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変身ロワイアルその6
706
:
変身─ファイナルミッション─(5)
◆gry038wOvE
:2015/12/31(木) 20:57:15 ID:GU7jrFVA0
加頭は、その瞬間、思わず、笑顔を浮かべた。目的の一つが完了したのである。状況はどうにもならないが、この事が少し加頭に力をくれる。
彼女が放つ異様な雰囲気には、まるで気づかずに。
「冴子さん……良かった……蘇ったんですね!」
加頭は、消えそうな身体でまた一歩を踏みしめた。
冴子に、よろよろの身体で近づいて行く。急いでいるつもりだが、その歩測は普通の人間にも及ばないほどだ。
……彼女がいる場所に、少しでも近づきたい。
「あなたさえ生きていれば……私は……」
そうだ。
全ては彼女の為に──彼女と共にある為に、やった事なのだ。
この場所を理想郷に出来る。何度でも立て直してやる。
「……私は……──」
加頭がようやく、冴子に近づき、両手を広げた時であった。
目の前の冴子は、目をぎょろりと見開いて、──ニヤリと笑った。
そして、そのまま──、自分の正体を明かした。
「ガァァァァァァァァァァァァ────!!!!!!」
冴子の殻を破り、「黒い化け物」が現れたのである。
──それは、園咲冴子ではなかった。
ただのグロテスクな、腐敗した死骸のような怪物……人を喰らい、人の陰我と共に現れる人間たちの天敵だ。
そして、驚き目を見開いた加頭もまた、“それ”に見覚えがあった。
この戦いの中には、彼らを狩るべく使命を持った騎士が参加していたのだ。
「──!?」
そう──古の怪物・ホラーである。
魔戒騎士たちが追い続けてきた、人間の陰我に芽生える獣。それがホラーだった。
そこにいるのは、園咲冴子ではなく、魔弾を受けた時にホラーと化した人間の成れの果てであった。
彼女の身体の欠片をいくら集めようが、それは──既にホラーに喰われた人間の肉の欠片に過ぎなかった。全ては食い散らかされた死体で──そこに人の意思などなくなったのだ。
それを見た瞬間、遂に加頭の中においても、冴子への執着よりも恐怖が勝り、加頭は冴子だった物を信じられない風に見つめながら、尻を地面に突く事になった。
「な、何故……! なんだ……この化け物は……!!」
目の前から向かって来ようとする怪物。
そこから逃れようと必死にもがく加頭。
「くっ……!! どういう事だ……どういう事だァァァァァッ!!!!!」
それが、最後の希望が絶たれた哀れな人間の姿だった。
冴子がホラーに取り憑かれたまま、どんな技術を以ても、“治る事がない”存在なのは、もはや、不変の事実であった。
ホラーに喰われた人間は助からない。──加頭が最も甘く見ていた前提が、それなのかもしれない。
「くっ……!」
加頭が四つん這いで逃げるのを、ホラーが捉えようとする。
悠然と歩き、エモノを食らおうとする園咲冴子の皮を被っていた怪物──加頭の死は、既に目前である。
加頭はホラーの餌になる。
最も、あってはならない苦しい死に方だ。
と、恐るべき死を忌避しながらも、心のどこかで覚悟した──そうせざるを得ないと確信した時だ。
「──」
カシャ……カシャ……。
奇妙な、音がした。
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