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虐待・虐殺小説スレッドPART.4
1
:
管理団
:2007/04/12(木) 23:32:19 ID:???
AA ではない活字の並ぶ 虐待・虐殺系 の 新 し い ス タ イ ル 。
━━━━─────────────────────────────────━━━━
皮を剥がされたしぃが、首筋に大きなフックを刺されて吊され、みぞおちから股間までを
切り裂かれている。裂かれた腹からは、勝手にニュルニュルと腸が飛び出て、こぼれた。
吊された中には、ベビしぃも混じっている。
「ウゥゥゥ イタ イヨ、、、 モウ シナ セテ」
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;; 「イチャ ヨ ナコ チテ マチャ リ チタ」
|ミ| |ミ| ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
-、. |ミ|、 |ミ| |ミ| :
/;l |ミ|;l |ミ| ,,、 ,.,,.,.,,.,,.,..,, ,.,,. ,,.,,,.,, |ミ|i | ̄ ̄| ̄
/:;,.;ヽ,.,|ミ| | |ミ| /;,:l ミ,,,,,(★)ミ ミ(★),,,,,ミ |ミ| :| |
,:;´ ;::; ;: ; ;|ミ|.;`,、 、ー-- 、__、、ミ|_,,//,、| <ヽ`∀´> <`∀´* >、 i|ミ| :| |
l.,;:.ー、 ;;,:..;|ミ|;:..:.,;l ヽ;.:;r :;;.,;: ;:、_:;:;ヽ;l ⊂ミ 北 ) m 北 ミmヽ |ミ|i | |
 ̄ ̄|;:.;゚-,.ilヽ|/:|ミ|,; :; ;|  ̄ ̄`l>:;,. ;:( ゚,0.`o ;l: ̄ ̄| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ̄ ̄ ̄ i |ミ| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ヽっ ;i|;/lヽ|ミ|;;:; ;/ |;,.: ;(´ ̄`)" ゚。;:l | 労働党 万歳 | . |ミ|, ー--、
>;:;: :;,. ;(O);:く ヽ;;.:` - ´:;: ;: ;;/ | ____ | . |ミ| ;: ;: ;:、´
/:: :; :,. ;:;l|iノ,.:;:.;;ヽ /;":;:);)(;:(;(;:;`;:, | || ★ || | i |ミ|:;: .:.,ー--、
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::`ー、,:.;;i | __ ̄ ̄__ | ,(O) ;;: ;:;: ;;:,´
::::::::::::::::::::::::::::::::::|/::::::::::::::::::::::::: \|:::::: /:;ヽi|l;;;: ;;: (゚ノ
「フォルフォルフォル、これが全自動畜産場ニカ?」 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
突如、重く冷たい鉄の扉が開き、人が二人、中へ入ってきた。毛皮のコートに、これまた
毛皮の大きな帽子。その帽子に付けられた、大きな赤い星は、彼等が共産国家の兵士で
ある事を、何よりも雄弁に語っていた。
「はい、そのとおりでスミダ」
先に入ってきた男――物腰の低さや、言葉遣いからして、後から入ってきた男の案内役
であろう――は、上機嫌な上官に、この工場の概要を説明し始める。
「ちびギコを使った種付けから、しぃのニクコプンでの飼育、屠殺、解体、全て奴らの手で行われまスミダ」
鳴りやまない笑い声、絶えない悲鳴と怨嗟の声、、、
ここは彼女らの故郷より西に在る、
地 上 の 楽 園 。
452
:
魔
:2007/12/13(木) 23:10:24 ID:???
※
夜。
ちびタンは既に夢の世界に旅立っていた。
僕はいつものように、心の穴、このもやもやした感覚と向き合っていた。
仮説も立てられない、理由づけも出来ない問題。
頭も心もずっと唸ってばかりの平行線。
埒があかないので、気晴らしに散歩でもすることにした。
ここ最近、虐殺という行為があまり目につかなくなった。
正確に言えば、表に出る虐殺厨の数が減っていただけなのだが。
だから、日中より更に安全になった夜は、散歩するのに絶好の時間だ。
虐殺が減ったという情報は、落ちていた新聞や、ラジオを盗み聞きしてのもの。
『一匹のちびギコが、無差別殺人を繰り返している』。
普通なら考えられないが、嘘の報道などすぐに忘れ去られる筈だ。
このニュースはもう一週間前から流れ、様々な場所で耳にしている。
警察が警戒も促していたし、実際に虐殺も減っていたし、事実に間違いないだろう。
(・・・会ってみたいな)
虐殺厨を虐殺し返す。
そんなちびギコがいるのなら、一度話をしてみたい。
何故、見境なくAAを殺しているのか。
どうして、虐殺厨を殺すことができるのか。
どうせなら、弟子入りも視野に入れてみようか。
虐殺厨を殺す程強いのなら、ついていけば楽に生き延びる事が出来る。
情報を耳にしてから、僕はそのことをずっと考えていた。
ふと空を見上げると、満月が出ていた。
その美しさは、空っぽな自分を癒してくれる。
マターリの神様は信じないけど、お月様はいつも僕を見てくれる。
ひとつ、お月様に願いごとをしてみようか。
流れ星のそれではないが、祈る形での願いだ。
目を閉じ、胸に手を宛てる。
「お月様、願わくばその強いちびギコに逢わせて下さいデチ」
心の底から、切に願った。
―――その時だった。
「グエっ!?」
短い断末魔が近くから聞こえてきた。
声色からして、それは虐殺厨のもの。
真逆と思い、その声がした所へと走る。
恐らく日中でも人気のない、細い道。
そこに、虐殺厨は倒れていた。
ぱっくりと裂けた首が、月光に照らされている。
そして、その影にその虐殺厨を殺した者が立っていた。
考えるまでもなく、そのAAは噂になっているちびギコ。
新聞にも書かれていた通り、ラジオで聞いた通り。
少し大きな身体をしたちびギコが、虐殺厨の血をしっかりと浴びていた。
「あ・・・」
僕は歓喜すると同時に、恐怖を覚えた。
それは、ちびギコから放たれる殺気が、僕に向けられていたからだ。
453
:
魔
:2007/12/13(木) 23:11:06 ID:???
影から出てくるちびギコ。
ゆっくりと、その身体が月光に晒される。
真っ白なその毛並みには、べっとりと血糊が付着している。
目線を上げると、地の白に茶と黒が混じっている顔。
あまりお目にかからない毛の色に、僕は少し驚いた。
ただ、負傷か虐待かはわからないけど、左目と左耳が彼にはなかった。
そして、もう一度目線を落とすと、真っ黒な腕が握るナイフがあった。
血を吸ったまま月光を反射するそれは、恐怖を感じさせる。
話し掛けようとするも、声がでない。
彼の真っ黒な眼が、とても恐ろしく思えたから。
口を開けば、手の中にあるナイフで切り殺される。
そんな幻覚さえ見えてしまった。
「・・・何か用?」
感情のない声。
彼の問い掛けに、我に返る。
「あ、その・・・キミが、噂になってるちびギコデチか?」
咄嗟に出した言葉は、当たり前の事を問うものになった。
他にも重要な質問なんて沢山あるだろう。
僕は自分に毒づくも、彼の返答を待つことにした。
「・・・」
不快だったのか、彼は無表情のまま死体に目を遣る。
そして、その死体にナイフを力強く突き立てると、そのまま切り開いていく。
ぐちゃ、と湿った気持ち悪い音が、肉塊となっていく虐殺厨から聞こえる。
照らすものが月であるせいか、溢れた血液がコールタールのように黒く見えた。
「君、片腕なの?」
と、解体に見取れていて、質問が来たのに気付くのが一瞬遅れた。
「あ、えと・・・そう、デチ」
腕のことに触れられるのは嫌だったけど、不満を言っても何にもならない。
寧ろ、片腕ということに恥ずかしささえも感じてしまった。
彼はあんな身体になっても、一人で生きているというのに。
僕は他人の力を借りて、生きている。
「・・・君達って、面白いね」
「えっ?」
思いもしない返答に、つい聞き返す。
「今まで色んなちびギコに出会ったけど、まともに話せたちびギコは皆身体の一部がなかった」
「・・・」
「そうでない人達は全員『マターリ』とか言って話が通じなかったから」
そう言うと、彼はどこか寂し気な表情を浮かべる。
庇うように左腕を握る彼を見て、僕はやっとそれに気付いた。
真っ黒な彼の左腕は、最初は毛の色だと思っていた。
だけど、それは間違いだった。
よく目を凝らすと、彼の左腕は重度の火傷。
花火やライターくらいの火ではつかない程、酷いものだった。
使えてはいるようだけど、片腕よりかなり目立つ怪我。
もしかすると、彼は僕より沢山のちびギコに馬鹿にされたのかもしれない。
それを裏付けるかのような発言が、彼の口からぽつりと零れた。
「僕もこんな身体だし、有る者には見下されても仕方ないのかもしれないね」
「・・・」
そんなことない。
そう言いたかった。
だけど、僕が言えたことではなかった。
454
:
魔
:2007/12/13(木) 23:11:46 ID:???
僕が言葉を捜していると、彼は解体に勤しむ。
どうしてバラバラにするのか、ふと疑問に思う。
だけど、その答えは聞かなくても、彼から教えてくれた。
虐殺厨の腕を切り離した彼は、更に皮を剥ぐ。
そして、露になったぬらぬらと光る肉を見詰め、それに口をつけたのだ。
一つ咀嚼し飲み込んだ後、今度は力強くかじりついた。
僕はそれを見て、一瞬寒気がした。
その直後、謎が氷解し感動という気持ちが心を染めた。
何故無差別に虐殺厨を殺してきたのか。
それは、自分の力を誇示させる為ではなかった。
彼は、『食事の為に虐殺厨を殺している』。
ゴミ漁りというハイリスク、ローリターンのそれよりも遥かに効率が良い。
先に殺せば、殺される心配もないし、手に入る量も半端じゃない。
「・・・それの為に、君は虐殺厨を殺してしたんデチか」
「うん」
感動し過ぎて、ついわかりきった事を問い掛けてしまったが、満更でもないらしい。
虐殺厨だったものを食べる彼は無表情だったけど、凄く嬉しそうだった。
だから、段々羨ましく感じてきた。
僕らより遥かに強い彼に、更に憧れを抱くようになった。
「あの・・・無理を承知で頼みたい事があるデチ」
利用する、という考えはいつの間にか吹き飛んでいた。
実際に出会ってみて、彼に心の底から魅入ったからだろうか。
或いは、同じような身体を持つからだろうか。
意を決して、問い掛ける。
「何?」
「僕も、き、君についていきたいんデチ・・・」
全て話してみた。
自身の強さに惚れ込んだこと。
虐殺厨を殺す術を教えて欲しいこと。
死に怯える日々から抜け出したいこと。
嘘偽りなく、あるがままを話した。
「ごめんね」
返ってきたのは、否定だった。
「僕も、自分だけの事で手一杯なんだ」
「・・・いや、いいんデチ。赤の他人がいきなり我が儘を言って、ごめんなさいデチ」
予想はしていたけど、少し寂しく感じた。
彼なら、僕の心の穴を埋めてくれそうな気がしたのに。
だけども、やはり片腕というハンデは大きすぎるのか。
俯くと、視界がうっすらとぼやける。
いつの間にか、僕の目には涙が溜まっていたようだ。
見られまいと顔を逸らすと、血の匂いが強くなる。
顔をあげると、彼は虐殺厨のもう一つの腕を持っていた。
「代わりと言ったら難だけど・・・これ」
申し訳なさそうに、差し出してくれた。
僕は涙をこっそりと拭い、それを受け取る。
「ありがとう・・・デチ」
「いつも食べ切れないから、残しちゃうんだ」
軽い自虐を含めながら、彼は笑う。
つられて、僕も少しだけ笑った。
455
:
魔
:2007/12/13(木) 23:12:57 ID:???
初めて虐殺厨の肉を食べた。
火を通してないせいか、残飯よりも凄く生臭い。
だけど、一度口の中に入れれば、臭いは消えて美味しさが広がる。
新しい感覚に僕はひたすら感動し、貪るように食べた。
お腹も、何ヶ月ぶりにいっぱいにすることができたし、嬉しかった。
「虐殺厨って、こんなに美味しいんデチね」
「僕も、初めて食べた時は驚いたよ」
「それで、食べる為に殺すようになったんデチか」
「うん」
「羨ましいデチ。僕にも、そんな強さが欲しいデチ」
虐殺厨も殺す事ができて、食事にも困らない。
そんな素晴らしい生活ができる彼が、本当に羨ましくて堪らない。
夢物語なんかじゃなく、それを体言しているから、より憧れてしまう。
そんなことを思っていると、彼の口から意外な言葉が発せられた。
「僕は、強くなんかないよ」
「えっ?」
流石に、一瞬で理解できなかった。
謙遜なんかじゃなく、本当にそう思っての言葉。
どういうことか聞く前に、彼が先に答えを教えてくれた。
「僕は君達と変わらない、普通のちびギコなんだ。ただ、ナイフを持ってるだけ」
次いで、ナイフと身体の傷の事も話してくれた。
虐殺厨に捕まり、生き地獄を見たこと。
「耳をもぎ取られ、腕を焼かれた。
それでも、絶対に生き延びる事を誓った。
どんな小さなものでも、チャンスだけは逃さなかった。
そして、左目を犠牲にして虐殺厨から逃げ出せる事が出来た。
その時に、このナイフを手に入れたんだ。」
坦々と話す彼。
その内容は僕が体験したものよりも遥かに辛いものだった。
ナイフを手に入れた後の話も、決してゴミ漁りより楽じゃない。
仲間も親もなく、たった一人で生き延びてきた彼。
なのに、彼自身は自分を強くないと評する。
納得がいかなくなって、僕は更に聞いてみた。
「虐殺厨を殺せるだけでも、十分に強いデチ。なのにどうして・・・」
「・・・君と、僕の違う所。わかる?」
「?」
「ナイフがあるかないか。それだけ」
ナイフという『力』。
ちびギコでも、力を持つことができる。
それを持つことができれば、後は『気持ち』次第だ。
彼はそう語ってくれた。
凄く単純なことだけど、僕はそれに心を打たれた。
『気持ち』と『力』があれば、なんでもできる。
彼だって、生き延びたいという気持ちとナイフという力だけで、虐殺厨を殺している。
段々と、僕の心の穴が埋まっていく。
高ぶる気持ちに合わせて、それは小さくなっていく。
彼についていくという事はできなかったけど、新しい道を教えてくれた。
それだけで、凄く嬉しかった。
※
暫くの間、僕等は会話と食事を楽しんだ。
二人で食べたせいか、虐殺厨は殆ど骨だけになった。
肋骨を露にした間抜けな虐殺厨を見て、一緒に笑ったりもした。
そして、彼はまた『生き延びる』為にここを離れるようだ。
僕は感謝の言葉と、また逢いたいという願いを込めて、
「またね」
と大きく手を振って言った。
名前を聞く事は、すっかり忘れてしまっていた。
456
:
魔
:2007/12/13(木) 23:13:33 ID:???
※
朝になった。
僕はあの後、ちゃんとちびタンの所に戻った。
興奮し過ぎていて、なかなか寝付けなかったけど。
今日は早速、あの彼に教えてもらったことを試すことにした。
先ずは、『AAを殺すことが出来る道具』を手に入れないと。
虐殺厨は、身体の丈夫さを武器にできる。
ならば、その丈夫さを超える力があればいいんだ。
ガラス片であれ、丸腰な虐殺厨なら上手くやれば殺せる。
小さな刃物でも、扱うことができれば十分。
あのナイフの彼だって、刃渡り十数センチの力で何人も殺してきたんだ。
「・・・ねぇ、何するんデチか? こんな所で」
僕が来たのは、大小様々な鉄くずを集めている広場。
どういう施設なのか、詳しいことはわからない。
けど、ここに来たら何かありそうな気がしたから。
「ちびタンには関係ないデチ。別についてこなくてもよかったのに」
「で、でも、片腕のフサタンはほっとけないし・・・危ないことは、しちゃ駄目デチ」
急に、ちびタンが欝陶しく思えるようになった。
僕の事を想い、いろいろとしてくれるのは素直に嬉しい。
だけど、四肢があるくせに纏わり付くのが、段々と不快に感じてくる。
彼に出会ったせいだろうか。
いつも傍にいるちびタンより、一夜だけ話した彼の方が、優しかった。
上からでも下からでもなく、同じ目線で僕を見てくれた。
「・・・」
そこまで考えた所で、僕は思考を止めた。
先に成すべきことを成してから、そこから次の問題に取り掛かろう。
僕は小さい鉄クズの山に手を置き、目当てのものを探した。
※
ガシャガシャと、鉄クズの山が唸る。
それを聞く度、ちびタンはオロオロと落ち着かない。
辺りを見回しては、いちいち耳打ちをしてくる。
「そ、そんなに音を立てたら、虐殺厨に見つかるデチよ」
「ちびタンは黙ってて欲しいデチ」
それに、虐殺厨はこんな所に来る筈がない。
僕等ちびギコが殆どいないのに、わざわざ歩きにくいここに足を運ぶことはない。
何度も説明したのに、ちびタンは全く聞いてくれない。
ガラクタを掻き分ける度、掌が汚れていく。
自慢の毛並みもくしゃくしゃだし、疲れも感じてきた。
だけど、僕の手はもう頭では止まらなかった。
帰巣本能のような、磁力のような感覚が僕の心を埋め尽くしている。
と、
「痛っ!」
指が何かに刺さったようで、咄嗟に腕を引っ込める。
ふと、痛みを感じた指を見ると、ちょっとした量の血。
それは小さな膨らみになった後、つう、と掌へと滑り落ちた。
「大丈夫デチか!?」
怪我をした僕を見て、酷く慌てるちびタン。
手を見せるよう言われたが、僕はそれを無言であしらう。
ちびタンの不快な思いやりよりも、それが気になる。
ガラクタを掻き出し、僕の手に傷をつけたものを、取り出した。
457
:
魔
:2007/12/13(木) 23:14:20 ID:???
※
それは、単なる金属片だった。
多分、何か大きな鉄の塊の一部分だろう。
金属片は引きちぎられたように伸び、そこが刃の役割をしている。
都合よく柄のような形をした部分もあり、そこを握ってみる。
翳してみると、なかなかかっこよく見えた。
ギザギザの刃は銀色に光り、他は錆で被われ、僕の毛色みたいだ。
(・・・これデチ)
求めていたものは、あっさりと見つかった。
切れ味は、どう考えてもまともではなさそう。
だけど、この金属片はどの刃物よりも僕に馴染みそうな気がした。
力を手に入れた。
まだ試してすらいないのに、漠然とそう頭の中に言葉が浮かぶ。
後は、『気持ち』。
それは既に用意してある。
僕の中で、燻っていた念い。
片腕だからという理由で、諦めていた。
だけど、これを見付けた途端、その念いは燃え盛る。
―――僕を馬鹿にした奴らへの、復讐。
好きでこんな身体になったわけじゃないのに。
僕を見る度嘲笑い、暴言や石を投げて来た奴ら。
あの時は本当に何もできなかったから、成すがままだった。
ちびタンはそんな僕を支えてくれたけど、それも今日でおしまいだ。
今の僕は、何もできないわけじゃない。
心を真っ黒な炎が包み、激しく、それでいて静かに燃え盛る。
その炎が消えてしまう前に、奴らを焼き殺してしまおう。
そう決意し、ガラクタの山から離れようとした。
その時だった。
「フサタン!」
ちびタンが、僕を呼び止めた。
その声は少し掠れていて、本人も息があがっている。
どうやら僕が物思いに耽っている間も、喚いていたようだ。
振り向き、聞き返す。
「何デチか?・・・僕は今から、することがあるデチ」
「そんな危ない物使って、何する気デチか!」
半ばヒステリックに叫ぶちびタン。
その顔は少し青ざめ、どこか怯えているように見える。
僕は包み隠さず、胸中の事を伝える。
「復讐デチよ。僕はもう、何もできないわけじゃない」
「復讐って・・・まさか!?」
「そんなに驚かなくてもいいデチ。まあ、そのまさかなんデチが」
金属片を見詰めながら、呟く。
くい、と角度を変えて刃に光を当ててみると、僕の顔が映った。
それは刃の形に沿って歪み、僕の顔そっくりな悪魔が笑っているかのよう。
暫く眺めていたかったが、ちびタンの言葉でそれは叶わなかった。
それは、あまりにも心ない言葉だった。
「はぁ、全く。何を言い出すかと思えば・・・」
「・・・ちびタン?」
「いつも僕に助けられてるフサタンが、そんなこと出来る筈ないデチ」
「・・・」
「片腕のくせに、そんなガラクタ持っただけで復讐なんて無理デチよ」
458
:
魔
:2007/12/13(木) 23:15:10 ID:???
※
最も聞きたくなかった言葉。
それは、いつも傍にいたちびタンの口から、放たれた。
「いやはや、まさか自殺するんじゃないかってヒヤヒヤしてたけど、杞憂だったデチ」
「・・・」
「下手に引き止めたりしたら、フサタンが暴れて山が崩れて生き埋めだとか、考え過ぎてたデチ」
頭の中が真っ白になった。
でも、ちびタンは構わず喋り続ける。
ちびタンは僕の為にいろいろしてくれた。
だけど、心の中では片腕の事を馬鹿にしていた。
信じたくないけれど、本人が目の前でそう言った。
片腕のくせに―――。
そこに嘲けりがなくても、僕の心は酷く傷つく。
そして、その傷から激しく炎が顔を出す。
「ちびタン・・・」
「ん、何デチか?」
「僕にやさしくしておいて・・・本当は、影で馬鹿にしていたんデチね・・・」
「馬鹿も何も、片腕を擁護する奴なんているわけないデチよ」
話を全て聞けば、ちびタンは自分の為に僕を手助けしていたとのこと。
表面上では優しくしておいて、裏で僕を見下す。
『キケイを介護してやるなんて、僕はなんて慈悲深いんだろう』と。
そこに罪の意識なんてなかったかのように、ちびタンは面白おかしく喋る。
結局、ちびタンは奴らと同じだった。
こんな奴に心を開いた自分が情けない。
得物を握る手に、力が入る。
炎が、そいつも殺してしまえと命令する。
味わわせてやる。
僕の苦しみを。
切り刻んでやる。
僕の力で。
得物を逆手に持ち直し、ちびタンに迫る。
まだへらへらと喋るちびタンは、僕の殺気に気付いていない。
目と鼻の先まで近付いて、得物を振り上げる。
そこでやっと、ちびタンは口を動かす事をやめた。
「・・・へっ?」
刃物が、自分の肩口に突き刺さっていたからだ。
僕も、いつ振り下ろし、刺したのかわからなかった程。
そのくらい、ちびタンの肉が脆いのか、得物の切れ味が凄まじかったのか。
「ひ、ヒギャアアアァァァァア!!?」
ちびタンは刃から離れるように倒れ、その場を転げ回る。
真っ赤に染まった金属片は、ぬらぬらと光る血を滴らす。
刺してしまった。
虐殺厨なんかじゃなく、同じ種族をだ。
だけど、罪悪感なんてこれっぽっちも生まれない。
生臭さと肉を裂く感触に、ちびタンの慟哭から感じるもの。
それは、他人を見下す時に得られる『幸福』だった。
459
:
魔
:2007/12/13(木) 23:16:23 ID:???
『見下す』。
その行為は、あまりした覚えはなかった。
見下されたことなら、不本意だけど腐る程あった。
沢山のちびギコが、それをしてきた訳が今理解できた。
誰かを見下す事は、この上なく気持ち良い。
僕は暴れるちびタンを止める為、脚でそのお腹を踏み付ける。
呻きが聞こえると同時に馬乗りになり、刃を首に宛てがった。
「ひい・・・っ!」
怯え、涙目でこちらを見遣るちびタン。
完全に恐怖に呑まれているようで、身体の震えが嫌というほど伝わってくる。
肩口を傷付けただけだというのに、先程の態度とは全く違っていた。
「どうしたんデチ? そんなに怯えて・・・」
「いや、やめて、デチ。こっ、殺さない、でえっ」
と、ちびタンが嗚咽を漏らしながら懇願する。
そこで、どうしてそこまで恐怖に苛まれているのかがわかった。
ちびタンの真っ黒な瞳に、僕の顔が映ったから。
それは、自分さえも竦み上がる程酷いものだった。
憎しみがそこから駄々漏れているのも、はっきりとわかる。
憎悪という化け物に睨まれて、ちびタンはこうなったんだろう。
「・・・」
だからといって、気持ちがわかったからって、手を止める理由にはならない。
寧ろ怯えてくれて好都合。ここから、ちびタンを僕の好きなように扱えるわけで。
手は傷口を押さえてて、自ら抵抗しないようにしてるのと同じ。
脚はもちろん、僕が馬乗りになっているせいで使えるわけない。
今から、得物という力を使って、ちびタンを十二分に弄んでやれる。
「殺すか殺さないかは・・・僕が受けた苦痛の大きさで決まるデチ」
刃を反し、付着していた血をちびタンの頬になすりつける。
自分の血だというのに、ちびタンは悲鳴を押し殺して顔を逸らす。
嫌がるくせに、傷口を押さえる手は動かそうとしない。
しかも、そのくらいの傷で痛がるなんて、もぎ取られた僕はどうなるのだろう。
「ご、ごめ・・・ごめんなさ・・・い」
「謝るデチか。さっきはやって当然といった物言いだったくせに」
「あ、ああぅ・・・」
「片腕に命乞いなんて、ちびタンは馬鹿デチねー」
眼はそのまま、刃を向けて嘲笑う。
すると、ちびタンにもプライドはあるのか、涙目で睨み返してきた。
倫理感に欠けるその意地は、少し不愉快ではあったけれど。
ただ殺すだけじゃあ、僕の怒りはおさまりそうにない。
だから、ちびタンにこれとない苦痛を与えるべきだ。
そこで、僕はある事を思い付いた。
恐らくそれはちびタンにとって、究極の二択かもしれない。
天秤にかける、一つの要素は命。
そして、もう一つは―――。
「ちびタン」
「え・・・?」
僕は問い掛ける。
囁くように、脅すように。
「片腕になるのと、死ぬのと。どっちがいいデチか?」
460
:
魔
:2007/12/13(木) 23:17:05 ID:???
「な、なん・・・っ!」
ちびタンが喚くより先に、得物の刃を頬に押し付ける。
そこから新しく血が流れた所で、ちびタンは喋るのをぴたりと止めた。
「文句でもあるんデチか? 断るなら、殺すかわりに『虐殺』してあげるデチ」
使う事はないと思っていた単語が、あっさりと言葉になる。
力を手に入れてからは、それが簡単に熟せそうな気もしている。
いや、今の僕は絶対に熟せる。
自分が片腕でも、ちびギコという弱い種族でも。
気持ちと力があれば、なんだってできる。
ナイフの彼が言っていた事は、本当なんだ。
「さあ、早く決めるデチ」
「うぅ・・・っく・・・」
涙をボロボロと零しながら、葛藤するちびタン。
十秒か、多分そのくらいの時間が経ってから、ちびタンは動いた。
傷口を押さえていた手を退かし、こう答えた。
「せめて・・・こっち・・・」
プライドよりも、命を選んだ。
死ぬことよりも、生き地獄を選んだ。
ただ、それは僅かな差での答だったようで、ちびタンは更に涙を流す。
身体の震えは、既に恐怖のものではなくなっていた。
「わかったデチ」
僕は、あまり間をあけずに言葉を返した。
そして、あえてゆっくりと刃を傷口に持っていく。
刃先で軽く傷口をつつくと、あわせるようにちびタンの身体は小さく跳ねた。
何度かそれを行った後、僕は囁く。
「叫んだりしたら、殺すデチ」
釘を打ったのは、決して他のAAに見つかる恐れをなくす為ではない。
単純に、ちびタンの行動を制限させる為だけのもの。
これとない激痛の上、叫ぶことができないのは、かなりの苦痛だろう。
だけど、僕はそれ以上に苦しんだわけで。
ちびタンは歯を食いしばり、右手は身体でなく地面を掴む。
どうやら、僕の言葉を綺麗に飲み込んでくれたようだ。
反論も罵倒もなく、怯えながら従うちびタンは見ていて面白い。
得物を強く握り、刃を進ませる。
先程刺した時よりも、更に深く、遅く入れていく。
ずぶずぶと入り込む感触は心地よく、肉を切断しているというのがよくわかる。
当の本人は瞼を強く閉じ、必死で痛みに堪えていた。
「よく我慢できるデチね・・・ちびタンは強いデチ」
「〜〜〜っ!!」
手応えがきつくなれば、一度引き抜いてまた入れる。
乱暴に突き刺すなんて事はせず、あえてゆっくりと行う。
長い間僕を苛んできた苦痛は、そうしないとわからないから。
また深くに刃を入れていくと、ちびタンは眼を見開いて堪える。
それでも、決して叫ぶことはなかった。
涙を零しながら、激痛に静かにかつ激しく悶えるちびタン。
その表情を見れば、絶景を眺めるより心が洗われる。
僕は網膜に嫌というほど焼き付ける為に、刃を動かす速度を更に緩めた。
461
:
魔
:2007/12/13(木) 23:17:57 ID:???
暫くして、ごつ、と鈍い手応えがあった。
一応意識しながら行ってきたけれど、こんなに硬いとは思っていなかった。
くすんだ赤や黄に塗れた肉の芯を成す、骨にぶつかったのだ。
果物を食べていて、偶然にも種を噛んでしまったような感触。
故意に邪魔されたような気がして、この上なく不快に感じた。
こんなに硬いものがあれば、出来るものも出来なくなる。
もっと、肉を切断することに浸っていたかったけれど。
僕は覚悟を促す為、口を開いた。
「ちびタン」
「っ・・・?」
「ちょっと乱暴にするけれど、大丈夫デチね?」
「・・・」
ちびタンは僕の言葉に頷く。
直後、地面を握っていた右手を口に持って行き、そのまま塞ぐ。
血や涙で汚れた顔に土だらけの掌が被さると、土埃は泥になり更に汚れる。
あまりにも汚いちびタンの顔に、僕はほんの少しだけ吐き気を催した。
だけど、ちびタンは僕の無茶苦茶な行動言動に素直に応じている。
そこだけは評価してやらないといけないかな。と僕は思った。
「・・・まあ、それが賢明デチ」
わざと口角を吊り上げながら、囁く。
ちびタンはもう、痛みを堪えるのに必死なようで、何も反応を示さなかった。
少しばかり生意気に感じたが、見方を変えたら余裕がないのと同じ。
ちびタンが壊れるのも、もう目の前かもしれない。
※
今から、ちびタンの腕を殺す。
骨はいわゆる、腕の命に等しいものだ。
それを砕けば、ちびタンの腕は死ぬ。
あの時の僕みたいに、激しい絶望感と喪失感に苛まれるだろう。
ちびタンが悪いんだ。
僕の事を影で嘲笑っていたから。
ただ馬鹿にし、石を投げるだけならここまでしなかった。
だけど、ちびタンは僕にやさしくしてくれた。
やさしくしてくれたから、『裏切り』なんてものが生まれたんだ。
※
得物を大きく振り上げる。
唯の金属片であるそれは、今だけギロチンの刃のように思えた。
罪人とも取れるちびタン専用の、断頭台でなく断腕台。
僕はそれ以上何も考えず、一気に振り下ろした。
途中、憎しみという感情が僕の腕を強く押したような気さえした。
「―――ッッ!!!!」
ばき、と凄まじい音がして、ちびタンの腕の骨が砕ける。
想像を絶する激痛だったのか、僕を振り落としそうな程ちびタンは身体を大きく跳ねさせた。
その後も、首やら脚やらをばたばたさせて酷く悶絶するちびタン。
叫ぶことができないぶん、苦しさは半端でない様子。
だけど、約束はしっかり守っていることから、まだ精神は壊れてないようだ。
こんな目にあっても、必死で自我を保とうとするちびタン。
捩曲がったその根性は何処からくるのかと、僕は心の中で毒づく。
肝心の骨は、どうやら上半分だけが割れただけのようで、完全に切断できていない。
骨の破片を刃先で取り除くと、骨髄らしきものがどろりと流れ出た。
462
:
魔
:2007/12/13(木) 23:18:18 ID:???
血が溢れ、肉が顔を出し、骨が露になっているちびタンの腕。
汚いそれが身体と離れるのは、もうすぐそこ。
もっと痛め付けてあげたかったけど、これ以上長引くと気絶させてしまいそう。
意識のないちびタンを虐めても、僕の心は晴れたりはしない。
「ちびタン、もう少しで終わるデチ。頑張るデチよ」
「・・・!!・・・!」
口を押さえて悶えるばかりのちびタン。
僕はそれを無視し、得物を振り上げ―――。
ばきん。
と、乾いた音が辺りに響き、ちびタンの骨は見事に割れた。
勢い余って、そのまま骨の下の肉も切断してしまったようだ。
「・・・やったデチ」
ちょっとした達成感に、僕はうっかり感嘆の声を漏らす。
ちびタンは眼を見開いたまま、涙をひたすら流している。
小刻みに震え、腹は上下動している所から、気絶はしていない様子。
ちびタンは今、何を考え何を想っているのだろう。
恐らくその心は僕と同じように、絶望と激痛でズタズタな筈だ。
しかも、これからちびタンは仲間と思っていたAAに見放されていく。
僕が見て来た地獄を、そっくりそのまま見てもらうんだ。
僕は立ち上がり、ちびタンから離れる。
もう、裏切り者には用はない。
「お疲れ様デチ。もう喋ってもいいデチよ」
「・・・ぅ・・・ぅあ」
何か恨み言の一つでも喋るかと思えば、それではなかった。
ただ、流す涙に合わせてえづき、鳴咽を漏らすだけ。
その様子から、十二分にちびタンの精神は傷ついたようだ。
僕は最後の仕上げに、ちびタンの耳にこう囁いた。
「ようこそデチ・・・僕が体験した『地獄』へ」
※
最初の復讐は、満足のいくものとなった。
これから、僕は更にAAを殺すだろう。
この得物を使って、僕を馬鹿にした者を片っ端から殺す。
虐殺厨と同類になっても、別に構わない。
力を手に入れた今、気持ちで突き進むだけ。
「ぁ、ぁ・・・うわあああああああああああ!!!」
広場を離れる途中、後方からちびタンの慟哭が聞こえた。
それは身体の芯にまで染み渡る程、良い声だった。
続く
463
:
淡麗
:2008/01/04(金) 20:22:21 ID:???
