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変身ロワイアルその6

1名無しさん:2014/08/07(木) 11:23:31 ID:V1L9C12Q0
この企画は、変身能力を持ったキャラ達を集めてバトルロワイアルを行おうというものです
企画の性質上、キャラの死亡や残酷な描写といった過激な要素も多く含まれます
また、原作のエピソードに関するネタバレが発生することもあります
あらかじめご了承ください

書き手はいつでも大歓迎です
基本的なルールはまとめwikiのほうに載せてありますが、わからないことがあった場合は遠慮せずしたらばの雑談スレまでおこしください
いつでもお待ちしております


したらば
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/15067/

まとめwiki
ttp://www10.atwiki.jp/henroy/

672変身─ファイナルミッション─(1) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:09:45 ID:GU7jrFVA0



 ──仮面ライダーの世界。
 ──プリキュアの世界。
 ──魔法少女の世界。
 ──テッカマンの世界。
 ──らんま1/2の世界。
 ──魔戒騎士の世界。
 ──ウルトラマンの世界。

 ──スーパー戦隊の世界。

 あらゆる者が、戦いの終わりを見守った。
 たとえ、ベリアルほどの実力を持つ者たれども、今この時ばかりは、彼らに戦いの行く末を任せるしかない。
 大人たちもまた、子供のような心を胸に、勇士が立ち上がり、関門に辿り着く姿を見守り──その勝利を祈った。

「──やっとたどり着いたか。てめえらも」

 この世界に住む血祭ドウコクは、少しばかりその中では異端だった。
 六門船の揺れる船の上で、三途の川面に浮かんだ映像を、骨のシタリと共に眺めて、彼らが辿り着いた事実をさも当然のように受け入れ、そして、そこにガイアセイバーズがいるかのように、彼は呟いた。
 シタリは、彼の方をちらりと見る。

「見せてみろよ……。──貴様らが勝つ姿を」

 血祭ドウコクの言葉を聞き、その横顔を眺めた後で、シタリは再び、何も言わずに三途の川の方に視線を落とした。
 彼が今、こんな事を言う友人を見て何を想ったかはわからない。
 ただ、シタリもこんなご時世、ドウコクと同じ物を観たがっているという事だけは同じだった。





673変身─ファイナルミッション─(2) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:13:15 ID:GU7jrFVA0



「──ここは、どこだ? いや……」

 ……気づけば、仮面ライダーエターナルたちの周囲には、あの景色が再現されていた。
 エターナルは、お決まりの台詞を告げて、周囲をきょろきょろと見回しながらも、自分たちがどんな場所にいるのかを頭の中ではよく把握しているようだ。
 それもそのはずだ。自分の体がここになければ困る。ここまでの出来事が全て夢というわけでもない限り、今日、この時は自分の体がここになければならない──それが自分たちの宿命なのだ。

「──」

 ──彼らを殺し合いに呼び寄せたあの世界。
 何日か前までここにいて、何日か前まで戦っていた世界と、全く同じ風。
 光の差さない真っ暗な森。──それは、まだここが黎明の世界。もし、彼らの身体が金色に光っていなければ、それぞれの姿を確認するのも覚束ない程だっただろう。

 ただ、心なしか、以前よりも命の鼓動のような物が森の中に生まれ始めているようだった。
 おそらくは、それは、必然的にこの世界に辿り着いてしまう微生物や小虫たちがここに住み着き始め、何の命もなかった世界に少しずつ命が植えつけられようとし始めているという事だ。

 それに気づいたのは、キュアブロッサム──花咲つぼみだけだっただろうか。
 エターナルは、続けた。

「……わかってる。俺たち、遂にここに来たんだな」

 この台詞を告げた時、どうやら、この外の全ての世界では、彼らの最後の戦いの中継が自動的に始まったらしかった。
 そして、この瞬間を以て、艦に最後まで残っていたインキュベーターは、次元の波の中に囚われ、おそらく消滅したのだろう。──勿論、その意識と情報を共有する別の存在が世界にいるので、それほど悲観的に考える事実ではないが、こうして彼らが無事この世界に侵入できた功労者として、インキュベーターの尊い犠牲もあった事は忘れられてはならない。
 それは、アースラという戦艦をここまで運んだのは、決して彼らだけの力ではなかったという証明に違いない。元々の乗組員は勿論、死者さえも、別の世界の者たちさえもそれを動かし、彼らを届けた。
 彼らに勝ってほしいと願う全ての心の結晶が、彼らをここまで乗せたあの巨大な船だったのだ。
 敬礼する間が無いのは惜しむべき事実であった。

「……」

 ただ少しだけ、周囲を見回してアースラを探した者もいたし、空を見上げた者もいた。
 あの数日、共同生活を経たあのアースラは、もう無い。
 その事実には、在りし過去に戻れぬノスタルジーも少し湧いただろう。

「……」

 ……とはいえ、結局、アースラよりも彼らにとって郷愁の情が湧いてしまうのは、こちらの戦場だったのも事実だ。
 あらゆる悲しみと、怒りと、そして楽しい時間さえもあった場所。
 そうであるのは違いない。



 ──しかし、大事な出会いの場所でもある。



 ここにいる者たちは、お互いにここで出会い、ここで悲しみを共有したのだ。
 たとえ、ベリアルの戦いがなければそれぞれがもっと別の──幸せな出会いをしていたのだとしても、今ここにいる自分たちが直面したのは、悲しみの中での細やかな幸せとしての出会いだ。
 この感情を持って戦えるのは、自分たちがここで出会ったからに他ならない。

 ……ふと、そこにかつてと違う物があるのを誰かが見つけた。

「……ん? なんだ、あの悪趣味な手は。あんなもんあったか?」

674変身─ファイナルミッション─(2) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:14:48 ID:GU7jrFVA0

 そんな事を言ったのは──その「誰か」とは、佐倉杏子の事だった。
 ──彼ら八人は同じ場所に固まって転送されていたが、その付近には、腕の形をした奇妙で巨大な建造物が立っていたのだ。
 これこそが悪の牙城なのだが、それを「城」と認識できた者は少ない。
 杏子の言う通り、誰しもが「巨大な手」と思っただろう。しかし、それが巨大な人体の一部の手と認識した者もおらず、あくまで「手の形を模した巨大な何か」という風に全員が捉えたようだった。
 薄気味悪いが、だからこそ、決戦の時であるのがよくわかった。

「気づいてないだけで、前からあったんじゃねえか?」
「あるわけねえだろ! あんなデカい城を見落とすのはこの世でお前だけだ!」
『勿論、あんな物は僕も知らない。この数日で出来たようだ』

 仮面ライダーエターナルの言葉は、同じ仮面ライダーのダブル──左翔太郎とフィリップに突っ込まれる。
 しかし、こうして軽口を叩いていられるのも今の内であった。
 彼らも、決して緊張がないわけではないのだ。だからこそ、わざとこうして場を温めているのかもしれない。
 だが、結果的に言えばそれも束の間の話だった。

「──ッ!」

 次の瞬間。
 一筋の風が吹いた時、まだ温かみを持て余していたはずのその場の空気が、ふと一転する。わけもなく背筋を凍らすほどに冷やかな風が、身体を撫ぜる。
 誰もが、喉元に氷柱を飲み込んだような緊張感に苛まれた。

 戦慄──。

「……誰だっ!?」

 この直後に彼らの前に──一人の男が現れたからである。
 闇にも映える真っ白なタキシードの服。
 ──ゆっくりとこちらへ歩いて来る。
 見覚えがあるようで、やはり、これまでに見た事のない雰囲気の男。
 即座にその男の正体を答えられる者はいなかった。

「……遂に来てしまいましたか。……結局、あなたたちは自分の故郷ではなく、お仲間が死んだこの場所で死にたいと──そう願ったと、結論しましょう」

 ダブルは、その男の瞳を見た事があった気がした。
 いや、誰もが見た事があるのだが、その白いタキシードの男に対して、それが──あの、「加頭順」であるという認識を持てた者は少ない。表情こそ変わらないが、どこか柔和で、歩き方にも奇妙な余裕が感じられるからである。

「……」

 元の世界の左翔太郎とフィリップさえも、その判断には少しだけ時間を要したくらいだ。だが、やはり、奇縁があるのか、真っ先に気づいたのは彼らであった。
 到底、あのはじまりの広間で見た男と同一とは思えなかった。──人は数日ではここまで印象を変える物なのだろうか。

「まさか、お前。加頭、順か……?」
「ええ。……お久しぶりですね。てっきり、そちらの半分は亡くなったかと思いましたが」

 加頭が笑顔で皮肉を言った。そちらの半分、というのはダブルの右側──フィリップの事だろう。
 それから、勿論、ヴィヴィオの事も加頭は多少なりとも気にしたのだと思われるが、加頭も同様の死人であるが故、あまり追及するつもりはないようだ。
 特に、フィリップに関してはその出自において、死者蘇生に近い事が行われているし、ガドルという見落としも過去にはある。一人や二人の増援は、今更気にならない様だ。
 呼ばれた当人の仮面ライダーダブルは、加頭のかつてと違う様子に少し当惑していた。

「……なんか、調子狂うな」
「ふふふ」
「前は、そういう風に笑ったりはしなかったぜ。……まあ、今もあんまり良い笑顔じゃねえがな──」
「……ほう、なるほど。後の為に、その言葉も参考にしておきましょう」

 ダブルの反応は予測済というわけだ。これだけの人数を前にしても震えず、余裕綽々と笑っている加頭の顔を見ていると、やはり不気味に思うだろう。ダブルへの勝算があると見ているに違いない。

675変身─ファイナルミッション─(2) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:17:05 ID:GU7jrFVA0
 だが、その場で加頭と敵対している者の──仮面ライダーやプリキュアの全てが、加頭に敗北する未来の予感を全く浮かばせなかった。

「……」

 強いて言えば、そう……少し勝利までの過程が厄介になるだろうという不安が掠める程度だ。それもすぐにどこかへ払いのけられた。
 少し心に余裕が出来た気がした。

「……加頭。もう一つだけ、すっげー参考になる『良い事』を教えてやるよ。
 ──そいつは、フィリップが今ここにいる理由さ」
「ほう。興味深い……」

 変わらず余裕な加頭を前に、仮面ライダーダブルが強い語調で啖呵を切った。





「──俺たちはなぁ、お前たちみたいな奴らを倒すまで死なねえんだ……永遠に!」

『そう、僕達はたとえこの身一つになっても……いや、この僕みたいに、“この身がなくなっても”戦い続けている』

「それこそが、お前たちが相手にしている存在だ……!」

『だから──いうなれば、絶望がお前のゴール……っていうところかな?』





 ダブルは固く拳を握る。
 そんなフィリップの言葉を聞くと、少しだけ加頭は眉を顰めた。
 それは、かつて翔太郎が加頭の野望を阻止した時に発した言葉にもよく似ており、それが加頭に悪い記憶を呼び覚まさせたのだろう。
 しかし、それでも──加頭は、大きく怒りを膨らませる事はなかった。

「なるほど……かつて聞いた時と同じ……か。──憎たらしい言葉ですね。
 しかし──残念ながら、その台詞を聞く事が出来るのも、今日が最後のようです!」

──UTOPIA!!──

 その言葉と同時に、加頭が握るユートピアメモリの音声が鳴り響いた。
 ユートピアメモリが浮遊し、加頭の装着するガイアドライバーへと吸収される。
 重力が無いと言うよりか、むしろメモリが自力でそう動いたかのようだった。
 轟音。ブラックホールを前にしたような不安感。……それらが駆け巡る。

──BELLIAL!!──
──DARK EXTREAM!!──

「!?」



 そして、次の瞬間──暗黒の嵐が吹き荒れた!


 強風が彼らを襲う。土に零れていた大量の葉を吹きあがらせ、地面の草木を全て揺らす。
 暗闇のオーラが雲のように視界を覆う。天と地がひっくり返るような感覚がその場にいる者たちに降りかかる。
 しばらくすると、空に飛び散った葉の数々は、次の瞬間に、まるで鉛の固まりのように一斉に落下する……。

「くっ……!」

 それぞれが、自らの頭を覆うように顔の前で両腕を交差させた。微かに視界に残した光景には、確かに変身していくユートピアの姿がある。
 そこから、ダークザギの発した闇にも似た黒いオーラが現れ、直後一斉に取り払われると、そこに佇んでいたのは、ダブルもかつてまで見た事のない相手──。
 そう──この「ユートピアドーパント」の「ダークエクストリーム」だ。

676変身─ファイナルミッション─(2) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:18:36 ID:GU7jrFVA0

「……っ!」

 ゴールドエクストリームと化したダブルに対して、ダークエクストリームと化したユートピア。それはまるで、かつての戦いの再現でありながら、いずれもかつてのそれぞれとは大きくベクトルの異なる成長を遂げた結果生まれたカードだった。
 そして、彼らが背負うものもまた、かつてとは変わっていた。

 ダブルは、「崩れた理想郷」や「一人きりの理想郷」ではなく、無限の供給と再生を続ける「完全な理想郷」となったユートピアの姿を見て、固唾を飲む。
 どうやら、加頭も秘策と、想いを背負った敵であるらしい。

 しかし──倒す。何があっても、必ず。





「それでは、皆さん。……折角ですから、また、殺し合いを始めましょう。
 ──そう、この私と……この場所で!」





 加頭は仰々しくそう宣言した。
 このバトルロワイアルの始まりを告げた言葉にも似たその一言に、誰もがぴくりと反応した事だろう。
 そう、この男の呼び声であの悪夢は始まった。
 そして、この男を倒してから始まる本当の最終決戦で──全ては終わる。

「──違います!
 これから始まるのは、殺し合いじゃなくて……命と命の、助け合いです!」

 キュアブロッサムがユートピアに向けてそう告げた。

 ガイアセイバーズ。
 それが望む未来を提示され、ユートピアは微かに狼狽えた。
 敵方にこちらを恐れている者はなしと見て、ユートピアの脳裏に掠められたのは、僅かな敗北のビジョンである。──とはいえ、それは勝負に際する者が誰も一度は掠める物。
 ユートピアは、園咲冴子の生前の姿を、そして、ここにあるこの力で戦えば、彼らなど相手ではないという事を思い出して、そんな不安を一瞬で取り払う。

「……フン。──何を言おうと勝手だが、どうせ貴様らは、いなくなるッ!」

 敬語を捨て、猥雑で乱暴な「殺し合い」を始めるユートピアは、その手に構えられた“理想郷の杖”で、閃光の一撃を放った。

「──!!」

 光速のレーザービームが八つに分岐して、各参加者の身体を狙い加速する──。
 瞬きする間もなく自らを狙ってくる数百度の熱を、各々は正確に捉え、八人八色の対応を果たした。
 ビームを防ぐ者、避ける者、跳ね返す者、その体で難なく防ぐ者。
 その全てが一瞬で行われる。
 ユートピアとて威嚇のつもりであったが、全てが殆ど反射的に回避された事を見て、やはり予想以上の相手になった事を実感していた。







「──せやぁッッ!」

 ──直後に聞こえたのは、一人の雄叫びだった。

 攻撃の瞬間に、圧倒的なスピードで姿を眩ました高町ヴィヴィオである。
 聖王の姿となった彼女は、他の数名と同様、全身を金色に輝かせ、真っ直ぐなパンチをユートピアに叩きつけようと迫ってくる。
 何度も、友と磨き上げた拳。
 歪みから救われた少女の、正拳。

677変身─ファイナルミッション─(2) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:19:53 ID:GU7jrFVA0
 それがユートピアの全てを打ち砕くべく、アクセルを踏み込んだようなスピードで邁進していく。
 彼女の一歩は、空間をも飲み込んだような一歩であった。

「──アクセルスマッシュ!!」
「フンッ!」

 ユートピアは、叩きつけられたパンチをクロスした両手でガードした。
 そのまま、ヴィヴィオの手を取り、力の流れを寄せ──彼女の身体の天地をひっくり返す。
 何が起きたのか──。

「くっ……」

 ヴィヴィオも、気づけば空を見る事になった。合気道のような技で投げられたのだと察知するまでにもそう時間はかからない。
 加頭固有の能力を使えば、ヴィヴィオを触れもせずにひっくり返す事が可能であろう。
 しかし、彼はベリアルウィルスの効果で元の素養を超える身体能力や、敵を見る術を得ていた。一切の能力を使わず、元の身体のポテンシャルだけでヴィヴィオに空を見せたのだ。

「……っ! 痛〜っ!」
「この能力だけが私のやり方ではない──。
 格闘による真っ向勝負も一つの戦法だ……!
 得意の接近戦に持ち込む事など、愚かな!」
「……そういう事なら、むしろ逆に、受けて立ちます! ……はぁっ!!」

 ヴィヴィオの拳は、何発もの攻撃を、凄まじい速さで、連続してユートピアに打ち込んだ。
 その一つ一つが、強い魔術を込めた一撃だ。──いうなれば、それこそ、闇の欠片が供給している死者たちの魂である。
 黄金の輝きを持つ限り、ヴィヴィオたちにはこれまで以上の、圧倒的な力が味方する事になるだろう。
 ユートピアも同条件には違いないのだが、その想いの強さでは、ヴィヴィオが勝ると言える──。

「はぁぁッ──!!」
「ふんッ」

 それを何度も、ユートピアの胸に、腹に、顔面に──叩きつけるつもりで打ち込んだ。だが、その全てがユートピアの掌の上で跳ねていく。
 ヴィヴィオのパンチのスピードに追い付き、ほぼ全てを迅速に片手で防御しているのだ。
 結果、ヴィヴィオのパンチは一度もユートピアの身体に当たる事がない。

「──無駄だ!」

 ユートピアの掌から、ヴィヴィオに向けて闇の波動が放たれる。
 それは、彼女の身体を拳から伝って全身吹き飛ばし、真後ろの地面に尻をつかせた。
 ヴィヴィオにとってもそれは少しの痛手であったが、後退の意思が過るほどではない。
 いや、それどころか、この程度の負傷は誰の日常でもよくあるレベルだ。アインハルトと戦った時だってそうだ。何度も行った模擬戦の中で、何度空を見て、何度膝をつき、何度腰を抜かした事か。
 それがヴィヴィオの常だった。それがヴィヴィオの戦いだった。

「──」

 わかっている。──それでも、今はいつもと違うのだと。
 ヴィヴィオの背中には、今、自分を守ってくれている人たちの想いがある。──それを全身で感じていた。この重みは、決して只の荷物にはならない。
 ヴィヴィオに必ず力を貸してくれる。

「くっ……!」

 ヴィヴィオは、すぐに強く地面を蹴って、立ち上がると、再びファイティングポーズを取った。
 ──こうなる限り試合続行だ。何度だってポーズを取る。
 しかし、実のところ、彼女の顔色というのはあまり良くない。勿論、敗北を予感しているわけではない。
 ──ただ、何か薄気味悪い予感がしたのである。

(まさか……この人……!)

 先ほど、手ごたえのなさと同時に──ヴィヴィオはもう一つ、ある違和感をユートピアに対して覚えたのである。
 その理由も薄々察する事になった。

678変身─ファイナルミッション─(2) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:21:20 ID:GU7jrFVA0

「……!」

 クリスも気づいているらしく、クリスの焦燥する感情がヴィヴィオの全身に伝わる。
 いや、クリスはもっとはっきりと、今の闇の波動がヴィヴィオに放たれるまでに正体を明らかに察知したのだろう。
 彼には、まるで悪魔が取り憑いているように見えた。

「──」

 そんな中、ヴィヴィオとユートピアの間に一人の男が立つ。

「──ヴィヴィオちゃん、手を貸すぜ!」

 超光戦士シャンゼリオン──涼村暁である。
 彼もまた、超光剣シャイニングブレードを右手に構え、敵の身体をその刃の餌食にしようと走りだそうとしているかのようだった。
 助っ人というには、少々頼りないが、ユートピア相手には二人以上でかかるのが妥当と見たのだろう。

「──待って!」
「えっ」

 と、そんな彼が手を貸そうとするのを、ヴィヴィオは今までにない剣幕で叱りつけるように怒鳴った。完全に戦闘態勢に入っていたシャンゼリオンも、その言葉に流石に足を止めた。不安気にシャンゼリオンがヴィヴィオの方を向いた。
 ヴィヴィオはすぐさま頭を冷やして、少し丁寧な口調に直して、シャンゼリオンに言った。

「待ってください……!」
「え? なんでよ」
「あの人……実力は今の私たち一人一人と同じレベルですけど……もしかすると、何か切り札を持っているかもしれません!」

 その言葉は、シャンゼリオンとヴィヴィオの数歩後ろにいた他の者たちにも聞こえただろう。
 並んだ者たちも一斉に足を止めた。──今、戦ったヴィヴィオにしかわからない「予感」。
 ユートピアをちらりと見るが、どちらの側もまだ攻撃を仕掛ける様子はない。彼としては、早々に“気づかれた”事も面白いのだろう……。
 ヴィヴィオが続けた。

「……ううん。もっと、わかりやすく言うと──」

 ヴィヴィオが“気づいた”──という事を感じ取り、ユートピアもまた、異形のまま、ニヤリと微笑んだ。
 そう。ユートピアがベリアルウィルスによって得た、新しい能力たち。
 その一つが今、戦闘時を目途に、開眼しているのだ。
 確かにその切り札はまだ使用していないはずだが、しかし、ヴィヴィオたち魔導師には充分に感じ取れるものになった。
 どれだけ消そうとしても匂う、その切り札の香り──。

「──」

 ヴィヴィオが、口を開いた。

「あの人は今、私たちの世界の住人が持つはずの、『魔術』を持っています……!」

 シャンゼリオンたちは、一斉にぎょっとした。
 とりわけ、その中でも強い驚きを示しているのは、仮面ライダーダブルこと左翔太郎とフィリップである。加頭の正体はクオークスであり、NEVERであり、ドーパントであり……また、過去には仮面ライダーに変身したかもしれない。
 しかし、彼は、「魔術」などという物を使った過去はなかったし、その素養は決して簡単に得られるものではなかった。そもそもが、その力の存在しない翔太郎たちの世界の人間がそれを短期間で会得できる可能性は極めて低い。

「……気づいたか」

 ユートピアは淡々と言う。

「──教えてやろう。私は、参加者や私の仲間の持っていた力の残粒子を『コア』として凝縮し、ベリアルウィルスと共に注ぎ込まれた……。
 つまり、ここに居た者たちの全ての技を使う事が出来るのだ……!!」

679変身─ファイナルミッション─(2) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:23:50 ID:GU7jrFVA0

 彼のこれまでの自信には、明確な根拠が伴っていたのである。
 ユートピアドーパントがエクストリームと化した時、同時に備わった新たなる力。
 それは──この殺し合いで現れた怪物たちと同様の力であった。
 魔術に限らず、あらゆる技を運用する事ができる。

「そう──」

 かつて、クオークス、NEVER、ドーパント、仮面ライダーの四つの力を全て得ていたように、加頭の身体には幾つかの悪の勢力と同様の力を発動する「コア」が埋め込まれている。
 JUDOの力のコア。アマダムの力のコア。ラダムの力のコア。花の力のコア。魔術の力のコア。魔界の力のコア。……そんな無数の核が、理想郷の一部として体中にちりばめられたのだ。
 そして、今、気づかれたと知れた時、ユートピアは、狼狽える目の前の敵に向けて、「実演」を行った。

「──たとえば、こんな風に」

 右手を翳すユートピア。
 周囲の大気が渦を巻き、そんなユートピアの右手に収束していく。右手の中に巨大な黒い塊が具現化され、その中に、今込めたエネルギーが全て包み込まれた。
 ぐっと握りしめ、ユートピアは顔を少し上げた。
 それが次の瞬間の彼の一声と共に解き放たれる。

「──ブラスターボルテッカ!」

 叫びと共に、ユートピアの右手から発されたのは、テッカマンたちが使用した必殺の技──ボルテッカの強化版であった。
 一つのエリアを焼き尽くす程の膨大なエネルギーを持つ ブラスターボルテッカが、今、ヴィヴィオたちの前に放たれる。

「何っ──!?」

 轟音と共に──。

「くっ……!」

 しかし、直前にレイジングハートが間一髪バリアを貼り、彼らの周囲だけは守られる。
 それでもやはり、ユートピアの一撃は相当な威力で、レイジングハートへの負担は膨大だったに違いない。こんな多段的な攻撃を受けるのは初の事である。

「──っ!?」

 爆風。
 周囲の草木が一瞬で灰になり、それを見たキュアブロッサムが眉を顰めた。
 仮にバリアを張られなければ、自分たちも無事では済まなかったに違いない。

「くっ……何て力だ……!」

 仮面ライダーエターナルも、自身の身体を守っていたローブを下ろして、憮然とした表情でそれを見ていた。
 ユートピアは、手をゆっくりと下ろし、続ける。

「──今のような技も、何のフィードバックもなく放つ事が出来るわけだ」

 フィリップがそれを見て、息を飲んで言った。

『……つまり、あらゆる地球の記憶を全身に埋め込んでいるという事なんだ!
 奴が使っているのは、正真正銘の……エクストリーム……!!』
「その通り!」

 と、ユートピアの口調はどこか誇らし気であった。
 胸を張り、理想郷の杖を右手に持ち替えた。それを目の前に並ぶ者たちへと向ける。
 彼の持つのは、理想郷を修復する力だ。崩れ去る運命さえも、それを一瞬で巻き戻してしまう。即ち、自らの負うダメージもまた、一瞬で回復してしまうのだ。
 ただでさえ無尽蔵なエネルギーを持つNEVERが、「攻撃を浴びせながら体力を回復する」という絶対の矛と盾を同時に得たのである。

 ブラスターボルテッカに匹敵するエネルギーを放ったとしても、肉体が崩壊する前に肉体が再生してしまう──。
 それが、彼の理想郷の力であった。

「いかに束になってかかろうとも、私に勝つ確率は、ゼロだ……!」

680変身─ファイナルミッション─(2) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:24:17 ID:GU7jrFVA0

 目の当りにした者たちは、呆然とした。
 敵の強大さに恐れおののいたわけではない。
 言うならば、ただ意表を突かれた事と、加えて、それがここで出会った者の技であったが故の忌避の念かもしれない。──しかし、甘く見てはならない相手であるのは間違いなかった。

「だが今のはほんの序の口……。
 今度は本気で行くぞ……────ライトニングノア!」

 ユートピアの次の掛け声は、明確に、目の前の敵たちを全て葬る為に口にされた物であった。
 そう、それは、「埋葬」の為の一言だった。
 ライトニングノアは、ウルトラマンノアがダークザギを宇宙で葬る際に使用したあの技である──あれさえも記録されているというのだろうか。
 あれは間違いなく、この場で使われた最も強力な技に違いない。

 ──瞬間。

 もはや、回避の術さえもなく、ガイアセイバーズと呼ばれた戦士たちの姿が、ユートピアドーパントの放った光に飲み込まれていく。
 純粋なエネルギーの塊が、敵の数に分裂し、それぞれ彼らの身体に向けて放たれた。
 ライトニングノアに等しい攻撃が、全員の身体に頭上から突き刺すように直撃する。

「うわあああああッッ!!!!」
「ぐあっ……!!!!」
「きゃあっ!!!!」

 ヒーローたちは、遠く、炎の底に沈められた。
 彼らに向けて、一斉放射された幾つものライトニングノアの光。
 回避運動に近い行為を出来たのは、ローブを持つ仮面ライダーエターナルくらいである。彼は、ローブに包める一人分の面積を、近くにいたキュアブロッサムの身体を包んで回避させる。

「くっ……!」

 それと同時に──エターナルは、頭の中で実感する事が出来た。
 敵の脅威を。
 あのウルトラマンノアと同じ灼熱の一撃を、掌ひとつで再現できるという強敵の、恐ろしさを……。
 よもや、それだけのエネルギーを無尽蔵に持ち合わせているなど、先ほどまではほぼ予想していなかった事態だ。

「──隠れても無駄だ……『トライアル』!」

 そして、それは、更に、トリッキーな技さえも使えるという事であった。
 ただの力技の砲撃や光線だけではなく──そのエネルギーは時空や光速、人間の近くさえも超越していく。
 ウルトラマンノアやダークザギの力と同じように、ここにいた全ての仮面ライダーやドーパントたちの力も使えるのである。
 助かった仮面ライダーエターナルに距離を縮めたのは、あの仮面ライダーアクセルトライアルの力である。──いや、もっといえば、ダークアクセルと呼ばれたあの石堀光彦の力を融合しているかもしれない。

「何っ……!?」

 エターナルにも、ローブの効果によってメモリを無効化する事で視認出来たが──それは一瞬であった。
 即座に、ローブの効果と“ベリアリウィルス”の効果が打消し合い、トライアルのスピードがエターナルに視認できなくなった。

「くそッ……!!」

 目の前で消えたユートピアの姿に驚愕するエターナル。
 あの超銀河王の効果さえ打ち消したローブの力が、無効化された──。

「どこに──」

 どこだ……?
 敵はどこにいる……?
 俺を狙っているのだろう……?

681変身─ファイナルミッション─(2) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:26:08 ID:GU7jrFVA0

「──ッ!」

 疾走の一秒。

「……っ!!!!!!!!!!!!」

 つぼみの声にならない悲鳴が聞こえたのは、エターナルの腕の中だった。
 真下を見ると、エターナルローブの中に、もう一人分の影がある。
 ──まさか。

「まさかっ……!!」

 ユートピアが一瞬で距離を縮め、潜んだのは、エターナルのローブの、“内側”だったのである。
 狙いは、エターナルとブロッサムだった。──それに気づいたのは、ユートピアが攻撃を始めるよりも、些か遅かった。

「なっ──!!」

 仮面ライダーエターナル自身と、キュアブロッサムが潜んでいたローブの“内側”に、目くるめく“理想郷の杖”の炎の鉄槌が下される。
 最早、炎のエネルギーが充填された今、回避の術はない。
 このエターナル最大の防御壁こそが、同時に、絶対的に逃げ場のない檻となったのである──。

「──死ね!」

 ──爆発。

 エターナルローブの内側で、膨大なエネルギーが貯蓄され、「トライアル」の効果の終わりとともに炸裂する──。
 装甲さえも黒く焦がす一撃。一つの部屋に閉じ込められたまま、殆どゼロ距離で核弾頭が光る事に等しい一撃であった。
 それを受ければ、いかに変身した彼らでさえ、容易く耐えうる事が出来まい。

「──ぐあああああああああああああああ……ッッッ!!!!!!」
「──きゃああああああああああああああ……ッッッ!!!!!!」

 これまでの戦いで、二人ともまだ出した事のない、巨大なダメージの悲鳴。
 エターナルローブが衝撃のあまり、弾け飛び、空へと泳いでいく。
 そこから吹き飛ばされたのは、変身が解けかねないほどの負傷をし、それぞればらばらに地面と激突する事になったエターナルとブロッサムである。
 それはさながら、抱え込んだ花火が炸裂したかのような攻撃だっただろう。
 ──迂闊であった。

「良牙……!!」
「つぼみ……!!」

 ライトニングノアの一撃に倒れていた仲間たちが、手を伸ばしながら、彼ら二人の名を呼ぶ。
 辛うじて、良牙もつぼみも生きているようだが、一瞬、彼らの命を本気で心配した程であった。
 それによって、「黄金」の力が思った以上であるのを実感する──勿論、この力がなければ死んでいただろう──が、それでも、二人が極大なダメージを受けもだえ苦しんでいるのは事実に違いない。
 死者たちが齎した思念はそれだけ強いという事だった。
 誰より実感しているのは──魔戒騎士たる涼邑零だっただろう。

「──」

 そして──敵が今、エターナルローブの力さえも打ち消す、自らに等しい力を持っているという事も、彼らはすぐに理解できた。
 安心できる暇などなかった。

「……見たか」

 ──見れば、爆心地で、ユートピアは悠々と立ち構えていた。
 理想郷の杖を後ろ手に構えて、背を曲げる事なく立っているユートピアには、ダメージを受けた様子もまるでない。
 いや、それも、彼は──瞬時に回復する事が出来るのだ。
 自爆技でさえ彼にとってはほとんど意味のない話である。
 それ故に、ユートピアは確かに、最強の「魔王」としてその場に君臨していた。

682変身─ファイナルミッション─(2) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:27:02 ID:GU7jrFVA0

「この体にコアがある限り、お前たちは私には勝てない……! 諦めるんだな……!」

 絶対的な自信とともに、ユートピアが、宣言する。
 まるで、自分だけにスポットライトが当たっているつもりのように、高らかに。
 喝采が返ってくるはずもない。彼が望む喝采は、ただ一人からの物だ。有象無象の拍手など何の意味も成さない。

「……くっ!」

 しかし、挑発的にそう言われた時に、先ほどまで地面に伏していた誰もが、立ち上がろうとした。
 今しがた、攻撃を受けたばかりのエターナルとブロッサムもだ。

(諦めるわけがない……!)

