士鎧はバラバラに分解して地面に転がった。
勝負ありだ。

>さて……邪魔者はいなくなったな。それで、さっきの話の続きなんだが――
>――俺の記憶が正しければ、世界王者はあのミハエルとかいう奴なんだろ?
 お前、あいつに負けたんだよな?なのに――なんで、そんな偉そうなんだ?

勝利したエンバースがここぞとばかりに煽る。
しかし、護衛を撃破されたというのに帝龍の表情は変わらない。

「オマエ、底抜けのバカアルか? 偉そう、ではなく実際に偉いアルネ。
 世界王者? 禁止カードだらけでルールに縛られたママゴト大会の王者が、本当に強いとでも思ってるアルか?
 ひょっとして、プロレスはガチ! とか大真面目に信じちゃってるタイプアル?」

>まぁ……一応、代表選手だったのは覚えてるから、相手はしてやるけどさ。
 あんまり、強い言葉を使わない方がいいと思うぜ――弱く、見えるからな

「下級国民が、上級国民であるワタシの相手? のぼせ上がるんじゃないアル。
 第一……オマエたちはひとつ、大きな勘違いをしているアルヨ」

くくッ、と帝龍は右手で軽く口許を押さえて嗤った。
とはいえ、もうロイヤルガードはいない。
周りにいる者はせいぜいが人間の兵士たちくらいで、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の相手にはならない。
帝龍に打つ手はないはず。もう、手詰まりのはずなのだ。
……というのに。

「おぉ〜っ! 明神さんとジョン君も来てくれたんだね! これで百人力ってやつ!?
 さあ、なゆちゃん! ボクたち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』全員で、こいつを八つ裂きにしちゃおう!」

ロイヤルガードが倒れ、残るは帝龍のみとなった本陣内で、カザハが口を開く。
カザハは明神とジョンの方を向き、能天気な様子でぶんぶんっと大きく右手を振った。

『カザハの意思とは関係なく』。

《クク……なんにも驚くには値しないだろー? だってさ、ボクたちは『ひとつ』なんだから。
 キミの身体はキミだけのものじゃない。ボクのものでもあるんだ。
 キミはボクの力を自分のもののように使った。なら、ボクがこの身体をボクのもののように使ったって何も問題ないよね?》

カザハの意識の中で、ガザーヴァがにたあ……と嗤う。

《さあ、手助けしてあげるよ。それがキミの望みだろ……?
 もっともっとボクの力を使ってさぁ。そしたら、ボクの希薄だった存在はこの世界で確固たる基盤を確保できる。
 この世界にボクが、ガザーヴァが存在するっていう、存在定義の碇を投錨することができるんだよ。
 ホラホラぁー……何ボケッとしてるのさ? 戦えよなぁ……戦え! ボクの力を使えよ! 強くなりたかったんだろォ?
 くれてやるよ、力を! キミの食べたがってたおいしいニンジンが、目の前にぶら下がってるンだ!
 馬なら食べなきゃソンだろォ!? あ、馬なのはボクらじゃなくてガーゴイルの方か! くひッ、あっははははははッ!!》

ガザーヴァは一巡目の世界で『異邦の魔物使い(ブレイブ)』に敗北し、死亡した。
しかし、その瀕死の魂はなんとかカザハの前世のシルヴェストルに憑依し、融合することで消滅を免れた。
とはいえ、復活するには現段階では存在が希薄になりすぎている。このままでは、遠からず寄生先のカザハに吸収されてしまう。
そこで。
ガザーヴァはカザハに力を貸し、『ガザーヴァの力を使っている』と認識させることで、自己の存在を確立しようとした。
カザハがガザーヴァ由来の魔力を使えば使うほど、ガザーヴァという存在はこの世界でその色彩を濃くしてゆく。
そうして自身の存在証明を確保してから、ゆくゆくはカザハの肉体の主導権を奪い復活する――
それが、幻魔将軍ガザーヴァの狙いだった。

「さぁーて……明神さん、ジョン君。キミたちにも『烈風の加護(エアリアルエンチャント)』をかけてあげるね!
 この敵はみんなで殺らなきゃダメだ。全員で仲良く息の根を止めてあげなくちゃね!
 キミもそう思うだろォ〜? 明神さアアアアアアアアアアアん!!!」

まるで有明月のように口許を歪ませ、カザハは嗤いながら明神の名を呼んだ。
そして、右手の人差し指を伸ばして明神とジョンのふたりに『烈風の加護(エアリアルエンチャント)』を付与する。
しかし――明神とジョンは気付くだろうか。
今、カザハは『スペルカードを使用しなかった』。
だというのにバフは効力を発揮している。つまり――
今使った『烈風の加護(エアリアルエンチャント)』は『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の力ではない、ということだ。

ガザーヴァはカザハの望むままに力を与えている。それは間違いない。
だが、カザハがガザーヴァの力を使えば使うほど、ガザーヴァはこの世界で復活の下地を整えてゆく。
そして。

奇しくも先ほどカザハ本人が言った通り、本当の勝負はここからだったのだ。

201崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/01/06(月) 22:50:45

「抵抗はやめなさい、帝龍!
 もう戦いは終わりよ……あなたの頼みの綱、パートナーモンスターのロイヤルガードはもういない!
 大人しく降伏しなさい、そうすれば……わたしたちも同じ『異邦の魔物使い(ブレイブ)』として悪いようには――」

「それそれ、それアル。
 そこからして、もうスデに大勘違いの間抜け面ってヤツアルネ。
 このワタシが! いつ『パートナーモンスターはロイヤルガード』と言ったアル……?」

「……え……?
 ――――――――――――あっ!!」

なゆたは怪訝な表情を浮かべ、それからすぐに気が付いた。
そうだ。
帝龍はロイヤルガードを護衛として配置しており、自分の鍛え上げた特別製と言ってはいたが、パートナーとは言っていない。
そして――それを裏付けるように。
帝龍はエンバースとロイヤルガードの戦闘の最中、一度も指示をせずスペルカードも使用しなかった。
それどころか、帝龍はスマホを持つことさえしていない。
パートナーとの連携には、魔法の板――スマートフォンが必要不可欠。それは『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の大前提だ。
だが、帝龍はロイヤルガードの戦いをただ眺めていただけである。
つまり――




『帝龍のパートナーモンスターは、別にいる』。




「くふふ! やっと気付いたアルか、この下民どもが!
 『進撃する破壊者(アポリオン・アヴァンツァーレ)』を封じればワタシに勝てると思ったアルカ?
 本陣にさえ乗り込んでしまえばこっちのものだと――? 見通しが甘すぎて笑い話にもならないアル!
 ワタシは最強無敵の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』! 頂点に君臨する者には、それに相応しいパートナーが傅く……!
 ならば! 特別に見せてやるヨロシ、ワタシの最強のパートナーモンスターを!」

そう高らかに言い放つと、帝龍は仕立てのいいスーツの内ポケットからスマホを取り出した。
そして『召喚(サモン)』のボタンをタップする。
途端にゴゴゴゴ……と地面が振動を始める。大気が震え、空がにわかに掻き曇ってゆく。

《すごい魔力だ……! みんな! そっちは何が起こってるんだ!? ここからだと状況が把握できない!
 でも、君たちのいる場所を中心にとんでもない魔力が集まっているぞ!
 これは……準レイド? いや、レイド級……違う! そんなレベルじゃない、もっともっと上級の――》

全員のスマホにバロールから通信が入る。
アコライト外郭からでは、距離が離れすぎていてよく見えないらしい。
だが、本陣にいる全員にはよく理解できるだろう。
膚が粟立つ。鳥肌が立つ。動悸が激しくなり、暑くもないのに脂汗が出る。
肉体が、ここにいるのは危険だと警鐘を鳴らす。

「くふふふははははははは!! さあ――大地の懐深く、原霊の祭壇よりいでよ! 魔皇竜!!」

帝龍のスマホの液晶画面が激しく輝く。地属性を現す、茶色のオーラが迸って周囲を眩く照らす。
やがて帝龍となゆたたちの中央の地面に亀裂が走り、巨大なクレバスが出来上がる。
そこから、地の底で眠っていた神性がゆっくりと姿を現す――。

そう。

それは、尻尾までを含めた全長が200メートルはあろうかという、巨大なドラゴン。
高さは50メートルはくだらないだろう。暗褐色の鱗に全身を鎧っており、背に生えた翼は空を覆うほどの大きさを持つ。
長い三本の首はそれぞれ一本、二本、三本の角を持ち、覇者の威容を以て地上を睥睨している。
全身から嵐のような地属性の魔力を迸らせながら、『それ』は強靭な二本の後肢で束の間立ち上がり、天を睨むと、

『ギャゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!』

と、耳をつんざく大音声で咆哮した。
巨竜の咆哮によって空気がビリビリと振動する。大地が震動する。
バロールの言った通り、これは既に準レイドとかレイドとか言った範疇を大きく逸脱している。

「くふふふふふふふ! 召喚――アジ・ダハーカ!!」

スペルカード『浮遊(レビテーション)』で巨竜の傍に浮かぶ帝龍が笑う。
魔皇竜アジ・ダハーカ。

ブレモン正式稼働一周年記念イベント【六芒星の魔神の饗宴】にて実装された、六体の超レイド級モンスターのうちの一体だった。

202崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/01/06(月) 22:57:11
「くふふ……どうアル? このアジ・ダハーカの尊容は? 初めて見たアル?
 当然アルネ……世界中のブレモンプレイヤーの中で、このアジ・ダハーカ完全体を持つのはワタシただひとり。
 つまり――ワタシが最強ということアル! ミハエル・シュヴァルツァー?
 そんなヤツは、アジ・ダハーカの前には木っ端クズのようなものアルヨ!」

帝龍は自信満々に言い放った。
アジ・ダハーカをはじめとする【六芒星の魔神の饗宴】の超レイドモンスターは、
八箇所の部位を前哨戦レイドで倒して集め、八箇所中五箇所を揃えて初めて召喚できるという特殊なモンスターである。
しかし、そもそもその各部位ごとの強さからして異次元な上、ドロップ率も極めて低い。
かつては日本でも大手ギルドが水属性のクロウ・クルーワッハを揃えたと話題になったが、
ドロップは一体分だったためギルド内部で醜い所有権争いが起き、そのあげくギルドが崩壊するという事件も勃発した。
元より個人で集めるのは不可能、マルチで戦っても内輪揉めは不可避。
結局誰も完全体を手にすることはできず、イベントも終息した――と思われていた。

みのりはパズズを部分的に召喚することができていたが、それも不完全極まりない右腕と頭部だけである。
だが――
ここに、ブレモンのプレイヤーが誰も見たことのない『完全体』のアジ・ダハーカが降臨している。

「金さえあれば、なんだって手に入らないものは存在しないアル!
 無課金で戦術を考える? 知恵を絞ってデッキをビルドする? ワタシに言わせれば、そんなのは負け犬の遠吠えアル。
 貧乏人の負け惜しみアル! 潤沢な資金力! 無限の経済力があれば、戦術など不要! すべて押し潰してくれるヨロシ!
 さあ――金の力を見せてやるアル。マネー・イズ・パワー! その極致たる、アジ・ダハーカの力を!!」

『ギュゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!』

ふたたびアジ・ダハーカが叫ぶ。
確かに、六芒星の魔神の饗宴で実装された超レイド級をパートナーにできたプレイヤーはなゆたの知る限りは存在しない。
しかし――それはあくまでも日本国内の話。日本に話題が入って来づらい海外ならば、その限りではないのだ。
まして、帝龍は世界に名だたる大企業の豊富な資金力と、人員を確保するだけの権力がある。
社員にもブレモンをプレイさせてレイド級を従えたパーティーを作り、帝龍がリーダーとなってイベントに参加する。
そうすれば、誰が前哨戦で肉体の部位を手に入れようが所有権争いは発生しない。
帝龍はそうやってかつての【六芒星の魔神の饗宴】でアジ・ダハーカの肉体八箇所を入手し、秘匿していたのだ。
もちろん、超レイド級モンスターなど公式大会では使用不可能だし、そもそも所有している者もいない。
ママゴトのような大会での勝者などなんの価値もない――そう帝龍が言い放つのには、そういった理由があったのだ。
先程魔法機関車を一撃で吹き飛ばしたのも、このアジ・ダハーカの尻尾なり前肢なりの一撃だったのだろう。

「な……、なんてこと……」

アジ・ダハーカの降臨を前に、なゆたは驚愕してその場に立ちすくんだ。
何を隠そう、かつてなゆたも【六芒星の魔神の饗宴】にゴッドポヨリンを引き連れて参戦したことがある。
そのときの相手はアジ・ダハーカではなく火属性の超レイド級、第六天魔王だったのだが、相当な苦戦を強いられた。
同じ水属性のレイドパーティーで前哨戦に挑んだが、壮絶な消耗戦の果てに左腕、胴体、翼を手に入れるのがやっとだった。
そのとき得た部位は同じパーティーを組んでいたフレンドに譲渡してしまったが、二度と戦いたくないと思ったものである。
単なる一部位とのバトルに過ぎなかった前哨戦でさえ、それだけの苦労を伴ったのだ。
それが、完全体となれば――果たしてどれほどの強さなのか想像もつかない。

《バカな……、ニヴルヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』はそんなものまで持ってるっていうのか!?
 みんな、退却だ! 今キミたちがアジ・ダハーカと戦っても絶対に勝てない! 戦力が違いすぎる!》

バロールが撤退を促す。まさか、帝龍がこんな隠し玉を持っていたとは露とも気付かなかった、という様子だ。
無理もない。幻の上の幻、誰も手に入れられなかったというのが定説の、神話上のモンスターが実在していたなど――
果たして、誰が思いつくだろうか?

だが。

「……逃げないよ」

なゆたは一度かぶりを振った。
確かに、なゆたの持ち札ではひっくり返ってもアジ・ダハーカには勝てない。
だが、といって退却していったいどこへ逃げるというのだろう?
なゆたたち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の抑えがなくなれば、巨竜はアコライト外郭を破壊するだろう。
アコライトが破壊されれば、次はキングヒルだ。アジ・ダハーカがキングヒルに到達した瞬間に、アルフヘイムの負けが決定する。
どちらにしても、ここで戦う以外にあるフレイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』に選択肢はないのである。

「このデカブツは、ここで食い止める……! どんなことをしてでも!
 エンバース、みんな! 手を貸して――! アイツを止める方法を、みんなで考えるんだ!」

ぐっ、となゆたは右手に持ったスマホを強く握り込んだ。

「いいとも! じゃあ、やっぱりボクの『烈風の加護(エアリアルエンチャント)』が必要だねー!
 燃えてきたぁーっ! いや、ボクは風属性であって火属性じゃないけどね!?」

カザハの中のガザーヴァが、カザハの声で朗らかに笑う。
その身体には、相変わらず闇の波動が纏わりついている。

「彼我の実力差も測れないクズどもが……思い知らせてやるアル!
 地を這う蛆ども、消えよ! 『空前絶後の大震動(テンペスト・クェイク)』!!」

帝龍の指示によって、アジ・ダハーカの六つの眼が禍々しく輝く。
右の前肢を高々と持ち上げ、ドォォ――――――――ンッ!!と勢いをつけて地面を叩くと、途端に大地震が周囲を襲う。

203崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/01/06(月) 22:57:43
「うッ、うわッ! うわああああああ――――――――ッ!!」

マホロの姿をしたアコライト外郭守備隊も、帝龍配下の兵士たちも、もう戦いどころではない。
天変地異そのものといった大地震に、ただ逃げ惑うばかりである。

「みんな、身の安全を図って!」

ポヨリンを抱き締めると、なゆたは低く身を伏せてパーティーの全員を振り返り叫んだ。

「月子先生! 明神さん!」

後方で歌による支援を行っていたマホロも、さすがにこの異常事態になゆたたちの許へと飛んできた。
大地震を引き起こしている巨竜の姿を見上げ、目を見開く。

「あれは……魔皇竜アジ・ダハーカ……。
 帝龍が持ってるっていう噂は聞いたことがあったけど、まさか本当だったなんて……」

「他に何か知らない? マホたん」

なゆたがマホロに訊ねる。マホロは頷いた。

「アジ・ダハーカは地属性の超レイド級モンスター。三つの首によって、ATBゲージは三本……つまり三回同時攻撃が可能。
 さっき使った『空前絶後の大震動(テンペスト・クェイク)』と、
 口から吐く三本分の『活火山島の神息(ボルカニック・ゴッド・ブレス)』、爪と尻尾による物理攻撃がメイン攻撃ね。
 それから――」

マホロは軽く顎をしゃくって、アジ・ダハーカの横腹を指した。
よく見ると、暗褐色の鱗が蠢いている。それがまるで卵のように罅割れると、鱗の中からドゥーム・リザードが生まれ落ちた。
アジ・ダハーカの全身の鱗のたちこちで、そんな光景が繰り広げられている。
帝龍軍の中核を成していたドゥーム・リザードは、帝龍がわざわざ召喚したものではなかった。
アジ・ダハーカが召喚されているだけで、トカゲは無尽蔵に生まれ増殖していくのである。

「あれよ。ブレモンのアジ・ダハーカは悪竜の他、大地母神の側面も持っているの。
 アジ・ダハーカがいる限り、トカゲは無限に増えていく……トカゲだけじゃない、ヒュドラもそう。
 一刻も早くあいつを何とかしないと」

マホロは沈痛な面持ちで言ったが、しかしどうすればあの巨大な竜を倒せるというのだろう?
パーティーの最大戦力はG.O.D.スライムだが、幾多の強敵を打ち破ってきたレイド級のゴッドポヨリンでも今回は手に余る。
例え『烈風の加護(エアリアルエンチャント)』で属性有利を取ったとしても、レイドと超レイドの間には絶対的な差がある。
かつてなゆたたちはガンダラで火の超レイド・タイラント、リバティウムで水の超レイド・ミドガルズオルムと戦っている。
だが、タイラントは不完全、ミドガルズオルムは暴走状態にあり、まともなコンディションではなかった。
完全な制御下にある万全の超レイド級と対峙するのは、今回が初めてなのである。

《むっふっふっ……さぁ〜て、面白くなってきたぞぉ〜。
 どうしよっかなぁ〜、いきなり裏切ってあっちの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』につくのもいいし……。
 夢が広がっちゃってドキがムネムネだぁ〜!》

カケルの中でガザーヴァがさも愉快そうにことの成り行きを見守っている。

「まずは、みんなを逃がさなくちゃ……! マホたん、守備隊のみんなを本陣から撤収させて!」

「わかった! みんな、こっちよ!」

なゆたの指示に、マホロはさっそく守備隊を纏めて離脱を図った。

「魔法機関車がまだ使えればいいんだけど……。バロール、みのりさん! 何とかならないの!?」

《そんな無茶な……! 魔法機関車は現在横転中! それでなくとも無理な運行で動力部がお釈迦になってしまった!
 修理には一ヶ月はかかるだろう、今すぐなんてとても無理だよ!》

「こういう時のための創世魔法でしょ!?」

《創世魔法にだって出来ないことはありまーす!
 それに『天翔ける虹の軌条(レインボウ・レイルロード)』でもう私の魔力はすっからかんだよ!》

肝心なときに役に立たない魔王である。

「くふふふふふ! そろそろ、ワタシに盾突いたことの愚かさが実感できた頃アルか?
 しかし許さんアル! この帝龍の力、強さ、恐ろしさ!
 たっぷり感じながら――死ね! アル!
 アジ・ダハーカ、スキル! 『活火山島の神息(ボルカニック・ゴッド・ブレス)』!!」

がぱあ……と大口を開けた三つ首竜の喉奥で、莫大な熱が収束してゆく。

「みんな――防御して!!」

なゆたが叫ぶ。

カッ!!!!!

視界を灼くような閃光と共に、神の一撃の如き超レイドのブレスが平原を薙ぎ払った。


【ガザーヴァ、カザハの肉体の乗っ取りを開始。
 帝龍、パートナーの超レイド級地属性モンスター『アジ・ダハーカ』を召喚】

204カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/01/11(土) 03:02:17
《カザハ! それ以上その力を使ったらいけない!》

幸いというべきか、風属性の加護を得たエンバースさんは、すぐにロイヤルガードに勝利した。
そこに明神さんとジョン君が現れる。

>「おぉ〜っ! 明神さんとジョン君も来てくれたんだね! これで百人力ってやつ!?
 さあ、なゆちゃん! ボクたち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』全員で、こいつを八つ裂きにしちゃおう!」

そう言って手を振るのは、カザハであってカザハではない。
そういえばカザハは、出撃前夜におかしな言動をしていた。あの時から、すでに奴はカザハを乗っ取り始めていたのだ。

「あ、えーと、折角来てくれたのに悪いけどもう終わったよ!
八つ裂き!? やだなあ、みんなで八つ橋でも食べようかなって言ったの!」

大慌てで誤魔化すカザハ。

>《さあ、手助けしてあげるよ。それがキミの望みだろ……?
 もっともっとボクの力を使ってさぁ。そしたら、ボクの希薄だった存在はこの世界で確固たる基盤を確保できる。
 この世界にボクが、ガザーヴァが存在するっていう、存在定義の碇を投錨することができるんだよ。
 ホラホラぁー……何ボケッとしてるのさ? 戦えよなぁ……戦え! ボクの力を使えよ! 強くなりたかったんだろォ?
 くれてやるよ、力を! キミの食べたがってたおいしいニンジンが、目の前にぶら下がってるンだ!
 馬なら食べなきゃソンだろォ!? あ、馬なのはボクらじゃなくてガーゴイルの方か! くひッ、あっははははははッ!!》

(そこまで親切に種明かしされて使うバカがあるか! もう金輪際使ってやらないから!)

>「さぁーて……明神さん、ジョン君。キミたちにも『烈風の加護(エアリアルエンチャント)』をかけてあげるね!
 この敵はみんなで殺らなきゃダメだ。全員で仲良く息の根を止めてあげなくちゃね!
 キミもそう思うだろォ〜? 明神さアアアアアアアアアアアん!!!」

「何勝手なことしてんだボケェ!
……あっ、みんなで仲良くやるってのは新種のプレイ的な!? そう、エアプレイ!」

場は混迷を極めているが、とにかく帝龍を片付けなければなるまい。
なゆたちゃんが帝龍に投降を促す。

205カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/01/11(土) 03:03:18
>「抵抗はやめなさい、帝龍!
 もう戦いは終わりよ……あなたの頼みの綱、パートナーモンスターのロイヤルガードはもういない!
 大人しく降伏しなさい、そうすれば……わたしたちも同じ『異邦の魔物使い(ブレイブ)』として悪いようには――」
>「それそれ、それアル。
 そこからして、もうスデに大勘違いの間抜け面ってヤツアルネ。
 このワタシが! いつ『パートナーモンスターはロイヤルガード』と言ったアル……?」
>「……え……?
 ――――――――――――あっ!!」

――えっ、ロイヤルガードは前座!? このややこしい時に勘弁してください!

>「くふふふははははははは!! さあ――大地の懐深く、原霊の祭壇よりいでよ! 魔皇竜!!」

大地が割れるド派手な演出と共に、巨大なドラゴンが出現した。
この絶望的な状況を前に、何かを悟ったかのようにカザハは私の背から降りた。

(どうして……!? この世界に来てからずっと一緒に戦ってきたじゃないですか!
いや、もしかしたらもっとすごく前から……!)

「カケル……君はバロール…さ…んをここに連れてきて」

そう言ったカザハの真意は分からないが、バロールを呼び捨てにするか、”さん”付けか”様”付けか迷ったように聞こえた。
世界を救うと言ったバロール様を信じ、彼ならガザーヴァを制御できると思ったのかもしれない。
バロールを裏切者とみなし、どさくさに紛れて今この場で倒してしまおうという意図だったのかもしれない。
どちらにせよ、バロールさんなら制御不能になって暴走し始めた自分の息の根を止めてくれると思ったのかもしれない。
あるいは――カザハ自身も自分がどれを意図しているのかよく分からないのかもしれない。それでも――

「行って――瞬足《ヘイスト》!」

送り出すようにスペルをかけられた私は、弾かれたように飛び立った。

206カザハ ◆92JgSYOZkQ:2020/01/11(土) 03:05:30
>「くふふふふふ! そろそろ、ワタシに盾突いたことの愚かさが実感できた頃アルか?
 しかし許さんアル! この帝龍の力、強さ、恐ろしさ!
 たっぷり感じながら――死ね! アル!
 アジ・ダハーカ、スキル! 『活火山島の神息(ボルカニック・ゴッド・ブレス)』!!」
>「みんな――防御して!!」

「風の防壁《ミサイルプロテクション》!」

両腕を付き出し、スペルを展開。
文字通り神の息吹のごときブレスが、暴風の壁に阻まれ横に逸れていく。
もちろんガザーヴァの魔力を使っている。使えるものは全て使うしかない。
ボクは前を向いたまま、後ろにいる皆に語り掛けた。

「ボクは昔罪を犯した――罠と分かりきってる幻魔将軍の甘言に乗ってしまった。
ううん、世界に干渉すべきでない種でありながら世界を救おうなんて思ってしまったこと――それが間違いの始まりだったんだ」

「なゆ、この状況でも逃げないなんて君はやっぱり最高に勇者だね! でも、少しは自分を大事にしてね。死んだら元も子もないんだからさ」

「エンバースさん、そんな全てを諦めたような顔してちゃ駄目! 死んでるけど生きてるんだから!」

「ジョン君、この場に君がいてよかった。君なら情に流されず迷わず正解を選んでくれるから」

「明神さん、カケルをよろしくね。理由は……”翔 中国語”で検索してみて」

ボクがガザーヴァに乗っ取られたら、カケルもガーゴイルに乗っ取られるようになっているらしい。
ならばボクがガザーヴァに乗っ取られる前に死んだ場合、もしかしたら、カケルは生き残れるのかもしれない。
もしも生き残ったら、ボクの代わりに――みんなを見届けてね。

「このブレスが止んだらボクは幻魔将軍ガザーヴァだ。もし命乞いしても騙されちゃいけない」

ブレスが止み次第、全力で特攻を仕掛ける。
犠牲無しに勝てるようなレベルの相手ではないならば、ボクがなるのが都合がいい。
相打ちになれれば一番いいが、刃が立たずにこちらが一蹴されても厄介事の種が一つ減る。
万が一こちらが生き残ってしまった場合、皆に”幻魔将軍ガザーヴァ”を倒して貰わなければならない。
きっとその時には完全に乗っ取られているだろうから。

207カザハ ◆92JgSYOZkQ:2020/01/11(土) 03:07:04
「君達に会えてよかった。本当にありがとう」

ブレスが止む―― 一度だけ皆の方を振り向いて微笑むと、地面を蹴った。

「自由の翼《フライト》――風精王の被造物《エアリアルウェポン》!」

精霊樹の木槍を軸に、巨大な風の鎌を作り出す。

「どうしよっかな〜と思ったけどやっぱりお前からだぁ!」

身一つでアジ・ダハーカに斬りかかる――我ながらヤケクソじゃなければ出来ない狂気の沙汰だ。
一瞬で叩き落とされて終わりかと思いきや、意外と攻防戦が成立してしまったのは幸か不幸か。

「アコライトなんてさっさと潰しちゃえばいいのにマホたんが欲しいとか言ってダラダラしてさぁ、ぶっちゃけニヴルヘイムへの忠誠心0っしょ!
ってなわけで危険因子は早めに潰しとかないとね! アルフヘイムのザコブレイブ共なんていつでも潰せるし?」

ガザーヴァの振りをして喋りまくる。もしもこちらが生き残ってしまった時に、彼らを躊躇わせてはいけない。

「忠誠心0をお前が言うな? あっはははははは! 言えてるー! 特大ブーメラン刺さってる!
ってなわけで真空刃《エアリアルスラッシュ》! ……ってもう2回使ってたわ!
しかしMPが足りなかった的な!? 超ウケるー!」

もはやボクが喋っているのかガザーヴァが喋っているのかも分からなくなってきたが、
真空刃《エアリアルスラッシュ》が出なかったということは、まだ完全には乗っ取られていないのだろう。
ボクの意識があるうちに――どうか殺してくれ。やっぱり、彼らに殺させるのは酷だ。
仲間を手にかけた罪の意識を一生背負わせるなんて、そんなのは嫌だ。

208カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/01/11(土) 03:08:40
私は全速力で飛びながら、遠い昔のことを思い出していた。
それは、姉さんとバロールさんに出会った日のこと。
確か狂暴なモンスターに襲われていたところを姉さんとバロールさんに助けられたんだっけ。
正確には姉さんが考え無しに飛び出してきて二匹揃ってのされそうになっていたところをバロールさんに助けられたような気もするが。
『どうして助けてくれたの?』
『君が美少女だからさ!』
『美少女の姿をしてると通りすがりの人に助けて貰えるんだ! じゃあ毎日美少女の姿をしていよう!』
この時の二人のやりとりにはずっこけそうになったものだ。
ということは美少女の姿をした姉さんが来なければ私は助けてもらえなかったわけで、やっぱり姉さんに助けられたのか。

恐れることを知らない それが勇気ではなく、恐れてなお逃げないこと それが本当の勇気
恐れることを知らないこと それが強さではなくて、恐れるものに打ち克つこと それがが本当の強さ

とは地球のとある歌の歌詞の一節だが、

『ボクは勇者にはなれない――恐れることを知らないから』

それが“姉さん”の口癖だった。
この世界に存在する四大属性の精霊族――地のノーム、水のウンディーネ、火のサラマンドラ、そして風のシルヴェストル。
その属性の魔力の集まる場から自然発生し、永遠に近い寿命を持ちながら世界に干渉せず、生きる事に飽きたら自然消滅するという。
彼らはその属性に応じた性質を持ち、一族の中でも最もその属性を色濃く体現する魂を持つ者が族長となる。
“風渡る始原の草原”に住まうシルヴェストルも例外ではなく、そして姉さんは次期族長候補の一人だった。
気まぐれで飽きっぽくて無責任、それでいて恐れを知らず、勢いだけで体を張って人助けしてしまうような、人間では決して持ち得ない純粋な魂――
精霊族は表立って世界に干渉しないのが常だが、姉さんが世界を救う旅に出ると言い出した時、誰も驚かなかったし止めなかった。
「どうせ3日で飽きて帰ってくる」と誰もが思ったからだ。
しかしその予想は外れ、悲劇は起きた――

そんな事を考えている間に、気付けば私はバロールさんの元へ辿り着いていた。

《世界を救うといったあの言葉は本当なんですよね?
小一時間ほど問い詰めたいところですが今はそんな暇はありません。
――トランスファー・メンタルパワー!》

自分が行動不能にならない分だけ残して精神力を譲渡する。
多分魔法機関車でGOで魔力を使い果たしてそうだが、これで少しは魔法が使えるようになるだろう。
勢いで来てしまったが、そういえばこの人、私の言葉は分かるんだろうか。
まあいいか。問答無用で信じると決めているので、大きな問題ではない。
信じる根拠はないどころか、冷静に考えれば改心した振りをして何かを企んでいる可能性の方が高い。
それでも信じるのは、そうでなければカザハは絶対助からないし、なゆたちゃん達の足元も全てが崩れてしまうからだ。
だから、これは信じるというよりも賭けるに近いかもしれない。

《乗ってください!》

そう言って背中を差し出す。もし言葉が伝わらなかったとしても、意図は伝わるだろう。

209明神 ◆9EasXbvg42:2020/01/14(火) 03:04:17
爆煙と濃霧漂う戦場を、ジョンと二人駆ける。
マホたんのバフが効いているのか、息は切れなかった。
走りながらジョンと会話する余裕すらある。

>「明神・・・君もカザハがなにかおかしいと、気づいているんだね」

「ってことはジョン、お前もか」

マホたんは俺にだけカザハ君に関する嫌疑を語ったと言ってた。
こいつがカザハ君についてなにか勘付いてるのには、他に理由がある。
ジョンは端的に、昨夜カザハ君との会話で起きた出来事を話した。

>「カザハは自分を現地の魔物と称していた・・・その時は中二病の冗談だと思っていた、だが本当に中になにかいるんだな
 ・・・そしてカザハの中にいる悪意の正体を明神はしっているんだな?」

「……悪い。推定有罪の段階じゃ、まだおおっぴらには出来なかった」

ジョンは俺を責めているってわけじゃあるまい。
だけどカザハ君の疑惑を、俺は敢えて他の連中には伝えていなかった。
疑惑が杞憂に終わるなら、あれこれ悩むのは俺だけで良い……そう思ってた。
結局は言い訳に過ぎない。俺はこの期に及んで、カザハ君を疑い切ることが出来なかったってだけだ。

>「別に、どんな理由でしっているのか無理に言わなくてもいいし、無理に聞く気もない
 ヒュドラ戦であんな戦い方してしまったせいで、信用がないのはわかっているしな・・・」
>「だが、カザハの中にいる存在は異常だ、とてもじゃないがこの世にいていいレベルじゃない
 今のカザハの力を見れば力そのものも恐らく強大だ、今は落ち着いてはいるが、いつ暴走するかわからない」

歯切れの悪い俺とは対照的に、ジョンの出した結論はシンプルだ。
懐から抜き放ったナイフ。その切っ先がどこに向いているのか、もう疑う余地はない。

>「もし次・・・あの悪意を振り撒いたり・・・暴走したら・・・その時は俺がこれでカザハを終わらせる」

「待てよ。もう少しだけ、待ってくれ。一度はあの悪意に呑まれずに済んだ。あいつはまだ……戦ってるんだ」

>「説得が通用すると本気で思ってるのか?僕はそうは思わないな。あれは、あの悪意はそんなレベルじゃない」

「信じてやれとは言わねえよ。だけどなゆたちゃんの、リーダーの指示を思い出せ。
 俺達は誰も死なせずに、アコライトを守り抜く……そう決めただろ」

その中には言うまでもなくカザハ君も入ってる。
あいつの中身がどうであれ、殺すわけにはいかない――殺したくない。

ジョンの意思は本物だ。マホたんに向けたのと同じ、明確な殺意が伝わってくる。
こいつは昨日も、暫定ガザーヴァに乗っ取られかけたカザハ君の姿を見ている。
未だ踏み切れない俺よりもずっと、危機感と覚悟を持っていた。

>「大丈夫さ・・・人を殺すのはこれが始めてじゃない」

「……なんだと?」

モゴモゴと擁護の弁を呟く俺を尻目に、ジョンははっきりとそう言った。
人を殺した?こいつが?冗談だろ。なんぼ職業軍人ったって、こいつは自衛官だ。
少なくともジョンが入隊してから自衛隊で人死の出るような交戦はなかったはず。

210明神 ◆9EasXbvg42:2020/01/14(火) 03:05:20
とすればこいつは一体、どこで、誰を殺したってんだ?