明けましておめでとうございます。
記憶のかなたに忘れかけているかと思われますが、
>>419
〜423の続きです。
どぞ
【ペット大好き日記!〜第3幕〜】
ただいまっと・・・
大学から帰宅した俺はわざとらしく声をかける。
返ってくる声はない。
だろうな。母親はサークル活動とやらで夕方まで居ないのを確認済み。
目標地点の主はまだ学校だ。
「いいぜ、モラ川。」
「いよいよモナ〜 なんかどきどきするモナ」
俺の後ろから入ってきたのは、大学の後輩のモラ川。
コイツの趣味は盗撮。しかし
「モラが盗撮するのは、暗躍する悪事を暴くする為モナ。エロには興味ない!」
というのが自負だとかで、その腕前はかなりのもの。
今回コイツを呼んだのは、妹の部屋でベビがどんな目にあっているのかを観察する為だ。
モラ川に状況を説明すると、初めは渋っていた。
「そんな家庭内の事なんて、どうでもいい事モナ…」
と渋っていたのだが、
無知で無謀な小学生のベビ育成観察の面白さを延々と語り聞かせること小一時間。
「…分かったモナ。でもやるからには万全体制で臨むモナ。」
と決心してくれたのだ。
さて、さっそく妹の部屋へ侵入。
ここが奴らのアジトだぜ…なんていって雰囲気を高める。まぁ、モナ川はあきれているが。
モナ川は部屋に入ると同時に、あちこち観察を始めた。
なんでも埃の状況などから家主の行動パターンなどを推測して、カメラやマイクを仕掛けるとか。
なんかよくわからん世界だからそっちの事は全てお任せしよう。
で、俺はベビを探し始める。
昨日と同様に鼻を利かせてみるが、異臭はしない。
ふむ、さすがに糞まみれ事件で何らかの対処をしたと見える…。
なかなかやるじゃないか。
でも机の下には、昨日と同様に不自然な箱が置かれている。
箱、というより蓋付きのゴミ箱といえるものだ。
そしてやはり蓋の上には空気穴と消臭剤…
ビンゴ、これに違いない。
箱に耳をつけ、中の音を確認すると「ム゙ゥゥ…」とやっぱりうめき声が。
「モナ川、おい、これ。ビンゴだぜ。」
「これ?この中にベビがいるモナ?それにしては小さすぎるというか…」
「だから小学生の考えることの面白さがここにあるんだよ♪」
「じゃあ昨日と同様に糞まみれ?」
「いや、さすがに懲りたらしくなんか対策しているみたいだ」
ワクワクしながら、蓋をオープン!
そこには・・・
464
:
淡麗
:2008/01/04(金) 20:29:03 ID:???
②
「ム゙ゥゥゥ…」
またまた猿轡を噛ませられたベビがいた。
しかし今回は糞まみれではない。
ないが…
首から下が砂に埋まった状態…生き埋めなのだ。
「…なにこれ?」
「砂に埋めてんのか??」
さすがに俺もモラ川も言葉が出ない。
というか何をしたいんだ、わが妹よ。
よくよく見ると、この埋められている砂は室内犬とかの排泄用の砂…
糞尿をしたとしても、砂が固まって回収が簡単、そして消臭剤だから臭いも気にならない
というあの商品だ。
妹はあの糞尿まみれ状態を洗ったりするのに相当難儀したんだな。
箱に隠しておくだけでは糞尿まみれになるのは目に見えているが、排便させないという事も出来はしない。
だったら排泄しても大丈夫なようにする為に…と考えた結果がこれか。
「先輩の妹は中々のインスピレーションをお持ちのようモナ」
くくく・・・と笑いをこらえながら、モナ川は称してくれた。
正直俺もこうくるとは思わなかった。
恐らく、ケツに栓でもねじ込んでいると思っていたが、こういう発想が出るとは。
大抵は行動を抑制するのが定番なのだが、なまじ
「ベビちゃん大好き!」とか言っちゃっているからこういう発想になるのかもしれない。
「…先輩、モナもなんか気になってきたモナ。
コイツ、これからどんな事されるか…ワクワクしてきたモナ」
おいおい、今までは乗り気じゃなかったってか。
ま、それでもいいさ。
「さて、頑張れよ〜ベビちゃん。お前のご主人様は素ン晴らしい方だからな〜」
笑いをこらえながら、蓋を閉めて元の場所に戻す。
それにしても、蓋を閉めるときのあのベビの表情…!
助けを請う「哀願」ってのはああいう目をすんだな(笑)
モナ川も同感なのか、笑いをこらえながら作業を進める。
小一時間後、カメラのセットも終わり一旦俺の部屋へ戻る。
セットしたカメラの状況を確認するのだ。
映像はバッチリ。音声も別にセットしているという。
しっかりレクチャーを受けながら、俺は妹の帰宅を待ちわびる。
恐らく人生で一番妹の帰宅を待ち焦がれている。
465
:
淡麗
:2008/01/04(金) 20:32:24 ID:???
③
ただいま、ベビちゃん。
今日はいい子にしていたかな?
箱を開けるとベビちゃんが私の事を待っていたかのように、大きなおめめで見つめてくれるの。
きゃは♪
うれしいな♪
「ただいま〜ベビちゃん。」
さっそく箱から出してあげるからね。
箱からベビちゃんを出してあげると、早速遊びたいのかモゾモゾするんだ
もう、あわてんぼうさんなんだから
マスクをはずして、手足のロープを外してあげるの。
一日中子の格好じゃ、やっぱり苦しいよねぇ。。。
でもベビちゃんがちゃんとお留守番できるまでの辛抱だよ?
「ぷはぁぁぁぁ!!!」
「ただいま、ベビちゃん。いい子にしていた?」
そういってあたしは優しくベビちゃんをナデナデ。
「ハ、ハニャァァァ・・・・・」
うふふっ
ベビちゃんは目をおっきく開いて、あたしを見つめてくれるの♪
ベビちゃんの大きなおめめ、本当に可愛いなあ
「さぁ、ベビちゃん。ずっと動けなくって退屈だったでしょ?これから沢山遊ぼうねぇ♪」
「オネェタン ナッコチテクレルンデシュカ?」
「ん〜〜抱っこもいいけど、少しは動かなくっちゃ。お部屋の中だけど、ベビちゃんとなら
大丈夫だよ♪鬼ごっことか、かくれんぼとか。」
「…ソレジャァカクレンボチマチュ! チィガ ニゲルデチュヨウ!」
あぁん、ロープが外れたとたん、ベビちゃんはすぐに走り出してベッドの下に隠れちゃった。
もう、さっそくかくれんぼうしたいのかな??
すぐに遊んであげたいけど、その前に箱の中をきれいにしなきゃ。
いくらネコ砂を入れているって言っても、ちゃんときれいに片付けなきゃ。
ベビちゃんが隠れている間に、お片づけしよっと。
汚れた砂を片付けて、ベビちゃんといっぱい遊んであげるんだから♪
466
:
淡麗
:2008/01/04(金) 20:35:19 ID:???
④
「ベビちゃ〜ん、どこかな〜〜♪」
掃除も終わったことだし、さっそくベビちゃんを探すの♪
ま、さっきベッドの下に入ったの見ちゃったから、探すってことも無いけどね
ベッドの下を覗くと…ほ〜ら、ベビちゃん発見♪
「み〜つけたぁぁっ!」
「イ…イヤァァァ…ッッッ!!」
もう、ベビちゃんったら、見つかったのにイヤイヤして出てこないじゃない。
簡単に見つけすぎちゃったカナ?
「ベビちゃん、見つかったんだから出て来ないと」
「ヤァァヨォォ! ヤァァヨォォゥ!!」
もう、わがままだなぁ…
あ、そっかドロケのつもりなのかな?
※ドロケ:「泥棒と警察」の略。鬼ごっことかくれんぼをミックスしたようなもの。
私も学校でやっているドロケは、見つかったあとに捕まるまで逃げ続けるのが醍醐味だしね♪
よ〜し、ベビちゃんがドロケしたいなら、こっちも一生懸命捕まえるからね!
「隠れても無駄よー!あたりは完全に包囲されているぅぅぅ!」
「ヤァァァヨォォ!! オネェタン チイヲツカマエテ ヒドイコトチマチュヨォ! イヤデチュヨゥ!!」
おっ なかなか雰囲気作りが上手ね♪
「そんなことは無い!あなたのみがらは、我々がしっかり保障する!
だから出てきなさーい!」
「イヤデチュヨゥ! アッチイッテェェ!」
むむ!なかなか抵抗する犯人ね!
それならば…
「投降しないのならば、実力行使だー!」
じゃーん!取り出したのはこのフローリングワイパー!
狭いベッドの下にも届いちゃうんだぞ〜♪
これを使って、ベビちゃん捕獲作戦開始!
「イヤデチュヨゥ! イヤデチュヨゥ!!」
あ、あれ??
うまくいかない?!確かにフローリングワイパーはベビちゃんに届いているのに、
ベビちゃんはころころってうまいこと逃げちゃっている!
う〜〜ん、なかなかすばしっこいわね!
それじゃあの「秘密兵器」の登場ね!
「犯人のベビちゃんに告ぐ!もう一度言うわよ!
無駄な抵抗は止めて、今すぐ出てきなさい!」
「イヤデチュヨォォォ!! モウ チィヲ ジユウニチテクダチャイ!!」
「くっ、しかたない!例の兵器を投入する!」
467
:
淡麗
:2008/01/04(金) 20:38:45 ID:???
⑤
投入する兵器は・・・じゃ〜〜ん!掃除機ぃ!!
狭い隙間にもするする入って、吸引力はわずかなホコリも逃さないって言うのよ?!
さぁ〜ベビちゃん、逃げ切れる?!
スイッチオン♪
ズィィイィィイィィィィンン・・・・
「チッ…チィィィィィ---!!! ヒッパラレマチュヨゥ!」
ベビちゃん、必死に抵抗するけどずるずると近づいてきているわ♪
さっすがハイパワー掃除機ねぇ
ベビちゃんが一生懸命爪を立てて踏ん張っているみたいだけど、無・駄・よ・♪
あ、でもあんまり抵抗されたら床に傷がついちゃうんだけどな。
もう少し近づけながら…
「ほ〜〜らぁ、ほら〜ベビちゃんどんどん引っ張られるわよ〜抵抗は無駄よ〜」
「イヤァァヨォォゥゥ・・・ ハニャァッ?!」
ずぼぼぼぉぉっっ!!!!
「ブギュァァアアア!!!」
キャーどうしよう!ベビちゃんが頭から吸い込まれちゃった!
ス、スイッチ!!スイッチ切らなきゃ!!!
キャー!足は出ているけど、取れなくなっちゃってるぅぅ!!しっかり頭が吸い込まれているぅぅ!!
急いで取り出さなきゃ・・・
思いっきり引っ張って…
「ム゙ム゙---!!」
あぁ、そっか。ひっぱったら痛いか!
あぁん、どうしよう?!
あ、そうだ思いっきり振ったら出てくるかも?!
えいっ!えいっ!!えいっ!!!
お願い、イチローさん、私にも力を貸してぇぇぇぇ!!!!
ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいいいいいいいいっっっっっっっっっっ!!!!!!
ブゥゥンッッッ!!!
すぽ
「あ、抜けた♪」
ベシィィィィィッッッッッ
「ブギァョッ!!」
きゃー!抜けた勢いのまんま、ベビちゃんが壁に激突ぅぅぅ・・・!!
だ、大丈夫?!ベビちゃん!!
「ブギュゥゥ…」
あぁ、なんか口から泡吹いちゃっている!
どうしよう、どうしよう…
と、とりあえずお水を持ってこなきゃ!
ベビちゃん、すぐに戻るからね!!
468
:
淡麗
:2008/01/04(金) 20:43:00 ID:???
⑥
リビングからお水をもって戻ってくると、お部屋の中にベビちゃんが居ない?!
そんな…さっきまで意識がなかったのに?!
ベッドの下をみると、ずりっずりって、ベビちゃんが這っているの。
あぁ、よかった。気が付いたんだね、ベビちゃん♪
ベッドのすぐ下にいたから、十分手が届くわね。
すっとベビちゃんを救い上げると、ベビちゃんはブルブル震えるばかり。
「イヤァァ… コナイデェェェ… ギャクサツチュウ… ギャクサツチュウゥゥ…」
私の事を虐殺厨だなんて。
きっとベビちゃんはショックで気が動転しちゃって、変になっちゃっているんだわ。
なんだか怪物を見ているみたいに、じたばたともがいているなんて…
よっぽど怖い思いをしているのね…まぁ、当然よね。
急いで正気に戻して上げなきゃ。
でもどうやって戻すんだろう??
た…確か、ショック状態の人に強い刺激を与えると正気に戻るってテレビでやっていたわね。
でも、「しろうとにはおすすめできない、もろはのつるぎ」って言ってたし・・・
ううん、やるしかないわ!
だってベビちゃんが苦しんでいるし、私がベビちゃんを育てるって決めたんだもん!
強いショックっていったら、前にパパが買ってくれた防犯用のスタンガンがあったよね。
あれを使ってみよう!
えっと、確かここの「しゅつりょく」っていうところを調節するんだったよね。
しゅつりょく、だから大きいほうがいいよね?
あ、でもベビちゃんは小さいから、あんまり大きなショックじゃ良くないかも…
う〜〜ん、よくわかんないから真ん中にしよっと。
ベビちゃん、正気にもどってぇぇぇ!!!
パリィィッッ!!
「ヒギャァァァッ!!」
正気に戻って…ベビちゃん…
って、あれ?
なんかベビちゃん、ぴくぴくってして動かないんだけど・・・
「ベビちゃん、ベビちゃん!?」
必死になって揺すってみるけど、目を覚まさない…
とりあえず息はしているみたいだから、大丈夫…だよね?
さっきのショックが強すぎたのかな?
一番弱いくらいのしゅつりょくでよかったのかな??
でも、スタンガンって受けたらしばらくは動けないって言ってたから、そのせいかな…
しばらくはベビちゃんをベッドで休ませて、様子を見ようかな。
ベビちゃん、ゆっくり休んでね…
しばらくして、ベビちゃんはスースーと寝息を立てていたんだ。
よかった。これでもう安心だね。
ベビちゃんが眠っているそばで、私はベビちゃんのベッドとかを作っていたんだ。
綿をいっぱい敷いて、ふかふかのじゅうたんを敷いたみたいな箱だよ。
トイレは別の箱を用意して…。そろそろベビちゃんにもトイレの場所とかを教えないとね。
いつまでも学校言っている間砂に入れておくわけには行かないもんね。
あ、ママが呼んでいるから下に行かなくっちゃ。
夕飯の準備かな?今日はなんだろう♪
469
:
魔
:2008/01/29(火) 23:17:23 ID:???
>>451
〜より続き
『小話』(中編)
※
あれから。
ちびタンの腕を奪ってから数日。
僕は僕を馬鹿にしていた奴らを、片っ端から殺していった。
勿論、首をかっ切る心臓を貫くなんて単純な殺し方なんかじゃない。
耳を削ぎ、腕を切断し、脚を裂き、腹を捌く。
ひたすら様々な箇所から、血を肉を空気に触れさせる殺し方。
僕は、奴らをいろんな方法で『虐殺』していった。
得物を振るう度、奴らは泣き叫んだ。
刃を走らせる度、奴らは悶え苦しんだ。
その声や表情を見ていると、えもいわれぬ心地良さが僕を包み込む。
虐殺が与えてくれる爽快感は、半端なものじゃなかった。
※
薄暗い、閑散とした商店街。
そこで今、僕はある男と対峙していた。
僕を見下し、馬鹿にしていた奴らのリーダー的存在。
『レコ』という名のちびギコの前に立っている。
「・・・」
「片腕が・・・このレコ様に何の用だコゾウ」
独特な訛りと語尾のそれは、不快で堪らない。
更に長毛種でもないのに、額に前髪のような毛を持つレコ
端から見たらこいつの方が奇形だの気違いだのと罵られそうなのに。
こいつが他のちびギコから支えられているのは、腕っ節の強さから。
アフォしぃやでぃという体格差があるAAさえも、返り討ちにすることがよくある。
僕だって、ちびタンに助けられる前は何度かボコボコにされたことがあった。
だけど、ちびタンもその事ももう過去の話だ。
今の僕は、虐殺をすることができる強いちびギコだ。
『殴る』事はできないけれど『殺す』事は出来るんだから。
「精算デチ。僕が受けてきた苦痛の、ツケを払ってもらいに来たんデチ」
「寝言は永眠してから言うべきだぞコゾウ」
指の関節を器用に鳴らしながら、近付いてくるレコ。
そんな小さい身体で凄みを出そうとするなんて、間抜け過ぎる。
僕も同じちびギコだから、口には出せないけれど。
僕はあえてその場を動かず、様子を伺う。
待ちに待った復讐で我を見失わないように、心を落ち着かせる。
頭ではわかっているけれど、これがなかなか難しかった。
「それにな・・・」
「?」
不意に、レコがまた口を開く。
「俺も、沢山の仲間をお前に殺されたんだコゾウ」
「・・・」
「復讐はお前だけのものじゃねぇんだよコゾウ」
何を言い出すかと思えば、あまりにもくだらないこと。
あんなしょうもない奴らの為に、復讐を誓うなんて。
同じ種族を馬鹿にするAAなんか死んだ方がいいのに。
「寝言を言ってるのはどっちデチかね?」
「なんだと・・・」
「それに、その気持ち悪い口癖止めてほしいデチ。虫酸が走るデチ」
僕がそう挑発するや否や、レコが物凄い勢いで飛び掛かってきた。
既にレコの怒りはトサカにきていたようで、その形相は悍ましかった。
「殺すぞコゾウ!!」
470
:
魔
:2008/01/29(火) 23:18:11 ID:???
レコはそう叫ぶと同時に殴り掛かる。
力強く振りかぶってのそれは、なかなかに重たそうだ。
だが、
「!?」
僕はあえて防がず、そのままレコの拳を顔で受けた。
鈍い音と共に、拳が右頬に減り込むのがはっきりとわかる。
だけど、レコの一撃はそこで止まった。
歯も折れていなければ、口の中が切れた様子もない。
腕っ節は確かにあるが、僕の気持ちはそれを遥かに超える。
この頬の痛みも、腕を奪われた時に比べれば痒いもの。
気持ちだけで止められる程、レコの技はちいさなものだった。
「そ、そんなはず・・・」
「・・・馬鹿デチね」
レコの考え、いや妄想では僕は今頃後方におもいっきり吹き飛んでる筈のようだ。
でも、この程度のパンチじゃあベビしぃ位しか吹き飛ばない。
間抜けなリーダーさんの目を覚ますべく、僕は反撃に移る。
レコの拳からするりと離れ、更に距離を詰める。
眼と鼻の先まで近付けば、殴る事も蹴る事も難しい。
「こ、この奇形野郎っ!」
レコはそう吐き捨て、僕から距離を取ろうとする。
まるで気持ち悪いもの見たかのような、本当に怯えている様子。
間を置いて、心を落ち着かせてから反撃に移ろうという魂胆。
全て、手に取るようにはっきりとわかった。
だけど、もう遅い。
復讐は、既に始まっている。
「なんなんだコゾ・・・ッ!?」
レコは突然、僕の得物を見て驚く。
次いで、段々と顔が青ざめていく。
何故なら、その得物の刃に真っ赤な血が付着していたから。
誰のものかなんて僕は言わない。
その答は、自ずとやってくるから。
「テメ・・・いつの、間に・・・」
「馬鹿デチ」
もう、僕はレコにその言葉しか投げ掛けないことにした。
近付いた時に、既に刃をその腿に刺したというのに。
気付くまでの時間の掛かりっぷりに、少し笑いたくもなった。
腿を押さえ、ゆっくりと崩れ落ちるレコ。
刃は通っても、鋭くはない得物のお陰で痛みはしっかりと感じているようだ。
傷口からは血が溢れ、レコの身体を赤く汚していく。
「っぐ・・・クソ、ッ!」
痛みを堪える為か、或いは攻撃された事の否定か。
レコはその場で悶え、必死に立とうとする。
しかし、深く刻まれた傷は脚の機能を奪ったようで、なかなか上手くいかない。
顔を上げては転び、崩れ落ち、悶絶を繰り返す。
そんなレコを見て、やはり僕はこう思い、更に口にした。
「・・・馬鹿デチ」
挑発ではなく、嘲笑の意を込めた発言。
それを聞いたレコは、怒りではなく恐怖で顔を歪める。
それがどうしてなのかは、自分でもちゃんと理解していた。
471
:
魔
:2008/01/29(火) 23:18:48 ID:???
※
ゆっくりと、レコに近付く。
それに合わせ、レコは空いた手を使って後ずさる。
その表情は引き攣っていて、先程の強気な所は微塵にも感じ取れない。
相反して、僕の口角はじわじわと吊り上がっていく。
レコは、『虐殺される』という未来に怯えている。
僕は、『虐殺する』というシナリオに喜んでいる。
客観的に見れば、恐らくそんな感じなんだろう。
今の自分は、自分でないようにも思えたから。
「な、何する気だコゾウ!」
自分でもわかっているくせに。
認めたくないから、そんな言葉を吐くんだ。
「馬鹿デチ」
僕は身体で理解させてやろうと、得物を強く握る。
狙うのは、傷つけていない方の脚。
まだ血に塗れていない綺麗な脚だ。
予備動作もなしに、振り下ろす。
ぶつ、と湿った音と共に、刃はレコの脚に入り込んだ。
「ッ! がああっ!?」
遅れて、レコは刃から逃げるように離れる。
急に得物を抜いた事と、鋸状のそれのせいで傷口からは血が一気に噴き出る。
飛び散った血は僕の身体を汚し、染め上げていく。
両足を攻撃され、まともに立つことができなくなったレコ。
それでも、僕から逃げるように必死で手足を動かす。
真っ黒な眼もこちらを睨んではいるものの、瞳の奥は怯えていた。
まるで、昔レコにボコボコにされていた自分が乗り移ったかのよう。
あの時僕は精神的に死んでいたから、睨みつけることはしていなかったけど。
(昔の自分がそこにいる・・・それなら)
その自分ごと、虐殺しよう。
弱かった自分と別れて、強い自分に出会う為に。
だけど、そこにいる自分を虐殺してしまったら、僕は何になるのだろうか。
心の芯から、『虐殺厨』になってしまうのだろうか。
そんな考えが頭を過ぎったけど、気にしないことにした。
自分がどうあるかより、復讐の方が大事だから。
素早く詰め寄り、得物でレコの頬を叩く。
「がっ!?」
反応が遅れたレコは、成すがままそれを受ける。
続け様に僕は刃をその白い身体に走らせ、傷を付けた。
レコの腹部には赤い線が描かれ、そこからいくらかの血が溢れる。
更にその傷に交わるように、刃で赤い線をまた描く。
「ぐッ! っあ! ああッ!」
何度も刃を動かせば、同じタイミングでレコは悶える。
単純な反応ではあるけれど、この上なく楽しく感じた。
時折レコは腹やら顔やらを庇うが、それは無意味な行動でしかない。
腕であれ脚であれ、僕は今君の皮膚を切り裂く事しか考えていないから。
だから、その些細な抵抗は滑稽にしか見えないわけで。
「はははっ! 馬鹿デチ、馬鹿デチ!」
少量の返り血が僕の身体に付着していく。
僕は赤く汚れていき、レコはひたすら悶え苦しむ。
あまりの爽快感に、声をあげて笑っている事に気がつくのが遅れてしまう程。
もはや、自分の意思で得物を振るう事は止められない。
寧ろこのままずっとやっていたいという気持ちで、僕の心はいっぱいだった。
472
:
魔
:2008/01/29(火) 23:19:09 ID:???
しかし、その快楽も長くは続かなかった。
何度目かの振り回しで、僕はレコの耳を狙う。
振りの速さで、それは一撃で削ぐことはできた。
「ギャアアアアァァァァァぁ!!!」
唯、ぶつ、といった鈍い手応えがしたのが引っ掛かる。
レコは脚に攻撃した時とは違い、すぐに反応をしてみせた。
爆竹のそれよりも激しい叫びに、僕は驚いて手を止めてしまう。
「ああぁ!! うううあぁぁぁぁァ!!!」
耳があった所を押さえ、ひたすら転げ回るレコ。
身体中につけられた切り傷に砂利が食い込もうとも、レコは止まらない。
まるで、神経が全て耳の方に行ってしまったかのようだ。
「・・・馬鹿、デチ」
僕はいつのまにかあがりきった息を調えつつ、また呟く。
目線をずらし、血と泥で汚れたちぎれた耳を見遣る。
それを得物に突き刺し、目元に持ってきて眺めてみた。
やはり、その鈍い感触は間違いではなかった。
耳にある切り口は、途中まで真っ直ぐであり、そこからは汚くささくれていた。
恐らく、得物の鋸状の部分に引っ掛かるかどうかしたのだろう。
通らなくなった刃の代わりに、勢いだけでレコの耳をちぎったようなもの。
だからレコはひたすら叫び、のたうちまわっているようだ。
切られるよりちぎられる方の痛みが凄まじいかなんて、僕も知ってる。
「あぁ、痛い、痛い・・・耳、耳がぁぁ・・・」
暫く様子を見ていれば、レコの悶絶もおさまってきた。
唯、今度は耳をちぎられた事に対し涙を流して嘆き始めた。
(・・・こいつ)
たかが耳、こんなちっぽけな肉片を失っただけで、こんな風になるのか。
あの暴力を武器に暴れまわっていたレコが、虐められっこのように泣いている。
それはあまりにも情けなさ過ぎて、こっちが涙を流したくなる程だ。
「ぎゃっ!」
レコの頬を得物で叩き、目を覚まさせる。
耳をちぎるより前に、顔にもいくつか傷はつけていた。
面と向かってそれを見直すと、様々な液体が付着しているせいか気持ち悪い。
それでいて媚びたような潤んだ眼をこちらに向けるものだから、不快さは更に増す。
僕はレコに『馬鹿』としか言わないルールを破り、話し掛ける。
「情けない奴デチね。片腕なんかにここまでやられるなんて」
「・・・ッ」
いつものような、自虐を込めた一言を放つ。
流石にそれには頭にきたのか、レコは一瞬怒りを露にする。
が、息をつく間も与えず得物を喉元に突き付ける事で、それを抑止させる。
再び泣き顔に戻ったレコは、あの時のちびタンにそっくりだった。
大の字になり、急所である喉笛と腹部を不様に晒すレコ。
まるで好きにしてくれ、と無意識に語っているかのよう。
精神は折れずとも、その身体はとうに限界を超えていたようだ。
473
:
魔
:2008/01/29(火) 23:20:46 ID:???
こころとからだが相反しては、苦痛が更に強くなるだけ。
元々肉体が弱い種族なのに、妙に高いプライドを持つからこうなるんだ。
「無理しない方がいいデチよ。変に気張っても、苦しむだけデチ」
僕は、涙目のレコに含みを持たせない言葉を投げ掛ける。
それなのに、命乞いはおろか逃げようとすらしない。
よくわからないレコの心の内は、本人自ら答えを語った。
「馬鹿、に、するな・・・コゾウ・・・」
多少えづきながらも、言葉を返すレコ。
語尾も消え消え、涙はボロボロではあるが、どこか力強さが戻ってきた様子。
突き付けた得物を更に押し、喉元の皮に軽く刺すも、その勢いは変わらない。
「・・・」
「さっき、言った筈、だ・・・」
寧ろ、その得物を自ら押し返している。
下手をすれば、そのまま喉を突き破るかもしれないというのに。
僕は、そうやって死なれては困る、という意味合いで得物を離す。
しかし、レコはそれを『怯んだ』と解釈したようで、更に力強さが増した。
相手の勘違いだけど、余裕を持たせた事は少し不愉快だ。
レコはそんな僕の気持ちを無視し、虫の息のような演説を続ける。
「復讐は・・・お前だけ、の、ものじゃない、と・・・」
最後に『コゾウ』と聞こえなかったなんてのはどうでもいい。
気が付けば、レコはしっかりと地に足をつけ、僕はレコから数歩下がっていた。
僕は自ら、レコをたきつけてしまったようだ。
そのまま虐殺していれば、素直にカタがついたかもしれないのに。
面倒事が増え、先程の高揚感とは正反対の気持ちが心を包む。
「・・・するなと言われても、馬鹿なのは馬鹿なんデチ」
ボロボロになった身体。
どう見ても満身創痍だというのに、レコは立った。
そんな状態で、どうやれば僕に復讐が出来るのだろうか。
考えれば考える程、苛々してしまう。
それに、何故自分は後ろに下がってしまったのか。
立つのもやっとなレコに、警戒する理由なんてどこにもなかったのに。
眉をひそめる僕に対し、レコは笑う。
まるで、悪役に嬲られた後に復活しだすヒーローのよう。
それがまた不快で堪らなく、怒りの意味で歯噛みする。
殺そう。
虐殺なんて遊びは止め、殺してしまおう。
屈辱を味わわせるなんて事は、もうどうでもいい。
どうせ、僕は片腕なんだから。
殺すだけの安っぽい復讐だけを、望めばよかった。
そうすれば、こんな馬鹿げたことで心を乱されずにすんだのに。
レコはその傷痕だらけの脚を、ゆっくりと動かす。
ずる、と滑るような足音は、まさに動く死体。
どうせできたとしても、僕の頬を軽く小突くくらいだろうに。
レコの足は地面を擦り、その音は止みそうにない。
つまり、歩みを止める気はないと、僕は悟る。
ならば、目覚めさせてやるしかない。
474
:
魔
:2008/01/29(火) 23:21:27 ID:???
※
「・・・何、笑ってんデチか」
先に、不満を吐く。
しかし、レコはまだ口角を吊り上げたまま。
寧ろその笑みは、僕の言葉を聞いて更に上がったような気がした。
涙で潤んでいた眼も、こちらに鋭い視線を送り、無言で威圧しているかのよう。
でも、それはハッタリだとすぐにわかった。
レコが振りかぶった拳は、あまりにも遅くて。
勢いを殺すように、出鼻をくじくように。
僕は自分の右肩をレコの腹にこつんと宛てた。
「あ・・・?」
発射されようとしたレコのパンチは、不発に終わる。
だけど、本人はそのことを思って疑問の声をあげたわけじゃない。
手に取るようにわかる。
レコの思考が、腐りきった妄想が。
自分を正義として、主人公として見た、勧善懲悪の世界。
レコの妄想は、だいたいそんな感じ。
その妄想から目を覚まさせるには、こうすればいい。
「あ、あ・・・あああああああああ!!?」
僕はするりとレコから離れ、観察を始める。
右肩を宛てる際に、既に得物をレコの腹に刺していた。
そして、レコが疑問の声をあげる時、手首を捻ってそれを切り開いた。
粘り気の強い液体が溢れるように、レコの腹から腸が零れ落ちる。
それに合わせるように、本人もがっくりと膝をついた。
顔面蒼白で、今度は涙でなく脂汗を垂らす。
声は酷く慌てているようだったが、身体は小刻みに震えるだけ。
「お、おい・・・何、何だよ、こ、これ・・・」
レコは零れ落ちた自分の中身を見てそう言った。
血に濡れた巨大な蚯蚓は、当たり前だが何も答えない。
どうやら、レコの推進力である妄想という支柱は完全に折れたようだ。
まあ、自分の内臓を自分で見て、心が壊れないなんて奴はいないと思うけど。
僕は最後の仕上げに、もう少しだけ会話すれ事にした。
「馬鹿デチ」
先ずは、自分で作ったルールから。
「コゾ・・・お、お前、何・・・」
「復讐って、お前が考えてるような甘いものじゃないデチ」
「ふ、ふざけた事・・・言、っ」
「まさかとは思うけど、殴り合うだけで命が奪えるとでも?」
その言葉の後、レコの呻き声が消える。
どうやら、図星のようだった。
構わず、僕は話を続ける。
「お前のパンチじゃあ、どんなに強く放っても青痣しか作れないデチ」
「・・・う、嘘、だ、コゾ・・・俺の・・・力は、っ」
得物を持った、『力』を手にした今、レコへの評価は変わった。
レコに好きなように殴られてた時は、仲間もパシリも沢山いて物凄く強く見えた。
だけど、その仲間を虐殺して、段々とその考えは変わっていった。
そして今、目の前で情けない姿を、醜いはらわたを晒しているレコを見て、それは確信となった。
レコは、僕より遥かに弱い。
こいつは威圧だけでリーダーにのし上がった、ただの羊だ。
475
:
魔
:2008/01/29(火) 23:22:01 ID:???
おそらく、本人も死んだ取り巻きもその事には気付いていないだろう。
強い意思なんてなかったから、奴らは無意識の内に強さの基準をレコにあわせていた。
だから、得物を持った僕に対しても、皆昔のように見下してばかり。
覇気のない僕は、勿論奴らにはナメられっぱなし。
『片腕ごときが、鉄クズを持って復讐か』。
そう言われたのはほぼ必ずだったし、何より腹が立った。
だけど、その油断のお陰で楽に虐殺する事ができた。
「お、俺、俺は・・・お、ッ」
壊れたラジカセのように、様々な単語を途切れ途切れに繰り返す。
もう、その姿には沢山のちびギコを纏めていたリーダーの面影はない。
耳は欠け、そこかしこに付けられた切り傷からは血が溢れている。
あまつさえ、腹の中の物までもさらけ出し、本人はそれにまで怯えていた。
僕は、こんな奴を『強い』と思っていた事を恥じた。
※
力と気持ちだけあれば、何でも出来る。
ナイフの彼が言っていたことは、本当だった。
片腕の僕でも、ここまで来ることが出来たのだから。
(さて、どうしよう)
赤く汚れたレコを見て、僕は考える。
腹をかっ捌いてしまったから、もう先は長くないだろう。
でも、僕ら被虐者は生きる事への執着は他の追随を許さない筈。
あの時のちびタンだって、死よりも生き地獄を選んだから。
「嘘、嘘、だ・・・こんな、事、あ、ありえな・・・」
ふと見遣ると、まだレコは現状を受け入れず、ひたすら怯えている。
どうやら目が覚めたのはほんの一瞬のようで、また妄想の世界に入り込んだ様子。
その虚ろな眼が見るのは、くすんでいながらぬらぬらと光る自分の中身。
「・・・」
僕はそれを見て、すぐに思い付いた。
復讐は、虐殺へと再度切り替わる。
先ずは空いた手が僕にはないから、得物を口にくわえる。
次に一気にレコとの距離を詰め、目と鼻の先まで近付く。
そして、そのはみ出た腸をおもむろにひっ掴んだ。
「!? ぎゃっ!!」
レコは短く叫び、肩をびくんと跳ねさせる。
だけど、僕はそれを無視して次の行動に移った。
掴んだ腸を、そのままずるずると引っ張り出していく。
「ッあ!! あ、い、痛い! 痛い! 痛いぃぃぃぃっ!!!」
凄まじい激痛がレコを苛んでいるようで、その叫び声はかなり大きい。
思わず耳を塞ぎたくなったが、出来るわけがないので我慢する。
と、少しでも痛みを和らげようとしての行動か、レコがこちらに歩きだした。
身体は既にボロボロにしてあるから、その速度はカメよりも遅い。
それに、痛みに堪えながらのものだから、ふらふらと覚束ない足取りでもある。
本人は必死なのだろうけれど、稚拙な歩き方は酷く滑稽だ。
(こてっちゃん晒してよたよた歩く・・・本当に馬鹿デチね)
476
:
魔
:2008/01/29(火) 23:22:35 ID:???
