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変身ロワイアルその6

716変身─ファイナルミッション─(6) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 21:14:59 ID:GU7jrFVA0



 ──不可解な静寂。

 ガイアセイバーズを見下ろすカイザーベリアルは、自ら口を開く事はなかった。
 そして、ガイアセイバーズと呼ばれた男たちも、その姿をただ、見上げて、一概に「敵を睨んでいる」とも言い切れない瞳で見つめるだけだった。

 これは、「緊張」と呼んでいいのか、わからない。
 もはや、それは奇妙な時間のマジックだった。何時間となく、無言の睨み合いが続いていたような気さえした。

 それは、余裕を心に内在しているベリアルの側も同じ事だった。
 自分がこうして出向く事になる事など、殆ど無いと思いつつ、心のどこかではそれを期待していた……そんな感情もあったのだろう。
 ベリアルにとっては、まるで現実味のない夢が叶ったようでもあり、厄介な邪魔者に夢を邪魔されているようでもあった。この強敵でさえ、そんな微妙な感慨に没していた。
 だが──誰かが、その、何人も口を開く事ができなかった静寂を、ふと打ち破った。

「────みんな……奴を倒し、全てを終わらせるぞ……!!」

 それは──シャンゼリオン、涼村暁だった。
 誰もが一斉に、彼の方を見た。──彼がその言葉を告げた事を、誰もが心から意外に思ったようだった。
 目の前の敵が倒されれば死ぬ──そんな宿命を背負っているのは、実のところ、この元一般人の青年に他ならない。

 そして、何より彼には──涼村暁には、そんな宿命と戦うヒーローの自覚は全くない。
 今日の今日に至るまで、ただ、なりゆきでそれらしい事をしているが、普通の人間だ。いや、むしろ……およそ、ヒーローの資質とは無縁な性格の男だと言える。

 そんな彼が……真っ先に……。
 真っ先に──この静寂を打ち破り、こうして誰かの心を熱くさせたのだ。
 ぐっと、全員が顔を顰めた。



「──ガイアセイバーズ。
 遂に加頭まで倒しやがったか……俺様の前に現れるとは、予想外だった」



 まるで暁に釣られるように、ベリアルの方が言った。
 静寂が打ち破られ、雲が次第に晴れるようにしてベリアルの目が光る。
 誰もが、初めて、ベリアルの声を聞いた。それぞれが全く別の声に聞きとったのだが──いずれにせよ、それは巨悪らしい低い声だった。
 こんなに近くで──全ての世界を崩壊させようとする元凶が自分たちに語りかけているのだ。この最大の怪物が……。
 彼一人が、宇宙を支配し、そして崩壊させようとしている。
 そして、彼がいれば、これから数日と宇宙を保たせる事はできない。

「まさかお前らとこうして会う事になるとは思わなかった……褒めてやるぜ!」

 そして。
 そんなベリアルの声色は、心なしか、どこか嬉しそうだった。
 それが何故なのかは、すぐには誰にもわからなかった。
 世界にただ一人いるのが、いかに退屈なのだろうか……。
 きっと、内心ではそうなのだろう。
 それを、表には出さずともどこかでわかっていたのかもしれない。

 ……世界の支配者には、「敵」が必要だった。
 世界の一番上に立った支配者にあったのは、満足感や充足感だけではなく、渇きだったのだ。元から持ち合わせていた隙間が、圧制によって埋められる事はない。
 だが、今、こうして彼らが乗り越えて来た事で、ガイアセイバーズという絶対の敵が生まれたのだ──。
 おそらく、ウルトラマンノアの再誕を妨害しながらもその姿が現れると歓喜にも似た感情を抱いたダークザギも、同じ心情だったに違いない。

 ガイアセイバーズの中にも、ベリアルを前に、何か胸騒ぎがする者がいた。
 それは、恐れではない。


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