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【アク禁】スレに作品を上げられない人の依頼スレ【巻き添え】part2

3名無し募集中。。。:2011/01/21(金) 00:00:18
訝しがるような、あるいは睨んでいるような。はっきりと嫌悪を向ける顔もあった。
あっ……そうか……なんで気付かなかったんだろう。精神を読まずとも解る。
えりぽんに声をかけるタイミングを間違えたんだ。えりぽんがそれを誘ったというのもあるけど、まんまと引っかかった私も悪い。
また左脚が言うこときかなくなっちゃった……。

「はぁーい」

いつもと変わらない返事で私から離れる小春。
右手がぼんやり光ってる……きっと妙な動きを見せたら即感電させられたんだろうな。
ああなに私冷静になってるんだ。いや、冷静であれ。里沙。

「みんな」

声が震える心音が早まる冷や汗が出る今の私はどうみられてる?まだ間に合う?きっとグレーから

「裏切り者!なに亀井さんにしとんねん!」

黒に

「光井、落ち着いて」

「こっちは散々心配したんやで!泣いて、傷ついて……意味わからへん!指示したんやろ!仲もいんやろなぁあだ名で呼んで!」

冷静であれ 冷静で

「ちょちょちょおっと、今から説明するから、ね」

「うっさいわ!もうわかってるんや!探しに来たん、やで、なのに、こんな小さい子たち、使うてまで」

新垣さん……卑怯や……って言ったかなぁ。涙声になっててよく聞こえないよ。
あ、右脚はもう駄目だ。頭が真っ白になりそうなるのを必死で耐える。こんなはずじゃない。まだ望みは捨てられない。

4名無し募集中。。。:2011/01/21(金) 00:01:07
「新垣サン見損ないマシタ」

「攻撃されテモ信じてタノニ……」

ジュンジュン、リンリン。両肩の自由がなくなった。

「本当に、待ってみんな、私に話もさせてくれないの?」

「聞かなくても解るけん。れーなたちが来るの知って待ってたんやろ?もう子分おるんね、まとめてかかって来いっちゃれーな手加減せんよ」

股関節が。

「絵里は落ち着いたみたいだけど……まだ目覚めないの。ジュンジュンとリンリン、絵里にまでヒドい目に遭わせるなんて……。
いくらガキさんでも問答無用、さゆみは許しません」

左腕が。

私の身体はもうほとんどが動かない。ずっと立ちすくんでいるからみんなは気付いてないけれど。それに言えない。これは『縛り』。
自由がきくのは右腕と首から上だけになってしまった。まだ声が出せるのが救いだ。
そう。諦めちゃだめだ里沙。私は証明しなければならない。

「愛ちゃん……お願い聞いて……」

愛ちゃんは、話聞いてくれるよね?愛ちゃん。愛ちゃんってば黙ってないで応えてよ。
心にも問いかけるのに、それを受け止めてくれない。愛ちゃんの心の中に投げ込まれたまま反響せず放置されている。
つまり拒否、だ。あ、あ、あああああああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああ

5名無し募集中。。。:2011/01/21(金) 00:02:08
「あんたか!!」

「きゃっ」

首だけ左に動かすと、瞬間移動をした愛ちゃんがフクちゃんを羽交い絞めにしていた。

「なんかピンみたいなの投げてたな。僅かな動作だったからなかなか解らなかったけど、それでガキさんの動きを奪ったんやろ?」

「くるし……」

「苦しいのはガキさんだ!ずっとここに閉じ込めて!!今この瞬間も!!遊ぶのもいい加減にしろ!!」

「……ご、めっ……」

筋繊維に刺さった針の気配が消えた。
無理矢理封じ込まれていた反動なのか、解放されると身体がふわりと浮き上がってるんじゃないかと思った。
膝が、ふにゃふにゃする、転ぶっ、…………いぃった尾てい骨打ったよーーー。
ぬっと大きい手が目の前に出てきた。

「ガキさん。立てるか?」

「愛ちゃん……」

ぎゅっと掴んで起き上がり、そのまま抱きしめる。温かい。
あー、愛ちゃん。愛ちゃん。愛ちゃぁん。うううう。視界がぼやけるよう。
はははってなによ笑わないでよ。鼻水出てる?しょーがないでしょー泣くとセットで出るでしょおー!

別に愛ちゃんだから、とかじゃない。誰一人聞く耳を持たない状況で、一人でもわかってくれたことが嬉しいから。
そしてこの結果はあの子たち四人にとって逃れられない証明になるんだ。
私がすでに得ている信頼を投げ捨てて、証明したかったこと。探しに来てくれる“仲間”が存在する。疑念を超える“絆”が存在する。それは生きる希望となる。
わかって、くれたかなぁ…………?

6名無し募集中。。。:2011/01/21(金) 00:05:16
>>2-5『Lost children 中編』

スレ51話目に投下した『Lost children 前編』の続編です
荒削りですがお許しを。。。

アク禁のためこちらに投稿させて頂きました。
どなたかお気づきの方、よろしくお願い致します。

7名無しリゾナント:2011/01/21(金) 17:42:58
今から代理投稿に行ってきます!

8名無し募集中。。。:2011/01/25(火) 10:49:53
>>7
遅くなりすみません代理投稿ありがとうございます!

9名無し募集中。。。:2011/01/25(火) 15:27:54
「ちょっときみたち?動物いじめちゃだめじゃない」

驚いた。
今のご時世、赤の他人に忠告してくる大人がいるなんて。
無視したら「ちょっとちょっとー」と食い下がってくる。うざい。

「ハァ……いじめてなんかないし。遊んでるの。これ私のだもん」

何したっていいじゃん。生まれたときからいつも一緒にいる相棒。どうせ私から離れられないんだから。

「だったらなおらさ大事にしなよ……泣いてるよ?」

この人、動物愛護団体かなんかなの?はー、めんどくさいやつにつかまったなぁ。
なんにも知らないくせに出しゃばる大人は大嫌い。まぁ……この子たちも信用してるわけじゃないけど。

「さやしりほちゃん」

え?

「すずきかのんちゃん。いくたえりなちゃん。ふくむらみずきちゃん。ちなみに私は新垣里沙ですヨロシク」

みんなの名前も次々と当てていく。私の口もぽかーんと開いてたんだろうな、四人揃って同じ顔してる。
当然、こんなうざい大人の名前は知らないし会ったこともなかった。

そして次の言葉には驚きというより恐怖を感じた。私は思わず相棒を抱きしめてしまった。

10名無し募集中。。。:2011/01/25(火) 15:28:40

「私もきみたちと同じで……力を持ってる。心を読めるんだ。驚かせてごめんね。
きみたちからさー、こんなこというのもあれだけど、なんていうか絶望感が出てる。
いっぱいいっぱい傷ついて、何も信じられなくなってるんでしょ。私もそうだったから……。
でも本当は寂しいんだよね。全員今にも泣き出しそうだよ?この子みたいに」

相棒を見ると、いつもと変わらずどこか遠い目をしていた。その目で、この人の正体を映し出してよ。

「いきなりごめんね。謝ってばっかだね。でも、あんまり悲観しないでほしい。
私も見つけられたから、きみたちも信じられるものと出逢えるといいね。
あ、そうだ、よかったらここ来なよ!えーと……あった、ハイこれ。私の理解者が集う喫茶店」

わかった。この人の正体は……偽善者だ。

心を読めるのは本当で、境遇を理解しているのもわかる。でもみんながみんな自分みたいに救われると思ってるんだ。

名刺のような紙……地図が描いてある。それを差し出された手ごと払いのける。

「証明して」

「へ?」

「あんたの“信じられるもの”を、証明して」

「じゃあ今からみんなで行く?私の信じられる仲間たち、紹介しようか」

「だめ。イチから。ううんもっと、ゼロからじゃなきゃ証明されない。証明できたら喫茶店、行ってもいいよ」

「ふーん……もしできなかったら?」

「殺します」

11名無し募集中。。。:2011/01/25(火) 15:29:18



里保ちゃーん、どうしちゃったの?
私は今のやりとり、よくわからなかった。証明?殺す?
おねえさんは……ゆっくりと頷いてた。

「みんなも協力してね」

「待って里保ちゃん、よくわかんないんだけど」

「ここじゃ寒いから、あそこに戻ろう。あんたもついてきて。もう始まってるの」

あそこというのは、私の借りてきた空間。
しばらく歩くと使われていない倉庫が立ち並ぶ。
そのなかの一つの倉庫に、地下への階段と空間を持ってきて、一週間ほど前から過ごしていた。
私たちの避難場所。そして再びやり直すための、出発地点。

階段を降りながらおねえさんが話しかけてきた。

「へー。これは誰の能力?作り出したの?」

「私です。作るんじゃなくて、借りてくるの」

「かのんちゃんかー。へええーすごーい」

おねえさんはさすがって言ったらいいのか、全然驚いてなかった。
この力を知っちゃった人は気味悪がってどんどん遠ざかっていったのに……。

おねえさん自体が、私の知らない世界そのものに思えた。

12名無し募集中。。。:2011/01/25(火) 15:29:56

「里保、説明してよ」

「珍しいね熱くなっちゃって。私もよくわかんなかったよ」

衣梨ちゃんも譜久村さんもわかってなかったんだ。ちょっと安心。

「じゃあ説明するね」

説明の間、おねえさんはただ静かに聞いていた。きっと里保ちゃんの心を読んでいて、もうわかっていたんだと思う。

このおねえさんは“信じられるもの”を命を賭けて証明することになった。
今日から三日間ここに軟禁、携帯電話も使えなくする。
三日経ったらおねえさんの仲間に連絡をし、ここに呼び出す。そのとき私たちは別の空間を借りて隠れてる。

まずここで仲間が来なかったら証明失敗。おねえさんは殺される。

仲間が来たらおねえさんは、仲間を裏切る。信頼を失わせる方法は自由。それができたらおねえさんも別空間に入れる。

ここからが『ゼロからの証明』だよ、と里保ちゃん。

また三日以内に、裏切られてもなお仲間がここに探しに来ればおねえさんの勝ち。証明できたことになる。
でも三日過ぎた時点で来なければ証明失敗。おねえさんは殺される。

「りほちゃん、私途中で逃げ出しちゃったらどうするの?」

「逃げたり証明失敗したら死ぬ呪いをかける。仲間に計画を漏らしてもあんたは死ぬ。あと、譜久村さんにも身体の自由奪ってもらうから安心して」

里保ちゃんは相棒の頭をなでなでしながらさらりと怖いことを言っている。
胃のあたりがぐっと冷えた感じがした。なんだか私のほうが逃げ出したい気分だ。本気?ねえ本気なの?
私の知らない世界は、私以外のすべてなんじゃないか?

13名無し募集中。。。:2011/01/25(火) 15:30:30



「やっしーね!えーと、ズッキとか良くない?やっぱフクちゃんでしょー、うーん、そうだなー、えりぽん」

みんなして変な呼び名をつけられた。衣梨はやだったから絶対呼ぶなって言った。

「私はねー、ガキさんって呼ばれてるよ。みんなもそれでいいから」

衣梨はめんどくさかったから絶対呼ばないって言った。

「まあまあ、一緒に生活してる仲なんだしさ」

「なんで笑ってられるんですか?こんな状況なのに。死ぬかもしれないのに」

あれから三日経ち、この人の仲間は来た。思ったよりたくさんいたことに驚いた。カタコトの人もいた。
死を回避したこの人はシナリオどおり動いた。なんかよくわからないけど攻撃もしてた。
全てが終わったあと、泣いている人や叫んでいる人を見たのがとても新鮮だった。あんなに感情をオープンにしたことなんてここ数年ないし。
なんていうか衣梨は感情の渦の中にいるようで、衣梨が責められているようで、胸が苦しくなった。

そして一夜明けても相変わらず、この人は聖の能力で身体が動かせず横たわっている。笑ってるってことは案外平気なの?鉄の心臓の持ち主か。

「いやー昔を思い出しちゃって。こんな時代もあったなぁなんて」

気持ち悪。変態?どんな昔があったのよ。でも突っ込んだら負けな気がしたから無視した。

「それに、私死なないよ。絶対また来てくれる。前にもあったんだ」

前にも?更に興味があったけど、やっぱり聞いたら負けな気がしたから無視した。

「その時はもうどこにも行かないからねって約束したんだけど……今この状況だからなぁ。私はやっぱり裏切り者なのかもね」

その天井を見つめる顔がすごく寂しそうだったなんて、言ったらめんどくさくなるから見なかったことにした。

14名無し募集中。。。:2011/01/25(火) 15:31:06

そもそも里保は「みんなも協力してね」って言ったのにおかしい。私なんにもしてないじゃん。
この人の話し相手だけ?そんなのつまんない!

「みんなっ、来た!にいがきさん隠すね!」

香音ちゃんが小さく叫ぶと目の前の人を別空間に入れる。
もう来たの?昨日の今日だよ?早くない?“信じられるもの”……あるの?

「あれ……女の子だよね!?しかも小学生いや中学生くらいかな?」

“信じられるもの”“仲間”“絆”……なんどもあの人から出た言葉をぐるぐる反芻しながら会話を繋ぐ。

「そっか……残念。でもね、昨日ここにお友達が来たのは確かなんだ。ちょっと調べさせてもらうよ?」

聖が能力を解くのがわかった。香音ちゃんも解こうとしている。里保はまだ認めてないみたいだけど。
どうするのよ。衣梨もわかんないよ。それに、ただ見せ付けられるのはなんか嫌だ。参加したい。この大掛かりな『証明』の一部になりたい。

「そこをなんとか!」

気付いたら攻撃していた。やってしまった。いつもこう。衣梨奈は場をかき乱すねってよく言われてた。

「コラーえりぽん!ばか!はやくカメ治して!!」

早速来た。その呼び名、やだって言ってるのに。それにしても『かめ』ねー。かめに縁でもあるのかな。

「今から治しますのでちょっとどいてください」

「嘘」

「ほんとです」

「…………もし嘘だったらさゆみ、あなたを刺すから」

15名無し募集中。。。:2011/01/25(火) 15:31:37



衣梨奈ちゃん暴走しちゃって……。ナイフ当てられてるけど大丈夫かなー。

「譜久村さん、またお願い」

「なんで?里保ちゃん」

「今、流れが変わってきてる」

流れ……。あ、なるほど。にいがきさんの仲間が、また疑いだしてるんだ。里保ちゃんのいう『証明』に達していない。

「今度は八箇所でお願い。判断は譜久村さんに任せる」

里保ちゃんは多くを語らない。それは私がうまく汲み取るから。

にいがきさんの仲間が八人。にいがきさんを信じない者と判断した時点で、私は針を刺していく。

きっと八箇所刺した時点で里保ちゃんは殺すんだろうな。

私と一緒で、訓練された彼女は、私以上に冷酷だった。でも……

「里保ちゃん熱いね」

「私、案外熱いんだよ」

こんな『証明』に熱くなるなんて、子どもだ。

16名無し募集中。。。:2011/01/25(火) 15:32:15

針を刺す。負の感情は恐ろしい。
針を刺す。あっという間に連鎖するから。
針を刺す。にいがきさんの負けかな。
針を刺す。ひとつ、言っておけばよかった。
針を刺す。ありがとうって。
針を刺す。普通じゃないとか、特別だとか言わないでくれて。

そういえばひとり、衣梨奈ちゃんが倒した人の分、余っちゃうな。
あの人がダメだったら二本同時に投げればいいかな。ねえ里保ちゃん。

「いいよ」

だよね。あの人は……まだ黙ってる。早くどっちかにしてよ。結構神経使うんだよ。
ハア、と息を緩めたそのときだった。く、くるしい……!!

「あんたか!!」
「なんかピンみたいなの投げてたな」
「苦しいのはガキさんだ!ずっとここに閉じ込めて!今この瞬間も!遊ぶのもいい加減にしろ!!」

やっと解放されて、その場でしゃがみ込みげほげほ咳き込む。
甘かった。まさか、見破られたなんて。
香音ちゃんと衣梨奈ちゃんが背中をさすってくれる。
里保ちゃんはというと、もう移動する準備をしていた。え、にいがきさんは?

「ちゃんと呪いは解いたよ。私の負け。……行こう、譜久村さん、みんなも」

私のほうが子どもだったのかな。それとも両方かな。
思い通りにいかなくて憮然とした顔の里保ちゃん。
にいがきさんが死ななくて嬉しい私。

あの日こっそり拾っておいた喫茶店の紙を、ポケットの中で握り締めた。

17名無し募集中。。。:2011/01/25(火) 15:40:02
>>9-16『Lost children 中編(2)』

だらだらと長くなってしまいました
次の後編で本編を終了させて、そのあと番外編としてある9期メンにスポットをあてたものを
書こうかなと思っていますので、もう少しお付き合いください


アク禁のためこちらにあげさせていただきました。
いつもすみませんが、お気づきの方いましたらよろしくお願い致します。

18名無しリゾナント:2011/01/25(火) 17:38:26
本スレも空いてるようだし行って来ます

19名無しリゾナント:2011/01/25(火) 17:50:09
転載完了
9期メンバーの乾いた心がガキさんとの出会いで少し変わったのが印象的でしたね

20名無しリゾナント:2011/01/26(水) 18:54:11
長いので2箇所で上げようと思ってたら片方がいつの間にか規制されてました;
申し訳ないですが締めレスだけ どなたか転載のほどお願い致します。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


>>258-266

『“未来”への反逆者たち ―闇と光(6)―』

以上です。



以下補足です。
というか作中で説明しきれずに終わるであろう箇所の自己解説です;(ネタバレを含みます)

れいなが生きていた理由は(42)072『“未来”への反逆者たち ―氷と炎―』をご参照ください。
また、それと同時にれいなの能力“共鳴―リゾナント”が関係しています。
れいなが閉じかけていた裂け目をこじ開けたのも同様です。
それから……他にも山ほどありますがキリがないことに気付いたので、やっぱりあとは皆様にお任せしますw

最後に、具体的なリゾナント元についてだけ。
愛の記憶の中の場面は、(08)893 『葉を隠すなら森へ、愛を隠すなら名へ』に繋がるようなイメージです。
後藤さんの造形及び、愛やれいなとの関係性については、『Air on G』シリーズや『黒い羊』(『pepper』シリーズ)に影響を受けています。
(※どちらもあくまで“イメージ”ですので、もちろんのこと同じ設定であるわけではありません)
また、「光と闇は溶け合わない云々」の箇所は(10)065 『邂逅〜長雨の合間に〜』のラスト部分から着想を得ています。
各作者様、ありがとうございました。

21名無しリゾナント:2011/02/02(水) 01:36:40
代理お願いします。5レスほどです

22名無しリゾナント:2011/02/02(水) 01:37:19


「ねぇ、さゆ」


覚醒と微睡みの間。薬がの作用か先ほどから意識がはっきりしない。
絵里は目が醒める度さゆみの名を呼び、そして何言か喋り、また眠るのを繰り返していた。

つい30分前に起きた時には、リンゴが食べたい、と口にしたので
さゆみは病院の売店でリンゴを買い、不器用な手つきで皮を剥いている。

「なに?絵里」

リンゴを剥く手を止め絵里を見やる。
視線は定まっておらず、また今にも眠ってしまいそうだった。

「絵里ね、元気になったら喫茶店で働きたいな…」

ドクン、と一つ鼓動が跳ねる。
さゆみはリンゴをテーブルに置き、絵里のめくれた布団をかけなおしてやる。
平静を装えているだろうか。震えてしまいそうな指先で絵里の前髪を整える。

「喫茶店?」

「絵里ね、夢を見たの。さゆとねぇ…あとは、誰だかわかんなかったけど、…みんなでね、喫茶店で働いてたんだよ」

「うん」

「それがね…」

23名無しリゾナント:2011/02/02(水) 01:39:14

絵里の瞼がぱたんと閉じる。さゆみは何も言わず言葉の続きを待った。
あの日からいくつかの季節が過ぎた。いつの間にか伸びた絵里の髪の毛が枕の下で跳ねている。

「なんだかね、すっごく懐かしい感じがして…すごく、楽しそう、だったの」

「うん」

大きく息を吐いて重い瞼を上げる。覗き込むさゆみと目が合い、絵里はふわりと微笑んだ。

「ねぇさゆ」

「なに?」

「さっき見た夢みたいに、…絵里にも友達、できる…かなぁ…?」 

言い終わるのが早かったか、再び眠りにつくのが早かったか、刹那、絵里は穏やかに寝息を立てていた。
鼻の奥がツンとして、さゆみは眉間に力を入れる。

24名無しリゾナント:2011/02/02(水) 01:40:23

里沙に書き換えられた記憶。
さゆみはあの日からいつも、絵里が目覚めた時に全てを思い出していればいいと思っていた。
たとえ病気が絵里の身体を蝕んでも。起き上がれないほどの傷を負っても
絵里が全てを思い出し、そして仲間達と再び戦える日が来ればいいと願っていた。


――― 絵里は今、ひとりぼっちだ。


不意にさゆみと初めて屋上で出会った、あの時のような顔をする。
目を離すとふわりと、今度こそそこから飛び立ってしまうような気がする。

耐え切れずに溢れた涙が絵里の頬に落ちた。ぽたぽたと途絶えることなく絵里の頬に、シーツに流れ落ちる。
さゆみは涙で濡れたシーツを痛いくらいに握り締め、構うことなく眠る絵里に向かって喚いた。
知っている。再び眠ってしまうと暫くは起きれない。季節が移り行くたび、絵里に投与される薬は強くなっている。


「ばかっ!絵里にはね、友達よりももっとずっとすっごい仲間がいるんだからっ!!!!」


起きる度にさゆみの名前を呼ばないで。不安になんないで。あの頃はひとりでも平気だったじゃん
一人で入院して、一人で退院して、自分の足でリゾナントへ来てたじゃない
ねぇ、絵里。早く見つけてよ。ガキさんが残してくれた小さな欠片を拾ってよ
全部い思い出してよ、ねぇ、絵里。絵里はひとりじゃないんだよ、絵里…

25名無しリゾナント:2011/02/02(水) 01:46:45




「あー…なんか絵里、めっちゃ寝てた?」

「寝てた寝てた。たまに起きてたけど」

「うっそぉ。全然覚えてないや。あれ、リンゴ?」

「寝ぼけてリンゴ食べたいって言ってたから買ってきてあげたよ。なかなか起きないからちょっと色変わっちゃった」

「ほんと?絵里そんなこと言ってたっけか」

「言ってたよー。せっかく剥いたんだから食べてよね?」

「食べるよ!ありがと。ね、絵里他になんか言ってた?」

「…ううん、何も言わなかったよ」




 
 共鳴してよ、絵里。絵里の場所は、ココにあるのに。

26名無しリゾナント:2011/02/02(水) 01:48:34
>>22-25 『夢の欠片』

新メンの話が出る中、過去にしがみついてみました。
『Empty Recollection's Imagination』『パスワード』とリゾナントしています
こんな寒い日にどんよりさせてしまい申し訳ない
自分で書いてなんですが、絵里は必ずまた戻ってくると信じています!リゾ的にもリアルにも

過去にしがみついてるとかいいつつ、自分も新メンの話考えたりしちゃってますw
どうやって壮絶な過去を背負わせようかと試行錯誤中…あ、別に性格ひねくれてる訳じゃないですからねっ!

27名無しリゾナント:2011/02/02(水) 04:08:55
行ってきます

28名無しリゾナント:2011/02/02(水) 04:14:18
転載完了

過去を吹っ切れない時代の残党である自分にはたまらない作品でした

29名無しリゾナント:2011/02/03(木) 00:15:42
代理投稿ありがとうございました!!
やはり原点は9人、ですものね…

ここに書く内容ではないかもしれないですが、どうしても。
『Empty Recollection's Imagination』の作者さんの意図とは違う、
ということを承知の上で続編を書きました。
そのことをはじめに一言お伝えしておくべきでした、すみません。
このお話を書くきっかけを頂いたのはその作品でしたが
そこから話を進めて彼女達を不幸にしたのは自分ですので
こちらこそ申し訳ない気持ちでいっぱいです…
それでも温かいお言葉ありがとうございました。
他の方からも嬉しいお言葉いただけでよかったです!精進します
またここでお世話になると思いますがよろしくお願いします。

30名無しリゾナント:2011/02/03(木) 19:10:30
>>29
こちらこそ申し訳なかったです;
自分の意図と違うように読まれていて不本意…という意味では決してないですのでね。
思わず切なくなるくらい素敵な作品だったという一言に尽きます。
正直なところ、自分自身救われない悲しみに沈むストーリーに惹かれる部分は少なからずありますし。
ハッピーエンドを望みながらも、どこかではやっぱり最初に惹かれた「リゾナントブルー」から感じた孤独感を求めているといいますか。

すみません、またどうでもいいことを関係ないスレで語ってしまいましたが。
ともかく新たな作品を楽しみにしています。
リゾナントされるって嬉しいものだなと改めて思いました^^
ありがとうございました。

31名無しリゾナント:2011/02/12(土) 06:51:56
※転載希望
ついうっかり10分割
連投規制でこれ以上書き込めません

>>746-747
>>749-756

 ■ キャストアウェイ−鞘師里保X鈴木香音− ■ でした

32名無しリゾナント:2011/02/12(土) 07:04:37
>>31の件
自己解決できました

33名無し募集中。。。:2011/02/17(木) 23:26:00
M日本支部
「なっち、なっちはおらんか?」

M日本支部長の稲葉が安倍なつみを探していた。
「さきほど、散歩に出かけると言って出ていかれたんですが・・・」
「またかいな、報告書も出さずにどこをほっつき歩いてるんや!」

その頃、なつみは町中を歩いていた。
目指しているのは町中の小さな開業医の家だった。

ピンポーン!
「ごめんください!安倍です。」
「あら、安倍さんだ。どうしたのさ。」

応対したのは小さな女の子だった。
「あら、ヒノコちゃん。先生はいるかな。」
「いるなのさ、先生!黒尾先生!」

すると中から目つきの鋭い全身黒の服を着た男が現れた。
「中に入ってくれ。」
「おじゃまします。」

なつみは黒尾と呼ばれた男に案内されて診察室に入った。
「珍しいですね、患者さんがひとりもいないなんて。」
「なぁにこんな日だってあるさ。それほどみんなが元気という証拠だ。」
「それはいいことですね。あっ、それで約束通りお金振り込んでおきましたから。今月の援助費。」
「いつも済まない。」

34名無し募集中。。。:2011/02/17(木) 23:27:10
黒尾はあたりを見回した。
奥の手術室には町の開業医としてはあり得ないほどの医療設備が整えられている。
この開業医・黒尾はかつて有能な外科医として活躍していたが、今の医療体制に疑問を持ち、病院を辞め、開業医として養女のヒノコとともに新しい人生をスタートしていた。
しかし現実は甘くはなかった。資金が少なかった黒尾は設備や薬が不足し十分な治療を施すことができない場合が多々あった。また無償で患者を見ることがあるため運営に苦しんでいたのだが、そこに手を差し伸べたのがなつみだった。

「あっ、そろそろいかないと。じゃあまた来ます。」
「ああ、どこか悪くなったら言ってくれ。」

なつみが次に向かったところは・・・
東京都内の建設現場だった。
そこは今度、新しい超高層ビルが建設されることになっており、大勢の作業員が汗水流して働いていた。

「皆さん、お昼ですよ。」
なつみがおにぎりを持って、現れた。

「うひょー!天使のおにぎりだ!」
「もうやだな、天使だなんて。」
「こんな辛い作業をずっとやってられるのは天使がケアしてくれるおかげですよ。」

35名無し募集中。。。:2011/02/17(木) 23:28:01
建設現場を後にしたなつみは再び町を散歩していた。

「ひったくりよ!」

目の前で女性が男にバックをひったくられた。
男はなつみの前を通り過ぎようとした。

「止まりなさい。」
なつみの一声で男は石のように動かなくなってしまった。
動かなくなった男の腕からバックをとったなつみは女性の元に向かった。

「はい。」
「ありがとうございます。あのできればお名前を。」
「名乗るほどのものじゃありませんから。それより早く警察を呼んだほうがいいですよ。」

そういってなつみはその場を後にした。

36名無し募集中。。。:2011/02/17(木) 23:28:50
そしてなつみが最後に向かったのは・・・
「どうも院長先生。」
「あら、安倍さんいらっしゃい。」

れいながかつて暮らしていた孤児院だった。
「こないだの騒動の時はすいませんでした。私が海外出張していたばっかりに。」
「いいえ、あの子たちのおかげで事なきを得ましたから。」

この孤児院は以前、暴力団に土地をだまし取られ、つぶされようとしたがリゾナンターの活躍で元の持ち主に返された。

「今後はちゃんと管理にも目を行き届けますから。」
「気にしなくて結構ですわ。それにあなたには十分助けられているわ。ここの維持費もあなたが援助してくれている。」

実は孤児院はなつみが資金をだして建てられたものであった。
管理は信用できる人物を選び、院長先生をはじめとする職員もなつみが子供たちを預けるにおいて信用できると感じた人たちを選んだのだ。

なつみが帰ろうとすると・・・
「ねぇ、なつみお姉ちゃん。久しぶりに来たんだから、歌を歌ってよ。」
「わかったわ。じゃあみんな集まって。」

37名無し募集中。。。:2011/02/17(木) 23:29:35
なつみは大広間に子供たちを集めた。

「じゃあ、はじめるわね。」

♪〜♪〜♪〜

なつみの歌はまるでカナリアのように美しかった。

なつみが歌い終えると子供たちが盛大な拍手をした。
「じゃあ、みんなまたね。」

子供たちが手を振って見送られながらなつみは孤児院を後にした。

M日本支部
「ただいま。」
「おかえり、なっち・・・」

そこには仁王立ちをしている稲葉の姿が・・・
「どうしたの、そんな怖い顔をして・・・」
「いったい何時間散歩しとんねん。さっさと報告書をださんかい!」

天使の影の救済を知るものは少ない。
しかしいつか天使があなたの前に現れるかもしれない。

38名無し募集中。。。:2011/02/17(木) 23:34:10
>>33-37
「天使の救済」でした。

どうもリゾクラ作者です。
現在、体調を崩されている方も多く、新メンバーなどをめぐるスレの動向をあわただしいものを感じ、
少し天使でスレを癒してみようとずいぶん前に書いた保全作をあげました。

ちなみに現在、わたくし個人では新メンバーは3人まで書いてみましたが、最後のひとりの鞘師里保ちゃんに
関してはなぜか何パターンも出てきて、投稿に決定打をだせない状態です。


とにかく現在、アク禁状態なので代理投稿よろしくお願いします。

39名無しリゾナント:2011/02/18(金) 13:08:21
行ってきたで
安倍さんが元気で頑張っている設定はクライシス作者さんならではですかね
心優しき天使に少しばかり癒されました

40名無し募集中。。。:2011/02/18(金) 18:18:17
代理投稿ありがとうございました。正直、私も天使に癒されたい。

41名無しリゾナント:2011/02/19(土) 01:41:29
窓ガラスも入れられてない吹き抜けの廃墟。
其処へ、『立ち入り禁止』の看板を無視して立ち入る人影があった。
アート気取りの落書きに目もくれず、奥へと進んで行く。

まるでここに踏み入った経験があるように本来エレベーターがあるはずの空洞の
脇をすり抜け、階段を踏みつけるように登りだす。
息を切らしながら、それでも人影は上へ上へと一心不乱に登って行く。

空高くあった太陽はすでに傾き、目に染みる色の夕焼けが、街を、この廃墟を包み込む。
人影、彼はその姿を、ただ見つめている。

最上階のフロアは何も無い。
在るのは、数年前に自殺した少年に手向けられたと思しき枯れた花が一つ。

 「僕は…」

この世界に残した爪痕。
誰かの心に残した傷は、今此処に立つ彼の心にも爪を立てる。

 「僕が居ても世界が変わらないなら、居る必要なんてない」

彼は呟く。
生唾を呑み、じっくりと一歩を踏み出し、ガラスの入っていない大きな窓枠へ。
其処から見えるのは、まるで街が、世界が、太陽に焼かれている風景。

 「だから僕は…」

決心をもう一度、口の中で繰り返そうとした。

 「――― ふうん、飛ぶんだ」

42名無しリゾナント:2011/02/19(土) 01:42:57
声が鳴る。
突然のできごとに彼の喉は奇妙な音を立てた。
この場所には他に誰も居ない。登って来たのなら気付くはず。
背中にゾワリと嫌な震えが走る。

 「……なっ!?…」

彼は飛び跳ねるように窓から離れる。
勢いで、みっともなく尻餅を付いた。

 「あ、ごめん。びっくりした?」

窓から射し込む夕陽を背に、女の子が小さく笑った。
…気がしただけだ。
彼は、喉にたまった泡のような空気と共に大きく飲み込む。
乾ききっている口内、それでも彼は、少女から視線を離せなかった。

否、少女なのかどうかも分からない。
直前まで身体を支配していた恐怖が薄れて行き――― 見惚れていた。

強い意志を秘めた大きな瞳に長い睫毛。
紅い唇と透き通るような淡く白い肌。
陽が沈み始めた薄暗い世界に浮かび上がる、白黒を併せ持つ其の姿に。

 「飛ぶならもっとええ天気の方がええと思うけどね。
 こんな日に飛ぶなんて――― 死ぬ気だった?」

彼女が言葉を弾く。
もしかしたら大人のなのかもしれないが、子供っぽいその声が不思議と鼓膜を刺激する。
ゆっくりと近づいてくる彼女。
膝を抱えるように屈むと、首をやや傾けて彼の顔をじっと見つめた。

43名無しリゾナント:2011/02/19(土) 01:43:43
 「でもこんな所で飛んでも、けっこー痛いかもね。それでも死にたいの?」
 「……ぼ、僕は、死にたいんだ。こんな世界に居たって何もいいことなんてない、だから」
 「そっか……」

彼女がため息のように零す。
酷く哀しく、やけに大きく響き、彼の心が揺れる。

他人の筈の自分を嘆いてくれているのか?
自分のことのように哀しんでくれているのか?

彼は彼女に見惚れていた。
そして…。


 「それなら――― あーしがやってあげるやよ」
 「……へ?」
 「だから、あーしが、"殺ってあげる"んよ」

指を交互に指し示す彼女。

 「………な、何を…っ!…」

彼の喉から悲鳴が漏れる。
パチンと乾いた音、フィンガースナップが鳴り響いた。

最期に見たのは彼女の笑顔。
こんな状況で無ければ一発で彼は彼女への恋に落ちていただろう。
だが、それは仮定の話だ。

恋に落ちる前に、どうやら自分自身が堕ちてしまうらしい。
地上へまっしぐら。
気付けば、彼は外に放り出されていた。
しかも先ほどまで居た廃墟よりも高い、手を伸ばせば空を掴めそうな、そんな場所へ。

44名無しリゾナント:2011/02/19(土) 01:45:28
 「うわあああああああああああああああああああっっっ!」

何故自分がそんな場所に居るのかなどという疑問など吹っ飛んでいた。
彼は喉が痛くなるほどの叫びを上げる。浮遊感の後の落下する時に包む不気味な風。
ただひたすらに、死ぬ恐怖を取り払うように両手を振り回す。

一瞬前まで、死にたいと言っていた自分が、こうして死ぬ事を拒否している。
だが頭に浮かぶのは、自分がこのまま地面に叩きつけられるという事実のみ。
だからこそ彼は叫んだ。
生まれて初めて想った。

 「し、死にたくないいぃぃぃぃ!!!」
 "――― なら、軽々しく死にたいなんて言ったらあかんよ。君の世界はこれからなんやから"

先ほどの彼女の声がまるで頭の内側から聞こえて来た。
瞬間、彼の身体は廃墟の室内の床にドサリと転がる。
溜まった埃を舞い上げ、彼女が手で払い、「ぶぇっくしょい」とおっさんのような咳をした。

 「見つかった?愛ちゃ……なにしたの?」
 「ん?やぁ、この子の"意志"がどんなもんなんかちょっと気になってね」
 「気絶させるほどってどんだけよ」

階段から上がってきたのは彼女と同じくらいの少女。
強い意志を秘めた大きな瞳に長い睫毛。
その上にある凛々しい眉がひそまる。
気絶してしまった彼の安否を確かめながら、彼女に文句を言った。

 「というか、この子を気絶させちゃったら"コレ"を何処で手に入れたのか分かんないじゃないの」
 「あ、ごめん」
 「ごめんじゃないでしょ、全く愛ちゃんはー」

愛と呼ばれた彼女は反射的にペロッと舌を出して謝罪し
少女はそんな彼女の言動に慣れているのか諦めたようにがっくりと頭を垂らしながら言う。

45名無しリゾナント:2011/02/19(土) 01:47:45
 「ま、まぁほら、こうして"コレ"も回収できたし、今日はこれで、な?」
 「あーはいはい。分かったから。にしても、最近この子みたいなのが増えて困るよね。
 愛ちゃんが見つけてくれなかったらって思うと」
 「それってあーしのおかげってこと?珍しい、ガキさんがあーしを褒めた」
 「ねぇ、それって自覚か無自覚か突っ込んでほしいの?」
 「よーし、これからもやるよあーしはっ」
 「聞いてよねぇってば」

ハリキる愛を少女が止める。
沈みかけの夕陽が最期の光を発して、二人を照らしていた。

 「あーしはいくらでも見つけたげるよ。やってあーしらは『リゾナンター』やからな」



"意志"を持つ不思議な魔石、ダークネス。
ダークネスが持ち主と認めた人間は、その意志に触れる事により
特別なチカラを得るとされてきた。

だがその代償として人間はダークネスに意志を呑まれる。
その存在と出来事はこの世界の何処かで人知れず起こっていた。

 いつしか、そのダークネスを回収する任務を請け負う少女が現れた。
 その少女は白と黒を併せ持つ姿をし、周りには8人の少女達が集まる様になる。

現在、少女はダークネスが起こす不思議な事件を解決する日々を過ごしている。
何処から出現しているのかを調査しながら世界を救うために立ちあがる少女達。

その9人を見たある者はこう呼んだ。
蒼き意志と共鳴する者達、『リゾナンター』と。

46名無しリゾナント:2011/02/19(土) 01:51:35
「〜共鳴協奏曲〜 Concerto resonance」

という話を書いていた夢を見たのさ。

------------------------------------------
で、お願いします。
お時間がある時にでも投下してもらっても全然構わないのでorz

47名無しリゾナント:2011/02/19(土) 01:59:43
あ、タイトルは最期の文章の下にも明記して頂けると幸いです。
書き忘れてましたすみません(汗

48名無し募集中。。。:2011/02/21(月) 23:55:37
ある日、亀井絵里は病院の地下3階を訪れていた。

(ここに来るのはあの事件以来か。)

絵里が言うあの事件とはDr.マルシェが開発した細菌のためにリゾナンターをはじめ多くの人々が行動不能になった事件である。
その事件はさゆみが細菌発生装置を止め、絵里とジュンジュンが血清の材料を確保したおかげで事なきを得た。
しかし絵里にはひとつ気になることがあった。

(どうしてれいなの写真があの部屋にあったんだろう。)

絵里はあの時、地下三階でリゾナンターのメンバー・田中れいなの幼少期の写真を見つけたのだ。
ずっと気にしていたのだが、さまざまな事件が立て続けに起こったことですっかり忘れていたのだった。
ただ、れいなの過去についてはデリケートな事だと感じている絵里は本人に聞くのは気がひけたので写真があった病院の地下3階へと向かったのであった。

「それにさゆの両親の病院になんで地下室があったんだろう?ロビーにそんな表示はなかったし。紺ちゃんの一件がなかったら絶対わからなかったよ。」

様々な疑問をぶつぶつ呟いている内に問題の地下3階についた。
かつてこの中で絵里を成長させる戦いが繰り広げられたのだ。

「もう防衛機能なんて働かないよね・・・」
ここの防衛装置として大型ロボットが絵里とジュンジュンの前に立ちはだかったが、新たな力に目覚めた絵里のおかげもあってなんとか切り抜けた。

49名無し募集中。。。:2011/02/21(月) 23:56:42
ガサッ!
何か物音がした。
それに絵里は驚いた。

「何?何?まさかまたロボット!」

絵里がおそるおそる部屋の中を覗くと・・・

「あれ?女の子?」
そこには小学生ぐらいの少女が部屋の中をうろうろしていた。

「ね、ねぇ・・・」
絵里が声をかけると少女は鋭い目をして絵里を睨みつけた。

(こ、怖っ!れいなみたい・・・)
「ねぇ、あなたどうしたの?病院の患者さんなのかな?」
「病人がこんなところでうろうろすると思いますか?亀井絵里さん。」
「そうだよね、絵里何言って・・・ちょっと待ってあなたどうして絵里の名前を・・・」
「そうですね、説明したいところですけど・・・ちょっと無理みたいです。」
「えっ?」

すると絵里の降りてきた階段の方から男が数人降りてきた。
「え、何なんなの?」
「ちょっと後ろにいてください。あの人たちの目的は私ですから。」
「ちょっと、待って!」
「大丈夫です。あなたより戦い慣れてますから。」

50名無し募集中。。。:2011/02/21(月) 23:57:47
そういうと少女は男たちの方に向かっていった。
「鞘師、俺たちと来るんだ。」
「戻ったって殺すんでしょ。戻る気はない。」
「仕方がない。お前の命はここでもらう。」

男たちは一斉に懐から銃を抜く。

「あ、危ない!」
絵里がそう叫ぶのが早いのか。鞘師という少女は足を男たちの銃に向けて一閃した。
パキン!
すると男たちの銃が横に割れた。

「くそっ!」
男たちが悔しそうな顔をしていると少女はいつの間にか男たちの懐に入り、全員に拳をぶつけ、悶絶させていた。

「す、すごい。あの早さ愛ちゃん並だ。」
少女の戦闘はまるで瞬間移動を駆使して敵を倒していく愛のように見えた。
絵里が感心していると少女は男のひとりに近づいた。

「私を倒そうって言うんならもっと腕の良い人を派遣することね。さっきは殴るだけにしたけど今度は・・・」
少女は腕を振り上げて、まるで突き刺すような態勢をとった。

「ちょっと、何してるのよ。」
「殺すんです。死体にして相手を怯えさせるんです。二度と私に手を出させないように。」

少女は表情を変えずに恐ろしいことを言っている。
そして少女は腕を動かした。

51名無し募集中。。。:2011/02/21(月) 23:59:19

「だめ!」

絵里の叫びに少女は腕を止めた。

「だめよ、そんな簡単に命を奪ったら・・・その人にも家族がいるかもしれないじゃん。いくらあなたを襲ったからって命を奪ったら帰ってこないんだよ。それにまだ小さいあなたが命を奪うなんてそんなのないわよ。」
「甘いですね。」
「えっ?」

少女は薄らと冷たい笑みを浮かべている。

「そんな事が甘いのはリゾナンターとして戦っているあなたが一番わかっていると思ってましたけど。その歳で甘い事を言っててはずかしくないんですか?」
「甘い?」
「戦いは非情です。殺すか殺されるかの世界なんですよ。命がどうのこうの言っていたら闘えま・・・」

バシッ!
絵里は少女の頬をビンタしていた。
「命を守るが甘い考え・・・冗談じゃないわよ!絵里たちは殺し合いをするために戦っているんじゃない!命を・・・そこから生み出される未来を守るために戦ってきたのよ!」

絵里にビンタされた少女はそのまま階段へと進んだ。

「ちょっと、待って。この人たちどうするのよ。」
「ほおっておいても自分たちから姿を消します。全員殺すつもりでしたけど、あなたに免じて命だけは勘弁してあげます。」

52名無し募集中。。。:2011/02/22(火) 00:00:36
少女と絵里は病院の外に出た。
「ねぇ、あなた名前は?鞘師っていうのが聞こえたけど。」
「鞘師里保。」
「へぇー里保ちゃんか。ありがとうね、あの人たちの命救ってくれて。」
「リゾナンターってあなたみたいに甘い考えの持ち主の集まりなんですか?」
「えっ、まぁそうかな?でも、みんな強いよ。絵里だってそういう思いを持っているから強くなれたし。そういえばあなたどうして絵里の事を知っているの?」
「あなただけではありませんよ。ほかのリゾナンターのみなさんのこともある程度知ってます。戦闘相手としてデータを見てますから。」
「戦闘相手って?」
「あの病院に行ったのもあなたと道重さゆみ、田中れいなに関することの調べていたんです。実は私・・・」
「実は?」
「対リゾナンター戦士。あなたたちを倒すために自衛隊に育てられたんです。ちなみに亀井さん、さっきビンタしましたけど、私が能力を解除していなかったら・・・」

すると里保は近くの鉄柵に手を振り下ろした。
スパッ!
すると鉄柵が真っ二つに切れた。

「手が真っ二つになってましたよ。」

53名無し募集中。。。:2011/02/22(火) 00:02:32
絵里に寒気が走った。
さきほどの男たちの銃が切られていたことは気になっていたけど、この子自身の体で切っていたとは。

「この斬体化の力は対リゾナンター用に人工的に植え付けられたんです。今度からは下手に触らない方がいいですよ。まぁっみんな、怖がって握手もしないでしょうけど。」

里保がそのままどこかに行こうとすると絵里が里保の手を掴んで引っ張った。

「えっ、ちょっと何するんですか!」
「行こうよ、喫茶リゾナントへ。」
「何考えてるんですか!私はあなたたちと戦うために訓練されたって・・・」
「でも、あなたは良い人だよ.絵里の言うことを聞いてくれたし。あなたは自分の事をあえて嫌われ者になろうとしているけど、本当は違うんでしょ。さっ、会わせてあげるよみんなに・・・」
「ちょっと!」
(この子は救ってあげないといけない。この子は絵里と同じなんだ、自分の力で関係ない人が傷つかないようにあえて遠ざけている。私たちなら救えるはず。たとえ私たちの敵なんだとしても・・・)

絵里は急いでリゾナントへ向かった心のうちに深い悲しみを抱える少女を救うために・・・

54名無し募集中。。。:2011/02/22(火) 00:07:43
>>48-53
「新たなる出会い 鞘師里保 編 」でした。
どうもリゾクラ作者です。
作者が何パターンも設定を考えてしまった鞘師里保ちゃんの登場回です。
実はここに投稿する数時間前にできたホクホクの作品なのでおかしなところがあるかもしれません。

ちなみにすでにほかの作者さんで出ている水限定念動力や水軍流はどこかで織り込んでみたいなと思っています。
今回は「Eri−Jun](07)100『Orange−Aid』という作品にリゾナントしました。

いまだにアク禁中ですので代理投稿よろしくお願いします。

55名無しリゾナント:2011/02/22(火) 05:56:32
行ってまいりました

56名無し募集中。。。:2011/02/22(火) 17:20:59
代理投稿ありがとうございました。

57名無しリゾナント:2011/02/24(木) 18:59:08
転載依頼

本スレ(http://toki.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1298110764/

>>136-145です

また連投規制をすっかり忘れていました
次からのレスの転載をおねがいできませんでしょうか?

58名無しリゾナント:2011/02/24(木) 19:00:20

そして別の言葉をつなげる。

「どうしても死ぬまで戦いたいとおっしゃるのでしたら、強くは止めません。
このまま続けましょう。
でも矢口さんはそこまで聞き分けのない人じゃないですよね?」

完全に上からの物言い。こんなガキに。
だが矢口はすでに戦意は喪失していた。
こいつらの言いなりになるしかない。

「オイラはこのあと、どうすればいい?」

「なにも。
矢口さんは今まで通りの毎日を。
なにかあればその時はこちらから、あらためて接触します。
変な気を起こさないでください、なんて野暮なことも言いません。
もともと矢口さんを縛るつもりもありませんしお好きなように。」

59名無しリゾナント:2011/02/24(木) 19:01:07

下手なことをすれば『警告なしに消す…。』そう言っているに等しい、最大限の脅迫。

矢口は首を縦に振るしかなかった。

「よかった。
願わくば今後も『平和的な関係で』ありたいものですね。」

少女たちは虚空へ消えた。
揺らぐ陽炎のように、忽然と。


夜の闇は静寂を取り戻していた。

60名無しリゾナント:2011/02/24(木) 19:01:49
----

以下補足情報。

補足1.組織側登場人物の能力設定。
後藤真希:【暗黒物質(ダークマター;dark matter)】
・詳細不明。実際には物質というよりは異空間の一種と推測されている。
天文の分野でよく耳にする実在の暗黒物質とは別物。
視認される現象としては一切光を反射しないマットで漆黒の不定形の『なにか』を出現させ
自在に形状変化させ攻撃や防御に利用する。
翼と化して飛行する等の使用も可能。
高硬度の物質を斬り裂く、銃弾や爆風、超高熱や超低温を防ぐなど、
物理的には最強の攻撃能力と無敵の防御能力を持つ。
極端な話、全身を【暗黒物質】で覆ってしまえば、文字通り悪魔のごとき人外の戦闘能力を発揮するはずで
後藤相手に勝つことなど、まして殺すことなど不可能に近いはずなのだが…

矢口真里:【能力阻害(インぺディメント;impediment)】
能力を妨害し事実上完全に封じ込めることが可能。
通常は距離にして数十メートル圏内の一人の能力を封じ込める。
またわざと妨害の威力を弱め、『がんばれば能力が使える』ようにすることも可能。
この場合、対象者は普段より威力の落ちた能力、かつ激しい体力気力の消耗を強いられる状態となる。
そんな相手をいたぶって楽しむのだ。
なお、エネルギー弾〜という設定は当作品では割愛されており、
実際に相手を倒すのは部下やコンビを組んだ他の能力者となる。
一人で戦う場合は、銃器に頼ることになる。

補足2.仮に後藤と矢口が戦ったら…
能力戦と言う点では、これほど最強の後藤といえども矢口によって能力は封じられてしまう。
ただし、後藤の場合、生身の格闘戦、銃撃戦いずれの場合も矢口を圧倒できるだけの能力を有しており
能力なしでもほぼ9割、後藤が勝つと思われる。
また、豊富な実戦経験と野性の勘から、実際は「後藤を殺してやろう」と決心した段階からすでに
その意図を見破られ、能力阻害しようとしたときにはすでに何らかの手を打たれているとおもわれ、
事実上矢口の勝つ見込みはゼロに等しい。
と、当作品内では設定しています。

61名無しリゾナント:2011/02/24(木) 19:03:26
>>136-145、>>->>

 ■ デビルマッシャー−和田彩花・前田憂佳X後藤真希・矢口真里− ■ でした。

62名無しリゾナント:2011/02/24(木) 19:05:12
>>57です
以上>>58-61のレスの
転載をどなたかお願いいたします

お手数おかけしてすみません

63名無しリゾナント:2011/02/24(木) 19:30:58
>>57です
自己解決できました

連投規制の仕組みがよくわからない…
もしかして30分で解除されるのだろうか?

64名無しリゾナント:2011/04/09(土) 01:07:18
相変わらずの規制です。どなたかよろしくお願いします…
7レスほどです。自分のやりたい放題
勝手に能力作って話書きましたので見たくない人はスルーでお願いします
フクちゃんメイン

65名無しリゾナント:2011/04/09(土) 01:08:32
お家の人について作文を書いてみましょう。
小学生の道徳の時間に先生がそういったのを鮮明に覚えている。
あの時、父親か母親かを指定しなかったのがせめてもの救いだった。
聖の手が止まる。思い浮かべるのは父親でも母親でもない。所謂『お手伝いさん』だった。


いいよねー聖ん家はお金持ちでさ。家超デカいじゃん。
お手伝いさんもいっぱいいるんでしょ?うらやましーい
服もいつだってブランドだしねー憧れるわー。やっぱ何でも買ってもらえるの?
いいなぁ。私も聖ん家の子に生まれればよかった


お金持ちだからといって全てにおいて恵まれているわけではない。 
実際、聖は自分の母親の顔が分からなかったし、父親だって年に2回会えばいいほうだった。
身の回りの世話をするのは赤の他人で、聖はいつも言いようのない孤独感を抱えていた。
 
クラスメイト達の声を曖昧な笑顔で濁す。
いつからだろうか、そうすることが当たり前になっていた。

66名無しリゾナント:2011/04/09(土) 01:10:01

「聖ちゃん、お茶のお稽古の時間です」

 
お嬢様という呼び方を『ちゃん』付けに変えろと言ったのはその孤独感を少しでも紛らわせるためで
聞き分けのよい聖がした唯一の我侭だった。
 
 
聖が生まれた頃から自分を世話してくれている『お手伝いさん』は申し分ないほど優しく、気の利く女性だった。
目じりに深い皺が刻まれている。笑うと濃くなるそれが聖は好きだった。
だがこの女性にも『家族』があり、その家族を養うため働いているのだと、社会の仕組みを知ったとき
聖はまた電気もつかない知らない場所にポツンと独りぼっちにされたような気分になった。

「お茶が終わったら絵を描いてもいい?」

顔も名前も知らぬ聖の母親は、絵を描くことが好きだったと聞いたことがある。
譜久村家ではタブー視されている母親の話題だったが、家政婦は聖が悲しそうな顔をする度
ほんの少しだけ母親の事を聖に教え、そして聖のために作った小さな巾着袋や赤ん坊の頃を描いた聖のスケッチをこっそりと見せてくれた。

旦那様は捨てろとおっしゃったのですが、私には出来ませんでした。

初めてそれを目にしたのはいつだったか。
家政婦から渡された綺麗な色の風呂敷。聖は静まり返った部屋の中でそっと結び目を解く。
随分と使い込んでいたらしい小さな巾着はところどころが綻びており、汚れが目立った。
『みずき』と鮮やかなピンクの糸で刺繍が施されている。
丸みを帯びたその文字がいかにも手縫である『らしさ』を表しており、聖は堪らずその文字を指でなぞった。
瞬きを忘れた瞳からぽたりと涙がこぼれる。それはすぐに袋の生地に吸収されてしまったが
零れ落ちるそれは止まる事を知らず、次々と溢れ頬を滑り落ちた。

67名無しリゾナント:2011/04/09(土) 01:10:55
優しいお手伝いさんも、ブランドの服も使いきれないほどのお小遣いなんかいらない。私のお母さんに会わせて

もう、温もりも匂いも何も残っていない。
涙が滲むそれを胸に抱きながら声を上げて泣いた。

ただ寂しかった。本来愛されるべき人に愛されたかった。
ぎゅっと抱きしめて、頭を撫でてほしかった。
聖、と優しい声で呼んで欲しかった。
それだけでいい。たったそれだけでいいのに


 ――――――――――――!!!!!

 
その時。 
眼球を強い力で押さえつけられているような酷い痛みを目の奥に感じた。
あまりの激痛に息が詰まる。
古いビデオテープが高速で巻き戻されているような気味悪い音が頭の中で鳴り響く。
フラッシュバック。白黒の映像が目の前を矢継ぎ早に通り過ぎる。目が、回る。

 うぅっ……!!!

頭が割れそうに痛い。

68名無しリゾナント:2011/04/09(土) 01:11:38

 なに…これは
 誰…

 
 
 寂しくなったらこの袋を開けて
 魔法をかけた飴玉が入っているから
 ひとつ舐めるだけで聖は元気になれる

 
 あの女の子は私だ
 そしてその女の子の頭を撫でるのは


 ママはお仕事に行ってくるから
 あとはばあやの言うことをしっかり聞くのよ、聖


 ――― お母さんだ

69名無しリゾナント:2011/04/09(土) 01:12:26

「6時にお迎えの車が参ります。夕食の後、絵の時間にしましょう」

「はぁい」

 
聖は手を振りながら車に乗り込む。家政婦は目じりの皺を深くしながらそれに応えた。
 


『モノ』に触れると母との夢を見ることが出来る。
実際に起こった現実なのか、自分が作り出している幻想なのか聖には判断が付かない。
それでも聖は母にひと目会いたくて、少しでも近づきたくて、名前を呼んで欲しくて
手当たり次第に『モノ』を掴み母との夢を探した。
夢を見た後には決まって高熱が出る。それでも聖はやめることができなかった。
 
  
「出発しますよ」
「お願いします」

車が静かに発進する。微かな揺れに稽古道具が小さな音を立てた。
 
「おっと」

割れ物が入っている。聖はそれを膝の上に乗せた。微かに指先が車のシートに触れる。

70名無しリゾナント:2011/04/09(土) 01:13:41
「―――っ!!」


眼球を押さえつけられているような激痛。
ビデオテープの巻き戻される音。
フラッシュバック。目の前を通り過ぎる白黒の映像。


 ―――…駅まで送ってください。そこからは自分で行きます。もう切符は買ってあるので…はい、
 時間までは喫茶店でも探して過ごします…ありがとう…。この車に乗るのも今日で最後ですね…
 あの、聖のこと………聖のこと、どうか気にかけてやってください…
 きっとあの人は―――…おざなりにすると思うから…どうか、お願いします…


「あ。」

この車だ。そして運転手は…、紛れもない今目の前に居る老人だ。今よりも少し若い。
そして母は…疲れた顔をしている。大きなバッグを膝に乗せて、今にも泣き出しそうな顔で話している。

 

 ――― あ、あの喫茶店にします。ここからだと駅まで歩いて5分くらいですよね…―――、いいです、停めてください
 本当に本当にお世話になりました…おねがいします、どうか、どうか聖のこと―――――――――………

71名無しリゾナント:2011/04/09(土) 01:14:32
「…ねぇ、じい。あなたは私のお母さんを最後に乗せた?」


体が熱い。体中に流れる血が沸騰しているかのようだ。お茶の稽古も絵を描くことも今日はできなさそうだ。
意識が朦朧とし始めている。聖は浅く呼吸を繰り返しながら、静かに車を運転する老人に声をかけた。



「お願い、母を降ろした喫茶店に連れて行って…私が見ているのは、夢じゃなかった…」


 
聖の身体が大きく揺れ、ぐったりとシートへ倒れこんだ。

72名無しリゾナント:2011/04/09(土) 01:20:07
>>65-71『mizuki―――』 以上です。
勝手に考えて勝手に作りました。一人に対して色んな能力案?があってもいいですよね
そこがリゾスレのいい所だといい風に解釈していますw
フクちゃんのお金持ちのイメージから書き始めたらこんなことになってしまった
一応『接触感応』『接触感応者』ってことでサイコメトリーでサイコメトラーなイメージです。
実際にフクちゃんはまだ自分の能力に気付いてない、でも気付き始めてる?設定でw
こんなん書いといてあれですが、フクちゃん未来人設定自分も好きです

改行などはお任せします
お手数ですが代理投稿よろしくお願いします
明日やっとリゾナンターに会えるっ!!!

73名無しリゾナント:2011/04/09(土) 10:48:09
行ってきますね

74名無しリゾナント:2011/04/09(土) 10:58:40
行ってまいりました
サイコメトリーとはまた渋い能力を選ばれましたな
ただ母の残像を求めて家中の色んなものを触る場面というのは美しいですな

75名無しリゾナント:2011/04/10(日) 00:56:29
>>74
ありがとうございました!
メジャーな能力なのに出てないなぁと思いましてフクちゃんに宛てました

またお世話になるかもしれませんm(__)m
その際はよろしくお願いいたします

76名無しリゾナント:2011/04/16(土) 21:49:50
http://hato.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1301481279/

サーバーが変わったらしいね

77名無しリゾナント:2011/04/18(月) 22:30:52
二人の預言者が彼女を例えた
一人は「希望」と、一人は「絶望」と

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

「はい、オッケーです!!」
「「「「「「ありがとうございました」」」」」」
豪華なセットの前でブラウン管の中の人物達がテレビ局のスタッフに挨拶をする

その中に月島きらり、いや、久住小春の姿があった
「ありがとうございました!」
久住は深々とお辞儀をして、スタジオを後にし、用意された楽屋に戻ってきた
「マネージャーさん、どうでした?今日の小春は?」
「う〜ん、まあまあだね。もう少し頑張れるとおもったな、僕は」
「そうですか?小春は結構手ごたえありましたけど〜あ、着替えるので後ろ向いてください」
マネージャーとの反省会をしながら久住は身支度を整える
「はい、こっち向いてもいいですよ。え〜と、今日はこれでおしまいですよね?」
「いや、チーフから事務所に来るようにと言伝を受け取っております」
「え〜せっかく早く終わったから映画観ようと思っていたのに〜」
唇を尖がらせて久住は抵抗を示すが、それが無駄だということは分かっていた

「じゃあ、急いで駅まで行きましょうか?」
「え〜タクシーじゃないんですか〜?」
マネージャーは頭を掻きながら苦笑いを浮かべた
「ダメみたいです、アハハ…」
「最近さあ、タクシー移動減ってるよね?もしかして、エコに会社も賛同したのカナ?」
「え、そ、そうかもしれませんね、ハハハ・・・さて、きらりちゃん行きましょうか!」
「は〜い」

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

78名無しリゾナント:2011/04/18(月) 22:31:26
「エリ〜まだ帰らないの〜寒いよ、暗いよ、お腹すいたよ〜」
「さゆ、もう少しだけ付き合ってよ。今、秘密特訓中なんだから」
「さゆみがいるだけでもうすでに『秘密特訓』じゃないと思うの」
さゆみは自販で買ったホットココアを一口飲み、満足そうに白い息を吐きだした

亀井は公園のベンチの上に並べられた空き缶に意識を集中した
体全体で空気の流れを感じ、微かな気流を読み取る
そこから気流の渦を掴み、その気流の端を手にするイメージを浮かべる
気流の端をムチのように、もしくは気流をそのまま弾丸のように弾き飛ばすように手を大きく振るう

シュッ  カーン

並べた10個の空き缶が見事に宙に舞った

「お見事、もう完璧だね♪」
道重がカマイタチで弾かれた缶の軌道を目で追いながらパチパチと拍手する
「・・・いや、まだだよ、今はしっかりと風の流れを掴め切れなかったもん
 ただ風をぶつけただけで、切れ味がまったくない。重いだけのカマイタチじゃダメなんだよぅ」
亀井は飛ばされた缶をもう一度並べ直しながら、首をかしげた
「どうすればいいんだろう?もっとしっかり風を読める方法ないのかな・・・」
「エリはほんとうにがんばるね〜さゆみはもう眠くて眠くて仕方がないよ」
しかしそうやって文句を言いながらも道重は亀井の特訓に付き合ってきていた

「よし、もう一回!」
亀井は集中するために大きく深呼吸を繰り返し、目を閉じた
両手を広げて全身の感覚を過ぎ富ませ、風を感じる
(よし、今は風は静かに流れてるね。よし、これなら、風を掴みやすい)
亀井は静かに呼吸を整え、きっかけをつかもうとタイミングを伺い始めた

79名無しリゾナント:2011/04/18(月) 22:32:32
(うん、いい風だな・・・ん?あれ?)

突然腕を下ろし、辺りをきょろきょろと見渡し始めた亀井の様子を見て道重もベンチから立ち上がる
「どうしたの、えり?」
「サユ、なんか風がおかしい。何か起こりそうな気がする」
「それってダークネス」
「いや、違う、そんな悪い空気じゃないの。これまで感じたことのない感覚」

亀井は空気が渦巻きのように一点に集中しているように感じた
その一点の空気の密度が重くて奇妙な感覚
まるでその一点に空気が流れこんでいて、窓があるかの外へと抜けていく感覚

「サユ、ちょっと見に行こう。何か気になるの」
強引に道重の手を引っ張って亀井は走り出した
「あっちだ!サユ、あそこを見て」
亀井がさした先はこの公園のシンボルにもなっている大きな木の頂上近く
「え?何あれ?」
空間に渦巻きができていて、頂上付近の葉が渦の中に吸い込まれて少しずつ消えていった

「ちょっとサユ、下がっていて。そーれ」
亀井は特訓に使っていた空き缶を頂上近くに飛ばした
放物線を描いて頂上付近まで飛んで行った空き缶は―そのまま地面に落ちることなく消えた
「消えた?」「というより吸い込まれているって感じだね」

(これは愛ちゃんに報告したほうがいい)
そう亀井が思った時、新たな、今とは違う風を感じた
今度は先ほどとは逆に『外に向かう』風だった

(―何かが来る)
それを感じさせたのは亀井の本能だったのかもしれない。何も言わずに亀井は道重の手を取って駆けだした

80名無しリゾナント:2011/04/18(月) 22:33:10
二人が振り返ると渦巻きのあった木の頂上の辺りの空間に卵を割るときのようなヒビが入っていた
そこから何本もの細い光が差し込み、深夜だというのに奇妙な明るさが生まれていた
「何が起きているの」
立ち止まろうとする道重の手を引っ張って足を止めないようにしつつも、亀井の目はそこに向いてしまう

ヒビ割れた空間には葉っぱなり砂が吸い込まれたり、吐きだされたりと忙しい
そうしているうちにひびが細かくなり、卵のように空間が『砕けた』
亀井、道重はもちろんのこと、辺り一帯が眩しい光で包まれた
「まぶしい」「何も見えない」
思わず道重は亀井の手を強く握った。ぎゅうっと強く、逃がさないようにと

光が消え、目を開けて視界が回復するのも時間にしてみればわずか数秒
「さゆ、大丈夫?」
「うん、まだ少し頭がボゥっとしているけど、怪我はしていないよ。エリは?」
「エリも大丈夫・・・だけどなんだったんだろう?風は元に戻ったから大丈夫だと思うんだけど」
「爆発・・・じゃないよね?怪我もしてないし、何も倒れていないし」
そう言って道重は先程奇妙な渦が浮かんでいた辺りを眺めた

「!!ねえ、えり、あそこ、木の根元を見て!誰か倒れている」
「本当だ!さゆ、急いで!!」
慌てて二人は駈け寄った

倒れていたのは一人の女性であった。近くには彼女のモノと思われるカバンが落ちていた
道重は肩をたたいて意識があることを確認する
「もしもし、大丈夫ですか?私の声が聴こえますか?」
「う、うん・・・」
かすかではあったが女性は反応を示した
「よかった、意識はあるみたい。それに怪我もしていないみたい」
亀井と道重はほっと安堵のため息をついた

81名無しリゾナント:2011/04/18(月) 22:33:42
すると倒れていた女性が尋ねてきた
「あ、あの、今は何年何月ですか?」
「へ!?20XX年3月だよ」
「そう・・・よかった・・・着いたんだ・・・」
そう言って女性は意識を失った

「ちょっと、もしもし、もしもし!起きてよ!」
突然意識を失った女性を腕に抱えて何度も道重はヒーリングを試みる。が、一向に起きようとはしない
「息はしているんだけど、どうしよう?このままほっておくわけにはいかないし」
「・・・さっきの風の変化とこの人が関係あるかもしれないし、一旦リゾナントで預かってもらおうよ
 今、愛ちゃんにお願いするから」
亀井は携帯をカバンから取り出した

亀井が高橋に電話する間、道重は何者なのかを調べようと落ちていたカバンを探りだした
カバンの中身は主に衣服だったが、驚いたことに底の方に数百万ほどの現金が詰まっていた
「な、なに、この人何?なんで現金が入っているの?」
カバンの内ポケットには名前を示す書類が入っていた
「『ふくむらみずきさん』・・・14歳・・・え?14歳?この人、14歳なの!?」

そこに高橋が“跳んで”現れた
「連絡貰って急いできたよ〜話は聞いたからリゾナントに連れていくよ!絵里とさゆ荷物はお願い!」
そう言い高橋は「ふくむら」を背負い、リゾナントへと跳んだ
道重は開けていたカバンを閉じ、他にも落ちていた「ふくむら」の持ち物と思われる荷物を亀井に渡した
しかし、しっかりとカバンが閉じていなかったのだろう、何かがカバンから地面へと落ちた
「さゆ、しっかりしてよ。何か落ちたじゃない。もう〜」
亀井がしゃがみ込んでその“何か”を拾った
「なにこれ?お守り?」
月明かりに照らされたそれには黄色の糸で「A」、緑の糸で「R」とアルファベットが縫われていた

82名無しリゾナント:2011/04/18(月) 22:34:53
                ★   ★   ★   ★   ★   ★

カタンと光井の手から離れたその刀を小春は拾い上げた
鞘から抜き出しその刃が研がれているのを確認して、へえと小さく声を上げた
「なんだ、みっつぃ、やっぱりこの子をしっかり使ってくれてるじゃない。
全然錆びていないし、きっとたくさん血を吸ってきたのカナ?」
久住は刀の峰をぺろりと舐め、嬉しそうに微笑んだ

「うぅ・・・さ、触るんな・・・」
「あ、やっぱ電圧抑えてたから死ねなかったのカナ?みっつぃ、具合はどう?」
「・・・気易く愛佳の名前を呼ぶなや、この裏切りモンが!」
「その台詞、しっかり立って言えたらきっと凄身がでるのにね〜関西弁ってやっぱ苦手かも〜」
久住は地面で倒れたまで動けない光井を見て、髪の毛を左手でいじりながらあっけらかんとした口調で言った
「無駄だって、しばらくはみっつぃは動けないから。
『いい感じ』に運動神経だけ麻痺させたから見えたり、話せたりするけど動けないから」
そう言われても光井はどうにかして動かそうと手足に力を入れたが、やはりぴくりとも反応しない

久住はしゃがみ込み、動けない光井に顔を寄せた
「くやしいでしょ、みっつぃ。何もできないって。ただ見るだけ、話すだけってツライよね〜
ねえ、みっつぃ、その格好地べたにはいつくばっているようだよ!まるで蟻みたいカナ☆
それに比べて小春は蝶!自由に何にも囚われず空を飛びまわる綺麗な蝶☆バサバサ〜」
そう言って久住は腹を抱えて笑いだし、光井は唇を強く噛み締めた

その表情に気がついたのだろう、久住は明らかに不機嫌そうな顔で光井を睨みつけた
「あ?何、その表情?蟻の分際で蝶に楯突くつもり?」
「・・・あんたはほんまの久住さんやない・・・」
「何言ってんの?私は小春、あなたのかつての仲間であって、今はダークネスの久住小春」
「愛佳のしっとる久住さんはあんたみたいな心が凍った人間やない。
あんたは名前と顔は久住小春やけどあんたは仲間だった『久住さん』なんかとちゃうわ!」
久住は自分を見つめる愛佳の目に憎しみの炎が燃えたぎっているのを感じていた
「・・・光井愛佳、小春は変わったんだよ。あの頃みたいな甘い考えは捨てた
 やりたいようにやって、生きたいように生きる、それが今の小春のポリシー!今が楽しければそれでいい!」

83名無しリゾナント:2011/04/18(月) 22:35:35
小さく光井は悲しげに息を吐いた
「かつて視た未来の予知では久住さんと愛佳が高橋さんが残してくれたものを守るハズだったのに
いつから愛佳達の道は分かれてしもうたんや・・・」

光井の呟いた言葉が久住の脳裏に邪悪な心を呼び起こした
「『いつ』から?そうね、明確な時は小春も分からないや・・・そうだ、面白いこと考えた♪
 ねえ、みっつぃ、いつから小春が変わったのかその正確な日時を教えてあげるよ」
わざと声色を優しくして久住は光井に話しかけ始めた
「何をする気や!やめるんや!」
光井は大声をあげて、久住を引き留めようとした。そう、これから彼女がしそうなことを予測できたので―
ただ動こうとしてもやはり力が入らず、どうしようもない

「無駄だって、動けないよ。そこで大人しく見てなよ。
でも、仲間だったことがあるから小春のしそうなことは予想できるって?すごいよ、やっぱみっつぃは凄いよ
今度はさ、みっつぃも私と一緒にこちら側に来てくれることを期待しているから」
(動け、愛佳の体、少しでも動け!)
「みっつぃのしたことは小春、知ってるよ。過去に戦士を送って今を変えようとしてるんでしょ〜
そして、これがその過去へとつながり入口ってことも☆」
そう言い久住は―光井の開いた時空の扉へと飛び込んだ
「面白そうじゃん、時間旅行なんて☆」と言葉を残して

「フクちゃん・・・すまん、とんでもない人をそちらに送ってしもうた
気を付けてくれや・・・ああ、高橋さん、ふくちゃんを、久住さんをしっかりみていてください」
そして、動けない光井の目の前で時空の扉は完全に閉じ切った

84名無しリゾナント:2011/04/18(月) 22:40:00
以上『止み、病み、闇』です。
『聖なるもの』書いた作者が考えていた『聖なるもの』シリーズの続きです。
なんていうか設定だけを走らせてますが、一応の俺なりの答えです

投下できないので代理の方お願いします。

85名無しリゾナント:2011/04/19(火) 05:40:51
いって来ましたぜ
この小春は憎たらしいけど魅力的だな
…ところでもう一つ続き物書いてませんでしたっけ

86名無しリゾナント:2011/04/19(火) 20:33:52
>>85
代理ありがとうございました(^o^)
闇小春は矢口っぽい小春をイメージして書きましたw
それから『能力』については他の皆さんにお任せしたいです
全ての設定を決めるのはスレとして良くないことだと思うので

え〜と、もう一つのほうはもがき苦しんで書いてます(汗
オチは決めてるけど、最初の部分がしっくりこないんです(+_+)

87名無しリゾナント:2011/05/10(火) 19:26:43
――――――――

こんばんは

しばらく作品を投下せずにいる間に狼の事情がだいぶ変わっているみたいで
「忍法帳」という壁に投下を阻まれてしまいました。

どなたか【代理投稿】を願います。

――――――――

88名無しリゾナント:2011/05/10(火) 19:27:19
 ■ スクールエントランス −鈴木香音− ■

「やだやだやだやだー!やなの!やなの!やなの!!!」
道重さんがじたばたしながら必死に異議申し立てしている。
「もーさゆー。あんたも一回納得したでしょーが?」
「でもっでもっ」
「でもじゃなーい。あんまりわがまま言うと入学式連れて行かないよっ。」
「うーっ…」
「鞘ちゃあああああああん!」
「うわっ。道重さん。」
「鞘ちゃんだってやでしょ?寮なんかよりさゆんちの方がいいよね?ね?」

あーあー…、大変だなぁコリャw
ずっき…鈴木香音はニコニコと二人の珍コントを見物していた。

この春、鈴木と鞘師はそろって私立凰卵女学院中等部へ入学した。
この冬はとても勉強どころでは無かったし(鈴木「てっかもともとアタシばかだけどwww」)
学校どころではないって思っていたのに。
ある日、高橋さんが願書を持ってきてくれた。
「受けてみ?『きっと受かるから』」

「大丈夫ですよ。ずっきもいっしょだし…それに。女子寮、リゾナントへは道重さんちより近いです。」
「でもっでもっ!さゆいなかったら鞘ちゃんのシャンプーとかご飯あーんしてあげる係とかっそれからそれからっ…」
「大丈夫です…自分で出来ます…。」
「てゆうかアンタいままで鞘師にそんなことやってたんかい」
新垣さんのツッコミ。
「ひゃひゃひゃさゆは鞘師がホント好きなんやねー」
「笑い事じゃないよ愛ちゃん!ほんとにもー」
「それよっか皆さん。はよせんと時間時間!」
「うわっ!ちょっいつの間にこんな時間!鈴木っ鞘師っ!もーいくよ!」

89名無しリゾナント:2011/05/10(火) 19:28:20
勢いよく開いたドアから駆け出す。
春の風が頬をなでる。

わー幸せだなぁアタシ…

香音は空を見上げる。

お父さんっ、アタシねっ!今日から中学生になったよっ!

90名無しリゾナント:2011/05/10(火) 19:30:12
転載しました

91名無しリゾナント:2011/05/10(火) 19:30:54
 ■ ミッションエントランス −鞘師里保− ■

「おうらん…女学院ですか?」
「そうやよ。そこへ潜入してもらいたいんやよ。」

走りながら鞘師は高橋さんの言葉を思い出していた。

「今回の任務…教師や職員という立場ではなく、学生という立場でなければならんの。」

「形の上では入試を受けてもらうことになるが…」

無邪気に前を走る鈴木に目を向ける。

「わかってんのかなぁ…もう」

高橋さんが掴んだ情報。

凰卵学園で能力者による事件が起こる。
確実に。
そしてその犠牲者もまた ―能力者―

92名無しリゾナント:2011/05/10(火) 19:31:59
>>88-89

 ■ スクールエントランス −鈴木香音− ■ でした。

>>91

 ■ スクールエントランス −鞘師里保− ■ でした。


>>91
ありがとうございます

93名無しリゾナント:2011/05/10(火) 19:33:48
>>91も転載しました
こちらこそ作品投稿ありがとうございました

94名無しリゾナント:2011/05/10(火) 20:01:03
転載乙です
締めレスも転載してあげてくださいね
やっときますゞ

95名無しリゾナント:2011/05/10(火) 20:04:31
すいません
忘れておりました

96名無しリゾナント:2011/05/10(火) 20:14:29
鞘師視点の方は作品の巻頭の「■ ミッションエントランス −鞘師里保− ■」として保管庫に収録させていただきました

97名無しリゾナント:2011/05/11(水) 19:00:22
>>93-96
昨日はお世話になりました。
実はまたお願いが…

98名無しリゾナント:2011/05/11(水) 19:01:15
 ■ スキームエンスキーム −矢口真里・市井紗耶香− ■

日暮れが、近付いて来ている。

「eg-0xx…13歳、能力は【残留思念感知(オブジェクトリーディング;object reading)】ねぇ…」
矢口は改めてターゲットのデータを確認した。
「今はふくむら…みずき…譜久村聖…14歳…か。こんなガキ拉致んの楽勝すぎんだろ」
矢口の独り言は続く。
「残ってる情報見る限りじゃその的中率も、とても実用には程遠いし、典型的なクズ能力者じゃん。
測定から一年経ってるったって現在の能力もたかが知れてるにきまってる」
そう、心配無いはずだ…、よぎる不安を無理矢理に打ち消す。
「そんなクズを捕獲するのにイチイを呼んだわけ?」
「うるせーな。なんも聞かねーで協力するって約束したろ!」
「まあ、いいけどね」
こいつ…なんかやつれたな…矢口は久しぶりに会った戦友にふとそう思った。
市井はだいぶ以前から前線に出ることはなくなっていた。
最強とまでは言えないものの、組織内でも上位の能力者であった市井がなぜ突然出世コースをも外れ、裏方に回ったのか。
矢口は矢口なりにその理由を理解していたが、あえてその真相を深く知ろうとはしてこなかった。
そんなことは、どうでもいいことだった。

99名無しリゾナント:2011/05/11(水) 19:02:14

組織内に裏切り者がいる。市井に話したのはおおむねその一点のみだった。
裏切り者はリフューズナンバーを使い、「なにかを画策している」。
自分のセリフとも思えない支離滅裂とした話の内容ではあったが、市井はなにも聞かず協力することを承諾してくれた。

エッグの育成は組織でもかなり上位の人間たちが運営してきたプロジェクトだ。
そのプロジェクトの「廃棄物」をほとんど痕跡も残さず外部へ持ち出し、あまつさえ「あんな化物に改造する技術力をもつ相手」…
どう考えてもそんなことが出来るのは「組織」それ意外にありえない。
であればうかつに幹部連中に情報を漏らすわけにはいかない。
可能な限り自分一人で調べる必要があった。
その過程で下部構成員クラスの内通者を大量にいぶり出すことには成功した。
ときには泳がせ、ときには拷問し、少しづつ疑問の解明につながる情報を集めていく。
そして、矢口は、ある疑念に辿りついていた。
矢口にとって考えたくない結論、あってはならない真実。
そして、その疑念が「間違いであることを証明するには」もはや直接廃棄物を捕獲し情報を得るしかないと決断したのだ。
調査の過程で「まず確実に裏切り者ではない」幹部も何人かは判明していた。
だが、どこから情報が漏れるかわからない。矢口は他の幹部を引きこむのはまだ危険だと判断した。
それよりも先に知っておくべきことがあった。
結局下手な小細工をしなくてもいい方法…記録を消す必要がない―組織が関心を持っていない相手。
となれば閑職の市井ぐらいしか選択の余地はなかった。

100名無しリゾナント:2011/05/11(水) 19:04:50
それにしても…矢口は思う。
譜久村聖を拉致するだけならコイツの能力で充分だろう。
仮に「能力の増幅」が行われていても、どのみち非戦闘系の能力者だ。何とでもなる。
「あの化け物」のようなけた外れの改造はそうそう成功しない。
それが、矢口なりに調べた結果得た確証だった。
そう、不完全とはいえ、すでに矢口は「廃棄物」達と…、何より「和田彩花」に行われた「おぞましい事」の概要を掴んでいた。
そして同時に「和田彩花」攻略の手掛かりも。
ただ、オイラとコイツだけでそれが可能なのか…それが不安だった。
だがそれもまた先の話だ。
自分の身辺を監視し、やつらに情報をリークしていたスパイはすでにこちらで掌握し、偽の情報を流してある。
今日のところはやつらと遭遇する可能性はまずない。

ピー。インカムにセンサーからの警告音。

「よし、予定通りターゲットを乗せた車両がポイントAを通過した。市井、アレ準備してくれ。」

「もう…始めてる。」

超…、超キメぇ…。
矢口は心の中で毒づく。
コイツの能力…オイラ、マジで嫌いなんだよな…。

日は沈み…、全てを暗闇が包んでいく中、不気味な音が地を満たしていく。

キチキチ…キチキチキチ…

101名無しリゾナント:2011/05/11(水) 19:07:27

>>98-100

 ■ スキームエンスキーム −矢口真里・市井紗耶香− ■ でした。

以上、本スレへの代理投稿をお願いできませんでしょうか?
よろしくお願いいたします。

102名無しリゾナント:2011/05/11(水) 19:33:30
じゃ、行ってきますかね

103名無しリゾナント:2011/05/11(水) 19:39:17
完了
今度は矢口さんのターンですか(違
どんどん世界が広がってくなあ

104名無しリゾナント:2011/05/12(木) 19:04:29
>>102
代理投稿いただきありがとうございました
ご迷惑をおかけして申し訳ありません
本当に毎度毎度恐縮なのですが…またお願いに上がりました…

105名無しリゾナント:2011/05/12(木) 19:05:10
 ■ ヒデュオスレギオン −譜久村聖X市井紗耶香− ■  

今が夜であったことは、幸いであったのかもしれない。

キチキチ…キチキチキチ…

地面すれすれをさざ波のように音が這い進んでいく。
不気味なさざ波の音をかき消すようにクラクションの音が絶叫し続けている。
ひしゃげたバンパー、傾いたフェンス…。
そしてアスファルトを埋め尽くす…

 ―蟲だ。

ゴキブリ、ムカデ、アリ…、その他名状しがたい大小さまざまな蟲たちが、その黒いセダンを覆い尽くさんと這いまわる。

【蟲使い(バグテイマー;bug tamer)】。
蟲を呼び寄せ自在に操る…、それが市井紗耶香の能力だった。

ブチッ ブチッ ブチッ

地を覆い尽くす黒い絨毯を踏みつぶしながら、市井はセダンへと歩を進めていく。

ブブ…、ブブブブブ…

すでに羽虫やゴキブリによって窓という窓は覆い尽くされ、中の様子は伺えない。

車の機密性などたかが知れている。
今頃車内にも蟲が侵入し始めている頃だろう。
すぐにパニックになって飛び出してくるはずだ。

「簡単な仕事だったわね」

106名無しリゾナント:2011/05/12(木) 19:06:51

そうひとりごちる。

ガチャ…
後部座席のドアが少しだけ開く。
開いたドアの隙間から蟲たちが侵入する。
市井は体中を蟲に這いまわられ、悲鳴を上げて飛び出してくる少女を想像し、サディスティックな笑みを浮かべた。

が…。

ズバウン!

「!?」

ゴォッ!

「な?なにコレ…。聞いてねえぞ矢口…」

輝く翠玉…いや…これは炎だ。エメラルドグリーンに輝く、緑の焔。

すらりとした…それでいて肉感的な脚が地面に降り立つ。
瞬間、地を這う蟲は炎に巻かれ、タンパク質の燃える嫌な臭いを撒き散らす。

すらりとした…それでいて肉感的な手がドアに触れる。
ドアを這いのぼる蟲が、飛び回る羽虫が、根こそぎ焼き尽くされる。

「とうとう…見つかってしまったんですね…私…」

物憂げな瞳、抜けるように白い肌、艶やかな黒髪。そして…、

…匂い立つ色気…。

107名無しリゾナント:2011/05/12(木) 19:07:56

大量の蟲が焼け焦げる異臭の中にあって尚、彼女の周囲だけには蜜のような甘い香りが満ちているかのようだった。

―譜久村聖―

―少女と呼ぶにはあまりに早熟な肢体の―少女がそこにいた。

108名無しリゾナント:2011/05/12(木) 19:09:04
>>105-107
 ■ ヒデュオスレギオン −譜久村聖X市井紗耶香− ■  でした。

以上、本スレへの代理投稿をお願いできませんでしょうか?
よろしくお願いいたします。

109名無しリゾナント:2011/05/12(木) 19:24:27
行ってきますかね

110名無しリゾナント:2011/05/12(木) 19:32:56
完了
市井さんの能力超キメぇ
譜久村さんの能力は緑つながりで発炎ってわけでもないですか

111名無しリゾナント:2011/05/13(金) 19:32:00
>>110
ありがとうございました。
>譜久村さんの能力
能力についてですが実は発炎ではないんです。
でも緑つながりはあるにはあります。

112名無しリゾナント:2011/05/13(金) 19:32:50
 ■ エンチャンター −譜久村聖− ■

薄闇に翠玉色の炎が舞い上がる。

大量の蟲が焼け焦げる悪臭の中にあって尚、彼女の周囲だけには蜜のような甘い香りが満ちているかのようだった。

―譜久村聖―

―少女と呼ぶにはあまりに早熟な肢体の―少女がそこにいた。


「おどろいた…。あなたの能力って【残留思念感知(オブジェクトリーディング;object reading)】じゃなかったの御嬢ちゃん?」
譜久村は答えない。
かわりに車内へ目を向け、手をかざす。

ゴォッ!
車内が一瞬で緑の炎に包まれる。
市井など意に介さずが如く運転席側へまわる。
不思議なことに緑炎は運転手の服も身体も、車内内装も焼くことなく、蟲だけを焼き殺していた。
よかった、まだ息はある。
それだけ確認すると、あらためて市井へ向き直った。

市井は落ち着きを取り戻していた。
現役だった頃から彼女は慎重な戦い方をしてきた。決して無理をしない。
たしかに、蟲使いである自分にとって、火炎能力者は最悪の相手だった。
単独での戦闘ならばとっくに市井は撤収している。
だが、後方に矢口が控えている限り、「どんな能力者であれ」無力化出来る。
そう、市井は目の前の能力者を単なる【二重能力者(デュアルアビリティ)】と思っていた。
すぐに矢口が無力化する。それからゆっくり料理してやればいい。

113名無しリゾナント:2011/05/13(金) 19:33:54

「矢口、たのんだ。」
沈黙、いや、かすかな息遣いは聞こえる。矢口に似合わない、逡巡、躊躇。

そう、市井は知らない。
「和田彩花」の存在を。矢口の能力の及ばぬ能力者の存在を。
目の前の相手もまた同様の存在ではないとはいえない。その可能性を。

「どうした矢口、やれよ。」

矢口は我にかえる。
大丈夫だ。あのガキは「あの化け物」じゃない。
「あの化け物だけ」が特別なんだ。
だが、どういうことだ?あれは「能力の増強」なのか?まるで別の能力じゃねえか。
いや、なんであれ無効化できるはずだ。
それに「あの化け物」に効かなかったカラクリだってもうわかってる…わかっているはずだ。
あのガキは「あの化け物」じゃない。大丈夫だ。やれる。

矢口は【能力阻害(インぺディメント;impediment)】を発動した。

114名無しリゾナント:2011/05/13(金) 19:34:59
突然、譜久村のまとっていた緑炎が消えた。
瞬間、世界に闇が戻る。

市井はニヤリと笑みを浮かべる。
炎におびえるかのごとく距離をおいていた蟲達が再び勢いを取り戻す。

「さぁて、どうする御嬢ちゃん?」
譜久村は動かない。
市井はわざとゆっくりと蟲達の包囲陣をせばめていった。

「安心なさい。おとなしくしていれば殺したりしないわ。そこでじっとしてなさいね。」

睡眠薬入りの注射器を取り出しながら優しく声をかける。
譜久村は答えない。おびえきっているのか?
まあいい。もともとこのコを殺すわけではない。
恐怖を与えおとなしくさせればそれでいい。
事実目の前の少女はおとなしかった。
いや…、おとなしすぎた…。
少女は空を見上げる。静かに、ただ静かに。
その顔に恐怖はない。不安も決意も諦めもない…。

「?…」

空を見上げたまま、譜久村はポケットから何かを取り出した。
その小さな何かを片手で器用にめくる。
四角く白く小さな何か。
文房具?…
かわいらしいキャラクターの表紙の付いた、どこにでもあるようなそれは…単語帳だ。

115名無しリゾナント:2011/05/13(金) 19:35:47
市井は異変に気づいた。
この御嬢ちゃん…、「まだ何かする気」だ。
何かはわからない。だが、あの手に持つ単語帳…あれが鍵だ。あれは危険だ。
市井の直感がそう告げる。
いますぐ取り上げなければ!
急いで蟲達に念を送る。
一気に輪が縮まる。少女が黒い濁流に飲み込まれる。


そのとき、
世界に再び、緑の光が満ちた。

ゴォッ!

