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変身ロワイアルその6

1名無しさん:2014/08/07(木) 11:23:31 ID:V1L9C12Q0
この企画は、変身能力を持ったキャラ達を集めてバトルロワイアルを行おうというものです
企画の性質上、キャラの死亡や残酷な描写といった過激な要素も多く含まれます
また、原作のエピソードに関するネタバレが発生することもあります
あらかじめご了承ください

書き手はいつでも大歓迎です
基本的なルールはまとめwikiのほうに載せてありますが、わからないことがあった場合は遠慮せずしたらばの雑談スレまでおこしください
いつでもお待ちしております


したらば
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/15067/

まとめwiki
ttp://www10.atwiki.jp/henroy/

2名無しさん:2014/08/07(木) 11:26:02 ID:V1L9C12Q0
参加者

【魔法少女リリカルなのはシリーズ】1/7
●高町なのは/●フェイト・テスタロッサ/●ユーノ・スクライア/●スバル・ナカジマ/●ティアナ・ランスター/○高町ヴィヴィオ/●アインハルト・ストラトス

【仮面ライダーW】1/7
○左翔太郎/●照井竜/●大道克己/●井坂深紅朗/●園咲冴子/●園咲霧彦/●泉京水

【仮面ライダーSPIRITS】1/6
●本郷猛/●一文字隼人/●結城丈二/○沖一也/●村雨良/●三影英介

【侍戦隊シンケンジャー】1/6
●志葉丈瑠/●池波流ノ介/●梅盛源太/○血祭ドウコク/●腑破十臓/●筋殻アクマロ

【ハートキャッチプリキュア!】1/5
○花咲つぼみ/●来海えりか/●明堂院いつき/●月影ゆり/●ダークプリキュア

【魔法少女まどか☆マギカ】1/5
●鹿目まどか/●美樹さやか/○佐倉杏子/●巴マミ/●暁美ほむら

【らんま1/2】2/5
●早乙女乱馬/○天道あかね/○響良牙/●シャンプー/●パンスト太郎

【フレッシュプリキュア!】2/5
○桃園ラブ/○蒼乃美希/●山吹祈里/●東せつな/●ノーザ

【ウルトラマンネクサス】2/5
○孤門一輝/●姫矢准/○石堀光彦/●西条凪/●溝呂木眞也

【仮面ライダークウガ】0/5
●五代雄介/●一条薫/●ズ・ゴオマ・グ/●ゴ・ガドル・バ/●ン・ダグバ・ゼバ

【宇宙の騎士テッカマンブレード】0/4
●相羽タカヤ/●相羽シンヤ/●相羽ミユキ/●モロトフ

【牙狼−GARO−】1/3
●冴島鋼牙/○涼邑零/●バラゴ

【超光戦士シャンゼリオン】1/3
○涼村暁/●速水克彦/●黒岩省吾

【14/66】

※主催陣営の記録

3名無しさん:2014/08/07(木) 11:26:42 ID:V1L9C12Q0
ルールが長くなってしまったため、特徴的な部分だけ抜粋
詳細が知りたい方は、下記リンク参照してください

ttp://www10.atwiki.jp/henroy/pages/19.html

【変身用アイテムのデフォ支給】
基本支給品やランダムアイテムに加え、変身用アイテムがデフォルト支給されます

ガイアメモリ、デバイス、ソウルジェム等があたり、これらはランダムアイテムとは別に必ず本人に支給されます
照井竜のガイアメモリやスバル・ナカジマのデバイスのように、変身用アイテムが複数存在している場合も全て本人に支給とします
ただし、参戦時期によってはその限りではなく、例えば照井竜の場合、トライアルメモリを得る前からの参戦ならば、トライアルメモリは支給されません
また、変身アイテム以外の武装、例えば暁美ほむらの銃火器等は全てランダム支給へと回されます

固有の変身アイテムを持たない人間には、この枠でのアイテム支給はされません

※ハートキャッチプリキュアのプリキュア達には、プリキュアの種とココロパフュームを支給。妖精は支給されません。
※左翔太郎、ウルトラマンネクサスのデュナミストについて特殊ルールが存在

4名無しさん:2014/08/07(木) 11:28:29 ID:V1L9C12Q0
前スレがまだ50レス分くらい残っていますが、ちょっと長い作品が投下される可能性があるので先にスレ立てしました。
実際、どれくらいレスを消費するのかわかりかねるので、とりあえず完成分の一部を投下します。

前スレ:変身ロワイアル5
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1395464461/l50
こちら埋めていただけたら幸いです。

5 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:34:02 ID:V1L9C12Q0
いまからそれじゃあ、今から投下します。
今回は196話〜200話までざっと5話分投下しますね。

6最後の六時間 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:35:15 ID:V1L9C12Q0



『皆の衆、ご機嫌いかがかな? 拙者は脂目マンプク。第五回放送を担当する者だ。
 今回は重要な報告があるが、まずはいつも通り、死亡者の報告から始めさせて頂く』

 天道あかねが山道を歩いていると、ふとそんな放送が耳を打った。
 今度の放送もまた別の人間が担当するらしい。あかねにとって、放送は命綱だ。
 多くの参加者にとっては、現状辛うじて聞き逃しても問題はない物だが、死亡者や禁止エリアに関する情報を一切得ていないあかねにとっては、情報を得るのに必要不可欠である。
 彼女自身は知る由もないが、現状、単独行動をしているのは彼女のみで、繋がりを一切持っていないのも彼女だけであった。

 とにかく、彼女は名簿と地図を出して、一体どんな内容の放送が行われるのか待っていた。
 今頃そんな体勢で放送を待っていたのは、おそらく彼女のみである。
 既に他の参加者は自分以外の参加者のスタンスも把握し、生者死者も一目でわかるほどである。禁止エリアに関する下調べも全く不要であった。
 彼女自身も、自分がどれほど道化であるのかも知らぬまま、ペンを取り出していた。

『今回の死亡者は、三名。ゴ・ガドル・バ、冴島鋼牙、結城丈二──以上だ。
 残る人数は十四名。前回と同じく、禁止区域はない』

 あかねは、ペンを持つ手をいずれかの名前に近づけようとしていたが、その手をすぐに止める。

 ────ゴ・ガドル・バ?

 ダグバの仲間であるあの怪物が、もう既に殺されてしまった? この放送が本当ならば、そういう事になる。
 あかねにとって、ガドルこそが残る最後の「仇」であった。ゴオマもダグバも死んだ現状、唯一、あかねが自らの手で必ず殺さなければならない相手であった。
 グロンギを殺し、仇を討つ事が当面のあかねの目標であった。
 結局、あかねは誰も「仇」を殺せていないというのか──?
 自分は今も、ガドルを殺す為にホテルを出て、こうしてここまでやって来たのだ。

最初の一人の名前を聞いて、そこから先の名前は耳に入らなかった。残りの二人の名前は彼女が意識を向けるほどではなかった。

(嘘……うそ……)

 それならば、何故……自分はこんなに……。
 頭の中が真っ白になるが、それでも放送は重要な情報を伝え続ける。

『さて、ここからが本題だ。
 多くの者はわかると思うが……積極的に殺し合いをしている参加者は、最早少数。このままでは殺し合いの続行そのものが危ぶまれる状況でござる。圧倒的多数が首輪を解除し、殺し合いを拒否している状況では、こちらもどうする事もできないのだ。
 不服だが、この状況だ。拙者たちもおとなしく負けを認めよう。この殺し合いは、現在生き残っている人間たちの勝利でござる』

 勝利。
 聞こえのいい言葉だが、あかねはまだ勝利と呼べるような事は何もしていない。
 あるのは、むしろ敗北感だ。殺し合いに乗り、首輪もつけているあかねはかなりの少数派なのだという。ゴオマもダグバもガドルも、どこか見知らぬ場所で死んでいってしまった。
 これから戦っていく事に、価値はあるのだろうか?
 これまでの戦いにはどれだけの価値があったのだろう。……ガドルも結局、誰かが殺してしまったという。
 自分から仇を奪う何者かがいた。
 許せるはずがない。……そう。



『──────即ち、最後の一人が決まらない状況でも、生きている全員で元の世界に帰還する権利を与える』



 生還? ……いや、自分はそんな事は望んでいない!
 一つの大いなる目的があって、そのために殺し合いに乗っているのだ。
 殺し合いがどんな目的で行われているかは全くわからないが、向こうの提示した目的の為に必死で働いて来た。

7最後の六時間 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:35:37 ID:V1L9C12Q0

 ある意味、殺し合いに乗るという事自体は主催への奉仕でもある。
 その厚意を突き放して、勝手に殺し合いを中断するなど許されるはずがない。
 今生きている人間が全員生き残ってどうする? 仮に全員が生き残ったとして、死んでしまった人間はどうなる?
 死んだ人間の為に殺し合いをする自分は、利用するだけ利用されて捨てられてしまうのか?


『皆の衆には嬉しい報告だろう。これぞ勝者の証だ。
 ……ただし、これまた最後に、たった一つだけ、ちょっとした条件がある。
 その条件とは、【残り人数が正午までに十名以内になった場合に限る】という事だ。
 それから、もし、その方法で生き残った場合、こちらからの報酬は残念ながら与える事はできない。報酬を受け取ろうという意思ある者は、正午までに全員を殺せば報酬を与える』

 その瞬間、思わずあかねは叫んだ。
 空中に映る脂目マンプクの肥満体に向けて、声を張り上げて叫んだ。
 喉の奥から、叫びは自分の意思に反して押し出されていく。

「報酬が与えられない!? それってどういう事よ……!!!! 私が欲しいのは、ただの生還じゃない……!!!! こんなの、裏切りじゃない!!!!!!!!!!」

 ただ帰るだけではない。
 誰かの為に戦わなければならない。
 あかねの目的は優勝。
 それだけは揺らがない。

 残り参加者は何人だ?
 あと六時間でそれを全員?
 無理だ。どう考えても。
 しかしやらなければならない。
 時間が惜しい。
 何でもいい。
 全部殺さなければ。

「うわあああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!!!」

 あかねの中の憎しみが膨らんでいく。
 あかねの体を、一瞬で黒き戦士に“変身”させる。

「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

 伝説の道着は、その瞬間を見て、思わず逃げ出そうとした。
 邪気があかねの体を変貌させ、非人へと変える。

「ヴヷォ゙ア゙ル゙ァ゙ァァァァァァァァァァァ」

 あかねはプロトタイプアークルの力を無意識下に発動したのである。
 あかねの体が白いクウガへと変身した後、今度は黒へ。
 凄まじき戦士、と呼ばれた新たなる体へと。
 刺々しくなった体つきは、既にあかねの面影などどこにも残していなかった。
 人間としての理性を残さず、ただ参加者を狩るべく、己の意思を捨てた姿。
 真っ黒な瞳が朝方の森に小さな闇を作る。



「…………ッガァァァ!!!!! ウガアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!!!!!!」



 ────あらゆる物への憎しみが、すぐに彼女を怪物へと変えていくのに時間はかからなかった。
 既にそこに天道あかねはいない。
 天道あかねを取り込み、伝説の道着を取り込み、メフィストの闇を取り込み、その瞬間に巻き起こった裏正の無念や後悔さえも全て取り込み、飲み干した。
 まさしく、それは狂戦士。

 彼女を救える物はどこに────。

8最後の六時間 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:37:14 ID:V1L9C12Q0

【2日目 朝】
【D−7 森】
【天道あかね@らんま1/2】
[状態]:アマダムの力暴走、アマダム吸収、メフィストの闇を継承、肉体内部に吐血する程のダメージ(回復中)、ダメージ(極大・回復中)、疲労(極大)、精神的疲労(極大)、胸骨骨折(回復中)、 とても強い後悔と悲しみ、ガイアメモリによる精神汚染(進行中)、自己矛盾による思考の差し替え、動揺、「黒の二号」に変身中(自分で解除できない)
[装備]:伝説の道着@らんま1/2、T2ナスカメモリ@仮面ライダーW、T2バイオレンスメモリ@仮面ライダーW、二つに折れた裏正@侍戦隊シンケンジャー、ダークエボルバー@ウルトラマンネクサス、プロトタイプアークル@小説 仮面ライダークウガ
[道具]:支給品一式×4(あかね、溝呂木、一条、速水)、首輪×7(シャンプー、ゴオマ、まどか、なのは、流ノ介、本郷、ノーザ)、女嫌香アップリケ@らんま1/2、斎田リコの絵(グシャグシャに丸められてます)@ウルトラマンネクサス、拡声器、双眼鏡、インロウマル&スーパーディスク@侍戦隊シンケンジャー、紀州特産の梅干し@超光戦士シャンゼリオン、ムカデのキーホルダー@超光戦士シャンゼリオン、滝和也のライダースーツ@仮面ライダーSPIRITS、『長いお別れ』@仮面ライダーW、ランダム支給品1〜2(溝呂木1〜2)
[思考]
基本:"東風先生達との日常を守る”ために”機械を破壊し”、ゲームに優勝する
0:暴走
[備考]
※参戦時期は37巻で呪泉郷へ訪れるよりは前、少なくとも伝説の道着絡みの話終了後(32巻終了後)以降です。
※伝説の道着を着た上でドーパント、メフィスト、クウガに変身した場合、潜在能力を引き出された状態となっています。また、伝説の道着を解除した場合、全裸になります。
また同時にドーパント変身による肉体にかかる負担は最小限に抑える事が出来ます。但し、レベル3(Rナスカ)並のパワーによってかかる負荷は抑えきれません。
※Rナスカへの変身により肉体内部に致命的なダメージを受けています。伝説の道着無しでのドーパントへの変身、また道着ありであっても長時間のRナスカへの変身は命に関わります。
※ガイアメモリでの変身によって自我を失う事にも気づきました。
※第二回放送を聞き逃しています。 但し、バルディッシュのお陰で禁止エリアは把握できました。
※バルディッシュが明確に機能している事に気付いていません。
※殺害した一文字が機械の身体であった事から、強い混乱とともに、周囲の人間が全て機械なのではないかと思い始めています。メモリの毒素によるものという可能性も高いです。
※黒岩が自力でメフィストの闇を振り払った事で、石堀に戻った分以外の余剰の闇があかねに流れ込みメフィストを継承しました(姿は不明)。今後ファウストに変身出来るかは不明です。
 但し、これは本来起こりえないイレギュラーの為、メフィストの力がどれだけ使えるかは不明です。なお、ウルトラマンネクサスの光への執着心も生じました。
※二号との戦い〜メフィスト戦の記憶が欠落しています。その為、その間の出来事を把握していません。但し、黒岩に指摘された(あかね自身が『機械』そのものである事)だけは薄々記憶しています。
※様々な要因から乱馬や良牙の事を思考しない様になっています。但し記憶を失っているわけではないので、何かの切欠で思考する事になるでしょう。
※ガミオのことをガドルだと思い込んでいます。
※プロトタイプアークルを吸収したため仮面ライダークウガ・プロトタイプへの変身が可能になりました。
※自分の部屋が何者かに荒らされていると勘違いしています。おそらくガドルやガミオだと推定しています。
※どこに向かうのかは後続の書き手さんにお任せします。

9 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:38:18 ID:V1L9C12Q0
196話は以上です。
続いて197話を投下します。

10崩れ落ちた教会の真横で ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:40:04 ID:V1L9C12Q0



 孤門一輝が運転するシトロエン2CVの中にも、当然脂目マンプクの放送は響いた。
 放送内容によれば、なんでもゴ・ガドル・バはあの時点で確かに死亡したらしい。それについては安心して良いらしく、冴島鋼牙や結城丈二といった犠牲者には申し訳なく思いながらも、ガドルの死を彼は、少しくらいは喜んだ。これ以上、自分や周囲が犠牲になる状況は防げる事になる。
 ガドルが死んだならば、ドウコクが仲間になった現状では、危険になるのはあかねだけだ。
 残すところ、十四名。──そう、それを聞いたまでは良かった。

「十人……」

 正午までに残り人数を十人まで減らさなければならない、という条件が伝えられた。

 この条件が、孤門たちにとって最悪なのである。
 実は条件そのものが孤門たちの精神に及ぼす影響はそこまではない。ここまで築かれた信頼関係を崩壊させようという気はさして無いからだ。孤門たちの多くは、相互的に犠牲を強いたりする人物ではない。
 だが、唯一の問題は血祭ドウコクである。

 志葉屋敷に置いてきたドウコクが、果たしてこの条件に乗らないでいてくれるかが孤門たちにはわからない。──いや、むしろ、乗る可能性の方が高いだろう。
 あの時点でドウコクを仲間に引き入れたとはいっても、こうした条件が提示された時にドウコクがどう行動するのかは想定の範囲外なのだ。これまでドウコクが自分たちを何度も襲撃してきた記憶は嘘をつかない。
 ドウコクが求めるのは効率の良い帰還方法である。そして、その理念に基づいて最も効率的なのかを考え、結果的に仲間になったのが彼だ。この状況下、敵側の条件で勝利を得ようとする確率も否めない。

 引き返す、という手段も孤門にはある。
 だが、孤門はこのまま引き返す気はなかった。アクセルを緩めず、車は真っ直ぐ前に走っていく。窓は外の景色を置き去りにした。

「ラブちゃん、沖さんに連絡を頼む。ドウコクが暴れていないか、少し心配だ」

 真横からラブの名前を呼んだ。
 孤門はフロントガラスの向こうを見ていた。向こうには、倒壊した建物の姿が見えた。おそらく、それは教会だ。道路沿いにある施設は、他にない。
 崩落した建物の横を走っていると、まるで地震やビースト災害の現場に来ている気分である。人里離れたこの平原に、教会が一つ、支柱を失い傾いていた。
 こんな状況では、地に落ちた十字架が何かを暗示しているようにも見えて恐ろしい。

「それなら、引き返したら……」
「悪いけど、今から引き返す余裕はない。こっちもなるべく六時間以内で決着をつけなきゃならないんだ」

 シトロエンが走る最中、二人は不安を抱えていた。
 引き返さないのには理由がある。
 今から引き返したとしても明らかに手遅れなのだ。ここまでの道のりを考えればわかる。何十分かかけて走って来た道なのだ。引き返すのには同等の時間がかかり、その間に物事の決着がつく余地がある。
 一也ならば、説得するか、防衛するかのどちらかに成功できるかもしれない。──それに賭けるしか手はないのだ。
 残り十名まで減らす、というのは案外難しくない話であるのは少し問題だ。
 ここまでの死亡人数を考えれば、六時間に減る人数として妥当でもある。
 ドウコクも満身創痍であるが、こちらも同様だ。多くの参加者は傷を抱え、負担を背負い、更に頭の上から疲労と汗を被っているような状態である。隙を突けば脆く崩れるのはお互い様だ。有利なのは、最初から非人にして、科学でも埋められないような圧倒的な身体能力を持っているドウコクだろう。

 たった十人が生き残れるとしても、彼らガイアセイバーズは十二人いる。それに加えて、あかねやさやか、マミも助けたいという欲が張っている状況なのが実情だ。
 目的全てを果たすと、どう考えてもマイナスが生じてしまう。
 それでも彼らは、救える限り全員で生還する必要がある。この殺し合いの黒幕だって捕まえなければならない。────残り六時間で、すべて解決して脱出するのだ。
 その為には、まず、それぞれが今すべき事をして、冴島邸に全員で集合するのがベストな手段である。

 孤門たちは、すぐに教会の横を通りすぎ、その先へ進んでいく事になった。





11崩れ落ちた教会の真横で ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:40:21 ID:V1L9C12Q0



 佐倉杏子の耳には、全て聞こえていた。
 彼女は、後部座席で目を閉じながらも、脂目マンプクの言葉を全て頭の内に留めたのである。紙とペンでメモライズする必要はまるでなかった。

(私たちの中から、十人選んで、残りは死ななきゃならない……)

 彼女は確かに、死にたくないと思っている。自分の命は当然惜しく、今持っている意思が消えさえる事にも抵抗がある。だが、どっちにしろ近々死ぬ道しかないのが──彼女たち、魔法少女だ。
 ソウルジェムの仕組みがその理由である。ソウルジェムが濁れば、元の世界に帰ろうが結局は碌な道を辿れない。他人の犠牲を強いて得た生もまた儚く、ましてそれが次の生を妨害する。それならば、いっそここで命を絶つのも一つだ。
 魔女になる前に死ぬ──という最後の機会である。

 正午までは時間がある。それまでに犠牲になるべきは、まずドウコク。それから自分自身。本当にあの時に会ったままなら、あかねもそうだ。そして、残念ながらあと一人強いるべき犠牲が要る。
 ただ、あと一人という所まで残せば、きっと誰かが犠牲になるだろう。
 それが美希やヴィヴィオじゃないのはまず確実だ。それに、つぼみやラブでもない。彼女たちは「女」であり「子供」でもある。守られるべき存在としては至極わかりやすい特徴を持っている。犠牲になるのはおそらく成人男性。名乗り出てくれるであろう男として、一人だけ杏子の頭の中に候補が浮かんだが、──あの男は自分の命を惜しむのだろうか。

(クソ……)

 彼女の中に浮かんだのは翔太郎であった。それは今でも全く間違いなかった。もし、彼もまた死にたがりであったのなら、ある意味、彼と心中する羽目になるのだろうか。
 いや、今の彼とそうなるのは御免だが──考えてみれば、杏子も本質的には、今思い描く彼と同様の死にたがりであったのかもしれない。同族嫌悪というやつに似ているかもしれないが、その死にたがりな性質が無性に腹立たしくなった。

(──)

 この状況ならば自分が犠牲になっても良いと、本気でそう思っている自分がいた。
 そんな自分が嫌じゃない。
 しかし、仮にもし、翔太郎がそれと全く同じ事を考えるのは何故か嫌になる。

(……)

 杏子は、目を閉じたまま、外の景色はわからないまま、車の流れに揺られていた。
 懐かしい仲間や家族に会うまでの時間が、刻一刻と迫っているのを彼女は感じている。

 そうだ。今は何をしなければならないのだったか。
 そう、これから、できる限りの手段を尽くしてマミを助けに行くのだ。

 救済──それがラブの選んだ手段である。

 プリキュアらしい思考であった。ある限りの物は心の隅まで幸で満たそうとする。しかし、今というのは本当にそれが実利的に正しいのかわからない事態だった。マミが救われれば、また一人、犠牲にならなければならない命が増えてしまうのである。
 ……だが、杏子の場合、もしかすればマミを救いたいと思うのは、マミにまた生きてほしいからじゃないのかもしれないとも思っていた。だから、ほんのひと時生きていて貰えればいい。昔の事を少し謝りたいのと、マミが人に害を加える存在として散っていくのが許せないからだ。それなら、ひと時でも正気を取り戻してほしい。
 それだけなのだ。
 一瞬でもいい。その後、一緒に逝くのでもいい。杏子はきっと、未練があるから、その未練を晴らしたいだけなのだ。

 車体が緩やかなカーブを走っていく時……ふと、昔死んだ家族の声が聞こえたような気がしてきた。
 眠りにつく杏子には、自分の真横で見覚えのある教会が倒壊している事など気づく余地もなかった。





12崩れ落ちた教会の真横で ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:40:41 ID:V1L9C12Q0



 桃園ラブは、ショドウフォンでスタッグフォンに電話をしようとしていた。
 リンクルンが通信機能を妨害されている以上、使用できる携帯電話はこちらのショドウフォンである。少し使いづらいデザインの携帯電話だが、まあ主な用途が通話と変身ならば仕方がない。
 ラブが思い切って使う事は難しそうだ。

「もしもし……」

 pllllllllll……。
 pllllllllll……。

 何度か鳴った後だが、一向にスタッグフォンは応答しなかった。
 これがラブの中で、焦りを加速させる原因になる。今、ラブたちが突き進んでいる真後ろでは、ドウコクが暴れ、知っている人たちが死んでいるかもしれない──その不穏が一瞬にして説得力を持った。
 電話に出られないという事は、向こうも相応の問題が発生した証だ。一度目ならば、まだ気づいていないだけという事もある。

「もしもし……」

 二度発信したが、応答はなかった。
 この状況で全く応答がないというのは、一也の身に何かあった証である。一也ならば常に電話を注視するだろうし、何もなければ反応に気づかぬはずがない。ドウコクの首輪を解除している真っ最中という可能性も考えられるが、それならば、翔太郎でも最低限の電話連絡はできるのではないだろうか。実際に彼は片腕で杏子に電話をかけた事もある。
 しかし、──仮に何があったとしても、それでもラブたちはこの先にいるマミを助けなければならない。これから先に向かうとして、残り六時間の尺をマミと一也の二つの事に裂く事は難しい話であった。
 どちらかを助ける為にどちらかを捨てなければならないジレンマがラブを迷わす。


「応答、ありません……」

 そう寂しそうに言うラブの真横で、孤門はいっそう辛さを噛みしめて前を向いていた。
 ハンドルを握り、アクセルを踏み、フロントガラスの向こうを見つめている。彼は、車を運転しながらも、一也への心配が晴れぬまま、不安そうであった。しかし、それをかみ殺していた。

「……メールを、入れておいてくれ」

 メールが届いたところで、彼らはどうなっているのかわからない。
 ただ戦闘中のゴタゴタがあっただけで、ともかく生存はできているかもしれない。
 それなら、おそらくメールがちゃんと返ってくるはずだ。小手先の希望を抱きながら、彼らは走った。

「……」

 少しだけ、不安の方が大きかった。







 蒼乃美希は、全て聞きながら、ドウコクの性格について考えていた。
 果たして、血祭ドウコクは本当にこの放送を機に行動するだろうか。──結論から言えば、彼女にはそうは思えない。
 確かに、最も効率的な判断ができる人間かとは思うが、ドウコク自身、極力、周囲の人間を殺さずに行動しようとしているきらいはある。
 彼は殺戮を好んでいるだろうが、同時に自分にとってマイナスな殺戮はせずに済ませられる種であった。だから、美希は以前、アインハルトとともにそんなドウコクの性格を突くような作戦を一つ練る事ができたのである。
 直感レベルの話だが、説得の範囲で何とかなりそうな相手だとは思えた。

(どっちにしても、最悪の状況という可能性は低そうね……)

 それから、美希がドウコク以上に評価しているのは、沖一也だ。沖一也は彼らが考えているより、もう少し冷静に行動できる素質のある人間であった。

13崩れ落ちた教会の真横で ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:40:59 ID:V1L9C12Q0
 たとえば、「放送が終了するまで首輪を外さない」という判断は容易にできる。
 禁止エリアそのものは解除されていないからだ。結局のところ、残り参加者全員が禁止エリアに留まってしまえば、首輪付のドウコクはその後、参加者を十人に減らす行動ができない。そもそも禁止エリアの存在が首輪を装着した参加者には厄介である。首輪という枷がある限り、彼も自由は保障されないだろう。
 一也も、放送終了まではドウコクの首輪を外さずに様子を見ていた可能性が高い。

(可能性として考えられるのは、今が首輪を解除している真っ最中か、あるいは説得の真っ最中か……っていうところかしら)

 美希は眠りそうな頭でも考える。
 放送からすぐは返事が来ないのも無理はないが、ひとまず心配はいらないだろう。
 孤門もラブも心配しているようだが、少なくとも問題はないと考えていた。
 薄目で杏子を見ると、そちらも少し眠ったフリをしながら、どうも落ち着かない様子で指先を微かに震わせていた。
 シートに隠れて見えない場所で、まるで自分が起きているアピールをしているかのようでだった。







 それから、間もなくの出来事である。

「……孤門さん、沖さんからメールが返ってきました!」

 ラブが嬉しそうに言うのを、美希は「やはり」と思いながら聞いた。
 ほっと一安心というところだろうか。彼女は、暗いムードから明るい方向へと変わった転機を見計らって、ぱっと目を覚ました。

「あー、よく寝た……」

 本当は寝ていないが、美希は車内の狭さに気を使いながら伸びをした。正直、この車は狭すぎてストレスも溜まる。女子中学生三人と運転手一人でも随分と狭い。これでマミが加われば余計に大変な事になりそうだ。

「あ、美希たんおはよー」
「おはよう。……で、何が返って来たの?」
「うん? ああ、沖さんからのメールだよ」

 二人が心配しているほどではなかったらしく、実際、一也から返って来たのは『心配するな』という内容で、ひとまずラブたちは安心するのであった。そして、そのメール内の一也からの指示通り、バットショットから送信された動画の方にも目を通し、彼女たちもこちらの物語が動いている事を充分に実感していた。
 これから戦いに向かう車の中の、ちょっとした出来事であった。



【2日目 朝】
【F−2 倒壊した教会付近】

14崩れ落ちた教会の真横で ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:43:09 ID:V1L9C12Q0
【孤門一輝@ウルトラマンネクサス】
[状態]:ダメージ(大)、ナイトレイダーの制服を着用、精神的疲労、「ガイアセイバーズ」リーダー、首輪解除、シトロエン2CV運転中
[装備]:ディバイトランチャー@ウルトラマンネクサス、シトロエン2CV@超光戦士シャンゼリオン
[道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0〜2(戦闘に使えるものがない)、リコちゃん人形@仮面ライダーW、ガイアメモリに関するポスター×3、ガンバルクイナ君@ウルトラマンネクサス、ショドウフォン(レッド)@侍戦隊シンケンジャー
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
0:ラブの案内で図書館の方へ向かう。
1:みんなを何としてでも保護し、この島から脱出する。
2:ガイアセイバーズのリーダーとしての責任を果たす。
[備考]
※溝呂木が死亡した後からの参戦です(石堀の正体がダークザギであることは知りません)。
※パラレルワールドの存在を聞いたことで、溝呂木がまだダークメフィストであった頃の世界から来ていると推測しています。
※警察署の屋上で魔法陣、トレーニングルームでパワードスーツ(ソルテッカマン2号機)を発見しました。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※魔法少女の真実について教えられました。


【桃園ラブ@フレッシュプリキュア!】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、左肩に痛み、精神的疲労(小)、決意、眠気、首輪解除
[装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式×2(食料少消費)、カオルちゃん特製のドーナツ(少し減っている)@フレッシュプリキュア!、毛布×1@現実、ペットボトルに入った紅茶@現実、巴マミの首輪、工具箱、黒い炎と黄金の風@牙狼─GARO─、クローバーボックス@フレッシュプリキュア!、暁からのラブレター
基本:誰も犠牲にしたりしない、みんなの幸せを守る。
0:図書館の近くで魔女になるマミの事を──。
1:マミさんの遺志を継いで、みんなの明日を守るために戦う。
2:犠牲にされた人達のぶんまで生きる。
3:どうして、サラマンダー男爵が……?
4:後で暁さんから事情を聞いてみる。
[備考]
※本編終了後からの参戦です。
※花咲つぼみ、来海えりか、明堂院いつき、月影ゆりの存在を知っています。
※クモジャキーとダークプリキュアに関しては詳しい所までは知りません。
※加頭順の背後にフュージョン、ボトム、ブラックホールのような存在がいると考えています。
※放送で現れたサラマンダー男爵は偽者だと考えています。
※第三回放送で指定された制限はなかった模様です。
※暁からのラブレターを読んだことで、石堀に対して疑心を抱いています。
※結城丈二が一人でガドルに挑んだことを知りました。
※魔法少女の真実について教えられました。

15崩れ落ちた教会の真横で ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:43:20 ID:V1L9C12Q0

【蒼乃美希@フレッシュプリキュア!】
[状態]:ダメージ(中)、祈里やせつなの死に怒り 、精神的疲労、首輪解除
[装備]:リンクルン(ベリー)@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式((食料と水を少し消費+ペットボトル一本消費)、シンヤのマイクロレコーダー@宇宙の騎士テッカマンブレード、双ディスク@侍戦隊シンケンジャー、リンクルン(パイン)@フレッシュプリキュア!、ガイアメモリに関するポスター、杏子からの500円硬貨
[思考]
基本:こんな馬鹿げた戦いに乗るつもりはない。
0:ラブの案内で図書館の方へ向かう。
1:ガイアセイバーズ全員での殺し合いからの脱出。
2:杏子たちの隠し事については…。
[備考]
※プリキュアオールスターズDX3冒頭で、ファッションショーを見ているシーンからの参戦です。
※その為、ブラックホールに関する出来事は知りませんが、いつきから聞きました。
※放送を聞いたときに戦闘したため、第二回放送をおぼろげにしか聞いていません。
※聞き逃した第二回放送についてや、乱馬関連の出来事を知りました。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。


【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、ソウルジェムの濁り(中)、腹部・胸部に赤い斬り痕(出血などはしていません)、ユーノとフェイトを見捨てた事に対して複雑な感情、マミの死への怒り、せつなの死への悲しみ、ネクサスの光継承、ドウコクへの怒り、真実を知ったことによるショック(大分解消) 、首輪解除、睡眠?
[装備]:ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、エボルトラスター@ウルトラマンネクサス、ブラストショット@ウルトラマンネクサス
[道具]:基本支給品一式×3(杏子、せつな、姫矢)、リンクルン(パッション)@フレッシュプリキュア!、乱馬の左腕、ランダム支給品0〜1(せつな) 、美希からのシュークリーム、バルディッシュ(待機状態、破損中)@魔法少女リリカルなのは
[思考]
基本:姫矢の力を継ぎ、魔女になる瞬間まで翔太郎とともに人の助けになる。
0:ラブとともにマミの死地に向かい、魔女と戦う。 だが、その後はどうする?
1:翔太郎達と協力する。
2:フィリップ…。
3:翔太郎への僅かな怒り。
[備考]
※参戦時期は6話終了後です。
※首輪は首にではなくソウルジェムに巻かれています。
※左翔太郎、フェイト・テスタロッサ、ユーノ・スクライアの姿を、かつての自分自身と被らせています。
※殺し合いの裏にキュゥべえがいる可能性を考えています。
※アカルンに認められました。プリキュアへの変身はできるかわかりませんが、少なくとも瞬間移動は使えるようです。
※瞬間移動は、1人の限界が1キロ以内です。2人だとその半分、3人だと1/3…と減少します(参加者以外は数に入りません)。短距離での連続移動は問題ありませんが、長距離での連続移動はだんだん距離が短くなります。
※彼女のジュネッスは、パッションレッドのジュネッスです。技はほぼ姫矢のジュネッスと変わらず、ジュネッスキックを応用した一人ジョーカーエクストリームなどを自力で学習しています。
※第三回放送指定のボーナスにより、魔女化の真実について知りました。

16 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:44:53 ID:V1L9C12Q0
197話は以上です。
続いて、198話を投下します。

17The Little Mermaid ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:46:07 ID:V1L9C12Q0



 花咲つぼみ、響良牙、涼邑零の三名は変わらず森の中を進行中であった。
 先頭はつぼみ、その後に良牙を挟んで零がいる。良牙を迷子にしない為の見事な隊列である。これ以外の形があろうか。
 つぼみが行くべき場所は、さやかの死地、あの砂利石の川岸であった。アマリリスの花が一輪──おそらくもう枯れてしまっただろうあの花とともに川のほとりで風を受け続ける一人の少女に会う為に。
 その後、冴島邸でさやかの生存を報告できたら、と内心では思うが、「絶対」と口に出しつつ不安は内面に少しあった。
 その歩みの真っ最中、脂目マンプクによる放送が響いた。

『────健闘を祈る』

 三人はそれを隅々までよく聞いた。ガドルの死が確定し、新たなルールが彼らに伝えられる。マンプクによる放送は、これまでの放送と違い、ゲームそのものの終了を予告する内容であった。
 ゲーム終了の時刻は六時間後の十二時。しかし、安心はできない。現在生き残っている数は十四人。生き残れる数は十人に増えたが、それでも犠牲を作らなければならないという点で変わりはない。
 それは絶対に避けなければならない事態である。自分たちは全員で生き残らなければならない。犠牲などという言葉は使う気はないのだ。

「……この悪趣味なゲームももう終わりか。だが奴ら、逃げる気だ」
「逃がしたらこっちの負けだ。一刻も早く用を済ませて殺し合いを終えなきゃならねえ」

 良牙は腕をぽきぽきと鳴らした。
 つぼみも、二人とおおよそ意見は同じだった。残り六時間の仕事としては多すぎるが、それでも果たす為に努力を惜しんではならない。このまま怠けていれば、脱出など不可能だ。おそらくだが、人生で最も真剣な働きが期待される六時間である。

 まずは、人魚の魔女のもとへと向かい、その後でこの殺し合いの主催者のもとに向かうのがおおよそのルートだろう。
 この殺し合いを起こした主催者たちを逃がすつもりはない。少なくとも、向こうがタイムリミットを設定したからにはそれまでは平気だと思われる。
 ……そして、仮にタイムリミットを過ぎたとしても、勿論、外に出る方法は捜すしかない。そうなってしまう可能性も高そうだ。
 少なくとも、殺し合いが行われていない内なら助けを待つ事も助かる方法を探す事も造作もない。──まあ、それは去り際に何の危害も加えなかった場合に限定されるのだが。

「問題はドウコクだな」

 血祭ドウコクが沖一也や左翔太郎と一緒にいる事を思い出す。
 そう、ドウコクが今の言葉を聞いて殺し合いに乗っていないとは限らない。一也だけならまだどうにか反撃できるだろうが、左翔太郎はあの状態だ。更に、ドウコクは外道シンケンレッドを引き連れている。
 ドウコクが、主催逃亡後に脱出を目指すような悠長な考えができる人間とは思えない。

「……沖さんたちに一度連絡を入れて無事を確認しましょう。良牙さん、電話を貸してください」

 つぼみが提案して、良牙から特殊i-podを借りようとした。
 良牙が何の気なしにポケットを弄り、それを取り出す。画面は少し濡れている。しばらく歩いた分の汗である。良牙はそれを服の袖でふき取って、電源を入れた。
 ワンタッチでこれだけ綺麗な画面が出る事は、彼の時代の人間からすれば相当驚きの事態なのだが、実際のところ、彼はもうその程度の事態には慣れ始めていた。

「よし」

 とりあえず、不器用ながらも発信までの作業は行う。アドレス帳に登録されている名前にタッチするだけだ。ちゃんと一也たちの方に発信されているようで、二人とも安心した顔色であった。
 まだi-podなどない時代に生まれた良牙である。最低限度の使い方ができるかさえ怪しいのだ。それは出来たようで安心する。
 特殊i-podがつぼみの手に渡っていった。

 ……が。

「……あの、良牙さん」
「ん?」

18The Little Mermaid ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:46:27 ID:V1L9C12Q0
「これ……」

 そう言うつぼみは困り顔であった。
 何故そんな顔をしているのだろうか、と気にしてつぼみの手の上を見てみる。
 つぼみの手の上にある特殊i-podを見てみると、これが驚くべき事に、半分に割れていた。
 超薄型の画面はほぼ二つ折り。

 ──良牙の顔が、猫目になる。

「あ゙っ……!」

 これを渡す時、最後の最後で力加減が間違ったのだろう。
 特殊i-podは、良牙の握力に見事潰されていた。──例によって、このタイミングで。
 いつこうなった? どうしてこうなった? この人バカか?
 とか、考えるのも無駄である。良牙がバカである以上に、バカ力だからこうなった……それだけであった。普通の物を使用する時にある程度のセーブが必要だが、このi-podなる道具は超薄型で、良牙にとっては折り紙同然の代物なのである。
 ちょっと油断するとこういう事になる。今まさに、緊張とちょっとした油断が絶妙なハーモニーで良牙の手に力を込めさせたのだろう。

「どうしよう……」

 折れたi-podを前に、良牙は零の方を向いた。
 音楽を聞けなくなる分にはまだしも、これだと通信ができない。
 その他のグループに連絡は取れず、この調子だと心配されるかもしれない。
 非常に困った状況だ。そのうえ、ドウコクの動向によっては一也たちの命も危険。連絡ができないのは痛い。
 ふぅ、と零が溜息をついた。

「……さて、どうする? 引き返すか」

 そう提案したのは零であった。彼としては、魔女を倒す事そのものにはさほど執着はない。あかねを探すという目的もない。
 あくまで彼がこうしてついてきた理由のは、何故これから魔女を倒さなければならないのか──その目的を知る事であった。好奇心以上の物は出てこない。

 だが、この問いは実際に引き返す事を望んでいるのではなく、まるでつぼみに発破をかける為の一言のようだった。

「……」

 つぼみは、深く思案した様子である。──その態度こそが零の望む答えであった。
 当然、この状況下、放っておいても大きな問題が出ないはずの魔女を退治しに行くのは不自然だ。あまり大きな事情がない限りは、「引き返す」と答えるのが自然である。
 何せ、魔女がいる場所を避けたとしても、大勢の参加者は魔女にそのまま合流せずに終わるだけである。残り六時間しか猶予がない状況でもそこに立ち寄らなければならない理由などない。
 彼女が答えないという事は、このまま魔女の方に進んでいくのには大きな意味があるという表明であった。零もそれを見越した上で、こう言ったのだった。
 さて、それじゃあ零の本題だ。

「……ま、引き返す気がないとは思っていたけどね。引き返さないのにはわけがあるんだろ? そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか? 魔女って何なのか──」

 つぼみは言い返せなかった。

「じゃあこう聞こうか。魔女っていうのは、闇に堕ちた魔法少女じゃないか? って」

 零の問いは、ある意味核心をついていたらしく、つぼみは零を見上げる事になった。
 まるで、「知っていたのか」とでも聞き返したい顔をしていた。
 しかし、当の零はあくまでそれは知らない。あくまで推測の域を出ない言葉を、はったりのように口に出し、その結果として表れたつぼみの反応で確信へと変えただけであった。

「魔戒騎士も、99.9秒以上戦うと心滅獣身で鎧に食われ、闇に堕ちる。強すぎる力にはそれと同じような代償があってもおかしくないわけだ。今更答えを勿体ぶる必要はないだろ?」

 その言葉を聞いて、折れたi-podを手に乗せたままの良牙が呆然としていた。既にi-podの事など、彼の頭からは消えているだろう。その罪悪感にも勝る衝撃であった。
 彼もまだ、魔女とは何なのか詳しくは知らなかったが、どうやら図星らしく、黙っているつぼみの方を見た。観念したようにつぼみは応えたのだった。

19The Little Mermaid ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:46:57 ID:V1L9C12Q0

「……はい。そうですね。そこまで知っているならもう全て、お話します」

 それでようやく、彼女は説明を始める事にした。
 杏子には口止めされていたが、これからさやかの元に向かうのに、この後に及んで黙っている必要はない。
 むしろ、そんな戦いを前に何も言わずに協力させるのは取引としては最悪である。
 元々、隠し事が苦手なのがつぼみだ。白状する機会が来たのなら、そこからは大人しく曝け出してしまうしかない。

「……魔法少女の力の源であるソウルジェムが精神的な絶望や魔力の消費で穢れる事で起こるのが魔法少女の魔女化です。それが起こると、魔法少女は理性を失って魔女として暴れてしまいます」

 杏子から聞いた限りの情報の羅列だった。
 又聞きなので、確証を持って言う事はできない。全てを話すというには、手短で、ほとんど細部まで正しいかは話している本人でさえわからない。
 杏子でさえ、確証を持って言える事は多くはないだろう。

「ただ、この場では魔女化には制限がかかっていたらしくて、一日目の終了までは魔女として現れる事はなくなっていました。でも、それが解除されて、魔女が復活したんです」

 一応の事情はそんな所だった。これ以上はない。事実はおそらく、これよりずっとたくさんの情報でできている。しかし、知る限りではこうだった。
 魔女が復活したとしても、現状では積極的に暴れず、自分の結界の内部に人間を取り込むスタイルである以上、魔女に近寄りさえしなければあまり大きな実害はないはずだが、それでも魔女が現れた事自体には問題があった。

「これから行く場所には、ここで私と出会ったさやかという魔法少女がいます。私は、魔女になったさやかをこれから助けに行くんです。元のさやかに戻してあげるために……」

 そう、その魔女がつぼみの友人であるという事実。──これが、つぼみが魔女のもとへと向かわねばならない最大の理由であった。
 良牙と零はここに来て、初めてそれを知る事になる。

「助けられる保証は?」
「……わかりません。でも、私は諦めません。絶対に……」

 つぼみはその一点にだけは頑なな意思を持っている。

「……仕方ない」

 零は、そんな彼女の様子をしばらく見つめた後、体から空気を抜くようにして溜息をつくと、すぐに表情を柔らかく崩して言った。

「そういう事なら協力するか。俺も魔戒騎士だしな。……で、魔法少女って事は、あの杏子とかいう女の子も同じって事でいいのかな?」
「ええ。……でも」
「わかってる。魔女じゃない今のうちに潰すなんて野暮な真似はしないさ。俺たちだって心滅獣身のリスクはある。似た物同士さ」

 零は、かつてこの森の近くで冴島鋼牙に言われた事を思い出した。
 あの時、仮にもし零が怪物になっていたら──と思う。
 零も同じ危険を孕んだ人間であった。魔女になった人間を救える保障があるかはわからない。ないならば斬るしかないが、もしあるというのならば、それに賭けるこの少女にしばらくは付き合おう。

 少なくとも、その行動に協力して零にマイナスが来る事はない。
 魔女の結界とやらも一度経験させてもらおうと、案外気楽に考えていた。

 元来、零という男は、魔戒騎士としては甘すぎる男であった。ホラーを狩るたびにも、彼らとの和解の方法を探りたいと思う事がある。
 無論、ホラーが行う悪事も数えきれないほど知っているが、何も彼らも生まれたくてホラーに生まれたわけではないと、零も時折思っていた。現実にシルヴァのような優しいホラーも存在している。
 この場合、彼が魔女を救いだそうとするのも彼の心の内の一つであった。

「いずれにせよ、君が証明してくれればいいんだ。魔女になろうが何だろうが、魔法少女は助けられるって」

 零としては、恰好をつけたつもりなのだろう。
 しかし、つぼみは至極真面目にその言葉を受け止め、今からの自分の指標にした。
 さやかを助ける事で、これから杏子が魔女として覚醒した場合も止められると証明する──という事。
 なるほど、その考えは及ばなかったが、確かに一理ある。

20The Little Mermaid ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:47:42 ID:V1L9C12Q0

「あんた……意外と聞き分けが良いんだな」
「意外とは余計だ」
「ああ……」

 良牙は、魔女の真実自体にはあまり大きな驚きを見せない。
 魔女そのものに対しての知識がなく、実際的な副作用に実感がわかないせいなのか、それとも、死者だと思っていた人間が実は何らかの形で生きていた事の方が驚きだったのか、彼はそこまで忠実に驚いてはくれなかった。

(……元に戻す、か)

 しかし、それでも一度崩落した人間の精神を元に戻すというつぼみや零の意志には、少しばかり敬服する。彼とて、あかねを諦めかけた事も少しはある。──だが。

(おれも、これからあかねさんに会った時は……)

 良牙の中にも見習うべき二人の姿を見て、拳を硬く握った。
 これが夢ならば早々に覚めてほしい限りであるが、それでも──。



【2日目 朝】
【D−3 森】

【花咲つぼみ@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、加頭に怒りと恐怖、強い悲しみと決意、首輪解除
[装備]:プリキュアの種&ココロパフューム、プリキュアの種&ココロパフューム(えりか)@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&シャイニーパフューム@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&ココロポット(ゆり)@ハートキャッチプリキュア!、こころの種(赤、青、マゼンダ)@ハートキャッチプリキュア!、ハートキャッチミラージュ+スーパープリキュアの種@ハートキャッチプリキュア!
[道具]:支給品一式×5(食料一食分消費、(つぼみ、えりか、三影、さやか、ドウコク))、スティンガー×6@魔法少女リリカルなのは、破邪の剣@牙浪―GARO―、まどかのノート@魔法少女まどか☆マギカ、大貝形手盾@侍戦隊シンケンジャー、反ディスク@侍戦隊シンケンジャー、デストロン戦闘員スーツ×2(スーツ+マスク)@仮面ライダーSPIRITS、『ハートキャッチプリキュア!』の漫画@ハートキャッチプリキュア!
[思考]
基本:殺し合いはさせない!
1:さやかを助ける。
2:この殺し合いに巻き込まれた人間を守り、悪人であろうと救える限り心を救う
3:……そんなにフェイトさんと声が似ていますか?
[備考]
※参戦時期は本編後半(ゆりが仲間になった後)。少なくとも43話後。DX2および劇場版『花の都でファッションショー…ですか!? 』経験済み
 そのためフレプリ勢と面識があります
※溝呂木眞也の名前を聞きましたが、悪人であることは聞いていません。鋼牙達との情報交換で悪人だと知りました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※プリキュアとしての正体を明かすことに迷いは無くなりました。
※サラマンダー男爵が主催側にいるのはオリヴィエが人質に取られているからだと考えています。
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました。
※この殺し合いにおいて『変身』あるいは『変わる事』が重要な意味を持っているのではないのかと考えています。
※放送が嘘である可能性も少なからず考えていますが、殺し合いそのものは着実に進んでいると理解しています。
※ゆりが死んだこと、ゆりとダークプリキュアが姉妹であることを知りました。
※大道克己により、「ゆりはゲームに乗った」、「えりかはゆりが殺した」などの情報を得ましたが、半信半疑です。
※所持しているランダム支給品とデイパックがえりかのものであることは知りません。
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※良牙、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※全員の変身アイテムとハートキャッチミラージュが揃った時、他のハートキャッチプリキュアたちからの力を受けて、スーパーキュアブロッサムに強化変身する事ができます。
※ダークプリキュア(なのは)にこれまでのいきさつを全部聞きました。
※魔法少女の真実について教えられました。

21The Little Mermaid ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:49:18 ID:V1L9C12Q0
【響良牙@らんま1/2】
[状態]:全身にダメージ(大)、負傷(顔と腹に強い打撲、喉に手の痣)、疲労(大)、腹部に軽い斬傷、五代・乱馬・村雨の死に対する悲しみと後悔と決意、男溺泉によって体質改善、デストロン戦闘員スーツ着用、首輪解除
[装備]:ロストドライバー+エターナルメモリ@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(ゾーン、ヒート、ウェザー、パペティアー、ルナ、メタル)@仮面ライダーW、
[道具]:支給品一式×14(食料二食分消費、(良牙、克己、五代、十臓、京水、タカヤ、シンヤ、丈瑠、パンスト、冴子、シャンプー、ノーザ、ゴオマ、バラゴ))、水とお湯の入ったポット1つずつ×3、子豚(鯖@超光戦士シャンゼリオン?)、志葉家のモヂカラディスク@侍戦隊シンケンジャー、ムースの眼鏡@らんま1/2 、細胞維持酵素×6@仮面ライダーW、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、歳の数茸×2(7cm、7cm)@らんま1/2、デストロン戦闘員マスク@仮面ライダーSPIRITS、プラカード+サインペン&クリーナー@らんま1/2、呪泉郷の水(娘溺泉、男溺泉、数は不明)@らんま1/2、呪泉郷顧客名簿、呪泉郷地図、克己のハーモニカ@仮面ライダーW、テッククリスタル(シンヤ)@宇宙の騎士テッカマンブレード、『戦争と平和』@仮面ライダークウガ、双眼鏡@現実、ランダム支給品0〜6(ゴオマ0〜1、バラゴ0〜2、冴子1〜3)、バグンダダ@仮面ライダークウガ、警察手帳、特殊i-pod(破損)@オリジナル
[思考]
基本:天道あかねを守り、自分の仲間も守る
0:つぼみについていく。
1:あかねを必ず助け出す。仮にクウガになっていたとしても必ず救う。
2:誰かにメフィストの力を与えた存在と主催者について相談する。
3:いざというときは仮面ライダーとして戦う。
[備考]
※参戦時期は原作36巻PART.2『カミング・スーン』(高原での雲竜あかりとのデート)以降です。
※夢で遭遇したシャンプーの要望は「シャンプーが死にかけた良牙を救った、乱馬を助けるよう良牙に頼んだと乱馬に言う」
「乱馬が優勝したら『シャンプーを生き返らせて欲しい』という願いにしてもらうよう乱馬に頼む」です。
尚、乱馬が死亡したため、これについてどうするかは不明です。
※ゾーンメモリとの適合率は非常に悪いです。対し、エターナルとの適合率自体は良く、ブルーフレアに変身可能です。但し、迷いや後悔からレッドフレアになる事があります。
※エターナルでゾーンのマキシマムドライブを発動しても、本人が知覚していない位置からメモリを集めるのは不可能になっています。
(マップ中から集めたり、エターナルが知らない隠されているメモリを集めたりは不可能です)
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※つぼみ、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※男溺泉に浸かったので、体質は改善され、普通の男の子に戻りました。
※あかねが殺し合いに乗った事を知りました。
※溝呂木及び闇黒皇帝(黒岩)に力を与えた存在が参加者にいると考えています。また、主催者はその存在よりも上だと考えています。
※バルディッシュと情報交換しました。バルディッシュは良牙をそれなりに信用しています。
※鯖は呪泉郷の「黒豚溺泉」を浴びた事で良牙のような黒い子豚になりました。
※魔女の真実を知りました。

22The Little Mermaid ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:49:32 ID:V1L9C12Q0

【涼邑零@牙狼─GARO─】
[状態]:疲労(小)、首輪解除、鋼牙の死に動揺
[装備]:魔戒剣、魔導火のライター
[道具]:シルヴァの残骸、支給品一式×2(零、結城)、スーパーヒーローセット(ヒーローマニュアル、30話での暁の服装セット)@超光戦士シャンゼリオン、薄皮太夫の三味線@侍戦隊シンケンジャー、速水の首輪、調達した工具(解除には使えそうもありません) 、スタンスが纏められた名簿(おそらく翔太郎のもの)
[思考]
基本:加頭を倒して殺し合いを止め、元の世界に戻りシルヴァを復元する。
0:つぼみについていく。
1:殺し合いに乗っている者は倒し、そうじゃない者は保護する。
2:会場内にあるだろう、ホラーに関係する何かを見つけ出す。
3:また、特殊能力を持たない民間人がソウルメタルを持てるか確認したい。
[備考]
※参戦時期は一期十八話、三神官より鋼牙が仇であると教えられた直後になります。
※シルヴァが没収されたことから、ホラーに関係する何かが会場内にはあり、加頭はそれを隠したいのではないかと推察しています。
実際にそうなのかどうかは、現時点では不明です。
※NEVER、仮面ライダーの情報を得ました。また、それによって時間軸、世界観の違いに気づいています。
仮面ライダーに関しては、結城からさらに詳しく説明を受けました。
※首輪には確実に異世界の技術が使われている・首輪からは盗聴が行われていると判断しています。
※首輪を解除した場合、(常人が)ソウルメタルが操れないなどのデメリットが生じると思っています。→だんだん真偽が曖昧に。
また、結城がソウルメタルを操れた理由はもしかすれば彼自身の精神力が強いからとも考えています。
※実際は、ソウルメタルは誰でも持つことができるように制限されています。
ただし、重量自体は通常の剣より重く、魔戒騎士や強靭な精神の持主でなければ、扱い辛いものになります。
※時空魔法陣の管理権限の準対象者となりました(結城の死亡時に管理ができます)。
※首輪は解除されました。
※バラゴは鋼牙が倒したのだと考えています。
※第三回放送の制限解除により、魔導馬の召喚が可能になりました。
※魔戒騎士の鎧は、通常の場所では99.9秒しか召喚できませんが、三途の池や魔女の結界内では永続使用も問題ありません。
※魔女の真実を知りました。

23 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:51:33 ID:V1L9C12Q0
198話は以上です。
続いて199話を投下します。

24切札 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:57:34 ID:V1L9C12Q0



「しゃらくせええええええええええええええっっ!!!!」

 生存者のうち、こんな声をあげる人間が血祭ドウコクを除いて他にいるだろうか。
 お察しの通り、この声の主はドウコクである。
 第五回放送とともに、こうして怒りの声をあげているわけだ。ここが何もない部屋だったがゆえに何もなかったが、もし箪笥や家具が置いてあれば、それを蹴散らして発散するだろう。傍若無人が彼の本質である。

 残り人数を十人に減らせという指示──この騒動の冒頭には、そんなわかりやすい理由があった。
 即ち、彼も沖一也と左翔太郎を抹殺する方針に切り替わったという事だ。

「ま、待てドウコク……!! マンプクの口車に乗せられてどうする!?」
「わぁってるが、帰ってから奴を捜して殺すのも手っ取り早ぇじゃねえか!!」

 剣を振り上げようとするドウコクに、とにかく必死で一也が止めようとする。
 もはや脊髄反射的に殺戮に走ろうとするドウコクをなだめるのは大変だ。
 ただ、何とかこれも説得できる方法は転がっている。

「捜すと言っても、おそらく奴はお前の知らない世界に逃げてしまうぞ! 二度とお前の前に姿を現さないかもしれない!」
「あぁ? 俺の知らねえ世界だと……?」

 ドウコクがそれを聞いて、少し黙り、ぴたりと動きを止めた。
 そんなレベルの話さえ殆ど知らないのだろうか。異郷の存在は知っているかもしれないが、それが人と妖との二世界に渡る程度の話しか知らないのかもしれない。
 これが説得の為の材料となりそうな事は間違いない。

「ああ、俺たちはそれぞれ別の世界から来ている。お前も未知の力を持つ敵と会った事もあるだろう? 主催側は、その世界を相互的に渡り歩く能力も持っているはずだ」

 まあ、単独行動を続けていた彼がそんな事知らないのは計算済みだ。情報差が彼を利用するのに都合が良い。
 とにかく、その言葉で黙ったからには、説得の余地がある可能性は非常に高い。

「だが、どっちにしろ俺は元の世界って奴に帰らなきゃならねえしな。こんな場所にいつまでもいるわけには──」

 ドウコクの反論前に、より手っ取り早い手段というのを見つけ出しかけている。
 総大将血祭ドウコクは元の世界に必要な存在だ。もしいなければ、外道衆の没落もあり得る。シンケンジャーもいないが、ドウコクもいない。
 アヤカシも大分死んだうえに、シタリが元の世界に残されている現状では、マンプクを殺すのも一つだが、何より帰らなければならないだろう。

「帰る方法だって、俺たちが残り六時間で見つけ出せば問題はない。方法はある」

 しかし、それでも一也は反論の余地を見つけた。
 ドウコクの情報不足を利用するのである。ハッタリでも何でも、その場をしのぐために使える方便は全て使う。
 マンプク殺しよりも帰還を優先するのが大局であると、彼も理性でわかり始めているだろうが、

「この島の外の様子を見せよう」

 一也が先ほどから様子を見ていたバットショットの映像も、だんだんと海以外の物が映り始めていたのである。先ほど、スタッグフォンを見ておいたのだ。
 そこには、一也も安心感で胸をなでおろすような映像が残っていた。
 別の島の外観だ。
 海岸線の向こうに、もう一つ別の島があるのが見え始めていた。確かに、外には考察通り、別の島が存在したという事である。ただ、それが目の錯覚である可能性も否めない。何せ、距離が離れるにつれ画質がだんだんと低くなっているのである。
 だが、仮に錯覚であるとしても、ハッタリの材料としては使える。
 その映像を見せるべく、彼はスタッグフォンを手に取った。

「うん……?」

 ……見ると、不在着信三件とメールが二通、入っていた。ショドウフォンからだ。つまり、孤門一輝たちのチームである。

25切札 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:59:39 ID:V1L9C12Q0
 不在着信のうち一件だけは、特殊i-podから。これはつぼみたちからだろう。
 少しメールを開いてみたが、そこには桃園ラブから沖一也と左翔太郎を心配する内容のメールが入っていた。すぐにでも返してやりたいが、それはもう少し時間に余裕ができてからにしよう。
 まあ、今は、動画の方をドウコクに見せておこう。

「ドウコク、君に見てほしいのはこの映像だ。映像はさっきまでは海ばかり映していたが、今は別の島が映り始めている。もう間もなく島に着くはずだ。主催者の基地があるかもしれない」
「……てめえら随分凄ぇもん持っていやがるじゃねえか。俺たちがいねえ間に随分技術をつけやがったもんだ。前までは箱の中で活動を見るのが精いっぱいだったってえのに」

 ドウコクが興味津々にそれを見ていた。
 小さい箱の中にチカチカと物が映っている程度の認識しかないのかもしれない。
 ドウコクの興味が明らかにこの携帯電話に向いていて、映像がどんな意味を成しているのか理解していなさそうなのが辛い。

(こ、こいつ、この殺し合い内だけでなく、人間社会に対しても随分情報が遅れている……! くっ、外道衆の技術を最先端まで発展させたくなってきた……いかんいかん!)

 宇宙進出まで果たしている科学者ゆえの葛藤が内心で目覚める。彼らの技術を発展させても人間側が不利になるだけであるが、それでも思わず彼らの科学水準の発展を願ってしまうのが一也である。

「と、とにかく、この映像の通り、外には脱出のアテがあるんだ。まずはお前の首輪を解除する。それからは、せめてあと五時間、待ってくれ。五時間後までに解決できなければ、俺を殺してもらっても構わない」

 とは言うものの、内心ではあと六時間の内に脱出できるかというと微妙なのが現状だった。こちらの準備が整うまでには随分時間がかかったし、あとの五時間をバットショットの映像でどうにか判断しなければならないのだ。
 おそらくは、残り五時間で全て果たすのは無理である。──五時間後に起こるのは、ドウコクとの戦闘だ。
 もっと時間をかけて色々と行えれば良いのだが、タイムリミットが設けられた挙句、こうしてドウコクが近寄ってきてしまっては、それから先の行動も難しい。

 主催側は随分厄介な事をしてくれたものである。
 六時間以内に十人に減らせ、というのは、ただの額面通りな主催の敗北宣言ではなさそうだ。
 何せ、この六時間で十人まで減らすとなれば、不和が生まれるのは間違いない。十四人の殆どが味方である最中、生贄を四人ほど、誰かが薦めなければならないわけだ。

 この場合、生き残れる確率の方が高い事が、この場合の問題点だ。
 なまじ生き残る希望が高い分、そこに縋りたい気持ちが強くなる。自分は十指に入るだろうという期待と、そこから切り捨てられる四人になる不安がせめぎ合うだろう。これが残り一人になるまで……というなら、何故か諦めもつくのだが、ここまでの苦労を清算する機会があれば、犠牲になろうなどとは思いたくないに違いない。
 犠牲になる側も、そんな数少ない犠牲の側にはなりたくないと思うのが心理である。
 ……とはいえ、ドウコクのような人間を除けば、これはまだ何とかなる範疇である。今自分がいるのは、危機的状況下でも他者を尊重できる人間は寄り集まっていると自負できる集団だ。

 主催側の評価としては、最後のチャンスとして演出する意味も深いという点も一点だ。
 このまま十一名以上生き残れば、この孤島──いや、この世界に置き去りにされるというが、それが問題なのである。
 脱出ルートを、あくまで主催側への干渉によって果たそうとしていた対主催陣営にとって、確実に必要な存在となるのが、主催陣営だ。こうして、主催陣が殺し合いを諦め、そこにゲームメーカーがいるという前提を崩す事で、「このままでは帰れない」という状況にリアリティを持たせている。
 そして、無人の世界にたかだか十数名で放置されれば、大した時間を要さずに死なせてしまう。元の世界に帰りたいのが全員の本心だろうから、それも崩れてしまうわけだ。
 これも、なるべくならば主催逃亡後も全力を尽くして脱出計画を練るだろうが、今はそうもいかない。ドウコクはそう気が長い生物ではなさそうだ。

「……」

 とにかく、残り六時間で一也たちにできるのは、「希望を捨てずにベストを尽くす」という事だけであった。
 一也は己の鼓動が早まっていくのを感じた。
 ドウコクは短気である。五時間は長いと取るか、短いと取るかは彼にとってどうなのか──返答を待つ時間が妙に長く感じられた。

「……まあいいだろう。どっちにしろ、五時間もあればてめぇらも手がかりを得る」

26切札 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:00:01 ID:V1L9C12Q0

 ドウコクが迷った挙句に剣を鞘に収める事になり、一也は内心ほっと溜息をついた。
 どうやら、説得自体は上手に終了したらしい。悪い言い方をすれば、上手く騙せたというところだろう。
 幸いにも、ドウコクはこちらの技術の底を知らなかった。どの程度が一也たちの技術で可能な範疇なのかを理解していないのだ。その為、六時間以内の脱出がほぼ不可能である事など彼は知る由もない。
 一也が、自分たちの技術の限界を悟り始めていようとも、せめてそれを表情に出さなければドウコクは騙せる。

 上手い具合に持って行けたとは言い難いが、それでも五時間の猶予が得られた。
 今のところは、それで充分だ。

「……ふぅ。それじゃあ、ドウコク、首輪を解除するからおとなしくしてくれ。解除は五分で済む」
「五分だと!? まさか、あいつら、そんなチンケな物で俺を縛ってやがったのか!」
「ああ、腹立たしい事かもしれないが、今は落ち着いてくれ。落ち着かない事には首輪も解除できない」

 元々、ドウコクの期待は主催と参加者のどちらにも向いていないはずだ。
 面と向かって対話できる方に信頼のバランスが寄るのは至極当然の事である。
 それこそ、ちょっとした説得でも口説けるほどだ。

(……さて、この仕事を終えたら)

 一也は、翔太郎の方をちらと見た。
 彼は、まったく、脱出にもドウコクにも一切興味がなさそうだった。
 一也も、そんな彼を温かく見守ろうとは全く思わなかった。
 ただ、ドウコクが首輪を解除した後が彼に発破をかける時だ。

 一也は、素早くメールでショドウフォンに『心配ない。バットショットが周囲の様子を映し始めたから、一端、目を通してくれ』という内容のメールを送り、ドウコクの方に工具を持って行った。







 さて、ドウコクの首輪の解除には、やはり全くといっていいほど、時間はかからなかった。
 ドウコクとて、本当に五分もしないうちに自分の首を縛っていた鉄の輪が解除されるとは思いもよらなかっただろう。
 なるほど、ここまで随分と長い間、この首を縛っていてくれたが、どうやらその事も含め、すべて茶番の材料だったらしい。──そう思うとドウコクの胸にも苛立ちが湧いて来る。
 マンプクの首を頭に描きながら、彼はともかく口を開いた。

「……チッ。とにかく首輪が解除された所で────」

 一也が身構える。
 この瞬間が恐ろしいのだ。
 ドウコクにとって、首輪が解除された後の一也たちは邪魔だと判断されまいか、その一点。
 邪魔者は勿論、殺される事になるだろうと思い、緊張の一時が流れる。

「────酒でも飲むか」

 と、思ったが、案外ドウコクは聞き分けが良いタイプの怪物であるようだ。

 少なくとも、今ここで一也たちを殺す事には意味を感じていないと判断していい。
 あとの五時間の猶予は確実に保証されているものらしい。
 外道シンケンレッドが、一升瓶をドウコクに向けて手渡しており、まさしく彼の方は酒宴の気分のようだった。
 今の彼にとって必要なのは、口にアルコールの苦味や辛味を広げさせる事なのである。その摂取によって、一也や翔太郎たちと慣れ合うストレスを発散し、しばらくマンプクを殺せる万能感に酔い浸るのが目的らしい。
 まあ、実際のところ、ドウコクの実力ならばマンプクなど取るに足らない相手であるが、現状、相手が積極的に姿を現さないゆえに怒りが溜まっているようだ。

 アルコールは正常な判断を鈍らせるので、一也たちの目からしても安全とまでは行かない。こんな状況下で他人に飲ませないのが最良の判断である。
 だが、あのまま酒を飲むのを妨害させると、それこそこちらに危害を加えかねない厄介さだ。まあ、ある程度酔いに強い体質である事を祈ろう。

27切札 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:00:26 ID:V1L9C12Q0

 ドウコクには背を向けた。その背に切り傷の残る事はなかった。

「さて、ドウコクの首輪の解除は終わったな」

 一也は、何か言いたげに翔太郎の方へと歩いて行ったのだった。
 その様子に気づいたようで、翔太郎は顔を上げた。虚ろなまなざしで一也を見上げる。
 しかし、一也の眼は、そんな翔太郎の心に突き刺さるほど鋭く、先ほどドウコクと対峙していた時よりも数段、「敵に相対する目」に近い眼光であると感じた。
 まさしく、心眼でその危険性を翔太郎は感じたのである。

「翔太郎くん」
「……っ!」

 思わず、一言呼ばれるだけで翔太郎が目を逸らす。
 まるで、これから熊でも倒そうと言う格闘家の気概。それが翔太郎の精神になだれ込む。
 格闘家、ゆえの眼力であった。翔太郎の弱さを責め立てる意思があるのは確かだ。だからこそ、翔太郎は更なる弱さでそれを覆い隠そうとする。

「……放っといてくれ! ……もう俺は仮面ライダーじゃない!」

 仮面ライダーである事。──それが、左翔太郎の誇りであった。
 街をドーパントから守って来たのは、フィリップがいて、仮面ライダーダブルにもなれたからこそだ。
 だが、今この腕で何が救える? この場所でこれ以上、翔太郎に何ができるというのか。それを思えば、その誇りが打ち砕かれるのも当然であった。この先、戦うイメージが湧かず、苦難の道が脳裏をよぎる。

「仮面ライダーでなくなったくらいで戦う意志を失うならば、お前は最初から仮面ライダーじゃないッ!!」

 だが、そんな翔太郎の耳に、あまりにも大きすぎる声が鳴り響いた。
 ドウコクも、酒を飲もうとしていた体を止める。
 気迫は誰にも負けない。──赤心少林拳の使い手たるこの男である。
 翔太郎は、それでも反論をするくらいの怒りがあった。勇気ではなく、苛立ちが咄嗟に弁解の余地を作る。

「ッ! そんな事言ったって……俺にはフィリップも、この腕もないんだ! 仮面ライダーじゃなくなっただけじゃない! 人間として戦う事だって、もう……!」

 語尾が下がっていた。明らかに、一言を口に出すのを躊躇う彼であった。
 彼らしくはなかったが、自分らしくないと自覚しているからこそ、実際の現状を口に出す時に偉く弱気だったのだろう。
 自分の状況を考えるならば、仮面ライダーとして戦う事に既に限界があるのは容易にわかる話だ。

「沖、放っておけ、そいつにはもう、何もねぇ。このシンケンレッドと同じだ。……まあ、せいぜい、そいつがいなくなりゃあ残り十人に近づくだけ、って所か? 同情が欲しいなら、少しはしてやるぜ」

 一也の背中でドウコクが言うが、彼はそんな言葉を聞き入れる気がなかった。
 ドウコクの言う事は、かなり尤もであるとも一也は思っているが、同時にこうして喝を入れれば立ち直る可能性を、一也は信じていた。
 あくまで、一也はこの左翔太郎なる男を、まだよくは知らない。
 ただの軟弱な普通の青年かもしれなければ、底が深い人間かもしれない。それはまだわからないが、これまでこの男が仮面ライダーとして戦ってきた事だけが明瞭たる事実として一也に何かを残している。
 その経緯、その戦いの記録は一也も小耳に挟んでいた。

「……いや、左翔太郎は何も持っていないわけじゃない。師に憧れ、仲間を重んじ、仮面ライダーとして戦う為の魂を持っていたはずだ」
「……」
「お前はまだ戦える。俺はお前を再び、仮面ライダーとして戦わせる事だってできる。こいつを見てくれ」

 翔太郎の視界に、一也は自分の持つ切り札を見せた。
 翔太郎の瞳孔が広がる。
 まさしく、そこには「右腕」と呼ぶべきモノと、翔太郎自身もよく知っている「ロストドライバー」というベルトとメモリが在った。
 それは、まさしく、この翔太郎が必要としている物たちであった。

「沖さん……っ! こいつは────」

28切札 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:00:50 ID:V1L9C12Q0
「知っているだろう。いくつものカセットアームを搭載した、結城丈二の右腕。そして、これが石堀光彦がお前の為に俺に手渡した新しい変身ベルト・ロストドライバー、俺が見つけたT2ファングメモリだ」

 まるで、少し息を吹き返した人間のように、翔太郎は羨望に近い眼差しでそれを見た。
 彼の男が、再び仮面ライダージョーカーとして戦う準備はある。翔太郎もジョーカーメモリを残しており、まさにその姿へと再誕する為にはおあつらえ向きであった。
 全てが揃っていた。翔太郎は、それを見て思わず、無いはずの右腕を伸ばした。

「こいつがあれば……」

 だが、一方で迷いもあった。右腕でそれを掴む事などできるはずないのに右腕を伸ばしたのは、おそらくその迷いが原因だろう。──左腕で、確実にそれを掴んでしまうのは本能的に避けたかったのだ。
 こうして戦う道を選べば、再び彼は痛みを受けなければならない。あのガドルのような強敵と戦う事だってあるかもしれない。
 ドウコクだってそうだ。彼と戦わなければならない。

 恐ろしい。

 こうして、守られる側でいる事がどれだけ楽か。──仮面ライダースーパー1のような戦士がいれば、それで充分ではないのか。
 そう思ってしまう。積極的に戦ったからこそ、鋼牙やフィリップは死んだ。自分もそうなるかもしれない。守るためには、自分の命さえ犠牲にする覚悟が必須なのだ。今こうしてぬるま湯に使った翔太郎が再びそれを手にするには、少しの抵抗がある──それも、無理のない話であった。
 彼は、普通の人生の中で偶然仮面ライダーになったただの人間である。一也とは違った。

「……だが、翔太郎くん。君にこれを、ただ渡すわけにはいかない。この右腕は、俺が尊敬した一人の戦士の物なんだ。……それに、この右腕を君の腕に移植するには、君の腕を丁度良い長さまで削り取る必要がある。神経を繋ぐ作業も、普通の人では耐えられないほどの地獄の痛みが伴うだろう。作業も俺が手探りで行うから、痛みがどれだけ長引くかもわからない。それを全て麻酔なしで行わなければならない」

 少しばかり優しい声色になった一也の説明を聞いたところでは、それはまさしく、移植だけでもこれまでの戦い以上の地獄が待ち受ける道であるように思えた。
 聞くだけで嫌になりそうな話だった。
 だんだんと、アタッチメントによって再び仮面ライダーになる幻想が遠ざかっていく。その為に必要な覚悟は、並大抵の物ではないのだろう。腕があるからといって、都合よく、何のリスクもなくそれを義手として使えるわけではないのだ。
 翔太郎の中で膨れ上がる恐怖は、それだけにはとどまらない。

「仮面ライダーに戻った後も覚悟が必要だ。君はまた、茨の道に飛び込む事になる」

 再び、フィリップたちの事を思い出した。
 彼らは戦いの中に消えていった。彼らが普通の人間ならばどうだろう。
 元々、こうして殺し合いに巻き込まれる事もなかったのだろうか。

 ……そう、この殺し合いに巻き込まれた人間は、大半がそうした特殊な能力を持っていた。
 改造人間、ガイアメモリ、魔法、クリスタルパワー、ラダム、モヂカラ、ウルトラマン、魔戒騎士──あらゆる理由で変身ができる戦士たち。それが今回のターゲットだったのだ。
 再び、仮面ライダーとなれば、己や周囲の人間が傷つく可能性も否めない。
 帰った後も、待ち受けるのは地獄の戦いの日々だ。その苦痛を受けながら、毎日生きられるだろうか。──翔太郎の中には、不安が広がっていた。

「……まあ、そうすぐには決心がつかないか。だが、悪いがこちらにも時間はない。ならば、こちらで手っ取り早く試させてもらおう」

 翔太郎もしばらく黙り込んでいたのだろうか。反射的に言葉を返せるほど、覚悟する行為は簡単ではなかった。
 しかし、時間が経るごとに、その「意思」なる物は弱まっていく。
 考える事もまた、時折、その人間が本来答えるべき「覚悟」を鈍らせ、殺してしまう一つの要因たりえるのだ。ゆえに、一也は待たなかった。考える時間を与えるくらいならば、いっそ、自分の手で彼を見極めようと、彼は構えた。

「変───身!!」

 梅花の構え、そして仮面ライダースーパー1への変身。
 敵にさえも美しいと評された、惑星開発用改造人間成功作の銀色のフォルムが輝く。
 電子音が鳴り、一也の全身に力が廻る。
 その異形に表情はなく、それが今回、無機質な非人間を象っていた。
 ドウコクが睨んだ。

29切札 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:01:29 ID:V1L9C12Q0

「オイ、何のつもりだ?」
「御免!」

 スーパー1は、銀色の腕のまま、窓を叩き割った。この程度、パワーハンドを使うほどでもない。高く嫌な音が鳴り、窓が砕け、外の庭に散らばる。窓辺の細やかな風が部屋の中に入って来た。
 翔太郎もドウコクも、脊髄反射的に彼のその一瞬の行動に、驚愕する。
 この男、何をしようというのか。

「草花、木々……この庭にある全ての物を今から焼き尽くす。覚悟ある者ならば、この花たちの為にさえ、その命をかけられるはずだ」

 そう、翔太郎が振り向けば、外には、綺麗に庭を彩る細やかな園芸があった。──誰かが丁寧に育てた庭の植物たちであった。
 芝も誰も必要以上に首を伸ばさず整えられ、刺々しい松の葉や可愛らしい花々が風に揺れていた。
 その外の空間へと、スーパー1はゆっくりと歩いて出て行った。翔太郎の顔の横を、冷徹無比なマシンが焼き尽くそうとする。
 いくら翔太郎の為とはいえ、仮面ライダーがこうして、細やかな命を奪おうとして良いのか──。
 やめてくれ。
 俺の為に、そんな事──。命を奪うような事は──。

「チェンジ! 冷熱ハンド!」

 そう言って突き出した緑のファイブハンドは、炎を空に向けて吐き出した。
 彼は、今この男は本気であった。まさしく心を鬼にして、全てを業火に包む気概を持っていた。
 ──その一瞬だけでもわかる。誰が止められようはずもない。
 冷熱ハンドの超高温火炎が人間の命を、悲鳴もあげぬ間に殺せる威力を誇っている事は言うまでもないはずだ。
 灼熱の地獄。人の体など一瞬で焼いてしまう事は想像に難くない。

「まずは、あの花からだ……!」

 スーパー1が目を向けた先には、小さなコスモス花が、ただ一つ、はぐれて咲いていた。
 きちんと整えられたこの名家の庭園の中で、ただ一つそこに花があるのは全く不自然な話だろう。しかし、ここを整備する者たちが、偶然、はぐれてそこに咲いていたそれを排除するのを嫌ったに違いない。
 どこから種が運ばれたのかはわからないが、美しく生きる一輪の花が自ずと生えた事に感服し、気づかぬふりをしたのだろう。
 そんなドラマさえも想像できる、一輪の花。しかし、勿論焼かれればその命も尽き、今発しているような無用の美しさも醜く崩れ落ちる。
 それでも、スーパー1はやり遂げねばならなかった。

「すまない……! この試験の為に散ってもらう……!」

 灼熱の中に飛び込み、花を守る絶対の意思を持つ者などいようものか。
 ドウコクは、ばかばかしいと思いながら背を向けた。
 仮にもし、立ち向かったとしても、スーパー1に敵うはずがない。
 人間の生身でそれができない事くらい、誰でも一瞬にしてわかるはずだ。

「────ッッ!!」

 ……しかし、だ。
 人間の意思は、ドウコクの期待などを遥かに超える優しさも持ち合わせていた。
 ドウコクは、それを過小評価していたのかもしれない。
 さわやかな風がドウコクの体にそよがれる中、男の叫びがその間に響き渡ったのである。

「やめろォォォォォォッッ!!」

 ──圧倒的戦力さえ無視して、掴みかからずにはいられない“本能”の持ち主が、そこにはいた。たとえ無駄でも、命をかけなければならないと、そう思った男がいた。
 男は駆け出し、その花へと迫る悪魔の手を振り払おうとした。
 スーパー1は、予期こそしていたが、一瞬にしてその気迫に体を固めた。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおォォッ!!!」

 魂は、人を震わせる。
 男は、理屈ではなく、魂でそれを守る──困っている者があれば、放っておけない心を持っているだけであった。
 街を愛せるにはいられず、街にいる全ての物を守らずにはいられない、そんな男。

30切札 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:01:57 ID:V1L9C12Q0

「……っつぅッ……!」

 ──左翔太郎は、自分でも気づかぬうちに、その左手でスーパー1の顔面にパンチを叩き込んだのであった。右腕から先がなく、スーパー1の腕を振り払う事はできなかった。
 しかし、ただ本能が、自分の拳が砕ける危険さえ無視して、スーパー1の顔面へと向かっていってしまった。
 自分の左腕に伝う、鉄を殴った感触とともに、この男は正気を取り戻していく。

 スーパー1は、変身を解除した。──コスモスの花は、元気に揺れていた。

「──翔太郎くん。やはり、君には確かに、仮面ライダーの魂がある。それを認めよう。しかし、残念だが、その魂や想いだけじゃあ、何も守れない……」

 炎がその命を焼き払う前に、翔太郎は前に出たのだ。無力な体で、彼は自分の左拳を見た。
 腫れている。痛んでいる。思わず、声をあげている。当然、一也がこのまま花を焼くつもりでいたならば、花の命はなかっただろう。

「その想いと、鉄の体を併せ持つのが仮面ライダーだ」
「ああ」
「鉄の体が必要か?」
「……ああ」
「それならば、お前にくれてやろう」

 それが今の翔太郎の中で燻っている想いを解放する術だというのなら、即答できた。このもどかしい想いを抱えたまま生きてはいけないのが、左翔太郎という短期な男なのであった。
 一也に言われたような「覚悟」というのは正直言えば、無い。痛みがある改造手術も、過酷な戦いも、仲間を喪うのも嫌だった。
 しかし、放っておけないと思う心があるならば、嘘をついてでも有ると答え、改造手術でも何でも受けてやろうと翔太郎は思ったのだった。──何かを守りたい気持ちならば、まだ胸の中に在る。







 志葉屋敷の一室。
 無菌室などあるはずもなかった。ただドウコクと外道シンケンレッドがいなければ少しは埃が立つ可能性が低くなるから、それで退いてもらった。
 麻酔もあるはずがなかった。ただ一口の酒を飲み、少しの酔いが麻酔代わりになれば、それで辛うじて、多少の気休めになる。
 消毒も手術道具もあるはずがなかった。機械を解体するための道具と部品だけがアタッチメントと同じにあるだけだった。
 刃は、支給品の一つを使い、ただありあわせの物で全て任せる。医者でさえ、ただ多少知識があるだけの、専門分野も異なる科学者だ。
 本郷猛や結城丈二はともかく、何故か一文字隼人、風見志郎などの歴戦の改造人間までもが辛うじて持っている謎の能力がこの人体改造である。水産大学に通っていた神敬介も後の世には医者なのだから驚きだ。沖一也がこの謎の医学能力を持っていないはずがないだろう。たぶん。

 即ち──

「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ…………!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 地獄の苦しみとともに、左翔太郎は、あまりにも粗雑な手術を受ける羽目になっていたのである。一也もこんな酷い環境で改造手術などしたくはなかったが、仕方がない。非人道的と罵られようとも、状況が状況であるため、本当にやむを得ないのだ。
 このバトルロワイアル中、おそらく最も無慈悲でグロテスクな解体を行うのが仮面ライダーであり、それを受けるのも仮面ライダーであるとは誰が想像した事だろう。

「うわああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!!」

 散華斑痕刀なる刃が、翔太郎の体をマーカーの通りに切断する。血しぶきというほどではないが、少しだけ血が跳ねた。
 一也は、その血を布で拭うと、きわめて冷淡な顔で手術に臨んでいる。心を鬼にして行わなければならない。

31切札 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:02:33 ID:V1L9C12Q0
 一也が翔太郎の悲鳴に申し訳なく思いながらも、力任せにその凶暴な刃を台に向けて押していく。肉が削げ落ち、骨に当たる。骨の周りを削いでいき、その柔らかい部位を翔太郎の体から外していく。
 その後、少し出っ張った骨をこの刃でまた削っていかなければならない。
 骨を刺激しても充分に痛みは伝う。翔太郎の叫び声はまたも伝う。

「やめろォォォォォォォッ!!!!! うわ、うわあああああああああああああッッッッ!!!!!!!!」

 結城と翔太郎は身長も体格もほぼ変わらず、二人ともおおよそ成人男性平均程度で差はない腕の太さだ。長ささえ調整すれば、適合する可能性は高い。アタッチメント自体、元々は結城丈二が装着する予定ではなかった物を流用しているくらいなので、太さに関しては、おおよそ調整が効く。

「さて、次は、神経を繋ぐ。歯を食いしばれ」

 しかし、一也は機械的に言うしかなかった。
 あまり優しい言葉をかける物ではない。自分自身も集中力を削がないよう、あくまで冷徹な機械として黙々と作業をする。あまり人間の悲鳴を聞きたいとは思わないが、本当に仕方がない事をしなければ仕方がない状況なので仕方がないし、まあとにかく仕方がない事なのだ。決して一也の趣味ではない。
 とにかく、発する言葉は、その工程の説明だけだ。自分が今何をされているのかを理解しながらであれば、翔太郎としても次への関心が湧くはずである。それが最低限の話。しかし、それが頭に入っているとは思えなかった。

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーッッッ…………!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 たかだか十分が数時間とさえ感じる強烈な痛みに支配されている。翔太郎時間では、とっくに五時間経っていてもおかしくないのではないかという気がしてくる。
 しかも進んでいる実感というのが薄く、ピンセットなどで神経と神経を繋げる作業は目で見るだけでも気持ち悪い。痛いという以上に、自分の体に新たなパーツが増えていく気味の悪さが嫌だった。
 吐きそうになる感覚を何とか払拭しようとしていた。意識を消し去りたい気持ちも生まれる。しかし、今はこの意識は消せない。
 頭の上に汗が溜まるような感覚。天井を見て、天井の向こうに喉の奥から、この痛みを伝えていく。声が枯れ始める。

「ッッッ…………!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 今日のいずれの戦いにも勝る身体的な痛みだ。それはあるいは、ドウコクに胸骨を折られた時よりも遥かに痛みが激しい。
 ガドルに吹っ飛ばされた瞬間の、一瞬の感覚とは桁違いに、──精密な作業は、その一つ一つが長い痛みを伴う。
 ただ、フィリップや照井などの仲間たちを喪った心の痛みに比べればずっとマシであり、フェイトやユーノが受けた痛みよりは生ぬるい物であろうと思い、彼は耐えていた。

『それに杏子……お前が魔女になったとしても何も心配はするな……
 お前が人々に絶望を振りまき泣かせる前に……俺がお前を殺してやる』

 そうだ。────不意に翔太郎は、一つの約束を思い出した。
 あの約束を忘れてはならない。
 痛みを感じているのは、自分や死んだ人間たちだけじゃない。

(……あいつも……)

 抜け殻になった翔太郎を、冷たい瞳で見つめた杏子。
 その瞳が不意に翔太郎の脳裏を掠め、一瞬、翔太郎は痛みを忘れた。
 杏子がああして怒ったのも無理はない。
 翔太郎は、約束さえ忘れて杏子の心を傷つけていた。────これも一つの罪ではないか。

「くっ……!」

 神経はまだ繋がれているのだろうか。
 翔太郎の腕に、一つ、一つ。コードが繋がれ、翔太郎に新たな腕を取り付けようとする。
 これがあれば、また戦える。一人の男の戦いの記録が、今度は翔太郎に繋がっていく。
 小指が、少し動いたが、作業中なので叱責された。





32切札 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:03:03 ID:V1L9C12Q0



 それから、翔太郎の感覚では、とっくに六時間以上の時間が経ったように思えた。
 しかし、手術は急を要し、安全や正確さよりもいち早く終える事を目的としていたがゆえ、一時間半という短時間で全てが終わっていた。
 時計を見た時は、五時間分ほど人生を得したような気分にもなったが、後々考えてみれば、この手術によって、翔太郎は、五年分ほど健康寿命を擦り減らしただろう。やはり大損である。
 油断して右腕を失うなど、もう二度と御免だ。まだ嫌な汗をかいている気分だ。

 もしかして、半分、気を失っていたのだろうか。──そういえば、意識はあったような、なかったような、微妙な記憶だ。しかし、手術を終えた時は目を開けていたはずで、ほっと安心した気がする。
 それというのも、あまりの痛みに脳が何も考えなくなっていたのかもしれない。五感が贈る全てはリアルな映像として脳内に送られているが、それが何を意味しているのか考えるほどの効力を失っていたのだろう。

「はぁ……はぁ……」

 起き上がると、右腕が確かに動いた。
 つい数時間ほど前まで、自分の腕を動かしていたはずだったが、こうして動かしてみると、少し動きが硬く、違和感があった。
 アタッチメントというのは、そういう物なのかもしれない。

「──成功だ、翔太郎くん。よく頑張った」

 と、こちらに向ける一也の笑顔が、怖すぎて、翔太郎はひきつった笑いを返した。
 この人は優しく微笑んでいるが、翔太郎としては一也の存在そのものがトラウマである。
 ここまでのスパルタ教育が原因で、翔太郎としては苦手意識が芽生えてしまう相手だ。
 翔太郎は震えた声で言う。

「……あ、ああ。そうみたいだな」
「これがロストドライバーだ。使い方は君の方がよく知っているね?」
「……」

 翔太郎は、新たな腕でロストドライバーを掴んだ。その瞬間、一也に対する恐怖などという物は吹き飛んだ。
 ロストドライバーの重量は、思ったよりも幾分か軽い。

『よう、その様子だと、守りし者っていうのが本当にわかったみたいだな、翔太郎』
「あんたは……」

 ザルバが再び口を開いた事に翔太郎は気づいた。
 この魔導輪は、口うるさいが拗ねやすく、基本的には自分が認めた者としか言葉を交わさない。精神の弱い者には語り掛ける事さえない……などという場合もある。
 そんな彼が、一度見捨て、口を閉ざしたザルバだったが、今再び口を開いたようだ。

『俺様にも見せてくれよ、あんたの変身とやらを』
「……言われなくてもな」

 軽量のロストドライバーを手にすると、そのまま翔太郎は腰にそれを据えた。
 ザルバに何も言われずとも、そういう展開になるのはわかっていた。

≪僕の好きだった街をよろしく。仮面ライダー、左翔太郎≫

 あの時と同じ。
 ハーフボイルドだった翔太郎が、一人の仮面ライダーとして戦わねばならない時が来た。
 そうだ、あの時の事を思い出す。
 フィリップがいなくても自分だけで戦おうと決意した、あの時の事を──。

「ふ……まさか、また俺だけで、コイツの世話になる時が来るなんてな」

 コネクションベルトリングが翔太郎の腰を巻き、ロストドライバーが装着される。
 これは、翔太郎が独り立ちしようと、せめて心の中だけではそう決意した証なのだ。
 翔太郎は、ジョーカーメモリを懐から取り出した。

≪帽子の似合う男になれ……≫

 スカル、エターナル、アクセル、あらゆる風都の仮面ライダーたちが、それぞれと惹きあったメモリを使って変身してきた。
 翔太郎と最も引き合うメモリは何か。

33切札 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:03:26 ID:V1L9C12Q0
 JOKERのメモリである。これが彼に最も似合う帽子。

──JOKER!!──

 サウンドが鳴るとともに、翔太郎はそれをロストドライバーにはめ込んだ。
 スロットの奥にジョーカーメモリが装填される。
 電子音が鳴ると、彼はその音の心地よささえ感じてしまうのだった。
 地球のコアと全く同じ、その声が、翔太郎の中にある切り札の記憶を刺激する。



「見ててくれ、沖さん、結城さん、照井、フィリップ、おやっさん、それに杏子……仮面ライダーのみんなに風都のみんな、ガイアセイバーズのみんな。これが、俺の切り札だ……!」



 翔太郎にとって、切り札は常に自分の元に来るものであった。
 ガドルの攻撃を受けても、このジョーカーメモリは破壊されず、翔太郎の手元に残り続けた。
 ここまで死守してきたガイアメモリである。
 このガイアメモリがある限り、翔太郎は絶えず、仮面ライダーとしての力も発揮できる。



「────変身!」



 ──その叫びと共に、左翔太郎は、黒き仮面ライダージョーカーへと変身した。
 右腕には、アタッチメントを装着するスロットが残っている。ジョーカーでありながら、ライダーマンのようにアームまで変えられる、新たな戦士の誕生であった。







 ……と、ここまではカッコいい仮面ライダージョーカーであるが、その初仕事は汚れ仕事も良い所であった。
 志葉屋敷の一室で、外道シンケンレッドとともに血祭ドウコクを起こすのが今の彼の務めであった。というのも、この血祭ドウコク、疲労状態に重ねて酒を摂取したばかりに、もはや泥酔状態で眠りこけているのだ。
 暴れると危険な彼である。一也は一也で後片付けに忙しいので、翠屋に向かわせるのは翔太郎の仕事になる。

「起きろ、ドウコク……おい」
「うるせええええええええええっっ!!」
「お前の方がうるせえっ!! ……あー、まったく、だから酔っ払いは厭なんだよ……」

 大暴れしかねないドウコクを、何とか外道シンケンレッドと引っ張って、これから翠屋に向かい、すぐに冴島邸までワープしなければならない。
 こちらも先が思いやられる状況だ。
 ドウコクに受けた痛みは忘れないが、それでも今は協力するしかない。
 もう少し自分勝手でない男だったならば、どれほどいいか……。

(待ってろ、杏子。もうお前を失望させたりなんかしねぇ。いや、誰かに失望されたまま、俺は終われねぇよ)

 ドウコクをやっとこさ促して、立たせるまでに成功する。
 足元がおぼつかない様子であった。とにかく、物理攻撃をしかけるほど暴れまわらないのが不幸中の幸いだろうか。

(いずれ、コイツとの決着を一緒につけようぜ。俺もすぐに行くからよ)

 酔っ払いの相手などという汚れ仕事がジョーカーのここでの初仕事とは思わなかった。まるで警察官のようである。
 しかし、だからこそ、その仕事は妙に風都の仮面ライダーらしかった。
 再び街を守れる力を手に入れた喜び。
 それを背負っているようであった。





34切札 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:03:59 ID:V1L9C12Q0



 こちらは沖一也である。
 とにかく、手術が無事成功したからには、他のグループにも報告をしなければならなかった。ホウレンソウはチームでも重要な事で、それを行う術があるのに行わないわけにはいかない。
 たとえ、隠したい事情があるとしても、持っている情報は全て包み隠さず公表するべきだと思う。
 幸いにも、一也の方からは不幸な連絡はない。

「ああ、こっちの手術は成功した。……ああ、それで、そっちはどうなっている?」

 電話は、石堀、暁、ヴィヴィオのチームに発信されたものだ。
 翔太郎は、既にこの場を去り、ドウコクを呼びに行っていた。手術が終わった以上、手際よく冴島邸に向かう準備をしなければならないのだ。

「どうした? 何故、黙っている? 超光騎士はどうしたんだ?」

 考えてみれば、超光騎士はもうとっくに回収されていてもおかしくない頃合いだ。
 何せ、一時間以上も時間が経過しているのである。ここまで時間がかかっているとなれば、それこそ何かトラブルがあったとしか考えられない。
 電流を流す作業によほどの精密性が必要なのか、それとも超光騎士が全く起動しないのか、戦闘に巻き込まれたのか……。
 と思ったが、実際のところ違うらしく、一也の表情は変わった。

「問題?」

 思わず、向こうの言葉に対して訊き返す。
 何か不穏な空気と予感がしたのであった。

「何!? ヴィヴィオちゃんが攫われた!? 一体どういう事だ!! どういう状況になっているんだ!?」

 一也は、思わず向こうの連絡に仰天しそうになった。
 ヴィヴィオが攫われた──というあまりにも酷すぎる事実が一也に突き付けられたのである。どうしてそんな状況になったのかはわからない。
 しかも、こちらの想いとは裏腹に、向こうが明らかに自分たちの不手際を隠す気満々だった事に一也は内心ショックを受ける。

「……そうか、わかった。また後で連絡する」

 とにかく、今は落ち着き、一也は連絡を切った。
 時間がない中でトラブルが立て続き、内心では苛立ちもあるが、起きてしまった事に対して怒りを露わにしても仕方がない。

(バットショットはどうなっている……?)

 一也は、ふとバットショットの事を思い出して画面を動画に切り替えた。
 これを見るのも大事な仕事ではないか。
 バットショットからリアルタイムで送られてくる動画の方も、先ほどの手術のせいでしばらく見られなかった。
 暁たちがあの状況では、バットショットの映像を注視するのは一也たちの仕事になるだろう。今、一番することが少なく、何より主催側に対する考察を行わなければならないのは彼らだ。

「……なっ!!!!!!!!!」

 不意にバットショットの画面に切り替えた一也だが、彼は思わずその画面を見て声をあげた。この状況で、まさかこんな事に……。

(隠さなければならない情報か……)

 一也は理解する。
 なるほど、それも時には必要だ。
 これは、少なくとも、ドウコクにだけは悟られてはならない。
 いや、その為には、他の誰にもなるべく知られないようにしなければならないだろう。



 そこに映っていたのは────

35切札 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:06:54 ID:V1L9C12Q0



【2日目 朝】
【B−2 志葉屋敷】

【沖一也@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、強い決意、首輪解除
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0〜2、ガイアメモリに関するポスター、お菓子・薬・飲み物少々、D-BOY FILE@宇宙の騎士テッカマンブレード、杏子の書置き(握りつぶされてます) 、祈里の首輪の残骸
[思考]
基本:殺し合いを防ぎ、加頭を倒す
0:なんて事だ……なんて事だ……
1:本郷猛の遺志を継いで、仮面ライダーとして人類を護る。
2:仮面ライダーZXか…。
[備考]
※参戦時期は第1部最終話(3巻終了後)終了直後です。
※一文字からBADANや村雨についての説明を簡単に聞きました
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました
※18時に市街地で一文字と合流する話になっています。
※ノーザが死んだ理由は本郷猛と相打ちになったかアクマロが裏切ったか、そのどちらかの可能性を推測しています。
※第二回放送のニードルのなぞなぞを解きました。そのため、警察署が危険であることを理解しています。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※ダークプリキュアは仮面ライダーエターナルと会っていると思っています。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限はレーダーハンドの使用と、パワーハンドの威力向上です。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。

36切札 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:10:16 ID:V1L9C12Q0
【左翔太郎@仮面ライダーW】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大)、胸骨を骨折(身体を折り曲げると痛みます・応急処置済)、上半身に無数の痣(応急処置済)、照井と霧彦の死に対する悲しみと怒り、首輪解除、フィリップの死に対する放心状態と精神的ダメージ、切断された右腕に結城のアタッチメント移植、仮面ライダージョーカーに変身中
[装備]:カセットアーム&カセットアーム用アタッチメント六本+予備アタッチメント(パワーアーム、マシンガンアーム+硬化ムース弾、ロープアーム、オペレーションアーム、ドリルアーム、ネットアーム/カマアーム、スウィングアーム、オクトパスアーム、チェーンアーム、スモークアーム、カッターアーム、コントロールアーム、ファイヤーアーム、フリーザー・ショット・アーム) 、ロストドライバー@仮面ライダーW、ダブルドライバー(破壊)@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(サイクロン、アイスエイジ、支給品外ファング)@仮面ライダーW、犬捕獲用の拳銃@超光戦士シャンゼリオン、散華斑痕刀@侍戦隊シンケンジャー、魔導輪ザルバ@牙狼、スモークグレネード@現実×2、トライアクセラー@仮面ライダークウガ、京水のムチ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式×11(翔太郎、スバル、ティアナ、井坂(食料残2/3)、アクマロ、流ノ介、なのは、本郷、まどか、鋼牙、)、ガイアメモリ(ジョーカー、メタル、トリガー、サイクロン、ルナ、ヒート)、ナスカメモリ(レベル3まで進化、使用自体は可能(但し必ずしも3に到達するわけではない))@仮面ライダーW、ガイアドライバー(フィルター機能破損、使用には問題なし) 、少々のお菓子、デンデンセンサー@仮面ライダーW、支給品外T2ガイアメモリ(ロケット、ユニコーン、アクセル、クイーン)、ふうとくんキーホルダー@仮面ライダーW、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW、須藤兄妹の絵@仮面ライダーW、霧彦の書置き、スタッグフォン+スタッグメモリ(通信機能回復)@仮面ライダーW、スパイダーショック+スパイダーメモリ@仮面ライダーW、まねきねこ@侍戦隊シンケンジャー、evil tail@仮面ライダーW、エクストリームメモリ(破壊)@仮面ライダーW、ファングメモリ(破壊)@仮面ライダーW、首輪のパーツ(カバーや制限装置、各コードなど(パンスト、三影、冴子、結城、零、翔太郎、フィリップ、つぼみ、良牙、鋼牙、孤門、美希、ヴィヴィオ、杏子、姫矢))、首輪の構造を描いたA4用紙数枚(一部の結城の考察が書いてあるかもしれません)、東せつなのタロットカード(「正義」、「塔」、「太陽」、「月」、「皇帝」、「審判」を除く)@フレッシュプリキュア!、ルビスの魔剣@牙狼、鷹麟の矢@牙狼、ランダム支給品1〜4(鋼牙1〜3、村雨0〜1)、翔太郎の右腕
[思考]
基本:俺は仮面ライダーだ。
0:ドウコクを連れて冴島邸に行く。
1:杏子に謝る。
[備考]
※参戦時期はTV本編終了後です。
※他世界の情報についてある程度知りました。
(何をどの程度知ったかは後続の書き手さんに任せます)
※魔法少女の真実(魔女化)を知りました。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限はフィリップ、ファングメモリ、エクストリームメモリの解放です。これによりファングジョーカー、サイクロンジョーカーエクストリームへの変身が可能となりました。
※ダブルドライバーが破壊されました。また、フィリップが死亡したため、仮にダブルドライバーが修復されても変身はできません。
※仮面ライダージョーカーとして変身した際、右腕でライダーマンのアタッチメントが使えます。

37切札 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:12:17 ID:V1L9C12Q0
【血祭ドウコク@侍戦隊シンケンジャー】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、苛立ち、凄まじい殺意、胴体に刺し傷、ほぼ泥酔状態
[装備]:昇竜抜山刀@侍戦隊シンケンジャー、降竜蓋世刀@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:大量のコンビニの酒
[思考]
基本:その時の気分で皆殺し
0:仕方がないので一也たちと協力し、主催者を殺す。 もし11時までに動きがなければ一也を殺して参加者を10人まで減らす。
1:マンプクや加頭を殺す。
2:杏子や翔太郎なども後で殺す。ただし、マンプクたちを倒してから(11時までに問題が解決していなければ別)。
3:嘆きの海(忘却の海レーテ)に対する疑問。
[備考]
※第四十八幕以降からの参戦です。よって、水切れを起こしません。
※第三回放送後の制限解放によって、アクマロと自身の二の目の解放について聞きました。ただし、死ぬ気はないので特に気にしていません。


【外道シンケンレッド@天装戦隊ゴセイジャーVSシンケンジャー エピックon銀幕】
[状態]:健康
[装備]:烈火大斬刀@侍戦隊シンケンジャー、モウギュウバズーカ@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:なし
[思考]
基本:外道衆の総大将である血祭ドウコクに従う。
[備考]
※外見は「ゴセイジャーVSシンケンジャー」に出てくる物とほぼ同じです。
※これは丈瑠自身というわけではありませんが、はぐれ外道衆なので、二の目はありません。

38 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:12:47 ID:V1L9C12Q0
199話は以上です。
じゃあ、本日ラストの記念すべき第200話を投下します。

39怪奇!闇生物ゴハットの罠 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:13:18 ID:V1L9C12Q0



『────健闘を祈る』

 その言葉が終わると同時に、涼村暁は考えた。

 ──そう、誰を生贄にしようか、と。
 さて、現在十四人ほど参加者がいる。自分は帰りたい。とりあえず、十四人いる内の十人が残れば全員返してもらえるわけだ。自分と自分以外の四人、天秤にかけるまでもない。
 それなら、勿論話が早い。
 十人も生き残れるなら、四人くらい犠牲になってもらう方針でいくほかないだろう。

「よし、死ねーっ、石堀!」

 暁は即座にスタンガンを構えて石堀の体を狙うが、石堀が暁の方を見もせずにひらりと躱した。ヴィヴィオとレイジングハートは一瞬、何が起こったのかわからずに、目を点にしてその様子を流し見していた。
 そして、数秒遅れて、慌てて止めに入る二人であった。信頼という盾が一瞬で崩壊する瞬間であった。

「ちょ……駄目〜!! 何やってるんですかー!!」
「う、うらぎりもの!! 裏切り者です、ヴィヴィオ!!」

 レイジングハートが後ろから暁を羽交い絞めにした。暁の脇から肩から、レイジングハートの両腕が絡んでいった。

「あら?」

 それに対して暁が反抗する様子はなかった。石堀の方に手を振り回す事はあっても、その力もだんだんと弱くなっていく。
 暁としては、背中にぴったり女性のおっぱいがフィットしているのが心地よく、このバトルロワイアルの最中、わりと楽しめる現状に密に満足していたのだろう。レイジングハートとしては本気で暁を止めなければならない状況下で、自分のおっぱいが降れていようが振れていまいが関係なかった。
 ヴィヴィオは、とにかくあたふたするのみである。
 石堀は冷静に、溜息半分に言った。

「……やると思った」
「はぁ……はぁ……なかなかやるな、だが次は外さえねぞっぱい!」
「まあ待て。お前の考えはわかっている。俺含め四人くらい犠牲にして十人くらい生き残る方針なんだろう。それから、語尾で今の心境が筒抜けだぞ」

 ほとんど石堀の直感通りだ。今の放送のせいで、彼も一瞬で心変わりしたのである。
 まあ、あえてフォローしておくなら、彼はヴィヴィオほか、石堀・ドウコク・あかね以外に取り立てて犠牲者を作るつもりはなかったようである。ここにいる石堀がただ単なる無条件な味方でない事は、暁も黒岩の言葉によって承知しており、当然、彼がその抹消対象に入るのは言うまでもない。
 石堀は、暁を無視してコンピュータの方を注視していたが、そちらからも暁に怒号が轟いた。

『コラ〜〜〜ッ!! シャンゼリオン、今ので殺し合いに乗っちゃ駄目でしょうが!! おたくは「全員で生きて帰ってやる!!(キリッ」と言わないと駄目なのっ!! 仮にも正義のヒーローでしょ!!』

 ゴハットはめちゃくちゃ怒った様子で手を振り回している。
 それが不幸にもテレビカメラに当たったらしく、画面が大きく傾いて沈んでいくが、それに気づいて慌ててゴハットが画面を直して修正。
 ゴハットがこちらに反応している事から考えても、これは録画ではないらしい。どう考えても説明だけなら録画が最も効率的だが、このゴハットとかいう怪人はそれを好まないタイプの人間なんだろうか。

「……まさか、これリアルタイムでこっちに接続しているのか。しかし、主催陣にこうまで言われたらおしまいだな」

 石堀はまた至極冷静にそう言ったが、一方の暁はスタンガンを持ったままレイジングハートに取り押さえられて暴れている。
 視界に映っているものが、石堀アンドゴハットで不快な物体ばっかりなんだろう。
 ……いや、やもすると背負っている物がもう少しぷにぷにと背中に当たるように体勢を変えている物凄く邪な理由で暴れているのかもしれないが、これは邪推でしかないのでこのまま放っておくべきだろうか。

40怪奇!闇生物ゴハットの罠 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:14:09 ID:V1L9C12Q0
 どちらにせよ、ゴハットサイドとしては暁が仲間に襲い掛かろうとしている事は憤らずにはいられない出来事である。

『おたくたちはシャンゼリオンにどういう教育をしているんだ、全く!!! 折角、紆余曲折あってシャンゼリオンがヒーローになったんだから、またマーダーにしちゃ駄目でしょうがっ!!!!』
「……すまん」
『と・に・か・くっ!! 僕はおたくたちにこの施設を使ってほしいからこうしてテレビ電話に接続しているから、こっちの指示をちゃんと聞いてよね!!』

 ゴハットの説教に真顔で謝りつつも、石堀は「こいつマジうぜえな」と内心で思い始めた。宇宙人の石堀は知る由もないが、それは小学校の頃の中年女性教師、又は自動車教習所のヤンキーみたいなオッサン教官のウザさによく似ていた。かなり理不尽に、被説教者の人生経験の範囲ではわからないような事で咎めるあの不快さをよく再現している。
 ただ、相手は仮にも主催側の人間であるゆえ、ここでは機嫌を損ねづらい。何か用があってこちらにこうして映像を繋げているらしいので、その用とやらを教えてもらわないわけにはいかないのだ。
 イライラしつつも、ただ相手の返事を待っていると、ゴハットは謝罪の言葉一つで気を取り直したらしく、施設に関する説明を始めた。

『じゃあ、まず超光騎士だけど、それは全部適当に電気を流せば動くから、それで何とかしてね』

 ……と、恥を忍んで待った返事があまりにも適当な解説であった事に、石堀は本気でキレそうになった。
 いかんいかん、冷静にしなければならない。とにかく、ゴハットには丁寧に訊くのだ。怒らせてどうする、──と思って、石堀は訊き返す。

「どこにどう電流を流せばいいのかさっぱり検討もつかないんだが」
『だから、それは適当に盛り上げながら上手く超光騎士に電撃技をぶつけるんだよ!! そうすれば動いてくれるから!! そういうのは深く考えずに雑な感じでいいんだよ!! おたく、そこんとこわかってる!? 常識でしょ、JOUSHIKI! 今更使うのもどうかと思うけど、このまま超光騎士を使わなかったら、超光騎士が玩具屋のワゴンで半額セールだよ!?』
「……仕方がない。本当に適当にやるしかないのか」

 レイジングハートは、暁を取り押さえつつも、「とりあえず適当にやればいいのか」と考える事にした。実際にやるのは彼女と石堀なのだ。
 暁も大分収まって来たらしいが、今の一言には何故か半ギレの様子である。彼も沸点がよくわからない。

「てめえの常識なんか知るか、オタク野郎!! ……適当に、って言われたって、高圧電流を適当に使ったら大怪我するぞ!! 良い子が真似したらどうしやがる!!」
『あー、もう。変なところだけ几帳面なんだから……まったく。じゃあ、ハイ。僕が教えるからそれに従って、どうぞ』
「てめえ! 何様のつもりだこのヤロ!」
「……暁、堪えろ。お前もキレたいかもしれないが、俺もキレたい」

 あまりにも暁が暴れるので、レイジングハートは思わず暁を放した。
 彼はスタンガンを地面に叩きつけて、ゴハットまで至近距離で詰め寄る。
 今は石堀よりもゴハットに対する怒りが強いらしく、暁は石堀を無視してカメラを探した。それらしき物に向けて睨みつけながら、彼は怒鳴る。

「……わかったから、さっさと教えろ!! お前の好きなように!!」
『じゃあ、ハイ。わかったから僕の言う通りにやってね』
「……!」

 思ったよりは遥かに暁が自制しているも、こっちを向いた暁の顔は般若と化していた。
 世界三大ストレスの一つにゴハットを加える事を暁の中で可決する。

『じゃあ、まず電撃技いくよ。石堀さんはアクセルに変身、レイジングハートはフェイト・テスタロッサの恰好になって』

 ゴハットも、嫌々説明を強いられているせいで、雑だ。初心者相手に全部教えるのが苦手なんだろう。ヒーローについての知識が浅い者は、彼にとっては、ダークザイドを凌駕する邪悪に認定されているのかもしれない。
 まあいい。多少のストレスは抑えて、石堀は仮面ライダーアクセルに、レイジングハートはダミーメモリでフェイトに変身する。
 変身の掛け声とかは飛ばされるが、正直その辺りは今回どうでもいい話である。いちいちプロセスを書いていくとキリがない。

『ハイ、じゃあそのまま必殺技の準備に入って〜。シャンゼリオンとヴィヴィオちゃんは危ないから離れてね』

41怪奇!闇生物ゴハットの罠 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:14:27 ID:V1L9C12Q0
「はい」
『……あー、もうちょっと離れた方がいいかも。あんまり近づくと危ないからね。か弱い女の子たちは体をもっと大事にしないと!』

 ここだけ、敵にしてはちょっと丁寧だ。
 割と良い人なのかもしれないとヴィヴィオは内心思った。

『エンジンメモリの使い方やバルディッシュの使い方はわかるね?』

 既にアクセルと偽フェイトは準備を整えている。
 ガイアメモリの力を使って攻撃するのみだ。室内なのでやや控えめにする。
 というか、室内でこの巨大武器を使うとなると、それはそれで少し難しいのだが……。

『ハイ、じゃあ大きな声で言ってみよう!! わかってると思うけど、必殺技の名前を叫ぶ感じで!! 動いた時のリアクションは「こいつ、動いたぞ……!」みたいに盛り上げていこうか。3、2、1、アクション!!』

 掛け声の途中で、アクセルのエンジンブレードがエレクトリックを発動、偽フェイトのバルディッシュがサンダースマッシャーを展開する。
 両者はその手のエモノを使って、ゴハットに対して抱いていたストレスをぶつけるかのように超光騎士を叩きつける。
 超光騎士の体表は頑丈で、そのまま崩れ去ってしまうような事はなかった。

「……」
「……」

 部屋中が閃光──真っ白な光に包まれ、暁とヴィヴィオは反射的に腕を顔の前に回して、眼球にその強烈な光が照射されるのを防いだ。耳鳴り響く轟音を防ぐ術はなかったが、とにかく目の前で起きている現象が一定の安全を保っている事は理解している。
 室内で電撃技を使っている事自体に相当な心配があるが、それでもまだ彼ら二名がこのタイミングで危険な扱い方をしないであろう信頼は持っていたのだろう。

 しかし、ご立腹なのはゴハットだ。轟音が止むと同時に、彼の説教がまた画面越し、ひいてはマイク越しに伝わった。

『ハア!? なんで叫ばないの!? これまでの戦いではおたくら、ずっと叫んでたでしょ!? なんでここぞって時に、まったくもう……おたくらを見ていると本当にストレスが溜まるよ!!』

 今のにはレイジングハートも怒りを覚えたようだが、とにかく抑えた。姿は人間になろうとも、相変わらず自制心は働いているらしい。
 目の前の光が晴れると、三体の超光騎士の目が光り、とりあえず上手い具合に彼らが動く。
 本当に適当にやる感じで良かったのだな、と気が抜けたようだった。

「成功か……?」

 なんだかよくわからないが、三体の超光騎士は煙の中から現れ、暁に近づいていった。
 うぃーん、うぃーん、という感じのロボットっぽい音を出している。
 うむ、いかにも彼らはロボットだ。
 赤、黄、青。わかりやすい信号機の三色を貴重としたカラーを持つ、カッコよさげなシャンゼリオンの味方であった。
 彼らは、主人に挨拶しようと近寄ってきているらしく、右手を差し出して言う。

『アナタタチガ私タチノ主人デスネ。初メマシテ。私ノ名前ハ陸震輝(リクシンキ)』(※カタコトはイメージです)
『私ハ砲陣輝(ホウジンキ)……』
『私ハ……』
「あー、はいはい。初めまして。わかったから。もうそういうのいいから。はーい、とにかく超光騎士の誕生編終わりました、解散。次行こう、次!」

 暁、返答。
 あまりにもドライすぎる態度に、超光騎士たちはキョトンとした。
 普通、こういう時はなんかこう、もっと喜ばれる物だとプログラムされていたような気がするが、暁は流れ作業を終えたような感じである。
 なんだか突き放されているような孤独感に苛まれる。

『……ナンデショウ、折角、目覚メタノニ、コノ扱イ。私タチ、何カ悪イ事シタンデショウカ……?』

 超光騎士──特に自己紹介さえ許されなかった蒼の超光騎士こと空裂輝(クウレツキ)は、激しくしょぼくれた。
 いじけて半分倒れそうになっている。

42怪奇!闇生物ゴハットの罠 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:14:47 ID:V1L9C12Q0

『おたくら、何やってるの!? そんなんじゃ折角目覚めた超光騎士ちゃんが可哀想でしょうが!!』
『……何ダカワカリマセンガ、私ニ優シクシテクレタノハ、アナタガ初メテデス。実ハアナタガ本当ノしゃんぜりおんトイウ事デ間違イナサソウデスネ』

 画面の向こうにいるゴハットの方へと、リクシンキたちはゆっくりと動いて行った。
 しかし、現実は彼らに残酷である。彼ら超光騎士の肩に手を当てて声をかけるのは、先ほどから妙にニヤついていた長髪のチャラ男である。

「ちょっと待て。シャンゼリオンは、どう見てもこの俺様だ。ちなみにそいつ敵だからあんまり話をするな。……冷たくして悪かったな、後で雑炊を奢るから俺に従え」
『アノ……私タチハロボットダカラ、雑炊ハチョット……』

 何となく予想がついていたせいもあり、超光騎士はがっくりと肩を下ろした。
 レイジングハートは何故だか物凄く彼らが可哀想に見えていた。
 勿論、人間社会をある程度知っているヴィヴィオや石堀にとっては、お詫びの印が雑炊だという事実が何より可哀想だ。あからさまに誠意の欠片もない。
 まあ、暁自身が貧乏すぎて、雑炊かカップラーメンくらいしか奢れる物がなさそうなので仕方ないかもしれない。

『……あ。そうだ、シャンゼリオン』

 ゴハットが何か思い出したように切り出した。

「あ!? なんだよ!? まだ何か用があるのか? とっとと消えろ、お前はもう用済みだ!!」

 暁は悪役みたいな台詞をゴハットにぶつけた。
 結局、ゴハットの事は用が済んだらもういらない相手として認識しているらしい。

『まだあるでしょうが!! おたくが持っているパワーストーンの事とかさぁ!! なんで貰ったのに使わないの!? 使うでしょ、普通!!』
「……パワーストーン? 何だっけ、それ。何か聞いた事があるような……」

 暁が遠い目をする。
 ほんわほんわほんわぁ〜……という音とともに回想。

 ずっと昔、三年くらい前に聞いた名前だ。確か、怪しげな占い師の彼女に売りつけられそうになった十万円くらいの丸いガラスの玉が確かパワーストーンという名前だった気がしてきた……。
 だが、あれは流石に買わなかったはずだ……。
 いや、もしかすると押し売られて買ったかもしれない。どっちにしろ引き出しの奥に箱に入れたまま放置しているだろう。
 なるほど、あのパワーストーンがまさか今になって話題に挙がってくるとは、暁も思わなかった。しかし、どうして……。

『違うでしょうが!!!!!!!!! おたくの昔の彼女の事なんか知らないよ!!!!!!!!!!!』
「ほえ? どうしてあんた、俺の回想がわかったんだ?」
『そんな事はどうでもいいの! あれは大事なパワーアップアイテムなんだって、話聞いてないの!? 信じらんないよ、まったく!!!!!!』
「そんなものあったっけ?」
『あるんだよ! ポケット見てよ!!』
「あ、ほんとだ」

 暁はポケットからパワーストーンを取り出した。故・梅盛源太の支給品であり、故・フィリップからの託され物だが、彼は半分忘れかけていたようである。
 何せ、ここまで色々ありすぎたのだ。
 パワーアップも何も、彼がシャンゼリオンになったのはちょっと前の話である。戦闘経験は計三日だ。それで、ヒロイン死んで、ライバルをもう倒して、ハイパー化とかいうパワーアップまで果たして、次のパワーアップとか、ヒーロー史上類を見ないハイスピードすぎる展開だろう。
 そんな話が作られたら日本の特撮番組の歴史が変わりかねない。打ち切りを待たずして三話で終わってしまうだろう。

『あー……まったくもう。腹立たしいけど、まあとにかく話を進めようか』

 これに関してはゴハットの方が正しいかもしれないと石堀は内心思った。
 大事な武器を一つ忘れるほどバカだったとは。

43怪奇!闇生物ゴハットの罠 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:15:05 ID:V1L9C12Q0

『じゃあ本題ね。……この前、おたくはハイパーシャンゼリオンになったけどさぁ、あんな盛り上がりもなくあっさりパワーアップされるとこっちとしても困るんだよねぇ』

 まあ、この言葉でもう石堀はゴハットに対する共感を彼方へ投げ捨てる事になった。
 何が困るのか問い詰めたい。

『しかもさー、使った技がちまちまと首輪のカバーを外すだけって……そんなのでチビッ子は喜ばないよ。玩具買ってくれないよ? 出てないけど』
「チビッ子? どこにそんなもんがいるんだよ」
『いるでしょうが!! 変身ロワイアルを楽しみにしているチビッ子たちがたくさん!!』

 ゴハットがテレビカメラから少し退く。
 すると、後ろにキャスター付きの台の上に、大量の手紙が入った四角い透明な箱が置いてあるのが見えた。

(いつ用意したんだコレ……)

 周りには、シャンゼリオンのフィギュアや絵本まで用意されており、準備万端という感じである。

(本当にいつ用意したんだコレ……)

 ゴハットは、テレビカメラの様子を見つつ、ゆっくりとその台の方に歩いて行って、箱に手を突っ込んだ。上に丸く穴が開いているのである。
 そこから出した手紙を、読み上げるゴハットからは司会者のオーラが出ていた。

『こちらのファンレターは島根県の五破田五派郎くん(9)から。いつも変身ロワイアルを楽しみに見ています。僕は参加者の中では、シャンゼリオンこと涼村暁さんが一番好きです。ぜひとも生き残って欲しいです。しかし、この間のハイパーシャンゼリオンの回だけは流石に擁護できません。文句なしのクソ回です。この回の脚本家は死ねばいいと思います』
「は?」

 あの中にはどうやらファンレターが入っているらしい。視聴者からの生の声が暁に届く。
 そのいきなりの辛辣な意見に思わず暁もショックを隠し切れない一方、こうも突然の出来事に首を傾げずにはいられなかった。

『お次は島根県のダーク斎藤くん(8)からのお手紙。暁さん、ゴハットさん、こんばんは。……ハイ、こんばんは。……えー、いつも変身ロワイアルを楽しみに見ています。書き手の皆さんは頑張っているな、と思います。しかし、最近思った事があるので言わせてください。変身ロワはいつも長くて途中で眠くなります。タイトルの(前編)を見ると一気に読む気がなくなります。シャンゼリオンがもうちょっとカッコよければ眠くなっても楽しみに見るのにな、と思います。シャンゼリオンにはぜひともカッコよくパワーアップしてほしいです。ちなみに僕は変身ロワとトッキュウジャーならトッキュウジャーの方が好きです。烈車戦隊トッキュウジャーは毎週日曜朝7時半からテレビ朝日系列にて放送中です』
「なんだそりゃ……」

 まさか、これがプロパガンダか……と石堀は内心で思った。
 暁の戦意高揚を目指すつもりなのだろうか。あからさまにパワーアップに誘導する為の内容ばかり。この大量の手紙は全部ゴハットの自作自演である可能性が高いのではないか、とダークザギの高度な知能が察知を始める。

『はい、じゃあ今回はこれで最後の手紙にしようか。暁帆みむらさん(14)からのお手紙。ちなみに島根県出身だそうです。変身ロワイアルを毎回楽しみに見ています。次の話が読みたくて待ちきれません。しかし、暁がウザくてムカつきます。他の人が真剣にやっているのに、あの人が出てくるといちいち場の空気が乱れてテンポも悪くなりますっています。この人には真面目にやってパワーアップしてもらうか、死んでもらうかしてほしいんですけど、何とかなりませんか?』

 暁と石堀の隣で、レイジングハートがぼけーっとしていた。
 とにかく、何か口を出してはいけない空気だけは掴んだようである。

「島根ばっかりじゃねえか! 許さねえ! 若すぎる年齢が嘘臭く見えるぞ」
「……暁、そこじゃない」

 どこから突っ込んでいいのか迷っている内に時間が浪費されていきそうだ。
 石堀は俯いて哀しげに首を横に振りながら暁の肩をとんとんと叩いた。
 暁も怒りの矛先を間違えてしまったのだろう。

『……でもさぁ、恥ずかしいと思わないの? じゃあ、次は変身ロワ!板のシャンゼリオンアンチスレの書き込みを……』
「もういい! もうたくさんだ! アンチスレの書き込みなんてどうでもいいっ! 何がしたいんだ、お前は!」

 えへん、とゴハットが胸を張って言った。

44怪奇!闇生物ゴハットの罠 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:16:02 ID:V1L9C12Q0

『そんなわけで、今回は特別にこの僕が、こんなチビッ子たちの声にお応えするために、シャンゼリオンがパワーアップするシチュエーションを考えて、セッティングしといたよ! これでアンチスレの数が本スレの数を超える最悪の事態はギリギリ避けられるはずだ!』
「ハァ!?」

 ゴハットのペースに乗せられながらも、暁たちはストレスゲージがマッハで高まっていくのを感じた。
 腹を立てているのをこちらであって、向こうに腹を立てられる筋合いはない。
 まるでこちらが悪いような言いぐさである。
 挙句、パワーアップのシチュエーションを勝手にセッティングするなど許せない。

『じゃあ、もうこれからは有無を言わさず、今からファックスでシャンゼリオンパワーアップ計画の資料を送るから、その通りにしてねー!! じゃないと酷い事になるよ? グッバーイ!!』

 そう言うと、ゴハットが画面から消え、パソコン画面は真っ暗になった。
 うぃーん、とどこかからファックスの音が聞こえてくる。
 全員、そこを注視した。見れば、変な紙がゆっくり排出されてくる。







【覚醒!新戦士────シナリオ第一稿】


新戦士の名前は!? 姿は!?
それは次回までわからない……。


○配役

涼村暁
 今まで超光戦士シャンゼリオンとして戦ってきた軟派な私立探偵。
 前作『超光戦士シャンゼリオン』に引き続き、主人公として登場する。
 第一話でパワーストーンの力によってパワーアップし、新たなるスーパー戦士へと進化。
 仲間や超光騎士たちとともにバトルロワイアルを打ち砕く!