 諦めろ──と。
 その一言を聞いた時、彼らの中で、目の前の敵への対処法が生まれたのだ。
 そう、これまで自分たちがどうやって勝ち抜いてきたのか──その理由を反芻する。



『────諦めるな!』



 ──どんな相手を前にしても、誰も諦観などしなかった事だ。

「……だったら……要するにコアをぶちのめせばいいんだろ……!?」
「攻略法としては、簡単だな……! さっさと倒しちまおう……!!」

 ダブルとエターナルが、歯を食いしばりながら告げた。
 それからは、彼らのみならず、誰もそれから、ユートピアの脅威を前にも唾一つ飲み込む様子がなかった。

 全員が立ち上がっていた。
 ユートピアの能力は、本来ならば絶対的に相手にしたくないような能力に違いない。力の強さもわかっている。彼に攻撃された時の痛みも、反射的にユートピアを避けたくなる程に染みているはずだ。

 確かに、一人一人の力で勝てる相手ではないかもしれない……。
 しかしながら、こう言われた時、彼らにはそれと同等の力を得たという確証があったのである。──それは、理屈の上にはない物だった。
 彼らの力を受けたユートピアと違い、自分たちは彼らの想いを受け継いでいる。

 ──そうだ。

 彼らにとっての脅威はベリアルだ。
 この虚栄に満ちた門番ではないのだ。

「──っ!!」

 ……誰より先に、構えて前に出たのは、先ほどと同じく、高町ヴィヴィオという一人の格闘少女だった。





683変身─ファイナルミッション─(2) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:29:39 ID:GU7jrFVA0
二分割目終了。







三分割目に行きます。

684変身─ファイナルミッション─(3) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:31:07 ID:GU7jrFVA0



「──……やっぱり、私から行きます……!
 この人との勝負、まだ終わっていませんから……ッ!」

 それは、強敵を前に、自分だけで攻撃を仕掛けると言う宣言であった。
 再び、先ほどの戦いの続きのように、ファイティングポーズを構えるヴィヴィオ。
 誰もが彼女を見て、ゆっくりと頷いた。彼女の健闘を信じる瞳が、ヴィヴィオを一斉に見つめた。

「──」

 ユートピアには理解不能である。何せ、ユートピアにとって彼らは雑兵なのである。
 今の力を見て、尚も同じ土俵で勝負する気だろうか。
 戦士たちにとってユートピアが一個の門番に過ぎないのと同じく、ユートピアにとっても彼らは理想郷を掴む為に立ちふさがる矮小な壁に過ぎなかった。
 諦める事がないにせよ、てっきり、実力差を理解して全員でかかると思っていたが、こうまで愚かに一人ずつ仕掛けてこようなどとは、ユートピアも思っていなかったのだろう。
 片腹痛い、とはまさにこの事だとユートピアも変な笑いが出そうになる。

「……フン。舐めてくれた物だな……一人ずつ来る気とは……!」
「ううん。一人じゃない……!」
「御託を……。すぐに片づけてやる!」

 ヴィヴィオは、そんなユートピアに向けて駆けだした。
 大勢の仲間が見守る中で、彼女だけが敵に肉薄する。
 それは、さながらストライクアーツの大会のような光景だった。
 たくさんの人が見ている前で、自分の戦いをする事──それが、彼女の誇りであり、彼女の生き方であり、彼女にとって最も楽しい時間だった……。
 その時の気分が、今は少し重なる。

「はぁぁぁぁッ!!!」

 ストレートパンチ──!

 ぱんっ! ──と手ごたえのありそうな音が鳴った。
 だが……。

「ふん」

 ユートピアの肉体は、ヴィヴィオの魔力が籠った一撃を胸に受けても悠然としていた。
 ヴィヴィオからすれば、これだけ心地よい音が鳴ったというのに、鋼鉄の板を殴ったというよりはむしろ、スポンジの塊でも殴ったかのような不気味なほどの感触の無さが伝わっていた。
 やはり、ユートピアは只者ではない。

「能力を使うまでもない……やはり貴様は、子供だ!」

 メンバー最年少。全参加者の中でも幼い部類に入る。
 それがヴィヴィオの立場であった──この殺し合いにおいても、小学生相当の年齢は彼女だけである。
 そこが力の壁を作り出していた。

「子供でも……──小さくても、出来る事があるんだ……!」

 ヴィヴィオの拳が、太鼓の連弾のようにユートピアの体に向けて叩きつけられる。
 小さいが故の反抗──たとえ、一撃が小さいとしても、子供だとしても、それを蓄積させて巨大な敵を打ち破る力にはなりうる。
 ヴィヴィオはその戦いを諦めない。
 自分に出来る精一杯を使いきるまでは、ヴィヴィオも何度だってユートピアに想いを、そして拳をぶつける。
 ユートピアの足が、土の上を滑るようにして少しずつ下がっていく。彼の体重を動かすには充分な力が叩きつけられているらしい。

「──黙れ」

 だが、そんなヴィヴィオの努力もユートピアには無力であった。
 たとえ彼の身体を動かしたとしても、彼自身の身体が一切ダメージを通していない。
 その上に、そんなヴィヴィオの攻撃を煩わしいとさえ感じ、ここから一撃で勝負を決めて見せようと下準備を始めたのだ。

685変身─ファイナルミッション─(3) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:32:13 ID:GU7jrFVA0

「世間は無情だな……。仲間の技で死ぬがいい!! 高町ヴィヴィオ!!」

 ユートピアの杖の先端に、桃色の魔力光が収束する。
 これまでの戦いで霧散した、「ディバインバスター」のエネルギーやメモリーが、全てこのコアの中に群がっていく。
 強力な引力が、それをユートピアの手に、半ば強制的に集中させるのだ。
 これが、彼の最も悪辣な所である。わざわざヴィヴィオに、この技を使おうと言うのだ。
 あっ、とヴィヴィオが憮然とした表情を見せた。

 ──そして。

「──ディバイン……バスター!」

 ユートピアの叫びと共に現れたのは、高町なのはが何度となく使用した桃色の魔砲であった。ヴィヴィオは、腰を落として両腕を構えたまま、防御の結界の中で、強力な魔力の波動が齎す爆風だけを浴びていた。
 そんなヴィヴィオの体が、すぐに耐えきれず真後ろへと吹き飛んでいく。

「──ッ!!」

 しかし……。

「──ッッ!!」

 しかし……。

「──ッッッ!!!」

 しかし……それは、全くヴィヴィオへのダメージとはならない。

「────ッッッッ!!!!」

 先ほどのヴィヴィオの攻撃がユートピアに全く届かなかったと同じように、それはヴィヴィオの体にかすり傷さえもつけなかった。

『────っ!!』
『にゃあああああああああああっっ!!!!!』

 ──クリスとティオが魔力を尽くして張ったバリアがあるからだ。
 二つのデバイスの想いは一つ。
 ──この技でヴィヴィオを傷つけさせてやるもんか、という想い。

『──Go!!』

 レイジングハートの声が高鳴る。
 彼女は、インテリジェントデバイスとしての待機形態へと「変身」し、その姿に羽を生やしていた。その羽を用いた自立移動によってヴィヴィオの下に一瞬で飛翔すると、その体へと触れていく。
 彼女に力を貸す為に──寄り添うように。

「レイジングハート……! それに、クリス、ティオも……!」

 共に戦う相棒、セイクリッドハード……。
 アインハルト・ストラトスが遺したアスティオン……。
 若き日の母の相棒だったレイジングハート……。
 三つのインテリジェントデバイスの力がヴィヴィオの魔力に重なり合う。

 魔術師とデバイスの調和こそが、彼女たちの戦い。──そう、一対一の戦いでも、常にデバイスという相棒が自らを支えてくれた。
 それを忘れない。今も──そうやって戦う。

「──バリア!!」

 ──障壁!

 そして、彼女の身体を一片も傷つけさせない為に、額に汗さえも浮かべて、三つのデバイスは、魔力を張る。三つの力が重なり合ったバリアは、偽りのディバインバスターの力を全く通さなかった。
 ディバインバスターの力でだけは、ヴィヴィオを傷つけさせない、と──。
 そんな願いだけが、ヴィヴィオを守護する。

686変身─ファイナルミッション─(3) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:32:58 ID:GU7jrFVA0

「──こっちも反撃っ!」

 そんなヴィヴィオの掛け声とともに、三つのデバイスが彼女の意思に肯いた。
 デバイスたちに頷く事が出来たのなら、おそらくその時、三つのデバイスが同時に首肯しただろう。──しかし、仕草で息を合わせる必要はなかった。
 それぞれが、今は想いを一つにしているのだ。

『ヴィヴィオ……力を貸します!』

 ──ヴォヴィオの全身を、更に包む白いバリアジャケット。
 それは、レイジングハートが変身能力でヴィヴィオの体を包むバリアジャケットへと変身した物であった。──胸元でリボンが結ばれ、その姿は完成する。

「これは……」

 高町なのはが装着したバリアジャケットと同様の物であるに違いない。
 そして、気づけばヴィヴィオの手には、レイジングハート・エクセリオンの杖が握られている。
 レイジングハートが気を利かせてくれたのだという感慨の中、ヴィヴィオはただ、彼女に向けて頷いた。

「──うん!」

 防御結界のエネルギーは、そのままヴィヴィオの身体の中へと収束していく。
 時に、それはユートピアの持っていたエネルギーさえも、反対にヴィヴィオの中に吸収されていった。

「いこう……!」

 桃色のオーラがヴィヴィオの身体を輝かす。
 まるで全身に温かい光が雪崩れ込むようだった。

「──ディバイン」

 ヴィヴィオの全身を覆った桃色のオーラ──これが、これまでに高町なのはたちが放ったディバインバスターの力だったから。
 誰かとわかりあう為に、誰かと本音をぶつけあう為に、──常に誰かを傷つける以外の目的の為に使われたのが、このディバインバスターだったから。
 それは、ヴィヴィオの鎧となり、剣となる。

「──ッ!!」

 次の瞬間、ディバインバスターはヴィヴィオの身体から、ユートピアの方に、何の合図もなしに向かっていった。
 それはまさに、一瞬の切り替えしだった。
 流星のように、感知が出来ても祈る事が出来ないほどのスピードで、ユートピアの身体へと叩きこまれた桃色の魔法力。
 それは、ユートピアドーパントが目にしてきたあらゆるデータとは根本的に異なっていた。
 ──ただの一撃ではない実感。

「──何!?」

 ユートピアは、痛みを受けない魔力の放出を前に、ヴィヴィオの方を見た。
 まだ、この魔法の力を最大限に開放する、呪文の最後の一声は発していない。
 しかし──。

「……!!」

 彼女の闘気が自らに向けて放たれている。彼女の瞳は、にらみつけるようにユートピアの身体を掴んで離さなかった。
 その瞳は、何かを訴えかけるでもなく、ただ目の前の敵に食らいついていた。
 それが、彼女が一人の格闘家である証だった。

687変身─ファイナルミッション─(3) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:34:21 ID:GU7jrFVA0





(……そう、大丈夫……! 私の後ろには、みんながいるんだ……!)





 ヴィヴィオは、その時、あらゆる人の事を思い返していた。
 二人の母の事を。
 共に戦ったライバルの事を。
 ここで助けてくれた人々の事を。





『大丈夫だよ、ヴィヴィオ……』





 そんな人々が、ヴィヴィオの身体と精神を支えていく。そして、次の一声に至るエネルギーを貸してくれる気がした。
 そっと、微笑みかけながら……。
 ヴィヴィオの体を包んでいる温かさは、レイジングハートだけではなく、母のなのはから齎されているような気がした。
 魔力杖を彼女の真横で支える、なのは、フェイト、アインハルト、スバル、ティアナの姿……。



「──バスター!!!!!」



 ──────炸裂!



「ぐっ……!!」

 ユートピアの全身を飲み込みながら、爆ぜるようにして威力を増すディバインバスターの魔力。それが、彼の全身の自由を奪った。
 彼の身体に確かに駆け巡った痛み。
 だが、この程度ならばユートピアも耐えられた。──データにないトリッキーな「ディバインバスター」の使い方であったが、彼の肉体も魔力に屈服するレベルではない。
 それでも、絶対の力を得たはずの自分の中に湧きあがる不安のような感情に、ユートピアは襲われつつあった。

「……何──だとッ!!」

 ──負けるのではないか?
 この瞬間、再び、ユートピアの中にそんな考えが浮かび、打ち消した。

「はあああああああああああああああああーーーーーーー!!!!!!!!!」

 そして、そんな桃色の粒子の中を駆け巡る一つの影。
 いや……一つ、には見えなかった。

「……うぐっ……! バカな……!? がはぁッ……!!」

 ユートピアの目は、何人もの、「死んだはず」の幻影が自らを襲う姿が見えていたのだろう。──これが、ただのコピーの技と、本当の技との決定的な違い。

「この程度の攻撃……ッ!」

 高町なのは。
 フェイト・テスタロッサ。
 アインハルト・ストラトス。
 スバル・ナカジマ。
 ティアナ・ランスター。
 プレシア・テスタロッサ。
 利用してきたはずのこの殺し合いの駒たちの姿が……。

「一閃必中──ッッッ!」

688変身─ファイナルミッション─(3) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:34:44 ID:GU7jrFVA0

 ディバインバスターの粒子の中を駆け巡る一陣の風は、真っ向勝負を挑んでいた。
 ──気づけば、それは黒いバリアジャケットに戻っている。ヴィヴィオはヴィヴィオとして、最後の一撃をユートピアにぶつけに来ているのだ。

「──アクセル」

 今度は小細工もなく、ただ、普段と同じように拳を構え、向かっていく。
 その中に込められた想い。怒り。悲しみ。……それらは、これまでとはまた少し色合いの異なる物であったが、拳の一撃は常に変わっていく。
 ヴィヴィオの拳には、今、彼女を想う母や友たちの想いが乗せられている。
 ユートピアは、そんな事を知りもせず、ディバインバスターのエネルギーが消えていく中で、そんなヴィヴィオの拳を、これまた真っ向から迎え打とうとしていた。

 この程度の攻撃ならば、まだ受けられる。──そんな自信があったのかもしれない。
 避ける暇があるかないかよりも、力を持った故の慢心が大きくそれを左右した。
 強すぎる力は、時として、その人間の危機回避能力を麻痺させる。──プライドと自信が、「回避」という判断と頭の中でせめぎ合い、結果として勝利してしまうのだ。
 だが、その自信は──次の瞬間、打ち砕かれる。



「────スマーーーーーッッッシュ!!!」



 ヴィヴィオの拳は、ただユートピアの胸に叩きこまれただけだというのに。
 その魔力に、彼は胸を抉るような強烈な痛みを覚えた。
 心臓から血液が駆け巡っていくように、痛みは波紋となって頭のてっぺんまで伝播した。
 脳髄が揺れる。彼の中で何かが罅割れる。
 ユートピアにとって意表の一撃にして、ヴィヴィオたちにとって会心の一撃であった。

「ぐっ……」

 ぴきっ……。
 罅割れたのは、「魔力」のコア──即ち、リンカーコアだ。
 ベリアルから受け取ったユートピアの幾つものコアは、一つが拒絶を始めた。
 それはユートピアに骨折にも似た強い苦しみを与える。

689変身─ファイナルミッション─(3) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:36:58 ID:GU7jrFVA0

「ぐあああああああああああああああああッッ――――!!」

 まるで、これ以上、ユートピアに力を貸す事を拒んでいるかのようだった。
 ユートピアの再生能力よりも早く──リンカーコアは亀裂を走らせていく。
 ──そして。

「くっ……!!」

 ぱりんっ……! と。
 暗闇に染まったリンカーコアが、その直後には音を立てて崩壊する。ユートピアの中に埋め込まれた無数の一つが──世界最高の硬度を持つ打撃を受け手も崩れないような力が、この一撃で……。

(こんな……バカなっ……!?)

 しかし、ヴィヴィオが叩きこんだのは、簡単な一撃ではなかった。
 ユートピアの持っていた力は、僅か一日と保たれず、「本物」に敗れたのである。──そう、それは彼の持つコアの力の全てにおいて変わらない事である。
 彼は、遥か後方に吹き飛ばされ、土の上をのたうち回る。

「そんな……馬鹿な……ありえない!」

 だが、自分がいとも簡単に膝をつくという事実が、彼には信じる事が出来なかった。真実は今自分が置かれている状況とは異なる物だと言い聞かせる為か、彼は全身全霊をあげて立ち上がる。
 胸から火花を散らし、全身にダメージを受けながらも……。

「クソッ……」

 想定外だ、とユートピアは内心で想った。
 ──逆風は吹いたはずだ。
 ベリアルは新たな力を授けてくれた。それは絶対無敵の力だった。彼らを確かに圧倒しうるエネルギーを持っていた。
 しかし……──それを、一瞬でも超える力を、彼らは持っているというのだ。
 まさか、このコアが一つでも破壊され、ユートピアが地面をのたうち回る事になるなどとは、彼自身全く思わなかったのである。

「ナイス、ヴィヴィオちゃん! 次は、俺だぜ!」

 そして、そんなユートピアにすかさず立ち向かっていくのは、超光戦士シャンゼリオンであった。
 又の名を、涼村暁。
 ──ユートピアの双眸には、そもそもここに来るはずのない戦士の姿が映っていた。
 先ほどからこの場にいたのはわかっている──だが、何故、我先にと自分を攻撃しに来るのか、ユートピアにはわからずいた。

「涼村……暁ッ……!」

 彼がこちら側につかなかったのは、ユートピアにとって小さな誤算だった。
 暁という男のデータを見る限り、彼は酷く利己的な人間であるはずだ。何の人の運命を狂わせたかわからないどうしようもないクズ男。
 そんな彼がベリアルに立てつくはずがない。
 自分や、自分の世界を犠牲にしてまで──ベリアルと戦おうとするはずがない。
 彼がベリアルを倒すという事は、即ち、それは彼自身の手で自らの世界を壊すスイッチを入れる事と同義だ。
 彼はこの戦いに勝利したとしても、消えるのだ。NEVERとは異なり、彼がその死を恐れぬはずがないだろう。

「貴様……!」

 だというのに。

「ぐっ……!!」

 ……今、ユートピアの胸に“突き刺さっている物”は何か──。
 この固い刃物。既に、ユートピアに食い込んだ、光の刃。
 それはまさしく、反逆の証ではないか。

「シャンゼリオンめ……!」

690変身─ファイナルミッション─(3) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:38:15 ID:GU7jrFVA0

 テッカマンのコアに突き刺さっているのは、シャンゼリオンが構えるシャイニングブレードだった。
 それは、左肩ごとユートピアの「コア」を貫いている。
 彼は、ユートピアがひるんでいる隙に、便乗するようにしてコアを一つ破壊しに来たのだ。

「卑怯な……!」

 濛々と吹きだす大量の火花の群れ。
 赤く光るそれは、血液のようにシャンゼリオンの身体へと浴びせられた。
 しかし、彼はユートピアの一言に何も返す事なく、冷徹なバイザーで見下ろしながら、ユートピアに次の一撃を叩きつける。

「一振り!」
「ガァッ!」

 シャンゼリオンのシャイニングブレードは、満身創痍ながらもまだ力の残るユートピアが片手で掴んで防ぐ。刃がユートピアの掌を痛める。
 次の瞬間、シャンゼリオンの身体に向けて、ユートピアはもう片方の掌を翳す。

「喰らえェッ……──オーバーレイ・シュトローム!」

 ウルトラマンの力を持つコアが、シャンゼリオンのディスクがあるはずの胸を至近距離から貫いた。
 クリスタルの結晶が砕け、シャンゼリオンの身体にダメージがフィードバックしていく。
 ぼろぼろと零れるクリスタルの欠片。それは、暁の胸骨を折り、心臓まで攻撃が叩きこまれたのを意味していた。

「ぐあああああああああああああ────ッ!!」

 結局のところ──ユートピアにとっても、先ほどのヴィヴィオよりも、遥かに戦い慣れないシャンゼリオンが相手である。
 懐まで潜り込めば、反撃を受けた時に自分もただでは済まないと知らないのかもしれない。ただ悪運だけで生き残った男だ。
 しかし、シャンゼリオンがあまりその死にも等しい痛みを受けた実感がない。

「……クソォォォォォッ!! 痛えなちくしょうッ!!」

 と、軽い様子でユートピアを咎めるだけである。
 今の一撃が効いていない……?
 いや、そんなはずはない。
 このシャンゼリオンたちの金色のオーラが原因か?

 だが──。

「そうだ……! 攻撃を受けるのが嫌ならば……何故、我々の所へ来た!」

 まるで虚勢を張るかのように、ユートピアはシャンゼリオンに問うた。
 本当は、シャンゼリオンが何故ダメージをろくに受けていないのか、訊きたかったのかもしれない。だが、まともに戦って勝てない相手を前にした者が、本能から相手の戦う理由を咎めるように──ユートピアは、シャンゼリオンを批難する。

「俺はな……こういう遠足について行くのが大好きなんだよ!」
「ふざけるな……!」

 その愚かな様のまま、シャンゼリオンにまた一言、叫ぶ。
 負け犬の遠吠えとまではいかぬものの、ユートピアの放つ一言はそれにもよく似ていた。
 一度の敗北が彼のプライドを折り、自身を喪失させたに違いない。

「……勝ったとしても消えるというのにィッ……どこまでも愚かな奴ッ!」
「俺だって気に食わないんだよ……あんたらの言いなりになるのが!」
「何故だ……!」
「そんな事、俺が知るかっ!」

 強力な打撃を受けたはずのシャンゼリオンの胸に、クリスタルパワーが充填されていく。
 そして、彼は叫んだ。
 そう、「懐まで潜り込めば、反撃を受けた時に自分もただでは済まないと知らないのかもしれない」──ユートピアという怪人は、それを忘れていたのかもしれない。



「──シャイニングアタック!」

691変身─ファイナルミッション─(3) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:38:36 ID:GU7jrFVA0



 もう一人のシャンゼリオンが、ユートピアに向けて右腕を突きだして貫いていく。
 ユートピアの持つコアに向けて進行した必殺の一撃──シャイニングアタック。
 彼ことシャンゼリオンがそう叫ぶと同時に──。

「……ごぉっ!」

 ──ユートピアの全身を貫く痛み。
 しかし、ユートピアの力は彼自身の肉体を瞬時に再生させていく。──問題はコアだ。
 破壊されたコアのデータはガイアメモリ同様、「ブレイク」と共に完全消失する。
 対して、先ほどユートピアが貫いたはずのシャンゼリオンの胸の痛みは、たとえどれだけユートピアが蠢いても消えていないはずだ。

「シャンゼリオン……ッ!」

 彼は何故戦う……?
 自分の命も、自分の世界も、自分の仲間も……何もかもが消えるといのに!
 彼自身は、本当にそれを知っているのか──!?

「……はぁ……はぁ……俺って、やっぱり……はぁ……はぁ……」

 やはり、このザマだ! ──決め台詞さえ言えていない。
 回復し、シャンゼリオンの方を見つめるユートピアは、最早疑問を浮かべるよりも、相手が理屈で対処できない狂人だと思うよう、思考を切り替えた。
 涼村暁も少なからず自分の損得を勘定に入れて行動できると思っていたが、その考えは大きな過ちであったらしい。

「決まりす……! ぐぁっ……!!」

 ……そうだ。
 彼は、ただの狂人なのだ。

 本来守らなければならぬはずの自分の世界さえ捨て去って、その他多くの世界の平穏を掴む為に──ベリアルを倒そうとするなどと。
 加頭順からすれば、異常だとしか思えない。

692変身─ファイナルミッション─(3) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:40:38 ID:GU7jrFVA0
 しかし、そう思う事で、加頭の気持ちは少し楽になったようであった。相手が格下であるという認識を再度持つ事で、敵に対する言い知れぬ不安からは解放される。

「無様だな……シャンゼリオン……ッ! ──決め台詞ひとつ言えないとは!」

 傷つき倒れかけているシャンゼリオンを前に、ユートピアは叫んだ。
 しかし、自分の声も断末魔のように掠れており、頭に血が上ったかのように意識も朦朧としているのをユートピアは実感している。
 だからこそか、彼は無計画に攻撃を続けた。
 ──たとえ無計画であっても、少しの優位を実感してはいたが。

「こちらもだ! ──シャイニングアタック!」

 一陣の風は、先ほどシャンゼリオンがユートピアに行ったように、ユートピアからシャンゼリオンに向けて放たれる。
 クリスタルパワーの粒子複合体がユートピアの姿を形成し、シャンゼリオンに向けて一直線に飛んでいく。
 シャンゼリオンもまた、再びユートピアに向けて叫んだ。

「うおおおおおおおおおおおおおおりゃあああッッ!!! シャイニングアタック・セカンドォォォォッッ!!!!」

 二つのシャイニングアタックは空中で激突する。
 クリスタルパワーによって形成されたシャンゼリオンの力と、まがい物が作り出したユートピアの力は同時に敵の懐に食らいつこうと牙を剥く。
 シャンゼリオンの体力からすれば、他の連中と違い、ここで負ければ死は確実だ。
 死にもの狂いの声をあげ、ユートピアを威嚇する。



 そして──二つの力は爆発する。







 ──ゼロと美希は、宇宙の星空の中を彷徨っていた。

 自分がどこにいるのかは、はっきりとは認識していなかった。
 ウルトラマンノアを探す旅は過酷を極めている。未だ、似たような景色の中で、塵のような小惑星をノアのスパークドールズと見紛うばかりである。
 外部世界の介入がなく、この宇宙が模造品の無人の世界である以上、誰かからの導きや案内は、頼れなかった。
 信じられるのは己の勘だけだった。

「クソッ……! 見つからないぜ……!」

 時の概念も、二人にとっては無意味だ。
 あるのは、擦り減っていく体力と、散漫になっていく集中力。この二つが時間の役割を果たしているかのようである。
 空を泳ぎながら思うのは、果たしてこの不安定な距離を縮める奇跡はどうすれば起こるのかという事だ。

 諦めるな、という言葉を信じる。
 それしかない。
 だから、何度も心の中で唱える。

 諦めるな。

 諦めるな。

 諦めるな。

 諦めるな────!

 そして、ふと……そんな声は、ゼロ達の中で反芻する言葉となってきた。
 無限を捜索する中で、彼ら二人の中で重なるようにして、ずっと、息をするように反響していく言葉。
 それが何度繰り返された頃か──。
 二人以外の誰かが、同じ言葉を口にした。



──諦めるな!──





693変身─ファイナルミッション─(3) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:42:04 ID:GU7jrFVA0



 ──炸裂した!

 シャイニングアタックとシャイニングアタックのせめぎ合いは、相応のエネルギーが耐え切れずにオーバーヒートを起こし、二人の身体を吹き飛ばすような猛烈な爆風と、炸裂弾のような衝撃だけを残した。
 しかし、その余波に倒れたシャンゼリオンに対し、同じく吹き飛ばされているはずのユートピアは痛く上機嫌に、シャンゼリオンのほぼ眼前に立っていた。
 彼の身体には微塵の傷さえ見当たらない。

「……ふふふ」

 冷静沈着に、ユートピアは嗤う。
 何故彼があの攻撃の衝撃を回避する事が出来たのか……それは、ユートピアが自由に全ての戦士の力を利用する事が出来るのを踏まえれば簡単であった。
 ユートピアの側も、些か冷静さを取り戻したようである。

「ふはははははッ!!! 残念だったな、シャゼリオン……!!!!!」
「何……!?」
「見るがいい……これが、魔法少女のコアの力だ……!!」

 これまでに砕かれたコアの中に、魔法少女のコアは無かった。
 今使われたのは、時間停止能力──暁美ほむらが使用した能力である。
 加速の記憶を持つ仮面ライダーアクセルトライアルがここにいたとしても、ほむらの時間停止の中では、物言わぬオブジェになるのである。
 それだけの能力により、ユートピアは時間を停止できる数秒の時を移動に費やした。

「──そして!」

 次いで、────爆音!