地を這う蟲が焼き尽くされる、空を舞う羽虫が消し炭となってパラパラと落ちる。
翠玉のごとき煌めき。エメラルドグリーンに輝く、緑の焔。

「ザーッ…なんだ…ザーッ…!くそっ!ザーッ…なのか!?」
インカムから矢口の罵声が聞こえる。
だめだ。矢口らしくもない。完全に取り乱してる。
市井は作戦の失敗を悟った。
市井は現場であれこれ考えるタイプではない。失敗の原因など後で調べればよい。
失敗したなら即座に撤収する。それだけだ。
「矢口、あたし逃げるわ。あとで合流な」
矢口の答えを待たず市井は遁走した。
蟲達が瞬時に市井を覆い尽くし…。
再び散り散りに蟲が四散したとき、すでにそこに市井の姿はなかった。

116名無しリゾナント:2011/05/13(金) 19:37:57

先ほどまで世界に満ちていた翠玉色の炎はすでに消えさっていた。

だが、月明かりと、ぽつぽつと付き始めた街灯が、都会から暗闇を消しさっていく。

すでに敵の気配はない。

譜久村聖は単語帳、その中の一枚のカードに目を落とす。
カードには大きく手書きでなにかが書かれている。「…in …in 」誰かの名前だろうか?
そっと文字をなぞる。
ほとんど自動的に【残留思念感知(オブジェクトリーディング;object reading)】が発動する。
だが、そこからは何も読み取れない、なにも浮かんでこない…
特に気にする様子もなく、少女は胸ポケットからペンを取りだす。
そのカードに小さく×をつけた。
そして、ページをめくり何枚かのカードに×を書き加えていく。

「このカードは、あと、二枚か…」

そう…これが彼女の能力。

もともと、彼女の能力は人や物に触れることでその残留思念を読み取る力だった。
だがその能力は「処置」によって拡大され、残留思念を物体から物体へコピーする力へ…、
そして、いまや能力者の能力を物体にコピーする力へと進化していた。

【残留思念感知(オブジェクトリーディング;object reading)】の拡大された真の姿。
言うなれば、これは【能力複写(リプロデュスエディション;reproduce addition)】だった。

117名無しリゾナント:2011/05/13(金) 19:39:35

だが、どういうわけか譜久村にはこの単語帳に関する記憶が無い。
単語帳に能力を封入したのはまさに譜久村の能力、それはわかっている。
その使い方も戦い方もすべて完ぺきに理解している。
しかし譜久村にはその記憶がない、この単語帳を作る以前の記憶がすっぽりと抜け落ちている。
当然、封入された能力の持ち主も知っていたはずだ。が、その記憶もない。
自らの思念感知を用いてもなぜかこの単語帳からは何も読み取れない。

単語帳や能力のことだけではない。
彼女の記憶は不自然な記憶の抜け落ちだらけだった。
組織のことも、エッグのことも、自らの生い立ちも…。
普通ならばこのような状態で平気でいられるはずがない。
自分はいったい何者なのか?今の自分はなんなのか?
疑念と不安に押し潰され、精神を病んでもおかしくはない。
しかし、彼女は信じられないほど楽観的だった。
なぜか、まったくそこに疑問を感じることが出来ないのだ。
虫食いだらけの記憶のまま、そのままで彼女はこの一年を過ごしてきた。

だが、それでも、それでも心の奥底で、彼女にはわかっていたのだろう。
今の偽りの生活が長くは続かないことを…、必ず訪れる平和な日々の終わりを。
そして、もしかしたら、平和な日々の終わりが、
失われた記憶を取り戻す可能性への扉が開くきっかけになるのかもしれないことを。

譜久村聖は夜空を見上げる。

夜空には、月が輝き、星は、やさしくまたたいていた。

118名無しリゾナント:2011/05/13(金) 19:47:37
>>112-117

 ■ エンチャンター −譜久村聖− ■ でした。

以上代理投稿をお願いできませんでしょうか?
お手数おかけしますがどうぞよろしくお願いいたします。

>>110
サイコメトラー設定からどこをどうしたわけかマジックアイテム作成能力者に設定が暴走してしまいました。
彼女の【能力複写(リプロデュスエディション;reproduce addition)】に関しては
制限やらなんやら設定を色々考えてあって付録で載せるかとも思ったのですが50行近くあるし
なにより「後で細かい設定を変えたくなった時」こまるかも?などと考えやっぱりやめます;

119名無しリゾナント:2011/05/13(金) 19:51:52
じゃ行ってきます

120名無しリゾナント:2011/05/13(金) 19:54:52
>>117に余計な文章が混じっていました。

以下>>117を修正させてください


当然、封入された能力の持ち主も知っていたはずだ。が、その記憶もない。
自らの思念感知を用いてもなぜかこの単語帳からは何も読み取れない。

単語帳や能力のことだけではない。
彼女の記憶は不自然な記憶の抜け落ちだらけだった。
普通ならばこのような状態で平気でいられるはずがない。
自分はいったい何者なのか?今の自分はなんなのか?
疑念と不安に押し潰され、精神を病んでもおかしくはない。
しかし、彼女は信じられないほど楽観的だった。
なぜか、まったくそこに疑問を感じることが出来ないのだ。
虫食いだらけの記憶のまま、そのままで彼女はこの一年を過ごしてきた。

だが、それでも、それでも心の奥底で、彼女にはわかっていたのだろう。
今の偽りの生活が長くは続かないことを…、必ず訪れる平和な日々の終わりを。
そして、もしかしたら、平和な日々の終わりが、
失われた記憶を取り戻す可能性への扉が開くきっかけになるのかもしれないことを。

譜久村聖は夜空を見上げる。

夜空には、月が輝き、星は、やさしくまたたいていた。

121名無しリゾナント:2011/05/13(金) 20:07:02
完了
何か錯綜してしまった
もうちょっと様子を見てから投下したら良かった

122名無しリゾナント:2011/05/14(土) 12:41:51
>>121
いえ、こちらこそ御手間を取らせてしまい申し訳ありませんでした。

実は100%私のミスなのですが>>120の修正版、一日たって読み返して見ると
前半の数行をコピペミスによって落としてしまっていました。

本当は>>117の10行目あたり
>組織のことも、エッグのことも、自らの生い立ちも…。
この一行だけを削りたかったのですが、削りたくない前半の数行まで落としてしまいました。
遅ればせながら次のレスにてもう一度投下させてください。

123名無しリゾナント:2011/05/14(土) 12:43:04
だが、どういうことか譜久村にはこの単語帳に関する記憶が無い。
単語帳に能力を封入したのはまさに譜久村の能力、それはわかっている。
その使い方も戦い方もすべて完ぺきに理解している。
しかし譜久村にはその記憶がない、この単語帳を作る以前の記憶がすっぽりと抜け落ちている。
当然、封入された能力の持ち主も知っていたはずだ。が、その記憶もない。
自らの思念感知を用いてもなぜかこの単語帳からは何も読み取れない。

単語帳や能力のことだけではない。
彼女の記憶は不自然な記憶の抜け落ちだらけだった。
普通ならばこのような状態で平気でいられるはずがない。
自分はいったい何者なのか?今の自分はなんなのか?
疑念と不安に押し潰され、精神を病んでもおかしくはない。
しかし、彼女は信じられないほど楽観的だった。
なぜか、まったくそこに疑問を感じることが出来ないのだ。
虫食いだらけの記憶のまま、そのままで彼女はこの一年を過ごしてきた。

だが、それでも、それでも心の奥底で、彼女にはわかっていたのだろう。
今の偽りの生活が長くは続かないことを…、必ず訪れる平和な日々の終わりを。
そして、もしかしたら、平和な日々の終わりが、
失われた記憶を取り戻す可能性への扉が開くきっかけになるのかもしれないことを。

譜久村聖は夜空を見上げる。

夜空には、月が輝き、星は、やさしくまたたいていた。

124名無し募集中。。。:2011/05/14(土) 15:26:32
まあいつの間にかやってくれてるでしょうよ

125名無しリゾナント:2011/05/22(日) 14:37:10
「「ありがとうございました〜」」
最後のお客様を笑顔で見送り二人はそれぞれ閉店の作業へと入る
高橋は食器洗い、れいなは店内の掃除
お店のために、お客様のために、そして自分自身のために手を動かす

れいなが雑誌の番号を綺麗に並び終えて仕事を終えた時、高橋は翌日の料理の仕込みの最中であった
「愛ちゃん、れーな終わったから先に上にあがってお風呂入るよ!」
閉店後の作業は高橋が残ることが多くて、れいなは先にお風呂に入るのが常だった

しかし、この日は違った
階段を上ろうとするれいなに高橋が「ちょっと、れいな待って」と声をかけたのだ
汗を流しさっぱりする気でいたれいなは当然「なんね、愛ちゃん」とぶーたれる
そんなれいなに高橋は笑顔でキッチンへと手招く

「愛ちゃん、れーなさっぱりしたかったとよ、何ね?れいな、何もしていないとよ」
「いやいや、怒ることなんてないよ、れいなはしっかりお店のことを思ってくれているから
でもさ、ちょっと、ちょっとだけでいいから、明日の仕込み手伝ってくれないかな?」
そんなお願いをするのは初めてだった
料理と作るのは高橋、それを給仕するのがれいな
それが二人の間で自然と生まれたルールだった
もちろんコーヒーくらいはれいなも自分で飲むから美味しい入れ方を教わった
でも名物のガレットやパスタはすべて高橋が1から10まで作っていた
「ちょっと疲れちゃってさ」なんていいながら高橋は頭を掻く
照れくさそうに笑う高橋を見てれいなは「仕方ないっちゃね」といって手洗い場へと脚を進めた

エプロンをキッと結び直して、れいなはお世辞にも広いとは言えないリゾナントの厨房へと身を滑りこませた

126名無しリゾナント:2011/05/22(日) 14:38:06
「それで何をすればいいと?」
「うーんと・・・じゃがいもを切ってちょうだい」
そういって高橋は手ごろな大きさのジャガイモと包丁をれいなに手渡した
「・・・愛ちゃん、れーな、包丁怖いからピーラーとか使いたいっちゃけど」
高橋は申し訳なさそうに「ごめん、壊しちゃったからないんだ」と言った

「えー、れーな包丁あんまり使ったことないとよ。怪我するかもしれんし」
「ゆっくりやれば大丈夫だって。私も最初はおっかなびっくりだったんだから
 それにいざとなればサユを呼びに行くから大丈夫だって」
不安そうなれいなに高橋は笑顔を向けた
「まずジャガイモの芽を包丁のアゴで取って、短冊切りにして塩水につけておいてね」
「顎ってなんね?」
「包丁の根元の部分。ほら、ここ」
「ふ〜ん、で、どうやって根を取ると?」

「一回だけやるからしっかり見ててね。それから根じゃなくて芽だからね
まず、包丁をしっかり握る。そしてアゴをジャガイモの芽にあてて、こうやって取るの」
「れーなピーラーでしかやったことないけん、手を間違えて切りそうで怖いちゃけど」
そう言っているうちに高橋はジャガイモ一つの全ての芽を取り除いてしまっていた
「はい、じゃあれいな、そこに置いてあるジャガイモ全てお願いね」
おっかなびっくりれいなは不器用な手つきながらジャガイモの芽を取る作業に入った

自分も他の料理の仕込みをしながら高橋はれいなに優しく声をかける
「れいな、スジいいよ!できるならもう少し芽を大きめに取った方がいいかな?」
「・・・うん」
集中しているのか返事が幾分遅れて返ってくる
「そうそう、それくらいでいいよ」
高橋が両手に力をこめて生地を練りながら、視線はれいなの手元に向けている
「切り終わったらこのボウルに入れてね」
れいなの前に塩水を入れたボウルを置いた

127名無しリゾナント:2011/05/22(日) 14:39:09
「・・・ふぅ、終わったと」
切り終えたジャガイモがボウルにポチャンと音を立てて入った
「ありがとう、れいな。でも、ごめんもう少しだけお願いしていい?ニンジンの皮もむいて」
「え〜愛ちゃんすればいいっちゃん」
「そんなこといわんで〜」
そう言いながら高橋はれいなの腕を掴んだ
「仕方ないっちゃね」

そうやってれいなは結局その後もカレーの味見なりサラダのドレッシングなど手伝わされた
終わったのはいつもよりも一時間も遅い時間
「ありがとうれいな。おかげでいつもより早く仕込み終えられたよ
 何か飲もっか?あったかいホットミルクとかレモンティーとか」
「ううん、れいな、早くお風呂入りたいから後でいいと
 あとでレモンティー用意してくれたら嬉しい」
「わかった。特製レモンティー入れておくから、温まってね」
言い終えるとれいなは階段へと脚を進めていった

高橋はそんなれいなのために戸棚からカップを取り出そうとした
「これでいいかな?」
そう呟いて高橋は二つのティーカップに手を伸ばした
右手で掴んだのは水色、れいな専用と決めたもの
水色のコップを取り出してカウンターテーブルの上に置いた
続けて黄色、自分のティーカップを取ろうと手を伸ばす

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

れいなは自身の部屋、れいな城でパジャマを手に取り少し休んでいた
「はぁ〜今日も良く働いたとね〜」
大きく欠伸をしてう〜んと背を伸ばす
肩がこったのか腕をグルングルンと回してみたりもした

128名無しリゾナント:2011/05/22(日) 14:40:26
「でも愛ちゃんはれいなよりもずっと遅くまで頑張っているとね
 初めて料理の手伝い頼まれたけん驚いたけど、ちょっと楽しかったかも」
れいなは先程まで握っていた包丁の感覚を思い出そうとした
「刃物相手には戦ったことあるけど、自分ではないけん、少し怖いとね」
そういって誰にも見られていないのは分かっていたが恥ずかしそうに歯をみせてニヤリとした
「・・・今度はれーなから『手伝おうか?』って言ってみようかな?」

そんなことを思っていると下の方からガチャンと食器の割れる音がした
「なんね?愛ちゃん、大丈夫と?」
れいなは大声を出して確認した
「れいな、ごめん。なんでもない〜ちょっとお皿割っちゃっただけやよ〜」
高橋がれいなに負けじと大声で返してきた
「愛ちゃん、気をつけるとよ〜小さい破片とかあるかもしれんけん」
「はいよ〜気をつけるから〜ゆっくり休みぃ」

能天気な高橋の声に安心したれいなはパジャマを持ってお風呂場へ

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

「あっちゃ〜やっちゃった」
高橋は掃除機のコードをコンセントに刺しながら自分のドジに嘆いていた
「せっかくのお皿だったのにな、あ〜あ」
掃除機のスイッチを入れ、店内は掃除機の低い音が鳴り響く
「これでいいかな?」と高橋は掃除機を止め、コンセントを引き抜こうとする

右手をのばし―そこでいったん手をひっこめ、左手でコンセントからコードを引き抜いた
掃除機のコードを巻くボタンを左手で押した
しかし、全てのコードが収まることなく、少しだけはみ出てしまっている

高橋はしゃがみこんで左手でコードをひっぱり、右手で掃除機本体を押さえた
右手の中指で掃除機のボタンを押すと今度はすべてのコードが収まった
「よし」と呟いて掃除機を片隅に片づけた

129名無しリゾナント:2011/05/22(日) 14:41:22
片付け終えた高橋は一人カウンターに座り軽く咳き込んだ
「れいな、少しは料理に興味持ってくれたかな?楽しさが分かってくれるといいんだけど」
そう言って自分の右手をゆっくりと目の前に持ち上げる

目の前にかざした右手は雪のように白くて華奢で小さい
何年も培ってきた料理スキルに高橋は自信を持っていた
実際にお客様にもメンバーにも好評で「おいしい」って言われることが至福の時だった

今、目の前にあるこの手、そんな手に「光」の力が宿っているなんて信じられないくらいだ

「このお店は私の幸せを生んだ場所。みんなの幸せを生む場所。いつまでも守らなきゃいけない」
掌を自身に向けて高橋は小さくため息をつく
「…何焦っているんだろう、私」
また小さく咳き込む

目の前に広げた掌はいつもよりも白く―透明になっているように感じられた
消えてしまいそうなくらいに白く、薄くなっていると感じるほどに

そしてまた咳き込む

そこにれいなからのメールが届いた
メールの内容はシンプルに「お風呂上がりは紅茶がいいと」とのこと
高橋は笑顔でゲンコツの絵文字をうって、キッチンに入っていった
ケトルに二人分の水を入れて、ガスを点けた

鳴り響くのは換気扇の音だけ
高橋は何も言わずに天を仰いだ

130名無しリゾナント:2011/05/22(日) 14:47:34
『Another Part Of Me』です
>>502で料理モノのリクエストあったから書いてみた
決して終わらせるつもりはないが、なんかこういうの浮かんだんですよね
どうしても卒業を意識して書いてしまいました
タイトルはマイケル曲から頂きました(^^♪

代理よろしくお願いします<(_ _)>

131名無しリゾナント:2011/05/22(日) 16:19:00
行ってみるよし

132名無しリゾナント:2011/05/22(日) 16:28:58
行ってきたよし
保護者目線のリーダーが良かったですな
ほのぼの一辺倒で終わらせなかったのは好みが分かれるところでしょうが個人的には好きですた

133名無しリゾナント:2011/05/22(日) 17:48:01
 ■ タイムオブヘル −矢口真里− ■

「おいおいなんだありゃあ…!くそっ!『コイツも』なのか!?」
全体を見渡せる離れたビルの屋上に移動していた矢口は砕かんばかりに歯を食いしばる。

矢口は混乱していた。
【能力阻害(インぺディメント;impediment)】が効かないだとぉ?
またかよ!またなのかよ!ふざけんじゃねえぞ。

矢口はライフルのスコープを譜久村の顔にあわせる。
同性ですら思わず引き込まれそうになる。
端正でふくよかな頬、ひかえめで奥ゆかしい口元。14歳の瑞々しい肌艶。

「ちっブサイクがっ!能面みたいなツラしやがってっ!」

嫉妬。
能力者である以前に、雌として、生物として自分の方が劣っている。
そう直感する。だが、認めない。矢口という女が認めるわけがない。
怒りの矛先が容姿に対する嫉妬へと向くにつれて、
不思議と冷静さが戻ってくる。

ちょっと待てよ…、『同じ』じゃねえぞこれは。

『同じ』じゃねえ。

矢口は忌まわしいあの敗北の夜を思い出す。

134名無しリゾナント:2011/05/22(日) 17:49:14

―もし矢口の能力が、物理的、視覚的にもっとわかりやすい能力だったなら、こんな誤解はしていなかったかもしれない。

あのときのオイラは能力を使う以前に封じられていた。
そうだ、最初から『発動していなかった』んだ。
それが「あの化け物」の力…。

だが、今のはちがう。
今、あのガキにオイラの【能力阻害】は確かに効いたんだ。
今度こそ勘違いじゃない。確実に効いた。
再び発火能力が復活したカラクリはわからない。
だが、一度でも効いたのなら、かければまた効くはずだ。
何度能力が復活しようがそのたびに何度でもかけ直せばいい。
矢口に自信が戻ってくる。

135名無しリゾナント:2011/05/22(日) 17:50:12

「みてろよ…、すぐに化けの皮を剥がしてやるっ!」

矢口は再び【能力阻害(インぺディメント;impediment)】を発動するため意識を集中する。

そのときだった。

「どういうことなのか聞かせてくれない?矢口。」

ふいに背後から浴びせられた言葉に、矢口は硬直した。


世界が、静止していた。


この能力は…、この能力者は…。

「け、圭ちゃん?…」

世界が静止した中で、その女性―保田圭―は、もう一度訪ねた。

「だから、これはどういうことなのって聞いてるの。」

地…地獄だ…。

矢口は力なくライフルを取り落とした。

136名無しリゾナント:2011/05/22(日) 17:52:21
>>133-135

 ■ タイムオブヘル −矢口真里− ■ でした

以上代理投稿をお願いいたします。

137136:2011/05/22(日) 17:54:43
>>130
高橋さんは死期が近付いてる
そう言う設定なのでしょうか?
何か悲しい結末を予感させるいい話ですね

138名無しリゾナント:2011/05/22(日) 19:45:48
行ってきま〜す

139名無しリゾナント:2011/05/22(日) 19:59:28
行ってきますた
矢口さんの婚約会見という良き日に相応しい作品でしたね

140名無しリゾナント:2011/05/22(日) 21:17:10
>>130です。代理ありがとうございました★
ほのぼのよりも裏のある話の方が書きやすいんですよ
死期が近いかどうかは読者次第だと思います

141名無しリゾナント:2011/06/17(金) 23:42:35
高橋からの短いメール「サユは××におる!」
道重の携帯にも届いたそのメールはすぐに消去された

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

道重の声が聴こえた―それは4日ぶりのこと
(サユが呼んでる)
一刻も早く道重のもとへと行かなくては、そんな思いが高橋の脚をもつれさせた
・・・勢いよく階段で転んだのだ
「愛ちゃん、大丈夫?れいな先行くけん」
転んだ高橋の上を跳んで一階へと華麗に着地を決めた

一階に降りたったれいなの前に影。それはすでにコートを羽織って待ち構えていた雅であった
「さあ行きましょう!高橋さん、大丈夫ですか?時間無いですよ」
雅は私も行くことがさも当然といった表情で力強く言う
「ミヤ、何してると?行く気かいな?遊びじゃないとよ」
「わかってますよ!でも私にも行く権利はあると思います。だってあの子がいるかもしれないから」
光井の手を頼りにして立ちあがった高橋が階段の上から雅の曇りない瞳をみて確信込めて言った
「れいな止めても無駄だと思う。連れていこう
ただこれだけは言っておくから、雅ちゃん、安全は保証しない。自分の身は自分で守るんだよ」
雅はコクンと頷き唾を呑み込んだ

「そんじゃみんな裏の駐車場に行って」
「ま、まさか、愛ちゃんリゾナントカー使う」
「ちょうど五人だからいいじゃん」
高橋はキッチンにおかれた鍵を手に取ったのを見て、三人は慌てて後ろに乗りこんだ
否応なしに雅は助手席に乗り込むことになる。何も言わずに後ろの三人はしっかりシートベルトを装着
「行くよ!」
ドォルゥゥゥゥゥ・・・ドヒュン
「た、高橋さん、速すぎますよ」
「アヒャヒャヒャ、この風、この景色最高!アヒャヒャヒャ!」

142名無しリゾナント:2011/06/17(金) 23:43:40
                ★   ★   ★   ★   ★   ★

「そんじゃ行くぞ。マルシェもたまには付いてこいよ。あんな暗いとこばかりいると体が錆びるぞ」
ダークネス本部におかれた物質転送装置(専ら移動に使われている)が置かれた部屋へと向かいながら吉澤が声をかける
「部署が部署だがな、体動かさないといざというときに動けないぞ。走っているのか?元ランナーのマルシェ?」
「・・・それなりにはしていますよ。それにいざというときの方法も考えていますから」
「ってまた例の『エネルギー産生』か?俺には難しくてわかんねえ能力だよな、お前の『原子合成』ってのは」
吉澤はあいまいに笑う

吉澤が警備している下級構成員にふざけて敬礼をして、入室パスワードを入力する
マルシェは吉澤に敬礼をされて慌てて敬礼を返す構成員の姿を見てクスッと笑っている
「何笑ってるんだよ。コミュニケーションだよ」なんて言いながら二人は部屋に入っていった
「それでは吉澤さん、いってらっしゃいませ」
「あ?お前も行くんだよ。気分転換だ。」
そう言って吉澤はマルシェの白衣の袖を掴み無理やり装置の中へと引っ張る
「ちょっと引っ張らないでくださ」
マルシェが言い終わる前に二人は異空間へと移動していた

「ちょっと危ないですよ、吉澤さん」
マルシェが珍しく本気で怒っている
「私まだしっかりと領域の中に入っていなかったんですから!知っているでしょ、この機械が危険だって!」
「いや、てっきりもういいだろと思っちまったからさ。悪い悪い、いいじゃねえか五体満足なんだからよ」
マルシェの言う危険―それは転送装置の狭間では空間が『切断』されてしまうこと
かつて転送装置にしっかり入らないことで右半身だけが転送されてしまうという事故が起きたことがあった
「あくまでもクールに冷静に、それがオマエらしいんじゃねえのかよ?」

143名無しリゾナント:2011/06/17(金) 23:45:07
吉澤にそう言われてマルシェは少し冷静さを取り戻した
「ふぅ・・・書類溜まっているんですよ・・・ボスに怒られる・・・それで、どこいくんですか?」
「あれ?言っていなかったか?あいつのところだよ、ほら出口だ、いくぞ」
二人の目の前にスリットができ、吉澤はその中へと飛び込んだ
「ちょっ、まだ答え聞いていませんよ。待ってくださいよ」
マルシェもスリットの中に飛び込んだ

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

「さあ、みんな着いたよ。降りた、降りた」
比較的乗り物酔いに強い光井、そして強がっているれいながゆっくりと車から降りた
それに対して雅は差し出してもらったビニール袋とお友達になっている

「ここ?」と本当なら酔いやすい亀はその城を見上げている
近くの駅まで新垣を迎えに行った高橋を除いた亀井達が着いたのは森の中の古城
蔦が生い茂り、石垣が積まれた城壁、さながら中世にでも来てしまったように錯覚してしまう
「ここっちゃろ、れーな、サユがいるのをビンビン感じると」
無意識ながられいなが拳を血管が浮き出るほど握りしめる
「しかし、雅ちゃん、本当に弱いんや。大丈夫?」
光井が心配そうに声をかけている横で亀井は「サユ〜サユ〜」と大切な親友の名前を呟いている
「キツいです。なんかいつもよりずっとキツい・・・ウッ・・・」
「…もしかして亀井さん?雅ちゃんに移したりしてへんですよね?」
「サュ…(ピタッと一瞬止まり)サユ〜サユ〜」
「…あれは黒っちゃね」

そこに近くの駅まで新垣達を迎えに行ったリゾナントカーが到着
「ガキさん送迎代はピンチャンポー宛でええよね?」
「ちょっと勝手に人のお店の名前宛で領収書切らない!そもそもタクシーじゃないんだから」
「…ガキさん、元気っちゃね。あれに乗ってきたのに」
ぐったりしているリンリン、久住、ジュンジュンの姿をみながられいなが力無く言う

144名無しリゾナント:2011/06/17(金) 23:46:38
「よし、みんな、揃ったね。サユの声、もちろん聴こえたよね?」
7人は頷き返し、なんとなく雅も頷く
「・・・え〜と、ここから先は何が起こるか分からん。だから・・・9人固まって行動する
お互い背後には十分注意し、何が起こっても決して慌てないこと!」
こうして9人は高橋とれいなを先頭として建物へと突入した

中は外見ほど荒れておらず、かつては富豪の財産だったのかシャンデリアや彫刻が置かれている
名前は知らないがどこかで見たことのあるような名画のレプリカも壁に掛けられている
壁のスイッチを押すと電気が点いたことから建物自体は大して古くないようだ
高橋とれいなが先頭、新垣がしんがりを務めながら一つ一つのドアを開けて、慎重に進んでいく
高そうな家具が放置された部屋、豪華な浴槽場、大きな広間・・・しかしそのどれにも人の気配はない

そうやって幾つもの扉を開けては中を捜索するという単調ながら気の抜けない作業を続けていった。
そしてついに、「!! ちょっと待ってください!」光井が次のドアを開けようとした高橋を制したのだ
「…開けたら何か黒い大きいものが飛びかかってきます・・・鋭い爪と大きな口・・・隆々とした腕・・・獣?」
高橋はリンリンに指示を出した
「リンリン、ドアを燃やして」
「了解了」
ポケットから飴を取り出し、リンリンは扉目掛けて投げつけた
緑色の炎に包まれ焼け落ちたドアの向こうには広がっていたのは、見た感じは普通の部屋
テーブルの上には皿がいくつか、その皿の上にはサラダが残っていて、カップも2つ置かれている
テーブルの傍には椅子が置かれ、その後ろのベッドの上には・・・黒髪を垂らして寝ている女の姿

「!! サユゥ!」
その姿を見た亀井が思わず飛び出した−光井の忠告を無視して
「あかん、亀井さん、行ってはあきません!!」

145名無しリゾナント:2011/06/17(金) 23:47:40
それを待ってたのだろう、部屋に飛び込んだ亀井に何かが飛びかかってきた
そいつは光井の視た通りの姿をしていた…
丸太ほどの太さの腕を持ち、全身は黒い毛皮に覆われ、口からは何でも噛み砕くであろう牙が生えていた
身長は決して小さくはない亀井よりも一回りも二回りも大きい熊だった

その大きな腕で亀井の頭を抑えつけ熊は地を震わすような叫びを放つ
「な、なにや、この熊、冬眠から覚めるにはまだ早いと!」
れいなはその熊の大きさと威圧感に圧倒され思わず後退りしてしまう

熊は8人を威嚇するようにもう一度吠え、その鋭い爪を持った右腕を亀井に振り下ろした
「エリ!」「カメ!」「亀井サン!」
誰より先に動いたのは白と黒の獣だった
ジュンジュンは自身より大きな熊目がけて体当たりをかました
突然だったのだろう、熊はパンダの体当たりをまともにくらい倒れ込んだ
その隙に高橋は亀井のもとに近寄り助け起こした

「早く起きてカメ、まだあの熊は起き上がってくるんだから!」
新垣が言う通り熊はゆっくりと起き上がった
ぶるぶると頭を揺らしている熊に対してジュンジュンが熊から仲間を守ろうと向き合い低い声で威嚇している
「なんや?あの熊?なんでここにおるんや?」
パンダと熊のまるでアニメのようなにらみ合いが光井の目の前で繰り広げられている

睨みあいから先に動いたのは熊の方であった。低い大声をあげて四本足で向かってくる
さすがの迫力にジュンジュン以外の8人は距離を取る。一方のジュンジュンは組み合おうと構えている
しかし熊は待ち構えるジュンジュンではなく逃げ惑うメンバーの方へと向かって行った
そんな熊の進路の先にいたのは―光井と雅だった。
熊は光井と雅を突き飛ばし、倒れ込んだ雅のコートを口にくわえ−そのまま逃げだした
「ミヤ!!」「逃がすカ」「リンリンも行きます」
れいな、ジュンジュン、リンリンが熊を追うため飛び出した
「こら、勝手な行動はしないっ…愛ちゃん、サユをよろしく。私も行くからあの三人じゃ不安なのよ」
そう言い新垣も後を追って駆けだした

146名無しリゾナント:2011/06/17(金) 23:49:16
                ★   ★   ★   ★   ★   ★

器用に雅を背中に乗せ熊は四足歩行で古城内を走り回る
熊は壁をものともせず突き破っていくので追いつくのがいっぱいいっぱいだ
「リンリン、あの熊に向かって炎撃つと!」
「無理デス!リンリンの炎、ここでは危険デス!それにスピード速くて当たらナイ」
階段を昇りながら新垣は走りながら仕込みロープの安全装置を外しながら考える
―ピアノ線は向かってくる相手には非常に有効だけど、こういった場面じゃ捕まえられない
 だからってれいなやジュンジュンのスピードじゃ追いつけないし、リンリンは危険だ
―それなら
「みんな二手に分かれて!私とリンリンで追い込むから田中っちとジュンジュンは先に回って挟み打ちよ
 この階の東の角部屋に追い込むからそこで張っていて!」
「わかった」「ガキさん、わかりました!」

リンリンの炎で進路を巧みに誘導された熊はれいなとジュンジュンが待ち構えている部屋へと追い込まれた
「はあはあ、さあ、大人しく、しな、さい」
走り疲れた新垣が肩で息をしながら熊へと近づいていく
その返事はNoだということは明白だった
なぜならば、新垣に向かって熊が飛びかかってきたのだから
「ウオッ」
本人自身は叫び声をあげながらも、ピアノ線が熊を捕捉した
ピアノ線が絡まった熊はタイル敷きの床に強く叩きつけられるようにして落ちた
「ガキさん、ナイスっちゃ!・・・あれ?ミヤはどこ行ったと?」
「本当デスネ、夏焼サンがいないデス」
キョロキョロとしながら飴を口に含もうとしたリンリンの目の前では熊はピアノ線を破頭ともがいている
「うっ、なんてバカ力なの!ヤバい、ピアノ線の限界!」
新垣の言う通りピアノ線は見事に引き裂かれた

そこに間髪いれずジュンジュンがっぷりよつに組み合った
「コイツ、強イ。なんてバカ力ダ」
しかし力では負けていられないとばかりに、ジュンジュンは熊を投げ飛ばす

147名無しリゾナント:2011/06/17(金) 23:50:21
壁に強く叩きつけられた熊だったが、それでもまだ立ち上がろうとする
「本当にタフっちゃね…野生の動物ってこんなに生命力強いとね…」
ゆっくりと立ち上がった熊は4人に向かって再び吠え、器用に後ろ脚だけで立ちあがった
「うわあ、大きい」
元々動物好きな新垣はその大きさに感動してしまった
「新垣サン、危ないデス!ファイヤー」
リンリンが飴を投げつけ熊を一瞬ひるませた
「ガキさん、今のうちに縛ってクダサイ!」
「あ、サンキュ、リンリン!」
新垣の袖からロープが熊へと向かって行く

熊は自分の身が危ないことを察知したのか逃げようと違う方向へと顔を向け、駆けだした

と、そこに

「おいおい、逃げんなよ、熊ちゃん」

新垣達の後ろから聴きおぼえのある低い声が聴こえ…次の瞬間、熊の胴体に光弾が直撃した

「このエネルギー弾って、確か」
「この光、見覚えあると!!吉澤ぁ」
れいな達が振り返ると吉澤が手を挙げて「よう、久しぶりだな」と声をかけてきた

「いったい何しに来たと!あれもお前らのもんか?マルシェの実験体の一つとか」
れいながもろに光弾をくらい倒れ込んだままの熊を指差しながら声を荒げた
れいなの後ろではリンリン、ジュンジュンがいつでも戦えるように戦闘配置についている
「まあ、あせんなって。今日はお前らと戦いに来たわけじゃねえんだから」
「そんな言葉信じラレルカ!」

148名無しリゾナント:2011/06/17(金) 23:51:31
「疑う気持ちはわかるんだけど、本当だよ」
吉澤の後ろから白衣姿のマルシェが出てきた
「マルシェ!」
「やあ、マメ、久しぶりだね。相変わらずリアクション大きいね」
新垣にマルシェは何となく微笑みを浮かべた
「それから、後ろの二人、そうやって緊張しなくてもいいよ、今日は本当にただ観察に来ただけ」
よく見ればマルシェの履いているのはただのサンダルだった

「でも、吉澤さん。やりすぎですよ」
「は?そうか?俺的には結構手加減したんだぜ、殺すわけにはいかねえんだろ?」
「当たり前です!!」
リゾナンター達を前にして吉澤、マルシェの二人は言い争いを始めた
「せっかくのレアものなんですから、もっと大切にしてくださいよ!」
「悪かったっていってるだろ」
「その言い方、反省していないのばれてますからね!」

「あ、あの〜」
新垣が言い争いが止みそうにないので無理やり割って入った
「私達に興味ないのでしたら何しに来たんでしょうか?」
相手が実力者ということもあり新垣は腰を低くして尋ねた
「ガキさん、そんな聴き方することないっちゃ!お前ら何しに来たと!」

「うるせえ、れいな!」
吉澤がれいな向けて光弾を放った
「な、何すると!さては、油断させておいて」
「いや、今のは田中ッチが悪いと思う」
「なんでっちゃ!」と思わずれいなは新垣を睨みつけたが、新垣は意図的に聴こえないふりをした
「・・・れいな、何回も言うけどさ、人の話を聞く耳持とうね」
マルシェがれいなに優しく諭した

149名無しリゾナント:2011/06/17(金) 23:52:47
「それで、いったい何の目的ダ!」
リンリンが吉澤に勇敢にも問いかけた
「ああ、あいつだよ、あいつ」
吉澤が指差したその先には倒れている熊の姿
「あれはオマエラの仲間なのか?」
「いや、違うよ。でも、興味あるから見に来たの」
マルシェが喜びを抑えきれないと言った表情で答える

「あの熊に?おまえら、一体何考えていると!」
「熊じゃない・・・」
「え?誰?」
新垣が突然飛び込んできた第三者の声に反応する
「わ、私です、雅です、あれは熊なんかじゃない・・・私の友達です」
声の主は隣の部屋からボロボロになったコートを羽織ってゆっくりと姿を現した雅であった

そう言っているうちに熊の体に変化が現れた
何でも砕くであろう太い腕は華奢な腕へと変化し、鋭い牙はチャーミングな犬歯へと姿を変えた
体を覆っていた黒い体毛は白い地肌によって取って代わられていく
鋭く輝いている目は相変わらずそのままだが、口や鼻はその『人物』のものへと戻っていく

「そう、『熊』じゃないよ、あれは」
マルシェはますます嬉しそうな表情で熊を眺めている
「あれは能力者だ、能力は『獣化』・・・だよな?マルシェ?」
「そうですよ〜私の大好きな『獣化』能力者なんですよ〜」
嬉しすぎてマルシェの表情は筆舌できないほど崩れている

そして完全に人の姿に戻った彼女に雅はいつものように慣れ親しんだ呼び名で彼女の名前を呼んだ

「熊井ちゃん!」と。  (続く)

150名無しリゾナント:2011/06/17(金) 23:53:54
>>「Vanish!Ⅱ〜independent Girl〜」(7)でした
書き始めたのは去年の秋なので舞台設定は「冬」なのをご理解くださいw
さて、やっと隠していた「『り』ちゃん」が誰か明かせたけど…分かりにくかったかもしれないな…
予想を裏切るのが好きダカラ!ちなみによく知っている人にはわかるネタ織り込んでいますw
あと『Vanish!』ですでにこのキャラは登場していますから、「新キャラ」ではないです
設定は『i 901』として出ていたものを一部再利用させていただきました
http://www39.atwiki.jp/resonant/pages/175.html参照です

151名無しリゾナント:2011/06/17(金) 23:54:47
というわけですみませんが代理投下の方よろしくお願いしますm(_ _)m
長くてスミマセン

152名無しリゾナント:2011/06/18(土) 05:31:05
行ってくる

153名無しリゾナント:2011/06/18(土) 05:43:48
行ってきた

154名無しリゾナント:2011/06/18(土) 11:00:00
ありがとうございました(^^♪
レベルがたりないのでこちらのお世話になります
よろしくお願いします♪

155名無しリゾナント:2011/06/23(木) 19:09:08
スマイレージ増員の騒動のせいで
お蔵入りにしようかとも思ったサイドストーリー…

156名無しリゾナント:2011/06/23(木) 19:09:54
 ■ ウィッチィズティータイム −スマイレージ− ■

「ふーん…それが保田圭の【時間停止】なんだ?なぁんかタネがわかっちゃうとダサダサな能力ね」
福田花音は―報告もそこそこに、お菓子にパクついている和田彩花を恨めしそうに横目で見ながら―そうつぶやく。

季節はずれなビーチパラソル、テーブルいっぱいにぶちまけられたお菓子、電気ポット、熱い紅茶…。

「花音ちゃんが言ってもギャグにしかならないっと…あっ!『幽霊も〜よく見てみればゆうれーる柳』…なんつて」
「ぎゃはは☆憂佳ちゃんのつまんないダジャレおもしろーい☆」
「ふぉれ…ふぉっちなんだかふぁかんないから(それ…どっちなんだかわかんないから)。」
前田憂佳が口から烏賊ゲソをプラプラさせたまま、別のお菓子に手を伸ばす。

「でも、彩花じゃなかったら…。
そっちにいってたのがうちらだったら能力を使われたことすら、
それどころか保田さんがそこに来たことすらわかんなかった…
そうゆうことでしょ?やっぱすごいよ。」
と小川紗季。

「能力は脇へ置いておくとしてもさ、保田さん、やっぱり侮れないね。して、なんでばれたんだろ?」

「所詮は矢口さんだもん。いずれは誰かにばれたでしょ。
あのひと仕事が雑すぎるのよ。
それより…

157名無しリゾナント:2011/06/23(木) 19:15:00
その先を言い淀む。

危なかった。

フクちゃんのことじゃない。
もし、保田さんがフクちゃん拉致に手を貸していたら…
まちがいなくあやちょは『目』を使っていただろう。
あたしたちの制止の効かないところで、
当然のように、何の迷いもなく、無制限に。

危ないところだった…。本当に、ギリギリのところだったんだ。

千路に乱れる思考を必死にまとめあげる。

やっぱり、単独でフクちゃんの監視をさせるのは控えるべきだった?
ううん、今回は『バイト』をこなすには憂佳も紗季も必要だった。
予想よりリゾネイターの動きが鈍い以上、ベターな選択ではあったはず…

158名無しリゾナント:2011/06/23(木) 19:15:54

花音はぷかぷか空中に浮かびながら、塩辛を乾燥させたおつまみを嬉しそうに口に運ぶ天使を目で追う。

あたしたち四人だけでやる。

そう決めた、あの日を思い出す…
そして、同時に…

『それ』は避けては通れない事だった。
だが、『それ』は彼女にとって…『それ』は彼女にとって絶対に…

…んね…ごめんね…ちゃん…

「花音ちゃん?」

和田彩花が空中に寝そべりながら花音をのぞきこむ。

「なんでもないよ。さっ、バイトは終了っ!。みんなお菓子片づけてっ。撤収するよ。」

季節はずれなビーチパラソル、テーブルいっぱいにぶちまけられたお菓子、電気ポット、熱い紅茶…。

熱い紅茶…

熱い?…

熱気…、艦橋…、黒煙…、重油臭……、火災…。


東シナ海々上、国籍不明のフリゲート艦が、力なく漂う。


ある少女の一言をきっかけに、
罵り合い、憎しみ合い、殺し合った、哀れな兵士達の亡骸を乗せて…。

159名無しリゾナント:2011/06/23(木) 19:18:14
>>156-158

■ ウィッチィズティータイム −スマイレージ− ■
でした

160名無しリゾナント:2011/06/23(木) 19:19:46
以上
投稿代理どうぞよろしくお願いいたします

161名無しリゾナント:2011/06/23(木) 20:28:19
メインのプロバイダが規制に遭ってるんだがな
トライしてみる

162名無しリゾナント:2011/06/23(木) 20:34:50
何とかいけた

163159:2011/06/25(土) 01:59:32
>>162
大変な状態の中
代理を引き受けてくださり
ありがとうございました

164名無しリゾナント:2011/07/22(金) 00:50:17
(1)
「熊井ちゃんっ!熊井ちゃんっ!」
吉澤の光弾を正面から受けた熊井は必死に揺さぶられても倒れ込んだまま全く動かない
「熊井ちゃんっ、熊井ちゃんっ」
「大丈夫やミヤ、息しとると。少し気を失っているだけっちゃ、落ち着くとよ」
れいなが冷静に熊井の口元に手をかざして呼吸を確かめる

「そりゃそうだろ、こちらの方に『生け捕りにしろ』って言われたんだから」
吉澤が親指をマルシェに向けながらあっけらかんとした表情で言い放つ
「…もうすこし丁寧に扱って欲しかったです」なんてマルシェの小さい不平は聴こえていないようだ

そうやって冷静なマルシェと吉澤から目を固定したまま新垣は記憶を辿った
「愛佳から聴いたことがある…同じ学校にスタイル抜群の後輩がいるって…熊井友理奈」
リンリンが隣の部屋から持ってきた毛布を生まれたままの姿になった熊井に被せる
「雅ちゃんからその名前が出た時は驚いたけど、まさか能力者だったなんて・・・
 というか、雅ちゃん、どこにいたのよ?さっきまで熊の背中にいたのに」
熊井の肩を軽く叩きながら雅は顔だけを新垣に向けて答えた
「隣の部屋のふわふわしたベッドの上に投げ飛ばされたんですよ!
ちょうど田中さんとジュンジュンは見ていましたけど新垣さんは向こうから来ていたので」
「そ、そうなの。怪我は?」
「私はほら、ちょっとコートを破られたくらいで、そうこのコートを、コート…」
コートを破られたことがそうとう悲しいのだろうか雅は繰り返し「コート」と言い続ける
どうやら怪我はしていないようなので新垣は安堵のため息をついた

しかしここで新垣の脳裏に当然のごとく疑問が浮かんだ
(なんで熊井ちゃんは雅ちゃんを連れていったの?それにさゆみんも熊井ちゃんが?)

その疑問が顔に現れたのだろうマルシェが新垣に声をかけてきた
「うん、マメ、私も熊井ちゃんが全ての犯人だと思うよ。あの現場の壁に残されていた爪痕は彼女の爪のようだしね」
新垣は現場の壁に残された荒々しい傷跡を思い出した

165名無しリゾナント:2011/07/22(金) 00:50:56
「それにどうして彼女が犯人達を襲ったのかも簡単に説明できるし」
「どういうことや!」
れいなが立ちあがりマルシェを睨みつける
「簡単だよ、自分を連れ去った相手だよ。それで自分が熊になって人間の理性を失ったとしよう
 まず第一に考えるのは、そこから逃げること。そのためには邪魔なものは排除する必要がある
 そして目の前には自分を連れ去った男達、恨んで当然。遠慮なんていらない、倒していけばいいじゃない
 もちろんいきなり獣化なんて力に目覚めたわけだから手加減なんてできるわけないしね」
人間としての理性を保つ訓練をする前のジュンジュンの姿を知っていた者はその説明をすんなり受け入れることが出来た

「シカシ、それならどうしてあの現場にはほとんどの人がいなかったんデスカ?
熊井ちゃんの力はただの獣化なんデスヨ!」
リンリンの質問にマルシェはにやりと笑みを浮かべながら答える
「それはね、ジュンジュンならわかるんじゃない?いつも獣化しているからね」
ジュンジュンはマルシェに指名されたが何も言おうとしない
「どうしたと?ジュン、何か思い当たる節あれば言ってみるとよ」
「・・・ジュンジュン、いつも持ち歩いているものアリマス」
「バナナやろ?それがどうかしたと?」
「・・・獣化した時、ものすごくエネルギー使いマス。長ければ長いほどエネルギー使ウ
 ・・・だからジュンジュンいつもバナナ食べてエネルギー消費を防いでマス」
ここまでいって新垣と吉澤は言おうとしていることがなんとなくわかったようだ
しかしれいなは「それがどうしたと?」と鈍いようだ

「ジュンジュンが言いにくいなら私がいってあげるよ、れいな
獣化っていうのはね、ちょっと特殊な能力でね、自分自身の形を変えるんだよ。
 大きな燃料というかエネルギーが必要になる能力なの。それでジュンジュンはバナナで栄養補給をしている」
「だからなに言うとると?」
「はぁ、れいなはまだ頭の回転が少し遅いのかな?だからあの子もエネルギーを取ったんでしょ」
「そんな栄養になるもん、あの部屋になかったと!食事でもしてたと!?」

166名無しリゾナント:2011/07/22(金) 00:51:42
「食事ねえ・・・まあ、半分正解かな?しっかりその子もエネルギーを取ったんだよ

『人間を喰う』ことでね」

マルシェの答えに一瞬場の空気は凍りつく
「た、食べたと?人を?人間が?」
「まあ、獣化しているんだから内なる獣が出てきて人くらい食べるでしょ
ニュースでもあるじゃない、熊が人を襲ったって。それに現場に落ちてたでしょ、人の手首が」
マルシェの指摘通り新垣達は現場で人の手首が落ちているのを確認していた
「人を食って辺りが血まみれ。喰われた人は腹の中へと消える。
これで犯人消失の方法が判明したってわけだな」
吉澤がマルシェの説明に飽きながらあくびを噛み殺してまとめる

「じゃあ、なんでサユはここにいると?れいな達みたとよ、まだ無事なところを」
その答えにもマルシェはすでに答えを用意していた
「それはあとで食べるため。常に獣化しているわけだから食事は動物の『肉』だけになる
 正直、まだサユが生きていてラッキーって思った方がいいよ、よかったね、マメ」
マルシェの推理には不合理な点がないため悔しいながらも受け止めざるを得ない

「違う、熊井ちゃんじゃない!」
必死に否定する雅に対してもマルシェは冷静に「状況証拠は十分なんです」といって聴く耳を持たない
「ん?ちょっと待つと、ミヤは熊井ちゃんが能力者ってことを知らんちゃろ?
それなのに熊がその子やと気付いたと?」
れいなの鋭い指摘にリンリンもその通りだと言った表情で雅に顔を向けた
友達が人間を喰ったかもしれないということを伝えられ若干顔色は悪いが答えた
「ああ、それはですね・・・私が放り出されたところに熊井ちゃんの置手紙があったんですよ
 メッセージの下には下に『友理奈』って名前も書いてあったん」
そこまで雅が言った時に建物全体がぐらりと大きく揺れた

167名無しリゾナント:2011/07/22(金) 00:52:22
「な、なに?地震?」
新垣達に問われる前に吉澤が「俺ら、何もしてねえからな」と釘を刺しておいた
「新垣サン、脚元ガ!」
リンリンが新垣に声をかけた瞬間、床が崩れおち、雅と友里奈を除いた6人が一階へと落下した
思わずれいなはキャーキャー声をあげてしまい、思いっきり背中をうってしまった
「イタタ・・・もう、なにが起きたと?」
「吉澤さん、何が起きたんでしょうね?地震ではないですよ、だって緊急地震速報がなかっ」
「おい、マルシェ、地味に現実的なことを言うなよ。しかし、何だ?」
吉澤は他の5人が背中から落ちたのに対してしっかりと両足で華麗に着地を決めた
「若干時事ネタ絡めても時が経ったらわからなくなるぞ」

「しかしどうしたンデスカネ?電気もつかないようデスネ」
リンリンがそこら辺に落ちていた瓦礫を拾い上げた。
手にした椅子の脚に緑炎がともされ周囲は少し明るくなった
マルシェも白衣の内ポケットから懐中電灯を取り出し、スイッチを入れた

「な、なんよ!これは!!」
れいなが驚きの声をあげたので二階から雅が「何があったんですか?」と問いかけてきた
「ミヤ、こっちに来るんじゃなかと!」
れいなが声を荒げて一階に下りてこないように警告したので雅は驚く
「なにか、おかしいと!一階がさっきと違ってぼろぼろになっていると!」

そう「ぼろぼろ」という表現は少々滑稽かもしれないが、ある意味適切だった
壁という壁には穴が開き、部屋と部屋という境界線は失われていた
新垣達がいたあの部屋のようにあちらこちらの天井が抜けおち、あちらこちらには瓦礫が積まれている
さきほどあれほど綺麗であった建物内と同じ建物だとは思えないくらいに荒れているのだ

168名無しリゾナント:2011/07/22(金) 00:53:09
「なにかまだいるね。れいな、リンリン、ジュンジュン、離れないで。愛ちゃん達と合流しよう」
三人が頷くのを見て、吉澤は「仲良しだね〜」と呑気に感想を述べた
「ま、こういうときはなるべく大勢で居るのがいいからな」
「・・・オマエラはドウスルダ」
ジュンジュンが威嚇の目つきで睨みつけると「おっかねえ〜」と吉澤はおちゃらける

「ま、とりあえず、熊井ちゃんをいただいて帰るとするかな」
「!! そんなことさせん!」
れいなが吉澤に向かって飛び出した

そこにれいな達のよく知っている声が飛び込んできた
「田中さん!伏せて!!」
(愛佳!?)
咄嗟に言われたがそれは光井の忠告、れいなは飛びかかるのを止め、その場に伏せた
光井の声が聴こえない吉澤は「おいおい、れいな転ぶなよ」と呆れかえる

その数秒後、伏せたれいなの上を何かが通り抜け・・・吉澤の寄り掛かっている壁に大きな穴が空いた
「な、なんだ?何が起きた?」
さすがの吉澤も突然のことに戸惑いを隠せず辺りを見渡す
れいなと同じく光井の声が新垣達にも聴こえたので光井の姿を見つけようと辺りを見渡す
「光井サン?どこですカ?」
「こ、こっちや…リンリンη×▽◎!!」
声のする方向を見れば脇腹を押さえて光井がこちらに向かって駆けてきた
「あ〜光井サン〜無事でヨカッタデス〜」
笑いかけながら光井を迎えるリンリンに光井は強い口調で言い放つ
「アホ!!リンリン、炎早く消すんや!!狙われるやろ!!」
慌ててリンリンは炎を消した

「落ち着くと、愛佳、一体何があったと?」
れいなが光井に問いかけ、光井はゆっくりと語り始めた

169名無しリゾナント:2011/07/22(金) 00:58:03
以上『VanishⅡ〜Ⅱ〜independent Girl〜(8)』の最終章スタートです
出来れば前回までを読んでいただくと面白いと自負しております(汗)
さて、今日から前回同様毎日投下していきます。したらば使いますが…
だいたい5〜9レスくらい使って少しずつ投下していくのでよろしくお願いします
前回よりも多い一週間超えますが、そこだけはこだわらせてください
皆様の期待に添えるか自信はありませんが(汗)

170名無しリゾナント:2011/07/22(金) 01:38:16
イーモバが規制中なんだけどなw
まあ行ってみますか

171名無しリゾナント:2011/07/22(金) 01:46:53
>>170さん
ありがとうございました
自分の努力不足で迷惑かけてしまいました
少しでも興味のわくお話しを書けるように努力します

172名無しリゾナント:2011/07/22(金) 01:47:16
行ってきますた
1回線契約残しておいてよかった

173名無しリゾナント:2011/07/22(金) 22:21:22
(2)
                ★   ★   ★   ★   ★   ★

―熊に連れ去られた雅を救いに4人が熊を追い掛けるまで時間は戻る

「高橋さん、愛佳も一緒に行った方がよかったんでしょうか?愛佳ならどこに逃げるか視えたでしょうし…」
「そうかもしれないね、でも、まあガキさんもおるし、れいなもいるし大丈夫やろ」
「そんなことよりもまずは道重さんですよ!あ、亀井さん!」
気付けばゆっくりと亀井がベッドの上で寝かされている道重に近づいていた
亀井は嬉しそうな表情で目にはうっすらと涙を浮かべていた
「さゆぅ、良かった・・・無事だったんだね」

「エリ、待って!まだ安全ってわけじゃないんだから!!」
高橋は先程の熊がいるようにまだ何かが起こるのではないかと気が気でなかった
部屋の中には特に変わったものは置いていない
道重の寝かされたベッドの横には食事の残りなのだろうか?トマトが残っている
良く見ればトマトにはなぜか桃のキャラのシールが貼られており一瞬疑問が浮かんで消えた
天井を見上げたところで何もトラップがあることもなく、床も落とし穴…なんてあるはずもない

「久住さん、あの熊が道重さんをさらった犯人と関係あるんでしょうか?
あの『黒い女が襲ってきた』『闇』というワード…やはりダークネスの!?」
「どうだろうね…道重さんが起きてくれれば何かわかるんだろうけど簡単に起きないよね?」
しかしそんな久住の予想とはうらはらに亀井に何度か肩をゆすられただけで道重は目を覚ましそうであった

「ん〜ふわぁ・・・もう少しだけ・・・」
道重の二度寝を欲するような甘い声を聴いただけで亀井は唇を噛みしめて泣くのをこらえようと必死になる
「さゆ、起きてよ!帰るよ!みんなで!」
より強く肩をゆすったので道重は両目をこすりベッドからゆっくりと起き上がった
「ふわぁ〜」と小さくあくびをして道重は周りの状況をぼんやりと眺める

174名無しリゾナント:2011/07/22(金) 22:21:59
「サユ!」「さゆぅ!」「亀井さん」
亀井が思わず道重に熱い抱擁を交わす
その嬉しそうな亀井の表情を見て思わず久住の目にも涙が浮かんでくる

ただ―光井は小さい違和感を感じていた
「どうした愛佳?嬉しくないんか?」
「…愛佳の視た未来の像と違うんです。何かが微妙に」
光井の言う視た姿は道重が連れ去られたあの日にリゾナントで視た『抱擁する道重、亀井の姿』である
しかし実際に目の前の抱き合っている二人の姿は何かが『違って』感じられた

暫くして何も言わずにゆっくりと道重が優しく亀井を離して高橋を見た
道重から離れた亀井は何も言わずにゆっくりと高橋の傍へと戻る

「サユ、無事でよかったやよ!!帰ろう、リゾナントへ」
高橋はそう言って道重に手を差し出した

その手を見て道重は手を握ろうともせず首を振った
ゆっくりとベッドに腰掛け直して艶のあるその黒髪を上から下までさっと手串をかけた

道重は亀井、久住、光井の位置を確認して最後にその大きな瞳で高橋を捉え、にやりと笑った

「帰りませんよ。それに、申し訳ありませんけど、私、


 さゆみではありませんから」


「え?さ、さえみさん?」
「そうですよ、高橋さん、私、さえみですよ」

175名無しリゾナント:2011/07/22(金) 22:23:14
道重『さえみ』はそう言ってベッドから立ち上がり、小さく背伸びをした
「う〜ん、少し寝すぎましたかね?あちらこちら少し痛いですね」
「そ、そんなことよりさえみさん『帰らない』ってどういうことなんですか!?」
高橋の後ろから久住が甲高い声で尋ねた

「あら、小春ちゃん、何言っているの?そのままの意味よ」
丁寧な言葉使いがますますさえみを不気味に感じさせる
「もう、私はさゆみをあなた達と一緒の場所に帰す気はありませんので」

「それはあかんと思いますよ!愛佳達が良くても道重さゆみさんの家族とかは」
「私はさゆみの姉ですから、大丈夫です、それに私がいればさゆみは寂しくないんですよ
 ね、そうよね、さゆみ」
さえみは微笑んだ

「・・・さえみさん、落ちついて話を聴いてくれます?なんでですか?」
高橋が少しずつさえみに近づきながら問いかける
「そうですね、以前、私が皆さんに頼んだこと覚えていますか?」
「それは『私のさゆみを危険な目にあわせないようにしっかりと見ていてください』のことかな?」
高橋がまた一歩さえみに近づいた
「その通りです。さえみはそこにいる子達ほどではないかもしれませんがか弱いんです
 運動も苦手ですし、体力もあるほうではありません
 にもかかわらずあなた方ときたら・・・」
さえみの肩が少し震えている
「新垣さんを救いに孤島へ行き、ダークネスと何度も戦って、戦って…何度も私を呼びだして
 今回だって高橋さん、あなたに頼んだ翌日にさゆみは拉致された!!」
さえみの口調が少しずつ荒荒しくなってきた

「私はね・・・皆さんとさゆみが出会うまではずっと長い間眠っていた存在です
 それが出てきたということは、どういうことを意味するか?
 さゆみが危ない目に会うことが増えた、実際に命の危険にさらされた、そういうことです。
 ああ、可愛そうなさゆみ、お姉ちゃんしかあなたを守れないのね、結局は」

176名無しリゾナント:2011/07/22(金) 22:24:14
「それは」と久住が口を挟もうとしたが、さえみに睨まれ委縮し光井の手をおもわず握り締めた
「あなたのこともいつもさゆみの影からみていたわ、小春ちゃん
 あなたは御存じないでしょうけど、夜な夜なさゆみは泣いていたんですからね
 それを私がどれだけなぐさめていたことか、あなたにも知って欲しいものですよ
 おっと、高橋さん、それ以上近づかないでくださいますか?」
何気なくさえみへと近づいて行った高橋に近づかないように手を突き出した

「あなたの戦法、何十回、何百回とさゆみの目を通してみているのであなたの十八番は効きませんよ」
そういうさえみには隙が見当たらず、思わず高橋も息をのんでしまう
「あっしらの能力も動きの癖も熟知しとるってわけやね・・・これほど戦いにくい相手はいないね」
高橋が苦笑いを浮かべて、すぐに口を真一文字に結び直した

「・・・なあ、さえみさん、やっぱり、あっしらと帰ってくれんかのう?」
高橋が、亀井が、久住が、光井がさえみの次に発する言葉を待った
「無理ね、どうしてもというなら、私を力でねじ伏せるくらいのことをみせてくれますかね?
 ただし、高橋さん、そこから一歩でも前に出ればあなた方を『敵』とみなします
 怪我をしたくなければ、すぐにここからお帰り下さ」
さえみが最期を言いきる前に高橋が足を大きく踏み出した
「悪いけど、さえみさん、帰るなんて選択肢はない
あなたがサユを大事に思っているように、サユもかけがえのない仲間なんよ
別に力があるとか、か弱いとかそんなん関係なくて、あっし達はサユと友達なんよ
 多少手荒な子とするかもしれんけど、サユと帰らせてもらう」

さえみはふぅと小さく息をつき、小さく背伸びをしてから高橋に手を向けた
「よけてくださいね」
静かに言ったさえみの掌から淡いピンク色の光が高橋に向かって飛んでいく
高橋は落ち着いて瞬間移動、いや『跳んだ』
一方でさえみが放った光はちょうど高橋がいた位置の後ろの壁に大きな穴を開けた
「まあ、始まりですし、これくらいなんてことないですわよね
 でも、これでおわかりかしら?私も本気だということを」

177名無しリゾナント:2011/07/22(金) 22:25:20
「高橋さん、さえみさんが相手ってヤバイっすよ」
久住が声をかけても高橋は答えず、どうするべきか悩んでいるように見えた
「みっつぃ、どうしよう?小春、道重さんと戦いたくないよ」
「そら愛佳もや…本当は戦いたくないけど、こうしなきゃあかん雰囲気やろ…」
戸惑いを隠せない後輩二人はさえみと対峙している高橋の背中に視線を注いだ

「道重さんを小春が困らせていたなんて気付かなかったけど、笑ってくれたあの笑顔忘れられないんだよ
 迷惑そうにしていたけど、それも含めて芸能人『月島きらり』じゃない小春を観てくれた数少ない人
 それを失いたくないよ」
「愛佳も亀井さんとか新垣さんとかリンリンと笑っていた道重さんをもう一度、いやずっと観ていたい」

「・・・じゃあ、戦うしかないんじゃない」
そう言ったのは意外な人物であった

「「亀井さん?」」
亀井は覚悟を決めた表情で高橋の横に並び、久住と光井へと顔を向けずに声をかけた
「二人とも、さゆとまた話したいんだよね?ばかみたいに笑いたいんだよね?
 だったら、選択肢は一つしかないよ、さえみさん!!」
亀井は人差し指をさえみに向けた
「あなたからさゆを取り返す、いや奪ってみせます」
亀井の宣言に対してさえみは意外に笑って見せた
「えりちゃん、本当に強くなったわね。あなたのことを私は多分、さゆみの次くらい知っているわ
 本当ならあなたを傷つけることはしたくはないの。さゆみが一番笑っていられたのはあなたの横だったから
 でも、それとこれとは別、いや、むしろあなたがいたから私は自分の居場所を失った
 えりちゃん、私も宣言させていただくわ。さゆみの一番大切な存在、その場所頂きます」

178名無しリゾナント:2011/07/22(金) 22:30:03
今日はここまで。
昨日のタイトルは…ミスですw普通に『Vanish! Ⅱ』ですからw
今回のボス登場です。二日目にして出るなんて、早いかもしれないですがw
ある意味今日が裏切り②といってもいいと思います

代理よろしくお願いします

179名無しリゾナント:2011/07/22(金) 23:38:04
行ってきまふ

180名無しリゾナント:2011/07/22(金) 23:46:45
投稿官僚

181名無しリゾナント:2011/07/23(土) 10:23:13
確認しました。ありがとうございます♪

182名無しリゾナント:2011/07/23(土) 13:57:12
(3)
「カメ、小春、光井、覚悟は出来てるね」
高橋の問いかけに対して三人はそれぞれ答えを出していた
「愛ちゃん、愛ちゃんは絵里達のことを気にしないでください。絵里もサポートします」
「小春もがんばりますよ。道重さんを取り返しましょう」
「愛佳も後ろからですがサポートします!!」
「それじゃあ行くよ」

次の瞬間、高橋はさえみの後ろの空間に現れた
目標はさえみの後頭部。さえみの隙を狙い、思いを込めた蹴りを放つ
「そこですね」
さえみは振り向きもせず自身の背後、高橋のいる辺りへと手を伸ばす
「なんやと!?」
危険を感じた高橋は攻撃を中断し、再び亀井の横へと戻った

「言いましたよね、十八番は通用しないと」
「みたいやね」
表情は笑っている高橋だが内心はかなり動揺していた
というのもさえみの手をむけられた先の壁が綺麗に崩れていたからだ
「愛ちゃん、あの手は危険だね」
「うん、『物質崩壊(イクサシブ・ヒーリング)』、やはり敵にしたくない力だね」

「近づかなければいいんですよ!!高橋さん、小春に任せて!!」
高橋と亀井のほうに目を向けているさえみに向かって小春が雷を放った
赤い色の輝かしい雷はさえみにまっすぐ伸びていく
さえみはゆっくりと手を伸ばす
「・・・」
何も言わないが、雷はさえみに届く寸前で消えていった。
「遠距離攻撃も効果なし?」

183名無しリゾナント:2011/07/23(土) 13:58:32
「フフフ…皆さん、勘違いしていますよ。私の力を」
さえみが少し低い笑い声を響かせながら天井にあるシャンデリアを指差した
さえみの目が金色に光ると同時にシャンデリアに亀裂が入り、砕け散った
「こうやって見えるもの、もちろん触れるもの、全てを消せるんですよ」

「近づくのが危険、というわけではないんですね、高橋さん」
「でも近づかなくては何もできないし…」
「小春の雷が効かないみたいだし、どうしようか…」
何も言わずに亀井がカマイタチを突然放った
しかし、何も起こらずさえみは「無駄よ」と言って笑っている
「見えない風だとしても空気の震えでどこにくるかくらい予測できるわ
 『見えないから効くかも』、えりちゃんそんな浅はかな考えくらい想定の範囲内です」

「諦めんよ」
高橋が再び跳び、さえみの後ろに現れた
「無駄だっていっているのおわかりですか?」
さえみが手を伸ばし、現れた瞬間の高橋に0距離で光を放った
桃色の光が高橋を包みこみ、ゆっくりと高橋の姿が消えていく
「愛ちゃん!」「高橋さん!」
亀井、光井の悲痛な叫びが響く
「リゾナントリーダー高橋、大したことなかったですね」
「それはどうや?」
声がすると同時に高橋がさえみの真正面に現れ、さえみの顎に強烈なアッパーを入れた
そしてすぐに跳び、仲間の元へと戻り、久住にウインクを投げた

顎を押さえながらもさえみは無表情のまま高橋を睨みつける
「チッ、あれは小春ちゃんの幻覚でしたか…」
「そういうことですよ〜愛ちゃんがあんな簡単にやられるわけないですよ☆」
「視界に入る前に攻撃すればええんやろ?それだけのことや」
高橋が簡単なことだ、とでもいうように微笑みかける
「いけます、これならさえみさんでも防ぎきれません!!」

184名無しリゾナント:2011/07/23(土) 13:59:24
「いや・・・それがそういうわけにはいかんみたいやね」
高橋が困り顔を浮かべているのに亀井が気付いた
先程から高橋は手を後ろに組んだままだ
「さえみさん、あなた…」
「愛ちゃん、何かされたんですか?」
亀井が高橋の腕を握り、さえみを殴った右手を自分に見えるように持ち上げた
「!!」

「あら、言っていませんでしたっけ?私に触れたものが壊れるように力を解放してますのよ」
さえみが近くにあった皿に触れた。すると皿は粉々に砕け散った
「ということは・・・」
光井が高橋の右手に視線を向けると・・・高橋の右手首から上が消えていた
「久住さんの雷も亀井さんの風も消される・・・でも触れたら否応なしに触れた部分が消される
 ただですら愛佳には何も攻撃の方法あらへん・・・どうすればいいんや?」

「愛ちゃん・・・」
亀井はすぐ横の高橋の顔を見つめるが、高橋の顔は暗い
「どうします?まだ続けますか?」
さえみが時折さゆみがみせる気だるそうな声で尋ねる
「無駄なんですよ、私に攻撃を与えようとすることは。全て無に消えるだけ
 それからついでに絶望的なことを教えて差し上げましょう」
さえみは右手に淡い桃色の光をともした
「私はさゆみのもう一つの存在、もちろん『崩壊』させるだけではなく『治す』こともできます
 なので先程高橋さんから頂いた、顎の傷、もう『消させて』いただきましたよ」
「じゃ、じゃあ、さえみさんを倒すには一撃で決めるしかないってこと?」
久住が光井に尋ねると光井は何も言わずに首を縦に振って答えた
「そんな…勝てないよ、勝てっこないよ、あんなのに・・・」

185名無しリゾナント:2011/07/23(土) 13:59:59
「そんなに悩んでいるなら、今度はこちらから行きますよ!」
さえみが4人に向けて光を放った
「みんな、あっしにつかまって!」
高橋の声に従い3人は高橋に触れ、跳んだ
「逃がしませんよ!かくれんぼみたいですね♪」
高橋といえども3人を連れての瞬間移動には限界がある
(どこか遠くに行くべき?それともこのまま逃げ続ける?どうする私)
心の中で自分自身との対話を始めた

「高橋さん、愛佳たちを気にしているなら大丈夫です!
ただ少しだけ遠いところに跳んでからにしてください」
「み、みっつぃ?」
久住は光井が自分を逃がしてほしい、そんなことを言ったので驚きの声を上げた
「道重さんを置いて逃げるって何考えているの!」
「違うわ!!新垣さん達にさえみさんが敵だって伝えんといけないやろ!
何も知らずに道重さんの元へと行ったら危険や!それを阻止させんと」
「あ、そっか、みっつぃ、冷静だね、こんなときでも」

「愛佳の言う通りですよ、愛ちゃん、エリ達だって自分の身くらい守ってみせます」
「…わかった、なるべくこの建物の端に逃げるから」
高橋はまた跳んだ―その数秒後には亀井、久住、光井の三人は古城の端の部屋に残された
「頑張るんやよ!!」
そう言い残し高橋はさえみの元へと戻っていった

「愛ちゃん、大丈夫かな?」
何度も仲間を連れて跳んだ高橋の身を心配する久住
「高橋さんならなんとかなる、無策で行く人やない。リーダーを信じましょう
 しかしさえみさんも派手なことしてくれはったわ」
三人の目の前にはすでに部屋と部屋の境目が無いくらいにぼろぼろになった光景が広がっていた
天井が抜け落ち、天井のかけらが家具を押しつぶしていたり、ソファの一部が見事に削られていたりする

186名無しリゾナント:2011/07/23(土) 14:00:51
「でもまさかさえみさんがあんなことを思っているなんて想像もしなかったな
 さえみさんがあんなに小春達のことを恨んでいたなんて」
「いや、あれは恨んでいるンとは違うと思いますわ、なんていうか妬みに近い気がします」
「妬み?」
「さえみさんは元々道重さんの孤独を生めるための存在だったわけや。そこに亀井さんが現れた
 自分の寂しさを埋めるために作りだされたさえみさんは焦ったはずや、自分の居場所を奪われて
 さらに愛佳達も道重さゆみさんの友達となっていく。ますます自分の価値を失って行った
 さえみさんはさゆみさんを守る存在として出現した。しかし、その守ることも必要なくなってきた」

そうして会話をしているうちにもさえみの放つ光は部屋を壊していく
みるみる内に壁に穴が空いて行き、建物内が一つの大きな部屋へと近づいていく
そして、ドシャーンという大きな音とともにれいなのキャーキャー言う声が聴こえて来た
「田中さんの声が聴こえた!!さえみさんがおるって忠告してきましょう!」
そういい光井、亀井、久住は新垣達の元へと駆けて行った

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

光井からの話を聴き終えた新垣達は言葉を失った
「さ、さゆやなくてさえみさんがおったと?しかも、帰りたいなら実力行使やないとあかん?」
「これはメンドクサイことになってしまったのだ。ただでさえこちらも問題が起きているのに」
「問題ってなんですか?」
光井が困り顔の新垣に尋ねた

「うん、それはね・・・」
新垣が雅を連れ去った熊が『熊井』という女の子であったことを伝えると光井は驚きの表情を受けべた
「熊井ちゃん?愛佳の後輩の?それが熊になっていた?」
「うん、そうなの。しかもその子をあいつらが狙っているの」

187名無しリゾナント:2011/07/23(土) 14:01:33
「おいおいあいつらとはひどい紹介の仕方だな」
吉澤が不満げな声を出して見せた
「仕方ないですって、一応敵なんですから」
マルシェも懐中電灯をしまっていた

「それで熊井ちゃんは今どこにおるんですか?」
「ミヤが上でみとる。あ、そういや、ミヤ!置手紙にはなんて書いてあったと?」
れいなが上の階に待機している雅に尋ねた
「あ、はい、熊井ちゃんはですね『逃げてください、今すぐに』って書いてあるんです」
「『逃げて』?自分から捕まえておいて何言っているんや?」

そこに高橋が音もなく現れた
「みんな、無事か?」
「愛ちゃん」「高橋サン」「高橋」とそれぞれ思い思いの呼び名で呼ぶ
マルシェと吉澤がいるのを見て高橋は一瞬戸惑いの色を浮かべた
「うおっ、なんであんたらがいるんや?」
「やっほー愛ちゃん、まだ元気なようだね」
マイペースなマルシェが挨拶を交わした

「ちょっとそんなことしている場合じゃないでしょ、愛ちゃんもマルシェも!
 今、さえみさんはどこにいるのよ!」
新垣が慌てて声を出した
「ここにおりますわ」
不気味な声が聴こえ、声のする方に顔を向けるとさえみが崩れ落ちたがれきに腰掛けていた
「道重」という吉澤に対し「さえみ」ですと答える

「役者は勢揃いの様ですね。意外な方もおられますけど」
さえみはゆっくりと、しかし全員の顔を眺めながら呟いた
「俺と会うのは初めてかもな、さえみさん」
吉澤が興味深々な様子で近づいた

188名無しリゾナント:2011/07/23(土) 14:02:22
「こいつがSSSランクの能力者か…あのお方と並ぶ数少ない能力者」
「何をおっしゃっているのか判りませんがそれ以上近づいたら、いや、ダークネスだから消しましょう」
言うや否やさえみは吉澤に向けて視線を合わせようと顔を向けた
吉澤はさえみの死角に逃げ込み、視線から逃げた
「おいおい、すこしくらい話させてくれてもいいんじゃねえの?」
軽い口調の吉澤に対してマルシェは半分あきれ顔だ
「あの人、楽しんでいます…」

吉澤はマルシェから距離をとり、椅子に座りこんだ
「あのさ、この事件、オマエ関わっているんだろ?」
「何のことでしょうか?」
「おいおいとぼけんなよ、熊井だっけ、あの子を連れてきたのも、あの現場から消えたのもお前の仕業だろ」
「さて、どうでしょうか?」
吉澤は脚をぶらぶらさせながら自論を進めようとするが、光井が割って入った
「どういうことや?さえみさんが関わっているって」

「落ちつけよ、光井愛佳、落ち着かねえとそこにいる不良娘と同じになるぞ」
「だれのことや?言うてみると!」
吉澤は何も言わずにれいなにむけて光弾を放つ

「まあ、道重がさらわれたのは本当なんだろうな
 ただ、あの現場で起きた消失事件、全て、さえみ、オマエがしたんだろ?」

「お前ならどんなに監禁されていたとしても逃げられるし、何人相手でも倒せる
 遺体が見つからないのも全て消すことができるお前の能力になら可能だ
 現場の景色もお前の綺麗な崩壊で再現可能」
「でも現場には血が流れていたんや、さえみさんなら血も残らない」

189名無しリゾナント:2011/07/23(土) 14:03:00
「あのなあ、『可愛い』道重さゆみを連れ去ったものを簡単にこいつが殺すと思うか?
 俺らの手下のどれだけが死ぬ前に地獄を見たと思う?死なない程度にいたぶるんだよ、こいつは
 もしくは『治し』ながら『壊す』ことが可能なんだ
 手首から先を消して、血が止まらないようにして失血死させる
 頸動脈を露出させて勢いよく、ショック死させる
 いくらでも血みどろにすることはできるだろ」

「それに熊井とか云う女の子を残してのも説明がつく
 熊井は人質として使えるからな。まさか獣化能力者とは思わなかったかもしれないがな」
「ミヤに向けた『逃げて』というメッセージ・・・」
その意味を理解し、黙り込む一同
「あいつはなるべく被害者を増やしたくないから、帰れなかったんだろうな」
「熊井ちゃん・・・」
「でも確かに吉澤の説明で納得いく部分はありますね」
光井が思い出したように言った
「唯一の生き残りのキーワード『黒い女』『闇』、どちらもさえみさんに当てはまる」

「そろそろおしゃべりはやめていただいてもよろしいですか?」
暇になったのだろうさえみはあくびをしている
「その前にさえみさん、今の推理が正しいか答えてくれないかな?」
高橋の問いに対してさえみは
「だって、さゆみを連れ去ったものを生かす必要なんてありませんもんね」
と推理が正しいことを認めた
「なんでや、なんでそこまでするんや!」と高橋が大声を上げたが、さえみは表情も変えずに
「邪魔な者は消すのみですよ。私は正義とかどうでもいいと思っていますので
 さて、そろそろ結論、出してくださいね、私と戦いさゆみを連れて帰る
 もしくはこのまま帰るか、もちろんダークネスのお二方は帰しませんけどね」

190名無しリゾナント:2011/07/23(土) 14:03:52
「そんなの」
高橋がゆっくりと立ち上がる
「決まっているよね」
新垣が安全装置を解除する
「何をするかなんて」
亀井が髪止めをはずす
「愚問やね」
れいながグローブをはめ直す
「小春達に出来ること」
小春がちいさく跳ねる
「それは、ただ一つや」
光井が背伸びをする
「道重さゆみサンを」
ジュンジュンが栄養剤を口に放り込む
「取り戻ス!」
リンリンがポケットから飴を取り出す

「それじゃあ、最後の戦いと行きましょう
 ルールは私を倒す、もしくはあなた達がさゆみに必要だと認めさせればさゆみを返します
 もう手加減はしませんよ。もし死んでもさゆみには忘れてもらいます
 そのためにあの子をここに残したんですから、熊井ちゃんをね」

「そうか、あの子をここに残せば、仲間が来る…
 記憶を消す能力『消失点』を持つ雅ちゃんが…そこまで考えていたのか?」
マルシェがさえみの頭の良さに驚きつつ、ポケットから銃を取り出す
「流れにのまれるんじゃねえぞ。道重さえみ、面白い、敵として申し分ねえな
おい、マルシェ、死ぬんじゃねえぞ、帰って上手い酒飲む約束忘れんなよ」
吉澤も靴ひもを結び直し、前髪を留め、戦闘態勢に入る

「さゆを」「「「「「「「取り返す」」」」」」」」
「さあ、楽しもうぜ」「まったく、メンドクサイですね」
「・・・」

191名無しリゾナント:2011/07/23(土) 14:06:29
夜ネット環境ないところに行くので、今のうちに投下しておきます
夜になったら代理投稿しておいてください
しばらくは『狂犬〜』の感想読みたいですw

『狂犬〜』の闇の王の威厳のなさいいっすねwダメすぎていいw

192名無しリゾナント:2011/07/23(土) 19:04:09
8時頃を目途に投下してきますね

193名無しリゾナント:2011/07/23(土) 20:22:31
天災完了

194名無しリゾナント:2011/07/24(日) 21:44:46
(4)
「れいな、さえみさんの体に触れたら消されるから肉弾戦は避けて!」
さえみへと一直線にかけよろうするれいなに高橋が呼びかける
「そんなことわかっていると!」
れいなはさえみの周囲をぐるぐると回り始めた

「??れいな、一体何のつもり?言っておくけど、私のどこに触れても消えるわ
そういえば、さゆみも言っていたわ、れいなは単純だって」
「なに?サユ、そんなこと言ってると?許せないっちゃ、サユ!!」
れいなは怒り顔のままで人間とは思えない速度でさえみのまわりを回り続ける
自然とさえみの注意はれいなへと向けられる

(今や!)

いつの間にかさえみをリンリン、久住、ジュンジュンが取り囲んでいた
久住は赤色の雷、リンリンは緑色の炎、ジュンジュンは近くの瓦礫をさえみ向かって投げつける
「さすがに三か所同時やったらふせぎきれんやろ!」
雷が、炎が、瓦礫がさえみ向かって飛んでいく

「いける!」
新垣がそう思い拳を握りしめた
しかし、というかやはりさえみに当たる直前でそれらは崩壊する
「ええ?あれも届かないの?絶対的防御じゃない」
「それはどうかいな」
れいながニヤリと笑って見せた
ふとみればさえみの右腕に切り傷が出来ていた

「え、どうやって?」
「簡単や、三人の攻撃に集中させて、エリに攻撃させたとよ」
亀井を見ればカマイタチを放ったようで親指を上げて、こちら側に合図を送っていた
「意識の外の攻撃には防御できんくて、風は見えないから消せないはずやと思ったけど大当たりやね」

195名無しリゾナント:2011/07/24(日) 21:45:32
自分の腕に手を当てながらさえみは嬉しそうに笑う
「ふうん、やりますわね、れいなちゃん。でもね、これくらいなんてことないわね」
手を外したさえみの腕には傷は完璧に消えていた
「さゆの治癒能力、メンドクサイ能力っちゃね」

「それを相手に俺らはいつも戦っているんだって。どきなれいな、俺が行ってやるよ」
れいなを押しのけて吉澤がマルシェの前に出た

「マルシェ、作っておけ」
「え?本当ですか?幅は?」
「まかせる・・・2本、いや1本ずつだな」

「行くぜ、さえみ」
(速い!)
新垣はそう思った。ただ先程のれいなと違い吉澤はまっすぐ吉澤はさえみにむかっていく
(でも、あれじゃ、さえみさんの真正面では?何を考えているんだ?)

さえみはゆっくりと掌を吉澤へと向け、光を放つ
吉澤はその光を左腕で受け止め、体に当たらないようにしながらさえみに近づいて行く
当然ながら吉澤の左腕は淡雪のように空気中へと消えていく
「何をお考えでしょうか?」
さえみの呟きに対して吉澤はこう言った
「こうでもしないとお前に近づけねえだろ?腕一本くらいで済むならNo Problemだ」
吉澤はさえみの腹に渾身の蹴りを入れた

さすがに直接攻撃するとは思わなったのだろう、さえみは小さくうっ、と声を出した
吉澤の蹴りの威力はすさまじく、さえみは壁に強く叩きつけられた
もちろんさえみを蹴った左脚は消えかけてきた

「あの人、無茶するデス。スゴすぎてバカみたいデス」
リンリンがあっけに取られた表情で吉澤を眺めている

196名無しリゾナント:2011/07/24(日) 21:46:43
吉澤の元へと近づいたマルシェは手に何かを持っていた
「おう、マルシェ、さすが仕事速いな」
「相変わらず無茶しますね・・・これでいいですか?」
吉澤はマルシェからそれを受け取った
「・・・なんか少しサイズ太くねえか?俺、こんなんだっけ?いやがらせか?」
「いいから早くつけてくださいよ」

マルシェから受け取ったそれを吉澤は消え去った左腕と右足にくっつけた
そう、マルシェが作ったのは吉澤の『スペアの脚と腕』だった
『原子合成』で急遽作ったとはいえ、その大きさは吉澤にちょうどのサイズであった
感覚を確かめるように吉澤は手を握ったり広げたりしている
「うん、悪くねえ」

そんな二人の様子をみて久住は近くにいた光井の服を引っ張った
「あの戦い方、小春にはまねできないよ…ヘタしたら体全部持ってかれるよ」
「そやろうな…あれがダークネス幹部の戦い方」
知将光井ですら考えなかった戦い方であった

「ふぅ、さすがに今のは効きましたよ、さすがダークネスですね」
さえみがゆっくりと立ち上がり、口からペッと血を吐いた
「ふふふ、面白い戦い方をなさいますね、自分の命を命とも思っていない
 嫌いではありませんよ、その戦い方」
「気にいってもらって光栄だな」
再び吉澤がさえみと向かい合った

「でも、もう効きませんよ。今は、さきほど以上に触れたら崩壊する領域を広げました
 そうですね、私から半径50cmってところですかね?」
さえみが平然と言ってのけたが、その場にいた他の人々は戸惑いの色を隠せない
「愛ちゃん、どうしよう、これじゃあ、もうさえみさんにふれることすら」
「そんなにかよ、俺の腕の半分以上か・・・さすがにそこ飛び込む勇気はないな」

197名無しリゾナント:2011/07/24(日) 21:47:31
新垣の問いかけにも高橋は先ほどからずっと黙ったままだ
「愛ちゃん?」
「・・・なあ、ガキさん、あっしは自分の力を正直きらっとるの知っとるやろ
 ただな、今はその力を使うときかもしれん、『光』の力を
 それをずっと考えていたんよ」
「愛ちゃん、確かにあの『光』を良く思っていないことは知っている
 でも、そんなことよりも今はさゆみんを取り返すことが大事なんだから」
「・・・だよね、でも、ガキさん」
「なあに?愛ちゃん」
高橋は半ば困り顔の表情を新垣に向けた
「手加減できんから、さゆを全て消すことになる・・・かもしれん」

・・・と新垣が高橋に抱きついた
「ガキさん?」
新垣は高橋の頭を優しくなでながら言った
「愛ちゃんならできるよ、私、信じているから。それまで時間かせいであげるよ」
「うん、ありがとう、30秒あれば十分、やと思う」
その言葉を聴いた新垣は6人の仲間に「30秒、愛ちゃんをサポート」と指示を出す
仲間達は注意が高橋に行かないように必死に動きまわり、さえみの攻撃を避け続ける

「あぶないっ」
久住のすぐそばをさえみの光が通り抜ける
「ファイヤー」
リンリンの炎がさえみ周囲の見えない壁に当たり消えていく
「がんばるっちゃ、みんな」
れいなの励ましの言葉が飛ぶ

「へえ、れいなも気づかう優しさ出せるようになったんだ、成長したんだ」
「なに、ぼうっとしているんだ、マルシェ、何とかしてこの場面を打開する方法考えるぞ」
吉澤もさきほどから光弾を放ち続けている

198名無しリゾナント:2011/07/24(日) 21:49:05
新垣も何とかしてさえみの心の内を読もうとするが、こんな状況では当然読むことなんてできない
(どうにかしてさえみさんが止まってくれればいいんだけど…それより、愛ちゃんまだ?)
新垣は高橋のすぐ横で走り回り注意をそらしてくれている仲間たちへと指示を飛ばしている
もちろん、指示を出すのは新垣だけではなく、未来を視える光井もしている
しかし新垣の指示の方がより的確で、逃げるための指示ではなく生き残るための指示であった

そんな新垣達に守られながら高橋は自身の心と対話を静かに迎えていた
(本当はあの力なんて使いたくない)
化け物扱いされ、特に理由もなく避けられる日々が浮かぶ
(自分では制御できんで、大切な人を失ったりもした)
目の前で輪郭を失っていく茶髪のショートカットの女の子
(何よりも強力なはずのこの力、使い方によって世界を変えられると教えられた)
光によって友を失った時に励ましてくれた仲間達の姿
(今はこの力が必要な時なのかもしれん)
リゾナントで一緒になって笑いあう自分を含めた9人の姿
(お願い、今だけでいいから、光よ、私の一部に)

<ちょっとそれは虫がよすぎるんじゃない?>
(誰?)
<私はi914って呼ばれている。あなたの中のあなた。あれだけあの力を嫌っていてこう言うときだけ使わせて?>
(それはそうだけど今は、あの力で救いたいの)
<あなたは救われるかもしれないけど、それで私は救われるの?光の持ち主のi914は>
(確かに今はあなたのことを救えないかもしれん…でも、今は光の力が必要なんよ
 あの時の違って今は心から信頼できる仲間がいる。それを取り戻したい)
<本当に光の力で救えると信じているの?敵は仲間の一人なんでしょ?また失うことに>
(私はあの頃と違うんだ!!もうi914なんて簡単な番号では呼ぶ人はいないし、居場所もある
 あなたもいつまでもその番号にこだわっていないで自分を受け入れるべきよ)
<それはそのままあなたにお返しすることになるわ。まあ、いいわ、今だけ光を使わせるわ>

高橋は静かに息をし、目の前の光景を静かに眺めた

199名無しリゾナント:2011/07/24(日) 21:54:03
光から必死に逃げ惑う久住やれいなの姿
必死に指示を送り続ける新垣と亀井と光井
隙あらば攻撃に転じようと諦めの色の見せないジュンジュンとリンリン

「みんな、待たせたね・・・私の中の私、力を貸して」
高橋はさえみに標準を合わせた
「さえみさん、私の思いを感じて、この光を通して」



ここまで「Vanish! Ⅱ(8)」のパート4です
ちなみに高橋さんの手首から上は失われても光は放てるっていう設定にしてください(汗
そうじゃないと矛盾生じるので(汗
読む方も大変ですが頑張ってください(汗

遅れましたが昨日の投下代理の方ありがとうございました。
今日の方よろしくお願いします

200今日の方:2011/07/24(日) 22:09:30
行ってくるがし

201名無しリゾナント:2011/07/24(日) 22:17:18
転載完了

202名無しリゾナント:2011/07/24(日) 22:29:27
確認しました。ありがとうございます

203名無しリゾナント:2011/07/25(月) 22:28:55
(5)
高橋の澄んだ声が部屋中に響き渡る
「さえみさん、これが私からのあなたへの思いよ」
その声に全員が思わず高橋の方を向いてしまう

高橋の傍に真っ白な光の球が浮かんでいる
「愛ちゃん、それって」
高橋はニヤッと笑って見せた
「私の中の秘めた力、光の力!さえみさん!」
光はさえみに向けて放たれた

高橋の光は真っすぐさえみに向かって行く
その放たれた光は驚くほど輝き、仄暗い部屋を明るく照らし出す
全てを消しさるはずの光の力なのに、なぜかその光に新垣達は見惚れてしまう
「これが愛ちゃんの光…」

さえみは近づいてくる光にも動ずることもなくゆっくりと掌を向けた
(これが噂の光の力なのですね)
さえみはそう心に思いながら、迫ってくる光をその暗く大きな瞳でみつめていた

さえみから放たれた『崩壊』の光と高橋から放たれた『純粋』な光
どちらも相手を消す力を持つ能力
しかし同じ光だとしてもそれを見つめる者たちには全く違う輝きを纏っていた
とはいえ、目的は同じ人物を守るため、一人の仲間のためにぶつかりあう光と光

「さすが、高橋愛の光。ものすごいパワーを感じますわ」
さえみの頬に額から汗がつたわって流れた

「さえみさんの崩壊の光…さゆを救うためにも負けるわけにはいかない」
高橋も不慣れながら精いっぱい思いを込めて光を放ち続ける

204名無しリゾナント:2011/07/25(月) 22:29:28
二つの光は激しくぶつかり合った
ぶつかりあうことで生じる衝撃波と眩しい光が辺りを包む

光に包まれた新垣達は思った
(あれ?光に包まれたってことは私達消えちゃうの?これで終わり?)




そんなこたあないw

「新垣さん、大丈夫ですか?ほら、ミヤの手握ってください」
れいなの忠告を無視して、二階から飛び降りてきた雅の手を伝って新垣は立ち上がる
目をあけると部屋は先程以上に荒れているが、欠けている人影は見当たらない
もちろん光を放った高橋もさえみもそのままの姿勢で立っている
二人とも一見したところ傷を負っている様子はない。
高橋が右手首より上を失っている以外には消えた部位はないようで、血が流れている様子もない

時間にしてほんの一瞬のことながら、高橋は額に大きな脂汗をかいていた
「さすがに慣れていないことはしちゃだ・め・だね・・・」
高橋は背中から半ば崩れおちるようにして倒れた
「愛ちゃん!」
近くにいたれいなが急いで高橋の元に駆け寄り、助け起こした
「アハハ、少しやりすぎたがし…動けんや、もう一歩も」
れいなは高橋を壁に背をもたらせて座らせた
「さえみさん、やっぱ強いよ、光でもかなわなかった。傷一つつけられなかった」

一方のさえみは先程から黙ったままだ
「・・・もしかしてさえみさん、立ったまま亡くなったんとちゃいます?弁慶の仁王立ちみたいな」
光井が黙ったままのさえみを見て隣の久住に声をかけた
「弁慶って何?膝怪我していないよ、さえみさん、ほら見てよ」
さえみの膝を指差す久住

205名無しリゾナント:2011/07/25(月) 22:30:27
「…やめてよ…」
さえみの口からそんな声がこぼれた

「さえみさん何か今言いませんでしたか?」
「そうか?俺には何も聴こえなかったぜ。おい、そんなことより今、チャンスじゃねえか?」
吉澤はポケットから携帯用のトンファーを取り出した
「今、あいつ無防備だろ、今のうちに攻めとかねえと」
両手にトンファーを手にして吉澤はさえみ目がけて飛び出した

そんな吉澤に気付く様子はなくさえみはやはり小さく口を動かしている
「…あなたの…」
「もう…よ」
「…誰より…守って…」
「…一人で…」

「何を一人でごちゃごちゃ言ってやがるんだ!!」
吉澤はトンファーをさえみの頭目がけて振り落とした

「さえみさん、危ない!!」
今は敵のさえみだが、思わず新垣は危険だと声を上げてしまった
新垣の声ではっとした様子で吉澤に気がついたさえみは吉澤の姿を見て、全身から光を放った
「な、なんだと?」
突然の攻撃によける暇もなく吉澤は全身を光に包まれた
「吉澤さ〜ん!!」
マルシェの悲痛な叫びが響いた

吉澤が消されたことでショックを受けたのはマルシェだけではなかった
「あの吉澤があっという間に消された?ありえないと…」
「さえみサン、強すぎマス、勝てる気がしないデス」
何度も何度も戦ったからこそ、あの吉澤が簡単に消されたことは衝撃だった

206名無しリゾナント:2011/07/25(月) 22:31:10
その吉澤を消したさえみの様子は明らかにおかしくなっていた
また先程と同じように小さい声で呟き続けているのだ
「さ…み…寝ていて…」「…もう…てよ」
時折聴こえる声から新垣はある推測をたてた

「もしかしてさっきの愛ちゃんの光でさえみさんの心の中でさゆみんが起きたのかも」
「それは十分にありえる考えですね」
マルシェが新垣の横で並んでさえみを観察し始めた
「しかし、あの状態だとしても近づくのは危険です。先程の吉澤さんの二の舞になる恐れが非常に高いです
 ねえ、マメ、今ならあの心を見れるんじゃない?」
「出来ないわけではないけど、危険すぎて、したくないっていうのが本音だね
 ただ・・・今しかないよね、さえみさんの心を変えるために
 ジュンジュン、もしさえみさんが動き出したら私を抱えて逃げてね、頼むわ」
「わかったダ」
そうして新垣はすぅっと呼吸を整え、さえみに意識を集中させた

「新垣さん、気を付けてくださいね。さあ、小春達は今度は新垣さんを守らないといけないですね」
小春が掌から雷をバチバチいわせながら指を曲げ伸ばししている
光井は何かを考えているようで黙ったままだ
「どうしたの、みっつぃ?新垣さんがなにかを持ってきてくれること期待しようよ」
「う〜ん、そうなんですけど…何か嫌な予感するんですわ。予知ではないんですけど」

すると突然、さえみが獣のような叫びをあげた
「マメ、何が起きたの?」
マルシェはジュンジュンに背負われている新垣に問いかけた
「…中には二人の心があった。さゆみとさえみ、それが戦っている」
いつでも逃げられるようにと新垣はジュンジュンの背中に乗せられている
「道重さゆみの体に宿った二つの精神、今はさえみさんが前に出ているけど
 元々の主人格はさゆみんだけど、何かのきっかけでさえみさんが強くなっている」

207名無しリゾナント:2011/07/25(月) 22:31:57
「おそらくはあの誘拐事件がきっかけだと思うけど、そのときさえみさんの強い自我が出た、と思うんだ
 『私が守らなきゃいけない』その思いだけでさえみさんは動いていた
 だからさゆみという精神はきっとあの体の中で眠っていたと思うの」
「本で読んだことがあります、一つの人間の中に多くの人格があるっていう報告を
 そういう人は一つの人格が表に出ている時はその人格を後ろから見ている感覚があるって」
マルシェがおそらくわかっていないであろうジュンジュンに教えるように知識を披露した

「それが私達と戦うことで変化が起きた」
「どういうコトですカ?新垣サン」
リンリンが大声で尋ねてきた
「田中っちや吉澤、それから愛ちゃんの光の攻撃で肉体のダメージはなかった
 でも、あたしたちの必死な姿を見ているうちにさゆみんが目覚めた
 さえみさんは必死にさゆみんを引き離そうとしたけど、さゆみんの気持ちは違う
 あたしたちを敵対視しているさえみさんはさゆみん自身に『戻りたい』と言われて動揺していた
 全てをさゆみんのために動いていたのにそれを全て否定される
 それはさえみさんにとっては存在を否定されるにほぼ同じこと…なのだと思う」
未だに新垣達の耳にはさえみの雄叫びが届いている

「ここからは私の想像になるけどさゆみんは何かさえみさんを傷つけることを言ってしまったんだと思う
それは『お姉ちゃんなんて大嫌い』それくらいの言葉だけなのかもしれない
でも、自身の優しさを拒否されてしまったさえみさんはどうしていいのかわからなくなってしまっていた」
「そこに吉澤さんの不意打ちが入ったってわけね」

マルシェが腕の転送装置のスイッチを押しながら話に加わる
「混乱していた時に、自分を倒そうとする吉澤さんの存在
咄嗟の判断で力を解放したが、そのことがさゆとの距離を生んだのでしょう
それが決定打になってさえみさんの心が崩壊して、力が暴走しつつある、ってところですかね
 …ああ、もう、転送装置動かないです」
先程から稼働スイッチを押しているが機械はうんともすんとも反応しない

208名無しリゾナント:2011/07/25(月) 22:32:36
「ねえ、マルシェ、その機械って何人まで移動できるの?」
「100人くらいは楽勝なんだけど、壊れちゃってさ、使えないよ」
「新垣さん、道重さん置いて逃げるんですか?」
いざというときはジュンジュンの背中に飛び乗るつもりで久住と光井も近づいてきていた
「新垣さん、見損ないましたよ!」
甲高い声で新垣を非難する久住
「でも、しょうがないじゃない!!今の私達では何もできないし、何より危険なの!
 そりゃ私だってさゆみんを置いて行くのはいやだけど、本当の敵はさえみさんじゃないのよ
 今はなぜか一緒に逃げているけど本当の敵はダークネスなの
 もしこの戦いで全員が死んだら、誰がダークネスを止められるっていうの?」
「・・・」
光井は新垣の言っていることが正しいとは思いつつ納得できるはずがなかった
そういう新垣も自身の判断が正しいとは思っていない様子だった

「そういえば愛ちゃんは?」
「大丈夫、れいながしっかり見ているっちゃ!!」
れいなのそばには大きなクマの背に乗せられた高橋の姿
「正確には熊井ちゃんが助けてくれてるやけどね」
「危ないと思った時に熊井ちゃんが起きていてくれて助かりました、ね?田中さん」
「さすがミヤの友達っちゃね、助かったと、れいなじゃ愛ちゃんを背負って走れんけん」
熊井はそれほどとでもいうようにガオっと小さく吠えた

「ガキさん、ここは一旦撤退するべきやと思う」
「愛ちゃん、私もそうしたいんだけど、ジュンジュン、どれだけこのまま逃げられる?」
「…あと十分も走れないかもしれんな。ジュンジュンですらそうなんだから熊井ちゃんはもっとキツイやろ」
そうしている間にも道重さえみのモノと思われる淡い光が周囲に突き刺さる
光に照らされたものはすべて消され、見事にまっさらになっていく

209名無しリゾナント:2011/07/25(月) 22:33:08
崩壊の光はもうさえみの意思に関係なく関係なく放たれはじめたようにみえた
壁という壁には穴が開き、外からの冷たい空気が流れ込んでいる
息も少しばかり白くなり、さえみの長い髪は風に揺れている

「さゆみを守る・・・それが私の生きる意味、さゆみを守る・・・」

「やばいって愛ちゃん、さえみさん、可哀そうすぎて見ていられないのだ!」
「というか愛ちゃん、早く逃げんとれーな達の身も危ないとよ!!」
新垣とれいなの意見に高橋もほぼ同じく考えていた
―確かにこのままではみんな消されるかもしれない・・・だけど

―もしこのままさえみさんを放っておいたら何をするかわからない
 むしろダークネス以上の脅威になることすらある

それを考えると高橋は『撤退』ということを決められずにいた

そんな迷いを知ってか知らずかさえみが高橋達を睨んだ―ような気がした
「やばい、高橋さん、さえみさん、小春達に気付きましたよ!!」
小春の高い声が一段と高くなって、そのまま悲鳴を上げた

さえみの崩壊の光が高橋達の元へと放たれた

そして、そのまま光が彼女達を包んだ
光が過ぎ去った跡には高橋達の姿はなかった

210名無しリゾナント:2011/07/25(月) 22:39:56
『Vanish! Ⅱ(8)』のパート5でした。
今回は特に文章長いし、説明っぽいので読みにくいと思います(汗
レスにありましたが、全ての人に読みやすいものをかくのは難しいです。
あとどれだけで終わるかはあえて言いませんw

代理よろしくお願いします

211名無しリゾナント:2011/07/25(月) 22:46:54
承って候

212名無しリゾナント:2011/07/25(月) 22:55:21
無事終わり候

213名無しリゾナント:2011/07/26(火) 21:21:05
(6)
さえみの淡い光が近づいて来た時、れいなは後悔した
(これで死ぬんやったら、もっとお腹一杯アイス食べればよかった)と
ただ光に包まれても不思議と痛みは感じなかった
(消えるって意外と感覚残っとるとね・・・パパ、ママ、一度でいいから逢ってみたかったと)
そしてれいなは瞳を閉じた

(・・・)

「起きろよ」

(あ、こういう時にありがちな声っちゃね、その割に口が悪い天使っちゃね)

「起きろって」

(れいな、昼間の仕事と正義のお仕事で頑張ったとよ、少しくらい休ませて欲しいと)

「いつまで寝てんだよ」

(頑張ってガレットくらい覚えたし、さっきまで戦っていたとよ。うるさい天使やね)

「ふざけんな、いつまでそういているつもりだっつうの!!」

バチーン!

れいなは頬を思いっきりぶたれて目が覚めた
「なにすると!!天使なんやから少しは優しくしてくれてもええっちゃ・・ろ!?」
「んあ?誰が天使だ?」
目の前にいたのは吉澤であった
「あ〜れいな、地獄行きかいな・・・そんな悪いことしとらんのに・・・」
「あ?誰が地獄行ったって?」

214名無しリゾナント:2011/07/26(火) 21:21:41
「ちょっと吉澤さん、戦うの止めてくださいよ」
マルシェが割って入ってきた
「マルシェ?やっぱお前も地獄行きかいな…仲間は多い方がいいっちゃね」
そんなれいなの肩を誰かが叩いた
「いや、田中っち、冗談きついから。まだ私達死んでいないから」
新垣だった
「え?れーなまだ生きとると?でも確か、さえみさんの光に包まれてしまったはずやけん」
というものの周りを見渡すとリゾナンター全員、マルシェ、吉澤、雅、熊井が全員揃っていた
「それにここ何処と?観たことある気もするけん…」

「ここはあんた達が戦っていた城の前に広がっていた森よ」
「誰や?」
れいなには聴き覚えのない声だった
「こっちよ、こっち」
声のする方を振り向くと手に琥珀色の瓶を手にした女が木にもたれかかってこちらを眺めていた
「誰や、オマエ?」
いつでも戦えるようにとれいなは構えた

「ちょっとれいな、この人に一応お礼を言ったほうがいいよ、助けてもらったんだから…敵とはいえさ」
「いらないわ。別にあんた達を助けに来たわけじゃないし、『偶然』マルシェの近くにあんた達がいただけよ」
そういい女は瓶に口をつけて、中身の液体をぐびっと飲んだ
「…愛ちゃん、誰?この人?」
「ダークネスの保田さん」
「な?ダークネスやと?何しに来たと!?」

「だからあせんなって、れいな」
ポカッと吉澤がれいなの頭を強く叩いた
「人の話は最後まで聞け」

215名無しリゾナント:2011/07/26(火) 21:22:24
そんな落ち着きのないれいなを尻目にマルシェは礼儀正しく保田の元へとお礼を言いに行った
「保田さん、本当にありがとうございます。危ない所でした、助かりました」
「いいって、酒交わす約束でしょ?死なれたら困るのよ、私としても、組織としても」
「それでもよく間に合いましたね、ぎりぎりでしたよ」
「助かったんだから文句いわないでほしいけどね」

マルシェと言葉を交わす保田の姿を見ながら新垣は彼女のことを思い出した
(保田圭―ダークネスの幹部の一人だけど何の仕事をしているか不明な人
マルシェのような科学者でも、吉澤のようなスパイでもなくて結局何をしているのかわからなかった
確か能力は『時間停止』―某大なエネルギーと引き換えに一定時間時間を止められるハズ)
ダークネスに所属していた新垣ですらそれしかわかっていない、それが保田圭であった

「しかし、まさか吉澤さんも助けているとは思ってもいなかったですよ」
「フフフ、優秀な幹部を失うわけにはいかないでしょ?あら?」
マルシェと保田が話している時に空に淡い光が登っていった
「さえみさん、まだ荒れている様ね」

「そうやった!愛ちゃん、さえみさんどうしようかいな?」
空にはまた淡い光が登り、数羽の烏が空へと飛んで行った
「なんとかしてさえみさんの暴走を止めんと危険っちゃ!
 れいな達でなんとかせんと、本当に今のさえみさんやったら全てを破壊するかもしれんっちゃ」
「それはそうだけど私達にできることって何かあるの?」
「田中さんの逆共鳴はどうなんですか?道重さんと共鳴する間柄なんですから」
「小春、それはもうとっくに試していると!でも出来んかった
れーなはサユと共鳴していて、さえみさんと共鳴しているわけじゃないけん、効果なかったとよ」
そうしている間にも何か大きなものが倒れた音が聴こえて来た

「光井サンの予知でも何も見えないんデスカ?」
「あ〜リンリン、何も視えないんや…本当に何のいいアイデア浮かばへんわ、これほど悔しいことないわ」
「おい、お前らはイイノカ?何もシナイデ?」
ジュンジュンがマルシェ達に問いかけた

216名無しリゾナント:2011/07/26(火) 21:23:12
「え〜だって私達の目的は世界を手中に収めることですから
邪魔な存在は消してもらえればそれに越したことはないわけですし、ねえ?吉澤さん」
「ん?おう、まあ、力を持たない弱い奴が消されたところで別に俺らには関係ないし」
もう吉澤はさえみのことなどどうでもいいというように保田から瓶を受け取り、中の液体を口にしている
「それに俺達にはさえみを『止める方法』があるしな」

「お願いマルシェ!教えてよ、敵味方関係なくて、友達として教えてよ」
新垣がマルシェに頭を下げた
「え〜それは無理だって。マメ、友達だったけど、今は敵・・・あ、だけど、熊井ちゃんをくれたら」
「それはダメっちゃ!!世界を救うために一人を犠牲にする、そんなことれいなにはできん!
 なあ、そうっちゃろ、ガキさん?」
「も、もちろんだよ、そんなことできるはずないでしょ」
新垣の返答にマルシェは唇を尖がらせた

なにかいい方法は無いか…考えていくだけでも非常に時間は過ぎていく
「あ〜もう、とりあえずみんな戻るよ!」
高橋は仲間達にさえみの元へと行く指示を出す
「ちょっと愛ちゃん、保田さんに助けてもらって、また向かうの?」
さすがにマルシェが驚きの声を上げる

「確かに死ぬことになるかもしれんな。だけど、ここで何もしないよりは最大限のことをしたい
 さゆのためとかもう関係ない、今はさえみさんから世界を救う
 不器用だけど目の前にあることから向き合わないといけないんだよ、本当は
 手に余るくらいの敵だとしても自分自身の力を信じていかないとできることもできないしさ
 それに、あっしらが死んだらあんたらラッキーでいいんじゃない?」
そういい高橋は走り出し、7人の仲間が後を追った

217名無しリゾナント:2011/07/26(火) 21:25:08
「それじゃあ、帰るわよ」
保田が二人に声をかけた
「うっす、帰って飲み直しましょう」と帰ろうとする吉澤にマルシェはついつい声をかけてしまった
「待ってください。いいんですか?このまま帰って?」
「んあ?何言ってんだマルシェ?ああ、そうか、熊井ちゃんを連れて帰るんだったな」

唐突に自分の名前が出たので熊井は不器用ながらも構え、雅も熊井の前に立ち吉澤を睨みつけた
「熊井ちゃんは渡しませんよ」
「おいおい、おまえだけでなんとかなると思ってんのか?」
威嚇する吉澤であったが・・・
「こら、よし子やめなさい。それから、マルシェも帰るよ」
保田が吉澤をたしなめた
「え?俺はいいですけど、マルシェが文句言いますよ」
「いいから帰ります。マルシェ、先輩からの命令と思いなさい」
「は、はい、わかりました」
保田の前に空間が裂け、保田、吉澤、マルシェの三名は去っていった

残された二人は肩の力がどっと抜け、熊井は膝から崩れ落ちた
無理もないのだろう、ずっとさえみの傍にいたのだから
「疲れた…さえみさんから人を遠ざけるのにずっと獣化していたから…
野菜を取りに行った時も人に見つからないようにしなきゃいけないし…ああ、本当に疲れた」
「そうだったの、熊井ちゃんお疲れ様。だけど、どうしようさえみさん暴走しているよ
 田中さんとか高橋さんが向かっているけど、何とかなるっていう保障もないし」
「どちらにしても私はもう動けないから休んでいいよね?」
熊井は地面に大の字になって寝転び、雅はれいな達のことを思い、無事であるようにと祈った

218名無しリゾナント:2011/07/26(火) 21:27:58
「Vanish!Ⅱ(8)」です。今日の分はここまでにします。
切れ目が難しい部分なので…迷っています。もう少し投下すべきなのかって…
まあ夜の小さい楽しみになっていればこれ幸いな感じです

219名無しリゾナント:2011/07/26(火) 22:21:27
行ってきます

220名無しリゾナント:2011/07/26(火) 22:29:17
行って来ました

221名無しリゾナント:2011/07/26(火) 22:32:04
ありがとうございました!夏風邪引きました

222名無しリゾナント:2011/07/27(水) 23:19:02
(7)
                ★   ★   ★   ★   ★   ★

さえみの元へと戻る足取りは重かった
何をすればいいのかわからなかったのだから
(決して愛ちゃんに打開策が浮かんでいるわけではない。ただ、あの場にいられなかっただけなんだ)

初めは「さゆみを取り戻す」ことから始まった戦いがいつの間にか「さえみの暴走を止める」ことに移っている
優しいさゆみの影でさえみがここまで思いつめていたことに気がつかなかったのは―ある意味仕方ないのだろう
『共鳴』という絆を運命的なものとして捉えてしまい盲目的になってしまったのだから
共鳴の絆に誰よりも近くいたのに、絆に入れなかったその存在を見落としていたのだから

体力もある程度回復し、自分の足でさえみのもとへと向かって先頭で走る高橋に光井が声をかける
「高橋さん、どないします?さえみさんを止めなあかんわけですけど」
「・・・止めるにはさゆを起こすしかない、と思う。
ただ、今のさえみさんはさゆに拒否されているからなんとも言えない。光ですら…」
「希望があるなられーな達は愛ちゃんに付いて行くとよ!
またれーな達が時間を稼ぐけん、さゆへの思いを込めた光を撃つとよ!」
れいながこんな状況でもほほ笑んでくれたので高橋は少し心が軽くなった

さえみに近づくにつれて光の濃度は増していくようだった
あちらこちらの壁や木々に穴があいていたり、瓦礫が積み重なっている
しかしリゾナンターは光井の予知の指示で各自は光を回避していき、さえみの姿を目視できる距離まで近づいた
高橋の作戦―光の攻撃を知ったメンバーはそれぞれの位置に着く

れいな、亀井、久住、リンリンはさえみの注意をひく
光井は光に当たらないように指示を出し、新垣が光井を守る
そしてジュンジュンは高橋を背負い逃げる

遠距離からカマイタチ、雷、炎が放たれて、さえみは自身の身を守ろうとそれらを消しさる
れいながちょこまか動きさえみの視線に当たらないように気をつけながら走り続ける

223名無しリゾナント:2011/07/27(水) 23:19:48
「リンリン、2秒後に左から来ます。亀井さん、かがんでください!」
光井の指示は止むことなく、新垣も光井を守ろうと必死だ

ジュンジュンはなるべく高橋の集中を邪魔しないように動かず、光井の指示が入った時だけ動く
「…高橋サン、道重サンを頼みマス」
上から崩れ落ちてきた瓦礫をパンダの筋肉質な腕が払いのける

時間にしてほんの一分なのだろう
高橋の声が7人の心に届いた
(ありがとう、みんな、準備できたよ)

(愛ちゃんよろしく!)(愛ちゃん、さゆをよろしくね)(愛ちゃん、頼むと)
(お願い、光よ道重さんを取り戻させて)(高橋さん、愛佳の思いも込めさせていただきます)
(道重さん、戻って来てクダサイ)(高橋サン、任せマシタ)

7人の仲間を思う気持ちも高橋の心に届き、それらは力となって高橋の体にしみわたる
築きあげてきた信頼、かけがえのない時間、忘れられない思い出、そして世界を守りたい願い
全てを詰め込んだ光は眩しい輝きを放ち、高橋の掌の上で浮かんでいる

「さえみさん、あっし達の思い受け取って!!」
光がさえみに向けて放たれた

光は何者に遮られることなくさえみに向かって伸びていく
さえみが光の存在に気付き、消そうと睨みつける
漆黒の瞳で睨まれた存在は何でも消してきた

しかし、この光だけは消せなかった
さえみの瞳に映ったのはただの光ではなかったのだから

224名無しリゾナント:2011/07/27(水) 23:20:27
さえみは光の中に見た
―笑いながらココアを差し出す高橋の姿を
―目を三日月にしながら亀井をしかる新垣の姿を
―自信満々にこげたホットケーキを出すれいなの姿を
―馬鹿みたいに笑って自分にケーキを食べさせようとする亀井の姿を
―興味深々な目で自分に近づいてくる久住の姿を
―カウンターで勉強しているのを邪魔して怒っている光井の姿を
―一緒にバナナを食べているジュンジュンの姿を
―奇妙な動きでみんなを笑わせているリンリンの姿を

消せなかった、消してはいけないような気がした

だってそれは

さゆみにとって大切な記憶だったのだから

225名無しリゾナント:2011/07/27(水) 23:23:18
以上、パート(7)でした。
極端に短いっすw昨日のコメントの意味分かりました?
あまりにも短いんで別日に落とすかどうかで迷ってたんですwすみません
緊張感が薄いのは作者の力量だと思っています
さて、終わりも近づいてきています

代理投稿お願いしますm(_ _)m

226名無しリゾナント:2011/07/27(水) 23:45:32
承って候

227名無しリゾナント:2011/07/27(水) 23:49:48
終了

228名無しリゾナント:2011/07/28(木) 22:11:10
(8)
高橋の光をさえみは真正面から受け止めたのだろう、さえみの周囲は煌びやかな光に包まれ、動かなくなった
「やったの?」
先程からさえみの放つ光の兆候は何も感じられないのでそう感じるのは当然であろう
「・・・かもしれナイデス」
そうは言うもののリンリンは気を抜かずにいつでも炎を放てるようにと手には飴を構えている

さえみの姿がようやく確認できるくらいに光が弱まってきた
光を受けたさえみは地面に片膝をついて座っていた
何も反応が無く、思わず「死んでるの?」なんて久住は声に出してしまう

「ククククク・・・」
さえみが笑い始めた
生きていて良かったという思いとなぜ笑っているのかという思いが全員に浮かんだ
「あなたに必要なのは…あくまでも『さゆみ』なのであって、私じゃないのね・・・」
確かに8人が思い浮かべたのはさゆみであって、さえみではなかった

「私はさゆみにも求められていないし、あなた方にも求められていない」
ふらふらとさえみは立ちあがる
「私は誰にも必要ない存在…どこにも居場所はない…必要ないんだぁぁぁぁ」
さえみは大声を上げる
「や、やばいって愛ちゃん、れーな達、事態を悪化させたんやなと?」
「愛ちゃん、どうしようか?」
「そんなこと言われても全然予測できなかったわけだし、こうなることを」
光を放った高橋は地面に膝をついたままで動けずにいる

「キャー、小春の、小春の腕が、右腕が!」
「久住さん、しっかりしてください!早くさえみさんから離れましょう」
光井とリンリンが久住の肩を支えて駆けだす
「さえみサンの視線から逃れマショウ!高橋サン達も早くしてクダサイ」
ジュンジュンも光井達の後を追う

229名無しリゾナント:2011/07/28(木) 22:12:28
「田中っち、愛ちゃんの右肩支えて!私は左肩支えるから」
「愛ちゃん、れーなの肩に腕回すと!」
「ちょっと、待ってよ、二人とも!さえみさんをこのままにしてしまったら、本当にどうなるのかわからないんだよ」
じたばたする高橋に新垣が真剣な表情ながらも目に涙を浮かべながら問いかける
「だからって何が出来るのよ、これ以上私達にさ
 攻撃も効かないし、話も聞いてくれない、しかもさえみさんの心は崩れる寸前なのよ」
「そうや、愛ちゃん、ここは一旦引いて、仕方ないけどダークネスに頼むことにするっちゃ
さっき言っとたやろ?マルシェなら『さえみを止められる』って。ここは頼るしか」
「…あっしはここに残る」
高橋の言葉は静けさに満ちていた

「は?愛ちゃん、何言うとると?」
れいなが思わず高橋の肩から腕を外したので、高橋は地面に倒れ込む
「愛ちゃん、ここに残って何をするつもりっちゃ?もう何も出来んやろ?
 一人で立つことだってままならんのに何する気や?」

「・・・何もすることはできないよ。ここでこうやって座ってさえみさんに消されるのを待とうと思ってる
 たださ、れいな、ガキさん。さえみさんからさゆを奪ったのはあっしらやろ?
 甘い考えだけどさ、もしかしたら、あっしが消えたらさえみさんの怒りが消えるんじゃない?」
高橋はゆっくりと自分の意思で新垣に支えられた左腕をそっとはずす
「あっしが消えることくらいでさえみさんの心に何か変化が起きるかもしれない
 もしかしたらそのことでさゆがまたさえみさんを抑えてくれるかもしれないし、憎しみが薄まるかもしれない
 それに…少なくともあっしは無駄死にする気はないよ」
高橋は足を投げ出して、頭を抱えたままのさえみを眺める
(あと一回くらいなら跳べるからさ)

れいなと新垣を見て高橋は微笑んだ
「ほら、れーな、ガキさん、あっしがいなくなったら誰が他の子を指示すんの?
 あっしがいなくてもみんな自分を誇れるだけ強くなったんだからさ」
そして前を見て「さあ、行って、あっしの分まで生きて」と小さく言った

230名無しリゾナント:2011/07/28(木) 22:12:59
「アホなこというやないと、愛ちゃん!!誰が愛ちゃんが犠牲になることなんて望むと?
 愛ちゃん、おらんで誰がリゾナンターすると思うと?」
そしてれいなは高橋の頬をぶった
「れいな?」と高橋は思わず目を丸くしてしまった
「愛ちゃんがおったかられーなはここまで来たとよ、みんなと一緒だから来たっちゃ!!」

「そうだよ、愛ちゃん、愛ちゃんだけが消えるなんてそんなこと私もさせないから」
「ガキさん?」
そういい新垣は自分自身の腕と高橋の腕をロープで結び付けた
「・・・愛ちゃんのおかげで私はダークネスの呪縛から解き放たれたの
 でも、まだ私は恩返しをしていない。それなのに先に死ぬ?そんなことさせないわよ」

「愛ちゃん」「死ぬときは」「「一緒」」「だよ」「っちゃ」
二人は高橋を挟むようにして座りこんだ

「こんなことして誰がこれからダークネスと戦うんや!?」
「大丈夫っちゃ、小春や愛佳がおると。みんなに託すと。さあ、れいな達でさえみさんを止めると」
れいなが白い歯を見せて高橋に微笑んだ

「いや、すみまへんが田中さんのお願いといえどもそれはお断りさせていただきますわ」
「そうなのカナ☆」
高橋、新垣、れいなの三人が振り返ると久住、光井、リンリン、ジュンジュンの4人が立っていた
「何しとると?みんな、早く逃げると!!」
「田中サン、さっき高橋サンに言いました、高橋サンのいないリゾナンターはリゾナンターじゃナイト
 それはリンリン達も同ジク思ってイマス。皆サンとリンリンはもっと一緒にイタイ」
「それに三人の犠牲で救われて平和になっても、ジュンジュンの心、全然平和ジャナイ!!」

「だからってみんなくる必要ないじゃない!」
「新垣さん、さっきから頑張っているんですけど、愛佳、もう何も視えないんですわ
 きっとこれって世界が終わりってことか愛佳が消えるってことやと思うんです」

231名無しリゾナント:2011/07/28(木) 22:13:42
尚も光井の言葉は続く
「世界が終わればそれまでです。
 でも愛佳が消えたら世界が終らないかもしれないやないですか?せやったら愛佳も世界を救いたい」
高橋の目を見て光井は微えみ、ピースを向けた
「高橋さん、愛佳でも世界を救えるかもしれない時が来ましたよ」

「小春も死ぬのは怖いけど…みんなと一緒だったら怖くないもん」
そう言って新垣に久住は両手で抱きついてきた
「ガキさ〜ん、小春とガキさんはいつまでも相方ですからね!!」
「うんうん、わかった小春」

とここで高橋があることに気がついた
「ちょっと、ちょっと、小春、右手、右手!!
「え、なに?なに?あれ?小春の腕がある?」
全員の視線が久住の右腕に集まる
確かに消されたはずの右腕が再生していた。更には
「愛ちゃん、右手戻っているよ!」
先程光を放った時には消えていた高橋の右手首も戻っていた
「なんや?何が起きているんや?」

そう光井が呟いた瞬間、7人を強烈な風が包みこんだ
そして彼女が言った
「ごめん、約束守れそうにないや」
その声は風の外から聴こえた

そして彼女―亀井はゆっくりと消えている右腕の代わりに左腕で笑顔のまま7人に手を振った

232名無しリゾナント:2011/07/28(木) 22:18:21
「Vanish! Ⅱ(8)」パート(8)です。
ジュンジュンの台詞は…名セリフをリゾナントせてもらいました。
作者様すみませんm(_ _)m
そして・・・明日、最終回★長かったお話しもついに完結します
お楽しみに?