脱腸が嫌なら、掴み返せばいいのに。
そう思ったけれど、もしかしたら触るだけでも相当の痛みを感じるのかも。
あるいは、無闇に抵抗したら腸を潰されてしまうと思っている可能性もある。
「痛い痛い痛い痛い!! 痛、やッ、やめ、やめてええぇぇぇェ!!!」
大粒の涙を零し、顔を振って抑止を乞うレコ。
勿論、そんな願いなんて受け入れる筈もなく、僕はそのまま腸を引きずり出す。
レコと僕との距離はじわじわと広がり、互いを内臓が結ぶ。
想像以上に長いレコの小腸は、自重で逆さに弧を描く。
その最も沈んだ所では、腹から伝う血が雫となり、ぽたぽたと地に落ちていた。
試しに腸を軽く揺らしてみると、それにあわせてレコは叫ぶ。
まるで、触ると反応して動き出すおもちゃのようで、なかなかに面白い。
「これで、縄跳びでもしたら楽しいかもしれないデチね」
「あ、だ、駄目! やだ、やだ!! やだああぁぁぁッ!!」
冗談を本気になって止めようとする所をみると、心に余裕は無い様子。
だけど、そこまで叫ぶ気力はあるようだから、まだ精神は焼き切れていないようだ。
どうせだから、レコの限界を見てみようか。
肉体も精神も全ておかしくしてから、殺すのも悪くはない。
「ほら、ほら!」
緩い掛け声と共に、腸を強く振り回す。
肉の紐が地にたたき付けられ、暴れ狂う。
「ああぎゃ!! ああ! ヒギャあああアァァァァぁぁああ!!」
同じように、レコも激しく暴れだした。
先程まで腸を慎重に扱っていたのが嘘のように、その場でのたうちまわる。
もはや、それは自分で肉の紐をちぎってしまってもおかしくはない程だ。
何度も何度も腸を地面に打ち付け、レコの反応を楽しむ。
もし得物をくわえていなかったら、先程のようにひたすら笑っていたかもしれない。
自我を簡単に保つことが出来、少し嬉しい誤算となった。
「痛、っああぁァ! うあ・・・ぁぁぁああ!」
暫くすると、レコの暴れ方も弱くなってきた。
痛みを感じ過ぎて、いくらか麻痺してしまったのかも。
僕は一旦腕を止め、レコの様子を見る。
その場をのたうちまわったせいで、全身は砂埃に塗れていた。
腹部の穴も、暴れた反動で更に広がっていた。
傷口には砂粒が入り込んでいて、でぃのそれよりも汚く見える。
目線を腸に戻すと、これもまた酷くなっていた。
地面に打ち付け過ぎたのか、至る所が破裂したかのように裂けている。
その裂けた部分からはどろりとした何かが漏れ、辺りに飛び散っていた。
(少し、遊びすぎたデチかね)
なかなかに凄まじい状態となった空間を眺め、僕は思った。
勿論、レコにではなくこの薄暗い商店街の事を想っての事だ。
477
:
魔
:2008/01/29(火) 23:23:43 ID:???
※
レコから奪ったのは、せいぜい仲間とプライドと片耳か。
できれば、もっと四肢や歯、眼などを破壊したかった。
だけど、片腕じゃあ出来ることに限りがあるし、余裕もない。
それに当の本人も、とっくに限界にきている筈。
そろそろ決着をつけるべきだろう。
僕自身がとどめをさす前に旅立たれては、意味がないから。
「・・・」
握っていた腸をその場に落とし、大の字になって寝ているレコに近付く。
血と泥まみれの身体は、とっくに満身創痍になっていたようだ。
口にくわえていた得物も手の中におさめ、切っ先を向ける。
「ああ、痛い、痛い・・・痛いぃぃぃ」
至近距離まで近付いても、レコは僕を無視して歎いていた。
あまりの情けなさに、僕は大きく溜め息をつく。
そして、得物をその場に落として腸を乱暴に掴んだ。
「うぎゃッ!?」
と、レコは身体を強く跳ねさせる。
僕はそれを無視するように、腸をおもいっきり引っ張った。
「ヒギャああああぁぁぁぁァァ!!!」
勢いよく肉の紐がレコの腹から出ていく。
それとほぼ同時に、ぶちんと不快な音がして、腸が腹からちぎれ飛んだ。
巨大な蚯蚓は空中で少し踊った後、湿った音をたてて地面にたたき付けられる。
レコは新しい激痛に跳ね起き、再度暴れ狂う。
腹部にはぽっかりと開いた空間ができていて、そこからは新たに血が溢れている。
皮膚を切り裂いた時よりも、耳を削いだ時よりも量が多い。
その大量の出血は、身体の中を逆流して口から流れ出す。
「ぅあ、ガフぅあ!! いだ、痛い、痛いぃぃぃぃ!!」
ひたすら腹の痛みに悶絶し、のたうちまわるレコ。
逃げる事も、自殺する事もなく、ひたすら激痛に嘆いている。
僕はそれがおさまるまで、ひたすら眺めていた。
数十回目の『痛い』の言葉の後、レコは仰向けになり、腹を押さえつつ肩で呼吸をし始めた。
それでもまだ、呻きながら痛い痛いと弱く叫ぶけれど。
僕はレコの顔の横に立ち、見下ろす。
「・・・」
「痛い・・・痛・・・」
荒い息遣いが、耳をすまさなくてもよく聞こえる。
赤く腫れた瞼の中、涙で濡れた瞳に光は見えない。
何もしなくても、ほうっておけば死んでしまうだろう。
肉体も、精神も、十二分に痛め付けてやった。
殆どアドリブのような虐殺だったけど、片腕でここまでやれたから、良しとしよう。
後は、自らの手で息の根を止めてやれば、全ては終わる。
「・・・レコ、さよならデチ。次は地獄で苦しむといいデチ」
恐らく聞いていないであろうレコに、僕はささやく。
そして、得物を逆手に持ち天に掲げる。
狙うのは、心臓。
とどめとはいえ、一撃で楽にさせる気は毛頭ない。
ほんの数秒でも、最大限の苦痛を味わわせるつもりだから。
478
:
魔
:2008/01/29(火) 23:24:30 ID:???
得物を勢いよく振り下ろし、レコの胸元に突き立てる。
「―――!!!??」
ごぼ、と濁った音が、レコの喉から聞こえた。
構わず、僕は得物を引き抜いてまた突き立てる。
血が噴水のように噴き出て、身体を汚していく。
レコの悲鳴は血となって口から溢れ、辺りに飛び散る。
肋骨の砕ける音、肉が裂ける音、内臓が潰れる音、そして感触。
それら全てを無視して、僕は何度も得物を振り下ろす。
何度も、何度も、何度も、何度も、繰り返した。
視界がうっすらぼやけたけれど、それも無視した。
※
「・・・」
気がつくと、レコは肉塊になっていた。
赤黒いどろどろとしたそれは、元々が何だったかわからない程。
僕はいつの間にか、我を忘れる程腕を動かしていた。
これで、僕を馬鹿にした奴らは全員殺した。
復讐は完璧に終わった。
筈なのに。
自分の心は、何も変わっていない。
まだ何かしこりが残っているかのような、違和感。
終えたはずなのに、終わっていない。
そう考える、頭がある。
(じゃあ、誰か・・・)
殺し損ねていたのだろうか。
いや、それは有り得ない。
奴らの事は全員把握していた。
誰ひとりも、漏らすことなく殺した。
ちびタンは生きているけど、心が違うと告げる。
同じ片腕にしてやったから、もう復讐の念なんて持っていない。
一体、この感覚は―――。
※
不意に、パチパチと何処からか手を叩く音が聞こえる。
一定のリズムから成るそれは、拍手だと理解した。
僕は、その乾いた音がする方を向く。
それと同時に、身体が凍り付いた。
「っ!?」
―――そこには、モララーがいた。
しかも、見知らぬAAというわけではない。
身体的特徴なんてなかったけど、はっきりと覚えている。
あの時、あの場所で、僕の腕を奪ったモララー。
そいつが今、僕の目の前に立ち、拍手を送ってきていた。
「・・・やぁ、これは驚いたな」
手を止め、モララーは話す。
「あの時、躾る意味で腕をもいでやったちびギコが、同族殺しをしてるなんて」
「・・・」
単純なことだったけど、僕はようやっと理解した。
レコを殺しただけじゃあ、復讐は終わっていない事を。
片腕になったその元凶を殺さないと、僕の心は晴れない事を。
だけど、相手は虐殺厨だ。
体格差だってかなりあるし、力も強い。
片腕である僕が、勝てるのだろうか。
「大方、片腕だって事を馬鹿にされたから、殺したんだろ?」
「・・・」
479
:
魔
:2008/01/29(火) 23:25:27 ID:???
いや、殺そう。
相手がモララーだからって、関係ない。
僕を馬鹿にする奴は、皆殺す。
そう念って、得物という『力』を求め、得たんだから。
「短気な奴だなあ。お前がそうなったのは自業自得だろうに」
モララーはまだ言葉を紡ぐ。
時折嫌らしく笑い、眼を細めてこちらを睨む。
その都度、僕の心の中で何かが燃え広がる。
ちびタンに裏切られた時のような、どす黒い感情が。
「同族に馬鹿にされて、当たり前だと思うんだがな」
気が付くと、僕は既にモララーに飛び掛かっていた。
「うあああああああああッ!!!」
怒りという感情が身を包み、身体を動かす。
空中で得物を振りかぶり、モララーの首目掛け刃を走らせた。
「ッ!?」
が、不意打ちとは言い難い攻撃はしっかりと防がれてしまう。
それでも、相手は生身だったから、防御にまわした腕の皮を切る事ができた。
地面に着地し、モララーの方に素早く向き直る。
心の中で燃え盛る怒りの炎は、おさまるどころか更に酷くなっていく。
僕は低く重く唸りながら、モララーを強く睨む。
「殺す・・・殺してやるデチ・・・」
「・・・テメェ」
腕に赤い線を作ったモララー。
その形相にも、悍ましいものがある。
だけど、その程度で動けなくなる僕じゃない。
ナイフの彼だって言っていた。
『気持ち』と『力』があれば、何でもできると。
僕にだって、復讐という大きな気持ちがある。
得物も、元はただの金属片だけど、力であることに変わりはない。
逃げる事はできない。
僕は、この虐殺厨を殺して、復讐を終わらせるんだ。
続く
480
:
魔
:2008/02/29(金) 23:36:49 ID:???
>>469
〜より続き
『小話』(後編)
※
命は、命と出会うことで成長する。
ちびフサも、ナイフの彼と出会う事によって復讐を誓えた。
友の腕を奪い、憎い者は次々に殺していった。
しかし、その出会いというものは所詮はきっかけ。
人生の新たなレールを見付ける為の、ほんの小さな要素に過ぎない。
成長というのも、種が芽吹くくらいのちっぽけな成長。
価値観は大幅に変わるかもしれないが、本質は変わりはしない。
それをしっかりと理解していれば、或いは―――。
※
「殺す・・・殺してやるデチ・・・」
「・・・テメェ」
奴らを殺しても、僕の心は晴れなかった。
レコを虐殺しても、黒い炎は消えなかった。
復讐は復讐なんかじゃなくて、唯の憂さ晴らしだった。
モララーに再会し、溜まっていた『怒り』が燃え盛る。
心の奥底で眠っていた怒りは、僕を黒く奮い立たせる。
何も、考えることができない。
いや、考える必要なんてない。
唯、目の前にいるこの虐殺厨を殺したい。
この力と気持ちで、絶対に殺す。
「あああああああぁぁぁぁァァ!!!」
僕は怒りを得物に乗せ、モララーに向かって跳んだ。
爆ぜるようにして蹴った地面は、一瞬で遠くなる。
同時に、モララーとの距離も簡単に、素早く縮まった。
やはり、先程と同じで狙いは首。
その黄色い喉笛を、一思いにかっ切ってやりたいから。
自分の身体を自分の血で汚させてやりたいから。
(お前の死に化粧は、自身の体液デチ!)
空中で得物を振りかぶる。
モララーはこちらを睨んだままで、動こうとしない。
それが罠なのかどうかなんて、どうでもいい。
僕は、モララーの喉笛を切り裂く事だけを考えればいい。
頭に血がのぼっていたから、僕の思考は一方通行だった。
思い付く全ての結果は、とにもかくにもモララーの死。
相手の行動の予測なんて、微塵にもしていなかった。
「馬鹿か?」
「ッ!?」
渾身の一撃を回避されて、僕はようやっと我に返る。
力である刃は首でなく空を切り、乗せた感情も消え失せた。
と、身体が引力に引っ張られるより前に、空中で停止する。
同時に後方に強く戻され、モララーの眼が大きく映った。
「っ、は・・・離せッ!」
いつの間にか、僕はモララーに捕まっていた。
攻撃を避けた直後、素早く僕の腕を掴んだようだ。
ばたばたと脚を動かして抵抗するも、全く効果がない。
更に、手首のあたりを握られているから、どうすることもできない。
無理して暴れても、得物を落としてしまうかもしれない。
「ちびギコの癖に、調子に乗ンなよ」
僕の心を覆い尽くしていた黒い炎が、少しずつ消えていく。
それに相反するように、『虐殺』の不安と焦りがじわじわと滲み出す。
このままでは、モララーに殺される。
481
:
魔
:2008/02/29(金) 23:37:45 ID:???
ほんの一瞬の間に、形勢逆転されてしまった。
いや、その前に僕の方が有利だったかすら怪しい。
唯単にモララーに出会い、憤慨していただけだ。
たった薄皮一枚切り裂いただけで、殺せると思った僕が馬鹿だった。
それでも、復讐はしたい。殺したい。
動きは止められても、憎悪という感情は消える訳がない。
確かに、目の前にいるモララーの形相は恐ろしい。
だけど、睨まれるだけで畏縮するような気持ちではない。
そうでなければ、レコやその仲間を殺した意味がなくなる。
カタワにしてやった、ちびタンの事も―――。
「おい」
「!?」
唐突に、モララーが話し掛けてくる。
不安と焦りが物凄い勢いで膨れ上がり、僕を苛む。
「お前、こんな鉄クズでよく仲間を殺せたな」
「・・・っ」
「しかもその眼、俺から逃げた後に何があったのか気になる位酷ェな」
モララーは黙り込む僕を無視し、話し続ける。
時折嘲笑を混ぜたり、自問自答をしたりとせわしない。
だけど、その悍ましい表情は全くかわらなかった。
このモララーから逃げたいという気持ち。
逆に、殺してやりたいという気持ち。
虐殺されたくないという願い。
復讐を果たしたいという念い。
全てがごちゃまぜになり、僕の心を苛む。
相反する気持ち達が、全身をぐるぐると駆け巡る。
強い吐き気を催すも、歯をくいしばって押さえ込む。
「マターリとかほざく奴よりは面白いが、あまり血の気が多いのもアレだな・・・っと!」
「ヒギャッ!?」
と、突如腹部に激痛が走る。
精神を落ち着かせるのに集中し過ぎて、何が怒ったのかわからなかった。
一手遅れて、僕は地面にたたき付けられたのだと理解した。
左脇から落とされたので、衝撃はかなりのもの。
肺の中の空気と、胃液が一緒に逆流してくる。
「ぐうぇっ! ゲホっ!!」
不快感も相俟って、酷く濁った咳が漏れる。
激しい腹部の痛みもあり、僕は手の中の得物を捨てて腹を押さえる。
更に何度か咳込むと、酸っぱいものが口の中に広がった。
「おおっと、流石にキツかったかな?」
苦しむ僕を尻目に、モララーは嘲る。
今すぐ罵倒してやりたいが、痛みのせいで呻くことしかできない。
殺してやりたいと、頭は叫んでいる。
だけど、身体は逆に悲鳴をあげている。
様々な感情の渦に更に要素が加わり、肥大していく。
それらは僕の中の容量を易々と超え、暴れていた。
一旦全てを整理しようとしても、その余裕すら全くない。
何もかもが手付かずで、好き放題に自己主張する。
その間、モララーは二手も三手も先に進んでいた。
視界の隅にあった得物が、黄色い手に掴まれ宙に浮く。
必死でそれを眼で追うと、モララーの眼前で得物は止まる。
「・・・ふぅん」
482
:
魔
:2008/02/29(金) 23:38:22 ID:???
得物を手の中で回し、物色するモララー。
途中、得物と僕を交互に見遣ったりもした。
何がしたいのかは、よくわからない。
いや、考える余裕がないといった方が正しい。
いくらか痛みは治まったものの、まだ精神は苛まれている。
どうにかして、体制を立て直そうとした矢先の事だった。
「なあ、このガラクタ、試させてくれないか?」
俯せる僕に対し、モララーがそう質問する。
その直後、不快な音と共に足首に鋭い痛みが走った。
「ヒぎゃああぁァァッ!!」
堪らず、僕は叫ぶ。
全身を強い電流が駆け巡るような感覚。
脚の部分は更に強いそれを感じ、意識が飛びそうになる。
滲む視界を無視しながら、何が起きたのか確認する。
上半身をあげ、首を後ろに向けてようやく理解した。
得物が、僕の脚を穿ち、地面に磔けていたのだ。
深さもかなりのもので、柄と脚との距離は殆どない。
動かそうにも、想像以上の激痛が下半身を麻痺させる。
恐らく、得物が骨を通過した時、縦にヒビが入ったのかもしれない。
「・・・なるほど、ねぇ」
視界の端で、モララーが喉を鳴らして笑う。
片膝をつきながら、僕を観察しているようだ。
先程の悍ましさはないが、その眼はどこと無く嫌らしい。
「いい、いっ!・・・痛あああぁッ!!」
だけど、今はそんな小さな挑発にも反応できない。
ただでさえ酷く混乱しているというのに、新たな激痛が追い打ちをかける。
まるで、気持ちと力が僕に反旗を翻したかのような気分だ。
「ちびギコ達は元々が脆いから、こんなガラクタでも簡単に刺せるんだな。手応えは最悪だが」
殆ど無意識で叫んでいる僕を無視し、モララーは語る。
それらを耳にする事くらいはできたけれど、意味や言葉の裏側まで読み取るのは無理だった。
「まるで原始人が扱う石器みてーなモノなのに、お前はたいしたヤツだよ」
どれくらいの時が経ったのだろうか。
実際に流れた時間は短いかもしれないが、感覚では恐ろしく長かった。
死ぬ間際に、世界がスローモーに見えるのとは少し違うけれど。
「くぅぅ・・・っあ、ぐ」
とにかく、その精神を苛む激痛は少しだけ緩くなった。
モララーが何もせず、唯ずっと僕を見詰めていたのが、不幸中の幸いかもしれない。
もしそのまま続けられていたら、先に心が死んでしまっている。
「どうした? 叫ぶのに疲れたのか?」
と、モララーは口を開くや否や、挑発を吐き出す。
同時にその黄色い腕が頭上に伸び、視界を遮る。
何をするのかと眼で追えば、突き立てられた得物にデコピンをかました。
「ぎゃあっ!!」
その振動は骨に伝わり、痛覚神経を刺激する。
刺された時のほどではないが、やはりその痛みはなかなかにきつい。
折角落ち着いたものが、ゆっくりと振り返す。
「おお、まだ元気じゃあないか」
僕が苦痛に悶える度、モララーは笑いながら得物を小突く。
段々とそれはエスカレートし、仕舞いには脚で踏み付けてもきた。
483
:
魔
:2008/02/29(金) 23:38:42 ID:???
がつん、と鈍い音が響く度、僕は叫んだ。
その音が大きくなれば、あわせて悲鳴も苦痛も大きくなる。
「うあああァ!! 痛ああああっ!!!」
「はははッ! そんなていたらくじゃあ、10年経っても俺は殺せねェな!」
モララーの言うことは、尤もかもしれない。
初手を除けば、僕は奴に好きなようにめった打ちにされている。
ナイフの彼が言っていたことは、嘘なのだろうか。
力と気持ちだけじゃあ、種族の差はどうしても埋められないのか。
でも、ナイフの彼は僕の目の前で虐殺厨を殺していた。
あの時の出来事は、夢じゃない筈だ。
虐殺厨の血と肉の味に、彼の声と言葉。
霞も靄もなく、何もかも鮮明に覚えている。
それなのに。
やはり、片腕ということがいけないのだろうか。
もし、あの日モララーに四肢でなく別の何かを奪われていれば。
虐殺厨を殺す彼のように、なれていたのだろうか。
そう考えた所で、僕は思考を止めた。
(もう・・・嫌だ・・・)
最後の最期まで、僕は片腕という呪いに囚われ続けた。
光なんて、これっぽっちも見つけられないまま。
心に開いた穴も、痂が剥がれ落ちるようにまた開く。
せめて、この苦しみから開放されたい。
その位なら、祈っても罰はあたらないだろう。
虫の声に掻き消されそうな程の声量で、僕は願った。
「どうか・・・」
苦痛からではなく、悲しみで涙は溢れる。
そんな僕を見て、モララーは笑っているようだ。
もう、生きる意味なんてなくなったからどうでもいいけれど。
「・・・ぇ、っ?」
と、願いを口にして少し経つと、脚に違和感を覚えた。
僕を苛んでいた激痛が、嘘のように消えたのだ。
正確にいえば、痛みが緩くなっただけではあるけど。
それは決して、嬉しいことではなかった。
恐る恐る、足元に目線を持っていく。
途中、モララーの歪んだ笑顔が大きく映る。
そこで僕は確信した後、脚の先を見た。
突き立てられた得物の上には、モララーの脚。
いつの間にか、得物の柄は大分下まで落ち込んでいる。
そして、その得物の刃の奥には―――。
「あ・・・」
僕の足が、身体から離れて地に伏せていた。
「どうかしたか? 自分の身体の脆さに驚いてんのか?」
喉で笑い、モララーは続ける。
「なわけないよなァ。自分が脆いのは腕もがれた時に知ってるからなぁ」
直後、今度は腹を抱えて下品な声で笑い始めた。
甲高く、それなのに全身に纏わり付くような不気味な声。
不快だけど、絶望感にうちひしかれる僕にとってはどうでもいいことだった。
484
:
魔
:2008/02/29(金) 23:40:13 ID:???
不意に、倦怠感が僕の心と身体を包み込む。
あれだけ叫び、迷い、悩んだから当たり前だろう。
片腕がないのに、更に足さえも失った。
そうなった今、想ってしまう事が一つ。
『死にたい』
復讐の炎は、既に綺麗さっぱり消えている。
もう、虐殺に抗うどころか、もっとやって欲しいとさえ考えてしまう。
なるだけ早く、頭蓋を砕かれて死にたい。
心臓を破られて、首をかっ切られて死にたい。
その願いは、神様は叶えてくれなかった。
というよりも、モララーが叶えてくれないと表現した方が正しいか。
それもそのはず。僕を苦しめるこれは殺しでなく、紛れも無い虐殺なのだから。
「さァて、次はどこにしようかなぁ?」
僕の得物を持ち、物色するような眼で見てくるモララー。
それに対し、怒りも、恐怖さえも感じることはない。
最初のような余裕がないわけじゃあないけれど。
ただ純粋に、疲れからくる諦めが原因だろう。
「・・・」
殺して欲しい。
そう言いたいけれど、口が開かない。
カラカラに渇ききった喉は、ひゅうひゅうと力無く呟く。
「よし、ここにしようか」
不意に、モララーが宣言する。
狙われたのは、反対側の足首。
「・・・」
やはり、どうでもいいという気持ちしかなかった。
苦痛が長引くことには、少し辛さを感じたけれど。
全身の力を抜き、虐殺に身を委ねる。
腹から顎にかけて、べったりと地面に伏せる。
好きに料理してくださいと、僕は身体で応えた。
その行為は、モララーにとってあまり好ましいものではなかったようだ。
「・・・おい」
一転、刺のある声が飛んでくる。
次の瞬間には頭をわしづかみにされ、無理矢理顔を上げさせられた。
「うっ!」
長毛が引っ張られたのと、首が悲鳴をあげた事で声が漏れた。
涙も渇き、視界が鮮明になっていたので、モララーの表情がはっきりとわかる。
その顔は形を保っているものの、冷ややかな怒りを感じる。
「なんだその態度は」
「・・・」
「テメェの復讐心はそんなモンだったのか? 俺が憎いんじゃねェのか?」
どうして抗わねぇんだ、とモララーは続けた。
単純に、僕の力が及ばなかっただけなのに。
今更、復讐をしてみせろと言われても意味がない。
とうの昔に炎は消えたし、火種もどこにもない。
今の僕は、死を願うただの抜け殻なんだから。
そう言いたいのだけれど、やはり言葉にならない。
無言での返事は、モララーの神経を再度逆なでしたようだ。
「つまんねぇ奴だな。最初の勢いは何処に行ったんだ?」
顔を歪め、段々と怒りを露にするモララー。
この倦怠感と自殺願望がなければ、それは畏怖の象徴と化していただろう。
良い意味でも悪い意味でも、僕の心はもう何者にも怯えないのかもしれない。
485
:
魔
:2008/02/29(金) 23:40:59 ID:???
「ぐっ!」
突然、モララーは僕の頭から手を離して立ち上がった。
顎と地面がぶつかり、また情けない声が漏れる。
モララーは僕の横側にまわり、脇腹を足で掬い上げるように蹴る。
激しさもなく、僕は成すがまま身体をごろんと回転させた。
姿勢は俯せから仰向けになり、商店街の煤けた天井が見える。
ゆっくりと顔をあげ、脚の方を見てみた。
短い方の脚だけが、体液と土に塗れて汚れている。
足首は血だまりに寂しく転がっていて、長毛がべったりと情けなく垂れていた。
「やる気が無ぇんなら・・・せめていい声で鳴くんだな」
血だまりの奥で、モララーが告げる。
直後、脛に凄まじい痛みが襲い掛かった。
「ぎゃあッッ!!」
宣言通りの虐殺が、再開されたのだ。
今度は先刻と違い、得物は脛から抜き取られた。
かと思えば、また違う個所に刃は落ちていく。
まるで、僕がレコにトドメをさした時のような事を、モララーは行っていた。
ただひたすら腕を上下に動かし、刺しては抜きを繰り返す。
「っあ!! ひぎ!! ヒギャあっ!!」
「ほらほらァ、もっと声出せよ!」
刃が脚の中を通過する毎に、僕は喘ぐ。
痛みから逃げようにも、モララーが脚をしっかりと掴んで離さない。
耳障りな湿った音と、モララーの笑い声も同様に僕を苛む。
※
これじゃあまるで、さっきの僕とレコじゃないか。
僕がレコやその仲間にやってきた事を、モララーが僕にやり返す。
あまりにも情けない因果応報に、泣きたくなってしまう程だ。
本当は、こうなる筈じゃなかったのに。
復讐という念いが潰えた今、僕は死を望むだけなのに。
運命さえも、僕を笑い者にしているのだろうか。
死にたいのに。
唯、それだけなのに。
※
気が付くと、僕の脚は形を失っていた。
赤と黒に少しの白が入り混じり、汚い挽き肉と化している。
「は・・・テメェも脆いが、このガラクタまで脆いとはな。驚かされてばっかりだ」
吐き捨てるモララーに、僕は視線を移す。
その黄色い身体は所々赤く染まり、特に腕にかけては凄まじい状態になっている。
更にその先にある手の中で、僕の得物がひしゃげていた。
(そんな・・・)
乱暴に扱われ、酷い有様になった僕の力。
気持ちどころか、力さえも及んでいなかった。
僕はその事実に絶望するより、得物の姿に悲しんだ。
復讐の為に慣れ親しんだ者が、亡くなったような気がして。
それは、信頼していた友の裏切りよりも、もっと儚く僕の心を刔った。
刃を失った得物は、モララーの掌から投げ出される。
からん、と乾いた音がして、それは地面に転がった。
僕にはそれが、得物の悲痛な叫び声に聞こえた。
486
:
魔
:2008/02/29(金) 23:41:47 ID:???
「まあいいさ。素手でも虐殺は楽しめるからな」
そう言って、モララーは僕の腕に手を掛ける。
僕に残された最後の肢を、もぎ取るつもりだ。
死への通過礼儀とはいえ、やはり辛いものがある。
他にもまだ、目と耳と毛皮も残っている。
まだ僕は死ねないのだろうか。
そう思った矢先の事だった。
※
一迅の風に乗り、小さな影がモララーに飛び付いた。
「ぐあっっ!!?」
モララーの首筋に食らいついた影は、その勢いを殺さずに押し倒す。
僕から離れ、どうと倒れたモララーは、影と揉み合いになる。
「ガアアアアアアアァァァァァ!!!」
獣のような凄まじい咆哮をあげ、なお攻撃する影。
よく見ると、それは一匹のちびギコだとわかった。
だけど、その身体は何かが足りなかった。
「こンの・・・糞野郎がッ!!」
モララーの怒号と共に、ちびギコが蹴り飛ばされる。
空中で回転し、地面を二、三度跳ねた所でそれは止まった。
しかし、ちびギコは臆することなく素早く立ち上がり、モララーを睨む。
「!?」
そこで、僕は驚愕した。
片腕がない、ちびギコ。
―――そのちびギコは、ちびタンだった。
手の中には、長いガラス片に布を巻いたものがある。
それは、僕が使っていた得物と同じようなもの。
布は赤黒く汚れ、ガラスの部分には新しい血もついている。
モララーの方を振り向くと、首から夥しい量の出血。
恐らく、最初に飛び付いた時にちびタンがかっ切ったのだろう。
押さえている手をつたい、ボタボタと激しい音をたててそれは地に落ちる。
「糞虫の、分際で・・・っ」
「フーッ! フーッ!」
鼻息荒く、酷く興奮しているちびタン。
その形相も悍ましく、まさに修羅のような表情。
対するモララーも、物凄い怒りを露にしてはいる。
しかし、出血と不意打ちのせいで、その顔色はあまり良くない。
圧倒的に、ちびタンの方が有利だ。
根拠もなく、無意識のうちに僕はそう思っていた。
対峙しあう時間は短く、次の瞬間には二人はぶつかり合っていた。
果敢に飛び掛かるちびタンと、それを叩き落とすモララー。
何度も地面にたたき付けられようと、ちびタンはすぐに立ち上がる。
「うあああアアアァァァァ!!」
その雄叫びは力強く、地響きすら感じてしまう程。
真正面からそれを受けるモララーは、段々と劣勢に追い込まれていった。
二人の影が交差する度、血が空を舞う。
モララーの皮膚は裂け、ちびタンの身体は汚れていく。
まさに泥沼の戦いに、僕は魅入ってしまっていた。
「うっ!」
不意に、モララーが何もない所でよろめく。
ほぼ全身を濡らす程の出血で、恐らく頭に血がまわっていないのだろう。
ちびタンはその隙を逃さず、モララーへと一気に突っ込む。
弾丸のような勢いで跳躍したちびタンは、垂れ下がったモララーの頭蓋目掛け、そのガラス片を突き立てた。
487
:
魔
:2008/02/29(金) 23:42:18 ID:???
※
(な・・・)
モララーの敗因は、プライドを守ろうとしたこと。
頸動脈を切断された事に対し、全く意識を向けなかったこともある。
眉間にガラス片を突き立てられては、後は死への階段を一直線に駆け上がる。
意識が途絶えるその瞬間まで、モララーは目の前の被虐者を睨む。
が、己を殺したその被虐者は、ちびギコの皮を被った獣だった。
それに気付いた頃には、既に現実との回線は切断されていた。
※
「・・・」
全てが、白昼夢のような出来事だった。
ちびタンが現れ、僕のように武器を持ち、あまつさえモララーを殺した。
信じがたいことが連鎖して起こったので、僕は一連を把握するのに少し時間が掛かった。
「ハァ・・・ハァ・・・」
あがりきった息を、身体全体で整えるちびタン。
横たわる死体の側に立つその姿は、あまりにも恐ろしい。
背中を見せているけれど、そこから放たれる威圧感が凄まじかった。
そこで僕は悟った。
次の標的は、僕なのだと。
ちびタンが僕のように、復讐という感情で動いているのなら、きっとそう。
腕を奪った張本人である僕を、生かす筈がない。
死にたいとは願っていたけど、あんな悍ましいちびタンに殺されるのは―――。
「フサタン・・・」
「!?」
不意に名前を呼ばれ、心臓が跳ね上がる感覚を覚える。
ちびタンはゆっくりと、こちらに振り向いてくる。
先程の獣のような姿に、ただでさえ恐怖しているというのに。
その眼を、正面きって見ることなんてできる筈がない。
しかし。
「やっと・・・逢えた、デチ」
僕の予感は杞憂で終わった。
ちびタンは、その黒い眼に涙を浮かべていたのだ。
※
「もう少し、早く来れれば・・・」
ちびタンは僕の下半身を見て、そう嘆く。
そこで、僕はちびタンに復讐の念がないことに気が付く。
だけど、わからない。
僕は、ちびタンの腕を奪ったのに。
何故、泣いているのだろう。
どうして、助けようとさえしたのだろう。
「・・・なん、で?」
疑問は膨らみ、声となって弾けた。
「なんで、って・・・」
「・・・なんで、僕を助けたんデチか?」
意を決して問うものの、当の本人は呆気にとられた表情をする。
暫く間を置くと、また顔をくしゃくしゃにして涙声で話し始めた。
「僕は・・・気が付いたんデチ・・・」
「・・・何を?」
「自分の、過ちデチ・・・」
ちびタンの手からガラス片が滑り落ち、高い音をたてて転がる。
血生臭いこの空間でのその音は、酷く悲痛なものに聞こえた。
何も持たなくなった手で涙を拭うと、ちびタンは全てを話し始めた。
488
:
魔
:2008/02/29(金) 23:43:22 ID:???
