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【TRPG】ブレイブ&モンスターズ!第四章

1 ◆POYO/UwNZg:2019/03/18(月) 20:11:11
――「ブレイブ&モンスターズ!」とは?


遡ること二年前、某大手ゲーム会社からリリースされたスマートフォン向けソーシャルゲーム。
リリース直後から国内外で絶大な支持を集め、その人気は社会現象にまで発展した。

ゲーム内容は、位置情報によって現れる様々なモンスターを捕まえ、育成し、広大な世界を冒険する本格RPGの体を成しながら、
対人戦の要素も取り入れており、その駆け引きの奥深さなどは、まるで戦略ゲームのようだとも言われている。
プレイヤーは「スペルカード」や「ユニットカード」から構成される、20枚のデッキを互いに用意。
それらを自在に駆使して、パートナーモンスターをサポートしながら、熱いアクティブタイムバトルを制するのだ!

世界中に存在する、数多のライバル達と出会い、闘い、進化する――
それこそが、ブレイブ&モンスターズ! 通称「ブレモン」なのである!!


そして、あの日――それは虚構(ゲーム)から、真実(リアル)へと姿を変えた。


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ジャンル:スマホゲーム×異世界ファンタジー
コンセプト:スマホゲームの世界に転移して大冒険!
期間(目安):特になし
GM:なし
決定リール:マナーを守った上で可
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり
避難所の有無:なし

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67明神 ◆9EasXbvg42:2019/04/24(水) 02:27:43
問いに意味なんかない。ただ魔術師の言葉に何かしら反論を挟みたかった。
そういうつもりでいないと、俺の中の敵対心というか戦意というかそういう原動力がどんどん鎮まっていきそうだ。

>「ただ、それでも君たちは恵まれている……と言わせてもらうよ。メロとウィズリィを遣わせ、魔法機関車も出した。
 召喚した『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の中には、なんのケアもしてあげられなかった者も数多くいたから。
 彼らは……可哀想なことをした」

――ただ。魔術師のこの物言いには、霧散しようのない熱を腹の底に感じた。
カップを握る手に無意識に力が籠もる。こいつを浴びせかけてやりたいが、流石に俺もそこまで迂闊じゃない。
アルメリアとの協働関係を、潰すわけにはいかない。

>「そうそう、自己紹介がまだだったね? いや、すっかり忘れていたよ! ごめんごめん!
 私はご存じの通りの、アルメリア王国の宮廷魔術師。と言っても普段は何もしてない、ただの無駄飯喰らいだけどね!
 ま、それはいい。先だっては、私の弟弟子と妹弟子が世話になったね。私は――」

「あ?弟弟子と妹弟子?お前は一体――」

魔術師がこちらを見据える。
相貌の色は、虹。極彩色の瞳孔は、その眼が只人のものでないことを意味している。
――魔眼。魔を宿し、この世の法則を覆す、人越者の眼。
俺が知る限り、魔眼を持つのはこの世界にただ一人だけだ。

>「私の名はバロール。十三階梯筆頭継承者……『創世の』バロールだよ」

「なんだと」

俺は思わず素で聞き返した。それくらい、衝撃的な事実だった。
バロール。かつて十三人居たローウェルの直弟子、その筆頭。第一階梯の継承者。
『創世の』バロールは、ブレイブ&モンスターズにおけるメインシナリオの、最後の宿敵。

――ラスボスだ。

師・ローウェルの死を契機として闇に墜ちたバロールは、アルメリアの王を殺してニブルヘイムに渡った。
そこで三魔将を従える魔王に君臨し、部下と共にアルフヘイムへ自分自身を再召喚。
キングヒルを火の海に変えて……エカテリーナや『詩学の』マリスエリスを始めとするメインキャラが何人も死んだ。
シナリオが一気に薄暗いシリアスなものになる、転機とも言える存在だ。

プレイヤーは、闇墜ちする前のバロールの姿を知らない。
本編に登場した時には、既に魔王の異形にその身を変えていたからだ。
人間体のグラフィックなんて存在しないし、最新パッチでも未だ過日のバロールは語られていない。

つまり……俺たちは、今目の前で茶をしばいているバロールが、どういう存在なのか何も分かりゃしないのだ。
確かに闇落ちするきっかけはローウェルの死だったが、本当は師匠が死ぬずっと前から狂っていたのかもしれない。
一方で、ローウェルの死さえ食い止められるなら、バロールはアルフヘイム最強の守護者のままで居てくれるかもしれない。

状況を類推する根拠はあまりに足らず、俺はしばらく硬直していた。
どうする?いますぐコイツを仕留めるか?油断してる今ならクリティカル取れるんじゃないか。
だが下手打ちゃ返り討ちだし、仮に首尾よく仕留められたとして、アルフヘイムの強力な駒を一つ失うことに変わりはない。

気になるのはイブリースの存在だ。
バロールが育てたんじゃなけりゃ、奴らの糸を操ってるのは一体誰なんだ。
ミハエルはイブリースの操り手じゃなかった。ニブルヘイムも一枚岩じゃねえってのか?

68明神 ◆9EasXbvg42:2019/04/24(水) 02:28:46
>「よろしくね、バロールさん。知ってるかもしれないけどボクはカザハ、こっちはカケルだよ」

「おまっ――」

まんじりともせず沈黙が支配する空気をぶち破ってカザハ君が自己紹介に応じた。
俺は思わず止めようとして……思い直した。や、これで良い。
むしろ空気を一切読まないカザハ君のムーブに助けられた。

俺たちがバロールについて、何を知ってて何を知らないのか……情報の手札を悟られたくない。
だからここは、あえて何も知らない体で応じるのがベスト。カザハ君が満点回答だ。

バロールがもしも『ブレイブがバロールの正体を知ってる』ってことに感づいてりゃ、
何かしら訝しがるなり、カマかけるなりしてくるだろう。案外普通に認めるかもしれない。
いわば情報戦における威力偵察は、既に始まってて……立ち止まるのは隙を見せることになるだけだ。

カザハ君に続いてエンバースも質問を投げかける。
奴らが稼いでくれた時間で、俺は考える。
こっちの情報はなるだけ与えず、かつ不審にならない範囲でバロールの真意を掴むには、どうすべきか。

「……なるほどな、てめーが十三階梯筆頭のバロールか。ツラを見るのは初めてだ。
 まぁツラの話なんかどーだって良い。虚しくなるだけだしな。とりあえず言っときたいこと言って良いか」

俺は浮きかけた腰をどっかり椅子に降ろして、なるべく見下す感じでバロールを睥睨する。

「頭湧いてんのかテメーらは」

バロールに目立った反応はない。怒りの矛先を向けられるのも覚悟済みってわけだ。

「生き残る為に手段を選んでられなかった?知ったこっちゃねえんだよそんなもん。
 てめーらが異世界から拉致して見殺しにした人間にゃ、帰りを待つ家族だって居たんだ。
 そいつらは今でも待ってる。ある日突然消えちまって、死体も見つからない家族をずっと。
 人手が足りてない?だったら初めから呼ぶんじゃねえよ。人命を無意味に浪費してるだけじゃねえか」

懐からスマホを出す。ロックは解除せず、机の上に置く。

「それともてめーらが本当に欲しいのはこいつか?
 魔法の板さえ回収できりゃ、付属品のブレイブなんざその辺で野垂れ死んでも構わねえのか?
 喚ばれた連中にはズブの素人も居る。初手で荒野に放り出されたら、早晩サンドワームの餌食だ。
 俺たちだって、運良く他のブレイブと合流出来なけりゃハエに消し飛ばされてた」

そして、ウィズリィちゃんが居なけりゃ仲良く荒野で干からびてたことだろう。
そうやって知らないフィールドで人知れず死んでいったブレイブは少なくないはずだ。
アルフヘイムが回した十連ガチャのハズレ枠達。俺も含むそいつらの末路がそれだ。

「何が可哀想なことをした、だ。勝手に納得してるようだから改めて言うぜ、『創世の』バロール。
 死んでいったブレイブ達はな、てめーらが殺したんだ。掛け値なく、てめーらのせいで死んだ。
 何の罪もない、ただゲームをプレイしてただけの、善良な連中を殺したんだっ!」

俺の批判は、多分バロールに何も響きはしないだろう。
こいつも自分の世界を救うのに必死だ。言葉通り、手段を選べはしなかった。

俺だって、アルフヘイムと現実世界どっちが大事って聞かれたら迷わず後者を選ぶよ。
俺自身の安否はともかく、親父もおふくろも向こうにいる。死なせたくない。
いいように弄ばれた怒りとは別のところで、妙な納得があった。

――だから、せめてこの怒りを俺は最大限利用する。
ブレイブとして持って当然の憤りをぶつけることで、御しやすい直情型の人間だと認識させる。
「納得いかねーけどしょうがないから今だけ力を貸してやる」ってスタンスは、向こうにとっちゃ望むところだろうからな。

69明神 ◆9EasXbvg42:2019/04/24(水) 02:30:05
俺は正直今でもアルフヘイムに反旗を翻したって良いと思ってる。
だから今は面従腹背だ。激しい怒りで、もっと暗くて根深い敵意を覆い隠す。
怒りそのものは本物だから嘘じゃねーしな。

肩で荒い息をして、俺は腹に溜まった熱を吐き出した。
半分、いや八割くらい本音ぶちまけたからなんか結構スッキリしちゃった。

「言いたいことはこんだけだ。世界救い終わったら、死んでった連中を弔いに行けよバロール。
 そんときゃ、俺も付き合ってやるからよ」

暗に現実世界に帰還しないことを示しつつ、俺は話を続ける。

「聞きたいことは3つ。まず、俺たちはどういう基準で喚ばれた?
 強い戦力が欲しいのなら、俺みてーな中級者未満を召喚する理由がねぇ。
 持ってるモンスターの強さで言えば俺は多分最下層、この王宮の兵士にもボコられるぜ」

完全に無作為で選出したってんならまだ納得が行く。
ニブルヘイムはどういうわけか強いプレイヤーをピンポイントでピックアップする術があるらしいが、
アルフヘイムはひたすら十連ガチャを回し続けてるとすれば、なゆたちゃんや石油王はようやく引けたSSRってとこか。

「2つ目。王宮にたどり着いたブレイブは俺たちだけか?他に所在を把握してるブレイブはいねえのか。
 ガンダラでも、リバティウムでも、ブレイブを知ってる人間を何人か見た。
 運良く生き延びた野良ブレイブってのは、実際のところ結構な数居るんじゃねえのか」

そいつらが既に一度王宮にたどり着いて俺たちと同じようにバロールの手駒になった連中って可能性も多分にあるが。
初手でクソゲーフィールド引かなけりゃ、パートナーと手持ちのスペル次第で生き延びることは十分可能だ。
王都からのクエストをぶん投げて、適当な街で永住決め込んでる奴もいるだろう。
今からでも人員割いてそいつらを保護できりゃ、動員可能な戦力の実数は今よりもっと大きくなる。

「最後に――」

俺はずっと我慢していた。腹の底に溜まったものを我慢していた。
王都に来てからこっち、それを吐き出す機会がなくて、そろそろ何かがはち切れそうだ。
ぶつけるのは、初めてウィズリィちゃんに会った時と同じ問い。

「――この王宮、トイレある?」

流石に枯山水掘ってするわけにもいかなかったしな。


【腹の探り合い。質問事項1:ブレイブ召喚の選定基準は?2:他にブレイブいないの?】

70五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/04/30(火) 16:23:40
万象法典(アーカイブ・オール)
自分のハウスがそう呼ばれている事は知っていた
しかしその実態はイベントリから溢れ出たカードを並べておいただけの産物
故に生活感もなくアセット配置も枯山水と野点セットしか置いていない
この立地も、ハウス実装された時も仕事に追われ、何処に居を構えるかなどという選択肢がなかったのだ
土地確保の争奪戦は烈を極めるのだが、事ここに至っては地代が高すぎて誰も手を付けられなかったという話

事も無げにさらりと来歴を語るみのりだが、関心はそこにはなかった
今だ正体も目的も掴み切れないエンバースの言いかけた言葉
キングヒルに土地を持つ人間が知り合いにいる、という事を示唆しているのだから

「ほういえばエンバースさんやカザハさんには教えてへんかったねえ
うちのプレイヤーネームは五穀豊穣。
どこかですれ違っていたかも知れへんけど、こうやって顔を合わせたのも何かの縁やわ〜」

改めて自己紹介をし、内部へと案内をする

内部でカード譲渡と共有者登録を済ませた後、メンバーの反応を見ていた
四者四様の反応

なゆたは丁重に辞退し、記念として一枚のカードを受け取った
これは想定内
スペルカード、ユニットカードは単体で意味を成すものではない
デッキ構築と戦術の流れの中に組み込むことで力を発揮するのだ
なゆたのように緻密なコンボを組み立てるものにとって、不用意にカードを組み入れてもそれは異物でしかないのだから
それでも気持ちを無碍にしない為に一枚借りるというのはいかにもなゆたの人柄を現していると納得し、にっこりと微笑み頷いた

カザハの選んだのは『幻影(イリュージョン)』
エンバースの姿が問題視された時のため、そして他の用途でも使いやすいだろうとの事
なゆたとは対照的にデッキ構築ではなく用途としての選出
選ぶカードによってそれぞれの個性や戦術が見えてくるものだ

71五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/04/30(火) 16:24:34
そしてエンバース
トランペットを眺める黒人少年のような眼差し
記憶が飛んでおり正体不明ではあるが、やはり他の三人と同じゲーマーなのだと思わせる
しかし選ぶカードはなく、明神に席を譲る
いや、選ぶのではなく選べないとの談にみのりの思考が巡る

しかしその思考を遮ったのが明神の言葉だった
老婆心からの警告はみのりの心に深く刺さる

そうなのだ
明神の言葉、それはみのりも考えていた
この世界に来て最初に合流しベルゼブブを撃退した時からその可能性は常に考えていた
故に二台目のスマホを、パズズをひた隠し、いつ誰と戦っても生き延びられるように立ち振る舞ってきた

だが、今はそうではない
買い物中に明神にパズズを見せその内情を教えた
それで大方の事は察してもらえただろうが、それでも明神は思い違いをしていた

みのりの性格は生来のものでもあるが、それは充実し充足した生活環境によって培われたもの
経済的に恵まれたみのりには、飄々としておっとりしていられるだけの環境が整えられていた
それはブレモンの世界に来ても同じ
パズズが、カンストレベルのクリスタルが、唸るほどのルピがみのりを支えていたのだ

しかしパズズと二台目スマホのクリスタルが喪失状態になった今
ある意味みのりは生まれて初めて丸腰で立っている状態になっていると言える
あまりにも不慣れな丸腰状態に思考は混乱し、明神に言われるまで「それ」について頭から抜けて落ちていた
常に可能性を考え続けていた仲間との戦闘を

「あははは、そうなったらそうなったでしゃぁないわねえ」

お茶を濁すように笑い、肩を竦めながらの言葉には力がなかった
その時の為の対策をみのりは考えつくことができないでいたのだから

72五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/04/30(火) 16:25:05

明けて翌日、一同は王宮へと入った
久しぶりに合流したメロに引きつられ玉座の間へ

姫騎士鎧姿で王の前に跪くなゆたとは対照的に、体のラインのでないゆったりとしたペンギン袖のローブで直立の姿勢を崩さず王に対面するみのり
その姿勢は王との立場に上下を認めていない意思表示
臣下でも客人でもなく、無理やり連れてこられた被害者としての憤りの表れなのだから

体のラインを見せない大きなローブの内側には形を崩したイシュタルが巻き付いている
これは王との謁見ではなく、戦闘すらも視野に入れサモンを封じられている事を想定しての用意であった
戦闘はできない、故にあらゆる準備をみのりに講じさせていたのだ

獅子頭人身『百獣の王(ロイヤルレオ)』を前に、その威厳を感じる事は出来なかった
焦燥、疲弊、というイメージが色濃く映し出されていた

それ故に、魔術師の語る
やむを得ない事情
滅びを覆しうる力
という言葉にも説得力と重みを感じた

が、それはあくまでアルフレイムの事情であり、みのりの事情ではない
ウィズリィの所在に話が及んだ時に、魔術師が助け舟を出したかのように言葉を遮りウインクをして見せたが、それは大きな間違いだ
そもそも自分たちは訳も分からぬまま召喚された実であり、保護しエスコートするのがウィズリィの役割
決して逆ではない
その優先順位の付け方と、この貸しを作ったかのような行動に嫌悪感すら抱いた

たとえ頭を下げたとて、高台からならばそれは見下ろしているのに変わらないのだから
だがそれと同時に選択の余地がないという事も把握していた

理不尽な事をしていると自覚しながらも、なおも実行している
ならばもはや結論ありきの交渉しか用意されていないのだろうから

エンバースの小言の提案に沈黙をもって答えたのは、口に出してしまえば戦闘に至りかねない事まで言ってしまいそうだったから
この時点で既にみのりの気持ちはそれほどまでに煮えたぎっていた
それでも沈黙を守れたのは、リバティウムで切る札のパズズを使ってしまっていたという幸運のおかげだとしか言いようがない

73五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/04/30(火) 16:25:52
王が退席し、魔術師に促され中庭に
そこは見事なバラの庭園

お茶菓子が用意され、魔術師が毒見と言わんばかりに口にするが、誰がそれに手を付けようというのか?
いや、いた
カザハが何の躊躇いもなく茶菓子とお茶を頬張るのを見て思わず力が抜けそうになる
が、それに続きエンバースもお茶を飲み干し亀裂から蒸気を噴出させる
こちらは憤りの感情が見て取れる

そんな二人の様子を見ながら一瞬穏やかな空気になりかけたのだが、それは本当に一瞬
次に紡がれる魔術師の事何より空気は凍り付く

召喚された者たちは他にもいて、フォローが行き届いていなかった者たちには「可哀想な事をした」で切って捨てたのだ

その言葉にスコーンを落とすカザハ
この反応は意外だった
どこか現実味のない印象を持っていた
それはモンスター化した影響だろうか?と自分を納得させていたが、人としての倫理観はまだあったのだな、と。

そう、人としての倫理観
魔術師の言葉を聞いた瞬間、みのりは全身が総毛だつ思いがした
しかしその感情を表に出すより優先したのはなゆたの反応
正義感の強く時にそれ故に暴走しがち、それがなゆたに対する印象である
真一という存在が離れ、バランスを欠いているのはエンバースへの対応を見れば一目瞭然
そんな状態のなゆたが今の発言を聞き流せるとは思えない

とはいえ、今ここで感情のまま対立を表面化させるのは拙い
なぜならば、何もわかっていないから、勝算がないから
丸腰状態に陥り、より慎重になったからこそ踏みとどまれ、なゆたに注意を向ける事が出来たのだった

咄嗟になゆたの肩に手を置き、抑え込み「まだ、あかんよ〜?」と囁くと薔薇の方へと歩き出す
抑え込まれたなゆたは感じるだろう
いくら農業で培われた筋力があるとはいえ、その抑える力が強い、と
それもそのはず、大きな袖口からイシュタルの手がみのりの手に這うように出て抑えていたのだから

「まぁまあ、人出が足りない中でサポートよこしてくれてうちらラッキーやったわぁ
こうやって綺麗なバラも見られて嬉しいし
うちは向こうの世界では土いじりやってましてなぁ、こういう花を育てるのもやってましてん
お礼も兼ねてお手伝いさせてもらいたくなるんや」

そういいながらスマホを取り出し、土壌改良(ファームリノベネーション)をプレイ
フィールドを土属性に変え、土属性の魔法効果を倍増させるカードである
効果を現せば薔薇はさらに咲き誇るであろう

一見すればお礼と称してのブレイブのスペルカード披露
ではあるが、真の目的はこの場でスペルカードが使えるかの確認
事前に土壌改良(ファームリノベネーション)をかけておくことで品種改良(エボリューションブリード)荊の城(スリーピングビューティー)のコンボを一気に成立させることにある
そう、既にみのりは臨戦態勢に入りつつあるのだ

74五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/04/30(火) 16:26:13
スペルカードの効果を確認する前に、魔術師から衝撃の事実が発せられた
自分の名を
創世のバロールである、と
ブレモンプレイヤーならば誰もが知るラスボス

しかしバロールはストーリーモード最初から君臨しているタイプのラスボスではなく、ストーリーの進行とともにラスボスになるタイプである
こうなるとゲームとこちらの世界の時間軸の狂いが大きく予測を阻む
現状バロールは弟子なのか、魔王なのか
この期に及んでも姿を現さぬローエルは何処なのか?
鬣(たてがみ)の王のあの弱体ぶりは疲弊によるものと思っていたが、バロールによる仕業の可能性すら出てきた

思考の混乱による一瞬の空白
それに切り込むのはいつも思考を超越するもの
それがカザハである

許された質問に、戦後の扱い
モンスター化しているカザハにとっては重大な問題であろう
が、それ以上にこの世界と現実世界との関係性にまで踏み込む質問となるであろう

続いてエンバースのローウェルについての質問
しかし質問の仕方が危うくも感じた
反応によってはローウェルの現在を見出すことができるかもしれないが、ローウェルの立ち位置によっては意味をなさない質問だからだ

フォローを入れるべきか迷っていたところで明神が爆発した
これまでの状況を鑑みれば誰もが抱くであろう怒り
しかしそれを爆発させるのはなゆただと思っておりだからこそ抑えに回っていたのだが、まさかここで明神が爆発するとは
想定外の勢いに驚くみのり

しかし、その怒りはバロールには響かないであろう
最初になりふり構っていられない。と宣言している以上、あらゆる犠牲を許容するのであろうから
明神ならばそれをわかっていそうなものだが、それでも抑えられなかったのか

と、みのりもまた明神のブラフにはまりながら、それならばと明神の怒りに乗る事に

「まあまあ、バロールはんも王様も苦渋の決断やったやろうし
後がない以上、うちらに選択肢なんてあらひんのやからそこらへんは言うても困らせるだけやえ?」

選択肢なんてない……それは友好的に信頼関係を結ぶためというバロールの言葉は結論ありきでしかないという言外の抗議
そういった意図を含めながら冷ややかな笑みを浮かべ、言葉を続ける

「この世界が危機に陥っていて、救えるのがうちらブレイブや云うのはわかったわ
ほれで具体的にうちらに何をさせたいのン?
お宅さんらはうちらに対してできうる限りのことしてくれる云うけど、何ができますのン?」

テーブルに置かれた明神のスマホに手を置き、バロールを見つめる

「うちらブレイブの生命線はこの魔法の板なんやね
これについてどのくらい知ってますん?
発動させるためにクリスタルが大量に必要、そう、それこそ万単位で必要やし?
それに物は物
壊れてしまう事もあるけど、うちらは使う事は出来ても修理とかは手間やし、そちらの方の援助も受けられるんですかいねえ?」

アルフレイムがどれだけの技術を持っているか
数多くのブレイブを召喚している以上、自分たち以外の人間も多くいたのだろうし、半ばで死んだ者もいるだろう
たとえ死んでも死体は、遺品は残る
世界の命運をかけた召喚をしておいてそれを放置するとは考えにくく、手が回らないから、などという理由を信じるつもりはないのだ
遺品としての魔法の板を回収し研究をしているのかどうか

前日カードを見ながらため息をついたエンバースを思い浮かべながら、質問をする

75五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/04/30(火) 16:26:44
そして最後に核心たる質問を

「それで、うちらがアルフヘイムを救わなあかへん理由ってありますのン?」

ゲームならばストーリーという強制力により「お願い」が絶対の理由になる
だが現実ではそうではないのだから

更に言葉をつづけ詰めていく

恐らくこれは「君たちの世界も他人事ではない」という話に関わってくるのだろう
浸食とは何か?
リヴァティウムで出合った魔将軍は金獅子を召喚した、と言っている
ニヴルヘイム側もブレイブを召喚している
それは単なる代理戦争や戦力増強という話ではないだろう

数年でアルフヘイムが攻め滅ぼされるのではなく、跡形もなくなるというのは表裏世界であるニヴルヘイムにも言える事なのでは?
しかしにもかかわらずアルフヘイムとニヴルヘイムはいまだに戦いを続けている
これほどの危機を前にして、だ

浸食・現実世界を含めた世界の危機・具体的な回避法を続けて尋ねた
これからどう行動するにしても、理由と事情をしっかり知っていなければ動くに動けないのだか


【怒りを抑えて戦闘回避に努めるも戦闘準備は進めておく】
【具体的にやるべき事・受けられる支援について質問】
【協力しなければいけない理由・浸食・現実世界とのかかわり・ニヴルヘイムの状況などについて質問】

76ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/04/30(火) 20:45:29
「さて・・・そろそろいくか」

話が本当なら今日のこの時間に来るはず。
話が違うにせよなんにせよ、もう牢屋に帰ってくるつもりなんてないけど。

「雷刀(光)!」

眩い光と共に目の前に刀が召喚される。
部長が召喚できてるのだ、なにも驚く事じゃない、じゃないのだが。

「本当に召喚できた・・・!」

未知体験に喜ぶ大男とそれを見て喜ぶ犬(?)が一匹。
場所が牢獄じゃなければもっと爽やかな場面だったに違いない。

「っと・・・喜んでる場合じゃないね!部長!」

部長が軽々と人でも振り回すにはつらいような大きさな雷刀を口に咥え持ち上げる。
そして鉄格子に向い数回振り回す、すると鉄格子はいとも容易く切断された。

「ナイス部長!」

いくら錆びているとはいえ予想以上に簡単に切断できてしまった。
この世界の住人がどれだけ強いかまだ不明だがこの監獄をみても部長の力が特別な事がわかる。

(大抵の人間はこんな牢屋でも拘束できるって事だもんな・・・)

自分がいた牢屋を出て周りを見渡す、どこも似たような廊下が続いていた。

「しまったな〜・・・外に出るまでの道もきいておくんだった!」

まあなるようになるだろう。
部長の召喚を解除し、周りを警戒しながら歩き出しながら想う。



ブレイブ&モンスターズを始めてから小さくなっていったが、最近また膨れ上がる心のなにかがこの世界で見つかるかもしれないと。
この世界が今だ消えぬこの気持ちを、違和感を、心を満たしてくれると。
違和感がなんなのか知ることでもできれば、と。

「自分探しの旅って奴だな!・・・ちょっと違うか!」

77ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/04/30(火) 20:46:10
「思ったよりすんなり外にでれたな・・・」

そんな広い牢屋でなくて安心したのも束の間。
警備の兵士達に頭を悩ませる、だがジョンは気づいた。

(警備の数が少ない・・・?)

王は今現在、城にいるはずだ、なのに思った以上に人がいない。
この世界の兵士がどのくらいの強さはわからない、精鋭の可能性もあるけれど、侵入者を見つけられなかったら強さなんて意味がない。

「(もしくはそれだけこの国が相当追い詰められているという事か・・・)」

異世界から人間を呼ぶくらいだ、相当厳しい状況なのだろう。
それに今の場合に限り好都合なのは間違いない。

欺くのは簡単だった、そもそも警備の人数が足りなくて監視の目が行き届いていないからだ。
いとも簡単に謁見の間らしき所まできてしまった、兵士がまだいなかった為、すんなり入れた。
自分には好都合なので、とりあえず心の中だけで感謝だけして、壁に掛けられた絵画を足がかりに天井のシャンデリアの上に移動する。

「(なんだライオンか・・・!?)」

人の形をした・・・獣が王座に座っている。
百十の王以外のなにものでもない、しかし近くにいる怪しげな人物は特に驚く様子が無い。

「(つまりあれが王様?)」

たしかに王の風格がある、気品に溢れている、・・・少し疲れた様子で覇気を感じないが。
なにを話しているのか小声で喋っててわからない。

>「王さまー! 『異邦の魔物使い(ブレイブ)』をお連れしましたー!」

重い空気をぶち壊すように謁見の間の中に妖精が入ってくる、ライオンの次はフェアリーか!。
いよいよファンタジー空間が展開され始めた時、妖精の後を付いてくるようにゾロゾロと人が入ってくる。
このファンタジーな空間に現代風の服装の服を着た連中・・・と思いきやなんか人間じゃないの何人かいる。

>「ようこそ、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たち。遠路はるばるご苦労さま、大変だったろう?
 食べ物は大丈夫だったかな? 水には馴染んだ? 何せ君たちの住んでいた世界とこちらでは勝手が違いすぎるからねえ!」

ジャックポット!大当たりだ。
いやでも人間じゃないの何人かいるけど、異世界人ってのは僕の知ってる地球以外からもきてるのか・・?。

78ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/04/30(火) 20:47:11
>「こちらがアルメリア王国の王、すなわちアルフヘイムの王。『鬣の王』にあらせられる。
 私は宮廷魔術師。王と私とで、君たち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を召喚したんだ。この世界に」

>「ある日突然異世界に喚び出されて、命の危険にさらされて。さぞかし私たちを恨んでいるだろう。
 理不尽なことだとね……けれど、それにはやむを得ない事情があったんだ。それを、これから説明しようと思う。
 どうか非礼を許してほしい。王に代わり、私が王国を代表して謝罪しよう。すまなかった」

「――そして、だ。その上でもう一度お願いする。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちよ、この世界を救う手助けをしてほしい。
 目下この世界に迫っている危機に対し、私たちはあまりにも無力だ。
 けれども、君たちの力があればそれを変えられる。滅びの運命を覆し得る希望になる――。
 この世界にとって、君たちは最後の希望なんだ」

一気に謎が解明されていく。
自分達異世界人は"ブレイブ"と呼ばれていて、この国のお偉いさんがこの世界を救うという大義名分で異世界人を召喚して戦わせようとしている事。
とんだ迷惑な話だ、理不尽を押し付けておいて助けてほしいとは。

>「ウィズリィは。ウィズリィはどうしたのだ……私の敬愛する森の魔女は……?」

>「王よ、ご心配召されますな。ウィズリィには只今、私の指示により別行動をさせております。
 世界各地に召喚された、他の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちのために――。
 必ずや朗報をもって帰還することでしょう、御心安んじられませ」

>「……そうか。ウィズリィは無事なのだな。ならばよい……あの娘が無事ならば、私は……」

どうやら王は一人の魔女にご執心らしい、それも病気的に。

「(ウィズリィ、ね。覚えておいて損はないだろう)」

>「大儀である、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』。異議も異論もあろうが、先ずは我が宮廷魔術師の言葉に耳を傾けよ。
 そなたらの要望はできる限り便宜を図る。決して悪いようにはせぬ……ゆえ、どうかアルフヘイムを救ってくれ。
 我らアルフヘイムに生きる者を、侵食の餌食にしてはならぬ……そなたたちだけが頼りなのだ……」

元の世界に返してあげる約束よりも前にまず自分達の要求をするライオン(王)。
確かに現代人の中にもこの世界に移住を望む者はいるだろう、世界を救いたい"勇者"になりたいと思う者も。

だが実際には人間を無差別に召喚している上に全員を管理できていない、その証拠に城に現れた僕が彼らの庇護を受けれていない。
いやまだこの人達や僕は運がいい。
こっちにきたのが子供だったら?いきなり危険地帯だったら?迎える準備ができていなのに人を呼び寄せておいて助けてくれ?。

そもそも無差別に呼び出すという事はこの世界に新たな厄をもたらすかもしれない。
悪意を持った人間がその悪意で、この国に迫る危機はさらに強大になる可能性は全然あるのだ、いや、むしろそっちのほうが高いだろう。
僕達には確かに特殊な力があり、王様達はこの力を欲しがって異世界人を召喚したのだから。

「切羽詰ってるにしてもあまりにも無計画すぎる・・・いやなにか裏があるのか?
 そんな考えすら無視しなきゃいけないほど追い詰められてるのか?」

つい小声で呟いてしまう
しかしまるで裏があるかのようにずさんな計画。
この世界にきて外を知らない僕にはわからないのかもしれないけれど、なにか裏があるとしか思えないし、なにもなかったら王あるまじき計画性のなさ。
どっちにしても信用できる物ではない事だけはたしかだ。

>「じゃっ! 王さまに後を託されたことだし、説明タイムと行こうか!
 場所を変えよう、こんな堅苦しい場所じゃ舌の滑りも悪くなるというものだしね。
 庭園へ行こうか? ちょうどお茶の時間だ――おいしいお茶を飲みながら、和気藹々といきたいね!」

>「え? あ、ちょっ――」

マジメ(?)な雰囲気を解除し怪しい魔法使い風の人物が場所を変えようと提案している。
自分も移動しなくては。

79ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/04/30(火) 20:47:44
中庭に案内されたブレイブ一行と怪しい男は腰を落ち着けると話を始める。
周りに気を配りながら物陰に隠れ話を聞く。

>「……さて。私たちは今まで、あまりにも君たちを放置しすぎた。それに対して不審に思っている部分は大きいだろう。
 我々は君たち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の力を必要としている。
 良好なパートナーシップを築く上で、猜疑心はできるだけ取り除いておく必要がある。
 だから……ここからは解説編と行こう。諸君の聞きたいことに、私が答える。
 その上で、諸君の協力を仰ぎたい。何度も言うが、君たちは我々の最後の希望なんだ。
 君たちの力なくして、この世界は救えない。この世界はこのまま行けばあと5年、いや3年で跡形もなくなる。
 そして――それは、君たちの元いた世界にとっても他人事じゃないんだ」

他人事じゃない・・・?。

>「他人事じゃない? それってどういう――」

>「それについては後で話そう。……君たちを召喚以来放置していた理由だが、まずひとつはウィズリィを遣わしていたため。
 かの森の魔女が君たちを導き、可能な限りのバックアップをする手筈だったんだ。
 彼女はこちらの都合も、内情も全て知っていたからね。それを『異邦の魔物使い(ブレイブ)』に伝えてくれと頼んだんだが。
 まさか失踪してしまうとは……我々も彼女とは連絡が取れていない。無事だといいのだけれど」

どうやら王様ご執心の魔女は現在行方不明らしい。
怪しい人物の表情はよくわからない。

>「もうひとつの理由は、召喚した『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の数に対して、こちらの数が足りなすぎてね。
 もう知っていると思うけど、我々は目下のところもう一つの世界……ニヴルヘイムの勢力と戦っている。
 我々は世界に散らばった『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を回収すると同時――
 ニヴルヘイムの尖兵にも対処しなければならなかった。割ける人数と打てる手段には限りがあったんだ」

>「ただ、それでも君たちは恵まれている……と言わせてもらうよ。メロとウィズリィを遣わせ、魔法機関車も出した。
 召喚した『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の中には、なんのケアもしてあげられなかった者も数多くいたから。
 彼らは……可哀想なことをした」

>「私たちも、生き残るためには手段を選んでいられなかったんだ。どんな方法であっても、手立てがあるなら試す。
 そうせざるを得なかった……とばっちりだと、業腹だと思うだろうが、どうか許してほしい。
 そして、私たちに手を貸してほしい。そのためには、我々も可能な限り君たちの望みを叶えたいと思う。
 ああ、だから、それを踏まえて――君たちの質問にすべて答えるよ。私の知りうる情報ならね」

たしかに仕方なかったんだろう、切羽つまっていたのかもしれない。
だが、「君達は恵まれている」とは?理由があったにせよ他の世界の人間達を無差別に呼んだ張本人達が言っていい言葉ではない。
無責任すぎる、あまりにも。

>「私の名はバロール。十三階梯筆頭継承者……『創世の』バロールだよ」

ジョンはストーリーこそ読み飛ばしていたがゲームのラスボスの名前まで知らないわけではない。

バロール?バロールだって?
衝撃の真実を突きつけられて動揺するのだった。

80ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/04/30(火) 20:48:16
場が一瞬硬直し、全員が混乱してる中空気を壊すように異世界人・・・ブレイブの一人が話し始める。

>『よろしくね、バロールさん。知ってるかもしれないけどボクはカザハ、こっちはカケルだよ』

>『じゃあまず……世界を救ったら元の世界に返してもらえるの?』

妖精の彼?彼女?は至極当然な質問をする。
全員が全員、この世界に移住したいわけではないのだ。

>「それから……元の世界に返してもらう以外の選択肢はある?
たとえばちょっといい条件で永住させてもらったり……ボクの場合多分転移じゃなくて転生なんだよね!」

全員がしたいわけではないだろうが・・・この妖精の子は永住したいのか、この世界に。
確かにこんな力を持っていたらそんな考えも出るのは当然の事かもしれない。
異世界にきて俺TUEE能力、最近のラノベ?マンガ?をみた人間なら憧れているだろうね。

ていうかこの妖精、僕がしってる世界の元人間なのか?死んだ人間でさえ呼び寄せられるのか?。

>「……ローウェルの事なんだが」

こんどはゾンビが話を切り出す。
妖精にゾンビにどうみたって僕と同じ世界出身者には感じられない、妖精の名前はアニメにでてくるような日本人みたいな名前だけれども。
妖精はともかくゾンビって、なんかがんばってゾンビじゃありませんよー感だしてるみたいだけど。
どうみたってただの死体だ。

>「だがローウェル曰く『次にすべき事はあんたに託してある』だそうだ。
 こりゃ一体どういう事だ。なんでこんなややこしい事になってるんだ?」

ローウェル・・・ローウェル・・・たしか魔王的なアレだったはずだが、よく覚えてない。

「(こんな事になるならストーリー読み飛ばすんじゃなかった・・・!)」

今になってストーリーを読み飛ばした事による事を後悔している。
おそらくこの場全員が分っている事前提で話を進めるだろう。
そうなれば外野で聞いていて質問できない僕には、理解できない会話が続くのは明白。

どうする素直に姿を現すか・・・?