石堀光彦
 ある世界から来たナイトレイダーの隊員。仮面ライダーアクセルに変身する。
 コンピュータが得意で、いつもクールなナイスガイ。
 暁に協力する素振りを見せるが、実はその正体は……!?
 第一話ではゴハットにボコボコにされていた所を暁に助けられる。

高町ヴィヴィオ
 魔法の力を持ったヒロイン。セイクリッドハートを使って大人になれるが戦闘はしない。
 心優しいが、実は誰よりも怪力な格闘少女。ロリっ子。暁の事が大好きなツンデレ。
 第一話では人質になっていた所を暁に助けられる。

レイジングハート・エクセリオン
 機械っ子。暁が引き取った機械の少女。魔法が使える。
 最初は感情がなかったが、暁たちとの交流でだんだんと感情が生まれ始めた。
 この気持ちは一体何……!?
 第一話ではゴハットにボコボコにされていた所を暁に助けられる。

ゴハット
 ダークザイドの残党で、新組織の誕生を暁たちに知らせてきた怪人。
 その姿は醜悪で、どんな残忍な手段も厭わない。
 第一話でヴィヴィオを人質に暁たちを呼び出すが、パワーアップしたガイアポロンに倒される。
 胸のダークタイマー(丸い奴ね)が弱点。

45怪奇!闇生物ゴハットの罠 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:16:29 ID:V1L9C12Q0


○第一話のストーリー
 倒したはずのダークザイド残党・ゴハットによってヴィヴィオが捕まってしまった。
 D−6エリアまで呼び出された正義のヒーローたちは慌ててそこに向かう事になる。
 石堀とレイジングハートが真っ先に、ヴィヴィオを助けるべく立ち向かうが、二人ともボロボロに負けてしまう。
 ゴハットはダークザイドに変わる新たな組織の存在をほのめかす。
 二人は絶体絶命のピンチに陥った!

 だが、そんな時、暁がリクシンキに乗って、ちょっと遅れて颯爽と現れた!
 彼は宗方博士によって研究されていたシャンゼリオンのパワーアップアイテム・パワーストーンの完成を待っていたのだ!
 パワーストーンを使って新戦士・ガイアポロンが誕生し、圧倒的なパワーでゴハットを倒す!!


 ……他、ゴハットが色々指定していたけど、ここでは省略。







 ……暁たちは、それを見て、しばらく固まった。
 一秒、二秒、三秒……ならず、三十秒近く固まっていただろう。テレビならば放送事故になりかねない無音と無心の時間が過ぎ去った後、暁がふと息を吹き返した。

「……ふざけてんのか!? 行くわけないだろ……」

 勢いに任せ、暁がその紙を破り捨てようとした。一応、紙破りマニアの為に細かく描写すると、A4の紙を縦に重ねて構え、右手と左手の間隔を一センチまで縮め、そこから指先に力を込めて半分に裂こうとしていたのである。
 しかし、指先に力がこもったあたりで、レイジングハートがその手を止めた。

「ちょっと待ってください、暁!!」

 レイジングハートは酷く焦った様子である。暁がファックスを破いてしまうのを寸前で防いだ彼女は、上目遣いで暁に言う。
 ちょっぴりセクシー、暁も止まる。

「よく見たら……さっきからヴィヴィオがいません!!」

 言われて、慌てて暁が振り返る。ヴィヴィオがいた場所はすっからかんであった。
 ヴィヴィオが、マジで攫われていたのである。
 全員が色んな出来事に気を取られていた隙に、ゴハットがヴィヴィオを攫っていったのである。

「ああああーーーーーーーっ!! クソッ、やられたっ! このクソ忙しい時に!」

 暁は、力余って思わずA4用紙をぐちゃぐちゃに丸めてしまうが、とにかくヴィヴィオ救出作戦はなんとか立てなければならない。
 A−10からグロンギ遺跡は、なかなか遠い。バイクで行く事はできるが、それでも途中で色々と連絡し合わなければならないのだからかなりしんどい話である。
 レイジングハートは、先が思いやられると思いながら、暁についていくしかない状況である。

「……暁。このゴハットの指定通りなら、ヴィヴィオちゃんを助けたうえにゴハットも倒せるぞ。というか、あいつそんなにやられたいのか? 理解に苦しむ……」

 石堀が、至極真面目な顔をして言った。
 実のところ、これが最も簡単な手である。ゴハットは、天元突破するレベルの変わり者であり、敵であるシャンゼリオンに狂気の愛情を注ぐだけでは飽き足らず、最終的にはカッコいいシャンゼリオンに倒されたいとまで願う何ともヤバげなダークザイド怪人だ。
 この場合、おとなしく相手の要求を呑めば、ヴィヴィオに危害は加わらないと考えていい。
 しかし、そのまま要求を受けるのも癪であった。

「アホたれが! こんな馬鹿臭い話に誰が乗るか。俺はアンチスレが本スレ超えるくらいロックな生き方がしたいんだ。視聴率もスポンサーも興行収入も玩具売上もいらないの。わかる人だけわかればいいんだから」
「何を言っている? だいたい、そんな狭い範囲の人間にしか楽しめない自覚がある時点でお前はプロ失格だぞ」
「何の話ですか?」

 レイジングハートとしては、まさしく一刻を急いている時だったのだが、他二名がこの調子である。とにかく、何の台詞もなく、突然消えるようにして攫われてしまったヴィヴィオを一刻も早く救わなければならない。

46怪奇!闇生物ゴハットの罠 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:18:05 ID:V1L9C12Q0

「……だが、暁。奴の思い通りになるべきではないというのは同感だ。シナリオ通りと見せかけて罠をしかけてくる可能性もある。自ら悪役を買って出て、悪の醜さを知らしめ、最後に自分が倒される事で正義の素晴らしさを証明しようなんていう酔狂な奴はそうそういるもんじゃないからな」
「なんだか妙に具体的ですし、そこまで言っていないと思うのですが……」

 石堀としても、この内容を見ると溜息が出かねない。
 確かに、ヒーローの強さを引き立てる為のシチュエーションというのは大事だと、ダークザギたる彼でもやや──ほんの心の片隅で思う。
 しかし、それはあくまでテレビの中だけの話である。
 ましてや、殺し合いの状況下、強い悪も強い正義も望まない。必要なのは、己に屈する相手のみだ。

「……よし、決めた。この作戦でいこう」

 暁が作戦を石堀とレイジングハートに話した。
 とにかく、指定された場所にだけは行かなければならないが、そこからの問題だ。

 さて、それが彼らにとっての、最後の六時間の始まりであった。








 三人は、C−8あたりで一度、それぞれのマシンを止めて連絡を受けていた。
 仮面ライダーアクセルに変身した石堀にレイジングハートが騎乗し、リクシンキに暁が騎乗していた。
 そんな最中、暁の所持していたスシチェンジャーに連絡が入ったのである。元々は石堀が持っていたが、アクセルに変身して移動する都合で暁に渡っている。
 着信は、沖一也や左翔太郎らのチームからであった。

「……もしもし、こちら、涼村です」

 内心では少し焦りつつも、あくまで冷静に答えた。
 クリスタルステーション内の問題はすぐに解決したというのに、また新しい問題ができてしまって、電話で報告できない状況だ。とにかく、ヴィヴィオを取り戻すまではこちらから連絡しようという気は起きなかったのである。
 しかし、どう考えても数十分あれば終わるはずの作業を報告しなかったので、怒りの着信なのではないかと思っていた。まさか、こちらから事実を報告するとその方が遥かにまずい事など誰も知る由もないだろう。

「手術成功? ああ、そりゃ良かった……」

 左翔太郎の手術の成功に関しての報告らしい。
 まあ、よくこんな状況で手術が上手く行ったものだと思いながら、暁はこちらの様子について聞かれないか心配した。

「え? こっちの様子? うーんと……」

 ……が、あっさりとすぐにそれが訊かれてしまい、暁は内心で焦る。
 学校のガラスを割った日に家に電話がかかってきたような気分だった。
 とにかくヴィヴィオの件は解決してから話そうかと思っていたが、そうもいかないらしい。

「いや、超光騎士は大丈夫なんだけど、問題が発生したんだ」

 話さなければならないのだと思うと気が重いが、相手の質問で、隠し通すのも無理そうだと確信した。いざとなったら電話を切ればいい(クズの発想)。

「……ヴィヴィオちゃん、攫われちゃった」

 仕方がなく、そう答えた。
 ちょっと軽く。いや、軽く言ってはいけないのだが、今のところ大きな実害もないので能天気っぽく……なるべく相手の機嫌を損ねないように。
 だが、相手が大きな声で叫んで暁の耳元に衝撃が来る。

「あー、ゴハットがちょっと出てきて。それで、グロンギ遺跡に呼ばれてるんだけど、まあそれは何とか。援護がなくてもこっちで何とかできるはずだから」

 とにかく、大丈夫である事をアピール。
 これで何とかなるはずだ。一押し、一押し、慎重に暁が言っていると、何とか向こうも収まったらしい。

「ふー……とりあえず説教はなかった」

 安心した様子で答えると、もう時刻は朝八時に近づき始めていた。
 ああ、既に二時間近くもこんな事に時間を費やしていたのか。
 馬鹿らしい話だが、もう行かなければならない。

47怪奇!闇生物ゴハットの罠 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:22:04 ID:V1L9C12Q0



【2日目 朝】
【C−8 森】



【涼村暁@超光戦士シャンゼリオン】
[状態]:疲労(小)、胸部に強いダメージ(応急処置済)、ダグバの死体が軽くトラウマ、脇腹に傷(応急処置済)、左頬に痛み、首輪解除
[装備]:シャンバイザー@超光戦士シャンゼリオン、モロトフ火炎手榴弾×3、恐竜ディスク@侍戦隊シンケンジャー、パワーストーン@超光戦士シャンゼリオン、リクシンキ@超光戦士シャンゼリオン、呼べば来る便利な超光騎士(クウレツキ@超光戦士シャンゼリオン、ホウジンキ@超光戦士シャンゼリオン)
[道具]:支給品一式×8(暁(ペットボトル一本消費)、一文字(食料一食分消費)、ミユキ、ダグバ、ほむら、祈里(食料と水はほむらの方に)、霧彦、黒岩)、首輪(ほむら)、姫矢の戦場写真@ウルトラマンネクサス、タカラガイの貝殻@ウルトラマンネクサス、スタンガン、ブレイクされたスカルメモリ、混ぜると危険な洗剤@魔法少女まどか☆マギカ、一条薫のライフル銃(10/10)@仮面ライダークウガ、のろいうさぎ@魔法少女リリカルなのはシリーズ、コブラージャのブロマイド×30@ハートキャッチプリキュア!、スーパーヒーローマニュアルⅡ、グロンギのトランプ@仮面ライダークウガ
[思考]
基本:加頭たちをブッ潰し、加頭たちの資金を奪ってパラダイス♪
0:時間がねえのに誘拐とかすんじゃねえよクソが。でもヴィヴィオちゃん助けにいかなきゃ。
1:石堀を警戒。石堀からラブを守る。表向きは信じているフリをする。
2:可愛い女の子を見つけたらまずはナンパ。
3:変なオタクヤロー(ゴハット)はいつかぶちのめす。
[備考]
※第2話「ノーテンキラキラ」途中(橘朱美と喧嘩になる前)からの参戦です。
つまりまだ黒岩省吾とは面識がありません(リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキのことも知らない)。
※ほむら経由で魔法少女の事についてある程度聞きました。知り合いの名前は聞いていませんでしたが、凪(さやか情報)及び黒岩(マミ情報)との情報交換したことで概ね把握しました。その為、ほむらが助けたかったのがまどかだという事を把握しています。
※黒岩とは未来で出会う可能性があると石堀より聞きました。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。
※森林でのガドルの放送を聞きました。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限は『スーパーヒーローマニュアル?』の入手です。
※リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキとクリスタルステーションの事を知りました。
※結城丈二が一人でガドルに挑んだことを知りました。

48怪奇!闇生物ゴハットの罠 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:22:16 ID:V1L9C12Q0

【石堀光彦@ウルトラマンネクサス】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、首輪解除
[装備]:Kar98k(korrosion弾7/8)@仮面ライダーSPIRITS、アクセルドライバー+ガイアメモリ(アクセル、トライアル)+ガイアメモリ強化アダプター@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW 、コルトパイソン+執行実包(6/6)
[道具]:支給品一式×6(石堀、ガドル、ユーノ、凪、照井、フェイト)、メモレイサー@ウルトラマンネクサス、110のシャンプー@らんま1/2、ガイアメモリ説明書、.357マグナム弾(執行実包×10、神経断裂弾@仮面ライダークウガ×2)、テッククリスタル(レイピア)@宇宙の騎士テッカマンブレード、イングラムM10@現実?、火炎杖@らんま1/2、血のついた毛布、反転宝珠@らんま1/2、キュアブロッサムとキュアマリンのコスプレ衣装@ハートキャッチプリキュア!、スタンガン、『風都 仕置人疾る』@仮面ライダーW、蛮刀毒泡沫@侍戦隊シンケンジャー、暁が図書室からかっぱらってきた本、スシチェンジャー@侍戦隊シンケンジャー
[思考]
基本:今は「石堀光彦」として行動する。
0:癪だがとにかくヴィヴィオを助けに行かなきゃならない…。
1:「あいつ」を見つけた。そして、共にレーテに向かい、光を奪う。
2:周囲を利用し、加頭を倒し元の世界に戻る。
3:都合の悪い記憶はメモレイサーで消去する
4:加頭の「願いを叶える」という言葉が信用できるとわかった場合は……。
5:クローバーボックスに警戒。
[備考]
※参戦時期は姫矢編の後半ごろ。
※今の彼にダークザギへの変身能力があるかは不明です(原作ではネクサスの光を変換する必要があります)。
※ハトプリ勢、およびフレプリ勢についてプリキュア関連の秘密も含めて聞きました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※つぼみからプリキュア、砂漠の使徒、サラマンダー男爵について聞きました。
※殺し合いの技術提供にTLTが関わっている可能性を考えています。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。
※森林でのガドルの放送を聞きました。
※TLTが何者かに乗っ取られてしまった可能性を考えています。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。予知能力の使用が可能です。
※予知能力は、一度使うたびに二時間使用できなくなります。また、主催に著しく不利益な予知は使用できません。
※予知能力で、デュナミストが「あいつ」の手に渡る事を知りました。既知の人物なのか、未知の人物なのか、現在のデュナミストなのか未来のデュナミストなのかは一切不明。後続の書き手さんにお任せします。
※結城丈二が一人でガドルに挑んだことを知りました。

49怪奇!闇生物ゴハットの罠 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:25:18 ID:V1L9C12Q0
【レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:疲労(大)、魔力消費(大)、娘溺泉の力で人間化
[装備]:T2ダミーメモリ@仮面ライダーW
[道具]:バラゴのペンダント、ボチャードピストル(0/8)、顔を変容させる秘薬、ファックスで届いたゴハットのシナリオ原稿(ぐちゃぐちゃに丸められています)
[思考]
基本:悪を倒す。
0:ヴィヴィオを助けに行く。
1:ヴィヴィオや零とは今後も協力する。
2:ケーキが食べたい。
[備考]
※娘溺泉の力で女性の姿に変身しました。お湯をかけると元のデバイスの形に戻ります。
※ダミーメモリによって、レイジングハート自身が既知の人物や物体に変身し、能力を使用する事ができます。ただし、レイジングハート自身が知らない技は使用する事ができません。
※ダミーメモリの力で攻撃や防御を除く特殊能力が使えるは不明です(ユーノの回復等)。
※鋼牙と零に対する誤解は解けました。


【2日目 朝】
【??? ???】

【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:上半身火傷(ティオの治療でやや回復)、左腕骨折(手当て済+ティオの治療でやや回復)、誰かに首を絞められた跡、決意、臨死体験による心情の感覚の変化、首輪解除、誘拐された
[装備]:セイクリッド・ハート@魔法少女リリカルなのはシリーズ、稲妻電光剣@仮面ライダーSPIRITS
[道具]:支給品一式×6(ゆり、源太、ヴィヴィオ、乱馬、いつき(食料と水を少し消費)、アインハルト(食料と水を少し消費))、アスティオン(疲労)@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ほむらの制服の袖、マッハキャリバー(待機状態・破損有(使用可能な程度))@魔法少女リリカルなのはシリーズ、リボルバーナックル(両手・収納中)@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ゆりのランダムアイテム0〜2個、乱馬のランダムアイテム0〜2個、山千拳の秘伝書@らんま1/2、水とお湯の入ったポット1つずつ、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ガイアメモリに関するポスター×3、『太陽』のタロットカード、大道克己のナイフ@仮面ライダーW、春眠香の説明書、ガイアメモリに関するポスター
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
0:え…?その2
1:生きる。
2:レイジングハートの面倒を見る。
[備考]
※参戦時期はvivid、アインハルトと仲良くなって以降のどこか(少なくてもMemory;21以降)です
※乱馬の嘘に薄々気付いているものの、その事を責めるつもりは全くありません。
※ガドルの呼びかけを聞いていません。
※警察署の屋上で魔法陣、トレーニングルームでパワードスーツ(ソルテッカマン2号機)を発見しました。
※第二回放送のボーナス関連の話は一切聞いておらず、とりあえず孤門から「警察署は危険」と教わっただけです。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※一度心肺停止状態になりましたが、孤門の心肺蘇生法とAEDによって生存。臨死体験をしました。それにより、少し考え方や価値観がプラス思考に変わり、精神面でも落ち着いています。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。

50 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:27:49 ID:V1L9C12Q0
以上で本日分は投下終了です。
また明日、「昼前」のSSを投下します。
ただ、「昼」のSSが未完成状態なので、一応土曜いっぱいの期限に間に合わせるつもりですが、一日一区間分のSSを投下しようと考えています。
どれも短いですが、まあ塵が積もって山となった形で今回全体の分量がめちゃくちゃ多いです。
のんびり見ていってください。

51名無しさん:2014/08/07(木) 14:36:41 ID:zR.9AOQgO
投下乙です。

新たな罪を数え、左翔太郎、仮面ライダーに復活!
戦う強さは無くとも、守る優しさならある!

52名無しさん:2014/08/07(木) 17:04:51 ID:CyC4Cryg0
投下乙です

うおおおおおおおおっ!?
左翔太郎、仮面ライダーに復活!
だが、状況は混沌としてる中、ヴィヴィオが…

53名無しさん:2014/08/07(木) 18:25:51 ID:gV8uaFho0
スレ立て&投下乙です。
ああ、あかねがもっとヤバくなっていく……どうか彼女に幸あれ

54名無しさん:2014/08/08(金) 06:53:16 ID:tjBYZ6FM0
投下乙です
翔太郎は復活したか。でもあかねの暴走にヴィヴィオ誘拐とまだ問題は残ってるんだよな
沖さんはドウコクを何時まで騙し通せるのかも不安だな

55名無しさん:2014/08/08(金) 20:31:08 ID:tY0kT6Lo0
投下乙です。
翔太郎は復活できたけど、そこに来るまで本当に苦しそうだったな…
実際、麻酔なしの手術ってヤバいだろうし。

56 ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:34:10 ID:o1PzPQC60
遅れましたが、本日分を投下します。
今日は201話〜203話です。全部分割話です。
まず201話から投下します。

57覚醒!超光戦士ガイアポロン(Aパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:35:19 ID:o1PzPQC60



 ────このあとすぐ、新番組!!







※このSSにでてくるじんめいは
 かくうのものでじっさいのひと
 とはかんけいありません



 ♪『OVER THE TIME 〜時(いま)を越えて〜』の二番


 第1話
 覚醒!超光戦士ガイアポロン


 涼村 暁 シャンゼリオン/ガイアポロン
  萩野 タカシ

 高町 ヴィヴィオ
  水橋 カオリ

 石堀 光彦 仮面ライダーアクセル/ダークザギ
  加藤 コウセイ

 レイジングハート・エクセリオン ダミードーパント
  ???

 おたく 闇生物ゴハット
  石黒 ヒサヤ

 暁美 ほむら(友情出演)
  斎藤 チワ

 原作
  八手 サブロー

 シリーズ構成
  井上 トシキ

 脚本
  荒川 ナル……じゃなくて木下 ケン

 プロデューサー
  白倉 シンイチロー

 監督
  蓑輪 マサオ

 ※以上のクレジットは全部嘘です。







「あー、楽しみだなぁ、シャンゼリオンのパワーアップ」

 D−6。グロンギ遺跡。殺し合い終了までの残り時間は四時間。
 この怪しげな山の頂上で、高町ヴィヴィオは謎の十字架型の置物に磔にされて、落ち着かないゴハットを見下ろしていた。

58覚醒!超光戦士ガイアポロン(Aパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:35:42 ID:o1PzPQC60
 とりあえず、台本のようなものの内容をヴィヴィオに細かく説明して、それから先は全部この調子である。突然後ろから捕まえられてここまでワープさせられた時はどうなる事かと思ったが、案外紳士的だった。
 場を盛り上げる為だから大人モードよりも子供モードでよろしく、とか色んな指定をしている時に少しでも口を挟むと怒る彼だったが、今はヴィヴィオの緊張を察してくれている。ミスをしないように、とまで声をかけてくれて……まるで殺し合いである事を忘れて気遣っているようだ。
 人質であるヴィヴィオに対してはわりとフランクで、特にヴィヴィオも不快感を得る事はない。確かに不気味ではあるが、それでもゴハットからは邪気のような物が見られないのである。

「じゃあ、君も打ち合わせの通りによろしく。あんまり危害は加えないからね。暴れたら別だけど」

 とはいえ、ヴィヴィオは今まで生きてきた中でも、物凄く混乱しているようだった。磔にされて人質にされているはずなのに、物凄く優しい。更にゴハットは、クリスやティオを優しく撫でてから磔にしたくらいである。
 ……こんな複雑な人間には初めて会った。優しいのに、他人を人質にする人間なんて今まで見たことがない。

「あ、あの……それは良いんですけど。こんな事して、ゴハットさんの方は大丈夫なんですか? だって、本当にこのシナリオ通りなら、ゴハットさん、死んじゃうんじゃ……」

 見せられたシナリオのラストでは、ゴハットが弱点を突かれてシャンゼリオンに倒されてしまうとある。それは即ち死ぬという事なのである。
 そもそも、こうやって参加者に積極的に介入してくるのも意外であった。
 彼ら主催陣は、この殺し合いを円滑に進めていこうとする為にある程度、介入してきてもおかしくはないかもしれない。しかし、こうまで話の展開を変えて介入してくる事など、あっていいのだろうか。
 主催者たちに殺されても、おかしくないんじゃないか……? と、彼女は思うのだ。

「いいんだよ! 僕は! ……だって、夢みたいじゃないか〜♪ あんなにカッコいいシャンゼリオンに倒されるなんて」
「どうして、そんな……。そんなの、悲しすぎます。どうして、あの人の事がそんなに好きなのに……。それなら、力になってあげようとか考えるのが普通なんじゃないですか!?」

 ヴィヴィオが、割と真っ当な事を言った。
 シャンゼリオンはゴハットを嫌っているが、ゴハットの方は割とシャンゼリオンに対して親身に接しているようでもある。
 ヴィヴィオにも、暁より数倍良識のある人間に見えた。……まあ、ゴハットも多少デリカシーがなく、ちょっとおかしい所もあったが。

「君は優しい良い子だねぇ……。きっと君が大人になったら、スーパーヒロインとして、君のお母さんみたいに活躍できるよ、うんうん」

 そう言うゴハットの横顔は、どこか物憂げでもあった。
 結局は、後に活躍する事になるはずだった魔導師の少女を犠牲にしているのがこの殺し合いだ。その殺し合い運営の一端を担っていたのがゴハットである。

 実際のところ、ゴハットとしては、「ヒーローは死なない」という危ない幻想を持っており、それに則って考えるならば、「高町なのははヒーローじゃなかった」と割り切って考えるのが自然である。だが、その娘こと高町ヴィヴィオの様子を見ていると、やはり彼女はヒーローだったのではないかという思いもあるのだろう。彼は間近で見せられてきたドラマに関してケチをつけるほど悪質ではない。
 死して尚、生きている人間に影響を与えていくのもまたヒーローなのだ。
 それもよく、彼はこの戦いで理解し始めた。考えてみれば昭和ヒーローも戦死者は多い。

 一人の偉大なヒロインとしてのなのはの死には、それなりに敬服の意を表し、胸を痛めているゴハットである。

「……でも、僕たちダークザイドはね、人間の天敵としてしか生きられないんだよ。人間のラームを食べる事で命をつなげていくだけの儚い生物さ」

 ダークザイドという生物は、人間の魂をエネルギーに生きている生物だった。
 即ち、人間側にとって悪事にも見える殺傷行為は、全て彼らの生理現象の中に納まっている至極当然の行為なのである。
 ゴハットはその中でもとりわけおとなしい方で、あまり積極的に人間を喰らおうとはせずにヒーロー番組に夢中になる変わり者だったが、それでも時折人間を食わなければ彼も生きてはいけないのだ。
 本当は、人を襲うよりも幼稚園バスをバスジャックするとか、貯水池に毒を流すとか、そういう悪さをしたかったのだが……。

59覚醒!超光戦士ガイアポロン(Aパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:36:00 ID:o1PzPQC60

「ある時、君たちの世界のテレビを見ていたら、僕たちみたいな奴らを倒して、人間を守るヒーローがいたんだ。……カッコよかったなぁ。現実にあんなヒーローがいたら、僕たちなんて一ひねりだろうと思っていた。でも、実際にいたんだよ。人間の世界にもヒーローが」
「まさか、それが……」
「うん。僕たちの世界には、シャンゼリオンというヒーローがいたんだ! ……それから僕は、シャンゼリオンに倒されたいとずっと思っていたんだよ。ああ、シャンゼリオンに倒された先輩たちが羨ましいな〜……」

 ヴィヴィオは、ゴハットの哀しすぎる事情に、思わず声も出なくなった。
 そう、彼は優しすぎるが故に、倒されなければならないのだ。
 そして、そんな悲しすぎる夢を見るようになってしまったのだ。
 とか、割とストックホルム症候群紛いな状況に陥っているヴィヴィオであったが、元来の優しさゆえの騙されやすさであった。

「ずっとずっと、僕の夢なんだ。カッコいいヒーローのシャンゼリオンに倒されるのが……。ましてや、もっと強くなったシャンゼリオンに倒される事ができるなんて、本望じゃないか」

 夢──という言葉が、そのまま死に直結する事が悲しかった。
 夢を持っている事は良い事かもしれないが、それが死ぬ事だなんていうのは悲惨だ。

「……違うと思います」

 ヴィヴィオは、無意識にそう返してしまった。

「何も知らない私がこんな事を言うのも何ですけど、ゴハットさんは、本当はシャンゼリオンと友達になりたいと思っているんじゃないんですか? 本当はヒーローになりたくて……だけど、それが絶対にできないから……あなたは人間と暮らせないから、そんな悲しい事を思うようになってしまったんじゃないですか?」

 何度も言うが、ヴィヴィオは、優しかった。優しく、ゴハットの気持ちを覗こうとした。
 彼とは分かり合えないのだろうか──いや、そんな事はない。
 彼を倒すしかないなんて嘘だ。ヴィヴィオは彼と分かり合いたい。
 だが、ゴハットは、ヴィヴィオの言葉を見て、眉を顰めたらしい。

「……残念だなぁ。それはちょっと違うよ。……僕はね、やっぱりシャンゼリオンに倒されたいんだ、一人のダークザイドとして! それが嬉しくてたまらないんだ! その展開を妨害するなら、君のような相手でも容赦はしないよ!」

 彼はそう答えた。
 ゴハットは、優しいように見えて、こういう厳しい部分もある。ある意味では、度を越したオタクの狂気であった。多少の傲慢もある。
 しかし、これほど小さな少女に声を荒げそうになった事は彼もすぐに反省したらしく、少し声を抑えた。

「……だんだんわかってきたんだ、これがシャンゼリオンに倒される最後のチャンスなんだって。夢の中の存在でしかない、全てが終わればまた夢の中に戻ってしまうような僕にはね……」

 彼は、倒されたがって、死にたがっている。
 それを前に、ヴィヴィオは何もできない。何も言う言葉がなかった。
 夢の中の存在、というのがどういう事かはわからないが、とにかく彼はそう言った。
 そんな一言一言を、ヴィヴィオは噛みしめる。
 彼をどうするのが正解なのか、ヴィヴィオにも答えなど出るはずがない。

「……あ、来た来た。じゃあ、後は打ち合わせ通りよろしく〜」

 ヴィヴィオは、その時、息を飲んだ。
 バイクフォームになったアクセルに乗って、レイジングハートが山を登ってくるのが見えたのだ。
 まだ判断がつかない内心。そして、正しく演技できるのか緊張する想い。

「……」

 そして、彼らはすぐにグロンギ遺跡の前で止まった。
 ヴィヴィオは深呼吸の後、打ち合わせ通りの台詞を叫んだ。

「た、助けてー!! 悪い奴に人質にされちゃいましたー!! あ……で、でもシャンゼリオンにだけは助けてほしくないんだからねっ!(←申し訳程度のツンデレ要素)」

 その内面には、少し悲しい気持ちもあったに違いない。ヴィヴィオはゴハットも助けたかったが、まずはこうして話を進めなければならないのである。
 ゴハットは、まずヴィヴィオの第一声を聞いて、まず満足そうにすると、そのまま続けた。

60覚醒!超光戦士ガイアポロン(Aパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:36:17 ID:o1PzPQC60

「フッハッハッハッハッハッハッハッ!!! ようこそ諸君!!! 君たちに倒された同胞の雪辱、忘れてはいないぞ……って、ゴボェァッ!!!!!!!」

 そんな折、ゴハットを後ろからレーザー攻撃で砲撃する者があった。ゴハットを背中から貫いた光の束は、容赦なくゴハットの体を蝕む。
 どういう事だ、こんな物は台本にはない。

 レーザーが放射された所を見ると、空に青色の合金が見えた。──先ほど見た覚えのあるロボットだ。
 超光騎士、クウレツキ。
 彼がシャンゼリオンの命令でゴハットを後ろから砲撃したに違いない。
 思わず、ヴィヴィオはそちらを見て顔を顰めてしまう。悲鳴のような声も出ていたかもしれない。

「な……卑怯な、誰だ!? こんな……台本にはないぞ……!!」

 そう言ってゴハットがもがき苦しんでいる所に、仮面ライダーアクセルはエンジンブレードを持って容赦なく走ってくる。ゴハットが膝を立てて立ち上がろうとすると、真上からエンジンブレードが振り降ろされる。
 やっとの思いでの行動だった。

「真剣白羽取りぃっ!!」

 ゴハットが咄嗟に頭の上のエンジンブレードを両手で押さえる。両手の先がぶつかって跳ねた。
 防御のつもりだったが、やはりエンジンブレードの重量は相応に重いので、このまま更に力を込められると不利だ。重力+エンジンブレードの重量+アクセルの腕力の合計が明らかにゴハットの腕力より上である。しかも指紋がないのでつるつると滑り、指先の力を相当強めねばならない。

「お、おたくら、恥ずかしくないのっ!? 正々堂々戦ってもらわないと……! ちゃんと台本通りにやってくれないとさぁ……」
「お前の書いた台本通りに戦う必要はない。俺たちがしたい事はただ一つ、お前をこの世から消して人質を助ける」
「……そんな……! ……はっ! まさか、おたく、正体を知っている僕が厄介だから消そうと……!!」

 図星であるが、アクセルは構わずゴハットに向けて力強くエンジンブレードを握り続けた。
 石堀にとって、自分の正体を知るゴハットは生かしておけない相手なのは間違いない。
 そして、台本やシチュエーションなどを無視して、一刻も早くゴハットを消してやるのが彼のすべき事である。

「ぼ、僕から教えるなんて、そんなつまらない展開にするわけないだろう!? ヒーローは自分たちの手で悪の魔の手に気づかなきゃいけないんだ!!」
「教える? 気づく? さて、何の事やら……」

 アクセルは、レイジングハートが接近してくるのを感じて、恍け始めた。
 さて、アクセルは優雅にそこから待避する。

「はあああああああああああああッッ!」

 次にレイジングハートはフェイトの姿に変身して、ゴハットに突撃してくる。
 レイジングハートにはザ・ブレイダーのデータをファックスで教えておいただが……。
 バルディッシュがハーケンモードになり、ゴハットの体に向けて叩きつけられる。

「この魔力反応……あなた、まさか──」

 ふとレイジングハートが何かに気づくが、アクセルがそこに向かっていき、エンジンブレードでゴハットの肩に一撃斬撃を放つ。

「ぐあっ……!! そんな……こんな卑怯なやり方……!! いやだ、こんな死に方はしたくない……!!」

 ゴハットの叫びも無意味とばかり、次々とゴハットの体は痛めつけられていった。時折、無慈悲に怪物の息の根を止めるのもまた正義。情を切り棄て、理を掬った結果の行動であった。
 冷酷な男と冷静と女とが、同時にゴハットを──冷淡に削っていく。彼の言葉など耳に入れる価値もなく、当然、彼に従う道理もない。
 ヴィヴィオはその様子を呆然と見つめていた。声さえ出てこなかった。

61覚醒!超光戦士ガイアポロン(Aパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:36:35 ID:o1PzPQC60

「……ヴィヴィオちゃん! 助けに来たぜ」

 そんなヴィヴィオの後ろからシャンゼリオンが現れ、ヴィヴィオを縛っていた磔の鎖を解いた。彼もまた、平然とした様子で何か言っていた。
 冷淡というよりも、面倒だから従わないといった様子だ。

「まったく……馬鹿馬鹿しいったらないぜ。あんな中学生の妄想みたいな展開で助けると思ったら大間違いだっての。さあ、ゴハットの馬鹿はあいつらに任せて、俺たちは逃げようか」

 あまりにも突然の出来事に、ヴィヴィオは何も言えない。
 確かに、シャンゼリオンたちも悪意があってやっているわけではない。──それはわかっている。厭という程、それをわかっているから、彼らに何も言えなかったのだ。
 だが、それでも彼女は一方的甚振られていくゴハットを放っておけなかった。とにかく、彼女は、そのまま、感情に任せて、ようやく言葉を発した。

「──そんな……みんな、やめて」
「え? 何? 聞こえない」

 ヴィヴィオは、悲しげな表情で、俯いてちゃんと声も出せないまま、小刻みに震えてそう言った。
 しかし、それでは誰にも声が届かない。無慈悲な戦闘音とゴハットの悲鳴がそれを掻き消していた。それなら、もっと大きな声で言うしかない。
 ここにいる暁にさえ届かないのだ。
 それならば、もっともっと大きな声で──。



「やめてーーーーーーーーーっ!!!!」



 それは、偶然その中に生じた無音の一瞬に響いた。
 ゴハットを取り囲む人間たちが、五月蠅い戦場に舞い降りた、優しくも険しい女神の声に、動きを止める。
 それはある意味、この場においては一つの攻撃であったと言えるかもしれない。
 人質による制止。人質を救う大義名分が為に殺し合っている者たちに、それほど効果的な一撃はない。

「やめて……やめてください!!」

 今度は確かに、それだけ小さな声でも響き渡った。
 ここまで巻き込まれて大事な人を奪われてきた怒りは、確かにヴィヴィオの中にある。主催者は憎いかもしれない。
 それでも、この時、ゴハットに感じていた気持ちは違う。

「私、こんなやり方で助けてほしくなんてありません!! この人の言う通りにしてあげて!! ゴハットさんの夢を……」

 ヴィヴィオは、ただ、やられているゴハットを黙って見ている事ができなかった。
 ゴハットには夢がある。その夢を叶えさせずに死なせてしまうのは、彼女にとっても後味の悪い結果になるだろう。
 ゴハットが抱えている孤独や悲しみだって、ヴィヴィオは理解しているつもりだった。
 だから──

「ゴハットさんの夢を、みんなで叶えてあげて!!」

 彼女は、無音の戦場にそう叫んだのだった。

 シャンゼリオン的には、今までで一番わけがわからない方向に話に持って行かれた気分だった。
 誰も彼もが目を点にしながらヴィヴィオの方を凝視していた。

「ヴィヴィオ、ちゃん……」

 ただ一人、ゴハットだけが、思わず呆然と彼女の方を見上げていた。



シャンゼーリオン







【超光騎士のCM】

 超光戦士シャンゼリオン!
 超光騎士たちよ、戦闘準備!
 リクシンキ!
 クウレツキ!
 そして、ホウジンキ!
 完全変形! 誕生! 超光騎士!

 走る! クリスタルステーション

※現在は取扱いしていません。





62覚醒!超光戦士ガイアポロン(Bパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:37:18 ID:o1PzPQC60


シャンゼーリオン



Take 2



「た、助けてー!! 悪い奴に人質にされちゃいましたー!!」

 ヴィヴィオが先ほどよりも少し気合を入れてそう叫んだ。脚本に手直しでも入れたのか、急にツンデレ設定が消えて普通のヒロインになっている。
 ゴハットが磔にされているヴィヴィオたちの前で仁王立ちし、その影が石堀とレイジングハートの体を包む。
 とりあえず攻撃してくる様子がない事に安心しながらも、ゴハットが高らかに叫ぶ。

「フッハッハッハッハッハッハッハッ!!! ようこそ諸君!!! 君たちに倒された同胞の雪辱、忘れてはいないぞ……」

 ゴハットはわざとらしく、またそう言った。むしろ倒されたのは同胞ではなく、ゴハット自身なのだが、シチュエーション的にはこれで良いらしい。

「貴様、ダークザイドの生き残りかぁっ! ヴィヴィオちゃんを人質に取って何のつもりだ!」

 石堀は、少し恥ずかしそうにしながらも、とにかくゴハットに向けて人差し指を指して叫んだ。まるでヒーローだが、そのフリをしてやるのも仕方がない。
 状況が状況である。

「フン……この子供は貴様らをおびき寄せる為の餌なのだ! 今日は諸君たちにダークザイドに代わる新たな組織を紹介する為に現れた!」

 ゴハットが高所から飛び降り、石堀とレイジングハートの前に降り立った。
 フィンフィンフィン……と、昭和らしい変な音を立てながら。
 この音が何を示しているのかはよくわからないが、それを考える必要はなさそうだ。

「……おや? シャンゼリオンがいないようだな? ……まあいい。まずは貴様ら二人から、我々が手にした新たな力を味わってもらおう!」

 二人は、険しい表情で彼を見つめながら、それぞれの変身アイテムを体の前で構えた。
 天に手を掲げたり、体の横で手を振り回したりしながら、彼らは派手に変身ポーズを取る。
 後ろで暁がスタンバっているのはここにいる全員が知っているがゆえ、余計に茶番臭かったが、まあ良いという事にした。

「どんな組織が現れようとも、貴様らがどれだけ強くなろうとも、俺たちが必ず叩き潰してやる! ……発身(ハッシン)!」

 ──発身とは! 石堀光彦がアクセルメモリーのエネルギーを全開にしてその身をアクセルテクターに包む現象である!(※嘘です)

「バージョンアップ!」

 ──バージョンアップとは! レイジングハートのリンカーコアに残留した超魔法エネルギーがダミーメモリーの能力と結合し、ザ・ブレイダーへと変身させる現象である!(※大嘘です)

 二人は仮面ライダーアクセルとザ・ブレイダーへと体を変身させた。

「仮面ライダーアクセル!」
「ザ・ブレイダー!」

 わざわざ自分の名前を言ってポーズを決めた二人。
 アクセルは剣を構え、ザ・ブレイダーはその足に力を込める。
 攻撃を開始する前の「ため」であった。これをやると強そうに見えるのである。

「「はぁぁぁぁ……」」

 と、あるタイミングで同時に前に出た。
 技の発動である。

「エンジンブレードッ!!」
「ザ・ブレイダー・キック!!」

 だが、ゴハットは手を後ろに組んだまま、それを巧みに避ける。まるで挑発しているかのようだった。アクセルもザ・ブレイダーも全く本気ではないが、本気で戦っているフリをしながら何とか演技を頑張っている。
 ゴハットは実はそこそこ強いダークザイドなので、アクセルやザ・ブレイダーがある程度本気でかかっても倒せたかもしれないが、なるべく死なないように気を付けたのだろう。

「フッフッフッ……その程度かザコめがっ!! 喰らえぇっ!!」

63覚醒!超光戦士ガイアポロン(Bパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:37:46 ID:o1PzPQC60

 ゴハットが体の前に両手を突き出すと、二人の目の前で火薬が爆発する。
 何か念力的な技なのだろうが、そこにはあらかじめゴハットが用意した火薬があった。
 誰がスイッチを押したのかはよくわからないが、上手くこのタイミングで爆発したのだった。

「うわああああああああああああああああ!!!」

 巨大な爆発とともに吹き飛ばされた二人の体は、土の上で変身が解除されてしまう。
 地面をわざとらしく悶え、苦しそうな表情をする石堀とレイジングハート。
 とにかく、他のどこでもない──“顔”に力を込める。苦渋に満ちた表情の演技スキルは上がったかもしれない。

「くっ……なんて強いパワーなんだっ!!」
「このままじゃ勝てません……」

 もがく二人の体にゴハットは近づいていった。
 アクセルの方に行ったゴハットは、アクセルの背中にぺちぺちと触手を叩きつける。
 ……のだが、アクセルとしては別にさほど痛くないので、触られている感覚しかなかった。それが気持ち悪いというのもあるが、まあ放っておく事にしておこう。

「駄目だよ、もっと苦しむ演技にしてもらわないと! そんなんじゃあ、宮内ヒロシの足元にも及ばない!」
「うっ……ぐわあああああっ!! やられた〜〜っ!!」
「そうそう……! それでこそ『やられの美学』だよ! ヒーローはねぇ、一度負けてその口惜しさをバネに強くなっていくんだ!! 学校でいじめられている子供たちの希望にもならなきゃいけないんだよ、ヒーローは教育番組なんだからさぁ!!」

 このままおとなしく従っていなければ、全部バラすとまでゴハットに言われたのである。
 仕方がないので、ダークザギこと石堀光彦もゴハットに従ってこの茶番を演じ切らなければならない。
 さて、いつまでこんな事を続ければいいのか……と思っていた時である。
 ようやく、救いの手は現れた。

「……待てぇいっ!!」

 高らかに響く声。人間の声がどうしてこれほど響くのかはわからない。
 バイクの音が聞こえてくる。ぶおおおおおおおおおん………………うぉんうぉん、くぃききぃぃっ。
 そんな無駄にカッコいいバイクの音とともに上手に山を登ってくる一人の男がいた。

「おおっ! おのれシャンゼリオォォォォォォン! まさか貴様、ちゃんと正統派ヒーローとして更生してやって来たなァッ!?」

 ゴハットはそれを見て、思わず歓喜の声をあげてしまう。
 ベストを着た、ややちゃらんぽらんなように見える長髪の男──彼の名は涼村暁。
 超光戦士シャンゼリオンとして、ダークザイドと二日ほど戦ってきた正義の戦士である。

「……じゃなかった。……フン、まあいい。今頃やって来たか、シャンゼリオン! キサマの仲間はもう虫の息だぞッ!」

 ゴハットがすぐに切り替えた。
 レイジングハートとアクセルは死んだように倒れていたが、内心では「早く終われ」と思っている。
 とにかく、暁がちゃんとバイクで来る所までやってくれただけに、まあこれからこうして待っていれば話が進むのだろうと彼も思っていた。

「待たせてすまない、みんな……!(迫真)」
「うう……暁ぁ……(棒)」
「後は俺に任せてくれ……!! 俺が決着をつけてやる!!(迫真)」

 よく聞くと、ちょっとノリノリな暁であった。
 顔を見ると、さらにノリノリっぷりが凄い。彼は顔までヒーローじみた顔にしている。
 この人は今ならどんな役柄でもこなしてくれそうな勢いだ。

「フッフッフッ……何人来ようと同じ事だ!!」
「フン、随分と余裕だなァッ!! だが、お前たち悪党どもが新しい力を得ると聞いて、俺も新しい力を手に入れてきたのさ!!」

 満足そうにゴハットはそれを聞いていた。うんうん頷いている。
 シャンゼリオンがこういう登場の仕方をしてくれたのが余程嬉しかったのだろう。
 折角だからラッパを吹いて出てきて欲しかったが、贅沢は言っていられない。この登場の仕方もヒーロー的にはアリだ。

64覚醒!超光戦士ガイアポロン(Bパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:38:15 ID:o1PzPQC60

「俺のこの体の輝きは、闇を蹴散らす正義の光……見よッ!! 燦然ッ!!」

 再び、今度は無意味にリクシンキを走らせながら、いつものように燦然する。
 宮内ヒロシよろしく、バイクに乗った状態での変身である。リクシンキが姿勢を制御してくれているのだ。
 一応ナレーションを入れておこう。

 ──燦然。それは涼村暁がクリスタルパワーを発現させ、超光戦士シャンゼリオンとなる現象である!

 ※シャンゼリオンの真似は、危ないですから絶対にしないでね!

 宗方博士と青森シンさんのナレーションが入ると、ゴハットは更にテンションを上げた。

「おおっ! ……なんだ? いつもと変わらんではないかっ!!」

 先ほどから明らかにゴハットの素の歓喜の声が聞こえているが、それを周囲が突っ込むとまた怒るのが目に見えているので、彼らは何も言わなかった。
 無性に怒りたくなったが、それは堪えよう。
 自分は素を入れるくせに、他人が台本以外の台詞を言うと怒るのが彼だ。

「まあ見てなって。……戦う事が罪なら、俺が背負ってやるぜ!! 輝け、希望の光、パワーストーン!!」

 リクシンキに乗ったまま、シャンゼリオンは頭上高くパワーストーンを掲げる。スーパーヒーローマニュアルⅡに載っていた台詞を強引に入れているあたり、相当ノリノリなのだろう。
 東の太陽と重なり、反射し合い、怯えるほど綺麗なパワーストーンの輝きがゴハットの目に涙を浮かべさせた。カメラーワークまで完璧である。
 ゴハットは、すぐにその涙を触手で拭う。

 ──パワーストーン。それはクリスタルエネルギーを結晶化させた、宗方博士の新たなる発明である! これを使用する事でシャンゼリオンは新たなる戦士に変身するのだ!

 今度のナレーションは政宗イッセイ氏のイメージだった。
 ちなみに、先ほどから流れているナレーションは、暁とゴハットの脳内でのみ聞こえて、他の人間には全く聞こえていないナレーションである。

「なな、な〜〜〜〜〜〜に〜〜〜〜〜〜〜!?」

 ゴハットは、涙を堪えてそんな驚きの言葉をあげた。これもわかっている。

 この新しい戦士に、いちばん最初に倒されるのが自分である事!
 シャンゼリオンに倒されたダークザイド怪人の先輩はいくらでもいるが、これからシャンゼリオンが変身する新たな戦士に倒されるのは自分だけだ。
 それは、あの暗黒騎士ガウザーでさえ果たせなかった事。──これが自分だけの敵なのだ。
 その事実に改めて感動するゴハットであった。

「朝日に映える伝説の超人、超光戦士ガイアポロンッッ!!!! 本当の戦いはこれからだぜ!!!!!」

 超光戦士ガイアポロンの真っ赤なボディが太陽の下、輝いていた。
 ガイアポロン──それは、シャンゼリオンの2号として用意されていたデザインしか残っていない戦士である。炎をまぶしたように真っ赤に輝き、相変わらずの重量感を感じさせ、シャンゼリオンの意匠を残した全身──。おそらくこれも次郎さん以外が着たら首の骨が折れるんじゃないかという代物である。
 本編では犬に食われ使われなかったパワーストーンの使用という事で、どうしても強化変身のしようがなく、彼は仕方なしに没デザインを流用してガイアポロンとなったのだ!

「ガイアポロンだと……っ!? フン……!! 姿が変わったところで変身者は所詮涼村暁!! この俺の手にかかれば赤子の手を捻るようなものだ!! うーん! それにしても、やっぱり2号やパワーアップは赤が一番だよ、赤!!」

 感動を隠して、悪役台詞を言う。赤、いいよね。
 ガイアポロンは、ゴハットの方を見ながら、次なる一手を考えた。
 とにかく、ゴハットは色々な技を指定してきたので、それを上手い具合に調節して繰り出さなければならない。

「いくぞ!! ガイアポロン、アタック!!」
「ぐああああああ!!!(←嬉しそうに)」
「ガイアポロンきりもみシュート!!」
「ぬああああああ!!!(←嬉しそうに)」
「ガイアポロン・Zビーム!! ビビビビビビビ〜(声だけ)」
「ぎゃあああああ!!!(←嬉しそうに)」

 ゴハットは、ガイアポロンが放つ攻撃の一つ一つを味わった。
 全てゴハットが考えた技である。正義のヒーローが自分に向けて全力で攻撃してくれる。
 ゴハットは、そのたびに楽しそうに火薬の配置されている場所に飛び込んでいった。

65覚醒!超光戦士ガイアポロン(Bパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:38:33 ID:o1PzPQC60

 爆発。ドカーン。
 ガイアポロンの一撃と、おそらくテレビカメラで見れば良い画が撮れているであろうシーンたち。何もかもが完璧であった。
 いや、もはや実際のヒーロー番組でさえ絶対にこんなにしつこくないくらいだ。

「ぐあああああああっ!! なんて事だ……!! おのれ、ガイアポロン……!!」

 圧倒的な強さが嬉しかった。
 ヒーローが悪の怪人を倒す文法に全く背を向けない、このストレートなストーリー。
 やられの美学もあるが、ゴハット論ではもっとヒーローは強くなければならない。
 こうして悪の怪人を一方的に倒し、悪の愚かさを教えてこそのヒーローだ。
 そう、どう考えても完璧だった。
 子供たちが憧れる、スーパーヒーローそのものである。

「そろそろ弱点ついていいか!?」
「どうぞ!!」

 ガイアポロンの質問に、ゴハットは即答した。
 朝日の背景が夕焼けっぽくなった。夕焼けをバックにした死、それはまさしく悪の怪人──しかも、めちゃんこ強い奴が散る時の情景である。
 まさか一怪人に過ぎないゴハットがこんな演出で戦えるなど、誰も思っていなかった事だろう。
 なお、この背景は完全にゴハットにしか見えていない。

「おおっ! これは岡本さんが散る時のバックの感じだ! 岡元ジロウVS岡本ヨシノリ、夢のスーパーバトル、いいじゃないか!!」
「なんだかわからんが、殺っちゃっていいんだよな?」
「どうぞ!!」

 歓喜のゴハットに向けて、ガイアポロンはちょっとためらうが、とにかくゴハットが促した。今まさしく、ゴハットは伝説のスーツアクター・岡本ヨシノリの気分であった。
 散る美学を再現できる。
 あの美しき死を演出できるのだ。
 ガイアポロンが、胸の前に手を翳し、新たな武器の名前を叫ぶ。

「シャニングブレード!!」
「そうじゃないでしょっ!! おたくの使う剣はチーム名にちなんだ【ガイアセイバー】でしょうがっ!!」
「音声認識なんだよ!! 仕方ないだろ!! ……シャイニングブレード、改め、ガイアセイバーだ!!」

 明らかにシャイニングブレードにしか見えない剣をそう呼びながら、ガイアポロンが前に出る。
 そう、ガイアポロンには設定上、これといった武器がない。何せ、没デザインしか存在していないのだから。
 だから、やむを得ずシャンゼリオン時代の武器を流用しているのだ。しかし、パワーストーンで赤くなっているので威力等が三倍になっている。

「じゃあ遠慮なく。ガイアクラッシュ!!」

 ガイアポロンは、シャイニングブレードを構えたまま、前につき進んでいった。
 シャイニングブレードを構えて一歩、一歩と着実に地面を強く踏みつけるシャンゼリオンの姿は何と凛々しい事か。
 心なしか、今回、また暁美ほむらの幻影が申し訳程度にガイアポロンの後ろに重なる。
 これはそういう必殺技なのか──。


 ああ、これで全てが終わる。
 ゴハットにとって、夢が叶う。
 そんな瞬間だった。こんな、カッコいい倒され方が待ってくれているなんて……。



 ─────────怪人に生まれて良かったァァァ…………。



 CMのあと、ヴィヴィオにまさかの事態が!?



テッテレー♪ テレレレ♪(←初代ライダーのアイキャッチの音)







【DXシャンゼリオンのCM】


 燦然! デラックスシャンゼリオン!
 クリスタルなフォルム! 可動する21のジョイント!

『シャイニングアタック!』←明らかに暁じゃない声

 光る! 叫ぶ! デラックスシャンゼリオン
 超光騎士もよろしく!


※現在は取扱いしていません。





66覚醒!超光戦士ガイアポロン(Cパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:39:09 ID:o1PzPQC60



テッテレー♪ テレレレ♪



 ──と、思ったはいいのだが。

 ゴハットがそのままガイアポロンに突き刺される事はなかった。
 ガイアポロンは何をしている? ──いや、ゴハットの前にあるこの影は何だ?
 そう、それは、またも戦場に現れた女神の姿なのだった。
 戦いを見守りながら、彼の夢が成就する事を願いながら、それでも止められずにはいられなかった矛盾。
 高町ヴィヴィオが、やはり、この瞬間、ゴハットの前に立っていた。

「……あの。もう、いいですよね?」

 そう言ったのは、ガイアポロンに対してではなく、ゴハットに対してだったに違いない。
 ゴハットが殺されたがりである事を理解しながらも、それに納得しきれなかった。
 ガイアポロンとゴハットが戦っている最中、彼女はレイジングハートとアクセルによって助けられ、磔から解放された。
 彼女はクリスの力で大人モードに変身し、ティオを抱いて、ここまで距離を縮めてきたのだった。
 絶対に戦いを止めなければならないと思ったのだ。

「どうして邪魔をするんだよ! あと一歩だったのに!」

 ……こんな台詞を言うのが、やられる側であるというのはかなり珍しい話だろう。
 ゴハットは今、本気で怒りを抱いていた。折角叶うはずの夢をあと一歩で妨害されてしまった事に──そう、それが前に夢を後押ししてくれた少女である事が彼の期待を裏切ったようだった。

「おい……」

 ガイアポロンは、シャイニングブレードを構えたまま、呆然と構えるのみだった。
 足は深く前に降ろされているが、それでも目の前に現れたヴィヴィオに急ブレーキをかけて、少しバランスを崩しかけていた。

「これ以上、戦う必要なんて、ありません! 私は、どんな理由があっても……こんな戦いなんて認めたくありません!!」

 彼女は格闘に命を懸けている。
 戦う事は好きだが、それはルールを伴い、相手を尊重した戦いであった。自分の技術を全力でぶつけ合うゲームであって、こうしてやられるのを待つのは、格闘ではない。
 殺し合いの現場であっても、その想いは揺らがない。こうしてわざと負けて勝敗を決し、知っている人が死んでしまう姿を見たくはなかった。

「君が認めるか認めないかはどうでもいいのっ!! 僕はシャンゼリオン……いや、ガイアポロンに倒してもらいたいんだ!!」

 怒り新党で地団駄を踏むゴハットの姿に、ヴィヴィオは恐れる事もなかった。
 この最高の盛り上がり時をヴィヴィオに邪魔された事で、相当腹を立てている様子である。──その中でも、ゴハットの中には思うところがあったようで、どこかヴィヴィオに優しい目をしていた。
 それでも──それでも、ゴハットの夢は、まさしく叶う直前だった。
 それに対する怒りがゴハットの声を荒げさせる。

「前にもちゃんと言ったでしょうが! いくら君でも、邪魔をすると容赦はしないって!!」
「でも……!! ゴハットさんだって、優しくて……そんな人が、死んじゃうなんて……」
「でももヘチマもないんだよ! あー、もう!!」

 ゴハットは怒りとともに、ある決意に拳を握った。
 ヴィヴィオは何もわかっていない──。

「私は何も知らないけど、それでも言わせてください……。ヒーローが好きなら、ヒーローになれば……その為に自分を鍛えれば、きっとヒーローになる事ができると思います」

67覚醒!超光戦士ガイアポロン(Cパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:39:27 ID:o1PzPQC60

 ヴィヴィオの言葉をかみしめる。
 彼の脳裏に浮かぶのは、高町なのはやフェイト・テスタロッサ、アインハルト・ストラトス、早乙女乱馬、園咲霧彦、山吹祈里──この一人の少女とかつて交流した参加者たち。
 その姿が彼女に重なる。
 いくつもの試練を超えて生き延び、死線さえも超えた一人の少女。

「……悪いけど──」

 ゴハットは、俯き、まるで力を失ったように言った。
 ヴィヴィオの説得が少しでも心に響いたように見えた。
 だから、ヴィヴィオ自身もどこか力を抜いて、次の一句を口に出そうとした。

「なれるんですよ、ゴハットさんだって──」



 ────しかし。



「悪いけど、僕が倒されるのを邪魔するなら、消えてなくなってもらうよ!!」

 帰ってきたのは、無慈悲なる一言。
 ゴハットは、怒りに任せて前に出た。不意打ちであった。
 一瞬でも、心を許した隙を狙ったのだ。そう、彼とて本質はダークザイドの怪人。
 たとえヒーローにあこがれていたとしても、その手段に悪しきは付きまとう物であった。
 豹変したゴハットを前に、ヴィヴィオの背筋が凍る。

「ああっ!」

 ゴハットは特殊な力を発動すると同時に、ヴィヴィオに肉薄した。
 刹那、強力な魔力反応を確認する。
 ゴハットの両腕の触手が発した青い光は、次の瞬間──ヴィヴィオを呑み込む。

「なんだってんだ、クソ……!!」

 ガイアポロンが前に出るが、眩い光が彼を弾き返してしまった。

「これは……!! まさか……!! やっぱり────」

 レイジングハートがその瞬間、何か異変に気づいたようであった。
 レイジングハートがよく知る魔力反応である。──まさか。
 彼女がそう思うよりも早く、ヴィヴィオの悲鳴が聞こえた。

「きゃあっ!!」

 それは、確実にヴィヴィオの危険を示す警告のサインであった。
 青い光の向こうで、ヴィヴィオの生命がかなり危険に晒されているようだったのだ。
 聞こえるのはゴハットの悪役笑いである。

「フハハハハハハハハハ……!!」
「てめえっ!! おい、どこに……っ!!」

 ガイアポロンが前に出ようとするが、ゴハットは妙に焦った様子であった。
 視界を暈す閃光の中で、ゴハットがヴィヴィオの体を抱え、彼女に何かを施したのである。
 光の中でぼやけながらも見えていたヴィヴィオの形が消え去っていく。
 小さくなり、形を失い、やがて完全にそこにヴィヴィオの姿はなくなった。
 ヴィヴィオを包んだ光、それが何かはわからないが、ゴハットの暴走がヴィヴィオに何らかの危害を加えた事実は明白だった。



 直後──光がゆっくりと晴れていく。

「なっ────」

 光が晴れると、ヴィヴィオの体が、そこから消えていた。
 どこを探しても、ヴィヴィオの姿はなかった。



「マジかよ……」

68覚醒!超光戦士ガイアポロン(Cパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:39:45 ID:o1PzPQC60

 ────死んだ。


 そうとしか思えなかった。

 あまりに突然、そこからいなくなった一人の少女。
 今、ゴハットの為に尽くしたはずの優しき少女の姿は、もうそこにはなかった。
 よりにもよって、悪人・ゴハットの手によって、少女は──。

「そんな……」

 ヴィヴィオも、クリスも、ティオも、全て体ごと、塵一つ残らず消滅したという事なのだろうか。
 その何もない場所には、ゴハットが何らかの特殊な力を発動した結果、「ヴィヴィオが跡形もなく消滅した」という事実だけが残っていた。

「……てめえ……!!」
「フッフッフッ……僕の邪魔をするからこうなるんだ!!」

 ヴィヴィオがいとも簡単に消滅させられた事実。
 ──それが暁の中で、強い怒りとして燃え上がる。
 目の前のゴハットは、一切気にしていない様子であった。だからこそ、暁の怒りのボルテージが鰻登りに上がっていく。
 この男を打ち砕く。
 所詮はダークザイドであり、この殺し合いの主催者であった。彼を許そう気持ちなど、もはや暁の中のどこにもない。

「────俺はもう怒った! これ以上、お前のシナリオなんかに付き合うつもりもない!! 望み通り、今すぐあの世に逝かせてやるぜ!!」

 有無を言わさず、ガイアポロンはガイセイバーを強く構えた。
 ガイアセイバーが、そのまま光輝き、ゴハットの弱点のコアを狙う。そこに着き刺す絶対の意思。──ゴハットもそれを回避する気などなかった。

「来いっ! ガイアポロン! 続きをしよう!」

 ゴハットは、甘んじてそれを受け入れるべく、両手を広げる。抵抗の様子はなく、やはりその一撃を欲しているらしかった。
 それこそが彼の目的。ヴィヴィオがその現実を受け入れられたのなら、きっとゴハットを既に葬っていたであろう──その一撃である。

「ッッッ!!!!」

 一貫。ゴハットの胸が刃に屠られる。
 眩しいほどの火花が大量に地面に散らばっていき、蜘蛛の子が逃げていくように地面を駆け巡ってやがて、大気に溶けて消えていった。
 ゴハットの中に熱い炎が入り込んでくる。

 自分に終わりが来るのを、ゴハットは妙に優しい気持ちで待っているのだった。
 夢は叶った。
 このまま消えていく事に、彼には未練はない。

「────ありがとう、シャンゼリオン、いや……ガイアポロン」

 ガイアセイバーの刀身をゴハットは、掴む事もままならぬ両腕で握った。妙に安らかな表情の彼に、その時は戻ったのだった。より深く、それを自分の中に差し込むべく、強い力で引いていく。
 その暖かさを感じながら、しかし、跳ね返ってくる火の粉の熱さも時折受けながら、彼は死の睡魔を呑み込んでいく事になった。

「ッッッ……」

 怒るガイアポロンの耳には、尚も魔物の一声が流れ込んできた。

「良かった。ずっと夢だったんだ……君に倒されるのが……これからもカッコいいスーパーヒーローでいてくれよ…………じゃあ、帰ったら、ヴィヴィオちゃんの事をよろしく……」
「何!? じゃあ、まさかヴィヴィオちゃんは……」

 ガイアセイバーを包む握力が弱まる。
 だが、もはや手遅れだった。ゴハットのコアは確かに深々と彼の体を貫いており、もはや手の施しようがないほどにゴハットの命を消し去ろうとしていた。

69覚醒!超光戦士ガイアポロン(Cパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:40:02 ID:o1PzPQC60

「……彼女の事は、安心しなよ。ただ、これからも絶対、彼女が生きている事は悟られないようにね。全部内緒にするんだ……」

 ゴハットが、ゴフッと、血のような火花を吐き出した。
 もう終わりだった。
 最期は、ゴハットが最も言いたい最後の言葉を告げ、美しく散っていくしかない。
 しかし、その最後の中でも、彼には教えたかったのだ。

(────これで僕も、ヒーローに倒されるんじゃなくて、誰かのヒーローになれたかな……ヴィヴィオちゃん……ヒーローって、本当にいいものだよね……)

 そう、ある“力”をゴハットは有していた。
 その力によって、ヴィヴィオは殺されたと誰もが思い込んでいた。しかし、現実は逆だ。
 この場において、ヒーローたる資質を持った少女を、その“力”を駆使してゴハットが生かしておいたと──それが真相であった。

 彼は今、その事を、シャンゼリオンに伝え、少しでも彼を安心させようとしていた。
 ゴハットの持つ“力”は、同じ主催陣の一人であるサラマンダー男爵から託されたものだった。──おそらく、プレシアの追放と、主催陣の撤退のゴタゴタの中で、男爵が拝借し、そこから流出した物だろう。
 ゴハットにはそれを使う予定は一切なかったのだが、思わず、その能力を使えば参加者の生還さえ果たせるのではないかという事を思い出した。
 男爵には、「これを使えば、参加者を一人、一瞬で外の世界に放り出す事だって出来る」と言われただ。だが、その力を使う事は絶対にないと思っていた。──おそらく、男爵の目論見では、誰かを生還させるのではなく、参加者が“この場にとどまるため”に、石堀光彦を外の世界に放り出す為に渡された力だったのだろう。

 だが、男爵の意思に反して、ゴハットは「ヒーローたちは、自分の力でダークザギに気づき、倒さなければならない」という厄介な信念も抱え込んでいた。そんな意思が、ゴハットが石堀を外に捨てるのを邪魔させたのだ。
 結果、この“ジュエルシード”というアイテムの力は、一人の少女の生還の為に利用される事になった。

(……元気でね)

 まさか、男爵も、外の世界に善なる者を放るとは思わなかっただろう。
 外に捨て去るのは、善の心を持つ者ではなく、悪の心を持つ者であるのが必然だった。
 外の世界はもう、支配と崩壊の一途を歩み始めている。この僅かな期間で、どれだけ多くの世界が支配に屈しているのだろう。
 そんな世界に善人を放るなど、男爵の感覚ではありえなかった。外の世界に放り出させるのは、もはや罰でしかない。
 ヒーローをここに残して生かし、外に悪を放り棄てるのが自然だったはずだ。まさか、外の世界に自分が愛する者たちを放り棄てるほど、ゴハットの思考が追い付いていないとは男爵も思っていなかっただろう。
 しかし、ゴハットは、ここでも男爵の意図を無視した。

 ヒーローは外の世界でも希望になり、支配や絶望なんて打ち砕くと、──────彼は本気で信じていたのだ。

 己の最期の時を、ゴハットは確信し始めた。



「────ゴハット死すとも、ベリアル帝国は死なずゥゥゥゥッッ!!」



 そして、爆発間際、最期に彼が遺した言葉は、この殺し合いに巻き込まれた人間全てに通じる重大な手がかりになる一言となった。
 石堀もレイジングハートも、その高らかな叫びだけは聞き逃さなかっただろう。
 台本の中には全く別の言葉、【ネオダークザイド】と書かれていたはずの部分を掻き消して、ゴハットは最後にそんな言葉を残した。
 ベリアル帝国。
 ベリアル。────。

「……ッ」

 怪物を貫いたガイアポロンの手には全く後悔はなかった。
 ただ、自分の耳だけに最後に聞こえたゴハットの言葉をこれからも胸に隠し、レイジングハートの感じている怒りと困惑を背に受けながら、これから殺し合いを脱出する事について考える事にした。
 いずれ、全てレイジングハートにも明かす事になるだろう。
 ヴィヴィオは元の世界に帰った──その言葉は不安だったが。





70覚醒!超光戦士ガイアポロン(Cパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:40:24 ID:o1PzPQC60



 全てが収束し、爆発の中からガイアポロンは帰って来た。
 パワーストーンを解除し、シャンゼリオンの姿に戻ると、また涼村暁へと戻っていく。
 めらめらと燃える炎をバックに、暁はゆっくりと歩いていた。

「暁……!」

 暁は、呆然とした表情だった。
 また隠し事を一つ増やさなければならない。
 ヴィヴィオは生きている。それを知るのは暁だけだ。それを隠さなければならない理由も彼は理解している。
 彼女が死んだ事になれば、生き残れる人数が変わる。──残り三人いなくなれば十人が生き残る事ができ、実質的にはヴィヴィオを含めた十一人が生き残れるのだろう。
 それから、外に逃がせば石堀やドウコクに殺される事もなくなる。

「暁、ヴィヴィオの最期に、かつて見たジュエルシードの魔力反応が……」
「──」
「……彼女は、ジュエルシードの力で死んでしまったのでしょうか」

 レイジングハートは問う。
 しかし、暁は知っている事実を答えなかった。

「俺に訊かれても、わからないさ……。諸悪の根源は倒しちまった」

 暁は、何も言えないのが少しもどかしい。
 ヴィヴィオは生きている、と叫びたい。
 あー、早く言いたい。悲しいフリとかマジ疲れる。とか思いながら、暁はとにかく、冷淡に次の行動を決めなければならないので、物凄く嫌な役割だ。

「……いつまでも、ここにいても仕方ないぞ。まずは電話で仲間に連絡だ……」

 疲弊しながら石堀が言うのを見た。
 こいつの演技力を少し分けてほしい、と暁は内心で思っていた。
 こいつの正体についてはいずれ暴かなければならない。台本にも「石堀の正体が……」と書かれていたが、レイジングハートは今のところそれについて問わず、あくまで暁の胸の中にしまわれている事でしかなかった。
 ふと、そのレイジングハートが聞いた。

「そういえば、ゴハットが死後にこの場所に置いておいてほしいと言っていたカードがありましたよね?」

 さて、ここで暁は思い出した。
 ゴハットの指定では、『この者、少女誘拐犯人!』と書かれたカードを用意せよとの事であった。ファックスには、切り取って使える紙が渡されていたのだ。ぺらぺらだが、これがカードという事でいいらしい。名称はゴバットカードだ。

 それを一応、丁寧に切り取り線通りに切って、ゴハットの死後にそれをヒーローっぽく残しておいてくれとの事だった。

「ああ、そうだったな……一応置いといてやろう」
「はぁ……」

 と、暁がその切り取ったカードを手に取った瞬間だった。
 ──その裏面。白紙だったはずの部分に、何やら文字が浮かび上がっていた。
 表面よりも少し文字の量が多く、一瞬どちらが表でどちらが浦なのかわからなくなりそうであった。

「……ん? なんだこりゃ? こんな文章、最初からあったか?」
「いえ、こんな物があった覚えは……もしかすると、自分が死んだら浮き上がる仕組みとか」
「え? どんなインク使ったらそんな事になるんだよ……」

 まさしく、暁の言う通りだが、これはゴハットの心臓部と連動した超凄いインクで書かれた文字であった。ゴハットの死と同時に文字が浮かび上がる仕組みになっていたのである。
 文章をよく見ると、暁の知っている人物の名前が書いてある。
 暁はすぐにそれに目を通した。

71覚醒!超光戦士ガイアポロン(Cパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:41:04 ID:o1PzPQC60


『桃園ラブと花咲つぼみなら、花咲つぼみ。
 巴マミと暁美ほむらなら、暁美ほむら。
 島の中で彼女たちの胸に飛び込みなさい』


 ……全く理解ができない内容だった。
 しかし、ラブとマミ、つぼみとほむらの共通点というのが少し頭に引っかかる暁であった。

「変な文章書きやがって。やっぱり頭おかしいんだな……アイツ」

 名探偵、涼村暁はその文章を怪文書としか捉えられなかった。
 それがいかに重大な意味を持っているかも彼は知らない。

 ……ただ、暁はその場にカードを置いていくのを躊躇った。
 もしかすると、何かの手がかりを残したのかもしれないと思ったからだった。
 内心、ゴハットに謝りつつも、暁はゴバットカードをポケットの中にいれた。


【ゴハット@超光戦士シャンゼリオン 死亡】
【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはシリーズ 主催陣営のデータ上、死亡】
【残り13人】







【2日目 昼前】
【D−6 グロンギ遺跡付近】



【涼村暁@超光戦士シャンゼリオン】
[状態]:疲労(小)、胸部に強いダメージ(応急処置済)、ダグバの死体が軽くトラウマ、脇腹に傷(応急処置済)、左頬に痛み、首輪解除
[装備]:シャンバイザー@超光戦士シャンゼリオン、モロトフ火炎手榴弾×3、恐竜ディスク@侍戦隊シンケンジャー、パワーストーン@超光戦士シャンゼリオン、リクシンキ@超光戦士シャンゼリオン、呼べば来る便利な超光騎士(クウレツキ@超光戦士シャンゼリオン、ホウジンキ@超光戦士シャンゼリオン)
[道具]:支給品一式×8(暁(ペットボトル一本消費)、一文字(食料一食分消費)、ミユキ、ダグバ、ほむら、祈里(食料と水はほむらの方に)、霧彦、黒岩)、首輪(ほむら)、姫矢の戦場写真@ウルトラマンネクサス、タカラガイの貝殻@ウルトラマンネクサス、スタンガン、ブレイクされたスカルメモリ、混ぜると危険な洗剤@魔法少女まどか☆マギカ、一条薫のライフル銃(10/10)@仮面ライダークウガ、のろいうさぎ@魔法少女リリカルなのはシリーズ、コブラージャのブロマイド×30@ハートキャッチプリキュア!、スーパーヒーローマニュアルⅡ、グロンギのトランプ@仮面ライダークウガ、ゴバットカード
[思考]
基本:加頭たちをブッ潰し、加頭たちの資金を奪ってパラダイス♪
0:とりあえずヴィヴィオちゃんが生きているのはわかったが隠し通す。暗号?知らん。
1:石堀を警戒。石堀からラブを守る。表向きは信じているフリをする。
2:可愛い女の子を見つけたらまずはナンパ。
3:変なオタクヤロー(ゴハット)はいつかぶちのめす。
[備考]
※第2話「ノーテンキラキラ」途中(橘朱美と喧嘩になる前)からの参戦です。
つまりまだ黒岩省吾とは面識がありません(リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキのことも知らない)。
※ほむら経由で魔法少女の事についてある程度聞きました。知り合いの名前は聞いていませんでしたが、凪(さやか情報)及び黒岩(マミ情報)との情報交換したことで概ね把握しました。その為、ほむらが助けたかったのがまどかだという事を把握しています。
※黒岩とは未来で出会う可能性があると石堀より聞きました。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。
※森林でのガドルの放送を聞きました。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限は『スーパーヒーローマニュアル?』の入手です。
※リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキとクリスタルステーションの事を知りました。
※結城丈二が一人でガドルに挑んだことを知りました。
※ゴハットがヴィヴィオを元の世界に返した事は知りましたが、口止めされているので死んだ事にしています。

72覚醒!超光戦士ガイアポロン(Cパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:41:14 ID:o1PzPQC60


【石堀光彦@ウルトラマンネクサス】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、首輪解除
[装備]:Kar98k(korrosion弾7/8)@仮面ライダーSPIRITS、アクセルドライバー+ガイアメモリ(アクセル、トライアル)+ガイアメモリ強化アダプター@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW 、コルトパイソン+執行実包(6/6)
[道具]:支給品一式×6(石堀、ガドル、ユーノ、凪、照井、フェイト)、メモレイサー@ウルトラマンネクサス、110のシャンプー@らんま1/2、ガイアメモリ説明書、.357マグナム弾(執行実包×10、神経断裂弾@仮面ライダークウガ×2)、テッククリスタル(レイピア)@宇宙の騎士テッカマンブレード、イングラムM10@現実?、火炎杖@らんま1/2、血のついた毛布、反転宝珠@らんま1/2、キュアブロッサムとキュアマリンのコスプレ衣装@ハートキャッチプリキュア!、スタンガン、『風都 仕置人疾る』@仮面ライダーW、蛮刀毒泡沫@侍戦隊シンケンジャー、暁が図書室からかっぱらってきた本、スシチェンジャー@侍戦隊シンケンジャー
[思考]
基本:今は「石堀光彦」として行動する。
0:電話する。
1:「あいつ」を見つけた。そして、共にレーテに向かい、光を奪う。
2:周囲を利用し、加頭を倒し元の世界に戻る。
3:都合の悪い記憶はメモレイサーで消去する
4:加頭の「願いを叶える」という言葉が信用できるとわかった場合は……。
5:クローバーボックスに警戒。
[備考]
※参戦時期は姫矢編の後半ごろ。
※今の彼にダークザギへの変身能力があるかは不明です(原作ではネクサスの光を変換する必要があります)。
※ハトプリ勢、およびフレプリ勢についてプリキュア関連の秘密も含めて聞きました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※つぼみからプリキュア、砂漠の使徒、サラマンダー男爵について聞きました。
※殺し合いの技術提供にTLTが関わっている可能性を考えています。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。
※森林でのガドルの放送を聞きました。
※TLTが何者かに乗っ取られてしまった可能性を考えています。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。予知能力の使用が可能です。
※予知能力は、一度使うたびに二時間使用できなくなります。また、主催に著しく不利益な予知は使用できません。
※予知能力で、デュナミストが「あいつ」の手に渡る事を知りました。既知の人物なのか、未知の人物なのか、現在のデュナミストなのか未来のデュナミストなのかは一切不明。後続の書き手さんにお任せします。
※結城丈二が一人でガドルに挑んだことを知りました。

73覚醒!超光戦士ガイアポロン(Cパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:43:40 ID:o1PzPQC60


【レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:疲労(大)、魔力消費(大)、娘溺泉の力で人間化
[装備]:T2ダミーメモリ@仮面ライダーW、稲妻電光剣@仮面ライダーSPIRITS
[道具]:支給品一式×6(ゆり、源太、ヴィヴィオ、乱馬、いつき(食料と水を少し消費)、アインハルト(食料と水を少し消費))、ほむらの制服の袖、マッハキャリバー(待機状態・破損有(使用可能な程度))@魔法少女リリカルなのはシリーズ、リボルバーナックル(両手・収納中)@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ゆりのランダムアイテム0〜2個、乱馬のランダムアイテム0〜2個、山千拳の秘伝書@らんま1/2、水とお湯の入ったポット1つずつ、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ガイアメモリに関するポスター×3、『太陽』のタロットカード、大道克己のナイフ@仮面ライダーW、春眠香の説明書、ガイアメモリに関するポスター 、バラゴのペンダント、ボチャードピストル(0/8)、顔を変容させる秘薬、ファックスで届いたゴハットのシナリオ原稿(ぐちゃぐちゃに丸められています)
[思考]
基本:悪を倒す。
0:ヴィヴィオ……。
1:零とは今後も協力する。
2:ケーキが食べたい。
[備考]
※娘溺泉の力で女性の姿に変身しました。お湯をかけると元のデバイスの形に戻ります。
※ダミーメモリによって、レイジングハート自身が既知の人物や物体に変身し、能力を使用する事ができます。ただし、レイジングハート自身が知らない技は使用する事ができません。
※ダミーメモリの力で攻撃や防御を除く特殊能力が使えるは不明です(ユーノの回復等)。
※鋼牙と零に対する誤解は解けました。







 ────時空管理局。

 アースラの医務室・白いベッドの上で、ヴィヴィオは瞼を開いた。

 強力で、どこか懐かしい魔力の反応とともに、自分は殺されたはずだったが、かつての死とは全く別の形で誰かが彼女を迎えたのだった。
 見れば、ヴィヴィオの視界には真っ白な天井があった。
 右横を見ると、隣のベッドの上でセイクリッド・ハートとアスティオンがこちらを見ていた。二人とも元気そうであった。

 左横を見ると、知っている顔がある。
 フェイトの、まだ幼い時の顔がある。彼女はやや心配そうにこちらを見た。
 椅子に坐して、こちらを看病しているようだった。

「ここは……」

 思わず、ヴィヴィオは体を思いっきり起き上がらせる。すると、体が激しく痛んだ。
 やはり、今日まで無理を通してきたのが余程引きずったのだろうか。
 生きている、そんな──感覚だった。
 そんな折、ヴィヴィオの耳に、誰かの声が聞こえた。



「おめでとう、君は生還したんだ。あの殺し合いからね」



 ヴィヴィオはまだ知らないが、白い服の若い男がそう言った。
 祝福にしては、少し皮肉のこもった言い回しにも聞こえた。決して、心からの歓迎には見えなかった。
 それが不審だったが、ともかくヴィヴィオは状況を知りたかった。

「生還……? ……私以外のみんなは生きているんですか?」

 そんな事を心配している内には、まだヴィヴィオは知る由もなかっただろう。
 今自分がいる殺し合いの外の世界がどうなっているのか。

「……」

 吉良沢は少し俯いてそこから先を言うのを躊躇った後でヴィヴィオに言った。

「……まずは、僕たちについてきてくれ。落ち着いて、外の様子を見てほしい」

 ヴィヴィオが、その様子の不審さに、顔色を変えた。
 ただ不思議そうに吉良沢を見つめるヴィヴィオであった。



【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはシリーズ 生還、しかし────】
※セイクリッド・ハート、アスティオンも纏めて送還されました。

74 ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:44:12 ID:o1PzPQC60
じゃあ続いて202話を投下しましょうか。

75ありがとう、マミさん(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:45:00 ID:o1PzPQC60



 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。







 さて、朝方の平野で車を走らせていた孤門一輝がそのドンヨリとした空気にブレーキを踏み込みました。
 魔法少女でなくとも、その場所の異様に気が付いたのでしょう。孤門は誰の合図もなく、一人でに車をその道の真ん中に止めたのです。

 魔女がこの先にいるのです。ええ、そうです。その魔女は、寂しがりやの魔女なのです。
 魔女は、パーチーの準備をしていますが、生まれてから今日まで、誰もそのパーチーに足を運ぶ事がなかったのです。
 だから、この場に来るどんな人間にもわかるように、ずっと自分の寂しさを外に向けて吐き出していたのです。
 孤門が車のドアーのロックを開けますと、順番に、桃園ラブも、佐倉杏子も、蒼乃美希も、そのドアーを開けて外に出ました。
 外へ出ると、朝の空気とともに、一部分だけが異様なその空間の邪気が、喉から胸になだれ込んでくるようでした。

 魔女の結界。──それがラブや杏子の友人たる少女が作り出した異変の空間でした。ソウルジェムを濁らせてしまった彼女には、そこに人を呼ぶしか、誰かと仲良くする術はないのです。

「これが……魔女の結界?」

 孤門が、鍵穴のように小さな魔力の出どころを指さしました。それらしいとは思いつつ、ラブと美希も孤門の横につきました。孤門も微かに震えているのが見えました。

「そうだ、ここに魔女がいる」

 杏子の言葉を聞くと共に、ラブは唾を飲むのに手間取るほどの緊張を感じました。

「マミさんが……ここに」

 ようやく呑み込んだ矢先にも、まだ喉が渇いて来るのでした。
 むしろ先ほどより渇いているほどです。

「……入るぞッ」

 杏子が彼女たちの前に出て行きました。
 この魔女の結界は、魔法少女がこじ開けるしか入る方法はありません。本来ならば、杏子がソウルジェムを使って切り開くのが当然です。
 しかし、魔女の正体が果たして、本当に彼女たちならば、そんな事をする必要は全くありませんでした。寂しがりやで、仲間の来訪に安心した彼女は、すぐに自分の暗闇を彼女たちに知って欲しいと、招こうとするに違いないのです。
 杏子がこじ開ける時間さえ惜しいと思うのが、この魔女でした。



「──なッ!?」



 意外でした。
 魔法少女が魔女の結界に呑み込まれる、引き入れられるなど滅多にある事ではありません。そもそも、魔女は魔法少女の来訪を好みはしないはずなのです。
 それでも彼女は呼ばれました。





76ありがとう、マミさん(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:45:17 ID:o1PzPQC60



 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。







 ……そして、彼女たちは、気が付けばその異様な空間の中にいました。

 空間の中では、金淵の巨大な皿が浮かんでいます。おそらくは四畳ほどの皿です。ここに招かれた人間は、皆その上にいました。虹の橋が星座のように皿と皿とを結んでいて、その上を歩かなければ先に行けないようです。
 彼女たちは、起き上がると自分の足場よりもまず周囲に目を向けました。周囲には、果実が実り、花が咲いた綺麗な木々がありました。
 桃の木です。桜の木です。杏の木です。誰が作ったのでしょうか。誰が咲かせたのでしょうか。──ええ、魔女自身です。魔女自身の望みや乾きがこの木を育て、実を作っているのです。
 魔女はそうして、自力で実を生み出しながらも、他から与えられる何かを求めているようでした。

「……この空間が、魔女の結界?」

 美希がそう訊きました。三人は魔女の結界に入るのは初めてです。
 一帯は、なんだか冬場の緑黄色野菜を剥いて皮だけを並べたような、どこか昏い色をしていました。
 彼女たちは、恐る恐る周囲を見回しましたが、杏子はお構いなしに前に進みました。
 見れば、彼女は既に魔法少女の姿へと変身していました。肢体を真っ赤でぴっちりとした魔法服で包みながら、呆然とするラブたちを促します。

「ああ、行くぞ。それから、変身もしておけよ。……本当に油断がならねえぞ」

 ラブと美希にそう言うと、彼女はただ前に進んでいきました。少しは焦っているようですが、一方でどこかそれを冷静に隠している様子でした。それでも、そんな冷静の裏側を、他の三名は正確に読み取っていました。

「あ、ああ、うん……」

 ともかく、言われたので、虹の橋の上を、そっとラブが踏んでみました。どうやら、透けて落ちてしまう事はないようです。虹の橋は人が渡る事ができる頑丈な橋ではあるようです。
 しかし、物体を踏んでいるような感覚ではありませんでした。まるで空中を歩いているような感覚で、気が気でないところがありましたが、彼女たちは意外と素早く歩いて行きました。
 一番歩くのに苦戦していたのは孤門でした。彼には、虹の上を歩くほど非現実に即した想像力はありませんでした。子供の頃の小さな夢が最悪の形で叶ったようで、複雑な表情です。
 二人のプリキュアは、その後変身しました。

 ともあれ、おめかしの魔女──Candeloroは、四人の客人を自分の内に招待したのです。





77ありがとう、マミさん(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:45:34 ID:o1PzPQC60



 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。







「どこか、気味が悪いわね……」

 キュアベリー──蒼乃美希がそう呟きました。
 空はよく見れば薄暗く、木々はよく見ると健康的な肌をしていませんでした。
 葉も少し薄暗いのです。
 曇り空に真っ黒い雲が浮かんでいますが、これはこの時偶然こんな色をしているというわけではないようです。ずっと、この色でこの木は育ってきたのです。

「もっと向こうに魔女がいるはずだ。強い魔力を感じる……」

 杏子が言いました。
 マミは一体、どこにいるのでしょうか。それ、捜してみましょう。
 見回してみて、キュアピーチ──桃園ラブが何かに気づきました。

「もしかして、あの木のお家?」

 木々の中に、どうやら木でできた家があるようです。見れば、それはドアーを拵えていました。一つだけ太く、小さく、まるで何かを主張しているようでした。
 きっと、彼女が招待したい場所はその家なのです。しかし、そこに行くまでにはいくつもの試練があります。

 魔女の精神は複雑でした。本当は自分のもとに来てほしいのに、そこから人を突き放す癖もあるのです。人に接したい気持ちと、人を巻き込みたくない不安とが、彼女の中に両方あるのです。
 今、彼女たちの前に進軍してくる怪物が誰かを巻き込みたくない気持ちなのでした。
 自己の矛盾の中で、魔女は一人戦っているのです。

「……チッ」

 杏子は、進軍を見つけて舌打ちをします。キュアピーチが見つけたのは確かに魔女の根城のようですが、それを守るために敵がやって来たのです。
 それは、使い魔でした。
 赤と桃色の髪で顔を隠した小さな少女が彼女たちの前にやってきます。こんなのが魔女の使い魔です。

「敵が来たッ、戦う準備だッ」

 杏子は槍を構えました。
 真っ直ぐ前に来ている使い魔もまた、赤色で槍を持っていました。
 杏子は眉を顰めました。

「おいおい、あたしの真似事か?」

 マミが繰り出した使い魔は、色と槍との特徴が、杏子にとても似ていました。
 どうやら、マミの心の中に在る杏子は、こんな野蛮な怪物だったようです。
 その使い魔は、「あかいろさん」と云いました。
 あかいろさんが杏子に向けて槍を突き放ちました。しかし、槍は、杏子の体の横を掠めていき、そのまま杏子の左手に掴まれてしまいます。

「槍ってのはな、こう使うんだよ!」

78ありがとう、マミさん(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:45:50 ID:o1PzPQC60

 杏子があかいろさんの槍を突き返しました。
 そして、もう一遍、相手が槍を突いて来る前に、杏子はいつもの如く、自分のやりであかいろさんの体を引き裂きました。あかいろさんの体はすぐに消えていきました。
 やはり、槍を使う者としても、使い魔を狩る者としても、年季が違うようです。
 まるで杏子と瓜二つのあかいろさんを、容赦なく無に返し、杏子は次の敵を探しました。

「きゃあッ」

 すると、杏子の耳に誰かの悲鳴が聞こえてきました。キュアベリーに、小さな小さな「ももいろさん」が矢を放ってきたのです。
 ベリーが矢を間一髪、上手く回避すると、また横から杏子がももいろさんを槍で一撃突きました。ももいろさんもすぐに消えてしまいました。
 魔女や使い魔との戦いには、プリキュアよりも魔法少女の方がずっと慣れています。

「ぼさっとするなッ」
「だって!」

 小さく、少女にも似た姿の彼女たち使い魔を倒す事を一瞬でも躊躇った所為でした。
 キュアベリーは、全くそれに対応できずに、置いて行かれます。少女のような外見の敵に容赦なく戦う事が難しかったのでしょう。
 使い魔の危険性というのをよく認知していなかったのも一因かもしれません。

「はぁぁぁッ」

 キュアピーチは、そこに住んでいたもう一体の「ももいろさん」に、真っ直ぐパンチを放ちますが、それはすぐに真横に避けられました。パンチは虹の橋を叩き、大きな音を放ちます。この「ももいろさん」はキュアベリーを襲った「ももいろさん」とは少し違うようでした。
 彼女は、一本のスティックを持っていました。
 スティックの先端から、魔法のように光のシャワーを浴びせる使い魔でした。
 今もまた、避けた拍子に横からキュアピーチに向けてその技を放とうとしてました。

「あぶないッ」

 キュアベリーが咄嗟に、その攻撃を放とうとするももいろさんを蹴り飛ばしました。彼女たちの体はとても軽いのです。
 ももいろさんの攻撃は空中で全く的外れな所に放たれました。
 しかし、それをカヴァアする為に、孤門が、空中のももいろさん目がけて、ディバイトランチャアの銃丸を当ててやりました。
 ももいろさんは空中で爆ぜて、弱った四肢で必死に空中もがきます。
 最後に、それを杏子が槍でついてトドメを刺し、消滅させました。どうやら、それで今回の使い魔は全部終わりのようです。

「これでひとまず全部かな?」
「そうだな……兄ちゃん、なかなかやるな」

 ここにいた使い魔は、全て倒したようです。
 ほっと一息ついて、彼らは先に進む事にしました。
 杏子は、今の孤門の銃の腕を見て、暁美ほむらのやり方を思い出しました。

「あの家に着いたら、打ち合わせ通りにやるんだぞ」

 杏子が、仲間たちにそう確認しました。
 予め、算段を立てておいたのです。その算段にのっとって、ラブが上手くマミを救うよう、杏子は願っていました。
 今の様子では、ピーチとベリーに少し不安が残るのです。
 もし、Candeloroとなったマミを救える術がなく、彼女が一切構わず仲間を襲うなら、杏子は自分の手でマミを先ほどの「あかいろさん」のように引き裂くしかありません。
 最後の手段として、杏子の判断でマミの最期を彩るしかないのです。
 彼女たち魔法少女にとっては、それは全く造作もない事でした。







 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
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 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。





79ありがとう、マミさん(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:46:12 ID:o1PzPQC60



「チッ……」

 また杏子が舌を打ちました。
 更に歩速を早めて彼女たちが進んでいくと、今度は彼女たちの前に、「あかいろさん」や「ももいろさん」が軍勢として現れてきたのです。
 目の前には、何体かの使い魔たちがバリケェドを作っています。
 彼女たちは正面突破に対して、少しの躊躇を感じました。

「さっきの奴らは偵察、今度のが主要戦力だ」

 結界の中には、たくさんの使い魔がいます。
 ただ、その使い魔はこれといって人間のエネルギィを吸収できたわけではないので、力はさほど強い者ではありません。
 あくまで、彼女たちは軍勢になって固まって、向かってくる客人から最深部を防衛しようとしているのです。使い魔の兵隊たちは、こちらに向けて一斉に矢を放ってきます。

「うわあッ」

 杏子に推されて、孤門が回避。他の二人はバック・ステップで後退します。
 四人が先ほどいたところに、十本以上の矢が突き刺さっていました。
 虹の橋に、いくつもの矢が深々刺さっています。矢は先端から真ん中半分まで潜り込んでいます。

「三十人はいるよ!」
「たかが三十だろ。それなら、こっちも数を増やせばいい」

 杏子は、そう言って、ロッソ・ファンタズマを発動しました。ロッソ・ファンタズマは杏子が持つ幻影の技です。自らの体を幾人にも増やし、進軍する事ができます。
 すぐに三体まで分身した杏子は、そのまま敵兵の矢をものともせず、前に進むのでした。
 矢は、三体の杏子が全て避けています。

「正面突破しか手がないわけ!?」

 そう言いながらも、後ろから、ピーチとベリーもついて行きました。
 孤門は、もう少し遅く、ディバイトランチャアを構えながら五人の姿を追いました。

「そうだ、迎え撃てッ!」

 先頭にいる杏子が指揮を執るように言いました。
 あかいろさん、ももいろさんの集団に向かって、杏子たちはそれぞれの武器を構えました。
 一人の杏子は多節棍、一人の杏子は鎖分銅、一人の杏子は槍を使いました。

「おらっ!」

 杏子が多節棍を交わして、ももいろさんの体を消していきます。
 一体、二体。優雅に消えていくももいろさんでした。前方の弓矢の兵団はまず先頭の杏子が、多節棍で消していくのです。
 三体、四体。弓矢はこう伸縮自在の武器が前方に来られては使いづらいのです。
 五体、六体。杏子が多節棍を振り回し、体をくねらせ、それを丁寧に消していきました。
 七体、八体。しかし、一本の矢が偶然、杏子の体に命中しました。
 九体、十体。それでも、その杏子はまず前方の弓矢の軍勢を全て消し去ってから、幻想の世界に帰っていきました。
 本当の杏子は、まだ後ろにいます。

「次ッ!」

80ありがとう、マミさん(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:46:33 ID:o1PzPQC60

 二陣として、杏子がまた鎖分銅を振り回し、次のももいろさんに投げました。
 十一体、十二体、十三体。同時に三体纏めて分銅の犠牲になりました。
 十四体、十五体。杏子がももいろさんを鎖で束ねて巻き込みました。
 十六体、十七体。杏子が鎖で束ねたももいろさんは、別のももいろさん達に投げ当てられました。
 十八体、十九体。分銅の重みが二人ほど使い魔を消しました。
 二十体。残ったももいろさんの華美なスティックから放たれた光が、杏子に振りかかりました。彼女は、それで一瞬体ごと消えそうになりましたが、それより前に杏子は自分に光を浴びせるももいろさんに鎖分銅を叩きつけて消し去りました。
 本当の杏子は、まだ後ろにいます。

「最後だッ」

 二十一体。杏子が真正面のあかいろさんの頭を突きました。
 二十二体。キュアベリーがキュアスティックで叩きました。
 続けて、二十三体、二十四体。肘鉄と爪先があかいろさんを消しました。
 二十五体、二十六体。キュアピーチが槍を掴んで敵を無力化し、拳を当ててみせました。
 二十七体、二十八体。高く飛んだキュアピーチは、蹴りを繰り出しました。

「さあ、本当の最後よっ」
「はあああああああッ!」

 二十九体。キュアベリーが残るあかいろさんが投擲してきた槍を手で捕って、あかいろさん本体を蹴り、消しました。
 三十体。キュアピーチが最後のあかいろさんを、キュアスティックで叩きました。
 これにて、目の前にいた全ての使い魔は消えたようです。
 彼女たちの目の前には、ドアーがありました。少し見上げる程度のツリーハウスが目の前にあります。
 ようやく孤門が追い付きました。

「遅ぇぞ、あんた隊長だろ。何やってるんだよ」
「ごめんごめん、……ていうか、君たちが早すぎるんだよ」

 息を切らしている孤門でしたが、まだ戦う余力はあるようで、不器用に笑って見せました。
 さて、残る準備は充分のようです。
 四人は、ドアーの向こうに行く事にしました。







 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。







 杏子が、ラブが、美希が、孤門が……ドアーの先の奇ッ怪な空間に呑み込まれました。ドアーの向こうには自分たちから行ったはずですが、まるでそこに吸い込まれたような気がしました。
 そうです。彼女たちが来るのを心のどこかで待ちわびていた彼女は、自分から引き込む事にしたのです。

「ここは……」

 四人は薄暗いパーチー会場を見回しました。
 これが魔女の結界の最深部です。
 カラフルな輪飾りが天井や壁を飾っています。来訪者たちに向けて、たくさんのプレゼントが用意されています。テーブルの上にはお茶の準備ができているようです。
 香ばしい匂いが漂っていますが、それが危険な蜜のようなつんとした刺激も混ぜ込んでいるのが彼女たちにはすぐにわかりました。飲んではいけない茶です。

「マミさん……」

81ありがとう、マミさん(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:46:58 ID:o1PzPQC60

 そんな彼女たちを真っ先に襲ったのは、プレゼントでした。
 彼女たちを囲むように供えられたプレゼントの箱が、一つ彼女たちに向けて飛んできたのです。

「危ないッ」

 孤門が真上から降ってくる箱をディバイトランチャアで打ち抜きました。
 プレゼントは空中で爆発します。どうやら、爆弾のプレゼントだったようです。一つのプレゼントが彼女たちに贈られると同時に、次々またプレゼントがやってきました。
 きりがないほどにたくさんのプレゼントがこちらへ向かってきます。
 杏子は跳ぶと、それを空中で爆発させ、猛スピードで急降下しました。

「これ……さっきの使い魔が投げてきたんだッ」

 見れば、プレゼントの影には、使い魔たちがいたのです。
 あかいろさん、ももいろさん。使い魔たちが物陰に隠れてプレゼントを投げて襲ってきます。しかし、彼女たちを絶つ為に真ッ向からプレゼントごと彼女たちを消そうとすれば、プレゼントが爆発してこちらも被害を受けてしまいます。
 一刻も早く、マミの魔力の正体を見つけてどうにかしなければなりません。

「仕方ねえ……おい、ラブッ! 来い!」

 杏子がやむを得ずにそう言いました。

「あたしたちが一刻も早く魔女を探さないと、キリがない。このままじゃ、この結界から出られねえぞッ」

 どこかに潜んでいる使い魔が、また矢をこちらに向けて放ってきます。
 隠れている場所からの距離が遠く、命中精度は低いのですが、万が一綺麗に的を射たのなら、孤門などは避ける暇もなく串刺しになるでしょう。
 それだけに、彼らは運任せにして、早々に杏子が魔女を見つけ、ラブが説得しなければなりません。

「美希、兄ちゃん……悪いけどここは任せたッ」
「……行くの?」
「ああ! ちょっと野暮用を済ませにな……!」

 杏子は、この攻撃にどこか懐かしいマミの面影を感じているのでした。
 使い魔たちは全て、黄色いリボンに結ばれているのです。おそらく魔女が逃げないように捕まえているのでしょう。
 この技は、マミの物でした。
 これだけの元気があるのなら、間違いなくマミの意思がどこかにあると思うのです。
 仕方なしに、杏子たちはマミを探す事にしました。

「じゃあ、わかったから行って。ここは私と孤門さんで何とか上手く持ちこたえるわ」

 キュアベリーはそう答えました。

「ラブ、ここまでつき合せたんだから、無駄にしないでよね」

 友達二人への激励の言葉が放たれると、二人はその先に行かざるを得なくなりました。
 置いていく事になる二人が不安ですが、それでもこの一室を隅々まで調べ、魔女の本体を探すしかありません。







 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
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 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
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82ありがとう、マミさん(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:47:21 ID:o1PzPQC60



 HAPPY BIRTHDAY

 杏子とキュアピーチは二人で縦横無尽にこの空間の中を飛び交っていました。

 HAPPY BIRTHDAY

 跳躍しながらマミの姿を探します。普通なら、もっと魔女は大きいのですが、稀に大きい敵もいるようで、マミはまさにそれでした。

 HAPPY BIRTHDAY

 しかし、魔力は正直に自分の居場所を教えるのでした。

 HAPPY BIRTHDAY

(……来る)

 HAPPY BIRTHDAY

 杏子は直感しました。来るべき魔女が、どんな姿をしているのか、彼女には想像のしようもありませんでしたが、それが来た瞬間、少し驚きました。

 HAPPY BIRTHDAY

 見逃してしまいそうなほど小さな──子供のような魔女がそこにいました。

 HAPPY BIRTHDAY

「ラブ、こいつがマミだッ!」

 HAPPY BIRTHDAY

「打ち合わせ通りに……いくぞ!」

 HAPPY BIRTHDAY







 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
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 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。







『マミはまだ生きている』

 あの時、杏子は念話でラブにマミの事を告げた。
 杏子は、真摯な顔でラブにそう言いながら、暁や美希の様子を伺っていたのだった。

『生きているって──』
『マミが動かなくなったのは、あたし達の持つソウルジェムが濁って砕けたからなんだ。……でも、ただそれだけじゃ、あたし達は死なない』

 そう聞いた時のラブは、意外そうだった。少なくとも、嬉しそうではなかった。
 何よりも驚きが勝っている。疑っているわけではないが、現実味というのが薄かった。
 確かに見送った一人の人間の死が、ただの勘違いや誤解だったというのだろうか。

『あたし達は、魔法少女になった時から肉体じゃなくて、ソウルジェムが本体になる。だが、ソウルジェムが濁ると、あたし達は魔女になっちまうんだ……』
『!?』

 魔女──確かに、マミは魔女と戦っていると言っていた。
 つまり、それは魔法少女と戦っている魔女が魔法少女という事で──ラブは少し混乱する。それがどういう事なのか、理解し難かったのだろう。

『……マミは今日、魔女としてどこかで生まれるんだよ。あんた、もしそうなってるとしたら、どうする?』

 その言葉が返すべき答えは一つだった。
 ラブには、考える隙もなかったのだろう。まるで温めていたかのように自然な答えが口から滑り出て行った。

『勿論、絶対にマミさんを助けるよ。だって、友達だもん』
『……本当にそんな事ができるのか、わからないんだぞ? あたしだって、ここで知ったんだから、どうすれば魔女を助けられるのかなんて全然知らないし……』

 その言葉が、杏子から彼女たちへの試験だった。

『でも、私は助けられないってわかるまで、諦めたくない。……バカだって、思われるかもしれないけど』

 杏子が思っている以上に────『正義の味方』な言葉が、ラブの口から出てきた時、杏子は呆気にとられたほどだった。
 しかし、つぼみやラブのその願いを叶える為に出来る限りのサポートをしたいと、杏子は内心で思ったのだ。
 彼女自身も、そんな物語に憧れていたのだから──。





83ありがとう、マミさん(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:47:44 ID:o1PzPQC60



 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
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 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
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 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。







「ロッソ・ファンタズマ!」

 十三人の杏子が駆けていきました。
 その姿を追って、黄色いリボンが杏子の体をすり抜けていきます。これが算段でした。Candeloroに対する時間稼ぎを杏子がしている内に、キュアピーチがマミを説得するのです。
 彼女たちにとって、それが唯一の作戦でした。
 ただ、意思ある魔女の「感情」を探し、そこに訴えるのです。少しでも心を動かし、元のマミがどんな人だったのか、この魔女に知らせるのです。
 そうすれば、もしかすれば愛や勇気が全てに勝り、マミはマミに戻ってくれるかもしれないと思っていたのです。

「マミさんッ! 話を聞いて!」

 キュアピーチは、マミにそう言いました。
 叫び声を、Candeloroは聞いているのか、聞いていないのか──なおも攻撃を続けます。
 それでも、キュアピーチは必死でマミに声を届かせようとします。

「私だよ! 桃園ラブだよ!」

 杏子や、キュアベリーや、孤門が今頑張っている中で、キュアピーチはできる限りの大声で、友達に言葉を贈ります。
 その言葉が届いたのか、リボンがラブを捕縛しようと一直線に向かってきました。
 それを杏子の一人が庇い、十三体の内の一体の杏子が捕縛されてしまいました。

「怯むな! 呼び続けろ!」

 そう言う杏子の姿は幻に溶けて消えてしまいました。
 しかし、まだ本物の杏子が戦っているはずです。残り十二体の杏子が、時間を稼ぐ為だけに必死で戦っていました。
 キュアピーチはその姿を確かに胸に焼き付けました。

「う……うん! 無理しないで、杏子ちゃん!」
「わかってるッ!」

 ラブとマミの為に、誰もが頑張っています。
 目の前での杏子の奮闘を見ていると、ラブも絶対に自分の役割を果たさないわけにはいかないのです。

「マミさん! あの時、一緒に約束したじゃないですか! 幸せな世界を作るって……」

 また、杏子が一体消えてしまいます。
 残りの杏子は十一体です。

「これから作る幸せな世界の中には、私や杏子ちゃんたちだけじゃなくて……マミさんだって、そこにいていいんですよ!? 自分を犠牲にして戦うんじゃない、みんなで一緒に帰りましょうよ!!」

84ありがとう、マミさん(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:48:08 ID:o1PzPQC60

 その言葉に────ほんの一瞬、Candeloroが動きを止めました。
 杏子を捕縛しようとした腕が少しだけ止まったのです。

(……!)

