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【TRPG】ブレイブ&モンスターズ!第四章
165
:
崇月院なゆた
◆POYO/UwNZg
:2019/06/12(水) 15:46:45
「……わかった。わかったよ、わーかーりーまーしーたー!
それじゃ、これを『異邦の魔物使い(ブレイブ)』同士の公式戦としよう。
見届け人は僭越ながらこの私、『創世の』バロールが引き受ける。一応、ここの宮廷魔術師だからね!
王にはあとで説明しておく! だから――後に遺恨を残さないよう、存分にやりたまえ!
――ちょうど、私もこの目でじかに『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちの戦いぶりを見ておきたいと思っていたんだ」
やっと落ち着きを取り戻したバロールがそう言って、フィールドの隅に立つ。
これはもう、単なる内輪揉めではない。この戦いで勝った者が、正式に今後のパーティーを牽引する。
カザハ的に言うと『○○とその仲間たち』になるという訳だ。
ただ、まだなゆたは動かない。……動けない。
立ち込める濃霧の中、当事者であるなゆたを置き去りにしたまま、戦いが始まった。
>ジョン君……なゆがゴッドポヨリンさんを出すまでなんとか時間を稼ごう!『癒しのそよ風(ヒールブリーズ)』!
カケルの背にひらりと飛び乗ったカザハが、回復魔法をかける。
『黎明の剣(トワイライトエッジ)』によって攻撃力を持った『濃霧(ラビリンスミスト)』によって、なゆたチームは毎ターンダメージを受ける。
だが、継続回復スペルを使えばその効果は一時的にではあるが相殺される。
なゆたも同じように継続回復効果のあるスペルカード『再生(リジェネレーション)』を持っている。
きっと、まともな思考ができていたなら迷いなくそのカードを切っていただろう。
>『俊足(ヘイスト)』!
さらに、カザハはポヨリンではなくなゆた自身にバフを掛けた。これによってATBが通常の約1.25倍のスピードになる。
なゆたのATBが爆速で溜まっていく。が、なゆたは動かない。動けない。
ブレモンはATBをオーバーチャージできる。
戦略のひとつとして行動遅延を選択し、自分のターンを飛ばすことで、任意のタイミングで複数回行動が可能になる。
一対一のPvPではあまり意味はないが、レイド級と戦うPvEやチーム戦では役に立つ戦術だ。
とはいえ、今のなゆたは戦術でそれをしている訳ではない。まだ、呆然自失状態から回復していないのだ。
>僕と部長の実力見せてあげよう!
ジョンが高らかに言い放つ。ウェルシュ・コトカリスはまぎれもないネタ枠だったが、といって全く使えない訳ではない。
ソロではお話にならないが、パーティープレイでサポート役として運用すれば高い有用性を発揮するモンスターだ。
なゆたを置き去りにして、カザハとジョンが戦ってくれている。力を貸す、と言ってくれている。
……なのに。
まるで戦意が湧いてこない。戦おうという気が起きない。
あれほど好きで、楽しみで、一度として拒否したことのないブレモンのバトルが――今はとても色褪せて見える。
今まで信じていた事象、拠り所としていた想い、好きだと思っていた物事が、音を立てて崩れてゆく。
何もかもが壊れてゆく――。
ぽろり。
ぽろ、ぽろ、ぽろ。
なゆたの大きな瞳、その目尻にみるみるうちに大粒の涙が浮かぶ。
涙はすぐに溢れ、頬から顎を伝って落ちた。
一度零れてしまうと、もう止まらない。堰を切ったように涙が流れてゆく。
今まで蓋をして、見ないふりをしてきたこと。不安、焦燥、絶望――それらがどっと胸に込み上げる。
カザハとカケルが空を翔ける。ジョンの命令で部長が雷撃を放つ。
明神の意志の下、ヤマシタが矢を構える。みのりがイシュタルでダメージを肩代わりする。
四人の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の声が聞こえる――
そんな中、なゆたはただ立ち尽くしたまま。
『ぽ……ぽよ……』
ジョンにバフを掛けられたポヨリンが、なゆたの足許で不安そうにマスターの顔を見上げる。
このままでは『雄鶏乃栄光(コトカリス・グローリー)』も『俊足(ヘイスト)』も無駄に終わってしまうだろう。
だが、なゆたにはどんな行動も取ることができない。そう――
絶望する以外には、なにも。
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