だめだ今更リスクが高すぎる!。
出て行った瞬間こんどこそ不審者で投獄どころかその場で殺され兼ねない。

一体僕はどうしたら・・・

81ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/04/30(火) 20:48:42
ジョンが今後を決める脳内会議を必死にしてる時。
ブレイブの一人が大きな声を上げる。

>「頭湧いてんのかテメーらは」

>「生き残る為に手段を選んでられなかった?知ったこっちゃねえんだよそんなもん。
 てめーらが異世界から拉致して見殺しにした人間にゃ、帰りを待つ家族だって居たんだ。
 そいつらは今でも待ってる。ある日突然消えちまって、死体も見つからない家族をずっと。
 人手が足りてない?だったら初めから呼ぶんじゃねえよ。人命を無意味に浪費してるだけじゃねえか」

よかった、どうやら全員が全員がこの国に従うつもりではないらしい。

>「それともてめーらが本当に欲しいのはこいつか?
 魔法の板さえ回収できりゃ、付属品のブレイブなんざその辺で野垂れ死んでも構わねえのか?
 喚ばれた連中にはズブの素人も居る。初手で荒野に放り出されたら、早晩サンドワームの餌食だ。
 俺たちだって、運良く他のブレイブと合流出来なけりゃハエに消し飛ばされてた」

スマホだ!間違いない!やはりこの人間達は僕と同じ世界から来ている!。
・・・てことはやっぱり妖精とゾンビも?。

>「何が可哀想なことをした、だ。勝手に納得してるようだから改めて言うぜ、『創世の』バロール。
 死んでいったブレイブ達はな、てめーらが殺したんだ。掛け値なく、てめーらのせいで死んだ。
 何の罪もない、ただゲームをプレイしてただけの、善良な連中を殺したんだっ!」

敵意をむき出しにし声を荒げる。
当然の怒りだ、だれにもこの怒りを止めてもいい者など存在しない、たとえこの国の王でも。

>「聞きたいことは3つ。まず、俺たちはどういう基準で喚ばれた?
 強い戦力が欲しいのなら、俺みてーな中級者未満を召喚する理由がねぇ。
 持ってるモンスターの強さで言えば俺は多分最下層、この王宮の兵士にもボコられるぜ」

たしかにこの質問は気になる。
もってるモンスターの強さでいえば部長は高ランクではない。
僕の持っているモンスターは部長だけだ、という事はランキング上位を召喚してるわけではないだろう。

>「2つ目。王宮にたどり着いたブレイブは俺たちだけか?他に所在を把握してるブレイブはいねえのか。
 ガンダラでも、リバティウムでも、ブレイブを知ってる人間を何人か見た。
 運良く生き延びた野良ブレイブってのは、実際のところ結構な数居るんじゃねえのか」

ガンダラ・・・りばていうむ?どこそれ。
ここにもストーリー読んでない弊害が・・・!
いやまてよプレイヤーがいける場所にあった気がする。

しかし対人プレイに関する事しか興味なかったジョンには結局わからないのであった。

82ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/04/30(火) 20:49:09
>「まあまあ、バロールはんも王様も苦渋の決断やったやろうし
後がない以上、うちらに選択肢なんてあらひんのやからそこらへんは言うても困らせるだけやえ?」

最後に質問を始めたのは、よく言えば落ち着いた・・・悪く言えば威圧するように喋る女の子。
顔は笑っているのに目が笑っていないというのはまさにこの事だろう。
明らかにジョンより年下なのにも関わらず、まっすぐと自分の必要な事を話す。

>「この世界が危機に陥っていて、救えるのがうちらブレイブや云うのはわかったわ
 ほれで具体的にうちらに何をさせたいのン?
 お宅さんらはうちらに対してできうる限りのことしてくれる云うけど、何ができますのン?」

テーブルにスマホを置きつつバロールからは目を離さない。
普通の人間だったら怒ったり困惑したり、そもそも喋れなかったりするものだが彼女の態度は常に一定だ。
顔は笑っているが、目も雰囲気も、笑っていない。

「(もし、もし僕はあのご一行にこれからの縁で加わる事になっても、彼女を怒らせないようにしよう・・・)」

女性は男性より感情的になり易いが、一度落ち着いた女性は本当に凄まじい、なにが凄まじいかは内緒だ。
ちなみにジョンの実体験からくる情報である。

>「うちらブレイブの生命線はこの魔法の板なんやね
これについてどのくらい知ってますん?
発動させるためにクリスタルが大量に必要、そう、それこそ万単位で必要やし?
それに物は物
壊れてしまう事もあるけど、うちらは使う事は出来ても修理とかは手間やし、そちらの方の援助も受けられるんですかいねえ?」

「(え)」

クリスタルが大量に必要?万単位で必要?そんなに使うの?マジ?
牢獄にいるとき隙あらば召喚や解除、スペルカードの確認や、ユニットカードのテストは繰り返していた。

「(それなりに課金はしていたけれど、どれだけ減ったなんて確認すらしてないんだけど!)」

最初の頃いくら使うのかわからず適当にかなりの額は入れていた。
部長を買った後は結局使わず、そのまま貯めていたはずだ、減らされる量にもよるがそんなにすぐ枯渇することは・・・ないはず。
たぶん。

ジョンが何回目かの頭を捻らせているとき、この日一番の爆弾が投下される。

「それで、うちらがアルフヘイムを救わなあかへん理由ってありますのン?」

これだ、僕達異世界人が命を賭してまで戦う理由があるのか。
ゲームなら主人公達が正義感で世界を救ってしまうが、僕達は勇者でも、英雄でもない。
たしかに特殊能力はある、あるがこれは自分の命を保障してくれる万能な力ではないのだから。

83ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/04/30(火) 20:49:28
中庭にきてからどのくらい・・・。
何分くらいたっただろうか、自分的には一時間くらい経っている気がする。

「っ!」

ふと後ろを見るとさっき紅茶を入れてたメイドが後ろにいた。
話に聞くのに集中しすぎて背後の気配に気づかなかった。

「(騒がれる前に黙らせなければ!)」

素早く、静かに、傷つけず、水晶の乙女に掴みかかり押さえ込もうとするしかし。

「えっ・・・?」

傷つけないように力を抜いた一瞬、ほんの一瞬で体が縦に回転し、そのまま投げ飛ばされてしまう。
投げ飛ばされながら思う、そりゃそうだ、非戦闘員のメイドとはいえ仮にも魔物と人間なのだ、と。

「ぐはっ!」

お茶会のど真ん中に投げつけられる、幸い濡れなかったが、お茶会がこれじゃ台無しだな・・・そんなこと考えている場合じゃない!
だめだ集中しなければ、本当にこの場で首を刎ねられかねない、なにを・・・なにをすれば・・・。

素早く立ち上がり、距離を取り、一礼し、冷静に話し始める。

「突然のお茶会失礼しました、私は決して怪しい者ではありません」

ポケットからスマホを取り出し両手を上げ無害アピールをする。
我ながらあまりにも不恰好だとは思うがこれ以上できることはない。

「失礼ながら今まで貴方達の話を全部を聞かせていただきました、自分の立場を知る為とはいえ盗み聞きしていたことをどうかお許しください。」

いつも通り堂々と、ここでビビったら負けだ。
ここで動揺して言葉に詰まったりしたら大変な事になる。

「このスマホを見ればご理解頂けると思うのですが、僕も貴方達と同じ『異邦の魔物使い(ブレイブ)』です」

「一週間か・・・二週間か前にこの城に飛ばされてしまったのです、不審者と間違われていた私は今まで投獄されていました」

当然まだ疑いの目を向けられている、当然の反応だった。
焦るな、まだ、まだ諦めるな。

「今から証拠をお見せします・・・召喚を」

アプリから部長を選択し召喚する。
これは博打だ、"スマホを持っていても本人じゃない限り召喚できない"というルールがあった場合の。
しかも部が悪い賭けだ、さっきの会話で魔法の板、つまりスマホを欲しがってるんじゃないかという質問があった。
もし"スマホさえあればだれでも召喚できる"だった場合待っているのは。

死。

この人数相手に逃げ切ることはほぼ不可能だろう。
無理やり逃走しようにも反撃してだれかを傷つけたりでもしたら、誤解は本物になり、この世界に、国に、ブレイブに追われる事になる。
つまり詰んでいるのだ。

「ウェルシュ・コトカリスです、ブレモン初のエイプリルフールで実装されたモンスターの
 スマホを見ていただければ限定スペルカードもあります・・・逆に言うと僕はそれしかもっていませんが」

「ニャー」

「こんな事言われても無理なことは十分承知の上ですが・・・僕を信じてください」

頭を下げ、頭を挙げ目を瞑る、後は祈る事しかできなかった。

84崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/05/01(水) 12:13:51
「バ……、バロール……!?」

宮廷魔術師の名乗りに、なゆたもまた双眸を見開いた。
『創世の』バロール。大賢者ローウェルの直弟子、十二階梯の継承者のロストナンバーであり、第一の使徒。
そして魔界に君臨し、プレイヤーたちと血で血を洗う死闘を繰り広げる――魔王バロール。
その名を冠する者が、目の前に座って優雅な所作でお茶を飲んでいる。
むろん、魔王の名を騙っているだけの真っ赤な偽者という可能性も……いや、ない。
虹色の瞳孔、世界を改変する魔眼を所有する存在は、アルフヘイムとニヴルヘイムを合わせても一人しかいない。
それは、単に名を騙っただけでは誤魔化しようのない彼の顕著な特徴なのだ。

『創世の』バロールに関して、プレイヤーが持ちうる情報は多くない。
かつて、大賢者ローウェルの一番弟子であった。
ローウェルからすべての智慧を伝授され、世界をも改変する技術を得た。
ローウェルの死を契機として闇に堕ち、鬣の王を殺害してニヴルヘイムに渡った。
瞬く間に魔界を掌握し、兇魔将軍イブリースを筆頭とする魔族たちを従えて、アルフヘイムへ侵攻した。
プレイヤーたちに手勢を次々と撃破され、居城である天空要塞ガルガンチュアまで攻め入られると、最終決戦ののち敗北。
最期に『これはすべての序章に過ぎない』と言い残して死亡――
この程度だ。

バロールがかつて何をしていたのか、どういった外見の、どういった性格だったのか。
何を考えて闇に堕ち、魔王に変貌してしまったのか……。
そのすべては説明されておらず、謎に包まれている。
魔王が斃れたことで、世界は束の間の平和を取り戻す――というのが、現在までのストーリーモードの流れだ。
バロール討伐までを第一章とするなら、今後のアップデートで続編の第二章が配信されるのではないかと噂されている。
しかし。
プレイヤーである『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の知らないバロールが、今ここにいる。
むろん、Wikiを編纂するほどゲームに精通しているなゆたにとってもこの展開は予想外だ。
けれども、そんな予想外の展開よりもなゆたの心を支配したのは、烈しい怒りだった。

『君たちは恵まれている』――

『異邦の魔物使い(ブレイブ)』がこの世界に召喚されたのは、完全にアルフヘイムの都合だ。
ならば、せめて自分たちの都合で召喚したのなら、出来得る限りの厚遇をすべきではないのか。
だというのに、そんなことを恩着せがましく言われて、いったい誰がありがたいと思うだろう?

バァンッ!

気付いたときには、なゆたはテーブルの盤面を手のひらで思い切り叩き、立ち上がろうとした。

「あな―――」

あなたには、人の心が分からないの!?
そう言おうとした、その刹那。
その出鼻は隣にいたみのりによって挫かれた。

「みのりさん……!」

なゆたは咄嗟にみのりを見た。が、みのりによって肩をがっしりと押さえ込まれている。
一見ただ肩に手を置かれただけだが、凄まじい力だ。赤城家で剣道を嗜み、それなりに鍛えている自分がまるで抵抗できない。

>まだ、あかんよ〜?

みのりの囁きに、なゆたは幾許か冷静さを取り戻した。仕方なさそうに居住まいを正し、バロールの様子を見る。
その視線に不満がありありと浮き出ているのが、他のメンバーにも見て取れるだろう。

85崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/05/01(水) 12:20:53
>よろしくね、バロールさん。知ってるかもしれないけどボクはカザハ、こっちはカケルだよ

「ああ、よく知っているとも……おかえりカザハ、カケル。ううん、違うな……今は初めましてと言うべきかな。
 まぁいいさ、どっちでも! とにかく会えて嬉しいよ、また……じゃない、どうか力を貸してほしい」

カザハのまったく空気を読まない挨拶に対して、バロールが微笑む。
なんでも質問に答えるというバロールの言葉に対して、カザハは早速疑問をぶつけてきた。

>じゃあまず……世界を救ったら元の世界に返してもらえるの?

「もちろん。異世界から来た『異邦の魔物使い(ブレイブ)』は、ことが終われば必ず元の世界に送り返そう。
 その術は私の頭の中にある。それは約束しよう、心配はいらないよ。
 もっとも、君たちふたりにその必要はないと思うけれどね」

バロールは荘重に頷いた。
異世界の人間をアルフヘイムに召喚する方法があるように、アルフヘイムの人間を異世界に送る方法もあるという。
これで、帰還を望む者たちは少なくともこの世界への永住を余儀なくされる、という心配はなくなった。

>それから……元の世界に返してもらう以外の選択肢はある?
 たとえばちょっといい条件で永住させてもらったり……ボクの場合多分転移じゃなくて転生なんだよね!

「永住。それもいい。アルフヘイムが平和を取り戻した暁には、我々にできる限りの希望を叶えよう。
 キングヒルに居を構えるもよし、リバティウムやハイネスバーグ、バルディア自治領……風光明媚な場所はいくらでもある。
 ついでに言うと、君は転生じゃなくて混線、と言えばいいかなぁ? まっ、それもおいおい説明しようとも!」

カザハとカケルについて、バロールは何か知っているらしかった。
しかし、それは今言うべきことではない、とばかりに次の質問へ意識を向けてしまう。

>……ローウェルの事なんだが
 今は、何処にいるんだ?さっきは手が足りないなんて言っていたが……
 どうも話を聞く限りじゃ、王国と大賢者の間に意思疎通が見出だせない

カザハに次いで、エンバースが口を開く。
バロールは一口紅茶を飲んで喉を湿らせると、ゆっくり語り始めた。

「師ローウェルについては、私たちもその消息を追っている最中だ。ご指摘の通り、我々と師の間では意思疎通ができていない。
 君たちも知っていると思うけど、我が師はひどい放浪癖の持ち主だからね。
 どれだけ厳重に監視していても、ふらりと姿を消してしまう。まったく困ったご老人さ!」

やれやれ、とバロールは大袈裟な身振りで肩を竦めた。
ゲームのブレイブ&モンスターズの時間軸ではローウェルは既に死んでいるため、プレイヤーが生前の本人に会うことはない。
が、その人となりは継承者たちの話などから知ることができる。
大賢者ローウェルは漂泊の賢者。アルフヘイムの各地を転々とし、有事に備えて見込みのある者を弟子とし、教えを授けた。
それが十二(十三)階梯の継承者である。

>だがローウェル曰く『次にすべき事はあんたに託してある』だそうだ。
 こりゃ一体どういう事だ。なんでこんなややこしい事になってるんだ?

エンバースは次の質問を投げかける。次は引っかけだ。
巧妙なエンバースの言葉に対し、しかしバロールは怪訝な表情を浮かべた。

「え? そうなの? どこでそんな話を聞いたんだい? ご老人に会った……んじゃないよね?
 おかしいなあ。私がここにいることを彼が知っていても変ではないけど、そんなことを言うとは思えないんだけど……?」

緩く腕組みし、右手で顎に触れて考え込む。本当に分からない、という様子だ。
その問いがエンバースの張った罠であるということさえ気付いていないように見える。

86崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/05/01(水) 12:23:44
「ま……いずれにしても、我が師がそう言っていたというのなら願ったりだ。私は私のすべきことをしよう。
 徘徊老人のことは、今はいいさ。どこにいるのかなんて、考えたところで仕方ないからね。
 聖灰たちには指示を出しているみたいだし、師は師で侵食に対していろいろ考えているんだと思うが――」
 
お茶を飲みながら、バロールは小さく息をついた。
みのりがスペルカードを使って庭園の土に豊穣の加護を与えると、薔薇の色艶や芳香が一層増す。
スペルカードは通じる。正真、この薔薇園はただの無害な薔薇園ということだ。
もしみのりがコンボを使うつもりなら、それも効果を発揮することだろう。
カザハが能天気に自己紹介し、エンバースが罠を張る。
なゆたは怒りを押し殺して黙り込み、みのりが周到に戦いの準備を進める中――
まず爆発したのは、明神だった。

>頭湧いてんのかテメーらは
>生き残る為に手段を選んでられなかった?知ったこっちゃねえんだよそんなもん。
 てめーらが異世界から拉致して見殺しにした人間にゃ、帰りを待つ家族だって居たんだ。
 そいつらは今でも待ってる。ある日突然消えちまって、死体も見つからない家族をずっと。
 人手が足りてない?だったら初めから呼ぶんじゃねえよ。人命を無意味に浪費してるだけじゃねえか

「…………」

バロールは虹色の虹彩で、じっと明神を見詰めている。

>それともてめーらが本当に欲しいのはこいつか?
 魔法の板さえ回収できりゃ、付属品のブレイブなんざその辺で野垂れ死んでも構わねえのか?
 喚ばれた連中にはズブの素人も居る。初手で荒野に放り出されたら、早晩サンドワームの餌食だ。
 俺たちだって、運良く他のブレイブと合流出来なけりゃハエに消し飛ばされてた

ゴトリ、とテーブルに置かれるスマートフォン。
『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の証にして生命線。

>何が可哀想なことをした、だ。勝手に納得してるようだから改めて言うぜ、『創世の』バロール。
 死んでいったブレイブ達はな、てめーらが殺したんだ。掛け値なく、てめーらのせいで死んだ。
 何の罪もない、ただゲームをプレイしてただけの、善良な連中を殺したんだっ!

明神は忌憚ない怒りをぶつける。
そして、それはなゆたが感じた憤りとまったく同じものだった。
自分が爆発しなくとも、言いたいことはすべて明神が言ってくれた――。
そのことに、なゆたは胸がすく思いだった。
が、仲間が自分の気持ちを代弁してくれることと、それが相手に伝わるかどうかは別問題である。
バロールは眉ひとつ動かさず、

「そうだよ。私が殺した」

と、それがさも当然であるかのように答えた。

「私のしたことに対して、緊急避難であるとか。これもまた正義だとか。そんなことを言うつもりは毛頭ないよ。
 私は罪を犯しているし、そもそもこのやり方が正しいのかもわからない。望みの結果が得られるかどうかも。
 だから、君たちの怒りは尤もだと思う。ふざけるな、と思う気持ちもね」

テーブルの上に組んだ両手を置き、バロールは語る。

「それを踏まえて……だからこそ君たちにも私を信用してほしいとか、そういうことは求めない。
 良いパートナーシップと言ったのは、友情だとか。信頼だとか。そういうものはこの際必要でない――ということさ。
 あくまで、使い使われる関係。ビジネスライクな関係でいいということ……。私はこの世界を救いたい。
 君たちが協力してくれるなら、私はそれに見合った対価を払う。たったそれだけのシンプルな関係さ。
 なんて言うと、また君たちの神経を逆なでしてしまうかもしれないけれど」

バロールはテーブルの上の明神のスマホに手を伸ばすと、それを明神の方へと押しやる。
それは、スマホ自体が目的ではないという意思表示だった。

87崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/05/01(水) 12:28:37
「スマートフォンは確かに我々の目的のひとつではある。その凄まじい力は知っているからね。
 でも、惜しむらくは我々アルフヘイムの住人にそれは使えないんだ。同様、ニヴルヘイムの住人にもね。
 それは君たち、異邦からこちらにやってきた者にしか使用できない。そういうものなんだ。
 だからこれは君たちが持っているのがいい。――それから、これは蛇足かもしれないけれど――」

虹色の双眸が、魔力を湛えた魔眼が明神を射抜く。

「善良かもしれなかった者たちを、無辜の存在を自分の願いのために殺したのは、君たちもじゃないのかい?」

それまでのおちゃらけた態度が鳴りを潜める。バロールは低い声でそう告げた。

「思い出してごらん。君たちにも心当たりがあるはずさ……クエスト達成のため、経験値獲得のため。
 トロフィーを揃えるため……君たちはこの世界のモンスターたちを数多く狩った。殺した。捕獲(キャプチャー)した。
 ブレイブ&モンスターズの世界のモンスターはけだものばかりじゃない。人間と変わらない文化を持つ者も多い……。
 その彼らを殺した君たちと、私の目的のために『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を召喚した私。
 そこに何の違いがあるのかな……?」

魔術師はまったく悪びれなかった。
しかし、バロールのこの物言いで重要なのは、勝手なのはお互いさまでしょう――なんて部分ではない。
“クエスト達成”“経験値獲得”“ブレイブ&モンスターズ”
バロールの言葉の端々に、ごく当然のように出てくる単語。そう――

『バロールはゲームのことを知っている』。

かつてリバティウムでイブリースが『ゲームの中のオレが世話になっている』と発言したように。
バロールもまた、ブレイブ&モンスターズをゲームとして認識しているらしかった。

「……な〜んちゃってね! 冗談冗談!」

しかし、バロールはすぐにそんな剣呑な気配を引っ込め、また陽気な調子で前言を翻した。

「心配しなくたっていいよ、君たちのやっていたのは正真正銘ただのゲーム! モンスターたちも単なるデータでしかない!
 何も罪悪感を覚えることなんてないからね! ただ――ここは違う。この場所は現実だ、君たちもすでに知る通り。
 ゲームオーバーはない。あるのは破滅だけだ、バックアップも当然ない。
 けれど『コンティニューはある』。いや、『あった』と言うべきかな」

組んでいた手指を解くと、バロールは軽く両手を広げた。

「とにかく……私の望みはただひとつ。『この世界を救いたい』それだけなんだ。
 そのためなら私は何だってする。非道なこともしよう。非人道的なことだってやる。これからもね、だって――
 それがこの私。『魔王』と呼ばれた、『創世の』バロールなのだから」

そう。
エンバースの予想したバロールの正体、その正解はパターンC。
『創世』であり『魔王』。『ブレイブ&モンスターズ』を識る、本来データにないアルメリア王国の宮廷魔術師。
それが、一行の目の前にいる男だった。

>言いたいことはこんだけだ。世界救い終わったら、死んでった連中を弔いに行けよバロール。
 そんときゃ、俺も付き合ってやるからよ

「ああ、いいとも。一人旅は苦手なんだ、というか一人ぼっちが好きじゃなくてね、賑やかなのがいい。
 君が付き合ってくれるなら願ってもない――すべてが終わった暁には、世界に詫びに行こう」

バロールはにっこり笑った。

>聞きたいことは3つ。まず、俺たちはどういう基準で喚ばれた?
 強い戦力が欲しいのなら、俺みてーな中級者未満を召喚する理由がねぇ。
 持ってるモンスターの強さで言えば俺は多分最下層、この王宮の兵士にもボコられるぜ

「残念ながら、我々には指定した人間を召喚する技術がない。
 ある程度の地域に範囲を絞って、そこでブレイブ&モンスターズをやっているプレイヤーを無作為に抽出した。
 ニヴルヘイムにはピックアップ召喚の技術があるらしいが……詳しいことは不明だ」

無作為の10連召喚と、ピックアップ召喚。
アルフヘイムとニヴルヘイムの召喚には、そんな違いがあるらしい。
だが、二つの世界を合わせても五指に入る魔術の使い手であるバロールをもってしても、ピックアップ召喚はできないのだという。

88崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/05/01(水) 12:29:50
>2つ目。王宮にたどり着いたブレイブは俺たちだけか?他に所在を把握してるブレイブはいねえのか。
 ガンダラでも、リバティウムでも、ブレイブを知ってる人間を何人か見た。
 運良く生き延びた野良ブレイブってのは、実際のところ結構な数居るんじゃねえのか

「いい質問だね。君たち以外に我々が所在を把握している『異邦の魔物使い(ブレイブ)』は何人かいる。
 次に君たちに頼みたいのは、まさにそれだ。
 君たちには、各所にいる『異邦の魔物使い(ブレイブ)』と合流してほしい。力を束ねて、侵食に対抗するために」

例え『異邦の魔物使い(ブレイブ)』が強大な力を持っていたとしても、今のままでは各個撃破されるだけだ。
アルフヘイムの各地にバラバラに点在している『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちを一箇所に集める必要がある。
そうすることで、初めてアルフヘイムは脅威に対抗できるようになるだろう。

「ここキングヒルから一番近いのは、アコライト城郭。
 君たちにも馴染みの場所なんじゃないのかな? ゲームでは必ず行く場所だそうだからね」

「……アコライト城郭……」

なゆたは小さく呟いた。
ストーリーモードでは序盤に位置する城塞都市だ。そこでプレイヤーは初めて十二階梯の継承者に遭遇する。
その化物じみた恐るべき強さと、城郭を攻める正体不明の敵――後にバロールの手勢と判明する――が印象的な場所である。
もし、バロールの依頼を受けるなら、次の行き先はそのアコライト城郭となるだろう。

>最後に――
>――この王宮、トイレある?

「ああ、これは気付かず失礼! お連れして差し上げなさい」

バロールが『水晶の乙女(クリスタルメイデン)』の一人に命じると、乙女は明神をトイレへと案内した。

>この世界が危機に陥っていて、救えるのがうちらブレイブや云うのはわかったわ
 ほれで具体的にうちらに何をさせたいのン?
 お宅さんらはうちらに対してできうる限りのことしてくれる云うけど、何ができますのン?

明神が離席すると、今度はみのりが口を開く。
バロールが目を細める。微笑んだようだった。

「先程も言った通り、まずはアコライト城郭へ向かってもらう。
 そこにいる『異邦の魔物使い(ブレイブ)』は強力なプレイヤーで、もう長いことアコライトを防衛している。
 だが、城郭の周囲はニヴルヘイムの勢力に包囲され、孤立無援の状態だ。
 いくら強くとも限界は訪れる。いつまでもはもたない。その前に、君たちに救出してほしいんだ」

>うちらブレイブの生命線はこの魔法の板なんやね
 これについてどのくらい知ってますん?
 発動させるためにクリスタルが大量に必要、そう、それこそ万単位で必要やし?
 それに物は物
 壊れてしまう事もあるけど、うちらは使う事は出来ても修理とかは手間やし、そちらの方の援助も受けられるんですかいねえ?

「君たちと同程度の知識は持っている、と思ってくれて差し支えないよ。
 だから、話題が前後するがクリスタルもある程度支給できる。……普段の行動に差し支えない程度には、ね。
 君たちに対して何ができる? と問われれば、君たちのこれからするであろう旅と目的達成に対してバックアップができる。
 装備、ルピ、それからある程度のクリスタルとスペルカード……それらはこちらが用意しよう。
 魔法機関車も使ってくれていい。他にも、何か欲しいものがあるなら言ってもらえればできる限りは。
 ただ、スマートフォンの修理はできない。それに対しては……気を付けて、と言うしかない」

バロールはかぶりを振った。
遺品の回収をしているかどうかは不明だが、少なくとも修理などができる技術は持っていないらしい。
元より、スマートフォンを修理できるほど構造を理解していれば生み出すこともできる。
そうすれば、わざわざ『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を異界から召喚する必要もない。
仮に死んだ『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の遺品があったとしても、他の人間には使えないのだろう。

89崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/05/01(水) 12:31:09
>それで、うちらがアルフヘイムを救わなあかへん理由ってありますのン?

今まで、多くの会話をした。多くの質疑応答があった。
しかし。
みのりの投げかけたこの問いこそが、すべての本質であろう。

「それを説明するには、かつてこの世界に起こったこと。そして――君たちの世界に起こったことを説明しなければいけない」

バロールは頷いた。そしてもう一度紅茶を飲み、少しだけ深呼吸をすると、意を決したように口を開く。

「この世界と君たちの住む世界とは、お隣同士の世界なんだ。
 天文学的な距離はさておき――次元が隣接している、と言うべきか。
 この世界に来てから、夜に空を見上げたことはないかい?
 天気のいい夜には見えるはずさ……君たちの本来いるべき星がね。そう、私たちの世界は兄弟なんだ」

そう言って、バロールは空を見上げた。が、今は昼間なので星も月も、そして地球も見えない。

「あるとき、王宮占星院の導師がこの世界に小さな綻びを見つけた。
 ほんの小さな、直径1メートル程度の『穴』だ。……それがすべての始まりだった。
 王宮占星院は現地調査のため調査隊を組織し、穴を調べに行ったが、誰も帰ってこなかった。
 そう、誰も。誰ひとりだ……そして、穴の正体を掴みあぐねているうちに、それはどんどん大きくなっていった」

「……穴」

それはいったい何なのだろう。なゆたは眉間に皺を寄せた。
たんなる物理的な穴ということではないのだろう。魔術的なものだろうか? まるで想像がつかない。
バロールは続ける。

「穴はすべてを呑み込みながら、日に日に拡大していった。
 人を。家畜を。モンスターを。建造物を、村を、街を、国を、山を、湖を――何もかもを喰らいつくし、世界を侵すもの。
 それを王宮占星院は『侵食』と名付けた」

侵食はまったく正体不明の存在だった。
アルメリアの、否、アルフヘイムの知の最高峰である王宮占星院の導師たちをもってしても、その正体を掴めなかった。
そして、それを食い止める方法も。

「侵食によって失われるのは、目に見えるものだけじゃなかった。
 世界そのものの力とも言えるクリスタル、それもまた枯渇していった。
 お蔭でクリスタルを巡り、各国では諍いが絶えなくなった。戦争を起こす国もあったりでね。
 アルフヘイムはどんどん荒廃していった。いや、アルフヘイムだけじゃなく、ニヴルヘイムでも侵食は起こっていた。
 そんな折だ。私たち『十三階梯の継承者』が集められたのは――」

「……えっ? ち、ちょっと待って!
 それって、もしかして……」

思わず、なゆたは声を荒らげた。
バロールの語る話は、なゆたの知る物語とあまりによく似ている。
すなわち、『ブレイブ&モンスターズ!のストーリーモード』と。
なゆたの言いたいことをバロールも察したらしく、うん、と小さく答える。

「大賢者ローウェルの死をきっかけとして、私はニヴルヘイムへ渡った。
 鬣の王の首を手土産にね。それから魔王に変じて闇の世界を掌握し、ニヴルヘイムのために戦った。その結果――
 君たちに敗れ去った。正確には、君たちの操るモンスターたちに……かな。
 そう、君たちの知る『ブレイブ&モンスターズ』。そのシナリオは、その昔現実に起こったことなのさ」

なゆたたちがゲームとしてプレイしていた物語が、実は実際に起こった出来事をなぞるものだった。
そのことに、なゆたは衝撃を受けた。
だが、それならば。この場にいる『創世の』バロールはいったい何者なのだろう?
バロールは討伐され、世界には平和が戻ったはずだ。それに、この世界ではローウェルが存命なのも気になる。
ストーリーモードのシナリオが今いる世界の過去譚なのだとしたら、バロールと同じくローウェルも死んでいないとおかしい。

90崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/05/01(水) 12:35:03
そもそも、バロールの言葉が真実かどうかを裏付ける証拠など何もない。
しかし、本人は至って真面目に言葉を紡いでいる。
ライフエイクばりのとんでもない詐欺師なのか、それとも本気で突拍子ないホラ話を語る誇大妄想狂なのか――。

「君たちの知る物語は、そこでおしまいだろう?
 魔王の脅威を退け、アルフヘイムには平和が訪れました。めでたしめでたし……ってね。
 でも、『この世界』では物語はそれでは終わらなかった。それは滅亡のプレリュードでしかなかった」

ローウェルの死を契機にバロールが魔王となり、アルフヘイムへ侵攻を開始した、というのがストーリーモードの骨子だ。
そこに、侵食に関することは一切記述がなかった。従って魔王は単に世界征服が望みだと思われていた。
だが実際のところ、そこにはふたつの世界の熾烈な生存競争があったのだ。
 
「私が討伐されたことで闇の勢力は崩壊し、ニヴルヘイムという世界も消滅した。
 だが、侵食はその後も広がり続けた。アルフヘイムは消滅の危機に瀕し、誰ひとりそれを止められなかった。
 それでも、アルフヘイムの者たちは生き残らねばならなかった……生き残ることを願った。
 その結果――」

すう、と魔王が目を細める。
なゆたは寒気を覚え、我知らず自分の身体を自分で抱きしめていた。
自分が生き残るべき場所。周囲を見回してみて、一番先に目につくのは――

「そう。アルフヘイムの者たちは、君たちの世界へと侵攻を開始したんだ」

異世界の人間を召喚する方法があるのなら、自分たちが異世界へ行く方法も当然あるだろう。
自分たちの住まう世界の消滅に対して、アルフヘイムの者たちが取った手段は極めて簡単。
ニヴルヘイムを滅ぼしたように地球の人間も攻め滅ぼし、自分たちの居場所を確保する――。

「そんなバカな! そんなのデタラメよ!」

耐え切れず、ついになゆたは立ち上がってそう叫んだ。

「アルフヘイムの人間が、地球に攻め込んだ!? そんなことあるわけない!
 もしそれが事実だとしたら、どうしてわたしたちにはその記憶がないの!?
 わたしたちの住む世界が侵略されるなんて、どんなに小さな出来事だったとしてもニュースにならないわけないじゃない!」

「それにも理由がある。アルフヘイムの者が君たちの世界、地球に攻め入ったことで、地球は火の海に包まれた。
 地球の人々も当然、抵抗したからね。それは地球すべてを舞台とした戦争だった。
 だが……このままではアルフヘイムの者も、地球の者も滅ぶ。このルートは間違っている……。
 そう考えた者がいたんだ。そして、その人物が用いたのさ。『究極の魔法』をね」

「究極の……魔法……?」

「ああ。究極の魔法――名を『機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)』という」

バロールは軽く右手を空に掲げた。
しかし、バロールの語った突拍子もない物語と同様、機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)にも聞き覚えはないだろう。

「究極の魔法、機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)とは、時間遡行の魔法だった。
 この魔法によって、世界は元に戻った――侵食が発生したころまで時間が巻き戻った。
 死した者たちは蘇り、消滅した世界も元に戻った。だけど、なにも事態は好転していない。巻き戻っただけだ」

「それって、つまり……」

「当然、何も対策をしなければ同じことが繰り返される。再び世界は侵食に呑まれ、アルフヘイムの者たちは地球に攻め込む。
 君たちにも他人事じゃない、と言ったのは、つまりそういうことなんだ」

91崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/05/01(水) 12:37:29
「機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)は不完全な魔法だった。
 極端な話『とにかくある程度まで時間を元に戻せさえすれば、小さいことは知ったことじゃない』な代物だったんだ。
 時間は元に戻ったものの、その副産物として様々な歪みが――君たち風に言うとバグが生まれてしまった。
 私やイブリースがそうだ。本来『一巡目』の記憶は失われるはずが、それを持ったまま蘇生した」

機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)が完全に発動すれば、すべてが巻き戻る。
当然、その間に起こったことや見聞きしたもの、記憶も一切が消滅する――はずだった。
しかし、不完全な魔法であったがゆえの歪みで、一部の存在は前世の記憶が残ってしまった。
イブリースの言った『今度はこちらが勝つ』と言うのも、きっとこのことなのだろう。
また、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の中でブレモンの正式サービス開始時期にズレがあるのもこのバグが原因に違いない。
他にも、機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)の生み出したバグはあるかもしれなかった。

「私には『一巡目』の記憶がある。だから、もう同じ轍は踏まない。
 だが、私の力だけでは限界がある。よって君たちの力を借りたいんだ。
 君たちには、絶望を希望に変える力がある。未来を切り開く力がある――この世界の住人にはない力が。
 私のことをどう思ってくれてもいい。胡散臭い、ペテン師、偽善者、悪党……どう罵ってくれても。
 信用だってしてくれなくていい、私は魔王だ。罵倒の言葉なら言われ慣れているからね!
 信じてくれなんていくら言葉で言ったって、なんの意味もない。
 だから――私のこれからの行動を見て評価してくれればと思うよ」

もしも、これからバロールが『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を欺いたり、罠に嵌めようというそぶりを見せるなら。
今までの言葉を反故にするような仕草を見せたなら――そのときは逆らってくれていい。牙を剥いてもいい。
そう言っている。
言葉よりも、行動で。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちの信頼を勝ち得るようにしよう、と。

「この世界が崩壊すれば、地球も危機に瀕する。だから、君たちもただ地球に帰れさえすれば一件落着……とはならない。
 救ってもらわなければならないんだ、この世界を。
 侵食を食い止め、それに対処する方法を探さなければならない。でなければ――
 いつか、地球にも侵食は発生するだろう。そうなったらもう、本当におしまいだ」

そこまで言うと、バロールは小さく息をついた。
これで、あらかた言うことは言ったということらしい。

「私の伝えたいことはこのくらいかな。他に質問はあるかい?
 なければ客室に案内させよう。疲れただろ? 今日はゆっくり休んでほしい。
 明日になったら、アコライト城郭へ向かうためのミーティングだ。忙しくなるからね」

バロールは踵を返して、庭園から立ち去ろうとした。
しかし。

「……バロールさん!」

その背中に、なゆたが声をかける。
一拍の間を置いて、バロールは振り返った。

「何かな?」

「……ひとつだけ。最後にひとつだけ、質問を……いいえ、お願いをしてもいいですか?」

「お願い? もちろん。何なりと」

微笑を湛え、バロールが虹色の魔眼でなゆたを見つめる。
なゆたはほんの少しだけ深く息を吸い込むと、まっすぐにバロールの魔眼を見つめ返し、

「じゃあ、誓ってください。あなたは本当に、この世界と地球と。ふたつの世界の平和と幸福を願ってるって」

そう告げた。

92崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/05/01(水) 12:39:05
「誓いだって?」

さすがに予想外だったのか、バロールは虹色の双眸を瞬かせた。

そんなものに一体なんの意味があるのか。涼しい顔で綺麗ごとを並べ立てる悪人など世間には腐るほどいる。
しかし、なゆたにとっては大事なことだった。
なゆたは真っ直ぐにバロールを見つめ続けている。

「いいとも、誓おう。……何に対して誓えばいいかな? 神? でも、私は魔術師だから神には仕え――」

「ううん、神に対してじゃない。もっと別のものに誓ってください」

「わかった。それは?」

「……あなたの良心に」

冗談で言っているわけではない。なゆたは大真面目だった。
どんな悪党も、いかなる詐欺師も。
自分の心だけは、欺くことはできないのだから。
バロールは『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちの前で右手を胸に添えると、目を閉じた。
そして、よく通る涼やかな声で言葉を紡ぐ。

「私、『創世の』バロールは、いついかなるときも……全ての世界の安寧と平和を願っている。――我が良心に誓って」

かつて、いや今なお魔王の力と記憶を有する、喪われた『十三階梯の継承者』が、そうはっきりと宣誓する。
その光景に、なゆたは満足そうに頷いた。
束の間の討論会は終わった。あとは、水晶の乙女に導かれて各々用意された客室に行くだけ――
のはず、だった。

ドシャアッ!

>ぐはっ!

突然、空から大男が降ってきた。

「ひょっ!?」

思わず変な声が漏れた。よくよく今日は予想外のことばかり起こる日である。
素早く飛び退いたので事なきを得たが、ガーデンテーブルとティーセットはメチャクチャになってしまった。
バロールも戸惑いの表情を浮かべている。ということはバロールの演出でもないのだろう。
そうこうしている間に男は立ち上がり、やや距離を離すと落ち着いた様子で喋り始めた。

>突然のお茶会失礼しました、私は決して怪しい者ではありません
>失礼ながら今まで貴方達の話を全部を聞かせていただきました、自分の立場を知る為とはいえ盗み聞きしていたことをどうかお許しください
>このスマホを見ればご理解頂けると思うのですが、僕も貴方達と同じ『異邦の魔物使い(ブレイブ)』です

「……???」

なゆたは首を傾げた。
確かに、スマホを持っているということは『異邦の魔物使い(ブレイブ)』なのだろう。服装もいかにもファンタジーらしくない。
しかし、それなら自分たちと同じようにバロールに把握されていて然るべきではないのか?