今日の分です。代理よろしくお願いします。いつもありがとうございます

233名無しリゾナント:2011/07/28(木) 22:42:21
いってきます

234名無しリゾナント:2011/07/28(木) 22:48:29
行ってきたの

235名無しリゾナント:2011/07/29(金) 21:25:22
ありがとうございます。
今日は何かスレ自体がパソコンで開けないので・・・延期にします

236名無しリゾナント:2011/07/29(金) 22:32:50
(9)
亀井の風に囲まれた7人は笑顔で手を振る亀井を見て呆気に取られていた
「あっしの右手も小春の右腕も『傷の移動』で自分の体に傷を移したっていうの?」
高橋は自分の右手が戻ってきたのが信じられないと、掌の感覚を確かめている。
「そんなことよりカメはなにする気なのよ!嫌な予感しかしないんだけど!!」
新垣は亀井の先程の笑顔が今まで見たことのない種類の笑顔であったのを感じていた

「でも、この風から出れませんよ」
久住とリンリンが雷と炎を放っているが、風はカマイタチの性質を持っているようで一向に弱まらない
獣化したジュンジュンが風の中に飛び込んだが、外に出られず弾き飛ばされた
「全然出れナイゾ」
「れいなもさっきからしてるけん、わかってるとよ!」

そんなギャーギャーと騒ぎ戸惑っている高橋達を尻目に亀井はすぅっと呼吸を整え始めた

(愛ちゃん達がずっとさえみさんと戦っている時からエリはずっと愛ちゃん達を守る方法を考えていたの
 風のバリアを張って…あそこから出られないようにすることがまず一つ)

亀井は走り出した―さえみに向かって

(そして、これがもう一つのみんなを、世界を救う確実な方法なんだ)

さえみに向かって走り出す亀井の姿は高橋達にも見えていた
「愛ちゃん、エリが!」
「亀井さん、勝手に何しはる気ですか!!」

仲間達の怒号が飛ぶ中亀井はさえみとの距離を詰めていく

走り出した亀井の右腕は消えている
それは久住がさえみから移したもの

237名無しリゾナント:2011/07/29(金) 22:33:21
(小春ちゃんは初めは鋭い目つきが怖かったし、全然エリを信用してくれなかったよね
 でも時を重ねていくにつれて小春ちゃんの本当の部分が見えてきた
 信じられないくらいに純粋でまっすぐで綺麗な瞳をしていたよね
 思うんだよ、エリ、小春ちゃんみたいな子と出会えてよかった、って
 だって誰よりも人の醜さを見ていたはずの小春ちゃんがあんなに綺麗な瞳をしていたなんて
 いつでもうるさくて、自分勝手で、ワガママで、だけど本当は泣き虫で寂しがりやな小春ちゃん
 いつまでも元気で明るい笑顔を忘れないでね)

そんなことを思われているとも知らずに久住は
「亀井さん、何するんですか?教えてくださいよ」と叫んでいる

さえみに近づいていく亀井の耳に片言の日本語が届いた
「亀井サン、やめてクダサイ!また一緒にご飯食べる約束したじゃナイデスカ」

(リンリン、こんなときまで笑わせようとしないでよ
 生きるか死ぬかって時にご飯なんて、リンリンらしいな
 正直、羨ましかったよ。リンリンのギャグはつまんなくてなんか嬉しかった
 同じ匂いがするなあってさ、でもいつの間にか本当に面白くなって、あなたのまわりには笑顔が咲いていた
 でもね、みんなのために頑張りすぎてこっそりと泣いていることも知ってたの
 ・・・そんなリンリンが大好きだし、生き残ってエリの分まで笑ってほしいの)

亀井がそんなことを思っていると後ろから大声が飛んできた
「亀井さん、二秒後、左から来ます!」

(ふふふ、愛佳、こんなときでも指示してくれるなんて嬉しいな、エリ勝手なことしているのに
 正直初めて出会ったときは自分に自信がない愛佳を、昔の絵里と一緒だなあって重ねてたよ
 友達もいないし、笑顔もなかったし、何よりつまらなさそうだった、生きていることが
 でも時間をかけて自分の弱さを受け入れて、びっくりするくらいに変わったよね
 いつの間にか自然に笑えるようになって、みんなを笑わせてくれることもあってさ
 でもただ笑うだけじゃなくてしっかり周りを見てくれて、本当に大人だよね
 エリと違って頭がいい愛佳なら、きっとみんなを守ってくれるよね)

238名無しリゾナント:2011/07/29(金) 22:34:21
光井の言葉に従って、亀井が体を右に傾け、さえみの光を避けた
後方の壁に綺麗な円形の穴が空く
「亀井サン、何しているデスカ、いつも亀井サンはワガママダ!」
もう一人のカタコトな日本語が耳に飛び込んできた

(ジュンジュン、最初に連れられて来た時は驚いたよ、だって裸だったんだから
 獣化能力って聴いてどんな怖い動物になるかって思ったらパンダだよ、笑いこらえるの大変だったんだから
 エリ達よりも後に仲間になったけどみんなを包み込んでくれるその暖かさってどこから来るのかな?
 寛容な心で気配りができて、それでいて主張するときはしっかり主張する
 それで甘えてきたりする…本当にジュンジュンって変わってるよね
 でも、そんなジュンジュンのことがエリは大好きなんだよ)

さえみに近づくにつれて光の濃度は増していく
距離にしてほんの10mほどまで近づくと、さすがにさえみも亀井の存在に気がつく
視界に入ってはいけないと思い、必死に避け続ける

ただそれも限界に近づき、一筋の光が亀井の左腕に突き刺さる
光に照らされ、ゆっくりと消えていく亀井の左腕
不思議と消えていく左腕に痛みは感じなかった
消えるってこういうものなんだって思い、亀井は微笑んだ

それを遠目から眺めているしかできない仲間達
「アホカメ!!やめなさいよ!」

(ガキさん、いつもガキさんは『このぽけぽけぷうが!』って突っ込んでくれましたね
 本当はエリと同じくらいにボケなのに、ガキさんったらおかしいですよ
 でもガキさんがいたからエリは好き勝手出来ていたんだと思っています
 エリが適当にしたこともガキさんが一生懸命フォローしてくれてエリは嬉しかったです
 適当な絵里と生真面目なガキさんだから息があったのかもしれないですね
 最後にまた自分勝手なことしちゃったけど、アホだからできるんですよ、可愛いアホですよ
 ガキさん、アホの意地みててくださいよ)

239名無しリゾナント:2011/07/29(金) 22:35:24
さえみは亀井の姿を捉えているのかどうかも分からない
ただもう無茶苦茶に光を放ち、全てを消そうとしている
その適当に放った光がまた一つ亀井に突き刺さる

消されたのは亀井の左足
自分の軸足を失った亀井はバランスを失い、地面に前のめりに倒れ込む
「エリ、何しとると!早く立つっちゃ!!」

倒れ込みながら亀井はおもった

(れいなか・・・こんな出逢いでなくちゃ絶対友達にはならなかっただろうな、怖いもん
 初めて出会ったのはエリが入院していた病院だったね
 あの時にはこんなにれいなに対して心を開けるようになるなんて思っていなかったよ
 ずっと一人だったから誰よりも仲間っていうものを大事にしてくれるれいな
 ただ不器用で意地っ張りだから素直になれないのも知ってるよ…ぶっちゃけるけどね
 でもそうやって真正面から言ってくれるのがれいなのいい所なんだよね
 本当はもっと、ずっと一緒にいたかったけど…)

右腕も左腕も左足も消えた亀井は立ちあがることはできない
(神様、ワガママなエリにもう少しだけ力をください)
亀井が眉間にしわをよせて全身に力を込める

建物内に強烈な風が流れ込んできた
風は壁を強く揺らし、瓦礫を宙に舞わせ亀井へと流れていく
埃により流れが見えるようになった風は亀井へと纏わりつき、幾重にも幾重にも重なりあう
失われた右手を握りしめるような感覚で亀井は右手を指揮者のように振るイメージを浮かべた

まとわりついた風が亀井を優しく包み、ゆっくりと、本当にゆっくりとその体を浮かび上がらせる
「!!亀井さんが空を飛んではります!!」

240名無しリゾナント:2011/07/29(金) 22:37:13
亀井はかつて光井から言われたことを思い出していた
『うまく風をとらえられれば空を飛ぶことだってできる』
光井の言っていることは難しかったが、亀井は何となく理解していた
―そう感覚的に

(練習してたわけじゃないけど…今のエリなら出来るような気がしたんだ)
驚いているのは亀井自身も含まれていた、できるなんて思っていわけではないから

風に包まれ亀井はさえみに向かって更に向かって飛んで行く

「止めるんや、エリ!一人で行くんじゃない!あっし達を置いて一人で行く気か!」
亀井の作った風の防御壁の中から聴こえる高橋の声にも亀井は振り向きもしない

(・・・愛ちゃん、エリは本当に愛ちゃんに会えて感謝しています
 こんなにたくさんの仲間、いや友達に恵まれて幸せですよ
 みんな体が弱くて可哀そうとかいうけれど、この体のおかげでみんなに出会えたんだから
 幸せだなあってエリは思うんですよ、そうじゃなきゃこんなに光のある世界に生きている価値がないなって
 エリ思うんです、小さい幸せが多すぎて幸せに気付かなさ過ぎているんですよ。
 幸せって気付かないくらいがちょうどいいんですよ、幸せって気付いたらそれまでは幸せじゃないんですから
 ホントのこと言うと愛ちゃんと出会う前からエリは幸せだったけど、もっともっと幸せになれましたよ
 ねえ、だから、いつも愛ちゃんの背中を見ていたけど、最後くらいエリの背中を見ていてください)

さすがにさえみの周囲には破壊の光が蜘蛛の糸のように張っているようだった
風で舞い上がった塵がさえみの周囲で綺麗に消されているのだから
でもさえみに近づくにはそこを突っ切っていくほか道はない

(それにいつさえみさんの光が愛ちゃん達に向けられるか分からないし・・・)
躊躇っている時間はない、亀井の背を押すように強い風が吹いた

ほんの少し動くだけでもさえみの光が亀井に降り注ぐ
風は光を曲げることなんてできないので容赦なく亀井は光を受けるしかない

241名無しリゾナント:2011/07/29(金) 22:38:08
光は亀井の顔、上半身、下半身、至る所に突き刺さる
寒さを防ぐために着ていた可愛い洋服はつぎつぎと消え去り、亀井本人の白い肌がむきだしになる
しかしその肌も次の瞬間には淡雪のように溶けていく
ぼろぼろと欠けていく自身の体を亀井はすごく冷静に見ていた
(こうやって消えていったんだ。でもよかった、思ったほど痛みはないよ)

さえみと視線があったとしても、この手の届く距離なら何も怖くない
亀井はさえみの正面に回った

遠目から見る亀井の姿はもう人の形をとどめていなかった
形容するなら小さい頃に遊んで、今は壊れてしまった着せ替え人形
腕も足も欠け、ぼろぼろになって浮かんでいる姿は海月を連想させた
高橋は目をまん丸に見開いて一人で震えるしかない

そんな仲間の様子を知ってか知らずか亀井を纏う風はますます強さを増す
破壊の光の中心にいるさえみの胸へと亀井は飛び込んだ

(さえみさんを確実に倒す方法、これしか思い浮かばなかったんだ)

自身の胸の中に飛び込んだものが何かしっかり見ようとさえみはゆっくりと視線を下ろす
さえみが見たのは顔に何重もの穴を開けた人の亀井
それでも何とか保たれている亀井の口はにこっと笑顔だった

「みんな、さえみさんを見て!」
新垣がさえみを指差す
遠いのではっきりとは分からないが、さえみの体に変化が起きていた

―左脚、両手が欠け、体中に無数の穴が開きはじめていたのだ

「あれは」「亀井サンの」「傷の移動と共有っちゃ」

242名無しリゾナント:2011/07/29(金) 22:38:48
さえみはどんな傷でも必ず消すことが出来る。だからこそ一気に倒さなくてはいけない
でも、亀井の力なら消すことはできないはずだ、と
自分自身にできた傷を治してしまえば、それは移した『傷』、元の持ち主の傷も消えてしまう
それに一回で大きな傷、治せないほど大きな傷を共有させれば―倒せる、と

だからこそ亀井は光を受け続け、さえみの懐に飛び込んだのだ

しかし、その代償は大きい
さえみに治させないほど深い傷を自分自身が負わなくてはいけないのだから

それにもう一つ、亀井は覚悟を決めていた・・・『さえみさんを助けよう』と
亀井にとって『さゆみ』はたった一人の存在であり、『さゆみ』は『さえみ』で、『さえみ』は『さゆみ』
さえみが亀井を妬んでいるのと違い、亀井は何もさえみに譜の感情は持ち合わせていなかった
むしろさゆみを守ってくれたことに対する感謝の気持ちが強い

そんなさえみが苦しんでいる―それを知った亀井がまず思ったことは他の7人とは違った
「さゆを救わなくては」ではなく「さえみさんを救ってあげたい」だった
それが戦っているうちに少しずつさえみの本心が分かってきた

「居場所が欲しい」

それがさえみの思い、そう亀井は感じた

だからこそ、亀井は決意したのだ
さえみといつまでも一緒にいてあげよう、と

さゆみと時を重ねたように、今度はさえみと時を重ねよう
一緒になって消えたとしても、さえみが生きていけるような意味を持たせてあげようと
それが亀井がさえみにできる最高の恩返しだと思った

そうして今は亀井はさえみの胸の中にいる
歯の欠け、風穴の空いた口からは自身が生みだした風が往来し奇妙な笛の音をならす

243名無しリゾナント:2011/07/29(金) 22:39:58
それでも亀井は笑ってさえみの目をじっと見つめる
もう喉は壊されて声は出ない
筋肉が壊されて動かすことはできない
神経が壊れて感覚なんて失われている
それでもさえみの目をじっと見つめている

幸運なことに脳への損傷は思った以上に少なく、まだ考えられる余裕があった
(ごめんなさい、さえみさん、こんなことまでしてさゆを守りたいなんて思ってもいなかったの
 でも、今後は私がずっと一緒にいますから、安心してください
 さゆには私以外にもたくさんお友達が出来ましたし、ずっと強くなりましたよ
 
 最後にさゆみに一言だけ言わせてください)

そして風がゆっくりと亀井を持ち上げ、道重と亀井の顔が同じ高さになる

(さゆぅ、大好きだよ)

強い風が亀井を押し上げ、満面の笑みを浮かべた亀井の唇が道重の頬にそっと触れた

亀井の唇が触れた瞬間、亀井とさえみの周囲から桃色とオレンジ色の光と強烈な風が放たれた
光と風は建物を突き抜け、森を走り抜ける

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

風が止んだのを確認して高橋はゆっくりと仲間たちの姿を確認し始めた
1、2、3、4、5、6、そして自分を入れて7人
さえみの放つ桃色の破壊の光は消えており、部屋の中はぼんやりと仄暗い
「カメは?さえみさんは?」
新垣がゆっくりと立ち上がる

そこに迫ってくる足音

244名無しリゾナント:2011/07/29(金) 22:40:43
コツン、コツン

ブーツの音を立てて近づいてきたのは、一人の黒髪の女−道重だった
女は何も言わないで、高橋達の姿を眺めた
「さえみさん?それともさゆ?」

「・・・愛ちゃん」
「さゆや!!」
道重の姿をしたものから高橋の名前が出たのでれいなは思わず駈け寄ろうとする
「「道重さん」」「「サン」」
次いで久住、光井、ジュンジュン、リンリンの4人も駈け寄っていく

抱きしめられてもさゆみは嬉しそうな顔一つしない
「?」
道重はれいなを振り払い高橋と新垣の元へと向かって駈け寄り、高橋の腕を思いっきり掴んだ

「愛ちゃん…どうしよう?さゆみ、エリを・・・」
高橋と新垣は何も言えなかった
これまで一度たりともさゆみがさえみだった時の記憶を覚えていたことが無かったのだから
「消しちゃった…一番大事な人を、この手で…どうしよう…
 うわぁぁぁぁぁぁぁぁああああん」
道重は人目もはばからず大声で泣いた

高橋は何も言わずに、道重をぎゅっと抱きしめ、一緒に泣いた
そして、新垣はそんな道重の姿を見て大声で叫んだ
「アホカメェェェx」
静かにその声は行きつく場所を探すように冬の空へと登っていく

もう風は吹かなかった

(Vanish! Ⅱ(8) 完) エピローグに続く。

245名無しリゾナント:2011/07/29(金) 22:43:43
以上「Vanish! Ⅱ(8)」の最後、本編終了です。
まず謝ります、ごめんなさいと。後味の悪い話です
ただ、エピローグもあるので微妙に続きます。それは…来週にでも書きます
それを書き終わったら、あとがきも書きます。

最後の代理よろしくお願いします。結局あげました(汗

246名無しリゾナント:2011/07/29(金) 23:12:03
あげたんかい

247名無しリゾナント:2011/07/29(金) 23:24:44
完了
負の感情を譜の感情と表現するのはいつものアレなのかもしれないけどちょっと残念w

248代理投稿お願いいたします:2011/08/10(水) 14:43:18
 ■ ナチュラルエネミー−生田衣梨奈− ■


共鳴セヨ…
少女は声にならぬ声を聞いた気がした
共鳴セヨ…
なにに?
『憎シミ』ニ…
蒼キ『憎シミ』ニ共鳴セヨ!

―――――

249名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:43:54
「あっいちごー!エリ、いちご好きっちゃん」
そう言ったとき生田衣梨奈は
すでにイチゴのパックを掴んでいる。
「えりいちごすきっちゃん」
その小さな暗殺者は生田の手からイチゴを掠め取り
ちいさな顔の、ちいさな眼と口で、にまーっと笑った。
「すきっちゃんすきっちゃん」
―明らかに嘲笑気味な声音で生田のセリフを繰り返しながら―
イチゴパックを元の位置に。
「あー!里保ちゃん!それエリのいちごやけん!」
「高橋さんに頼まれた買物リストにはイチゴは入ってませーんざんねんでーす」

天敵。

ものを知らない生田に、この単語が思いつくわけもないが、
鞘師里保はまさに生田の天敵だった。

大人の前では礼儀正しくまじめ。絵にかいたような優等生。
だがこの優等生、どういうわけか生田のやること為すことすべてを妨害してのける。
一方、生田衣梨奈は全く正反対、
大人の話を聞かない、聞いても守らない、怒られても反省しない。
ヘラヘラと笑いながら大人たちの神経を逆なでする。

優等生と問題児。優良と不良。水と油。
…最悪の関係だった。

最悪な関係?…いや、それは違っていた。
少なくとも生田にとって、これほど心地よいことはなかったのだ。

250名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:44:48
返り血を浴び、貼りついた笑顔の仮面の裏で泣きじゃくっていたあの冬の日。

そこに鞘師里保は現れた。

あの日…―生田が共鳴者となった―あの冬の日…。

「それ」は、彼女が生まれて初めて経験したことだったから…

―――――

251名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:45:23
生田は、大人の話を聞かない、聞いても守らない、怒られても反省しない。
子供を支配の対象としか考えていない大人たちからすれば、
生田はただ一言「反抗的」と記号化されスポイルされるだけの存在でしかないだろう。
大人だけではない。
同級生にとっても、生田は「ただへらへら笑っているだけの怖くてキモい女」でしかなかった。

事実、彼女は幼いころからそう扱われ、周囲から疎まれてきた。

だが、違うのだ。本当の彼女は違うのだ。
彼女は「反抗」などしていない。

聞かないのではない、「聞けない」のだ。
守らないのではない、「守れない」のだ。
反省しないのではない、反省している人間はどういう態度をとるものなのか「理解できていない」のだ。

そう…彼女は、ただ「出来ない」だけなのだ。

それでも幼い少女は必死に皆と関わろうとしてきた。
だが、彼女の精一杯の親愛の表現は、ことごとく他人を傷つけるものだった。

同級生の持ち物を勝手に盗むなど日常茶飯事だった。
そこに悪意はない。
それは、自分が好きな人のものと自分のものとの違いがわからなかったから。

同級生に暴力を振うことも日常茶飯事だった。
そこに悪意はない。
ただ嬉しくなって跳ねまわっていたら、いつの間にか誰かが動かなくなっていただけ。
彼女にとって不幸だったのは
彼女が女性離れ…いや人間離れした身体能力をもっていたことだろう。
その怪力、敏捷性、天性の勘…

252名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:48:35
だが、誰もその才能を褒めてはくれない。誰にも気づかれない。興味を持ってもらえない。

「なぜこんな非道いことをするの?」

なぜ?皆が生田に説明を求めた。
生田には答えられない。答え方がわからない。
そんな生田を周囲は一方的に責め続けた。

理由を言え。さあ早く!さあ!。説明しろ。
説明できないならば理由など無いとみなす。
説明「出来ない」お前が悪い。

「出来ない」お前が悪い。

無能は罪…

そう、この世界は「無能力者」にとって地獄そのものだった。

それでも、生田はあきらめなかった。
いや己が住む地獄に気づいてすらいなかった。
そして必死に努力した。

笑顔…。
美しい彼女の顔を一遍で台無しにする不自然で、不気味な笑顔の仮面。
彼女に出来る最高のつくりわらい。

彼女の努力は、報われなかった。

253名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:49:26
キモい。
キモい、キモい、キモい、キモい!
周囲は不快を表明する。
生田はまだ気がつかない。
自分が嫌われていることに。
キモい!死ね!死ね!
それでも気がつかない。
キモい!死ね!死ね!死ね!。死ね!!!


そしてあの冬の日、生田は気がついてしまった。
自分がこの世界から拒否されていることに。
あの日気がついてしまった。
そんなこと、
と う に 理 解 し て い た 
ことに。
あの日気がついてしまった。
自分の心に潜む『蒼き魔獣』の存在に。


共鳴セヨ

蒼キ『憎シミ』二、共鳴セヨ!


―――――

254名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:50:23
「愛ちゃん!」
思わず田中れいなが叫ぶ。
「ぐうっ!」
吹き飛ばされ、教室の壁に叩きつけられながらも、高橋が即座に起き上がる。
「愛ちゃん!どうしたんね!?」
「わからないんやよ!」
「わからん?!」
「あの子、『心がわからない』…【読心術】が効かないんよ」
「なんてー!」

「ガキさん!動ける生徒たちは?」
「うん!全員支配出来てる。もうすぐ一階まで誘導終わるっ。」

アハッ!アハハッ!アハッ!アハッ!ハハハハハハッ!

「笑ろうちょる…こんだけのことしといて!よう笑ろうもん!」
怒りに打ち震える田中が叫ぶ。

割れたガラス、ひしゃげた机、散乱するノート、教科書…
踏み潰された携帯、携帯、携帯。
そして、血の海…。
教室は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。

【精神破壊(マインドデストロイ;mind destroy)】
それが生田を無限の孤独へと押遣っていた力の正体だった。
力の意味を知らず、そのコントロールを知らぬ少女は漏れ出るその力によって
周囲にある種の精神的妨害を無秩序にまき散らし続けていたのである。
他者の心を推し量ろうとする意思そのものを奪い取り続ける生田を、
その発生源たる生田を排除しようとする防衛本能。
それはただ何となくの生田への不快感へと、そして、不快なものを遠ざけんがための無関心へと繋がっていた。
だが生田の力が無関心では防衛しきれないほど増大したとき、
一気にそれは生田への憎悪となって噴出し、
そしてそれはさらなる生田の能力の増大…いや、決壊を促してしまった。

255名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:51:07
もはやそれは止められない。
際限なく溢れ続ける憎悪の感情は、直接その手に触れた者の心を一瞬で究極の狂気へと突き落とし、
ずたずたに引き裂き、切り刻み、すり潰す。
普通の人間であれば一瞬で発狂してしまう…。

あるものは見境なく暴れ、あるものは窓からその身を投げ、
あるものは自らの耳を引きちぎり、唇を噛み切り、自らの腕をただひたすらにペンで刺し続ける…
自らの指を食いちぎり、泣きながら過去の罪を懺悔しひたすらにその頭を床に叩きつけ続ける者…
…地獄…
そこはまさに地獄だった。

その地獄の中心で少女はただ、ひきつった笑顔で立ちつくしている。

「だめ…完全に自分を見失っている…多分、自分自身も能力に喰われてしまっている…」
助けられない…
先ほどから何度となく高橋は少女に呼び掛け、同時に暴れ続ける少女を取り押さえんと格闘を繰り返していた。
通常ならば相手の攻撃を全て読み、あっという間に取り押さえることが出来るはずが、
心が読めぬその少女はその生来の動体視力と身体能力だけで、格闘戦のエキスパートたる高橋の、しかも
【瞬間移動(テレポート)】によってどこから来るかわからないはずの攻撃を全て跳ね返し続けていたのだ。
迎撃のたび、高橋はその反撃による激痛に耐え続けていた。
一般人ならば一瞬で発狂しかねないその【精神破壊】を幾度となくガードする。
精神系の能力者である高橋であるがゆえに辛うじて単なる「激痛」のレベルに抑えている。
しかも、田中の【共鳴増幅(リゾナントアンプリファイア)】によりその防御力が高まっているにもかかわらず、
徐々にその激痛は大きくなっている。
やがては高橋といえど狂気の侵入を防ぎきれなくなるだろう。
手詰まりだった。

アハッ!アハハッ!アハッ!アハッ!ハハハハハハッ!
教室に一人、生田の乾いた笑い声が響きわたる。
「ちぃ!もういいっちゃ!愛ちゃん!もう無理っちゃ!やるしかないよ!」

256名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:51:42
つまりそれは、生田を殺す、ということだった。
「でも!れいなだって感じたやろ!あの子は!…あの子も!」

共鳴者なんやよ!

「仕方ないっちゃ!どの道、こんなこと笑いながらやるようなもん!救いようがないっちゃ!」

仕方が無い…排除されても仕方が無い存在…

「笑ってないです」

え?

「あの人、笑ってないです」

小さな少女だった。
小さな、その小さな少女は音もなく教室に現れた。
音もなく、教科書を踏みしめ、音もなく、血の海を渡って。
この教室で地獄をその目におさめていた。

「鞘師ちゃん!外で待機っていっとったやろ!」

生田が跳躍する。
突然現れたその少女を排除するために。
どうせコレも同じなんだ。みんな憎んでしまえばいいんだ!
全部同じなんだ!

「鞘師ちゃんダメ!その子に触れさせては!」

鞘師の脚元から、深紅の血刀が突き出され鞘師のたなごころへと納まった。
鞘師の体は流れるように、溶ろけるように低く変形し、一瞬の躊躇もなく生田の懐へ飛び込んだ。

257名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:52:30
ガガンッ

血刀は、ひと呼吸のうちに左右に跳ね跳び、生田の両の腕を、
鞘師に掴みかかろうとするその両方の前腕…内碗部を打ち折っていた。
まるで関節が一つづつ増えたかのごとく、生田の腕がありえぬ方向へと折れ曲がる。
血刀は刃引きであった。刃のない血の塊は重い鈍器となって生田の腕を襲ったのだ。
だが、生田は止まらない。
そんなものでは生田の憎悪はとまらない。
止まりはしない。

「ガァァァァァ!!!」

大きく開いたその口が鞘師の首筋へと襲いかかる。
鞘師はなにもせず、立ちつくしている。
生田のあぎとが、あとすこしで鞘師の首に届く、あとすこしで…
ガガッ!
電光石火、血刀が生田の右膝を砕き、ほぼ同時にかち上げられた柄頭が生田の顎をとらえた。
ドサァッ
一瞬浮き上がるように空中に停止したのち、生田は床に倒れ伏した。
手足を砕かれ血反吐を撒き散らす、哀れな姿となって、床をはいずっている。

「鞘師ちゃん!」

無言で鞘師は「待ってください」と高橋をとどめた。

ムクリ…
生田がその場で上体を起こした。
壊れた人形のように尻だけで体を支える。

ハハッ…

ハハハ…

258名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:53:17
ハハハハハハ…

「まだ…笑っちゅう…!」

アハハ…アハ…ハハハハハハ…

「なぜ、泣いてるの?」

唐突に、そう鞘師は尋ねた。

アハ…ハ?

「なぜ、あなたは泣いているの?」

読めぬはずのその心を鞘師は…

水軍流

凡庸なる人類がその身体資源の限界を超えることなく、それでも究極の殺傷力を求め、編み出された、殺法。

それは、まず己れのあらゆる内的感覚を観察し分析し解読する力を育む。
ほんの些細な膝の角度、背骨の変化、重心の位置、呼吸における内臓と横隔膜の変化、
そこからさらに生まれる、全身の重さの配分の変化…
その自己の身体感覚に基づいた観察力は他者を観察する力へと拡張されていく。
その積み重ねが敵「意」という概念に置き換えられ、敵の次の一手を正確に指し示す。
もはやそこには神経伝達速度の限界は無い。いや逆だ。
初めから次の一手がわかっているのだから神経的な伝達速度など一般人と変わらぬ程度で十分なのだ。
やがて敵「意」が単純な五感の情報以外からも察知できるほどになるころ、
その観察力は身体運動から相手の心理状態まで読みとる力へと深化していく…
鞘師は丁度、その途上を歩む者だった。

超能力ではなく、純粋に、ただの「技術」によって鞘師は生田の心を見抜いていた。

259名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:56:12

彼女は泣いている…と。

そこに同情は無い。
鞘師もまた、未熟な心の、「あるべき何か」が欠落した、未完成な子供である。
でてきた言葉は、ただの感想にすぎない。

「泣いているなら…」
ハハ…ハ?
「泣いているなら、普通に泣けば?」

ハハハ…ハハハ…ハ…ハ……
ハ…ァ…ァ…ァァァ…ァア…アアア…
アアアアアアアアア!!!
アアア!!!アアアアアア!!!!

鞘師の言葉は限りなく冷たい。

だが、そんな言葉が限りなく温かいものとして、あれほどの憎悪を…
生田の心を簡単に溶かしてしまった。

涙だ。あたたかい、あたたかい涙がとめどなく頬を流れ落ちる。

どんな形であれ、それは、「生田の心が他人に通じた」瞬間。

「それ」は、彼女が生まれて初めて経験したことだったから…

260名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:59:54

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※未練たらたらの付録(イクちゃんの能力設定、そのボツネタの記録)
いくちゃんに関してはどんな能力がいいか?そもそもどんなキャラなのか全く掴めず、全然筆が進まない状態でした。
そんななか、『――― Erina』が発表され、KYそのものが能力というアイディアが示されました。
当時も「なるほどうまい。実にうまい。これはいいなぁ(でも自分のイメージとは違うな)」
という印象だったのですが、能力的には物理的な能力者がいいと思っていました。
(卒業メンバーが軒並み物理戦闘系でしたし…)
が…なぜか日を追うごとに勝手にその延長線上の能力で自分の中のイクちゃんが暴れ出してしまいまして…
泣く泣くそっちへと引きずられてしまった感があります。

でも未練が残る。あーせっかく設定考えたのに。とまあそういう未練をここに。

■生田衣梨奈:【空気制動(アトモスフィアフリージング:atmosphere freezing)】

現状では「一瞬、その場の空気を凍りつかせる」だけの能力。
一種の空気限定の念動力ともいえる。
生田を中心に半径5m程度の範囲内のうち任意の空間に充満している空気(酸素に限らず、ガスや水蒸気も含め)を自然の摂理に反して「その場に固定する」
扇風機の「強」程度の流れならば完全に停止させる。
但し、人間が全速力で突っ込んでくるなど大きな力が加わった場合、それなりには動いてしまう。
が、逆にこれを応用し衝突や落下の衝撃を弱めるクッションとして使うことが出来るかもしれない。
また使い方によっては範囲内の生物を窒息させることもできるかもしれない。
ただし能力の連続使用は生田本人も相当に消耗するので我慢比べのようなことになるだろう。

能力の発展性について
もしかしたら彼女の能力は「空気を止めること」から拡張されていくかもしれない。
空気の成分を正確により分ける、空気を自在に動かす(風を起こす)、など。

261名無しリゾナント:2011/08/10(水) 15:01:08
■生田衣梨奈:【電磁操作(エレクトロマグネティック;electromagnetic)】

電気を操る力のうち、主に電磁波に関する能力に特化したもの。
能力の強度、どれだけの自由度にするかはいまだ未設定。
どれくらいの誤差かは未設定だが発振する電磁波の周波数はコントロールできる
また周囲の電波や電磁波の存在を感知できる
未熟なうちはただのノイズにすぎない(相当不快だろうからこれを無視する習慣は必須となるかもしれない。KYの原因?)
が熟練によって有益な情報として(例えばその電波がラジオ放送ならちゃんと人の声や音楽として)感知できる日
がくるかもしれない。

具体的な能力使用例
弱めの能力設定であれば、電子機器を狂わせる等。
強めならば、メーザー砲、つまり水のような極性のあるものを共振させ発熱。敵を蒸し焼きにする。
電撃を操る能力を持たせるかは未定。

■生田衣梨奈:【精神破壊(マインドデストロイ;mind destroy)】

悪意、敵意、攻撃の意思を持ってその手で触れたものを発狂させる能力。
現状、強力な発狂作用をもたらすためには接触せねばならないようだが、
非接触であっても軽度の精神妨害を常に撒き散らしているため、
将来的には非接触であっても発狂に至らせる能力者となるのかもしれない。

非接触時の軽度の精神妨害は
「自他の心が読めない」「空気が読めない」と周囲に認識されているようだ。
リゾネイターとしての覚醒以前は完全にダダ漏れ状態であったが、
リゾネイター達との出会いにより、徐々にそのコントロール法を身につけていくことだろう。

262名無しリゾナント:2011/08/10(水) 15:04:01
>>248-261
以上、 ■ ナチュラルエネミー−生田衣梨奈− ■ でした。


以上の代理投稿をお願いいたします

263名無しリゾナント:2011/08/10(水) 20:54:47
長いなw
場合によっては分割投稿で対応しますか

264名無しリゾナント:2011/08/10(水) 21:10:07
完了

265名無しリゾナント:2011/08/13(土) 02:14:47

「なんでよっ!!」

ガチャン、と食器が激しくぶつかる音と共に聞えた絵里の声。
滅多に声を荒げない彼女が怒っている。
さゆみは急いで病室の扉を開けたが、そこに居た絵里が今にも泣きそうな顔をしていた所為で声をかける事を躊躇った。

「二日延びるだけじゃない」
「そんなの嘘でしょ!絵里知ってるもん!そうやってもっと入院延ばすんでしょ!?」

幸い食事は済ませた後らしかった。絵里が感情に任せて強く机を押した所為で
今度こそ食器は白い床に落ちて音を立てた。
その音に驚いて思わず息を呑むと気配に気付いた絵里と目が合った。

「さゆ…」

気まずそうに目を逸らされる。絵里はシーツをぎゅっと握って唇を噛んだ。
こんな姿を見るのは久しぶりだ。
昔―絵里とまだ出会ったばかりの頃―は入院が予定より長引く度に泣きじゃくり、物を投げていたのだが
さすがに年齢を重ねるたびそれは減り、そしてリゾナントの仲間と出会ってからは滅多と起こらなかった。

「どーしたのよ絵里。珍しいね、怒鳴ってるなんて」

努めて明るい声で、いつもの調子で話しかけたがバツが悪かったのか絵里は目を合わせようとしない。

266名無しリゾナント:2011/08/13(土) 02:15:50

「さゆみちゃん、絵里ちゃんの着替え後二日分よろしくね。軽い貧血。大事をとってだから、心配しないで」

落ちた食器をトレイに乗せながら看護士が小声でさゆみに伝えた。

「すぐに先生来るから、どこも行かないでね」

優しい声でそう残し部屋を後にする。静寂が二人を包んだ。
――― 大したことないって。二日延びるだけじゃん。
平気な振りしてそう声をかけるのは簡単だった。だが今のさゆみにそれを言うことは躊躇われる。
絵里にとっての二日間がどれほど長いか。病院で過ごす一日一日がどれほど不安か。
出会ってもう10年近い。その気持ちは、痛い位理解しているつもりだ。

「調子悪かったの?」

ベッドの傍にあった丸イスに腰を下ろした。顔色も悪くない。点滴だっていつものやつだ。
大事をとって、その言葉に間違いはないようだ。

「悪くないもん。元気だもん…」

ベッドに備え付けられているテーブルに突っ伏した。

「明日着替えもって来るね。赤いチェックのパジャマ、乾いてるから」
「持ってこなくていいよ。絵里今日帰るもん」

くぐもった声は震えていた。

「絵里…」
「帰るもん!!帰るんだってばっ!!!!」

ドン、と拳でテーブルを叩いた。部屋が揺れた様な気がした。
どうしようもないことは絵里自身が一番分かっている。だからこそ、この感情をどこにぶつければいいのか分からない。
絵里の腕はさゆみを求めた。さゆみはイスから立ち上がり絵里のしたいように体を預ける。
ぎゅう、と痛いほどの力で抱きしめられて、さゆみはどうしようもなく切なくなった。だから同じくらいの力で絵里の頭を抱きしめた。

267名無しリゾナント:2011/08/13(土) 02:16:42

「約束したんだもんっ!明日帰るねってみんなに言ったもん!絵里がチーズケーキ作るって
 愛ちゃんがお店に出してくれるって言ったもん。れいなだって材料買ってきてくれるって
 ガキさんも愛佳ちゃんも、小春もジュンジュンもリンリンも楽しみにしてるって…!」

さゆみのお腹に顔を押し付けながら、絵里は喚いた。涙でいっぱいの、そして震えた声で。

「それから、さゆと約束したもん…今日はクレープ買って帰るんでしょ…、一緒に、食べたいよぉ…」


明日生きられるか分からない絵里にとって、約束がどれほど大切なものか、それはきっとさゆみの想像を遥かに超える。
でもその約束が、明日を生きるための目印になっている事は知っている。明日の約束を守ること。絵里はそれを大事に胸に抱き眠るのだ。

あの日、屋上で青空へ飛び出してしまいそうな絵里に、約束を取り付けた。
明日またこの屋上に一人で来てしまわないように。さゆみはしっかりと絵里の手を掴んだ。

明日は絶対クレープ食べようね
明日は面白い絵本もって来るね
明日は絵里の好きな本をさゆみに教えてね
明日はこっそりお菓子もって行くね
明日は、あしたは…



だから絵里は。ワァァァァと、迷子になった小さな子どもみたいに声を上げて泣た。

268名無しリゾナント:2011/08/13(土) 02:17:16

「明日も絶対来るよ、絵里。予定は変更。中庭に行こ。ね、何しよっか」



絵里が生きる目印を見失わないように。
絵里の約束が果たせぬ日が来ぬように。
絵里が明日もわらっていられるように。

時々弱虫になる絵里をさゆみは守らなくちゃいけないの。
明日も明後日もずっとその先も、さゆみは約束を守るよ。

明日の約束をすることがさゆみの約束
明日の約束を守ることが絵里の約束



寝癖で跳ねた頭に鼻先を押し付けて、さゆみは精一杯の弾んだ声で絵里に明日の約束を取り付けた。

269名無しリゾナント:2011/08/13(土) 02:23:16
>>265-268『やくそく。』
ちょっと真面目で懐かしい感じ、でした。
もうちょっとスマートに書けたら…と不完全燃焼ですが上げさせていただきます。

9期設定にも夢中になるけど、やはり、ふと原点に戻りたくなります
とりあえず形が変わってもリゾナンターは大好きだということです。

270名無しリゾナント:2011/08/13(土) 02:24:34
以上代理投稿宜しくお願いいたします。
この間まで大丈夫だったのに規制されてましたorz

271名無しリゾナント:2011/08/13(土) 17:29:10
行って来ましょうかね。上手く書き込めるか不明ですが。

272名無しリゾナント:2011/08/13(土) 17:42:33
投稿して参りました。改行の規制のためレスの区切りが変わってしまいました。
ご容赦下さい。

273代理投稿願います:2011/08/14(日) 15:05:58
 ■ クリミナルエネミー −鞘師里保− ■

イクちゃんってやっぱりKYだよなぁ

自分より年上で背も大きいくせに買い物を手伝うわけでもなく
カゴ一つ持ってくれるでもないその「美しきポンコツ」を横目に
鞘師は重たい買い物カゴを運んでいた。
水軍流によって、重量物を効率的に運搬するための体のコントロールは
知り尽くしている鞘師であったが、いかんせんもとの身体資源そのものが乏しいのだ。
瞬間的な動きの中なら敵の体重が100kg超であろうと片手で楽々放り投げる事が出来ても、
のんびり重いものを運びつづけるのは、やはりしんどい。

「カゴ持って」とか具体的に指示すれば生田は喜んで手伝ってくれるだろう。
だが、鞘師は頼まない。

ごく短い付き合いではあるが彼女の「ポンコツ」ぶりは身に染みてわかっている。
勝手にイチゴを取るぐらいならまだマシだ。
誰かの役に立てた、そのうれしさからカゴを振り回すかもしれない、
別の興味を引くものが眼に飛び込んできていきなりカゴを放り出す可能性もある…
なんにせよ、現状より良くなることは一切ない。その確信だけはある。

で、鞘師なりのささやかな抵抗が博多弁イジリというわけだ。

274代理投稿願います:2011/08/14(日) 15:07:10
例の一件は表向き、全て済んだこととなっている。
「特務安全調査室?」なるところと高橋との間でどんな密約がなされたものか、
『福岡県立防人中学集団ヒステリー事件』は、
思春期特有の不安定な精神状態により…とかなんとか、もっともらしい理屈とともに
ごく小さくとりあげられ、その他の瑣末なゴシップの中に埋もれて消えていった。

鞘師にはそういったことはどうでもいいことだった。
生田に対して同情も断罪するつもりもない。全く興味が無いのだ。

実はリゾネイターの中でも、高橋と新垣ぐらいしか気がついていないことだが、
鞘師自身、善悪とか合法違法に関しての感覚に大きな欠落部分を抱えている。
鞘師が全く問題を起こさない優等生であるのはそれが自分の安全にとってベストであるからだ。
善悪や道徳ではなく合理性によって『そうしている』にすぎない。
が、あの一件からわずかな期間で、喫茶リゾナントでの生活で、仲間との交流の中で、鞘師も大きく変わりつつある。

生田に対する不満からちょっとしたイジワルをする。
これなど、ほんの少し以前の鞘師には考えられないほどの「人間性」ではないか。

対して、生田の方はこの鞘師の不満には全く気がついていない。

一方的に「鞘師ちゃんは衣梨のことわかってくれる」そう生田は感じている。
だが、以前よりはるかに力のセーブが上達しているとはいえ、
実際のところ鞘師も生田の能力の影響をもろに受けているのだ。

275名無しリゾナント:2011/08/14(日) 15:08:05
「イクちゃんって何考えてるのか全然わからない」そう感じている。

それでも、わずかな足の向き、目線の変化、全身の微細なシフトウェイト…
そういった情報から一瞬先の行動ぐらいは判断できる。
通常、人間はこういった具体的な情報を正しく分析できず
「あてずっぽう」「たんなる思い込み」で判断し行動している。
鞘師は常人とは桁外れに多くの「具体的情報」を入手でき、それらを正しく判断できる。
生田の能力によってそれらが半減させられたとしても、それでも常人をはるかに超えている。
ただそれだけのこと。
感情にいたってはせいぜい喜怒哀楽が読み取れる程度の事だ。
犬がしっぽを振っていたら「多分喜んでるんだろう」誰にでもそのぐらいはわかる。
鞘師が人、生田を犬にたとえるなら、要はその「しっぽのこと」を鞘師だけが知っている状態。

276名無しリゾナント:2011/08/14(日) 15:08:57
本当に、ただそれだけのことだ。

あの一件の少しあと、リゾネイターにはもう一人、譜久村聖が加わっていた。
【残留思念感知】をもつ彼女もまた、生田の心を読める能力者であった。
鞘師、譜久村、そして能力のセーブが上達するに従い高橋、新垣…
いまや生田の心を読めるのは鞘師だけではない。
むしろ、高橋、新垣、譜久村のほうが鞘師よりはるかに生田に興味を持ち、生田を心配し、気にかけてくれている。
だが、「衝動性の塊」のような生田の突発的な奇行に対して「ダイレクトに」割り込めるのは今のところ鞘師だけなのだった。

先ほどのイチゴの事などもうすっかり忘れた生田が鞘師の前をスキップしている。
やっぱりかのんちゃんと一緒の班がよかったよ。鞘師は思う。
かのんちゃん…鈴木香音は譜久村聖と日用雑貨がそろう向かいのビルで買物しているはずだった。

ちょっとかのんちゃんに電話しよう。
高橋さんに用意してもらった携帯を取り出す。
「ほーいこちら神のケータイである〜」
「あ香音ちゃん。そっち終わった?」
「うんにゃ。でももうちょいかな」
「じゃさっき決めた待ち合わせ場所先行ってるから」
「ほーい…TVビル…とこの…プツツ…植木の前…っじゃあすぐ…プツ…」

切れた…圏外…?おかしい、さっきまでそんなことはなかったはずだが…

このとき、
もし、鞘師一人だけだったら?
もしかしたら、すでに異変を察知できていたかもしれない。
だが、それだとして、無事に何事もなく済んだだろうか?
逆にもし、このとき、生田がこの場にいなかったら?
 −生田がKYでは無かったら?−
鞘師は命を落としていたかもしれない。

危機が…迫っていた。

277名無しリゾナント:2011/08/14(日) 15:15:17
>>273->>276
 ■ クリミナルエネミー −鞘師里保− ■ でした。

以上、代理投稿願います。

278名無しリゾナント:2011/08/14(日) 21:53:07
遅れたけど行って来ますか

279名無しリゾナント:2011/08/14(日) 21:58:23
完了
本格的に9期の物語が動き出したって感じでしたね

280名無しリゾナント:2011/08/15(月) 03:37:19
>>627からです。
泉はバックステップをし、愛を庇うように前に出て再び構えをとる。
井坂は落ちていたナイフを拾いニヤリと笑って刃を泉に向けながら近づいてくる。
「逃げて、早く、逃げて!もう私の目の前で誰も殺させない、傷つけさせない、誰も失いたくないの!!」

泉が叫ぶ。

泉の脳裏には時間を魔術で戻す前、自分を犯人から守って血まみれになった高取刑事、港で灯子が
『愛してる』と言いながら銃をこめかみに当てて引き金を引き、そのまま海に落ちた事が浮かんだ。

その様子が泉の背中にいる愛に伝わってきた。

「泉さん……」

「うるせえ!」

281名無しリゾナント:2011/08/15(月) 03:39:29
井坂が銃をぶっ放す。
空砲が泉の耳をつんざく。思わず構えをとき、肩をすくめてしまった。

「次の弾は入ってるぞ……」
うすら笑いを浮かべながらゆっくりと近づいた後、一気に井坂は泉にナイフを振りかざしながら向かってきた!
「死ねぇっ!」

「危ない!」

井坂が愛めがけてナイフを振り下ろした時、泉は間一髪で愛の小さな体を抱いて受け身を取った。
ゴロゴロとアスファルトを転がっている間、泉の腕から鈍い音が聞こえてきた。

「泉さん!」
ナイフで泉の半袖のシャツを切り裂かれ更にそこからは深くはないが切り傷があり、ポタポタと血が滴り落ちている。
「泉さん……」
愛は悲しそうな目で泉を見た。
そんな愛を見た泉は顔を痛みでしかめながらも笑顔を作った。
「大丈夫よ。いつものことだから」
「でも……」
泉は思った。
彼女がこんなに怖い目に合っているのに自分を心配してくれている。
彼女を信じて良かった。
見ず知らずの女の子だったけど悪い人じゃなかった。

泉は愛の頭を撫でて立ち上がった。
(これだけ騒げばもうすぐ警察が来てくれる、それまで私が井坂を食い止めないと!)

282名無しリゾナント:2011/08/15(月) 03:41:16
「今度は外さねぇぞ」

「はぁ、はぁ……」
右腕を押さえても血はまだ滴り落ちている。
泉の息が荒い。

「逃げて、早く……」

「嫌や……」

「もう、誰も死なせたくないの」
泉は稟として言い放った。
「死ねえっ!!」

「嫌やーー!!」

井坂がナイフを振り下ろした時、愛は泉を突き飛ばした。

守られる愛ちゃん。
次と次くらいで終わりそうです。
保母さん強えー、ただの女子大生じゃねえ。
最終回には超猿達(英訳)に最後に入った人を出す予定です。
このスレの平均年齢の低さに嫉妬。
アク禁されちゃった……。

283名無しリゾナント:2011/08/15(月) 03:50:27
以上です。
初狼の代理お願いします。

284名無しリゾナント:2011/08/15(月) 04:43:09
書き込めました。
ありがとうございます。

285代理投稿願います:2011/08/15(月) 17:24:41
 ■ ミーティングオブリベンジ −保田圭・矢口真里・市井紗耶香− ■

「これで全部?」
「ああ、そうだよ」
「ふうん…
で、これらのデータから導き出された答えが、これなのね」
「なんだよ、なにが言いたいんだ?」
「矢口、あんた、このデータ見て何も気づかない?」
「ああ?」
「結論から言うわ。
その答えはほぼ間違ってるとみていい」
「なんだよそれ!意味わかんねーよ」
「このデータ、確かにみんな本物よ。こっちの内容…それ自体にも矛盾は無い。
でも…それらのデータを総合して出てきた答えが正しいものになるとは限らない。
いい?
この供述書、それとこっち、それからこっち、あとこっちも…
口調や文脈、勤めて特徴を変えてはいるけど、これ全部『同一人物の作った台本』を基に言わされてる内容よ。
こっちに教えたい情報だけを意図的に、ね。」
「なっ!?そんなはずは」
「あなたの尋問が甘かったわけじゃないわ。
彼らも台本を言わされてるつもりも、嘘をついているつもりもないはず…」
「じゃ…」
「そう。精神系の…例えば新垣のような能力者…それも、かなり強力な…」
「なるほど。和田、前田っていう子供のほかに、まだ能力者がいるってことか。」
「なんだよ市井まで」
「責めちゃいないよ。分析のミスは修正すればいいだけだ。」
「あんたも、あの二人が譜久村って子と接触している可能性を考えてたじゃない。
譜久村以外にも生き残りがいても何ら不思議はないわ。
おそらく、『大半が本当』のデータの中に巧妙に嘘が混ぜ込んであるのね。

286代理投稿願います:2011/08/15(月) 17:25:50
もう一度、廃棄物のデータを洗い直す必要があるわ。
それも、外部に持ち出されたとされる廃棄物のデータではなく、
完全に処理が完了していることが判明しているデータの方を、ね。」
「その中に…このシナリオを書いた子がいる…か」
「容易ならざる敵ね…矢口、アンタの言う和田って子より、もしかしたら厄介な相手かもしれないわよ」
「圭ちゃんはアイツと直接会ってないからそう言える。アイツは…」
「わかってる。過小評価はしていないわ。
和田彩花…自在に『空を飛び』まわり、至近距離からの銃弾にも『当たらない』、
そして、矢口と後藤の能力を『妨害』する力…
組織の歴史上かつて存在したことのない【三重能力者(トリプルアビリティ)】かもしれない相手。
しかも空を飛ぶ以外の能力に関してその実態は全く不明…
過小評価しろという方が無理よ。」
「厄介の性質が異なる…といったところか。
保田さん、矢口の考えた対和田攻略法については?」
「うーん…何とも言えないわね…それこそ私たちは彼女に会っていない。
彼女の能力を体験したわけじゃないわ。
ただ、こんな単純な手で防げるものかどうか…。それこそやってみないと何とも言えないわね。」
「認めたくはねーけど…和田のもってる【能力阻害】はオイラの比じゃない。
けど、『オイラ同様の能力である以上』オイラと『同じ弱点を持ってるはず』だ。」
「…本当に…【能力阻害】なのかしら?…」
「ん?なんか言ったか?」
「いえ。どの道、現段階ではその方法以外にいい方策は思いつかないわ。やってみるしかないわね。」
「つうかさ、この攻略法はもともと市井と二人でやるつもりで考えたもんだからさ。
圭ちゃんがいるなら最初から圭ちゃんに時間を止めてもらえばすぐ済む。」
「まあそうね。でも、まずはその作戦を試しましょう。」

全てが停止した中、三人の女が邂逅し、やがて別れ、世界に時間が戻っていく。

『和田彩花…必ず殺すわ…後藤を…真希の仇はとってあげなくちゃね…』

287代理投稿願います:2011/08/15(月) 17:26:41
>>285-286

■ ミーティングオブリベンジ −保田圭・矢口真里・市井紗耶香− ■ でした。

以上代理投稿願います

288名無しリゾナント:2011/08/15(月) 19:46:36
行ってきました

289いつもすみません 代理投稿願います:2011/08/16(火) 16:07:25
 ■ フリボラスマーチャント −岡守時秀− ■

「どうもどうもー。いつもさわやか明朗会計、"小売店"仕入れ担当さわやか伍郎です。
いやー福田さん今日もセクシーですねーいやホント。」
「そんなこと全然知ってます。てゆうか電話だし見えてないし嘘だし、どっちみち
さわやかさんに言われてもきもちわるいだけでちっとも嬉しくないんですけど」
「いやいや!またまた!サンキューフクーダ!」
「…チッ」
「い…いやー!しかし今回もまた見事な手際でございましたね!どれも実に状態がよろしくて!
私も上司も大喜びですよ!」
「話薄い。ってゆうか報酬値切るつもりならこっちだって考えがありますからね」
「いやいやそんなめっそうもない!ただー…そのぉ…『丸太』の数の方がちょっと合わないといいますか…」
「そんなことこっちの責任じゃないでしょ。回収はそっちがやるって契約だったんだから。
回収し切れなかったなら、それはそっちのミスじゃない?」
「いやーしかし、まさか『船』をあんな状態にしてしまうとはこちらも聞いてなかったといいますか…」
「あたし達が依頼されたのはあくまで『丸太』。やり方はこっちに任せるって契約でしょ?
もしかして、『丸太』代だけ払って『船』ごと手に入れようなんて考えてたわけじゃないですよね?」
「いやーそれは」
「とにかく、報酬は約束通り。交渉は一切しません。いやならこれきりです。」
「やだなぁ福田さん。値切ったりなんかしませんって。もちろんいつも通りお支払い致しますよ!ホントホント!」
「…もう切りますからね」
「あっ。待ってください!またいいバイトがありましてですね。是非一度お話を…あっ切られちゃったよ…相変わらず不機嫌だねあの娘も。生理かねぇ?」
ほぼトラ刈りの頭にちょび髭、どう見てもチンピラか、よく見てもチンピラ…そんな風貌の男が
一方的に切られた携帯に向かって一人愚痴をこぼす。

「つうかまぁ…、あんな『物騒なもん』くすねてなにする気なんでしょうねーあのお姫様たちは…」
さほど気にしているふうでもなく、男は携帯をかけ直す。

「どうもどうもー。いつもさわやか明朗会計、"小売店"『販売』担当、さわやか伍郎です。
ご注文の品、入荷いたしましたー。つきましてはお取引の日時と場所をですね…」

290いつもすみません 代理投稿願います:2011/08/16(火) 16:10:31
■ フリボラスマーチャント −岡守時秀− ■ でした。

以上、代理投稿願います
狼、最近また弾かれるようになってしまった…

291名無しリゾナント:2011/08/16(火) 22:22:12
エピローグ
「・・・ここに来るのひさしぶりなの」
「そうっちゃろ?」
れいなと道重は街を一望できる丘の上に来ていた
「なんで、ここに来たか、わかるっちゃろ、サユなら」
れいながまだ目が腫れぼったい道重に尋ねた

道重は目の前に広がっているまだ淡い白い雪を被った街を眺めながら言った
「ここは・・・エリが・・・大きい夢を言ってくれたところだから」

『れいなと手をつないで、さゆの癒しの力をさ、絵里が起こす風に乗せて、世界の人たちに幸せを届ける』
この丘の上で亀井が二人にそんな大きな夢、いや計画を語ったのはもう数年前のこと

「ここに来ると、いつも思うことがあるっちゃ。エリとサユのためにも頑張ろうって
 エリみたいな目標を持つことを素直に格好いいと思ったけん、少しでも出来ることはしたいって」
れいながさゆみの横に並んで立つ。その目はさゆみにも負けないくらいに大きく腫れている
「だけど、そんときはれーな思ってもみんかった。まさか・・・エリがその夢を最初に諦めることになるなんて」
隣に立っている道重は思わず涙ぐむ
「れいな、そんなこと思っても言わないで欲しいの」

そんな道重を知ってか知らずかれいなは語り続ける
「リゾナントは開いているけど、やっぱり愛ちゃんも元気ないと。だけどお店は休めないって愛ちゃんらしいと
もちろん、れーなも愛ちゃんも一緒に泣いたっちゃ。だってエリがおらんくなるなんて…信じられんもん」
事実れいなは一日中泣いて、泣いて、泣き通した
流れ落ちた涙がお気に入りのベッドに染みいり、大きな跡として今も残っている

「他のメンバーも気になって、こっそり見に行ったと。メールするの恥ずかしいっちゃろ?」
泣き崩れている高橋に気付かれないようにれいなは二階からこっそりと脱出したのだ
リンリンとジュンジュンはバイトしているようであったが、いつもよりも目の周りの化粧が濃かった
久住は生放送のテレビに出ていたが、笑顔がいつもよりもかなりひきつっていた
光井は授業には出ているようだが、うつむいて登校しているで首に巻いたマフラーは黒かった
そして、新垣はお店にすら現れていないらしい

292名無しリゾナント:2011/08/16(火) 22:22:55
「みんな、つらそうな顔してたと。ガキさんは見とらんけど、特にショックを受けとう。
 もちろん、一番ツライのはサユやと思ってるけど」
「・・・」
道重はカバンからハンカチを取り出し涙を懸命に止めようと悪戦苦闘している
「みんなエリがいなくなったことに向き合うことはできておらんっちゃ
 自分達に出来たことが何かなかったのかってずっと自問自答していると
 もちろん、れーなも悩んだとよ。れーなの思いが足りなかったんじゃないかって」

「ねえ、れーなはどう思ったの?・・・さゆみと戦っているとき」
最後の一言を口に出すのは苦しそうであった
「怖かった?それとも、悲しかった?」
「正直、複雑だったと。さえみさんを倒したらサユを失うことになったかもしれんっていう不安もあった
 さえみさんがれーな達を認めてくれるなら、無事に帰れると思ってたけどさえみさんが暴走して…
 それにさえみさん、手加減しなかったけん、れーな、途中で何をしたいのかわからなくなってたとよ」
「そうなんだ・・・ごめんね、れいな」
道重はさえみが表に出ていた時の記憶はほとんどなかった
「れーなに謝られてもどうしようもないとよ」

「でも、一つだけわからんことがあると・・・なんでさえみさんが消えたのにさゆは消えなかったと?」
「エリの傷の共有で体ボロボロになったのに、なんでサユの体は無事なんやろ?」
れいなはピンクとオレンジ色の光に包まれる直前の二人の姿を思い出していた

「・・・お姉ちゃんが守ってくれたの。『私が消えるからさゆみは生きなさい』って」

293名無しリゾナント:2011/08/16(火) 22:24:15
亀井の傷を移されたさえみは悟ったのだろう、このままでは自分も消えてしまうと
それは自分が存在する意味そのものであった何より愛しい妹を消すことになる
確かにさゆみとさえみ、二人の存在が消えることになれば永遠にさゆみを自分のモノにできる
ただ、それは・・・さゆみが望んでいることではないとわかっていた
さゆみの望むことを全て叶えてあげたい、それがさえみの生きる目的であったのだから―

「最後の最後までお姉ちゃんがさゆみを守ってくれたの。さゆみが拒否してもやっぱり離れられなかったみたい
・・・あのね、れいな、最後にね、お姉ちゃんと会話できたの
『さゆみちゃんに本当に申し訳ないことをしてしまった』って悲しそうな声してたの
それに『さゆみちゃんも大人になった。いつまでも守らなくてもいいのよね』とも言ってた
ただ正直、お姉ちゃんを許していいのかわからないの。だってお姉ちゃんは私自身だったから」
れいなは何も言わない方がいいのだろうと思い黙っている

「それから・・・お姉ちゃんにみんなに伝えてって言われたの」
「なにを言われたと?」
「『私がいなくなってもさゆみをよろしくって、それからエリちゃんのことは償わせてもらいます』って」
「『償う』ってどういうことっちゃ?」
道重はわからないという風に首をかしげているが
「多分、さゆみを守っていたようにエリを守ってくれるんで事だと思うの」

「ほら、そんなことよりれーな、持ってきたの?」
「もちろんとよ、提案したのれーなやけん」
そういいれいなが取りだしたのは猫の飾りのついた青色の携帯ストラップ
さゆみもカバンからピンク色のウサギの飾りのついたピンク色の携帯ストラップを取り出した

294名無しリゾナント:2011/08/16(火) 22:25:17
「本当ならエリの思い出のモノも一緒に埋めたいっちゃけどれーなお揃いのモノないけん」
そういいながられいなは凍った地面をスコップで掘り始めた
「これ、さゆみエリとお揃いのリングなの。変わりにこれを入れるの」
さゆみはれいなから受けとったストラップ、そして二つのリングを穴の中に丁寧に置いた

れいなが優しく土をかぶせていく
「エリ、ここでゆっくり眠るっちゃ。エリの分までサユとれーな頑張るけん
頑張ってきたぶん、休むと、れーな達負けんからね!」
「さゆみ達、前を向いて行かなくちゃいけないのわかっているの。
 今まで本当にエリと一緒に入れて幸せだったよ。あ、こういうのエリ嫌いだっけ?幸せがああだこうだ言うの
 ・・・そうだよ、今、全然幸せじゃないんだからね!もう幸せになれる気なんてしないんだから!
 エリがいて、馬鹿見たく笑って、泣いて、感情隠さないでいたから楽しかったんだから!!エリのバカ!」
そう大声で叫び、道重は涙を流しながらブーツをはいたその足で荒っぽく土をかけ始めた

れいなと道重の手によって埋められていく絆の証
携帯ストラップもリングも亀井絵里と共に時間を過ごしたという証明
それを忘れないために二人はこの丘に埋め、亀井の『墓』ではない

「エリはこの場所がとても好きだったの。愛ちゃんがこの場所を教えてくれたって言ってたの
 ここならエリも安心して笑っていられるでしょ?・・・この世界一の幸せ者がぁ」
「・・・エリはずっとここで生き続けるっちゃ。多分、れーな達は思いだすんやろうね、風が吹くと」
「アホっぽくて、適当で、天然で、だけど誰より考えていて、強くて、意地っ張りなエリのことを」
自然と手を握っていたれいなとさゆみ、そんな二人の間を一筋の風が吹きぬけた

「さあ、さゆ、リゾナントに戻って愛ちゃん達に何か作ってもらうよ!
 愛ちゃん達はまだ立ち直れていないっちゃけど、いつまでも立ち止まれないやろ?
 出会うのも運命、だけど別れ、それも運命っちゃろ!うじうじしてたらエリにバカにされるっちゃ!」
「・・・そうだね、愛ちゃん達にも早く向き合って欲しいの!エリ、さゆみ負けないから笑ってみてて!」
れいなとさゆみ、二人は小さく「ありがとう」と呟き、今来た道を駆け足で戻り始めた

295名無しリゾナント:2011/08/16(火) 22:28:17
『Vanish!Ⅱ〜independent Girl〜』のエピローグ(1)です
待たせてしまいましたか?待っていないですかねw
最近投下多いので…遠慮していましたが待っていられないので投下しました
(1)とあるように・・・少しだけ続きますw
(2)(3)で終わる予定ですのであと少しだけ辛抱を!


代理投稿よろしくお願いしたします

296名無しリゾナント:2011/08/17(水) 08:11:07
遅くなったけど行ってきました

297名無しリゾナント:2011/08/17(水) 08:16:02
すみません、自分で行けばすべて済むんですけど(汗
ありがとうございました。

・・・なんか最近、『外れた』話が多い気がする、なんてつぶやいてみる

298名無しリゾナント:2011/08/18(木) 13:59:13
>>289です
いつもお世話になっております
暫定保管庫で>>289の解説をしていただいておりますが(ありがとうございます)
さわやかさんの実際の名前は「さわやか五郎」「岡見時秀(おかみときひで)」です。
作中では伍と守に変えてあります
ご存じの通りさわやかさんはアップフロントの人ではあるんですが
まあ男は一文字づつ変えとこうかぐらいの気持ちで名前を少しいじったのが災いしてしまいましたね

299名無しリゾナント:2011/08/18(木) 22:00:21
                ★   ★   ★   ★   ★   ★

誰にもつけられていないことを確認して彼女は部屋に入った
施錠したことを確認して、ほっと一息つき、右手をのばし部屋全体に灯りをつけた

「元気にしてた?ほら、ここにあなたの大好物を置いておくから」
女は近くに立っている若栗色の女の子の足元にプリンを置き、目を閉じて手を胸の前に合わせた
「今日で、あなたがここにきて3年ね、どう?後悔してる?」
女の子は何も言わずに目を大きく見開いたまま微動だにしない

女は部屋の奥へと足を進め、奥に置かれたテーブルにカバンを置き近くの椅子に座った
「ただいま、久しぶりね、元気だった?」
椅子のすぐ横に立っている茶髪の女に声かけたが、その女もやはり反応はない
「・・・あんたが話せたらいいんだけどね・・・まだその時じゃないのよ、残念ね」
女は一人呟き、部屋を見渡した

部屋の中には数十人の人間の姿、ただしそれらはまったく動いておらず人形の館の様だ
思い思いの格好のまま止まっていて、呼吸すらしていないのだが、死んでいるのではない
彼らはこの部屋の主である女―保田圭によって永遠の時を与えられた存在だからだ

保田は時々この部屋にやってきては彼らの欲望のあまり止められた愚かさを確認しに来ていた
それは自分自身が強欲であることを戒めるためでもあり、同時に変化がないことを見るためであった

数日ぶりに来たこの部屋にはほとんど変化はない
保田がテーブル横の女の足元にかぼちゃプリンを置き、自分は持参した水筒からコーヒーを飲みだした
「あらやだ、おいしいじゃない。あのお店いいもの扱っているのね」

保田の目はゆっくりとかぼちゃプリンを置いた女の隣へと移動する
そこには栗色のふんわりとした髪の女の姿が。もちろん止められている
ゆっくりと保田はその女性の全身を眺め、変にねじれているところがないことを確認した

300名無しリゾナント:2011/08/18(木) 22:02:12
時々・・・保田の力が弱まり、勝手に動くことがあったのだ
それは主に、大きな相手、Gだの天使と戦う時に限られてはいたが用心にこしたことはないと考えている

時間を止めること、それが保田の能力
あの時−さえみに消されそうになった吉澤、マルシェを救いだしたのもその力があったためだ
マルシェと吉澤を連れて帰ってきたのはもう一週間も前のことになる

                ★    ★   ★   ★   ★   ★

「おかえり〜キャハハ、圭ちゃん大変だったねえ〜」
転送装置に乗って本部に帰ってきた保田、吉澤、マルシェを出迎えたのは矢口だった
「矢口さん、珍しいですね、お出迎えしてくださるなんて」
「キャハハ、誰か幹部が消えればおいらの出世も近づくじゃん、残念だけどみんな無事なようだね」
そういいながらも矢口が出迎えてくれたことがマルシェにとっては嬉しかった

「矢口いいの?仕事中でしょ?」と尋ねる保田にも矢口は「休憩」といって相変わらず笑っている
「それじゃあ、俺は疲れたからシャワー浴びて来るわ」
さえみと戦い自慢の髪の毛に埃が付き、汗をかいた吉澤が早々に立ち去ろうとした
しかし、矢口が吉澤を呼びとめた
「ちょっとよし子、少しくらい話聞かせてよ。おいらの部屋に来てさ、コーヒーくらい用意するからさ」
先輩の半ば強制的な誘いを断れることなく、4人は矢口の部屋へと向かった

矢口の部屋は巷で人気のフィギィアや漫画が置かれており、悪の幹部の部屋とはとうてい思えなかった
矢口は自分の椅子に座り、保田達は部屋に置かれているソファーに腰掛けた
机の上に置かれたボタンを押し、「すぐにコーヒー4つね」と矢口が注文する。どうやら厨房と繋がっているようだ

「それで一体何があったって?マルシェ、簡潔に説明してね」
「あ、はい。あ、でも一体矢口さんはどこから知っているんですか?」
マルシェは矢口が何を聴きたいのか把握するために尋ねた
「ん?おいらが知っていること?」
矢口がうーんと指を顎に当てて考え出した
「そうだね・・・あの誘拐現場での犯人がさえみさんってことくらいかな?」

301名無しリゾナント:2011/08/18(木) 22:03:20
「え?なんで矢口さん、そんなこと知っているんすか!?」
そう声を上げたのは吉澤だった。犯人がさえみだと判明したのは本人の口からでたからだった
にもかかわらず目の前にいる先輩は行かなかったにも関わらずそのことを知っていた
あの現場で唯一生き残った男の精神にダイブした吉澤ですら犯人がさえみであることはわからなった
なのに・・・なぜ?

そこにノックの音
「矢口様、コーヒーお持ちいたしました」「ごくろうさん、入っていいよ〜」
ドアノブが回される音がして「失礼いたします」と男が入ってきた
その男の顔に吉澤は見覚えがあった
「あ!お前!なんでここにいるんだ!」

吉澤が驚いたのも無理もないだろう、そこにいたのはさえみに消されなかった誘拐犯の唯一の生き残りの男だった
この男の心に吉澤は前日に飛び込んだばかりで、後の『処理』を矢口に任したはずだったからだ
処理とは言わずもがな―消すことだが、なぜかこの場にいる

「矢口様、こちらケーキもお持ちいたしました」
矢口にお盆に載せたケーキを渡している男に矢口は「相変わらず気がきくね〜」と言った
「矢口さん!こいつと知り合いなんですか?」
吉澤が尋ねると男は吉澤の姿を見て背筋を伸ばして、敬礼した

「ん?こいつ?ああ、おいらの部下の一人だけど、言っていなかったっけ?」
敬礼している男を指差して矢口が紹介した

「吉澤がこいつの心に飛び込んだときに教えていなかったけ?キャハハ」
矢口が憎たらしく笑うのをみて吉澤は苦虫をつぶした表情を浮かべた
「・・・どうりでこいつの心をしっかりと見れなかったわけだ
 矢口さん、あなたが外から俺の『ダイブ』を邪魔していたってわけですか」
吉澤の言葉にも動揺せず矢口はケーキにフォークを伸ばした

302名無しリゾナント:2011/08/18(木) 22:04:25
吉澤はマイペースにティータイムを楽しむ矢口を見て一人考えた
(よく考えれば、こいつらがどうやって能力者を選別して集めていたのかわかる
 矢口さんが頂点を務めている部隊なら能力の保有の有無を判定できるからな
 前もって矢口さんが部下に『こいつ』と指示すればただ隊員達は捕まえるだけでいいからな)

一年前の雅との接触の際にも矢口は雅を「能力者」として判断する目を使っていた
今回の「能力者のたまご」を集めるにも矢口の「能力者判定」がなければ不可能であるはずだ

マルシェも同じことを考えていたのだろう。思わず口に出してしまった
「まさか矢口さんが絡んでいたなんて思ってもいませんでした
・・・しかし、そうだとしてもなんで道重さゆみを連れ去ったんですか?彼女は強力な能力者なのに」
マルシェの疑問に対して矢口はぴくりと少しだけ体を動かして反応してしまった
「なにか大きな理由があるみたいですね。ただ、矢口さんが言わないってことは・・・」
「別に大した意味なんてないよ、よし子。メンドクサイだけ」
矢口が空になった皿を机に置きながら言った

言わないでいるものつまらないと思ったのか矢口は自ら口火を切った
「ねえ、マルシェはさ〜今回のおいらの目的は何だと思う?」
「え?それは新しい能力者を捕まえて支配下に置くためかと」
突然名指しされたとはいえ、まさにマルシェはお手本のような回答を示した
「キャハハ・・・マルシェは本当に教科書通りだね〜キャハハ・・・
 ブー、残念でした〜そんな普通のことしてたら道重なんて連れていかないって」
「つーことは道重は『あえて』連れ去ったということになりますね、矢口さん」
矢口はどうして、吉澤に対してだけ「どうだか」とはぐらかしてばかりだ
そんな先輩の姿を見て吉澤はなんとなくいらいらを感じずにはいられない

303名無しリゾナント:2011/08/18(木) 22:06:22
「あたしの考えなんだけど、矢口は道重を暴走させるつもりだったんじゃない?」
低い声で保田がマルシェと吉澤の視線を惹きつけた
「あんた達は知らないかもしれないけど、道重が連れ去られる前日、あいつらと私達の小隊がぶつかったの
 それはもちろん、ダークネスが撤退して終わったけど、それはどこの部隊かと言うと矢口のところ
 しかもそこで道重さえみによって一隊員が消されている」
矢口はなんでそのことを知っているんだ?とでもいう表情だ

「それから吉澤がだれよりも知っているだろうが…一年前の雅との接触の際にあいつの心の中に闇を感じたでしょう?」
「ええ、保田さん、雅の中には田中へのねじ曲がった愛情が詰まってましたよ」
「吉澤、あなた、撤退するときに雅になんて言ったか覚えているかしら?」
「『ダークネスは闇に巣くいし者。いつでも闇を持つ者がいれば、そいつに近づき…闇へといざなう』」
吉澤はゆっくりとそのボスから教えられたダークネスの存在する意味を噛みしめながら口に出した

「それなら道重さえみはどういう存在?正義という光の元に生きている道重さえみを支える影の存在
 その一方で彼女はリゾナンターとして戦ったことは一度もなく、たださゆみを守るだけの存在
 彼女は決して正義ではなく、むしろ雅に似たねじ曲がった愛情の塊であったといえないかしら?」
保田の推理の範囲でしかならない想像に矢口は鉄仮面をかぶったように表情は変えまいと必死だ
「さえみは闇に巣くいし存在。そして、矢口はこう思ったんじゃないかしら?
 『もし、さえみが仲間を裏切ったならば誰も止められず、リゾナンターは消される』とね
 そしてリゾナンターを消し去ったら、今度はダークネスがさえみを倒す、いや私が『止める』と」

ダークネスの言っていたさえみを止める手段、それはなんてことはない保田の『時間停止』だった
動きを止めてしまえば何も怖くない、そのために多少の犠牲はあるのかもしれないが致し方が無いことだと

「ついでに言うと熊井っていう子、あれは単なる偶然だったんでしょうね
 矢口が誰でもいいから身近にいた能力者を集めた時に偶然混ざってしまっただけの存在でしょうね」
マルシェは逃してしまった可愛い獣化能力者を思い、強く唇を噛んだ
「おい、マルシェ、目がやばいぞ」
マルシェの目をみて吉澤が肩をたたき、マルシェはウーっと唸った

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

304名無しリゾナント:2011/08/18(木) 22:10:01
『Vanish!Ⅱ〜independent Girl〜』のエピローグ(2)です。
裏のボス登場ってことでw 今回無駄なシーンはありませんよ〜

motorシリーズ、マイケルシリーズ、Vanish!はすべて同一世界で起こっていますから〜
あと一回で終了です・・・長かったな・・・

代理投稿よろしくお願いします

305名無しリゾナント:2011/08/18(木) 22:14:11
行って来ますか

306名無しリゾナント:2011/08/18(木) 22:20:21
完了

307名無しリゾナント:2011/08/18(木) 22:56:31
ありがとうございました!本当に毎度毎度すみません・・・

308名無しリゾナント:2011/08/20(土) 23:40:15
保田の推理に対して矢口は何も言わなかったが、おそらく図星なのだろう
突然仕事の時間だといって部屋を飛び出してしまったのだから

保田の推理を聴いた吉澤とマルシェは何も言わなかった
別に自身が出世するためだとかリゾナンターが嫌いとかそんな理由でしたわけではないこともわかっている
全ては組織のため、だと、上から許可が下りているということを

そのことをあの二人がどうとらえたのかはわからない
本来ならばリゾナンターは私達にとっては邪魔だけの存在なのだが…奇妙な感情が湧いているのも事実だ

あれからそれなりの日にちがたっているが、あの二人はきっと前と変わらない日常を送っているのだろう
相変わらず矢口は笑っていて、吉澤は裏世界を駆けまわり、マルシェは兵器制作に取り掛かる
先程、表世界に出たが、喫茶リゾナントも開いているし、月島きらりもテレビで笑っている
大学受験の近い光井もおそらく学校に出ているだろうし、ジュンリンも生きるためバイトをしているだろう
雅も熊井も変わらず学校で笑っているようだ―熊井の記憶は雅が消したようだが

もちろん一人という人間が消えたこと、特に身近にいるならば、それは確かに精神的には大きい
だからといって日常が全て崩れるというわけではないのだろう
関わることが少ない、多い、そんなことは関係ないのであろう
変わらないのだろう、だってみんな、生きていくしかないのだから
命のある限り前に進み続ける、それは仕方がないこと

ただ思わざるを得ないこともあった
この世に生きること、それは人と人との関わりで、人は一人では生きていけないということ
でもそれは一人くらい欠けたって世界は変わらないことの裏返し
小さい一人がどんだけ大きな声をあげてみても、どれだけ立派なことを叫んでもそれは小さいこと
それを認め、共に動いてくれる存在がいなければ止まってしまう
仲間という存在は一人では生きていけない私達が生きていくために見つけ出した手段なのだろう

結局、私、そんな一人は小さい歯車(motor)にすぎないのだろう
歯車を集めて、互いに支え合って大きな力になる、そうなのだろうか

309名無しリゾナント:2011/08/20(土) 23:41:20
じゃあ、それが二人だったらどうなのだろうか?
それも大切な二人を―さえみと親友、亀井絵里を失ったならば?
ここで言っているのはもちろん、道重さゆみのことだ

あの子は自分では気付いていないが依存して生きていた
「気付いていないこと」、それは彼女にとって偶然ながら幸せなことだろう
なぜなら、今はまだツライだけの感情が先走っているのだから

私くらいの年齢になれば誰だって大切な人を失うという経験はしたことがあるだろう
悲しみにうちひしがれ、思い出を巡り、最後には居なくなったことを受け入れる、そんな過程を取る
関わりが深ければ深いほど立ち直るまでには時間がかかる
そう、彼女が耐えなくてはならないのはこれからなのだろう
笑ってくれる仲間は多くても、一番傍にいた人がいない、一番近くで慰めてた人を失った

でも、こういうときだから泣くのが一番なんだろう、悲しい時なんだからこそ
止めたりしちゃダメ、素直の心を溢れるままに任せていけばいつかは気持ちは晴れるんだろう
溜めこんでいて誰にも言えなかったからこそ、爆発してしまった
弱さを見せること、それは本当の意味での強くなるために必要なことなんだから

これくらいしか私はこの子にかけられる言葉は無いのだろう

あの日−道重さえみが暴走した日、私はダークネス本部に戻ってきた
それは、矢口の計画に隠されたもう一つの計画をするため
ボスから「矢口が動く」との連絡が入って来て、急いでここにやってきた
そして急いで…道重のもとへと『移動』した。そうあの『移動装置』を使って

マルシェ達もリゾナンターも疑問に思っていたのだろうか?訊かなかったが
どうやって道重と熊井があんな倉庫から遠く離れた森の中に移動したのか、ということを
どうやったとしても誰かに見つかってしまうだろう、あの二人だけの移動では

だからこそ私が時間を止めて二人をあの場所へと送ったの
もちろん二人ともなんであの場所に現れたのかは疑問に思うから、手紙を残しておいたけどね

310名無しリゾナント:2011/08/20(土) 23:42:24
ボスから「矢口が動く」との連絡が入って来て、急いでここにやってきた
そして急いで…道重のもとへと『移動』した。そうあの『移動装置』を使って

マルシェ達もリゾナンターも疑問に思っていたのだろうか?訊かなかったが
どうやって道重と熊井があんな倉庫から遠く離れた森の中に移動したのか、ということを
どうやったとしても誰かに見つかってしまうだろう、あの二人だけの移動では

だからこそ私が時間を止めて二人をあの場所へと『送った』
もちろん二人ともなんであの場所に現れたのかは疑問に思うから、手紙を残しておいたけどね
手紙には宛名は書かず、住所とこの建物が誰にも使われていないので人が来ないことを記しておいた
その手紙は・・・裏に熊井が雅を助けるために『逃げて』と書かれていたわね
そう、あの時、マルシェとリゾナンターをさえみの光から救う時に取り返させてもらったわ

ただ時間が止まった間は私が触れたもの以外は動かせないから、移動する時に余計なものも移動させざると得なかった
そう、それは死んだ隊員と部屋に置かれたテーブル
あの装置で隊員の一部とテーブルの角が削られて、その部分は異空間へと消えた
だからこそ、あんな綺麗な円形に抉られたテーブルが残してしまったのだ
もちろんすぐにリゾナンターが来てしまったので処理することが間に合わなかったのが残念だが仕方がない
幸運なことにあいつらはそのことに気がつかなかったのだが

なんのためかって?それはシンプルな理由
道重の暴走をより強力にするには一旦エネルギーを抑えなくてはいけないから
食事もこっそりと『嗣永印』の野菜を置いて届けるなど、支給していた
時間がたてばたつほど怒りのエネルギーが強くなる、そうボスがおっしゃっていたからそれに従っただけ
―そう、私はそれに従っただけのこと

そして実際に、さえみは私達の想像以上の暴走を見せてくれた
残念ながらリゾナンターを消すことは出来なかったが、まあ、それはいいだろう
必ず成功する作戦は無いのだし、リゾナンター達は仲間を失ったと思い落ち込んでいるのだから

311名無しリゾナント:2011/08/20(土) 23:43:40
・・・
そろそろ会議の時間だわ、またここに来るわね
さあ、強欲の象徴のみんな、またお会いしましょうね

あ、そういえばあなたにはまだ何も置いてなかったわね、新入りさん

はい、これ、あんたの好物なんでしょ?置いておくわね

ピンク色のお漬物とチーズケーキ

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

『聖痕』−それはイエス・キリストが磔刑となった際についたとされる傷
足首なり手首なりに残され、科学では証明できない神秘の傷

部屋を去る保田を見送る人は誰もいない
みな、永遠の時の中に閉じ込められているのだから

しかし、保田は知らない、たった今『お供え物』を置いた栗色の髪の女が残したものを
それは服で隠れた彼女の背中の傷

タイプは違うのだろうがある意味ではその傷も『聖痕』と言っていいのかもしれない
女の背中には傷が浮かんでいた
そして、その傷は部屋を出ていった保田の背中にも同じ位置にできている

健康的なその肌に刻まれていたのは本当に短い文章
『絵里は生きてるよ』

保田が出ていき暫くするとその女の目が金色に光った・・・ように見えた
それは部屋に差し込む僅かな光の加減なのかもしれないし、そうではないのかもしれない

312名無しリゾナント:2011/08/20(土) 23:45:38
『Vanish!Ⅱ〜independent Girl〜』エピローグ(3)で、完結です
半年かかってようやく完成しました。お付き合いいただきましてありがとうございました
あとがき書いておくので、そちらも読んでいただけたら嬉しいです

最後の代理投稿よろしくお願いします

313名無しリゾナント:2011/08/21(日) 01:48:00
行ってまいりました

314名無しリゾナント:2011/08/21(日) 10:01:54
ありがとうございました。本当に何回もしていただきまして(+o+)

315名無しリゾナント:2011/09/18(日) 04:55:18
 ■ テンクトナイ −能力者− ■  

「吉澤サン!吉澤サァン!」
「あ?ああ…タ……シ…」
「よ…よじざわさぁ…」
「悪かったな…無茶な頼みごとばっか押し付けて…
それと…ふふっ…今夜はサンキューな…
さ…最後にお前と…"踊れて"楽しかったよ…ベイベー…」

"共鳴者"は首を振る。少女のように、そう「あの頃の」ままに。
吉澤と共にいた、あの頃のように。

あぁ…そうだ…勝ったら教えてやる…約束だったっけ…
三つ目は…」

吉澤の声は屋上に吹く突風にかき消され、言葉は"共鳴者"にだけに伝えられた。

「そう…さ…笑っちまうよなぁ…それが…俺たちの"能力"の本質さ…
そんなもののために…いや…だからこそ…俺たちは守らなければならな…
"D"から人間を…人間から…"D"を…俺たちは…そのための"器"…そのための"組織"…」

吉澤の声はかすれ…床には鮮血の海が広がっていく。

「た…た…シ…頼む…ぜ…"組織"を…"GOD"を…
お…俺たちは…"M"…悪を…粉砕…する…せ…せぃ…ひ…」

「…粉砕する正義の鉄槌。"モーニングスター"…明けの…明星…」

最後の言葉は"共鳴者"によって紡がれた。

316名無しリゾナント:2011/09/18(日) 04:56:51
…沈黙…

これ以上ないほどの、優しい、悲しい、微笑み。

吹きすさぶ風…

…そして"能力者"だけが残された。

朝日が昇る…剣のような一筋の光が、闇を切り裂いてゆく…
切り裂かれた闇は苦痛に身をよじり…
怯え、悶え、哭き叫び…それでも…光へ戦いを挑む…
やがて…全てを日の光に焼かれ…消えゆくとしても…闇は抗い続ける…
決して勝てぬと知りながら…

"能力者"は立ちあがる。
光の剣から己の体で最後の闇を守るように。

…もう、そこには、もう…

太陽に背を向け、"能力者"は…

317名無しリゾナント:2011/09/18(日) 05:02:37
>>315-316

 ■ テンクトナイ −能力者− ■ でした。

http://gree.jp/michishige_sayumi/blog/entry/599540353
この衣装のイメージと"あの歌"でようやく踏ん切りがつきました

318名無しリゾナント:2011/09/18(日) 10:28:54
♪おはよん
 今から行ってくるよん

319名無しリゾナント:2011/09/18(日) 10:32:07
♪いってきましたよん
 代理だということを書き忘れたけどw

320名無しリゾナント:2011/09/18(日) 15:05:05
 ■ ミスタームーンライト −共鳴者− ■ 

吹きすさぶ突風が屋上を駆け抜け、
"共鳴者"と"能力者"が相見える。

「よぉ、やっときたか新人」
「………」
「はは。もうすっかりそう呼ばれることも無くなったってか?…が俺からすりゃ新人だよ…まだ、な。」
「………」
「あぁ。下の?見てきたのか。
もう済んじまったよ。…遅すぎたな」
「……!」
「そんなことより、さ。
今夜はお前に言っとかなきゃならないことがあってさ。」
「……?」
「言っときたいことは、"三つ"。それと…
まあ、頼みごともあってさ。」
「………」
「相変わらず熱いな。よくそれでリーダーやってられんな。
まあ"だからこそ"お前には話とかなきゃならないんだ…」

「まず、一つ目。後藤が死んだよ。」
「……!」
「知らなかったか?だろうな…最初はお前らかと思ったが…どうやら別の連中らしい。
まあ今はそれはどうでもいいんだ。そう…"どうでもいい"。」
「………」
「優しい奴だなぁ…後藤もいい後輩持ったもんだよ。」
「………」
「二つ目…"A"の脳波に反応が出た…おそらく、目を覚ますだろう…新垣には言うなよ」
「……!」
「つうか誰にも言わねえか…お前は言わない…そう言う奴さお前は…優しいからな。」

321名無しリゾナント:2011/09/18(日) 15:06:15
「………」
「三つ目、こいつは言葉だけじゃ伝わんねえ。
うん。これは伝わらねえ…。」

「だから、さ、新人。
あのときの"続き"をしようや。」

「………」

「勝ったら教えてやる…
おまえがもう新人じゃねぇってとこを見せてみろよ。」

「…!…!」

「ああ…だがお前は逃げない…優しいからな…そうだろ?」

風が止んだ。

月光がステージを照らす。


「さぁ…『僕と踊りませんか?ベイベー』」


力と、破壊の、インプロンプト。

322名無しリゾナント:2011/09/18(日) 15:08:05
>>320-321
 ■ ミスタームーンライト −共鳴者− ■ でした。

以上代理投稿お願いいたします

>>319
どうもありがとうございました
お手数おかけします

323名無しリゾナント:2011/09/18(日) 16:00:17
行ってきますかね

324名無しリゾナント:2011/09/18(日) 16:07:34
完了しました
敢えて時間軸を遡って描いたことで戦士の非情な宿命みたいなものが感じられたように思えます

325名無しリゾナント:2011/09/19(月) 19:01:37
>>324
投稿、感想ありがとうございます

それと…
>テンクトナイってなんだろう?
>歌の英語部分の音読とか?
御明察の通りです

326名無しリゾナント:2011/09/19(月) 20:12:15
ちょっと静かなうちにうpしようと思ったら、やっぱり規制されました。
どなたか代理お願いいたします


映画チラシ風?完全自己満足画像集です
【Resonant00】の9期は勝手にオリジナル設定です。こんなのもありかな、くらいの緩い気持ちで見ていただければ嬉しいです。
そして【Resonant-I】は『R-Infinity(5) 最後の夜を、君と』の作品からリゾナントさせていただきました
作者さんのイメージと異なっていたらすみません…
『00』の方に8期がいないのは自分のイメージとあう画像が見つからなかったからです
決してはぶってるとかそういうのではありません!(なんてったって作った人が愛佳推しですw)
いいのが見つかり次第すぐに作ろうと思っています。その時はまたお付き合いいただけると嬉しいです

ttp://www1.axfc.net/uploader/H/so/143069  リゾ00
ttp://www1.axfc.net/uploader/H/so/143075  リゾーI
パスワードは『resonanter』

327名無しリゾナント:2011/09/19(月) 20:46:46
まだ見てませんが楽しみです
早速貼ってきます

328名無しリゾナント:2011/09/19(月) 21:42:37
>>327
早速ありがとうございました!
またお世話になると思いますが、どうぞよろしくお願いします。

329名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:14:00
 ■ トラストオアコンフィデンス −鞘師里保X生田衣梨奈− ■

「じゃさっき決めた待ち合わせ場所先行ってるから」
「ほーい…TVビル…とこの…プツツ…植木の前…っじゃあすぐ…プツ…」

切れた…圏外…?おかしい、さっきまでそんなことはなかったはずだが…

「なんか電波が悪いみたいだ…」

静寂

「よ…あれ?」

無人

鞘師は周囲を見回した

先ほどと変わらぬ景色。
青果コーナー、鮮魚、精肉…。
だが、消えている。

人が…消えた。

―――――

330名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:14:31
「里保ちゃん?」
鞘師の前をスキップしていた生田はふと鞘師に声をかける。
すぐ後にいると思っていた鞘師ははるか後にいた。
床にカゴを置き、ぼぅっと突っ立っている。
「もー鞘師ちゃんおっそいっちゃ」
ぴょんぴょんと飛び跳ねる
「はやくはやく」
ぼぅっと突っ立っていた鞘師がふと我に返ったように周囲を見回す。
顔を撫で、両手を握ったり閉じたりしている。
やがて生田の存在に気づくとカゴを抱えこちらに歩き出した。

―――――

331名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:23:22
「イクちゃん?」

静寂

返事はない。

不覚だった。

きっと予兆はあったはずだ。
普段の鞘師ならばもっと早い段階で何かしらの異変を察知できていたはずだ…だが…
「イクちゃんか…」
【精神破壊】その副産物のような効果によって生田の周囲には常に精神的な妨害作用が撒き散らされていた。
思考は鈍磨し、注意力、集中力、あらゆる精神活動は本来の精度を保てなくなる。
水軍流によって育まれた危機を察知する鞘師の能力もまた生田の能力の影響を大きく受けてしまっていた。
そのうえでなにをしでかすかわからない生田の一挙手一投足を観察し先を読み続けるのである。
知らず知らずに生田に注意力を集中しすぎてしまっていた。
こういう事態もありえると、常日頃、鞘師自身気を配ってはいたはずだった。
若さ、経験の不足。まだまだ、未熟だった。
水軍流に限らず武術の世界でいの一番に教えられる教訓『一つ所に留まらない』これを完全に見失っていたといえる。
それにしても、ここまで鈍らされるとは。

332名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:32:07
だが自分ひとりを除いて一瞬で
これだけの人間を煙の如く消し去る。

333名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:33:04
だが自分ひとりを除いて一瞬で
これだけ大量の人間を煙の如く消し去る。
そんな非常識な事が起こりえるのだろうか?
これだけ大規模な事態の予兆にまったく気が付かないなどということがありえるのだろうか?

334名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:41:13

「かのんちゃん達、平気かなぁ」

335名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:44:42
生田の事など、

336名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:46:14
まるで

337名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:46:47
まるで気にする様子もなくそうつぶやく。

338名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:48:15
「イクちゃん?」

静寂

返事はない。

不覚だった。

きっと予兆はあったはずだ。
普段の鞘師ならばもっと早い段階で何かしらの異変を察知できていたはずだ…だが…
「イクちゃんか…」
【精神破壊】その副産物のような効果によって生田の周囲には常に精神的な妨害作用が撒き散らされていた。
思考は鈍磨し、注意力、集中力、あらゆる精神活動は本来の精度を保てなくなる。
水軍流によって育まれた危機を察知する鞘師の能力もまた生田の能力の影響を大きく受けてしまっていた。
そのうえでなにをしでかすかわからない生田の一挙手一投足を観察し先を読み続けるのである。
知らず知らずに生田に注意力を集中しすぎてしまっていた。
こういう事態もありえると、常日頃、鞘師自身気を配ってはいたはずだった。
若さ、経験の不足。まだまだ、未熟だった。
水軍流に限らず武術の世界でいの一番に教えられる教訓『一つ所に留まらない』これを完全に見失っていたといえる。
それにしても、ここまで鈍らされるとは。

だが自分ひとりを除いて一瞬でこれだけ大量の人間を消し去る。
そんな非常識な事が起こりえるのだろうか?
これだけ大規模な事態の予兆にまったく気が付かないなどということがありえるのだろうか?

「かのんちゃん達、平気かなぁ」

生田の事など、まるで気にする様子もなくそうつぶやく。
ここにいても仕方がない、鈴木香音らとの待ち合わせ場所に行ってみよう。
鞘師は歩き出した。

―――――

339名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:48:51
「でね!エリおもったっちゃ!
やっぱりチョコクリームよりホイップクリームのほうが
イチゴには合うって!そうおもわんと?」
「うん」
鞘師がにこやかに微笑む。
先ほどからずっと生田が一方的に話し続けている。
「衣梨奈ちゃんおトイレ一緒に行こう」
しばらくすると鞘師がそう提案してきた。
「うん!行く!行く!」
二人は手を繋ぎ歩いていく。

―――――

340名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:51:16
「ふーん」

鞘師は立ち止まった。

「違ってた」

鞘師は周囲を見回した

先ほどと変わらぬ景色。
青果コーナー、鮮魚、精肉…。

出られない。

鞘師は待ち合わせ場所まで行こうとした。
が、しばらく歩くと、いつの間にかここに戻ってきてしまう。
このフロアから、この食品売り場から出られない。

「違ってた」

もう一度そうつぶやく。

自分ひとりを除いて一瞬で人を消し去る…そうではなかった。

消えたのは…

「私のほうか」

特に何の感慨もない。
鞘師は、ただ淡々と事実を確認した。

―――――

341名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:51:56
それぞれが個室に入っても生田はしゃべり続けていた。
「やっぱり平成ライダーの中ではWが一番かっこいいっちゃ!
ふぃりっぷ君としょうたろうだったらやっぱ攻めはふぃりっぷ君で…」
鞘師は無表情のまま貯水タンクの蓋を開ける。
タンクに手を入れ何か包みを手に取る…隣の生田に聞こえぬよう静かにビニールを破る…
鞘師は、ちいさな顔の、ちいさな眼と口で、にまーっと笑った。

ズガン!