>「安心してくれ、君に迷惑はかけない、僕一人でやるさ」
>「さぁ時間はないぞ!いこう明神」

理解が追いつかないまま、ジョンは俺に手を差し伸べた。
唐突な殺人経験の告白は、もしかしたらこいつなりの方便なのかもしれない。
『荒事は任せておけ』と。『君が手を汚す必要はない』と。

ヒュドラ相手に大立ち回りをやらかしたジョン相手に、俺はビビっちまった。
化け物――そう呼んでも良いくらい、こいつの戦いぶりは苛烈だった。
冗談めかしてみたものの、言い訳しようのない『恐怖』を感じていた。

画面越しにすらガザーヴァの悪意を明確に感じ取れるこいつのことだ。
俺の怯えは間違いなく伝わってるだろう。
それで、これ以上ビビらせないように、距離をとった?

……クソったれめ。
自分でジョンのことを親友だなんだ言っといて、こいつに余計な気を回させてんじゃねえよ。
都合の良いときだけ友達ヅラすんのが俺にとっての友情か?違うはずだ。

「ざけんな。お前だけに良いカッコさせてたまるかよ」

人を死なせた経験なら俺にもある。
バルゴスは俺が巻き込んで、俺の身代わりになって死んだ。
それどころか死んだ後まであいつの霊をこき使ってる始末だ。

勝手に俺から離れて行くんじゃねえよ、ジョン・アデル。
お前は俺の親友で、俺達は一蓮托生だ。

「あいつは俺が殺る。あいつを殺すのは……俺でなきゃ駄目なんだ」

差し伸べられた手が、血に染まっていたとしても。
ヒュドラを嬲り殺しにするこいつの強さに、未だにビビっちまっていても。
ジョンの傍に居ることを、躊躇う理由にはならない。

伸びてきたジョンの手をぺしっと払って、俺は前を向いた。
じきになゆたちゃん達と合流する。
この霧の向こうに何が待っているのか……そいつをこれから確かめるんだ。

 ◆ ◆ ◆

211明神 ◆9EasXbvg42:2020/01/14(火) 03:05:49
>「あなたたち、もしかして明神さんとジョン!? どうしてここに……!」

マホロスキンを被った俺達の姿を、なゆたちゃんは目敏く見抜いて声をかけた。
すぐ傍まで迫っていた帝龍兵たちをポヨリンさんが迅速に排除。
かくして王都のブレイブ一行は、敵地のど真ん中で再び集結した。

>「何やってるの! 早くこっちへ!
 ……状況報告! どうしてここへ!? 魔法機関車で何かがあったの!?」

「後方は無事だ。魔法機関車は絶賛横転中だが、アコライト兵に損耗はない。
 俺達がこっちに来たのは、バロールの映像中継で前線の異状を確認したからだ」

まだるっこしい状況報告は早々に切り上げて、俺は本題を端的に述べた。

「……カザハ君の中にガザーヴァが居る」

あるいはカザハ君に"中も外も"なくて、元からガザーヴァがカザハ君のガワを被ってるだけかも知れないが。
この際どっちだって良い。カザハ君がカザハ君でなくなる、その瀬戸際にあるのは間違いないだろう。
昨日のマホたんからの告発、ジョンが見たカザハ君の変容。
それら必要な情報を俺は掻い摘んでなゆたちゃん達に伝えた。

>「普通、ブレモンではスペルやスキルを使うと、その属性に応じたエフェクトが出る……。
 炎なら赤い光が、水なら蒼い輝きが――でも、今のカザハから出ているのは……」

説明を受けたなゆたちゃんは歯噛みしつつカザハ君を見る。
あいつが身にまとうエフェクトの色は――黒。闇のそれだ。

「あいつは今、俺達の仲間のカザハ君と……ニブルヘイムの三魔将。その間を行き来してる。
 黙ってて悪かった。ギリギリまであいつを信じていたかった……俺の判断ミスだ」

ガザーヴァがカザハ君の内側に引っ込んでいる以上、こちらからは手の出しようがない。
さりとてこいつをふんじばってその辺に置いておくことも出来ない。
この場で用意できる拘束なんざガザーヴァが本気出せば速攻でぶっ千切られるだろうし、
俺達の眼の届かない場所で好き勝手されることの方がリスクとしては大きいからだ。

まだ。まだバロールの野郎が映像を弄って、カザハ君がガザーヴァに呑まれてるよう誤認させてる可能性はあった。
だがこうして現地で現認して、一縷の望みは完全に潰えた。
カザハ君は、俺達の知ってるシルヴェストルとは違う。違ってしまっている。

>「さて……邪魔者はいなくなったな。それで、さっきの話の続きなんだが――」

なゆたちゃんの向こうで、エンバースがロイヤルガードを仕留めるのが見えた。
崩壊していく鋼の四肢。破壊の根本は、奴のスマホから伸びる白い触手だ。
あれがエンバースのパートナー?いや、触手が本体ってわけじゃあるまい。
ガンダラの山道で俺もやった、クリスタル節約の為の部分召喚だ。

>「下級国民が、上級国民であるワタシの相手? のぼせ上がるんじゃないアル。

エンバースのさらにその先に、帝龍が居た。
相変わらずきっちりとスーツを着こなし、怜悧な顔貌には冷や汗一つかいてない。
パートナーを落とされてなおこの余裕。まだまだ隠し種は在庫潤沢ってツラだ。

>「おぉ〜っ! 明神さんとジョン君も来てくれたんだね! これで百人力ってやつ!?
 さあ、なゆちゃん! ボクたち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』全員で、こいつを八つ裂きにしちゃおう!」

俺達の姿を認めたカザハ君は、こっちに向かって脳天気な声を上げた。
その口調も振る舞いも、俺の知ってるカザハ君のもの。
だけど……『八つ裂き』?こいつはそんな血生臭い言葉を好んで使ったか?

212明神 ◆9EasXbvg42:2020/01/14(火) 03:06:24
>「あ、えーと、折角来てくれたのに悪いけどもう終わったよ!
  八つ裂き!? やだなあ、みんなで八つ橋でも食べようかなって言ったの!」

自分で言ってて気付いたのか、取り繕うようにカザハ君は重ねる。
まるで、意に沿わぬ言葉が勝手に出てきたみたいに。

>「さぁーて……明神さん、ジョン君。キミたちにも『烈風の加護(エアリアルエンチャント)』をかけてあげるね!
 この敵はみんなで殺らなきゃダメだ。全員で仲良く息の根を止めてあげなくちゃね!
 キミもそう思うだろォ〜? 明神さアアアアアアアアアアアん!!!」

カザハ君が呪文を唱え、風属性のバフエフェクトが俺とジョンの体に灯る。
――呪文を唱えた。スペルカードを使わずにだ。

>「何勝手なことしてんだボケェ!
 ……あっ、みんなで仲良くやるってのは新種のプレイ的な!? そう、エアプレイ!」

またしてもカザハ君は一人、虚空に向かって漫才を繰り広げる。
分からねえ。お前は今、『どっち』なんだ。俺はまだ、お前を信じて良いのか?

>「抵抗はやめなさい、帝龍!

だが、少なくともカザハ君はガザーヴァのいざないを一度は克服し、ロイヤルガードに逆転して見せた。
このまま帝龍を制圧し果せれば、当面の戦いはどうにか終えられる。
推定有罪のガザーヴァよりも、目の前の帝龍を優先すべき――なゆたちゃんもそう判断したんだろう。
しかしその降伏勧告を、帝龍が受け入れることはなかった。

>「このワタシが! いつ『パートナーモンスターはロイヤルガード』と言ったアル……?」

「クソが……そういうことかよ」

帝龍の余裕の正体。勿体ぶった隠し玉。
この金満野郎が、たかが準レイド程度のロイヤルガードを虎の子にしているはずがなかった。

>「ワタシは最強無敵の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』! 頂点に君臨する者には、それに相応しいパートナーが傅く……!
 ならば! 特別に見せてやるヨロシ、ワタシの最強のパートナーモンスターを!」

帝龍がようやく自前のスマホを取り出し、召喚を起動。
軋むような大気の鳴動と共に、夥しい魔力が空間に凝結していくのが俺にも分かった。

>《これは……準レイド? いや、レイド級……違う! そんなレベルじゃない、もっともっと上級の――》

スマホから響くバロールの声もどこか遠い。
背筋を虫が駆け下りていくような強烈な悪寒、口の中が乾いて舌先がチリチリと痛む。
さながら、蛇に睨まれた蛙。本能に根ざした『天敵』への恐怖が、心臓を締め付ける。

この感覚を、俺は知っている。
以前おぼえた時は、ほんの数秒だけ威圧感に暴露されただけだった。
だが、いま俺を飲み込まんとする気配の濃密さは、その時の比じゃない。

そう、知っている。
これまで共に肩を並べて戦ってきたある女が秘蔵していた、ブレモン最強のモンスターが一角。

213明神 ◆9EasXbvg42:2020/01/14(火) 03:07:24
>「くふふふふふふふ! 召喚――アジ・ダハーカ!!」

出現したのは、ゴッドポヨリンさんが三体肩車してようやく届くかってぐらいに巨大な竜。
都合3つの首がうねるたびに突風が吹き荒れ、暗い体色はそれそのものが夜空のようだ。

――六芒星の魔神。魔皇竜『アジ・ダカーハ』。
国内はおろか全世界でもいまだかつて目撃されたことはないであろう、超レイド級の完全体だ。
各国の神話をモチーフとした六種の魔神は、プレイヤーが唯一『理論上』入手出来る超レイド級。
実際に揃えられた例など世界規模でも存在しないとされていた……はずだ。

「マジに揃えたってのかよ……!石油王でも切り身でしか持ってねえ、超レイド級を!」

一体どれほどの人脈と時間、何より金を注ぎ込めばアジ・ダカーハを手にできるのか。
その計算にはきっと天文学者が必要になるだろう。
会計どうなってんだ帝龍有限公司。株主激おこぷんぷん丸やぞ!

>《バカな……、ニヴルヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』はそんなものまで持ってるっていうのか!?
 みんな、退却だ! 今キミたちがアジ・ダハーカと戦っても絶対に勝てない! 戦力が違いすぎる!》

バロールの退避勧告が頭の上を擦過していく。
足が竦んで動けない。アジ・ダカーハなんて、画面越しにだって見たことはなかった。
プレイ動画でも超レイド級との戦闘は配信されてない。
そもそも挑戦条件として各部位を揃えるのが難しすぎて、完全体と戦った事例が皆無に等しいのだ。
知見がない。Wikiの内容を諳んじられる俺でも、アジ・ダカーハが何をしてくるのか、分からない。

今すぐここから逃げる……ことは、出来なくはないだろう。
こっちにはマホたんという"人質"が居る。いきなり範囲焼きが飛んでくることはあるまい。
迷夢に紛れてうまいこと前線を離脱して、アコライトまで引き返すことは不可能じゃない。

帝龍がどれだけ潤沢な資産を抱えていても、結局は有限なクリスタルで超レイド級を常に召喚し続けることはできまい。
俺達が退却すれば、つまり短期決戦が不可能と見れば、無意味に消費を続ける愚は侵さないはず。

……だけど。
逆に言えばそれは、帝龍側にも仕切り直しのチャンスを与えることになるってことだ。
後日こっそりアコライトまで肉薄して、その場で召喚からの蹂躙コンボを決めることだってできる。
外郭から程よく離れたこの戦場に帝龍とアジ・ダカーハを釘付けに出来るのは、今だけだ。

ふわふわと足元がおぼつかない。
歯の根が合わない。
指先が氷みたいに冷たくなって、まともにスマホを手繰れるかも分からない。

それでも決めた。
どれだけ高難易度だろうが、この戦いから逃げはしない。
これを蛮勇と呼びたきゃ呼べ。譲れない矜持ってやつが、俺にはある。

>「……逃げないよ」

ぶるぶる震える俺の耳朶を、なゆたちゃんの声が力強く打った。

>「このデカブツは、ここで食い止める……! どんなことをしてでも!
 エンバース、みんな! 手を貸して――! アイツを止める方法を、みんなで考えるんだ!」

「……よくぞ言ったぜ、リーダー。理不尽なこのクソゲーにゃ、難易度の急上昇なんて珍しくもねえ。
 クリア条件は変わってない。あの腐れCEOをぶっ倒して、アコライトを解放する。それだけだ」

勝算なんざぴくちりありゃしねーけどよ。
俺がかつて目指したプレイヤー像は、こういう逆境でこそ、強く笑った。
世界まるごと救おうってんだ。アジだかサバだか知らねえが、超レイド級がナンボのもんじゃい。

214明神 ◆9EasXbvg42:2020/01/14(火) 03:08:05
>「彼我の実力差も測れないクズどもが……思い知らせてやるアル!
 地を這う蛆ども、消えよ! 『空前絶後の大震動(テンペスト・クェイク)』!!」

恐慌を起こし逃げ惑う姿を期待してたんだろう。帝龍は短く舌打ちしてアジ・ダカーハに指示を下す。
巨竜の拳が大地を殴りつけ、地盤を揺るがした。

「うおあっ……!」

ゴッドポヨリンさんの拳でもここまで大規模な地震は起きない。
やはり規格外。その一挙手一投足が、わずかな身じろぎが、威力を持って襲いかかる。

>「あれは……魔皇竜アジ・ダハーカ……。
 帝龍が持ってるっていう噂は聞いたことがあったけど、まさか本当だったなんて……」

たまらず五体を地に投げると、騒ぎを聞きつけたマホたんがすっ飛んできた。
そして目の前の超レイド級に絶句。長らく帝龍と戦ってきた彼女をして、この事態は想定外だったらしい。
そしてアジ・ダカーハの能力は、何も地面をバシバシ殴ることだけじゃない。

>「あれよ。ブレモンのアジ・ダハーカは悪竜の他、大地母神の側面も持っているの。
 アジ・ダハーカがいる限り、トカゲは無限に増えていく……トカゲだけじゃない、ヒュドラもそう。

アジ・ダカーハの体表、そこを覆う鱗の一枚一枚から、トカゲがポロポロこぼれ落ちていく。
この異常な大群のカラクリはこいつか。シンのコケラみてえな奴だな。

「公式大会で出禁になるわけだぜ。寄生虫まみれのマンボウじゃねえんだぞ」

事実上、帝龍は無限の軍勢を常に補充し続けることが出来る。
俺達がどれだけトカゲ相手に無双かまそうが、アジ・ダカーハが居る限りジリ貧になる一方だろう。
これで遅滞戦術のセンも消えた。時間をかければかけるだけ包囲網が完成しちまう。

とにもかくにもドゥームリザードが戦場に湧き始めた以上、アコライト兵はこの場に居させられない。
早急に撤収させなければトカゲの餌食になるだけだ。

しかし肝心要の魔法機関車はぶっ壊れ、兵たちの帰りのアシがない。
頼みの綱のバロール大先生はこの土壇場でガス欠だとか抜かしやがる。

>「くふふふふふ! そろそろ、ワタシに盾突いたことの愚かさが実感できた頃アルか?
 しかし許さんアル! この帝龍の力、強さ、恐ろしさ!たっぷり感じながら――死ね! アル!
 アジ・ダハーカ、スキル! 『活火山島の神息(ボルカニック・ゴッド・ブレス)』!!」

勝ち誇る帝龍の声が、戦場に轟く。
アジ・ダカーハの三つ首がそのあぎとを開き、タイラントもかくやの熱が顔を見せた。
あ。やばい。これ死ぬやつだ……死ぬやつだ!!

>「みんな――防御して!!」
「む、無茶振りだーーーっ!!」

平原ごと焼き焦がさんばかりの熱の波濤が、アジ・ダカーハの口から放たれる。
俺はスマホを手繰り、防御ユニットを発動しようとして――どっちだ?

魔法、物理それぞれに無類の耐性を誇るユニットが俺の手持ちにはある。
だが『神息』がどちらの属性なのか、まるで情報がない今判断がつかない。

ATBゲージは1本。切れるユニットは一枚だけ。
ブレスの属性と発動するユニットが違えば、俺達は一瞬でこの世から消滅する。
俺は情報を集めるだけ集めてからレイドに参加するタイプの人間だ。
運否天賦で……やるしかない!

時間にすれば、一瞬の判断の遅れ。
だけど致命的な防御の遅延は、ユニットを起動するまでもなく、俺達を消し炭にするはずだった。

215明神 ◆9EasXbvg42:2020/01/14(火) 03:08:32
>「風の防壁《ミサイルプロテクション》!」

その時、俺の目の前に飛び出す影がひとつ。
カザハ君だ。防御スペルが展開し、アジ・ダカーハのブレスが横に逸れていく。

「カザハ君!!」

地属性のブレスに、風属性の防御スペル。
相性的にはそりゃ優位だろうが、超レイド級の攻撃力相手に打ち勝てるはずがない。
だとすれば、やはりカザハ君は――

「ガザーヴァの魔力か……!」

カザハ君の身にまとうエフェクトがどす黒く変色するのを見た。
レイド級の中でも上位に位置する三魔将の魔力ならば、アジ・ダカーハの攻撃を凌ぐくらいは出来るだろう。
真空刃の威力を超強化したように。カザハ君は、ガザーヴァの力を使いこなせているのか?

だけど、黒のエフェクトは加速度的にカザハ君の総身を覆っていく。
さっきまで明滅する程度だった闇の魔力が、確かな存在感を持ち始めている。

「やめろ、それ以上力を使うなカザハ君!体真っ黒になってんぞ!!」

カザハ君は俺の制止に構わず、アジ・ダカーハと相対したまま語り始める。

>「ボクは昔罪を犯した――罠と分かりきってる幻魔将軍の甘言に乗ってしまった
 ううん、世界に干渉すべきでない種でありながら世界を救おうなんて思ってしまったこと――それが間違いの始まりだったんだ」

溢れるような声で告げられたのは、カザハ君とガザーヴァのつながり。
自覚が……あったのか?自分の中にガザーヴァが居る、そのことに。

とっさに俺達を守ったその挙動は、間違いなくカザハ君の意思だ。
カザハ君はまるで別れの挨拶のようになゆたちゃん達一人ひとりに言葉を告げる

>「明神さん、カケルをよろしくね。理由は……”翔 中国語”で検索してみて」

「待て、おい、待て!!よろしくって何だよ!お前何するつもりだ!!」

何するつもりか。
なんとなくだけれど、俺にはもう分かっていた。
分かっちまったんだよ。分かるくらいには、こいつとも長く付き合って来たのだから。

>「このブレスが止んだらボクは幻魔将軍ガザーヴァだ。もし命乞いしても騙されちゃいけない」

カザハ君は、ずっとガザーヴァを抑え込んでいた。
幻魔将軍が俺達に害をもたらさないように。その悪意が、解き放たれないように。
そして限界を悟ると同時に、死に場所を見つけた。

>「君達に会えてよかった。本当にありがとう」

カザハ君が振り向く。
首まで迫った黒の侵食。唯一無事なシルヴェストルの美貌が、ふっと微笑んだ。

>「自由の翼《フライト》――風精王の被造物《エアリアルウェポン》!」

ブレスが止む。
もはやそれ以上言葉を交わすことはなく、カザハ君はアジ・ダカーハに飛び込んでいく。
俺はその背中を眼だけで追って、視線を地面に落とした。

216明神 ◆9EasXbvg42:2020/01/14(火) 03:09:34
「知ってるよ……翔の意味くらい」

中国語のスラングで、『翔』は大便――うんちを意味する。
いつからそう呼ばれてるのかは知らんが、検索するまでもなく俺は知っていた。
凍結されたアカウント名変えるときに、各国語版の『うんちぶりぶり大明神』は一通り使ったからな。

カケル君の名前を紹介されたとき、ニヤついちまった記憶だってある。
カザハ君にそんな意図があったかどうかなんて、わかりゃしねえけど。

だから――

「――ふざっけんじゃねえええええええええっ!!!!」

んなクソくだらねえ理由でよろしくされてたまるか。
お前のお馬さんだろうが。お前がお世話しねえで、誰があいつにブラシかけるってんだ。

「うんざりなんだよ!裏切んのも、裏切られんのも!!
 どいつもこいつもしたり顔で訳わかんねえ納得の仕方しやがって!」

いい加減、腹が立ってきた。
金の力でマウントとり腐る帝龍の野郎にも。
死んでりゃいいものをしぶとく復活してカザハ君を侵さんとするガザーヴァにも。
――俺達の意思ガン無視して、一人で特攻決め込もうとしやがるカザハ君にもだ。

「干渉すべきでない種だ?知らねえよそんなもん、お前は地球出身のブレイブだろうが。
 鳥取の六法全書にゃ『世界救った者これを罰す』とでも書いてあんのか?
 前世がどうとかぴくちり興味ねえがなぁっ!そんな大昔の罪なんざノーカンだノーカン!!」

カザハ君が防御してくれたおかげで、『神息』の属性は判断できた。
『寄る辺なき城壁(ファイナルバスティオン)』を起動し、魔法を完全に遮断するユニットが出現する。
対象範囲は狭いが、少なくとも近くに居る限り範囲攻撃の餌食にはならない。
アジ・ダカーハ攻略戦における、即席の拠点だ。

「今"そこ"に居るのがカザハ君かガザーヴァか知らねえが、どっちだろうが死なせはしねえ。
 お前にも殺させはしねえよジョン。あいつには絶対に、世界救う瞬間を見届けさせる」

カザハ君≒ガザーヴァはアジ・ダカーハの周りを飛び回りながら間断なく攻撃を加えている。
どちらの意思で行動しているのか判別できないが、その刃は俺達ではなく帝龍に向けられている。
まだ、間に合う。確証はなくても、俺がそう決めた。

「タイラント、ミドやん――俺達が出会ってきた超レイド級は、どれもまともに歯が立たない雲の上の存在だった。
 目覚めたての、不完全な状態でだ。元気いっぱいの超レイド級に勝ち目はねえ」

城壁の後方に下がりつつ、俺は仲間たちに告げる。

「唯一勝ち筋が見えるとすれば、前の二匹と違ってアジ公は人間が操作してるって点だ。
 つまり駆け引きが成り立つ。完全なマネーイズパワーから、PVPの土壌に引きずり込める。
 も一つ言えば、アジ・ダカーハの巨体を支えてるのは、全部帝龍のお財布の中身だ」

もちろん対人戦でも廃課金が強いのは変わらない。
それでも単純なステータス勝負になりがちなPVEに比べれば、戦術の介在する余地がある。
そして、クリスタルというリソースに限りがあるのは向こうも同じだ。

217明神 ◆9EasXbvg42:2020/01/14(火) 03:10:44
「アコライトに駐留してたマホたんですら、アジ公の存在は噂程度にしか聞いてなかった。
 示威行為って点じゃこれ以上ない適任のアジ・ダカーハを、帝龍が伏せ続けてきたのはなんでだ?
 あの傲慢な帝王が、ロイヤルガードを落とすまでアの字も出さなかったのには、理由があるはずだ」

わざわざアコライトを包囲せんでも、アジ公一匹見せれば即日無血開城だっただろう。
クリスタルの消耗が激しいから。これも大きな理由になり得る。
奴の懐事情を推測して魔力切れによる撤退を狙う――って戦術も使えなくはない。

ついでに言えば、これまで出し惜しんでたことで、帝龍自体アジ・ダカーハの操作に習熟してない可能性もある。
3つのATBゲージを同時に扱うのは一朝一夕で出来ることじゃない。
召喚するだけで大量のクリスタルを浪費する超レイド級を、練習の為だけに召喚するとは考えづらい。
現に、ガザーヴァの力があるとはいえ、カザハ君単独でアジ公との攻防が成り立っている。

「無限湧きのトカゲ共っつう邪魔は入るにしても、防御スペルをうまく使えば食い下がることは出来るはずだ。
 ブラフとハッタリでカタに嵌めて、対人戦の真髄を教えてやる。
 あの腐れドラゴンを振り回して疲れさせて、帝龍のお財布を空っぽにする。これが俺の第一案」

アジ・ダカーハと対峙するガザーヴァに視線を投げる。
両者は幾度となく小競り合いを繰り返すが、少しずつガザーヴァが押され始めている。
レベル差が大きすぎる。早晩、削りきられるだろう。

「……バロールが魔王にならなかったこの時間軸で、幻魔将軍ガザーヴァは誰に忠誠を誓ってるんだろうな」

ゲーム本編では、ガザーヴァは敵味方関係なく引っ掻き回すトリックスターだったが、
唯一魔王バロールにだけは忠実に従っていた。死ぬまで、そのスタンスを崩すことはなかった。
虚実織り交ぜた言動で身の回りのすべてを翻弄しつつも、忠義だけは確かな真実だった。

だが、魔王バロールはこの世界にはいない。ローウェルは未だに存命だ。
ガザーヴァが傅く相手によって善にも悪にも転ぶのだとすれば、
忠義の置き場を失った今、あいつはどちら側とも言えない中途半端な存在だ。


「――第二案は。ガザーヴァを、内応させる。
 あいつにニブルヘイムを裏切らせて、カザハ君ごと俺達の味方にする」


この時間軸において、ガザーヴァはまだ大量殺戮にも大量破壊にも手を染めてない。
あいつが更地にする予定のアコライト外郭も、未だ健在なままだ。
それはガザーヴァが復活出来てないからだが、同時にもうひとつ理由がある。
――殺戮の指令を下す指揮官、魔王バロールの不在だ。

つまり現状のこいつは、なんとなく……『その場のノリ』でニブルヘイムに属しているに過ぎない。
自分で言ってて笑えてきた。これじゃまんまカザハ君だな。
そしてだからこそ、カザハ君と同じように――アルフヘイムの味方につける余地がある。

少なくとも帝龍は、ガザーヴァの力を一切あてにしていない。
これもまた、現時点のガザーヴァが完全にニブルヘイムに与していない証左だ。

「交渉は俺がやる。ガザーヴァを上手く引き込めれば、第一案もぐっとやりやすくなるはずだ。
 倒すことは出来なくても、痛打を与えてクリスタルを浪費させられる。
 なんなら潜伏系のスキル使って帝龍にダイレクトアタックくらい出来るかもな」

そこまで言って、俺はかぶりを振った。
この期に及んで俺はなに理屈屋ぶってんだ。

218明神 ◆9EasXbvg42:2020/01/14(火) 03:14:43
「……まぁ、こんなもんは建前だ。俺はまだ、カザハ君を諦めたくない。
 こんだけ状況証拠が揃ってるってのに、あいつが俺の仲間だと信じていたいんだ」

自分の死を覚悟してなお、俺達に向けたあの微笑みが……ずっと頭に焼き付いて離れない。
考えなしで、やることが雑で、デリカシーの欠片もないスケベ妖精だけど。

あいつの行動のすべてに、俺達への不器用な気遣いがあった。
それはきっと、今この瞬間だって、変わらない。

「あいつを信じて、ここまで連れてきたのは俺だ。
 カザハ君が完全にカザーヴァになってて、俺達に牙を剥くとしたら、その時は……俺があいつを仕留める」

あのクサレウンコ現場将軍の野郎に、ここまで引っ掻き回されっぱなしっつーのも。
ほっんとおおおおおおおおおおに癪だしなああああああああああ!!!!!