※
あの時、鉄屑の山でのやり取りの後。
待っていたものは、フサタンの言葉通りの地獄だった。
仲間だった者達からは馬鹿にされ、一気に嘲笑の的になった。
石どころか、集団でよってたかってボコボコにされもした。
同じ立ち位置に立つことで、僕はやっと自分の愚かさに気付いたんだ。
身体の一部がなくなっても、本質は変わらない。
達磨になろうがなんになろうが、ちびギコはちびギコなのだと。
それなのに、僕はフサタンに酷い事をしてしまった。
同じ種族なのに、片腕と心の中で鼻で笑っていた。
(フサタン・・・)
その時、フサタンに謝ろうという気持ちが芽吹く。
復讐を誓い、鬼になった友へ謝罪をしなければ、と。
止めようというわけではなく、唯、謝りたいだけ。
だから、そのために生き延びなければ。
そう思った時、僕はいつの間にかガラス片を握っていた。
足元には僕を馬鹿にしていた奴らでできた、肉塊の山があった。
※
「後は、ずっと・・・捜して、捜していたんデチ・・・」
決壊したダムのように、ちびタンの眼からは涙が溢れている。
多少えづきながら紡ぎ出される言葉は、全て本物だった。
本気で、僕のことを想っていることが感じ取れた。
「ちびタン・・・」
寧ろ、謝りたいのは僕の方だ。
気付いてくれる可能性があったのなら、腕を奪う必要なんてなかったのに。
僕の我が儘で、ちびタンを巻き込んでしまった。
偽りの理解者は、本物の心の支えになっていた。
そのことが、嬉しくもあり、哀しくもあった。
「許して・・・くれる、デチか?」
ちびタンの言葉が、深く心に突き刺さる。
直後には、僕の視界は一気にぼやけ、込み上げてきたものが溢れた。
レコを殺し、モララーは死んだ。
僕の復讐は、結果だけを見れば終わったんだ。
だけど、失ったものはあまりにも大きい。
両足まで奪われた僕は、これからどうすればいいのか。
「・・・僕、は」
高ぶる感情の波のせいで、上手く喋ることができない。
それでも、ちびタンは僕の言葉に必死に耳を傾けている。
※
殆ど達磨のような身体で、移動すらままならない。
それに、ちびタンも僕のせいで片腕になってしまった。
このままいけば、また別のちびギコ達に馬鹿にされる生活が続く。
復讐は終わっても、生き地獄は終わらないんだ。
※
譫言のような僕の言葉を、ちびタンは静かに聞いていた。
涙で霞んだ視界では、その表情はわからなかった。
「・・・」
「もう・・・地獄は、嫌デチ・・・」
ぐちゃぐちゃになった自分の脚に恨みを込めながら、呟く。
「死にたい・・・」
489
:
魔
:2008/02/29(金) 23:45:03 ID:???
死んで、楽になりたい。
僕の本心を、吐き出した。
「・・・」
ちびタンは、黙ったままだ。
※
暫くの間、静寂が僕らを包み込む。
そして、それを打ち破るかのようにちびタンが喋った。
「じゃあ・・・」
「・・・」
「じゃあ、一緒に死のうデチ」
それは、予想だにしない返答だった。
少し驚き、僕は問い返す。
「え・・・?」
だけど、それは発することが出来なかった。
ちょっとした複雑な気持ちが、それを阻んでいたから。
言葉が出てこない僕を置いて、ちびタンは続けた。
「死んで、この身体を捨てて新しい世界に二人で行こう」
端から聞いたら気狂いのような台詞。
だけど、それは僕の心を激しく揺さ振った。
肯定も否定もなく、僕は問い直す。
「・・・行けるのかな?」
「信じれば、いいんデチ」
そういう世界があることを。
虐殺のないマターリの世界で、一緒に生きる。
死後の世界があるかはわからないけれど、信じればいい。
「信じる者は、救われるんデチ」
「・・・」
ちびタンの言葉。
全てを噛み締め、僕は頷いた。
ちびタンの手に、再度ガラス片が握られる。
「痛いかもしれないけれど、大丈夫?」
不安げに、ちびタンは伺う。
僕はそれに対し首を横に振った。
「平気。ちょっと悔しいけど、慣れてるから」
頷き、構えるちびタン。
そして、僕の胸にゆっくりとガラス片を捩込んでいく。
「・・・」
不思議な感覚だった。
そのガラス片は、するすると僕の身体に入りこんでいく。
痛みも何もなく、皮膚と肉を裂いているのだけ、感じ取れた。
(ああ・・・)
温かい。
ちびタンの温もりが、伝わってくる。
ガラス片が僕の心臓を破った時には、ちびタンの身体はすぐそこだった。
薄れゆく意識の中、僕はゆっくりとちびタンを抱く。
「ありがとう」
感謝と、謝罪を込めて。
僕はちびタンにそう囁き、眼を閉じた。
490
:
魔
:2008/02/29(金) 23:45:37 ID:???
※
フサタンの身体から、ガラス片を引き抜く。
刺した所からは血が沢山出て、僕の手を濡らした。
フサタンから少し離れると、支えを失ってゆっくりと倒れた。
眠ったような表情で、横たわるフサタン。
心なしか、笑っているようにも見える。
苦しむことなく、旅立つ事が出来たようだ。
僕はそれに安堵し、息を小さく長く吐き出す。
次は、僕の番。
「フサタン・・・待っててね」
僕も早く、追い付くから。
誰もいなくなった空間でそう呟く。
―――そして、ガラス片を首筋にあて、するりと横に滑らせた。
※
出会い。
それは、見ず知らずの他人だけにあるものではない。
慣れ親しんだ者の、見た事のない別の顔。
それもまた、新しい出会いと同じもの。
街のルールに苛まれ、死を望み、受け入れた二人。
彼等の言う、『新しい世界』がもしあったとするなら。
二人はどんな者と出会い、どんな成長をしていくのだろう。
答えは、既に空の上である。
完
491
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:02:01 ID:???
神と家畜の楽しいおしゃべり・外伝: The Way Of Maling "Mole"
1
「……こちらモララー。準備はいいかな? どうぞー」
「こちらスネェク、ダンボール箱を確保。準備は……、ごふっ!?」
「何ふざけてんだオメーは! ……あー、すんませんね所長。こちら
第一部隊。全員配置完了しましたんで、いつでもいいですよー」
「よし。んじゃ10分後に突入開始するからね。遅れないように……」
場所はどこかの、堅牢なコンクリートの建物……、しぃ族及びそれを駆逐する
関係者なら誰でも知っている、両者にとって重要な拠点・真多利教本部ビル。
そのビルの周辺で、不穏な動きが見えていた……。
一方その頃、ビル内部。
「いいわね! 明後日はかねてよりの奪回作戦を決行する! これを成功させれば
戦況は一気に私たちに有利に傾くから、失敗は絶対に許されないわよ!
塵は塵に、灰は灰に。……今こそ奴らを殲滅するっ!」
「ハイ! ……とうとう我々の悲願が達成されるときが来たのですね! リーダー!」
「あの腐れ狸共! 目にもの見せてやるわ!!」
場所はビルの一室。リーダーと思われるしぃを中心に5匹ほどが部屋の中で会議をしていた。
「そしてあなた達には、もう一度だけ言っておく。……今度の戦いが起これば、今までにない
激しい、本当の意味での全面戦争になるだろう。もしかしたら命に関わることになることは
十分に予想できる。……それでも臆さず、戦えるか?」
直前でハッパをかけるつもりか、しかしリーダーの言葉に部下しぃ達は正に愚問といった様子で
「リーダー。それは私たちを試しているわけ? ……そんなの、言うまでもないでしょ?
全力で叩きつぶすのみよ! 心配ない! 私たちが一丸になってかかれば、相手が
どんな敵だろうと関係ない! 鉄の結束は何よりも固いっ!!」
「そう! 私たち個々の力は確かに奴らには劣る。でも結束力に関しては奴らより遙かに上!
今までもこれで戦果をあげてきたじゃないの! 今更確認なんかしないでよね、リーダー!」
「お前達……!」
わぁわぁと口々に意気込みを語る部下しぃ達。勿論これは単なる精神高揚だとかではない。
現在のこの彼女らの部隊はいきなり招集していきなり編成したものではなく、まだ彼女らが
ほんのベビしぃだった頃に適性検査を経て、選び出され訓練されたいわば生え抜きで
その能力もさることながら、先程から彼女らが豪語する「結束力」、血の繋がりはないにしても
幼少時より助け合いながら任務をこなしてきたが故、それは揺るぎないと言っても過言では
ないくらいの代物であった。
“……そう。本当にこの戦いさえ上手くいけば、真多利の園が……
そうすればこの子と、……そして今は離ればなれになってしまったけど、あの人とも……”
そう頭の中で呟きながら、リーダーしぃは自分の腹を撫でた。……見たところまだ
そう目立ってはいないが、しかし確実に新しい命が宿っているその場所を。
492
:
全18区切りです
:2008/03/03(月) 18:03:10 ID:???
2
“……欲を言えばあの人とも今すぐにでも会いたいけど、でも今のご時世だと、しぃ族と
あなたギコ族を始めとした他種族が密通していることが公になったら、私の方は良くても
あなたの方が大変なことになってしまうから……。……でも、もう少し待っていてね?
もうすぐ私たち真多利教が永遠の平和をもたらすから、そうなったら………”
リーダーしぃがほぅ、と幸せそうにため息をついた、その瞬間
「! 爆音! 一体何!? ガス爆発!?」
皆が扉の方を向いたその瞬間、扉が乱暴に開かれて兵隊しぃが倒れ込んできた。
「た、大変です! 敵襲です! 『God And Livestock』の連中が……!!」
「な、何ですって!? 『God And Livestock』が!? そんな馬鹿な!!」
一瞬にして顔色を変える一団。そして
「ど、どうするの、リーダー! 早く逃げないと!!」
退避準備を取ろうとした、その時
「そ、そうです! 早くお逃げください! 今のところ、退路は我々が…… がっ!?」
同じ火薬音だが先の爆発音とは少し違う、銃声が聞こえてきた。
兵隊しぃの声……、もとい命を奪ったその銃声、誰が放ったものかといえば……
「お、お前達は……!!」
「あっはぁ! いやー、いつやっても害虫駆除ってのは胸がすっとする思いだねぇ!
そして無駄だぞゴキブリ共! 退路は完全に塞いである。つまり逃げ場は零だ!!」
後ろに武装した兵隊数人を引き連れて、先の兵隊しぃに向かって発砲したモララーが
にやにやと笑いながら、気取った様子で銃口から登る煙をふっと吹き消した。
「く……ぅ……!!」
追い詰められたリーダーしぃ及び部下達が顔を歪めると、モララーのトランシーバーが鳴る。
「……ガガッ。こちら指令部。ただいまビル内の全てを制圧、教祖も確保しました!
こちらの犠牲者は4名、引き続き捜索を続けます。どうぞ!」
「……こちらモララー。……そうか。4名もやられてしまったか……。ちっ。
分かった! こちらは少し後始末をしてから戻る! しばらく待機していてくれ!」
交信を断つと、モララーはしぃ達の方を向いた。
「事もあろうに、ゴキブリがAAを殺すとはね……。お前達はKYという言葉を知らんのか?
ゴキブリはゴキブリらしく、踏みつぶされていればよいものを……!」
「ひ……!!」
モララーの口調は比較的穏やかであったが、しかしその表情は少なくない実戦を
かいくぐってきたしぃ達でも動きを封じられるほどに強烈な憎悪一色に染まっていた。
「教祖もとっ捕まえた。本部ビルもこの通り制圧した。任務自体はこれで完了なわけだが……
当然だけど、これだけじゃあ済まさないぞ? く く く く……」
モララーが底冷えのする笑みを漏らすと、それに耐えかねたか、しぃが一匹叫び出す、が
「こ、殺すならさっさと殺せ! ……お前達の捕虜になるくらいなら、私たちは……!!」
「誰が喋っていいといったぁ! 黙れ蛆虫が!!」
直後、激高したモララーに一瞬で頭を打ち抜かれて絶命した。
493
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:05:06 ID:???
3
「……ったく、勝手にぺらぺら喋るからこうなるんだぞ、と……」
モララーはまた煙をふっと吹き消し、再度くるりとしぃ達の方を向き
「さぁて、見事に捕虜となってしまった皆さん。……ちょっと僕と遊びましょうかね?」
「!?」
端から見ても見なくても結果は見えていたが、いきなり思いも寄らぬ事を言いだした。
「カカカッ! かねてよりね! こういうときのために考えてたゲームがあるんだ。
……勿論受ける受けないは君らにまかせるけど、どうするね……?」
「…………………………」
とはいえ、こんな状況で即座に返事が出来るはずもなく、しぃ達は黙ったまま。
モララーもそれを見越していたように、ふっと小さく笑う。
「……といっても、何のゲームか分からないのにハイもイイエも言えないわな。
じゃあいいさ、とりあえずゲームの内容は後から説明するとして、まずこれを……
“前言撤回”を決めるとしますかね! …さぁしぃちゃんたち。好きな数字を言ってくれ!
目安としちゃ1〜6の間かな。ダブりは不可で。……ああ、個人的には最初は数字が
大きい方がいいと思うけど、でもそうでない場合もあるからね。ま、好きにして……」
「…………!? ??………」
いきなり何かを始めたモララーだったが、当然ながらしぃ達には状況が飲み込める
はずもない。いぶかしんだ様子でモララーを見つめるだけだ。
「……あぁ、悪い悪い。いきなりこんなこと言っても分からんよな。いいのさいいのさ。
さっきも言ったけど、後で説明してやる。今はとにかくさっき言った通り、“前言撤回”を
決定するべく 『好きな数字』 を言ってくれればいいのさ。実に簡単な事じゃあないか…?
さぁ、言ってくれ。ぐずぐずするようなら全員即座に蜂の巣にするよ?」
「!! ……3!」
「6!」 「1!」 「5!」 「2!」
モララーに促され……、もとい脅され、しぃ達が口々に数字を言うと
「1,2,3,5,6……か。てことは今回、4が “オールイン” だな。
まぁ微妙な数字だが、当たらないように祈っておくんだね……」
「……………??」
「じゃあお待ちかねのルール説明だ。これからやるゲームは、名前を
“トーチャー・バイ・ハンギング” というんだよ。これだけで分かるかな?」
モララーが嬉しそうに言うと、しぃの一匹が顔色を変え
「ハンギングって……、まさか!」
「お? 知ってたか。感心感心。でも違うよ。多分君の知ってる“ハンギング”は
“デス・バイ・ハンギング”…… “絞首刑”の方だと思うんだけど、そうだろう?」
「……………」
そのしぃが黙って首を縦に振ると、モララーは首を横に振る。
「ま、一般にはそうだろうね。でも違うんだよ。僕のこれからやろうとしている
この “トーチャー・バイ・ハンギング” は絞首刑じゃあない。そもそも名前の通り
君たちを殺すことはこのゲームの目的じゃないし……ね」
「!?」
さっぱり意味が分からない風のしぃをよそに、モララーは続けた。
494
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:05:16 ID:???
4
「まぁいい。ゲームの進行は簡単なもので、まず最初は……、ええと、リーダーの
しぃちゃんの君! まずこのゲームが始まったら、君の首をあの絞首台で吊ります!」
「!!??」
驚きのしぃ達がモララーの指さした方向を向くと、そこには先刻モララーが
用意させていた絞首台の姿が。
「………!!」
しぃ達がしばらく呆然とした表情でその絞首台を眺めていると、モララーがぱんと手を打ち
「さて、ルール説明の続きと行こうか。で、あの絞首台で首吊ってもらうわけだけど
ここが重要! さっきも言ったけど殺しはしない! 10秒経ったら降ろすから!
足が地面から離れて10秒が経ったら、また足が地面につくということさ!
んで降ろしてしばらくお休みさせたら、また10秒上げる。これの繰り返しを……
状況にもよるけど、4〜6回かな? 7回以上やったら全員の生存の保証はしてやる。
ルールはこれだけさ。実に簡単なものだろう?」
「………………………」
モララーは闊達そうに喋るが、しぃ達の反応は当然ながらいぶかしげだ。
「はは。疑ってるね。どうせ10秒経っても降ろさないとか思ってンだろ? ないない。
それはない! 何せ10秒ごとに降ろさないとゲーム自体が成り立たないんだ。
そんな20秒も30秒も、君が死ぬまで吊したらゲームはその時点で御破算さ。
というかそれじゃあ単なる絞首刑じゃないか。さっきも違うって言ったろ?
……要するに、だ。10秒息が出来ない状態とそうでない状態を繰り返すだけ
君らだって、10秒くらい息を止めることは造作もないだろ? 君らが受ける
実害というか、まぁそういうものはそれだけさ。……これでも受けない? ここで
撃ち殺されるよりは、遙かに生き延びるチャンスが増えたと思うんだけどね。
……さて、どうする?」
モララーがふうとため息をつくと、辺りは静かになった。
「………………………」
しぃ達はお互いを見回し、やがて先のリーダーしぃが前に一歩でた。
「……さっき言ったことは、本当なの? 特に私たちの解放の件……。
いざ約束となると平気で破って一方的に殺すのが、あなた達でしょ……」
「確かにそうだね。約束……、特に君らしぃ族とのそれなんて破って当然なんて
言われてるからね。とはいえ僕はそんなことはしないさ。そもそもこれもそうだけど
約束を破る必要がないんだ。メリットがない……」
「……フン。どこまで信用できたものか……。まぁいいわ。受けてあげるわよ」
「り、リーダー!」
部下しぃ達が思わず身を乗り出すが、リーダーしぃは手で制する。そして
「……心配するな。鉄の結束を誇る我が部隊。その構成員たるお前達が側に
いてくれるなら、私はどんな責め苦にも耐え得るし、また恐くはない……。
だから安心して待っていろ。私はこんなクズ共には決して屈したりはしない……!!」
「リーダー……」
「信用しろ。……さて、モララー。さっさと始めようじゃないか」
フンと鼻で息をすると、リーダーしぃは絞首台へと向かっていった。
「仲間への信頼が故強くなれる……、か。……けけけっ、まぁいい……。
随分と決断のお早いことで。……それじゃ、縄を首にかけてもらいましょうか」
モララーが合図すると、台に控えていた部下がしぃの首に縄をかける。
「……そういえば、さっきあんたが言ってた “前言撤回” だっけ? 皆に尋ねてた数字も
だけど、あれは一体……」
「ああ、あれはこの後すぐに分かる。すぐにね。 ……さて、時に今の心境を聞いておきたい
『君は今、死にたい? それとも死にたくない?』
興味津々といった様子で尋ねてくるモララーに、しぃは一瞬疑問げな表情をして
「……そんなの、決まってるじゃない。『死にたくない』よ」
「そうか。それじゃあ今回は『No→Yes』だな。……それじゃ、始めるか。
おーい。巻き上げてくれ……」
モララーが右手を挙げると、台に控えていた先の部下がハンドルを回し始めた……。
495
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:06:32 ID:???
5
“……こいつを7回乗り切れば、私たちの勝ちというわけね……。
.. . . . . . . .
ふん。他愛もない。たかだか10秒息が出来ない程度、なんてこともない……。”
心の中で毒づくしぃの両足が、いよいよ地面から離れようとしていた。
“これが一回目。10秒、か。お優しいことだ。私も訓練は積んでいる身。
その気になれば、一分くらい………”
縄が巻き上げられ、とうとうリーダーしぃの足が地面から離れた……。
「……モララー所長、いよいよですね。しかしそれにしても、たとえ10秒とはいえ
奴らよく抵抗もせずに首吊りに挑みますね。確かに10秒なら死にはしませんが……」
「だってそうじゃん。奴らも僕らも含めてさ、首を吊ってみたことのある奴っているか?
いないだろ? だから分からないのさ。たとえ短時間とはいえ首を吊るという行為が
どれほど恐ろしいか……。奴らが考えているだろう、ただ息を10秒止めていればいい
なんてものとは遠くかけ離れた……、僕なら10秒、いや5秒でもやりたくない代物さ。
ホントに奴らの脳味噌はおめでたい。いや、むしろそれが救いかな……?」
そして一方、そのモララーの言葉を代弁するようにしぃの様子が変わっていった。
「!! 〜〜!!??」
先程までの自信の満ちた表情が嘘のように崩れ、目を血走らせ口を大きく開けて
手足を踊っているように激しく振り回していた。
「首を吊るとね、縄を首にかけて飛び降りるのと地面から巻き上げる、このどちらの
方法であっても、とりあえず気道は閉まるんだ。それも一番体重がかかってね。
それに加えて頸動脈その他の血管も閉塞するだろ。…これはね、ものすごい激痛が
走るんだ。試しに親指を喉に思いっきり押し当ててみなよ。これは気道閉鎖だけだけど
何とも言えない圧迫感とかで、1秒と続かないはずだからさ。
……で、指でやっても結構キツイのにさ、首吊りはこれが全体重になるんだよ?
いやー。想像したくもないけど、半端なく苦しいだろうねー……」
モララーはそう嘯くと、しぃの方へと向き直った。
「〜〜!! !!??」
時間は、ようやく半分に差し掛かったというところか。それでもしぃは今にも
死にそうな勢いで暴れ、もがいていた。
“何も聞こえない! 見えない!! 苦しい!! 苦しい苦しい苦しい!!!
何よこれ!? 何が殺さないよ!? こんなの、今にも死ぬ!! 殺される!!
10秒なんて嘘っぱち!! こんなの絶対10秒じゃない! 1分、2分……”
と、しぃが意味不明なカウントを始めたところで時間が来たようで……
「お、そろそろ10秒だ。降ろしてくれ。」
モララーが左手を挙げると部下がハンドルを回し始め、しぃの両足が再び地面に。
496
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:07:35 ID:???
6
「〜〜!! がっは、げほ…!! ごふっ!」
地上に着いて首吊りから解放された途端、リーダーしぃは激しく咳き込み
直後ひゅうひゅうと木枯らしさながらの音を立てて息を吸い込んだ。
「はっはっは。10秒の小旅行はどうだった? 全くの未知の世界……
ただ息を止めている10秒の世界とは、全く違う世界を味わえただろう?」
嬉しそうに拍手をしながら近づいてくるモララーを、しぃは涙目で見上げる。
「……さて、現在の心境を聞いておこうか。しぃちゃん、今はどうだい……?」
にやにやと見下ろすモララーに、しぃは今度はカタカタと震えだし
「や、やめ……! 殺さ……、ないで……!!」
先程の威勢はどこへやら、しぃが涙ながらに命乞いをすると、しかしモララーは
一層嬉しそうに笑い出し
「……ほう。一回目は通過だ。よかったなぁ、君。とりあえずは通過だぞ?」
リーダーしぃではない、他の……、先程「1」と答えたしぃを指さした。
当然、指をさされたしぃは何のことだから分からない。
「ふふふ。ここで先程質問のあった “前言撤回” の説明だ。……先刻こちらの
リーダーは『心境』を訊かれたとき何と答えたか覚えているかい? そう
『死にたくない』だ。では今は? ……同じだったね。
さて、もうお分かりかと思うけど “前言撤回” とはこのことさ。最初のリーダーの
心境は『死にたくない』。そしてこれ以降今のように、僕は10秒の首吊りの後で
逐一彼女に『心境』を尋ねる。これが最初と同じ『死にたくない』ならその回は
見送りになるんだけど、そこで『死にたい!』と “前言撤回” したならば、そこで
彼女の首吊りは終了。そしてその回を指名した次のしぃちゃんの首吊りが始まるのさ。
例えば彼女がこの後、……「3」 回目で “前言撤回” して『死にたい』と言ったら
その場合、最初に「3」と答えた君……。君が絞首台にかけられるのさ」
モララーがそこで「3」と答えたしぃを指さすと、それだけでそのしぃはひぃと震えた。
「……そしてその後は同じ事の繰り返し。補足として、7回以上首吊りを耐えきったら全員
あるいは最後まで“指名”がなかった者。これらに生存の保証というわけだ。お分かりか?」
「……………………!!」
モララーが全体を見回しながら問いかけるも、しかし当然か、しぃ達からの返事はなかった。
とはいえ皆ルールはしっかり理解できたようで、一様に青ざめてはいたが。
「……ああ、あと一つ。“オールイン”について。 これはね、誰も指名しなかったところで
首吊りしぃが前言撤回した場合に適用されるものでね。今回で言えば「4」だね。
4回目で首吊りしぃが前言撤回した場合、この “オールイン” になるんだ。
んでこれが適用されるとどうなるかと言えば、その時点でゲームオーバー。全員仲良く
首を吊る羽目になるんだ。だから首を吊るしぃちゃんは気をつけないと、速攻で一巻の
終わりになっちゃうから、気をつけてね〜?」
「な、そ、そんな理不尽な……!?」
少し落ち着いた首吊りのリーダーしぃが抗議するも、モララーは首を横に振り
「何を言ってんだい? こっちが決めるのならともかく、次に誰が首を吊るもオールインに
. . . ... .... ... ......
するも、全ては君たちに決めさせてやっているじゃあないか!? 普通の虐殺中毒者なら
こうはいかんぞ? 鼻歌交じりに自分たちでご指名してオシマイさ! そこから鑑みれば
実に民主的じゃないか?」
「き、貴様……! 五月蠅い! 私は7回を突破してやる!!」
「ほう! そろそろ2回目を始めるぞ、と。……7回突破か。なぁに、物理的にはまだ大丈夫さ。
まだ『吉川線』すらも出てないんだから……」
「吉川……線? 何だそれは?」
聞き慣れない単語に疑問を示すと、モララーは待ってましたと言わんばかりに口を開いた。
497
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:07:52 ID:???
7
「……窒息死、特に絞殺の方に多いんだけど、首が絞まると生物ってのは無意識に
首を掻きむしるんだよ。こう思いっきり爪を立てて、どっかの時報みたいにがりがりとね。
こいつは喉の異物を取り除こうっていう本能的なものなんだけど、何分さっきも味わったろう
首吊りの激痛の中じゃあまともな判断なんざ出来るわけがない。少しでも苦しみを取り除こうと
際限なく掻きむしるのさ。引っ掻いて傷を作って痛みが増えることはあっても、消えるはずが
ないのにね。だけど、たとえ今はそうだと理解できても、一度首吊りの体勢にはいると首を
引っ掻き回すのをやめられないのさ。がりがりがりがり。いつもこの白い縄を使うんだけどさ
次第に赤黒く染まっていくんだよ。がりがりってねぇ〜!」
「…………!!」
「それにははは、いつだったかなぁ〜、苦しみのあまり錯乱を通り越して狂乱の域にまで達した
奴がいてね。そいつがまた凄い勢いで喉を掻きむしりだしたんだ。はははは。首の血管閉塞に
伴って頭への血流は停止してるから貧血状態にあるはずなのに、出るわ出るわどろどろと……。
面白いからそのまま見てたんだけど、いや〜、最後には血が出尽くたんだろうねぇ〜。
雪みたいに真っ白になってたんだ。文字通りの『白銀のような美白』 だったねありゃ!
あ、ちょうど今その写真持ってたんだ。ご覧よ、ほら……」
ほくそ笑みながらモララーが懐から出した写真を見ると、リーダーしぃはそれを見るや否や
「!! うっ……!!」
「あれ? ちょっとちょっと。今はものまね大会の時間じゃないですよぉ〜?」
今でさえ青ざめていた顔が、より一層のものに。
そこには、しぃとおぼしき生物が写っていた。
ただしその顔、目玉は今にも飛び出さんばかりに飛び出、下は顎の先端まで届くぐらいに
だらしなく伸びきり、そして何より、これはモララーの仕業か、明らかに毛皮が剃ってあると
いうにも関わらず、通常は桃色のはずの顔色はモララーの言葉通り真っ白であった。
変わりに、首から下は赤黒一色で染まりきっていたが……。
「ひ……ぃ……!!」
リーダーしぃの顔が引きつると、モララーは
「おやおや、どうしたのかな? まさかこの程度でびびっちゃったとか、そんなわけないよね?
それなりに軍事訓練とかも積んでるんだろ? そんな君がどこぞのアフォしぃみたいに
ガクブルしてちゃあ部下の手前、立つ瀬がないぞぉ……?」
「わ、わわ、私は………!」
「さて、第二回目を始めましょうか。……なぁに、そんなに心配することはないよ。あくまでこれは
可能性の一つに過ぎないんだから。君がこうなると決まったわけじゃないんだからさ……?」
「や、やめろ、やめてくれ…! やめてくれ……!!」
「やめてほしけりゃ7回耐えなよ。まぁこの状況が続けば無理だろうけどね。……それと皆さん。
何か応援の声でもかけてあげたらどう? 何せ皆の運命は今このリーダーさんの首吊りに
かかってんだから。特にさっき「2」を指名したあなたは、ね……?」
下卑た笑みを浮かべるモララーが指さすと、先のリーダーの苦しみぶりが脳内で蘇ったか
その「2」を指名したしぃはがくがく震えだし……
「だ、駄目!! 絶対撤回なんかしないで!! お願い!! 首なんか吊りたくない!!」
リーダーが根をあげたら次は自分、半狂乱になって「2」のしぃは叫んだ。だが
「…………………!!」
残りの三匹は、そんな2番とリーダーを違った目つきで見つめていた。
498
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:08:02 ID:???
8
「……あ、あんた達、何よその目つきは……? まさか……?」
「お、お、お前……達! まさか……とは思うが、まさか……!?」
何事か言いかけた二人だったが、モララーはそれを制しながら口を開いた。
「はい、はい、はい……と。どしたのかなその目は? まさか誉れ高き真多利教の
戦闘部隊である皆様方が、まさか……?
……とはいってもね、僕は別に否定しないよ。いや、寧ろ君らがそう言う心境に至るのは
当然のことだと思ってる。だってそうだろう? 目の前であの勇猛なリーダーちゃんが
あんなに恐ろしい目にあってさ、更にはあんな風に恐怖心を煽ってやったんだ。……それが
いずれ自分の身に降りかかるかも知れないとなったら、誰だって今君たち三人が心の中で
思い浮かべてる事を言いたくなるのは当たり前なんで……、恥ずべきことじゃない」
「………………!!」
「モララー! 貴様っ!!」
いきり立つリーダーしぃだったが、モララーは全くどこ吹く風と言った様子で続ける。
「自分の気持ちに嘘つくってのは、何とも言えない気持ち悪さがあるはずだ。それに……
本能と理性はどっちが強い? ……ま、分かるにはそんなにはかからないだろうね。
それじゃ、次行こうか。いつやめるかはせいぜい体と相談して決めてくれ。じゃあ……」
そして右手を挙げようとしたモララーだったが、そこにリーダーしぃが
「ま、待て!! 重要なことを聞いてないぞ!! ……私が前言撤回をして交代になった場合
私はどうなるのだ!? 生かされるのか、それとも……」
「……ああ、それか。今言うと興ざめになるから言わなかったんだけどさ、言っちゃうか……
大丈夫だよ、殺しはしない。特に君なら尚更にね……」
「………………!?」
「ま! 自分の命が惜しかったらさっさと前言撤回するこった。あんまり頑張りすぎると
助かるものも助からなくなるからね。……クソ麗しき仲間への信頼と愛情も良いけれど
ご自愛もどうかお忘れにならないように、ね……」
モララーはやれやれとため息をつくと、今度こそ右手を挙げた。
「ま、ま……!!」
本日二回目。リーダーしぃの別世界への旅が始まった。
「がぎゃああああ!! げべっ、ぐびぃぃぃぃ!!」
悲鳴にならない悲鳴を上げながら、リーダーしぃは首を吊る前はあれほどするまいと
決めていたのに、いつしか首に手を伸ばしていた。
がり ぎり ぎり がり
以前からある激痛に混じって、肉を爪でほじくっているようないやな感触が伝わってくる。
何とか欠片ほど残った自由意志で止めようと試みるが、今や彼女の手は彼女の命令を
拒むがごとく、勝手に喉を引っ掻き続けている。
ああああああ 出来るわけがない 出来るわけがない!! こんなのをあと5回もだと!?
悪い冗談だ! 悪夢だ! 今だって何度死神の姿が見えていることか!!
うわぁぁぁあああ!! 恐い!! 恐い恐い恐い!! あいつが余計なことを吹き込んで
くれたせいで、余計なものを見せてくれたおかげで、恐くて仕方がない!!
白銀のような美白!? 赤黒く染まった白縄!? それだけじゃない、何もかもが恐い!!
激痛と呼吸困難と恐怖と! これだけで気が狂う!! でもやめられない! やめたが
最後仲間が同じ目に遭わされるし、自分だってどうなるか分かったものじゃない!!
それに何より、お腹には子供だっているのに!! 死にたくなんかない!!
でももういやだ! こんな苦しいのはもう嫌だ!! 助けてぇぇぇ!!
「……ほら見たことか。まだ2回目だってのに死にそうな顔しちゃってねぇ……?
これじゃ7回なんて夢のまた夢。下手すりゃここで決まっちゃうかもねぇ……?
さて、10秒が来た。お楽しみの時間だぁ……!!」
モララーが左手を挙げ、リーダーしぃの体が地面に降ろされた。
499
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:11:52 ID:???
9
「がはっ、げはっ、ぐほっ……!!」
もはや力一杯咳き込む気力も体力も失せたのか、体をびくびくと震わせながら
リーダーしぃはそれでも必死に呼吸しようと喘いでいた。そこに
「さぁてリーダーさん。今のご心境は? もうやめる!? それとも継続!?
三匹にあやふやな希望を与えるか、一匹にくっきりとした希望を与えるか!?
三匹に限定付きの絶望を与えるか、一匹に間違い無しの絶望を与えるか!?
僕はどちらでもかまわんぞ!? さぁどっち!?」
モララーがリーダーしぃを飲みこまんばかりの勢いではやし立てると、リーダーしぃは
恐怖で真っ白になった顔でモララーを見つめ
「やめてくれ……! お願いだ、殺さないでくれ……! お願いだ……!」
それは、どれだけこの首吊り遊戯が恐ろしいものかを如実に物語っていた。
恐怖という本能の前には、プライドという理性はいとも簡単に崩れ去る。
剛健なるリーダーしぃはいつしか追われる兎のように怯え、しかしモララーは
相変わらず恐怖を疫病のごとくまき散らし続ける。
「……よかったねぇ〜? 「2」番ちゃん! リーダーに感謝しなよ?」
モララーが話しかけてくるも、しかし先程の10秒余りで気力を使い果たしたか
「2」のしぃは今やリーダーに負けないくらい荒い呼吸をしていた。
そして当たり前というべきか? その2番しぃの横では
「あ………、う……!」
「うっふっふ……。言葉には出さねど目で語ってるね。大方こんなところかな?
『ああ、このくそったれのリーダーはまた駄目だった。さっさと降参してくれないと
私たちが危ないのに、何考えてるんだ』……とか」
「モラ、ラー……!! やべ……ろ! これ以上……、くだら……ないこと……を
吹いたら、容赦しない……ぞ!!」
しかしそんな必死のリーダーしぃとは裏腹に、部下しぃ達の目は泳ぎに泳いでいた。
「あっはー、まーだ間で宙ぶらりんか。でも大分揺れ動いてるみたいじゃあないか……。
だけどね、言っておこうか。この状況下で主導権を握っているのは誰だ? ……それは
もう、そこでぜーぜー言ってるリーダーちゃんじゃないんだ。僕なんだよ。そしてその僕は
こういう見苦しい嘘をつく輩が大嫌いでね……。さて、ここまで言えばもういいだろ?
主導権握ってる奴に反した行動ばかり取っても、損するだけでろくな事はないと思うけど?」
「……………!!」
「……で、2番ちゃん。どうよ? 今生きてるって実感があるだろう? ……ありゃ
それどころじゃない、か? まぁいいさ。リーダーちゃん。あんたの方は……、あれ?」
モララーがおやおやといった顔をしたその先には、突如顔が真っ白にしてがたがた
震え始めた、いわゆるショック状態のリーダーしぃが。
「なんだなんだ。たった2回でこの様か? あんたはリーダーなんだろ……?