 しかし、構わずにまたすぐ動き出して、杏子を狙います。杏子の体はすぐに貫かれて、泡と消えてしまいました。
 キュアピーチは続けるしかありませんでした。

「マミさん……! 一緒に帰ろうよ! 私だって、マミさんと一緒にいたい! もっと一緒にドーナツ食べたり、遊びに行ったり、お家に通ったり……!!」

 Candeloroは、空中から弾丸を飛ばし、杏子を二体葬りました。
 久々のロッソ・ファンタズマは制御の要領に手間取っているようなのです。

「マミさん! マミさんはこんな事をする人じゃない! 幸せな世界を作るんでしょう!」

 Candeloroに言葉は届きませんでした。
 そのまま、手下の使い魔に憑依すると、かつて見たティロ・フィナーレのような砲撃で一気に四体の杏子を消し去ってしまいました。
 残る杏子は四体です。しかし、もう一度ティロ・フィナーレを喰らってしまえば、本物の杏子も被害を受けてしまうでしょう。

「…………お願いだから」

 キュアピーチの腕は震えていました。
 このまま、ずっと説得するわけにはいきません。
 説得する事ができなかったら、もうトドメを刺すしかないのです。
 マミの為でなく、杏子や美希や孤門の為に──。

「やめて! マミさん!! ──」

 三体の杏子が、次々と痛めつけられ、弾丸がすり抜けて消えてしまいました。
 もう、既に後がない状態です。杏子はあと一体。魔力をかなり使ってしまった為に、既に疲労が激しい状態のようでした。
 槍を杖にして立ちながら、それでもなんとか食い止めようとしています。

「……」

 杏子の想いを無駄にしない為にマミを救うのか、
 それとも、杏子の為にマミを倒すのか、
 今のキュアピーチにできる事は二つに一つでした。

 最後の決断をしなければならない事が、ラブにもはっきりとわかりました。
 勿論ですが、その答えはすぐに決まりました。

「……やめてよ、マミさん……どうして、やめてくれないの……さっきみたいに止まってよ、ねえ、マミさん……」

 助けるべき優先順位が杏子にあるのは、至極当たり前の事でした。

「…………」

 諦めきれない気持ちもあります。
 ここで諦めてしまうには早いかもしれない、僅かな説得でした。
 でも、それしか時間は稼げなかったのです。

「…………」

 一瞬だけでも、マミはラブの言葉に動きを止めてくれた──それが少し、残念でした。
 まだマミはどこかにいる。生きられるはずのマミを、今倒さなければならないのは悲しい事でした。

「…………ありがとう、マミさん」

 キュアピーチは、Candeloroを倒す決意をせざるを得ませんでした。
 いや、本当は決意なんて全くできていないのでしょうが、それでも決意ができたフリくらいはしなければなりません。

「ごめんなさい……」

85ありがとう、マミさん(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:48:28 ID:o1PzPQC60

 流れそうな涙を呑み込んで、震える足をどうにか立て直して、それでもって、前にいるCandeloroを魔女として葬り、杏子を助けるしか術はないのです。

「届け……愛のメロディ! キュアスティック、ピーチロッド!」

 キュアピーチは、キュアスティックを手に持ちました。

「馬鹿ッ! 諦めるなッ!! ──」

 隣で息を切らす杏子が、キュアピーチの様子を見て、思わずそう叫んだのでした。
 しかし、時すでに遅し、既に戦闘の準備が始まり、直後には光が真っ直ぐに魔女を包んだのでした。







 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。







 魔女の猛攻を前に、彼女はその判断をせざるを得ませんでした。
 このままでは、杏子や仲間たちが死んでしまいます。
 もし、この魔女を倒すとしたら、自分以外にいないと思いました。

「悪いの悪いの飛んでいけ!」

 そう言う心は、少し苦しくもありました。
 本人だって、暴れたくて暴れているわけではないのです。
 だから、悪い心なんて少しもありません。



「プリキュア・エスポワールシャワー・フレェェェェェェッシュ!!!!!」



 ──キュアベリーは、Candeloro目がけて、プリキュア・エスポワールシャワー・フレッシュを放ったのでした。

 一瞬、他の誰も、何が起こったのか理解しきれませんでした。
 Candeloroを呑み込んでいく青い光。それは、杏子の物でも、キュアピーチの物でもありません。
 彼女たちの後ろから出現した物でした。彼女たちを追い越して、Candeloroの体を呑み込み、いつまでもそこに在り続けるそのシャワーに、誰もが驚いた事でしょう。

「ベ、ベリー!?」

 エスポワールシャワーを繰り出すのは、当然キュアベリーです。
 振り向いたキュアピーチは、ただ何も考えずに彼女の名前を呼びました。

「はああああああああああああああああっっ!!」

 キュアベリーのエネルギーは、Candeloroの体の外で爆ぜました。
 あるいは、それが一つの区切りを作り出したのかもしれません。
 今、何が起こったのか気づいたのは、その瞬間が初めてでした。
 肩で息を始めているキュアベリーがそこにいました。

86ありがとう、マミさん(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:48:43 ID:o1PzPQC60

「……はぁ……はぁ……」

 彼女は、杏子とキュアピーチの視線を受けていました。
 後ろでは孤門がディバイトランチャアを構えて立っていました。

「み、美希たん……どうして……」

 キュアピーチが訊きました。半分、まだ呆然としているようです。
 何故、キュアベリーがここまで来て、わざわざCandeloroを倒そうとしたのか、彼女たちには考えられませんでした。

「あの魔女は、ラブがやっちゃいけないわ……。勿論、杏子もよ……!」

 彼女は、どうやらあかいろさんやももいろさんを何とか倒した後のようでした。
 それはとても、エスポワールシャワーだけの疲労には見えません。
 孤門も、少し不安そうな顔をしていました。

「あれが本当に巴マミっていう人なら……彼女と親しかったあなた達がやるべきじゃない……。……もし、本当に倒してしまったら、あなたたちはこれからずっと苦しむ事になる」
「バカ野郎ッ! だからって、そうまでして……」
「私の痛みは一瞬よ……でも、あなたたちの苦しみは一生かもしれない……」

 この戦闘で、余程疲労が募っていたようです。
 対人戦はあっても、集団との戦いは久々なのでしょう。いくつかの爆弾を受けたのかもしれません。
 杏子は、すぐに彼女のもとまで行って、彼女の体を支えようとしました。

「……それに、大丈夫……助かると思って、放った技だから──」

 しかし、杏子が辿り着くより、一瞬前でした。
 孤門が倒れかけのキュアベリーを上手く支えました。

「『諦めるな』……そう言いたいんだ、美希ちゃんは」

 孤門は、彼女の体を支えながらも、杏子やラブの向こうを見つめました。
 果たして、これで本当に向こうにいるCandeloroが消えているのか、少し確認したかったのです。しかし、どうやら本当に撃退されたようでした。

「そう、きっと、まだ希望はあるはずよ……。……きっ、と……諦めないで……」

 そう言うと、変身が解け、美希は意識を失ったのでした。







 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。







 彼女たちは、既に魔女の結界から外に出ていました。
 まるで夢から覚めたような気分でした。──不思議の国のアリスの気分というのが、はっきりとわかった気がしました。
 ただ、不思議の国から帰って来た証は、そこにありました。

「……ありがとう、みんな。まるで浦島太郎の気分ね」

 ……いいえ、そこに確かにいたのです。
 金髪の少女が、驚くべき事に、桃園ラブと佐倉杏子の前に突然、現れたのでした。
 二人は周囲を見回しました。
 蒼乃美希を抱きかかえる孤門一輝も、その時ばかりは、美希の様子を伺うよりも、目の前の一人の少女に注意を向けました。

「君は、……巴、マミなのか?」

 少女は頷きました。





87ありがとう、マミさん(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:48:57 ID:o1PzPQC60



 彼女の名前は、巴マミと云います。
 それは、Candeloroなる怪物ではありません。魔女と呼ばれるのも心外でしょう。
 彼女の作り出した結界から脱した杏子たちの前に、彼女は立っていました。

「桃園さん、あなたの声……ちゃんと聞こえたわ。またこうして、眩しいおひさまの下に立てる日が来るなんてね」

 マミが一度“死んだ”時もまた、こんな眩しい太陽が空に輝いていました。
 その時と全く同じ太陽の下、マミは再び生まれたのです。

「本当……? 夢じゃないですよね? でも、どうして……マミさんがここに?」

 勿論、ただその現実を受け入れるのは難しい話でした。嬉しそうながらも、どこかこれが夢ではないかと疑ったように、キュアピーチは震えました。
 先ほど、魔女はキュアベリーが倒したはずです。
 マミも、ちゃんと説明する事ができず、少し目線を泳がせてシドロモドロになりました。
 そんな彼女に事情を話すべく、孤門が答え合わせをしました。

「美希ちゃんのお陰だよ」

 そう言って、孤門が全てを話し始めました。

「ソウルジェムの汚濁は、魔法の使用か精神的な絶望で起きる。その結果、魔女が生まれる。……そのメカニズムは、僕から彼女に伝えておいたんだ」
「はっ!? 誰にも言わない約束じゃ……」
「……いや、彼女はとっくに勘付いていたよ。ラブちゃんが結界に入る時に確信に変わったみたいだから、あとの事情は全部僕の方から話しておいたんだ」

 杏子は、あの結界に入る時の事を思い出しました。
 そういえば、ラブはあの時、平然とマミの名前を口走っていた覚えがあります。
 ただ、杏子も、まさか美希はそれだけで全て気づく事はないだろうと、何となく安心していたのです。

「美希ちゃんにも、考えがあったんだよ。……そうだ、以前、彼女があかねちゃんと会った時、ガイアメモリの毒素を浄化する事ができたらしい。今回もそれと同じなんだ。それと同じく、ソウルジェムが持っていたマイナスエネルギー──濁りを自分たちの技で浄化できないかと彼女は考えた」

 ラブはふと思い出しました。
 プリキュアの力が、本来、悪を倒す為ではなく、悪を許す為にある力なのだと。
 ウエスター、サウラー、イース──様々な人たちと分かり合う事ができたのも、プリキュアの力がそんな性質を持っていたからでした。
 しかし、彼女たちは極力、それで人を救うより、コミュニケーションを使って人の心を見つけていくようにしたかったのです。その成果も今回は充分にあったといえるでしょう。

「そして、彼女はきっと、魔女の負の性質の力を浄化して、元のマミちゃんの心を取り戻す為に技を放ったんだ。でも、それが失敗して、もし魔女が消滅してしまった時の事を考えて、ラブちゃんには任せられなかった」

 彼女は、一応、魔女を救いだす希望を胸に秘めながら、あの行動をしたのでした。
 今は孤門の肩に意識を任せているが、こうして眠る直前まではきっと、相当な不安でいっぱいだったに違いありません。

「僕たちは、君たちが戦い、説得している最中に、あの結界の中で、マミちゃんの体を見つけた。使い魔に守られていたけど、マミちゃんらしき人がいたんだ」
「えっ? でも、土に埋めたはずで……」
「魔女自体が結界に引き込んだんだろう。そうだよね? マミちゃん」

88ありがとう、マミさん(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:49:14 ID:o1PzPQC60

 孤門が訊くと、マミは頷きました。
 彼女自身が、自分の体を結界の中に引き寄せたのです。

「……私の体は、少なくとも魔女になるまでは誰かに魔力の供給を受けて鮮度を保っていたみたいです」
「それはきっと、主催側がやったんだろうと思う。……理由はわからないけど」

 これにも理由がありましたが、これは今の彼らの知るところではありません。
 ただ、一つヒントを差し上げるのなら、それは彼女たちと同じ魔法少女の仕業なのでした。

「いずれにしろ、そのまま魔女としての私を倒してしまえば結局、私の体は力を保てなくなります。肉体と精神の結合が上手くいかないかもしれません」
「だから、その為に、美希ちゃんがある手段を使ったんだ」

 マミは、その言葉を聞いて、すぐにそれを取り出しました。
 それは、ソウルジェムではなく、見覚えのある黄色い携帯電話でした。
 この携帯電話は、ある人物の持ち物でした。
 そして、ただの携帯電話ではなく、ある特殊な妖精が同化した携帯電話なのです。

 キルン──山吹祈里のパートーナーの妖精でした。

「この妖精──えっと、キルンの力を媒介にして、彼女の体を維持できるかもしれないって言っていた」

 東せつながかつて、ラビリンスの人間としての時を止めて蘇ったのも、アカルンの力によるものでした。
 ダークプリキュアが消滅間際、新たな体を保てたのもプリキュアの力です。
 そして、今はマミを救うべく、キルンがマミに力を供給しているのです。

「ブッキーが遺してくれたこの力が……」
「それは実は、殺し合いに乗った一人の女の子が持っていた時期がある物なんだ。それを取り戻してくれた人が、目の前にいるよ」
「……」

 孤門が見たのは、杏子でした。

「杏子ちゃん……」
「礼ならいらないぜ。せつなに言いな。せつながいなけりゃ、そいつを取り戻そうなんて考えなかっただろうさ」

 杏子は、ちょっと照れているのでしょうか。そう答えました。
 どうやら、プリキュアたちの力が巡り巡って、こうしてラブの前にいる少女の命を救ったみたいなのです。
 偶然なのか、必然なのかはわかりませんが、ラブにはそれが嬉しい事に思えました。
 彼女たちが生きてきた事は、決して無駄な事などではなかったのです。

「桃園さん、佐倉さん。お久しぶりね。……ありがとう、二人とも。それに、そちらの二人も」

 美希や孤門の活躍なしには、きっと彼女はこうして再び生きる事はできなかったでしょう。ソウルジェムが力を使い果たしたとしても、まだこうして再び生きる事が叶うなど、マミも思わなかったに違いありません。
 実際、ラブもまだ半分は今起きている現実が信じられませんでした。
 実際にこうなる前は、きっとこうなるだろうと信じていたのに、今こうして現実にありえなかったであろう事が起こると途端に真実味が感じられなくなってしまうから、人間の感覚は不思議なものです。

「……マミさん。もう一度確認します。本当に、嘘じゃないんですよね?」
「ええ。孤門さんが言ってくれた通りよ」
「また一緒に、いられるんですね!?」

 マミはそんな彼女に優しく頷きました。
 それに落涙しそうになったラブですが、何とかそれは堪えました。

「やったー!! マミさーん!!」

 ラブは、即座にマミに抱き着くのでした。マミの顔がやたらと巨大な胸にぶつかり、一瞬跳ねて押し出されそうになった後、また密着しました。
 嬉しそうに抱き着き、出かけていた涙を隠すのでした。紅茶の香りがラブの鼻孔をつきました。
 そんな彼女の後頭部を、やれやれと見つめながら、マミは杏子の方に目をやりました。

89ありがとう、マミさん(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:49:29 ID:o1PzPQC60

「……佐倉さん」
「久しぶりだな、マミ。まさかまた、こんな風に会えるなんて」
「思い出したのね、ずっと昔の事……」

 マミは、今度は杏子に微笑みかけました。
 杏子はそんなマミの視線から目を外しました。目を合わせるのが余程いやだったのでしょう。

「……まあな。こういうあたしも悪くないだろ?」
「良かった……」

 それがマミにとっての心配でした。杏子が殺し合いに乗るような事はなかったのだと、マミは思ったのです。
 この杏子は、決してマミが知る杏子ではありませんでした。マミが知るよりも少し成長した杏子でした。
 しかし、杏子にとっての心配はまだ晴れていません。

「……にしてもお前、怒ってないのか?」
「……何を?」
「前の事だよ。あたしがあんたと別の道を行く時の事……あの時の事を謝りたくて、さ……」
「あれは、お互いさまよ。私はあなたに何もしてあげられなかった。結局、あなたを本当のあなたに戻してあげる係、誰かに取られちゃったわね」

 二人にとって、あの出来事はとうに昔の出来事のようでした。
 お互い、引きずり続けた昏い過去でした。気にせざるを得ません。
 どちらも──お互いに、その罪を抱えているのです。
 ラブたちには何の事なのかはわかりませんでしたが、二人の様子では、そえrで話は終わりのようでした。

「……よし。とにかく、これで僕たちの任務は終了だ。……みんな、よくやった」

 ふと、孤門が口を開きました。

「杏子ちゃん。君が戦ってくれなければ、ラブちゃんは彼女を呼び続ける事ができなかった」

 杏子の力が、ラブを魔女から守り続けたのです。

「ラブちゃん。君が呼びかけ続けなければ、マミちゃんは心を動かさなかった」

 ラブの想いが、魔女に届いたのです。

「美希ちゃん。……君がラブちゃんの言葉と希望を信じなければ、マミちゃんは元には戻らなかった」

 美希の機転が、魔女を救ったのです。
 眠っている彼女に、孤門はささやきました。

「何より、マミちゃん。君自身も彼女たちの想いに気づいたから、こうしてまた戻ってこられたんだ」

 そして、彼女がその孤独から抜け出す術を知れたから、こうして魔法少女でも魔女でもない巴マミとして、ここにいるのです。

「……って、あれ? 僕だけ何もしてないのかな?」

 と言った瞬間、その他がずっこけました。
 彼が充分、どこかで役に立っていた事を、彼女たちは知らないでしょう。

「みんな、本当にありがとう──」

 そう言うラブでした。
 彼女の、もしかすれば無茶かもしれない提案にみんなが載ってくれたから、こうして救う事ができたのです。

「でも、十四人が十人に減るどころか、十五人に増えちゃったな」

 杏子が笑いました。

「いいよ。……僕たちは生きている全員で還るんだ。多ければ多いほどいい」

90ありがとう、マミさん(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:50:37 ID:o1PzPQC60

 ふと、その言葉が杏子の胸を打ちました。
 彼が当然のように言ってのけた言葉が、彼らの本質なのです。
 『命を粗末にしない事』──翔太郎にそう言われたのをふと思い出しました。
 そうだ、彼もまた……。

(そうだ、忘れてたな……あの時の事。でも、あたしはもう大丈夫だ。こういうストーリーを、ずっと見たかったんだ……これが見られれば、もう死のうなんていう理由はない。あとは、──────精いっぱい生きてやるよ)

 ふと、杏子は心の中で笑いました。
 しかし、そんな笑顔は外に漏れていたらしく、ラブが横で茶化しました。

「何笑ってるの? 杏子ちゃん」
「何でもねえよ」

 長い間ずっと抱えていた夢がかなえられたのです。
 もう、悔いはありません。

「あんたが作った条件、本当に役に立つじゃねえか。『諦めるな』、って……」

 孤門の元に、杏子がゆっくり歩いて行きました。
 孤門は、そういえばそんな事を彼女たちに広めていたっけ、と思い出しました。

「勇気と愛が勝つストーリーって、ちゃんとあるんだな……美希」

 杏子の手が、眠る美希の手を握りました。
 杏子の胸から何かが晴れていくような想いがありました。
 美希の手に、何か自分の意思を託すようにして、強く、強く握りました。
 小さな光が、杏子の手から美希の手へと────そっと重なって消えました。

「……」

 彼らは、こうして、一人の命が救われる事の大切さと、それに喜ぶ人たちを見ていたら、到底誰を犠牲にしようなどという話に頭を切り替える事はできません。
 今、孤門たちがすべき事は、冴島邸に向かう事です。

「とにかく、冴島邸まで急ごうか。マミちゃん、事情は後で話すよ。とにかく、車に乗ってもらえるかな」

 五人で乗る車は、少しばかり重いのでした。



【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ 生存】















 そして、美希は、夢の中で────、

「あなたは────」

 杏子が変身していたはずの、一人の巨人と会いました。
















 ……To be continued

91ありがとう、マミさん(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:50:53 ID:o1PzPQC60



【2日目 昼前】
【I−3 平原】

【孤門一輝@ウルトラマンネクサス】
[状態]:ダメージ(大)、ナイトレイダーの制服を着用、精神的疲労、「ガイアセイバーズ」リーダー、首輪解除、シトロエン2CV運転中
[装備]:ディバイトランチャー@ウルトラマンネクサス、シトロエン2CV@超光戦士シャンゼリオン
[道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0〜2(戦闘に使えるものがない)、リコちゃん人形@仮面ライダーW、ガイアメモリに関するポスター×3、ガンバルクイナ君@ウルトラマンネクサス、ショドウフォン(レッド)@侍戦隊シンケンジャー
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
0:冴島邸に向かう。
1:みんなを何としてでも保護し、この島から脱出する。
2:ガイアセイバーズのリーダーとしての責任を果たす。
[備考]
※溝呂木が死亡した後からの参戦です(石堀の正体がダークザギであることは知りません)。
※パラレルワールドの存在を聞いたことで、溝呂木がまだダークメフィストであった頃の世界から来ていると推測しています。
※警察署の屋上で魔法陣、トレーニングルームでパワードスーツ(ソルテッカマン2号機)を発見しました。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※魔法少女の真実について教えられました。

【桃園ラブ@フレッシュプリキュア!】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、左肩に痛み、精神的疲労(小)、決意、眠気、首輪解除
[装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式×2(食料少消費)、カオルちゃん特製のドーナツ(少し減っている)@フレッシュプリキュア!、毛布×1@現実、ペットボトルに入った紅茶@現実、巴マミの首輪、工具箱、黒い炎と黄金の風@牙狼─GARO─、クローバーボックス@フレッシュプリキュア!、暁からのラブレター
基本:誰も犠牲にしたりしない、みんなの幸せを守る。
0:冴島邸に向かう。
1:みんなの明日を守るために戦う。
2:犠牲にされた人達のぶんまで生きる。
3:どうして、サラマンダー男爵が……?
4:後で暁さんから事情を聞いてみる。
[備考]
※本編終了後からの参戦です。
※花咲つぼみ、来海えりか、明堂院いつき、月影ゆりの存在を知っています。
※クモジャキーとダークプリキュアに関しては詳しい所までは知りません。
※加頭順の背後にフュージョン、ボトム、ブラックホールのような存在がいると考えています。
※放送で現れたサラマンダー男爵は偽者だと考えています。
※第三回放送で指定された制限はなかった模様です。
※暁からのラブレターを読んだことで、石堀に対して疑心を抱いています。
※結城丈二が一人でガドルに挑んだことを知りました。
※魔法少女の真実について教えられました。

92ありがとう、マミさん(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:51:07 ID:o1PzPQC60

【蒼乃美希@フレッシュプリキュア!】
[状態]:ダメージ(中)、祈里やせつなの死に怒り 、精神的疲労、首輪解除、ネクサスの光継承?
[装備]:リンクルン(ベリー)@フレッシュプリキュア!、エボルトラスター@ウルトラマンネクサス、ブラストショット@ウルトラマンネクサス
[道具]:支給品一式((食料と水を少し消費+ペットボトル一本消費)、シンヤのマイクロレコーダー@宇宙の騎士テッカマンブレード、双ディスク@侍戦隊シンケンジャー、ガイアメモリに関するポスター、杏子からの500円硬貨
[思考]
基本:こんな馬鹿げた戦いに乗るつもりはない。
0:冴島邸に向かう。
1:ガイアセイバーズ全員での殺し合いからの脱出。
[備考]
※プリキュアオールスターズDX3冒頭で、ファッションショーを見ているシーンからの参戦です。
※その為、ブラックホールに関する出来事は知りませんが、いつきから聞きました。
※放送を聞いたときに戦闘したため、第二回放送をおぼろげにしか聞いていません。
※聞き逃した第二回放送についてや、乱馬関連の出来事を知りました。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。


【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、ソウルジェムの濁り(中)、腹部・胸部に赤い斬り痕(出血などはしていません)、ユーノとフェイトを見捨てた事に対して複雑な感情、せつなの死への悲しみ、ドウコクへの怒り、真実を知ったことによるショック(大分解消) 、首輪解除、睡眠?
[装備]:ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品一式×3(杏子、せつな、姫矢)、リンクルン(パッション)@フレッシュプリキュア!、乱馬の左腕、ランダム支給品0〜1(せつな) 、美希からのシュークリーム、バルディッシュ(待機状態、破損中)@魔法少女リリカルなのは
[思考]
基本:姫矢の力を継ぎ、魔女になる瞬間まで翔太郎とともに人の助けになる。
0:冴島邸に向かう。
1:翔太郎達と協力する。
2:フィリップ…。
3:翔太郎への僅かな怒り。
[備考]
※参戦時期は6話終了後です。
※首輪は首にではなくソウルジェムに巻かれています。
※左翔太郎、フェイト・テスタロッサ、ユーノ・スクライアの姿を、かつての自分自身と被らせています。
※殺し合いの裏にキュゥべえがいる可能性を考えています。
※アカルンに認められました。プリキュアへの変身はできるかわかりませんが、少なくとも瞬間移動は使えるようです。
※瞬間移動は、1人の限界が1キロ以内です。2人だとその半分、3人だと1/3…と減少します(参加者以外は数に入りません)。短距離での連続移動は問題ありませんが、長距離での連続移動はだんだん距離が短くなります。
※彼女のジュネッスは、パッションレッドのジュネッスです。技はほぼ姫矢のジュネッスと変わらず、ジュネッスキックを応用した一人ジョーカーエクストリームなどを自力で学習しています。
※第三回放送指定のボーナスにより、魔女化の真実について知りました。

【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:身体的には健康、キルンの力で精神と肉体を結合
[装備]:なし
[道具]:リンクルン(パイン)@フレッシュプリキュア!
[思考]
基本:ゲームの終了を見守る
[備考]
※参戦時期は3話の死亡直前です。
※魔女化から救済されましたが、肉体と精神の融合はソウルジェムではなくリンクルンによって行われています。リンクルンが破壊されると危険です。

93 ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:51:24 ID:o1PzPQC60
以上、投下終了です。

94 ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:51:48 ID:o1PzPQC60
続いて203話を投下します。

95私のすてきなバイオリニスト(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:53:28 ID:o1PzPQC60



 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。







 さて、こちらの話もしなければなりません。花咲つぼみ、響良牙、涼邑零の三人と、人魚の魔女・美樹さやかとの話です。
 勿論、つぼみたちも魔女の在りかを探していました。

「さやか、開けてください」

 そして、その入口を見つけたのは、彼女でした。
 つぼみが、さやかに声をかけているのです。心を閉ざし、同時に己の不義と恋の終わりとを知った一人の魔法少女に、つぼみは優しく声をかけました。
 魔女がこの先に結界を作っているようです。
 つぼみにも内面では恐怖を抱えています。この先にいるさやかを果たして本当に救えるのか、それともやむを得ない判断をする事になるのか、あるいは自分がやられてしまうのか。
 しかし、つぼみは信じました。

「お願いです、さやか」

 つぼみが何度呼んでも、さやかは答えませんでした。
 魔女の方も、目の前の獲物を狩るつもりがあるのかないのか、判然としません。
 零が言いました。

「駄目だ、結界が張られている」
「あんた、入り方はわからねえのか?」
「まあ、普通の結界なら俺でも大丈夫なんだが、こういう特殊な結界は魔戒法師の力を借りない事には──」

 つぼみ自身の呼びかけで開くしか術はないのですが、どうやらそれも希望できそうにありません。さやかの方から出入りを拒否しているのです。
 さやかの感情による物ではありませんでした。
 何より、魔女にとっての天敵を中に入れる意味はありません。もっと力を持たず、エネルギィとして利用できそうな物を入れなければならないのです。

「────無駄だ、キュアブロッサム」

 そんな声とともに三人の後ろに誰かの姿が現れました。
 ふと、後ろを振り返ると、そこには三人にも見覚えのある男がいます。
 参加者ではありません。つまり、唯一統率下にない天道あかねではないという事です。

「男爵!?」

 かつて、最初の放送を彼らの前で読み上げた、サラマンダー男爵なる砂漠の使徒の貴族でした。エメラルドのような翠の瞳や、赤色のウェーブの髪は、近くで見るといっそう綺麗でした。もし普段ならば、高いシルクハットを外し、一礼してくれるのでしょうが、今の彼はそれほど余裕のある状況ではありませんでした。
 彼は、至極当たり前のような顔でそこにいます。

「てめえっ!!」

 主催者、という印象しか抱いていない良牙と零とは咄嗟に構えました。
 いつでもつぼみを守れる体制のようです。しかし、ここで主催側の人間が介入してくるのは不自然な話でした。制限解除というわけでもないようです。
 もし、本当に制限解除であれば、彼はこうして良牙や零の前には現れないはずなのです。

96私のすてきなバイオリニスト(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:53:48 ID:o1PzPQC60

「おいおい、やめろよ。俺はこの中に入る手助けをしてやろうって思っただけだぜ」

 彼は崩した口調でした。
 もっと紳士的な口調で話す時もあるのですが、目の前の相手には騎士としてではなく、協力者としてやって来たのが今の彼でした。
 つぼみは、元々サラマンダー男爵が強い悪性の心を持っている人間ではないと信じています。ただ、積極的に人を守ろうと言うほどでもなく、あくまで中立的で周囲に無関心な人間とだけ考えていました。
 ただ、今回の場合は、自分に危害は与えないだろうという事だけ頭の隅に入れながらも、やや険しい表情と声色でサラマンダー男爵に言いました。

「男爵……お久しぶりですね」
「久しぶりだな、キュアブロッサム。さっきも言った通り、俺はお前たちを手助けする為にここに来てやった。さっさと用を済ませよう」

 サラマンダー男爵は、どうやら切羽詰まった様子でした。

「手短に話そう……この結界の中でな」

 そう言うと、サラマンダー男爵は結界とこの場所を繋ぐ宝玉を取り出しました。
 光輝く宝石ですが、それは彼女たちの知るソウルジェムという物ではありませんでした。
 ジュエルシード、と呼ばれる危険な宝石でしたが、それはその結界をこじ開けるのには充分な力を持っていました。







 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。







 そして、彼女たちもまた、気づけば魔女の結界の中にいました。

 彼女たちもまた、佐倉杏子たちとはまた違った形で、ここにいる人魚の魔女──Oktavia_Von_Seckendorffの世界に導かれたのでした。
 結界の中は、魔女それぞれで違いますが、その世界はオーケストラの音が鳴り響いていました。
 愛しい人への「恋慕」の情が、彼女の中の闇を作り出してしまったのです。
 その交響曲の音が、彼らの背筋を凍らせました。

「……罠じゃないだろうな?」

 水族館の中を歩くように、水槽で囲われたトンネルを歩く四人。その内、零が先頭のサラマンダー男爵を疑り、そう訊いたのでした。
 勿論、真っ先に疑うべきは罠の可能性です。
 この昏い海の底のような場所で、サラマンダー男爵は何をしようというのでしょうか。

「まあ、そう疑うな。もうちょっと、力を抜いて聞いた方がいい。お前たちの不利益な話はしない」
「どういう事ですか?」

 サラマンダー男爵の歩みは、少し遅くなりました。
 そして、完全に止まると、真剣に残りの三人の方を向き直し、真摯な瞳でつぼみの目を見つめました。

97私のすてきなバイオリニスト(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:54:05 ID:o1PzPQC60



「……このゲームは、ここらでもう終えた方がいいって事さ」



 彼はそう、口に出したのです。
 ゲームの主催者が、ゲームの終了を宣言する────それは、先ほどの放送と同じでした。
 しかし、意味が違います。あの放送では、あと十人までは続けろと言いましたが、彼は今すぐにやめてほしいようでした。

「私たちは、傷つけあうなんて……そんな事は、元々するつもりはありません」
「……そうじゃない。殺し合いはしないだろうが、脱出するのもやめてほしいって事だ」
「何だと?」

 サラマンダー男爵は、続けました。
 彼にとって、殺し合いだけではなく、脱出も含めてこの実験はゲームなのです。
 しかし、そのゲームをする意味は主催側にとっても最早薄いのでした。

「お前たちには、この魔女を倒す以外、もう何もしないでほしい。俺は、残っている全員──いや、ドウコクやあかねは勘弁だな──とにかく、まともな奴全員でここに残る道を選んでもらいたいと思っている」

 それは、主催側が提示した敗北条件に他ならないのです。
 しかし、それにはいくらでも損が付きまわるものです。

「おいおい、まともな人間なら、そんな事ができるわけがないだろ。だって、街や村にある食べ物も、いずれは腐っちまう。食料も飲み物も尽きた島で生きるのは不可能だ」
「そうだ! おれだって、こんな場所になんて三日もいられない! おまえたちを倒して、すぐに帰らせてもらう!」

 零と良牙は、理と感情の二つの理由を告げました。
 食料の問題、精神衛生上の問題、……他には、医療の問題や、この狭い社会にでも存在しなければならない秩序や法の問題など、いくらでも問題は存在します。

「何もこの島にいる必要はない。この島の外には、果実や野菜の実っている島もある。人はいないが、十人以上いれば、案外暮らしていくには難しくないだけの設備はあるんだ。俺だって、ここに残ろうと思っている」

 それは、無人島で手探りな生活をするのと違わず、文明的とは言えません。ただ、良牙や零はふだん実際にそんな生活をしていましたし、食料問題さえ尽きれば実際のところ、二人は生きられるのです。
 それに、サラマンダー男爵のように文明の外で生きてきた非人に、日常生活の質の違いを理解するのは難しい話でした。
 むしろ、彼にとっては、そこの人がいるか、いないかの違いはどうでも良いのです。誰もいなくても街は街であり、電気があって動くならば、それは今の彼やオリヴィエよりもずっと豊かで楽しみのある生き方だと思えます。

「……俺はな、この世界にオリヴィエと住もうと思っているんだ」
「どうしてそんな──」
「ここには誰もいないが、だからこそ幸せな場所かもしれないと思ったのさ」

 彼は、だんだんと口から自分の機密を零していきました。
 しかし、一方である程度のストッパアのような物は内心にあるようで、目的の最重要事項だけは絶対に話さないようにしていました。
 少しごまかしながらも、少し本心とは逸れた事を口からペラペラと吐き出します。

「人間っていうのが、俺には結局わからなかった。絶対に殺し合いに乗らないと思っていた奴が、甘い願いに誘われて殺し合いに乗る事もある……そんな人間たちがな。……いや、あいつだけじゃない。殺し合いに乗っていた人間はいくらでもいた。とてもじゃないが、俺はそんな世界にオリヴィエを連れ出して生きていこうとは思わない」

 誰の事なのか、男爵はハッキリとは言いませんでしたが、それがキュアムーンライトこと月影ゆりを指しているのは明白でした。
 つぼみが、どこかしょげた顔になったのも、きっと彼女を連想したからでしょう。きっと、男爵の言い回しから、何となく彼女を指している事まで理解していたと思います。
 しかし、ふとそんな男爵の言葉で、思いなおしました。自分が俯くよりも、彼には聞かなければならない事が山積みです。

「じゃあ、あなたは、もしかして、その為にこの殺し合いに……?」

 男爵は、ニヤリと笑いました。少し、無理のある笑いでした。
 彼は、それを見抜いた(男爵の方が見抜かせたのですが)つぼみに、敬服して、あえてここは男爵らしく、仰々しい、礼儀を重んじた言葉で返しました。

98私のすてきなバイオリニスト(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:54:26 ID:o1PzPQC60

「そう、この誰もいない世界に住むためだ。危険もなく、争いもなく、二人だけで、この殺し合いの夢の跡に住み、共に生きていこうと思っていたのさ! 私は、その為に力を貸した!」
「それだけの為に、みんなを犠牲に──」

 そんなつぼみの言葉が、男爵の士気を下げたのか、それともまた気まぐれなのか、彼はまた普段のように馴れ馴れしささえある口調で返しました。

「……馬鹿者。誤解するな。俺たちもまた、お前たちと同じく、無作為に選ばれた人間だ。一番偉い奴に選ばれ、ただ主催者という役割を任された。その結果、殺し合いが終わるまで、それぞれ何かの役割を任されたんだ。逆らえば死、従えば報酬。……お前たちはそれで乗らないのか? お前たちの条件は過酷かもしれないが、俺たちに課せられた条件は椅子に座っているだけのようなものさ」

 つぼみも、良牙も、零も返しませんでした。
 この三人ならば、確かにその条件に乗る事はないかもしれません。しかし、言葉を返そうとは思いませんでした。
 自分がそうであるからといって、彼もそうしない──反抗できる人間とは言えないのです。結局開かれる殺し合いに対して、あえて反抗して自分を傷つける必要はないと──男爵はそんな判断をしたに過ぎないはずです。
 零は、強いて言えば、結城の言葉がある程度的を射た発言であった事に驚きました。
 しかし、ふと良牙が疑問を抱きました。

「だが……この殺し合いはお前たちの負けなんだろ? おかしくないか? それなら、あんたたちの欲しい報酬なんていうのはもう貰えないのが自然だろう」

 ええ、そうです、良牙の言う通り、殺し合いは既に主催陣の「負け」が決定したのです。
 それは、殺し合いを円滑に行う人間がいなくなったからでした。誰も殺し合いの意思を持たないのです。
 これが一般人ならば、土壇場の暴走がありえるかもしれませんが、この殺し合いに選ばれた彼らは、決してその類の人間ではありませんでした。彼らは絶対に自分の得よりも他者を重んじ、自分の命さえ顧みずに平然と戦い続ける人間です。そんな人間ばかりが残って、これ以上殺し合いが進む者でしょうか。
 自然に任せて殺し合いを進めた結果、マアダー(殺し合いに乗る者)が減り、その反対に主催に反抗する人間ばかりが十人余りも残ってしまったという、主催者にとって面白くない終わり方になったのは違いありません。
 それでサラマンダー男爵を初めとする主催の末端にも報酬が行き渡る事があるのでしょうか。普通は、そういう物は「成功報酬」なのではないでしょうか。

 ……ですが、この後の男爵の言葉が、彼らにとっての衝撃でした。

「いや、主催の目的はこの殺し合いがどう転がろうが、もうじき達成されるんだ。これ以上むやみに殺し合いを続けるのはただの悪趣味な道楽にしかならない。……まあ、俺のお仲間にはそれを望む人間もいるがな。わざわざそれを望まない人間も主催側には多数いるから、おとなしく負けを認めて終えようっていうわけさ」

 主催陣の目的が、達成されているという事でした。
 おそらく、彼らが察するに、それは決して良い野望ではないはずです。
 少なくとも、世界平和の為に殺し合いを行っているはずはありません。ここまで見かけた主催陣営の財団XやBADANは、弱い者を糧にして無暗に人の人生を狂わせるような、誰もが明確に定義できるような「悪」の存在だと言われています。
 仮に正義が定義できない物であっても、彼らの悪は、確かな悪だと言えるでしょう。
 そんな人間ばかりが集って、殺し合いを強制させ、その結果が決して良い目的の果たされる終わりとは言えないでしょう。
 つぼみは、おそるおそる訊きました。返事は来なくてもいいのです。

「この殺し合いの本当の目的って、一体何なんですか……?」
「それを話す事はできない。それこそ、教えれば俺の報酬までパアだ。それに、知らない方がいい事もある」
「じゃあ、質問を変えます。何故、私たちが選ばれたんですか? 私たちの共通点、それって────『変身』する事ですよね?」

 当然、つぼみはそれを見抜いていました。
 変身に何か目的の関わりがあると、それを察していたのです。

「……」

 それをつぼみが口にした時、男爵はふと口を閉ざしました。
 それだけが、男爵にとって最も痛いところです。仮にもし、彼を支配している人間が、『変身』とこのバトルロワイアルの関わりについて教える権利を預けたとしても、男爵はそれを告げないでしょう。
 それによって傷つくのが誰なのかも、彼はよく知っているのです。

99私のすてきなバイオリニスト(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:54:45 ID:o1PzPQC60

「……何があっても、お前たちの所為じゃない。お前たちは、状況を見て正しい行動をし続けた。それだけは言っておく」
「それは一体、どういう事ですか!!?」

 冷やかに、まるで微かに同情している男爵の姿が恐ろしく見えました。
 もどかしいヒントだけを告げて、そこから先は何も言わない彼の冷淡なマスクに、どこか哀愁や後悔という本心が被さっているように見えて、つぼみは悲しくなりました。

「……とにかくだ。キュアブロッサム、それにお前たちも。俺と一緒にこの星に残ってくれないか? 君がいるなら、オリヴィエだって、きっと喜ぶはずだ」

 男爵は、話題を逸らしましたが、それにつぼみたちは即座に応えました。

「……厭です! 元の世界には、心配している家族や、友達がいます!」
「おれもだ! 乱馬の死を伝えに行かなきゃならねえし、な」
「悪いけど、俺も。シルヴァを修復しなきゃならない」

 彼らは、元の世界に帰る事を絶対だと信じていました。
 仮に、ここで一生過ごしていけると知っても、それを望もうとはしません。
 普通に暮らしていた人間は、大事な人とのつながりをあっさりと切ろうとは思いません。
 これから家族や自分のいるべき世界と一生会えないのは、死んでしまうのと同じです。
 だから、自分の居場所は彼女たちにとっても、大事な物なのです。
 零には、帰って果たすべき目標だってありました。
 しかし、その答えこそ、男爵の苛立ちを加速させ、肩をわなわなと振るわせる理由になったのです。

「……ないんだよ」

 男爵は、彼らの言葉に、思わず大事な情報を伝えて憤怒しそうになりました。
 これを伝えてしまえば、これからのゲームは大きく流れを変えますから、男爵にとっては最悪の結果になるでしょう。

「もう、お前たちが帰りたい元の世界なんて物は────」

 そう言いかけた時でした。
 言葉と被さって、戦闘の狼煙が上がりました。

 ────使い魔たちがやって来たのです。







 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。







 使い魔の名前は、Klarissaと云いました。
 オレンジの皮を剥いたような肌の人形でした。女の子の姿をしていますが、顔は判然としません。髪は緑色で、まるで複数個体の脇役のようでした。
 一人一人が、全く同じ姿をしています。
 操られるように踊りながら、彼女たちは群れで襲ってきます。この群れの前には、大音量の音楽が響き続けていました。

100私のすてきなバイオリニスト(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:55:02 ID:o1PzPQC60

「もう、お前たちが帰りたい元の世界なんて物は────」
「魔女の手下だッ!!!!!!」

 零が声をあげ、それで男爵が振り向きました。
 それでようやく気が付いたようです。更に男爵の言葉はヴァイオリンの音にかき消されてしまいました。
 手下が現れる瞬間に、零の声が響いたお陰で男爵はすぐにそれを回避しました。

「……ッ!!」

 男爵は、バックステップでつぼみたちのところへと戻りました。帽子がずれたのでそれを直しながら、零に言います。

「……魔戒騎士! 話は終わりだ! この空間ではいくらでも鎧を召喚できるから心おきなく使いたまえ!」
「あ!? 何か言ったか!?」

 聞こえていないようですが、零はお構いなく空中に二つの円を描きました。
 既に彼はガルムから情報を得ています。まずはお構いなしに鎧を召喚する事にしました。
 やれやれ、と思いながらも、男爵は自分なりの戦闘態勢を取りました。

「よし、俺たちも行くぞ!」
「はい!」

 良牙がロストドライバーとエターナルメモリを、つぼみがココロパフュームを構えました。すぐに彼らが掛け声とともに変身します。

「変身!!」
「プリキュア・オープンマイハート!!」

 良牙の体がエターナルメモリの力によって、真っ白な意匠に包まれます。
 更にその両腕に青く燃える炎がボワッと現れ、拳と同一化されました。
 背中に真っ黒なエターナルローブが現れた時、彼は仮面ライダーエターナルとなりました。

 つぼみは、花の力により、白と薄桃色の可愛らしい衣装を召喚しました。
 桜の花びらのようなスカートで足の上で咲き乱れ、彼女の周囲をスカートから生まれたような花吹雪が舞い散りました。
 髪はいっそう輝くピンク色に代わり、頭の後ろで両側の髪がクルクルと絡み合って一体になると、そのままポニーテールの髪型に変身しました。

「大地に咲く、一輪の花! キュアブロッサム!」
「地獄に迷った、一本の牙! 仮面ライダーエターナル!」
「ぶきっ!」

 二人がポォズを決め、並び立ちました。
 そして、デイパックから子豚が顔と手(前足?)だけを出しました。

「……って、良牙さん。あの後、ちゃんと決め台詞考えてたんですね」

 そういえば、以前、何か良牙が名乗る時に迷っていたのを思い出しました。
 どうやら、今までずっとそれを考えていたようなのです。

「そんな事はどうでもいい! さっさと全員叩くぞ!」

 目の前では、銀牙騎士ゼロが双剣を振るって敵を斬り裂き、サラマンダー男爵は器用に敵の攻撃をよけながら、上手い事彼らの腹や顔を蹴ったり杖で突き刺したりしていました。
 少なくとも、男爵にはやる気があるというわけではないにしろ、協力の意思はある程度あるようです。
 とにかく、キュアブロッサムと仮面ライダーエターナルもそこでKlarissaの大群を倒す事にしました。

「はあああああああっ!!」

 キュアブロッサムが、拳を真っ直ぐ突き出してKlarissaの顔を吹き飛ばしました。
 本当に人形のように脆いのです。一瞬で砕け散った彼らは、すぐに形をなくして消えてしまいます。
 体重も軽く、まるで中身の入っていない木くずの塊を殴っているような手ごたえでした。

「おりゃあっ」

101私のすてきなバイオリニスト(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:55:19 ID:o1PzPQC60

 エターナルは、エターナルエッジを逆手で構えて、走りながら、すれ違いざまに次々とKlarissaを斬っていきました。
 必死で立ったままの姿勢を保とうと粘っていたKlarissaたちですが、エターナルがその先で屈むと、同時に全て糸の切れたように倒れて消えてしまいました。

「魔戒騎士! このままだとキリがない。魔導馬を使って蹴散らしながら進め!」
「なんだって!?」
「銀牙だ! 銀牙を使えッ!」

 男爵の指示が聞こえたらしく、ゼロはとにかくすぐに魔導馬を召喚しました。
 巨体を持つ銀の馬が突如として現れ、ゼロ以外は少し驚いたようでした。

「……乗れッ! 今なら触れる分には大丈夫なはずだ!」
「大丈夫だ。お前たちの鎧はちゃんと制限してある。ソウルメタルの鎧や馬に触れても皮膚が剥げたりはしない。遠慮なく乗らせたまえ」

 いの一番で乗ったのが男爵でした。一刻も早く楽がしたいようです。
 気づいたら載っている彼の様子は、まるで気配を消していると言われてもおかしくない物でしたが、ゼロは全く動じませんでした。
 とにかく、エターナルとキュアブロッサムを彼らの方をちゃんと見て、何人か襲ってきたKlarissaを撃退すると、魔導馬・銀牙の上に飛び乗りました。

「──定員オーバーか? いや」

 言いかけて、ゼロは笑いました。

「女の子を乗せ慣れてないだけか。そうだろ? 銀牙」

 なかなか動かない銀牙でしたが、ただ主人以外を乗せるのに慣れていないだけのようでした。後部座席もなかなかに狭い状態なので、ブロッサムなどはゼロの前で銀牙の首にしがみ付くような形になってしまっているのですが、零に茶化されて頭に来たのか、すぐに銀牙は走り出しました。
 銀牙が蹄の音を鳴らせば、そこからは使い魔がどれだけ大群で襲い掛かっても全く動じる必要はありません。
 道を塞いでいた使い魔たちも、全て、力及ばず吹き飛ばされて、理不尽に消されていきます。圧倒的な力を前に無力──そんなKlarissaの姿は、悲しいようでもありました。







 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。







 銀牙の力を借りてしまえば、もう人魚の魔女の居場所まではそう時間のかからない話でした。
 そこでは、先ほどからずっと流れていたようなオーケストラが、いつまでも流れていました。ただ、それは誰かに聞かせようと言う気はないらしく、小さく流れていました。
 本心では、その曲を、いつまでも自分一人のものにしたいのです。それが彼女の恋慕の情なのです。本来なら、たくさんの人に聞いてもらいたかったのかもしれませんが、いや、もっと心の奥では自分一人の物にしたい気持ちがあって、それに気づいてしまっただけなのでしょう。

「────さやか」

 愕然としたようなブロッサムでした。
 それが「魔女」だというのはわかりました。どことなくさやかの特徴が残っています。
 青いマントやその手の剣は、まさしく彼女の物が巨大になったと言っても過言ではないようでした。

102私のすてきなバイオリニスト(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:55:34 ID:o1PzPQC60

「……残念だが、知る限りでは魔女になった人間を元に戻す方法はない」
「知っている限りでは?」
「だが、魔法少女やプリキュアの力は未知数だ。ガイアメモリやソウルメタルもそうだが、おそらくこの世界の誰にも測れない力だって持っている可能性がある。あるいは、作った人間ですらよくわかっていない可能性もあるかもな……」

 男爵が、一応口を出しました。
 彼としては、魔女が仲間になろうがなるまいが結局は関係のない話です。
 ただ、あえて彼女たちの目的に加担するのも悪くはないと思っています。これから積極的にこの魔女と戦おうという気はないのですが、それでも助言らしき物をやって希望を与えるくらいはしても良いと思うのでした。

「それなら、可能性は、全くないわけじゃないんですね」
「勿論だ。お前たちがどれほどの不条理を成し遂げたとしても驚くに値しない。ただ、残念ながら、データ上は前例がないから助言のしようがないが」

 強いて言うなら、それは激励でした。
 ただ、それで充分でした。
 男爵はそこに黙って立って、彼女たちの戦いを見届ける事にしました。
 キュアムーンライトとは対照的に、まだプリキュアとして戦う事で希望を得ようとする彼女のような人間を、ともかく一人、目につけておこうと思ったのです。
 彼はジュエルシードを使えばいつでも脱出できますが、ここにいる彼女や良牙、零たちは脱出の為に非情の決断を迫られるかもしれません。それでも、彼女たちは救おうとするのか、目に焼き付けようというのでした。







 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。





103私のすてきなバイオリニスト(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:56:23 ID:o1PzPQC60



 LoVE・Me・Do\(*´3`*)/

 魔女は、旋律とともに蠢いています。

 LoVE・Me・Do\(*´3`*)/

 空に浮かび上がる旋律も、顔も見えない影のような楽団も、どこか寂しく映ります。

LoVE・Me・Do\(*´3`*)/

 ここにずっといる事は、さやかにとって良い事ではないようなのです。

 LoVE・Me・Do\(*´3`*)/

 ブロッサムは、その楽団が交響曲を奏でている場所に、真っ直ぐ走っていきました。

 LoVE・Me・Do\(*´3`*)/

「──さやか!」

 LoVE・Me・Do\(*´3`*)/

 ブロッサムの叫びはちゃんと魔女の耳に届いていました。

 Look at me







 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。





104私のすてきなバイオリニスト(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:56:47 ID:o1PzPQC60



 魔女は構わず、曲を流し続けます。リズムに乗り続けます。彼女は、自分の音楽を邪魔してほしくない……とばかりに、剣を振るいました。
 凄まじいスピードで剣を振るう魔女に、ブロッサムは一瞬、体を硬直させてしまいました。
 まるで無感情な一撃が、ブロッサムの体を斬り裂こうとしたのです。
 しかし、ブロッサムの手前で金属と金属がぶつかるような音がしました。
 見れば、銀牙がそこまで走ったらしく、ゼロが双剣で魔女の剣を止めていたのです。

「俺に構うな! その子の名前を呼び続けろ!」

 苦しそうな声で、ゼロは叫びました。
 ブロッサムは、一瞬呆気にとられたようでしたが、すぐに凛とした顔で頷きました。
 零は結局、こうして協力してくれる優しい人間でした。
 この空間が持つ、ある意味で胸が溢れそうになるような「想い」の悲しみに、彼もどこかで共感していたのかもしれません。
 零も、良牙も、ここにいると胸が苦しくなるような感覚を抱く事になるのでした。
 この空間と、この魔女が持つ「意味」を感じられないのは、つぼみと男爵だけでした。

「……さやか! 正気に戻ってください! さやかは魔女じゃありません!」

 そんな言葉が響いた時には、ゼロが全神経を剣の切っ先に集中させて、その剣を跳ね返しました。
 魔女による膨大なパワーを、ソウルメタルの剣越しに感じていたようです。

「さやかは、私の友達です! あの時からずっと……!」

 この空間には、当然、さやかが持つ「恋慕」の性質も現れていました。
 自分が次々に過ちを犯し、最後には自分の意思と無関係に人を殺してしまった────その結果、遂には上條恭介という一人の少年の前に姿を現す事さえもできなくなってしまった彼女には、もうできる事はないのです。
 強い嫉妬と怒りの情に任せて、自分に寄ってくる物を消し去るのみでした。
 彼女は、自分の近くに来る者を傷つけるのが嫌いなのです。だから自分の近くに寄って欲しくないと思って、剣を振るって消し去ってしまおうとするのでした。
 だから、友達というのは無駄でした。

「でも、だからこそ言わせてください! 私とさやかは友達だから……だから、私から言わなきゃいけない事がたくさんあります!」

 つぼみは知っていたのでしょうか、真っ当な言葉だけでは彼女を口説けないと。
 いいえ、彼女は全く、ただ算段など無しに──真っ直ぐに、そんな事を言うのでした。
 それが最も効果的な物かもしれませんが、彼女自身はそんな事は知りません。

「さやかは自分勝手です! 痛みを負いたくないとか、好きな人に顔向けができないとか、そんな理由で死のうとするなんて、大きな馬の鹿と書いて大馬鹿です!!」

 銀牙騎士ゼロは、再び襲ってきた魔女の剣が少し弱弱しい──いや、力の入れ具合を迷っているような手ごたえである事に気づきました。
 もしかすれば、魔女の中にある心か何かに響いたのかもしれません。

「生きていたら、どんな悲しい事だってあります! でも、それで死んだら……さやかの事が大好きな人たちはどう思うんですか!?」

 魔女は出来損ないのパラパラ漫画のようにゆっくりと、大きく動きました。
 彼女は、喋れなくとも、声の中にある何かを感じているようでした。

「私は、五代さんに会った人たちを見てきました。五代さんがどんな人なのかも知っています!」

 その言葉が、完全に魔女の動きを止めました。
 魔女は、良い事か悪い事かはわかりませんが、何かをふと考えたようでした。
 五代雄介の名前が出た時です。──彼女にとって、今、最も悩ましい出来事は五代の死です。

「五代さんは、最後に……最後に、『さやかちゃんを助けてあげてほしい』って言ったんですよ!! 五代さんだって、私だって、みんなだって、さやかの事が大好きなんです!! さやかが、こんな形でも生きているって知った時────私は」

 五代の死が、彼女の中の絶望の引き金を引いたのです。
 この結界を作り出しているのは、五代の死によって全てが狂った絶望でした。
 だから、五代の名前が出てきた時──あの後の五代の言葉を知った時、彼女はきっと、何かを思い出したのでしょう。
 きっと、断片的ではあるのでしょうが、それが魔女の中の何かに触れるのでした。

「私は、とっても嬉しかったんです! また一緒に喋れるって、今度は、もっと普通にまた出会えるんだって……!!」

105私のすてきなバイオリニスト(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:57:03 ID:o1PzPQC60

 ─────しかし、その時生まれたのは、戦いが終わった静寂ではなく、もう一体の使い魔でした。
 仮面ライダークウガによく似た、赤黒い使い魔が出現し、ブロッサムの横でその拳を叩きつけたのです。
 彼女の言葉は、さやかの中に新たな使い魔を誕生させてしまったのでした。







 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。







「さやっ……!」

 使い魔の一撃は強力でした。何せ、魔女が持っていた負のエネルギィの結晶のような使い魔なのです。
 真横から突如としてブロッサムの胸を殴りつけた不届きな使い魔は、もう一撃、キュアブロッサムを襲おうと拳を突き出してくるのでした。
 ブロッサムは、咄嗟に顔の前でガードを固めました。

「きさま、何をしているーっ!」

 その時、ふと横から飛んできたのはエターナルによる跳び蹴りでした。
 跳び蹴りは使い魔の体を吹き飛ばします。使い魔はそれでも受け身を取っていました。
 ブロッサムは、突然現れたエターナルの方を見つめました。彼は、ある物を胸の前に抱えていました。
 ……それは、間違いなく、美樹さやかの肉体でした。
 美樹さやかが眠ったようにぐったりして、そこに居ました。彼は、この体をどこかから見つけ出してきて、持ってきたのでした。
 この空間はさやかの精神の世界のようですが、その中に肉体が取り込まれていたのです。

「その姿で悪事を働くんじゃねえ……!」

 そんな言葉とともに、エターナルは何かを伝えに来たようでした。
 随分時間がかかったようですが、彼としては早い方です。

「良牙さん、それは──」
「向こうで見つけたんだ! この子の体だ。死んだ時と全く変わらない。安らかな寝顔だが、……これはきっと死に顔じゃない」

 さやかは、まさしく、あの時海岸に置き去りにしたさやかの遺体と全く同じでした。
 一輪の花が飾られた、安らかで綺麗な遺体なのでした。
 しかし、思ったほど固くなっていません。冷たい水辺で細やかな風を受け続けていたとはいえ、状態が良すぎるようにも見えました。
 それはまさしく、生きている証です。

「それより、……おまえも大丈夫か!?」

 エターナルは、ブロッサムの様子を見ました。
 不意に食らった一撃で、少しふらついているようでした。

「へっちゃらです……!」
「それなら良いが……」

 その姿は、無茶にも見えるのでした。使い魔としては、最大級の強さでしょう。あの一体の使い魔を作り出すのに、使い魔何体分の魔力が注がれているのかを、彼らは知りません。

106私のすてきなバイオリニスト(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:57:23 ID:o1PzPQC60

「無理はするんじゃねえぞ。奴は任せてくれ。おれが足止めする」
「……はい」

 エターナルは、ブロッサムにさやかの体を託しました。
 それは、プリキュアに変身していても感じる命の重さが詰まっていました。冷たいけれど、また温かくなるかもしれない────そんな希望が残っていました。
 エターナルは、使い魔の方に向かって走っていきました。
 エターナルと使い魔とが、拳をぶつけ合いました。

「──さやか! 一緒に帰りましょう! さやかがみんなを大事に想っているように、みんなだってさやかを大事に想っているんです! もし辛い事があったら、私に話してください! どんな事でもいい、いつでも私に言ってください!」

 ブロッサムの声は、遠く遠くへ響きます。
 ずっと遥か遠くに呼びかけているようでした。
 きっと、こうして眠っているさやかの体から耳を通って、彼女の中に聞こえているかもしれません。
 目の前の魔女の耳に届いて、攻撃をやめてくれるかもしれません。
 どこかで聞こえているのです。彼女の声は届いているかもしれないのです。

「うわあッ!」

 遂に、拮抗していたゼロと魔女との剣の戦いが遂に崩れました。
 ゼロが押し負けたのです。ゼロと銀牙の体は数メートル吹き飛びました。
 何とか体勢を立て直すも、魔女の剣はブロッサムの体へと近づいていくのでした。
 蹄は傾き、車そのものが遠心力で立て直せない状態です。
 このままでは、ブロッサムの体は────。







 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。







 ゼロがそちらを見れば、ブロッサムの体は宙を飛んでいました。
 ただ宙を飛んでいるのではありません。サラマンダー男爵の腕にお姫様抱ッこをされながら、空へと回避していたのです。
 魔女の剣は、地面を抉り、斜めに突き刺さっていました。そこにブロッサムがいたら、容赦なく真っ二つになっていたかもしれません。
 ゼロはその光景に少し驚きました。
 あのうさん臭い男が、ちゃんと自分たちを助けるのに役立ったのが全く意外なのでした。
 ともかく、安心していいやら、驚くやらで、体勢を直してもどうすればいいのかわからないとばかりに呆然とするのでした。

「……間一髪だったな、キュアブロッサム」
「どうして……?」
「手助けすると言っただろう? いずれにせよ、お前がいなければオリヴィエも悲しむ」

 男爵としても、決死の判断だったようです。
 彼は、それでもあくまで冷静のマスクを取り外さず、地面に着地しました。
 人魚の魔女は、地面に突き刺さった剣を

「まあ、なんだ。キュアブロッサム、今彼女に必要なのは説得じゃない。お前の想いは充分にこの子に届いたさ」
「え? でも──」

107私のすてきなバイオリニスト(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:57:37 ID:o1PzPQC60
「お前たちプリキュアの力は、ただの暴力じゃない。神か妖精か、あるいはこの世を本当に良くしたいと願う気まぐれな馬鹿が与えてくれた、誰かの心を救う為の力だ。……たとえ、どんな不条理で、悪い事ばかり起こる世の中でも、綺麗に世界を幸せにしようとできるのさ。──それがプリキュアの力だろう? それなら、その力を真っ向から使えばいいのさ」
「────」

 サラマンダー男爵は、何故、ずっと以前、プリキュアと出会った時に、あの怪物のような龍の姿から、本当の自分を取り戻せたのか。
 そして、何故オリヴィエとともに旅をする毎日を生きられるのか──。
 それを考えれば、当たり前の事でした。
 サラマンダー男爵が見て来たこれまでの彼女たちの動向から見ても明らかです。
 彼女たちは、人の心の悪の部分を浄化し、優しい心を見出して膨らませるような力を持つのです。
 その救済の力は、彼女たち自身の想いに応じて強くなります。
 本当に救いたいと思うのなら、当然、それ相当の力だって得られます。
 たとえ、魔女の救済であっても、彼女たちが本当に想いの力を持つのなら────。

「……ありがとうございます、男爵」
「礼を言われる筋合いはない。大事な事だから、二度と忘れるな」

 男爵は、そう言って、さやかの体を強引に引き取りました。

「さて、彼女の体はこっちで何とかする。……あとは自由にやりたまえ」

 そのまま男爵は後方へ下がりました。
 魔女が力を尽くして、剣を抜きます。
 その剣を、ブロッサムに向けて振り降ろそうとする魔女でした。

「集まれ! 花のパワー────」

 ハートキャッチミラージュが輝き、ココロパフューム、シャイニーパフューム、ココロポットもまた麗しく輝いていきました。
 キュアブロッサムの体が真っ白なヴェールに包まれ、ハイパープリキュアに覚醒します。

「プリキュア・ピンクフォルテウェイブ!!」

 それは、救心の光でした。







 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。







 花咲つぼみ、響良牙、涼邑零、サラマンダー男爵の四名は、元の世界に戻っていました。
 世界は元に戻っています。あの不可思議な魔女の結界ではなく、夢から覚めたかのように、木漏れ日の森に立っていたのです。
 魔女との戦いは終わったようです。
 その結果は、単純でした。

「……つぼみ」

 ここにはいないはずの女性の声が、はっきりと聞こえました。つぼみより少し背丈が高い少女です。中学校の制服を着ているようでした。
 思わず、つぼみは駆け出してその女性に抱き着きました。
 もう二度と会えないと思っていた少女──美樹さやかに、また会えたのです。

108私のすてきなバイオリニスト(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:59:12 ID:o1PzPQC60

「さやか! ……良かった……本当に……」

 ソウルジェムを砕かれた彼女には、代わりに「ジュエルシード」の力で肉体と精神を保っていました。魔女化した精神を肉体と結合させる手段として、サラマンダー男爵が使ってくれたのでしょう。
 彼にとっては、魔力を使って結界に入る事と、結界から出る事に使う予定だったのでしょうが、結界が消えるので、必要なくなったのです。

「……失礼」

 サラマンダー男爵が前に出て、至近距離でさやかの顔の様子を見ました。
 さやかは、放送で会ったきりなので少し怪訝そうでしたが、男爵が結界の中で何をしたのかも知っていたので、これといって彼の様子に違和感を持つ事はありませんでした。
 胸には、全く萎れた様子もないアマリリスがありました。

「なるほど、織莉────いや、彼女の仕業か……。なかなかやってくれるじゃないか」

 男爵も、ずっとさやかの体の不自然に気づいていたようです。
 普通の遺体ならば、もっとすぐにどこかで朽ちてしまうはずです。一日もすれば、それこそドライアイスなどを使わなければ、すぐに鮮度は落ちて腐り始めてしまいます。
 しかし、彼女の場合、そうした様子が一切見られませんでした。おそらく、魔力が供給され続けた為でしょう。その理由を、男爵は悟ったのです。

「──さて、私はこれで失礼しよう。残念ながら、これ以上ゲームに影響を与える事はできない。あとは自分たちで気づく事だ。私の要件は伝えた。先ほどの件は考えておいてもらおう」

 男爵は、そう言ってどこかへ消えていってしまいました。
 その後ろ姿を、彼女たちは黙って見つめていました。

「……つぼみ」

 とにかく、さやかはまた口を開き、彼女の名前を呼びました。
 長い眠りから覚めたような気分でもあり、浦島太郎にでもなったような気分でもあり……という感じでしょう。
 良牙には少し見覚えがあるかもしれませんが、零は全く見覚えがないでしょうし、現状殺し合いがどうなっているのか、彼女は知りません。
 それでも、彼女が今言いたい事は、そんなヤボな情報交換ではありませんでした。

「ありがとう、つぼみ。私を助けてくれて」
「私だけじゃありません、ここにいる皆さんのお陰です。……それに、私たちの想いにさやかが答えてくれたから」

 つぼみは周りを見回しました。
 ここにいる誰がいなくても、つぼみはさやかを救えなかったでしょう。

「私だって、お礼を言いたい事がたくさんあります。私と出会ってくれて、ありがとう、さやか……」

 何より、さやかがいなければ、さやかは救えないのです。
 この喜びや、この愛情はさやかなしには語れないものでした。
 だから、さやかを前につぼみは言いました。

「それから、良牙さんもさやかを見つけてくれてありがとうございます。零さんも私を守ってくれてありがとうございました」

 ここにいる人間、全員がつぼみを助け、さやかを救う事になったのです。
 このメンバーでなければ、どうなっていたかはわかりません。だから、彼女はそれぞれにお礼を言ったのでした。

「……ありがとう、ございました」

 さやかは、つぼみの隣にいる二人の男性にも頭を下げました。
 五代雄介はいませんでしたが、彼の親友と親しくなり、五代に励まされた男がそこにはいました。

「────そうだ、ごめんなさい。一人だけ、言い忘れていましたね。……ありがとうございます、男爵」

 どこへ行ってしまったかはわかりませんが、つぼみは男爵の背中があった場所に向けて、言葉を放り投げました。
 サラマンダー男爵──彼はオリヴィエの事を頼みたかったに違いありません。
 ただ、つぼみやここにいる三人は、男爵を許す気持ちくらいは芽生えたのでしょうか。
 あまり男爵を恨むつもりにはなりませんでした。



 また、ああして男爵に会える事を、彼女たちは願いました。



【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ 生存】

109私のすてきなバイオリニスト(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:59:49 ID:o1PzPQC60



【2日目 昼前】
【D−5 森】

【花咲つぼみ@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、加頭に怒りと恐怖、強い悲しみと決意、首輪解除
[装備]:プリキュアの種&ココロパフューム、プリキュアの種&ココロパフューム(えりか)@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&シャイニーパフューム@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&ココロポット(ゆり)@ハートキャッチプリキュア!、こころの種(赤、青、マゼンダ)@ハートキャッチプリキュア!、ハートキャッチミラージュ+スーパープリキュアの種@ハートキャッチプリキュア!
[道具]:支給品一式×5(食料一食分消費、(つぼみ、えりか、三影、さやか、ドウコク))、スティンガー×6@魔法少女リリカルなのは、破邪の剣@牙浪―GARO―、まどかのノート@魔法少女まどか☆マギカ、大貝形手盾@侍戦隊シンケンジャー、反ディスク@侍戦隊シンケンジャー、デストロン戦闘員スーツ×2(スーツ+マスク)@仮面ライダーSPIRITS、『ハートキャッチプリキュア!』の漫画@ハートキャッチプリキュア!
[思考]
基本:殺し合いはさせない!
1:さやかを助ける。
2:この殺し合いに巻き込まれた人間を守り、悪人であろうと救える限り心を救う
3:……そんなにフェイトさんと声が似ていますか?
[備考]
※参戦時期は本編後半(ゆりが仲間になった後)。少なくとも43話後。DX2および劇場版『花の都でファッションショー…ですか!? 』経験済み
 そのためフレプリ勢と面識があります
※溝呂木眞也の名前を聞きましたが、悪人であることは聞いていません。鋼牙達との情報交換で悪人だと知りました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※プリキュアとしての正体を明かすことに迷いは無くなりました。
※サラマンダー男爵が主催側にいるのはオリヴィエが人質に取られているからだと考えています。
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました。
※この殺し合いにおいて『変身』あるいは『変わる事』が重要な意味を持っているのではないのかと考えています。
※放送が嘘である可能性も少なからず考えていますが、殺し合いそのものは着実に進んでいると理解しています。
※ゆりが死んだこと、ゆりとダークプリキュアが姉妹であることを知りました。
※大道克己により、「ゆりはゲームに乗った」、「えりかはゆりが殺した」などの情報を得ましたが、半信半疑です。
※所持しているランダム支給品とデイパックがえりかのものであることは知りません。
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※良牙、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※全員の変身アイテムとハートキャッチミラージュが揃った時、他のハートキャッチプリキュアたちからの力を受けて、スーパーキュアブロッサムに強化変身する事ができます。
※ダークプリキュア(なのは)にこれまでのいきさつを全部聞きました。
※魔法少女の真実について教えられました。

110私のすてきなバイオリニスト(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 22:00:04 ID:o1PzPQC60

【響良牙@らんま1/2】
[状態]:全身にダメージ(大)、負傷(顔と腹に強い打撲、喉に手の痣)、疲労(大)、腹部に軽い斬傷、五代・乱馬・村雨の死に対する悲しみと後悔と決意、男溺泉によって体質改善、デストロン戦闘員スーツ着用、首輪解除
[装備]:ロストドライバー+エターナルメモリ@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(ゾーン、ヒート、ウェザー、パペティアー、ルナ、メタル)@仮面ライダーW、
[道具]:支給品一式×14(食料二食分消費、(良牙、克己、五代、十臓、京水、タカヤ、シンヤ、丈瑠、パンスト、冴子、シャンプー、ノーザ、ゴオマ、バラゴ))、水とお湯の入ったポット1つずつ×3、子豚(鯖@超光戦士シャンゼリオン?)、志葉家のモヂカラディスク@侍戦隊シンケンジャー、ムースの眼鏡@らんま1/2 、細胞維持酵素×6@仮面ライダーW、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、歳の数茸×2(7cm、7cm)@らんま1/2、デストロン戦闘員マスク@仮面ライダーSPIRITS、プラカード+サインペン&クリーナー@らんま1/2、呪泉郷の水(娘溺泉、男溺泉、数は不明)@らんま1/2、呪泉郷顧客名簿、呪泉郷地図、克己のハーモニカ@仮面ライダーW、テッククリスタル(シンヤ)@宇宙の騎士テッカマンブレード、『戦争と平和』@仮面ライダークウガ、双眼鏡@現実、ランダム支給品0〜6(ゴオマ0〜1、バラゴ0〜2、冴子1〜3)、バグンダダ@仮面ライダークウガ、警察手帳、特殊i-pod(破損)@オリジナル
[思考]
基本:天道あかねを守り、自分の仲間も守る
0:つぼみについていく。
1:あかねを必ず助け出す。仮にクウガになっていたとしても必ず救う。
2:誰かにメフィストの力を与えた存在と主催者について相談する。
3:いざというときは仮面ライダーとして戦う。
[備考]
※参戦時期は原作36巻PART.2『カミング・スーン』(高原での雲竜あかりとのデート)以降です。
※夢で遭遇したシャンプーの要望は「シャンプーが死にかけた良牙を救った、乱馬を助けるよう良牙に頼んだと乱馬に言う」
「乱馬が優勝したら『シャンプーを生き返らせて欲しい』という願いにしてもらうよう乱馬に頼む」です。
尚、乱馬が死亡したため、これについてどうするかは不明です。
※ゾーンメモリとの適合率は非常に悪いです。対し、エターナルとの適合率自体は良く、ブルーフレアに変身可能です。但し、迷いや後悔からレッドフレアになる事があります。
※エターナルでゾーンのマキシマムドライブを発動しても、本人が知覚していない位置からメモリを集めるのは不可能になっています。
(マップ中から集めたり、エターナルが知らない隠されているメモリを集めたりは不可能です)
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※つぼみ、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※男溺泉に浸かったので、体質は改善され、普通の男の子に戻りました。
※あかねが殺し合いに乗った事を知りました。
※溝呂木及び闇黒皇帝(黒岩)に力を与えた存在が参加者にいると考えています。また、主催者はその存在よりも上だと考えています。
※バルディッシュと情報交換しました。バルディッシュは良牙をそれなりに信用しています。
※鯖は呪泉郷の「黒豚溺泉」を浴びた事で良牙のような黒い子豚になりました。
※魔女の真実を知りました。

111私のすてきなバイオリニスト(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 22:00:18 ID:o1PzPQC60

【涼邑零@牙狼─GARO─】
[状態]:疲労(小)、首輪解除、鋼牙の死に動揺
[装備]:魔戒剣、魔導火のライター
[道具]:シルヴァの残骸、支給品一式×2(零、結城)、スーパーヒーローセット(ヒーローマニュアル、30話での暁の服装セット)@超光戦士シャンゼリオン、薄皮太夫の三味線@侍戦隊シンケンジャー、速水の首輪、調達した工具(解除には使えそうもありません) 、スタンスが纏められた名簿(おそらく翔太郎のもの)
[思考]
基本:加頭を倒して殺し合いを止め、元の世界に戻りシルヴァを復元する。
0:つぼみについていく。
1:殺し合いに乗っている者は倒し、そうじゃない者は保護する。
2:会場内にあるだろう、ホラーに関係する何かを見つけ出す。
3:また、特殊能力を持たない民間人がソウルメタルを持てるか確認したい。
[備考]
※参戦時期は一期十八話、三神官より鋼牙が仇であると教えられた直後になります。
※シルヴァが没収されたことから、ホラーに関係する何かが会場内にはあり、加頭はそれを隠したいのではないかと推察しています。
実際にそうなのかどうかは、現時点では不明です。
※NEVER、仮面ライダーの情報を得ました。また、それによって時間軸、世界観の違いに気づいています。
仮面ライダーに関しては、結城からさらに詳しく説明を受けました。
※首輪には確実に異世界の技術が使われている・首輪からは盗聴が行われていると判断しています。
※首輪を解除した場合、(常人が)ソウルメタルが操れないなどのデメリットが生じると思っています。→だんだん真偽が曖昧に。
また、結城がソウルメタルを操れた理由はもしかすれば彼自身の精神力が強いからとも考えています。
※実際は、ソウルメタルは誰でも持つことができるように制限されています。
ただし、重量自体は通常の剣より重く、魔戒騎士や強靭な精神の持主でなければ、扱い辛いものになります。
※時空魔法陣の管理権限の準対象者となりました(結城の死亡時に管理ができます)。
※首輪は解除されました。
※バラゴは鋼牙が倒したのだと考えています。
※第三回放送の制限解除により、魔導馬の召喚が可能になりました。
※魔戒騎士の鎧は、通常の場所では99.9秒しか召喚できませんが、三途の池や魔女の結界内では永続使用も問題ありません。
※魔女の真実を知りました。

112私のすてきなバイオリニスト(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 22:04:47 ID:o1PzPQC60
【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:身体的には健康、ジュエルシードの力で精神と肉体を結合(調整あり?)
[装備]:ジュエルシード@魔法少女リリカルなのはシリーズ
[道具]:アマリリスの花@宇宙の騎士テッカマンブレード
[思考]
基本:ゲームの終了を見守る
[備考]
※参戦時期は8話、ホスト二人組の会話を聞く前です。
※魔女化から救済されましたが、肉体と精神の融合はソウルジェムではなくジュエルシードによって行われています。
 精神的な要因によりこれが暴走した場合、更に大変な事になる可能性があります。

113私のすてきなバイオリニスト(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 22:05:43 ID:o1PzPQC60















「──サラマンダー男爵、一体結界の中で何をしていたのですか?」

 帰ってくるなり、加頭順が訊いた。それは疑っているのか、それとも大した事はしていないと理解しているのか、実のところわからなかった。

「何、ちょっとした野暮用さ」

 彼の言葉に、サラマンダー男爵は応えた。
 しかし、返って来たのは静寂だ。その静寂に疑いの眼差しを引き立てる意味があるような気がして、男爵は慌てて弁解をする。

「……おいおい、まさか俺を疑っているのか? ……安心しろ。もし、俺が余計な事を吹き込んだなら、これから奴らは俺が与えた情報を話し合うさ」

 サラマンダー男爵は、後からそう付け加えたのだった。彼とて、死にたくはない。これから先、オリヴィエと暮らしていかなければならない。彼の面倒を見るのはほかならぬ男爵だ。
 自分が殺し合いに影響を与えたのが発覚すれば不味い事になるのだ。

「残念ですが……『疑わしきは、罰せよ』が我々の鉄則です」
「殺し合いが終わったのに、か……? 意味がないだろう。だいたい、これから奴らの様子を見ていればわかる。俺は何もあんたたちに不都合な事は話していない!」

 しかし、加頭はその腰にガイアドライバーを巻いていた。
 ユートピアメモリを取り出し、相変わらず冷徹な表情で男爵を見る彼の瞳。
 そこに、男爵もただならぬ殺気を感じた。

「……関係ありません。言ってみれば、あくまであなたに死んでもらう、良い方便です。……つまり────お前は、我々にとってではなく、私にとって邪魔だ、という事です」

 ユートピア・ドーパントのサウンドとともに、男爵の目の前で男は豹変した。















 ──サラマンダー男爵は力を失い、倒れていた。

 ユートピア・ドーパントの理想郷の杖で叩きつけられ、炎と雷を受け、男爵の体は反撃も許されぬままに一方的な甚振りを受けた。
 そうされただけの理由がある。もし、これから先、男爵が加頭に逆らったともなれば、それこそオリヴィエに危害が加えられるのは間違いなかったのである。
 そして、彼は暗く、あらゆる物が置かれているだけの部屋で、ゴミのように捨てられたのだった。

(……ああ、全く、生きている限り、何で恨まれるかわかった物じゃないな)

 彼は思った。
 加頭が何を恨んでいるのかはわからないが、それが人と接する難しさだと。
 知らないうちに他人の恨みを買い、邪魔に思われるのも人間だ。

(オリヴィエが生きる世界は、奴らに賭けるしかないらしい)

 あとは、これから支配されていく世界が、少なからずの希望が救ってくれる事を祈るしかないらしい。
 いや、それで終わってもらえれば、良い。

(じゃあな、後は任せたぞ、プリキュア。オリヴィエは頼んだ────)

 エメラルドの瞳を閉じ、サラマンダー男爵は消えていった。



【サラマンダー男爵@ハートキャッチプリキュア! 死亡】

114 ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 22:06:15 ID:o1PzPQC60
以上で今日の分を投下終了とします。
正直、明日の分が投下できるんだかできないんだか微妙です。

115名無しさん:2014/08/08(金) 23:13:06 ID:tY0kT6Lo0
投下乙です!
プリキュアの奇跡がまたしても起きましたか! それによって、彼女達は再びこの世界に戻ってこれるなんて凄い!
主催陣営からも死者が出てきて、参加者もベリアル陛下の事について知り始めましたし、どんどん物語が進んでいきますね……

116名無しさん:2014/08/09(土) 13:49:25 ID:M.mn.YiEO
投下乙です。

ヴィヴィオがいなくなって、これからレイハはどうするんだろう。
仮に10人になったとして、レイハ達「非参加者」は帰してもらえるんだろうか。

117名無しさん:2014/08/09(土) 13:55:40 ID:J0SqWFB.0
投下乙!
石堀の一転攻勢がいつ起きるかずっと怖かったが、ネクサスの光がさらに継承されたということは…

118名無しさん:2014/08/09(土) 14:47:56 ID:5B0clWfc0
投稿乙です

文体が童話を読んでいるみたいで新鮮でした

翔太郎復活、魔女組救済で安心してたところで男爵の退場……世の中そんなに甘くはなかった
ところで人質にされてるオリヴィエは一体どこにいるんだろう

119名無しさん:2014/08/09(土) 14:56:13 ID:qM.T6r6s0
投下乙です

おおおおおおおおっ!?
全部が全部すげえw

120 ◆gry038wOvE:2014/08/09(土) 16:58:37 ID:ii6Lryhg0
今日中に次のSSを投下するのは進行的に絶対無理なので、今回予約分はここまでで投下終了します。

121名無しさん:2014/08/16(土) 02:07:16 ID:6Yor7iKk0
なんだかとんでもないことになってたw

122 ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:27:00 ID:KyLliesc0
投下します。

123White page(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:27:46 ID:KyLliesc0



 二日目、昼。
 ゲーム終了まで、残り二時間。







 過程の一部を省く事になるが、既に冴島邸には、既に沖一也、左翔太郎、血祭ドウコク、外道シンケンレッドらが揃っていた。彼らの道中では、高町ヴィヴィオの死の連絡もあり、翔太郎と一也がやや浮かない表情をしている事であった。
 ドウコクは酔いこそ覚めている様子だが、人間の目からは彼が酔っているやら酔っていないやら判別がつかない。顔色は酔っ払いより赤く、その素行も酒の力を借りずとも十分に乱暴な怪物なのだ。外道シンケンレッドの方は、戦い以外に関しては無関心といった様子で、戦いのない時は置物の一つと変じる事ができた。所詮は魂なき従者である。

『本当によくできていやがるな……』

 家の中を観察してそう呟いたのは翔太郎の左中指にはめ込まれたザルバである。
 この家の中を一番よく知っているのは彼であった。ザルバ専用の寝床もある。確かに、鋼牙たちが住まったあの家と何一つ変わらないようだった。──『Sleeping elderly woman』というあの絵に至るまで。
 ただ、これはザルバの勘だが、参加者や支給品こそ現物そのものだが、建造物は実物が持つリアリティとはどこか気色が異なっていた。

「あ、ああ……そうだな」

 翔太郎が知りもしないのに適当な返事をした。園咲家ほどではないが、やはり豪邸と言っていいランクの家である。緊張もある。
 彼らは他チームに連絡を行った後、他のチームがやって来るまで、次の行動を冴島邸で待っていたのだった。冴島邸の周囲には戦闘痕があったが、冴島邸の中身はほとんど無傷と言っていいほどに内装は手がかかっていない。志葉屋敷という和の豪邸を離れてみれば、今度は冴島邸という洋の豪邸にいるのだから、凡人の翔太郎としては気が気でない様子でもあった。家具一つ壊してしまえば、依頼何度こなせば元が取れるのかわからないほどである。
 ただ、既にその心配の原因となるはずの、この邸宅の主がいないのが切ない限りだった。

(……まずい。非常にまずい)

 と、こう思考するのは翔太郎だけではない。実際、翔太郎も確かに家具に座るだけで少したどたどしいが、これほど緊迫した内心ではない。
 焦燥感に鼓動を速めているのは沖一也であった。
 先ほどから少しずつ、スタッグフォンを通してバットショットの観察を行っているが、到底そこにある映像はドウコクに見せられる物ではなかった。ほんの二時間半ほど前に映ったバットショットの映像だが、これが一也にとって極めて問題になる映像だったのである。


 ──あの時だ。







 翔太郎に右腕の移植手術を終え、電話連絡も終えて、バットショットの映像を確認した時。
 その映像の中で、うっすらと見えたのは、妙な黒い実線だった。実線は地上から空のかなたまで続いていた。大気圏内に終わりがあるとは思えなかった。「軌道エレベーター」というものを彼は思い出した。しかし、最初は、ただ画面が荒れて、実際にはない物が映っているだけなのだろうと思った。
 荒れた画面からは想像もつかない物であったが、時間を経るにつれ、それが確固として地上から生えている物だと気づいた。線ではなく、塔と呼ぶべき代物──。
 何か嫌な予感が始まる。
 バットショットも、それを察知し、反応し、意識し、やがてそれを目指して飛行しているように見えた。
 バットショットが進んでいく。
 目的なき旅が悪の根城を探る正義感の旅へと、──そう変わった事で、少し使命感を固めたようである。バットショットは心なしか、スピードまで速まっていた。

124White page(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:28:47 ID:KyLliesc0
 あれが何キロ先にあるのかはわからない。
 しかし、バットショットはその一メートルでも近くに接近し、画面の中の塔を一層巨大に映してやろうと目論んでいたはずだった。
 まっすぐに、
 まっすぐに、
 まっすぐに、

 そして、────次の一瞬、バットショットの映像は途絶えた。

 一也が肝を冷やした。
 今一度、一也はその瞬間の事を思い返した。
 画面の端に黒い影が映ったかと思いきや、コンマ一秒でその黒は画面全てを覆い尽くした。それが何とは一也も考えなかったが、次の一瞬にはバットショットも既に、音も立てぬ間にスクラップである。
 心臓の肝が温まる前に、映像は砂嵐へと変わった。見知らぬ世界を見せてくれるスコープは二度とその視線を見せてはくれなかった。それから先はどれだけあがいても雑音だけが聞こえ、白と黒の不快なモザイクがかかるだけであった。
 驚いたとしても、もう既に手遅れだったのだ。

 おそらく物理攻撃を可能とする巨大な「闇」がバットショットを潰し、海に廃棄したようだ。己の根城に向かってくる不審な物体を破壊し、己の場所を守ったらしい。

 ……あったはずの手がかりは、今はもう、どこにもない。
 一機、優秀な機械がその使命を終え、機能を停止した。最後にバットショットが送った映像がこちらに届いたのは不幸中の幸いだが、今となっては、一也だけが見たあの地上から伸びている謎の物体の「記憶」だけが手がかりであった。







 あれを誰かが隠しているのだ。それこそ、地平の反対側にでも行かなければあの物体には近寄れないだろう。
 ……主催の基地とはおそらく違う。あんな巨大で歪なものを基地にする必要はどこにもない。

(……手がかりとして翔太郎くんにも伝えたいが、口にしたところでどうにもならない。バットショットが破壊されたと知れば、ドウコクはおそらく──)

 一也はしばらく悩んでいたが、悩みながらも前に進もうと考察していた。バットショットの主である翔太郎にその最後を伝えられないのは心苦しい話だが、やむを得ない。
 今に至るまで、翔太郎に伝える機会は一切なかった。
 ともあれ、こうなれば一也の方針は一つで、ひとまずゲーム終了を待つ事であった。元の世界への帰還方法をあの黒い実線に賭けるくらいしか手立てはない。

「……おい、落ち込むなよ、沖さん……」

 ふと、翔太郎が一也に対して、申し訳なさそうに声をかけた。
 ヴィヴィオの事を気にかけていると思ったのだろう。──それもまた、事実である。
 いくら経験しても、人の死は慣れないものだ。あの少女も死んだと聞くと、頭を抱えて唸りたくなる。そんな衝動も今は抑えなければならないのだ。
 仮にも、仮面ライダーである。如何なる悲しみも見せてはならない。一筋の涙や叫びが人を救えた事は、一也の人生では一度もなかった。
 そして、今、悲しみと同時に強く感じている怒りを向ける矛先は主催陣営にある。彼らを倒す為には、申し訳ないがヴィヴィオの死に追悼する時間さえ惜しいのだ。それができるのは全てを終えてからである。
 翔太郎も同じく、フェイトやアインハルトと関わりのあるヴィヴィオの死を悲しんでいないはずはないが、その想いを噛みつぶしていた。

 この先、短時間でどう生還の術を得るのか、という策を練らねばならない。
 悩めば悩むほどにその術が見つからなくなっていく。

「……いや。大丈夫だ。考え事をしていただけだ。すまないがしばらく話しかけないでくれ……」

 思案の表情を感じ取ったのか、翔太郎は声にならない声を漏らして、倒れるように椅子に坐した。
 まずはドウコクの対処である。
 味方にはなったものの、タイムリミットから後、ドウコクとの離反はほぼ確定する。あの口約束はおそらくこれ以上撤回できない。島の外に行くのに、主催撤退後が最も良いタイミングであるのは一也とて承知の上である。

125White page(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:29:23 ID:KyLliesc0
 しかし、その悠長な作戦をドウコクは許さない。長たる者の宿命として、ドウコクは結局効率的な脱出方法を選ぶ。──。



 ヴィヴィオが減るも、驚くべき事に“代わりに巴マミが仲間に加わり”、残りは十四人。







 こちらは孤門一輝一行である。
 残すは、冴島邸に向けて車を走らせるのみの彼らであった。
 先ほど通った道と同じ道を引き返しているが、乗車定員と速度は随分異なっている。今は時速100kmで走行していた。眠気が視界と判断能力の邪魔をするが、それでも辛うじて何時間かの睡眠はとっていたので、頭がぼうっとする以上の弊害はない。
 普段ならば勿論、運転ができる状態ではないので控えるべきだが、今この時は違った。
 あらゆる違法や無理も通して、前に進まなければならない。

「……というわけなんだよ」
「なるほどね……だいたい状況は理解したわ」

 全ての話を聞き終えた時点で、とにかくマミが顔を顰めた。既に彼女は魔法少女という存在ではなくなっている。だが、それでも、彼女の持つ正義感は衰えず、いまだ敵を救おうという気持ちは変わらない。
 彼女にとっては、殺し合いはまだ、六十六人の参加者を巻き込み、最後の一人を決めるゲームだった。しかし、既に大半の参加者が死亡し、生存者は僅か十四人。──あるいは、さやかが助かれば十五人。それでも五十余名もの人間が、死亡している事になる。その大半が他殺というのだから、普段の常識が通用しそうにない状況だ。
 鹿目まどか、暁美ほむら、山吹祈里、東せつな、ノーザ、来海えりか、明堂院いつき、月影ゆり、それからマミたちを襲ったモロトフなどといった面々の死に関しても情報を得て、少し落ち込みつつも、まずは自分がどんな状況にいるのかを理解する事にした。

「みんな……疲れているだろうけど、頑張って。私も出来る限りの事はするわ。もし、残り時間が少なくなって、人数が十一人以上いたら──」

 と、そこまで言ったところで、そんなマミの言葉に舌打ちを被せる杏子であった。
 鋭い眼光がマミを横目で睨む。彼女は些か気が立っていた。

「……おい。折角、こっちが命がけで助けた命、無駄にしようなんて話はやめろよ」

 その不快の根源には、確実に高町ヴィヴィオの死という現実があった。
 涼村暁と石堀光彦の二名は、一体何をしていたというのか。──大の大人二名が揃いも揃って、主催に油断をして仲間の少女を殺されたという。この車の空気も、その事実が原因で少し重たい。孤門の右足も、強くアクセルを踏み込む事で内心のわだかまりを散らせているようにさえ思えた。勿論、状況を見ていない以上、安易に二人を責めたてる気はないが……。
 そして、孤門や杏子は、ヴィヴィオの死を悲しみながらも、この場にとって利となるであろう行動を優先し、今も杏子はマミへの状況説明を行っていたが、一言、命を投げ捨てるなどという余計な覚悟──あるいは諦観──が杏子の堪忍袋の緒を引きちぎった。
 命の軽視が、この瞬間には何よりも気に入らなかったのだろう。

「こっちはな、お前の為にあんな所まで行って、お前の為に戦って、お前の為に傷を作り、──そして、お前の為に隊を分散させてヴィヴィオを死なせちまった! だが、その事を責めてるんじゃない。それを軽く捨てようっていうのが気に入らねえ」
「────」
「なんで、全部お前の為だったのか、少しは考えろ」

 マミは、ふとラブの方を見た。それでようやく、なるほど、と思った。
 こうまで言った杏子も少し前まで、マミと同じく、最終的には自死する事を考えていた事など誰も知る由もない。だが、この期に及んでまだ生きたい、という生理本能を沸かす者がいた。
 杏子とて死にたがりではない。ただ、生の先にある絶望を回避するのに最も効果的な手段が「死」であっただけである。全く別の手段があるならば、生理的本能が勝るのも無理はない。
 その術が見つかった事は嬉しかったはずなのだが、今はまた違った意気であった。

「……そうね。ごめんなさい。でも、私が力になれる事なんて、今はありそうになくて」

 マミをどこか気重にさせるのは、劣等感だ。

126White page(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:29:39 ID:KyLliesc0
 確かに彼女は魔女でなくなり、魔法少女という柵からは解放されている。だが、それは同時に戦力としての巴マミの有用性がなくなった事でもある。
 今のマミは無性にそれが耐えられなかった。

 彼女が常に守る側として生きてきたからだろう。守られる側の立場になる事で、──最近の例で挙げるなら左翔太郎のように──自分の居場所を失ったような錯覚をするのだった。誰かを守る事が誇りだった人間は、守られる側に回るのが苦手なのである。
 戦力を失ったマミは、是が非でも何かの役に立とうと必死な様子でもあった。

 周囲の目が恐ろしくもある。
 戦場で棒立ちする少女を、周りは疎ましくは思わないだろうか──。声援くらいしかできず、命がけで戦っている間にもあたふたするだけのマミを。
 役に立つ事ができない不甲斐なさは、今そんな強迫観念にも繋がっていた。
 何をしてでも役に立たなければならない。戦いの役に──。
 しかし──。

「マミさん。もう、誰かが死ぬのは嫌です……何もできなくても、何もしなくても、それでもいいから、ずっと生きていてださい……」

 ラブが、俯いて言った。潤んだ瞳を容易に想像させる震えた声だった。
 山吹祈里や東せつなを喪った事実は、まだ何度でもラブを苦しめる。まだ色鮮やかな友人の死の記憶──その思い出と遺体のフラッシュバック。
 役に立つ人など全く欲しくない。生きていて暖かい人が近くにいれば、それだけで十分なのだった。

「……」

 孤門がルームミラー越しに彼女たちの様子を見て、それから口を開いた。

「……マミちゃん、僕だって力はないよ。役に立とうと必死になる気持ちはわかる」

 孤門が半ば自嘲するような落ち込んだ口調だった。
 しかし、一言でも何か、マミを元気づけるような言葉が出れば、せめて口を挟む価値もあるだろうと思った。

「僕なんてこれまでずっと、人間以上の力は出せないんだから。戦いなんて全然できないし、……多分、ここに来てからみんなほど命を張った事だってない。だけど、力がないならないなりにできる事はあるし、ここにいるのはみんなそれを受け入れてくれる仲間たちだ。だから、自分がやれる事だけに全力を尽くせばいいと思う。……君は前にラブちゃんを助けたんだろう。それで今の僕たちがあるんだから、落ち込む必要はない」

 孤門は言わば、ただの人間だ。
 巨悪に立ち向かえるだけの力もなく、何かをなしえるだけの知恵もない。全て誰かが貸してくれた力と知恵で、孤門は人間としてそれをサポートするだけでしかない。今も車を動かすしかできず、他人の役に立っている感覚を実感するのは難しい。誰かを助ける為にレスキュー隊に入った彼が、今もまだ助けられる事の方が多いというのは因果な話である。
 しかし、そんな孤門だからこそ、ガイアセイバーズはリーダーとして彼を迎えたのかもしれない。人間の常識から外れた存在である周囲からしてみれば、孤門は羨望の対象でもありえるのだ。人の身でここまで誰かを救っている彼だからこそ、周囲は彼を適任と判断したのだろう。
 彼の懸命な救助がなければ、ヴィヴィオだって息を吹き返さなかったのだ。それが今の生をつなげている。

「……そう、ですね」

 さっと周りを見て、マミは言った。それは決して、脊髄反射で出された空っぽの返事ではなかった。意味を解し、納得した返事だった。
 マミも、この車の中を見て、孤門という男の役割がわかった気がした。いくら孤門とは別の経験をしているからといって、ラブや杏子は精神的に未熟で不安定だ。ラブや美希や杏子ほど人生経験があるわけではない。
 孤門もまだ若いが、それでも中学生に比べれば十分につらい経験を乗り超えているはずの年齢である。
 しかし、孤門には唯一決定的に、年下のマミにも適わぬ点があった。それは、マミが「ラブや杏子や美希より一年だけ年上の『女』である事だった。それは意外にも十分な取り柄であるともいえた。その視点から彼女たちの支えとなればいい。
 というところで、大まかには纏めである。

 ところで、全く言い忘れていたが、この後部座席には空席がなく、明らかに最大乗車人数をオーバーしている。シートベルトの数も合っていない。右に揺れたり左に揺れたりするとふらふらと横にシェイクされて危険である。

「おぶっ!」

127White page(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:30:12 ID:KyLliesc0

 たまに、全魔法少女中最も大きなマミの胸が横にいる杏子やラブの顔に当たる。女性としての飽くなきコンプレックスと、ひと肌の暖かさが各々の胸を焦がす。ラブも、“つぼみなどに比べれば”全く胸が小さい方ではないが、マミに比べればどうしても劣るのだった。
 まあ、わざわざ強引に描写したこの瞬間は、実にどうでも良い一幕なのだが。
 またすぐ場面を強引に切り替え、今度はルームミラー越し、孤門が時計を見つめた。

 タイムリミットは二時間を切っていた。
 ────その時である。

「ん!?」

 カスッ……しゅるしゅるしゅるしゅる……。

 シトロエン2CVが嫌な音を立てた。エンジンの音が弱まり、ゆっくりと減速して完全に路上に止まった。これはかなり悪い予感がする。
 ガソリンのメーターを見てみたが、これはまだちょっと残っていた。だというのに、エンジンキーに手を伸ばし、捻って見たが、これは全く動く様子を見せなかった。

「……あれ!? どうしたんだ!?」

 孤門がかつてないほどの焦りを見せながら、エンジンキーを何度も回すが反応がない。
 急いでいる時だというのに、何という事だろう。自分が役立てる場所に限って、こういう不幸は起きるのだ。突然のハプニングに慌てる孤門であった。何より、女性陣の前で運転に関する失態である──この気恥ずかしさはしばらく、運転席に座るたびに孤門の中に残りそうだ。
 幸いなのは、これが帰りである事。行き途中ならば洒落にならない話である。

「……どうした?」

 後部座席で、杏子が前に乗り出た。当然、異常には誰もが気づいたのだが、杏子は少し異常に対する素養があった。機械は詳しくないが、時折ながら「叩いて直す事ができる」ような人間でもある。ふとこうしてトラブルがあると、思わず前に出てしまう。

「車が動かないんだ」
「エンストか?」
「違うらしい。もしかして、この車、もうガタが来てるんじゃ……」

 そう孤門が言っている真っ最中に、他の三名も取り乱し始める。
 こんな辺鄙な場所で置き去りにされ、気づいたら十二時──などという最悪な事態が待っている可能性も否めない。

「……」

 涼村暁のシトロエン2CVは本来、こういう車であった。
 この一台の車は、持ち主のお気に入りではあるのだが、既に機械としての限界を迎えている。車検通っているのかも謎だ。
 辛うじてE−2エリアに帰ってくるまでは保ったようだが、あとの3エリア、何とか急行しなければならない。
 とはいえ、やはりエンジンは音を立てる事を許さず、車体の振動もみるみるうちになくなり、平衡になっていった。この車はもう、移動手段ではなく、金属やアルミで出来た芸術品である。鑑賞くらいしか役目はなく、刻一刻と迫りくる時間を縮めてはくれない。

「……仕方がない。この車は乗り捨てよう」
「それでどうやって移動するんだ……?」

 孤門には、一応、対処方法としては考えが一つあった。杏子の疑問に、孤門は躊躇いながらも、その唯一の方法を教える事にした。
 さて──そうなると一層プライドが剥げ落ちてしまうが、それでもこの状況下、方法は一つだ。

「……ごめん。みんな、変身して連れて行ってくれないか!」

 孤門が両手を合わせて頼んだ。変身した魔法少女やプリキュアの力ならば、車並の速さで冴島邸まで駆けられるはずである。ただ、少し情けないのがネックだ。
 言っている傍からこうなるものだから、マミも思わず呆然とする。
 杏子とラブが顔を見合わせ、やれやれと笑った。





128White page(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:30:33 ID:KyLliesc0



 D−4エリア。
 その場所を何とか見つけ出したつぼみと良牙であった。
 そこにあるのは、五代雄介という男の眠る墓である。かの男は、美樹さやかのサーベルに体を貫かれ、今は人間として土の下に眠っている。そこだけが唯一、柔らかい土に埋もれており、たとえ彼の友人であっても鼻をつまみたくなるような異臭の根源となっていた。
 そういえば、埋めた村雨良も、看取った一条薫や冴島鋼牙も、考えてみればもういないのだった。誰よりもそこに来るべき者は、一日以上の時を経て、ようやくこの墓前に立つ事ができたのだ。

「……」

 美樹さやかは、案内されるなり、その場所で口を閉ざした。
 勿論、この墓を作る原因となった事に、悪意はなかった。しかし、突発的に五代雄介という人間を殺害して、物言わぬ死体にしてしまった事を決して忘れてはならない。
 しかし、悪意の有無と、人殺しの事実は無関係である。正真正銘、そこに悪意が微塵もないならば、深く気に病み続けるわけにもいくまいが、平和に過ごした人間ならば、悪意の有無で自分の行いを正当化できないのだった。

(五代さん、ごめんなさい────)

 一人の人間の死に関わり、更にその周囲の人間の心を痛めつけた事実は決して揺るがない。さやかの握った刃が一つの命を奪い、またこの殺し合いの運命をいくつも変えていったのだろう。
 何か言葉をかける事もなく、少女はただそこで祈った。真っ白な頭の中で、必死で五代雄介の事を思い出そうとした。申し訳ない事だとは思うが、殺人という非現実の中で、目の前にない物は全て幻のように靄がかかるのだ。自分が殺人を行った事と結びついてしまう、五代の記憶が、まるで夢の中の存在のように曖昧だった。
 さやかは、必死で考えた。その名前だけを何度も唱え、ほくろの位置や少し長めの髪型といった身体的特徴を反復した。やがて、五代雄介の顔はふとさやかの脳裏で思い浮かんだ。

『さやかちゃんはゾンビなんかじゃない!』

 そうして苦労して絞り出した記憶の中の言葉が、嬉しかった一言であるのは、乙女の必然であった。
 思い出すと、頬に自然と涙が伝った。
 自分の罪は嫌というほど自覚しているから、そこから逃避する感情はいくらでも湧きあがる。そして良心の全てが、この一瞬を忘れまいと頭に全てをインプットする。
 彼女は、自分の罪ではなく、五代雄介がもうこの世にいない事を嘆いて、泣いていたのだった。自分の罪を自覚する涙では、こうも感情は揺れ動かなかった。
 あんな一言をかけてくれた五代という男が、人間として、どこか好きだったのだろう。
 まるで、大切な身内を喪ったような、そんな涙だった。後悔よりも、彼の死そのものに捧げられた涙だった。

「ッ……────」

 できる事はなかった。
 いずれそこで五代雄介に会う、その時まで──ここにいる仲間を守る。
 せめて、これからは運命を良い方向に変えていきたいと、そう願い、誓った。
 目にも、鼻にも、唇にまで涙や液体を留めた。その嗚咽をつぼみはよく聞き、しばらくさやかの肩を抱いて慰めた。
 さやかからは、言葉らしい言葉はなく、ただ、泣き声だけがせわしなく漏れていた。
 良牙と零は一歩離れた場所で、その様子を俯瞰で見ていた。

「──おい、良牙」

 第一声を投じたのは零であった。生前の五代雄介という人物に一切関係のない彼は腕を組んで木に凭れていたのである。彼は、良牙にだけそっと近づき、話しかけた。
 彼も関心がないというわけではないが、全くの他人の死に深く悲しめば、それこそ却って本当に悲しんでいる人間には失礼だと思えた。こういう時は、なんでもない振りをするのが一番の優しさなのだ。困った振りをするのも、同調して悲しんだ振りをするのも、何もかもが無礼そのものである。
 人間の成長を見届けた後は、彼も冷徹にそう言い払うしかない。
 人の死の悲しみを彼が知らないはずがないのである。──その時に最も失礼の態度を選んだつもりだ。

「なんだ?」
「先に俺だけで目的地に向かう。連絡が取れないままだと向こうも心配するだろ」

 零は、こうして無関係な自分がここで全て眺めている事に居心地の悪さも感じていたのだろう。気を使わなければならない人間がいる──という事に、気を使わせてしまうかもしれない。

129White page(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:30:48 ID:KyLliesc0
 彼女たちはここですぐに泣きやむ必要はない。泣き止むのを待って、それから行けばいい。
 しかし、零はそれを待つきはなかった。連絡が取れない現状、冴島邸の面々は心配しているかもしれない。幸いにも冴島邸はここからそう遠くないので、零の単独行動時間も短く済むだろう。

「あ、ああ……だが」
「二人は頼んだ。俺は一人の方が慣れてるし、何とかなる」

 良牙は出かかった言葉を仕舞い込み、「わかった」と返事をした。
 零は、何の気なしに、背中を向けたまま片腕挙げて、気障に去った。
 彼とて、急ぐのだろう。
 いや、急いでもらわなければ困る。

 良牙がいる場所に残されたのは、泣きすすぐ少女と、それをあやす少女。──良牙は物憂げに彼女たちを見つめていた。

(償おうとすれば、何度だってやり直せる……そう信じたいよな)

 たとえ、ここまであかねがどんな罪を重ねていたとしても。
 良牙は、あかねにこの少女の如く償おうという意思があるならば、ここにいる全員さえも敵に回してあかねを守ろうという気持ちがある。それはあかねを一人の女性として恋し、友人としても十二分に好きな相手だったからだ。
 乱馬への恩義でもある。


 しかし────。


 運命は、良牙が思っている以上の残酷を強いる時もある。







 涼村暁たち一行が冴島邸辿り着くまで、さほど時間はかからなかった。
 道中、苦難や障害は無く、ただエンジンを蒸してそこまで車両を走らせただけであった。
 リクシンキ、そして仮面ライダーアクセルの二機は、それぞれ涼村暁とレイジングハート・エクセリオンを載せて到着する。
 おおよそ、残り二時間が差し迫ったほどだった。
 あの後、あそこで少しでもヴィヴィオに関する何かが残されていないかと探っていたものの、それらしい物は一切見当たらなかった。

「────さて」

 仮面ライダーアクセルは装甲を解除し、再度、石堀光彦に姿を変えた。
 一行が辿り着いた冴島邸。
 連絡の通りならば、既にこの場には沖一也、左翔太郎、血祭ドウコク、外道シンケンレッドの四名がいるはずである。
 石堀という男は、この瞬間も胸を躍らせていた。引きつった笑みが思わず漏れる。
 携帯電話を通した連絡ではなく、石堀自身が持つ超常的な力のお蔭で飛び込んだビッグニュース。

「遂に来たか……」

 ああ、思ったよりも短かった。
 光が一人の女性の元に渡ったのである。



『────蒼乃美希』



 いかにも、多人数のパーティの中で目立たない、ごくごく普通の少女であるが、その実態はプリキュアの一人であり、新たなる光の継承者である。よもや、石堀がこの瞬間、裏切りのシナリオを組み立てたとは知らず、新たな光の継承を希望的にとらえている事だろう。

 姫矢准、千樹憐、佐倉杏子──そんなデュナミストたちでは駄目だった。彼らは絶望を知りすぎている。

130White page(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:31:05 ID:KyLliesc0
 表沙汰されない日本社会の闇を知り、その故国から離れた激動と狂気の紛争地帯を知り、その中で一筋の幸せを奪われた経験のある姫矢では駄目だった。
 危機を察知する為に悪戯に生み出された無数の命の一つであり、その中で唯一、確実な死期を待ちながら、絶望のカウントダウンを生きる憐では駄目だった。
 願いの代償に家族に疎まれ、やがて自分の宿命さえ賭けて守った家族が自壊していった絶望を知る杏子では駄目だった。
 石堀は、光を奪う時には、例に挙げた彼らよりも、数段「普通」の暮らしを生きる人間から得なければならなかった。その為、光を得る素養がある人の中でも、西条凪や孤門一輝のような普通の幸せを噛みしめていた人間を襲った。彼らが貯め続けた「アンノウンハンド」への憎しみを利用する為に。
 蒼乃美希は、彼らと同じであった。

 石堀の目的はその希望を一瞬にして絶望へと叩き落とし、確実にダークザギの力を得る事である。姫矢や憐の如く、耐性のある人間ではいけない。
 希望が絶望へと変わる時、光は闇に還元され、レーテを介して、ダークザギの力となる。────その時が、ようやく目前に控えているのだ。
 凪や孤門のように綿密を張るより、即席の行動に出なければならないが、彼女の場合は「プリキュア」の光も同時に有している。かつてキュアピーチを見た時に感じた、あの光の性質──ウルトラマンの光と同様、闇に返ればより一層の強さを引き出せる。即席でも十分だ。

 蒼乃美希の人間関係を頭の中でもう一度思い出す。──その周囲全てを殺し、後はその瞬間に美希が抱く憎しみの力をレーテに捧げよう。
 時はまだだ。残り二時間とはいえ、ダークザギにさえなれば時空など容易く破断できる。
 いわば、それこそが真なる「脱出」の時である。

 何ていう事のない三人の人間の内の一人として、石堀はその邸宅に足を運んだ。







 ゲーム終了まで、残り一時間四十分。







 冴島邸という豪邸の中で、涼村暁はぼけーっと周囲を観察していた。一体、どの家具が一番高く売れそうか、どれを借金のカタに貰っていけそうか、などといろいろ考えつつも、暁は楽しそうに歩いている。
 広い邸宅だが、まあ集まる場所といえば一つだろう。当然、机や椅子が揃ったリビング。それらしきドアを開けてみると、やはりそこには翔太郎と一也がいた。それから、どう見てもバケモノとしか思えない人相が二つあったが気にしない。

「うっす」
「おいっす。……ってなんだ、あんたかよ」

 暁の軽い挨拶に返事をした翔太郎の失望っぷりである。挨拶は意思疎通ではなく、あくまで友好関係の確認にしかならないので、実際のところ、こんなのでも十分だった。

 無事のご帰還と言いたいところだが、一也の視線は険しかった。
 それは、ヴィヴィオを守れなかった彼らを責める物ではないが、傍から見れば鬼の形相にさえ見えた。
 残り一時間四十分に達したが、ドウコクとは無言の戦闘が続いていると言っていい。残り四十分でドウコクは一也を攻撃するのである。とにかく、残りの仲間が来なければ、ドウコクと交戦する為に他を逃がすしかあるまい。現状の生存人数と照らし合わせて考えると、ドウコクが襲うのは一也だけではないだろう。
 この場所を集合地点に設定し、同時につぼみチームからの連絡が途絶えている以上は、とにかく急がねばならなかった。

「すまない……ヴィヴィオちゃんは──」

 石堀がさも申し訳なさそうに言うが、実のところ、彼にとってヴィヴィオの命など至極どうでもいい物であったが、顔付きだけはそれらしくしなければならない。

「……」

131White page(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:31:22 ID:KyLliesc0

 暁も少し黙った。いや、暁としては、全く、ヴィヴィオが生きていると知っているので、「ヴィヴィオの死」という悲しみは心のどこを探してもないのだが、彼ら全員がそれを知らずに心配している事実に、少し心を痛めたのだった。
 何も言えない自分の不甲斐ない事。流石に、勘違いで重たい気持ちを抱える彼らを小ばかにできなかった。

「……気に病まないでくれ」

 震えた声で言う一也。
 しかし、そんな彼の後ろから、坐するドウコクが野太く冷たい言葉を投げる。それは怪物らしく、人情とは無縁の言葉であった。

「いいじゃねえか、一人くらい死んだ方がこっちもやりやすいだろォ」
「何だと!?」

 激昂して立ち上がったのは翔太郎であった。誰もが不意に、テーブルを叩きつけた翔太郎の右腕に着目した。テーブルの木がめきめきと音を立てるほどの剛腕。──それがまさに、アタッチメントの力。
 二人が睨み、いがみ合う中で、一也がすぐに怒号のような一言で制止する。

「やめろ、二人とも! ……ドウコク、頼むからあと三十分は大人しくしてくれ。わざわざ火種を作る物じゃない」
『翔太郎、あんたももう少し冷静になれ。安い挑発に乗るな!』

 一也とザルバの両名に制されて、何とか翔太郎は再び坐した。
 ドウコクは、自らに命令する一也に悪態の一つでも付きたい様子だったが、一也の言う通り、今は抑えた。やはり、それなりの利口さはあった。
 しかし、結局、一也は残るタイムリミットが三十分近いという事に気づいて、拳を震わせた。

「………………あ、そうだ」

 気まずいので、暁は話題をそらす事にした。
 視線の先にドウコクの目線があったので一層気まずくなったが、またすぐさま真下を向いてポケットをまさぐる暁。情報開示である。石堀の電話連絡中の話だったので、おそらくこちらにはあのカードに関する情報が行き届いていないのだろう。
 ヴィヴィオの実際の生死については何も言えないが、これくらいの情報ならば何とか教えられる。

「あのゴハットの奴がこんなカードを俺に」

 ゴバットカード。……の裏面に記載されていたヒントである。
 ゴハットは主催者の側でも随一の変わり者で、参加者に対して時折協力的な態度を示す男だった。しかし、それはあくまでヒーローの勝利シナリオを演出する為のもので、あまりにも直接的なやり方はしない。
 ヒントを与えたり、表向きは悪魔の所業を行うようにして参加者を助けたり……といった有様である。それもその一貫であった。

「おい、俺は聞いてないぞ」
「悪い、ちょっとタイミングなくてさ、言い忘れてた」

 やれやれ、と石堀が肩を竦める。内心では暁に苛立っていたが、実のところ、暁は石堀に情報を伝える事に些か抵抗していたのだった。
 まあ、主催とはあまり直接関係がないだろうから、それ自体はどうでも良いのだが。
 翔太郎がそれをさっと横取りして、内容を読み上げた。

「桃園ラブと花咲つぼみなら、花咲つぼみ。巴マミと暁美ほむらなら、暁美ほむら。島の中で彼女たちの胸に飛び込みなさい……?」
「わけわかんないだろ? まあ、とにかくつぼみちゃんが来たらその胸に飛び込めって事だったら喜んで……」

 レイジングハートがつい手が滑って暁の高等部を殴る。ごつん、という鈍い音が立つとともに、暁は高等部を抑えた。暁が振り向くが、レイジングハートは表情一つ変えていない。

「いてて……冗談だっつうの」
「冗談に聞こえません」
「だいたい、俺はね。中学生のまだ小さい胸には────」

 ふと、その瞬間、暁と翔太郎の中でひと時、時間が止まった。
 一也や石堀にはほぼ、彼らがいま何を考えたのかは理解不能であった。ドウコクや外道シンケンレッド、レイジングハートは論外である。

132White page(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:31:40 ID:KyLliesc0

「なあ、今、何か頭の中で引っかからなかったか?」
「ああ。……お前も感じたか」

 翔太郎の言葉に、暁は共感した。きょとんとしながら暁と翔太郎を見守る他の数名。視線は何故か、不思議と心地よかった。
 翔太郎と暁。この二人だけが今、謎のシンパシーを感じたのである。
 なるほど、翔太郎と暁は、最近忘れかけていた自分たちの共通点を思い出した。

「「……わかったぜ。俺の中の探偵魂が、今、俺に何かを告げたんだ!」」

 探偵。──そう、二人は探偵であった。浮気を調査し、犬や猫や亀を探し、ある時はコーヒー牛乳を飲みながら張り込み、時折殺人事件や怪盗事件に巻き込まれるあの「探偵」である。
 この二人の探偵が出会ってしまったからには、どんな名推理が飛んできてもおかしくない。
 ホームズとルパン、金田一耕助と明智小五郎、コ○ンくんと金○一くん、レイ○ン教授となる○どくん、お○やさんと京都○検の女……あらゆる探偵は、いつも夢の共演を果たしながら難事件を解決していったのである。
 探偵と探偵が手を組めば、もう怖い物などどこにもない。

「おい、探偵」
「なんだ? 探偵」
「俺たちがこの暗号──」
「解決しようぜ、だろ? わかってるぜ」

 ガシッ。と手と手を握り合う、いまこの瞬間、二人の探偵が手を組んだのだった。
 このカードに示されている物が暗号であり、主催者に関する情報を漏洩したのだと、翔太郎も暁も直感したのだ。
 自分たちの中のいがみ合い精神は既にどこへやら。

 数時間前の事さえ鶏のように忘れながら、めぐりあった二人の探偵は、今作った決め台詞を颯爽と叫んだ。

「「この暗号……俺が絶対に解いてやる」」

 二人は同じ一点を見つめて言った。



「「────仮面ライダーW/超光戦士シャンゼリオンの名にかけて!」」







 ……ああ、まったく、なんという事だろう。

 杏子とマミは、内心でそう思っていた。マップに指示された「教会」という施設──今は脆くも崩れ去っているが、あれがまさか、あの教会だったなど。
 一帯はかつて杏子がいた教会の光景とは違い、それが、一瞬だけ別の教会とも錯覚させた。しかし、随所の特徴はほぼ確実に杏子の実家のあの教会と同じなのであった。風見野から、あの廃教会を持ってきたのだろうか。
 風都タワーや左探偵事務所、志葉屋敷に冴島邸と、実際に参加者ゆかりの場所が取り揃えられているのはよく知っていたが、まさか自分のよく知る場所もあったとは。

 あれの破壊が悪い運命を案じしていなければ良いのだが……。

 ────とはいえ。

「うりゃっ!」

 孤門を抱きかかえながら一歩十メートルというペースで疾走している杏子には、横目でそれを見るくらいしかできなかったが。
 突き出た地面を蹴り飛ばし、より一層の速度で彼女たちは進んでいく。
 彼女たちはその脚を速く動かすのではなく、立ち幅跳びで砂場の向こうまで跳べるような驚異的脚力を活かして、「歩幅」で高いスピードの走りを見せていた。

「ねえ、ちょっとどういう事よ!」

 後ろから声をかけるのはキュアベリーである。流石に二人で三人抱えるのは不可能と判断して、お休みの彼女を何とか起こしたのだ。
 キュアベリー、キュアピーチ、佐倉杏子の三人が森の中を、一歩一歩に力を込めて走っていく。

133White page(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:32:23 ID:KyLliesc0

「車がブッ壊れたんだよ! 仕方ないだろ!」
「いや、それじゃなくて──」

 ベリーが訊こうとしているのは、無論、ウルトラマンの力の事であった。
 エボルトラスターにブラストショット。いずれも、キュアベリーの手の中にある。この力が姫矢から杏子へと受け継がれたメカニズムを考えれば、次に美希に来ても全くおかしな話ではなかった。──しかし。どうして、このタイミングで。果たして、光がどのようにして回っていくのか、美希も知らない。

「──ウルトラマンの事か?」
「そうよ! それがなくなったら、あなたが困るはずでしょ!」

 魔法少女として戦闘する事に常にリスクが伴う杏子にとって、ノーリスクで変身できるウルトラマンの力は必要な物のはずである。美希はキュアベリーに変身できるが、杏子は別にキュアパッションに変身できるわけではない。ノーリスクのキュアベリーに変身できる美希ならば、わざわざウルトラマンに変身する必要はないのである。

「杏子ちゃん、美希ちゃん、一体どうしたんだい!? ウルトラマンって……」

 孤門が、困惑して口をはさんだ。ウルトラマンの話となれば、孤門が最も専門に近い。
 実際に姫矢や憐を見守っていた隊員は彼に他ならないのである。

「ウルトラマンの力、私に移り変わってしまったみたいなんです!」
「ええええええええええーーーーっ!!」

 孤門は動けないながらも驚いていた。
 新たに杏子に移ったデュナミストの力。──それが、まさかここに来て美希に移り変わるとは。
 例によって、またも女子中学生にウルトラマンの力が渡るのか。

「美希たんがウルトラマン!? ええっ!?」

 キュアピーチも驚いて声をあげた。
 彼女の腕の中でも、マミは果たしてウルトラマンがどんな物なのか現物を見ておらず、一切知らないので、ここでは口を噤んでいる。

「姫矢さんがセカンド、憐がサード、杏子ちゃんがフォースなら、美希ちゃんはフィフス……」

 セカンドデュナミスト、サードデュナミストに加えて、孤門の経験では杏子がここで新たなフォース(実質はサードだが)、美希はフィフスとナンバリングできる。孤門は抱えられながら指を折る。
 ……が、ここでこんな事を考えてしまった意図は本人さえ不明だった。案外、驚いた時はどうでもいい事が頭を支配してしまうようである。

「何数えてんだよ! いいから黙ってろ。舌噛むぞ!」
「……ほうはね(そうだね)」
「……なんだ、手遅れか」

 ガチンと舌を噛んで呂律が回らなくなった孤門を、杏子が嘆息しながら見下ろした。
 もう随分と進んだが、なるべく話しながら走るのはよくないのかもしれない。
 ……が、ベリーは疑問を投げかけ、構わず話しかけてくる。

「で、どうして私なの!?」
「知るかっ! 勝手に渡っていくんだ。別にこっちで決めたつもりはねえよ。質問があるなら、ウルトラマンに訊け! あたしはその事は何も────」

 と、まあそれを言った瞬間、杏子の体に痛覚が駆け巡った。

 やはり、というべきか。
 杏子は思いっきりベロを噛んだのだった。ただその先は、フンと顔を背け、誰も何も言わず、何かを口にする物理的リスクを察して黙々と走り進んでいくだけであった。







 しばらく、泣き止まなかったが、さやかも泣き止もうという努力はしたので、十分かそこらで、何とか落ち着いた。心臓が震える感覚はまださやかにある。
 内臓が生きている──機能している証、そのものだった。

134White page(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:32:41 ID:KyLliesc0

「……良牙さん────零さんは?」

 つぼみが訊く。零の姿が消えていたので、疑問を抱いたのだろう。
 どうやらつぼみとさやかは零の姿が消えた事に気づいていなかったようである。
 まあ、無理もないが、身の回りの事に気づかないほど何かに没頭するというのはこの場においてはまだ危険な事なのである。──いや、それほど良牙たち二人を信頼しての事なのだろうか。

「ああ、あいつなら先に冴島邸に行くってよ。……俺のせいで連絡もできてねえし」
「そういえば、そうでしたね……」

 他の数名と通信ができなかったので、周囲にかけた心配も大きいだろう。彼はここにいても仕方ないだろうし、それならばいち早く向かって報告をしてもらった方がいい。
 なるほど、それならば仕方がない。

「おれたちも、そろそろ行くか────っと、その前に」

 良牙が珍しく、冴島邸の方に自力で体を向けた時であった。
 折角、天文学的な確率で目的地の方に体が向いた瞬間であったが、さやかに伝えるべき事があるのを忘れてまた振り向いてしまった。結局、このような天性の不運もあって彼は道に迷うのだろう。
 良牙が思い出したのは、先ほど、さやかの居た奇妙な空間内ではバイオリンの音が絶えず響いていた事だった。芸術の素養が皆無皆無アンド皆無の良牙もあの弦楽器の音を聞いて、それを連想する事ができたのは不幸中の幸いか──。
 それが、良牙にとある支給品を連想させた。

「おい、さやか、だよな? あんた、バイオリンが好きなのか?」
「えっ? いや──別にあたし自身はそんな事はないけど……」

 バイオリンという単語で、やはり誰かを思い出したようである。
 良牙が何故、突然にそんな事を訊いたのかわからない。ただ、一応、良牙が少し年上らしき事を察して、口調を改めた。

「……でも、バイオリンが大好きな男の子がいました。その人の事が、私はずっと好きだったかな……」

 少し照れながら、素直に述べた。

 上條恭介。
 さやかの幼馴染であり、天才バイオリニストとして期待されていた男性だった。さやか自身は、別にとりわけクラシック音楽が好きなわけではない。ただ、恭介が好きな音楽だからと、何度も耳にして、心の奥底で何度も繰り返し流していた。
 しかし、今となっては、さやかはその人の事を思い出すだけで切ない気持ちになる。
 今流したよりも、もっとエゴに満ちた涙が流れそうになる。

「なーんて、片想い……だったんですけどね。あははははははは」

 甘酸っぱく、切ない気分になったのが一層、照れ臭かったのだろう。とにかく自嘲気味に笑う事で、なんとかそれを打開しようとしたのだろうか。

 恭介と仁美がくっついて、さやかはその間に入り込めなくなってしまったのが発端だ。
 さやかが恭介をしている程、恭介はさやかを必要としていなかったという事である。さやかの献身も、結局、恋するには繋がらなかった。見返りとして、少しでも親密になれればと思っていたさやかの少し卑しかった心も、予期せず裏切られたのだった。
 恭介も仁美も悪くないからこそ、さやかはこのどうにもできない気持ちを発散すべく、魔法少女として周囲の敵を刈り取り続けた。その日々がまた辛くさやかの心を締め付けていった。

「……」

 良牙もつぼみも押し黙った。恋にはこの二人も、苦い思い出がある。
 いや、良牙などは今も間違いなく、その恋という感情に誰よりも苦しめられているのだ。
 しかし、良牙が、さやかの気持ちをくみ取りつつも、あくまで無表情で、とある支給品をデイパックから取り出そうとする。

「……誰かの支給品の中に紛れ込んでいたんだ、こいつが」

 彼の瞳は、さやかの顔を真っ直ぐに見つめてはいなかった。ただ、事務的にそれをさやかに手渡そうという気持ちでいっぱいであった。感情を含ませると、爆発してしまいそうな想いが内心秘められていたのだ。
 恋。
 その一言が、今の良牙には重すぎる。どんな巨大な岩でも持ち上げてボールのように投げられるあの良牙でさえ、その重みに潰されそうなのだ。

135White page(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:32:55 ID:KyLliesc0

 さやかは、デイパックの口からそれが少し出てきただけでは、特に何も思わなかったのだが、実際にそれが全て晒されると、その物体が何なのかようやく理解したようだった。

「バイオリン……それ、恭介の……!」
「……やっぱりそうか」

 良牙は、只のバイオリンというつもりで差し出したが、これも参加者ゆかりの品の一つであったらしい。園咲冴子にハズレ武器として支給されていたが、どうやらこのさやかの友人・恭介の物で間違いない。
 さやかも、記憶はあやふやで、バイオリン一つ一つを区別できるほど観察眼に優れているわけではないが、ただそのバイオリンだけは忘れようはずもなかった。それはずっと、恭介の未練だった物である。しかし、このバイオリンが今は恭介の夢なのだ。

「おらよ」

 良牙は、それがさやかの知り合いの物だとわかった瞬間、押し付けるようにさやかにそれを渡した。
 少し戸惑ったが、さやかは、自分の両手が無理やり欠かせさせられたそのバイオリンの重さを突き返そうとした。

「……い、いらない! だって、あたしに恭介の大事な物に、触る資格はないし……」

 この楽器に込められた想いは、さやかにはもう重すぎる。
 本来なら、さやかにはもう触れる機会があってはならぬ物だ。血染めの腕が恋する人の夢に触れていいはずがない。もう自分がいた世界に帰れないような、そんな気持ちさえどこかにあるのだ。純粋に生きている人の前に姿を現したくなかった。
 元の世界に繋がる事物を全て忌避したくなるような感情があった。
 それに、さやか自身もこのバイオリンを見れば恭介を思い出して辛くなる。

「悪いが、こいつは絶対にあんたに受け取ってもらう。好きな人だか何だか知らねえが、そいつの物が受け取れるだけマシだ。あんたの手で元の世界の恭介とかいう野郎に渡さなきゃならねえ」
「でも……!」
「おれは!!!」

 良牙の怒号に、二人の少女はびくついた。
 一度心の根が震えたような感覚がして、そのまま言葉一つ返せなくなった。
 良牙は、ばつが悪そうに声を抑えながらも、後ろ髪を掻いて、心を曝け出した。

「おれが大好きだった人は、好きな人の為に殺し合いに乗って、今もどこかでエモノを求めているんだ……。それに比べれば、何かあるだけいいじゃねえか……」

 思い返せば思い返すほどに、胃液が吐き出されそうになるほど切なく胸を締め付ける全て。──あかねも、乱馬も、何もかもが遠い思い出となって、良牙を苦しめていく。
 良牙にとってかけがえのないはずだった物が崩れていく恐怖が良牙自身の拳を、これまでの人生のどんな時よりも強く握らせた。

「それに、そいつが……あかねさんが正気に戻って、償う気になって、それで乱馬の何かに触れようとした時に、おれはそれを止めたいとは思えねえんだ。いや、むしろ触れさせてやりたい。────あんただって同じだ。あんたがこいつに触れちゃいけない理由なんて、どこにもない」

 あかねを救いたいと願えばこそ、それよりも先にさやかという一人の少女に同じ事をしなければならないのである。この少女を許し、生きていく道を手助けしていきたい。
 それは、あかねを許そうという気持ちあればこそのやさしさであった。

「さやか。私からもお願いします。受け取ってください」

 つぼみがそれに乗るようにして言った。
 譲渡する側が頭を下げるのも変な話だが、つぼみはそれが良牙からさやかへのお願いなのだと理解していた。
 良牙はただの善意でバイオリンをさやかに渡したいのではない。いずれあるべきあかねの姿としてさやかを重ね、少しでも自分の中であかねの未来に対する安心を得たいと思っただけなのだ。
 だからこそ、今はせめて、このバイオリンを──。

「……うん」

 さやかが頷いた。このバイオリンを受け取ると決めたのだ。
 これを恭介に返すのは、さやかにしかできない事だ。せめて、ここから脱出してからさやかができるのは、それくらいの事だ。

136White page(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:33:11 ID:KyLliesc0

「ありがとう、二人とも」

 さやかが良牙に押し返そうとしたバイオリンを受け入れるように、それを抱こうとした。
 さやかの腕が、バイオリンを絡める。冷たいバイオリンの絃がさやかの腕に押し付けられる。音が鳴っているようだった。
 楽器とは不思議な物で、弾いていなくても、時折その楽器が声を発する時がある。
 あらゆる音楽がこの中に封じ込められ、この楽器の中で響いている。

「そうだよね……これはあたしの手で恭介に届けなきゃ」

 ────ただ、次の瞬間であった。

 さやかは、ふと目を見開いた。
 良牙とつぼみはその時、気づいていなかったが、森の闇の中に人影が隠れていたのが見えた。
 ……いや、それは人影というのではなかった。人のシルエットをしておらず、真っ黒で刺々しい体躯をしていた。空の向こうから黒い雲まで近づいており、間もなくここも光が雲に隠されそうになった時であった。
 まるで猛獣に対峙した時のような感覚。

「────!?」

 怪物。

 それをさやかは今、目にしていたのだ。
 さやかはその外形にも、どこか既視感があった。

「ウッ……」

 その猛獣は、よく目を凝らしてみれば五代雄介と同じく、仮面ライダークウガに酷似していた。金の角、黒い複眼、ありとあらゆる要素がそれに似ていたが、印象だけは全く違っていた。
 ──さやかは、声もあがらぬほど、そこから発される悪意に怯えたのだ。

「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 吠えた瞬間、残るつぼみと良牙もそれに気づいたようだった。
 ふと感じたその野生の闘気──まるで猛獣と対峙した時のような気分だ。良牙は、あまりにも突然の出来事にその闘気を感じるのが遅れた。いや、あかねの事を考えてしまったがゆえだろうか。
 反射的に良牙は、背後の敵に隙の無い構えを見せた。
 ……が。

「……ウソだろッ! このタイミングで──」

 その外形を見た瞬間、良牙の両足から地面へと力が抜け落ちていくのを感じた。足が震え、まともな体制を取れない。反撃さえできそうにないようだ。
 なぜなら……そこにいたのは。
 そこにいたのは、天道あかねが変身した仮面ライダークウガに他ならなかった。

「あかねさん……ッ!!」
「!?」

 良牙の言葉につぼみが驚愕して、思わず良牙の方に顔を向けた。
 冷徹非情のクウガは、容赦なくその隙を狙った。──つぼみが気を抜いている隙に、クウガの手から紫の剣が投擲された。
 それは、物質変換能力によってクウガ自身の剣となった「裏正」である。
 つぼみが不意の攻撃に恐怖し、顔を歪めたのは一瞬の出来事。

「ひっ……!」

 変身さえできない一瞬の間に、こちらへ放たれた一撃につぼみは涙さえ浮かべた。
 つぼみの脳裏には、いわゆる走馬灯まで浮かんだのだった。高速で接近するソードが、つぼみに到達するまではおそらく一秒の間もない。
 しかし、その一秒の間に、つぼみは、父、母、祖母、友、あらゆる物の顔を思い出し、プリキュアとして巡り合った出来事や、これから生まれ来るはずの妹の事さえも考えた。
 あまりの恐ろしさに、つぼみは腕を顔の前に被せ、目を瞑った。

「……!」

137White page(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:33:29 ID:KyLliesc0

 ソードが、ぐちゅ、と音を立てて体に突き刺さる。
 良牙が驚き、また同時に後悔してそちらを見た時には、そこには血しぶきを放つ人間が居た。

「────」

 その体から花弁が散り、ゆっくりと舞い、土に零れていく。
 まるで、ひと時美しく咲いて、また散っていく花々のようだった。
 ……ああ、なんという事だ。
 また……また、悲劇が起きてしまったのか。

「痛ッ…………ッッッ」

 美樹さやかの胸に。深々と。それが突き刺さっていた。彼女の抱えていたバイオリンを貫き、彼女が胸に指していたアマリリスの花を散らせ、彼女の安らぎは奪われた。
 彼女が、咄嗟につぼみを庇い、生かそうとした結果だった。

「あ……ああっ……」

 つぼみの体の前には、さやかが影を作っていた。つぼみの体から数センチだけ離れたところに、血の滴る剣の刃先が突き出ていた。──無論、恐ろしかった。
 もし、さやかがつぼみを庇ったとしても、彼女がバイオリンを肌身離さず抱えていなければ、つぼみの体ごと串刺しにしていたかもしれないという事だった。
 つぼみも、思わず何が起こったのかわからずに絶句した。

「みん…………ごめ…………やっぱ…………」

 血を吐き出しながら、さやかは謝罪の言葉もこの世に残そうとした。しかし、それも力を失った喉の奥から、とぎれとぎれに出てくるだけだった。
 この時、さやかが思い出したのは、五代雄介という男の死に様だ。
 クウガ──それが、さやかにとって、死神と呼べる相手だったのかもしれない。
 五代自身がさやかを恨んでいるわけではないのはよく知っている。──だが、神はもしかすれば、さやかを許さなかったのかもしれない。
 報い。
 それは、そんな言葉で形容できた。
 罪は時折、数奇な形で裁かれる。クウガを殺してしまったさやかの命が、クウガによって絶たれる──という事。

(……あっ……)

 さやかの体が真後ろに倒れそうになる。力の法則に従って、真後ろへ、真後ろへ。
 なんとか力を振り絞ろうとしたが、駄目だった。
 命に対する諦観と、全てに対する申し訳なさがあふれてくる。

(……あー……、折角、助けてもらったのに。やっぱり、こうなっちゃうんだ……)

 さやかの体は、結局真後ろに崩れた。
 真後ろでさやかを支えようとしたつぼみの右足の側面を、刃が切り裂いた。
 抉る、と言ってもいい。血が跳ねて、さやかとつぼみの血液が足元で混ざり合う。

「っっっ……!!」

 痛みをこらえながら、つぼみはさやかの首を支えた。
 頭を片腕で包み、彼女は必死で呼びかける。体の痛みか、心の痛みか、またつぼみは泣いた。これは反射的に流れてしまうものだった。

「さやか! さやか!」

 今、こうして誰かを庇って死ぬという死に方が、まるでさやかが一時目指した正義の味方に全く相応しい物である事を、さやかは自覚できなかった。さやかはつぼみが泣いているのと同じく、反射的につぼみの前に出て、その結果、死んでいくのだから──。
 そこに、「義」はなかったが、ただ、さやかという人間の本質的な性格だけは反映されていた。
 二人の友情は変わらない。

「あり、がと…………ごめ………」

 つぼみはさやかを傷つける。
 さやかはつぼみを傷つける。
 だが、それでも、二人は深く支え合う。
 彼女たちはずっと知らなかったが、それが友情の本質だ。

(ごめん。でも、せめて、さ────)

 せめて。
 さやかは願った。
 傷つけた分だけ、このふたりを、癒す願いを────。
 願いを。

(いいでしょ、神様。奇跡とか魔法とか、もう一回くらいさ)

 どうしようもないと思える時ほど、それこそ神に願うしかない。
 罪を犯した物には罰が下るように、彼女たちの行く末に幸がある事を祈りたい。
 奇跡と、魔法を、さやかは、長い人生の中で、もう一度だけ託しながら──そして、もう一度息を引き取ったのだった。
 つぼみが泣きついた時には、それはもう遺体だった。
 かつてよりも暖かく、まだ少しだけ内臓が動いた形跡のある、人間らしい死にざまだった。



【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ 死亡】





138White page(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:34:00 ID:KyLliesc0