>一週間か・・・二週間か前にこの城に飛ばされてしまったのです、不審者と間違われていた私は今まで投獄されていました
>今から証拠をお見せします・・・召喚を

自分が疑われているということを察したのか、男はすぐにスマホをタップして召喚を始めた。
現れたのは、ウェルシュ・コトカリス。コーギーに犬用鎧を着せた、見た目通りのネタキャラである。
エイプリルフールにジョーク企画として実装されたが、見事に滑ったというある意味伝説のモンスターだ。

93崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/05/01(水) 12:42:01
>ニャー

薔薇園を包む重苦しい沈黙。それを打ち破るかのように、部長が鳴いた。
なゆたはぷるぷると肩を震わせた。そして、次の瞬間――

「ふおおおおおおおおおお!!! か〜わ〜い〜い〜〜〜〜〜っ!!!」

ばっ! と素早く部長の傍に駆け寄り、跪いてその頭を嫌というほど撫でた。
なゆたは自他共に認めるスライムマニアであるが、別にスライムにしか興味がないというわけではない。
年頃の女の子が全般そうであるように、基本かわいいものには目がないのである。
コーギーの愛くるしい顔立ちや短い脚、ぷりぷりのお尻などはなゆたの大好物だ。
『本尊を傷つけられたりしたら困る』と父親がペット禁止令を出したため、実家の寺では犬猫は飼えない。
なゆたが一見無害なぷるぷるのスライムに傾倒したのは、ペット禁止令を出された反動なのかもしれなかった。

『ぽよっ! ぽよぽよっ、ぽよよ〜っ!』

ポヨリンも部長の周りを嬉しそうにぴょんぴょん跳ねている。
カワイイモノ繋がりで仲間ができた! と認識したのかもしれない。

>こんな事言われても無理なことは十分承知の上ですが・・・僕を信じてください

男は慇懃に頭を下げた。そして、判決を待つ被告のように直立不動になった。
突然空から降ってきた挙句、自分を信じろとのたまう正体不明の大男。
先程バロールと『信用、信頼は無用』云々という話をしていたのとは正反対の流れだ。
……しかし。

「オッケー! 信じましょう!」

部長の頭を撫でながら、なゆたはイイ笑顔で空いた方の手を突き出し、ぐっ! と親指を立ててサムズアップした。
彼を信じるに足る要素は全くない。全くないが――ただひとつ。唯一。

『連れているモンスターがかわいい』

それだけで、なゆたにとっては充分なのだった。かわいいは正義である。

「うっそぉ……二週間前? そんな昔に? よりによってこの王宮に? なんで気付かなかったんだ私……」

バロールが額に手を添えてショックを受けている。
相変わらずとぼけた物言いだが、これがこの人物の紛れもない素であるらしい。
ゲームの中で遭遇したときは既に人外になっており、ザ・悪魔! のような外貌をしていた上、さして会話もなかった。
従ってバロール本人のパーソナリティは不明のままだったのだが、意外なものである。

「わたしはなゆた。崇月院なゆた……なゆって呼んでくれればいいよ。あなたは?
 ……どうかな、みんな。この人にも仲間になってもらうっていうのは?
 さっきの話にもあったけど、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を集めなきゃ。仲間はひとりでも多い方がいいもの」

仲間たちを振り返り、そう提案する。
元々なゆたは社交的な性格だ。友達も仲間も多ければ多いほどいい、と思っている。
元いた世界でも生徒会の副会長を務め、名前だけのお飾りの生徒会長に代わって生徒会を纏め上げていたのだ。
基本的に性善説の信者で、話せば分かるのお気楽気質だということもある。
男の誠実そうな態度も好もしい。この人は信用してもいい、と直感が告げている。
そして――



そんなニューカマーへの好感度と反比例して、なゆたのエンバースキライ度は上がっていくのだった。


【質問タイム終了。ジョンのことは仲間として迎え入れたい方向。】

94カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/05/03(金) 00:17:04
>「ああ、よく知っているとも……おかえりカザハ、カケル。ううん、違うな……今は初めましてと言うべきかな。
 まぁいいさ、どっちでも! とにかく会えて嬉しいよ、また……じゃない、どうか力を貸してほしい」

“おかえり”――その言葉に一瞬思考停止する。
カザハの“知ってるかもしれないけど”という前置きは、飽くまでもここに呼び出したブレイブの一人として、ということ。
しかし、それどころではなくまるで旧知の仲のように知っているような物言い。
それ以後も、言葉の端々にそれが感じられる。
“君たちふたりにその必要はない”“ 君は転生じゃなくて混線”

――もしかしたら、ボク達の世界はこっちなのかもしれないね

リバティウムを発つ夜の、カザハの言葉が思い出されたが
なんとなくそうなのかもしれないと思ってみるのと、実際に信憑性の高い情報が出て来るのは全く違う。
カザハも突然のことですぐには切り込めなかったのだろう、
その間に、今はまだ言うべき時ではないという雰囲気で話題は次に移ってしまった。
それはそうと、世界を救えば帰還を望む者は帰還させてもらえ、永住を望む者は永住させてもらえるらしい。
全員が帰る気満々だと思っているなゆたちゃんだが、どっちにしろ世界を救えばいいのなら
その部分を巡って対立する必要はないわけで、とりあえず不安要素が一つ減った。

続いてバロールは、ローウェルがどこにいるのかといったエンバースの質問にはどこにいるのか分からないと答え、
ローウェルからの言付けについても、本当に分からないという様子を見せた。
(ほぼ同時にパーティー加入したエンバースさんがローウェルからそんな伝言を受け取ったとは思えないのでおそらくこの質問自体引っ掛け)

>「ま……いずれにしても、我が師がそう言っていたというのなら願ったりだ。私は私のすべきことをしよう。
 徘徊老人のことは、今はいいさ。どこにいるのかなんて、考えたところで仕方ないからね。
 聖灰たちには指示を出しているみたいだし、師は師で侵食に対していろいろ考えているんだと思うが――」

「ふーん、ローウェルさん、どうして居場所を明かさないんだろうね。
敵対勢力に狙われたらいけないからとか……?」

続いて、ビジネスライクなタイプかと思っていた明神さんが感情を爆発させる。
爆発するとしたら直球熱血のなゆたちゃんか変化球熱血のエンバースさんあたりだと思っていたので、これは意外だった。
尤も、わざと激しい態度を取る事で相手の反応を見ている、という可能性もある。
そして、本心にせよ作戦にせよ、それはバロールから重要な情報を引き出すこととなった。
この人は、ゲームとしてのブレイブ&モンスターズの存在を知っているのだ。
皆が地球でやっていたブレモンはただのゲームだが、ここは現実の異世界だということを語るバロール。
しかしなゆたハウスやみのりハウスがあったことを考えると、全くの無関係ではないのだろう。
謎は深まるばかりだ。

95カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/05/03(金) 00:18:22
>「とにかく……私の望みはただひとつ。『この世界を救いたい』それだけなんだ。
 そのためなら私は何だってする。非道なこともしよう。非人道的なことだってやる。これからもね、だって――
 それがこの私。『魔王』と呼ばれた、『創世の』バロールなのだから」

「魔王!? はいいとして……“呼ばれた”ってどういうこと!?」

バロールがあっさりと自分は魔王だと認めたのも驚きだが、ここはゲームのブレモンより過去の時間軸のはず。
しかし、魔王と”呼ばれた”と過去形で言った。

>「言いたいことはこんだけだ。世界救い終わったら、死んでった連中を弔いに行けよバロール。
 そんときゃ、俺も付き合ってやるからよ」

世界を救って帰還するなら、弔いに行くときには彼はこの世界にはもういないはず。
もしかして、明神さんも永住する気でいる――?
その後明神さんはブレイブの選定基準や他のブレイブについて質問し、話はアコライトを防衛しているブレイブ救出の依頼へとつながっていく。

>「ここキングヒルから一番近いのは、アコライト城郭。
 君たちにも馴染みの場所なんじゃないのかな? ゲームでは必ず行く場所だそうだからね」
>「……アコライト城郭……」

次の依頼と、出来る限りこれからの旅をバックアップをするというところまで話が進んだところで、
みのりさんがそもそもの本質に切り込む質問を投げかけた。

>「それで、うちらがアルフヘイムを救わなあかへん理由ってありますのン?」

>「それを説明するには、かつてこの世界に起こったこと。そして――君たちの世界に起こったことを説明しなければいけない」

バロールは、こちらの世界と地球の関係性と、それらの世界にかつて起こったことを語り始めた。

>「大賢者ローウェルの死をきっかけとして、私はニヴルヘイムへ渡った。
 鬣の王の首を手土産にね。それから魔王に変じて闇の世界を掌握し、ニヴルヘイムのために戦った。その結果――
 君たちに敗れ去った。正確には、君たちの操るモンスターたちに……かな。
 そう、君たちの知る『ブレイブ&モンスターズ』。そのシナリオは、その昔現実に起こったことなのさ」

「昔……? じゃあここはゲームの本編よりも未来ってこと?
でもローウェルさん生きてるし過去っぽいんだけど……!?」

皆混乱しているようだが、バロールはとりあえず説明を続ける。
結局のところアルフヘイムとニヴルヘイムの争いは浸食により領土が減っていったことによる陣取り合戦で、
ニヴルヘイムを倒したところで浸食は止まらず、一時しのぎにしかならなかったとのこと。
そして追い詰められたアルフヘイムが打って出た手段は――

96カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/05/03(金) 00:19:33
>「そう。アルフヘイムの者たちは、君たちの世界へと侵攻を開始したんだ」

>「そんなバカな! そんなのデタラメよ!」

そんなはずはないと食ってかかるなゆたちゃんに対しての答えは、驚くべき内容だった。

>「究極の魔法、機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)とは、時間遡行の魔法だった。
 この魔法によって、世界は元に戻った――侵食が発生したころまで時間が巻き戻った。
 死した者たちは蘇り、消滅した世界も元に戻った。だけど、なにも事態は好転していない。巻き戻っただけだ」

この世界はゲームのブレモンの未来であり過去でもある―― 一度巻き戻された過去ということらしい。

>「この世界が崩壊すれば、地球も危機に瀕する。だから、君たちもただ地球に帰れさえすれば一件落着……とはならない。
 救ってもらわなければならないんだ、この世界を。
 侵食を食い止め、それに対処する方法を探さなければならない。でなければ――
 いつか、地球にも侵食は発生するだろう。そうなったらもう、本当におしまいだ」

「つまり……ニヴルヘイムを倒しても何の解決にもならない……
どうにかして浸食を止めないと全部の世界が崩壊するってわけだね。
……あれ? イブリースさんも前の記憶があるなら争ってないで協力すれば……出来るならとっくにやってるか」

カザハは両陣営の有力者に以前の記憶が持つ者がいるにも拘わらず性懲りも無くまた陣取り合戦している状況に疑問を持つも、
他の人は以前の記憶は無いわけだしまあ色々あるのだろうと一人で納得したりしていた。

>「私の伝えたいことはこのくらいかな。他に質問はあるかい?
 なければ客室に案内させよう。疲れただろ? 今日はゆっくり休んでほしい。
 明日になったら、アコライト城郭へ向かうためのミーティングだ。忙しくなるからね」

そう言って去っていこうとするバロールをなゆたちゃんが呼び止め、一つの誓いを立てさせた。

>「私、『創世の』バロールは、いついかなるときも……全ての世界の安寧と平和を願っている。――我が良心に誓って」

「バロールさん……なんかボク達のこと昔から知ってるみたいだし……信じてみるよ!
その件についてはまたの機会に教えてね!」

そんなちょっとシリアスな雰囲気で会合が終わろうとした、その時だった。

97カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/05/03(金) 00:20:21
>「ぐはっ!」

突然男性が降ってきて、テーブルセットは滅茶苦茶。男性は妙に堂々と自己紹介を始めた。

>「突然のお茶会失礼しました、私は決して怪しい者ではありません」
>「失礼ながら今まで貴方達の話を全部を聞かせていただきました、自分の立場を知る為とはいえ盗み聞きしていたことをどうかお許しください。」
>「このスマホを見ればご理解頂けると思うのですが、僕も貴方達と同じ『異邦の魔物使い(ブレイブ)』です」
>「一週間か・・・二週間か前にこの城に飛ばされてしまったのです、不審者と間違われていた私は今まで投獄されていました」

「他のブレイブ案外近くにいた―――ッ!
しかもたまたまドンピシャで城に召喚されたばっかりに不審者扱いで投獄って酷くない!?
普通召喚されて荒野に放り出される方がおかしいよね!?」

>「今から証拠をお見せします・・・召喚を」

すると、『部長』というネームプレートを付けた鎧を着たコーギーが現れた。
どうでもいいけどあの部長の意味は部活の部長だろうか、会社の役職名の部長だろうか。

>「ウェルシュ・コトカリスです、ブレモン初のエイプリルフールで実装されたモンスターの
 スマホを見ていただければ限定スペルカードもあります・・・逆に言うと僕はそれしかもっていませんが」

>「ニャー」

聞き間違いでなければ今確かにニャ―と鳴いた気がする――犬なのに。

>「ふおおおおおおおおおお!!! か〜わ〜い〜い〜〜〜〜〜っ!!!」

なゆたちゃんは部長に駆け寄って撫でまくり――

「あっははははははは! コトカリスで犬でニャーで部長って!」

一方のカザハはというと、このネタモンスターが妙にツボにはまったらしく、笑い転げていた。

>「こんな事言われても無理なことは十分承知の上ですが・・・僕を信じてください」
>「オッケー! 信じましょう!」

信じてくださいと訴える男性を、なゆたちゃんはあっさり信じた。
多分いや絶対モンスターがかわいいからだ。

98カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/05/03(金) 00:21:36
>「うっそぉ……二週間前? そんな昔に? よりによってこの王宮に? なんで気付かなかったんだ私……」

バロールさんはブレイブが召喚されたにも拘わらず気付かずにいつのまにやら投獄されていたことに狼狽えていた。
まあお城って広いし組織内部で伝達が行き渡ってないことなんてザラにあるしそういうこともあるよ。多分。

>「わたしはなゆた。崇月院なゆた……なゆって呼んでくれればいいよ。あなたは?
 ……どうかな、みんな。この人にも仲間になってもらうっていうのは?
 さっきの話にもあったけど、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を集めなきゃ。仲間はひとりでも多い方がいいもの」

「賛成! この人きっと悪い人じゃないよ。だってこんなネタモンスター連れた悪役なんて絵にならないじゃん!
ボクはカザハ、見ての通り人間じゃないけどよろしくね」

文字通り突然降って湧いた男性のパーティー入りを提案するなゆたちゃんに、カザハもまたモンスターが面白いというよく分からない理由で賛成する。
新顔のインパクト抜群の登場とネタモンスター召喚により、いつの間にやらシリアスな雰囲気はどこかに吹っ飛んでしまっていた。

「あ、あと人間じゃないといえばもう一人ここに闇の狩人みたいな人がいるけど怖がらなくていいよ、いい人だから!」

もはやパーティー入り前提の気分になってそうなカザハは、次は君の番、とばかりにエンバースさんに自己紹介を促す。
(もちろんこの時の私たちは、この新顔の好感度の反動を食らったがために、なゆたちゃんのエンバースさん嫌い度数が急上昇していたことなど、知る由もない)

99embers ◆5WH73DXszU:2019/05/08(水) 22:19:56
【炎の向こう(Ⅰ)】


「■■■■。このマルグリットとかいうイケメン、何度挑んでも勝てないぞ。どうなってる」

気が付けば――焼死体は記憶の中にいた。
蛍光灯の真白い光に眩む視界/その奥から聞こえる声。
懐かしい声だ。かつて愛した――今も愛している者の声。

「……確かにそいつは面倒なやつとして有名だが、それは初見殺しが煩わしいって意味だ。
 注意すべきはセイレーンの子守唄だけだろ。『ナイトヴェイル』が何度も負ける訳がない」

「いや、あらゆる手を尽くしているんだが、どうしても一手足りない。知恵を貸してくれ」

「冗談はよせって。ナイトヴェイルなら、マルグリットくらいオート戦闘でも勝てる……
 ……ちょっと待て。そいつの頭にくっついてる、ヒラヒラした布切れは一体なんだ?」

体が勝手に動く――己の意思で動かす事は叶わない。
これは記憶なのだ。起こらなかった事は起こせない。
悪戯な笑みを浮かべる過去に触れる事は、出来ない。
どれほど愛おしいと、取り戻したいと願っていても。

「これか?これはリボンと言うんだ。かわいいだろう?」

「悪かった。その布切れの正式名称が聞きたい訳じゃない。
 何の為にそんなものを装備させてるのか、その意図を尋ねてるんだ。
 異教避けの鉄頭巾はどうした?城郭の道中で拾える、あの露骨なお助け装備だ」

「ああ、あれなら捨てたよ。今後に有効な装備だとは分かっていたが、あまりにも見た目がよくない。
 私のオウルにも、こんな装備を無理矢理着せられるなんてあんまりだと、泣きつかれてしまってね」

「呪いの子守唄で何度も殺されるのはあんまりだって、喰らいつかれるのも、そう遠くないと思うぜ」

「だからそうなる前に、知恵を貸してくれと言っているのさ」

ぱちぱちと響く音/近づく炎の息遣い。
炎が芽吹き/燃え広がり/全てを塗り潰していく。
ここは記憶の中――起きた事しか、起こってくれない。

100embers ◆5WH73DXszU:2019/05/08(水) 22:21:08
【炎の向こう(Ⅱ)】

「……子守唄と言っても、ゲーム的にはただの魔法攻撃だ。
 ナイトヴェイルの『消灯(ムーンレス)』なら回避出来ないか?」

「もう試した。回避は可能だったが、5ターンでセイレーンを倒すには火力が足りない」

「スペルの併用は……試してない訳ないか。やっぱり、そのリボンを装備してたんじゃ……
 ……いや、待てよ。異教避けを装備しないのは、見た目が気に入らないからなんだよな?」

「ああ、そうとも」

「それなら話は早い。俺が見た目も性能も悪くない装備を譲ってやるよ。それで解決だ」

「いいや……それじゃ駄目だ」

「なんだと?返答はともかく理由(ワケ)を……いや、いい。
 聞かなくても分かる。俺のセンスが信用出来ないんだな?」

「それもある……が、一番の理由はそうじゃない」

「じゃあ、どうして」

「決まってる――贈り物をするなら、モンスターじゃなくて私に宛ててくれないと」

「……なるほど、大した誘導尋問だ」

「もっとかわいく誘った方が、好みだったかな?」

「……いや、そういう訳じゃない」

「なら、よかった」

浮かぶ最愛の微笑みは、もう炎に紛れて、殆ど見えなかった。



そして視界の全てが焼却されて――気付けば焼死体は現実へと連れ戻されていた。
目の前には小悪魔の笑み――認めたくはない/だが僅かに見える最愛の面影。
幻覚を見ていたなど知られる訳にはいかない/だが動揺を隠し切れない。

「……は、はは。かわいいだって?それだけか?拍子抜けさせないでくれよ――」

狼狽えながらも、焼死体は可能な限り平静を保ち、皮肉を紡いだ。

101embers ◆5WH73DXszU:2019/05/08(水) 22:29:36
【アシェン・ファーネス(Ⅰ)】


『え? そうなの? どこでそんな話を聞いたんだい? ご老人に会った……んじゃないよね?
 おかしいなあ。私がここにいることを彼が知っていても変ではないけど、そんなことを言うとは思えないんだけど……?』

焼死体の問いに対するバロールのリアクションは、例えるならばこうだ。
一見すると、枕詞に馬鹿を付けてもいいくらい、正直な返答。
つまり――焼死体の目論見は外れたと言える。

『ま……いずれにしても、我が師がそう言っていたというのなら願ったりだ。私は私のすべきことをしよう。
  徘徊老人のことは、今はいいさ。どこにいるのかなんて、考えたところで仕方ないからね。
  聖灰たちには指示を出しているみたいだし、師は師で侵食に対していろいろ考えているんだと思うが――』

元々、バロールの悪意/嘘が露見する事に一点張りした分の悪い賭け。
不発に終わった事は問題ではない/一度限りしか打てない手ではない。

――それよりも気がかりなのはローウェルだ。
王宮もバロールも大賢者の動向を捕捉出来ていない。意思疎通も連携も取っていない。
なのに王宮が召喚した『異邦の魔物使い(ブレイブ)』には、ローウェルからのクエストが送られてきた。
呑気な事を言ってる場合か、第一階梯。考えようによっては――お前達、大賢者に一手先を行かれてるんじゃないのか。

『頭湧いてんのかテメーらは――』
『そうだよ。私が殺した――』

倫理的な話に興味はない/そんな感性は一周目で失った。

『とにかく……私の望みはただひとつ。『この世界を救いたい』それだけなんだ。
 そのためなら私は何だってする。非道なこともしよう。非人道的なことだってやる。これからもね、だって――
 それがこの私。『魔王』と呼ばれた、『創世の』バロールなのだから』

「……なんだと?」

神経を火花が辿るスピードよりも、なお疾く、黒焦げた右手がコートへ潜る。
溶け落ちた直剣の柄を力強く掴む/だが抜きはしない――まだ。
魔王を自称しようと、宮廷魔術師である事は変わらない。
先手を取ってしまえば王国を敵に回す事になる。
だからこその告白――不快が、灰と募る。

『それで、うちらがアルフヘイムを救わなあかへん理由ってありますのン?』
『それを説明するには、かつてこの世界に起こったこと。そして――』

焼死体は構えを保持/バロールから視線を逸らさない。
真偽不明の話に興味はない/一周目では最後まで利用され続けた。
絶対に信用出来るのは、嘘だけだ――悪意なら、ただ斬り捨てるだけでいい。

『そう。アルフヘイムの者たちは、君たちの世界へと侵攻を開始したんだ』
『そんなバカな! そんなのデタラメよ!』

「……馬鹿馬鹿しい。素直にこう言ったらどうなんだ。
 俺達に対する貴重なアドバンテージを捨てるつもりはないってな」

右手をコートの内から引き抜く/それは敵意の喪失を意味しない。
逆だ/我慢の限界――殺しはしないが、鼻血くらいは拝んでやる。
凶暴な足取り/胸ぐらに狙いを定めた左手――赤火を散らす双眸。
怒り/アンデッドの様相を剥き出しに、バロールへと詰め寄り――

102embers ◆5WH73DXszU:2019/05/08(水) 22:31:15
【アシェン・ファーネス(Ⅱ)】

『究極の魔法、機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)とは、時間遡行の魔法だった。
 この魔法によって、世界は元に戻った――侵食が発生したころまで時間が巻き戻った。
 死した者たちは蘇り、消滅した世界も元に戻った。だけど、なにも事態は好転していない。巻き戻っただけだ』

「……待て、今なんて言った?時間を……巻き戻した?」

思わず、足を止めた/興味などなかったはずの言葉を聞き返す。

『機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)は不完全な魔法だった――』

焼死体はずっとこう思っていた――自分は一度死に、遥か時の果てに蘇った。
だがバロールの言葉が真実ならば、それは思い違いだった事になる。
ここは一周目の未来ではなく、過去。だとすれば――







そして不意に――少なくとも焼死体にとっては――音が響いた。
暴力的な破壊に伴う重低音/陶器が割れて四散する高音。
気付けば、焼死体は溶け落ちた直剣を抜いていた。
抜いた瞬間を自覚していない/無我の反応。
つまり――今の今まで、呆けていた。

103embers ◆5WH73DXszU:2019/05/08(水) 22:33:44
【アシェン・ファーネス(Ⅲ)】

――何をやってるんだ、俺は。よりにもよってあんな戯言に惑わされるなんて。

『突然のお茶会失礼しました、私は決して怪しい者ではありません』

「……いいや、悪いがどう見たってお前は不審者だ」

己の風体を完全に棚に上げた焼死体の一言。
対峙する落下系タフガイ――上着のポケットに右手を突っ込む。

『失礼ながら今まで貴方達の話を全部を聞かせていただきました、自分の立場を知る為とはいえ盗み聞きしていたことをどうかお許しください』

見ようによっては不意を突いた“抜き打ち”の所作――だが焼死体は踏み留まった。
呆けていた反動で過剰に焦りはしたが、よくよく見てみれば服装が明らかに現代的。

『このスマホを見ればご理解頂けると思うのですが、僕も貴方達と同じ『異邦の魔物使い(ブレイブ)』です』
『一週間か・・・二週間か前にこの城に飛ばされてしまったのです、不審者と間違われていた私は今まで投獄されていました』

「……おい、バロール。まさかそんな事がこの国のあちこちで起きてたり、しないよな」

『今から証拠をお見せします・・・召喚を』

瞬く魔力の光/描き出される小動物の輪郭。

『ウェルシュ・コトカリスです、ブレモン初のエイプリルフールで実装されたモンスターの
 スマホを見ていただければ限定スペルカードもあります・・・逆に言うと僕はそれしかもっていませんが』

「……悪いが、スマホを足元に置いてくれ。ヒヒイロ・マイマイみたいに、ゆっくりとだ。
 念の為、あんたの言ってる事が本当か、確認を取ってから改めて……」

『ニャー』
「ふおおおおおおおおおお!!! か〜わ〜い〜い〜〜〜〜〜っ!!!」

「……おい、何をしてる」

『こんな事言われても無理なことは十分承知の上ですが・・・僕を信じてください」』
『オッケー! 信じましょう!』

「おい、何を言ってる!別にそいつを信じるなとは言わない!
 だがそれにしたって、もっと踏むべき段取りがもあるだろ!」

『わたしはなゆた。崇月院なゆた……なゆって呼んでくれればいいよ。あなたは?
 ……どうかな、みんな。この人にも仲間になってもらうっていうのは?
 さっきの話にもあったけど、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を集めなきゃ。仲間はひとりでも多い方がいいもの』

『賛成! この人きっと悪い人じゃないよ。だってこんなネタモンスター連れた悪役なんて絵にならないじゃん!
 ボクはカザハ、見ての通り人間じゃないけどよろしくね』

「なんだ……こいつら一体何を言ってるんだ……?駄目だ、俺にはパリピの言動は理解出来ない……」

104embers ◆5WH73DXszU:2019/05/08(水) 22:39:33
【アシェン・ファーネス(Ⅳ)】

『あ、あと人間じゃないといえばもう一人ここに闇の狩人みたいな人がいるけど怖がらなくていいよ、いい人だから!』

明朗/親しげ――焼死体へと水を向けるカザハ。

「……やめろ」

しかし、焼死体の反応は――今までになく冷淡。
赤火の眼光の奥で、暗く/青い/疑心の炎が一筋、揺れた。

――カザハとバロールの間には、何か無言のコンセンサスがある。
精霊なんて、言ってしまえばマジカル使役動物だ。
そんな奴を……信用する訳にはいかない。

「俺は……いい人なんかじゃない」

もし裏切られたら――また辛い思いをする事になる。
バッドエンド由来のマインドセットは、灰のように脆い。
そこに燻る信頼の残り火も同じだ。容易く掻き消える。
背中を刺す刃の冷たさを思い出せば――いとも容易く。

「……エンバースだ。本当の名前は忘れた。見ての通り、アンデッドだ。
 この世界に連れて来られて、一度死んでる。あんたも気をつけるんだ。
 俺はどうせ……こんな体だ。出来る限り守るつもりではいるけど……」

[落ち物タフガイ/ジョン・アデル]に向き直り、自己紹介。
カザハの無邪気な笑顔を直視しかねての、逃避行動。
信じたい/裏切られたくない――相反する精神作用。
灰のように脆く/冷えた心では――向き合えない。

「……PTリーダーがこんな調子じゃあな」

批判/呆れ/皮肉――世界を疑い、厭い続ける内に、その身へ焦げ付いた悪癖。
その何気ない一言が、再び大いなる不興を招く可能性など――考えもしなかった。

105明神 ◆9EasXbvg42:2019/05/12(日) 23:17:20
俺のぶち撒けた怒りに、バロールは暫く押し黙っていた。
正論で相手叩きのめすのってすげー気持ち良いな……クセになりそう。
しかしこれじゃダメだ。レスバトルの妙味は圧倒的劣勢を屁理屈で覆すことにこそある。
誇り高きクソコテ、逆張りおじさんことうんちぶりぶり大明神の名が廃っちまうぜ。

お?どうしたバロール君??反論が聞こえないなぁ???
俺はこのまま正論マンとしてレスバトルに勝利を収めても良いんだが??

>「そうだよ。私が殺した」

少しばかりの沈黙を経て、バロールはそう呟いた。
眉一つ動かさない、ばつの悪さすら感じさせない、平静とした返答。

>「私のしたことに対して、緊急避難であるとか。これもまた正義だとか。そんなことを言うつもりは毛頭ないよ。

クソが……開き直ってんじゃねえぞこの野郎。
そこはお小水垂れながら涙目で敗走するところだろうが。
お前は今この場でぶっ殺されたって文句は言えねえんだぜ。
それが可能かどうかはこの際置いとくけどよ。

>「スマートフォンは確かに我々の目的のひとつではある。その凄まじい力は知っているからね。
 でも、惜しむらくは我々アルフヘイムの住人にそれは使えないんだ。同様、ニヴルヘイムの住人にもね。
 それは君たち、異邦からこちらにやってきた者にしか使用できない。そういうものなんだ。
 だからこれは君たちが持っているのがいい。

スマホ単品での鹵獲は目的じゃない……と。バロールは言明した。
それが真実なのか、それとも油断を誘う虚偽なのか、俺に判断する術はない。
こんな時にカテ公が居てくれりゃ――いや、あいつはそもそもバロールの側か。

重要なのは、この世界に「スマホを扱う技術がない」って部分。
これを明示された以上、今後俺たちのスマホが紛失しようが破損しようが、まともな支援は見込めないってことだ。
そして多分、スマホに関しては嘘ではあるまい。スマホとブレイブはセット運用の希少なものなんだろう。
イブリース君がわざわざミハエルとタブレットを両方回収して行ったくらいだからな。

>――それから、これは蛇足かもしれないけれど――」

バロールの双眸が、極彩色の虹彩が、俺を見据える。

>「善良かもしれなかった者たちを、無辜の存在を自分の願いのために殺したのは、君たちもじゃないのかい?」

「なんだとぉ……」

モンスターを、敵対MOBを、『狩り』と銘打って殺し回ったのは俺たちとて同じ。
バロールはそう言った。俺は到底、承服できなかった。
確かにソシャゲの性質上、プレイヤーは何度もクエストを周回プレイする。
俺たちの生み出した亡骸の数は、拉致されたブレイブの数の比じゃないだろう。

でも、ゲームだろ!?俺たちが殺したのは、システム上のエネミーデータに過ぎないはずだ。
生きてる人間を誘拐してきて見殺しにしてきたお前らアルフヘイムとは違うだろ!?

……だけど、絶対にそうじゃないとは言い切れなかった。
アルフヘイムにはなゆたハウスがある。石油御殿がある。プレイヤーの建築物が確かに存在する。
つまり、俺たちがこの世界に来る前から、ゲーム内での行動がアルフヘイムに影響を与えていたのだ。

プレイヤーが作った家がこの世界にあるのなら……プレイヤーが殺した犠牲もまた、存在していてもおかしくない。
ブレモンにおける敵キャラはモンスターだけじゃない。
アルメリアと敵対する国の兵士や将校、野盗に雇われの冒険者――"人間"も居る。
もしも俺たちがゲーム内で倒したキャラクターの一つ一つが、この世界に息づく命なのだとしたら。
云百、いや云千にものぼる命を、俺たちはこの手で奪ってきたことになる。

106明神 ◆9EasXbvg42:2019/05/12(日) 23:17:57
>「……な〜んちゃってね! 冗談冗談!」

バロールはすぐに剣呑な気配を収め、前言を撤回した。
だが、それが本当に単なる気休めでしかないことを、俺は痛烈に実感した。

そして、聞き捨てならない情報はもう一つ。
こいつは知っている。俺たちが、『ブレイブ&モンスターズ』のプレイヤーであることを。
この世界をそっくりそのまま再現したゲームが存在してることを、知っている。
イブリースと同じように……!

>「とにかく……私の望みはただひとつ。『この世界を救いたい』それだけなんだ。
 そのためなら私は何だってする。非道なこともしよう。非人道的なことだってやる。これからもね、だって――
 それがこの私。『魔王』と呼ばれた、『創世の』バロールなのだから」

だとすれば、こいつは一体なんなんだ?
シナリオの結末について、バロールは理解している。
つまり……バロールがアルフヘイムを裏切って、魔王として君臨していることを。
自分の末路を知っていて、それでもなおアルメリアで王宮魔術師なんてやってる理由はなんだ?

>「ああ、いいとも。一人旅は苦手なんだ、というか一人ぼっちが好きじゃなくてね、賑やかなのがいい。
 君が付き合ってくれるなら願ってもない――すべてが終わった暁には、世界に詫びに行こう」

情報の洪水を処理しきれないまま、話は前へと進んでいく。
俺の提示した質問に対し、バロールは丁寧に答えていった。

>「残念ながら、我々には指定した人間を召喚する技術がない。

アルフヘイムの召喚は、やはり無作為抽出。強いプレイヤーを選んだわけじゃないらしい。
ある程度の地域、ってのが気になるな。今んとこ俺たちは全員日本人だ。

俺は名古屋、石油王は京都、なゆたちゃんと真ちゃんは湘南。カザハ君は……たぶん鳥取。
鳥取だよな?日本一の砂場あるって言ってたもんな?島根か鳥取のどっちかだろ、うん。
いずれにせよ、大都市圏ってくくりもなけりゃ、地理的にもまとまりがない。

もうすっかり忘れ去ってた設定だけど、ブレモンには位置情報を利用した拡張現実の要素もある。
狩場の豊富さやレア敵のPOPポイントなんかで、都市部とド田舎じゃそもそもプレイしやすさが違うのだ。
当然、ゲーム内資産やプレイヤーとしての強さにも格差がある。
もちろん運営によるバランス調整はあるにせよ、基本的に都会のプレイヤーの方が強いことは確か。
召喚する地域を絞れるのなら、東京及び関東圏を選択しない理由がないわけだ。

絞った地域ってのはおそらく国単位……。
そしてバロールは、少なくとも国の区別がつく程度には、俺たちの世界のことを知っている。
世界チャンピオンはドイツ出身だけど、プレイヤーの層の厚さではやっぱ日本が強いからな。

同時に、召喚範囲を国でくくったのは、バロールなりの気遣いもあるのかもしれない。
言語は翻訳できるにせよ、風習やら価値観の違いやら、国が隔てるものは多い。
この世界で他のブレイブと合流した時に、同じ国の人間の方が連携はとりやすいだろう。
まぁそれがバロールを信用する理由になるかっつうと、ぴくちりなりゃしねーけどよ。

>「いい質問だね。君たち以外に我々が所在を把握している『異邦の魔物使い(ブレイブ)』は何人かいる。
 次に君たちに頼みたいのは、まさにそれだ。
 君たちには、各所にいる『異邦の魔物使い(ブレイブ)』と合流してほしい。力を束ねて、侵食に対抗するために」

「結局おつかいクエストかよ!やっぱおめーはローウェルの弟子だぜ、バロール!」

すげえシームレスに次のクエストフラグが立って俺は憤慨より先に脱帽の念に襲われた。
あーあーそゆことね。同じ国の人間を喚んだ理由ってこれかよ。
バロール自身やよくわからん外人が会いに行くより、同じ日本人の方が野良ブレイブの警戒も解きやすい。
実際そういう目論見があったかどうかはわかんねえけど、結果的に功を奏しちまってんのが癪に触るぜ。

107明神 ◆9EasXbvg42:2019/05/12(日) 23:18:42
>「ここキングヒルから一番近いのは、アコライト城郭。
 君たちにも馴染みの場所なんじゃないのかな? ゲームでは必ず行く場所だそうだからね」

「そーだな。終盤でおめーとおめーの愉快な仲間たちが更地にしちまったけどな」

アコライト城郭。
王都から少し離れた位置にある、アルメリア王国の外郭都市――軍事拠点だ。
アルメリアを諸外国からの侵略や領地内の蛮族から守る鎮守の要であり、
本編における対ニブルヘイム戦線の最前線にもなっている。

プレイヤー(≒冒険者)はギルドからの依頼でこのアコライト城郭へと赴き、
そこで十二階梯の継承者、『聖灰の』マルグリットと運命の邂逅を果たすことになる。
クソみたいなデバフのハメ殺しかましてくるイケメンに、奴の駆る聖灰式のサモン――
後にフォーラムを騒がす不死者バグも相まって、非常に印象深い場所だ。

アコライトかぁ。俺あすこにあんま良い思い出ないんだよな。
大人気キャラのマルグリットと初遭遇する場所だけあって、プレイヤーからの人気も高い。
だもんだから、聖地巡礼とか何とかでキャイキャイ騒ぐパリピ共の集会所みたいになってんだよ。

昔一度ひやかしついでにMPKしに行ったら、マル様親衛隊なる連中にベチボコにされた記憶がある。
あいつらマジ容赦ねえの。俺の死体スクショしてフォーラムに貼り出しやがって。
お陰様でしばらく俺が顔出す度にクソコラされたキャラの死体写真が連投されてまことに居辛かった。
何が親衛隊だよ。画面の向こうのお前らと違って俺あいつと楽しくお喋りしたからな!
八割がた何言ってっかわかんなかったけれども!

ほんでそろそろ僕のお腹が限界なんですけれど、おトイレどこですか?

>「ああ、これは気付かず失礼! お連れして差し上げなさい」

バロールは思い出したようにメイドさんを呼んだ。
物言わぬ魔物のメイドさんは付いてこいと言わんばかりに顎をしゃくる。
なんか冷たくない?俺、来賓なんですけお!まぁお前らの上司に喧嘩売っちゃったけどさぁ!

メイドさんに案内されて俺は便所へ行く。
おお……さすがアルメリアの王宮、便所もすげえ瀟洒な作りだ。
なんか金箔で切り貼りされた壁紙に、草原みたいにふわふわのカーペット。
俺ほんとにここでうんちして良いのかな……?

「冷たっ……だからなんで便座が大理石なんだよ!」

魔法機関車の時もそうだったけどさぁ!みんなこんな冷たい便座で用足してんの?
マジで?バロールも?マルグリットも?ウッソだぁ。もしかしてイケメンは排泄しないのか?
連れションもせずにどうやってコミュニケーションとってんだあいつら。

……そういやスルーしてたけど、当たり前のようにこの便所水洗なのな。
バロールの庭園にもちゃんと水が引かれてたし、水道インフラはしっかり通ってるのか。
もしかしたらこういうのも、喚ばれたブレイブが導入した技術なのかもな。
俺たちの知らないところで現代知識無双とかそういうのがあったのかもしれん。

閑話休題、無事にトイレへダンクシュートを決めた俺が庭園に戻ると、
石油王の質問にバロールが答えている最中だった。

>「それで、うちらがアルフヘイムを救わなあかへん理由ってありますのン?」

……それな。マジでそれな。
問答無用で拉致られたことはこの際置いておこう。いや捨て置けねえけど、それは本題じゃない。

バロールは俺たちに、『他人事じゃない』と言った。
十二階梯にバロールを加えた、戦力的には十二分のアルフヘイムが、それでもなおブレイブに頼る理由。
俺たちが、この世界を救わなきゃならない、のっぴきならない事情があるはずだ。

108明神 ◆9EasXbvg42:2019/05/12(日) 23:19:14
>「それを説明するには、かつてこの世界に起こったこと。そして――君たちの世界に起こったことを説明しなければいけない」

そこからバロールの語った内容は、もう完全に俺の理解を越えていた。
本当に、マジで理解を超越してたので、奴の語るところを把握出来てたか自信がない。
それでも、述懐をかいつまむとこうだ。

この世界は、一巡している。
いや、この世界だけじゃない。アルフヘイムも、ニブルヘイムも、俺たちの世界も、一度滅びを迎えている。

"魔王"バロールを倒し果せても、世界は救われなかった。
世界を虚無に飲み込む侵食は停止することなく、やがてアルフヘイムさえも消滅することになる。
追い詰められた人々は、逃げ場を別の世界に求めた。
アルフヘイムでも、ニブルヘイムでもない、第三の世界――俺たちの世界に。

アルフヘイムはニブルヘイムを滅ぼしたあと、今度は地球を相手に戦争をおっぱじめたのだ。
防衛ではなく……移住するための、侵略戦争を。

>「アルフヘイムの人間が、地球に攻め込んだ!? そんなことあるわけない!
 もしそれが事実だとしたら、どうしてわたしたちにはその記憶がないの!?