ひひひっ。脆い脆い脆い。程度の差はあってもしぃ族の覚悟なんざ皆この程度。
見た目はまさしく勇猛果敢であったとしても、ちょっと恐怖を与えてやればすぐに
メッキがぼろぼろ剥がれ落ちる。なぁ? ひぃっひひひひぃぃ!! ……そして
部下の君たち! ねー、見えるだろ? 勇ましい君らのリーダーでさえも、たった
二回でこの様にしちゃうんだぜ? しかもこいつは将来的には他人事じゃなくなるんだ。
……恐ろしいとは思わないのかな? まだ嘘ついて虚勢を張るつもりなのかな?
けけけっ。まーよく考えておいてくれ。そして……」
満足そうな笑みを浮かべたモララーは、次いでリーダーしぃの元へと歩を進める。
「……あーあー、アマチュアならまだしも、戦人のキミでもこの様か。恐いねー。
何にしても今のキミを吊せばショック死する可能性もあるということだ。従って…」
モララーが指を鳴らすと、部下が一人リーダーしぃの元へ駆け寄り注射を打つ。
すると先程まで真っ白だったリーダーしぃの顔色が、みるみるうちに回復していった。
「はーい。新型の抗ショック薬のお味は如何かなー!? お前の心を食いつぶそうと
. . . .
していた恐怖が一時的にとはいえ消え去ってくれるんだ。ありがたいだろう?
……おやぁ? ちょいとばかり効果がありすぎたか? けぇっけけけけけ?」
呆れた顔のモララーが言う通り、リーダーしぃは今は顔を真っ赤にして、先とは
別の意味で様子がおかしかった。
500
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:12:10 ID:???
10
「ひひぃ! おまけとしてこれまた新型興奮剤混ぜ込んでおいたけど、そいつらが
どうやら効きすぎたようだね! 血流も促進させまくるから、顔がいつしか茹で蛸か!
ひゃははは! おいおい、僕の声聞こえてるか? おーい?」
「………ひっ! ふぅぅっ! ……はぁぁ……!!」
……モララーの問いかけもどこへやら。完全にモララーの言う「茹で蛸」状態の
リーダーしぃは、高熱でもあるかのようにふらふらとしていた。
「……あーあ。血流が促進されすぎて、完全に頭に血が上っちゃってらぁ……。
そんな状態じゃあまともに頭を使うことも叶うまい。というわけで………」
「ふ、ふふぅ、ふぅぅ……、がっ!!?」
モララーが右手をぱっと挙げ、部下が急いでハンドルを巻き上げる。
. . .
「頭を冷やす手助けをしてやらないといけないなぁ…? きりきりィきりィィ…!」
再びつり上げられたリーダーしぃの顔色は、早くも青ざめてきていた。
「ひははは!! 美しい! 美しいぃぃ!! 世の中にこんな美しいものが他に!?
心臓や肝臓に一発、生命の証が流れ落ちて青ざめながら殺せる刺殺もいい。
以前は美の女神かと見まがうほどの美しきを、一瞬にしてぐしゃぐしゃの肉塊に
変えてしまう、出来上がった造形を完膚無きまでに粉砕出来る撲殺もいい。
自分が文字通りに料理される、白い柔肌を一瞬に黒炭に変えられる焼殺もいい。
人差し指をひくという最小限の労力で、生体を人形に変えられる銃殺もいい。
輝かしい命という華を、文字通りに花火のように散らせられる爆殺もいい……、が!
窒息しかけてもがいている蛆虫ほどそそらせ、たぎらせ、湧き踊らせるものはない!!
血反吐を、涎を、涙を、鼻水を! 汗を、小便を、糞を! 際限なく臆面もなくだらだら
垂れ流し! それでいて必死にか細い生命の綱、文字通りの命綱にすがりつくんだ!
. ... . . . . ...
他のどの死に方よりも強く! ほしい玩具を手放さぬだだっ子のようにしっかりと!
……そしてそんな必死こいてる奴らを、縄から手を放させるでもなく登らせるでもなく
ぎりぎりの狭間で宙ぶらりんにしてやるのが僕の務めさ。 ぎりぎりぃ、とね……
さぁ、もがけもがけ。お前の死の寸前で足掻くその顔が、僕に生を実感させるんだぁ…。
夢に出てきたら間違いなく夢精するくらい、僕をたぎらせるんだぁ……!!
さぁて、10秒だ! 今度の彼女の返答や如何に?」
アヒャり気味とも言えるモララーが左手を降ろすと、リーダーしぃの体は乱暴に落とされた。
「さーて、大分縄も赤黒くなってきたねぇ。ついでに君の喉の線も大分増えてきた……。
それとさっきからこいつらに君のポラロイド写真撮らせてたんだけど、いい出来だよ?
見てみるかな? ほぉら………」
最初こそリーダーしぃは目を背けていたものの、モララー達によって押さえつけられ
目を開かされ、見たくもない自分の表情を見る羽目になった。
「う……わぁ……!!」
「ご覧よ。君も平常時なら凛々しく愛らしいお顔をしているんだがねぇ…? それが一旦
たかだか10秒程度息が出来ない状況におかれた程度でこの様だ。醜いねぇ…?」
これが自分かと見まがうほどに醜い写真を見せられ、リーダーしぃが心から絶望すると
「な、なに……、!! けふっ……、ごぼっ!?」
突然、目の色を変えて咳き込み始めた。……勿論文字通りに真っ赤にして、である。
しかもそれだけではなく、顔をまた真っ赤にして、奇妙な音を立てて息を吸っている。
明らかに、吊されていないにも関わらず呼吸困難の状態に陥っていた。
501
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:12:56 ID:???
11
「あーらら、結構お早いことで……。もう少しはもつかと思ってたんだがねー」
「な、なん……だ? これは……!? お前……、何か……!?」
「違う違う! 僕はそういうことは何もしちゃいないさ。強いていえば君の体が勝手に
そうなった、というべきかな?」
「………!? どういう……ことだ…!?」
モララーの言葉にリーダーしぃは、喉を掌で押さえて咳き込み始める。
「いやねぇ、首吊りするとさ、気道がモロに圧迫受けるじゃない。そうすると気管支とか
声帯に傷が出来るわけよ。それだけでも結構やばいんだけどさ、首吊りするやつって
さっきの君みたいに、声にはならないけど縊り殺される鶏みたいなとんでもない悲鳴を
上げるわけなんだよね。それはねー、唯でさえ壊れかけで煙吹いてる機械を無理矢理
動かすようなもんでさ、声帯がオーバーヒート起こすわけよ。つまり炎症が起こる……。
炎症が起これば組織は腫れ上がる。それが気道で起こった場合はどうなるか、説明の
必要はあるかな? 過去の実験データによれば、君らしぃ族の場合なら大体2〜3回で
気道が炎症を起こし始めて、4〜5割が塞がれる計算になる。それ以上進めると……
さぁて、どうなるのでしょうか? ああ、ちなみに死ぬまではいかないよ。いかないけど…
……ま、どうなるのかな? さしずめ末期のゾナハ病みたいになるだろうけどね……?
..........
何もしなくても白目をむいて、喉に手を当て必死にぜひぜひ呼吸するんだよなぁ〜!
さぁ〜! それじゃさっさといこうか! きりきりきりきり、ぎぇあはははははぁぁ!!
……と、何だその目つきは? もしや前言撤回か? なら言うなら今のうちだぞ?」
尚も自分を見つめ続けるリーダーしぃに、モララーはニパァと阿鼻谷スマイルを浮かべる。
「個人的にはさっさと前言撤回しちまう方がいいと思うがね。……仲間を裏切るのが嫌か?
別にいいじゃないか? だってあいつらを見てみなよ。現にさっきもそうだったように
口には出しちゃいないけど、もう心の中じゃ自分だけが生き延びたいっていう欲望に目を
ぎらつかせて、他の奴のことなんざなーんにも考えちゃいないぞ? それがわからんほど
キミは部下を見る目がないわけじゃあるまい? そんな奴らのために苦痛を受ける理由が
どこにある……? 仲間のために命を張るのは理解できるが、ゴミのために命を張る
なんてのは……ね? 苦しいんだろ? いいじゃないか。誰も責めはしない! 自分の命が
かかってるんだぞ? ここで君が前言撤回したところで、誰にも君を非難することなんて
出来やしない! 誰一人として、ね……!!」
「……馬鹿を言え! お前には分からないだろうが、………!!」
「ハイハイ。奴らと一緒に暮らしてきた思い出が、あの美しき日々が忘れられないっての?
…だけどね。多分そんなのをいまだに心に留めてるのは多分君だけだよ。…見なよ」
モララーが促したその先には、それが何であるか分かりきった “何か” を期待して
毒々しくぎらぎらと目を光らせている部下しぃたちがいた。
「…ありふれた台詞だけどね。こういう状況では過去をどう処理するかがポイントなのさ。
その過去に囚われて朽ち果てるか、それとも……」
文字通りのモララーの悪魔の囁きに、リーダーしぃの心は滅茶苦茶にかき回されていた。
502
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:13:38 ID:???
12
“……やめろ! やめろやめろ、そんなのは……!!
確かに今のあいつらはややもすれば見苦しいさ! だけど私が同じ立場におかれたと
したら、同じ事をしないなんて言えない! 同じように醜く足掻いていただろう……!
あああ、どうしろというのだ!? このままあいつらのために7回を耐え抜くか?
でもそれだとお腹のこの子は……、ショックで最悪の場合、流産なんてことも……!!”
頭を抱えて苦悩するリーダーしぃは、モララーの方をちらりと見た。
その視線に気づいたモララーも、相変わらず見た目は爽やか内側ドロドロのアヴィスマイルで
「く く く。なまじ良しぃの理性があるから苦悩する羽目になるんだ。こういうところはアフォしぃ
みたいに、頭を使わなければいいんだよ……。
ねぇ? 君にとって大切なものって何だい? いわゆる命がけで護りたいものって何だい?
その迷った表情から鑑みるにおそらく複数あるんだろうけれど、それはあいつら? それとも
別の何か? それが何かは知らないけど……、“虻蜂取らず”、“二兎を追うもの一兎も得ず”
欲張りは身を滅ぼすってのが昔からの常。……分かり切ったことなのに、大概の輩は
目が見えちゃいない。引き返せないところまで来て初めて気づき、そして破滅する……。
ねぇ? 実に愚かだと思わないか? 端から見てればこれほど滑稽なものはないんだよ?」
「わ、私にとって、大切なもの……」
ようやく思考能力が回復してきたか、リーダーしぃは目つきが落ち着いてきた。
“……あいつが今気づいているかどうかは知らないが、確かに大切なものは複数ある……。
それはあいつらと、この子との二つ。二つとも手放したくはないものだが……!”
リーダーしぃは息をごくりと呑むと、囚われの仲間の方を向く。……そしてそこの三匹が
そんな目をして自分を目を合わせてきたかは、言わずもがな……
“リーダー! 次! 次で撤回して! お願い、次よ!!”
“何言ってるの! 次だけは駄目! 次だけ耐えてくれたらそれでいいから!”
“というより、7回耐え抜け! リーダーなんだからそれくらいやって当然よ!!”
そこには心の中だけという縛りはあれど、良しぃの良識やどこへやら。完全に巷のアフォしぃと
何ら変わりのない、本性丸出しの “良しぃ” の仲間がいた。
“……認めたくはないが、私は今こいつらを醜いと思っている。生きる価値がないとも……!
こんな欲望まみれの野獣共に比べれば、自分の子供はどれだけ大切か、とも……!!
だが、それでも奴らを切ることなど出来ない。……このモララーの言うように、クズはクズ
宝は宝と割り切ることが出来れば、どれだけ楽だろう……! でも……!!”
「くっく く く く。ここまで迷ってる様子を見ると、いい加減歯がゆくなってくるねぇ……!
今のあいつらなんて、全角喋るだけのアフォしぃに過ぎないのに。僕なら自分の手で
ぶち殺してるところだぞ……? …とは言っても、それがそんなに簡単に出来るしぃなんて
まずいないか。……後押ししてやらないと決断は出来ないとは、面倒くさいことだ……。
友人を切るならまだしも、ゴミを捨てるのに何故戸惑いが発生する? 使えないと
いうならまだしも、あんな醜い本性を持った部下など癌にしかならんのに……」
にやにやとひとりごちるモララーの傍らでは、相変わらずの視線を交えての言い合い。
“お願いよリーダー! まさか部下を切って自分だけ助かろうなんて思ってないわよね?
リーダー何ら自分の身を呈しても、部下の命を救ってくれるものでしょ?”
“リーダー! 頑張ってよ! アンタは似非のリーダーなんかじゃない、本物なんだから!”
“そうよ! あと4回! あとたった4回なのよ!!”
どこまで行けば終わりが来るのか。どんどん醜い欲望の本音は強くなっていく。
503
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:13:54 ID:???
13
“こいつら……! これが本当に、あの鉄の結束を誇っていた真多利教の部隊の
一員なのか!? つい先程まで、モララー達が来るまでのあの結束は所詮まやかし
だったとでもいうのか……!?”
リーダーしぃが怒りで体を震わせると、そこでもやはりモララーが絶妙に絡んできた。
「……ねぇ、わかるだろう? あんなゲス共と違って、キミはいい子なんだ。いつまで意地
張ってるんだい? 僕はキミを、キミだけを大切にしたいんだ。なるべくなら傷つけたくは
ないんだよ……? だからね……」
「う、うるさい、うるさい! うるさい!!」
モララーの囁きが契機になったか、必死で振り払ったリーダーしぃは、とうとう
“言葉”を以て自分も心に秘めていた感情をぶちまけた。
「貴様らっ! 何を勝手なことをほざいているっ!! それではアフォしぃと何ら変わりが
ないじゃないか! 今の自分の顔を鏡で見てみろっっ!!」
『本性を現して』 部下を一喝するリーダーしぃだったが、それに返ってくるのは……
「うるさいっ! そんな下らない誇りなんかよりッ、命の方が大切だっ!!」
「そうよ! それよりさっさと首吊りしなさいよ! そして7回耐えろ! 途中で
撤回なんて許さないからね! 早くしろ!!」
「可愛い部下のために命を使えるなら本望でしょ!? さぁ、早く吊れっ!!」
「………!!」
予想していたとはいえ、思わず呆然となるリーダーしぃ。モララーは嬉しそうに手を叩く。
「ひゃっひゃっひゃ! 出ました! つーいに出ちゃいました! 本性暴露!
あー、最高! もうオシマイだ! 一回歯止めが利かなくなったら、もう止まるもんか!
“熱しやすく、冷めやすい”!! 所詮これが君らの現実さ!!」
「う……む……っ!!」
歯がみするリーダーしぃだったが、部下達の暴走はこれでは終わらない。
事もあろうに既に 『終わった』 1,2番の方を向くと、一斉にまたがなり始めたのだ。
504
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:14:07 ID:???
14
「お前らもっ! すっかり自分たちは部外者みたいな面しやがって!! 覚えてろ!?
もしあのクソが私を指名して吊られることになったら、真っ先にお前を指名してやるぞ!?」
「はははっ! そうだそうだ! 裏切り者! 裏切り者! 裏切り者がっ!!」
「覚悟しておけ!? たとえ私たちが死んだとしても、お前らを永遠に呪ってやるぞっ!!」
見るにも聞くにも堪えない怨嗟の声。当然二匹もただ黙って言われるままであるはずがなく
「だったら私らが指名されたら、今度はお前らの番!! 覚悟すんのはそっちの方だよ!!」
「そうよ!! 私が吊されることになったら、次にお前達を指名して……、そうだ! もっと
より残酷な方法で吊すようにモララーに提案してやる!! ぎゃはは! いい気味だ!
おい、モララー! この提案を受けるよな! 受けるよな!?」
「…………………………」
まさか被虐側からこんな提案が来るとは思っていなかったか、モララーすらもが
呆れ顔で両手を広げながらため息をつく。
「……僕も長いことしぃ族をぶち殺してきたけどさ、こんなのは前代未聞だよ……?
いやー、ある意味では彼女らも欲しい逸材だ。ある意味ではね……」
「あ、ああ、あううぅ……!!」
目の前で部下が繰り広げる醜い争いに、リーダーしぃはがっくりうなだれた。
「…いい加減、分かったろ? 君らの言う “鉄の結束” なんてものはね、恐怖という
圧倒的な濁流の前には為す術もないんだよ。君らの結束はどこまで行っても、所詮は
理性に根付いたもの。対して恐怖は本能に根付いたもの。……理性の歴史がたかだか
数万年なのに、本能の歴史は数十億年。この二つがかち合ったところで勝負は目に
見えてるじゃないか。……恐怖、それも死の恐怖にぶつかって、どんな生物が理性を
保てるっていうんだい? 僕だって無理だぞ?」
「……………!!」
「……うっふっふ。ちなみにね、次が “オールイン” だってことは覚えてるかな?
他でもないやつら自身が決めた、皆殺しの数字のお出ましだ……」
相変わらずの冷えた微笑を浮かべるモララーだったが、しかし次の瞬間
「…安心しな。君の決断で連中が何をどう騒ぎ立てたところで、奴らにゃ太陽を
二度と見せない。……たとえキミがオールインを選択しなかったとしても、ね……」
「…!?」
モララーは今までの底冷えとはまるで格が違う、挑発するような笑みも煽りも
一切含まれていない、本当に暗黒の凍るような表情を浮かべた。
505
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:16:42 ID:???
15
「な、何? どういうことだ……!?」
「こればっかりはキミを騙してたみたいで悪いんだけど、最初からこのつもりだったのさ。
僕はキミとは「生存の保証をする」と約束をしたけど、奴らとは何の約束もしてないだろ?
……奴らをここで縊り殺してやったところで、なーんの問題もないわけさ」
「ば、馬鹿な! 7回以上首吊りを耐え抜いたら全員解放すると……!」
「そんなの、どこに証拠がある? 奴らがピーチクパーチク騒いだところで所詮は水掛け論。
まぁそれも、キミがどうしても奴らを助けたいというのであれば話は別さ。キミがそう願うなら
従来通りのルールに戻してやってもいいんだけど……、さて、どうするね?
キミは今でもこんな拷問を耐え抜いて、あいつらを救ってやりたいと思うのかな……?
…ま、あいつらを見限る覚悟が出来たらいつでも遠慮なくいえばいい。うぅっふっふ……。
捨てるときは、切るときはひと思いにやるのがコツだからね……」
「……………………」
リーダーしぃは、静かに目をつぶった。目をつぶった自分の脳裏に浮かぶはかつての思い出…
“だめでちゅよぅ! こんなところでとまったら、おこられまちゅよぅ!”
“あい! ちぃのあげましゅ! これでげんきだしてくだちゃい!”
本当に小さな、文字通り物心つく頃から一緒にいた仲間達……。
数え切れないほどの月日を共に過ごし、研鑽しあっていた仲間達……。
“だ、大丈夫か!? すぐに救護所に連れて行ってやる!”
“何言ってるの! 私を助けてる暇なんてあったら、早く先に進んで!”
“し、しかし……”
“いいから! どっちが重要か考えなさいよ! こんなの、私はちっとも恐くないから!
ここでたとえ……”
実際の任務でも、お互いに助け合いながら成功させてきた。……何度失敗を覚悟した
任務をそれのおかげで乗り越えてきただろうか……、だが……
「オラ! どうした! 早く吊れ! 早くしろ!!」
「あと4回! それが出来なきゃお前は単なる張り子の虎だ! さっさと吊れ!!」
「私たちはリーダーのこと信じてるのに、リーダーは裏切るつもりなの!?」
…これが大人になってから集められた部隊というなら、まだ分かる…。だが奴らは
ベビしぃの頃から集められて英才教育を施されてきた。それだけ分培われてきた
絆も、真多利教への忠誠心も強いはずなのに……、何だ、これは?
良しぃと銘打っても、幼き頃から教育をしたとしても、所詮しぃ族はしぃ族なのか…?
忌み嫌われ、軽蔑の対象となっているアフォしぃとやはり変わらぬということか…?
ということは、私のこの子供達も………、いや……!!
ど く ん
……愛するわが子を、こんな醜い姿にしてたまるものか……!!
あれで何が良しぃだ! 何が真多利教本部直属の戦闘部隊だ!
成る程、そうか……。そうなんだな……! しぃ族の中でも最高峰の組織と
されている、真多利教。その真多利教の最高の教育を幼少より受けてきた
こいつらでこうなのだから……。ならば!
「………。モララー……」
「ん……?」
目をつぶっていたリーダーしぃは、ゆっくりと目を開けモララーの方へ振り向く。
.. .
「……“オールイン”、だ。 今を以て私は真多利教本部直属部隊、リーダーしぃとして
前言撤回……、死を選ぶ!」
次の瞬間にはモララーは歓喜の、部下しぃ達は絶望とでそれぞれ表情を激変させた。
506
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:17:44 ID:???
16
「ほぅ。……ブラボゥといっておくかな……?」
「jioihaーwehnuhdsiuciuedcoipodcpw!!??」
この上なく嬉しそうに微笑むモララーと、もはや何を喋っているか分からない部下達と。
「よくぞ決断した……、ね。しかしどういった経緯だい? やっぱり……」
手を叩きながらリーダーに近づくモララー。リーダーは複雑な顔をしてため息をつく。
「皮肉なものだな。過去の奴らが美しすぎたが故に、今のあいつらの醜さが一層
際立つとは……。所詮やはり過去は過去、現在もそうあるわけではないのだな……」
「“今もそうあれかし” 皆そう思うんだけど、そうはいかないのが現実というもの。
過ぎ去った思い出は懐かしむだけに留めておくこと。それがコツさ……」
「……………………………」
「……さて、それじゃあ今後について、だ。キミには生存の保証はしたんだから……
ああ、とは言っても実験動物としてとか、真多利教の情報を引きずり出すまでの
生存とか、そういうんじゃないから。馬鹿なことしなけりゃ天寿は全うできると思うよ」
「フン。まぁ今はよろしくお願いしますとしか言えないがな……」
「うふふ。時に僕はこれからこいつらを吊すけど、キミどうする? 見ていく? それとも……」
「……いや。見たくはない。何だかんだと言っても奴らは私の部下だった。どれだけ本性が
醜いとはいえ、奴らが苦しむ姿は見ていたくはないのでね……」
「分かった。それじゃあ先に行ってなよ。僕もそんなに時間はかからないと思うからね……」
部下の兵隊AAを促して、リーダーしぃを連行?しようとするモララー。しかしそこでリーダーが
「ちょっと待ってくれ。……モララー。急で悪いが条件を一つ付けさせてくれ」
「条件? 一体どういう?」
「ああ。実はだな………」
………………………………………………………………
「や、や、やめて! おながぁぁいい!!」
「さーて。お楽しみの時間でございまぁす。今回はオールインってことで、君らの生存確率は
零でございます。それも一発で殺しはしません。さっきのリーダー見てたね? 君らには
アレを死ぬまで繰り返します。即ち10秒首吊りと僕の言葉責め、とをね……。
さぁ!! 楽しいゲェムの幕開けでぇす! せいぜいいい悲鳴を上げて楽しませてください!」
この時点でも悲鳴にならない悲鳴を上げるしぃ達。モララーは満足そうに右手を挙げた。
「うわぉ。さっきから中継で見てたが、実際醜いモンだなー」
「! その声は……」
モララーが振り返ったその先には、副所長・ギコの姿が。
「……おや、ギコじゃないか。来てたのか?」
「お前が面白そうなことやってるって聞いたもんで、ついさっきな。……ああ。あの
リーダーちゃんだが、今俺んとこで検査してる。しかしお前から報告は受けてたが……」
「ああ。それが面白いんだ。連れて行く直前に条件としてね、こんな事言い出したわけよ。
“今私の妊娠している子供の教育について、私たち真多利のやり方ではああだったから
お前達に一任したい。とはいえ完全にお前達だけに任せるわけではなく、私も母親として
やらせてもらう”、とさ」
「ほー。そんなことを……」
「正直妊娠ってのは予想外だったが、だからこそ割合簡単に落ちたのかもな。
お受験然り塾通い然り、女ってのは男じゃ分からないくらいに子供に愛情を注ぐからねー。
奴の場合は特にあんなもん見ちまったせいか、教育にも熱が入るものさ。
それよりギコ。妊娠してんだから投薬なんかは慎重に頼むよ。奴さんの子供も貴重な
人材なんだからね……」
やや不安げな様子のモララーだったが、ギコは心配するなと胸を張る。
「そこんとこは心配すんな。ニダーと相談してなるたけ少なく済ませてみせるからよ。
……それにしてもモララー。工作員作るためだけにしちゃ随分とまどろっこしいこと
してんだな。以前みたくかっさらって薬漬け、洗脳しちまえば早いんじゃね? 現に
本部だってこの様なんだしよ……?」
. . ...
「ああ。本部までならそれでいいんだ。本部までならね……」
「? どういうこった?」
突然のモララーの意味ありげな発言。ギコも思わず首を傾げた。
507
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:17:57 ID:???
17
「最近分かったことなんだけどね。実は………………」
「ほう……。なーる。そんなことが……」
モララーがひそひそ話しかけると、ギコは合点がいったような顔をした。
「この場合だとね。以前のような作り方じゃあ駄目なんだ。徹底的に、それこそ
髪の毛ほども不自然さがあっちゃあいけないんだ。つまり無理矢理作り替える
洗脳はどれだけ上手くやったとしても、その時点で完全にアウトなのさ」
「……だから寝返ってもらわないと駄目だ、ってか?」
「そ。だけどこれもただ恐怖とかを与えたり人質を取ったりで無理矢理寝返らせたんじゃ
駄目。それじゃ結局洗脳と変わりないからね。……じゃあどうすればいいかってことで
一番手っ取り早いのがこの方法さ。うっふっふっふ………!!」
悦に入ったか、モララーが酷く嬉しそうに、不気味な笑い声を出した。
「……確かにまー、そうだろーなー……」
「…心に何かしら支えのある奴は、それが存在している限りは籠絡は至難の業になるんだが
だが裏を返せば、支えがなくなればこれほど脆いものもない。まぁ考えてみりゃ当然なんだけど
教団内で地位が高い奴はおしなべて忠誠心も高いわけで、それだけ教団を信じてるのさ。
……強いんだけど、弱い。 そいつを僕はよーく知ってるからね……。より効果的にするために
最初に恐怖で味付けして、最後に信じていたものを崩壊させるべく一押しする……。つまり
自分同様、身も心も真多利教に捧げていたと信じていた部下の正体見たりアフォしぃ。
さて、この場合彼女に選ぶことが出来る選択肢は?」
「ま、直接的ではないにしても信じていたものに裏切られたとあっちゃあ、もう一つしかないな。
英語でDespair、スペイン語でDesesperacion、韓国語でジョルマン、そして大陸語でjue-wang…」
「そう、それ。そして目論見は成功しました。……というわけで、これから最後の……」
モララーがくるりと振り返ると、目の前には吊され、今は降ろされているしぃ達の姿が。
初っぱなからクライマックスといった風に、皆が皆今にも倒れんばかりにぜいぜい息をしていた。
「おいおい。まだ一回目だろ? さっきのリーダーより皆酷いことになってるじゃないか……。
さて、言いかけた台詞……。その目論見に役立ってくれた貢献者、彼女の部下だった
しぃちゃん達にも“それ”をあげないといけないからねー。ただし性質は全く別物になるけどなっ!!
さー、二回目行くぞ! 何回目で君らは死ぬのかなー!?」
……………………………………………………
508
:
cmeptb
:2008/03/03(月) 18:18:22 ID:???
18
後日
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
報告書
主題:新技術「トーチャー・バイ・ハンギング(苦痛の絞首)」に関して。
開発者:モララー(産軍複合研究所 『God And Livestock』 所長)
ギコ(同研究所副所長 兼薬学・医学部部長)
内容に関しましては、添付してある動画及び解説書をご覧になればお分かりかと
思いますが、開発者直々に試行してみたところ、被験者の精神状態もしくは執行者の
力量次第という条件付きであるものの、かねてよりの『懐柔作戦』に絶大な効果を
発揮することが判明しました。 つきましては後日会議を開催したいと思いますので
『God And Livestock』本部までお越し頂くようお願い申し上げます。
※日程に関しては後日またメールをお送りいたします。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「そう……。そうなんだよ。自画自賛なんかじゃない、絶大なんだ……」
メールの送信ボタンをクリックして、モララーはぽつりと呟いた。
「……カリオストロ気取りか? 箱庭の中で大人しくしていればよかったものを
少々おイタが過ぎたようだな。……とはいえ、この程度で収まってしまうのが
あいつなんだよな。この程度の規模じゃあ、所詮子供のびっくり箱だ。大人を
驚かせるにはまだまだ足りないね……」
そしてパソコンを閉じると、夜景の映る窓へとくるりと向きを変えて……一言。
「家畜は家畜らしく、いずれ食われる日まで神の掌の中で遊んでいればいいのさ……」
終焉
509
:
魔
:2008/04/04(金) 23:43:10 ID:???
『裏話 〜後遺症〜』
※この物語は、『天と地の差の裏話』の続編にあたります
今から少し前に、街を脅かす事件があった。
あるちびギコが猟奇的連続殺人を侵すという、未曾有の事件。
全てを知っている者は、一人だけしかいない。
関わった者は彼以外、皆死んでいったからだ。
AAの命が軽いこの街では、事件の意外性はあっても、関心はあまり向かなかった。
何も知らない者達は、何も知ろうとしないまま。
知ろうとした者達は、何もつかめないまま。
そして、その事件が遺した爪痕は忘れ去られていった。
全てを知る、一人のAAを除いて―――。
※
ポストにあった新聞を手に取り、部屋に戻る。
崩れ落ちるようにしてソファに座ると、それをテーブルに拡げた。
「・・・」
じっくりと、なめ回すように新聞を見る。
お目当てのニュースがなければ、項をめくって更に探す。
羅列された文字達が伝えるのは、政治と芸能の話ばかり。
どれもこれも、ちょっとしたお偉方の失言を叩いたもの。
やはり、これらを見ていつも思う事は、『他に報道すべきものが沢山あるだろう』。
新聞を読んでいる男、ウララーはそう心の中で歎いた。
※
あの凄まじい出来事から、一週間。
その間、片腕が黒い少年や化け物を扱ったニュースは、殆どなかった。
半ば国から忘れ去られた街とはいえ、大量の無差別殺人が起きたというのに。
公園にも、ギコと化け物という証拠を放置していた。
それなのに、メディアはおろかネットですら話題にならなかったのだ。
もし業者が処理したとしても、ギコはともかく化け物に対して何かを感じる筈だ。
あの刀のような爪を持っていた、VというAAに。
死体がそのまま放置されている、という理由は自分が否定した。
後日、しっかりと己の眼で確認したからだ。
勿論、Vはおろかギコの脚もしっかりと片付けられていた。
血も、あの大雨で全て洗い流されている。
※
証拠というものが殆どなくなってしまい、今に至る。
もう終わったことなのだから、気にしない方がいいのかもしれない。
しかしそれでも、自分以外の誰かが見つけた爪痕を探すことはやめない。
でないと、自分が自分でなくなってしまいそうな気がして。
「・・・無い、か」
自分以外誰もいない空間で、一人呟く。
余す所なく新聞を漁ったが、それらしいものは見当たらなかった。
それなりの時間が経っているので、当たり前ではあるが。
溜め息をつき、腹に巻かれた包帯に触れる。
あの出来事が夢ではないと教えてくれる、唯一の証拠。
残ったものは、その傷ともう一つ―――。
510
:
魔
:2008/04/04(金) 23:43:58 ID:???
※
愛用の銃を、弾倉と一緒に引き出しから取り出す。
弾倉に銃弾が入っているのを確認したら、それをグリップの中に入れる。
「・・・」
ふと、手の中でそれを翻してみる。
ひたすら黒く、それでいて鈍く光を反射する銃。
思えば、自分の身体に似た色という理由で、銃に惹かれたことがある。
扱ってみると、想像以上に容易にAAの命を奪う代物。
それを、その力を自分以外の者の為に使うという理由で、擬似警官になった。
殺伐としているが、この街にはヤクザはいない。
だから、銃という武器は虐殺に溺れた者に非常に有効だった。
それにでぃやびぃのような危険なAAにも、距離を離して対応できる。
鈍器や刃物しかない地で、銃は圧倒的な力を持つ。
その為、使い方を誤れば恐ろしい兵器と化す。
「・・・」
ウララーは少しの間銃を眺めた後、ホルスターにおさめる。
更に引き出しから小物とウエストポーチを取り出し、ゆっくりと静かに外に出た。
―――その心に、飢えと渇きを以って。
※
出掛けた先は、街の顔ともいえるあの公園。
今ではすっかり、賑わいを取り戻している。
被虐者も一般AAも、それぞれの楽しみの為に遊んでいた。
「・・・」
ウララーは、そんなAA達を軽く観察しながら公園を散策する。
ベンチに座り、肩を寄せ合うカップルもいれば、ボールを蹴りあう子供達もいる。
この遊具が多い区域だけは、地上の楽園と感じてしまうほど、平和だった。
ある程度そこを観察した後、踵を返す。
次は、雑木林の多い区域を目指し、足を動かした。
先程の区域と違い、この辺りは街らしさが垣間見える。
雑木林が間近にあることから、被虐者が身を潜める為によく利用している。
林の中に足を運べば、路地裏以上に被虐者が見つかることもよくある話。
だから、虐殺もよく行われる上、それが絡んだ事件も多発する。
擬似警官として、この区域は必ず見回らないといけない。
だが、今回だけは擬似警官ではなく、イチAAとしてもここに来た。
あの出来事で遺った、爪痕の埋め合わせの為に。
「ん・・・?」
ふと、足を止めてみる。
視界の隅で見つけたのは、不自然な形をしている植木。
垣根の役割をしている筈のそれは、AA一人が通れる位の隙間を作っていた。
形の崩れ方からして、人為的なもの。
誰かがここを、林への入り口にしてしまっている。
まさかとは思うのだが、念のためにとウララーは身を運び、中へと進んだ。
511
:
魔
:2008/04/04(金) 23:44:40 ID:???