一瞬の出来事だった。

トイレの個室を仕切る壁は、薄い合板二枚で出来ていた。
その壁が突然ぶち破られたのだ。
同時に生田の腕が突き出され、鞘師の腕をわしづかみにする。
その腕に握られていたのは…拳銃だ。
バリリッ!バリリッ!
恐ろしい力で壁を破壊し生田の肩と頭が現れる。


「お前…だれっちゃ?鞘師ちゃんを…どこにやった?」


―――――

342名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:52:54
さて、どうするか…

鞘師は一応考えてはみる。

が、答えはもう出ていた。

どうしようもない。

おそらくは能力者による攻撃を受けたのだろう。

幻覚か?…白昼夢のようなものを見せられているのか?…いや違うな…おそらくこれは…
近距離での物理的戦闘においては、ほぼ無敵の鞘師の弱点、それは心の脆弱性。精神系能力者からの攻撃だった。
初陣のとき、戦況を有利に進めていながら一瞬のうちに気を失い、ズタボロにされた苦い経験がよみがえる。

訓練で新垣さんに【精神干渉】をかけてもらったことがある。
そこで得た結論は
『かかったらどうしようもない』という事実。
何度もかけてもらい自分なりにたどり着いた結論だった。
精神系の能力であれ、その発動の直前、敵意や殺意、あるいは害意のようなものは必ず発生する。それを察知し、敵の能力の発動前に何らかの対処をする。それしかない。
まったく無防備な状態で"かけきられてしまっては"もうどうしようもなかった。

結論としてはどうしようもないのだが、鞘師は別に悲観しているわけでも
絶望しているわけでもなかった。

ただ事実を確認しただけだ。

343名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:53:43
だが事実とは常に過去にのみ適用される。

鞘師はそう考えている。

少なくとも未来を諦めるための言い訳の道具ではない。

方法はある。

鞘師は確信している。

鞘師にはどうしようもない。これは事実だ。だが…

「さて、"そろそろ"かな」

―――――

344名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:56:32
「お前…だれっちゃ?鞘師ちゃんを…どこにやった?」

「くっくっく。よく見破ったな。おっと馬鹿なことは考えるなよ?
この体は間違いなく鞘師里保なんだからな。」

「鞘師ちゃんを返せ」

「さぁどうかな?そいつはお前次第だ。まずは手を離してもらおうか?
…どうした?この体がどうなってもいいのか?」

「鞘師ちゃんを返せ」

「おい…聞いてるのか?この手を離せ。このまま舌を噛み切ってもいいんだぞ?」

「鞘師ちゃんを返せ…返せ…」

「おい?待て待てどうするんだ?え?返して欲しくばおとなしく言うことを…」

「 カ エ セ ! 」

生田は力を解放する。
生田の憎悪が、怒りが、無限地獄となって鞘師へとなだれ込む。

【精神破壊(マインドデストロイ;mind destroy)】

ぐ…ぐぎゃあああああああああああああああああ

―――――

345名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:57:06
気が付くと鞘師はリゾナントの入っているビルの倉庫にいた。

「鞘師っ!しっかり!鞘師っ!よかった…鞘師!無事?」

リゾナントのみんなが鞘師をコンクリの床に押さえつけていた。

みな汗にまみれ全身に打撲と大小の傷を負っている。

大体の想像は付いている。

どうやらほぼ思ったとおりの展開になっていたようだ。

「すみません…みなさん…」

傷は鞘師がつけたものだろう。

いや、"鞘師に乗り移っていた能力者が"鞘師の体を使って暴れたのだ。

そう。発狂して。


―――――

346名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:57:56
高橋が駆けつけたとき、生田は泣きながらへたり込み
鞘師は白目を向いてひきつけを起こしトイレの床をのた打ち回っていた。

即座に状況を把握した高橋は二人を連れてリゾナントへと飛んだ。

【精神干渉】により、
鞘師が【憑依】系の能力者によって支配されたこと、
その能力者を生田がまったく無計画に衝動的に"焼いた"ことを理解したとき
新垣は戦慄した。

もしかしたら鞘師の精神まで破壊するかもしれない。
生田はそんなことまるで意に介さず
躊躇することなく鞘師の"中にいるもの"を破壊したのだ。

―――――

347名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:58:33
「ごぇ…ごぇんなざいざやじぃぢゃぁん」

生田が泣きながら鞘師にすがり付いてくる

「鼻水…きたないから…」

鞘師が傷だらけの腕で…やっぱり傷だらけの生田の顔を押しのける。
生田の顔や腕には、ささくれた木の破片が無数に突き刺さっていた。
血まみれのその顔を見ながら、鞘師は生田に笑ってみせる。

「いいよ。イクちゃんなら、躊躇しないって判ってたから。」

もし、仮に生田が空気の読める子だったのなら…
大切な仲間の身体を気遣い、鞘師への攻撃をためらうような子だったのなら…
事態はさらに最悪な状況へと陥っていただろう。
鞘師の命だけで済めばよい。
場合によってはフクちゃんや高橋さんたち…
最悪の場合、鞘師の身体が、かのんちゃんの命まで奪っていたかもしれない。
考えるだけでぞっとする。

そうだ。思ったとおり生田はベストな選択をしてくれた。

それは、信頼…というより確信だった。

『イクちゃんはポンコツだから』

必ず後先考えず、目の前の敵を攻撃する。

あとは、鞘師が憑依されていることを生田が見抜けるかどうか?

不確定材料があるとすればそれだけだったのだが…

348名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:59:03

「それにしても生田、よく鞘師が憑依されてるって見抜いたっちゃね」

田中が生田に問いかける。

「???ひょう?い?」

「え?」

「え?」

一瞬その場の空気が凍りつく。

「えええええ!!!!」

「もしかして勘?勘?勘だけで何の根拠もなく鞘師に【精神破壊】をぶっ放したって言うの?!」

生田の顔に???が並ぶ…
何も考えていない。その表情が物語っている。

「コラアアアアアア!生田ぁ!アンタねぇ!!」

新垣さんのお説教が始まった。

ははは…

鞘師は心の中で笑った。叱られている生田を見るのは、なんだか気分がいい。


「ははは…イクちゃんって…やっぱりKYだよなぁ」

349名無しリゾナント:2011/09/25(日) 16:03:52
>>329-330
および
>>338-348

 ■ トラストオアコンフィデンス −鞘師里保X生田衣梨奈− ■ でした

以上代理投稿お願いできませんでしょうか?
どうぞよろしくお願いいたします

途中、NGワードがありまして
ワードを特定できず、貴重なレスを無駄に消費したことお詫びします

350名無しリゾナント:2011/09/25(日) 19:36:45
長いな
まあ行ってみますかね

351名無しリゾナント:2011/09/25(日) 19:53:04
だが事実とは常に過去にのみ適用される。

鞘師はそう考えている。

少なくとも未来を諦めるための言い訳の道具ではない。

方法はある。

鞘師は確信している。

鞘師にはどうしようもない。これは事実だ。だが…

「さて、"そろそろ"かな」

―――――

352名無しリゾナント:2011/09/25(日) 20:01:06
慌てた所為で1レス抜けてしまった
ある意味一番の見せ場というか鞘師の真骨頂の部分があたら間抜けたことにw
申し訳ない

353名無しリゾナント:2011/09/27(火) 00:07:21
>>352
いえ
こちらこそ途中に無駄レスが挟まって紛らわしい投稿だったので…
気になさらないでください

面倒な投稿依頼を引き受けてくださりありがとうございました
--------------------------------------------------------
※補足願い

このスレで言うと>>338
本スレで
>309 :代理募集中。。。:2011/09/25(日) 19:41:09.32 0

なのですが末行から6行目、
>生田の事など、まるで気にする様子もなくそうつぶ

となっていますが、ここを

生田の事など、まるで気にする様子もなくそうつぶやく。

に変更していただけないでしょうか?
どうぞよろしくお願いいたします

354名無しリゾナント:2011/10/30(日) 23:25:26
私の名前は譜久村聖
喫茶リゾナント近くのアパートを借りて、えりぽん、香音、里保ちゃんと共同生活をしている
初めは某大人な子供が「いやなの、りほりほはさゆみと一緒に住むの!」と散々駄々をこねたが・・・
リーダーの高橋さんが「4人で住ませた方がいい」と必死に説き伏せた
新垣さんは「中学生だけで住ませるのってどうなの?」と思ったようだがそれも何とかなった
だって高橋さんは知っているから・・・私が・・・『未来から来たリゾナンター』だということを・・・


「みずぽん、何してるの?さっきから何回もカレンダー見ているけど?」
「え?そうかな?」
「そうだよ、聖ちゃん、なんどもカレンダーの方ばっか見てるんだろうね」
「え〜そんなことないって〜二人とも思い違いだって〜」
そういって私は笑いを顔に浮かべているが、横から飛んでくる冷たい視線がなんだかイタイ

「ほらほら、そんなこと言っていないで4人ともれーなが作った特製セット食べると」
そう言って私の目の前にどうしても『お子様ランチ』と称せざるを得ないプレートがならんだ
「わ〜かわいい!」
そう言ってさっそく旗の刺さったチキンライスにスプーンを入れるのはえりぽん
一方えりぽんの横に座っている香音は口いっぱいにハンバーグを頬張って幸せそうな表情だ

「ほらほら、そんなことすると喉詰まるから、ゆっくり食べる!」
新垣さんの注意にも香音はあんまり気にしていないようでグフフと笑ってばかり

それに対して
「ほら、りほりほも早く食べるの!さゆみも手伝ったの。
 真っ赤なうさちゃんウインナー、さゆみが作ったの!食べて、食べて!はぁはぁ・・・」
道重さんの必死なアピールにも私の横に座っている鞘師ちゃんは「はあはあ」といってあまり嬉しそうではない
・・・それはそうだろう、こんなおこちゃまの食べるものを『水軍流』の継承者、鞘師里保が好むはずがない
冷静沈着、頭脳明晰、努力の天才、そんな言葉が似合う彼女には『お子ちゃまランチ』なんて似合うはずもない
おそらく今無理やりされている二つ結びも引きちぎりたいくらいのものなのだろう

355名無しリゾナント:2011/10/30(日) 23:26:38
「あれ?フクちゃんも食べとらんと?もしかして遠慮しとると?」
「まあ、確かにフクちゃんにはちょっと子供かもしれないけど、ほら、子供向けのメニュー会議だからさ」
田中さんと新垣さんの会話を聴いて慌てて私はフォークを手にしてナポリタンをくるくるっと巻いた
意外に美味しかったのでほっぺに指当てて「ヴォーノーーー」と言ってみた
一瞬の静寂の後、みんな笑いだした
「フクちゃん、何言っていると〜」「ふくちゃん、面白いの」「みずぽん、どうしたっちゃ?」
その輪の中にもやはり鞘師は入ってこようともしない

目の前でケラケラ笑っている生田衣梨奈は『精神破壊』の能力者
それも制御できておらず、常に垂れ流しの状態で自分自身の心まで壊れる寸前だったという
そんな生田の心を溶かし、人間らしさを再び与えたのは今、横に座っている鞘師里保だという
感情を、表情を失った生田を優しさで包み込んだ里保ちゃんには力ではなく技術で人の心を読むことができる

だからこそ・・・私は恐れているのだ
こうやって・・・高橋さん以外には誰にも言っていない秘密を、未来から来たことを知られることを
今でも思えている、もう半年以上前になる、高橋さんに告白した日のことを

高橋さんは私の話を聴いている間、何も言わずにあのまっすぐな瞳を私に向けてくれた
もちろん初めは信じられないようであった。仕方ないであろう、逆の立場でも信じられる話ではない
ただ、カバンに入れられていたボロボロの「A」「R」のお守りを見せたところ信じてくれたようだ
「私は何も教えられないかもしれないけど、聖ちゃんなりに私達を見て、学んでほしい」
そう言った高橋さんからは本当にたくさんのことを学ばさせてもらった
優しさの本当の意味、強くなることの価値・・・数え切れない

そして一つだけ高橋さんにお願い事をした
私―譜久村聖が未来から来た人間だと誰にも言わないで欲しいと

356名無しリゾナント:2011/10/30(日) 23:29:09
それは未来から私を送ってくれた光井さんの手紙に書いてあったことだし、私も望まなかったから
だって、未来が変わってしまったら私が消えてしまうかもしれないから
そんなことをみんなに考えさせたくなかったから知って欲しくなかった
「本当にいいの?」
そんな私の思っているのを当然のように悟った高橋さんに私はこう答えた
「いいんですよ、未来が変わってくれればみんなが幸せになるんだから」

その言葉を聴いた高橋さんの表情が一番残っている
悲しいとも怒っているとも何とも言えない表情で『そう』と呟いたのだから

その小さい呟きは私の中で今も渦のように消えない
『自己犠牲』、そんな簡単な言葉で済ませられる簡単な事実
小さな勇気をもって、勇者となるために私は未来から送られてきた
それは仕方ないと思っていたし、自分でも納得していた

でも高橋さんと出逢い、新垣さんに怒られ、田中さんに気を使って、道重さんから里保ちゃんを守って
えりぽんのテンションにあきれ、香音と笑って・・・気持ちが揺らぎ始めていた
みんなと一緒にいると『楽しい』『心の底から笑顔でいられる』何かが変わり始めているのを自覚していた

『何のために過去に来た、何のためにリゾナンターになった』

それを迷うことが多くなっていた。本当なら・・・未来は変えたい、でも、みんなと一緒にいたい

でもそれは同時に叶えられることなのか・・・わからない
だからこそ、こうやって誰にも言わないでいるのだと思う
言ってしまったら、もう戻れないような気がして

だから一番怖いのは里保ちゃんになっていた
嫌いなわけではない、むしろ大好きだ。もちろん道重さんとは違う意味で
でも、あの目が怖い―全てを見透かそうとしてくるあの無邪気な刃
もちろん、そんなことを里保ちゃんは考えてもいないのだろう

357名無しリゾナント:2011/10/30(日) 23:30:55
普段から食べるのが人一倍遅い私だったためかこうやって考えながら食べても誰も不思議に思わなかった
「ごちそうさまです」
ナプキンで口元を拭き、ついでに香音ちゃんの口も拭いてあげた
「フクちゃん、お母さんみたいなの」
道重さんの言葉に若干傷つきながら私達4人はアパートへと帰るために席を立った

「どうだったと?」と田中さんが訊いてきたので「美味しかったです」と答えた
えりぽんも香音もうんうんと大きく首を振って答えたからか、田中さんは満足げだ
「それではまた明日も来ますね。ご馳走様でした。おやすみなさい」
里保ちゃんが挨拶をするとそれぞれ「おやすみ〜」と返してきた

「ねえねえ、えりぽん、アイス買いに行こうよ〜」
「いいっちゃね!よし決めたっちゃ!コンビニに後に着いた方が二人分奢るとよ!よーい、ドン!」
勢いよく走っていくえりぽんを追って香音が駆け出した
「もう、二人とも知らないよ・・・」
大抵里保ちゃんはこういう遊びには参加しない

「そんなことよりフクちゃん、何かあった?おかしいよ、最近」
・・・ほら来た。やはり水軍流の目を誤魔化すのは至難の業
「二人ですら気がつくくらいにカレンダーを見てるし、やたら時間を気にしている」
うん、時間、時、それが気になってしまうんだよね。時が・・・
「二人に言えないことだとしても私に相談してくれてもいいんだからね」

その優しさが辛かったりするのよ・・・時間が止まればいいのに

「ねえ、フクちゃん。私達は仲間である以上に友達なんだからね、だから・・・」
「え〜里保ちゃん、ありがとう〜かわいい〜」
「!!ちょっとやめてよ!フクちゃん、恥ずかしいって」

・・・道重さん、あなたの技借ります。こうやっておけば里保ちゃんは何も言えなくなるって知ってるから
そうしてこの日はなんとか誤魔化しきったが・・・次の日、『その日』がきた、いや来てしまった

358名無しリゾナント:2011/10/30(日) 23:31:54
                ★   ★   ★   ★   ★   ★

寝ぼけた頭で朝に弱いみんなを起こし、身支度を済ませた
そしていつも通りに朝食を作ってもらうためにリゾナントに向かった
「おっはようございま〜す!」「おっは〜」
これもまた、いつも通りに能天気な二人が元気にあいさつする

「・・・何かおかしい」
里保ちゃんが呟くと同時に、田中さんがキッチンの奥から飛び出してきた
「あ、4人ともおはよう!ねえ、愛ちゃん知らんと?
 愛ちゃんがどこにもおらんっちゃけど!
サユもガキさんも愛佳も愛ちゃんがどこにいるか知らんっていってると!」

驚きの声をあげる能天気な二人に対して私はまた隣の水軍流から刺される視線を浴びることになった

それは今から約一か月前、10月1日のこと

359名無しリゾナント:2011/10/30(日) 23:43:07
・・・いいタイトルが浮かばない。
3時間くらいで作った話なので簡単ですがフクちゃんの生誕も込めて(笑)
一応『聖なるもの』シリーズの続きです
一日限定で復活してみました。日付が変わったらまたホゼナンターに戻ります。

360名無しリゾナント:2011/10/31(月) 22:28:17
ヤバイ
折角の生誕作品がw
取り急ぎ行ってまいります

361名無しリゾナント:2011/10/31(月) 22:36:38
とりあえず終了
作品が来てないか見に来た時は無くて、見に来れないときは来てるのねw

362名無しリゾナント:2011/11/01(火) 08:30:21
代理ありがとうございます。
生誕間に合わせるなら自分で投下しろよって話ですよねw
>>361さんの気持ち凄くわかります。あまり更新されないですからね(汗

363名無し募集中。。。:2011/11/21(月) 17:13:31
この日、愛はあるひとりの男に自分のいれたコーヒーを飲んでもらいに新宿のある喫茶店を訪れた。

「どう?」
「前よりもコクが出てきた。あの人の味に近づいている。」
「よかったやざ。伊集院さんにどんなことを言われるか心配しとったやざ。」
「頼むからその伊集院さんはやめてくれないか。」

男はサングラスをかけており、黒人風の巨漢の男である。
とても喫茶店のマスターには見えなかった。
だが、今は愛に名前を呼ばれて妙に恥ずかしがっているものも・・・

「だって、ばあばがそう言ってたやよ。伊集院さん。」
「だからそれはやめろ!」
「何を朝から騒いでいるの、ファルコン。あら、愛ちゃんいらっしゃい。」
「美樹さん、お邪魔しています。」

実はこの喫茶店は開店する際に愛の祖母から手ほどきをうけており、ここのマスターであるファルコンこと伊集院とそのパートナーである美樹にとっては愛の祖母は恩人のひとりなのである。

「あっ、そろそろ店に戻らんと。それじゃあ、また来ます。」
「ええ、もう帰っちゃうの?」
「その方がいいだろう。そろそろあのもっこり野郎が現れるかもしれんなからな。」
「そうね、愛ちゃんを見たら冴羽さんがもっこりするのは確実だから。」
「噂だけは聞いてますけど、その人に一度でいいから会ってみたいやざ。」
「やめろ、お前とあいつが会うと店が破壊されかねない。」
「そんな大げさな・・・」

いろいろ気になることを聞かされながらも店をほおってはおけず愛は新宿を後にした。

364名無し募集中。。。:2011/11/21(月) 17:15:07
喫茶リゾナント
「いらっ・・・・あ!愛ちゃんおかえり!」

店ではれいなが必死に接客をしていた。
その傍らでは絵里とさゆみも手伝っていた。

「今日はごめんやざ。すぐに店に戻るから。」
「いや、いいの。さゆみたちで手が足りているし。愛ちゃん、新宿から帰ったばかりなんだから少し休んでもいいの。」
「そうか、じゃあ1時間ほど上で仮眠するやよ。でも、何かあったら遠慮なくいってや。」

愛が二階に行こうとすると・・・

「愛ちゃん、待った!」
「何や?絵里?」
「1時間ほど前に愛ちゃんにお客さんが来てた。」
「あーしにか?どんな人やざ?」
「うーんとね?見た感じが愛ちゃんにそっくりで・・・でも愛ちゃんと違ってすごく高貴な印象だったよ。」

「絵里軽く失礼なことを言ってるの。」
「・・・他には・・・」
「後は亜麻色髪の乙女かな?」
「絵里、それだけでわかるわけやなかと?」
「誰かわかったやざ。」

365名無し募集中。。。:2011/11/21(月) 17:15:54
絵里の説明だけで愛は尋ねた人が誰かわかった。
「それで何か伝言か何か残したんか?」
「うん・・・確かね・・・・はい。」

絵里がエプロンのポケットから紙を取り出した。
愛はそれを受け取ると二階へと駆け込んでいった。

魅惑の水さんルーム
愛は絵里から渡された手紙をじっと見ていた。
そこには高貴な雰囲気を醸し出す紋章が描かれていた。

「サファイアが日本に来たんか・・・そしてあーしに助けを求めとる。」

366名無し募集中。。。:2011/11/21(月) 17:25:37
>>363-365
「リゾナンターSP シルバーランドの姫君 (1) 」

どうもリゾクラ作者です。
ある程度骨組が完成したので序章を公開しました。

前スレが突然落ちたためなのか愛ちゃんが卒業したショックなのかリゾスレ全体的に
元気がないのかなとも思いましたが、リゾナントリゾートが久しぶりに登場したので
まだまだリゾスレは続くなと思いました。

それと現在、パソコンも忍法貼のために投下不可能なのでこちらに投下しました。
代理投稿、よろしくお願いします。

367名無しリゾナント:2011/11/21(月) 17:59:18
代理投稿承って候

368名無しリゾナント:2011/11/21(月) 18:04:07
滞りなく終わって候

にぎやかな話になりそうですね

369名無し募集中。。。:2011/11/21(月) 21:00:40
代理投稿ありがとうございます。

370名無し募集中。。。:2011/11/23(水) 14:23:35
それから2日後、愛と里沙は海外にいた。

「愛ちゃんと旅行なんて久しぶりよね。おまけにプライベートで・・・」
「そうやね。」

ふたりはレンタカーを借りて、ヨーロッパの道をずっと進んでいった。

「それにしても愛ちゃんから旅に出ようと持ちかけられたときには驚いたね。どうしたのよ?お店の事があるからよほどの事がない限り、外にも出ないくせに・・・」
「最近はれいなたちだけでもお店を任せられるようになったし。絵里やさゆの将来のケーキ屋つくりの修行のためにも任せてみようと思ったんやざ。」

愛のその言葉に里沙は軽くため息をつく。

「愛ちゃんさ・・・・本当に嘘つくの下手だよね。本当のことを言ったらどうなの?カメから聞いてるよ、手紙をもらったんだって。」
「やっぱり、しっとったか。実はあの手紙は今から行くシルバーランドの王女・サファイアからやったんやざ。」
「サファイア・・・聞いたことがあるわね。あれ?確かサファイアは男じゃなかった?」
「この話は里沙ちゃんだから話すんや。ほかの人には内緒やよ。あれは5年ほど前やった。」

愛は昔の事を里沙に話した。
・・・あれはまだばあばが生きとった頃・・・里沙ちゃんに再会するもっと前の話。
あーしはばあばの許しを得て、世界中を旅したんやよ。広い世界を見て、いろいろ学びたかったんやざ。
そんな旅の中で訪れたのがシルバーランドだった。・・・

371名無し募集中。。。:2011/11/23(水) 14:24:38
・・・シルバーランドはヨーロッパの大きな国のひとつで今では珍しい王政を敷いていた国やったやよ。
あーしがサファイアに出会ったのはそんなシルバーランドの広い高原だったやよ。あの時は驚いたやざ。目の前にあーしがおったんやから・・・

「誰!」
「別に怪しいものやないよ!」

・・・でもさらに驚いたのがサファイアが女だったという事実やざ。・・・

「なんで愛ちゃんはサファイアが女だって気付いたの?愛ちゃんは初対面の人にはあまり能力使わないじゃない。」
「実はのぉ・・・里沙ちゃん・・・あーしがサファイアにあった時、あの子お風呂に入っとったんや。」
「じゃあ!愛ちゃん・・・・サファイアの・・・・を見たの?」

愛は静かにうなずいた。

「まったく・・・」
「それから妙に気が合ってのぉ・・・サファイアは自分の悩みをあーしに打ち明けたんやよ。」

372名無し募集中。。。:2011/11/23(水) 14:25:38
「男と女か・・・あんたは女でいたいんか?」
「実は先日、隣国のゴールドランドからフランツ殿下がお忍びでまいられたの。その時、私は亜麻色の髪のかつらをかぶって身分を偽り、一緒に踊ったの。」
「ははーん、ほれたんやざ。」
「うん。でも、告白はできない。私は公式には王子。そんなことは許されない。」


「正直、その時何も言ってやれなかったやざ。でも、何か困ったときにはあーしを頼ってくれって。それで喫茶リゾナントを教えたんやよ。」
「それでサファイアがこないだリゾナントに来たわけね。それで手紙の内容は?」
「詳しくは書いてなくて、ただ助けての文字だけ・・・サファイアは剣の達人で男勝りなところがあるから、めったに弱音は吐くことはしなかった。
おそらく今まで苦しいことはあったはず。だから、この手紙を見た時すぐにいかなきゃと思ったんやよ。すまんなぁ、本来ならあーしだけで行くのに。」
「いいのよ、連れてっていったのは私のほうだし、何かあったら力になれるだろうから。」
「ありがとう、里沙ちゃん・・・」
「さぁ、もうすぐシルバーランドよ。]

373名無し募集中。。。:2011/11/23(水) 14:29:29
>>370-372
「リゾナンターSP シルバーランドの姫君 (2) 」

どうもリゾクラ作者です。
ここ最近、さゆみん&れいな主演のドラマが決定と何かと好奇心掻き立てられる話題も多いようで。
せっかくモベキマスがあるので何かそれに関連して書こうかなと模索してしまう始末であります。
それでは代理投稿よろしくお願いします。

374名無しリゾナント:2011/11/23(水) 15:15:32
いってまいりますか

375名無しリゾナント:2011/11/23(水) 15:20:28
完了
ガキさんも巻き込んでミュージカルの名場面の再現なりますかってところですかw

376名無し募集中。。。:2011/12/06(火) 20:19:46
「・・い・・・ちゃ・・ん・・・あい・・・ちゃん・・・愛ちゃん!」
「はっ!」

愛が目を覚ますと目の前には里沙とさゆみの姿があった。

「さゆ・・・なんであんたがここに・・・イタッ!」
「動いちゃダメ!愛ちゃん、大けが負ってたんだから。」
(そうや・・・あーし、サファイアの戴冠式に行こうとしてその途中で・・・)
「戴冠式は!サファイアは無事か!」

愛のその答えには誰も答えようとしかなかった。
重い口を里沙が開いた。

「サファイアは王妃様と一緒に監獄に入れられた。戴冠式で王妃様がサファイアが女であることを話してしまった。それで王位は大臣の息子に渡された。」
「何か仕掛けてあったんやろう。たぶん、ダークネスのやつらが・・・」
「ダークネスだって!」
「うん、ミティと矢口にやられたんやよ。サファイアの元に行こうとするあまりとんだドジを踏んだやよ。」
「いったいこのままだとどうなるの?」
「政治は大臣が握っている。野望の障害ともなるサファイアと王妃様を抹殺にかかるだろうね。」
「じゃあ、早く助け出さないと。」
「ああ、そうや。不覚をとったけど・・・・あーしはあきらめん。必ずサファイアを救いだす。そういえばなんでさゆがいるんや?」
「あ、そうだ皆がやってきた経緯を話してなかったわね。」

377名無し募集中。。。:2011/12/06(火) 20:20:38
数時間前
里沙の元に電話が入ったのだ。

「もしもし。」
「新垣さん!愛佳です、実は今朝、予知夢を見たんです!高橋さんが大変な目に会うんです!早く連れ戻さんと!」
「えっ!わかった。すぐに愛ちゃんの元に行く!」
「愛佳たちもすぐに向かいます。」

「それでみんな大急ぎで飛んできたの。」
「そしてわたしは川に流れている愛ちゃんを見つけて、引き揚げたわけ。」
「そうやったんか。ほかのみんなは?」
「町や鉱山、それに監獄の様子を探ってもらっている。」

監獄
牢番の部屋

ここには3人の牢番がいる。
さきほど囚人としてサファイアと王妃を収監し終えたところだ。
すでに自分のもとにはふたりを殺すようにという大臣からの命令書も届いていた。
しかしピエールは悩んでいた。

「お・・・俺はどうすればいいんだ。」
「どうした、ピエール?」
「いや、何でもない。それよりも囚人の方はどうだ?」
「さっきの騒ぎで元王子様は騒いでいるよ。もっとも元御姫様のほうが正しいが。」

実はさきほど食事をめぐってサファイアと牢番たちの間にいざこざがあった。
結局はサファイアたちには食事は与えられなかった。
だが、いずれは食事を口に運ぶことになる。
人生最後の食事を・・・

378名無し募集中。。。:2011/12/06(火) 20:21:29
「この命令に逆らえば俺の家族は・・・」
「あら?そんなに悩んでいるのならその役目、私たちがしてあげるわよ。」
「誰だ?」

ピエールの背後には妙に露出度の高い衣装を身に纏っている女3人組がいた。

「私たちはダークネスの粛清人Rとその部下たち。美勇伝と呼んでくれてもいいわ。」
「そいつらが何の用だ。言っておくが、俺はここの責任者だぞ!」
「そんなことは知ってるわ。いずれあんたが仲間と謀って、あのふたりを逃がそうとすることもね。私のところのえらいえらい予知能力者の先生がそういうもんだからさぁ。懲らしめに来てあげたの。」

よく見ると後ろには仲間のトロワとコリンがぼろぼろの姿になっている。

「安心して、あなたたちよく見ると私たちによく似てるから。殺さないであげる。その代わり、死んだ方がましだと思うような目には合わせるけど・・・」
「やめろ・・・やめてくれ!」

牢番部屋のドアが閉じられて、中から容赦ない打撃音が聞こえてきた。
「ああ、かわいそうに。」
「石川さん、ほんま容赦ないわ。」

バタン!
牢番部屋のドアが開かれると血だらけのピエールを抱えたRが出てきた。

「さぁ、ここでリゾナンターを待ち伏せよ。」

その頃、監獄の外では・・・
「粛清人Rにその部下のふたりか・・・この国の兵隊だけだったら簡単だったんだけどな。」

小春が念写で今、監獄の中で起きたことを念写していた。

379名無し募集中。。。:2011/12/06(火) 20:22:11
シルバーランドの鉱山
ここには国中の男たちが駆り出されており、発見された未知の好物を発掘していた。

「本当に国のほとんどの男を駆り出しているが・・・一体、そのミチの鉱物って言うのはそれほど価値があるのカ?」
「さぁ?情報がまだありませんからね。ただ・・・この発掘にダークネスが関わっているのは間違いなさそうです。」

するとリンリンはあるところを指差した。
そこにいたのは・・・

「Dr.マルシェだ・・・」

見るとマルシェは何やらダークネスの科学者たちと機械を持ち込んでいる。

「人が多すぎるな。おそらく戦獣もいるぞ。獣のニオイがする。」
確かに鉱山の男たちに交じって黒服の男が数人いる。
「ヘタに近寄れないネ。いったん、新垣さんの元に戻りましょう。」

380名無し募集中。。。:2011/12/06(火) 20:23:09
ゴールドランド
シルバーランドの隣国であるゴールドランドは別に意味でシルバーランドと同等の騒ぎが起きていた。

「何?王が変わった?」
「はい、すでに王位は大臣の息子に受け継がれております。しかし大臣の勝手で国は乱れ切っております。」
「・・・私は屈辱を味わったままだったが、あえて戦争に持ち込むのは避けていた。しかし国がそこまで乱れているのなら、私はもう黙っておられない。戦の支度をしろ!」
「はっ!」

旅行公司
バクバクバクバクバク!

愛は絵里やさゆみが持ち込んだ食事を乱暴に頬張っている。
水もほとんどラッパ飲みであった。

「愛ちゃん!焦りすぎだよ!」
「そんなことをしたら喉をつまらせるの!」
「血が・・・血が足りんやざ!もっと飯!・・・・くっ!」

案の定、愛は喉をつまらせた。
すると里沙があきれたように言う。

「もう、そんなに焦るもんじゃないの。まったく・・・サファイアを助けたいのはわかるけど、今は愛ちゃんの体を癒すことよ。さゆみんの力である程度直したけど、戦うのも難しいほどの重傷なのよ。」
「でも・・・あの大臣がサファイアをほおっておくとは思えん。」
「そうね。そろそろ監獄に行っていた小春や愛佳が戻ってくると思うけど。」
「戻りました。」

381名無し募集中。。。:2011/12/06(火) 20:24:12
するとベストなタイミングで小春と愛佳が戻ってきた。
「なるほど、監獄にはRが待ち伏せているわけね。」
「はい、監獄の兵士もほとんどがダークネスの構成員になってます。」
「中の構造は久住さんの念写ですべて把握済みです。」

すると愛佳は小春の念写した監獄の様子を写した写真を里沙に渡した。

「中の構造自体は問題なさそうね。やはり問題は粛清人Rがいる部屋とサファイアのいる監獄がすぐ近くにあることね。戦いに巻き込んだら大変ね。作戦は慎重に立てないと。」

「大変っちゃ!」

するとれいなが駆け込んできた。

「どうしたの、れいな?」
「ゴールドランドが攻めてくると!」

れいなには念のためにゴールドランドの様子を探ってもらっていた。

「国の乱れを知って動きだしたってところかしら。まずいわね、シルバーランドとゴールドランドがまともにぶつかったら・・・」

今のシルバーランドは国が乱れたことで兵の士気は落ちている。
しかしダークネスが関わっている以上、侮れない。

「サファイアの救出を急ぐしかないわね。」

「ただいま、戻りました!」
「戻ったぞ!」

382名無し募集中。。。:2011/12/06(火) 20:25:07

ジュンジュンとリンリンも戻ってきた。

「鉱山を見てきましたが、マルシェがこそこそ動いています!」
「ついでに町の様子も見てきたが、リボンの騎士がどうとか街の人がつぶやいていたゾ。」
「リボンの騎士はサファイアが秘かに悪党退治していた時に使っていた名前やよ。まぁ、しっとるのはあーしだけやったけど・・・」
「うーん、みなさんサファイア救出の方法を考えたんですけど・・・」




「何で私がこんな恰好をしなきゃいけないのよ・・・」

里沙は監獄の前でカラフルでまるで少女漫画の主人公のような騎士の姿で現れた。

「私はリボンの騎士・・・サファイア様と王妃様を救いにきた!」

里沙は監獄に向かった声高らかに叫んだ。

牢番の部屋
「石川さん!何か、変な奴が監獄の前にいますけど!」
「来たわね、リゾナンターが。」
「それが違うんです。リボンの騎士と名乗っているんです?」
「はっ?何それ?」

Rは部屋を出ていった。

383名無し募集中。。。:2011/12/06(火) 20:33:39
>>376-382
「リゾナンターSP シルバーランドの姫君 (5) 」
どうもリゾクラ作者です。
この話の終盤にでてきたがきさんの衣装は最近がきさんがミュージカルでそういう格好を
したという話を聞いたので出してみました。

なぜか今はパソコンでスレの投稿ができない状態なので代理投稿よろしくお願いします。

384名無しリゾナント:2011/12/07(水) 20:42:14
自分は書き込めるようになったので行ってきます

385名無しリゾナント:2011/12/07(水) 20:54:09
遅くなりましたが行ってきました

386名無し募集中。。。:2011/12/07(水) 21:33:15
どうもありがとうございます。年内には終わって次に行きたいな。

387名無しリゾナント:2011/12/28(水) 08:10:20
暁の戦隊を書いてる者だがスマフォの調子がおかしかったり永久規制だったりで昼間は書き込めなくなったっぽいってことだけを伝えておく

節約生活で書いたネタを置いておくので手の空いてる人がいれば代理をお願いできれば

388名無しリゾナント:2011/12/28(水) 08:11:33
小春に1ヶ月間の生活費の額を競う芸能人節約バトルのオファーが舞い込んだ。

料理は愛とジュン子、節約の豆知識は愛佳に教わった。
万全の準備を終え、いざバトルに突入。

一進一退の展開が終盤まで続いた。。
対戦相手のお笑い芸人は、コップ1杯の水で身体を拭くという荒業で水道代を節約した。
残り5日目の段階で、5円のリードを許した小春。

「再度逆転されましたが、大丈夫ですか久住さん」

頑張りますとは言ったものの、年頃の女の子。
シャワーは毎日使いたいし、暖房だって……ピコーン!!
長い歴史には人類の知恵がある。

夜の闇に紛れて、対戦相手の部屋の電気メーターの前に立つ小春。
仕事先で調達したコードを繋ぐ。

― 私の【エレクトロキネシス】で発生させた電流でメーターを回転させて、電気代を上乗せすれば…勝った、この勝負貰った ―

ハイ・ボルテージ!!

次回 暁の戦隊 第7話「元気ピカッピカッ!」

電気ピカッピカッ! メーター振り切れ YEAH YEAH
百万ボルトの電流は対戦相手の部屋のメーターを吹き飛ばし、マンション全体のトランスを破壊して番組の収録も中止。
小春は事情を知った愛と里沙からお説教を喰らった。

389名無しリゾナント:2011/12/28(水) 19:32:45
代理投降してくれて方ありがとう

390名無しリゾナント:2012/01/05(木) 06:19:08
ボツ規格の設定 ■ 鬼面ライダーR (オーガライダー・リゾナント) ■

以前より小説を何度か投稿させていただいた事のある者です。
真野ちゃんのニュースを見てふと例のライダーが始まった2009秋ごろ書き始めたメモの存在を思い出しました…
亀ちゃんの卒業が無かったら、9期オーデがなかったら、あるいは大規模規制がなかったら
もしかしたらこっちを書いていたかもしれないボツ企画…。
悪ノリなうえ、あくまでボツ企画なので、年明けの初苦笑というか
ごく軽い気持ちで流し読みしていただければ…

----ここから2009〜2010年-----

391名無しリゾナント:2012/01/05(木) 06:19:49
「ガキさん行くやよ!」「まぁかせて愛ちゃん!」
『ルミナス!』『ラーフタァ!!!!』

人の心には鬼がひそむという。
鬼は心の慟哭、真の自分と世界をつなぐ記憶…
だがほとんどの者は鬼を眠らせたまま、一生を終える。
この物語は鬼を乗りこなす者たち、『オーガライダー』の戦いの記録である。

太陽の街、早都。
いつのまにか開店した喫茶店。
手書きの看板には「喫茶リゾナント(たんてーもやってるっちゃ)」
ここにふらりと9人の少女が集まった。青き正義に共鳴せし9人の乙女たち。
「私たちは9人で一人の探偵さ」

個人 オーガメモリー 色      能力概要
高橋 ラフター(笑者)金      テレポート&格闘
新垣 ルミナス(光束)新緑     まゆげビーム&インビジ
亀井 ステイシス(停止)橙     触れた物体の慣性停止、飛翔体なら空中に固定。たとえそれが弾丸でも。
道重 ヒーリング(治癒)桃       傷の治癒 うさみみ
田中 アンプリファイア(増幅)水  相方の能力増幅 しっぽ かぎづめ    
久住 ミラクル(奇跡)グレーと赤 飛行&高速機動 星型の武器
光井 ガイア(地母) 薄紫     あらゆるものの浄化&(変身に関係なく)世界を検索する
LL パイロ (火炎)エメと赤   火炎    
JJ ワイルド(野生)青と白   パンダ型 怪力

392名無しリゾナント:2012/01/05(木) 06:20:25
オーガノイド(鬼人)
オーガメモリーと皮膚のどこかにメモリスロットをもつ者
メモリをスロットに挿すと、そのものの心の鬼を呼びさまし変身する。

オーガメモリー
人の心の鬼を具現化する装置。
装置というより「装置のように見える妖怪」に近い。
USBメモリに顔がついて角が一本生えたような形をしている。
どんな鬼になるかは最初に挿したときに判明する。
以降は起動時に自己の鬼を一言で象徴するような言葉を宣言するようになる。
ある程度本人の素質に関わりなく鬼の姿と能力を制御できるメモリも開発されているが
制限があるほど、本人の能力は限定され弱いオーガノイド(オーガントのほうがいいか?)にしかなれない。

メモリスロット
スロットは銃形の小さい転写機によって簡単に皮膚に転写できる。


寺田家
「鬼による人の革新、これこそが寺田家の夢や。
そのための組織がGOD(ガーディアンオブダークネス)や」
「侵入者によって実験中の例のオーガメモリが盗まれたやて?
琵琶湖から引き揚げてきた「あの娘」も連れ去られた?
いかんなぁそれは」

共鳴者
広義にはオーガノイドだが、普通のオーガノイドとちがい単体では変身できない。
左右の鼠径部に一つづつ、計二つのメモリースロットをもつ。
右のスロットに挿すと自分の体が光の奔流となって相手の周囲に渦巻き、鎧のように体を覆う
左のスロットに挿すと相方をまとう中の人状態になる。
タンデム戦闘機に例えると右の人が火器管制、左の人が機を操縦する方とでもいえばいいのか

393名無しリゾナント:2012/01/05(木) 06:21:08
変身
元ネタライダーとちがい、右は肉体が残らないが現場に一緒にいなければならない。
まず右メンバーがメモリを起動、メモリが自己を宣言する。
左メンバーがメモリを機動、メモリが自己を宣言する。
右メンバーがズボンをずり下げ右鼠径部スロットにメモリを刺す、メモリが吸い込まれ、左メンバーの右スロット上にメモリが転送される。
左メンバーがズボンをずり下げ左鼠径部スロットにメモリを刺すと変身スタート。
元ネタと違い、半分こ怪人ではなく、色が右のメンバー由来のものになり、姿形が左メンバー由来となる。
9人全員が一緒にいるなら一度に最大4体(一人余り)のライダーができあがることになるのか。

例:左メンバー高橋、右メンバー新垣の場合、『ルミナス・ラフター』となる。

「いくよガキさん!」「まぁかせて愛ちゃん!」
『ルミナス!』『ラーフタァ!!!!』

個人名 自分のメモリを刺すスロット 挿す順番 変身後      鬼のデザイン
高橋  左             後から  体を動かす方   ライダーの形を決定する
新垣  右             先に   火器管制的な役割 ライダーの色を決定する

逆に新垣が中の人(左)のときは『ラフター・ルミナス』    
-------------------------------------------------------------------------------

394名無しリゾナント:2012/01/05(木) 06:24:31
本当に申し訳ない。すでにリゾナントスレの面影は無い。
あのライダーが始まった頃、衝動的に思いついてしまったのだ。
くだらなすぎて自分でも頭が痛い。

「サア貴方の罪を数えて!」

----ここまで2009〜2010年-----

395名無しリゾナント:2012/01/05(木) 06:30:36

>>390-394
以上、
ボツ規格 ■ 鬼面ライダーR (オーガライダー・リゾナント) ■
でした。


しかし、愛ちゃん、佐吉、ゆうかりんですでに立ち上がれぬほどの衝撃を受けたというのに
ガキさんまでとは…
かしましメイキングのガキさんのおへそに興奮していた日々が走馬灯のように…
せめて一年は発表せずに続けてほしかった

396名無しリゾナント:2012/01/05(木) 12:45:29
悪役が寺田家なわけね
本家のWでテラーを演じてたのが寺田農さんだったのでその辺の符号が面白いというか
ただ鬼というモチーフは響鬼もあったからなあ
結構真剣にタイガー&バニーにリゾナンターを当てはめたりしたことのある者にとっては、初夢として形になって欲しかったですがね
スマイレージはオリジナルの体制で続くと思ってたんだけどなw

397名無し募集中。。。:2012/01/06(金) 14:22:13
「さゆみんと田中っちの事、心配?」
「何や、がきさん。あーしの心でも読んだか?」
「いや、読まなくても愛ちゃんの事は顔を見ただけでわかるから。」

その日、喫茶リゾナントでは昼ごはんを食べに里沙が来ていた。

「まぁ、私もスパイの経験とかあるから潜入捜査のつらさはわかるよ。それに愛ちゃんも経験者だし。」
「うん、まぁ今回の潜入がそこまで過酷やないと思うけど、聖ちゃんたちもおるんやし。ただ・・・」
「ただ?」
「もしも・・・今回の事件の犯人があーしが潜入した時のやつと同一人物やったら・・・」

それは2年近く前にさかのぼる。

愛は警察機構との窓口となっている特務機関のKに依頼され、私立咲坂高校で起きた超能力関係の事件を潜入捜査することになった。

愛が潜入した数日後、アメリカのMIT(マサチューセッツ工科大学)を飛び級で卒業し、咲坂高校に転入してきた燈馬想という青年と知り合い、図らずも彼と一緒に身の回りで起きた事件を解決していった。
そしてそんな中、学園で事件を起こしている謎の存在にたどり着こうとした。

「もはやこの学校に用はない。」
「待て!逃がしてたまるか!」

不覚にも愛は一歩手前でその犯人をとらえるどころか自らが捕まり、犯人を取り逃がしてしまった。

398名無し募集中。。。:2012/01/06(金) 14:23:34
その事を思い出した愛は少し落ち込んだ表情をしている。
また里沙はそれを察した。

「あの時のことを悔いても仕方ないわ。美術教師として潜入していたまこっちも言ってたじゃない。あの状況じゃあ仕方ないって。そういえば、愛ちゃんはあの燈馬君とは仲良くしていたみたいだけど・・・」
「なぁ!何言ってるやざ!リゾナンターは恋愛禁止やよ!」
「まだ、私そんな事を言ってないじゃない。」

咲坂高校で行動を共にした燈馬想とは捜査が終了してから会ってはいないが、愛は特に気にしてはいないはずだが・・・

「とにかく、あーしの心配ごとはもしもあーしが2年前に取り逃がした奴が今回の一件に関わっているんやったら、油断ならんよ。」
「そうね、用心に越したことはないわ。そのためにも私たちでしっかりとしたバックアップをしないとね。」

399名無し募集中。。。:2012/01/06(金) 14:24:18
その頃、凰卵学院では・・・

「ここが凰卵学院か・・・まだ男女共学したばかりだから、男少ないだろうな。」

ひとりの眼鏡をかけた青年がとぼとぼした感じで学院の門をくぐった。
しかしあまりにもとぼとぼと歩いていたせいか前方不注意であった。

ドン!
「イタッ!」
「イテッ!」

すると青年の目の前にれいなが尻もちをついていた。

「気をつけると!なにぼぉーとしとると!」
「ごめん、ケガなかったか?」
「ふん、伊達に鍛えてなか!だけど・・・れ、いや二ーナに激突した責任はとってもらうと!」
「責任って!」
「二ーナの召使いになってもらうけん!」
「ええ!」

学院では愛の心配事以外にも心配事が増えそうであった。

400名無し募集中。。。:2012/01/06(金) 14:26:32
>>397-399
「学園潜入 高橋愛の不安」

どうもリゾクラ作者です。
がきさんショックから数日が経過、何とか心を落ち着かせています。
リゾスレの元気を取り戻すためにも長期予定シリーズの序章をあげておきます。
ちなみにさゆみん&れいなはドラマの役名で潜入しています。

401名無しリゾナント:2012/01/10(火) 21:26:55
>>397-400
行ってきました


上のボツネタも行ってきた方がいいのかな?

402名無し募集中。。。:2012/01/10(火) 21:34:27
代理投稿ありがとうございました。
いつの間にか新スレにあがっていたので驚きです。
ちなみに鬼面ライダーRはリゾクラ作者ではありませんので。

403名無しリゾナント:2012/01/22(日) 22:17:10
衣服を裂き皮膚を撫で肉を断つ感触。
血飛沫が舞い骨の軋む音。
それらの微細な感覚が鋼線を通じて里沙の指先に伝わってくる。

はずだった。

「え…?」

里沙は己の右手と眼を疑った。
手応えが、ない。
振り下ろした鋼線の先は無。
そこには空気以外の何物も存在しておらず、得物が獲物を捉えることはなかった。

一瞬、負った深手が視覚にまで影響を及ぼしたのかと思った。
だが違う。目に異常が生じたわけでも狙いを誤ったわけでもない。
そこに標的は“いなかった”のだ。
倒れ動けなくなっていたはずの亀井絵里。彼女はその場から忽然と姿を消した。

「やられた……」

頭をくしゃりと一掻き。里沙はこの大広間を見渡した。
ひびの入った壁。原型を留めない調度品。大量に散らばるなんらかの破片。
戦いの激しさを物語るには充分な光景だが、先程と比べて足りないものが一つある。
この現状を生んだのはそれだ。

武器を手にした里沙の前から人一人消える。否。消せる。
そんな芸当ができるのはこの場においてたった一人しか思い当たらなかった。

「…愛ちゃん……!」

高橋愛も姿を消していた。
恐らくはその力で亀井絵里を連れて。

404名無しリゾナント:2012/01/22(日) 22:17:45

がくり、膝が折れた。
脱力か安堵か、あるいは出血多量のせいか。
なんにせよ里沙は膝をつく。
張りつめていたものが解けていくような心地がした。

「なんで…そんな、勝手な……」

一度解けた感情は止まらない。
浮かんだ数多の「なぜ」と涙が堰を切ったように溢れ出す。

この十年という間を里沙は愛と共に生きてきた。
だから本当は、「なぜ」なんて思う必要はなかったのかもしれない。
愛の考えが里沙には手に取るようにわかった。
人には優しく甘過ぎて…だけど決して己には妥協を許さない彼女の心理。

愛は独りで幕を引きに行った。
里沙にその手を下させないために。
さらには仲間意識と職務意識の狭間で揺れ動く自分自身に引導を渡すために。

勝手過ぎる。
しかしそれが高橋愛という人間だった。

そしてこれが、新垣里沙という人間の姿。
誰より近くにいながら彼女のすることを止められない。
手を伸ばせばすぐなのに、手を伸ばしても届かない。
僅かながらも決定的な二人の実力差。この差がいつも里沙に悔しくもどかしい思いをさせる。
そんなにたくさん背負わせたくないのに。

405名無しリゾナント:2012/01/22(日) 22:18:17
「…っく……っ…」

恐らく愛は誰にも邪魔されない場所を選んだはずだ。里沙にはもう手が出せない。
その事実がまた悔しくて、もどかしくて。
ひどく視界が歪む。零れ落ちる。大粒。
滲み歪んだ里沙の世界にあって、確かな輪郭を保っているのは今や記憶だけだった。

「かめぇ…っ!…みんな……!」

亀井絵里。
ジュンジュン。
リンリン。
そして久住小春。

彼女たちの笑顔が、言葉が、思い出が。
浮かんでは消え、浮かんでは消えていく。
まるで走馬灯のように。

「……大好きだったよ、守りたかったよ。……でも………………守れなかったね…」

悲痛と無念に染められる魂の叫び。
この広い空間に一人取り残され、咎める者も責める者もいないのに、里沙は声を抑えて秘かに泣いた。

406名無しリゾナント:2012/01/22(日) 22:18:53

―――――――――――――――――――


突然の風切り音がジュンジュンの体を貫いた。
いや突き刺さった。
予期せぬ背後からの一閃に防御も儘ならず、ジュンジュンはその場に崩れ落ちる。

「……あ?」

何が起きたかもわからず呆然としている。
場違いにも、さゆみはジュンジュンのその顔を可愛いと思った。

考えてみれば、彼女に面と向かって「可愛い」と言ったことは一度もなかった。
先輩としてか日本人としてか、はたまた自分の容姿にある程度の自信を持つ年頃の女性としてか。
妙なプライドが邪魔をして、さゆみは正直に彼女を褒めるということができなかった。
こうなる前に一度くらい言ってあげればよかったな。少し後悔をする。
今となってはもう、遅いのだけれど。


愛佳が時間を稼ごうとしているのはさゆみにもわかっていた。
それこそ先輩として、その頑張りを無駄にさせたくない。
敵二人のどちらかが隙を見せたらさゆみはいつでも向かっていくつもりでいた。
誰かに先を越されるなんて考えてもみなかった。

407名無しリゾナント:2012/01/22(日) 22:19:26
「そ、れ……見たこ…ない。田中さ……その武器、なぁに…?」

息も絶え絶えにジュンジュンが振り向いてれいなに問いかける。
れいなはうつ伏せから半身を起こした体勢のまま、まだそれを構えていた。
軽量化された小型のボウガン。
その発射口に矢はない。一発しか用意されていないそれはすでにジュンジュンの左の背中に刺さっている。

さゆみより早くれいなが動いたのだ。
れいなは自らがジュンジュンとリンリンの死角に入った機を逃さず、隠し持っていたボウガンを撃った。
勢いよく口外に飛び出した牙は迷うことなくジュンジュンの心臓付近を突き立てる。

予期せぬ速攻に驚かされたのはさゆみもだが、ジュンジュンにしてみれば思いがけないにも程があるだろう。
気を失っていると思っていたれいなに致命傷を負わされ、しかもそのれいながいつの間にか武器を持つようになっていたなんて。

「…れいなだって変わると」

武器に頼らず己の体技のみで戦うスタイルを採っていたれいな。
そんな彼女が方針転換をしたのは「リゾナンター」が五人になった頃。絵里たちが去ってからだ。
あの日かられいなはボウガンを使うようになった。
『確実に相手を仕留められる手段があったほうがいい』と。
時期はちょうどすれ違い、ジュンジュンが知らなかったのも無理はない。

れいなは徐に立ち上がった。

408名無しリゾナント:2012/01/22(日) 22:20:09
「もう甘い顔はせん。さゆと愛佳を…れいなの仲間を傷つける奴は、ただじゃおかん」

言葉の迫力とは裏腹の静穏な口調。
怒りに震えているようにも感情を抑えつけているようにも見えない。
淡々と言葉が紡がれていく。

あの日から裏でどんな葛藤があったのかさゆみは知らない。
知らないが、彼女の立ち居振る舞いが大きく変化していく様をずっと傍で感じていた。


物腰が柔らかくなった。
一歩引いて全体のことを考えられるようになった。
人に話しかけることが増えた。
反抗的な態度が減った。
以前よりも物事に寛容になった。
少し、優しくなった。


失う痛みを知って今あるものを愛しんでいるのだろうと述べた人物もいた。
しかし、さゆみは。

れいなは全ての敵意を外に向けることにした。だからその分だけ内が穏やかになった。
“これ以上自分から何かを奪おうとする者は容赦しない”。彼女の背中がそう叫んでいるように思えてならなかった。

409名無しリゾナント:2012/01/22(日) 22:21:02

「…その、武器……かっ、こ…いね。これか、らも……使、うの…?」

血塗られた微笑は苦しげな息を吐く。
ジュンジュンは理解しているようだった。満足しているようだった。
己の運命を。
彼女の顔には、失せた殺気や生気の代わりに充足と寂寞の念が拡がっている。

「使っ…て、ほし…な。それがジュンジュン…こ、殺したの、ず…っと、忘、れな…よ…に」

一筋の涙が彼女の頬を伝う。
焦点の定まらない瞳が虚空を見上げた。

「忘れんよ。絶対に忘れん」
「言うだけじゃ……嫌だよぉ…!お願…っい……………」

途切れる。

項垂れる。

よろめく。

横倒れる。

ジュンジュンは動かなくなった。
もう笑うことも話すことも聞くことも歌うことも走ることも食べることも立つことも嘆くことも怒ることも泣くこともない。
彼女は逝った。
“忘れないで”。最期にその一言を残して。

410名無しリゾナント:2012/01/22(日) 22:22:18
誰もその場を動かない。動けない。
ただじっとその亡骸を見つめ、立ち尽くす。
もしかしたら、もしかしたら何事もなかったかのように起き上がるのではないかと。
待っているのかもしれない。
だが本当は皆わかっているはずだった。


賽はとうに投げられた。終わりの始まりは半ばを過ぎた。亀裂の修復は不可能だった。
やり直しのきく段階はとっくに過ぎている。
だけどそれでも。今なら。まだ。
心のどこか深い部分に燻っていた想い。

『戻ろうと思えば戻れるんじゃないのか?』

だけどやっぱり。今となっては。もう。
心の奥に忍ばせていた祈るような想いは露と消えた。
賽の目は開かれた。終わりの始まりは終わった。亀裂は完全に断裂した。
もう元には戻れない。二度と。

時計の針は“今”しか刻めない。
過去に巻き戻すことも未来に早送りすることも叶わないなら、今を生きるしかないのだ。

さゆみは決意を固めた。
目を閉じ集中し、未だ脈打つ痛覚を遮断する。
やるべきことは一つ。
全員の視線がジュンジュンの亡骸に注がれているのを確認し、さゆみはそっと床に手を這わせた。

なぜだか無性に、絵里に会いたくなった。

411名無しリゾナント:2012/01/22(日) 22:24:25
>>403-410

「confrontAtion ―反鳴―」の続きです
ここまでが今話の前半です
後日上げる後半とセットで一話になります

*******
お手数ですがどなたかお暇な時お願いします

412名無しリゾナント:2012/01/23(月) 11:25:35
夜半の方が良かったんでしょうが上げれるうちに上げておこうと思ったのでただいま上げてきました

413名無しリゾナント:2012/01/23(月) 20:29:24
代理投稿とリンクの提示、誠にありがとうございました
昼夜は特に気にしませんのでw

414名無しリゾナント:2012/01/25(水) 16:19:49
これだけ卒業と加入が頻発すると9期もいつかは卒業するんだなって考えてしまう
将来成長した二人が再び戦ったら、どっちが勝つんだろう?
http://noid.s43.xrea.com/apuroda/img/up21423.png

ノノ ゜ v゜) <エ゛エエエリイイイイナアアアアア!!!!!
|||9|゜_ゝ゜) <リ゛ィイイイイイイホォオオオオオオオオ!!!!


ノノ ゜ v゜) <キライだった!キライだった!キライだった!キライだった!!!
|||9|゜_ゝ゜) <信じてた!信じてた!信じてた!信じてたのに!リホォオオオオオオ!!


ノノ ‘ v‘) <それでもいつも目で追ってた。気づくと衣梨奈をみていたよ。
|||9|‘_ゝ‘) <知っとったっちゃ。嫌われとうの知っとったっちゃ。それでもエリは里保のことが好きっちゃん


  ドサァッ

415名無しリゾナント:2012/01/25(水) 16:21:39
>>414
代理投稿願います
こんな短くても水遁とかorz

416名無しリゾナント:2012/01/25(水) 18:00:15
行ってきた
何かバキみたいw

417414:2012/01/26(木) 16:18:02
>>416
どうもありがとうございました

418名無し募集中。。。:2012/01/28(土) 21:56:28
どうもリゾクラ作者です。スレがどうなるか不明なので学園潜入はここに投稿の方向にします。

今週投稿予定の作品はまた後日に

419名無しリゾナント:2012/02/01(水) 18:07:49
 ■ シーデマンデッド −岡守時秀− ■

都内某所、高層マンションの一室、虎刈りにチョビヒゲの男が一人。
いや、一人ではない。男の後ろ、いつの間にか一人の女が壁に寄り掛かっている。
「元気そうっすね…でも、そうやって人の部屋勝手に入るの悪い癖っすよ"姐さん"」
「忘れてへんやろな?」
「なんすか?」
「アンタ、自分の仕事忘れてへんやろなっていうてんの」
「やだなぁ姐さん。
何度も言ってるけど、俺、別に組織の人間ってわけでも、組織に雇われてるわけでもないんすよ。
あくまで趣味でやってるだけなんすから。
それに報告は上げてるじゃないすか。ちゃあんとやってますよオレ」
「あんなペラッペラの作文、報告とは言わんわ」
「そんで、姐さん自らお説教ですか」
男が椅子に座ったまま、くるりと振り向く。
「見れば見るほどぶっさいくな顔やな」
「マジすか?オレ割と気にいってんすけどねコレ。」
「顔も声もしゃべりかたも、なにからなにまでぶっさいくになっとるやん。前の…」
「前のオレのがよかったすか?姐さん意外と面食いっすよねw」
「だまれドアホ」
「冗談っすよー更年期っすか?勘弁してくださいよ」
「マジこのハゲ」
「…殺しますか?俺を…"俺たち"を…そうしてくれるんなら…」

420名無しリゾナント:2012/02/01(水) 18:08:47
―そうしてくれるなら―

長い…沈黙

「…すまん…」
「なーんすか?いいんすよもーマジになっちゃって。
長い付き合いじゃないすかぁやめましょうよそういうの。」
「…せやな…」
「もー意外と姐さんかわいいとこあんだからなー。パンツ盗んじゃおっかなもー…
…え?どん滑りですか今の?」
「なぁ…もしかして…情が移ったんか?あの子たちに」
「またもーなにいってんすか。ただの趣味ですよ趣味。知ってるっしょ?
単なるストーカーっすよオレ。
ただ若い子が好きなだけですよ。情とかそういうんじゃないっすから。」

「わかっとるとおもうがあの子らは…」

「…ま…いい子ではありますよ、四人とも。
楽しいですよ、見てて…
素直で、やんちゃで、とびきり危険で…
『あの頃の』姐さん達ほどじゃないですけどね」

「…」

「心配しなくても大丈夫っすよ。関係ないっす。あのお姫様たちが死のうと生きようと」

…うそやん…

…明日香のとき…アンタは…あんなに…あんなに必死に…

「え?なんすか?」
「…なんでもないわボケ」
「オレ、姐さんの描く未来図、結構気に入ってんすから…付き合いますよ、最後まで。」
「あたりまえや。いまさら嫌やゆうても最後までやってもらうわ。」
「そうそう。やっぱそうじゃないとね姐さんは。」

421名無しリゾナント:2012/02/01(水) 18:10:27
>>419-420

■ シーデマンデッド −岡守時秀− ■
でした

422名無しリゾナント:2012/02/01(水) 19:18:29
転載させてもらいましたよ
ブランクがある所為か2レス目が行数オーバーになったので分割させてもらいました

423名無しリゾナント:2012/02/02(木) 01:56:20
いつでも構いません。どなたかお願いいたします。
タイミングが図りきれずこの時期に投下します。

懐かしい感じ?
愛佳リアル怪我ネタなので苦手な方は回避
9期10期は出ません

424名無しリゾナント:2012/02/02(木) 01:57:06

違和感のある左足を知らず知らずのうちに庇っていたらしい。
歩き方がおかしかったようだ。

愛に、どうしたんや?とその足を指摘され気がついた。

「なんか痛いような痺れるような変な感じなんです」

日が経てば治るだろうと思っていた。寝ているうちに打ったとか、軽く捻ったとか。
行儀が悪いとは思ったが、靴と靴下を脱ぎ椅子の上で三角座りをして弁解しながら、違和感のある左の踵あたりを撫でた。

「見た目ではどうもないんですけどね」

愛が調理場から出てきて愛佳の隣の席へ腰を下ろす。
そして愛佳が乗っている椅子を自分と向かい合うように引っ張り動かした。
反動で愛佳の身体が揺れる、支えるために思わず愛の肩を掴んだ。

「腫れてる、とかではないんやの」

愛の手が愛佳の足を柔らかく掴み、違和感があると訴えるその場所を撫でた。

425名無しリゾナント:2012/02/02(木) 01:58:55

「感覚はあるんか?」

踵の輪郭を愛の指先がなぞる。
確かに、触られている。愛佳は頷いた。

「1回さゆに見てもらえばよかとやん。もうすぐ来るっちゃろ」

夕方に向けて材料の仕込み中だろうか。
れいなの手元は小刻みに動き、まな板と包丁が当たる小気味のいい音を響かせていた。

「いやいや、きっと明日には治ってると思いますし」
「またそうやって無理するー。いつから変な感じだったのさ」

カウンター席にいたはずの里沙がいつの間にか愛佳の向かいに腰を下ろしていた。

いつから、そういわれると結構長いかも。
思い返したがさすがにそれを口にすることは出来ず、一昨日くらいですかね、と言おうとした矢先

「結構長いこと変なんやと」

愛がちょっと怒ったような口調で言い、愛佳の頭をスコンと叩いた。
読まれた!!

「読まれた、ちゃうが。アホ」

再び落ちるげんこつ。
目の前で暴力事件が起こっているにもかかわらず、里沙は止めるどころかニヤついた表情で愛佳を見つめている。

426名無しリゾナント:2012/02/02(木) 02:00:05

「みついが叱られてるなんてめずらしーねぇ」
「いけー!愛ちゃんもっと叱ったれー!」

ガヤが入る。どういうことだ。なんて薄情な先輩たちだ

「ホンマにあんたは。もっと自分のこと大切にせんとアカンやろ」

愛佳は3度目のげんこつに備えて頭を両手で守った。
だが次に降って来たのは温かな掌で。頭を守る腕を柔らかく撫でられる。
恐る恐る視線を上げると、怒ったような呆れたようなそれなのに優しくも見える、そんな表情をした愛と目が合った。

「もうすぐ来るさけ、さゆにみてもらい」
「でも」
「でもやない」

滅多に聞かないドスの聞いた声で愛佳は怯んだ。素直になるしかないのか。

「…はーい」

俯いて返事した頭にポン、と掌を乗せられる。そのあとぐしゃぐしゃに撫でてから愛は席を立った。
その瞬間を見計らったかのようにカウベルが鳴り、リゾナントの扉が開けられる。

「おあよーさゆ。ちょっと愛佳みたって」
「こんにちはの方が正しいけどね、愛ちゃん。てゆーか、突然意味わかんないよ」
「わー!ガキさんが愛佳ちゃんの前にいるー!もしかして叱られてんの愛佳ちゃん」
「ちょっとカメ。あたしが前にいると叱ってるってそれどーゆーことよ」

さゆみと絵里が連れたって現れた。
検査入院から帰ってきた絵里は楽しいものを見つけたかのようなキラキラした目をしていた。

427名無しリゾナント:2012/02/02(木) 02:00:54

「―――なるほどね。それではさゆみ先生が診てあげましょう」

愛から事情を聞いたさゆみが愛佳の隣に腰を下ろす。椅子に乗せられた左足に手のひらで触れた。

「さゆみせんせーって響き、なんかヤらしいよね」
「そんな事思うのはカメだけだと思うけど」

里沙の隣に座った絵里が肩を揺らす。そんな様子を気にすることなくさゆみは愛佳の左足に意識を集中させた。
足に触れるさゆみの手から淡いピンク色の光が放たれる。

「改めて見るとなんか不思議っちゃねー」

相変わらず手を動かしながらもさゆみの能力に力を足していたれいなが声を上げる。
考えてみればこうしてさゆみの能力をまじまじと見るのは珍しいことだった。
いつも戦闘で傷ついている時か、切羽詰っている時が多い。

428名無しリゾナント:2012/02/02(木) 02:01:54

「…うーん、どうだろ。」

光が消える。さゆみは首をかしげながら愛佳の足を撫でた。

「ちょっと歩いてみて」
「はい」

そっと足を床につける。右足で一歩、そして左足。2度ほど同じ動作を繰り返す。

「アカンな。やっぱ歩き方いがんどる」
「目に見える傷じゃないからむずかしいの」
「びょーいんですね」
「病院いきっちゃね」
「今日中に連れて行くからね」
「保険証もっとるか?」
「はい、愛佳ちゃんのお財布の中に確認しましたー」
「ちょっと亀井さん勝手に出さんでくださいよ!」
「さ、みついー靴下と靴はくー」
「絵里の行ってる病院でも大丈夫なんか?」
「いけますよー。整形外科ありますから」
「愛佳ちゃん大人しく準備するしかないの」
「なんか愛佳がこんな状況…ウケるんっちゃけど」

がやがやと騒ぎながらも愛佳の病院行きの準備は滞りなく整った。

「仕方ないから絵里ちゃんが付いていってあげるよ」

何故か嬉しそうに絵里が愛佳の腕に絡みつく。

「行くで」
「はーい」
「…行ってきます」

愛佳の珍しくぶーたれた声のあと、3人は黄色の光に包まれ消えた。

429名無しリゾナント:2012/02/02(木) 02:03:05

「よくよく考えると、あたし達の能力って便利だよね」

里沙の呟きにさゆみとれいなが頷いたその時、二人を送り届けた愛が戻ってきた。

「ほんっとに便利だわ」
「ん?」
「なんでもない。愛ちゃんカフェオレおかわり」
「はいよー。さゆはなんか飲む?」
「抹茶オーレ!」
「最近そればっかりやね。ほな、2人戻ってくるまでティータイム。れーなも休憩しよ」
「そうやね。れーなはモカがいいと」

430名無しリゾナント:2012/02/02(木) 02:04:02

空がオレンジ色に染まった頃、絵里は本日2度目となる病院からリゾナントへの道を歩いていた。
暢気に鼻歌なんかを歌っている。手にはボストンバッグではなく、車椅子のハンドルを握っていた。

「すんません、亀井さん」

愛佳が申し訳なさそうに首だけで振り向く。足には白く分厚いギプスが巻かれていた。
車椅子にちょこんと座る愛佳。本当は松葉杖でもよかったのだが『付き添いの保護者』として絵里が断固拒否した。
『愛佳ちゃんは無理しちゃう性格なんで、マシになるまで松葉杖を与えないでください。
 絶対使いませんよ、ケンケンとかしますよ、この子。だから車椅子にしてください』
いつの間に精神感応を覚えたんだ。思わず絵里を見上げた時、彼女の口角は得意気に上がっていた。


「疲労骨折だなんて絵里初めて聞いたよ。ぽきって折れるだけが骨折じゃないんだねー。」
「愛佳も初めて聞きました。こういうのも骨折なんですね」
「じゃぁ愛佳ちゃんは左足ばっかり疲労させてたってことなの?」
「いや、よーわからんけどそれは違うと思いますよ」

絵里と喋りながら愛佳はきょろきょろと辺りを見回す。目線の高さが変わるだけで、こんなにも景色が違って見えるのか。
見慣れた道に新しい発見。そして、少しの不安。この道を一人で車椅子を漕ぎながら行き来しなければいけないと思うとぞっとした。

「はーい、とうちゃーく。みんなびっくりしちゃうだろうね」

カウベルがちりりん、と鳴った。絵里がリゾナントの扉を開けるより早くそこが開き、二人は一瞬動きを止めた。

431名無しリゾナント:2012/02/02(木) 02:04:39

「オカエリなさい」

出迎えてくれたのはジュンジュンだった。絵里が愛佳の乗った車椅子を押して店内に入る。
仕事終わりで来てくれたのだろう。そこにはリンリンと小春の姿もあった。
予想以上に大事になってしまった。愛佳は情けないような困ったようなそんな表情を浮かべた。

「二人が歩いてるトコロ見えたデスから。みっつぃさん、タイヘンな事になりましたネ…」

リンリンがテーブル席の椅子をひとつ引き出し、窓際に移動させてくれた。そこに愛佳の乗った車椅子が納まる。

「疲労骨折、だって」

車椅子のブレーキをかけながら絵里が言う。

「疲労骨折?左足ばっかり疲労させてたの?」

ついさっきどこかで聞いたような小春の言葉に、愛佳と絵里は顔を見合わせた。

「そういうわけやないと思うんですけど。とりあえず、全治8週間って言われました」

絵里が愛佳のカバンから診断書を出し、テーブルの上に広げた。
『左距骨疲労骨折』医者の達筆な手書き文字に一同は眉間に皺を寄せた。読めそうで、読めない。


「8週間って…2ヶ月くらいってことだよね?」

いち、にい、とカウンターにおいてある小さなカレンダーで8週間を数えながら里沙が言う。
愛佳は改めて聞く『8週間』に溜息を漏らした。

432名無しリゾナント:2012/02/02(木) 02:05:21

「どうしよ…」

めったに聞くことはない、愛佳の口から出た弱音。呆然と診断書を見つめたまま動かない。
怪我の具合は思っていたより深刻だった。ガチガチに固められた左足。歩くことを許さない車椅子。
自宅で普段どおりの生活は到底出来そうにない。そして協力してくれる家族も、いない。

「2ヶ月くらい、ここにおったらええよ愛佳」
「え?」

愛が愛佳の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。重い空気を吹き飛ばすかのように、白い歯を見せて笑う。

「あーしの部屋一人くらい泊めれるスペースあるし、ちゃんと布団もあるし家にいるより…安心できるやろ?」
「そやけど…」
「つべこべ言わんと泊まったらええっちゃん。この家の持ち主がゆうとぉけん」
「絵里がここに来て病院に付き添えばいいし、いい考えなの」
「ま、たまには甘えなさいってこと。」
「ジュンジュンみっつぃさんおんぶして階段あがれるゾ」
「オー!ジュンジュンさすが力持ちデース!」
「いーなぁー絵里ちゃんもおんぶしてー」
「小春も小春もー!」
「こーらー!二人とも!ジュンジュンまで怪我しちゃったらどうするの!」

はしゃぐ声を後ろに聞きながらも、愛佳は顔を上げることができなかった。
無意識のうちに親指の爪を噛んでいる。愛佳が思いつめている時の癖だ。

433名無しリゾナント:2012/02/02(木) 02:06:16

「ホンマにアンタは…」

小さく漏らしながら、愛がその手を柔らかく掴む。
腰を落とし、車椅子の愛佳と視線を合わせた。

「たまには素直に甘え。こんな足で、愛佳ひとりで生活するなんて無理やろが
 なんのためにあーしらが居るんや。もっともっと、頼ってくれたらええが。甘えてくれたらええが」

咎められているわけではない。それでも強い口調で言われた言葉に愛佳の目頭が熱くなり、ぶわっと涙が溢れた。

「不安やったんやろ?わかっとるから。あーしら迷惑やなんてこれっぽっちも思わんで…大事な大事な家族やさけ」


甘えるのが人一倍下手くそな愛佳がたまらなく愛おしかった。
助けてほしいときに助けてと、素直に言える子だったら、彼女はもう少し幸せに生きていたかもしれない。

頬を流れる涙を、愛は乱暴に掌でぬぐってやった。
里沙の手が頭に乗せられて髪の毛をぐしゃぐしゃと混ぜられる。

「さ、みっついさん。新しいお部屋に行きますデスよ」

車椅子の正面にしゃがむジュンジュン。

「早く乗らないと絵里が乗っちゃうよ」
「やーだー小春がのるぅ!」
「アハハ!みっついさんサンドイッチになっちゃいマス!」
「れな上で愛佳の場所つくって待っとーけんね」

434名無しリゾナント:2012/02/02(木) 02:07:46
愛に背中を押され、愛佳はゆっくりと腰を上げた。そしてジュンジュンの背中に体を預ける。

「立ちますヨ?」

しっかりと体を支えられて体が浮く。

「…ありがと、ジュンジュン」
「うん!」

あまりに大きくて温かい背中に愛佳は頬を押し付ける。
後からたくさんのメンバーにサポートされながら階段を上がった。
クッションやらブランケットやらが敷き詰められたソファー
れいなが即席で作ってくれた『愛佳の場所』
ジュンジュンがその上にゆっくりと愛佳をおろす。

「ふわふわっちゃろ。どうすればいいか分からんやったけど、なんかええ感じやない?」

ニヒっと笑うれいなに愛佳もつられて笑った。
その顔に口元を緩める仲間達。

「暫くの間、よろしくお願いします」

律儀に頭を下げる愛佳の小さな体を、8人が取り合うように押し合うように優しく大きく包み込んだ。



「おかえり。愛佳」

435名無しリゾナント:2012/02/02(木) 02:12:35
>>424-434 きみのいるばしょ

でした。
去年6月に書いてたみたいです…完全復帰を願って、の投下ということでよろしくお願いします。



行数などお任せします。
思ったより長くなってしまいました…

436名無しリゾナント:2012/02/02(木) 03:00:19
 ■ ビューティーオブチキン −前田憂佳X萩原舞− ■

「な?無駄だって言ったろ?ハギさん嘘つかねえってのw」
前田憂佳の肩に激痛が走る。
「んぐっ!」
自らが放った弾丸がありえぬ軌道を描き、狙撃手たる自身に跳ね返る。
「確かにアンタは姿を消せるかもしれない。けど、アタシにはなんも関係ない。」
萩原舞は両手をいっぱいに広げてみせる
「こぉのへぇーんはすぅべてアタシの制空権!どこから弾が飛んでこようが全て勝手に発射地点へ送り返されるのさ。」
【慣性歪曲(イナーシアディスト―ション;inertia distortion)】恐るべき能力だった。
「さぁ!どうすんのさ?もっとじゃんじゃん撃ってきたら!?」

前田憂佳は絶望感に襲われていた。

437名無しリゾナント:2012/02/02(木) 03:00:52
四人でいるとき、いつも自分は姿を消し、一人安全なところで高みの見物をしてきた。
もちろん、戦闘の苦手な花音ちゃんを一緒に消して守るという建前はちゃんとある。
それに、敵地潜入、情報収集、時には姿なき狙撃手として直接戦闘にも貢献してきた。
だが、いつも自分一人安全なところにいた。その負い目のようなものを感じてきたことに変わりは無い。
でも、今回は…
やっぱし逃げちゃおうか…。上手く逃げて彩花ちゃんとこまでたどり着ければ…。
ううんだめだ。彩花ちゃんは今、3人を相手に戦ってる。
あたしが彩花ちゃんの力になれるのは、奇襲、強襲、そしてその離脱…
想定された戦闘で最初から彩花ちゃんのサポートについているときだけ。
すでに乱戦になっているであろう戦場に
「脆い」自分がのこのこ出ていけば、"目"を通常能力にセーブしている彩花ちゃんは思い切り戦えなくなる。

それに…また、今回も姿を消すだけなの?

また、力を怖がって「やれる」のに「やらない」で逃げるの?

脳裏に浮かぶ「あの」光景。
あたしのせいで、あたしの…のせいで…ちゃんは、あんな…

前田憂佳は、覚悟を、決めた。

438名無しリゾナント:2012/02/02(木) 03:02:08
「萩原さん。これが最後の降伏勧告です。抵抗をやめ、私たちに協力してください。」
宣言する内容の説得力をまるで台無しにする、幼子がぐずついたような甘い声。
「おっと」
萩原舞が振り向くと、そこには上体を鮮血に染め、肩で息をする前田憂佳の姿があった。
「なんだ意外と近くにいたんだwってなんか言ってることおかしくね?降伏勧告?
それってどっちかっていうとこっちのセリフ?っていうかやっぱこっちのセリフっしょ?」

何で二回?
「こっちのセリフ」って言いたいだけじゃん…萩原さんってやっぱり面白いな…
もっと仲良くなりたかったな…仲良くなって…みんなで…みんなで平和に…
血が足りない。意識が遠のいていく。

「まあいいわw要はそっちも最後までやる気ってことっしょ?こっちだってそう。
アレ?ってゆうか、【不可視(インビジブル;invisible)】が姿出しちゃってどうすんの?
もしかして罠?はったり?いや、もう意識が朦朧として判断力無くなってるん?」

萩原舞はベルトから機関拳銃を抜く。

「まいいや…先手必勝っしょ」

躊躇なく引き金を引いた。
軽快な発射音が連続し、無数の9mm弾が前田憂佳へと吸い込まれて行く。

「残念です…萩原さん」

バチュン!

え?

小さな、ごく小さな音がした。

439名無しリゾナント:2012/02/02(木) 03:03:20
それは萩原自身の胸のあたり、そして立ち込める肉の焦げたような臭い。

ゴツッ!

急に天地がひっくり返り、萩原は頭部をしたたか床に叩きつけられた。

「あれ?なんで?アタシの足?」

視界には萩原自身の脚…やがて、それは膝をつき、どさりと倒れる…
その身体には、上半身が無い。
両断…左の肩口から右の脇腹まで…袈裟がけに萩原舞の体は切断されていたのだ。
もうもうと煙を上げる焼け焦げた切断面から、一呼吸遅れて、ぶくぶくと血が溢れ始めている。

大出力の、レーザー光線…いったいどこから?

遠のいていく意識の中で、
前田憂佳の姿が蜃気楼のように揺らいで見える。
あれは…虚像…?
虚像…蜃気楼…ゆらぎ…光の屈折…、光…

「そうかぁ…前田ぁ…アンタの…アンタの本当の…能…力…は…」

それきり、萩原舞は、何も考えられなくなった。

440名無しリゾナント:2012/02/02(木) 03:04:38
>>436-439
 ■ ビューティーオブチキン −前田憂佳X萩原舞− ■ でした。

お手数おかけしますが
代理投稿お願いいたします

441名無しリゾナント:2012/02/02(木) 12:50:25
>>435
トライしてみる

442名無しリゾナント:2012/02/02(木) 12:59:16
案の定最後でさるさんを喰らった
1時間後に

443名無しリゾナント:2012/02/02(木) 20:42:21
>>440
遅れたけど行ってきたよん

444名無しリゾナント:2012/02/03(金) 02:06:55
>>443
どうもありがとうございました

445名無しリゾナント:2012/02/03(金) 02:08:06
 ■ インターセプトパスト −前田憂佳X萩原舞・中島早貴− ■

萩原舞はベルトから機関拳銃を抜く。

「まいいや…先手必勝っしょ」

躊躇なく引き金を引いた。
軽快な発射音が連続し、無数の9mm弾が前田憂佳へと吸い込まれて行く。

「残念です…萩原さん」

次の瞬間、萩原舞は矢庭に機関拳銃をあらぬ方向に乱射した。
誰もいない、瓦礫と瓦礫の間。
何もないその空間へと。

「うぎゃあっ」

悲鳴と同時に目の前の前田憂佳が陽炎の如くゆがんで消えた。

「言われたとおりにしてみたけど、いったいどういうことなの?なきこ」

萩原は瓦礫の影、すぐ近くの何者かに声をかける

「んーまぁいいじゃんそのへんのことは」

なきこ…中島早貴は曖昧な返答をしながら萩原に歩み寄る。

「逃げた、か。もう一度"やりなおす?"いやアタシの方がもうもたないか…」

不思議な独り言をつぶやき、ふうと息をつく。

446名無しリゾナント:2012/02/03(金) 02:08:55
>>445
ミスがありました
>>445の依頼を取り消します

447名無しリゾナント:2012/02/03(金) 02:09:55
 ■ インターセプトパスト −中島早貴・萩原舞X前田憂佳− ■

萩原舞はベルトから機関拳銃を抜く。

「まいいや…先手必勝っしょ」

躊躇なく引き金を引いた。
軽快な発射音が連続し、無数の9mm弾が前田憂佳へと吸い込まれて行く。

「残念です…萩原さん」

次の瞬間、萩原舞は矢庭に機関拳銃をあらぬ方向に乱射した。
誰もいない、瓦礫と瓦礫の間。
何もないその空間へと。

「うぎゃあっ」

悲鳴と同時に目の前の前田憂佳が陽炎の如くゆがんで消えた。

「言われたとおりにしてみたけど、いったいどういうことなの?なきこ」

萩原は瓦礫の影、すぐ近くの何者かに声をかける

「んーまぁいいじゃんそのへんのことは」

なきこ…中島早貴は曖昧な返答をしながら萩原に歩み寄る。

「逃げた、か。もう一度"やりなおす?"いやアタシの方がもうもたないか…」

不思議な独り言をつぶやき、ふうと息をつく。

448名無しリゾナント:2012/02/03(金) 02:10:44
「詳しい説明はそのうち…ね。とにかく、無事でよかったよ。」

「無事も何も最初から舞の圧勝だったっしょ!どこから攻撃されたって舞は無敵なんだからさー」

「んーそだねーうん。」

「あー!なんかバカにしてる!絶対バカにしてる!」

「いやしてないってハギさんそりゃ誤解だよ」

「いーや!した!絶っ対してる!いっつもそうだよ!舞ががんばってもさーいっつもみんなコドモ扱いしてさー」

またはじまった。舞ちゃんはすぐすねるんだから。

中島早貴は前田憂佳が逃げた方向へと振り返る。
そっちへ逃げても無駄なのに…
全てはもう、 決 ま っ て い る ことなのに…

萩原の不平不満の声が現実へと引き戻す。
考えてもしょうがない。舞ちゃんだけでも救えたならそれでいい。

さようなら。

彼女は心の中でつぶやく。

さようなら、前田憂佳。

449名無しリゾナント:2012/02/03(金) 02:13:16
>>447-448
■ インターセプトパスト −中島早貴・萩原舞X前田憂佳− ■
でした。

お手数おかけして恐縮ですが
以上、代理投稿願います

450名無しリゾナント:2012/02/03(金) 08:10:50
朝から上げるのもどうなのかとも思ったがいつ規制に遭うかもしれんので行ってきました
中島さんは時間をリセットしてるのか、それとも最初から幻の中に誘い込んでいるのか
いずれにせよ前田さんとの話と併せて仲間を守るために同胞を手にかけざるを得なかった者のかなしみが描かれている話だと思いました

451名無しリゾナント:2012/02/03(金) 23:17:14
>>435です
遅くなりましたが代理投稿してくださった方ありがとうございました。

452名無しリゾナント:2012/02/04(土) 14:57:18
>>450
どうもありがとうございました

453名無しリゾナント:2012/02/04(土) 15:02:50
 ■ ドロシーシステム −石田亜佑美− ■

『カムオン!リオン!』

大気が渦巻き、その少女の足元に"何か"が凝縮された。
姿は見えない。だが、"何か"かがそこにいる。
しかし、"能力者"、高橋愛には見えている。

 逆巻く鬣、鋭い牙、巌のごとき体躯

それはまるで、獅子の石像がそのまま動きだしたかのような姿をしていた。

『リオン!アタックモード!』

少女の号令が闇を貫く。
獣の咆哮は少女と、高橋にのみ聞こえているのだろう。

『GO!』

『リオン』と呼ばれた獅子の幻獣は、引き絞るゆみが如く、
たわめた総身を低く伏せ、
一気に高橋の…その喉笛めがけて殺到する。

だが

「ボリン!」

ムッシャ、ムッシャ、ムッシャ…
咀嚼、"それ"は突然現れた。

「リ、リオン!そんなっ!」

454名無しリゾナント:2012/02/04(土) 15:03:22
喰われている。獅子の石像が巨大なアギトに噛み砕かれ、悲鳴をあげている。
巨大な口、無数の棘、二対の腕に二対の脚…この世ならざる魔獣が、そこにいた。

「イリュージョナリービースト…その怪物はそう呼ばれてるんやろ?」

「お…お前もDシステムを持っているのか!?」

「D?ああ、あーしのコレは"ある人"から…いや、いまはあーし自身の力やよ。」

「そんな…Dシステム無しで直接IBを使役するなんて…ありえない…ありえないっちゃ!」

「あーしの名前は高橋愛…石田亜佑美ちゃん。あなたをスカウトしに来た。」

「スカウト?…ふん!断る!Dシステムは渡さない!」

「…あーしは…」

『カムバック!リオン!』

号令とともに、半ば喰われた獅子が空に四散する。

『カムオン!バルク!』

455名無しリゾナント:2012/02/04(土) 15:04:08
連続して放たれた号令は、まるで力士のような体格の、板金鎧に身を固めた巨人を出現させる。
巨人?だが鎧の隙間からは、なにも見えない。空洞。
巨人では無い。巨大な鎧そのものが動いている。

『バルク!アタックモード!』

巨人はその背に負った巨大な鉞を手にとり、主人の号令を待つ。
殺戮の、その合図を。

「無駄やよ…石田亜佑美。」

高橋は冷徹にそう宣言する。

『GO!』

巨人と、魔獣が、激突する。

456名無しリゾナント:2012/02/04(土) 15:09:58
 ■ セットドキュメントヒトミ −吉澤ひとみ− ■

「念動力?ああ"一応そういうことに"なってるわな」

遠い昔、あの人の念動力について聞いてみたことがある。
石川さんと目が合うと、二人で
ばつが悪いような、悲しいような不思議な顔をして笑った。
あの頃、あーしも、みんなも、あの人の能力を、ずっと【念動力】だと思っていた。

――――――――

吉澤ひとみ【念動力(サイコキネシス;psycho kinesis)】
 意思、精神の力で手を触れずに物を動かしたり、破壊したりする能力。
 特に吉澤のそれはまるで直接手で操作しているかのような繊細さと
 反対に巨大な猛獣が暴れたかのような破壊力とをあわせもっていた。
 
吉澤ひとみ【幻想の獣(イリュージョナリービースト;illusionary beast)】
 吉澤ひとみが【念動力】と偽っていた能力。
 『組織』の見解における能力の根源"D"、通常は他の能力者同様、
 いわゆる超能力という形で現実世界へ干渉する。
 だがごくまれに、超能力とは違った形をなして現実世界に干渉することがある。
 古くは陰陽師の式神、世界各地に残る"懲らしめられた怪物が改心して英雄の家来となる"話、
 西洋の悪魔召喚等の逸話の中にもごく少数ながら"これら"の及ぼした事例が、含まれているという。
 通常その実体は自分および同質の能力者同士にしか知覚しえないが
 いわゆる霊感の強い人間のなかにもごくまれに知覚する者がいるという。
 能力者の根幹にかかわる秘密ゆえ、組織でも一部の者しかこの事実は知らされてはいない。
 吉澤ひとみのもつ"それ"は四足の獣のような体躯に巨大な口だけの頭部、
 不自然に生えた四本の腕、背中にびっしり生えた長い棘と非常にグロテスクな姿をしている。

457名無しリゾナント:2012/02/04(土) 15:11:57
>>453-455
■ ドロシーシステム −石田亜佑美− ■

>>456
■ セットドキュメントヒトミ −吉澤ひとみ− ■

でした
以上、代理投稿願います

458名無しリゾナント:2012/02/04(土) 16:33:58
完了しました

459名無しリゾナント:2012/02/04(土) 19:05:44
 ■ インプデントアンサー −石田亜佑美− ■

静寂

石田亜佑美、そう呼ばれた少女が地に伏している。
すでに満身創痍。もはや戦う力は残されていない。

「うそ…IBだけじゃなしに…ぜんぶウチとおなじ力…」

「全く同じ能力というわけじゃないんやよ。
それにあーしはあなたの思考が読める。だから常に先手をとれる、決して後れをとらん。」

「認めない…認めないっちゃ…ウチは負けない。ウチはこんなところで負けるわけには!」

「石田亜佑美。現実をうけいれなさい…あなたはあーしに敗北した。」

「!」

「誤解してほしくないんやよ…あーしはあなたのDシステムを奪うために来たわけじゃない。
ただ…助けてほしい人達がいる…
あーしにはもう出来ないことをあなたに…
"あなたたち"に…だからあなたをスカウトしに来た」

 沈黙…

460名無しリゾナント:2012/02/04(土) 19:06:26
「石田亜佑美、あなたは強い子…でもその力をもってしても、あなた一人だけでは戦ってはいけん…
元に今、たった一人のあーしにすら、あなたは勝てんかった。」

高橋はそっと膝を折る、石田亜佑美の頬に触れ、その額に額を合わせる。

「!?今の…今の人達は…」

「あーしが守りたい人達…あなたに助けてほしい人達…そして、あなたの力になってくれる人達」

石田に見えたものはそれだけでは無かった。
が、石田は何も言わぬことに決めた。もう、答えは出ている。

「わかりました、高橋愛さん。あなたの申し出を受けます。
でも、ウチ…私はまだ完全に負けたとは思っていません。
あなたとは経験が違いすぎた…それだけです。
私はすぐに追いつく…私はもっと強くなる。あなたよりもっと。
必ずあなたを倒します。それまでの間だけ、あなたに従います。」

「生意気な、とっても良い答えやよ。石田。」

461名無しリゾナント:2012/02/04(土) 19:08:00
>>458
ありがとうございました

>>459-460
 ■ インプデントアンサー −石田亜佑美− ■
でした

以上代理投稿ねがいます

462名無しリゾナント:2012/02/04(土) 21:37:47
完了
いいですねこのラッシュ
百の論議よりも一つのネタの方が尊いと思ってるのでどんどん代理していきますよ

463名無し募集中。。。:2012/02/04(土) 23:10:49
リゾ!リゾ!リゾビアー!

『リゾビアの泉 素晴らしきリゾ知識』

「みなさん、こんばんは!リゾビアの泉にようこそ。本日からリゾナン史におけるリゾ知識を品評するリゾビアの泉が始まります。審査していただくのはリゾビア審査委員のリモリさんです!」
「どうぞ、よろしく。」
「それではさっそく最初のリゾビアいってみましょう。まずはこちらから・・・」

リゾビアNo.001
『リゾナンターのリーダー・高橋愛は精神感応者のくせに詐欺にひっかかっている。』

リゾリゾリゾ!

「さっそくリゾボタンが押されましたね。それではこちらが確認のVTRです。」

リゾナンターのリーダー・高橋愛といえば瞬間移動、光の力、そして人の心が読める精神感応という力を持っているリゾナンター最強の戦士である。
そんな高橋愛が詐欺にひっかかったかどうか、本人に話を聞いてみた。

リゾナンターリーダー・高橋愛
(本当に高橋さんは詐欺にあったのですか?)
「はい。確かに私リゾナンターのリーダー・高橋愛は精神感応者のくせに詐欺にひっかかっています。」

高橋さんは詳しい経緯を語ってくれた。
ある日、高橋さんは通りがかりのおじさんにぶつかり、骨が折れたとして1億円の慰謝料を要求されたという。
困った彼女はホストクラブで「タカ」という名前で働くことになったという。

464名無し募集中。。。:2012/02/04(土) 23:11:47
(なぜひっかかったのですか?)
「私は普段は能力を使わない生活に徹しています。お客様の気持ちをくみ取るのに多少は使うかもしれませんが、ほとんど使いません。それにがきさんが言うには私は人が良すぎるのでついつい相手にペースに持っていかれるみたいです。」

(ちなみにホストクラブでは人気があったんですか?)
「はい。私は宝塚のセリフなどを使ってかなり女性の方に人気がありました。もともと宝塚が好きでした。それに自分で言うのはなんですが男装をしたらかなりいけます。」

その事実は高橋愛の行動を怪しんだ久住小春がホストクラブに潜入したことで発覚した。
その後、その騒ぎも収まった。

(大丈夫だったんですか?その後、詐欺は・・・) 
「はい。あの後、事情を聞いたがきさんとれいなが一緒に先方と話をつけにいきました。たぶん穏便にすんだと思います。ふたりに喫茶リゾナント永久無料コーヒー券を預けて渡してもらいましたから。」

(最後に一言)
「みなさん、詐欺は絶対だめですよ。」

みなさんも詐欺を起こそうという気は起こさないでください。
命がないかもしれません

465名無し募集中。。。:2012/02/04(土) 23:12:22
リゾリゾリゾ!
「補足をしますと。その後、高橋さんはもう一度詐欺に引っ掛かります。今度はオレオレ詐欺です。」

リゾリゾリゾ!

「その時は久住小春さん、光井愛佳さんが協力して、詐欺グループを見つけ出しました。しかもその時銀行のATMを破壊していました。そしてその後、高橋さん、新垣さん、田中さんによる制裁を詐欺グループは受けたとのことです。」

パネラーのリゾル小木から質問が・・・

「あの、具体的にはどんな制裁があったんでしょうか?」
「具体的には知られていませんが、光井さんの予知によりますとこんなに一方的で容赦がないのは初めてみたとのことです!」

リゾリゾリゾ!

リゾビアNo。001
『リゾナンターのリーダー・高橋愛は精神感応者のくせに詐欺にひっかかったことがある。』
68リゾ

「他にもリゾビアがございましたら、こちらまでご応募ください。」

466名無し募集中。。。:2012/02/04(土) 23:16:46
>>463-465
「リゾビアの泉 素晴らしきリゾ知識 1回目」

ちょっとためしに作ってみました。
過去の作品を懐かしむ意味を込めたものでほかの皆さんも何かネタがあれが
という気持ちで本当に応募があったらどうしようって感じです。

一応ほかのコーナーも考えています。

もしよければ代理投稿よろしくお願いします。

467名無しリゾナント:2012/02/04(土) 23:32:29
承って候

468名無しリゾナント:2012/02/04(土) 23:36:40
滞りなく終わって候

469名無し募集中。。。:2012/02/04(土) 23:40:16
どうもありがとうございます。

470名無し募集中。。。:2012/02/05(日) 11:16:38
『ボツリゾの沼』
「このコーナーは数多くのリゾスレ作者が試行錯誤の末に考えたがやむ追えない事情で公開できなかったものを紹介し、その公開できない未練をこのボツリゾの沼に沈めて、消し去るコーナーです。まず最初のボツリゾはこちら・・・」

ボツリゾNo.001
「リゾナンターVS仮面ライダー」

仮面ライダーといえば東映制作の人気特撮ドラマである。
謎の組織ショッカーによって改造人間にされた青年・本郷剛が正義の心で仮面ライダーに変身し、ショッカーと戦う物語である。

なぜこういう作品を作ろうとしたのかその経緯をこの作品を作ろうとした作者に聞いた。

(こういう作品を作ったことはありますか?)
「ハイ、私は一度リゾナンターVS仮面ライダーというものを作ったことがあります。」

471名無し募集中。。。:2012/02/05(日) 11:17:15
その内容を簡単に説明してもらった。
リゾナンター久住小春はモデルの仕事で数日の間日本を留守にしていた。
そして日本に帰国して、喫茶リゾナントを訪れると毎度おなじみのリゾナンターの面々の様子がおかしいことに気付いた小春はMの吉澤ひとみに相談。
ちょうど、その頃吉澤の知人でインターポールの滝捜査官からリゾナンターがショッカーの構成員と行動とともにしている証拠写真を見せられる。
リゾナンターがショッカーに!
そんなことを信じない小春はどこかへ行くリゾナンターを尾行。
そして小春はリゾナンターがショッカーの蜂女に洗脳されていることを突き止める。
蜂女と対峙する小春であったが、蜂女に力に圧倒され窮地に・・・
そこに駆けつけたのが仮面ライダー1号であった。
仮面ライダー1号は蜂女をみごとに撃破。名も名乗らずその場を去っていく。
こうして無事に平和を取り戻せたのであった。

472名無し募集中。。。:2012/02/05(日) 11:17:58
(どういう経緯でこの作品を思いついたのですか?)
「これは日進のキャンペーンでモーニング娘。とショッカーが一緒に写っているのを見て、思いつきました。」

(どうして公開しなかったのですか?)
「著作権が怖くて、書くまでは良かったのですが公開するとなると気が引けてしまいました。それと決定的だったのは私の今までのデータが入ったUSBが壊れて復旧できなかったことにあります。」

(ちなみに見どころはどこだったんですか?)
「それはやはり仮面ライダーと久住小春が共演するところでしょう。ただ、作品内では明確に仮面ライダーとは言ってないんですけどね。」

公開はされなかったが、久住小春の目には仮面ライダーの雄姿がしっかりと目に焼き付けられたであろう。

473名無し募集中。。。:2012/02/05(日) 11:18:44
「ほう、USBを壊した。それはショックですね。でも、リゾスレって意外といろんな共演してますよね。」
「ええ、彼も恐れずに発表していたらどうなっていたかわかりませんね。でも、ここで未練を持っては今後の作家活動に影響がでますので沈めます。」
「ボツリゾよ、さらば!」

「リゾナンターVS仮面ライダー」はボツリゾの沼に沈められた。

「作ったけど、公開できなかった作品。思いつけたけど、書く力がなかったなどの様々なリゾスレ作品を持っている方はぜひここまでご応募ください。」

474名無し募集中。。。:2012/02/05(日) 11:21:36
>>470-473
「リゾビアの泉 ボツリゾの沼 1回目」

リゾビアの泉のコーナーのひとつです。
みなさんもこんなの思いついてたなぁというのがあればぜひ一度試してみてください。
あともう1コーナー作るつもりです。

現在、パソコンでスレを見れないようなので代理投稿よろしくお願いします。

475名無しリゾナント:2012/02/05(日) 14:51:33
無事に投下できました

476名無し募集中。。。:2012/02/05(日) 16:01:56
どうもありがとうございます。

477名無しリゾナント:2012/02/24(金) 19:41:14
夏だ!
海だ!
リゾートだ!