 しばらく、呆然としていた良牙だが、やがて自然とその拳は強く握られていった。
 静かに怒りが増幅していく。

「……ゆるさねえッ……」

 良牙は、目の前にいるクウガに対して、それこそ最も確実な怒りを抱いていた。
 今、あの子がすべき償いは妨害され、またしても花のように儚く、美樹さやかは散った。
 このどうしようもない衝動。
 何がこの時、良牙の動きを止めたのか──そう、それは、このクウガがあかねであるという確証があったからに他ならない。天道あかねを救いたい意思や、彼女がこうなったショックが良牙の動きを止めていた。

 ────しかし。
 もう、良牙の中には、あかねを救いたい想いに勝る物が生まれていた。

「絶対に許さねえ!! 折角、この子だってもう一度やり直そうって思ってたのに……」

 ロマンチックに憧れる男の恋心も、艶めかしい事を求める少年の愛も。
 それさえも打ち砕いてしまうような、卑劣な地獄絵図の連鎖。
 いま、自分は目の前の敵を憎んでいる──良牙はそれを自覚した。
 死ぬ間際、さやかは確かにあらゆる物を感じていた。大事な人への恋心だとか、つぼみへの油状だとか、とても大事な物をこれでもかというほど見せてくれた。それがさやかにとって宝であり、友情のアマリリスも、恋人に返したいバイオリンも、決して砕かれていい物ではなかった。
 良牙もそこに自分の姿を重ねたのだ。──あかねに恋をして、乱馬たちとバカのように殴り合い傷つけあい分かち合った日々を、さやかに重ねた。

 それを奪ったのが、目の前にいるあかね。いや──。

「……お前はもう、天道あかねじゃ──人間じゃない!! 悪魔だ!!」

 あかねの肉体を借りた、一匹の悪魔だった。

 エターナルメモリが良牙のロストドライバーに装填される。
 そして、良牙は掛け声もかけずに、真っ白な死神──仮面ライダーエターナルへと変身したのだった。
 黒いエターナルローブが、悲しくはためいた。
 良牙としてあかねに対面する事は、もう叶わないのだろう。

「────良牙さん!!」
「つぼみ! おれはもう、あかねさんを救うなんていうのはやめた。もう、だめなんだ……!!」

 仮面ライダーエターナルの背中がそう語った。彼は、気づけば、クウガの前に立ち、つぼみたちの体を庇っていてくれた。
 今となって思えば、あかねを救えるかもしれないという想い──それが、甘かった。

139White page(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:34:24 ID:KyLliesc0
 その想いが原因で、良牙は、この時、つぼみの友人の命が奪われるのを黙って見過ごしてしまった。

「好きだって、言えれば良かった……乱馬の事なんかじゃなくておれを見てくれって、言っちまえば良かった…………でも、もうだめなんだ……だめだってわかっちまった……おれはこいつが憎い。今まで、誰にも感じた事のない怒りだ……!!」

 確かに良牙はあかねの事がずっと好きだった。
 悲しい事だが、もうそのあかねはどこにもいなくなってしまったのだ。
 乱馬も、あかねも、シャンプーも、パンスト太郎も死んだ。
 もう戻らない。良牙がすべき事は、天道あかねを穢す「罪」を絶つ事だった。残念ながら、それしかできなかった。

「こいつはおれが倒すしかない……天道あかねはもう死んだんだ! こいつは人間でもクウガでもない、ただの悪魔だよ!」

 そう言ったエターナルの震えた声。
 つぼみは、おそらく、彼が泣いているのだと思った。──しかし、仮面の下に一体、彼がどんな表情を作っているのかなど、誰も知らない。
 ただ、その男が放つ悲しみをつぼみは強く感じ取り、胸に刻んだ。
 自身も事切れたさやかの死に顔に涙を浮かべながら、しかし、良牙の悲しみの気を強く呑み込んだ。

「……これは」

 ふと、エターナルは、自分自身の体が妙に軽くなっていくのを感じた。
 先ほどまであったはずの痛みも、体中のだるさも、疲れも、何もかもが消えていくような感じがした。
 つぼみは恐る恐る、自分の足の傷を見てみた。
 先ほど、剣が抉っていたはずの傷跡は、もうどこにもない。────大丈夫だった。
 この一日分の疲労や傷が全て癒されたという事なのだろうか。こんな感覚をするのは初めてであった。
 一瞬で全てを癒すなど、「魔法」という言葉で表現するしかない。

「……この子のご加護──ってわけか」

 何となく、二人とも察していた。
 答えは、さやかの体を維持していたジュエルシードの影響だった。その力がこういう形で二人に向け、解放されたのである。さやかは、既に魔法を捨てたとはいえ、魔法の使い方のノウハウを知っている。彼女の「人を癒す」という願いが、無意識の内に正しい形に使われた。
 ジュエルシードが最後に触れた強い願いが、辛うじて二人を癒す為の力となったわけである。──とはいえ、二人はそんな理屈も知らず、神のご加護か、あるいは奇跡や魔法とでも思ったのだろうが。

「尚更、テメェを倒して生きて帰ろうっていう気が湧いて来たぜッ!!」

 体の回復とともに意気を高ぶらせると、エターナルはある構えをした。
 両腕を前に出し、掌に気を込める。──禁断の技たりながら、今この時こそ、自分の身に差し掛かった理不尽を放ちたい。
 この悲しみを、怒りを、憎しみを、ぶちまけたい。
 そんな想いが、エターナルの体の奥から、その一声を引きずり出した。

「────獅子、咆哮弾ッッッッ!!!!!!」

 良牙に対する警戒心を剥き出しにしていたクウガに向けて、放たれる一撃。
 負の感情エネルギーがクウガの体を包もうとする。
 だが、それがクウガの体に到着する前に、クウガもまた腰を低めて、良牙と同じ構えをした。彼女もまた、叫びこそしなかったが、獅子咆哮弾を放ったのだった。
 二つのエネルギーは衝突し、クウガの手前で爆ぜる。
 細やかな爆風のような波が彼らに寄った。


 その爆風を甘んじて受けながら、エターナルはまだクウガを睨んでいた。
 やりきれない強い想いを胸に秘めながら、それでも彼は、この試練に立ち向かおうとしていた。

140White page(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:35:31 ID:KyLliesc0
【2日目 昼】
【D−4 森】

【花咲つぼみ@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:健康、加頭に怒りと恐怖、強い悲しみと決意、首輪解除
[装備]:プリキュアの種&ココロパフューム、プリキュアの種&ココロパフューム(えりか)@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&シャイニーパフューム@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&ココロポット(ゆり)@ハートキャッチプリキュア!、こころの種(赤、青、マゼンダ)@ハートキャッチプリキュア!、ハートキャッチミラージュ+スーパープリキュアの種@ハートキャッチプリキュア!
[道具]:支給品一式×5(食料一食分消費、(つぼみ、えりか、三影、さやか、ドウコク))、スティンガー×6@魔法少女リリカルなのは、破邪の剣@牙浪―GARO―、まどかのノート@魔法少女まどか☆マギカ、大貝形手盾@侍戦隊シンケンジャー、反ディスク@侍戦隊シンケンジャー、デストロン戦闘員スーツ×2(スーツ+マスク)@仮面ライダーSPIRITS、『ハートキャッチプリキュア!』の漫画@ハートキャッチプリキュア!
[思考]
基本:殺し合いはさせない!
0:さやか……
1:この殺し合いに巻き込まれた人間を守り、悪人であろうと救える限り心を救う
2:……そんなにフェイトさんと声が似ていますか?
[備考]
※参戦時期は本編後半(ゆりが仲間になった後)。少なくとも43話後。DX2および劇場版『花の都でファッションショー…ですか!? 』経験済み
 そのためフレプリ勢と面識があります
※溝呂木眞也の名前を聞きましたが、悪人であることは聞いていません。鋼牙達との情報交換で悪人だと知りました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※プリキュアとしての正体を明かすことに迷いは無くなりました。
※サラマンダー男爵が主催側にいるのはオリヴィエが人質に取られているからだと考えています。
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました。
※この殺し合いにおいて『変身』あるいは『変わる事』が重要な意味を持っているのではないのかと考えています。
※放送が嘘である可能性も少なからず考えていますが、殺し合いそのものは着実に進んでいると理解しています。
※ゆりが死んだこと、ゆりとダークプリキュアが姉妹であることを知りました。
※大道克己により、「ゆりはゲームに乗った」、「えりかはゆりが殺した」などの情報を得ましたが、半信半疑です。
※所持しているランダム支給品とデイパックがえりかのものであることは知りません。
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※良牙、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※全員の変身アイテムとハートキャッチミラージュが揃った時、他のハートキャッチプリキュアたちからの力を受けて、スーパーキュアブロッサムに強化変身する事ができます。
※ダークプリキュア(なのは)にこれまでのいきさつを全部聞きました。
※魔法少女の真実について教えられました。

141White page(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:35:44 ID:KyLliesc0

【響良牙@らんま1/2】
[状態]:健康、五代・乱馬・村雨の死に対する悲しみと後悔と決意、男溺泉によって体質改善、首輪解除、仮面ライダーエターナルに変身中
[装備]:ロストドライバー+エターナルメモリ@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(ゾーン、ヒート、ウェザー、パペティアー、ルナ、メタル)@仮面ライダーW、
[道具]:支給品一式×14(食料二食分消費、(良牙、克己、五代、十臓、京水、タカヤ、シンヤ、丈瑠、パンスト、冴子、シャンプー、ノーザ、ゴオマ、バラゴ))、水とお湯の入ったポット1つずつ×3、子豚(鯖@超光戦士シャンゼリオン?)、志葉家のモヂカラディスク@侍戦隊シンケンジャー、ムースの眼鏡@らんま1/2 、細胞維持酵素×6@仮面ライダーW、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、歳の数茸×2(7cm、7cm)@らんま1/2、デストロン戦闘員マスク@仮面ライダーSPIRITS、プラカード+サインペン&クリーナー@らんま1/2、呪泉郷の水(娘溺泉、男溺泉、数は不明)@らんま1/2、呪泉郷顧客名簿、呪泉郷地図、克己のハーモニカ@仮面ライダーW、テッククリスタル(シンヤ)@宇宙の騎士テッカマンブレード、『戦争と平和』@仮面ライダークウガ、双眼鏡@現実、ランダム支給品0〜6(ゴオマ0〜1、バラゴ0〜2、冴子0〜2)、バグンダダ@仮面ライダークウガ、警察手帳、特殊i-pod(破損)@オリジナル
[思考]
基本:自分の仲間を守る
0:あかねさんを倒す。
1:あかねを必ず助け出す。仮にクウガになっていたとしても必ず救う。────
2:誰かにメフィストの力を与えた存在と主催者について相談する。
3:いざというときは仮面ライダーとして戦う。
[備考]
※参戦時期は原作36巻PART.2『カミング・スーン』(高原での雲竜あかりとのデート)以降です。
※夢で遭遇したシャンプーの要望は「シャンプーが死にかけた良牙を救った、乱馬を助けるよう良牙に頼んだと乱馬に言う」
「乱馬が優勝したら『シャンプーを生き返らせて欲しい』という願いにしてもらうよう乱馬に頼む」です。
尚、乱馬が死亡したため、これについてどうするかは不明です。
※ゾーンメモリとの適合率は非常に悪いです。対し、エターナルとの適合率自体は良く、ブルーフレアに変身可能です。但し、迷いや後悔からレッドフレアになる事があります。
※エターナルでゾーンのマキシマムドライブを発動しても、本人が知覚していない位置からメモリを集めるのは不可能になっています。
(マップ中から集めたり、エターナルが知らない隠されているメモリを集めたりは不可能です)
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※つぼみ、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※男溺泉に浸かったので、体質は改善され、普通の男の子に戻りました。
※あかねが殺し合いに乗った事を知りました。
※溝呂木及び闇黒皇帝(黒岩)に力を与えた存在が参加者にいると考えています。また、主催者はその存在よりも上だと考えています。
※バルディッシュと情報交換しました。バルディッシュは良牙をそれなりに信用しています。
※鯖は呪泉郷の「黒豚溺泉」を浴びた事で良牙のような黒い子豚になりました。
※魔女の真実を知りました。

142White page(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:35:57 ID:KyLliesc0

【天道あかね@らんま1/2】
[状態]:アマダムの力暴走、アマダム吸収、メフィストの闇を継承、肉体内部に吐血する程のダメージ(回復中)、ダメージ(極大・回復中)、疲労(極大)、精神的疲労(極大)、胸骨骨折(回復中)、 とても強い後悔と悲しみ、ガイアメモリによる精神汚染(進行中)、自己矛盾による思考の差し替え、動揺、「黒の二号」に変身中(自分で解除できない)
[装備]:伝説の道着@らんま1/2、T2ナスカメモリ@仮面ライダーW、T2バイオレンスメモリ@仮面ライダーW、二つに折れた裏正@侍戦隊シンケンジャー、ダークエボルバー@ウルトラマンネクサス、プロトタイプアークル@小説 仮面ライダークウガ
[道具]:支給品一式×4(あかね、溝呂木、一条、速水)、首輪×7(シャンプー、ゴオマ、まどか、なのは、流ノ介、本郷、ノーザ)、女嫌香アップリケ@らんま1/2、斎田リコの絵(グシャグシャに丸められてます)@ウルトラマンネクサス、拡声器、双眼鏡、インロウマル&スーパーディスク@侍戦隊シンケンジャー、紀州特産の梅干し@超光戦士シャンゼリオン、ムカデのキーホルダー@超光戦士シャンゼリオン、滝和也のライダースーツ@仮面ライダーSPIRITS、『長いお別れ』@仮面ライダーW、ランダム支給品1〜2(溝呂木1〜2)
[思考]
基本:"東風先生達との日常を守る”ために”機械を破壊し”、ゲームに優勝する
0:暴走
1:目の前の敵を排除する。
[備考]
※参戦時期は37巻で呪泉郷へ訪れるよりは前、少なくとも伝説の道着絡みの話終了後(32巻終了後)以降です。
※伝説の道着を着た上でドーパント、メフィスト、クウガに変身した場合、潜在能力を引き出された状態となっています。また、伝説の道着を解除した場合、全裸になります。
また同時にドーパント変身による肉体にかかる負担は最小限に抑える事が出来ます。但し、レベル3(Rナスカ)並のパワーによってかかる負荷は抑えきれません。
※Rナスカへの変身により肉体内部に致命的なダメージを受けています。伝説の道着無しでのドーパントへの変身、また道着ありであっても長時間のRナスカへの変身は命に関わります。
※ガイアメモリでの変身によって自我を失う事にも気づきました。
※第二回放送を聞き逃しています。 但し、バルディッシュのお陰で禁止エリアは把握できました。
※バルディッシュが明確に機能している事に気付いていません。
※殺害した一文字が機械の身体であった事から、強い混乱とともに、周囲の人間が全て機械なのではないかと思い始めています。メモリの毒素によるものという可能性も高いです。
※黒岩が自力でメフィストの闇を振り払った事で、石堀に戻った分以外の余剰の闇があかねに流れ込みメフィストを継承しました(姿は不明)。今後ファウストに変身出来るかは不明です。
 但し、これは本来起こりえないイレギュラーの為、メフィストの力がどれだけ使えるかは不明です。なお、ウルトラマンネクサスの光への執着心も生じました。
※二号との戦い〜メフィスト戦の記憶が欠落しています。その為、その間の出来事を把握していません。但し、黒岩に指摘された(あかね自身が『機械』そのものである事)だけは薄々記憶しています。
※様々な要因から乱馬や良牙の事を思考しない様になっています。但し記憶を失っているわけではないので、何かの切欠で思考する事になるでしょう。
※ガミオのことをガドルだと思い込んでいます。
※プロトタイプアークルを吸収したため仮面ライダークウガ・プロトタイプへの変身が可能になりました。
※自分の部屋が何者かに荒らされていると勘違いしています。おそらくガドルやガミオだと推定しています。
※どこに向かうのかは後続の書き手さんにお任せします。


【体力回復について】
さやかの死に際の願いにジュエルシードが正しく反応した事で、「癒し」の魔法が発動され、つぼみと良牙の体力は回復しました。





143White page(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:36:21 ID:KyLliesc0



 零は一足早く冴島邸に辿り着いていた。
 彼が部屋に入ると、暁や翔太郎をはじめとする仲間たちの多くが既にその場には集っており、零は彼らに話すべき事情を全て伝える。
 つぼみ、良牙、さやかの無事について、特殊i-podの破壊について、サラマンダー男爵ならば共闘関係を築けるかもしれない事についてなど、あらゆる事を知る限り説明した。
 しかし、零には何とも言えぬ悪寒もどこか胸中に持ち合わせていた。

「……なるほど。魔女は全員救済されたってわけか」

 翔太郎はどこか嬉しそうな表情だ。
 それもそのはず、彼は杏子に対して未だ不安を抱えていた。
 しかし、マミとさやかの処遇で何とかその不安が解き放たれていくのが感じられたのだ。
 これで、翔太郎が杏子を、「殺す」必要はどこにもなくなったというわけである。
 果たされてはならないあの約束をどこかに消し去る事ができて、翔太郎も内心ほっとしていた。
 ──一也としては、何故今まで魔女の正体について教えてくれなかったのか、と少しだけ責めたい気持ちもあるが、まあ当人もいないし、気持ちもわかるので口を開くのを止した。

「ああ、ただ、誰も天道あかねに会ってないっていうのは気がかりだ。まあ、この広い島の中ではそうそう会う事もないのかもしれないが、悪い事にならなければいいが……」

 零は思案顔で言う。
 しばらく、天道あかねという人物は姿さえ現さない。どこにいるのか、そしてどうしているのかもわからない参加者の一人である。零は彼女がどんな人間なのか知らないだけに、一層不気味な存在に思えてならなかった。

「大丈夫だろう。みんな、ここまでは大した距離じゃないんだろ? それに、全員複数で行動しているわけだし」
「まあ、そりゃそうだが……」

 他所があかねと対応していたならともかく、それらしい様子はない。
 どこからもあかねに関する連絡がなく、マップ内のどこにいるかさえ不透明だ。
 もはや焼野原同然の街を彷徨っているわけでもあるまい。──いや、そうであれば、遅かれ早かれ禁止エリアに迷い込んでしまっても仕方ないくらいだが。
 相当な時間単独行動している様子なのが不審であった。

「……」

 零も、黙って彼らがここに辿り着くのを待った。







 プリキュアと魔法少女の進行速度は、乗用車などより格段に速い。
 問題になるのは、体力の消耗が激しく、なるべく軽々しくその力を使ってはならない事だった。特に杏子は、ソウルジェムが穢れる事情などで、あまり積極的に魔法少女の力を使うわけにはいかない。
 しかし、その時ばかりは、事情も違い、すぐに辿り着いて見せる必要があった。

「────やっと、」

 五人の前には、もう洋館の姿が見え始めていた。
 一歩一歩は着実に洋館との距離を縮める。それが見つかれば、あとはさほど時間もかからない。
 一面の森は方向感覚が鈍るので、辿り着くかという不安は多少あったものの、何とか安心した。
 その安心感が、最後の一歩を一瞬にした。最後に強い風を感じながら、杏子が降り立つのを孤門は認識する。後から、キュアピーチ、キュアベリーと順に着地していった。

144White page(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:36:57 ID:KyLliesc0

「やっと着いた!!」

 五人とも、ようやくこの冴島邸に到着したのだ。
 バトルロワイアル終了までの残り時間は既に二時間を切っており、自分たちが行うと決意したマミの救済に、どれだけ時間を割いていたのかを知る事になった。
 さて、これで一安心である。
 冴島邸自体は外傷もなく、いかにもお洒落な豪邸の姿をしている。深緑の木々に彩られた、一世帯が暮らすにはあまりにも大きすぎるその家──まるで博物館のようにさえ見える。
 杏子や孤門も、こんな豪邸に住む事に少しだけ憧れた。しかし、考え直す。一人暮らしでは随分持て余しそうなので、この部屋の隅だけ貸してもらえれば十分だろうか。

「まあ、ここまで何事もなかったし……とりあえず……」

 杏子は、振り向いて一応人数だけ数えた。
 やっと着いた、と元気な声を上げたのがキュアピーチで間違いない。彼女はマミを抱えている。マミもいる。
 そして、キュアベリーもしっかりとそこにとどまっていた。一人くらい置いてきてしまっているのではないかという不安は無事払拭された。


 ──が。
 その刹那であった。

「って、おい、あれ……」

 杏子は、遥か遠方に「それ」を見た。杏子にとっての正面は、マミにとっての背面であった。
 マミの背に居た「それ」は、精巧な鎧人形の中に人が閉じ込められたように動いていた。
 密かに喉奥に唾を垂らしているであろう、その狼の外形。黒々と光り、刺々しく彫り込まれた豪奢な黒い鎧の半身。マントを揺らし、剣を構える。

 黄金騎士ガロにも似た怪人。
 その名も、暗黒騎士キバ。
 キュアピーチがその姿を思い出した時には、キバは風のように彼女たちへの距離を縮めて、マミの首元を凪ぎ裂こうとしていた。

「うわあ!!」

 怪人が剣をフルウ。
 彼の剣技は、マミの命を喰らう事を望んでいた。誰でも良いが、最も隙のあった相手を狙ったのだろう。しかし、その食欲は満たされなかった。
 それを、咄嗟に動けた杏子が庇ったのである。今、再び死の恐怖を味わったマミは、そのまま腰を抜かした。辛うじて、強固な槍が剣を受け止め、立派な盾となっている。──尤も、その槍身には亀裂が走ろうとしていた所だが。

「……っ……!!」

 いずれにせよ、杏子がいなければ、マミは死んでいたかもしれない──。

「おらっ! ……なんだかわからないけど、この期に及んで、敵襲みたいだなッ!」

 なんとか弾き返して、次の刀が飛んでくる前に杏子の槍がキバの胸部を突く。
 数メートルだけ後退。
 そこに、更に二度、三度と振り回される槍の切っ先がキバの体を掠める。鎧を前にしては、刃としての価値はもはやその槍には期待できず、棒を叩きつけるという形で鎧に衝撃を与えるしかなかった。
 キバもすぐにそれを回避した。

「マミちゃん!」

 孤門が即座に前に出て、倒れたマミに肩を貸す。まさしく、それが彼に今できる事だった。
 マミは、目の前の光景に息を飲む。慣れていたはずのこの戦いの光景が、今となっては全く違った物に見えてしまう。
 マミの体そのものが、その勢い余る殺し合いの全貌を受け付けなかった。
 昨日まで魔法少女であった自分は、こんなにおぞましい世界で戦っていた事や、曲がりなりにも「兵器」や「装備」を有していた事で自分がいかに安心していたのかという事も直感する事ができた。
 孤門が必死で抱き起した体。──何とか、マミは歩き出そうとしていた。
 敵に背中を向けて洋館の入り口に向かい足を急かすのは、少し恐ろしかった。

「杏子ちゃん!」

145White page(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:37:12 ID:KyLliesc0
「杏子!」

 キュアピーチとキュアベリーが飛び交って、マミと孤門の行く手を邪魔させないために彼らの盾になる。杏子が更にその一歩前でキバを足止めしていた。
 これで、ひとまずは時間稼ぎの為のメンバーができたようである。







「みんな!」

 孤門とマミは、何なくその部屋に辿り着き、ドアを叩きつけるように開いた。
 ここは袋小路だが、歴戦の勇士たちも待っていてくれる。入口で暴れる怪物の対処をお願いできる相手がいる場所として、最も近い場所がそこであった。
 孤門が叫んだ時、全員が注目した。戦闘音が聞こえないのか、比較的呑気に構えている者もいる。と、暁がマミと目が合って思わず叫んだ。

「うわああああああああああっ!! オバケ!! おい! この子! 死体の!」

 暗号を解こうとしていた真っ最中だが、暁はドウコクの後ろに隠れた。ドウコクの巨体の後ろで悪霊退散悪霊退散とひたすら唱え続ける。
 ドウコクは「……」と黙りながら、なんとか怒りを鎮めた。霊能力と無縁な暁が何を唱えたところで、ドウコクたち外道衆には無意味だ。

「あー、いいから、外を見てくれ!! 敵が来たんだ!」

 今の一言で全員の顔付が代わり、暁含めてすぐに窓辺に顔を向けた。
 立ち上がり、辛うじて窓の外に見える戦闘の方を見やる。杏子、キュアピーチ、キュアベリーの三名がその怪物を相手に何とか対峙していた。杏子が前衛として積極的に交戦している最中、キュアピーチとキュアベリーが後衛となっているようである。
 それを見た時、零は忘れもしない宿敵の事を思い出し、レイジングハートは自分の仲間の事を思い出した。

「奴は────暗黒騎士キバ! なぜここに!」
「バラゴ……!」

 両名とも、その外形に驚いたようである。──二人の共通認識として、「あいつは死んだはずだ」と思っただろう。
 いや、しかし。ここにいる二人も全く気づいていなかったが、それは既に死者であろうとなかろうと関係なかった。装着者さえも喰らい尽くした鎧が、一人でに暴走しているという恐るべき事象である。

『俺も、あいつに会った記憶はないが、何故だかあいつを見ていると妙な胸騒ぎがするぜ。あそこにいるのは、魔戒騎士じゃない! 鎧に込められた怨念だけの怪物だ!』

 ザルバが己の直感を信じて言った。
 彼も暗黒騎士キバと何度となく戦闘した記憶が魂のどこかに残っているのだろう。世にも悍ましい、悪しき強さの根源として、ホラーである彼も恐怖を感じるくらいだ。
 久々に、ザルバも震えわせるような相手である。

「俺も奴に会った。一文字先輩を苦しめるほどの強敵だ!」
「ああ、俺もだ。俺が会ったのは二度目の襲撃の時だが……とにかく、油断大敵の相手だな」

 沖一也や石堀光彦もその姿には見覚えがあったが、確か死んだはずだと記憶している。
 とにかく、遭遇してはならぬ相手が思わぬ所でやってきたという事実だけは、全員理解したようである。

「……たとえどれだけ強くなろうと、何度地獄から迷い出ても、俺が奴を倒してやる!!」

 零が外に出る意気とともに叫んだ。踏み出した一歩からは、まるで怒りさえ感じられるどっしりとした足音がする。彼の目からは、普段のどこか飄々とした部分が消えていた。
 しかし、仇を眼前にしているという状況にしては、彼の憎悪の心はそれほど膨らんではいなかったようである。
 意外にも、彼は悪への怒りというべき物や、魔戒騎士としての使命感に突き動かされていた。
 気づけば、誰も声をかけないままに彼が部屋を去っていた。決意にはためく背中のドリームキャッチャーに、誰もが目を奪われていたのだ。

「私も行きます!」

146White page(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:37:29 ID:KyLliesc0

 続いて、レイジングハートが、まるで一時的に止まった時を動かすように言った。
 今あそこにいるのは、バラゴではないとレイジングハートも理解している。しかし、行かないわけにはいかなかった。バラゴの持つ鎧の怨念が現れたというのなら、レイジングハートにも一塊の責任があるような気がしたのだ。
 勿論、そんな物はどこにもないのだが。

「よっし、俺も……」

──続いて、翔太郎が出ようとしたが、そんな彼の左手を一也が掴み、止める。
 翔太郎は、咄嗟に一也の方を振り向いた。そうしている間に、レイジングハートが廊下から外へ向かっていく。その足音に焦りながらも、翔太郎はその手を安易に振り払おうとはしなかった。
 いや、仮に振り払おうとしても、生身の左手では一也の腕を崩すのは無理だ。

「おい、なんだよ沖さん!」
「俺とドウコクが行く。君たち二人はまず、暗号の謎を解くんだ。奴は俺たちが遠ざけるから……後は頼んだ」

 一也が険しい目で言う。
 今の一言に眉をしかめたのは、翔太郎以上にドウコクであった。

「俺だと……?」

 ドウコク自身も疑問なようだ。何故、己が選択されたのか。
 自分で考えている真っ最中、一也が二の句を告げた。

「奴は参加者ではないはずだ。もしかすれば、主催が用意したのかもしれない。不本意だが、君たちの戦いを見せてもらいたいんだ」
「……なるほど。味方として手を組むからには、その戦法の特性を実戦で知っとかなきゃならねえってわけか」

 軍勢を率いる身であるドウコクも、その理屈は理解できる。
 これまで試し処がなかったのはやむを得ない。それぞれの体力を温存せねばならない状況であったからだ。それを試せる場所があるならば、一つの機会として利用したいのだろう。
 また、戦闘数が少ないうえに底なしの実力を持つドウコクをそこへ呼びたかった気持ちもわかる。

 しかし、一也の本心は、実のところ、いま口から出た理屈とは全く異なっていた。ドウコクもその事には、まあ薄々警戒しているようだが、ひとまず騙されたふりでもしておく事にした。

 一也の考えの一つは、まずドウコクを他の仲間から遠ざける事である。現在の参加者数は十五人と想定され、その内訳の多くは冴島邸内にいる参加者である。脱出計画を練る際、一也がドウコクに敗北して殺されたとして、それでドウコクが殺戮をやめるはずがない。あと最低でも四人殺害しなければ、ドウコクは生存の道を選べないのである。
 もう一つは、ただの時間稼ぎである。万が一、翔太郎たちの方が早く何かに気づき、脱出の鍵を握ったとすれば、それはそれで都合が良い。暁と翔太郎は、仮にも探偵である。普段は体力勝負の話が多いとはいえ、柔軟な発想力・推理力は培われているかもしれない。

 彼らへの信頼である。

『俺も連れていってくれ……魔戒騎士の相棒として、零の戦いを見届けたいからな』
「……わかった」

 翔太郎の手からザルバを抜き取ると、一也はドウコクと共に外へと走った。
 外道シンケンレッドはついては来なかった。
 なるほど、ドウコクもそれなりに知恵は回るらしい。当然ながら、この部屋に留まっている翔太郎たちを監視し、十一時に殺害する為の存在として、彼を居残らせる必要がある。
 ただ、それぞれ、一也がドウコク、翔太郎が外道シンケンレッドを引き受け、何とかその他の総力で押し返せれば、話は別だろう。
 沖一也は道程で仮面ライダースーパー1へと変身し、冴島邸から出ていった。

「あの……もしかして、私の死体見ました?」

 次々と人がいなくなったので、マミは怯える暁に、どこか頼りなく話しかけた。





147White page(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:37:49 ID:KyLliesc0



「無名の魔戒騎士……!」

 暗黒騎士キバは、今この時、冴島邸から出てきた一人の男を見て、そう言った。
 どうやら、鎧も覚えているらしい。
 この男は、涼邑零。銀牙騎士ゼロの鎧を召喚していた男、だと。
 今では実力も黄金騎士ガロと並ぶようだが、結局のところ、キバにとってはガロ以外全て同じであった。銀牙騎士という称号を持つ魔戒騎士は、あまり名のある系譜ではない。名もなき騎士たちは結局、有象無象に過ぎないのである。

 それから、順に現れる三人。
 一人はレイジングハート。バラゴが利用していた相手。
 それから、仮面ライダーの一人に、名も知らぬ怪物である──但し、ホラーではないようだ。
 いずれも、戦意を抱いてこちらを睨んでいた。

「杏子ちゃん、それに二人も。先に中へ。……こいつは俺が片づける」

 その言葉は、杏子以外のプリキュア二名にも囁かれているようだった。
 結局、戦闘らしい戦闘は杏子が任され、残る二名は後衛といっても、隙を見つける事ができず、構えているだけだった。
 いずれにせよ、零は思っている。
 可愛い女の子が相手をするような器ではない、と────。
 かつて零の恋人の命を奪ったその太刀を、零は忘れない。あの時の悲劇を忘れぬ為にも、零は彼女たちを先に逃がしたいと思った。

「とにかく、行け」
「でも……」

 戦力は多い方がいいはずだ。
 そう考える杏子を他所に、零は杏子ではなく、目の前のキバに向けて語り掛けた。

「お前の一番の獲物は俺……だろ? 他の奴らを喰らいたいなら、俺を殺した後に隙にすればいい」
「……」
「だって俺、お前なんかにやられないし」

 双剣を構えた零が前に出るのと、暗黒騎士キバが前に出るのはほぼ同時であった。
 零が一瞬で、銀牙騎士ゼロの鎧を装着する。

「──俺には、守りし者の使命ってやつがあるからな!」

 そう言いきった時には、ゼロはキバに肉薄していた。剣と剣が至近距離でぶつかり合う。
 杏子たちがそこに付け入る隙はなさそうだった。
 ゼロは何とか、猛牛のようにキバの体を押していこうとする。この冴島邸を守る為であった。
 一センチでも遠くへと、この怪物をここから突き放し、そして倒すのが零たち魔戒騎士の使命である。

「……なんだかわからねえが、とにかく中にもみんないるんだな!?」
「ああ」

 翔太郎や暁など、ここにいない人間がいる事に気づいて言った。
 それならば、そちらに協力するのも一向だ。
 杏子たちは、ともかくこの場を任せて、建物の方に走り出した。

──DUMMY──

 それとほぼ同時に、ダミーメモリを使用し、レイジングハートは黄金の騎士の姿へと変身していた。敢えてこの姿を選んだのには大した
 それはまさしく、黄金騎士ガロの複製。緑の瞳は、冴島鋼牙が召喚した物を規範にしている事を示していた。

『おいおい……こいつは驚いたな……。だが、どうせなら俺も連れていってくれ』
「はい!」

 スーパー1の手からザルバを受け取り、ガロが駆ける。
 この黄金騎士には制限時間が存在しない。ダミーメモリの力により、半永久的に戦い続ける事ができる。

「零……私も協力します!」

 この期に及んで、このキバに協力する気はなかった。ザルバの言う通り、この鎧が怨霊の塊であるなら、レイジングハートもともにこの怪物を消し去って見せよう。
 スーパー1、ドウコクも、すぐに後衛としてそこに進んでいった。
 こちらも、それなりの戦闘が行われるようであった。

148White page(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:38:35 ID:KyLliesc0



【2日目 昼】
【E−5 冴島邸前】

【涼邑零@牙狼─GARO─】
[状態]:疲労(小)、首輪解除、鋼牙の死に動揺
[装備]:魔戒剣、魔導火のライター
[道具]:シルヴァの残骸、支給品一式×2(零、結城)、スーパーヒーローセット(ヒーローマニュアル、30話での暁の服装セット)@超光戦士シャンゼリオン、薄皮太夫の三味線@侍戦隊シンケンジャー、速水の首輪、調達した工具(解除には使えそうもありません) 、スタンスが纏められた名簿(おそらく翔太郎のもの)
[思考]
基本:加頭を倒して殺し合いを止め、元の世界に戻りシルヴァを復元する。
0:暗黒騎士キバを倒す。
1:殺し合いに乗っている者は倒し、そうじゃない者は保護する。
2:会場内にあるだろう、ホラーに関係する何かを見つけ出す。
3:また、特殊能力を持たない民間人がソウルメタルを持てるか確認したい。
[備考]
※参戦時期は一期十八話、三神官より鋼牙が仇であると教えられた直後になります。
※シルヴァが没収されたことから、ホラーに関係する何かが会場内にはあり、加頭はそれを隠したいのではないかと推察しています。
実際にそうなのかどうかは、現時点では不明です。
※NEVER、仮面ライダーの情報を得ました。また、それによって時間軸、世界観の違いに気づいています。
仮面ライダーに関しては、結城からさらに詳しく説明を受けました。
※首輪には確実に異世界の技術が使われている・首輪からは盗聴が行われていると判断しています。
※首輪を解除した場合、(常人が)ソウルメタルが操れないなどのデメリットが生じると思っています。→だんだん真偽が曖昧に。
また、結城がソウルメタルを操れた理由はもしかすれば彼自身の精神力が強いからとも考えています。
※実際は、ソウルメタルは誰でも持つことができるように制限されています。
ただし、重量自体は通常の剣より重く、魔戒騎士や強靭な精神の持主でなければ、扱い辛いものになります。
※時空魔法陣の管理権限の準対象者となりました(結城の死亡時に管理ができます)。
※首輪は解除されました。
※バラゴは鋼牙が倒したのだと考えています。
※第三回放送の制限解除により、魔導馬の召喚が可能になりました。
※魔戒騎士の鎧は、通常の場所では99.9秒しか召喚できませんが、三途の池や魔女の結界内では永続使用も問題ありません。
※魔女の真実を知りました。

【レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:疲労(大)、魔力消費(大)、娘溺泉の力で人間化、ダミーメモリで黄金騎士ガロに変身中
[装備]:T2ダミーメモリ@仮面ライダーW、稲妻電光剣@仮面ライダーSPIRITS、魔導輪ザルバ@牙狼
[道具]:支給品一式×6(ゆり、源太、ヴィヴィオ、乱馬、いつき(食料と水を少し消費)、アインハルト(食料と水を少し消費))、ほむらの制服の袖、マッハキャリバー(待機状態・破損有(使用可能な程度))@魔法少女リリカルなのはシリーズ、リボルバーナックル(両手・収納中)@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ゆりのランダムアイテム0〜2個、乱馬のランダムアイテム0〜2個、山千拳の秘伝書@らんま1/2、水とお湯の入ったポット1つずつ、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ガイアメモリに関するポスター×3、『太陽』のタロットカード、大道克己のナイフ@仮面ライダーW、春眠香の説明書、ガイアメモリに関するポスター 、バラゴのペンダント、ボチャードピストル(0/8)、顔を変容させる秘薬、ファックスで届いたゴハットのシナリオ原稿(ぐちゃぐちゃに丸められています)
[思考]
基本:悪を倒す。
0:暗黒騎士キバを倒す。
1:零とは今後も協力する。
2:ケーキが食べたい。
[備考]
※娘溺泉の力で女性の姿に変身しました。お湯をかけると元のデバイスの形に戻ります。
※ダミーメモリによって、レイジングハート自身が既知の人物や物体に変身し、能力を使用する事ができます。ただし、レイジングハート自身が知らない技は使用する事ができません。
※ダミーメモリの力で攻撃や防御を除く特殊能力が使えるは不明です(ユーノの回復等)。
※鋼牙と零に対する誤解は解けました。

149White page(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:40:28 ID:KyLliesc0

【沖一也@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、強い決意、首輪解除、仮面ライダースーパー1に変身中
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0〜2、ガイアメモリに関するポスター、お菓子・薬・飲み物少々、D-BOY FILE@宇宙の騎士テッカマンブレード、杏子の書置き(握りつぶされてます) 、祈里の首輪の残骸
[思考]
基本:殺し合いを防ぎ、加頭を倒す
0:暗黒騎士キバを倒す
1:ドウコクに映像を何とか誤魔化す。というか、ドウコクの対処をする。
2:本郷猛の遺志を継いで、仮面ライダーとして人類を護る。
3:仮面ライダーZXか…。
[備考]
※参戦時期は第1部最終話(3巻終了後)終了直後です。
※一文字からBADANや村雨についての説明を簡単に聞きました
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました
※18時に市街地で一文字と合流する話になっています。
※ノーザが死んだ理由は本郷猛と相打ちになったかアクマロが裏切ったか、そのどちらかの可能性を推測しています。
※第二回放送のニードルのなぞなぞを解きました。そのため、警察署が危険であることを理解しています。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※ダークプリキュアは仮面ライダーエターナルと会っていると思っています。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限はレーダーハンドの使用と、パワーハンドの威力向上です。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。←おそらく解決しました。

【血祭ドウコク@侍戦隊シンケンジャー】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、苛立ち、凄まじい殺意、胴体に刺し傷
[装備]:昇竜抜山刀@侍戦隊シンケンジャー、降竜蓋世刀@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:大量のコンビニの酒
[思考]
基本:その時の気分で皆殺し
0:仕方がないので一也たちと協力して、目の前の敵を倒し、主催者を殺す。 もし11時までに動きがなければ一也を殺して参加者を10人まで減らす。
1:マンプクや加頭を殺す。
2:杏子や翔太郎なども後で殺す。ただし、マンプクたちを倒してから(11時までに問題が解決していなければ別)。
3:嘆きの海(忘却の海レーテ)に対する疑問。
[備考]
※第四十八幕以降からの参戦です。よって、水切れを起こしません。
※第三回放送後の制限解放によって、アクマロと自身の二の目の解放について聞きました。ただし、死ぬ気はないので特に気にしていません。

【暗黒騎士キバの鎧@牙狼】
[状態]:健康
[装備]:黒炎剣
[道具]:なし
[思考]
基本:銀牙騎士を殺す。


【備考】
※近くにリクシンキ@超光戦士シャンゼリオンが放置されていますが、暁が推理に夢中なので超光騎士として起動されず、使われていません。





150White page(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:40:51 ID:KyLliesc0



 杏子、ラブ、美希は、冴島邸の内部へと急ぎ、廊下を賭けて、やがて一つの部屋に辿り着いた。
 そこには、孤門やマミのほか、既に翔太郎、暁、石堀まで揃っている。
 この時、石堀がにやりと笑ったのを、誰も気づいてはいなかった。
 彼らの視線は、一人の男性と一人の女性に向けられていたのだから。

「────杏子」
「────兄ちゃん」

 最悪の別れをした二人が、いま再び、それぞれの試練を乗り越えて、あいまみえたのである。
 その瞬間、外で行われている戦いの事さえ、二人は忘れた。
 何となくの気まずさと嬉しさを感じながら、次に何を言おうかと考え、そして、二人は口を開いた。




【2日目 昼】
【E−5 冴島邸】

【涼村暁@超光戦士シャンゼリオン】
[状態]:疲労(小)、胸部に強いダメージ(応急処置済)、ダグバの死体が軽くトラウマ、脇腹に傷(応急処置済)、左頬に痛み、首輪解除
[装備]:シャンバイザー@超光戦士シャンゼリオン、モロトフ火炎手榴弾×3、恐竜ディスク@侍戦隊シンケンジャー、パワーストーン@超光戦士シャンゼリオン、呼べば来る便利な超光騎士(リクシンキ@超光戦士シャンゼリオン、クウレツキ@超光戦士シャンゼリオン、ホウジンキ@超光戦士シャンゼリオン)
[道具]:支給品一式×8(暁(ペットボトル一本消費)、一文字(食料一食分消費)、ミユキ、ダグバ、ほむら、祈里(食料と水はほむらの方に)、霧彦、黒岩)、首輪(ほむら)、姫矢の戦場写真@ウルトラマンネクサス、タカラガイの貝殻@ウルトラマンネクサス、スタンガン、ブレイクされたスカルメモリ、混ぜると危険な洗剤@魔法少女まどか☆マギカ、一条薫のライフル銃(10/10)@仮面ライダークウガ、のろいうさぎ@魔法少女リリカルなのはシリーズ、コブラージャのブロマイド×30@ハートキャッチプリキュア!、スーパーヒーローマニュアルⅡ、グロンギのトランプ@仮面ライダークウガ、ゴバットカード
[思考]
基本:加頭たちをブッ潰し、加頭たちの資金を奪ってパラダイス♪
0:暗号解こう。
1:石堀を警戒。石堀からラブを守る。表向きは信じているフリをする。
2:可愛い女の子を見つけたらまずはナンパ。
3:変なオタクヤロー(ゴハット)はいつかぶちのめす。
[備考]
※第2話「ノーテンキラキラ」途中(橘朱美と喧嘩になる前)からの参戦です。
つまりまだ黒岩省吾とは面識がありません(リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキのことも知らない)。
※ほむら経由で魔法少女の事についてある程度聞きました。知り合いの名前は聞いていませんでしたが、凪(さやか情報)及び黒岩(マミ情報)との情報交換したことで概ね把握しました。その為、ほむらが助けたかったのがまどかだという事を把握しています。
※黒岩とは未来で出会う可能性があると石堀より聞きました。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。
※森林でのガドルの放送を聞きました。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限は『スーパーヒーローマニュアル?』の入手です。
※リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキとクリスタルステーションの事を知りました。
※結城丈二が一人でガドルに挑んだことを知りました。
※ゴハットがヴィヴィオを元の世界に返した事は知りましたが、口止めされているので死んだ事にしています。

151White page(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:41:05 ID:KyLliesc0

【左翔太郎@仮面ライダーW】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大)、胸骨を骨折(身体を折り曲げると痛みます・応急処置済)、上半身に無数の痣(応急処置済)、照井と霧彦の死に対する悲しみと怒り、首輪解除、フィリップの死に対する放心状態と精神的ダメージ、切断された右腕に結城のアタッチメント移植
[装備]:カセットアーム&カセットアーム用アタッチメント六本+予備アタッチメント(パワーアーム、マシンガンアーム+硬化ムース弾、ロープアーム、オペレーションアーム、ドリルアーム、ネットアーム/カマアーム、スウィングアーム、オクトパスアーム、チェーンアーム、スモークアーム、カッターアーム、コントロールアーム、ファイヤーアーム、フリーザー・ショット・アーム) 、ロストドライバー@仮面ライダーW、ダブルドライバー(破壊)@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(サイクロン、アイスエイジ、支給品外ファング)@仮面ライダーW、犬捕獲用の拳銃@超光戦士シャンゼリオン、散華斑痕刀@侍戦隊シンケンジャー、スモークグレネード@現実×2、トライアクセラー@仮面ライダークウガ、京水のムチ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式×11(翔太郎、スバル、ティアナ、井坂(食料残2/3)、アクマロ、流ノ介、なのは、本郷、まどか、鋼牙、)、ガイアメモリ(ジョーカー、メタル、トリガー、サイクロン、ルナ、ヒート)、ナスカメモリ(レベル3まで進化、使用自体は可能(但し必ずしも3に到達するわけではない))@仮面ライダーW、ガイアドライバー(フィルター機能破損、使用には問題なし) 、少々のお菓子、デンデンセンサー@仮面ライダーW、支給品外T2ガイアメモリ(ロケット、ユニコーン、アクセル、クイーン)、ふうとくんキーホルダー@仮面ライダーW、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW、須藤兄妹の絵@仮面ライダーW、霧彦の書置き、スタッグフォン+スタッグメモリ(通信機能回復)@仮面ライダーW、スパイダーショック+スパイダーメモリ@仮面ライダーW、まねきねこ@侍戦隊シンケンジャー、evil tail@仮面ライダーW、エクストリームメモリ(破壊)@仮面ライダーW、ファングメモリ(破壊)@仮面ライダーW、首輪のパーツ(カバーや制限装置、各コードなど(パンスト、三影、冴子、結城、零、翔太郎、フィリップ、つぼみ、良牙、鋼牙、孤門、美希、ヴィヴィオ、杏子、姫矢))、首輪の構造を描いたA4用紙数枚(一部の結城の考察が書いてあるかもしれません)、東せつなのタロットカード(「正義」、「塔」、「太陽」、「月」、「皇帝」、「審判」を除く)@フレッシュプリキュア!、ルビスの魔剣@牙狼、鷹麟の矢@牙狼、ランダム支給品1〜4(鋼牙1〜3、村雨0〜1)、翔太郎の右腕
[思考]
基本:俺は仮面ライダーだ。
0:暗号を解く。
1:杏子に謝る。
[備考]
※参戦時期はTV本編終了後です。
※他世界の情報についてある程度知りました。
(何をどの程度知ったかは後続の書き手さんに任せます)
※魔法少女の真実(魔女化)を知りました。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限はフィリップ、ファングメモリ、エクストリームメモリの解放です。これによりファングジョーカー、サイクロンジョーカーエクストリームへの変身が可能となりました。
※ダブルドライバーが破壊されました。また、フィリップが死亡したため、仮にダブルドライバーが修復されても変身はできません。
※仮面ライダージョーカーとして変身した際、右腕でライダーマンのアタッチメントが使えます。

152White page(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:41:20 ID:KyLliesc0

【石堀光彦@ウルトラマンネクサス】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、首輪解除
[装備]:Kar98k(korrosion弾7/8)@仮面ライダーSPIRITS、アクセルドライバー+ガイアメモリ(アクセル、トライアル)+ガイアメモリ強化アダプター@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW 、コルトパイソン+執行実包(6/6)
[道具]:支給品一式×6(石堀、ガドル、ユーノ、凪、照井、フェイト)、メモレイサー@ウルトラマンネクサス、110のシャンプー@らんま1/2、ガイアメモリ説明書、.357マグナム弾(執行実包×10、神経断裂弾@仮面ライダークウガ×2)、テッククリスタル(レイピア)@宇宙の騎士テッカマンブレード、イングラムM10@現実?、火炎杖@らんま1/2、血のついた毛布、反転宝珠@らんま1/2、キュアブロッサムとキュアマリンのコスプレ衣装@ハートキャッチプリキュア!、スタンガン、『風都 仕置人疾る』@仮面ライダーW、蛮刀毒泡沫@侍戦隊シンケンジャー、暁が図書室からかっぱらってきた本、スシチェンジャー@侍戦隊シンケンジャー
[思考]
基本:今は「石堀光彦」として行動する。
0:蒼乃美希……。
1:「あいつ(蒼乃美希)」を見つけた。そして、共にレーテに向かい、光を奪う。
2:周囲を利用し、加頭を倒し元の世界に戻る。
3:都合の悪い記憶はメモレイサーで消去する
4:加頭の「願いを叶える」という言葉が信用できるとわかった場合は……。
5:クローバーボックスに警戒。
[備考]
※参戦時期は姫矢編の後半ごろ。
※今の彼にダークザギへの変身能力があるかは不明です(原作ではネクサスの光を変換する必要があります)。
※ハトプリ勢、およびフレプリ勢についてプリキュア関連の秘密も含めて聞きました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※つぼみからプリキュア、砂漠の使徒、サラマンダー男爵について聞きました。
※殺し合いの技術提供にTLTが関わっている可能性を考えています。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。
※森林でのガドルの放送を聞きました。
※TLTが何者かに乗っ取られてしまった可能性を考えています。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。予知能力の使用が可能です。
※予知能力は、一度使うたびに二時間使用できなくなります。また、主催に著しく不利益な予知は使用できません。
※予知能力で、デュナミストが「蒼乃美希」の手に渡る事を知りました。
※結城丈二が一人でガドルに挑んだことを知りました。

【孤門一輝@ウルトラマンネクサス】
[状態]:ダメージ(大)、ナイトレイダーの制服を着用、精神的疲労、「ガイアセイバーズ」リーダー、首輪解除
[装備]:ディバイトランチャー@ウルトラマンネクサス
[道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0〜2(戦闘に使えるものがない)、リコちゃん人形@仮面ライダーW、ガイアメモリに関するポスター×3、ガンバルクイナ君@ウルトラマンネクサス、ショドウフォン(レッド)@侍戦隊シンケンジャー
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
1:みんなを何としてでも保護し、この島から脱出する。
2:ガイアセイバーズのリーダーとしての責任を果たす。
[備考]
※溝呂木が死亡した後からの参戦です(石堀の正体がダークザギであることは知りません)。
※パラレルワールドの存在を聞いたことで、溝呂木がまだダークメフィストであった頃の世界から来ていると推測しています。
※警察署の屋上で魔法陣、トレーニングルームでパワードスーツ(ソルテッカマン2号機)を発見しました。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※魔法少女の真実について教えられました。

153White page(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:41:38 ID:KyLliesc0

【桃園ラブ@フレッシュプリキュア!】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、左肩に痛み、精神的疲労(小)、決意、眠気、首輪解除
[装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式×2(食料少消費)、カオルちゃん特製のドーナツ(少し減っている)@フレッシュプリキュア!、毛布×1@現実、ペットボトルに入った紅茶@現実、巴マミの首輪、工具箱、黒い炎と黄金の風@牙狼─GARO─、クローバーボックス@フレッシュプリキュア!、暁からのラブレター
基本:誰も犠牲にしたりしない、みんなの幸せを守る。
1:みんなの明日を守るために戦う。
2:犠牲にされた人達のぶんまで生きる。
3:どうして、サラマンダー男爵が……?
4:後で暁さんから事情を聞いてみる。
[備考]
※本編終了後からの参戦です。
※花咲つぼみ、来海えりか、明堂院いつき、月影ゆりの存在を知っています。
※クモジャキーとダークプリキュアに関しては詳しい所までは知りません。
※加頭順の背後にフュージョン、ボトム、ブラックホールのような存在がいると考えています。
※放送で現れたサラマンダー男爵は偽者だと考えています。
※第三回放送で指定された制限はなかった模様です。
※暁からのラブレターを読んだことで、石堀に対して疑心を抱いています。
※結城丈二が一人でガドルに挑んだことを知りました。
※魔法少女の真実について教えられました。

【蒼乃美希@フレッシュプリキュア!】
[状態]:ダメージ(中)、祈里やせつなの死に怒り 、精神的疲労、首輪解除、ネクサスの光継承
[装備]:リンクルン(ベリー)@フレッシュプリキュア!、エボルトラスター@ウルトラマンネクサス、ブラストショット@ウルトラマンネクサス
[道具]:支給品一式((食料と水を少し消費+ペットボトル一本消費)、シンヤのマイクロレコーダー@宇宙の騎士テッカマンブレード、双ディスク@侍戦隊シンケンジャー、ガイアメモリに関するポスター、杏子からの500円硬貨
[思考]
基本:こんな馬鹿げた戦いに乗るつもりはない。
1:ガイアセイバーズ全員での殺し合いからの脱出。
[備考]
※プリキュアオールスターズDX3冒頭で、ファッションショーを見ているシーンからの参戦です。
※その為、ブラックホールに関する出来事は知りませんが、いつきから聞きました。
※放送を聞いたときに戦闘したため、第二回放送をおぼろげにしか聞いていません。
※聞き逃した第二回放送についてや、乱馬関連の出来事を知りました。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。

154White page(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:41:52 ID:KyLliesc0

【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、ソウルジェムの濁り(中)、腹部・胸部に赤い斬り痕(出血などはしていません)、ユーノとフェイトを見捨てた事に対して複雑な感情、せつなの死への悲しみ、ドウコクへの怒り、真実を知ったことによるショック(大分解消) 、首輪解除、睡眠?
[装備]:ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品一式×3(杏子、せつな、姫矢)、リンクルン(パッション)@フレッシュプリキュア!、乱馬の左腕、ランダム支給品0〜1(せつな) 、美希からのシュークリーム、バルディッシュ(待機状態、破損中)@魔法少女リリカルなのは
[思考]
基本:姫矢の力を継ぎ、魔女になる瞬間まで翔太郎とともに人の助けになる。
1:翔太郎達と協力する。
2:フィリップ…。
3:翔太郎への僅かな怒り。
[備考]
※参戦時期は6話終了後です。
※首輪は首にではなくソウルジェムに巻かれています。
※左翔太郎、フェイト・テスタロッサ、ユーノ・スクライアの姿を、かつての自分自身と被らせています。
※殺し合いの裏にキュゥべえがいる可能性を考えています。
※アカルンに認められました。プリキュアへの変身はできるかわかりませんが、少なくとも瞬間移動は使えるようです。
※瞬間移動は、1人の限界が1キロ以内です。2人だとその半分、3人だと1/3…と減少します(参加者以外は数に入りません)。短距離での連続移動は問題ありませんが、長距離での連続移動はだんだん距離が短くなります。
※彼女のジュネッスは、パッションレッドのジュネッスです。技はほぼ姫矢のジュネッスと変わらず、ジュネッスキックを応用した一人ジョーカーエクストリームなどを自力で学習しています。
※第三回放送指定のボーナスにより、魔女化の真実について知りました。

【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:身体的には健康、キルンの力で精神と肉体を結合
[装備]:なし
[道具]:リンクルン(パイン)@フレッシュプリキュア!
[思考]
基本:ゲームの終了を見守る
[備考]
※参戦時期は3話の死亡直前です。
※魔女化から救済されましたが、肉体と精神の融合はソウルジェムではなくリンクルンによって行われています。リンクルンが破壊されると危険です。

【外道シンケンレッド@天装戦隊ゴセイジャーVSシンケンジャー エピックon銀幕】
[状態]:健康
[装備]:烈火大斬刀@侍戦隊シンケンジャー、モウギュウバズーカ@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:なし
[思考]
基本:外道衆の総大将である血祭ドウコクに従う。
1:彼らの監視。
[備考]
※外見は「ゴセイジャーVSシンケンジャー」に出てくる物とほぼ同じです。
※これは丈瑠自身というわけではありませんが、はぐれ外道衆なので、二の目はありません。

155 ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:42:31 ID:KyLliesc0
以上で投下終了します。
矛盾とか、なんか抜け落ちてる情報とかあったらお願いします。

156名無しさん:2014/08/22(金) 22:01:27 ID:2BF9ZdgU0
投下乙です。
さやかはやり直せると思ったけど、まさかこんな無常な結末を迎えてしまうとは……それでも、つぼみを守れたのは救いでしたね。
あかねとの戦い、そして暗黒騎士キバとの戦いに突入する中、ザギさんは何かよからぬことをやらかしそうな予感します。
真実を知る暁とラブには頑張って欲しいですね!

157名無しさん:2014/08/23(土) 07:19:00 ID:KKvodhdA0
投下乙です
あかねがここまで堕ちてしまうとは…良牙も決別を決めちゃったしもう救いは無いのか
ってか地味に美希がピンチだな

158名無しさん:2014/08/23(土) 11:17:55 ID:FJXekyS.0
投下乙
次回が絶望しかない…!

159名無しさん:2014/08/23(土) 18:13:59 ID:qoWZWJl2O
投下乙です。

>桃園ラブと花咲つぼみなら、花咲つぼみ。
>巴マミと暁美ほむらなら、暁美ほむら。
>島の中で彼女たちの胸に飛び込みなさい
無い方、って事か?
雀のお宿の葛篭みたい。

160名無しさん:2014/08/23(土) 18:42:58 ID:mi7idS460
投下乙です

あかねはなあ…
コメディ漫画のキャラが…でもこれがパロロワだ
そしてザギさんがとうとうやらかすのか?

161名無しさん:2014/08/24(日) 00:40:15 ID:tiPzXlgI0
投下乙です。
徐々に集結する中、暗黒騎士戦とザギの問題、バットショットが見た衝撃映像、迫るタイムリミット、暗号に挑む探偵(と書いてバカと読む)2人の一方、
遂にエターナルvs黒クウガという夢のバトルが……というには余りにも悲しすぎる戦いが……いやぁまさかラストマーダーになってそれに相応しいラスボスクラスになるとは思わなかったわ。
一応黒クウガはダグバクラスのチート(しかも獅子咆哮弾を普通に使う辺り恐らくらんま世界の必殺技は素で使用可能)……これにたった2人だけで対処出来るのだろうか……
小説版の状況だったらともかく、今回はそもそも踏みとどまる意志すらないからなぁ……実際、まどマギ系の魔女と違い本人の意志自体もはや皆殺しするつもりなのが……
良牙も遂に覚悟完了した以上、この悲しい結末を変えられるとしたら……つぼみが何とか出来るのか……?
で、前回救われたと思ったらあっさり退場したさやかだったけど……よくよく考えて見たら、書き手氏の当初の予定では先の投下分の段階で今回分(あるいは次回分辺りまで)の内容も投下されている筈だったから……
実は救われたけど(wiki上では別話扱いになるだろうけど)、同一投下内で退場される筈だったんだよなぁ。短い夢だった……

162名無しさん:2014/08/26(火) 02:26:50 ID:XxqWTda20
ネタバレ参加者名簿にて、巴マミの表記を生存にし(ただし死亡話へのジャンプは可能な状態)、アクマロとさやかの2度目の死亡話へのジャンプページを作りました

164 ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:25:12 ID:4VrrmyR20
二回くらい予約破棄しちゃって申し訳ないパートですが、今回ようやく書き終えたので投下します。

165らんまの心臓(前編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:30:07 ID:4VrrmyR20



 響良牙と天道あかねのファーストコンタクトは最悪であった。

 あれは良牙が早乙女乱馬を追って、風林館高校に乗りこんだ時の話である。
 この時の戦いは、今思い返してみれば、子供の喧嘩という次元の物だ。あの時の乱馬程度ならば小指で倒せるほど、良牙の腕は上達している。逆もまた然りだ。乱馬が生きていたならば、あの頃の良牙を触れもせずに倒せたかもしれない。
 とにかく、それでも当時はいっぱしの格闘家のつもりで戦い、校庭にあるあらゆる物を破壊しながら戦った。全ては、自分の体が子豚に変じた恨みから──。

 しかし、ある悲劇が起こるとともに、良牙にとってあかねの存在は忘れられぬ物になったのだった。
 乱馬との戦いの中で、良牙の攻撃が一人の女生徒の髪に触れ、ロングヘアの似合うその少女は髪の半分以上をばっさりと切り落とす事になってしまった。自分の髪がはらりと落ちていく現実に呆然としながら、怒りに任せて良牙を殴ったあの少女こそ、天道あかねであった。
 あの時の事は、あかねはもう忘れたかもしれない。──水に流し、むしろ吹っ切れたと思って、あの時の事を良い思い出にしているのは、良牙も知らぬ話である。

 良牙に、悪意はなかった。その美しい黒髪が地に落とされ、周囲の女子生徒に責められた時、良牙の胸はただ強い後悔でいっぱいだったのだ。一秒前の事を戻したい、とついベタな事を考えたり、どう謝ればいいのかわからずに見せかけの潔さで殴られたりもした。
 乱馬への憎悪が周囲を巻き込んだ行為に及んでしまった結果が、あかねの斬髪だ。──良牙も流石にこれを悔み、今日までずっと後悔し続けていたのだった。
 そして、生涯忘れられない最悪の出会いとして記憶に残った。

 その時はまだ、あかねの事を乱馬の友人、あるいは彼の恋人としか認識していなかったが、やがて交流を繰り返す中で、良牙にとってのその少女の意味は確かに変わっていく。
 醜い豚になって彷徨っていた自分を最初に愛しく抱きしめた博愛を、良牙は決して忘れない。あれから、何度となく天道あかねという少女のやさしさと笑顔が良牙の心を満たしただろう。
 これまで迷いと憎しみと孤独と戦いにだけ生きた、空っぽの男の初恋であった。

 あの時生まれた初々しい恋は今も冷めてはいない。
 しかし──。

 彼女は、誰かを強く愛していた。愛しすぎていたといってもいい。そして、そんな彼女の想いは、形を変えた。
 一人の男の命を守るために、その男の誇りを穢し、愛さない誰かを殺した。やがて自分の意思さえも奪われるほどに力を欲し、いつの間にか目的さえもわからない存在に侵されてしまった。
 今、そんなあかねが目の前にいる。
 良牙はそれを「天道あかね」とは思わなかった。



(────おれが好きだったのは、あのやさしいあなたなんだ)



 先ほど、前を向いて罪を償おうとした少女の命があかねによって奪われるのを、良牙は目の当りにしたのだ。そのさやかという少女が罪を悔い改め、生きていくのなら、あかねもまた同じように生きていける──そう思っていた。

 だが、良牙が目撃したあかねは、あかねでありながら、あかねではなかったのだ。
 そこにあかねの原型はなかった。言うならば、悪の力に侵された怪物だった。
 五代雄介や一条薫が変身した「クウガ」にも似ているが、その能力が完全に暴走し、自我を奪われた姿であった。あのガドルたちと同じく、破壊と殺傷の衝動が脳にまで達した獣と言ってもいいかもしれない。
 そんなあかねを前に、良牙は個人的な不快感を覚えた。

 この場で誰かの命が奪われるのを良牙は何度も見てきたが、その時、常に良牙は「殺す側」への憎しみを抱いてきた。
 良牙は別に立派な正義感を持った人間ではなかったし、力が強いながらそれを何の為にも使おうとせず、自由に生きるだけの気ままな精神の男だったが、人の命を奪う行為が許せないのは、社会で生きてきて誰も抱く良心だった。
 その、日常の中で最も遠いはずの行為を、日常を共にしてきた少女の体で「誰か」──あるいは「何か」──が行った不快感。

166らんまの心臓(前編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:30:40 ID:4VrrmyR20

 戦うしかない。
 いや、倒すしかない。

 目の前の獣は、決して万全ではなく、一方で良牙は万全な状態である。
 敵は一見すると鋭い瞳でこちらを見ていた。
 しかしそれは、獰猛な牙を剥き出してこちらを威嚇している、手負いの獣だった。
 これを撃退するのは、戦いではない。
 良牙が元来、最も嫌った「弱い者いじめ」という行為であった。
 しかし、良牙はこの時、初めてその最低な行為をやろうとしていた。

「獅子、咆哮弾ッッッッ!!!!!!!」

 二つの獅子咆哮弾が衝突するのは、その直後の事であった。
 仮面ライダーエターナル。
 悪魔を前に人の心を喪った戦士の姿を借りて戦うのが、今ほど似合う時もない。

 それは、人間を悪魔と決めつけ、無情な死の兵士と変わった時の仮面ライダーエターナルに、少しだけ良牙が近づいているようにも見えた。







 激しく、心が動いた。
 本能的に記憶から引き出されたのは、「獅子咆哮弾」という技。
 それをどこかで見た。
 しかし、天道あかねは思い出せなかった。
 内在する意思と本能が目の前の白い死神に向けて、強く反応する。

 ──目の前の敵を倒してはいけない。
 ──倒せ。
 ──殺してはいけない。
 ──殺せ。
 ──駄目。
 ──戦え。

 そのシグナルが点滅しているが、アークルのベルトの力に飲み込まれたあかねの意思はまたすぐに消え去った。ベルトの仕業か、あかね自身の膨らんだ憎悪かはわからないが、そのどす黒い意思は、戦いのときだけ素体の記憶を閲覧し、「対処」を実行する。
 今の獅子咆哮弾という技についても、素体に見覚えがある事をいち早く判断し、そこから引き出した情報で対処を決めたのだろう。同様の技を使う事ができると判断すると、迷う事なく「獅子咆哮弾」を放っただけだった。
 その一瞬にだけ微かに引き戻されるあかねの自意識は、自分の記憶の中からも引きだせないような小さな反抗を繰り返していた。
 しかし、その僅かな意思を狂気が捻じ伏せる。

「……ッ」

 プロトクウガの手は、手近な木を見つけて、そこに腕を突き刺す。指先だけで穴を開けると、そこに掌を捻じ込んだのだ。

 何をするのかと思えば、そこに物質変換能力を発動したのである。
 一本の木は、その行為によって巨大な「破壊の樹」となった。ライジングドラゴンロッドが十メートル余の巨大武器になったような形状の物体である。
 重量も数トンにまで達したであろうそれを、エターナルに向けて押し倒すようにして振り下ろす。自らの上に影を作るそれが落ちてくるのは、受け手側にとっても、まるで巨塔が倒れてくるような圧迫感だっただろう。
 べりっ、ばきっ、ぐしゃ。
 自分の身を守るはずであった頭上の樹冠も、まるですり抜けるように落ちていく──エターナルは驚いただろう。先端はよほど鋭い刃に変形していたらしい。
 「破壊の樹」がエターナルの頭上に迫り、残すところ一メートルまで接近した。

「くっ……!」

──Zone Maximum Drive!!──

 即座にゾーンメモリをマキシマムスロットへと装填したエターナルは、すぐにその場から姿を消す。振り下ろされた「破壊の樹」は不発に終わる。
 クウガは腰のあたりまで「破壊の樹」をおろし、そのまま数秒、状況を判断した。
 回避される程度ならまだ予測できる範囲内だったようで、次の行動に移る。

167らんまの心臓(前編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:31:18 ID:4VrrmyR20
 プロトクウガがその場に「破壊の樹」を持ったまま、反時計周りに回転したのだ。彼女の体を軸に、「破壊の樹」が円を描いた。周囲の木々は、音を立ててなぎ倒されていく。それによって倒れた木がまた円の外を押し潰し、円の半径の外まで破壊する。
 轟音。
 時に爆ぜるようにして木が破壊される。プロトクウガはエターナルの逃げ場を潰した。

「……」

 あっという間に、半径十メートルから二十メートルほどが、音を立てて全壊した。
 対象は一人だが、エターナルが姿を消したであろう範囲内は軒並み叩き潰されていった。ごく小さな対象を狙うにも、周囲全体を破壊するほどに、その衝動は止む事を知らない。
 彼の周囲にいたあの中学生ほどの女性──花咲つぼみ──も巻き添えだろうか。

 いずれにせよ、半径十メートルは確実に潰したし、敵はどこへも逃げられないだろう。
 少なくとも、周囲を崩した程度でエターナルが死ぬはずはない。──感覚を研ぎ澄まし、周囲を察知する能力は長けているが、今はわざわざそれを使うまでもなかった。
 相手が来ない内は、アークルが発揮できる能力は全て自己再生に回す。
 回復を行うと共に、軽く周囲を見回す。

「……ッ」

 そうして一瞬で周囲の物体を破壊せしめたプロトクウガは、まず自分の疲労感を拭うべく、荒い息を整えた。
 無為に息を吸ったり吐いたりするほど疲労困憊というわけではないので、ともかくは一定の速度でアークルの回復が及んでいるのだ。戦闘さえしなければもう少し回復が望める。
 敵の力量に対し、こちらの体力は思った以上に低かった。

 「破壊の樹」をまた一度、元の物質に変換し、プロトクウガは周囲を見渡す。
 大分見晴もよくなると同時に、自身の武器の原材料が非常に手に取りやすくなっている。

 エターナルがどこから来ても、臨戦態勢は十分に整っていた。







 ──エターナルが四つん這いになって花咲つぼみを押し倒している。
 ……と、書くと邪推をされる光景であるかもしれないが、決して邪なシチュエーションではなかった。

 エターナルの背中には、倒れかかった大木が圧し掛かっていた。
 ゾーンのメモリが転送したのは、ここにいる少女──花咲つぼみの傍らだったのである。
 幸いにも良牙は、今度こそはゾーンメモリの盤面を間違えなかった。

(ふぅ……こっちも間一髪だったぜ)

 あの巨大な「破壊の樹」という武器が及ぼすであろう被害を良牙は予期した。
 あれだけの長さと横幅で周囲の木々を巻き込まないわけもなく、まだそう遠くへと逃げ出す準備の行き届いていなかったつぼみは危険地帯の最中だ。

 彼が感じた不安は当たっていた。
 つぼみの真上に、丁度見上げる木々の一つがあった。辛うじてエターナルはつぼみの周囲に転送され、彼女を庇う事ができた。
 体制を少し整えるだけの時間はなかったが、それどころではないし、良牙の脳裏にやましいシチュエーションを想起させるだけの余裕はなかった。確かなのは、一人救えた安心感が胸に宿っている事だ。

「────くっ」

 だが。
 今、生者を助ける事ができても、死者は叶わなかった事に気づいた。
 ひとたび安心したはずだったエターナルの両眼は、不愉快な映像を捉えたのだ。
 知っている少女の右腕が、地面に寝転ぶ木の真下から突き出されていた。美樹さやかの遺体が、巨木の幹に潰されているのだろう。
 つぼみの視界からはそれは見えないだろうが、当然ながら見ない方がいい物体だ。
 その不快感は怒りとなったが、それを悟られないように感情を飲み込んだ。

「──つぼみ。怪我はないか?」

 エターナルは一つ、かすれたような小さな声で、外に感づかれないよう、つぼみに問うた。

168らんまの心臓(前編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:31:53 ID:4VrrmyR20
 早くも土埃がつぼみの頬や髪を穢しているのが見えた。クウガの実力が、殆ど五代や一条とはけた違いと言っていい被害を出しているのに、エターナルは焦燥した。
 生身のままだったつぼみに被害がないか、エターナルは今一度確認したかったのだ。
 エターナルはつぼみの全身を覆えたわけではない。つぼみの真上に落ちてくるはずだった大木のひとつを背負っているだけだ。下半身に被害がないか、それは彼の視界では見えない。

「はい。私は、……大丈夫です」

 主語の後に少しだけ嘆息するような間を開けて、彼女は言った。どこか気を使ったように自信なさげな解答である。ある決着への戸惑いもあるようだ。
 良牙も、つぼみとの付き合いが一日だけとはいえ、もう何となくつぼみの言いたい事はすぐにわかった。

 私は、とあくまで自分を指した解答をしたのは、他に三人、つぼみが良牙と同様の質問をしたい相手がいるからに違いない。
 一人は、響良牙。彼自身のポテンシャルの高さからしても木一本落ちてくるくらいは訳もない。それに加えて、エターナルの防御力の高さやエターナルローブによる衝撃吸収で、ほとんどダメージなどゼロ同然である。
 もう一人は、美樹さやか。今、まさに遺体が残酷に消えた事実だけ目の当りにしたばかりで、口にできなかった。
 そして、天道あかねだろう。

「……良かった」

 安心したようには言えず、どこかぶっきらぼうにエターナルは言った。
 良牙の脳内を何か別の事が支配しているからだろう。確かに安心感はあったが、言葉にその感情は乗らなかった。
 つぼみが何か問うのを予め阻止したいようにも見える。さやかとあかねに関する話をしたいとは思わなかった。

「良牙さん、あかねさんは──!」
「やめてくれ」
「でも、良牙さんはあの人を助ける事をずっと──」
「もう考えたくない!」

 考えたくないと言いつつも、良牙の思考はそれ一つに支配されているのが真実だった。
 自分が人間として下せる判断は、殺害が適切か、救済が適切か──。
 その二つの選択肢の内、良牙は前者を選んだ。
 一方で、つぼみが選択し、薦めるのは後者だろう。
 つぼみも、友人をこんなにも残酷に殺した人間に対して、許せない気持ちもある。いや、むしろいくら彼女であれ、そんな憎悪が大部分を占めているはずだ。しかし、それ以上に、良牙がこれから人を殺そうとする事に対する抵抗が、つぼみの語調に感じられた。
 比較的落ち着いているのも、つぼみ自身もそれなりに複雑な心境である証に見えた。

「……でも、まだいくらでも道があると思います。さやかだって、本当なら悔い改めようと……」
「そのさやかを殺したのが、他でもないあかねさんだ」

 当の良牙の言葉には堪えきれない激情が含まれている。
 これは、ごくごく個人的な怒りと憎しみであった。人が人を殺すと決めた時に、最も人間らしい理由かもしれない。
 少なくとも、ある種の正義の為という気持ちではなかった。あかねを野に放って犠牲を出す事を予め阻止する為に殺す──という、大義名分はなく、ただあかねの存在を消したいほどの恨みが自分の中に駆け巡るのを良牙は感じたのだった。

「俺はあかねさんを殺すと決めた」

 可愛さ余って憎さ百倍、とはいうが、純情な良牙にはこれまでその意味もわからなかっただろう。
 しかし、自分があかねを好きだった理由を──そして、自分が思い描いていたあかねの事を思い出した時、それを裏切られた気分になり、その言葉の意味を知った。
 そして、その時、どうしようもなく憎くなったのだ。勝手な理想を抱いて、それを裏切られた時に憎む──一見すると、独りよがりに見えるかもしれないが、この年頃の人間であれば全く仕方のない話かもしれない。

 彼は、それが断罪ですらないただの憂さ晴らしの殺害だと知りながら、それでも実行に移そうとしていた。
 まだ恋は冷めていないはずだが──あかねを獲得したい想いがあるが、それでも何故かあかねを消してしまいたい。
 そんな感情が己の中にあると確信できる。
 まだつぼみやさやかに対して「守りたい」という想いがあるだけ、自分の心がきわめて正常である事に、少しは安心しているが、その一方で不安な心持でもある。──一人恨めば、やがて感情はエスカレートするかもしれない、と。

169らんまの心臓(前編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:32:16 ID:4VrrmyR20

「あかねさんはもっと強くて優しい人だった。でも、もうそんな人はどこにもいない。これから俺がどれだけ探しても、もう見つからないだろう」
「……」
「思い出すだけで切なくなるぜ。だが、同時にあの人を消さないと晴れないくらいの憎しみも渦巻いてる。あの人を殺したい。……だから、全部終わっちまったら、つぼみが知る俺ももう、どこにもいなくなっちまうかもしれねえな」

 つぼみには、何と返せば良いのかさえわからない迫力だった。
 顔と顔の距離感は、仮にもしエターナルが仮面をしなければ息もかかるほど近い。
 それでも良牙の表情は仮面に隠れて見えない。だからこそ、余計に良牙の本心がわからずにつぼみは戸惑う。戦いを極めた男が、強い憎しみから本気の殺し合いをする時、そこにあるのは何なのか──つぼみの経験ではまだ探れない。
 今までも良牙は闘争心に満ち溢れた男である事をうっすらと見せていたが、「敵を確実に殺す為」にその力を使おうとする凶暴な彼の姿は、つぼみもまだ見てはいなかった。

「まあいい。つぼみ、お前はひとまず逃げろ」

 ──Zone──

 つぼみの腕に向けて、一つのガイアメモリが差し向けられていた。
 この狭苦しい状況から脱する方法は一つしかないとエターナルが判断したのだ。
 エターナルが木を持ち上げて姿を現そうものなら一瞬で居場所が知られるだろう。つぼみを遠くに逃がすならば、ここでつぼみの姿をゾーンドーパントへと変身させて、自力で転送して遠くへ行ってもらうという方法を使うのがいい。
 ゾーンは数十センチ程度の体躯で、自由に空を舞う事も可能になるメモリだ。その上、任意の場所にワープもできる。
 強引にエターナルがゾーンメモリをつぼみに挿すと、つぼみの体はすぐに小さな円錐の怪物になった。見られればお嫁にいけないほどの無様な恰好だが、そうこう言っていられる状況ではない。
 エターナルとしては、早々にこの場からは立ち去って欲しい一念である。

「──」
「あかねさんはもう死んだ……。そういう事にした方が、誰にとっても都合が良いんだ。きっと、俺にとっても、あかねさんにとっても」

 エターナルが背中の木を持ち上げると、すぐにクウガと目が合う事になった。
 ゾーンドーパントは、なんとかそこから這い出して空中に行き、エターナルの背中を見つめると、さよならも言えないままにそこから姿を消した。

(──)

 つぼみは、エターナルの背中に何かを察した。







 認識。
 プロトクウガは、木々の残骸がばら撒かれたこの場所から、一人の敵が這い出てくるのを確認した。
 戦闘行動を実施する。──本能に赴いて、プロトクウガは吼えた。

「ウグォォァァァァァァァッ」

 プロトクウガは、再度足元の木々を拾い上げると、アークルからモーフィングパワーを注ぎ込み、物質変換能力を発動させる。「破壊の樹」となったそれはエターナルの姿を狙って、再度爆発的なエネルギーを貯蔵し、吐き出した。
 先端から雷が発射されると、その光は一瞬でエターナルの体の元へと辿り着く。
 先ほどは、ただ振るうだけだったが、こうした応用も効くのか──。
 ローブを纏う暇もなく、エターナルの前面にそれは直撃する。

「ぐぁっ……!」

 流石のエターナルの全身に渡る電撃。勿論、これが痛みを伴わないわけはなかった。
 体の節でショートした電撃に倒れて、エターナルも一度全身の力が抜け落ちていくのを感じた。
 筋を一度緊張させて、再びそれが戻されたのだ。眼球も強い光によって一度その機能を停止している。

170らんまの心臓(前編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:32:36 ID:4VrrmyR20

「はああああっ!!」

 そして、目の前の怪物から「あかね」の声がふと聞こえるとともに、真っ白になった視界に追い打ちが入った。
 プロトクウガはエターナルまでの距離を縮め、エターナルの顔面に拳を突きだした。左の頬から伝ったその拳の一撃は、すぐに右頬や脳髄まで伝播する。

「うっ」

 なかなかの味。顔全体に広がる危険信号。
 ただでさえ格闘技において達人級──いや、日本人女性のトップレベルであろう天道あかねが更に一層の力を得尽くした結果だ。いくらボロボロとはいえども、油断をすれば命のない相手に違いない。
 今回は弱い者いじめをするつもりであったが、これは意外とまともな争いになりそうであった。

「……うりゃっ!」

 視界が見えない中にも、相手がいる位置を感覚で察知する。
 敵のパンチが飛んできた角度と痛み、それはどこから来た物なのか。

 ──そして、すぐに本能が教えてくれた。

「そこだっ!」

 エターナルは、エターナルエッジの刃をそこに突き出した。
 あらかじめ用意した飛び道具はそれくらいしかないが、この場で手頃に利用できそうな物はそれだけだった。
 なるべく長いヒットが欲しい。敵に深々と突き刺せる物──そう思って、手元にあったそれを使った。
 狙っている場所には必ず、彼女の体のどこかがある。今はカウンターとしてどこかに攻撃を充てれば十分だ。

「はぁっ!」

 しかし、「あかね」の声が聞こえるとともに、一瞬エターナルの脳裏に後悔が過る。
 あかねは一通りの護身術を会得している女だった。今度は記憶から引きだしたというより、ナイフが目の前に突き出された時に本能的に、体が動いてしまうのだろう。プロトクウガはタイミングを計ってその右腕を掴み、動かなくなる方に捻ったのだった。これに大した力はいらなかったようだ。

「ぐあっ……!!」

 なるほど……。
 刃物の扱いづらさはここだ。刃物を恐れない相手には、攻撃が読まれてしまう事。それから、良牙自身が刃物を憎み、拳で殴るのに比べて少し躊躇が生まれてしまう事。
 理解しながら、エターナルはそれを打開した。

「ふんッ」

 腕がどう捻られているのかを理解し、エターナルは空を走るようにして、自らの体を回転させる。
 その瞬間に視界がゆっくりと色を取り戻していく。空や敵や、転がり落ちる木々が見えると、エターナルの腕は安定を取り戻した。
 そのまま、屈んでプロトクウガの腹部に鋭いキックを繰り出した。

「ウッ……」

 みぞおちあたりにヒットした事で、一瞬の罪悪感が良牙を襲う。今のはまともに入ったのだろう。しかし、エターナルの体はクウガの体ごと強く引っ張られる。腕は固く結ばれたまま解けなかった。

 なるほど、敵の手を離さない不屈の意志を持っているのだ。
 それが、天道あかねという素体であった。
 あかねの指先が良牙の腕を固く掴んでいる──という事実そのものは、もし平穏な日常で、それこそデートの時だったならば嬉しかっただろう。
 だが、あかねは今、良牙を殺害する為に逃すまいとしている。
 良牙もあかねを殺害する為に、自由を勝ち取り、あかねの手を放そうとしている。
 日常ならば絶対にありえない光景だった。

171らんまの心臓(前編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:32:58 ID:4VrrmyR20

「──ッ!!」

 エターナルは、左足を高く上げてプロトクウガの左腕に絡めた。
 そのままねじりこむようにしてプロトクウガの左肩に足の先を伸せると、今度はプロトクウガの関節にダメージ。筋が力を入れ続ける事を拒絶したらしく、ようやくその腕は放たれた。
 この時、少し残念な気持ちが湧きあがったのは、やはりまだあかねへの想いは残っているからだろうか。

「ウゥッ……」

 一旦、距離を置き、互いを見つめる。
 見れば見るほど、そこにあかねらしき面影はなかった。
 先ほど聞こえた声も、あかねの声だというのは何となくわかったが、それらしいだけで、普段のようにはきはきとはしていなかった。

「──」

 ──昨夜彼女は眠れたのだろうか。
 ──今日彼女は飯を食べられたのだろうか。

「チッ」

 舌打ちが出た。
 やはり、相手が人間の体を奪っている以上、その人間が持っていた生活感覚を想起せざるを得ない。ましてや、知り合いである。ましてや、恋した女性である。
 一日中、「あかねが今何をしているか」を考えずにはいられない脳が、今もまた彼女の生活への心配を過らせる。

 しかし、必死で思い込む。

 もうあかねはいない。──いや、再び彼女がこの場にいたとして、そこにいるあかねを憎まずにはいられない。
 相手は死んだ人間だと思った方がいい。そしてそれを実現してしまった方がいいのだ。
 その方が彼女をどれほど信じても、裏切られずに済むに違いない。
 もし彼女の命を救ってしまえば、今のこのあかねこそがあかねの本性であるという良牙が知らなかった裏の顔を確信してしまうかもしれない。

 良牙は、あかねを救うと決めた時はまだ、考えていなかった。
 良牙が望むように命を救って元のあかねに戻ったとして、あかねは本当に救われるのか──と。

 あかねはこうまで乱馬の為に自分を犠牲にしている。心も、体も、精神も、命も、何もかもを捧げて今、乱馬を守ろうとしているのである。そして、その果てに誰かを殺していた。

 きっと良牙に振り向く事もない。
 そして、生かし続けていたあかねが、誰かを殺してしまった時、良牙はその無生物的・無感情的な彼女が良牙の理想とするあかねとあまりにもかけ離れていた事に気づいた。
 好きなはずの人への絶望と、さやかに重ねた理想があっという間に打ち砕かれた怒りが良牙の胸を締め付け、いらだたせた。
 この強い怒りがあかねに向けられ続ける事もまた、良牙自身には耐えられなかった。

「……ッ」

 だが、それでも……やはり、一歩前に出て何かをするのが急に怖くなった。
 戦いが行われている間は何も考えずに済むが、少しでも隙を作るとそれができない。悪い事ばかり考えてしまう。
 動かなければ当然ながら敵が向かってきてやられるが、それもそれで良いのかもしれない。いっそ餌になるのも一つの手かもしれない。
 まだ僅かにしか動いていないのに、それでも徒労感がある。

「良牙さーんっ!!」

 後ろから声がした。
 良牙には振り向く時間などなかった。
 しかし、誰なのかは確信して、そちらを見もせずに答えた。

「つぼみ……!」

 逃げろ、と言ったが、おそらくゾーンの変身を解除した後、どこかでキュアブロッサムに変身してここまで戻って来たのだろう。
 目的もなくこの場から背を向ける事は彼女にとっては邪道の判断だったのだ。





172らんまの心臓(前編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:33:26 ID:4VrrmyR20




 花咲つぼみが先ほど、去り際に見つめたエターナルの背中は、どこか寂しく見えた。
 つぼみの内心が良牙の激情を嫌悪していた事もあるが、おそらくそれだけではない。
 その背中の寂しさは、あかねに対する気持ちが本物である証であった。
 これまで一日良牙を見てきたつぼみに、良牙がどんな人間かと聞けば、「少し間が抜けていて方向音痴。肉体派の力持ちであり、少しぶっきらぼうな男子高校生。しかし、その実態はピュアで人情家」といった認識が引きだせるだろう。
 殆ど間違いではない。
 だからこそ、つぼみは彼が「あかねを殺したい」などと口にした時、違和感と衝撃を覚えたのだ。──そこに嘘がある可能性も否定できなかった。

(──いいえ)

 つぼみは確信している。
 良牙が、自分の感情に騙されている事に。
 時折、人間は、自分の感情にさえ騙される。「自分なんて良いところはない」と思いこめば、自分の良いところが擦り減り、「自分は悪い人間だ」と思いこめば必要のない罪悪感さえ覚えてしまうのが人間である。
 この良牙の場合は、自分ができる事とできない事を誤解しているように思えた。

(──)

 要は、あかねへの憎しみなど、本当の自分のあかねへの想いには勝てないのである。どんなに足掻いても、おそらくはあかねの姿が脳裏にチラついて、彼女にトドメを指す事はできようはずもない。
 彼が今抱いているのは、偽りの憎しみに過ぎない。
 自分が何を憎んでいるのかも理解できず、ただ目の前の敵への殺意だけが湧いている状態だった。その正体を時折思い出して、彼は迷う。
 そんな彼に勝ち目があるだろうか。

 おそらく──少なくとも、彼に「殺害」はできない。
 彼を支配している感情が憎しみであればこそ、彼は本当の自分と板挟みにされるだろう。
 つまり、敗北しかありえない。それは力の差とは別次元の問題だった。
 そう思った時、つぼみは誰に向けるでもなく頷いた。

「プリキュア・オープンマイハート──」

 本当のこころ──それを自覚しなければ、人間は本当の力を発揮できない。このまま言われた通りに逃げれば、彼は自分の気持ちも理解できずに敗北するだろう。
 つぼみがすべきは、本当のこころを守り続ける手助けだ。

 つぼみの衣装は、髪は、素顔は、やがてキュアブロッサムの凛々しく美しい姿に変身した。

「大地に咲く、一輪の花! キュアブロッサム!」

 人間として、もっと良牙の近くで彼を助けられたら──。
 そう思いながら、キュアブロッサムは走る。考えるよりも早く──。
 彼女は、すぐにエターナルとプロトクウガの戦闘の現場を見つけ出した。

 やはり、彼は本当の力を発揮できず、迷いながらプロトクウガと戦っていた。







 雨と風がまた勢いを増した。
 プロトクウガは、キュアブロッサムの乱入を好機とばかりに、足元の木を蹴り上げると、手で取り上げると、ライジングドラゴンロッドを構築した。
 プロトクウガの右腕に握られたライジングドラゴンロッドは、その一身にエネルギーを貯蔵すると、稲妻としてエターナルの元へと発射される。

「くっ……!」

 間一髪、エターナルはエターナルローブを前方に展開して稲妻を反発させた。全身を包んだエターナルローブが全エネルギーを逃がしたのを実感すると、彼は視界だけローブをはがす。──先ほどまでの恐怖が、一度解けたようだった。

173らんまの心臓(前編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:34:12 ID:4VrrmyR20

 キュアブロッサムが二の句を告げるよりも早く、ローブに包まれたまま前に駆けだしたエターナルは、前方のプロトクウガの飛び蹴り。
 ばきっ、と音を立てて顎に命中する。クリティカルヒットだ。

「──良牙さん! 聞いてください!」

 プロトクウガは多少怯んだが、再度起き上がって角ばった右腕でエターナルの顔面目掛けた拳を振るおうとした。
 エターナルはボクサーのような構えをするとともに、両腕でそれをガードする。
 ローブを纏うよりも自分流の方が判断しやすい距離と状況だったのだろう。

「良牙さん……! 聞いてますか!」
「聞いてる!」

 ブロッサムの問いに乱暴に返しながら、エターナルは次の一手に差し掛かろうとした。
 ローブの影から右腕を出すと、その人差し指を「破壊の樹」目掛けて突き出したエターナル。──この技、爆砕点穴である。
 咄嗟に見極めたライジングドラゴンロッドのツボへと押し出すように、一撃。
 人差し指を差し出す。
 ──しかし、それが届くよりも先に、ライジングドラゴンロッドは真上に振り上げられて爆砕を回避する。振り上げられたライジングドラゴンロッドはエターナルの胸部目掛けてその先端の刃を突きだした。

「……ぐぁっ!?」

 エターナルの胸部の装甲が割れる。
 良牙の技をどこかで「知っていて」、それに「対処」しているようだった。
 しかし、当の彼自身はそれに全く気づかなかった。
 キュアブロッサムは今の一撃に衝撃を受けて思わず名前を呼ぶ。

「──良牙さん!?」
「名前を呼ぶだけならさっさと逃げてくれ!」

 どうやら、良牙はこの程度の攻撃では無事らしく、全く苦しみの音をあげずに返した。
 胸の装甲が破壊されているが、良牙の全身自体が鋼のように発達しているので、致命傷レベルではなくなっているようなのだ。
 むしろ、この時は自分の胸にライジングドラゴンロッドが刺さっている事を好都合に思っているようだった。

「良牙さん!」

 ──エターナルは、左腕でその樹を掴み、自分の胸元に引き寄せる。刃先が皮膚の向こうに食いこまぬ程度に。

「……くっ。用があるなら早く言え!」
「わかりました……! 良牙さん、相手への憎しみなんて考えずに、いつもの調子で戦ってください!」

 それを聞きながら、爆砕点穴。
 開いた右腕の指圧が、ライジングドラゴンロッドのツボを押し、それ全体を一瞬で粉砕する。
 初めから狙っていたわけではないが、怪我の功名というところだろう。敵の武器は今一度粉砕された。
 ただ、小石のように疎らな大きさの固形物となって四方八方に飛散していくそれは、まるでマシンガンの弾丸のように両者の体に殺到した。数秒降り注ぐ礫の嵐。
 エターナルもプロトクウガも、上半身を両腕でうまく覆いながら数歩退いた。
 その攻撃が晴れる。

「相手への憎しみ……だと!?」
「ずっと気になっていたんです!」

 そうブロッサムが言った時、プロトクウガが更に次の一手を講じた。
 この物質変換能力があればいくらでも同様の武器を作り上げる事ができる。
 変換可能な形状の物体があれば、体力の許す限り幾らでも、だ。

「ウガァァァ……」

 拾いあげようと、プロトクウガが前傾する。
 エターナルは、そんなプロトクウガの右腕に向けてナイフを投げた。──エターナルエッジである。

174らんまの心臓(前編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:34:35 ID:4VrrmyR20
 エターナルエッジは、プロトクウガの手に突き刺さる。咄嗟にクウガの腕が動かなくなった。
 思わず目を覆いたくなったが、それより前にエターナルはプロトクウガに駆け寄った。

「続けろ!!」

 エターナルとプロトクウガの距離は零に縮まる。
 エターナルはクウガの腕からナイフを抜き取ると、また数歩退いた。あの距離感で相手に寄れば、追い打ちをかける事もできたはずだが、エターナルはそれをしなかった。
 しかし、生物の腕に刃が刺さる瞬間も、それを抜き取った時の黒い飛沫も、ブロッサムが言葉を失って目を覆うのには十分な光景だった。
 それでも彼女は、何とか自分の苦手な光景を忘れて、言葉を紡いだ。それが、この場に現れた人間の責任である。

「──良牙さんは、相手を憎む事ばかりに気を取られて、他の事を考えてないんです!」
「……なんだと……!?」
「今の良牙さんは、あかねさんを憎もう憎もうと必死なだけです! 心から憎んでいるわけじゃないから……いや、本当はそれができないから全力で戦えないんです!!」

 今、追い打ちをかけなかった自らの事をエターナルはふと省みた。
 確かに、咄嗟に弱っている敵を攻撃する事ができなかった。──それは、そこに天道あかねがいるからでもある。
 良牙は、自分の中にある憎しみをいちいち思い出さなければ、殺害に行き届かせるほどに「あかね」を攻撃できないのである。

「──良牙さんは、本当に憎みきれるほどあかねさんを憎んでいなくて……だから、だから戦いきれないんじゃないかって……!」

 そう、悪魔に堕ちるには、良牙はまだ優しすぎた。
 そして、あかねを好きでい過ぎたのだ。

「くっ……!」

 追い打ちをかけようとすればするほどにあかねを憎み切れず、トドメを避ける。
 一方的な攻撃をする事で、中にいるあかねが傷つくビジョンが頭の中をよぎるのである。
 いや、しかし──。
 時として、さやかの姿も頭の中を過ぎては消えていった。
 殺さなければならない敵であるのはわかっているが、それができない。

「じゃあどうしろって!」
「いつもみたいに……自分の本当の心が突き動かすように……自分のやりたいようにやればいいんです!! 素直な気持ちで……他の何の為でもなく、自分が思うままに」

 言っている間に、プロトクウガが構えた。
 それは、右脚部にエネルギーを溜めて、ライダーキックとして相手の体表に向けて全エネルギーを放出する技を決めようとしているポーズであった。
 まずい。──あれを放たせれば、周囲一帯を吹き飛ばすだろう。

「私たちは、愛で戦いましょう──!!」

 僅かに焦るように、しかし、無音の瞬間を狙ったように、そのブロッサムの言葉がエターナルの耳に届いたのだった。

 愛。
 あかねに接する時、良牙は常に憎しみではなく愛で接していたが、この時ばかりはそれと正反対の気持ちで接していた。
 ゆえに、真っ直ぐに戦う事ができない。自分を偽ったまま戦えば破綻するという事なのだろうか──。

「──ッ!」

 ここで放たれれば甚大な被害が出るであろう事を見越して、エターナルは咄嗟にエターナルローブを手に取り、「気」を送り込んで硬化させた。
 これが良牙の武術における「物質変換能力」と同義の力だろうか。
 あらゆる日常の道具を硬化させて武器として使える。──今回は、エターナルローブをブーメラン型に変形させた。
 エターナルローブは、そのままクウガの足元に向けて回転していく。
 ふと、それを見てプロトクウガの動きが止まった。

 一瞬、プロトクウガの中に過る心理的外傷。
 それは、かつてこれと同じ技が自分にとって大事な何かを傷つけた瞬間があった、という事だった。

175らんまの心臓(前編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:34:56 ID:4VrrmyR20
 そう、あれは──もっと短く、もっと鋭利で、もっと偶然に向かってくる物だった。

「嫌っ!!」

 咄嗟に、プロトクウガに似つかわしくない女性の声が漏れた。
 声を発した当人にさえ、想定外の出来事だっただろう。

「──!?」

 間違いない。それは、天道あかねの声だった。
 おそらく、良牙は今、あかねが想起した出来事をふと思い出した事だろう。──この技こそが、良牙とあかねの間にいまだに残っている「因縁」の証であった。ひとたび、それを思い出させてしまった事を良牙は後悔した。
 しかし──後には引けない。
 むしろ、この一瞬は好機である。

「あかねさんッ!!」

 エターナルは腹の奥底から、喉を枯らして声をかける。
 ふと気づけば、エターナルローブはプロトクウガの足元に到達し、その周囲を回転して彼女の足元を縛り上げた。
 見事、としか言いようがない。絶妙な力加減で、プロトクウガの両足を縛ったエターナルローブは、柔らかい布状の盾でしかなくなった。ブーメランとしての性能が落ちたそれは、すぐにプロトクウガの一撃を阻害する縄となる。
 力加減を間違えれば、その両足は切断されていてもおかしくないだろう。

「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

 そして、エターナルのパンチがプロトクウガの胸に命中する。彼の一撃は重く、そこに響いた。
 プロトクウガの背中まで振動して、それが再び腹部に跳ね返って戻ったような感覚。
 自分の右腕にその痛みが戻ってくると、その腕を引いて、プロトクウガの両肩に手を乗せ、その体を揺すった。

「……思い出せ! 思い出すんだ、今の技を!」

 キュアブロッサムに言われた通り、彼は今、自らに素直にそうあかねにそう叫ぶ。
 しかし、返答は、真っ直ぐなストレートパンチ。エターナルの顔面にぶち当たる。
 足を縛られているクウガもまた、少しバランスを崩したようだった。

「うぐっ……!」

 エターナルの頬が腫れるほどの一撃──それは、懐かしい思い出の味だった。
 乱馬と良牙が再会し、戦った、あの時の──。
 そうだ。あの時も、良牙はあかねに殴られた。布から生まれた刃があかねの髪を切り落とした罪を、あかねはパンチで清算したのだ。
 不思議と、今受けたパンチは不快ではなかった。
 あの時と同じにさえ思えた。──確かに、無理に憎むよりも本能に従った方が、容易く相手の攻撃を受け入れられる。

「はああああああっっ!!」

 エターナルはもう一度、プロトクウガに向けて駆け寄る。
 プロトクウガが再び拳を突きだすが、エターナルはそのパンチが直撃する前に視線を低めた。
 プロトクウガのパンチは虚空を掴み、エターナルはプロトクウガの足元からエターナルローブを勢いよく引きはがした。
 プロトクウガがその下半身の均衡を保てなくなると共に、エターナルの背中にエターナルローブが舞い戻る。

「ウグッ……」

 しかし、プロトクウガも転んでもただ起き上がる事などできまい。
 周囲に倒れた灌木を手に掴むと、それを変質させ、体を起こす。
 これは全長三メートルほどの「破壊の樹」であった。形状を変じた「破壊の樹」は硬質化していく。原型のサイズより一回り巨大になると、それはエターナルに向けられた。

「グッ……!!!」

 血反吐を吐くような苦痛の呻きが、プロトクウガの喉の奥から掠れ出た。
 それが次の瞬間、膝をつく事でプロトクウガから発されなくなった。

176らんまの心臓(前編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:35:33 ID:4VrrmyR20
 あまりにも美しく、プロトクウガの体は膝から崩れ落ちていき、咄嗟に前に出ようとしたキュアブロッサムも、敵の攻撃を受けるべく構えていたエターナルも、その瞬間に思わず全く動けなくなった。

「グァァアァァァァァァッッ………………ッッ………………」

 外傷、外傷数え切れず。
 精神的疲労、肉体的疲労、ともに深刻。
 重ねて、制御不能の身体改造や記憶の改竄。
 いわば、「死んでいるのと同じ」な人間。
 いくら素体が強固に鍛えていたとはいえ、それが一人の少女である以上、背負いきれぬ重圧となりえるダメージがこの時、祟った。
 まずは、その体重を支え、ここまで休まずに歩き続けた足が限界を迎えて、その指先から完全に力を失った。

「……ぐ……」

 プロトタイプ型クウガは、その姿を「白」に戻すと、すぐに天道あかねへと変身を解除した。制御しきれない力に、己の肉体が限界を迎えたのだ。──エターナルは、そんな彼女に駆け寄った。
 いや、もうエターナルである必要などないだろう。
 良牙は、ロストドライバーの変身を解除し、響良牙としてあかねの元に駆け寄った。
 大事な人間を、せめて、少しでも楽にしてやろうと。……いや、そんな事も、もしかしたら何も考えていなかったかもしれない。

「……戻ったのか……!?」

 ともかく、殺し合いに巻き込まれて一日。──ようやく、良牙はあかねの元に辿り着いたのだった。
 その姿、間違いなかった。良牙が切り落として以来のショートヘアは健在である。
 この日一日、良牙はあかねをずっと探していた。恋しく思っていた。片時も忘れず、常に探し続けていたのだ。
 乱馬も、シャンプーも、パンスト太郎も結局会えず終いだったが、ようやく……。

「あかねさん……っ!!」

 良牙は、その名前を呼んだ。今までになく歓喜にあふれた声だったのは間違いない。
 良牙は、この場で何人もの死者を見てきた。
 乱馬も死んだ。シャンプーも死んだ。大道も死んだ。良も死んだ。一条も、鋼牙も、さやかも……。
 残る人数は、能力だけでなく強運に認められた猛者のみだ。どんな実力者も、弱い者たちの群れや基点、或は引いたカードの悪さに敗北し続けた。
 だから、もしかすれば──あかねさんが死んでしまうかもしれない──そんな不安とともに昨日を一日過ごし、今日を歩いてきた。方向を間違えながらも……ずっと、ここまで。
 そして、ようやく良牙は、最も大事だった人と再会できたのだ。

「あなたは……」

 天道あかねの目には、そんな彼の姿がぼやけて見えた。
 幾人もの敵に見えた。しかし、見覚えがあるようで、見覚えがなく、憎いようで、そこにいると安心さえする奇妙な男である。
 そのバンダナ、タンクトップ、八重歯……何か見覚えがあるような。
 こちらを見つめるその笑顔に、言いようのない懐かしさを感じるような。
 それは、あかねが帰るべき日常に必要不可欠な友人の姿にも似ているような。

 いや──。違う。

「うっ……」

 頭痛。

 ──敵。

 そうだ……彼は、敵……。

 人を欺く悪しき機械たち……。

「あかねさぁんっ!」

 良牙は、体が倒れかけたあかねの元に駆け寄った。その背中を抱き留め、せめて介抱してやろうと思ったのだろう。
 しかし、そんな良牙に向けられたのは、憎しみのまなざしだった。

177らんまの心臓(前編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:35:50 ID:4VrrmyR20

「……ハァッ!!」

 そんな良牙の胸目掛けて放たれたあかねの掌底は、良牙も気づかぬうちに、彼の体を遠くへと吹き飛ばしていた。己の体が後方に向けて吹き飛ばされている事など、良牙が気づく事はなかった。
 ごてごてとした大木の根に自分の背中がぶつかった時、良牙は空を見上げている。

「そんな……あかねさん……まだ……」

 あかねが、まだ戦う意思を捨てていない事に、良牙は遅れて気づいた。
 あかねの体は、まだ「伝説の道着」という武器に包まれている。体が動かなくとも、道着の方があかねの体を動かせるのである。
 あかねが、あかねの意思で下した判断が、その攻撃だった。
 たとえ意識が失われたとしても、伝説の道着によって動き続けるという────悪夢の判断であり、最悪の戦法。

「……私」

 良牙が再び起き上がる前に、誰かが言った。
 今の光景を見て、一人の人間のやさしさや愛を拒絶した「何か」。
 それは、天道あかねそのものではなく、もっと別の悪意が縛っているように見えた。
 もはや、あかね自身の元々のパーソナリティと無関係に、許されざる不条理が彼女の精神を浸食している。
 その事実に、誰より怒りを燃やした者がいた。

「堪忍袋の緒が切れました!!」

 キュアブロッサムは、その怒りの一言とともに、突き動かされるように走り出した。
 つぼみは、良牙に代わり、彼女と戦おうとするのだった。





178らんまの心臓(後編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:36:48 ID:4VrrmyR20



 天道あかねという少女の人生では、何故か小学校の時、クラスの出し物で「ロミオとジュリエット」を演じる事になっていた。
 その度に男勝りな彼女が演じるのは常に男役──ロミオであった。
 少女期のショートカットヘアも、男子顔負けの運動神経も、元来の美しい顔立ちも、全て王子のイメージに誰よりも合致していたからだ。
 ロミオ役を奪われた男子生徒たちも、女と恋愛悲劇を演じる事になるジュリエット役も女子生徒も、何も不満は言わなかった。むしろ、これ以上ない配役とさえ思っていたようだ。
 ただ一人、あかねだけは誰にも言えない文句があった。

 あかねはふつうの女の子だ。

 自分が演じたいのはロミオではなく、ジュリエット。
 王子とのロマンチックな恋をして、最期にはあるすれ違いが生む悲劇とともに散るヒロインだった。
 しかし、クラスメイトが寄せる期待と信頼と喜びを裏切れず、結局ロミオとして舞台に立ち、思いの外好評を受けてしまった。──その好評はずっと重荷だった。
 乙女の憧れを持って何が悪い。
 格闘家の家に生まれて、姉二人が継がない道場を継ごうとして、毎日稽古をしているけど、本当は、少しは純情可憐な女性としての魅力も見てほしいのだ。
 ジュリエットになれば、それを発揮できる。

 ジュリエットを、演じたかった。

 ようやく、ジュリエット役に抜擢する事になったのは高校の時だ。

 その時、ロミオの役どころを射止めたのは────。







 キュアブロッサムは、あかねに向けて無数の突きを放った。
 一秒間に何十発も繰り出されるパンチは、少なくとも一般的な人間のレベルでは到底可視できないだろう。
 だが、伝説の道着は違った。五感を持たない物体とは思えなかった。
あかねの体を包括する伝説の道着は、「気」を読み、攻撃を回避する術を知っているのだ。あかねの体をキュアブロッサムの攻撃から守るべく、見事にそれらを紙一重でかわしていく。

「はあっ!!」

 逆に、あかねからのローキックが入る。キュアブロッサムは跳んで回避しようとしたが、あまりの速さに間に合わない。
 キュアブロッサムの膝にあかねの鋭いキックが炸裂し、空中から引き落とされる。あかねの両足は動ける状態ではなかったが、伝説の道着による強制力だった。
 道着自体が意思を持ち、あかねの体を操作する事も可能である。

「くっ……!」

 ガードを固めたキュアブロッサムの上半身に向けて次の回し蹴り。半円を描いた蹴りをまともに受けた左腕が綻んでガードが崩れた。虚空に投げ出された左腕を見逃さず、あかねはそれを掴む。
 すると、キュアブロッサムの腕が微塵も動かない。
 驚異的というしかない腕力であった。少し掴まれただけでも、もう痛みに声が出そうになる。──そして。

「はぁっ!!」

 キュアブロッサムの体が空高く投げ飛ばされた。
 ビルの九階ほどの高さ──地上数十メートル、全ての樹冠を上から見下ろせるほどの高度である。
 そして、その高度から一気に重力に引っ張られる。

 真下の地面は、切断された木々で足場が非常に悪い。運が悪ければ突き刺さり、運が良ければ木葉のクッションに包まれる。
 いずれにせよ、プリキュアの身体能力では空中で体制を立て直して地上で衝撃もなく着地するのは容易だ。この滞空時間ならばまだ何とかなる。

179らんまの心臓(後編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:37:14 ID:4VrrmyR20

 むしろ好機だ。
 相手には跳躍するほどの体力はない。空中落下とともに技を決めれば、逃げ場がない。

「──花よ輝け!」

 遠距離型の攻撃は特に相手を狙いやすくなっている。
 ブロッサムタクトが構えられた腕は、地上にいるあかねに狙いを定める。
 空中にいる以上、定位置はないので、焦点は全く合わないが、指定範囲内に敵を包む「予測」に神経を研ぎ澄ませた。

 明鏡止水。

 空にいながら、目を瞑り、風を感じて敵の位置を補足する──。
 三、二、一──。
 おそらく技を放つ最後のチャンスがブロッサムの中に到来する。
 そのタイミングを確信して、ブロッサムは両眼を開いた。

「プリキュア・ピンクフォルテウェイブ!!」

 この場で何度となく放ったその技が地上めがけて発動する。

 大道克己もダークプリキュアも人魚の魔女も……この技が少しでも心を鎮めてくれたのだ。
 これは、人間本来の持つ善と悪とを、正しいバランスに引き戻す力である。
 何らかの外敵要因が「悪」に塗り替えた人間の心を元に戻すセラピーにもなりえるのが彼女たちの技であった。

 ……だが、今まで、つぼみは結局のところ、誰の命も救えていない。
 たとえ心が救われたとしても、みんなもう死んでしまったではないか。
 助けたい。
 それ以外の終わりだってあるのだと教えたい。
 安らかな気持ちで逝ければいいなんていうわけじゃない。
 たとえ救われたとしても、それはまだスタートラインに立っただけなのだ。

「はああああああああああああっっっ!!!」

 空中から降り注いだ花のエネルギーは、あかね目掛けて直撃する。
 あかねは、ふと、ある一人の少女を思い出した。
 キュアベリー。
 この場で、確か──いつ出会ったのかさえも曖昧だが、──一度、会っている。
 彼女の技を受けた時、身体的ダメージ以上の致命的大打撃を受けたのだった。
 精神的汚染が緩和され、ある意味負担は小さくなるはずだが、それはあかねにとっては何の得にもならない。問題は、自らの力の一部である「ガイアメモリ」の変身も解除される事である。
 戦う術を得なければ、この場では生き残れない。

「くっ!」

 伝説の道着は、あかねの上半身を庇うように両腕を体の前で組んだ。
 敵方の正体不明の攻撃は、高速で接近──。あかねの上半身から全身を包み、大地からその余波を小さく波立たせるまで一瞬だった。
 ぼふっ、と風が圧縮されて爆ぜて消えたような音が鳴った。
 あかねの体へと到達した花のパワーは、桜の香りを放ちながらあかねの体に纏わりつく。
 鼻からではなく、全身から花の香りが入り込んでくるようだった。

「くっ……!!」

 直撃を受けながらも、まるで見えない圧力を跳ね返すように両腕を開いていく。
 ブロッサムがこちらに向けて落下するのが見える。
 あかねは、伝説の道着の力を借りてより強く、この見えない何かを押し開けようとした。

 力を込める。集中力を高め、より鋭敏に。

「ぐあっ……!!」

 あかねの力がピークに達し、全身から抜けると同時に、ピンクフォルテウェイブは解除され、キュアブロッサムの方にその残滓が跳ね返された。
 あかねの勝利である。

「!?」

180らんまの心臓(後編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:37:38 ID:4VrrmyR20

 それは、キュアブロッサムにとっては、大道克己との戦いの時に見た光景と同じだった。
 キュアブロッサムは空中で唾を飲み込んだ。
 邪でありながら当人は譲る事のできない強い意思──それが、プリキュアの浄化技さえも拒絶し、剛力で捻じ伏せてしまう。
 あかねの想いは、まさしくそれだったというのか。

「──そんな!!」
「甘いのよっあんたは!! はあっ!!」

 そして、キュアブロッサムが気づいた時には一歩遅かった。
 あかねが上空に向けて突き上げた拳が、キュアブロッサムの腹部に激突する。

「くっ……」

 まるで突き刺さるような一撃だ。
 重力の力と、下から拳を突き上げたあかねと伝説の道着の力──それらに挟まれ、ブロッサムが一瞬、息をする事ができなくなる。
 キュアブロッサムの口から、微量の唾と汗が飛んだ。拳の上を一度バウンドして、またその上に落ちた。

「げふっ……げふっ……」

 あかねは、咽かえっているキュアブロッサムを乱雑に地面に下ろした。
 下ろした、というよりも落としたという方が的を射ているかもしれない。
 キュアブロッサムは、腹部を抑えながら、力なく倒れこむ。息が整うまで、しばらくの時間を要した。まともに喋る事も、痛みを絶叫で表現する事も少しできなかった。
 苦渋に歪んだ顔で、己の力不足を呪った。

「……トドメを刺してあげるわ」

 あかねは、ふと自らの近くにある人間の死体があるのに気が付いた。
 美樹さやか──先ほど、あかねが不意を突いて殺せた彼らの仲間である。
 ライジングタイタンソードへと物質変換したのは、「裏正」という刀であった。
 二つに折れた刃の刃先が、まだこの木の影にいるさやかの遺体から見える。柄がどこに消えてしまったのかはわからないが、木々に紛れて見えないだけだろう。
 あかねは、少し手を伸ばして、それを掴みとった。遺体から引き抜いて、つぼみを殺すのに使おうとした。そう、この刃先ならばまだ「機械」の「破壊」に使える。
 刃を手で直接握っても、あかねは痛みなど感じなかった。
 ここにあの刀が落ちているとは、都合が良い──これで殺しやすくなった、とあかねは思っただろう。
 血が右手を真っ赤に染め上げるが、あかねはまるで気にせずに、目の前の獲物を見た。

「つぼみっ……!」

 良牙がそこに駆け寄った。瓦礫の山とでも言うべきその木々の残骸の間を、潜り抜けてやっとつぼみの元に辿り着く。
 キュアブロッサムの変身は解除され、つぼみは下着のような神秘的に光るワンピースに体を包んでいた。
 良牙は、その傍らのあかねの方に目をやった。

「はぁ……はぁ……もう邪魔はさせないわよ……私は……私は……」

 とはいえ、あかねも大分参っているようだった。
 しかし、まずい。つぼみにトドメを指そうとしている。

 あかねにとってはつぼみも厄介な邪魔者の一人に違いない。
 邪魔だからと言って、つぼみを排除しかねない。
 あかねはその体制に近づいている。裏正を振り上げ、寝転ぶつぼみに近寄っていく。

「……壊れろッッ!!」

 死という言葉を使わないのはなにゆえか──それは良牙もつぼみも知る由もないが、あかねはまさしくつぼみに「死ね」と言おうとしていた。
 それが願望だった。
 今、目の前にいる参加者をどうするべきか。全て、一刻も早く殺し尽くし、あかねは願いを叶えて元の世界に帰らなければならない。
 だから、首を刺し貫いたらすぐに、つぼみにはその生命活動を停止してもらいたかった。

 時間がない。──昼までなのだ。
 どんな敵がいたとしても、泳がせるなどという方法は使えない。
 見つけ次第、どんな手を使ってでも最短で殺し、あかねは元の世界に願いを叶えてから帰る。日常に回帰し、大事な人とまた過ごす。
 そのために。
 そのために。
 そのために。



(……でも、────)



 ────大事な人がわからない。





181らんまの心臓(後編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:38:04 ID:4VrrmyR20



 あかねは、確実につぼみを殺そうとしている。狙うのはおそらく頸動脈。このままいけば、良牙は親しい人の血しぶきを目の当りにする事になる。
 良牙を襲う焦燥感。
 目が敵を睨み、腕が型を作る。

「くっ……獅子咆哮──」

 やめるんだ、の一言よりも攻撃による制止が出てしまった事は良牙自身も意外に思っただろう。
 それは、良牙がこの一日、殺し合いの中で「誰かを守る」という事の為に力を使う意義を覚えたからだ。良牙はつぼみを守るために、あかねを攻撃しようとしていた。
 そこに個人的な優先順位などもはや関係なかった。
 弱く正しい者を守り、それを脅かす者を倒す──その公式が、良牙の中にもいつの間にか出来上がっていたのだ。
 あかねを攻撃しようとした事を一瞬でも後悔するのは、ある出来事によって、獅子咆哮弾を使うのを躊躇してからの話である。

「──ぶきっ!!」

 ──そう、発動しようとした直後にその声が聞こえたのが、良牙が動きを止めた理由であった。
 それは人間の声ではなかった。高音で幼く、何かを訴えていても理解できない言葉で喚く小さな動物だった。

 そう、かつて、鯖が変身したのと似通った外見の黒い鯖豚だ。黒い子豚に変身していた頃の良牙と瓜二つである(正直、豚なんてどれも同じだが)。一応、デイパックに仕舞い込んでいたはずが、戦闘中にいつの間にか抜け出してしまったらしい。
 この惨状の中で、かの子豚は倒れ伏しているつぼみに寄り添おうとしている。

「な……っ」

 あかねの動きが、一瞬止まった。
 その光景はあまりにも不自然であった。まるで時間が止まったかのように、突然にあかねは引いた腕を止めたのである。
 前に突き出してつぼみの頸動脈をかききろうとしていたあの腕が、よりにもよって、あの子豚によって突如止められたのである。
 つぼみも、何故相手が止まっているのかわからないようだった。

「豚さん……っ。逃げて……」

 声にならない声で必死にそう訴えるつぼみだが、その言葉は無邪気な鯖豚には届かない。
 この鯖豚は、おそらくただ、デイパックから抜け出した後に一帯を迷って、近くにいた主の元に歩いていっただけである。
 だから、そう……。
 もはや、そこに来れば巻き添えで死んでしまう事などこの鯖豚は知る由もないという事である。

「くそっ……!」

 あの子豚もつぼみも、このままでは危ないと良牙は咄嗟に思った。
 あかねが止まっているうちに、良牙はそこに助け出なければならない。
 この木の足場を飛び越えて、目の前を妨害する木の枝を手刀で切り裂いて、良牙は一心にそこに向かって走っていく。

182らんまの心臓(後編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:38:26 ID:4VrrmyR20

「無事でいろ……っ!」

 ──だが、そんな中で、ふと何かを思い出した。

 響良牙が、天道あかねを好きになった時。──それは、初めて会った時の事ではない。
 確か、雨の夜の話。あれを思い出すのはセンチメンタリズムだ。
 子豚に変身した良牙を、あかねは抱きしめた。周囲に反発する良牙を抱きしめ、赤子のように可愛がったのだ。
 あかねはペットとして、良牙が変身した黒い子豚に「Pちゃん」と名付けたのだ。

(待て……)

 あの時──。
 そうだ、あの時──。

「そうか……! だから、あかねさんは……!!」

 あかねは思い出しているのだ。
 いや、思い出すとまではいかなくても、本能がその黒い子豚に反応を示している。
 動きを止めたのは、彼女が小動物を殺そうという発想に至らないからに違いない。
 きっと。
 きっと、全て忘れていても、あかねは弱いものには優しいあかねのままなのだ。

「……Pちゃんだ、あかねさん!! その子豚はPちゃんだ!!」

 あかねも、つぼみも、子豚も、良牙の方に一斉に視線を集中させた。
 良牙が何の事を言っているのか、誰もわからなかったかもしれない。

 ただ、あかねはその拙い言葉の響きに何かを感じた。
 自分の手元にあるガイアメモリにも似通った名前がついているはずである。
 しかし、「P」だ。その言葉に何かを感じる。P……Pig。

「P……ちゃん……?」
「そうだ、Pちゃんだ!! あかねさんが大事に育ててくれた、バカで間抜けで方向音痴な子豚の名前だよ!!」
「P……」

 そう言われた時、あかねは今のままの体制を維持できなくなった。強烈な頭痛がするとともに、咄嗟に頭を抱え、倒れこんだ。伝説の道着も、この時は主の異変に焦った事だろう。

 シャワールーム。大事な人。黒い子豚。────。
 飛竜昇天破。獅子咆哮弾。呪泉郷。────。
 あのバンダナの男。高速回転するブーメラン。ロミオとジュリエット。────。

「Pちゃん……」

 連鎖するキーワードたち。ここまで、あかねに何か異変を齎してきた言葉たちであった。
 一体、それがあかねにとって欠落している何を示しているのか、それがうっすらと浮かんでは、また消えていく。
 何かが掴めそうで掴めないもどかしさが、いっそう頭痛の芽となって脳髄に根を張るような痛みを起こす。

「あああっ……あああっ…………!!!!!」

 あかねがどれほど頭を抱えても、その記憶は探り当てられない。だからいっそう苦しいのだ。
 記憶のどこかには存在するが、蓋を閉じられていたり、脳内のどこかを飛んでいたり、ずっとあやふやにあかねの中で跋扈している。それを掴みとろうとするが、一切掴みとれない。
 時折出てきては消える何か。それが……。

「まだ思い出せないっていうなら、いくらでも大事な事を教えてやる!! 俺の名前は響良牙だ!! あかねさんの友達で、●●とは前の学校からのダチだ!! 何度も一緒に遊んだじゃないか!! 俺は何があっても忘れないぜ!!」

 言葉があかねを刺激するなら、それを止ませる必要はない。
 いくらでも浴びせる。あかねの苦しむ顔がその瞳に映っても。
 瞳はそらさない。自分が最も見たくなかったあかねの苦しい姿を、目に焼き付け、それでももっと苦しませる。
 きっと、これを語り続けなければならないのだ。

「ずっと前にあかねさんの髪を切ってしまった事はずっと後悔してるんだ!! 何度でも謝る、何度殴られたって構わない!! 思い出してくれよ、あかねさん!! 憎い俺を殴れよ!!」

183らんまの心臓(後編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:38:56 ID:4VrrmyR20

 だが、その言葉は決定的な一撃とは、ならなかった……。
 あかねはうずくまって頭を押さえるだけで、どんな言葉も心に届かない。
 しかし、黒い子豚を見た時のように強い衝撃を受けてくれない。良牙自身の事を何度教えても、あかねが強く反応してくれる事はなかった。

「Pちゃん……Pちゃん……」

 あかねは必死で小刻みに首を横に振っている。

「くそ……駄目なのか……」

 一瞬、挫けそうになる。
 あかねは、まだ何かに怯えるように頭を抱え続けるだけなのだ。
 それが、ただただ苦痛だった。良牙自身の事を一切覚えておらず、あろうことか乱馬さえも記憶の中から外れているのかもしれないと、良牙は感じた。
 そんな話が良牙にとってショックでないはずがない。

 そもそも、Pちゃんの話には反応したが、良牙の話は一切反応を示さないのだ。
 何度聞いても、何度叫んでも、何度届かせようとしても。
 良牙の言葉そのものが、まるであかねの耳をすり抜けていくようだった。
 そして────



「…………いや、わかった。わかっちまった。くそ…………」



 ────良牙は、理解してしまった。
 それは、一途に一人の女性を想い続けた男にとっては、残酷で、信じたくない現実だったかもしれない。
 いや、何度もそれをあかねは言葉にしていたが、良牙は受け入れなかったのだ。