再燃してきた怒りに身を任せて、俺は前に出る。
踊るように空を舞うカザハ君へ向けて、人差し指を掲げる。

「お前は今、カザハ君か?ガザーヴァか?どっちだって良いけどよぉ。
 このままアジ公に消し飛ばされんのがお前の望んだ結末か?
 帝龍君がつごーよくお前だけ避けてビーム撃つとは思えねえなあ」

無論ガザーヴァも俺のこの煽りが単なる負け惜しみだとは思わないだろう。
何らかの布石、ミスディレクション、あるいは……内応策だと、見抜いてくるはずだ。
読まれてるならそれで結構。対話が成り立ちさえすれば、そこから先は俺の土俵だ。

「狂言回し気取って安全圏から暗躍すんのもこれでお終いだぜガザーヴァ。
 超レイド級が本気出しゃ俺もお前も地面のシミだ。
 お前が手ぇ下すまでもなくアコライトは更地になるだろうぜ。
 いつもみたく尻尾巻いて逃げりゃいいじゃん。あ、お馬さんいないんだっけか、メンゴメンゴ」

この俺が簡単に引き下がると思うなよ。
見せてやるぜ……1年近くブレモンに粘着し続けた、うんちぶりぶり大明神の執着をなぁ!!!!


【魔法無効防御ユニット『寄る辺なき城壁(ファイナルバスティオン)』を発動
 1.今までアジ公のアの字も出てこなかったってことは軽々に出せない理由があるのでは
 2.超レイド級とかクリスタル消費やばいだろうしうまく凌いで魔力切れ狙おうぜ
 3.ガザーヴァ買収しよう。バロール魔王になってないしワンチャン→交渉開始】

219ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/01/15(水) 21:56:08
>「ざけんな。お前だけに良いカッコさせてたまるかよ」

「別にかっこつけてるわけじゃない・・・僕はただ・・・」

なぜだ?カザハを殺せば当然他の二人から・・・なゆとエンバースから敵対されるかもしれないのに。
敵であろうが殺す事を絶対に許さないなゆが許すはずないのに。

「もう君が嫌われるのは終わった。これ以上君が汚れ役をやる必要なんてないんだ
 僕はまだPTに入って日が浅い・・・嫌われ役をするなら僕で十分なんだ、君がやる必要性は――」

>「あいつは俺が殺る。あいつを殺すのは……俺でなきゃ駄目なんだ」

>「あなたたち、もしかして明神さんとジョン!? どうしてここに……!」

さすがに影でこそこそしていれば、マホロスキンを被っていてもばれてしまう。

>「後方は無事だ。魔法機関車は絶賛横転中だが、アコライト兵に損耗はない。
  俺達がこっちに来たのは、バロールの映像中継で前線の異状を確認したからだ」

「僕が数を兵士の数を3桁は削ってきたからたとえトカゲがきてもなんの問題もないよ
 作戦通りマホロの真似事をしながらね、当然殺してもいない」

モンスターを使役していたことで自分たちは必要ないと訓練をサボってるような兵士なんてものの数じゃない。

>「後方は無事だ。魔法機関車は絶賛横転中だが、アコライト兵に損耗はない。
  俺達がこっちに来たのは、バロールの映像中継で前線の異状を確認したからだ」

「ああ、それと幻影を解除していいかい?もう帝龍の前に姿をこんな形で出しちゃったし解除していいだろう?
 部長も出しておかないとゲージも溜まらないしね」

そういってバフ効果の幻影を解除し、部長を召喚する。

>「普通、ブレモンではスペルやスキルを使うと、その属性に応じたエフェクトが出る……。
  炎なら赤い光が、水なら蒼い輝きが――でも、今のカザハから出ているのは……」

「・・・黒」

> 「……カザハ君の中にガザーヴァが居る」

「どっちが本当の中身なんてこの際どうでもいい・・・だが一つ確実な事がある」

「なんにせよ早急に排除するべき対象だ、と言う事だ」

220ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/01/15(水) 22:03:46
>……その傷は、致命傷だ。槍を引いて、マスターに助けを求めろ

ロイヤルガードとエンバースの戦闘も終了し、実質帝龍は終わり・・・ではなかった。

>――俺の記憶が正しければ、世界王者はあのミハエルとかいう奴なんだろ?
 お前、あいつに負けたんだよな?なのに――なんで、そんな偉そうなんだ?

エンバースが煽る、ひたすら煽る。
帝龍は顔真っ赤にして・・・。

>「オマエ、底抜けのバカアルか? 偉そう、ではなく実際に偉いアルネ。
 世界王者? 禁止カードだらけでルールに縛られたママゴト大会の王者が、本当に強いとでも思ってるアルか?
 ひょっとして、プロレスはガチ! とか大真面目に信じちゃってるタイプアル?」

いや顔真っ赤にしているのは間違いなかった。
しかし諦めたいるという風ではなく、まだ策があるようだった。

>「おぉ〜っ! 明神さんとジョン君も来てくれたんだね! これで百人力ってやつ!?
 さあ、なゆちゃん! ボクたち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』全員で、こいつを八つ裂きにしちゃおう!」

!?

カザハに細心の注意を払っていた、なのに気づいたらカザハは僕達の真後ろに現れフレンドリーに話しかけてくる。

気配を感じなかった・・・!

やはり真に注意をするべきは帝龍ではなくカザハ自身である。ということ認識させられる。

>「さぁーて……明神さん、ジョン君。キミたちにも『烈風の加護(エアリアルエンチャント)』をかけてあげるね!
 この敵はみんなで殺らなきゃダメだ。全員で仲良く息の根を止めてあげなくちゃね!
 キミもそう思うだろォ〜? 明神さアアアアアアアアアアアん!!!」

>「何勝手なことしてんだボケェ!
……あっ、みんなで仲良くやるってのは新種のプレイ的な!? そう、エアプレイ!」

どうやらいよいよをもって制御が利かなくなってきたらしい。
明神はああはいったが、情けをかけてしまうかもしれない。

今すぐ手を出したい衝動をこらえる。

>「それそれ、それアル。
 そこからして、もうスデに大勘違いの間抜け面ってヤツアルネ。
 このワタシが! いつ『パートナーモンスターはロイヤルガード』と言ったアル……?」

まだ帝龍との勝負は終わっていない。
カザハ抜きで決着はつけられないだろう。

だから・・・今はまだ手は出さない。

221ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/01/15(水) 22:05:20
『ギャゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!』

ドラゴンだ、ファンタジーの代名詞、角が生えていて、巨体で、圧倒的な。
昔の子供なら一度は倒す事を夢見た・・・ドラゴンがいた。

>「くふふふふふふふ! 召喚――アジ・ダハーカ!!」

>「くふふ……どうアル? このアジ・ダハーカの尊容は? 初めて見たアル?
 当然アルネ……世界中のブレモンプレイヤーの中で、このアジ・ダハーカ完全体を持つのはワタシただひとり。
 つまり――ワタシが最強ということアル! ミハエル・シュヴァルツァー?
 そんなヤツは、アジ・ダハーカの前には木っ端クズのようなものアルヨ!」

>「金さえあれば、なんだって手に入らないものは存在しないアル!
 無課金で戦術を考える? 知恵を絞ってデッキをビルドする? ワタシに言わせれば、そんなのは負け犬の遠吠えアル。
 貧乏人の負け惜しみアル! 潤沢な資金力! 無限の経済力があれば、戦術など不要! すべて押し潰してくれるヨロシ!
 さあ――金の力を見せてやるアル。マネー・イズ・パワー! その極致たる、アジ・ダハーカの力を!!」

『ギュゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!』

「なるほど。一理あるな」

僕は冷静だった。
この世界にきてから驚く事が何回も起きたせいで麻痺してしまっているのか。
今までの人生における、うろたえた所で事態は好転しないという教訓から冷静さがきてるのか。
わからない、自分の冷静さの理由はわからないが。

「なゆのポヨリンさんの時のほうが絶望感あったね
 モンスターの威圧感は同じくらいなんだけどね、やっぱりマスターがしょぼいからかな?」

>《バカな……、ニヴルヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』はそんなものまで持ってるっていうのか!?
 みんな、退却だ! 今キミたちがアジ・ダハーカと戦っても絶対に勝てない! 戦力が違いすぎる!》

バロールが通信越しに撤退しろ!と連呼する。
当然だ、これは完全に想定外だ。一度仕切りなおし作戦を練るのがどう考えても得策。

が、当然相手は撤退なんてさせてくれないし・・・そもそも。

>「……逃げないよ」

このまま撤退してしまえばこの龍が外郭に辿りついてアコライトはEND
もし消費を恐れて帝龍が追ってこなかった場合は戦争はさらに長期化。
さらにアジ・ダハーカの出現と作戦が失敗した事によって兵士達の士気は更に悪化。
マホロでなんとか保っていたが、こんどこそ内側から崩壊を起す可能性が高い。

そもそも撤退が完了するまでに双方どれだけの死者がでるのか・・・。

犠牲を許容できないなゆには・・・逃げるという選択肢はあるわけがないのだ。

222ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/01/15(水) 22:05:43
>「いいとも! じゃあ、やっぱりボクの『烈風の加護(エアリアルエンチャント)』が必要だねー!
 燃えてきたぁーっ! いや、ボクは風属性であって火属性じゃないけどね!?」

撤退という選択肢がない以上アジ・ダハーカを倒さなければならない。
そのためにはカザハ・・・もといカザハの中にいるカーザヴァとかいう奴の力は必要不可欠だ。

だがこのまま放置しておけばカザーヴァは確実に僕達の敵になるだろう。
帝龍とカザーヴァの連戦は絶対に回避しなければならない・・・となれば。

>「彼我の実力差も測れないクズどもが……思い知らせてやるアル!
  地を這う蛆ども、消えよ! 『空前絶後の大震動(テンペスト・クェイク)』!!」

>「うッ、うわッ! うわああああああ――――――――ッ!!」

アジ・ダハーカが思いっきり足を地面に叩きつける。
地面が激しく揺れ、割れ、荒れ狂う。

「荒波の海で漁を手伝った時以上に・・・揺れる!!」

ただ地面を蹴っただけでこの威力。まともに食らえば人間どころかモンスターでさえ即死だろう。
マホロがいるせいで直接狙ってはこないだろうが・・・

>「みんな、身の安全を図って!」

「僕は大丈夫だ!・・・だが」

アコライトの兵士、帝龍側の兵士双方共に大パニック状態に陥る。
こうなればもう戦争どころじゃない、このままでは余波だけで死人がでるだろう

>「まずは、みんなを逃がさなくちゃ……! マホたん、守備隊のみんなを本陣から撤収させて!」

>「わかった! みんな、こっちよ!」

「なっ!?・・・まてユメミマホロ!!!」

周りの騒音にかき消されジョンの声は誰にも届かず。
マホロはそのまま兵士を率いて前線を離れた。

「馬鹿か!?緊急時に備えて臨時の指令役を予め立てておくべきだろうが!そんな事も決めてないのか!?
 しかもよりにもよってなんでマホロがいなくなるんだ!!??」

マホロが離脱したことにより、タダでさえ足りていない戦力は更に下がり。
マホロがいなくなった事で帝龍は制約を解かれる事になる。

僕と明神は本物ではないと既にバレてしまっている状況で疑わしマホロが全員前線からいなくなってしまう。

>「くふふふふふ! そろそろ、ワタシに盾突いたことの愚かさが実感できた頃アルか?
 しかし許さんアル! この帝龍の力、強さ、恐ろしさ!
 たっぷり感じながら――死ね! アル!
 アジ・ダハーカ、スキル! 『活火山島の神息(ボルカニック・ゴッド・ブレス)』!!」

マホロがいなくなれば帝龍は当然・・・纏めて攻撃する手段に出る。

223ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/01/15(水) 22:06:06
>「みんな――防御して!!」

なゆの声が聞こえた。

行動できなかった。

人間では対処のしようがない圧倒的な力。暴力を前にして。

防御なんてしようがない。防げる技も思いつかない。
ユメミマホロがいるから。と油断していた。

まさか攻略の要であるマホロ本人がなんの考えもなしに離脱するなんて――

>「風の防壁《ミサイルプロテクション》!」

暴力に飲まれる寸前、カザハが展開したバリアが暴力を防ぐ。
だが当然防いでるカザハも無事ではなかった。
苦しそうな声を出しながらも必死に耐えている。

「本当に助かった、ありがとう」

>「ボクは昔罪を犯した罠と分かりきってる幻魔将軍の甘言に乗ってしまった。
  ううん、世界に干渉すべきでない種でありながら世界を救おうなんて思ってしまったこと――それが間違いの始まりだったんだ」

「・・・なにいってるんだガザハ?それよりもなゆ、次の手を早く考えないと
 アレにヒュドラのような弱点はあるのか?もしあるならそこを全力で・・・
 いやマホロを連れ戻すのが先だ!こんなのもう一度うたれたらもうどうにもならないぞ!」

>「なゆ、この状況でも逃げないなんて君はやっぱり最高に勇者だね! でも、少しは自分を大事にしてね。死んだら元も子もないんだからさ」

「カザハ・・・?」

>「ジョン君、この場に君がいてよかった。君なら情に流されず迷わず正解を選んでくれるから」

「カザハ・・・君は・・・」

>「このブレスが止んだらボクは幻魔将軍ガザーヴァだ。もし命乞いしても騙されちゃいけない」

完全に乗っ取られ、僕達と争うくらいなら・・・死ぬ。その覚悟。
カザハその覚悟を決め、僕達に別れの言葉を・・・

>「君達に会えてよかった。本当にありがとう」

「君のいつもの勢いはどうしたんだよ?どんな困難に遭遇したって簡単に諦めるような奴じゃないはずだろう?」

>「自由の翼《フライト》――風精王の被造物《エアリアルウェポン》!」

ブレスが止むと同時にカザハは空高く舞い上がりアジ・ダハーカに突撃する。

「それが・・・これが君の選択か・・・カザハ・・・」

カザハの覚悟を無駄にするわけにはいかない。
僕も、今できる事をしなくては。

224ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/01/15(水) 22:06:32
>「――ふざっけんじゃねえええええええええっ!!!!」

明神が叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ。

>「うんざりなんだよ!裏切んのも、裏切られんのも!!
  どいつもこいつもしたり顔で訳わかんねえ納得の仕方しやがって!」

>「今"そこ"に居るのがカザハ君かガザーヴァか知らねえが、どっちだろうが死なせはしねえ。
  お前にも殺させはしねえよジョン。あいつには絶対に、世界救う瞬間を見届けさせる」

「言うのは簡単だ。だがその結果カザハが僕達のだれかを殺す事にでもなったらどうする?」

そりゃ僕だって相打ちなんて・・・そんなのは嫌だ。
だが現実に考えてできない事はできないと、言うしかないのだ。

「さすがに黙ってきいていられないぞ、明神
 カザハの覚悟を無駄にする気か?みんな仲良く全滅するのか?
 みんなカザーヴァに殺されたけど、自分の心は満たされてハッピーっていうのか!?現実を見ろ!」

カザーヴァと交じり合いながらアジ・ダカーハと激戦を繰り広げるカザハを指差す。

>「唯一勝ち筋が見えるとすれば、前の二匹と違ってアジ公は人間が操作してるって点だ。
  つまり駆け引きが成り立つ。完全なマネーイズパワーから、PVPの土壌に引きずり込める。
  も一つ言えば、アジ・ダカーハの巨体を支えてるのは、全部帝龍のお財布の中身だ」
>「無限湧きのトカゲ共っつう邪魔は入るにしても、防御スペルをうまく使えば食い下がることは出来るはずだ。
 ブラフとハッタリでカタに嵌めて、対人戦の真髄を教えてやる。
 あの腐れドラゴンを振り回して疲れさせて、帝龍のお財布を空っぽにする。これが俺の第一案」

「総力戦に持ち込めば僕達は帝龍には勝てるかもしれない
 だがその後カザハが敵に回ったらカードを使い果たした僕達はみんな殺されるぞ!」

>「交渉は俺がやる。ガザーヴァを上手く引き込めれば、第一案もぐっとやりやすくなるはずだ。
  倒すことは出来なくても、痛打を与えてクリスタルを浪費させられる。
  なんなら潜伏系のスキル使って帝龍にダイレクトアタックくらい出来るかもな」

「いいかげん現実をみろ明神!帝龍にだって勝てる保障すらないのに
 そんな事してる余裕は僕達にはないんだ!!君ならそれくらいわかるだろう!」

>「……まぁ、こんなもんは建前だ。俺はまだ、カザハ君を諦めたくない。
  こんだけ状況証拠が揃ってるってのに、あいつが俺の仲間だと信じていたいんだ」

「そりゃ僕だって・・・嫌だ・・・カザハが死ぬなんて認めたくない・・・でも」

できないんだ、不可能なんだ、無理なんだよ。
今の僕達に余計なリスクを負う余裕はないんだ。

>「あいつを信じて、ここまで連れてきたのは俺だ。
 カザハ君が完全にカザーヴァになってて、俺達に牙を剥くとしたら、その時は……俺があいつを仕留める」

なんでこんな。

>「狂言回し気取って安全圏から暗躍すんのもこれでお終いだぜガザーヴァ。
 超レイド級が本気出しゃ俺もお前も地面のシミだ。
 お前が手ぇ下すまでもなくアコライトは更地になるだろうぜ。
 いつもみたく尻尾巻いて逃げりゃいいじゃん。あ、お馬さんいないんだっけか、メンゴメンゴ」

なんでこんな事になったんだよ・・・。

225ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/01/15(水) 22:06:53
なんでこんな事になった?

帝龍が予想以上の隠し玉を持っていたから?

いや・・・もっと安全に作戦を遂行できたはずだ。

じゃあなんでカザハは、明神は、なゆは、エンバースは危険な状況に置かれている?

あの女だ・・・

ユメミマホロのせいだ。

あいつが最初から自分の体を差し出しておけばもっと楽にできた。

兵士達の命を優先したばっかりにこんな事になった。

そのくせ自分はクソの役にも立たない兵士達と前線からさっさと逃げやがった。

その場で臨時の指令役を立てる事だってできたのに。

しかももう通常の戦争は終わったも同然。

アコライトの兵士も、帝龍の兵士も、もう戦闘する余裕なんてないのに。

それなのにあいつはさっさといなくなった。

その尻拭いでカザハは死に掛けている。

カザハだけじゃない、なゆも、明神も、エンバースも・・・僕も死に掛けた。

死ぬべきはカザハじゃない、あの女なのに。

ユメミマホロという仮想の姿を纏って自分は一切本当の姿を現さないあの女なのに。

なんで僕はカザハを諦めようとした?死ぬのはあの女だけで十分だ。

諦めるべきはカザハじゃなく、あの女と兵士達のはずなのに。

必ず全員で帰るんだ・・・そしてあの女に報いを受けさせてやる。

絶対に

絶対に

絶対に













殺してやる

226ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/01/15(水) 22:07:17
「ふふふ・・・ふはははは・・・そう・・・そうだな・・・」

立ち上がり、明神に向かって言い放つ

「カザハを諦めるのはナシだ!絶対に!全員で帰ってくるって決めたんだから!」

体に赤いオーラを纏う。
この力は一度きりにしようと決めていたが、今使えるものはなんでも使わないければいけない。
どんなリスクがあるかも分からない得体の知れない力。
もしかしたら・・・バロールあたりならこの力を知っているのかもしれない。
だが今それを聞いてる場合じゃない、今を全員で乗り切れるならどんなリスクがあろうと。

全員で生きて帰る為に、カザハを助けるために。

あの女を殺す為に。

「明神、カザハを説得するのは任せた!」

カザハのほうを向き狙いを定める。

「よしいくぞ・・・部長・・・うけとれええええええカザハあああああ!
 雄鶏乃栄光!雄鶏示輝路プレイ!対象カザハ!」

「ニャアアアアアアアア!」

カザハに強化魔法をかける、一つは攻防が上るカード。
もう一つはコトカリス専用カードでなければ恐らく壊れカードの一角だったであろうカード。
バフを掛けられた味方が任意で発動でき、発動した次のスペルカード効果量を2倍にする能力。

ゲーム本編では狩りで使うには限定的かつ発動できるのが一度だけというのが足をひっぱり
対人においては基本1VS1なのでコトカリス自体を採用するのは自殺行為といわれ、使う者は殆どいなかった。
バフ系統の最高格スキル、回復に使えば効果が倍に、攻撃に使えば威力が倍に、バフに使えばその効果も倍に。

「出し惜しみはなしだ!これも受取れ!雄鶏乃啓示!プレイ」

そしてその光を浴びたもののステータスを倍に引き上げ、敵には沈黙を与える太陽。

今回では沈黙の効果は期待できないにしろ、ステータス倍というのは凄まじい。
トドメをさせなくてもいい、時間を稼ぎ、ライフをできる限り削ることができるなら、それでいい。

「全力でぶちかませ!!!」

バフを全力で掛け終わり、まず一つ目の仕事を完了させる。

「よし・・・バフを掛け終われば部長と僕の役目は終わりみたいなもんだけど・・・」

だがこのまま指を咥えてみているわけにはいかない。少しでもカザハの援護をしなくては。
カザハを生かし・・・あの女を殺す為に少しでも動かなくては。

『明神のおかげで範囲攻撃対策ができたとはいえ・・・トカゲ達が押し寄せたらまずいだろう
 トカゲ共の相手は任せてくれ!ゲージはもうないが・・・僕が殺る』

力の巡りが最高潮になっていくのを感じる。

『大丈夫だ、あんな畜生共にはカードがなくたって悪いが負けないよ・・・ここに絶対近寄らせない』

言い終わるのと同時に部長と共に走り出した。

227ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/01/15(水) 22:08:34
明神達から離れた場所まで離れ、思いっきり叫ぶ

『『『お前らの餌はここにいるぞ!!!!』』』

その声でアジ・ダハーカから産み落とされ、ヨロヨロとまるで生まれたての子供のようにフラフラしている
トカゲ達とヒュドラは一斉振り返りジョンを見つめる。

『そろそろ赤子の時間は終わりだろう?さあ・・・餌がココにいるんだ・・・腹が減っただろう・・・?』

トカゲとヒュドラの半分ほどは完全に僕を標的にしている。

『さすがに全部の意識をこっちに向けるのは無理か・・・』

だがトカゲ共を殺し、その血で塗れれば最優先で排除すべき敵として判断してくれるかもしれない。
まずはあたり一面にこいつらの血をばら撒くところからか・・・骨が折れるね。

一番最初に産み落とされたであろうトカゲが突進攻撃を仕掛けてくる。

『いいね!君の血をばら撒いて全部のトカゲを呼び寄せるとしよう!か!部長!』

部長がトカゲと全力でぶつかる!
部長はたしかに非力である、が僕は今まで部長をずっと使い続け、育ててきた。
それでも全体で見れば攻撃力は低い分類に入るだろう。それでも。

『部長は!愛着もないような野良クソトカゲに遅れはとらない!』

僕はその隙を見逃さず、怯んだトカゲの背に乗る。そしてナイフを取り出しトカゲの脳に一撃。
クリティカル!という表示のあと少しの間もがき苦しんでいたトカゲはそのうち動かなくなった。

『ん、やっぱりバロールに貰ったこのナイフすごいなあ!さすが王都が誇る一級品だな!』

硬い鱗と頭蓋骨をまるで刺身を切るかのように切断し、突き刺さるナイフ。
もちろん力をこめて突き刺したが、それでもこのナイフの威力も凄まじい。

『さて・・・忘れずに・・・よっ!と』

トカゲの胴体を思いっきり力任せに切る。
勢いよく血が噴出し、周りに撒き散らされる。

いままでフラフラとしているだけだったトカゲ達が一斉に僕に振り向く。

『ふふふふ・・・楽しみで震えてきたよ!君達には僕と遊んでもらわなきゃね』

「ニャ・・・にゃー・・・」

怯えた部長を抱きしめる。

『僕と部長ならこの程度なんら問題ないさ!』

瞬く間にトカゲの大群に囲まれ、目の前にヒュドラが複数。

『んー・・・ゲージが溜まるまでは消極的に動こうと思ったけど、そうはいってられないか』

ナイフを強く握り笑みを浮かべる。

『化け物って言われてきた僕の本気・・・見せてやるよ』

「にゃー・・・」

この時の僕には、部長が別の意味で怯えていた事など、わかるはずがなかった。

228embers ◆5WH73DXszU:2020/01/20(月) 01:23:21
【プラン・バッドエンド(Ⅰ)】

『下級国民が、上級国民であるワタシの相手? のぼせ上がるんじゃないアル。
 第一……オマエたちはひとつ、大きな勘違いをしているアルヨ』

「勘違い?……ああ、なるほどな。お前、実はここのステージボスじゃないんだろ。
 精々、中ボスと言ったところか――確かに、いまいち雑魚っぽいとは思っていた」

『おぉ〜っ! 明神さんとジョン君も来てくれたんだね! これで百人力ってやつ!?
 さあ、なゆちゃん! ボクたち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』全員で、こいつを八つ裂きにしちゃおう!』

「……どうした、カザハ。またいつもの滑り芸か?面白くないぞ……今回は、特にな」

『抵抗はやめなさい、帝龍!
 もう戦いは終わりよ……あなたの頼みの綱、パートナーモンスターのロイヤルガードはもういない!
 大人しく降伏しなさい、そうすれば……わたしたちも同じ『異邦の魔物使い(ブレイブ)』として悪いようには――』

「待て、諦めるな!お前はまだやれる筈だ!力を振り絞れ!でないと、俺がつまらない――」

『それそれ、それアル。
 そこからして、もうスデに大勘違いの間抜け面ってヤツアルネ。
 このワタシが! いつ『パートナーモンスターはロイヤルガード』と言ったアル……?』

『……え……?』

「……なん……だと?」

『――――――――――――あっ!!』

「――なんだよ、そういう事はもっと早く言ってくれ」

『くふふ! やっと気付いたアルか、この下民どもが!
 『進撃する破壊者(アポリオン・アヴァンツァーレ)』を封じればワタシに勝てると思ったアルカ?』

「ああ、その通りだ。恨むなら、カード以外に誇るものが思いつかなかった自分を恨め」

『本陣にさえ乗り込んでしまえばこっちのものだと――? 見通しが甘すぎて笑い話にもならないアル!
 ワタシは最強無敵の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』! 頂点に君臨する者には、それに相応しいパートナーが傅く……!』

「そのパターンは、もう飽きた――いい加減、お前の名前も忘れちまいそうだ」

『ならば! 特別に見せてやるヨロシ、ワタシの最強のパートナーモンスターを!』

「まぁ……精々楽しませてくれよ、ええと、確か……骨川だったか?」

口プレイの応酬――だが不意に、焼死体が口を閉ざす。
帝龍から溢れる、凄絶なまでの魔力/大地が震える/空が暗雲に包まれる。
天地に異変を及ぼすほどの魔力/存在感――尋常ではない事が、起きようとしている。

《すごい魔力だ……! みんな! そっちは何が起こってるんだ!? ここからだと状況が把握できない!
 でも、君たちのいる場所を中心にとんでもない魔力が集まっているぞ!
 これは……準レイド? いや、レイド級……違う! そんなレベルじゃない、もっともっと上級の――》

「……完全召喚に備えておけ、フラウ。出し惜しみ出来る相手じゃなさそうだ」

『くふふふははははははは!! さあ――大地の懐深く、原霊の祭壇よりいでよ! 魔皇竜!!』

地面が割れる/その奥底から岩山が迫り上がる。
山脈の如き巨体/地盤を磨り上げ傷一つ付かない鱗/空を覆う翼。
見間違えようのない威容/魔神の異名を取る、超レイド級の一角――

『くふふふふふふふ! 召喚――アジ・ダハーカ!!』

「……全部位揃えた奴が、いたとはな」

229embers ◆5WH73DXszU:2020/01/20(月) 01:25:08
【プラン・バッドエンド(Ⅱ)】

『くふふ……どうアル? このアジ・ダハーカの尊容は? 初めて見たアル?
 当然アルネ……世界中のブレモンプレイヤーの中で、このアジ・ダハーカ完全体を持つのはワタシただひとり。
 つまり――ワタシが最強ということアル! ミハエル・シュヴァルツァー?
 そんなヤツは、アジ・ダハーカの前には木っ端クズのようなものアルヨ!』

饒舌さを増す煌帝龍/対する焼死体の、返事はない。

『金さえあれば、なんだって手に入らないものは存在しないアル!
 無課金で戦術を考える? 知恵を絞ってデッキをビルドする? ワタシに言わせれば、そんなのは負け犬の遠吠えアル』

〈黙って聞いていれば、寝惚けた事を――!何をしているのですか、マスター! 早くフルサモンを!〉

「黙って聞いていれば、寝惚けた事を……ゲージもろくに溜まっていないのに、完全召喚して何になる」

『貧乏人の負け惜しみアル! 潤沢な資金力! 無限の経済力があれば、戦術など不要! すべて押し潰してくれるヨロシ!
 さあ――金の力を見せてやるアル。マネー・イズ・パワー! その極致たる、アジ・ダハーカの力を!!』

〈勝算はあるのですか?先手を取ってあの骨川を落とすのが、最も合理的ではないのですか!?〉

「少し黙れ。それが通じるほど、あいつがバカなら……仕留めるタイミングは幾らでも来る」

『ギュゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!』

魔皇竜が咆哮を上げる――たったそれだけで、天地が震え上がる。

『な……、なんてこと……』
《バカな……、ニヴルヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』はそんなものまで持ってるっていうのか!?
 みんな、退却だ! 今キミたちがアジ・ダハーカと戦っても絶対に勝てない! 戦力が違いすぎる!》

「……あいつに賛同するのは非常に癪だが、実際、この状況なら悪くない手だ。
 奴が追撃戦に踏み出せば、俺がダイレクトアタックを決めるチャンスも――」

『……逃げないよ』

「――ああ、お前ならそう言うと思ったよ」

瞬間――焼死体の双眸が、燃え上がる。

『このデカブツは、ここで食い止める……! どんなことをしてでも!
 エンバース、みんな! 手を貸して――! アイツを止める方法を、みんなで考えるんだ!』

紅く/蒼く――分裂した行動原理が、互いに独自の思考回路を巡らせる。
紅く燃え盛る左眼/歓喜――面白い。つまらない男だと思っていたが、とんだサプライズだ。
蒼く奮い立つ右眼/決意――今の俺達で、勝てるのか?いや、勝つんだ。考えろ。誰も、死なせはしない。

『彼我の実力差も測れないクズどもが……思い知らせてやるアル!
 地を這う蛆ども、消えよ! 『空前絶後の大震動(テンペスト・クェイク)』!!』

『みんな、身の安全を図って!』

焼死体は、動じない/動かない――大地が鳴動する中で立ち尽くし、魔皇竜を見上げる。
双眸に灯る紅蓮/蒼炎が揺らぎ、瞬き、燃え盛り――闇色へと、回帰する。
思考回路/行動原理の統合――どうすれば、奴を倒せる。

――超レイド級のヒットポイントを削り切るのは、至難の業。
弱点属性の有効活用は必要不可欠/【烈風の加護】だけでは足りない。
もっと強大な、嵐のような風の力が必要だ。何もかもを、薙ぎ払うような――

《むっふっふっ……さぁ〜て、面白くなってきたぞぉ〜。
 どうしよっかなぁ〜、いきなり裏切ってあっちの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』につくのもいいし……。
 夢が広がっちゃってドキがムネムネだぁ〜!》

――だが、カザハは駄目だ。俺の、死人の眼には、見えている。
あいつは、あいつじゃない生命に侵されつつある――それが何かは、どうでもいい。
どのみち俺にあいつをどうにかする暇はない――機動戦で、火力を分散させる必要があるからな。

――――それでも、方法はある。誰も殺さず、誰も死なせず、あのデカブツを黙らせる。

『くふふふふふ! そろそろ、ワタシに盾突いたことの愚かさが実感できた頃アルか?
 しかし許さんアル! この帝龍の力、強さ、恐ろしさ!