てなわけで、同僚ウエイトレスの仕草にいちいち萌えてやかましい変態1号こと道重さゆみは、午後の食糧調達班に回された。
ちょっと騒いで、ちょっと隠し撮りして、ちょっと過剰なスキンシップとっただけなのに。
要は邪魔だから追い出されたということで、さゆみはちょっと落ち込んだ。
ちなみに、いちいち萌えて若干キモい笑顔を浮かべていたのは変態2号こと譜久村聖も同様だったのだが、
さゆみと違って前科がないことや、うるさくはしなかったことが考慮されて海の家に残ることが許されている。

用具一式とクーラーボックスを提げながら、さゆみは一人とぼとぼと指定された場所を目指していた。
目的地はこの海岸の先の岩場。
お手軽な磯釣りスポットとして名を馳せるそこで食材となる魚を釣ってくること。
それがさゆみに課せられた使命だった。

「・・・って言ってもさあ」

降り注ぐ真夏の太陽光。
足元からの照り返し。
熱中症対策は、今被っているひと夏のアバンチュール的なつばの広い麦わら帽子とクーラーボックスに入れた濡れタオルのみ。
そしてなにより体力及び磯釣りの経験がまったくない自分。
どこをどう考えてもさゆみのミッション達成の確率は低かった。

ああやっぱりこれは罰なのかなお客さんの幼女をねっとり眺めていたのがまずかったのか

しれない愛ちゃんと絵里とりほりほの可憐なウエイトレス姿(海の家Ver.)を目とフィルム
に焼きつけるだけにしておけばいやでも鈴木やフクちゃんも意外と目が離せなくて以下略

早くも暑さにやられて朦朧としてきたところで、ようやくさゆみは目的の場所に到着した。

478名無しリゾナント:2012/02/24(金) 19:41:58

「うっわぁ・・・・・・もう場所ないじゃん」

岩場にはそれなりの格好をした釣り親父たちが坐しており、新しく割り込めるようなスペースは少ない。
空いているのは、足場が不安定で少しでもバランスを崩したら海へドボン!となりそうなところばかりだ。

「しょうがないよね、うん。場所がないんだもん。帰るしかないでしょ、これは」

さゆみは、里保のベストショットが撮れた時に負けずとも劣らない今日一番のイイ顔を見せた。
よっしゃこれで帰る口実ができた。
さゆみはいそいそとUターン。

が、そこで。

「おっ、おねーさん釣りに来たの?めずらしーねー若い女の子が。こっちおいでよ。よかったら一緒にやんない?」

近くの岩場に腰かけていた、やたらちっちゃい釣り師に声をかけられてしまった。
魚屋のおっちゃんが被ってるような帽子を目深に被っていて顔はわからないが、声からして女性。
さゆみとそう年は離れていない気がする。
せっかく帰れるところだったのに。でもこんな若そうな人が釣りしてるなんてちょっと気になるかも。
半分がっかり、半分好奇心で、さゆみはその人の元へ向かう。

「失礼しまーす」
「どーぞどーぞ。ところでおねーさん、釣りよくやるの?」
「いえ、全然です。釣り堀に一回行ったことがあるくらいで」

小さい釣り師が場所を詰めてくれたおかげで、さゆみも岩場に入ることができた。
目の前はまさに海。
その恐ろしさを知らしめるような深い色が白波と共に音を立てる。
昨日遊んだビーチとは似ても似つかぬ海の本性の一端が見てとれた。

「ふーん、ほとんど初心者か。・・・よし、せっかくだからおいらが釣りのコツと醍醐味ってやつを教えてあげよう!」
「え?あ、はい、ありがとうございます」
「んじゃ、まずは道具を出して」
「・・・はい」

479名無しリゾナント:2012/02/24(金) 19:42:40
面倒見がいいというか、押しつけがましいというか。
心の中でぼやきながら、さゆみはこの暑い中苦労して持参した釣り用具一式を取り出した。
どれも海の家から引っ張ってきたものだ。
あの店は釣りの道具の貸し出しも行っているらしい。

「やっぱり、道具にこだわったほうが大物が釣れるんですか?」
「ん〜、そりゃあどうかなー?こだわれるならこだわったほうがいいだろうけど、結局最後は自分の腕次第だからなあ」

ちっちゃい釣り師は、さゆみと会話しながらてきぱきと釣りの準備を始めている。
餌の用意、釣り竿のセッティング、踏ん張れる足位置の確認、などなど。

「よしっ!こんなもんだろ!」

言って、釣り竿をさゆみに渡してくれた。
しかしさゆみはそこまでの過程に一切手をつけていない。
さすがに申し訳なくなって、やり方を教わろうともう一度お手本をお願いするが。

「あー、いいのいいの!初心者は小難しいことよりまず釣りの楽しさを覚えないと!」
「でも」
「ほら見て。この餌は組織の科学力に物を言わせ・・・じゃない、えーっと、あれだ、手作りの特製ルアー。
 海水に触れると本物の小魚だと思わせる催眠が、いや、その、とにかく本物っぽく動くんだよ!だからちょっと垂らせば・・・」

ちっちゃい釣り師はさゆみの申し出を却下し、渡した釣り竿を二人で握るようにして海に放った。
すると、一分も経たないうちに。

「わっ!かかった!」
「落ち着いて落ち着いて!ここまで来たらこっちのもんだから!」

釣り師の手ほどきに任せ、リールを巻いていく。
さゆみも苦しいが、魚だって苦しい。
じわじわと体力を奪われていく両者。
果たして先に体力が尽きるのはどちらなのか。

480名無しリゾナント:2012/02/24(金) 19:43:27
そして。

「わぁっ!」
「キャハハハ!はい、釣れましたー!」

小さい魚が見事に釣れた。
名前はわからないが、サイズはさゆみの手のひらに収まってしまう程度。
こんなに小さいやつがあんなに強い力で引っ張っていたのか。

それにしても、なんだろうこのスリリングかつエキサイティングな快感は。
釣られまいと粘る獲物との駆け引きがたまらなく楽しかった。
次はどんな反応をみせるだろう。どんな餌を使えばもっと大物が食いついてくれるだろう。
釣りってこんなに楽しかったんだ!とさゆみは思うわけである。

「・・・どうやらあんたにもわかったようだな。釣りの醍醐味ってやつが」

帽子の下で、先輩釣り師が不敵に笑う。
そう、彼女は“先輩”だ。
さゆみは今日から釣り師を目指す。
こんなネタあんなネタでばっさばっさと釣り上げて、釣った獲物を手のひらで転がしてやるのだ。今日の魚のように!

「ありがとうございました。頑張るぜ!先輩!」
「うっしゃ!その意気だ、後輩!」

そんな感じで。
互いに顔も名前も知らない二人は、その後も時に協力し時に競い合って釣りに励んだのであった。

「えいっ!妖精が写り込んじゃったの〜釣法!」
「なんの!私は組織きっての釣り好きで、組織の中じゃ二番目か三番目に釣りに詳しいと思います釣法!」

もちろん、キャーキャーとうるさくて周りの釣り親父たちの顰蹙を買ったのは言うまでもない。

481名無しリゾナント:2012/02/24(金) 19:44:20
おまけ。

釣りを終えたさゆみが、夕方になって海の家に戻ってきた頃のこと。
海の家は閉店間際で、里沙や愛佳たち数人が店の前で後片付けをしている。
そこに、ビーチバレー大会に行ったれいなと小春と衣梨奈の三人が帰ってきた。

「い〜や、小春のほうがポイント高いんだから小春の勝ち!」
「でも最後の長いラリーで決めたのは衣梨奈です!あとラインギリギリの際どい当たりもほとんど私が拾いました!」
「ルールはルールでしょ!えりぽん大人げないよ!」
「久住さんのほうが年上じゃないですかぁー!」

うるさい。

よくれいながキレないなあと、さゆみは不思議な気持ちで見ていた。
キンキンと言い合う二人の横で、れいなは肩を落として暗く沈んでいる。
なにか嫌なことでもあったのだろうか。

「あんたら、やかましいわ!まだお客さん中におるんやから、向こう行っとき!」
「「だって〜・・・」」

「おかえり〜。バレーどうだったー?」
「あー!にーがきさん!」
「新垣さぁーん!」
「・・・うぅ。・・・・・・ビェー!ガキさーん!!」
「うっひょぉええっ!田中っち!?」
「「えぇーっ!!」」

す、すごいものを見てしまったかもしれない・・・・・・
なんと、あのれいなが。
ガキさんとのメールのやり取りは年に一、二回と言っていたあのれいなが。(←多分お正月と誕生日)
小春と生田を押しのけてまで、ガキさんに抱きついている・・・!!

482名無しリゾナント:2012/02/24(金) 19:45:42
「もうこの二人と組むのやだー!(>□<) 次組むならガキさんと組むー!」
「ちょっと!あんたたち田中っちになにしたの!この人本気で嫌がってるよ!?」
「「えー、別に・・・」」

れいなはガキさんの背中に腕を回しているのに、ガキさんの腕は中途半端なところで固まっているのがリアルなようなで案外そうでもないような。
さゆみは動揺を抑えながら冷静に観察していた。

あ、しまったカメラ持ってない。
このレアショットどころではないレアショットを後世に残しておけないなんて。
と思ったら、愛佳が懐からそっとデジカメを取り出してパシャパシャと撮り出した。
普段は「風景撮るほうが好きなんです〜」とか言ってるが、さすがにこの歴史的和解の瞬間は撮らずにいられなかったようだ。
あとで焼き増ししてもらおう。そして二人に見せよう。
そうして我に返って照れまくるれいなと苦笑いするガキさんを写真に収めるまでがワンセット。

別の方向を見ると、聖もデジカメを構えているのがわかった。
姿勢とカメラの形態から察するに、ムービーモードをセットオン。
感動してむせび泣きながらも軸はまったくブレていない。
さすがである。


夕暮れの浜辺。
抱き合う二人のシルエット。
この感動的な場面を周囲の人々は優しく見守っていた。
小春と衣梨奈は割と不満そうに見守っていた。

誰もが時を忘れて見入る中、さゆみの釣ってきた魚だけがクーラーボックスの中でピチピチとその存在をアピールしていた。

483名無しリゾナント:2012/02/24(金) 19:47:37
>>477-482
『リゾナントリゾートin利曽南島 3日目昼(3)―のせてのせられ釣り講座―』

以前リクエストにあった釣りの話に時事ネタを混ぜてこんな形になりました
書いてる本人釣りに詳しくないのでなんか間違ってたらすみません

次が最終回(仮)です





以上をどなたか代理投稿お願いします

484名無しリゾナント:2012/02/24(金) 20:18:17
行ってきます

485名無しリゾナント:2012/02/24(金) 20:27:33
言って来ましたけど2レス目が行数オーバーだったので分割させていただきましたよ

486名無しリゾナント:2012/02/24(金) 22:55:32
ごめんなさい行数チェックするの忘れてました
どうもありがとうございました

487名無しリゾナント:2012/03/12(月) 21:49:58
以下、リゾナントリゾートです
最終回(仮)と最終回後の番外編、二本同時に用意しました
できれば最終回(仮)から時間を置かずに番外編を落としたかったからなのですが・・・
規制中ということで、自分の手でそれができそうにありません

時間を置いて一本ずつでも二本同時投下でも構いませんので、以下をどなたかお願いできますでしょうか

488名無しリゾナント:2012/03/12(月) 21:50:34
夏だ!
海だ!
リゾートだ!

てなわけで、旅行3日目の予定をほぼ消化したリゾナンター13名はホテルのプライベートビーチに集まった。

海の家に提供して、余った野菜その他の食材。
れいなたちがビーチバレー大会で獲得した、牛肉とトロピカルフルーツの詰め合わせ。
さゆみが海で釣ってきた魚。(海の家の料理長の手によってさばかれ済み)
野外用のコンロ。大量の炭。トングや串や人数分の箸。
それらが所狭しと並んでいる。

「よぉし!じゃあ今からバーベキュー始めっぞー!!」

愛の呼びかけに対し、うおー!という12人分の勝ちどきの声が上がった。
今この瞬間から、今回の旅行最後のメインイベント・バーベキューが始まったのだ。

「はい、ガキさん。トングでーす」
「はいよーっ」

ごく自然にさゆみからトングを受け取り、ごく自然に肉その他諸々を焼き始める里沙。
肉食ばかりのリゾナンターだけあって、多くのメンバーが目をギラリと光らせながら様子を見守っている。

「おーい!肉こっちにもあ、むぐっ!」
「いちいち言わんでもええやないですか愛ちゃん」
「向こうは向こう、こっちはこっちで楽しむデスよ、愛ちゃん」

目をギラリとさせたメンバーよりもさらに目を妖しく光らせて、愛佳とリンリンは愛の口を塞ぐ。
卓は二つで向こうは8人、こっちは5人。
明らかにこちらのほうがライバルは少ない。
周りにいた里保と香音も、うんうんと頷いた。

489名無しリゾナント:2012/03/12(月) 21:51:07

「ちょっ、さゆ!今れいなの前にあった肉とったやろ!」
「ケチくさー。いいじゃん、まだあるんだから」
「じつはねー、ジュンジュンはねー、くっすみさんのことがー」
「暑苦しいよー。酔っぱらうの早いよー。あっ、笹食べてみなよ笹!健康によさげな色してるよ?」
「はあ?メダルにサイン?・・・まあいいけど」
「ヤター!後で持って行きますね!」
「はいフクちゃん。お食べ」
「いいんですか!かかか亀井さんに焼いていただいたパプリカ・・・!」

「そしてこれがリンリンマンの必殺ギャグ・・・・・・“ポテト!”Say!」
「「ポテト!!」」
「アヒャー!マジ面白れー!」
「いや笑いどころがわからへん。あ、そろそろ新しい炭取ってこな」

思い思いに盛り上がるバーベキュー。
束の間の平和を満喫するかのようなバーベキュー。
やってることは普段と大して変わらない気がするバーベキュー。

しかし、これだけのメンバーが集まって平和に食事が終わるはずもなく。

「取り消して!今の発言取り消さないと本当に怒るよ!」
「なんで?里保ちゃんかわいい言っただけだよ?」
「被ってるって言ってんの!りほりほ大好きキャラまで真似しないでよ!」
「まねじゃないもん!わたし、ちっちゃくて動きにキレがある子大好きなだけだもん!」

「おう鞘師。その肉食べて腹壊す未来が見えたで。愛佳がのけといたるわ」ヒョイ
サッ「結構です。生焼けの肉程度でお腹を壊すほど水軍流はヤワじゃありません」
「先輩の心遣いは素直に受け取っとくもんやぞ」ヒョイ
サッ「心遣いって、育ち盛りの後輩から大きい肉を横取りすることがですか」

490名無しリゾナント:2012/03/12(月) 21:51:52
それぞれの卓でそれぞれに勃発する騒動の種。
さゆみとジュンジュンは、里保を愛でる権利を巡って。
愛佳と里保は、目の前のとびきり上等そうな肉を巡って。
今、嵐が吹き荒れる・・・!


「上等だぁ!表に出ろやぁ!」
「のぞむところダ!」

「いっぺんおまえとはケリつけなあかんと思ってたんや・・・」ヒョイ
サッ「あなたのこと先輩として尊敬してますが、勝てないと思ったことは一度もありません」

「道重さん!ジュンジュンさん!光井さんと里保ちゃんも!」

ひょうきんだけど案外常識人キャラの香音が二組を止めに入る。
なにしろさゆみとジュンジュンは身長があるし、愛佳と里保は勝つためには手段を選ばなさそう。
こいつらが暴れたらえらいこっちゃなのだ。

「あぁ〜、でも私一人じゃ止められっこないよ!助けてください高橋さん!」

振り返る香音。
助けを求めた先には、みんなの頼れるリーダー・高橋愛。
だが。

491名無しリゾナント:2012/03/12(月) 21:52:38
「れいな、食べカスついてる」
「えっ、どこ?」
「ここ。ってか、これ」
「!? ちょ、愛ちゃん!」

びっくり仰天、頬を赤らめるれいな。
きょとんとする愛。
れいなの口元についていた食べ物のかけらを、愛が指ですくって食べたのである。

「なんじゃそりゃあっ!それ天然でやってるなら凄過ぎるんですけど高橋さん!ってか田中さんの雰囲気も
 いつもと違い過ぎるんですけど!なんか乙女な感じで、ぜんっぜん声かけられないし!」

思わず香音も、コントのツッコミ役みたいなツッコミが飛び出るというものだ。
普段は人に威嚇ばかりしている猫が飼い主の前でお腹見せてゴロニャン、な場面を目撃したような気分。
可愛いけど邪魔をしてはいけない。邪魔したら引っかかれそう。
愛たちを見なかったことにして、香音はもう一人の頼れる先輩に助けを求めることにする。

「新垣さん!みんなを止めてくださ・・・」

「う〜ん、やっぱお土産は日本酒のほうがいいかなあ」
「ちょっとガキしゃーん。まだのむんですか〜?」
「私じゃなくて先輩たちへのお土産だからね。結局この夏の慰安旅行も参加できなかったし」
「オゥ!ガキはんにも先輩がいるですか!」
「そりゃいるよー。中澤さんでしょ保田さんでしょ吉澤さんでしょ、それになんといっても安倍しゃん!でしょー・・・」
「いっぱいいるですね!ダークネスの幹部たちみたいな名前だ!」
「やだやだー!新垣さんは衣梨奈だけを見ててくれなきゃやだー!」
「ちょっとがきしゃーん。まらのむんれしゅかぁ〜?」

「っておい!どう考えてもダークネスの幹部の名前じゃん!まだスパイ設定続いてたのかよっ!つーかあんたたちも気づけよ!」

492名無しリゾナント:2012/03/12(月) 21:53:26
頼れるもう一人の先輩は、酔っぱらい二人と普段のテンションが酔っぱらいな未成年一人に囲まれすでに出来上がっていた。
どっからどう見ても、助けてくれそうにない。

そうこうしているうちに、メンチ切りまくりの4人のほうに動きがあった。

「里保ちゃん、ジュンジュンと組もうね!一緒にあの人やっつけるだよ!」
「あ゛ー!ちょっとなにドサクサに紛れてりほりほとくっついてんの!離れてよ!」
「大丈夫ですよ道重さん。すぐにあの小生意気なガキんちょ、道重さんの前に引っ立ててやりますから」
「タッグバトルというわけですか。・・・面白い。受けて立ちましょう!」

ジュンジュンの隣に里保が、さゆみの隣に愛佳が立っている。
二つのバトルが交わって一つになったようだ。
戦闘力に長けたジュンりほ、計略に長けなんとなくしつこそうなさゆみつ。
まともにやり合えば前者だが、後者がまともにやり合う気がしない。
まさに嵐の予感である。


なんかもう諦めたけど、一応念のため万が一ということもあるかもしれない。
香音はほんの微かな期待を胸にゆっくりと後ろを振り返って、その名を呼んだ。

「・・・聖ちゃーん」

聖は中学三年生にもなって年下にローマ字のスペルミスを指摘されるようなおバカさんだけど、
いざという時は香音たちのお姉さんという感じで頼りになる。
もしかしたら、ひょっとして、ともすれば・・・?

「今の私があるのはきらりちゃんのおかげなんです。久住さんあってこその聖っていうか・・・キャッ、言っちゃった!」
「ふーん。あ、梅干し食べる?」


うん、少しでも期待した私がバカだったんだろうね。

493名無しリゾナント:2012/03/12(月) 21:54:22

愛はれいなと戯れていて、里沙は絵里やリンリンや衣梨奈と飲んだくれている。
聖は小春に近づいて2ショットをねだるつもりだろう。
誰も、ジュンジュン・里保vsさゆみ・愛佳のバトルを止める気配がない。
バトルに気づいているかどうかも怪しい。
なにやってんだろう自分、と考えて香音は空しくなってきた。

「・・・はあぁ〜」

盛大にして重厚なため息を一つ。
今日一日の疲れをすべて乗っけたかのような深い深いため息。

香音は人の声が“聞こえ過ぎる”。

拾わなくてもいい声まで拾えてしまう性質なのだ。
聞きたくない言葉を今までいっぱい聞いてきた。
それで損してきたことだってたくさんある。

だから、たまにはいいか。
こういうことにしても。

「・・・・・・知ーらないっと!」

くるりと反転。
なんでもなかったような顔をして食事に戻る。
見て見ぬ振り、聞いて聞かぬふりだ。
みんなが事に気づくまで、香音はなんにも知りません。

494名無しリゾナント:2012/03/12(月) 21:55:05

「里保ちゃん、合体だよ!」
「はい!行きます!“ライド・イン・パンダ”!」
「ジュンジュンめぇ!さゆみを差し置いてりほりほと合体なんて許せない!・・・でも、パンダに跨るりほりほ超ラブリー〜!!」
「・・・言うとくけどな、鞘師。この場合は“ride in”より“ride on”のが適当やからな」
「うぐっ!!」
「バウ!?」
「ああ!間違いを指摘されたショックでりほりほが落ちた!」
「フッ。知ったかぶりの優等生は打たれ弱くてあかんなぁ」

先程まであんなに頭を悩ませてくれた喧騒もBGMに変えて。
誰も周りを気にしていないなら、今がチャンスだ。
網の上に残された肉や魚もまだ箱の中に眠ってる野菜も、みぃーんな一人で食べ尽くしてやる!

香音は焼いた。
焼いて焼かれてまた焼いてを繰り返して食べた。

聞きたくない声をシャットアウトして食べ続ける術を身につけた香音。
しかし、今日のような喧騒はリゾナンターにおいて日常茶飯事だ。
スル―したくなるような馬鹿馬鹿しいやりとりはこれからも数多く巡ってきて、そのたびにドカ食いした結果
成長期の女子中学生にふさわしい拡張を遂げるようになることを、彼女はまだ知らない。

495名無しリゾナント:2012/03/12(月) 21:56:15
夏だ!
海だ!
リゾートだ!

てなわけで、リゾナンター13人はひと時の休暇を終えて帰路につこうとしていた。
行きと同じく帰りも交通費をケチるので、一行は駅のホームで1時間に1本の電車を待っている。

しかし、そんなリゾナンターたちに迫る4つの影。
大きな柱の後ろに重なるようにして、少し離れたところからじっとリゾナンターの姿を見つめている。

「よし。行くよ、みんな」
「いやー・・・もうちょっと待ったほうが・・・」
「なんだよ、近づいて声かけようって言ったの亜佑美ちゃんじゃん」
「それはそうだけどさあ」

愛らしい容姿に似つかぬ低い声の少女が、その後ろの長い黒髪をまっすぐ伸ばした勝ち気そうな少女に文句をつける。
そんな二人の様子を、雑誌モデルばりに線の細い少女がおろおろと、実に純朴そうな大和撫子風少女がニコニコと見守っていた。

「ねえ、メシはどう思う?いつ声をかければいいか、最年長としてバシッと決めちゃってくんない?」
「え〜、歳は関係ないよ。ていうかね、メシってあだ名はやっぱりどうなのかなって・・・」
「じゃあメッシ」
「そういうバロンドール的なのもかっこいいけど。でももっともう、ガーリーな」
「じゃあはうたん」
「う〜ん、悪くはないんだけど・・・ちょっと恋愛体質っぽいかなあ」

「まぁちゃんのジョーカーどっか行った」

「「はい?」」
「まぁちゃんのジョーカーどこだろ〜」

496名無しリゾナント:2012/03/12(月) 21:57:09
話がズレて、お年頃の乙女としてはそれなりに深刻な問題を話し合っていた低音とモデル。
そこに、ニコニコ少女が割って入った。
だがその割り込み方はあまりに脈絡がなく、二人は暫し呆気にとられてしまう。

沈黙を破ったのは、先程まで低音と言い合っていた黒髪ロングだった。

「あ、もしかしてまぁちゃん、トランプのジョーカー失くしちゃったの?」
「うん」

ニコニコ少女がいっそうニコニコと笑ってみせる。
どうやら、持参したトランプの中にジョーカーが見当たらないらしい。

「ホテルに置いてきちゃったのかな。昨日の夜みんなでババ抜きしたんだから、その時まではあったよね」
「ちゃんとケースに入れたよ」
「じゃあケースのフタが外れて荷物の中に紛れちゃったとか。ちょっと探してみようか」
「うん。あゆみん優しい」

二人は荷物を開けてごそごそとジョーカーを探し始めた。
そのうち「私も手伝うよ」と言って最年長らしいモデル少女も捜索隊に加わる。
3泊4日の泊まり荷物の中からカード1枚見つけ出すのは、結構大変なのだ。

「あゆみん優しい。はるなんも優しい。だからくどぅーの負けー!」
「なんでだよっ!」
「くどぅーも一緒に探そうよ。みんなで探したら早いよ、きっと」

4人でいると、いつもこうなる。
低音がなにかを仕切ろうとすると負けず嫌いな黒髪が張り合ってきて、
ニコニコがわけのわからないことを言い出しモデルがみんなをまとめる。
たまにパターンは変わるけど大体こうだ。
“くどぅー”と呼ばれた低音少女は、それが悔しくもあり心地良くもあった。

497名無しリゾナント:2012/03/12(月) 21:58:19

4人はいつだって一緒。
この夏の大冒険「東京から利曽南島・鈍行列車ほかの旅」も4人で挑戦し、成功を収めようとしている。

夏の海を遊び倒す中で、不思議な存在感を示す集団に気がついたのは誰だったか。

砂浜で遊びまわっていたら、怪しげなチャラ男どもを一蹴するお姉さんたちがいた。
海の家に行ったら、一生懸命に接客するお姉さんたちがいた。(なんか不純な目で見てくる人もいたけど)
ビーチバレー大会をチラ見したら、並み居る強豪に引けをとらない勝負をする姉さんたちがいた。
島を散歩していたら、すごい勢いで獲物を釣り上げまくる姐さんがいた。
帰りの電車を待っていたら、ずっと憧れの眼差しを送っていたあのアネキたちがいた!

声をかけようかかけまいか。
そもそも道中どこまでご一緒できるのか。
あれやこれやと葛藤しつつ、今4人は“まぁちゃん”のジョーカーを探している。


「あったー!」

“くどぅー”が達成感に満ちた大きな声を上げる。
手には、トランプの札を収納する専用のケース。

「ケースの底に張りついてた!ちゃんと見なきゃダメじゃん、まぁちゃん」
「えへへぇ〜」

ジョーカーが収納ケースの底にぴたりとはまっているのを見せる。
おそらく“まぁちゃん”は、ケースをひっくり返して出したトランプの札を見てジョーカーがないと慌てたのだろう。
まったく人騒がせな。

498名無しリゾナント:2012/03/12(月) 21:59:56
だが、おかげで決心がついた。
この中でジョーカーを見つけた人の意見に従おうと、“くどぅー”はひそかに思っていたのだ。
“あゆみん”が見つけて「もう少し待とう」と言えばそうしたし、“まぁちゃん”が見つけて「このままがいい」と言えばそのつもりでいた。
“はるなん”が見つけたら・・・メシと呼ぶのをやめてあげてもよかった。

でも、見つけたのは“くどぅー”だ。
だから今は、自分の思う通りに行動する。

「ジョーカーも見つかったし!みんな、行くよっ!」
「ま、待ってよ、くどぅー!」
「心臓がポクポクしてきた〜」
「くどぅー待って!荷物荷物!」
「後で受け取る!はるなん持ってきて!」
「えぇ〜!・・・ってあれ?“はるなん”?」

荷物も持たずに飛び出した。
憧れの彼女たちの元へ向かって一直線に走る。

彼女たちが何者かわからない。
どこに帰るのかだって知らない。
それでも、この出会いは4人にとって一生忘れられないものになる。
きっと4人の転機になる。
そんな予感に満ち溢れ、“くどぅー”の足は止まらなかった。

499名無しリゾナント:2012/03/12(月) 22:03:15
>>488-494
『リゾナントリゾートin利曽南島 3日目夜―やっぱり最後はバーベキュー?―』
>>495-498
『リゾナントリゾートin利曽南島 4日目昼―うれしめでたし大合流―』



以上です
お手数おかけしますがよろしくお願い致します

500名無しリゾナント:2012/03/13(火) 22:50:40
代理ありがとうございました

501名無し募集中。。。:2012/04/07(土) 10:24:27
「御苦労だったわね。」
「はい。飯田様のお指図どおりに・・・」

鳳卵学院・理事長室には大量の針がケースに入れられている。
そしてそこにはダークネスの予知能力者・飯田圭織の姿があった。

「しかしよろしいのですか?本来の目的はサンプルとなる能力者の確保のはず。針から採取したDNAだけでは実験が・・・」
「いいのよ、これはあくまでの予防措置。この学院にはあの忌々しいリゾナンターもいるからね。吉川、捕えているあの3人を殺してきてちょうだい。」
「よろしいのですか?」

友はどうやらダークネスが敵であるリゾナンターを味方に欲しているのを知っているようだ。

「構わないわ、正直言うと、裕ちゃんの思い通りに事が運ぶのは納得できないから。」
「わかりました。」

友は理事長室を出て行った。
飯田が残された部屋にはさきほどれいなたちと激闘を繰り広げた恵理菜がすやすやと寝息を立てている。

「強大な力を持っていてもそれを制御できずにすぐに倒れてしまう。兵隊には向かわないわね、あなたは・・・」

502名無し募集中。。。:2012/04/07(土) 10:26:21
矢島警備隊本部
れいなたちは檻からだされていた。
しかしピアノ線できつく拘束されたままだ。

「あんたが黒幕だったと!」
「そうね、この針で人を惑わせていたのは事実よ。でも、これはお金をもらってやっていた単なるビジネス。」
「ひどいの!あなたに操られて、心を傷つけられた人が大勢いるの。」
「あなたもそのひとりよね。面白かったわよ、親友の首をしめる姿を見ていて・・・」

友はひとり笑っている。
この女は完全に自分のしたことで楽しんでいる。
おそらくここだけではない、ほかの所でも大勢の人を苦しめていたのだろう。

「くそっ!ぶん殴ってやる!」
「そんな姿で何ができるの?今、楽にしてあげるから。」

友は指先から針をだして、3人に迫る。

「やるなら、私からしなさい!」
「がきさん!」
「大丈夫よ、あんたたちには指一本触れさせないから。あんたたちを死なせるようなことになったら愛ちゃんに顔向けできないから。」
「そう、じゃああなたから死なせてあげる。」

友は針を里沙の急所に向けた。
ボン!
すると友が何かに跳ねのけられて、本部内にある机に頭をぶつけて気を失った。

503名無し募集中。。。:2012/04/07(土) 10:27:09
「何があったの?」
「どうです?ももアタックの威力は?」

そこにいたのは嗣永桃子であった。
どうやら洗脳されている様子はなさそうだ。

「あんた・・・どうして?」
「もう潜入捜査している場合じゃないし、かといってももちひとりでは解決できそうにないんで、助けに来たニャン!」

そう言いつつ、桃子はなれた手つきでれいなたちの拘束をほどいた。

「黒幕は理事長室にいるニャン!」
「よし、がきさん行こう!」

理事長室
ドン!
れいなたちがドアを蹴破って中に入ると・・・

「あんたはダークネスの!」
「やはり来たわね・・・やはりあなたたちとかかわるとろくなことにならないわね。私のプライベートオフィスに土足で踏み込むなんて・・・」
「もしかしてここの理事長って・・・」
「そうよ、数年前からここの理事長になっていたのよ。少しずつダークネスの人材になりそうな生徒を人知れず洗脳していたの。それなのにあんたたちに嗅ぎつけられて・・・」
「だったら、観念するんや!」

れいなたちがすごんでも飯田はまったく感情を出していない。
何やら余裕を見せている。

504名無し募集中。。。:2012/04/07(土) 10:28:23
「ふふふ、m411に敗れたあなたたちで何ができるの?」

すると飯田の傍らに恵理菜が立ち上がった。

「さぁ、m411。こいつらを殺しなさい。」

恵理菜が手をかざした瞬間・・・
ビリビリビリ!
恵理菜の目の前を電撃が走った。

「この電撃・・・もしかして。」
「ヒーローはいいところに登場するもんだよ。」
「小春!」

恵理菜はすかさず部屋の中のものを念動力でれいなたちにぶつけようとはかった。
バキバキ!
「発火!」

目の前にパンダが盾となり、そして緑の炎が物体を燃やしつくした。
そしてそこからできた炎を風が恵理菜に吹き荒らした。

「ジュンジュン!リンリン!」
「絵里!」
「くっ!」

恵理菜が高速移動で里沙に迫った。
パシッ!

「あーしの仲間には指一本触れさせんで・・・」
「あんたの動きは愛佳にはお見通しやで。」
「愛佳・・・愛ちゃん!」

505名無し募集中。。。:2012/04/07(土) 10:29:08
リゾナンター全員集結!

「里沙ちゃん、一樹君からの伝言ちゃんと聞いたやよ。」
「召使い・・・ちゃんとリゾナントにつけたと!」
「やったなの!」

恵理菜はさすがに一歩引いて、リゾナンターを見つめている。
過去に戦ったことはあるが、リゾナンター全員を相手したことはなかった。
すると・・・

「ああ・・・きゃあ!」

突然、恵理菜が発狂し始めた。

「どうしたの?」
「たぶん、力を制御できずに暴走しているのよ。」

今まで恵理菜の力は安部なつみによって抑えつけられていた。
それを友によって無理やり解放されて、その反動がきたのだ。

「ぐわー!」
「ぎゃあー!」

学院中からも叫び声が聞こえる。

「洗脳された人たちもおかしくなっとるけん!」
「洗脳の中枢が狂いだしたのよ、ほかに洗脳されている人達にも影響が出始めている。」

506名無し募集中。。。:2012/04/07(土) 10:30:10
学院の人々のほとんどは恵理菜の洗脳音波で操られている。
恵理菜の影響も音波のように伝わったのだ。

「どうするんですか?これだけの人々の洗脳をいちいち解いている時間はないですよ!」
「高橋さん!新垣さん!愛佳の提案聞いてもらえますか?」
「うん、何?」
「愛佳の案にしては突拍子もないですけど、前、田中さんがいうてたのを聞いたんですけど、田中さん、道重さん、亀井さんが約束してたんですよね。」
「それってもしかして・・・」

それは絵里、さゆみ、れいなのしたひとつの誓いであった。
れいなの共鳴増幅と絵里の風の力でさゆみのいやしの力を世界中に送り届けるのだと

「あれをするんです。これだけ大勢の人々の洗脳を解くにはそれが一番かと。」
「できるかどうか一か八かだけど、やるしかないけん。」

全員がうなずいたのちに円陣を組む、こうしたほうがたがいに共鳴しやすいのだ。

「じゃあ、始めるよ。」

里沙の合図をきっかけに共鳴を始めた。
だが、それを影から友が眺めている。

(おのれ、飯田はすでに私を見捨てて逃げている。もしやこうなることが最初からわかっていたのか。私は単なる使い走りか!だが、このままでは捨て置かないぞ、リゾナンター!)

すると友は針をれいなの顔に向けて、飛ばそうと構える。

「そうはさせないぞ!」

507名無し募集中。。。:2012/04/07(土) 10:31:13
すると駆け付けた一樹が友に組みかかった。
激しくふたりは廊下を転げまわる。

「邪魔をするな!」

友の針が一樹に迫る。

「さぁ、癒しを力を学院に・・・」

リゾナンターの円から光が学院中に降り注ぐ。

それは恵理菜を含め、学院中の人々にも届いていく。
光を浴びた恵理菜は発狂をやめて、静かに眠りにつく。
それに続くかのように学院中の生徒や教員も倒れていく。

光を解き放ち、リゾナンターは円陣を解く。

「うまくいったと?」
「彼女は眠ったの。たぶん、成功したんだと思う。」

周りを見渡すれいなの目に飛び込んだのは・・・

「一樹!」

一樹は胸を針で刺されて倒れていた。
れいなはすかさず駆け込んだ。

「そんな・・・嘘やろ!死ぬんやない!あんたが死んだら、誰がれいなの明太子パンを買ってきてくれると!」

いくら揺さぶっても一樹は目を覚まさない。
れいなの目には一筋の涙が・・・

508名無し募集中。。。:2012/04/07(土) 10:32:05
「ごめん・・・れいなたちとかかわったばかりに・・・関係ないあんたを死なせてしまった。」
「待ってよ・・・勝手に殺さないでくれる!」

すると一樹がぱっちりと目を開けた。
その様子にれいなは驚いている。
それもそのはずだ、位置的に確実に心臓のあたりを刺されていそうだった。

「これのおかげで命拾いしたよ。」
「明太子パン・・・」
「買っておかないと、君に怒られるだろうから。」
「よかったと!」

れいなは一樹に抱きついた。
里沙たちはれいなのあまり見ない光景に少し戸惑っている。
そんな中、愛は一樹を刺した針をゆっくり抜いて、確認をした。

「この針を刺した奴はどこにいったんやざ。」
「走って逃げたと思います。」
「そうか、ありがとう。さゆにきちんと治療してもらってな。小春!」
「はい!」

愛はすごい声で小春を呼びつけた。
小春はすぐさま愛の意図に気づき、念写を始めた。
そしてそれを見た愛はすぐさま瞬間移動で消えた。

509名無し募集中。。。:2012/04/07(土) 10:32:41
その頃、友は学院から走って逃げていた。

「このままじゃあ、終われないわ。いつか必ずリゾナンターに復讐してやるわ!」
「あーしらも終われないんやよ。」

すると友の前に愛が瞬間移動してきた。

「おまえは高橋愛!」
「やっと見つけたやよ。前の時の借りを返させてもらうやよ!」

数日後・・・
喫茶リゾナント

「いらっしゃいませ!」

喫茶リゾナントにれいなの姿があった。
すでに制服ではなくいつものウェイトレス姿だ。

「こんにちは。」
「がきさん、いらっしゃい。元の生活はどうとね。」
「そうね、身元を隠すために歌をわざと音痴にする必要もなくなったからね。楽よ。」
「それ必要なことかいな。さゆはあれから学院を離れたがらんくて苦労したと。鞘師と離れるのが嫌なんやろう。」

あの事件以降、学院の校長はけがから復帰して、飯田が逃亡したことにより理事長席は空白となり、風紀委員も友の暗躍から解放されて、風紀委員は矢島警備隊と統合されることになった。
騒動もなくなり、ひとまずれいなたちの潜入捜査は幕を閉じた。

510名無し募集中。。。:2012/04/07(土) 10:33:13
「ねぇ、愛ちゃん。メニューに明太子パンをいれようよ。」
「駄目やよ、どうせれいなしか食べないんやろう。」
「ぶぅー!」

れいながふてくされて、カウンターから離れると里沙が愛に話しかけた。

「結局、多くの生徒のDNAをダークネスに持って行かれたから、めでたしとはいえないけど・・・」
「そうやね、あの友ってやつはあーしがぼこぼこにして警察に引き渡したからよかったけど、結局ダークネスには手も足もだせんかったやよ。」
「真野ちゃんのこともこれからの課題だし、それに・・・」
「それに?」
「実はあの後、警察に問い合わせたんだけど、潜入捜査官に嗣永桃子というのはいないらしいわ。」
「えっ!」

確か桃子は里沙たちに警察からの応援の潜入捜査官としてやってきたと告げていた。
しかしそんな人物は最初からいなかった、これは里沙がKに確認してわかったことであった。

「うかつだったわ、田中っちたちがうまく潜入捜査できるかに気を配りすぎて、あの嗣永桃子の身元をちゃんと確かめなかったわ。」
「仕方なかったやよ、いろいろあったんやから。このことはれいなたちには内緒にするやざ。余計な心配させたくないし。」
「そうね・・・」

511名無し募集中。。。:2012/04/07(土) 10:34:03
一方、街中を桃子が携帯を片手に歩いていた。

「もしもし?私です。はい、今能力者のDNAサンプルを持って、そちらに・・・ええ、飯田圭織をだしぬけるか心配でしたけど、先生のおっしゃる通りでした。確実に飯田圭織の予知能力は衰えており、事前の対処に遅れが。はい、すべては先生の願いどおりに・・・」

「明太子パンほしいなぁ。」

ガランガラン!
リゾナントのドアが開かれると同時に明太子パンがれいなに向かって、飛んできた。
それを見て、れいながうれしそうな表情を浮かべた。

それは明太子パンが飛んできたことだったのか、それともそれを投げた彼の会えたことに喜んでいるのかはれいなしかわからなかった。

学園潜入 終わり

512名無し募集中。。。:2012/04/07(土) 10:37:00
>>501-511

「学園潜入 救いへの共鳴」

どうもリゾクラ作者です。
いろいろありましたが、なんとか完結です。
ドラマの内容に振り回されながら書いており、どのように終わらせるかも悩んでいましたが。
結局はリゾナンター集結というありがちな展開になりました。
やはりオリメンがしっくりきてしまうのかな?

513名無し募集中。。。:2012/04/07(土) 10:37:45
あ、忘れてました。
自分のパソコンでは連投規制が入るので代理投稿よろしくお願いします。

514名無しリゾナント:2012/04/07(土) 17:26:09
レス数が多いな
ま、行ってみますか

515名無しリゾナント:2012/04/07(土) 17:53:55
どうにか完了
ありがちな展開というよりは王道の展開というべきか

516名無し募集中。。。:2012/04/07(土) 21:32:58
代理投稿ありがとうございます。

517名無し募集中。。。:2012/04/25(水) 20:57:03
>>274-277

 彼女は風を感じるのが好きだった。

あの事故から数ヵ月。
陸上部での大会が迫っていたが、あの事故には自身の足に重症の怪我を負わせた。
リハビリをすれば治ると医者に言われたが、喪失感は彼女を絶望させる。
中等部最後の試合だった。
高等部でも続けるつもりだった。
この先もずっと駆け続けるつもりだった。
練習して見に付けた力が無くなる。失くなる。
不安で不安でしかたがなかった。

子供だと思われるかもしれない。
実際、子供だった。小さな世界しか知らない、未熟な子供。

 そんな時だった。

完全に傷の治っていない、ちゃんと力の入らない足でも走る事ができた。
まるで魔法のように。
自分だけの魔法に、彼女は依存するようになった。

 例えそれが、自身の両足に負担をかけていた事になっていたとしても。

いつしか"アレ"は彼女に反抗するようになった。いわゆる、暴走。
『空気を操る力』
部活中にそれは起こった。
仲間の数人が怪我を負って、彼女は、思った。

 ああこれで、楽になれる。

518名無し募集中。。。:2012/04/25(水) 20:57:58
思ってしまった。
いつこの魔法が解けてしまうか判らない不安と、背負わされた期待。
ただ走れれば良かったのに。
自分の気持ちが恐ろしかった。ただ走って振り切る事しかできなかった。

 誰に助けを求めばいいのか、判らなかったんだ。

ああ、眩しい。
オレンジ色のブレた太陽のヒカリ。
…違う。
似ているけど違う、あれは、あのヒカリは。

 ――― 少女の見下ろす世界。
 変わらないモノを変える世界。カタチの変わる世界。
 イノチの終わりを告げる世界。
 卑屈に笑って、真っ白に消える、退屈に咲いて、真黒に朽ちる。
 熱にうなされたまま。
 命の輝き、傷の癒えない軌跡、屋上に佇む黒い影。
 呟く、笑って、笑った―――

光が収束し、女の子は刃の切っ先を女子生徒に向けていた。
振るった。
瞳に宿る一閃。ぽっかりと『穴』が開く。

 それがゆっくりと元の"カタチ"へと凝縮していく。
 無機質な球体ではなく、持ち主の感情そのままに。

コハクのヒカリを帯びた、砂時計。
女の子はそれをしっかりと箱に詰め、古びた電話ボックスの受話器を取った。

519名無し募集中。。。:2012/04/25(水) 20:59:12
 「ふっ、ほっ、はっ」

鈴木香音は両腕を横に泳がすような動作を必死にやっていた。
自分の部屋で、何の恥ずかしさも無く。
夕飯の時間までの軽い運動、といえば聞こえはいいかもしれない。

 ぶおーん、ぶおーん。

両腕を横に振る事で微かな風力が収束し、見えない風によって壁に
掛けられたカレンダーがゆっくりと揺れている。
額から汗が滲んでいる。両目はどこか真剣だ。
少なくとも鈴木はまさに極めるかの如く「ちょうちょ」の動作をしている。
彼女の十八番だ。
得意だからこその真剣な眼差し。
それを往復数十回とこなすのだからモノマネも突き詰めれば達人の域だ。

母親は妹と一緒に買い物へ出かけている。
まだこの時間は学校で部活に励んでいるのだが、今日は顧問の先生が
不在だったため、休みになっていた。
誰も居ないからこそただならぬ集中力を発揮する。

誰かが顔を出そうと思うものなら鈴木の顔真似&両腕から繰り出される
横スマッシュによって顔を挟まれてしまう。
それとも「カマキリ」によって縦チョップが幾度となく繰り出されるかもしれない。

 たかがモノマネ、されどモノマネ。

4歳の頃から持っているクマのぬいぐるみがアフロを付けていても
それが鈴木にとっては自然であり、また愛しさを憶えるようになる。
虫に対してもそのカタチを全て記憶したうえで処理をする。
つまりはそういう事だ。

520名無し募集中。。。:2012/04/25(水) 20:59:58
この動作に意味がなくとも、鈴木はモノマネをし続けるだろう。
そこに確かな愛がある限り。

 〜♪!

そんな何処か青春ドラマチックな音楽を流しているような雰囲気に
なっていた鈴木の耳に微かな着信音。
1階にある固定電話からだ。
誰も居ないからこそ必然と鈴木がそれを取る事になる。
さすがに電話の"音"で誰かがかけてきたのかまでは判らない。

鈴木はタオルで汗を拭きながら、その受話器を取った。

 「はい、鈴木でーす」

軽い口調で鈴木は相手に告げる。
だが声は返って来ない、静まり返るそれに、もう一度告げ返す。

 「もしもーし?」

鈴木は無言電話か?と思い、その受話器を下ろそうとした。
だがなんとなく、本当になんとなく気になってしまう。
もう一度告げ返して、何もなければ下ろそうと思い、口を開く。

 「あのーどちら様ですか?」

瞬間。

 『嘘のない現実は無い』

521名無し募集中。。。:2012/04/25(水) 21:00:48
…?…??

 『本当の現実はあっても、嘘のない現実が無くなることはない』

突然聞こえて来た、女性の声。
宗教勧誘か?
鈴木は耳から離し、受話器を下ろす。聞いてはいけない気がして。

カチャン。――― ?

鈴木の鼓膜に"音"が響く。キインという鋭い音。
頭を揺さぶられる音、奔る音、嫌な音。
何故?
何故なら。

 『何故なら人の嘘で出来た世界だから。』

 『優しい声に人は惑わされてしまう』

 『優しい嘘に人は依存していく』

 『ねえ』

 『貴方は、本当にそこにいるの?』
 
ガチャン。
香音はビクリと反応する。
玄関から顔を出したのは妹で、「ただいまー」と声を上げた。
後に入ってきた母親が香音の姿を見て首を傾げる。

522名無し募集中。。。:2012/04/25(水) 21:01:46
 「どうしたの?電話でもかかってた?」
 「え?あ、う、ううん。間違い電話だって」
 「そう?なんか顔色悪いけど大丈夫?」
 「きっとお腹すいたんだよ、早くご飯ー」
 「じゃあ手を洗ってきなさい、香音もね」
 「うん」

スーパーの袋を抱える母親と妹を見て、もう一度電話機を見つめる。
鈴木は頭をかきむしりながら、二人を追った。
微かな違和感を端っこに押しやるように。

鈴木は気付かない。
それが受話器の向こう側ではなく、直接脳に伝わっていた事を。
鈴木は気付かない。
既に自分が"当事者"である事を。
鈴木は気付かない。
誰も気付かない。

 今から始まるのではなく、以前からずっと続いていたことを。

523名無し募集中。。。:2012/04/25(水) 21:05:00

--------------------------------以上。
>>517-522
ついにPCまで規制に…というか忍法帖なんたらってまだ
あるんですね…もしかしたらまたお世話になるかもです。

すこし長くなりましたが時間がある時にでも…。

524名無し募集中。。。:2012/04/25(水) 21:08:44
あ、良ければ521の下から三行目を「香音」から「鈴木」
に変えてください、よろしくお願いします。

525名無し募集中。。。:2012/04/25(水) 22:01:38
>>523
代理っときやした!

526名無し募集中。。。:2012/04/26(木) 12:57:52
代理投稿ありがとうございましたっ。
個人的に長くなりそう…あの忍法帖はいつ解けるんでしょう。

527名無し募集中。。。:2012/04/26(木) 14:33:09
 ――― 譜久村は公園に立っていた。

ホームルームの時に彼女が入院した事を教諭から聞き、放課後
倒れていたというその場所に立っていた。
両足が酷い状態だったという。
事故で怪我をしていたという話をは聞いていた。
まだ完治していなかったにも関わらず、部活で走り続けていたのもあって
一歩遅ければ手術しなければいけなかったらしい。
だが時間をかければ治る見込みはあり、今後はリハビリをする事になる。

名もなき通報者によって彼女の人生は救われたと見えた。

 「……」

譜久村の真下には何かの欠片が残っていた。
ペットボトルのキャップ、プラスチックの破片が散らばっている。
液体はもう乾いてはいるが、その事実は変わらない。
万物の元素の一つである物質層には、人が決して見ることの出来ない思念を纏っている。
本質的なエネルギー場、アストラル・コーザル。
足跡、そして、傷跡。
膝を折り、地面に手を置いた。

譜久村の両眼がグアアアと見開かれる。
眼球を押さえつけられているような痛みに眉が歪む。
ビデオテープの巻き戻される音が鼓膜を刺激する。
ガリガリガリガリ、ザリザリザリザリ。
目がジクジクする。視線に薄紅の閃が過る。

 「くっ…」

528名無し募集中。。。:2012/04/26(木) 14:34:28
白黒、モノクロ、揺れる影、揺れるのは、女子生徒だ。
意識が揺れる。ダメだ、まだ。
気持ちが悪い、音に酔う、色に廻る。
まだ。
まだ。

女子生徒の姿。キイキイ。ブランコ。後ろ姿の女の子。
女の子と言い合う女子生徒。ブレる、ブレる。見えない。
携帯電話。投げられる。茂みの中。
女の子の顔が逆光に照らされる。ブレる視界。女子生徒が吠える。

赤。朱。血。刃。
ガリガリガリ、ザリザリザリ。
倒れる。ぼんやりと掠れた視界。黒、闇。穴。

 オレンジ色。コハク色。
 知ってる。箱に詰めた、コハク色。オレンジ。

知ってるような気がした。

 ――― 遊園地の観覧車の前で女性が一人。
 綺麗な笑顔だった。
 まるで今にも散ってしまいそうな華のように。
 透き通る瞳。手を上げる。高く、高く、高く。指を宙(ソラ)に。
 口を開ける。大きく、叫ぶ。
 女性は満足したように静かに、風の音を聞いた―――…。

 パシンッ。

529名無し募集中。。。:2012/04/26(木) 14:35:34
 パシンッ。

譜久村の意識が戻る。
目を見開き、弾かれるように青空を仰ぐ。
晴天。今日もまた、晴天だ。

 知ってるような気がした。あの女性の事。
 とても切なくなるような、悲しくなるような、気持ちが揺れ動く。
 涙が溢れそうになって、それを乱暴に拭った。

譜久村は茂みの中を捜し回り、携帯電話を見つける。
開くと、画面には一つの留守電。
部活が中止になった事を聞いて掛けた、譜久村の着信。

彼女から話を聞く必要がある。
譜久村は彼女の居る病院へと足を進めた。

 頃合い、か。

屋上。其処は何処でもない。
其処はハシゴの上。其処は給水塔。其処はあっち側。
ポータブルプレイヤーにはイヤホン。両手にはサイダー。
イヤホンを付ける耳には静かなさざ波の音。

 街が見える、公園が見える。小さな影が一つ、事実を拾った。
 鞘師は少しだけ寂しくなかったが、しょうがないと思う。
 目玉焼きはかのんちゃんに譲るよ。想う。

530名無し募集中。。。:2012/04/26(木) 14:36:20
夕凪。
静かな海の上を、めいっぱい羽根を広げたうみねこ
が飛んでいく。
波打ち際。光の中で。
光が眩しい、蒼い、蒼い空。
それは誰かが夢見ていた、願い。

 世界は廻る。誰かが居なくなっても、それでも。

531名無し募集中。。。:2012/04/26(木) 14:38:49
-----------------------以上。
>>461-467を投下の時に書いておいて頂けると幸いです。
また時間がある時にお願いします(平伏)

532名無し募集中。。。:2012/04/26(木) 14:41:39
付け足し。
りほりほがあの年で環境音楽が好きっていうのは
軽く衝撃を受けました。

533名無し募集中。。。:2012/04/26(木) 19:03:41
代理っときやした!

534名無し募集中。。。:2012/04/26(木) 23:23:02
猫は群れない
誰と関わらないでも気にせず、勝手気ままに生きる
本能の赴くままに食べ、走り、眠る、そんな束縛を嫌う自由の象徴

犬は群れる
集団のなかに飛び込んで、社会を構築する一員となる
ボスの命令に忠実に従い、課せられた使命をこなす規律の象徴

そのくせ猫も犬も退屈を嫌うし、悩む
自由な猫は時折思う、何のために生きているのか?今をいきるだけでいいんだろうか?
縛られた犬も時折思う、ただ従うことが本当に正しいのか?自分らしさとはないか?

「れいな、暇やけん」
そう言って隣で笑うあなたの見た目は猫
『・・・今も退屈ですか?』
ためらいがちに尋ねた私の質問にあなたは答えた
「ん?そうっちゃね・・・昨日よりは楽しいけど一昨日よりは退屈っちゃね」

本当に気まぐれだと思う。でもそれは私も同じ
まわりからみたら私もきっと猫
でもこうやってあなたの傍にいたいと思う気持ちは犬

・・・もし私が犬だと気付いたら猫のあなたはどこかに行ってしまいますか?

535名無し募集中。。。:2012/04/26(木) 23:31:09
新しい話が多くて色々と刺激受けてます。時代の移り変わりも感じてます。
投下したのは『Vanish! 0.7』のプロローグです。読み方は『バニッシュ レイナ』
れいなの『共鳴』が発現してない時代、いわゆる『過去編』になります。
某ベリメンが出る話なのでホゼナンターの許可をもらってから書きます

代理の方よろしくお願いします

536名無しリゾナント:2012/04/27(金) 02:11:54
とりあえず貼っときました

537名無し募集中。。。:2012/04/27(金) 07:05:09
代理ありがとうございました

538名無し募集中。。。:2012/06/01(金) 03:27:33
http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/577.html
http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/584.htmlの続き。


何処にも繋がっていない世界。
子供のころに、いつも傍にあった辺りをはね廻る音たち。
両手いっぱいにすくったはずの水は、今でも零さないように大切にしていた。
失くすことを恐れた。
手にくんだ水は、本当は乾いていて。
誰にとってもそうで、体温で乾いていく。
生きてるから。熱を持ってるから。
でも失くした水は、また汲んでくれば良い。
その場所は何処にでもあるから。

道端に転がるほんの小さな小石にだって。
例えは誰かのココロとか、自分のココロとか。
気付くことが出来れば簡単なことで。
見つける事ができればなんて優しい。

少し目線を変えればいいだけなのに、まだ小さな世界に佇んでいる。

 *

――― カチカチカチカチ。

携帯を操作する音。
メールを作成するのに数分を要するものの、デコレーションくらいは
少しぐらい力を入れたいと思っていたりもする。
だがあまり夜にはしてはいけない。理由は簡単、寝てしまうからだ。
でもどうしても不安になったときは構わず送信してしまう。
こればかりはどうしようもないのかもしれない。

539名無し募集中。。。:2012/06/01(金) 03:28:13
カチカチカチカチ。

きっと相手の顔を見て言った方が良いのかもしれないし、それが
苦手という訳でもない。
人見知りはしないタイプ。
言いたいことは言っておきたいタイプ。
それがどんなに相手のことを考えていない発言だとしても
自分が後悔することの方がダメだと思うから。
後悔はしたくない。
勝負に負けることもしたくない。
悲しい事は嫌だから。
自分を犠牲にすることで切り開ける未来なんて考えられない。
でも誰かのためならそういう事もするかもしれない。
優柔不断という訳じゃない。
ようするに優先順位で物事を決めるタイプ。

カチカチカチカチ。

仮面ライダーゼロノスとボウケンピンクの共通点は、二人共
最終回では自分の為に仲間と別れて旅立ってしまう。
前者は自分の生きる歴史を捜す為に。
後者は想い人を支える為に。
求めるのは凄く良い事だと思う。
人は求めるものがあるからこそ生きたいと思うし、生きられると思うから。

 彼の言葉はそれを物語っているとしか言いようがない。
 ふっ、思えば熱い男だったとよ。

カチカチカチカチ、ピッ。

540名無し募集中。。。:2012/06/01(金) 03:29:33
送信し終えたと同時に教室のドアを開ける。
開け、ドア!

 「おはよーっ」

にこやかに、元気さもアピールしつつ、生田衣梨奈はクラスメイトと挨拶を交わした。
窓側のうしろから三番目が彼女の座席。
カバンを机の横にかけ、椅子に腰を下ろそうとする。
が。

 「おい生田あ、授業中だぞー」
 「はーい」
 「はーいじゃない、せめてもう少し静かに入ってこい。
 事情は親御さんから聞いてるが、ちゃんと学生生活も励むように」

教諭の軽い説教に、生田は髪を触ってアハッと笑った。

541名無し募集中。。。:2012/06/01(金) 03:41:35
以上です。そしてご無沙汰です。当初は学園要素を含まない予定
だったんですが、もうどうにでもな〜れ、です。

登場するメンバーの性格、特徴に関しては加入当初の雰囲気で
想像してもらえると、生ぬるく見守ってください。

---------------------------ここまで。
いつでも構いませんので、よろしくお願いします。

542名無しリゾナント:2012/06/01(金) 21:58:43
>>541
代理っときました。
待ってましたよw

543名無し募集中。。。:2012/06/02(土) 00:00:21
すみませんこんな駄作を待って頂けて…ブワッ(涙
代理ありがとうございます。

544名無し募集中。。。:2012/06/05(火) 00:16:23
http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/577.html
http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/584.html
http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/610.htmlの続き。

2限目が始まる前、鈴木香音のクラスは所々から談笑が上がっていた。

 「昨日のドラマ観た?やっぱりあの警察官が黒幕だったんだよ」
 「あの雑誌読んだ?ちょーイケメンでさー」
 「髪型変えたんだあ。可愛いーっ」
 
さすが中高一貫校ともあって、少し色が濃い生徒が何人か居たりもする。
先輩の影響を受けることもあれば、兄弟が居れば様々な情報が入り込む。
当然そういう人間は一目置かれたりもするし、良くも悪くも"有名"のレッテルを
貼られることになる。
大抵のことであればそんなレッテルを喜んだりする事はないのだが、この学校
に入学早々、すごい生徒が居るという噂があった。

 「あれこそがKYっていうか、むしろあの人自体が空気っていうか。
 空気なのに色があって匂いがあって味があって…いやホントなんだって」

その女子生徒と同学年の姉がいるということで、いろんな話を聞かせてくれたそうな。
だが噂は時間の経過によって様々に形容し、変化する。
だから本当かどうかは定かではない。

 空気が読めない。
 全くではないが、10個の事柄があれば8個くらいはKYだと言われる。
 一生懸命作った積木を一緒に喜びを分かち合ったあとに嬉しそうに
 「ダーン」と崩してしまうようなあの感覚、とは少し違うらしい。

ただ空気が読めないという事はやはり他の人にも迷惑がかかっているという訳で。

545名無し募集中。。。:2012/06/05(火) 00:17:42
近いものでいえば買おうとしていたゲームが売り切れになって、もしかしたら
まだあるかも、という淡い期待を捨てきれない空気さえも分からずに相手の
真隣で購入したゲームを広げるとか。

趣味がゴルフという事もあって、そういう風速と角度は分かるらしい。訳が分からん。

 「でも運動能力はすごく良いんだよ。器械体操だっけ?それやってたらしくて。
 ことあるごとにハンドスプリングやってたな。ほら、身体をこおグルって回すヤツ」

それは鈴木も知っている。
一部では「回転少女」という異名で知られていて、部活の先輩から聞いた事がある。
マラソン大会のときに最初から全力疾走で走って、一度も速度を落とすことなく最後まで
ゴールするという荒技をこなした事で、陸上部にスカウトされていたほど凄まじい。
断ったらしいが。
50mの記録は8秒ジャスト、速さは普通だがその耐久度が半端ない。
ただもう一度だけ言う、全ては噂だ。最後の話以外は全て同級生からの都市伝説級の
噂であり、真実は分からない。

 キーンコーンカーンコーン。

チャイムが鳴り、ぞろぞろと生徒が自分の席へと座って行く。
先生が来ると客席、礼、挨拶と順序良くこなしていく。
2限目が始まった。
鈴木は窓側で後ろから数えると3番目になる。

 ふと、窓から南棟が見えた。屋上は死角になっていて分からないが
 本来ならあそこに鞘師里保が居る。

546名無し募集中。。。:2012/06/05(火) 00:18:30
そう、本来なら。
譜久村があの場所に風紀委員として調べに来た翌日。
あの屋上を一時的に"閉鎖"するという形を取られてしまったのだ。
出入りしているという事実はすでに教諭の耳にも入ってしまっているため
例え調査しようがしまいが、そういった処置をするというのは決まっていたらしい。
だから鞘師にも説明はしていて、あそこは今無人になっている。
…とは思うけれど。

 何せ鞘師がいつあの屋上にいて、いつあの屋上からどこに帰っているのか。
 それは鈴木も譜久村も知らない。
 何度か譜久村が一緒に帰ろうと誘ってみたりもしたのだが、居る所を目撃されると
 面倒だからと断られてしまう。
 
だが鞘師自身も二人と別れるのは少しばかり寂しいらしく、譜久村がなだめる
ことで少し気を紛らわせては別れることが多かった。
確かにあの包容力を一度味わうとね、鈴木は羨ましくもあり、だが鞘師の気持ち
も分かるものがある。

ただ不思議と、彼女の心配はしなかった。
きっとどこかでグウグウと寝ているのだろう、音楽でも聞いて。
サイダーでも飲みながら。交信でもしてるんだ。
そしてまた会える、どちらかが願えば簡単なことだった。

 トントン。

不意に、背中を指で軽くつつかれた。
何事かと振り向くと、後ろ斜め横の机に座る女子生徒がわざと変顔してにんまりと笑った。

547名無し募集中。。。:2012/06/05(火) 00:19:10
朝っぱらからハイテンションの芸当をする彼女にリアクションすることなく
鈴木は机に向き直り、几帳面に折りたたまれたルーズリーフの切れ端を開く。

 "窓の外に例の影。イチゴは好きなのにバナナは嫌いで、野菜も苦手らしいよ。
 でもイチゴって野菜だって知ってた?"

鈴木はチラッと視線を窓の外に向ける。
グランドのド真ん中を堂々と歩き、校舎へと入って来る人影。
スクールバッグをランドセルのように縦に背負い、クリーム色のカーディガンには
この学校の校章が縫い付けられている。
携帯を片手に髪が風になびいた。

 "野菜の中でも好き嫌いがあるのと一緒でしょ"

ルーズリーフの空いた場所にそう書き足すと、今度はそれを
振り向かずに脇の隙間から放り投げる、背後で微かに驚いた声が聞こえた。

「回転少女」、もとい生田衣梨奈という先輩の話は紛れも無く背後の彼女からであり
何故鈴木がその話を聞くに至ったかは、実に簡単なものだ。
ただ知れば知るほど、鈴木は生田が少しだけ苦手になっているのも事実。

何せ生田衣梨奈という人物は、一部では「アイドル」だからだ。

548名無し募集中。。。:2012/06/05(火) 00:24:09
以上です。もうスレが立たないかと思いましたが
規制されている人間の弱さを痛感します(涙
1年前の出来事を調べていると4人の成長っぷりを垣間見ますね。

549名無し募集中。。。:2012/06/05(火) 00:26:51
-----------------------------------------ここまで。
変なレスの消費をしてしまったorz
意外と1年前のえりぽんの掴みなさに苦戦してます…。
おはスタでも見てみようかな。

いつでも構わないのでよろしくお願いします。

550名無しリゾナント:2012/06/05(火) 09:37:34
>>549
遅くなったけど代理っときました。
研究熱心ですね

551名無し募集中。。。:2012/06/06(水) 02:39:43
>>14-17 の続き。

黎明学園中等部2年、生田衣梨奈。
父親はこの街の市長になった事があり、祖父は知事だったという政治家一家。
母親はステージママ気質があるらしく、モデル雑誌に応募させていたことで
生田はページに掲載された経歴を持つに至った。
なのに、彼女はかなりの不思議ちゃんとして名が通っていたりする。

だから有名人であり、アイドル、なんちゃってアイドルの方が正しいかもしれない。

そんな肩書きもあってか、今でもモデル業を行っているためと
この学校にも顔がきくということで遅刻をしても大目に見られることが多い。

鈴木は普通の家庭で育ち、普通なら羨ましく思えるのかもしれないが、その"普通"
という範囲を越えた家族関係が少しだけ窮屈なもののような気がした。
他人のことなのにまたいろいろと考えてしまうのは性なのかもと思いに駆られるが
空腹によって頭のはじっこに置いておくことにする。

 お昼。
 この学校は中等部は給食が用意され、高等部になると弁当を持ってくるか
 給食かを選択できるようになる。

鈴木は妙に燃えていた。
隣にはあのメモを渡してきた彼女が居て、ギラリと瞳が光る。

 「はっはっは、ついにこの時間がやってきたな香音」
 「あんた達またやるの?中学生にもなって…」
 「給食を笑うものは給食に泣くって言葉しらないの?」
 「知らないし…」
 「じゃああのみかんゼリーちょうだいよ」
 「それとこれとは話は別」

552名無し募集中。。。:2012/06/06(水) 02:40:26
別の同級まで混ざり、給食のあれが美味しいだのあれは
マズイだのと談笑を交わす。
遠くから配膳をする生徒にそれを大目に、など注文しながら。
それが終わると生徒達の給食が始まる。

 献立はごはん、豚汁、エビフライ、切干大根、みかんゼリー、そして牛乳。
 切り干し大根が舞った、プレートから2、3cmの高さにその姿が浮く。

ガチンガチン。箸が鳴る、ガチンガチン。
エビフライの尻尾を掴もうとする箸を阻むのは一本の箸、二刀流とでも言うように構える。
豚汁がこぼれそうになる、隙アリと切干大根に箸が伸びる。
鈴木の瞳がギラリと光った。
箸の先でフタのとれた牛乳瓶を押し倒そうとしたのだ。

 「こら香音っ、そんなの反則だろっ」
 「そっちだって私が好きなの知ってるクセにっ、LOVE大根!」
 「じゃあエビフライ取ろうとするなっ」
 
机を向き合うようになってる為、斜め横の彼女とはこんなバトルが行われる。
先ほども余った料理を取りに行ったときも一悶着があったというのに、今度は
自分の好きなものを隙あらば取ろうと躍起になる。

隣の男子は何も言わずにモソモソと食べている。
毎度のことなので慣れたのもあってか、自分達の給食も被害に
遭わないようにさりげなく端の方に配置しておいてあったりもする。
早く席替えしないかな。とポツリ。

 「こらっ、食べ物で遊ぶんじゃないっ」

553名無し募集中。。。:2012/06/06(水) 02:41:37
そんな事をしていると当然教諭にも注意される訳で、一応それで二人は
大人しくなるのだが、いつ攻撃がしかけられるか分からないので鈴木は
切干大根を自分の手の近くに配置する。
給食が終わるとソフトボールをしようと言いだした彼女と別れて鈴木は廊下に出た。
特に用事はない、ただ少し食べ過ぎたせいで暴れるとかなり危険な状況だったのは事実だ。
うぷ。口を手で押さえる。

ふと。
職員室から会釈をしながら出て来た譜久村を見つけた。
最近はタイミングが合わずになかなか会えなかったので声を掛けようとする。

 「みずきーっ」

瞬間、背後からの声に思わず掃除道具入れのロッカーに身を隠す。
あれ、デジャヴ?

 「あれ?えりぽん…香音ちゃん何してるの?」

譜久村が首を傾げるのは、予想以上に狭かったロッカーをどうやって入ろうか
アタフタして、やけになってバケツ(新品)で頭だけを隠す鈴木に対してのもの。
ハッ、バレテル。
そんな鈴木を見て。

 「敵怪人だ!このゼロガッシャーでやっつけてやる!」

生田衣梨奈が散らばったホウキとちりとりを手にとって構えを取った。
ちなみにゼロガッシャーとは、とある仮面ライダー専用武器だったりする。

だが鈴木はその豆知識を全く知らない、頭の中では「???」だ。
瞬間、生田が前にでる。

554名無し募集中。。。:2012/06/06(水) 02:42:24
 「最初に言っておく。俺はかーなーり、強い!」

台詞をバッチリ決めて生田はドヤ顔を見せつけた。

555名無し募集中。。。:2012/06/06(水) 02:47:44
以上です。

           l /
            (O|゚|O  )    </.l   /|      /\___
       /_/_(‘ <_‘|9||    / l  / /       /    //
      l┌O-┝⊂ l   ___  ̄ > \_/    /____// ガッシャーン
       77∧:ヨ (⌒_ノ/、/~ />       ̄ ̄ ̄ ̄
     γ⌒X||乢_し' 、/ヽ   ̄>__         || |::
      |l (◎)l`ーミ三=Z) l|   |/  / /\   || |::
      ゝ_.ノ    ゝ_.ノ   ∠__/   ̄      || |::


-------------------------------------------ここまで。
少しペースを早くしてますが、スレの方に投下するのは
いつでも構わないのでよろしくお願いします。
ああ早く規制解けないかな…前回の代理投下ありがとうございました。

556名無しリゾナント:2012/06/06(水) 04:16:35
>>555
代理っときました。
ライダーらしく555ですね

557名無し募集中。。。:2012/06/09(土) 00:22:19
>>14-17 の続き。
 
振り落とそうとした途端、「あれ?」と生田が素っ頓狂な声を上げて両手を見る。
背後からホウキとちりとりを引っ掴むのは譜久村だ。

 「こら、人に向けたら危ないじゃない。それに確か
 ゼロノスじゃなくてWにハマってるって聞いた気がするけど」
 「そうだっ、ねえねえみずき、今度映画みにいこうよっ、ゼロノスは出ないけど
 Wが出るっちゃん、キャッチコピーはこうとよ。
 『世界よ、これが日本のヒーローだ!!』」
 「私戦隊モノ見たことないから分かんないよ。
 それよりさ、モデルになったっていうアイドルの人の話聞きたいんだけど」
 「あー…えりなはあんまり好かん人やったかなあ、キャラが被るんよねえ」

ホウキとちりとりを持ったままなので、万歳の姿のままの生田。
バケツ(新品)を被ったままで鈴木は考えていた。

生田衣梨奈の祖父は知事をしたことがあるが、その同級生であり
この街の発展に一役買った立役者、それが譜久村聖の祖父だった。
譜久村に対する周りの反応が「お嬢様」や「お金持ち」なのもここからである。
なので家族の交流もそれなりにあったりして、何気にこの二人も
自然の流れなのか、仲は良い。

譜久村の"音"は薄ピンク、生田の"音"は紫だ。
鈴木には人間のオーラなどを「音」の振動音波によって「色」で知ることが出来る。
霊感とは違って、絶対音感の持ち主だから、というのが主な理由らしい。

 子供の頃にある医療施設でそれが発覚したというのを母親から
 聞かされたことがある。
 そこでは鈴木が持つ能力のことを『共感覚 -シナスタジア-』と呼ばれていた。

558名無し募集中。。。:2012/06/09(土) 00:23:04
これは絶対音感を持つ人間によくある知覚現象らしく、私生活には
問題はないという事で母親はかなり安心したらしい。

知ってるのは家族と、譜久村だけ。
とは言っても、最近その能力が少しだけ変になっている。
一つは相手のオーラが「音」から「色」へ変わる瞬間
なぜだか別の風景イメージが見える時がある。
その異変が起き始めたのが、あのガラスレンズを見てからだった。

鞘師が大事そうに箱に詰めていた、あの不思議なレンズ。

生田のようなバイオレットの"紫"ではなく、アメジストのような"薄紫"。
違和感はまだ残っている。
最初は流し込まれるその風景に戸惑っていたものの、身体に馴染んだのか
それほど酔うようなことも無くなった。

鮮明ではないが、まるで相手の心を見ているような気がして良い気はしない。
自分でもそんなことを相手からされてると思うと嫌だと思うから。

ただあの時に感じたイメージはとても、懐かしい感じがした。
あの"薄紫"の女性は誰だったのか、もしかしたら鞘師は知っているのかも
しれないと思ったのだが、知らない人間の話をするのも気が引けてしまう。

最近こんなことばっかり考えてるな、鈴木は溜息を吐いた。

 「香音ちゃん、いつまでこれ被ってるの?」

そんな声が聞こえて、顔にかぶさっていたバケツ(新品)を取り払う
譜久村の顔が、眩しさに細める視界に入る。
気つけば生田の姿が居なくなっていた。

559名無し募集中。。。:2012/06/09(土) 00:23:37
 「えりぽんにはちゃんと言っておいたからもう大丈夫。
 でも携帯が鳴った途端に急に走ってったからどうしたんだろ…まああの子って
 行動力だけは人一倍あるから、別に驚くことじゃないんだけど」

どうやら生田の行動に鈴木が怯えてるんじゃないかと心配したらしい。
正確にはドン引きして対応に迷っていただけだったのだが。
そんな事は夢だと自分で言い聞かせながら、鈴木は久し振りに会話を交わす。

 「あのみずきちゃん、今日一緒に帰れる?」
 「ああ、ごめん。ちょっとお見舞いに行かなきゃいけなくて…」
 「え?お見舞い?」
 「あ、そっか、香音ちゃんにはまだ話してなかったね、実は…」

――― カチカチカチカチ。

携帯を操作し続ける。
南棟へ走り込んだ彼女は、この着信をいつも待ちわびていた。
電話はできない、恥ずかしくて泣き声になりながらなどあまりにも
情けなさすぎて出来ないからだ。
それならメールで我慢する。
声が聞けなくとも、文字だけでも心の会話が楽しめるのであれば
そっちの方が何倍も良い。
あの顔と向き合おうものなら失神してしまう。
だからこそせめて文字で、言葉で語り合いたい。

 南棟へ辿り着いた。
 屋上に向かう階段には『立ち入り禁止』のプレートと障害物。
 カチカチカチカチカチ。
 カチカチカチカチカチ。ピ。

560名無し募集中。。。:2012/06/09(土) 00:26:33
生田は口角を緩ませた。
仮面ライダーWの関係性は素晴らしいと思う。

 俺たちは、僕たちは、二人で一人の仮面ライダーさ!

まるで"私達"のようでとても共感が持てる。
ただ"あの人"の戦闘モノの知識はそれほど豊富ではないらしく
そこが少し残念だけれど。

生田は携帯の画面を見つめる。
両眼に紫の閃が過る。バイオレットの煌めきが。
カチカチカチカチ。
内容に返信を送り、生田は携帯を閉まった。

 【i914の反応あり。高橋愛のそうさくを続行】
  
生田は心底嬉しそうに嗤う、ゾワゾワと沸き立つ愛を一身に受けて。

561名無し募集中。。。:2012/06/09(土) 00:31:26
以上です。
自分も>>117さんの作品を楽しみにしてます^^

562名無し募集中。。。:2012/06/09(土) 00:33:07
--------------------------------ここまで。
また変なレスw(ry
>>556さんありがとうございました。
意識はしてなかったんですがホントだw

またいつでも構わないのでよろしくお願いします。

563名無しリゾナント:2012/06/09(土) 07:22:24
上げておきました
何かが動き出したってかんじですかね
…ところで作者さまは仮面ライダーとか詳しいのですか?

564名無し募集中。。。:2012/06/09(土) 09:25:54
こんなに早くありがとうございます(平伏
仮面ライダーの知識はそうですね、バックルが変身アイテム
なのと、顔がバッタっぽいのだけ…w
えりぽんが興味なかったらきっと織り込まなかった
要素だと思います。

565名無し募集中。。。:2012/06/11(月) 14:15:46
>>138-141

 「おはようございまーす!」

校門の前、鈴木も見慣れた風景が広がっている。
生徒会と風紀委員が左右に列を作って、あいさつ合戦をしていた。
鈴木も挨拶しようとして、不意に思ってしまう。

 うるさい。

いつもは気にもならないのは、今日はやけにうるさく感じた。
頭に響き、眉間に軽くしわが寄って行く。
他の生徒は気にせずに歩いて行くのだが、鈴木は違った。
異様な"音"の混ざり合いに鼓膜が疼いて仕方が無い。

譜久村の姿が見えるが、鈴木はその場を立ち去りたくて早足になる。
玄関先になってもその疼きが止まらないため、鈴木は怖くなった。
上履きにはきかえ、教室に入って友人に挨拶を交わされてもそれは同じ。

 「どうかしたの?顔色が悪いけど」
 「なんか、気分悪くて…」
 「保健室に行った方がいいんじゃない?」

同級生たちは何事も無い様にしている。
誰かは宿題を写させてくれるように友達に頼んでいたり。
誰かはきのう観たバラエティ番組の話で盛り上がっていたり。
誰かは携帯をいじって誰かにメールを送っていたり。
教諭に見つかって注意を受けたが。

 「せんせー、香音が不調を訴えてます」
 「ん?鈴木どうした?顔色悪いぞー」

566名無し募集中。。。:2012/06/11(月) 14:16:38
鈴木は答えない、答えられなかった。
疼きが痛みへと変わって行く。
"音"がグルグルと、視界に異様に混ざった"色"が見えるようになっていた。
なんじゃこりゃ!
叫びたいのに声が上がらない。
スモッグのような薄い霧が、教室全体を覆い包んでいるのだ。

 「おい、香音、しっかりしろっ」

友人の彼女が声をかけたのを最後に、鈴木の意識は途切れた。
完全ノックアウトだ。

 ――― 嫌な夢を見た。
 誰かを失ってしまう、誰かと別れてしまう。
 もう二度と会えなくなるような、その気にさせる夢を見た。
 誰かは分からない。
 鞘師、譜久村、生田、両親、妹、友達、 そのどれもが当てはまらない顔。
 だけど知ってるような気がして、鈴木はその身体に抱きつく。
 まるで泣き虫な子供がぐずるように。
 嫌だ嫌だと泣いて、泣いて、泣いて。
 こんなヤツだったかなあたし、そう鈴木が思う内に、誰かの姿は消えた。

誰も居なくなって。誰かを探して腕を上げる。
誰か、ねぇねぇ、誰か――― !!

 その時に微かに見えたのが、青空のような水面に映る虹だった。

567名無し募集中。。。:2012/06/11(月) 14:17:27

次に目が覚めると、保健室のベットの上。氷枕でヒンヤリと頭部が冷える。
ボウッとしていた。
先ほど感じた"音"は少し収まっていたが、まだ鼓膜が疼く。

ふと、鈴木の視界に入って来たのは同級生の顔だった。
彼女の顔もしっかりある。

 「気が付いた、香音っ」

心配したようにそう声をかける彼女に、鈴木は「ああ」とため息のように零す。
結局あの強烈な"音"に耐えきれずに気絶したのだと分かって、時計を
見るとすでにお昼になりかけていることを知った。
母親には既に連絡をいれているらしく、鈴木は早退することになった。

  母親の車から見えた校舎が、いつもよりも大きい。
  蜃気楼のように歪んだように見えて、鈴木は視線を逸らす。

それにしても、あの不気味な"音"の正体が分からない。
ただ何処かで、似たようなものを聞いたことがあったかもしれない。
あれはそう、鞘師と会ったあの日に、いじめられっ子の彼女から聞こえた、黒。

あんな風に感じたことも初めてだったし、なによりも鞘師と出会ってから何かがおかしい。
譜久村の友人が入院した事も、変な幻覚や夢を見るようになったのも。
そして気付けば、屋上が閉鎖してから彼女とまったく会えていないという事。

鈴木は自分の部屋でいろいろと考えていた。
保健室で眠っていたときのあの夢が過る、夢のはずなのに、現実味があり過ぎる。

 あの9人の顔に見覚えは、ない。それなのにどうしてこんなにも。

568名無し募集中。。。:2012/06/11(月) 14:17:58
 「香音、お友達が来てくれたわよ」

母親の言葉に鈴木は疑問を抱く。
まだ学校は終わっていない時間なのに。
部屋のドアが回され、その姿に鈴木はあんぐりと口を開けた。
訳が分からない。
訳が分からねえ。

 「こんにちわ、かのんちゃん」

にっこりと、鞘師里保は薄い笑みを浮かべた。

569名無し募集中。。。:2012/06/11(月) 14:21:44
以上です。ちょっと場面がぐるっと変わりました。
千秋楽のステーシーズを観に行ってきます。

----------------------------------------ここまで。
いつでも構わないので、よろしくお願いします。

570名無しリゾナント:2012/06/11(月) 19:48:06
承って候

571名無しリゾナント:2012/06/11(月) 19:52:24
終了
千秋楽うらやまし

572名無し募集中。。。:2012/06/17(日) 02:52:16
ここは掃き溜めの中。
此処はあまりきれいじゃないよ。
つながっていたかっただけで。
死んでしまったあとの花のように。

醜い私は、影にくるまって眠るの。
君は星のように、はかない声で鳴いている。
いつだって昨日の向こう側。

私は死ぬように君を愛す。
君が死んでから私を愛すように。

生きる事が永遠を壊したけれど。
醜い光が私を射つ。
それでも願ってた。

 願ってただけだった。


いつか彼女は、世界にココロを鬱されていた。

 「泣けなくなったのはいつかなんて覚えてないよ。
 神経の異常なのか、障害の一種なのか、考えたって
 私にはそんな知識は必要なかったの、必要のない場所に居たから」

受け入れることが生きる事。
全ては日常の中に消えて行く。
誰も彼も、彼女も例外なく、逃れることなく、逃れれる者が居ようもなく。

573名無し募集中。。。:2012/06/17(日) 02:53:35
 「だけどね、それで少し良かったって思うことはあるよ。
 泣けないなら、笑えばいい。
 だってそうすれば、いろんなことが良い方向に進むような気がしない?
 後ろ向きに考えるよりはさ、生きてるならきっと、その方がいいよ。
 死んだあとのことなんて、人間は考えないんだから」

彼女は鼻歌にメロディを口ずさむ。
流行りではないが、それでもなんとなく気に入っていて、無意識の
うちに口に出してしまうくらいの歌。
心地よかった。意味はない、ただ、心地よかっただけで。

日常の中で、誰もが他人に無関心になる。
"此処"にいる殆どの人間もそうで、そいつの存在自体がまるで最初
から無かったかのように。
しかし彼女はそんなことを傍から理解していて、そしてむしろ、状況を
楽しんでいる節もある。
実際、楽しもうとしていた。

 「だから変にディスられてるのも知ってるよ。アハハ。
 まあそうだよね、皆やっぱり、心のどこかでは悲しんでるのに、私だけ
 気持ち悪いくらいニコニコして立ってるんだから。
 でもさ、逆に考えてもいいじゃない?悲しむだけ悲しんでさ、それで
 見ぬふりするより、背負った方がいいでしょ?」

誰もが全てを見えているというワケじゃない。
全て見えると思っているだけで、全てを見た気になっているだけで、実際のところ
目に見えるモノなど小指の先ほどの事柄しかない。
しかもそれは決まって、他人にはどうだっていいことなんだ。

574名無し募集中。。。:2012/06/17(日) 02:54:09
そんな事を思うと、彼女は愉快になって軽く吹き出しそうになったが、口元を
ゆるめるだけに留めてくれた。
感情なんて、余計なものだと思う。

 「私さ、ずっと笑ってたいんだよね。そんな場合じゃないっていうのは
 判ってるんだけどさ。無理に笑ってないのだけは覚えててほしいな。
 きっとさ、神様のきまぐれなんだよ。私にそうやって背負えるように
 涙を与えなかっただけ。涙だけなら、安いものじゃない?」

彼女はテーブルの上のコーヒーカップに手を伸ばす。
湯気を立てるそれをのぞき込むと、コーヒーの香りとミルクの匂いが
同時に漂ってくる。
コーヒーは正直苦手だけれど、ミルクを入れればそれは別の代物へと変化する。
口が緩むことに躊躇すると、彼女が代わりに笑った。

日常にリアルを求めること自体がすでに不自然だった。
日常こそがすでに非日常で、感覚の麻痺した世界でリアルなど存在しない。
現実感などずっと昔に失くしてしまっているのだから。
最初からそんなモノは存在していないかのように。

最初からセカイは、全てが失せている。
それなのに。

 「じゃあさ、もしもどちらかに何かがあった時は、どちらかの気持ちを
 互いに渡そう。欠けたものを渡し合おう。
 いらないかもだけど、迷惑かもだけど。こんな歪んだものなんてきっと
 好きにはなってくれないかもだし、言ってる時点であれか、アハハ。
 でもまあ、私は嬉しいかな、―― が泣いてる姿、けっこー好きなんだよね」

575名無し募集中。。。:2012/06/17(日) 02:55:20
泣けない彼女と、笑えない自分。
神経の異常なのか、障害の一種なのかは分からない。
そんな知識の必要がない場所に、自分達は居るのだから。

笑えない代わりに、涙がなんの前触れも無く、流れることがあった。
恐怖も絶望も感じてないはずなのに、それでも人間は本能的に
感情を浮かべるようになっている。

 それが自分にとってどんなに目ざとく思っていても。

気がつけば"組織"にいて、気がつけばヒトゴロシだった自分達。
ときには強引に殺し、ときには事故に見せかけて殺し、ときには消し去るように殺す。
研究員たちは"チカラ"のことに関して両目を輝かせ、ヒトゴロシを
する自分や彼女に対しても恐怖と、好奇と、絶望と、希望と。
様々な色と、音と、歌と、血と、人と、死と。

だけど誰が悪いのかなんて、判らなかった。
自分達が悪いのかもしれない、研究員が悪いのかもしれない。
何が悪いのかが分からないけど、どうして悪いのかが分からないけど。

 彼女が死んだ時に、自分は、全てを背負えただろうか?



 パンッ、パパパパパッ、パパパパパパッ。

複数の乾いたような、連続した音。
銃声。
分解から組み立て、その種類も能力も把握している。
音を聞けばそれが何なのか判った。

576名無し募集中。。。:2012/06/17(日) 02:57:17
気付けば叫んで、常人には有り得ないような脚力で一瞬にして、彼女を
抱き上げ、その場から逃げ出す。
背後から銃声がして、数発が身体をかすめる。
途端に傷口から血が噴き出してきたが、走るのをやめはしない。

抱きしめる身体から少しずつ、確実に力が抜けていた。
それでもまだ暖かい。心臓が、鳴っている。
早かった鼓動が、少しずつ、ゆっくりに。

グッと、腕を掴まれる。
最後の力を振り絞るように、腕を、手を、自分の首に押しやった。
それはまるで、儀式のように行われた通過儀礼。

 「私さ、親友を殺したの。もう助からないって思ったから。
 私が肌に触れると、そこが砂になって、粒になって、灰になるの。
 身も心も血も、全てが燐粉になっていった。まるでヒカリみたいに」

"作戦"が失敗した場合、死んでも"組織"につながるような証拠は残してはならない。
外部に少しでも情報が漏れるのを防ぐために。
自分達の死体ひとつを残すことさえ許されない。
そうやって生まれたときから教育を受けて来て、それが全てだった。

 そして"作戦"は、失敗した。

 「私が殺してきた人達も、あんな風にヒカリになって、飛んで行った。
 蝶みたいに、私もさ、あんな風になれるかな?醜くてもいいから」

577名無し募集中。。。:2012/06/17(日) 02:59:27
最後の言葉なんてものもなく、最後に受け止めるココロもなく。
"作戦"が失敗したという事実だけが残って、カラッポの世界だけが残って。
砂になって、粒になって、灰になる彼女を見上げた。

涙が溢れるのに、恐怖も、絶望もない、ただ、口角を強引に開けて、笑った。
歪な笑顔で笑って、笑って、笑って、笑って、笑って、ごめんと叫ぶ。

 「きっとこれも、神様のきまぐれなんだよ。
 このセカイも、あのセカイも、この"チカラ"も、私達もね。
 もしもどちらかが欠けたなら、探しに行けばいいの。このセカイも私で、―― も、私なんだから」

―― 私は、青空の下に居た。
小さなベンチに一人佇んで、何をすることもなく、眠ることも無く。
このまま地面に溶かされてもいいくらいに思えた。

 「どうしたの?まるで死人みたいな顔してさ」

なんて挨拶だと、思った。表情に浮かぶそれに、そっと言葉を乗せる。

 「親友が、死んだの」
 「そっか、私の親友も、さっき死んじゃったんだ」
 「…そう」
 「でもね、泣けないんだ、なんでだろうね。悲しいときにも涙は
 でるはずなのに、アハハ、ほら、変でしょ?うん、まあこんな事
 言ってもしょうがないんだけどね、アハハ。ねえ、そこ座っていい?」

陽の光に、目を細める。
アスファルトから飛び出したその花に名前を付けて。
そうしてまた日常が始まって。ただ願ってたはずのココロが微かに、笑ってた ―― 。

578名無し募集中。。。:2012/06/17(日) 03:09:26
「Whim of God」

以上です。だいぶ舞台の影響を受けましたってことでツヅカナイヨ。
名前を伏せたのは神様のきまぐれです、ウソです想像に
お任せという事でどうか。

----------------------------------ここまで。
ちょっと長くなりました、投下が難しいかも…申し訳ないです。

579名無しリゾナント:2012/06/17(日) 12:50:35
ふぅなんとかいけた
名前を描かなかったことで普遍的な広がりが感じられる仕上がりになってますね

580名無し募集中。。。:2012/06/19(火) 03:31:01
>>189-192 の続き。

闇の中に、【闇】が浮かんでいる。
ユラユラユラユラ。
闇の空間をたゆたう影。
影は黒いコートに身を包み、フードを深く被っていた。
小柄な影。手のひらには三つの球体。

誰かは【ダークネス】と呼んだ。
悪意の塊。
悪意の記憶を糧として生まれた、それが【ダークネス】。

【闇】を満たす唯一の概念。
ただ、其処には何も無い、ナニモナイ。
満たされているから、満たされていると思い込んでしまう。
手では掴めない。
叫んでも答えてくれない。
ただ満たされてるだけ、闇が、在るだけ。

その【闇】に、影は球体を投げ込んだ。
誰かの悪意の記憶を零していく。

すると、闇の中の一部に裂け目が現れ、大きな口の形をしていた。
闇に落ちた球体。

 ムシャムシャムシャ…咀嚼音。

喰らっていた、響く、誰かを食べる音が。果てしなく続くような闇の中で。
グググググググググググググ。
闇が盛り上がるように『成長』する音が微かに鳴っている。
パキパキと枯れた音が無骨に。

581名無し募集中。。。:2012/06/19(火) 03:32:37
 オオオオオオオオオオオオオオオオ。

【闇】が、啼いた。

 *

黎明学園敷地内。
二つの影がフェンスの裏側から入り込み、上手く闇に身を潜めながら校舎に近付く。
何処かに中に入れるところはないかと探していると、一ヶ所灯りの点っている場所を
見つけた。

 「…誰かいますかー?」

窓に近付いてそっと中をうかがった鈴木が言った。
そこは警備員が使っている宿直室のような部屋だ。

 「鍵もかかってないよ、不用心だなあ」

鈴木が窓に手をかけると、軽く力を入れただけでそれはゆっくりと動いた。
窓の隙間から、暖房の暖かい空気を感じることが出来た。
これでは警備も監視もないじゃないか、とは思ったけれど、そのツメの甘さに
今だけは感謝しようと思う、状況が状況なだけに。

 「じゃ、ここから入るよ」

鞘師はうん、と頷いた。


 ――― 鞘師が彼女の元に来たのは数時間前の事。
 鈴木は驚いた、心底驚いた。
 だって知るはずがないのだ、鞘師が鈴木の家を知ってるはずがない。

582名無し募集中。。。:2012/06/19(火) 03:33:09
だけど鞘師は平然とサイダーを飲んでいて、鈴木もまたその手に持っていた。
本物だった。
しゅわしゅわしていた、「しゅわしゅわーぽんっ」とお決まりの言葉を言って
恥ずかしそうにしている鞘師は本物だった。
頭痛は、いつの間にか治っていた。

 「なんでクマがアフロなの?」
 「アフロヘアーに憧れた時期があったんだよ。ちゃーちゃんにも」
 「ちゃーちゃんって言うんだ」
  
そう言って鞘師は飾ってあったクマのアフロを鈴木に被せてニヤニヤ笑っていた。
鈴木はアフロ頭のままで疑問を聞いてみる。

 「で、なんでりほちゃんがいるのさ」
 「お見舞いだよ」
 「あたし、家教えたことないよね?」
 「うん」
 「いや、うんじゃなくて、誰かに聞いたの?」
 「うん」
 「誰?」
 「宇宙人に」
 
鈴木はサイダーの瓶を鞘師の頭に振り落とすフリをした。
流れるように避ける鞘師。
壁にドカッと頭をぶつけてしまい、手でさする鞘師。
いろんな意味でアホだった。

 「痛いよかのんちゃん」
 「りほちゃんが変なこと言うからだよ、しかもあたし何もしてないよ」
 「でも聞いたのはホント、信頼できる人だから大丈夫」

583名無し募集中。。。:2012/06/19(火) 03:39:00
信頼してる割には宇宙人呼ばわりとは。
個人情報のセキュリティが期待できないこの時代。
ただそこまでしてこの家に来た訳がなんなのか、それが知りたくなった。

 「で、なんでりほちゃんがいるの?」
 「かのんちゃんにお願いしたいことがあるの」
 「お願い?」

鞘師はまた薄い笑みを浮かべた。
けなしている訳ではないんだろうけど、何かを企んでいる様な笑顔。
引いた表情をすると、今度は口を開いてイヒヒと笑う。

 「かのんちゃんだから、お願いしたいことがあるんだよ」
 

――― 二人はソロソロと足音を消しながら、まるで泥棒みたく
身を小さくして、廊下を進んで行く。

学校というところは、昼間は人の声で溢れている場所も、今は
逆に音を吸い込んだように静まり返っている。
油断すると傍らの闇に引きずり込まれてしまいそうな錯覚に襲われる。

だが、鈴木は平然としていた。
お化けが居ると思うから居るように思うのだと思ってる。
気味が悪いと思うから変な想像をするのだと思ってる。
空気が読めないわけではない。
断じて読めないわけではない。
怖いことは怖い、だけどそう思わないようにしてるだけなのだ。

584名無し募集中。。。:2012/06/19(火) 03:39:41
そんな鈴木とは裏腹に、隣の鞘師は異様に辺りを見回すかと思えば
ギュウギュウと身体をひっつかせてくる。

 「ねえ歩きにくいんだけど」
 「かのんちゃん怖くないの?」
 「怖いけど、りほちゃんが言いだしたことなんだからしっかりしてよね」
 「……」

鞘師は何かを言いたそうにしていたが、突然足音が聞こえた。

 「!?」

廊下の突き当たりを曲がった向こうから。
こればかりは鞘師ばかりではなく鈴木もビクっと身を震わせ硬直する。
懐中電灯と思われる光が見えてマズイ、と思った。

 警備員だ!
 鈴木にとってはオバケよりも人間の方が怖い。

鈴木は小さく舌打ちをすると、硬直したままの鞘師の手を引いて
丁度通りかかっていた教室の中に滑り込んだ。

585名無し募集中。。。:2012/06/19(火) 03:43:57
以上です。
こんな物を拾いました つ「鞘師<モー娘。メンバーを戦隊モノのヒーローに例えてみた」
http://www.youtube.com/watch?v=KMt_JEI8U5Y

---------------------------------ここまで。
最近ここを独占し過ぎですねすみません(汗
いつも代理してくださる人、ありがとうございます。

昔の9人話の受領は今でもあるのか少し気になりました。

586名無しリゾナント:2012/06/19(火) 21:38:32
遅くなりましたが投下終了しました


>昔の9人話の受領は今でもあるのか少し気になりました。

受領は致しかねますが需要はありますw

587名無しリゾナント:2012/06/22(金) 21:45:43

――――――――――――――――――――――



心の中を無にしよう。

この世界は贋物だ。

構成要素の配置が変わっただけの紛い物。

だから、戸惑う必要も捉われる必要もない。

現実(リアリティ)はすべて、この世界の外にある。



――――――――――――――――――――――

588名無しリゾナント:2012/06/22(金) 21:46:25

追いかける。
追いつめる。
この爽快感がたまらない。
敵の能力者は、大通りを突っ切ってそこの角を曲がった。
衣梨奈は知っている。そこの角は行き止まりだ。
もう奴に逃げ場はない。

「観念しなさい、悪の手先め!」

予想通り袋小路に追いつめられて慌てふためく男に向かって、衣梨奈は得意げに人差し指を突き立てた。

「このところの連続婦女誘拐事件の犯人はあんたやろ!調べはついてるけんね!」
「・・・へへ、こんなお嬢ちゃんに追跡されるたぁ俺も落ちたもんだ・・・・・・なあ!」

男は軽薄な笑みを浮かべ、右手を振り上げる。
白くしなやかに蠢くそれは、もはや人間のそれではなかった。
イカだ。
男は半獣人化し、その右手を長さ二メートルはあろうかというイカの足に変化させた。

「ガキには興味ねえ!死ねやぁ!」

白い右手が衣梨奈の身体をなぎ払おうと迫る。
衣梨奈はかろうじてそれを避けると、自らの腰に提げていたバトンに手をかけた。

「くらえ!」

589名無しリゾナント:2012/06/22(金) 21:47:21
引き抜いたバトンを、ブーメランの要領で投げる。
しかし微妙な体勢から放たれたバトンはブーメランのようにはいかない。
ぐらぐらと不規則な回転を繰り返し、衣梨奈のバトンは男の遥か後方に逸れていった。

「ギャハハ!どこ狙ってやがる!」
「いや・・・これでいいっちゃん」

衣梨奈が不敵に笑う。

「半獣化能力者には、能力だけではカバーできん大きな弱点があるとよ」

すると突然、バトンの軌道が変わった。
あさっての方向に飛んだはずのバトンが変則的に曲がり、さらに大きく回転を加えて戻ってくる。

「それは」
「んがっ!!」

戻ってきたバトンが直撃し、男は地面へと倒された。
イカの足と化した白い右手も、隠し玉のつもりだったのだろうカニのハサミと化した赤い左手も、ぴくりとも動かない。

「あ・た・ま。どいつもこいつも、そこだけは人間のままやけんね」

死角から勢いよく飛んできたバトンが後頭部に当たり、気を失っている。
男が起き上がってくる気配はなかった。

「いえーい!生田衣梨奈、完璧完全大勝利ぃー!またバトンの腕が上がったかもー!」

590名無しリゾナント:2012/06/22(金) 21:48:06


「“だいしょうりぃー!”じゃないよ、まったくもう」

勝利の余韻に水を差す、不機嫌そうな声。
衣梨奈が振り返るとそこには、腕を組みこちらを睨むように見つめる鞘師里保と、困ったように眉尻を下げる譜久村聖の姿があった。

「念動力で操ってるんだから“バトンの腕”関係ないじゃん。そもそも犯人が現れたらまずみんなに連絡して、
 それから尾行って話に決まったでしょ?何一人で勝手に突っ走っちゃってんの」
「だぁってー、犯人がもう女の人に声かけてたんだもん。このままじゃ次の犠牲者が出ると思って」
「だからって、街中を『こいつ犯人です!こいつ犯人です!』って言いながら追いかけまわすことないじゃん。ホントえりぽんってKYだよね」
「ちょっと!なん、その言い方!」
「本当のことを言ったまでだよ。フクちゃんが通行人の記憶を全部操作するのにどれだけ苦労したか、わかってる?」
「あ、あの、里保ちゃん。そのくらいでもういいから・・・」

喧嘩腰になる里保と衣梨奈の間に、聖が割って入る。

「えりぽん。私たちは目立たずひっそりと、でも確実に敵を倒していかなくちゃいけない。どうしてだか覚えてる?」
「・・・うちらは・・・少人数だから。敵がその気になったら、すぐ潰されちゃうから」
「そうだよね。『でもそこが秘密の正義の味方って感じがしてかっこいい!』って、えりぽんが言ってくれたんだよね」
「・・・・・・」

591名無しリゾナント:2012/06/22(金) 21:48:41
聖の口調は優しかった。
子供の間違いを正す母親のように、優しく衣梨奈に言い聞かせる。

「あんまり派手な妨害をすると目をつけられちゃう。目をつけられたら・・・殺されちゃう」
「・・・ごめん」
「それに、今回はえりぽんだって危なかったんだよ?犯人が逃げた先にもっと強い敵が待ち構えてたらどうするつもりだったの?」
「ごめんってば!」

優しく追及されることが却って辛いこともある。
衣梨奈は強引に話の流れを断ち切り、言った。

「勝手に単独行動に出てすみませんでした!もうしません!」

それこそ子供のするような、投げやりな謝罪だった。
だが衣梨奈の性格を知っている二人は、そんなことに目くじらを立てたりはしない。

「まあ、わかればいいんじゃない?」
「警察には通報しておいたし。・・・帰ろうか。みんな心配して待ってるよ」

里保は矛を収め、聖は笑って手を差し出す。
衣梨奈は膨れっ面をしながらもその手をとる。
それが彼女たちのバランスだった。
この世界においての彼女たちの関係は、そんな風にして成り立っている。

592名無しリゾナント:2012/06/22(金) 21:49:41


= = = =


衣梨奈が誘拐事件の犯人を倒した数日後。
聖たち八人は、彼女たちの本拠地である街外れの空き家に集まった。
空き家と言っても、聖の家が所有して聖が離れとして使うことを黙認されている“生きた”家だ。
誰が手を回したか知らないが当然のように電気は通うし、家具もきちんとされている。

「鈴木さーん!さっきそこで膝を擦りむいちゃったんですけど、これって治してもらえますかねー?」
「ちょっとやめてよ、くどぅー。香音ちゃんは薬箱じゃないんだよ」
「鞘師さんはもっと大きなケガ治してもらったりしてるじゃないですか。ハルこれから撮影なんすよ」
「“傷の共有”使った時の傷と、そこら辺を走り回ってできた傷を一緒にしないでほしい」
「まぁいいからいいから。ほら、どぅー。膝見せてごらん」

八人が集ったリビングはいっそう賑やかだった。
この賑やかさは聖も好んでいたが、真面目な話を切り出すには向いていない雰囲気だと常々思っていた。

「みんなー!ちゅーもーく!」

左手に鍋、右手におたまを持って、大きな音が出るように叩く。
やや古典的だが、効果的なやり方ではあるようだ。
思い思いにくつろいでいたメンバーの視線が聖に集中する。

「はい。先日の誘拐事件はご苦労様でした。みんなの活躍のおかげで犯人は無事逮捕。以後、能力者による事件は今のところ確認されていません」

聖の報告に対して、「イェイ!」「やったー」などと喜びの声が返される。

593名無しリゾナント:2012/06/22(金) 21:50:26
「ただ、今回みたいな事件がまた起こらないとも限らない。だから今日は、いざという時のためのペアを決めたいと思います」
「ペア?」
「そう。一人一人が別々の場所に張り込むのって、効率は良いんだけどやっぱり危険じゃない?
 だから今のうちに、そういう事態になった場合に一緒に行動するペアを決めておきたくて」

先日の一件での反省を踏まえた発案だった。
こうすれば、衣梨奈のように深追いして身を危険にさらすメンバーはいなくなる。

「なるほど。じゃあ、私とまーちゃんは一緒にしてください。“白銀のキタキツネ”様をお守りするのが“蒼炎”を背負う私の使命です」
「もうあゆみんってば。そうゆうのヤダって私ずっとゆってるのに」
「亜佑美ちゃんはそう言うと思ったよ。他には?希望ある人はいる?」

聖は周りを見回した。
蝦夷の頃より続く神使の家系である佐藤優樹と、代々神使に仕えてきた一族の末裔・石田亜佑美がコンビを組むことは予想していた。
問題はそれ以外の組み合わせだ。
どういったペアが適当か、聖には皆目見当がつかない。