「うわあああああああああッ!!」

 その爆音は、時間停止の中でユートピアが「エキストラ」どもに向けて放った膨大なエネルギーの結晶である。
 シャンゼリオンの救出に駆け出そうとしていた彼らの仲間の存在を察知し、時間停止中に攻撃を仕掛けたのだ。
 目の前にいるシャンゼリオンを除き、全員が予期せぬ攻撃に吹き飛ばされる。
 どうやら、ヴィヴィオの際の劣勢とは違い、今は形勢逆転に成功したようだ──ユートピアはそう確信した。

「くっ──!」
「……思ったよりも使い勝手が良いらしいな、この力も。
 そう、今の私は魔法少女なのだ──!」
「ほむらの力を……使ったのか!」

 シャンゼリオンも、どうやら感づいたらしい。

 ──時間停止。
 それがいかなる能力であるのかは、彼も、ほむらとの共闘を経て、今もよく知っている。
 あれに関する制限がより緩和された今、かつてシャンゼリオンが見たほむら以上に悠々とそれを使う事が可能なのである。
 ソウルジェムが濁らない以上、彼にはそんな制限さえ無力であり──そして、今は、止まった時間の中で、ほむら以上の高エネルギーの技さえも使う事が出来る。

「その通り……貴様には、この力に打ち勝つ能力などありはしない……!」

 実のところ、エターナルローブを纏っていた仮面ライダーエターナルこと響良牙のみがその時間の中で移動が可能だったのである。
 しかしながら、それも一瞬だけだ。すぐにベリアルの力に無効化される。──ユートピアにとっては、先ほどの爆破を回避できれば充分であった。

694変身─ファイナルミッション─(3) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:43:13 ID:GU7jrFVA0

「暁美ほむらの力がいかなる物か──お前ならばわかるはずだろう?」
「そうか……ほむらの……」
「そう……お前の敗北は、絶対的だ」

 シャンゼリオンも、些かショックを受けて項垂れるように見えた。
 仲間の力が仇になった事が原因だろう。
 ユートピアは、そんな彼の姿を嘲笑う。ショックを受けている間にもユートピアは、シャンゼリオンに接近していく。

「……ぷっ」

 ──が。
 それと同時に、シャンゼリオンも吹きだすように笑った。
 涼村暁が、目の前の敵を逆に嘲笑っていたのだ。
 ユートピアは、少し顔を顰めた。



「──ははははははは!! とんでもない馬鹿だな!! お前……!!」



 シャンゼリオンは、顔を上げ接近するユートピアに向けて瞳を光らせた。
 そのマスクの下に、涼村暁の自信に満ちた表情がある事など、ユートピアは知る由もない。
 顰めた顔を元に戻して、理想郷の杖を彼に向けて振るおうとする。──所詮は、シャンゼリオンの一言など戯言だと信じて。

 それは、ユートピア自身が彼を狂人と認識しているからだった。
 彼が何を言おうとも、まともに耳を貸さず、ただ嘲笑い続けるしかできない。

「──知ってるか! このインケン野郎……!
 そいつは、ほむらの……──終わる世界を終わらせたくないっていう……そんな願いの力なんだぜ……?」

 シャンゼリオンの身体が、理想郷の動きに合わせて浮き上がっていく。──杖が持つ引力に弾きつけられているのだ。
 まるで、先端から見えない糸が伸びて、シャンゼリオンの身体をマリオネットとして動かしているようだった……。

「だったら……だったら……──」

 威勢の良い言葉とは裏腹に、シャンゼリオンが攻撃を仕掛けられる様子はない。
 ふっ、と笑ったユートピア。電撃を彼に浴びせようとする──。



「今誰よりもそれと同じ願いを持っている俺がァッ──。
 お前のそんなニセモンの力に負けるわけ、ないだろォッ……!!」



「ほざけッ!」
「ほざく……ッ!!」

 直後、シャンゼリオンの全身を駆け抜ける電撃──。
 ユートピアは、ちらりとエターナルの方を見た。こちらに急いで向かっているようだが、まだこちらに到達する距離にはない。
 シャンゼリオンの命を吸いつくすレベルまでこの一撃を続けるのは容易だ。
 他の連中は、今はまだ先ほどの一撃に倒れ伏して、起き上がるのに苦労している。
 一人ずつ消していけば充分こちらに勝機があるのは確実だった。

「──ぐあああああああああああああああああッッッ!!!!」

 シャンゼリオンの悲鳴が轟いた。
 あと一瞬──それだけ力を籠めれば、彼の全身は墨になり、全身のクリスタルは硝子細工のように砕け散っていくだろう。
 ユートピアが勝利を確信した瞬間だった。
 所詮、シャンゼリオンの言葉など──戯言だと、そう思ったに違いない。

「──がっ!」

 しかし。

695変身─ファイナルミッション─(3) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:43:55 ID:GU7jrFVA0
 ──次の瞬間。

「……なっ」

 ユートピアの真後ろから砕かれる魔法少女のコア。
 それは、彼の腹が鋭い刃に貫かれたという事であった。

「……な、なぜ……!!」

 衝撃によって、ユートピアが理想郷の杖を振るう右腕を自然と下ろし、シャンゼリオンもまた地面に叩きつけられる。しかし、彼を襲っていた苦痛からは解放されていた。
 シャンゼリオンの変身は、他の連中よりもいち早く解けて、そこにあるのは涼村暁の半分焼けこげたような黒みがかった身体だった。
 彼は、立ち上がり、鼻の上の煤を払うと、ユートピアを睨んだ。

「……ふっ」

 そして、暁は、少し押し黙り、ユートピアを見てから、笑った。
 馬鹿のくせに、まるで嘲るように──。ピエロを見つめるように……。
 いや、馬鹿だと自覚していたからこそ、そんな暁に敗れたエリートを笑っているのかもしれない。

「ふっふっふっ……へへへへへ……!! はははははははは……────!!!!」

 腹を抱えた彼の笑いは、静かなその場所にただ一人響いた。
 誰もつられて笑う事はなかったが、暁はただ一人でも、そこで──まるで本当に狂ったように笑う事が出来るだろう。
 目の前の強敵のおかしさが堪えきれなかったのだ。
 それから、思う存分笑った彼は、ユートピアに言った。

「だーかーらー!
 言っただろうが……バーカ……!
 いくらあんたがほむらの力を使おうが……そいつはあんたには味方しないってな!」
「何を……馬鹿な……! この力に、意思などない……!!」
「だが、幸運の女神ってやつはな……他でもない、この俺についているんだ……!!」

696変身─ファイナルミッション─(3) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:44:29 ID:GU7jrFVA0

 ユートピアの背中で、刃がそっと引き抜かれていく。
 それは、「槍」だった。ユートピアの固い体表を貫いたのは、長いロッドの先端だけに取り付けられた小さな三角の刃である。
 それが誰の仕業なのか、背後を観ずともユートピアにはわかった。



「──って言っても、全部あたしのお陰だけどな!」



「だーかーらー、幸運の女神でしょーが!」



 ──そう、ユートピアの真後ろから突き刺したのは、“佐倉杏子”であった。

 彼女の槍の金色に輝く切っ先が、ユートピアの背中から取り出される。それど同時にユートピアの身体は再生を行う。痛みはない。
 ただ、あるのは、何故、彼女がそこにいるのかという疑問だけだ。

(なん、だと……?)

 確かに、一対一、などというやり方をシャンゼリオンがするはずがない。それはわかっている。勝てば官軍というやり方であるのは承知済だ。
 一対一をやろうとしたのは、実際のところ、試合と言う形式に拘ったヴィヴィオだけである。──ユートピアにもそれはわかっていたはずである。
 だからこそ、ユートピアは周囲のエキストラを全員、攻撃して無力化したのだ。
 そして、その時、倒れ伏していたはずの彼女が“そこにいるはずがない”のである。ユートピア自身も、確かに全員が倒れた事を確認してシャンゼリオンに止めを刺そうとしていたはずである。

「何故だ……!」
「へへっ……魔法少女の力ってのは、オッサンには似合わないっつー事だよ」

 そして、杏子がそう答えた直後、もう一つの声が聞こえた。

697変身─ファイナルミッション─(3) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:46:16 ID:GU7jrFVA0

『僕達が教えたんだよ……。
 次にお前が時間停止やトライアルを使って一斉攻撃を仕掛けた時──!!』

 真後ろを見る。──そこにいたのは、仮面ライダーダブルだ。金色に光り輝くボディを見ても、それを見紛うはずがない。
 彼らもまた、何故かこの閉鎖された時空の中で平然と動いていた。
 何故か……。



「ロッソ・ファンタズマの分身を消して、一気に飛び込もうぜってな!!」



 翔太郎の、自信に満ちた声が反響した。

「──!」

 そうか、その手があったか──と、ユートピアは、驚きながらも納得する。
 少なくとも、先ほど倒したはずのダブルと杏子に関しては「幻術」により生まれた存在だったのである。

 ロッソ・ファンタズマ。
 把握していたはずの能力だった。加頭自身も、ついさっきまで──コアを破壊される瞬間までは、使用が可能であった技の一つだ。
 ドーパントに喩えるならば、ルナドーパントに近いあの幻惑に近い。

「ロッソ・ファンタズマだと……!」

 しかし、彼女たちにそれを使う隙がどこかにあったとは到底思えなかった……。
 彼女たちは、かなりの長時間──シャンゼリオンが戦う前の時点で幻影と化し、本体はユートピアの死角に隠れていたはずである。
 最近、ロッソ・ファンタズマを取り戻したはずの彼女が、そんな長時間、魔力を行使できるはずがない。

 いつからか、と言われれば──かなり前から使用していなければ計算が合わない。
 だから、加頭はその可能性はあらかじめ除去していた。
 これまでも、伏兵として使われていた事は殆どなかったはずだ。

「貴様ら……この瞬間を、ずっと……!」
「その通り──。この時を、ずっと待ってたのさ!」

 よもや、杏子がそれだけ上手にその技を使いこなしているとは予想がつかなかった。
 そ加頭順がここで主催を代行した時点でも、「ロッソ・ファンタズマ」という技は、杏子が使う事の出来ない技であったからだ。彼女は既にその技の使い方を忘れている。
 彼女の精神が既に使用を拒んでいる状態にあったはずだ。

「……なんというッ……!」

 綿密な下準備を行って殺し合いを開いた中でも、杏子の「ロッソ・ファンタズマ」の再習得は在りえない話だったのである。
 そして、それをこんなにも上手く、ユートピアの目を欺いて利用するとは思えなかった。
 彼女は──自分の命を捨てる事さえも恐れずに、技を使っているわけだ。──いや、もしかすれば、既に“そのリスクがない”のか?
 結局、彼には何もわからなかった。

「はあああああーーーーッッ!!」

 そんな最中、仮面ライダーエターナルも飛び込んでくる。
 そう、こうしている間にも、時間は動いている。

 制限が切れた今、自分の周囲の特殊能力を無効化するエターナルのエターナルローブは厄介な代物に違いない。
 こんな一瞬の隙があれば、彼にもエターナルローブを纏う時間がやってくる。

「くっ! ユートピアが負けるはずはない……こんな未来がありうるはずがない!!」

 ──この逆境を越えられるのは、ベリアルの力のみ!

 しかし、ドーパントたちのコアも、魔法少女のコアも既に砕かれ、トリッキーな時間停止が利用できなくなっている。

698変身─ファイナルミッション─(3) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:47:28 ID:GU7jrFVA0
 この身体にもその血の片鱗が流れているはずだが、魔法少女の力をそのままコアに流入しただけのエネルギーは、彼を留めてはくれない。

『こうなる事は目に見えていた。ユートピア……お前は、力と人との、絆に負けたんだ!!』
「そう──たとえ、99パーセントの適合率があっても、∞の絆には勝てないってわけさ!!」

 ダブルたちの声が、ユートピアの脳裏に突き刺さる。
 何度となく聞いた彼らの言葉。
 それが、指を突き立てるポーズとともに。



「『────さあ、お前の罪を、数えろッ!! 加頭順!!』」



 それを聞くのは最後だと思っていた。
 それは、自分が勝つからだ──しかし。

 今は、違う。
 その言葉を聞くのが最後になるのは──理想郷が、崩壊していくからだ。
 ベリアルエクストリームの外形から、ぼろぼろと理想郷の姿が崩れ去っていくのを加頭自身も感じていた。



「──人を愛する事がァッ、罪だとでも……罪だとでもいうのか……ッッ!!!」



 ユートピアは、かつてと同じダブルの言葉に、再び怒りを募らせる。
 何度聞いても──何度前にしても──この問いかけに、ユートピアは同じ答えを取るだろう。
 そして、その度に冴子の顔を脳裏に浮かべる。

 冴子への愛。
 その証明。
 それが、加頭の原動力。

「いくぜ……燦然!!!」

 その時、涼村暁が、変身のポーズを取った。
 燦然──それは、涼村暁がクリスタルパワーを発現させ、超光戦士シャンゼリオンとなる現象である。
 変身を解除されたくせに、再変身を行うつもりらしい。

 ──そして。
 再び、クリスタルの輝きがユートピアの前に出現した。

「超光戦士──シャンゼリオン!!」

 暁が再びシャンゼリオンに燦然するのと、仮面ライダーダブル、仮面ライダーエターナルがユートピアの周囲を囲むのはほぼ同時だった。
 佐倉杏子が、ゆっくりと身体を遠ざけて行く。──それは、これから行われる同時攻撃を回避する為だ。
 ユートピアの逃げ場を塞ぎながら向かってくる三つの影は、同時にその必殺技の名を叫んだ。



「シャイニングアタック!!」



「エターナルレクイエム!!」



「「────ゴールデンエクストリーム!!」」

699変身─ファイナルミッション─(3) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:48:25 ID:GU7jrFVA0



 四つの声が重なり、見事なコンビネーションでユートピアの方に接近する──。
 クリスタルパワーの結晶。
 マキシマムドライブの衝撃。
 そして、人々の祈りの風。
 それらは──次の瞬間には、全ての攻撃がユートピアの身体へとぶつかっていく。

「がっ……」

 ユートピアの身体に打撃の痛みが走るよりも──早く、三つの影が貫く。
 シャンゼリオンのシャイニングアタック。
 仮面ライダーエターナルのエターナルレクイエム。
 それと同時に、仮面ライダーダブルがゴールデンエクストリームを放った。

「ぐぁっ……!!!!!!!!」

 そして、身体が再生するよりも早く起きたのは──メモリブレイクと、コアブレイク。
 残る全てのコアと、ユートピアのメモリが崩壊する。
 ユートピアドーパント・ダークエクストリームの再建された理想郷が、再びエクストリームの姿を失い、「崩れた理想郷」へと変わっていった。
 その、崩落の後さえも、また崩落していく。



 全ての理想郷が崩壊し、それは、内側から大爆発を起こしたのだった──!!



「ぬっ──ぬあああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!」

 それは、ユートピアドーパントを中心に、周囲一帯を燃やし尽くすような黒い炎をあげ、その場にいた者たちに勝負の行方を知らせなかった。
 加頭が、その瞬間、何を考えていたのか──それは、誰にもわかるまい。

(この私が────!!!!!!!!!!!!!!!!!!)

 ……ただ、彼の持つ力と野望は全て、その瞬間打ち砕かれた。
 それだけは確かな事実であった。
 そして。



「冴子さんんんんんんんんんんんんんんんんん────ッッッ!!!!!!!!!」



 三人──いや、四人の戦士がユートピアの身体を過ぎ去ったが、そのシルエットは爆煙の中に隠れ、誰にも視えなかった。
 彼の雄叫びが、そこにいた者たちの耳に残り続けた。





700変身─ファイナルミッション─(3) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:49:00 ID:GU7jrFVA0
三分割目終了











































四分割目

701変身─ファイナルミッション─(4) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:51:22 ID:GU7jrFVA0



 ──宇宙。

 こちらでは、ウルトラマンゼロと蒼乃美希が、尚もウルトラマンノアの探索を続行していた。
 これまでと決定的に違うのは、二人の間にわずかばかりの希望が芽生えており、ある手がかりを持って宇宙の旅を続けている点だろう。
 無数の星を通り越し、ゼロは飛ぶ。

「おい美希……! 確かにこっちから声が聞こえたってのか?」
『ええ……!! 今、向こうから……!!』

 美希の感覚を頼りに、ゼロがマッハ7のスピードで進行する。
 そう──確かに美希の耳には、あの孤門一輝の声が届いたのである。
 ──美希がダークザギとの戦いで憎しみに没した時、孤門がかけたあの一言が、確かに「自分の居場所」を教えていたのだ。
 それこそが、二人の合図だ。



──諦めるな!──



 孤門の口癖であり、信念だった言葉。
 どんな苦難に直面した時も、その言葉一つで全てを晴らしてくれるそんな意味が込められた──とても大事な言葉。
 美希の脳裏に、それが直接届いたかのようだった。
 いや……これは、おそらく──あの時の言葉が、「忘却の海レーテ」を介して、時空を超えて届いた一言なのではないだろうか。

 そう、思った。
 あの時、かけてくれた言葉が、再び……孤門を助け出そうとしている。
 誰も真相を知る事はないが、かつて、孤門一輝という少年を助けた手と、その一言が──また、今度はそれより未来……そう、今の孤門を助けようとしている。
 そんな連鎖が、奇しくも孤門一輝の運命を支えている。
 ただのどこにでもいる優し気な男に見えて、実に奇妙な因果の集中している人間だ。

「──……わかった。美希、俺はお前を信じるぜ!」

 そんなゼロは、自分の持つ残りのエネルギーを全て使いかねない勢いで邁進する。
 どの道、手がかりなどないのだ。力を出し惜しみ、小出しにしながら探すよりも、美希の自信を信じるしかない。
 彼女は、孤門の声が幻聴だとも思っていないし、美希の確固たる自信だけは感覚としてゼロの中にも伝わってくる。
 これが、人間を信じるという事なのだ。

(ああ……親父……ほんとに、地球人って奴は……!!)

 ゼロの父は、かつて──何度となく、地球人を信じる事が出来なくなったらしい。
 しかし、醜さを知る一方で、多くの地球人のやさしさや温かさも知っていた。誰よりも地球人を愛したウルトラマンと自称する事もあった。

 ──アンヌ、アマギ、ソガ、フルハシ、キリヤマ……時として彼は、絆の芽生えた地球人の名をゼロに語った。
 そして、忘れてはならない……モロボシ・ダンの姿の元になった、薩摩次郎という男の名さえも。

 彼と同じ地球人への愛情は、あらゆるウルトラマンたちも持っているが、ウルトラセブンは特別だった。もし地球人たちが暴走し、宇宙の敵に回ったとして、彼はそれでも地球人の味方をするのではないかとさえ思う。
 自分の父は、正義より、愛を選ぶだろう。

 ……それは、ゼロも同じかもしれない。
 父親から受け継いだ、地球人との絆。──それを今、実感している。

 そして、ゼロは今から二人の地球人の名前を、己が信じる地球の名前として刻む。

702変身─ファイナルミッション─(4) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:52:17 ID:GU7jrFVA0

 蒼乃美希、それから、孤門一輝だ。
 まだ直接会ったわけではないが、美希に声を届かせようとしているその男の名を──。
 ゼロは、自分とベリアルを再び会わせてくれる男の名として──そして、いかなる時も諦めない男の名として刻んだ。

「──」

 周囲の景色はめまぐるしく変化している。
 幾光年はるか彼方までも、ゼロは飛び続ける。
 美希が声を聞いた所まで……。

『──もうすぐ……』



 ──諦めるな!──



『うん……!』

 美希の中に聞こえる声は次第に大きくなっていく。
 地上では、遂にユートピアドーパントに向けて一斉攻撃が放たれた頃だった。
 その頃には既に美希の中で、孤門一輝の心の声が巨大に膨らんでいる。

『私は諦めない……!! ここに希望がある限り──』

 諦めるな……。
 美希がここに来て──仲間が死ぬかもしれない恐怖に挫けそうになった時、孤門がかけてくれた言葉だ。
 結局、桃園ラブも、山吹祈里も、東せつなも……たくさんの友人は死んでしまった。
 そして、そんな美希を常に支えるのは、孤門が放った言葉なのである。
 単純ゆえに。
 その言葉は、決して重圧にもならず、美希に追い風を吹かせている。

 今も、どこかで──ラブの両親や、祈里の両親や、せつなの仲間や、学校の友達が……きっと悲しんでいるのだろう。
 立ち直る事は出来ないかもしれない。
 だが、後を追う事だけは絶対にしてほしくない。
 ──希望は、必ず、どこでも失われないのだから!

『──来た!!』



 ──瞬間。





「!?」





 ──白い光が周囲を包んだ。



 無限の暗闇の中にあるはずの宇宙に、星々の煌めきではない、何か神々しいとさえ思える白い光が広がっていく。
 それは、ウルトラ戦士の中でも神と言われるような存在が放つ光であった。

「あれは……!!」

 そこには、ただ……ウルトラマンゼロと、その中にある蒼乃美希と、視認するのが難しいほどの小さな人形だけがあるのだった。
 しかし、それがウルトラマンノアの形をしたスパークドールズであるのが、すぐにわかった──。

「見つけたのか! 美希!!」

703変身─ファイナルミッション─(4) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:53:21 ID:GU7jrFVA0

 ゼロの歓喜の声が響いた。
 しかし、今、この宇宙に声を轟かせるのは彼だけだった。
 美希はゼロに向けて何も言わなかった。

≪────美希ちゃん……!≫

 スパークドールズの声が聞こえる。──この数日間、この宇宙の暗闇の中を彷徨い続けていた孤門一輝の声だ。
 彼はずっと唱え続けたに違いない。「諦めるな」という言葉を自分に言い聞かせ、助けが来るのを待ちながら、この絶対の孤独を、挫けずに乗り切ったのだ。

「……ああ。ほんと、すげえよな……お前ら!!」

 そして──。諦めるな、という言葉が二人を繋いだのだ。
 ウルトラマンノアは、ここで、孤門と美希の絆が宇宙の距離を縮めるのを待っていたかのように見えた。
 ゼロは、唖然とした表情ながら、全く敵わないといった様子であった。
 しかし、直後には、熱い声で美希に呼びかける。



「────行けぇぇぇぇぇぇぇぇっ!! 美希!!」



 ゼロが伸ばした掌の先から、蒼乃美希の腕が現れた。
 腕だけを分離し、スパークドールズに合わせたサイズへと変わるのだ。そして、その腕に強く握られたギンガライトスパークがウルトラマンノアのスパークドールズに向けて届いていこうとしていた。
 ギンガライトスパークがノアのライブサインと反応する時、遂にウルトラマンノアは復活する事が出来る……。

「孤門さん……!!」

 ──届け。
 そんな願いと共に、ギンガライトスパークがライブサインへと、届く。
 そこから再び光が放たれる。



 ────レーテの時と同じように、美希と孤門は、手を取り合った。





──ULTRA LIVE!!──



「絆……ネクサス……!」



──ULTRAMAN NOA!!──





【孤門一輝@ウルトラマンネクサス 再臨】





704変身─ファイナルミッション─(4) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:54:24 ID:GU7jrFVA0
四分割目─これだけ─


































五分割目─これから─

705変身─ファイナルミッション─(5) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:56:03 ID:GU7jrFVA0



 頭上の空で、照らしていた闇が晴れ、丁度今、白夜の時が始まったのを、深い爆煙の中に残る彼らが知る由もない。
 これほどのエネルギーを浴びせなければ、ユートピアを打ち破る事はできなかったのである。
 しかし──まだ、加頭順という男の生体反応はこの世から消えてはいなかった。

「はぁ……はぁ……」

 ダブル、エターナル、シャンゼリオンの同時攻撃を受けながらも、尚、──加頭順という男は生きている。
 ただし──それが、これまでのように悲観的で、戦士たちの劣勢を煽るような物ではなくなっていたのは確かである。
 何せ、NEVERやベリアルウィルスの力も及ばぬほどの極大のダメージを受けた彼の全身は、既に消滅を始めており、身体は粒子に塗れている。辛うじて、ベリアルウィルスの残滓が彼の肉体崩壊を遅くさせ、生命維持だけが辛うじて可能になっている程度だ。
 もはや、子猫の敵にすらならない。

「くっ……!」

 既に、敵に食らいつく牙はなかった。
 戦意も戦闘力も失ったよろよろの身体。焼けこげたタキシードと、乱れた頭髪。生身の人間ならば火傷を負った皮膚。
 残りの寿命は、あと数分といったところだろう……。
 彼自身は、まだそんな自覚を持っていないかもしれないが──。

「ば……馬鹿な……はぁ……はぁ……」

 ベリアルによって力を受けたはずの自分が、成す術もなく敗北している事に加頭は納得がいかないままだった。
 プライドが、それを現実として受け止めるのをしばし拒否した。

 ……今の勝負は何だったのだ?
 闇の力を大量に取り込んだはずの自分が──ベリアルに次ぐ力を持つはずの自分が、数日前までは拘束されて殺し合いを演じていた、数えるほどの駒に敗れている。

「この私が……」

 無意識に加頭が向かっていたのは、マレブランデスの牙城である。巨大な黒い腕の中に眠る、己の恋人のもとへと、辿り着くかもわからない歩を進めているのだ。それはもはや本能的な魂の動きだった。
 常人ならば、既に歩むのを辞めていたに違いない。彼なりに譲れない執念があったという事に違いなかった。
 一歩を踏みしめるごとに、彼の身体からは彼を構成する物質が消失していく。

「この私が……負けるはずが……!」

 うわごとのように、現実を否定する。今の彼には、それしかできなかった。
 と、そんな彼の目の前に、「なにものか」が立ちすくんでいる姿が見えた。
 濃霧のように視界を消し去る煙の中で、シルエットだけがこちらに見えている。
 真っ黒なシルエットに警戒を示したが、加頭が立ち止まったままそれを少し眺めていると、自ずとシルエットはこちらに歩いてきた。

「あなたは……!」

 そこにいるのは、一糸纏わぬ姿でこちらを見つめる一人の白い肌の女性だった。
 全裸を恥じらう事もなく、アンドロイドであるかのような真顔で、加頭に視線を合わせている。──彼女の顔を、加頭が忘れる筈が無かった。
 その姿を見るなり、加頭の頬が緩んだ。



「──」



 園咲冴子。
 あの培養液の中から、自力で脱して来たのだ。ようやく、冴子の蘇生が完了したという事である。

706変身─ファイナルミッション─(5) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:57:15 ID:GU7jrFVA0
 加頭は、その瞬間、思わず、笑顔を浮かべた。目的の一つが完了したのである。状況はどうにもならないが、この事が少し加頭に力をくれる。
 彼女が放つ異様な雰囲気には、まるで気づかずに。

「冴子さん……良かった……蘇ったんですね!」

 加頭は、消えそうな身体でまた一歩を踏みしめた。
 冴子に、よろよろの身体で近づいて行く。急いでいるつもりだが、その歩測は普通の人間にも及ばないほどだ。
 ……彼女がいる場所に、少しでも近づきたい。

「あなたさえ生きていれば……私は……」

 そうだ。
 全ては彼女の為に──彼女と共にある為に、やった事なのだ。
 この場所を理想郷に出来る。何度でも立て直してやる。

「……私は……──」

 加頭がようやく、冴子に近づき、両手を広げた時であった。
 目の前の冴子は、目をぎょろりと見開いて、──ニヤリと笑った。
 そして、そのまま──、自分の正体を明かした。

「ガァァァァァァァァァァァァ────!!!!!!」

 冴子の殻を破り、「黒い化け物」が現れたのである。
 ──それは、園咲冴子ではなかった。
 ただのグロテスクな、腐敗した死骸のような怪物……人を喰らい、人の陰我と共に現れる人間たちの天敵だ。
 そして、驚き目を見開いた加頭もまた、“それ”に見覚えがあった。
 この戦いの中には、彼らを狩るべく使命を持った騎士が参加していたのだ。

「──!?」

 そう──古の怪物・ホラーである。
 魔戒騎士たちが追い続けてきた、人間の陰我に芽生える獣。それがホラーだった。

 そこにいるのは、園咲冴子ではなく、魔弾を受けた時にホラーと化した人間の成れの果てであった。
 彼女の身体の欠片をいくら集めようが、それは──既にホラーに喰われた人間の肉の欠片に過ぎなかった。全ては食い散らかされた死体で──そこに人の意思などなくなったのだ。
 それを見た瞬間、遂に加頭の中においても、冴子への執着よりも恐怖が勝り、加頭は冴子だった物を信じられない風に見つめながら、尻を地面に突く事になった。

「な、何故……! なんだ……この化け物は……!!」

 目の前から向かって来ようとする怪物。
 そこから逃れようと必死にもがく加頭。

「くっ……!! どういう事だ……どういう事だァァァァァッ!!!!!」

 それが、最後の希望が絶たれた哀れな人間の姿だった。
 冴子がホラーに取り憑かれたまま、どんな技術を以ても、“治る事がない”存在なのは、もはや、不変の事実であった。
 ホラーに喰われた人間は助からない。──加頭が最も甘く見ていた前提が、それなのかもしれない。

「くっ……!」

 加頭が四つん這いで逃げるのを、ホラーが捉えようとする。
 悠然と歩き、エモノを食らおうとする園咲冴子の皮を被っていた怪物──加頭の死は、既に目前である。
 加頭はホラーの餌になる。
 最も、あってはならない苦しい死に方だ。
 と、恐るべき死を忌避しながらも、心のどこかで覚悟した──そうせざるを得ないと確信した時だ。

「──」

 カシャ……カシャ……。
 奇妙な、音がした。

707変身─ファイナルミッション─(5) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:00:02 ID:GU7jrFVA0

「──……」

 やはり、カシャ……カシャ……と、音が聞こえた。
 加頭は、自分とホラーだけしか視界に映らないその場に、他の何者かが現れたという事を理解した。
 そして、次に、誰か、男が呆れたような声を発した。

「おいおい……」

 カシャ……。カシャ……。
 その音は、加頭のもとに近づいてきていた。
 冴子に憑依したホラーも、加頭を襲うのをやめて、その声が近づいて来る方に目をやった。

「まったく……とんでもない奴を甦らせてくれたもんだな」

 そして──そんな彼の前に、煙を背負って現れる一人の男がいた……。
 金色に光る彼の身体はとてもよく目立った。
 金色でありながら──銀色の魂を持ち続けた男である。
 ……そう、いつの時代も、ホラーの相手をするのは、彼らであった。

「お前ほどの男が……知らなかったのか? 加頭──」

 涼邑零。──いや、銀牙騎士絶狼(ゼロ)。
 その鎧が、カシャカシャと音を立てて、加頭の前に現れたのだ。
 煙はだんだんと晴れていき、そこにいる男の姿だけを加頭の目に映した。

「……」

 ホラーもまた、宿敵たる魔戒騎士の姿を敏感に察して、加頭を食らうよりも、まずは己の身を守る事を優先したがったのだろう。
 黄金騎士──と、ホラーも誤解したに違いない。



「──ホラーに喰われた人間は、助からないんだ」



 ゼロが口にするのは、残酷だが、加頭も知っているはずの事だった。
 しかし……しかし。



 ──冴子は……彼女だけは、例外ではないのか?