 ふと、思ったのだ。
 あかねがこれから何も思い出してくれないのは、もしかすると、


 良牙の存在があかねの中で、良牙が思っているほど大きくないからかもしれない──と。


 良牙が伝えようと思っている事は、あかねにとっては聞くほどの事ではないつまらない話題でしかないのではないか。
 考えてみれば、これまでも、何度も何度も言われてきた。
 お友達。お友達。お友達。────。
 そう、あかねにとっては、良牙はきっと、「お友達」以上の何者でもない、人生の中の脇役たちの一人だ。即ち、取るに足らない存在なのだ。

 良牙があかねを誰よりも大事に思っている一方で、あかねは良牙を大勢いるお友達の一人にしか思っていない。──乱馬が死んで殺し合いに乗る彼女だが、もし良牙が死んで彼女は殺し合いに乗っただろうか?
 あかねに良牙を殺したいほど憎む事ができるか。
 あかねに良牙を抱きしめたいという感情はあるのか。

 そう、最初から彼女が大事に思っていたのは、許嫁の乱馬ただ一人。良牙には、そこに付け入る隙など最初からなかったのだ。
 良牙にとって、良牙としての思い出とPちゃんとしての思い出が同じ物でも、あかねにとっては全く別物だ。黒い子豚の方が、あかねとずっと一緒にいた。

 そう、それが、一人の男に向けられた、青春の真実だった。



「…………そういう事、か」



 男の目から、一筋の涙が垂れた。──それはごく個人的な愛情が、この場でもまだ胸の中に残っていたという証拠だ。
 俯いた横顔で、良牙の前髪はその真っ赤な瞳を隠した。

184らんまの心臓(後編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:39:15 ID:4VrrmyR20
 つぼみは、その横顔を見て、何かを感じる事ができただろうか。

「────あかねさん、ごめん」

 小さく、良牙は口元でそうかたどった。声には出なかった。
 喉の奥で掠れて、まるで神にでも謝罪するかのようにそう呟いたのだ。
 当人に訊かれてはならない謝罪の言葉だった。
 この場であかねを説得するのに、何よりも効果的な一言があり、それがあかねに謝らなければならないような言葉なのだと、良牙は気づいたのだった。

 すぐに、良牙は大きく息を吸いこんだ。──生涯、絶対にあかねに向けて口にするはずがないと思っていた口汚い言葉を、良牙は自分の記憶の中から探り当てた。
 少し躊躇ったが、一気にその言葉を吐き出す事になった。



「────かわいくねえっ!!」




 ──その言葉が、不意にあかねの動きを止めた。

 あかねは、何かに気づいたように良牙の方に体を向けた。
 つぼみが、驚いたように良牙を見つめた。良牙の目からは、涙などとうに枯れていた。大口を開けて、良牙はあかねに対して何度でも言葉をかける。

「色気がねえっ!!」

 ふと、あかねの脳裏に、「痛み」ではない何かが過った。
 それは、確かにその言葉によって、するすると記憶の蓋が溶解していく感覚だった。

「凶暴!! 不器用!! ずん胴!! まぬけっ!!」

 あかねは、一つ一つの言葉を聞くたびに、別の人間の顔と声がオーバーラップするのを感じた。良牙の顔と声を塗り替えて、おさげ髪でもっと少年っぽい声の男が乱入する。
 良牙は、全ての言葉を大声で叫ぶと、俯いて、拳を硬く握った。

 やはり、だ。
 この言葉が、あかねの記憶を呼び戻してしまった。
 認めたくなかった。しかし、そんな小さなプライドを捨てて、良牙は叫んだ。
 本当にその言葉を浴びせるべき男はもういない。だが、その男の代わりに。

「忘れたとは言わせない! あなたが……俺たちが好きだった……早乙女乱馬という男の言葉だ! あの下品で馬鹿な奴があなたに浴びせた最低の言葉たちだ!! だが、あかねさんと乱馬にとってはこの一つ一つの言葉が思い出なんだ!! 忘れちゃいけない!!」

 早乙女乱馬。
 聞き覚えのある名前──いや、ごく近くにいた、知っている人。
 もう世界中を探してもどこにもいない。
 天道道の食卓で居候の分際で大量の飯を食べて、学校ではサボリも遅刻も早退も当たり前の劣等生で、そのくせ戦いだけは強くてあかねがどうやっても敵わない、あの早乙女乱馬という男──。

「……!」

 あかねの胸中に、そんな記憶の暖かさが戻ってくるのが感じられた。
 不意に思い出すだけでも胸中が少し暖かくなってしまう。
 不思議と涙が溢れた。
 もう何も戻らない──そんな確信があかねの胸に再び過る。



「忘れないでくれ、あかねさん……俺の事は忘れても、乱馬の事だけは…………」



 男の声は、涙まじりで、震えて聞き取りづらかった。
 俯いている男の、震える拳を、あかねは確かに遠目に見た。おそらくは、泣かないと決意して、それを一瞬で破った男の涙だった。
 良牙がずっと秘めていたあかねへの想いは、もう完全に叶う事はなくなってしまったのである。

185らんまの心臓(後編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:39:58 ID:4VrrmyR20

「乱……馬……そう、か……」

 早乙女乱馬の名前が、ようやく、天道あかねの口から出た。
 乱馬の事を彼女が思い出し、心の靄が晴れたように消えていった。
 伝説の道着も全てを察したのだろうか。

「──」

 伝説の道着は、嫉妬深い性質の持ち主であるとされる。
 主人と認めた武道家に深い愛情を注ぎ、それ以外の異性があかねに近寄るのを許さない。もし、それを見かけた場合、伝説の道着は解体されてしまうのである。
 今がまさに、その時であった。
 道着は、乱馬と──そして良牙への敗北を確かに認め、その時、確かに伝説の道着ははらりとその役割を終えてしまった。
 幾人もの敵を苦しめてきた怪奇な鎧は、その時、他人の愛によって役割を停止した。

「くっ……」

 ──良牙も、同じだった。その瞬間は嬉しかったが、悔しくて仕方がなかった。

 どうやっても、あかねに思われ続ける乱馬には勝てない。たとえ格闘で勝っても、力で勝っても、勉強で勝っても、身長で勝っても……何で勝ったとしても、何よりも欲したその一点だけは。
 だから、乱馬をもう認めるしかなくなってしまった。
 内心では、まだ悔しい。
 いつもずっと、あかねを手に入れる事を考えてきた。二人の仲に付け入る隙はまだきっとあると、どこかで信じていた。
 しかし、そんなのは所詮気休めだった。良牙の思い込みで、もうどこにもチャンスなんていうものはなかったのだ。

「────」

 もう、これっきりだろう。

 良牙は、そう思いながら、つぼみと鯖豚のもとへと歩き出した。
 あかねとは、かつてのような関係にはもう戻れない。
 友達ですら、いられない。きっと……。
 乱馬の事を思い出してくれたとしても、あれだけ呼びかけて反応しないほど取るに足らない自分の事などあかねが覚えているわけもないだろう。

「つぼみ……」

 良牙はつぼみの近くに寄り、そっと手を貸した。
 力強く、つぼみの腕を握るその手。引っ張り上げて、すぐにでもつぼみを背負ったその背中。まぎれもなく、大丈夫と呼んでも差し支えない男のものだった。──しかし、その男は泣いていた。
 良牙は左腕に、鯖豚を抱えた。

「……あかねさん」

 そっと、右手を半分裸のあかねに向けて差し出した。
 あかねは、戸惑ったようにその右腕を見つめた。

 自分は何をしていたのだろう。こうまでして、何故……。
 自分の為にここまでしてくれる男が近くにいたのに、そんな相手まで殺そうとして。
 優しく、気高く、誰よりも傷つきやすい男を、あかねは容赦なく傷つけた。
 おそらくは一生、残り続ける傷跡を彼に残しただろう。
 胸に罪悪感が湧きでてきた。

「……」

 あかねはその右腕を良牙に差し出そうとしたが、その直前にふと嫌な物が見えた。
 自分の手には、真っ赤な血がついている。
 裏正を握った時の血だ。

 ……理解していた。だから、諦めたように自分の掌を見つめ続けていた。

「……」

 そう、一文字隼人に美樹さやか──もう二人の人間を殺している。
 あかねが出した犠牲はそれにとどまらないかもしれない。

186らんまの心臓(後編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:40:24 ID:4VrrmyR20
 目の前の男の心も傷つけ、目の前の女の体も傷つけ、計り知れない悪事を重ねた。
 言い訳はない。
 この一日、あかねは目的さえも忘れて無意味に人を傷つけ、襲い、殺し続けていた。

 そう──それは、もうどうやっても日常に帰る事などできない証だった。
 父にも、姉にも、友達にも、もう会えない。
 大事な人の前に立つ事も、もう叶わない。
 乱馬を守る、という目的は既に潰えたと言っていい。

 ふと思った。
 彼が差し出した右腕は、このあかねの手に汚れるのだろうか。
 いや、そうもいくまい。
 この右腕が罪の証ならば、あかねはそれを自分だけで背負っていくのみだ。

「……ううん」

 大事な友達の指を、あかねの罪で穢してはならない。
 あかねは、一息ついて、その右腕をひっこめた。
 男は、そんなあかねの様子を見て、眉をしかめた。
 そんな彼の表情を見て、あかねは息を大きく吐き出した。



「……ごめんね…………みんな……乱馬……」



 そう呟くと、あかねの体はゆっくりと力を失い、上半身ごと倒れこんだ。
 全身の力がもう、どこにもない。
 いや、もはや生命を維持するだけの余力もないだろう。

「あかねさんっ!」

 あらゆる変身能力があかねに手を貸したが、あかねの肉体が持つキャパシティを遥かに超える膨大な力があかねに取りついてしまった。幾つもの変身、幾つもの顔、幾つもの力──それが、あかねの体を蝕み、最後には何も残らない怪物に変えてしまった。
 その悪魔の力は自分の命さえも吸った。肉体は崩壊しきっていると言っていい。

「大丈夫。忘れたりなんかしないよ……良牙くん。良牙くんは私の一番特別な友達だから……。────ありがとう」

 ああ、せめて、……大事な親友・響良牙の名前を呼び、彼が意外そうな顔でこちらを見るだけの余力があったのは、ちょっとした救いになっただろうか。







 あかねの亡骸の右腕を、良牙は黙って握り続けた。
 空はもう晴れている。
 一帯が潰れたこの激戦の痕も、随分と違った景色に見え始めていた。
 長い時間が経ったように思われたが、時計はほんの数十分の出来事だったのだと告げている。

「……」

 つぼみは良牙に声をかける事ができなかった。
 良牙は何も言わず、ずっと黙っていた。
 それは、まだ彼が涙を止められず、立ち上がってこちらに顔を向けられないという事だと、容易にわかった。
 人は大事な人の死に目に悲しみを覚える。その時に自然に流れる涙であっても、他人に見せるのは情けないと教育されて生きているのが男たちである。
 ましてや、彼のように頑固で誰よりも強い人間は、涙を易々と見せたいとは思わないだろう。

 ──彼は我慢している。
 本当は遠吠えのような声をあげて泣きたいのかもしれないが、つぼみがいる手前、それができないのだろう。
 だから、何となく居心地の悪さを感じていたのだろうが、やはりつぼみは意を決して告げた。

187らんまの心臓(後編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:40:44 ID:4VrrmyR20

「良牙さん……一緒に泣きましょう」

 つぼみの提案は聞こえただろうか。

「私もずっと、我慢していました。……でも、やっぱり……無理をするのはきっと、体に毒です」

 何も言わない良牙の背中に、つぼみは語り掛けた。
 やはり頭が真っ白で、何も聞こえていない──聞こえたとしても理解できない──のかもしれない。
 つぼみ自身、自分が何を言っているのか、すぐにわからなくなった。
 考えて出た言葉というよりも、ただ感じた言葉だった。
 今、自分がしたい事だろうか。

「……っ」

 良牙はあかねの手をまた強く握った。
 より強く。──しかし、握り返してもらえない心の痛み。
 それが良牙の中からあふれ出る。

「あかねさああああああああああああああああああああああああああんっっっっ!!!!!!!!!!!!!」

 良牙は、あかねに縋り付いて泣いていた。
 そんな良牙の背中で、つぼみは大事な友達をまた喪った悲しみと、それからまた一人、心は救えても命までは救えなかった痛みに慟哭した。







 良牙は、倒れた木々が茂るその場所にあかねの遺体を隠した。
 地面に埋める事ができなかったのは、まだどこかに未練があるからだろう。
 五代雄介や美樹さやかもここにいて、罪の連鎖がここにある。
 五代をさやかが殺し、さやかをあかねが殺し、あかねも死んでしまった。

「……つぼみ。ごめん」

 また二人で冴島邸に向かう森の中を歩きながら、良牙は言った。
 あかねの荷物を形見として回収したが、その中には殺人の為の武器ばかりである。
 ガイアメモリも、おそらくそのために使われたのだろう。

「折角みんなで助けたのに、さやかは……」

 どうにも良牙は居心地が悪そうだった。
 身体的、精神的に疲労がたまって、ただ、何も考えられないままにつぼみにそう言ったのだ。涙が枯れても、まだ呆然として何も考えられなかった。
 乱馬やシャンプーと違い、その死に目を直接見てしまったのがつらかったのだろう。

「なんで、良牙さんが謝るんですか」
「……」
「私は、さやかの命を奪った罪を憎みます。でも、……あかねさんは憎みません。それが私で、それが良牙さんですから」

 誰かが犯した罪を憎み、罪を犯した人間を憎まない。
 それは、つぼみの鉄の意志だった。そして、良牙自身も無自覚にそんなやさしさを心に秘めている人間だとつぼみは思っていた。
 今回の場合、ある人を狂わせたのは確実に「外的要因」である。
 それに、同じように、さやかは良牙と同行者である五代雄介を殺してしまっている。
 つぼみが、あかねを責める気はなかった。

「……そうか」

 良牙もそのつぼみの意見に概ね納得した。
 これ以上、二人で話しても、結局、結論は同じだ。主催を倒す事で、その罪を消し去る。
 それこそが、これから仮面ライダーとプリキュア──古今東西のあらゆる戦士たちがすべき事である。

 大道克己もそうだ。いつの間にかあの男への恨みは晴れていった。

188らんまの心臓(後編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:41:08 ID:4VrrmyR20
 自分が憎んでいたのは、大道克己ではなく、彼の罪だとわかり始めていたのかもしれない。
 仮面ライダーエターナルとしての力を得た良牙は、これからもまた、仮面ライダーの力を自分が信じる正しい使い方で使っていくだろう。

「そうだ、良牙さん。さっきからずっと不思議だった事があるんです」

 ふとつぼみが口を開いた。
 先ほどからどうしても疑問だったことが一つあるのだ。

「…………あかねさんが私にトドメを刺そうとした時、どこからか声がしたんです。『早くこの娘を助けてあげて』、って。女の人の声でした。一体……誰の声だったんでしょうね」

 それは、回想して見ると、夢や幻のような声であったようにも思えるが、確かにあの時は耳を通って聞こえた声だった。
 距離感覚的にも、果たして良牙に聞こえたのかどうかはわからない。
 ただ、ここで子豚が「ぶきっ、ぶきっ」と、まるで賛同するかのように声をあげていた。

「……俺も不思議に思っていた事がある。あかねさんが息を引き取った後、あかねさんが持っていたあの折れた刀の刃先がどこにもなくなっていた……もしかしたら」

 あらゆる呪いの道具を目の当りにしてきた良牙である。
 物の中に「意思」があるかもしれないと言われても、すぐに呑み込めるだろう。
 もしかすれば、あの刀──裏正が、一人の少女の心を救えたと知って、満足気にその怨念を絶やして消えていったかもしれない。

 彼らは知る由もないが、裏正という刀は、ある女性の魂が宿されている。
 腑破十臓という男の妻の魂だった。人斬りだった夫を止める為に、何度も何度も説得して、それでも結局止められなかった怨念である。
 しかし、その刀はある物を見届けるとともに、その恨みを消した。
 二つに折れた刀の柄は、美樹さやかが友に認められるのを見た時に、そして刃は、天道あかねが友によって止められた時に。
 ……もう、自分が世にいる必要はなくなった、と確信したのだろう。

(なるほど──)

 良牙の中に、確信ともいえるべき何かがあった。
 それを胸に秘めながら、手元にあるエターナルのメモリを、良牙はじっと見つめた。

(俺もいずれ、お前の声を聴かせてもらうぜ、エターナル)

 エターナル。
 かつて、風都を死人の街にしようと目論んだ悪の仮面ライダー──。
 その力が一人の少年の手に渡り、いつの間にか、全く別の道に向けて風が送られていた。

189らんまの心臓(後編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:41:25 ID:4VrrmyR20



【2日目 昼】
【E−5 森】

【花咲つぼみ@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:ダメージ(中)、加頭に怒りと恐怖、強い悲しみと決意、首輪解除
[装備]:プリキュアの種&ココロパフューム、プリキュアの種&ココロパフューム(えりか)@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&シャイニーパフューム@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&ココロポット(ゆり)@ハートキャッチプリキュア!、こころの種(赤、青、マゼンダ)@ハートキャッチプリキュア!、ハートキャッチミラージュ+スーパープリキュアの種@ハートキャッチプリキュア!
[道具]:支給品一式×5(食料一食分消費、(つぼみ、えりか、三影、さやか、ドウコク))、スティンガー×6@魔法少女リリカルなのは、破邪の剣@牙浪―GARO―、まどかのノート@魔法少女まどか☆マギカ、大貝形手盾@侍戦隊シンケンジャー、反ディスク@侍戦隊シンケンジャー、デストロン戦闘員スーツ×2(スーツ+マスク)@仮面ライダーSPIRITS、『ハートキャッチプリキュア!』の漫画@ハートキャッチプリキュア!
[思考]
基本:殺し合いはさせない!
0:冴島邸へ。
1:この殺し合いに巻き込まれた人間を守り、悪人であろうと救える限り心を救う
2:……そんなにフェイトさんと声が似ていますか?
[備考]
※参戦時期は本編後半(ゆりが仲間になった後)。少なくとも43話後。DX2および劇場版『花の都でファッションショー…ですか!? 』経験済み
 そのためフレプリ勢と面識があります
※溝呂木眞也の名前を聞きましたが、悪人であることは聞いていません。鋼牙達との情報交換で悪人だと知りました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※プリキュアとしての正体を明かすことに迷いは無くなりました。
※サラマンダー男爵が主催側にいるのはオリヴィエが人質に取られているからだと考えています。
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました。
※この殺し合いにおいて『変身』あるいは『変わる事』が重要な意味を持っているのではないのかと考えています。
※放送が嘘である可能性も少なからず考えていますが、殺し合いそのものは着実に進んでいると理解しています。
※ゆりが死んだこと、ゆりとダークプリキュアが姉妹であることを知りました。
※大道克己により、「ゆりはゲームに乗った」、「えりかはゆりが殺した」などの情報を得ましたが、半信半疑です。
※所持しているランダム支給品とデイパックがえりかのものであることは知りません。
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※良牙、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※全員の変身アイテムとハートキャッチミラージュが揃った時、他のハートキャッチプリキュアたちからの力を受けて、スーパーキュアブロッサムに強化変身する事ができます。
※ダークプリキュア(なのは)にこれまでのいきさつを全部聞きました。
※魔法少女の真実について教えられました。

190らんまの心臓(後編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:41:44 ID:4VrrmyR20

【響良牙@らんま1/2】
[状態]:ダメージ(中)、五代・乱馬・村雨・あかねの死に対する悲しみと後悔と決意、男溺泉によって体質改善、首輪解除
[装備]:ロストドライバー+エターナルメモリ@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(ゾーン、ヒート、ウェザー、パペティアー、ルナ、メタル、バイオレンス、ナスカ)@仮面ライダーW、
[道具]:支給品一式×18(食料二食分消費、(良牙、克己、五代、十臓、京水、タカヤ、シンヤ、丈瑠、パンスト、冴子、シャンプー、ノーザ、ゴオマ、バラゴ、あかね、溝呂木、一条、速水))、首輪×7(シャンプー、ゴオマ、まどか、なのは、流ノ介、本郷、ノーザ)、水とお湯の入ったポット1つずつ×3、子豚(鯖@超光戦士シャンゼリオン?)、志葉家のモヂカラディスク@侍戦隊シンケンジャー、ムースの眼鏡@らんま1/2 、細胞維持酵素×6@仮面ライダーW、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、歳の数茸×2(7cm、7cm)@らんま1/2、デストロン戦闘員マスク@仮面ライダーSPIRITS、プラカード+サインペン&クリーナー@らんま1/2、呪泉郷の水(娘溺泉、男溺泉、数は不明)@らんま1/2、呪泉郷顧客名簿、呪泉郷地図、克己のハーモニカ@仮面ライダーW、テッククリスタル(シンヤ)@宇宙の騎士テッカマンブレード、『戦争と平和』@仮面ライダークウガ、双眼鏡@現実×2、女嫌香アップリケ@らんま1/2、斎田リコの絵(グシャグシャに丸められてます)@ウルトラマンネクサス、拡声器、インロウマル&スーパーディスク@侍戦隊シンケンジャー、紀州特産の梅干し@超光戦士シャンゼリオン、ムカデのキーホルダー@超光戦士シャンゼリオン、滝和也のライダースーツ@仮面ライダーSPIRITS、『長いお別れ』@仮面ライダーW、ランダム支給品0〜8(ゴオマ0〜1、バラゴ0〜2、冴子0〜2、溝呂木0〜2)、バグンダダ@仮面ライダークウガ、警察手帳、特殊i-pod(破損)@オリジナル
[思考]
基本:自分の仲間を守る
0:冴島邸へ。
1:誰かにメフィストの力を与えた存在と主催者について相談する。
2:いざというときは仮面ライダーとして戦う。
[備考]
※参戦時期は原作36巻PART.2『カミング・スーン』(高原での雲竜あかりとのデート)以降です。
※ゾーンメモリとの適合率は非常に悪いです。対し、エターナルとの適合率自体は良く、ブルーフレアに変身可能です。但し、迷いや後悔からレッドフレアになる事があります。
※エターナルでゾーンのマキシマムドライブを発動しても、本人が知覚していない位置からメモリを集めるのは不可能になっています。
(マップ中から集めたり、エターナルが知らない隠されているメモリを集めたりは不可能です)
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※つぼみ、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※男溺泉に浸かったので、体質は改善され、普通の男の子に戻りました。
※あかねが殺し合いに乗った事を知りました。
※溝呂木及び闇黒皇帝(黒岩)に力を与えた存在が参加者にいると考えています。また、主催者はその存在よりも上だと考えています。
※バルディッシュと情報交換しました。バルディッシュは良牙をそれなりに信用しています。
※鯖は呪泉郷の「黒豚溺泉」を浴びた事で良牙のような黒い子豚になりました。
※魔女の真実を知りました。







【天道あかね@らんま1/2 死亡】
【残り15名】

191 ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:43:10 ID:4VrrmyR20
以上、投下終了です。

192名無しさん:2014/10/07(火) 18:07:57 ID:5x6vqHEU0
投下乙です
やっぱりあかねは助からなかったか…
でも、最期に乱馬や良牙の事を思い出せて良かった

しかし良牙はほんと報われんなあ
どんなに強く想ってても、あかねの心を強く揺さぶるのは彼自身の言葉でなくて、乱馬の言葉だなんて、悲しいなあ
あかねの最期の言葉でもあくまで『友達』呼びなあたりにも哀愁を感じるw
まあ、良牙には一応あかねとは別に相思相愛の彼女がいるわけだが

193名無しさん:2014/10/07(火) 18:28:45 ID:/cmDtofk0
投下乙です。
おお、苦難続きだったあかねはようやく最期に一つの救いを手に入れられましたか……
新たなる決意を胸にした二人に幸があらんことを

194名無しさん:2014/10/07(火) 19:18:23 ID:yRfU5JMs0
投下乙です

あかねは彼女だけの責任でもないんだが選択肢の結果でとことんまで行ったからなあ
助からないとは思ったがせめて最後に救いの一つがあっただけでも…
良牙は本当なら休ませてあげたいがロワの最終章はまだ続く
せめて頑張れ

195名無しさん:2014/10/09(木) 00:14:49 ID:c..nCN/gO
投下乙です。

良牙はどう頑張っても乱馬に勝てない。
それでもあかねにとっては、乱馬の事を想い出させてくれた「大事なお友達」だ。

196 ◆gry038wOvE:2014/10/13(月) 23:52:05 ID:/DLS..kw0
投下します。

197騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/13(月) 23:53:33 ID:/DLS..kw0








 Where there is light, shadows lurk and fear reigns…
(光あるところに、漆黒の闇ありき。古の時代より、人類は闇を恐れた)











 But by the blade of knights, mankind was given hope…
(しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ)















 涼邑零。──この男に、その名前がついたのはごく最近の話である。

 元々、彼には「本当の名前」はなかった。人の子として生まれたはずだが、気づいた時には親は目の前にはいなかった。自分と血のつながりのある人間は人生の始まりから間もなくして、何らかの事情で彼の目の前から姿を消していたのだ。
 おそらくは────もうその彼の血縁者はこの世にいない。両親は彼が生まれて間もなくして、ホラーに殺されたという話をされた事があったが、やはりそれが真実なのだろう。
 だから、実の両親がつけるべきもの──「本当の名前」は彼にはない。

『──父さん! 静香!』

 親のなかった彼にとっての家族とは、道寺という老いた魔戒騎士の父と、静香という妹である。自分が道寺や静香と血のつながりがない事を知ったのは、十年前、彼が八歳の時だ。
 それを告げられるその時まで、何の違和感もなく彼を本当の父だと思って生きてきたのだった。強く優しい道寺の背中は、本当の父そのもの──彼は、ずっとそれを追って来た。
 魔戒騎士の血が自分と静香に流れ、自分はその血に従って、父同様の立派な魔戒騎士になると思っていた。

『怒らないで、坊や。道寺はね、身寄りのないあなたと静香を引き取って、自分の子供として育てる決意をしたの。それがどんなに覚悟の要る決断であったか、あなたにはわからないでしょうね──』

 倉庫の中で魔導具シルヴァと出会い、そう言われた時の衝撃を彼は忘れないだろう。月並みな言い方をすれば、ハンマーで殴られたような衝撃である。
 後に、その真実を再度、道寺から聞かされた時の静香の驚いた顔も忘れない。
 “ああ、あの時自分はこんな顔をしていたのか……”と。
 だが、決して、失望だけの色ではなく、どこか嬉しさがこみあげていたのは、兄と妹の関係では叶わないような想いを、お互いに胸に抱いていたからだろう。

 彼が道寺のもとで暮らしていた時の名前は銀牙と言った。
 これはおそらく、一人の身寄りのない子供に道寺がつけた名前だ。銀牙騎士ゼロ、という道寺の称号の名前を考えれば、容易にわかる事である。おそらくそこから取ったのだ。

198騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/13(月) 23:53:51 ID:/DLS..kw0
 銀牙はその名前を、己の誇りにした。血のつながりはないとはいえ、それでも父は自分を魔戒騎士にしようとしている。父の称号から受けた名前がより一層、自分は魔戒騎士になるのだという想いを強くさせた。誉れ高き魔戒騎士が、己の称号を他人に名付けるはずがない。実の息子のような愛情を注いでいるから、この名前が銀牙に受け継がれたはずだ。
 道寺や静香が、自分の事を「銀牙」と呼んでくれる日々がただ嬉しかった。
 たとえ血のつながりがなくとも、そこにいるのは確かに「家族」。父から子へと受け継がれた、魔戒騎士の魂の絆だった。

 ……とはいえ、元々、道寺が彼を引き取ったのは、「絶狼」の称号を持つ鎧の後継者が空席だったからであった。決して孤児を不憫に思ったわけでもなく、己の寂しさを紛らわすだけでもなく、ただこの世にありふれたたくさんの孤児の中から、奇跡的な才能の持ち主を見出して、自分の後継者を育てようとしたのであった。
 魔戒騎士になるには血のにじむような努力が要される。昼夜を問わず心身ともに修行し、天才的な素養と努力によって己の術を高めていく。一般的な人間が一生涯に行うほどの努力を少年期に詰め込むくらいでなければ、古の怪物ホラーを狩る事はできない。
 本来ならば血統も重んじられるが、その差を一層の努力で埋めなければならない定めも彼には圧し掛かった。

 しかし、銀牙にはそんな生活も、手ごたえのない努力も、苦ではなかった。
 苦しさの数に勝る幸せがあり、道寺の息子として魔戒騎士を夢見る事もまた誇りであったからだ。銀牙自身が、魔戒騎士の子たちに遅れを取らない才能の持ち主であった所為もある。

『ねえ、銀牙はなぜ魔戒騎士になったの?』
『──きみを守るために』

 「大事な物を守る」──魔戒騎士にとって、最も大事な想いと、しかるべき義務もまた、銀牙の胸の内に確かに秘められていた。日々の辛い修練も、父や静香を守るために魔戒騎士になるその時を思えば耐えられたのだ。それに、父の生成した魔導具・シルヴァも彼らを支えていた。

 そして、いつの間にか銀牙は、魔戒騎士の血統を継いだ者たちよりも立派な魔戒騎士になっていたのである。
 それだけの素質を開化させる頃には、銀牙は十八歳になり、私生活では静香との結婚を意識するようになっていた。まるで前世からの悲恋が叶うような喜びが胸に広がっているのを銀牙は感じた。
 そう、おそらくは──この愛おしさは、今に限った事ではない。
 兄と妹だった時よりも、ずっと以前から二人は惹かれあっていたはずだ。
 そして、やがて訪れる幸せを夢見て、銀牙は日に日に強くなっていった。誰よりも強く、誰よりも静香の事を守れる魔戒騎士になるために──あるいは、最高位の黄金騎士の力に届いてもおかしくないほどの急激な成長ぶりであっただろう。


 そんな日々も──。


 あの日。左翔太郎の言葉を借りるならば、「ビギンズナイト」とでも呼ぶべき、銀牙の運命を変えた日、遂に銀牙の幸せな日々は幕を下ろした。
 長い時間をかけて育まれたその幸せが崩されるのは一瞬だった。
 それが崩された理由の単純さも、その運命の無情さを表していた。

 たった一人の魔戒騎士が、ある秘薬を奪う為だけに、銀牙の目の前で道寺と静香を殺害したのである。目の前で、家族たちの温かさは消えていった。
 その日から、銀牙は己の名前を捨てた。あの名前が呼ばれるは、銀牙が育ったあの草原にぽつりと建てられた小さな家の中だけだ。
 誇り高き、「銀牙」の名前は、もう使われるべきではない。これからはどんなに汚れた事でも行う。魔戒騎士の道理に逆らってでも、家族の仇を取るのだ──。

 「銀牙」は、その時に死んだ。──そして、新しく「涼邑零」という名前の男が生まれ、復讐の為の日々は始まったのである。







 仇敵は目の前にいた。
 暗黒騎士キバ──。いや、それを狂わせていた『鎧』だった。この鎧は中身を伴っていない。残留思念だけが具現化された物であるとザルバは言う。
 実のところ、確かにそこから人間らしい意思は感じられなかった。

 しかし、確かにそれは仇敵だった。

199騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/13(月) 23:54:17 ID:/DLS..kw0
 千体のホラーを喰らい、魔戒騎士たちを喰らい、バラゴの精神までもを喰らったのは全てこの暗黒騎士キバの鎧の方である。
 真に憎まれるべき仇は鋼牙でもバラゴでもない。──ここにいる、鎧の怪物だ。

 ──魔戒騎士たちの鎧は、須らく危険性のある材質で出来ている。
 ソウルメタル──現世で99.9秒以上装着していれば鎧の力に食われ、暴走するという代物である。その時から鎧はデスメタルへと還元され、より強固で強力になる代わりに、鎧自体の自我も強くなるのである。
 文字通り、“魂が死んだ”状態と言っていい。
 実のところ、辛い修行を経てきた多くの魔戒騎士たちはソウルメタル難なくそれを使いこなすのだが、時として飽くなき力の誘惑に負け、99.9秒を超過しても鎧を解除せず、結果として怪物になる者が現れる。

 この鎧の主であるバラゴは、その限られた稀な魔戒騎士だった。
 バラゴはもうこの世にはいないが、全てを喰らった鎧の方こそがバラゴを暴走させ、怪物の意思を持っていたのだろう。バラゴの蛮行は当然許される事ではないが、より許せないのは、一人の人間の想いを利用して騎士の道を狂わせたこの悪しき鎧──それが今、ようやく零にも理解できたようであった。

「──いくぞ」

 ゼロはその仇敵の暗黒騎士の喉元を冷静に──あるいは、冷淡に見つめた。銀牙騎士ゼロの鎧を纏い、今自分は戦いの現場にいる。
 しかし、己の内心には奇妙な落ち着きも見受けられた。戦意は高揚もしているはずなのだが、決してそれだけではない。今までよりもずっと、沈着した怒りで敵に相対している。
 ずっと……ずっと、追い求めてきた己の仇が、今目の前にいるはずなのに。あれだけ憎み、あれだけ零を苦しめた諸悪の根源が目の前にいて、今度は零の命を奪おうとしているはずなのに。本来なら復讐の意思が牙を剥いても全くおかしくない話だが、零はその想いに飲まれなかった。

「暗黒騎士……いや、俺たちの敵・ホラーよ」

 勝つか、負けるか──それは生きるか、死ぬか。幾度もその緊張を乗り越えてきたとはいえ、この破格の相手を前に考えてみれば恐ろしい物だが、今こうして、久々に暗黒騎士と対決する日が来た時、零の胸には辛い修行を乗り切った後に敵に勝ったような達成感があった。
 ──いや、勝てる。これは勝てる戦だ。その確信が既に零にはある。

「貴様の陰我──今度は、俺が断ち切る!」

 道寺も。静香も。シルヴァも。鋼牙も。──今はいないが、彼らから教わって来た魔戒騎士の義務と守りしものだけは、零の中に残される。いや、彼らにその想いを受け継がせてきた幾千の英霊の魂や想い、誇りもまた、銀牙騎士がここに生まれるまでに存在しているのである。それらは決して消えない。
 古今東西、あらゆる黄金騎士や銀牙騎士たちが鋼牙・零の代まで継承させた力と意思である。たかだか十年程度、見せかけの強さで悪の限りを尽くした暗黒騎士──いや、騎士と呼ぶ事さえおこがましい目の前の怪物とは違う。

 ゼロがこんな所で、こんな相手に負けるはずがなかった。
 この剣に、この両腕に、この血潮に、幾千幾万の戦士たちの力と想いが宿り続けている。そして、ゼロの背中を押しているのである。

 ──それに、ここには新しい仲間もいる。
 その追い風に身を委ねるように、彼は駆けだした。

「──はあああああああああああっ!!!」

 両手に剣を握りしめたゼロは、まるで舞うようにキバの体表へと剣をぶつけた。
 火花は勿論、キバを動かす邪念の欠片もまた、そこから漏れ出たように感じた。
 胸を張り、然として、キバはその一撃を受ける。
 その衝撃を鎧の強度で飲み込み、当のキバは隙を見てゼロの腹を、胸を蹴り飛ばした。
 数歩、ゼロは退く。

「はあっ!!!!」

 しかし、そこから縦一閃。
 刃がキバの体を引き裂かんと振るわれた。
 両腕の付け根に向けて突進した斬撃の光は、その体を抜けて後方の木々へと、地面に垂直な焦げ跡を刻んだ。

「ぐっ……!」

 今度はキバが後退した。

200騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/13(月) 23:54:36 ID:/DLS..kw0

 真横に剣を構えて、ゼロの手前の虚空を引き裂く。彼らの一撃は、風を作りだす。──鎌鼬、という現象のように。
 ゼロは高く跳躍してそれを回避する。キバの斬撃は、そんなゼロの足の下を素通りしていった。後方数十メートル、幹が抉られた木が残った。



 ──その時、キバにも隙が出来たように見えた。

「はぁっ!!」

 この掛け声はゼロでもキバでもない者が発した声だった。そして、真横からキバの左腕に向けて振るわれる剣──。これは、おそらく戦闘の素人による攻撃だ。キバはその左腕で剣の切っ先を掴む。

 その見かけは黄金の輝きを放っていた。──ゼロの仲間だ。
 黄金騎士ガロの姿に変身したレイジングハート・エクセリオンである。ダミーメモリという強力なメモリが、一度見た敵をより強くなっている。

「愚かなッ」

 キバはまず、そちらに一度、剣を振るった。刃はまるで突き刺したかのように深く鎧を抉り、滑らかに線を作る。黄金の鎧に一文字の傷跡。レイジングハートの方が接近しすぎた証であろう。指に嵌められたザルバも、その不覚を呪っているに違いない。
 もう少し距離感を計算に入れるべきだ、と。

「ぐああああああああああああああッッ!!」

 レイジングハートは基本的にはここにいる誰よりも戦闘に不慣れだ。
 ゆえに、キバに敵うだけの力は持ち合わせない。キバにとっても、取るにたらない存在のはずだ。

「大丈夫かっ!?」

 着地したゼロがレイジングハートの身を案じる。
 だが、彼女には決して役立たずではなかった。彼女にも、ここにいる誰も持たない技能がある。この場の誰もが、その行動をただの無茶や不慣れと勘違いしたようだが、レイジングハートも接近戦が危険である事など重々理解している。

 ──彼女も「変身」においては、ここにいる誰よりも多様なバリエーションを持っているのだ。これまで見てきたあらゆる物に姿を変え、その能力の片鱗を自在に引きだす事ができる。扱う者によれば、その強さは絶大。
 今、まさに、その能力を活かして目の前の巨悪に一矢報いようと思ったのである。

「──OK,……変、身ッ!」

 この時、傷ついたレイジングハートが姿を変えたのは、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンの姿であった。所持していた黄金の剣は、鎌形の魔法刃・ハーケンセイバーへと姿を変える。ダミーメモリによる疑似的な魔法力だけではなく、レイジングハート自身のリンカーコアから供給される魔法が一層、その刃を強くする。

「ハーケンセイバァーッ!」

 ごろろろろ。──形を変えた剣から発せられるのは、轟く雷鳴。
 キバの頭部から足元まで雷が駆け巡った。人間ならば一瞬で焼死する。非殺傷設定などこの相手には使われていなかった。

「なにっ……!」

 肉を斬らせて、骨を絶つ──。
 接近戦の危険性は重々承知していたが、レイジングハートはこの距離で「変身」する事を考えていた。ガロとして接近してキバを狙い、直後にフェイトの姿へと変身し、魔力を発動する。その作戦通り、ハーケンセイバーへと変形した黄金剣は、キバの頭上に雷と魔法刃を落としたのであった。

「……ぐっ!?」

 魔戒騎士を相手にすればありえないトリッキー。──それが、暗黒騎士キバの鎧に突かれた弱点である。
 目の前の敵が黄金騎士ではなく、湖で目にした女であるとはわかっていたが、あくまで、キバは無意識に「魔戒騎士の能力」への対応を考えていたのだろう。しかし、当のレイジングハートの側は決して黄金騎士としての能力だけを有しているわけではない。これまでの戦いのあらゆるデータが全てそのままダミードーパントの能力に直結している。

201騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/13(月) 23:54:52 ID:/DLS..kw0

 変身のバリエージョンは無限に存在し、瞬時にその姿と能力を入れ替えて戦闘する事ができる。その切り替えが上達している事をキバは想定していなかった。
 ゆえに、甘んじてその体は電撃を喰らう事になったのだ。
 体を駆け巡った電流の残滓を振り払い、レイジングハートを一睨みする。

「ふんっ……」

 キバにとってはまだまだ致命傷に届かない一撃だ。
 鎧自体の能力も、易々と敵に遅れを取るレベルではない。中身がない分、人間と比べて「痛み」のない彼には、一瞬だけ受けた外傷である。
 通常の金属と違い、感電する事はありえない。破損レベルも低く、決して意義のある攻撃にはなりえなかった。

「……この程度か!」

 レイジングハートが行ったのは、実際には「骨を絶たせて肉を斬る」という程度だったのだろうか。キバの受けたダメージは、レイジングハートの意に反して、微々たるものであった。
 しかし、キバのペースを乱したのは確かである。下に見ていた相手から初めてまともな攻撃を貰って、内心では動揺も受けただろう。自尊心の強い怪物であるがゆえ、自分の想定を崩されると理不尽な怒りも湧き上がる。
 実際、微々たるものとはいえ、鎧そのものに与えたダメージがあるのは確かだ。蓄積されれば十分に破壊につながる。おそらく、通常の攻撃では、多少でもダメージは与えられない。

『おい……あんまり無茶をするな……! 身が保たないぞ!』

 ただ、レイジングハートを想い、ザルバは叫んだ。実際、その通りだろうとレイジングハートも自覚する。
 この戦法が一度成功して以降は、おそらくその効果は弱くなる。まだキバが知らないような能力もいくつか使えるが、それを使い続ければキバもレイジングハートの命そのものを消し去る為の対策を生みだすだろう。

 レイジングハートは、キバから距離を置いて膝をついている。胸部の傷跡を触れながら、あと二、三発同様に攻撃されればレイジングハート自体が破壊されてしまう可能性も高い──それを実感した。

「まずいっ!」

 好機。キバはそこにねらい目を感じる。
 その最中、仮面ライダースーパー1──沖一也がそこに駆け寄った。

「ふんっ」

 キバが空中に剣で十字を描くと、それはまるで黒色の衝撃波のような姿へと姿を変えて、そのままレイジングハートを狙う。

「──ッ」

 ──が、その攻撃の延長線上には、既にスーパー1が到着していた。
 十字の黒炎がレイジングハートの体を引き裂く前に、スーパー1が両掌をキバに向けて腰を少し下ろす。構えは、ほぼ正確だった。

「赤林少林拳! 梅花の型!」

 十字の中央、四股が集う場所が、スーパー1の掌と重なり、包まれた。まるでスーパー1の掌の底から漆黒の花が咲いたようにも見えるだろう。
 レイジングハートは、自分に向けられた攻撃に咄嗟に目を瞑ったが、己を守るスーパー1の背中を目の当りにして、ほっと息をついた。

「破ァッ!」

 スーパー1は、キバの剣から放たれた衝撃波を梅花の型で吸収する。
 彼は別にこの腕に力を込めたつもりはなかった。ただ、自然の流れに従い、己の鋭敏な感覚を信じてそこに手を起き、流れに任せたのみである。
 その結果、黒炎の力は押しとどまり、やがてスーパー1の付近数メートルに暴風を発生させた後、元通り自然の流れに消えた。

 全て終われば、舞い散る木葉だけが、スーパー1とレイジングハートの周囲には舞っている。
 守る。──という行為においては、彼はプロフェッショナルであると言える。
 梅花とは、その為の力である。その使いどころが発揮されたという事だ。

202騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/13(月) 23:55:33 ID:/DLS..kw0

「ハァッ!」

 ゼロが再び、キバに接近して剣舞する。
 本来ならば相当に使う難く、剣道でもルール上可能であれ、誰も使わない二刀流。──現代では、それを使いこなせるほど頭の回転の早く、両手の握力やテクニックの強い戦士は存在していなかった。
 それが、今、一度、二度、三度、四度と、キバを翻弄して傷つけている。

 彼は二刀流において、おそらくその時代で最強の実力の持ち主であった。並の人間にとっては一刀流が最も安定した剣術だろうが、彼にとっては二刀流の方が遥かに扱いやすい。
 刀、という無機質な相棒でも、一つでも多い方がいいと──寂しく思っていたのかもしれない。
 それは、滑らかにキバの体表を削り取った後、背後に退いた。

「うらァァあああああッ!!」

 そんな最中、三人──ゼロとスーパー1とレイジングハート──の耳朶を打つのは、もう一人の後衛の叫び声である。咄嗟に、ゼロとスーパー1は己の身の危険を感じた。
 味方ではあるが、決して優しくはない攻撃がキバに向けられたのだろう。

「ぐっ……!!」

 ゼロが後退した理由はこれである。
 スーパー1のもとに、更に一閃の攻撃が向かってきた。──今度は、梅花による回避は難しい速度であった。力の位置が安定せず、捉えるのは難しい。

 咄嗟に、スーパー1とレイジングハートはその頭を下げて屈み、体ごと回避した。
 激突。
 二人の後方、冴島邸の塀に真っ赤な炎を帯びた斬撃が走る。爆弾がコンクリートを粉にしたような轟音とともに、塀が崩れ落ちてきた。
 レイジングハートの頭部をスーパー1が庇うようにして守る。瓦礫は彼の体には柔らかな土塊も同然だ。

「ドウコク……!」

 その技の主を見れば、それは血祭ドウコクであった。──彼にとっては、この軌道もおおよそ予想通りだっただろう。最もキバを捉えやすい角度に、力任せに剣を振るっただけだ。
 暗黒騎士キバ以上に恐ろしい異形を、スーパー1は黙って見つめる。その瞳にはドウコクへの批難と反抗の念も込められていたが、当のドウコクは全くそんな視線を受けている意識はなかった。

「フン」

 ドウコクは憮然と立ち構えたまま、キバの方を見据えている。スーパー1とレイジングハートの方には最初から目をやっていないようだ。明確にスーパー1やレイジングハートを狙ったわけではないが、巻き添えも辞さないと判断したのだ。
 いずれ敵になる男……というのを二人は確信した。

 これがこの男の戦法だ。
 スーパー1とレイジングハートの回避を信頼したわけではなく、「回避できない雑魚ならば味方として扱う価値はない」と最初から方針を決めて戦っている。
 これが同じ外道衆の仲間ならば違っただろうが、相手が外道と相容れない善良な人間ともなるとこんな扱いである。──ドウコクは、スーパー1たちが休む間もなく次の行動に出た。

「ハァァァァァァァァッ!!!!!」

 そう吠えたかと思えば、次の瞬間には、ドウコクがその場から姿を消した。いや、その場にいた人間の目が一瞬だけその姿を捕捉できなくなっただけだった。
 よく目を凝らせばわかるが、ドウコクは超高速で移動してキバの体を斬りつけていた。それは傍から見れば単純に右から左へ動いているように見えるかもしれないが、実のところ、ドウコクの足は地を蹴っていない。
 それこそが外道衆なる妖怪たちの特異性だろう。
 僅かならば、地に足をつけずに、自分が作りだした大気の流れだけで移動ができる。

「ハアッ!!」

 何度、キバの体が傷を負っただろうか、というくらいに切りつけたところでドウコクが飛びあがり、上空から青い雷を放ってキバに落とした。

203名無しさん:2014/10/13(月) 23:56:28 ID:/DLS..kw0

 スーパー1とレイジングハートは退いてそれを回避していた。今は到底、そこに飛び込めるような状況ではない。
 これがドウコクの実力である。この時の彼は、おそらくこの場で最も非情に戦闘行為を行っていたのだろう。──首輪を外した以上、彼を縛る者は何もない。

「ぐっ!! はっ……!!」

 キバは、傷つきながらも機転を効かせて、その雷を上空に翳した剣を避雷針にして「回収」する。そして、剣を華麗に振るって、その電撃が自らに到達するよりも早く────大地へと雷を押し返す。
 なかなかの初速だ。視界そのもののモードを切り替え、ドウコクの戦闘をコンピュータで捉えていたスーパー1以外、その一瞬は捉えきれなかっただろうと、スーパー1は自負した。
 地面が裂け、電撃はゼロの方へと突進していく。

「危ないっ!!」

 スーパー1が思わず叫んだ。
 雷が土竜のように地を掘り進め、地上にそのエネルギーを解放しようとしている。
 そのゴール地点にゼロがいるのである。彼の耐久精度がどの程度か認識していなかったスーパー1は、彼の身を案じた。
 しかし、それは全くの杞憂だったといえよう。

「はっ」

 ゼロは両手を広げ、空中へと飛びあがる。──彼は、キバが雷よりも早く動いた事を確かにその目で捉えていたらしい。それは、人間離れした運動神経と動体視力であると言える。
 空は真昼の太陽がもう雲に隠れていて、既に陽が落ちそうに暗くなっていた。今、空にある輝きはゼロだけだった。
 なるほど、スーパー1が思っていた以上に、頼りがいのある仲間だ。

「──」

 ドウコクの方は、これといって反応せず、憮然と立ちすくんでいる。──彼も、スーパー1の予測以上の動体視力で、一部始終を確認したのだろうか。
 スーパー1──沖一也と決定的に違うのは、ゼロが舞い降りるあの空に一切興味を持たないところだ。
 遅れて、レイジングハートが、顔を上げてゼロの姿を探した。今の一瞬は彼女でも捉えられなかったらしい。ドウコクがキバに雷を落としてからの展開を彼女は読めていない。

 ぱからっ、ぱからっ、ぱからっ……。

 そんな風に空を彼らが見つめていると、どこからか蹄の音が鳴り渡った。
 味方さえも、その音に翻弄される。キバに向かっていくその音。
 まるで、森の中から突然に現れて出てきたように聞こえた。

「!!」

 巨大な銀の馬が、森の奥から駆け出してくるのだ。
 ゼロの鎧と同じく、白銀に輝くその馬は、どんなサラブレットよりも美しく猛々しい。
 スーパー1は思わず息を飲んだ。

「──」

 魔導馬、銀牙である。巨体は四足を駆動させて彼らの元へと向かっていた。
 ゼロが召喚したのだ。あらゆる意味で最後の相棒にして、己のかつての名前が名付けられている家族。現世に降臨した魔導馬は、英霊たちの魂さえも載せてゼロへと近づいていた。

 ゼロはその巨体を繰り、直線上にあるキバの鎧を狙っていたのである。

「はあああああっ!!」

 その時速を確認する。銀牙は、森の奥から現れ、ゼロの着地点まで一瞬で距離を縮めた。
 ──一秒後には、キバの後方へとたどり着けるスピードだろう。
 ゼロが銀牙の上に落下し、丁度跨る形になって、キバへと肉薄するに至った。

「──ッ」

 本来、キバの鎧はその邪念だけで魔界と人間界とのつながりを一時的に断絶する「結界」を張るだけの能力があるが、この時、彼の邪念は結界を張るに至らなかったのである。
 それは、彼が最も恨んでいる黄金騎士の存在がこの場になかった事と、絶狼の鎧を喰らおうとしていた事に由来する。

 しかし、今自分が戦っている相手は既に魔導馬を持っており、それをこうまで手懐け、使いこなしている事をキバは理解した。目の前の敵は、安易に“喰らえる”相手ではない。
 どうやら、もっと簡単にゼロを倒す策を講じなければならない。

204騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/13(月) 23:57:56 ID:/DLS..kw0



 銀牙に載ったゼロの刃は、通りすがりにキバの胸を切り裂く。
 先ほど、似非の黄金騎士に与えた傷口よりもずっと深く、空っぽの鎧を抉りだす。

「ぐっ……」

 通りすぎたゼロは、再度後ろを振り向いて、キバの方へと向かっていく。
 キバは倒れかかったその体でも、向かってくるゼロと銀牙を睨み据える。

 ──喰うか喰われるか。
 接近する銀牙を前にも、キバは冷静に己の刃を腕でなぞった。すると、まるでそこから魔導火を翳したかのように、刀身で炎があがった
 デスメタルの刃がいっそう強く燃え上がり、向かってくるゼロを斬りつけようと感じた。

「フンッ!!」
「ハアッ!!」

 ゼロとキバ、お互いの刃から衝撃波が発される。
 膨大なエネルギーを発するお互いの刃が空中で激突、拮抗した──。

 ──爆裂。

 双方の力が押し合いきれずにそのエネルギーを直進させ続ける事ができなかったのだ。
 真横に逃げ出そうと抵抗した力が空中で小さな爆発を起こす。
 空気が振動し、ゼロとキバはそれぞれ、衝撃を体の前面で受けて吹き飛ばされる。

「ぐぅっ!」

 ゼロが起き上がる。
 ──いや、その姿は生身の涼邑零へと再び戻っていた。

「フフ……」

 魔界騎士の鎧が解除されており、背にいたはずの魔導馬も消えている。しかし、零には召喚を解除した覚えも、召喚の継続が不可能になる次元のダメージを負った覚えもない。
 考えうるのは、外的要因。強制的に他人の鎧を解除できる抑止力だ。しかし、それも心当たりがなく、零は困惑した。

「────なっ……一体、どういう事だっ!」

 尻を地面についたまま、零は己の両掌を見る。
 傍らに落ちている双剣にふと気づいて、それを手に取る。
 即座に、その剣で空中に真円を二つ描いて、真魔界とのコネクトを図るが、……すぐにゲートが消失した。これでは、鎧の召喚が行えない。

『奴の邪念を受けたんだ! 奴は結界を張って鎧の召喚を妨害しているぞ!』

 レイジングハートの指で魔導輪ザルバがその気配を察知し、ゼロに原理を伝えた。キバの強い邪念がゼロのソウルメタルの装着を解除させ、一時的に真魔界に鎧と騎馬を送還させたというのである。
 更に、キバはその邪念でホラーを操り、現実世界へと鎧を運ぶ魔天使を妨害している。
 その為に、零は再度鎧を装着する事ができなくなってしまったらしい。

「くっ……奴め! あと一歩のところで!」
『おい、零。もう一度ゲートを開け、俺様が裂け目に入って何とかしてやる!』
「……わかった!」

 零は、頷くとザルバに従って空中に円を描こうとする。
 だが、そんな彼の目の前には既に起き上がったキバが接近している。

 円を描く時間はない──。

「はぁっ!!」

 スーパー1がキバに掴みかかり、零への接近を阻止する。パワーハンドへとチェンジしたファイブハンドは、キバが零を殺害する隙を与えなかった。

205騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/13(月) 23:58:31 ID:/DLS..kw0
 キバの外殻を掴み、敵の動きを止める。
 現実世界の科学技術で魔界の鎧を阻止する、その人間の凄まじき情熱──それもまた、キバには疎ましい。真に強きは人ではなく、魔物であると信じるがゆえに、彼はホラーを喰らい続けたのだ。

「くっ。仮面ライダーめ、何度この俺の邪魔をするッ!」
「何度でもだっ!」
「ならばッ! ──はぁッ!」

 スーパー1の鳩尾にキバの肘鉄が入る。強固なスーパー1のボディに、それは損害として認識された。もしまともに喰らえば、沖一也としての内臓部にも危険信号が入りかねない。
 しかし、今この時にスーパー1がしたかったのは時間稼ぎだ。一秒でも稼がれたのなら十分である。

「──ザルバ!」

 零は、スーパー1が作った隙を見て、魔戒剣で真魔界と現実世界とを繋ぐゲートを描いた。
 二つの真円からこぼれ出る光は、魔界とこの世界をつなげる色彩だ。確かに、この小さな裂け目から、あの世界への道筋は開かれている。

「無事を!」
『任せろ!』

 レイジングハートは、即座にそこにザルバを放り投げる。アーチになって綺麗に裂け目へと侵入したザルバの姿が消えたのだろう。
 魔界とのゲートがホラーの妨害によって現実世界から消えていく直前、ザルバは向こうの世界に“帰った”。
 結界を解除し、こちらの世界へと再び鎧を召喚するべく──。

「くっ……」

 キバは、その様子を不快そうに見つめ、スーパー1の腕を払った。
 スーパー1も何メートルか後退する。しかし、今一時の目的は十分に果たせた。
 これで、ともかく、零が生身に限らず奮闘できる状況だ。

「よし、あとは鎧が戻るまで──」

 前方に零とレイジングハート、右方にスーパー1、左方にドウコク。
 四人がキバに向かおうとする。多勢に無勢、というほどキバは弱くない。
 ひとまずは、ここにいる四人を葬るだけの余力はあると──キバは、驕った。







 キバに迫ったのは、赤心少林拳の手刀であった。
 並の鉄ならば切り裂くだろうが、当然デスメタルの鎧にはそれだけの効果はない。
 金属と金属がぶつかる音とともに、キバはスーパー1の腹部に刃を滑らせる。
 その傷は深く抉れて、スーパー1にも深刻な損害をもたらした。

「うらあっ!!」

 スーパー1に注意を向けていたキバの背中から、血祭ドウコクの襲撃である。
 またも、それは味方の損失を一切考えない利己的な攻撃方法であった。
 キバの鎧に向けられた掌から、見えない衝撃波が発生する。疾風ともまた違う、空気そのものが重みを帯びてドウコクの掌から発されたような一撃。
 背後を振り向いたキバにとって痛手だったのは、その一撃のあまりの深さ。
 全身から火花が散るほどである。

「……俺と同じか」

 だが、キバも背中のマントを翻して、そのダメージを最小限に抑えていた。
 既に、ドウコクが自分やホラーと同種である事は理解している。それゆえか、スーパー1の身体を顧みずに一撃を放るような無情な性格が見受けられた。まさに、“外道”と呼ぶにふさわしい悪徳だ。

 スーパー1の腹部を切り裂いた剣を、そのままドウコクに向けて振るった。
 黒炎の斬撃がドウコクに向けて空気を切り裂いて進行する。その一撃はドウコクの体表を抉った。

206きしに:2014/10/13(月) 23:59:38 ID:/DLS..kw0

「うぉっ!」

 ドウコク自身、どうやら避ける気はなかったらしく、予想以上の痛みに少しは困惑したようである。──しかし、その困惑は決して消極的な意味ではなかった。
 敵の出方、敵の持つ一撃、敵から受ける痛み。全てに興味を持ったのだろう。
 どうやら、ドウコクを敗北に至らしめるほどの力はない。

「──ふん、少しはやるようじゃねえか」

 実際のところ、ここにいる中ではレイジングハート以外の全員が片手落ちで倒せてしまいそうな程度、とは思っているが、ドウコクは薄く褒めた。
 少しは、という表現が全く虚栄ではない。
 ドウコクにとって、目の前の敵の実力は、「思ったより少しは上」という程度だった。元のハードルが低い所為もあるが、褒める程度には値する。少なくとも、シンケンレッドや十臓とは同じ程度。

「だが、これ以上俺の手を煩わせる必要もねえみてえだな」

 純粋な破壊願望とともにここに来たが、ドウコクにはもう十分であった。
 あとは、彼らに任せても殆ど問題はない。
 底が見えた──そう感じたのだろう。スーパー1が後退し、キバの周囲から人が消える。ドウコクもそこに突っ込む事はなかった。

『──Divine Buster』

 ──高町なのはの姿へと変身したレイジングハートが既に照準を合わせている。
 桃色の砲火が、そのままキバの鎧へと突進し、爆ぜた。

「やりましたか?」

 爆煙の中でキバの姿を探す。こういう場合、大抵は効き目がない。
 ──この場合も、既存の展開と同じように、キバは再びその煙の中からシルエットを現した。やはり、その目はこちらを睨んでいる。
 キバは接近する。
 慌てて、零がレイジングハートの前に出た。キバが剣を振るうが、二つの魔戒剣がその刃が人を斬るを押しとどめる。

「──いや、奴はまさか……」

 ドウコクが、少しばかり怪訝そうに見つめた。
 相手は消耗しているはずだが、何故かこちらの攻撃がトドメとして通らない。それだけの手ごたえが何故か失われている。
 ……いや。もしかすると。
 相手は、実は“不死身”なのではないかという疑念が湧いた。







 ────真魔界。
 ここは、あらゆる人間たちが持つ心の裏側の精神世界であった。暗雲が立ち込め、屍の匂いがする最悪の場所でもある。
 魔導輪ザルバは、レイジングハートに投げ込まれた事で、こちら側の世界への侵入に成功したのであった。

「ふぅ、やれやれ。……なんだか俺様は前にも同じ事をした覚えがあるぜ」

 当のザルバは記憶にないが、かつて、ザルバがここに来た時は、奪還するのが黄金騎士牙狼の鎧だったが、今回は銀牙騎士絶狼の鎧である。全く、二人とも世話を焼かせる。
 もっと以前から黄金騎士の魂を感じてきたザルバにとって、二人はまだ青二才だ。
 とはいえ……鋼牙。彼はまだ、これ以上に育つ素質のある男だった。思えば、歴代最強の魔戒騎士にもなりえただろう。
 ……いや、こんな事を考えるのはよそう。
 まずは──



「────この、真魔界にいる一面のホラーを何とかしなきゃな」



 ザルバが召喚された位置の絶壁の周囲は、果て無く素体ホラーで埋め尽くされている。
 何百、何千……いや。「無数」というのはまさにこの事だろう。地を這い、空を飛ぶホラーだらけで何も見えなくなっているではないか。見るだけで鳥肌ものである。
 これがあの暗黒騎士キバの鎧が張った結界の力だというのか。

207騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/14(火) 00:00:17 ID:VsklBJWI0

「あれか!」

 ザルバが見たのは、鎧を真魔界から現実世界へと運ぶ魔天使たち。それぞれ、銀牙騎士の鎧に接近しては、ホラーに阻まれている。あれでは、おそらく永久に魔天使は鎧を現実世界に送れないだろう。
 なるほど、これでは零も鎧を召喚できないはずだ。
 方法はひとつ。

「いくぜ、魔導輪の意地を見せてやる!」

 ザルバの口から、緑の炎が吐き出される。
 ザルバは自らの力で回転して、自分の周囲のホラーたちを殲滅していく。
 緑の炎に触れたホラーたちは、その火力に燃え尽くされ、消滅した。
 突如として現れた刺客に、多くのホラーはたじろいだ事だろう。逃げていこうとする者もいた。

 しかし──。

「ふぃふぃふぁない!!」(キリがない……!!)

 ザルバがどれだけの速度で進んでも、ホラーの数は圧倒的。
 中にはザルバを破壊しようとして接近する者もいる。しかし、それを何とか殲滅しながら、ザルバは進んでいく。
 これだと何時間かかるかわからない。
 嘆かわしい。このままでは、鎧を返還する前に零たちがトドメを刺して勝ってしまうのではないか。まったく、あの魔天使も自分もこれだけ頑張っているのだから、活躍の場が欲しいものだ。──と考えつつも、ザルバは自分たちが予想以上にピンチである事を感じていた。

 あの暗黒騎士キバの鎧を倒したところで、まだ邪念が消えるとは限らない。
 このホラーたちを全滅させて零に鎧を届けなければ、今後にも響く。

「──しまっ、」

 ザルバの後方、素体ホラーがニアミスを果たしていた。
 ザルバを握りつぶそうとしているのか、その手をザルバに向けて伸ばしていく。
 まずい。
 ザルバがそちらを振り向こうとするが、間に合わない。緑炎が届く前に、このホラーは──。

 ──ザクッ。

 しかし、そんなザルバの焦燥を裏切り、ホラーの姿は崩れ落ちた。
 ホラーの後ろで何者かがその体を斬りつけたのだ。
 ホラーが朽ち果て、その後方から一人の男が現れた。

「……お前は」

 確かに、ザルバはその男を知っていた。
 この時まで、この男がここに現れ、協力する事になろうとは思わなかっただろう。

「バラゴ!」

 バラゴであった。
 彼は一つの錆びた剣を握って、ザルバの周囲のホラーを効率よく斬り捨てていく。時代劇顔負けの殺陣であろう。ホラーたちは崩れ、果て、魔天使たちのもとへと群がるホラーたちの元へと、バラゴが駆けていく。

「時間がない。……いくぞ、ザルバ」

 言って、やはりバラゴはホラーたちを斬り捨てた。
 魔戒騎士としての実力は相当に高い。ホラーの気配を察知して、前後左右上下……あらゆる場所で自らに最も近づくホラーを地に還していく。
 その背中は、ある魔戒騎士にも似ていた。

(────なるほど。怨念を、捨て去ったのか)

208騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/14(火) 00:00:42 ID:VsklBJWI0

 鋼牙によって倒されたバラゴの魂は、罪人としてこの真魔界に流刑されたのである。
 しかし、バラゴの心に悪意と強さへの渇望を生み落した暗黒騎士キバの鎧は消え、バラゴの中に根を張っていた邪心は全て空白になったのだろう。
 ゆえに、彼は今、魔戒騎士として戦っている。
 かつて、大河のもとで修行を積み、ゴンザやザルバと団欒した日々の事が一瞬だけ、ふと頭をよぎった。
 とうにそんな記憶は枯れたはずだが、ザルバはその既視感の意味を解して、ニヤリと笑った。

「ザルバ! 何をしている! 早く来い!」

 バラゴは叱咤する。
 呆気に取られながらも、その光景に無性な懐かしさを感じてザルバはその背を追う。
 あるいは、きっと、それは魔戒騎士として本来あるべきバラゴの姿だったのかもしれない。
 バラゴは傷つきながらも、懸命に崖の上の鎧へと向かおうとしていた。

「──わかった!」

 まだザルバにも余力がある。
 暗黒騎士キバの鎧を打倒しようとする仲間は、あそこにいる者たちだけではない。
 ザルバは、バラゴの背中を追い、魔導火でホラーを殲滅していく。







 ────零たちの戦いは、ほとんど互角に続いた。
 ディバインバスターの直撃や、その他のあらゆる攻撃を受けても、暗黒騎士キバの鎧を破壊する決定打とはならない。
 いや、確実にそれが相手の体力を削っているはずなのだが、どうにもトドメとなる技に手ごたえがなかったのだ。実際、目の前の敵は生存している。

(奴め……意外と!)

 不思議であったが、それはおそらくソウルメタルの鎧がない事に由来した。
 本来ならば、ホラーはソウルメタルを用いなければ倒せない。まさしく、暗黒騎士キバの鎧はそれと同等の存在である。彼は騎士である以上に、ホラーの支配を受けている。ホラーと同じ存在であると言える。

 そして、彼はこの殺し合いにおいては、真魔界から召喚されたイレギュラーであり、主催者側の手が行き届かない場所から現れた第三勢力であった。
 主催が用意した魔弾によってホラー化した園咲冴子のような場合は、参加者の持つ戦力──それこそ現代兵器でも倒す事ができるだろうが、怨念として外部から召喚されたホラーは制限の縛りが弱く、ゲームバランスと無関係に作用している。ソウルメタルでしか倒せないのだ。
 ──そして、ただの魔戒剣ではそれには及ばず、相手にダメージを与えているはずなのに、決定打を打てない状況にあった。

「くっ……」

 このままいけば、ただの終わる事のない泥試合だ。永久的に殺し合いを演じる羽目になる。
 ましてや、持久戦に持ち込まれた場合、体力が無尽蔵な鎧に分がある。こちらは根本的に持久戦などと言っていられる状況ではないのだ。ゲーム終了とともにこの場に取り残されるかもしれない以上、時間はないはずである。
 ザルバが一刻も早く帰還せねば、こちらに勝機はない。

「──はああああっっ!!」

 しかし。
 それでも、零は立ち向かう。
 ソウルメタルで生成されたこの剣のみが決定的なカギだ。
 これがなければ暗黒騎士キバの鎧は撃退できない。もう残り時間は一時間と少しだ。

「おりゃあっ!!」

 零には守るべき物がある。
 静香、道寺、シルヴァ、鋼牙、結城丈二……あらゆる仲間たちがいなくなっても。
 まだ、この世界には力なき人、ホラーの脅威に怯える人、立ち向かう力がなく屠られる人たちがいる。

209騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/14(火) 00:01:05 ID:VsklBJWI0
 魔戒騎士は、そんな守るべき物たちの物にあるのだ──。

 零は再び、その想いを胸に秘めた。
 飛びあがった零の刃が、キバの鎧に到達する。

 ──その時である。

「空が、光っ──」

 零の頭上で、光が差し込んだ。それは、決して雨やみでも木漏れ日でもない。
 それは、勝機の光であった。
 時空の裂け目──いや、銀牙騎士の鎧が召喚される時の光だ。

『よぅ、零。待たせたな』

 魔天使に引き連れられ、魔導輪ザルバが帰って来たのである。
 魔天使たちは、それぞれ銀牙騎士ゼロの鎧のパーツを運んでいた。
 自分が張ったはずの結界が破られた事を知った彼は、僅かに苛立ったようである。

 召喚されたゼロの鎧は、魔天使たちが零の体へと装着する。それは、見る者の目を奪う神秘的な光景であった。
 神話の天使たちが、今まさしく目の前で羽ばたき、零に鎧を装着している。
 こんな原理で魔戒騎士は鎧を召喚してたというのか──。

「──ありがとう、ザルバ。おかえり」

 白銀の狼が、これまでと同じくキバを睨んだまま、そこに再臨した。
 ガルルゥ。──吠える。
 銀牙騎士絶狼が再びこの世界に解放された。

「所詮は無名の魔戒騎士……念のために結界を張ったが、貴様程度に何ができる?」

 しかし、キバはまた、慢心ともいうべき余裕をゼロに投げかけた。
 そんな言葉も、ゼロは易々と流した。

「違うな、俺は無名の魔戒騎士じゃない。……銀牙騎士ゼロだ!」

 暗黒騎士キバの鎧は、もし表情という物があれば怪訝な顔をしたであろう。
 この空間が魔界でない限り、彼は99.9秒程度の猶予で戦わなければならない。
 しかし、その絶対不利な状況下でありながら、彼は余裕を見せていた。

「銀牙騎士……フン。黄金騎士以外は全てその他大勢の雑魚に過ぎない。だが──」

 銀牙騎士──。
 無名と思しき魔戒騎士の称号、それが後に一時代の魔戒騎士のナンバーツーに数えられる事は、この暗黒騎士の知らぬ話だ。
 ただ、やはり同じ出自の鎧は、敵のその素養をどこかで感じ取ったのかもしれない。

「面白い……掛かってこい!」

 キバは、内心で舌なめずりをしていた。敵が強ければ強いほど、喰らった後に良い栄養になる。物理的に敵を捕食できるこの鎧は、実際に目の当りにしている敵に相当唾を飲んでいるようだった。

 しかし、舌なめずりついでに戦闘の準備は十二分固められていた。
 剣はその指先が硬く包んでおり、力を欲する戦士として、どんな手を使っても敵を仕留める覚悟。

「はああああああああっ!!」

 キバは、己が硬く握っている剣に目をやった。その刀身には徐々にシルエットを大きくする銀色の光が映っている。この角度から、敵の攻撃が来るべき場所を読む──。
 接近。
 そして、衝突。

「ふんっ────」

 双剣がキバの剣へと叩きつけられるまで、一秒とかからなかった。
 ゼロは一瞬、戦慄したかもしれない。己が狙ったキバの首元の手前、突然滑らかに剣がかざされた瞬間は、意表をつかれたかもしれない。
 ────やはりできる、と思いながら、ゼロがもう一方の左手の剣を強く握る。

210騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/14(火) 00:01:37 ID:VsklBJWI0

「はっ!」

 防がれた右手の剣は囮だ。もう一方の剣は敵の腰下から脇腹に向けて斬り上げられる。
 火花が散る。キバの鎧は己の不覚を呪う。
 しかしながら、決してその一撃をダメージとして受け取らず、敵の感触を飲み込んで次の一手に出た。

「くっ!」

 キバは即座に実像のゼロに目をやり、体を回転させてゼロを払う。そのまま、背中のマントをはためかせて、足を高く上げると、ゼロの胸部に蹴りが炸裂する。
 ──はずだった。

 ──ゼロの剣は、キバの鎧を既に、斬っていた。

「な……何っ!!」

 キバの中から横一文字、光が覗いている。それは、ゼロの輝きの残滓だろうか。はたまた、そのデスメタルの鎧にかつて込められていた魔戒騎士の想いなのだろうか。
 キバの予測では、彼にそんな力はない。この瞬間まで、そんな力は見受けられなかった。

「ば、馬鹿な……」

 ゼロは、二本の魔戒剣を連結させ、両刃のそれを使って縦一閃、キバを引き裂いた。
 彼の邪念が解き放たれ、魔の気配が消失していく。
 ゼロは、もう一度真横に斬ると、その体を回転させた。キバは己の背にあったが、もはやこれ以上斬る必要も、敵が攻撃してくる事もなかった。

「な、何故だっ……!! ぐっ……ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!」

 キバは、ゼロの背を見て、どこかに手を伸ばした。
 助けを求めたのか、逃げ出そうとしたのか、ただ苦しみで空を掴んだのかはわからない。
 しかし、その手は地面に倒れこみ、落ちて消えていった。
 零の口が開く前に、暗黒騎士の怨念は爆発四散し、この世から永久に存在を消した。

「あんたには、守るべき物がなかった……。それが、この結果さ。俺たち魔戒騎士は、守るべきの顔が見えているから強い────お前は、騎士じゃなかったのさ」

 聞こえているかはわからないが、零はそう呟く。せめてもの手向けに、魔戒騎士の真の強さを教えてやろうとしたのだ。

 こうして、“人間の敵”を一人、銀牙騎士ゼロが葬ったのだった。
 彼は復讐者としてではなく、戦士としてその使命を果たしたのである。
 ゆえに、彼の心に曇りや、或いは──長年の憎しみの寂莫からの開放感は、“零”であった。







 ────父さん、静香、シルヴァ。

 零は、ふと父と妹の姿を見た。
 それは幻か、それとも真魔界からの使者か──しかし、零はそこに念話で語り掛けた。

 ──聞いてくれ、父さん、静香。俺は決して、家族の仇を取るために戦ったわけじゃない。大事な物を守るために戦ったんだ。
 ──俺は、父さんみたいな立派な魔戒騎士になったよ。
 ──俺は、静香やシルヴァの命は守れなかったけど、お前たちの想いを守れたよ。

 魔戒騎士の師でもあった男は頷いた。
 それは優しくも厳しい、魔戒騎士たちの歪んだ笑みであるといえよう。
 零は、もう少し素直な笑顔で父に返した。
 魔戒騎士として抱くべきこの強さ、この想いは三人の家族から送られた物だ。
 それを裏切り、復讐の為にキバを殺した時、彼らの想いまでも穢される。
 騎士として、零は立派に人間の敵・ホラーを狩って見せたのだ。

 ──それじゃあ。俺はまだ、やるべき事があるから──





211騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/14(火) 00:02:00 ID:VsklBJWI0



「……さて」

 残り時間は一時間二十分。
 目の前の冴島邸では、例の暗号を片づけただろうか。──いや、全て片づけていなければ困るのである。
 零とレイジングハートは冴島邸に入ろうとしていたが、その時に後ろから声がかかる。

「おーい!」
「ん?」

 呼び声だ。
 それは、男性と女性のものが重なったように聞こえた。
 ……見れば、先頭を駆ける女性と、男性の二人組。先ほどまで零と行動を共にしていた人間である。

「良牙、それにつぼみちゃん」

 花咲つぼみと、響良牙だった。
 二人とも、ここまでちゃんと辿り着いたようだ。特に、異常な方向音痴の良牙が心配だったが、彼は何とか合流地点までたどり着けたらしい。安心したが、すぐに零は顔を曇らせた。

「大丈夫か?」
「……ええ」

 零は振り向いて彼らがここまで辿り着くのを見届ける。
 二人は、この冴島邸の前で、零、レイジングハート、一也、ドウコクという異色の組み合わせが揃っている光景に怪訝そうな顔付を示していた。
 しかし、零の方も、決して良い雲行きを見守っている顔ではいられなかった。

「……その……あの女の子は?」

 そう言った時、二人が眉をしかめた。
 やはり、と思う。────もうこの世にいないか、離別したか。
 そして、この表情を見るに、前者だ。
 美樹さやか。彼女は魔女の世界から解放されたが、人間のまま再度殺されてしまった。

「あかねさんに殺された。だが、あかねさんももう……死んだ」

 良牙のかすれた声を、零は耳に通した。
 守れなかった。──その痛みは零にもよくわかる。まさしく、零もその決着をつけてきたところだ。

「でも、誤解しないでください。あかねさんは、本当は悪い人じゃなかったんです。ただ、どこかで歯車が狂って……それで……」

 つぼみは、必死でフォローに入っていた。しかし、どう説明すれば良いのかはわからない。
 実際のところ、どうして天道あかねが悪の道を走るようになったのか、そのプロセスを完全には把握していないのだから、つぼみの知る限りの情報でそれを説明するのは不可能だった。

「わかった。……いや、わかってないかもしれないが、俺がとやかく言う事じゃないしな」
「……すまねえ」
「こっちも少しホラーと戦う事になってたが、解決した」

 残された問題はほとんど解決した。
 彼らにとって、この殺し合いゲームの中で残すべきミッションはたった一つ──。



「ただ、お互い少し一疲れしたついでだ。そろそろ、このゲームに決着をつけよう」



 ────主催の打倒である。

 花咲つぼみ、響良牙、涼邑零。まだ未熟な子供であった彼らも強く成長する。
 プリキュア、仮面ライダー、魔戒騎士──それらが持つべき意思を、彼らは着実につかんでいた。

212騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/14(火) 00:02:18 ID:VsklBJWI0





【2日目 昼】
【E−5 冴島邸前】

【涼邑零@牙狼─GARO─】
[状態]:疲労(中)、首輪解除、鋼牙の死に動揺
[装備]:魔戒剣、魔導火のライター
[道具]:シルヴァの残骸、支給品一式×2(零、結城)、スーパーヒーローセット(ヒーローマニュアル、30話での暁の服装セット)@超光戦士シャンゼリオン、薄皮太夫の三味線@侍戦隊シンケンジャー、速水の首輪、調達した工具(解除には使えそうもありません) 、スタンスが纏められた名簿(おそらく翔太郎のもの)
[思考]
基本:加頭を倒して殺し合いを止め、元の世界に戻りシルヴァを復元する。
1:殺し合いに乗っている者は倒し、そうじゃない者は保護する。
2:会場内にあるだろう、ホラーに関係する何かを見つけ出す。
[備考]
※参戦時期は一期十八話、三神官より鋼牙が仇であると教えられた直後になります。
※シルヴァが没収されたことから、ホラーに関係する何かが会場内にはあり、加頭はそれを隠したいのではないかと推察しています。
実際にそうなのかどうかは、現時点では不明です。
※NEVER、仮面ライダーの情報を得ました。また、それによって時間軸、世界観の違いに気づいています。
仮面ライダーに関しては、結城からさらに詳しく説明を受けました。
※首輪には確実に異世界の技術が使われている・首輪からは盗聴が行われていると判断しています。
※首輪を解除した場合、(常人が)ソウルメタルが操れないなどのデメリットが生じると思っています。→だんだん真偽が曖昧に。
また、結城がソウルメタルを操れた理由はもしかすれば彼自身の精神力が強いからとも考えています。
※実際は、ソウルメタルは誰でも持つことができるように制限されています。
ただし、重量自体は通常の剣より重く、魔戒騎士や強靭な精神の持主でなければ、扱い辛いものになります。
※時空魔法陣の管理権限の準対象者となりました(結城の死亡時に管理ができます)。
※首輪は解除されました。
※バラゴは鋼牙が倒したのだと考えています。
※第三回放送の制限解除により、魔導馬の召喚が可能になりました。
※魔戒騎士の鎧は、通常の場所では99.9秒しか召喚できませんが、三途の池や魔女の結界内では永続使用も問題ありません。
※魔女の真実を知りました。

213騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/14(火) 00:02:35 ID:VsklBJWI0

【レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:疲労(大)、魔力消費(大)、娘溺泉の力で人間化
[装備]:T2ダミーメモリ@仮面ライダーW、稲妻電光剣@仮面ライダーSPIRITS、魔導輪ザルバ@牙狼
[道具]:支給品一式×6(ゆり、源太、ヴィヴィオ、乱馬、いつき(食料と水を少し消費)、アインハルト(食料と水を少し消費))、ほむらの制服の袖、マッハキャリバー(待機状態・破損有(使用可能な程度))@魔法少女リリカルなのはシリーズ、リボルバーナックル(両手・収納中)@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ゆりのランダムアイテム0〜2個、乱馬のランダムアイテム0〜2個、山千拳の秘伝書@らんま1/2、水とお湯の入ったポット1つずつ、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ガイアメモリに関するポスター×3、『太陽』のタロットカード、大道克己のナイフ@仮面ライダーW、春眠香の説明書、ガイアメモリに関するポスター 、バラゴのペンダント、ボチャードピストル(0/8)、顔を変容させる秘薬、ファックスで届いたゴハットのシナリオ原稿(ぐちゃぐちゃに丸められています)
[思考]
基本:悪を倒す。
1:零とは今後も協力する。
2:ケーキが食べたい。
[備考]
※娘溺泉の力で女性の姿に変身しました。お湯をかけると元のデバイスの形に戻ります。
※ダミーメモリによって、レイジングハート自身が既知の人物や物体に変身し、能力を使用する事ができます。ただし、レイジングハート自身が知らない技は使用する事ができません。
※ダミーメモリの力で攻撃や防御を除く特殊能力が使えるは不明です(ユーノの回復等)。
※鋼牙と零に対する誤解は解けました。

214騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/14(火) 00:02:55 ID:VsklBJWI0
【花咲つぼみ@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:ダメージ(中)、加頭に怒りと恐怖、強い悲しみと決意、首輪解除
[装備]:プリキュアの種&ココロパフューム、プリキュアの種&ココロパフューム(えりか)@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&シャイニーパフューム@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&ココロポット(ゆり)@ハートキャッチプリキュア!、こころの種(赤、青、マゼンダ)@ハートキャッチプリキュア!、ハートキャッチミラージュ+スーパープリキュアの種@ハートキャッチプリキュア!
[道具]:支給品一式×5(食料一食分消費、(つぼみ、えりか、三影、さやか、ドウコク))、スティンガー×6@魔法少女リリカルなのは、破邪の剣@牙浪―GARO―、まどかのノート@魔法少女まどか☆マギカ、大貝形手盾@侍戦隊シンケンジャー、反ディスク@侍戦隊シンケンジャー、デストロン戦闘員スーツ×2(スーツ+マスク)@仮面ライダーSPIRITS、『ハートキャッチプリキュア!』の漫画@ハートキャッチプリキュア!
[思考]
基本:殺し合いはさせない!
1:この殺し合いに巻き込まれた人間を守り、悪人であろうと救える限り心を救う
2:……そんなにフェイトさんと声が似ていますか?
[備考]
※参戦時期は本編後半(ゆりが仲間になった後)。少なくとも43話後。DX2および劇場版『花の都でファッションショー…ですか!? 』経験済み
 そのためフレプリ勢と面識があります
※溝呂木眞也の名前を聞きましたが、悪人であることは聞いていません。鋼牙達との情報交換で悪人だと知りました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※プリキュアとしての正体を明かすことに迷いは無くなりました。
※サラマンダー男爵が主催側にいるのはオリヴィエが人質に取られているからだと考えています。
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました。
※この殺し合いにおいて『変身』あるいは『変わる事』が重要な意味を持っているのではないのかと考えています。
※放送が嘘である可能性も少なからず考えていますが、殺し合いそのものは着実に進んでいると理解しています。
※ゆりが死んだこと、ゆりとダークプリキュアが姉妹であることを知りました。
※大道克己により、「ゆりはゲームに乗った」、「えりかはゆりが殺した」などの情報を得ましたが、半信半疑です。
※所持しているランダム支給品とデイパックがえりかのものであることは知りません。
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※良牙、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※全員の変身アイテムとハートキャッチミラージュが揃った時、他のハートキャッチプリキュアたちからの力を受けて、スーパーキュアブロッサムに強化変身する事ができます。
※ダークプリキュア(なのは)にこれまでのいきさつを全部聞きました。
※魔法少女の真実について教えられました。

215騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/14(火) 00:03:08 ID:VsklBJWI0

【響良牙@らんま1/2】
[状態]:ダメージ(中)、五代・乱馬・村雨・あかねの死に対する悲しみと後悔と決意、男溺泉によって体質改善、首輪解除
[装備]:ロストドライバー+エターナルメモリ@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(ゾーン、ヒート、ウェザー、パペティアー、ルナ、メタル、バイオレンス、ナスカ)@仮面ライダーW、
[道具]:支給品一式×18(食料二食分消費、(良牙、克己、五代、十臓、京水、タカヤ、シンヤ、丈瑠、パンスト、冴子、シャンプー、ノーザ、ゴオマ、バラゴ、あかね、溝呂木、一条、速水))、首輪×7(シャンプー、ゴオマ、まどか、なのは、流ノ介、本郷、ノーザ)、水とお湯の入ったポット1つずつ×3、子豚(鯖@超光戦士シャンゼリオン?)、志葉家のモヂカラディスク@侍戦隊シンケンジャー、ムースの眼鏡@らんま1/2 、細胞維持酵素×6@仮面ライダーW、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、歳の数茸×2(7cm、7cm)@らんま1/2、デストロン戦闘員マスク@仮面ライダーSPIRITS、プラカード+サインペン&クリーナー@らんま1/2、呪泉郷の水(娘溺泉、男溺泉、数は不明)@らんま1/2、呪泉郷顧客名簿、呪泉郷地図、克己のハーモニカ@仮面ライダーW、テッククリスタル(シンヤ)@宇宙の騎士テッカマンブレード、『戦争と平和』@仮面ライダークウガ、双眼鏡@現実×2、女嫌香アップリケ@らんま1/2、斎田リコの絵(グシャグシャに丸められてます)@ウルトラマンネクサス、拡声器、インロウマル&スーパーディスク@侍戦隊シンケンジャー、紀州特産の梅干し@超光戦士シャンゼリオン、ムカデのキーホルダー@超光戦士シャンゼリオン、滝和也のライダースーツ@仮面ライダーSPIRITS、『長いお別れ』@仮面ライダーW、ランダム支給品0〜8(ゴオマ0〜1、バラゴ0〜2、冴子0〜2、溝呂木0〜2)、バグンダダ@仮面ライダークウガ、警察手帳、特殊i-pod(破損)@オリジナル
[思考]
基本:自分の仲間を守る
1:誰かにメフィストの力を与えた存在と主催者について相談する。
2:いざというときは仮面ライダーとして戦う。
[備考]
※参戦時期は原作36巻PART.2『カミング・スーン』(高原での雲竜あかりとのデート)以降です。
※ゾーンメモリとの適合率は非常に悪いです。対し、エターナルとの適合率自体は良く、ブルーフレアに変身可能です。但し、迷いや後悔からレッドフレアになる事があります。
※エターナルでゾーンのマキシマムドライブを発動しても、本人が知覚していない位置からメモリを集めるのは不可能になっています。
(マップ中から集めたり、エターナルが知らない隠されているメモリを集めたりは不可能です)
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※つぼみ、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※男溺泉に浸かったので、体質は改善され、普通の男の子に戻りました。
※あかねが殺し合いに乗った事を知りました。
※溝呂木及び闇黒皇帝(黒岩)に力を与えた存在が参加者にいると考えています。また、主催者はその存在よりも上だと考えています。
※バルディッシュと情報交換しました。バルディッシュは良牙をそれなりに信用しています。
※鯖は呪泉郷の「黒豚溺泉」を浴びた事で良牙のような黒い子豚になりました。
※魔女の真実を知りました。





216騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/14(火) 00:03:26 ID:VsklBJWI0



(まずい……)

 沖一也も、冴島邸に帰らなければならない事はわかっている。しかし、一方で、残り二十分でドウコクによる「間引き」が行われかねない事も危惧していた。
 蒼乃美希、石堀光彦、沖一也、孤門一輝、佐倉杏子、涼村暁、涼邑零、血祭ドウコク、巴マミ、花咲つぼみ、左翔太郎、響良牙、桃園ラブ──やはり、ドウコクの方針からすれば三人も余ってしまう。

(だが、彼らを信じるならば──)

 十二時までに残り十人まで減らすか、それとも涼村暁と左翔太郎が例の暗号を解いた事を信じるか、その二択である。
 また、暗号が直接主催の打倒に無関係である可能性もゼロではないので、注意を払う必要がある。
 いずれにせよ、ドウコクの実力から考えれば、仮面ライダースーパー1として出来る事は、足止め程度だろう。
 他のみんなに生存してもらうには、残りの全員でドウコクを倒してもらわなければならない。
 非常に難しい局面である。

 ──はたして。





(涼村暁、それに左翔太郎……彼らは────)





【沖一也@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、強い決意、首輪解除
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0〜2、ガイアメモリに関するポスター、お菓子・薬・飲み物少々、D-BOY FILE@宇宙の騎士テッカマンブレード、杏子の書置き(握りつぶされてます) 、祈里の首輪の残骸
[思考]
基本:殺し合いを防ぎ、加頭を倒す
1:ドウコクに映像を何とか誤魔化す。というか、ドウコクの対処をする。
2:本郷猛の遺志を継いで、仮面ライダーとして人類を護る。
3:仮面ライダーZXか…。
[備考]
※参戦時期は第1部最終話(3巻終了後)終了直後です。
※一文字からBADANや村雨についての説明を簡単に聞きました
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました
※18時に市街地で一文字と合流する話になっています。
※ノーザが死んだ理由は本郷猛と相打ちになったかアクマロが裏切ったか、そのどちらかの可能性を推測しています。
※第二回放送のニードルのなぞなぞを解きました。そのため、警察署が危険であることを理解しています。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※ダークプリキュアは仮面ライダーエターナルと会っていると思っています。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限はレーダーハンドの使用と、パワーハンドの威力向上です。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。←おそらく解決しました。

【血祭ドウコク@侍戦隊シンケンジャー】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、苛立ち、凄まじい殺意、胴体に刺し傷
[装備]:昇竜抜山刀@侍戦隊シンケンジャー、降竜蓋世刀@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:大量のコンビニの酒
[思考]
基本:その時の気分で皆殺し
0:仕方がないので一也たちと協力して、主催者を殺す。 もし11時までに動きがなければ一也を殺して参加者を10人まで減らす。
1:マンプクや加頭を殺す。
2:杏子や翔太郎なども後で殺す。ただし、マンプクたちを倒してから(11時までに問題が解決していなければ別)。
3:嘆きの海(忘却の海レーテ)に対する疑問。
[備考]
※第四十八幕以降からの参戦です。よって、水切れを起こしません。
※第三回放送後の制限解放によって、アクマロと自身の二の目の解放について聞きました。ただし、死ぬ気はないので特に気にしていません。

【備考】
※近くにリクシンキ@超光戦士シャンゼリオンが放置されていますが、暁が推理に夢中なので超光騎士として起動されず、使われていません。






217騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/14(火) 00:03:47 ID:VsklBJWI0



 ──時は少し遡る。

 先ほど、ザルバが時空の裂け目から現実世界に帰ろうとしている時だ。
 バラゴとザルバの活躍によって、魔天使たちを妨害しているホラーたちは消え去ろうとしていた。
 まだホラーたちは群がるが、それらはかなり遠くにいる。こちらは、もう鎧を返還する準備が整っていた。

 ザルバは時空の裂け目から現実世界へと旅立とうとする。
 しかし、バラゴは、ここに残り続けるのだろうか──。もう一分もしないうちに、ホラーはこちらへ辿り着くだろう。傷だらけのバラゴがどれだけ戦えるのかはわからないが、現実世界に連れていくこともできない。彼は死人であり、罪人でもある。ここに留まり続けなければならない宿命の持ち主だ。
 ザルバは、せめてとばかりにバラゴに言った。

「バラゴ、零を言うぜ。お前とは、本当の魔戒騎士として共に戦いたかった。きっと、鋼牙が生きていたらそう言うに違いない」
「……そうか。俺もまた、同じだ」
「お前の事は俺様から零にも伝えておいてやる。お前は立派な魔戒騎士だったってな」
「……いや、それは待て」

 バラゴは、そこでザルバの言葉を切った。
 ザルバの親切に、少し思うところがあるのだろう。

「奴は僕のような悪しき魔物を絶つ魔戒騎士。しかし、あの涼邑零は優しすぎる。いずれ、ホラーとの和解を考えるまでになるかもしれない」
「……」
「僕は終始、悪しき魔物だった。──それでいいはずだ。今もし彼に、敵の善意を信じて戦う余裕ができてしまえば、彼はいずれ敵を斬れなくなる。……全てを知るのは、もっと強くなってからでなければならない」

 バラゴの笑みと声をザルバは聞いた。
 零は、誰よりも努力を怠らず、孤独でありながら他人を求め、誰より人に優しい魔戒騎士だ。

「しかし、彼が闇に堕ちなかったのは幸いだ。きっと、大河以上の師として多くの魔戒騎士を導く存在になる。鋼牙がいないのは残念だが、奴はまたいずれ黄金騎士の隣に並べるだろう……」
「あいつがか?」
「ああ。ではレイジングハートを頼んだ。今度は力を使い果たしていないな? お前はまた黄金騎士の相棒をやれるわけだ。……俺は、ここで魔戒騎士の使命を全うしよう」

 バラゴは、再び強く剣を構えた。ホラーはすぐ近くまで接近しており、彼はそれを迎え撃とうとしていた。
 それが、ザルバがバラゴを見た最後だった。

 彼は、いずれこの地獄のような魔界で、罪を償い、理想郷に辿り着けるのだろうか……。
 幸せな世界で、転生できるのだろうか……。
 ザルバは、その背中を寂しく見送っていた。







【暗黒騎士キバの鎧@牙狼 消滅】



【ゲーム終了まで、残り一時間二十分】

218 ◆gry038wOvE:2014/10/14(火) 00:04:10 ID:VsklBJWI0
以上、投下終了です。

219名無しさん:2014/10/14(火) 07:16:31 ID:fN2msVRA0
投下乙です
零は自分の因縁に決着を着けたか、前回の『騎士』と同様格好良い話だったなぁ
そろそろ終わりが近づいてきたが、ドウコクやガドルの復活と問題が残ってて不安だ…

220名無しさん:2014/10/14(火) 17:36:44 ID:N3WefgxA0
投下乙です

一つの因縁に決着は付いた
零、かっこよかったぞ
最後に向かって物事が収束してるがまだまだ…

221名無しさん:2014/10/14(火) 21:45:36 ID:JXDCk53U0
投下乙です!
いよいよ零は全ての因縁に決着を付けられましたか……
魔戒騎士を救うバラゴとか、小説版を意識した展開が入っていてニヤリと来ましたね。

222名無しさん:2014/10/19(日) 17:22:40 ID:28p/kuGQ0
遅れたが予約来てるなあ

223<削除>:<削除>
<削除>

224 ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 13:45:24 ID:3afmAm6s0
完成しているんですが、所要で15時までの投下が間に合わないので、期限超過になりますが今日の夜に投下します。

225 ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:21:03 ID:3afmAm6s0
なんだかんだで用事がなくなって間に合ったのですぐに投下します。

226探偵物語(左翔太郎編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:23:00 ID:3afmAm6s0








 涼村暁と左翔太郎は探偵である。────














 だが、バカである。

















 以上。







 同盟を組む仲間同士の空気が一定以上温和である事は当然ながら推奨される。場の空気で士気を上げる事も良い集団の条件だ。
 何らかの形で小さな亀裂の入ったチームには早めの修繕が求められる。それが失敗に終われば亀裂は隅々まで走っていき、やがてチームワークを崩壊させるからだ。この時はまさにその修繕が必要な時期だった。
 絶望を希望に変えるべき存在──仮面ライダーと、絶望へと近づいていく存在──魔法少女。いつの間にやらその立場が逆転してしまい、これまた不思議な事に、仮面ライダーである左翔太郎こそが絶望し、魔法少女である佐倉杏子の方が人並み以上に希望を信じるようになってしまったのである。

「……」

 いや、しかし。
 それもまた、今となっては過去の話である。
 再び仮面ライダーとしての意志を取り戻した翔太郎にとっては、自分が途方に暮れていたのも僅かな時間の話と振り返る事ができる。その僅かな時間、周囲を失望させ、大事な約束を忘れていた落とし前を自分の中でつけなければならない。
 意固地になる事などない。
 面倒を見る約束をしながら、絶望に負けてそれを果たせなかった自分の不覚である。
 翔太郎も杏子も、ほとんど同時に口を開いた。

「兄──」

227探偵物語(左翔太郎編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:23:26 ID:3afmAm6s0
「杏子、すまん!」

しかし、要旨を一息で言い尽くしたのは翔太郎の方だった。歯切れが悪くなったが、杏子が口を閉ざす。誰が見ている事も構わずに、翔太郎は中折れ帽を外して頭を下げていた。まだ湿り気のある頭が杏子の方に切実に向けられた。
 瞼は普段より重たく、肩が普段より落ちた様子であった。
 周囲の視線はその翔太郎に一時注がれる事になった。他の誰も、そこから目を離す事ができなかった。逆に目を離した方が気まずくなるからだ。これだけ部屋の中央で堂々と頭を下げられて、知らない振りができるはずもなく、そこで繰り広げられている様相を意図せずして見届けようとしていた。

「──」

 頭を下げられた当の杏子の方は開いた口が塞がらない様子である。
 それは文字通り口をあんぐりと開けたままになっているという事だった。喜怒哀楽の表情のどれでもない顔で、物珍しそうに翔太郎の後頭部を直視していた。翔太郎に顔を合わすのが気まずかった杏子としては、かなり意表を突かれたようだ。

「悪かった! その、自分の事ばっかりに気を取られちまって、お前やみんなを放っておいちまった事……」

 翔太郎は顔を上げ、凛とした表情で杏子を見る。
 しかし、杏子を見るのはすぐにやめた。翔太郎は、ここにいる全員に順番に頭を下げた。マミ、ラブ、美希、暁、孤門、石堀……。考えてみれば、杏子だけではなく彼らにだって迷惑はかけたのだ。立ち直るまでに失望させてしまった人間はいくらでもいる。普段明るく振る舞っていたばかりに、余計にその落差を感じた者もいただろう。
 その微妙な気分を誰にも味あわせてしまった事は、ただただ申し訳なかった。
 本心を打ち明けよう。自分が知った事を打ち明けよう。

「なんだかんだ言って、結局俺はフィリップがいなきゃ半人前だったんだ……いや、それ以下かもしれない。
 あいつに託された事も、街のみんなの事もすっかり忘れて俺は一人でしょぼくれていた。仮面ライダーになれなきゃ俺は何もできないって思ってたんだ」
「……」
「だけど、たとえ仮面ライダーじゃなくても、ハーフボイルドでも、魂だけは冷ましちゃならねえ!
 ……そいつをすっかり忘れちまってた……それに、お前に教えた事も、お前との約束も何もかも忘れて、一人で全部塞いで無気力になってた……」

 翔太郎は脇目を向いて胸をなで下ろした。
 語るべき事は幾つもあった。自分を貶める言葉はなるべく口にしたくはなかったが、それもまた過去の自分への蔑みであった。
 確かに今の自分とその時の自分は違う。──もっと、萎れていて駄目だった自分への言葉だ。しかし、だからこそ、一層申し訳なく、心の奥底が震えるようだった。
 一息に、自分の中に在る言葉を吐き出したかった。

「だから、悪かった! 許してくれ、みんな!」

 翔太郎は何なら土下座でも何でもしてやる覚悟である。たとえ、その姿を誰が見ていても構わない。それが誠意だ。
 自分に非があるのならば、プライドを捨ててでも謝るのが当然である。
 こう言っては何だが、翔太郎は、所謂ナルシストで、時折自分に酔うタイプであったがゆえに、こうして周知の中で謝罪するのには人一倍の誠意がいるのだ。翔太郎が土下座でもしようと考えるならば、それは余程の事であるといえよう。周囲の視線は今でも痛むが、それ以上に、自分の罪を謝る事ができなければ胸の中の靄は晴らされないだろうと思った。

「ほら、杏子」

 美希が翔太郎に聞こえないような小声で横から小突く。「ここまで言ってるんだから許してあげなよ」という学級委員のようななフォローの意味合いで呼びかけたはずだが、杏子が美希の方に目をやる事はなかった。
 杏子は少しだけ真剣そうな目つきに表情を変えた。美希が杏子を小突いた意図を彼女が察しているのかは誰にもわからない。

「ふー……。なんだかなぁ」

 杏子がそんな翔太郎の様子を見て口を開く。まるでタバコの煙をいっぱいに吸ったような溜息が聞こえたようにも感じたが、実際には、それは溜息というより、緊張をほぐすような息だった。少し息を吸った後、吐息の残滓をまた少し漏らして、杏子は翔太郎の方に視線を合わせる。
 少しばかり、険しい目をしていた。

228探偵物語(左翔太郎編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:24:08 ID:3afmAm6s0

「……帰ったらぶん殴ろうかと思ってたけど、こうしてみると怒る気もしないっていうかなんていうか」

 杏子はそっぽを向いて頭を掻いた。
 当の翔太郎や、周りの人間には、それがどういう意味なのかわからなかった。
 怒る価値もないという事なのか、許したという事なのか──。こうして頭を下げる翔太郎に、また別の失望を覚えたのではないかと、一瞬だけ肝を冷やした。
 このままずりずりと彼女の中で評価が下がっていけば、一生彼女に本当に許してもらえなくなるかもしれないと思った。

「……」

 杏子が、少しの沈黙を作り、そしてそれをすぐに破って、口を開いた。

「──あんた、いっつも恰好つけてるから、素直に謝るタイプじゃないんじゃないかって思ってた。だけど、それは完全な誤解だったみたいだな」

 杏子の口から溢れたのは予想外の言葉である。やれやれ、と肩を竦めてその視線を落とす。
 また顔を上げると、今度はもう少しばかり笑顔に近い表情を作った。

「……え?」

 翔太郎の不安は、全くの杞憂だったらしいと、その時わかった。

「あたしだって、別に過ぎた事を何度も責めるほど器が小さくはないよ。あたしの倍くらい生きている大の大人の兄ちゃんが頭下げて謝ってんなら、……許すしかないだろ」

 うっすらとした笑顔にも見える表情が翔太郎の視界を覆った。それは確かな許しのサインであった。杏子は、素直な感情を顔に出す時は屈託のない表情をするので、翔太郎たちも見ればそれが真実だと容易にわかる。
 感激が翔太郎に彼女の名前を呼ばせた。

「杏子……」
「あんた、案外素直なんだな……。ちょっと見直した」

 杏子が照れたようにそう言う。翔太郎は、その瞬間にようやく肩の荷を下ろしたような気分になった。数秒かけて、どこか軽い笑顔を作る時間を貰う。
 無意識な深呼吸が、妙な間をつくった。

「……ふっ」

 今、この時に翔太郎の胸にあったのは近しい人間の失望に対する恐怖だったのだろう。胸がすっとするのがわかった。
 それが取り払われれば、あとは簡単だった。

「当たり前だ」

 打って変って、翔太郎は不敵に笑った。

「……だって、俺たちは全員誓っただろ。『悪い事をしたら謝る』って」

 ──いつもの調子で、いつもの気障な言葉を投げかける事ができた。それこそが、最大の解決策であるとこの時悟った。
 杏子にとっても、その少し抜けた言い方こそが、この翔太郎らしいと思えたのだ。
 杏子は、胸から何かが広がって、肩が落ちていくような開放感を覚えた。なるほど、これでこそ翔太郎……なのである。
 普段、真面目でいるよりも、こんな時の翔太郎の方が凛々しく、優しく見えるのである。

「そうか、悪い事をしたら謝る……か。
 ……そいつは、ヴィヴィオが声をかけて、あたしが付け加えたんだ」
「そうだったのか……」
「ああ、でもヴィヴィオにも良い弔いさ。
 ずっとその言葉が守られ続ければ──きっと、ヴィヴィオも少しは報われる」

 悪い事をしたら謝る──その言葉の意味を杏子と翔太郎は己の中で反芻した。
 悪い事と呼んでしまうと少し酷な原因であったが、翔太郎は少なくとも誰かに迷惑をかけた。自分の非に対する反省と誠意を見せ、ある関係に発生した亀裂を修復するのが謝罪の本質である。翔太郎たちは、その行為に誠実であり続けると誓ったのである。
 たとえどれだけ気障でも、素直ではないとしても、己の罪は数え、洗い流す努力をするだけの意志はある。──そう、少なくとも、「ビギンズナイト」を経てからは特に。
 彼らはその誓いの意味を再確認したのだった。

229探偵物語(左翔太郎編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:24:29 ID:3afmAm6s0

 暁は、ヴィヴィオが死んでいない事を教えてやりたかった気持ちもあるだろうが、彼はそれよりも頭の片隅で別の事を考えて顔を険しくしていた。

「ふぅ、……で、やっぱりこうなるのね」
「薄々わかってはいたけど……」

 美希と孤門がそんな調子で、深く息をついた。
 杏子がこの仲違いと仲直りを繰り返すのにはもう慣れた。
 いや、それを最初にやったのはほかならぬ美希であったが、彼女は一体、どれだけ他人と絆を結ぶのだろう。美希もそのうちの一人として、僅かながら嫉妬するほどだ。
 しかし、杏子が誰より信頼して、光を託したのはほかならぬ自分であった事も、美希は思い出した。今も美希の中にはウルトラの光がある。

(……)

 ──美希は、ふと、その光を誰に託そうかを考えた。
 ここにはたくさん仲間がいる。杏子に還してしまうわけにもいかないだろう。
 ラブか、あるいは──と、思った時である。

「よし、じゃあ丸く収まったところで情報交換や元の作業に──」

 石堀が手を叩いてそんな事を言いだした。美希以外は、誰に言われるでもなく、全員何かが切れたように作業に戻ろうとしていた。皆、いい加減そろそろ良いと思ったのだろう。亀裂が修復したのなら、もうそれ以上する事はない。
 ああ、めでたしめでたしという感じだ。ぞろぞろと足が動いて位置を変える。美希も動く事にした。そして、すぐにその中の一人として揉まれた。
 元の鞘に収まるのを全員が何となく予感していたが、僅かばかりの不安が拭われたようである。
 さて、実は美希の他にも動こうとしない者はもう一人いた。

「──こ・の・野郎ッ!」

 ぱこん、と音が響いた。その音の正体を誰もが一瞬捉えられなかった。誰かが突如として、翔太郎の背後から現れると、その額をスリッパで叩いたのである。これが裏切りの刃ならば翔太郎の命はなかった。──が、当然そんな唐突で残酷な展開にはならなかった。
 何の作業が残っているわけでもないが、作業に戻りかけた全員がそちらに視線を送り直す。観衆は、これまた一斉にそちらに目を配った。
 翔太郎は、何が起こったのかもわからずに赤くなった瞼の上を抑えていた。

「……って、痛ぇぇぇぇぇぇっ!!! なんだ、突然!! 何!? 亜樹子!! 亜樹子かっ!? 亜樹子リターンズ!?」

 まるで巨大なうわごとのように女性の名前を叫ぶ翔太郎。
 鳴海亜樹子──その女性の名前を知らない者は、何の事やらわからなかっただろうが、思わずその一撃に全くそっくりな言動をする者が翔太郎の周りにいたのである。ただ、翔太郎にとって決定的に違ったのは、より強い力と暴力性を持っていた一撃であった事だろう。
 翔太郎が涙目を開けると、彼の視界には緑のスリッパを振り下ろした男の姿が見えた。

「ちょっ……暁さん!? 何やってるんですか!?」

 ラブが特に驚いた様子で暁に声をあげた。
 ──翔太郎をスリッパで叩いた犯人は、この中にいる最も異質な男・涼村暁であった。冴島鋼牙に支給されていた亜樹子スリッパを使ったらしい。
 彼はもう全く、自分がやった事を隠す様子を見せず、振りかぶった後の姿勢であった。してやったり、とばかりにその姿勢を崩さない。会心の音に、自らもしばらく一人の世界に入って、気取ってしまったらしい。
 すぐに暁はその姿勢を直すと、杏子の方にてくてく歩いて行った。

「あのね、杏子ちゃん。こういう奴はさ、許すより前に一発殴らないと駄目なんだよ」
「いま殴らずに解決しようとしてただろうが、この野郎! 暴力反対だ!」

 追って、暁からスリッパを奪った翔太郎は、やり返すように暁の額(というよりはほとんど目に近い)を叩いた。仕返し。憎しみの連鎖だが、仕方がない。
 暁は「痛ァッ!」とまた、翔太郎に負けず劣らずの声量で己の痛みを訴えた。
 彼ももろに眼球に打撃を受けたらしく、目玉の周りが少し赤くなった。

「何しやがる!」
「それはこっちの台詞だろヘボ探偵!」
「……それもそうだな。言われてみれば尤もだ。台詞を返上してやろう」

 無駄に思案顔の暁に、誰もが呆然といった様子である。あまりにも飄々としているというか、こうもあっさりと認めてしまうあたり、その場のノリだけで一つ一つの言葉が発信されていたようだ。

230探偵物語(左翔太郎編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:24:57 ID:3afmAm6s0
 翔太郎も否とは言えないが。
 暁への怒りはその怪訝さえも覆い隠して暁に質問を投げかけさせた。

「動機を説明しろ、動機を! 何故いま俺を殴った!」
「俺はな、無駄に気障な男を見ると腹が立つんだ」
「威張るな!」

 大した理由ではなかったので、もう一発スリッパで殴ろうとした翔太郎だが、やはり思い直す。
 いけないいけない。冷静に考えれば暴力はアウトだ──。殴り合いになるとならないでは、ならないに越した事はない。耐えようと思える状況ならば耐えるべきだ。一発殴ってしまったが、それはそれ、これはこれだ。むしろ、一発殴り合って丁度釣り合いが取れたのだから水に流すべきだろう。
 ……などと、翔太郎が腹式呼吸で怒りを抑えている間に、再度、暁が口を開いた。

「杏子ちゃん。こういうタイプの男はな、実は殴ると燃えるんだ。
 殴り合いがドラマで傷つけあいが友情だと思ってるアホだ。
 ……だから、チャンスがあれば殴った方がいい。
 いつ、『杏子、俺を殴れ』とか言いだすんじゃないかとヒヤヒヤしてたぜ、こっちも」
「なっ……お前、どうしてそれを!」

 言葉で痛いところを突かれた翔太郎は動きを止める。腹式呼吸の真っ最中、喉で唾が引っかかって咽そうになった。
 そう、先ほど、翔太郎の脳内は、暁が言った通りの言葉を想定していたのだ。それを口に出す可能性があった。土下座に加え、それも少し検討していたのは確かな事実である。その事実を他人に見透かされていたと思うと、無性に恥ずかしくなった。まして、全て終わった今となっては余計に。

「いや、でもあんたが殴る機会はないだろ……」

 横から杏子が、ほとんど呆れたように言った。こちらも、突然の事で、考える暇もなくどこかずれた言葉を返してしまったようだ。

「いーや、大ありだね。俺たちはこれから暗号を解かなきゃならないんだ。
 その局面を前に余計な内輪話で尺を食った分、一発殴らせて貰わないと気が済まん。
 外ではみんなここを守るために戦ってるんだぜ?
 ……だいたい、女の子絡みの話で俺より目立つなよな。嫉妬しちまうぜ全く」

 この慌ただしい状況でこうして翔太郎が余計な話を進めたのは暁にとっても癪に障る話だったらしい。暁も、殴るほどの事ではないと思ったが、結局一発殴らせてもらったようだ。
 美希が、そこで出てきた嫉妬という言葉に、恥ずかしそうに首を垂れた。わずかとはいえ、自分も軽い嫉妬を覚えたのを思い出したのだろう。
 まあ、実際のところ、スリッパで叩いたのは翔太郎の意識を覚醒させるのに一役買う行為だったのだろうか。翔太郎にとって、確かに痛みは一つの切り替えだった。この痛みの「前」と「後」で、自分がどう変わったのか再認識できる。

「……あー、あー。まあいいぜ。眠気覚ましには丁度よかったぜ。
 ……っしゃ! 暗号でもランボーでもターミネーターでも何でも来い!!」

 結局、翔太郎は、こんな調子である。やはりこういうタイプの人間か、と暁と杏子は翔太郎を冷やかに見た。おおよそ暁の直感に狂いはなく、探偵としての人間観察眼も水準を超える程度ではあるらしい。翔太郎がわかりやすい人間であるのも一つだが。

「……な? 言ったとおりだろ?」
「まったく……単純な兄ちゃんだな。じゃあ、お言葉に甘えてあたしも一発いくか」
「あ、ちょっと待て、杏子! NO! スリッパNO!」

 スリッパの音がもう一発、翔太郎の顔面から炸裂し、翔太郎の悲鳴が聞こえたが、全員がしらんぷりをしていた。
 イジメを見て見ぬふりするのはいけないが、今のあれは放っておいてもいいものだ。今繰り広げられているのは仲良しの証である(ただ、これを読んでいる人間は、少なくとも、「仲良しの証」と言って、心底拒絶している相手に暴力を振るうのは決して正しい事ではなく、立派なイジメの一つだというのは念頭に入れておいてほしい。あくまで、ここにいる彼らは特例的にやられる側もやる側も強い信頼関係で結ばれた上で戯れているのであって、普段そうでない相手に行ってはならない事だ)。

「……あのー……暁さん?」

 そんな折、物陰からマミが顔を出し、どこか申し訳なさそうに声をかけた。暁はすっかり、マミの存在を忘れているようである。
 暁は今の出来事だけ見て、すっかり、全て忘れた顔でいた。

231探偵物語(左翔太郎編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:25:30 ID:3afmAm6s0

「ん? 何? って……」

 暁は声をかけられた瞬間こそ、ニヤニヤと気持ち悪く笑いながら腕を組んで、かなり偉そうに翔太郎が叩かれるのを眺めていたが、マミの方を向いた瞬間、翔太郎の悲鳴などかき消されるほどの大きな悲鳴を挙げる事になった。





「うわあああああああああああああああああああああああああああーーーーーッッッッ!!! オバケ、出、出た〜〜〜〜〜!!!」





 マミが現れるなり、長く大きい悲鳴をあげて机を探し出す暁。机の下に潜り込もうとしているのだろう。部屋の中央に置いてあったダイニングテーブルが、彼のシェルターとして目測させた。
 すると、彼は体の随所を固い物にぶつけながらダイニングテーブルの下に蹲り、潜った。

 ──この間、僅か二秒である。
 捕捉しておくと、暁にとっては、巴マミは死体として認識されている少女である。こうして暁の目の前で立って歩いて喋って語り掛けてくる事──その全部が薄気味悪く、霊的であるのは当然だった。

「おい、マミ、オバケだってよ」

 杏子が、スリッパを片手に(そして四つん這いの翔太郎を真下に)、顔だけマミを見てそう言って笑った。マミと暁のどちらを笑っているのかはわからない。もしかすると、どちらの事も笑っているのかもしれない。
 マミも別段、腹は立たなかった。

「あの、だから……えっと、私はオバケとかじゃなくて……」

 苦笑しながらマミは頬を掻く。
 他人に怯えられるのは通常なら不快だろうが、暁の姿はどこかコミカルで、不思議と不快にはならなかった。魔法少女であった時に化け物扱いされるのと、誤解によって幽霊扱いされるのとでは、また随分と違った感覚である。
 やれやれ、と肩を竦めるのはマミだけではなく、他の全員も同じだ。

「ったく、仕方がないな……」

 代表して石堀が、ダイニングテーブルの下を覗いた。

「おい、暁。出て来い。この子の足を見ろ。ちゃんとあるぞ」
「バカ野郎! 幽霊に足がないなんて迷信だ!」
「幽霊も迷信だろ」
「わからねえだろ! 実際、俺はこの子が埋められているのを見て……」

 ──ふと、暁の中にフラッシュバックするマミの記憶。
 暁は若く綺麗な女性の顔は忘れない。男性の顔はほぼ忘れており、こうしている間にも何人か顔と名前がわからなくなっている人間が多々いるが、それはそれとして、マミは「若くて」「綺麗な」女性であった事や、ほむらに関連する人物である事もあって、確かに暁の記憶上でその死に顔を残している。
 あの時に感じた不快感と、また同時に湧きあがった死への恐怖と憧れも忘れられてはいないだろう。

「参ったねぇ……」

 石堀が頭を掻いた。

「あの……それなら」

 マミは、石堀を退けて暁の前にその顔を晒した。当然悲鳴があがる事と思ったが、暁は意外と小さな声で「うわっ……!!」と驚いた。そう何度も何度もゴキブリに遭うような悲鳴をあげてはいられないのか、単純に声が出せないのか、将又相手の立場を忘れて少し見惚れたのかはわからない。

「涼村暁さんですよね?」

232探偵物語(左翔太郎編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:25:47 ID:3afmAm6s0

 マミは、そのまま暁の腕を優しく掴むと、それを自らの胸に引き寄せた。

「えっ……おい……」

 巨大な乳と乳の間に暁の指先が触れる。確かに恥ずかしいが冷静を保って、「なんでもない事だ」「減るものじゃない」と必死に思い込みながら、マミは自らの胸に引き寄せた暁の手に鼓音を伝えた。
 暁は、普段の軟派な顔ではいられなかった。指先に伝わる振動を感じる。
 生きている人間以外には完全に不要な内臓の振動。あの時の遺体にはなかった震え。それが、今こうして、そこにある。

「……わかりますか? 私──巴マミは生きてます。……みんなのお陰で。
 だから、安心してください」
「……」
「このリズムを取り戻す為に、みんな戦ってくれたんです。
 私も、いつかみんなにお返しします。そう、いつか絶対に……。
 ……暁さん。私はもう普通の人間ですから。話を聞いてもらえると助かります」

 マミが諭すように言った。マミが何かを喋るために、指に皮膚の振動が伝わった。決して落ち着いたリズムではなかった。再び殺し合いに巻き込まれた渦中で、彼女の中にも恐怖は巻いていたのだろう。
 暁は、戸惑いながら、ゆっくり自分の腕をひっこめた。これ以上、そこに腕を置かずとも彼女が生きている事は判然とした。指は、ひやりとした空気を感じた。
 それから、暁はとぼけたように二の句を告げた。

「……あのな、マミちゃん。気持ちは嬉しいけど何もこんなところで」
「巴マミ。涼村暁はこういう男だ。理解できたらもう二度とこんな事はするな」
「わかりました。もうやめます……」

 マミは下を向いて腕を胸の前に組んだ。数秒前の自分を恥じた。
 目の前の男は、やはり「チャラ男」的外見そのままな性格と言動の人間であるようだと察知したのだろう。
 バストが大きいと、前々から男子生徒にいやらしい目で見られる事も少なくなかったが、いや、これはまさにそうした警戒を怠った瞬間である。この手の男には近づくべきではないし、ましてや自分から大胆にも胸に手を伸ばさせる事などもってのほかであった。

「とはいえ、暁。彼女が純然たる血の通った人間だっていう事は確認できたよな?」
「ん……あ、ああ……おかげ様で。良い思いもできたし一石二鳥だな……」

 暁が気のない返事をしたが、実際はもう少しはっきり理解していた。
 確かに、マミは生存している。今のところどういう理屈なのかはわからない。
 双子なのか、姿が同じだけなのか、実は生きていたのか、それとも「蘇った」のか……。しかし、どんな理由があるにせよ、彼女は生きている。理屈を訊かされてもわかる気がしない暁には、その事実だけが重要だった。

 ──と、なると、これは死体を弄る悪趣味ではない。

「あの、マミちゃん。ちょっと」
「何ですか?」

 暁は、それから「もう一回だけ」と小声で言って、暁は手を真っ直ぐ彼女の胸元に伸ばした。その指先は、マミの右手によって思いっきりはねのけられた。







 孤門一輝が、巴マミとともに魔女化に関する事情を他の全員に説明していた。
 翔太郎ら、何らかの形でそれを知っていた人間は聞き流していたが、暁は全く初耳の事ばかりである。何故、人間が地中に埋められた死体から、血の通った人間に戻れるかを彼は全く想像できなかった。
 説明の難しいところではあるが、とにかく孤門が先導して丁寧に一から説明した。こんな事をしている場合でないのはわかっているが、これからの為にも話さなければならない。

「要するに、主催側はもう一段階上の【魔女化】というステップを彼女たちに残させていたんだ。
 魔法少女だけが精神的な要因や戦闘の場数を踏みすぎると死亡扱いになっていたのは、後半で残りの参加者を減らす為の仕掛けだったんだろう」

233探偵物語(左翔太郎編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:26:19 ID:3afmAm6s0

 ゲームのルール上、魔法少女はこれまでソウルジェムが濁り切ると死亡扱いになっていた。
 しかし、変身道具が使用の度に生存率を著しく下げ、殺し合いの状況下、絶望のスイッチが入っただけで息の根が止まるというのは些かアンフェアだ。主催側がこれをゲームだと認識しているのならば、魔法少女を生存させる気がほとんどなく、ゲーム性に欠くように思えてしまう。

 死亡に至る身体的ダメージの場合でも大抵の魔法少女は死亡するし、精神衛生、魔力の残存などを考慮しながら戦い、ソウルジェムの安定化をさせるのもこの状況では難しい。
 まして、本来なら彼女たちのソウルジェムが黒く穢れた結果の末路が、魔女への変貌であるのなら、わざわざ魔女化を封じる必要は主催側にはない。魔女は確実に参加者を減らしてゲームを盛り上げる事ができる存在である。
 それならば、「魔女化をさせない」という選択肢は不自然なのだ。ゲームをさせたいならば、魔女化の仕組みを外す必要はない。
 そう、そこには何らかの仕組みをわざわざ仕掛ける意味が必要なのだ。

 そして、孤門たちが魔女化について推察した「意味」がそれだった。明答か否かはわからない。

「それから、プリキュアの力で魔女としての暴走を止めて──」
「キルンの力を媒介に元の肉体を──」

 ともかく、暁はそうした説明で概ね納得したようである。
 マミを死人にしたところで暁にはメリットはない。暁とマミの話もひと段落というところである。
 実際のところ、信じ難い話ではあったが、ラブと共にいた暁は彼女の一途な活躍を純粋に祝した。シャンゼリオンの力よりも数段、役に立つ力であるかもしれない。
 本来、戦わずして敵を屈服させるのが一番の兵法であるが、相手を味方につける事ができる力というのはそれ以上の物と分類していいだろう。

「なるほどねぇ……。でも、もし本当に後から残りの参加者を減らす為にマミちゃんたちを利用したのだとすると、こうしてその障壁を味方につける形になったのは主催側にとっては予想外の出来事だよな」
「……そうだな。おそらく、向こうも手馴れてない。この殺し合いには、きっと予想外の出来事はこれ以外にも多々あったはずだ」

