[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
1-
101-
201-
301-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
【TRPG】ブレイブ&モンスターズ!第五章
257
:
崇月院なゆた
◆POYO/UwNZg
:2020/01/28(火) 21:01:15
「いやまったく強引だなぁ! わたしは外郭から離れないって、あれほど言ったのに!
それにスピードを出し過ぎだと思うんだ! 制限速度は守ろう! お兄さんとの約束だ!」
聞き慣れた能天気な声と共に、バサリ、と翼の羽ばたく音がした。
カケルがゆっくり地上に降り立つと、その背に跨っていたバロールがよっこらしょと鞍から降りる。
ガザーヴァが驚きに目を見開く。
「……バロー……ル、さま……」
「久しぶりだね、ガザーヴァ。……元気そうで何よりだ」
カツ、と身の丈以上もあるトネリコの杖を地面につき、バロールが虹色の瞳で穏やかにガザーヴァを見る。
ガザーヴァは唇をわななかせ、一歩、二歩と後ずさった。
「なぜ……ここに……」
「なぜって、決まっているだろう? 君を勧誘しに来たのさ。
それにしても明神君、さっきのセリフは酷いなぁ! 私のセンスが最悪だって? いやいやそんなことはないさ!
ガザーヴァはカザハ――の前世のシルヴェストルを色以外は忠実に再現したコピーだ。
カワイイだろ? 花のように愛らしいとはこのことだ、黒薔薇のように淫靡なところもまたグッドセンス!」
はっはっは、とバロールは明神に視線を向けて陽気に笑った。場違いも甚だしい。
「まぁ、私のセンスについてはすべてが終わってから夜通し討論するとして。
今は君だ……ガザーヴァ。君がうんと言うのなら、明神君の言うとおり君の新たな肉体を用意しよう。
というか――実は、もう用意してあったりするんだな。これが!」
言うが早いか、バロールは杖を大きく振り上げ、虚空を指し示した。
途端に空間が歪み、ここではないどこか遠方の映像が浮かび上がる。
そこは、どうやらどこかの魔術工房の光景のようだった。薄暗い室内に、肉色で血管の浮き出た巨大な保育嚢がひとつ安置してある。
保育嚢はまるで臨月のように肥大しており、どくん、と鼓動するたびに内部が透けて見えた。
そして、その保育嚢の中に胎児よろしく身体を丸めて入っているのは――
「……ボクの……身体……」
「そうだ。君の身体だ……もちろん、ガーゴイルの分も用意してある。
もう一度言うよ、ガザーヴァ……私たちに力を貸しなさい。かつてのように――
私たちには君の力が必要だ。もう二度と、以前の失敗を繰り返してはならないんだよ」
トネリコの杖の先端で地面を叩くと、映像が音もなく消える。
このままガザーヴァの計画がうまく行き、カザハの肉体を乗っ取って復活しても、ガザーヴァにはその後の目的がない。
先程はバロールへの復讐も考えたが、実際にバロールと再会を果たした今、そんな気持ちはもうどこかへ吹き飛んでいた。
いや――きっと最初からそんな気持ちなんてなかったのだろう。
寄る辺なき模造品の魂に愛を教えてくれた、たったひとりのかけがえのない人。
例えどんな無慈悲な扱いを受けたとしても――そんな人のことを憎むなど、ガザーヴァにはできない。
とすれば、バロールの許へ帰参して肉体を取り戻し、かつてのようにその指示を仰ぐというのが最善の手であろう。
バロールは微笑みながら、ガザーヴァが明神の差し伸べた手を取るのを待っている。
ぎゅ、とガザーヴァは唇を噛みしめた。そして、手を強く握り込んで拳を作る。
「じ……、じゃあ……。ボクのお願い、ひとつだけ……聞いて、ください……」
「……言ってごらん」
「ボクが……。
ボクがバロール様の味方に、アルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の仲間になったら……」
強く強く握った拳が、小さく震える。
ほんの僅かな逡巡の後、ガザーヴァは意を決して口を開く。
「……ボクのこと。ほんの少しだけでも……愛してくれますか……?」
それは、いつかも口にしたガザーヴァの心からの願い。
他の何もかもをなげうってでも、追い求めているもの。
それを聞いたバロールは、すぐに口許に微笑を浮かべた。――それは見る者を温かな気持ちにする、優しい笑顔。
「いいとも。おいで、ガザーヴァ」
そう言って、元魔王はゆるく両手を広げた。
愛した、求めた、欲した、唯一無二の相手。
そんなバロールの出した答えに対し、ガザーヴァの双眸にみるみる涙が溜まり、目尻から頬へと零れる。
「嬉しい……。嬉しいよ、パパ……。
その言葉が聞きたかった……。ボクはオリジナルじゃない、ここにいるボクを見てほしかった。
目の前のボクを愛してほしかったんだ……」
ガザーヴァはにっこりと笑った。愛らしい、可憐な笑顔だった。
だが。
「でも、ダメだよパパ……騙されないよ、だって……」
「パパの目、全然……笑っていないもの――」
そこにあるのは、絶望だった。
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板