 ──加頭はそう思い続けていた。
 だから蘇生させたのだ。
 肉体ならば、ホラーも霧散しているはずであると。

 しかし、それは、ある意味で、最も人間らしい現実逃避だったのかもしれない。
 どうしようもない「論理」の穴を、ただ彼は「感情」だけで補完しようとしていたに過ぎないのである。
 尤も、それは歪んだ感情であったかもしれないが。

「残念だけど、あんたのフィアンセは、もうホラーに喰われていたみたいだな」
「そんなはずはない……!! そんなはずが……!!」

 必死に現実を否定する加頭の身体も、半分は消失している。
 そんな姿を少しだけ哀れむように眺めたが、零は非情に徹する事にした。
 彼が行った事の報いが始まったに過ぎないのだ。未だ償う気持ちを微塵も見せない加頭には、怒りも勿論湧いている。

「──だから」

 だが。
 今は──まるで、ホラーから守るべき人間がそこにいるような気持ちに切り替えた。
 たとえ、加頭が敵でも……僅かな命であるとしても……彼のように、ホラーに襲われる人間の事を守らなければならない。ホラーの犠牲者は最小限に食い止める。
 それこそが、彼の使命だった。
 そして。

708変身─ファイナルミッション─(5) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:01:42 ID:GU7jrFVA0



「──……ホラーを斬るのが、俺の仕事だ!!!」



 ──そして、何度となく心の中で叫んできたその言葉を、確かに発した。

「おりゃああああああああああああああッッ!!」

 金の二刀流が光る。
 次の瞬間、冴子に憑依したホラーは、絶狼の刃によって胴を真っ二つに斬り裂かれる。
 それは、飛沫だけを残して、いとも簡単に崩れ落ちた。

「ウグァァァァァァァァァァァ────!!!!」

 ────霧散。

 断末魔と共に、ホラーの姿は消えていく。ホラーは蠢くような声をあげ、「冴子の姿をしたもの」さえもそこからいなくなった。
 ホラーの返り血が加頭の顔を穢すが、それも結局、今となってはもう意味のない事だった。──加頭ももう、助からない。

 銀牙騎士絶狼が斬り裂いた彼の夢は、次の瞬間には完全に自然の中に溶けた。
 まるで、園咲冴子など、白昼夢のようだったかのように……。

「あっ……! ああ……」

 ホラーの死地に手を伸ばす加頭の前には、もう園咲冴子の片鱗さえも見当たらなかった。肉片の一つに至るまでが、ホラーの餌となった。それが冴子の躯だった。
 それは、否定のしようがない事実である。

「……」

 そして、これが絶狼にとっては、一つの仕事の終わりだ。
 ここに来る前から与えられた物ではないが、魔戒騎士である彼には、それが本職であった。

『──零。お前の今日の仕事は、多分、これで終わりだな。……まあ、急に入った仕事だが』
「ああ。ただ……まだ、やる事は山積みだけどな……」

 いつになく乾いた口調でそう言う、ザルバと絶狼。
 ホラーの幻影に取り憑かれた一人の男の姿──それは、魔戒騎士が何度も見て来た人間の姿である。
 なまじ、人間の姿を模しているばかりに、こんな人間が幾人もいる。
 その記憶は、普段は消さなければならない。──だが。
 その必要も、なかった。

「ああ……ああ……」

 園咲冴子は死んだ。
 もう戻らない。
 加頭順は幸せにはなれない。
 ──彼の理想郷は潰えたのだ。
 加頭も、ようやくそれを理解したようだった……。

「……うう……くそっ……私は!」

 生きる希望を全て失った加頭の身体は、心なしか、加速度的に消滅を始めたように見えた。
 身体は薄くなり、周囲の何もかもが見えない状態に陥る。
 絶望と後悔だけが身体の芯に残り続ける。

「私は……一体、何の為に……何の為に戦ってきたのだ……!!」

 無力。
 ──そう、これまでの加頭の己の身体さえも裂いた戦いは全て、無駄な徒労に過ぎなかったのだ。

「クソォォォォォォォォッッ!!! 何の為に……!! 何の為に……!!!」

709変身─ファイナルミッション─(5) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:03:12 ID:GU7jrFVA0

 誰への敵意もない絶叫だけが、虚しく響き渡る。
 ユートピアなどない。理想郷は、崩れていくのみだった。
 たとえ、上面だけ、理想郷を復元していたとしても。
 結局、彼が求めた場所は──一人きりの理想郷にしかならない。


 ──そして、それを悟った瞬間だった。







「──!?」

 ──ふと、世界は切り替わった。
 まるで消失が止まったかのような錯覚に陥り、加頭の耳元で、何かが“囁いた”。
 周囲を見回すと、何もかもが……時間が止まっていた。
 暁美ほむらによる時間停止が原因ではないのは判然としている。
 そして、直後に、何かが「何の為に戦ってきたのか」という加頭の問いに答えた。

『──地獄に堕ちる為さ』

 ──白い腕が、加頭の脚を固く掴んだ。
 驚いて見下ろすと、その腕はまるで地の底から生えているかのように、深い沼に加頭を引きずりこもうとしている。

 見覚えのある腕だった。──いや、今も間近にいる戦士が同じ規格の物を持っているはずの腕である。
 そう、それは。

「死……神……!!」

 仮面ライダーエターナル。
 その声は、大道克己そのものだ。──彼が地獄へと加頭を道連れにしようとしている。

「貴様ら……」

 無数の腕が──ルナドーパントの腕が、メタルドーパントの腕が、ナスカドーパントの腕が、ウェザードーパントの腕が、そして……タブードーパントの腕が、加頭の身体をどこかへ引きずりこもうとしているのだ。
 これまで、その死を見て来たはずの連中の腕──。

「この私を地獄の道連れにする気か……!?」

 エターナルは笑った。ああ、ずっと待ってたんだ、と。お前を地獄に引きずりこむのを楽しみにしていたんだ、と。
 これから加頭が向かう場所──それは、地獄に他ならなかった。
 深く、永久の苦しみを味わう為の場所……。

 加頭もそれを悟った時──ある感情が、脳裏に浮かんだ。
 NEVERになって以来、忘れていた感情。

「嫌だ……」

 そう、嫌だ。
 こんな事の為に──あんな奴らの為に、地獄になど堕ちたくない。
 これから、永久の苦しみが待っているのだと思うと……。

 死にたくない。

 また地獄に行くのか?
 こんな奴らと一緒に……。

『来いよ……地獄に連れて行ってやる……』
「嫌だ……!」
『ずっと待ってたんだぜ……お前が地獄に来るのを……』

 ──そして、時間は、再び正しい流れに帰っていく。





710変身─ファイナルミッション─(5) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:05:05 ID:GU7jrFVA0



 キュアブロッサムがそこに駆け寄った。
 加頭順とはいえ、彼がこのまま死んでしまう事には彼女も抵抗がある。──勿論、彼女とて加頭への同情は薄いが、それでも、もしこれからやり直そうとする意思があるならば、彼もまた……と思ったのだろう。
 ……が、遅かった。

「ああっ……ああああっ……!!」

 煙が晴れ、白夜の光が覗き始めた時、そこで、透明に消えかかり、地に伏して涙声をあげる加頭の姿があったのだ。
 大道克己の時と同じだが──それにも増して、惨めだった。

「……痛い……死にたくない……誰か……」
「加頭さん!」

 ブロッサムの脚を這うようにして掴みながら、しかし、何もできずに、その腕が粒子となって崩れ落ちる。
 彼は、自分の腕が目の前で消滅した事に強い怯えを示した。

 死ぬ。
 このまま、死んでしまう……。

「誰か……助けてくれ……」
「加頭……」
『……僕らの憎んだ敵も、結局は、“変わり果てた人間”だったんだ……』

 仮面ライダーダブル──彼らもまた、加頭順の終わりを、哀れむように見つめていた。
 かつて、井坂深紅郎の死を、悪魔に相応しい最期と呼んだ事がある。
 あの時とまるで同じ気分だ。同情の余地はないはずである。
 しかし、彼や井坂もまた、同じ街の空気を吸った人間だ。──その最期を見届けてやる義務が、翔太郎とフィリップにはあるはずだった。

「……苦しい……お前たち……私を……たすけ……」
「加頭さん……」

 ヴィヴィオがそれを眺めながら、救う術を考えた。
 しかし、それはどこにもないのだとわかった。
 自分で蒔いた種だと一蹴するのは簡単だが、それでも──和解の道を、ヴィヴィオは求めていたのだから。

 ダークプリキュアが新しく仲間になった時のように……。
 ゴハットが最後にヴィヴィオを助けてくれたように……。
 その夢は、もう見る事が出来ないようだった。

「ああ……」
『……こいつも、これで少しはわかっただろう。死の恐怖も──』
「──愛する人を失う苦しみも、な……」

 銀牙騎士絶狼とザルバは、消えゆく加頭の姿をそっと眺めていた。
 彼らは同情こそしていなかったが、しかし、その惨めさを目の当りにした時、彼が少しでも他者の痛みを知る事が出来ていてほしいと願ったのだろう。
 だから、こんな言葉を物憂げに呟いたのだ。

「加頭……!」

 そして、そんな所に、あの仮面ライダーエターナルが──それは響良牙だったが──歩み寄った。

 それを見た時、加頭は慌てて視線を逸らし、そこから逃げ去って誰かに縋ろうとしていた。
 情けなくも、頬を涙が伝っていく。
 もう地獄が目前にあるようだった。

 腕を、足を、首を──死神たちが掴んで、持って行こうとする。
 どこを見ても……。
 どこを見ても……。
 そこにいるのは、死神だった。

711変身─ファイナルミッション─(5) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:06:18 ID:GU7jrFVA0





「い……やだ……死にたくない……誰か……たすけ……て………………」





【加頭順@仮面ライダーW 死亡】
【主催陣営、システム────完全崩壊】







「……」

 残った者たちは、どこか気まずそうに加頭が消え去った地を見つめていた。
 そこには、もう何もない。これまでの戦いと全く同じだった。
 敵を倒したは良いが、やはり、望みが打ち砕かれたまま斃れた加頭順という男の姿に、何処か同情を禁じ得ない者もいたのかもしれない。

「……」

 勿論、たくさんの人間を殺した加頭にはそんな物をかけてやる余地はないのかもしれないが、しかし、人間は決して、人を殺す為に生まれてきたわけではない。
 彼もまた、何かが狂気の切欠になっただろうし、彼なりの愛を持っていたには違いなかった。

「この人を──加頭さんを、救う事は出来なかったんでしょうか?」

 キュアブロッサムが、後ろにいた仲間たちに、不安げに訊いた。
 それから、誰もが少しだけ押し黙った。
 加頭への割り切れない恨みと、それでもつぼみの一言に込められた想いを理解したい気持ちとが葛藤したのだろう。
 加頭をよく知る者がそれに答えた。
 ──それは、左翔太郎である。

「あいつも、誰かだけじゃなくて、多くの人が住んでいる街を愛する事が出来れば、別の結末もあったかもしれないけどな……」
『誰かを愛する心があるなら、それが出来たかもしれない……だが、彼はその道を自ら拒んでしまったんだ』

 二人は、嫌にあっさりとそう言ったが、結局のところ、それが全てだった。
 どうあれ、彼が選んだ道は、多くの人と相容れない道であり、真実の愛を掴む手段とは程遠かったのだ。
 結局は、彼がその道を選んでしまった以上、他者が彼に救いを与えてやるのは、ほとんど不可能と言って良かったのだろう。
 それが、彼が選んだ自由だったのだから、それを阻害する権利は誰にもない。つぼみやヴィヴィオの理想を押し付けるわけにはいかない相手だったのかもしれない。

 ──それを思い、つぼみとヴィヴィオは、自分の持つ理想がいかに遠くにあるのかを確かに実感した。
 しかし、それは彼女たちが子供だから持つ理想ではない。おそらく、彼女たちはどれだけ年を重ねてもその理想を叶える為に戦い、生きていくだろう。
 仮面ライダーエターナルが、ふと呟いた。

「──あいつ……酷く怯えてやがったな……エターナルの姿を見て」

 最後、加頭がエターナルから逃げ去ろうとしたのを、彼は確かに実感していた。
 まるで、天敵に怯えた草食動物のように。
 だからか、まるで、良牙自身が最も嫌っていた「弱い者いじめ」をしたような気持ちが拭いきれなかった。そんな後味の悪さも彼にあったのだろう。
 フィリップが答えた。

『きっと、かつて、エターナルに一度殺されたからだろう』
「……そうか。それで、奴はNEVERに……。
 エターナルにダブル──同じ相手に二度も倒されるとは、あいつも因果な男だぜ……」

712変身─ファイナルミッション─(5) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:08:57 ID:GU7jrFVA0

 エターナルがそう俯いて言った時、ただ一人、能天気に、エターナルの肩に手を賭けた男がいた。
 超光戦士シャンゼリオンである。

「──おいおい、俺を忘れんなっての……三人で倒したんだぜ?」

 エターナルも、つい忘れて、黙っていた。
 全く、戦いは終わっていないのに呑気な男だ……。──と、思ったが、いや、彼がこうも呑気なのは、戦いが終わっていないからかもしれない。
 彼は、戦いが終わったら消えてしまう。フィリップも同じ運命だ。
 彼がここにいられるのは、この時が最後である。
 こうして、三人で倒した事を強調するのも、もしかしたら、彼が自分の存在を誰しもに記憶させたいからかもしれない。

「ああ。そうだな……シャンゼリオン」

 良牙は──いや、ここにいる全員は、ベリアルに永久に来てほしくないと、少し願っただろう。
 ベリアルは倒さなければならない。しかし、それと同時に、ベリアルの力の影響下にある、暁その人が消えてしまう……。
 その事実がある限り。
 しかし──運命は、残酷であった。



『──クズクズしてる暇はないみたいだぜ。本当の敵のお出ましらしい!』



 直後、そんな一言をあげたのは、魔導輪ザルバだった。
 白夜の空を見上げる──零、翔太郎、フィリップ、良牙、ヴィヴィオ、レイジングハート、暁、つぼみ……。

 ごくり、と誰もが唾を飲んだ。

「────あれは」

 そう、それは空を見上げなければ、その姿がわからないほどの巨体だった。
 その身体そのものが、身長百数十センチに過ぎない彼らにとっては、威圧であった。
 かつて、ダークザギを前にした時も、同じだった。





713変身─ファイナルミッション─(5) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:10:12 ID:GU7jrFVA0



 どしん。

 ──足音が、この島を揺らす。



「……!!」



 どしん。

 ────ゆっくりと、巨大なそれが歩み寄ってくる。


「来たか……!!」



 どしん。

 ──────彼らが、再びこの島に来る事になった理由が、やっと、目の前に現れた。



「ああ、奴だ……!!」



 どしん。



 ────────まるで、褒美のように、島に上陸した、巨体。



「やっと、本当の最後の敵と戦うんですね……!!」

 ヴィヴィオが、僅かに怯えながら言った。
 彼女のように、これほど巨大な敵と戦うのが初めての人間もいる。
 しかし、その拳は、決して恐れだけではなく、固く握られていた。

 これが本当の最後の敵──。
 先ほどの加頭順は、彼の配下であり、前座に過ぎないのである。





「────カイザーベリアル!!!!!!!!」





 誰が口火を切ったかはわからない。
 カイザーベリアルの名を、誰かが告げた。





714変身─ファイナルミッション─(5) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:11:06 ID:GU7jrFVA0



 そして、全世界の人間は──この瞬間、ガイアセイバーズとカイザーベリアルの対面に、釘づけになった事であろう。
 外の世界を街頭モニターの人だかりは、既に誰を応援するという段階ではなくなっていた。──誰もが、どちらに軍配が上がろうとも全て見届けて終える事を望んだのだ。
 希望と絶望の入り混じる、不思議な感覚。
 誰も、恐怖は覚えていなかった。胸の高鳴りの正体を、誰も知る事が出来なかった。

 千樹憐。和倉英輔。平木詩織。真木舜一。真木継夢。斎田リコ。
 相羽アキ。ノアル・ベルース。ユミ・フワンソカワ。ジュエル。テッカマンオメガ。
 鳴海ソウキチ。鳴海亜樹子。刃野幹夫。園咲硫兵衛。園咲若菜。
 花咲薫子。来海ももか。鶴崎。オリヴィエ。デューン。
 桃園みゆき。一条和希。タルト。西隼人。南瞬。
 南城二。アンドロー梅田。アリシア・テスタロッサ。八神はやて。クロノ・ハラオウン。
 ムース。久遠寺右京。天道早雲。早乙女玄馬。雲竜あかり。
 倉橋ゴンザ。御月カオル。山刀翼。道寺。静香。
 歴戦のウルトラ戦士たち──。
 血祭ドウコクと外道シンケンレッド。

 あらゆる宇宙の人々が、それを見ていた。

 あるいは、インキュベーターも……。



「さあ、君も──応援の準備は良いかい!?
 ミラクルライトを持っている君は、今すぐにミラクルライトを用意するんだ!!
 ミラクルライトを持っていない君は、心の中で応援するんだ!!」



 そして──そこにいる、君も。





715変身─ファイナルミッション─(5) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:12:21 ID:GU7jrFVA0
五分割目おわり




























六分割目へ

716変身─ファイナルミッション─(6) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:14:59 ID:GU7jrFVA0



 ──不可解な静寂。

 ガイアセイバーズを見下ろすカイザーベリアルは、自ら口を開く事はなかった。
 そして、ガイアセイバーズと呼ばれた男たちも、その姿をただ、見上げて、一概に「敵を睨んでいる」とも言い切れない瞳で見つめるだけだった。

 これは、「緊張」と呼んでいいのか、わからない。
 もはや、それは奇妙な時間のマジックだった。何時間となく、無言の睨み合いが続いていたような気さえした。

 それは、余裕を心に内在しているベリアルの側も同じ事だった。
 自分がこうして出向く事になる事など、殆ど無いと思いつつ、心のどこかではそれを期待していた……そんな感情もあったのだろう。
 ベリアルにとっては、まるで現実味のない夢が叶ったようでもあり、厄介な邪魔者に夢を邪魔されているようでもあった。この強敵でさえ、そんな微妙な感慨に没していた。
 だが──誰かが、その、何人も口を開く事ができなかった静寂を、ふと打ち破った。

「────みんな……奴を倒し、全てを終わらせるぞ……!!」

 それは──シャンゼリオン、涼村暁だった。
 誰もが一斉に、彼の方を見た。──彼がその言葉を告げた事を、誰もが心から意外に思ったようだった。
 目の前の敵が倒されれば死ぬ──そんな宿命を背負っているのは、実のところ、この元一般人の青年に他ならない。

 そして、何より彼には──涼村暁には、そんな宿命と戦うヒーローの自覚は全くない。
 今日の今日に至るまで、ただ、なりゆきでそれらしい事をしているが、普通の人間だ。いや、むしろ……およそ、ヒーローの資質とは無縁な性格の男だと言える。

 そんな彼が……真っ先に……。
 真っ先に──この静寂を打ち破り、こうして誰かの心を熱くさせたのだ。
 ぐっと、全員が顔を顰めた。



「──ガイアセイバーズ。
 遂に加頭まで倒しやがったか……俺様の前に現れるとは、予想外だった」



 まるで暁に釣られるように、ベリアルの方が言った。
 静寂が打ち破られ、雲が次第に晴れるようにしてベリアルの目が光る。
 誰もが、初めて、ベリアルの声を聞いた。それぞれが全く別の声に聞きとったのだが──いずれにせよ、それは巨悪らしい低い声だった。
 こんなに近くで──全ての世界を崩壊させようとする元凶が自分たちに語りかけているのだ。この最大の怪物が……。
 彼一人が、宇宙を支配し、そして崩壊させようとしている。
 そして、彼がいれば、これから数日と宇宙を保たせる事はできない。

「まさかお前らとこうして会う事になるとは思わなかった……褒めてやるぜ!」

 そして。
 そんなベリアルの声色は、心なしか、どこか嬉しそうだった。
 それが何故なのかは、すぐには誰にもわからなかった。
 世界にただ一人いるのが、いかに退屈なのだろうか……。
 きっと、内心ではそうなのだろう。
 それを、表には出さずともどこかでわかっていたのかもしれない。

 ……世界の支配者には、「敵」が必要だった。
 世界の一番上に立った支配者にあったのは、満足感や充足感だけではなく、渇きだったのだ。元から持ち合わせていた隙間が、圧制によって埋められる事はない。
 だが、今、こうして彼らが乗り越えて来た事で、ガイアセイバーズという絶対の敵が生まれたのだ──。
 おそらく、ウルトラマンノアの再誕を妨害しながらもその姿が現れると歓喜にも似た感情を抱いたダークザギも、同じ心情だったに違いない。

 ガイアセイバーズの中にも、ベリアルを前に、何か胸騒ぎがする者がいた。
 それは、恐れではない。

717変身─ファイナルミッション─(6) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:16:03 ID:GU7jrFVA0
 むしろ、奇妙な共感とさえ言える。──生か、死かの戦いという気がしない。
 何故か、むしろ、最大の敵を前に、安らかで、精神的には抜群のコンディションでさえあった。それは、ずっと追い求め、憎み続けた相手が目の前にいるのだと、その想いがあるからかもしれない。
 これまでと相反する感情が内心に溢れたせいか、こうして目の前に強敵がいる事にも、不思議と現実感が消えていった。
 しかし、そんな頭を切り替える。

「来い……! 俺は、小細工はしない……! お前らに勝つ自信があるからな……!!」

 そんなベリアルの言葉に、ごくり、と唾を飲み込む。
 だが、どう取りかかればいいのか、各々が少し悩みあぐねた。
 相手の身体は50m近くもあり、簡単には倒す事ができない相手なのを実感させる。
 あのフィリップですら、ベリアルの対策は検索しても浮かばないほどだ。

 しかし。

 そんな状況下でも、秘策を持つ男が、この場にただ一人だけ、いた──。

「……」

 ──そして、その男は、ゆっくりと前に出て歩きだした。

「……──」

 通用するかはわからない、と思いながら。
 ただ、目の前の敵にぶつける為に、少しは修行したのだ。
 その男の背中を、誰もが目で追った。
 どこか誇らし気に、ベリアルの前に出て行く男──。

「──仕方ねえ……! あのサイズの敵を倒すにはあれっきゃねえな……!!」

 それは、仮面ライダーエターナル──響良牙であった。
 ばっ、とマントを靡かせる彼の姿は、何らかの秘策を持っている状態のようだ。期待を持っている者もいれば、期待の薄い者もいた。そう簡単に倒せる相手ではないのは誰もが理解している。
 だが、どうやら、良牙には、巨大な敵と戦える術があるらしい。
 エターナルに向けて、ブロッサムが声をかける。

「良牙さん……? 何か秘策が……!?」
「──ああ。実は、俺は、闘気を使えばあれくらい巨大になれるんだ」

 そんな一言に、誰もが少しの間固まった。
 体を巨大にして戦うという事が出来るならば、数日前のダークザギ戦において、何故彼はそれを使わなかったのか……と誰もが思ったのである。
 それは、自然と口から出てしまう疑問だった。──ブロッサムが、誰しもが抱いた疑問を自らが代表して彼に突っ込んでしまう。

「──なんで今までやらなかったんですか!?」
「今ほど力が溢れてる時がなかったんだよ!!」

 だが、エターナルにかなりの剣幕でそう返されて、ブロッサムは今度は少し小さくなった。
 確かに──いくら良牙でも、それほどまでに強大な力があって、ダークザギ戦の時に使わぬわけがない。
 そして、あの時は、今のように黄金の力が自分たちを助けてくれる事もなかった。力でいえば今よりずっと低く、資質もないのだ。加えて、良牙はこの数日で、闘気の使い方をかつて以上によく学んだ。
 そう。彼は「今」だからこそ……彼の力が及ばぬ、歴戦の達人の技を使おうとしていたに違いない──。

「いくぜ!!」

 エターナルが叫ぶ。
 そして、同時に──八宝斎や早乙女玄馬がかつて行った、“闘気による巨大化”を始めたのである。
 全員、半ば半信半疑であったが、そんな怪訝の色は、エターナルの頭が階段を上るように高くなっていくにつれて失われていく。

「──!!」

 歴戦の勇士であった者でさえも、この妖術めいた格闘の曲技には目を凝らし、そして、自分の経験すらも疑っただろう。
 だが、現実に起きている事であるのは言うまでもないので、自らの経験の浅さを一笑して区切りをつけた。
 それと同時に、感嘆もしてしまった。──下手をすると、ベリアルでさえもそうした存在の一人であったかもしれない。

718変身─ファイナルミッション─(6) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:17:59 ID:GU7jrFVA0

「おおっ……!」

 かつて八宝斎及び早乙女玄馬の二名によって行われたその激闘の様子は、さながら妖怪大戦争のようだったが──今、この場においては、唯一の希望であり、無敵のヒーローとなる存在の誕生の瞬間だ。
 直後──仮面ライダーエターナルは、確かにオーラを纏って、少しずつ大きくなった。
 味方の誰もが、その姿に大口を開ける。まさか、この男──こんな異様な力までも持ち合わせていたとは。

「すげえ……!!」

 そして、気づけばウルトラマンのように、ベリアルのサイズへと変身しているのだった。
 これが仮面ライダーエターナルの「秘策」だったらしい。
 確かに、これならば、カイザーベリアルも恐れるに足らない。エターナルの実力は誰もが知っているし、カイザーベリアルとの体格差が埋まった以上、分があるのは自らの方であった。

 良牙の闘気が解放され──そして、高らかに宣言し、いつも以上に遥かに大きな声で名乗りをあげた。



「見ろ、ベリアル……これが、お前を倒す────超エターナルだッッッッ!!!」



 両者は同じ高さの目で、少し睨み合う。ベリアルが、そんなエターナルを前にも、気圧される事はなかった。
 エターナルの目と、カイザーベリアルの目が合う。──両者の間に、緊張が走る。
 だが、ベリアルは、嫌に淡々としていた。

「──巨大化、か。人間のくせに……」
「ああ……! これでお前と同じ土俵で戦える!!」

 そう言いつつ、これから、この敵と戦わなければならないのか……と、エターナルは内心で独り言ちていた。
 こうして同じ目線で前を見ている者こそが、これがこれまでずっと追い求めていた強敵。
 そう、誰よりも強い敵だ。
 こうして、自分一人で戦って勝てる相手とは限らない。

 だが──エターナルは、一息飲んでから、戦う覚悟を決めるように、左掌を右拳で叩いた。
 風が吹く。








「……」
「……」










 ──────そして、その直後、巨大な仮面ライダーエターナルの姿は消え、エターナルは再び等身大に戻った。

719変身─ファイナルミッション─(6) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:19:44 ID:GU7jrFVA0










「……」

 あまりの事に、誰もが言葉を忘れ、冷やかな瞳でエターナルを見た。その瞳は、興味のないものを見つめる猫の瞳にも近かった。
 何故か元のサイズに戻ってしまったエターナルは膝をつき、がくっと肩を落としている。
 そして、言った。

「……くそ。今の俺じゃ三秒が限界か」

 ……良牙の力、及ばず。
 良牙はまだ若く、ちょっとやそっとの修行を積んだ所で、巨大化したまま戦う事など出来ようはずもない。
 これは、年長の達人である八宝斎や玄馬ですら、数秒しか保たなかった技なのだから。
 それ故、良牙がこれだけしか巨大化できないのも仕方のない話であったが、実戦の上で全く意味のない時間が過ぎ去り、多くの期待が泡と消えた事は言うまでもない。

「──何の為に大きくなったんですか!!」

 今度のキュアブロッサムのツッコミは、全く、その通りであった。
 少し良牙に期待した者は、過去の自分を呪った事だろう。
 頭を抱える者も出た。幸先が不安である。──よりにもよって、カイザーベリアルとの初戦がこれとは。
 ベリアルも、一瞬唖然としたが、余裕を込めて笑った。

「クックックッ……おもしれえ。随分と余裕があるじゃねえか……!」
「余裕なんじゃないやい! 本当にこれしか出来なかったんだい!」

 負け犬の遠吠えのように、ベリアルを見上げて叫ぶエターナル。
 しかし、誰もがそんな彼を白けた目で見つめている。
 当の良牙が、全く本気であるのが輪をかけて救いようがない話で、彼は背後の者たちの視線にさえ気づかなかった。

「──ボケてる場合じゃありません。……どうしましょう」

 レイジングハートもまた、呆れかえっていたが、それを中断して仲間の方を見た。
 彼女自身、ほとんど無意識の事だが、まさに言葉の通り、両手で頭を抱えている状態であった。決戦を前に、こうして頭を抱えたのは初めてである。
 ダミーメモリの力をもってしても、巨大化は不可能に違いない。
 どうして、ベリアルと同じ土俵に立つ事が出来ようか。

「フィリップ。巨大化する術は……?」
『残念ながら、ない』
「……って事は、やっぱりこのまま戦うしかねえって事か。仕方ねえな……」

 と、ダブルがダークザギ戦のように等身大のままダークベリアルと戦う覚悟を決めようとした時である。
 ──誰かの声が、また、響いた。

「──いや、違うぞ!!」

 誰だろうか。
 そんな、聞くだけでも希望が湧くような言葉を発したのは。
 またくだらないボケか、と心が諦めるよりも前に、誰もが反射的にそんな希望の一声を頼ってしまう。

「──」

 ダブルが振り向くと、それは佐倉杏子であった。
 ──全員が、ほぼ同時に杏子の方に目をやっていた。

 一体、フィリップにさえ何も浮かばないのに、どんな秘策があるのかと思った。
 そして、ダブルは、彼女が今、手に持っている物体に視線を落としたのだった。

「杏子……それは……」

720変身─ファイナルミッション─(6) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:20:50 ID:GU7jrFVA0

 ──見れば、杏子の手では、「何か」が強い輝きを放っているのである。
 今度の希望は、決して良牙のようなくだらないボケではなさそうだ。
 彼女は、良牙と違う。場を白けさせるボケはしない。
 真っ赤な光を輝かせるその物体から、誰しもの耳へと「音」が運ばれて来た。


「そうだ……まだ手がある……!!」


 どっくん……。どっくん……。
 普段から、どこに行っても鳴り響いているはずの音──。

 そう──“鼓動”。
 杏子の手にあったのは、まるで心臓のような血の鼓動だった。だが、心臓を持っているのではなく、鼓動を手に持っている。
 それを見て、各々の頭に浮かぶのは、あの忘却の海レーテで見たウルトラマンのエナジーコアに酷似した物体である。

 そして、杏子自身は、あの時──彼女自身がデュナミストであった時に感じたエボルトラスターの鼓動を重ねていた。
 あの時に、自分がデュナミストをやっていたから──だから、それが自分の切り札だとわかったのだ。



 杏子の手に握られているのは──



「あたしのソウルジェムだ……!! こいつが……光ってる!!」



 ──そう、魔法少女のソウルジェムであった。
 今は使えないはずのこれが、久しく、彼女に反応したのである。……そして、その理由が、彼女にはすぐわかった。

 杏子は、かつて、ドブライという一人の男が教えてくれた事を思い出す。
 彼もまた、ある世界で出会った、杏子の友達の一人である。──そして、彼が最期の時、杏子に、何を告げようと……何を託そうとしたのか。
 その言葉が、再び杏子の胸に聞こえた。



──……杏子よ。君のソウルジェムが……光が……きっとまた、輝く時が来る……その光で、ベリアルを、きっと倒してくれ……──



 それから、今度は、自分のソウルジェムが石堀によってレーテに放り投げられ、無限の絶望の海を彷徨った時の事を思い出した。
 巴マミの尽力によって、絶望の海から再びこの世界へと還ったソウルジェムだが、その時には、強い光が彼女を包んでいたのだ──。
 その光とは、一体何か──。


「そうか……杏子のソウルジェムは、レーテに入った時に、ウルトラマンの光を少しだけ受け継いでいたんだ……!」

 翔太郎も気づいたようだ。
 杏子のソウルジェムは、確かに闇の力に染まって、魔法少女へと変身させる機能を捨てた。だが、決して闇の力だけを吸収して動かなくなったわけではない。

 もう一つの力──ウルトラマンの、光の力がそこに宿り、二つの力が葛藤したから機能を停止したのだ。
 ウルトラマンノアの力は今、二つに分かたれている。
 その内の片方が、あの時からずっと杏子のソウルジェムに宿っていたのだという事。

 そして──

「ああ、それが今、呼び合ってるんだ……!!」

721変身─ファイナルミッション─(6) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:22:10 ID:GU7jrFVA0

 それは、キュアムーンライトのプリキュアの種と、ダークプリキュアが持つプリキュアの種が強く反応し合うように──元々一つだった者の欠片と欠片が呼び合う仕組みになっていた。
 未来を予知できたノアが、スパークドールズとなった時の為に残した予防線に違いない。
 ノアは、杏子と美希の絆を信じたのだ。

「……みんな」

 何故──ノアが今になって呼び合おうとしているのか。
 その理由も、彼女にはわかる。

「美希が……あいつが、ウルトラマンを見つけてくれたんだよ……!!」

 杏子は、ソウルジェムを高く掲げ、叫んだ。
 ガイアセイバーズの視線は、そのソウルジェムに視線を注いだ。










「──来てくれ、ウルトラマン!! あたしたちはここにいる!!」












722変身─ファイナルミッション─(6) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:24:07 ID:GU7jrFVA0



 ────祈りとともに、空が光った。

 銀色の翼の戦士、ウルトラマンノア──。
 彼は、自らの力を注ぎ込んだ杏子のソウルジェムに反応し、彼らの居場所を即座に探知したのである。自らが復活した時、彼女たちの居場所を探る為に残した力だ。

「シャァッ──!」

 感応している。
 そして、自分を呼んでいる──。
 ノアは、すぐにそれに気が付いた。

「ついて来いってのかよ……! 速すぎるぜ……!!」

 ゼロも、ノアから授かったノアイージスを使って、銀色の流星の軌跡を追った。
 しかし、測定不能レベルの速度で飛行するウルトラマンノアは、ゼロが容易に追いつける相手ではなかった。
 彼の後に残った光の後だけを、彼らは辿っている。
 ノアとは、実体がない存在なのではないか、とさえ思う。ウルトラマンノアは、本当に生物なのだろうか。
 それでも──彼が味方で、自分たちが、敵の場所に近づいているのがよくわかった。



 ────その時、ノアと同化する孤門一輝の意思が、彼らの耳に届いた。



『美希ちゃん、ゼロ……君たちは、向こうへ……!』

 それは、声だけだったが、どうやらリアルタイムで届いているテレパシーのような意思だと気づいた。

723変身─ファイナルミッション─(6) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:25:15 ID:GU7jrFVA0
 確かに、温和な孤門の声だ。
 だが、何故、この時になって別の場所に向かわせようとするのか、美希にはすぐに理解する事ができなかった。
 確かに、リーダーである彼の指示に従うのが道理だが。

『え……!? 何故ですか……!?』
『君には、もう一人、救うべき相手が残っているはずだ……!』

 と──孤門にそう言われた時、美希は、思わず自分が忘れかけていた大事な事に気づく。
 自分が助けなければならない仲間は、ベリアルと共にはいないのだ。

『シフォン……!』

 ベリアルが貯蓄したFUKOの力と共にあるはずだ──。
 ラブと、祈里と、せつなと……みんなで育てた、あの子。

 円らな瞳の赤ん坊、シフォン。

 インフィニティのメモリと呼ばれている、美希のもう一人の仲間。
 彼女を、支配の力ではなく、再び、ただの一人の子供として、自由を与えたい。
 それが、プリキュアとしての彼女の使命だ──。

 美希は、ゆっくりと頷く。

『わかりました!』
「──よし、さっさと助けて、加勢してやるぜ!」

 ……目の前には、地球を模した青い星があった。
 その星こそが、ノアが辿り着いた場所。
 銀色の流星が、消えていった場所。
 そして、ついこの間まで、自分たちが戦っていた場所。
 やっとたどり着いた……。


 この星に──。







 ────震!!!!!!