「希望っていうか推薦なんだけど、えりちゃんは聖ちゃんと一緒がいいと思う」

鈴木香音が手を上げて言った。

「力ずく以外でえりちゃんの暴走を止められるの、聖ちゃんしかいないもん」
「確かに。うちがやったら鋼線でケガさせちゃうけど、聖ちゃんなら“精神干渉”でえりぽんの心を直接止められるもんね」
「ちょっと意味が違うんだけどな・・・」
「え〜!でもでもぉー、リーダーとサブリーダーはバラけたほうがいいっちゃない?」
「は?サブリーダーって生田さんだったんすか?」
「年齢と落ち着きと話の面白さから考えて、てっきりはるなんがサブリーダーかと思ってました」
「えっ!いやいやそんな!私なんてそんな!」

594名無しリゾナント:2012/06/22(金) 21:51:34
聖なら衣梨奈を説得できると考えての香音の提案だったのだが、なぜだか話は逸れていく。
いつしか議題は、「このチームのサブリーダーは誰か」ということになっていた。

「待って、こういうのは年功序列って決まってるの!この中で聖との付き合いが一番長いのはえりやけん、えりが」
「付き合いの長さならフクちゃんと幼なじみのハルのほうが上ですけどね」
「年齢だったら飯窪ちゃんとだーいしのほうが上だし」
「ちーがーうー!そういうことじゃなくって!」
「あ、でも生田さん、この前お一人でイカカニ男を倒したんですよね。すごいです、私一人じゃ絶対無理です!
 やっぱりそういう実力を考えると、生田さんのほうがサブリーダーに向いてるんじゃないかなって思うんですけど・・・」
「出た、はるなんのヨイショ芸」
「ほらほらぁ!本人もそう言ってるんだから!サブリーダーは、生田衣梨奈ってことで!」
「しょーじき私はどーでもいいです。ウフフ」
「“どーでも”!?“どっちでも”の言い間違いだよね優樹ちゃん!ねえ!」



= =


話し合いは終わり、解散宣言が出される。
留まるも帰るも個人の自由だ。
これから雑誌の取材の予定が入っているという工藤遥は、大慌てで帰り支度を始める。

「売れっ子の子役も大変だねえ」
「忙しいのに呼び出してごめんね、くどぅー」
「いえいえ。ハルはお仕事してるより、こうしてみんなと過ごすほうが楽しいですから」

遥はテレビや雑誌などで活躍する女優の卵だった。
数年前に母親が応募した子役オーディションに合格して以来、それなりに忙しい日々を送っている。

595名無しリゾナント:2012/06/22(金) 21:52:14
「あっ!くどぅー、いつもの駅は行かないほうがいいよ!accidentのかんばんが視えた!」
「アクシデントの看板?・・・あぁ、人身事故の表示か。サンキューまーちゃん。タクシーで行くよ」
「一人でタクシーなんて大丈夫?仕事場まで“瞬間移動”で送ろうか?」
「大丈夫だって。それよりはるなん、来週からテストって言ってたじゃん。勉強しなくていいの?」
「もぉ!思い出させないでよー!」
「それじゃ、みなさん!お先に失礼しまーす!」

最後に威勢よく挨拶をして、遥は仕事へ向かった。
それからまもなくしてテスト勉強を理由に春菜が、門限を理由に香音が、アルバイトを理由に亜佑美が、それぞれこの場所を後にする。
残ったメンバーは再び他愛のない話に興じた。



やがて、衣梨奈がふと何かに気がついたような顔になる。

「・・・あれ?」
「どうしたの、えりぽん」
「いや、大したことじゃないっちゃけど・・・」

衣梨奈が思い返しているのは、先日の戦闘の後と先程の会話の記憶。
あの日自分は確かに、その場に居合わせなかった仲間に闘いの顛末を聞かせた。
が、“使われなかった”能力についてまで言及した覚えはない。
それなのに彼女はなぜ、敵をはっきり『イカカニ』と称することができたのだろう。

「えり、この前倒した敵がイカ以外にカニの手も持ってたこと、はるなんに教えたっけ?」

596名無しリゾナント:2012/06/22(金) 21:54:55


= =


“女”は、携帯電話で誰かと連絡をとっている。

「はい、そうです。今日は非常時の取り決めだけで特に連絡事項は、えっ・・・ああ、鞘師ですか?
 鞘師は鈴木とペアになりました。・・・・・・そうですね、その時に仕掛ければよろしいかと。・・・はい、ではまた」

一拍、二拍、三拍と間を置いて、無機質な電子音。
接続が断たれたことを確認し、女は通話終了のキーを叩いた。
例外的な場合でない限り、こちらから通話を切ることは認められていない。

女は小さく溜息を吐いて空を見上げた。
物憂げだったその表情が、次第に諦念的なものへと変わっていく。

「『私が身を置く組織は破綻する運命にある』。初めにそう忠告したじゃないですか、譜久村さん・・・」

自嘲気味に呟く“春菜”の顔は、仲間の誰にも見せたことがない深い哀しみに包まれていた。

597名無しリゾナント:2012/06/22(金) 21:55:32



――――――――――――――――――――――


「また神様ごっこ?」

その一言が、今回の箱庭世界に蓋をした。

声をかけられたことで集中が途切れ、中澤裕子の作り上げた“箱庭”が霧消する。
中澤の身に現実(リアリティ)が帰ってきた。
瞼の裏で群像劇を繰り広げていた少女たちの姿は、影も形も見えない。
あるのはテーブルとソファと、コーヒーの入ったカップを片手に持った飯田圭織の姿だけだった。

「よく飽きないよね。何をそんな熱心にシミュレーションしてるの?」
「シミュレーションやない。再構築や。この世界の構成要素を全部バラして組み立て直したらどうなるんかなぁ思ってな」
「ふうん」

わかったようなわからないような曖昧な返事をして、飯田は踵を返す。
おそらく、わかってはいないだろう。
飯田は中澤の能力を把握している数少ないメンバーの一人だが、彼女とてその能力の全容を理解しているとは言い難い。

598名無しリゾナント:2012/06/22(金) 21:56:11
自らの持つ空間移動能力によって、中澤は並行世界に起こるすべての事象を把握することができる。

あらゆる並行世界に共通して発生する要素と一定の条件下でしか発生しない要素とを区別し、それらを再度組み直して今までにない世界を頭の中に構築する。
中澤はその作業を“箱庭作り”と呼んでいた。
つい先程まで見ていたのは、高橋愛以下九名のリゾナンターがこの世に存在せず、
まったく別の少女たちが高橋らの立場に成り代わって存在している世界である。

「で?再構築したらどうなったの?」
「興味深いことがわかった。色々とな」

今回高橋らの代わりとして用意した少女たちは、敢えて高橋らと同じ能力を持つよう調整した。
念動力や治癒といったオーソドックスな能力だけではない、傷の共有や獣化といった変わり種まで用意したのだ。
それなのに。

「・・・いっこだけ、どうしても作れへんかったモンがあるんや」

共鳴増幅能力の使い手、田中れいな。
彼女の代わりだけはどうしても再構築することができなかった。
新垣里沙のスパイ要素や、ジュンジュンとリンリンのような神使と庇護者の関係にある者などは配置できたというのに。

「とっておきのイレギュラーやな、アレは」

“田中れいな”は、完全に世界から独立した要素だった。
神の真似事では生み出せない絶対的な存在。
唯一無二の“個”だ。

599名無しリゾナント:2012/06/22(金) 21:56:41


中澤は家具から距離をとり、何もない空間を切り裂く。

「おでかけ?」
「ああ。実地調査に行ってくる」
「なんだ。せっかくおいしいコーヒー持ってきてあげたのに」
「マジか」
「テーブルに置いてあるやつ。お中元にもらったの」
「はよ言ってよ」
「置いたからわかると思って」

コーヒーをすすりながら飯田が言った。
よく見れば、テーブルの上には見慣れないコーヒー豆の袋が載っている。

「惜しいことしたなぁ」
「賞味期限は再来年の七月だってさ」
「ならええわ。それまでには帰ってこれるやろ」
「あれ、飲むの?圭織、持って帰ろうと思ったのに」
「飲むわアホ。あたしの机の一番下の引き出しの中に入れといて」
「オッケー。一番下の引き出しの仕切り板の奥の隠しスペースだね」
「ちょ、待って。なんであんたがあたしの机の秘密を知ってるん」

奇しくも、いつまでに答えを出すべきかの期限が定まった。
遅くとも再来年の七月。
その頃までには、この世界における田中れいなというイレギュラーの扱いが決まっているはずだ。

含み笑いを漏らして、中澤は裂けた空間の中へ足を踏み入れた。

600名無しリゾナント:2012/06/22(金) 21:58:49
>>587-599
『Reconstructed Resonantor 〜箱庭の少女たち〜』です
リゾスレと910期の融合を真面目に考えたらこんな形になりました

=====
以上を、スレの間が空いた時で構わないので代理投稿お願いします
一度で投稿できない場合は>>591までを前半として二回に分けてくださるとありがたいです

601名無しリゾナント:2012/06/23(土) 19:04:58
すみません上がってるの気付いてませんでしたが…すごくおもしろい…!
めちゃくちゃゾクリときました
まだもし上がっていなければ今夜にでも代理します

602名無しリゾナント:2012/06/23(土) 23:04:28
代理と感想ありがとうございます

603名無し募集中。。。:2012/06/26(火) 03:15:32
>>385-389 の続き。

 「かのんちゃんも気付いたんだよね、あの不気味な"音"」
 「りほちゃんも分かったの?」
 「あの"音"の正体、知りたくない?」
 「待ってよ、なんでりほちゃんが分かるの?あたしと同じなの?」
 「私はかのんちゃんみたいに絶対音感は持ってないよ。
 けど、私もかのんちゃんも、『共鳴』してるから」
 「きょう、めい…?」
 「私だったら教えてあげれるよ?かのんちゃんに起こってる事」

物音を聞きつけてすぐに警備員達が近くまでやってきた。
鈴木は生徒の机よりも大きく隠れやすい教卓にまず鞘師を押しこみ
次に自分も身体をねじ込んだ。
すぐ傍の廊下では警備員の照らすライトが教室の中に侵入してくる。

 「今、物音しましたよね?」

アルバイトらしき若い男性の声。

 「念のため、中も調べてみよう」

ベテランといった感じの中年男性の声。
直後に、二人が隠れた教室のドアが開かれる。
鈴木は祈るように目を閉じ、鞘師に身体を密着させた。
懐中電灯の光は教室中を照らす。

大量の汗が体中から噴き出した。冷や汗だ。
もうダメだとなかば諦めている。と。

604名無し募集中。。。:2012/06/26(火) 03:16:27
 「何もないみたいだな、他を見に行こう」

中年男性が言って、ピシャっとドアが閉められた。
二人分の足跡がやがて遠ざかって行き、鈴木は大きく深呼吸をした。
無意識に息を止めていたらしい。同じように鞘師も息を吐いた。

 「今のは完全にアウトだと思った…」

鈴木は笑顔を引きつらせながら言う。
鞘師も予想外のことが起きてただ笑った。
すぐに出てしまわずにしばらくの間そこで隠れることにする。
ようやく気持ちも呼吸も落ち着いてきた頃になって、二人は教室を出た。

 
 「かのんちゃんなら来てくれると思ってた」
 「あんなのがずっと続くのが嫌だから行くだけだよ。出てくるのに苦労したし。
 今もほら、また耳がじくじくしてきた」
 「大丈夫、私がなんとかしてあげるよ」
 「本当は早く行きたいんだけど、このフェンスの穴を使おう」
 「え、忍び込むの?」
 「うん、かのんちゃん守ってね」
 「は?」
 「私こういうのダメだから」

周囲に十分注意を払いながらも鞘師は手を引かれ、足早に廊下を進んでいた。
月が雲に隠れたまま出てこない。闇がいっそう濃くなっていた。
非常灯の赤いランプがやけに目に入る。
鈴木は教室を出る少し前からそわそわし始め、何かを強く感じていた。
鞘師にしてみれば、その何かが問題だ。

605名無し募集中。。。:2012/06/26(火) 03:19:01


周囲に十分注意を払いながらも鞘師は手を引かれ、足早に廊下を進んでいた。
月が雲に隠れたまま出てこない。闇がいっそう濃くなっていた。
非常灯の赤いランプがやけに目に入る。
鈴木は教室を出る少し前からそわそわし始め、何かを強く感じていた。
鞘師にしてみれば、その何かが問題だ。

走る。走る。鈴木に聞こえる"音"は、闇の中で静かに啼いている。
闇の中にある"色"は、もっと色濃い闇。
闇の闇の闇の闇の闇。黒と黒と黒と黒。

 「最初から見てたって事か」

南棟の屋上。勿体ないほどの広さがある其処。
その柵の傍がぽっかりと空間が喰われた様に、【闇】になっていた。
誰かが静かに佇んでいる。
鈴木は彼女の顔に見覚えがあった。
鼻歌が聞こえたかと思うと、じくじくしていた疼きが強くなる。

 「大丈夫?」
 「これが大丈夫そうに見える?」
 「そうか、あの子自身がサブウーファーなんだよ」
 「サブ…なに?」
 「「『共鳴振動 -サブウーファー-』、低周波音って分かる?」
 「分かんないってばっ、説明はいいからなんとかしてっ」
 「…しょうがない、か」

パチンッ――

606名無し募集中。。。:2012/06/26(火) 03:24:31
奇蹟のようなヒカリが、闇夜を貫く。円形の青空が二人に注がれた。
鈴木はその光を仰ぐ。
見上げた先、細まる視線にはあるはずのない青空。
隣の鞘師の身体が白い光に包まれ、手には鞘に収まった『刀』
背中のベルトに固定された何かが重い音を鳴らす。
それら全てが、カタナだった。

 「まさか『位相空間』の内側(なか)にまで響くなんて…」

鞘師が苦い表情を見せた、頭痛はまだ疼いている。
目の前の彼女はまだ鼻歌を歌っている。人形の玩具のように。
なによりあの"音"が、何かを突き破るような恐怖を湧き立たせる。
 
その時だった。鞘師が一瞬にして、彼女との距離を失くす。
彼女の抜き放った刃がまともに顔面を捉える。
彼女の身体もろとも、真っ二つに切り裂かれた。
柔らかいものが斬れる音が生々しく、響く。

 鈴木はただ、その光景を見ていることしか出来なかった。
 鞘師のオーラの"色"と両眼に釘付けになる。鬼の様に染まった、朱の色に。

607名無し募集中。。。:2012/06/26(火) 03:29:42
以上です。ようやく何かが出て来ました。
引っ張り過ぎてもう夏になりそうですね…(汗

--------------------------------------ここまで。

いつでも構わないので、よろしくお願いします。

608名無しリゾナント:2012/06/26(火) 21:32:05
空いているみたいだから行って来ますかね

609名無しリゾナント:2012/06/26(火) 21:48:16
完了
遂に話が動き出したw
描かれてる少女たちの日常だけでも魅力的なのですが物語の根底に流れるものにも心ひかれます

610名無しさん募集中。。。:2012/06/27(水) 14:21:23
『「リゾナンター。大好き!」』

〈One ちょびっと不安で 〉

1−1
れいなは絶望した。
敵の力が分かってしまったから。
この少女は武道の達人。
それも、れいなが今まで戦った中でも最強クラスの。

様々な理由によって、リゾナンターのメンバーが大幅に入れ替わった。
高橋・新垣の離脱後は、れいな・鞘師が戦闘における「ツートップ」となっている。
この二人は、攻撃に際して特殊能力を使用していない。
れいなの強さは、天性の格闘センスと、豊富な闘いの経験とによるものだ。
また、鞘師の方は、特殊能力自体いまだに発現していない。
驚くべきことだが、これまで二人は体術だけで強力な能力者を撃退してきたのだ。
そう、これまでは…。

得意の体術勝負で敗れたことに、れいなは打ちのめされていた。
「やっぱり愛ちゃんとガキさんがおらんとダメなんかなあ…。」
れいなが弱音を吐いている。
傷ついたれいなを治療しているさゆみは、それを聞いて衝撃を受けた。
そして、事態の深刻さを思い知った。

611名無しさん募集中。。。:2012/06/27(水) 14:22:00
1−2
その少し前。
街の中心部から外れた細い道を、三人は歩いている。
さゆみは上機嫌である。欲しかった最新のノートパソコンを購入できたのだ。
れいなには、安物のサングラスで恩を着せ、まんまと荷物持ちをさせている。
「好きな食玩を一つ買ってあげるの」と誘い出した愛しの鞘師も一緒だ。
深夜の帰り道、三人はとりとめもない話をしながら歩いていた。
れいなが偽札を発見したことや、石田の唇を見る鞘師の目が妖しいことなど、
楽しいおしゃべりは尽きることが無かった。
「うわーっ、あれ、きれいやねえ。」
遠くに見える高層ビル群をれいなが指差す。
厚い雲に覆われているのか、空には月も星も見えない。
闇を背景に、摩天楼たちは自らの光でショーアップしているように美しく聳えていた。

駅から三十分も歩くと、辺りには気味が悪いほど人気が無くなった。
三人は角を曲がり、さらに寂しい通りに足を踏み入れた。
その時である。
暗闇の中から、すっと一人の少女があらわれた。
そして唐突にこう言った。
「組織に私の力を認めさせたいので、申し訳ありませんが、貴方たちを破壊します。」
この静かで丁重な挨拶が、そのまま戦闘開始の合図となった。
さゆみはその少女の雰囲気に、ちょびっとだが、拭いきれない不安を感じた。

612名無しさん募集中。。。:2012/06/27(水) 14:22:36
1−3
さゆみの不安は的中した。
数十秒後、さゆみの眼前には信じ難い光景があった。
れいなと鞘師がアスファルトに這いつくばっている。
二人の神速の攻撃は、少女にかすりもしなかった。
少女は二人の動きを完全に見切っていた。
人は誰かと戦うとき、相手に対する敵意をまとう。
少女はそのようないわゆる「殺気」を正確に感知することができた。
相手の殺気から、攻撃してくる方向・タイミングを察知してしまうのである。
そして、鍛練の賜物であろう俊敏な動きで、それらを全てかわしていく。
もちろん、れいなや鞘師にだって敵の攻撃を読むことはできる。
実戦で鍛えられた経験や洞察力は、敵の動きの分析・予測を可能にするからだ。
しかしそれは、敵の動きをある程度視認した上でのことである。
その少女は違っていた。
少女の両目は、戦いの間ずっと閉じられていた。
れいなと鞘師の二人がかりの攻撃を、殺気だけを手掛かりに、完全にかわしきる。
さらに、二人の動きの先を読み、速く重い正拳突きを急所に撃ち込んできた。
闇夜であったことが、二人には不利に、そして、その少女には有利に働いた。
そして何より少女の身体能力が、二人のそれを上回っていた。
並外れた天賦の才と、それを磨き続けた努力とが、その強さに結実していた。
また、少女には、地獄から這い上がって来たかのような凄味もあった。
少女の強烈無比な打撃を浴びた二人は思った。
勝ち目が無い、と。

613名無しさん募集中。。。:2012/06/27(水) 14:23:18
〈Two パリッと服着て 〉

2−1
さゆみは倒された二人に駆け寄り、まず比較的傷の浅い鞘師を数秒で応急処置した。
治療が終ると鞘師は立ち上がり、すぐに少女へ向かって行った。
れいなの方は重傷で、治療に数分間かかりそうだった。
そのための時間を稼ごうと、鞘師は少女を引き付けながら、二人から離れた。

さゆみは懸命にれいなを治療している。
れいなは苦痛に顔をゆがめながらも、何かを決意したようだ。
先程の弱気な口調とはうって変わって、しっかりと諭すように言った。
「さゆ。次にれいなが攻撃を仕掛けた時、鞘師を連れて逃げりぃ。
 そんでいつか…、あの子らと一緒にあいつにリベンジして…。
あの子らは、絶対にれいなたちより強くなるけん…。」
れいなの言葉に、さゆみは何も答えられなかった。
ただ、目頭の透明な水塊がみるみる大きくなり、零れ落ちそうになっていた。

鞘師は、少女の前に立っていた。
目の前の敵を睨みつけながら、自分が着ている洋服の襟に触れた。
その服は、上京したばかりの頃、着替えが無かった鞘師にれいながくれたもの。
鞘師がそれまで着ていた服は、家の人が選んでくれた、子供っぽいものばかりだった。
少しヤンキーっぽくても、れいなのお下がりの服は、パリッとお洒落なものに感じた。
鞘師はその時の喜びを思い出し、心の中でれいなに誓った。
「田中さん…、田中さんが来るまで絶対に持ちこたえます。
田中さんのように、私は…、どんな場面でも…、逃げない!」

614名無しさん募集中。。。:2012/06/27(水) 14:24:07
2−2
「うわああっ!」
乱暴な子供に放り投げられた縫いぐるみのように、鞘師が二人の方に飛ばされてきた。
そして、道路脇の自動販売機に背中をぶつけ、座ったような姿勢になって、止まった。
鞘師が小さな顔を上げて二人に謝る。
「すみません…。時間…、あまり稼げませんでした…。」
目の光は死んでいなかったが、四肢はもう動かない。
そこへ、鞘師に止めを刺そうと少女が矢のような速さで走って来た。
「りほりほっ!」
さゆみがれいなの治療を中断し、鞘師の方へ無意識に駆け出す。
「うっ!」「きゃあっ!」
二人は鞘師の目の前で激突した。
鞘師を案ずる余り無心で飛び出してきたさゆみに、少女は全く気付いていなかった。
結果、さゆみが少女へ体当たりをくらわせた格好となった。
それは、その夜その少女に初めて当たった攻撃だった。
少女はもんどりうって転倒する。さゆみも大きく弾き飛ばされた。
その光景を、鞘師は見ていた。
節電中とはいえ、後ろの自動販売機の光は、視界をほんのり明るくしてくれていた。
鞘師は途切れそうな意識を必死に保ち、冷静に目の前で起こったことを分析した。
そして、一筋の光明を見出した。

615名無しさん募集中。。。:2012/06/27(水) 14:28:02
2−3
「さゆっ!」れいなが足を引きずりながら、さゆみのもとへ向かう。
そして、さゆみの横にひざまずき、上体を抱き起こす。
少女は立ち上がりつつそれを見ていた。そして、標的を鞘師かられいなに変えた。
れいなは少女を睨みつける。滅多にかかない汗が頬を伝っているのを感じた。
少女は目を閉じ、必殺の一撃を放つべくれいなのまとう殺気を捉える。
(ちくしょー……、二人を守れんかった…。) 
(やっぱりさゆみにはリーダーなんて無理だったのかな…。)
れいなとさゆみは同時に思った。
((みんな、ごめん…))
その時、鞘師が叫んだ。
「待てえ!自分の力を証明したいんなら、最強の能力者を倒せばええじゃろう!」
少女が目を開ける。
「…最強?」
「そうじゃ…。その人は、高橋さんも新垣さんも、田中さんもいっぺんに倒した!」
少女は鞘師の方へすっと顔を向けた。
「…リゾナンターを壊滅寸前まで追い詰めた能力者がいたと聞いたことがありますが…
 しかし、その能力者はもうこの世にいないのでは?」
「いや…、まだ生きておる…、あの人の『中』に…。」
鞘師は、れいなの腕の中の「あの人」に目を向けた。
れいなとさゆみは思った。
(まさかさえみさんのことをいっとると!?さえみさんはもうおらんとよ!)
(お姉ちゃんは…、お姉ちゃんはあの日…、えりが…。)
二人はただ鞘師を見つめるしかなかった。

616名無しさん募集中。。。:2012/06/27(水) 14:28:38
〈Three もちょっと我慢ね 〉

3−1
二人の思いを知ってか知らずか、鞘師は続ける。
「その人が目覚めたら、誰にも止められん…。おそらくダークネスにも…」
「……いいでしょう。
最強の能力者を破壊できたら、組織からの評価も上がるはず。
 その人をすぐに目覚めさせて下さい。」
「それにはあんたにも協力してもらわんといけん。」
そう言うと鞘師は、少女の方を向いてから、自分の背後の方へ視線を移す。
そこには一台の自動販売機…。
「…鞘師!?」
鞘師の狙いに気付いたれいなの顔が一瞬にして蒼白となる。
「田中さん…、これから大変なことになりますが、ちょっと我慢して下さい…。」
「が、我慢って…。」
れいなはそれ以上声が出なかった。
一方、さゆみにはまだ鞘師の狙いが掴めていない。
そんなさゆみを複雑な思いで見つめながら、鞘師はれいなに告げた。
「目覚めさせましょう…。あの……、悪魔を……。」

617名無しさん募集中。。。:2012/06/27(水) 14:29:11
3−2
鞘師の提案を受け入れた少女は、震えるれいなの腕の中からさゆみを引き離した。
そして鞘師の指示通りに、さゆみにあるものを飲ませた。
すなわち、少女は、自らの手で「最強の能力者」を目覚めさせてしまったのだ。
それが少女(たち)にとって惨劇の幕開けとなった。

勝負は、実にあっけなくついた。
ゆらりと立ち上がったさゆみと対峙した少女は、愕然とした。
「動きが全く読めない…。」
目覚めた悪魔に殺気は無かった。あるのは、純粋な「欲望」のみ。
「好きだな、ロリが!」「触りたーい!」「ムシャムシャしたい!」
そのような異常な欲望を感知する術は、武道の修行では習得できなかった。
少女は何の防御もできず、懐に入られ、抱きしめられ、弄ばれた。
不幸にも、着ていた黄色いTシャツや、程よく筋肉質な肢体が欲望に拍車をかけた。
それらは(鞘師の読み通り、)さゆみの脳裏に、ある人物の体を思い出させていた。
最高潮に萌え盛ったピンク色の欲望の炎が、少女の全てを舐め尽くす。
幼時から武道に全てを捧げてきた少女にとって、その愛撫は致死量の劇薬だった。
少女の精神は、初めて体験した屈辱と恍惚によって完全に崩壊してしまった。
悪魔は二本の指を立てた両手の甲を、自分の額の両端につける。
「イエエェッス!!うぅさちゃあーんっ!ぴいいーーーーーーーーーーーっす!!」
こみ上げてきた何かを噴出するような咆哮が、夜空に響き渡った。
悪魔の両目からはピンクの光線が放たれている。
その光線が、サーチライトのように、ゆっくりと次の哀れな獲物をとらえた。
「ひいいっ!さゆが…、さゆが、こっち向きようっ!」
れいなは再び絶望した。

618名無しさん募集中。。。:2012/06/27(水) 14:30:10
3−3
それからしばらく後。
三人の身を案じた譜久村たちがようやく駆けつけた。
七人はまず仰向けに倒れている一人の少女を見つけた。
黄色いTシャツは少しはだけ、スカートも若干ズレ下がっている。
焦点の合わない視線は、いつの間にか雲が消えて月が輝く夜空に向けられている。
口の周りには大量の唾液がついており、なぜかそれは甘いアルコールの匂いがした。
少女には、それを拭い取る体力も気力も残っていないようだった。

「たなさたーん!」
佐藤が突然走り出す。その先にれいなが倒れていた。
特に怪我はなさそうだが意識はなく、少女と同様に服装が乱れていた。
工藤がれいなにすがりつき、わんわんと低い声で泣き出す。
一方佐藤は、お薬のつもりなのか、不味そうな白い飴玉をれいなの口に次々詰め込む。
譜久村たちがさらに辺りを見回すと、何者かに破壊された自動販売機があった。
そして、そのすぐ近くに、気を失っている鞘師が見つかった。
手足はパソコンのコードのようなもので縛られている。服装の乱れはれいな以上だ。
しかし、その表情はどこか満足げにも見える。
腕は折り曲げられていて、胸の前にある両手が服の襟を握りしめていた。
「怪我は無いようです。…それにしても鞘師さん、萌えですねぇ!ハウーーンッ!」
縛られている姿を見て興奮したのか、飯窪が奇妙なポーズをとりながら高音で叫んだ。
一方石田は、自動販売機からこぼれ落ちた硬貨の山を、嬉しそうに凝視している。
「ねえ!今日すごく調子がいいー!上手くなーい?ねえ!何でみんな無視するとー?」
生田はそう言いながら、なぜか狂ったようにハンドスプリングを続けている。
その生田の足に当たり、缶チューハイの空き缶が音を立てて側溝に転がっていった。

619名無しさん募集中。。。:2012/06/27(水) 14:30:47
〈Endingでーす!〉

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――!」
突然、嬌声とも嗚咽ともつかない声が響いた。
鈴木は、その声が発せられた方向を見た。
「聖ちゃあん!道重さん、見つかったの?」
譜久村は哭きながら、倒れている女性の脇腹辺りに頭を押し付けている。
譜久村が何をしたいのか、鈴木には全く分からない。
近付いて見てみると、その女性はやはり道重さゆみだった。
少しお酒の香りを漂わせ、満ち足りた表情でスヤスヤ眠っている。
鈴木は、三人が見つかったことにとりあえず安堵した。
と同時に、仲間達が繰り広げる異様な光景を前にして、改めて不安になった。
(こんなに自由なメンバーばっかりで、これから大丈夫なのかなあ…。)
そう考えながらさゆみの寝顔を見ていると、その唇がかすかに動き出した。
何やら寝言を言っている。ただしその声は、常人には聞こえないほど小さい。
しかし、鈴木は、確かにその言葉を聞き取った。
それは、新垣がリゾナンターを去る時に残していった、あの言葉だった。
鈴木は何だか嬉しくなり、新米リーダーに向かってこうつぶやいた。
「道重さん、私もです。みんなもきっとそうだと思います。
みんながそう思っていれば、どんなことがあっても絶対に乗り越えられますよね!」
ふと顔をあげると、東の空がかすかに明るさを帯びていた。

―おしまい―
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

620名無しさん募集中。。。:2012/06/27(水) 14:34:52
以上、『「リゾナンター。大好き」』でした。
初投稿です。
皆さんの力作・大作と違い、内容が浅くてお恥ずかしいのですが、
「どんな場面でも逃げない」ということで勇気を出して投稿しました。
ちなみに「少女」のモデルは、(仮)の破壊王です。

===========================
>>610からここまでです。
 お好きなところで分割していただいても構いません。
 お手数おかけしますがよろしくお願いします。

621名無しリゾナント:2012/06/27(水) 19:03:22
>>620
代理しときました
ピンクの悪魔こわいw

622名無しさん募集中。。。:2012/06/27(水) 21:24:11
>>610-620を投稿した者です
621さん、早速の代理投稿ありがとうございました
感想のレスを読めてすごく嬉しいです!
書いてる時も楽しかったし、
改めて「リゾナンター。大好き!」と思いました

623名無しさん募集中。。。:2012/06/29(金) 03:56:40
>>576-579 の続き。

先ほど鞘師が真っ二つにした彼女は、あのいじめっ子のリーダー格だった。
だが雰囲気がまるで違う。
耳障りな鼻歌が頭にこびりついているが、まるで中身が別物の人形のようで。
"色"がまるでない。
しかも上から有り得ない青空の光が降り注いでいるというのに、彼女の周り
は何ものも一切寄せ付けないほど闇に満ちている。
コールタールのようにベットリと、まるで、血液を全て流し落としてしまったように。
 
 【グゲエエエエアアアァアアアァ!!】

鼻歌が止み、身体を曲げた状態で奇声を発する彼女に【闇】が映る、鬱る。
歪が大きくなっていた。
そして身体がまるで喰われるように呑み込まれる。
真っ二つになったはずの少女の口からは、下品で不気味な笑い声を上げていた。

げらげらげらげらげらげらげらげら。
ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ。
げらげらげらげらげらげらげらげら。

呼応するように真っ二つにされた身体が分離して三つへ。
首の根元から別々の顔が浮き出てくるように生えてきたのだ。

 「うぇっ…」

最早見られるものじゃなかった。
言葉にするのもおぞましい物体が、今鈴木の目の前に在る。
確認できても三人分の身体。
まるでつぎはぎだらけの大樹のよう。

624名無しさん募集中。。。:2012/06/29(金) 03:57:47
ミシミシと音を立て軋みながら、水蒸気の様な煙を吐いている。
何処かの恐怖映画でもこんな過激な演出をするだろうか。
うねうねと動く幹のような腕が不気味さを増す。

 「かのんちゃん、あれが人間の悪意が【闇】に呑まれた姿じゃ。
 そうして"狂鳴"した者を【ダークネス】って呼ばれてる」

悪。悪とはなんだ?悪というのはあんなにも醜くて、悲しいモノなのか。

 「かのんちゃんはあまり直視しない方がいい。逆に呑まれる」

"色"の中で黒は恐怖の他にも不安や、悲哀を思い付かされる。
鈴木は異様な寂しさにかられ、頭をかかえて叫ぶ。

 「分かんないよ、意味分かんないってりほちゃん。
 私バカだからさ、頭悪いから、これが現実なのか、夢なのか…」
 「…現実だよ」
 「あれが現実だっていうの?いじめられてた子が可哀想だって思ってた。
 でもやっぱりなんか…ダメだよ、こんなのおかしいって」
 「いじめてた事実は変わらないよ。そうして生まれた悪意をあれは
 狙って襲って、自分の力に変えるんだ。狙われたら私達にはどうすることも出来ない」
 「どうしてそんな風に思えるのさ」

"あれ"を目の前にして、動揺すら見せず、逆に恨んでるように。

 「…ずっと、戦ってきたから」

625名無しさん募集中。。。:2012/06/29(金) 03:58:21
鞘師は持っていた刃で襲いかかってきた木の根のような触手を一閃。
背中のベルトに収まっていた鞘から刃を抜き取り、斬り落とす。
次々と斬り落とす、斬って、斬って、斬って、斬る。何本もの刃を突き立てる。
大樹が後ずさりする度にフェンスがひしゃげていく。

 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ。

大樹が啼いた。泣いた。泣いている、彼女達が、泣いている。
誰か、ねぇねぇ誰か。
鞘師の刃が、最後の一撃を喰らわせようと振り下ろされた。

 「「イヤアアアアァァアア!!」」

鈴木がまるで大樹と同調するように絶叫した。
鞘師の光と波動が辺り一帯を呑み込み、弾ける。
それと同時に、崩れていく大樹のバケモノが爆発し、フェンスごと弾け飛んだ。
体内から飛び出したのは小さな球体が三つ。

 「ごめんね、かのんちゃん。巻きこんだりして」
 
それを手のひらに乗せる鞘師は、冷たい表情をしている。
まるでそれになんの感情も抱いていないように。

鈴木に対して謝ったときだけ、鞘師は泣きそうな表情を浮かべた。
それを最後に、意識は途絶えた。

626名無しさん募集中。。。:2012/06/29(金) 03:58:53
 ―― 夢を、見る。

それは過去なのか、未来なのか、今なのか。
曖昧で、不明瞭で、でも事実のような、不思議な感覚。
ただ、自分の記憶にないことだけは確かで。
酷く、現実味を帯びない。
だからこれは、夢だ。微かに聞こえる誰かの声に、耳を傾ける。

627名無しさん募集中。。。:2012/06/29(金) 04:07:43
以上です。
話の流れでまた再登場してもらったんですが、酷い扱いに…。
新しい作者さんの作品 >>604 もレベルが高くて
とても楽しませてもらいました。

ガス会社とか酷く懐かしい…w
--------------------------------ここまで。

なかなか話が進まない…。
いつでも構わないので、よろしくお願いします(平伏

628名無しさん募集中。。。:2012/06/29(金) 10:56:47
規制に巻き込まれたみたいです。
申し訳ないのですが代理投稿よろしくお願いしますm(_ _)m


629名無しさん募集中。。。:2012/06/29(金) 10:58:08
次回予告
                      -街は歌っている-
ttp://resonant.web.fc2.com/data/toro18254.jpg
                  子猫が街を歩く 夜の街を歩く
街の木漏れ日 ネオンのスポットライトを浴びれば どんな小さな子猫だって 今夜の主役になれる
   耳に流れ込む音はとても複雑で どんなに有名な音楽家でも真似をする事は出来ない
      クラクション 人の声 ドアの閉まる音 信号 そして自分の足音が混ざり合い
      1つの曲を奏で街を走り 私の耳と言うトンネルから私の真ん中を通過する
  トンネル 私はトンネルを歩く 昔 下を向いて 生きてく意味無いと 歩いた都会のトンネル
ttp://resonant.web.fc2.com/data/toro17099.jpg
      私はいつまでも 恋愛が下手 付き合いが下手 上手に甘えたりも 出来ない
                 ・・・生きるのが 上手くない・・・
     だから たまに小さな子猫は街に飛び出して こうして街と共に歌うんだ

                 そして子猫の足はすみかへと

                  -その曲に歌詞は無いの?-
ttp://resonant.web.fc2.com/data/toro18255.jpg
       「知りたいと?もう少しで聞けるったい!最高の歌詞っちゃよ!」
                 -本当に?そんなに最高なの?-
       「本当 いっつもあの人が とびきりの歌詞を付けてくれよる ほら」


次回かなしみ戦隊リゾナンターV「SONGS」

ttp://resonant.web.fc2.com/data/toro18249.jpg
                     【 お か え り 】
ttp://resonant.web.fc2.com/data/toro18254.jpg
               今日も 子猫が街を歩く 夜の街と歌う

630名無しリゾナント:2012/06/29(金) 19:17:09
ちょっと時間の余裕がないので順番はぎゃくになりましたがかなしみさんの予告編を先にだいこうさせてもらいました
>>627さんの9期話は後ほど落ち着いてからさせていただきます

631名無し募集中。。。:2012/06/29(金) 21:12:55
ありがとうございましたm(__)m助かりました感謝

632名無し募集中。。。:2012/06/30(土) 00:48:13
>>627です。
全然構いませんよ、自分のはちょっと長いですし、すぐに
代理投下できる作品を優先してあげてください。
自分のも早く規制が無くなれば話が早いんですが…いつもすみません(平伏

633名無し募集中。。。:2012/06/30(土) 03:21:28
>>632 さん
すいません割り込んでしまってm(__)m
自分もここに暫くお世話になりそうです、早く解除されないかな。

634名無しリゾナント:2012/06/30(土) 06:27:59
代理しときましたよん

635名無し募集中。。。:2012/06/30(土) 16:29:19
>>632 さん
いえいえ、かなしみさんの作品も楽しみにしてます。

>>634
代理ありがとうございました。
戦闘描写はだいぶやっつけだったりするので
褒められると舞い上がります。

636名無し募集中。。。:2012/07/01(日) 03:11:27
>>>>659-662 の続き。

 「あなた、クラスで苛められるタイプでしょ」

言われた少女は固まったまま、何も言わない。
言った少女は何も思わないように、ただ言った。
薄紫色の彼女と、赤色の彼女。

だが大人びたように見せても、異なった環境で育ったとしても
何かを落としてしまったように子供の面影を見せる。

二人を繋ぎ合せたものと出会わせたものは、"独り"、だった。

 「何で、休業しはるんですか?好きでやらはってるんですよね、お仕事」

赤色の彼女は世間でいう"アイドル"だ。
モデル業などもこなし、メディアでも在る程度の名前も知られているにも関わらず
休業をすると言いだした彼女に、紫色の彼女は問い詰める。

 「ダークネスと戦う皆と一緒に戦えるのは、今しかないから」

"アイドル"としての自分を捨てて、対立するある組織との戦いを優先する。
まるで夢物語のような現実に、身を置くことを告げた彼女。
それは強がりであり、意志であり、自分に欠けていた信念とも捉えれる。

そうして自分を確立していく彼女に、紫色の彼女の表情は優れない。
この頃から能力の副作用で、彼女の視力が徐々に低下していた。

 「何でなんですか。何で小春がリゾナンターを辞めなければいけないんですか」

637名無し募集中。。。:2012/07/01(日) 03:12:41
赤色の彼女はそのことを仲間に指摘され、半ば喧嘩別れのように店を飛び出す。
紫色の彼女の頬が朱色に染まっている。
悲しそうな表情に、思わず胸が痛んだ。
こうして見ると、薄紫色の彼女はあまりにも優し過ぎる上に、気を遣い過ぎる。

どうして自分の本音を言わないのか疑問になるほど。
どうして相手のことをそこまで思えるのか。

 「私の目が光を失うのも、愛佳を失うのも私にとっては同じことなんだよ。
 だったら、私はこの目が見えなくなる方を選…」

平手を受ける赤色の彼女。
自分なんかのために大事な視力を無駄にさせるのが情けなかったのもある。
そしてそんな自分なんかのために大事な視力を無駄にさせる彼女が
許せなかった。

 「そんなことをして守ってもらったって私は嬉しくない」

初めて本音を叫んだ彼女。
彼女に対して、初めて言葉をぶつけた瞬間だった。
というよりは、本当は前からずっと思っていた事で、それを口に
する事で、これからの関係性に響くのが怖かったのもある。

自分はもっとわがままなのだ、もっと話しをしてみたかったし、もっと
自分の言いたいことを叫んでもみたかった。
だからあの時に叫んだら、意外とそれで良いんだと思えたのだ。

 そうして赤色の彼女と、紫色の彼女の心は重なった。
 そういった意味では、その時に初めて、彼女達は心を通わせるようになった。

638名無し募集中。。。:2012/07/01(日) 03:14:15
そして、光景が変わる。
タイヤやガラスの破片、車体の部品。
それらが反対車線にまで広がっている。

死者が、出ていた。
四方から、火の手と悲鳴が上がっている。
街中を走行していた大型バスが、原因不明の爆発を起こした。
焼けこげたニオイ。
おびただしい悲壮、炎の色、血の色、黒く染まる空。
そして今、灯が一つ、消えようとしている。

 「なんでや、なんで…!?」

『刀』が散らばる其処で、紫色の彼女が絶叫した。

人間の悪意と【闇】が融合することで生まれる【ダークネス】
姿は様々な記憶に形容して変化し、暴走する。
【闇】がどういった概念の存在なのかは判らない。
どうして人間に立ちはだかるのかも。

人間にとって闇は敵で、本能的にも拒絶する存在。
闇によって絶望が生まれるのなら、誰かがやらなければならない。
だから彼女達は闘ってきた。
そうして戦う彼女達をある者はこう呼んだ―― 共鳴者と。
なのに。

 「どうしてですか!―― 新垣さん!」

639名無し募集中。。。:2012/07/01(日) 03:15:51
紫色の彼女が対峙するのは、黒いフードとマント姿の女性だった。
その背後には【闇】と、それによって生まれた【ダークネス】が数体。
女性は円形の何かを操作する。

 「悪いけど、話してる時間はないよ、だから手っ取り早い方法をとったんだから」
 「そんな…そんな事のために他の人を巻き込んだっていうんですか?」
 「小春は手間がかかるからね、何か手立てはある?光井」
 「…ッ」
 「必要なのはあんた達の"共鳴"のチカラだけ」
 
  そして私が、世界を終わらせるんだよ。

それが、【闇】の意志だった。
理解不能?否、理解など通り越して、それは起こりつつある。
今更理解すること自体が間違っているとでも言うように。
ただ、終わらせるだけ。
今自分達がいる世界を終わらせるだけ。
簡単だと、新垣里沙は、【闇】は言った。

 次の瞬間には、【闇】が迫っている。
 成す術は無い、何も出来ない。
 だが背後から黄金の光が追い抜き、何かを告げるように弾けた。

――― 誰かの夢はそこまで。

640名無し募集中。。。:2012/07/01(日) 03:16:38
鈴木香音が目が覚めると、そこは自分の部屋で、ベッドの中で、独りだった。
生まれも死にもしない。
平和の形骸のように切り取られた箱の中。
外には終わる世界で、久遠にたゆたう影。
灰になったモノは全てを失くして、還る。

鈴木の吐く息は何処にも行かず、ただ漂う。
あの学校潜入から3日目の朝を迎えたのを知るのは後の事。

 鈴木は制服を着込み、母親の言葉を振り切って家を飛び出した。
 
学校の廊下で同級たちと会ったが、南棟へと走っていく。
ハアハアハア。息が上がる。
心臓が痛い、階段を二段飛びで上がり、屋上に向かう階段には
『立ち入り禁止』のプレートと障害物。
それすらも跨ごうとして、スカートが引っ掛かってバランスを崩しそうになった。
鍵のかかっているはずのドアはスルリと開く。

給水塔を見上げた瞬間、鈴木は落ちていた空き缶を思いっきり振りあげ、投げた。
寝ていた朱色の彼女は反射的にスルリと避けたが、給水塔の柱にガツンと頭をぶつける。

  「痛いよかのんちゃん」

頭を手で撫でる鞘師は、薄い笑みを浮かべていた。

641名無し募集中。。。:2012/07/01(日) 03:22:35
以上です。
知らない現実は誰かにとっては夢のように不透明。
厨二病バンザーイ。

---------------------ここまで。
また少し長くなりました…。
いつでも構わないのでよろしくお願いします。

642名無しリゾナント:2012/07/01(日) 08:14:19
拝読させていただきまして候
忍法帖のレベルをチェックして投下できるようならば早急に行ってまいります

643名無しリゾナント:2012/07/01(日) 08:23:16
完了
少し心が痛くなるような展開というか
でも心惹かれますね闇の使徒的なガキさんは
完結されることを心待ちにしています

644名無しリゾナント:2012/07/01(日) 12:51:46


エル、襲来

645名無しさん募集中。。。:2012/07/02(月) 07:03:30
かなしみです規制解除されたみたいです
代理ナンターさん先日はありがとうございましたm(__)m

646名無し募集中。。。:2012/07/03(火) 03:08:14
>>690-694 の続き。

その昔、闇と光があった。

闇は光を嫌い、光もまた、闇を嫌っていた。
闇がいつも悪い事をしていたので、光はとても困っていた。
人々が悲しんでいることに心を痛んでいた。

その時、光はある事を思い付く。
闇を打ち払う為の光を増やせばいいのだと。

だけど闇もまた、光と同じことを考え、それを増やす方法を思い付く。
光が考えたのは、人間のチカラを借りるというもの。

 それによって、≪共鳴者≫と呼ばれる人達が生まれた。
 それによって、【ダークネス】と呼ばれる怪物が生まれた。

≪共鳴者≫は光から与えられたチカラによって戦いを始めた。
【ダークネス】もまた、闇から与えられたチカラによって襲いかかる。

 光は≪ココロ≫を使って。
 闇もまた【ココロ】を使って。

それからずっと、闇と光は戦い続けている。

 
学園は静かな日々を送っている。
まるで自分の周りで"事件"が起こっていないように、平穏で、平和な日常。
誰もが知らずに、気付かずに、生きている。
気付いているのはきっと、彼女達だけ。

647名無し募集中。。。:2012/07/03(火) 03:09:40
 「――― ……だから、この公式に当てはめると、イコールで、ガッと
 答えがくるワケなー。判ったかー?っておーい、譜久村聞いてた?」

名前を呼ばれた。
誰かの名前。
はっ、と顔を上げる。
それが自分の名前だと気付くまでに数秒もかかってしまった。
まるで遠い誰かに声をかけられたみたいだった。

 「えっと、あっと、その……っ、…す、すみません。聞いてませんでした」

譜久村聖は、申し訳なさそうに俯いた。微かに笑いが上がる。
教壇に立つ若い数学の教師は、やれやれといった風に大袈裟に溜息を
ついて見せる。

 「まあ、判るけどさあ。おまえも…てか、みんな、だな。
 この学校に入学してもうけっこー経ったよな。小学校とぜんぜん違うから
 最初のうちは緊張してだろうさ。
 んでも今の時期、学校にもすっかり慣れて、外は相変わらず
 晴れてて、おまけに昼飯を食ってお腹も満たされて。
 かったるい授業なんか、受けてられないっつう気持ちも判るさ。
 そりゃ、私も今は先生やってるけど、きみらくらいのときがあったワケで
 ……あ、ごめん。何をいおうと思ってたかってゆうとーあー…判んなくなった」

たくましさのある女性教師が話をはじめた直後、譜久村の態度に怒っているのかと教室中が
緊張感に包みこまれたが、その軽い調子に、緊張が一気に解けて、ドッと笑いが起こる。
ただ譜久村だけが笑っていいのか、まずいのか考えあぐねているらしく
表情を少し強張らせていた。

 「まあ、力を抜き過ぎず、入れ過ぎずって感じで、肩に力が入り過ぎてると
 うまくいかないこともあるからさ。そうだな、まずは、楽しもう」

648名無し募集中。。。:2012/07/03(火) 03:12:15
穏やかに言葉を落とす。
生徒達の顔に一瞬「?」が浮かび上がり、その科白を呟く。

 「楽しもう」

めまぐるしく過ぎて行く日々。
今でも、楽しいと思える授業もある。
でも、中学生になってからは、みんな急に背伸びをはじめ、授業を純粋に
楽しむのがいけないように感じることがあった。
覚えることがたくさん。やらなきゃいけないこともたくさん。
やりたいこともあるけど、やらなきゃならないことの方が多かった。

生徒達、そして、譜久村の中で、ほんの少しの変化。
明日には忘れてしまう気持ちかもしれない。
でも、楽しめばいいんだと、思った。
なんだか判らない切迫感に心を裂かれるよりも、この日々がなんだか判らないのなら
なんだか判らないなりに、それなりに楽しめばいい。
楽しんでいけばいい。
急がなくても、いいんだ。

そう思って、譜久村はさっきまでぼんやりと眺めていた窓の外ののどかな風景から
再び黒板に敷き詰められた文字を目で追った。

これは譜久村聖が2年になったばかりの頃の記憶。
瞬きをした。

649名無し募集中。。。:2012/07/03(火) 03:12:52
「女の子が、助けてくれたんだ」
 「女の子?」
 「私、どうすればいいのか判らなかったの。支えられなければ動かない足
 なんていらないって思ってた。でも、違ったの。私は、いつでも支えられてた。
 一人で立ってるって思ってた、独りで走ってるって思ってた。
 でも違った、私は、間違ってた、ずっと、ずっと間違い続けて、手遅れに
 なるかもって時に、その時に、あの子が助けてくれたの。
 やり直すチャンスをくれたの。もうダメかもしれないけど、頑張れるかもって。
 ねえ聖、私、まだ言ってないことがあるの、その子に―――」

ベットに横たわる彼女は弱弱しく泣いていたが、それは後悔や絶望でも
ない、ただ力を抜いて、安心したように。
気付けば譜久村は、屋上のドアを回していた。今は昼休み。今が現在。
微かに聞こえる話に耳を傾ける。

 「"きょーめいしゃ"?」
 「ほとんど敵にしか言われないけどね」

鞘師はどこから取り出したのか、チョークでコンクリートに文字を書く。
「共鳴者」と書いた後に、変なキャラクターが付け加えられている。

 「はあ、そうなんですか」
 「なんか冷静になってる?」
 「いや、驚いてほしいなら驚くよ、リアクション込みで」
 「いいよ別に」

空に近い場所に、二人は居る。
誰かが来るような気配はない、鈴木の姿を見ているのは何人も
居る筈なのに、それを追ってきた人間は一人も居なかった。

650名無し募集中。。。:2012/07/03(火) 03:24:06
以上です。
今回の新曲の特設サイトが出来たらしいですね。
プロフィールムービーはかなりアリガタイ。
http://www.youtube.com/watch?v=UkliS4_2xWQ

>>714
ロリコン言うな(ローキック×9)

-------------------------------ここまで。
少し作品が多く投下されてるようなので、少し間を
置いてもらえると助かります。
いつでも構わないので、よろしくお願いします。

651名無しリゾナント:2012/07/04(水) 00:36:34
作品がたくさん上がってるので途切れたときで構いません。
よろしくおねがいします。
出会い方とか能力とかいろいろあっていいです、よね?と
ちょっと弱気になりつつ投下w

652名無しリゾナント:2012/07/04(水) 00:38:58

れいなと香音が同じタイミングで耳を塞いだその時、愛佳が両手で目を覆った。
れいなの手から包丁が滑り、指の薄い皮膚を撫でながら床に落ちる。
白い指先から真っ赤な血が溢れ出すその刹那、絵里の指先からも鮮血が生まれ
それが流れ落ちるより早くさゆみが能力を開放した。

キィィィィ、と耳元で電車が猛スピードでカーブに差し掛かる。
鉄が強い力で擦れ、火花が散る。
轟音を響かせながら、車両が何台も途切れることなく通過していく。
 
香音が耳を手で塞いだまま顔を歪め、目をきつく瞑り天井を仰いだ。
あまりの音にれいなは蹲り、歯を食いしばった。声にならない声が漏れる。

愛佳の脳裏に映し出されるいくつもの映像。
重なり、混じり、走馬灯のように流れていく。
そのスピードに追いつけず愛佳は突っ伏し幾度となくカウンターに頭を打ち付けた。

653名無しリゾナント:2012/07/04(水) 00:47:05

「生田!!!!」

そう叫んだのは愛だったか、里沙だったか。
リゾナントが紫色の光で覆われた時、3人は同時に意識を失い見えない何かから開放される。

「ダレ!?」

拳を握り立ち上がるジュンジュンとリンリン。それにつられ里保も腰をあげ鞘を握る。
意識を失った所為でバランスを無くし椅子ごと倒れそうになった香音の身体を聖が支えた。 
 
「小春、光井の映像映せる?あたし光井の中に入っていくから。」

里沙の言葉に小春が頷き、カウンターに突っ伏したままの愛佳に触れる。
愛は全神経を愛佳の、里沙の意識に集中させた。
 
紫色の中にピンクが生まれ、そしてその中にオレンジが混じる。
絵里は能力を開放しさゆみと衣梨奈の力を風に乗せた。

「きたっ」

小春が叫ぶ。
愛佳の見た映像が小春の能力によって目に見えるものとして映し出される。

654名無しリゾナント:2012/07/04(水) 00:48:06


 重なり、混じり、ものすごいスピードで流れる映像。


 大声で泣き叫ぶ少女。振り上げられる拳、噛み付く。血飛沫
 暗い大きな部屋。蔑む視線。砂埃、細い足、抉れた膝。
 強いフラッシュ。靡く長い髪。笑顔。ニコリ。吊り上げられた目。罵倒。
 充血した瞳。鋭い眼光。歪む世界。空が…落ちる。闇、闇、闇。


 誰か、ねぇねぇ。誰か―――…


 
 新しい未来が動き出す。それは、光か。それとも闇か。

655名無しリゾナント:2012/07/04(水) 00:52:50
>>652-654 いいタイトルが浮かばないのでタイトルなしで。以上です
続きは妄想してますが設定が自分勝手すぎるので葛藤中ですw
リゾナントに13人集まったらきっと満員でしょうね。


―――
代理投稿お願いいたします。

656名無しリゾナント:2012/07/04(水) 12:32:44
スレも終わりに近づきつつあるのでいっときますか
ひとまず先に>>650さんの方から

657名無しリゾナント:2012/07/04(水) 12:39:16
とりあえず完了
>>651さんのに関してはまた間隔を空けた方が良いのかな

658名無し募集中。。。:2012/07/05(木) 12:09:20
>>650です。
代理投稿ありがとうございました。
夏になったからなのか投下の量が増えてきましたね。

659名無しリゾナント:2012/07/05(木) 12:56:49
>>655
とりあえず完了しました

660名無し募集中。。。:2012/07/06(金) 01:04:28
>>795-798 の続き。

昨日のように蘇るあの出来事があったはずの屋上は、何事もなかったように
形を保っていて、維持していて、鳥がフェンスの上で立っている。
ただ夢ではないことだけが、鈴木の記憶に残っていた。

鈴木は両手をあげようとした形で鞘師に止められ、ゆっくりと腕を下げる。
手にあったサイダーの中身がポチャン、と揺れた。
いつものように晴れた青空の色を水で薄めたような其れ。

 「≪共鳴者≫はね、【ダークネス】を倒すヒトのことだよ。
 かのんちゃんが見たのがそれ、私は、それを追ってここに来たんだ」
 「…なんでここなの?」
 「別にここじゃなくても良かったと思う。簡単に"悪意"を生産して、なおかつ
 まとめて効率的に集めれる場所としては良いってだけ」
 「ニワトリって感じか」
 「うまいね」
 「別に笑わせるために言ったんじゃないよっ。…その制服の学校も?」
 「…そうだね」

地雷踏んだ?
鈴木は暗い影を落とす鞘師に何も言えなくなってしまい、サイダーを傾ける。
何かと事情はあるんだろうと思ったが、話がリアルを通り越してしまったらしい。
疲労度満載でここに来たことが馬鹿みたいに感じる。
きょーめいしゃだとかだーくねすとか、今まで聞いたことのない単語は
新しく学ぶ英文よりも理解に悩む。

 「あのさ、なんであたしには"アレ"が見えるの?」

661名無し募集中。。。:2012/07/06(金) 01:05:48
鈴木は自分の目を人差し指で示す。
あの時、鞘師は自分のチカラを知って学校のあの場所に連れ出し、そして感じた。
どうして自分には、あの【闇】が"みえた"のか。

 「多分、光に触れたからだと思う」
 「ヒカリ?」
 「かのんちゃんのチカラは"音"から"色"を探ることが出来る。
 それに光が加わったことで、【闇】を感じれるようになったんじゃないかな」
 「…へえ」 

つまり見えなかったものが見えるようになったという事なのか。
ヒカリとかヤミとか、それにしては少し難しい言葉で彼女は説明をする。
鞘師は本当に宇宙人かなにかかもしれないと思った。
鈴木の表情に気付いたのか、鞘師は口を線に引き、視線を伏せる。

 「これが光の正体」

不意に取り出されたのは、見覚えのある小さな箱。
「あ」と漏らす鈴木に、布で包まれたソレが姿を現した。
微かにアメジストのヒカリを帯びた、ガラスレンズ。

 「これ、かのんちゃんに預けるね」
 「え、なんで?」
 「おまじないだよ。あとお礼。それがあればかのんちゃんのチカラも
 もっと扱えるようになるかもしれないから」

差し出される箱を鈴木は恐る恐る持ちあげる。
輝きを見ていると、何故だか安心した。ホゥ、と息を吐く。

662名無し募集中。。。:2012/07/06(金) 01:08:15
 「りほちゃんは、なんでこんな事に巻き込まれてるの?
 そのきょーめいしゃってヤツだから?」
 「かのんちゃんは神様を信じてる?」

鞘師から意外な存在の名前を出されたが、鈴木は素直に頷いた。

 「神様がヒトの願いを叶えるなら、神様の願いを叶えるのは誰だと思う?」
 「誰って言われても、神様は万能だよ」
 「じゃあなんで救われない人がいるか分かる?」
 「それは…」
 「つまりそういう事だよ。私がこうなろうって思ったのは。
 神様ができない事をしようってね」
 「神様…ねえ」

神様はいるのかと問われれば、居ると鈴木は思う。
だって願いを叶えて欲しいとお願いするのは『神様』だから。
だから思いもつかなかった。

『神様』の願いを叶えるのは誰かなんて。
鞘師が浮かべる『神様』は、一体どんな姿をしているのだろう。

 不思議な気分だった。あんな事があったのに、世界は何事も無く平和で。
 あれが夢のような気がして、箱のヒカリに安堵していて。
 鈴木は、あの時の夢や、あの時の現実を口にする事はしなかった。

鞘師はサイダーを一口飲んで、僅かに視線を向ける、開いたドアがゆっくりと。

663名無し募集中。。。:2012/07/06(金) 01:14:00
以上です。
ようやくあの二人と合流できる所まで辿り着いたorz
実に日常的で実に非日常な日々はまだまだ続きます。

------------------------------ここまで。
●の買い方が分からないのもあるのですが、これ以上代理を
お願いすると規制になるかもしれないので、何とか
しないといけないとは思うのですが…いつでも構わないのでよろしくお願いします。

664名無し募集中。。。:2012/07/06(金) 02:00:49
初めてですが行ってきます

665名無し募集中。。。:2012/07/06(金) 02:07:43
行ってきました
先の読めない展開が大好きです
乙です

666名無し募集中。。。:2012/07/06(金) 13:17:36
>>663です。
代理投稿ありがとうございました。
できれば>>845-847とどこまでの書き込みかを明記して
もらえると良かったのですが…。

667名無し募集中。。。:2012/07/07(土) 20:44:00
>>845-847 の続き。

 「――― みーずきっ」
 「うわひゃあっ」
 「なにしてんの?こんなところにへばり付いて」
 「な、なんだえりぽんか。驚かさないでよ。なんでいるの?」
 「質問を質問で返すなんて聖ひどいっちゃねえ。んー?あそこにいるのって確か敵怪人…」
 「えりぽん」
 「冗談っちゃん、えーとそうだそうだ、香音ちゃんだ。でも隣は知らない子。
 制服もみたことないし、もしかして侵入者っ?」
 「違うよ、ええとあの子はその、友達なの、そう友達っ」
 「そうなの?じゃあ別に隠れることないっちゃない?おーい、そこの二人ー」
 「あっ、ちょっとえりぽん!……もおKYっ」

譜久村は飛びだした生田に叫んだ。
結果的にその声で二人に気付かれたのだが、生田が携帯を構える。

パシャリ。
携帯を顔から離すと、鞘師に向けて笑顔を浮かべた。

 「見かけない子っちゃね。名前はなんて言うの?」

突然の訪問者に鈴木はうわっと思った。
生田衣梨奈、何故ここに?
その背後から出て来た譜久村が慌てて生田の肩を掴む。

 「ご、ごめんね二人共っ、その、盗み聞きしようなんて思ってなくて…」
 「何言っとうとよ、壁にへばりついとったやん」
 「わー!わー!」
 「ねえそっちに行っても良いっ?」

668名無し募集中。。。:2012/07/07(土) 20:46:23
その言葉とは裏腹にがっつりとはしごを上って来る生田。
鈴木は慌てて箱をポケットに突っ込むと、鞘師の影に隠れるように移動する。
生田の後に上がってきた譜久村は気まずそうに笑顔を浮かべていた。

 「へえ、こんな所上がったの初めてだけど、良い景色っちゃねえ。
 で、あんたはどこの子?えりなはここの学校の2年っちゃけど」

鈴木と譜久村が鞘師に視線を注ぐ。
すると、鞘師は薄く笑顔を浮かべて、こう言った。

 「初めまして"えりなちゃん"。
 今度ここに転校することになった鞘師里保と言います」

 *



 「――― 知ってる?なんかさ、転校生くるらしいよ?」

黎明学園一年の生徒達は、朝一番、教室に入った瞬間から
この話題で盛り上がっていた。
ただその盛り上がりは普通とは少し違っていて。

 「転校生ってマジ?」
 「だってさあ今って…」
 「だよねえ…」
 「まだ"四月"でしょ?」

669名無し募集中。。。:2012/07/07(土) 20:47:24
四月に入学式があり、その一週間後に一学期の始業式。
さらにその約一週間後が、今日。五月に入ろうという下旬だ。
ちなみに天気は相変わらずの晴天。
気温も高くなく風もゆるやかで、たいへん気持ちのよろしい一日が始まる予感。
中学生活は始まったばかりだ。

それなのに、転校生がやってくる。
妙なタイミングなのもあって、その騒動は他のクラス、他の学年にも飛び火しようとしていた。
そんな中で一番気になるのは。

 「ていうかオトコ!?オンナ!?」

それぞれがそれぞれに想像、妄想を膨らませる。
ああだこうだ、イメージは拡大していく。
ただ大概、冷たい現実。

日常の中のちょっとした刺激的な出来事は、そうやって幕を下ろす。
そのはずだった――― 。


 ――― 何を言い出すんだこの子は。

きょとんとする生田に、どう反応すれば良いのか判らない鈴木と譜久村。
鞘師はさも当然のようにドヤ顔を隠さない。

 「新しい学校が気になって、ちょっと忍びこんじゃったの。
 ここはあまり人も来ないから、丁度いいかなって思って」
 「…あはっ、そっか転校生かあ、やることが大胆っちゃねえ」

670名無し募集中。。。:2012/07/07(土) 20:52:20
生田も笑う、鞘師の言葉に何の疑いも見せずに、純粋に受け止めていた。
そんな二人をよそに、鈴木とその隣に移動してきた譜久村は変に焦っている。
肩を掴まれた。

 「ねえ、転校ってホント?」
 「いや、今初めて聞いて…ていうかなんでみずきちゃんがいるの?」
 「私は里保ちゃんに用があって……それを言えば香音ちゃんだって。
 ずっと寝込んでるから今日も休むってお母さんから聞いてたのに」
 「あーうん、治ったから大丈夫だよ。ほら、このとおり」
 「そ、そうなの?でも気分悪くなったら言うんだよ」

笑顔を含めて表したのが良かったのか、譜久村の優しさにほんわりとした鈴木。
半分は嘘で半分は本当。
ただ説明するにはいろんな意味で面倒くさい。
ふと、視線に気づいたかと思うと、鞘師がこちらを見ていた。
鈴木ではなく、譜久村の方に。

 「フクちゃん、私に何か聞きたい事があるんでしょ?」
 「え?あ、ええと…」
 「良いよ、ここで話してもらっても」
 「でも二人が…」
 「なになに?なんの話?」

鞘師の言葉に戸惑う譜久村は、だが他の二人の視線も集まる。
口にした時点で遅し。
自分の知らない顔ではないというのもある。
諦めたように一呼吸つき、おもむろに口を開いた。

671名無し募集中。。。:2012/07/07(土) 21:02:33
以上です。
4人の出会いは偶然のように歩き出す。

>>30
やっと洞窟から出て来ましたねおかえりなさい(殴

----------------------------ここまで。
す、進まない…(汗
ただここで4人を合流させないと布石の意味がないので。
いつでも構わないのでよろしくお願いします。

672名無しリゾナント:2012/07/08(日) 21:13:01
ちょうどスレも空いてるようですので行ってまいります

673名無しリゾナント:2012/07/08(日) 21:18:49
代理完了
1レス目に前回投下したレス番を書いておられましたが、スレが変わってしまっているので、僭越ながら暫定保管庫のurlを貼らせてもらいました

674名無しリゾナント:2012/07/09(月) 01:25:50
>>655です。
>>657さん代理投稿ありがとうございました。
遅くなりましてすみません、気を遣っていただきありがとうでした!

675名無し募集中。。。:2012/07/09(月) 01:55:12
>>671です。
代理投稿ありがとうございます。
そういえば新しいスレになってたんですね、お手数をおかけしました(平伏

676名無し募集中。。。:2012/07/11(水) 00:19:41
>>70-73 の続き。

 「――― なあ香音、転校生が職員室に来てるって。見に行こうよ」
 「…あたしパス」
 「なんだよ、ノリが悪いなあ。クラスの仲間になるヤツなんだから
 もうちょっとハリキっていこうぜ?」
 「いいよ別に、あたし知ってるもん」
 「え?いつ?どこで?オンナ?オトコ?」
 「女の子」
 「マジかッ!なら友達になるしかないフラグだな!」
 「んー?んーそうだね」

いつもなら一緒に騒ぐ所なのだろうが、鈴木は逆に溜息が漏れた。
転校生が来るのは良い。
彼女の言うとおり、友達になっていろんな話を聞くのも良い。
鈴木自身、それはきっと楽しいものだとも思っている。
だから多分きっと、なんとなく、だ。

 「私ね、"みえる"んだ。場所とか物に残ってるものとか。
 二人には言ったことがあるでしょ?私のチカラ」
 「確かさいこめとりーってヤツっちゃんね。すごいメジャーな超能力」
 「なんかバカにされた気分…」
 「あ、ごめん。ごめんってみずきー」

『接触感応 -サイコメトリー-』
物体、物質に残る残留思念を"触れる"という条件のみで読み取るという
テレビでも重宝されてきたあの超能力だ。

677名無し募集中。。。:2012/07/11(水) 00:21:25
小さい頃は手に触れたもの全部を読み取っていたことで苦労したと
譜久村本人から聞かされたことがあり、鈴木がチカラを打ち明けるための
きっかけにもなっていた。

 「テレビなんかでもよくやってるじゃない、証拠を見つけるとか、あんな感じのを想像して。
 ただ知りたかっただけなの、なんであんな事になったのか。友達だから。
 そしたら、里保ちゃんが、見えたの、最初は確信はなかったんだけど
 あの子の話す女の子がね、里保ちゃんに似てるなって、それで…」
 「試してみる?」

鞘師は自分の掌を差し出して、呟いた。
譜久村は先にそれをされるとは思わなかったらしく、戸惑いを浮かべる。
表情を崩さない鞘師にもう一度視線を向けて、グッと顔を強張らせる。
 
微かに指を伸ばし、それを彼女が引っ張った。



ざわつく教室。
時刻は午前八時を過ぎていた。

 「今日からみんなと一緒に勉強することになった――― 」

担任教師が教壇に上って、隣に立つ彼女にゆっくり視線を下ろす。
自己紹介をしなさい的なうながしだった。

 「……………あ、あれ?」

678名無し募集中。。。:2012/07/11(水) 00:24:02
だが彼女は、担任の思いやりやら尊厳やらを片っ端から無視して、じーっと教室の様子を
今日からクラスの仲間になる生徒達の様子を、観察するようにゆっくり見渡していた。
鈴木は目が合う前に見もしない教科書でガードする。
別に嫌では無いのだが、反射的に、ただ、なんとなくだった。

 「まあ、そうだなあ、いきなりだから緊張してると思うが…」

しかし緊張しているのは担任と、生徒たちの方だった。
小柄な彼女はやたらと幼い。
なのに立ち姿や伝わってくる雰囲気は、オトナびている。
自分達と同い年の中等部1年、制服は新しく新調した、この学校の校章が付いている。

なんというかもう、猫でもうさぎでもトナカイでも被ってるほど完璧な空気だ。
そしてようやく。

 「鞘師里保です。はじめての街で不安と戸惑いで、ちょっとドキドキしてます。
 みなさん、どうかよろしくお願いします」

まるでカンニングペーパーでも食べたようにしっかりした口調で、鞘師は言った。
嘘くさいものは嘘くさいが故に本当っぽく見えるものだ。
その努力のかいあってか、数ヶ月で彼女は"優等生"としての地位を築く事になる。
多分、良い意味で。


 
 「――― ッ」
 「ど、どうしたと聖」

鞘師の手に触れた途端、ものの数分も経たずに譜久村は泣き崩れた。
鈴木はもはや傍観者側に立っていた。

679名無し募集中。。。:2012/07/11(水) 00:25:18
 「里保ちゃん、これは、本当の事なの?」

鞘師は表情を崩さず、ゆっくりと頷いた。
譜久村が"みた"光景が一体どんなものだったのかは鈴木には分からない。

 「ねえ里保ちゃん、私にも何か出来ることはないかな?
 里保ちゃんはそのためにこの学校に来てくれたんでしょ?」
 「聖、全然話が見えんっちゃけど、えりな達にも説明してよねえ香音ちゃん?」

生田が不意に、傍観者だった鈴木を引きずりだしてきた。
それに「え?あ、うん」と変な相槌を打ってハッと口をつぐむ。

 「えりぽん、この学校はね、危機に直面してるの。
 でもやっと判った、多分、私達がやるべき事なんだ。
 何でか判んないけど…私達がしなきゃいけない気がする」

譜久村の珍しくもある真剣な眼差しを伏せる姿に、生田は何を思ったのか
彼女の肩を優しく触れた。
そして何かを決めたように、というよりは何かを期待した眼差しで口を開いた。


 「つまり事件やね、聖。いよいよえりなの本領が発揮するときが来たあああ!」

というより両腕を空に突き上げて叫んだ。嬉しそうだ、心の底から喜んでいる。

 「ちょ、えりぽん、これは遊びじゃないんだよっ。それに私まだ何も説明してない…」
 「危機に直面してるってことはそういう事態ってことやろ?
 この学校を狙ってる敵がおるってことっちゃん。で、えりな達は何をすればいいと?」
 「……突きとめるんだよ、この事件の"真犯人"を」

680名無し募集中。。。:2012/07/11(水) 00:27:07
――― 昼休み時間。チャイムと同時に一緒にしようとした女子や、休み時間に
 できなかった質問タイムを今度こそおっぱじめようとたくらんでいた男子が振り向いた
 ときには、鞘師の姿はすでになかった。

というより、休み時間のたびに居なくなっている。何故か鈴木香音と一緒に。

 「なんでみずきちゃんを巻き込んだの?」
 「フクちゃん自身が決めたんだよ、私はただ問い掛けただけ。
 フクちゃんもまた、『共鳴』したヒトだったんだ。えりなちゃんはまだ興味本位ってとこかな」
 「りほちゃん、なんか楽しんでるよね」
 「そうかな?」
 「そうだよ」
 「うん、でも、ちょっと嬉しい」
 「え?」
 「一緒に戦ってくれる人達が出来て、多分、嬉しいんだよ――― ありがとう」

鞘師はそう言って、笑った。
何故彼女がそんな事を言ったのか、鈴木はこの時、判らなかった。気付かなかった。
どうしてこの4人だったのかも。
鞘師の笑顔が少しだけ、寂しそうだったのも。

こうしてこの日を境に、鈴木は実に日常的で、非日常な生活を送る事になる。

 ――― 携帯の画面には鞘師と鈴木の二人が映っている。
 "彼女"はようやく出会えた待ち人を見つめるように、嗤った。

681名無し募集中。。。:2012/07/11(水) 00:41:54
以上です。
これでストック分は上げ終わったので少し潜ります。
いろいろとぼかしてる部分は追々。
※4人の人物像は1年前、10期加入前のイメージを参考中。

あ、あとwikiの方のタイトルが名無しから『-Qualia-』
と明記してもらえると嬉しいです。よろしくお願いします。

-----------------------------------ここまで。

いつでも構わないのでよろしくお願いします(平伏

682名無しリゾナント:2012/07/11(水) 02:11:43
>>681
代理っときました。
関係ないけどしたらばは横の小倉ゆずちゃんのおっぱいが気になり杉

683名無し募集中。。。:2012/07/18(水) 17:24:58
http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/641.html#id_0b8a4f76つづき

-------

ジュンジュンは男に馬乗りになろうとする。
しかし、男は右腕を突きだし、ジュンジュンの腹を突き刺した。
重力の法則も相まって、腹部に重く入った拳にジュンジュンは思わず声を漏らした。
よろめきながらも男と距離を保つが、男はゆっくりと立ち上がり、彼女を蹴り飛ばした。

「ジュンジュンっ!」

彼女は勢いそのままに壁に背中から激突した。
後頭部を打つ脳震盪を起こしたのか、彼女は力なく崩れ落ち、ぴくりとも動かなくなった。
リンリンは彼女に駆け寄りたかったが、男が腰にぶら下げた太刀に手を伸ばしたことでそうもいかなくなった。
男は鞘から刀身を抜く。
一点の曇りもない刀身は確かに綺麗だと思った。

瞬間、男はリンリンに距離を詰めたかと思うと、一気に刀を振り下ろした。
リンリンは慌てて下がるが、切先は肩を掠め、微かに肉を切っていた。
苦痛に顔を歪めるが、次の瞬間には男は再び間合いに入っていた。
冗談だろう?と思う間に、刀は左脚を捉える。
骨ごと切り落とされそうになったとき、リンリンは男の手首を蹴りあげて距離をはかった。

「―――っぐぁ゛……」

完全に避けきることはできず、左脚の1/3に刀は入り込んでいたようだ。
出血の量はさほど多くはないが、楽観視している余裕もない。
リンリンは痛む左脚を引きずって確かな距離を保つ。
想像以上の強さに動揺が隠せないが、退くわけにもいかない。
れいなと連絡は取れたから、もうすぐ何人かが援護に来てくれる。それまではせめて立っておかなければならない。

684名無し募集中。。。:2012/07/18(水) 17:25:28

男はなんどかステップを踏んだかと思うと、右脚で地面を軽く蹴った。

―高い!

何処からその跳躍力があるのかと驚愕したのも束の間、男は刀を振り下ろした。
刃はリンリンの体に触れることはないまま、地面へと突き刺さる。その周辺のコンクリートは抉られ、その力の強さを目の当たりにする。
リンリンはとにかく時間を稼ごうと右手に気を集中させる。
なんどか心の中で発動の言葉を呟いたあと、再び斬りかかってきた男に右手を突き出した。

突如、男の周囲、半径1メートルが焔の盾で包まれた。
“発火能力(パイロキネシス)”のおかげで、なんとか時間を稼ぐことができそうだった。
さほど長時間にはならないだろうが、せめてジュンジュンが受けた傷を回復させるまでには……

そう考えたときだった。
焔の盾が真っ直ぐに突き破られた。
リンリンは慌てて避けると、飛び出した男は一足で再び懐に入ってきた。

「早い……っ!」

男の刀はリンリンの額を掠めただけで終わったが、最も皮膚の薄い部分だったせいか、血がどろりと滲み出た。
すぐさま後ろに下がるが、血は止まることなく溢れ出し、リンリンの瞳に流れた。
視界がぼやけたことに慌ててこすると、その先で、男は刀を天高く振り上げていた。
此処から男までの推定距離は3メートル弱。その位置から振り下ろしてなにをするつもりだと考えるが、男は構わず刃を振った。

685名無し募集中。。。:2012/07/18(水) 17:25:58


瞬間、膝が折れた。

「っ―――あ゛ああぁ!!」

なにが起きたのか、分からなかった。
あれほど離れた地点からの攻撃など、無意味だと思っていた。
もしなにか飛び道具があるにしても、躱わせないはずがないと思っていた。

しかし、現実にはそうはいかなかった。
男の刃から発せられた“なにか”は、リンリンの左脚に直撃し、その膝を折らせた。
先ほど受けた傷を抉るように痛みはさらに深まり、のた打ち回る。

―この感じ……やはりさっきのは……

あの男が3メートル離れた地点から刀を振り下ろして攻撃できた理由は、居合切り―――カマイタチの原理で説明はつく。
ただ問題は、あの男はそれに加え、別の能力も有しているということだった。

痛みを叫びながらリンリンは先ほど破壊された携帯電話を思い出した。
携帯電話が破壊されたとき、リンリンは確かにその手に「電気」を感じた。
最初は、内蔵された機器が破壊の衝動でなんらかのショートを起こし、その電気を手が感じたのだと思った。
だが、いまの男の太刀筋を見て考えが変わった。

686名無し募集中。。。:2012/07/18(水) 17:26:35

あの男は、自分の刀でカマイタチ現象を起こすとともに、その空気間に“雷”を発生させていた。
やはりあの男も能力者であることは間違いない。
“雷の刃”を発生させるなんて、普通の人間にできることではない。

「あぅ゛……」

しかし、相手の攻撃が分かったところで打開策はなかった。
左脚は完全に動かなくなり、“発火能力(パイロキネシス)”を使おうにも、先ほどのように突破されてしまう。
仲間が来るのを待とうにも、その前に斬られてしまうのが目に見えていた。

いよいよ此処までかと下唇を噛みながら男を睨みつけていると、男の周囲に多量の石礫が飛んでいった。
何事かと思うが、それがジュンジュンの“念動力(サイコキネシス)”だと気付いたのは直後のことだった。
男は刀で石礫をひとつ残らず叩き落とすと、リンリンに背を向け、ジュンジュンと向き合った。

「お前ノ敵はこっちダヨ」

そうしてジュンジュンは腹部を押さえながらも、くいっと人差し指で挑発すると、脱兎のごとく走り出した。
男は数秒の間をもったものの、手負いのリンリンには興味をなくしたのか、その背中を追いかけた。

「ジュンジュン!ダメ!!」

なにが起きたのかを漸く把握したリンリンは叫んだが、そのときにはもうふたりとも目の前から姿を消していた。
冗談じゃない、神獣を護る神官の立場である自分が、その神獣に護られるなど言語道断だった。
リンリンはふたりを追い駆けようとするが、左脚は死んだまま、立ち上がることもできずにいた。

687名無し募集中。。。:2012/07/18(水) 17:27:15

「なんで……こんなときにっ!!」

リンリンはシャツをちぎると、傷口に荒っぽく巻きつけ、とりあえずの止血を行った。

護りたいと思った。
自分の大切な世界を、大切な仲間を、大切な人を。
此処で生きているだれもの笑顔を護りたくて、だからリンリンはリゾナンターとして闘う日々を選んだ。
正義がなにか、悪がなにかなんて分からない。分からないけれども、護りたいものがあるからリンリンは闘う道に走った。
そうであるからこそ、あの日の女にそう叫んだのだ。

「ジュンジュンっ!!」

こんなところで、痛みに泣いている場合じゃないんだとリンリンは必死に叫んだ。
未だに鮮血を垂れ流す脚を拳で叩き、半ば強引に立ち上がった。

688名無し募集中。。。:2012/07/18(水) 17:29:19
とりあえず此処までになります
この章は少し長いのですがもう少しつづきます

----------------------------------------此処まで

いつでも構いませんのでどなたか代理投下宜しくお願い致します

689名無しリゾナント:2012/07/18(水) 20:36:04
スレが空いてたから上げておきました
息を呑む展開でしたね
小春が真っ先に異動しただけに今度はどんな運命が待ち受けてるのか
ハラハラしながら読みました

690名無し募集中。。。:2012/07/18(水) 22:56:52
次回予告
     今日も私は大好きな先輩達との訓練の後 お気に入りのサイダーなんかを飲んで どのメーカーのが好き? とか
   香音ちゃんのやつ炭酸抜けてるよウフフとか言って笑うの そして夜は素敵な夢なんか見ちゃったりして明日を迎えるの
                           - でも そうはならなかった …ね -
            【世の中は 既に狂っている そう 今や 包丁を持ちストレートに駆け寄って来る殺人鬼より
          人形や得体の知れぬ物体を握り締め じっとコチラを伺う者の方が よっぽど恐ろしい時代なのだ】
         ああ…何と言う事だろう 今 私の前にゆらゆらと立つピンク色の女は間違いなく 後者に当たるだろう
            女…いや悪魔は言う「キスしたいの」あぁ『殺してやる!』より何倍も恐ろしい言葉であろうか
     -唇による犯罪- 3度現れしピンクの悪魔はスヤスヤと眠っていた新メンバーのうち3人を既に攻略 -キスによる再殺-
    ttp://aewen.com/momusu/michishige/img/aewen5308.jpg 「ふふ とっても柔らかいの〜香音ちゃんもあんなに幸せそう」
   蝶の羽ばたきの様に手足を激しくバタつかせて痙攣する鈴木 やがて動きは止まり…白雪姫の眠りを目覚めさせるどころか
     生気は抜け 更に深い眠りへと誘ってしまった いともたやすく行われるエゲツナイ行為に思わず目を背ける そして遂に
 生き残っていた少女鞘師にも魔の唇が迫ろうとしていたのだった 恐ろしさに震える唇は ルアーの動きに惹きつけられる魚の如く
      悪魔を挑発する「もう 辛抱たまらんの!!」その時 既に洗脳(変態に)されていた聖が起き上がり悪魔に言い放つ
      ttp://aewen.com/momusu/group/img/aewen9577.jpg 「お待ちください 変態を統べりし女王 ピンクの悪魔様ッ
     その少女の持つ唇は『真紅のリホリップ』しかるべき儀式を持ってすれば…」 悪魔の唇は里保の唇を逸れて首筋へ
           「黙るのミズキ!フフフっ分かっているの すぐに奪ってはつまらないの この真紅のリホリップ
         (覇王の唇)は私がゴットピンクへと転生する為に必要なの 少し焦ってしまっただけなの……ミズキ?
         あなたはお酒はまだだめなの」「いいえ 私は酒に酔ったのではありません あなたに酔ったのですわ
       ピンクの悪魔サイコー!」「2人共な…何をいっているんじゃ……」奇跡的に少女に与えられた少しの時間
          この時間も奇跡でさえも 団地妻ミズキに言わせれば これもまた淫果の流れといったところか
 ttp://aewen.com/momusu/group/img/aewen10133.jpg 「大いなる変態の刻……“桃魔の儀”を執り行う!里保を祭壇へ!!」
     少女の足元には気を失ったメンバー達が積み重なっている ttp://aewen.com/momusu/group/img/aewen6473.jpg
  「その者達はピンクの悪魔様が積み上げてきた快楽の犠牲 悪魔様…それでも なおピンクの悪魔様の目にあの唇が何よりも
眩しいのなら あの少女をも快楽の贄とし 一言唱えさせるのです “捧げる”と さすれば頂より天に昇り立つ 変態の唇を授からん!」


次回かなしみ戦隊リゾナンターV(変態ハンタ〜前編)「情熱のキスを一つ」

           少女鞘師の理解を超常する恐ろしく異様な世界が展開してゆく 無事にこの快楽の宴を
         生き延びる為 少女はどうあがき もがいてゆくのか? すべては淫果の流れの中に…………

691名無し募集中。。。:2012/07/18(水) 22:59:56
ベルセルクファンの方 申し訳ないm(__)m↑

692名無し募集中。。。:2012/07/18(水) 23:03:24
いろいろ設定していたら忍法というのが下がったみたいで
大きなサイズを書き込めなくなりました
どなたか代理出来ます方宜しくお願い致しますm(__)m

693名無しリゾナント:2012/07/19(木) 04:21:30
行ってきました
濃密すぎるw

694名無し募集中。。。:2012/07/19(木) 06:12:54
ありがとうございますm(__)mまた今後かなりお世話になりそうです申し訳ないです よろしくお願いします

695名無し募集中。。。:2012/07/19(木) 21:52:25
次回予告
      -取り返しのつかない変態行為 そのドス黒さは闇よりも更に深く 今よりピンクの時代が始まる-
ttp://aewen.com/momusu/michishige/img/aewen5308.jpg ttp://aewen.com/momusu/group/img/aewen8694.gif
         「さあ りほりほ りほりほから捧げると言うの たった一言 私に唇を“捧げる”と言うの!
          りほりほの口からその言葉を聞きたいの たまらない征服感で私を満たすの!!」
        「さッ…さ………」「そうなの」「さ……」「そう 早く言うの 私にその唇を プレゼントするの」
             「さっささッサイダーーッ!!」「!?サイダー?何を言っているの??」
         「そっそうです喉が乾いてしまってっ あの 上手く言えないんです とっ取ってきますっ!」
    「まぁいいの 逃げようと思っても りほりほの行動は予知で分かるの 最後のサイダー良く味わうといいの」
         震える足で冷蔵庫へとサイダーを取りに行く あぁこのサイダーは奇しくも道重先輩が
          プレゼントしてくれた物だ…ビンに私の脅えきった表情が写る これが最後の一本
 ラストサイダー…ファイナルシュワシュワ……なんだ……絶望に震える手がサイダーのビンを激しく揺すっている
            悪魔の元へと戻る間 戻った後も震えは治まらない 更に増してゆくばかりだ
   「あら あら あら〜そんなに震えちゃって 可哀そうになの でも大丈夫もう直ぐそれは快感の震えと変わるの」
           【変態の接合点では 時に予測できぬことが起こる ごくごく微少ではあるが…】
            先程の悪魔の言葉によって増した手の震えが少女の運命を変えたのである
     ビンの栓を抜こうとした瞬間 栓とサイダーが勢い良く発射され それは悪魔の目を直撃したのだった
   意識外からの攻撃!悪魔は予知能力があった しかし里保の行動予知ばかりに集中し気を取られていた為
        自身の危険予知に手を抜いていたのだ…まさか まさかサイダーが攻撃してくるとはっ!?
         「目がぁ〜〜〜目がぁぁ〜〜〜〜!!何と言う事なの!?全てを把握していたと思って
         油断していたの!私がりほりほに酔っていたというの?恐ろしい娘ッ…りほりほ!!!」
ttp://aewen.com/momusu/group/img/aewen10345.jpg  ttp://aewen.com/momusu/group/img/aewen10145.jpg
  少女は叫んだ「わ〜どこかへ居なくなれ〜ッ!しゅわしゅわぽんっ!!」堪らず闇へと身をくらますピンクの悪魔
     「悪魔様ぁ待って下さい〜〜ミズキを置いてかないで〜」少女はこの狂宴から生き延びた たった一人


次回かなしみ戦隊リゾナンターV(変態ハンタ〜後編)「わ〜MERRYピンXmas!」

           -今でも少女の首筋にはピンクの烙印が残る……悪魔のくちづけの痕が-
もしも あなたがピンク色の悪魔に襲われたなら サイダービンを持ち こう一言唱えればいい【しゅわしゅわぽんっ】と…

696名無し募集中。。。:2012/07/19(木) 21:59:46
保全の代わりになれればと頑張ります…代理投稿よろしくお願い致します↑

697名無しリゾナント:2012/07/20(金) 00:10:29
行ってまいりました
因果を淫果とかヒドすぎるw
頑張って完結してくださいませ

698名無し募集中。。。:2012/07/20(金) 00:44:50
ありがとうo(^-^)o頑張ります!

699名無し募集中。。。:2012/07/25(水) 11:56:06
本当だわ…女と男ララバイゲームだたよ…うっかりさんや〜(´∀`)

700名無し募集中。。。:2012/07/27(金) 21:27:05
http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/641.htmlつづき


れいなは深く息を吐くと、目を閉じた。
世界が闇に覆われ、自分という存在の確認すらも危うくなる。
それでも、田中れいなは確かに此処にいるのだと認識するように、れいなは自分の周囲に気を集める。

頭の中で確かな刀のイメージ像をつくる。
集まった光は映像となり、右手に力を込めた。

瞬間、右手の中に再びあの刀が現れた。

刀身が真っ直ぐに伸びた綺麗な刀は、何処か蒼みを帯びている。
光と気を集めてつくられたれいなの刀は、“共鳴”という単語がよく似合う気がした。


「……終われんよ、やっぱ」


れいなはぼんやりとそう呟くと、刀を握り締める。
久住小春が異動を告げられたあの日から変わっていった日常は、それでもいまもなおつづいている。

在りえた未来は遠くに消えゆく。
確かに存在する現在は目の前にある。
れいなが此処にいる限り、つづいていく日常を失くすことなんてできない。


たとえばそこに、だれ一人いなかったとしても―――

701名無し募集中。。。:2012/07/27(金) 21:27:45
-------

病院の屋上にはれいな、さゆみ、絵里、愛佳、そして里沙の5人がいた。
いつだったか、小春が大怪我を負ったときも、こうしてリゾナンターたちは病院の屋上に集った。
決定的に違うのは、この場にいるリゾナンターの人数が、あの日よりも圧倒的に少ないことだった。

れいなが落ち着かないようにその場を行ったり来たりしていると、屋上の扉が開かれた。
全員の視線がそちらに向く。
そこに立っていたのは、リーダーである高橋愛だった。
れいなは迷わずに愛に歩み寄った。

「……いま、正式に決定した」

愛が重苦しい口を開く。
れいなは先を促すように黙っていたが、その拳は確かに震えている。
里沙は確認するように「それは…つまり?」と言葉を発した。愛はそれを受け入れて頷くと言葉を吐いた。

「ジュンジュンとリンリンは、本日23時59分を以ってリゾナンターから異動する」

愛が言葉を言い切った瞬間、れいなはその胸倉を掴んだ。
ギリッと歯を食いしばり、鋭い目で愛を睨みつけた。

702名無し募集中。。。:2012/07/27(金) 21:28:31
-------

雷を受けたジュンジュンは神獣化が解け、ただの人間に戻った。
瀕死の彼女にとどめを刺そうと、男は刀を振り上げた。


刀が振り下ろされる寸前、火球が雨を裂いて男に向かってきた。
男はそれを避けると、火球を投げた人物に目を向ける。
そこに立っていたのは、脚から大量の血を流しているリンリンと、たったいま現場に駆け付けたれいな、そして別任務から急行した愛だった。
れいなは地面に倒れているジュンジュンを認めた瞬間、迷わず男に突進した。

「貴様ぁぁっ!!」

激高、という言葉が的確だった。
れいなの中に沸いて出た感情は、怒り以外の何物でもなかった。
ジュンジュンを助けることも、リンリンに肩を貸すこともせず、れいなは男に襲いかかった。
怒りに身を任せ攻撃しようとするれいなに対し、男はなんら動揺せずに、ひょいと体を躱わした。
れいなは止めることなく攻撃を続けるが、形勢が悪くなったと判断したのか、男はそのまま背を向けて走り出した。

703名無し募集中。。。:2012/07/27(金) 21:29:02
「待てお前!!」
「追うなれいな!」

そのときれいなは、助けるということをしなかった。
ジュンジュンに声を掛けることも、手を伸ばすこともしなかった。
頭の中を支配していた怒りの感情に任せ、れいなはただ男を殺すことしか考えていなかった。
れいなが男を追っている間、愛とリンリンはジュンジュンに駆け寄った。

「ジュンジュン!しっかり!」

愛はジュンジュンの怪我の状況を確認した。
全身に雷を受け、骨や肉が砕け、削ぎ落とされている。
皮膚に激しい炎症が起き、爛れたそこからは微かに腐敗が始まっていた。
一刻の猶予もないことを悟った愛は、全身に光を集めると、リンリンとジュンジュンを抱え、“瞬間移動(テレポーテーション)”した。
れいなのことも気がかりだったが、いまはそんなことを考えている場合ではなかった。


愛は病院へふたりを搬送すると、すぐに専属の医者に治療を命じた。
医者たちはすぐさまふたりを診療台に乗せると、手術室へと走った。
病院の外ではひどい雨が降っていた。
愛はふたりが手術室へ入っていくのを見届けると、再び現場へと“瞬間移動(テレポーテーション)”した。
怒りに任せて治療義務を怠った彼女を怒鳴るべきか悩んだが、結局愛は、彼女を連れ戻すだけに留まった。

704名無し募集中。。。:2012/07/27(金) 21:29:34
-------

ジュンジュンとリンリンが男に襲われて1週間が経過していた。
幸いにもリンリンの怪我は順調に回復していったが、ジュンジュンの意識はまだ戻っていなかった。
あれほどの失血をし、雷を受けながらも、生きていることが奇蹟的であった。
しかし、脳の器官を一部損傷したのか、生命反応はあるものの、意識は回復していない。
あと1週間様子を見て、なにも変化がなかった場合、最悪の可能性、つまりは植物状態も考えられた。

そんな中、リゾナンターたちは病院の屋上に集っていた。
昨日、愛がちらりと話していた、“上”の決定事項の確認をするためだった。

「ジュンジュンとリンリンは、本日23時59分を以ってリゾナンターから異動する」

愛から“上”の決定事項を伝えられた途端、れいなは彼女の胸倉を掴んだ。

「……なんでそういうことになるとや」

この状況は、小春の異動が決まったときと全く同じだった。
あの日もこうして屋上で、異動に納得がいかないれいなは愛に食ってかかった。

「そんなん意味ないやろ!これ以上仲間減らして、なんがしたいとや!」

705名無し募集中。。。:2012/07/27(金) 21:30:11
れいなの怒りは最もなものだった。
上層部がなにを考えているかは昔から分からなかったが、今回とそして前回の異動に関しては、あまりに唐突であまりに謎が多かった。
なぜその異動先を残ったリゾナンターに伝えないのか。小春の代わりになぜだれもリゾナンターに加入しないのか。
なぜここまで性急に、異動が繰り返されているのか。
まるでこれでは、“上層部がリゾナンターを消滅させようとしている”ような勘繰りさえしてしまう。

「直接会わせぃよ!れなが聞いちゃる!愛ちゃんじゃ頼りにならん!」

れいなが激しく詰め寄ったのを見て、里沙はあの日と同じように彼女の腕を掴んで止めようとした。
しかし今日は、里沙よりも先に愛がその腕を取った。
だれもが予想だにしなかった展開に、れいな自身も驚いた眼を見せた。

「れいなの方こそ、頼りないんじゃない?」
「……なんて?」
「あのとき、重症のジュンジュン放っておいて敵を追い駆けるとか、普通じゃないね」

愛の冷たい言葉にれいなは眉を顰めた。
確かに、彼女の言うことは事実だった。れいなは怒りに我を忘れ、ジュンジュンを助けず、男を追った。
結果的に愛が病院に搬送したから事なきを得たが、あの場に愛がいなかったら、確実にジュンジュンは命を落としていただろう。

「仲間とか言う割に、れいなって自分のことしか考えてないんじゃない?」

706名無し募集中。。。:2012/07/27(金) 21:30:44
その言葉にれいなはカッとなった。
頭に血が上り、思わず右腕を振り上げた。
れいなの右腕は、愛の左頬を捉えることなく、彼女の左手の中に吸い込まれた。

「反論できないで殴るなんて、図星?」
「違うっ!」
「なにが違う?仲間を助けないで敵を追い駆けて、それでなにが仲間なの?」
「話をすり替えんな!」

れいなは矢継ぎ早に受ける言葉に怒鳴り返すが、愛は冷静に切り返していく。
掴まれた拳をギリギリと愛は締め付ける。その力はとても強く、振り払えない。

「……私だって納得はしてない。してないけど、受けとめるんだよ」
「なんでや!なんで受けとめんといかんとや!愛ちゃんがそんな聞きわけの良いことしとるから、仲間が減るっちゃないとや!」
「田中っち!」

それ以上言うなと言わんばかりに、里沙がふたりの間に入った。
愛とれいなを引き剥がそうとするが、ふたりは里沙には目もくれずに黙って睨みあいを続けていた。
その瞳は実に対照的だった。

「“上”の居場所教えぃよ……れなが直接会って話す」
「だから私も知らないって言ってるでしょ?」
「……殴ってでも、聞きだすけんな」

707名無し募集中。。。:2012/07/27(金) 21:31:56
れいなの瞳は憎しみで彩られ、愛の瞳は哀しみで彩られていた。
噛み合うことのない会話は平行線を辿るが、決着をつけなくては終わることがない。
れいなは愛の左手を振り解くと、胸倉から手を離した。
彼女が愛と本気で闘おうとしていることくらい、だれが見ても明らかだった。
愛は黙って彼女を見つめたまま、少しだけ距離を取った。

「まさか……」

里沙に離れるように手で合図すると、愛は前髪をかきわけた。
冗談でしょ?とさゆみは心の中で呟くが、一触即発な空気は変わらない。
れいなは怒りを全身に纏ったまま、一歩下がったかと思うと、右脚で地面を蹴り上げた。
愛はその場から動かずに彼女の攻撃を受けとめることを選んだ。
れいなは勢いそのままに右の拳を突き出した。

瞬間、だった。
愛とれいなはほぼ同時に弾き飛ばされた。
それは、互いが互いの攻撃を受けたからではなく、別の第三者の介入があったからであった。

愛の方はくるりと後方に一回転し見事な着地を決めたが、れいなは見事に吹き飛ばされ、無様に腰から地面に落ちた。
それはちょうど、小春の異動のときに見せた尻もちと同じだった。

「ってぇ!」

再び腰を強打したれいなは以前よりも大きな声で叫んだ。
愛は、ふたりを弾き飛ばしたその存在へと目を向ける。
彼女は肩で息をしながら、こちらに右手を向けていた。隣にいたさゆみは怪訝そうな目で、彼女を見ていた。

708名無し募集中。。。:2012/07/27(金) 21:32:46
「……絵里」

愛がそう呟くと、れいなもその方向へと目を向けた。
絵里は右手を突き出して愛とれいなの間に小さな風の空間をつくりだしていた。
その風の空間を一瞬にして外へと弾き飛ばすことで、ふたりをほぼ同時に突き飛ばしたのだ。

「……やめてよ、もう」

絵里はそうして泣きそうな瞳を向けた。
なにを言わんとすかくらい、彼女を見れば分かった。
愛は下唇を噛むと、小さく「ごめん」と呟き、体中に光を集めた。
それが愛の能力“瞬間移動(テレポーテーション)”だと気付いた里沙は慌てて引き止めるように彼女の腕を取った。
愛と里沙はふたりしてその場から消え去った。
未だに納得のいかないれいなは「くそっ!」と地面を殴った。

「…絵里?!」

だが、さゆみの声でれいなは慌てて体を起こした。
絵里は先ほどふたりを弾き飛ばした際に能力を使いすぎたのか、それとも体力を失ったのか、膝を折っていた。
れいなとさゆみが慌てて駆け寄って絵里を支えるが、彼女は荒い息をしたまま目を開こうとしなかった。

「運ぶっちゃ!」

ふたりは急いで絵里の肩を抱え、病室へと走り出した。

709名無し募集中。。。:2012/07/27(金) 21:34:02
とりあえず此処までになります
ちょっとペースが落ちるかと思います…申し訳ないです

----------------------------------------此処まで

いつでも構いませんのでどなたか代理投下宜しくお願い致します

710名無しリゾナント:2012/07/28(土) 00:24:16
行ってきました
相変わらず心を撃ち抜かれるような話ですね
続きを待ってます

711名無し募集中。。。:2012/07/30(月) 00:14:09
                          \  /
                          ─ ○ ─
                             /   \
    /⌒ヽ  (⌒ヽ、                  (⌒ヽ、
    (        )         , ⌒ヽ     (    )
 ゝ                   (    .'   (       ヽ⌒ヽ 、
      /⌒ヽ        )     ゝ    `ヽ(           )                
 傘 ⊂ ̄ ̄ ̄⊃   傘傘傘   傘傘  傘傘傘 傘傘傘        `ヽ          
 ̄ ̄ ノハ;゚ ゥ ゚)  皆喜んでくれるかなーハウハウ  ̄ ̄ ̄ ̄      
v v /  つ∪___ ザクザク v v v v v v v v v v v v v v v v v           
v v し'⌒∪  ̄M  ザクザクv v v v v v v v v v v v v v v v v            
v v v v v v v v v v v v v v v v v v v v v v v v v v v

※保全用にSATOYAMAを見てなんとなくw 野菜はリゾナントへ発送予定。

----------------------------------
こんな事でしたばらの力を借りるのもおこがましいですね、すみません(汗
ちゃんと写るかな…。

712名無しリゾナント:2012/08/01(水) 20:39:19

ずっと前だけを向いて生きてきた。
だから、落としてしまったものを振り返ることはできなかった。



休日の繁華街。
人が行き交う大通り。
大きな買い物袋を抱えた、幸せそうな親子連れとすれ違う。
親子はしっかりと手を繋いでいた。
聞こえてくる会話はとても仲睦まじそうで、なんの関係もないこちらまで自然と笑みが零れてくる。

武器密売組織のアジトを殲滅した帰りの出来事だった。


場面が切り替わり、自宅。
リュックサックにたくさんの荷物や菓子を詰め込んで、何度も何度も中身を確認する幼い自分。
何日も前から、友人と遠くへ遊びに行く約束をしていた。
その前夜だった。

『“仕事”だ。頼むぞ』

約束が果たされる日は、ついぞ訪れなかった。

713名無しリゾナント:2012/08/01(水) 20:40:06

父の片腕として生きると決めてから、リンリンは失ったものを数えることをやめた。
学校へ行って友達を作って笑ったり悩んだりしながら日々を平凡に過ごしていく幸せはもう手に入らない。
だけど自分には、戦ったり守ったり嘆いたり悲しんだりしながら手に入れた今の幸せがある。
そう思っていた。そう思うことにしていた。

しかし、ふと立ち止まり考えることがある。

“それは本当に正しい選択だったのか?”