※
雑草が自分の腰ほどまでに伸び、枝葉が進路を塞ぐ。
それが雑木林の本来の姿なのだが、手でそれらを掻き分けずとも難無く進めた。
被虐者が隠れ家として、ここを切り開いたのなら構わない。
が、擬似警官の持つ勧か、違和感はその答えを否定する。
「これは・・・」
視界に奇妙な色彩を持つ葉が飛び込み、目線を持っていく。
足を止めてそれをじっくり眺めると、血が付着しているということがわかった。
親指でこすってみると、僅かなぬめりを感じつつ、指にこびりつく。
まだ、新しいものだ。
匂いを嗅いでみると、被虐者のものではない。
「当たり、か」
ウララーは事実に溜め息をつき、林の奥へと進んでいく。
奥に進むにつれて、その血の跡は確実に増えていった。
雑ながらけもの道を作り、かつ痕跡を遺している。
犯人は、己の保身よりも虐殺が齎す快楽を優先して行動しているようだ。
虐殺厨ともなれば、そんな余裕などないのだろう。
暫く歩くと、血の匂いが強くなる。
加えて、眼の前には壁のように進行を阻む草木。
葉の隙間から見えるのは、ちょっとした広い空間。
その中に、一つの人影があった。
人影はその場に屈み、湿っぽく粘っこい音をたてている。
そこで、これ以上息を潜める必要はないとウララーは踏み、草木を掻き分けた。
「何やってンだ」
「!?」
ウララーが声を掛けると同時に、女は驚く。
女のその朱色の身体は、どこを見ても赤く汚れていた。
足元には赤黒い塊が、血だまりの中に横たわる。
恐らく、女が持つ包丁で挽き肉になるまでめった刺しにされたのだろう。
「何、ッテ・・・見テワカンネェノカ? 虐殺ダヨ」
と、女は罪悪感など全くないようなそぶりで応える。
どうやら、ここまで死体の形を奪えば、一般AAか否かを見分けられないと思っているようだ。
だが、ウララーは既にこれが被虐者ではないと理解している。
血の匂いがそれなのだが、己以外に通用しない証拠だ。
言い逃れを防ぐ為、ウララーはカマを掛ける事にした。
「虐殺、ね・・・わざわざこんな所まで運んでやるものか?」
「アンナ広イ場所デヤッテモ、無駄に目立ツダケダカラナ」
「・・・だろうな。そんな緑の体毛のAAを公の場で虐殺するのは、注目の的だろうな」
「ッ!」
女が、言葉を詰まらせる。
体毛の色なんて、既に真っ赤に染まってウララーには判別できない。
単なるでまかせだったのだが、運よく当たったのだろう。
もし外れたとしても、それが被虐者でないと理解していることを仄めかせばいいだけだ。
「何故・・・ワカッタ」
女の表情が強張る。
それは寧ろ、開き直るといった感じだった。
女はゆっくりと包丁を持ち上げると、切っ先をウララーの喉に向ける。
「半信半疑だったんだがな。いや、お前が正直者でよかったよ」
包丁の刃を向けられているのに、あえて煽るウララー。
同じように、ホルスターから銃を静かに引き抜く。
512
:
魔
:2008/04/04(金) 23:45:01 ID:???
得物の差は歴然としているのに、女は刃を向けてきている。
それは裁かれたくないというあがきなのか、或いは己の身体能力に余程の自信があるのか。
「・・・何故、刃を向ける?」
答は自分の中でかたまりつつあるが、あえて問うウララー。
「単純ナ理由サ。追ウ者ヲ殺セバ追ワレズニスム」
女は口角をつりあげ、目を細めて笑う。
直後、素早く屈んだかと思うと、地面を蹴ってウララー目掛け飛び込んだ。
「!」
虐殺厨を裁く時、擬似警官は逆に襲われることも珍しくはない。
人質をとる強盗と同じで、奴らはひたすら抗うのだ。
だから、こういったシチュエーションにウララーは馴れている為、冷静でいられた。
飛び掛かってきた女が振るった包丁を身体を反らして避け、擦れ違い様に一発。
包丁はウララーの肩の皮を裂き、鉛弾は女の腹部を貫いた。
「ガアァッ!?」
突然の激痛に女は対応できず、地面に滑るように倒れ込む。
ウララーはそれとは逆に、追い打ちを掛ける為にと女の方へ踵を返した。
「無駄な事をするから、無駄に苦痛が増えるんだよ」
「ッッ・・・テメ―――」
動きを止めたら、後は仕事を熟すのみ。
ウララーは女の言葉を無視して、その頭蓋を狙って炸裂音を響かせた。
※
「・・・ふぅ」
短く息を吐き、銃をホルスターにおさめる。
その場に残ったのは、女が虐殺していた肉塊と女の遺体。
あとは木々が風に揺られて、ざわめいた合唱が聞こえるだけ。
ここなら、都合が良い。
擬似警官としての行動は終えた。
次は、イチAAとして動くのみだ。
用があるのは、女の遺体。
先ずは作業しやすいようにと、仰向けに姿勢を整える。
確認するまでもない事だが、瞳孔はしっかりと開いている。
「・・・」
次に、ウララーは家を出る際に用意していたウエストポーチに手を掛ける。
片手で器用にそれを開け、取り出したのは刃渡り十数センチのナイフ。
この街では、虐殺の為ならナイフは非常に便利な道具。
反面、虐殺以外では殆ど用のないものである。
だから、擬似警官が持つ事は寧ろあまり好ましいものではない。
それなのに、ウララーはナイフを握る。
虐殺厨の遺体も、普段は裁いた後は触れずにおくもの。
何故ウララーは擬似警官でありながら、このようなことをするのだろうか。
答は前述の通り、自分自身の為。
それは、あの出来事がウララーに刻んだ傷。
爪痕を埋めるものが、虐殺厨の遺体にあるからなのだ。
513
:
魔
:2008/04/04(金) 23:46:17 ID:???
ナイフを逆手に持ち、女の胸に突き立てる。
景気よくそれは肉を裂き、肋骨をいくつか砕いた。
不快な音と感触が、それぞれ耳と手に残るが、気にしてはいられない。
ウララーは更に刃を走らせ、乱暴に解剖を続けた。
「・・・っ」
自分は医者でもないし、扱っているものはメスですらない。
だから、女の胸は獣が食い散らしたかのように切り開いてしまった。
ただでさえ内臓に不快感を覚えるのに、これでは自縄自縛を行っている。
うっすらと胸やけを感じるが、背に腹は変えられない。
爪痕を埋める為には、なんとしてでもそれにたどり着きたいのだから。
折った肋骨と剥いだ皮を一緒に切除し、肉塊の上に投げ捨てる。
べしゃと湿った音がして、少量の血が辺りを汚す。
次いで、肋骨に守られていたそれらを分け、取り出していく。
その先にあるものは、生命を支える赤いモノ。
「・・・あった」
動かない心臓を見つけ、ウララーは喜びと共に呟いた。
※
あの出来事以来、ウララーの精神を苛むものが芽吹く。
原因はおそらく、フーの亡きがらを抱いて帰路についた事。
視界を阻む程降りしきる雨の中でも、その臭いはした。
皮膚を失い、露になった肉から漏れる血の腥ささ。
それを、否応なしにウララーは身体の中に入れてしまったのだ。
虐殺を好む者にとって、被虐者の悲鳴は高揚感を煽る音楽。
さしずめ、はらわたや血の臭いは煙草の煙のようなもの。
科学的に証明されていないものの、それらには妙な中毒性があった。
それがウララーの心を蝕むようになるまでに、時間は掛からなかった。
喉を掻きむしりたくなるような渇きを潤すには、元である血が必要になる。
しかし、自分は擬似警官という立場である為、虐殺は行えない。
渇きを抑える為に自らの血を飲んだこともあるが、どうしてか効果は全くなかった。
半ば命懸けの折衷案も、身体はうんともすんとも言わなかった。
そして、ウララーが行き着いた答が、虐殺厨の血を貰うこと。
だが、それでは裁く事の意味がなくなってしまう。
死体を漁ることをしてしまえば、それは虐殺と変わりない。
擬似警官という肩書を殆ど踏み外したような結論だが、本人にはそれ以外に道がないのだ。
※
「・・・」
血管を切断し、女の身体から心臓を切り離していく。
中身を、血液をなるだけ零さぬように慎重に。
上手いこと切り離して、ウララーはそれを掲げる。
その血の詰まった肉の袋は、それなりの弾力をもっている。
取り出す際に漏れた赤い液が、艶かしく滴り落ちる。
奇妙な妖艶さをウララーは感じ、ついそれを眺めていた。
ふと我に返ると、やるべき事を思い出し行動に出る。
何度かやってきたことだが、多少ながら躊躇ってしまう。
それでも、方法はまだこれしかないのだから、やるしかない。
ウララーは心臓の穴の開いた所に口をつけ、一気に煽った。
514
:
魔
:2008/04/04(金) 23:46:58 ID:???
「っ!!」
最初は、鉄分の味。
直後、むせ返る程の腥ささが鼻をついた。
独特のぬめりが喉に絡み付き、それを身体が拒絶する。
内臓までも戻しそうな勢いで吐き気が込み上げてくる。
ウララーは中身がなくなった肉の袋を投げ捨て、両手で口を塞ぐ。
逆流してきた胃液と血を、必死で押し込めようとする。
「―――!」
身体は受け付けなくとも、精神がそれを欲しているのだ。
吐き出してしまっては、元も子もないわけで。
脂汗と涙が溢れ、全身が殆ど痙攣しているかのように震え出す。
それでも、ゆっくりと、確実に血を飲み込んでいく。
ほんの少量でも、喉を通過する度に酷い不快感を覚える。
胃はそれを押し出そうとしているのに、無理矢理詰め込もうとしているからだろうか。
気絶しそうな程の胸やけを感じながら、渇きは確実になくなっていった。
口の中のものを全て胃におさめても、両手はそのまま。
姿勢も足の指一本動かすことなく、状態を維持する。
下手に行動すると、また胃液が逆流しかねないからだ。
ウララーは石になったかのように、その場からぴくりとも動かなかった。
※
どれくらいの時間が経っただろうか。
無限とも感じ取れる時の中、気絶と覚醒の境目を覚束ない足取りで歩いていたような。
そんな奇妙な感覚も消え、胸やけも何もかもがおさまった。
「はあ、っ」
ウララーはとりあえず、緊張を解く為に息を大きく吐いた。
直後、自慰の後のような倦怠感が、全身を包み込む。
やっと冷静になることができた今、今後の事を考えなければ。
ほぼ殺人と同じ事をする為、人目のつかない所で虐殺する虐殺厨。
そいつらを追う事で、自分も人目のつかない所で血を啜る事ができる。
だが、そんなことばかりしていては、いずれ誰かにバレてしまうだろう。
虐殺厨が自分に見つかるように、恐らくは、同業者に。
いっそのこと、自殺してしまおうか。
そう考えはしたけれど、それではフーにあわせる顔がない。
家庭も何もなく、その上眼まで亡くしたフーでさえ、生を望んだからだ。
それに、あの少年だって被虐者という立場でありながら、彼なりの生を探していた。
片腕を焼かれる程の、凄まじい虐待を身に受けても、だ。
そんな彼等がいるというのに、くだらない精神の病に侵されているだけの自分が、自殺していいのだろうか。
「・・・いや」
自分だけが、逃げていい筈がない。
ヒトの命が軽いこの街で、自殺という選択肢を選んでいいわけがない。
たとえ狂ってしまいそうな程の苦痛を感じても、生き延びる。
皮を剥ぎ取られようが、全身の骨を砕かれようが、はらわたを焼かれようが。
自分は、フーの為にも自身の為にも、生き延びなければならない。
515
:
魔
:2008/04/04(金) 23:47:33 ID:???
渇きも失せ、精神も持ち直した。
自身が今するべきことは、特にない。
せいぜい、身体に付着した血糊を落として帰路につく位だ。
「・・・」
何と無く、辺りを見回してみる。
風に揺られ、優しく踊る木々達に囲まれた空間。
外からは見慣れていたこの雑木林も、中から見るとまた違った印象だ。
どうせ、家に帰ってもすることは何もない。
せっかくだから、この雑木林の中を歩き回ってみようか。
広大な公園とはいえ、迷うことは滅多にないだろう。
と、あいた時間を潰す為、ウララーは雑木林の更に奥へと足を運んだ。
※
自分の腰のあたりまで伸びた雑草。
所狭しと生えている電信柱ほどの太さの木々。
それにこれでもかという程絡み付く蔦。
奥に進む度に、段々と雑木林は濃さを増していく。
もはやそれは、樹海と勘違いしてしまいそうな勢いだ。
まるで異次元に入り込んだような感覚。
そこまで広くないと思っていたのに、これはとんだ誤算だった。
(・・・自殺しないって決意したばっかりなのにな)
万が一のことを想像して、鼻で自身を自嘲する。
だが、林の中は被虐者はおろか虫の気配すら全くしない。
先程から感じている異次元というそれも、あながち間違いではないのかも。
そんな無駄な妄想をしつつも、足を動かす事は止めない。
暫くして、視野が広がった。
「ここ・・・は?」
予想だにしないものが視界に飛び込んだので、思わず声に出す。
木と雑草しかない筈のこの雑木林の中に、建物があったからだ。
土色になり、ヒビと蔦にまみれたコンクリの壁。
ガラス窓は全て割れていて、カーテンが無惨な姿を露にしている。
何十年もの間放置されたようで、損傷は激しかった。
建物自体の大きさはあまりなく、周りの木々よりも背は低い。
存在する場所も兼ねて、その建物は不気味だった。
本当に、異次元に入り込んだような気にさえなってしまう程。
不用意に近付くのは危険だろう。
「・・・!」
そう警戒した矢先のことだ。
建物の入り口付近に、血の痕。
色合いからして、まだ新しいもの。
雑草を掻き分けてそれに近付き、血糊を調べる。
指で掬い臭いを嗅いでみるも、一般AAではなく被虐者のものだ。
自分が動く必要は、なさそうだ。
(だが・・・)
入り口に立つと、奇妙な感覚が更に強まる。
今度はこの建物自体が、自分を誘っているような。
しかし、こんな不気味な建物に易々と入ってはならない。
不確定要素が多過ぎる上、思考が警鐘を鳴らしている。
―――入れば、また自分は大きな事件に巻き込まれてしまう。と。
どうしてそう考えてしまっているのかは、わからない。
あの出来事でさえ、フーの悲鳴を耳にしただけの話。
いつどこで、何が起きるかなんてわかる筈がないのに。
516
:
魔
:2008/04/04(金) 23:47:55 ID:???
※
複雑な気持ちの中、建物に入る事にした。
血糊は、奥の方に点々と落ちている。
あたかも自分を誘っているかのように。
「・・・」
意を決して、血の痕を追って歩いていく。
驚くことに、建物の中には光があった。
天井の蛍光灯は全て沈黙していたが、足元の非常用照明は生きている。
内も外も棄てられたこの建物を、必要としている者がいるのだろう。
(だが、ここは・・・)
一体、何に使われているのだろうか。
パッと見た感じでは、病院のような構造。
所々にある部屋を覗くと、医療器具らしきものとベットがある。
どれも赤錆と埃にまみれていて、使い物にならないが。
他にも、奇妙な形をしたフラスコや蛍光色の液体が入ったビーカー。
何に使うのか全く想像できない大きな機械まである。
揚げ句の果てには、診療台の上で白骨化したAAまでもがいた。
そこまで見て、ウララーはある事を思い出す。
都市伝説として聞いた、Vという化け物の話。
Vが存在したというのなら、研究所も実在しているということ。
もしかしたら、ここはVが造られた研究所ではないだろうか。
そう考えるのは安直過ぎるが、他にまともな答が見つからない。
病院だとしても、不必要なものがあまりにも多過ぎる。
解きたい疑問と知りたくない答という、相反する気持ちを抱きながら、ウララーは更に血の痕を追う。
赤錆とヒビに塗れた建物の廊下を、ゆっくりと踏み締めながら。
外から見た時よりもずっと広く、入り組んだ空間。
ふと、前方の突き当たりを見ると、強い光が漏れているのがわかった。
非常用照明なんかよりもずっと明るい上、血の痕もそこに進んでいる。
「・・・」
その光から感じるのは、光の色とは正反対のどす黒さ。
認めたくはないが、それはVの放つ殺気と全く同じだった。
だが、ウララーは冷静だった。
先程から感じている違和感が、思考を麻痺させていたからだ。
殆ど導かれるがままに動いてきたウララーにとって、それは障害にすらならない。
何も考えず、突き当たりを曲がって光を見る。
そこには、割れたガラスで隔たれた巨大な空間があった。
例えるなら、水族館にある大きな水槽。
その中にあるものを全て取っ払ったようなもの。
天井にある円い蛍光灯が、その空間を激しく照らしている。
「・・・ッ」
その空間の中は、凄まじいものだった。
ほぼ全体が、血糊と思しきもので黒く塗り潰されている。
白骨化したAAも、半ば形を失いつつそこらじゅうに散らばっている。
研究員のものと思われる、血みどろの白衣も紛れ込んでいた。
517
:
魔
:2008/04/04(金) 23:48:57 ID:???
都市伝説として、聞いた通り。
あまりにも類似した点がありすぎて、不気味なことこの上ない。
うっすらと吐き気を催しながら、ガラスの壁の下部にあったパネルを見つける。
それは埃と乾いた血糊で酷く汚れていた。
よせばいいのに、気が付いた時にはその汚れを指で払いのけていた。
「・・・嘘、だろ」
もはや、感情なき笑いしか込み上げてこない。
そのパネルの真ん中に、小さくも凛々しく彫られた文字が一つ。
―――『V』
あの化け物は、ここで育てられた。
疑問が、確信となってしまった。
なにもかもは、遠い過去のこと。
だが、ウララーはやり場のない怒りを覚えていた。
あの出来事の片棒を担いだ者は、既にこの街で産声を上げていたのだった。
全ては終わってしまった話。
それなのに、子供が吐く負け惜しみのような気持ちが溢れ出す。
もっと早くここに気付き、Vが育つ前に殺していれば。と。
ウララーはその場に崩れ落ち、パネルに恨めしく爪をたてる。
がり、というそれを引っ掻く音は、燻り始めた復讐心の声のようだった。
同時に、フーと一緒に過ごした日々がフラッシュバックする。
更にそれに呼応して、あの出来事もコマ送りで再生されていく。
涙が溢れているということに気付くのには、少し時間が掛かってしまった。
※
不意に、物音がした。
咄嗟に涙を拭い、物音がした方を向く。
少しだけ開いた扉の奥で、すう、と影が動くのが見えた。
大きさからして、ちびギコかその位のAAのようだ。
こんな廃墟に用のある子供なんていないだろうに。
そう考えたが、もしかするとホームレスの類かもしれない。
雨風をしのぐだけなら、ここは都合の良い場所になるだろう。
被虐者という線もあるが、無駄に思考を張り巡らせても意味はない。
「・・・」
とりあえず自分の眼で確かめようと、ウララーは立ち上がる。
念のため、銃の中に弾が込められていることを確認してから、扉へと向かった。
きい、と不快な音をたてながら扉を開く。
用心に用心を重ねつつ、ゆっくりと中に入る。
中は先程見てきた部屋達と、なんら変わりないものだった。
節操なく並べられた怪しい道具や薬品、そして白骨。
ただ唯一、散らばっている血糊がまだぬめりを持っている所が違っていた。
「これは・・・」
被虐者という答は、間違いだと悟る。
赤い液体をばらまく者は、決まって加虐者しかいないからだ。
残る選択肢は、危険を孕むものばかり。
だが、それでも確認せざるを得ないわけで。
抜き足差し足と、部屋の奥へと進む。
ふと、妙な音がかすかに聞こえた。
ウララーは一端動くのを止め、音を拾う事に集中する。
その音はどこか湿った感じのもので、咀嚼に近いものだった。
518
:
魔
:2008/04/04(金) 23:49:50 ID:???
更に耳をすますと、それは部屋の角から聞こえてくる。
慎重に、ホルスターの中の銃に手を掛けつつ、近付く。
「・・・」
そこには、子供がいた。
部屋の隅っこで、肉塊をゆっくりと咀嚼していた。
こちらに背を向けているので、顔は見えない。
影の正体はわかったものの、肝心の答が出てこない。
何故なら、子供は見たことのない容姿をしていたからだ。
ギコ種よりも濃い青をした身体に、特徴的な丸耳。
ちびギコじゃないかと思ったが、こういった雑種は前例がない。
「・・・?」
と、不意に子供がこちらを振り向く。
その顔立ちは、黒目がちなちびギコといった様子。
マスコットのような感じなのだが、口元の血が物凄いギャップを与えている。
自分も身体を血糊で汚しているから、あまり言えたことではないが。
「あなたは、誰ですか?」
「えっ?」
問い掛けようとした矢先、質問をされてしまう。
出鼻をくじかれたような気分だが、質問を質問で返すわけにはいかない。
とりあえず、自分の名前と身分を軽く説明しておいた。
「ウララー、さん。ですか」
「ああ」
ここに来た経緯はぼかして説明したが、言及はされなかった。
馬鹿正直に話しても、通じはしないと判断しての事だ。
子供からの質問が途切れた所で、今度はこちらから問い掛ける。
「お前はここで何をしている?」
「え?・・・えっと、生活?」
「どういうことだ?」
※
曰く、彼はこの研究所で産まれ育ったとのこと。
両親は試験管か、或いは血の繋がっていない科学者か。
そんな事が思い浮かんだが、一端それは保留することにした。
更に聞いていくと、研究所がこんな姿になったのは数カ月前だとか。
自分と同じ境遇のAAが、ある日暴走し出して研究員を虐殺。
生き残ったのは自分と、他の自分と同じ者達のみ。
その者達は数日してここを出たが、自分だけはここに残った。
※
「―――そして、今に至ると」
「うん。お腹がすいたら、『しぃ』っていうAAを捕まえて食べてた」
意外な言葉。
被虐者とはいえ、こんな子供が体格差のでかいAAを補食できるのだろうか。
もしかすると、この子供も強暴な一面を持っているのかもしれない。
かのVを研究していた所でもあるし、白だとは言い難い。
が、あえて言及することは避けた。
何故なら、そんな強暴性があったとしたら、今自分は生きていないだろうから。
それに、Vのような力を持っていたら、少なからず殺気が漏れる筈。
(『しぃ』か・・・)
被虐者だが、AAの肉を漁っていると話す彼。
容姿もあってか、ふとあの少年の影が垣間見えた。
519
:
魔
:2008/04/04(金) 23:50:32 ID:???
子供が一人で、こんな廃墟で生活をしている。
その事実は、自分にとって少しばかり心が痛む。
昔から、周りのAAからは情に脆いと言われていた。
しまいには『お前のヒトの良さはいつか身を滅ぼすぞ』とまで忠告されたような。
だが、それが自分である。
たとえ偽善と罵られようが、無駄な行為と評価されようが。
目の前にいる不幸を背負った者を、助けずにいられようか。
「なあ、お前」
「はい?」
「出会った事も何かの縁だし、俺の家に来ないか」
「・・・?」
言ってる意味がわからないとでも言いたげに、子供は首を傾げる。
世間から隔離された世界で生きて来たのだから、当たり前か。
「ここで生活するのは何かと不便だろう。俺が飯と寝床を用意してやるよ」
「・・・いいの?」
「ああ」
と、子供の表情が一変する。
そこには喜びと、ほんの少しの戸惑いが見えた。
話がある程度進んだ所で、ふとある事を思い出す。
「そういえば、名前を聞いていなかったな」
「名前・・・」
会話が途切れる。
最初は何かわからなかったが、反応からしてどうやら名前を貰っていない様子。
どうしたものかと考え、先程のVのパネルを思い出す。
「あー、悪い。今のはなかったことにして、お前の部屋に案内してくれ」
「うん」
※
先程いた場所と、さほど離れていない所に彼の部屋はあった。
Vの部屋ほど荒れていないが、建物自体が傷んでいるのでやはり見てくれは悪い。
「ここです」
彼にそう促され、相槌をうった後パネルを探す。
案の定、それはガラスの壁の下部に同じようなものがあった。
指で擦り、こびりついた汚れを落とす。
そこにはアルファベットでこう彫られていた。
―――『 P O R O R O 』
意味はわからないが、恐らくこれが彼の名前。
ちゃんとここに名前があるというのに、彼自身が知らないというのは少しおかしいが。
研究員達は、付けるだけ付けておいて彼をその名で呼ばなかったのだろうか。
そうだとすると、少し惨いような気さえする。
とりあえず、深く考えるのは止めておき、そのままの読みで彼の名前にすることにした。
「一緒に暮らすようになったら、お前の事は『ぽろろ』と呼ぼう」
「ぽろろ?」
「ああ、お前の名前だ」
「名前・・・」
彼、いやぽろろは少し考えたそぶりを見せた後、小さく笑った。
つられて、自分も笑みで返す。
520
:
魔
:2008/04/04(金) 23:51:02 ID:???
名前も決まり、後は家へと帰るのみ。
研究所を出た二人は、林の中を真っ直ぐ歩いていく。
道中、互いの名前を呼び合いながら笑って話した。
行きは恐ろしく広く感じたこの林も、帰りとなるとそうでもなかった。
あっさりと舗装された道を見つけると、寄り道せずに帰路についた。
新しい生活を想像し、それに心踊らせながら。
※
研究所がなぜ雑木林の中にあったのか。
そこでVやぽろろが飼育されていた理由は。
あの研究所を扱っていた組織は。
語るには、謎が多過ぎる。
その謎に、ウララーはまた大きな事件に巻き込まれる羽目になる。
あの出来事が霞む程の、闇で生きる者に牙を剥かれて。
―――白昼夢は、悪夢へと姿を変える。
続く
521
:
ロディウェイ
:2008/04/26(土) 11:39:48 ID:SOOVd3uQ
小説書くの初めてです。よろしくお願いします。
『残酷サイボーグ シーン』
僕はシーン、だだし、普通のAAじゃない。
虐殺好きのモララー種が作った虐殺用のサイボーグだ。
力は60キロの物を持ち上げ、目にはズーム機能と暗視スコープ機能、
足には、ローラーダッシュと呼ばれる車輪があり最高時速70キロのスピードがでる。
これから僕は、ちびギコやアフォしぃが暮らすマターリシティに来た所からはじまる。
ACT1「初めての虐殺」
12時28分、僕はマターリシティに着いた。
黒いマントを身に付け、右手には重さ31,4キロあるM-TK0334ライフルを持ちながら町に入った。
公園では、ちびギコがべびギコと砂場で遊び、ビルが並ぶ道では、アフォしぃが
「キョウモゲンキニシィ〜シィ〜シィ〜、ミン(以下略)」
と歌いながら歩いている。
僕が道のすみを歩いていると、一人のしぃが来た。そして、
「ハニャ!!ダッコ!!」
と言ってきた。だが僕はそんなのに構わず無視しようとした。だが、
「シィヲムシスルナンテコノ、ギャクサツチュウ!!」
この言葉に反応し、僕はそのしぃの耳をつかんで至近距離からこう言った。
「虐殺厨・・・、人聞きが悪い。僕はそんなのに興味はない。」
そう言い放ち、しぃの両耳をもいだ。ブチッと鈍い音がした。
「シィィィィィ!!イタイヨーー---------ー!!カワイイシィチャンノオミミガーー---------!!」
アフォしぃは、手足をじたばたさせながら泣き騒いだ。
つまらない・・・そう考えた僕は、100mほど離れてから、ポケットから弾を2つ出し、ライフルに詰めて構えた。
標準をしぃの右胸に合わせて一発撃った。
しぃの右胸から綺麗な赤い血が花びらのように散った。それから間を開けずに頭を撃った。
そして、額に10円玉ほどの穴が空き、何も言い残す事なく死んだ。
そうか・・・これが、これが虐殺・・・。
僕は、心にそう感じながら後にして先に進んだ。
続く
522
:
ロディウェイ
:2008/04/26(土) 15:02:56 ID:SOOVd3uQ
>>521
続きいきます。
『残酷サイボーグ シーン』
ACT2「武器商人」
アフォしぃを一人倒してから10分、僕は自動販売機で水を買い、近くにあったベンチに座って休んでいた。
そんな時。
「ワチョーーーjはふおdsfぴっす9あ0c・・・」
僕のセンサーからこの叫び声が聞えてきた。どうやら、1kmさきのスクラップ工場かららしい。
とりあえず、興味があるので警戒しつつスクラップ工場に向かった。そこには、
無残な姿で死んでいるオニーニが残っていた。体中にマシンガンでも食らった感じだった。
しかし、誰の仕業だろう・・・
そう考えていた時。
「ウワアアアアアアァァァン!オトウトーーーーーーーー!!」
正面から別のオニーニがきた。どうやらやつの弟らしい。
「シッカリシロオトウト!!オトウトー!!」
そう泣きさけんでいたが、やがて僕に気付いたようでこう言ってきた。
「オマエガオトウトヲコロチタンワチョ!?ゼッタイニ、ゼッタイニユルサナイデチーー!!」
勘違いされているようだ。だが説明してもわからないだろう。
そうしてる内に僕に仕掛けてきた。
「オトウトノカタキーーーーーー!!」
僕は足のローラーで後ろに下がった。オニーニは、なにかにつまずいて倒れた。
「ワヒョヒャーーーーン!イタイワチョー!!」
特に怪我はなさそうなのだが・・・とりあえずオニーニに近づき、海苔をはがした。
「アアアアーーー、ノリヲカエスワチョーー!!」
オニーニは、海苔がないと中の具(いわゆる脳の事)が出てしまうらしい。
それで僕は、足払いを掛けた。
「ワギャッ」
中の具が飛び出し、それっきり動かなくなった。だが、
「イマワチョ!!」
後ろのごみの山の上からまたオニーニが出てきた。しかも右手に包丁、左手にクローを装備している。
いくら僕でも防げない。初めての深くだった。
覚悟を決めて目を閉じたその時。
ドガガガガ!!
銃声が響いた。
「ジョーーーーーー」
それで3匹目のオニーニが撃たれた。
「やあ、危ない所だったね。君もなかなかやるじゃないか。」
「!?誰だ!!」
振り向くとそこには、ソ連製のマシンガンをもった男がいた。
年齢は40才ぐらいだ。
「いや失礼した、私は武器商人をやってるモラソール・エレダン。
このスクラップ工場の近くに住んでいるんだ。どうだい、ここじゃ難だから
私の家で話をしません?」
「ああ。」
やる事を決めてないのでとりあえず甘えてモラソールの家に行く事にした。
ここから大きな組織と戦う運命とも知らずに・・・
続く
523
:
ロディウェイ
:2008/04/27(日) 10:37:46 ID:l3U/M5Mg
>>521
続きいきます。
『残酷サイボーグ シーン』
ACT3「過去」
僕はモラソールに案内されて彼の家に着いた。
隠れ家的な感じだが重火器を取り扱う店らしい。
そして家の中に入り、椅子に座って会話を始めた。
「いや〜、このスクラップ工場で普通の人が来たのは3年ぶりだよ。
あ、それより君、虐殺暦はどれくらいかな?私は10年だよ。」
「ここに来てしぃとオニーニ各一匹ずつ。」
「へえー、そうか。んでそのライフルはどこで買ったんだい。ぜひとも買いたいのだが。」
「これは売り物じゃない。」
「冗談だよ。」
と僕を興味深い感じで見ながら話していた。途中、座り直ったと思ったら
今度は真面目な顔をしてこう話かけた。
「君の過去に興味がわいてきた。良かったら聞かせてくれないかな。」
僕は一瞬戸惑ったが話しても大丈夫だと思い、話をした。
「それは一週間前・・・」
一週間前、僕は目覚めた。
周りにはよくわからない機械がおいてありライトがチカチカしていた。
その時声がした。
「開発成功だ!とうとう夢がかなった!!」
と大きい声で言っていた。僕は声のした方向に向いた。
そこには、ガラス越に白い服を着た男がいた。
「気がついたかね、君は今、虐殺サイボーグとしてこの世に生まれてきたのだよ。」
虐殺サイボーグ・・・いったい、いったい僕は何なんだ?
そう考えていた時、男が言った。
「いきなりですまないが、俺はもう行かなくてはならない。
そこに君の説明書とM-TK0334ライフルがある。これをを持ってマターリシティに行き、
アフォしぃ、オニーニ、ちびギコの虐殺を行なうのだ。」
そう行って立ち去った。
「待ってくれ!まだ聞きたい事が・・」
だが僕の声はこの部屋に響いただけだった。
しばらく立ち止まっていたが、このままでは始まらないので説明書を読み、
ドアを見つけて外に出た。
そこには草原が広がっており、遠くに町が見えた。おそらくマターリシティのようだ。
「虐殺、マターリシティ・・・何があるんだ。」
そして、僕はローラーダッシュで町に向かった。
続く
524
:
魔
:2008/04/27(日) 17:31:55 ID:???
>>509
〜より続き
『裏話 〜後遺症〜』
ひょんなことから、ウララーはぽろろというAAと一緒に暮らすことになった。
謎だらけの建物の中で出会った、謎だらけのぽろろ。
ウララーは、その謎については言及しなかった。
無駄なしがらみが増えるかもしれない、と考えてのことだ。
しかし、ウララーのその考えはいずれ自身を滅ぼしてしまう。
気がついた時には、既に手遅れになっているだろう。
忠告する者もなく、ウララーは悪夢に巻き込まれていくのだ。
―――その話は、少しばかり先の話。
※
新しい生活。
ぽろろは新たな家族に歓迎され、ウララーは新たな家族を招待する。
これから、賑やかな毎日が始まっていく。
そう想っていたのもつかの間。
家族が増え、愉しい未来が待っていようが、爪痕には是非もない。
ウララーに飢えと渇きが再び襲い掛かってきたのは、すぐのことだった。
朝。
久しぶりに、ラジオの音に更に声を重ねての朝食。
飛び交うのは自身とDJ、そしてぽろろの言葉。
賑やかとまではいかないが、一人とラジオのみよりは遥かに良い。
だが、それらを邪魔するかのように精神が疼く。
水分で補うことができない喉の渇きを、訴えていた。
まるで心の中に潜み、小さく暴れる悪魔のよう。
平然を装おうとするも、やはり顔にはうっすらと滲み出るようで。
「・・・ウララー?」
「ん? どうかしたか」
「いや・・・どこか、具合でも悪いのかなって」
「別に、何ともないが」
会話を重ねる度、心配される回数が少しずつ増えていく。
それは渇きが強まっていくのと、殆ど同じ早さだった。
ぽろろに余計な負担を掛けまいと、毎日虐殺厨を捜した。
だが、あの日出会った女の次は、未だにない。
路地裏も公園も、血塗れの廃屋にすら虐殺厨はいなかった。
もう既に少年の話は耳にしないし、新たな殺人鬼が生まれた事も聞いたことがない。
自分の知らない誰かに怯えているのか、或いは少年が遺した事件の名残か。
虐殺厨がいない理由を、様々な憶測を並べて考える。
だが、渇きのせいで思考も鈍り、ちょっとした推理すらままならない。
あがけばあがく程、渇きはゆっくりと精神を蝕んでいった。
※
ぽろろと出会ってから、何日目かの遅い朝。
もはや渇きを隠し通す事は出来ず、しっかりと顔に出てしまっている。
とりあえず疲労のせいにはしておいたが、家主がこれで良いわけがない。
擬似警官を取るか己を保つ事を考えるべきか。
迷った揚げ句の答を、今日実行することにした。
いつもと同じ物を持ち、いつもの時間に外に出る。
「それじゃ、出掛けてくるから」
「うん。いってらっしゃい」
ぽろろに見送られた後、ゆっくりと玄関の扉を閉めた。
525
:
魔
:2008/04/27(日) 17:32:34 ID:???