「シャアッ……!!」


 杏子たちのもとに、ウルトラマンノアが土埃をあげて舞い降りたのは、その直後の事であった。
 ──大地が打ち震え、一瞬だけ、強風が吹いた。
 しかし、誰もがそれを浴びて、ただノアの姿を見上げていた。
 その姿を見上げながら、どこか安心してそれぞれが頷き、杏子が言った。


「来た……──ウルトラマン!!」


 銀色の羽を持つ、光の戦士。
 カイザーベリアルでさえも恐れた、伝説のウルトラマンが、今、杏子たちの前に再び現れている。
 そして、そのウルトラマンの正体は、彼らの仲間であり、リーダーである孤門一輝に違いなかった。


『────みんな……遅くなって、ごめん!』


 孤門の声が、それを見上げる者たちの脳裏に響いた。
 それは、ウルトラマンノアというよりも、孤門一輝という一人の男にも見えた。
 カイザーベリアルも、目の前に再び現れたウルトラマンノアの姿に、僅かながら息を飲んだようだ。

724変身─ファイナルミッション─(6) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:27:14 ID:GU7jrFVA0
 彼の力でさえも及ぶかわからない強敵──それが、ノア。
 しかし、やはり……こんな敵を、ベリアルは待っていたような気がする。

「まったく……遅いぜ、本当に! ヒヤヒヤさせんな!」

 絶狼が茶化すように言う。
 しかし、カイザーベリアルを眼前にした彼が、とにかくこの男の到着を待っていたのもまた事実だ。
 それに──今のところ、死傷者は出ていない。
 孤門が遅れたせいで死んだ仲間は一人としておらず、むしろ、彼が来たのは丁度良いタイミングであったと言えよう。

「……ここにいる私たちは、みんな無事です!! 孤門さん!!」

 そこにヴィヴィオの姿があった事に、孤門は少し目を丸くした。
 レイジングハートが既にいるので、ダミーメモリによって体だけ形作っているのでない事はすぐにわかった。
 悪戯としては少々悪質であるから──おそらく、そこにいるのはヴィヴィオ本人だ。

『生きていたんだ……ヴィヴィオちゃん……!』

 ノアは、そんなヴィヴィオに向けて頷いた。
 それから、すぐに、カイザーベリアルの方を向いた。

「……──」

 彼は、確かに待っていた。
 自分と同じ土俵で戦う、別の敵を──。
 しかし──ノアは、些かカイザーベリアルよりも実力が上回る存在でもある。
 どちらが勝つのか──それは、カイザーベリアルにもわからない。
 スパークドールズ化ではなく、もう一つの秘策も持ち合わせていたが、それよりも……まずは、自分だけの力で小手調べをしようとした。



『────ああ……!! みんな、一緒に戦おう!!』



 ウルトラマンノアが──孤門が、地上の仲間たちに呼びかける。
 見上げる彼らは、きょとんとした顔だった。

「俺たちが……」
「一緒に……?」

 一緒に戦う……と。
 しかし、今の自分たちには、カイザーベリアルと戦えるだけの力があるだろうか。この大きさでいる限り──。
 そんな彼らの内心の疑問に答えるように、意識を飛ばす。

『共に肩を並べて困難に打ち勝てる絆……それを持つ者みんなが、「光」なんだ。
 僕達の間に絆がある限り……みんな、最後まで一緒に戦える──!!』

 地上にいた者たちは、皆、呆然とした。
 全員でウルトラマンと同化するという事なのだろうか。
 それが可能だというのか──。


「──そうだ……! あたしたちなら出来る!!
 みんな……あたしのソウルジェムに手を──!!」


 しかし、杏子が、いち早く孤門の言葉を理解し、そこにいる全員に呼びかけた。
 それと同時に、戸惑っていた誰しもが彼女の言っている事を、納得したようだ。
 このソウルジェムには、ウルトラマンの光が注ぎ込まれている──このソウルジェムに向けて力を発すれば、全員がウルトラマンになれる。

 人間はみな、自分自身の力で光になれる──。
 かつて、世界中の人々の力を借りて、邪神ガタノゾーアと決戦したウルトラマンがいた。
 それと同じに……決して、ウルトラマンは一人だけが変身する物ではないのだ。

「……ああ! わかった!」

725変身─ファイナルミッション─(6) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:28:29 ID:GU7jrFVA0

 仮面ライダーダブルが。
 高町ヴィヴィオが。
 レイジングハート・エクセリオンが。
 超光戦士シャンゼリオンが。
 キュアブロッサムが。
 仮面ライダーエターナルが。
 銀牙騎士絶狼が。



「────いくぞ、みんな!!」



 杏子のソウルジェムに、手を重ねた。
 八人が、それを強く握りしめると、八人の体は、次の瞬間、一つの光となり、ソウルジェムの光の中に吸い込まれていく──。
 本当に……本当に、彼らの間に芽生えた絆は、今、光となったのだ。

「絆……」

 ここにいる者たち……それぞれの出自は違う。
 しかし、こうして出会い、互いが絆を結び、育んできた。
 ウルトラマンネクサスや、ウルトラマンノアと共に戦う時も、誰か一人だけの力で戦うわけではない……。

「──ネクサス!!」

 そして、ソウルジェムは、空へと飛来し、ウルトラマンノアの胸のエナジーコアへと帰っていった。
 ノアの全身に、ソウルジェムに注いだ力が再び灯る。
 それは、更なるエネルギーの上昇を意味していた。



「────勝負だ!! カイザーベリアル!!」
「────勝負だ!! ウルトラマンノア!!」



 ノアとベリアルは向き合った。
 お互いに、同じ意識を飛ばし合う──。

 戦いがあった島の上で、二つの巨体は、最後の戦いを始めようとしていた。





726変身─ファイナルミッション─(6) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:29:45 ID:GU7jrFVA0




















































嘘(六分割目から七分割目へ)

727変身─ファイナルミッション─(7) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:32:34 ID:GU7jrFVA0



 ゼロの目の前には、巨大な支配力の塔がそびえたっていた。塔は円筒状であり、見る限り横幅はウルトラマンの何倍もある。だが、その左右の端が視えるだけマシであった。
 その塔の上には、「果て」という物がない。勿論、厳密にはどこか途切れる場所があるはずなのだが、やはり宇宙に続く軌道エレベーターのように伸びており、ウルトラマンの視力が見つめてもその高さを計る事は出来ないのである。
 かつて支配者メビウスが貯蓄したエネルギーの比ではないほどの力が溜められたタンクは、カイザーベリアルがこの殺し合いで積み重ねた物の結晶だ。

「すげえな……こいつは」

 ゼロもそれを見て息を飲んだ。
 彼らの前にあるのは、その塔の「根」であった。ウルトラマンが数十人集って輪を作ってようやく収まるほどの外周だが、それでもこの果てなき塔を支えるには小さい塔……。
 だが、それが脆さでもある。根元から崩すのは難しくはなさそうだ。

 そして、この巨大なシステムを司る「核」が、妖精シフォンだった。ウルトラマンゼロの視力は、根のあたりに埋め込まれているシフォンの全容を捉える事には成功している。
 何せ、その周囲が完全なる荒野で、見えている物といえば、永久に水かさを増し続けるそのFUKOのタワーだけなのである。

 ゼロは、飛行をやめ、滞空した。
 その塔の数千メートル手前で、塔の根元にいる小さなパンダの赤ん坊のような生物を見て、自分の中の「美希」にその情報を伝達した。
 意識を送られた美希は、それを見て、再三の確認のように頷いた。

「シフォン……!」

 今、自分たちが見つけるべき対象こと、シフォンは目の前に居るのだ。
 シフォンは今、悲しんでいる。──世界を支配する為に、自らの存在が道具として利用されている事に……。
 その想いが、今、遠くで、シフォンの隈のような両目から流れ出ているような気がした。かつても、こうしてメビウスによって利用された彼女を……再び、誰かが利用している。
 彼女にシフォンの姿をしっかりと見せ、安心させた所で、ゼロは、シフォンを助けるべく、素早く空を駆けた。今からは四の五の言うよりも、やはり体を動かし、一刻も早くシフォンを救うべきだと判ずるのは当然だ。
 だが。

「ん……?」

 彼らが飛翔していると、遥か前方で砂の中が不気味に蠢いた。やはり、一面の砂漠の中、FUKOのエネルギーが野ざらしという訳でもなかったのだろう。
 砂漠がむくむくと山を作り出していく。どうやら、砂の中二何かが潜り込んでいるらしい。
 まるで蟻地獄の正反対で、空が砂に削られていくようだった。
 そこから何が現れるのは、ゼロは微かに動揺した。

「──!?」

 次の瞬間──その中から全身を晒したのは、あの仮面ライダー1号や2号と同じように、飛蝗の顔をした「仮面ライダー」の姿である。
 だが、よく見れば、やはり1号や2号などの旧式仮面ライダーとは決定的に違う外形であった。

「──仮面ライダー……じゃない……!?」
「強い憎しみに溢れた姿……これは一体……!」

 そう、その全身は真っ赤な業火に包まれており、仮面ライダーたちと……いや、このウルトラマンゼロと比しても巨大な姿をしているのだ。──それが何者なのかは、ゼロにも美希にもわからない。
 直後に、それは、数百メートルまで肉薄したゼロに向けて、自ら、野太い声で名乗りを上げたのだった。

『フン。現れたか、ウルトラマンゼロ。──……我が名は仮面ライダーコア』

 仮面ライダーコア。
 それが、彼の名前であった。ある時空においては、仮面ライダーダブルと仮面ライダーオーズの二人のライダーによって倒された、「仮面ライダーの悲しみ」の結晶こそ、この怪物の正体である。
 だが、今回の彼は、ただそれだけの存在ではなかったらしい。

728変身─ファイナルミッション─(7) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:33:20 ID:GU7jrFVA0

『仮面ライダーやウルトラマン、プリキュア……あらゆる変身者たちの悲しみから生まれた究極の戦士にして、このタワーの番人──』

 つまり──この殺し合いや、外世界における、あらゆる戦士の悲しみを吸収し、500m以上の巨大な仮面ライダーとなった彼の姿なのである。コアは、戦士の悲しみが深いほどに強くなっていく仮面ライダーだ。
 それゆえ、ほとんど大きさはゼロの十倍であり、この巨大なタワーを任される番人としてはうってつけの存在であった。もしかすれば、その出自から考えるに、彼もまたFUKOのエネルギーを借りて作られた存在なのかもしれない。
 だが、コアを前にもゼロは臆する事がなく進み続けた。

「そうか──……わかったから、そこを退け! お前に構ってる暇はない!!」

 ゼロは、全くスピードを変える事も止める事もなく、ウルトラマンノアより受けた鎧「ウルティメイトイージス」を、右腕に装着する弓として展開する。
 この世界でも、やはりウルトラマンノアはゼロに力を貸し、そして、今、ゼロに再び力を与えているのである。ノアとゼロとの出会いもまた、運命的であるとも言えた。

『フン……無駄だ。全ての戦士の絶望を最大限に吸収した我が身に勝てる力など──』

 ゼロが滑空しながら、ウルティメイトイージスにエネルギーを充填する。
 これから射出するのは、イージスそのものだ。イージスを高速回転させて相手にぶつける技──ファイナルウルティメイトゼロである。
 そして、仮面ライダーコアの服部に向けて勢いよく発射するのだった。



「そういうのが……──しゃらくせえんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーッッ!!!!!!」



 そんな叫び声の大きさは、イージスの発射音にも勝った。
 イージスは、高速で回転しながらコアに向けて飛んでいく。それは、コアの目に追いきれないスピードで肥大化し、コアのベルトの部分に勢いよく叩きつけられた。
 ──彼の体に、巨大な風穴が開く。
 コアがダメージを感じるよりも早く、まるで手慣れた猛獣の火の輪潜りのように、ゼロが飛び去って行った。

『がっ……』

 それは、一瞬の出来事だった。
 自らの体の内を通過された後で、コアは痛みを覚え──そして、自らが一瞬で敗北した事実を知った。

『何だとォォォ……!!』

 ゼロの体に、ウルティメイトイージスが鎧として装着されている。彼は、自らが発した武具と、いつの間にか再同化したのであった。
 しかし、その矛先が向けられたのは、仮面ライダーコアの方ではなかった。
 何故なら──次の瞬間には、仮面ライダーコアは、大きく音を立てて前のめりに倒れ込んでいったからだ。大地は大きく揺れた事であろうが、その大陸は、見渡す限り無人の荒野でしかなかった。

『バカなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………』

 ただ虚しく、倒れた音が響くのみだ。
 最強の敵もまた、それを超える存在には無力である。

「──よし、美希! すぐにシフォンを助けるぞ!」
「オッケー!」

 ゼロと美希の頭からは、既に敵の事など消え去っている。彼らが行うべきは、目の前の物体の破壊と、そして、シフォンの救出だ。
 ゼロの手からは、次の瞬間、白銀の長剣ウルティメイトゼロソードが出現し、伸縮自在の光が真っ直ぐ、目の前の塔に向けられた。
 それは、黒く濁った目の前のタンクの真横で数百メートルまで伸びていく。
 これが次の瞬間には左方向に向けて振るわれ、塔を破壊するのは明白だった。

「うおおおりゃあああああああッッ!!!!」

729変身─ファイナルミッション─(7) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:34:01 ID:GU7jrFVA0

 まさしく、その通りに──ゼロは、ウルティメイトゼロソードを凪いだ。光が物体をすり抜けるように、ウルティメイトゼロソードは塔を抉り取る。
 塔の切断面は、まるで自らが切断した事実に気づかなかったように止まった。崩れるより先に液体が零れ、それからまたそれに引きつけられるようにしてゆっくりと塔が傾いた。
 上と下に、真っ二つに分かれた塔は、更に、二度、三度と×印を描くようにウルティメイトソードの刃を受ける事になる。

「もういっちょっ!!」

 そして、切断面で、怪獣の爆発のように何かが爆ぜたかと思うと、次の瞬間には、真横に雪崩れ込むようにして欠片が落ちた。
 何もなかった荒野を洪水が包んでいく。
 宇宙の果てまで届いていたはずの巨大な塔は、そのまま、この星の半分に影──即ち、夜を作り上げる。

『何故だ……この私が──』

 膨大なFUKOの海の中に没しながら、コアはまだ自らの一瞬での敗北を信じられないように言った。
 しかし、ゼロのあまりの破天荒で派手なやり方に、コアはむしろ諦観したように、一瞬の夜を見上げるばかりだった。
 半身が波に飲まれ、顔だけが水の上に浮わついていたコアの目の前で、ゼロが滞空する。

「──聞いとけ、なんとかコア。悲しみや、絶望如きが俺たちの希望に勝とうなんざ、二万年早えぜ!!」
「って言っても、二万年後に挑んでも無駄だけどね!」

 ゼロは、次の瞬間、青い光となって、その波の向こうにいるはずのシフォンを探して、飛び込んだ。コアの視界からは、一瞬で消えてしまった。
 コアは、そんな彼らの言葉を耳にしながら、最早何の感慨も抱く事なく、FUKOの渦に沈んでいく。彼らの返答が、コアにとって敗北の理由として納得のいくものであったのかはわからない。
 ただ、ゆっくりとコアはもはや希望に敗退し、消えゆく定めでしかなかった。
 希望の弱点が絶望であり、絶望の弱点もまた希望であるという矛盾した事実に苛まれながら……。

「そうだ! そんな事より……」

 その真横で、ゼロたちはより早く、深くへと荒波の向こうへと進んでいた。

「──シフォン!!」

 塔の底部のシステムと融合しているシフォンが波に流される事はなかった。
 システムの崩壊によって、インフィニティメモリとしての機能が失われたシフォンは、正気を取り戻し、円らな瞳で、ウルトラマンゼロの巨体を真っ直ぐ見つめる。
 彼女は自らの持つ特異な能力で身体の周囲にだけ結界を張り、まるで空に浮くシャボン玉に包まれるようにして身を守っていた。
 ゼロが邪心のある存在でない事や、ゼロの中にある美希の姿もまた、シフォンはその能力で感じ取ったようである。

「ぷいきゃー!!」

 まだ拙い赤子の言葉で、シフォンはそう感嘆する。
 彼女がどの程度事情を理解しているかはわからないが、ひとまずゼロは黙って彼女に向かって頷いた。それは、どこか神秘的なノアにも少し近く、ゼロ生来の若さと裏腹な落ち着きさえ感じさせた事だろう。
 一方、ゼロの中の美希が、シフォンに向けて、クールな普段とはこれまた裏腹な喜びと安心を叫び出した。本来なら我が子のように抱きしめたいところであったが、事実、ゼロと同化状態にある美希にはそれが出来ない。

「シフォン!!」
「みきー♪」
「良かった……!!」

 しかし、まるでその時、美希はゼロの身体の中から心だけ抜け出して、シフォンの身体を包む事に成功したような気分であった。
 シフォンもまた、誰かのぬくもりを全身に感じたような気がした。──ずっと待っていた助けが来た安心感が、シフォンの心を灯したのだろう。
 その一瞬は、長かった。

「──」

730変身─ファイナルミッション─(7) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:36:31 ID:GU7jrFVA0

 ……気づけば、ゼロの銀色の掌の上に、小さなシフォンが乗っている。ゼロと同化しているはずの美希が、その事にまったく気づかなかったのだ。シフォンと再会できた喜びに我を忘れていた証であるとも言えた。
 ゼロは、優しくその掌を包み、再び空に向けて飛び上がった。水の抵抗を強く受けながらも、空に向けて抜け出そうと這い上がっていく。その手の中では、シフォンは、突然地上に出る水圧を一切受けなかった。

「ふぅ!」

 空へと戻る。
 まるでプールで遊びきった子供のように、ゼロは空の上でそう言うが、真下は凄惨たる有様だ。──当然である。
 空の上まで高く聳えていた塔が殆ど根元から崩れたのだ。それは、先端や大気圏外の物はほとんど根元の崩壊を知って、それそのものが壊死するように自壊して消えていったようだが、空気に晒されている物は残骸として落ち、FUKOは液体として荒波を立てている。

「……で、美希。どうすんだ、これ」
「私に訊かないでよ!!」

 このままでは、この星そのものが崩壊だというレベルだ。
 後先考えない破壊行為が、やはり後先になって響くのは当然であった。
 殺し合いが行われた星とはいえ、しかし、ここにはまだ戦っている仲間がいるのである。このまま崩壊させてしまうわけにはいかない。

「みき!」
「ん? シフォン、何?」
「きゅあー」

 さて、そんな時、困り果てて空の上に立ちすくむゼロたちに向けて、救いの声が上がった。
 ゼロと美希の様子を察したシフォンが、自らの能力を使ったのだ。

「きゅあきゅあぷりっぷー!!」

 すると、ゼロの前で、ウルトラマンでさえ持ちえない神秘の力が発動した。──美希にとってみれば、これもそう珍しい物ではない。
 だが、ゼロにとっては、それはかなり新鮮な光景である。
 ──シフォンの超能力により、なんと、そのFUKOの洪水は、一斉に空へと飛び上がっていったのだ。それは重力を一切無視して宇宙に向けて放たれ、まるで自ら意思を持つようにして、水のない荒野の星に向けて旅立って行く。
 そうして、この地球に残った支配の残骸たちが、こうして一瞬にして片づいてしまったのである。
 周囲をシフォンのバリアに包まれたゼロは、自らの手の届く場所全体で、FUKOが空へと逆流していく光景を見ることになった。

「マジかよ……こいつ、何でもありじゃねえか!」

 流石のゼロでさえも唖然とする。
 ……だが、考えてみればそれは、人知を超える超能力を持つ「怪獣」たちにも似ているのだ。地球にもかつて、こうした怪獣の赤ん坊や子供が何体か確認されており、宇宙にはウルトラマンでさえ持ちえない超能力を使う怪獣が数えきれないほど生息している。
 そして、これまでゼロたちの宇宙で知られていなかったとはいえ、シフォンもまた「怪獣」に分類する事が出来る生物の一体なのではないかと、ゼロは少し思った。
 勿論、それは、心優しい怪獣たちの一人としてだが──。

「──……まあいっか。一件落着だ、そしたら、さっさと行くぞ、美希!」
「ええ!!」
「ぷいぷー!!」

 自分たちの仕事が一区切りついたとはいえ、これで終わりではない。
 そう、まだ諸悪の根源カイザーベリアルと、美希の仲間との戦いは続いているのだ。
 ゼロは再び、空へと旅立つのだった。



【シフォン@フレッシュプリキュア! 救出】







 ドン──!!

 これは、塔が崩れ堕ちる音ではなかった。──星一つを挟んだ反対側で行われている、巨人と巨人の戦いが齎した音である。

731変身─ファイナルミッション─(7) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:37:23 ID:GU7jrFVA0
 これは、まだ巨塔が崩れるより少し前の時間の戦いなのだから。

「シュッ!!」

 ウルトラマンノアの鋭いパンチが、カイザーベリアルの腹の上に叩きこまれる。
 超重力波動を炸裂させながら、ノア・パンチがカイザーベリアルの腹部を抉る。
 それを受けたカイザーベリアルの体は、ダメージを受けたというよりも、まるでバランスを崩したように後方に大きくよろめいた。
 少し腹を抑える。──が、次の瞬間には攻撃体勢へと移っていた。

「おぉら──ッ!!!」

 ベリアルも負けてはいない。
 後ろにバランスを崩しながらも、右脚を大きく上げて、ノアの腹部に、同じように豪快なキックを叩きこんだ。彼自身の身体も大きく揺れる。
 どこかスローモーションにも見えるが、だからこそ、その脚には重さが籠っていた。彼の体重や体格が、鈍く重い一撃を敵に与える力に代わっているのである。
 ノアたれども、打撃を受けて無事には済まない。

「クッ……!!」

 痛みは、その中にある戦士たちにも伝った。
 それに加えて、更に──味を占めたように、ベリアルはその腕を振るいあげる。

「フッハッハッ……!!!」

 巨大な爪がノアの頭上に叩きつけられる。実に鋭利なその爪が叩きつけられるという事は、出刃包丁で殴りつける攻撃とほとんど同義である。
 彼らの耐久性を人間の硬度でたとえれば、それは致命傷にもなりうると言えるだろう。
 ノアも当然ながら、脳が揺れるような痛みを覚え、身体を休めるように数歩後退する。しかし、代打はいない。休んでいてもベリアルは続けて攻撃するに違いない。

『──くそっ! やっぱり強え!!』

 左翔太郎の意識が、ノアの中で苦渋を舐めた。
 ノアも──その中にいる彼らも、攻撃の手ごたえを殆ど感じていない。
 これまでに蓄積された人々の絶望を全て貪るようにして強くなったベリアルは、既にダークザギさえも上回る実力を獲得しているのだ。

「フン、こいつがゼロと戦う為に強くなった俺様の力さ……ッッ!!
 そして、俺はこの力で全てのウルトラ戦士を倒し、神さえも超えるのだ──ッッ!!!!」

 そう、かつて、カイザーベリアルは、ウルトラマンゼロに敗北し、肉体を失った亡霊と化した。そして、怨念の鎧カイザーダークネスを纏う事でゼロを圧倒し、彼の仲間を次々と葬り去ったのである。
 だが、結局はまたゼロに敗れた。
 幸いにも、ゼロが巻き戻した時間の中でこうして肉体を取り戻し、全宇宙の支配を実行していたのだが──よもや、ウルトラマンノアなどという強敵と戦う事になるとは、彼も思わなかっただろう。
 しかしながら、その伝説の戦士さえも圧倒する程に己が力が高まっているという事実を実感し、ベリアルは内心歓喜もしていた。
 ゼロと再び戦えるというだけでなく、神とさえ崇められるノアと戦わせてもらえるとは──。

『何故だ、ベリアル……! お前はウルトラマンなんじゃないのか……!!』

 零の意識が、ノアを通してベリアルへと語る。
 かつて見た、暗黒の魔戒騎士とも、自らとも、そして鋼牙とさえも重なる「暗黒に落ちた戦士」を前に、そう問わずにはいられなかったのかもしれない。
 ベリアルは、零の言葉に全く耳を貸す事もなく、両手を十字に組み、そこから赤黒いエネルギーを発射した。

「──フンッ、俺にそんな言葉は無駄だァッ!!」

 デスシウム光線──!

 ウルトラ戦士たちが発射するスペシウム光線や、それに似た攻撃を、邪に染まったデスシムの力で発射する一撃である。
 デスシウム光線は、真っ直ぐな光としてウルトラマンノアに向けて放たれた。
 ベリアルもまた、元々はウルトラマンである──こんな芸当が出来るのは当然として、もう一つ、ウルトラ戦士らしい「的」を選択するまでも早かった。
 ウルトラマンノアの胸に輝くエナジーコアを狙い撃つ。

732変身─ファイナルミッション─(7) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:37:59 ID:GU7jrFVA0
 これは、まだ巨塔が崩れるより少し前の時間の戦いなのだから。

「シュッ!!」

 ウルトラマンノアの鋭いパンチが、カイザーベリアルの腹の上に叩きこまれる。
 超重力波動を炸裂させながら、ノア・パンチがカイザーベリアルの腹部を抉る。
 それを受けたカイザーベリアルの体は、ダメージを受けたというよりも、まるでバランスを崩したように後方に大きくよろめいた。
 少し腹を抑える。──が、次の瞬間には攻撃体勢へと移っていた。

「おぉら──ッ!!!」

 ベリアルも負けてはいない。
 後ろにバランスを崩しながらも、右脚を大きく上げて、ノアの腹部に、同じように豪快なキックを叩きこんだ。彼自身の身体も大きく揺れる。
 どこかスローモーションにも見えるが、だからこそ、その脚には重さが籠っていた。彼の体重や体格が、鈍く重い一撃を敵に与える力に代わっているのである。
 ノアたれども、打撃を受けて無事には済まない。

「クッ……!!」

 痛みは、その中にある戦士たちにも伝った。
 それに加えて、更に──味を占めたように、ベリアルはその腕を振るいあげる。

「フッハッハッ……!!!」

 巨大な爪がノアの頭上に叩きつけられる。実に鋭利なその爪が叩きつけられるという事は、出刃包丁で殴りつける攻撃とほとんど同義である。
 彼らの耐久性を人間の硬度でたとえれば、それは致命傷にもなりうると言えるだろう。
 ノアも当然ながら、脳が揺れるような痛みを覚え、身体を休めるように数歩後退する。しかし、代打はいない。休んでいてもベリアルは続けて攻撃するに違いない。

『──くそっ! やっぱり強え!!』

 左翔太郎の意識が、ノアの中で苦渋を舐めた。
 ノアも──その中にいる彼らも、攻撃の手ごたえを殆ど感じていない。
 これまでに蓄積された人々の絶望を全て貪るようにして強くなったベリアルは、既にダークザギさえも上回る実力を獲得しているのだ。

「フン、こいつがゼロと戦う為に強くなった俺様の力さ……ッッ!!
 そして、俺はこの力で全てのウルトラ戦士を倒し、神さえも超えるのだ──ッッ!!!!」

 そう、かつて、カイザーベリアルは、ウルトラマンゼロに敗北し、肉体を失った亡霊と化した。そして、怨念の鎧カイザーダークネスを纏う事でゼロを圧倒し、彼の仲間を次々と葬り去ったのである。
 だが、結局はまたゼロに敗れた。
 幸いにも、ゼロが巻き戻した時間の中でこうして肉体を取り戻し、全宇宙の支配を実行していたのだが──よもや、ウルトラマンノアなどという強敵と戦う事になるとは、彼も思わなかっただろう。
 しかしながら、その伝説の戦士さえも圧倒する程に己が力が高まっているという事実を実感し、ベリアルは内心歓喜もしていた。
 ゼロと再び戦えるというだけでなく、神とさえ崇められるノアと戦わせてもらえるとは──。

『何故だ、ベリアル……! お前はウルトラマンなんじゃないのか……!!』

 零の意識が、ノアを通してベリアルへと語る。
 かつて見た、暗黒の魔戒騎士とも、自らとも、そして鋼牙とさえも重なる「暗黒に落ちた戦士」を前に、そう問わずにはいられなかったのかもしれない。
 ベリアルは、零の言葉に全く耳を貸す事もなく、両手を十字に組み、そこから赤黒いエネルギーを発射した。

「──フンッ、俺にそんな言葉は無駄だァッ!!」

 デスシウム光線──!