 翔太郎は言った。

 以前、フィリップとは主催陣との戦闘が次のステップに移行しているかもしれない……という話をした事がある。
 それは、対主催陣営が主催者と戦闘するところまで計算に入れたゲームであるという話であったが、それは「そうなる可能性が高いので相手方が戦闘準備を十分に備えている」というだけであって、主催側にとっても心から望む展開ではないはずだ。
 戦闘を傍観するのはまだしも、戦闘の当事者としてそこにいるのが好きなタイプは主催陣には少ない。そもそも、そういうタイプならば自ら、このゲームに参加する側として選ばれる事を表明するはずだ。その段階、というのが来る事自体が主催者にとっては好ましくないが、もはや完全に残りの生存者は団結して主催陣営と戦闘になろうとしている。
 ──しかし、その上で、「来るなら来い」と胸を張っているようにも思える。こちらも、それに対抗する手段を持たなければならない。
 いずれにせよ、主催者の意に反する行動はいくつも挙げられるだろう。

 対主催側の奮戦がガドルら強敵を倒した事。
 ダークプリキュアの心を救いだしたプリキュアの力。
 対主催陣営が一日の終わりごろには一挙に揃っていた事。
 早々に首輪を解除して禁止エリアが意味をなさなくなった事。
 志葉丈瑠が外道に堕ちた事。
 など。

 そう、主催側にとって、全く予想だにしなかったであろう展開は多く、こちらからすれば、「主催者たちは手馴れていない」という感想が抱かれる。おそらく、主催側にはバトルロワイアルというゲームを主催する事に対する一種の抗体がないのだろう。……だとすると、これは主催側が一番最初に執り行った「実験」なのだろうか。
 それなら十分に隙はあると思えた。
 そして、その事を特に強く実感しているのは、実は翔太郎ではない。────ゴハットのようなあからさまな裏切り者と遭遇した暁であろう。生還者を一名出しているところから考えても、内部分裂まで生じている可能性が高いと思えたのだ。

「相手の予想を覆したとしても、相手への打撃にはなっていない」

 今度は石堀が横から口を開いた。実際、尖兵であったマミやさやかが浄化を経てこちら側に戻った事が主催陣営にとって、現状大きな不利益を与えたわけではない。ただ、こちらが自分たちにとっての不利益を排除しただけである。

234探偵物語(左翔太郎編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:26:39 ID:3afmAm6s0
 孤門が、そんな石堀に反論するように口を開いた。

「……そうですね。でも、覆したという事は僕たちにとっては希望です。
 僕たちは相手の意のままに操られる人形ではない。
 ────それが証明できたっていう事に……なりませんか?」
「それも尤もだ。それに、向こうも動揺したかもしれない。
 自分たちが用意したトラップが予期せぬ形で乗り越えられれば、普通少しは焦るもんだ」

 まるで自身も経験があるかのように、石堀が一息に言った。暁がそんな石堀を怪訝そうに見つめた。何か引っかかったようだった。しかし、それはあくまで予感という程度にとどめられて、別にそこから石堀を問いたてる事もなかった。
 孤門が、それを聞いて、今度はマミの方を見た。彼は、この会話の流れからマミに対して何か言っておく事があると思ったのだろう。

「マミちゃん、君が生きている事──。
 ……それがやっぱり、僕たちにとっては希望なんだ。
 役に立つとか立たないとかよりも」
「ええ、わかってます」

 その言葉は、嫌にあっさりしているように聞こえた。彼女はもう少し、今の境遇について悩みを見せていたはずだが、それが今の彼女にはなかった。

「さっき、ずっと桃園さんを見ていて、……魔女になっていた時の記憶が薄らと蘇ったんです」

 名前を出された事で、ラブがマミの方に目をやった。

「私も魔女になっていた間、──いや、魔法少女でも魔女でも人間でもなかった間、少しだけ夢を見ていた気がします」
「……マミさん」
「それは……正義の味方の夢を、桃園さんが果たしてくれているのを、私がずっと見守っている夢です」

 ふと、それを聞いた時にラブには懐かしい感覚が胸に蘇るような感じがした。
 胸の中で何かが解けていく感覚。遠い祖父との思い出を回想するようなノスタルジー。
 ラブは、いつか夢でマミを見た覚えがあった。起きたら忘れられる夢だ。起きたばかりならばその残滓を掬い上げられたかもしれないが、今となっては、ただの懐かしい感覚や既視感に終わってしまう。

 しかし、……きっと、そんな夢を見たのだろう。

「夢の話なんてしても仕方ないんでしょうけど、私は正夢を見たような気分でした。
 そこで、誰かと一緒に桃園さんにエールを送っていて、それで、彼女がこれからも正義の味方であり続ける事を祈っていた気がするんです……。
 おこがましいかもしれないけど、私は……彼女の支えであり続けられたと思うんです」

 それは、自信を持って言える事だった。具体的にどんな戦いをしていたかをはっきり語る事はできないが、マミは夢の中で「真実」を見つめていた気がする。断片的な、キュアピーチの一日の戦いがマミの記憶の中で薄らと形を持っていた。

 そうだ。────ラブも思い出した。

「うん……! そうだ……私も、ほんの少しだけ覚えてます。夢にマミさんや私の友達が出てきて、応援してくれた事。
 だから、きっと祈りは通じたんだと思います。それが私の力になっているのは間違いありません。今も、きっと」

 プリキュア仲間たちや一文字、マミが夢に少し出てきた事を、ラブは少し思い出した。
 それこそが、ラブの胸に響いて来る新しい「愛」の力を生みだしていたのだろう。
 テレパシーや思念という物があるのなら、まさしくそれを受けて、二人が通じ合ったと言える出来事であった。

「……良かった。戦いの役に立つ事じゃなくて、生きる事の意味がわかってくれたんだね」
「そうですね……。私は、やっぱり、少しでも長く生きたいんです。
 死ぬのが怖いって────そう思って、私は魔法少女になったんですから……。
 でも、生きている事でみんなの励みになるなら、そのためにも、もっと真っ直ぐに生きられる」

 マミが魔法少女になったのは、そんな理由だった。交通事故による衝撃と全身の痛み、目の前で燃え尽きる両親、止まない二次災害──あのままだと死ぬ運命だったマミにとって、魔法少女になるという事が唯一生きる手段であり、最後の希望だった。
 彼女にとって、生きているという事の心地よさは何よりの救いだ。

235探偵物語(左翔太郎編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:27:01 ID:3afmAm6s0

「ああ、誰だって生きたいさ。ここで死んだ奴らもみんな……生きたかったはずだ」

 その横で翔太郎が拳を思いっきり机に叩きつけた。鈍い音が響いて、全員がそちらを注視する。無音が作られた。

「……だからこそ、これ以上あいつらの思い通りにはさせねえ!
 全部が奴らの思い通りに進んでるわけじゃないって事が証明されたなら、俺たちはまだいくらでもやれるって事だ」
「同感。きっと、ここにいる者は全員同意見だろ。……ドウコクの奴も含めてな」

 杏子もそう言って外道シンケンレッドの方に視線を飛ばした。全員、無意識に部屋の隅の外道シンケンレッドに目をやった。置物のようではあるが、あれも脅威の一つとしてカウントしていい。
 味方であるうちはともかく、敵にいつ回るかはわからない。
 外道シンケンレッドには意思らしき物はないが、全員ばつが悪くなって視線を外した。
 石堀が景気よく話題を変えた。

「……と、まあ少し考えてみたはいいが、この段階まで来ても、こちらには敵の全貌を探る術はないな。
 敵の持つ兵力、兵器、物量、戦法、それから、技術レベルではどうしようもない不可解性、オカルト性、SF性も含めて全く未知数だ。
 手近な暗号から解読して、まずは生存人数の問題を解決しよう。……そうだろ、孤門隊長?」
「えっ……? あ、え、ええ、全く、その通りです。石堀さん」

 孤門が少し焦ったのを、石堀は薄く笑って返した。
 未熟でありながらリーダーを任され、元々上司だったはずの石堀にこうした皮肉を言われるのも、案外平気な様子であったが、少し孤門も休みたい気分になってきた。
 改めて石堀に言われた内容は、口で言うのもはばかれるくらい途方もない話である。パラレルワールドを往来できるのなら、その能力は無限であると言っていいかもしれない。そんな相手との戦闘行為を、無策で口にして、恐怖を感じぬわけがなかった。
 相手の情報も推測の材料も足りない現状で、いくらこういった事を話しても仕方がないだろう。敵地に突っ込む作戦にも関わらず殆ど無策の状態でいかねばならないのは、やはり不安ばかりが大きい。

「……ただなぁ」

 杏子が、机の上で頬杖をついて見守る二人の大人の探偵は、少し真面目な風ではなかった。
 二人の名探偵は、石堀や孤門などに指示を受ける前に、既に暗号の文書を持って何やら話し合っている。

 ────やはり、というべきか。

「暗号解読か、任せとけ! この涼村暁がかっこよく解いてやるぜ!」
「待て。まずは俺に貸してみろ……俺がハードボイルドに解く」
「やっぱりこういう時は、書いてあるのと逆に、あえてマミちゃんの胸にまず飛び込んでみるのが」
「オイオイ、中学生に手を出すなんざ、ロリコンか? これだから幼児性の抜け落ちないチェリーボーイは」
「うーん……いや、むしろ、マミちゃんレベルだとマザコン人気の方が」

 不安そうな瞳を向けるのは杏子一人ではなかった。
 そこにいる全員が、不安と呆れの様子で見なければならないような二人が、この暗号の解読を買って出ようとしているのである。

「はぁー……」

 溜息が出た。







『桃園ラブと花咲つぼみなら、花咲つぼみ。
 巴マミと暁美ほむらなら、暁美ほむら。
 島の中で彼女たちの胸に飛び込みなさい』

 さて。
 この文書に、今は全員が目を通していた。机を外道シンケンレッド除く全員が囲んでいる。

236探偵物語(左翔太郎編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:27:25 ID:3afmAm6s0

「私とつぼみちゃん……?」
「私と暁美さん……?」

 ラブとマミ。二人は、まずこの暗号において重要な手がかりを持つ人間であるように思えたので、暁や翔太郎と一緒に紙切れの周りに集まっていた。まるで雀卓を囲むように四人が四角く座って、暗号を見る。その周囲で立ち見をするのがその他の面々である。
 これで、果たして暗号とやらは解けるのだろうか。

 まず、真っ先に着目したのは名前だ。これは、放送の際のボーナスクイズとして出題された時も重要視された要素である。参加者名を使ったクイズ、というのはあの時の事を想起させた。今回もまず名前だけを羅列する。
 花咲つぼみ、桃園ラブ、暁美ほむら、巴マミ。
 指定されているつぼみとほむらは、下の名前がひらがなで表記されている。そこから連想して、書いてある単語を「しま」、「むね」とひらがなに直してみるが、これといった収穫はなかった。
 ローマ字に直すと、HANASAKI TSUBOMI、MOMOZONO RABU、AKEMI HOMURA、TOMOE MAMIだが、これを並べ替えてどうなるという事もなかった。
 名前の意味を考えても、「愛」、「蕾」、「焔」など、一見意味ありげなだけの言葉が出てくるが、結局は関係なさそうであった。

 次に、彼女らの境遇を考えた。
 一行目の花咲つぼみと桃園ラブはプリキュア。
 二行目の巴マミと暁美ほむらは魔法少女。
 いずれにしても、同じ行の人物は同じ世界、同じタイプの戦士に変身している。
 花咲つぼみの実家は花屋。桃園ラブの実家は一般家庭。
 巴マミは両親を事故で喪っている。暁美ほむらは不明。
 初変身の時期は、つぼみよりラブが早く、魔法少女はほむらに関して不明であり、比較ができない。
 つぼみとラブとほむらが中学二年生、マミは中学三年生なので、これもつぼみとほむら、ラブとマミで綺麗に二分する事ができない。
 人種も、全員純日本人であった。ラブという名前は日本人離れしているが、彼女が立派に日本人であるという旨は、以前のフィリップと石堀とラブとの会話ではっきりしている。

 それから、戦闘後の能力も考えたが、ここでキュアブロッサムとキュアピーチに大きな差異がないようである。両名を比較して何かが浮かび上がらなければ、こうして探っていく意味はなさそうであった。

「この中でこの名前の人物全員に面識のある人は?」

 孤門が訊くと、杏子と暁が手を上げた。
 確かに、ラブ、マミの他、つぼみとほむらにも会った事があるのはこの二人だけだ。
 基本的に、ここにいる多くはつぼみとも面識があるだろうが、ほむらとの面識が欠けている。ただ、あくまで血の通った人間として鉢合わせた事はなくとも、孤門など数名はほむらの「遺体」と対面していた。
 マミはつぼみとまだ面識がなかった。

「そうだ。とりあえず、マミちゃんとほむらちゃんで決定的に違う点はあるか?」

 翔太郎が訊いた。まずはそこから訊かねばならない。
 暁が間髪入れずに答えた。

「顔」
「ああ……そりゃ違うだろうけど」

 没だ。差異があってもどう違うのかはっきり言えない物を暗号にしても仕方がない。
 顔のつくりで、何か記号化できる違いがあるだろうかと考えたが、それは一切なかった。

「顔の特徴で、大きな違いはある?」

 目の大きさや鼻の高さを比べてもおそらく答えは出ない。
 強いて言えば、つぼみとほむらには「メガネをしている」という共通項があったが、暁や杏子が知るほむらはメガネを一切かけていなかったので、これは誰も思いつかなかった。
 実際、これは解答には関係ない点だった。

「髪の色は?」
「ああ、確かに違うな。つぼみは赤、ほむらが黒で、マミとラブは黄色だ」

 と、杏子。これは少し気になった。
 選ばれなかった側で共通して黄色というのは少し気になる。だが、やはり選ばれたつぼみとほむらの方で違いが生まれてしまうとなるとそれもやはり採用しづらい。綺麗に、「つぼみとほむら」、「ラブとマミ」で二分できなければおかしいのである。

237探偵物語(左翔太郎編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:27:44 ID:3afmAm6s0

「身長はほむらちゃんもマミちゃんもあまり変わらないな……」

 暁が言った。
 数ミリ単位の身長差については比べようがない。それに、身長を比較するならば、もっとあからさまな身長差のある二名を選択して暗号にしなければ、意味が全く通じないだろう。
 身長もボツ。勿論、体重も測りようがないのでボツだ。

「あ、そうだ。ほむらとつぼみは髪がほぼストレートだけど、マミとラブはウェーブがある」

 杏子が何かに気づいたように口を開いた。
 確かにそれは共通点の一つだ。一応、女性らしい意見も出てくるものだ。孤門が関心する。

「確かにそうだね。意外といい線なんじゃないかな?」

 ほむらとつぼみの「ストレート」という部分に何かある気がしないでもない。真っ直ぐ──真っ直ぐな場所や物を示しているとか、そういう可能性が考えうる。
 ここにいるほとんど全員が、少しそれが答えに近づく意味のある言葉であると期待した。

「……あ。いや、でも」

 杏子がやはり、と少し考えた後で言い直した。

「マミ。その髪はセットした物だったよな?」
「……ええ。下ろしても一応少し癖はあるけど」

 杏子がそこで少し引っかかったようだ。引っかかってはいるが、髪型を答えにする事に対する違和感を上手く言葉にできずに、ただ不機嫌な顔色で返す。髪型というのはどうも違う気がしたのだ。
 翔太郎は杏子の表情を見て、彼女が言いたい事を察すると、この場合の問題点を代弁した。

「……髪型は一定じゃない。その日その日で簡単に変わる物だ。
 こういう暗号には向いてない。今ここで刈っちまえば坊主……そういう事だろ?」
「四人とも女だから尼さんだけどな」
「……いや、まあ、確かにそうだけどな。
 とにかく、これだと状況によって、暗号の意味が通じなくなってしまう。
 それじゃあ、こいつは暗号でも何でもなくなっちまうんだ」
「いや、でもこれを作った奴がそこまで考えてないっていう可能性だってある。
 だから、一応言わずにいたんだけど……」

 翔太郎は杏子の返しに何も言えなかった。
 確かに、一般的な暗号では、暗号を通用させる前提条件が覆って相手に通じなくなってしまう事が起きては本末転倒だ。しかし、おそらくこの暗号は即席で作られているので、そこまで考えの及んだ物ではないかもしれない。
 それに、暗号をよこした相手は決して頭の良い相手ではなさそうだ。
 彼女たちの髪型が変わる事や、あるいは既にヘアアイロンなどでセットされた髪である事まで視野に入れていないかもしれない。

 その時、ふと美希が発言した。

「あの……普段縛ってるからわかりにくいけど、つぼみの髪にも癖はあります」
「え?」
「肩まではほとんど癖がないけど、肩から下は結構ウェーブがかかっています。
 何度か結んだ事はありますし、普段もよく見ればわかるはずです」

 翔太郎は、自分なりの記憶力でつぼみの容姿を思い出した。
 確かに、縛られたツインテールの髪は、ゴムより下で大きな波を打っていた。
 再度、脳内でつぼみの髪をストレートで思い描いてみたが、一度ウェーブの髪のつぼみを思い出した後だと、それは全くのまがい物になった。翔太郎もここまで詳しくは覚えていなかった。

「そうだな……。ありがとう、危うく余計な問題で立ち止まる所だったぜ」
「いえ、偶然覚えていて」

 美希は、どうやら女性の──とりわけ、衣装を着て舞台に立つ女性の容姿に関しては、ほとんど記憶しているようである。
 美希自身もファッションモデルであった事を翔太郎は思い出す。プロのモデルである美希は、別の学校でファッション部をやっているつぼみたちにファッションやみだしなみについて指導したのだろう。その際に、つぼみやえりかの体格や特徴を指導し、それが偶然頭に入っていてもおかしくはない。

「それじゃあ、ここに来てから……そうだな、昨日一日の行動経路はどうだろう?」

238探偵物語(左翔太郎編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:28:00 ID:3afmAm6s0

 そうするとほむらと、それから一応マミ(ゴハットの死亡段階でマミの死はゴハットには伝わっていないだろう)だけ死亡しており、やはり比較が難しいところであった。
 一日の行動経路を考え直しても、つぼみとラブでは大きな違いはなく、ほむらとマミでは早い段階で死亡した以上の共通点はない。つぼみとほむら、ラブとマミを比較するならばともかく、つぼみとラブ、ほむらとマミを比較したうえでつぼみとほむらが選ばれたのは不自然だろう。
 これもすぐにボツだ。

「誕生日は?」
「血液型は?」

 どちらも訊いたが、それもどうも決め手にはならず、その上にほむらの情報が詳細不明であるために難しかった。
 こうして、考えうるデータを話してみても、どうやら答えが出ない。このまま行くと、更に問題が細かくなって、解答から遠い場所になっていくような気がした。
 納得のいく共通点は見つかりそうにない。

「……」

 暁は、全員がそうして考えている中で、一人目を瞑って発言せずに考え事を始めていた。
 積極的に解くべきポジションでありながら、どうやら一人きりで考えているようである。

「……暁、お前はどうしたんだ? さっきから黙ってるが」

 石堀が、暁に発破をかけた。声をかけたが、返事はない。
 考え込んでいるのか、呆けているのか、もしかしたら寝ているのかもわからないので、彼の考えを理解するのは難しい。
 いや、今回の場合は、もしかすうrときちんと考え込んでいるのだろうか。比較的、シリアスの横顔であるように見える。

 さて、その時、実際には暁は────。





239探偵物語(涼村暁編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:28:26 ID:3afmAm6s0



(おーい、ほむらー)

 ……の一言に始まるのは、暁の思考の世界であった。彼は、何度か夢の中でほむらに会ったような気がするので、ここらでいっそ、ヒントを聴くためにほむらにこちらから交信してしまおうかなー、という、ちょっと反則的な技を使ってみようと思ったのである。
 そのために、彼は瞼を閉じて外界の映像と音声を途絶した。
 暁は、瞼の裏の真っ黒な世界で、ほむらの姿が浮かぶのを期待した。
 心頭滅却。馬耳東風。弱肉強食。起承転結。西川貴教。天然記念物。代々木公園。万国博覧会。学園七不思議殺人事件。
 あらゆるそれらしい四字熟語を頭に浮かべながら、心霊を呼ぶ準備をする。
 霊の世界と交信するには、何か漢字をいっぱい使っていた事だけは何となく知っていたので、ダメ元で真似してみたのだ。

「死んでいる人を軽々しく呼ばないで」

 と、ほむらが悪態をついて現れた。
 もはや、何でもアリである。

「人に現れすぎとか言っていた割りに、いざって言う時に頼るのね。本当に最低の大人だわ」
(いいからいいから。細かい事を気にすると長生きできないぜ、ほむら)
「……殺されたいのかしら。私、もう死んでるのよ?」

 皮肉にしか聞こえない暁の言葉に、ほむらは険しい表情で辛辣な一言を返した。ほむらは既に死人である。死人がこうして出てきちゃっていいのかは、もう暁とほむらに関してはあまり深く考えてはならない部分である。

(いや、たとえここで駄目でも、パラ○ワとかオ○ズロワとか二次○次とかでも長生きしたいだろ? 細かい事は気にするな、人生は楽しまなきゃ〜!)
「……」

 ほむらは、そう言われて息を飲んだ。──確かに、そっちではもう少し長生きしたいと思っているのかもしれない。

 ちなみに、今回はどんな感じの容姿のほむらなのかは想像に任せる。この殺し合いに呼ばれた時の彼女なのか、メガネなのか、悪魔なのか、幽霊の衣装なのかは、暁の好みが結局どれだったのか、推して知るべしというところだが、想像力豊かな人間は自分の好みで考えて良いだろう。
 小説には多様な解釈が求められるのもまた一興だ。特に、読者の好みが分かれる場合。

「……で、本題は何かしら。そっちに入りましょう」

 ほむらは話題を逸らした。

(率直に言おう。……暗号の答え教えて)

 暁は相手を安心させるように微笑みながら言った。
 まるで餌を欲する犬のような目でじーっとほむらの方を見る。死人ならば答えを知っているとでも思っているのだろうか。そういうわけでもあるまい。

「自分で考えて。……というか、どう考えてもこのやり方は反則だと思わない?」
(俺は解ければいいんだ! どんな手を使ったって解ければ問題はない。
 お前とマミちゃん、つぼみちゃんとラブちゃんの決定的な違いを教えてくれればいい。……とにかく違う点だ。
 ほむらとつぼみちゃんが小さくて、マミちゃんとラブちゃんが大きい物を答えてくれ。
 ……これがわかれば、俺たちは、それにみんなが助かる。
 だから、頼む。この通りだ!)
「……」

 ほむらは黙った。考え込んでいるわけでも呆れているわけでもなく──ましてや、暁の切実さに感銘を受けたわけでもなく、ただ何というか、殺意が湧いたのだった。

 ほむらとつぼみが小さく、マミとラブで大きい?
 ……言いたくないが、一つしかないではないか。それを思うと殺意が湧くのも当然。殺意の対象は何故か暁だった。

 しかし、暁ならば真っ先にそれに目をやるのではないかと思っていたくらいだが、何故暁は気づいていないのだろう。流石に暁も、中学生くらいが相手だと興味がないのか? ──とも思ったが、そういえば開始してしばらくして自分をナンパしたのはまぎれもないこの男だった。

240探偵物語(涼村暁編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:28:48 ID:3afmAm6s0

「────ねえ、自分で言ってて、答えに気づかないの?」
(え?)

 ほむらは、我慢できずに深い溜息を吐いた。ほむらの負けだ。
 せめて、ヒントをやろう。この男にはどうやら、敵わないらしい。

「この問題は、本当にふざけた問題よ。涼村暁らしいふざけた考え方をするといいわ」
(で? 答えは?)
「ヒントならあげるわ」

 ほむらは、答えを自分の口から言うのを拒絶した。
 自分からなんてとても言えない。

「あなたが街を歩いていて、偶然目の前から、マミと同じ体格の女性が歩いていたら、まず、どこを見る?」
(────それは)
「そう、単純に考えて、暁……」

 やはり、ヒントでも口にしてみると殺したくなったが、それが答えだ。
 少なくともここにいる奴らくらいは助けたい、と少なからず願っている暁に、極上のヒントを与えよう。
 ほむらは、そのまま暁の瞼の裏から消えていった。







「暁! 暁! おい、まさか十数年ぶりに頭を使って死んだんじゃないだろうな……」

 石堀の声が暁の脳にまで達した。自分が何度か呼びかけられていたらしい事を暁は察する。寝ていたのか、考え込んでいたのかは自分の中でも判然としない。
 しかし、暁はぱっと目を開けて立ち上がった。暁が瞼を閉じてから三分も経っていないらしく、みんなまだ考えている。

「……バカ言え。俺は生きてる。それより、わかったぞ」
「わかった? 何がだ? 自分が寝ていた事か?」
「暗号の答えさ」

 石堀がこの上なく驚いた様子で暁を見る。これだけの人数で解けない問題に、暁は出ていった。

「……そうだ。わかったんだ。つぼみちゃんとラブちゃん、ほむらとマミちゃんの違い──その意味が」

 そう暁が言うと、須らく、その場にいる者たちは戦慄した様子であった。
 名探偵による推理ショーが始まる。──という時の光景だ。
 誰もが黙り、暁の方を見る。暁も、その空気の重さに、少し鼓動を速めた。
 自分の答えが間違っているかもしれない──そのスリルが暁の中に生まれた。この感覚は久々である。
 過ちは恥、答えれば英雄だ。

「……言ってみろ。真面目に聞いてやる」

 石堀は、そこに生まれた静寂を切り裂くようにしてそう言った。
 暁はうなずき、全員の眼が一層真剣に暁を見た。
 暁は、唾を一口飲むと、口を開いた。

「まず、この暗号が誰に渡された物なのかっていうのが重要だ。
 そう……こいつは、他の誰でもない、この俺、涼村暁様への挑戦状だった。
 でも、相手は黒岩みたいに知識をひけらかして俺を貶めようなんて考えてる奴じゃない。
 むしろ俺にヒントとしてわざわざこの問題を送ったはずだ。
 それなら、俺が解けないような難しい問題は出さない」
「……というと?」
「この問題を送ったのは、ゴハット。あいつは、変わった趣味のダークザイドだ。
 敵のくせに俺の──いや、シャンゼリオンの活躍を望んでいる、まあちょっと頭がおかしいんじゃないかと思う手の奴だった。
 そして、それならこの暗号も『俺に解かせるため』に作った物なんじゃないかって事だ。
 これはただ難しい問題というより、多分、他の誰でもないこの俺が単純に考えればわかるようにできたなぞなぞなんだよ」

241探偵物語(涼村暁編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:29:09 ID:3afmAm6s0

 饒舌な暁に、全員が息を飲む。
 言っている事は少しばからしいが、いつになく真面目に自分の推理の過程を熱弁する暁には、探偵らしい迫力があった。
 ただ一人、翔太郎だけは安易に彼を評価するわけにもいかないと思っていた。他の全員は暁に対して微かに見直したかもしれないが、翔太郎にとっては、もしかすると商売敵やライバルとでもいうべき存在になる。世界の違いがあるので、利益には直接影響しないだろうが、それでも、自分の腕に自信がある以上、他を手放しに認めるのはプライドが許さないだろう。
 暁は続けた。

「使われる名前が桃園ラブ、花咲つぼみ、暁美ほむら、巴マミでなければならなかった理由も、考えてみれば単純だ。
 ……俺は、ゴハットと戦う前にこの四人全員に会っていたんだ。
 マミちゃんがここに来る前にこの全員に会っていたのは俺と杏子ちゃん、それからラブちゃんだけのはずだ。……まあ、マミちゃんの場合は名前も知らなかったけど、俺は『死体』を見て、『体格』を覚えていた。
 あの死体がマミちゃんだっていう事は、みんなに聞けばすぐにわかる事だ」
「で、長々話すのはいいけど、使われる名前がその四人じゃなきゃいけなかった理由って何だよ?」

 杏子が訊いた。前置きの長さに苛立ったのだろう。
 しかし、探偵はこうして焦らさなければならない。……と、暁は勝手に思っている。
 そして、何よりそんな自分に酔っている。

「……ちょっと待てよ、杏子ちゃん。折角、珍しく探偵らしくやってるんだから。焦らさせてくれよ」
「もはやキャラ崩壊レベルだもんな。実物はこんな事できない」
「あー、うるせー! とにかく、その理由は、さっき言った通り、『俺が全員の名前や体格を知っていた』って事だよ。
 この暗号は、なるべく俺以外の人間に解かせないようにできているんだ。この暗号は、そもそも名前が書いてある四人、全員分の姿がわからないとどうしようもない作りになっている。
 だから、俺が知っているこの四人を暗号に使って、そこで俺が一人でこの暗号を解けるようにゴハットの奴が作ったに違いない。
 ……俺や杏子ちゃんのように全員の体格や容姿をきちんと把握して覚えていた人間じゃないと最初から解きようがない。
 今はほむらやマミちゃんを見た人もいるから全員の顔と名前が一致する奴も多いが、元々、マミちゃんはあのまま死んでいた可能性だって高かったわけだから、ここにマミちゃんが無事に来ていなければ、全員の容姿を知らなかった人間の方が多かろう」

 そう、ゴハットが絶命した時点では、マミがどうなっているのかはまだわかっていなかった。マミがここに来ると、ゴハットはどの程度考えていたのだろう。
 結果、マミが出現した事で、暁以外にも暗号を解読できる可能性は高まった。
 ほむらの遺体は警察署に安置されていたので、多くの人間は彼女の遺体の体格を目にしている。翔太郎も、これによって、全員の体格は知っていた。
 本来ならゴハットは望まない状況だったはずだ。
 しかし、それでも翔太郎たちは問題の核心となる部分を解けていなかった。

「そう、何度も言う通り、これは全部、俺のための暗号なんだ。ゴハットは、誰でも解ける問題にするつもりは最初からないし、むしろなるべくなら俺以外に解けないように作ろうとしている。
 あいつは俺ことシャンゼリオンの熱狂的ファンで、それが高じたからだろう。俺の活躍だけを望んでいるんだ。
 だから、重要な手がかりを示す暗号に俺が知っている四人の名前をヒントに記して、俺によこした。──元々、俺に向けた暗号だから、俺以外がそう簡単に解けるはずがない」

 ふと、翔太郎たちは正反対のニードルの問題を思い出した。
 あの問題は、それこそ「引き算」の概念のないグロンギや、極端に知識のない人間以外は誰でも解答できるようになっている。使用された名前さえ読めれば、あとは問題がない。
 ここにいる殆どの人間は、主催側の問題という事であのニードルの問題と同じく、誰でも解ける事を前提に考えただろう。
 しかし、これは根本的に、他の人間に向けられた物ではなく、暁に向けられた問題なのだ。
 ほむらなどの人間と接触──あるいは、写真を見るなどしなければ解きようがなかった。

「そして、杏子ちゃんたちみたいに全員を知っていても、ある一点だけは、俺の思考にならないとほとんど解けない。俺と同じレベルの思考の奴ならまた別かもしれないが。
 とにかく、俺の性格をちゃんと把握したうえで、ゴハットはこの問題を作ってるんだ。そう────それは、この『胸に飛び込みなさい』の部分だ」

242探偵物語(涼村暁編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:29:30 ID:3afmAm6s0

 暁は、ここからだんだん得意げになっていた。
 今までよりも数段、鼻が高くなっているようである。ギャラリーもだんだん、感心するよりも呆れ始めていた。普通なら関心するシチュエーションであるというのに、暁がやるとそうもいかないのだ。
 暁の推理の披露も芝居がかっており、だんだんと演出が感じられるようになっている。
 その小芝居のひとつだろうか、暁はラブの方を見てこういう聞き方をした。

「なあ、ラブちゃん、もし『胸に飛び込め』って言われると何を想像する?」
「え……。えっとぉ……私は、白馬の王子様との抱擁とか……?」
「じゃあ、石堀は?」
「そうだな……。俺もほとんど同じ……抱擁かな」

 帰ってくるのは、抱擁というワードだった。上品な言い方だ。
 しかし、暁はこれまでも、「つぼみちゃんの胸に飛び込む」だとか、「マミちゃんの胸に飛び込む」だとか、そういうもっと下品な言い回しで使用していたはずだ。
 それが、ラブや石堀と、暁との決定的な違いである。

「……いーや、違うね。俺の場合はそうじゃないんだ。
 ここは俺のレベルで物事を考えないといけない。……俺なら、全く別の物を想像する」

 暁はここでニヤリと笑った。





「そう、────『ぱふぱふ』だ!」





 それから、周囲が冷めた様子で暁を見つめた。
 約十秒ほど、全員が固まって、暁の方を白けた様子で見ていたのだった。
 暁も凍り付いて動かず、しかしその顔はニヤリと笑ったままだった。
 思わず、石堀が訊いた。

「…………は?」
「胸にな、顔をうずめるんだ」

 ラブの顔が赤くなり、杏子の顔が険しくなり、美希とマミの顔が完全に呆れ果てていた。
 この瞬間、彼の推理はクライマックスに突入し、同時に再下降に向かっていったのだ。

「胸という言葉の解釈が、今回のキーワードってわけか」

 翔太郎は、肩をすくめながら言った。呆れ顔であるように見えて真剣だった。

 胸に飛び込め。そう聞いて、邪な考えを捨て去った人間──というか、まともな人間は、胸をただの体の一部と考える。「胸に飛び込む」という行為は、青春ドラマの中でも熱血台詞の一つとして使われるが、それは抱擁という接触であって、胸の大きさは勿論、男女の関係ない物であるとされる。
 しかし、暁はもう少しバカだった。胸と聞けば、当然、それを「おっぱい」と訳す。女性の胸。ボリュームを尺度に入れて考える物体になる。
 この問題においても、多くの人間は、仮に考えても「まさか敵が暗号でそんな内容書かんだろ」と勝手に思い込んで、一瞬でボツにしていただろう。しかし、実際は、これはバカな怪人がバカなヒーローの為に作った問題なので、そのくらい単純で良いのである。

「つまり、つぼみちゃんとラブちゃん、ほむらとマミちゃん──この二組において、ラブちゃんとマミちゃんの共通点は、『胸の大きさがもう片方より勝っている』というところなんだ。
 言っちゃ悪いが、つぼみちゃんとほむらは二人に比べて貧乳だ。そして、ラブちゃんとマミちゃんは見ての通りだ。暗号が示しているのは、『ふくらみの小さい方』という事だったんだよ!」
「ええーーーーーーーーーっっっ!!」

 思わず胸を抑えてラブが驚いている。つぼみがここにいなかったのは幸いである。
 絶対につぼみに、今後永劫、暗号の話はしてはならないだろう。相当傷つくに違いない。
 これからなのであまり気にするな、と一言フォローを入れるしかない。
 しかし、何にせよ、他の全員が固まっている様子である。

「────つまり、おっぱいなんだ、今回の暗号はおっぱいだったんだ! わかったか? みんな!」

243探偵物語(涼村暁編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:29:55 ID:3afmAm6s0

 勝ち誇ったように、暁はガッツポーズをした。
 この一言のために長々と推理を話してきたかのように。
 これまでにない調子の乗りようであった。

「……」

 翔太郎が、仏頂面でそんな暁に歩み寄っていった。
 何か言い知れぬ怒りを感じたようで、暁はふとその顔を引きつる。
 革のブーツがてくてくと暁の方に足音を近づけ、やがて、暁の目の前で止まった。

「え、おいおい……」

 零距離。
 キス目前のところまで、翔太郎の顔が暁に近づいた。まるでガンを飛ばされたような気分である。
 そして、翔太郎が口を開いた。

「…………………………で?」

 翔太郎は一言、──いや、一文字、言った。

「え?」

 暁も負けずに一文字、返した。
 翔太郎はコホンと咳払いをした。暁が気づいていないようなので、翔太郎は問い返す。

「今回の暗号がおっぱいだったのはわかった。だがな、……だから何だっていうんだ?」
「だから、おっぱいなんだ。もう全部おっぱいなんだ」
「違ぇよ!! おっぱいじゃ何の解決にもなってねえ!! それがわかったからって、後はどうするんだよ!! それがわかったところで何にもならねえだろ!!」

 そう、翔太郎の言う通り、そこまで推理が辿り着いたとしても、そこから先に全く進まないのである。ゴハットが、「小さい方」を意味する言葉を暗号として残したとしても、そこから進みようがない。
 そこだけわかったとしても、主催に関する何の手がかりになるというのだろう。

「そ、そうだな……そ、それじゃあこれからの意味を一緒に考えなきゃな」
「おいおい……ちょっと待てよ」

 この暗号には続きがあるはずだ。────それを、暁は忘れていた。
 翔太郎の目が険しかったのは、このためだった。彼が、おっぱいで満足してその先に進めなかった事に怒りを感じているのだろう。

「……暁。こいつは、そのゴハットとかいう奴がお前の為に残した暗号なんだろ。じゃあ、ここから先もお前が解くんだ」
「え?」
「ゴハットは、お前の為にこの暗号を残した。そいつがヴィヴィオを殺したってんなら俺は許せねえ……けど」

 暁からすれば、ゴハットが冤罪被っているのを訂正したいが、それをする事で逆にヴィヴィオに危険が迫るであろう事を考えると何も言えない。
 翔太郎は続けた。

「考えてみろ、そいつに救いをやれるのは、お前だけだ。
 ────俺は力を貸さない。お前が解くんだ……ここにいるみんなのために」

 そう、暁はこの問題を暁自身で解かなければならなかったのだ。







 時は、フィリップが生きていた頃までさかのぼる。
 翔太郎が、フィリップに頼んで主催に関して調べていた時だ。

 闇生物ゴハット。
 ────その名前を、以前、フィリップは無限の本棚で検索した。
 ゴハットに関するデータは、『ヒーローおたく』としての記述が大半を占めていた。
 やはり、放送での情報に嘘偽りはなく、彼はヒーローを愛する存在だったようだ。

244探偵物語(涼村暁編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:30:27 ID:3afmAm6s0

 しかし、一筋縄ではいかない部分もゴハットには多い。
 ゴハットには過剰ともいえる拘りがあった。
 そう、「ヒーローは死なない」という幻想や、非人間的な生活をしている者というイメージでの独自のヒーロー観の押しつけである。
 ずっと昔のヒーローを前提とした、勧善懲悪型の「名乗ったり」、「爆発したり」、「叫んだり」を行うヒーロー以外、彼はヒーローと認めず、世捨て人のように飄々として自分の幸せをなげうった孤独な者をヒーローと呼ぶのだ。それ以外は、更生させるためのスパルタ教育をする。
 涼村暁や左翔太郎の持つ一般人としての生活感覚を彼が認めるかといえば、おそらくはNOだろう。

「なあ、フィリップ……こいつは、ちょっとヤバいんじゃねえか?」
「ああ。以前僕たちが戦ったコックローチ・ドーパントの持つ独善性にも似ているね。ヒーローが好きだからといって、彼自身の行いが立派なヒーローといえるかは別問題だ」

 ヒーローに憧れるという人間が決して、人間的に成熟できた立派な人間になれるという事ではない。
 いや、むしろ憧れたものに対する一方的な幻想を抱く者だって、悲しい事に一定数いるのである。──ゴハットや、コックローチ・ドーパントこと伊狩はそういう物を持っていただろう。
 ある種、オタク気質というか、それを突き詰めた人間に陥りやすい傾向だ。

「まったく、ヒーローってのは、なんだかわからねえな、本当に」
「確かにね。わからないなら僕たちも自分たちの事をヒーローと思わない方がいいかもしれない。
 僕たちも血の通った人間には違いないからね。所謂──そう、Nobody’s perfect」

 フィリップは、どうやらそこから先の事もあまり考えていないようである。自分がヒーローであるか否か、という問いから先、彼が答えを出す事はなく、答えを出す気もなかっただろう。
 彼は、自分がヒーローと呼ばれる事に、この時はあまり関心を持っていないようだった。
 やはり、既にこの殺し合いの中で幾人もの犠牲者を出した後だったから──だろうか。
 到底、自分の事をそう呼べる精神状況ではなかった。
 それから、フィリップは補足した。

「……ただ、街の人や……特に子供たちを見ていると思うよ。ヒーローにあこがれる人間は、行いも含めてヒーローのようであってほしいとね。
 完璧じゃなくたっていいから。────まあ、これは、僕自身の勝手な願望だけど」

 あの時、フィリップは、一見すると興味なさそうにそう言っていた。
 翔太郎は、それを思い出した。







 翔太郎は、暁の推理を訊いた時に、こう思ったのだ。──データによると、あそこまで独善的で、一方的なゴハットの感性ならば、当然こんな問題は出しえない、と。
 翔太郎が問題に答えを出せなかったのは、それが原因だった。彼も、一度はその解答も考え、ボツにしたのだった。
 ゴハットは、本来なら暁にこんなふざけた問題は出さない。ヒーローに対して、「硬派」という幻想を抱いているゴハットが、暁を認めてこんな問題を出すだろうか?
 ゴハットが、データと全く同じでぶれない存在であったなら、暗号の内容はもっと難解で硬派な物だったはずである。
 しかし、現実には、あらゆる案が出されたものの、おそらく暁の解答で間違いない。

 ────どういうわけかわからないが、ゴハットは暁を認めたのである。

 彼は、かつての暑苦しいヒーロー像に熱狂していたはずだが、この場において、一人間としての──時にふざけているが、時に真面目な、暁や翔太郎のような新世代のヒーローを認めたという事になる。
 バカでも。ぶっきらぼうでも。体が弱くても。自分の宿命に押しつぶされるほどに弱い一人の人間であっても。──それは、立派なヒーローの形の一つである、と。
 それはきっと、暁がこのバトルロワイアルで行ったすべてをゴハットが見届けた結果だ。
 暁の生き方は、一つの考えに囚われた旧世代をも突き動かしたのである。

 これは、そんな彼が、シャンゼリオンに向けて作った挑戦状であり、ラブレターなのだ。
 その手柄を、今回ばかりは翔太郎が奪うわけにはいかない。照井竜が井坂深紅郎との決着をつける事になったあの戦いの時と同じく、脇役として見守るだけだ。

245探偵物語(涼村暁編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:30:51 ID:3afmAm6s0
 そして、暁を推理の過程で立ち止まらせて、この暗号の答えを解かせないわけにはいかない。

 翔太郎には、もう答えはわかっていた。
 しかし、暁が答える事に拘って、彼は黙って暁を見ていた。誰も、暁に協力してやろうとは思っていないようだった。
 その状況で、暁は口を開いた。

「……わかった。ここから先は、俺に任せてくれ」

 自分がやらなければならない。
 癪だが、今はゴハットの為に。あの怪物の為に。暁はまた、やらなきゃならない。
 確かにあのゴハットは、ヴィヴィオを救っているのだ。そのお返しと言っては何だが、暁自身が自分の力で最後のピースをはめる事で、ゴハットの悲願をかなえさせてやらなければならない。

 暁は考えた。
 もう一度、暗号を考えてみよう。

『桃園ラブと花咲つぼみなら、花咲つぼみ。
 巴マミと暁美ほむらなら、暁美ほむら。
 島の中で彼女たちの胸に飛び込みなさい』

 まだ触れていないのは、そう……「島の中で」という部分だ。先ほどの暁の推理の中では、わざわざ「島の中で」と注されている部分が完全に無視されている。
 島の中。ここは孤島だ。この島の事だろう。しかし、その意味だ。暁たちがこの島の中にいるのは当然である。
 じゃあ、この暗号における島とは何だ? 島の中には、何がある?

「……島! そうだ──」

 暁は、何かに気づいたように、慌てて手近なデイパックを漁った。
 中にある物を床に散らかして、暁は、それを必死に探した。

 そんな姿を、誰もが黙って見つめていた。暁は、今、真相に近づこうとしている。
 ある者の意志に答える形で、必死にデイパックの中身を漁っている。暁の慌てようは、答えを探す為の行為に見えた。

 そう、彼が探しているのは、ヒントではない。──答えなのだ。

 ペットボトルを投げる。パンを投げるのを杏子がキャッチして文句を言う。その言葉は暁の耳に入らない。中身を引きだして投げていく暁は、ある答えだけを探していた。
 そして、それはすぐに見つかった。

「そうか……そういう事だったのか」

 涼村暁は、決定的な答えを広げた後、その意味に気づき、握りしめた。
 彼の考えには思い違いはなかったらしい。

 謎は、すべて解けた。







 彼らが監禁され、殺し合いを強要されているこの島は、そのほとんどが山のみと言っていいほどに緑が豊かな島である。人間たちの侵攻は浅く、外れに小さな街や村がある程度で、参加者たちもこの暗い山々に何度悩まされた事だろう。
 夜は特に参加者たちの恐怖を煽る。緑ばかりが茂り、その木々は何度も参加者たちに根本から切り落とされ、焼き尽くされてきた。元の形はないが、地図上では今もそれらの山々は真緑で表現されていた。
 この緑の部分が、今回の暗号において、注目されるべき物だった。

 そう、暁が今回、手に取ったのは、「地図」だ。
 ところどころが禁止エリアとして黒く塗りつぶされている地図を、暁は掲げる。
 そして、ある部分を指さした。

「この山に注目してくれ」

 暁がそう口にするのを、誰もが黙って聞いていた。全員が注目する中、暁は先ほどのような緊張を感じなかった。もはや、核心ともいえるべきものが彼の中にあったのだろう。
 地図上の山について、暁は話した。

246探偵物語(涼村暁編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:31:09 ID:3afmAm6s0

「この山は、あるところで二つに分かれている。この山の高さが問題なんだ。グロンギ遺跡のある方の山は南の山より少し大きいだろ?」

 確かに、山の大きさは二つとも違う。
 中央部だけが凹んでおり、この島の山は頂きが二つある形になっていた。
 高く積もった方と、やや沈んでいる方。この二つが今回のキーワードだ。

「これはただの山じゃない。俺が考えている通り、おっぱいなんだ」

 全員が白い目で暁を見た。
 少し見直そうとした者たちも、やはり見直した分を無しにした。

「わからないか? この大きい方の山がマミちゃんのおっぱい、この小さい方の山がほむらのおっぱいなんだ」
「あの、いい加減にしないとそろそろセクハラで訴えますよ……?」
「訴えるならゴハットの奴にしてくれ。俺は答えを言っているだけだぜ」

 マミがもじもじした。暁はおそらくわざとセクハラ性を強調した言い方をしているのだが、「ゴハットのせい」という盾で自分を守る。
 これだからセクハラは悪質である。女性が言い返せない状況が自然に作られるのだ。

「で、この山だ。ずっと前は何もなかっただろ? でも、今は違う」

 暁は、気にせずに続けた。
 暁はかつて、このどこかにある禁止エリアを恐れて、その山を駆け抜けた事がある。その時には、この山には何もなかった。
 ──そう、しかし、今は暁の言う通り、違う。
 実はその後、この山の上で、通常なら見逃すはずもないような物を見たと証言していた(らしい)人間が現れたのだ。

「……そうか、ドウコクが見た山頂の物体だ」

 石堀が気づいて言った。
 血祭ドウコク。──外道衆総大将を仲間に引き入れた事が、思わぬところで役に立ったらしい。翔太郎や一也がドウコクから得た情報はこの場において共有されている。

「その通り♪」
「じゃあ……」

 孤門が見たのは、窓の外だった。
 もはや外の戦いは終わっただろうか。静かな外の空気の中で、たった一つ、見えている物があった。森の中、微かに膨らんでいる一つの山の頂。



「────つまり、ゴハットの奴が示したかったのはその事なんだ。小さい方の山──すぐそこに見えている、あの山こそ、俺たちが飛び込むべき、つぼみちゃんとほむらの小さいおっぱいに何かあるって事なんだよ!」



 暁が遂に、後ろからスリッパで殴られた。殴ったのは、美希だった。
 暁の解答は、結論から言えば間違いなかった。
 ドウコクが見たというあの奇怪な物体こそ、主催陣営のもとへ向かう鍵となる。
 考えてみれば、最も怪しいのだ。現時点で、鳴海探偵事務所やクリスタルステーションのように、戦闘配備としての意味がまるで感じられないあの物体。

 それは、この冴島邸から見える景色の中にあった。
 青く光っている、あの奇妙な物体──暁たちは、それをただ見つめていた。













247探偵物語(涼村暁編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:31:28 ID:3afmAm6s0



 ここは、既に冴島邸を離れた外の森エリアだった。
 少し生暖かく、嗅いでみれば硝煙の匂いもするかもしれない森の中──心地よい森林の香はもう、どこかへ消えている。
 彼らの目の前にある、山の山頂を彼らは目指す事になった。
 冴島邸内で合流した、孤門チームと良牙チーム。──これで残る参加者は遂に全員出揃った。

「残ったのは、十五人か……」

 孤門一輝。石堀光彦。涼村暁。左翔太郎。沖一也。響良牙。桃園ラブ。蒼乃美希。花咲つぼみ。佐倉杏子。巴マミ。レイジングハート・エクセリオン。涼邑零。血祭ドウコク。外道シンケンレッド。そのほか、リクシンキ。

 ──ガイアセイバーズ。
 そう名付けられた部隊は、これにて全員集合した。

「ゲーム終了までは、一時間──」

 ゲーム終了までの時間もわずかとなった。
 沖一也と血祭ドウコクの約束の時間、十一時が遂に来る事になった。
 本来ならば、ここで一也の首はない。────しかし。

「てめえら、よくやったじゃねえか」

 血祭ドウコクは、その時、彼らの報告に素直な賞賛の言葉を与えた。暗号が解き明かされた以上、ドウコクが謀反を企てる意味はない。
 それから、そこで用済み、という事もなく、ドウコクは素直に彼らと共に行動している。
 それというのも、やはり戦力・駒としてはまだ十分に使えると判断しているからだろう。

 一也は、タイムリミットまでに暁と翔太郎が成功させた事でかなり安心しているが、一方で不可解に思う部分もあった。

(……この島の外に何かがいた事も確かだ。あれは一体────)

 一也だけが見た、あの黒い影。──あれを話すべきだろうか? しかし、仮にその事を話せばそれはそれで、ドウコクは帰還不可能とみなし、内部分裂が起こるかもしれない。
 何もいえないもどかしさが一也の胸にしこりを作った。

(まずは彼らが得たヒントをもとに、あの場所に向かうしかない……)

 それから、少しだけここにいるメンバーは情報を交換した。







 花咲つぼみは、美樹さやかの死について全て語った。その報告に最もショックを受けていたのは、佐倉杏子であった。

「そうか、それであいつは……」

 彼女が魔女に救われたと聞いた時、これは和解のチャンスだと、杏子は思ったが、その直後に結局、別の人間に殺されてしまったらしい。その人間──天道あかねも死んでしまった。
 杏子としては、美樹さやかも天道あかねも知り合いだっただけに、こういう結末になったのは残念でならなかった。
 さやかとも、あかねとも、和解をする機会は永久に失われてしまったわけだ。──そう思うと、最悪のコンタクトを相手に残せてしまったのは残念でならない。二人とも、もっと別の形で会いたかった相手である。

「……人間に戻るって事は、それだけ体が弱くなってしまうって事なのね」

 マミが、落ち込んだように言う。
 知り合いの死を知って、やはり悲しみもあるのだろう。元の世界の知り合いで生存しているのは、もう杏子だけだ。しかし、一人でも元の世界の仲間がいれば、それは十分恵まれている。ほとんどの人間が、自分以外の仲間がもういない状態だった。

248探偵物語(涼村暁編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:31:46 ID:3afmAm6s0

 さやかは、魔法少女であれば変身してどうにか対処できたかもしれない状況で死んだという。変身できないという事は、それだけの危険も伴うという事だ。それもマミは考慮に入れなければならない。
 魔法少女の感覚に慣れていたがゆえ、彼女にとっても気を付けなければならない話である。まして、これから行く場所はどんな戦闘が巻き起こるかわからない。
 荷物をしっかりと持って、武器を把握して、マミは出来る限りの手段で仲間を支援し、生き残らなければならないのだろう。

「あの、つかぬ事をお伺いしますが、マミさんは、……やっぱり、人間に戻れて幸せですか?」

 ふと、つぼみはマミに訊いた。人間として救いだされた率直な感想を、マミから訊きたかったのだ。さやかがどう思っていたのかを知る術はないが、同じ境遇の人間から聞き出す事はできる。

「そうね……。魔法少女として、みんなを守っていた時は自分にしかできない事があるっていう嬉しさがあったけど、今は違うわ」
「え?」
「私たちの力には、魔女になるリスクもあった。
 ……ずっと一緒にいるには危険すぎる力だし、何より魔女になって暴れ続ける事なんて全然幸せじゃないと思うの。
 人間は本来、人間であるべき──それが普通なのよ」

 そうマミが言った時に、横から杏子が言った。
 彼女こそ、正真正銘、魔法少女の心情を誰よりもよく知っているのだった。
 全ての真実を、冷徹に目の前に突き付けられ、それを乗り越えた彼女である。

「なあ、つぼみ。現役の魔法少女から一言言っておくよ。
 魔法少女として死ぬよりは、人として死んだ方がずっといい。
 ……ましてや、魔女として死ぬなんて最悪だ」
「そう、ですか……」
「あんたはよくやったよ。あいつもきっと、喜んでいるはずだ」

 そう、この中では杏子だけ、今もまだ魔法少女でいる。
 彼女にはまだ心に孤独があるはずだ。だから、こんな事を言うのだ。まだ体は人でなく、いつでも魔女になる可能性があるだろう。
 いつか、人間に戻すことができるのなら、そうしてやりたい──と、つぼみは思う。

「……ありがとうございます」

 つぼみは、苦い顔で礼を言った。杏子の境遇を思えば、彼女は慰められる側であろう。しかし、つぼみを慰めようとしている。
 その事を、つぼみは少しばかり情けなく思った。







 響良牙は、まず沖一也と左翔太郎に向けて謝らなければならない事があった。
 それは、天道あかねを絶対に救うと「仮面ライダー」の名に誓いながら、それを果たせなかった事である。

「すまねえ……。あんたたちの名を語っておきながら、約束を果たせなくて」

 良牙が他人に頭を下げるのも、滅多にありえない事である。
 彼はそうそう人に向けて素直に謝れるタイプの人間ではない。しかし、ここにいる大人たちには、良牙がそうそう敵うような相手ではないと本能的に悟ったのだろう。単純な腕力とは別の次元で、自分より「上」の相手である。
 五代雄介や、一条薫もそうだった。

「……いや、いいんだ。良牙君は出来る限りの事をしただろう?」

 一也が訊くが、良牙は何も言えなかった。
 彼は自分がどれだけの事ができたのか、わからなかった。全力でやれた実感はない。
 ただ、良牙は、当然ながらあかねを助ける為に何でもするつもりだった。
 その想いだけは決して変わらない。自信を持って言えるのは、その想いがあった事だけである。あれが良牙のできる全力の手助けだったのかは何とも言えない。
 あかねが負っていた生傷を考えれば、最初から命を助ける事はできなかったのかもしれない──。

249探偵物語(涼村暁編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:32:04 ID:3afmAm6s0

「誰だってそうだ。意志があってもできない事はある。俺も……」
「……あんたにもあるのか?」
「ああ。父のような人も、同僚も、師匠も、兄弟子も、仲間も、親友も、先輩たちも、未来の後輩も──俺にはこの手で守れなかった命がいくつもある」

 一也は、スーパー1として戦った日々を少し回想した。そして、このバトルロワイアルで喪った仲間たちの事も浮かんだ。
 あの無力の痛みが一也の拳にもまだ残っている。
 仮面ライダーは、決してここで全ての人間を救えていない。しかし、一人でも多くの命を守るために彼らは戦った。本郷猛も、一文字隼人も、結城丈二も、村雨良も、五代雄介も、一条薫も、フィリップも、照井竜も──。風見志郎も、神敬介も、アマゾンも、城茂も、筑波洋も、門矢士も、鳴海壮吉も、火野映司も──。
 その生き様に恥じぬよう、一也はこれからも仮面ライダーとして、一人でも助け出すために戦うだけである。
 たとえ、誰も助ける事ができなくても、助ける為に戦い続ける──それが力を持った宿命である。

「良牙。……俺から言える事は何もねえ。
 もしかしたら、俺よりもお前の方がずっと仮面ライダーらしいかもしれないからな」

 翔太郎も、そう言った。少し前までしょげていた翔太郎とは顔色が違うと、良牙はすぐに見抜いた。
 彼もまた、フィリップという仲間を失い、しばらく茫然自失の状態だったのだ。

「俺たちは、仮面ライダーである以前に人間だ。
 Nobody’s perfect──完璧な人間なんていやしない」

 翔太郎の胸の中に在るその言葉は今も、時として彼を慰める。
 戦い疲れた仮面ライダーの心に、師匠から受け継いだその言葉は今も何よりの癒しになるのだ。

「たとえ誰かを守れなかったとしても、お前は立派に仮面ライダーだったさ」







「……サラマンダー男爵によると、ここに永住しても問題なく食料に不便はないという話だ。
 だけど、ここで永久に生活しようって思ってる奴はいるか?」

 零が、他の全員に訊いた。この情報は既に全員に行き渡っているので、改めて確認の為にそう口にしたのだった。肯定する者はここにはいなかった。
 勿論、いるはずはない。
 ここにいる者には、ドウコクも含めて帰るべき世界、帰るべき場所があるはずなのだ。

「……じゃあ、決まりだな」
「異存はありません」

 決意は胸にある。
 恐怖も胸にある。
 しかし、元の世界に帰るためには、そこへいかなければならない。
 それに、ここで倒れた人間の為にも、これからこのように殺し合いに巻き込まれるかもしれない人間の為にも、戦わない時が近づいているのがわかった。

 十五人。
 兵力としては、あまりにも少ない。これで戦えるだろうか。
 ほとんどの人間の胸には、焦りと不安が湧いていた。まるで特攻にでも向かうような心境である。手が震えているのは止まらない。言葉も零のように発せない物もいるかもしれない。

「行こう、みんな────ガイアセイバーズ、出動!」

 孤門一輝が喉の奥の震えを押し殺して、そう叫んだ。


 ──そんな中、石堀光彦だけは内心、薄気味悪く笑っていた。





 To be continued……




250探偵物語(涼村暁編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:32:48 ID:3afmAm6s0



状態表は長くなるので、これまでの物語を参照してください。
全員の最優先行動方針に、「F−5山頂に向かう」が追加されています。



【支給品紹介】
※これまで公開しきれなかった不明支給品を全て紹介します。

【鳴海亜樹子のツッコミスリッパ@仮面ライダーW】
冴島鋼牙に支給。
亜樹子がツッコミに使用する緑のスリッパ。毎回別の文字が書いてある。

【セガサターン@現実】
冴島鋼牙に支給。
「超光戦士シャンゼリオン」のスポンサー会社のゲーム企業が1994年に発売した家庭用ゲーム機。略称はSS。

【アヒル型のおまる@らんま1/2】
冴島鋼牙に支給。
ムースが暗器として使用した武器のひとつ。場合によっては撲殺に使える。

【フラケンシュタインの被りもの@フレッシュプリキュア!】
村雨良に支給。
第16話でラブのクラスが文化祭のオバケ屋敷の為に用意していたフランケンシュタインらしき怪物の被りもの。ちなみに、一応「フランケンシュタイン」は怪物を作った博士の名前なのも有名な話。

【ネギ@仮面ライダーW】
孤門一輝に支給。
小説版で翔太郎の風邪を治したネギ。使用方法は……。
なので使用済じゃない事を祈りたい。

【ドリームキャスト@現実】
孤門一輝に支給。
「超光戦士シャンゼリオン」のスポンサー会社のゲーム企業が1998年に発売した家庭用ゲーム機。略称はDC。

【風の左平次パニックリベンジャーDVD-BOX@仮面ライダーW】
東せつなに支給。
巷で流行している時代劇のDVD。左翔太郎と鳴海亜樹子がこれのファン。

【メガドライブ@現実】
沖一也に支給。
「超光戦士シャンゼリオン」のスポンサー会社のゲーム企業が1988年に発売した家庭用ゲーム機。略称はMD。

【おふろセット@魔法少女リリカルなのはVivid】
沖一也に支給。
高町ヴィヴィオが普段お風呂の時に使っているアイテム。
アヒルのアレや水鉄砲などが入っている。
もしかしたら、美希、杏子、ヴィヴィオが銭湯に入った時に使っている可能性あり。

【プリキュアのサイン入りクリスマスカード@ハートキャッチプリキュア!】
ズ・ゴオマ・グに支給。
第44話でハートキャッチプリキュアの面々がプリキュア好きの青年にあげたサイン入りカード。キュアブロッサム、キュアマリン、キュアサンシャイン、キュアムーンライト、そしてキュアフラワーのサインが書いてある。うらやましい。

【マタタビ@現実】
バラゴに支給。
猫を酔っぱらわせる実。このロワではわりと使える。

【配置アイテムネタバレマップ@オリジナル】
園咲冴子に支給。
支給されていない配置アイテムの場所が記されている。何が置いてあるかは書いていない。

251探偵物語(涼村暁編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:33:27 ID:3afmAm6s0

【ハートリンクメーカー@フレッシュプリキュア!】
園咲冴子に支給。
誰でもビーズが作れるという画期的なアイテム。
第18話と第40話くらいしかまともに出番がない。「ハートキャッチプリキュア!」などのプリキュアシリーズにも、各作品ごとに別の物がたまに出てくる。

【未確認生命体第0号の記録映像@仮面ライダークウガ】
溝呂木眞也に支給。
長野県九郎ヶ丘遺跡で未確認生命体第0号(ン・ダグバ・ゼバ)が研究員を殺害して暴れた映像が記録されているビデオテープ。

【山邑理子の絵@ウルトラマンネクサス】
月影ゆりに支給。
山邑理子が描いた不気味な絵。
東武動物公園で家族旅行された帰りに家族が殺され、ビーストにされた少女がその光景をクレヨンとかで描いたもの。

【魔力負荷リストバンド@魔法少女リリカルなのはVivid】
月影ゆりに支給。
マリエル・アテンザがヴィヴィオたちのために作ったリストバンド。
これをつけると魔力の使用に負荷がかかる。要するにドラゴンボールの重いリストバンドの魔法少女版みたいなやつ。

【HK-G36C@仮面ライダーW】
早乙女乱馬に支給。
葦原賢が使用する突撃銃。装弾数は30発。
「仮面ライダーSPIRITS」などにも登場する。

【白埴鋤歯叉@侍戦隊シンケンジャー】
早乙女乱馬に支給。
モチベトリが使用する武器。
「しらはにすきばのまた」と読む。

252 ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:33:51 ID:3afmAm6s0
以上で投下を終了します。

253名無しさん:2014/11/03(月) 17:18:00 ID:jxHkQGOM0
投下乙です

いやあ、本当の最後の戦いの前のひと時というかお互いの確かめ合いというか
二人の探偵がコメディしつつもヒーローしてるのもいい
ヒーロー組も魔法少女組もそれぞれの心理描写が本当にらしいわあ

254名無しさん:2014/11/03(月) 17:31:39 ID:AmLOij0c0
投下乙です!
おお、いよいよ暗号の答えも見つけましたか! 
でもこれから向かう所にはレーテというヤバい物があるんですよね……

255名無しさん:2014/11/03(月) 18:17:32 ID:552Ynb5c0
投下乙です

暁ww
ほむらに守護霊として憑かれてるな

256名無しさん:2014/11/04(火) 01:18:49 ID:ECMQAqBI0
投下乙です。
まさに涼村一青年の事件簿。

そうか、あの暗号は暁がバカな思考で解き明かす事前提の暗号だったのか、暁がやって来た事はゴバットにも影響を与えてゴバットの思考にも変化を与えていたのか。
暗号の答えは出てきた時点で予想出来たけど、まさにそれがそのまま正解だったとは……未だかつてアレな暗号の答えで主催ルートが示された事があっただろうか。

再び仲間が集結して決戦突入……だがもうそろそろ石堀が仕事を始める頃か……暁、暗号解いて浮かれている所悪いけど暁に与えられた仕事はまだ残っているぞ。
まぁ石堀が本気出してヒャッハーしても、今回の主催を出し抜けるかどうかは……

で、もう既に上でも触れられているけどほむほむ本当に何度目の登場だろう。退場してからの方が活躍している気がする。こんなある意味活き活きしたほむほむ他所では絶対に見られない気がする。

257名無しさん:2014/11/04(火) 15:19:52 ID:qf6dxKUM0
石堀がいつ裏切るかずーっとそわそわしてたんだが、ここまでくるとラスボスポジションになるやもしれんな

258名無しさん:2014/11/04(火) 22:15:33 ID:XI5ppeEs0
投下乙です
小さなおっぱいにれっつごーです

ツッコミスリッパは不法投棄されていた覚えがあります

259名無しさん:2014/11/04(火) 22:21:38 ID:XI5ppeEs0
すみません
スリッパの件は記憶違い でした

260名無しさん:2014/12/10(水) 14:14:35 ID:25B6iFPsO
予約キタ

261名無しさん:2014/12/10(水) 23:59:44 ID:T/L8BbNEO
楽しみにしております

262 ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:50:15 ID:ezDSmj8g0
年末なので、折角だから、前回投下予定だった話の前半部を投下します。
後半部はまだ40KBくらいしか完成してないので、また来年という事で。

263崩壊─ゲームオーバー─(1) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:51:22 ID:ezDSmj8g0


 そこは、島の地下施設の一角であった。
 数百台のモニターから来る光源だけで綺麗に白みがかった部屋には、横並びに幾つもの椅子が佇んでいる。加頭順はその一つに座って、前方のモニターから、通称“ガイアセイバーズ”の様子を観察していた。彼の座っている以外の椅子は全て、既に空席である。

 このゲームの仕掛け人としては、本来なら至極緊張する場面まで話は進んでいた。だが、彼は、身体が緊張するような精神状態になる事がなかった。──加頭は、「NEVER」であり、その副作用として、死への恐怖が欠如している。
 “ガイアセイバーズ”はもう間もなく加頭たちの居所まで来ようとしている。F-5の山が基地の入り口となっているのは事実であり、順調に彼らは加頭の頭上で距離を縮めているらしい。
 尚更問題となるのは、加頭の所属する財団Xのメンバーやその他の主催陣は全員撤退を済ませ、もうここに残っている支援者は加頭を含めた数名のみであるという事だ。この部屋で閑古鳥が鳴いているのもそうした事情がある。残りの数名も、もしかすれば加頭以外、既に離脱しているかもしれない。
 少なくともこの一室は加頭以外誰もいなかった。このモニターも一時間後には映像を停止するので、そう時間を減る事なく、この一室は永久的な暗闇に飲まれるだろう。
 そこから見えている最後の映像に、何かしら反応するような感情がその面持ちから見て取れる事はなかった。

 加頭も死への恐怖を忘れたとはいえ、まだ生きている間しか果たしえない野望がある身である。それゆえ、本来ならば離脱すべき局面であり、引き際を弁える程度には頭も働くはずだが、今はここにしばらく留まる事にしていた。
 彼らの最後の絶望を見届け、このゲームに最後の仕上げを行うのは、ゲームのオープニングを務めた加頭の仕事である。放送機能も整えてあるし、彼らに残りの全てを伝える役目は存分に果たす事ができるだろう。

 そして、何より、加頭自身の願いは、この島で過ごす事だ。彼らが残り十人まで人数を減らすのに失敗した場合は、こちらで処刑を済ませねばならない。──その対策も、もはや整っていると言っていいが。
 加頭が願いを乞わねばならぬ相手がいるのも、元の世界ではなかった。たとえ誰が離脱したとしても、加頭だけはこの島を離れない。

 何としても……。

「……ゲームオーバー」

 おそらく、この殺し合いゲーム『変身ロワイアル』は終了(ゲームオーバー)だ。既にこのルールの枠組みからすれば、現状はれっきとした失敗である。ゲームそのものが加頭たちの目的であったならばこちらの敗北は確定に違いない。
 加頭は、全く悲観的ではなかった。こんなゲームは所詮、彼にとっては道楽だ。結局は参加者全員を拷問で殺し、それを中継した方がリスクもコストも時間もかからなかったくらいである。加頭以外の誰かがそれだけでは納得しなかったというだけの話である。
 加頭にとっては、この殺し合いの意味そのものは、「支配・管理の副産物として、せいぜい数日楽しませてもらえれば御の字というイベント」以上の何者でもない。

 それに、このゲームが終了したところで物語はまだ終わらない。
 ベリアルが作る全パラレルワールドの管理を以て、全ては「始まる」のだ。
 所詮、殺し合いなどその為の実験であり、この段階で既に「成功」といえるだけのデータは取れてしまっている。殺し合いの中に閉じ込められた者たちは外世界について何も知らないが、既に外世界は管理され、幸福なき世が完成しつつあった。
 いわば、その点においては、ヒーローたちの敗北である。「苦境の脱出」という栄光でさえ、結局は掌の上の出来事だ。

 さて、これから加頭はあの左翔太郎やその仲間たちが最後のダンスを踊るのを見届ける事になるが、彼はここで脱落するのだろうか──あるいは、「生きて帰って絶望する」事になるのだろうか。

「──」

 ダークザギや血祭ドウコクが快進撃を始めるのには、あと十分程度時間を要するだろう。この二名が、これからおそらく参加者を十名まで減らす要である。このエリアの頭上にレーテを配置したのも、石堀の野望と絡めた問題だ。

「おや……」

 残り五十八分を切った時、加頭はあるモニターを目にする事になった。
 それは、そのモニターが、この数時間の傾向通りの不動の景色ではなく、ある動きを見せたからである。加頭は一見すると参加者の集うモニターばかり見ているようでありながら、全てのモニターを視界に入れ、頭の中で無意識に整理していたのだ。微妙な違いにもすぐに気づける。

264崩壊─ゲームオーバー─(1) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:51:40 ID:ezDSmj8g0

「これは……」

 それは、既に死亡したはずであるゴ・ガドル・バ──改め、ン・ガドル・ゼバの遺体が移されている映像である。

 ──今、ガドルは……動かなかったか?

 いや、それは疑問形では済まされない。
 確かに、ガドルは動いた。手を震わせ、何やら起き上がろうとしている。現在進行形で、まるでコマ送りのように、僅かずつ生体を取り戻している。
 心臓がまだ生きているのか? あれだけの攻撃を受けても尚──。

「……どういう事だ」

 慌てて、加頭はコンピュータに指をやり、映像を拡大する。頭の中では、それまでの出来事を振り返った。グロンギの大凡のデータで測れるだろうか。──自分の持ちうるグロンギに関する記憶を整理し、ガドルの死について思い出す。
 首輪による認証が行われていないので、生存・死亡のデータは視認によって確認するほかなく、ラ・バルバ・デ、ラ・ドルド・グのようにグロンギの生態について詳しい意見を聴ける相手も既にこの世にいない為、これまで正確な生死確認はできなかった。
 ベルトの破壊も相まって、死んだ物として通していたが、どうやら、これは簡単には行かぬ話のようだ。試しに、五代の死地やダグバの遺体を探ってみるが、映像上では現状、映っている物は死体である。
 一度は焦ったが、ガドルが生存している事は別に加頭にとって不都合な事象ではなかった。

「……もう一人伏兵がいたとは、──これは面白い」

 ン・ガドル・ゼバは、加頭が余裕を取り戻して微笑を浮かべた頃には、両足で立って歩いていた。もはや彼が再誕した事は疑う余地もない。
 ぼろぼろの軍服を纏った男の姿。それは、夢幻ではなく、現実の出来事としてモニターにははっきりと刻まれていた。
 こちらの死亡者情報は改めなければならないようだが、結局、もはやこの段階ではどうでもいい。参加者たちに全て明かす必要もないだろう。

 その後、ぼろぼろの軍服を纏ったガドルの姿に、あのン・ダグバ・ゼバの異形が重なった。

 それもまた、夢でも幻でもなかった。
 今、ガドルが、ダグバに──グロンギの王と同じ姿に成ったという事。
 加頭の持つ限りの情報で推察すると、ダグバのベルトを取りこんだがゆえに、「ベルトを一つ破壊されても尚、ガドルは生きていた」と考えられる。二つのベルトの内、生きていた方のベルトがガドルの命を繋げているのである。
 そして、仮面ライダーダブルに破壊されたのは、ガドルのベルトだった──なるほど、それならば説明はつく。

「これは本当に、面白い物が見られそうだ……」

 彼はすぐにレーテまで来るだろう。
 ガドルは本能的に戦いの嗅覚を作動させているらしく、──もはや加頭が促すまでもなく、彼はレーテの方へと歩いて向かっていった。
 自分をここまで追い込んだ強敵たちを見つけ出そうとしているのだろうか。







 涼村暁は、他の生存者とともに山林を歩いていた。計十五名。暗いピクニックである。
 周囲を見回してみても、全員、暁の数倍は気合いが入っているようだ。

 先ほど、今後必要そうな装備となる道具は全てデイパックから出し、使えそうにない物は一つのデイパックに纏めて、念のために完備している。水、食料は、必要分だけ口に含んだ。それでも少し余った。お腹いっぱいにパンを食べる者はここにはいなかったのだ。
 杏子や暁は、パンではなくお菓子を食べて少し落ち着いた。甘いものもまた、脳を活性化させ、体の疲れを外に出せる。特に、暁は長期間ガムを噛み続ける事によって、この状況のストレスを発散させていた。

 結局、それから数分間、誰も一言も口を開く事はなかった。戦場に向かうという意識が高く、普段もう少し柔らかそうな女子中学生たちも、まるで別人のように張りつめた顔をしている。

265崩壊─ゲームオーバー─(1) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:51:59 ID:ezDSmj8g0

 ……暁はこの空気が苦手であった。元々、ダークザイドとの戦いも一度きりだった、完全なる戦場初体験お気楽野郎である。
 空気が重すぎる。冗談の一つも通りそうにない。それどころか、暁が何か一言でも何か口にすれば、それだけで罵声が飛んできそうだ。
 ともすれば、暁が溜息をつく暇もなさそうだ。音声一つが喝の種であるようにさえ思う。
 誰も、何も言わない。
 ……黙ってばかりで苦しくないか?

 ……まあ、暁としても、死ぬのが怖い気持ちはわかる。敵を倒さなければならないのはわかる。しかし、それでも暁は、もう少しふんわかいく感じでも良いのではないかと思うのだ。
 厳めしい顔をして全員で山林を歩いていても士気が上がる事はないだろう。変身の時の最初の第一声、「燦然!」を口にする前に口が塞がってしまいそうである。シャンゼリオン、あるいはガイアポロンとして戦う前に、枯死してしまってもおかしくない。

「……なんだ、人間ってぇのは、随分つまらねえな」

 暁の願い通り、その静寂を切り裂いたのは、血祭ドウコクだった。
 全員が血祭ドウコクの方を見た。ドウコクがその時に足を止めていたせいか、全員がその時、ぴたりと足を止めた。おそらく、ドウコクにもそうして全員の足を止めさせ、こちらに注意を向けさせる意図があったのだろう。ドウコクの姿は太陽のほぼ真下にあるようで、微かに真っ直ぐではない木漏れ日がドウコクの頭上に差していた。
 野太く、どこか冷たい声でドウコクは続けた。

「こういう時は、ふつう戦意を奮い起こすもんだ。これじゃあ、まるでコソ泥じゃねえか。……俺たちはこれから敵の大将を叩くんだぜ?」

 暁としても引っかかる所はあったが、概ね思った通りの考えには近づいている。この沈黙の行列には殆ど、意味はない。他にも、ドウコクに寄った意見の者はいたかもしれない。しかし、奮起するのが嫌いなナイーブな者も同時に存在したので、反対派もいるだろう。
 ドウコク自身、それがストレスでもあったらしい。ドウコクはもう少しばかり豪快な気質の持ち主で、敵陣を責める時はもっと全員の士気を高めてから向かうタイプである。
 酒を飲み、火を放ち、叫びながら志葉家を責めている姿などからも想像がつく通り、そうしなければ戦意が高まらないのである。

「奴らはもう俺たちに気づいているはずだ。どういう方法かわからねえが、俺たちを見ているからな」
「……」
「だとすると、こそこそ動いても仕方がねえ。意気を高めてかかった方が怪我しねえで済むかもな」

 夜襲の軍隊であり、隠密が基本のナイトレイダー隊員──孤門一輝はこれまで隊長命令に従って戦ってきたので、その感覚が掴めていなかった。最近までレスキュー隊にいたので、人間を相手にした兵法など殆ど知らないのだ。
 歴戦の勇士であるドウコクの言う事も一理あると思えた。

「みんな、どう思う? 声を出した方がいいかな?」
「……餓鬼か、てめえは」

 そうドウコクに言われると、どうも孤門としては黙らずにはいられない。まさか、こんな厄介な人間まで束ねる事になるとは思わなかったのだ。ひよっこリーダーにはまだまだ自分一人の判断ではできない事が多い。こんな運動部のような提案が出てきてしまう。
 しかし、ドウコクの言う通り、やはり戦闘の前に、ある程度、感覚を麻痺させるのも必要な作戦なのは確かだ。冷静でいるからこそ、妙に恐れが募り、戦いの中で硬直してしまう。もっと感覚が麻痺しているからこそ、軍勢は強い。勢い──それも、この時はおそらく大事な要素の一つだろう。
 一方、暁は先ほど言った通り、ドウコクの意見に、必ずしも賛同するわけではない。中立というか、また別の考えがある。

「……なぁ、俺もずっと思ってたんだけど」

 暁が、見かねて挙手した。
 こうして誰かが空気を変えてくれれば、暁にも発言をする勇気が出るのだろう。その隙間を作ったのはドウコクだった。一斉に全員が暁の方を見た時は、やはり少し後悔したが、こうなれば自分の意見を言ってしまうしかないだろう。

「黙るのも、わざわざ騒ぐのも、何か違くない? ……いつも通り、ふんわか行けばいいんじゃないの?」
「は? 何言ってんだテメェ」
「え……あ、いや、何か悪い事言ったかな俺……」

266崩壊─ゲームオーバー─(1) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:52:17 ID:ezDSmj8g0

 ドウコクからの威圧に思わず声を小さくする暁である。仕方のない話だった。このバケモノを相手に平常でいられる方がどうかしているくらいである。ともあれ、ドウコクに意見するのはなるべく止した方がいいのを忘れていたので、考えをひっこめる。タイミングがタイミングなだけに、難しい。

「でも、それも一つの意見だ。それによって落ち着く人だっていると思う」
「纏まりのねえ集まりだぜ……」
「……それはまあ、寄せ集めだから」

 孤門は、ほとんど無意識に、乞うように沖一也に目をやった。一瞬だけ目が合い、少し気まずくなる。彼としては、こういう時は専門家の一也を頼りたい物だと思ったが、一也も一也で、敵陣に向かう際にどうすべきか思案しているようだ。
 この男こそ、こういう時の攻め方を熟知していそうなものだが、所詮は一人の格闘家であり科学者──兵隊ではない。集団戦のやり方を知るところではない。確かに、雑学や予備知識的に知ってはいるのだが……。
 そんな期待を概ね全員から寄せられたのに気づいたか、一也は思案顔をやめて、現状の自分の意見を口に出す事にした。

「……確かにドウコクの言う事も一理あるな。しかし、残念だが、わかっているのは山頂に向かうのが鍵という事だけだ。そこにわかりやすく出入り口があるわけでもあるまい。山頂で俺たちは一度立ち止まる事になるだろう」
「今のうちから意気を高揚させても仕方ねえって事か?」
「ああ。それに、お前は敵が俺たちの行動に気づいていると言ったが、それならば山頂に何らかの罠が張ってある可能性は高い。冷静な判断ができない状態で向かっても、罠にかかるだけだぞ」

 ふぅ、とドウコクが溜息をついた。
 ドウコクの言わんとしている作戦では、既に数名の犠牲は想定内である。だが、それでも彼はその作戦を決行するのが最良だと思っていた。

「そのための盾が何人も俺の前を歩いてるんじゃねえか。一人や二人脱落したところで痛手でも何でもねえだろう?」

 佐倉杏子が、思わず目を見開き、ドウコクに掴みかかろうとした。

「──何だと!?」

 勇気があるというよりは、ほぼ脊髄反射での行動である。現に、掴みかかろうと指を曲げているが、その指は裸のドウコクの胸倉をつかめようはずもない。そんな杏子の体を止めるのは、左翔太郎であった。彼も同じく鉄砲玉のように飛び込んでいこうとした部分があり、杏子以上に苛立ちを感じた事と思うが、こうして杏子を俯瞰で見た時に、こうして彼女を止める「大人」としての役割を意識したのだろう。
 一也が横から割り込むようにして、ドウコクを説得した。

「ドウコク。人間は、お前の思っている以上に強い。一人の人間が他の誰かの心の支えになる事もあるし、数が揃う事で思わぬ力を発揮する事もあるんだ」
「……くだらねえ」
「それに、お前のやり方の結果として戦力を喪っても、お前にとって意味はないだろう。仮に俺たちが命を賭けるなら、もっと別の局面で使った方がいいはずだ」

 あまり適切な言い方ではないかもしれないが、一也は、ドウコクを納得させるためにそう言ったのだった。
 この「命を賭ける」という言葉に怯える者もいるかもしれない。しかし、一也としては、真っ先に命を賭けるのは一也自身であるという事を他の全員にわかってほしかった。
 勿論、出来る事ならば命を持って帰りたいが。

 やがて、ここでの対立の無意味さに折れたのはドウコクの方だった。
 一也の言わんとしている事がわかったのかもしれない。

「そうか。そいつは、確かにな。てめえらは、俺たち以上に自分の命を大切にしねぇって事を忘れてたぜ。命を賭けて戦うってのは、てめえらの専売特許だ。無駄死にさせるよりは、意味のある死をしてもらった方が、俺にとっても得があるってわけだな」

 一也の意図の通りだ。要は、ドウコクにとっては、「死に時」に死んでもらうのが一番効率的であると言いたかったのだ。無論、一也からすれば、あくまでドウコクを納得させるための詭弁に過ぎないが、それでもこの場を凌ぐには十分である。
 ここにいる他の者には、そのその場しのぎの一言としての意味も伝わっただろうか。

「わかってもらえてうれしいぜ、バケモノ野郎」

 翔太郎が皮肉っぽく横から言った。

267崩壊─ゲームオーバー─(1) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:52:34 ID:ezDSmj8g0

「……要するに、このまま行けばいいって事だ。もう間もなく到着する。今の提案通りに行くぞ」

 そして、石堀光彦が、やけに冷たい声で纏めて、横から口を挟んだ。
 彼は、ドウコクらが話している最中も、苛立った様子で体を山頂の方に向けて、顔だけを向けていた。まるで一刻も早く山頂に辿り着こうと、必死の様子である。
 なんだか奇妙な心持がした。

「あの……石堀さん……?」

 それは、まるで彼ら全員の議論を拒絶しているようにも思えた。普段ならば、もう少し会話に参加するはずである。要は、普段の石堀の口調とはまるで別物だと、孤門にさえ違和感を持たせる物だった。
 孤門以上に、暁が怪訝そうに石堀を見た。

「……おい、石堀。この際だから言わせてもらうが、お前はお前で、最近様子が変じゃないか?」

 暁がカマをかける。真横で、ラブが眉を潜めた。全員、今度は、暁と石堀の方に目をやった。
 特に、ラブは以前、暁に貰ったラブレターの事を思い出したのだろう。あのラブレターにおいて、暁が本当に伝えたかったのは、おそらく石堀が危険であるという事実である。
 それは、何故だかラブにもごく最近わかってきたような気がした。女の勘である。
 そう、最近とはいっても、この数十分からだ。──暁のお陰で、ゴハットの例の暗号が解けてから。

(石堀さんは、確かに何かおかしい……)

 ラブの胸中で、何か言い知れぬ不安が強まっていく感覚がする。無数の蜘蛛が内臓で這い回っているように気持ちが悪い。当に、ラブの知らぬところでその不安は糸を張っていたのだろう。
 それは、主催の穴倉にいるであろう無数の敵の存在よりも、ラブを怯えさせる。
 強烈な悪意、強大な憎悪だ──。石堀から溢れだすそんな邪悪な意志を、ラブは本能的に察していたのかもしれない。

「……何故そう思う」
「何となくだ」
「何となく、か。お前と会ったのもごく最近、数日も経っていないはずだが、何故最近の俺の様子がおかしいと思ったんだ?」

 暁は、真剣なまなざしで石堀を見据え、ただ黙っていた。
 石堀の様子がおかしい事に、普段は鈍感な孤門でさえ気づいた。暁やラブだけではなく、左翔太郎も、蒼乃美希も、涼邑零も、何となくはその溢れ出す石堀の妖しさを察知し始めたかもしれない。
 とはいえ、孤門にとって石堀は、ナイトレイダーとして何か月もともに戦ってきた友人であり、仲間だ。彼を簡単に疑うほど、孤門はクールな性格にはなりきれなかった。多少様子がおかしくとも、それは何の意図もなく、ただ偶然、この状況下で気分を害しただけとか、そんな風に捉えたかもしれない。
 暁だけは、やはり石堀があまりに露骨に態度を異にしているように思えてならなかった。

「なぁ、アクセルドライバー、持ってるだろ。貸してみろよ」
「何……?」
「いいから貸せって。武器も全部だ」

 暁が提案する。周囲がざわめいた。
 多少の挙動不審で、ここまで疑心暗鬼に駆られるとは、妙だと思ったのだ。
 翔太郎が代表して、暁の肩をポンと叩く。

「おい、暁。お前、何言ってんだ急に。……いいじゃねえか、こいつは今まで照井のドライバーをちゃんとみんなの為に使って──」
「いーや、俺はしっかり見てたぜ。ちょっと前、冴島邸を出る時の荷物の準備で、こいつアクセルドライバーに仕掛けをしてたんだ。今思えば、こいつも何か企んでいるに違いない」

 仕掛け、と言うのは少々苦しいように思えた。
 暁はこう言うが、ドライバーの事情は翔太郎もよく知っている。あれは風都の持つオーバーテクノロジー以外では、まず理解に手間取るような仕組みでできている。素人がいきなり妙な細工をできるような代物ではない。いくら石堀が別世界において科学に強いプロフェッショナルだからとはいって、簡単に調整できよう物ではないだろう。
 翔太郎が、呆れて口を出そうとしたが、先に反論したのは石堀であった。

「何を言いだすかと思えば……俺は別にそんな事はしていない。せいぜい、これから使う道具の調子を確認していただけだぜ」
「そうか……なら、貸して見せてくれ」

268崩壊─ゲームオーバー─(1) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:52:52 ID:ezDSmj8g0

 暁が言うと、石堀は大人しくそれを渡した。翔太郎は、肩を竦めて言いかけた言葉をしまう。

(そろそろこいつらも感づき始めたか……)

 石堀には全く、このアクセルドライバーに対して怪しまれる事をした心当たりはない。だから、それを渡す事そのものには何の躊躇もない。問題は、何故暁が突然こんな事を言いだしたのかという事だ。
 おそらくは、既に別の要因で石堀への警戒体制が高まっており、それが原因で全く関係のない些細な行動まで怪しく見えてしまうところまで来ているという事だ。しかし、石堀にとっては、もう怪しまれようが警戒されようが関係のない状態だった。あと数分だけ騙し続けられれば問題はない。
 暁は、受け取ったアクセルドライバーを覗きこむ。

「このハンドルの部分だ。お前はここを念入りに弄っていた」
「そんな事はないと思うが」
「いや、そんな事はあるね。見ろ、このハンドルの部分と、それからメモリのスロットだ。いかにも怪しい。この要になる部分に何かの細工を施したはずだ。ここを弄れば何かあるんだろ? なぁ、もう一人の探偵」

 暁は、翔太郎の方を向いて訊いた。こちらに同意を求められても困る。
 だらしなく口を開けて、同意を求めるかのようなニヤケ顔で、そんな言葉が出てくるのを、翔太郎は呆れ顔で見ていた。口の中からはみ出しているガムをどうにかしてほしいと思うだけだ。

「……残念だが、素人が弄ったところで、このドライバーは強くもならないし、ビームが出るようにもならねえな。何を疑ってるのかわからねえが、あんたの推理は多分ハズレだ。いや、推理というよりかは、この状況で疑心暗鬼か──目を覚ませよ」

 結局、翔太郎の返事はそんなところだった。
 暁も疲れているのだろう。確かに石堀の態度も変だったが、こうなると暁も同じである。
 翔太郎も石堀を疑いかけたが「この二人が疲れているだけ」と判断した。
 結局、怪しいだけで断罪できる状況ではない。

「おい、何全員でくだらねえ事で立ち止まってやがるんだ。どうでもいい、俺の士気まで下がる……さっさと行くぞ!!」

 その時、ドウコクの堪忍袋の緒が切れたようだった。最初にこの場にいる全員を立ち止まらせたのは他ならぬドウコクだが、自分の用が終わればもう関係ないらしい。
 暁は背筋を凍らせる。さっきから、一番怒らせてはならぬ相手を怒らせっぱなしである。
 それどころか、全員にどんくさい人間だと思われているのではなかろうか。
 仕方がなく、暁はアクセルドライバーを石堀に大人しく返す事にした。頭を掻きむしりながら、申し訳ないとさえ思わずに石堀に片手で手渡す姿は、到底、大人らしい誠意が見られない。

「……おかしいな。俺の勘違いなのか?」
「随分、お前の方こそ姑息な仕掛けをしたんじゃないのか。たとえば、噛んでいたガムを引っ付けるとか、爆弾をしかけるとか」

 石堀が口にすると、暁の顔色が変わった。
 そのため、不審に思い、慌てて石堀はアクセルドライバーを調べる。しかし、元のままだった。ガムが引っ付いているわけでもなく、爆弾が取り付けられたわけでもなさそうだ。顔色を変えたのは、こちらをからかう為だったらしい。
 あてつけのように、暁はぺっとガムを吐き出して紙に包んだ。ゴミをその辺に捨てると怒られるので、躊躇いつつもポケットの中にしまう。

「…………ふっ。冗談だ。仲良くしようぜ、暁。こんなところで機嫌を損ねても何のメリットもない」

 暁は何も言い返せなかったが、こうして周囲に警戒を促していた。──特に、桃園ラブに対しては。

 何故だかわからないが、このタイミングで妙に石堀は、おそらく嬉々としている。もしかすると、石堀こそが主催側の人間なのだろうか。主催側の秘策でも持っているのかもしれない。
 しかし、黒岩の情報を打ち明けるにはまだ早い。
 なんだか胸騒ぎがするのだ。
 あの情報は、限界まで悟られてはならない。……そう、石堀が本性を現し、掌を返すその時まで。その時まで、彼を見張るのは暁の務めである。

269崩壊─ゲームオーバー─(1) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:53:12 ID:ezDSmj8g0

「そうだな。……悪いな、俺の勘違いだったよ」

 しかし、暁はひとまず、素直に石堀に謝った。今度は妙に素直になったが、それはそれで、この石堀光彦でも理解不能な涼村暁らしく思えた。
 孤門が横から石堀に訊く。

「あの、石堀隊員。何か気分でも悪いんですか? 考え事があるとか……」
「そんな事はない」
「本当に大丈夫ですか?」
「……俺を誰だと思ってる」

 それでも、何となく腑に落ちないまま、孤門は先に上っていく石堀の後を追った。石堀の歪んだ笑顔は、誰も目にする事はできなかった。

 山頂は近い。
 孤門一輝たちの目の前には、忘却の海レーテがその巨大なシルエットを露わにし始めている。
 これが主催者の居所に繋がる存在。

 人々の絶望の記憶を超えた先に、敵はいる──。
 誰もが、そう思っていた。







 花咲つぼみは、山の途中で、思わず真後ろを見返した。

(……来たんですね、遂に、終わりの時が)

 山頂に近いここからは、あまりにも綺麗に、あらゆる景色が目に入った。少し煙たくもあるが、それでも思ったよりは澄み渡った綺麗な景色が広がっている。
 木々を巻き込んだ戦闘によって禿げた大地が見えた。木々も生きている。この殺し合いで命を絶ったのは、人間だけではない。つぼみは戦闘に巻き込まれた木々に心で謝罪した。決して、殺し合いに乗った者だけが破壊したわけではない物である。

 それから、おそらく自分がダークプリキュアと戦った場所があのあたり、とか……。
 さやかと別れたのがあの川のあたり、とか……。
 村雨良と大道克己の戦いを見届けたのはあそこ、とか……。
 あの山では、あの向こうにある呪泉郷では、そしてその向こうにある三人の友の墓では────。

 この殺し合いに巻き込まれてからのあらゆる記憶が蘇った。
 長い一日半であった。
 しかし、それももう終わる。

 つぼみは、再び前を見た。
 彼女たち、十五人の前には、もう決戦の舞台があった。

『死人の箱にゃあ15人
 よいこらさあ、それからラムが一びんと
 残りのやつらは酒と悪魔がかたづけた
 よいこらさあ、それからラムが一びんと』

 それから、つぼみがむかし図書館で読んだスティーブンソンの『宝島』の海賊の歌が自然と思い出された。十五、という数字は、ジュール・ヴェルヌの『十五少年漂流記』も思い出される。
 十五人は宝の地図に示された、宝の在りかを見つけたのだ。

 それしか残らなかった事は、つぼみにとって最も胸が痛い事実だった。





270崩壊─ゲームオーバー─(2) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:53:48 ID:ezDSmj8g0



 ……それから、驚くほどにあっさりと、山頂に辿り着いた。

 ここまで来るのに、何の妨害工作もなかったのは意外というべきか。
 あまりにも不自然に思えた。ゴハットが正しければ、本拠地であるはずのこの山頂。あまりにもノーガードである。
 決戦の地と呼ぶには、殺風景であった。本当に殺し合いが行われているとは思えなかった。
 木々もあらかた撤去され、クリーンな大地に、到底自然から生まれたとは思えない電子の海が乗っかっているのである。

 青く、或は黒く光る幾何学的な光が、その山の上で蠢いていた。
 欠陥のような赤い糸が青黒い海を駆け巡っている。
 臓器──その中でもとりわけ、心臓のようにも見える巨大な物体が、文字通り鼓音を鳴らしていた。
 これが、忘却の海レーテである。
 孤門一輝と石堀光彦だけが、それを知っていた。この間近で見たのは、彼らと血祭ドウコクだけであった。







「……これから、最後の戦いが始まるのね」

 蒼乃美希が、緊張の面持ちで言った。ここまで自分が来ている事が不思議だった。
 何か口に出して、その言葉を誰かが拾ってくれて、そうして少しでも誰かと繋がらなければ耐えられないような状態だった。
 かつて、管理国家ラビリンスと戦った時よりも、今の美希は恐怖を胸に抱いている。吐き気さえ催されているが、それを必死に飲み込んでいた。この緊張さえ、死ぬほどつらい。何か言葉にして口に出さなければやっていられない。
 そうして無意識に出た美希の言葉を拾ったのは、孤門であった。

「ああ。この無意味な殺し合いを終わらせる──完璧にね」

 孤門は、美希の口癖で返した。
 少しでも緊張を和らがせようとしているようだが、孤門とて命が惜しくないわけがない。──いや、美希以上に、孤門の方がこれからの戦いを恐れているかもしれないほどだ。
 年を経るごとにだんだんと受け入れ、諦められていくような死への恐怖が、再び十代の頃のように強くなっていた。

 彼には変身する為の道具もなく、最悪の緊急時の為に、パペティアーメモリとアイスエイジメモリが渡されている。片方は、以前使用して暴走しなかったものである。使用が安全な範囲であるとされたのだろうが、それでもやはり極力使いたくはない。パペティアーはその戦闘利用が難しい為か、更に最悪の場合に備えてアイスエイジも支給されている。
 同じように、マミにもウェザーメモリが渡されていた。こちらは完全に適合するか否かは、完全に行き当たりばったりの運任せである。一歩間違えばマミの暴走につながりかねない。
 とはいえ、それらも所詮は気休めにしかならなそうだった。勿論、恐怖の方が上回っている。

「……孤門さん、ありがとうございます」
「え?」
「一日中、ずっと私に付き添ってくれて」

 思えば、孤門と美希とは、この殺し合い始まって以来、殆ど共に行動していた。
 強いて言えば、二度ほど美希は単独で行動する羽目になったが、それも結局、美希は深手を負う事もなく孤門のところに帰る事ができている。
 そして、今もこうして二人で、忘却の海を前に言葉を交わす事もできるのだ。
 決戦の入り口は目の前である。

「私、ウルトラマンっていうのになっちゃったけど……まあ、この力をくれた杏子には悪いけど、本当に私が持つべき力なのかなって今も思うんです」

 美希は突然、孤門にそんな事を言った。
 もしかすると、これが最後かもしれないと思ったのかもしれない。
 孤門が周りを見ると、誰もが、これまで付き添ってきた誰かに言葉をかけている。
 それが、孤門にとっては美希だったという事であろうか。

「……だって、孤門さんって、ずっと姫矢さんや千樹憐さんや杏子、色んなデュナミストを支えてきたんですよね」
「いや。支えてなんかいないよ。……僕が支えられてきたんだ。だから、僕が次のウルトラマンっていう事はないと思うし、今は君が持っているべきだと思う」

271崩壊─ゲームオーバー─(2) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:54:29 ID:ezDSmj8g0

 美希がクスリと笑った。

「孤門さんがみんなを支えて、みんなが孤門さんを支えてきた。……それじゃあ、支え合ってきたっていう事ですね」

 孤門が頭を掻いた。
 どうも、この子には自分の上を行かれているような気がする。とはいっても、孤門は別段、この子ならば不快感はない。憐を見た後では、自分より頭の良く大人びた年下にプライドを傷つけられる事は、もう当分なさそうである。

 彼が情けないと思うのは、こんな女の子をこれから戦力としてここから先に行かせなければならない事だ。
 年齢は、十四歳と言っただろうか。
 十四歳といえば、孤門はまだ高校の受験の話さえろくに考えておらず、ただレスキュー隊に入ろうという夢だけが頭の中に入っていた頃だ。それからレスキュー隊に入るまでには、五年以上の歳月があった。
 夢を叶えるにも、まだ足りない年齢である。

「……ねえ、美希ちゃん。これからやりたい事はある?」
「これから?」
「将来の夢だよ。僕は、昔から誰かを守る仕事につきたかった。……確かにレスキュー隊になれて、ナイトレイダーにもなれた。でも、守れなかった物もたくさんあるから、僕はまだ、全然夢を叶えていないんだ。今はもっとたくさんの人を守りたいと思ってる」

 孤門は、これからも生きていく覚悟を確かに持っている。
 こんなところで終わるまいと、ここから脱出した後の事まで考えていたのだ。
 そんな孤門の前向きさを、美希は受け止めた。

「モデルになるのが私の昔の夢でした。そして、私はそれを叶えたから、次のステップに進みたいと思っています。……今度は、世界に名を轟かすトップモデルになりたいんです」

 ……結局、美希は孤門の上を行く回答を示してしまった。
 彼女も既に一つの夢を叶え、次の夢を追っている。どうやら孤門と同じ場所に立っているようである。
 だが、それに関心しつつも、孤門は、そんな美希の夢を守る想いだけは強くした。

「そうか、素敵な夢だね」
「孤門さんも」
「これまで、この殺し合いでそんな夢がいくつも壊されてきたかもしれない。でも、僕は、ここに残っている分は全員守りたいんだ」

 美希は、そんな孤門の考えに頷いた。
 その時の孤門の表情は、嘘偽りのない精悍さに満ちていた。
 孤門が美希を大人びた少女だと認めた以上に、美希は孤門を素直で優しい兄のような人と思っている。

 ──次に、美希が誰にウルトラマンの光を送るのか、この時に確定した。







「ぶきっ……」

 良牙が連れていた子豚が突然、鳴いた。またデイパックから出てきたらしい。
 空気穴代わりにデイパックには微弱な隙間を作っているのだが、いつもそこから這い出してしまう。あのあかねとの戦闘を含めて、二回目だ。

「お……?」

 良牙は、それに気づいた。
 すっかり忘れていたが、こいつも一応、立派な仲間だ。この子豚の健闘がなければ、あかねは元のあかねに戻れなかったかもしれない。
 彼女は、この良牙によく似た子豚にPちゃんを重ね、だからこそ正気に戻れたのだ。

「そういえば、お前には前に世話になったな。……そうだ、何かやろう」

272崩壊─ゲームオーバー─(2) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:54:56 ID:ezDSmj8g0

 そうだ、せめて何か、あのあかねの時の褒美をこの豚にもやろうと──良牙は、自分の頭のバンダナを外し、その豚の首に巻いた。
 ……とはいえ、良牙の額には、まだバンダナがある。二重、三重……いや、もう多重に巻いていたようである。良牙にとっては武器になるからだろう。
 このバンダナは、良牙が気を注入して硬直させればブーメランにもなるしナイフにもなる。彼には布きれでさえ立派な武器だ。特に、山林でサバイバルする羽目になるのが珍しくない彼は、刃物の周りとして手頃なのだろう。

「良牙さん、そのバンダナ、何枚巻いてるんですか?」

 不意に、つぼみが訊いた。
 今の様子を隣で見ていたのだろう。

「……いっぱいだな。数えた事はない」
「どうしていっぱい買っていっぱい巻く必要があるんですか?」

 武器だから、とは答えづらい相手だ。つぼみは優しく、戦いが嫌いな性格である。
 正直にこのバンダナを武器のつもりで巻いていると言えば、あんまり良い顔をしないかもしれない。
 良牙は誤魔化す事にした。

「そうだな、これは………………気に入ってたから」
「そうなんですか……。それでたくさん持っているんですね」
「あ、ああ……」

 全くの嘘であるだけに、どうにも後ろめたさが拭い去れない。
 ただ、つぼみも次の一句を切りだしにくいかのように、もじもじとした。
 少し躊躇してから、何かを口に出すのはつぼみの方だった。

「あの、良牙さん、もしよろしければ、そのバンダナ、一つ私にもいただけませんか?」
「え?」
「せめて、良牙さんとのお近づきの印です。私たち、お互いに大事な友達を失いましたけど、それでも、良牙さんという大事なお友達ができました。だから……」

 つぼみの言っている事は、良牙にもよくわかった。
 良牙も、今ではつぼみたちの事を大事な友人の一人に数えている。これまで、友と呼べるような人間が殆どおらず、それが悩みの種でもあった良牙には、ある面では良い一日半になっただろう。大事な武器とは言っても、良牙はまだいくらでもバンダナを所持している。一枚くらいはつぼみに渡そう。全員に配っても足りるかもしれない。

「……まあ、いいぜ。減るもんじゃないしな」
「いや、それ減ると思いますけど……」

 つぼみが的確に突っ込んだ。
 それから受け取ったバンダナは、本来なら汗がにじんでいてもおかしくないというのに、殆ど埃も汗もなく、新品同様であった。本当にどれだけ巻いているのだろう。幾つも重なっているので、汗がそこまで染みていないようである。
 見たところ厚みはないが、こればかりは科学では解明できそうにない。永遠の謎である。
 良牙は、少し会話に間が開いてから、つぼみに訊いた。

「で、つぼみは俺に何をくれるんだ?」
「え?」
「元の世界に帰った時に、俺へのお土産として、……まあ、なんだ。記念に少し、残しておこうと思って」

 良牙には普段、旅先で土産を買う習慣がある。全国各地、全ての土産をコンプリートしている自信はある。何度も道に迷い、いつの間にか四十七都道府県を全て回るほど──下手をすれば日本の隅から隅まで嘗め尽くすほどにお土産屋を回っている。
 しかし、殺し合いの会場に来るのも、そこで異世界の少女と出会うのも、彼にとっては生まれて初めてだ。
 つぼみは、自分の体を一通り眺めて、それでも何も気づかなかったようだが、少し経ってから何か閃いたようだった。何か贈れる物に気づいたのだろう。

「……そうですね。じゃあ、このヘアゴムを差し上げます」

 髪を二つ束ねたつぼみは、片方の髪を解いた。
 つぼみは、黄色い花形の特徴的なヘアゴムをつけていた。正直言えば興味がなかったので、良牙がそのユニークな形に気づくのは今が初めてだ。
 つぼみにとっては、お気に入りだが、予備もあるし、それでも足りなければまた買えばいい。──そう、亡き友が住んでいた、あのお隣の家で。
 そして、片方だけ縛るのも変なので、つぼみはもう片方のヘアゴムも外した。

273崩壊─ゲームオーバー─(2) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:55:15 ID:ezDSmj8g0

「じゃあ、こっちは、こっちの子豚ちゃんに」

 そうして、子豚のしっぽには黄色い花が咲いた。バンダナとヘアゴムを巻きつかれて、まるで飼い主に恵まれなかったペットのようである。しかし、どうやらペット本人もまんざらではないらしい。良牙を父、つぼみを母のように思っているかもしれない。
 ……これから、この子豚は危ない目に遭うかもしれない。デイパックの中に避難してもらいたいと思っていた。

「あっ……ヘアゴムなんて、男の人にあげても仕方がないですか?」
「いや。お土産なんてそんなもんさ。行きたいところへ行くためのお守りになればそれでいい。ありがとう、つぼみ」

 お守り。
 もし、良牙がそんな物をこの最終決戦の場に持って行けるとしたら、それは本来、天道あかねと雲竜あかりの写真であるべきだっただろう。その写真は、良牙の励ましになる。
 しかし、やはり今はそれはいらないと思った。
 あかねの姿を見るのは、しばらく勘弁願いたいし、仮に見てしまえば、悲しさと共に殺し合いの主催者への憎しみも湧いてしまうかもしれない。この黄色い花のヘアゴムを、良牙は左手首に通した。
 武骨な良牙の手首には、そのファンシーなヘアゴムは不釣合いであった。
 しかし、それを見て、つぼみもバンダナを腕に巻いた。

「……良牙さん。実は、私、年上の男の人と友達になるのは初めてかもしれません」
「そうだったのか。……俺なんて、いつも登下校でさえ道に迷って学校にもろくに行けなかったから、友達すら数えるほどしかいないぜ。それに男子校だったからな……こんなに年下の女の子と友達になるのは……ああ、たぶん初めてだ」
「あの、良牙さん、実は────」

 つぼみは、少し勇気を絞り出して何かを言おうとした。

「いえ、何でもありません。……それに、やっぱり、これ以上言っても仕方ない事ですから」

 そして、やはり結局それだけ言って、良牙が一瞬だけ可愛いと思うくらいに、細やかに笑った。







 左翔太郎は、佐倉杏子の方に目をやった。
 そういえば、この少女とは、殺し合いが始まってからそうそう時間も経ってない内に遭遇し、それ以来、何度か離れたりまた会ったりして、今また隣にいる。
 その度に、杏子の目は変わっていた。
 最初に会った時は、彼女は翔太郎を殺すつもりだったのだろう。だが、この杏子は、フェイト・テスタロッサや東せつな、蒼乃美希のように、色んな同性から影響を受けて変わっていった。
 最大の功労者は彼女らに譲るが、男性の中で最も彼女を変えられたのは自分であると、翔太郎は自負する。
 そんな彼女に、この場を借りて何かを言ってやる必要もあるだろうか。

「杏子、折角だから、戦いの前に一つ願いを聞いてやる。俺が叶えてやるよ」

 翔太郎が、ぽんと杏子の頭に手を乗せた。いかにも保護者らしい手つきである。それだけの身長差が二人にはあった。

「は?」
「あらかじめ言っておくが、悪魔の契約じゃないぜ。これは優しいナイトからプリンセスへのプレゼントだ。何がいい? どんな願いでも、俺が体を張って叶えてやる」

 翔太郎は気障に言うが、ナイトとプリンセスという設定からするとこんな喋り方は破綻している。
 本人がそれに気づいて、わざとお道化ているのか、それとも、全くの天然なのかはわからない。ただ、もしこの場に彼の最大の理解者フィリップの意見を挙げておくなら、「ただの恰好つけ」と答えてくれるだろう。
 ふと、翔太郎は暁を思い出して、彼のように下世話な事を言って女心を掴んでみようと思った。

「キスでもいいぜ」
「無理」
「ハグもOKだ」
「最低。大人として恥ずかしくないのか?」

274崩壊─ゲームオーバー─(2) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:55:35 ID:ezDSmj8g0

 効果なしだったようである。
 やはり、暁式ナンパ法は使えそうにない。悔しいが、ナンパに関しては暁の方が一枚上手であろう。既に翔太郎はこの場でナンパに失敗している。逆に、暁が実質成功して守護霊まで獲得している事など翔太郎は知る由もない。
 翔太郎らしく言おう。

「そうか。……なら、お前を魔法少女じゃなくしてやるよ」
「……」

 その一言に、杏子は翔太郎の方を見た。それから、マミの姿を探した。さやかの事も思い出しただろう。そう、魔法少女の運命から解放される術が、今ならこの場に転がっている。
 それは、まぎれもないチャンスだ。
 彼はおそらく、それを本命の願いとしている。杏子の身を案じて、その術を力ずくで探すと声をかけてくれているのだ。
 しかし、杏子は言葉を返せずに、少し悩んだ。

「……なあ、本当にそんな大それた願いでも、何でもいいのか?」

 杏子は、僅かな沈黙の後で訊き返した。これは重要な問題である。
 本当に実現するのかはともかく、翔太郎の覚悟は本物だ。彼はきっと、実現の為の自分の力を最大限使う事に躊躇しないだろう。杏子は甘言に騙される事はないだろうと思っていたが、彼になら騙されても良いと思った。
 どんな願いでもいいというのなら……。

「ああ。何でも訊いてやる」

 翔太郎は迷いなく答えた。
 それならば、杏子ももう迷う事はあるまい。

「……じゃあ、あんたが気に入っていて、今被っている、その帽子が欲しい」
「は? 帽子? これが?」
「被り心地が良かったんだ。何より私に似合うんだろ?」

 ある戦いを、翔太郎と杏子は絆の証として覚えている。
 杏子がウルトラマンとして血祭ドウコクと戦った、昨日の午後の出来事。
 この場で今は同盟を組んでいる強敵に一矢報いる為に──いや、もしかすれば杏子自身が変われる為に、翔太郎はこの杏子を一度だけ杏子に預けたのだ。

「……ああ、……ったく、仕方ねえな……こいつは風都でしか手に入らねえWind Scaleっていうブランド物だ。もし、もっと欲しくなったら、今度風都に遊びに来い。街中の人にお前を紹介してやる」

 翔太郎は、お気に入りのソフト帽を手放して杏子に渡した。
 帽子を被っていないと落ち着かないが、仕方がない。杏子が欲しいと言っているのだ。

 やはり、Wind Scaleの帽子をそこまで気に入ってくれたのなら翔太郎も嬉しい。風都特性ブランドの帽子はやはりデザインが一線を画していると言えるだろう。ファッションモデルの美希も興味津々だったほどの帽子である。
 そういえば、翔太郎には、(少し変わっているが)異世界を自由に渡れる友人がいる。あいつがまた来てくれれば、きっとここにいる仲間とは生還後もまた会えるだろうし、杏子もWind Scaleの帽子を買いに来る事ができるだろう。その時には一応プレゼントしてやろう。
 そう考えていた時、杏子はがさごそとデイパックを漁っていた。
 見ると、杏子はデイパックの中から、何やら翔太郎にとって見覚えのある帽子を大量に取り出しているではないか。

「そうか。いつか行くよ。……じゃあ、その代わり、ほら、あんたの事務所でちゃんと拝借しといた帽子がこれだけあるから、こっちを被ってな、ほら」

 一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ……それだけの数の帽子が次々翔太郎に手渡される。
 翔太郎は、一瞬唖然とした様子である。

「って、オイ、帽子あんじゃねえか!! ていうか、それ俺の帽子!! 勝手に!!」
「いや、その帽子は別にいらないよ。……こっちの帽子がいいんだ」

 と、杏子が懐かしむようにあの帽子を見た。
 その横顔は、まるで生まれたばかりの赤子を見る母のようでもある。と、なると翔太郎はその赤ん坊の祖父か、まあせいぜい年齢的に考えて叔父にでもあたるだろうか。

(そうか、やっぱり……あの時の事が心に残っているのか)

275崩壊─ゲームオーバー─(2) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:55:54 ID:ezDSmj8g0

「わかった。そいつはお前にプレゼントする。似合ってるぜ、レディ?」

 翔太郎は、杏子が事務所から大量にかっぱらっていたという帽子の山をデイパックに詰め込んで、その中から今の服装に最も似合いそうな黒い帽子を頭に乗せた。
 少し調節して、最も良い角度で被る。
 杏子も同じく、帽子を被っていた。殆どお揃いである。

「……杏子。本当に、魔法少女をやめるよりもそっちのが大事なのかよ」
「ああ、今はね。それに、さ」
「何だよ」
「……仮面ライダーなら、頼まなくたって、そっちの願いは叶えてくれるんだろ?」

 何故か新鮮なその言葉に、翔太郎はどきりとした。
 確かに、翔太郎はこのまま杏子を放ってはおく気はない。たとえ、自分がどんな目に遭おうとも彼女を魔法少女のまま放っておくつもりはないし、それまで絶対に魔女にはさせない。彼女だけではなく、泣いている魔法少女たちは全員助けてやりたいと思っている。

「……ったく、がめつい奴だなぁ、お前も。この俺に二つも願いを叶えてもらうってのか」
「あんまり欲張りすぎるとしっぺ返しが来るって、痛いほどわかってるつもりだったんだけど、……でも、これは悪魔の契約じゃないんだろ?」
「……まあ、構わねえぜ。いくらでも聞いてやる。しっぺ返しなんてさせねえよ」

 我ながらかっこいい文句が言えた物だ。
 翔太郎としても、これは惚れられても文句が言えないレベルである。久々にカッコいい台詞が言えた手ごたえを感じて、自分で自分に惚れそうになったほどである。

 しかし、やはりこの年で女子中学生に惚れられるというのは困る。
 そういえば、翔太郎は前に銭湯で杏子たち女湯の話題が聞こえた事を思い出した。杏子が魔法少女であるがゆえに恋ひとつできないコンプレックスみたいなものを、翔太郎はそこで耳にしている。

「あ。一応言っとくが、杏子。……魔法少女じゃなくなったからって、俺に惚れるなよ?」

 ふざけているのか、本気なのか、翔太郎はすぐに、フォローするようにそう言った。
 それを聞いた時、杏子もまた銭湯の一連の会話を思い出したらしい。
 その会話に行きつくような手がかりなしに、女の勘が次の一句を発させた。

「────なあ、翔太郎。あんた、まさか、あの銭湯覗いて……」
「は? 人聞きの悪い事言うな! 覗いてねえ、聞こえただけだ!! ……あっ」
「ボロを出したな! 女湯の会話聞くなんて見損なったぞ、翔太郎!!」
「そういうお前だって、ボロを出してるじゃねえか!」

 その後、翔太郎は、杏子の呼称が「兄ちゃん」から「翔太郎」になっている事を告げた。
 彼女は、今の翔太郎にとってかけがえのない相棒だ。







 涼邑零は、一人で思案していた。
 これから向かう場には、当然ホラーたちも現れるだろうと推測している。
 鋼牙曰く、ホラーであるというガルムやコダマがこの先にいるとなると、やはりソウルメタルを持つ零の存在はこれからの戦いでは必要不可欠だ。
 ガルムやコダマの強さは破格だという。零一人で戦う事自体が非常に危険だ。

「いよいよですね、零」

 零に声をかけた美女の名はレイジングハート・エクセリオンである。
 ……どうも、零は人間以外の美女に縁が深いらしい。シルヴァに感じた運命と同種だろうか、このレイジングハートにも何処か惹かれるものがある。
 本来の造形を詳しくは知らないが、今も実のところは人間らしい姿には感じない。
 人間の形をしたところで、やはり本当の人間に比べると一枚壁を隔てているような違和感はあった。

「ああ。そうだな。このゲームは終わらせる」
「ええ。……しかし、今日までの犠牲も計り知れない物でした。敵を倒したからといって、悲しみや痛みが消えるわけではありません。本当に戦いの傷に終わりは来るのでしょうか」

276崩壊─ゲームオーバー─(2) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:56:13 ID:ezDSmj8g0

 零は、そんなレイジングハートの言葉に、少し俯いて黙り込んだ。
 確かに、御月カオルや倉橋ゴンザに何と言えば良いやら、零にも決心はつかない。
 零一人では、彼の家族たちをどれだけ支える事ができようか。
 魔戒騎士の力は、その程度の物であった。いくら戦いで勝ったとしても、その後にはしばらく尾を引く傷跡が残る。
 世界が経験した幾つもの戦争も、魔戒騎士たちとホラーの古よりの戦いも、全て、簡単には癒えぬ痛みが残り続けている。
 魔導輪ザルバが零の指先で言った。

『残念だが、もしかしたら消えないかもしれないな』
「……だな」

 零も全くの同感である。
 戦いを経験した者、その大事な家族や仲間が生きている限り、悲しみや憎しみ、痛みは消えない。それに、この戦いに限らず、零は元の世界に帰ってからも、また魔戒騎士としての戦いの日々と、──それから、番犬所からの罰が待つだろう。
 魔戒騎士同士の争いは掟で禁じられているが、零はそれを元の世界で何度となく破っている。特に零の居所の戒律は厳しい。

「……でも、レイジングハート。誰より悲しみや痛みに震えているのって、実はお前なんじゃないか」
「──」
「……やっぱりな。高町なのはや、その周囲の人間たち……元の世界の知り合いや未来の仲間になるはずだった人が、みんないなくなっちまったっていうんだろ」

 冷たいが、それが現実だ。
 勿論、元の世界にはそれ以外の仲間もいるが、レイジングハートは既になのはの能力に合わせて最適化されている。しばらくは、レイジングハートを使いこなせる魔導師は現れる事はないだろうし、これから帰っていける場所はない。
 零は、そんなレイジングハートに自分を重ねた。

「なあ、レイジングハート。俺も実は、帰ったらしばらく一人なんだ。……一緒に、俺の世界で、ホラーを倒す旅をしないか?」
「一人? それでは、ザルバは?」
『俺様は、次の黄金騎士が現れるまで、しばらくは冴島家で眠りにつくつもりだ。零と一緒にはいられない。次代の黄金騎士が現れるのは、明日か、それとも百年後かもわからないな』
「……」

 初めは敵であったが、零は今やレイジングハートの立派な仲間である。
 零の提案も、決して悪い申し出だとは思わなかった。
 むしろ、レイジングハートにしてみれば、ここにいる人間たちの住む管理外世界は興味深い場所でもあるだろう。

『俺からも言っておくが、零の話は別に悪い提案じゃないと思うぜ? あんたのいた場所では、異世界同士を繋ぐ船があるんだろ? 戻りたい時に元の世界の仲間に会う事だってできるはずだ』
「……」
『零の奴もすっかりあんたに惚れこんでいるみたいだぜ、行くあてがない同士なら丁度良い』

 惚れこんでいる、という意味は文字通り恋愛感情があるというわけではないが、ある意味ではそれに近くもある。彼女の美を知り、共に旅をしながら、バラゴの事や魔戒騎士の事を知ってもらおうという計らいもあるのだろう。

「……わかりました。では、その時までに考えておきます」

 時間は刻一刻と近づいている。
 誰もが、おそらくお互いの別れをどこかで惜しんでいるのだろう。
 だから、こうして誰かを自分の世界につなげておきたいと、本気で思っている。
 いつかまた会えるかもしれないとは言えど、それがどんなに遠くになるかわからない不安を抱え込んでいるのだ。

「シルヴァが修復されたら、嫉妬するかな」

 零は、苦笑した。





277崩壊─ゲームオーバー─(2) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:56:34 ID:ezDSmj8g0



 巴マミと桃園ラブは、周囲を見て肩を竦めた。
 どうやら、周りの女性という女性は須らく男性パートナーのような物がいるらしい。
 ラブにもいないわけではないが、その涼村暁は今、到底話しかけられるような状態ではなかった。ラブも、今の彼が石堀光彦の危険性を察知して気にかけている事はよく理解していた。今は話しかけない方が良いだろう。
 自分たちだけ、女子二人で肩を寄せている。

「本当にこれで殺し合いは終わるのかしら?」

 マミは、ラブに堪えられない疑問と不安を打ち明けた。
 彼女だけが抱いている心配ではないようだが、それをはっきり漏らしたのはマミだけである。このゲーム、もしかしたら果てのない物かもしれないと思えたのだ。

「どういう事ですか?」
「これだけの規模の殺し合いを開く相手が、どうして私たちの目と鼻の先で全て見るような真似をしているのか、気になったの」
「それは……」
「変だと思わない? 囮っていう事はないかしら……。この先に爆弾がしかけられているとか、そういう事は考えられない?」

 やはり、不安は尽きないようだ。勿論、心配性はこの場においては悪い事ではない。
 いくつもの危険な可能性を挙げていき、それを疑い続け、修繕した結果、あらゆる問題は未然に防がれていく。

「爆弾なんかが仕掛けられている可能性は、おそらく低いよ」

 横から口を挟んだのは、沖一也である。彼は、ここで二人の会話を聞いていたらしい。
 しかし、一也はこういう時は最も役立つエキスパートである。悪の組織の基地に侵入した回数ならば、この中の残りメンバーの中ではトップであろう。爆弾で基地ごと吹き飛ばされかける事もある。

「何故ですか?」
「この基地がおそらく……囮だからだ」

 その返答に、ラブが首をかしげていた。
 囮、と言われてもピンと来るところがなかったのだ。だいたい、何故囮だとわかっているのならそれを教えず、そこに向かおうとするのかもわからない。

「ゲームメーカーが地下施設を作ってまでやりたい事がわかったんだ。地下には、おそらく加頭や放送担当者をはじめとする、ゲームに直接関係のない幹部はいるかもしれないが、首領はいない」
「え?」
「かつて、本郷さんと一文字さんがゲルショッカーを滅ぼした時の事だ──。その首領を倒した事で、ゲルショッカーは滅んだ。しかし、実はそれ自体は、次に生まれる新たな組織を目下で再編する為の囮、影武者だった」

 かなり昔の話に遡るが、一也は自分の知るダブルライダーの武勇伝をデータの一つとして引きだしていた。
 その話は、二名にとっては少し理解し難い物だったかもしれない。

「確かにその直後、爆弾で基地が吹き飛ばされたものの、ダブルライダーは脱出した。しかし、今回の基地はおそらく、そういった爆弾は設置されてはいないだろう。俺たちを爆弾で吹き飛ばしてしまえば、ダブルライダーのように『この事件が無事に解決した』と考えて証明する証人はいなくなってしまう」
「……でも、沖さん。このゲームの主催者が、ゲルショッカー? と同じ事を考えているという考えは一体どこから出てきたんですか?」
「この島の外に、別の存在がいるのをバットショットで確認したんだ。この地下施設そのものは、おそらく捨て駒や囮だろう。『ベリアル帝国』の首領がいるのは、ここじゃないはずだ。何故、正体を現さずに島の外で見張る必要があるのかを考えたが、やはり……この殺し合いを捨てて、次の野望を考えている可能性が高い。俺たちには、脱出の為の希望は残されているが、諸悪を叩くのはもっと小さな希望かもしれない……」