――もし、それが成し遂げられたなら。

『たっぷり感じながら――死ね! アル!
 アジ・ダハーカ、スキル! 『活火山島の神息(ボルカニック・ゴッド・ブレス)』!!』

――やっぱり、最強は俺だった。そう言い張っても、誰も文句なんか言えないよな。

230embers ◆5WH73DXszU:2020/01/20(月) 01:26:35
【プラン・バッドエンド(Ⅲ)】

『みんな――防御して!!』

「言われるまでもなく、誰だってそうする――口を閉じてろ」

解き放たれる魔皇竜の息吹/地表から、焼死体と少女の姿が消える。
圧倒的な熱量によって、肉片も残さず蒸散した――訳では、ない。

【蓋のない落とし穴(ルーザー・ルート) ……フィールドを縦断、または横断する大穴を生成する。落下すると炎属性の継続ダメージを受ける。
 ――敗者と、行く手を阻む断崖。その先に業火が待ち受けると知っていても、もう、他に道はない――】

スペルカードにより形成された大地の裂け目に、落下したのだ。
直後、スマホから白閃が奔る/絶壁を貫通/潜行/それを繰り返す。
即席のプラットフォームが織成され、焼死体がそこに着地する。

〈――私を踏みつけにする気分はどうです?楽しいですか?〉

「姫騎士装備で踏みつけにされる気分はどうだ?楽しいか?」

地上を見上げる――明神、ジョン、カザハがブレスを防御出来ているかは、祈るしかない。
だが――何か、様子がおかしいと焼死体は気づいた/細く狭い空の向こうに、何かが見える。

『風の防壁《ミサイルプロテクション》!』
『やめろ、それ以上力を使うなカザハ君!体真っ黒になってんぞ!!』

「……あのブレスを、防いでいるのか?まさか……いや、フラウ」

半信半疑ながら、焼死体はパートナーの名を呼ぶ/意思疎通はそれで十分。
伸長した触手が急速に収縮/その反動が焼死体と少女を地上へ投げ出す。

『ボクは昔罪を犯した――罠と分かりきってる幻魔将軍の甘言に乗ってしまった。
 ううん、世界に干渉すべきでない種でありながら世界を救おうなんて思ってしまったこと――それが間違いの始まりだったんだ』

「……滑り芸の次は、厨二病か?」

『エンバースさん、そんな全てを諦めたような顔してちゃ駄目! 死んでるけど生きてるんだから!』

「ああ、そうだな――お前の頭の痛い発言を聞いていると、全てを諦めたくもなるさ」

『このブレスが止んだらボクは幻魔将軍ガザーヴァだ。もし命乞いしても騙されちゃいけない』

「……なんだ。全てを諦めてるのは、お前の方か?
 今のは……今までで一番、つまらなかったぜ。
 あんたも、そう思うだろ。なあ――」

『――ふざっけんじゃねえええええええええっ!!!!』
『うんざりなんだよ!裏切んのも、裏切られんのも!!
 どいつもこいつもしたり顔で訳わかんねえ納得の仕方しやがって!』

「そうだ。あんたは間違っていない――あらゆる意味でな」

『今"そこ"に居るのがカザハ君かガザーヴァか知らねえが、どっちだろうが死なせはしねえ。
 お前にも殺させはしねえよジョン。あいつには絶対に、世界救う瞬間を見届けさせる』

「制御可能な風属性は、必ず必要になる――明神さん!プランAは、あんたに任せたぞ!」

焼死体がスマホを操作/再び大地に走る、長大な裂け目。
今度は――アジ・ダハーカの両前足を、落とし込むように。
上手く行けば、魔皇竜は己の自重で下顎を強打される事になる。

「俺は――プランBになる。誰も、死なせはしない」

己に言い聞かせる誓いの言葉/未練に、執着に、薪を焚べる。
死霊/悪霊の領域へと――敢えて一歩、足を踏み入れる。
プランBの遂行には、その最奥へ至る必要があった。

231崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/01/20(月) 21:59:40
魔皇竜アジ・ダハーカの三つの口から、紅蓮の炎が放たれる。
『活火山島の神息(ボルカニック・ゴッド・ブレス)』――その名の通り活火山の火口から放たれる爆発の如き吐息。
地属性と火属性の複合属性を持つそのスキルは、神の怒りの一撃。視界に存在するすべてを等しく薙ぎ払う――

が。

「うゎひゃあああああああっ!?」

なゆたは思わず頓狂な悲鳴を上げた。
エンバースが足許にスペルカード『蓋のない落とし穴(ルーザー・ルート)』を使用し、咄嗟の避難路を造ったのだ。
なゆたはエンバースと共に、真っ逆様に落ちてゆく。神の攻撃は回避したものの、このままでは墜落死だ。
が、エンバースはそんな間抜けなことはしない。さらに連続で穴を掘り、見事に軟着陸を果たす。

「……あ、ありがと」

なゆたも無事である。エンバースの顔を見ると、なゆたは小さく呟いた。

>――私を踏みつけにする気分はどうです?楽しいですか?

エンバースのひび割れたスマホから声がする。今まで聞いたことのない声だ。
もちろん、ブレモンのモンスターには人語を解する者も多い。
エンバースがそういったモンスターをパートナーにしていたとしても、何も不思議ではない。

>姫騎士装備で踏みつけにされる気分はどうだ?楽しいか?

「え、わたし!? ご、ごごゴメンなさい! 重くなかった!? 大丈夫!?
 ……ええっと……エンバースのパートナーさん?」

エンバースとフラウのやり取りに、思わず慌てる。
そこまで重くはないはずなんだけど! と取り繕ってみるも、エンバースもフラウももうなゆたの声など聞いていない。
自分たちの頭上――穴の外を見つめている。

>風の防壁《ミサイルプロテクション》!

アジ・ダハーカの真正面に立ちはだかったカザハが両手を突き出し、スペルを展開する。
幻魔将軍ガザーヴァの力を惜しみなく使用した凄まじいまでの突風が、神の一撃を逸らしてゆく。
だが、いかなガザーヴァの力をもってしても超レイド級の攻撃を完全に防御することはできない。
カザハの突き出した手のひらに、みるみる火ぶくれが出来てゆく。衣服の袖が発火し、黒い炭となって散ってゆく。

《あっちち! あちちちちちっ! ちょっ、さすがにこれはヤバいでしょ!
 いくらボクの魔力が潤沢だからって、六芒星の魔神には勝てないってーの! もう属性有利とか言ってる場合じゃない!
 はい退避! 退避ー!》

さすがのガザーヴァも身の危険を感じたのか、カザハの心の中で退避を勧告する。
しかし、カザハは逃げない。両手が焼け爛れようと、決してその場を動かない。

「ほぉ〜。なんとか耐えたアルか……。しかし、そんなモノがアジ・ダハーカの前にどれだけ持つと思うアル?
 アジ・ダハーカ! 出力アップ! この身の程知らずに、神罰というものを教えてやるヨロシ!」

>やめろ、それ以上力を使うなカザハ君!体真っ黒になってんぞ!!

ゴアッ!! と三本首の放つ炎が威力を増す。
すでに、カザハの身体はそのほとんどが黒く変わっている。
周囲を漂う靄に過ぎなかったものが、確かな形状を現し始めている――
すなわち、幻魔将軍ガザーヴァの黒い鎧へと。
靄が完全に実体化し、カザハの身体に装着され。頭部までもが仮面の付いた兜によって覆われたとき。
幻魔将軍ガザーヴァは完全復活を遂げるのだろう。
その瞬間が、刻一刻と近付いている。

>……あのブレスを、防いでいるのか?まさか……いや、フラウ

エンバースが呟く。以心伝心、フラウがすぐさまエンバースとなゆたを地上へ放り投げる。

「もうちょっと丁寧に扱えーっ! 女の子だぞーっ!」

地上でエンバースに抱きとめられると、なゆたは横抱きに抱えられたまま右腕をぶんぶん振って抗議した。
が、いつまでもそんなことを言ってはいられない。すぐになゆたも地面を踏みしめ、カザハを見遣った。

「カザハ……!」

カザハは単身超レイド級と対峙しながら、ゆっくり口を開いた。

>ボクは昔罪を犯した――罠と分かりきってる幻魔将軍の甘言に乗ってしまった。
 ううん、世界に干渉すべきでない種でありながら世界を救おうなんて思ってしまったこと――それが間違いの始まりだったんだ

「……なんてこと……」

カザハの中に、幻魔将軍ガザーヴァが入っている。
先程明神達と合流したとき、明神はそう言った。
そして、前夜の夜哨の際も。なゆたはジョンからカザハがまるで別人のような口調で喋っていた、という報告を貰っている。
最初は信じられなかった。そんな突拍子もない話が、と疑っていた。
しかし、カザハの身にへばりつく黒い鎧。そして独白。
それらを目の当たりにした今は、それを信じる以外の選択肢などなかった。

232崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/01/20(月) 21:59:53
>なゆ、この状況でも逃げないなんて君はやっぱり最高に勇者だね! でも、少しは自分を大事にしてね。死んだら元も子もないんだからさ

なゆたへの言葉を皮切りに、カザハはパーティーのメンバーひとりひとりに声をかけてゆく。
驚きに目を瞠り、奥歯を噛みしめながら、なゆたはその声を聞いた。
それはまるで、いや、まるっきり。
今生の別れの言葉のような――

>このブレスが止んだらボクは幻魔将軍ガザーヴァだ。もし命乞いしても騙されちゃいけない
>君達に会えてよかった。本当にありがとう

「……待って、カザ――」

なゆたは右手を伸ばし、カザハを止めようとした。
だが、覚悟を決めたシルヴェストルを止めることなど、出来ようはずもない。

>自由の翼《フライト》――風精王の被造物《エアリアルウェポン》!

カザハは精霊樹の木槍を触媒として、巨大な鎌を作り出すとアジ・ダハーカに吶喊した。
カザハの機動力の要であるカケルはいない。なゆたが穴に落ちている間に、カザハの命令でバロールの許へ飛んだのだ。
しかし、それでもカザハは身軽に立ち回り、アジ・ダハーカの巨体に当たるを幸い攻撃を繰り出してゆく。

>アコライトなんてさっさと潰しちゃえばいいのにマホたんが欲しいとか言ってダラダラしてさぁ、ぶっちゃけニヴルヘイムへの忠誠心0っしょ!
 ってなわけで危険因子は早めに潰しとかないとね! アルフヘイムのザコブレイブ共なんていつでも潰せるし?

「……ハァ? 何を言っているアル?
 ニヴルヘイムへの忠誠心? そんなもの、ワタシが持っているとでも思ったアルか?
 連中はあくまでビジネスパートナーアル。ワタシがこのアルフヘイムに覇を唱えるための……アルネ!」

宙に浮かんでカザハの言葉を聞いた帝龍がせせら笑う。

「ワタシはこの世界でも金を稼ぐアル。アルフヘイムだけではない、ニヴルヘイムでも!
 この世界は素晴らしいアル! 地球にはない知識、魔法、アイテム、資源!
 今、ワタシの頭の中には新たな金儲けのアイデアが無尽蔵に湧き出しているアル……! そのすべてを使い、金を手に入れる!
 ルピを! クリスタルを! この世界の富の全てを手に入れるアル――!!」

帝龍は両手を大きく開いて哄笑した。
地球で帝龍は世界的企業・帝龍有限公司のCEOとして、まさに巨万の富を稼ぎ出していた。
その栄耀栄華を、今度は異世界アルフヘイムで再現しようとしている。
この世界にあるありとあらゆる価値あるものを、根こそぎ手に入れようとしている。
それこそが帝龍の目的。ニヴルヘイムに与している理由だった。

「マホロもワタシにとっては商材のひとつに他ならないアル。
 マホロの歌声は万人を魅了する……地球でそれは実証済みアル、ならば! アルフヘイムで通じるのも間違いない!
 ワタシがスポンサーとなり、ヒュームを! エルフを! ドワーフを! すべての生命を魅了する歌姫にしてやるアル!
 そうすれば……ワタシはもっともっと金を手に入れられる……!
 マホロ! オマエは金の卵を産む牝鶏アルヨ! 死ぬまでワタシのために卵を! 富を! 生み続けるアル!!
 くふはははははははははははは―――――――ッ!!!!」

そう。
帝龍はユメミマホロのファンでも何でもない。
ただ単に、マホロのアイドル性。姿、歌声、存在そのものが『金になる』から。
我が物としておきたかっただけなのだ――商品として。

「だが、薄汚いシルヴェストル……オマエに商品価値はないアル!
 蚊トンボが……いつまでも神の面前を! ブンブンと飛び回っているんじゃないアルヨ!!」

グオッ!!

アジ・ダハーカの三本首が猛烈な速さでカザハを狙う。
魔皇竜がまだ本気を出していないことは明らかだ。――というのに、カザハはみるみるうちに傷ついてゆく。
幻魔将軍の加勢をもってしても、力の差は歴然だった。

233崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/01/20(月) 22:00:10
>――ふざっけんじゃねえええええええええっ!!!!
>うんざりなんだよ!裏切んのも、裏切られんのも!!
 どいつもこいつもしたり顔で訳わかんねえ納得の仕方しやがって!

明神が叫ぶ。カザハの自暴自棄にさえ見える攻撃に目を奪われていたなゆたは、はっと我に返った。
さらに明神は自身の前方に『寄る辺なき城壁(ファイナルバスティオン)』を展開。
魔法攻撃を完全に遮断するこのスペルカードならば、魔皇竜のブレスにも対応できる。
なゆたはエンバースと一緒に城壁の内側に入った。緊急の作戦会議だ。

>今"そこ"に居るのがカザハ君かガザーヴァか知らねえが、どっちだろうが死なせはしねえ。
 お前にも殺させはしねえよジョン。あいつには絶対に、世界救う瞬間を見届けさせる

「……何か……考えがあるの? 明神さん」

城壁の内側に屈み込み、ポヨリンを抱き締めながら問う。

>無限湧きのトカゲ共っつう邪魔は入るにしても、防御スペルをうまく使えば食い下がることは出来るはずだ。
 ブラフとハッタリでカタに嵌めて、対人戦の真髄を教えてやる。
 あの腐れドラゴンを振り回して疲れさせて、帝龍のお財布を空っぽにする。これが俺の第一案
>――第二案は。ガザーヴァを、内応させる。
 あいつにニブルヘイムを裏切らせて、カザハ君ごと俺達の味方にする

明神の提示した逆転の策は、そのふたつ。
どちらもかなり分の悪い賭けだ。失敗すれば、それがそのまま死に繋がる。
だが――他にいい方法などない。どのみち、やるしかないのだ。

>……まぁ、こんなもんは建前だ。俺はまだ、カザハ君を諦めたくない。
 こんだけ状況証拠が揃ってるってのに、あいつが俺の仲間だと信じていたいんだ
>あいつを信じて、ここまで連れてきたのは俺だ。
 カザハ君が完全にカザーヴァになってて、俺達に牙を剥くとしたら、その時は……俺があいつを仕留める

明神の独白。
もう、カザハの中には疑いの余地もなくガザーヴァがいて。今にもカザハを乗っ取って復活しようとしていて。
アルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』としては、何を差し置いてもそれを阻止するのが最善のはずなのに。
まだ、明神はカザハを信じている。諦めたくない、と言っている。
もし最悪の事態が起こったときには、自分がすべてのケジメをつける――とまで言っている。
あの、フォーラムで誰彼構わず毒を吐き。他人を罵り。嘲ることしかしなかった『うんちぶりぶり大明神』が――。

「……あは」

なゆたは小さく笑った。それから、立ち上がって明神の腕を自分の右肘でうりうりと突つく。

「かっこいいじゃん、明神さん。さすが『笑顔きらきら大明神』ね!
 じゃあ――やってみよう。やってみせよう!
 みんなが笑顔になるように。全員で生き残って、笑顔きらきらになるように!」

>そうだ。あんたは間違っていない――あらゆる意味でな

>カザハを諦めるのはナシだ!絶対に!全員で帰ってくるって決めたんだから!

明神に同調して、エンバースとジョンも戦う意志を固める。
そうだ。この強大な超レイド級モンスターを倒すには、全員で力を合わせなくてはならない。
か弱い光を。儚い力を。精いっぱい縒り合わせ、纏めあげ、ただ一本の矢に変えて――

魔神を、討つ。

「カザハの説得は明神さんに任せる! ジョン、エンバース! わたしたちは露払いよ!」

>制御可能な風属性は、必ず必要になる――明神さん!プランAは、あんたに任せたぞ!

エンバースがスペルカードを発動させる。先ほどブレスを回避した際に使用した『蓋のない落とし穴(ルーザー・ルート)』だ。
すぐにアジ・ダハーカの前肢の下に巨大な亀裂ができたが、アジ・ダハーカは僅かにバランスを崩しただけで、
右前足で地面を叩き自ら地震を起こすと、スペルカードの効果を相殺して亀裂を塞いでしまった。
『地』属性最強のモンスターと言っても差し支えない巨竜である。大地を制御する力は得手中の得手と言ったところか。

>よしいくぞ・・・部長・・・うけとれええええええカザハあああああ!
 雄鶏乃栄光!雄鶏示輝路プレイ!対象カザハ!

さらに、ジョンがカザハへとバフをかける。
黒い鎧に侵食されかかっているカザハの全身が、にわかに輝く。

「よし……!」

なゆたもまた、溜めに溜めていたATBゲージを惜しみなく使ってスペルカードを切ってゆく。
もちろん、召喚するのはゴッドポヨリンだ。
ポヨリンは今はまだカザハのかけたスペルによって風属性になっている。
アジ・ダハーカには効かずとも、無限に湧き出すドゥーム・リザードやヒュドラを蹴散らすには充分だろう。

234崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/01/20(月) 22:00:23
「くふふ……ゴミどもが!
 ゴミはどれだけ集まったところでゴミの山! 黄金に変わることはないということが、何故わからないアル?
 これだから下級国民どもはイヤになるアル……やはり、ワタシのように!
 頂点に君臨する者が、一から教育してやらなければならないようアルネ……!」

カザハがどれだけ捨て身で攻撃を繰り返そうと、ジョンやエンバースが懸命に露払いをこなそうと、帝龍の顔色は変わらない。

「安心しろアル。オマエたちはどうあってもワタシに勝てないということ! 世の中には、絶対的君臨者というものがいること!
 懇切丁寧に教えてやるヨロシ……当然、有料で!
 オマエたちの持つ一切合切!クリスタルの欠片のひとつに至るまで、価値あるものをすべて巻き上げてくれるアル!!」

むろん、帝龍の攻撃は身ぐるみを剥ぐくらいでは収まるまい。
最終的には、命までも奪われる――それが、生命にとって最も価値のあるものなのだから。

「持久戦に持ち込んで、ワタシのクリスタル切れを狙っているアルネ?
 くふふ……くふふふふふっ! まったく、まったくまったくまったく! まったく愚かしい! 道化にも程があるアルヨ!」

帝龍は背を仰け反らせて嗤った。

「教えてやるアル……アジ・ダハーカの継続召喚時間は、概算でおおよそ23時間と16分!
 ワタシのクリスタルは、この魔神を約一日ぶっ続けで動かし続けることができるほどに潤沢アル!
 オマエたちがそれに耐えられると? この魔皇竜を向こうに回して、生き延びることができるとでも――?
 虫けらどもを皆殺しにするのに! 一時間も必要ないアルヨ!!」

がぉんっ!!

アジ・ダハーカがもう一度前足で地面を叩く。スキル『空前絶後の大震動(テンペスト・クェイク)』。
大地をどよもす巨大な縦揺れに、立っていられなくなる。
そして――
ビシッ! という硬い音を立て、『寄る辺なき城壁(ファイナルバスティオン)』に亀裂が入る。
『活火山島の神息(ボルカニック・ゴッド・ブレス)』は魔法スキルだが、
『空前絶後の大震動(テンペスト・クェイク)』は物理スキルだ。つまり、城壁では防御できない。
同時に地面も砕け、地表が上下にずれ、深い深い裂け目があちこちに開いてゆく。

さらに、アジ・ダハーカの鱗からは無尽蔵にドゥーム・リザードが発生し、大顎を開いて襲い掛かってくる。
そんな混乱と混沌の中、明神がカザハに――否、カザハの中のガザーヴァへ語り掛ける。

>お前は今、カザハ君か?ガザーヴァか?どっちだって良いけどよぉ。
 このままアジ公に消し飛ばされんのがお前の望んだ結末か?
 帝龍君がつごーよくお前だけ避けてビーム撃つとは思えねえなあ

カザハ――ガザーヴァはアジ・ダハーカへの攻撃を一旦中止し、明神を見た。

「ククッ……おやおやぁ? どうしたのさ明神さん?
 ここはボクの見せ場だろォー? 涙なしには語れない別れの挨拶は済ませたんだから、そこで指でもしゃぶって見てなよ!
 ボクが華麗にこのデカトカゲをやっつけるところをさぁー! きひひひッ!」

むろん、ガザーヴァに身を挺してアジ・ダハーカを止めるなどという気はさらさらない。
カザハがまんまと魔力を使い切り、復活が叶った瞬間に、この場を離脱するつもりでいる。
あとは自由だ。何者にも縛られず、思う存分自分の楽しいことだけができる――そう思っている。
だが、そんなガザーヴァの態度にも明神は諦めない。

>狂言回し気取って安全圏から暗躍すんのもこれでお終いだぜガザーヴァ。
 超レイド級が本気出しゃ俺もお前も地面のシミだ。
 お前が手ぇ下すまでもなくアコライトは更地になるだろうぜ。
 いつもみたく尻尾巻いて逃げりゃいいじゃん。あ、お馬さんいないんだっけか、メンゴメンゴ
 
「……お前……何が言いたいのさ?」

ガザーヴァは忌々しそうにカザハの顔を凶悪に歪めた。
それから、ほとんど主導権を奪いつつある身体の中でカザハの魂へ語り掛ける。

《コイツ、何か企んでるな? そうだろ、カザハ?
 ボクはリバティウムからずっとコイツらの動向を監視してきた。分析してきた。
 アルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』――その中でも、コイツは一番『ボクに近い』――。
 面白いじゃん。ちょっと黙って見てろよ、カザハ……どうせボクの復活は確定なんだ。
 余興にコイツの戯言に耳を傾けてやるよ……まっ、どっちにしたってボクのオツムに勝てるはずなんてないけどさぁー!》

にたあ……と口許に厭な笑みをへばりつかせ、ガザーヴァは明神の前に降り立つと、余裕たっぷりに腕組みした。
交渉のスタートだ。

235崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/01/20(月) 22:00:38
「召喚! G.O.D.スライム! か〜ら〜の〜……『黙示録の鎚(アポカリプス・ハンマー)』!!」

『ぽぉ〜よぉ〜よぉ〜〜〜〜〜んっ!!』

なゆたの召喚したゴッドポヨリンが、勢いをつけて上空へジャンプする。
そのまま空中で巨大な拳骨に変身――落下の勢いを利用して、地面を強烈に殴打する。
その瞬間、大地に発生した無数の亀裂から真空の刃が発生し、ドゥーム・リザードの群れを切り刻んでゆく。
風属性に変化した『黙示録の鎚(アポカリプス・ハンマー)』の特殊効果だ。

>『『『お前らの餌はここにいるぞ!!!!』』』

さらに、ジョンが自らの身体を囮にしてリザードたちを引きつけ、一匹また一匹と仕留めてゆく。
しかし、どれだけなゆたとジョンが頑張ったところで、
たったふたりでは数百匹――否、数千匹にも届こうかというドゥーム・リザードとヒュドラの軍団すべてを相手にはできない。
秒単位で、アジ・ダハーカの鱗から数十匹のトカゲが産まれては牙を剥く。

「しまっ――」

なゆたとジョンの取りこぼしたトカゲたちが、一斉に無防備な明神へ向けて殺到する――
だが。

ザシュッ!!

ドゥーム・リザードの一匹が明神に喰らい付こうとした、その瞬間。
巨大なトカゲはその硬い鱗を袈裟斬りにされ、血潮を撒いてどう、と倒れた。
明神は見るだろう――すんでのところで自分を救った者の姿を。
サーコート代わりに羽織った、どぎついピンク色の法被を。

「無事でござるか、明神氏!」

甲冑の音を響かせ、マホロスキンの解けたアコライト外郭守備隊が明神を守るように陣を組む。
彼らはなゆたの指示を受けたマホロの命で、戦場から離脱したはずなのに……それが、なぜかここにいる。
明神もよく知っているだろう、守備隊の面々がニヤリと笑う。

「『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の方々にお任せして、離脱することは簡単でござる。
 しかし……我らはアコライト外郭守備隊。この地を守るという役目は、そう易々とは捨てられないのでござるよ」 

「拙者たちはマホたんにずっと励まされ、叱咤され、ここまで生きてきたでござる。
 その御恩、今返さずしていつ返すでござるか!」

「それに――明神氏。拙者らはマホたんの御旗の許に集った同志!
 同年、同月、同日に生まれることを得ずとも、願わくば同年、同月、同日に死せん事を……でござろう?」

守備隊はデュフフフ、と笑った。――気持ち悪かった。
けれど、その瞳には。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』にも負けない戦う意志が宿っている。

「いやぁ〜……みんな危ないから、戦場から離脱してって。そう言ったんだけどね……」

そして、守備隊の避難と説得に失敗したマホロもまた、明神の近くに戻ってくる。

「みんなにもプライドがある。戦士としての矜持がある。
 あたしは『笑顔で鼓舞する戦乙女(グッドスマイル・ヴァルキュリア)』……戦乙女は戦士の誇りを貶めない。
 ってことで……ゴメン。戦わせてもらうよ、ここで」

『異邦の魔物使い(ブレイブ)』だけで戦うよりも、守備隊を含めた頭数が増えた方が戦況は有利になる。
が、半面死亡率は上がる。いくらマホロの歌による加護があったとしても、戦えば犠牲は出るだろう。
けれど――『そうしなければいけない』。
戦う決意を持った戦士を命惜しさに戦場から遠ざけることは、何にも勝る侮辱なのだから。

「明神氏! ここは我らにお任せを! 心置きなく、したいことをなさって下され!」

「おおおおお! ヲタ芸で鍛えた拙者のサイリウム……じゃなくて双剣さばきを見よォォォォ!」

守備隊たちがドゥーム・リザードを食い止める。血みどろの戦いが繰り広げられる。

「……みんな」

なゆたはぎゅっと右拳を握り、胸元に添えた。
胸が、熱い。
ひとは、ひとつの目的のために。ここまで団結できるものなんだ。

236崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/01/20(月) 22:01:07
「さぁてと……じゃ、あたしもそろそろ行くとしますか」

守備隊の奮闘を見ていたマホロが、ゆっくりと踵を返す。

「明神さん、彼を……カザハ君を説得する時間を稼げばいいんでしょ? あたしにいい考えがある。
 30分くらいなら、きっと帝龍を釘付けにできる。
 あとは守備隊のみんなと、月子先生。エンバースさん。ジョンさん……全員でドゥーム・リザードを止めてくれれば。
 帝龍は、わたしが何とかする……この役目は、あたしにしかできない」

マホロもまた普段のにこやかな表情を消し、決意に満ちた眼差しで明神を見た。
不退転の意志。我が身のすべてを賭して、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を勝利に導こうとする――
それは、まさしく戦乙女の貌。

「……みんな、いいメンバーだよね。いいパーティーだと思う。
 あーあ、あたしもアコライト外郭で籠城決め込まないで、少しはバロールの話を聞いとけばよかった!
 そしたら、あたしもみんなの仲間になって。一緒に旅ができたかもしれないのに!」

しかし、そんな険しい表情もほんの束の間のこと。
マホロはすぐにおどけて笑った。

「じゃあ……、じゃあ!
 この戦いが終わったら、一緒に旅をしようよ! わたしたちのパーティーに入ってよ……マホたん!
 マホたんがいてくれたら百人力だもの! 帝龍を撃破すれば、籠城する理由だってなくなるはずでしょ?
 明神さんだって、エンバースだって、ジョンだって、カザハだって! 絶対反対したりしないよ!
 だから――」

なゆたが言い募る。
ほんの僅かに、マホロは目を細めた。……泣き顔のようにも見える微笑みだった。

「……ありがと。嬉しいよ」

ガシャ、と甲冑を鳴らし、マホロは踵を返した。そしてアジ・ダハーカへと歩き出し、明神とすれ違いざま、

「……カザハ君に謝っておいて。
 疑ってごめんなさいって。あなたは立派なアルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』だって……
 あなたと仲良くしたかった。もっとお話ししたかったよって」

そう、囁くように言った。
すぐにマホロは背に収納していた純白の翼を展開すると、一気にアジ・ダハーカに迫った。

「帝龍――――――――――――――――ッ!!!!!」

「マホロ……! くふふッ、まさか戻って来るとは!
 ワタシの本気を見て、圧倒的戦力差にようやく膝を屈する気になったアルカ?
 安心しろアル、オマエは傷ひとつつけないアルヨ! 他の連中は皆殺しにするアルが――」

「バカ言わないで! あたしは絶対、絶対絶対! あんたの軍門に下ったりしない! あんたのものにはならない!
 あたしは……あんたの都合のいい商品なんかじゃない! あたしは……
 あたしは! あたしの意志で! あたしの心に従って歌うんだ!!!」

きっぱりと拒絶の言葉を叩きつけると、マホロはスペルカードを手繰った。

「『河原へ行こうぜ!(オマエモナカナカヤルナ)』……プレイ!」

マホロがスペルを切ると同時、マホロとアジ・ダハーカを中心に魔力のドームが形成されてゆく。
『河原へ行こうぜ!(オマエモナカナカヤルナ)』。
自身と指定した相手のみを包む決戦空間を作り出し、一対一での戦いを強制するスペルカードである。
この空間にいる存在は、相手を再起不能にするまで決して外に出ることができない。
当然、相手以外の対象に攻撃することもできない。
つまり、ここでマホロが粘る限りはアジ・ダハーカはアルフヘイム勢に一切手出し不能ということである。

「さあ……お待たせしたわね! 長い長いあたしたちの戦いに、決着をつけましょうか! 帝龍!」

「……ユメミ……マホロォォォォォォォ……!!」

輝く光の槍――ヴァルキリー・ジャベリンを構え、マホロが帝龍を睨みつける。
帝龍が心底忌々しいといった様子で歯ぎしりする。

戦いは、まだまだ続く。


【なゆた、ゴッドポヨリン召喚、明神がガザーヴァを説得するまでの露払いを買って出る。
 マホロ、アジ・ダハーカとの決戦空間を展開。アジ・ダハーカを釘付けに。
 ガザーヴァ、明神の交渉に耳を傾ける構え】

237カザハ ◆92JgSYOZkQ:2020/01/22(水) 01:41:38
>「マホロもワタシにとっては商材のひとつに他ならないアル。
 マホロの歌声は万人を魅了する……地球でそれは実証済みアル、ならば! アルフヘイムで通じるのも間違いない!
 ワタシがスポンサーとなり、ヒュームを! エルフを! ドワーフを! すべての生命を魅了する歌姫にしてやるアル!
 そうすれば……ワタシはもっともっと金を手に入れられる……!
 マホロ! オマエは金の卵を産む牝鶏アルヨ! 死ぬまでワタシのために卵を! 富を! 生み続けるアル!!
 くふはははははははははははは―――――――ッ!!!!」

ボクはアジダハーカ相手に立ち回りながら、絶句していた。
帝龍のマホたんへの異常な執着は、行き過ぎたファンの歪んだ愛かと思っていたが、それですら無かった。

「つまり役に立つ間はこき使ってもし用済みになったら捨てるってことか……最低だな!」

絶句しているはずなのに、言葉が出ていた。今のガザーヴァが喋った!?
いやまさか、奴はそんな正義の味方側っぽいこと言うキャラじゃないし!