 ウルトラ戦士たちが発射するスペシウム光線や、それに似た攻撃を、邪に染まったデスシムの力で発射する一撃である。
 デスシウム光線は、真っ直ぐな光としてウルトラマンノアに向けて放たれた。
 ベリアルもまた、元々はウルトラマンである──こんな芸当が出来るのは当然として、もう一つ、ウルトラ戦士らしい「的」を選択するまでも早かった。
 ウルトラマンノアの胸に輝くエナジーコアを狙い撃つ。

733変身─ファイナルミッション─(7) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:38:30 ID:GU7jrFVA0



↑間違えて同じの二個投下しました、すみません。

734変身─ファイナルミッション─(7) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:40:02 ID:GU7jrFVA0

『ぐああああああーーーーっっ!!』

 見事に、エナジーコアに向けてデスシウム光線が命中し、彼が放った光線の最後尾まで余す事なくウルトラマンノアの胸にダメージを与える。
 全ての力の源にして、ウルトラマンの最大の急所である。
 ノアの身体は大きく揺れ、周囲を巨大な土埃が包み込んだ。
 カイザーベリアルは、砂埃に包まれたノアにまで悪戯に追い打ちをかけるつもりはないらしい。

『──くっ、強すぎます!』
『ノアの力でも敵わないなんて……! 予想外だ……!!』

 ノアのエナジーコアはデスシウムの膨大な熱量を受けて煙をあげる。
 オーバーヒートだ。この場所への直撃は手痛い。
 だが、それでもノアの中にいる彼らは、立ち上がろうとする。

「その程度か……? 失望したぜ、ウルトラマンノア!!」

 カイザーベリアルは、ニタリと笑い、爪を光らせながら言った。
 確かに、互角以上の力がある筈だというのに、今、ノアはカイザーベリアルに押され気味の状態だった。
 何故、ここまでの劣勢がいきなりノアを襲ったのか──その答えを、孤門一輝が悟り、同化する他の全員に向けて伝えた。

『いや……僕達には、まだ、力が足りないんだ。
 あと一人──美希ちゃんの力が……!』

 あらゆる参加者の想いを結集させた黄金の光を纏っているとはいえ、生きている蒼乃美希だけがこのノアには足りなかった。
 ピースが埋まっていないパズルのように、中途半端なまま戦っているのだ。
 全員が揃ってこそ、絆は真の絆となる。誰かが欠けてはならない。──それならば、美希を抜かしたまま、「絆」を語らう事は、偽りに過ぎないのだ。
 彼は今、ウルトラマンゼロと融合して、こちらに向かっている。
 そう、ゼロと美希──二人がいてこそ、ノアは本当の力を発揮出来るようになる、筈なのだ。







『──ゼロ! 急いで!』

 ゼロが空を飛んでいる最中、美希はまるで鞭を打つように言った。
 当のウルトラマンゼロは、これでも十二分に急いでいるつもりであったが、美希が急にそんな事を言い出したのは些か不思議に思った。
 空を飛びながら、ゼロは問うた。

「どうした、美希?」
『なんだかわからないけど、みんなに呼ばれている気がするの……』

 虫の報せという程でもないが、今、仲間たちの声を聞いた気がする。
 おそらく──仲間たちが助けを求める声が。
 それは只の不安から来る物ではなく、もっと超常的な思念が、美希の意識のもとへと確かに届いてきたような物であるように感じた。
 今、仲間たちが何をしているのかが薄々わかる。
 彼らは、今、ウルトラマンノアと一つになって、カイザーベリアルと戦っているに違いないのだ。

「そうは言っても、これでも全力で飛ばしてるんだぜ!」
『それでも急いで!』

 美希がそうしてゼロの中で焦燥感を募らせてのを、どうやら、シフォンが悟ったようだった。美希が何やら困っているらしい事には少し眉を顰めたが、それを置いて、すぐに呪文の言葉を唱えた。
 先ほどと、同じ呪文を。

「んー……きゅあきゅあぷりっぷー!!」

 それは、シフォンの持つ魔法を発動する一言だった。

735変身─ファイナルミッション─(7) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:41:27 ID:GU7jrFVA0

「ん……?」

 と、その呪文の声と共に、ゼロは自らの中で何かが抜け落ち、変わったような感覚に陥った。──そう、一瞬だけは「違和感」だった。

「なんか、こう……身体が軽くなったような……って、あーっ!!」

 しかし、それが次の瞬間に、何が消えてなくなったのかを知らせる「確信」へと変わったのだった。
 ゼロは一度、空中で立ち止まり、自らの掌の中にいる小さな赤ん坊を見下ろした。

「──こら、おまえっ!! 美希だけ先に送りやがったな!!」
「きゅあー!」

 そう言って、嬉しそうに両手を挙げて喜ぶシフォン。
 シフォンは、つまるところ、ゼロの中の美希を、遥か彼方で戦うノアの下に「テレポート」させたのである。

 やはり、こうして止まっても、心の中から美希の文句は聞こえないので、ゼロのご明察という所だろう。
 どうせなら、ゼロも纏めてベリアルのもとに飛ばしてくれれば良かったものだが、シフォンに力が足りなかったのか、それとも、美希にだけ懐いていたからなのか、とにかくゼロとシフォンだけがこの場に置いていかれてしまったらしい。
 しかし、このシフォンという赤ん坊も大した物である。
 まさか、ウルトラマンと同化している人間を、別の場所にテレポートさせてしまうなどとは──。

「ったく……しゃあねえなあ! でも、抜け駆けはさせねえぜ!
 俺もすぐにそっちに行ってやる──待ってな、ベリアル!!」

 とはいえ、ゼロも飲み込みは早い方であった。
 すぐさま、再飛行を始め、青い風へと変わっていく。掌の中で感嘆するシフォンを時に見下ろしながら──彼は、ベリアルとの戦いへと赴いた。







 ウルトラマンノアとして戦う彼らの中に、一筋の光が転送された。
 仮にもし、ウルトラマンの中が侍巨人シンケンオーのように複数の座席を持つコクピットだったならば、空いている一席に、誰かが現れたような物だろう。

「──おまたせっ!」

 そして、それは、まぎれもない美希だった。
 ウルトラマンノアと同化する孤門たちは、その瞬間、確かにノアの中に美希が入ったのを感じた。まるで隣にいて戦っているかのような安心感が湧きあがってくる。
 声がノアの中に聞こえた時、真っ先に、佐倉杏子がそれを確認する。

「美希!?」

 全員、唖然としていた。
 こうしてウルトラマンノアとしての意識の中に、何の前触れもなく突然に美希が現れたのだ。──強いて言えば、孤門が呼んだからであろうか。
 しかし、そんな事で至極あっさりとウルトラマンに同化できるものではない。
 何故に彼女が現れたのか、それぞれ少し頭の中で疑問を沸かせたが、やはりすぐに、細かい事を気にかけるのはやめた。

「遅くなったわね……えーっと、これまでは」

 美希は、ここまでの事情を順序よく説明しようとする。殺し合いが終わってからの数日間、他の仲間は一緒にいたと考えられるが、美希だけは別行動を取る形になっていた。
 ましてや、こうしてそれぞれが集合しているからには、別行動を取っていて遅くなったのは自分と孤門だけだと思っても仕方が無い。やや言い訳っぽくもなってしまうが、遅れた理由を説明しようとしていた。

 しかし、それを話せば当然長くなる。
 今置かれている状況を忘れつつあるのは、敵よりも味方の事をまず真っ先に考えてしまったからであると言えるだろう。

736変身─ファイナルミッション─(7) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:42:37 ID:GU7jrFVA0
 そんな美希の話を、杏子が横から中断させる。

「──まったく。そんなもん説明しなくたっていいよ。ウルトラマンといたんだろ?」
「え、ええ」
「話は帰ったら聞く。──そんな事より、今は、目の前の敵と戦うんだよ!」

 美希が目の前を見ると、そこには、黒い身体と赤いマントの、およそウルトラマンとは言い難い怪物が立っていた。
 M78星雲・光の国で、ウルトラ兄弟や他のウルトラ族を見た美希の眼にも、それはウルトラマンと呼ばれる星人達には見えなかった。
 真っ先に思い出したのは、殺し合いの最終日に見た巨大な怪物──美希自身が生み出してしまったといえる、あのダークザギ。
 美希は眉を顰める。

「あれが……ベリアル!」
「ああ、やるぞ、美希。あいつを倒して、世界を救う」
「わかってるわ。そう──」
「──完璧に、な!」

 ウルトラマンノアのパワーは、その時、無限大のエネルギーを伴って、最大レベルまで上昇した。同化している人間たちの絆と希望が最大限にまで達した時、ウルトラマンノアのエネルギーもまた最大限に引き上げられるのだ。
 ここに美希が現れ、共に手と手を繋いだ生還者たちが一つとなり──そして、「ガイアセイバーズ」となった変わり者たちの絆は、ウルトラマンノアを最強の戦士へと変える。
 孤門一輝が、二人の様子を見ながら、ノアに新たなる戦士の称号を与えた。



「これが本当の絆──ウルトラマン……いや、仮面ライダー、プリキュア、魔法少女、テッカマン、魔戒騎士、超光戦士、スーパー戦隊……みんなの、ガイアセイバーズ・ノア!!」







『がんばれ……ウルトラマン!!』
『行けぇっ!! 仮面ライダー!!』
『がんばれぇっ、プリキュア!!』

 絆だけではない。世界中から集ってくる声援の力が、ノアのパワーを強くしている。
 支配の力は、塔を崩す前にも既に衰えを見せており──そして、遂にその最後の一歩すらも消え去ったのである。
 それは、時空を超えた声援や希望をそのまま力に変えるノアにとっては、ベリアルを前に圧倒的優位に戦える状況を作り出していた。
 世界中の誰もが声援を送る。

「そうだ、地上のみんな、ミラクルライトをもっと振るんだ!」

 インキュベーターが配布したミラクルライトもまた、地上を照らしていく。
 ピンチだった「ウルトラマンノア」の中にいるキュアブロッサムや佐倉杏子を応援する為であったが──いやはや、この応援の心そのものが、彼らにエネルギーを与えているのである。
 そこには、もはやプリキュアであるか否かなど関係ない。

 かつて、ウルトラマンや仮面ライダーに救われた者たち。
 かつて、どこかで彼らの与えた夢を貰った子供たち。
 かつて、その夢を拾い上げて、新たなるヒーローとなっていった者たち。

 その四十年、五十年……そして、これから百年以上にも渡るであろう歴史が、世界中の人間の絶望を溶かし、希望へと変えて行く。

「さあ、血祭ドウコク! 君も、もっと元気よく振って!」

 ……と、インキュベーターの現在地を伝え忘れていたが、ここは六門船の中である。
 生還者であるものの、戦いには行かなかったドウコクに向けて、ミラクルライトを渡したインキュベーターは、彼にも応援をさせようとしていたのだ。
 しかし、流石に業を煮やしたドウコクは、インキュベーターから預かったミラクルライトを三途の川へと、叩きつけるように放り投げた。

「──振れるかっ!」





737名無しさん:2015/12/31(木) 21:43:40 ID:/WtNr2/U0
支援

738変身─ファイナルミッション─(7) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:43:45 ID:GU7jrFVA0



「ハァァァァァァァァァ……」

 ウルトラマンの姿を模していたノアは、美希が融合した次の瞬間、エナジーコアへと最大までエネルギーを充填する。
 全宇宙から、時間、空間、善悪の垣根さえも超えてノアに向けられていくエネルギーは、もはやノアという超人の持つ常識さえも覆すカタチを作り上げていた。
 ガイアセイバーズ・ノアは、その身体を金色に光らせる。
 その全身さえも包み込むほどの猛烈な光が、ノアの銀色の光を塗り替えていった──そして。

「────シュアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」

 溢れんばかりのエネルギーを、叫びとともに吸収した時、その身体は、金色の暖かい光に包まれたグリッダーノアへと変身していた。
 かつて、ある地球を救ったウルトラマンティガや、別の地球で超ウルトラ8兄弟の身体を輝かせた、人々の想いの金。
 あるいは、死者たちの想いとロストロギアを身に着けた彼らもまた、先ほどまで金色の戦士へと変貌していたのである。
 それを一身に受けた戦士は、これまでよりも巨大な絆の戦士となっていた。

「金色……だとッ!?」

 そう──その色を見た時、ベリアルも微かにだけ、狼狽えた。
 かつて、ウルトラマンゼロがシャイニングウルトラマンゼロへと変身した時と同じ光の色は、敵の強化を確かに感じさせたからだ。だとすると、この「金色の光」は、ベリアルへの警告であり、挑戦なのかもしれない。
 カイザーベリアルは、その背に装着した赤いマントを自ら脱ぎ捨てる。

「──面白い……それでこそ、楽しみ甲斐がある!!」

 ベリアルの周囲で、彼のエネルギーを感じ取った地面が何か所も爆発する。
 土が吹きあがり、再びさらさらと地面に叩きつけられていく。
 そして、彼は、喉の底から吼えた。



「──ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!」



 その雄叫びは、遠い空の向こうまで響くほどである。
 カイザーベリアルのエネルギーは、一瞬ながら、グリッダーノアを怯ませようとした。
 しかし、ノアと同化している者たちの強い意志が、そんな恐れを乗り越える勇気となる。

『──諦めるな!』

 孤門一輝の掲げた強い意志が、それぞれの表情を硬くする。
 ここにいる者たちは頷きあい、カイザーベリアルとの本当の最後の決戦の中で──自らが勝つという確信を抱いた。
 グリッダーノアは、強く右の拳を握りしめた。

「おおおおおおらァァァァァァァァッッッ!!!!!!!!」

 カイザーベリアルは、その爪を光らせて駆けだす。
 グリッダーノアは、その場で悠然と──まるでベリアルの攻撃を待つように──立ち構えていた。

「ハァッ!!」

 ベリアルはグリッダーノアへと肉薄し、寸前で走行の勢いを落とすと、その巨大な爪をノアの横顔に叩きつけようとした。
 しかし、ノアはゆっくりと頭を下げて、それを避ける。

「オラッ!!」

 前から、ベリアルの足がノアの腹を蹴り飛ばそうとした。
 しかし、ノアは後方に向けて宙返りして、それをまたも避けてしまう。

739変身─ファイナルミッション─(7) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:45:41 ID:GU7jrFVA0

「──喰らえッッ!!!」

 距離が遠のいたならば、と、デスシウム光線が発射される。
 ノアは両手をエナジーコアの前で組んで、両腕でデスシウム光線を受ける。
 前方から押し出してくるエネルギーに、ノアも少しは踏ん張るが、すぐに、両腕を思い切り開いて、デスシウムを霧散させる。
 そして、右腕を前に突き出し、左腕を顔の後ろで曲げ、構えた。

「ハァッ!!!!」

 カイザーベリアルのあらゆる攻撃は、全てグリッダーノアには効かない、と。
 そんな自信に満ちたポーズ。
 人々が信じるに値する、無敵の超人の姿であった。



 ──ドシンッ!!



 と。

 そんな時、更にそこに金色のウルトラマンが空から振りかかって来る。
 それは、まさしく青きウルトラマン──ウルトラマンゼロだった。
 グリッダーノアとウルトラマンゼロが隣に並び合い、お互いの目を見合って、頷く。
 カイザーベリアルも、そこにゼロが現れた事に驚きを隠せなかったようだ。

「貴様は……ゼロッ!!」
「悪いな、ノア、それにベリアル……遅くなった!!」

 ゼロは、丁寧にも、敵であるベリアルにもまた詫びるように言った。
 しかし、それは挑発的でもあり、あるいは扇動的な言葉でもあるかもしれない。
 自らの最大の敵が、おそらく自分を待っていたという事を見越したのだろう。

「──さあ、行こうぜ、ノア!!」
「……シュッ!!」

 ゼロの呼びかけに、ノアが頷いた。
 そして。

「きゅあきゅあぷりっぷー!!」

 次の瞬間──シフォンの祈りと共に、ゼロのもとにも人々の祈りの力が注がれていく。
 ベリアルの長年の宿敵であったウルトラマン、ゼロ。
 彼にもまた、何度でもベリアルとの決着をつけさせるべく、大量のエネルギーが力を貸す。
 そこに現れたのは──金と銀の二つの輝きを持つ戦士、シャイニングウルトラマンゼロだった。
 そう、かつて一度、ベリアルを葬った事もある姿だった。
 しかし、ベリアルは肉体を取り戻してあの時よりも強くなっている──故に、もはや、彼らより強くなった事を証明する為に、構えるのみだった。
 ──ベリアルは両掌を、それぞれの戦士に向けた。

「ふん……二人に増えようが無駄な事だ、デスシウム光線──!!」

 なんと、デスシウム光線を両手から放つという荒業を使おうとしているのである。
 ゼロを倒し、全宇宙を手に入れる為に使用できるようになった技だ。
 結果的に、ゼロを前に使う事は出来ないだろうと踏んでいたが、まさか使う機会に恵まれるとは──と、ベリアルは少し思っていた。

「──シャイニングエメリウムスラッシュ!!!!」
『──ライトニング・ノア!!!!』

 対して、負けじと二人のウルトラマンが、それぞれの最強の光線を、向かい来るデスシウム光線へと放った。
 光線のエネルギーは殆ど拮抗し、二つの光線がそれぞれ、ギリギリのところでぶつかり合う激戦を演出していた。





740変身─ファイナルミッション─(7) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:46:43 ID:GU7jrFVA0
正義はなんだダイナな分割終了

































































第八分割目へ

741変身─ファイナルミッション─(8) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:48:49 ID:GU7jrFVA0



 ──……ここは?



 ──ここは、どこだ……?



 ──俺は……俺は、一体、どこにいるんだ……?



 ──そうか……ここは……



 ──ここは、……宇宙か……



 ──この俺が、かつて守ろうとした宇宙……



 ──いや……違うか……



 ──俺が、滅ぼそうとした宇宙だ……



 ──だが、俺は……何故、ここに、こうして……







「──くっ……こんな所まで飛ばしやがって……」

 ウルトラマンノアとシャイニングウルトラマンゼロの二人の戦士の光線を同時に受けたベリアルは、最後まで自らの光線のエネルギーを緩めなかった。
 結果、カイザーベリアルは、あの島を──そして、星を離れ、空から星を見下ろす宇宙まで飛ばされていたのだ。
 一面が真っ暗な闇で、そこはあまりにも孤独に満ち溢れていた。
 あの星以外には、どこにも生命などない……。
 そして、ただ一つ生命があるあの星の命もまた、カイザーベリアルは滅ぼそうとしているのだ。

 ──だが、それで良い。
 ベリアルより才に満ち溢れ、幸せに恵まれたケンやゼロ──邪魔な物は全て消え去り、ベリアルはこの全宇宙で最強の存在となる。

「フフフフフフ……フッハッハッハッハッハッハ!!!!!!!」

 宇宙から見下ろせば、あの星に浮かぶ小さな島など豆粒同然である。これまでの長い殺し合いも、最早、全宇宙の中のちっぽけな死に過ぎない。
 その上にいるシャイニングウルトラマンゼロとウルトラマンノアの輝きだけが、どこか美しく地上にあった。
 宇宙から地上を見下ろして「星」が輝いているというのは、なかなか面白い逆転現象であった。
 ……それは、ベリアルの視力だからこそ、辛うじて見える物でったが。
 ベリアルは、満月を背にしながら、それを、笑いながら見下ろしていた。

 ──俺様の勝ちだ。

742変身─ファイナルミッション─(8) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:50:40 ID:GU7jrFVA0

 ベリアルは、この時、そう思っていた。
 確かに、二人のウルトラマンの光線はあまりに強く、地上から吹き飛ばされ、こんな所まで来てしまった。その意味では、地上でのせめぎ合いは敗北と言って良く、今のままベリアルが戦っても勝ち目はなかっただろう。
 しかし、エネルギー合戦での敗北──それは、却って幸いだったのだ。

「だが……ノア、ゼロ……俺様をここまで飛ばしてくれてありがとよ……!!」

 この宇宙には、確かに生命はない。
 だが、──死んだ者の魂がある「怪獣墓場」が存在する事もあり、斃された邪悪の魂が行きつく先は常に宇宙であった。
 怪獣として宇宙を漂う、敗者。
 この場において、その邪悪なる魂がひときわ強く、そして、何より、そんな怪獣たちと同じ世界で生きてきた戦士の邪悪な霊が居るとすれば──そう。

 そこには、彼の邪心が残っていた──!



「────ダークザギッ!! ここで敗れたお前の力、借りるぜ!!」



 ここは、ダークザギの魂が浮遊している場所だったのである──!
 宇宙の果て、こんな場所にダークザギの怨念が残っているとは、ベリアルにとっても嬉しい誤算、そして最高の奇跡である。
 かつて、ペリュドラとして怪獣たちの怨念と同化したベリアルにとっては、怪獣との同化が齎すパワーアップも充分に心得られている。

 ゼロとノア──たとえ、あの二人のウルトラマンであっても、ダークザギとカイザーベリアルが融合した戦士には敵うまい。
 カイザーベリアルは、その身にダークザギの怨念を取り込もうとする。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!!」

 叫びあげ、全身にダークザギの怨念を取り込んでいったベリアル。
 その身体は少しずつ変質し、ベリアルらしい形を失っていった──しかし。

 実際の所、試みは、ほぼ成功と言えた。
 ダークザギの怨念は、ダークファウストやダークメフィスト、それから、この殺し合い以前に信じ行くに出現したビースト・ザ・ワンの力さえも加えて、カイザーベリアルの鎧へと変じ、変わった。
 エネルギーをかなり消耗したはずだったカイザーベリアルの身体は、再びエネルギーをその身に宿し、自らの名を高らかに叫んだ。

「──そう、これが……」

 最後の変身を遂げたカイザーベリアルが叫ぶ、その名は──





「──ダークルシフェルだ!!!!」





 ダークルシフェル。
 それは、未だドキュメントにない幻の怪物の名であった。
 禍々しい黒の怪物に、浮きでた血管のような赤いラインが迸った、伝説のスペースビースト──それがルシフェル。だが、その能力は元々、ダークザギよりも遥かに高いと言われていた。
 その両肩から巨大な羽根を生やすと、再び、あの星へとダークルシフェル──カイザーベリアルは降り立とうとする。
 その速度は、ベリアルのこれまでの物から格段に挙がっている。

「ゼロ……それに、ガイアセイバーズ……!! 今度こそ貴様らの最後の時だ!!」





743変身─ファイナルミッション─(8) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:52:20 ID:GU7jrFVA0



「ダークルシフェル……だと!?」

 ウルトラマンゼロが、空を見上げながら驚愕した。
 これまで、あらゆる宇宙でまだその名前こそ確認されていたものの、絶対に姿を現さなかった怪物──それが、ダークルシフェル。
 既にこの世界にはルシフェルは存在しえないとさえ思われていた。
 だが、最強のウルティメイト・ダークザギと最強のダークウルトラマン・カイザーベリアルが融合する事によって、ルシフェルが再臨しようとしているのである。
 それはまさしく、悪夢の出来事であった。

「──大丈夫だ」

 だが、ふと、ノアの中で、誰かが声にして言った。

「敵がどんなに強くても、決して僕達は諦めない!!」

 それは、孤門一輝である。
 彼は、島に降り立とうとする怪物を強固な瞳でにらみつけ、迎え打とうとしている。
 それは決して、敵の強さを甘く見ているからではない。

「ああ、やってやる──アイツがどこまで強くなろうと、最後に俺達が笑ってやる!!」

 響良牙も。

「むしろ、相手が強いなら、こっちも強くなるだけだから!!」

 高町ヴィヴィオも。

「アイツを倒して、俺も絶対決め台詞を言ってやるぜ!!」

 涼村暁も。

「最後まで人間を守り抜くのが、俺たちの使命だ!!」

 涼邑零も。

「世界に新しい記憶を刻んでいく僕達を、誰も止める事なんてできない!!」

 フィリップも。

「そう、希望が私たちにある限り、私たちは負けない!!」

 蒼乃美希も。

「私たちはこの戦いを変えるんです!!」

 花咲つぼみも。

「私たちが正しいと思う未来の為に……!!」

 レイジングハート・エクセリオンも。

「人間の、全ての生き物たちの、自由と平和の為に……俺たちはお前を倒す!!」

 左翔太郎も。

「──見てな、最高に変わってるだろ……あたしたち!!」

 佐倉杏子も。

 ここにいる誰もが、これから戦うべき相手に、恐れもせず、怯みもしない。
 ウルトラマンゼロは、そんな人々の姿をじっと眺めていた。
 彼自身の決意もまた、ダークルシフェルを前に怯む事はなかったが、それでも──そんな人々の姿を、ゼロはいつまでも見たいと思った。
 そして、彼は決意する。

「──ああ、そう来なくっちゃな!! 俺も最後まで、お前たちと一緒に戦うぜ!!」

744名無しさん:2015/12/31(木) 21:52:53 ID:eUbTBGsM0
グリッ「タ」ー

745変身─ファイナルミッション─(8) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:54:32 ID:GU7jrFVA0
>>744
トモダチハ、タベモノー♪

746変身─ファイナルミッション─(8) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:55:01 ID:GU7jrFVA0

 そう、彼らと共に戦う事をだ。
 ウルトラマンゼロが、小さな光の球となり、ガイアセイバーズ・ノアのエナジーコアへと場所を移した。
 ウルトラマン同士が融合する──その経験は、かつて一度、ハイパーゼットンとの戦いでも試みた事であった。

「──よっしゃ、いくぜ!!」

 しかし、ノアの姿は全く、変わらない。
 それだけのノアの力が絶大であるという事でもあり、それは既にガイアセイバーズという戦士の総体としての姿であるという事でもあった。
 ゼロもそれを受け入れた。
 シャイニングウルトラマンゼロを取りこんだノアは、更にその力を増す──これまでに見た事のない未知の力の戦士へと、“変わる”。







 ダークルシフェルは、その羽根を広げながら、地上に降り立った。
 それは、さながら堕天使が空から降りてくるようだった。
 それと同時に、空は深い闇に包まれ、先ほどまでの白夜の空は、まるで消え去ってしまったかのようだった。

「キシャァァァァァァァァァァァァァァウーーーーーーッ」

 ホラーのような怪物にも似ていた。
 しかし、その中からカイザーベリアルの意識が消えているというわけではない。
 確実にカイザーベリアルの意思を持ちながら、絶大な力が自らの中にある確信を持って、ガイアセイバーズ・ノアと戦おうとする怪物だった。
 羽根を地上で大きく広げる──その姿を見て、ノアも構える。

「──みんな……僕たちも、変身するんだ!!」

 フィリップが叫んだ。
 全員が、フィリップの声に納得して、無言で頷き、ダークルシフェルとの戦いを始めようとしていた。

「──ハアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」

 再び、グリッダー化した時のように、ノアの身体は金色の光を放っていく。
 これ以上光り輝く事などないはずのノアは、それでも尚、自らの姿を進化させようと──いや。
 その全身を丸ごと包んだ金色の光の中で、ノアは──想いを通じて別の戦士へと“変身”しようとしていた。
 そして、その光が次の瞬間、脱皮するようにして一瞬で解き放たれていく。


「ハァッ!! ──」


 ──そこにあった姿は。


「仮面ライダー──!!」

 仮面ライダーダブル サイクロンジョーカーゴールドエクストリーム!
 かつて、風都タワーにて、世界中の人間を全て死者兵士ネクロオーバーへと変えようとした仮面ライダーエターナルとの決戦の際、初めて仮面ライダーダブルが変身した金色の姿であった。
 ノアはここで戦う全てのデュナミストたちの想いを全て受け入れ、その姿に変身を果たしたのである。
 ノアイージスは、風車のような六つの羽根へと姿を変え、ノアの中にいる左翔太郎とフィリップがその指先をカイザールシフェルへと向ける。

「仮面ライダー……だと!?」

 巨大な一筋の風が吹き、ノアを攻撃しようと歩み出たルシフェルの身体を止めた。

747変身─ファイナルミッション─(8) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:56:11 ID:GU7jrFVA0



「悪の化身、カイザーベリアル、いや……ダークルシフェル!!」
「僕達は、最後までお前と戦う……!!」



 ────さあ、お前の罪を数えろ!!!!!!!!!!!



 ダークルシフェルとさえも並ぶ巨体でそう叫んだノア・ダブル。
 巨体でウルトラマンのように構え、ルシフェルとの戦闘を続けようとするノア・ダブルの姿に、ルシフェルもまた驚きを隠せずにいた。

 高い声で鳴くような雄叫びを上げた。
 ウルトラマンノアの能力や奇跡は幾つも聞いているが、しかし、まさかその姿を仮面ライダーに変える事まで出来るとは──。
 しかし、そんな事でルシフェルの戦意は微塵も削がれない。

「──フンッ、戦いの勝者には、罪なんてねえんだよッッッ!!!」

 ルシフェルは、その両翼で風を払い、敢然とノア・ダブルに向かっていった。
 地面が揺れ、怪獣と化したベリアルが襲い掛かって来る。
 その拳が固く握られている──。

「なら来いよっ! 罪を罪と思わない奴らは、俺たちが罰を与える!」

 ノア・ダブルもまた、真っ向から攻撃を仕掛けてくるルシフェルに向かって身体を揺らして駆け出し、その右拳を固く握った。
 共に、敵を打擲しようと、立ち向かうノア・ダブルとルシフェル。

 その距離がゼロに縮まった時──ノア・ダブルの右拳が、ルシフェルの拳よりも先に、敵の胸元へと叩きつけられた。

「グアッ……!!」

 クロスカウンターとなりかけたルシフェルの右拳がノア・ダブルへと届く前に、ノア・ダブルの右拳の膨大なエネルギーがルシフェルを数百メートル吹き飛ばす。
 空を泳いだルシフェルの身体は、そのまま地面に叩きつけられる。

「何ッッ……!!」

 一瞬の攻防であった。
 ダークルシフェルは地面を泳ぐようにして再び身体を立て直すが、そんなダークルシフェルの前には、既にノアが距離を縮めている。
 ──ノアは、既にダブルから別の姿へと変身していた。

「ハァァァァッ!!」
『五代、一条──……力を借りる! みんなの笑顔を守る為に──!!』

 それは、仮面ライダークウガ ライジングアルティメットフォームである。
 記録上では五代雄介が一度も変身していないが──しかし、アマダムが再現できる仮面ライダークウガの限界の姿。
 かつて、ン・ダグバ・ゼバとの決戦で涙を流した五代のように──この暴力に涙を流したのは誰だっただろうか。
 優勢であれ、誰かは心の中で涙を流しながら、ダークルシフェルに一撃を叩きつけた。

「おおりゃあああああああッッッ!!!!」

 ルシフェルは耐える。
 今度は先ほどのように、こちらが強い勢いを出していない為、ガードをすれば吹き飛ばされる事はなかった。
 しかし、ルシフェルの中には重たい電撃の一撃と、先ほどの攻撃の残留ダメージが合わさり、かなりの負荷がかかっていた。

「……ッ!! ハァァァァァァァーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

 ダークルシフェルの咥内から、膨大な空気の嵐がノア・クウガに向けて吐き出された。
 彼の吐き出す空気は邪気に塗れ、小さな爆弾を散りばめたように空中で爆ぜた。

「くっ……──」

748変身─ファイナルミッション─(8) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:58:46 ID:GU7jrFVA0

 ノア・クウガも少し怯み、右腕で身体を隠すように仰け反りながら、後方へと倒れかける。
 しかし、バランスを取り戻し、ルシフェルの放った邪悪な風を、そのまま胸部のアマダムで吸収していった。
 アマダムが徐々に回転し、だんだんとその姿を、最初の仮面ライダーが使っていたタイフーンへと変えて行った。

『ライダーの真骨頂は、クウガとダブルだけじゃない!!』
「──トォォォォォッ!!!」

 仮面ライダー新1号。
 飛蝗の改造人間にして、人間の自由と平和を守り続けた伝説の仮面ライダーの姿が、ここに顕現する。

 マフラーをなびかせ、仮面ライダーはダークルシフェルの肩にチョップを叩きこみ、更に胸部に向けてパンチを叩きこむ。
 元祖にして、最強の仮面ライダーの一撃は、ダークルシフェルの身体を、更に後方にまで吹き飛ばしていく。

「ぐっ……!!」

 ダークルシフェルが転がった所に向けて、巨大なノア・仮面ライダーは身体を揺らしながら、駆けだしていった。
 ダークルシフェルの瞳に見えたのは、一人の仮面ライダーが向かい来る姿ではなかった。彼と並び、合流しようとするように、その両脇から現れる二人の仮面ライダーの影。
 それは、先ほど自らに一撃ずつ与えた、仮面ライダークウガと仮面ライダーダブルの姿に他ならなかった。

 仮面ライダーダブル サイクロンジョーカーエクストリーム。
 仮面ライダークウガ ライジングアルティメットフォーム。
 仮面ライダー新1号。
 三つの仮面ライダーの姿が重なり、飛び上がる。



 ──そして。



「──ライダァァァァァァァァキィィィィィィィィィィィック!!!!!」



 ライダーキック。
 数々の敵を葬って来た、仮面ライダー最強の必殺技が、ダークルシフェルに向けて降り立って来ようとしていたのである。
 それは、さながら流星を描くようにして、ダークルシフェルの頭部に激突する。
 電流を頭に受けたような強い衝撃が、ダークルシフェルを襲った。

「ぐっ……ぐあああああああああああああああああああっっっ!!!!!!!!!」

 全身に電流の光を浮かばせたまま、ダークルシフェルは雄叫びをあげる。
 ダークルシフェルへと進化したというのに、能力はむしろ──低まっているという実感が、カイザーベリアルとしての彼の中には在った。
 彼の周囲は、ライダーキックのエネルギーを受けて燃え上がり、ダークルシフェルが生きているのはむしろ奇跡とも言えるシチュエーションを作り上げている。

「──なっ……一体、何故が……どうなってやがるッ!!?」

 ルシフェルは蠢きながら、考えた。──確かにノアは強いが、それだけではない。
 今の自分の出せる実力は、先ほどまでよりもむしろ劣化しているという実感が、ベリアルの中には湧いている。
 しかし、その疑問の答えが返って来るより前に、ノアは更なる変身を遂げる。