普通の人生を諦めてまで。時に本心を押し殺してまで。
貫かねばならないことだったのか。
納得のいく答えは出せていない。

自分で選んだ道を後悔したくない。疑問なんて持ちたくない。
それでも迷いは消えなくて。
振り返ることも前を向くこともできず、リンリンは膝を抱えて座り込む。
過去も未来も怖かった。
もう何も見たくなかった。



『・・・リンリン?』

膝頭に顔を埋めていると、遠慮がちに聞こえる懐かしい声。
しばらく忘れていた、しかし決して聞き間違えたりしない大切な人の。

顔を上げる。

『何してんの?こんなとこで』

朗らかに笑う愛が、そこにいた。

714名無しリゾナント:2012/08/01(水) 20:40:38

闇の中に閉じこもっていた身には、なんてことないこの笑顔ですら眩しい。
まともに愛の顔を見ることができず、再びリンリンは目線を下げた。

「何もしてない、何も・・・できないんですよ」

目を閉じるまでもなく、数々の場面が頭に浮かぶ。
言いたいことを我慢した記憶。
手に入らないものを知って涙した記憶。
ひたすらに他人をうらやんだ記憶。
数え上げればきりがない。

愛と再会を果たしても、リンリンの心を覆う闇は晴れなかった。
これまで自分が歩んできた道が間違いだったというのなら、自分はこれからどこへ進んでいけばいいのだろう。
どうすることもできず、ただその場に座り込む。

「私は・・・間違えてしまったのかもしれないですね。無理にこの道を選ばなくたって、私たちは父子でいられたはずなのに」

父だって、この道を強制はしなかった。
むしろ、まだ幼かった自分にも容赦なく接することで戦いの中に生きることの厳しさを諭してくれていた。
歯を食いしばってまで耐える必要なんてなかったのだ、初めから。

「今まで私は、なんのために・・・・・・」

今更やり直しなんてきかないのに。
失ったものが、あまりにも多過ぎる。

715名無しリゾナント:2012/08/01(水) 20:42:14

『・・・じゃあさ』

きつく膝を抱えたリンリンの上に、ぽつりと言葉が落とされる。
リンリンは微動だにしない。
構わず愛は続けた。

『あたしたちと出会ったことも、間違いだった?』

聞こえてきた言葉が、別世界の言語のように思えた。
意味が呑み込めない。
落ちていかない。
耳元に引っかかって離れない。


リンリンの前で、再び記憶の断片が渦を巻いた。

海を渡ってきた自分。
ジュンジュンと出会い、愛たちに迎えられ、新しい仲間と新たな関係を築く。
辛いことも泣きたくなることもあった。
けれど、笑っていた。
記憶の中に見る自分はいつだって笑顔で仲間たちとの日々を過ごしていた。
後悔なんて微塵も感じさせない、幸せそうな顔で。

716名無しリゾナント:2012/08/01(水) 20:43:04
「間違い・・・・・・」

記憶の波が引いていく。
リンリンはゆっくりと顔を上げた。
世界を覆う闇も目の前に立つ愛も通り越して、ここではないどこかをぼんやりと見つめる。

「間違いじゃない、です」

焦点の合っていない瞳とは裏腹の、はっきりとした口調で言い切った。

たとえ自分の選んだ道が間違いだったとしても、そこに至るまでの何かまで意味がないとは思わない。
出会えた仲間も、思い出も。
悲しい記憶も、苦しんだ経験も。
それらすべてが今の自分。
無駄なことなんて何一つないのだと、今ならちゃんとわかるから。

「愛ちゃん。私は、あなたたちと出会えてよかった」
『うん。あたしもリンリンと会えてよかったよ』

もう座り込んでいる理由なんてない、リンリンは立ち上がって手を差し出した。
愛も同じように手を差し出す。
この世界の“異物”である愛は、リンリンの手を握ることができない。
しかし、二人の手は確かに重なった。
触れることは叶わなくても、今はそれで充分だった。

「一つお願いがあります、愛ちゃん」
『なに?』
「私は寂しい思いをいっぱいしてきました。だから今までの分を取り返すくらいの楽しい思い出を、これからも一緒に作ってください」

愛は一瞬、面食らったようだったが、すぐに笑顔になって言った。

『喜んで』

717名無しリゾナント:2012/08/01(水) 20:44:16


いつか祖国に帰ったら、父にも同じことを伝えよう。
あの堅物な父とて、始終一貫して総統の顔をしているわけではないはずだ。
国籍も年齢も違う彼女たちと心を通わせることができたのを思えば、今から父との距離を埋めることが不可能だとは言い切れない。



消えていった愛の代わりに、愛のいた場所には小さな女の子が立っていた。
肩を震わせ泣いている。
リンリンは手を伸ばし、見覚えのあるその少女の頭を撫でた。

「悲しいけど、もうしばらくの我慢だよ。いつか何もかも分かち合える仲間に会えるからね」

言い聞かせながら、リンリンは彼女たちの顔を思い浮かべていた。
そう、少しばかり単純で騒がしくて。
けれどもしっかりと心を通わせた、愛すべき仲間たちの顔を。

718名無しリゾナント:2012/08/01(水) 20:46:52
>>712-717
『ダークブルー・ナイトメア〜10.クロスロード』

===

ようやくレベルが上がったかなというところでCookieがぶっ飛ぶという現象にいい加減心が折れました
いつでも構わないので代理お願いします

719名無しリゾナント:2012/08/02(木) 12:09:40
代理投稿致します

720名無しリゾナント:2012/08/02(木) 12:20:11
いてきましたー

青空は今でもいつまでも繋がっていますね…

721名無しリゾナント:2012/08/03(金) 22:14:33
ありがとござましたー

722名無しリゾナント:2012/08/07(火) 04:36:28
------ヅッ 赤坂よりマル能発生 マル能発生。付近住民への避難を開始。至急現場へ急行せよ。繰り返す赤坂よりマル能・・・-----

マル能の言葉が聞こえた瞬間には赤色灯を付けアクセルを踏み込んでいた。
隣にいる相棒の愛理はドアに体を押し付けながらもスピーカーを使って道をあけるよう誘導している。
誰よりも早く現場に到着し、能力者を逮捕したかった。
普通と少し違った能力があるというだけで過信し、犯罪行為にも簡単に手を染める憎き能力者たち。
自分達が至上と心底思い、一般人を無能、非力とし、残虐な行為もいとわない。
こんな奴らさっさと全員殺してしまうべきなんだ。

能力者と呼ばれる人間がいつから“いる”のかはわからない。
それでも事件が表面化し始めたのは2008年4月13日から始まった『粛清』事件からだ。
2008年4月13日 都内某所にて男性遺体が発見。現代の科学では解明も実行もしえない切断方法での失血死。
同16日 都内某所にて男性遺体発見。遺体は氷漬けにされており、熱湯をかけても炎で炙っても解凍することが出来なかった。
以降、数日起きに不可思議な事件が発生していた。
警視庁ははじめ一般の事件と同様に捜査していたが、捜査が進むにつれ常軌を逸している事件たちに解決の糸口を発見できずにいた。

723名無しリゾナント:2012/08/07(火) 04:37:13
解決ではなく、解明の糸口が見えたのは最初の事件より1ヵ月以上も後の2008年5月22日だった。
深夜にパトロールをしていた同期のエリカが不審な男性に職務質問をかけたのがきっかけだった。
その男は覚せい剤を打った直後のように目は血走り、口から泡を吹きながら意味不明の文言を並べていた。
所轄に連れ帰り、薬物検査をするが反応はなし。
しかし、まともに会話が出来ない。
精神錯乱者として処理しようとした矢先、大勢の署員が見守る中その男は宙に浮いた。
備え付けの防犯カメラで何度も繰り返し見た映像。
その男は何もない所で確かに浮いていた。

「粛清せよ。裏切り者は粛清せよ。我々の任務遂行に仇なす者共よ、凡人共よ、よく聞け。
我々は粛清を続行する。立ちはだかる者共々、木っ端微塵に叩きのめす。言葉通り木っ端微塵だ。
我々が神より与えられし、この能力。これを使い集め世界を混沌へ陥れるのだ。
それこそが我々が望むユートピアだ。粛清せよ。裏切り者は粛清せよ」

スピーカーを使っているかのような大声で男は叫んだ。
そして・・・周りに何もない状態-----当たり前だ。空中に浮いていたのだから-----その状態から首から頭部が吹き飛び、唖然としている署員の目の前で今度は体ごと発火した。
この3分に満たない映像はたちまち警視庁上層部より内閣に報告された。
時の総理大臣は「隠蔽しろ」と指示し、警察は全力で隠蔽にあたった。

724名無しリゾナント:2012/08/07(火) 04:37:45
しかし、2009年2月26日。
能力者が郵便局に人質をとり立てこもる事件が起きた。
郵便局と路上の防犯カメラより犯人が能力者であることは判明していた。
そこでPECT(exceptional power corresponding team特異能力対応チーム)が出動した。
私とエリカ、栞菜の3人だ。
その頃は何をどうしていいかわからない上層部が形だけ作ったPECTに私たちを配属させ、関連するとされていた事件を詳細に記憶させていた時だった。
この時点では能力の多様性も、攻撃の方法も、何もかもが分からなかった。
そんな私たちを現場に出してどうやって解決しろと言うのか・・。

今までの事件により特異な殺害方法ばかりに目をとられていた。
能力は物理的なものだと疑う余地もなかった。
実際郵便局に進入したのは能力を使い、入り口を破壊したからだった。
それを見ていた私たちは機動隊と似たような格好をし、郵便局へと近寄った。
内部の状況を窺い知るためだ。

パンッ

乾いた音が響き渡ってすぐに私は音がした方向へと走り出した。
エリカが無表情に栞菜を見下ろしていた。
手には拳銃が握られており、栞菜の右足から地面に向かって血が流れていた。
その時、私は叫んでいたように思う。
だけどその声を自分で認識する前にもう一度銃声が鼓膜を振動させた。
エリカは栞菜の左足を撃った。

私はすぐさま麻酔銃をエリカに向かって発射した。
対能力者用の麻酔銃だ。
エリカはすぐに昏睡し、地面に倒れた。

まわりの警官に合図を出し、2人を運び出した途端、中から数人の郵便局局員が警官に向かってきた。
まるでゾンビのように。
もうわけが分からなかった。
とりあえず攻撃してくる者全てに麻酔銃を打ち込んだ。
私の目の前でばたばたと倒れる局員。
襲ってくる局員がいなくなった時に郵便局を見ると、中はもぬけの殻だった。
騒ぎに乗じて犯人は奪い取った金を持ち逃げ去ってしまったのだろう。

725名無しリゾナント:2012/08/07(火) 04:39:09
局員を保護し、エリカと共に後日事情聴取をするとみな口をそろえ「覚えていない」の一点張り。
何時間も粘り聞き出した結果、精神を操られた可能性が高いということだった。
「真っ黒なモヤが胸のあたりからこみ上げてきて頭の中を占領する」
全ての人間が共通して証言した。
能力には精神を操るものも含まれる。
それが判明しただけでも一歩前進だった。
この事件は「226事件」としてPECT内では重要な案件の1つとされている。
栞菜は結局この時受けた傷がもとで辞職し、エリカは精神操作中の不幸な過失事故として3ヶ月の停職になった。
私自身へのお咎めは全く無かったが、PECTのチームリーダーは外された。
というか、3人だけのお飾りチームではなくPECTとして本格始動するに当たり増員し4つの班に細分化したのだ。
私はその1班のリーダーをしている。

立ち上げ当初は何も分からず、任務として与えられたから能力者を追っていた。
だけど今は違う。
私は心の底から能力者が憎い。
栞菜を辞職に追い込み、エリカを眠らせた能力者達が憎い。




世界を混沌へと陥れる?
やってみろよ。その前に必ず私が---私たちがお前達を捕まえて、殺してやる。

726名無しリゾナント:2012/08/07(火) 04:43:04
>>722-725
ttp://www35.atwiki.jp/marcher/pages/186.html
リゾナンター外伝 能力者を憎む女刑事 に触発されて書きました。
なので、作者様がよければ 能力者を憎む女刑事Ⅱとさせてください。
舞美のイメージは「らん」の殺陣時の表情ですw


どなたか代理投稿をお願いいたします。

727名無しリゾナント:2012/08/07(火) 21:00:26
どり行ってくるか

728名無しリゾナント:2012/08/07(火) 21:14:26
行ってきました
スレタイ嫁やと言ってやろうと思ったがこういう設定というか独自の世界観を説明してる話好きなんだよね
リゾナンターを絡めたⅢも期待したいものだが

729名無しリゾナント:2012/08/08(水) 00:15:32
>>728さん。ありがとうございます。
まずい所があったでしょうか?
とても久しぶりに帰ってきて勢いだけで書いてしまったので、良くない所があれば教えていただきたいです。
リゾナンターはⅢにちょこっと出てきますが、スピンオフが良くなければ辞めにします。

730名無し募集中。。。:2012/08/08(水) 05:02:18
あれま
もし気を悪くしたのならごめんなさいね
リゾナンターとか娘。を卒業した誰かが登場してないことに少し違和感を覚えたんだけど話のテイストは好きです
リゾクラ作者さんもリゾナントされて喜ばれたみたいですし、Ⅲの構想があるのなら勢いのまま突っ走ってしまってくだされ
投降できないときは代理させてもらいます

731名無しリゾナント:2012/08/09(木) 16:36:03
『ハロー!SATOYAMAライフ』

〈One 私の気持ち〉

1−1

愛佳は身体の自由を奪われていた。
全身に木の蔓が何重にも絡みついている。
目の前の少女は植物を意のままに操ることができるらしい。
少女は近くの大木を鞭のようにしならせ、愛佳へ振り下ろそうとする。
その時、二人の間の空気が歪んだ。
驚いた少女は動きを止める。
歪みはみるみる大きくなり、その中から二人の女の子が手を繋いで現れた。
「みつみつみつみつみついさーーーん!」「光井さん!」
「佐藤!……鈴木!?」
愛佳は一瞬嬉しそうな顔をしたが、すぐに困惑の色を浮かべた。
「佐藤!田中さんを連れて来てってゆうたやんか!」
「すみませーん、まーちゃんだれだったかわすれちゃって〜、
あのときおみせにすずきさんとくどぅーしかいなくて〜
そしたらくどぅーがすずきさんでいいんじゃないってゆって〜、
まーちゃんはだめかなあっておもったんですけど〜、くどぅーがそうゆうから〜」
「人のせいにすんな!」
「がびんぼよーん」

732名無しリゾナント:2012/08/09(木) 16:36:33
1−2

その数か月前、愛佳はリゾナンターを去っていた。
理由は自らの病気だった。
全身の骨が脆くなる難病で、有効な治療法はない。
さいわい日常生活には支障はなかったが、戦闘に参加するのは無理だ。
みんなに迷惑をかけたくないと、愛佳は自ら離脱した。
そして、敵から身を隠すため、遠く離れた田舎に移り住んだ。
愛佳はそこで、大学の通信教育を受けながら、簡単な農業を営む生活を始めた。
もちろん何か予知できたことがあれば、リゾナンターに伝えていた。

ある日の夕方、畑に小松菜の種をまき終わったとき、何者かに襲われる映像が見えた。
愛佳は急いで佐藤に電話をした。
佐藤には瞬間移動の能力がある。
高橋がいない今、愛佳に何かがあれば、佐藤が「飛んで」来ることになっていた。
佐藤は瞬間移動するとき、一人だけ同行することができる。
敵と戦闘になると考えた愛佳は、佐藤にれいなを連れて来るよう頼んだ。
そして電話を切って数分後、その敵は現れた。

733名無しリゾナント:2012/08/09(木) 16:37:20
1−3

「私がまーちゃんに頼んだんです。光井さんの力になりたくて。」
「……鈴木、あんたの気持ちはうれしいけど、そういう問題ちゃうねん…。
佐藤、次に皆のところまで「飛べる」ようになるまでどのくらいかかる?」
「えっとー、あと10ぷんちょっとですかねえ。」
佐藤はまだ能力をうまく使いこなせていない。
長距離の移動は力を大きく消費するため、連続で行うことができなかった。
愛佳はつぶやいた。
「往復で30分弱か…」
一方、鈴木は仁王立ちで敵の少女を睨みつけている。
「まーちゃん、どっかに隠れてて!」
「はいっ!」
不穏な空気を察知した佐藤は、鈴木の指示通りその場から離れた。
「新しいリゾナンターか!ちょうどいい。まとめて血祭りにあげてやるわ!」
少女は柔和な顔立ちをしていたが、瞳の中には「黒さ」が透けて見えた。
岩陰に隠れた佐藤は、それを敏感に感じ取り、ガクガク震え出した。
少女がさっと手を振る。
瞬時に無数の蔓が鈴木の体に巻き付く。
鈴木は微動だにせず少女を睨みつけている。
その態度が少女の残虐性に火をつけた。
「気に食わない目だねえ…。脳みそぶちまけなああ!」

734名無しリゾナント:2012/08/09(木) 16:37:55
〈Two ピタッと当ててね〉

2−1

少女は大木を凄まじいスピードで鈴木の頭に振り下ろした。
ドゴッ!
大木が地面にめり込み、鈴木に巻き付いていた蔓が一瞬でつぶされる。
しかし、鈴木の体はそこにない。
鈴木は能力を使って全てをすり抜け、少女の前に立った。
「なにっ!?」「でええええいっ!!」
鈴木の右足が低い弧を描く。
強烈なローキック!少女の左足が折れる!
「ぎゃああっ!!」
少女は蹲った。
鈴木は少女を見下ろし、淡々と告げる。
「降参してください。さもないと、次はその首を折ります。」
少女は何も答えない。
鈴木は少女の降伏の言葉を待った。
それは、実戦経験の乏しさによる彼女の甘さだった。

735名無しリゾナント:2012/08/09(木) 16:38:36
2−2

突然近くの大木の枝が少女を掴み持ち上げた。
そして地上5メートルほどの高さの自らの枝に少女を据えた。
暗さを増した曇天を背景に、少女は凄まじい形相で叫んだ。
「透過能力か!ちくしょう…調子に乗りやがってええ!」
少女が手を振ると、近くの別の大木が動きだし、猛スピードで襲い掛かる。
ただし、その標的は鈴木ではなく、身動きの取れない愛佳だった。
「しまった!」
鈴木が走り、愛佳に覆いかぶさる。
そこに大木が振り下ろされた。
「うッ!!」
鈴木は自らの背中で大木を受け止めた。
口から夥しい血が溢れ出る。
「鈴木!」
「…すみません…、やっぱりわたし…だめですね…」
「そんなことない!」
叫ぶ愛佳の足に地面の振動が伝わる。
少女を乗せた大木が、太い根を二本の足のように動かして近づいてきた。
「あれあれ〜、お嬢ちゃあん、お得意の透過能力はどうしたの?あーっはっはっは!」
愛佳の顔つきが戦士のそれに変わった。

736名無しリゾナント:2012/08/09(木) 16:39:38
2−3

「佐藤!短い距離ならすぐ飛べるか?」
佐藤はいつの間にか愛佳のそばにいた。
先ほどまでの怯えた様子は消え、凛とした表情をしている。
「やってみます!」
佐藤が愛佳の手をとった。
愛佳は佐藤に目で行先を告げる。
「ぐるぐる!じゃーんぷ!!」
佐藤が、そして愛佳が消えた。
あとには愛佳を縛り付けていた木の蔓だけが残っている。
「ちっ、逃げる気かああ!」
ドサッ!
樹上の少女が叫んだ直後、二人が落ちてきた。
そこは数百メートル離れた畑の中央。
「あははっ!遠くまでは飛べなかったみたいだねえ」
少女を乗せた大木が巨人のように歩を進め、二人にぐんぐん近づいていく。
鉛色の空から大粒の雨粒がぽつぽつと落ち始めた。
(ここでよかったんですか〜?)
(うん、当たりや、ピタッとな)
雨に濡れた愛佳の口角が上がった。

737名無しリゾナント:2012/08/09(木) 16:40:20
〈Three ポロッと本音の〉

3−1

「佐藤、どっかにかくれとき」
「いやです!みついさんといっしょにいます!」
「……わかった。離れたらあかんで」
手を繋いで立っている二人のもとに、大木の巨人が近づいてくる。
地中から木の根が次々に這い出して来て二人に絡みつく。
愛佳の手を握る佐藤の手に力がこもる。
二人から数メートル手前まで近づいて巨人は立ち止まった。
「もう死ぬ覚悟はできたかな〜?」
最期の一撃を加えるべく太い枝が腕のように高々と振り上げられた。
「これで終わりだ!死ねえええええ!」
来る!
佐藤がそう思った瞬間、難く閉じた瞼越しにも分かる強烈な蒼白い光を感じた。
同時に、この世が終わるかと思えるほどの大轟音が響く。
そして、佐藤の耳にはキーンという音しか聞こえなくなった。

738名無しリゾナント:2012/08/09(木) 16:41:13
3−2

聴覚が少しずつ蘇るに従って、雨音が大きくなっていった。
佐藤は恐る恐る目を開ける。
眼前には煙を上げている焦げた杉の大木。
その横にあの少女が倒れていた。
二人に絡みついていた木の根は、力を失って地面に落ちている。
呆然として動けない佐藤を残し、愛佳は少女に近づいていった。
「生きとるか?」
「……か、かみなりか…、
きさま…、ここに落ちるのが見えて…たんだな…」
「見えたのはついさっき、鈴木がお前と戦ってくれている間や。」
愛佳は鈴木の方を一度見て、そして再び少女の方を向いた。
「……お前は誰だ?どうして私を襲った?」
「…わたしは…力を…示さなくちゃいけないのよ…、
 …組織に…わたしたちの力を認めさせるために…」
「組織?組織って何や!ダークネスか!」
「……」
愛佳の質問に答える前に少女の意識は途切れた。

739名無しリゾナント:2012/08/09(木) 16:41:52
3−3

しばらくして佐藤が飛べるようになり、さゆみを連れて来てくれた。
さゆみはまず鈴木を治療した。
重傷だったが、数分後には満面の笑顔が戻った。
次に、少女を治療すべくさゆみと愛佳は、畑の真ん中へ向かった。
しかし、そこには焦げた大木があるだけで、少女はいなかった。
さゆみは数日前自分を襲ってきた黄色いTシャツの少女を思い出した。
譜久村によれば、あの武道家の少女も、いつの間にか姿を消したらしい。
動けないほどの重傷だったのにいなくなったということは、やはり仲間がいるのか。
さゆみは眉を顰めた。
しばしの沈黙の後、さゆみは愛佳の方を見て言った。
「ここ、ばれちゃったね。また引っ越すの?」
「そうですね…。」
「本当に災難だったね」
「まったくですわ。……でも、本音言うと少し嬉しかったです」
「嬉しい?」
「はい…。愛佳、もう一度リゾナンターとして戦ってみたかったんです。
新しく入ったあの子たちと一緒に…」
愛佳は優しさと切なさの入り混じった眼差しで、鈴木と佐藤の方を見た。
二人は蛍を追っかけてキャーキャー走り回っている。
「……。」
さゆみは愛佳に掛ける言葉が見つからず、闇に包まれた里山をぼんやり見つめていた。

740名無しリゾナント:2012/08/09(木) 16:43:37
《Endingでーす》

大木に雷が落ちたその時。
里山の中腹あたりに一人の女性が立っていた。
その指先では蒼白い光が微かにはぜている。
「世話が焼ける後輩たちだね〜。
 まあ、裏切った私のこと、もう先輩だなんて思ってないだろうけど」
口調はぶっきらぼうだが、その目元はやさしく緩んでいた。
愛佳たちの無事を見届け、彼女は表情と心を作り直す。
「報告でーす。No3はミッションに失敗、あとで回収お願いしまーす。」
冷めきった声色で通信機にそのように告げると、彼女はくるりと向きを変えた。
そして冷たい雨に濡れながら、暗い獣道を歩き始めた。

おしまい
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
以上、『ハロー!SATOYAMAライフ』でした。
『「リゾナンター。大好き」』の続編です。
小春があえて裏切り者になっているという設定を使わせてもらいました。
なお、敵の少女のモデルは、(仮)の緑です。ちなみに(仮)の中で私の一推しです。

741名無しリゾナント:2012/08/09(木) 16:44:21
=======================================
>>731からここまでです。
 お好きなところで分割していただいても構いません。
 お手数おかけしますがよろしくお願いします。
 イーモバイルの規制はいつ終わるんでしょうかねえ…。

742名無しリゾナント:2012/08/10(金) 15:28:37
行って来ますかね

743名無しリゾナント:2012/08/10(金) 15:40:26
最後中々書き込めなかったけど完了
前作とは違って愛佳の心境に少しホロリとさせられました
…自分もイーモバ持ちですが解除の期待はしてません
多分時限解除のコースなのか?

744名無しリゾナント:2012/08/10(金) 20:31:43
742さん、投稿ありがとうございました!
イーモバ、解除は望み薄ですか…がびんぼよーん
お手数をおかけして申し訳ありませんが
今後もよろしくお願いします

745名無しリゾナント:2012/08/11(土) 00:03:11
 心の檻は澱んでいて、歪んでいて、ひどく不味くて。
 振り払い。掻き消して。千切って。破って。潰して。

 それでも尚、纏わりついたそれが拭われることはなく。

 漆黒で。真っ暗で。くらやみで。
 視えなくて触れられなくて掴めなくて永くは続かないことを知っている。
 照らすことは出来るけど。
 照らすことしか出来なくて。

 粘性の闇。 重くのしかかって不快に思う。
 消去法の生き方だけど、進む事しか出来なかった。

 結局、ソレに向かって歩んでいく。 死に方の模索を行う。
 生き方を選ぶと同時に、ヒトは逝き方を選んでいる。

 命の選択だ。ヒトは、常に命の選択をし続けていた。
 其処はステージ、命の、オーディション。
 
  ヒトは"再生"を望む。
  犬掻きの人生の中で、妥協する命を保持する為に。

 "Reborn" ― それでも知っていた、その意味する所はいつだって犠牲の上に― 。

746名無しリゾナント:2012/08/11(土) 00:06:15
  「ハァ…ハァ…ハァ…!」

動揺と恐怖、様々な感情で引きつった表情を浮かべながら少女は走る。
肺の中から絞るように酸素を吐き出すが、限界に近かった。
制服を着込む女子生徒の手には黒ずんだビー玉のような球体が一つ。

 「そろそろ夢も終わりにしよう」

女子生徒が足を止める。
何故なら後ろから追いかけているはずの"影"が、急に眼前から聞こえたからだ。
踵を返して逃げようとするが、足がもつれて地面に倒れ込む。

 何度も繰り返していた。まるで見えない壁でもあるかのように。

じわりとした痛みを感じながら、それでも足掻く様に手を胸元に抱くようにして身体を丸める。

 「来ないで、来ないでよ!」

声を荒げるが、彼女の表情は変わらない。手にはカタナが握られており
見上げれば夜なのに場違いなほど晴れ晴れとした青空が広がっている。
異様な少女に狙われてしまった時点で、女子生徒には成す術が無かった。

 「それはアンタに何も手に入れさせてはくれんよ。幻を見るだけで満足するんだ?」
 「なにも、何も知らないクセにっ!」
 「知らないよ。でも自分がよく判ってるんじゃない?自分の夢なんだから」
 「そ、そうよ、だから私の勝手じゃない!幻だって私は…」
 「でも決して触れない」
 「っ…!」

747名無しリゾナント:2012/08/11(土) 00:07:15
 「それはアンタに何も手に入れさせてはくれんよ。幻を見るだけで満足するんだ?」
 「なにも、何も知らないクセにっ!」
 「知らないよ。でも自分がよく判ってるんじゃない?自分の夢なんだから」
 「そ、そうよ、だから私の勝手じゃない!幻だって私は…」
 「でも決して触れない」
 「っ…!」

 「それで満足するってことは、もうアンタにはその夢を諦める事になる。
 それでもいいなら、私は何も言わない」
 「私は……私、は…だって、だって…」
 「諦めてないんじゃろ?アンタはまだ大切にしてる、それを忘れないで」
 
女子生徒は悟ったように、頭を俯かせた。
指先からこぼれる球体にカタナを向ける。一閃。
ヒカリを呼んで、ヒカリを送るように。眩しい光が全てを包みこみ、奪う。
人のココロであったはずのソレ。 
そして、"誰か"のココロであるソレ。

やがて光が消えて行ったかと思うと、少女は訝しげに首を傾げる。
黒ずんだビー玉のような球体を指でコロコロと角度を変えて、溜息をつく。
ああ、またか、と。
 
 「三つ目の偽物…か」

錯乱?理由は?誰が?
だがこれは特殊な品物。こうした技術を扱えるのは限られてくる。
それほど焦る必要もないだろう。

 "共鳴者"であれば、いつか必ず会うことになるだろうから。

748名無しリゾナント:2012/08/11(土) 00:21:58
以上です。
※この作品は9期が基本出て来ます。
4人の人物像は1年前、10期加入前のイメージを参考中。
http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/577.html←作品まとめ

-----------------------------------------------ここまで。
いろいろと書き込んだりしてレベルを上げたかったんですが
一定を越えるとやりなおされてしまうのでもう涙目ですorz
またしたらばの方でお世話になりますが、いつでも構わないのでよろしくお願いします。

749名無しリゾナント:2012/08/11(土) 22:48:55
 「それはアンタに何も手に入れさせてはくれんよ。幻を見るだけで満足するんだ?」
 「なにも、何も知らないクセにっ!」
 「知らないよ。でも自分がよく判ってるんじゃない?自分の夢なんだから」
 「そ、そうよ、だから私の勝手じゃない!幻だって私は…」
 「でも決して触れない」
 「っ…!」

の部分が重なってますけどこのまま転載して大丈夫ですか?

750名無しリゾナント:2012/08/11(土) 22:53:26
あ、ホントだΣ
そこは修正してくださると幸いです。すみません…。

751名無しリゾナント:2012/08/11(土) 22:57:52
>>747の方を削除してもらえると助かります。

752名無しリゾナント:2012/08/11(土) 22:58:21
分かりました
ほんじゃ行ってきます

753名無しリゾナント:2012/08/11(土) 23:04:39
行ってきました
言葉の感覚が独特で不思議な世界をかもしだしておられますね
続きを楽しみにしてます

754名無しリゾナント:2012/08/14(火) 14:59:41
>>924-926 の続き。

あの人に報告をして眠ろう、明日も学校だ。
勉学が面倒に感じたりもするが、それ以外は楽しい日々を過ごしている。
そういえばかのんちゃん、数学のテストが悪くて落ち込んでたな。
算数の応用なのだから、それほど難しくはないと思うけど。

それでもヒトには得意不得意がある訳で、この前、給食で苦手なものを
食べてくれたのだから、何かお返ししないといけないな。
携帯電話を取り出す。
あの人によれば通信履歴が一切残らない代物らしく
早速使ってくれと来る前に持たされたものだ。

――― あの人には本当に感謝している。
 自分のような人間に優しくしてくれたし、何よりもこれまで何不自由なく
 やらせてくれたのはあの人の存在があってこそだとも思う。
 …少しだけ過保護のように感じるのは気のせい、じゃない。

学校に入学すると言ったらいろいろと仕入れてくれたのだが、セーラー服
だと知るとそのサイズや生地などのデータを全てパソコンに取り込んでは
"カスタム制服"の基本骨子や構成材質の変更や補強などを念入りにしてくれた。
あの人的には多分、相当好みだったらしい。
メガネ着用も促されたが、壊しそうなので断った。
視力は常人並以上にあるのだから、必要がなかったのもある。
少し寂しそうにしていて、悪い事をしたかなとは思ったのだが、その後に
また何かを取り出してきた事でその場を逃げてしまった。全力で。

755名無しリゾナント:2012/08/14(火) 15:00:51
建物の壁に横たわらせて、少女はその場を後にする。
小さくあくびをした。
よく吠える近所の犬もすっかり寝息を立てている時間。
少女―― 鞘師里保もすでに意識は早く帰って寝たいという方向に進んでいた。

 「そういえば桜も散っちゃったな」

鞘師が転校して数日が経った頃、臨時の大掃除が行われた。
咲き過ぎた桜の花びらを竹ぼうきで丁寧にかき集めるというもの。
中等部の敷地で、鞘師は鈴木とたくさんの生徒に混じって懸命に掃除をした。
鈴木と仲の良い同級生がデッキブラシを振りまわしていたが、すかさず鈴木は
それを注意して掃除に加わるように促していた。

何気にしっかりしている彼女。面白いけど、いつも堂々としていて、笑っていて。
食べることが好きで、時々コントをしようと言ってくる。
鞘師自身とはきっと、真逆の人なんだと思うけど、少しだけ、羨ましい部分でもあった。

 だけどきっと、望んじゃいけない部分でもあるんだと、思う。

それに彼女との繋がりは別の目的がある、本人には言えないけれど。
言う事はできないけれど…きっと、彼女は、"彼女達"は怒るだろうから。
確信がない今は。
今はまだ、この関係のままで。

鞘師の瞳は朱色に混じり、水のような透色が漂っていた。

756名無しリゾナント:2012/08/14(火) 15:02:24
ゴールデンウィークを過ぎれば梅雨を待つだけ。
気付けば春は何処かへ行ってしまい、夏の前っぽい気配を汗のにじむ
首筋にひしひしと感じる。

もう半袖でも良いかな?と思えば、雨は降らずとも湿気と共に気温が下がり
長袖で良いかと思えば、からりと晴れる。
五月晴れ、天晴れだ。
間を取って半袖の上にカーディガンを羽織ったり。
そんな事をしている内に五月は終わろうとしていて、あとは梅雨入りを待つだけ。

 「香音、空から降ってくるカキ氷ってなーんだ?」
 「氷って言ってる時点で答えになってるじゃん」
 「あ、思わず心の声が」
 
彼女の残念な質問に、鈴木香音は残念そうに答えた。
入学して2ヶ月近くにもなると、もうすっかりお馴染の光景になっている。
ソフトボールの部活もそれなりに頑張っているが、レギュラーになるには
まだまだ道のりは長い。

 「そういえば里保ちゃんは?」
 「んーなんか先輩に呼ばれて行っちゃった」

転校生として注目を浴びていた鞘師は、上級生から部活の誘いを何度も受けていた。
意外と身体能力もあったり、器用だったり、何でもそつなくこなすという事もあり
運動系と文科系どちらとも適応すると見えたらしく、連日教室に先輩が顔を出すといった
ことなども少なくは無い。
ただ細身の体型ということもあって、鈴木に勧誘を任される事はなかったが。

757名無しリゾナント:2012/08/14(火) 15:04:09
正直に言えば、帰宅部の方がいいんじゃないかとも思うけれど。
あの日から、静かな時間が過ぎていた。

昨日は今日にかき消されていく。
日常は、日常でしかいられなくて。
日常は、日常にかき消されていく。
そうして世界は今日も変わらずに、変われずに其処に在って。
ただ、なんとなくの日々が、なんとなく過ぎていく。

あくびをしているうちに、通り過ぎて行く時間。
知らない筈の空は、今日も同じように見える。
明日も、同じ。
世界は変わっていない、変わっていない。


呼吸をしている間に、六月へ。

758名無しリゾナント:2012/08/14(火) 15:12:58
以上です。
この話は戦闘面というよりは生活面重視になってます。
少しこんな感じに続くと思うので、ご了承のほど(平伏

---------------------------------------ここまで。

次スレが立つのであればそちらでも構わないので、よろしくお願いします。

759名無しリゾナント:2012/08/15(水) 18:46:56
新スレも立ちましたのでそろそろ行きますか

760名無しリゾナント:2012/08/15(水) 19:05:23
いってまいりやした

761名無しリゾナント:2012/08/15(水) 21:11:43
『超・戦慄迷宮』

〈One 構って欲しくて〉

1−1

「むり〜!むり〜!みずき〜、引き返そうよ〜!」
「もう、えりぽん!次の脱出口までは頑張ろう!田中さんに怒られるよ!」
「いや〜〜ん!」
生田は譜久村の背中にぴったり貼りついていた。
二人はれいなの命令でとあるお化け屋敷に来ていた。
生田と工藤のお化け嫌いがあまりにもひどいため、鍛え直そうという狙いだった。
だが、一緒に来た工藤は泣きじゃくって嫌がり、柱にしがみついて離れなかった。
譜久村はそんな工藤の様子を十分に堪能した後、生田を引きずりお化け屋敷に入った。
「おかしいおかしい!なんでくどぅーは入らなくていいとー?」
「くどぅーはまだ可愛い子供でしょ?
えりぽんは来年高校生になるんだからもうしっかりしないと!」
「もう!くどぅーとは二つしか変わらんのに!」
お化け役の人が物陰から飛び出すたびに、生田は絶叫を繰り返した。
生田が怖がれば怖がるほど、譜久村はそれがおかしくて逆に怖くなくなっていった。

しばらく歩いて行くと、なぜかお化け役の人がぱったり現れなくなった。
不思議に思いつつさらに進むと、廊下の先が壁で行き止まりになっていた。
(おかしいなあ…コースを間違えちゃったのかなあ)
譜久村が首を傾げる。生田は目をきつく閉じたままだ。
(少し「読みとって」みようかな)
譜久村は、能力を使ってみた。

762名無しリゾナント:2012/08/15(水) 21:12:18
1−2

譜久村には残留思念を感じ取る能力がある。
譜久村は壁に触れ、様々な思念を読み取った。
するとその中に懐かしい思念があるのを感じた。
(あれ?これ、新垣さん?)
譜久村は驚いた。
新垣は数か月前からリゾナンターを離れ、単独行動している。
思念とはいえ、久しぶりに新垣に触れ、譜久村は嬉しくなった。
(新垣さんもここに来てたんだ〜。ふふっ、新垣さんもお化け怖がってる。
ん?「カメをたあすけにきましたあ」って、亀井さんもいらしたの?)
譜久村がリゾナンターに入った時、亀井絵里はもういなかった。
しかし、さゆみから写真を見せられた譜久村は、一瞬でその可愛さの虜になった。
譜久村は絵里の思念を捜し当て、恍惚の表情でそれをむさぼった。
(亀井さ〜ん、こんなところであなたの心に触れられるなんて、みずき、幸せです〜)
「ねえ、みずき〜、どうして進まないの〜?」
立ち止まって動かない譜久村に疑問を抱いた生田が質問する。
譜久村は絵里の思念を辿るのに夢中で答えない。
「ねえ!何で構ってくれんと〜!みずき!みずきー!」
生田に揺さぶられようやく譜久村は我に返った。
そして、口元にたれているよだれを拭いながら生田に謝った。
「ごめん、ごめん。ところでえりぽん、私達、コースを間違えちゃったかも?」
「えっ、みずき、間違えたの〜!?」
「間違えてないよ!」
突然、聞きなれない声が響いた。

763名無しリゾナント:2012/08/15(水) 21:13:05
1−3

「誰!?」
二人が声の方を向くと、行き止まりの壁の前にピンクに光る一人の少女がいた。
少女は意地悪そうな笑みを浮かべつつ言った。
「誰って、お化けに決まってるじゃない。お化け屋敷だもん」
「ギャーーーーー!」
生田が叫ぶ。少女は続ける。
「私、あなたたちを殺さなきゃいけないの、ごめんね」
そう言うと、少女の体が明るさを増す。
同時に周囲の温度が急激に上昇し始めた。
「暑っ…」
「苦しい…」
譜久村と生田の顔が歪んだ。
ふと見ると、少女の近くの壁の張り紙が黒くなり始めている。
少女の体からものすごい熱が発せられているらしい。
二人は少女から遠ざかろうと、進路を逆走した。
10歩ほど進んだ時、譜久村は新垣の思念の中にあった言葉を突然思い出した。
(ギブアップはだめ!)
「えりぽん!」
譜久村が先行する生田の手を掴み引き戻す。
ガラガラッ!
生田の鼻先を掠めて、上から数本の鉄骨が落ちてきた。

764名無しリゾナント:2012/08/15(水) 21:13:50
〈Two 触って欲しくて〉

2−1

少女が感心したように言う。
「ふーん、罠に気付くとはなかなか勘が鋭いみたいね」
「みずき、サンキュ」
「うん。…でも、みずきたち、閉じ込められちゃった」
折り重なった鉄骨は完全に退路を塞いでいた。
二人が戸惑っているその間にも少女の放つ熱は激しさを増す。
命の危険を感じたせいなのか、それとも「キレた」のか、生田の目つきが急に変った。
「みずき、二人であのお化けを倒すしかないっちゃ!」
生田の能力は精神破壊。
リゾナンターに入る前、生田はその力を無差別にまき散らすだけだった。
しかし、精神系のスペシャリスト新垣との鍛錬が生田を成長させた。
今では破壊する方向をある程度制御できるようになっている。
「えええい!」
生田は目の前の少女にありったけの精神破壊波をぶつけた。
しかし、少女には何の変化も起きない。
「あれ〜、効かんと!?」
「えりぽん、お化けにそういう攻撃は効かないのかもしれない」
おバカ、もとい天然な譜久村は目の前の少女をお化けと信じてきっている。

765名無しリゾナント:2012/08/15(水) 21:14:20
2−2

二人は顔を見合せ、無言で頷いた。
こうなったら高橋やれいなに鍛えてもらった体術で勝負するしかない。
打撃程度の接触なら、少女の熱にも耐えられるかもしれない。
生田と譜久村は少女へ突進した。
だが、その考えは甘かった。
二人の攻撃は当たらない。
いや、当たっているはずなのだが、全く手ごたえがなかった。
その間にも猛烈な熱さが二人の体力を急速に奪っていく。
力尽きた生田がその場に倒れた。
「ハアハア、…。」
譜久村ももう限界に近かった。
その場に膝をつき、コンクリートの床に手を付いた。
その時、コンクリートから新垣の思念が譜久村に入り込んだ。
(お化けは触んないよ。絶対に、絶対触れない約束になってるから!)
確かに少女のお化けは一度も直接攻撃してこない。
譜久村たちが今受けているダメージは彼女の発する熱によるものだ。
「こっちの攻撃が当たらないだけじゃなくて、向こうも触れないってこと?」
その時、譜久村の脳裏に疑問が浮かんだ。

766名無しリゾナント:2012/08/15(水) 21:14:58
2−3

物に触れないお化けが、なぜ鉄骨を落とすことができたのか?
鉄骨を落とすには、何かに触れなければならない。
ということはこのお化けには仲間がいるんじゃないか。
物に触れることができる、お化けではない仲間が。
その仲間を倒せば、何か攻略の糸口が見えるかもしれない。
譜久村はポケットから一枚の生写真を取り出した。
譜久村の持っている生写真には一枚一枚先輩たちの能力が染みこんでいる。
譜久村はその能力を読み取って、性能は劣るが一時的に使用することができた。
いま譜久村が手にしたのは高橋の生写真。
瞬間移動の能力は、譜久村にはまだうまく使いこなせない。
読み込んだのは精神感応の力。譜久村は外で待っている工藤に語りかけた。
(くどぅー!聞こえる?)
「ん?譜久村さん?」
工藤が、ポップコーンをほおばる手を止めた。
(くどぅー、今、お化けに襲われてて大変なの!助けて!)
「えーーーっ!お、お化けですか!ど、ど、どうすればいいんですか?」
(くどぅーの能力を使って見てほしいの。
 みずきのいる場所の近くに誰か人が見えない?)
工藤の能力は千里眼、離れた場所を「見る」力だ。
譜久村の口調に緊迫したものを感じ、工藤は何とか勇気を振り絞った。
泣きはらして腫れぼったくなった目を閉じ、譜久村の周囲を探った。
「えっとー……、あっ、見つけた!
譜久村さんのいるところの天井裏に女の人がいます!」
(くどぅー!ありがとう!)

767名無しリゾナント:2012/08/15(水) 21:15:39
〈Three 笑って欲しくて〉

3−1

お化けじゃないなら倒せる。譜久村は生田の肩を掴んで叫ぶ。
「えりぽん、起きて!」
しかし、生田は生気を失った表情で、ぐったりとしたままだ。
譜久村は新たに生写真を一枚取り出した。それはれいなの生写真。
れいなの能力は共鳴増幅。
譜久村は自らの能力を増幅させ、新垣の思念を自分の体に染みこませた。
譜久村の顔つきが変わる。
そして、新垣そっくりな声色と口調で叫んだ。
「コラー!生田ー!こんなところで寝ない!」
「えっ!新垣さん!」
生田はパッと飛び起きる。
意識は朦朧としているが、満面の笑顔できょろきょろ周りを見渡す。
「新垣さん、えりなを助けに来てくれたんですか!?
 やっぱり、二人は固い絆で結ばれてるんですね!」
譜久村は新垣の声で続ける。
「生田ー!天井に向かってKYパワーを放出しなさーい!」
生田はその声が譜久村のものだと気付いていない。
「はいっ!ぐふふふっ…」
生田は気持ち悪い笑い声を漏らしながら真上を向いた。
「新垣さんとえりなの愛のコラボレーショーン!!」
生田は両手を上に広げて「愛」とは程遠い恐ろしい能力を解き放った。
「ギャーーー!」天井裏から響く断末魔の声。
同時に、ピンク色に光っていた少女のお化けの姿が消えた。

768名無しリゾナント:2012/08/15(水) 21:16:29
3−2

生田は攻撃を止めない。
天井裏の誰かがのた打ち回る音がバタンバタンと響いていくる。
バリバリッ!ドサッ!
暴れる衝撃に耐えきれなくなったのか、天井板が割れ、少女が落ちてきた。
「えりぽん、もういいよ!」譜久村に制止され、生田は攻撃を止めた。
少女は落下の衝撃で意識を失ったようだ。
「…あれ…みずき!新垣さんは?」
「新垣さんはいないよ。あれはみずきが物まねしただけ」
「えー!新垣さんいないの〜?助けに来てくれたと思って超嬉しかったのに〜!!」
「それよりえりぽん、みずきたち、何だかよく分からないけど勝っちゃったみたい」
「ホント!?やった〜!イエーーイ!」
お化けの少女が居なくなったことを確認し、生田は譜久村と飛び跳ねて歓喜した。
落ち着きを取り戻すと、二人は改めて目の前の少女をよく見た。
その少女は先ほどまで戦っていたお化けと全く同じ姿をしている。
「みずき〜、これ、どういうことかいね?」
「う〜ん、多分だけど、これ、生霊ってやつじゃないかな。」
「いきりょう?」
「うん、みずき、前に聞いたことあるんだけど、
生きている人でも恨みが強いと、幽霊になることができるんだって」
「じゃあ、えりなたちが戦ってたのは、この人のいきりょうってこと?」
「たぶん、間違い無いと思う」
「ふ〜ん、みずきは物知りっちゃねえ」
生田は尊敬の眼差しで、照れながら少しドヤ顔をしている一歳年上の同期を見つめた。

769名無しリゾナント:2012/08/15(水) 21:17:10
3−3

「大間違いだよ!」
カメラとマイクでこの様子を監視していた白衣の女性が突っ込む。
「生霊なんてあるわけないでしょ!
 自分の分身を作り出せる能力者がいることぐらい想定できないの!?
 比較的まともそうな譜久村って子でもこれかあ…。
 新生リゾナンター、これから大丈夫なの?
 まあ、私が心配することじゃないんだけど…」
白衣の女性はコーヒーを一口飲み、独り言を続けた
「…それにしても、この子もミッション失敗かあ。
 三人とも中々の能力を持ってるし、良い所までいったんだけど、
 詰めが甘いというか、運がないというか…」
「今回もダメですかー?」
「小春?もう!入る時はノックぐらいしてよね!」
「ほーい。でも今回はかなり周到に準備してましたよね〜
 あの子たちがお化け屋敷に行くって話しているのを盗聴して、
 前もってお化け屋敷のコースにも細工して…」
「うん、あれだけバックアップしてあげても勝てないってことは、
 やっぱりあの子たちは使えないってことかもね」
「あと四人残ってますけど、上はどうするつもりなんすかね〜。
…でも、どうして自分でお化け屋敷に行って監視しなかったんすか?
 面白い能力だって興味津々だったじゃないっすか?」
「…私、前にあそこねぇ、行ったんだけどねぇ、泣いて入口に戻って来たよ…」
「…そーっすか…。その気持ち…、すんごくよく分かります…」

770名無しリゾナント:2012/08/15(水) 21:17:51
〈Endingでーす〉

決着がついた直後、三人の様子を見にれいなが工藤の前に現れた。
工藤が状況を説明していると、譜久村が高橋の能力を使いそこに加わってきた。
事情が分かると、れいなは金魚のフンのようについてきていた佐藤に指示した。
おかげで譜久村と生田は容易に外に出られた。
「生霊!?何それ、こわっ!」
「たなさたん、むしだけじゃなくて、おばけもこわいんですか〜?ぷふっ」
「うるさいなあ!本物のお化けやろ?佐藤だって本物は怖いっちゃろ」
「まーちゃんもこわいですよ〜、でもまーちゃんはくどぅーよりおねえさんだから〜」
「なんでよ!同い年でしょ!」
精神年齢が近い三人の言い争いをよそに、譜久村と生田はお化け屋敷を眺めていた。
「新垣さんもここに来てたっちゃね」
「うん。先輩たちの思いに触れて、みずき、なんかすごく安心したし嬉しかった」
「えりな、新垣さんたちがおらんくなって、どうなるんかなって思ったっちゃけど、
 何てゆうとかいな、先輩たちがいてくれたっていうことで頑張れる気がするんよ。
先輩たちにいろいろ教えてもらったことだけじゃなくて、
先輩たちもうちらみたいに一生懸命頑張ってたんだなって思えることが、
自分の力になっとる気がするっていうか…」
「そうだね…、それがリゾナンターの「歴史」っていうものなのかもね……」
「フクちゃーん!生田ー!ドドンパ乗りに行こー!」
「「はーい!」」
れいなの呼び声に、二人は笑顔で返事をし仲間のもとへ駆けだした。

―おしまい―
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
以上、『超・戦慄迷宮』でした。パニック娘最高!
なお、敵の少女のモデルは(仮)の暑苦しい人です。

771名無しリゾナント:2012/08/15(水) 21:18:59
=======================================
>>761からここまでです。
 お好きなところで分割していただいても構いません。
 たびたびお手数おかけしますがよろしくお願いします。

772名無しリゾナント:2012/08/16(木) 22:55:44
狼のサーバーが落ちとる

773名無し募集中。。。:2012/08/17(金) 00:37:17
落ちたり復活したりで投下したくても出来ぬ〜ウワーン

774名無しリゾナント:2012/08/17(金) 19:29:36
行ってきます

775名無しリゾナント:2012/08/17(金) 19:41:15
行ってきました
本スレにも書いたけど最後3行ミスってホントに申し訳ないです作者様m(__)m

776名無しリゾナント:2012/08/17(金) 22:27:02
775さん、代理投稿ありがとうございました。
こちらこそご厚意に甘えるばかりですみません。
何の見返りもないのに時間と手間をお掛け頂いて本当に感謝しております。
まとめサイトの方も含めてリゾスレを支える方たちのご努力には頭が下がります。
みなさんの愛によって72話という長い長い「歴史」が築かれてきたんですね。

777名無しリゾナント:2012/08/18(土) 16:27:34
>>16‐19の続き

 「ふあぁ〜〜……」
 「この時期ってアレだよね、多分さ、半端に眠いんだろうね」
 「分かる、なんかそういう時ってあるよね。無性にっていうか」
 「そういえば今度席替えするんだっけ、後ろの方だったら寝てもバレないのに」
 「ご飯が取られないかと思うと安心するよ」
 「逃げられると思うなよ?」
 「返り討ちだね」

時間の流れと言うのは、そのときそのとき、さまざまな速度で進む。
あるひとには光速のようで、あるひとには時が止まって見えるらしい。
もしかすると、時間は平等ではないのかもしれない。
何処かでは激流のように時間は流れ、何処かでは時は停止しているのかもしれない。

窓の外は、青空。
何処までもつづく薄い水色に、やけに眩しい純白の雲。
最後に雨が降ったのはいつだったか。
少し考えても思い出せないくらい、ずっと晴れの天気が続いている。
気温は下がっていても、気配はあっても、晴れている。梅雨入りの話は何処に?

今は数学の授業中。
教師が黒板にゆるい字で数字を羅列している。退屈だ、特に不得意な教科なほど。
鈴木はため息を呑み込むのといっしょに、窓の外、空を泳ぐ真っ白な雲を
ぱくんっ、と食べるような仕草をしてみせる。

ふと教室に視線を戻すと、休み時間ギリギリに帰ってきた鞘師がノートに
黒板の内容を写すのに奮闘している。
彼女は数学が強いらしく、クラスでは教えてもらおうと囲まれてたりするのだ。
眠たそうに目を擦っている。

778名無しリゾナント:2012/08/18(土) 16:28:48
そういえば、また、夢を見た。

登場人物はいつも同じで、自分の目線もまた、同じ人。薄紫色の彼女。
戦う、夢だ。
あの赤色の少女も居て、変化と言えば、人数が増えている。
藍色の女性と、緑色の女性。
顔は日系だが、言葉が多分、中国語だったと思う。
片言で話す藍色の瞳はとても真剣だった。緑色の瞳も鋭さを増して行く。
薄紫色の彼女は赤色の彼女に強く頷く。まるで何かを示すように。

【ダークネス】に囲まれた状態で、誰かの声が上がる。

 「んー20対4か、ま、楽勝じゃん?」
 「皆の背中はワタシが守るヨ」
 「ひゅージュンジュン男前、でも足引っ張るのはなしだからね」
 「久住サンが一番心配ダ」
 「じゃあいつく潰せるか勝負する?」
 「久住さん、今は真剣になってください!」
 「ほら怒られた。リンリン、ミッツィーのことお願いね」
 「バッチリでスヨ!最大出力!」
 「うわあっち、リンリンフライグ過ぎー!」

どこかギャグめいた言葉と共に、辺りが一気に出火不明の緑色に『炎』を噴き上げる。
その驚きと共に、鈴木は目を覚ました。

戦い。

夢の中で繰り広げるのは、ゲームのように実感の全くない戦い。
自分が知らない世界で、国と国とが争いを続けているように。

779名無しリゾナント:2012/08/18(土) 16:30:16
この街、もっと大勢、この国で『平和』に暮らす人間はきっと、知らない。
戦争がなんなのか、誰と戦ってるのか、どうして戦わなければいけないのか。
誰も、きっと。
しかし、それでどう困ると言うのだろう?

 なにしろこの国は、どうしようもなく平和なのだから。

だけど、鈴木は小さな戦いを知っている。知らされた。
鞘師里保。
彼女が現れて、「きょーめいしゃ」だとか「だーくねす」だとか
そういうのが居て、「だーくねす」は人を醜い姿にして、それと「きょーめいしゃ」が
戦いを繰り返しているという事を思い知らされたあの日。

だけど、それは何の為?鞘師は、誰と、何の為に戦ってるのか。
そしてあの9人の戦いは終わったのか、続いているのかは、判らない。
それこそ、自分達には関係がないとでも言うように。

 (夢っていうかやっぱり、過去の話、とかなのかなあ)

鈴木には『共感覚 -シナスタジア-』と呼ばれるチカラがあった。
だがあれは音の振動音波で相手のオーラを「色」で知るというものであり
本来は風景イメージといったものは見ない。
鞘師によればそれに対して「ヒカリ」と呼ばれる物質が作用してうんぬんかんぬん…。
鈴木的にもよく判らない間に、そういったものが見えるようになった、らしい。
 
 (でもこの世界にあんなモノがいるなんて聞いたことがない)
 (正直、こんなものが見えたからってどんな意味があるのか全然判んないんだろうね)

780名無しリゾナント:2012/08/18(土) 16:31:12
シャーペンでノートに書くのはオリジナルキャラクター。
そこに誰かさんを書いてみたり、消しゴムで消してみたり。
諦めたように視線を窓に向けてみる。

 (あの女の人の名前、ミッツィーって言ってたから、ミッツイ…みつい、さん?)

薄紫色の女性、みついの視点で広がる世界は、此処ととてもよく似ている。
だからこそ戦う選択肢が当たり前のような光景に、鈴木は恐怖よりも
寂しさが込み上げた。何故か?何故か。

 (それにしても、お腹すいたな…)

鈴木は頬に手を当てて肘を置く、チャイムが鳴るまでずっと空を見ていた。

781名無しリゾナント:2012/08/18(土) 16:39:46
以上です。
今スレに入って一番手恐縮です。

>>72
ネタが満載で面白かったです。
(仮)のメンバーは残念ながら判らないんですが、フクちゃんの
能力仕様が上手いなと。

-----------------------------------------ここまで。

昨日の掲示板不使用でまたレベルが1になりました(涙
いつでも構わないのでよろしくお願いします。

782名無しリゾナント:2012/08/20(月) 20:34:35
遅くなりましたが行ってきます

783名無しリゾナント:2012/08/20(月) 20:42:28
行ってきました
冒頭のレスアンの全角ハイフン修正しようか迷ったのですが
とりあえずそのままにしておきました
何かあったら言ってください

784名無しリゾナント:2012/08/22(水) 00:16:09
代理投稿ありがとうございました。
あ、ホントだΣ
前に投下してくださった方のをそのまま使ったので…。

785名無しリゾナント:2012/08/22(水) 01:07:29
>>133-136の続き。

六月だ!海開きだ!プール開きだ!
そんな声が小さく大きく聞こえてくるようになった中旬。
何処までも続く薄水色のやけに遠い空を見上げて、梅雨が来なかった事に首を傾げて。
いつか降るだろうと結論づけた。
この空が果てしなくつづいていることは知っているはずなのに、『水不足』だと言えば
何処か遠い国の出来事に感じる誰かさん。
だから。

 「冷た!」

鈴木の悲鳴が上がる。
上空二メートルのところから、大雑把な粒の雨が降って来たからだ。

 「あははははははは!」

大笑いする彼女がホースを撒き散らし、放たれる水は弧を描いて
鈴木たちクラスの女子めがけて降ってきた。
はしゃぐ女子たちは、水しぶきから逃れようと小走りになる。

 「おーい走るなー、遊びじゃないんだぞーっ」

何度目かの教師の注意する声が飛ぶ、短パンとTシャツの格好で。
昼休みが終わり、本来なら五限目の現国の時間だ。
だが鈴木は体操着で今、プールサイドに素足をさらして立っている。
理由は簡単。

 今年もプール開きのため、昨日から始まった『プール清掃』だ。

786名無しリゾナント:2012/08/22(水) 01:08:31
この学校にはプールがある。しかも無駄にデカい共同プールだ。
今日は中等部の1年から3年までが受け持つことになっていた。
清掃など、業者に任せればいいんだろうと誰かが言う。

 「業者に金払うより、身内でやっちゃった方が安上がりってことでしょ?」

生々しい回答、デッキブラシを手にプールサイドのタイルをごしごしと擦る。
水不足など頭の片隅にもないような豪快さで水をまく彼女。
底に溜まった得体のしれない何かしらに足を取られながら眉間にしわを寄せて
デッキブラシなどで丹念にさらい続ける男子。
午前中もほかのクラスや学年の生徒達が清掃を行っているとはいえ
まるまる一年放置されたプールのデンジャラスな汚れっぷりは衰えを知らない。

男子がプールから葉っぱや何かしらが大量に盛られたバケツを女子に渡すと
「きゃあ!」とか「きもいっ!」とかいちいち悲鳴が上がる。
嫌がっている半面、どことなくこの状況を楽しんでるような気もする。

口では「めんどい」なんて言っていても、眩しい太陽光線、むせかえる気温
真っ白い雲に何処までも青く澄んだ空。
これでもかというくらい「青春せよ」と誰かが言っているようで。

 「単純だなー」

デッキブラシと自分の腕を支えにして、鈴木はだらんとアゴをつく。
瞬間。

 「――― ひゃあぁぁ〜〜〜〜!!」

787名無しリゾナント:2012/08/22(水) 01:09:28
隣で誰かの悲鳴が上がった。
真夏並みの気温とはいえ、水道の真水だ。頭から全身をまともに浴びれば
さすがに思わず声を出してしまうほど冷たい。

 「ほらやらかしたっ、誰かタオル貸してあげてっ」
 「鞘師さん、大丈夫?」
 「ごめんね里保ちゃんっ」

彼女の他にもホースを手にした女子が二人。
どうやらお互いに水をかけあって遊んでいたところ、運悪く鞘師に
向けられて放水されたらしい。
全身ずぶぬれの鞘師は手渡されたタオルで顔を拭いている。
鈴木はホースを取ると、とりあえず原因の彼女の顔面に思いっきり放水した。

 「こら男子こっち見るな!」

先ほどの鞘師の悲鳴でプールの中から覗いていた男子が頬を赤らめている。
全身がずぶぬれになった事で、鞘師の体操着が思いっきり透けていたからだ。
そんな熱視線に女子がホースを向けた、まさに冷や水。
怨念めいた断末魔の悲鳴をよそに、当の本人はきょとんとしている。

 「とりあえず着替えた方がいいよっ、替えの体操服あるか聞いてくるから」
 「あ、あぁえっと、大丈夫だよ」
 「大丈夫って……え?」

そういった鞘師がふいと、無造作に体操着のシャツを捲る。
ぎょっとしたが、体操着の下はスクール水着だった。いつの間に。
濡れた髪を後ろで結びながら、鞘師は小さく笑ってみせた。

788名無しリゾナント:2012/08/22(水) 01:27:00
 「ちょっとビックリしただけだから」
 「はぁーさすが里保ちゃんだ」
 「元はと言えばあんたのせいだけどね」
 「うーんとあ、そうだ。
 明日の給食の時間に里保ちゃんの好きなヤツあげるからそれで一つ!」

周りで心配していた女子は安心したのか笑顔を浮かべる。
先生の注意の声が上がるなどをしている内に、鞘師が鈴木の方に近寄ってきた。

 「りほちゃんってあんな風に叫ぶんだ」
 「叫んでないよ」
 「叫んでたじゃん」
 「叫んでないってば」
 「…それって指定のじゃないよね?」
 「うん。でもこういう事があるからって聞いてたから、着て来てよかったよ」
 「ふーん」
 「早く入りたいね、プール」
 「りほちゃん好きなの?」
 「うん。もう夏になるしね」
 「夏かあ」

あと1ヶ月も経てば中学生最初の夏休み。
その前の期末テストを思い出して遠い目を浮かばせる鈴木だった。

789名無しリゾナント:2012/08/22(水) 01:30:00
以上です。
酷い真夏のときに書いていたので少し涼しい日常など。

-----------------------------------------------ここまで。

いつもお世話になっております。
いつでも構わないのでよろしくお願いします(平伏

790名無しリゾナント:2012/08/22(水) 13:54:41
行ってまいります

791名無しリゾナント:2012/08/23(木) 00:14:20
こんなに早く代理投下ありがとうございましたっ。
今気付いたらアクセス規制も喰らってました…(涙

792名無しリゾナント:2012/08/23(木) 13:53:43
>>169-172 の続き。

 「すみませーん、こっちにデッキブラシあまってないですか?」

三年の女子生徒のひとりがやってきてそう言った。
二人もその声の方に振り向くと。

 「フクちゃん?」
 「みずきちゃん?」

同時にその生徒の名前を呼んだ。
こっちにやってきた譜久村聖に男子がまた騒ぎ始めている。
譜久村はジャストサイズじゃない身体のラインがでないくらいの体操着(上)に
濡れないように短パンを脱いだのか、体操着(上)に下はスク水というスタイルだった。

 「あれ?香音ちゃんもこの時間だったんだ」
 「ということはみずきちゃん達も?」
 「うん。更衣室とか部屋の掃除。まあ水泳部っていうのもあるしね。練習も始まるから」
 「みずきちゃん泳げるんだ。ちょっと意外」
 「スポーツは好きだよ。里保ちゃん水泳とか興味あるなら入ってみる?」
 「うーん、考えとく」

よいしょ、鈴木はフェンスに立てかけてあったデッキブラシを三本ほど抱えて持ってきた。
その時に不意に、視線を感じる。
鈴木がその異変に気付いたのと同時に、鞘師と目が合う。
無言。無表情。
じわりと、鞘師の目が朱く。

 「みずき、ブラシあった?」

793名無しリゾナント:2012/08/23(木) 13:54:35
突然聞こえて来た声が上がり、鈴木が感じていた視線が消えた。
この声はまさか。

 「あれ、1年のクラスは里保達のところやったと?」

後ろから出て来たのは紛れも無く、生田衣梨奈だった。
髪を後ろで結び、体操着で両手には手袋をはめている。
まるで計ったような組み合わせに「誰かの陰謀か!?」とか皮肉めいたことも言いたくなる。
誰かさんに。

 「えりぽんのところは外側の掃除なんだって」
 「もうさー不法投棄反対!変なゴミが多すぎるけん、選別したくないっ」
 「まあ1年も放置してればね。でも皆でやったらすぐに済むからがんばろっ」
 「あーあ、えりなプール係の方が良かったなあ」
 「こっちもこっちで大変だけどね、ね、かのんちゃん」

鞘師が言って指さす方には大量に積まれた得体のしれないものが入ったゴミ袋。
生田は思わず「うわあ」と漏らす。

 「じゃ、私達も行こっか。ブラシありがとー」
 「よーし、こうなったらめっちゃくちゃ綺麗にしてやるっちゃんねっ」

譜久村聖はデッキブラシを片手に手を振り、生田は気合いを入れ直して去っていった。
その後、二人はまたプールサイドの掃除に戻り、黙々と作業を行う。
ふと、鈴木は先ほどの出来事を鞘師に問い掛けてみた。

794名無しリゾナント:2012/08/23(木) 13:55:17
 「りほちゃん、さっきの気付いた?」
 「かのんちゃんも気付いたなら間違いないね」
 「また"アレ"?」
 「うーん、ちょっと違うかな。でも放ってはおけないね」
 「あれってさ、りほちゃんにしか倒せないものなの?」
 「どうかな。でもその手段はあるよ」
 「どういうこと?」
 「かのんちゃんにはもう渡してあるけどね」

鞘師の言葉が理解できずに、鈴木は口を開こうとした。
だがまた、背筋に冷たい感触が走る様な、視線を感じる。
思わず振り返ってみるが、視覚に"色"を知ることはできなかった。

 「ねえかのんちゃん。もしもさ―――」

キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ―――ッ!!

悲鳴のような音があたりに響き渡る。
例えるなら、金属でできた風船を鋭く尖った爪で引っかいた様な。
酷く耳障りで不快な音。
そして間髪いれずに。

 ――― パァァァァァァンッ!!

風船が破裂したような、大きな音が聞こえる。

 「……んぬぇっ!?」

795名無しリゾナント:2012/08/23(木) 13:56:38
鈴木は思わず両手で耳を塞ぎ、頭上から大粒の雨。
ではなく、大量の"水"を降り注いでいることに気付く。
すっかり全身ずぶ濡れだった。
鞘師がぼんやりと空を見上げる。
空は、晴天。
遠く高く何処までも水色が続いている。
だから、雨じゃない。
原因は、プールサイドにある手洗い場、消毒プール、シャワー。
そして、プールに水を張るための巨大な蛇口、その全てから水が噴き出し
あたり一面は大雨に降られている様な状況になっていた。

 「す、水道管が破裂した!?」

突然のことに動揺を隠せない教師が、声をひっくり返しながら叫んだ。
確かに、水道という水道から蛇口をひねってもいないのに、流れ続ける。
それもかなりの勢いで。

 「と、とにかくプールから離れろー!」

教師の声で、プールサイドの女子生徒達が小走りに、プールの中に居た
男子達もあがってきて、逃げるようにぱたぱたと出口へ駆けだす女子たち。
悲鳴のように口々に飛び出す言葉。
鈴木も避難しようとして、鞘師が来ていないことに気付く。
呆然と立つ鞘師が何かをつぶやいた。
しかし、豪雨のような降水の音にかき消されて聞こえない。

鞘師の手を取ると、ようやく彼女は歩き出した。

796名無しリゾナント:2012/08/23(木) 14:01:25
以上です。
何かでりほりほはプライベート水着を
持ってないとかなんとか。

-------------------------------ここまで。

残暑お見舞い申し上げます。
いつでも構わないのでよろしくお願いします(平伏

797名無しリゾナント:2012/08/24(金) 19:20:52
行ってまいりました

いよいよ鞘師以外の面々も交戦ですかね

798名無しリゾナント:2012/08/24(金) 22:22:52
『あなたのハニー!みんなのハニー!』

〈One ちょびっといじけて〉

1−1

石田は勝利を確信していた。
目の前の少女は強い。
れいなにしごかれる前の石田だったら、負けていたかもしれない。
だが、今の石田は、約一年間の鍛錬によって戦士として急成長している。
石田の優勢を裏付けるかのように、少女は苦しそうに肩で息をしていた。
さらに、全身からは異常な量の汗がしたたり落ちている。
「あゆみちゃん、まーちゃんに誰か連れて来てもらわなくても大丈夫?」
「大丈夫!私一人で倒せる!」
「でも、その人、なんかただ者じゃないっていうオーラが出てるよ。
とっても可愛らしいんだけど、たくさんの修羅場をくぐってきた凄味を感じる!」
「なんで敵をヨイショしてんの!?はるなんはそこで大人しくしてればいいから!」
「…はーい」
叱られてちょびっといじけている飯窪を無視し、石田は目の前の敵に集中した。
そして、次の一撃で勝負を決めようと一歩踏み出した時、石田は体の異変に気付いた。
(足が痺れてる!?)
「どうやら効いてきたみたいね」
蒼ざめる石田の顔と対照的に、敵の少女の口元が緩む。
「な、何をした?!」
「汗は武器!」
少女は、自らの汗を瞬時に化学変化させる特殊能力を持っていた。
石田の脛や拳には、攻撃の際の接触によって少女の汗が付着している。
その汗を、少女は化学変化させた。
皮膚から染みこみ、運動神経を麻痺させてしまう恐ろしい猛毒に。
「うそだ、うそだ、うそだ…」
石田は徐々に感覚が無くなっていく手足を見つめた。

799名無しリゾナント:2012/08/24(金) 22:24:05
1−2

飯窪石田佐藤工藤の四人は同時にリゾナンターに加入した、言わば「同期」である。
約一年前、四人は高橋愛によって「闇」から救い出された。
四人の境遇はほぼ同じだった。
もともと彼女らは「普通」の女の子だった。
ところが、ある日突然、特殊能力が発現する。
平凡だった日常が、それによっていとも容易く崩壊してしまう。
自分の娘が「異常」であると知った両親は、現実を受け入れられず困惑する。
彼女らは家族や友達から疎まれるようになり、体と心の置き場所を失っていく。
そこに現れる黒服の男たち。
彼らが差し出した名刺には、「国立能力開発センター」と印字されていた。
両親は大喜びで娘を彼らに預けることを決める。
両親に見放された彼女らは、その男たちについていくしか選択肢がなかった。
彼女らが連れて行かれた先は人里離れた研究施設。
その施設は「国立…」などではなく、ダークネスの秘密研究所だった。
哀れなモルモットとなった彼女らは、過酷な実験で心身がぼろぼろになっていく。
しかし、一年前のあの日、彼女らに救いの手が差し伸べられた。
高橋率いるリゾナンターが秘密研究所を襲撃したのだ。
四人は無事保護され、地獄の日々から抜け出した。
自由になった彼女らは、全員がリゾナンターに加わることを志願した。

高橋はその日の戦いが原因で行方不明になってしまい、新垣が次のリーダーとなった。
四人の思いを受け止めた新垣は、すぐに彼女らの両親たちに連絡した。
そして、彼女らが施設を出たこと、彼女らを自分に任せてほしいことなどを伝えた。
ダークネスについては、到底理解できないだろうと考え、説明しなかった。
新垣の申し出に対する両親たちの反応は、判で押したように同じだった。
「そちらで預かっていただけると、助かります」

800名無しリゾナント:2012/08/24(金) 22:24:55
1−3

喫茶リゾナントの近くにある安い賃貸マンションで、飯窪たちの新生活が始まった。
飯窪・佐藤・工藤の家は比較的裕福だったため、毎月多額の仕送りが振り込まれた。
それに対して石田の家庭はごく平均的であり、仕送りは滞りがちだった。
高校生になった石田は、生活費の足しにしようとアルバイトを始めた。
踊るのが大好きな彼女が選んだのは、某球団のチアリーディングチームのメンバー。

その日も石田はチアリーディングの練習に行っていた。
遅くとも夜9時には帰宅するはずなのだが、その日は深夜になっても帰って来ない。
心配した飯窪は、練習場のある野球場に石田を迎えに行った。
屋外にある練習場の鉄の扉を開けると、チアリーダー姿の石田が少女と戦っていた。

石田の動きが止まった。飯窪が慌てて声を掛ける。
「あゆみちゃん!どうしたの?」
「体がマヒして動かない!どうしよう!」
飯窪は慌てて扉の陰から飛び出した。
そして、自分の背後に石田を隠し、少女の前に立ちはだかった。
ただし、飯窪は弱い。
現時点ではリゾナンター最弱である。
華奢な体に穏やかな性格。戦闘には全く向いていない。
一応飯窪にも特殊能力がある。
だがそれは、手のひらから茶色のネバネバした物体を出すというもの。
どのような使い道があるのかも分からない、気味が悪いだけの能力だ。
戦闘になると、飯窪はいつも先輩や同期が戦う姿を物陰から「見学」しているだけで、
全くと言っていいほど戦力になっていなかった。
そんな飯窪の実力を見抜いたのか、少女が余裕の表情で挑発する。
「ねえ、あんた、やるの?」
(どうしよう…、あゆみちゃんがかなわない相手に、私が勝てるわけない)
自分の体が震えているのを、飯窪は感じた。

801名無しリゾナント:2012/08/24(金) 22:25:47
〈Two ぷくっとほっぺを〉

2−1

しかし、飯窪は逃げなかった。
飯窪は全力で前へ走り出した。
「オラオラオラオラオラオラーーーーーー!」
猫パンチを繰り出しながら、甲高い声を上げて敵の少女に突進した。
れいなから伝授された戦闘術は、残念ながら飯窪の体には全く染みこんでいなかった。
少女は、突っ込んできた飯窪の顔面に、無造作に拳を当てる。
ボコッ!
飯窪は仰向けに倒れ、全く動かなくなった。
「はるなん!」
石田は自由に動かない自分の四肢にいら立った。

石田にも特殊能力がある。
それは「小石」限定のサイコキネシス。
手のひらに収まるサイズの石なら、石田は重力を無視して自由に動かすことができた。
石田はこの力をとても気に入っており、自らを「石プロ」と称していた。
だが、いま戦場となっている屋外練習場は、とてもきれいに整備されている。
念動力で動かせそうな適度な大きさの小石はどこにも見当らない。
急な戦闘に備えて、石田はいつも制服のポケットに小石を携行している。
しかし、今石田が着ている服はチアリーディングのユニフォーム。
制服は更衣室の施錠されたロッカーの中だ。
石田は、自分の不用意さを呪った。

802名無しリゾナント:2012/08/24(金) 22:27:06
2−2

「リゾナンターなんて大したことないじゃん」
嘲笑う少女。石田は痛くなるほど強く奥歯を噛みしめた。
「こんなショボい奴らに、なんでみんな負けたんだろ?」
「…今、何ておっしゃいました?」
突然後ろから甲高い声がした。少女は振り向き、声の主に言った。
「何だ、あんたか…。まだやる気なのか?」
「あなた、今、『ショボい』っておっしゃいませんでしたか?」
飯窪は仰向けになったまま、丁寧な口調で再び尋ねる。
少女はその態度に苛立ち、飯窪に向かって怒鳴った。
「ああ、言ったよ!お前らがショボいからショボいって言ったんだよ!」
「ショボい…、ショボい…、ショボい…、ショボい…、
 ハ、ハ、ハウーーーーーーーーーーーーーーーーーーン」
飯窪は眼を見開き、両手を地面と垂直に掲げた。
細長い十本の指がパッと開くと、手のひらから茶色の物質があふれ出す。
その物質は黒く変色しながら、ワンピースとなって飯窪の体を包み込む。
また、物質の一部は飯窪の頭の上で固形化し、二本の角となった。
飯窪は立ち上がって、モデルのようにポーズを決めた。
全身黒ずくめのその姿は、まるで悪魔のコスプレをしているかのようだ。
「なんだ、その恰好は?」
少女の問いかけに、飯窪がにやりと笑う。
「小悪魔ですって?いいえ、大悪魔よっ!」
「……誰も『小悪魔』なんて言ってねーよ!」
少女の突っ込みを無視し、飯窪が前方に両手をまっすぐ伸ばす。
二つの手のひらから、今度は大量の蜂蜜色の液体が噴出した。
「うわっ!」
叫んだのは、石田だった。

803名無しリゾナント:2012/08/24(金) 22:29:00
蜂蜜色の液体は、全て石田に降りかかった。
避けようとした石田は、バランスを崩して地面に這いつくばった。
「ちょっとはるなん!何するのよ!」
石田は、ぷくっとほっぺを膨らませて飯窪を責める。
「あんた、寝返ったの?勝ち目がないから私の味方になろうってわけ?」
呆れる少女に対して、飯窪はゆっくりとこう言った。
「そうだ、味方だぜ。
 ただし、正義の……味方だ…」
「ウザっ!」
少女は飯窪に近寄り、その顎を下から強烈に殴り上げた。
「ゴボオォッ!」
飯窪は変な声を出しながら数メートル後ろに吹っ飛んだ。
再び仰向けにのびてしまった飯窪を見ながら、石田は思った。
(はるなん…、一体何がしたかったの……。
 それにしても何よこれ!ベタベタして気持ち悪い!
 うわっ、土がくっついて取れない…)
石田は土まみれの両腕を見つめた。
(…ん?!)
石田は不自由な右手で地面の土を掴みとり、最後の力を振り絞って固く握り締めた。
一方、余裕綽々な敵の少女は、石田の様子を見てこう言った。
「ハハハッ!土を掴んで悔しがるなんて、テレビドラマの一場面みたい。
 それじゃあ、クライマックスといきますか!」
ザッ!
少女は最後の一撃を撃ち込むため、大地を蹴って夜空高く舞い上がった。
そして、地面に横たわる石田めがけて、急降下してきた。
ゴギッ!
骨を砕く鈍い音が響いた

804名無しリゾナント:2012/08/24(金) 22:31:02
〈Three ふくらませてる〉

3−1

「な、なに…!?」
少女は何が起こったか理解できなかった。
自分の体が地上約1.8メートルのところで鋭角に折れ曲がって静止している。
腹部には、槍のように突き出された石田の拳がめり込んでいる。
「…ウグッ!」
少女は食道の奥からこみ上げてきたものを口腔内に溜め、頬を膨らませた。
石田が静かに言う。
「クライマックスには、大逆転が起こるもんなんだよ」
「…ブハッ!」
堪え切れなくなったのか、唇から大量の真っ赤な血を吐き出し、少女は意識を失った。
右拳が降ろされるのと同時に、石田は地面に崩れ落ちた。
一瞬遅れて少女も落下し、練習場に静寂が訪れた。

「はるなん…、大丈夫…?」
石田は不自由な四肢を懸命に動かし、這って飯窪に近づいていく。
仰向けの飯窪は、顔だけを石田の方に向けて、ゆっくり目を開けた。
「…う、…うん。あゆみちゃんこそ、…大丈夫?」
石田はようやく飯窪のもとにたどり着き、覆い被さるように抱きついた。
「はるなん、ありがとう…」
飯窪は朦朧としつつも、微笑みながら石田の頭を優しく撫でる。
石田の瞼はもう涙の重さに耐えられなかった。

805名無しリゾナント:2012/08/24(金) 22:32:23
3−2

四肢の自由を奪われた石田が攻撃できたのはなぜか。
飯窪の出した蜂蜜色の液体。
それはまるで瞬間接着剤のように、物質を強力に結合する性質を有していた。
少女が最後の一撃を見舞おうと空中から襲い掛かったあの時、
石田の右の掌の中には、一掴みの土が握られていた。
その土の一粒一粒が蜂蜜色の液体によって結合され、瞬時に泥岩のように固まった。
石田は握った拳ごと、泥岩と化したその「小石」を操ったのである。
「石プロ」たる所以の、自らの特殊能力を使って。

意識を取り戻した飯窪は、佐藤に電話をした。
佐藤はすぐに「飛んで」来た。同行者は道重さゆみ。
石田の四肢には麻痺が残っていたが、特に大きな外傷は無い。
体に付着していたあの物質も、10分も経つときれいに消滅してしまった。
石田の無事を確認したさゆみは、飯窪の傷の治療にとりかかった。

飯窪の治療が終わったちょうどその時、背後から叫び声が聞えた。
「キャー!」「まーちゃん?」
さゆみが振り向くと、さっきまで走り回っていた佐藤が棒立ちで夜空を見上げている。
佐藤の視線の先には、猛スピードで降下して来る巨大な鳥がいた。
その鳥は倒れていたあの敵の少女のところへ舞い降り、彼女を両足で掴んだ。
そして、すぐさま夜空に舞い戻り、漆黒の闇に消えていった。
それはほんの数秒間の出来事で、さゆみたちはどうすることもできなかった。
飯窪がさゆみに話しかける。
「道重さん、あの大きな鳥も敵なんでしょうね?」
「そうね…。いつ襲ってくるか分からないから、用心しないとね…。
はるなん、今回みたいな状況になったら、すぐ私達に連絡しなきゃだめだよ」
「はい…、心配かけてすみませんでした」
頭を下げる飯窪に、さゆみは笑顔で応じた。

806名無しリゾナント:2012/08/24(金) 22:33:08
3−3

「あゆみん、少し聞きたいことがあるんだけど、話せる?」
「はい、大丈夫です」
さゆみは、飯窪が豹変した際の様子を石田に尋ねた。
石田の説明が終わると、さゆみは改めて飯窪に聞いた。
「ねえ、はるなん、茶色のあれが接着剤みたいになるって知ってたの?」
「道重さん、茶色じゃなくてチョコレート色です。
 私、全然知りませんでした。…それに、さっきのことも全く覚えてないんです。」
「そう…、もしかすると何かがきっかけではるなんの中の別人格が現れたのかもね。
 石田の話だと、そっちのはるなんは、茶色のアレを上手に使いこなしてたみたいね」
「そうですね。チョコレート色のジェルにあんな使い道があったなんて…。」
「コスプレはともかく、茶色のアレを接着剤にすること、今もできる?」
「チョコレート色のジェルを接着剤にすることですか?やってみます」
飯窪は手のひらに集中した。すると、あの蜂蜜色の液体が滾々とあふれ出た。
「道重さん、できました!きれいなハニー色ですね〜。」
喜ぶ飯窪。だが、液体の噴出はすぐに止まった。
「あれ?出なくなっちゃいました…」
さゆみは地面に落ちた蜂蜜色の液体に触れ、その強力な接着力を確かめた。
「……これ、使い様によっては、かなり役に立つと思う。
 はるなん、この薄黄色のベタベタしたヤツ、上手に使いこなせるようになってね!」
飯窪は嬉しそうに答える。
「はい!私、このハニー色のクリームを必ず使いこなせるようになります!
 いつも皆の足を引っ張ってばかりで、これまで私、何の役にも立ってなかったから、
この能力で、みんなの力になれるように頑張ります!
あなたのハニー!みんなのハニー!って、ちがうかっ!ちがうかっ!」

807名無しリゾナント:2012/08/24(金) 22:33:49
〈Endingでーす〉

おどける飯窪を見ながら、さゆみはその笑顔の裏にある陰を感じ取っていた。
(「これまで私、何の役にも立ってなかった」…か。)
両親から捨てられ、友人達から避けられ、新しくできた仲間の役にも立てない…。
自分の存在意義に最も疑問を感じているのは、この飯窪かもしれない。
「はるなん、気持ち悪いよー!」
さゆみは声を上げて笑い、湧き上がってくる切なさをごまかそうとした。

そんな二人のやり取りを見ていた佐藤が、飯窪に近づいてきて話しかける。
「はるなーん、てからせっちゃくざいだせるようになったの〜?
それってさあ、はるなんにぴったりののーりょくだね〜」
「えっ、どうして?」
「だって〜、まーとどぅーとあゆみんがけんかしたとき、いっつもはるなんが
 なかなおりさせてくれるでしょ〜?
 はるなんのおかげで、まーたちはなかよしでいられるんだよね〜。
 ほんと、はるなんって、みんなのせっちゃくざいみたい」
「……ありがとう、まーちゃん」
飯窪はそう言って佐藤を強く抱きしめた。
佐藤は驚いてキョトンとしていたが、すぐに笑顔で飯窪のか細い腰に両手をまわした。
そんな佐藤を見つめながら、さゆみはある人の笑顔を思い出していた。
超天然で、何も考えてないようで、それでいていつも大切なことを気付かせてくれた、
あの大親友の笑顔を……。

―おしまい―

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
以上、『あなたのハニー!みんなのハニー!』でした。
飯窪と石田の特殊能力を新しく考えてみました。
なお、敵の少女のモデルは(仮)の紫の人です。

808名無しリゾナント:2012/08/24(金) 22:39:06
=======================================
>>798からここまでです。
 今気づいたんですが、>>803の「2−3」のナンバリングが抜けてました…。
 本当にすみませんが、付け足していただくと助かります。
 いつもお願いばかりで恐縮ですが、よろしくお願いします。
 
>>781さん。ご感想ありがとうございます。781さんは女性の方でしょうか。
よくもここまで細やかに少女の心理を表現できるなと、いつも感心しています。
これからの展開、とても楽しみです。

809名無しリゾナント:2012/08/25(土) 00:30:02
行って参りました
コミカルで軽い話口調なのに何処か切なさや寂しさもある感じが好きです
今後も頑張ってください!

810名無しリゾナント:2012/08/25(土) 01:24:42
>>809さん
早速の投稿、ありがとうございました!
ナンバリングの訂正もしていただき、感謝感謝です。
励ましのお言葉、本当にうれしいです。
ご期待にそえるよう頑張ります!

811名無しリゾナント:2012/08/28(火) 12:15:44
『What’s Up?愛はどうなのよ〜』

〈愛の力〉

1−1

秋晴れのある日、高橋愛の心に、助けを求める少女たちの叫び声が突き刺さった。
高橋は精神感応の力を使い、その叫び声の出所を探った。
瞬間移動を繰り返し、その出所を突き止めると、そこは山奥にある建造物だった。
正門には、「国立能力開発センター」という大きな看板が掲げてある。
高橋は建物から洩れ出す思念を探った。
そして、そこがダークネスの秘密研究所であることを確認した。
高橋はいったん喫茶リゾナントに戻り、仲間を集めて状況を説明した。
そしてその夜、高橋は新垣たち四人と共にその建造物に突入した。
高橋は先頭に立ち、少女たちの居場所を探りつつ、行く手を阻む戦闘員をなぎ倒す。
れいなは縦横無尽に動き回り、圧倒的な強さで敵を一掃する。
後方にいる愛佳は予知能力を駆使し、仲間たちに様々な情報を送り続ける。
同じく後方担当のさゆみは、キャーキャー騒ぎながらも敵の攻撃を巧みに躱し続け、
負傷した仲間が近づいて来れば瞬時に治療してしまう。
中心にいる新垣は、鋼線を操ってさゆみと愛佳を護りつつ、五人の連携の要となる。
歴戦の戦士たちは、完璧な陣形で敵の防衛ラインをいとも容易く突き崩していった。

譜久村・生田・鞘師・鈴木の四人は建物の外で待機している。
「少人数の方が動きやすいけん、あんたらはここで待っとり」
れいなにそう言われた譜久村は、まだ自分の実力に自信がなかったため少し安堵した。
五人の突入を見届けると、鞘師はすぐに草叢に寝転がり、うとうとし始めた。
「りほちゃん、起きていようよ。何かあったらどうするの?」
「あの人たちの力で対処できないような『何か』なんて、そうそうないと思うよ。
それに、もしあったとして、私たち四人の力じゃどうにもできないでしょ?」
睡魔に弱い鞘師は、譜久村に子供のような屁理屈を言うと、すやすや寝始めた。

812名無しリゾナント:2012/08/28(火) 12:16:58
1−2

侵入から約30分後、高橋たちは囚われていた四人の少女を見つけ出す。
新垣に精神干渉された初老の研究員が、虚ろな目で鋼鉄の扉の鍵を開ける。
中に入ると、飯窪・石田・佐藤・工藤の四人が奥の方で肩を寄せ合っていた。
高橋は、怯えた表情で見つめる少女たちに、ニコリと笑って声を掛けた。
「私は高橋愛。
あなたたちの声が聞こえたから、ちょっと来てみたの。
一緒に外に出る?」
四人は逡巡していたが、「愛」と名乗るその女性の澄んだ瞳を見て安心したのか、
まず、佐藤が立ち上がって高橋にしがみ付いた。
すると三人も次々と高橋に駆け寄り、その小さな体を取り囲むように抱き着いた。
「ゥオゥケィ!」
高橋は中途半端にネイティブっぽい発音で明るく叫んだ。
そして、まるでこれからカラオケにでも繰り出すかのように言った。
「じゃあ、行こっか!」

部屋から出てきた高橋に、さゆみがもたれかかり、甘え声で言う。
「ねえ、愛ちゃん、やっぱり瞬間移動できないの〜?さゆみ、足つりそう〜」
しかし、瞬間移動は不可能だった。
この研究所には瞬間移動を妨害する強力な装置が設置されているようだった。
ここに来るまで様々な機械を壊してきたが、その妨害機能は持続していた。

高橋たちが来た通路を戻り始めると、突然前方に一人の少女が現れた。
身構える五人と、慌てて後ろに隠れる飯窪たち。
その少女は、九人から二十メートル程前方に立ち、澄んだ声でこう言った。
「i914、私と戦って下さい」
「…あなたは?」
「私はi-Reproduced412。あなたと同じ、殺人兵器です」

813名無しリゾナント:2012/08/28(火) 12:18:11
1−3

「えっと、あいりぷろづ、どっ、どゅー…」
「愛ちゃん、ここで噛む〜?」
新垣は高橋に突っ込んでから、少女の方を向いて言った。
「あのぉ、省略して『アイリ』さん…でよろしいですかね?
アイリさん、こっちは五人、あなたは一人。
こっちの方がどう見ても有利だと思うんですけど…」
「私はi914の能力をわしゃわしゃわしゃ…。
さらに、全ての能力の性能が、i914のわしゃわしゃわしゃ。
 あなたたちが一度にわしゃしゃっても、おそらく一分もわしゃわしゃわしゃ…」
「…滑舌悪くてところどころうまく聞き取れないんだけど…」
さゆみは愛佳に耳打ちする。
「わたしもです…」
「みんな、逃げて。私がこの子を食い止める」
高橋は少女を睨みながら、意を決したような口調で言った。
「はあ?愛ちゃん、なんでよ!?」
れいなが高橋にくってかかる。しかし高橋はれいなを宥めるように諭した。
「私には分かる。この子はダークネスが作った殺人兵器。
多分、私と同じか、それ以上の力を持ってる。
もし光の力を使ってきたら、私たち全員、一瞬で消滅させられてしまうかもしれない。
 せっかく救えたあの子たちの未来を、ここで終わらせるわけにはいかない」
「へー。やっぱり愛ちゃんには分かるんだね〜」
少女の後ろに、白衣を着た女性のホログラム映像が出現した。
「コンコン!またあんたのしわざなの?」
「お久しぶり、ガキさん。私もここは愛ちゃんの言う通りにした方がいいと思うよ。
 あ、その子達はもういらないから、連れて帰っても全然かまわないよ」
「ふざけんな!じゃあ、何のためにこの子達に辛い目を合わせたと!?」
激昂するれいなに、マルシェは平然と言う。
「そんなの愛ちゃんをおびき出すためのエサに決まってるじゃん」

814名無しリゾナント:2012/08/28(火) 12:19:02
〈愛の行方〉

2−1

マルシェの言葉が終わると、「アイリ」は右手を上げ始める。
数秒後を「見た」愛佳が叫ぶ。
「みんな跳んで!」
新垣が佐藤を、愛佳が飯窪を、れいなが工藤を、高橋が石田を抱きバラバラに跳ぶ。
一人で跳んださゆみも含めて九人が移動した直後、ピンクの光球が襲い掛かる。
光が消えると、九人の居た場所の床が、大きな蟻地獄の巣のように抉られていた。
映像のマルシェが言う。
「私はこの自信作の性能を確認したいだけ。全滅したいんならそれでもいいけどね」
「ガキさんお願い。皆を連れて逃げて。私、力を解放して全力で戦う!」
「…愛ちゃん。分かったよ」
「ふふっ!そう来なくっちゃ!」
嬉しそうにそう言うと、マルシェの映像は消えた。
新垣は、悔しそうに唇を噛むれいなの肩を掴み、静かに言った。
「ここは、愛ちゃんに任せよう…」

高橋を除く八人は秘密研究所を脱出した。
途中、敵の戦闘員による攻撃は全く無く、数分で外に出られた。
外で待っていた譜久村たちは一瞬安堵の表情を見せたが、すぐに顔を曇らせた。
「高橋さんは…?」
鈴木が尋ねると、愛佳は中で起こったことを説明した。
説明が終わると、生田が新垣に聞いた。
「…そのアイリさんっていう人、高橋さんより強いんですか?」
「そんなわけないやろ!」
れいなが声を荒げる。生田はまたもやKYな質問をしてしまった自分を悔いた。
新垣がれいなを宥めようとしたとき、突然辺りが明るくなった。
振り向くと、研究所がピンク色と黄色の入り混じった巨大な光球に飲み込まれていた。

815名無しリゾナント:2012/08/28(火) 12:20:03
2−2

十二人は思わず後ずさりしながら、その恐ろしくも美しい光球を呆然と見つめる。
数秒後、光が収束すると、そこにはクレーター状の巨大な穴だけが残っていた。
「愛ちゃん…」「高橋さん…」
八人はそれぞれの思いを込めて、同じ人の名を呟いた。

高橋が消えた。
新垣はすぐさま譜久村に高橋の精神感応の力を使って探すように指示した。
譜久村は慌ててポケットから高橋の生写真を取り出し、その力を使った。
しかし、譜久村の心に、高橋の精神は感じられなかった。
その後、新垣たちは朝までその付近を捜索したが、結局高橋の姿はどこにも無かった。

喫茶リゾナントに戻ると、救出された四人全員がリゾナンターに入ることを志願した。
新垣は何度も断ったが、行く当てがない四人を無責任に放り出すことも出来ない。
「私達の仲間になったら、いつ敵に襲われるか分からないんだよ。それでもいいの?」
「はいっ!」
「自分の身を自分で守れるようになるために、きつい訓練に耐えなきゃいけないよ?」
「はいっ!」
「うーん…。しょうがないかあ…。じゃあ、明日から特訓だよ!」
「やったー!」
四人が手を取り合ってはしゃぐのを見つめながら、新垣は思った。
(ほーんと無邪気だねー。…昔の私と愛ちゃんもこうだったのかな…)

新しく加入した四人と、先輩とはいえまだまだ未熟な四人。
合計八人の「新人」たちの、厳しい訓練の日々が始まった。

816名無しリゾナント:2012/08/28(火) 12:21:00
2−3

体術はれいなが教官となった。指導はそれまでにも増して厳しくなった。
だが、その甲斐あって石田がその才能を開花させ、目覚ましい成長を遂げた。
そして、数か月後には、あの鞘師がてこずるほどの戦闘技術を身につけた。
もちろん、訓練で新人たちが負傷すれば、さゆみがすぐに治療してくれた。
「りほりほ、ほら、服を脱がなきゃ傷が確かめられないの!こっちにおいで!」
「…私、全然大丈夫ですから。それよりはるなんを治してあげて下さい」
「はるなんはそこで少し横になってれば大丈夫なの!」
「あのー…、道重さん、…私の腕、明らかに折れてるみたいなんですけど…」

精神系の訓練は新垣が担当した。
新垣は、新人の中では貴重な精神系能力者、生田の指導に力を注いだ。
また、敵からの精神攻撃に対する防御の方法は、全員に習得させる必要があった。
「コラー!生田!なんでこっちばっか見てんの!ちゃんと精神を集中させなさい!」
「ぐふふふっ、新垣さんがいけないんですよ、そんなに綺麗な瞳で私を見つめるから」
「もう、えりぽん!真面目にやらないと新垣さんに失礼でしょ!」
「あれ〜?ふくむらさ〜ん、はなぢでてますよ?そのてにもってるのなんですか〜?」
「ちょ、ちょっと、まーちゃん、やめて!」
二人がもみ合っているうちに落ちた写真を、工藤が拾い上げる。
「うわっ!これ、私が着替えてるときの写真じゃないですかぁ!キモっ!」
「……あんたら、いい加減にしなさーい!」

その間にも、異常な事象はしばしば発生した。
新垣リーダー率いるリゾナンターは、これまで通りその解決に尽力した。
新人たちも実戦訓練もかねて一緒に出動することが増えていった。
若い彼女らは、戦いの場を踏むごとに目に見えて成長した。
(この子達、もう大丈夫みたいね…)
あれから数か月が経ち、新人たちの成長ぶりに満足した新垣は、ついに決意した。
リゾナンターを離れ、一人で高橋愛の行方を探す旅に出ることを。

817名無しリゾナント:2012/08/28(火) 12:21:38
〈愛の形〉

3−1

新垣は喫茶リゾナントに全員を集め、自分の意志を告げた。
「えーー!?新垣さん、いなくなっちゃうんですか!嫌です!そんなの絶対に嫌!」
泣き喚く生田を、譜久村が困惑した顔で抱きしめる。新垣が呆れ顔で言う。
「コラ、生田!落ち着きなさい。これが今生の別れっていうんじゃないんだから」
「…あの〜、こんじょーのわかれってなんですか〜?」
佐藤が首を傾げる。
「こんじょうの別れっていうのは、我慢するのに根性が要る別れってことだよ」
「へー、工藤は中一なのによく知っちょうね。れいな、そんな言葉初めて聞いた」
「あのー、それ、違うと思うんですけど…。今生って言うのは…」
幼い三人への飯窪の説明が始まるなか、さゆみは小声で新垣に尋ねた。
「ガキさん、探す当てはあるの?…っていうか、愛ちゃん、…生きてるの?」
「…正直、分からない。でも、私、行かなきゃいけない気がするのよ」
「ガキさんの気持ちは分かるの。でも、ガキさんまでいなくなったら、さゆみたち…」

さゆみが不安がるのも当然だった。
その数日前、愛佳も自らの病気を理由に離脱したいということを皆に告げていたのだ。
「皆に迷惑を掛けたくない」という愛佳の思いを、さゆみ達は止むを得ず受け入れた。
愛佳が離脱するだけでも大変なのに、そのうえ大黒柱の新垣まで去ってしまったら…。
さゆみは黙り込んでしまった。

「あの…、新垣さんがそうしたいなら、ぜひそうしてください」
鞘師がおもむろに口を開いた。
凛とした鞘師の表情に、皆の視線が集中する。
「高橋さんはいまもきっとどこかで生きていると思います。
 探しに行くなら、一日も早い方がいいです。」

818名無しリゾナント:2012/08/28(火) 12:23:29
3−2

新垣の目を真っ直ぐ見つめ、鞘師が続ける。
「新垣さんなら、絶対に高橋さんを見つけ出せると思います」
その鞘師の言葉に続いて、両頬を涙で濡らした譜久村が話し出す。
「新垣さんがすぐに高橋さんを探しに行きたいって思ってるの、分かってました。
 でも、聖たちが頼りないから、それを我慢してるんだってことも…」
「私たち、まだまだ未熟だけど、田中さんや道重さんに迷惑をかけないように
 これからもっと、もっと、もーっと頑張ります!」
鈴木が満面の笑顔と潤んだ瞳で、精一杯明るく言う。飯窪の甲高い声がそれに続く。
「私たち、まだ高橋さんに、ちゃんとお礼を言えてないんです…
 ぜひ、直接高橋さんに感謝の気持ちを伝えさせてください」
涙もろい石田も懸命に言葉を紡ぐ。
「新垣さん…、必ず高橋さんを見つけ出して、…一緒に帰って来て下さい。
 私、高橋さんから…いろんなことを教わって、もっと強くなりたいです…」
「高橋さんにいただいた未来を、私たちがいま一生懸命生きているっていうことを、
 ぜひ、直接見ていただきたいです」
中一とは思えないほどしっかりと話す工藤とは対照的に、ようやく状況が飲みこめた
佐藤は、泣き顔のまま何も話せなくなっていた。
もちろん、佐藤の気持ちは、そこにいる全員が十分に分かっている。
愛佳は、にっこり笑って新垣に語りかける。
「新垣さん、何か『見えた』ら、愛佳、すぐに連絡しますからね」
「ガキさんのしたいようにすればいい。こっちはれいながおるけん、心配はいらん!」
れいなは腕組みしながら、いつも通り自信満々に言う。
一方、さゆみは、いつもとうってかわって、しっかりと力強く新垣に告げる。
「ガキさん。ガキさんが愛ちゃんと一緒に帰るまで、皆で力を合わせて頑張ります」
「…みんな、…ありがとう!」
新垣は両瞼に涙を溜めながら、仲間たち一人一人の顔を笑顔で見つめた。
ただ、生田だけは、譜久村の胸に顔をうずめて肩を震わせ続けていた。

819名無しリゾナント:2012/08/28(火) 12:24:40
3−3

新垣の旅立ちは、その翌朝だった。
その日は休日だったため、全員で新垣を見送ることができた。
喫茶リゾナントの前に並ぶさゆみたち。しかし、生田の姿はそこになかった。
「あいつは本当にしょーがないねー。…じゃ、そろそろいくね」
「ガキさん、いってらっしゃい!」
「新垣さん、お気をつけて!」
左手に落ち着いた緑色の旅行鞄を持った新垣は、何度も皆の方を振り返り手を振った。
もうこれで最後にしよう、そう思って新垣が振り返ったとき。
叫びながら猛然と迫ってくる人影が目に入ってきた。
「大好き、大好き、世界一〇×□△ーー!!!」
「うわーっ!」
新垣はあまりの迫力に思わず数歩後ろに逃げた。
しかし、すぐにそれがあの困った後輩であると気付き、立ち止まり優しく抱き止めた。
抱き合う二人のもとに、笑顔で駆け寄る十一人の仲間たち。
少しずつ暖かさを増していく朝の陽ざしの中、晴れ渡る五月の空に笑い声が響き渡る。

しばらくして、改めて駅へ歩き始めた新垣は、皆の方を最後にもう一度振り返った。
そして、仲間たちの顔一つ一つを目に焼き付けた。
泣きはらした目で、懸命に笑顔を作ろうとしている生田。
生田の肩をしっかり抱き、手をちぎれんばかりに振っているさゆみ。
そんな二人の両脇に立つ、いつも通り元気なれいなと、人懐っこい笑顔の愛佳。
そして、初めて会った時と比べて見違えるように頼もしくなった可愛い後輩たち。
新垣の脳裏に、昨夜の一人一人の姿が改めて浮かび上がる。
表現方法は様々だったが、それらは全て新垣や高橋への思いが表された愛の形。
もちろん、一番心配な後輩がさっき見せてくれた、幼子のような感情の爆発も…。
新垣は、みんなの方を見ながら、噛み締めるように言った。
「リゾナンター。大好き」

820名無しリゾナント:2012/08/28(火) 12:25:20
〈Ending:愛のかけら〉

仲間のもとを離れた新垣は、とりあえず高橋にとっての思い出の地を巡ることにした。
光が氾濫したあの時、高橋が消滅する前に瞬間移動妨害装置が壊れてくれていれば、
高橋には「飛ぶ」チャンスがあったはずだ。
1秒、いや、0.1秒でもいい。たとえ一瞬でも、その時間があれば…。
また、紺野は、あの「アイリ…」という少女を「自信作」と言っていた。
であれば、紺野はその大切な自信作を、消滅する前に何らかの方法で回収したはずだ。
向こうに回収する時間的余裕があったとすれば、それは高橋にとっても同じはず…。
だが、高橋がうまく脱出できていたとして、なぜ数か月経っても連絡をくれないのか。
身体に大きなダメージを負っているのか。それとも、記憶をなくしたのか。
いずれにせよ、生きていたとしても通常の状態ではないということなのだろう。
「今助けに行くから…。待っててね、愛ちゃん」
新垣は、高橋があの時とっさに選んだ可能性のある行先を虱潰しに当たろうと決めた。
たとえそこに高橋本人がいなくとも、生存していたという証拠があるかもしれない。
(愛ちゃんの足跡の一かけらでもいい、残っていてほしい…)
新垣は心の底からそう願った。

♪どっんっなっばーめーんーでもっにっげっなーいー♪
新垣の携帯のメールの着信音が鳴った。
「ん?ま〜た生田だよ。なんでこう毎日毎日送って来るかね〜、なになに…」
新垣は列車に揺られながら、大した内容の書かれていない文面を目で追った。
もうウンザリといった態度だったが、その頬は、誰が見ても分かるほど緩んでいた。

―おしまいー

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
以上、『What’s Up?愛はどうなのよ〜』でした。
『「リゾナンター。大好き」』以降の四作品の、少し前に起こった出来事を描いてます。
皆さんの感想、本当に嬉しいです。なお敵の少女のモデルは…、いわずもがなですね。

821名無しリゾナント:2012/08/28(火) 12:26:39
=======================================
>>811からここまでです。
 お好きなところで分割していただいても構いません。
 連続ですみませんが、よろしくお願いします。

822名無しリゾナント:2012/08/28(火) 16:23:07
代理投下行って参りました…が、レス番入れるの忘れましたorz
書き込もうにも猿さん喰らってるのでまだ書き込めません…時間をおいて書き込みます
毎度毎度不備があって申し訳ないですm(__)m

シリアスな話を軸にしつつ小ネタが挟まれていてコミカルさが共存していて面白いです!
毎回3×3+1で収められるのが凄いなぁと尊敬してます
今後も頑張ってください!