>「だが、薄汚いシルヴェストル……オマエに商品価値はないアル!
 蚊トンボが……いつまでも神の面前を! ブンブンと飛び回っているんじゃないアルヨ!!」

三本首の連携による攻撃に追いつめられ、一本による角による致命の一撃が迫る――

「瞬間移動《ブリンク》!」

次の瞬間、自分の意思ではなくスペルを発動し、間一髪で避けていた。
もう主導権を奪われかけているということか。

《勘弁してよ、これからボクが貰い受ける大事な体なんだからさぁ、あんまり傷物になって貰ったら困るんだよねぇ》

極限の状況では痛みを感じないって本当なんだね。言われてみれば全身傷だらけだ。
でもどーせお前のファッションは1年365日趣味の悪い全身鎧なんだから傷があろうがなかろうが関係ないじゃん!

《将来の可能性としてイメチェンするかもしれないし?》

ガザーヴァは相変わらずふざけたことを言っている。
そもそもガザーヴァは一応ニヴルヘイム側の存在のくせになんでこいつと戦うのに力を貸している?
ボクとしては都合がいいが、何がしたいのかさっぱり分からない。
ボクの体を乗っ取るのが目的にしてもわざわざこんな危険を冒す必要は無いはずだ。

《おっと、余計な詮索はナシだ。君だって分かってるんだろ?
殺してくれなんて思いながら戦ってどうにかなる相手じゃない。
死ぬにしても出来るだけ足掻いてから死ななきゃアイツら全員やられるよ?
だったら運を天に任せないか? 君の狙い通りやられるのが先か、ボクが君を乗っ取るのが先か――》

癪だけどその通りかもしれない。ここまでの攻防で分かった、力の差は歴然だ。
つまりこちらが生き残ってしまう心配をする必要はないということだ。ならば――

238カザハ ◆92JgSYOZkQ:2020/01/22(水) 01:43:06
>「――ふざっけんじゃねえええええええええっ!!!!」
>「うんざりなんだよ!裏切んのも、裏切られんのも!!
 どいつもこいつもしたり顔で訳わかんねえ納得の仕方しやがって!」

明神さんがいきなりキレていた。

>「干渉すべきでない種だ?知らねえよそんなもん、お前は地球出身のブレイブだろうが。
 鳥取の六法全書にゃ『世界救った者これを罰す』とでも書いてあんのか?
 前世がどうとかぴくちり興味ねえがなぁっ!そんな大昔の罪なんざノーカンだノーカン!!」

何故だろう、地球にいた頃はずっと自分の居場所はここじゃないと思っていたのに――“地球出身のブレイブ”と言われてちょっと嬉しい。
見るからに地球人類じゃなくて、こっちの世界のモンスターなのに、自分達と同じ仲間だと言ってくれてる気がして。
エンバースさんのスペルでアジ・ダハーカがバランスを崩した隙に、距離を取る。

>「よしいくぞ・・・部長・・・うけとれええええええカザハあああああ!
 雄鶏乃栄光!雄鶏示輝路プレイ!対象カザハ!」
>「出し惜しみはなしだ!これも受取れ!雄鶏乃啓示!プレイ」

ジョン君が手持ちのあらゆるバフ系スペルをかけてくれた。
攻撃力防御力上昇の上に、ステータス倍という大盤振る舞いだ。

「竜巻大旋風《ウィンドストーム》!」

天災級の竜巻による攻撃。
地上では赤いオーラを纏ったジョン君やゴッドポヨリンさんを駆るなゆがトカゲやヒュドラを蹴散らしていく。
本当にいい仲間を持ったな――君達に会えて本当にラッキーだった。
もうとっくに2度も死んでるんだ――今更死ぬのは怖くなんて無い。
むしろ怖いのは……帝龍の顔色が全く変わらないことだ。

>「くふふ……ゴミどもが!
 ゴミはどれだけ集まったところでゴミの山! 黄金に変わることはないということが、何故わからないアル?
 これだから下級国民どもはイヤになるアル……やはり、ワタシのように!
 頂点に君臨する者が、一から教育してやらなければならないようアルネ……!」
>「教えてやるアル……アジ・ダハーカの継続召喚時間は、概算でおおよそ23時間と16分!
 ワタシのクリスタルは、この魔神を約一日ぶっ続けで動かし続けることができるほどに潤沢アル!
 オマエたちがそれに耐えられると? この魔皇竜を向こうに回して、生き延びることができるとでも――?
 虫けらどもを皆殺しにするのに! 一時間も必要ないアルヨ!!」

「そんな……!」

アジ・ダハーカが前足で地面を叩く、それだけで大地震が起き、寄る辺なき城壁(ファイナルバスティオン)』に亀裂が入る。
地面には無数の裂け目ができ、地上は大混乱だ。
そんな中で、明神さんが語りかけてきた。正直、嬉しくて泣きそうになった。

239カザハ ◆92JgSYOZkQ:2020/01/22(水) 01:44:38
>「お前は今、カザハ君か?ガザーヴァか?どっちだって良いけどよぉ。
 このままアジ公に消し飛ばされんのがお前の望んだ結末か?
 帝龍君がつごーよくお前だけ避けてビーム撃つとは思えねえなあ」

だけど――ごめん。もう殆どガザーヴァに主導権を奪われてるんだ。
今はその刃がたまたまでかいドラゴンに向いてるけど、刺激したらいつ気が変わって殺されるか分からない。
それ以前にそもそも聞く耳なんて持たないだろうから大丈夫かもしれないけど――

>「ククッ……おやおやぁ? どうしたのさ明神さん?
 ここはボクの見せ場だろォー? 涙なしには語れない別れの挨拶は済ませたんだから、そこで指でもしゃぶって見てなよ!
 ボクが華麗にこのデカトカゲをやっつけるところをさぁー! きひひひッ!」

――ガザーヴァは明神さんに意外と興味を持ってしまったようだ。

>「狂言回し気取って安全圏から暗躍すんのもこれでお終いだぜガザーヴァ。
 超レイド級が本気出しゃ俺もお前も地面のシミだ。
 お前が手ぇ下すまでもなくアコライトは更地になるだろうぜ。
 いつもみたく尻尾巻いて逃げりゃいいじゃん。あ、お馬さんいないんだっけか、メンゴメンゴ」

>「……お前……何が言いたいのさ?」

ガザーヴァの奴、めっちゃイラッとしてません!? 煽り耐性低くね!?
明神さん、危ないからもうやめて! と叫ぼうとしたが声が出ない。ガザーヴァに口封じされたのだ。

>《コイツ、何か企んでるな? そうだろ、カザハ?
 ボクはリバティウムからずっとコイツらの動向を監視してきた。分析してきた。
 アルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』――その中でも、コイツは一番『ボクに近い』――。》

誰が誰に近いだって!? 似ても似つかねーよ! 謝れ! 明神さんに謝れ!
明神さんのやった悪事といったらせいぜいネット上で暴れ回ったぐらいだ、大量破壊大量虐殺と比べれば無いに等しい。
ボクの知ってる明神さんは手がかかるウジ虫に毎日餌をやって育ててて。
仲間想いで、自分が憎まれ役になってまでみんなを団結させて、ヘラヘラしてばっかりのボクにちゃんと向き合ってくれて。
きっとボクの中にガザーヴァがいると知りながらお守りくれて、今もこうして諦めないでいてくれる。

240カザハ ◆92JgSYOZkQ:2020/01/22(水) 01:45:28
>《面白いじゃん。ちょっと黙って見てろよ、カザハ……どうせボクの復活は確定なんだ。
 余興にコイツの戯言に耳を傾けてやるよ……まっ、どっちにしたってボクのオツムに勝てるはずなんてないけどさぁー!》

気付けばボクはでかいドラゴンを放置プレイして明神さんの前に降り立とうとしていた。
ガザーヴァは対話する気満々らしいが、一瞬前まで会話してた相手をいきなり殺しかねない奴だ。
明神さんが無事で済むかどうか気が気でない。
それにボクが相手しなかったらその間でかいドラゴンどうすんの!?
つーかトカゲ迫ってきてるよ!? こんなことやってる場合じゃないって!
と思っていると明神さんはすんでのところでオタクに助けられた。

>「無事でござるか、明神氏!」
>「いやぁ〜……みんな危ないから、戦場から離脱してって。そう言ったんだけどね……」
>「みんなにもプライドがある。戦士としての矜持がある。
 あたしは『笑顔で鼓舞する戦乙女(グッドスマイル・ヴァルキュリア)』……戦乙女は戦士の誇りを貶めない。
 ってことで……ゴメン。戦わせてもらうよ、ここで」

オタク軍団とマホたんが戦場に戻ってきたようだ。マホたんは覚悟を決めたように帝龍に突撃する。

>「『河原へ行こうぜ!(オマエモナカナカヤルナ)』……プレイ!」

一対一の決戦空間を作るスペル――裏を返せばその間は誰も手出しできないということでもある。
ガザーヴァの魔力を使ってすら力の差は歴然だったのに、たった一人で立ち向かうなんて自殺行為だ!
――こうなったら、ボクも腹を括って明神さんに全てを賭けるしかないのかもしれない。
でもそもそもガザーヴァ相手に会話が成立するのか!?
多分コイツ相手に交渉しようなんて思った人は明神さんが初めてだろうから、全てが未知の領域だ。
明神さんの前に降り立って、無駄にでかい態度でガザーヴァが口を開く。
ついに交渉が始まるかと思いきや――出てきたのは何故かバロールさんの怒涛の悪口だった。

241ガザーヴァ ◆92JgSYOZkQ:2020/01/22(水) 01:48:58
「お前の狙いは大体わかってる。
バロールをダシに説得しようったって無駄だよ。ボクはもう誰にも傅く気は無いのさ――
アイツはボクをこき使うだけ使って捨てたんだ。君達もよく考えた方がいいよ?
人使い荒いしいっつも菓子ばっか食ってるしセンス悪いし寝言ヤバイし!?
ニヴルヘイムの方が今はアイツが取り仕切ってないからどっちかっつーとホワイトなんじゃないかな?
あっ、どうせ全員あのデカブツにやられて死ぬから今更か!」

ボクは気付いた時にはバロール様に仕える者として存在していて、自分が何者なのか分からなかった。
友達も仲間もおらず、それでも主君であるバロール様と、相棒として宛がわれたダークユニサス(ガーゴイルと名付けた)がいた。
そして、バロール様の寵愛を一身に受けていて、何も不満は無かった。
彼は主君であると同時に、父であり、兄であり、恋人のような存在だった。
ボクはバロール様の言う事にひたすら忠実に従った。
バロール様が言うにはこの世界のためだというそれは一般的な感覚から見ると
かなり悪いことをやっているらしかったが、別に気にしなかった。
言う通りに出来たらバロール様が褒めてくれるから。
どうせやるなら楽しい方がいいに決まってる、ということで趣向を凝らして大量破壊や大量虐殺を重ねた。
そんなボクの態度をイブリースは気に入らなかったらしいが、よく意味が分からなかった。
楽し気にやっても真面目にやっても結果は一緒だ。どっちにしろ死んだ人は生き返らない。
そうしてボクは極悪非道の人格破綻者として敵からも味方からも恐れられるようになった。
ああそうだ、その通りだ――最凶の幻魔将軍を制御できるのはバロール様ただ一人さ。
でもボクは気が付いていなかった、いや、気付かない振りをしていた。
ボクを見るバロール様の瞳が、本当はボクを映していないことに。ボクを通して、他の誰かを見ていることに――
そして――運命の日。ボクの前に能天気な顔をしたシルヴェストルが現れた。
平和ボケしたムカつく奴だったが、それはどうでもいい。
問題はそいつの外見がまんまボクの色違いバージョンだったってことだ。
夜の闇のような漆黒の瞳と髪の代わりに、エメラルドの瞳に風渡る草原のような薄緑の髪。
オマケにガーゴイルをそのまんま白くしたようなユニサスもいた。
それまで気付かない振りをしていた疑念が一気に噴出した。
そしてボクは開けてはいけないパンドラの箱を開けてしまった――バロール様を問い詰めた。
観念したバロール様は語った。彼女らがオリジナルで、ボクらはそのコピーだと。
バロール様が本当に愛しているのは、ボクじゃなくてそいつだった。
ボクは生まれて初めての渇望に身を焦がした。欲しい、欲しい、その身体が、欲しい――!

そして――アコライト跡地での決戦。ボク達は互いに運命に導かれるように一歩も引かずに戦い、共に散った。
こんなところで終われない、今度こそバロール様の役に立ちたい――その一心で、ボクはシルヴェストルに取引を持ち掛けた。
ボクの原型だけあって、消滅間際のボクの取引に、幸いそいつは乗ってきた。
それでも分の悪い取引だった。オリジナルとコピーじゃオリジナルの方が存在としての力が強いに決まっている。
カザハの意識の奥底に潜伏して気取られぬままじわじわ乗っ取ろうと思っていたが、なかなかどうして乗っ取らせてくれない。
このままでは遠からず消滅する――それを悟ったボクは賭けに出た。
ボクの存在をカザハに認識させることは、うまくいけば存在を確立できる反面、拒絶されて消滅させられるリスクも伴う。
そこでハッタリを駆使してカザハに“このままじゃ遠からず乗っ取られる”と思わせた。
突然バカでかいドラゴンが出てきた状況も味方し、カザハはボクの力を駆使しての特攻を選んでくれた。
……ちょっと無茶し過ぎだけど、おかげでもう一息で復活できる。

242ガザーヴァ ◆92JgSYOZkQ:2020/01/22(水) 01:49:50
転生だか混線だかを重ねてバロール様と再会できた時は、滅茶苦茶嬉しかった。
ボクを表に引き出して、前みたいに使ってくれると思った。
でも、バロール様はあろうことかカザハに”また力を貸してほしい”といけしゃあしゃあと言った。
こっちは片時たりとも忘れなかったのに、ボクのことなんかすっかり忘れたみたいに。
前の周回でずっと力を貸してきたのは、カザハじゃなくてこのボクだ。
でも、考えてみりゃ当然だ。バロール様が好きな相手はボクじゃなくてカザハなんだから。
カザハの中にボクがいることに気付かなかったのか? いや、きっと放っておけばいずれ消滅するとたかをくくったんだ――
バロール様にとって所詮ボクは代用品に過ぎない、使い捨ての操り人形だった。
だからこれは、ボクを裏切ったバロールへの復讐でもある。カザハが消滅したら、アイツどんな顔するかな。
そうだな……あとは気が向いたら時々アルフヘイムの異邦の魔物使いの奴らを邪魔してやろうか。

「冥土の土産に面白いことをおしえてやろうか。
バロールのやつ、カザハが好きだったんだよ。趣味ヤバくねぇええええええ!?
どれぐらい好きかっていうと複製作って毎日毎晩愛でる程度に!
最初に会った時にそっちの姿の方が都合がいい、昔の姿はアレだったから、みたいなことを言ってただろ?
あれ多分、男の姿の方がついちょっかい出さずに済んで都合がいい、昔の姿は美少女過ぎて罪だったからって意味だから!
くくっ、ははははははははは! あー笑い過ぎておなか痛い!」

やばっ、ちょっと調子に乗って喋り過ぎたか!
ボクがカザハのコピーだなんてこいつに看破されたら胸糞悪い。コピー扱いはもうたくさんだ。
まあ、まず大丈夫だけど。なにせボクの鎧を着ていない姿はバロール以外の誰も見たことは無い。
ブレイブ達が言うところの未実装グラフィックってやつだからなあ!

243明神 ◆9EasXbvg42:2020/01/27(月) 04:07:57
生き死にのかかった戦場だ。判断は常に、合理的でなければならない。
ベットするのは自分の命だけじゃない。ここでミスれば掛け値なしに、アルメリアは滅ぶ。

そういう意味じゃ、『カザハ君を諦めない』俺の判断は……不合理の極みと言えるだろう。
移っちまった情に振り回されてるだけの、幼稚な感情論だ。
ガザーヴァが目覚めないうちに、カザハ君を殺しておくべきだった。
アルフヘイムの云百万の命とたった一人の命を秤にかけて、俺は後者を選んじまった。

後ろから撃たれたって文句は言えねえ。
一笑に付される迷妄な発言に、安易な同意が得られるとも、思っちゃいなかった。

>「……あは」

だけど、俺の提案を聞いたなゆたちゃんは――笑った。
300人の命を預かる総大将、ブレイブ達のリーダーは、俺の脇腹を肘で小突く。

>「かっこいいじゃん、明神さん。さすが『笑顔きらきら大明神』ね!
 じゃあ――やってみよう。やってみせよう!
 みんなが笑顔になるように。全員で生き残って、笑顔きらきらになるように!」

――リバティウムでのやり取りが、不意に脳裏を過ぎった。
ミドガルズオルムと対峙して、ライフエイクの悲恋を叶えようと言ったなゆたちゃん。
俺は面白そうだからなんて雑に自分を納得させて、彼女の提案に応じた。

『だしょ! 明神さんならそう言ってくれるって思ってた!』

……まるで逆の構図だな、あの時と。
そして俺もまた、なゆたちゃんならカザハ君を助けようとすると――信じていた。

「面白そうだろ。だから、やってやろう。いけ好かねえ連中の目論見なんざ残らず叩き潰して……。
 この場にいる全員、笑顔きらきらにしてやろうぜ!」

うんちぶりぶりのまんま世界救うってのも、些か格好つかねえからな。
カザハ君が見届け、語り継ぐこの歴史には――笑顔だけを刻んでいこう。

>「カザハを諦めるのはナシだ!絶対に!全員で帰ってくるって決めたんだから!」

>「制御可能な風属性は、必ず必要になる――明神さん!プランAは、あんたに任せたぞ!」

ジョン、そしてエンバースも俺と轡を並べる。
王都を出た時から、何も変わっちゃいない。ガザーヴァと戦い続けてるカザハ君も含めて。

俺たちは……同じ方を向いている!

>「明神、カザハを説得するのは任せた!」

ジョンはありったけのバフをカザハ君に投じて、踵を返す。
俺が交渉する時間を稼ぐために、単身トカゲの迎撃に躍り出た。

身に纏うのはあの赤いスキルエフェクトだ。
しばらく落ち着いていた暴力性が楔を切り、解き放たれる。
その余波は俺の方まで届いて、重みがあるかのように頬を打った。

姿はさながら、手負いの獣。
その牙が俺に向いていないことに、どこか安堵している自分がいる。

……無理するなとは言わねえよ。
だけど生きて帰ってこいよ、ジョン。
お前にはまだまだ返してない借りがあるんだ。

244明神 ◆9EasXbvg42:2020/01/27(月) 04:08:57
>「俺は――プランBになる。誰も、死なせはしない」

ブレスを避けて地面の裂け目に潜っていたエンバースの声が、下から響く。
さらにもう一つアジ・ダカーハの足元に裂け目が生まれ――その巨脚を掬った。

だが、浅い。地ならしでもするように巨竜が足踏みすれば、それだけでスペル効果が粉砕された。
巨体が不得手とする足元近くへの攻撃も、対策済みってわけだ。

やはり正攻法じゃ歯牙にも掛からない。
帝龍の足元を切り崩すには、奴とは別種の力が必要だ。

>「ククッ……おやおやぁ? どうしたのさ明神さん?
 ここはボクの見せ場だろォー? 涙なしには語れない別れの挨拶は済ませたんだから、そこで指でもしゃぶって見てなよ!
 ボクが華麗にこのデカトカゲをやっつけるところをさぁー! きひひひッ!」

残る希望は、あまりにも僅かな可能性だった。
俺の内応策に対し、ガザーヴァは三日月のように口を曲げて嗤った。
現状の手応えはなし。それでも会話に応じるのは、俺の断末魔を愉悦に変えようとする奴の性根によるものだろう。

ゲームにおける幻魔将軍ガザーヴァは、何かに付けて喋り倒す饒舌家だった。
周りの部下をイエスマンで固めていたからか、プレイヤーにもよく話しかけてくる。
その性質はバトル中にも発揮され、選択肢次第で攻略難易度すら変動した。

>「……お前……何が言いたいのさ?」

――つまりこいつは、会話を拒否しない。
言動で他者を翻弄するトリックスター。その性質に逆らうことはない。
相手の問いに答えることなく殺してしまうのは、獣の所業だと、知性の敗北だと……認識している。

だから、レスバを吹っ掛けてる間は問答無用で殺されることはない、はず。
なんの保証もない賭けでしかないが、今はそれに全てのコインをベットするしかない。

「何が言いたいかぁ?しっちめんどくせえなあ、いちから説明しないと駄目ですかそれ」

はぐらかして議論を間延びさせるのは簡単だが、交渉に時間はかけられない。
単なる命乞いだと看做されればその時点でアウトだ。
ガザーヴァの興味が失われる前に、全ての交渉を終わらせる必要がある。

考えろ――ガザーヴァをアルフヘイムに引き入れる方法を。
こいつが何を欲していて、それを提供する手段がないか。

>「しまっ――」

思考への没頭は、なゆたちゃんの息を呑む声に寸断された。
振り返ればトカゲの集団が俺めがけて疾走している。
もう数秒もしないうちにその牙や爪が俺を引き裂くだろう。

「やべ――」

ガザーヴァが口端を吊り上げる。
論破前に相手を殺すことはないと言っても、それは相手を助ける理由にはならない。
自分の身も守れないような弱者なら、そもそも戦場に出てくる資格なんかないからだ。

そして俺は、まさにその弱者だった。
ヤマシタを召喚――よりもトカゲの到達の方が早い。
そもそもリビングレザーアーマー単騎じゃ白兵戦でドゥームリザードには勝てない。
多勢に無勢。交渉を始めるまでもなく、俺はトカゲに喰われて死ぬ……?

245明神 ◆9EasXbvg42:2020/01/27(月) 04:09:43
>ザシュッ!!

その時、今まさに俺を喰らわんとしていたトカゲが、背中から血を噴いて崩れ落ちた。
その奥から姿を現したのは、土煙漂う戦場でもなお目立つ、目に痛いピンクの法被――

>「無事でござるか、明神氏!」

「……オタク殿!?」

アコライト守備隊、通称オタク殿。
鎧をガチャガチャ言わせ、派手な法被を翻し、オタク殿達が俺の周りに陣を組む。
マホたんに先導されて撤退したはずの連中が、なぜか未だにアジ・ダカーハの眼前に留まっている。

竜の鼻息一つで消し飛ばされる、命の恐怖――
それに震えながらも、彼らを支え、この場に立たせているのは、ひとえに戦う者としてのプライドだ。

>「それに――明神氏。拙者らはマホたんの御旗の許に集った同志!
 同年、同月、同日に生まれることを得ずとも、願わくば同年、同月、同日に死せん事を……でござろう?」

「へっ、どピンクだけに桃園の誓いってか。俺とマホたんくらいにしか伝わんねーよ、そのネタ……」

アルフヘイムに三国志なんてもんがあるならいざ知らず、
地球出身のブレイブにしかこの冗句は通じやしないだろう。情報元は多分、マホたんだ。

それはつまり……オタク殿たちなりの、決意の表明だった。
ブレイブ任せにしてきたこの戦場から逃げることを止め、俺たちと爪先を揃えて、共に戦うと。
アルフヘイムの民もブレイブも区別なしに、戦友として肩を並べると。
俺がこいつらを救いたいのと同じように――こいつらもまた、俺を助けたいと思ってくれている。

オタク殿はデュフフと笑う。
俺もニチャァ……とほほえみ返した。
俺たちの間には、そのキモオタスマイルの応酬だけで、十分だった。

>「いやぁ〜……みんな危ないから、戦場から離脱してって。そう言ったんだけどね……」

オタク殿達の背後から更にマホたんが頬を掻きながら戻ってきた。
笑顔ウルトラキモスの俺たちと違ってその微笑みは聖母の如くきゃわたんである。

>「みんなにもプライドがある。戦士としての矜持がある。
 あたしは『笑顔で鼓舞する戦乙女(グッドスマイル・ヴァルキュリア)』……戦乙女は戦士の誇りを貶めない。
 ってことで……ゴメン。戦わせてもらうよ、ここで」

撤収は失敗。アコライト守備隊がここで生き残れる保証はなにもなくなった。
きっと、たくさんの兵士が傷付くだろう。二度と戦えなくなる奴だって出るかもしれない。

「はは……。俺たちは、こいつらに死んで欲しくないから、ブレイブだけで帝龍に吶喊したんだぜ。
 本末転倒だ。こういうことされっとさぁ……」

……だってのに。
俺は今、腹の底からせり上がってくる快い熱を抑えられない。
ゲーマーのそれとはまた別の、俺自身の矜持が叫ぶ。
こいつらと一緒に戦いたいと。

「……エモキュンすぎて、テンアゲしちまうじゃねえか!」

異邦の魔物使い(ブレイブ)は、本質的には孤立無援だ。
アルメリアからの支援は結局支援でしかない。現場で命張るのは依然として俺たちだけだった。

マホたんがバロールを信用出来ないのも、あの男が俺たちの裏で糸引くだけの存在だからだろう。
ブレイブはシステムのパシリ。王都のお使いに過ぎない。それは正しい表現だった。

246明神 ◆9EasXbvg42:2020/01/27(月) 04:10:27
>「明神氏! ここは我らにお任せを! 心置きなく、したいことをなさって下され!」
>「おおおおお! ヲタ芸で鍛えた拙者のサイリウム……じゃなくて双剣さばきを見よォォォォ!」

だけど今、俺たちにはアルフヘイムの戦士が肩を並べてる。
共に刃を揃え、共に戦ってくれる奴らは、ブレイブ以外にもこんなにもいる。
嘘偽りなく、命懸けで助けようとしてくれる奴らがいる。

裏切りだらけのこの世界で、常に誰かを疑って旅をしてきた俺にとっては――
それがなによりも嬉しかった。

「オタク殿!拙者にも衣装を!」

「応ッ!!」

俺の求めに応じて、まるで用意していたかのように小包が飛んできた。
アコライトで始めてマホたんのライブに傘下したあの時と、同じように。
ピンクの法被と鉢巻を、俺もまた装着する。

「俺はもう振り向かない。後ろは全部……任せた!」

この戦いが終わったら、王都から物資ふんだくってちゃんとした宴を開こう。
きっとうまい酒になる。話したいことは、山程あった。

>「明神さん、彼を……カザハ君を説得する時間を稼げばいいんでしょ? あたしにいい考えがある。
 30分くらいなら、きっと帝龍を釘付けにできる。
 あとは守備隊のみんなと、月子先生。エンバースさん。ジョンさん……全員でドゥーム・リザードを止めてくれれば。
 帝龍は、わたしが何とかする……この役目は、あたしにしかできない」

同様にマホたんも守備隊に背中を向けた。
決然とした双眸が俺を捉える。

「……マジかよ。相手超レイド級だぜ、ブレスが掠りでもすりゃなんぼマホたんでもお陀仏だ。
 それにPVEでもあるまいし、タゲ固定なんざヘイトとってどうにかなるもんじゃねえだろう」

一体どうするつもりなのか。
その問いに、マホたんは答えなかった。

>「……みんな、いいメンバーだよね。いいパーティーだと思う。
 あーあ、あたしもアコライト外郭で籠城決め込まないで、少しはバロールの話を聞いとけばよかった!
 そしたら、あたしもみんなの仲間になって。一緒に旅ができたかもしれないのに!」

「過去形で語んなよ。帝龍さえぶっ倒しゃ、これからいくらでも旅ができる。
 シナリオは王国編だけで終わりじゃねえんだ。アズレシアの海とか万象樹とか、見に行こうぜ」

>「じゃあ……、じゃあ!
 この戦いが終わったら、一緒に旅をしようよ! わたしたちのパーティーに入ってよ……マホたん!」

なゆたちゃんがマホたんを勧誘する。
いいなあそれ。すっごく良い。最高かよ!
オタク殿たちにゃ悪いが、マホたんと行くアルフヘイムツアーの席は俺のもんだ!