『──Dボゥイ!! 相羽タカヤ、力を貸してくれ……!!』
「──ブラスターテッカマン!!」

 ブラスターテッカマンブレード。
 自分の記憶さえも引き換えにして、ラダムたちと──己の家族たちと戦い続ける道を選び続けた宇宙の騎士の姿を、借りる。
 彼ら……相羽一家やモロトフの力を借りて、ブラスター化を許された巨大なノアは、そのエネルギーを充填する。

749変身─ファイナルミッション─(8) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:59:45 ID:GU7jrFVA0

「──ブラスター・ボルテッカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」

 ブラスターボルテッカの灼熱が一斉にダークルシフェルへと押し寄せた。
 それは、雪崩のようにルシフェルの身体を一斉に包み隠してしまう。
 それでも、ルシフェルはまだ、その尋常ならざる耐久性と能力によって、まだ立ち上がっていた。



『あたしたちの絆……!! 力を貸してくれ、黄金の風を起こす為に……!!』
「魔法少女──!!」
 ──来たる絶望のワルプルギスの夜に、宇宙の因果さえも捻じ曲げる願いを叶えた少女の姿を、象った。


『鋼牙……!! 俺は、お前が伝えた使命を忘れない……陰我を断ち切る!!』
「黄金騎士──!!」
 ──ホラーの始祖メシアを倒す為に、守りし者と英霊の想いを受けて姿を変えた翼の牙狼の姿を、象った。


『ラブ、ブッキー、せつな……!! あなたたちの遺した想い、私が受け取る……!!』
「スーパープリキュア──!!」
 ──たくさんの人々の希望をミラクルライトで受けたプリキュアがブラックホールを浄化する姿を、象った。


「全侍合体──!!」
 ──人々の想いが込められた折神たちが全て集った、最強の侍巨人の姿を、象った。



 全てのノアは、次々にダークルシフェルを押していく。
 ノアはルシフェルから一撃も受けず、また、ルシフェルがそれらの攻撃で倒れる事も遂に無かった。
 そのあまりの優勢に、人々は大きな希望を取り戻していく。
 そして、それによってルシフェルは更に弱くなり、ノアは更に強くなっていく。そんな悪循環の中でルシフェルは、萎れながらも戦い続けていた。
 彼の内の野望は、簡単に消える物ではない。
 しかし、最早、その戦闘力の格差と、これから起きる結果は、歴然であった──。

「──シュッ!!」

 ノアは、まだ無傷で構え続けていた。
 まだいくらでも変身が出来る──変わり続ける事が出来る。
 そして、戦える。
 ダークルシフェルと化したカイザーベリアルの反撃にも、どこまでも持ちこたえる事が出来る──と。

「何故だ……何故、ルシフェルになった俺様をこんなにも簡単に超えやがるッ……!!」

 しかし、ベリアルにはそれが決して納得できなかった。
 何故、ノアやゼロに自らが勝てないのか──と。

「……まさか」

 だが、戦士たちの最強の必殺技を身に受け、体から煙をあげて、尚立ち上がろうとするベリアルは、この長時間の戦闘によってか、内心の疑問が少しずつ氷解していくのを感じてもいた。
 慣れ始めた戦闘でこそ、ようやく、「ダークルシフェル」という力そのものの弱点を強く理解し始めたようであった。
 なるほど──ベリアルは、悟る。

「──……そうか、貴様かァァァァァァ!!!」

 一体、何が今のベリアルを邪魔しているのか──その事に、ベリアルは、ようやく、気が付いたのだった。
 先ほどまでの自分と大きく違う性質を持つ力、それは一つだ。
 ダークルシフェルになる前には無かった物が邪魔しているという回答が殆ど正しいと言えるだろう。
 だとすれば、それは──

750変身─ファイナルミッション─(8) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 22:01:04 ID:GU7jrFVA0



「──ダークザギィィィッ……!! 貴様が俺様の邪魔をォォォォォォ!!」



 そう──宇宙で新たに得たダークザギの邪念と魂に違いなかった。
 それが、カイザーベリアルを拒絶し、今、カイザーベリアルの肉体を弱体化させようと、パワーをセーブしていたのだ。
 ノア・ダブルとの戦闘時、クロスカウンターにさえならなかったのもまた、他ならぬザギの邪魔立てのせいであり、ダークルシフェルとして知らず知らずの内にカイザーベリアルの身体を乗っ取っていたザギの意志である。
 その名前を大声で叫んだベリアルに、ノアも微かに動揺した。

「シュ……!?」
『ダークザギ……だって!?』

 孤門一輝は、その名を口にした。
 彼にとって、ダークザギとは、つまり、石堀光彦の名前にも直結する。
 共に戦ったナイトレイダーの隊員であり、その正体は、ずっと仲間を欺きながらスペースビーストによる暗躍を企てて来た男。
 だが、やはり──長い間の仲間意識があったのも、事実であった。
 心の内は、彼に対しても少し複雑な感情を寄せざるを得ない。ダークザギを葬ったのは、他ならぬ孤門隊員であったが。

『奴がいるのか、ザギが……!?』
『石堀さん──』

 涼村暁と、花咲つぼみがそれぞれ、憮然としながら口を開いた。
 他の全員は、唖然とした表情で、ここでダークザギの名前が出て来た事が、わけがわからないという様子であった。
 かつての強敵ダークザギが復活しようとしている、という事なのかと。
 些か戦慄しながら、僅かな時間は過ぎ去った。

 ──そして、やがて、口を閉ざしていたはずの死者・ザギが答えた。

『ようやくわかったか……ベリアル!』

 ……ダークルシフェルの中から聞こえた声は、石堀光彦の声に他ならない。
 やはり、その口調はダークザギとしての歪んだ、人の物とは思えない声質を伴っていた。
 不死の存在であり、情報因子から再生──憑依する事が出来るダークザギにとっては、あの一度の死など大きな物ではない。
 むしろ、怨念という立派な情報因子を取りこんだというのが大きなミスであった。
 ──ダークルシフェルとして融合した時に、ダークザギの情報が修復されてもおかしな話ではないのである。

「貴様……何故、俺様の邪魔をするッ!! 絶望の勝利って奴が見たくねえのかッ!」

 ダークルシフェルの、まるで一人芝居のような怒り。
 その場にいる全員は勿論、外の世界にまで響き渡っている、ベリアルとザギとの対話である。しかし、傍目には、ダークルシフェルは自分自身、ただ一人で喋り続けているようにしか見えなかっただろう。
 ダークルシフェルの中にも、ノアと同じように複数の戦士が融合しており、お互いに分裂を興そうとしているのだった。

『──俺は何者にも利用されない……!!
 貴様に利用されるくらいならば、ダークルシフェルなど、消し去ってくれる……!!』

 彼の中の「ダークザギ」が、再びベリアルに答えた。
 それが本心からの言葉であるのかは、結局のところ、誰にもわからない事だった。
 ダークザギの情報因子は、ダークルシフェルとして、ベリアルの身体を逆に乗っ取り、その自由を奪っていく。

「そうか……やはり貴様が──貴様が俺様の力をおおおッッ!!」
『──俺は全てを無に返す存在……! 貴様の力も無に返していくだけだ!!』

 そして、怒りに燃え、ダークルシフェルの姿は、アメーバが分裂するように動いた。
 それは、不自然に形を変えていった。
 ベリアルは、今、必死に形を変えて、ダークザギの妨害から逃れ、独立しようとしているのである。

751変身─ファイナルミッション─(8) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 22:02:41 ID:GU7jrFVA0

『俺を取り込もうとしたのが、運の尽きだ、ベリアル……!!』

 ダークルシフェルとしてザギと融合した時点で、カイザーベリアルにはむしろ大きなハンデを敵に与えてしまったのと同義だ。
 もし、ダークザギの意識がこのまま、完全にカイザーベリアルを乗っ取ってノアと戦う道を選んだならば、またノアとの間に生じるパワーバランスは変動したかもしれないが、ベリアルの意識が強く反映されたルシフェルには、これが限界であった。
 ザギもベリアルを完全には乗っ取れず、ベリアルもまたザギを従える事が出来ず、中途半端な力しか発揮できない──それが、ダークルシフェル。

「奴は、相棒に……仲間に、恵まれてなかった、ってわけか……」

 左翔太郎が呟いた。ダークルシフェルのそれは、仮面ライダーダブルと比べ、あまりに杜撰なコンビネーションだったと言えよう。

「……仲間っていうのは、利用するものじゃない……」
「支え合い、助け合うもの……」

 最後に頼れるのは、信じられる仲間──それは、ここにいる全員がよく知っている。
 自壊を始めようとするルシフェルをただ見送ろうとしたノアであったが、そんな時──ルシフェルから、声が発された。

『──そうだ……やれ、暁……!! そして、孤門……!!』

 ふと見れば、それは石堀の声であり──変質するルシフェルの形状は、石堀光彦の顔を象っている。

「……!?」

 彼は、わざわざ二人の男を名指しした。
 その事実に驚きながらも、涼村暁と孤門一輝は、どこか納得したように彼の瞳を見つめた。
 その表情は苦渋に満ちながらも、驚く暁と孤門に向けて頷いているように見えた。

「──石堀!?」
「石堀さん……!!」

 二人は、それをダークザギ、とは呼ばなかった。
 彼らにとって、ザギとして対峙した時間より遥か長く相手にしていた、石堀光彦という男の表情をわざわざ象った理由──それはわからない。
 しかし、その理由を何となく想像した二人は、ザギと呼ぶ事が出来なかった。

『俺が動きを封じている隙に、コイツを消せ──!!』

 彼の指示は、それだけだった。
 ただ、動かずに、ダークルシフェルの行く末を見守ろうとしていたノアに向けて、せかすようにしてそう言う。
 自分が抑え込める時間が僅かであると、そう悟ったのだろう。

「──……わかったぜ、石堀!」

 暁が、言った。
 なんだかんだで、石堀光彦といた時間は暁にとっても楽しかった……と言えなくもない。
 とんでもない奴で、大事な仲間を殺した仇でもあった。ちょっと感じてた友情みたいなものを裏切った奴でもあった。
 だが、最後の指示くらいは──聞いてやる。

『早くしろ!! こいつを、早く、無に返せッ!
 時間がない……躊躇うな……俺を誰だと思っている!!
 ────そして、貴様らは、一体、何者だ!!』

 押さえつけられる時間が僅かであるのか、彼はそう言った。
 ダークザギの持つ力を、カイザーベリアルが上回ろうとしているのである。
 急がなければ、

「──石堀隊員……こちら孤門。────了解!!」

 目の前にいるのは、ナイトレイダー兼ガイアセイバーズの石堀隊員。
 ここにいるのは、ナイトレイダー兼ガイアセイバーズの孤門隊員。
 孤門一輝は、この時──そう思っていた。

『──』

752変身─ファイナルミッション─(8) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 22:04:54 ID:GU7jrFVA0

 故に、それはナイトレイダー式の敬礼で。
 それが、ダークザギを──石堀光彦を、少し驚かせ、彼の目を見開かせた。
 しかし、孤門一輝がしようとしている事を──石堀は理解した。



『──……行け、負けるな……孤門隊長──ガイアセイバーズ!!』



 カイザーベリアルの身体を押さえつけながら、石堀は微かに微笑む。
 そして、その時であった。
 宿敵ウルトラマンノアだったものが、覚悟を決めて、再び黄金の光に身を包み、その姿を歴戦の勇士の一人の姿に、──“変身”したのであった。



「────宇宙に咲く、大輪の花!!」



 巨大な悪の浄化さえも可能とする、ハートキャッチプリキュアの最強の姿──かつて、デューンとの最終決戦で変身した、最大の浄化力を持つ最強のプリキュア・無限シルエットであった。
 まだ、ここにいる花咲つぼみにとっては、記憶の中に変身した覚えがあっても、その実感がない姿──。
 そして、彼らが望み続けている「助け合い」への変身を実現するものが、この無限シルエットという戦士──。



「無限の力と無限の愛を持つ星の瞳のプリキュア……!!
 ハートキャッチプリキュア────無限シルエット!!!!!!」



 ダークザギとカイザーベリアルをも──悪の化身をも包み込む、絶世の女神は、その拳を振り上げ、ダークルシフェルの顔面に叩きつけた。
 白いベールが揺れ、不思議と痛みのないパンチが、ダークルシフェルの闇を消し去って行く……。
 本来なら、この惑星よりも遥かに大きいはずのこの無限シルエットであるが、その心の内だけは、やはり、宇宙よりも広い愛を納めていた。



「憎しみは自分を傷つけるだけ……くらえこの愛、プリキュア──拳パンチ!!!!!!」



 それをその身に受けながら────ベリアルとザギは、浄化されていく。
 それはノアのエネルギーの全てを使い果たし、次の瞬間には全員の変身を解除させた。
 彼らの中にあった変身エネルギーの殆どが枯れ果て、中には、変身の為の道具を手に取っても変身できなくなる体質に変わってしまった者もいた。
 ──変身が解除されれば消える事になっていたフィリップもまた、この時、どこかに消えてしまった。
 戦士たちが、それぞれ、地面に転げ落ちて行く。



『石堀……お前の最後、ちょっとだけ俺たちの仲間っぽかったりしたぜ……──』



 ──ひとまず、ノアとルシフェルの戦いは、ここで終わりを告げた。





753変身─ファイナルミッション─(8) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 22:05:37 ID:GU7jrFVA0






 ──かつて、生み出された生命があった。
 星を救った英雄ウルトラマンノアの模造品。
 何故、生まれたのかもわからないまま──悪の道に堕ちたウルティノイド。










『────……ああ、……そうか……これが、俺の、本当の使命、だった、か……』










 かつて、無として消えた彼は、この時、無限シルエットの浄化力を受け、少しだけ心に満ち足りた物を感じながら、再び消滅した。







754変身─ファイナルミッション─(8) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 22:06:31 ID:GU7jrFVA0



「ウガァァァァァ……!!!」

 地上で、弱ったカイザーベリアルが吼える。
 いや、それはカイザーベリアルではなかった。
 かつてウルトラ戦士として戦った、赤と銀のアーリースタイルにまで、姿が巻き戻ったウルトラマンベリアルの姿である。

「ウウウウウウウッッ……」

 巨体を揺らし、自らにあったウルトラ戦士としての善意と、カイザーベリアルとしての悪意のせめぎ合いの中で、微かにだが、悪意が押し返そうとしているのが、今のベリアルの姿であった。
 ノア・無限シルエットの拳パンチの直撃は、ダークザギを盾にするようにして回避したが、それでもその慈愛の塊は、ベリアルに確かな葛藤を与えている。

「くっ……まだ……まだ戦うつもりなのか……あいつも……」

 変身が解除された戦士たちは、朝日が昇り始めた空をバックにしながら蠢くウルトラマンベリアルを、ぼろぼろの身体で倒れながら、見上げていた。
 これがかつてのベリアル──と、少し思いながら。

「おのれ……ダークザギィィィッ!!!!! ガイアセイバーズゥゥゥゥゥッッッ!!!!!!!!! ゼロォォォォォォ……!!!!! グアアアアアアアッ……!!!!!」

 あらゆる戦士への怨念を抱きながら、まだ力を余らせているベリアル。
 たとえ、姿が戻っても、ベリアルの中に降り積もった怨念はそのままだった。ベリアルはやはり、急激に善意が湧きあがってくる反動で、微かな悪意が肥大化しようと反抗しているに過ぎないのだが──それでも、ガイアセイバーズを殺すという意志が残っている。
 ベリアルがどれだけ弱っているとしても、変身できない彼らには、もはや成す術は無かった。

「……まだ憎しみに囚われ続けるのか──ベリアル!」

 カラータイマーが鳴り響き、自らも膝をつく中で、ゼロがそう叫んだ。
 やはり彼ももう戦闘能力は残っておらず、ベリアルの怨念を振り払う事や倒す事は叶わないだろう。
 そして、何より、ここで倒してしまう事は、ベリアルに与えられた一撃──慈愛を否定してしまう事に他ならなかった。
 かつて出会ったウルトラマン、慈愛の戦士コスモスと同じ理想を、ベリアルにまで掲げようとして、そして、ここまでベリアルを葛藤させているプリキュアという戦士たちの想いを……。

「……ガイアセイバーズ、そしてゼロ……! こうなったら、貴様らも道連れだ……最後の力で貴様らもろともこの世界を潰してやるッッ!!!!」
「──!?」

 ──だが、ベリアルは無情であった。
 残っている僅かな力を右腕に充填する。そこから放った闇弾で、この地上にいる小さな人間たちを一斉に消し去ろうとしたのだ。
 勿論、これを受ければ、人間たちは一たまりもないに違いない。
 その場が戦慄した──そして、ベリアルに仇なす者の叫びがあがった。

「……くそ、なんでだよ……ベリアル!! お前だって、ウルトラマンだろォがァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 ゼロが、残り僅かな体力を振り絞り、小さな人間たちの前に立ったのである。
 それは、ウルトラ戦士として刻み込まれた、地球人を守る本能と使命の齎した結果と言っていい。──気づけばそうしてしまうのが彼らの性だった。
 それに抗う戦士は、ただ一人。──ここにいる、「ベリアル」という名のウルトラマンだけであった。

「くっ……!!」

 地球人を庇ったゼロの身体に、ベリアルの一撃が直撃する。
 ゼロの身体は大きく吹き飛ばされ、地面に落下した。

「ぐあああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!!」
「ゼロ!!!!!」

 ゼロの巨体が大きく倒れ、大地が揺れる。シフォンを抱く美希が、ゼロに向けて絶叫する。
 しかし、今の一撃で、ベリアルも大きく体力を消耗したらしく、最充填には時間がかかりそうだ。

755変身─ファイナルミッション─(8) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 22:07:45 ID:GU7jrFVA0

「グゥッ……まだだ……次こそ貴様らを葬ってやる……!!」

 とはいえ、やはり──対抗策が無い今、次にベリアルがまた自分たちを攻撃して来れば、全員、それと同時に死ぬ事になる。
 ほとんどのメンバーの体力が尽きかけていた。

「……くっ……あと一歩だったのに……!!」

 ヴィヴィオが言って、ベリアルを見上げた。
 全員、変身が解除され、闘う術は残っていない。ヴィヴィオもクリスの力を借りられるほどの魔力が残っていない。
 変身。それが、それぞれの力を最大限に高め続けていたが、それが出来ない今となっては──と、誰もが、少し挫けかけた。

「いや」

 ────しかし。
 最後の最後で──ある一人の男が、口を開いた。

「……みんな、待ってくれ」

 そこにいたのは、響良牙である。
 全員がぼろぼろの身体と着衣で倒れこんでいる中、良牙だけは、よろよろになりながらも一人、立っていた。

「俺は……まだ何とかなる……」

 そう、彼だけは、変身をしなくても戦える。
 元々、彼にとっての変身は、むしろ戦闘能力を格段に低くする、“小豚”などへの変身である。今やそれも克服し、一人の人間として戦えるのだ。

「……だから、やってやるよ……俺が、最後に……一撃……」

 それだけではない。
 彼は、むしろ──“変身”などという物を、煩わしいとさえ思っていたのかもしれない。
 彼がこれから行う変身は、ただ一つでいい。
 たとえ、これからここにいる誰もが、一生、仮面ライダーやウルトラマンやプリキュアに変身できないとしても、

「────俺たちの、とっておきでな!」

 良牙の背を見ながら、それぞれが少し押し黙った。
 そんな時に、翔太郎が、彼の背に向けて言った。

「……今度は、信じていいんだな? 良牙……」

 先ほどの巨大化の事も忘れてはいないが、今度の良牙は先ほどよりもずっと本気に見えた。──その後ろ姿が、男の後ろ姿に見えたからだ。
 それは信頼できる男だけに許された男の背中だった。

「ああ……。元の世界のダチに教わった技が……まだ残ってるんだ──!!」

 良牙は、敵ではなく──味方の方に向き直って言った。
 それもまた、男の顔であった。友との約束を果たす為に、今、巨大な敵に立ち向かおうと言う、まさにそんな男の強い意志が作り上げている精悍な顔である。
 翔太郎は、自分が女だったら惚れちまうだろうな、などと思いながらも、笑いはせずに、彼の言葉を聞きいれた。
 誰もが──彼の言葉を耳に入れていた。
 ウルトラマンベリアルの手に、闇の波動が溜まっていった。

「俺も、こいつを必ず奴にぶつけるって約束した……まさかここでこんなチャンスが巡って来るなんて思わなかったぜ……」

 それから、良牙は、ゆっくりと、一人の少女のもとまで歩いて行った。
 そして、そこで、立ち止まり──少女の手を強く握った。

756変身─ファイナルミッション─(8) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 22:10:23 ID:GU7jrFVA0

「──……なあ、つぼみ。最後に、俺の手に、つぼみの力を分けてくれ」

 花咲つぼみ。
 これまで、長い間、響良牙とともに行動してきたプリキュアの少女。
 あらゆる戦いを共に乗り越え、共に泣いた──ここに来てから良牙が出会った中で、最も親しかった相手だ。
 今、良牙には彼女の力が必要だった。
 ムースに技を受けた時から、花咲つぼみという少女が持ち続けている感情が必要になると思っていたのだ。
 そして、それは、今や確信だったのである。

「私、ですか……?」
「きみの力が必要なんだ……。
 奴を最後に倒すのは──いや、救うのは、つぼみ……きみの力なんだ!!」

 普段の良牙は、こう言い直したりはしなかった。
 いつも、敵を倒す事ばかりを考えていた──それは、格闘家として戦い続けた男であるが故、仕方のない事かもしれない。
 だが、今、彼は、あの強敵を「救う」と言ったのだ。──つぼみと同じに。

「……」

 つぼみは、悩むというより、少し戸惑うように、良牙の目を見つめた。
 その瞳を見ていると、どこかつぼみも切ない気持ちになるが、それでも逸らす事は無かった。

 そして──つぼみは決意する。
 何が、良牙の力になるのかは、つぼみにはわからなかったが、それでも良い。
 良牙の力になれるのなら。

「どういう事かはわからないけど……わかりました」
「ありがとう、つぼみ」

 礼を言うと、良牙はつぼみの手を握ったまま、少しの間目を瞑った。
 その間、つぼみは何も考えなかった。
 ただ、二人の時間が止まり──良牙とつぼみの、これまでの戦いと日常の軌跡が、次々と頭の中に浮かんでくるだけだった。

(──)

 五代雄介の死地で墓を見舞った事。
 一条薫とつぼみと良牙の三人で行動していた間の事。
 仮面ライダーエターナルと戦い、二人のライダーの最後を見届けた時の事。
 冴島鋼牙という男の事。
 ダークプリキュアが仲間になった時の事。
 美樹さやかを救いに行こうとした時の事。
 天道あかねと戦う事になり、そしてその死を見送った時の事。

 共に戦い、共に笑い、共に泣き、成長した。

 大事な友達をなくしていく悲しみに耐えられたのは──お互いに支え合う事が出来たからに違いない。
 長い時間が過ぎ去ったような実感があった……しかし。

「ガイアセイバーズぅ……!!」

 空から、声が聞こえ、その時間は終わりを告げた。
 ウルトラマンベリアルが、次の一撃を放とうとしているのだ。──あの手が振り下ろされれば、巨大な闇が彼らを包み込むと同時に、ベリアルも、ガイアセイバーズも、誰も彼もが最後を迎える事になるだろう。

「あっ……」

 良牙の手は、戦いの為に、つぼみの手を離れた。
 その手が離れた時、不思議と、良牙とはもう会えないような……そんな気持ちがした。
 手に残ったぬくもりが冷めていく前に、良牙が叫んだ。

「──よし……見てろ、ベリアル!!」

 良牙の高らかな叫びと共に、つぼみは今の時間に引き戻される。
 この時に、こんな悪い予感がしているのは──おそらくつぼみだけだっただろう。
 誰もが良牙を信じている。
 つぼみも、良牙を信じている。──だが。



「もう上ッ面だけの変身なんざ必要ねえ……!! 俺は、このまま戦う……!!」

757変身─ファイナルミッション─(8) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 22:11:26 ID:GU7jrFVA0



 ベリアルが、闇の弾丸を地上に向けて放った。
 しかし、良牙はその前に立ったまま、まるでその闇弾に向かっていくように、地面を蹴とばして、思い切り飛び上がる──。
 その拳が、ベリアルの放った攻撃にぶつかった。
 生身の人間の身体ならば、ベリアルの攻撃を前に一瞬で蒸発しても何らおかしい事ではない。
 しかし、良牙のエネルギーは、その闇に打ち勝とうと前に押し進んでいる。

「これが、全宇宙を支配した男さえも超える、変わらない人間の力────!!!」

 そう──この拳には、つぼみから受け継いだ力があるのだから。
 彼女が──いや、乱馬も、ムースも、あかねも、良牙も。
 誰もが持っていた、想いが込められているのだから。

「俺が、乱馬や、ムースや、あかねさんや、つぼみから……仲間たちから受け継いだ、最強の必殺────!!!!!!!!!!!」







 ──元の世界に帰った良牙に、静岡の山中でムースが教えた技があった。
 その時のことを、もう一度振り返ろう。


----

 ……このままでは、たとえあの世でも、シャンプーを乱馬に取られてしまうのではないか。
 それどころか、乱馬がいなくなっても、今度は良牙がムースの前に立ちはだかってしまうのではないか。

「くっ……!」

 かつて見た、強く、何度挑んでも負けない男の姿。──目の前の良牙が、かつて、乱馬に対してムースが抱いた執着と重なってくる。
 そうなると、ムースは、どうしても、その男を殴らざるを得ない衝動にかられた。
 シャンプーは渡さん──と、何故か、良牙にさえ思う。

「それにあかねさんの事で辛いのは俺だけじゃない……。あの人たちも、俺なんかよりずっと辛いのに……それでもまだ戦おうとしてるんだ! 俺は、あの人たちにも負けるわけにはいかない……今すぐにでも行ってやるっ!」

 そして──遂に、その拳が、怒りに触れ、良牙の頬を殴った。

「この、たわけがっ! ────っ!!」

 ただのパンチではない。
 それは、この一週間、コロンとともに、ムースが鍛えて編み出した新たな気が込められたパンチである。
 暗器ではなく、修行によって得た“拳”の一撃は、的確に良牙の左の頬に叩きこまれ、彼を土産物の山の中に吹き飛ばした。

「……!?」

 頑丈な良牙が今、気づけば土産物の台や床を突き破り、地面に半分埋もれている──。
 良牙には、一体、何が起こったのか、さっぱりわからなかった。
 コロンは頷き、シャンプーの父は呆然とそれを見た。──『土産物の台を突き破ったり、床を叩き潰したりしないでください』と書いてある注意書きの紙が、あまりの衝撃に剥がれた。
 良牙は、ムースを見つめ、呆然としていた。
 目を見開き、何かに興味を示した幼児のように、今のムースの攻撃を振り返る彼は、痛みなど忘れていた。


----

758変身─ファイナルミッション─(8) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 22:13:28 ID:GU7jrFVA0



 ──気は、「気が重く」なれば、重い気の獅子咆哮弾を発する。
 ──気は、「強気」になれば、強い気の猛虎高飛車になる。

 つまり、気とは、使い手の感情の持ちようで形を変えていく概念である。

 さて、それでは、ムースが身に着けた気の技とは、何だったのだろうか。

 ヒントは二つ。
 あの時、ムースは、自らが愛するシャンプーの事を考えていた。
 そして、良牙は最後、強い愛情をその身に宿しているつぼみの力を借りた。



 そう──最も簡単な物だった。





 ────やっぱり、最後は、『愛』が勝つ、という事。







「喰らえええええええッッッ!!!! この『愛』……ッッッッッ!!!!!!!」



 その拳に『愛』を込め、ベリアルに向かっていく良牙。
 空に飛び上がった良牙の拳は、ベリアルの放った闇を押し返しながら空へと進み、彼の胸部に向けて肉薄した。
 勢いはとどまる事を知らない。
 ベリアルの放った光線すらも押し返そうとしている人の意志──。

「良牙さん──!!!」


 そして。


「────ガッ……!!!」


 次の瞬間、その一撃は、ベリアルの胸部のカラータイマーを砕いた。

759変身─ファイナルミッション─(8) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 22:15:41 ID:GU7jrFVA0



(おい、ムース……シャンプー……右京……乱馬……あかねさん……見てくれたか?)



「何だ……この力は……涙が……溢れる……ッ!!」



(見ろよ……おれは、乱馬を越えた……あいつよりも、ずっと強いんだぜ……!?)



「そうか……ケン……ゼロ……」



(……でも、これで俺の命は終わりだな……。
 五代、一条、大道、良……俺も最後は、ライダーらしく、笑顔で逝ってやるよ……!!)



「──……これが、貴様らの……守りし者の力……!!」



(……ごめん……あかりちゃん……こんな形で、約束破ってしまって────)



「──ぐああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!」





(ありがとう……つぼみ……ここに来てからの俺の、一番の、友達……!!)






