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【TRPG】ブレイブ&モンスターズ!第五章

231崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/01/20(月) 21:59:40
魔皇竜アジ・ダハーカの三つの口から、紅蓮の炎が放たれる。
『活火山島の神息(ボルカニック・ゴッド・ブレス)』――その名の通り活火山の火口から放たれる爆発の如き吐息。
地属性と火属性の複合属性を持つそのスキルは、神の怒りの一撃。視界に存在するすべてを等しく薙ぎ払う――

が。

「うゎひゃあああああああっ!?」

なゆたは思わず頓狂な悲鳴を上げた。
エンバースが足許にスペルカード『蓋のない落とし穴(ルーザー・ルート)』を使用し、咄嗟の避難路を造ったのだ。
なゆたはエンバースと共に、真っ逆様に落ちてゆく。神の攻撃は回避したものの、このままでは墜落死だ。
が、エンバースはそんな間抜けなことはしない。さらに連続で穴を掘り、見事に軟着陸を果たす。

「……あ、ありがと」

なゆたも無事である。エンバースの顔を見ると、なゆたは小さく呟いた。

>――私を踏みつけにする気分はどうです?楽しいですか?

エンバースのひび割れたスマホから声がする。今まで聞いたことのない声だ。
もちろん、ブレモンのモンスターには人語を解する者も多い。
エンバースがそういったモンスターをパートナーにしていたとしても、何も不思議ではない。

>姫騎士装備で踏みつけにされる気分はどうだ?楽しいか?

「え、わたし!? ご、ごごゴメンなさい! 重くなかった!? 大丈夫!?
 ……ええっと……エンバースのパートナーさん?」

エンバースとフラウのやり取りに、思わず慌てる。
そこまで重くはないはずなんだけど! と取り繕ってみるも、エンバースもフラウももうなゆたの声など聞いていない。
自分たちの頭上――穴の外を見つめている。

>風の防壁《ミサイルプロテクション》!

アジ・ダハーカの真正面に立ちはだかったカザハが両手を突き出し、スペルを展開する。
幻魔将軍ガザーヴァの力を惜しみなく使用した凄まじいまでの突風が、神の一撃を逸らしてゆく。
だが、いかなガザーヴァの力をもってしても超レイド級の攻撃を完全に防御することはできない。
カザハの突き出した手のひらに、みるみる火ぶくれが出来てゆく。衣服の袖が発火し、黒い炭となって散ってゆく。

《あっちち! あちちちちちっ! ちょっ、さすがにこれはヤバいでしょ!
 いくらボクの魔力が潤沢だからって、六芒星の魔神には勝てないってーの! もう属性有利とか言ってる場合じゃない!
 はい退避! 退避ー!》

さすがのガザーヴァも身の危険を感じたのか、カザハの心の中で退避を勧告する。
しかし、カザハは逃げない。両手が焼け爛れようと、決してその場を動かない。

「ほぉ〜。なんとか耐えたアルか……。しかし、そんなモノがアジ・ダハーカの前にどれだけ持つと思うアル?
 アジ・ダハーカ! 出力アップ! この身の程知らずに、神罰というものを教えてやるヨロシ!」

>やめろ、それ以上力を使うなカザハ君!体真っ黒になってんぞ!!

ゴアッ!! と三本首の放つ炎が威力を増す。
すでに、カザハの身体はそのほとんどが黒く変わっている。
周囲を漂う靄に過ぎなかったものが、確かな形状を現し始めている――
すなわち、幻魔将軍ガザーヴァの黒い鎧へと。
靄が完全に実体化し、カザハの身体に装着され。頭部までもが仮面の付いた兜によって覆われたとき。
幻魔将軍ガザーヴァは完全復活を遂げるのだろう。
その瞬間が、刻一刻と近付いている。

>……あのブレスを、防いでいるのか?まさか……いや、フラウ

エンバースが呟く。以心伝心、フラウがすぐさまエンバースとなゆたを地上へ放り投げる。

「もうちょっと丁寧に扱えーっ! 女の子だぞーっ!」

地上でエンバースに抱きとめられると、なゆたは横抱きに抱えられたまま右腕をぶんぶん振って抗議した。
が、いつまでもそんなことを言ってはいられない。すぐになゆたも地面を踏みしめ、カザハを見遣った。

「カザハ……!」

カザハは単身超レイド級と対峙しながら、ゆっくり口を開いた。

>ボクは昔罪を犯した――罠と分かりきってる幻魔将軍の甘言に乗ってしまった。
 ううん、世界に干渉すべきでない種でありながら世界を救おうなんて思ってしまったこと――それが間違いの始まりだったんだ

「……なんてこと……」

カザハの中に、幻魔将軍ガザーヴァが入っている。
先程明神達と合流したとき、明神はそう言った。
そして、前夜の夜哨の際も。なゆたはジョンからカザハがまるで別人のような口調で喋っていた、という報告を貰っている。
最初は信じられなかった。そんな突拍子もない話が、と疑っていた。
しかし、カザハの身にへばりつく黒い鎧。そして独白。
それらを目の当たりにした今は、それを信じる以外の選択肢などなかった。


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