>「……ありがと。嬉しいよ」

だけど、マホたんは再び答えをはぐらかした。
いくらニブチンな俺でも、猛烈に嫌な予感が背筋を疾走してくのがわかった。

マホたんは振り返る。アジ・ダカーハへ向き直る。
すれ違うその瞬間、彼女のささやく声が聞こえた。

247明神 ◆9EasXbvg42:2020/01/27(月) 04:11:37
>「……カザハ君に謝っておいて。
 疑ってごめんなさいって。あなたは立派なアルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』だって……
 あなたと仲良くしたかった。もっとお話ししたかったよって」

「じっ……自分で言えよ!そんな大事なこと、他人に言伝すんな!
 あいつだってマホたんとお喋りしたいはずだ!おい!」

マホたんは最早返事すらせず、背の翼を開く。
たまらずその肩を掴もうとした俺の手が、空を切る。
ユメミ・マホロは振り返ることなく、アジ・ダカーハ目掛けて飛び立っていった。

――『明日になったら、もうお話しもできなくなっちゃうだろうから……』

頭の奥で、昨日マホたんと交わした言葉が蘇る。
何をするつもりか。――何を、覚悟しているのか。
その双眸に込められた決意が意味するものを、俺は理解したくなかった。

>「『河原へ行こうぜ!(オマエモナカナカヤルナ)』……プレイ!」

マホたんとアジ・ダカーハを覆うようにドームが展開する。
あれは……対象とタイマン張る為に空間を隔離するスペル。
どちらかが斃れるまで、如何なる手段をもっても内外からの影響を完全に遮断する。
入ることも……出ることも、出来ない。

アジ・ダカーハは事実上、戦場から除外されたことになる。
マホたんが倒される、そのわずかな間のみ。

「……クソッ」

『河原へ行こうぜ!』はディスペル効果で解除出来ない。
マホたんと帝龍に対し、俺たちが出来ることはもうなにもない。
俺に出来るのは、一刻も早くガザーヴァを裏切らせることだけだ。

「待たせたなガザーヴァ。だけどこれでアジ公とかいう邪魔者は消えた。
 お前にとっちゃ、俺達を皆殺しにしてまったりご帰宅できるまたとないチャンスってわけだ」

さあ考えろ。

設定通りなら、ガザーヴァは人間の知恵で出し抜けるような相手じゃない。
奴は狡知を司り、高い知能と残虐な性向を併せ持つ。
俺がどれだけ脳みそ捻ったとしても、騙し果せることは不可能だ。

だからこれは論戦ではなく『交渉』だ。
勝ち負けを決めるゼロサムゲームじゃない。双方両得のWin-Winを目指す。
確実にガザーヴァにとって利益となるものを提示し、協力を引き出す。


俺が持ってる情報と手札はそう多くない。


デウスエクスマキナでリセットされる前の時間軸、便宜上これを『一巡目』としよう。
バロール曰く、一巡目はゲームのシナリオをそのままなぞり、魔王は倒された。
幻魔将軍ガザーヴァもアコライト跡地でブレイブと戦い、死んでいる。

今この時間軸は一巡目と違って、まだバロールは魔王になってない。
公式で魔王が生み出した設定のガザーヴァは、本来存在すらしていないはずだ。
だが奴は確かにここに居る。その原因となったのが、『混線』――

248明神 ◆9EasXbvg42:2020/01/27(月) 04:12:08
>『ボクは昔罪を犯した――罠と分かりきってる幻魔将軍の甘言に乗ってしまった』

乗っ取られる直前にカザハ君が零した言葉。
昔ってのはつまり、一巡目のことか?あいつも記憶保持者だったな。
詳細はわからんが、ガザーヴァはカザハ君と『混ざる』ことで、
世界のリセットに巻き込まれることなくカザハ君と一緒に再構築されたってことか。

憶測に憶測を重ねた結果だが、一応辻褄は合う。
だとすれば、ガザーヴァがそこまでして復活しようとしてるのは何故だ?

死にたくなかったから……ってのは奴のキャラに合わない。
あいつは命のやり取りすら楽しんで、最期は笑って死んだ。
あれだけ潔く散っといて、今更やっぱ生き返りますってのはあまりにも生き汚い。
そういう美学のなさは、奴が最も嫌うものだったはずだ。

なら、答えは一つだけだろ。
ガザーヴァは最期の最期までバロールに忠誠を近い、その名を呟いてこと切れた。
――魔王バロールに、もう一度会いたかったから。
多分、それが全てだ。

奴の琴線は、命がけの執着の対象は、未だにバロール。
揺さぶりをかけるとすれば、そこだ。

「しかし帰るったってお前に帰るお家あんの?ニブルヘイムの豪邸も着工すらしてねえだろ。
 ご主人様の元に戻るにしても、バロールの野郎まだ魔王になってねえしよ。
 幻魔将軍に帰って来られても扱いに困るだけなんじゃない?」

相手が絶対の優位にある場合の交渉術は主に2つある。
完全服従を示し、平身低頭して便宜を乞うか――感情を引き出して、会話のレベルを下げるかだ。
小学生の口喧嘩みたいな低次元の争いなら、まだ俺にも渡り合える余地がある。

こいつのバロールへの忠誠は本物だ。
そこをくすぐってやれば、必ず精神の『揺らぎ』、漬け込めるスキが生じる。

「実家帰るんならせめて親に顔向けできる格好しねえとなぁ?
 脱いじゃえよそんな鎧。堅気なシルヴェストルスタイルでバロールを安心させてやろうぜ」

揺らげ……揺らげ!

>「お前の狙いは大体わかってる。
 バロールをダシに説得しようったって無駄だよ。ボクはもう誰にも傅く気は無いのさ――」

煽りを受けて、ガザーヴァは口を開いた。

>「アイツはボクをこき使うだけ使って捨てたんだ。君達もよく考えた方がいいよ?
 人使い荒いしいっつも菓子ばっか食ってるしセンス悪いし寝言ヤバイし!?
 ニヴルヘイムの方が今はアイツが取り仕切ってないからどっちかっつーとホワイトなんじゃないかな?
 あっ、どうせ全員あのデカブツにやられて死ぬから今更か!」

――すっげえ長文でレスしてきた。

「お、おう……おう?めっちゃ喋るなお前……」

思わず素で気圧される。
なんだこいつ……バロールに不満タラタラじゃねえか。
いやこれ不満か?おノロケの類じゃない?

249明神 ◆9EasXbvg42:2020/01/27(月) 04:12:41
>「冥土の土産に面白いことをおしえてやろうか。
 バロールのやつ、カザハが好きだったんだよ。趣味ヤバくねぇええええええ!?
 どれぐらい好きかっていうと複製作って毎日毎晩愛でる程度に!
 最初に会った時にそっちの姿の方が都合がいい、昔の姿はアレだったから、みたいなことを言ってただろ?
 あれ多分、男の姿の方がついちょっかい出さずに済んで都合がいい、昔の姿は美少女過ぎて罪だったからって意味だから!
 くくっ、ははははははははは! あー笑い過ぎておなか痛い!」

「……マジで?」

バロールの野郎そんな業の深い趣味の持ち主だったの?
やべえやつじゃん……そういやなんか魔物のメイドさんと睦み合ってたけどさぁ!
急にそんな性癖暴露されても……その……困る。
明神ドン引きですぅ。

だけどこれで第一段階はクリア。
――ガザーヴァは、揺らいでいる。
不平、不満、課題点。それらを解決するソリューションを提案するのが、ここからの交渉だ。

バロールに使うだけ使って捨てられたと、ガザーヴァは言った。
人使い荒いのも、菓子ばっか食っててセンス悪いのも、正当な指摘だ。
それら個人の悪癖や、寝言のヤバさまで分かるほど、ガザーヴァはバロールの傍に居て……しかし捨てられた。

シナリオ攻略時、アコライト跡地の決戦でガザーヴァを追い詰めた際には、
毎度毎度『形成位階・門』とかいうインチキテレポートでやってくるはずの増援は、なかった。
同様にガザーヴァも『門』でニブルヘイムに帰ることなく、命果てるまで戦った。

あの時既に、ガザーヴァは見限られてたのか?
だから増援も、ミハエルをイブリースが回収していったような仕切り直しも、発生しなかった。
ガザーヴァは孤立無援のままブレイブと戦って、そして死んだ。

あれだけプレイヤーを引っ掻き回してくれたガザーヴァの野郎だが、
魔王バロールにとっては捨てても良い換えの効く駒でしかなかった……ってことなのか。

代わりにバロールの寵愛を受けたのは、一巡目のカザハ君だった。
ガザーヴァが言うようなフィギュア萌え族だったかはこの際どうだって良い。
一つ、理解できたことがある。

切り捨てた相手と再開して、その帰還を喜ぶ者は居ない。
――バロールの『おかえり』は、ガザーヴァに向けたものじゃなかった。
正真正銘、カザハに向けたもので……その中に居るガザーヴァを、まるで無視したものだった。

親にも等しい相手から無視される。どれほどの絶望があったろう。
ごく普通に親にも愛されて育ってきた俺にはまるで推し量れない。
あの真っ黒の甲冑の中で、ガザーヴァがどんな表情をしていたか、想像もしたくない。

そして俺もまた、ガザーヴァではなくカザハ君だけを助ける為に動いてる。
生きたいと思うガザーヴァの意思を、無視して。

協力を引き出す為に、こいつに対して何が出来るとか……てんで見当違いの考えだった。
俺達にとっての最良の結果はカザハ君の確保。それはガザーヴァにとっての最悪、存在の消滅だ。
Win-Winの取り引きなんか成立しない。

「バロールの真意なんざ知らねえけどな。……俺はお前のことが嫌いだったよ、ガザーヴァ」

もうクリアしてからだいぶ経つけど、今でも鮮明に思い出せる。
ガザーヴァが、俺達プレイヤーにとって、どういう存在だったか。

250明神 ◆9EasXbvg42:2020/01/27(月) 04:14:51
「人は殺す、街は壊す、どこにでもひょいひょい出てきて追い詰めたと思えばさっさと逃げやがる。
 わけわからんデバフは撃ってくるし、全体攻撃は痛いし、1ターンに2回も行動する。
 すこぶるイライラさせられたぜ。捨て台詞に煽りぶちかましてくるしよ」

何が現場将軍だよ。被害に対して言動が軽すぎんだよ。
アコライトぶっ壊したせいでマル様親衛隊の狂犬どもがアルメリア各地に解き放たれちまったじゃねえか。

俺はガザーヴァが嫌いだった。もちろんゲームのキャラとしてだ。
ヒールって役どころは分かっちゃいるけど、開発の悪意の根源みたいな言動は、
いちプレイヤーとして大いにムカつかされた。

「――だけど、それが幻魔将軍ガザーヴァなんだ。
 俺達がその足跡を追い求め、戦い続け、ついに打倒した……ブレモンきっての名悪役だ。
 ブレイブにとって、ガザーヴァは不倶戴天の敵であり、かけがえのないライバルだった」

ここから先は、アルフヘイムのブレイブとしての言葉じゃない。
このゲームをサービス開始当初からやってきた、プレイヤーとしての気持ちだ。

「今のお前はカザハ君に混じった残り滓みたいなもんだ。
 一樽のワインに混入した一滴の泥水。ただ汚染するだけの不純物。
 お前がカザハ君を乗っ取ったところで、それはただの黒いシルヴェストルでしかない」

あるいはシルヴェストルを愛するバロールなら、それでも満足なんだろう。
だけど俺は、『ガザーヴァ』がそんなふうに変わってしまうことを、許容できない。

「俺が会いたいのは黒いカザハ君じゃない。正真正銘混じりっけなしの『幻魔将軍ガザーヴァ』だ。
 俺達プレイヤーがずっと追いかけてきた、神出鬼没のトリックスターと、もう一度戦いたい」

カザハ君の肉体はシルヴェストルそのものだ。
ってことはガザーヴァの肉体は完全に失われていて、精神と魔力だけが残ってるんだろう。
だから、カザハ君の肉体を求めた。その精神を侵食し、我がものにしようとした。

「アテはいくらでもある。バロールに新しい肉体を作らせたって良いし、
 霊銀結社まで行きゃ研究用の人工精霊なんざいくらでも転がってるだろうよ。
 万象樹の蕾に憑依して、果実として生まれ直すってのもアリだ。
 ――全部、ここから生きて帰れたらの話だがな」

別の容れ物を用意して、ガザーヴァを正式に転生させる。
それで始めて、俺達は再会したと言える。

「取り戻そうぜ、『幻魔将軍ガザーヴァ』を。
 そんであのセンス最悪な魔王様の鼻を明かしてやろう。
 お前がデザインしなけりゃ、ガザーヴァはこんなにカッコいいんだってよ」

執着と絶望、そしてデウスエクスマキナが歪ませた、幻魔将軍の在りよう。
それを是正し、カザハ君もガザーヴァも、二つとも復活させる。

――俺の愛した『ブレイブ&モンスターズ』を、取り戻す。

俺はガザーヴァに右手を差し出した。

「俺と組めよガザーヴァ。お前をもう一度幻魔将軍にしてやる。
 その為の道を塞ぐ、アジ・ダカーハとかいうでけぇ障害物をぶっ潰す。
 お前が完全に黒いシルヴェストルになっちまう前に――俺とカザハ君に、力を貸せ!」


【交渉:ただの黒いシルヴェストルじゃなくて、ちゃんと幻魔将軍として復活したくない?】

251ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/01/28(火) 00:25:11
トカゲを一匹ずつ、確実に、潰していく。
不可能じゃない、僕と、このわけのわからない力と、部長がいれば・・・。
しかし・・・

僕が潰す以上に生まれてくる速度が早い。

>「くふふ……ゴミどもが!
  ゴミはどれだけ集まったところでゴミの山! 黄金に変わることはないということが、何故わからないアル?
  これだから下級国民どもはイヤになるアル……やはり、ワタシのように!
  頂点に君臨する者が、一から教育してやらなければならないようアルネ……!」

帝龍が言っている事は正しい・・・金を集めることも才能だ。
元の世界なら金はそのまま力だ。世の中の99%を叶える事ができる。

恋人だって、友達だって、自分の言う事を聞く完璧な奴隷だって・・・人を殺す事だって許される。

その事は僕もよく分かっていた。

有名になった後の僕はテレビ・CMに出てアイドル活動をしていた。
そのおかげで一般人が一生をかけて手に入れるような額を稼いだ。

その結果僕には友達が一杯できた、プライベートで街を歩けば色んな女の子に告白された。
家を建てたり、週に一回家でパーティを開いたり、彼女を家に連れ込んだり。

僕の理想だった、理想なはずだった。

『・・・哀れな奴』

>「召喚! G.O.D.スライム! か〜ら〜の〜……『黙示録の鎚(アポカリプス・ハンマー)』!!」
>『ぽぉ〜よぉ〜よぉ〜〜〜〜〜んっ!!』

なゆのゴッドポヨリンさんによってトカゲ達が一斉に蹴散らされる。
だがそれでも・・・生まれてくる速度のほうが早い。

『チッ・・・数が圧倒的すぎる・・・!』

>「しまっ――」

『なっ・・・』

僕となゆの間をすり抜けるようにトカゲが明神に向かっていく。

>ザシュッ!!

しかしそのトカゲ達は明神に到達することなく倒れる。

>「無事でござるか、明神氏!」

『あれ・・・あの見てるだけで目が痛くなってくるような・・・あの格好は・・・』

>「『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の方々にお任せして、離脱することは簡単でござる。
  しかし……我らはアコライト外郭守備隊。この地を守るという役目は、そう易々とは捨てられないのでござるよ」

252ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/01/28(火) 00:25:31
『バカが!なにしに戻ってきたんだ!!』

明神が、なゆが、みんなが守るために危険を冒して作戦を組んで。
危険を承知でアジダハーカから逃がしたというのに・・・!

>「みんなにもプライドがある。戦士としての矜持がある。
 あたしは『笑顔で鼓舞する戦乙女(グッドスマイル・ヴァルキュリア)』……戦乙女は戦士の誇りを貶めない。
 ってことで……ゴメン。戦わせてもらうよ、ここで」

どいつもこいつも・・・なぜだ・・・マホロはともかくこいつらは・・・足手まといなんだよ!!

トカゲを処理しながら戦闘を開始した守護兵達の戦いを見る。

>「おおおおお! ヲタ芸で鍛えた拙者のサイリウム……じゃなくて双剣さばきを見よォォォォ!」

勢いはいいが陣形がバラバラだ、このままじゃその内数に飲み込まれてるのが目に見えていた。

『マホロ・・・マホロはどこだ!』

周りを見渡すと、マホロは帝龍・・・アジダハーカと対峙していた。

>「マホロ……! くふふッ、まさか戻って来るとは!
 ワタシの本気を見て、圧倒的戦力差にようやく膝を屈する気になったアルカ?
 安心しろアル、オマエは傷ひとつつけないアルヨ! 他の連中は皆殺しにするアルが――」

>「バカ言わないで! あたしは絶対、絶対絶対! あんたの軍門に下ったりしない! あんたのものにはならない!
 あたしは……あんたの都合のいい商品なんかじゃない! あたしは……
 あたしは! あたしの意志で! あたしの心に従って歌うんだ!!!」

>「『河原へ行こうぜ!(オマエモナカナカヤルナ)』……プレイ!」

マホロがカードを使うと帝龍とマホロがドーム状のフィールドに包まれる。
効果はたしか・・・自分と指定した相手だけの空間を作る・・・。

あのフィールドに入ったという事は効果が解除されるまでこれ以上トカゲ達は増えないと言う事・・・。

だが・・・

「ハイ!ハイ!ハイ!テンション上げ!上げていくでござるうーーーーー!」「ラブ!アイ!ラブユー!マ☆ホ☆ロ」「馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前」

一時的な勢いだけで戦ってる兵士達はこのままにしておけばマホロが出てくるまで耐えられない可能性の方が高い。
逆にいえば・・・このまま放置しておけばある程度の数は減らしてくれるだろう。
こっちの処理を終えてから残りのトカゲを掃討したほうが楽だ・・・僕達が負うリスクも最小限で済む。


>「人の心をないがしろにする作戦。人の命を軽んずる作戦は、それがどれだけ有効であろうとやりません。
  わたしは人成功率99パーセントだけど人がひとり死ぬ作戦より、成功率10パーセントだけど全員助かる作戦を選ぶ。
  この方針は今後も絶対に曲げない。そしてそれは――ニヴルヘイム側にも当て嵌まるから」


『マホロ・・・相変わらず・・・余計な事しかしない女だ・・・!』

253ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/01/28(火) 00:26:41
『すまない!なゆ、ヒュドラの相手を頼む!』

そういい残し兵士達の下に走る。

『お前ら!手を止めるな!だが死にたくないなら今すぐ僕の指示に従え!!』

トカゲを蹴散らしながら戦う兵士達に激を飛ばす。
兵士達はどうしたらいいかわからずうろたえる、がスグに不満零し始める。

「お前は・・・!マホロちゃんに純潔を捧げろとかいった不届き者でござる!」
「お前の言う事だけは死んでも聞かねーぞ!!」
「当たり前だよなぁ?」

兵士達が僕を嫌っているのはわかっていた。

『黙れ!!なゆがお前らを守ると言った以上僕にはお前らを守る義務があるんだよ!!』

兵士達が静まり返る。

『僕となゆが先陣を切る!お前らは俺達の撃ち漏らしを確実に仕留める事だけに専念しろ!絶対俺達より前にでるな!
 次に不満を口にした奴から死んでいくと思え!!マホロの為に一人も欠けずに生きる事だけ考えろ!!』

「ござるう・・・」「チッ・・・」「クビだクビだクビだ!」

それでも煮え切らない兵士達

『自己犠牲は・・・正しい事だと本気で思ってるのか?いいか!
 本当にマホロの事を思ってるんだったら石に齧りついてでも生きる努力をしろ!
 マホロに俺達は全員無事だったんだぜって自慢するくらいの気持ちでいけ!』

「それともお前らはマホロと死体になって再会するつもりだったのか?
 どっちがマホロの事考えてないのかよく考えろ!!」

「マホロちゃん・・・」「ぐう・・・うう・・・」「ポッチャマ・・・」

『何度でも言うぞ!今お前らに必要なのは戦う!そしてかっこわるくていい!生きて帰る事だ!!』

『今すべき事がわかったか?・・・さあ!いくぞ!なめくさってるあいつに・・・帝龍にお前らの力をみせてやれ!!!』

トカゲにトドメを刺さず、傷を負わせて後ろで控えてる兵士達にトドメを刺してもらう。
そうする事によって倒す速度は跳ね上がり、みるみる数を減らしていく。

「ふう・・・僕は一体なにをしているんだろうな・・・」

勢いがついた兵士達と僕達はまさに破竹の勢いで進んでいく。
あれだけいたトカゲももうわずかになっていった。

「どけどけどけ〜〜〜〜!マホロ親衛隊のお通りでござるう〜〜〜!」
「全員生きてマホロちゃんにヨシヨシしてもらうしかねえ!!」
「Foo↑気持ちぃ〜」

「あいつら・・・前にでるなって言ったのに・・・」

形勢は完全に逆転。もはや僕となゆが援護する必要もなく。
兵士達は残りのトカゲとヒュドラを逆転した数の暴力で蹂躙していた。

「ふう・・・さすがに今まで耐え抜いてきただけの事はある・・・」

僕のやれる事は全部やった。後は・・・



「お前だけだ!カザハ・・・戻って来い!」

254崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/01/28(火) 20:52:19
ボクの一番最初の記憶は、あのひとの微笑みから始まる。

「――やあ。初めまして……私は。君のパパだよ」

「……ぱ……
 …………ぱ…………」

母の胎内のような保育嚢から出て、初めてボクが口にした言葉がそれだった。
彼はボクに穏やかな笑顔を向けると、培養液まみれでずぶ濡れのボクを自分の衣服が濡れるのも構わず抱きしめてくれた。
温かだった。柔らかかった。トクントクンって、心臓の音が聞こえた。
……このひとが、ボクのパパ。ボクの家族。
ボクの大切なひと。

ボクは、このひとに産んでもらったんだ――

「パパ!」

「パパーっ! えへへ」

「……パパのばか」

「パパ……!」

「パパ! だぁ〜い好き!」

長い長い時間、ボクはパパと一緒に過ごした。
パパと一緒に、甘いお菓子を食べた。パパの膝におすわりして、絵本を読んでもらった。
手をつないでお散歩に行った。ひとつのベッドで、一緒に眠った。

……幸せだった。
ボクはこのひとの娘。ボクは、このひとにとてもとても愛されている。
まるで万華鏡のようにきらきらと輝くパパの虹色の瞳が、ボクは本当に好きだった。
このひとの言うことならば、ボクはなんだってしよう。どんな汚名だってかぶってやろう。
だって。
ボクには、このひとさえいればいい。このひとの愛さえ手に入るならば、他なんていらない。
他の生き物に価値なんてない。ボクは――

……ボクは。

だから、パパに黒い甲冑を纏って戦えと言われたときも、一も二もなく従った。
相棒のガーゴイルに跨って、ありとあらゆることをやった。集落を、村を、街を、国を破壊した。
人を殺した。ヒュームを、エルフを、ドワーフを、ホビットを、メロウを。
殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して。
殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して。
殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して。
殺して、殺して、殺して、殺して、殺しまくった。

街を燃やして、魔獣たちを解き放って、アルフヘイムの住人に苦悶の末の死を撒き散らす。
そうすると、パパは褒めてくれた。ボクの頭を撫でて、決まってこう言ってくれたんだ。

「よくやったね」

って。

「君は本当にいい子だ」

って――。



なのに。



「あれは失敗作だったよ、イブリース」

「どういうことだ? 魔王――」

「所詮、コピーはコピーだ。オリジナルではない……残念だが実験は失敗と言うしかないな。
 やはり、オリジナルを手に入れなければ。他のシルヴェストルでは駄目らしい」




……ボクが……失敗作……?

255崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/01/28(火) 20:54:47
「“風渡る始原の草原”か……。しかし、ならば奴はどうする?
 あんたに懐いている……いや、あんた以外の何者の言うことも聞かない。あんただけが奴を制御できる。
 失敗作として処分するのか?」

「今まで通り、幻魔将軍として使いはするけれど。あれはもう、あの力を手に入れる鍵にはならない。
 あのシルヴェストルを探すんだ、イブリース。粗悪な複製品ではない、正真正銘のオリジナルを。
 私が求めるものはそれだ……それ『だけ』だ。わかるね」

「承知した。ならば、さっそく出立――」

「ま……、待って……! 待ってよ……!」

隠れて立ち聞きしていたなんて、そんな自分の状況も忘れて、ボクはパパの座る玉座へと駆け出した。
ああ、そうだ。ボクは今日も『異邦の魔物使い(ブレイブ)』どもをからかって、一戦交えて帰ってきたんだった。
この天空魔宮ガルガンチュアへ――パパのお城へ。ボクのお家へ。
今日は100人殺したよって。そう報告して、褒めてもらうために。
頭を撫でてもらうために。
ボクだけがひとりじめできる、あの温かな笑顔を見るために――


でも。


そのときボクに向けられたのは、温かな笑顔なんかじゃなかった。

「……いたのか」

「どういう……こと……?
 ボクが、失敗作……? コピー……?
 え、ウソ……冗談、だよね……? だって、ボクはパパの一人むす――」

「アコライト外郭に行くんだ。あの城壁を瓦礫に変えてきなさい」

「パパ……!」

「あそこにはアルフヘイムの強力な『異邦の魔物使い(ブレイブ)』が集まっている……今のうちに潰さなければ」
 
「……ぱ、ぱ……」

「……何を突っ立ってるんだ? 早く行きなさい」

パパの眼差しは冷たかった。その言葉はひややかだった。
知ってる。それは、人間がそれまで執着していたものに興味を失ってしまったときの……。
そっか。
本当は、ずっと前からわかってた。
あの人はボクを見てなかった。ボクは、オリジナルとやらの替わりでしかなかった。
でも、それじゃやっぱりダメだったんだ。パパには、オリジナルが必要なんだ。
パパが何事かを成し遂げるためには。オリジナルだけが持っていて、ボクが持っていないものが必要なんだ。
ボクは。もう、いらないんだ――


……やだ。
そんなのやだ。やだ、やだやだ……絶対イヤだ……!
ボクは誰かの代替物なんかじゃない! 粗悪な複製品なんかじゃない!!
ボクは兜を脱いで素顔を晒し、パパの玉座に駆け寄ると、パパに抱きつこうとした。
愛してるのって。パパのことが大好きなのって。一番最初の記憶からずっと変わらない想いを伝えたくて。
けれど、それをパパの傍にいたイブリースが邪魔した。ボクの足をその持っている魔剣の鞘で払ったのだ。
バランスを崩し、ボクはどっと倒れた。それでも、懸命に手を伸ばしてパパの右脚にしがみついて顔を見上げた。

「パパ……」

パパは何も言わない。ただ玉座の肘掛けに右肘をついたまま、ボクを無感情に見下ろしている。
やだ。やだよ。
そんな冷たい、その他大勢を見るような眼差しで、ボクを見ないでよ……!

「……パ……、
 バ、ロール……さま……」

ボクが今までこのひとから注がれていると思っていたものは、全部幻だった。この人は最初からボクを愛してなかった。
ただ、ボクの元になったボクのような『何か』の姿を、ボクに重ねていただけ――。

ああ……

でも、それでもいい。それさえもかまわない。
ボクは受け入れる。どんなに不条理なことでも、悲しいことでも。
それが、あなたの望みなら。

オリジナルが一番でもいい。ボクはあなたの視界の隅っこに、ほんのちょっぴりいるだけでもいい。
だから……ボクのこと、嫌いにならないで。いらないって言わないで。
そして――もし。もし許されるなら。

「今よりもっと、あなたのお役に立てば……
 少しだけ。ほんの少しだけ……ボクのこと。愛してくれますか……?」

ボクは低く頭を伏せ、かつて父親だった主君の靴に口付けした。

256崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/01/28(火) 20:57:08
>バロールの真意なんざ知らねえけどな。……俺はお前のことが嫌いだったよ、ガザーヴァ

「……何ィ……?」

静かに語り始めた明神を前に、カザハ=ガザーヴァは怪訝に顔をゆがめた。

>人は殺す、街は壊す、どこにでもひょいひょい出てきて追い詰めたと思えばさっさと逃げやがる。
 わけわからんデバフは撃ってくるし、全体攻撃は痛いし、1ターンに2回も行動する。
 すこぶるイライラさせられたぜ。捨て台詞に煽りぶちかましてくるしよ

当たり前だ。
幻魔将軍ガザーヴァとは、そういうキャラクターだ。『そういう役どころのキャラ』なのだ。
プレイヤーに対して徹底的に嫌がらせをする。怒りを抱かせ、屈辱を味わわせ、徹頭徹尾救いがたい悪役として行動する――
そうしてこそ。ガザーヴァを倒したときのプレイヤーのカタルシスは何物にも代えがたいものとなる。
実際の、一巡目の世界ではガザーヴァは自らのオリジナルと相討ちになって死んでいるが、少なくともゲームの中ではそうだ。
ガザーヴァ本人にもゲームの知識がある。だから『そんなことは言われずとも分かる』のだ。

だが。

「ははッ! そりゃそうだろうねぇ、みんなボクのことがさぞかし憎かっただろうさ!
 ボクは幻魔将軍ガザーヴァ! ボクにとっては罵声こそが賛辞。怨嗟こそが福音!
 なぜなら……」

>――だけど、それが幻魔将軍ガザーヴァなんだ。
 俺達がその足跡を追い求め、戦い続け、ついに打倒した……ブレモンきっての名悪役だ。
 ブレイブにとって、ガザーヴァは不倶戴天の敵であり、かけがえのないライバルだった

明神が続けたのは、そんな絶対悪の仇敵に対する恨み言ではなかった。

「……ボクが……ライバル……?」

一巡目でも、二巡目でも、自分に向けられるものは非難と憎悪のみ。
そう思っていたガザーヴァは思わず訊き返した。
明神はなおも言い募る。

>俺が会いたいのは黒いカザハ君じゃない。正真正銘混じりっけなしの『幻魔将軍ガザーヴァ』だ。
 俺達プレイヤーがずっと追いかけてきた、神出鬼没のトリックスターと、もう一度戦いたい

「なん……だとォ……?」

アルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の言葉に、ガザーヴァはすっかり混乱した。
弁舌が達者で、人を口先三寸で騙くらかすのが何より得意な幻魔将軍が。
嘘偽りの一切ない、明神の心からの言葉を聞いて動揺する。

>アテはいくらでもある。バロールに新しい肉体を作らせたって良いし、
 霊銀結社まで行きゃ研究用の人工精霊なんざいくらでも転がってるだろうよ。
 万象樹の蕾に憑依して、果実として生まれ直すってのもアリだ。
 ――全部、ここから生きて帰れたらの話だがな
>取り戻そうぜ、『幻魔将軍ガザーヴァ』を。
 そんであのセンス最悪な魔王様の鼻を明かしてやろう。
 お前がデザインしなけりゃ、ガザーヴァはこんなにカッコいいんだってよ

明神はガザーヴァにゆっくりと右手を差し出した。
そして、決定的な交渉を持ちかける。

>俺と組めよガザーヴァ。お前をもう一度幻魔将軍にしてやる。
 その為の道を塞ぐ、アジ・ダカーハとかいうでけぇ障害物をぶっ潰す。
 お前が完全に黒いシルヴェストルになっちまう前に――俺とカザハ君に、力を貸せ!