※
ふらふらと宛もなく歩き、街を散策する。
晴れと曇りがはっきりしない空模様は、まるで自分の心のよう。
辺りには、虐殺はおろか行き交うAAすらいない。
休日でもあるし、店にはシャッターが下りている。
聞こえるのは虫と鳥の声に、風でそよぐ草木の音のみ。
皆が皆寝静まっているような時間でもないし、その静寂は不気味だった。
「・・・」
だが、それはウララーにとって寧ろ好都合。
目的を、何の心配もなく熟せそうだからだ。
※
やってきたのは、商店街。
ただでさえ閑散としているここは、街全体の静けさもあって静寂が更に濃い。
虫の声も草木が踊る音も、ミュートを掛けたかのように全く聞こえなかった。
そんな半ゴーストシティの中を、ひたすら練り歩く。
路地裏から、補修不可能な位傷んだ廃屋まで。
どうにもできない渇きを潤す為に、ウララーはとことん足を動かした。
もう、精神的に余裕はないのだ。
前回の女のように、都合が良すぎる事を願う暇はない。
―――誰でもいい。
喉元を掻きむしり、頸動脈を引きちぎりたくなるような感覚の中。
頭の中を過ぎる、擬似警官としてあるまじき思考。
実行すると決意はしたが、やはり踏み止まってしまう。
擬似警官という立場を守りたいと想う心。
血が欲しいと叫び、喚き立てる精神。
どちらもあまりにも強い、折れないものとしてぶつかり合う。
「・・・クソ、っ」
芽吹くのは、やり場のない怒りと苛立ち。
滲み出る脂汗が頬を伝い、顎から雫となって地に落ちる。
どうにかしてこの渇きを抑えたい。
そう考える内に、段々と欲求の方が強くなってくる。
麻薬中毒者の気持ちが、何と無くわかったような気がする。
そんな自虐をする余裕も、やがて無くなっていく。
自我が崩壊する前に、早くこれを―――。
「!」
うっすらと目眩を感じる中、路地裏にあった段ボール。
その中に寝ているちびしぃを見つけ、思わず心臓が跳ねる。
出合い頭でもないのに、余程切羽詰まっているのだろうか。
己の情けなさを呪いたくなったが、事を成すのが先だ。
心臓の鼓動が、破裂しそうな程勢いを増す。
焦燥感が激しくなりつつも、ちびしぃを起こさないように静かに行動する。
ゆっくりと手を伸ばし、その華奢な首元をそっと掴んだ。
「・・・」
そのまま持ち上げ、じっくりと眺める。
寝顔は人形のように可愛いのだが、自分には血の詰まった風船にしか見えない。
今すぐにでも腹をかっ捌いて喉を潤したいが、こんな所では行えない。
万が一、通行人に見られでもしたら、後は泥沼に嵌まっていくシナリオしか見えないわけで。
どうしようかと迷っていると、背後から物音。
咄嗟に振り向くと、そこにはちびしぃの親と思わしきAAがいた。
526
:
魔
:2008/04/27(日) 17:33:10 ID:???
「チョット! ワタシノムスメニナニシテルノ!?」
出会って早々甲高い声で罵声を浴びせてくるアフォしぃ。
苛立ちもあり、種特有の不快感がそれを更に煽る。
慈悲の心もへったくれもない今、気が付けば手の中にはちびしぃでなくナイフがあった。
「・・・」
「シィィィッ!!?」
煩いこのアフォしぃを黙らせようと、身体が勝手に動いてしまう。
空いている手でアフォしぃの首を掴み、壁に押し付ける。
間髪入れず、身動きの取れなくなったアフォしぃの眉間目掛けナイフを突き立てた。
ナイフはアフォしぃの皮膚を裂き、頭蓋骨を砕いて脳を突く。
何とも言えない不快な音と感触が全身に伝わり、苛立ちが萎縮する。
「あ・・・ッ」
直後、罪悪感が押し寄せ心を一気に塗り潰す。
両手の力が抜けると同時に、二、三歩後退る。
支えのなくなったアフォしぃは、ややあってどうとその場に倒れ込んだ。
多少の痙攣と、ナイフと頭蓋の隙間から流れ出る赤い体液。
アフォしぃは既に肉塊となって事切れていた。
殺してしまった。
唯の一時的な、くだらない感情のせいで。
理性を失いかけていたとはいえ、相手が被虐者とはいえ。
擬似警官である自分が、銃で裁かずにナイフで殺害した。
体裁すら、保てなくなってきている。
白か黒かどっちつかずの位置をさ迷い続けてきたが、これではっきりした。
自分はもう、擬似警官ではいられない。
既に死肉を漁ってい時点で、本来は辞めるべきなのだが。
心が認めてはいないが、頭はしっかりと悟っている。
自分が銃を握ることは、もう赦されないのだと。
「っ・・・」
弱きを助け、強きをくじく。
それを身上としてきたのに、この様だ。
自身の不甲斐なさに、涙が滲んでくる。
この先どうすればいいのか。
目の前が真っ暗になり、立ちくらむ。
頭の中を無数の虫が暴れ回る中、ただ一人佇むような感覚。
悪が蔓延る世界で、己の正義を貫こうとしてきたのに。
虫達は、それを嘲笑うかのように蠢く。
絶望とはこういうことを言うのだろうか。
やはり、蝕まれる前に死んだ方が良かったかもしれない。
自暴自棄になりかけた時、ぽろろの事を思い出す。
(・・・そうだ)
自身の信念を貫き通すことは出来なくなったが、ぽろろがいる。
せめて、ぽろろ位は自分が護らなければ。
擬似警官としてやっていけなくとも、家族の為に頑張ればいい。
精神を蝕む病は自分の志を殺したが、ぽろろまでは殺せない筈。
そうと決めたら、早くこの渇きを抑えなければ。
目尻にうっすらと溜まった涙を拭い、こめかみを小突く。
それで軽く目を覚ましたら、足元の死体からナイフを引き抜いた。
「・・・」
柄も赤く汚れていたし、抜く時の感触もあった。
だが、不思議と刺した時よりも不快感はない。
開き直ったせいなのだろうか、どちらにせよ心への負担が少なくなった。
527
:
魔
:2008/04/27(日) 17:33:34 ID:???
「さて・・・」
残った課題は、ちびしぃだ。
今すぐここで解体し、赤いそれを飲み干したい。
が、やはり万が一の事を考え、家に持ち帰るべきだ。
辺りを見回すと、手頃な大きさの紙袋があった。
拾い上げ、穴が開いてないかどうかを確認する。
幸いにも触った感触からしてあまり古くなく、まだ使えそうだった。
とりあえずまだ寝ているちびしぃを抱え上げ、紙袋の中に入れる。
帰宅途中、今更かと言いたくなるように様々なAAが街を歩いていた。
紙袋があって本当によかったと、心底安心する。
同時にタイミングが良すぎた所に、少しだけ身震いした。
※
家に帰り着く頃には、また渇きが振り返していた。
アフォしぃを殺した時は、少しばかりおさまっていたのに。
ふと、嫌な想いが頭を過ぎったが、掘り下げないようにした。
これ以上悩みや何やらを増やしてしまっては、身体がもたない。
それに、何度も余計なことに振り回されては、事を成すことが出来なくなる。
「ただいま」
あえて小声で帰宅を告げる。
少し待ってみるが、返事を返す者はいない。
一応、家の中にぽろろの姿があるかを確認する。
と、居間のソファの上でタオルケットを被り、寝息をたてているぽろろがいた。
それを確認した後、作業を始める為台所へと向かう。
台所に入り、とりあえず紙袋をテーブルの上に置く。
次に袋の口をなるだけ音をたてないように開く。
そして、多少乱暴ではあるが、ちびしぃの首根っこを掴んで紙袋から取り出す。
「・・・」
まだ寝たままであるちびしぃ。
試しにゆさゆさと身体を軽く揺さ振ってみるが、何も反応がない。
まるで麻酔を打たれたかのように眠るちびしぃに、無駄な神経の図太さを感じる。
もしここがアフリカか何処かであれば、真っ先に餌になっていただろうに。
まあ、それだけよく眠っているということは、作業がよりしやすくなるだけなのだが。
そう思いながら、ウエストポーチに仕舞ったままのナイフを取り出す。
血を拭わずにそのまま仕舞っていたから、ナイフの鞘やポーチに血糊が少し付着している。
(ああ、後で洗わないと)
今はその場しのぎでナイフのみを洗う。
血糊が落ち、刃の上の雫が銀色に光る。
その刃で狙うのは、ちびしぃの頸動脈だ。
※
小柄なAAだと、臓器は勿論その容量も小さい。
わざわざ心臓を摘出していては、他の所から血が失われていく。
だから、ポンプである心臓を動かしたまま、別の所から血だけを抜き取る。
血の量は少ないが、一々解体する手間も省けて良い。
528
:
魔
:2008/04/27(日) 17:34:53 ID:???
「・・・」
だが、被虐者の血を呑むのは今回が始めてだ。
今までは虐殺厨の亡きがらを漁っていたから、生きたままというのも始めてである。
不安材料は多量にあるが、なりふり構っていられないのはとうの昔から。
それに、場合によってはこれを皮切りに新たな生活を始めても良い。
精神を苛まれながらの多少苦痛を伴う生活だが、付き合っていくしか他にないのだ。。
先ずは覚醒して暴れないようにする為、両手足をきつく縛る。
次にシンクの淵に、半身だけ乗り出させて寝かせる。
そして、首元にあわせて大きめのコップを置く。
簡易な下準備が出来、後はちびしぃから血を貰うだけ。
「〜〜〜ッ!」
途端、ナイフを持つ腕が震え出す。
ここに来て様々な感情が一気に爆発する。
躊躇い、戸惑い、外的刺激、体裁、理性、欲望。
もう後戻りなんて出来る筈がないのに、今更になって。
半ば暴走する腕に、頭で無理矢理命令する。
早く、このちびしぃから血を抜き取れと。
『ざくっ』
眼を強く閉じたまま、ナイフを動かしたらそんな音がした。
次いで、ぼたぼたと液体が撒かれる音。
恐る恐る眼を開けてみると、真っ先に赤が飛び込んだ。
ちびしぃの頸動脈は裂け、そこから溢れんばかりに血が流れ出ていく。
幾分か血がいろんな所に飛び散ったらしく、本人や自分の身体もそれなりに汚れていた。
その勢いの良さは非常にグロテスクであり、とてつもない不快感を覚える。
それから数秒位だろうか。
生臭さが鼻についた頃、ちびしぃに動きが。
「ハニャ・・・ッッ!?」
最初は虚ろだった眼を急に見開き、口を大きく開ける。
そこから悲鳴が漏れる前に、咄嗟にナイフをシンクに投げ捨ててちびしぃの口を塞ぐ。
流石に痛みを感じ取ったのだろうか、その覚醒は素早かった。
もし一手でも遅れていたら、凄まじい叫び声が辺りに響き渡るだろう。
一応押さえることはできたのだが、安堵するにはまだ早い。
「ムゥゥゥゥッ!」
両手足を縛られながらも、なお暴れようとするちびしぃ。
力は強くないものの、無駄な焦りのせいで上手く押さえ付けることができない。
少しばかりそれに苦戦するも、ふとある事に気付く。
眼を見開き、涙を流しながら身体で抗議している。
その潤んだエメラルドグリーンの瞳と、血が失われていき青ざめる顔。
様々な相反する要素が入り交じり、そういった意味でちびしぃはせわしない。
着実に死に向かいつつも、死に物狂いで抗う様。
少し前の自分なら、それに嫌悪を感じただろう。
弱者は、強者が守るべき者なのだから。
それなのに。
いや、それは間違いだ。
この街では、弱き者は強き者に弄ばれる。
汚染された精神が念うのは、吹っ切れかけた自分がちびしぃに感じるものは。
―――ほんの少しの、愉快さ。
529
:
魔
:2008/04/27(日) 17:35:46 ID:???
血の欲しさに闇雲に走ってきたさなか。
見出だしたくもなかった、新たな感覚。
力無く、それでいて必死に抵抗している様。
涙でどろどろに、痛みでくしゃくしゃになった愛くるしい顔。
ちびしぃの命を扱う権利を、今まさに己が所持しているということ。
征服感。
下半身が熱くなり、胸のあたりに何かが込み上げる。
未成年がタバコや酒の良さを知ってしまったような気分。
駄目だと頭では理解していても、身体や心が勝手に動く。
「ムグ・・・ゥ、ゥ」
ふと、気がつくとちびしぃは顔面蒼白となっていた。
シンクには夥しい量の血が流れていて、コップは真っ赤な塊のよう。
虐待の快楽に溺れるよりも、やはり渇きを癒す方が先。
ちびしぃももはや満身創痍だし、手を離しても問題ないだろう。
シンクに落ちない程度にちびしぃをずらし、両手足を縛ったまま、自由にさせてみる。
口を押さえていた掌にねっとりとした唾液がこびりついていたが、気にしないでおく。
「・・・っ」
ちびしぃの荒い呼吸を聞きながら、コップを持つ。
途端、先程の快楽は遥か彼方に吹き飛ぶ程の不快感。
特有の生臭さが飲まずとも鼻をつき、喉を塞ぐ。
飲まなければ、今だ残る問題を消化できないというのに。
どうしてか、虐殺厨のそれよりも酷い拒絶反応。
欲しかったのではないのか。と自分の身体に問いたくなる。
(クソッ!)
吐き気を催しながら、まどろみの世界に入り込む前に。
己に喝を入れ、一気にちびしぃの血を口の中に流し込んだ。
生臭さが体内を暴れ回り、中から外へ鼻を刺激する。
粘膜がやられてしまいそうな錯覚を覚える程の、強烈な臭い。
アンモニアのそれとは桁外れのような気さえしてしまう。
と、
「うっ!?」
遅れてやってきた、いつもどおりの凄まじい拒絶。
だが、今回は何故かその拒絶のレベルが異常だった。
口と鼻を掌で被っても、無理矢理外に出ようとする血液。
指と指の隙間から細く溢れていき、手を汚していく。
窒息しそうな位の力で必死に留めようとするが、上手くいかない。
まるで、胃そのものが存在しなかったように、逆流する。
堪え切れず、両手で口を塞ぐ。
持っていたコップは、一瞬宙に浮いてからすぐ床に叩き付けられ、音を立てて割れた。
(飲め! 飲み込めって!!)
頭の中ではそう叫んでいるが、身体が全くいうことを聞かない。
相反する思考がぶつかり合い、血の気が引いていく。
追い打ちで全身から嫌な汗が吹き出し、涙が滲んでくる。
苦しさに膝をつきながらも、顔は上を向ける。
少しでも、胃の中に入れてしまいたいからだ。
と、その体制が巧を奏したのか血が喉の奥に流れ込む。
チャンスを逃すわけにもいかず、そのまま躊躇せず一気に喉を鳴らした。
530
:
魔
:2008/04/27(日) 17:36:25 ID:???
「っ!! ぶは・・・」
血と涎でべとべとになった両手を顔から離し、息を大きく吐く。
前回よりも量は少ないが、なんとか渇きを癒すことができた。
だが、我に返って台所を見直すと、酷いものがある。
そこらじゅう血塗れだし、落としたコップが割れて破片が散乱している。
まるで殺人事件が起きたような惨状で、目を覆いたくなってしまう。
後始末が非常に面倒な事になり、溜め息をつく。
その時だった。
「うぶっ!?」
吐いた息に合わせるように、胃の中のものが逆流してくる。
迂闊だった。
何時もなら完全におさまるまで待っていたが、今回は自分のミスだ。
あまりにも酷い苦痛を感じ、それから抜け出した途端、つい気を緩めてしまった。
口を押さえようにも、もう遅い。
鉄砲水のように押し出される血と胃液は、鼻から口から物凄い勢いで流れ出る。
びしゃ、と汚い音を立て、汚れていた床を更に汚す。
「がっは!! ぅあ・・・!」
頭が割れそうな程の痛みを覚えつつ、何度も咳込んだ。
吐瀉物の上に胃液を撒き散らし、嘔吐はまだ止まらない。
苦痛は上塗りされ、今までとは比べものにならない程の渇きを覚える。
呻き声が喉から漏れ、首を絞めない程度に押さえ付ける。
(なぜ・・・!)
朦朧とする意識の中でも、死に物狂いで答を探してみる。
血を吐いたからなのか、或いは被虐者のものでは駄目なのか。
様々な謎が浮かび上がるも、答を告げる者はいない。
と、廊下の方で物音がした。
「・・・ウララーさん?」
ぽろろだった。
どうやら、コップの割れた音か何かに反応して起きたのだろう。
霞む視界の中にぽろろを見つけると、頭が揺れた。
渇きに苛まれていた身体が、すんなりと動く。
立ち上がり、シンクの中に落としたナイフを引っつかむ。
―――既に、目の前に居たぽろろはAAとして見えなかった。
自分専用の輸血パックか、または血の詰まった風船か。
ナイフを持ち、立ちくらみがした時にはぽろろの頸動脈は切れていた。
「ぎゃああっ!!?」
濁った悲鳴は、ぽろろの声。
間髪入れず頸動脈の裂け目にかじりつき、血を吸う。
桁外れの渇きを覚えているせいか、ぽろろの血は臭いと感じなかった。
「あああァ!! 痛い痛い痛い痛いぃっ!!」
何が起きたのか理解したらしく、ぽろろは抵抗し始める。
だが、子供に出来る事はせいぜい爪をたてて叫ぶだけ。
邪魔にはならないが欝陶しいので、片腕でぽろろの腕と身体を纏めて拘束する。
もう片方の腕はぽろろの頭を掴み、裂け目を拡げるよう傾けさせた。
喉を鳴らす度、癒されていく。
生臭い筈の血が胃におさまる程、気持ち良くなっていく。
ぽろろの叫び声が、なお抵抗する様が、面白くてたまらない。
脳味噌がとろけてしまいそうな程の快楽を感じる。
それをもっと感じたくて、ぽろろの頸動脈に歯を立て、拘束させている腕に力を込める。
ぽろろの腕から、バキバキと骨が砕ける音がした。
「あああああああああああああ!!!」
531
:
魔
:2008/04/27(日) 17:36:48 ID:???
※
ぽろろの一際大きな悲鳴を聞いた後、そこから意識はなかった。
気が付くと、血塗れになった台所と自分、そしてぽろろが形を崩して横たわっていた。
「あ・・・?」
首は裂け、腕は万力に押し潰されたかのようになっているぽろろを見て。
ようやっと、自分が何をしでかしたのかを理解する。
―――ぽろろを、殺してしまった。
まだ出合って間もない、幼いAAを自分の手で。
自我を失っていたとはいえ、信じたくない行為。
絶望感にうちひしかれながら、両手を床につける。
床の血溜まりには、赤く汚れた醜い自分の顔が写っていた。
青ざめながらも、眼は獣のように血走っている。
まるでVのような、化け物そのものの眼だった。
もはや、擬似警官だの何だのと悩む意味はない。
何の罪もないAAを殺し、いや、虐殺してしまったのだ。
こうなってしまうのなら、もう自殺するしかない。
渇きに翻弄され、己が新しい虐殺厨になる前に。
胸元を締め付けられるような不快感を堪え、上半身を持ち上げる。
次いで、血溜まりに落ちていたナイフを拾い上げ、自分の首に宛がう。
「ぽろろ・・・」
すまない。と謝りたかったのだが、言葉にならなかった。
ナイフを握る手に力を込め、歯を食いしばる。
その時だった。
「・・・どう、しました?」
ぽろろの亡きがらが、そう喋ったのだ。
いや、それどころか動いている。
ゾンビのようにぎこちなく、ぽろろはこちらを向いて立ち上がった。
「!?」
衝撃的な出来事に、思わず驚いて後退る。
ぽろろの首元はざっくりと切れていて、腕はぷらぷらと垂れ下がっている。
ほぼ全身真っ赤になり、誰がどう見ても死んだと思う筈なのに。
生きている。
こちらを見て、笑っている。
「あ・・・う・・・」
悍ましさに、言葉が出てこない。
呼吸が乱れ、思考が鈍る。
混乱する自分を無視し、ぽろろは首を傾げる。
「どうして、怯えてるんです?」
ぽろろがそう言ってくるのと同時、ぽろろの身体に異変が起きた。
首元の傷が真っ青な泡に包まれ、ぶくぶくと異様な音をたてる。
それが萎み、無くなった時には傷も一緒に消えていた。
続いて、腕にも青い泡が発生し、同じように元通りに。
それを見た時には、恐怖はどこかに吹き飛んでいた。
寧ろ、呆気に取られてしまっていた。
「ど、どうなっているんだ? その身体は・・・」
「え? ああ。そういえば、説明していませんでしたね」
532
:
魔
:2008/04/27(日) 17:37:50 ID:???
※
Vのいた、あの研究所出身ということを、やはり疑問に思うべきだった。
先に聞いておけば、無駄に驚く必要もなかっただろう。
ぽろろ曰く、自分は『究極の被虐者』を目指す為に生まれたとのこと。
ちびギコのような外見を持ち、脆さもそれに近い。
被虐者との明確な違いは、凄まじい自己再生能力を持っているとか。
たった一人の被虐者だけで、一生分の虐殺ができる。
子供の妄想じみた理論を、そのまま体言したのがぽろろ。
あまりにも現実離れしている話だが、疲弊した精神では否定する余裕はない。
まあ、Vという前例もあるし、受け入れない要素なんてないのだが。
しかし、
「虐待され続けるのは、流石にきついんじゃあ・・・」
虐待専用として生まれたAAとはいえ、誰しも傷つくのは嫌な筈。
身体は無事だとしても、心は堪えられるのだろうか。
そう心配したのだが、ぽろろの返答はこうだった。
「確かに虐待されるのは苦痛だけど、されないと僕が存在する理由が無くなるから」
自虐なんてものはなく、すっきりとした笑顔でそう言った。
そこに、ぽろろの強さをはっきりと感じた。
これ以上心配しては、余計なお世話になってしまうだろう。
とりあえず、ぽろろは死んではいない。
今はそのことに安堵しておこう。
「でも・・・」
「?」
「血を飲むって虐待は、ウララーさんが初めてしてくれましたよ」
不意をつかれた一言。
少しの間の後、互いに笑いあった。
同時に、恥ずかしさが込み上げてもきたが。
打ち明けるべきだろう。
ぽろろは自分の身体の秘密を教えてくれたのに、こちらも話さないと不公平だ。
だが、その秘密に良い情報なんてどこにもない。
長く息を吐いて、意を決する。
嫌われた時は、その時だ。
「実はな・・・」
全てを話した。
己を苛む渇き、血を飲むとおさまる事、飲まないと気狂いになる事。
何もかもを包み隠さず、正直に話した。
「・・・」
沈黙。
ぽろろは何かを考えてるようだが、静寂が耳に痛い。
やはり、精神におかしなものを抱えた者とは、一緒にいたくないのだろう。
諦めかけたその時、ぽろろが口を開いた。
「つまり、こういうことですよね」
「えっ?」
「ウララーさんが僕にご飯とふとんをくれるかわりに、僕がウララーさんに血をあげると」
「・・・」
無垢な表情をしながらの発言。
つい堪えきれず、吹き出してしまった。
笑う自分につられて、ぽろろもくすくすと笑う。
他人から見れば、頭のおかしい者同士の会話だと思うだろう。
しかし、自分にとってそれは、ぽろろなりの優しさが凄く身に染みた。
笑みと共に涙が溢れてきたが、掌で目元を被って適当にごまかした。
533
:
魔
:2008/04/27(日) 17:38:13 ID:???
ひとしきり笑いあった後、台所を見直す。
「さて、後片付けしないとな」
ちびしぃとぽろろの血、割れたコップの破片が辺り一面に散らばっている。
飛び散った血糊は、台所にあるものほぼ全てに付着していた。
芸術と例えて現実逃避したくなる程凄まじい惨状だったが、放置しておくわけにはいかない。
切羽詰まっていたとはいえ、面倒なことをしてしまったなと思った。
『ぐぅぅ』
不意に、ぽろろの腹から何かを訴える声。
顔を赤らめ腹をおさえるぽろろに、愛くるしさを覚える。
「・・・そういえば寝起きだったんだよな。何を食べたい?」
「え、えっと・・・」
辺りを見回して、ぽろろはある所を指差す。
指した方向を見てみると、そこにはちびしぃの死体。
初めて会った時にも、しぃを食べていたぽろろ。
やはり、食べ慣れたものがいいのだろうか。
立ち上がり、ちびしぃの形をした肉塊を渡すと、嬉しそうに食べ始めた。
「おいしいか?」
「うん」
ちびしぃを食べている、という事に不快感はなかった。
寧ろ、血で顔を汚しながらももくもくと食べる様が可愛くて。
台所を掃除する前に、先にぽろろの食事姿を眺めることにした。
※
一日を一言で現すなら、突然。
予想だにしない出来事が沢山、津波のように起こっていった。
悪い事だらけだったが、良い事も少なからずあった。
なにより、ぽろろとの関係が終わらなかった事が幸いだった。
失ったものは、多過ぎた。
だが、新たに得たものもある。
もう後戻りはできないが、前にはしっかりと道は続いている。
これから、その道をぽろろと一緒に歩んでいけばいい。
奇妙な関係だが、これから。
ずっと―――。
続く
534
:
ロディウェイ
:2008/05/03(土) 16:19:50 ID:fymts1Is
>>523
続きいきます。
『残酷サイボーグ シーン』
ローラーダッシュで町に行く間、説明書をもう一度見た。
僕の血液は特殊AA液で三ヶ月間、補給なしで活動でき、補給は水分なら何でも良いとのことだ
人口筋肉は凝縮機能で力加減が出来るとのことだった。
そして、マターリシティを休まず目指した。
「そうだったのか、なかなか面白い話だったよ。・・・そうだ!
良かったら私の家に住まないか?わからない事は、出来る限り教えるよ。」
モラソールは、そう誘ってきた。確かにまだわからない事が沢山あるからその言葉に甘えることにした。
「わかりました。お言葉に甘えてお世話になります。これからよろしくお願いします。」
そして僕とモラソールは握手を交わした。
ACT4「店番」
3日後、僕はモラソールの店で武器の整備などを手伝っていた。PA8:24
突然、電話(モラソールから教えてもらった)のベルが響き、モラソールが受話器を取った。
「あ、もしもし・・はい、はい、わかりました。すぐに行きます、では。」
と電話をきって出かける準備をした。僕は気になるので聞いてみた。
「モラソールさん、これからどこ行くんです?」
「ああ、急用が出来たからこれから出かけるよ。あ、
ついでに店の入り口の水撒きをしておいてくれ、じゃあ行ってくるよ。」
そう言ってモラソールは出かけた。僕は言われた通りにホースで水撒きをした。
水撒きが終わったのでしばらく休んでいると、右の道からベビオニーニ3匹がきた。
「ワチーワチー」「ワチョ?」「ワチー!」
どうやら道に迷ってここに来たようだ。
ベビオニは、僕を無視して店の入り口に向かおうとしていた。
店で糞尿をされては大変だ。僕はホースがある所にあったバケツをもってベビオニに近づいた。
「ワチワチ?」「ワッチョー」「ワチ?ワッチョー!」
と高い声で僕に近づいてきた。僕は一匹づつバケツに入れ、
ボースをバケツに向けた。
「ワチワチ?」「ワッチョー」「ワチョ?」
と状況を把握してなかった。そして僕は蛇口を全開にして水を流した。
535
:
ロディウェイ
:2008/05/03(土) 16:42:19 ID:fymts1Is
ベビオニーニは、三匹そろって「ワチョー!!」と言い残しおかゆになった。
そこに今度はベビオニの親のオニーニが来た。
「ベビチャーーン!!ドコニイルワチョー!!」
そう叫んでいた。が、僕に気付いて接近し、質問してきた。
「ボ、ボクノベビチャンシラナイワチョ?!」
「いいえ、知りませんが?」
僕はそう答えた。だが、
「ワチョ?アノバケツニナニカハイッテルワチョ?!」
親オニーニはそういってバケツに近づこうとしたが、僕はそのオニーニを反対側に投げて、
ホースで手足を溶かした。
「ワチョーーーー!!イキナリナニスルウ、ン゛ブムムムムム」
僕は口を抑え、海苔を剥がした。
「クハ!、ワ、ワチョーー!!ノリカエシテーーーー!!」
そう叫んだが、僕は海苔を四枚に破った。
「アアーーーー!ノリガ、ノリガーーーー!!」
そう叫びながら涙と鼻水をたらしていた。
それから間入れずに肛門に手を入れて大腸を取り出した。
「アッガガイギュウーー!!オナカガヘンワチョーー!!」
親オニーニは苦しそうにもがいていた。
そして親オニーニをつかんでバケツの真上に上げた。
僕はこう言った。
「あなたの子供は地獄かバケツの中だと思います。」
そう言って親オニをバケツに落とした。
しばらくしてから、モラソールが戻ってきた。
「ただいまー、お仕事ご苦労さん。今日はもう休んでていいよ。
後は私がやっておくから。」
モラソールは机に向かい、カバンから何かのファイルを入れた。
特に気になるようじゃないので僕は、ソファーに寝っころがった。
続く
536
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:23:51 ID:???
前編の際にコメントを下さった方々と、読んで下さった方々全てに感謝を込めて。
【流石兄妹の華麗なる休日〜百ベビ組手〜 後編】
「それにしても」
場所は、やはり競技場ゲート前。ひとしきり弟者の労を労った後、兄者が再び口を開いた。
「最後のグランドフィナーレは、凄まじかったよな・・・」
「ああ、全くだ」
「本当に凄かったのじゃ」
弟者と妹者も兄者に賛同する。
「最後に何かあるとは思っていたが、まさかあんな展開とはな・・・」
「うむ・・・」
そこで、3人はもう一度、閉会式を回想してみる事にした。
「―――特別審査賞は・・・挑戦者NO.09!料理人モナー選手です!!」
司会者の1人、ガナーが最後の入賞者を発表した。
いかにもコックといった姿のモナーが出てきて、もう1人の司会者、モララーから賞状を受け取る。
そして、そのまま4位入賞の弟者の横に並んだ。
表彰台の頂点にはトロフィーを掲げたつーが君臨している。その左隣、2位の席には銀色に輝くメダルを首から下げたおにぎりの姿が。彼は地元でも有名な虐殺者だ。
つーの右隣、3位の場所にいたのは、最初に虐殺を行ったラグビー少年のフサギコだった。やや緊張した面持ちで、ブロンズで出来たメダルを撫でている。
なお、5位に入ったのは自衛隊所属の丸耳ギコだった。彼の顔からは『何とか入れて良かった』という安堵感が滲み出ている。自衛隊の仲間と賭けでもしていたのだろうか。
全ての賞を発表し終えた司会者2人は、再びマイクを構え直した。
「以上で、結果発表を終わります!」
「入賞した方々と、惜しくも入賞を逃した選手の皆様にも、どうか暖かい拍手を!」
パチパチパチパチパチパチパチパチ!!
客席から大きな拍手が聞こえて来た。
拍手が大方止んだ所で、モララーが口を開く。
「それでは、このままグランドフィナーレへと移行させて頂きま〜す!」
その瞬間、観客席から凄まじいほどの大歓声が聞こえて来た。どうやら、相当楽しみにしていたようだ。
弟者が驚きながら周りを見渡すと、出場者達が全員、体をほぐしたり、武器を取り出したりと、何やら準備を行っている。
彼は慌てて、既に表彰台から降りているつーをせっついた。
「なあ、今から何をするんだ?何も聞いてないんだが・・・」
「アヒャ?アア、弟者ハ飛ビ入リダカラ知ラナイノカ。
・・・マア、見テロッテ。スグニワカルサ」
「・・・?」
弟者が変わらず首を傾げていた、まさにその時。
『あの』声が、スタンドに響き渡った。
「シィィィィィィィィ!ハナシナサイヨ、ギャクサツチュウ!」
537
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:24:21 ID:???
骨髄まで到達しそうなほど不快感がびりびりと響く甲高い声。
スタンド中の視線が、フィールドへの入場口へと注がれる。
そこには、競技中に特別席で我が子の死に様をじっくりと観察させられた親しぃ達の姿があった。
その数、弟者から見えてるだけでも100匹以上。実際は倍以上いるだろう。それだけの数のアフォしぃが、
「ハニャーン!ハニャーン!ハナシテヨゥ!」
「シィノベビチャンヲ カエシテヨゥ!」
「シィチャンニ ナニカシタラ マターリノカミサ(ry」
「ダッコダッコォォォォォォ!!」
―――などと喚き散らしているのだから、五月蝿い事この上無い。
出場者達が、一様にニヤリと笑みを浮かべる。その瞬間、弟者は全てを理解した。
「・・・ナ?モウワカッタダロ?」
「ああ、よ〜くわかったよ」
弟者は言いながら、レンタルテーブルから先刻使用した小剣とハンドガンを引っ掴んだ。
「皆様、準備はよろしいでしょうか?」
ガナーの問いに、出場者達は『オーッ!』と一斉に返す。
ニヤニヤ顔のモララーが、一歩前に出た。
「それでは・・・グランドフィナーレ・開始っ!!
思う存分殺りまくれェェェェェェェェェェェッ!!」
モララーの叫びと同時に、司会者2人がバックステップで司会席に戻る。
そして出場者達は、既にフィールド中央付近まで歩いて来ていた親しぃ達に、一斉に飛び掛った。
「ハニャッ!!?」
一番先頭に居た親しぃの短い叫び。それが、彼女の最期の言葉となった。
「アーッヒャッヒャッヒャ!!」
いの一番に飛び出したつーの放ったナイフが、その心臓を正確に抉ったからだ。
グシャッ!!
「ギャッ・・・」
そのまま親しぃはばったりと倒れ、もう動かなくなった。
「シィィィィィィ!?ギャクサツチュウダヨー!!」
「タスケテェェェェェェ!!」
「ベビチャンヲ カエシテェェェェ!」
「ハニャーン!ハニャーン!!」
「ハヤクシィチャンヲ ダッコシナサイヨ!」
怖がって逃げ出すしぃも居れば、今の一撃が見えなかったのか、横柄な態度を取るしぃも居る。
しかし、相手の事など関係なかった。どっちにしろ、殺すのだから。
「よし・・・つーに続くか・・・」
パァン!