事実を受け入れられないなゆたちゃんがかぶりを振って叫ぶ。
俺だっておんなじ気持ちだった。頭を抱えたくなった。ていうか抱えた。
こいつは一体いつの話をしてるんだ。そんなもんニュースでだって聞いたことねえぞ。

>「究極の魔法、機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)とは、時間遡行の魔法だった。
 この魔法によって、世界は元に戻った――侵食が発生したころまで時間が巻き戻った。
 死した者たちは蘇り、消滅した世界も元に戻った。だけど、なにも事態は好転していない。巻き戻っただけだ」

機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)。
それは、戯曲におけるご都合主義、唐突に現れて事態を全部解決していくスーパーマンを指す言葉だ。
もうどうしようもない窮地に、なんか奇跡が起こっていい感じに物語を終わらせる、創作上の禁忌。
冗句にしたって笑いどころがわかんねえ。

世界が滅びを迎えて、それこそ奇跡が起こった。時間遡行なんていう、超弩級のどんでん返し。
そして、滅んだ3つの世界は、時間を巻き戻して再構成された。
バッドエンドを迎えたシナリオをリセットして、全ては振り出しに戻った……はずだった。

>「機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)は不完全な魔法だった。
 極端な話『とにかくある程度まで時間を元に戻せさえすれば、小さいことは知ったことじゃない』な代物だったんだ。
 時間は元に戻ったものの、その副産物として様々な歪みが――君たち風に言うとバグが生まれてしまった。
 私やイブリースがそうだ。本来『一巡目』の記憶は失われるはずが、それを持ったまま蘇生した」

だが、時間遡行は仕様通りに動作しなかった。
ソースコード……呪文だか魔法陣だかに、予期しないバグが混入してたんだろう。
俺もソフト開発の会社に勤めてたからよく分かる。弊社のプログラマ達の阿鼻叫喚が聞こえるようだ。

あるいは。その不完全な記憶消去すら、魔法の仕様内だったのかもしれない。
デウスエクスマキナが誤作動し、本来巻き戻るはずの記憶を維持して蘇った連中がいた。
記憶を持って、問題の根本的な解決にあたろうとする者たちがいた。
それがバロールであり、イブリースであり、おそらくは――

「――真ちゃんやしめじちゃんの見たっつう、白昼夢。アレもそういうことなのか」

タイラントと対峙した時、真ちゃんは直感的にあれを敵だと認識した。
しめじちゃんもまた一度死んだ折に、リバティウムの過去と結末を幻視していた。

いつだったか、旅の途中で真ちゃんから聞いたことがある。
あいつの見た白昼夢の内容。俺たちの世界に出現したタイラントと、それに蹂躙される街並み。
自衛隊の戦闘機や攻撃機が何機も飛び交って、核が落ちて――それきりの、絶望的な夢。

109明神 ◆9EasXbvg42:2019/05/12(日) 23:19:56
仮に地球にブレモンのモンスター共が雪崩込んで来たとして、現代兵器で太刀打ち出来るだろうか。
ベルゼブブもバルログも、ミサイルが直撃すればそりゃ死ぬだろう。案外重機関銃くらいでも狩れるかもしれない。
でもタイラントやミドガルズオルムは無理だ。対空防御が完璧過ぎる。分厚い装甲は戦車砲でも貫徹不可能だろう。
それこそ、核兵器でも使わない限り、奴らは止まらない。世界は容易く滅ぶ――滅んだ。

>「私には『一巡目』の記憶がある。だから、もう同じ轍は踏まない。
 だが、私の力だけでは限界がある。よって君たちの力を借りたいんだ。

バロールの語る言葉は、荒唐無稽ではあるけれど、真に迫ったものがあった。
これが嘘だと、妄言だと、断じて切り捨ててしまうのは簡単だ。
だが避け得ない事実として、こいつにもイブリースにも、過去と未来の知識がある。
何より、同じ記憶が真ちゃんにもあるのだ。信じる理由は、それだけあれば十分だった。

>「この世界が崩壊すれば、地球も危機に瀕する。だから、君たちもただ地球に帰れさえすれば一件落着……とはならない。
 救ってもらわなければならないんだ、この世界を。
 侵食を食い止め、それに対処する方法を探さなければならない。でなければ――
 いつか、地球にも侵食は発生するだろう。そうなったらもう、本当におしまいだ」

「敵は……ニブルヘイムだけじゃないってことか。
 ゲームみたいに、シナリオに沿って敵を倒せば万事解決とは、いかなさそうだ」

>「つまり……ニヴルヘイムを倒しても何の解決にもならない……
 どうにかして浸食を止めないと全部の世界が崩壊するってわけだね。
 ……あれ? イブリースさんも前の記憶があるなら争ってないで協力すれば……出来るならとっくにやってるか」

「まぁ殺し合いしてた仲だし、色々遺恨もあるだろうしなぁ。
 敵同士だった奴らがそれまでのしがらみ全部捨てて、世界がやべーから手を取り合おうってなるかっつうと、
 やっぱ無理無理かたつむりなんじゃねえの?イブリース君とか頭超固そうだしよ」

物理的な意味じゃなくてね。いや物理的にも角めっちゃ生えてるし固そうだけども。
実際のところ、カザハ君の唱える呉越同舟論は、多分一番効果的だと俺も思う。
でもイブリースからすりゃたまったもんじゃねえよな。
一巡目に世界滅ぼしてきた連中が、今度は手を取り合って世界を救おうとか言われても納得いかねえだろ。
ただでさえアルフヘイムは地球にまで侵略ぶちかました戦犯野郎共なんだから。

「イブリースは『今度こそ勝つ』とか言ってやがった。少なくとも現段階では、協調路線のメはねえだろう。
 案外、アルフヘイムが先に滅べば侵食止まってニブルヘイムと地球は助かるかもしんねーしな」

バロールを揶揄するように、俺は憎まれ口を叩いた。
この期に及んで腹芸なんざ無意味だ。どうせ俺の考えなんざこいつは見透かしてるだろうしよ。

>「私の伝えたいことはこのくらいかな。他に質問はあるかい?
 なければ客室に案内させよう。疲れただろ? 今日はゆっくり休んでほしい。
 明日になったら、アコライト城郭へ向かうためのミーティングだ。忙しくなるからね」

俺の皮肉をさらりと受け流して、バロールは席を立つ。
腹立つほど典雅に場を辞そうとするその背中に、なゆたちゃんが声をかけた。

>「じゃあ、誓ってください。あなたは本当に、この世界と地球と。ふたつの世界の平和と幸福を願ってるって」
>「……あなたの良心に」

おいおいおい。バロール君面食らっちゃってるよ。ちょっとおもしれーな。
誓い。きっと、言葉だけの宣誓なんざ、何の保証にもなりやしない。こいつ裏切りの前科あるしな。
それこそ、お得意のおべんちゃらで煙に巻いて、腹の裡でエグい算段することだって出来るだろう。
なゆたちゃんの要請は、合理的に考えれば、まったくの無意味なんだろう。

だが。バロールは、十三階梯筆頭は、アルフヘイム最強の男は――かつての魔王は。
一笑に付されてもおかしくないなゆたちゃんの言葉に、襟元を正した。
右手を胸に当てて……宣誓する。

110明神 ◆9EasXbvg42:2019/05/12(日) 23:20:36
>「私、『創世の』バロールは、いついかなるときも……全ての世界の安寧と平和を願っている。――我が良心に誓って」

嘘偽りが容易くても。何の保証にもならなくても。
バロールのこの言葉だけは、真摯な真実であると、俺は信じたい。
なゆたちゃんの想いが、裏切られるようなことは……赦すまい。そう思った。

>「バロールさん……なんかボク達のこと昔から知ってるみたいだし……信じてみるよ!
  その件についてはまたの機会に教えてね!」

カザハ君はちょっと人のことあっさり信用しすぎだと思うけれども……。

「あ、バロール。なんかいい感じに話終わりそうなとこ悪いけど、俺も最後にいっこだけ質問いいか」

今度こそこの場を去ろうとしたバロールをさらに呼び止める。
何度も振り返らせてゴメンね!ざまぁ見やがれそのまま腰いわせろ!

「時間遡行のスーパー魔法、機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)のことだけどよ。
 唱えたのは誰だ?お前じゃないんだよな、お前はその時もうおっ死んでたんだから」

世界3つ分の時間を巻き戻すとか、イージス級の最上位スペルでも無理無理の無理だろう。
そしてそれはバロールにも行使できない。できるんならローウェルが死んだ時に使ってるはずだしな。

「んな超絶魔法を使える奴がお前の他に居るんなら、そいつに声かけんのが先じゃねえの?
 もし仮に侵食止めるのに失敗しても、もっかい時間巻き戻せればやり方変えてリトライできるしよ。
 いや、そもそも侵食発生より前に戻し直すことも出来るのか……?」

一方で、俺はなんだか嫌な予感がしていた。
バロールはコンティニューの存在を、『あった』と過去形で語った。
時間遡行魔法について語る中で、その術者について言及がなかったのは――

>「ぐはっ!」

まとまりかけた俺の思考は、知らない嗚咽じみた声とティーセットの破壊音に寸断された。
すわ何事かと振り向けば、なんかでけえ男がテーブルのあった場所で尻もちついている。
いやマジで何事だよ!そしてなんでメイドさんはティーセットぶっ壊してドヤ顔してんだよ!

「誰だよこのおっさん。バロール君?」

おもっきし不審者侵入してんじゃん。とバロールに目を向ければ、柄にもなく目を白黒させている。
つーことはこの闖入者はバロールにとっても想定外ってことか。
なおのことやべーじゃねえか!王宮の警備ガバガバすぎひん?

>「突然のお茶会失礼しました、私は決して怪しい者ではありません」
>「このスマホを見ればご理解頂けると思うのですが、僕も貴方達と同じ『異邦の魔物使い(ブレイブ)』です」

男はすっくと立ち上がると、スマホと共に諸手を上げて無抵抗をアピールする。
新手のブレイブだと?よく見りゃ確かにパーカーとジーンズ、この世界の人間じゃない。
もっとよく見りゃ、おっさんって歳でもねえな。俺と同年代くらいだ。
そしてさらによく見りゃ……金髪に、青い目。外人やん。外人やん!!!

「バロールお前、地域絞って召喚したとか言ってたじゃねーかよ!」

どっからどう見ても外人じゃんこいつ!絞った地域ってお前、地球全土とかじゃねえだろうな!
でもこの外人めっちゃ日本語うめーな……ミハエルみたいな翻訳されてる感もない。
本当に、日本語を喋ってるって感じだ。

だけど……バロールがマジに把握してない、日本以外から召喚されたブレイブだとすれば。
それこそミハエルみたく、ニブルヘイム側が召喚したブレイブってことにならねえか?
つまりは――敵だ。

111明神 ◆9EasXbvg42:2019/05/12(日) 23:21:31
>「今から証拠をお見せします・・・召喚を」

「ちょっ、ちょっと待てや!召喚すんな!スマホ置いてしゃがめ!」

俺の制止も虚しく外人はスマホを手繰る。
こいつはやべぇ――俺もまたスマホを抜こうとしたが、ポケットにない!
そうだった。スマホ置いてたテーブルはガラクタに成り下がり、スマホは遠くに転がってる。

ちら、とエンバースを見る。突然の闖入に呆けてた焼死体も、今は臨戦態勢だ。
頼りねえ肉盾だが、とにかく今はこいつの影に隠れるしかねえ。
果たせるかな、外人ブレイブのスマホから、モンスターが出現する――

>『ウェルシュ・コトカリスです、ブレモン初のエイプリルフールで実装されたモンスターの
 スマホを見ていただければ限定スペルカードもあります・・・逆に言うと僕はそれしかもっていませんが』

現れたのは、鎧を纏った小型犬。本当にただそれだけの、小型犬。
あ……ヤバくないやつだ。俺は瞬間的に理解した。
ウェルシュ・コトカリス。エイプリルフール企画で実装されたネタモンスターだ。
特徴は――イロモノ。犬の癖にニャーニャー鳴く、ブレモンで一番可愛いゴミ(褒め言葉)。

「あー、あー、なるほど……こいつも10連ガチャのハズレ枠かぁ……」

うわぁ。持ってる奴初めて見たわ。
持ってるだけじゃなくてパートナーとして連れてる奴も初めて見た。
なにせこのウェルシュ・コカトリス、課金モンスターの癖に本当に強みがない。
専用スペルがないとまともに攻撃できない関係上、デッキ構築にも大きな制限がかかる。
現環境の、スペルコンボで殴り合う戦術と驚くほど噛み合わないのだ。

見た目だけは本当に可愛らしいので、一日限定配信という希少性も相まって購入した奴は居る。
居るには居るが、どいつもこいつもそのあまりの弱さにハウスの置物にするのが大多数だ。

>「ふおおおおおおおおおお!!! か〜わ〜い〜い〜〜〜〜〜っ!!!」

魅了デバフ(仕様外)にアテられたなゆたちゃんがまず陥落した。

>「あっははははははは! コトカリスで犬でニャーで部長って!」

ネタ成分が直撃したカザハ君も陥落した。

>「……おい、何をしてる」

エンバースは……ドン引きしていた。だよねー!ワイトもそう思うざます!
まあ俺たち陰キャはね、モンスターのことステータスでしか見てない的な部分あるしね。
可愛いだけが取り柄のクソザコモンスターなんかお呼びじゃねーよ、ぺっ!

"部長"と書かれた名札をつけた小型犬が、なゆたちゃんに撫でられながらこちらを見る。
俺と視線が合ったのか、しばらくこちらを見つめて、小首を傾げた。

>「ニャー」

うっ……可愛い……。
いやいや、そんなあざといムーブにほだされる明神さんじゃありませんよ。
可愛さで言うたら俺のマゴットも大したもんですよ。
ほらこのつぶらな瞳!目は退化してっから瞳もクソもねーけどさ。

何がニャーだよ。マゴットだってそんくらいできるし!ししし!!!
なっ、ニャーって鳴いてみ?ニャーって。

「グニャフォォォォォ……!」

可愛くねぇ……。でも頑張ったね!ご褒美にヘブンナッツをあげよう!
最近こいつ腐肉よりナッツのほうが食いつき良いのよね。やっぱエンバースの説は正しかったわ。

112明神 ◆9EasXbvg42:2019/05/12(日) 23:22:49
>「こんな事言われても無理なことは十分承知の上ですが・・・僕を信じてください」

外人ブレイブはそう言って頭を下げる。……頭下げた?外人が?
なんやねんこいつ、何から何まで日本人ムーブが板に付きすぎやろ。

>「オッケー! 信じましょう!」

なゆたちゃんは親指を立てて即答した。

「ええ……?信じるのぉ?この流れでぇ?」

ハイパーチョロい女に成り下がったなゆたちゃんに、流石の俺もドン引きだ。

「嘘だろお前、信じられる要素ゼロじゃん!今のところ犬の散歩に来た謎外人じゃんこいつ!
 不審者と間違われたとか言ってたけど、どう見ても非の打ち所がない不審者だろ!」

>「うっそぉ……二週間前? そんな昔に? よりによってこの王宮に? なんで気付かなかったんだ私……」

「バロールお前マジ本当……なんぼなんでも報連相がガバガバすぎんだろ。
 もしかしてお前嫌われてない?メイドさんとかに。顎で使ってっからさぁ」

俺も会社の女の子に嫌……いやこの話はやめよう。やめよう!!!!!!!!
バロールがお茶に雑巾の絞り汁入れられようが俺の知ったことではない。

>「わたしはなゆた。崇月院なゆた……なゆって呼んでくれればいいよ。あなたは?
 ……どうかな、みんな。この人にも仲間になってもらうっていうのは?
 さっきの話にもあったけど、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を集めなきゃ。仲間はひとりでも多い方がいいもの」

「お前……お前エンバース仲間に入れる時あんだけ渋ってたの何だったの……。
 そういうのよくないと思うんですよ俺は。そりゃ見た目からしてあいつはやべー焼死体だけどさぁ。
 ほら人は見た目じゃないって言うだろ?もっと中身見てこ中身」

>「賛成! この人きっと悪い人じゃないよ。だってこんなネタモンスター連れた悪役なんて絵にならないじゃん!
 ボクはカザハ、見ての通り人間じゃないけどよろしくね」

「お前は見た目で判断しすぎだよ!!」

ぜーはー言いながら俺はどうにかこの状況に歯止めをかけんとする。
むべなるかな、陽キャ組のパワーはいかんともしがたく、話がどんどん進んでいく。

>「なんだ……こいつら一体何を言ってるんだ……?駄目だ、俺にはパリピの言動は理解出来ない……」

「やべえぞ焼死体。パーティの陽キャ濃度がどんどん上がろうとしている。
 このままじゃこいつらそのうち川辺でバーベキューとかやり出すぞ。
 俺たちチーム陰キャにとってこいつは死活問題じゃねえか?俺たち陰キャにとっては!」

俺はどうにかパリピの光に対抗すべく、闇の眷属同士で結束を図らんとする。
エンバースが陰キャかどうか知らんがこいつなにかと陰気くせえし多分陰キャだろ。

>「あ、あと人間じゃないといえばもう一人ここに闇の狩人みたいな人がいるけど怖がらなくていいよ、いい人だから!」

「やめろ!陰キャを日向に引きずり出そうとするんじゃない!日光に当たって溶けたらどーする!
 俺たち闇の者はなぁ、部屋の隅っこで口開けて雨と埃だけ食ってかろうじて生きてんのがお似合いなんだよ!」

>「俺は……いい人なんかじゃない」

エンバースがなんかまた陰鬱モードに入ってる。
良いよ良いよ!この調子でガンガン闇の力強めてこ。世界を闇で染め上げてやろうぜ!

113明神 ◆9EasXbvg42:2019/05/12(日) 23:23:57
>「……エンバースだ。本当の名前は忘れた。見ての通り、アンデッドだ。
 この世界に連れて来られて、一度死んでる。あんたも気をつけるんだ。
 俺はどうせ……こんな体だ。出来る限り守るつもりではいるけど……」

陰ムーブしつつも、エンバースは観念したように名乗った。
だが奴もさる者、ただ折れるだけで終わるような傑物ではない。
最後にボソっと口に出した言葉を、俺は聞き逃さなかった。

>「……PTリーダーがこんな調子じゃあな」

それは紛れもなく、なゆたちゃんに向けた皮肉であり、抗議だった。

「お、お、お、おめーはよぉ!考えがよぉ!陰険なんだよ!!
 なんでそんなひどいこと言うの!?また激おこの荒波が到来するだろーが!」

こいつしっかり根に持ってやがんな!やっぱおめーは生まれついての陰キャだよ!
せっかくお前、なゆたちゃんが歩み寄ってリボンとかくれたのによぉ!
なんでまた火に油を注いじゃうんだよ!おめーなんか闇属性じゃねえ!この火属性がっ!!

「んー、んんんーーー……」

俺は唸りつつ外人の方を見る。目が合った。爽やかな笑みを向けられた。
クソがっ!真っ白い歯見せつけやがって!眩しいんじゃい!!
こんな正統派ナイスガイのいるパーティに居られるか!俺は自室に引き籠もらせてもらう!
自室とかねーからとりあえず石油御殿に部屋借りるね!ぼく龍哮琴と一緒に寝ゆー!

「……わかった。とりあえず暫定的に受け入れよう。戦力が欲しいってのは確かだ。
 俺は明神。真面目に仕事してる最中にこの世界に放り込まれた、哀れなブレイブさ。
 英語でブライトゴッドって呼んでも良いぜ、返事をするかは約束しかねるがな」

見るからに得体の知れない外人だが、まあ得体が知れないのはエンバースも同じだ。
ウェルシュ・コカトリス相手なら仮に戦闘になっても難なく打ち倒せる。
推定無罪ってことで、パーティに受け入れても問題ないと判断した。
なんとなく近づいたら握手を求められそうなので俺はサっと一歩下がった。

「ついでに、今後の方針も決めちまおう。俺は、バロールの依頼を受けるべきだと思う。
 このまま王宮でお茶しばいてても事態はなんも好転しない。動ける時に動くべきだ。
 俺たちが現状、ニブルヘイムに勝ってるのは……人手の多さだけだからな」

こいつはまだ憶測の域を出ないが、ニブルヘイムもまた、人手不足に喘いでいるはずだ。
ピックアップ召喚という仕様上、アルフヘイムみたいにブレイブの人数は揃えられない。
俺たちに敗北したミハエルを、ニブルヘイムから門つなげてまで回収しに来たのが良い証拠だ。

世界を隔てる『境界』を乗り越えるには、膨大なコスト……クリスタルが必要だ。
クリスタルが枯渇しつつあるこの世界では、ニブルヘイムにとってもかなり痛い出費となったはず。
それでもなお、他のニブルヘイム側のブレイブではなく、イブリース本人が出張って来た。
イブリースのレベルなら、越境で消費されるクリスタルは凄まじい数になるだろうに。

つまりニブルヘイムには、ミハエルの他にブレイブが居ない。
あるいは、回収に割けるほど人材に余裕がないと推測できる。

「それに、俺は興味がある。アコライトでずっと孤軍奮闘してきた、先輩ブレイブって奴によ。
 もしかしたら、バロールなんぞよりよっぽど為になる話が聞けるかもしれねえぞ」


【バロールに質問:デウスエクスマキナの術者はどこ行ったの?
 謎外人への対応:暫定的にパーティ受け入れ。自己紹介
 パーティに提案:アコライト城郭のブレイブ救出クエストに参加】

114五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/05/17(金) 00:01:48
>「この世界が崩壊すれば、地球も危機に瀕する。だから、君たちもただ地球に帰れさえすれば一件落着……とはならない。
> 救ってもらわなければならないんだ、この世界を。

「この世界が滅びるから生存をかけて地球に侵略する、いや、侵略し【た】ゆう事なんやねえ
なる程確かに他人事やあらへんわ
ほやったら召喚された協力者やのうて地球の代表として、この場であんたさんを倒してしまえば話早いんやあらへんの?
王様は随分耄碌しているようやし、あんたの首持って二ヴフレイムに行けば歴史は分岐されるやろうしなぁ」

バロールの話を大人しく聞いていたが、【侵略しない為に】という言にみのりが動いた
口から流れ出す言葉と共に裾から、袖から、大量の藁が溢れ出し庭園に広がっていく
その藁はみのりのパートナーモンスター、スケアクロウのイシュタルであり、眠りの荊を内包した工性防壁

スペルカードの使用の可否を確認するために事前に発動させた土壌改良(ファームリノベネーション)
からの荊の城(スリーピングビューティー)と品種改良(エボリューションブリード)のコンボである

地球では一般人であっても、この世界に召喚された時点で強力な力を奮う事の出来るブレイブである
アルフレイムが地球に侵攻するというのであれば、助けるのではなくここでとどめを刺してもそれを止められるのだから


だが、これはただの脅しでしかない

みのりは交渉において、脅しという手段を使ったことがなかった
脅しは相手がそれに屈しなければ交渉決裂、目的が達成できないという諸刃の剣なのだから
みのりは目的は必ず達成する
その為に必要なのは、脅しではなく警告
相手が従わなければ必ず実行し、その結果相手はみのりの要求に従わざる得なくなる

そういった人生を送ってきたみのりが、ブレイブの力を得た状態であっても脅しという手段を使ってしまった
それはバロールの返答があまりにも衝撃的であったことと、すぐに引っ込めはしたがその折に出した剣呑な雰囲気に気圧されたからだ
いや、正確に言えばその落差に
言っていることは問題ではない
リバティウムで10連ガチャで呼ばれたようなもの、と感じた時からその可能性は考えていたし、覚悟はできていた
それよりもバロールの垣間見せた剣呑とそれだけのものを即座に包み隠した笑顔を畏れたのだ

故に、脅しているみのりには後がない
バロールを倒す、と口に出しているが十三階梯筆頭であり魔王り宮廷魔術師を倒すことができるのか?
パズズを失い、初対面で相手の戦力分析もできていない状態で

バロールの反応いかんによっては戦わざる得なくなる
しかしみのりはたとえ勝てたとしても勝つわけには行けない立ち位置だ

そもそも一番最初にバロールは予防線を張っている
戦後元の世界に戻すことを約束し、こう続けた「その術は私の頭の中にある」と
すなわち地球に戻り為にもバロールを倒すわけにも倒させるわけにもいかなくなっているのだ
また、バロールと事を構えれば様々なサポートが受けられなくなる
流石にパズズが使えるレベルの支給は見込めないとしても、クリスタルやルピ、そして王の庇護という立場も消えるのだ

「うちの聞きたい事がわかってへんみたいやねえ
うちらは訳もわからんまま手駒としていいように使われたくない、言うてるんよ
信頼よりビジネス関係を構築したいのであれば、お使いやのうて戦略的勝利条件くらいは教えてぇな
浸食をどうしたら止められるのか、ブレイブにしかでけへん事を」

厳しい感情を乗せた言葉だが、微かに上ずってしまっている
手の震えは袖で隠せても、言葉までは隠しきれなかった

115五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/05/17(金) 00:07:53
そう、みのりは怯えている
戦う事に、命のかかる戦いに発展することに
故に即座に攻撃する事も、相手の反応を待つこともできなかった
バロールが答えやすいように言葉を砕き回答を誘導し引き出そうとしている

そんな思惑はバロールにも伝わったのだろうか
もしかするとみのりの内心を読み取っているのか、平然と変わらぬ会話を続ける

> 侵食を食い止め、それに対処する方法を探さなければならない。でなければ――
> いつか、地球にも侵食は発生するだろう。そうなったらもう、本当におしまいだ」

「……はぁ〜〜〜〜〜〜〜……大した御仁やわ」

大きなため息とともに周囲に広がっていたわらが逆流し、みのりの袖や裾に吸い込まれていった
突発的に「脅し」という手段に出てしまった以上、目的は情報の引き出しから拳の降ろしどころに変わっていたのだから
バロールがどういった回答をしても、こう反応せざる得なかった

> ……あれ? イブリースさんも前の記憶があるなら争ってないで協力すれば……出来るならとっくにやってるか」
> やっぱ無理無理かたつむりなんじゃねえの?イブリース君とか頭超固そうだしよ」

カザハと明神がアルフヘイムとニヴルヘイムの共闘路線について、その可能性のなさについて口にするが、みのりはそうは思っていない

「ほんな事もないんやないの?」と口を挟む

リバティウムでイブリースは「今度こそ勝つ」と言ったイブリース
それは敗北の記憶があるから
何の為に「今度は」勝つのか?
魔王バロールに捧げるために他ならないのだろうから

「バロールさんなぁ、『機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)』は不完全な言うたけど、それおかしない?」

時間を逆流させ全てを元通りにする
それに果たして意味があろうか?

記憶も何もかも遡行するのであれば、時間遡行をしたという事実を観測できない
そして巻き戻った地点から、同じように時間は進み同じように事態は起き、結局は同じ結末を繰り返すのみ

そんな無意味な事をしてなんになるというのか?
『機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)』は【巻き戻し】ではなく、【やり直し】魔法ではなかろうか?
故に一巡目を繰り返さないように記憶を保有した状態で戻るのは必然
不完全というのであれば、むしろ記憶を保有した状態の者が少なすぎると言ってよいはずだ

「バロールはんは自分が魔王でもある記憶があるんやろ?
ほやったらイブリースさんがどれだけ魔王バロールに心酔していたかも知っているはずやん?
イブリースさんは記憶の混濁があるようやし、さっさとあんたが魔王になって首輪付けてこればええんちゃうの?
一巡目の記憶があって、同じ轍を踏まない。そう云うんやったらさっそく行動を見せてほしいわぁ」

恐らくはカザハの言うように、できるならとっくにやっている、いや、やったのかもしれない
その上でこの状態なのだろうと予想はついていても、こうでも言わなければ降ろした拳の収まりが悪かったからだった

なゆたの「良心に誓って」と願える純真さに思わず毒気を抜かれてしまった事もあり、それ以上の言葉が出る事はなかった

しかし、そこで終わりではない
明神の言葉にハッと我に返る

そう、バロールは魔王としてプレイヤーに倒されている
機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)を唱えられないし、その時点で死んでいる
が、バロールは浸食から地球侵攻までの記憶がある
語り部がいる可能性もあるが、それにしては自分の体験のように語っている

これがどういうことか……思考が収束する前にそれは一人の闖入者にとって中断させられた

116五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/05/17(金) 00:13:41
投げ飛ばされたように転がり込んできたのはジョン・アデル
筋骨隆々な金髪白人男性
登場方法は突飛だがその立ち振る舞い言動は実に紳士的……場所がここでなければ、だが

1.2週間ほど前に「城」に飛ばされてきたブレイブだという
召喚したコトカリスでなゆたとカザハの心を鷲掴みにしていた

「灯台下暗しどころやあらへんけど、明神さんドンピシャやねえ」

他のブレイブの存在の確認をと言っていた明神の言葉が直後にこういった形で現れるとは
それに引き換え

「はぁ〜〜。それで?
魔王で宮廷魔術師で十三階梯筆頭やのに、聖灰さんや虚構さんとは違って師である大賢者ローエルから声のかからぬバロールはんに聞きたいんやけど
あんたらが召喚したブレイブの名簿とかあらへんの?
ニブルヘイムもブレイブ召喚できる以上、これから出会うブレイブが敵か味方かもわからず一々判別するの大変そうなんやけどなぁ?」

冷たい視線をバロールに送るのであった



>「……PTリーダーがこんな調子じゃあな」
「ほんま、気持ちはわかるけど諦めるしかあらへんわ〜
それよりも、スマホの件残念やったねえ」

苦笑いを浮かべながらエンバースの肩に手を置き慰める
それほど長い付き合いではないが、なゆたがああなっては止める術はないしそれは信頼に足る判断だと感じているからだ

そして差し出す藁人形

「まあいろいろ悩む事や戸惑う事もあるやろうけど、うちら一蓮托生やしこれもっといてぇな
トランシーバーみたいな機能があってな、これ首捻ると他の藁人形と通信できるんよ
後はダメージ一回肩代わりしてくれるよって、お守り代わりよ〜」

エンバースのマントの内側に半ば無理矢理押し込むようにして、去って行った
そしてみのりがやってきたのは部長と戯れるジョン、カザハ、なゆたの元へ

「ジョンさん1週間も牢屋に捕まってたやなんて災難やったねえ
なゆちゃんやカザハちゃんは人を見る目があるし、二人が信用できる云うんなら大丈夫やね
うちは五穀みのりよ〜
こちらお近づきのしるしにどうぞ〜」

そういってエンバースにしたと同じ説明をして藁人形を差し出して
それと共にカザハにも

「カザハちゃんは機動力高いし、これから単独行動する事もあるかもやしねえ
通信手段もっといてほしいから、カザハちゃんにもどうぞ〜」

バロールからクリスタル支援の確約を取り付けたことにより、藁人形を常時出していられるとの判断により行動に出たのだ

117五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/05/17(金) 00:15:47
こうしてエンバース、カザハ、ジョンの三人に藁人形を渡し微笑むのであった
勿論その微笑みの裏には、新顔三人への監視藁人形を押し付ける、という算段があるのだが
しかしそれより、みのりの微笑みに精彩がなくなっていることに気づくだろうか?

>「ついでに、今後の方針も決めちまおう。俺は、バロールの依頼を受けるべきだと思う。
> このまま王宮でお茶しばいてても事態はなんも好転しない。動ける時に動くべきだ。
> 俺たちが現状、ニブルヘイムに勝ってるのは……人手の多さだけだからな」

「ほ、ほうやねぇ。浸食の事結局何もわかってへんのやし
手探りで攻略していくしかないし、やれる事からやっていくしかあらへん……よ、ね」

明神の話しに答えるが、言葉が最後まで続かず崩れ落ちる

「あはは、堪忍なぁ〜立派な王宮で緊張して貧血になっちゃったみたいやわ〜
少し座らせてもらうわ〜」

助け起こされれば弱弱しこういうであろう
だが勿論それは嘘である

バロールとの対峙、これからの戦いの展望、浸食への対処
これらが、殺す覚悟はできていても、死ぬ覚悟も死なせる覚悟もできていないみのりの気力を削り対に立っていられないほどに消耗させた結果であった


【バロールの説明に満足していないものの了承】
【ジョン・エンバース・カザハにお守りとして藁人形を配布】
【精神的に消耗して立ち眩み】

118ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/05/17(金) 20:53:50
目を閉じ答えを待つ。
僕はここで死ぬのだろうか、まあ助からないだろうな。
こんな状況で信じるなんてあまりにも・・・

>「ふおおおおおおおおおお!!! か〜わ〜い〜い〜〜〜〜〜っ!!!」

え?。
目を開けると少女が部長に抱きついて吸っている。
吸っているのだ、文字通り。

>『ぽよっ! ぽよぽよっ、ぽよよ〜っ!』

なんかいっしょに某王道RPGでよくみかけそうなスライムが嬉しそうに部長の近くで跳ねている。

「え〜と・・・あの・・・僕どうしたら・・・?」

想像してた反応とは別の不意打ちに、がんばって使っていた敬語が外れてしまう。

>「オッケー! 信じましょう!」

「えっ」

なぜ?自分が言うのもなんだが、今の僕はどうみても不審者か不審者、つまり不審者なのだ。

「ごめん、自分で言うのもなんなんだけど本当にいいの?そりゃ僕は信じて貰えるのは非常に嬉しいんだけど・・・」

>『連れているモンスターがかわいい』

「それだけ・・・?」

緊張から開放されたのも束の間。
とても正気とは思えない彼女の言動にただただ困惑するしかできなかった。

>「うっそぉ……二週間前? そんな昔に? よりによってこの王宮に? なんで気付かなかったんだ私……」

「あはは・・・まさか不審者がブレイブだなんてだれも思わないでしょうからね・・・」

異世界において現代での常識は少し捨てたほうがいいかもしれない。
うんそうしよう!そもそも、考えるべき案件は別にある。

「ええっと・・・バロールさん。さっき言ってたデウスなんちゃらって事なんですけど・・・」

これが今考えるべき一番大事な事。
一度滅んだとか、記憶があるだとか、盗み聞くのではなくちゃんと詳細を聞きたい、地球にも被害が及ぶならなおさらだ。
しかしそれは部長を心行くまで堪能していた少女によって中断される。

>「わたしはなゆた。崇月院なゆた……なゆって呼んでくれればいいよ。あなたは?
 ……どうかな、みんな。この人にも仲間になってもらうっていうのは?
 さっきの話にもあったけど、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を集めなきゃ。仲間はひとりでも多い方がいいもの」

中断されてしまったがこちらも大事な話だ。
気にはなるものの、先ずは自分を信じてくれたこの子の為に、デウスなんちゃらより優先するべきだろう。

「分ったよ、なゆ。えーと・・敬語はもう外していいかな?実は結構疲れるんだ・・・慣れてはいるんだけど」

今まで序列が大事な世界にいた為それなりに気は使える・・・と思う。
けどなにか自分を偽ってる気がして好きではないのだ。

119ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/05/17(金) 20:54:34
>「賛成! この人きっと悪い人じゃないよ。だってこんなネタモンスター連れた悪役なんて絵にならないじゃん!
ボクはカザハ、見ての通り人間じゃないけどよろしくね」

妖精の彼?彼女?は僕の仲間入りに賛成してくれている。
やっぱり人間じゃないのか、先ほどの話を聞く限り僕と同じ世界から来てるらしいが・・・。
この世界に来る前の話は詮索しないほうがいいだろう。

「あぁ!よろしくカザハ!僕はジョン・アデル。ゲームの中の名前だけど実際の僕の名前なんだ!
 ジョンでもアデルでもあだ名でも好きな風に呼んでくれて構わない。これからよろしく!」

握手を交わす。
いつもなら抱擁するところだが、それで不審者として捕まった上におそらく2週間ほど牢屋にいたのだ。
衛生面的な・・・もちろん体を拭いたりはしてたけど・・・いろんな意味で今人に密着するのはよくない。

>「あ、あと人間じゃないといえばもう一人ここに闇の狩人みたいな人がいるけど怖がらなくていいよ、いい人だから!」

紹介された先にはゾンビ・・・もとい元人間であっただろう人物。
やっぱりどうみても焼け焦げたゾンビにしかみえないけど。

「僕はジョンアデ」

>「……やめろ」

「え」

>「俺は……いい人なんかじゃない」

この人は僕ではなくカザハに向けて言い放ったらしい、目線が僕ではなかった。
でもこのタイミングで言われたらひやっとしちゃうよ・・・。
ゾンビがこちらに目線を戻すと。

>「……エンバースだ。本当の名前は忘れた。見ての通り、アンデッドだ。
 この世界に連れて来られて、一度死んでる。あんたも気をつけるんだ。
 俺はどうせ……こんな体だ。出来る限り守るつもりではいるけど……」

「え・・・と・・・よろしく!エンバース。僕の名前はジョン・・・ってもう言わなくても分ってるか。
 こうみても僕は自衛官でね!そんじょそこらの奴には負けないよ!・・・あ〜でもさすがにモンスターは例外かな」

遠くでドヤ顔を決めてるメイドを見ながら苦笑い、さっきのは不意打ちだったが、全力で戦ってもたぶん勝てないだろう。
エンバースは挨拶しながらも、カザハに向けて冷たい視線を送り直す。
好きとか嫌いではなく、なんかこう・・・そもそもとして係わり合いになりたくない・・・という冷たい目だ。

いい人・・・?なのかな・・・?

120ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/05/17(金) 20:55:28
エンバースは自己紹介を終えると大きなため息をつく。

「・・・なにかやらかしちゃったかな?できる限りなおすから言ってくれれば――」

違うといわんばかりに首を横に振り

>「……PTリーダーがこんな調子じゃあな」

目線の先にはなゆの姿、なゆに向け露骨な批判的な態度を取るエンバース。
どうやら世界を救う勇者PTも人間関係には苦労しているらしい。

「僕が言うのもなんだけどエンバー」

>「お、お、お、おめーはよぉ!考えがよぉ!陰険なんだよ!!
 なんでそんなひどいこと言うの!?また激おこの荒波が到来するだろーが!」

横から大きな声で叫ぶ男が一人。
どうやら普段からなゆとエンバースはやらかしているらしい。
なにがあったのかは知らないが、取りあえず様子見したほうがいいのかも。

>「んー、んんんーーー……」

マンガで見るような腕を組み必死に考えている。
もしかしたらここにきて反対意見がでるのでは・・・?
とりあえず目が合ったので微笑んでおく。

>「……わかった。とりあえず暫定的に受け入れよう。戦力が欲しいってのは確かだ。
 俺は明神。真面目に仕事してる最中にこの世界に放り込まれた、哀れなブレイブさ。
 英語でブライトゴッドって呼んでも良いぜ、返事をするかは約束しかねるがな」

「ありがとう!もちろんそれでいい。これからの行動で信頼を得て見せるさ!これからよろしくブライトゴッド!」

とは思ったものの不安も当然あるわけで。
そんな気持ちをしってかしらずか、気づいたらもう一人の少女がいた。

>「ジョンさん1週間も牢屋に捕まってたやなんて災難やったねえ
なゆちゃんやカザハちゃんは人を見る目があるし、二人が信用できる云うんなら大丈夫やね
うちは五穀みのりよ〜
こちらお近づきのしるしにどうぞ〜」

「あぁ・・・これはどうもありがとうございます」

圧倒的な女性特有の強者オーラに反射的に敬語になってしまう。
明らかにこの少女のほうが年下なのだが・・・本能的に逆らえないというか・・・なんというか・・・。
カザハに話しかける為に挨拶もそこそこに離れていく彼女の背中を見ながら。

「彼女には逆らわないようにしよう・・・」

そう決めるのであった。

121ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/05/17(金) 20:57:41
>「ついでに、今後の方針も決めちまおう。俺は、バロールの依頼を受けるべきだと思う。
 このまま王宮でお茶しばいてても事態はなんも好転しない。動ける時に動くべきだ。
 俺たちが現状、ニブルヘイムに勝ってるのは……人手の多さだけだからな」

「取りあえず僕は良くわからないから・・・みんなに合わせるよ」

この世界を知らなくては、ストーリーを読んでいないからこそ、先入観にとらわれず世界を見よう。
そして救おう・・・この世界ではなく地球を。

>「ほ、ほうやねぇ。浸食の事結局何もわかってへんのやし
手探りで攻略していくしかないし、やれる事からやっていくしかあらへん……よ、ね」

そういいながらみのりさんがよろよろと崩れ落ちてしまう。

「大丈夫!?」

思わず抱きかかえてしまう形になってしまった。
ごめんたぶん臭いするよね、本当にごめん一週間以上牢屋暮らしを強制されてたからね、悪気はないの許して。

>「あはは、堪忍なぁ〜立派な王宮で緊張して貧血になっちゃったみたいやわ〜
少し座らせてもらうわ〜」

ふらついたみのりを椅子に座らせる。
椅子に座ると少し落ち着いたらしい。

「女性は自分の体を一番大事にしないとだめだよ・・・本当はこれ以上女性を戦場に立たせること自体、止めさせたいけど・・・
 それが無理な事だってのは、まだ新米の僕でもわかってる・・・でも」

どんな敵がいるかわからない以上、数、もとい使える能力が多いに越したことはないからだ、だからこそもっと負担を軽減させてあげたい。
じっとみのりの目をまっすぐ見る。

「僕の事は信用できないだろうけど・・・これからの行動で信用できる男だと、証明してみせるよ、だから。
 もし僕を信用してもいいと思う時が来たら、その時は・・・僕を頼ってほしい。」

何度もいうがこれが素なのだ。
素で女性は戦場に出るべきではない、守られる存在である、それができないならせめてそれを軽減してあげようという。
その考えを口に出しているに過ぎないのだ。

「あれなんか変な雰囲気・・・?」

なぜかこの場にいる全員からなんともいえない視線を感じる。
ハッ・・・!まさか。

「僕やっぱり臭う感じ!?ごめん!牢屋に長くいて着替える事もできなくて?!」

恥ずかしい、なんて恥ずかしいのだろう。
急いで全員から距離を取り。

「えと話終わってからでもいいので・・・着替えか洗濯か・・・後お風呂も・・・お願いできませんか?」

なんとも情けないお願いをするのだった。

122崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/05/23(木) 13:09:24
>ほやったら召喚された協力者やのうて地球の代表として、この場であんたさんを倒してしまえば話早いんやあらへんの?
 王様は随分耄碌しているようやし、あんたの首持って二ヴフレイムに行けば歴史は分岐されるやろうしなぁ

みのりが周到に準備していたスペルカードを発動させ、臨戦体勢に移行する。

「ちょっ!? み、みみみのりさんっ!?」

さすがにこの状況はなゆたにとっても予想外だった。
バロールが信用できるかわからない――というのはなゆたも同感だが、まさかみのりがここまで警戒心を抱いているとは。
いや、警戒心などという生易しいものではない。それはもう敵対心、殺意とさえ言ってもよかった。
しかし。

「勘違いしないでもらいたいな。地球に侵攻することを決定したのは私じゃない、アルフヘイムの総意だ。
 彼らが地球に攻め込む決定をしたころ、私も鬣の王もとっくに死んでいたのだからね。
 それとも、私の首を手土産にニヴルヘイムへと渡って――君が魔王になるかい? 『五穀豊穣』君……。
 かつて、私が鬣の王の首を持ってそうしたように。私の代わりに」

一触即発などという状況はとっくに過ぎている。
すでに明確な敵対行動を取られているというのに、バロールは相変わらず泰然とした表情を崩さない。
よほど肝が据わっているのか、それとも――

みのりの行動が虚仮脅しに過ぎないと看破しているのか。

>浸食をどうしたら止められるのか、ブレイブにしかでけへん事を

「生憎だけれど、現段階では何も確かなことは分かっていない。侵食の正体も。メカニズムも、どうすれば止められるのかも。
 私たちの立っている場所、ここがスタートラインだ。だから、一刻も早く我々は侵食に対する知識を得なければならない。
 もちろん、考えられることは無数にある。こうすればいいんじゃないかな? これは有効では? という作戦もね。
 ただ――今の状況では、それはどれも机上の空論、妄想、画餅に過ぎない。
 だからこそ、君たちに働いてほしいんだ。
 我々アルフヘイムの者たちでは、制約が厳しすぎてできないこと。動けないことが、君たちにはできる。
 君たちは私たちに課されている制約に囚われることなく、自由に行動することができるんだ。
 君たちを世界を救う希望と言ったのは、つまりそういうことなのさ」

>……はぁ〜〜〜〜〜〜〜……大した御仁やわ

「分かってもらえたかな? いやぁ、血の気の多いお嬢さんだなぁ! はっはっはっ!」

実力行使による激突は避けられたと、バロールが笑う。
しかし、みのりは舌鋒鋭くバロールの言葉に指摘を重ねる。

>バロールさんなぁ、『機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)』は不完全な言うたけど、それおかしない?

「うん……確かに。そこは私の説明が悪かったね、素直に誤りを認めよう。
 正しくは『時間をやり直す魔法』……か。過去へと立ち戻り、本来の望むべき未来へと軌道修正する魔法――。
 それならば、私やイブリースが記憶を持ち越して蘇ったのもバグではないのかもしれない。
 とはいえ、『機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)』にそれ以外のバグが多いのは変わらないけれどね」
 
>バロールはんは自分が魔王でもある記憶があるんやろ?
 ほやったらイブリースさんがどれだけ魔王バロールに心酔していたかも知っているはずやん?
 イブリースさんは記憶の混濁があるようやし、さっさとあんたが魔王になって首輪付けてこればええんちゃうの?
 一巡目の記憶があって、同じ轍を踏まない。そう云うんやったらさっそく行動を見せてほしいわぁ

「いい質問だね。……でも、私が魔王になるというのはそれこそ悪手だ。
 それでは一巡目と同じ末路を辿ることにしかならない。違うかい?
 それに、イブリースが私に従っていたのは忠義心からなんかじゃない。私ならニヴルヘイムを救えると踏んだからだ。 
 だが結果的に私は敗北し、ニヴルヘイムは滅びた。彼はその結末を知っている。
 希望に添えなかった私に従う理由は、今の彼にはないよ」

手指を組んでテーブルの上に乗せ、バロールは小さく息をついた。

123崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/05/23(木) 13:14:07
>バロールさん……なんかボク達のこと昔から知ってるみたいだし……信じてみるよ!
 その件についてはまたの機会に教えてね!

「ありがとう、カザハ。ああ、もちろん――君の素性についてはおいおい話すとしよう。
 もっとも、私が訳知り顔であれこれ説明するまでもなく……君自身が旅の中で思い出すかもしれないけれど」

うん、とバロールは一度頷く。
これでみんな納得してくれたか、と安堵するも、まだまだみのりは敵愾心を剥き出しにして、

>はぁ〜〜。それで?
魔王で宮廷魔術師で十三階梯筆頭やのに、聖灰さんや虚構さんとは違って師である大賢者ローウェルから声のかからぬバロールはんに聞きたいんやけど
 あんたらが召喚したブレイブの名簿とかあらへんの?
 ニブルヘイムもブレイブ召喚できる以上、これから出会うブレイブが敵か味方かもわからず一々判別するの大変そうなんやけどなぁ?

そんなことを言ってきた。
容赦なく言葉の棘を突き刺され、元魔王は胸を押さえてテーブルに突っ伏した。

「ぐはぁ!? き、傷つくなぁ……! そりゃ、私と師匠はお世辞にも仲がいいとは言えなかったけどさぁ……。
 と……ともかく、名簿という考えはなかったな。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』にまつわる一切は私ひとりでやるつもりだった。
 データは全部私の頭の中にある。他人に任せるつもりがない以上、名簿なんて作ったって意味がないからね。 
 ……とはいえ、今後はそれじゃ不具合の出ることもあるだろう。明日の出発までに作って、君たちに渡すことにするよ」

スペルカードを使っての脅しよりよっぽど効いている。
そんなバロールに、さらに明神が疑問を投げかける。

>時間遡行のスーパー魔法、機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)のことだけどよ。
 唱えたのは誰だ?お前じゃないんだよな、お前はその時もうおっ死んでたんだから
>んな超絶魔法を使える奴がお前の他に居るんなら、そいつに声かけんのが先じゃねえの?
 もし仮に侵食止めるのに失敗しても、もっかい時間巻き戻せればやり方変えてリトライできるしよ。
 いや、そもそも侵食発生より前に戻し直すことも出来るのか……?

「そこに気が付くとは、やはり天才か……。
 そう、私じゃないよ。私は間違いなくそのとき死んでいたのだから。
 時間遡行の魔法、『機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)』を唱えたのは――」

そこまで言って、一旦口を噤む。神妙な面持ちで、バロールは目を閉じた。
庭園に重苦しい沈黙が垂れ込める。

「唱えたのは……」

「……『機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)』を唱えたのは……」


「………………わからない!!」


不明、である。
大賢者ローウェルの一番弟子、世界をも創造できるほどの魔力を有する元魔王は自信満々に言い切った。

「そこが、『機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)』の一番の欠陥なんだ。
 『機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)』を唱えた者は消滅する。人々の記憶からも。この世界の歴史からも。
 ただ唱えれば死ぬ、といったレベルじゃない――『存在がなかったことになる』んだ。
 だから……誰が『機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)』を唱えたのか。それはもう永久にわからない。
 私には、状況から『機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)』が発動したのだと――そう推察することしかできなかった」

誰かが自身の存在の消滅と引き換えに、禁断の魔法を唱えて滅びゆく世界を救った。
そのお蔭で世界はもう一度だけ生存のチャンスを与えられたが――コンティニューを実現した魔法は使い手と共に消失した。

「ひょっとしたら、この世界には他にも『機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)』の使い手がいるかもしれない。
 その人物を探せば、もう一度コンティニューが使えるかもしれない……。
 けれど、それは後ろ向きな努力だ。100パーセント純粋な厚意から、やめておいたほうがいい……と忠告するよ。
 『機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)』の使い手を探す時間があるなら、それは侵食の対策に使うべきだと思う。
 その魔法は人の犠牲を強いる。バグも多く、それらはどう働くか予測不可能だ。
 そして何より――人は、繰り返される死と絶望に慣れることなどないのだから」

コンティニューできるから心おきなく失敗して死んでいいよ! などと言われて、喜ぶ人間がいるだろうか?
たとえコンティニューできたとしても、命は今そこにあるひとつだけだ。複数あるわけではない。
一度壊れてしまったものを、自然ならざる方法で元に戻して無理矢理再利用する――。
その行為に歪みが生じないわけがない。コンティニューを繰り返せば繰り返すほど、歪みは大きくなっていくだろう。
前回と同じ状況でコンティニューできる、という確証だってどこにもない。
いずれにしても、『機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)』は一度きりの奇跡だったのだ。

124崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/05/23(木) 13:18:49
>バロールお前マジ本当……なんぼなんでも報連相がガバガバすぎんだろ。
 もしかしてお前嫌われてない?メイドさんとかに。顎で使ってっからさぁ

「がはぁ!? そ、そそそそんなことないよ!? 私といったら超☆優しい男だとも! 顎で使ってなんていないし!
 それこそ女性は薔薇を愛でるように丁重に扱っているよ! 特にベッドでは……そうだろう? モニカ! ジュリア! ダイアナ!」

明神に突っ込まれ、バロールはまたしてもテーブルに突っ伏した。
それから周囲にいる水晶の乙女のメイドたちに縋るような眼差しを送る。
が、メイドたちはバロールと視線を合わせないようにしてそそくさと距離を取った。

「モニカ! ジュリア! ダイアナぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

元魔王の悲痛な叫びが庭園にこだまする。
……そして。

>分ったよ、なゆ。えーと・・敬語はもう外していいかな?実は結構疲れるんだ・・・慣れてはいるんだけど

「いいよいいよ、敬語なんて! よろしく、ジョンさん!
 はぁぁ〜……ウェルシュ・コトカリス、わたし持ってないんだよなぁ……。エイプリルフールにログインできなくてさ〜。
 まさか、こんな所で会えるなんて! かわいい……癒されるぅ……」

突如として降って湧いてきた新たな『異邦の魔物使い(ブレイブ)』に場は騒然となったが、結局は迎え入れる方向で話が纏まる。
なゆたの意見もカザハと同じだ。こんなかわいいモンスターをパートナーにしている人間が悪者のはずがない。
基本的に性善説を採用しているなゆたらしい脇の甘さだが、こればかりは持って生まれた性格である。治しようがない。
だが。

>……PTリーダーがこんな調子じゃあな

ともすれば聞き逃してしまいそうなエンバースの呟きを、しかしなゆたは確かに聞いた。
それが自分に対する非難であることは明白だ。
なゆたは部長を離すと、すっくと立ちあがった。そして、つかつかとエンバースに歩み寄る。
互いの距離が、息がかかるくらいの近さまで縮まる。

「なによ。文句でもあるの?」

上背の差でエンバースを見上げるような形になりながら、なゆたは真っ直ぐにエンバースのひび割れた目を見詰めた。

「明神さんもカザハも、この人を仲間に入れてもいいって言ってる。みのりさんだって。
 わたしもそうしたい。……なら、何を疑う必要があるの?
 踏むべき段取り? そんなの知らない。最終的に信用するなら、余計な手順なんて踏まえる必要ないでしょう。
 それとも何? 履歴書でも提出してもらう? 面接する? 『異邦の魔物使い(ブレイブ)』になりたい志望動機は何ですか? って!
 はっ! それこそナンセンス! まして、目下一番怪しいあなたが――『おまいう』ってヤツよね!」

怒ると俄然口数が多くなる。明神の危惧通り、なゆたはマシンガンのようにまくし立てた。

「この決定が気に入らないのなら、どうぞ? いつだってパーティーを抜けてもらって構いませんけど?
 わたしたちを守るだなんて言って、勝手について来てるだけの焼死体さん!
 ああ、ジョンさんはめんどくさい段取り抜きで仲間にするけど、あなたはちゃんとあなたの希望に沿ってあげるからご心配なく?
 段取りを踏んで品定めしてあげる。それこそ微に入り細を穿って――ね!」

あなたのことは疑ってます! 全然信用してません! むしろ出てけ! というスタイルを隠そうともしない。
やはり、エンバースのこととなるとムキになってしまうなゆただった。

――なんで、こんなヤツがここにいるんだろう。

なゆたは考える。
真一やウィズリィ、メルトたちが一緒にいたときは、こんな不和など一度もなかった。
それぞれ異なる思惑はあったかもしれないが、全員が一丸となって困難に立ち向かっていたのだ。
だからこそ、ガンダラのタイラントやリバティウムのミドガルズオルムにも勝利できた。
けれど――今のパーティーの足並みはバラバラだ。パーティーの半分が入れ替わったのだから無理もないとはいえ――
そして、今一番パーティーの足並みを乱しているのは、誰あろう自分だった。

――真ちゃん……。

エンバースから視線を外し、俯くと、なゆたはギリ、と奥歯を噛みしめた。
こういうとき、女リーダーは説得力を発揮できない。真一の言葉ではない、行動で示すリーダーシップが自分には欠けている。
彼が戻ってくるまで、真一の代わりにしっかりと先導役を務めようと思ったけれど。

――わたしじゃ……難しいよ。

そんな弱気なことを、つい考えてしまう。
ともあれ、ここで挫けてはいられない。なゆたは気力を奮い起こすと、ふたたび顔を上げてエンバースを睨みつけ、


「大っっっっっっ嫌い!!!!」


と、言った。

125崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/05/23(木) 13:22:44
>ついでに、今後の方針も決めちまおう。俺は、バロールの依頼を受けるべきだと思う。
 このまま王宮でお茶しばいてても事態はなんも好転しない。動ける時に動くべきだ。
 俺たちが現状、ニブルヘイムに勝ってるのは……人手の多さだけだからな

明神が提案する。
他のメンバーも、バロールの依頼したアコライト外郭クエストに乗り出すことに肯定的な意見を述べる。
もちろん、なゆたもそれに異論はない。むしろ、すでに気持ちはアコライトへ向かっている。
現在、アコライト外郭はニヴルヘイムの勢力に包囲され、補給さえ侭ならない状況なのだという。
事態は一刻を争う。早く救出に向かわなければ、せっかく召喚された『異邦の魔物使い(ブレイブ)』が死んでしまう。
侵食を食い止め、打ち破るためには、それは絶対に避けなくてはならない。
エンバースのことは取り敢えず脇に置いておき、なゆたは仲間たちの前でぽん、と手を打った。

「よし! じゃあ、決まりね!
 わたしたちはアコライト外郭へ向かい、そこにいる『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を救出する!
 ついでにニヴルヘイムの連中を撃退できればよりベター! って感じね!」

「ああ、よかった! 感謝するよみんな。
 もし、ヤダ! 力なんて貸してやるもんか! とか言われたらどうしようってハラハラしてたんだ!」
 ……あ、そうそう。さっき君たちに私の召喚した『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の名簿をあげると言ったけれど」

バロールが虹色の瞳でエンバースを見る。

「名簿はあくまで参考程度……としてもらえるかな。申し訳ない。
 ひょっとしたら、世界には私の把握していない『異邦の魔物使い(ブレイブ)』がいるかもしれない。
 なぜかって言うと、ジョン君は確かに私の召喚した『異邦の魔物使い(ブレイブ)』だけれど――
 エンバース君。君は私の記憶にはないからだ」

この世界に召喚された『異邦の魔物使い(ブレイブ)』は、召喚主の魔力を帯びる。
それが識別信号となり、バロールは『異邦の魔物使い(ブレイブ)』をアルフヘイム側かニヴルヘイム側か判別できる。
真一も、メルトも、明神も、みのりも、ジョンも、そしてなゆたも――確かにバロールが召喚した『異邦の魔物使い(ブレイブ)』である。
しかし、唯一。エンバースだけはその識別信号を確認することができなかった。

「君がいったい誰に召喚されて、どこにいて、何故そうなったのか――私の魔眼をもってしても見通せない。
 エンバース君……君はいったい何者なんだ?」

「じゃあ……」

なゆたはハッとしてエンバースを見た。
アルフヘイムで『異邦の魔物使い(ブレイブ)』召喚ができるのはバロールだけ。
そのバロールが自分ではないと言っているのなら、その導き出す結論はひとつしかない。

『エンバースはニヴルヘイムに召喚された『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の可能性がある』――。

そういうことなら、何もかも腑に落ちる。いや、そもそも『異邦の魔物使い(ブレイブ)』でさえないかもしれない。
何しろ『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の証であるスマホはないし、第一人間でさえない。
一旦疑い出すとキリがない。元々のエンバース嫌い度も相俟って、なゆたの中でエンバースへの不信感が増大していく。

「ま、それはいいさ。君たちがエンバース君を仲間と信じるのなら、私もそうしよう。
 名簿は参考程度にしてほしいと言ったのはそういうことさ。私も万能じゃない、取りこぼしがあるかもしれない。
 もし、そういうはぐれ『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を見つけたら、彼らも確保してもらいたい」

うん、とバロールは頷いた。そして後から言葉を付け足す。

「おっと、でも当座は心配しなくてもいいよ。少なくとも、アコライト外郭の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』はこちら側だ。
 でなければ、ニヴルヘイムの連中だって攻め落とそうとは考えないしね。だから、心おきなく救出に向かってほしい!」

それは間違いない、と元魔王は請け合った。
今のところは、明神たちはアコライト外郭救出に全力を出していいということらしい。
みのりが精神的な疲労から椅子にくずおれ、それをジョンが受けとめるといった椿事はあったが、今後の方針は決まった。
アコライト外郭の位置なら、ゲームと変わりないので認識は容易だ。キングヒルから徒歩で10日ほどの距離である。
魔法機関車などの乗り物を使えば、もっと早く到着できるだろう。
とりあえず今日は各々用意された部屋へ戻り、休養することが最優先となる。ジョンもお風呂に入れる。
汚れた衣服はアルフヘイムらしい服装に着替えることも、汚れた自前の衣服をメイドに洗濯させることもできる。
みのりとバロール、エンバースとなゆたの一触即発の事態はあったものの、なんとか話はまとまった――
かに、見えた。

しかし、真の波乱は本当はこのすぐ後に控えていたのだった。

126崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/05/23(木) 13:26:15
「では、おさらいをしよう。君たちにはこれから、世界各地の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』と合流してもらう。
 その第一弾がアコライト外郭だ。そこで外郭を守る『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を救出し、キングヒルへ連れ帰る。
 王国は君たちへの支援を惜しまない。成形クリスタルも、食料も、ルピも、可能な限り提供しよう。
 最終的には侵食を食い止め、消滅させる方法を突き止め、それを実行してもらう。
 それが成された暁には、君たちへの褒賞は思いのままだ。アルフヘイムに住むもよし、地球に帰るもよし。
 アルフヘイム、ニヴルヘイム、そして地球――三界を代表してと言うと烏滸がましいけれど、確かに約束しよう」

バロールがそう念を押す。少なくとも、世界を救うという魔王の目的に偽りはないのだろう。

「クリスタルは明日、君たちが出発するまでには用意しておくよ。他にも装備など、欲しいものがあれば言ってほしい。
 レアリティの高すぎるアイテムや期間限定の品は難しいが、恒常ドロップのアイテムなら融通できるはずだ」

「了解! じゃあ、今日はゆっくり休んで、明日さっそくアコライト外郭へ向かいましょ!
 みんなで力を合わせれば、今度のクエストだって絶対乗り越えられる!
 がんばろうっ! おー!!」

なゆたは仲間たちの前で殊更大きな声を出して鼓舞すると、大きく右拳を空に突き出した。
足並みのバラバラなパーティーを少しでも団結させようという気持ちでのことだったが、上滑り感が強い。
或いはそれは、仲間たちに――というよりは自分へ向けての叱咤だったのかもしれない。

「ありがとう。……じゃあ、これを渡しておこう」

バロールはローブの袖をまさぐると、メモ帳くらいの大きさの羊皮紙を一枚差し出してきた。
それには何か文字列のようなものが一行だけ書いてある。
それを一瞥し、なゆたは目を見開いた。

「こっ……、これは……!」
 
「そう。これは――私のメアドだ」

ファンタジー世界とは最も縁遠いものがいきなり出て来た。
各々のスマホに登録しておけば、キングヒルを出てもバロールと交信できるというわけだ。

「まっ、メアドと言っても見た目をそれっぽくしただけでね。魔術のひとつさ、地球のそれとは根本的に異なる。
 ともかく……今後は私の後方支援も必要になるんじゃないかと思うし、持っていて損はないと思うよ!
 ということで、みんなメアド交換しよう!」

世界を救う算段をしているというのに、甚だしくノリが軽い。
こういうところが信用して貰えないところなのだが、本人は気付いていないようである。

「間違いなくファンタジー世界にいるはずなのに、いまいちそう感じられないのはなんでかしら……。
 それはともかく、はい。登録しましたよ、あとでメールしますね」

「いやあ、よかったよかった! 安心したよ! 本当によろしくお願いするね。モンデンキント君!」

なゆたが早速スマホにメアドを登録すると、バロールは嬉しそうになゆたのプレイヤーネームを口にした。
バロールは『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の名をプレイヤーネームでしか知らないので、当然のことである。

「任せといて下さい! ランカーの意地にかけて、必ず!
 世界を救うなんて全然ピンとこないし、できるかどうかもわからないけれど――
 滅びると分かってるものを放ってなんておけない。わたしたちが何かすることで、バッドエンドが覆るなら。
 精一杯がんばります!」

なゆたもまた、特にモンデンキントの名を隠していたわけではない。普通に返事をした。
明神の目の前で。自分はモンデンキントです、と言ったのだ。

「五穀豊穣君も、色々思うところはあるだろうし……釈然としないものもあると思うけれど。
 どうか、今は力を貸してほしい。全てが終わったとき、まだ私を信用に値しないと思うなら、そのときはそのときだ。
 私の首でも命でも、好きなものを差し上げるよ。それでどうかな?

 エンバース君、彼女たちが君を信じるなら、私も君を信じる。
 どうか、世界を救うのに力を貸してほしい。侵食なんてわけの分からないものに、わけも分からず殺される者が出ないように。 
 理不尽な破滅から、すべての世界を守れるように――」

バロールは順繰りに『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちを見遣る。

「ジョン君、不幸な手違いで君を牢獄に押し込んでしまってすまない。
 勝手なことをと思うだろうが、どうか君の力も私に預けてもらいたい。破壊は二度と起こしてはならないんだ。
 君の故郷に住む、君の大切な人たちのためにも。
 
 カザハ、君については……うん。なんて言えばいいのかなあ……? 私にとっても今の君の姿は予想外というか……。
 まぁいいか! 今の状態だと、そっちの姿の方がきっと都合がいいかもだ。何しろ昔の姿はアレだったからねえ!
 ともかく力を貸しておくれ。“以前みたいに”ね――」

127崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/05/23(木) 13:28:33
なゆた、みのり、エンバース、ジョン、カザハ。
ひとりずつに声をかけ、最後にバロールは明神へと視線を向けた。

「君も。改めてよろしくお願いするよ。私は君たちがここに来るまでの一部始終を、この魔眼で見ていた。
 むろん、君たちひとりひとりの力が頭抜けているというのは疑いようがない。
 でもね……私はその中でも、君の力こそがこれからの戦いの鍵になると思っている。
 『ブレイブ&モンスターズ!』のルールにとらわれない、その自由な発想は私たちには――
 いや、他の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』にもできない、君固有のものだろう。
 君の欲しいものは用意する。あくまで報酬目当ての付き合いで構わない……だから、頑張ってほしい。
 期待しているよ。『うんちぶりぶり大明神』君」

バロールは微笑みながら明神に言った。
ゆるふわ系イケメンがイケボで『うんちぶりぶり』とか言うのはとんでもない違和感だったが、大事なのはそこではない。

『うんちぶりぶり大明神』――。

そんな人を舐めた、バカげた名前をプレイヤーネームにしている人間なんてこの世にひとりしかいない。
ブレイブ&モンスターズ! フォーラムの害虫。Wikiの癌。
その名を聞けば誰もが不快に顔を顰める、ブレモン業界でも有名なアンチ。
モンデンキントことなゆたとも、論戦を繰り広げたのは一度や二度ではない。
宵の口から明け方まで、一対一で延々と口論を繰り広げていたこともある。
ブレモンをこよなく愛するなゆたからすれば、それこそ不倶戴天の相手。撃滅すべき対象――
それが、うんちぶりぶり大明神だった。

しかし。

それが。

まさか、異世界へ放り出されてから今までずっと行動を共にし、死闘を潜り抜けてきた仲間の中にいたなんて。







「………………………………え………………………………」







「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!????」


なゆたは絶叫した。それはタイラントを見たときよりも、ミドガルズオルムの破壊の威力を体感したときよりも。
地球から異世界アルフヘイムへと召喚されたときよりも、大きな衝撃だった。


【崇月院なゆた、ショックで固まる。】

128カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/05/25(土) 01:17:44
>「やめろ!陰キャを日向に引きずり出そうとするんじゃない!日光に当たって溶けたらどーする!
 俺たち闇の者はなぁ、部屋の隅っこで口開けて雨と埃だけ食ってかろうじて生きてんのがお似合いなんだよ!」

>「俺は……いい人なんかじゃない」

「エンバースさん……?」

明神さんの懸念通り、日向に引きずり出されそうになったエンバースさんは急に拗ねてしまい、戸惑うカザハ。
バロールさんが私達の事を知っている様子を見せたことで、疑念を持ったのかもしれない。
あるいは”分かりにくいいい人はいい人と言われるとヘソを曲げる法則”というやつか。
偶然出会った見ず知らずの人達を心配して守るとか言い出して邪険な扱いを受けても懲りずに付いてきているなんて絶対いい人だと思う。
もしかしたら生前(?)は努力!友情!勝利!がモットーの王道主人公タイプだったんじゃなかろうか。

>「……エンバースだ。本当の名前は忘れた。見ての通り、アンデッドだ。
 この世界に連れて来られて、一度死んでる。あんたも気をつけるんだ。
 俺はどうせ……こんな体だ。出来る限り守るつもりではいるけど……」
>「……PTリーダーがこんな調子じゃあな」

自己紹介ついでに最後に余計な一言を言ったような気がする。
いやでもなゆたちゃんは部長に夢中だし聞き逃してくれる可能性も……。

>「お、お、お、おめーはよぉ!考えがよぉ!陰険なんだよ!!
 なんでそんなひどいこと言うの!?また激おこの荒波が到来するだろーが!」

>「なによ。文句でもあるの?」

果たして――私の淡い期待は外れ、明神さんの予言通り激おこの大津波が到来した。
こうなったら嵐が過ぎ去るのを待つしかないのはカザハも学習済みのようで、気まずそうな顔で事態の行く末を見守っている。

>「大っっっっっっ嫌い!!!!」

分かりやす過ぎる嫌い表明と共に、とりあえず荒波は過ぎ去った。
それにしてもどうしてそこまで嫌いなのだろうか。
第一印象の悪さもさることながら、多分見た目も無関係ではないよなあ。人は見た目が9割という言葉をどこかで聞いた事があるし。
頃合いを見計らってみのりさんが最近仲間になった新顔達に藁人形を配って回る。

>「カザハちゃんは機動力高いし、これから単独行動する事もあるかもやしねえ
通信手段もっといてほしいから、カザハちゃんにもどうぞ〜」

「うわあ、ありがとう! なんだか幸運のお守りみたいだね!」

カザハはみのりさんは仲間として認められたと解釈して純粋に喜んでいる。
尚、藁人形といったら普通は幸運のお守りというよりは物騒なイメージがあるが、ボケているのか本気なのかは不明である。

>「ついでに、今後の方針も決めちまおう。俺は、バロールの依頼を受けるべきだと思う。
 このまま王宮でお茶しばいてても事態はなんも好転しない。動ける時に動くべきだ。
 俺たちが現状、ニブルヘイムに勝ってるのは……人手の多さだけだからな」

>「ほ、ほうやねぇ。浸食の事結局何もわかってへんのやし
手探りで攻略していくしかないし、やれる事からやっていくしかあらへん……よ、ね」

「みのりさん!?」

129カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/05/25(土) 01:21:52
>「大丈夫!?」

倒れそうになるみのりさんを、ジョン君が抱きかかえた。
先程はバロールさんに対して臨戦態勢を見せ脅しにかかるという強気な行動に出たみのりさんだが、怯える針鼠のような心理状態なのかもしれない。
そしてジョン君は男女平等が叫ばれて久しい昨今滅多に聞かないような台詞を言い始めた。

>「女性は自分の体を一番大事にしないとだめだよ・・・本当はこれ以上女性を戦場に立たせること自体、止めさせたいけど・・・
 それが無理な事だってのは、まだ新米の僕でもわかってる・・・でも」
>「僕の事は信用できないだろうけど・・・これからの行動で信用できる男だと、証明してみせるよ、だから。
 もし僕を信用してもいいと思う時が来たら、その時は・・・僕を頼ってほしい。」

カザハは若干引き気味にその様子を見ている。あれは“こいつ、いきなりナンパか!?”と思っている目だ。
本人も周囲が微妙な雰囲気になっていることに気付いたようで。

>「あれなんか変な雰囲気・・・?」
>「僕やっぱり臭う感じ!?ごめん!牢屋に長くいて着替える事もできなくて?!」
>「えと話終わってからでもいいので・・・着替えか洗濯か・・・後お風呂も・・・お願いできませんか?」

確かに一週間投獄されていたならそれがいいだろう。――微妙な雰囲気になっている理由は多分違うけど。

>「よし! じゃあ、決まりね!
 わたしたちはアコライト外郭へ向かい、そこにいる『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を救出する!
 ついでにニヴルヘイムの連中を撃退できればよりベター! って感じね!」

何はともあれ今後の行動方針は決まった。
バロールさんが、エンバースさんは自分が召喚したブレイブではないと
また火種になりかねないことを言いハラハラしたが、とりあえずこの場では炎上することは無かった。

(アコライト外郭に閉じ込められたまだ見ぬ仲間達の救出かぁ。いよいよ冒険!って感じだね)

《私達は何者なんだろう……。バロールさん、旅の中で思い出すかもしれないって言ってたけど……》

(自分探しの旅――王道のやつじゃん!)