「ボクを……取り戻す……」

ガザーヴァは小さく慄えた。

そうだ。

ガザーヴァはカザハが欲しかった。カザハになりたかった。
自分がカザハになってしまえば、オリジナルになれば――きっとバロールは振り返ってくれる。
また、昔のように。一緒にお菓子を食べてくれる、膝に乗せて絵本を読んでくれる。手を繋いでくれる……。
愛してくれる。そう思ったのだ。

けれど、それは本当に自分の望むところだったのだろうか?
そも、バロールがカザハに求めるもの。カザハにあって自分にないものが何なのか、ガザーヴァには分からない。
それが理解できない限り、きっと。ガザーヴァの願いが叶うことはないのだ。
それどころか、カザハの肉体を乗っ取ることでバロールの求めるものが揮発し、消滅してしまう――といった可能性さえある。
万一そんな事態になってしまえば、もう二度と。バロールはガザーヴァを見てはくれないだろう。
といって今まで綿密に組み上げ、もうあと一歩というところまで来ている復活計画を今更放り出すこともできない。

嗚呼。

だとしたら。

「ボクは……どうすればいいの……?」

「簡単な話さ。私たちに力を貸しなさい、ガザーヴァ」

ガザーヴァの呟きに対する答えは、アルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちの背後で聞こえた。

257崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/01/28(火) 21:01:15
「いやまったく強引だなぁ! わたしは外郭から離れないって、あれほど言ったのに!
 それにスピードを出し過ぎだと思うんだ! 制限速度は守ろう! お兄さんとの約束だ!」

聞き慣れた能天気な声と共に、バサリ、と翼の羽ばたく音がした。
カケルがゆっくり地上に降り立つと、その背に跨っていたバロールがよっこらしょと鞍から降りる。
ガザーヴァが驚きに目を見開く。

「……バロー……ル、さま……」

「久しぶりだね、ガザーヴァ。……元気そうで何よりだ」

カツ、と身の丈以上もあるトネリコの杖を地面につき、バロールが虹色の瞳で穏やかにガザーヴァを見る。
ガザーヴァは唇をわななかせ、一歩、二歩と後ずさった。

「なぜ……ここに……」

「なぜって、決まっているだろう? 君を勧誘しに来たのさ。
 それにしても明神君、さっきのセリフは酷いなぁ! 私のセンスが最悪だって? いやいやそんなことはないさ!
 ガザーヴァはカザハ――の前世のシルヴェストルを色以外は忠実に再現したコピーだ。
 カワイイだろ? 花のように愛らしいとはこのことだ、黒薔薇のように淫靡なところもまたグッドセンス!」

はっはっは、とバロールは明神に視線を向けて陽気に笑った。場違いも甚だしい。

「まぁ、私のセンスについてはすべてが終わってから夜通し討論するとして。
 今は君だ……ガザーヴァ。君がうんと言うのなら、明神君の言うとおり君の新たな肉体を用意しよう。
 というか――実は、もう用意してあったりするんだな。これが!」

言うが早いか、バロールは杖を大きく振り上げ、虚空を指し示した。
途端に空間が歪み、ここではないどこか遠方の映像が浮かび上がる。
そこは、どうやらどこかの魔術工房の光景のようだった。薄暗い室内に、肉色で血管の浮き出た巨大な保育嚢がひとつ安置してある。
保育嚢はまるで臨月のように肥大しており、どくん、と鼓動するたびに内部が透けて見えた。
そして、その保育嚢の中に胎児よろしく身体を丸めて入っているのは――

「……ボクの……身体……」

「そうだ。君の身体だ……もちろん、ガーゴイルの分も用意してある。
 もう一度言うよ、ガザーヴァ……私たちに力を貸しなさい。かつてのように――
 私たちには君の力が必要だ。もう二度と、以前の失敗を繰り返してはならないんだよ」

トネリコの杖の先端で地面を叩くと、映像が音もなく消える。
このままガザーヴァの計画がうまく行き、カザハの肉体を乗っ取って復活しても、ガザーヴァにはその後の目的がない。
先程はバロールへの復讐も考えたが、実際にバロールと再会を果たした今、そんな気持ちはもうどこかへ吹き飛んでいた。
いや――きっと最初からそんな気持ちなんてなかったのだろう。
寄る辺なき模造品の魂に愛を教えてくれた、たったひとりのかけがえのない人。
例えどんな無慈悲な扱いを受けたとしても――そんな人のことを憎むなど、ガザーヴァにはできない。
とすれば、バロールの許へ帰参して肉体を取り戻し、かつてのようにその指示を仰ぐというのが最善の手であろう。
バロールは微笑みながら、ガザーヴァが明神の差し伸べた手を取るのを待っている。
ぎゅ、とガザーヴァは唇を噛みしめた。そして、手を強く握り込んで拳を作る。

「じ……、じゃあ……。ボクのお願い、ひとつだけ……聞いて、ください……」

「……言ってごらん」

「ボクが……。
 ボクがバロール様の味方に、アルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の仲間になったら……」

強く強く握った拳が、小さく震える。
ほんの僅かな逡巡の後、ガザーヴァは意を決して口を開く。

「……ボクのこと。ほんの少しだけでも……愛してくれますか……?」

それは、いつかも口にしたガザーヴァの心からの願い。
他の何もかもをなげうってでも、追い求めているもの。
それを聞いたバロールは、すぐに口許に微笑を浮かべた。――それは見る者を温かな気持ちにする、優しい笑顔。

「いいとも。おいで、ガザーヴァ」
 
そう言って、元魔王はゆるく両手を広げた。
愛した、求めた、欲した、唯一無二の相手。
そんなバロールの出した答えに対し、ガザーヴァの双眸にみるみる涙が溜まり、目尻から頬へと零れる。

「嬉しい……。嬉しいよ、パパ……。
 その言葉が聞きたかった……。ボクはオリジナルじゃない、ここにいるボクを見てほしかった。
 目の前のボクを愛してほしかったんだ……」

ガザーヴァはにっこりと笑った。愛らしい、可憐な笑顔だった。

だが。

「でも、ダメだよパパ……騙されないよ、だって……」


「パパの目、全然……笑っていないもの――」


そこにあるのは、絶望だった。

258崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/01/28(火) 21:06:37
ジョンとなゆた、そしてアコライト外郭守備隊の奮戦によって、フィールドにいるドゥーム・リザードとヒュドラは一掃された。
状況は少し前の絶望的劣勢から、徐々にアルフヘイム側有利へと推移しつつある。
が、優位と言ってもそれはほんの僅かな差に過ぎない。
スペルカードによってアジ・ダハーカを決戦空間に封印した、ユメミマホロの戦術あったればこその状況である。
もしマホロが敗れ、決戦空間が崩壊すれば、アジ・ダハーカはふたたび『異邦の魔物使い(ブレイブ)』に牙を剥く。
ガザーヴァが味方に付かない限り、アルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』に勝機はない。
いや、たとえガザーヴァを味方につけたとしても、勝てる保証などないが――
それでも。どんな細い糸でも、今は縒り合わせなければならないのだ。

「はあっ! はあっ、はぁっ……ク、ふ……!」

自ら創り出した『河原へ行こうぜ!(オマエモナカナカヤルナ)』の結界の中で、マホロが浅い息を繰り返す。
その身体はもうボロボロだ。精緻で美しかった甲冑は右肩や腰当てが砕け、胸鎧にも大きなヒビが入っている。
剥き出しの二の腕や太股、整った顔立ちの頬にも裂傷が刻まれている。
通常のデュエルならばもう撤退のタイミングだ。――しかし、マホロは逃げない。
明神達がなんとかガザーヴァを説得するまで、ここで自分がアジ・ダハーカを釘付けにする。そう決めている。
……それで命を落とすことになっても。

「いい加減にするアル、マホロ……! オマエがどう頑張ったところで、勝ち目などないアル!
 他の連中のために時間稼ぎを買って出たのは大したものアルが、これ以上商品価値を落とすようなことはやめろアル!」

満身創痍でなおも戦意を喪失しないマホロに対し、帝龍が苛立たしげに言う。
帝龍にとってマホロは敵であると同時、是が非でも手に入れたい金の卵を産む牝鶏である。
帝龍がこの異世界で莫大な富を得るためには、マホロの存在は必要不可欠なのだ。
それゆえに、帝龍は本気を出してマホロに攻撃することができない。マホロという商品が傷物になることを怖れている。
そこに、付け入る隙がある。マホロはその高い機動力を『限界突破(オーバードライブ)』でさらに底上げし、
決戦空間内を飛び回ってアジ・ダハーカを攪乱し続けた。
とはいえ、それももう限界に近い。
アジ・ダハーカと自分とではレベルが違いすぎる。帝龍の手加減の攻撃さえ、当たれば致命打となりうるのだ。

「あんたこそ……手を引きなさいよ……!
 ニヴルヘイムなんて、ストーリーモードの完全な悪役じゃない……!
 あんたは、それでも『異邦の魔物使い(ブレイブ)』なの!? ブレモンのプレイヤーなの……!?
 プレイヤーなら、みんな……ニヴルヘイムが悪者だって知ってる!
 誰だって、アルフヘイム側でプレイしたいものでしょう!」

「ハッ」

マホロの反論に対し、帝龍はメガネのブリッジを右手中指で持ち上げると、嘲るようにせせら笑った。

「何が……おかしいのよ……!」

「これが笑わずにいられるかアル。やはり、オマエはアイドルアルネ……ただ上に言われるままに歌い踊るのがお仕事の、
 外見だけで頭カラッポの愚か者アル。
 『ニヴルヘイムが悪者』? くふふ! 確かにゲームの中ではそういう扱いだったアルが――
 ここは現実の世界! ゲームの中の常識や設定がそのまま通じる世界ではないアルネ!
 オマエは何を根拠に! 自分の所属する陣営が正義の味方だと言っているアル……?」

「……それは……」

帝龍の追及に、マホロは束の間返す言葉を失って立ち尽くした。

「くふふふ! ワタシのようにマクロなものの考え方ができないから、自分の立ち位置さえ分からない!
 だが、それでいいアル。オマエはワタシに言われるまま、指定されたステージで! 指定された歌を歌っていろアル!」

「……そうかもね。あたしには、大企業のCEOをやってるあんたみたいな視界の広さはないでしょう。
 高層ビルの最上階から下界を眺め見るあんたと違って、あたしは……地べたから空を見上げることしかできない」

「やっと、自分の分限というものが理解できたアルか……まったく梃子摺らせてくれたアルネ。
 さあ……もう遊びは終わ――」

「それなら!!」

マホロを連れ去ろうと身じろぎしかけた帝龍を、マホロの鋭い声が制する。
帝龍は不快に眉を顰めた。

「……?」

「あたしは! あたしの中の信念と、あたしが正しいと思う正義に従って行動するだけよ!
 あたしはこのアコライト外郭のみんなが好き。あたしの歌で、トークで、動画で、楽しんでくれるファンの人たちが大好き!
 だから――あたしからそんなファンを取り上げようとするあんたを……絶対に許さない!
 アルフヘイムとニヴルヘイム、どっちが正義で悪かなんてわからないけれど――
 少なくとも、あんたは! あたしの敵だ!!」

「まだ、そんな戯れ言を――!
 ええい! さっさとワタシの軍門に下れアル! やれ、アジ・ダハーカ!!」

帝龍の命令に応じ、巨竜がマホロを攻撃しようとそのあぎとを開く。
が。

「ぐ……、ぐぐぐ……ッ!」

アジ・ダハーカが行動を再開したそのとき、『浮遊(レビテーション)』のスペルカードで宙に浮いた帝龍が、
ほんの一瞬であるがバランスを崩してふらついたのを、マホロは見た。

259崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/01/28(火) 21:10:22
(やっぱり……そういうことか……!)

ここに至り、マホロが心に抱いていた疑念は確信に変わった。
だとしたら――ひょっとして、ひょっとするかもしれない。
ブレモン1500体の頂点に君臨する超レイド級、その一角を崩せるかもしれない……そう思う。

で、あるならば。

自分は自分のするべきことをするだけだ。
マホロは最後の力を振り絞り、血と埃にすっかり汚れた白い翼を一打ちすると、矢のようにアジ・ダハーカへ迫った。
螺旋の尾を引きながら上昇してゆき、魔皇竜の三本首のうち一本角の頭部の上方に位置取りする。

「帝龍―――――――――ッ!!!」

「チ……! アジ・ダハーカ、叩き落と――」

「帝龍、あんたに質問するわ! ――私の商品価値はどこにある!?」

「何を言い出すかと思えば。それはもちろん、そのルックス。強さ。歌声に……」

「……『戦乙女の接吻(ヴァルキリー・グレイス)』……でしょ?」

『戦乙女の接吻(ヴァルキリー・グレイス)』。
戦乙女属のモンスターが最後に覚えるスキル。接吻を贈った相手に、永続のバフを掛ける乙女の祝福。
生涯に一度しか使えないそのスキルは、戦乙女の純潔の証。
それがあるからこそ、戦乙女属は価値がある――と言っても過言ではないだろう。
当然、『笑顔で鼓舞する戦乙女(グッドスマイル・ヴァルキュリア)』であるマホロも、それを持っている。
そして。

「あたしの『戦乙女の接吻(ヴァルキリー・グレイス)』が欲しいって。そう言ってたわね、帝龍?
 ……いいわ。あげる……あたしの大切に守ってきた唇を」

何を思ったか、マホロは突然帝龍に対してそんなことを言った。
今まで頑なに守り続けてきた、戦乙女の命とも言うべきもの。
それを今、捧げるという。
あまりに予想外の突拍子もない発言に、さすがの帝龍も一瞬呆気にとられ、眼鏡の奥で目を見開いた。
が、すぐに我に返り、身体を仰け反らせて嗤う。

「くふッ! くふふ……くふははははははははははッ!!
 敵だなんだと口では威勢のいいことを言っても、やはり絶対的な質量差! 物量差はいかんともしがたいアル!
 マホロ、オマエにもやっとそれが分かったようアルネ。いいアル!
 オマエの『戦乙女の接吻(ヴァルキリー・グレイス)』をもって、降伏の証としてやるヨロシ!
 さぁ、早くこっちへ来――」

「はっ? 何を言ってるの? 誰も、あなたにあげるだなんて言ってないわ」

自分に降伏と服従の口付けをしろ、とばかりの帝龍に対して、マホロは呆れ顔で肩を竦めた。
そして、アジ・ダハーカの一本角を持つ頭部へと近付いてゆく。
マホロの身の丈以上の大きさがある、魔皇竜の口許へと。そして――

「あたしが口付けを捧げるのは。コイツに対してよ……!」

言うが早いか、マホロは目を閉じるとアジ・ダハーカの口にキスをした。

ギュオッ!!!

すぐさまスキル『戦乙女の接吻(ヴァルキリー・グレイス)』が効果を発揮する。
マホロと魔皇竜を中心に聖なる紋章が出現し、さながら魔法陣のように二体を包み込む。
マホロの肉体から流星のごとく幾条もの光が飛び出し、アジ・ダハーカへと流れ込んでゆく。

「グルルルルァオオオオオオオオオオオオオオオオ―――――――――――――ン!!!!!!」

戦乙女の祝福を受け取ったアジ・ダハーカが咆哮を上げ、大気が振動する。
『戦乙女の接吻(ヴァルキリー・グレイス)』の効果は絶大だ。それは平凡な低レアモンスターをも準レイド級にまで昇華する。
いわんや、超レイド級モンスターであるアジ・ダハーカが祝福を受ければ、それは果たしてどれほどの強化となるだろうか?
六芒星の魔神の完全体という時点で未知の強さだったというのに、さらに戦乙女の加護まで得てしまっては、手に負えない。
アジ・ダハーカの全身から暗褐色のオーラが迸る。その巨体がさらに大きくなってゆく。
それはまさに、このアルフヘイムを破壊する神の顕現。
『異邦の魔物使い(ブレイブ)』などという存在では抗うことさえできない、絶対の領域。
この強化された魔皇竜の前には、アコライト外郭の防壁など障子紙のようなものであろう。
このまま、アルフヘイムは魔神に蹂躙される以外ない――

しかし。

マホロはただ単に、アジ・ダハーカに接吻して帝龍に利する行為をしたのではなかった。

260崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/01/28(火) 21:14:42
「ぉ、ぐ……ゥッ……!?」

アジ・ダハーカが『戦乙女の接吻(ヴァルキリー・グレイス)』の力を吸収し、劇的なパワーアップを果たした直後。
突如として、帝龍がスーツの胸を掻きむしって苦しみ始めた。
それだけではない。不意に右の鼻の穴から一筋の鼻血が垂れる。
今まで、余裕ぶった態度を一貫して崩さなかった帝龍が。
現在も攻撃を喰らうどころか、絶対的な優勢を微塵も崩していない帝龍が。

『アジ・ダハーカがパワーアップした瞬間に苦悶し、鼻血を出した』のである。

儀式を終えたマホロは魔皇竜から離れると、狼狽する帝龍を見遣った。

「思った通りね……帝龍!」

「これ……これは、いったい……? 何をした、ユメミマホロォォォ……!」

憎悪に歪んだ眼差しで、帝龍がマホロを見る。
そんなふたりのやり取りを、ジョンや守備隊たちと一緒に見ていたなゆたは、そこでやっと状況を理解した。
あのマホロが命よりも大切に守り通してきた口付けを、どうしていとも簡単に捨ててしまったのか。
超強化されて一層優位に立ったはずの帝龍が、どうして攻撃を受けてもいないのに苦しみ、鼻血を出したのか。
その理由を、遅まきながら把握した。

「……そういう……ことか……!」

地球でブレモンをプレイしていた時には分からなかったが、アルフヘイムへ来て分かるようになったということは沢山ある。
その中のひとつに『デュエルをすると疲れる』というものがある。
正確には『モンスターを召喚すると疲れる』と言えばよいだろうか。
モンスターを召喚すると、クリスタルが消費される。
レアリティの高いモンスターになればなるほど、消費されるクリスタルの量も増加する。
が――クリスタル以外にも『異邦の魔物使い(ブレイブ)』がモンスター召喚時に支払っているものがあるのである。
それは、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』自身の体力。精神力。
モンスターを召喚し、地上に繋ぎとめておくにはクリスタルが必要だが、
モンスターそのものを制御し、自分の手足のように使役するためには、召喚者の体力と精神力が必要不可欠なのだ。
そして。
消費する体力と精神力の幅もまた、モンスターのレアリティによって増減する。

なゆたを始めとするアルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の連れ歩いているモンスターには、低レアが多い。
従って、召喚してもほとんど体力を消耗することはない。
一方でみのりはかつてアジ・ダハーカにも比肩しうる六芒星の魔神、パズズを召喚したものの、
その際の召喚時間はきわめて短時間であり、疲労を覚える暇もなかった。
だが、帝龍は違う。帝龍がアジ・ダハーカを召喚してから、すでに30分以上が経過している。

確かに、蓄えに蓄えたクリスタルは超レイド級モンスターを23時間現界させておくことが可能なほど豊富なのだろう。
しかし――
その超レイド級を従える煌 帝龍という男の体力と精神力は、クリスタルほどには潤沢ではなかったのである。

モンスターそのものがどんな攻撃も通さないほどに強いなら、その召喚者を狙えばいい。
だが、それは当然帝龍も何らかの対抗措置を取っているだろう。
単に遠距離攻撃や魔法で狙ったところで、きっとスペルカードなどで弾かれるか、逸らされてしまうのがオチだ。
……とすれば。

「おのれ……! おのれおのれおのれ! マホロォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!」

帝龍が激高する。
六芒星の魔神という決定的な切り札を持っていながら、帝龍がそれをずっと見せなかった理由がこれだった。
帝龍はクリスタルの消費と同等、いや、それ以上に、自分の体力と精神力の損耗を避けていたのである。
そして――マホロはアジ・ダハーカに『戦乙女の接吻(ヴァルキリー・グレイス)』を与え、一度きりのスキルを消費した。
純潔を喪った。戦乙女属の特権、たったひとつの大切なものを――永久に喪失した。

「キサマ! なんてことを! 最大の商材を! 価値を! キサマをもっとも高く売ることのできる要素を!
 よくも! こんな愚かなことに!! よくもよくもよくもよくもよくもォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!」

「愚かかどうかは、あたしが決める。あたしの口付けの価値の使いどころは、あたしだけが決めていい。
 そして……今がそのときだって。そう思ったのよ。
 さあ、帝龍。あなたが気絶するまで、あと何分かしら?」

「ぎぃぃぃぃぃぃぃぃ……! アジ・ダハーカ! 『活火山島の神息(ボルカニック・ゴッド・ブレス)』!
 この女にもう商品価値はない! もういい……消し炭にしてしまえ!」

いつもの余裕ぶった語尾の協和語をかなぐり捨て、激怒した帝龍が叫ぶ。
宙に浮かぶマホロめがけ、三つの巨大な竜頭が口を開く。火山の噴火のような、神の一撃がチャージされてゆく。


マホロにそれを防ぐ術は、ない。

261崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/01/28(火) 21:20:59
「マホたん……逃げて! もう充分よ! あとは帝龍が自滅するまで、わたしたちで相手を――」

なゆたが叫ぶ。
しかし、分かっているのだ。ここでマホロが逃げる選択肢などない、ということは。
もしマホロがサレンダーすれば結界が解除され、アジ・ダハーカは『異邦の魔物使い(ブレイブ)』や守備隊に矛先を向ける。
『戦乙女の接吻(ヴァルキリー・グレイス)』で超絶永続バフがかけられた、超レイドの強化版だ。
先刻でさえ、なゆたたちはアジ・ダハーカに掠り傷ひとつつけることができなかった。
パワーアップした魔皇竜が本気で殲滅に来たら、なゆたたちなど秒で全滅であろう。
だから――マホロには決戦空間の中で、一秒でも多く時間を稼いでもらわなければならないのだ。
ほんの一瞬、ちらと明神の方を振り返ると、マホロは小さく笑った。

「……月子先生。カザハ君、エンバースさん、ジョンさん……明神さん。
 短い間だったけど、楽しかったよ。ありがとう。アルフヘイムに来てから、久しぶりに心から楽しかった。
 憎しみを向けられることさえ、あたしにとっては嬉しかった。
 本当は、もっとみんなと一緒にいたかったけど――これでお別れだね。
 明神さん……あたしの大切なファンのみんなの笑顔、守ってね。
 キラキラ輝く笑顔を……それが、あたしの。『笑顔で鼓舞する戦乙女(グッドスマイル・ヴァルキュリア)』の望みだから。
 ……バイバイ。あなたたち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の旅が、いつも笑顔に溢れたものでありますように――」

別れの言葉を告げ終わると、マホロは間近の巨大な砲塔の如き三本首へと向き直った。
と同時、帝龍が巨竜へ攻撃を指示する。

「塵と化せ、神の怒りを思い知れ!! 『活火山島の神息(ボルカニック・ゴッド・ブレス)』!!!!!」

「ガオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオム!!!!!!!」

臨界点に達した超絶的なエネルギーが、極高温のブレスとなって解き放たれる。
それは、ちっぽけな戦乙女など一瞬のうちに影も形も残らず焼き尽くすほどの――

けれど。

「あたしの最後の動画配信、始めましょうか!
 タイトルは……『みんなのことが大好きだから、命を懸けて突破口開いてみた』!!
 アコライト外郭の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』、ユメミマホロ……行くわよ!!!」

ドンッ!!

マホロは逃げるどころか、凄まじいスピードでアジ・ダハーカのブレスへと突っ込んだ。
しかし、燃えない。マホロの突き出した右拳から迸る純白の波動が、魔皇竜の熱波を真正面から斬り裂いている。
帝龍は驚愕した。

「バ……、バカな……」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

マホロは咆哮した。拳から放たれる白いオーラが、その量を増す。
自分の持ちうるすべてのスペルカードを使い、最大限にまでバフをかけての『聖撃(ホーリー・スマイト)』。その名も――

「おあああああああああああああッ!!! 『大 聖 撃(アーク・スマイト)』!!!!!!」

『聖撃(ホーリー・スマイト)』は敵のカウンターを取ったときにこそ最大限の破壊力を発揮する。
超レイド級、それも接吻によって強化されたアジ・ダハーカの攻撃。そのカウンターを取ったなら、
その威力たるや想像を絶するものになるだろう。
ただし――『笑顔で鼓舞する戦乙女(グッドスマイル・ヴァルキュリア』の肉体は、そこまでの負荷に耐えられない。
マホロの身体が崩れてゆく。左腕と右脚が砕け、翼がみるみるうちに燃えてゆく。
胸鎧が砕け、ツインテールにした美しい金髪が発火する。ビキッ! と鋭い音が響き、右頬に亀裂が走る。
それでも、マホロは止まらない。ただひとつだけ残った孤拳を突き出し、炎の海を突き進んでゆく。
そして――やがてマホロの身体は『活火山島の神息(ボルカニック・ゴッド・ブレス)』を突き破り、
巨竜の懐に到達していた。
目の前に、アジ・ダハーカの三本首の付け根が見える。すなわち――

ヒュドラなど多頭竜に共通してみられる特徴、複数の首を統御する、中枢神経の位置が。

262崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/01/28(火) 21:23:07
右腕以外の四肢を失い、黒く燃え残ったマホロは、そこへと真っ逆様に落ちてゆく。
城壁で見せたような、墜落寸前で翼を展開するようなサプライズはない。正真正銘の身投げだ。
墜ちてゆく途中で、ほんの僅か。霞む視界の先に、泣きそうな顔の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちが見えた気がした。

「……そ……んな……
 ぎこちない……笑顔じゃ、ノンノン……です……ょ……」

マホロの代表曲、『ぐ〜っと☆グッドスマイル』。
割れた唇でそのサビのフレーズを小さく呟くと、それを最後に目を閉じたマホロは魔皇竜の中枢神経の真上に墜落した。
その瞬間、マホロの持つ最後のスペルカードが効果を発揮する。
網膜を灼く閃光。耳をつんざく轟音。夥しいまでの爆発――

ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!!