 一也は、もはやそれを仲間に伝えてもいい段階だと理解していた。
 しかし、どうやら伝えられるのはこの二名だけである。
 今は、全員が取り込んでいる。こういう休息も必要である。

「倒しているようで、それは本当に諸悪の根源を倒した事になっていないっていう事ですね?」

 たとえば、ここで戦いを終えて安心して帰って、まだ敵が生きていようものならば、その存在はまた悪事を繰り返すに違いない。
 そう簡単に懲りるような相手ではなさそうである。
 これからしばらく悪事を侵さないとしても、時空管理局らが必ず見つけ出すであろう。

278崩壊─ゲームオーバー─(2) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:56:53 ID:ezDSmj8g0

「……でも、マミさん、沖さん。もし……もし、これから先の世界でも悪いやつが残っていて、またこんな事を繰り返そうって思っていたら、一体どうするんですか?」
「どうするって……それは……」

 ラブに訊かれてうろたえるのはマミだった。
 一也は既に覚悟を固めているらしい。

「……私はわかってますよ。二人は、正義の味方だから、きっとここにいる一緒に立ち向かってくれるって」

 そうラブが言った時、マミの胸を何かが直撃する感覚がした。
 マミにとって、懐かしい一言である。
 正義の味方。──この場では、あまりに臭すぎて誰もそんな言葉を使っていなかったのである。その曖昧な定義の言葉は誰も率先して使おうとしなかったのだろう。
 この中にいる、「正義の味方」と認定できるであろう仲間は、みな、自分を正義と思うよりもまず、目の前で困っている者を見捨てられない人間というだけであった。正義というより、己の主義に従順なのである。「正義の是非を問う」というテーマは流行るが、やはりそれは答えのない話題であって、続けるだけナンセンスなのかもしれない。
 だからこそ、マミはこの頃、それをあまり連呼するのを耐えかねたのかもしれない。

「……そうね。でも、桃園さん、やっぱり一つ訂正があるわ。ここにいる私たちは、正義の味方じゃなくて、巴マミと、沖一也と、桃園ラブよ」
「え?」
「困っている人を放っておけない人、誰かを守りたいと思う人、希望を捨てない人、諦めない人……そして、誰かを幸せにしようとする人。ここにいたら、それを、『正義の味方』なんていう一言で片づけちゃいけないと思ったの」

 これまでのマミの生活で、「正義の味方」というのは、テレビ番組や自伝小説の中で映っている存在であった。そこからの影響が大きく、生の目で正義の味方を見た事はない。
 だが、マミはおそらく、天然で、何も意識せずに「正義の味方」であれる桃園ラブと出会った。おそらく、マミが己の命を賭けてでもラブを守りたいと願ったのは、そんなラブを助けたいと思ったからだろう。
 マミは、これまで正義の味方であろうとしてきた。自分の中にそれだけの器があるのか、何度悩んだ事だろう。
 ラブや一也は、ただマミの理想通りの正義の味方だった。何も意識する事なく、ただ脊髄がそのように彼女を動かしていた。いや、彼女だけではなく、ここにいるたくさんの人が同じく、ただ生きていく事が「正義の味方」のようだったのだ。

「『正義の味方』なんて言葉に従わずに……自分が自分であるままに、誰かの支えになる生き方がしたい。そして、きっと、いずれ会った時も、私は巴マミのままでいるわ。だから、そんな私を信じてくれる……?」
「……はい! 本当はずっと、正義の味方っていう言葉よりも、……私はマミさんの事を信じていましたから。だって、マミさんはマミさんのままで、カッコいいんですもん」

 二人は、それから笑った。
 仮にもし、この先でゲームの主催者を倒した時、そこからまた逃げている者がいたとしても、絶対に過ちは繰り返させない。
 二人ならできる。
 巴マミと、桃園ラブならば──。

「そうか。君たちは頼もしいな」

 一也が、そんな二人の様子を見て微笑んだ。
 それは、これまでにない笑顔であった。誰よりも戦いに年期のある仮面ライダーとして、彼女たちの考えを認めてあげなければならないと思ったのだろう。
 過ちを正すのも仕事だが、彼の思想上は、彼女たちの気づいた事は誇っていい考え方である。

「ある人が言っていた。仮面ライダーは、正義の為に戦うんじゃない。人間の自由と平和の為に戦うんだと」

 正義という言葉は、あまり使わない方が良い、と。
 それならば、人間の自由と平和の為に戦う方が、ずっとヒーローである、と。
 そんな言葉をかけられた記憶がある。
 その「ある人」が誰なのか──沖一也の物語を追っても明かされる事はないだろう。
 しかし、仮面ライダーと呼ばれた者たちには、おそらく、いつかその格言を聞き、心に留める日が来る事になる運命にあった。

「……あ。『天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ! 俺は正義の戦士!』なんて名乗る仮面ライダーもいるけど、あの人は特別だから」

279崩壊─ゲームオーバー─(2) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:57:14 ID:ezDSmj8g0

 正義。その言葉は曖昧であるが、おおよその形式は固まっている。
 誰かを助ける事や、人を殺し合わせる蛮行を食い止める姿勢は、現代の社会では間違いなく正義に近い行いであると思われるだろう。
 しかし、その手段の是非は明確には、それらの言葉では測れない。悪事を行う根源を、武力によって鎮静し、その脅威の命を絶つ所まで正義とは言えないのである。
 あくまで、「正義」と「悪」が存在するのは限られた状況であり、「食い止める」というところまでは正義であっても、「倒す」ところまでは正義とは言えない。その仮面ライダーは、きっと、「倒す」ではなく、「悪を止め、人々を救う」ところまでを正義と定義して叫んでいるのだろう。
 悪を食い止め、脅かされる人々を助ける為に、天と地と人が呼んだ、「正義」。
 しかし、そこから先、敵を倒すのは、正義ではなく、彼が判断した「最後の手段」なのである。この部分は、「正義」と「悪」の二極で測った場合、おそらくはどちらの理屈も破綻するので、これらの言葉でカバーできる範囲ではない。
 殺人は犯罪だが、彼らの「正当防衛」、「過剰防衛」を図れるはずはないのである。

「……はぁ」

 その仮面ライダーに全く心当たりはないラブたちは額に汗を浮かべる。
 ともかく、一也は「正義の味方」という言葉で定義される範囲が、この殺し合いの最中でも有効とは思えない状況に気づいた彼女を優秀な相手だと思った。
 これから先、誰かを守ったり、悪徳を犯したりする相手を、「殺す」という形で果たさなければならないが、そこには「正義」はない。しかし、間違った行いではないのである。
 ゆえに、時に「正義」であり、普段は「正義」ではない一也が、彼女たちにかける言葉は、ただ一つ。

「君たちは君たちでいい。間違った事なんて何もしていないんだから。それは、俺たちが保障する。俺は人間の自由と平和の為に戦う。だから、君たちも、自分の信じる大切なものの為に戦ってくれ」







「……辞世の句、みてえなもんか」

 血祭ドウコクは、外道シンケンレッドを横に携えて、レーテの前に群がる人間の兵士たちの様子を、一見すると興味なさそうに眺めていた。
 彼からすれば、一人一人の行動は少々理解し難い。戦いの前に誰かとくだらない世間話をしているようである。ただ、それがおそらく、人間たちの中では意味のある行動であろうとドウコクも薄々感じる事ができた。
 だからこそ、彼は、この時ばかりは水を差す事なく、その光景を静観していたのだろう。

「てめえも、少しは何か感じるか? 志葉の──」

 外道シンケンレッドは、そう言われてドウコクの方に体を向けた。
 だが、そのゆっくりとしたモーションからは、およそ人気味を感じられなかった。
 ドウコクの一生で見てきた人間の所作とは、やはり違った。

「……感じねえか。無理もねえ。感情らしいモンが抜け落ちてるからな」

 言葉に反応する事はあるが、それはおよそ人の要素を感じさせない抜け殻のような物だった。仮にもし、志葉丈瑠の魂であるなら、せめて思案する様子は見せるだろう。
 しかし、丈瑠は死に、外道として魂もない存在がここに在る。
 殺し合いに乗り、三途の川にさえ見初められた怪物。
 はぐれ外道の中のはぐれ外道。その魂は、今どこにあるのだろうか。
 あるとすれば、どこかでこのはぐれ外道の姿を欲するのだろうか。

「まあいい。これが奴らにとっての盃だ。あまり長引くようなら叩き斬るが、どうやらもうそろそろ、幕を引いてくれるらしい」

 ドウコクが、そう言うと同時に、ある男が、一言口を開いた。





280崩壊─ゲームオーバー─(3) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:59:35 ID:ezDSmj8g0



 石堀光彦は、誰にも顔を向けられなかった。
 誰かに語るべき事は、彼にはない。
 他の全員がくだらない話をしている間中、石堀は俯いて、堪えきれない達成感に浸っていたのだ。

(待ち続けた甲斐があったようだ……)

 あの西条凪が死亡し、十年以上の歳月をかけた計画は幕を閉じたはずだった。
 しかし、彼のもとに代理として降りかかった新たな計画は、石堀の心を擽る。
 光は、別のルートをたどって、ある者の元へと回った。

 それでいい。

 ウルトラマンの光を奪うのが目的であったが、今はもはやウルトラマンだけではない。プリキュア、シャンゼリオン……あらゆる戦士の持つ光の力を実感している。ならば、凪よりむしろ、彼らの方が役に立つ。
 中でも、とりわけ蒼乃美希である。ウルトラマンであり、プリキュアにも覚醒した彼女の光は他とは一線を画す物があるだろう。
 彼女には、“奪われるだけの資質”がある。それを認めよう。



「──────遂に来たか」



 石堀が、突如、そう口にした。
 その時、ほぼ全員が会話を同時にやめていたので、彼の言葉だけが虚空に放たれた。
 その一言だけならば、一日半をかけて殺し合いの主催者の元へとやって来た対主催陣営の一人としての、自然にこぼれてしまう徒労の漏洩だったかもしれない。
 しかし、言葉と同時に浮かんだ邪悪な笑みを、暁は、ラブは、孤門は、──ここにいるあらゆる参加者は見逃さなかった。
 その意味がわからず──怪しいと思いつつも、結局それがどういう事なのか理解する術はなく──、ただ立ちすくむ。警戒心よりも前に、一体彼が何をしているのかという疑問が浮かぶ。答えが出ない限り、次の行動に移る事ができる者はいなかった。

「遂に……遂にだ!」

 石堀にとっての一日半。
 何も感慨深い事はない。それは、ドウコク以上に無感情で無機質に日々が過ぎただけであった。何万年と生きてきたダークザギという怪物にとって、一日半など大した物ではない。
 強いて言えば、彼の「予知」では測れない出来事が起こったというだけである。

「石堀、さん……?」

 さて、……ここまで来たら、やる事は一つ。
 孤門が心配そうに声をかけても、今の石堀の耳には通らなかった。
 通っていたかもしれないが、その名前の人物として返す物は何もない。

「変……身」

 石堀は、口元を更に大きく歪ませると、アクセルドライバーを腹部に装着した。
 石堀の腹の周りを一周するアクセルドライバーのコネクションベルトリング。それが、アクセルドライバーをベルトとして己の身体と一体化させる。
 もはや、彼にとってはこの仮面ライダーアクセルの力も最後の出番である。
 ダークザギの力が蘇ればこんな人間の技術の産物は必要ない。

「お前……!」

 全員が、石堀の突然の行動が、何を示しているのかわからずに硬直する。
 これから戦闘準備に入ろうとしていた全員が、動きを止めた。
 戦いの前の微かな平穏を打ち砕いて、──全く別の戦いが始まる予感がしたのだ。
 ドウコクでさえ、動きはしなかった。



 その時────

281崩壊─ゲームオーバー─(3) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 18:00:24 ID:ezDSmj8g0











「燦然…………ハァぁぁぁぁぁぁッ!!」






 暁だけは、咄嗟に超光戦士シャンゼリオンに変身し、シャイニングブレードを構えて駆けだした。
 これが、胸騒ぎの根源であった。この瞬間に、あの時の言葉の謎が解けたような気がした。
 やはり、訝しんだ通りである。



────暁、聞け。俺を、ダークメフィストにしたのは、あいつだ……。



────……石堀光彦だ。奴に気を付けろ……。



 ──黒岩省吾の言葉だ。それは即ち、石堀が自分たちを欺いている、という事であった。
 この時まで暁たちにその事を一切言わず、参加者にダークメフィストへと変身させる力を授けた──これまでのデータから推察するに、明らかに危険な敵である。気を付けろ、という言葉通り、暁は石堀に警戒を続けていた。
 そして、警戒をやめて、確実に動きをやめなければならない時が来たのだった。

「ハァァァァッ!!! 一振りッッ!!!」

 ……誰も動けないなら、自分が動く。そのつもりで、シャンゼリオンはシャイニングブレードの刃を石堀に向けて振るっていた。
 この場にいる誰も理解していないとしても、シャンゼリオンは石堀に致命傷を与える。たとえ、次の瞬間に己が、突然“胡乱な態度を見せただけ”の石堀を殺害した殺人鬼と呼ばれようとも、そんな先の事は全く考えていなかった。
 単純に、もう耐えきれなかったのかもしれない。これ以上、近くにある脅威を「監視」し続けるのを──。

「フンッッッッッ!!!!!」

 しかし、次の瞬間に飛んだのは、石堀の意識ではなく、シャンゼリオンのシャイニングブレードであった。シャイニンブレードは、シャンゼリオンの握力の支配を逃れ、宙を舞ったのだ。
 シャンゼリオンにも、その場にいる誰にも、その瞬間に何が起きたのかはわからなかった。

「グァッッ!!!」

 ただ、シャイニングブレードが地面にざっくり刺さり、シャンゼリオンが見えない一撃に吹き飛ばされて先ほどより数メートル後ろで背中をついた時──、何かが起こったのだと全員が認識した。
 何かを起こしたのが石堀であるのは、そのすぐ後にわかる事になった。

「フッ……」

 石堀はニヤリと笑った。
 彼が、“黒いオーラを発動させ、衝撃波をシャンゼリオンに向けて放った”のを捉えた者は、涼邑零と沖一也と血祭ドウコクの三人だけである。
 その他の者も、もう少し遅れて、石堀の身体から自ずと滲み出てきたそれを目の当りにする事になった。

「何だあいつ……一体、何がどうなってるんだ……?」

 黒い蜃気楼……。

「石堀……こいつがお前の正体か……」

 それは、明らかに石堀が意識的に発動した物であった。世界の裏側にでも存在するかのような紫炎の闇を、石堀の体が自ずと纏う。
 石堀の瞳孔がそれと同じ、奇妙な紫を映していた。それは文字通り、彼が見ている物ではなく、瞳そのものが本来の色に変色した物であった。
 それが、彼が非人である事を示す確証だった。

「……残念だな、暁。お前はあまりにも露骨に俺が疑いすぎた。……もしかすると、黒岩にでも聞いたのか? 俺が“アンノウンハンド”だってな」
「くっ……」

282崩壊─ゲームオーバー─(3) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 18:00:46 ID:ezDSmj8g0

 “アンノウンハンド”。

 こうして、この場でこれ以上出てくるとは思いもしなかったその言葉に、孤門一輝と左翔太郎が戦慄する。桃園ラブや沖一也も知る言葉だ。
 孤門の住む世界を裏で暗躍する存在だと言われていたのがアンノウンハンドである。
 ダークメフィストの再来を考えれば、勿論、どこかにいるのは確実だが、それは主催者側である可能性も否めなかったし、味方内にそれらしい者は全く見かけられなかった。
 いや、しかし──石堀こそが、そうだったのだ。

「──石堀さん!? それは一体、どういう……」
「残念だが、ここはお前たちの墓場にさせてもらう。主催陣の打倒なんかに俺はハナから興味はなかったんでね。俺がやりたいのは、今から行う“復活の儀”の方さ」

 そう言うと、石堀は懐を弄った。
 そして、彼は薄く笑った。

「“復活の儀”……? 一体、何を言って……」
「フッ。──孤門」

 次の瞬間、石堀の懐から現れたコルト・パイソンの銃身。狙いを定める様子もなく、ただ感覚で、その銃口が孤門の顔面に弾丸を撃ち込むに最適な場所まで腕を置いたのだ。
 孤門は、同僚の突然の裏切りに、もはや冷静な判断力を失っていた。その口径が己を殺す為の兵器が射出される筒であると忘れていたかもしれない。

「……おつかれさん」

 右手を伸ばし、照準を合わせる事もなく、──通常なら絶対に命中がありえないそんな状態で、石堀は躊躇なく、その引き金に指をかけた。ここまで、銃を取りだしてから二分の一秒。
 一欠片の躊躇もなく引かれた引き金は、孤門の眉間を目掛け、発砲を開始する。

「危ないっ!!」

 孤門の体が大きく傾く。真横から体重をかけて抱きついた者がいたのだ。
 涼邑零である。零が真横から孤門の体を押し倒し、辛うじて弾丸は彼らの背後を抜けていく形になった。孤門の全身が覆い尽くされ、地面に激突する。
 弾丸は零のタックルよりもずっと凶悪だが、当たらなければ効力を発揮しない。
 これで本来ならば安心であるはずだった。



 しかし、見ればその弾道の先にいるのは、────蒼乃美希であった。

「ああっ!!」
「……!!」

 孤門、零、美希。三人の時間が止まる。

 孤門は、己がそこに留まっていれば良かったと思っただろう。

 零は、自分の不覚を呪っただろう。

 美希は、神にでも祈っただろうか。

 銃声が、運命を分ける。次の一瞬が全てを審判する。──はずであった。

「!!」

 美希の視界はブラックアウトしない。
 弾丸が体のどこかに当たったという事もなく、弾丸が辿り着く前にしては妙に時間がかかったような気がした。
 零も、疑問に思った。
 今、もしや弾丸など飛んでいなかったのではないか……零も、石堀の手の動きで判断していたが、弾丸らしき物は目で捉えていないし、銃声を耳で聞いていないのである。

「……妙に銃身が軽いと思えば……予め弾丸を抜いておいたのか。やるじゃないか、暁」

 脇目で起き上がろうとしていたシャンゼリオンを、石堀が一瞥した。
 石堀が危険だとわかっている時分、暁も一応、荷物の確認の際に石堀が確認を済ませた装備をこっそりスッて、弾丸を抜いておく対策は行ったのだ。コルト・パイソンもKar98kも、石堀の装備していた銃器の中身は全て空である。

283崩壊─ゲームオーバー─(3) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 18:01:48 ID:ezDSmj8g0
 探偵より泥棒に向いているのではないか、と思われるこの行動。
 もし、石堀の裏切りが勘違いだったならば、石堀の装備を軒並み利用不能にし、仲間を死に追いやるかもしれないこの行動。
 しかし、美希たちはそれに救われた。

 美希たちは、ほっと胸をなで下ろした。一度冷えた肝が急に温まったので、ふと石堀を注視するのを忘れてしまうほどだった。
 だが、やはりすぐに自分たちの置かれている状況を再認識して、石堀の方を辛い目線で見据える。そこには、もはや石堀とは到底思えない邪悪な気配に包まれた怪人が立っていた。彼は、コルト・パイソンを見放して、野に捨てている真っ最中である。
 彼はこの空の銃と同じく、目の前の仲間たちを不要と判断して、棄却し始めたのだ。

「……クソッ。あいつ、本当に俺たちを騙してたんだ。暁の言う事が正しかったんだ……。本気で殺す気だったみたいだぜ」
「石堀さん……そんな……嘘だ!」

 そう言いつつも、孤門は確かに自分を目掛けて発射された「見えない弾丸」の事を確かに、現実に起きた出来事の一つとして認識していたはずだ。
 あの弾丸が形を持っていれば、自分か美希かは、確実に死んでいたであろう。
 目線の先に、ぴったりと張り付いた銃口の映像。確実に目と目の間に食い込ませる算段だったはずだ。

 ……だが、あの石堀光彦が?
 張りつめたナイトレイダーの中でも、時折冗談を言って和ませるあの兄貴分の石堀が──平木詩織隊員と仲が良く、付き合っているのではないかと噂されていた、あの石堀光彦が、アンノウンハンド……?
 孤門にはいつまでも信じられない。

 嘘だ。
 斎田リコの仇……、あらゆる人々をビーストやダークウルトラマンを使って殺した諸悪の根源……それが、あの石堀光彦だったという事なのか。
 彼の中の純粋や情は、この場でいとも簡単に裏切られたのだ。斎田リコの時と似通った気持ちだった。

 孤門が絶望を抱えている時、誰よりも激昂する者がいた。

「アンノウンハンド……お前があかねさんを!!」

 ──響良牙である。
 良牙の中から探りだされる、ダークファウスト、そしてダークメフィストの記憶たち──。それは、良牙にとって最も苦い思い出だ。
 そこには、当然、天道あかねとの深い結びつきがあった。

 孤門に聞いた話によれば、孤門の世界においては、アンノウンハンドなる者がダークメフィストを生みだしたらしい。そして、これまでの暁の話を聞くと、黒岩によってあかねがファウストにさせられた可能性が高いようだが、黒岩が何故メフィストであったのかは明かされなかった。

 ……いや、どれだけ考えても明かされる由はなかったのである。
 以前、孤門や石堀に、「では何故黒岩がメフィストになったのか」とも訊いたが、その時の返答は二人とも口を揃えてこうだったからである。

『姫矢から憐や杏子に光が受け継がれるように、闇の巨人の力もまた受け継がれていくのかもしれない』

 溝呂木に闇を与えたらしきアンノウンハンドがこの会場内にいるとは限らないし、実際そうではないだろうと考えていたに違いない。ウルトラマンの力を与えた者がこの場にいないのと同じように……。
 孤門は石堀に、同僚としての一定の信頼感を持っていた為、同世界の人間がアンノウンハンドである可能性を突き詰めても、石堀をその対象から当然除外したのである。石堀が何度もビーストに襲われてピンチになった事も、ビーストを倒すのに貢献した事も孤門は全く忘れていない。

 しかし、ウルトラマンとダークウルトラマンは本質的にその構造が異なっていた。闇の力は一度、「持ち主」の手に返る。
 少なくとも、この場において、黒岩に闇を与えたのは、溝呂木眞也ではない。石堀光彦であった。認識そのものに、壁があったのである。今悔いたとしてもどうしようもない話であった。

「ゆるさんっ!!」

──Eternal!!──

 エターナルのガイダンスボイスが良牙の掌中で鳴り始めた。
 今の自分がエターナルメモリを持つ意味を、良牙はこの時、忘れかけていたかもしれない。
 しかし、誰も良牙に再び沸き起こった憎しみを止める事はできなかった。ここにいる誰も、その憎しみに共感せざるを得なかったからである。

284崩壊─ゲームオーバー─(3) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 18:02:11 ID:ezDSmj8g0

「変身!!」

 エターナルメモリが装填される。

──Eternal!!──

 白い外殻が響良牙の体を包み、その姿を仮面ライダーエターナルへと変身させる。
 青い炎が両手で燃え、黒いマントが背中に出現し、風に棚引く。
 これで何度目の変身になるだろう。
 前の装着者を含めれば相当数、このエターナルも変身された事になるだろうが、今また戦いの為に拳を固めるのであった。
 エターナルは、憎しみによる戦鬼のままなのだろうか。

「ふん……」

 それを見て、石堀は次の行動に移ろうとしていた。
 忘却の海レーテの、半ば美しいとさえ思える光景を背に、石堀は悪魔と成る事を決める。
 裏切りに躊躇などない。最初から、こう決めていたのだ。
 この良牙の憎しみに、石堀も作戦成功を核心していたようである。

「……さて、俺も変身させてもらいますか。最後のアクセルにね」

 石堀は、どこかからアクセルメモリを取りだした。先ほどは変身妨害をされたが、もう問題はあるまい。
 すぐに手を出せる者は周囲にはいない。仮に邪魔をされたとしても、この中で最強の敵を片手で跳ね返すのも難しい話ではないのである。

──Accel!!──

「じゃあ改めて……変、身」

 まるで叩きこまれるかのように、アクセルメモリはアクセルドライバーに装填される。
 メモリスロットとガイアメモリが結合し、化学反応を起こした。

──Accel!!──

 石堀の体を包み込んでいく仮面ライダーアクセルの装甲。
 赤い装甲がすぐさま石堀の全身を包んで、全く別の物へと変貌させた。
 しかし、それだけでは終わらなかった。

「────ガァァァァァァァッッッ……」

 自分の外見が、「人」でなくなると共に、石堀光彦は──ダークザギは、己の中の本能を引きだした。この姿では、雄叫びを抑える必要はない。何十年もの禁酒を終え、盛大に酒を煽った気分である。獣のような唸り声でアクセルが吠える。
 すると、アクセルの特徴ともいえる全身の派手な赤が、そして、その瞳の青が、すぐにはじけ飛んだ。まるで、己の体から色を追い出すかのように、石堀は、ダークザギとして吠えたのである。
 本来の色が逃げ去ると、そこには、アクセルではなく、石堀本来の色が再反転した。

「ウガァァァァァァァァァァァァァッッッ……!!!!!!!」

 ……まるで、地球の記憶そのものが、彼自身の圧倒的な魔力に圧倒されているとでもいうべきだろうか。
 その体は、──アクセルの赤でも、トアイアルの青でも、ブースターの黄色でもない。

「ウグァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッ!!!!!!!!!! ……」

 紫のような、黒のような、深い闇色に──機能を停止した信号機の装甲に変わっていた。ダークザギとしての彼の姿が、そのまま仮面ライダーアクセルの体色さえも捻じ曲げたのである。
 ……いや、仮面ライダースーパー1も、仮面ライダージョーカーも、この場にいるこの敵を仮面ライダーと呼びはしないだろう。
 もはや、その装着者自身があり余るエネルギーと咆哮で、仮面ライダーとしての元の性質を消し飛ばしてしまったのだ。

「黒い……アクセル……!」

 そう、強いて呼ぶならば、──ダークアクセルという名が相応しい。

 仮面ライダーアクセルの装甲が……戦友が変身した誇りの仮面ライダーの姿が凌辱されている。──見かねて、翔太郎が前に出た。

285崩壊─ゲームオーバー─(3) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 18:02:47 ID:ezDSmj8g0

「……石堀。信じたくねえが、あんたが……俺たちをずっと騙してたのか」
「ハッハッハッ……。さっきからそう言っているだろう? フィリップ・マーロウくん」

 煽るように、アクセル──いや、ダークアクセルが言った。
 その表情は伺い知ることができないが、きっと嗤っている。
 左翔太郎は、その姿を想像して奥歯を噛みしめた。

「……ッ!! じゃあ、あんたにその力を使う資格はねえ。アクセルは、誰かの事を守れる奴の──あの照井竜みたいな奴の為だけの物だ、返してもらうぜ!」

 ──Joker!!──

 こちらも、ガイアメモリの音声が響く。
 左翔太郎が左腕でロストドライバーを腹部に掲げた。彼の体にも、コネクションベルトリングが一周する。ジョーカーの記憶が翔太郎の前で呼応され、黒色の波を発する。
 その最中で、翔太郎はまるで勝利への核心を掴みとるように、体の前で右腕を握った。

「変身……!」

 ──Joker!!──

 翔太郎がそう掛け声を放つとともに、ジョーカーの記憶は翔太郎の体面上に仮面ライダーの鎧を構築していく。大気中に溶け込んだばらばらのピースが一つ一つ体の上で組み上げられていくように、翔太郎は仮面ライダージョーカーへと変身した。
 彼の「切札」の名に相応しい、翔太郎と驚異的なシンクロを示す運命のガイアメモリ。今また、翔太郎に力を貸している。
 翔太郎にも、最早この暫くのキャリアで、“ダブル”以上に馴染み深い姿だろう。

「仮面ライダー……ジョーカー!」

 その指先は、いつもの如く、罪を犯した敵に向けられる。
 そして、この時まで、潜む怪物の脅威を淡々と見過ごしていた自分の失態も胸に秘める。

「さあ、──お前の罪を数えろ!!」

 そのお決まりの言葉を投げてしまえば、後は体が勝手に動いた。
 倒すべき許されざる敵は目の前にいる。
 もはや、無我夢中に戦う術を磨いて敵を倒すのみであった。

「ハァッ!!」
「オォリャァッ!!」

 仮面ライダージョーカー、仮面ライダーエターナルの二人の仮面ライダーがダークアクセルの体に向けて、何発ものパンチを放つ。
 それぞれの全身全霊を握りこんだ拳がダークアクセルの胸で弾んだ。
 しかし、当のジョーカーとエターナルとしては、十五発も殴ったあたりで、一切、そこに手ごたえを感じない事に気が付く。敵の装甲から聞こえるのは、風邪を受け手窓が揺れたような音。それだけがこの場で何度も空しく響いたような気がした。

「くそっ……エターナル、コイツ……今まで出会った事がねえ強敵だぜ……!」

 ジョーカーは、この時、咄嗟に今まで感じた事のないような──ガイアメモリや血祭ドウコクをも超越する危険性に巡り合ったような気がした。
 本来、ガイアメモリの使用者は普通の人間の肉体を強化し、人ならざる能力を付与する。ドーパントや仮面ライダーは、そこからガイアメモリの力と人間自体の素養やメモリとの適合率とが掛け合わされて強化されるはずだが、今回の場合、使用する人間の素養ありきで、ガイアメモリは彼の能力を引き立てるオマケに過ぎなかった。
 仮に石堀とアクセルとの適合率が絶望的な数値を示したとしても、その不適合を上回る石堀本来の能力が、アクセルの能力を手玉に取ってしまう。
 まるで、メモリそのものの力を飲み込んでいるかのようである。

「知らん! 貴様が神様だろーが、悪魔だろーが、俺はコイツを倒す!」

──Unicorn Maximum Drvie!!──

 T2ユニコーンメモリをスロットに装填したエターナルは、次の瞬間に右腕に鋭角な竜巻を重ねた。竜巻は一角獣の角を形作っている。

286崩壊─ゲームオーバー─(3) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 18:03:08 ID:ezDSmj8g0
 エターナルの右拳は、握りしめられるだけの力を籠めて、アクセルの顔面目掛けて突き刺さる。一撃に全身全霊を込め、次の一撃にまた、全身から湧き出てくる憎しみのような精魂を込めた。
 三発ほどマキシマムドライブの力を帯びたまま突き刺すが、思った以上に手ごたえがない。マキシマムドライブのエネルギーが自然消滅する。
 ダークアクセルは憮然として立っていた。

「邪魔だ!」

 胸から紫と黒の波動が放たれる。それは、すぐにジョーカーとエターナルの体をダークアクセルの元から引き離した。圧倒的なエネルギーに、誰もが耐え切れずに屈む。風がばっと二人の体を飲み込み、激しく後方へと吹き飛ばした。
 ジョーカーとエターナルは、次の一瞬で地に落ちる。

「グァッ……!!」
「ヌァッ……!!」

 地面にバウンドした直後には、両名とも、すぐには起き上がれないだけのダメージが体を襲った。ドウコクやガドルにも匹敵する、……いや、あるいはそれ以上であるとジョーカーは思う。

(桁違いだ……!)

 エターナルも、それがかつて出会ったどんな敵にさえ敵わぬであろう強敵であると長い戦闘経験が察する。
 一撃のダメージとは到底思えない。シャンゼリオンも、あれで実質、ほぼ戦闘不能状態だというのか?

「そんな……あの二人が一撃で!!」

 孤門たちは固唾を飲んだ。
 アクセルの力がそこまで絶大だと感じた事は今までにない。
 せいぜい、ダブルと対等程度であって、エターナルが一撃で倒されるほどの仮面ライダーではないはずだ。しかし、石堀はアクセルを蹂躙し、使いこなしていた。
 己の戦闘力でメモリそのものの能力を上回る「補填」を行って。

「随分とおちょくってくれたな……」

 ダークアクセルを許せないと思うのは、何も善良なヒーローだけではなかった。
 血祭ドウコクと外道シンケンレッドが前に出る。彼らとしても、アクセルの側につく気は毛頭ない。主催陣を潰す目的を妨害する壁である、というのがドウコクのこの男への認識であった。
 他の連中ほど、ドウコクが石堀の謀反に驚愕する事がなかったのは、本能的にその性質が共通している事を悟っていたからなのだろうか。

「猛牛バズーカ!!」

 ジョーカーやエターナルが巻き込まれるかもしれない危険性など度外視して、外道シンケンレッドが猛牛バズーカを構えた。
 牛折神の力が砲身に集中する。それは、次の瞬間、ダークアクセルに向けて一気に放出された。
 次の瞬間には、莫大なエネルギーがダークアクセルに向けて叩きつけられるだろう。

「フン……」

 しかし、ダークアクセルはエンジンブレードを構え、その砲撃に込められた力を一刀両断する。真っ二つに叩ききられたエネルギーは、丁度ダークアクセルの両脇を通って、背後のレーテの海の中へ溶け込んでいった。

 驚くべきは、エンジンブレードにはガイアメモリを装填しておらず、ダークアクセルは自身の能力を併用して、それを弾き返したという事である。
 これが、ダークアクセルとあらゆる戦士たちの力の差であった。

「はあああああああああああああああああああッッッッ!!!!!!」

 血祭ドウコクも、捨て駒の外道シンケンレッドの攻撃が通用しなかった事には目もくれず、すぐさま駆ける。彼はせいぜい十秒その場をもたせる囮程度に役立てるつもりだったのだろうが、十秒も間を持たせる事はできなかった。
 ドウコクの手には、昇龍抜山刀が握られていた。自分ならば互角に戦える自負があるのだろうか。その刀を構えて現れてから、ダークアクセルに肉薄するまで一秒とかからない。

「はぁッ!!」

287崩壊─ゲームオーバー─(3) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 18:03:29 ID:ezDSmj8g0

 昇龍抜山刀を構えたまま、ダークアクセルの脇を過るドウコク。
 しかし、その腕に、敵の体を抉った感覚はなかった。

「何!?」

 ドウコクが斬り抜けて真っ直ぐ伸びた己の腕に目をやる。
 既にそこに昇龍抜山刀の姿はなかった。握りしめていた感覚がいつ消えたのかはドウコクにさえわからない。
 咄嗟にドウコクが振り向く。

「──ッ!!」

 首を回すと同時に、左目に電流が走る。
 ──己が握りしめていたはずの愛刀は、そこにあった。
 しかし、その姿は今のドウコクの左目では見えない。
 昇龍抜山刀が突き刺さっていたのは、他でもないドウコクの左目なのだから。

「ぐああああああああああああああああああああああああッッッッ!!!!! てめええええええええええええええええェェェェェッッッッ!!!!!!!!!」

 ドウコクはもはや自分の目では見えない「それ」を感覚で引き抜いた。左目から膨大な何かが噴き出るような感覚。
 血も涙もない外道であるがゆえ、目から何かしらの液体が零れる事はなかったが、彼にも痛覚だけはある。噴き出ていったのは、左目の痛みなのだろうか。外からも内からも響く電流のような激しい痛みに、悲鳴は止まなかった。

「ガァァァァァァツッッッ!!!」

 ドウコクが放つ悲鳴は、周囲に振動する性質を持っている。
 彼は周囲の犠牲をやむなしと考え、その雄叫びで周囲全体を無差別に攻撃したのである。
 ドウコクを中心に、波紋状に広がる「声」の衝撃は、大気を揺らして周囲であらゆる破壊と障害を呼ぶ。科学の装甲に響いて中の装着者を傷つけ、改造人間の人体に向けて放たれれば機械の音波を乱す。
 敵味方問わず全員、ドウコクの悲鳴の餌食となった。

「くっ……!!」
「ぐあっ……!!」

 もはや、それは機械の暴走と言っても良い。
 外道シンケンレッドまでが、耳朶を抑えて体の節節に火花を散らせた。
 しかし、ドウコクが味方を巻き込んでまで放った一撃は、ダークアクセルの前方で発動した紫色のバリアが阻む。
 独眼のドウコクにそれは見えているのか、見えていないのかはわからない。

「くっ……変身!!」

 たまらず、沖一也こと仮面ライダースーパー1と涼邑零こと銀牙騎士ゼロがその身を変身させる。
 銀色のボディに火花を散らせながら、ドウコクの元へと飛びかかったスーパー1。魔戒の鎧で何とかドウコクの衝撃波を回避するゼロ。咄嗟に対応できたのは彼らだった。
 残念だが、今はダークアクセルよりもこちらの暴走を止めなければならない。

「何しやがるっ!!」
「こちらのセリフだ! 今の攻撃は敵に効いていない! 味方を巻き込むだけだ!」
「冷静になれ、ドウコク!」

 スーパー1とゼロの一喝がドウコクの耳を通したかはわからない。
 いや、おそらくは他人の言葉を聞けるほど、彼が冷静でいられる事はないだろう。
 これは好機と見たか、ダークアクセルはほくそ笑み、ドウコクに向けて煽るような一言を発した。

「おやおや……仲間割れか? いかし、そいつは賢明だな」

 獣のような力を解放した一方で、彼は愉快犯としての側面も消えてはいない。
 ドウコクこそがこの集団の綻びである。この場を宴にするには、このドウコクに揺さぶりをかけるのが最善だと彼も重々承知である。
 直後にダークアクセルが語りかけるのがドウコクであるのは必然であった。

「血祭ドウコク。俺の目的は、主催の打倒でも貴様を殺す事でもない。俺の本来の力を取り戻し、元の世界に帰る事だ。ここにいる人間が何人生き残ろうが構いやしない。──その場合、お前にとって、最も効率的な方法は何かな?」

288崩壊─ゲームオーバー─(3) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 18:03:51 ID:ezDSmj8g0
「何だとォッ…………!?」
「この俺を倒して主催陣に乗りこみ、勝利する……そんな希望の薄い展開に賭けるか。それとも、俺を無視して参加者を十人まで減らして、確実な帰還を得るか」

 彼は、やはりドウコクの性格を見抜いて煽っているのだ。スーパー1とゼロが、本能的に不味いと察する。最も痛い所を突かれている確信がある。

「賭けに巻ければ、残りの右目だけではなく命も失う事になるだろう。その左目は、“警告”だ。その様子では、二の目に変化しても、まだ及ばない。──この俺の本当の力は、こんな物じゃないんだぜ?」

 ダークアクセルがドウコクでさえ及ばない脅威であるのは、既にドウコクにもわかっている事実である。それに加え、更にその一段上を行く真の姿なるものがあるというのが本当だとすれば、最早勝機はゼロに等しいだろう。
 そして、ドウコクが最優先に生き残りを選択するのはもはや周知だ。

「バカな事を言うな! ドウコク、奴の言う事に耳を貸すんじゃない!」

 スーパー1が必死に止めようとしていた。説得の他に対処法はない。目の前の手練れだけでも対処が大変だというのに、このドウコクまでも敵に願えれば、こちらの勝率がどこまで引き下がるか。
 ドウコクは、幸い、僅かに悩んだ。

「フンッ────」

 そして、微かに悩んだ後、その右目が捉えた敵に、昇龍抜山刀を振るう事になった。
 真一文字、対象の肉を抉る。
 迷いはわずか一瞬であった。

「くっ……!」

 対象は、スーパー1である──。人工の胸筋が引き裂かれて、血しぶきのように火花が散り、血液のようにオイルが垂れる。銀色の体を伝って、それは地面に染みを作った。
 これはドウコクとしても、これは苦渋の決断であっただろう。相応にプライドを持つ大将としては、格差を理解して相手の意のままというのは、僅かでも心に来る物がある。

「悪いな。……コイツぁいけすかねえが、帰らなきゃならねえ理由がある」

 ──しかし、やはり生還こそが彼の目標である。
 ここは大人しく、石堀光彦に従うほかない。

「烈火大斬刀!」

 続くは、外道シンケンレッドであった。ドウコクと彼は一蓮托生である。主従の関係である以上は当然だ。
 彼も、ダークアクセルの前を横切り、ゼロを標的に大剣を構え向かう。

「一也さん! 零さん!」

 孤門が呼びかけた。

「来るな!」
「俺たちだけで十分だ!」

 ゼロは銀狼剣を構え、それを二本で交差させて大剣を防ぐ。三つの刃が一点で重なり合い、そこから火の粉が漏れた。
 辛うじて、剣豪と剣豪の戦いであった。刀に来る圧力を通して、相手の熱気も力も技量も伝わっている。見ているだけの者にはわからない、敵の強さへの脅威と信頼が刃を通して、感じられたようだった。

「やるね、あんた……これだけでわかる……」

 零が外道シンケンレッドの斬刀を防ぎながら、冷や汗を浮かべ苦笑した。
 戦士としては、相手にとって不足なしである。
 が、当然、これから先、生き延びねば対主催の勝機が奪われる立場としては、命を賭した戦いにそう喜んでもいられない。

「ドウコク……鼻から貴様に信頼が芽生えるなど期待してはいなかったが、己の威厳も失ったか! お前の目をやった者の言う事を聞くのか!」
「煩わしい口を利くんじゃねえ……癪だが、これが大将の務めって奴だ」

 スーパー1とドウコクが、構え、対峙した。
 願わくば、主催戦までこうした余計な衝突はしたくはなかったが、もはや仕方のない話かもしれない。四人は、そのまま互いを見合い、敵の出方を伺いながら、その場から少しずつ距離を取り始めた。
 スーパー1とゼロが、なるべく遠い場所に戦闘場所を変える事を願ったのだろう。
 四人は、スーパー1とゼロの扇動で森の奥へと消えていく。





289崩壊─ゲームオーバー─(4) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 18:04:18 ID:ezDSmj8g0



「……そんな」

 巴マミが落胆する。
 新しい戦いの前に、一つの地獄が待っていた事など、彼女たちはつい先ほどまで全く知る由もなかった。この戦いに対する覚悟は殆ど備わっていなかったのである。
 ゆえに、全く想定外に心を痛め、全く無意味に体力を擦り減らすこの争いに、飲み込みがたい恐怖と絶望を感じた。

「……」

 桃園ラブも同じように辛い事だろう。仮にも、同行者であった石堀の裏切りである。前に暁に警鐘を鳴らされていたとはいえ、信じたくはなかった。

「……二人に任せよう。こっちも、みんなで食い止めるよ」

 しかし、今は、あらかじめそれを飲み込む事ができた人間の一人として、勇敢に呼びかけた。
 ラブがそう言って向いたのは、蒼乃美希、花咲つぼみ、佐倉杏子、レイジングハート・エクセリオンら、女性陣の方である。自分たちよりも強かった男性たちの戦力で敵わない以上、勝てる見込みはないかもしれない。

 ……だが、だからといって、全く何もしないわけにはいかない。
 かつて、仲間の“石堀光彦”だったあの敵を、食い止めて先に進まなければならないのだ。
 主催の基地は目の前に迫っている。その前にあるトラップが、まさか味方だとは思ってもみなかったが──それでも、やるしかない。

「わかってるわ、ラブ」
「……私も、堪忍袋の緒が切れました!」
「私もだ。あいつ、気に入らねえ。絶対、私たちで倒すぞ!」
「……やりましょう。──私たちも、変身です!」

 女性陣は、それぞれの想いを公に出す事で、少し心を安らげた。それから、息を合わせて変身道具を掴んだ。
 真っ直ぐに敵を見据える。レーテが青黒い光を放つ前に、一層歪んだ黒が、まるで番人のようにこちらを静観していた。
 あれがとてつもなく強大な敵であるのは、その場にいる彼女らにとって一目瞭然であった。
 しかし、“あれ”を倒さなければ──。ダークアクセルは、そんな彼女たちを目の当りにしながら、変身を妨害する真似は一切しなかった。おそらく、捻じ伏せる自信と実力があるのだろう。
 彼女たちは、殆ど、同時に叫んだ。

「「チェインジ・プリキュア──ビィィィィィトアァァァァァップ!!!!」」
「プリキュア・オープンマイハート!!!!」

 彼女たちの恰好を、普段は着ないであろう豪奢な着衣が包んでいく。
 まさしく、その姿は全女子の憧れの綺麗で、“可愛い”容姿。
 魔法少女、の見本であった。

 あの極悪な敵は、彼女らが相手にするには、ある意味ではグロテスクな悪意に満ちていた。
 どんな手段を使おうとも敵を陥れ、「殺戮」という言葉こそが適切な嗜虐の限りを尽くす。そんな怪物──。
 それを承知で、それぞれは姿を変える。

「ピンクのハートは愛あるしるし! もぎたてフレッシュ! キュアピーチ!」

 桃園ラブは、キュアピーチに。

「ブルーのハートは希望のしるし! つみたてフレッシュ! キュアベリー!」

 蒼乃美希は、キュアベリーに。

290崩壊─ゲームオーバー─(4) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 18:04:45 ID:ezDSmj8g0

「大地に咲く、一輪の花! キュアブロッサム!」

 花咲つぼみは、キュアブロッサムに。

 そして、佐倉杏子は、魔法少女に。
 レイジングハート・エクセリオンは、高町なのはの姿に。
 それぞれ、もう一人の自分になった。普段の彼女たちの比べて、僅かに成熟した大人っぽくもあった。

「いきますっ!」
「おう!」

 最初に戦場に飛び込んだのはキュアブロッサムと杏子であった。

「ロッソ・ファンタズマ!」

 たった二人で飛び込むと思わせながら、直後には杏子の姿は四人に分裂する。いきなり大盤振る舞いしなければならないような相手であった。一撃で倒れれば元も子もない。
 一時は封印した技であったが、これまで何度か使ったように、今は使用する事ができる。──それもまた、ここでの戦いの結果である。
 幻惑の力を前にしながらも、ダークアクセルは全く動じず、せいぜい、エンジンブレードを少し持ち上げて威圧する程度の動きで待ち構えた。

「「「「はあああああああっっ!!!」」」」

 次の瞬間、杏子たちはキュアブロッサムより疾く駆け、不規則なスピードで前に出ると、ダークアクセルを四方から囲むに至った。
 気づけば、長槍が四本、ダークアクセルの周囲を固めて身動きを取れなくしていた。ダークアクセルと杏子の距離は、その長槍の先端から杏子の右親指の先まで、五十センチもなかった。直後には、槍頭が突き刺さり、それより短くなっても全くおかしくはなかった。
 杏子にもその覚悟はあった。
 だが、相変わらずダークアクセルはそこで佇んでいる。

「フンッ……」

 ダークアクセルは、臆する事なく、エンジンブレードを頭上で振り上げた。
 頭の上で、まるで竜巻でも起こすかのようにエンジンブレードを回転させる。……いや、実際に、竜巻と見紛うだけのエネルギーが彼を中心に発生していた。
 ガイアメモリではなく、ダークザギの力を伴ったエンジンブレードが、彼の周囲を囲んでいた四つの長槍を切り裂いている。
 刃渡りは届いていないが、真空から鎌鼬を発して、長槍をばらばらに刻んでいるのだ。

「何ッ……!」

 杏子とて、驚いただろう。
 まるでイリュージョンだ。彼女の方が幻影に惑わされている心持だった。しかし、己の手で軽くなっていく槍身は、確かにそれが錯覚でない事を実感させている。
 槍身が軽くなるのを感じても、エンジンブレードの刃の先が槍を刻む衝撃は一切感じないというのだから恐ろしい。

「花よ輝け!! プリキュア・ピンクフォルテウェイブ!!」

 杏子が恐怖を抱いている間にも、上空から、キュアブロッサムがブロッサムタクトを構えて現る。彼女自身も恐怖はあるだろうが、押し殺していた。
 それは既に、己の必殺技の準備を整えた後だった。
 杏子が先だって戦いに向かったのは、ブロッサムが必殺技の準備をする程度の時間稼ぎにはなったらしい。
 バトンタッチだ。

(石堀さん……!)

 ──この殺し合いで、つぼみに最初に声をかけたのは石堀である。
 彼が、冗談の混じった一言でつぼみを安心させ、行動を共にしてくれた事は忘れない。
 まるで別人のように豹変している。
 あるいは、ラダムに突如寄生されたのか、あかねのようにあらゆる不幸が変えてしまったと推測されてもおかしくはない。
 しかし、だとするのなら、尚更。──プリキュアの力がここに要るだろう。

291崩壊─ゲームオーバー─(4) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 18:05:05 ID:ezDSmj8g0

「はあああああああああああああああああああああっっ!!!!」

 ブロッサムから放たれた花のエネルギーは、すぐにダークアクセルを上空から補足し、まるで叩きつけられるようにその周囲を囲った。
 巻き起こる愛の力は、恐ろしきダークザギさえも包み込む。
 石堀をどうにかしてあげたい、と。

 ──しかし。

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーッッッッ!!!!!!」

 次の瞬間、雄叫びとともに、ダークアクセルの周囲に放たれた花のエネルギーが決壊する。
 愛は彼の憎悪に飲み込まれ、瞬く間に反転し、崩壊する。
 それが、彼女らが何気なく接していた石堀光彦の真実だった。
 彼の中の憎悪を誰かが弄る事はできないのかもしれない。少なくとも、プリキュアの力は彼にとって無力であった。

「……フンッ」

 ────彼の自意識は、最初から歪んでいる。

 ウルトラマンノアの代替として作られ、ビーストを倒す為の生命だった彼。
 しかし、悪である事が唯一、ノアに勝る為の武器であった。
 人質を取ればノアはザギに手を出さない。周囲の被害を考慮せずに戦えば、ノアは反撃ができない。──それがザギの強みである。
 彼にしてみれば、悪でなければ、生きている意味がないのだ。そして、その愉悦を知り、いつの間にやら彼の感情は全て、悪事への快楽に浸っていったのだ。

「そんな……っ!!」

 キュアブロッサムが、かつてないほど早くに必殺が破られた事に驚愕する。
 目の前の敵は一瞬の迷いもなく、誰かの愛を拒んだのだ。
 その中にある想いそのものを知りながら、受け取らず、憎悪で返した。
 それは、大道克己のような意地から来る物ではなく、石堀光彦本来の冷淡さによる物であるように感じられた。

 ──俺から、憎しみを奪うなッ!

 その時、キュアブロッサムは悟った。
 もしかすると……この人は、初めからそうなのだ、と。

「ハァッ!!」

 そんな現実を飲み込み切れないキュアブロッサムに向けて、何かが投げられた。
 何か──いや、そういう言い方は相応しくない。
 今、投げられていたのは、「人」である。
 キュアブロッサムが、今、ダークアクセルの手から放たれたのは「佐倉杏子」なのだと気づいたのは、頭と頭が激突したその瞬間だった。

「────!?」

 杏子の頭部が、キュアブロッサムの視界に近づいていく映像を、彼女が後に現実の出来事と思い出すのにどれだけかかるだろう。
 彼女の脳は、それだけ強い衝撃を受けて、既に一時、機能を停止したのだ。空中のある一点から、花火の煙のように落ちていった。
 杏子もキュアブロッサムと殆ど同時に、脳震盪を起こしたらしい。彼女に至っては、今、この時、“自分の頭が彼の左腕に掴まれ、空中のキュアブロッサムへと投擲され、僅かな間だけ空を飛んでいた”事など、全く理解できていなかったかもしれない。
 ダークアクセルは、この僅かな時間で二人も片づけていた。

「はあああああああああああああっっっ!!!!!」

 次なるダークアクセルの敵はキュアピーチだった。
 腰まである金髪が身体の速度に遅れる。目の前でキュアブロッサムや杏子が倒れた事は、決して彼女にとっても無視できない事象だろう。しかし、そこには既に助けが入っている。
 まるで、屍を踏み越えていくような後ろめたさが彼女の中にある。
 だから、彼女の叫びからは、やり場のない激しい怒りのニュアンスが聞いて取れただろう。目の前の敵以上に、己が辛い。
 キュアピーチは、今までのどんな戦いよりも強く拳を握りしめた。

292崩壊─ゲームオーバー─(4) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 18:05:27 ID:ezDSmj8g0

(大丈夫、一緒にいた時間は本物だった……)

 裏切りと聞くと、東せつなの事を思い出す。
 最初は敵が近づけた潜入者であり、一度は敵として戦った。
 しかし、それが決して幸せな事ではなかったから、こうしてラブとせつなは永遠の友達としてあり続けるのだ。
 それなら──。

(それなら────石堀さんだって、)

 ダークアクセルは、────石堀光彦は、その時に、ニヤリと嗤った。












「────────俺が待っていたのは、貴様だァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!!!!!!」

 この瞬間を待ちわびていた男の歓喜の雄叫び。ダークアクセルは、キュアピーチの拳を胸のあたりで受け止めた。まるで、それは引き寄せたかのようにさえ思える。──キュアピーチは、自分がネズミ取りにかかっている事に気づく事があっただろうか。

「────!?」

 ダークアクセルは、接近したキュアピーチの腕を乱暴に掴む。キュアピーチは、その時に手首の骨が軋むような強い痛みを感じた。
 しかし、それだけなら全く痛みの内に入らないくらいである。

「喰らえーーーーーーーッッッッ!!!!!!!」

 ダークアクセルは、キュアピーチの胸を目掛けて何かを叩きこんだ。
 ずっしりと重い一撃を想定したが、キュアピーチの胸には殴打は来なかった。
 それどころか、まるで痛みはなかった。──それは、まるで、指先を翳したという程度でしかない衝撃である。

「えっ……?」

 キュアピーチも、一瞬何が起きたのかわからなかった。
 ……殺されたわけではない。
 ……痛みを受けたわけでもない。
 だが、それよりもむしろ、気持ちの悪い感覚が全身をむず痒く走った。
 その違和感。

「何……」

 ピーチはその瞬間、何か自分の中が細工されたかのような感覚に陥った。
 感情が消えていくというか、自分が塗り替えられていくような……。
 自分とは違う何かが、自分の体を使って暴れるような……。
 それを感じるとともに、キュアピーチの意識は蕩けていく。

「ウッ……」

 突如、キュアピーチの体の中で、“何か”が這い回る。

「……!!」

 それは、一口に言えば、憎悪だった。憎悪が駆け巡っているのだ。
 ラブとて、それを一切感じた事がないわけではない。しかし、これほどの憎悪が全身を襲う事はこれまでなかった。
 胸元を見れば、その胸には飾った事もないようなブローチが飾られている。

「クックックッ……」

293崩壊─ゲームオーバー─(4) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 18:05:55 ID:ezDSmj8g0

 石堀光彦は、ある支給品を隠して所持していた。

 反転宝珠。──中国の女傑族に伝わる、怪しい呪具の一つである。ブローチの形をしているが、それを安易にドレスに着ければ、場合によっては悲劇を引き起こす可能性も否めない。
 この反転宝珠は、「正位置でつければ愛情は豊かになるが、逆位置で取り付ければ、愛情は憎悪へと転じる」という性質を持っている。
 当然、ダークアクセルはこの宝具を逆の位置に取りつけた。キュアピーチの中にあった、「愛情」は、その瞬間より、「憎悪」になったのだ。

 これまで愛していた物──それは、もう桃園ラブにとっては、世界中の全てだろう──が急に、全く逆転して、「憎悪」へと変じたのである。
 花も、木も、人も、世界も、何もかもがラブの中に不快を齎す。
 それは、即ち──。

「ピーチ……? ────」

 後ろから呼びかけるキュアベリーが、底知れぬ憎悪の対象となる事であり、これまでの仲間全てに対する憎しみが湧きあがるという事であった。
 キュアピーチは、キュアベリーの方を向く事になった。その顔を見るなり、その声を聞くなり、その脳裏に、脂ぎった怒りを覚え、拳はすぐに硬く握られる。

「人の名前を……気安く呼ぶな!」
「!」

 キュアピーチと目が合い、その言葉が聞こえた瞬間、キュアベリーの背筋が凍る。
 そこには、長き苦難と幸福とを分かち合った幼馴染が、いまだかつて見せた事のない冷たい目と言葉があったのだ。たとえ、二人の間に喧嘩が起きても、桃園ラブはこんな目はしなかったし、こんな言葉を口にする事もなかった。
 キュアベリーは、その姿を見て、蛇に睨まれた蛙の心境を、生まれて初めて故事の通りに理解した。
 次の瞬間、キュアピーチが自分を襲いに来るのが手に取るようにわかった。しかし、キュアベリーは動く事はおろか、声を出す事もできなかった。

「──はぁっ!!」

 キュアベリーの予想通りであった。
 しかし、キュアベリーは、落下したキュアブロッサムを抱えていて、正しい反応──即ち、キュアピーチの打点に己の両腕で防御壁を作る事──はできない。
 またもや自分の身に命の危険が迫っている。まるで図ったかのようである。

「……やめろっ、ラブちゃん!」

 体の痛みと疲労を押し殺して起き上がったシャンゼリオンが、キュアピーチとキュアベリーの間を阻む。
 キュアベリーの視界から、あのキュアピーチの姿が覆われて消えた。それが、彼女に一抹の安心を与え、体を動かす気力を与えたが、結果的には現状は変わらない。
 キュアピーチは、憎悪に蝕まれたのだ。

「邪魔だっ!!」

 シャンゼリオンの左肩のクリスタルにキュアピーチの拳が幾つも映り、大きくなると、やがて全て交わった。肩部クリスタルはその衝撃に、陶器のように儚く割れた。

「いてっ!」

 キュアピーチの拳もまた、相当の痛みが伝った事だろう。彼女も、今まではそれだけの勢いを乗せて人を殴った事はなかったはずだ。今の彼女は、たとえ拳の骨が砕け、血に染まったとしても、おそらくは憎しみに任せてシャンゼリオンやキュアベリーを殴るのをやめない。
 それだけの抑制できない憎悪があったのだ。その分量は、かつて愛情だった物と同じだけである。
 何が何でも守りたい、と感じてきた物は、全て、何が何でも破壊したい物、消し去りたい物になったのである。おそらくは、目の前に存在するだけで耐え難い物へと……。

「くそっ……まさか、これは……反転宝珠」

 シャンゼリオンは、即座に理解した。
 なるほど。暁もあの説明書を読んでいる。その道具を知っているのは、暁と、零と、ラブと、石堀だけだ。そして、唯一、理性を持ってこの場にいるのは暁だけである。
 石堀の荷物の中では、鉄砲玉を拝借するのが精一杯であった。暁もこの場に存在する大量の武器全てを暗記していたわけではないし、全ての荷物を奪うほどの時間と余裕はなかった。
 それに、この反転宝珠自体は対策の難しい武器ではないのである。
 暁──シャンゼリオンは、すぐさまその胸に手を伸ばす。……が。

294崩壊─ゲームオーバー─(4) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 18:06:14 ID:ezDSmj8g0

「触れるなっ!!」

 キュアピーチの腕は、シャンゼリオンの指先を再び殴打する。
 どっしりと重い衝撃は、シャンゼリオンの指先を逆側から押し込み、指の骨を折るような痛みを与えた。

「くっ──いってええ!!」

 右手の指を抑えて狼狽するシャンゼリオン。
 そこに、更に次なるキュアピーチの拳が叩きつけられる。胸を、腹を、顔を……打撃は、躊躇をその拳に包み込んでいなかった。シャンゼリオンが反撃できるだけの体制を整えられないまま──。キュアピーチから、止まらない連撃。
 暁は、自分が女子中学生を思った以上に嘗めていたらしい事を悟る。
 反撃もできないままに凄まじい速度で打力の雨を甘んじて受け続ける事は悔しいが、もはや反射的な防御体制が反撃の機会を消し潰している。
 全身のクリスタルに幾多の罅が生まれる。それは、暁の生身では血が噴き出すのと同義だ。
 自ずと意識が遠のきかけている。

「ピーチ!」

 そのキュアピーチの快進撃を止めようとするのは、幼馴染であるキュアベリーの仕事であった。抱きかかえていたキュアブロッサムをもう少し安全な草木の影に置いて、キュアピーチへと距離を縮める。
 残念だが、打開策が見つかるまではキュアピーチの体を傷つける必要があるようだ。目の前でキュアピーチの犠牲になろうとしている人がいる。
 勿論、幼少期から知る友人を仇にしなければならない現状は、到底割り切れる物ではない。内心では噛み殺しきれない感情もある。

 しかし──

「目を覚ましなさい!」

 キュアベリーの拳はキュアピーチの赤頬を狙う。
 そこが、今最もキュアベリーが崩したい一点であった。
 顔が命であるモデルの身としては、こうして女性の顔面を殴打しようとするのは、本来何かの躊躇が生まれるだろう。しかし、おそらくは、キュアベリーは今回ばかりは、ほとんど無意識に顔を狙っていた。躊躇は生まれなかった。
 ラブでありながら、ラブの人となりと相反するその瞳と唇が、憎かったのだ。

 だが、そんなキュアベリーの怒りを飲み込む事なく、キュアピーチはシャンゼリオンへの攻撃の手を止め、その一撃が激突する直前に腕をキュアベリーに向けた。

 ──次の瞬間であった。

 キュアベリーの拳に手ごたえが残るとともに、頬に衝撃を受けたのは。
 クロスカウンターパンチ。
 キュアピーチは、避ける事さえも忘れて、敵への憎しみに力を傾けたのである。

「──!?」

 キュアベリーにとっては、味わった事のない衝撃であった。
 十四年間、物心ついた時からの友人でありながら、その少女の拳を頬に受けた事はない。
 それがただの一喝ならば、諦めもついたという物だったが、今キュアベリーの奥歯を暖かくしているのは、憎悪に凍った拳である。柔らかなる頬を隔てて拳骨と奥歯とがぶつかり合う感触であった。
 自ずとキュアベリーの目頭も熱くなった。
 この瞬間、何かが壊れた気がした。──それはもはや、反射的に漏れていく物であった。涙と嗚咽が止まらなくなるのは、おそらくは拳の痛みのせいじゃない。

「美希ちゃん!」

 ショックに呆然とするキュアベリーの元に、孤門が駆けた。
 生身を晒してそこまで駆けだす事は、当然ながら危険行為である。しかし、咄嗟であったのでそれもまた仕方がない。
 孤門はキュアベリーの肩を抱くと、彼女の均衡を保たせるのに力を貸した。

「石堀さん……いや、アンノウンハンド! ラブちゃんに何をした!? まさか、溝呂木やリコにやったみたいに──」
「クックックッ……残念、ハズレだ。別に恐怖や絶望でファウストやメフィストにしたわけじゃない。逆に、その娘の愛情って奴を利用させてもらったのさ」
「愛情を……!?」

295崩壊─ゲームオーバー─(4) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 18:06:35 ID:ezDSmj8g0

 言うなり、孤門のところにも、キュアピーチが駆けだしてきた。
 詳しい事情を聞くよりも前に、孤門たちのところに危機が迫った。

「貴様ァッ……!!」

 頬が赤く腫れている。顔面を傷物にして、受けた左頬の上では涙が流れている。おそらく、痛みの分だけ自然と目に溜まったのだろう。
 どうやらキュアピーチの方は回復してしまったようだが、キュアベリーは身体的ダメージではなく、精神的ショックで戦意を喪失している。
 孤門がここから離れるわけにもいかない。
 キュアピーチの攻撃を生身で受ければ、まず孤門も危険な状態になるだろう──。キュアベリーの体を庇うように、孤門はその身を抱いた。次の瞬間に背中にぶつけられるのは、キュアピーチの殴打かもしれない。
 目を瞑り、衝撃に備える。あるいは、その衝撃が来た瞬間が死かもしれない。

 数秒。──キュアピーチの攻撃が押し寄せてもおかしくない時間が経過する。
 しかし、孤門に向けられたのは一人の少女の言葉であった。

「──おい、リーダー。大丈夫だぜ」

 そんな言葉が背中に聞こえて、孤門は後ろを振り向く。
 孤門の前にある一人の魔法少女が立っていた。先ほど、ダークアクセルの一撃を前に倒れたはずの佐倉杏子であった。孤門とキュアベリーにはその背面しか見えなかったが、実際は額が赤色で覆い尽くされるほどに、頭部に受けたダメージが大きい。魔法少女であった事が、早く目を覚ませた理由だろう。
 通常ならどれほど気を失っていても全くおかしくはないほどである。

「杏子ちゃん!」
「美希を連れてちょっと退がってろ。ラブの一番の狙いは美希だ!」

 杏子の一言に頷いて、孤門はキュアベリーを運ぶ。
 彼女が今受けたショックの大きさは、孤門と石堀の関係が崩壊した事の比ではないだろう。
 それを聞くと、杏子は少し安心した様子だった。そして、目の前の敵の方を見つめた。

「ったく、……あんたにゃ似合わないからやめろよな。女子中学生は女子中学生らしい口の利き方ってモンがあるだろ」

 悪態をつくように言いながら、槍を片手で弄んだ。バトンのように回し、キュアピーチと孤門たちとの間に壁を作り上げる。まるで円形の巨大な盾を構えているようだった。
 槍は先ほど全て切り落とされたが、これらは魔法で自在に出現させる事ができる代物であった。

「ゴタゴタ抜かすな!」

 その盾に向けてキュアピーチの拳が激突する。
 槍の回転が自然に止まる。キュアピーチの拳が叩きつけたのは、丁度槍の柄の部分であった。回転に巻き込まれないように、そこを見計らったのだろう。
 杏子も、その槍一本を立派な盾として成立させようと、己が槍を握る手に力を込めた。

「はっはっはっはっはっ!! 俺は悪役も似合っていると思うぜ、“桃園さん”」

 ダークアクセルの高笑いが響いた。朗らかな言葉に見えるが、この惨事を楽しむ悪魔の笑いである。誰もその声に共感する事はできなかった。
 ただ、全員が冷やかに彼の方を見た。

「石堀光彦、お前もだッッ!!」

 それから、キュアピーチは、ダークアクセルにも、物凄い形相でそう叫んだ。
 喉が枯れんばかりの怒号。声がこの数回の発声で掠れ始めている。──これが元の愛情が転換した分だというのならば、相当であろう。
 ダークアクセルにとっては、意外な言葉だったので、少し呆然としているようだった。
 しかし、またもその意味を理解して、すぐにその言葉を笑いの種に変えてしまう。

「────ハッハッハッハッハッハッハッ!!!!!! こいつは更に傑作だ。この娘の愛情っていう奴は、敵であるこの俺にも向いていたらしい。恨まれる事を心苦しく思うよ」

 そこにいる多くの人間の神経を逆なでするような意味があったのは間違いないであろう。
 空中で待機していた者が怒りを噛み殺しきれなかった。

296崩壊─ゲームオーバー─(4) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 18:06:58 ID:ezDSmj8g0

「……くっ」

 レイジングハート・エクセリオンである。
 高町なのはの姿に変身した彼女は、その黄金の砲身をダークアクセルに傾けている。
 空中で待機し、攻撃のタイミングを計っていたが、それを計算して飛び出るよりも早く、体が動いてしまう瞬間が来てしまった。

「ディバイン……────バスター!!!!」

 ダークアクセルが宙に目をやった時には、轟音と共に桃色の砲火がその身を包んでいた。
 炎のように熱く、雷のように痺れる一撃──。
 しかし、その一撃を放った者もまた、石堀光彦だった物に対してその砲火を浴びせる事に、耐え難い心苦しさを覚えながら──。

 辛うじて、そのレイジングハートの勇気ある行動は、おそらくここにいる全員の怒りが爆発する引き金になったであろう。
 倒れていたジョーカーとエターナルが雄叫びをあげながら立ち上がったのはほとんど同時だった。







 仮面ライダースーパー1はドウコクの振るう剣を紙一重で躱し続けていた。
 精神統一がまた、拳法家としての彼の特技の一つである。玄海老師がそうであったように、このスーパー1もまた刃の剣速や角度から、咄嗟にそのタイミングを読む事ができる。
 ただ、それはやはり相応の集中力と体力を必要とする物であり、相手によってはそんなやり方よりも攻撃を受けてしまった方が都合の良い事があった。今の相手──血祭ドウコクは全く違う。一撃が命取りになりうる相手である。
 この時行うべくは、自分の身を守りながら時間を稼ぐ事であった。
 ともかく今は、攻撃を行い、自らをリスクに晒す必要はない。この時までスーパー1は一撃も相手に拳を振るっていなかった。

「ちょこまかとッ!」

 ドウコクが業を煮やして、太い声で叫んだ。
 相手の攻撃のタイミングも怒りによって、読みづらくなっている。これまでの刃は、もう少し的確に殺しに来ていた分読みやすいが、今は致命傷にさえならない箇所を狙っているようだ。
 何にせよ、それはそれで対話の機会でもあった。
 相手の口が開いたのならば、こちらも口を開いて答えるのみだ。

「ドウコク! この戦いが全くの無駄だと、何故わからない!」
「……チッ! うるせえっ!!」

 逆に相手を刺激したのか、ドウコクは強く刃を振るう。頭をかち割ろうと、縦一文字に狙っていた。
 しかし、パワーハンドにチェンジされたスーパー1の腕が盾となる。──おそらく、左目を失ったドウコクには、その姿が見えなかったのだろう、剣の行く先を固い何かに阻まれて一瞬動揺したようだった。
 名刀の刃をも通さないのがこのパワーハンドという名の鋼の装甲であった。金属と金属が互いの行く道を塞ぎあい、鈍い音と僅かな振動だけがそこに残った。

「お前は外道衆の総大将だ! その誇りがあるはずだろう!」

 刃が無くなれば言論をぶつける。

「……誇りを持てるのも命あってこそだろォがッ!!」
「ならば、アンノウンハンド、石堀光彦を共に討ち、共に帰ればいい!」

 ドウコクの眉が動いたように感じた。
 これはドウコク自身が捨てた選択肢の一つだ。しかし、この選択肢が不可能だと考えたから、代替として参加者を殺害して生存するという行動方針を選んだのである。
 スーパー1の言葉は魅力的だが、残念ながらスーパー1にもドウコクにも……あそこにいる全員にも、アンノウンハンド打倒に見合う実力はないのである。そう計算された事は、頭の良い沖一也にはわからないはずもない。
 合理的なのは、残り人数を十名まで減らすというルールに則る事である。

「それができねえから今てめえを殺ろうとしているんだろ……!!」
「……目の前の敵に怯え、刃を仲間に向けるような者に生き続ける資格はない!」

297崩壊─ゲームオーバー─(4) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 18:07:19 ID:ezDSmj8g0

 その時、スーパー1のパワーハンドは、今もドウコクの腕力が支配しているはずの昇龍抜山刀を揺るがした。思わずドウコクも肝を冷やした。
 ──スーパー1の力がドウコクにも勝っているというのだろうか。
 ドウコクは、それを何の気なしに食い止めようとしたが、最早ドウコクの力ではスーパー1の力の上を行く事はできなかった。

「あの程度の困難に立ち向かっていく魂がなければ、貴様ら外道衆は間もなく、自分たちを超える存在に蹂躙され、やがて滅びゆくだろう……!!」

 すぐにスーパー1の力は全ての力をパワーハンドに集中させる。人工筋肉を膨らませ、指先に送る力も強くなっていく。やがて、それがピークに達する前、昇龍抜山刀を弾き返した。
 ドウコクも目を疑った。
 金属が飛びあがる虚しい音が空に響いた。

 そこから少しの無音の中で、スーパー1はドウコクにこんな言葉を残す。

「外道衆だけではない。お前たちの世界の人間たちは、これまで幾つもの困難に出会ってきた。その度に、人間は知恵と力と勇気で立ち向かっていったんだ……!」

 刀が地に落ち、その言葉がドウコクの耳に入ったその時、ドウコクは目の前の敵に力負けしたのである。しかし、ドウコク自身、それを敗北とは捉えず、ただ驚愕していた。
 今、ドウコクは決して手を抜いてはいなかった。普段通り、自然に出し切れる力を尽くしたのみである。腕も刃も、確実にスーパー1を殺そうと突き動かしていたはずだった。
 それが弾かれた。

「……チッ」

 ドウコクは振り向き、ゴミのように地に転がる己の愛刀を見つめた。
 あの刀には偽りないドウコクの実力を込めたはずである。
 スーパー1はその力を上回ったのだ。
 それをドウコクは悟り、“敗北”は認めず、あくまでこの時、“納得”を示した。
 スーパー1の言葉に。彼の魂に。

「それが、てめぇら人間が俺たちの支配を逃れ、何千年も生き続けた理由だってのか……!」

 無論、この時のスーパー1の実力にそれを悟ったのではなかった。
 これまでのシンケンジャーとの戦いや、今日一日の姫矢や一也たちの姿が、ドウコクにある違和感を持たせていたのだろう。彼ら人間は、ドウコクたち以上に命を大事にしない。しかし、何千年を彼らは生き続け、今も数を増やし続けている。
 人間の世界を外道衆の世界に変える事は、いくら時間をかけても叶わなかった。
 世界の端っこにいる数百人、数千人を殺しつくす事が出来ても、世界全土を征服する事は、これまでできなかったのである。人間たちは、自分たちと釣り合わぬ実力の外道衆に何度も立ち向かい続けた。

「人類を嘗めるな、ドウコク。お前に助言するわけではないが、あの程度の敵は俺たち人間が何度も立ち向かい、倒してきた相手だ」
「あの程度の相手に敵わねえなら俺たちに人間を滅ぼすのは不可能って事を言いてえのか?」
「その通りだ」

 スーパー1は、ドウコクが思う以上にあっさりとそう言った。
 彼らの言う事は、妙に説得力があった。

「……」

 ドウコクは長年異世界で眠っていたので、その全てを知っているわけではないが、外道衆よりも以前に幾つもの悪の組織や帝国が存在し、シンケンジャーの他にもあらゆる五色の戦士が活躍していたのである。
 炎神戦隊ゴーオンジャー、護星戦隊ゴセイジャー、仮面ライダークウガ、仮面ライダーディケイド、仮面ライダーディエンド──それらは、ドウコクの仲間が接触したとされる、シンケンジャー以外の強敵である。

「チッ」

 それから、目の前にいるスーパー1だ。並のアヤカシでは返り討ちに遭うであろう相手だと確かに認識している。モヂカラを使う様子もなく、これだけやってのけている彼である。
 それだけの相手が、シンケンジャーたちのいる人間界にも存在するというのだろうか──。
 存在する確率は、極めて高いように思われた。それらを認めたうえで人間界を三途の川で溢れさせるのにどれだけ時間がかかるか。

298崩壊─ゲームオーバー─(4) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 18:07:38 ID:ezDSmj8g0

「……確かにな」

 ドウコクは、妥協せざるを得なかった。
 現データから考えて、生還後も人間界の邪魔者──脅威は去らない。
 しかし、石堀までも破るような脅威が待っているというのなら、ここで退いてしまうわけにはいかない。ここでの敗走は問題の先送りにしかならないようである。

 どうやら、ドウコク自身の「生きて元の世界に帰る」という目的も、一歩先を欠かした考えであったらしい。
 石堀光彦、それから脂目マンプク。──彼らをひとまずは倒しておかねば、元の世界に帰る価値さえないという。

「……仕方がねえ。確かに、てめえらのしぶとさは……俺たち以上だ」
「しぶとさ、か。その尺度ならば、お前たち悪の組織や侵略者も十分に俺たちと渡り合えるさ」

 細やかな皮肉を込めてそう言うスーパー1であった。
 彼は、己の世界の幾つもの悪の組織の存在が全て繋がっていた事を忘れない。
 いくら潰しても、新たに何度も立て直されるしぶとさを持つのが悪の組織という物だ。

 その側面では、ある意味、「敵」を評価しているのだ。それが曲がった物であれ、命や意思は全て、相応のしぶとさを持っているのかもしれないと、スーパー1は思っていたのかもしれない。
 ドウコクたちも人間同様、踏ん張りの有効な存在であると考えられる。

「──いつかは裏切るつもりだったが、まさかこの俺がてめえらの船に最後まで乗りかかる事になるとはな」

 これにて、ドウコクが完全に、命と誇りの重量を逆転させたようだ。
 計算上、ダークアクセルに勝利できる見込みはゼロに等しかったが、その計算も最早、今のドウコクは念頭に置くべきではないらしい。

 これは一つの壁だ。
 到底乗り越えられる高さではないが、それを上るのを躊躇すれば、別のもっと高い壁がドウコクの周囲を囲んでしまう。その事実に気づいた時、命を賭して駒を進める選択肢を選ぶしかなくなっていた。

 己の刃に目をやる。
 あれだけやりあって、大きな刃こぼれはない。まだ快調に殺し合える。

「ドウコク、これだけは忘れないでくれ。帰った後は敵だとしても、今の俺たちは仲間だ」

 ドウコクは頷きもせず、スーパー1の前を歩いた。
 まあ、この怪人には立場上、答える事はできまいと思う。──スーパー1は、彼の返答が拒否でないならば、肯定と考えるつもりだ。







 涼邑零は、外道シンケンレッドが振るうシンケンマルを、己の魔戒剣を盾に防いでいた。常人が聞いたら耳を塞ぐようなこの金属音も、零には最早慣れ親しんだ音であった。
 剣士だけがそれを理解できる。この刃の音が、鍛錬の最中で心地よい子守唄になるような……そんな人生を送って来たのだから。
 轟音や金属音には、最早ここで生き残っている人間全てが慣れた頃合いかもしれないが、それ以上に、彼らはそれを受容していた。
 おそらく、目の前の外道シンケンレッドもそれを五感で感じている事だろう。
 目が敵を映し、耳に剣音が響き、肌に剣の重さが圧し掛かり、血の匂いを覚え、緊迫の息と唾液を味わい続ける。

「……本当、あんたもよくやるよ」

 零は双剣を逆手で構えながら、肩を上下させていた。
 目の前の敵への警戒心がまだ解けない。この眼前の敵は厳密に言えば、剣だけを武器に使う敵ではないのがわかっているからだ。先ほど見たように、彼には猛牛バズーカという飛び道具がある。あれに対して警戒心が働かないわけがない。
 あれを見切るか、受けるかすれば、あとは零自身が何とか躱しきれる範囲内の攻撃しか仕掛けてこないようだ。
 零は、生身でも辛うじてドウコクほどの相手を躱し、いなし、防ぐくらいは出来る戦士だ。生き延びる魔戒騎士の最低条件であるといえよう。

299崩壊─ゲームオーバー─(4) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 18:07:54 ID:ezDSmj8g0

「……」

 外道シンケンレッドの体力は無尽蔵なのかもしれない。
 息切れらしい音声がマスク越しに耳に入る事もなかった。

「口数が少ないな、人見知りか? ……まるでどこかの誰かだなッ!」
『そいつは鋼牙の事か? あいつはもうちょっとマシだぜ、まだ可愛げがある』
「わかってるよ!」

 一方、軽口を飛ばしながらも、零の集中力も研ぎ澄まされている。
 零の今の言葉にも隙がない事を外道シンケンレッドは本能的に理解していた。
 接近するどころか、間合いを取ったようである。零の実力から考えても、考えがありそうな事を見越しているだろう。

「……なあ、あんたの正体は、志葉丈瑠とかいう侍だったよな」

 外道は答えない。
 ただ、じりじりと相手を見つめているだけだった。
 しかし、そうして零を見つめるだけの視覚が存在しているのが、零が言葉をかけた理由であった。
 騎士と侍。いずれも、刀剣を操り、魔を葬って来た存在である。──そこで発達された五感は、その人間の全てに染みついている。たとえ、魂がないとしてもである。
 眼前の相手が物言わぬロボットであろうとも、零は何かを訴えたかもしれない。

「みんながくれた情報の通りなら、かつては、外道衆と戦い、人を守った侍だったはずだ! そんなあんたが、何故、闇に堕ちた……!」

 強すぎる力を渇望したのか。
 愛する者を守るためだったのか。
 愛する者の仇を討つためだったのか。
 考えられる限りで三つだったが、第四、第五、第六の選択肢がいくらでもあるだろう。
 目の前の侍の答えはなかった。

「……」

 強いて言うなら、零の考えたそのいずれでもなかった。
 何かを斬り続けた者の本能か、それとも、影武者という己の宿命からの逃避か。それは結局のところ、わからない。
 志葉丈瑠は、葛藤の果てに同行者を裏切った。
 その時から、彼は侍ではなく、外道になったのである。ゆえに、彼は三途の川に生ける外道衆の一人に相成った。──本来の意思は志葉丈瑠の体ごと消滅したが、ここにもう一人の影が誕生したのである。
 影の影、はぐれ外道の中のはぐれ外道──外道シンケンレッドとはそういう存在だった。

『無駄だ、零。こいつにもう魂はない。あの鎧と同じだ』
「──違う。こいつは──。お前は、悲劇を断ち切る侍じゃないのか!?」

 ザルバの制止を振り切って、零が問う。

 ────否。

 外道シンケンレッドは、その瞬間に、その一文字が脳裏を掠めるのを感じた。
 それと同時に、自ずと抜刀した。シンケンマルを片手で掴み、零に向けてその身を駆けた。
 疾風怒涛のスピードで、外道シンケンレッドの抜いた刀は零に迫る。ディスクが装填され、回転する。

「──烈火大斬刀!」

 今の己は、血祭ドウコクに付き従う者として存在する。ドウコクの命令下にある限り、外道シンケンレッドは零を目標にするのをやめない。
 それは、ほとんど機械的に計算された解答だった。

「ハァッ!」

 零が高く飛びあがり、烈火大斬刀が凪ぐ真上でそれを躱した。
 烈火大斬刀から振るわれる空気圧が零の衣服をふわりと膨らませる。僅かなジャンプで十分だった。相手の攻撃が穿つギリギリを予測している。
 そこから、また、烈火大斬刀の上に着地する。零はそこから外道シンケンレッドに向けて駆けだす。
 外道シンケンレッドが刀を激しく傾けると、零はバランスを崩して地に落ちる。
 しかし、そこでも上手に受け身を取って、零は体制を建て直し、刀を構えて外道シンケンレッドに肉薄した。

300崩壊─ゲームオーバー─(4) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 18:08:12 ID:ezDSmj8g0

「お前が本当に侍だったのなら、今もその魂が何処かに眠っているはずだ!」

 ────否。

「たとえ闇に堕ちたとしても、再び光に返り咲く権利はある。これから奪われるかもしれない命の為にも、共に戦ってくれ!」

 ────否。

「……シンケンレッド、志葉丈瑠!!」

 ────否!

 聴覚が捉えた雑音の意味を理解し、その言葉への反応が脳裏を掠めていく。
 それは、志葉丈瑠としての意思の残滓か、それとも、外道シンケンレッド自身の言葉なのかはわからない。
 しかし、確かに今、彼の中に、強い拒否反応が示されていた。

「猛牛バズーカ!!」

 零の距離は、今、殆ど息もかかるような場所である。
 そこで、外道シンケンレッドはどこからともなくその巨大な砲身を取りだした。
 雑音を送り込む本体を破壊する為に──。
 猛牛バズーカの口が、零を向いている。

「くそっ!」

 エネルギーを充填する僅かな時間に、零は少し後方に退く。
 あの引き金を引かれた瞬間、もしかすれば零の体に衝撃が走るかもしれない。
 外道シンケンレッドは、あのバズーカを片手で拳銃のように撃つ事ができる手合いだ。
 タイミングを見なければならない。

 零の中に緊張が走った。

「ハァッ!!」

 バズーカがモヂカラの弾丸を放射する。





301崩壊─ゲームオーバー─(5) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 18:08:39 ID:ezDSmj8g0



 ディバインバスターの爆風の中から、ダークアクセルが無傷で顔を覗かせる所までは、全員読んでいた。感情的になりつつも、心のどこかでは相手にどこか余裕を持てない所があるのだった。
 飛びかかるには躊躇が要る──。
 ダークアクセルの一撃の手ごたえを忘れていない。あの時の恐怖も、脳裏を掠めた絶望の未来も、確かに今再現されている。
 だが、選択肢はない。逃げかえる事はできない。立ち上がったからには、戦う。

「──いくぞ!」

 最初に飛びかかるのは、エターナルであった。
 鉄砲玉の役割を、常に他の相手に任せてしまう事をジョーカーは申し訳なく思う。
 しかし、彼らが前に出てくれる分、ジョーカーは後ろから補助で彼らを守る事ができる。

──Eternal Maximum Drive!!──

 青白い螺旋の輝きとともに、エターナルの右足がアクセルに激突する。
 本来ならば、T2以外のガイアメモリを全停止させる能力がある。それに準じる設定ならば相手はアクセルの装着を解除して石堀を丸腰にする事ができただろう。
 しかし、ここに来て厄介なのは「制限」の働きである。例によって、この時も、ダブルやアクセルのガイアメモリが停止される事はなかった。アクセルが照井竜、エターナルが大道克己の所有物であった頃ならば心強かったかもしれないが、アクセルが敵で、エターナルが味方という状況に反転してからは、この能力を呪いたくなる。

「ハァッ!!」

──Metal Maximum Drive!!──

 右腕を硬質化させたエターナルは、ダークアクセルの胸を何度も殴る。
 鈍い音が何度も響くが、手ごたえなしである。
 アクセルにどれだけ適合したとしても、アクセル本来の能力ではここまでの硬質化は望めないだろう。これは通常ではありえない事であった。
 中の石堀光彦こそが、人間ではないのだ。

「獅子咆哮弾、大接噴射ッッッ!!!!」

 殴った腕から、一気にエネルギーを放出する。
 良牙にも強い負荷が掛かった事だろう。獅子咆哮弾を腕と胸板が接触した状態で放つという荒業であった。だが、その荒業は成功したらしく、獅子咆哮弾の負のエネルギーが、ダークアクセルを飲み込んでいった。
 一瞬で、体を覆い尽くすそのエネルギーである。

「絶望は俺の力だ……俺に餌をくれるのか、音痴の響良牙くん」
「フン……そんなつもりはねえ。そして、俺は音痴じゃねえ……方向音痴だ!」

 膨大なエネルギーは、ダークアクセルの体にダメージを与えるのではなく、そのまま天空に向けて舞い上がった。ダークアクセルの体へと攻撃を向けたのはフェイクだったのだ。
 ダークアクセルは、思わず大量のマイナスエネルギーが舞う空を見上げた。
 そこには、まるで巨竜のようにこちらを見下ろしている気の柱がある。

「……なるほど、こちらが狙いか」

 そして──。

「……そう、完成型だッッ!!!」

 完成型・獅子咆哮弾である。
 天空に舞い上がった重い気は、一本の柱となった。
 そこに蓄積されたエネルギーが、一気に落下せしめるのがこの獅子咆哮弾の完成型だ。
 ダークアクセルは憮然とする。それが、自分にとってどんな一撃か確かめてみる価値があると思ったのだろう。

302崩壊─ゲームオーバー─(5) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 18:09:03 ID:ezDSmj8g0

「────」

 エターナルこと良牙は、それを遂行する為、溜めていた気を落とす。
 本来ならば、それと同時に、全身から怒りや憎悪を全て除きとるのだ。ここで気を抜くのに失敗すれば、自分さえも巻き添えにしかねないのがこの獅子咆哮弾の完成型である。
 ──とはいえ、おそらくはこの目の前の敵への憎しみは除外できない。

(あかねさん……)

 早乙女乱馬は、ダグバとの戦いで、その点において大失敗を犯したのであった。己の感情をコントロールしきれずに自爆するのはやむを得ない事かもしれない。彼はまだ少年だった。
 そして、良牙もまた少年であった。良牙は、あかねを死に追いやった目の前の敵を相手に、──しかもこの距離で──気を抜く事など不可能であった。
 己の感情がそう簡単に意の物にできない矛盾を理解している。

 ────しかし。

 今の状況には、乱馬と良牙とで決定的な違いがある。
 それは、あらゆる攻撃や事象を全て無効化できる「エターナルローブ」の有無である。乱馬にはこれが無く、また生身であった。良牙のアドバンテージとなるのは、この変身能力の活用であった。
 エターナルの装備の一つ一つを活用すれば、それが良牙自身の感情面での不覚を補える。
 エターナルは、己の真上から降りくる負の感情のスコールを、未然に防ぐべく、その全身にエターナルローブを纏った。

「────」

 そして、────気を、落とす。
 この場に出ている全ての気は、響良牙から発された物であり、彼の意のままである。

「喰らえッッ!!!!」

 振りくる獅子咆哮弾の中で、一瞬だけの強気を甦らせ、そう叫んだ。
 空まで登っていた獅子咆哮弾の気柱が、一斉に地上目掛けて落ちていった。塞き止めた滝の水が一斉に降りかかると言えばわかりやすいだろうか──そんな音がした。
 おそらく、この一撃と同時にエターナルは、持っている殆どの気力を使い果たし、気の抜けた男になるだろう。
 だが、ここで確実に一打を与える。この状況は、いうなれば百対ゼロの逆境に立たされているようなものであるが、それでも塁を踏むのに全力を尽くすくらいでなければもはや勝利はありえないのだ。

「くっ」

 目の前のダークアクセルも、余裕のない様子であった。

「この量なら飲み込みきれねえだろ……そんくらい、てめえは誰かに恨まれるような事をしてるんだよッ!!」

 その言葉とともに、濁流が完全にダークアクセルを捕えた。
 気は一斉に地面へと叩きこまれ、ダークアクセルとエターナルに圧し掛かり、凄まじい轟音とともに地面を抉った。その振動は、その数百メートル四方を全て大きく揺るがすほどであった。
 エターナルが、殆ど万全といっていいほどの微弱なダメージであった事が幸いしたのだろう。この威力の完成型獅子咆哮弾を放てたのは、最後に回復をしてくれた美樹さやかのおかげでもあった。

「こいつでまず一撃だ!」

 エターナルは、エターナルローブの恩恵もあり、地に両足をつけたままそれを受ける。ノーダメージである。これほど頑丈な傘はこの世にあるまい。
 一方のダークアクセルは、その攻撃には平伏し、地面に倒れこんでいた。その姿だけ見て思わず喜びさえ覚えたが、これが決定的とはいかない。
 ここに来て初めて手ごたえを感じたが、それだけである。始まりに過ぎない。

 それに……致命傷とも行かないようだ。

 すぐにダークアクセルは、重い腰を上げるようにして、エターナルの方を向いた。
 ダークアクセルは、嗤った。

303崩壊─ゲームオーバー─(5) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 18:09:28 ID:ezDSmj8g0







 孤門は木陰から、杏子たちの戦いを覗いていた。
 波動が重力に叩き落とされるのを間近で見ても、杏子は構わずにキュアピーチの攻撃をいなし続けている。よく意に介さずいられる物だと思う。
 敵方の拳がこちらに向かってくる瞬間に、槍を突きだし、拳を真横から叩く。それによってキュアピーチの腕が固定され、拳が己の体に到達するのを防ぐ。
 安易にその体を串刺すわけにもいかず、満足なダメージも与えられないまま、防戦一方、自分の体を守らなければならないというのだから、殆ど泥試合である。
 両者の力は拮抗しているか、或はキュアピーチが勝っているという所だろう。時間がかかれば危険である。こちらから支援すべきだろうか。
 孤門は、パペティアーメモリとアイスエイジメモリを見つめた。いざという時はこれを使うしかなさそうである。

「……孤門さん」

 戦意を喪失していたキュアベリーが、ふと孤門に声をかけた。
 いつの間にやら、誰かに声をかけるだけの気力を取り戻していたらしい。
 しかし、それも空元気かもしれないと孤門は思った。
 キュアベリーの顔には、仄かな絶望の色が灯っていた。慰めの言葉をどうかければいいのか、孤門にはわからない。

 そんな時、誰かが二人に声をかけた。

「ねえ、二人とも……聞いて。まだ、こちらにも勝機はあるわ」

 そう言って横から現れたのは、巴マミであった。
 その隣には花咲つぼみがいる。マミが介抱して意識を取り戻させたのだろう。つぼみの頭部の出血を止める為に、早速、先ほど良牙から預かったバンダナが額を一周している。つぼみの性格を考えると、折角の貰い物を血に汚してしまう事を申し訳なく思っているだろうか。しかし、その場にある物で最も手頃に頭の出血を止められるのはそれだけだった。
 マミは、続けた。

「……私や美樹さんを助けた時のように、今度はキュアピーチに声を届かせるのよ。彼女になら絶対届くはずだわ」
「──それには、私たちがプリキュアの力を尽くす事が必要です」

 マミ自身がそれを実感している。
 もはや、それは立派な作戦の一貫であった。人間を闇に引きずり落とす力と同様、人間を闇から掬い上げる力もまた何処かに存在している。それがプリキュアの力であり、その能力を注ぐ事に全力を尽くすならば、不可能ではないはずだ。
 そこには、本気で誰かを救いたいという想いが必要になる。

「それなら、石堀隊員は……」
「──それは」

 つぼみは口を閉ざした。
 同様に石堀光彦という存在を浄化するのは、おそらく現状不可能である。砂漠の使徒の幹部たちの数倍の邪悪なエネルギーを持っているのが彼だ。

「……できるかわかりません。ただ、今の私たちの力では、きっと……」

 彼女は正直に述べた。
 孤門が同僚を想う気持ちにもまた共感はできるが、あそこにあったのは、おそらく誰にも手を施す事のできない強烈な憎悪と本能である。つぼみたち全員がどれだけ力を尽くせば、今の石堀を救う事ができるだろうか。

「……そうか。わかった。それなら、みんな……ラブちゃんをよろしく」

 そう気高に言う孤門を、全員が少し気の毒そうに見つめた。
 孤門も石堀と共に過ごした人間である。可能性があるならば諦めたくはなかったが、そうも言い続けられないのだ。
 キュアベリーもまた不安そうだった。

「……本当に、ラブを救えるかしら」
「それは大丈夫だ!」

304崩壊─ゲームオーバー─(5) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 18:09:57 ID:ezDSmj8g0

 そう言って、ひょっこりそこに現れたのはシャンゼリオンである。
 先ほど、キュアピーチに攻撃を受けて、こちらまで避けてきたのだろう。
 誰も気づかぬうちにこうして姑息的な逃げ方をするあたり、やはり彼の生命力は半端な物ではなさそうである。
 しかし、彼の持っている情報は非常に有効な物である。

「今のラブちゃんを操っているのは、あの胸についてる反転宝珠だ。あれが原因で、愛情が憎悪に変わってしまったんだ。あれを奪うか、もしくは逆につければ問題ない」
「なら、なんでそれを早く──」
「実行しようとして失敗したんだっ! まあ、とにかく誰かがあれを壊すのが一番手っ取り早い。反対につける余裕はないしな……」

 そういえば、キュアピーチが暴走を始めてから、シャンゼリオンはそれを止めようとして失敗し、しばらく姿を消していたような気がする……と、全員ふと思い出したようだった。
 案外、その解決策自体が簡単であった事を知り、マミは緊張を噛みつぶし、ほくそ笑んだ。

「これで、策は二つ出来たわね。──どう? これなら、勝てる気がしない?」

 キュアベリーが固唾を飲み込んだ。







 エターナルとダークアクセルは相対する。

「フッハッハッ……確かに今ので初めて一撃貰ったな……。貴様は他の奴らとは体のつくりが違うらしい」
「貴様なんぞに褒められても嬉しくない」

 そう言うエターナルも、こう返しているのはいいが、殆ど気力を使い果たしてしまったような状態だ。絞り出すほどもない。あまりダークアクセルには悟られたくないが、もう一度同じ技を繰り出すのは不可能。──いや、それどころか、獅子咆哮弾の一発も撃てないかもしれない。
 全身にそれだけの力が漲らないのである。

「いや。俺はお前を評価してるぜ。……この俺以外で最後に生き残るのは、貴様かドウコクか……って所だろう」

 ダークアクセルは、良牙が地球人としては桁違いとしか言いようのない身体能力の持ち主であると認めている。
 おそらく、彼らの世界にはそれだけの逸材はいなかったはずだ。
 気の性質が違うとはいえ、今の絶望の力を飲み込み切れなかったのは全く、誰にとっても意外としか言いようがない。

「さて、そろそろ時間もない。……さっさと残りを片づけて、次のカードを使わせてもらいますか」

 その直後にダークアクセルが取り出したのは、「挑戦」──トライアルのメモリである。
 エターナルの後方でジョーカーがぎょっとする。

(まずい……トライアルを使われたら!)

 トライアルの世界は補足不可能だ。音速を超えた世界に突入し、ジョーカーやエターナルでは及ばない所での奇襲が始まる。

──TRIAL!!──

 ガイダンスボイスが響くとともに、エターナルが我先に奮い立った。
 気力はないが、技ならばまだ──。

──Nazca Maximum Drive!!──

 T2ナスカメモリのマキシマムドライブが発動する。
 ナスカもまた、超高速移動が可能となるガイアメモリである。

「来れば斬るぜ──」

 瞬間、アクセルが背後から剣を抜いた。総重量20kgのエンジンブレードだ。ナスカのマキシマムドライブを利用する事を読んでいたというのか。

305崩壊─ゲームオーバー─(5) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 18:12:17 ID:ezDSmj8g0
 近づいた瞬間にエターナルを斬るのが目的であろう。先ほど、杏子に見せた剣術を思い出せば、ナスカの力も決定的意味をなせない可能性が高い。

 しかし──。

「──良牙、今です!」

 レイジングハートが上空から拘束魔法を放つ──。彼女の姿は既に、ダミーメモリによってユーノ・スクライアへと変身している。
 放たれた拘束魔法がダークアクセルの手首足首を全て封殺し、魔法陣に磔にした。
 意表を突いて発動された魔法に、ダークアクセルも策を潰されたようだった。

「なるほど……今度はお前か。指を咥えて見ていたかと思えば、このタイミングか……!」

 突然の奇襲では、ダークアクセルは身動きが取れない。
 エンジンブレードがダークアクセルの手から落ちる。本来なら、喰らったとしてもこれしきの魔法を打ち破るのにそう時間はかからないが、その必要時間よりも早く、エターナルが動きだした。

 ダークアクセルは、総合的な能力ではそれぞれが束になっても敵わない。
 しかし、相手が多勢であるのが、彼の余裕に相対する死角が幾つもある。
 敵全員を完全には把握しきれず、十以上の敵が持つ無数の能力への対抗策を完全に持っているわけではないのだ。
 ナスカのマキシマムドライブまでは読めても、次にレイジングハートが拘束魔法を使うところまでは読めなかった。
 ただ、そのどれもが石堀光彦の命を消し去るには到底及ばないので、普段は存分な余裕を持って相手にできてしまえるのだが、こうした策略の際には不発もあり得る。
 ダークアクセルの余裕は、今、隙となった。

「これ以上厄介になられてたまるかよっ!!」

 ナスカウィングをその背に出現させたエターナルは、そのまま高速でダークアクセルの手から落ちたエンジンブレードを空中で掴む。
 未だマキシマムドライブは有効である。
 このエンジンブレードをナスカブレードに見立て、その胸部を切り裂く。
 ナスカウィングを最大まで巨大化させると、エターナルはダークアクセルの体を一閃した。──エターナルの手に嫌な感触が広がる。
 火の粉が地に落ちて溶けると同時に、エターナルは後退しようとする。手ごたえはこれまでよりはあったはずである。勿論、それがダークアクセルにとっては、大きな一撃ではなかったのだが。

「ハァッ!!」

 右腕の拘束魔法を自力で打ち開いたダークアクセルは、その右腕をエターナルの頭部目掛けて突き出した。──「ッ!?」と、エターナルが声を出せないほどに驚く。直後には、エターナルの顔全体をダークアクセルの指がからめとっていた。
 そして、そのまま、右腕を振り上げると、腕力でエターナルを放り投げる。
 地に叩きつけられたエターナルが土の上を滑る。飛距離も確かであったが、速度も相当であった。先ほど、杏子の体を投げつけたのと同様だ。──エターナルは、地面と激突して、転げていく。

「良牙っ!」

 だが、それでダークアクセルがトライアルの姿に変身するのを未然に防げたという物だ。十分な快挙である。エターナルは、擦り減った地面の向こうで、こちらに右手のサムズアップを送っていた。後は任せた、という意味なのか、それとも、俺は大丈夫、という意味なのか。
 ジョーカーは両方の意味と解釈する。

 ──直後。ダークアクセルは、全身の拘束を解除する。レイジングハートの魔法の力を、それを中和する方程式なしに打ち破るのは到底出来る事ではないが、息を吐くようにそれを行えるのが今の強敵だ。

「──残念。勇敢な方向音痴にトライアルは奪われたが、まだこっちがある」

 ダークアクセルを見れば、今度はガイアメモリ強化用アダプターがどこからか取り出された。ダークアクセルの手に握られているその灰色の器具は、ガイアメモリの能力を三倍に引き上げる力があるという。
 思わず、舌打ちしたくなる。──強化アダプターなどという非合法なガイアメモリの予備パーツを作った犯罪者は誰だ、と。
 おそらく園咲家からの流出かと思われるが、これほどの化け物の手に渡り、一層厄介な能力を分け与えてしまうなど、彼らも想像してはいなかっただろう。

「三倍パワー!!」

306崩壊─ゲームオーバー─(5) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 18:12:49 ID:ezDSmj8g0

 そんな声が、その場に轟き、ジョーカーは目を大きく見開いた。
 能力が三倍──その言葉には、厄介すぎるダークアクセルの姿が思い浮かぶ。よもや、ダークアクセルが発した一声かと思って驚いてしまった所である。
 しかし、現実ではその声を発したのはダークアクセルではなかった。当然ながら、ダークアクセルはこれほど間の抜けた声で叫ばない。

「──超光戦士シャンゼリオン、改め、ガイアポロン!!」

 先ほどまで戦場から一歩引いていたシャンゼリオンが、真っ赤なフォルムに身を包んで新生していた。まさしく、先ほど聞こえたのは彼の声色である。こちらに加勢に来たのだ。
 ガイアポロン──それは、パワーストーンの力を受け、能力が三倍に退きあがった超光戦士シャンゼリオンであった。ダークザイドの幹部級とも互角に渡り合えるシャンゼリオンが、更にその能力を三倍に計上したとなれば、ダークアクセルを前にしてもまだ先ほどよりは戦える。
 変身しながら不意打ちの一回と、キュアピーチを相手にした一回しかこの場で変身していないシャンゼリオンにとっては、隠し種ともいえる変身形態だ。

 そして、彼がいるのは──

「後ろ……か」

 通常の三倍の速度でダークアクセルの後方に回りこんだガイアポロンは、ダークアクセルの脇から腕を絡ませ、羽交い絞めにする。勿論、長時間それが保たれないのはガイアポロンにも理解できている事である。
 問題となるのは、ガイアポロンの両腕の力が有効なこの一瞬で何ができるのか。
 ヒーローの力で拘束されたダークアクセルの正面にいるのは、仮面ライダージョーカーである。

 ジョーカー、左翔太郎は考えを巡らせる。
 右腕を構えた。──真っ直ぐ、ダークアクセルの方へと、まるで照準でも合わせるかのように。
 その動作は、理解の証であった。

「……そう言う事か。わかったぜ、暁」

 暁が期待しているのは、おそらく必殺の一撃ではない。
 翔太郎と暁がかつて交わした会話の通りだ。これまでのとある会話が、ダークアクセルの弱点を示していた。



────いや、そんな事はあるね。見ろ、このハンドルの部分と、それからメモリのスロットだ。いかにも怪しい。この要になる部分に何かの細工を施したはずだ。ここを弄れば何かあるんだろ? なぁ、もう一人の探偵



 そう、要は、そういう事だ。
 あの黒い怪物の腹部にあるガイアメモリとアクセルドライバーが敵の力の源。ジョーカーもエターナルも同様だ。それが仮面ライダーらの共通の弱点ともいえる精密部である。破壊、あるいは細工されればアクセルメモリの作動が止まる。
 おあつらえ向きに、ジョーカーの右腕には、今はアタッチメントが埋め込まれている。
 その一つに、今現在の状況に有効な物が一つあるはずだ。

「マシンガンアーム!! ──硬化ムース弾!!」」

 右腕のマシンガンが、ダダダダダ、と音を立てる。
 弾丸がどこか遮蔽物にぶつかると、それは爆ぜて粘り気を持った白い液体となり広がる。存分に広がったムースは、それから十分の一秒も待たずに大気の冷たさを染みこませて固まっていく。
 そんな弾丸の成れの果ては、ダークアクセルの体表を順々に固めていく。
 おそらく、ダークアクセルに殆どの物理攻撃は受け入れられまいし、ベルトに装填される小さなガイアメモリをこの距離から撃ち抜くのは余程のまぐれがなければ不可能だ。しかし、到達とともに大きく広がり、その体を飲み込んで石膏になる硬化ムース弾ならば、ジョーカーの射撃の腕と無関係に、高確率でベルトを封じられる。
 つい先ほどまで暁が噛んでいたガムを思い出された。──あれも、考えてみればこのアタッチメントを指しての事だったのか。

「フンッ」

 ──が。

307崩壊─ゲームオーバー─(5) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 18:14:20 ID:ezDSmj8g0
 紫煙の障壁がダークアクセルの前方に展開される。固形ではなく、まるで大気が寄せ集まったような、あるいは蜃気楼に色と境界線とが生まれたようなバリアであった。しかし、それが展開されるや否や、硬化ムース弾はその到達位置を勘違いするようになる。

「何だとっ……!?」

 ダークアクセルの体表へと届いたのは、ほんの二、三発のみ。そこから先は、何発撃ったとしても、その全てがバリアの視界を白く塗りつぶしていくだけであった。実態がないはずのその障壁が、一時、「壁」として確かに有効になっていたのである。
 ダークアクセルがその紫煙の幻を解いた時、そこにあるのは、地上から積み重なった白い硬化ムースの積み重なりであった。
 邪魔に思ったのか、ダークアクセルの咆哮とともにそれは音を立てて崩壊する。
 ダークアクセルとジョーカーは目を合わせる。

「この程度で勝利を確信しない方がいいぜ。世の中、そう上手くは行かないもんさ。なあ、二人の名探偵」

 ダークアクセルは言う。
 しかし、ジョーカーはこの時、ある余裕を持つ事ができた。

「くそっ。確かにそうだな……!」

 敵の強力さに、ジョーカーも自分の作戦の不発を感じた。
 しかし、ジョーカーの心は曇らなかった。

「だが、俺に勝利の女神が舞い降りたのは、今この瞬間からだぜ? ──世の中はあんたにだって上手く行かないものだろ、アイリーン・ウェイドちゃん」

 ジョーカーも、この時、彼らの来訪がなければ、これほど勝気な気分にはなれなかっただろう。──頭上の日差しを、巨大な影が隠した。
 見上げれば、そこには、魔導馬・銀牙の巨体が嘶き、空を飛びあがっていた。
 乗り合わせているのは、銀牙騎士ゼロと仮面ライダースーパー1である。銀と銀とが寄り添い合い、眩く光った。

「チェンジ、エレキハンド!」

 スーパー1は、腕をダークアクセルの方に向け、エレキ光線を放った。
 その電圧は3億ボルトと言われている。たとえ、ダークアクセルがその攻撃を受け切れたとしても、強化アダプターの方がその電圧に破損を起こしてもおかしくはない。
 また、その数値を考えれば、ダークアクセルたれども、少しは指先に衝撃を受けても全く不自然な話ではないだろう。
 しかし、その電流が到達するよりも早く、ダークアクセルの意識は対抗策を生みだす。
 ──バリアが展開。
 電流は真っ直ぐにバリアへと向けられ、地に跳ね返る。

「今だっ!」

 ゼロが伏兵に声をかけた。
 ダークアクセルがゼロの視線の先にあった茂みを見やると、そこから顔を出したのは外道シンケンレッドである。
 その右手が必殺武器の代わりにショドウフォンを構えており、空に文字を書いた。

──解──

 その一文字のモヂカラが発動。
 解……それは、「解除」「開錠」などの能力を持つモヂカラである。
 激突した「解」のモヂカラは、バリアに向けて有効化され、スーパー1の電流の行く手を作り出す。

「何──」

 電撃。ダークアクセルの腕に稲妻が襲い掛かる。
 激流のようにダークアクセルの全身を雪崩れ込んだスーパー1の一撃は、その指先の機械をも帯電させる。
 指先でショートしたダークアクセルの強化アダプター。それは、ダークアクセルの手を離れて、地に落ちた。
 ダークアクセルがいかに強力であろうとも、その手に持っている機械は違う。爆散して、最早ばらばらに砕け散ったその物体は、決してもう、ダークアクセルをこれ以上強化する器とはなりえない。

「貴様ら……っ!」

308崩壊─ゲームオーバー─(5) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 18:14:37 ID:ezDSmj8g0

 ダークアクセルの余裕が崩れるのが見て取れた。
 この余裕が崩壊するのを見届けただけでも、今の防衛は価値があった。
 ジョーカーの真横に人影が並んでいく。

 仮面ライダースーパー1。
 血祭ドウコク。
 外道シンケンレッド。
 銀牙騎士ゼロ。
 仮面ライダーエターナル。
 超光戦士ガイアポロン。
 上空には、レイジングハート・エクセリオンも配置されている。

 ばらばらな存在だが、一列に並びながら、ダークアクセルへの反撃の意思をなくさない。
 力を合わせれば、こうして一杯食わせられる。それほどに寄り添い合う人間は強い。
 各々が思う以上に、熱く。
 それぞれの手がダークアクセルと相対し、「次」を待つ。

「どいてもらうぜ、雑魚アクセル。俺たちのゴールは、分裂による絶望じゃない。お前がいるその先だ……!」

309 ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 18:16:31 ID:ezDSmj8g0
という良いところで今年の投下は終了です。

また来年、こちらに不幸がなければ、変身ロワイアルでお会いしましょう。
こんな感じの内容からわかる通り、多分来年には完結できると思います。
でも、今年もなんだかんだで「夏には終わる」、「今年中には終わる」と思いながらやって来たので、どうなるかわかりません。
それでは、書き手読み手ほかロワ民のみなさん、良いお年を。

310名無しさん:2015/01/01(木) 01:02:55 ID:rXNoJrsU0
乙です
ゴセイジャーは護星戦隊じゃなくて天装戦隊ですよ

311名無しさん:2015/01/01(木) 08:21:46 ID:j0dBiRLoO
投下乙です
決戦前の語らいかーらーの、ザギさんキタ!
ここに来て反転宝呪とは厄介な…ベリーのソウルジェムが(ザギ復活的な意味でも)心配だ
一度は寝返ったドウコク&外道レッドを再び引き込んでなんとか頑張ってるが、レーテとか目を覚ましたガドルとか、不安は尽きない…

312名無しさん:2015/01/01(木) 08:48:01 ID:j0dBiRLoO
…しかし、良牙&つぼみパートでつぼみが伝えようとした事がもし告白的なものだとしたら、つぼみの恋はいつき、コッペに続いて三度悲恋になってしまいそうやな

313名無しさん:2015/01/01(木) 14:33:28 ID:yGWdMocE0
投下乙
遂にザギさん裏切ったか、ダークアクセルでこんだけ強いのに本来の力を取り戻したら……
おまけに閣下まで接近中。主催者戦までに生き残れるか?

314名無しさん:2015/01/01(木) 15:03:44 ID:AhF2Pjq6O
あけおめ
投下乙

無事に帰れたら時空管理局を主体に対応組織を作ることになるのか
いずれはライダーやプリキュアが名を連ねる時空管理局に……

315名無しさん:2015/01/02(金) 01:43:02 ID:UduY1t/M0
投下乙です

316名無しさん:2015/01/02(金) 17:52:09 ID:dHHndr1QO
ダークザギを浄化するなら、ムゲンシルエット並みのパワーが要るだろうな。

317名無しさん:2015/05/21(木) 20:49:37 ID:cdCiyLYc0
ネクサスの漫画が出ました〜

318名無しさん:2015/05/22(金) 12:13:32 ID:Nl/6kj1I0
1月から更新なかったのか…
盛り上がってたロワだがすっかり静かになってしまった

319名無しさん:2015/05/24(日) 13:51:12 ID:.x1HnPmM0
続き来てほしいけどねえ

320名無しさん:2015/06/30(火) 21:44:43 ID:VNpB29mE0
前回の投下から半年…
後編来ないのかなあ

321名無しさん:2015/07/12(日) 13:36:58 ID:OT9PV3kg0
続きを投下します。

322 ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:37:33 ID:OT9PV3kg0
あ、◆gry038wOvEです。

323崩壊─ゲームオーバー─(6) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:38:21 ID:OT9PV3kg0



 キュアピーチの猛攻が、一定のテンポを保ちながら杏子を襲う。
 杏子の魔力の消費ペースが早まり、体力も時間と共に削られていく。息があがる。杏子もそろそろ、いなし続けるには限界が迫っているような状態であった。

 ──しかし、どんな瞬間も決して内心では諦めはしなかった。

 打開策を見つけ出すのは杏子の「お仲間」の得意分野である。マミも、ベリーも、ブロッサムも、こうして杏子が時間をかけてキュアピーチを倒そうとしている間中、きっと方法を探している。
 しかしながら、その中にあって、杏子だけは打開策を見つける自信がない。ならば自分に出来るのは、こうして、仲間が解決をする時間を稼ぐ事だけである。
 その瞬間まで、杏子はこの桃園ラブの体に傷をつけてはならないと、必死にキュアピーチの素早い拳を受け続けている。多くの攻撃は避けたが、何発かはまともに顔に入った。それも、今は大した傷ではないと感じていた。むしろ、こうして、自分が正しいと思う事に体が傷つくのならば、今は全く不快ではない。
 ……これと正反対の生き方をしてきたからこそわかる。
 自分の体が傷つくのを避け、他人の体が傷つくのを見届ける──自分の命を守るために、他者の命を餌にする──その生き方が齎した、全身の血管を駆け巡る虫のような、強いストレス。
 あの感覚に比べれば、断然、この前向きな痛みの方が心地よいと──杏子はこの場に来て、気づいていた。

(おいおい……でも、もうそろそろ助けに来てくれたっていいんじゃないか?)