《それにしてもカザハ……こっちに来てからいきなり陽キャになりましたよね》

(違うな。地球での陰キャは世を忍ぶ仮の姿……本来陽キャだったのさ――)

等と呑気な会話をしつつ、私達の気持ちはすでにアコライト外郭に向かっていたのだが、まさかその前に大波乱があるとは思いもしなかった。

130カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/05/25(土) 01:23:18
>「では、おさらいをしよう。君たちにはこれから、世界各地の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』と合流してもらう。
 その第一弾がアコライト外郭だ。そこで外郭を守る『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を救出し、キングヒルへ連れ帰る。
 王国は君たちへの支援を惜しまない。成形クリスタルも、食料も、ルピも、可能な限り提供しよう。
 最終的には侵食を食い止め、消滅させる方法を突き止め、それを実行してもらう。
 それが成された暁には、君たちへの褒賞は思いのままだ。アルフヘイムに住むもよし、地球に帰るもよし。
 アルフヘイム、ニヴルヘイム、そして地球――三界を代表してと言うと烏滸がましいけれど、確かに約束しよう」
>「クリスタルは明日、君たちが出発するまでには用意しておくよ。他にも装備など、欲しいものがあれば言ってほしい。
 レアリティの高すぎるアイテムや期間限定の品は難しいが、恒常ドロップのアイテムなら融通できるはずだ」

>「了解! じゃあ、今日はゆっくり休んで、明日さっそくアコライト外郭へ向かいましょ!
 みんなで力を合わせれば、今度のクエストだって絶対乗り越えられる!
 がんばろうっ! おー!!」

「おーっ!!」

今度は到着前とは違い、間髪入れずになゆたちゃんに続いて拳を振り上げるカザハ。
すっかりチーム陽キャの一員となっていた。

>「ありがとう。……じゃあ、これを渡しておこう」
>「こっ……、これは……!」
>「そう。これは――私のメアドだ」

「甘いな――今の地球での主流はラ○ンなのだよ……!」

等としょうもないことを言いながらもカザハは言われた通りにメアド(らしきもの)を登録する。
スマホがあっても当然地球と通信はできないが、スマホを使ってこの世界内でのメール(のような魔術での通信)は出来るようだ。

>「間違いなくファンタジー世界にいるはずなのに、いまいちそう感じられないのはなんでかしら……。
 それはともかく、はい。登録しましたよ、あとでメールしますね」
>「いやあ、よかったよかった! 安心したよ! 本当によろしくお願いするね。モンデンキント君!」

「そっか、バロールさんはプレイヤー名で皆を認識してるんだね」

バロールさんが皆の地球での名前を知るはずはないので当然といえば当然かもしれない。
バロールさんは、一人一人の名を、プレイヤー名と本名が違う者はプレイヤー名の方で呼びかけながら、声をかけていく。
まさかそれが大波乱のきっかけになろうとは思いもしなかったのだが。

>カザハ、君については……うん。なんて言えばいいのかなあ……? 私にとっても今の君の姿は予想外というか……。
 まぁいいか! 今の状態だと、そっちの姿の方がきっと都合がいいかもだ。何しろ昔の姿はアレだったからねえ!
 ともかく力を貸しておくれ。“以前みたいに”ね――」

「えぇ!? 気になるじゃん! もしかして人型じゃない系の化け物だったとか!?」

バロールさんはさらりと気になることを言ったかと思うと、真打ちとばかりに最後に明神に声をかける。

131カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/05/25(土) 01:25:22
>「君も。改めてよろしくお願いするよ。私は君たちがここに来るまでの一部始終を、この魔眼で見ていた。
 むろん、君たちひとりひとりの力が頭抜けているというのは疑いようがない。
 でもね……私はその中でも、君の力こそがこれからの戦いの鍵になると思っている。
 『ブレイブ&モンスターズ!』のルールにとらわれない、その自由な発想は私たちには――
 いや、他の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』にもできない、君固有のものだろう。
 君の欲しいものは用意する。あくまで報酬目当ての付き合いで構わない……だから、頑張ってほしい。
 期待しているよ。『うんちぶりぶり大明神』君」

「うんちぶりぶりって……うんちぶりぶりって……!」

ゆるふわ系イケメンからイケボで『うんちぶりぶり大明神』という言葉が飛び出したことが
またしてもカザハの笑いのツボにドハマリしてしまい、笑い過ぎて呼吸困難に陥っている。
それにしても「うんちぶりぶり」と「大明神」を合体させるとは物凄いネーミングセンスだ。
大明神がすごい神様みたいな意味だから、便秘に悩む人々から熱い信仰を集めてしまいそうだ。
思わず漫画的デザインの黄金色のウ○コ像の周囲で平伏している集団の光景を思い浮かべてしまう。
しかし、呼吸困難から脱出したカザハはなゆたちゃんの様子がおかしいことに気付いた。

>「………………………………え………………………………」
>「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!????」

「そんなに絶叫してどうしたの……!? ――あっ」

カザハは記憶の片隅に何か引っかかるものがあったようで、慌てて攻略本を取り出しページをめくる。

「あった……! ”うんちぶりぶり大明神――重箱の隅を突くようなクソリプや批判スレッドを毎日大量に立てる古式ゆかしきフォーラム戦士。
相手をするだけ時間の無駄なので見かけても関わらないようにしましょう――”!?」

出版物のコラムにも載ってしまうなんてどんだけ有名人なんだ!? ある意味彼もまた10連ガチャの当たり枠なのかもしれない。
気が付けば、なゆたちゃんが明神さんに対して、エンバースさんに対してとは比にならないほどの一触即発なオーラを放っている。
カザハも薄々状況を把握し始めたようだ。

「もしかして……がっつり関わっちゃってた系!? ……でも今は世界の存亡がかかってるし!
それによく分かんないけどボクが合流する前にいろいろ一緒に危機とか乗り越えてきたんでしょ!?」

あわあわしながらも何とか両者の激突を止めようとするカザハ。
しかし、もはや激突は避けられない予感がしていた。
ついでに、どさくさに紛れてどちらかの陣営として戦いに巻き込まれる予感も。

132embers ◆5WH73DXszU:2019/05/29(水) 06:21:52
【タクティカル・スキマティック(Ⅰ) ――TPS“DPS”――】


『水くせえこと言うなよ。お前は炎属性だろーが。
 こうしてカードの組み合わせやらレシピやら顔突っつき合わせて議論すんのもブレモンの醍醐味だぜ。
 攻略Wikiのコピーデッキなんかクソくらえだ。そうだろ?』

「まぁ……デッキを組んでる時間が楽しいのは否定しないよ。
 テンプレデッキでボコられてオリジナルに走る過程も、俺は大事だと思うけど……。
 それで……こんな話を振ってきたのは、つまり“そういう事”だと受け取っていいんだな?」

ひび割れた眼球の奥から溢れる、透き通るような青い炎。

『ちっと付き合えよ焼死体。俺は、お前の意見が聞きたい』

「……言ったな?明神さん。自分で言うのもなんだが……
 俺はデッキ構築にかけては、一家言持ってるつもりなんだ」

焼死体の口元に――極めて攻撃的な/獣が牙を剥くが如き――笑みが浮かんだ。

「まずこれは私見だが……“時間対火力”としてのDPSだけに拘るのは、ブレモンでは悪手だ。
 それと同じくらい重要な“DPS”が二つ、存在するからな……これは単純なシステムの話だ」

明神による拘束から逃れ/壁のカードを額縁ごと拝借――その場に腰を下ろした。
焼死体/明神の間に、彼我を隔てる線が二本、カード入りの額によって描かれる。

「理由を説明するよ。第一に、ブレモンのカードは基本的にコストが等価だ。
 ATBゲージ一本でカード一枚。この原則が破られる事はない……多分。
 ……ゲージ二本で発動するカードとか、出てきてないよな?」

――ブレモン開発ならやりかねないってのが、どうにもおっかない所だな。

「そして第二に……デッキの枚数は必ず二十枚。これも、恐らく変わる事のない原則だ。
 これだけ言えば、もう分かるだろ。それとも……釈迦に説法だったかな、明神さん?」

描いた二本のラインの内、手前の一本を、焦げた指先がなぞる。


【月光の直剣(ダインスレイヴ・マーニ) ……一振りの直剣を召喚する。
 ――阿呆、こいつは影打ちじゃ。お前なんぞでは、魔剣の錆びには役者不足よ――】

【いずれ血に濡れる幼き旗手(マレディクション) ……味方にバフを付与する少女型ユニットを召喚する。
 ――彼女は祝福を振り撒く。そう、振り撒くだけだ。なんと哀れな――】

【鳥籠(ステイ・ウィズ・ミー) ……ユニット一体を閉じ込める鳥籠を召喚する。対象は大幅なダメージカットを得る。
 ――幸せの青い鳥はすぐ傍にいた。そこから得られる教訓は、大事なモノは、ちゃんと閉じ込めておけって事だ――】

【入れ知恵のとんがり帽(ブレイン・オーバーライター) ……とんがり帽子を召喚する。装備者は高いINT補正と複数の魔法系スキルを得る。
 ――それで?今や老練の魔術師と同等の知恵を得たあの獣を、一体誰が御するんだ?――


「“Damage Per Spell”……それがブレモンにおいて、デッキのポテンシャルを決める。
 二十枚のカードで発揮出来るダメージの最大値は、当然高い方がいい。
 さっき言ってた『シナジーが全て』にも通じる所があるな」

――装備召喚/バフ付与系のカードの効果は大抵の場合、このように意訳出来る。
“これらは除外を受ける/効果が切れるまで、攻撃の度に追加ダメージを生む”。
そしてそこから生じる総ダメージ量は大半の攻性/即発型スペルのそれを上回る。
要するに速効型/晩成型デッキでは、後者の方が明確に潜在能力が高いって事だ。

133embers ◆5WH73DXszU:2019/05/29(水) 06:24:27
【タクティカル・スキマティック(Ⅱ) ――TPS“DPS”――】

「その点で言うと、ぽよぽよ……なんちゃらコンボの生みの親……確か、モンデンキントだったか。
 あれは大したもんだ。あのコンボは成立さえすれば、恒久的な超DPSを発揮する。
 妨害対策の不確実性と、ネーミングセンスには改善の余地があるけど」

閑話休題/残るもう一本のラインをなぞる。


【ヒヒイロ・マイマイ/特技・能力:最低クラスのAGI。最高クラスのVIT、DEF。自傷型の範囲魔法を得意とする。
 ――駄目だ、防殻に篭られた!逃げろ!今に辺り一面火の海になるぞ!――】

【ゴブリンの尋問官/特技・能力:高い水準の能力値。一際突出したAGIとINT。多様なスキル。
 ――尋問官の任は奴らにとって最高の名誉だ。それは能力の証明であり……尽きぬ玩具の保証でもある――】

【リビング・スピリッツ:/特技・能力:スライム属が有する大凡の特性。範囲型のデバフと緊急回避スキル。
 ――深い森の奥で、火酒の匂いがした。そして気が付いたら、みんな倒れてたんだ――】


「話を戻そう。デッキのDPSを重要視すると、逆説的にそれ以外による小手調べも重要になる。
 相手のデッキやATBを消耗させる為に、自分がそれらを浪費していちゃ話にならないもんな。
 つまり“Disabling Per Skill”。これがゲーム中の自由度、不自由度を決める指標になる」

――コンボを重視するデッキを運用する場合は、こちらのDPSを特に強く意識する必要がある。
とは言え、これらはあくまで基本理念――骨子の部分を理解しているなら応用は自由だ。
火力の代わりに回復力や防御力を追求して、相対的に敵の火力を上回るとか。
除外ではなく、永続的に相手の火力を低減する方法を取ってもいい。
もっとも明神さんには、この辺の説明は不要だろうな。

「まっ……最初にも言ったがこれはあくまで私見だ」

額縁を壁に戻すべく起立――明神を見下ろし/挑発的な笑み。

「実際には俺の考えに反する、だけど強いデッキは幾らでもある。
 明神さんがどんなカードをq選ぼうと、俺はその趣味嗜好を尊重するよ」

無論、これはただの社交辞令/大嘘――ゲーマーは左様にお行儀の良い生き物ではない。
ゲームへの理解度で己が相手を上回ると見れば、例え身内であれ――黙ってほくそ笑むのが作法である。





そうして幾度かの失笑/論争のサイクルを経て、明神の借り受けるカードは決定された。

134embers ◆5WH73DXszU:2019/05/29(水) 06:25:54
【トランキライズ・プロトコル(Ⅰ)】


『なによ。文句でもあるの?』

「なんだ。文句がないとでも思ってたのか?」

半ば無意識に零した皮肉は、更なる不興の代金としては十分すぎた。
己を睨み上げ/突き刺す嫌悪の眼光――だが、焼死体は怯まない。
陰口を叩いたつもりはない/間違った事を言ったつもりもない。

『明神さんもカザハも、この人を仲間に入れてもいいって言ってる。みのりさんだって。
 わたしもそうしたい。……なら、何を疑う必要があるの?』

「そうだな。例えばティータイムに相応しくないエキセントリックな登場方法を選んだ理由は――」

『踏むべき段取り? そんなの知らない。最終的に信用するなら、余計な手順なんて踏まえる必要ないでしょう。
 それとも何? 履歴書でも提出してもらう? 面接する? 『異邦の魔物使い(ブレイブ)』になりたい志望動機は何ですか? って!』

「勘弁してくれよエンジョイ勢。PTを組む時に相手の装備とレベルくらい――」

『はっ! それこそナンセンス! まして、目下一番怪しいあなたが――『おまいう』ってヤツよね!』

「……なるほど、またこのパターンか。いいさ、存分にバトルフェイズを楽しんでくれ」

『この決定が気に入らないのなら、どうぞ? いつだってパーティーを抜けてもらって構いませんけど?
 わたしたちを守るだなんて言って、勝手について来てるだけの焼死体さん!
 ああ、ジョンさんはめんどくさい段取り抜きで仲間にするけど、あなたはちゃんとあなたの希望に沿ってあげるからご心配なく?
 段取りを踏んで品定めしてあげる。それこそ微に入り細を穿って――ね!』

「……甘いな。明神さんもカザハも、みのりさんも、俺が同行する事に……今となっては、異論はないはずだ。
 なら、お前一人が異を唱え続ける必要はあるのか?おっと……これが所謂『おまいう』ってヤツよね、か?」

得意げな口調/これ見よがしになゆたを見下し――勝ち誇る。

「ターン・エンドだ。それで?この話……まだ続けるのか?俺は別に構わないが」

興が乗ったような声の弾み/挑発的な言動――追い打ちにも余念がない。
一度ゲーマーとしての格付けを持ち出された相手である以上、なゆたに対して遠慮はない。

「どうした?急にだんまりになっちまって。折角、新メンバーを迎え入れたんだ。
 もう少しPTリーダーとしての威厳ってものを見せつけといた方が、いいんじゃないか――」

そして最大級に調子付いたその結果――焼死体は再び、特大の地雷を踏んだ。

『大っっっっっっ嫌い!!!!』

カウンターで突き刺さったのは――理屈抜き/感情剥き出しのシャウト。
再びATB高速回転型ビルド宛らの口撃が返ってくると想定していた焼死体は――ただ、唖然。

「………なんだよ、口さがないのはお互い様だろ」

それ以上の追撃を加える気にもなれず――そう呟くのが精一杯だった。

135embers ◆5WH73DXszU:2019/05/29(水) 06:27:34
【トランキライズ・プロトコル(Ⅱ)】

『んー、んんんーーー……』
『……わかった。とりあえず暫定的に受け入れよう。戦力が欲しいってのは確かだ――』

『ほんま、気持ちはわかるけど諦めるしかあらへんわ〜
 それよりも、スマホの件残念やったねえ』

拗れた空気を刷新するかのような明神の言葉/焼死体を宥める、みのりの声と右手。

「……問題ないさ。パートナーがいないのは……確かに不安要素だ。
 だけど……この体はそれなりに便利だ。スマホがなくても俺は戦えるよ。
 デッキも手札もないって事は……逆に言えば、俺はブレイブのルールに縛られない」

焼死体の返答――自身の所有する手札に対する理解/所感。
それを示す事がゲーマー流の報連相/PTメンバーの信用を獲得する方法。
焼死体はそう考える/それを求められているとも――気を遣われたとは思いもしない。

『まあいろいろ悩む事や戸惑う事もあるやろうけど、うちら一蓮托生やしこれもっといてぇな
 トランシーバーみたいな機能があってな、これ首捻ると他の藁人形と通信できるんよ
 後はダメージ一回肩代わりしてくれるよって、お守り代わりよ〜』

「有り難く頂戴するよ……ただし五分の一の確率で、使用者の首が900度回転する、なんて事は起きないよな?」

焼死体の危惧――これが京都伝統の厄除け呪法“ブブヅケ”のエンハンスド・ヴァージョンである事。
戦力面における不備/度重なるPTリーダーとの衝突――厄払いを受ける理由は十二分。
だからと言って――自分からなゆたに膝を屈するつもりには、なれないが。

『ついでに、今後の方針も決めちまおう。俺は、バロールの依頼を受けるべきだと思う――』

『ほ、ほうやねぇ。浸食の事結局何もわかってへんのやし
 手探りで攻略していくしかないし、やれる事からやっていくしかあらへん……よ、ね』

「みのりさん?」

眩み/よろめき/崩れ落ちるみのり――瞬時に、バロールを睨む焼死体。
右手の溶けた直剣を突きつけ/左手は柄頭に重ねて/刃は地面と水平に。
人体工学に基づいたチャージ・スタンス――踏み込みに、躊躇はない。
後手に回る訳にはいかない――誤解だったのなら、その時はその時だ。

『あはは、堪忍なぁ〜立派な王宮で緊張して貧血になっちゃったみたいやわ〜
 少し座らせてもらうわ〜』

そして直後に聞こえた苦笑/精彩を欠いた嘘――凶行は未遂に終わる。

「……そっちの椅子、まだ足が折れてないだろ。寄越せよバロール」

懐疑の眼光を向けた事/殺人未遂への謝罪は当然、なかった。

136embers ◆5WH73DXszU:2019/05/29(水) 06:29:41
【トランキライズ・プロトコル(Ⅲ)】

『女性は自分の体を一番大事にしないとだめだよ・・・本当はこれ以上女性を戦場に立たせること自体、止めさせたいけど――』

「それが実現可能かどうかはともかく……いい事言うじゃないか。なあ、バロール?」

『僕の事は信用できないだろうけど・・・これからの行動で信用できる男だと、証明してみせるよ、だから――』

「……おい、待て。なんか雲行きが怪しくなってきたぞ。
 お前、パーソナルスペースって概念がないのか?」

『あれなんか変な雰囲気・・・?』

「そりゃそうだろ。TPOの概念もまとめて、元の世界に置いてきちまったのか?
 ジャパニーズ・奥ゆかしさはどうだ?空気を読むって言葉の意味は分かるか?」

『僕やっぱり臭う感じ!?ごめん!牢屋に長くいて着替える事もできなくて?!』

「確かに臭うよ。だけど俺の言ってる空気ってのは、それを媒体に伝播する微粒子の事じゃない。
 振動の方の話をしてるんだ。つまりお前の言動について……なあ。それ、素でやってるのか?」

『えと話終わってからでもいいので・・・着替えか洗濯か・・・後お風呂も・・・お願いできませんか?』

「……よし、話を再開しよう。ええと、何の話をしてたんだっけな……ああそうだ、アコライト外郭だ。
 明神さんとみのりさんは救援に賛成……カザハは、聞くまでもないか。俺は正直気が乗らないが……」

『よし! じゃあ、決まりね!
 わたしたちはアコライト外郭へ向かい、そこにいる『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を救出する!
 ついでにニヴルヘイムの連中を撃退できればよりベター! って感じね!』

いっそ小気味いいほどのシカト/述べ損ねた所感が黒煙混じりの溜息に換わる。

『ああ、よかった! 感謝するよみんな。
 もし、ヤダ! 力なんて貸してやるもんか! とか言われたらどうしようってハラハラしてたんだ!」
 ……あ、そうそう。さっき君たちに私の召喚した『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の名簿をあげると言ったけれど』

焼死体へと向けられる虹色の視線/それを無言で睨み返す赤火の眼光。

『名簿はあくまで参考程度……としてもらえるかな。申し訳ない。
 ひょっとしたら、世界には私の把握していない『異邦の魔物使い(ブレイブ)』がいるかもしれない。
 なぜかって言うと、ジョン君は確かに私の召喚した『異邦の魔物使い(ブレイブ)』だけれど――
 エンバース君。君は私の記憶にはないからだ』

「驚いたな。お前、まだ自分の記憶が頼りになるものだと思ってたのか?」

『君がいったい誰に召喚されて、どこにいて、何故そうなったのか――私の魔眼をもってしても見通せない。
 エンバース君……君はいったい何者なんだ?』

「……一つ言えるのは、お前は俺の答えなんか期待してなくて、既に考え得るパターンの推察を終えてるって事だ」

『ま、それはいいさ。君たちがエンバース君を仲間と信じるのなら、私もそうしよう――』

「別に、信じてもらう必要はないけどな。俺は、俺がすべき事をするだけだ」

『おっと、でも当座は心配しなくてもいいよ。少なくとも、アコライト外郭の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』はこちら側だ。
 でなければ、ニヴルヘイムの連中だって攻め落とそうとは考えないしね。だから、心おきなく救出に向かってほしい!』

「言われるまでもないさ……誰にも、俺と同じ轍は踏ませない」

瞳が宿す炎/敵愾心には変化のないまま、ようやく焼死体はバロールの意見に同意を返した。

137embers ◆5WH73DXszU:2019/05/29(水) 06:31:49
【トランキライズ・プロトコル(Ⅳ)】

『では、おさらいをしよう。君たちにはこれから、世界各地の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』と合流してもらう。
 その第一弾がアコライト外郭だ。そこで外郭を守る『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を救出し、キングヒルへ連れ帰る。
 王国は君たちへの支援を惜しまない。成形クリスタルも、食料も、ルピも、可能な限り提供しよう。
 最終的には侵食を食い止め、消滅させる方法を突き止め、それを実行してもらう。
 それが成された暁には、君たちへの褒賞は思いのままだ。アルフヘイムに住むもよし、地球に帰るもよし。
 アルフヘイム、ニヴルヘイム、そして地球――三界を代表してと言うと烏滸がましいけれど、確かに約束しよう』

焼死体は無言/バロールの口約束など信用する気はない――だが悪意は、合理性は嘘を吐かない。
『機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)』は、嘘にしては余りに修飾過多/必然性がない。
故に焼死体は自制出来ない――ならば、と考える事を/この二周目に、一縷の望みを見出す事を。

『クリスタルは明日、君たちが出発するまでには用意しておくよ。他にも装備など、欲しいものがあれば言ってほしい。
 レアリティの高すぎるアイテムや期間限定の品は難しいが、恒常ドロップのアイテムなら融通できるはずだ』

――俺はきっと、もう元の姿には戻れない。あっちの世界に帰る事も、恐らく叶わないだろう。
だけど……それでも、一つだけ、まだ出来る事が残されてるのかも、しれない。
もし、あの旅を……全部なかった事に出来るなら、俺は……。





『えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!????』

妄執にも似た空想/希望の燃え殻――それを吹き消すような、なゆたの絶叫。
現実へ回帰する焼死体の精神――数瞬前までの己の状態を自覚/平静を装う/記憶を手繰る。
過去に拐われていた意識が僅かに拾い上げていた、言葉の断片――それらを掻き集め/組み立てる。

『いやあ、よかったよかった! 安心したよ! 本当によろしくお願いするね。モンデンキント君!』
『任せといて下さい! ランカーの意地にかけて、必ず!』

――あいつが、モンデンキント?あのどう見てもエンジョイ勢丸出しの、かんしゃく玉が?

『君の欲しいものは用意する。あくまで報酬目当ての付き合いで構わない……だから、頑張ってほしい。
 期待しているよ。『うんちぶりぶり大明神』君』

――いや、それよりも……うんちぶりぶり大明神だと?明神さんが?
……プレイヤーネームの一部を咄嗟に偽名にしたとすれば、確かに信憑性はある。
だけど……俄かには信じられない。あの、史上最低のイカサマ野郎が、明神さんだなんて。

「明神さん。今の話、本当なのか?……いや」

問いかける焼死体/だが答えを待たずして首を振る。

「……大丈夫だ。例えそうだとしても……俺は、あんたを守るよ。心配はいらないさ」

紡がれた言葉は奇しくも、初対面のなゆたから不興を買った時と、同じ構文として成り立っていた。
もう二度と、理不尽な死を認めたくない/もう二度と――誰にも裏切られたくない。
その恐怖症は己の心を守る為にある/故に――対象の人格全てを否定する。

138明神 ◆9EasXbvg42:2019/06/02(日) 23:07:10
エンバースが火を点けた導火線は、もの凄い勢いで燃え上がる。
なゆたちゃんと言う名の爆弾に、消火の甲斐なく炎を運んだ。

>「なによ。文句でもあるの」
>「なんだ。文句がないとでも思ってたのか?」

ほらぁ、言わんこっちゃない。始まるぞ激おこムカ着火インフェルノが。
俺もう知ーらね。身内同士のレスバトルとか見てらんねーよマジでさぁ。
なんでこうギスギスしちゃうかね。戦闘民族の気持ちは分からんばい。

……何言ってんだ俺。
こういうギスギス、荒らし・諍い。混乱の元は、俺の最も好むところだったはずだ。
野良パで穏やかに解散できたことなんてないくらい、他人を攻撃するのに躊躇はなかったはずだ。

他ならぬ俺自身が、パーティに争いを持ち込む張本人だったんだから。
空気を読んで、和やかに立ち回る大人なプレイなんざ、クソくらえのはずだ。

だのに俺は今、ギスギスの火種を必死こいて揉み消さんとしていた。
普段なら大喜びで燃料注ぐ怒りの炎に、目を覆って距離を取ろうとしていた。
自分でも意外な心変わりだった。どういう風の吹き回しなのか、まるで判断がつかない。

俺は……こいつらが争う姿を、見たくないと思ってる。
そりゃもちろん、この場は掲示板でのやりとりみたいな、顔の見えない一時限りの関係じゃない。
だけど俺はこんなパーティ、出ようと思えばいつでも出ていける。
バロールもパーティ単位で動けとは言ってなかったんだからな。
この関係は、いつでも――どんな理由でも解消できる、曖昧で不確かなもののはずだ。

>「大っっっっっっ嫌い!!!!」
>「………なんだよ、口さがないのはお互い様だろ」

蟠りを残したまま喧嘩別れのように論戦を終えた二人。
どちらに加勢するでもなく、議論を引っ掻き回すでもなく、俺は黙ってそれを見ていた。
『パーティの空中崩壊』という、俺にしてみりゃ午後ティーくらいの日常茶飯事が、
それでも引き起こされなかったことに……心底安堵した。

「……まぁアレよ、どっちが悪いとか仲直りしなさいとかそういう帰りの会みたいなことはこの際言わねえよ。
 こんなとこでギスってる場合じゃねえってのは、お互い分かってるみたいだしな」

マジで何を言ってるんだ俺は。
所体のなくなった視線を、助けを求めるように、石油王へ向けた。

>「ほ、ほうやねぇ。浸食の事結局何もわかってへんのやし
 手探りで攻略していくしかないし、やれる事からやっていくしかあらへん……よ、ね」

俺の提案に同意を返す石油王だったが、その口調には妙に覇気がない。
どころか、何度かフラフラしたかと思うとその場に崩れ落ちてしまった。

「お、おい!石油王!?」

咄嗟に支えようと一歩踏み出す、それより先に彼女を受け止める手があった。
ジョン・アデルとか名乗ってた謎の外人ブレイブだ。

>「大丈夫!?」
>「あはは、堪忍なぁ〜立派な王宮で緊張して貧血になっちゃったみたいやわ〜
  少し座らせてもらうわ〜」

ジョンに抱きかかえられる形で五体投地を免れた石油王は、力なくそう答える。
緊張して貧血?まことに?お前がそんなタマかよ。
鉱山スイスイ登る健脚や、カジノで見せたあの胆力はどこ行った。

139明神 ◆9EasXbvg42:2019/06/02(日) 23:07:42
……もしかして、ずっと無理してたのか?
表面張力が決壊するみたいに、見ないふりしてた疲労や憔悴に身体が耐えられなくなった?
ぶっちゃけ無理もないと思う。俺だって今すぐぶっ倒れてもおかしくねえんだ。
バロールの語った真相は、俺たちを待ってる未来は、そのぐらい過酷だ。

>「……そっちの椅子、まだ足が折れてないだろ。寄越せよバロール」
>「女性は自分の体を一番大事にしないとだめだよ・・・本当はこれ以上女性を戦場に立たせること自体、止めさせたいけど・・・
 それが無理な事だってのは、まだ新米の僕でもわかってる・・・でも」

エンバースがバロールに用意させた椅子に、石油王を優しく座らせて、ジョンがそう零した。
こいつは地球じゃ自衛官やってたらしいし、俺たち以上にパンピーに戦わせることに思うところがあるんだろう。
なんか想像以上に善人だ。なゆたちゃんが手放しに信頼するのもなんとなく分かる。

>「僕の事は信用できないだろうけど・・・これからの行動で信用できる男だと、証明してみせるよ、だから。
 もし僕を信用してもいいと思う時が来たら、その時は・・・僕を頼ってほしい」

でもぉ、そのセリフはちょっと色々段階すっ飛ばしすぎだと明神思いますぅー。
金髪野郎から放たれるエモさの波動がまたしても俺を直撃した。ぐえぁ。

「くっっっっっっっっっ………………さ!!!」

耐えられなくなって俺は心情を吐露した。

「こいつはクセぇーーーっ!タラシ野郎のニオイがプンプンするぜぇっ!!
 よくもまぁそんな歯の浮くようなセリフがノータイムで出てくるなお前!?
 その殺し文句でこれまで一体何人の女を射止めて来た?ちゃんと数えてんだろうなぁーっ!」

メイドさんにセクハラかました疑惑のバロールと良い勝負だよ!
クソがっ!何なんだよこのイケメン様はよぉー!なんなのサークルブレイカーなの?ギップル召喚したいの?
突如現れたパリピな外来種に俺たち陰の在来種は駆逐されそうだぜ!

>「僕やっぱり臭う感じ!?ごめん!牢屋に長くいて着替える事もできなくて?!」

「そういう臭いじゃねーよ!セリフがこの上なくくせーって言ってんだよ!
 でも風呂入られたらイケメン力に歯止め効かなくなりそうだからそのままの君でいて?」

>「確かに臭うよ。だけど俺の言ってる空気ってのは、それを媒体に伝播する微粒子の事じゃない。
 振動の方の話をしてるんだ。つまりお前の言動について……なあ。それ、素でやってるのか?」

「まぁお前もお前で結構エモいセリフ吐くけどな。へへっ、『おまいう』って奴だぜ」

ドン引きかますエンバース、まさかこいつも自覚なしか?そういや真ちゃんも大概だったな。
冗談じゃねえ、なんでこーどいつもこいつも臆面なくカッコいいセリフが言えちゃうんだよ。
え、なに?もしかして俺がおかしいの?空気読めてないの俺の方?
クソ……この際地獄で彼女とイチャついてるライフエイクの野郎でも良い、誰か俺に力を貸してくれ……!!

「……無理すんなよ、マジで。お前に倒れられたら、ブレーキが今度こそぶっ壊れちまう」

縋り付くように椅子に腰掛ける石油王に、俺はぼそりと呟いた。
バロールは、デウス・エクス・マキナの術者がその代償に存在ごと消えたと言った。
それが為に、コンティニューは一度きり、やり直しはもう効かないと言った。

"バグ"の介在なしにデウス・エクス・マキナの発動は観測できず、
唱えた者はバグによる記憶の継承をもってしてもその存在を忘れられる。
これは、コンティニュー不可とは別にもう一つ、重要な問題を示唆している。

……デウス・エクス・マキナによる巻き戻しが、『一度目』とは限らない、ということであり。
バロールがブレイブを召喚して解決に当たるのも、『今回が初めて』とは限らないということだ。

140明神 ◆9EasXbvg42:2019/06/02(日) 23:08:24
もしかしたら、一巡前のバロールも同様に、ブレイブを集めて侵食に対抗したのかもしれない。
俺たちブレイブも、同じようにアルフヘイムに喚ばれて、ニブルヘイムと戦ったのかもしれない。

そして、失敗して、別の誰かがデウス・エクス・マキナを唱えて――巻き戻ったとして。
再度の記憶継承がうまいことバロールに起きなければ、何もかもが一巡前と同じ道を辿ることになる。

俺たちは既に、覚えていない過去で何度も失敗を重ねていた。
そしてその度に、アルフヘイムはデウスエクスマキナを行使できる貴重な人材を失っていた。
そう考えることもできるわけだ。
十三階梯もホントは14とか15とか居たかも知れねえ。

正直言ってこんな思考に意味なんかない。考えれば考えるほどドツボに嵌るだけだ。
コンティニューに期待できないことに変わりはないし、俺たち自身死ねばそれまで。
この事実に変わりはない。俺たちがやるべきことも、きっと変わらない。

ただ――バロールは、デウスエクスマキナの術者を一人も知らなかった。
万象を見通し、万物を創出する、神域の魔眼を持っていながら。
デウス・エクス・マキナという魔法の存在と、その代償まで知っていながら。

奴の言葉に嘘がないのなら、恐らく過去何人か居た使い手はみんな代償で消えている。
つまり今のアルフヘイムは、過去の如何なる周回よりも、戦力的に劣った存在。
考えうる最下限の手札で、俺たちはコトの解決に当たらなきゃならねえってことだ。

参ったねこりゃ。
どう動けば良いのか確証のない、丸投げ同然の超高難度クエスト。
失敗してもやり直しは効かず、検証を重ねる時間もそんなに残っちゃいない。
どこに出しても満場一致でバツつけられる、史上類を見ないクソゲーだ。

ゲーマーとして、こんなに腕の鳴るコンテンツはねぇよ。
悪いな石油王、お前にはまだまだ付き合ってもらうぜ。
誠に遺憾ではあるけれど……俺は今、すげえ楽しくなってきてる。
こんなクソ楽しいクエスト、誰一人逃してやるもんかよ。

>「よし! じゃあ、決まりね!
>「ああ、よかった! 感謝するよみんな。
 もし、ヤダ! 力なんて貸してやるもんか! とか言われたらどうしようってハラハラしてたんだ!
 ……あ、そうそう。さっき君たちに私の召喚した『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の名簿をあげると言ったけれど」

なゆたちゃんの快諾に、バロールはホっとしたように言葉を漏らした。

>「名簿はあくまで参考程度……としてもらえるかな。申し訳ない。
 ひょっとしたら、世界には私の把握していない『異邦の魔物使い(ブレイブ)』がいるかもしれない。
 なぜかって言うと、ジョン君は確かに私の召喚した『異邦の魔物使い(ブレイブ)』だけれど――
 エンバース君。君は私の記憶にはないからだ」

「あ?そりゃどーゆう……」

問いつつも、俺はバロールの言わんとしていることがなんとなく分かった。
こいつが召喚したんでなけりゃ、エンバースは一体どこ由来のナマモノなのか。
ミハエルと邂逅した今なら、小学生だってイコールの先を答えられるだろう。

エンバースは、ニブルヘイム側のブレイブ。
あるいは――そもそもブレイブですらないかもしれない。

「少なくとも、こんなツラだがこいつはブレイブだ。それは俺が保証する」

怪訝な目でエンバースを見遣るなゆたちゃんに、俺はそう告げた。
石油御殿でデッキ談義に花咲かせたときの、こいつの楽しそうな語調を、俺は忘れない。
エンバースのブレモンに対する知見は、確かにやり込んだプレイヤーのそれだ。
釈迦に説法だとこいつは言ったが、正直俺より詳しいっつうか極まってる。

141明神 ◆9EasXbvg42:2019/06/02(日) 23:09:21
「そんで仮にこいつがニブルヘイム側のスパイだとしたら、流石にキャラ作り間違え過ぎだろ。
 全然溶け込めてねーもん。裏工作が目的なら、こんなPTリーダーの反感買うような言動かますかよ」

エンバースを擁護してやる義理なんざぴくちりもない。
ただ……こいつみたいな一家言あるプレイヤーと議論すんのはぶっちゃけすげえ楽しかった。
このままPTを放逐すれば、もう二度とその機会はない。そう思った。

>「ま、それはいいさ。君たちがエンバース君を仲間と信じるのなら、私もそうしよう。
>「別に、信じてもらう必要はないけどな。俺は、俺がすべき事をするだけだ」

「な?こういうこと言うだろ?こいつに良い子ちゃんの装いなんか無理無理の無理だってばよ。
 そこまで含めて逆張りおじさんの心擽るスパイテクニックだってんなら、もうシャッポを脱ぐしかねえけどよ」

>「名簿は参考程度にしてほしいと言ったのはそういうことさ。私も万能じゃない、取りこぼしがあるかもしれない。
 もし、そういうはぐれ『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を見つけたら、彼らも確保してもらいたい」

「万能じゃないたぁ謙遜するじゃねえか"創生の"。魔眼が泣いてるぜ、眼だけにな」

俺の戯言を華麗にスルーした元魔王は、今度こそいい感じに話をまとめ始める。

>「クリスタルは明日、君たちが出発するまでには用意しておくよ。他にも装備など、欲しいものがあれば言ってほしい。
 レアリティの高すぎるアイテムや期間限定の品は難しいが、恒常ドロップのアイテムなら融通できるはずだ」

「食料だな。試掘洞で喰った歯ブラシみてーな肉はもう御免だ。
 保存が効いて、油っ気がたっぷりで、過酷な旅を頑張ろうって思えるようなメシを所望する。
 あ、話変わるけどトンカツって知ってる?豚さんのお肉にパン粉付けてラードで揚げた料理なんだけど……」

>「了解! じゃあ、今日はゆっくり休んで、明日さっそくアコライト外郭へ向かいましょ!
 みんなで力を合わせれば、今度のクエストだって絶対乗り越えられる!がんばろうっ! おー!!」
>「おーっ!!」

「お、おぅ……」

このノリだきゃあどうにかなんねえかなぁ……。
これ毎回やるけどさぁ、手ぇ挙げんの俺とカザハ君くらいじゃん。
こーゆう陽キャな感じ嫌いじゃないけど好きじゃないよ。好きじゃないよ!!!
あーでもジョンとかいう大型パリピ新人入っちゃったから多数決で不利になりそう。

つうか逆にカザハ君の順応力はなんなの?人当たり良すぎじゃないこいつ。
なんならカザハ君がスパイだって言われたほうがエンバースの百倍説得力あるわ。
でもこいつがスパイだったら俺もう何も信じられなくて心折れそう……。

>「ありがとう。……じゃあ、これを渡しておこう」

バロールの袖から出てきた羊皮紙には、なんか見覚えのある書式で一行の文字列。

>「そう。これは――私のメアドだ」

「メアド……だと……?」

ライン全盛の時代にあってはめっきり交換する機会のなくなったメールアドレス。
羊皮紙の文字列は、まさにメアドそのものだった。

>「まっ、メアドと言っても見た目をそれっぽくしただけでね。魔術のひとつさ、地球のそれとは根本的に異なる。
 ともかく……今後は私の後方支援も必要になるんじゃないかと思うし、持っていて損はないと思うよ!
 ということで、みんなメアド交換しよう!」

ふええ……仕事以外で連絡先交換すんのなんて五年くらいぶりだよぉ……。
いやそれよりも、そんなことよりも、もっと重大な衝撃が俺を襲った。

142明神 ◆9EasXbvg42:2019/06/02(日) 23:10:01
「……マジかよ。すげえなバロール」

皮肉の一つも垂れようと思っていたのに、口をついて出たのは素直な称賛だった。
メアド。さらっと言ってるけどこいつはとんでもねえことだ。
当然っちゃ当然だけど、アルフヘイムにスマホやそれに類似する通信機器はない。
遠距離通信は念話オーブとか音信巻貝とかその手のマジックアイテムを使うアナログ世代だ。

つまり――バロールは、電子メールなんて概念すらない中、おそらく召喚したブレイブからの伝聞のみで。
"魔法の板"と連携できる独自の通信魔術を一から創り上げたってことになる。
これがどれほどの偉業なのか、多少でもプログラムに触れた俺にはよく分かる。

『創生の』バロール。十三階梯筆頭にして、王宮お抱えの魔術師。
――アルフヘイムで一番魔術が上手い男。
その面目躍如が、このたった十数文字のメールアドレスに込められていた。
こいつがニブルヘイムに渡ったのは旧史における最大の痛手だよなぁ。

>「間違いなくファンタジー世界にいるはずなのに、いまいちそう感じられないのはなんでかしら……。
 それはともかく、はい。登録しましたよ、あとでメールしますね」

その時俺は、バロールの魔術の巧みさに、純粋に舌を巻いていた。
なんとなく緊張感のないなゆたちゃんとバロールのやりとりも、特に気にはならなかった。
だが……バロールの口からもたらされる衝撃は、これだけに終わらなかった。

>「いやあ、よかったよかった! 安心したよ! 本当によろしくお願いするね。モンデンキント君!」

――――は?

こいつ今、なんつった?なんでその名前がこのタイミングで出てくる?
いや。そんなことは問題じゃない。バロールは今、『誰に向かって』その名を呼んだ?

>「任せといて下さい! ランカーの意地にかけて、必ず!

モンデンキントと呼ばれて、なゆたちゃんは一切憚ることなく返事をした。
まるでそう呼ばれるのが当然であるかのように。ずっと前から、そう呼ばれてきたように。
なゆたちゃん?モンデンキント?え?は?え?うん?んんんんんんん????

バロールは俺たちパーティに順番に、一言ずつ声をかけていく。
奴が呼ぶのは本名ではなく、ブレモンのプレイヤーネームだ。
そりゃまぁ、バロールに俺たちの本名を知る機会なんかなかったしな。

>「君も。改めてよろしくお願いするよ。私は君たちがここに来るまでの一部始終を、この魔眼で見ていた。
 むろん、君たちひとりひとりの力が頭抜けているというのは疑いようがない。
 でもね……私はその中でも、君の力こそがこれからの戦いの鍵になると思っている」

だから。今にして思えば俺はどうにかして、こいつの口を塞ぐべきだった。
決定的な言葉が、致命的な名前が、バロールの口から出る前に、どうにかすべきだった。
いきなり横っ面をぶん殴ったって良いし、なんなら咳払い一つでこいつは色々察するだろう。

「『ブレイブ&モンスターズ!』のルールにとらわれない、その自由な発想は私たちには――
 いや、他の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』にもできない、君固有のものだろう」

それができなかったのは……多分、俺も冷静じゃなかったからだろう。
モンデンキントの名を呼び水にして情報の洪水が頭を埋め尽くして、何も考えられなかった。
上滑りする思考を止められないまま、バロールが俺の名を呼ぶ。

「君の欲しいものは用意する。あくまで報酬目当ての付き合いで構わない……だから、頑張ってほしい。
 期待しているよ。『うんちぶりぶり大明神』君」

――この世界に放り出されてから今の今までひた隠しにしてきた、
俺のプレイヤーネームを。うんちぶりぶり大明神の、忌まわしき名前を。
同時に頭の処理がようやく追いついて、なゆたちゃんの正体がイコールで繋がる。

143明神 ◆9EasXbvg42:2019/06/02(日) 23:11:23
>「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!????」

「はあああああああああああああああああああああああああああああ!!!??!?!?!??」

ほとんど同時に、俺たちは叫び合った。
お互いの正体に対する衝撃を吐き出して、それはぶつかって跳ね返ってきた。

誰に押されたわけでもないのに、俺はふらふらと後ずさりする。
物理的なそれを錯覚するほどの衝撃だった。

モンデンキント。人呼んでスライムマスター、月子先生。

ブレモン界にエポックメイキングをもたらしたレイド級召喚コンボの開発者であり、
品行方正な立ち振る舞いと新規への慈愛溢れる教育姿勢、なによりその強さから、
一プレイヤーでありながら多数のファンを獲得する界隈の有名人だ。

同時にクソコテであるこの俺の、親の仇より憎き敵。
正道で脚光を浴びる、日陰者にとっては鼻持ちならない目の上のたんこぶ。
夜通しのレスバトルで翌日仕事に支障が出たことなんざ両手じゃきかない。
俺という名の雑菌を眩しい光で消毒しやがる、紫外線のような野郎だ。

そして――ガチ勢だった俺が挫折を経験し、ブレモンを辞めたきっかけを作ったプレイヤー。
ただバトルで負けただけの、完全な逆恨みではあるけれど……俺はこいつに根深い恨みを抱いていた。
いつか、陰湿な手口で失脚させてやろうと、ずっと思ってた。

そいつが、今俺の目の前に居る。

いやいや、は?ウソやん?モンデンキント?なゆたちゃんが?
んな馬鹿な。あのいけ好かねえクソッタレの正論厨、月子先生とか呼ばれて悦に入ってるモンデン野郎が?
理路整然とした論調と、柔らかな物腰とは裏腹な頑固さから、俺は絶対あいつ結構な歳だと思ってた。

クソコテ相手に朝までレスバかますいい年こいたおっさんだって、それだけが反抗心の拠り所だったのに。
そんなのってないだろ。みんなから愛される有名プレイヤーが現役女子高生とか、流石に盛りすぎだろ。

でも。言われてみれば納得してしまう。考えるほどに腑に落ちる。
なゆたちゃんは……モンデンキントの戦術に、精通しすぎてる。
GODスライム召喚コンボを、あの完成度で再現できた奴を、俺はこれまで二人しか見たことない。

……なゆたちゃんと、モンデンキントだ。
二人が同一人物だとするなら、全てに辻褄が合ってしまう。
あのコンボを使いこなすには、豊富な知識と緻密な計算だけでなく、なにより愛が必要だ。
クソザコスライムを、それでも最強に仕上げんとする、時間も金も全て費やす前代未聞の濃度の愛が。

モンキンチルドレンとか呼ばれるファン連中みたいな、ミーハーな愛じゃ到底届かない。
いっそ狂人めいた偏愛だけが到達できる、至高の領域――。

「そっっっっっっかぁー。うううーん。なるほどね、そっかそっか。ははあ。なるほどなぁ」

俺は片手で顔を覆う。どんなツラしてるのか自分でも分からない。
しかしなるほど、合点が言った。なゆたちゃんの頑固さも、負けず嫌いなところも、確かにモンデンキントのそれだ。
俺には分かる。多分今年は親より多く言葉を交わしてきた相手だから。
真ちゃんが居ない以上、モンデンキントがどういう人間か、きっと俺はこの場の誰よりも知っている。

覆った指を少しだけ開けて、俺はなゆたちゃんを見た。
叩きつけられた衝撃をようやく噛み砕いて、何が起こったかを理解した、そういう顔だ。

「………………そうか」

そろそろ潮時だな。
後方大人面も、仲良しパーティごっこも、これでおしまいだ。

144明神 ◆9EasXbvg42:2019/06/02(日) 23:12:57
>「あった……! ”うんちぶりぶり大明神――重箱の隅を突くようなクソリプや批判スレッドを毎日大量に立てる
 古式ゆかしきフォーラム戦士。相手をするだけ時間の無駄なので見かけても関わらないようにしましょう――”!?」

カザハ君がなんか分厚い本をパラパラ捲ってページを引き当てる。
あれ市販の攻略本だろ?なんでクソコテの情報なんか載ってんだよ!
まさか編集部にもモンデン野郎のシンパがいやがるのか?こいつどんだけ人望あんのよ。
そんなんよりもっと掲載すべき情報あるだろ!シナジーとかDPSのこととかさぁ!