スペルカード『自爆(サヨナラテンサン)』。その名の通り、自分の命と引き換えに敵に大ダメージを与える魔法だ。
各種バフによる『大聖撃(アーク・スマイト)』。『活火山島の神息(ボルカニック・ゴッド・ブレス)』から取ったカウンター。
それらの攻撃力を限界まで上乗せした、マホロの正真正銘最期の攻撃。

「ギョオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!」

アジ・ダハーカが、今までどんな攻撃にも怯まなかった魔皇竜が絶叫を上げる。
見れば、中枢神経を覆っていた強固な鱗と皮膚がごっそりと抉れ、
脳のようにも見えるピンク色の中枢神経が剥き出しになっている。今なら、攻撃も通ることだろう。

しかし――

「……ぅ……、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……あああああああああああああああああ……!!!」

なゆたはその場にがっくりと両膝を突き、辺り憚らず慟哭した。







ユメミマホロは、死んだ。
同志であるなゆたたち、アルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を。ファンであるアコライト外郭守備隊を。
自分の大好きな、かけがえのない生命を守るため……その命を散らした。

しばしの間を置いて、明神の前にひら……と一枚の羽根が舞い降りる。
血と埃に汚れ、煤けて、元の美しい白さをすっかり失ってしまっているものの――それは、確かに。
ユメミマホロという少女が、この場所に存在したことの証だった。

「ぐ……ぉ、どこまでも……この俺に逆らいやがる……あのスベタがぁぁ!」

帝龍が呻く。が、その言葉にも表情にも既に余裕はない。
体力の消耗が激しく、残り時間は少ない。帝龍も疲労しているのだ。ならば――


この戦いに決着をつけるのは、今しかない。


【バロール、ガザーヴァ説得に失敗。
 ユメミマホロ死亡。マホロの死によって『河原へ行こうぜ!(オマエモナカナカヤルナ)』の効果消滅。
 アジ・ダハーカは接吻によりATKが従来の1.5倍になるも、弱点が剥き出しの状態。
 中枢神経の防御力は0だがHPが多いため単独での攻撃は非推奨。】

263カザハ ◆92JgSYOZkQ:2020/02/01(土) 01:24:29
>「バロールの真意なんざ知らねえけどな。……俺はお前のことが嫌いだったよ、ガザーヴァ」
>「……何ィ……?」

当たり前だ。
一巡目の記憶は朧げでしかないけれど、こいつが絶対に倒すべき敵だったことは覚えている。
前世のボクは、こいつがバロールを唆し闇落ちさせた黒幕ではないかと思っていたような気がする。
実際にはそこまで大物じゃなくて、バロールが作った手駒に過ぎなかったみたいだが、そんなことは当時は知る由も無かった。

>「人は殺す、街は壊す、どこにでもひょいひょい出てきて追い詰めたと思えばさっさと逃げやがる。
 わけわからんデバフは撃ってくるし、全体攻撃は痛いし、1ターンに2回も行動する。
 すこぶるイライラさせられたぜ。捨て台詞に煽りぶちかましてくるしよ」

いつキレて明神さんに危害を及ぼすかと気が気ではないボクを他所に、ガザーヴァは笑い飛ばす。

>「ははッ! そりゃそうだろうねぇ、みんなボクのことがさぞかし憎かっただろうさ!
 ボクは幻魔将軍ガザーヴァ! ボクにとっては罵声こそが賛辞。怨嗟こそが福音!
 なぜなら……」

>「――だけど、それが幻魔将軍ガザーヴァなんだ。
 俺達がその足跡を追い求め、戦い続け、ついに打倒した……ブレモンきっての名悪役だ。
 ブレイブにとって、ガザーヴァは不倶戴天の敵であり、かけがえのないライバルだった」

あっ、アルフヘイムの異邦の魔物使いから地球のブレモンプレイヤーに明神さんのスイッチが切り替わってる。

>「……ボクが……ライバル……?」

ガザーヴァが呆然とするのも無理はない。
一巡目が地球でゲームになっているということを知らないというわけではないだろう。
が、まさかアルフヘイムの異邦の魔物使い目線ではなく地球のブレモンのプレイヤー目線で攻めて来るとは思うまい。
ガチ勢という人種が持つらしいゲーマーの矜持というやつにはボクだって畏敬とも呆れとも憧憬ともつかない念を抱いたもの。
いや、いくらガチ勢でも実際に死ぬかもしれない世界に放り込まれたらそんなものはどこかに吹っ飛んでしまうのが普通だ。

>「今のお前はカザハ君に混じった残り滓みたいなもんだ。
 一樽のワインに混入した一滴の泥水。ただ汚染するだけの不純物。
 お前がカザハ君を乗っ取ったところで、それはただの黒いシルヴェストルでしかない」
>「俺が会いたいのは黒いカザハ君じゃない。正真正銘混じりっけなしの『幻魔将軍ガザーヴァ』だ。
 俺達プレイヤーがずっと追いかけてきた、神出鬼没のトリックスターと、もう一度戦いたい」
>「アテはいくらでもある。バロールに新しい肉体を作らせたって良いし、
 霊銀結社まで行きゃ研究用の人工精霊なんざいくらでも転がってるだろうよ。
 万象樹の蕾に憑依して、果実として生まれ直すってのもアリだ。
 ――全部、ここから生きて帰れたらの話だがな」

264カザハ ◆92JgSYOZkQ:2020/02/01(土) 01:26:27
その言葉は、ボクを助けてこの場を切り抜けるためでもあるが、本心でもあるのだろう。
……いやいやいや、ちょっと待て!
確かにここは切り抜けられるかもしれないけどめっちゃ厄介な敵が増えちゃうよ!?
幻魔将軍ガザーヴァが野に放たれたら何千何万という命が危険に晒されることになる。
明神さんったら本当にとんでもなくゲーマーなんだから!
そう思う反面、物凄く嬉しいと思っている自分がいることに戸惑う。
ここでガザーヴァを道連れに散ると、一度は覚悟を決めたはずなのに。

>「取り戻そうぜ、『幻魔将軍ガザーヴァ』を。
 そんであのセンス最悪な魔王様の鼻を明かしてやろう。
 お前がデザインしなけりゃ、ガザーヴァはこんなにカッコいいんだってよ」
>「俺と組めよガザーヴァ。お前をもう一度幻魔将軍にしてやる。
 その為の道を塞ぐ、アジ・ダカーハとかいうでけぇ障害物をぶっ潰す。
 お前が完全に黒いシルヴェストルになっちまう前に――俺とカザハ君に、力を貸せ!」

明神さんがこちらに手を差し出す。

>「ボクを……取り戻す……」

明神さんのトンデモ過ぎる提案が見事クリティカルヒットしたようだ。さあ、その手を取れ-―!
その時だった。激しい感情を伴った記憶の波が流れ込んでくる。

>『――やあ。初めまして……私は。君のパパだよ』

>『所詮、コピーはコピーだ。オリジナルではない……残念だが実験は失敗と言うしかないな。
 やはり、オリジナルを手に入れなければ。他のシルヴェストルでは駄目らしい』

>『今よりもっと、あなたのお役に立てば……
 少しだけ。ほんの少しだけ……ボクのこと。愛してくれますか……?』

今までこちらの考えは読まれている割に、ガザーヴァの思考がこっちに流れてくることはなかった。
何らかのブロックをかけていたと思われるが、それをする余裕もないほど動揺しているということか。
ゲームでは決して描かれることはなく、以前のボクも知る由も無かった、幻魔将軍のあまりにも意外過ぎる素顔。
アコライト跡地での決戦のとき、すでに帰る場所は無かったんだ――
最期までいつも通りに飄々とした態度を崩さずに笑っていたように見えたけれど、本当は泣いていたのかな。

『“風渡る始原の草原”か……。しかし、ならば奴はどうする?
 あんたに懐いている……いや、あんた以外の何者の言うことも聞かない。あんただけが奴を制御できる。
 失敗作として処分するのか?』
『今まで通り、幻魔将軍として使いはするけれど。あれはもう、あの力を手に入れる鍵にはならない。
 あのシルヴェストルを探すんだ、イブリース。粗悪な複製品ではない、正真正銘のオリジナルを。
 私が求めるものはそれだ……それ『だけ』だ。わかるね』

オリジナルのシルヴェストルが持っている何かが無いがために、ガザーヴァは見捨てられた。
オリジナルのシルヴェストルってまさか……。
“風渡る始原の草原”――その地名には聞き覚えがある。以前のボクの故郷だ。

265カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/02/01(土) 01:28:13
『あまり人間と関わってはいけないよ――魂が穢れる』
『世界のあるがままの流れを変えようとしてはいけない――流れに逆らえば罰として穢れた世界に堕とされる』

そこでは人間やら地球が酷い言われようだった気がする。確かに地球はPM2.5とか飛び回ってるから間違ってはないけど!
ってかボク達が地球にいたのってマジで前世で罪を犯した罰だったの!? かぐや姫かよ!
確かに冴えない人生ではあったけど罰にしては結構楽しかったような……。
でもノームじゃあるまいしなんで鳥取やねん! シルヴェストルが地球に流刑になるなら普通は軽井沢あたりでしょ!

>「ボクは……どうすればいいの……?」

>「簡単な話さ。私たちに力を貸しなさい、ガザーヴァ」

バロールさんを背に乗せたカケルが降り立つ。

《姉さん……!》

(まだ生きてる、ギリセーフ!)

>「なぜって、決まっているだろう? 君を勧誘しに来たのさ。
 それにしても明神君、さっきのセリフは酷いなぁ! 私のセンスが最悪だって? いやいやそんなことはないさ!
 ガザーヴァはカザハ――の前世のシルヴェストルを色以外は忠実に再現したコピーだ。
 カワイイだろ? 花のように愛らしいとはこのことだ、黒薔薇のように淫靡なところもまたグッドセンス!」

衝撃的な事実を明かされ、驚きつつも妙に納得していた。
なんとなくそんな気はしていたけれど、やっぱりそうか……。
以前のボクは、人間では決して持ち得ない純粋な魂を持っていた。そして、純粋と狂気は紙一重だ。
置かれた状況次第で、善にも悪にも転ぶ。
以前の周回のボク達は、一見正反対に見えて、とてもよく似ていた。
でもボクを忠実に再現したという割には能力値が高すぎる気がするけど! 特に知能!
少なくとも今のボクを基準に考えれば、劣化コピーどころか超改良版だ。
バロールさんは、ガザーヴァに新たな肉体を用意しているのを見せ、味方になるように誘う。

>「ボクが……。
 ボクがバロール様の味方に、アルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の仲間になったら……」
>「……ボクのこと。ほんの少しだけでも……愛してくれますか……?」

>「いいとも。おいで、ガザーヴァ」

>「嬉しい……。嬉しいよ、パパ……。
 その言葉が聞きたかった……。ボクはオリジナルじゃない、ここにいるボクを見てほしかった。
 目の前のボクを愛してほしかったんだ……」

――落ちた!?

266カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/02/01(土) 01:30:40
>「でも、ダメだよパパ……騙されないよ、だって……」

>「パパの目、全然……笑っていないもの――」

そこで”だが断る”かよ! なかなか落ちねーなこいつ!
そもそも、世界の全てが見えてしまう魔眼の持ち主が、本当に笑うことなんてあるのだろうか――

《……お前の望み通り死んでやる!》

ガザーヴァは左手に闇の刃を作り、自らの首を搔き切らんとする。
ボクはそれをとっさに右腕で防いだ。いきなり何すんだよ危ないな!
下手すりゃ手首切られてどっちにしろ大出血で死ぬかと思ったが、そうはならなかった。
右腕に装備していた聖女の護符に丁度当たったのだ。
“闇属性ダメージを大幅に軽減する”ってこういう物理的な意味だったの!?(多分違う)
明神さんマジでGJだわ! 刑事ものドラマで銃弾が当たったけど胸ポケットにお守り入れてて助かった的なやつ!?

《何故邪魔をする! ボクを道連れに死ぬのが狙いだっただろ!》

(気が変わった! なんてったって風の精霊だからさ!)

そして今更だが、右腕だけ主導権がこっちになっていることに気付いた。
さっきガザーヴァが左腕を使ったのはそういうことか。
動揺のあまり、聖女の護符を装備している右腕が支配下から最初に外れたということだろう。

(君だけに言うけどね――ボクはバロール様のことが好き”だった”。
万象を見通す虹色の瞳は、穢れ無き純粋な魂を持つ以前のボクには何より魅力的に映った)

以前のボクが抱いた淡い憧憬に過ぎなかったそれは、寄る辺無き模造の魂にとっては狂気に至るまでの執着と化した。

(だけど今は……少し怖い。汚い部分まで全て見抜かれてしまいそうで。
ボクはあの地球という世界で純粋な魂を失ってしまった。君が羨望し、嫉妬し、憎んだシルヴェストルはもういない)

純粋な魂を失った。それは以前のボクの故郷でいうところの穢れたということだろう。
恐れることを知り、諦めることに慣れ、保身にも走るどこにでも転がっているような駄目人間と化してしまった。
でも、物は言いようだ。純粋ではなくなったということは、何かを得たということ。1と0の間を知ったということ。

(君はもう劣化コピーなんかじゃない。今のボクに君より優れたところなんて何一つ無いよ。
この際思い切って2巡目デビューしちゃいなよ!
明神さんの言う通り、大昔の罪なんてノーカンだ。だって、ボク達が刺し違えたあの時間軸は――もう存在しないんだもの!)

267カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/02/01(土) 01:31:42
といってもなあ、元があれだけガード固いファッションだとイメチェンは勇気がいるよなあ。
メガネキャラが定着しちゃったらメガネ外せないみたいな。……ちょっと(かなり?)違うか。
というわけで、2巡目デビューというワードに動揺したのかは知らないが、隙が出来た。
ボクは自分の左腕からスマホをもぎ取って明神さんに投げ渡す。マジックテープで固定してて正解だったわ!
前に「なんちゃってアッ○ルウォッチ」とか言っていたらカケルに「いろんな意味で恥ずかしいからやめてください!」と突っ込まれたけど!

《貴様、何を……!?》

ごめんね――君より優れたところは何一つ無くても、優位に立てるかもしれない要素なら一つだけ持っている。
それはボクが地球出身のブレイブだということ。
どう見てもアルフヘイムのモンスターでありながら、ブレイブの証である魔法の板を持ち、
システム上もブレイブとして扱われていることは何か意味があるはずだ。

「明神さん、捕獲だぁあああああああああああ!!」

ボクは力の限り叫んだ。
捕獲、地球出身のブレイブだけが使用できる技――モンスターを問答無用で隷属させる、通称洗脳ビーム。
ガザーヴァはレイド級モンスターで、レイド級モンスターは理論上捕獲可能だったはず。
ちなみに持ち運び検知機能をONにしてあるので、すぐにはロックはかからない。
わざわざスマホを投げ渡したのは、ボクのスマホを使って行えばシステム上はボクが捕獲する扱いになるのを狙って。
そして思考の根底に同じものを持っているなら、洗脳ビームの成功率に補正がかかるかもしれないという二重の希望的観測の上に立ってのことだ。
自分より劣ったオリジナルに使役されるのは代え難い屈辱だろう。
でも今だけでいい、どうか力を貸してください! そして、今度こそ本当の意味で自由に生きて!

《このボクを捕獲だと!? ふざけるな! あんな奴腕一本で潰せる!》

捕獲されない自信があるなら落ち着いているはずで、キレているということは意外と自信がないのかもしれない、等と思っている場合ではない。
ガザーヴァは左手を一振りすると巨大な闇のランスを作り出し、明神さんに斬りかかる。

(やばいやばいやばい! カケル! 『足払い』だ!!)

足払いといったらボクが暴走した時にカケルがよくやるアレだ。ボクとモーションが同じならいけるよな!?
我ながら滅茶苦茶だけどさっき見た記憶の中ではあっさりこけてたし、
そういえば戦闘時は常にガーゴイルとセットだった、ということは意外と足元は甘いのかも。
実は日常的にふざけて変なポーズ取ってこけたりバナナの皮踏んでこけたりしてたんじゃないの!? さあこけろ!

268明神 ◆9EasXbvg42:2020/02/03(月) 02:04:43
差し出した右手。
これをガザーヴァが取るのなら、俺はこいつの未来を阻む万難に挑もう。
全ては、幻魔将軍ガザーヴァを――『ブレイブ&モンスターズ』を、取り戻す為。
そう決めていた。

>「ボクを……取り戻す……」

人心を擽る傾奇者のガワはとうに消え失せ、ガザーヴァは小鳥のように震える。
こいつが本当に望んでいたものが何なのか、俺には計り知ることは出来ないが……。
それでも、垣間見えた希望にガザーヴァが心を揺り動かしているのは、なんとなくわかった。

>「ボクは……どうすればいいの……?」

「……どうもこうもねえよ。選択肢は示した。根拠も添えた。あとはお前が、自分で決めろ」

>「簡単な話さ。私たちに力を貸しなさい、ガザーヴァ」

――その時。俺の後ろからあの癪に障るイケボが聞こえてきた。
バロールだ。カケル君の背から典雅に地上に舞い降りた元魔王が、俺の隣に立つ。

>「久しぶりだね、ガザーヴァ。……元気そうで何よりだ」

……こいつ、何しに出てきやがった。
ガザーヴァを見限り、絶望のまま見殺しにした記憶はこいつにもあるはずだ。
またぞろ顔出せば、確実に話が拗れると、理解してないわけがない。

――>『バロールのことが信用できないからよ』

否が応にもマホたんの声がフラッシュバックする。
美貌に張り付いた微笑みが、その下のどんな表情を覆い隠しているのか。
ピリついた気配は多分、ガザーヴァのものだけじゃない。

>「なぜって、決まっているだろう? 君を勧誘しに来たのさ。
 それにしても明神君、さっきのセリフは酷いなぁ! 私のセンスが最悪だって? いやいやそんなことはないさ!
 ガザーヴァはカザハ――の前世のシルヴェストルを色以外は忠実に再現したコピーだ。
 カワイイだろ? 花のように愛らしいとはこのことだ、黒薔薇のように淫靡なところもまたグッドセンス!」

満を持してご登場した元魔王様は、相変わらず口から戯言を垂れ流す。
淫靡て。また性癖の話っすか?ちょっとぼくついていけませんねぇ。

「うるせぇよ、要は色変えただけのパクリなんじゃねえか。微妙に再現し切れてねえしさぁ。
 なんで黒くしちゃったの?オリジナリティ出してんじゃねえよそんなところで」

……ちょっと待て、コピー?
ガザーヴァって元から黒いシルヴェストルだったの?
あの鎧の中身がどんな姿なのか、俺は知らない。グラフィックが未実装だったからだ。
ゲームのガザーヴァは死ぬまで鎧を着込んだままで……そういうもんだと思ってた。

>「まぁ、私のセンスについてはすべてが終わってから夜通し討論するとして。
 今は君だ……ガザーヴァ。君がうんと言うのなら、明神君の言うとおり君の新たな肉体を用意しよう。
 というか――実は、もう用意してあったりするんだな。これが!」

バロールは杖を振るう。例の中継映像魔法が発動する。
映し出されたのは、どくんどくんと脈打つ謎の臓物が部屋の中央に鎮座する、マッドな光景。
臓物は……たぶん、子宮だ。中には赤ん坊みたいな物体が逆さまになって浮いている。

>「そうだ。君の身体だ……もちろん、ガーゴイルの分も用意してある。
 もう一度言うよ、ガザーヴァ……私たちに力を貸しなさい。かつてのように――
 私たちには君の力が必要だ。もう二度と、以前の失敗を繰り返してはならないんだよ」

269明神 ◆9EasXbvg42:2020/02/03(月) 02:06:27
降って湧いたなにもかもを解決する光明に、ガザーヴァは大きく瞠目する。
肉体がある。カザハ君のものをぶんどらなくたって、ちゃんと自分だけの身体を手にできる。
幻魔将軍を、取り戻せる。

ガザーヴァにとっては喉から手が出るほど欲しい『未来』だったろう。
その一方で俺は、ぞわぞわしたものがうなじで燻るのを感じた。

……こんなものを、いつの間に用意してやがった?
見たところ臓物の中の胎児めいた物体は、それが"胎児だと分かる"程度に成長している。
俺とガザーヴァの話を聞いてちょっぱやでこしらえたんじゃ計算が合わない。

王都でカザハ君の中のガザーヴァと再会したのはたった数日前。
その時からこうなることを見越していたとしても、あまりに動きが早い。

つまりバロールは、ずっと前からガザーヴァの肉体製造に着手したことになる。
何の為に?ガザーヴァを作り出したのは『魔王』バロールだ。
師を失っていない、十三階梯筆頭継承者のバロールが、三魔将の製造に手を出すことはないはず。

>「……ボクのこと。ほんの少しだけでも……愛してくれますか……?」

ふらり、ふらりとバロールに意識を向けるガザーヴァ。
それは、かつてすれ違った親子が改めて絆を結び直す、美しい光景なんだろう。
だけど俺にはガザーヴァが、目の前にちらつかされたエサに寄ってくる、哀れな魚に見えた。

このまま二人を会わせるのはマズいと、直感が警鐘を鳴らす。
だがなんて言って止めりゃいい?ずっと親の愛を渇望していた子供に、第三者が割り込めるのか?

>「でも、ダメだよパパ……騙されないよ、だって……」

ガザーヴァの足が止まる。
カザハ君そっくりの、人好きのする相好が……氷の如く冷え切った。

>「パパの目、全然……笑っていないもの――」

バロールは、依然として微笑んでいる。
だけど俺にも分かった。極彩色の双眸に、ガザーヴァの姿は映っていない。
それが理解出来たのは、多分俺とバロールが同じ目的を持っているからだ。

――カザハ君を助ける。
そしてそのために、"不純物"であるガザーヴァを排除する。

カザハ君の『混線』は、バロールにとっても意図しないエラーだったはずだ。
切り捨てたガザーヴァが、執念だけで一巡目のカザハ君に取り引きを持ちかけ、応じられてしまった。
世界がリセットされて、失敗した被造物の介在しない、純粋なカザハ君との邂逅が約束されていたのに。
因果をいくつも捻じ曲げて、ガザーヴァは未だバロールに取り縋っている。

『以前の失敗を繰り返してはならない』……か。
その失敗ってのはつまり、"カザハ君を手に入れられなかった"ことにかかってんだな。

でっち上げた新たな肉体にガザーヴァが素直に入れば、純粋なカザハ君だけを手にできる。
だけどその後、ガザーヴァはどうなる?
またぞろ良いように扱って、使い倒して、適当なところで切り捨てるのか?
一巡目と、同じように。

俺は一巡目に起きたことなんざ知らねえし、ぶっちゃけ興味もそんなにない。
俺にとってのガザーヴァは、ゲームで死闘を繰り広げた幻魔将軍ただ一人だ。

270明神 ◆9EasXbvg42:2020/02/03(月) 02:07:02
どう転べばこいつが幸せになれるか分からない。幸せにしてやる義理もない。
ただ、それでも。ここで見送れば、俺がもう一度会いたかった幻魔将軍は、何かが決定的に変わってしまう。

パパの顔色伺いながら、ブレイブの走狗として使い潰されるこいつの姿なんか、俺は見たくない。
絶望のままにカザハ君を乗っ取って、劣化コピーに成り下がる姿も見たくない。
俺達が愛したブレモンを、こんな形で歪ませたくないんだ。

気付けば、手汗が滴るくらい拳を握っていた。
こいつを振り下ろすべき場所は、一体どこにある。

>「グルルルルァオオオオオオオオオオオオオオオオ―――――――――――――ン!!!!!!」

不意に、胃袋を丸ごとひっくり返すような大音声が響いた。
咆哮。その出処は、タイマンフィールドにマホたんごと囚われたアジ・ダカーハだ。

ただでさえ圧倒的な巨躯を誇る邪竜が、更に大きく膨れ上がっていた。
全身を走る血管が太く浮き上がり、早鐘のように脈動する。
その身を覆う暗褐色のオーラははち切れんばかりに湧き上がる。

何が起こった?帝龍の野郎、まだなにかパワーアップの手段を残してやがったのか?
だが神の領域に踏み込んだしもべを目にして、帝龍の表情からは薄ら笑いが失せていた。

>「ぉ、ぐ……ゥッ……!?」

胸を抑えて苦しむ姿に、これまでの揶揄するような余裕はない。
まるで、予期せぬ負荷に見舞われたかのように。

>「思った通りね……帝龍!」
>「これ……これは、いったい……? 何をした、ユメミマホロォォォ……!」

マホたんが何か、帝龍が予想だにしない手段を講じた。
その結果としてアジ・ダカーハがさらに強化され、帝龍は負荷に苦しんでいる。
思い当たる理由は一つしかなかった。

マホたんには一つだけ、敵も味方も問わずに対象を超強化するスキルがある。
――『戦乙女の接吻』。永続的なパラメータの大幅上昇。
そいつを……まさか、アジ・ダカーハ相手に使ったってのか?

その意図も、王都での決闘を経た今の俺には分かる。
なゆたちゃんはあの時、五月雨撃ち以外に直接攻撃を受けてないにも関わらず、決着の際にはぶっ倒れるギリギリだった。
ゴッドポヨリンさんと、アブホース。二つのレイド級を一つのバトルで連続行使したからだ。
強力なモンスターを操るには、クリスタル以外にも体力を消耗する。

つまり、マホたんは――
『接吻でアジ・ダカーハを強化し、操るブレイブの消費体力を一気に引き上げた』。
結果は見ての通りだ。帝龍は血反吐を吐きながら、自身を襲う強烈な負荷に喘いでいる。

「ふはっ、ふはは……マジかよ!なんぼなんでも掟破りが過ぎるぜ、マホたん……!」

一度限りの接吻。
それを使う機会があるとすれば、ジョンの言う通り味方の強化に消費するのがセオリーのはずだ。
だが、アジ・ダカーハ相手に所詮一人だけの超強化じゃ暖簾に腕押しにもなりやしなかったろう。

強すぎて手を出せない超レイド級が相手なら――。
ユニットの消費コストをさらに引き上げて、まともに運用出来なくすれば良い。
対ブレイブ戦だからこそ出来る、発想の逆転。誰も真似できない規格外の搦め手だ――!

271明神 ◆9EasXbvg42:2020/02/03(月) 02:07:43
>「ぎぃぃぃぃぃぃぃぃ……! アジ・ダハーカ! 『活火山島の神息(ボルカニック・ゴッド・ブレス)』!
 この女にもう商品価値はない! もういい……消し炭にしてしまえ!」

――その一方で、マホたんは接吻と同時にもうひとつ重要なカードを失った。
帝龍が求めていたのはユメミマホロの純潔。なればこそ、超レイド級とタイマンでも瞬殺されることはなかった。
接吻という名の『人質』を喪失した以上、帝龍にマホたんを生かしておく理由はない。

>「マホたん……逃げて! もう充分よ! あとは帝龍が自滅するまで、わたしたちで相手を――」

帝龍は苦しんではいるが、ただちに昏倒する様子はない。
奴もこの世界を生き延びてきた歴戦のブレイブ。体力の残高を安く見積もることは出来ない。
限界を迎えるまで数秒か、数十秒か、数分か。超強化されたアジ・ダカーハを相手にし続けなければならない。

>「……月子先生。カザハ君、エンバースさん、ジョンさん……明神さん。
 短い間だったけど、楽しかったよ。ありがとう。アルフヘイムに来てから、久しぶりに心から楽しかった。
 憎しみを向けられることさえ、あたしにとっては嬉しかった。
 本当は、もっとみんなと一緒にいたかったけど――これでお別れだね」

それが何を意味しているのか、わからない奴なんていないだろう。
意志は既に伝わった。マホたんが突撃する、その時から。

>「明神さん……あたしの大切なファンのみんなの笑顔、守ってね。
 キラキラ輝く笑顔を……それが、あたしの。『笑顔で鼓舞する戦乙女(グッドスマイル・ヴァルキュリア)』の望みだから。
 ……バイバイ。あなたたち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の旅が、いつも笑顔に溢れたものでありますように――」

「ざけんな!!一番大事なこと、他人任せにするんじゃねえよっ!!
 お前がいないこの街で、オタク殿たちが心から笑えるなんて、あり得ねえだろ!!」

――それでも、この期に及んで俺はマホたんの覚悟を受け入れられなかった。
まだまだ話したいことは山程ある。ブレイブの話だけじゃない、同じ地球から来た、友人として。
ユメミマホロがどんな風にこの世界に来て、どんな冒険があったか、何一つ聞けてない。

これからも。一緒に旅をして、いろんな人に会って、綺麗な風景をたくさん見る。
そういう未来が、俺達にはあったはずなのに。

>「あたしの最後の動画配信、始めましょうか!
 タイトルは……『みんなのことが大好きだから、命を懸けて突破口開いてみた』!!
 アコライト外郭の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』、ユメミマホロ……行くわよ!!!」

俺の声は、アジ・ダカーハの咆哮にかき消されて、もう届かなかった。
マホたんはブレスの渦中に吶喊する。真っ白なエフェクトが、大気ごと煉獄の火炎を引き裂いた。

>「おあああああああああああああッ!!! 『大 聖 撃(アーク・スマイト)』!!!!!!」

カウンタースキルは、敵の攻撃が強ければ強いほど高い威力を発揮する。
何もかも焼き尽くす邪竜の吐息は、聖撃を神の鉄槌へと変貌させた。
四肢を砕き、輝く髪を焦がしながら、マホたんは流星の如くアジ・ダカーハへ着弾する。

>「……そ……んな……ぎこちない……笑顔じゃ、ノンノン……です……ょ……」

咆哮とブレスに塗りつぶされて、マホたんの声は聞こえない。
見えたのは、唇の動きだけ。それでも彼女の動画をHDDが擦り切れるまで見返した俺には――
最期にマホたんが何を言ったのか、理解できた。

瞬間、全ての音が消失した。
鳴動していた大気が収束するようにマホたんの元へ集まる。
そして、弾けた。自爆スペルが発動し、膨張した魔力の波動があらゆる構造物を蹂躙する。

272明神 ◆9EasXbvg42:2020/02/03(月) 02:08:50
タイマン空間がなければ、余波で俺達も根こそぎ吹っ飛んでいただろう。
何もかもを砕き尽くす破壊の波は隔離フィールド内部を何度も反射しながら威力をぶち撒ける。
爆風が届いてもいないのに、大気の揺れが頬を叩いた気がした。

『河原へ行こうぜ』の効果が終了し、フィールドを構築する膜が砕け散る。
それは、術者であるユメミマホロが死亡したことを意味していた。

>「……ぅ……、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……あああああああああああああああああ……!!!」

音を失った世界で、なゆたちゃんの慟哭だけが耳に響いた。
気付けば、俺は膝を折っていた。頭の上にひらひらと何かが舞い落ちてくる。

「マホ……たん……」

両手で受け止めれば、それは薄汚れてしまった白い羽根。
ユメミマホロが背に生やす、一対の翼――その名残だ。

また。まただ。また俺の目の前で、命が消えた。
俺達を守るために、マホたんはその生命を燃やし尽くして……死んだ。
他に方法があったわけでもない。アジ・ダカーハが召喚された時点で、この運命は決まっていた。

ユメミマホロの犠牲なしに、俺達が生き残ることは出来なかった。
だけど。あんまりだろ、この結末は。

これはアルフヘイムとニブルヘイムの戦争だ。
人の死なない戦争なんてない。帝龍はクソ野郎だが、罪があるわけじゃない。
お互いに殺し合って、その決着として片方が死んだ。戦いにはよくある、それだけのこと。


……なんて割り切れるわけねえだろうが!!
恨みを持つのが筋違いだって分かってても、俺は憤らずにはいられない。
簡単には、受け入れられない。

それでも、マホたんの死に絶望する前に、やることがあるだろ。
人の死の意味を見出すのは、残された者たちの役目だ。
マホたんの犠牲に意義があったのか、それとも無駄死にに終わっちまうかは、俺達が決める。

アジ・ダカーハは中枢を覆う装甲の大半を失い、弱点がモロ出しだ。
アコライト守備隊はジョンの陣頭指揮のおかげで、トカゲをほぼ完全に抑え込めてる。

遠からず、決着がつく。
ユメミマホロの最期を『勝利』で飾るために、この足は止めない。
ゲーマーとしての矜持は、何も折れちゃいない。

手のひらで頼りなさげに揺れる羽根を、強く握る。
震える膝を一発殴って、立ち上がった。

振り向けば、ガザーヴァが左腕に形成した刃で自分の首を断とうとしていた。
自刃――?いや、右腕が同時に閃き、装備した護符をぶち当てて止めた。
ガザーヴァが舌打ちする。自刃を止めたのは奴の意志によるものじゃない。

……カザハ君か!
バロールの登場で話が長引いてるうちに、あいつ片腕一本分身体を取り返しやがった!

ガザーヴァによる主導権の塗り替えが完全ではなかったのか。
あるいは、心理的な動揺で生まれたスキをついたのか。
いずれにせよ、カザハ君はまだ『そこ』に居る。戦い続けてる!


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板