 杏子は、内心苦笑いでそう思った。
 まるで、茶化すように、冗談のように、軽い気持ちで──。そう、多少の痛みは堪えられるし、体は砕けてもいないし、色が青く変わってもいない。まだ耐えるくらいはできるが、だんだんと攻撃を食らう頻度が高まっているのはまずい。
 それに、問題は、まず杏子自身の体よりも「時間」だ。


 ──主催が提示した残り「タイムリミット」はどれほどだろう。


 時計を確認する時間もないが、そろそろまずいのはわかっている。

 ────正確には、残りは、十分ほどだった。

 ほとんど、杏子が推測していた時間と同様だったに違いない。
 そして、人数は、残り十三名。ダークアクセルの方は残りの僅かな時間で、少なくとも三名は抹殺するつもりである。……だとすれば、誰を殺すつもりなのだろうか。

 美希、だろうか……。
 キュアピーチをけしかけたという事は、そうかもしれないと杏子は思った。理由も根拠もないが、実際、今そんな物はいらない。漠然とした直感だけでも、充分だった。

 今の宿敵は、手近な人間を、ただ適当に狙っているのだ。例外なのは、同じ穴の狢ともいえるあの血祭ドウコクだけだろう。
 他は、孤門やマミのように武器を持たない者も、変身者たちも変わらない。彼にとっては、どちらも容易く捻りつぶせる虫のような相手に過ぎないはずだ。それがアリであろうとも、カマキリであろうとも、大きくは変わらない。

「はぁっ!」

 と、少しだけ考え事をしている間にも、キュアピーチの正拳突きが飛んでくる。
 多少考え事をしながらでも、視覚で捉えた映像さえあれば直感で戦えると思っていた杏子であったが、完全に不意をとられていた。
 それでも、避けた、──と、杏子は思った。
 しかし、やはり──タイミングは激しくずれ込んでいた。

「くっ……」

 一発、また顔面に叩きこまれるのだろうな、と杏子は悟る。変な笑いが口から洩れるところだった。美希が先ほど喰らった時に比べれば微々たる痛みと思えるだろうが、それでもやはり、痛い物は痛い。
 しかし、本当にマズいと思うほどでもなく、ただ諦めたように思いながら、敵の攻撃を待つ。

324崩壊─ゲームオーバー─(6) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:38:50 ID:OT9PV3kg0

 少しは──ほんの一瞬だけ、目を瞑った。

 ──だが。

「──っ! 杏子さん、大丈夫ですか!?」

 その瞬間は、別の誰かによってキュアピーチの拳が抑えつけられる事になった。真横から介入し、キュアピーチの腕を掴んでいる、「別のプリキュア」の姿が杏子の前にあったのだ。
 誰かが真横から杏子を助けたようだ。

 ッ──キュアブロッサムである。
 先ほど、互いに頭をぶつけて痛めたばかりだが、杏子が起きあがったならば彼女もまた起き上がって然るべきか。こうして、杏子のもとに増援に来てくれたのだ。
 杏子の頭が癒えていないように、彼女の頭もこの時折朦朧とする感覚に苛まれるのだろう。それでも、今やらねば、もう石堀の猛攻を前に倒れるしかない事は──この場にいる誰にもわかっていた。

「杏子! 助けるわよっ!」

 もう片方のキュアピーチの左腕が前に突き出された時に聞こえたのがキュアベリーの声。
 解決策を見出し、ようやく、杏子の救出に向かったのである。
 言葉で何を訴えるわけでもなく、杏子はキュアベリーと目を合わせた。強いて言うなら、「遅えよ」と、ある意味で冗談めかした想いが込められているのだろう。
 それを知ってか知らずか、ベリーは杏子にウインクを返した。一見すると余裕のある所作だったが、ベリーの真摯な目には余裕など込められていないのはすぐにわかった。

 ひとまずは、杏子はバトンタッチができたと言っていいのだろう。
 助けが来た安心感からか、自然と杏子は場所を退いて、自分の膝が曲がるのを許した。

「はぁっ!」

 次の瞬間──半ば機械的に、キュアピーチが、キュアブロッサムを狙った。
 それは、明確な対象を持っていない彼女だからこその安易な切り替えであった。
 彼女が狙うのは、「自分が憎悪を向けている相手」という漠然とした範囲の中の存在たちである。

 ──つまるところ、この場にいる全員だ。無差別に一人ずつ殺すのが彼女の目的なのである。

 万が一、全員を殺しつくしてしまったのなら、その後に自らも何らかの手段で自害するかもしれない。
 等しく向けられた愛情が故であった。反転宝珠の魔力は、プリキュア同士の「禁断」の戦いを許してしまう。まさしく、悪魔の道具だった。
 しかし、それはおそらく弱点の一つだ。対象を絞れない単騎が多勢を相手に勝機を得られるはずがない。戦闘の駒としての使い勝手は実に悪い。

 ──おそらく、石堀の狙いは、精神攻撃だ。
 昨日までの仲間が我を失って襲ってくる、というシチュエーションこそが彼の求めたものである。キュアピーチそのものが持つ戦闘能力には最初から期待を寄せていないようだ。
 戦闘能力を期待するならば、ラブは適任ではないだろう。他にいくらでも相手はいる。
 その一方で、この手の精神攻撃の担い手としてはこれ以上の適格者はいない。──豹変する事により、周囲の戦意を喪失させる絶好の担い手である。

「はっ!!」

 殴りかかろうと伸び切ったキュアピーチの手を、真横からキュアベリーが蹴り上げる。長い足は、キュアピーチが感知するより前にピーチの腕を空へ弾ませた。
 力を失い、重力に流されて体の右側面に戻っていく腕。その手がキュアブロッサムの体を痛めつける事は、なくなった。

「はぁっ!!」

 次の瞬間、キュアベリーの体はピーチの懐へと距離を縮める。
 思ったよりも簡単にピーチと息のかかる距離まで辿り着いた。右腕が強い力で空へと向けられたので、ピーチ自体がかなり大きくバランスを崩し、頭を後ろに傾けている。
 その隙に胸元の「それ」へとベリーが手を伸ばす。

「……ッ!!」

 ベリーが手を届かせるより前に、キュアピーチの左腕が動いた。
 真横からピーチがベリーの手首を掴み、強い力で引いた。藁をも掴むような我武者羅さが見られた。

325崩壊─ゲームオーバー─(6) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:39:09 ID:OT9PV3kg0
 ピーチの体自体が後ろに倒れかかっているのも相まって、ベリーの体もまた、ピーチを押し倒すようにして倒れていく。
 二人は、すぐに重なり、地面に倒れこんだ。ピーチは頭を打ち、ベリーは倒れまいともがきながら体を捻って落ちる。
 砂埃が、少女二名を包む。

「──次ッ!」

 ベリーが叫んだ。
 先に立ち上がろうとしたのは、ベリーだ。その一声で、彼女の意思はブロッサムにも伝わった。

「はいっ!」

 ブロッサムが、すぐさまその小さな砂埃の方へと駆けだす。
 しかし──。
 ブロッサムはその脚を、また急停止させた。

「──ッ!」

 走りだそうとした次の瞬間に、彼女の眼前で、砂埃の中からキュアベリーの姿が舞い上がったのである。地上から投げ出されたように──キュアベリーの体が真っ直ぐ真上に、十メートル近く──放り投げられるのを見上げる。
 ベリーは、苦渋に目を瞑り、歯を食いしばりながら、空から落ちる。

「──危ないわね……っ!!」

 叩きつけられる前に。──空中で体を地面と垂直になるように立てる。
 両足が地へと着くように、体の力を抜いて、空を舞うように……。
 そう。上手い具合に体勢を整え、足を地面に向けた。

 ──着地。

 しかし、少しばかり対処が間に合わなかった。
 右足こそ、足の裏が地面を掴んだものの、左足は膝をついて着地している。皿が軋むような痛みに、声にならない声をあげていた。
 左目を思わず瞑り、反射的に涙のような、ぬるい水の塊が目に溜まった。

「!?」

 ブロッサムが、真横に落ちたベリーに驚いて動きを止める。
 ピーチの方が、一歩早く「対処」を行ったらしい。ベリーが悪の芽を摘む前に、ピーチが「触れられる事を拒んだ」のである。
 今のピーチは憎い存在に接触される事を拒んでいるらしく、今もまた、覆いかぶさったベリーを全力で拒んだ。その憎悪の分量だけ、ベリーは高い空に向けて投げ飛ばされた。

 ──それが、“愛情”による“拒絶”であった。

 体に触れられる事そのものに拒否反応を示す現状では、安易に体に触れるのは難しいだろう。
 つまり、あのブローチを取るのは、倒す以上に容易ではない。

「……」

 ぐっ、と。
 ブロッサムは、両手を握り、顔を引き締める。ブロッサムの中に、ちょっとした想いが湧きあがって来た。
 彼女は、目の前のキュアピーチを見た。やはり、キュアベリーを吹き飛ばした後にも、憎悪を帯びた瞳でこちらを睨んでいる。

「はぁ……はぁ……っ!!」

 それを見ていると、やはりキュアブロッサムはむず痒い想いに駆られる。
 それが敵の狙いだとわかっていても──。

 今のキュアピーチは、桃園ラブの本当の心と全く正反対に体を動かしているのである。
 それを見ていると、どうしても花咲つぼみの中には、激しく嫌な気持ちが湧きあがってきてしまうのだ。

「ラブさん……」

 ブロッサムは自分の想いを伝えたい相手を明確にした。

326崩壊─ゲームオーバー─(6) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:39:26 ID:OT9PV3kg0
 前方で、憎しみの瞳でこちらを睨む少女は誰か──。
 そう、その人はキュアピーチである以前に、桃園ラブという一人の人間である。

 そして、彼女の「愛情」は、プリキュアの力による物でも、キュアピーチだからこそ持っているという物でもない──ラブが、恵まれた日常の経験と痛みの中で培われた感情が生みだした物だ。
 必要なのは、キュアピーチではない。キュアピーチになる運命を背負った、「桃園ラブ」という一人の少女である。
 そんな彼女の人生を、安易に外から植えつけられた何かに捻じ曲げられていいものであろうか。

「──そんなちっぽけな物の魔力で、自分の事を否定しないでください!」

 ブロッサムは、真っ直ぐピーチの瞳に向けてそう言った。
 ピーチは、そんなブロッサムの方を、少し怪訝そうに見つめた。純粋に何を言っているのかわからなかったのかもしれないし、今はただ他人の言葉を拒絶しようとしているのかもしれない。
 ベリーは少し押し黙り、ブロッサムの声がピーチの耳に届くようにした。

「あなたが今向けるべきは、憎悪じゃありません! あなた自身が本当にみんなに向けたい物は、もっと別の物のはずです!」

 ピーチは、ブロッサムの声そのものにどことない不愉快さを感じたのか、顔を一層顰めた。
 力を体の中心に集めるように構え、即座にブロッサムに向けて駆けだすピーチ。
 野獣のように、膝を曲げて駆け出し、爪を立てた右手でブロッサムの口を封じようとする。
 相手の声の端、言葉の端さえ、むず痒い思いへと形を変えるのである。

 それが、反転宝珠の送りこんでくる憎しみの力。それは、その言葉が本来のラブが好ましく思う言葉であればあるほど──今のキュアピーチにとっては強い憎悪となる。

 ブロッサムは、その右手の五指の間に、自分の左の五指を挟み込むように食い止めて、己の口が塞がらないようにした。純粋な力比べであるように見えるが、利き手でない事や、体勢の悪さも含めて、ブロッサムは力押しでは不利だった。
 苦渋に満ちた声を、必死に絞り出す。

「あなたが本当にしたい事は……こんな事じゃ、ないはずです!」
「うるさいッ!!」
「ラブさんが今言いたいのは、そんな事じゃない!!」

 蒼乃美希とは反対に、花咲つぼみは、元の桃園ラブを思い出すほど、何か力が湧きだす性質があった。
 ラブにとって、このままでいる事が何より辛いと思えた。たとえ、体の痛みは、心が痛む気持ちには敵わない。

 ──そう、「花咲つぼみ」だからこそ、「本当の自分」が殺されてしまう痛みはよくわかる。

 自分の思っている事も口に出せず、自分のやりたい事もできなかった経験を。
 自分のしたい事が、“想い”以外の何かに抑圧されるような“思い”。
 花咲つぼみは、そうして自分を殺して生きてきた。笑顔であるように見えて、内心では自然と父親や母親の機嫌を伺い、──そんな中に本来の自分の想いを潜めて、時には心の中で涙を流しながらも、空元気の笑顔で周りを安心させようとする。
 そんな彼女を、引っ込み思案、と人は言う。──まさにその通りだった。彼女自身も否定はしない。
 しかし、そのままであっていいとは思わない。
 だから、彼女は、転校を機会に変わってみせようとしたのだ。

「きっと、私が……一番わかっている事です。自分が本当に言いたい事も言えない時って……、とても苦しかったんです!」
「それなら口を封じてあげる──ッ!」
「今、本当に自分の言葉を告げられずにいるのはあなたの方です! 苦しんでいるのは、……桃園ラブさん、あなたなんです!!」

 そして、強くピーチの右手を掴んだまま、ブロッサムは、ピーチの脇腹を──蹴り上げた。
 思わず……まさに、不意の一撃に、ピーチは、これまで見せた事のないような驚愕の表情を形作った。そして、空にアーチを描きながら、地に落ちていく。

「──ッ!?」

 不意の一撃──いや、それだけが彼女を驚かせたわけではない。
 キュアピーチも、本能的に、「急所を狙う」という戦法に、キュアブロッサムらしさがないと感じたのだ。何度も一緒に戦ってきた相手であるがゆえに、その本能で彼女の攻撃パターンは理解していたのだろう。

327崩壊─ゲームオーバー─(6) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:39:42 ID:OT9PV3kg0
 彼女が何故、そんなやり方をしたのか──。
 その答えは、次の瞬間に本人の口から出された。

「だから……あなたを、本当の桃園ラブに戻す為になら、あなたの心の苦しみを止める為なら……私は、鬼にだってなります!!」

 喉のあたりから唾液が唾液の塊が吐き出されるほど強く叩きつけられ、脇腹を抑えているキュアピーチ。うつ伏せの体型で腹部の痛みを訴えた。
 そんな姿を、憐れみ一つ見せずに見下ろしているキュアブロッサムの顔がある。
 ピーチは、それを見上げて、僅かにでも感じた恐怖を奥歯で噛み殺し、顔を引き締めたようだった。
 脇腹を抑えながらも、両足と顔で「三足」を地面に突き、その状態で両足を伸ばし、彼女は立ち上がった。
 額に汗が浮かんでいた。







 そんな戦いが繰り広げられていた傍ら、束の間の──本当に僅か、一分ほどを想定した──休息で膝をついている杏子の胸には、何か暖かい物が湧きあがってくる感覚があった。
 既視感、のような何か。
 時には、それは懐かしみを帯びて、時には、体の均衡を崩させる。

 いつかどこかで感じた何かが、再び杏子の中に再来している。
 それが何か──その答えは、わからない。

「杏子ちゃん、大丈夫?」

 マミと孤門が駆け寄って来る。今、杏子も無意識のうちに体がよろけたのを見て、余計な心配をさせてしまったのかもしれない。
 戦闘から一時退去し、またすぐに戦いに出ようとする彼女であるが、ひとまず彼女たちに状況を訊こうと思った。体を張って時間稼ぎした結果、どのような解決策が生まれたのか。

 その策に自分は参加できるのか、乗れるのか。それを簡潔に伝えてもらい、休む間もなくまた前に出なければならない。
 ──時間がない。
 この状況下、スムーズに、杏子の疑問へのアンサーを提示できるのは、仮にも特殊部隊所属の孤門であった。

「……杏子ちゃん。ラブちゃんを操っているのは、あの胸のブローチだ」

 そして、杏子が訊くまでもなく、杏子に伝達されていなかった情報は孤門が告げた。
 言われて少し考え、杏子も納得したように口を開いた。

「……やっぱりあの怪しいブローチか」
「怪しいとは思ってたんだね」
「ああ。でも、怪しすぎて逆に手が出しづらかったんだ。……だって、あたしの場合はブローチを捨てられたり壊されたりしたら、心臓が永久に止まるんだぜ」

 孤門は、杏子の一言で納得する。──なるほど、“ソウルジェム”という「命」をブローチにして着飾る彼女たちには、敵のブローチを砕くという戦法は心理的に難しかったのだろう。
 勿論、相手は魔法少女ではない。だが、万が一……という事もありえる。それを考えると、やはり触れる事は出来なかった。
 得体の知れない物には触れぬが仏……であるが、今回の場合は破壊してしまって良かったようである。振り返れば、破壊するチャンスがいくらでもあったのは杏子自身もよくわかっている。

「とにかく、あのブローチを逆さにするか、破壊するかがこの場合の最良の手段だ」
「……それなら簡単じゃねえか」
「でも、今のキュアピーチはそれをやろうとすると激しく拒絶しようとする。簡単にはいかないよ」
「わかってるよ。でも、それを踏まえた上で簡単だって言ってるんだ。あたしには、この槍がある」

 プリキュアと魔法少女との決定的な違いは、道具の多彩さである。
 笛やバトンを武器にするプリキュアに対して、魔法少女は銃や槍や剣を武器にする。武器のヒットが長かったり、飛び道具だったりする分、ピンポイントな破壊行為をする際にも、プリキュアほど接近する必要はないのである。

328崩壊─ゲームオーバー─(6) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:40:06 ID:OT9PV3kg0
 この場合、マミが魔法少女に変身できたなら最高なのだが、それができない以上、杏子が破壊するのが最もベターな手だろう。
 何、そんなに難しい事でもない。──と、杏子は思う。

「じゃあ、早速……」

 そう思った矢先、また、何かが杏子の頭に浮かんで体をふらつかせた。
 眩暈か、蜃気楼か、発熱か、……そんな風に体全体の力が弱くなる。

「──……っっ!?」

 血圧が大きく下がったような体の不自由に、ひとまず槍を杖にしようと地面に突き刺す。
 すぐに、杏子の元にマミが駆け寄った。杏子の背中に、マミの腕の暖かさが重なった。
 この暖かさは、久々に感じた物だった。

「佐倉さん!?」
「大丈夫だ、心配はいらない。なんだかわからないけど、さっきから……」

 体がどうも、何かを置き忘れているような感覚を杏子に訴える。
 だが、そんな杏子に、マミの方が顔を引き締めていた。
 マミが、落ち着いて口を開いた。

「……こういう言い方をするのも何だけど、心配をしたわけじゃないの」
「じゃあ、何だよ」

 不機嫌になるほどではなく、しかし、顔を顰めてマミに訊く。
 そりゃどういう事だよ、と。

「──私もさっきから、何かを感じてる。……魔法少女じゃない、別の何かの力」

 ふと。
 その言葉を聞いて、杏子の中にあった既視感は──、「解決」に近いところまで手繰り寄せられた気がした。
 それは重大なヒントであった。

 しかし、それは「解決」とまでは行かない。
 だからこその既視感というのはもどかしく、焦燥感まで帯びる物に変わっていく。

(いや、待て……)

 もう一度記憶をひとつひとつ遡れば、確実に思い出せる。この感覚は、確かに一度感じた事がある物だ──。
 いつ。
 それを思い出せば、全てがわかる気がする。
 ──杏子は、ここに来てからの事を順に、再度頭に浮かべた。

「まさか……」

 そう。

(あの時の……)

 ──記憶は、あの、血祭ドウコクとの戦いの時にまで遡った。

 杏子自身の頭に浮かんでくるイメージは、まさにあの戦火の翔太郎、フィリップとの共同戦線の際の出来事だ。
 ウルトラマンネクサスとしてドウコクに挑み、傷ついた杏子が受けた血潮の滾り。ザルバからの激励。人から受け継いだ、光ではないもう一つの力。
 あの瞬間、杏子に力を授けた精霊の声。

(──アカルン!)

 そう、これは彼女が杏子に力を貸した時の体の温かみだった。情熱が心臓から湧き出るような感覚。
 そして、マミも同様だ。彼女はキルンによって肉体と魂を繋いでいる事を思い出した。
 杏子の頬の筋肉が上がる。
 訝しげな表情のままのマミに、杏子は声をかけた。

「マミ──久しぶりに、やるぞ」
「え……?」

 杏子の言葉に、またマミが不思議そうに見つめた。

329崩壊─ゲームオーバー─(6) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:40:41 ID:OT9PV3kg0
 戦闘能力のないマミが、今から杏子の行く先に動向できるわけはないが、杏子はそれを促していた。来い、と告げているような一言だ。
 杏子は、マミの顔を見つめ、悪戯っぽい笑顔でこう言った。

「また二人で一緒に戦うんだよ、マミ」







 石堀光彦も、戦況を見て、多少は驚いていた。思ったほど余裕の状況ではないらしい。
 どんな手段を使ったかはわからないが、少なくとも血祭ドウコクと外道シンケンレッドがここにいる。この二人が再び寝返ったのは、石堀にとっても予想外であった。
 何故、だ。
 それを少し考えた。少なくとも彼らが「利益」以外で寝返るはずはない。この自分と同じく、残りの参加者を減らすのに一役買ってくれると思ったのだが……。

「……」

 眼前に並ぶ六人。上空に一人。それから、付近には他に敵がもう六人。もう一人いるが、それは一時的な洗脳で仲間にしている。
 合計、十四名。
 内、参加者に該当するのは、外道シンケンレッドとレイジングハートを除いた十二名。簡単な引き算である。元の世界に帰るのに必要なのは、三名の生贄。
 それから、外道シンケンレッドやレイジングハートがカウントされていた場合の為にもう二人ほど削った方がいいだろうか。
 いっその事、全員殺してしまった方が遥かに良いかもしれないが、些か遊びが過ぎたようでもある。残り時間は十分ほど。目の前の敵全員が焦燥感に駆られつつあるのがこちらの楽しみであるが、もう良い。
 そろそろ足場を組んでいこう。そうしなければならない……。

「──あんたまで、俺の敵に回るとはな……」

 血祭ドウコクへの一言。
 それは、「俺の予想を上回った事には敬意を表してみせよう」という意味合いも込められていた。
 しかし、それほど意外であるはずにも関わらず、当のダークアクセルは、それでもまだどこか飄々としていて、危機感などは皆無に等しかった。ドウコクを大きな相手とも見ていない。結局は、アリ、カマキリに加えて、クワガタムシが一匹紛れ込んだ程度にしか思えていないのだ。

「……『敵の敵は味方』ってほど、単純な話でもねえからな」

 ドウコクが、ダークアクセルの言葉にそう返した。
 だが、その実、その言葉とは些か矛盾する証拠が一つあると、ダークアクセルは睨んだ。 すっ、とダークアクセルの右手がドウコクを指差す。

「それにしては、随分体を張ったじゃないか……」

 血祭ドウコクの背中からもくもくと登っていく灰色の空気がダークアクセルの目には映っていた。彼が指差したのはその「煙」だ。

 ──あれはどこから発されている物だろうか……。

 その煙が出ている角度を見れば、それは一目瞭然だ。ドウコクの体から、真後ろへと逃げ出していくように湧き出ている。
 では、何故こんな物が立ち上るのか。解答は一つだった。

「──背中の傷は、あんたの家臣から受けたものだろ?」

 ──外道シンケンレッドの攻撃を受けたのだ。

 ダークアクセルは、ここに生えている木の数だけ目があるように、全てを見透かしている。
 ドウコクの背中にある、「それ」は、生新しい火傷──常人ならば全身が蹲り黒い炭の塊にされても何らおかしくないほどの炎を受けた痕であった。
 一度ぐつぐつと体表が溶解し、それが再度空気に触れて渇いた生々しい傷である。

「……」

 その質問に、答えはなかった。

330崩壊─ゲームオーバー─(6) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:41:02 ID:OT9PV3kg0
 無言。沈黙。回答の必要なし。──ドウコクはそう判断した。
 しかし、やはりというべきか、石堀の憶測は、実際には、正解であった。

「……」

 ────本来なら涼邑零が受けるはずだった一撃である。

 だが、手駒が減るのを渋ったドウコクは、零が外道シンケンレッドの砲火を浴びるのを、自らの体を張るという形で防ぐ結果になった。
 その瞬間の零の驚きようは並の物ではなかった。どんなホラーに出会った時よりもずっと……。それほどの意外の出来事であった。
 今も、涼邑零は、どこか信じられないといった風にドウコクに目をやっている。

「……チッ」

 ……しかし、それは、人間らしいやり方に目覚めたからではなく、もっと根本的に、利を第一に考えた為である。

 このまま、彼らと共に脱出を目指す方針を変えないならば、絶対的に必要なのは零のホラーを狩る力だ。彼にしかできないという性質が実に厄介だ。せめて、もう一方の冴島鋼牙が生存していればまた別であったが。
 主催側に存在するホラーを倒す事が出来るのは彼だけである為、彼を死なせてしまえば自陣は「詰み」である。
 ドウコクが体を張った理由は、ただそれだけだ。

(コイツの言い方は癪だ、気に入らねえ……ッ)

 ……とはいえ、ドウコクは、やはり思考の中で石堀への怒りを募らせた。
 石堀光彦は、おそらくドウコクがその攻撃を受けた経緯も──そして、理由も察しているのではないかと思った。
 しかし、敢えて彼は、その理由を誤って──「ドウコクが人間に近づいた」というように──認識しているように振る舞っている。
 もっと率先的に、感情に任せて零を庇ったのだと推測したような素振りを見せ、それによってドウコクを苛立たせようと挑発しているのだ。そんな挑発には乗るまいと思うが、やはり怒りとは自然に沸き立つものだ。

「……まあいいさ。それがどんな理由であれ、俺にはどうでもいい。さっさとケリをつけたいものでね……!」

 そう言うダークアクセルの微笑み。それが仮面越しに見えた気がした。

 ──そして、これが、戦いの始まりの合図だった。

 次の瞬間、彼の足は地面を踏み出し、眼前の六名の前に距離を縮める。
 六名は、ダークアクセルが辿り着く前に、それぞれ自然と、それを避け、先手を打ってダークアクセルを囲むような陣形を組んだ。
 彼の足が止まる。自らを囲った周囲の戦士の陣形を、“感じ取る”。

 目の前にジョーカー、その右方にエターナル、その右にゼロ、その右に外道シンケンレッド、その右にドウコク、その右にスーパー1、その右にはガイアポロン……。円形の中心にダークアクセルが囲まれ、それを上空からレイジングハート・エクセリオンが見下ろしている。──という状況。
 その場に流れる異様な緊張感を打ち消したのは、賽を投げたような一つの声。

「──獅子咆哮弾!!」

 仮面ライダーエターナルがその円の中から、一歩前に踏み出て、即座に、ダークアクセルに向けて黒龍の形をした波動を放つ。
 ──獅子咆哮弾が、ダークアクセルを飲み込もうと向かっていた。

「フンッ!」

 だが、その一撃は突如としてダークアクセルの目の前に展開された深い紫色のバリアが阻んだ。彼はエターナルの方を一瞥する事さえなかった。
 不幸を糧とした一撃は、ダークアクセルのフィールド上で織り込まれるように吸収される。一秒と経たぬうちに、そのエネルギーは全て飲み込まれ、それと同時にバリアも空気の中に溶けていった。

 この防御壁は厄介だ──、と、内心思い、エターナルは次の手段に出る。

「エターナルローブソード! ──」

331崩壊─ゲームオーバー─(6) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:41:17 ID:OT9PV3kg0

 背中のエターナルローブを引き剥がすと、そこにエターナル──響良牙は「気」を込める。ガミオやあかねを相手にした時と同様の戦法だ。
 良牙が送りこんだ気によってエターナルローブは、布から剣へと性質を変えるのだ。彼はそのエターナルローブをこの時、「エターナルローブソード」と名付けた。
 勿論、これは並の人間ならば不可能な芸当であるが、良牙はこんな手品のような荒業を平然とやってのける。もはやその事実は解説不要だろう。

「──ブーメラン!!」

 続けて、エターナルはそう叫んだ。
 一見するとわからないが、エターナルローブは硬質化すると同時に、両刃の剣となっている。それを空に向けて放り投げ、回転ブーメランのように操ろうとしているのだ。
 布から生成された剣は、ダークアクセルを狙う。
 風を切る音を絶えず鳴り響かせ、凄まじいスピードで敵に向かっていくエターナルローブ。味方にさえ僅かの恐ろしさを覚えさせた。

「──ッ!」

 しかし、ダークアクセルは身を翻してそれを回避する。
 足は動いていない。上半身だけを素早く動かしたようだ。

「フン……」

 ダークアクセルを囲むように、エターナルの対角線上に立っていたドウコクは、このブーメランの軌道にいるが、彼は一切、それを回避しようとしない。
 ──いや。
 する必要はなかった。
 エターナルローブは、まるで意思でも持っているかのように、ドウコクの体を避けたのである。──良牙の持つ絶妙な力加減によって成された技であった。
 彼としては、たとえドウコクに当たろうが構わないとしても──今優先すべき敵を見誤る事だけは絶対にしなかった。

(一歩でも動いたら、ブチ抜く──味方も傷つけるかもしれねえ諸刃の剣ってわけか……)

 ドウコクもそれを、本能的に察知したようだった。
 だから、回避をしなかった。
 そこにいたのが、左翔太郎であったなら、回避行動をして却って体を傷つけていた可能性がある。──この場合、ドウコクが外道であったがゆえに、避けずに済んだのだ。
 とはいえ、元々、良牙自身も、そこまで近しい味方がそこにいたなら、おそらくこの技は使わなかったのだろう。良牙とドウコクの間に信頼感がない証であるとも言えたが、同時に良牙は、そこにいたのがドウコクで良かったとも思った。

「フン……」

 ──彼の真横を通り過ぎて森の奥へと消えたブーメラン。
 森の向こうで、そのブーメランによって木枝が切り離され、木の葉が舞っている音が聞こえてくる。
 そして、それはブーメランという武具の性質上、それはどこかでもう一度返ってくる。森の木々をかいくぐり、再びダークアクセルの体を狙う事だろう。
 ダークアクセルは神経を研ぎ澄ませる。
 そして、その武器は、やはりすぐにUターンして、再び接近した。

「──そこだっ!」

 ダークアクセルが並はずれた集中力でエターナルローブソードブーメランを捕捉する。
 真後から接近するエターナルローブソードブーメランを、振り返り、闇のバリアを展開して防御する。
 それが防がれ、闇に阻まれた。
 ──しかし。

「何ッ!?」

 その瞬間──そんな彼の眼前で、一瞬では数えきれない無数のエターナルローブソードが襲い掛かったのである。
 彼の視界を埋め尽くす黒い刃たち──。

 それらは、全て、ダークアクセルに収束してくるように向かってきていた。

 はっとして見てみれば、目の前で自分が防いだはずの「エターナルローブ」は“消えている”。地面には、一片のくもりもない。闇が吸収してしまったわけではない。
 一瞬の焦燥感に見舞われたダークアクセルだったが、空からの攻撃はバリアを展開して防御する。轟音が響く。

332崩壊─ゲームオーバー─(6) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:41:35 ID:OT9PV3kg0
 すると、幾つものエターナルローブがその中に飲み込まれ、一瞬にして消えていった。

(そうか……ッ!)

 ダークアクセルは理解する。

「何をやっている……!?」

 “それ”は、スーパー1の言葉だった。
 ダークアクセルが何をしているのかわからない、という意味であった。
 彼のレーダーは、“ダークアクセルだけが見ている映像”を捕捉していないのだ。

「──なるほど、この俺に、幻惑を仕掛けるとはなッ!」

 エターナルは、「T2ルナメモリ」の力を発動していたのである。
 これにより、本来一つしかないエターナルローブを「八つ」にして、その全てでダークアクセルを狙った。攪乱させて幻惑を切った隙を狙い、本物で斬りつけようとしたのだろう。確かに、一度はそれに引っかかりそうになったが、無事打ち破ったのは、地に落ちた「気」の抜け殻を見ればわかる。
 その幻惑の効果は、エターナル以外にはなかったのだろう。

 ──その無数の幻惑の中に一つだけ、手ごたえのある攻撃があった。
 直後、その手ごたえを感じる一撃は障壁に弾かれる。──ダークアクセルの後方を狙う攻撃だった。どうやら、視神経が全て前方のそれに集中した隙を狙うつもりであったらしい。
 幻惑は全て消え、本物のエターナルローブも既に地面に払われてしまったのをダークアクセルは確信していた。
 良牙の作戦は、障壁によって破られたというわけだ。

「しかし、外れたな……どうやら策は失敗だったようだぜ、良牙」

 と、ダークアクセルが安心した瞬間であった。

「……馬鹿が」

 エターナルが冷徹に呟き、ダークアクセルに向けて中指を立てた。真っ直ぐ突き立てられた中指に、ダークアクセルも直感的に不穏な意図を感じた。
 はっとして、周囲を見回す──。
 ──と、同時に、「第四」のエターナルローブの刃がダークアクセルの頭上に降りかかったのである。何トンもの重量を持つ物質が地面に落ちたような音が鳴り響く。
 それは、完全にダークアクセルの意表を突いた攻撃であった。

(────何ッ!!)

 既に本物が転がっていたはずなのに、──もう一つの「本物」が己を襲ったのだ。
 エターナルローブは、“二つ存在した”──?

「エターナルローブを出せるのは、俺だけじゃねえんだよッ!!」

 エターナルの真上から、もう一人の「エターナル」が着地する。
 仮面ライダーエターナルは唯一無二の存在である。そして、その武器であるエターナルローブも同様だ。
 しかし、ここに居るエターナルは、決して幻想の産物ではなかった。

「──そう。厳密には、“偽物”ですが、」

 それは、ダミーメモリで仮面ライダーエターナルの姿に変身したレイジングハート・エクセリオンであった。彼女が隙を見て、「本物」を一つ作りだしていたのだ。
 先に地面に落ちた八つのエターナルローブは、ルナの力によって発現した「七つ」と、エターナルから放たれた「一つ」──しかし、「もう一つ」の本物が即席で生み出され、それが敵に一矢報いた。
 確かにエターナルの作戦は失敗していたかに見えたが、そこに加担し、成功に導いた者がいたのだ。

「これは、“本物”の怒りをあなたに向けてた一撃です──!!」

 エターナルの姿を模していたダミーは、再び、高町なのはの姿へと変身する。
 こちらの姿の方が、仲間内の「判別」の上では混乱も起きないと配慮しての事だ。
 本物のエターナルが、前に出る。

「本当は俺の手でテメェを倒してえが、テメェを潰したいと思ってるのは俺だけじゃねえんだぜ!」

 エターナルの中で良牙は思った点…。
 あかねを狂わせ、殺したのは間違いなく目の前の敵だ。
 しかし、それでも……。
 この憎しみを持っているのは、響良牙だけじゃない。
 だから、誰が力を貸してくれたっていい。

「トドメは誰にだって譲ってやる……。ただ、絶対に──」



 ──オマエを倒す!!



 良牙の心の叫びがその場に反響した実感があった。
 その瞬間に、偶然にもその場に吹いた風が、誰かの心の追い風となっていった。
 彼には負けていられない、と。

333崩壊─ゲームオーバー─(7) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:42:33 ID:OT9PV3kg0



「でかしたぜっ、二人とも……やっぱり今、勝利の女神は俺たちに微笑んでるってワケか」

 仮面ライダージョーカーが、まさに、良牙に影響されて前に出た戦士だった。
 年下の響良牙に先を越されてしまったゆえに少々焦りを覚えているのかもしれない。
 義手の右腕は、切り札のメモリを掴み、それをマキシマムスロットへと装填する。

──Joker Maximum Dirve!!──

「じゃあ、俺も行くぜ!」

 仮面ライダージョーカーは駆けだすと同時に、カセットアームをマキシマムドライブのエネルギーを携えた右腕に装填する。固く握っていたはずの義手の右腕は、すぐに別の腕へと交換される。
 ドリルアーム。
 ──固い装甲さえも貫くアタッチメントだ。マキシマムドライブは、右腕の姿が変わっても尚、そこにエネルギーを充填し続けた。それまでにそこに通ったエネルギーもどこにも逃げておらず、ドリルアームの周囲に在り続けている。ドリルアームもまた、それを内部の機械で吸収し、激しく駆動する。
 ジョーカーは、高く飛び上がった。

「はあああああああああっっ!!」

 腕が空中で強く引かれ、真っ直ぐダークアクセルの体表目掛けて叩きつけられた。
 黒い胸板に突き刺さるマキシマムドライブの光とドリル。
 かつての戦友、照井竜が愛用した仮面ライダーアクセルが悪の力に利用される事──その事への嫌悪。

(くっ……)

 若干の不快感は覚える。彼が仮面ライダーアクセルの外形を模していなければ、もう少し、この時の気分は変わっただろう。しかし──アクセルを壊しつくす覚悟は、左翔太郎の胸の内には確かにあった。
 ドリルアームによるライダーパンチの発動が終わるまで僅か数秒であるにも関わらず、妙に長い時間に感じたが──あるタイミングで、ジョーカーは後方に退いた。
 やはり、これだけでは勝てないらしい。
 ダークアクセルは立ったまま俯いたように、そこにあり続けた。
 ──思いの外、手ごたえがない。

「はぁっ!」
「おらっ!」

 ゼロとガイアポロンが続くようにダークアクセルのもとへ駆ける。
 先んじて辿り着いたゼロがダークアクセルの体目掛けて、大剣の鋭利な刃を叩きつける。すると、激しい金属音が鳴る。体表を振動するエネルギーがアクセルの装甲全体に行き渡った。
 遅れて辿り着いたガイアポロンも、同様にガイアセイバーを彼の懐に向けて叩きつけた。どこかに攻撃していない“隙”があるのではないかと彼も考え、人体でも弱そうな部分を斬りつけようと思ったのだろう。

「──残り八分」

 ダークアクセルが、まるで気にしていないかのように小声で呟くのを、二人はふと聞いてしまった。
 その瞬間、二人はショックを受けると共に、焦燥感も覚えた。彼の告げた時間はおそらく正確だ。こんな所で油を売っている暇はないのだ。自分たちは目の前にある主催本部へと直行すべきである。

 ──それを、「彼」が裏切ったばかりに。

 そんな彼は、自分たちをものともしていないとばかりに、時間を気にしている。
 苛立ちを覚え、その余裕を打ち壊してやろうと更なる一打を与えようと意気込んだ。

「くっ……銀牙! 力を貸してくれっ!」
「リクシンキ! クウレツキ! ホウジンキ!」

 二人は自分たちだけが召喚する事の出来る強力な仲間を呼び出す。
 彼らの味方はここだけにいるわけではない。

334崩壊─ゲームオーバー─(7) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:43:08 ID:OT9PV3kg0

 嘶く声と、蹄の音。──銀色の巨体、魔導馬・銀牙が、魔法陣を通過して魔界から召喚される。
 空を超え、海を渡り、陸を駆けて現れる(?)三つのマシーン。──超光騎士たちが、空から光線を発し、ダークアクセルへと的確な射撃を行い、飛来する。

「──超光合体! シャイニングバスター!」

 ガイアポロンが呼んだリクシンキ、クウレツキ、ホウジンキの三体の超光騎士は、呼び出しと共に空中で合体する。

「頼むぞっ!」

 主人が飛び乗る。
 超光戦士シャンゼリオン──いや、プログラムを変更、彼はガイアポロン──を乗せ、敵に止めを刺す為のフォーメーションを空中で展開。
 青い空の下であった。
 彼ら三体のメカにとって、石堀光彦は──起動を手伝った恩人であるのは人工知能も理解している。だが、これは主人の命令でもあり、決してこの時ばかりは拒んではならない使命である事もまた、了解していた。

「バスタートルネード!!」

 ──超光騎士は、目覚めて、最初の砲火を浴びせる。

 リクシンキの放つショックビーム。
 クウレツキの放つクウレツビーム。
 ホウジンキの放つスーパーキャノン。
 その三つの力はある一点で混ざり合い、その全てが相乗され、三つのエネルギーの特性を合わせた強い砲撃となって、一直線にダークアクセルの身体を狙う。
 主人である涼村暁の最初の命令が、まさか、あの時に一緒にいた仲間への攻撃であるとは、この時、この超光騎士のいずれも思わなかっただろう。
 しかし、一切その砲撃には容赦という物が感じられなかった。容赦をする必要のない相手だと、機械である彼らも本能で悟ったのだ。

「『──烈火炎装!!』」

 ゼロも負けてはいない。魔導火のライターでその身を青の炎に包み、ソウルメタルの性能を引き上げる。涼邑零も、銀牙騎士の鎧も、腕にはめられた魔導輪も、彼が繰る魔導馬も──全てがその炎の中で精神が研ぎ澄まされる。
 魔戒に携わり、魔を絶つ者たちだけが感じる力。──それ以外の者にとっては、それはただの身を焦がす炎にしかならない。
 ゆえに、魔戒騎士はこの殺し合いで圧倒的に有利な存在と言えた。
 銀牙に跨ったゼロは、銀牙銀狼剣を構え、ダークアクセルへと駆ける。

「「────はああああああああああああああああああああああああッッッッ!!!!!」」

 涼村暁と、涼邑零。
 二人の声が重なった時、二人の攻撃はダークアクセルの目の前まで迫っていた。依然として、ダークアクセルはその攻撃に対して、それぞれの前にバリアを展開して応戦する。ワンパターンだが、有効打だ。
 しかし──。
 石堀の予測より、その攻撃は幾許か強力であり、また──。

──解──
──解──

 彼の有効打には、こんな対抗策も存在した。
 バリア解除のモヂカラである。──外道シンケンレッドと、それを模したダミー・ドーパントの「白い羽織の外道シンケンレッド」。
 二人が、モヂカラを用いて、障壁を強制解除する事が出来る。今この時のように、バリアのタイミングが事前に予測できた場合は、タイミングを合わせてすぐに行う事が出来る。

「くっ……!!」

 ────炸裂。

 巨体が青い炎を纏いながら、ダークアクセルの真横を横切る。
 ダークアクセルの体に纏わりつく青い魔導火の残滓。
 それを描き消すのは──、ガイアポロンと超光騎士たちが放ったシャイニングトルネードの渦巻く一撃。

「──ッッッ!!!!」

335崩壊─ゲームオーバー─(7) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:43:34 ID:OT9PV3kg0

 ダークアクセルの体表で、小爆発が連続して起きる。一つのシステムの崩壊が、別の部位で誘爆を起こす。
 石堀光彦が耐えたとしても、遂にアクセルの方が攻撃の連鎖に耐えかねているらしく、その装甲から火花が散った。──第一、石堀もまた、「耐えた」と言っても、それは確かに一杯喰わされたと言って相違ないダメージである。
 これもまた、想定を上回る攻撃である。

「残り七分──ッッ!!」

 それでもまた、どこか我慢を噛みしめているように、タイムリミットを呟くダークアクセル。
 そんな彼の全身から煙が生じているのを、ドウコクが皮肉的に見守っていた。

「エレキハンド!!」

 次の瞬間、スーパー1の腕は金の光を示し、ダークアクセルの体へと電流を放った。
 雷が落ちたような強烈な金属音が鳴り響いた。電流はダークアクセルの体に直撃し、全身を駆け巡っている。大剣が齎した振動をなぞるように電流はダークアクセルの体を流れていき、時に先ほどのエネルギーと反発しながら石堀光彦の体にダメージを与える。

「──ッ!」

 確かな手ごたえ。
 スーパー1の攻撃と同時に、全身を駆け巡った電気のエネルギー。
 それは、勿論、先ほど同様に、石堀光彦だけではなく、やはり“アクセル”にまで火花を散らさせた。彼の耳元に、両腕、両足、頭──と、全身の装甲を崩壊させていく音が鳴り響いていく。
 あらゆる攻撃が、装甲の防御性能や攻撃性能をダウンさせ、それをただの重い鎧に変えていく。

 ダークアクセルは、“アクセル”に巻き込まれるようにして、自らの膝をついた。
 これならば変身を解除した方が確実に良いと、石堀も内心で思った。そして、その思考通り、次の瞬間にはアクセルドライバーに装填されているアクセルメモリを取りだそうとする。
 しかし──。

「何──ッ!?」

 ──変身が、解除できない。
 アクセルメモリにその手を近づけるなり、全身で装甲が火花を散らし、装甲の内部で石堀にダメージのフィードバックが発生するのだ。
 二度、試したが、やはり同様に、解除が何かによって拒否されている感覚があった。
 アクセルが石堀を弱体させている状況下、変身が解除できないのは痛手である。
 ──何故こんな事が起こるのか。

「どういう、事だ……ッ!!」

 そう、“アクセルメモリ自身”が、ダークアクセルの手を拒んでいるのだ。
 過剰適合と正反対だ。非適合者に捻じ伏せられる形での変身であった為に、“メモリ自体”が石堀光彦に抵抗しているのである。

「まさか、この機に乗じて……」

 誰かを裏切る者は誰かに裏切られる。
 それは時として、“誰か”ではなく、“何か”であったりもする。
 そう、この時。──石堀は、ただの一個の変身アイテムとしか認識していなかった“アクセルメモリ”に裏切りを受けていたのである。

「……いや、この機を待っていたのか、──アクセルゥゥゥゥゥーーーーッッ!!」

 石堀も解したらしいが、それは既に手遅れだ。
 自分は、このまま追い詰められる。いや、既に殆ど、彼らに追い詰められている。
 その彼らの中には、もしかすると──この、加速のメモリも含まれているのかもしれない。

 ──ガイアメモリは元の世界で、その未知の専門家を含め、誰も解明しきれていないほどの未知の性質を持っている。
 時として、メモリ自身が使用者を選ぶのも──また、その性質の中で最も不可解な部分の一つである。
 石堀光彦は、決してアクセルに選ばれてはいなかった。いや、仮に選ばれたとしても、この時、おそらくその資格は亡くしていたのだ。
 本来の装着者──“照井竜”のような、「仮面ライダー」をアクセルが求める限り──。

336崩壊─ゲームオーバー─(7) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:43:51 ID:OT9PV3kg0

「照井……!」

 仮面ライダージョーカー──左翔太郎だけがそれを理解し、どこか感慨深そうに、アクセルの崩落を見つめていた。
 井坂深紅郎が無数のメモリを使った実験によって、自壊した時にも似た光景だった。
 照井竜の──仮面ライダーアクセルの最後の意地を垣間見ているような気がして、彼は息を飲んだ。

 照井竜を殺害したのは、実は間接的には石堀光彦である。彼による洗脳を受けた溝呂木眞也や美樹さやかの襲撃がなければ、照井竜とその同行者である相羽ミユキは死なずに済んだといえる。
 アクセルメモリは、今、ある意味で、その“復讐”を行っているのかもしれない。

「……何だかわからねえが、絶好の機会って奴らしいな」

 そんな時、言葉を発したのは、血祭ドウコクであった。
 昇龍抜山刀を抜き、全く遠慮を示さず、全く恐怖を覚えず──ダークアクセルへと、のろのろと歩きだす。
 ダークアクセルの視界に、鈍い動きで迫るドウコク。
 反撃の機会を見出そうとするが、そんなダークアクセルの体を蝕む電流。装着者を戦わせない──、“変身システムによる反撃”が石堀光彦を襲う。
 これは、もはや──拘束具である。

「折角だからな、俺の借りも返させてもらうぜ」

 呟くように告げるなり、眼前で、ドウコクは昇龍抜山刀をアクセルの左半身目掛けて振り下ろした。
 ねらい目は、青色の複眼であった。ここが叩かれる。──破壊音。
 メットの青いバイザーのみが砕かれ、中の機械が外に露わになった。その痛みは仮面の下の石堀にもフィードバックする。──左目に電流。
 目の前の血祭ドウコクが受けた痛みに似ている。

「ぐぁっ……ッッ!!」

 この一撃がドウコクの返答であった。
 彼は真正の外道である。
 弱っている相手にも躊躇はない。たとえ、それがかつて味方であった者だとしても、どれだけ弱り果てていたとしても──それが彼の感情を僅かでも痛めたり、揺さぶったりする事はない。
 これは、「外道」であるがゆえに成せる技だ。彼が外道であるがゆえに、一方的に敵を痛めつける事にも躊躇は払われない。

 そして、そんなアクセルに誰かが救いの手を差し伸べる事も、この時ばかりはなかった。
 更にドウコクはアクセルの角を左手で掴み、強引に立たせるようにして持ち上げた。手足がだらんとぶら下がる。──石堀もどうやら、限界のようである。



「んラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



 そこから、横に真一文字。
 刀が凪いだ。深々と斬りつけられた刃は、アクセルを確かに“斬った”手ごたえをドウコクの手に伝えていた。
 ──アクセルの装甲に黒い生傷が生じ、そこからアクセルの全身を覆うような真っ白な煙があがった。耳を塞ぎたくなるような金属音が鳴る。

「……っと、」

 ドウコクはこの一撃とともに、アクセルと距離を置く。できれば攻撃を続けたかったが、それはやめた方がいいと気づいたらしい。
 ──何故ならば、既にトドメを刺す為の前兆が始まっていたのを背中で聞いていたからである。
 彼らが攻撃してくる事はないと思うが、巻き添えを食らうのはごめんだ。
 まあいい。譲ってやろう。

──Joker!!── 
──Eternal!!──

337崩壊─ゲームオーバー─(7) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:44:14 ID:OT9PV3kg0

──Maximum Drive!!──

 重なって聞こえた二つのガイダンスボイス。
 仮面ライダージョーカーと仮面ライダーエターナルの二人の仮面ライダーがマキシマムドライブの音声を奏で、膝を曲げ、腕を横に広げて構えていた。
 仮面ライダークウガの変身待機時のポーズであった。

 彼らが、同じ仮面ライダーとして、ダークアクセルの最後を飾ろうとしているのだ。
 マキシマムドライブのエネルギーはベルトのメモリから膝へと伝っていく──。

「照井……これ以上、お前のアクセルを、こんな奴に利用させねえよ」

 そんな言葉に反応して、ダークアクセルの動きが硬直する。──反応したのは、ダークアクセルといっても、“石堀光彦”ではなかった。
 ──全身の神経が逆らえない、装甲の圧迫。内部を駆け巡る電流のような衝撃。
 この一撃だけはなんとか通そうと、アクセルメモリが──照井竜の魂が邪魔をしているかのように。

「くっ……!」

 彼は、二人の仮面ライダーが自らの目の前で、こちらへ向かって駆けてくる事も、飛び上がり、回転する瞬間も、見ているだけしかできなかった。
 抵抗は全くの無意味だ。メモリの拘束力が強い。
 次の瞬間──





「「ライダー、ダブルキィィィィィィィィーーーーーーーッッック!!」」





 ダークアクセルの身体を貫く、二人の仮面ライダーの同時攻撃──マキシマムドライブ。
 炸裂。──目の前で視界を覆う光。
 即席とは思えぬ、見事に息の合ったコンビネーションで、それはダークアクセルの胸にクリティカルで命中した。
 アクセルの装甲で耐える事は不可能な膨大なエネルギーが流しこまれる。

「ぐっ……ぐああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!」

 鳴り響く悲鳴。──そして、遅れて爆音。
 それはアクセル自身の内部の音だった。
 アクセルの装甲が弾け飛び、爆発する。ナイトレイダーの制服をぼろぼろに焦がした石堀光彦が中から現れ、膝をついて倒れる。──彼にしてみれば、牢から解放されたともいえるかもしれないが、その時に被ったダメージはその代償としては大きな痛手であっただろう。
 空中で、アクセルのメモリが罅を作り、心地の良い音と共に割れた──。

 ──メモリブレイク。

 仮面ライダージョーカーにとって、それは仕事の一つだった。
 仕事を完了した彼は、恰好をつけた決めポーズをするのが癖だったが、今日はそれを忘れていた。
 勿論、それは、照井竜の遺品ともいえるガイアメモリを砕いてしまったからに違いない。

(……これで、本当の意味で風都のライダーは……俺一人になっちまったな)

 爆炎を背に、彼はしみじみと思った。
 アクセルを継ぐ者は現れない。何人もの仮面ライダーが支え合い、風都を守って来た伝説は、今日から、孤独のヒーローの話になる。
 ──それを、翔太郎は実感した。

「がっ……がはぁっ……ッッッ!!!」

 溺れたような声が耳に入り、ジョーカーたちは振り返った。
 常人はメモリブレイクのダメージに耐えてすぐに起き上がる事は出来ないのだが、石堀はそれが可能だった。まだ地面から煙がそよいでいるという中でも、土を握って立ち上がっている。

338崩壊─ゲームオーバー─(7) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:44:35 ID:OT9PV3kg0

 それは、生身の人間のように見えるが、──いや、そうではない。
 石堀は、ウルティノイドだ。宇宙で作られた人工生命体である以上、その姿が人間だからといって侮ってはならない相手なのである。──この中に、それを知る者は一人もいなかったが。

「……まさかッ……この俺が……!! この俺が……ッ!!」

 石堀は既に包囲されていた。
 ここにいる者たちは、容赦なく石堀を攻撃する覚悟を持っている。
 その武器を固く握りしめ、彼を倒す事を誰しもが考えていた。息の根を止める、という末恐ろしい事を実行しようとしている。
 しかし、その時。

 ──ふと。

 石堀の視界に、包囲している人間たちとは別の物が、見え、石堀はそちらを注視した。
 それは、確かにこちらに接近している。──物体、いや、人間。
 誰だ……? あれは……?
 自らが置かれている状況を忘れて、彼は目を見開いた。

「…………!」

 その時。石堀に対して、またも予想外のアクシデントが起きたのである。
 しかし、そのアクシデントはこれまでとは決定的に違う性質の物であった。──なぜなら、それを謀った物は誰もいないからだ。
 対主催陣営も、石堀光彦も、主催者側も──実際のところ、まるで感知しなかった事実が襲来した。

「────」

 石堀が、何かを見ている……という事に他の全員が気づいたのは、そのもう少し後の事だった。彼の次に、零が、──次に、ドウコクが、──沖が、──レイジングハートが、──翔太郎が、──良牙が、気づいた。
 そこで、誰かが言った。

「待て……! なぜお前が……」

 誰が言ったのかはわからない。しかし、誰もが同じ事を言おうとしていた。
 彼らは、どうやら、このタイミングで、今の戦闘よりも遥かに注意を向けなければならない事象に立ち会ったらしい。
 誰かが空を見上げた。
 いや、しかし──空は、思いの外、明るかった。だからこそ奇妙だった。
 ──何か、恐ろしい物が背を這うような感覚を、その場の全員が覚えた。

「……貴様、生きていたのか……!」

 それは、石堀光彦でさえ一度息を飲んでしまう相手だという事。
 本来、死んでいるはずの存在であるという事。──放送でも、名前は呼ばれたはずだった。
 そして、自ずと見えてきた敵の姿。

 あれは見た事のある白い体表。
 その体表を飾る金色の装飾。
 四本角。
 吊り上がった怪物の眼。



 究極の闇ン・ダグバ・ゼバ──。

「イシボリ……カメンライダー……やはり、生きていたか」

 ──いや、「ン・ガドル・ゼバ」であった。



「どうして……お前が……いるんだ……」

 彼は、翔太郎が、フィリップや鋼牙と共に完全に倒したはずなのに。
 何故、ここにいる。彼らの犠牲によってやっと倒したはずの相手だ。
 それは、ダグバの姿をしていたが──左翔太郎には、それがガドルなのだとすぐにわかった。左腕が失われているのがその最たる証拠だ。

339崩壊─ゲームオーバー─(7) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:45:04 ID:OT9PV3kg0

 だが、左腕を失った宿敵は、永久に死んでいて欲しかった。
 彼を倒す為に出てしまった犠牲の重みを思えば、そうでなければ理不尽である。──ジョーカーは固く拳を握る。

 ──何故、こんな時に。

 そう問いたい気持ちが本来湧き出るはずだが、それさえ出なかった。
 彼が、何故こうして生きているのかは誰にもわからなかったからだ。

 しかし、少なくとも、彼は、「死んだ」ように見せかけながら、何度でも彼らの前に現れた敵であった。
 それと同じだ。もう驚き慣れたほど──。
 そして、また、こうして彼らの前に現れてしまったのである。



「──確かに、俺は、貴様らに何度となく敗北した……! そして、死さえも経験した……! 世界には俺よりも強い者が何人もいたのだッ!! もはや、勝者となり、究極の闇を齎す資格はどこにもないのかもしれん……」



 ガドルが右腕を目の前に翳す。
 次の瞬間──。

「……!」

 超自然発火能力によって、彼らの周りに炎が上がる。
 炎は無差別に燃え上がった。自らを巻き添えにする事も辞さないほどである。

「……しかし、俺はグロンギの王だ。ゆえに、グロンギ以外の者に負けたままで終わる事は出来ない! この俺の為に、王となった俺の為に──グロンギの王が、他の種にやられた事実を覆す為に……敗北し、葬られた全ての同胞が力を貸しているに違いないのだ……! ならば、それに応える事こそが、王たるこの俺のさだめ……!」

 その精神は、果てしないほどに「戦士」であり、「強者」であった。
 その誇りは、まさしく「王」に相応しい物であった。

「俺は、貴様らを倒すまで、死ぬわけにはいかん……!!」

 外見は、まだその体の全てを完治しておらず、はっきり言ってしまえば満身創痍といっていいかもしれない。気力だけで体を動かしているという言葉がこれほど似合う者もいまい。
 究極の闇としての脅威は、そこにはなかった。

 しかし、この場に現れた第三勢力に、多くの者が戦慄した。
 その執念に、そのしぶとさに……。

「──まずは貴様だ、イシボリ!」

 着々と過ぎていく残り時間の中で、敵も味方も、第三者もまた──思いもよらぬ出来事の連続を体感していた。





340崩壊─ゲームオーバー─(7) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:45:52 ID:OT9PV3kg0



 キュアブロッサムは、再び、容赦なくキュアピーチに容赦のない攻撃を仕掛けていた。
 起き上がったキュアピーチに、両腕の拳を何度も振るう。
 キュアピーチもまた、同じ数だけ拳を振るい、防御しながら攻撃を仕掛ける。
 常人の目では素早すぎて見えないラッシュが、キュアピーチとキュアブロッサムの間で展開されている。
 事実、そこに辿り着いた孤門一輝の目には、“それ”は見えていなかった。

「つぼみちゃん!」

 孤門が、大声をあげて呼んだ。
 しかし、ブロッサムはそれを聞いたものの、戦闘に集中すべく、やむを得ず無視した。視線さえも孤門には向けられていない。一瞬でも気を抜くと命取りになるのだ。まるで聞こえていないかのようである。
 孤門に申し訳なく思いながらも、やはり、それは仕方のない事だと割り切った。

「美希ちゃん……!」

 勿論、孤門も咄嗟に呼んでしまっただけで、戦闘を中断しての答えを期待していたわけではない。無視を決め込まれても別段心を痛ませるわけでもなく、その場にいるもう一人に気づいて声をかけた。こちらは、もっと意思の込められた呼びかけだった。
 キュアベリーは、少し足を痛めたと見える。この場で立ち上がらずに、ピーチとブロッサムの方を見上げていた。あのラッシュの中、付け入るタイミングがないのかもしれない。
 ベリーは、自分の名を呼んだ孤門の方を向いた。

「孤門さん……」
「痛みは?」

 孤門は少し心配そうな表情で訊いた。
 彼がこんな風にサポートをするのはこれで何度目だろう。

「あるけど……大丈夫。すぐになんとかなります。大した痛みじゃないので」

 その言葉は、強がりというわけでもなさそうだった。しかし、僅かでもダメージを受けてしまうのは今後厄介である。
 残り時間も少ない。──孤門の中では、焦燥感は苛立ちへと変わりつつある段階だ。

(まずい……)

 残りの数分で、ゲームは「破綻」だというのだ。孤門たちはこの島に取り残される形になってしまう。その短期間で乗りこむ事が出来るのか?
 残された可能性は僅かだ。おそらく、「無理」と言っていい。
 しかし、最後まで諦めてはならない──それが信条だ。

 キュアベリーが、ピーチとの戦いについて口を開いた。
 事前の作戦らしき物はあるのだが、どうやらまだ成功まで漕ぎつけていないらしい。

「ピーチのブローチを狙っても、どうしても拒絶されて、難しいんです……」
「わかった。……でも、それは大丈夫だよ。こっちも、打開策を得たばっかりだからさ」

 そんな孤門の言葉にきょとんとしているベリーであった。
 妙に自信ありげにも聞こえた。

「大丈夫。もう、すぐにラブちゃんは助かるよ」

 その時。
 キュアベリーと孤門の後ろから、二人分の足音が鳴った。──マミと杏子だとするなら、丁度人数分であった。
 しかし、まだそれが誰なのかはキュアベリーの視点では確定していない。とはいえ、マミと杏子だと推測しており、実際そうだと確信しているのだが、彼女は、そう思っていたからこそ、──そして、実際に正解だったからこそ、この後、驚く事になる。

「……え?」

 二人は、ゆっくりとキュアベリーたちの真横まで歩いて来た。
 そして、立ち止まり、真上で戦闘を繰り広げているキュアブロッサムとキュアピーチの方を見上げている。
 地面に座りこんでいるキュアベリーには、その顔は後光で見えない。

341崩壊─ゲームオーバー─(8) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:47:20 ID:OT9PV3kg0




すみません、>>340は「崩壊─ゲームオーバー─(8)」です。

342崩壊─ゲームオーバー─(8) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:47:48 ID:OT9PV3kg0

「……!」

 だが、そこにいる二人の「恰好」を見て、──キュアベリーも驚かざるを得なかった。

「これが最初で最後だからな、折角だしキメてみるか」
「──そうね、二人だけだど味気ないかもしれないけど」

 それは──黄色と赤のフリル。
 間違いなく、キュアベリーが近くで見てきたものと同じだった。
 声、だけが違う。





「イエローハートは祈りのしるし! とれたてフレッシュ、キュアパイン!」

「真っ赤なハートは情熱のあかし! 熟れたてフレッシュ、キュアパッション!」





 二人のプリキュアが名乗りを上げる。
 そう、それは──かつてまで一緒に戦っていた、二人のプリキュアであった。

 キュアパイン。──山吹祈里。
 キュアパッション。──東せつな。

 だが、その二人はもう、この世にはいない。いるとすれば、美希の心の中に二人はいる──が、美希が二度とその姿を現実に見る事はないはずだったのだ。
 その決別は既に済ませたはずであった。

「やっぱり、恥ずかしいなこの『名乗り』って奴は」
「……そうかしら? 結構カッコいいと思うけど」
「……」

 太陽が微かに動くと、そう言う二人の顔が、ベリーにもはっきりと見えた。
 やはり──それは、巴マミと、佐倉杏子だったのだ。マミがキュアパインに、杏子がキュアパッションに変身している。

 そこにあるのが祈里とせつなの顔でなかったのを一瞬残念に思った心があるのも事実だが、やはり……事後的に考えれば、少し、そうでなくて安心した気がする。
 もし、またそこに祈里やせつなの姿があったとしても、どう受け止めていいのかわからないほど、この二日間は長かったのだ。彼女は既に受け入れてしまった──二人の死を。
 見慣れたキュアパインとキュアパッションの顔が、少しアンバランスにも見えた。衣装は同じだというのに、顔だけ違うのが違和感を齎すのだろう。

「あなたたち……」

 やはり、驚いてそんな声が出てしまった。
 何故、二人がこうしてキュアパインとキュアパッションになっているのだろう。──恰好だけが同じというわけではないのは、同じプリキュアであるキュアベリーには、すぐに理解できたが、彼女たちプリキュアは誰でも変身できるというわけではない。

 キュアピーチはラブ、キュアベリーは美希、キュアパインは祈里、キュアパッションはせつなの物であった。……しかし、そのルーツを辿れば、確かにありえる話ではある。
 美希も最初は普通の女の子だった。それが、妖精ブルンに認められ、キュアベリーの使命を背負った事で変わったのである。
 ──つまり、妖精が認めれば、誰であっても、次のプリキュアの資格を得る事も出来る、という事だ。
 考えてみれば、同様に、ダークプリキュア──そして、月影なのはと名付けられた彼女が、キュアムーンライトに変身を果たしている。

「……ベリー。キルンとアカルンがあたしたちの事を認めてくれたみたいだ。あたしたちじゃ気に入らないかもしれないが、四人で力を合わせればブローチの一個や二個、簡単にぶっ壊せるだろ?」

 言って、キュアパッションはキュアベリーの手を取った。
 キュアベリーが、呆気にとられながらも彼女の手を借りて立ち上がる。その顔つきは杏子にも随分と間の抜けた物に見えていたが、すぐにまた顔を引き締めたのがわかった。

343崩壊─ゲームオーバー─(8) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:48:29 ID:OT9PV3kg0

「……二人はもう完璧に私の仲間よ! 祈里とせつなの後任だって認められるわ。気に入らないわけないじゃない……!」

 ベリーは、勝気に笑い、二人の間に少しの安心が宿った。
 蒼乃美希にはわかる──。
 仮にもし、死者が何かを言えるのなら、彼女たちは二人を認めるに違いない。キルンやアカルンもそれを見越した上で二人を新たなプリキュアへと変えたのだ。
 ならば、ここで新生・フレッシュプリキュアが生まれる事になる。

 ──いや、やはり、……まだだ。

 現段階ではまだ新生・フレッシュプリキュアとは言えないではないか。
 あと一人。キュアピーチを助け出した瞬間から、フレッシュプリキュアは新しいメンバーを加えて、再び「四人」になる事ができる。
 ラブを含めて四人。──そう思ってこそ、気合いが湧きでるという物だ。
 それを思って、ベリーは自らの頬を両手でぱんっ、と叩いた。

「……さあ、いくわよっ、二人とも! プリキュアでは、私の方が先輩だから、わからない事があったら何でも聞きなさいっ!」

 今度は、キュアピーチとキュアブロッサムの戦闘が繰り広げられる眼前へと駆けだした。
 後ろには、少しむすっとした表情で、「先輩風吹かすんじゃねえ!」と言うキュアパッション。それを、「いいじゃない、たまにはこういうのも」となだめるキュアパイン。
 それは、誰にとっても新鮮な光景であった。

「──はぁっ!」

 彼女たちは、顔を見合わせて頷いた。
 疾走した三人は、一瞬でキュアブロッサムとキュアピーチの周囲を囲んだ。
 流石に、二人もすぐに戦闘行為を中断する。
 キュアピーチは、単純に形成が不利になったのを理解したからであり、キュアブロッサムは、無抵抗の敵に攻撃を続ける必要性を感じなかったからだろう。

「えっ……? どういう事ですか……?」

 戦意に溢れた先ほどの表情と打って変って、きょとんとした表情でブロッサムが言った。
 彼女も、キュアパインがマミ、キュアパッションが杏子になっているこの光景には、唖然としてしまっている。

「説明は後! ブロッサム、私たちに合わせて!」

 しかし、そんな疑問は、今は彼女に勝手に納得して貰うとして、問題はもう一人のプリキュアの方である。
 ──キュアピーチの顔色が、更に険しくなった。

「……ッ!!」

 キュアピーチは、加わった三名の姿、それぞれに何かの想いを抱いたようである。
 激しく強い憎悪。特に、その「三つの色」が目の前に入った時は、全てをなぎ倒す竜巻のように激しく、彼女の心を渦巻いていく──。
 あの青と、黄色と、赤の衣装に対しては、ただひたすら憎しみばかりが湧きあがってくるのである。
 どれも、“憎い”記憶に満ちているようだった。

「……!?」

 だが、そんな想いに駆られていた間に──キュアピーチは、自らが敗北の境地に立っていた事に気づいた。

「何ッ……!」

 そう、気づけば既に────包囲は完了している。
 逃げ出す猶予はなかった。
 キュアピーチは、四人の敵に四方を完全に囲まれていたのだ。対象を絞れない彼女は、一瞬錯乱する。

 右を見れば、キュアパイン。左を見れば、キュアパッション。後ろには、キュアベリー。前方には、キュアブロッサムがいる。
 まずは、真上に飛ぶ事を考えたが──。

「さあ、一気に行くぞ!」

344崩壊─ゲームオーバー─(8) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:48:46 ID:OT9PV3kg0

 次の瞬間、キュアパインとキュアパッションが駆け出し、キュアピーチの腕をそれぞれ掴む事に成功してしまった。その腕は強く、固く結ばれている。
 キュアピーチは、先手を取られた事に対し、不機嫌そうに顔を歪ませた。

「はぁっ!!」

 だが、それでも、キュアピーチは二人を引き離そうとして、地面を強く蹴った。ある意味では彼女も強い執念の持ち主なのだろう。
 三人が高く空に舞う。
 キュアパインとキュアパッションは、彼女のジャンプに巻き込まれながら、それでもキュアピーチを離さず、固く掴まっていた。
 それを追うように、キュアブロッサムも地面を蹴って高く飛んだ。

「はぁぁぁぁっ!!!」

 彼女が強く引いた腕は、胸元のブローチを掴もうとして、前に伸ばされる。
 あと数ミリで手が届く……という所で、キュアピーチは抵抗する。

「──邪魔をするなぁっ!!」

 キュアピーチの華奢な足が、キュアブロッサムの腕を蹴り上げたのだ。空中で蹴り上げられたキュアブロッサムは、バランスを崩しながらも叫んだ。
 ここにいるのは、キュアパインとキュアパッションとキュアブロッサムの三人だけではないのだ──。

「──くっ、今ですっ!! ベリー」

 その言葉は、「誰か」への指示であった。

「OK!」

 キュアピーチの真後ろから、キュアベリーの声──。
 いつの間に、そこにキュアベリーがいたのか、キュアピーチは認識できていなかった。

「何ッ!?」

 既に彼女もまた宙高く飛び上がっていたのだ。おそらく、キュアピーチと同時に飛び上がる事で、自らの足を踏み込む音を消したのだろう。
 キュアベリーの腕は、キュアピーチの肩の上から、胸元のブローチまで手を伸ばした。
 キュアピーチは両腕でそれを止めようとするが、動かしたい両腕はキュアパインとキュアパッションに掴まれている。足は、キュアブロッサムを蹴り上げたばかりだ。

「──いい加減に、目を覚ましなさい!!」

 キュアベリーの指先は反転宝珠のブローチを掴み、キュアピーチの胸から引きはがす。
 四人の攻撃を同時に受けたばかりに、彼女も反転宝珠を守り切る事ができなかったのだ。

「──今よっ!」
「あいよっ!」

 そして、ベリーが真横に投げた反転宝珠は、次の瞬間、──砕けた。
 キュアパッションが、見事に槍身で貫いて見せたのである。貫かれ、形を維持できなくなった反転宝珠がばらばらになって、一足先に地面に零れていく。
 ──それがソウルジェムとは性質の違う物であると知った以上、躊躇はなかった。

 これで、“友達に攻撃される”という、この、最悪の戦いは終わる……。

「──ラブ!!」

 キュアピーチの全身の力がその瞬間に抜け落ちた。両腕を掴んでいたパインとパッションはそれをよく感じ取っただろう。
 キュアベリーも、少し力が抜けたような気分になった。
 空中を舞っていたはずの五人は、そのまま自由落下する事になる。

「────」

 四人のプリキュアを前にした時点で、キュアピーチは敗北していたのだ。
 最早、そこにこれ以上戦いを長引かせる必要などなかった。

 ──その時、彼女たちが空から見る地上では、炎があがっていた。
 落下するキュアピーチは、その炎の中に、一時的に失われた桃園ラブらしい思い出を灯していた。

345崩壊─ゲームオーバー─(8) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:49:01 ID:OT9PV3kg0







「……」

 ン・ガドル・ゼバ。
 この石堀光彦という怪物が出る前は、彼こそが最強の魔人として“ガイアセイバーズ”の前に立ちふさがっていた。

 ──戦いと敗北と殺人の中で、飽くなき強さを求め続け、何度倒しても、強運によって守られ続けた戦士。

「てめぇ……」

 彼が完全に死んだ時、全ての参加者は、彼をもう思い出したくない存在だと思っていた。彼が野放しになる事に無念を感じて死んだ参加者もいる。
 生きていてはならない敵だった。
 生物には生きる権利があるとしても、それを絶えず侵し続けるのが彼らグロンギ族であった。
 ガドルがまた、これ以上、戦いを求め、これ以上、何かを殺し続けるようでは、死んでいった者たちに顔向けが出来ない。

 ジョーカーには、焦燥感と苛立ちと、体の震えがあった。
 ダークアクセルへの追い込みだってかけられたタイミングで──残り時間もほんの僅かだというのに──。
 この男が殺した幾つもの無念を背負っている男として──。
 そして、この怪物とまた命をかけた殺し合いをしなければならない者として──。
 左翔太郎の中で、あらゆる感情が渦巻いていく。しかし、そんな彼に、ガドルが顔を向けるが、かけた声は淡泊であった。彼の真横を、全く、淡々と言っていいほどにあっさりと通り過ぎていく。
 他の戦士たちも同様、今はガドルの眼中にはなかった。

「──カメンライダー。俺は必ず貴様も殺す。待っていろ。……だが、まずは貴様ではない」

 そう、ガドルにとって、最も優先すべき敵は、仮面ライダーダブル(ジョーカーの姿をしているが、ガドルはこう認識している)ではなかった。
 左翔太郎も確かにダブルの欠片ではあるが、そうであると同時に、ガドルを倒した時点でのダブルと同条件の存在ではない。
 しかし、ただ一人だけ、一対一の勝負で悠々とガドルに勝ち星を上げた物がいた。

「イシボリ……」

 石堀光彦。──仮面ライダーアクセル、こそが彼にとって、唯一、単独で自らを倒した敵だったのである。
 そして、ガドルも、今、石堀に対して、かつてとは段違いの闘気を感じるようになっていた。

「今の貴様は、まさに究極の闇だな」

 ガドルの攻撃対象が、石堀光彦であった事に安堵した者もいたかもしれない。いや、むしろ──多くの者は、ここで“彼”が石堀を追い詰めるのに加担する事に、若干の心強さも覚えていた。
 彼は、土の上で──火元がないのに何故か──燃え続けている炎の中を堂々と歩き、全員の視線を釘づけにしながら、ダークアクセルの前へと歩いていく。

「貴様は、リントではなかったか……。だからこそ、俺に勝つ事が出来た」

 かつて、トライアルの力を持ったアクセルに、ガドルは敗れた。
 それより前にも、彼の放った神経断裂弾に意識を途絶させられた事もある。
 忘れえぬ幾つもの雪辱。──どうやら、それを果たす最後の機会が巡ったようだと思う彼であった。

 ──戦え……

 ────俺と戦え、石堀……

 そんな囁く声が、石堀光彦の頭の中にも響いてくる。──普通の人間なら耐えがたい威圧感を覚える事になるのだが、彼にはそれがなかった。

346崩壊─ゲームオーバー─(8) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:50:06 ID:OT9PV3kg0
 余計な雑音として、それはすぐに、頭の中でシャットアウトされた。

「チッ……余計な参加者が増えたか……!! だが、まあいい……!! 遂に、終わりの時が来た……ッッ!!!!」

 眼前に迫りくるガドルを目にしても、ダークアクセルはそんな小言を言うばかりであった。
 彼が放つ超自然発火能力による炎は全て、ダークアクセルの周囲で「闇」が吸収していく。

「戦え……ッ!!!」

 奇妙な、炎と闇の相殺。
 まるでそれが一つのこの場のギミックであるかのように、空中で、「炎」が浮かんでは消えていた。
 誰もが、その様子に息を飲み、割り込むタイミングを見計らっていた。

「残り時間は、五分……ってとこか。まあ、ギリギリだが、粘った甲斐があった。これだけあれば残りの計画は終わり、復活の時が来る……!!」

 ダークアクセルが、ふとそう呟いた。
 今はガドルを全く意識していないようにも見える。
 この場において、彼だけはほとんど危機感を持っているようには見えない。

 ────と、同時に。



「──本当のショータイムはこれからだぜ……ッ! 面白い物を見せてやるよ」



 そう言うダークアクセルは、気づけば、「空」に逃げ出していた。ガドルなど彼の知った話ではないらしく、真正面から向かうのは極力避けようとしているらしい。
 空中浮遊。──アンノウンハンドが本来持つ力である。しかし、今まではあえて、使わずにいた。
 奥の手の一つとして温存していたのだ。
元々の彼の目的は、目の前の連中とは無縁だ。戦わなければならないから彼らと戦ったのみ。──目的になるのは、むしろこの場にいないプリキュアたちの方だ。
 彼女たちが、今、遂に石堀の目的通りに行動したのを、石堀は感知した。

 ──宙を舞った彼はすぐに別の場所に向かおうとしていた。







 忘却の海レーテの光の下、キュアピーチは周囲を囲んでいる五人の姿に目をやった。
 孤門、キュアベリー、キュアパイン、キュアパッション、キュアブロッサム──つまり、彼女たちはさっきまでそこにいた仲間たちだ。
 辺り──すぐ近くではまだ騒々しさがあり、炎もあがっていた。少し朦朧とする意識の中では、それは些細な事にも映った。

 時間は、……どうやらそこまで経過していないようだ。

 この殺し合いの会場で暮らす事になったわけでもなければ、この殺し合いが終わったわけでもない。まだ、キュアピーチはこの“殺し合い”の中に巻き込まれている。戦わなければならないのだ。
 しかし、その中でもまた色々あったようで、ピーチの目には驚かざるを得ない光景がある。そう、キュアパインがマミであり、キュアパッションが杏子である……という状況だ。

「良かった……」

 少し唖然としていた彼女に、最初にかかったのは、「桃園ラブ」の回帰に安堵する「蒼乃美希」の声だった。マミや杏子やつぼみは薄く微笑みかけながらも、桃園ラブの一番の親友の役を彼女に譲り、一歩引いていた。

「美希たん……。あれ、私、どうしてたんだっけ……? なんで二人がブッキーとせつなに……? あれ?」

 そんな風に、事態を飲み込めてない様子のキュアピーチだ。

347崩壊─ゲームオーバー─(8) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:50:32 ID:OT9PV3kg0
 反転宝珠は、感情が反転していた時期の記憶を忘れさせてしまっていたらしい。
 人格そのものが強制的に変更させられていたので、こんな風になってしまったのだろう。
 先ほどの凶暴さは嘘のようで、このギャップに思わず、キュアベリーの口元から笑みがこぼれてしまう。

「なんでもないわよ。……ただ、あんな思いは二度とご免ね」
「え? やっぱり何かあったの? えっと、何かあったなら、協力できなくてゴメン!」

 普通なら白々しいが、ラブは本当に先ほど何があったのか知らない。
 人格が極端に変わるだけに、記憶ごと一度リセットされたのだ。
 もういい。説明する必要はない。彼女にも悪気があったわけではないし、知れば、泣きわめいて何度もペコペコと謝るだろう。
 桃園ラブは、そういう人間だ。

「……もういいのよ。さあ、私たちも戻るわよ。──今、ようやく新生・フレッシュプリキュアの誕生なんだから」

 ベリーがそう言って、ピーチの手を取り立ち上がった。
 キュアベリーの膝はすっかり怪我の痛みを忘れて、キュアピーチの方も激戦で残る体の傷は、なんとか我慢できる範囲であった。
 しかし、状況説明が曖昧で、どこかからかわれているようで腑に落ちない所もあった。キュアピーチはそれでも、多くは「まあいっか」と軽く流す事ができる。
 ただ──。

「で、新生・フレッシュプリキュアって何?」

 その言葉だけはラブにも気がかりだ。何せ、フレッシュプリキュアという事は、自分もそのメンバーには入っている筈なのだから。
 そんな中で自分だけが置いてけぼりを食らうのはいけない。──と言っても、実はキュアブロッサムもちゃんと説明を受けてはいなかったのだが。

「そうね、それは説明しておかなきゃならないわね」

 簡単に経緯を説明する。
 この段階で、二人がキルンとアカルンに認められ、プリキュアとなる資格を得た事。──としか言いようがなかった。
 美希も実際、つい先ほどその事実を知ったばかりで、当のマミと杏子でさえちゃんとは知らない。
 二人はプリキュアとしては不慣れではあるものの、これまでも魔法少女として戦ってきた実戦経験があり、頼りになるのは言うまでもない話で、仲間としても信頼関係は充分に結ばれている同士だ。
 拒む理由はほとんどなかった。

「えっと……マミさんと杏子ちゃんが、新しくパインとパッションになるって事?」
「要するにそういう事だ、じゃあこれからしばらくよろしく」
「ふふっ、よろしくね、桃園さん」

 二人がプリキュアの衣装を着ているのは、ラブにはどこかおかしくも見えた。
 だが、ラブもこの二人ならば認められる。──祈里とせつなはもういない。それを、キルンとアカルンもまた理解し、乗り越えたという事なのだろう。
 それは決して悪い事ではない。──本当ならもう少し時間をかけて、落ち着いてから探していくべきだったのだろうが、それも、やはり、できなかったのだ。
 しかし、決して、悪い判断ではなかったと思う。

「う、うん! 二人なら、大歓迎だよ!」

 このように話が纏まるのは必然であった。
 とにかく、それを理解したならば、先に進まなければならない。向こうでは戦火が上がっている。何か大きな進展があったとしか思えない。死人は出ていないだろうか。
 ……というのがベリーの考えであったが、そんな最中でもピーチはまた、ベリーに手尾惹かれながら、数分間の欠落した記憶について考えていた。

「……うーん、一体、さっきまで何があったんだろう」

 ラブにとって、思い出せる限り、最後の記憶は、──そう。
 石堀光彦の裏切りと、それを何とかしようとした時の記憶だ。
 まだ、彼は敵なのだろうか──。だとすれば、何度でも、プリキュアの力で──。
 と、考えていたところを、ベリーが突然声をかけた。それで、記憶を手繰り寄せるのを中断する。

「あ、そうだ。ラブ」
「何? 美希たん?」

348崩壊─ゲームオーバー─(8) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:50:49 ID:OT9PV3kg0

 キュアベリーは、ピーチの手を引いて、あの炎の挙がっている場所に向かいながらも、ただ一つだけ、どうしても言っておきたい想いがあったので、それだけは今、告げておく事にした。
 その言葉は、キュアピーチの思考を一端止める。──二人は、一度足を止めた。

 そう──。

「……たとえ、さっきまでの事が何も思い出せなくても、私はその時にちゃんとわかった事があるから、それを言っておきたいの」

 先ほど、キュアピーチは敵になった──ピーチは知らない事実だが、そこでベリーはまた一歩、味方が敵になる辛さを覚えた。
 そう。だからこそ、蒼乃美希は、桃園ラブが、今度こそ、もう二度と、「敵」にはならないように、ちゃんと確認をしておきたかった。
 振り向いて、ちゃんと言おう。

「ラブ。もしまた何かあっても、私たち、これからもずっと友達よ」

 キュアベリーは、どこか返事を期待しながら、笑ってそう口にした。
 突然言うのは恥ずかしいかもしれないが、あれだけ辛い想いをした後だ。
 だから、声に出したっていい。
 声に出したって。
 そうすれば、きっと返ってくる。
 彼女の笑顔が──。

「──えー、何言ってるの? 当たり前じゃん、美希たんと私はずーっと友達……」

 ──しかし、その時ばかりは違った。
 いや、その時から先は、永遠に、彼女の笑顔は返ってこないのだ。
 ラブの言葉は、そこで途絶え、そこから先、言葉を発する事がなかった。

「────え……?」

 ──それは、驚くべき事だった。
 誰もが、一瞬、何が起きたのか、正確な事がわからなかった。

 振り返った時、キュアベリーの指先で感じている──桃園ラブの腕の重さが、とても重く──いや、あるいは、軽く、なったような気がしたのだ。
 そして、次の瞬間、完全に力を失っていた。
 キュアピーチの返答は、「笑顔」ではなかった。

「────」

 ──キュアベリーの目に映ったキュアピーチの姿は、胸部から、“第三の腕”を覗かせていた。
 ぴん、と真っ直ぐに伸びた手は、どこか紫色のオーラを帯びていた。
 武骨な、男の手だった。

「……!!」

 その腕は、また胸の奥に引っ込んだ。
 すると、今度は、キュアピーチの胸から少しずつ血が這い出てきた。
 背中側はシャワーのような膨大な血液が吹きだしている。
 キュアベリーが握っている右腕は、力を失い、キュアピーチの──桃園ラブの身体は、立つ事にさえ耐えられず、崩れ落ちた。

「いや……嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああっっっ!!!!!」

 ──そう叫んだのは、ベリーではなく、マミだった。
 その時、杏子は、背筋の凍るような感覚がして、引きつった顔で「そちら」を振り返っていた。
 つぼみは、怯えきった表情で目を伏せていた。
 孤門は、咄嗟に、目の前の美希の目を塞ごうとしたが──できなかった。
 美希は、まだ何が起きたのかわかっていないような表情で、そこを見ていた。

「……奴らに遅れを取ったのは、俺が『こちら』にばかり気を取られたからだ……ッ!! ──だが、この時まで、随分時間をかけてくれたじゃないか、プリキュア!!」

 石堀光彦の声。──彼は、そこにいて、嗤っていた。
 変身者の死によって、変身が解け、既に力を失い倒れた桃園ラブの後ろ。
 そこには、血まみれの右腕を体の横でだらんと垂らしている、石堀光彦の姿があった。

349崩壊─ゲームオーバー─(8) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:51:05 ID:OT9PV3kg0
 指先から零れ落ちた血が、土の上で滴っている。
 その瞳も、体も、闇の色に染まっていた。
 そして、そこには人らしさを一切感じなかった。──これほど、人間を模した、人間に近い姿をしているのに、誰もそれが人間だとは信じられないほど。

「……ハハ、ハハハハハハハ……ハッハッハッハッハッハッハッ!!!!!!」

 そして、高笑いする“それ”が人間でない事を証明する最大の根拠がある。
 手刀、だ。
 彼は、何の武器もなく、ただその手だけでキュアピーチの胸を貫いたのだ。今ここで起こっている状況は、それを物語っていた。
 それが人間ならば、到底ありえない話である。ただの腕一本で、プリキュアの心臓を貫いて刺し殺す、など。──だが、この場で現実に起きている。
 確かに随分とエネルギーを消費してはいるようだが、石堀光彦はそれをやってのけて、平然と笑いながら、そこに立っている。

「……石堀さん……ッ!! どうして……ッ!!!!!」

 錯乱した孤門は、思わず、前に出てしまった。
 力もない彼であったが、このやり場のない──当人にでさえ、何だか理解できない感情を、ぶつける先を求めていた。
 そんな彼の後ろで、ジョーカーやガドルたちが駆けてきた音が聞こえた。揃った彼らは、全員、すぐに桃園ラブの死を認識し、絶句する。

「ハハッ……どうして、と言ったのか? 確かに、どうしてだったかな……。いや、最初は、別に取り立てて殺す事情もなかったんだが……」

 石堀は、少しだけ笑うのをやめて、わざとらしく頭を抱えて言った。
 孤門は、拳を固く握った。
 あまりにも見え透いた、安い挑発であったが、そう──やはり、「怒り」という感情をコントロールできようはずもなかった。

「副隊長が死んでしまったからな。代わりに別のデュナミストに俺を憎んでもらう必要があった、って所だな。これで納得してもらえると助かるよ、“孤門隊長”──」

 これが石堀の作戦──だとすれば、石堀を憎んではならないはずだというのに。

「──それから、俺の名前を石堀と呼ぶのはもうやめてもらおうか」

 憎しみは、誰の心にも広がった。

「俺の名は………………ダーク、ザギ!」

 彼が本当に憎ませたい、「蒼乃美希」の心も例外ではなかった。



【桃園ラブ@フレッシュプリキュア! 死亡】
【残り14人】





350崩壊─ゲームオーバー─(9) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:52:26 ID:OT9PV3kg0



「ラブ……! ラブ……!」

 蒼乃美希が何度呼びかけても、返事はない。
 桃園ラブの身体は、何度揺さぶっても、呼びかけても、美希が何を思っても、返事をする事はなかった。しかし、背中を上に向けて倒れたそれの表情を見る決意はなかった。
 確実に死んでいる。
 それを理解し、それでも、──「万が一」に賭けて、少しの希望を持って、何度か呼びかけたが、返事はやはり、帰ってこなかった。

「……」

 そう、こんなにもあっけなく。若干、十四歳の少女の命が……その短さは、丁度同じ年齢の美希が一番よくわかる。
 彼女の持つ夢も、彼女と親しい男の子も、彼女を愛した家族も、美希はよく知っている。
 それが、最終決戦の間近で──目的だった、みんなでの脱出を目前にして、今まで、共に戦い積み重ねてきた日々は、脆く崩れ去った。
 やっと出口が見えている迷宮で、桃園ラブは消えてしまったのだ。

「許せない……!」

 強く拳を握るキュアベリー。
 涙より先に出た、底知れぬ怒り──。
 こんな感情が湧きでた相手は、この殺し合いの中でも石堀光彦だけだった──。

 真正の外道。かの外道衆でさえ、門前払いするほどの凶悪だった。
 憎悪というのが、ここまで体の底から湧きあがる物だとは、蒼乃美希も思っていなかった。
 キュアベリーは、ほとんど衝動的に、ダークアクセルの前に駈け出していた。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 そう言って、飄々と、悠々と、あまりにもあっさりと、キュアベリーの怒りの籠ったパンチを避ける。彼女の左側に身を躱した。

「……そうだ、その憎しみだっ! だが、その程度の力では俺には勝てない……っ!!」

 そして、──キュアベリーを吹き飛ばす。
 ベリーは全身の力で体勢を立てようとするが、何メートルも後方に向けて落ちていった。
 圧倒的な力で地面に叩きつけられ、大事な事実に気づく。

 ──そうだ、石堀はキュアピーチを一撃で倒すほどの力の持ち主だ。
 プリキュアのままでは勝てないのだ……。



「うわあああああああああああああああああああああああああーーーーーーーッッッッ!!!!!!!」

 男の叫び声が響いた。
 涼村暁の、今までに発した事もないような声であった。
 ガイアポロンもまた、駆けだすなり、振りかぶってダークアクセルを斬り殺そうとする。
 そんな我武者羅な攻撃が効くはずもないのは当然であるが、それでも、冷静に考える力などどこにもなかった。

「テメェッ!!! 本当に殺しやがった!!!! こんな残虐な形で、女の子を一人──」

 ガイアポロンの刃が振り下ろされようとする。

「でも前から気づいていただろう? 俺が桃園さんを狙っている事は……。それを守れなかったのは、誰の責任だ? ──涼村暁」

 刃を振るおうとしていた剣が止まった。
 はっとする。──理屈は正しいとも言えないのに、反論ができない。
 そんな言葉が耳を通るなり、暁は──再び、雄叫びをあげた。

「うわああああああああああああああッッッッ!!!!!!」

 それしか返答はなかった。
 自分の責任も、彼は理解している。──あれだけ、ずっと守ろうとしてきたのに。

351崩壊─ゲームオーバー─(9) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:52:41 ID:OT9PV3kg0
 力の差は圧倒的だった。目を離した一瞬で、彼の計画は完了してしまった。
 それでも。それでも結局は関係ない。暁は、また、同行してきた女の子を一人守れなかったのだ。その事実が暁から理性を奪う。
 ──あの桃園ラブを、守れなかった。
 それを認めたくない。

「テメがァァァァァァァァァッッッ!!!!!!!!!」

 また、ガイアセイバーの刃が石堀の眼前に振るわれた。
 だが、それを石堀は生の左手で受け止めると、もう血まみれの右手でガイアポロンの胸部に手をかざした。

 その瞬間──ガイアポロンが不穏な予測をした。
 ──負ける?
 そう、思ったのだ。

「やれやれ……ハァッ!」

 ダークザギの持つ、“闇の波動”がその手から放たれる。
 すると、ガイアポロンの体が、──吹き飛ばされる。
 何メートルもの距離を一瞬でガイアポロンは、旅する事になった。何本かの灌木をなぎ倒して、ようやくガイアポロンが地面に辿り着く。

「くっ……!!」

 大木に体が叩きつけられようとした直前、──空中から青い影が現れる。
 クウレツキだ。
 命令を受けずとも、激突する前にガイアポロンを捕まえ、空中へと避難させたのである。
 超光騎士は、思いの外、優秀なサポートメカであった。

『大丈夫デスカ、ガイアポロン……!』
「……サンキュー、クウレツキ!」

 地上を見下ろすと、石堀の元でリクシンキとホウジンキが戦っていた。
 リクシンキがリクシンビームを放ち、ホウジンキはジェットドリルを換装して石堀を倒そうとする。

「超光騎士……、起動してやった恩を忘れたのかな?」

 石堀は、それをそれぞれ片手で受け止めてしまった。
 そして、ホウジンキのジェットドリルが直後にへし折られ、その回転を止める。
 ホウジンキの腕がショートする。

『アナタハ、倒スベキ相手デス!』
『許セマセン……!』

 ──しかし、その直後に、石堀の手から黒い衝撃波が放たれ、ホウジンキの首だけが、何メートルも後方に吹き飛んだ。
 僅か一瞬の出来事で、リクシンキもAIで感知しきれなかったらしい。

『……!』

 刹那──、今度は、リクシンキの眼前まで石堀は肉薄していた。驚異的なスピードであり、まるでワープのようにさえ見えた。
 石堀は、リクシンキの胸に手をかざすと、そこで同じように闇の波動を発する。

「死ね……いや、壊れろッ!」

 ──リクシンキの胸部から、爆音が聞こえた。

 リクシンキのボディが大破する。ホウジンキと同じように首が飛んだが、それ以外にも手足がばらばらになり、内部機械が露出していた。
 修復不能レベルまでに、完膚なきまでに
 ホウジンキが、首をなくし、胴体だけになりながらも、スーパーキャノンの砲撃を石堀に向けた。

「お前もだ、……消えろッ!」

 そして、石堀は遠距離から、同じように黒い衝撃波を発した。
 ホウジンキの胸の命中し、ホウジンキも胸部から爆ぜ、バラバラに砕け散った。

「……くそっ……! 何て事しやがる」

352崩壊─ゲームオーバー─(9) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:52:57 ID:OT9PV3kg0
『リクシンキ……! ホウジンキ……!』

 空中でそれを見ていたクウレツキは激しいショックを受けたようだった。
 彼らはロボットだが、同じように目覚めた兄弟に違いない。
 それを、起動した恩人である石堀光彦に攻撃され、破壊されてしまっている。
 そんなクウレツキに、ガイアポロンは言った。

「おい、クウレツキ! お前らは俺たちの戦いには、関係ない! ……待機してろ。お前もリクシンキやホウジンキみたいにはなりたくないだろ!」

 彼らしからぬ優しさに驚いたが、こういわれてしまうと、逆にクウレツキは使命感に燃えてしまうのだった。

『シカシ、アナタ達ヲ助ケルノガ我々ノ役目デス!』
「そんなの知らねえよ、俺の命令だ! ……あいつは俺がぶっ潰す!!」

 次の瞬間、意を決して、ガイアポロンは叫んだ。
 今、石堀光彦に誰より怒りを感じているのは、自分なのだと、ガイアポロンは思っている。
 桃園ラブと一緒にいるのが好きだったのもある。
 しかし、──石堀光彦と一緒にいたのは、たとえ敵だとしても、楽しいと……涼村暁は少しでも思ってしまっていたからだった。

「────シャイニングアタック!!」

 ガイアポロンの胸からその胸像が現れる。
 叫んだガイアポロンは、空中でクウレツキの腕を振り払って石堀に向けて突進していく。
 シャイニングアタック──。
 シャンゼリオンであった時からの必殺技である。

『……ガイアポロンッ! アナタトイウ人ハ……!』

 全く、短時間しか共にいなかったとはいえ、クウレツキは、かなり聞きわけがない主人に見舞われてしまったらしい。──主人が石堀に向かっていくのを見下ろしながら、そう思った。
 思えば、リクシンキも、ホウジンキも、クウレツキも、涼村暁という男が主だと知り、かなり失望した気分になったのだ。
 ダークザイドであるゴハットの方が本当の主人なのではないかと思ったほどである。
 今向かえば、やられるに決まっているというのに突き進んでしまう。
 彼は、クウレツキに、「待機してろ」と言った。

「──フンッ」

 石堀は障壁を張って、シャイニングアタックを防御する。
 真っ黒なバリアが、シャイニングアタックを拒む。

 ──クソッ……!

 石堀の持つ闇の力は強大だった。
 直後には、シャイニングアタックを弾き、ガイアポロンを地面に転がしてしまう。
 石堀は、今日まで共に行動してきた涼村暁に向けても、冷徹に右手を翳し、あの衝撃波を放とうとしていた。
 そして、それは次の瞬間、放たれる。

『──危ナイッ!!』

 その時、ガイアポロンの目の前に、クウレツキが飛来する。
 石堀とガイアポロンの間に立ったクウレツキは、その次の瞬間には、その衝撃波を一身に受ける事になった。
 彼らの目の前で、彼の新品同様の青いボディが弾け飛び、大破した。

『────ッ!!!』

 クウレツキのばらばらになった破片が、周囲に吹き飛んだ。
 石堀の周囲は、三体のメカの内部メカが大量に散らばっている。
 その内、──クウレツキの頭部だけが、ガイアポロンの前に転がって来た。

「くそっ……馬鹿野郎ォッ……! だから、待ってろって言ったのに……!」

 ガイアポロンは、その頭部を拾い上げた。
 ガイアポロンは、自分の攻撃が全くの無意味であり、それだけではなく、犠牲を出してしまった事を悔やみ、そう呟いた。

353崩壊─ゲームオーバー─(9) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:53:18 ID:OT9PV3kg0

『──ガイアポロン』

 クウレツキは、残っていた頭部の言語回路とAIだけで、ガイアポロンに声をかけた。
 彼の目がチカチカと弱弱しく点滅し、ガイアポロンに最後の言葉を告げる。

『アナタノヨウナ人ノ為ニ作ラレ、少シノ間デモ、共ニ戦エタ事ハ、私タチノ、誇リ、デス………………』

 三体の超光騎士は、この時を持って、全機能を停止した。
 ガイアポロンは、自分に最後まで忠実だった三体の友の一人を、腕の中で強く抱きしめ、怒りに燃えた。



【リクシンキ@超光戦士シャンゼリオン 破壊】
【ホウジンキ@超光戦士シャンゼリオン 破壊】
【クウレツキ@超光戦士シャンゼリオン 破壊】







「石堀、てめぇっ!! 許さねぇ!! 絶対殺してやる!!」

 キュアパッション──杏子が前に出る。
 ガイアポロンや超光騎士たちの奮闘の後も彼女の怒りは冷めやらなかった。

「おっと、魔法少女だった佐倉さん。少し目を離していたらプリキュアに、か……その服装、似合ってるじゃないか」
「その減らず口を二度と聞けなくしてやるッッ!!! 悪魔ッッ!!!」

 そんな言葉を、悠々と聞く石堀。
 そして、またどこか皮肉的に、こう告げる。

「……そうだな。ただ、前の方が似合ってたと言ったらどうする──?」

 ──そう言われた瞬間、杏子は気づいた。自分自身のキュアパッションの変身が解け、彼女は魔法少女の姿になっていたのである。
 杏子は、思わず、自らの腰部まで視線を落とした。
 そこには、装着されていたはずのリンクルンがなく、その残骸と思しき物が地面に落ちていたのがちらりと見えた。

「何ッ──!?」

 ──石堀は、変身アイテムだけを的確に破壊したのだ。
 長い時間の経過とともに杏子が使用する事になったリンクルンは、僅か数分でその機能を終える。
 アカルンは、その残骸の中で、弱弱しく、埋もれるようにして倒れていた。辛うじて無事だが、二度とリンクルンは使用できないだろう。

「てめぇ……っ……!」

 しかし……敵が変身アイテムを破壊する戦法を取り、それを実行できるスピードとパワーを持っているすると、不味い事になる。

 ──そう。杏子は、彼に知られている。
 キュアパッションと違い、魔法少女というのは、変身アイテムそのものの破壊が──。

「──これが、命取り、だろ?」

 石堀の手が、杏子の胸元のソウルジェムへと伸びた。

 ──不味い。本当に。

 跳ね返そうと、槍をそれより早く胸元の前に翳そうとするが、やはり敵の方が一枚上手だった。杏子より素早く動いた彼の腕は、その指先をソウルジェムに掠めた。槍は素通りする。
 そして、気づけば、また──次の瞬間にはそれは彼の手にあった。

 駄目だ。それが破壊されたら──。

354崩壊─ゲームオーバー─(9) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:53:41 ID:OT9PV3kg0

(──ッッ!!)

 しかし、見逃す理由はどこにもない。──杏子は、死を覚悟する。
 まともな意味もなく、杏子は目を瞑った。
 死ぬ──。

 だが、杏子の意識は、その先もまだあった。
 眼前では、石堀が、杏子のソウルジェムを左手で弄んでいた。少し拍子抜けしたが、それも束の間だった。
 助かった事を安心してはいない。
 何か、それより恐ろしい事を企んだからこそ──彼は、それを手に構えているのだ。
 そして、それは次の瞬間に、実行される事になる。

「安心しろ、壊しはしない。でも、このソウルジェムって奴には、ちょっと興味があるんだ……。──そう、たとえば、こんな風に、絶望の海に沈めてみたらどうかな?」

 石堀は、そう言って、ソウルジェムを「忘却の海」へと放り捨てたのである。
 それは全員の目の前で、人々の恐怖の記憶の海の中へと沈んでいく。──後悔してももう遅い。
 それが杏子の「本体」だ。

「なっ……!」

 杏子は、自らの魂が遠くへと沈んでいくのを前にしていた。広く深い忘却の海の中に投げ出され、膨大な情報の波に、一瞬で流されていくソウルジェム。
 杏子は自分の意識が、掠れていくのを確かに感じた。

 ──ああ、クソ……

「あれは忘却の海レーテ。あの中は人間が立ち入れないほど根深い人間の心の闇に繋がっている。──人間があそこに迷い込めば、絶対に生きてここに戻る事はできない」

 杏子の意識が、完全に薄れていく。
 とうにソウルジェムは、肉体の意識を途絶する距離にまで達している。しかし、残滓というのか、シャットダウンされる直前、杏子は聞き、思った。

「そうだ、お前は死なない……! これから永久に、時空の中を一人ぼっちで彷徨うんだ、佐倉杏子……。寂しい寂しい一人ぼっちの旅を──永遠になッ!」


 ──悪い、みんな……何もできなかったけど、コイツを、頼んだ……

 杏子の意識が、遂に途絶えた。
 映像が消え、笑い声が最後に耳に反響した。



「……ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!!!!!!!」



【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ 再起不能】







「────」

 ラブの死。超光騎士たちの再起不能。杏子のソウルジェムの廃棄。
 それによって、怒りに火が付いた者もいる。──しかし、そんな最中で、キュアベリーは、妙に頭が落ち着いた気分で、ある物を取りだしていた。
 実のところ、落ち着いた気分というのは勘違いも甚だしい錯覚である。
 美希の心は、むしろ頭に血が上りすぎて、何も考えず、全ての外部情報を途絶し、石堀光彦を撃退する最も効率的な戦法だけを考え、実行するようになっていた。
 少なくとも、その瞬間だけは──。

「ッ!? ──駄目だ、美希ちゃんっ! ここで変身しちゃ──」

 孤門が何か不穏な物を感じて、美希を制止しようとしたが、手遅れだった。

355崩壊─ゲームオーバー─(9) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:54:44 ID:OT9PV3kg0
 ──ベリーの懐から取りだされた、光の巨人への変身アイテム。
 真木舜一から姫矢准へ、姫矢准から佐倉杏子へ、佐倉杏子から──蒼乃美希へ、光を継ぐべき者に継がれ、ここまでつながったエボルトラスターである。
 彼女は、この強大な敵に立ち向かう為の最後の武器として使おうとしていた。
 石堀が、その瞬間、ニヤリと嗤った。

「────うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ…………ッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 キュアベリーは──蒼乃美希は、その力を解放するべく、エボルトブラスターを強く引く。
 憎しみの力を発しながら──それでも、ウルトラマンは美希と一つになる。

 彼女の身体がウルトラマンネクサスへと変身する。

 ──桃園ラブ。
 ──佐倉杏子。

 二人の事を頭に浮かべながら、──いや、あるいは、石堀とは関係なくこの殺し合いの中で死んだ他の仲間の事も頭の中に思い出しながら、今まで感じた事のない憎しみを、ウルトラマンの光の中に込めた。
 この殺し合いを止め、ダークザギに立ち向かう為の力として──。

 ──その時。

「────ッ!?」

 何故か、ウルトラマンネクサスの身体は、忘却の海レーテから発された無数の黒煙のような触手によって引き寄せられたのだ。それは一瞬で四肢を絡め取り、ウルトラマンの自由を奪う。
 抵抗する間もなく、ウルトラマンはレーテの前に引きずり込まれた。

「ウルトラマン……ッ!?」

 巨大なレーテの異空間の中で、ウルトラマンの制限は解除され、孤門以外の誰も見た事のなかった身長49メートルいっぱいの巨体が磔にされる。
 その場にいる誰もが、その光景に唖然とした。

「グッ……グァァァァ…………ッッ!!」

 ウルトラマンは一瞬でそのレーテの力に合併される。
 ──そして、なおも赤く光っていた胸部エナジーコアから、膨大なエネルギーがレーテの中へと流れ込んだのは、次の瞬間だった。

「──レーテに蓄積された恐怖のエネルギーが、お前の憎しみにシンクロした。結果……光は闇に変換される!」

 石堀だけが知るその理論を口にした所で、誰もその意味を解す事はないだろう。
 しかし、それが石堀にとって計画通りの出来事であるのは間違いなかった。彼の微笑みは何度も見たが、この瞬間ほどそれに戦慄した事はない。

 ──やがて、変身者である美希が、意識を失う。

 ウルトラマンの指先からすぐに力がなくなった。
 英雄は、その瞳の輝きを失い、頭を垂れる。
 その場にいる誰もが、その光景に唖然とした。美しささえ感じる、巨人の終焉に──。

「来い……っ! これで……っ!!」

 石堀が待っていたのは、この瞬間だった。

 エナジーコアの光は、「闇」となり、レーテを介して石堀の身体に向けて膨大なエネルギーを注ぎ込む。
 ウルトラマンの光だけではなく、そこに、美希の持っていたプリキュアの光まで相乗される。それも石堀光彦が狙った通りだった。

356崩壊─ゲームオーバー─(9) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:55:04 ID:OT9PV3kg0
 完全にその表情を異形に包んだ彼は、まだわずかに残っている人間の表情で最後に笑った。





「─────────復活の時だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!!!!!!!!」





 ──石堀光彦の身体に、ウルトラマンネクサスから発された膨大な闇のエネルギーが吸収され、彼はその真の姿を現世に再現する事に成功する。
 周囲の大木が、その瞬間に爆発さえ起こした。あり余ったエネルギーを、周囲の破壊に利用したのだ。



「フハァーーーーーーハッハッハッハッハッハッハッハハッハハッハッハッハッハッ!!!!!!!!!!」



 暗黒破壊神ダークザギ──。


 ウルトラマンに酷似した──しかし、その全身を闇色に塗り替えたような姿の戦士。
 血管のように全身を駆け巡る真っ赤なエナジーもまた特徴的であった。
 まるで狂った獣のように爪を立て、全ての生物を「虚無」に変えようとする怪物。
 それは、決して再びこの世に生を受けてはならない存在の姿だった。
 しかし、この時、目覚めてしまった。彼自身の周到な計画によって──。

『なんてこった……こりゃあ、どんなホラーよりも凄まじい闇の力を感じるぜッ!!』

 とうに制限時間が来て召喚を解除していた零の指で、魔導輪ザルバが言う。
 だが、零はその言葉に、こう返した。


「ああ……言われなくても、わかってる」


 他の誰もが、言葉を失って、それを“見上げていた”。


 そこにいるのは、等身大の敵ではない。身長50メートルの怪物である。
 彼が吸収したエネルギーは、あまりに強大すぎた。彼らの世界の人間たちだけでなく、あらゆる多重世界の恐怖のエネルギーを収集していたレーテと結合した闇の力である。
 もはや、制限などは些末な問題でしかない。
 ダークザギが猛威を振るえるシチュエーションは完全だった。



 ────果たして、一体、この場にいる誰が、こんな敵を止められるのだろう。



【蒼乃美希@フレッシュプリキュア! 再起不能】
【ダークザギ@ウルトラマンネクサス 覚醒】







 誰もがダークザギの姿を見上げていた時、ただ一人だけ──。
 そうこの時、ただ一人だけ、その巨大さに驚きながら、全く、別の行動を実行した者がいたのである。
 彼が注視していたのは、ダークザギではなかった。
 この闇の巨人への恐怖は、無論ある。誰よりもこの巨人への無力を実感している。──しかし、それを、ほんの些細な事であるかのように、彼はこの時に感じていた。

 忘却の海レーテから、おびただしい闇が噴出し、ウルトラマンの姿を覆い隠していく。
 レーテに閉じ込められた杏子のソウルジェムと、美希は闇の中に消えてしまった。
 もう、遠いどこかへ行ってしまう……。

357崩壊─ゲームオーバー─(9) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:55:25 ID:OT9PV3kg0

「美希ちゃん……っ!」

 この巨大な忘却の海の中に囚われた蒼乃美希の事が、──孤門一輝は気がかりだった。
 そして、気づけば、彼はその闇の中に飛び込もうとしていた。


 ──僕は、こんな恐怖の中に閉じ込められた人を守るために、レスキュー隊に……。


 ……そう。それは、遠い子供の時の記憶だった。
 孤門は、どこか流れの早い川で溺れそうになった事があったのだ。
 川で溺れて死んだ子供たちのニュースを何度か聞いていたのを思い出し、子供心にもその時は“死”を覚悟した。濁流は孤門の足を、川の深くへと体を沈めていく。沈んでしまえば、息もできない。もう二度と、友達や、父や母の顔を見る事ができない永久の闇の中に沈んでしまうのだ。
 そしてその時、周りには誰もいなかった。誰も助けてくれる人はいない。
 何の気なしに川で遊んでいた自分が、明日には大自然の犠牲者としてニュースになる──。
 ……死ぬのが怖かった。
 だが、どうする事もできず、彼は、一度、“生”を諦めた。
 直後に、一人の男が孤門の手を取り、助けてくれたその時まで、自分は確実に死ぬ物だと諦めていた──。

(──諦めるな!!)

 そうだ……。
 あの時、僕を助けてくれた人の声が聞こえる。

(───諦めるな!!)

 あの時、僕を導いてくれた人の声が聞こえる。
 そうだ、諦めちゃだめだ。
 どんな深く暗い海の底にも、希望は必ずある……。



……諦めるな。





 今度は──今度は、僕が、誰かに手を差し伸べる番だ!!
 杏子ちゃんや美希ちゃんが、この深い海の中を彷徨っているのなら、僕が二人を助けなきゃ駄目なんだ!!





「──孤門さんっ!」

 孤門一輝は、強い意志と共に、忘却の海レーテに飛び込んでいった。
 その背中を目で追ったマミは、驚いて彼の名前を見た。周りが皆、一度そちらに目をやった。
 忘却の海レーテ──は深く暗い闇の中で、そこを侵せば二度と出てこられなくなるであろう事は、誰の目にも明白だった。考えなしにここに飛び込もうとするなどいるはずもない。動物的本能が、そこに入るのを無意識的に拒絶するような場所だった。

 しかし、彼らが目にする事ができたのは、孤門の足が、レーテの闇の中に飲み込まれていく瞬間であった。



【孤門一輝@ウルトラマンネクサス 再起不能】





358崩壊─ゲームオーバー─(10) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:56:00 ID:OT9PV3kg0



 ──孤門一輝が、レーテへと飛び込んだのを、仮面ライダージョーカーは見つめていた。。
 ああ、あの中に、佐倉杏子のソウルジェムがあるのだ。しかし、ジョーカーは飛び込めなかった。──いや、飛び込むわけにはいかなかったのだ。
 彼は、その腕の中に、佐倉杏子の身体を横たわらせている。彼女の肉体はジョーカーが守っていた。

「杏子……!」

 杏子の身体は、虚ろな目で空を見上げながら、完全に力を失っている。心臓も止まっている。血も通っていない。──まさに、死体だった。
 しかし、これと同じの体があの、杏子の笑顔を形作ってきたのだ。
 そして、杏子はこの体で戦ってきたのだ。
 だから──翔太郎は、今はこの体を守らないわけにはいかない。

 ──そうだ、翔太郎は、約束したのだ。
 杏子を、必ず人間にしてやると。こんな風に、小さな器に左右されない人間に──もう一度、戻してやると。
 それは、仮面ライダーとしての杏子との絶対の約束。
 いつか絶対、その方法を見つけ出し、佐倉杏子を魔法少女ではなく、一人の少女にする──そんな事を、翔太郎は夢見ていた。

 ……妹が出来たように想っていた。
 杏子は良い奴だった。

 この殺し合いに唯一感謝するとすれば、それは杏子たちと出会わせてくれた事だ。

(……任せたぜ、孤門! 俺は信じてる……、お前が、きっと杏子たちをそこから助けてだしくれるってな……!)

 今は、孤門に全てを任せ、翔太郎はここで敵と戦うしかない。それが出来るのは自分たちだけなのだ。
 変身して、戦う力を得た自分たちが出来る精一杯の事──。
 見上げるほどの巨体に──ああ、どう立ち向かえばいいのかさえわからない、このアンノウンハンドの真の姿に──翔太郎は立ち向かわねばならない。

 怖い。

 そう思う。テラー・ドーパントが展開したテラーフィールドの時の感覚によく似ていた。
 杏子を人間に戻す前に、死ぬかもしれない。
 約束を守らなければならないのだ。死ぬわけにはいかない。
 それならば、戦わずに済ませるのも良いかもしれない。
 杏子との約束の為に────。


 ────だが、その時。



「ハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!!!!!」



 ン・ガドル・ゼバの高笑いが、その森の中に鳴り響いた。
 ジョーカーの耳に、この怪物の声が聞こえた。
 身の丈の数十倍もあるダークザギの巨体を前にしながらも、彼は戦いへの飽くなき野望を止める事はなかったのだ。いや、もはや本人にとっても、それはとどまるところを知らない次元まで来ていたのだろう。



 ──はっきり言って、ガドルには、それに強いダメージを与えるような対抗策は無い。戦えるような力はない。
 しかし、彼は笑っていた。
 究極の闇を齎す者──であった者として、無邪気な笑みを形作っていたのだ。
 ただただ、純粋に、彼は敵の強化を喜んでいた。

「それが……それが、貴様の本当の力かッ!!」

359崩壊─ゲームオーバー─(10) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:56:16 ID:OT9PV3kg0

 万全の力を持ったイシボリに、こうして生きて挑む事ができる──という事をガドルは喜んでいたのである。
 あのまま、イシボリの本領を拝む事が出来ないまま、彼の力の片鱗に敗れたとなれば、それこそグロンギ族の名折れとなる所であった。
 グロンギの王であるン・ガドル・ゼバが、未知の敵に手を抜かれたとなれば、それは種全体の恥であるといえる。
 だが、こうして、本当のイシボリに会う事が出来た。

 ──俺はこの時の為に、最後の力を授かったのかもしれない。

「──ヨリガエッデ ヨバッタ ラタ ボソギアエス オ ギガラ!!(蘇って良かった、また貴様と殺し合える!!)」

 あまりに興奮に彼は、相手への言葉が自然と母語に変わっていた。
 グロンギ族はここで、“王”がダークザギに挑む事で、その誇りを守る事になる。──だから、ガドルは、戦う。
 死ぬまで、いや、死んでも。──戦い尽くし、殺し尽すだけではない。
 今は王として、正当にゲゲルを勝ち残った仲間たちの誇りをかけて──、戦い続けなければならない宿命を負ったのだ。それを呪うわけではない。悦びを持って受け止めよう。



「──ギョグブ ザ!!!!!! イシボリッッッ!!!!!!」



 ガドルは、全身に残った最後の力を全て、近くの大木へと流しこんだ。
 ベルトから発動するモーフィングパワーを全てその大木へと──この身が果てる限界まで、注ぎ込む。
 大木はやがて、プロトクウガが作りだした「破壊の樹」のように巨大に変質していく。──しかし、ダグバのベルトによって生成された「破壊の樹」の大きさは、プロトアークルから生成されたそれとは比較にならなかった。
 根を通じて、地面の土からあらゆる水分を吸収し、「破壊の樹」を一瞬で育てていく。
 その大きさは、20メートルほどまで膨れ上がった。ダークザギの半身よりも巨大な兵器が、その場に召喚される。

 ──そして。



「────グロンギ ン ゴグ ン ホボリ ゾ グベソ!!!!!!!(グロンギの王の誇りを受けろ!!!!!!!)」



 砲火──!!

 雷を帯びた一撃は、ダークザギへと真っ直ぐに向かっていく──。
 それは、ダークザギのエナジーコアの部分へと確実に距離を縮め、その体表で──爆ぜた。雷が真正面で落ちたような轟音が、ダークザギの胸元で鳴り響く。
 ダークザギの顔が真っ白な煙に隠れていく。

 ──ダークザギを倒したのだろうか。

 しかし、いずれにせよ、大打撃を与えた事は間違いない、とガドルは思った。
 ガドルの腹部で、ベルトが限界を迎えて、少しずつ罅を生んで割れていく。──彼のエネルギーも枯渇し、心臓の音はだんだんと弱まっていく。
 戦いへの興奮は冷めない。
 冷めやらぬ興奮の中で、ぼやけていく視界に、爆炎に包まれるダークザギの姿があった。



「────バッタ……!! ガ ゴレ……!!(俺が勝った……!!)」



 ──王は、確信した。
 グロンギ族の勝利だ。
 ──王の誇りは、種の誇りは、保たれた。

「────ッ────」

360崩壊─ゲームオーバー─(10) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:56:32 ID:OT9PV3kg0

 いや。──だが、まだだ……。満足ではない。まだ。
 まだ、戦わなければならない。
 倒すべき敵がまだいくらでもいる。
 立ち上がらなくては。次は誰だ。カメンライダーか。



「……ガドル、見届けたぜ」

 その時、誰かの声が、ガドルに囁いた。

「バッタ ガ ゴレ……」

 男は、それが、「勝った」というガドルの歓喜の声だと理解した。
 落ち着き、空を見上げた。

「そうだ、お前は勝ったんだ……あのダークザギにな……あいつは今の攻撃で死んだ。ガドル、お前は、本当の強者だ……。この場にいる誰よりも、お前は強かった……、絶対にお前の強さなんて認めるつもりはなかったが……認めざるをえねえ」

 聞き覚えがある声だった。──そう、少なくとも、ガドルに立ち向かった者たちの内の誰かだ。
 カメンライダー、そう、奴だ。ガイアメモリの力で変身する、二人で一人のカメンライダーの片割れ──。以前、俺を殺した奴の生き残り。
 既に視界はないが、その声だけがガドルには聞こえた。
 ──挑む。殺してやる。
 俺のプライドにかけて、たとえ貴様が望まずとも──。



「ハハハ……ならば……ッ、カメン、ライダーよ────、次は貴様の番だ……ッ!! ハ……ハハハハハハハハハハハ…………ッ………………、ッ………………」



 ガドルは、腕を上げ、その体を掴もうとするが、あいにく腕は持ちあがらなかった。
 しかし、カメンライダー──仮面ライダージョーカーは、その腕が確かに上がろうとしていたのを見ていた。ガドルはまだ戦おうとしていたのだ。
 それは、すぐに人の姿になり、軍人の恰好をした男の死体になり果てた。
 もう起き上がる事はあるまい。

 この狂気ともいえる戦闘への意思とプライド。
 ──この場において、最も、強かったと認めざるを得ない敵の死だ。
 まだ起き上がるのではないか、と今度また、ジョーカーは少し思っていた。

「……くそっ。まさか、こんな奴に、こんなにも勇気づけられる事になるとはな……! 俺もまだまだ甘いぜ」

 仮面ライダージョーカーは、ダークザギにも立ち向かおうとしていた。
 恐るべき相手であるのは一目瞭然だ。
 その体はジョーカーの戦闘能力が対処できる範囲ではない。──しかし。
 それでも、戦わねばならないという使命と、覚悟を持った戦士の最期を今、見届けてしまった。──それが正義であれ、悪であれ。
 たとえ、ユーノの、フェイトの、霧彦の、一条の、いつきの、結城の、鋼牙の、そして、フィリップの──仇であるとしても、左翔太郎はガドルの頑なな奮闘によって、恐怖を打ち消したのだ。

 最後に認めてやってもいい。
 彼が、最強の敵であった事を──だから、ダークザギなど、恐怖を覚えるに値しない事を。

「────さあ……、お前の罪を数えろォッ!! ダークザギィィッッ!!!!!」

 目の前のダークザギは無傷であった。
 ガドルに最後に、ダークザギに勝利したと告げたのは、本心で──ガドルの誇りはダークザギにも勝り、そして何より、ガドルはダークザギより強いと認めたからであるが、現実には、こうしてダークザギは生きている。
 ガイアセイバーズは、その恐るべき相手に立ち向かわねばならない。



【ゴ・ガドル・バ@仮面ライダークウガ 死亡】
【残り13人】





361崩壊─ゲームオーバー─(10) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:56:54 ID:OT9PV3kg0



 仮面ライダージョーカーが、その腕をマシンガンアームへと変えて、マガジンを全て消費するまで撃ち続けんと立ち向かっていた。しかし、それはダークザギの体表で小さな音を立てて消えていくだけで、相手に蚊に刺されたほどのダメージを与えているようにも見えなかった。
 周囲では、外道シンケンレッドによる猛牛バズーカの砲撃が起こっていた。これは必殺級の技であるにも関わらず、全くといっていいほど効果を示していない。
 仮面ライダーエターナルもまた、獅子咆哮弾を何度も繰りだしているが、それもまた同様だ。
 ダミー・ドーパントは、ダークザギを複製する事は制限上不可能であり、高町なのはの姿でスターライトブレイカーを発するが、それもまた効果なし。ガイアポロンのシャイニングアタックも弾かれてしまった。

(──サイズと能力に差がありすぎる! 俺たちは、無力すぎるんだ……ッ)

 仮面ライダースーパー1は、後方で冷静にその常識を分析しようとしていた。しかし、打開策など、この状況では全く思い当たらなかった。この圧倒的な不利を理解し、それでも前に進める理論を頭の中で構築しようとしている。
 主催戦を控えていた以上、この規模の敵と遭遇するかもしれない事は予め考えていたが──それでも、はっきりとした案は何一つとして無い。ここまで、浮かんだのは、ドウコクの二の目に頼るというくらいの事だった。
 ウルトラマンネクサスさえも、こうしていなくなった以上、彼らは通用しない力で戦い続けるしかないのである。

(──いや、思い出せ! これまでも巨大な敵を倒す方法が、いくつか存在していたはずだ……!)

 だが、これまで、先輩ライダーたちが、こうした巨大な敵に全く立ち向かわなかっただろうか。──何度か、40メートル大の敵と戦ってきたはずだ。
 自分より前の仮面ライダーは全員、そんな敵との戦いを経験している。
 GODのキングダーク、デルザー軍団までの全ての組織を総括していた大首領、ネオショッカーの大首領──サイズに差のある敵は存在した。そして、先輩たちは全て撃退している。
 だが、実際のところ、それには必ず、攻略法があったのである。何らかの弱点が存在し、正攻法の戦い以外の形での勝利を掴む事ができた。──今は、一切の攻略法が見いだせない。

(……くっ、やはり駄目だ。まともに戦って勝てる相手じゃない……ッ!)

 だが──、そう思いながらも、この中で、もし前線に立って戦うべき者がいるなら、それは自分とドウコクであるとも思っていた。
 ドウコクの場合は、一度死んで、「二の目」を発動する必要がある……。それにより、同じ規格で戦う必要がある。
 ドウコク自身はそんな手に納得しないだろうし、もし、そうなった場合、ザギを倒した後で今度はドウコクが襲い掛かるというだけである。──それも、彼がザギを倒す事が出来た場合に限られるのだが。

(やはり、俺しかいない……)

 まず、スーパー1は重力低減装置で、無限の高さまでジャンプが可能だ。宇宙空間にも適応する事ができる。勿論、ダークザギの体長よりも高くジャンプする事も理論上では可能である。攻撃が脚部にしか届いていない者もいるが、スーパー1はもっと明確に急所を狙いながら戦う事が出来るのだ。
 また、宇宙規模のシステムを想定している以上、その規格から外れた巨大な隕石の処理などもS-1の役割となっていた。パワーハンドのように、圧倒的な力を持つファイブハンドも持っており、それは並の改造人間の手に余る物さえも粉砕できる作りになっている。

(だが、それでも……そんな力があったところで、勝利の確率は決して高くないッ!)

 ──パワーハンドが支えられるのはせいぜい50t。しかし、目の前の敵はおそらくそんな次元ではない。
 彼は知る由もないが、ダークザギの体重は55000t。スーパー1が推定していたのもだいたいそのくらいだったが、それだけの差がある以上、多少他の仲間よりも強い程度では結局変わらない。
 だとすれば……?

(……俺たちは勝てないのか……!? こんな所で──)

362崩壊─ゲームオーバー─(10) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:57:08 ID:OT9PV3kg0

 涼邑零が鎧を召喚し、銀牙の背に乗って、ダークザギの足を垂直に駆けている。──直後、その体は振り払われた。
 高く飛び上がったキュアブロッサムが、ピンクフォルテウェイブをダークザギに向かって放つ。──しかし、その体は、ダークザギが片手でハエ叩きのように地面に叩きつけてしまった。
 体の大きさを利用し、我々を玩具のように弄んでいるわけだ。

「────らぁッッ!!!!!!!!」

 ひときわ気合いのかかった声で、血祭ドウコクが剣を振るう。
 剣圧が巨大な鎌鼬となり、ダークザギのエナジーコアに向かっていく。──しかし、それはダークザギの身体に当たっても、それは全く効果を成さなかったようだ。

 ダークザギへの策は、ない。
 沖一也にはとうにそれがわかっていた。しかし、認めるわけにはいかなかった。

「……くっ」

 仮面ライダーには戦いを捨てる道は彼にはない。
 彼らのように、無謀に──決して効かないかもしれない技を使って、戦うしかない。
 持てる限りの戦力は全て使い、たとえ、蚊が食うような一撃でもダークザギに与えていく……それ以外の戦法は浮かばなかった。
 それは即ち、敗北を意味していると思う。
 しかし、そんな中で万が一の確率で起こる勝機や奇跡が時にある。──奇跡が起こる時には、必ず一定の条件がある。
 そう──奇跡が起こるのは、誠実に目の前の苦難に立ち向かった時だけだ。

 ──覚悟を決める、のみだった。

「────無謀だが、力ずく、か」

 仮面ライダースーパー1は、目の前で戦う仲間たちの姿を見て、理論を捨てる事にした。
 やれやれ、と、肩を竦めるしかなかった。
 何か弱点があるはずだ、とも言えないのが悔しい。──彼は間違いなく、スーパー1が出会った中で最悪の敵なのである。
 彼に弱点はない。結局のところ、力と運に任せる以外の術はない。
 全力は尽くす。それがこの場合、最も誠実な戦い方。

「────ならば……それしか方法がないならば……他の誰でもない……この俺が、この手で迎え撃とう……!! こっちだ、ダークザギッ!!」

 スーパー1は重力低減装置を作動する。そのまま地を蹴ると、だんだんと、星々と蒼穹は近づいていく。
 彼はダークザギの文字通り目の前まで飛び上がると、空で赤心少林拳の構えを魅せた。
 ──スーパー1とダークザギの目が合う。

「いくぞ──スーパーライダー!! 月面キィィィィィック!!!!!!!!!」

 そこで放たれる、仮面ライダースーパー1の魂の蹴り。
 この場にいる誰も、こんな目立つようなやり方で攻撃はしていなかった。この高さまで飛び、確実に敵の視界の中で無茶をしている──。
 そこには、自らが囮となって周囲を惹きつけようとする意志もあった。
 スーパー1の足が、ダークザギの目と目の間に激突する──。

「──チェンジ!! パワーハンド!! ハァッ!!!!!!!!」

 反転キックにより、再度空中でダークザギの顔面に向けて、パワーハンドの拳を叩きつけた。ダークザギの顔が微かに揺れた。
 スーパー1の拳から、激しい波が全身に駆け巡る。
 惑星開発用改造人間になって以来、これほど全身に衝撃が伝る事はなかったかもしれない。──玄海老師や弁慶たちと共に、一人の人間として戦って以来だ。
 彼もまた、その頃は、稽古の厳しさに独り泣いていた少年だったと、──誰が想像しているだろう。
 また、彼はダークザギの顔面を蹴り、空中で反転する。

「────そしてこれが最後だ……ッ!!! スーパーライダー、魂キィィィィィィィィックッッッッッ……!!!!!!」

 彼は、先ほどの一度、二度の攻撃と共に、全身のエネルギーを一点を集中させていた。
 右腕、左腕、左足の機能は通常の人間のそれと大差ないほど低下する。
 ──全身のエネルギーは、ただ一点、右足へ。
 全ては、この一撃の為の布石だ。

363崩壊─ゲームオーバー─(10) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:57:23 ID:OT9PV3kg0
 それは、10人の仮面ライダーが同時にエネルギーを放出するライダーシンドロームを発動する時に使われるべき力だったのだが、ここに残りの9人はいない。そして、彼自身も、ライダーシンドロームなどという技は知らなかったのだが、自らのエネルギーをどうすれば使用できるのかだけは知っていた。

 ──大気圏を突破する時のように、スーパー1の身体を覆い始める炎。
 ライダーシンドローム級のエネルギーを単独で使えば、彼の身体を支える別のエネルギーは存在せず、自壊を始める。
 だが、それでもダークザギに一撃を当てて見せようと、彼は力を限界まで引き上げる。

(そうだ……ここにいる仲間は……、この俺が守るッ!!!)

 自分が飛びこまなければ、別の誰かが飛び込んでしまうと思った。
 それは左翔太郎かもしれないし、響良牙かもしれないし、涼邑零かもしれないし、花咲つぼみかもしれないし、巴マミかもしれない。

 ──俺の仲間は、先ほど闇の中に飛び込んだ孤門一輝のような無鉄砲ばかりだ。

 きっと、孤門は美希をあの暗闇の中から助け出してくれる。
 それを一也は信じている。
 あの銀色の巨人こそが、このダークザギに立ち向かう鍵になるはずだ。

(この手で……ッ!!)

 彼が帰ってくるまでこの怪物と戦わなければならないが、この中の誰かが真っ先に立ち上がり、このダークザギを相手に無鉄砲に行動した時、彼は──仮面ライダースーパー1は、永遠の後悔に打ちひしがれる事になるだろう。
 誰かが飛び込んで戦おうとするのは間違いない。
 その役を、この中の誰にも譲るわけにはいかない。

 かつて、本郷猛は、沖一也に全てを託し、強敵との戦いを請け負った。──一文字隼人や結城丈二もそうだった。
 今こそ、沖一