>「もしかして……がっつり関わっちゃってた系!? ……でも今は世界の存亡がかかってるし!
 それによく分かんないけどボクが合流する前にいろいろ一緒に危機とか乗り越えてきたんでしょ!?」

カザハ君はオロオロオタオタ、一触即発を回避せんと説得にかかる。
まあ正論ですわ。でも正論なんだよ、そんなのは。世界の存亡?んなもん後でいくらでも救ってやるよ。
今は世界がどーのこーのなんぞより、眼の前の宿敵をどう処断するかってほうが大事だ。

「くくく。ははは!そうだなぁ!楽しかったぜぇ?お前らとのこれまでの旅はよぉ……?」

顔を覆ってた手をどけて、俺は口端を釣り上げた。
レスバにおける必勝法が一つ、常に笑え。余裕を相手に見せつけろ。
肉食獣が牙を剥くように、ニチャっとした笑顔で敵の神経を逆撫でするんだ。

「試掘洞の穴ぐらで古代兵器と戦った時も。港町で邪悪なおっさんの恋を応援した時も。
 ガンダラで飲んだ酒や、リバティウムで喰ったメシの味は、きっと一生忘れない。
 色々ひっかき回されもしたが、大体良い思い出だ。ああ、楽しかった。
 ――楽しくなかったら、誰がお前らとお仲間ごっこなんざするかよ。うひゃひゃひゃ!」

俺は自己本位な人間だ。誰よりも自分自身を大切にし、他人はどうだって良いと思ってる。
だから、こいつらと旅をしてきたのは、全部俺の為だ。俺が楽しかったから、そうしてきた。
こいつらを憎からず思ってるのは確かだけど、それとこれとは話が別だ。

>「明神さん。今の話、本当なのか?……いや」
>「……大丈夫だ。例えそうだとしても……俺は、あんたを守るよ。心配はいらないさ」

「守るだぁ?てめーはなんにも分かっちゃいねえなエンバース。モンデンキントがおこな理由がよ。
 これから俺はモンデンキントと一線交えるがよぉ、お前は俺とあいつのどっちを守るんだ?ええ?
 守りたいモン同士がバトるとき、そのどっちを優先するか……決めてあんだろうなおい?」

なゆ……モンデンキントのエンバースの対する拒絶、不興、敵対心は俺にも理解ができる。
エンバースの言い草は、上から目線の『守る』は、相手の尊厳を勘定に入れてない。
つまりこいつは、俺と同じくらい、自己本位なのだ。守りたいから守ってる、それだけの存在。

守ることさえできれば、守られる側のことなんざどうだって良いと思ってる。
だから、嫌われても良いから守るなんてことが言えちまうんだ。

「のべつまくなく守ろうなんてのはな、エンバース。ゾンビとあんまし変わんねえぞ。
 本能が求めるのが食人か庇護か、違いはそれだけだ。まぁしょうがないか!焼死体だもんね!
 ホントはお前、生前の欲求に従って動くだけのガチゾンビなんじゃないのぉ?」

エンバースの反応は分からない。こいつ表情筋死んでるしな。物理的な意味で。
ひとしきりエンバースを煽り終えた俺は、モンデンキントに顎をしゃくる。

「……場所を変えようぜ。ここは暴れるには狭すぎる。ゴッドポヨリンさんも使いづれえだろ。
 下にいい感じの広場があったな。そっちで闘ろう」

場所替えを提案したのは、石油王のスペルの影響がまだ残ってるのを懸念したからだ。
そう。話の行き筋がどうあれ、俺は石油王と敵対することも考えてる。
というかまぁ、ジョン君含めて全員とバトることになったってしょうがねえよな。
ほんでこのまま庭園で戦ったところで、モンデンキントは遠慮なくゴッポヨ出すだろうし。

145明神 ◆9EasXbvg42:2019/06/02(日) 23:15:08
「悪いなバロール。アコライト行く前に、どうしても付けとかなきゃならねえ話があるんだ。
 いやマジでごめんね?全部済んだらちゃんと世界救いに行くから許してね。
 ……ちゃんと、明日からの日程には食い込まねえようにするからさ」

庭園の階下にある広場。そこは多分、城仕えの兵士や文官が集会に使う場所なんだろう。
石畳を張り巡らせた体育館くらいのスペースに、彫像と植木がまばらに立っている。
俺は地面の感触を確かめるように革靴で小突いて、スマホを取り出した。

「さて、挨拶が遅れちまったな。俺がうんちぶりぶり大明神だ。説明は……要らねえよな。
 俺の名前呼ぶときは明神とか勝手に略すんじゃねえぞ?そういうのすっごい失礼だと思うの。
 ちゃんとフルネームでうんちぶりぶり大明神って呼んでね。じゃないと返事しねえかんな」

もうずっと開いてなかったフレンド欄を見る。
そこにはこの世界に放り出されたあの日、送信されてきたフレンド申請が残ってる。
ベルゼブブ戦に乱入するときに、名前も見ずに承認したフレンドリストの一番上。
『モンデンキント』と――確かにそう、記されていた。俺あいつとフレンドになっちゃったよ。

「まさかこんな形でツラ拝む羽目になるとはな。だけど一応、お前に言おうと思ってたことがあるんだ。
 ――会いたかったぜ、モンデンキント。寝ても覚めても、てめーのことばっか考えてた。
 いけ好かねえてめーをレスバトルで叩きのめす日を、俺はずっと待ってた」

そしてその日は、多分もう二度と訪れない。
レスバは相手の顔が見えないからこそ、呵責なく叩きのめして一方的に勝ち誇ることができた。
でももうダメだ。俺はあいつを知っちまった。モンデンキントの中の人と、仲良くなっちまった。
だから……今からするのはレスバトルじゃない。ただの、バトルだ。

「しかしまぁがっかりだなぁ?みんな大好き月子センセーが、こんな小便くせえガキだなんてよ。
 あいつの垢乗っ取った熱心なモンキンチルドレンってオチの方がまーだ説得力あったぜ。
 どうよ?ホントはお父さんのスマホ借りてるだけの女子高生だったりしない?」

だとしたらこんなでかいお子さんいるパパがあの煽り耐性皆無なモンデン野郎ってことになるから、
それはそれでなんというか闇が深すぎるんだけれども。
まぁこんなのは戯言だ。なゆたちゃんがモンデンキントだってことに、もう疑いの余地はない。
だからこそ、俺はそこを軸に煽る。

「どーもお前とモンデンキントが結びつかねえんだよな。
 だってモンデンキントは人望人徳の塊みたいな聖人君子の血液サラサラ大明神だったけど……
 お前リーダーシップだめだめじゃん。たかだか6人ぽっちのパーティも纏め切れてねえもんなぁ?
 俺の知ってるブレモンの大先生は、この5倍の30人パーティだってきっちり纏めてたぜ」

くけけ、と俺は引き笑いした。
すごい気持ち悪い声が出てたと思う。

「気付いてっか?リバティウムを出てからこっち、俺たちがみんな別々の方を向いてるの。
 真ちゃんが居た頃はみーんな足並み揃ってたのに、なんでだろうね?
 焼死体とのギスギス、諍い、煽り合い……いつまで経っても話が進まねえ。
 これは問わざるを得ませんなぁ?なゆたちゃんのリーダーの資質って奴をよぉ」

嘘だ。

ゲームの世界に放り出されるなんていう、常軌を逸したこの状況で、なゆたちゃんはうまくやってる。
真ちゃんがパーティを抜けて、重要な推進力を失ったパーティがそれでも空中分解せずに要られたのは、
他ならぬなゆたちゃんが欠けた穴を埋めんと必死に努力してくれたからだ。
荒野からの長い付き合いで、俺はそれを見てきた。真ちゃんを除けば誰よりも、近い場所で。

本当は……年端もいかない女子高生じゃなく、大人の俺がやらなきゃいけなかったこと。
なあなあの空気に甘えて、一回り近く年下の少女に、ずっと押し付けてきたこと。

俺は、こいつらの蟠りを、もう見たくはない。

146明神 ◆9EasXbvg42:2019/06/02(日) 23:16:53
「そういうわけでモンデンキント、こいつはクーデターだ。
 不甲斐ないリーダーをぶっ倒して、これからは俺がパーティを仕切る。
 出しな、てめーのポヨリンさんを。その可愛い可愛いひんやりボディを叩き潰してやるよ」

長い口上を終えて、俺はサモンをタップした。
スマホが光に包まれ、隣につやつやした革鎧が降り立つ。
兜の中のどどめ色の靄から弓を取り出して、矢を番えた。

「……なあモンデンキント。『タキモト』ってプレイヤーを、覚えてるか?」

ブレモンのバトルモードから"デュエル"を選択。対象にモンデンキントを設定。
俺となゆたちゃんのスマホを中心に、半透明のドームが形成される。

これはいわゆるフレンド対戦モードで、モンスターはどれだけ攻撃を受けてもHP1を保証される。
つまり死亡のリスクを負うことなく、HP1を敗北条件とした対戦が可能なモードだ。

「……いや、何でもねえ。忘れてくれ」

無意味な感傷だ。覚えてたところでどうこうするってわけでもない。
俺はうんちぶりぶり大明神。史上最悪の蛆虫、ブレモンの暗部よ。

「石油王!カザハ君!ジョン!一口乗るなら今だぜ!俺に加勢すりゃ、新生パーティに相応の地位を約束する!
 ついでにモンデンキントを打倒したプレイヤーの名もほしいままだっ!」

一応、一応だが勝算はある。
エンバースの言ってたDPS論は、俺にとっても新鮮な気付きがあった。
つまり、限られたデッキ枚数で以下に高火力を生み出すかだ。

どのゲームにも言えることだが、バランスの関係上火力と時間はトレードオフの関係にある。
同じレベル帯なら、単発の攻撃よりDot(ダメージオンタイム)、毒みたいな継続ダメージのほうが総量としては大きい。

つまり、すぐに与えられる通常ダメージか、何分もかけて与える高ダメージか。
そこに選択の余地があるわけだ。

極論を言ってしまえば、ステ振りで火力を伸ばさなくても、状態異常を駆使すればダメージは稼げる。
ガチガチに防御を固めて毒でも撒けば、戦闘時間を引き伸ばすことで毒ダメが相手の火力を上回る。

昔のポケモンでどくどく+かげぶんしんが猛威を奮ったのはこれが理由だ。
友達なくしたい奴におすすめの戦術です。俺はこれで小学校からの友達を二人なくしました。

閑話休題、火力に劣る奴が格上と闘う場合は、戦闘時間を引き伸ばしてDotを積み重ねるのがセオリー。
膨大なHPと大火力を併せ持つゴッドポヨリンさん相手にも、その原則が当てはまるだろう。

俺が石油御殿で選んだ2つの防御ユニットは、その思想を具体化するためのものだ。
なんだかエンバースのアドバイスそのまんまになっちまったが、勝てりゃなんでも良いよ。

一方で、モンデンキントのメインウェポンであるGODスライムは、完成までに時間がかかるのが難点だ。
その面でもDotによる遅滞戦術とは相性が良いはずだが、奴がその程度のことを織り込み済みでないはずがない。
弱点が明確で対策もされ尽くしてる召喚コンボを、それでも改良重ねて現役で使ってるくらいだ。

だから……基本戦術に沿いつつ、その場その場で最適解を選び切る。
ついでに盤外から挑発を重ねて、モンデンキントの判断ミスを誘う。

俺が奴に届くには、これしかない。

147明神 ◆9EasXbvg42:2019/06/02(日) 23:17:44
ATBが二本溜まった。俺はスペルを切る。

「『濃霧(ラビリンスミスト)』――プレイ!」

乳白色の濃霧が戦場を滞留し、その場にいる全ての者の視界を塞ぐ。
俺の視界もゼロになるが正味問題はない。こいつは目隠しが目的じゃないからだ。

「――『黎明の剣(トワイライトエッジ)』、プレイ!」

黎明の剣――攻撃力付与のバフが、濃霧を対象に発動する。
濃霧を構成する極小の水滴、その一つ一つが光をまとい、攻撃力を得た。

霧に触れれば、俺のパーティ以外はダメージを受ける。
一発一発は極めて微小なダメージだが、霧粒はそれこそ無数にある。
最低値の1ダメージでも、一万粒の霧に触れれば一万ダメージだ。
そしてこいつは……戦場にずっと滞留し、ダメージを生み出し続ける。

「エンバース。俺と組めよ、一緒にモンデン野郎をぶっ倒してやろうぜ。
 お前を拒絶し、罵倒し、抜けても構わないとまで言った、あの女を!
 明確に拒否られたんだ。お前にとっちゃこれ以上、あいつを守る理由なんざないはずだよなぁ……?」


正直、俺のデッキじゃどう工夫したってゴッドポヨリンさんにゃ太刀打ちできないだろう。
だが俺には、Dot戦術の他にもう一つ、隠し玉がある
うまく行けばゴッポヨだって真正面から組み合える、俺のとっておき。

見せてやるぜ。
ぽよぽよ☆カーニバルコンボを打倒する為に一年かけて練り上げた、この俺の……
ぶりぶり★フェスティバルコンボをな!!!!!


【うんちぶりぶり大明神の名がバレるも、開き直って煽りかます。
 なゆたちゃんからPTリーダーの座を奪うべくクーデター。仲間たちにも加勢を要請
 触れると極小ダメージの霧を生み出し、継続ダメージを狙う】

148五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/06/07(金) 23:25:33
「あら、あらあら、ま〜」
膝から力が抜け崩れ落ちそうになったところでジョンに抱きかかえられ、声が出てしまう
いきなり間近に迫ったジョンの顔としっかりと体を包まれる感覚に思わず顔を背けると、その方向にはバロールに向け臨戦態勢に入ったエンバースの姿があった

>「僕の事は信用できないだろうけど・・・これからの行動で信用できる男だと、証明してみせるよ、だから。
> もし僕を信用してもいいと思う時が来たら、その時は・・・僕を頼ってほしい。」

中々真顔では言えないようなセリフを更っとはかれ、貧血で血の気の引いたみのりの頬にわずかに血色が戻る
明神の胸焼けが呼んだようなセリフや、カザハの驚く顔も納得ができてしまう

「あははは、外人さんはびっくりするような事を真顔で云いはるからうち照れてしまうわ〜
ありがとさんな〜もちろん信用しているし、必要な時は遠慮のう頼らせてもらうさかい、よろしゅうにね」

エンバースの用意した椅子に座らせてもらいながら笑顔で答えた
その上で
「うちは農家の娘やし、匂いは平気やけど一週間もお風呂に入れてへんのは辛かったねえ」
そう答えていると、明神が耳元でぼそりと呟いた

>「……無理すんなよ、マジで。お前に倒れられたら、ブレーキが今度こそぶっ壊れちまう」

その言葉に応える事はなく、困ったような笑みを浮かべるの実
貧血で辛そうな表情に見えていたかもしれないが、その内情はそれ以外の事が笑みを曇らせていたのだった

クリスタルを消耗し切り札のパズズが使えなくなり、みのりの精神的優位性が消失している
その状態でパーティーのブレーキ足りえるのか
パーティーのブレーキどころか、これから先の戦いができるかも不安でたまらないのだ

しかし、ここで逃げ出すという選択肢も封じられてしまっている
現実世界に帰るには戦い世界を防がなければならない
それらを放棄してアルフレイムで生きるにも、それだけの力がない
逃げ出したいが逃げられない、この板挟みがみのりの心を締め付け消耗させていたのだ

結局のところは戦い世界を救わざる得ないのだが、そうするにはあまりにも心もとない
戦力的にもだが、PTの統一がとれていない
この場でPTに加わったジョンは仕方がないとしても、なゆたとエンバースの対立状況は何とかしなければと考えをめぐらせていた

そう考えているところで、バロールがそれぞれをプレイヤーネームで呼びながら声をかけていく
召喚者名簿と共に明かされる事実
エンバースはバロールが召喚したわけではない、という事を

心のどこかで「やはり」と思った
ジョンもカザハも同様に信用していないが、エンバースはそれに輪をかけて注意を向けていた
記憶がなく、無自覚な刺客である可能性も考慮しており、だからこそ呪的ブフヅケとまではいかないものの、藁人形を渡して首輪をつけたのだ

が、それは騙されている状態だからこそ有効なものであり、エンバースがバロールに召喚されていない事実をこの場で公にしてしまったのは悪手だと内心舌打ちをした
しかし、ここで明神の助け舟が入り、それを見てみのりは小さく息を吐き
「ほうやねえ。さっきうちが倒れかけた時、バロールさんに飛び掛かりそうな勢いやったし
うちが攻撃受けたと思ったんやろ?
咄嗟にあの行動がとれるのは中々あらへんやろうしねえ」
明神に同意する言葉だが、その言葉が向けられるのはなゆたに向けてだ

149五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/06/07(金) 23:26:23
リバティウムからなゆたがリーダーを引き継いだような感じになっているが、その内心は幾何のものか
みのり自身精神的余裕が失われていたため気付かなかった、いや、見て見ぬふりをしていたが思い返せば一目瞭然
真一が抜けたことによるなゆたの精神的喪失感は大きく、その穴に納まったエンバースに拒否感を感じ今のような態度になってしまっているのだろう

今まで目が届かなかったことに徐々に目が届くようになってきているのを感じていた
この世界に召喚された時から募っていた不信感、不安
それがリバティウム以降で抱えきれないほどになり、バロールを前に爆発させた

溜まりに溜まった不満を爆発させ、力が抜けて落ち着いたからだろうか?
世に言う賢者タイムというのかもしれないが、徐々にみのりは落ち着きを取り戻しつつあったのだ

なゆたに牽制を一つ入れたところで、バロールから【うんちぶりぶり大明神君】という言葉が出て思わず振り返ると同時に響く二つの叫び

>「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!????」
>「はあああああああああああああああああああああああああああああ!!!??!?!?!??」


うんちぶりぶり大明神と言ったバロールを見てその視線が明神に向かっている
二度ほどそれを繰り返し、思わず吹き出した
「うんちぶりぶり大明神?……明神?
あー、あー、なるほどねぇ
最初なんや云い淀んでたけどほれでなんや、うん、まあ気持ちはわかるわ〜
それにしても、うんちぶりぶり大明神って……」

ころころと笑い声をあげるみのりにはうんちぶりぶり大明神は面白い名前以上の意味とイメージしかない

>「あった……! ”うんちぶりぶり大明神――重箱の隅を突くようなクソリプや批判スレッドを毎日大量に立てる古式ゆかしきフォーラム戦士。
>相手をするだけ時間の無駄なので見かけても関わらないようにしましょう――”!?」

「ん〜なんやの〜?明神さんて有名なお人やったん?
へぇ、フォーラムでスレッド?時間があって羨ましい事やわぁ」

攻略本をめくるカザハの横から覗き見る
仕事の時間が不規則で、ブレモン自体のプレイ時間確保すら苦労していたみのりである
実際のプレイではなく、フォーラムでのやり取りができること自体羨ましい世界であるがゆえに、そこでの確執や因縁に実感がわかないでいた

しかし、実感がわかないのはみのりだけであり、カザハは不穏な空気とこれから起こるであろうことを予感し、慌てている
エンバースもうんちぶりぶり大明神について知っているしそれなりの因縁もあるようだ
その上でエンバースは【明神を守る】と言い放つ

しかしその当の明神は、潜伏していた悪役が正体を見破られた時のように、芝居がかったようなしぐさで言葉を紡ぐ
言葉の端々に嘲笑するような笑いがこぼれるが、それがまるで自嘲しているかのようにみのりには聞こえた

そして場所を変えることを提案
それはもはや言葉は介在する余地はなく、戦いは不可避なものであることを示していた
天を仰ぐみのりの眉間にしわが寄り、諦めたように大きく息を吐く

「まぁ、ええ機会なんかもやねえ。
バロールはん、明神さんの言うとおり、これはブレイブの内輪の話しよって手出し無用でお願いするわ〜」

150五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/06/07(金) 23:28:35
明神の正体となゆた、すなわちモンデキントとの確執
さらになゆたの喪失感とエンバースの存在
どれもこのまま取り繕うには大きすぎるものだ
無理に取り繕えば自分のように、何かの拍子に爆発する
それが致命的な場面になるよりは、ここで決着をつけておいた方がいいとの判断だった

「まあ、うちらブレイブやし、やり合わな収まりがつかんこともあるやろうしねえ
エンバースさん、カザハちゃん、それにジョンさんも、これからに必要な大切な事やからいきましょか〜」

他のメンバーに声をかけ、明神となゆたに続き階下に降りて行った


庭園階下の広場、そこが戦いの舞台となる

うんちぶりぶり大明神からモンデキントへ投げつけられる言葉をみのりは笑みを浮かべながら聞いていた
フォーラムでの確執
モンデキントへの執着
フォーラムを利用する暇すらなかったみのりから見れば、それらのやり取り確執はある意味羨ましくもほほえましいと感じだからだ
所詮は口げんかに過ぎない事でそれほどまでに誰かに執着できる事、できる時間が羨ましかった
だがそんなほほえましさは明神の事言葉で消える

>これは問わざるを得ませんなぁ?なゆたちゃんのリーダーの資質って奴をよぉ」

なゆたがPTでどういった存在であり、役割を担い、そしてそれをこなしていたか
それがわかっていないはずはないであろうに、にもかかわらず出た言葉に不信感が生まれる
不信感は疑問に変わり、そして明神の

>「そういうわけでモンデンキント、こいつはクーデターだ。
> 不甲斐ないリーダーをぶっ倒して、これからは俺がパーティを仕切る。

の言葉に疑問はため息に変わった
PTリーダーがどういったものか
その資質とはどういったものか
判っているうえで出た言葉とすれば……

明神の操作により、明神となゆたを中心に半透明のドームが形成された
フレンド対戦モードであり、HP1必ず残る仕様である
そう、【死ぬ危険】は、無い

>「石油王!カザハ君!ジョン!一口乗るなら今だぜ!俺に加勢すりゃ、新生パーティに相応の地位を約束する!
> ついでにモンデンキントを打倒したプレイヤーの名もほしいままだっ!」

「ブレーキって、そういう……」

苦笑を浮かべながら小さく呟き、言葉を続ける

「え〜これって【うんちぶりぶり大明神】と【モンデキント】のお話やから手は出さへんつもりやってんけど〜
まあ、明神さんのたっての願いやしぃ、しゃーないわなぁ」

すっかり呼吸も整ったみのりも半透明のドームに入り、なゆたの隣に並んだ

151五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/06/07(金) 23:30:52
戦いが始まり、明神が濃霧を発生させる
視界が防がれたところでみのりの裾から無数の荊がはい出す
たとえ目視できなくとも近寄れば絡めとるために

しかし、明神の戦術は驚くべきものだった
『黎明の剣(トワイライトエッジ)』の対象を濃霧にすることにより、フィールド全体をダメージゾーンに変えるというもの
霧によるダメージは小さく痛みも無視できる程度のものであるが、霧の中にいる限りはそのダメージを受け続け、文字通り塵も積もれば山となる

この戦術はみのりの戦術を同時にいくつも破綻させるものであった
HP1になった時点で負けとなるこのモードは、オーバーキルダメージを敢えて受け来春の種籾(リボーンシード)でHP1残して最大攻撃力を得る事を封じている
さらに、囮の藁人形(スケープゴートルーレット)の攻撃を一度身代わりになってダメージを受ける、という機能を最小の攻撃で果たさせてしまうのだから
事実みのりの持っていた藁人形ははじけ飛んでいるし、カザハ、エンバース、ジョンの三人も明神パーティーに入らなかったら藁人形ははじけ飛んでいただろう

「霧を対象にするやなんてゲームではでけへんし、それをやろうという発想にもびっくりやわ
周囲を包むきり自体でダメージ受けるやなんて防ぐのも難しいけど、うち相手には悪手やねえ
我伝引吸(オールイン)……プレイ!」

1ターンではあるが、パーティーメンバーのダメージを全て肩代わりする事ができる
これにより霧によって受ける極小ではあるが膨大なそして人数分となれば相応に大きな累積ダメージがイシュタルに流れ込むことになる
なゆた達は1ターンはダメージを受けずに霧の中を行動できるだろう
ダメージを一身に受けた後になゆたから離れながら高回復(ハイヒーリング)をかけ、濃霧越しにちらりと見える明神を流し見て

「ごちそうさん」

と妖艶に唇を舐めて見せた
みのりは累積ダメージを攻撃力に変えるバインドデッキ
この時点で強大な攻撃力を抱えたことになる

「なゆちゃんなぁ、この一ターンはうちからのサービスやよ〜
うちはなゆちゃんの事はかってるし、うち【ら】ではでけんことをやってくれると思うてる
でもなぁ、うちもなゆちゃんのリーダーの資質、見てみたいんやわ〜」

みのりの手のスマホの画面には雨乞いの儀式(ライテイライライ)がセットされていた
雨を降らせ霧を叩き落し、更にフィールドを水属性にすればなゆたは大きく有利になるだろう
が、果たしてそれで良いのか

この闘い、ただ勝てばいいというものではない
確執やしがらみ、因縁を解消し、認めさせる勝ち方が必要なのだから

だから、みのりの指は画面に大きく表示されたスペルカードではなく、画面した角に小さく表示された【PTから抜ける】をタップした

そして濃霧の中にみのりの姿は溶け込んでいき、それと同時に明神のスマホにはみのりのパーティー入りが表示されるだろう

【ジョンに抱き寄せられて赤面】
【なゆたとエンバースの関係修復に思い巡らせる】
【明神となゆたの決闘に蟠りシガラミ解消の策として乗っかる】
【明神の霧によるDOT攻撃1ターン分引き受けなゆたPT離脱】
【霧の中に潜み、お手並み拝見】

152ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/06/09(日) 17:58:51
>「よし! じゃあ、決まりね!
 わたしたちはアコライト外郭へ向かい、そこにいる『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を救出する!
 ついでにニヴルヘイムの連中を撃退できればよりベター! って感じね!」

>「ああ、よかった! 感謝するよみんな。
 もし、ヤダ! 力なんて貸してやるもんか! とか言われたらどうしようってハラハラしてたんだ!」
……あ、そうそう。さっき君たちに私の召喚した『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の名簿をあげると言ったけれど」

>「名簿はあくまで参考程度……としてもらえるかな。申し訳ない。
 ひょっとしたら、世界には私の把握していない『異邦の魔物使い(ブレイブ)』がいるかもしれない。
 なぜかって言うと、ジョン君は確かに私の召喚した『異邦の魔物使い(ブレイブ)』だけれど――
 エンバース君。君は私の記憶にはないからだ」

ブレイブ名簿、そんな物が存在するのか。
僕の名前が載っているということは召喚した時点でバロールの頭の中にその名前や・素姓が分るということか。

「失礼だがバロール、君が単純に記憶違いをしているって事もあるんじゃないか?
 それはあくまでもバロールの中に流れ込んできた情報を君自信が書いた情報だろ?」

>『ま、それはいいさ。君たちがエンバース君を仲間と信じるのなら、私もそうしよう――』

エンバースをあまり信用してない、というのは僕も同じだ。
だが少なくとも今は、今の、この世界の情報が限りなく少ない僕には、信じる以外の選択肢はないけれど・・・。

>「別に、信じてもらう必要はないけどな。俺は、俺がすべき事をするだけだ」

「エンバース・・・君は余計な一言が多すぎる・・・」

この場に非常に重たい空気が流れる。
だんまりで時間を潰すのは良くないな。

「よし!話纏ったみたいだね!じゃ案内してくれるかな?できればお風呂に後替えの服も・・・」

リーダーのなゆが宣言したことで次のPTの行く先は決まった、エンバースの件は今この場でこれ以上話しても決着は付かないだろう。
信用するしない以前に、証拠がない以上決め付けるのは良くない。
と待っていると後ろからメイド達がやってくる。

「よしじゃあお風呂にレッツゴー!・・・?」

メイド達は魔法で大きな水の球体を作り出す。
そこに向けて指を指してまるでこの中に突っ込めといわんばかり。

「え、冗談でしょう・・・?」

いつのまにか後ろに回っていたメイドに捕まれ、投げられる。
あ・・・これ・・・なんかさっきもあったような・・・。

「アバババババババ」

まるで洗濯機のように中が回転する水の球体に押し込まれるのであった。

153ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/06/09(日) 17:59:32

「わ・・・わー・・・服まできれー・・・」

時間にしてみれば一分ほどだっただろうか、まるで洗濯機の中ような最悪の居心地だった。
もう入りたくない。

>「クリスタルは明日、君たちが出発するまでには用意しておくよ。他にも装備など、欲しいものがあれば言ってほしい。
 レアリティの高すぎるアイテムや期間限定の品は難しいが、恒常ドロップのアイテムなら融通できるはずだ」

「えっと・・・防具と・・・あーでも重いと動き辛いから鎖帷子みたいは奴がいいな・・・と剣だな、後なにしようかな・・・」

まだ洗濯機の後遺症が残っているのか、頭がうまく回らない、まあそこらへんは適当に見繕ってもらえばいいか。

>「了解! じゃあ、今日はゆっくり休んで、明日さっそくアコライト外郭へ向かいましょ!
 みんなで力を合わせれば、今度のクエストだって絶対乗り越えられる!
 がんばろうっ! おー!!」

>「おーっ!!」

明日から戦いに行くというのに、殺し合いをするというのに、なぜなゆとカザハはこんなに元気なんだろうか。
なるべく暗くしないようにという配慮なのか、それともゲーム感覚が抜けないのか・・・。

>「ジョン君、不幸な手違いで君を牢獄に押し込んでしまってすまない。
 勝手なことをと思うだろうが、どうか君の力も私に預けてもらいたい。破壊は二度と起こしてはならないんだ。
 君の故郷に住む、君の大切な人たちのためにも。

バロールはメアドを僕に渡しながら謝罪をする。

「・・・謝るのは僕にじゃないでしょう。この場にこれなかったブレイブ達に謝罪するべきだ
 僕は・・・まだ生きて、保護されているのだから・・・
 なにも分らずつれてこられて死んだり、それ以上に困ってるブレイブを助けてその人達に謝るんだ・・・バロール」

僕は謝罪なんかが欲しいわけじゃない。

バロールは全員に挨拶や謝罪を終えると最後に明神に向ってこう言い放った。

>「君も。改めてよろしくお願いするよ。私は君たちがここに来るまでの一部始終を、この魔眼で見ていた。
 むろん、君たちひとりひとりの力が頭抜けているというのは疑いようがない。
 でもね……私はその中でも、君の力こそがこれからの戦いの鍵になると思っている。
 『ブレイブ&モンスターズ!』のルールにとらわれない、その自由な発想は私たちには――
 いや、他の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』にもできない、君固有のものだろう。
 君の欲しいものは用意する。あくまで報酬目当ての付き合いで構わない……だから、頑張ってほしい。
 期待しているよ。『うんちぶりぶり大明神』君」

「すごいプレイヤーネームだなブライトゴッド・・・」

ジョンは驚いていた、しかしそれはただすごい名前だな。という意味で、だ。

>「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!????」
>「はあああああああああああああああああああああああああああああ!!!??!?!?!??」

この日で一番の騒動が今、始まろうとしていた。

154ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/06/09(日) 17:59:52

「うわあ!びっくりした!どうしたんだ二人とも!?」

わけがわからない、突然絶叫したと思ったら二人ともお互いにらみ合って動かなくなってしまった。
たしかにうんちぶりぶりって・・・すごい名前だとは思うけど絶叫することか・・・?。

>「そっっっっっっかぁー。うううーん。なるほどね、そっかそっか。ははあ。なるほどなぁ」

>「あった……! ”うんちぶりぶり大明神――重箱の隅を突くようなクソリプや批判スレッドを毎日大量に立てる古式ゆかしきフォーラム戦士。
相手をするだけ時間の無駄なので見かけても関わらないようにしましょう――”!?」

「フォーラム戦士・・・?」

たしかに聞いた事あるような・・・もちろん悪い意味で・・・。

>「もしかして……がっつり関わっちゃってた系!? ……でも今は世界の存亡がかかってるし!
それによく分かんないけどボクが合流する前にいろいろ一緒に危機とか乗り越えてきたんでしょ!?」

>「くくく。ははは!そうだなぁ!楽しかったぜぇ?お前らとのこれまでの旅はよぉ……?」

>「明神さん。今の話、本当なのか?……いや」
>「……大丈夫だ。例えそうだとしても……俺は、あんたを守るよ。心配はいらないさ」

>「のべつまくなく守ろうなんてのはな、エンバース。ゾンビとあんまし変わんねえぞ。
 本能が求めるのが食人か庇護か、違いはそれだけだ。まぁしょうがないか!焼死体だもんね!
 ホントはお前、生前の欲求に従って動くだけのガチゾンビなんじゃないのぉ?」

「なあ、今はそんな事してる場合じゃないって君が一番よくわかってるはずだろ?
 たしかに過去にブライトゴッドは嵐に近い行為をしていたかもしれない。
 けど今それを必要に攻めたり、気にする必要はないと思う。だから――」

>「……場所を変えようぜ。ここは暴れるには狭すぎる。ゴッドポヨリンさんも使いづれえだろ。
 下にいい感じの広場があったな。そっちで闘ろう」

>「まさかこんな形でツラ拝む羽目になるとはな。だけど一応、お前に言おうと思ってたことがあるんだ。
 ――会いたかったぜ、モンデンキント。寝ても覚めても、てめーのことばっか考えてた。
 いけ好かねえてめーをレスバトルで叩きのめす日を、俺はずっと待ってた」

>「石油王!カザハ君!ジョン!一口乗るなら今だぜ!俺に加勢すりゃ、新生パーティに相応の地位を約束する!
 ついでにモンデンキントを打倒したプレイヤーの名もほしいままだっ!」

「なぜ・・・自分から嫌われ者になるんだブライトゴッド・・・」

155ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/06/09(日) 18:00:11
>「『濃霧(ラビリンスミスト)』――プレイ!」
>「――『黎明の剣(トワイライトエッジ)』、プレイ!」

>「霧を対象にするやなんてゲームではでけへんし、それをやろうという発想にもびっくりやわ
周囲を包むきり自体でダメージ受けるやなんて防ぐのも難しいけど、うち相手には悪手やねえ
我伝引吸(オールイン)……プレイ!」

なるほど、ゲームではできないコンボも実在するわけか、霧に攻撃付与、なるほど。
ゲームの常識で考えるのはダメということか。

>「エンバース。俺と組めよ、一緒にモンデン野郎をぶっ倒してやろうぜ。
 お前を拒絶し、罵倒し、抜けても構わないとまで言った、あの女を!
 明確に拒否られたんだ。お前にとっちゃこれ以上、あいつを守る理由なんざないはずだよなぁ……?」

「だめだブライトゴッド!君はなぜ自分から嫌われにいくんだ!?ちゃんと話合って解決すればいいだけじゃないか
 エンバース!君もなゆが本気で言ってないって理解しているんだろう!?
 だれも争う必要なんてないんだ!誰も・・・」

わかってる、なにを言ったって無駄な事くらい。
性格が違う人間が集まる以上、意見が食い違ったり人間関係のいざこざはもうどうしようもないし、むしろ健全といえる。
だが・・・。

「こんなやり方でしか解決できない問題なのか・・・?違うだろう・・・?ブライトゴッド・・・」

霧で明神の表情はわからない。
だが、どんなに考えて悩んで発言をしても最終的に必要なのは力なのだ。
力がない人間はなにも成せない、力がない人間には誰も耳を傾けない、傾けようとはしない。

「君達と出合って数時間の関係だが、君も、このPTはみんないい人だと、よく分ったんだ。
 本音を言えばさっきまで唯一エンバースを怪しんでいた、けど君の事をあれだけ言われたのに心配している彼を見て自分が恥ずかしくなったよ」

こんな事で関係が崩れてしまっていい人達ではない。
お前になにがなにが分るんだといわれてしまうかもしれないが、僕がそうしたいからするんだ

部長を召喚し戦闘態勢にはいる、これ以上弱音はなしだ。
力で来る相手には力で抵抗するしかないのだから。

この世界の始めての戦闘がPvEではなくPvPとは予想もしなかったけれど。

「雄鶏乃栄光!対象ポヨリン、発動!」

「ニャー」

スペルカードを発動させる。
この子が本当にモンデキント・・・もといランカーなら僕より彼女にバフを掛けるのが一番効率がいいだろう。
他のメンバーの実力がまだ未知数というのもあるが・・・。

「そんなに君はなゆが、他のみんなが信じられないのか?
 自分の過去を知られたらみんな無条件で離れてしまうと思っているのか?
 ちゃんと話合うんだ、この乱闘騒ぎがどう終わろうとね」

もういまさら戦闘状態を解除してはいすみませんでしたではすまない。
明神もそれは分っているだろう。

156ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/06/09(日) 18:00:31

「ブライドゴッドの覚悟はよくわかった、だからもう言葉で引きとめようなんて無粋な真似はしない
 だから・・・僕は僕のしたいようにする・・・それでいいんだろ?」

君のやりたい事はなんとなくだがわかる。
けれどこんな・・・自分を傷つけて解決するようなやり方は・・・だめだ。

「あ・・・やっぱり・・・最後に一つ言わせてくれないか?」

そういいながら10秒ほど固まる、実はもう言いたい事等ないが・・・この10秒待ってもらわなきゃ困る。
・・・よし!