弟者の狙い澄ました射撃が、ダッコを要求していた親しぃの眉間にぽっかりと風穴を穿たった。
「ダゴォォォ!?」
頭から血を噴きながら、しぃがその場に倒れ伏す。
それによって、その場に居た親しぃ達の殆どが状況を理解したようだ。
「ハニャァァァァァン!タスケテェェェ!!」
「ダッコスルカラ・・・ネ?マターリシヨ♪」
「コウビモシテアゲルカラ・・・」
「シィチャンヲ コロシタラ マタ(ry」
次々とお決まりの台詞を吐いていく―――全てが無駄だとも知らずに。
その瞬間、20人の選手達は、一斉に『虐殺者』の牙を剥いた。
「シィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!?」
538
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:24:43 ID:???
それはまさに地獄絵図だった。
際限なく飛び散る鮮血が、まるで雨のように大地を濡らす。
血だけじゃない。腕が。足が。耳が。上半身が。下半身が。首が。肉片が。
ありとあらゆる親しぃ達のパーツが、フィールドをデコレーションしていった。
出場者20人全員が全員、それぞれ違った方法で親しぃ達を次々と屠っていく。
例えば―――
グチャッ!グチャッ!!
「ハギィィィィィ!!ヤベテェェェェェ!!」
スパイクシューズを履いた足で、何度も何度も親しぃの腹を踏み潰すフサギコ。
しぃの腹部からは血が溢れ、見ても分かるくらいにブヨブヨと柔らかくなっている。内臓にも影響が出ているようだ。
ジュゥゥゥゥゥゥ!
「ア゙・・・ギャァァ・・・ギ・・・」
親しぃの腹部を切り裂いて腸を引きずり出し、その体と繋がったままの腸のみを油で揚げている料理人モナー。
体の内部にある筈の物をを高熱に晒す苦痛は想像し難い程だ。凄まじいという事はわかるが。
ブシュゥゥゥゥゥゥゥ・・・
「ジギャァァァァァァァァ!!イダイヨォォォォォ!!タスケテェェェェェ!!」
ドラム缶くらいの大きさの巨大ビーカーになみなみと濃硫酸を入れ、その中に親しぃを放り込んだ科学者じぃ。
もうもうと煙が立ち上り、水面には気泡を発する肉片がいくつも浮いている。親しぃ本体は、既に筋肉組織が露出して、それも半解している為かなりグロテスク。
ブリュリュリュリュ!!
「シィィィィィィ!!オシリガ イタイヨォォォォォォ!!」
ここでも自慢の唐辛子ペーストを使用して、親しぃをジェット機にして見せたニダー。
親しぃの脱肛した肛門からは津波の如く糞が噴出している。数秒後、その親しぃは猛スピードで壁に激突して潰れた。
ダッダッダッダッダッダ!!
「アギュゥゥゥゥゥ!!ハギャァァァァァ!!」
手にしたマシンガンで、しぃの体のパーツを1つずつ蜂の巣へと変えていく自衛隊丸耳ギコ。
両腕と片足は、すでにマトモな皮膚が弾痕に隠れて見えない。
ドグシャッ!
「ハギッ・・・」
両手持ちの大きなハンマーで、親しぃの頭部を一撃で砕いた銀メダリスト・おにぎり。
横薙ぎに振るわれた大槌は、しぃの頭をまるで力を入れすぎた西瓜割りのように粉々に吹き飛ばした。
「アーッヒャッヒャッヒャッヒャァァァァァ!!」
ザシュッ!グシャッ!!ブシャッ!!
「ギニャァァァァァァァァァ!!シィチャンノ カワイイ アンヨガァァァァァァァァァ!!」
若き覇者・つーは親しぃの足をつま先から千切りにしていく。
肉片が積み重なるたび、親しぃの悲鳴も増量していく。
スパァッ!ブッシャァァァァァァァ・・・
「ジィッ!・・・ア・・・シィィィィ・・・」
弟者は、持っていた剣で親しぃの頚動脈を見事に切り裂いた。鮮血が噴水の如く噴き出す。
さらに彼は、血を噴くしぃを抱えると、別の親しぃに向かってその大量の血を浴びせかけた。
「ハニャァァァァァァァァ!?ヤメテェェェェェェェェ!!キモチワルイヨォォォォォ!!」
悲鳴を上げるしぃ。あっという間に彼女の全身は真っ赤に染まった。
その他、選手達は多種多様な方法で親しぃ達を次々と我が子の元へと送ってゆく。
そう考えれば、それはある意味慈悲なのかもしれなかった―――送られる先が、多分地獄であるという事を除けば。
539
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:25:02 ID:???
数百匹居た筈の親しぃ達は、僅か5分程度で肉塊の山と化した。
フィールドは大量の肉片とおびただしい量の血液、そしてどぎつい異臭に覆われていた。
かなり劣悪な環境だったが、選手、観客共に大満足の表情だった。
「それでは、これで『百ベビ組手大会』を終了と致します!」
「選手の皆様も、観客の皆様も、本日はありがとうございました!
また来年、このフィールドでお会いしましょう!!」
司会の2人が締めの言葉を発し、大会は閉幕となった。
閉会宣言の後も、暫くの間、盛大な拍手が絶えなかった。
―――以上、回想終わり。
暫くの間黙っていた3人だが、弟者が不意に口を開いた。
「・・・うん。やはり凄かったな」
「ああ」
兄者が答えた。とにかく凄かった―――それが3人の感想だった。まあ、的確といえば的確か。
ふぅ、と息をついてから、兄者が再び口を開く。
「・・・ま、なんだ。とりあえず何か食べに行くか」
言いながら、彼は時計を覗き込んだ。既に12時を回っている。
妹者が腹部を押さえながら呟いた。
「そういえばお腹空いたのじゃ・・・」
「そうだな・・・そうするか」
弟者も賛同した。実際、あれだけ運動すれば腹も減るというものだ。
兄者が先頭に立って歩き出そうとしたその時、後ろから声が掛かった。
「ヨウ!3人揃ッテナニシテンダヨ?」
振り返るまでもなく、3人にはその正体が分かった。この高い声、間違いない。
「おっ・・・チャンピオンのお出ましだな」
弟者が言いながら振り返ると、そこには顔を真っ赤にして恥らった様子のつーの姿が。
「ダ、ダカラソウヤッテ呼ブナヨ・・・恥ズカシイッテノ・・・」
「つーちゃん、おめでとうなのじゃ!」
妹者からの賞賛に、まだ顔を赤らめながらもつーが答える。
「アア、アリガトナ。弟者モ、初メテニシテハヤルジャネーカ。
コレナラ、ゴキブリノ刑ハ勘弁シテヤルカ」
後半は弟者に向けられたものだ。
弟者は、頭を掻きながら苦笑。
「ははは・・・それは良かったよ。
それより、つーはこれから何か用事でも?」
つーは即答した。
「イイヤ。暇デショウガナカッタトコロダゼ」
じゃあ、と兄者が言った。
「これから俺達は昼食なんだが、つーも一緒にどうだ。
優勝記念だ、奢ってやるぞ?」
つーは、顔をぱっと輝かせた。
「ホントカ?ジャア、オ言葉ニ甘エヨウカナ」
「じゃ、行きますか、と」
返事を聞き届けた兄者が、踵を返して歩き出した。
弟者、妹者、つーの3人は、慌ててその後についていった。
540
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:25:20 ID:???
「・・・おい・・・」
兄者が苦悶の表情をしながら言った。弟者は呆れ顔、妹者は驚愕の表情を浮かべている。
「アヒャ。ナンダ?」
つーがご機嫌な様子で答える。
「・・・俺は、確かに昼食を奢ると言った」
「アア、言ッテタヨナ。アリガタク、ゴ好意ニ甘エテルゼ」
そこで兄者は、ふぅぅぅぅぅぅ、と長い長いため息をついた。
「だがな・・・」
一度言葉を切り、彼はそのまま続けた。
「―――食べ放題だなんて、一言も言ってないんだぞ・・・」
言い切ってから、彼は頭を抱えてしまった。
つーの目の前には、大量の空になった皿やら器が積み重ねられている。軽く二桁。
恐らく、これだけで状況を大体理解して頂けたと思う。
場所は、流石兄妹が来たときに休憩に使ったレストハウス。4人はここへ昼食を取りに来たというわけだ。
兄者、弟者、妹者は、それぞれ1品ずつ。弟者は少し多めに頼んでいたようだが、まあ普通だろう。
―――だが。つーの注文量は尋常では無かった。
何せ、注文を店員に伝える時の言葉が、
「メニューノ端カラ、全部1ツズツ!」
だったから。兄者だけでなく、弟者に妹者もこれにはぶったまげた。
自分たちよりも明らかに背格好の小さい(妹者は別だが)少女が、これだけの量を注文するなんて。
そして、彼女は店員が困惑の表情で運んできた料理の数々を全て平らげてしまった。
これだけの量だ、金額も相当なものになる筈だ。兄者は、己の軽率な発言を深く深く後悔した。
彼にとって不幸中の幸いと言えるのは、ここのメニューの数があまり多くなかった事か。
兄者が、げんなりした様子で財布を覗き込む。
足りるかどうか―――弟者も少し不安になった。いざとなれば、自分も資金援助をしなければならないかも知れない。
で、当の本人はというと―――ご満悦の表情で腹を撫でている。その顔に罪の意識は無く、兄者は怒る気にもなれなかった。彼女は天然だ。
―――5分後。外で待つ3人の元へ、何だか少しやつれた様子の兄者が戻ってきた。店員がついて来てない様子を見ると、資金はどうやら足りたようだ。
「アヒャ?兄者、ドウシタ。調子悪イノカ?」
兄者がげんなりしている様子を見たつーが、心配そうに声を掛ける。その声に悪意は感じられず、自分自身がその原因だという事にどうやら気付いていない。
彼女は、やはり天然だ。
「い・・・いや、大丈夫だ。気にしないでくれ」
兄者が片手を上げて答えた。とても大丈夫には見えないが、とりあえずこの後も広場を見て回る元気は何とかありそうだった。
弟者はそう判断し、すたすたと歩き出した。その後を元気に妹者とつーが、よれよれと兄者がついてくる。
「さて・・・次はどこへ行くかな」
少し歩いた後、弟者がそう呟いて辺りを見渡した。その時、不意に妹者がある方向を指差した。
「ちっちゃい兄者。あれは何なのじゃ?」
3人が一斉に、妹者の指差した方向へ視線を持っていく。
その方向には、何やらでっかいガラス製の水槽のような物があり、中には透明な液体がたっぷりと入っている。
その手前には何やら大きな箱が置いてあり、傍らには白衣姿の女性が1人立っていた。
弟者は、その人物に見覚えがあった。
「あ。あれは・・・」
「『百ベビ組手』ニ出テタヨナ、アノ人」
つーも気付いたようだ。
そこに居たのは、『百ベビ組手』にも出場していた、科学者のじぃだった。
「何か店でもやってるのか・・・?」
何だか気になった4人は、彼女の元へと歩いていった。
541
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:25:38 ID:???
4人がその場所へ歩み寄ると、それに気付いたじぃが彼等の方を向いた。
「いらっしゃい・・・あら」
どうやら彼女も覚えていたらしい。まあ、片方は優勝者だから当たり前かも知れないが。
「さっきはどうも。2人とも、凄かったわよ」
ニコリと笑ってじぃが言った。弟者が一礼してから、口を開く。
「いやいや・・・貴方の方も、硫酸を使用しての『見せる』虐殺、見事でしたよ」
それを聞いたじぃは『ありがとう』と答える。
彼女は競技の時も白衣姿だった。歳は―――二十歳前後か。
その後聞いた話によれば、彼女は近くの研究所で働いているらしく、薬品の扱いにかなり長けているようだ。薬剤師の免許も持ってるとか。
暫く会話を楽しんだ後、弟者が訊いた。
「ところで、ここで何をしてらっしゃるのですか?」
質問を受けたじぃは、背後の巨大水槽を指差しながら答える。
「ちょっとした商売ね。簡単に言えば、景品つきくじ引きかしら。
あの水槽も商売道具。ところで、あの中身・・・何が入ってるか、わかる?」
4人は少しの間シンキング・タイム。数秒の後、つーがおもむろに口を開いた。
「ヒョットシテ・・・アレモ硫酸?」
それを聞いたじぃは、パチンと指を鳴らして『ピンポーン!正解!』と言い放った。
そこで兄者が、ポンと手を打った。
「なるほど・・・大体読めたぞ」
「あら、お兄さんはわかっちゃったようね」
微笑を浮かべながら、じぃが言った。
ここで、じゃあ、と切り出したのはまたも弟者。
「その箱は一体・・・?」
弟者が言ったのは、水槽の傍らに置かれている大きなダンボール箱の事だ。蓋が閉じていて、中身は見えない。
そこで兄者が、ハイ、と手を上げた。
「弟者よ、俺が答えよう。間違ってたらスマン。
その中身は恐らく―――」
兄者は一旦そこで言葉を切った。そして、そのまま続ける。
「―――ベビしぃ、ですね?」
「ご名答!!」
じぃが言いながら、ダンボールを開けた。それと同時に、箱からひょっこりと数匹のベビしぃが顔を出した。
そして、身をこっちに乗り出しながら、両手を突き出して、
「ナッコ♪」
お決まりの台詞。見れば、箱の中には数十匹のベビしぃが詰まっている。
口々にチィチィ、ナッコ、コウピ、と鳴いている。百ベビ組手を髣髴とさせる光景だった。
よく見ると、ベビしぃの背中にはそれぞれ番号が書かれている。
「ベビしぃに硫酸、そしてくじ引き・・・ああ、そういう事か!」
弟者もどうやら答えを見つけたようだ。
「ところで、幾ら?」
兄者が訊くと、じぃはピースサインを作りながら笑顔で言った。
「一回200円!・・・と言いたいところだけど。
せっかくだから、半額におまけしちゃう。貴方達だけよ?」
ここまで言われては引くしかあるまい。4人は、彼女の好意に甘える事とした。
542
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:25:55 ID:???
4人で合わせて400円をじぃに手渡すと、彼女は小さめのホワイトボードを取り出した。
そこにはマス目が書かれており、端から順に番号が振られている。所々の番号の所に、マグネットが張られている。
「じゃあ、お好きな番号をどうぞ♪」
4人は少しだけ考えてから、それぞれ番号を決定した。
「う〜ん・・・16番」
「じゃあ、5番で」
「12番デ」
「25番なのじゃ!」
じぃは『了解!』と呟いてから、4人のコールした番号の所にマグネットを張り、それから箱を再び開ける。
中からチィチィと聞こえて来る箱に手を突っ込み、それを出した時には、彼女の手に1匹のベビしぃが。背中には『16』と書かれている。
「アニャーン ナッコチテ♪」
じぃの手に掴まれながら、ベビしぃが言った。
箱を閉じてから、彼女が再び何かを取り出す。今度はパネル。
そこには、簡単なイラストと一緒に賞の内容が書かれていた。
それによると、灰色の玉がハズレ、緑が5等、紫が4等、青が3等、黄色が2等、赤が1等。
景品が何なのかは書かれていない。当たってからのお楽しみ、という事だろう。
「でも、その玉とベビしぃと、一体何の関係があるのじゃ?」
妹者が首を傾げた。
兄者は、「見てればわかるよ」とだけ言い、じぃの次の行動を待つ。
彼女はその手にベビしぃを掴んだまま、硫酸入り巨大水槽の前に立った。
そして、ベビしぃを両手で持ち直す。
「ハナーン・・・ナッコデチュ・・・」
ベビしぃがうっとりと呟いた。まさに、嵐の前の静けさ。
じぃが、まるでバスケットボールをシュートするようにして、ベビしぃを掴んだ両手を顔の前へ持っていく。
そして彼女は、膝を軽く曲げ、十分反動を付けてから―――
ヒュッ!
―――ベビしぃを投げた。水槽の中へ向かって。
「アニャーン!」
投げられたベビしぃは弧を描き、ある程度上昇した後、一直線に水槽の中―――硫酸プールへ落ちていく。
ドボーーン!!
ベビしぃが強酸性の飛沫を上げながら、透明な液体の中へ飛び込んだ。次の瞬間。
ブッシャァァァァァァ!!
もうもうと上がる煙。そして、
「ヂュギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!??」
即座に聞こえて来る、ベビしぃのあまりに悲痛な叫び。
543
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:26:17 ID:???
「おお〜っ・・・」
弟者が感嘆とした様子で呟いた。
今まさに、水槽の中ではベビしぃが強力な酸によって溶かされている。
既に全身の毛皮は完全に溶解して消滅、もがいている為に酸に浸かったり浸からなかったり、の上半身はまだ見られるが、
ずっと浸かりっぱなしの下半身は表皮のみならず真皮まで溶解を始めている。筋肉組織がまる見え、ああグロテスク。
「マンマァァァァァァァァァ!!ダヂュケテェェェェェェェ!!!!ナゴナゴォォォォォォォ!!!」
ベビ自身から噴出した血液で少しだけ赤く染まった水槽内の硫酸。
バチャバチャともがくベビの周りには、既に体から離れてしまった肉片がプカプカと浮き、それすらも煙を上げて溶けている。
見れば、ベビしぃの足は既に肉が消滅して白い骨がまる見え、そして溶解を始めている。
ベビしぃは一刻も早くこの生き地獄から逃れようと、硫酸に塗れた手で水槽の壁面を引っかくが、半溶解した手でツルツルしたガラスを登る事など到底不可能。
「ナゴォォォォォ!!ナッゴォォォォォォォォォ!!!!ヂィィィィィィィィ!!!」
ベビしぃの足は既に消滅していた。付け根が辛うじて残っている程度だ。
やがて、ベビしぃの下半身から紐状の何かが出てきた。
よく見るとそれは、下半身が溶解したために体外へと零れ出てきた腸だった。
全身を強酸で焼かれるという激痛に、更に内臓を溶かされる苦痛が追加。さあ大変。
「ナ、ナ、ナ、ナッギュォォォ・・・アギィィィ・・・ヂ・・・」
あれほど五月蝿かったベビしぃがやけに静かになり始めた。命の灯火もそろそろ消える頃か。
はみ出していた腸も既に溶解し、腕の骨も露出し、顔に至っては口の形が完全に崩壊し、眼球は片方が潰れて目漿が流れ出している。
ベビしぃが再び叫びを発しようとして崩れた口を抉じ開けた瞬間、歯が何本もぼろぼろと落下した。歯茎が溶けているらしい。
「・・・うぅ〜・・・」
妹者が口元を押さえて、水槽から顔を背けた。11歳の少女にこの光景は流石にショッキング過ぎた様だ。
兄者はよしよし、と妹者の頭を撫でてやってから、水槽の中で確実に消え行くあまりに矮小な命を見つめた。
「ギャ・・・ヴィィィィ・・・ビャ・・・ヂ・・・」
どろどろに溶けた口では、まともに発音する事も出来やしない。
開いた口から硫酸が喉へ流れ込み、声帯までも潰されたらしいベビしぃは、
「・・・ガァ・・・」
と呟いたのを最後に、喋らなくなった。
それと同時に、パタパタと動いていた腕もその動きを停止し―――ベビしぃはついに、抗う事を止めた。
口がパクパクと動いている事からまだ生きているようだが、最早その体はただ溶かされるのを待つだけ。
ベビしぃの全身を気泡と煙が包み込み、『ジュワァァァァァ』という音が一層激しくなって、やがて―――
シュゥゥゥ・・・
ベビしぃは完全に『消滅』してしまった。骨の一欠片も残さずに。
―――否。ベビしぃのいなくなった水面に、何かが浮かんでいる。
それは、5等に当選した事を示す、緑色のガラス玉だった。
544
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:26:34 ID:???
兄者に『もう大丈夫だぞ』と声を掛けられた妹者を含めた4人は、暫くの間水槽を見つめていたが、
「は〜い、おめでとう。5等当選ね」
パチパチと手を叩きながらじぃが言ったので、そっちを振り向いた。
「5等の景品は―――はい。モナ・コーラ2リットル3本よ。
あんまり揺らさないように持って帰ってね」
そう言って、彼女は兄者に大きなペットボトルが3本入った袋を渡した。
兄者は軽くお辞儀をしながらその袋を受け取る。そこでじぃは、再び箱に手を突っ込んだ。
そして彼女は、一度に3匹のベビしぃを掴み出した。それぞれ背中には「5」「12」「25」と書かれている。
「ナッコ!ナッコ!」
「チィヲハヤク ナッコシナチャイ!」
「ナッコチテ チィタチニ チュクシナチャイ!コノ カトウセイブチュドモ!」
口々に喚くベビしぃ達。つーはその言動に早速キレかかっているらしく、ナイフを取り出そうとして弟者に止められた。
「まぁまぁ」と苦笑しながらつーを宥めつつ、じぃがベビしぃを掴んだ手を軽く振った。
「どうせすぐにGo to hellなんだから、少しくらい言わせてあげたっていいじゃない」
そして、水槽に向き直った。
その横で、妹者が兄者に問いかける。
「兄者、あのガラス玉はどこから出てきたのじゃ?」
兄者が答えた。
「簡単な事だ、妹者。ベビしぃが溶けた後に、その場所にあの玉が現れたんだ。
となると、どこから来たかなんて訊くまでも無いだろう?」
妹者がハイ!と手を上げた。
「わかったのじゃ!あのベビしぃのお腹の中!」
「ピンポ〜ン!」
兄者の代わりにじぃが正解を告げ、それと同時にベビしぃ達を順番に水槽へ放っていった。
「チィィィィィィィ!」
「ナッコォォォォォ!!」
「ハナーン?」
宙を舞うベビしぃ3匹。迫る水面。それはベビしぃ達を確実に冥府へと誘う、地獄への入場門。
そして―――
ドボドボドボォォォォン!!
弟者が選んだ5番のベビしぃは水槽の中央よりやや右寄りに、つーが選んだ12番のベビしぃは水槽の中央付近に、
妹者の選んだ25番のベビしぃは水槽の左端に、それぞれ飛び込んだ。
ブッシュゥゥゥゥゥゥゥ!
その瞬間、同時に3箇所から煙が立ち上り、
『ヂギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!???』
三重奏(トリオ)の悲鳴が、5人の耳を打った。
545
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:26:56 ID:???
「( ゚д゚)トケター」
つーが呟いている間にも、ベビ達の肉体は溶解してゆく。
最初の犠牲者であるベビと同じように、表皮、そして皮膚がどろどろに溶けて内部組織がまる見えだ。
「ヂギィィィィィィィィィ!ナゴォォォォォォォ!」
濃硫酸で溺れるベビ達の悲痛な叫び。そんなに大口開けて、口から硫酸が流れ込んだらどうするのか。
―――まあ、どちらにせよ死ぬからそんなに変わりは無いか。
と、ここで珍事が起きた。
「ヂィガタスカルノ!アンタガ ヂニナヂャイヨォォォォォ!」
「ヂュィィィィィ!!ガブッ、モゴボゴゴゴゴ・・・」
12番のベビが、5番のベビの上に乗っかるような形になっている。つまりは、自分が溶かされる苦痛から逃れるための足場になれと言う事だ。
何と、この極限状態においても自らが助かる為の醜い争い。だから、どっちにせよ死ぬんだってば。
で、どうなったかと言うと―――
「ゴボォォォォォォ・・・モギィィィァァァ・・・」
「ヂィィィィィィ!ナンデ シズムデチュカァァ!?マターリ デキナイデヂュヨォォォォ!!」
乗っかられたベビは全身が硫酸の海に沈み、まともに身動きも出来ぬまま硫酸攻め。
殆ど無事だった顔面も酸に浸かり、溶解を始めた。口、目にも硫酸が流れ込んだ。恐らく、もう目は見えまい。
乗っかった方のベビも、引き続き濃硫酸に悶え苦しむ結果に。
当然である。いくら浮力があるとは言え、ほぼ同質量のベビが乗れば沈むのは必定だ。
耐え難い苦痛によって冷静な判断力を失ったベビに―――いや、そうでなくとも、ベビしぃ如きにそれを考える事など不可能だった。
「ヂュァァァァァァ!ダヂュゲデェェェェェ!!」
乗っかっていた12番のベビがついに5番のベビの上に乗っていられなくなり、再び硫酸プールに全身を放たれた。
5番のベビはようやく解放された訳だが、もう遅すぎた。
際限なく浮き沈みを繰り返し、何も見えず、声も出せず、ただ溶かされるだけの肉塊となっていた。
どろり、と目があった位置に空いている穴から、半熟卵を思わせる様子で半解状態の眼球が流れ落ちた。
全身から泡を発し、浮き沈みを繰り返す物体。それはまるで―――
「―――天ぷら揚げてるみたいだな」
弟者がぼそっと呟いた。その横で、じゅる、とヨダレを啜る音が聞こえたので見ればそれは妹者で、彼女は弟者の腕を引いて、
「ちっちゃい兄者、今日の晩御飯は天ぷらがいいのじゃー」
と言った。水槽内で繰り広げられる地獄絵図とはまるでそぐわないほのぼのした台詞で、皆の笑いを誘った。
先程はそのグロテスクな光景に顔を苦くした妹者だったが、もう平気らしい。
精神の足腰の強さも母者譲りだな・・・と、兄者と弟者はこっそり顔を見合わせ、小さく肩を竦めたのだった。
546
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:27:15 ID:???
「ギュガァァァァァァァ・・・」
12番のベビが、およそベビしぃらしからぬ奇声を上げる。
耳が溶けて無くなった丸い顔。内臓がはみ出した腹。黒目が無くなり、常に白目を剥いた目。
奇声を発する為に開けた口から多量の硫酸が流れ込んだ。最初のベビと同じパターンだ。これでもう奴は喋れない。
硫酸を飲み込んだベビしぃは、喉を焼かれるショックでついに最後の体力を使い果たしたらしく、
「・・・グゲェ・・・」
と発したのを最後に、うつ伏せ状態で沈んでいった。
「終わったな」
「ああ、後は結果待ちだな」
兄者と弟者の会話。ベビ達はもう全員息絶え、後は肉体が滅するのを待つだけだった。
―――あ、そうそう。25番のベビは、水槽の隅っこで誰からも注目される事無く孤独に生涯を終えてましたとさ。(w
シュゥゥゥゥゥゥ・・・
暫くは皆無言で、肉の溶ける音を黙って聴いていた。
やがて煙が晴れ、音も止んだ。それは、ベビしぃの肉体の完全消滅を表していた。
兄者以外の3人は、自分自身が選んだベビしぃが居た位置へ視線を走らせた。
弟者が選んだ5番のベビが居た所には、灰色のガラス玉。
「む、外れたか・・・」
ちょっと残念そうに、弟者が呟いた。
「残念だったわね。そうそう、ハズレの場合はポケットティッシュなんだけど・・・せっかくだし、多めにあげちゃおうかな」
そう言ってじぃは、ポケットティッシュを弟者に10個も渡した。おそらく通常は1個か2個だろう。
「ど、どうも・・・」
弟者は苦笑しながら、それを受け取った。手からこぼれて落ちそうになったティッシュを慌ててキャッチする。
一方、つーが選んだ12番のベビが居た場所。そこには、青色のガラス玉が浮いていた。
「アヒャ!当タッタミタイダナ!何等?」
嬉しそうにつーが訊いてくるのを聞き、弟者が先刻じぃが出したフリップに目を走らせる。
「えーと・・・青は3等だな。良かったな、つー」
「アッヒャッヒャッヒャ!今日ハツイテルナー」
笑うつーの元へじぃが駆け寄った。
「おめでとう!3等はこれよ」
そう言って彼女が差し出したのは、3000円分の食事券だった。
思わずビクンッ!と兄者が体を竦ませた。先刻の昼食時の悲劇を思い出したのだろう。
「・・・なんつーか、ベストチョイスだな。偶然ではあるけどさ」
弟者が兄者とつーを交互に見ながら苦笑した。
「アリガ㌧!コレデ、後デ何カ食ベテクルゼ」
まだ食べる気なのか、と兄者は、別に自分が奢る訳では無いのに肩を落とした。
547
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:27:31 ID:???
残るは妹者の選んだ25番のベビだ。水槽の端に投げられ、誰にも気付かれず死んだとあって、ここからではガラス玉を確認出来ない。
「こっちの方か?」
兄者が先頭で、水槽の右側に周った。
「お、あったあった・・・おおっ!」
兄者がガラス玉を確認すると同時に、驚きの声を上げた。
水槽の壁面に水飛沫がやたら跳んでいた。恐らくここが、ベビしぃが絶命した場所と見て間違い無いだろう。
そしてそこには―――
「―――赤い、ガラス玉・・・て事は、1等か!?」
そう、そこには赤いガラス玉があった。
つーが持ってきたフリップを見ると、確かに赤い玉の横には『1等』と書かれている。
「わーい、やったのじゃー!」
ピョンピョンと飛び跳ね、全身で喜びを表現する妹者。
「おめでとー!1等当選者は初めてよ」
じぃが、何時の間にか取り出したハンドベルをチリンチリンと鳴らした。
ひとしきり鳴らし終えると、彼女は水槽の反対側へ姿を消し、すぐに戻ってきた。その手には小包。
「1等景品は何と!最新ゲーム機のニソテソドーGS!はい、どうぞ」
「良かったな、妹者」
説明しながら、彼女は小包を妹者へ差し出した。
「ありがとうなのじゃ!」
喜色満面、という四字熟語がこれ以上似合う表情も無いだろう、というほどの笑顔で包みを受け取る妹者。
パチパチパチパチパチ!
何時の間にやら集まっていたギャラリーから暖かい拍手。
百ベビ組手会場に続き、再び拍手喝采を浴びた妹者は、またも顔を真っ赤にして兄者の影へ隠れてしまった。
観衆からどっ、と笑いが起こった。
548
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:27:57 ID:???
「それじゃ、色々どうも有難う御座いました」
「バイバイなのじゃ!」
「また会いましょうね。それと、薬を使う機会があったら、うちの薬をヨロシク!」
そんな会話を最後に科学者じぃと別れた4人。
少し歩いてから、兄者が3人を振り返って尋ねた。
「さて、これからどうする?」
「もう少し遊びたいのじゃ!」
妹者が即座に答えた。
「まあ、時間もまだあるし・・・もう1箇所くらいなら周れるんじゃないか?」
弟者が言いながら、腕時計を確認する。時刻は午後3時。
「ン、モウソンナ時間ナノカ・・・悪イ、モウ帰ラナイト」
つーの言葉に、妹者が残念そうに唇を尖らせた。
「えー、もう帰っちゃうのじゃ・・・?」
「引キ止メテクレルノハアリガタイケド、用事ガアルカラナ・・・マタ遊ンデヤルカラ、勘弁シテクレッテ」
つーが言いながら、妹者の頭を撫でる。
「・・・わかったのじゃ。また遊んで欲しいのじゃ!」
「ワカッタヨ、約束スル。ソレジャ、マタナ」
つーは今度は兄者と弟者の方を向く。
「ああ、また明日、学校でな」
「またな。・・・言っとくが、今度は奢らないぞ・・・」
笑顔で返した弟者と、ややげんなりした顔の兄者。
「アヒャヒャ!マタ会オウゼッ!」
対照的な2人の表情に思わず笑ってしまってから、つーは3人に背中を向けた。
彼女の小さな背中が人混みに紛れ、完全に見えなくなるまで見送ってから、弟者が切り出した。
549
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:28:27 ID:???
「さて、俺達はどうしようか?」
「まだ遊びたいのじゃ!」
妹者が即座に返した。
だろうな、という表情を作ってから兄者は、
「そうだな・・・もうあまり時間も無い。短い時間で楽しめるような出し物でもあればいいが・・・」
そう呟きながら、パンフレットに載っている地図を人差し指でなぞる。
その指が、ある一点で止まった。
「ん?『妊娠しぃdeお御籤』てのがあるぞ。何やら気になるな・・・」
「どれどれ」
弟者が横合いから地図を覗き込んだ。
「お、ここからすぐ近くじゃないか。せっかくだ、行ってみるか?」
「さんせーなのじゃ!」
妹者も即決だった。
かくして3人は、地図を頼りに再び歩き出した。
「ここだな」
兄者が言った。
地図上の場所へ行くと、運動会なんかで使用される白テントが張ってあり、テーブルが1つ、2つ。
そこには受付兼案内役らしい1さんが座っている。『お御籤』の名を冠するに相応しく、袴姿だ。
「いらっしゃい。『妊娠しぃdeお御籤』へようこそ。やってくかい?」
3人に気付いた1さんがにこやかに笑いかけながら口を開いた。
「宜しくお願いします」
兄者が頭を下げ、弟者と妹者もそれに倣う。
しかし、兄者はここで妙な事に気付いた。
テントを見渡しても、その肝心のしぃの姿が1匹もいないのだ。
『妊娠しぃ』と言うからには当然しぃを使うのだろうが、姿が見えない。何故だろうか。
しかし、その疑問はすぐに解消される事となった。
すっく、と1さんが立ち上がりながら言った。
「それじゃ、ついてきてくれるかな」
そして彼はテントを出、その裏に回った。
3人は慌ててその後を追っていく。
550
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:28:49 ID:???
テントの裏に回った3人が見たもの。それは―――
「ハニャーン!ハニャーン!ハナシナサイヨゥ!」
「シィチャンニ コンナコトシテ タダデスムト オモッテルノ!?」
「ハヤク コノナワヲ ホドイテ ダッコシナサイ!」
耳から入って直接脳を刺激するストレス。アフォしぃ特有の甲高い声だ。
それは、異様な光景だった。
そこら中に木が生い茂っている、ちょっとした林のようなエリア。
その木にはロープが括り付けられ、その先には何と、しぃが吊り下げられているのだ。
しかも、どのしぃも腹が大分膨らんでおり、一目で妊娠しているとわかった。膨らみ具合からして、もう数日もしない内に生まれるだろう。
ロープはしぃの両腕と両足に括られ、大の字をさせるような格好だ。
「・・・なるほどね。大体読めたぞ」
「お、お客さん、勘がいいね」
兄者の呟きを聞いた1さんが笑顔を見せる。兄者の勘の良さはここでも冴え渡っているようだ。
「ねーねー、どうするのじゃ?」
妹者が兄者の腕を引きながら尋ねると、
「今説明してくれるみたいだぞ」
代わりに弟者が答えた。
551
:
へびぃ
:2008/05/05(月) 02:29:08 ID:???
「えと、じゃあ説明しますね。と言っても、そちらのお兄さんはもう解ってしまわれたようですが・・・」
1さんが苦笑しながら続ける。
「やり方は簡単です。あそこにぶら下がっているしぃの腹部を、思いっきりどついて下さい。
どんな方法をとっても結構です」
「え?え?えっと、つまり・・・」
妹者が考えながら言った。
「あのしぃのお腹を、叩いたり蹴ったり、すればいいってことなのじゃ?」
「その通りですよ、お嬢さん」
1さんがまた笑顔を見せる。
「それが、どう『おみくじ』と関係があるのじゃ?」
妹者が首を傾げたが、弟者が言った。
「まあ、やってみればわかるさ。ほら妹者、お前が一番だ」
「わ、わかったのじゃ!」
妹者は一旦考えるのを止め、吊り下げられたしぃの内の一匹に向き直った。
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