 ────直後、カイザーベリアルの身体は、周囲一帯、全てを巻き込んで、大爆発を起こした。



「良牙さああああああああああああああああああああああああああああああああああああんッッッッ!!!!!!!!!」


「良牙ああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッ!!!!!!!!!」



 そして、そんな叫びとともに、支配と、殺し合いは全て、────終わった。



【カイザーベリアル@ウルトラシリーズ 死亡】
【GAME OVER】

【響良牙@らんま1/2 ────ETERNAL】
【残り9人】





760変身─ファイナルミッション─(8) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 22:19:35 ID:GU7jrFVA0
八分割目終了です。















































九分割目へ。

761変身─ファイナルミッション─(9) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 22:21:04 ID:GU7jrFVA0



「──……おばあちゃん、それって、やっぱり失恋だったんですか?」



「──ええ……二度ある事は、三度あるものよ。
 これが、私の三度目の失恋だったわ……。
 そして、これは、それまでで一番の失恋だったかもしれないわね」



「……」



「──そう。やっぱり。あなたも、今日失恋したのね?」



「……はい」



「……大丈夫よ。私も、おじいさんと出会って、今ではこんなに素敵な孫が出来たわ。
 失恋は、人を強くするものよ。……それにね、私と良牙さんとは、今もこれからも、ずっと友達なの」



「──でも、良牙さんって……」



「ううん、あの人は、きっとね、今も迷子になっているだけよ」



「……そうなんですか?」



「ええ。あなたもまた新しい恋をなさい。でも、あなたのその想いは、ずっと忘れてはだめよ。
 人を愛する事は、罪ではない……とても素敵な事だからね」







「──ここは」

 彼らの前には、絶えず続く真っ白な光の空間があった。
 まるで生まれる前にいた場所のイメージとして──あるいは死んだ後に行きつく場所として度々出るような、そんな場所だった。
 しかし、彼らはウルトラマンとの同化の際も、頭の中に漠然とこんな場所が浮かんでいた。
 だからか、彼らは全く違和感なく、そこがどんな場所なのかすぐに悟る事が出来たのだ。

「ウルトラマン……!」

 そして、目の前には、あのウルトラマンノアがいた。
 それどころか、あの殺し合いに生き残った全員がその場に林立していた。──響良牙だけは、その場にいなかった。
 誰しもがきょろきょろとお互いを見合っている。
 その後、誰かが言った。

「ノアがあの爆発の直前に僕たちを移動させたんだ」

762変身─ファイナルミッション─(9) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 22:22:55 ID:GU7jrFVA0

 ──ここは、ウルトラマンノアが彼らの肉体を運んでいる精神空間だ。
 しかし、それでもそれぞれを元の世界に向けて運んでいる。これを「ノアの箱舟」などと名付けるのは、少々センスの枯れた発想であるかもしれない。

「そうか……ありがとう、ノア」

 それを口にしたのは、ウルトラマンと同じ世界からやって来た孤門一輝であった。
 長い間、デュナミストとウルトラマンを見守り、そして、僅かな間だけウルトラマンと同化して来た孤門──。
 この時、どうやら自分が既にウルトラマンノアとは分離しているらしい事に、孤門は気づいていた。──そう、もう、それぞれがただの人間として独立しているのだ。

 だが、人間だけの力でどこまでやれるのかは、良牙が教えてくれた。
 ここにいる人間たちの多くは、既に変身エネルギーを使い果たしてしまった故に、変身する事が出来なくなっている──が。
 それでも、まだ、自分たちは、ウルトラマンとして、仮面ライダーとして、プリキュアとして……それぞれの意志だけは捨てずに、戦っていける。
 そんな感慨を抱いていた孤門だが、大事な事を言い忘れていたのを思い出して、視線を少し上げてから、言った。

「……長い戦いは終わりを告げたんだ。──僕達の勝利だよ」

 それは、孤門が隊長として真っ先に言わねばならない言葉であると同時に、歓声を上げるには少しばかり空気が盛り上がらない一言だった。
 他ならぬ良牙が、ベリアルと相打ちし、ただ一人の犠牲者となった事実を、夢だと思っている人間はこの場にはいまい。

「──」

 そう。──良牙は、もうこの場にはいない。
 勝利はしたが、それと同時に、大事な仲間が一人失われたのである……。

「──……勝利、か」

 それは、隊長としての冷徹にも聞こえる「報告」であったが、実のところ、孤門らしい感情も籠っていた。
 だから、誰もがそれを察して、素直に喜ぶムードになれなかったとも言える。
 特に──ここにいる、花咲つぼみはそうだった。

「……良牙さん」

 まだ少し暗い表情で、つぼみはそう呟いた。
 名前を呼んでも、ここには響良牙は現れない。──そう、彼だけは、まだ生還者が集うこの場所に辿り着かないのである。
 彼は、あのアースラの中でもそうだった。
 ミーティングに集まろうとすると、彼一人だけはどうしても迷子になってしまうので、つぼみが付き添わなければ、良牙が欠けた状態でミーティングをする事になるのだ。

「良牙……あいつは……クソッ……なんであんな事……!」

 翔太郎や、ここにいる者たち全員が、良牙がもういないという事実に、打ちひしがれていた。
 折角、こうして出撃前とほぼ同じメンバーが揃っているというのに、この場にはただ一人、彼だけが揃わない。──全員で帰る、とそう思っていたのに。
 だが、彼がいなければ、ここにいる誰も帰る事が出来なかったのもまた事実だろう。
 それでも、自分の命を犠牲に散った彼の事をどこかで責めずにはいられない。そんな感情の矛盾から、どうすれば逃れる事が出来るのか──その術を彼らは探した。

「……」

 そんな静寂の時、つぼみは、それを断ち切るように、おもむろに口を開いた。

「……大丈夫、ですよ」

 顔を上げないまま、彼女が一番、「大丈夫ではない」様子で、それでも、言葉を振り絞るようにして、ただ一言言った。

「……良牙さんは、きっと生きてると思います」

 それは、何かの根拠があっての物ではない。
 ただ、言ってみるならば、「信じたい」とそれだけの想いで口にした……そんな言葉であった。

763変身─ファイナルミッション─(9) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 22:23:56 ID:GU7jrFVA0
 だからか、震えた唇はそこから先、彼女が告げたい事を告げさせてはくれなかった。
 きっと、どこかで生きていると──信じたいのだが。

「きっと……きっと……」
「つぼみ……無理しないで」

 そんなつぼみの背を、美希が撫ぜた。
 同じプリキュアであり、変身ロワイアル以前にも、共に戦った事もある。そして、同じ年頃だった美希だから真っ先にこうして彼女を支える事が出来たのだろう。

「泣きたい時は、泣けばいいのよ。
 私だって、これまでの事……簡単に割り切れないんだから……」

 そんな美希の言葉を聞いた時、つぼみの脳裏には、いつか良牙と二人で涙を流した時の事が浮かんでいた。
 だから、──自分が良牙に言った事と、全く同じ事を美希の口から告げられ、そして、その言葉を良牙がどう感じたのか悟り……泣いた。
 ただ、今、涙を流すのは、あの時と違ってつぼみだけだった。

「……」

 つぼみ以外は、この場にいる者は泣いてはならない気がした。──つぼみ以上に良牙の死を悲しんでいる者はいないのだから。
 それでも……良牙という、クールなようでただのバカだった男はもういないと思うと、誰もが涙が溢れそうになった。
 きっと、先に、友や、かつて愛しく思った人たちの所へ行ってしまったのだろう。
 不幸にも、生きている仲間たちや想い人を、この世に残しながら……。

「……」

 翔太郎が、自らの顔を隠すように帽子を直して、それから少しして、つぼみに向けて言った。

「──……なあ、つぼみ。俺にも、さっき、加頭に言われた事の答えが出たんだ。
 誰かを愛する事ってのは、絶対に罪じゃない……きっと、あいつの歪んだ愛も。
 そして、ずっと……自分を守ってくれた人を想う、純粋な気持ちも」

 愛。──最後にベリアルに完全な王手をかけたのは、その見えない概念だった。
 確かに、その直前、加頭順との戦いで、彼の愛情を打ち破って勝利した彼らであったが、しかし、最後にはそれと同じ感情に助けられたわけだ。

「……なんかさ、愛っていいじゃねえか」

 加頭の罪は、誰かを愛した事ではない。
 それだけならば、何と素晴らしい事か──翔太郎は、この戦いの最後に、それを深く実感し……もし、加頭でさえも救えたなら、と僅かな後悔を芽吹かせた。
 彼女たちなら、確かに、それが出来たかもしれない。

「良牙くんがベリアルを救えたのも、きっと、きみの純粋な愛情があったお陰だよ。
 誰かを愛するって事は、……やっぱり、何より、素晴らしい事だと思う」
「今は、その強い力でこれからあいつの為に何が出来るのか、考える事にしようぜ。
 ……何せ、きみならそれも出来そうだしさ」

 かつて、愛した者を喪った孤門と零は、そう付け加えた。
 この戦いの幕を閉ざした良牙の一撃には、確かに、つぼみの力が必要だった。
 あれは、彼女の想いが勝ち取った終幕なのだ。

「みなさん……」

 つぼみは、涙を拭き、そして、この時に、ある決意を胸に抱く事になる。
 それは、後に、花咲つぼみが大人になった時にまで、在りつづける想いと夢だ。──そこに向かって、彼女はいつまでも惜しまぬ努力を続けるだろう。

「……私、やっぱり、あれだけの事で良牙さんが死んでしまったなんて思っていません。
 あの人は、誰より強いし、約束を破る人じゃないから……だから……」

 そう、彼女もまた、この殺し合いを通じて変わっていった。

「いつか、また、あの世界に行く方法を探して──良牙さんを、きっと見つけます。
 それで……あかりさんのもとに、必ず届けます」

 だから、泣いてもいいのだ。また笑顔に変える事ができるのなら……。

764変身─ファイナルミッション─(9) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 22:26:06 ID:GU7jrFVA0
 彼女は、自らの涙さえも、笑顔へと変えながら、言葉を噤んだ。

「それに……ああして、悲惨な殺し合いが起こった場所にも、たくさんの花が咲いてほしいから、私は──きっと、戦いがあったあの場所に、いつかまた……」

 ──彼女には、夢が出来た。
 良牙があの世界に、本当にまだ生き続けているのかはわからない。
 それでも、まだあの世界にやり残した事は、たくさんあるのだ……。

「そう。だから……私、決めました。────私、幾つもの世界を渡る植物学者になります!!
 暗い世界が幾つあるとしても、そこに悲しみのない未来を築いて……そして、世界中に笑顔の花が咲くように!!」

「出来るわよ。……だって、私たち──こんなに完璧に、世界を救ったんだから!!」







【その後】

 ……そして、花咲つぼみは、これより後、本当に有名な植物学者になったと言われる。
 元の世界に帰った後、「変身ロワイアルの世界」と外世界を繋ぐゲートは完全に閉ざし、その座標を見つける研究は困難を極めた。まるで全ては幻だったかのように、あの島に辿り着く術は消えてしまったのである。
 だが、つぼみもその後は粘り強く研究を続け、後には元の世界で男性と結婚している。それにより、花咲という名前は改姓し、その後は別の名前になっているが、やはり花咲の名前の方が多くの人の心に残っているようだ。
 そして、彼女の祖母、薫子と並び、長らく植物学の第一人者として有名になった彼女は、幾つかの惑星や、植物の無かった世界にも、新しい命を授けた功績で、ノーベル賞を受賞している。







「……──そうだね。僕も、みんなには、そうして笑っていてほしい」

 ふと、光の中から現れたのは、フィリップであった。
 先ほど、ノアがここに運んでくれた事を彼らに説明したのもまた、変身解除と共に消えたはずの──フィリップである。
 だが、誰も今、その姿を見て驚きはしなかった。
 変身解除とともに消えてしまった彼の事は、ふとどこかへ姿を眩ましたような……ただそれだけのような気がしていたからだ。
 しかし、今、ようやく実感としてここに現れるのだ。

「やっぱり、ここにいるみんなには、笑顔の方が似合っているね」
「フィリップ……」
「僕達……ガイアセイバーズは、カイザーベリアルに勝利した。だから──」

 そう──。

「──だから、僕とは、ここで、お別れだ」

 彼が、こうして現れたのは、また、言えなかったお別れを言いに来ただけに過ぎない事なのだという、実感として。
 フィリップと共に戦えるのは、最終決戦の間のみだった。それが終わり、かつてのように変身が解除されれば、フィリップとは本当の別れの時が来る。
 こうしてフィリップがここにいるのは、ここが、フィリップが同化して戦ったノアの中だからだ。──闇の欠片に再現された彼の思念が、辛うじてこの場に少し残っていたという事なのだろう。

「ウルトラマンの中に残っていた僕の思念も、もう消えてしまう。
 この戦いで散った者は、遂に本当の死者になるんだ……」

 フィリップ、そして、涼村暁……この戦いの終わりと共に、消えねばならない者たちが、良牙だけではなく、まだこの場にいる──そんな悲しい事実があった。

765変身─ファイナルミッション─(9) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 22:27:47 ID:GU7jrFVA0

 彼らは、最後まで世界を救った。
 その代償は、その身の消滅だ。自ら消滅に向けてアクセルを踏み、命を燃やし尽くした彼らの最後を、誰も止める事は出来ない。
 フィリップもまた、その宿命を受け入れていた。

「フィリップ……」

 翔太郎が、暗い面持ちを帽子の中に隠し、フィリップの方を見ないようにそう告げた。
 翔太郎とフィリップとの間には、何人かの仲間が遮ってしまっている。──彼らは、ゆっくりと二人の間を開けようとした。

「……君とは、何度か別れた事があるけど……やっぱり、君はいつも泣いているね」

 だが、フィリップは、今決して、目の前にいるわけでもない左翔太郎の表情をぴたりと言い当てる。──それは、彼が探偵だからというわけではない。誰でもわかる事だった。
 かつて、ユートピア・ドーパントとの決戦に際して、もう会えなくなったはずのフィリップ──今は、肉体もなくなり、精神だけが残っていたが、それも遂に消えてしまう。
 データとの同化ではなく、本当の死。
 翔太郎は、クールに振る舞うのをやめ、帽子の中に隠していた崩れた表情をフィリップに向けた。

「ああ、そうだよ!! 泣かねえわけねえだろ……! 
 何度だって……お前との別れになんて、慣れるはずがないだろ……クソッ……!!」

 ──だが、フィリップはそんな翔太郎の姿を見ない。
 このままいつまでも二人では、いられない。
 それが、翔太郎の目指す物──「ハードボイルド」とは、全く裏腹な物なのだから。

 もう二度と、戦う翔太郎の前にフィリップが現れる事はないだろう。──フィリップ自身が、それをもう望まないのかもしれない。
 しかし、彼が一人で戦い続ける姿を──たいせつな「相棒」の活躍を、フィリップはこれからも見守っていくに違いない。

「……そんなんじゃ……いつまでも、ハーフボイルドのままだよ……翔太郎」

 ──そう言うフィリップは、「ハードボイルド」だった。
 その名前も、高名なハードボイルド作家レイモンド・チャンドラーの傑作が生みだした名探偵フィリップ・マーロウに由来する。
 だから、涙を流す翔太郎を少し笑いながら、彼より少し、大人に、ハードボイルドに去ろうとするのだ……。

「……じゃあ、杏子ちゃん、みんな。」

 彼が成長し続ける為に……。
 少しは、冷たく見えてしまうかもしれないが……。
 フィリップが、翔太郎の泣き顔を振り返る事はなかった。

「……こんな奴だけど、これからも翔太郎をよろしく」

 そして、フィリップの後ろ姿から告げられるそんな願い。
 彼は、ただゆっくりと光の向こうへと、歩み進んでいく。
 彼はもう、有るべき場所に帰ってしまうのだろうか。

「──なあ。よろしくされるのは良いけどさ」

 ──だが、ふと、その前に。

「フィリップの兄ちゃん……一つだけ、いいか?」

 杏子が、フィリップの背中に向けて、一言だけ告げようとした。
 このまま返す訳にはいかない、と思ったからではない。彼女には、フィリップに対する大事な用事があったからである。
 一言、どうしてもフィリップに……そして、翔太郎にも言わなければならない事がある。
 去ってしまうのは仕方ないかもしれないが、その前に一つだけ、フィリップに言ってやりたい言葉があったのだ。
 杏子は、右手の人差し指と親指だけ伸ばし、ピストルのようなポーズを取り、ウインクしながら──フィリップに言った。



「────泣いている奴をからかっていいのは、泣いていない奴だけだぜ?」

766変身─ファイナルミッション─(9) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 22:29:40 ID:GU7jrFVA0



 杏子は、今決して、こちらを見ているわけでもないフィリップの表情をぴたりと言い当てた。
 そんな杏子の言葉は、どこか、ハードボイルド探偵に似ている。
 それを聞いたフィリップも、思わず、少し振り返って、赤い顔を見せ、そんな杏子の言葉に笑ってしまう。

「ふっ……。そうだね、結局──」

 フィリップは、身体データの残留から洩れた涙を、手で拭った。
 ハードボイルド探偵の名前を受け継いでいるとはいえ、フィリップも同じか。
 翔太郎も、フィリップも、ハーフボイルドだった。──お互い、どれだけ恰好をつけようとも。

「僕達よりも、君が一番ハードボイルドかもね……──はは」

 少しだけ、去り際の空気が湧いた。
 誰かが、フィリップを優しく笑った。そして、半泣きの翔太郎とフィリップも含め、全員が、この杏子の尤もな指摘に笑顔を見せた。

「はははははははははははっ!!!」
「はははははははははははっ!!!」

 悲しい筈だというのに、笑いがこみあげた。
 余裕があるように見えて、実のところ、そうでもないフィリップの姿が、少しおかしかったのだ。
 人が消えるというよりも、まるで卒業式で涙を見せる同級生をからかうような、笑みと涙の混ざり合った雰囲気が流れた。
 翔太郎も、つられて笑い、先ほどまでの涙が嘘のように笑って、フィリップに言った。

「──……ああ。……またな、相棒!」

 フィリップも微笑み返した。
 それが、フィリップの最後に聞いた、相棒の声だった。
 また会えるかはわからない。翔太郎がいつ、死んでしまうのかも、今のフィリップにはまだわからない。
 しかし、きっと彼はあの街の風の中で──。



「……うん。もう行くよ。翔太郎ならきっと、しばらくは大丈夫さ」

 フィリップの行く先には、ウルトラマンノアの巨体と、彼らの多くが初めて見る事になった“円環の理”の姿があった。
 ここは、もう変身ロワイアルの世界から遠く離れた、異世界の扉なのだろう。

「次に会う時も、翔太郎は、まだまだ全然……ハードボイルドにはなってないかもしれないけど──」

 二つの神。
 消えゆく二人を、ノアと円環の理が導き、連れて行こうとしているらしい。



「──きっと、誰よりも仮面ライダーだと思う」



 ……そこに、ゆっくりとフィリップはただゆっくりと、向かっていった。



【フィリップ@仮面ライダーW 再消滅】





767変身─ファイナルミッション─(9) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 22:32:20 ID:GU7jrFVA0



【その後】

 ……左翔太郎は、この数年後、誰よりも早く、若くして亡くなった。
 理由は、風都市で少年を庇い、トラックに轢かれた為の事故死であったという。
 凄惨な殺し合いを生き残った生還者が、その後まもなくして、殺し合いと無関係に死亡したという事件は、多くの人に衝撃を与え、風都を愛した男の痛ましい死として、涙を誘った。
 しかし、風都で流れる涙を一つ拭い、そして、愛した街・風都で死ぬという結末を迎えた彼の死に顔は、満足げな笑顔が浮かんでいたという。
 また、誰も知る由もないが、この出来事は、このトラックに轢かれ死んでしまう筈だった少年──“葵終”とその家族の運命を変える事になった。

 そして、鳴海探偵事務所は、その後の時代も、所長の鳴海亜樹子や、ライセンスを取得して風見野市から移住した佐倉杏子らの尽力によって存続し、その後も風都に流れる涙を、新たな探偵たちが拭っている。
 そう、風都の風を愛する者たちが……。







『──あなたも時間よ。行きましょう、暁』

 フィリップの消滅後、そう告げられたのは涼村暁に他ならなかったが、それを告げたのが何者なのか、すぐには誰もわからなかった。
 空を飛ぶ天使のように、長い黒髪の少女が暁に寄って来たのである。

「……?」

 暁は、瞼を擦った後、頬をつねってその少女を何度か見直した。
 周囲の仲間たちを見ても、何やらその少女の方を見てキョトンとしている様子ばかり浮かんでいる。

「……ほむら? ん、夢じゃないよな?」

 それは、死亡したはずの暁美ほむらに違いなかった。
 これまで、夢で出てくる事はあったが、こんな、誰にでも見える形ではっきりとほむらが現れたのは初めてである。

『私たちは、円環の理の鞄持ち。
 どこの時空にも救われないあなたの魂をどこかに持って行かなきゃならないのよ。
 それまでは、私たちのもとで預かる事になるわね』
「ちょっと待て。どこかってどこだよ」
『“どこか”よ』
「あ、ああ……それはあんまり考えちゃいけないんだな……。
 でも……送るにしても、あとちょっと、ほんのちょっとだけ、待ってくれよ」

 何やら、このほむらも、円環の理と共に暁を迎えに来た形になるらしい。別に激励をしに来てくれたわけでもない。
 言ってしまえば、『フランダースの犬』でネロとパトラッシュを運んでいく天使が、ちょっと凶悪になった感じの物だと思っていいらしい。
 とりあえず、理屈で言うと、滅びゆく世界の中で分離した夢世界の暁の因果と、滅びゆく世界の中で概念と化したまどかの因果とが、なんか色々あって結びついたとかそんな感じである。
 そんなこんなで、暁も消滅の時が来たらしい。

「あーあ……やっぱり、俺、消えちまうらしいな」

 ……結局のところ、こうなる運命が抗えない事はどこかでわかっていた。
 あの世界は、やはりダークザイドによって滅ぼされてしまうのかもしれない。
 いや、そうでなくてもあの涼村暁という男は、あのままダークザイドと戦うとしても、きっと自らが見続けた甘い夢を捨て去ってしまうような予感がした。
 しかし、イレギュラーな存在である暁は、しばらくこうして誰かのもとに残り続ける事が出来た。
 最後に、自分もフィリップのように別れを告げようと、そうしているに違いない。

「……なあ、みんな」

 暁がそうして切りだす。

「あのさ、俺の事……忘れないでくれよ? なあ、頼むぞ?」

768変身─ファイナルミッション─(9) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 22:34:12 ID:GU7jrFVA0

 と、暁の口から出て来たのは、やや切実な悩み。
 このまま忘れ去られてしまうんだろうか、というちょっとした心細さが、下がった語尾から感じ取れた。
 死ぬだけならまだ良い。太く短く生きるという事で。
 だが、忘れ去られるのは、今になってみると少しいやな物だと思った。

暁にそう言われた仲間たちは、少し呆れた顔でお互いの顔を見合った。

「──そう簡単に忘れられるようなタイプかよ……まったく。
 忘れたくても忘れられるような奴じゃないぜ、お前」

 代表してそう口にしたのは、同じ「スズムラ」の零である。
 そんなニヒルな口調の中にも、どこか友情めいた意識が残っているようで、もうおそらく会えないであろう事に一抹の切なさを感じているような気分でもあった。
 郷愁感を噛みしめるような不思議な表情のまま暁を見つめる零は、それでも消えるまでの間、彼を思いっきり安心させてやろうと思った。

 それくらいはしてやってもいい。
 いや、それでも足りないくらいだ。
 ここにいた仲間は──ここに連れてこられた参加者たちは、誰が欠けてもベリアルを倒して、世界を救う事なんて出来なかったのだから……。

「お前は……涼村暁は、確かにここにいた。────ほら、聞こえるだろ? 暁」

 零は、そう言った。
 誰もが、そんな零の言葉を聞いて、耳を澄ませた。

「──!」

 ……何故、誰も気づかなかったのか不思議になるくらいの大歓声が、ずっと鳴り響いていた。ただ、それに零だけは、ずっと気づいていたのだ。

「これは……」

 今、外の世界はどうなっているのか──。
 それは、自分たちが支配はら解放された喜びと、それを助けてくれた人間たちへの感謝の言葉と喜びだけが響いている。
 こうして今、外の世界に向かおうとしている彼らは、大群衆に囲まれたパレードの道に運ばれているような物なのである。

『凄かったぞ、シャンゼリオン……!!』
『ありがとう、シャンゼリオン……!!』
『──忘れないぞ、お前の事は……!!』

 人々がシャンゼリオンに──涼村暁という、一人のどうしようもない男に向けた歓声が、その時、誰にも聞こえた。
 それは、暁の幻と生まれ、幻として消えゆく一生に光を灯してくれるような……今までで一番、嬉しい他人たちからの感謝の言葉だった。
 空を見上げ、シャンゼリオンへの人々の感謝の声に浸り、その人たちの笑顔を頭の中で想像する。──不思議と、実像に近いものが浮かんできた。

「これが、俺たちの戦いを見ていた、みんなの声さ……。
 誰も、絶対にお前を忘れる事なんかない。
 お前がいた時間は、誰にとっても、夢なんかじゃないんだ──!!!」

 ああ、それは今、誰もが実感していた。
 涼村暁は幻ではない。
 涼村暁は夢ではない。
 ここにいた、一人の人間であり、世界のヒーローであり、ここにいる全員の大切な仲間なのだ。

「──零。……全く気づかなかったけど、お前、意外と良い奴だな……!」
「お互い様だろ? 俺も、全く気づかなかったけど、良いザルバを持ってた」
「……ザルバ? ザルバってその──」
「旧魔界語で、『友』って意味さ」

 かつて無二の友に言った言葉──友(ザルバ)。
 ここにいる魔導輪の名前の由来であり、零にとって、旧魔戒語で好きな言葉の一つでもある。
 そして、それを聞いたレイジングハートが付け加えた。

769変身─ファイナルミッション─(9) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 22:36:17 ID:GU7jrFVA0

「……つまり、暁は、私たち全員の『ザルバ』というわけですね」
『おいおい、こんな奴と一緒にするなよ』

 本物のザルバが付け加えると、その場がまた少し笑いに溢れた。
 最後くらい暁に華を持たせてそういう口は控えろよ、と。
 しかし、それもまた、暁らしい最後のようにも思えた。
 それが少しまた自然と静かになってから、ヴィヴィオが口を開いた。

「……暁さん。私、暁さんといる時間……結構楽しかったんです。
 みんな、あんな状況だったけど、暁さんには、たくさん笑顔を貰えた。
 そういう意味では、暁さんも誰より輝いていたヒーローなのかもしれません。
 ……ゴハットさんが言っていたように」

 輝くヒーロー──超光戦士シャンゼリオン。
 勇気を心と瞳に散りばめ、駆け抜けていく光。
 風が円を描いて現れる光のヒーロー。
 選ばれた戦士。──MY FRIED。
 それが、この、涼村暁という男だった。

「ふっ……やっぱり、俺、意外と『みんなに慕われる無敵のヒーロー』じゃんか……」

 暁は自嘲気味に笑った。
 まさか、自分が本当にヒーローになるなんて、暁も全く思っていなかったのだろう。
 しかし、気づけば、暁は誰よりも「ヒーロー」だった。

「当り前さ。お前も、俺たちと一緒に世界を救ったんだからな」

 翔太郎が付け加えた。
 探偵という同職のよしみといったところだろう。あまり仲がよろしくはなかったかもしれないが、お互い案外楽しい時間ではあった。

『ねえ、暁。そろそろ……』

 と、そんな時、遂にほむらがせかした。もう時間がないという事だろう。
 しかし、お別れは充分に済ませた後だった。
 悔いはない。
 この世界には、もう、思いっきり自分がいた証を残したのだから。

「──おう、待たせただな……!」

 だが、たった一つだけ忘れた事を成し遂げる必要があった。

「じゃ、最後に一つだけ……」

 そう、まだアレをやっていない。
 ベリアルを倒したら、思い切り言ってやるつもりだったのだ。



 そして、彼は、大歓声の中心で、それに負けじと大きな声で叫んだ。







「────俺たちって、やっぱり……決まりすぎだぜ!!!!!!!!!!!」








【涼村暁@超光戦士シャンゼリオン ────OVER THE TIME】





770変身─ファイナルミッション─(9) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 22:38:13 ID:GU7jrFVA0



【その後?】

 ……涼村暁の夢を見る、本当の涼村暁は、ダークザイドとの決戦の瞬間、自分と同じ「もうひとりのシャンゼリオン」と出会い、パワーストーンと呼ばれるシャンゼリオンのパワーアップアイテムを受け取る事になった。
 だからといって、彼がダークザイド軍の圧倒的な戦力に勝ちえたのかはわからない。
 あの世界は滅び、やはりシャンゼリオンは消えてしまったかもしれない。
 だが、後の時代にも、あらゆる世界では、超光戦士シャンゼリオンと暗黒騎士ガウザーの決戦は世界に刻まれた名勝負として記され、「涼村暁」の名前は、多くの人間たちの胸に残ったと言われている。







「みんな……いなくなっちゃいましたね……」
「ええ。……でも、二人は、きっと向こうでも楽しくやっている事でしょう」
「そりゃあ……あのまま円環の理に導かれたら、ハーレムだもんな……」
「むしろ、あいつも今より楽しんでそうだな……」

 二人が去り、円環の理も消えた。
 この場所に残ったのは、孤門一輝、花咲つぼみ、左翔太郎、佐倉杏子、涼邑零、高町ヴィヴィオ、蒼乃美希の七名とレイジングハート──そして、二人のウルトラマンだけであった。
 その人数と存在感にも関わらず、既にこの場所はがらんとしたような雰囲気がした。

 どこか物悲しく、どこか寂しいが、それでも、ここにいる者たちは、残る時間をちょっとした雑談で埋めようとしていた。
 もう悲しむ時間など必要ない。

「あいつらは、きっと、どこかに存在し続けてるさ」

 そんな、前向きな一言が出てくる。
 彼らを縛っていた何週間もの苦痛は終わりを告げ、そして、またその後の彼らの新たなる人生が始まろうとしている。
 それぞれが別の道を行く事になるだろう。

「──そうだ……私も一つだけ、言っておく事がありました」

 ふと、レイジングハートが口を開いた。

 これからの生活を考えた時、ダークザギとの決戦前の零の言葉を思い出したのだ。
 あの時は、零もレイジングハートも、ヴィヴィオが死んだと勘違いしていた為、零は、「レイジングハートと共に旅する事」を提案していた筈である。
 零も元々孤独だったのに加え、シルヴァが破損し、相棒を喪い……二人は、お互いに孤独な身になるはずだったのだ。

 しかし、結果的に、二人とも、そうではなくなった。
 一応、約束だったのだ。返事をしておかなければならない。

「零……あなたに一つだけ伝えなければならない事があります。
 私は、あなたと一緒に行く事が出来ません」
「……」
「ヴィヴィオと一緒にいてあげたいのです。
 それに、アリシアも──親がいない二人についていてあげたい……それが、私の願いです」

 そう──レイジングハートはこれから、ヴィヴィオとアリシアのもとで二人の面倒を見ておきたいと思っていた。
 ヴィヴィオもアリシアもまだ幼い。
 二人とも、一人では生活できないが、レイジングハートがその身元を引き受ける形でどうにかする事はできないだろうか?
 彼女は、そう考えていたのだ。

「……何言ってんだよ、レイジングハート。俺だって、もう孤独じゃないんだ。
 それぞれの道を行けば良い。……また会えるさ」

 零も、とうに自分の道を進む決意を決めていたようだった。
 彼はこれから、修復されたシルヴァや、死んだはずだった父や婚約者とともに、魔戒騎士として戦い続けて行く事になるだろう。

771変身─ファイナルミッション─(9) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 22:40:33 ID:GU7jrFVA0
 しかし、零がそんな事を言うと、横からザルバが、

『とか言って、少し別れが惜しいんじゃないか? 零』

 などと茶化した。

「うるさいな……。
 でも、お前だって、帰ったら、次の黄金騎士が現れるまで眠るつもりなんだろ?
 お前こそ、本当にしばらく会えないじゃないか」
『ああ……鋼牙が死んでしまった以上は、そうなるな』

 ザルバも、これからしばらくは、零とは別の道にある事になる。
 同じ世界にいる零でさえ、その後ザルバと会う事は出来なくなってしまうだろう。
 それは、他の仲間たちにとっては、初めて聞く事になった事実である。

「そうだったんですか。……寂しくなりますね」

 ヴィヴィオが、それを聞いて、驚きつつも、視線を下げた。

『大丈夫さ、零が次の後継者を探してくれるらしい。俺もすぐにまた、どこかで会うさ』
「ああ。その時が来たら、いつか会わせてやるよ、お前たちにも」

 零は、そういう意味でも既に覚悟を持っている。
 ザルバと黄金騎士の鎧を継承する、新たなる魔戒騎士の誕生を支援し、見守る為に……。
 元々弟子を持つつもりのない零も、きっとその少年の師となる事になるだろう。

「──……そうですね。皆さん、また、会いましょう」

 ふと、つぼみが言った。

「毎年……ううん、もっと時間はかかるかもしれないけど……また、みんなで会いましょう! 一緒に約束したんですから……!」

 そんなつぼみの提案は、誰もが笑顔で返した。
 実際のところ、つぼみと美希は度々会う事になるだろうが、他の世界で生きる者たちはその機会は少ないかもしれない。
 しかし、出来るのなら、会える限り、みんなでまた会いたい。
 それこそ、「同窓会」というのもいいかもしれない。

「そうだな……」

 翔太郎も、それに乗った。
 出来るのなら、十年後、二十年後もみんなで揃って楽しくやりたいと、この時の翔太郎は思っていた。
 ヴィヴィオが再び口を開いた。

「じゃあ、今度は、誰が一番長く生きられるか──……そういう競争を始めましょう」
「なんだよそれ、ヴィヴィオが一番有利じゃねえか」
「あはは……考えてみたら、そうですね」

 そんな仲間たちの姿を、孤門はじっと見つめていた。



「そうだね。笑ってお別れが出来るように、死んだ仲間の分まで生きていこう──」







【その後】

 ……高町ヴィヴィオは、この後、ストライクアーツでの成績においては、概ね優秀ではあったものの、結局その選手生命の中においては、大きな大会で優勝を手にする事はなかった。
 その要因に、アインハルト・ストラトスに匹敵する良き友、良きライバルが現れなかったという事実がある。
 私生活では、ヴィヴィオはレイジングハート・エクセリオン、アリシア・テスタロッサの二名と共に、奇妙な共同生活を続け、それぞれ自立していった。
 ストライクアーツを引退した後は、そのトレーナーとして活躍。
 ヴィヴィオやアインハルト以上の選手を多数輩出している。






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