「なあ明神・・・雄鶏乃怒雷!」

不意打ちの一撃。

部長が唯一使える遠距離の雷撃を明神に向けて放つ。
霧の一部の攻撃付与を打ち消しながら雷は確実に明神のいるであろう方向に向ってとんでいく。
威力が低くても電撃、人間に当たれば一撃で戦闘不能にできるはずだが・・・。

「怒らないでよ、こんなの挨拶だよ挨拶」

さすがにこれで倒れるほど明神はマヌケではないだろう。

「なゆ・・・僕じゃ力不足かもしれないけど力を貸すよ、あの分からず屋を一発ぶん殴ってやろう!」

だれがブライトゴッド側についても関係ない。徹底的に戦おう。
手を抜くのは相手に失礼だからね。

「僕と部長の実力見せてあげよう!」




【なゆ側について明神と戦う構え】
【ポヨリンにバフ、開幕不意打ち雷撃】

157カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/06/10(月) 23:22:29
>「くくく。ははは!そうだなぁ!楽しかったぜぇ?お前らとのこれまでの旅はよぉ……?」
>「試掘洞の穴ぐらで古代兵器と戦った時も。港町で邪悪なおっさんの恋を応援した時も。
 ガンダラで飲んだ酒や、リバティウムで喰ったメシの味は、きっと一生忘れない。
 色々ひっかき回されもしたが、大体良い思い出だ。ああ、楽しかった。
 ――楽しくなかったら、誰がお前らとお仲間ごっこなんざするかよ。うひゃひゃひゃ!」

「ちょっと明神さん、いきなりどうしちゃったの……!?
見てないから分かんないけど所詮ネット上のレスバトルでしょ!?」

正体がバレた明神さんは開き直ったのか、理想的すぎるフォルムの悪役笑いを披露しながらなゆたちゃん達を煽り始める。
カザハは今までのツッコミ役ポジションからの豹変っぷりに戸惑うばかり。

>「守るだぁ?てめーはなんにも分かっちゃいねえなエンバース。モンデンキントがおこな理由がよ。
 これから俺はモンデンキントと一線交えるがよぉ、お前は俺とあいつのどっちを守るんだ?ええ?
 守りたいモン同士がバトるとき、そのどっちを優先するか……決めてあんだろうなおい?」

>「なあ、今はそんな事してる場合じゃないって君が一番よくわかってるはずだろ?
 たしかに過去にブライトゴッドは嵐に近い行為をしていたかもしれない。
 けど今それを必要に攻めたり、気にする必要はないと思う。だから――」

「一戦交えるって……レスバトルじゃなくてガチなバトル!? えぇええええええええええ!?
みのりさんも見てないで止めてよ!」

カザハとジョン君の新参二人が必死でなだめにかかるが、効果無し。
ネット上でのレスバトルなんて第三者から見れば些細なことだが、張本人達にとってはそういうわけにはいかないのだろう。
そこでなゆたちゃんや明神さんと同じ古参組のみのりさんに助けを求めるカザハ。
しかし、みのりさんの反応は予想外のものだった。

>「まぁ、ええ機会なんかもやねえ。
バロールはん、明神さんの言うとおり、これはブレイブの内輪の話しよって手出し無用でお願いするわ〜」

>「……場所を変えようぜ。ここは暴れるには狭すぎる。ゴッドポヨリンさんも使いづれえだろ。
 下にいい感じの広場があったな。そっちで闘ろう」

>「まあ、うちらブレイブやし、やり合わな収まりがつかんこともあるやろうしねえ
エンバースさん、カザハちゃん、それにジョンさんも、これからに必要な大切な事やからいきましょか〜」

「ちょ、ちょっと……!」

場の空気に流されるままに、戸惑いながらも否応なく地下の広場に付いていく。
その道中で、カザハの脳内で何かが繋がったようだ。

「ゴッドポヨリンさん……? ということはぽよぽよカーニバルコンボの!?」

フォーラム戦士の方を正統派有名プレイヤーより先に思い出すのも変な話だが
モンデンキントにはうんちぶりぶり大明神ほどの響き的なインパクトがないので、思い出すのがワンテンポ遅れたらしい。

158カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/06/10(月) 23:27:32
>「さて、挨拶が遅れちまったな。俺がうんちぶりぶり大明神だ。説明は……要らねえよな。
 俺の名前呼ぶときは明神とか勝手に略すんじゃねえぞ?そういうのすっごい失礼だと思うの。
 ちゃんとフルネームでうんちぶりぶり大明神って呼んでね。じゃないと返事しねえかんな」

地下の決闘場(?)に辿り着くと、明神さんはいかにも中ボスですと言わんばかりの勿体ぶった自己紹介をする。
そしてフォーラム戦士の本領を発揮し、なゆたちゃんをこれでもかと煽る。
それにつれて、最初は困惑していたカザハの表情が怒りへと変わっていく。
同時に立ち位置も、所在無さげなどっちつかずな位置から、自然となゆたちゃんを庇うような位置へと。

>「気付いてっか?リバティウムを出てからこっち、俺たちがみんな別々の方を向いてるの。
 真ちゃんが居た頃はみーんな足並み揃ってたのに、なんでだろうね?
 焼死体とのギスギス、諍い、煽り合い……いつまで経っても話が進まねえ。
 これは問わざるを得ませんなぁ?なゆたちゃんのリーダーの資質って奴をよぉ」

「何なの言いたい放題言っちゃって! なゆのせいじゃないよ!
リーダー役とこっちの世界のナビゲーター役が同時にいきなりいなくなったタイミングで
自分含めよく分かんない奴が続々登場したからでしょ!」

そう、以前のパーティーは同時にほぼ同じ場所にこちらの世界に飛ばされてきたらしいという同じ境遇にあった上に
ウィズリィというこちら側の世界のナビゲーター役もいた。
ただ一点、エンバースさんを嫌いまくって喧嘩している点だけは事実だが。
様々な条件を一切無視して自分に都合のいい部分だけを取り出して強調する――煽りの常套手段である。
つまるところカザハは煽り耐性0であった。

>「石油王!カザハ君!ジョン!一口乗るなら今だぜ!俺に加勢すりゃ、新生パーティに相応の地位を約束する!
 ついでにモンデンキントを打倒したプレイヤーの名もほしいままだっ!」

「誰が乗るかッ! このうんちぶりぶり大明神め!
その小学生男子が喜びそうなネーミングセンスは嫌いじゃないけどネタ枠だから許されるのであってリーダーは駄目!
“うんちぶりぶり大明神とその仲間達によって世界は救われました!”なんて伝説に刻まれたらどうしてくれるの!?」

そういう問題か!? とも思うが
――こうしてうんちぶりぶり大明神とその仲間達によって世界は救われたのであった! 完!
……うん、想像してみると確かに嫌だ。増してや幼い頃から勇者が夢だったカザハにとっては死活問題だろう。
うんちぶりぶり大明神に焼死体に暫定トラック転生姉弟に犬の散歩中の天然ナンパ外国人。
自分達含めパーティーの約3分の2がネタ枠と化している気がするのはこの際置いておく。

>「ブレーキって、そういう……」
>「え〜これって【うんちぶりぶり大明神】と【モンデキント】のお話やから手は出さへんつもりやってんけど〜
まあ、明神さんのたっての願いやしぃ、しゃーないわなぁ」

当然というべきか、みのりさんやジョン君もなゆたちゃん側について明神さんの暴走を止めるつもりのようだ。
それにしてもこの上なく緊迫した状況だが、うんちぶりぶりやらブライトゴッドという単語が連呼されると”笑ってはいけないPvP”のような気分になってしまう。

159カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/06/10(月) 23:29:06
>「『濃霧(ラビリンスミスト)』――プレイ!」
>「――『黎明の剣(トワイライトエッジ)』、プレイ!」

明神さんの霧のスペルによって、否応なく戦闘は始まった。
同時に、カザハは藁人形がはじけ飛んだことに騒いでいる。

「ああーっ、折角もらった幸運の人形がッ!」

>「霧を対象にするやなんてゲームではでけへんし、それをやろうという発想にもびっくりやわ
周囲を包むきり自体でダメージ受けるやなんて防ぐのも難しいけど、うち相手には悪手やねえ
我伝引吸(オールイン)……プレイ!」

明神さんは霧の一粒一粒にダメージ付与の効果を与え、みのりさんがこのターンのダメージを肩代わりしてくれたようだ。

>「雄鶏乃栄光!対象ポヨリン、発動!」
>「なゆ・・・僕じゃ力不足かもしれないけど力を貸すよ、あの分からず屋を一発ぶん殴ってやろう!」
>「なあ明神・・・雄鶏乃怒雷!」

ジョン君はポヨリンに強化をかけ、続いて電撃の攻撃を放つ。
ヤマシタに――ではなく明神さんに。

「まさかのダイレクトアタックう!?」

こういうゲームのPvPってモンスター同士を戦わせるもんじゃなかったっけ!?
いや、ガチの敵との戦いの時はルール無用なのはわかるけど
今回はHPが1になった時点で終わる”モンスターは”死にはしないフレンド対戦モードにしてるわけだし!
あれ、それ言い出したらこの毒の霧もプレイヤーもダメージ食らう仕様なのか?
しかし、更なる驚きによりすぐにそれどころではなくなった。
みのりさんがなゆたちゃん側から離れていく。

「みのりさん、どこ行くの!?」

>「なゆちゃんなぁ、この一ターンはうちからのサービスやよ〜
うちはなゆちゃんの事はかってるし、うち【ら】ではでけんことをやってくれると思うてる
でもなぁ、うちもなゆちゃんのリーダーの資質、見てみたいんやわ〜」

流石は権謀術数渦巻く京都シティの住人、油断も隙もあったもんじゃない。
スマホを二度見してみのりさんがパーティーから抜けたことを確認したらしいカザハは素っ頓狂な声をあげた。

「え、えぇえええええええええええええええ!?」

覚悟を決めたらしいカザハは、私の背にまたがる。
みのりさんが向こうに行ってしまったからにはお行儀よくモンスター同士を戦わせておくのでは済まないと悟ったのだろう。

160カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/06/10(月) 23:30:06
「ジョン君……なゆがゴッドポヨリンさんを出すまでなんとか時間を稼ごう!『癒しのそよ風(ヒールブリーズ)』!」

少しずつHPを削られる毒の領域に対してHP継続回復のスペルで対抗、何の捻りも無いが正攻法ではある。
部長のデフォルト能力らしい持続回復との相乗効果も期待できるだろう。
更に、どこまでゲーム仕様に忠実でどこからゲーム仕様以上の事が起こるのかはまだよく分からないが、
うまくいけば風によって少しずつ霧が吹き散らされるかもしれない。

「『俊足(ヘイスト)』!」

続いて素早さ上昇のスペルを、ポヨリンではなく敢えてのなゆたちゃんへ。
ぽよぽよカーニバルコンボの成立までには恐ろしく手順が多いという噂。少しでも早くなればと思ったのだろう。
尤もプレイヤーへのスペル使用事態がゲーム上では有り得ないので、どこまで有効かは未知数だ。
エンバースさんの姿は霧でよく見えないが、なゆたちゃんとは喧嘩ばかりだったし、
明神さんには勧誘されてたしで向こう側についてしまった可能性が高いだろう。
数の上では3対3――みのりさんが向こうに行ってしまったのは痛手だが、やるっきゃない。

161崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/06/12(水) 15:45:26
うんちぶりぶり大明神とモンデンキントの因縁は、深い。
モンデンキントがブレイブ&モンスターズ!の世界で頭角を現し、ランカーとして一定の知名度を有するようになったとき。
すでに、うんちぶりぶり大明神はフォーラムに存在していた。
ただの愉快犯的な、一過性の荒らしではない。
ブレモンを憎悪し、徹底的に中傷する。悪口雑言によって罵りクソゲーと言って憚らない、クソコテと蔑まれる筋金入りのアンチ。
その怨念は凄まじいの一言で、どれだけ運営に垢BANされフォーラムのスレッドを消されようとも、まるで引き下がらない。
幾度でも、何度でも復活し、その都度目を覆いたくなるようなアンチスレを立てる。
ブレモンを楽しい、面白いと言うファンもうんちぶりぶり大明神にとっては撃滅対象だ。
楽しく語らうスレッドに乱入し水を差す。ちょっとした揉め事にも口を挟み、火種を何倍にも大きくする。
こいつは付け入る隙がある、と狙った相手を執拗に攻撃し、心が折れるまでレスバトルを繰り広げる――。
フォーラムで彼によって徹底的に叩きのめされ、ブレモンをやめてしまったプレイヤーも少なくない。
モンデンキントがスライムマスターと呼ばれ、いわゆる良コテの評価を得る反面、うんちぶりぶり大明神の評価は常に最低だった。
正義感が強く、何よりブレモンを心から愛するモンデンキントが、そんなうんちぶりぶり大明神とぶつからない訳がない。
ふたりは幾度も激突した。熾烈なレスバトルを繰り広げ、夜っぴて議論を展開した回数は両手の指に余る。
そんな、因縁の相手。大好きなブレモンに寄生する、不倶戴天の敵。

うんちぶりぶり大明神――

「え!? ど、どうしたのかな!? みんな! 
 なに? なにこの空気? ひょっとして私、なんかまずいこと言っちゃった?」

さすがにこの展開は創世の魔眼をもってしても見通せなかったらしく、バロールがオロオロと狼狽する。

>あった……! ”うんちぶりぶり大明神――重箱の隅を突くようなクソリプや批判スレッドを毎日大量に立てる古式ゆかしきフォーラム戦士。
 相手をするだけ時間の無駄なので見かけても関わらないようにしましょう――”!?

カザハが分厚い攻略本をめくって、そんな情報を引用してくる。
だが、それはとっくに知っている情報だ。なゆたはここにいる誰よりもうんちぶりぶり大明神について知悉している。

>ん〜なんやの〜?明神さんて有名なお人やったん?
 へぇ、フォーラムでスレッド?時間があって羨ましい事やわぁ

みのりの反応は、いつもと変わらないおっとりしたもの。
無理もない、みのりはそもそもフォーラムに参加したことがない。他人事以外の何物でもないだろう。

>明神さん。今の話、本当なのか?……いや
>……大丈夫だ。例えそうだとしても……俺は、あんたを守るよ。心配はいらないさ

エンバースは相手が他に類を見ない稀代のクソコテと知っても、守るというスタンスを崩さない。
それはそうだろう。『守る』という行為に対して、相手のパーソナリティを考慮する必要などないのだから。

>フォーラム戦士・・・?

ジョンはぽかんとしている。恐らくジョンもみのり同様フォーラムには縁がなかったのだろう。
もちろん、フォーラム戦士なんて存在について熟知しているはずもない。

仲間たちが四者四様の反応を見せる中、なゆたは双眸を大きく見開いたまま呆然と立ち尽くしていた。
信頼していた仲間が、共に死線を潜り抜けてきた仲間が。
よりによってブレモンを貶し、和気藹々とゲームを楽しむ人々に冷水を浴びせかけ、聞くに堪えない悪口雑言で罵り尽くす――
あの。最低最悪のクソコテだったなんて。
そんなことはない。そんなの、何かの間違いだ――そう否定する暇さえ、なゆたには与えられなかった。
なぜなら、なゆたの意識が現実逃避にシフトする前に――

>くくく。ははは!そうだなぁ!楽しかったぜぇ?お前らとのこれまでの旅はよぉ……?

誰でもない、明神自身が。自分がうんちぶりぶり大明神だと種明かしを始めたからである。

>守るだぁ?てめーはなんにも分かっちゃいねえなエンバース。モンデンキントがおこな理由がよ。
 これから俺はモンデンキントと一線交えるがよぉ、お前は俺とあいつのどっちを守るんだ?ええ?
 守りたいモン同士がバトるとき、そのどっちを優先するか……決めてあんだろうなおい?
>のべつまくなく守ろうなんてのはな、エンバース。ゾンビとあんまし変わんねえぞ。
 本能が求めるのが食人か庇護か、違いはそれだけだ。まぁしょうがないか!焼死体だもんね!
 ホントはお前、生前の欲求に従って動くだけのガチゾンビなんじゃないのぉ?

一戦交える。明神は確かにそう言った。
だが、なゆたはその言葉をうまく呑み込めない。耳に入ってくる言葉のすべてが、上滑りして意識の外を掠めてゆく。

>……場所を変えようぜ。ここは暴れるには狭すぎる。ゴッドポヨリンさんも使いづれえだろ。
 下にいい感じの広場があったな。そっちで闘ろう

明神はそう提案すると、踵を返した。
言われるまま、なゆたもふらふらとおぼつかない足取りで広場へと降りてゆく。
しかし、戦うことを承知した訳でもすべてを理解した訳でもない。相変わらず、なゆたの目は焦点が定まっていない。
ただ、そっちへ行こうと言われたからそうしているだけ。

その姿は、むしろ明神にゾンビと罵られたエンバースよりもゾンビのように見えただろう。

162崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/06/12(水) 15:45:55
>悪いなバロール。アコライト行く前に、どうしても付けとかなきゃならねえ話があるんだ。
 いやマジでごめんね?全部済んだらちゃんと世界救いに行くから許してね。
 ……ちゃんと、明日からの日程には食い込まねえようにするからさ

「ち、ちょっとちょっと! 何の話!? 何でいきなりバトル!? 仲良くー! みんな仲良くー! ラブ&ピースでしょ!?」

訳が分からない、といった様子でバロールが喚いている。
アルフヘイム侵略の元主犯、魔王がみんな仲良くとか言っているのは違和感以外の何物でもなかったが、今は些細な問題だ。
慌てるバロールを尻目に、明神はなゆたと対峙した。

>さて、挨拶が遅れちまったな。俺がうんちぶりぶり大明神だ。説明は……要らねえよな。
 俺の名前呼ぶときは明神とか勝手に略すんじゃねえぞ?そういうのすっごい失礼だと思うの。
 ちゃんとフルネームでうんちぶりぶり大明神って呼んでね。じゃないと返事しねえかんな

――ああ。

>まさかこんな形でツラ拝む羽目になるとはな。だけど一応、お前に言おうと思ってたことがあるんだ。
 ――会いたかったぜ、モンデンキント。寝ても覚めても、てめーのことばっか考えてた。
 いけ好かねえてめーをレスバトルで叩きのめす日を、俺はずっと待ってた

――そう、なんだ。そうだったんだ。

>しかしまぁがっかりだなぁ?みんな大好き月子センセーが、こんな小便くせえガキだなんてよ。
 あいつの垢乗っ取った熱心なモンキンチルドレンってオチの方がまーだ説得力あったぜ。
 どうよ?ホントはお父さんのスマホ借りてるだけの女子高生だったりしない?

――こんなのって、ないよ。こんなの、絶対おかしいよ……。

明神の煽りを、なゆたはただ茫然と聞いた。
信じられない。信じたくない。
けれど、これは真実だ。事実だ。まぎれもない現実なのだ。
なゆたの脳はそれを遅まきながら理解した。なぜなら―――
明神の口から出るその煽りは、なゆたのよく知るうんちぶりぶり大明神のフォーラムでの煽りの手法とまるで一緒だったから。
フォーラムに書き込みする不特定多数の人間の、大勢のプレイヤーの。
誰よりもうんちぶりぶり大明神と話したモンデンキントだからこそ理解できる、この感覚。
なゆたの魂が、この男は間違いなくうんちぶりぶり大明神なのだと――そう告げている。

思えば、そう察することのできる要素は今までいくつもあった。
赭色の荒野で初めて出会ったとき、無断でベルゼブブを捕獲しようとしたこと。
戦闘での、徹底的に相手の裏をかく戦術スタイル。
ライフエイクを煽り尽くしたときの、あの苛烈な言葉選び。
それらはすべて、今考えるとうんちぶりぶり大明神の手法そのものだった。
明神という名前といい、彼がうんちぶりぶり大明神であると看破する機会はいくつもあったのだ。
だが、なゆたはそれを考えなかった。時折違和感を覚えることはあっても、その可能性を脳から締め出していた。
なぜなら――

そんな不審な行動のすべてを払拭するほど、彼は信頼に足る仲間だったからだ。
なゆたは覚えている。鮮明に記憶に焼き付けている。
情報を得るため、彼がガンダラでおこなった献身を。
せっかく手に入れたレイド級モンスター、バルログを、パーティーを救うために捨て石としたこと。
ライフエイクを救いたい。そんななゆたの身勝手な願いを、二つ返事で了承してくれたこと……。


>――すげえ面白そうじゃん。やってやろうぜ


リバティウムで明神が言った言葉が、今でも耳の奥に残っている。
そうだ。彼は楽しんでいた。この苦境こそ、絶体絶命の窮地こそ、ブレモンプレイヤーの真骨頂だと。
彼の言葉が。佇まいが。そして表情が、何より雄弁に物語っていたのだ。
そんな頼もしい、男気に溢れる、間違いなく自分たちと同じ心からブレモンを愛するプレイヤーである彼が。
あの“うんちぶりぶり大明神”と同一人物だったなんて――。


そんなこと。考えつくことができる存在なんて、いやしない。

163崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/06/12(水) 15:46:13
だが。けれど。でも。しかし。
現実は容赦なく進んでゆく。事態は坂を転がるように悪化してゆく。

>どーもお前とモンデンキントが結びつかねえんだよな。
 だってモンデンキントは人望人徳の塊みたいな聖人君子の血液サラサラ大明神だったけど……
 お前リーダーシップだめだめじゃん。たかだか6人ぽっちのパーティも纏め切れてねえもんなぁ?
 俺の知ってるブレモンの大先生は、この5倍の30人パーティだってきっちり纏めてたぜ
>気付いてっか?リバティウムを出てからこっち、俺たちがみんな別々の方を向いてるの。
 真ちゃんが居た頃はみーんな足並み揃ってたのに、なんでだろうね?
 焼死体とのギスギス、諍い、煽り合い……いつまで経っても話が進まねえ。
 これは問わざるを得ませんなぁ?なゆたちゃんのリーダーの資質って奴をよぉ

クソコテ・うんちぶりぶり大明神が他のアンチや荒らしと一線を画す要素は、これだった。
単に難癖をつけるだけ、無理矢理に突っ込みどころをほじくり出して追及するだけの荒らしなら、誰も構ったりしない。
他のくだらないアンチ連中のように、とっくに飽きられ無視され埋没していたことだろう。
煽りには違いない。悪意にまみれた言葉なのは疑いようがない。
だが、常にその意見には一定の真実があった。目を逸らしようのない、ぐうの音も出ない正論が含まれていた。
彼は彼で、一定のフォロワーを獲得していた時期もある。――荒れたフォーラムに便乗する愉快犯が大半だったけれど。

――リーダーの、資質……?

なゆたはぐちゃぐちゃに混乱した頭の中で、それでも考える。
元々、なゆた自身は真一のサポートとしてパーティーに参加したつもりだった。現実世界でそうだったように。
いつだって、なゆたは真一がやりたいことをやるためのお膳立てを整える役だった。
彼がリーダーシップを発揮し、パーティーを牽引していくなら、自分はその補佐に徹する。
それが自分の立ち位置だと信じて疑わなかった。

しかし、その関係は真一のパーティー離脱によって脆くも崩れ去った。
となれば、残ったパーティーはどうなるか?
実質的にリーダーに一番近かった人間がリーダーを引き継ぐのが自然な流れであろう。
だが、なゆた自身は自分を現在のパーティーのリーダーだと思ったことなど一度もない。
むろん、パーティーの方向性や今後の行動指針を決定したことはある。が、それもあくまでその場限りのこと。
他に最終的な決定を下す存在がいないなら、自分がしよう――と思ってのことに過ぎなかった。
それがリーダーの仕事ということだ、と言われてしまえば反論できないが、少なくともなゆたはそう思っている。
だから――

――わたしは、リーダーなんかじゃない……。

明神に資質を問われても、そうとしか思えなかった。
モンデンキントは聖人君子だったと、明神は言う。
確かにそうかもしれない。いや、そうなのだろう。実際なゆたはフォーラムで聞き分けのいい、優しい月子先生を演じていた。
演じるのは簡単だ。なゆたは生臭坊主の父親が法話で檀家の人々の心を掌握するところを幼い頃から見てきた。
新興宗教の教祖でもやればさぞかし大成するに違いない父譲りの話術は、支持者を獲得するにはこの上なく便利なスキルだった。
大規模な戦争イベントで音頭を取り、ギルドマスターとして30人以上のメンバーを率いたこともある。
けれど、それらはすべて仮面だ。ネット世界という壁越しにかぶっていたペルソナだ。
本当のなゆたはエンバースが思う通りの、血の気の多いかんしゃく玉でしかない。
そんな人間が、ネット世界という壁越しでない生の人間を統率するなど不可能であろう。
なゆた自身にリーダーの自覚が微塵もないとくれば、なおのことだ。

>そういうわけでモンデンキント、こいつはクーデターだ。
 不甲斐ないリーダーをぶっ倒して、これからは俺がパーティを仕切る。
 出しな、てめーのポヨリンさんを。その可愛い可愛いひんやりボディを叩き潰してやるよ

明神がスマホをタップし、ヤマシタを召喚する。
明神はやる気だ。戦う気なのだ。自分を敵と判断し、ふがいないリーダーとして追い落とすつもりなのだ。
……本気、なのだ。

>……なあモンデンキント。『タキモト』ってプレイヤーを、覚えてるか?

「………………」

>……いや、何でもねえ。忘れてくれ

明神が問いを打ち消す。なゆたは答えられなかった。
タキモト。その名に覚えはない。フレンドにもいなかった気がする。
モンデンキントとして、なゆたは今まで数多くのデュエルを経験してきた。500戦はくだらないだろう。
その中の誰かだろうか、と思うも、それは完全に記憶の中に埋没してしまっている。

>石油王!カザハ君!ジョン!一口乗るなら今だぜ!俺に加勢すりゃ、新生パーティに相応の地位を約束する!
 ついでにモンデンキントを打倒したプレイヤーの名もほしいままだっ!

明神が叫ぶ。それは、今までひとつだったパーティーの分裂を促す言葉。
彼の言う、クーデターが始まったのだ。

164崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/06/12(水) 15:46:30
>誰が乗るかッ! このうんちぶりぶり大明神め!

カザハは、即答。パーティーの立ち位置転覆を目論む明神の誘いを却下した。
出会ってまださして時間も経っていないというのに、カザハはなゆたの味方をしてくれた。
きっと根っからの善人なのだろう。ブレモンアンチのクソコテと相容れるわけがない。

>え〜これって【うんちぶりぶり大明神】と【モンデキント】のお話やから手は出さへんつもりやってんけど〜
 まあ、明神さんのたっての願いやしぃ、しゃーないわなぁ

みのりはそう言うと、なゆたの傍に立った。
どうやら、みのりもなゆたの味方らしい。
……と、思ったが。

>なゆちゃんなぁ、この一ターンはうちからのサービスやよ〜
 うちはなゆちゃんの事はかってるし、うち【ら】ではでけんことをやってくれると思うてる
 でもなぁ、うちもなゆちゃんのリーダーの資質、見てみたいんやわ〜

みのりは明神の発生させたスペルカードの効果を1ターンだけ肩代わりすると、パーティーを離脱してしまった。
一見すると単なるみのりの気まぐれだが、これは恐るべきことだ。
みのりは明神の発生させた『濃霧(ラビリンスミスト)』と『黎明の剣(トワイライトエッジ)』の合わせ技を吸収し、一気に蓄積ダメージを獲得した。
みのりが明神側に回ったことで、その蓄積ダメージが――特大の爆弾が相手側に渡ってしまったことになる。
最初からみのりはそうするつもりだったのだろう。まさに巧妙、老獪な戦略と言わざるを得ない。
イシュタルの『収穫祭の鎌(サクリファイスハーベスト)』には、今まで幾度も窮地を救われた。
その死神の鎌が、今。こちらに向けられている――。

>雄鶏乃栄光!対象ポヨリン、発動!
>ニャー
>なあ明神・・・雄鶏乃怒雷!

部長が気の抜けた鳴き声をあげる。
ジョンはなゆたの召喚したポヨリンにバフを掛けると、何を思ったかいきなり明神に魔法をぶちかました。
それで明神が一撃OKされることはないだろうが、宣戦布告としては充分だろう。

>なゆ・・・僕じゃ力不足かもしれないけど力を貸すよ、あの分からず屋を一発ぶん殴ってやろう!

「………………」

ジョンはそう言って、なゆた側についた。
ついさっき仲間になったばかりで、何もかも分からない彼だったが――彼もカザハと同じで、紛れもない善人なのだろう。
クーデターなどという剣呑な行為を、自衛官である彼が見過ごせるはずがなかったということだろうか。
カザハとジョンが味方をしてくれたのは僥倖だった。とてもありがたいことだ。
けれど、そんなカザハとジョンの厚意に対して、なゆたは感謝の言葉はおろか何のリアクションも取ることができなかった。
まだ、心が追いつかない。気持ちが整理できない。

>試掘洞の穴ぐらで古代兵器と戦った時も。港町で邪悪なおっさんの恋を応援した時も。
 ガンダラで飲んだ酒や、リバティウムで喰ったメシの味は、きっと一生忘れない。
 色々ひっかき回されもしたが、大体良い思い出だ。ああ、楽しかった。
 ――楽しくなかったら、誰がお前らとお仲間ごっこなんざするかよ。うひゃひゃひゃ!

明神の先ほど言った言葉が、頭の中で繰り返される。
ああ、そうだ。楽しかった。本当に楽しかったのだ。死ぬかと思ったし、つらかったし、実際怪我もしたけれど、楽しかった。
最高の思い出だ。きっと自分はこの思い出を一生忘れない。何年後も、何十年後も、生きている限り――
この体験はすばらしいメモリーとなって、なゆたの心の中に輝き続けるだろう。
でも。だから。……だからこそ。
なゆたには、今の状況が信じられない。実感を伴ってこない。
まるで、夢を見ているようにフワフワした感覚だけがある。
もしも、これが本当に夢だったなら。魔法が見せる幻覚であったなら。
目を覚ますと、真一がいて。みのりが、しめじが、ウィズリィがいて。



明神が笑顔で『なゆたちゃん、クエストに行こうぜ!』と言ってくれたなら――――――。

165崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/06/12(水) 15:46:45
「……わかった。わかったよ、わーかーりーまーしーたー!
 それじゃ、これを『異邦の魔物使い(ブレイブ)』同士の公式戦としよう。
 見届け人は僭越ながらこの私、『創世の』バロールが引き受ける。一応、ここの宮廷魔術師だからね!
 王にはあとで説明しておく! だから――後に遺恨を残さないよう、存分にやりたまえ!
 ――ちょうど、私もこの目でじかに『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちの戦いぶりを見ておきたいと思っていたんだ」

やっと落ち着きを取り戻したバロールがそう言って、フィールドの隅に立つ。
これはもう、単なる内輪揉めではない。この戦いで勝った者が、正式に今後のパーティーを牽引する。
カザハ的に言うと『○○とその仲間たち』になるという訳だ。

ただ、まだなゆたは動かない。……動けない。

立ち込める濃霧の中、当事者であるなゆたを置き去りにしたまま、戦いが始まった。

>ジョン君……なゆがゴッドポヨリンさんを出すまでなんとか時間を稼ごう!『癒しのそよ風(ヒールブリーズ)』!

カケルの背にひらりと飛び乗ったカザハが、回復魔法をかける。
『黎明の剣(トワイライトエッジ)』によって攻撃力を持った『濃霧(ラビリンスミスト)』によって、なゆたチームは毎ターンダメージを受ける。
だが、継続回復スペルを使えばその効果は一時的にではあるが相殺される。
なゆたも同じように継続回復効果のあるスペルカード『再生(リジェネレーション)』を持っている。
きっと、まともな思考ができていたなら迷いなくそのカードを切っていただろう。

>『俊足(ヘイスト)』!

さらに、カザハはポヨリンではなくなゆた自身にバフを掛けた。これによってATBが通常の約1.25倍のスピードになる。
なゆたのATBが爆速で溜まっていく。が、なゆたは動かない。動けない。
ブレモンはATBをオーバーチャージできる。
戦略のひとつとして行動遅延を選択し、自分のターンを飛ばすことで、任意のタイミングで複数回行動が可能になる。
一対一のPvPではあまり意味はないが、レイド級と戦うPvEやチーム戦では役に立つ戦術だ。
とはいえ、今のなゆたは戦術でそれをしている訳ではない。まだ、呆然自失状態から回復していないのだ。

>僕と部長の実力見せてあげよう!

ジョンが高らかに言い放つ。ウェルシュ・コトカリスはまぎれもないネタ枠だったが、といって全く使えない訳ではない。
ソロではお話にならないが、パーティープレイでサポート役として運用すれば高い有用性を発揮するモンスターだ。
なゆたを置き去りにして、カザハとジョンが戦ってくれている。力を貸す、と言ってくれている。
……なのに。
まるで戦意が湧いてこない。戦おうという気が起きない。
あれほど好きで、楽しみで、一度として拒否したことのないブレモンのバトルが――今はとても色褪せて見える。
今まで信じていた事象、拠り所としていた想い、好きだと思っていた物事が、音を立てて崩れてゆく。
何もかもが壊れてゆく――。


ぽろり。
ぽろ、ぽろ、ぽろ。


なゆたの大きな瞳、その目尻にみるみるうちに大粒の涙が浮かぶ。
涙はすぐに溢れ、頬から顎を伝って落ちた。
一度零れてしまうと、もう止まらない。堰を切ったように涙が流れてゆく。
今まで蓋をして、見ないふりをしてきたこと。不安、焦燥、絶望――それらがどっと胸に込み上げる。

カザハとカケルが空を翔ける。ジョンの命令で部長が雷撃を放つ。
明神の意志の下、ヤマシタが矢を構える。みのりがイシュタルでダメージを肩代わりする。
四人の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の声が聞こえる――
そんな中、なゆたはただ立ち尽くしたまま。

『ぽ……ぽよ……』

ジョンにバフを掛けられたポヨリンが、なゆたの足許で不安そうにマスターの顔を見上げる。
このままでは『雄鶏乃栄光(コトカリス・グローリー)』も『俊足(ヘイスト)』も無駄に終わってしまうだろう。
だが、なゆたにはどんな行動も取ることができない。そう――


絶望する以外には、なにも。

166崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/06/12(水) 15:47:00
もしもこのまま明神が勝ち、彼曰くクーデターが成功したら、いったいどうなるか。
明神がパーティーのリーダーにおさまり、なゆたはその補佐に――とはならないだろう。
歴史を紐解いてみても、クーデターを起こされ追い落とされた側がそのまま存命するということはない。
悪しき前支配体制の元凶として、見せしめに処刑されるのが常である。
もちろん、明神がなゆたを見せしめに殺すなどということはないだろう。
けれど、もうなゆたはこのパーティーにはいられない。――といって、真一のところにも行けない。
真一はひとりで修業がしたいと言った。ひとりで金獅子に匹敵する力を手に入れなければ意味がない、と。
その決意を妨げることなどできない。まして、どの面を下げて真一に『パーティーを追い出された』などと言えるのか。

敗北したなゆたにできることと言ったら、リバティウムのなゆたハウスへ戻り、ひっそりと過ごすことくらいだ。
それは奇しくも、かつてなゆたが絶対に承服できないものとしてエンバースに言ったとおりの行為だった。
しかし。

――もう、それでもいいよ。

それさえ受け入れてしまうほど、なゆたの心は疲弊しきっていた。

――もともと、リーダーなんて器じゃない。真ちゃんが抜けて、たまたま代わりをやってただけ。
――明神さんがリーダーをやりたいっていうなら、やってもらえばいい。わたしである必要なんてないんだ。
――わたしの負けでいい。モンデンキントの負けで。こんな戦いをする意味なんて、どこにもないよ……。

なゆたの心を、どうしようもなく暗い感情が覆い尽くしてゆく。
赭色の荒野でも、ガンダラでも、リバティウムでも決して挫けなかった心が、大きく揺らいでいる。
ほんの少し前まで、あんなに楽しかったのに。みんなで世界を守ろう! って誓ったばかりだったのに。
どうして。どうして。
どうして、こんなことになっちゃったんだろう。バラバラになっちゃったんだろう。
……どうして……。

両手で顔を覆い、なゆたは泣いた。
どれだけパーティー内で勝気を装っても、モンデンキントとして人格者を演じても、なゆたはどこにでもいる女子高生に過ぎない。
ネット上なら、どんな悪口を言われても気にしない。言われた直後はショックを受けても、すぐに忘れてしまう。
ネットの壁という分厚い緩衝材のおかげで、見たくない情報は容易にシャットアウトできる。
けれど、ここにその緩衝材はない。すべては現実。目の前で実際に起こっていること。
地球から異世界アルフヘイムへと召喚されたときは、真一の存在がなゆたの心を支えた。
真一がパーティーを離脱してからは、仲間たちとの絆だけが気力を奮い立たせるよすがだった。
しかし。

パーティーが崩壊した今、明神から向けられた『血の通った憎悪』に、なゆたは耐えられなかった。

カザハの声が聞こえる。ジョンの声も。
でも、何を言っているのかまでは分からない。なゆたを呼んでいるのか、叱咤しているのか。
何もかもが正常に頭に入ってこない。ただただぐちゃぐちゃした塊が意識に押し寄せてくるだけで、理解できない。
どうすればこの状況を打開できるのだろう? 全員が元の関係に戻れるのだろう?

>気付いてっか?リバティウムを出てからこっち、俺たちがみんな別々の方を向いてるの。

明神の言葉がよみがえる。ああ、そうだ。そんなこと、ずっと分かっていた。
エンバースを拒絶し、除外しようとした時からずっと。でも、どうすればよかったのかなんて分からない。
正解なんて分かるはずもない。なゆたは最善を選んだつもりだったが、それは言うまでもなく悪手だった。

かなしい。
つらい。
さびしい。

溢れかえった負の感情を持て余し、なゆたはただただ嗚咽を漏らす。
そして。

「……………………たす…………け、て……………………」

ほんの僅か。
ほとんど空気が漏れるだけのような、幽かな声で――なゆたはそう言った。
誰か、特定の個人に対して言った言葉ではない。それはなゆた自身無意識のうちに漏らした弱音である。
傷つき弱った心が縋るものを求めて零した、まぎれもない本音――



それは。確かにエンバースの耳にも届いただろう。


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