823名無しリゾナント:2012/08/28(火) 19:56:47
>>822さん、投稿ありがとうございました!
暖かい励ましのお言葉までいただいて、本当にうれしいです。
今後もどうぞよろしくお願いします!

824名無しリゾナント:2012/08/29(水) 01:11:03
>>219-222 の続き。

 どうせ、私はこんなだ。
 どうせ―――私だから。

蛇口を捻る。冷たい水に手のひらは痛いくらいの温度。
体温。冷えた手。冷たい。冷たい。冷える、ココロ。
冷たい、何もかもが冷えていて、優しさも、温もりも無い。
水の無いプール。薄汚れた底。其処。

 でも満たされれば、なんて穏やかな世界だろう。
 此処はあまりにも醜いものが多過ぎると言うのに。

あの転校生は何故こんな場所に来てしまったのか。
こんな場所に居るのは苦痛でしかないのに。まるで牢獄だ。
可哀想に。
可哀想に。
でも一番可哀想なのはきっと、私。
いじめられても周りの人間は何もしてくれない。
だけどあの時に手に入ったチカラと一緒にかけられた声。

 「なら全部、沈めてしまえばいいじゃない。
 二セモノの世界を、そうすれば浮き上がってくる。貴方だけの世界が」

転校生が他の女子に囲まれている。友達と微笑んでる。
最初からあの子は特別だったんだ。私とは違う、別の人間。
羨ましい。

825名無しリゾナント:2012/08/29(水) 01:12:24
羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい。
ウラヤマシイウラヤマシイウラヤマシイウラヤマシイウラヤマシイウラヤマシイ。

  ―――……。

結局、プールの掃除は途中終了になった。
プールでは未だ水が噴き出し続けていて、それは大雨のようになり。
見る見る水のないプールを溜めていってしまった。
原因は不明。
水道管の破裂かどうかを学園側から要請を受けた専門業者が調査にやってきた。
ただ何となく、無駄なんだろうなと、思う。

水道がどうのこうのとかいう話ではないだろうから。

 「――― じゃ、行ってくるね」
 「行ってくるって、どこに?」
 「水を止めに、部活頑張ってね」

そう言って鞘師はどこかに行ってしまった。
プール清掃が途中で終了となったことで、午後はいつもの時間割。
蛇口からどんどん水が沸きだしていたとしても、授業を止める訳にはいかない。
たった今本日最後の授業が終わって、生徒達はめでたく放課後に突入した。

鈴木は部活の準備をするために鞘師とは別の方向へ歩いて行く。
彼女がどんなことをしているのかは判っていたものの、それに無理に付き合うことは
ないと言われてしまい、あれから怪異な出来事に遭遇していなかった。

 ただ何となく、嫌な予感が過る。

826名無しリゾナント:2012/08/29(水) 01:15:24
ふと、鈴木は廊下の向こう側から来る女子生徒と目が合った。
リボンではなくネクタイだと気付き、先輩だと思って挨拶をする。
 
 「こんにちわー」

軽くお辞儀をしてからその傍を過ぎようとした時、香水の匂いが漂う。
ハーブティーの、匂いだ。

 「――― 此処に居ていいんですか?鈴木さん」

先輩は、小さく呟くように言った。

 「へ?」

その意味を理解できず、だが訊き返そうとしたときにはもう。

 「あ、ちょ、ちょっとっ」

先輩は長い黒髪をなびかせ、廊下を階段の方へと曲がった後だった。
鈴木はまつ毛を揺らし、残像を見送るしか無かった。
瞬間。もわあ、とした空気に包みこまれる。

 「なにこれ…湿気…?」

途端、パシャリと液体か何かを踏んだような気がしたかと思うと
どこかで悲鳴が上がった。

 「え!み、みず…っ?」

827名無しリゾナント:2012/08/29(水) 01:17:18
廊下が水浸しになっている。
とくに生徒達がやいのやいのと騒いでいる辺りでは、手洗い場の水道が
ものすごいイキオイで水を噴射させていた。
それが原因で酷い湿気が起こっている。

 あの時に聞こえた前兆のような『不快な音』はなかったのに。

周りでは、面白いように生徒達がつるつると足を滑らせ、廊下で転んでいる。
だが何かが変だ。普通の水ではない。
もう一層、"透明な水"の水かさが増しているのだ。

 「ど、どうしよう、りほちゃん居ないし…っ!」

ぱしゃぱしゃと"音"が鳴る。濁る様なそれに生徒達が足を取られている。
これでは業者もお手上げだろう。
しかもこれは、鈴木にしか"視えていない"。

 「かのんちゃん!」

すると何処からか見知った声が上がる。
譜久村がぱしゃぱしゃと視えない水を跳ねさせながら走ってきた。
鈴木は助け舟とばかりに譜久村の腕を掴む。

 「大丈夫?怪我してない?」
 「うん。みずきちゃん、やっぱりこれって」
 「りほちゃんはっ?」
 「それがさっきどこかに行っちゃって、水を止めに行くって」
 「水を止めに…かのんちゃん、りほちゃんがどこに居るか判らない?」

828名無しリゾナント:2012/08/29(水) 01:24:36
譜久村の言葉に一瞬考えたが、鈴木は意を決したように視線を上げる。

 「……多分、判ると思う」
 「えりぽんのクラスにも行ったんだけどあの子居なかったの。
 とにかく私達だけでも捜そっ」

刻一刻と、見えない"被害"が拡大していた。
鈴木は鞘師が何処に居るかは判らなかったが、"それを知る術"は在る。

あの感覚を思い出す。
鞘師の姿を見る度に感じた、あのオーラの"色"。
朱、血、鬼、寂、冷――― イメージを焼き付けるような概念。
全ての"音"が鈴木の耳に入り込み、脳内で変換され、目に収束する。

 鈴木が両目を見開く、濃緑色の閃きが左右に瞬いた。
 
その異変に彼女は気付かない。気付く前に彼女は走りだしていたのだから。

829名無しリゾナント:2012/08/29(水) 01:34:07
以上です。
スク水レンジャーな展開にはなりませんでしたごめんなさい。
そういう展開にするなら「ドキッ!女だらけの〜」みたいなものを
書かなくてはいけませんね(真顔

------------------------------------ここまで。

投下される作品が見るもの見るもの面白くて楽しいです。
作者さんのレベル半端ねえ…。
いつでも構わないのでよろしくお願いします(平伏

830名無しリゾナント:2012/08/29(水) 17:08:50
行ってきますた
香音ちゃんが本格的に目覚めるのかな

831名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:11:50
『Be Alive』

〈君と共に〉

1−1

「うおっ!でかっ!工藤、佐藤、こっちこっち!」
れいなが呼ぶと、工藤と佐藤は笑顔で駆け寄ってきた。
「うわっ!本当だっ!」「ひゃーっ、でっかいですねー!」
二人はれいなの両脇に並んだ。
三人は、特殊アクリル製の透明な板の向こうにいるゴリラを食い入るように見つめた。
薄暗い部屋の中で、そのゴリラはまるで休日のおっさんのように寝そべっていた。
「えー、皆さん、今晩はこちらで寝ることになります。
保護者の方は、人数分の寝袋とマットを取りに来てください」
動物園の職員がメガホンで数十人の親子連れに語りかける。
「ええっ!こんなところで寝ると?」
「田中さん、パンフレット見てなかったんですか?
寝る場所はゴリラの飼育室の前って書いてあったじゃないですか」
「そうやったと?ちょっと、佐藤、パンフレット貸して」
れいなは佐藤の背負うリュックのジッパーに手を伸ばす。
「こちょぱい!」
「うるさいなあ!動いたら取れんやろ!」
「田中さん、私、寝袋とってきます」
「おー、サンキュ」

三人はその日、U野動物園に来ていた。
工藤と佐藤の夏休みの自由研究を終わらせるため、夜の動物園見学会に参加したのだ。
中学生が参加するには、20歳以上の保護者の同伴が必要だった。
道重はその巧みな話術をフルに駆使して、二人のお守りをれいなに押し付けた。
れいなは動物園に着くまでふてくされていたが、園内では一転して大はしゃぎだった。

832名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:13:17
1−2

はしゃぎ疲れたせいか、れいなは就寝時間になるとすぐに深い眠りについた。
「すみません……、すみません……、田中さん……」
工藤がれいなの体を揺する。
心地よい眠りを邪魔されて、れいなの機嫌は最悪だった。
「もう、…なによ!」
珍しくもじもじしながら工藤が小声で言う。
「あの、本当に申し訳ないんですけど…トイレ、一緒に行ってくれませんか…」
「はあ?れいなは今超眠いと!佐藤と一緒に行けばええやろ!」
「それが、まーちゃん、もっといろんな動物を見たいって『飛んで』っちゃって…」
「あいつ…、帰ってきたらビシッといわないけんな…。
それにしても工藤、そのビビり癖、早くなんとかしいよ。
こないだも結局、お化け屋敷に入らんかったやろ?」
「はい…」
「自分の弱点を克服しようっていう根性は無いんか!
そんな根性無し、れいなの仲間には要らん!もうリゾナンターやめりっ!」
「……。」
工藤は泣きそうな顔で黙り込んだ。
れいなが顔を逆方向に向けると、工藤はとぼとぼと暗い廊下を歩いて行った。
「…ちょっと言い過ぎたかな…」
れいなは少し心が痛んだが、睡魔には勝てず、また目を閉じて眠りについた。

トイレはゴリラの飼育舎には無く、本館に行かなければならない。工藤は外に出た。
ひと気のない夜の動物園。その非日常的な空間の不気味さが、工藤を涙目にする。
工藤は勇気を振り絞って、100mほど向こうにある本館入り口を目指して走る。
「はあ、はあ、なんでこんなに遠いんだよ…」
あと20m、10m…、ゴールまであとわずかに迫ったその時…。
ガツッ!
「ウッ!」工藤の両肩に突如激痛が走った。

833名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:14:07
1−3

次の瞬間、バサバサッという羽音がした。工藤は自分の体が浮くのを感じた。
上を向くと、巨大な鷲が工藤の肩を文字通り鷲掴みにして羽ばたいている。
「おいっ!放せーっ!ガブッ!」
工藤は鷲の足に思いっきり噛みついた。
鷲は痛みで鉤爪をパッと開いた。
「うわーっ、放すなー!」
ドサッ!地上約10mの高さから落下し、衝撃と痛みで工藤は動けなくなった。
「…ち、ちくしょー…、足、折れてるかな…」
落ちたところは、さっきの場所から数百メートル南にある広場の芝生。
鷲は、夜空に半円を描いて、再び猛スピードで向かってくる。
工藤はうつ伏せのまま、両手で頭を守るしか無かった。
鷲は真っ直ぐ急降下してきて、工藤の背中を鋭い爪で引き裂き、また空に舞い戻る。
「い、いてー…」
脇腹に背中から暖かい血が垂れてくるのを感じた。
鷲のヒットアンドアウェイは執拗に繰り返される。
それは、猫が鼠を嬲りものにしているかのようであった。
工藤は額を地面に付けていたが、千里眼の特殊能力によって鷲の姿は見えていた。
(あいつ…なんで止めを刺さないんだ?ハルをエサに田中さん達をおびき出す気か?)
近くのコンクリートの上に落ちている携帯を見ると、大きなひびが入っていた。
だが、たとえ携帯が壊れていなくても、工藤はれいなに助けを請うつもりはなかった。
れいなに言われたあの言葉が、工藤の心にのしかかっていた。
(やっぱり、こんな鳥にも勝てないハルは、リゾナンターに必要ないのかな…)
工藤がそう思った時、目の間の空間が歪み始めた。
「まーちゃん!?」
それは、佐藤が瞬間移動するときに必ず生じる現象だった。
歪みはどんどん大きくなり、ついにキリリと引き締まった表情の佐藤が現れた。
大きなパンダに乗って。

834名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:15:10
〈友と共に〉

2−1

「はああああ!?」工藤は目を疑った。
だが、佐藤が跨っているのは、間違いなくあのジャイアントパンダだ。
闇空を舞う鷲は、新たな敵に気付いたらしく、向きを変えて佐藤とパンダに迫る。
「ぱんださん、おねがい!」「ガオ」
猛スピードで突っ込む鷲。パンダは立ち上がって鷲に右前脚を叩きつける。
「ギャッ!」鷲は妙な鳴き声をあげながら左に吹っ飛んだ。
「パンダ強っ!」工藤が思わず声を上げる。
しかし、鷲はすぐに体勢を立て直して飛びあがり、闇に溶けていった。
パンダの背中にくっつき虫状態の佐藤が、工藤に大きな声で言う。
「どぅー!あのとりさんはてきだよ!まー、まえにみたことあるもん!」
「敵なのは分かってるよ!それよりそのパンダ、どうしたの?」
「まーもよくわかんない!どぅー、このぱんださん、だれ?」
「知るかああ!」
「そうだよねー、それより、どぅー、あのとりさんどこにいったかみえる?」
「もう、訳が分かんないよ………ええっと、あっ!見つけた!あそこの裏!」
鷲は、そこから100m程離れた木の、死角になっている枝に潜んでいた。
パンダがすぐさま工藤の指す方へ走り出す。
佐藤は騎手のようにパンダを巧みに乗りこなしている。
バッ!パンダが跳ぶ。
そして、地上5m辺りのかなり太い木の幹を右前脚でぶん殴る。
バギッ!「ギェエエエエエッ!」
木の幹もろとも鷲が吹っ飛ぶ。
そして、そのまま地面に落ち、ピクリとも動かなくなった。
「やったー!ぱんださん、ありがと〜」
佐藤は背中から降り、パンダの首に抱き着いた。
パンダは優しい目で佐藤を見つめた。そこに、一瞬の隙が出来た。

835名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:15:48
2−2

突然、パンダの体がびくっと動いた。
そして、ゆっくりと地面に這いつくばる。
「あれ?ぱんださん、どーしたの?」
佐藤が屈んで顔を覗き込むのと同時に、暗闇から十数人の全身黒ずくめの男が現れた。
「ゼンマザイジャアル?(何でこんなところに?)」
「…ハオバ、ザイジャアルシャーバ。(…まあいい、ここで始末してしまおう。)」
「…グルルル」
男たちの会話の内容が分かるのか、パンダが弱々しく唸る。
佐藤は、パンダの背中に吹き矢が刺さっているのを見つけた。
(どく!?)
佐藤の推測通り、その矢には神経を麻痺させる猛毒が仕込まれていた。
佐藤は、愛佳に教わった毒抜きの方法を思い出した。
急いで吹き矢を抜き取り、傷に口を付け、血ごと毒を吸いだしてペッと吐き出す。
黒ずくめの男たちは、半月刀を構えて、パンダと佐藤を半円状に取り囲んだ。
佐藤は一心不乱に、毒を吸って吐き出す作業を繰り返す。
「ジャーガニューハイ、ゼンマバン?(この娘、どうします?)」
「…シャー(殺せ)」
彼らのリーダーらしき長髪の男が言うと、二人が前に出て佐藤とパンダに近づく。
「待て!」
工藤は、超人的な精神力で全身の激痛に耐え、立ち上がって叫んだ。
「ハルの親友に手を出すな!」
長髪の男が工藤の方を向いて、思わず声を漏らす。
「オオ、ジェンクーアイ…(おお、超かわいい…)」
鼻の下を伸ばしたその長髪の男は、舌なめずりをしながら工藤に近づいていく。
(ちくしょう、…ハル、どうする?)
工藤は落下の衝撃と鷲の攻撃によるダメージで、立っているのがやっとだ。
「モンア〜(萌え〜)」
気持ち悪い声を出しながら、男が手を伸ばして工藤に触れようとした。

836名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:16:33
2−3

ゴギッ!
鈍い音とともに長髪の男の動きが止まる。
「大切な後輩に、なにしよう…」
「田中さん!?」
工藤が叫ぶと、男の顔面に拳をめり込ませたれいなが静かに答える。
「ごめん、遅くなった」
言い終わると、高速で体を半回転させ、左足で男の胴を蹴り上げた。
「グエッ」
長髪の男が後ろに吹っ飛ぶ。
だが、男もプロらしい。すぐに体勢を立て直し、立ち上がって部下に向かって叫ぶ。
「シャー!(殺れ!)」
黒ずくめの男たち全員がはじかれたように動き出した。
一人がパンダ、一人が佐藤、残りの十人と長髪の男がれいなに、それぞれ襲いかかる。
「「ギャーッ!」」
れいなが先頭の男に蹴りを見舞った時、佐藤とパンダを襲った二人が同時に絶叫した。
崩れ落ちる二人の男の背中からは、緑色の炎が上がっていた。
その炎に照らされて、闇の中に一人の少女の姿が浮かび上がる。
少女はれいなの方を向いて言った。
「田中サン、手助けはいるカ?」
「いらん!」
「そういうと思タヨ」
少女と話している間にも、れいなは次々と敵を仕留めていく。
そして、最後に長髪の男に全力の拳を打ち込み、早々と戦いを終わらせた。
「田中サン、ますます強くなタナ。まるでバカものみたいダ」
「はあ?それをいうなら『化け物』やろ!リンリン、日本語下手になったんやない?」
れいなはかつての戦友を見て、汗一つかいていない顔に子供っぽい笑みを浮かべた。

837名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:17:11
〈夢と共に〉

3−1

れいなは佐藤に、さゆみを連れて来るよう指示した。佐藤はすぐに「飛んで」いった。
パンダは、佐藤の応急処置が功を奏し、大事には至らなかったようだ。
黒ずくめの男たちの後始末は、リンリンの仲間がしてくれるらしい。
一方、工藤を襲ったあの大きな鷲は、例のごとくいつの間にか消えていた。

工藤は鷲に襲撃されたことをれいなに報告した。
それを聞き終わるとれいなは、その夜起こったことを皆に説明した。

工藤が一人でトイレに向ってしばらくして、れいなの携帯に愛佳から電話がきた。
「田中さん、今、どこにいます?工藤が危険です!」
れいなは慌てて寝袋から飛び出した。
そして走りながら、自分と工藤佐藤がU野動物園に来ていることを愛佳に伝えた。
それを聞いた愛佳は、自分がその夜見た「夢」の内容を話し出した。
その夢の中で、工藤は大きな鳥に襲われ血だらけになっていた。
背景の看板には、U野動物園南広場という文字が見える。
そして、そこには佐藤と、なぜかジュンジュンと思われるパンダの姿もあった。
目覚めた愛佳は急いで工藤に電話をしたがつながらない。
佐藤に電話すると、ちょうどパンダの見学中だった。
愛佳は、佐藤にそのパンダを連れて工藤のところに「飛ぶ」ように指示した。
さらに次の指示を出すために佐藤に電話をかけたが、それに出たのはリンリンだった。
そこで、リンリンにも事情を話し、南広場に向かうよう頼んだ。
以上のような話を愛佳から聞いたところで、れいなは南広場に到着した。
同時に、別方向から走ってくる見慣れたシルエットの少女に気付いた。
れいなは電話を切って、工藤に近づく長髪の男に全速力で突進した。

「ところでリンリンとジュンジュンは何で日本におると?」
れいなにそう尋ねられ、今度はリンリンの説明が始まった。

838名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:17:44
3−2

リンリンとジュンジュンは、「刃千吏」の極秘任務でU野動物園に来ていた。
数日前、ある犯罪組織がU野動物園のパンダ暗殺を計画しているという情報が入った。
どうやら、外交カードを増やしたい中国政府が裏で関与しているらしい。
そこで、その暗殺を阻止するために、リンリンとジュンジュンが急遽来日した。
ジュンジュンは、獣化能力を使い、狙われているパンダの影武者となった。
獣化状態を持続させるために、最低でも12時間は元に戻れなくなる薬を飲んだ。
敵の襲撃を待ち構えていると、どこから入ったのか突然檻の中に一人の少女が現れた。
少女はパンダ、すなわちジュンジュンに駆け寄り、嬉しそうにピタッとくっつく。
その少女は、どう見ても暗殺者には見えなかった。
困ったジュンジュンはとりあえずそのままパンダとして振る舞うことにした。
少女はジュンジュンにまたがり、キャッキャッと楽しそうに笑った。
ジュンジュンも、少女と一緒に遊んでいるうちに、だんだん楽しくなってきた。
「ジュンジュン、ニイザイガンシェンマ…(ジュンジュン、何してるの…)」
隣室のモニターで監視していたリンリンが呆れていると、突然少女の携帯が鳴った。
少女はジュンジュンから降り、携帯にこう言った。
「みついさ〜ん、こんちくわ〜、どうしたんですか〜」
(光井サン?)
その名前を聞いて、ジュンジュンは驚いた。そして、電話の内容に聞き耳を立てた。
愛佳が何か指示を出している。しかし、少女は全く状況を飲み込めていないようだ。
「う〜ん、よくわかんないですけど、いまからみなみひろばにいけばいいんですか?」
「そう!ジュンジュン…いや、そこのパンダと一緒にや!佐藤、パンダに代わって!」
「はーい。ぱんださん、おでんわですよ〜」
「ガウ」
携帯を受け取って愛佳の話を聞き終わると、ジュンジュンは少女を再び背中に乗せた。
そして、少女が何か叫ぶと同時に、少女とジュンジュンの姿が忽然と消えた。
慌ててリンリンが檻の中に入る。
それと同時に、うっかり忘れていったのか、床に落ちていた少女の携帯が鳴り出す。
リンリンは平仮名で「みついさん」と表示されている画面の着信ボタンに指で触れた。

839名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:18:28
3−3

れいなはテディーベアのように腰かけているジュンジュンの肩にもたれかかった。
ジュンジュンは、リンリンからもらった薬が効いてもうほとんど回復している。
「やっぱりジュンジュンの隣が一番落ち着くな〜」「ガウ」
れいなはあまりの心地よさにうとうとし始めた。

リンリンは工藤に痛み止めを飲ませ、背中の傷の応急処置をしながら話しかけた。
「はるかチャンはまだ中学一年生カ。よくこの傷に耐えられタナ。すごい精神力ダ」
リンリンの天真爛漫な笑顔を見て、工藤はこの先輩になら何でも話せる気がした。
「…いいえ。ハルは本当にダメです…。さっきも田中サンに言われました。
ハルは根性無しだから、リゾナンターをやめろって…」
「アハハハハッ!」
「リンリンさん、笑うなんてひどいですよ〜」
「ゴメン、ゴメン。でも、田中サン、変わらナイなって思ったカラ…」
「えっ?変わらないってどういうことですか?」
「ワタシも、前にソレ、言われたことあるヨ」
「リンリンさんも田中さんにやめろって言われたんですか?!」
「ワタシもジュンジュンも言われタヨ。あのときの田中サンの顔、鬼みたいに怖かタ。
 でも、そのアト敵と戦っタとき、田中サンはワタシタチ庇ってボロボロになっテタ。
 そのトキ、思っタヨ。田中サンは、ワタシタチにもっと強くなって欲しくて、
 厳しいコトバ言っタ。強くなれば、ケガしたり、死んだりしなくなるカラ」
「……」
「田中サンはムカシ一人ぼっちだタカラ、やっと出来た仲間が傷つくノ本当に嫌がル」
「……」
「はるかチャン、田中サンが心配いらなくなるくライ、強くなって下さイネ!」
工藤はジュンジュンにもたれかかっているれいなを見ながら、元気に返事をした。
「はい!」

840名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:19:31
〈Ending:汗と共に〉

「おまたせしました〜」空間が歪み、そこに佐藤が現れた。巨大なサイに跨って。
「はあああああ!?」工藤はまたもや自分の目を疑った。
れいなが立ち上がって怒鳴る。
「佐藤!なんでサイなんか連れきよったと!?」
「だって〜、たなさたん、すぐにさいをつれてこいっていったじゃないですか〜」
「れいなが言ったのはサイじゃない!さ!ゆ!」
「がびんぼよ〜ん」
サイは草食動物だが、非常に気が荒い。
豹柄の服を着て大声を出すれいなの姿は、サイの闘争心を激しく喚起した。
ドドドドドドッ「うわわわっ!サイがこっちに来ようっ!」
れいなは慌てて逃げ出す。それを追うサイの上で、佐藤が無邪気に言う。
「たなさたんもさいさんといっしょにあそびましょ〜」
そのとき、リンリンのポケットの中の佐藤の携帯が鳴った。
「おー、光井サンだ!もしもーし、リンリンでーす。こっちは無事解決しましタ。
 みんな大丈夫ダ!バッチリンリンでーす!」
工藤が少し心配そうに言う。
「…田中さん、大丈夫ですかね」
「心配ない。あの人、バカものだカラ」
「ガウ」
れいなは、人間の限界を超えたスピードで両脚を動かした。
そして、先程の戦闘では全くかかなかった汗を全身に感じつつ、大声で叫んだ。
「さあああとおおおおおお!あんたああ、りぞなんたああ、やめりいいいいいいい!」

―おしまい―

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
以上、『Be Alive』でした。
夏休みも終わりということで、こんな作品はいかがでしょう。

841名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:20:41
=======================================
↑>>831からここまでです。
 お好きなところで分割していただいても構いません。
 いつもすみませんが、よろしくお願いします。

842名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:43:42
行って来ますかね

843名無しリゾナント:2012/08/31(金) 00:03:53
完了
第三者であるリンリンによって語られるれいな像で工藤とれいなの関係性が変わっていく様子が好きです

844名無しリゾナント:2012/08/31(金) 10:13:15
>>843さん、投稿ありがとうございました。
 こんなに早く投稿したいただけるとは!
 また、ご感想もありがとうございます。とても励みになります。
 これからもよろしくお願いします。

845名無しリゾナント:2012/08/31(金) 10:43:11
すみません…。
「こんなに早く投稿したいただけるとは!」は、正しくは、
「こんなに早く投稿していただけるとは!」でした。
本文も含めていろいろ誤字が多くて、これじゃあリンリンのこと日本語下手って言えませんね。
今後はもっとしっかり見直すように心がけます。

846名無しリゾナント:2012/08/31(金) 20:17:01

二時の方向にダークネスの反応があると聞き、リゾナンターは現場へ急行した。
現場は、地下鉄「萌えーお江戸線」の某駅前だ。
迷ったり乗り継ぎでミスしたりして「地下鉄は複雑過ぎるわっ!」とツッコミを入れながらも、なんとか某駅に辿りついたメンバーたち。
だが、時すでに遅し。
そこはもう、ダークネスの悪意によって支配されていたのだった。

「キャハハハハ!いらっしゃーい、東京デカイツリー×3開業でーす!今ならオープン記念で入場料がお安くなっておりまーす!」

駅前で道行く人に宣伝のうちわを配っている、ちっちゃくてうるさい女がいた。
良くも悪くも耳につく声だ。
チキンのチェーン店のCMなどを任されてもおかしくないかもしれない。

さて、駅を出ると真っ先に目に入るのがこの女なのだが、よく見るとその背後がまたすごかった。
数百メートル先にそびえ立つ三つの塔。
2012年に開業した東京下町の新名所に似ていなくもない。
っていうか、そのものじゃね?

「ダークネスめ!何を企んどると!」

れいなが勢いよく前に出る。
まだまだ若いもんにセンターは譲らん!といった気概が見えた。

847名無しリゾナント:2012/08/31(金) 20:38:45
「あー?・・・なんだおめーらかよ。ほら帰った帰った。商売の邪魔だ」
「商売?」
「みなさーん!下町タワーは混んでて入場券買うのも一苦労ですよー!こっちのツリーに昇ったほうがおトクですよー!」

ちっちゃい女はれいなを相手にせず呼び込みを再開した。
女の宣伝の甲斐あってか、夏休みで暇そうにしている通行人がぞろぞろと下町タワーもどき×3に向かって歩いていく。

「どうも、下町電波塔の営業妨害を狙ってるみたいですね」
「まーちゃんもデカイツリー昇りたい!」
「バカ。ダークネスの作戦に乗っかってどうすんだよ」
「とにかくまずはポーズ決めましょう!戦隊ヒーローモノの基本ですよっ!」
「それもそうだね。じゃあ」

「やらせるかぁ!」
「わー!!」

ダークネスのちっちゃい女が全身でツッコミをかます。
さすが黄金期のツッコミ担当、と言わんばかりのキレと素早さだった。

「こっから10行も使わせるわけないだろ!全員分の決め台詞考えるほうの身にもなってみろ!」
「えー・・・・・・」

848名無しリゾナント:2012/08/31(金) 20:39:36
ヒーローモノの定番である登場シーンは都合によりカット。
ガッカリした顔をしているメンバーもいるが、これはそういうものだと思ってあるがままに受け入れてもらうしかないのである。

「れいなが先走って声をかけなければ、邪魔されずにできたかもしれないのにね」
「ちょ!れいなのせい!?」
「これでは、このお話のメンバー構成が読んでる方に伝わりませんわ。シクシク」
「今のリゾスレはそこを明示しないと、いつの時代の話なのか混乱するヤシ。グスグス」
「うっさい!あいつが10行って言いよるけん、2012年夏現在の10人ってわかるやろ!ってかそこ!嘘泣き!」

話を戻そう。

ダークネスという組織は、営業・広報力に定評のありそうなちっちゃい女を使って墨田区の営業妨害をしている。
その目的はいったいなんなのだろう。

「こんなものまで売ってましたからね。向こうは本気みたいですよ」

香音と春菜の二人がすっと前に出る。
香音の腕に抱えられているのは、焼きそば、たこ焼き、りんご飴、チョコバナナなど。
さらに春菜の左手首にかけられたビニール袋の中には、ツリーのマークが入ったクッキーや饅頭の箱などが入っていた。

849名無しリゾナント:2012/08/31(金) 20:40:20
「みんながコントやってる間に偵察してきました。この食べ物類は、その辺の屋台で売っていたものです」
「そこの“東京ホラマチ”っていうお店の中では、キーボルダーなんかも売ってましたよ。
 全10色だからみんなの分も買ったんですけど、やっぱりチョコレート色はないですね・・・」
「こここ、こんなに買い物するなんて・・・。二人のお小遣い、月いくらなんですか・・・」
「大丈夫だよ亜佑美ちゃん。全部経費で落とすから」
「私も!私もちょっと偵察に!!!」
「いや、もう充分だし」

今にも駆け出しそうな亜佑美を生温かい目で見守りながら、さゆみはダークネスの狙いを分析する。
これだけ多様な店を出店料の高そうな「萌えーお江戸線」の駅前に集めたのだ、連中も遊びでやっているわけではない。
そうだ、女は先程「商売」と言っていた。
ということはつまり。

「やいダークネス!おまえたちの狙いはなんだ!」
「ちょっと!そんなはっきり!」

さゆみが真面目に考えてる横から、衣梨奈が単刀直入に疑問をぶつける。
リーダーらしくシリアスな顔でキメてるところだったのに。
空気読めよこのKY、とさゆみは口の中で毒づいた。

「ふん。我がダークネスは“萌えーお江戸線”と業務提携してるんでな。あっちの沿線にばっか人が集まるのは面白くないんだよ」

しかも、あっさりと狙いを教えてくれるっていう。

850名無しリゾナント:2012/08/31(金) 20:41:05
「いくつか催眠をかけてあるからな。客は東京デカイツリーに昇ったつもりで、実は333m塔に昇ってるって寸法だ。
 帰りに“ホラマチ”でお土産のデカイちゃんグッズでも買ってくれたら、言うことないね!」
「この悪党!」
「邪魔するなら容赦しねーぞ。あそこに見えるデカイツリー×3は完全な幻ってわけじゃないんだ。行け!一号、二号!」

ちっちゃい女の合図で、三つの塔のうち左右の二つが動き出した。
ズシン、ズシンとこちらに迫ってくる。

「頑張れ、ダーリン!やっちゃえ、モトコサン!」

“ダーリン”と呼ばれた一際大きな木偶の坊と、“モトコサン”と呼ばれたジャイアントがリゾナンターに襲いかかった。
二つのデカイツリーに手が生えて、右パンチ左パンチ右アタック左アタック。
あまりに長大なそのリーチに、リゾナンターはただ逃げ回ることしかできない。

「うわわわわ!怪獣映画かよ、くっそー!」
「キャー!まだりほりほのスク水写真集完成してないのに潰されるのはイヤー!」
「ダメじゃダメじゃー!フクちゃんのありとあらゆる肌に頬ずりするまでは死ねーん!」
「私の最期は道重さんの腕の中って決めてるのに・・・!それが無理なら、ハアハア、小学5,6年生くらいの、女の子たちに囲まれて・・・ハァハァ」
「いろんな意味でもうダメだ!!」

絶望感に包まれるリゾナンター。
しかし、まだ諦めていないメンバーが一人。

851名無しリゾナント:2012/08/31(金) 20:42:08
「諦めるにはまだ早いっちゃん!この10人だからこそできる必殺技があるやろ!」

木陰に隠れて顔だけ出したれいなが凛々しく叫ぶ。
そうか、その手があったか。
他のリゾナンターもれいなにならい、木陰に隠れる。
そしてデカイツリーの手が届かない奥のほうで、10人は最新のフォーメーションを組んだ。



「リゾナントバスター改変版!“リゾナント・カラフルキャラクター”!!!」



※モーニング娘。の最新アルバム『(13)カラフルキャラクター』は、9月12日(水)発売です。

「「グワァァー!!」」

新必殺技“リゾナント・カラフルキャラクター”が見事に決まった。
崩れ落ちるデカイツリー一号と二号。
するとあら不思議、それまでデカイツリーだったものが見る見るうちに人型に変化していく。
どうやら催眠幻覚で必要以上に巨大に見せていただけで、ベースは正真正銘の人間であったようだ。

「ああ!ダーリン!」

852名無しリゾナント:2012/08/31(金) 20:42:59
ちっちゃい女が、恋する姐さん女房顔で元デカイツリー一号に駆け寄る。
倒れた男と介抱する女。そのカットだけ切り取ってみれば、まるでドラマのワンシーンのようだった。
ちなみにその隣では元二号も倒れていたが、新婚さんがそっちを振り向くことはないので以下省略。

「ツリーの横に333mタワーが見える!まだ戦いは終わってない!まさかあのツリーも催眠をかけられた人間なの!?」
「おそらくそうです!聖の持つ聖なるパワーで、くまくました可愛い女性が視えます!」
「聖にそんな能力設定あったっけ」
「そこは空気読んでください、生田さん!」

デカイツリー×3ということで、敵はまだあと一塔残っている。
しかし、最強の必殺技を放ってしまったリゾナンターに力はもう残されていなかった。
このままでは、夏休みの最後を安近短で済ませようとする人たちのお金がダークネスの手に堕ちてしまう・・・!

「ねー、くどぅー。夏休みの宿題終わった?」
「え。いやまだ数学と美術が残ってるけど」
「まーちゃんはねー、英語が終わったんだよー」
「英語“が”?まさか終わってるの英語だけ!?」

「・・・・・・宿題?」

853名無しリゾナント:2012/08/31(金) 20:43:29
最年少コンビの和やかな会話。
それに反応を示す声が、上空からひらり。

「くまくまー!!!」

奇声を発し、最後のデカイツリーが人間の姿に戻っていく。
だがリゾナンターは何もしていない。
ちっちゃい女も、傷つき敗れたダーリンと愛を語らうことに必死で、何かした様子は見られない。
いったいデカイちゃんの身に何があったというのか。

「ふう。弟の夏休みの宿題見てあげる約束をすっかり忘れてたよ。お姉ちゃんが約束やぶっちゃダメだよね」

綺麗な女子大生風のお姉さんの姿になったデカイちゃんは、そのまま何事もなかったかのように去っていった。
きっと彼女はこれから家に帰って、約束どおり弟さんの宿題を見てあげるつもりなのだろう。
真面目だ。実に真面目な性格だ。
故に、「宿題」の一言で我を取り戻したのかもしれない。
夏休みの終わりに聞く「宿題」という言葉は、学生であればあるほど結構ビクッとする。
彼女も例外ではなかったのだろう。

854名無しリゾナント:2012/08/31(金) 20:44:05
「えっとー・・・一件落着ってことでいいのかな、れいな」
「れいなに振らんでよ。れいなはリーダーの判断に従うけん」
「ずるーい。こういう時だけさゆみのことリーダー扱いして」

「じゃあ早く本部に帰りましょう!まーちゃんに宿題やらせないと!」
「でも〜、今日の出動報告書、まーちゃんが担当だからぁ〜」
「そんなもんだーいしが代わりにやってくれるって!ねっ!」
「・・・うん。それは別にいいけど・・・・・・」
「あゆみん、屋台への未練が視線に表れてるよ」

「別に宿題なんかやらなくても高校生になれるのに」
「聖って案外アホっちゃんね〜。数学のテスト6点やったっけ?」
「その後は42点に上がったもん!っていうかそうじゃなくて、学校なんておじいちゃんに頼めば大丈夫ってことを聖は言いたかったの!」
「うわぁ・・・」
「ああ香音ちゃん!そんな残念なものを見るような目で見ないで!」
「アハハハ!」
「・・・他人事だと思っとるみたいじゃけど、香音ちゃんはえりぽんにも結構そういう顔しとるよ?」

何はともあれ、悪の手は退けた。
酷暑だろうが酷ネタだろうがオチてなかろうが、リゾナンターは今日も往く。
今日も往くのだ!


おしまい

855名無しリゾナント:2012/08/31(金) 20:46:07
>>846-854
『カラフルリゾナンター 〜VSデカイツリートリオ〜』

オチなんていらねえよ、夏
小ネタに関してはふざけてるだけで悪意はないのであしからず


――――

酷い話ですがせっかく思いついたので
よろしくお願いします

856名無しリゾナント:2012/08/31(金) 22:27:51
行って参ります

857名無しリゾナント:2012/08/31(金) 22:36:54
行って参りましたがなにからつっこめば良いのやら…w
個人的にくまいちょーが好きです
「いろんな意味でもうダメだ!!」も最高でしたw

858名無しリゾナント:2012/09/01(土) 12:17:27
くくくくくくまいちょーちゃうわ!
実在の人物・団体とは関係ありません的なテイですから!

代理ありがとうございました

859名無しリゾナント:2012/09/03(月) 18:16:18
『女子かしまし物語2012』

〈WOW WOW WOW 青春〉

1−1

「ハァ…」生田衣梨奈は机の上の携帯を見つめながら、また、ため息をついた。
生田は休み時間になると、新垣里沙からの返信メールを、いつもこうして待っている。
生田がこれほど新垣に魅かれるようになったのは何故か。
リゾナンター加入前、生田の憧れの存在はTVに出てくる流行りのアイドル達だった。
加入後も、特に先輩の誰に憧れているということはなく、皆同じように尊敬していた。
生田が新垣に対して明らかに特別な感情を抱くようになったのは、去年の今頃からだ。

その頃から生田は、新垣から感じる「安心感」に魅了されはじめた。
高橋がいなくなってから、新垣の指導は急に厳しくなった。
何度も何度も叱られ、何度も何度も泣かされた。
だが、新垣からのアドバイスは、全てが分かりやすく、納得できるものだった。
また、ほんの少しでも成長すると、新垣は母のような笑顔を見せ、頭を撫でてくれた。
戦場での新垣からも、絶対的な「安心感」を感じた。
高度な技術、無尽蔵のスタミナ、冷静な判断、的確な指示、仲間や周囲への配慮…。
皆が安心して戦うことができるのは新垣がいるからだ。生田はそう感じていた。
いつも自分に対して不安を感じている生田にとって、その「安心感」は眩しかった。

生田はいま、一日も早く新垣のようになりたいと、心の底から思っている。
だが、自分がその目標に向かって前進しているという実感が、生田には全く無い。
そもそも自分は、リゾナンターに入ってから、何か成長できたのか。
確かに、精神破壊波を制御できるようにはなった。しかし、そんなのは些末なことだ。
もっと本質的なところで、自分は何も変わっていないのではないか。
こんな成長の無い自分が、あの人の域に達する日なんて、本当に来るのか。
そんな不安に苛まれる度、生田は無意識のうちに新垣の「安心感」にすがろうとする。

新垣里沙という人間の凄さに気付き、憧れ、そして、目標と決めたこと。
それこそが生田の「本質的な」成長の証しだということに、本人はまだ気付いていない。

860名無しリゾナント:2012/09/03(月) 18:17:07
1−2

佐藤優樹は、隣りでスポーツ飲料水をがぶ飲みする工藤をボーっと見ていた。
佐藤は工藤が好きだ。本当に大好きだ。でもその理由が、自分でもよく分からない。

リゾナンターの同期だから?
違う。もちろん同期はみんな好きだ。飯窪も石田も、かけがえのない存在だ。
でも、工藤に対して抱く感情は、もっと特別なものだ。

叱ってくれるから?
それも違う。佐藤はリゾナンターのメンバー全員から叱られている。
メンバーといる時、佐藤は感情のままに笑い、泣き、甘え、叫び、だだをこねる。
佐藤が自分の感情を抑えないのは、みんなを本当の家族だと思っているから。
みんなは自分を叱るけど、見捨てることは絶対にない。
だから、安心して、心を開け放つことができる。

(じゃあ、どうしてどぅーはとくべつなんだろ〜?)
佐藤は、自分がいつも工藤に抱いている思いを、一つ一つ確認してみた。
工藤のそばにいたい。工藤に自分の話を聞いてほしい。
工藤に自分の思いを共感して欲しい。工藤を自分のものにしたい。
できることなら、工藤を自分の体の一部にしてしまいたい…。

「まーちゃん!冷蔵庫あけっぱなしにするなって言われてるじゃん!」
(あっ、どぅーがこっちむいた!)
佐藤の心が躍る。
(おとなになればわかるのかな?)
佐藤はもうそれ以上考えるのをやめた。
そして、工藤に駆け寄り、いつものようにその背中にくっついた。
決して離れないように、ぴったりと……。

861名無しリゾナント:2012/09/03(月) 18:17:37
1−3

工藤遥は、黒ずくめの男たちを倒していく田中れいなの勇姿を思い出していた。
れいなの動きは美しい。その四肢は、きまった型にはまらず、自由奔放な動線を描く。

争いに満ちた人類の歴史は、幾多の戦闘術を生み落してきた。
それらは、無数の先人達が生命を賭して創造し、継承してきた技術の結晶だ。
そして、一つ一つが時と血によって磨かれた、揺ぎない理論によって構築されている。
では、れいなの戦闘術はどうか。
彼女に自らの戦闘術が如何なる理論に基づいているのか尋ねたら、こう答えるだろう。
「リロン?何それ。国の名前?ドイツ?」

高橋愛を知る前のれいなは、私闘で明け暮れていた。
自信家でわがままで口が悪く、筋の通らないことは認めず、阿諛追従を嫌う。
まさに一匹狼にしかなりようのない性格だった。
争いの種を毎日まき散らし、その収穫に追われる日々。
類まれなる天賦の才は、そのような自学自習のスパルタ教育によって磨かれ続けた。
仮に彼女の戦闘術に理論があるとすれば、それはこの一言で説明できるだろう。
「強気」
自分は強い。もし負けたら、それは相手が自分より強いからではない。
自分がミスなく戦えていれば、負けるはずがない。
ミスを無くすためには、身体が意思の従順な僕になるまで鍛え上げなければならない。
れいなは真面目だ。勝つ為ならば、どんな努力も惜しまなかった。
自分の思い通りに戦うことができれば、誰にも負けるわけがないのだ。
なぜなら、自分は、田中れいなだから。

生死のかかった一瞬一瞬を自信満々に躍動し、戦場という「舞台」で誰よりも強い輝き
を放つれいなは、工藤の理想そのものだった。
自分も、いつかあんな風になれるかな…、 いや、なる!絶対に!
憧れが目標に変わる年頃、すなわち青春と呼ばれる季節に、少女はさしかかっていた。

862名無しリゾナント:2012/09/03(月) 18:18:12
〈いろいろあるさ〉

2−1

ある夏の昼下がり、譜久村聖は工藤の写真をじっとりと見つめていた。
二時間前、一緒に訓練をしていたときの工藤の姿が、脳裏に蘇ってくる。
工藤は幼い体を懸命に動かし、れいなの動きを少しぎこちなくトレースしていた。
その額が、首筋が、二の腕が、太ももが、子供特有の甘い匂いのする汗で光っている。
真剣な眼差し、端正な顔立ち、細く小さな体、漏れ出る低い声。
すべてが中性的な魅力に満ちていて、もはやそれは、芸術作品としか思えなかった。
抱きしめたい…、抱きしめたい…、この体でその全てを包み込みたい…。
譜久村は、全然悲しくないのに、自分の瞳が涙で潤んでいるのに気づく。
(どうして涙が出てくるんだろう。聖、やっぱり変なのかな…)
譜久村は、突然、自分の心を分析してみたい衝動に駆られた。
工藤を見ていたあの時に渦巻いていた思念を、胸に手を当ててリロードしてみる。
激しく、無心に動き続ける工藤の姿態を、このまま永遠に見ていたいという幸福感。
一方で、このまま続けてはその華奢な体が壊れてしまうのではないかという不安。
この場ですぐ押し倒して、嫌がる工藤を思いのままに汚してみたいという欲望。
それとは逆に、工藤には永遠に純潔無垢なままでいて欲しいという祈りにも似た思い。
矛盾しているのに完璧に嵌まり合い、延々と回転を続ける二対の思念の螺旋運動。
読み取ったそれらの思念に体が支配され、心臓の鼓動が激しくなっていく。
上気した頬に水滴が二筋走り落ちるのを感じながら、譜久村は写真を唇に運んだ。

「ふう…」事が済んだ譜久村は、ケースのフタをあけ、そこに工藤の写真を戻した。
そして、新たに一枚、無作為に取り出し、そこに写っている人物が誰か確認した。
「ほう、お次はこうきましたか…」
そこには、最近可愛さと美しさに一段と磨きのかかったリーダーが微笑んでいた。
譜久村の眼差しが、再び妖しい湿り気を帯び始めた。

863名無しリゾナント:2012/09/03(月) 18:19:01
2−2

鈴木香音は燃えていた。
「お笑い」なら、誰にも負けない。
リゾナンター加入当時から、それだけは自信があった。
鈴木が笑いを取りにいけば、みんなが爆笑し、褒めてくれた。
ところがある人物の登場で、その自信が脆くも崩れ去った。
その人物とは、飯窪春菜。
突然現れた四つ年上のその後輩は、恐るべき笑いのセンスを持っていた。
佐藤のような天然ならば良い。それは笑わせているのではなく笑われているのだから。
飯窪は違う。彼女は計算し、狙いを定め、確実に「笑い」という獲物をハントする。
リゾナンターの「お笑い担当」という栄光の玉座が、彼女に奪われてしまった。
鈴木はショックだった。自分の存在を全否定されたように思えた。
みんなといる時も、鈴木は真剣な顔で考え込むことが増えていった。
そんな鈴木を立ち直らせたのは、近所に住む、ある男の一言だった。
鈴木は、喫茶リゾナントの近くにある公園で、ペリーの物まねの練習をしていた。
すると、ベンチに座っていたチャラい男が、笑いながら近づいてきて、こう言った。
「それ、嫌いじゃない」
知らない人に褒められた!鈴木はとても嬉しかった。鈴木の闘志が、蘇った。

「田中さん、私、公園で練習してきます!」
「もう夜やけん、気い付けぇよ!………ねえ、さゆ。このごろ鈴木気合入っとらん?」
「確かに。最近の鈴木って、闘志に満ちてる感じがするし、なんか迫力を感じるよね」
一時期やたら真剣な顔して何か悩んでたけど、『戦士』として目覚めてきたのかな?」
「さゆもそう思う?!れいなもそう思っとったと!鈴木はきっと強くなりよるよ!」
「後輩をこんなにちゃんと分かってるさゆみ達って、とってもいい先輩なのかもね!」
二人はニヤニヤしながら、「「イエーイ!」」と叫んでハイタッチした。

その頃、ひと気の無い夜の公園では、努力家鈴木の練習が始まっていた。
「飯窪春菜です!石田あ・ゆ・みです。さとうまさきでぇす。ぐどうはるがですっ!」

864名無しリゾナント:2012/09/03(月) 18:19:41
2−3

(どうしよう…、あゆみちゃんがかなわない相手に、私が勝てるわけない)
自分の体が震えているのを、飯窪春菜は感じた。
そして、以前、道重さゆみもこのように震えていたことを、ふと思い出した。

それは、リゾナンター全員で敵と交戦していたときのことだ。
戦いは、敵味方入り乱れての総力戦となっており、文字通り「乱戦」状態だった。
さゆみと飯窪は安全のため、近くの岩陰に隠れていた。
二人で戦場を見ていると、突然さゆみが「あっ!」と声を上げ、岩陰から跳び出した。
さゆみの走っていく方向を見ると、生田が血を流して倒れている。
「やなのやなの!さゆみやなの!」「まって!まって!」「ハッ!?ハッ!?ハッ!?」
さゆみは、敵に攻撃される度に絶叫しながらも、生田のもとへ前進していった。
そして、ほんの数秒で生田を治療して、再び叫びながら一目散に岩陰に戻ってきた。
飯窪はそれまで、堅固な陣形によって守られているさゆみしか見たことがなかった。
新垣やれいなに守られっぱなしの彼女は、とても弱々しく見えた。
事実、さゆみは、先輩たちの誰よりも弱い。攻撃力はゼロだ。
そのさゆみが、一瞬の躊躇もなく、あの乱戦状態の中へ跳び込んでいった。
攻撃手段を一切持たない人間が戦場に飛び出す。それがいかに恐ろしいことか。
現にさゆみの体は、さっきから微かに震えており、目には涙がたまっている。
飯窪は思い知らされた。
さゆみは戦っている。臆病で、弱気で、泣き虫な自分と、いつも懸命に戦っている。
自分の弱さと戦いながら、恐怖と緊張の中、仲間の為にさゆみは前へ跳び出し続ける。
飯窪の脳裏に、ある物の映像が浮かびあがった。
それは、数日前、さゆみがうっかり床に落とした一冊のノート。
拾おうとした飯窪がたまたま目にしたページには、丸っこい文字でこう書いてあった。
「前へ、前へ」

(道重さん!私、あなたのようになりたいです!)
飯窪は全力で前へ走り出した。「オラオラオラオラオラオラーーーーーー!」

865名無しリゾナント:2012/09/03(月) 18:20:15
〈2、3人集ったら〉

3−1

道重さゆみは、鞘師里保、石田亜佑美と都内のとあるカフェに来ていた。

さゆみは、愛しい鞘師の横顔を盗み見ながら、ある「記憶」を蘇らせる。
それは、欲望の塊となって鞘師を抱いた、あの夜の「記憶」…。
そもそもさゆみは、ピンクの悪魔になったときのことを覚えていない。
だが、あの夜の「記憶」だけは、繰り返し見る淫夢によって、少しずつ復原された。
もちろん、それはただの妄想かもしれない。
さゆみの願望が生み出した蜃気楼にすぎないのかもれない。
しかし、さゆみは、その「記憶」が、妄想でも蜃気楼でも構わなかった。
その「記憶」の中には、縛られたまま身をよじり悶える鞘師が、確かにいる。
さゆみは、鞘師を見ながら、あの夜の「記憶」を、五感全てで味わい始める。

触覚。まだ誰も触れていない薄絹のような肌に、自分の指先の皮脂が染み込んでいく。
上下に撫でさするたびに、うぶ毛以外に摩擦のないなめらかな表面が桃色に火照る。
嗅覚。湿り気を帯びた胸元から漂う鞘師そのものの匂いが、本能に強く爪を立てる。
鼻先にかかってくる熱く淫らな吐息に、微かに残る自制心の欠片も砕き潰されていく。
視覚。服を首まで捲りあげられ、羞恥のあまり微かな蠕動を続ける、あどけない体。
ただそこには確かに凹凸が生まれつつあり、この年頃特有の危険な色気に満ちている。
聴覚。こらえきれず鼻から洩れ出る声が、鞘師の混乱している心を教えてくれる。
それは、泣いているようであり、責めているようであり、誘っているようでさえある。
味覚。首筋の汗、頬を伝う涙、拒む唇へ無理に舌先を押し込んで舐め取った唾液。
その全てに、芳醇さと、甘美さと、熟す直前の果実が持つ淡い酸味が感じられる。

「道重さん、アイスクリーム、溶けちゃいますよ」
石田の声で、さゆみは突然現実に引き戻された。
「あっ、そうだね…。なんか、おなか一杯になっちゃった。あゆみん、これ食べる?」
「えっ、いいんですか!?」
さゆみは頷くと、急いで「記憶」の世界に戻ろうと、再び鞘師の横顔を盗み見た。

866名無しリゾナント:2012/09/03(月) 18:20:48
3−2

「じゃあ、これ、私、食べちゃいますよ。鞘師さん、半分コしませんか?」
石田亜佑美のその言葉が、鞘師里保の心をかき乱す。
(『食べちゃいますよ……、鞘師さん……』)
「私は大丈夫。あゆみん、全部食べなよ」
(そう…、食べなよ…、この私を…、全部……)
……自分は一体何てことを考えているんだ!?
自らの心の声に激しい嫌悪感を抱きながら、鞘師は見たくもない天井を見た。
上を見たのは、そうしないと、自分の目がある場所に集中してしまうからだ。
そう、あのプルンとした石田の唇に…。

鞘師が石田の唇の魅力に気付いたのは、半年ほど前だ。
写真を撮ろうと石田の顔をじっと見ているうちに、鞘師はその美しい唇に魅了された。
彼女の肉感的な唇は、この世で最も美味なるものに思えた。
心地よさそうな弾力、瑞々しい艶、健康的な色。全てが完璧で理想的だった。
鞘師は、「見とれる」という言葉の意味を、そのとき初めて理解した。

スプーンが石田の唇に運ばれる。上下の唇が、鈍く光る金属の棒を優しく包み込む。
その棒が引き出されると、上下の唇それぞれを横切って、細い線が一本ずつ生まれた。
それらの線は、唇の柔らかさを如実に物語りながら深さを変え、そして消滅した。
もし、あのスプーンが、自分のこの人差し指だったら…。
熱く淫らな欲情の奔流が、鞘師の体の中心部を駆けあがった。
(ハッ!)
鞘師は、また自分が石田の唇を見つめていることに気付いた。
慌てて目の前のグラスを掴み、のどにサイダーを勢いよく流し込む。
鞘師は、自分の心を汚している、いやらしい情念をきれいに洗い流したかった。
炭酸の刺激による痛みを感じながら、鞘師は思った。
(私、道重さんやフクちゃんみたいに、変態さんになっちゃったのかな…。
 …じいさま、瀬戸内の海は、今も青くきれいですか?里保は…里保は、もう…)

867名無しリゾナント:2012/09/03(月) 18:21:27
3−3

石田亜佑美は道重からもらったその高級なアイスクリームの味に愕然としていた。
(嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ!こんなに美味しい物が、この世に存在するわけがない!)
石田は、新たな味覚との出会いに心を震わせた。
思い起こせば、石田のこの一年間は、驚きの連続だった。

以前、「スターバックス」という喫茶店に同期みんなで行った時も、そうだった。
石田はそれまで、その高級な喫茶店に入ったことがなかった。
一方、工藤と佐藤は、まだ中学一年生のくせに生意気にも経験済みらしい。
プライドの高い石田は、二人に馬鹿にされたくなくて、初めてだということを隠した。
工藤が「フラペチーノ」というものを注文し、佐藤と飯窪もそれにした。
当然、石田もそれを選ぶしかない。他のものを注文すれば、ボロが出る可能性がある。
石田は、「フラペチーノ」とは、フラッペをフランス風に言い換えたものと解釈した。
だが、注文後、カウンターの上に乗せられたものは、石田の想像とは違っていた。
それはカキ氷ではなく、冷たいコーヒーの上にソフトクリームが乗ったものだった。
その飲み物の容器には、透明なドーム状のプラスチックの蓋がついていた。
蓋には小さな穴があいていて、長めのストローが突き刺してある。
(ハハ〜ン、これでアイスクリームをすくって食べればいいのね)
石田はさも慣れているような手つきで、ストローを抜いた。
めまいがした。(先が、スプーンみたいになってない…)
石田は、動揺を誰にも悟られないように笑顔を作りつつ、飯窪の方をさりげなく見た。
飯窪はストローを回した。コーヒーが白濁していく。それを飯窪はストローで吸った。
石田は慌てて、その行為をぎこちない手つきでまねて、コーヒーを吸い出してみた。
(嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ!)
それは、苦みと甘みとが絶妙に調和した、信じられないほど衝撃的な美味しさだった。

鞘師を盗み見ながら恍惚としているさゆみ。石田の唇にまた心を奪われている鞘師。
あまりにも美味しすぎるアイスクリームを凝視し、テンションMAXの石田。
三人の心が共鳴することは…なかった。

868名無しリゾナント:2012/09/03(月) 18:22:05
〈Ending:かしましかしまし〉

田中れいなは、喫茶リゾナントの二階の自室で新しい陣形をノートに書いていた。
その陣形は、5人ずつ2チームで構成されている。
左から順に、石田工藤さゆみ生田鞘師。もう一つは、田中鈴木譜久村飯窪佐藤。
それぞれ、さゆみと譜久村は後ろに下がり、石田と鞘師、田中と佐藤は前に出ている。
つまり、両方とも、さゆみと譜久村のところで折れ曲がるV字型になっていた。
左のVは本隊。司令塔であるさゆみの隣に千里眼の工藤を置き、情報を収集させる。
新人ツートップの鞘師・石田が攻撃を担当。生田は精神破壊波で彼女らを支援する。
右のVは遊撃隊。飯窪の薄黄色の接着剤と、鈴木の物質透過能力で敵を攪乱。
さゆみの能力が使える譜久村は、負傷した仲間の応急処置を担当する。
また、譜久村は高橋の能力も使えるため、本隊との連絡係も担う。
攻撃はれいなのワントップ。
佐藤の役目はメンバーの移送係なので、その配置についてはあくまで形式的なものだ。
「ふぅ、疲れた〜。やっぱ頭使うのは性に合わん。
愛ちゃんとガキさんがおったら、こんなことせんでいいのに。早く帰って来んかな〜」
さゆみがコーヒーカップを二つ持って部屋に入ってきた。れいながノートを見せる。
「どれどれ…、うん、これでいいんじゃない?」
「右が少し不安やけど、飯窪が特殊能力を使えるようになったし、まあ、大丈夫やろ」
「そうだね。フクちゃんもさゆみの能力をだいぶ使えるようになってきてるもんね」
下が騒がしくなってきた。時計を見ると、集合時間を3分過ぎていた。
「じゃあ、あの賑やかな後輩たちに、見せに行きますか」
「ああいうの、『かしましい』って言うっちゃろ?れいな、うるさいのは好かん!」
そう言いつつ、二人の顔には笑みがこぼれ、階段を降りる音はとても軽やかだった。

―おしまい―

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
以上、『女子かしまし物語2012』でした。
今回はオムニバス形式にしてみました。皆さんのお気に召す話があれば嬉しいです。
なお、最後の「陣形」は「What’s Up?…」の動画が元になってます。

869名無しリゾナント:2012/09/03(月) 18:22:50
=======================================
>>859からここまでです。
 いつもいつもすみませんが、よろしくお願いします。

870名無しリゾナント:2012/09/03(月) 23:38:34
行ってきました
これまでに書かれた作品とも呼応しててにやりとしてしまいました

871名無しリゾナント:2012/09/04(火) 01:06:24
>>354-358 の続き。

黎明学園中等部の校舎および敷地内の関連施設すべてにおいて
原因不明の水漏れが発生していた。全ての水道から。
けれど、実害は、見えざる部分で出ていた。

 カチカチカチカチ。

携帯の画面を見続ける。

 カチカチカチカチ。

文字を打つ手はまるで楽器でも弾いてるかのようにリズミカルに叩く。
彼女は微笑みを浮かべて打ち続ける。
周りでは悲鳴や、水の流れる音や、そういうものは一切無い。
彼女が居る場所は学校の校門前。
高等部からの生徒が何人か通っている、中等部の異変は一切無い。

 一切無い。

異変に気付く者は誰一人として存在しない。
平穏な平和を謳歌する生徒達は笑って帰って行く。

  なにしろこの国は、どうしようもなく平和なのだから。

まるで義務のように幸福を抱いたまま。

872名無しリゾナント:2012/09/04(火) 01:07:22
 "共鳴者"だけが持つ『位相空間』を形成する技術。

どうなった所で、誰もこれを打ち破る事は出来ない。
彼女は着信通りに事を進めていた。

 カチカチカチ、ピ。

そしてまた着信通りの行動を開始する。彼女はただ行動するだけなのだ。
それが行動原理であり、"あの人"に対する愛情表現である。
生田は微笑んで校門の中にあるグラウンドを踏みしめた。

 「i914の反応を知ったら凄く嬉しそうにしとおっちゃね。
 嫉妬してしまいそうやけど、でもあれを渡したらもっと喜んでくれるかな」

まるで恋する乙女のように身体を軽くさせて"ある物"を手に校舎へ入る。
ばしゃん、と水が跳ねる音。
目には見えない、だが生田には視えている。
"透明な水"は、彼女の膝下にまで溜まってきていた。


 「これ、そろそろ泳げるんじゃない?かのんちゃん平泳ぎできるんでしょ?」
 「この浅さだとまだ泳げないよ。というかそっちより浮き輪がほしい」
 「確かにそうだね。転ばないようにしないと」

"透明な水"は水圧の抵抗は感じるものの、服が濡れたりだとか体温を
奪うといった本来あるべき働きを持っていない。
つまりこれは、直接神経や精神に作用するなんらかのチカラ、という事になる。

873名無しリゾナント:2012/09/04(火) 01:09:29
だが具体的にこれがどういうものなのかは、あまりにも情報が不足していた。
鈴木が目撃している【ダークネス】とはまた別のもの、という事だけ。
唯一知っていると思われる鞘師は居ない。
"音"は聞こえている。
ただ静かに聞こえるのは、何故?

 「ハアハア、西棟が二階からしか行けないのがこんなに辛いなんて…」
 「明日筋肉痛だねきっと」
 「それだけなら良いんだけどねー」

二人はざぶざぶと見えない水の中をウォーキングする。
感覚的にはほとんど抵抗を感じないが、逆に、あるようでないという感覚は
走りにくくて仕方が無い。
通常の三倍は遅い気がして、さらに腰のあたりまで見えない水位が上がっている。

階段を上っていると、ふと、鈴木は何かを感じ始めていた。
鞘師の"音"とは別の何か、誰?誰か居るのか?
鞘師と一緒に。

 「――― どうして学校に【闇】が蔓延してるか、知ってますか?」

向こうから、静かに声が上がった。
鈴木と譜久村は瞬間的に身構えたものの、譜久村がその人物を呼んだ。
ハーブティの香りに嗅ぎ覚えがある。

874名無しリゾナント:2012/09/04(火) 01:17:04
 「亜佑美、ちゃん?」
 「知ってるの?みずきちゃん」
 「何度か朝の挨拶で会ってるけど、覚えてないですか?鈴木さん」
 「中等部の生徒会をやってるんだよ」
 「あ…」

鈴木は思い出したように声を漏らす。
風紀委員が学園の生徒を監督する立場なら、生徒会は、生徒が
生徒のために立ち上げた、正しい黎明学園の生徒としての生活を送ってもらおうと
自身が模範となって生徒を導く立場にある。

あの不定期に行われる「あいさつ合戦」でもその二つの組織がまとめているが
思えば何度か挨拶を交わした記憶があった。
だがそんな人が、よりによってこんな事態にどうしてこんな場所に?

 「人の想いは強ければ強いほどカタチを作るもの。それがきっと
 ダメなことを判っていたとしても、想わずにはいられない。それが、【闇】を
 呼ぶんです、【闇】は人の悪意に"狂鳴"するモノだから」
 「亜佑美ちゃん、もしかして、知ってるの?何が起こってるのか…?」
 「だけど、それだけです。私にはそのためのチカラは与えられてないから」
 「どういうこと?」
 「早く行ってあげてください。手遅れになる前に、鞘師さんが危ないですよ」
 「あ、待って。亜佑美ちゃん!」

そう言って、石田はまた廊下の死角へと消えて行く。
譜久村が追おうとしたが、"透明な水"で階段を上手く上れず、結局見失ってしまう。
ハーブティの匂いは徐々に薄くなり、消えていった。

875名無しリゾナント:2012/09/04(火) 01:19:53
以上です。
当初は登場させる予定はなかったんですが、だいぶ
某舞台の影響を受けた結果がこれです。

---------------------------------------ここまで。

いつでも構わないのでよろしくお願いします。

876名無しリゾナント:2012/09/04(火) 12:46:43
行ってきたよん

ナマタの立ち位置とかだーいしの役割とかこれから明らかになっていくのが楽しみですねん

877名無しリゾナント:2012/09/04(火) 13:14:34
『女子かしまし物語2012』を投稿したものです。
>>870さん、代理投稿ありがとうございました!
行数の調整だけでなく、まとめスレの管理人さんへの連絡までしていただいて
本当に感謝しております。
お手数おかけして申し訳ありませんでした。

また、まとめスレの管理人さんにもこの場を借りてお礼申し上げます。
あのまとめスレがなければ、この楽しい遊び場を知ることができませんでした。
本当にありがとうございます。
今後もよろしくお願いします。

878名無しリゾナント:2012/09/06(木) 12:15:39
>>489-492の続き。

 「――― 譜久村さん、鈴木さん、お二人には"共鳴"のチカラを
 使えるようになってもらわないと困るんです。きっとあの子もそれを望んでる。
 そうじゃないとこの世界は消えるしかないんですよ。
 主軸が歪み始め、バランスを失いつつあるこのセカイ。
 そのチャンスを前にして、何もせずに消される気ですか?」

ゆらり、ゆらり。
水面が揺れて、斜陽に透き通って、光を揺らす。

水の中で、ヒトは呼吸をすることは出来ないが、これは本物の"水"ではない。
全身を絡めて動かすことを許さない、閉じ込めるための空間。
視えない"透明な水"の中。
魚も泳いでいない水の世界。

まるで、プールの底。
鞘師はゆっくりと目を開ける。身体がダルさを訴える、動かない。
口から気泡が生まれる、だが息が出来る。本物ではない。
何故このまま生かされているのかは分からなかった。

 「皆、止まっちゃった。でもキレイだわ。全部沈めてあげたの。
 時間だって止めてあげられるわ、ほら見て。ずっと綺麗なままなのよ。
 必要としなくてもこんなに綺麗なものが出来るの、凄いでしょっ」

見覚えの無い女子生徒が視界に入る。
覚えている限りでは、背後から何かに包みこまれたのが最後だ。
多分、この"透明な水"に囚われたのだろう。

879名無しリゾナント:2012/09/06(木) 12:16:30
 「ねえ、なんで貴方は此処に居るの?自分が決めたの?
 私はね、親が無理やり入れたの、この学校に。それも勝手によ。
 "バケモノ"を傍に置いておきたくないって顔に書いてあった。
 学校なんかどこでも良かったけど、ここは最悪だわ。
 全てが醜いの、あいつらも、全部、全部全部全部全部全部!!」

ぐわっと、水圧が呼応するように重くなる。鞘師の表情が歪んだ。
気泡が幾つも上がっていく。まずい。

 「貴方は水みたいね。透き通った水面の雫のよう。
 羨ましい、私もそんな世界が欲しい。自分が自由にできる世界。
 ねえ鞘師さん、どうすれば行けると思う?貴方なら分かるでしょ?
 だって私と同じ感じがするもの。ねえ、ねえってば」

女子生徒は、答えが欲しい子供の様にぐずる。
鞘師は口を開くが、そこから溢れるのは気泡だけ。
両肩を掴まれて押し込まれると、重力に逆らわずにどんどん底へと落ちていく。
堕ちて行く。

光が遠くに見える。
光が遠くになっていく。遠のいて行く、意識の向こう側。

寂しさが、込み上げて来る。
途端、鞘師の視界に見えたのは、微かな光。暖かい光。

 「――― 」

その名前を呼んで、鞘師は微かに、口角を上げた。

880名無しリゾナント:2012/09/06(木) 12:17:13
 「――― ハア…ここ!間違い、ない…!」

息を整えない間に鈴木が指で示して叫ぶ。
教室の上に取り付けられたプレートには『美術室』と書いてあった。
西棟の端の端にあるこの教室は、移動授業か部活でしか使用される事が無い。
それも今日は部活が休みだ。

 「ダメ、鍵がかかってるっ」
 「今から職員室行ってもかなり時間かかるよ、どうしよう…」
 「こうなったら何かで割るしか…」

ドアがピクリとも動かない為、消火器でも良いから何かないかと探す。
その時、鈴木はゾワリと背筋を感じた。

 「二人とも、ちょっとそこ離れといた方が良いっちゃよ」

背後からパシャパシャと水が跳ねる音。
振り向くと、廊下にゴツゴツと何かをぶつけて生田が近寄ってきた。

 「えりぽんっ、もおどこに行ってたのよっ」
 「ちょっと用事があったっちゃん。でもなんか凄いことになっとおね。
 ここに犯人がおると?」
 「判んない、でも里保ちゃんがここに閉じ込められてるみたいで」
 「マジで?よぉーし、思いっきり振りあげるけんね、ホールインワンったい」

生田が構えたのは、ゴルフクラブだった。
ゴルフヘッドが鉄製で、鈍く光る。
大きな窓に狙いを定め、大きく振りかぶり。

881名無しリゾナント:2012/09/06(木) 12:18:14

 ――― バアアアアアアアアアアアアアァン!!!

切り裂かれるように割れたガラスから身を守るように体を屈めたが、その
裂け目から"透明な水"がドバッと流れ出てくる。

 「ねえなんか、水かさ増してない!?」
 「んーこれはけっこーヤバイかも☆」
 「ヤバイかもってちょ…!」
 
割れてしまった部分は元には戻らない。
三人は"透明な水"の奔流に飲まれてしまい、ついには天井まで到達してしまう。
息はできる。
だがどんどん体が重くなっている事に気づき、譜久村は鈴木と生田を探す。
鈴木はすぐに見つかったが、生田が水の逆流で美術室に入り込んでしまった。

 どうしよう。どうしようどうしようどうしよう。

焦る。鈴木を離さないように抱きしめ、譜久村は焦りながらも考える。
彼女を助けなければ、この子も、助けたい。助けて、誰か。


 誰か、ねえねえ、誰か。

探るように手を動かす。揺れるスカート。揺らめく視界。
次の瞬間、あたりは、光の中だった。

882名無しリゾナント:2012/09/06(木) 12:24:31
以上です。
今のメンバーはどんどん道重さんによって変t(ryの王国に
なっている時点でネタの宝庫ですね、>>471-480さんとか。
当時の「ピンクの悪魔」がこの状況を予期していたらなにそれ怖い。

------------------------------------ここまで。
いつもお世話になっております。
投下はいつでも構わないのでよろしくお願いします(平伏

883名無しリゾナント:2012/09/06(木) 21:47:48
行って参りました

884名無しリゾナント:2012/09/07(金) 22:53:11
『好きな先輩』

〈今日の私美人ですか〉

1−1

生田衣梨奈は、学校から喫茶リゾナントへ向かう途中だった。
毎日少しずつ訪れるのが早くなる夕暮れ。もう秋が始まっている。
「もう5時か…新垣さん、今日も返信くれんかった…。えりな、泣きそう…」
誰もいない路地を歩きながら、生田は携帯を見つめる。
「ワンワン」「ワン」「ワオーン」「クーン」「バウワウ」「ウー」「キャン」「オン」
突然、たくさんの犬の鳴き声が耳に入ってきた。
生田が顔を上げると、リードの束を握った一人の少女がこちらを見ている。
歳は生田と同じくらいに見えるが、胸が大きく、鼻筋が通った美人さんだ。
少女の足下では、8匹の犬がこっちを見ている。
少女は微笑んでいたが、その目は明らかに笑っていなかった。
「こんばんは」
少女が生田に声をかける。
同時に、犬たちが尻尾を振りながら駆け寄ってきて、生田を円状に取り囲む。
「生田衣梨奈さん…ですよね?」
「…はい。えっと…、どちら様ですか?」
生田が警戒しながら答えると、少女の微笑が消える。
それを合図に、犬たちが生田の方を向き、同時に吠える。
「「「「「「「「ワン!」」」」」」」」
次の瞬間、生田の姿が消えた。
犬たちに囲まれた場所には、生田の通学鞄だけが落ちている。
「…行くよ」
少女がそう言うと、犬たちはすぐに少女のもとへ駆け戻る。
そして、さっき生田にしたのと同じように少女を取り囲み、一斉に吠えた。
今度は、少女だけでなく、犬たちも一緒に消えた。

885名無しリゾナント:2012/09/07(金) 22:55:01
1−2

生田は、薄暗い森の中に立っていた。
「一体、何が起こったと〜!?ここ、どこ〜?」
携帯を見ると、表示には「圏外」の文字。
生田は、とにかく森から抜け出そうと、低い方へ向かって歩き出した。
すると、水の流れる音が聞こえてきた。
「川だ!」
生田は音のする方へ急ぐ。
視界が急に開け、白い砂地が広がる川原に出た。
もう日が沈んでいるとはいえ、夕空の明るさで、辺りはまだよく見えた。
「川に沿って下って行けばいいっちゃろ。えりな、さえてるー!」
生田はそう言うと、川下の方へ顔を向けた。
そこには、信じられない光景があった。
「新垣さん!?」
数10m先に、大きな岩に座って川面を眺めている、生田の大好きなあの先輩がいた。
生田は子猫のような笑顔で新垣のもとへ走り出す。
しかし、生田の足はすぐに止まった。
新垣の後ろから、さっき路上で会ったあの少女が顔を出したのだ。
少女は、生田をじっと睨みつけている。
少女のその目には狂気が感じられた。
「あんた、さっきの…」
少女は、目つきを柔らかく変えてから新垣を見て、もたれかかり甘えるように言った。
「新垣さん、あの人知ってます〜?」
新垣が生田の顔をじっと見つめる。
生田の胸が、新垣に久しぶりに見つめられたトキメキで高鳴る。
しかし、新垣はすぐに少女の方を振り返ってこう言った。
「ううん、…知らない」
生田の顔と心が凍った。

886名無しリゾナント:2012/09/07(金) 22:56:46
1−3

「…にっ、新垣さん!私です、生田です!」
生田の必死の呼びかけに、新垣がまたこちらを向く。
そして、戸惑いの色を浮かべてすまなそうに答える。
「…ごめんなさいね。ちょっと私、あなたのこと、記憶にないのよ…」
その斜め後ろにある少女の視線は、生田を刺すように冷たかった。
「ねえ、…あずちゃん、この人、知ってるの?」
新垣が少女の方を再び向く。
「あずちゃん」と呼ばれた少女は、瞬時に表情を変え、穏やかに微笑む。
「いいえ、知りません。…新垣さん、ここで少し待っててくださいね」
そう言うと、少女は新垣の顔に手をかざす。
新垣は壊れたマリオネットのように岩の上に横になった。
生田の怒りが爆発する。
「新垣さんに何をした!」
少女は生田の方に歩を進めながら答える。
「新垣さんは私の精神干渉の力によって眠っている。
私の指示に従いなさい。さもないと、新垣さんは永遠にあのまま。
ちなみに、私が死んでも効果は消えないから、変な気を起こさないでね」
生田は、その不気味に落ち着いた声色から、少女の本気を感じた。
「あんたの狙いは何だ!?」
少女は生田の目の前で立ち止まり、静かにこう言った。
「生田衣梨奈、私と勝負しましょう。どちらの方が新垣さんへの思いが強いか…」
「はあ!?」
怪訝そうな生田に、少女は言う。
「勝負は三回勝負。先に二勝した方が新垣さんの正式な後継者となれる。いい?」
生田には、少女の狙いがいまいちよく分からなかった。
だが、「どちらの方が新垣さんへの思いが強いか」という少女の言葉に、生田の闘志が
メラメラと燃え上がった。
「新垣さんへの思いなら、えりな、絶対に負けん!」

887名無しリゾナント:2012/09/07(金) 22:58:01
〈今日の私色っぽいすか〉

2−1

「じゃあ、まずは第一回戦。『仲良し写メ対決!』」
「写メ対決!?待って、待って!えっと、えっと…、よし、えりな、これに決めた!」
生田は、新垣と笑顔で頬をぴったり寄せ合っている写メを見せた。
「この新垣さんの笑顔、たまらんやろ〜!」
「…ふ〜ん、確かにいい笑顔ね…。でも、この勝負は私の勝ちね。私のは、これよ!」
「こ、これは…」
生田は、言葉を失った。
「ふふっ、どう?私、新垣さんと一緒の布団で寝ちゃったの」
少女が出したのは、パジャマ姿でピースサインをしている新垣と少女の写真だった。
「もちろん、精神干渉で洗脳する前に撮った写真よ。あなた、こんな経験ある?」
「……ない」
「ふふっ、この勝負、私の勝ちね!」
口惜しさで声が出ない生田を見て、少女は勝ち誇ったように言う。
「次は第二回戦。今度はそっちが勝負の内容を決めていいわよ」
「……じゃあ、『いま身につけているもの対決!』」
生田は制服のシャツのボタンをささっと外し、前をはだけた。
中に着ている黄緑色のTシャツ、それは新垣からもらったものだった。
「どう!あんた、新垣さんからもらった服はあると?」
少女が下唇を噛む。少女の着ているTシャツは自分のものだ。
「…私だって、…私だって、新垣さんの服、欲しかったわよ…。
 でも…、着てみたらどれも入らなかったの!…胸が…きつくて…」
確かに、その少女の胸はとても豊かだった。
生田は少女の色っぽい体つきを見て、勝負には勝ったのに、強烈な敗北感を味わった。
「と、とにかく、これで1対1っちゃ!次は何で勝負すると?」
少女の顔が、それまでとはうってかわって、急に引き締まった。
「ここまではただのお遊び。次が本当の勝負よ」

888名無しリゾナント:2012/09/07(金) 22:59:34
2−2

少女は続ける。
「私には精神干渉の力がある。あなたは、精神破壊よね。
つまり、二人とも精神系の能力者。
どちらが新垣さんの後継者としてふさわしい力を持っているか、勝負しましょう!」
そういうと、少女は両手を前に出した。
「望むところたい!えりな、絶対に負けん!」
生田も両手を前に出す。
一瞬の間を置き、二人は叫び、ありったけの精神波を放出した。
「ハアアアアア!」「ウリャアアアア!」
少女は生田の精神を支配すべく、生田は少女の精神を壊すべく、全力を注ぎ込んだ。
二人の間の空気が震える。
力はほぼ互角だった。
しかし、時間が経つにつれ、徐々に生田が押され始める。
精神波の力は、集中力の高さが大きく左右する。
生田の集中力は、明らかに低下していた。
少女は自分が押している手応えを感じた。
あと一歩で自分の勝ちだ。
少女がそう思った時、突然、生田がその場を離れ、全速力で走り出した。
(逃げた!?)
少女は精神波を止めた。
しかし、生田は逃げたのではなかった。
生田が走っていったのは、新垣がいた方だ。
(何をする気!?)
少女は新垣がいた大きな岩を見る。しかし、そこに、新垣の姿は無かった。
直後、バシャーンと何かが跳びこむ水音が響く。
水音のした方を見ると、穏やかな川面の中で、そこにだけ波が立っている。
数秒後、そこから生田が出てきた。
右脇に、新垣を抱えて…。

889名無しリゾナント:2012/09/07(金) 23:01:33
2−3

あかあかと燃える焚火の前で、少女は生田の言葉を聞いていた。
「新垣さん、寝相が悪いけん、岩から落ちるんやないかとずっと気になっとんたんよ」
「…あなた、だから、途中で集中力が切れたのね?」
「そんなのは言い訳にならん。新垣さんは、いつも集中力を切らさず周りをみとった。
もし新垣さんが起きてたら『生田ー!修行が足らーん!』って、叱られとったと思う。
それに、あんたの精神波は、本当にすごかった」
少女はうつむいてしまった。
自分は、新垣と一緒に寝た。だから、新垣の寝相の悪さはよく分かっている。
それなのに、自分は新垣が岩から転げ落ちることなど全く想定していなかった。
一方、生田は、一度も一緒に寝たことがないのに新垣の寝相が悪いことを知っていた。
そして、あの激しい戦いの最中でも、新垣の身を案じ続けていた。
(私の…負けか…)
「よし、だいたい乾いた!とにかく、今回の勝負はあんたの勝ちでいい。
だから、お願いやけん、新垣さんを元に戻して!
超悔しいけど、新垣さんの後継者の地位は、今日のところはあんたに譲る!」
生田はそう言いながら、立ち上がって少女に握手を求める。
少女は生田を見上げながら尋ねる。
「あなた、私のこと、憎くないの?」
「えりなのいいところは、『すぐ許す』やけん。
それに、新垣さんを好きな人に悪い人はおらん!」
少女は吹き出した。そして、生田の手を握った。生田も少女につられて笑い出した。
二人の少女の楽しそうな笑い声が、静かな夜の森にこだまする。
しばらくして笑いがおさまると、少女は、新垣に向って静かに手をかざした。
生田がそれを見ていると、急に少女の手が自分の方へ向けられた。
「えっ!?」
少女の精神干渉の力が、無防備な生田の心に入り込む。
まるでマネキンにでもなったかのように、生田の動きが止まった。
少女が口笛を吹くと、闇の中からあの8匹の犬が現れ、生田を囲んで一斉に吠えた。

890名無しリゾナント:2012/09/07(金) 23:02:40
〈今日の私元気ですか〉

3−1

精神系能力のスペシャリストである新垣が、なぜ少女の力に屈してしまったのか。

新垣は、高橋愛を捜索する旅に出ると、すぐにブログを始めた。
ブログには、「超能力を持つ女性の情報求む」と書き、謝礼を出すこともつけ加えた。
何がしかの情報が得られるかと期待したが、何の反応もないまま、数か月が過ぎた。
ブログを閉鎖しようか迷っていたある日、携帯に見知らぬ人からのメールが届いた。
タイトルは「精神干渉と瞬間移動」、本文には、住所だけが記されていた。
捜索が手詰まり状態だった新垣は、藁にもすがる思いで急いでその住所へ向かった。
そして、その日の夜遅く、一棟の古びたアパートにたどりついた。
明かりの点いている部屋は一つしかなく、新垣はそこのチャイムを鳴らした。
ドアが開いて出てきたのは、高校生くらいの年頃と思われる純朴そうな少女だった。
新垣が事情を話すと、やはりその少女があのメールの差出人であった。
少女は、自分には特殊な能力があると言う。
申し訳ないと思いつつ、新垣は彼女の心を覗こうとした。
すると、驚くべきことに、その少女は、新垣の精神干渉を完全に防いだ。
そして、「ほらね」と言うかのように、愛敬のある顔でにっこり笑った。
話を聞くと、その少女は、新垣と同じく精神干渉の能力者だった。
ちなみに、瞬間移動の能力があるのは、少女が飼っている8匹の犬だった。
いずれにせよ、高橋とは関係がないと分かり、新垣は落胆し、少女に別れを告げた。
すると、少女は満面の笑顔で新垣を引きとめた。
「今夜はもう遅いからここに泊まっていって下さい」
新垣は、その少女の屈託のない笑顔の奥に、暗い影があるのを感じた。
この子は私と同じ力を持っている。ならば、私と同じ苦しみを経験してきたはずだ。
望んでいない「異常」な力によって、この子もつらい思いをしてきたのだろう。
アパートで一人暮らしをしているのも、家族がこの子を遠ざけたかったからか…。
少女への同情心が芽生えた新垣は、一晩だけその少女の家に泊まっていくことにした。

891名無しリゾナント:2012/09/07(金) 23:04:10
3−2

少女は、新垣にべったり甘えてきた。新垣は、甘えてくる年下の子が大好物だ。
初めて同じ力を持つ人に出逢えて、この子本当に嬉しいんだな。新垣はそう解釈した。
新垣は、その天然気味の少女とたくさん話をし、思う存分つっこみ、そして、笑った。
捜索の旅で心身ともに疲れていた新垣は、その少女の元気な笑顔に、心から癒された。
仲間と離れた寂しさに凍えていた心が、切ないくらいのぬくもりで溶けていった。
少女を見つめる新垣の目に、戦士の鋭さはもはや残っていなかった。

新垣の滞在は延びていった。
毎日の食事は、新垣の好物ばかりを、少女が一生懸命作ってくれた。
幸福感におぼれていた新垣は、全く気付いていなかった。
その食事には、特殊能力を抑制する、マルシェ特製の薬物が混入されていたことに。
新垣の能力は徐々に弱まっていき、五日後、新垣の心はその少女に完全に支配された。
少女は新垣を山奥の川原に連れて行き、自分は犬と一緒に生田のもとへ「飛んだ」。

その少女、関根梓の正体は、ダークネスの元「研修生」である。
梓は幼い頃から、その異常な能力によって、家族や周囲から疎外され続けた。
自殺を考えていた梓に、ある日、闇の組織からの使者が声を掛ける。
自分の力を正当に評価してくれるその組織に、梓はすがりついた。
組織に加入すると、そこには、彼女と同じような境遇の仲間がいた。
彼女たちは、一人前の戦士となるべく、「研修生」として特殊能力を日々鍛え続けた。
だが、「研修生」の中には、その能力が、組織の要求するレベルに達しない者もいた。
そのような少女は、落伍者とみなされ、一定期間が過ぎると組織から追い出された。
梓も、そんな落伍者の一人となった。同期で落伍者となった者は梓の他にも6人いた。
ある日、ついに組織から最後通達が下された。しかし、梓たち7人は諦めなかった。
彼女らは組織に対して、もう一度自分たちの力を試してほしいと直訴した。
組織はそれを了承し、彼女ら一人一人に、過酷なミッションを与えた。
そして、それをクリアすれば、彼女らをダークネスの正規メンバーにすると約束した。
梓に与えらえたミッションは、同じ能力を持つ新垣里沙を廃人にすることだった。

892名無しリゾナント:2012/09/07(金) 23:05:46
3−3

梓は、新垣里沙について研究するため、ダークネスの資料室に篭った。
新垣が以前ダークネスの一員だったこともあり、データは質量ともに充実していた。
能力、性格、行動など、新垣を知るために、あらゆる書類や映像に目を通した。
梓は、ある意味「先輩」である新垣について、膨大な知識を手に入れた。
その結果、梓の心に意外な感情が生まれた。梓は、新垣を好きになってしまったのだ。
その戦闘能力はもちろん、優しさ、可愛さ、心の強さ、全てが梓を魅きつけた。
梓は、自分の感情にとまどった。

感情の整理がつかないうちにミッションが始まった。梓は予定通り新垣を罠にはめた。
自分が組織から認められるには、そうするしかなかった。
梓は、せめて、新垣と一緒にいられるそのわずかな時間を、心から楽しもうと思った。
ただ、その楽しい時間に水を差される瞬間があった。
新垣が、困ったような笑顔で「生田衣梨奈」という後輩のことを嬉しそうに話す時だ。
梓はその幸せな後輩に激しく嫉妬した。梓は、どうしても生田と勝負したくなった。
自分の方が新垣を深く愛しているということを、生田に知らしめたかった。

焚火が、燃え尽きた。
月明かりがやけに明るく感じられる。
予定の時刻が来て、腕時計型通信機から声が響く。「No6、結果を報告せよ」
梓は表情をひきしめ直して立ち上がる。(とうとう、この時が来ちゃったか…)
長年に渡る血の滲むような訓練の日々を振り返り、梓は、非情になる決意を固める。
眼前に眠る新垣の心を完全に抹殺すべく、梓は両手を正面に向け、指を広げた。
その時、月の光に照らされた両手の指先が、キラキラと輝いた。
突然、梓は膝から崩れ落ちる。そして、冷たい川砂に両手を着いた。
頬に涙を走らせながら、梓は静かに言った。「…No6、…ミッション失敗です…」
白い砂の上に並ぶ爪の一枚一枚には、美しいラピスラズリで文字がかたどられていた。
「あ」「ず」「ち」「ゃ」「ん」「あ」「り」「が」「と」「!」
それは、洗脳前の新垣が、もんじゃ焼きの御礼にと施してくれたネイルアートだった。

893名無しリゾナント:2012/09/07(金) 23:07:23
〈Ending:LALALA…先輩〉

生田は、夜の路地にぼーっと立っている自分に気が付いた。
「あれ〜、…えりな、何しとるんやろ…?うわ!もう8時だ!」
携帯の時刻表示は、ミーティングの集合時間を2時間も過ぎていることを示していた。
生田は、地面に落ちている鞄を拾い、喫茶リゾナントへ走り出した。
携帯メールの着信音が、繰り返し鳴る。
「うわっ、みずきから一杯メールが来とる!もう、一体どうなってんのー!?」
それまでの3時間分の記憶が、生田の脳からきれいに消し去られていた。

「…ここ、どこ?」
一方、新垣も、とある駅の前で呆然としていた。
新垣は、時間を確かめようと、携帯を見る。
そして、そこに表示されている日付を見て、さらに目を丸くする。
「はあ!?9月7日!?ウソ!ウソ!ウソ!何でよ!今日は3日でしょ!?」
状況が全く理解できない新垣は、携帯を両手で握り、足をばたばたさせた。
周囲にいた数人が、そのオーバーで時代遅れな新垣の動きを、珍しそうに見ている。

そんな新垣の様子を、物陰からじっと見つめる一人の少女がいた。
少女は小さく呟く。
「大好きです、先輩…」
そして、少し寂しそうに微笑みながら、夜の街の雑踏の中へ消えて行った。

―おしまい―

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
以上、『好きな先輩』でした。
敵の少女のモデル、関根梓ちゃんは(仮)のメンバーで、ガキさんの大ファンです。
とってもグラマーで、ガキさんとは大違…、あれ?なんか首が冷たあbぽしhそg

894名無しリゾナント:2012/09/07(金) 23:08:04
=======================================
>>884からここまでです。
 いつもお手数をお掛けしてすみませんが、よろしくお願いします。

895名無しリゾナント:2012/09/08(土) 14:08:57
行ってきたよん
関根さんが八匹の犬を連れているのは八犬伝の舞台にでも出てたのかと思って調べてみたらリアルに飼ってたのねん
ガキさんの服のサイズとが関根さんに合わないとか少し毒を吐きつつ優しい話にまとまってましたねん

896名無しリゾナント:2012/09/08(土) 19:05:35
895さん、代理投稿ありがとうございました!
また、暖かいご感想もありがとうございます。
八犬伝のアイディアは面白いなあと思いました。
書いているとき、まったく思いつきませんでした。

897名無しリゾナント:2012/09/08(土) 22:19:17
>>538-541の続き。

 な、なに……っ!?

圧倒的な光の量に戸惑いながらも、コハクのヒカリが溢れ出す。
譜久村自身からそれが放出されている事に気付く。
包まれるような感覚。暖かさ。不意に手がポケットへ。

 「フクちゃんに預けておくね。きっと大事なものになる筈だから」

放出されるヒカリがもっと広がりを増す。
手のひらに置かれた箱がひとりでに蓋を開け、その中から浮力で現れた、砂時計。
コハクの光が"透明な水"に水面を作り、波紋が生まれる。
その波紋の中心から水が隆起し、まるで生き物のように砂時計の周りを
グルグルと螺旋状に囲み始める。

目の前には、巨大な水の空洞が出来ていた。

譜久村の指が自然と動き、水が自由に、上下左右と操る。
優しい風が、強い風が、暖かい風が流れた。
旋風を形成したかと思うと、その真空から鋭い爪の様な疾風(かぜ)が無数に飛び交う。

――― パアアアアアアアアアアンッ!

"透明な水"を切り裂き、粒がシャボン玉のように壊れて、消えた。

 「エッ……?」
 「ハア…ハア…ッ、里保ちゃんを返して!」

898名無しリゾナント:2012/09/08(土) 22:21:04
譜久村の声に応えるように疾風(かぜ)が唸る。
教室全体を包んでいた筈の"透明な水"を、女子生徒を巻き込んで
窓ガラスをブチ破り、校舎の外へと放り出された。
女子生徒は何が起こったのか判らず、だが浮遊感と共に一気に恐怖を抱く。

 落下。それは死へ沈む刹那。

 「きゃああああああああああ」

見上げる夕暮れの景色がある其処は、海よりも真っ青な空があった。
譜久村は窓から身体を出し、女子生徒の手を掴むように腕を伸ばす。
落下する身体に緩やかな気流が包み込むと同時に、女子生徒の意識は途絶えた。




 ――― コハクのヒカリに抱かれていたあの瞬間。
 薄紅色の閃きが過る視界に譜久村が見ていた記憶が在る。
 彼女に映るのは夢ではなく現実。それも欠片では無く、水面を見るように。
 だからきっと、これは誰かの記憶なんだと、雫が跳ねた。

 「何してんの?そんな思いつめた顔してぼーっと立っちゃって」

女性は、命の選択を迫られていた。
相手も自分も同じ立場なのだと気付いたときに、曖昧だった道が
少しずつ、それでも確かに其処にあることを知らしめる。

899名無しリゾナント:2012/09/08(土) 22:24:28
女性は自分の命が、世界の命が儚いことを始めから知っていた。
それを受け入れていた筈なのに、それを寂しいと感じるに至った
理由が確かにあったのだ。

 微かに生きる希望を見つけてしまったからだ。

女性がまだ少女だった頃、年季の入った木目のターンテーブルで
レコードに針を落とす老人に出会う。
老人は古ぼけた音に耳を傾け、少女は向かうように立ってその姿を見つめる。

 「笑ってしまえば良いのさ。風景の違いに気付かないヤツらなど
 いくらでもいるからね。眺める景色がいい加減なのだよ」
 「でもみんな、みえるものしかしんじないよ」
 「見えるモノ、見えないモノ、今になってそれが判るなんてね」
 「おじいちゃんはこのきょくがすきなら、えりも、すきになっていい?」
 「ああ、今思えば、私は好きだったんだな。どんなに嫌っても、結局は
 元に戻ることを信じてた、信じてたんだよ」

老人と少女の会話は一度も噛み合わないままだった。
だけど少女に対して向けられた視線と、頭を撫でるその皺と一緒に残る暖かさが
両親の優しさを十分に受け止められない少女にとって、何か、かけがえのない
ものになって行くのを感じていた。

陽が落ちるまで続き、古ぼけたレコードが老人の手によって自然と音を
止むまで、少女は、永遠とも思える時間に身をゆだねていた。

 病室で居る独りとは別の、傍に在るという安心感に漂いながら。

900名無しリゾナント:2012/09/08(土) 22:29:45
以上です。

>>578
動物に能力が備わってるというのもビックリですが、現実に8匹も
飼ってる事実にw 大量飼いして放置してる人ぜひ見習ってもらいたい(犬好き

ガキさんが出てくる作品には大半が胸をイジられてるというこのスレ独特の風習に涙。

-----------------------------------------ここまで。

すみません、かなりこちらを独占しているようなカタチになってしまって…。
いつでも構わないのでよろしくお願いします。

901名無しリゾナント:2012/09/09(日) 01:02:54
行って参りましたm(__)m

902名無しリゾナント:2012/09/09(日) 09:28:10
代理投稿ありがとうございます!
最近はすこし長めになっているので
何かあればぜひ仰ってください。

903名無しリゾナント:2012/09/10(月) 01:39:46
>>588-590 の続き。

 夕暮れのひこうき雲。
 明日は雨かと訊ねてみれば、何処からか嗄れたレコードの音が聞こえてくる。
 春夏秋冬。
 季節は巡り、廻り、回り。

老人がベッドに仰向けに寝そべるようになってから、少女に視線を向けることは無くなった。
真っ白な部屋の天井に向かって口を開く。

 「私の想いは、最後まで伝わらなかった。それでも良いと思ってた。
 だが、駄目だな、心臓をえぐり取られるような気持ちになる。
 だから無くなってしまえばいいと、思ったんだ。だが、それは、悪……か」
  「生まれたときから、わたしは欠けてたんだって、ここがね、しんぞうが、悪いんだ。
 おじいちゃんとおんなじ、おんなじだけど、おじいちゃんの方が悪いんだね。
 きょうもあのうた、きいてないね。おじいちゃんはあのきょく、すきじゃなかったのかな。
 …えりのことも、すきじゃなかったのかな。
 みんな、えりのこと、きらいなのかな、欠けてるから、きもちわるいのかな…」

少女の頭には包帯が巻かれていた。
傷痕が出来ていた。でもこんな痛みよりも、心臓が酷く痛んだ。
持病と同時に、精神が、ココロが、押し潰されそうに。鬱されて、涙が溢れる。
老人は撫でてくれなどしない。
ただボソボソと呟いて、真っ白な天井を見ていた。

 「ああ、誰かを想って目を閉じることは、不幸そのものなのかもしれないな」

904名無しリゾナント:2012/09/10(月) 01:40:35
老人は、自分自身に話しかけている。心の奥の自分自身に。
想いはここに在るのに、わたしはいない。
わたしはここにいるのに、わたしはいない。
わたしはいないのに、想いは此処に在る。

 「その目は私を見てないんだね」

傷痕が痛む。でも自分の想いは、確かに此処に。
希望が、自分を押し潰す。悟る。思い知る。

 老人の真っ白な部屋に、少女は初めから、独りで立っていた。
 レコードは二度と鳴る事はない。

――― 其処は、屋上だ。
 夕暮れ、女性は、屋上に居た。
 其処は階段の上、踊り場の隅、手摺のあっち側、向こう、何処か。
 ヒュー、という音が歌のコーラスのように聞こえる。
 街は、いつの間にか失った自分のはじっこに気付かずに、ずっと歌を唄っている。

そうだったのだ。
老人の部屋にあったレコードの音は、きっと、そんな歌ばかりなのだ。
期待をして、手を伸ばして、届かない。
昨日を全て忘れたフリして、言い訳と意味の無い繰り返し。
この曲は、そんなひとたちを不意に振り向かせるために、流れている。

 そしてそんな曲ですら、女性の近くで鳴ることを止めてしまった。

905名無しリゾナント:2012/09/10(月) 01:42:14
老人は誰を想い、誰を殺したのか、それを知る術はもうない。
女性は扉を開き、そして、大きな、小さな背中を見つけた。
死に方の模索を行い、ヒトは逝き方を選んでいる。

 其処はステージ、命の、オーディション。
 振り返る表情に驚きと、笑顔が浮かんでいた。

 「――― 『リゾナント』で待ってるって約束だったのに、破っちゃいましたよ」

景色が急に変わり、女性は静かに、微笑んだ。
風に水が揺れる、そのたびに、女性の身体もゆるやかな波に上下する。
まるで、宇宙を泳いでいるように。

 「だって皆がふんばってるのに、絵里だけ待ってるなんてそんなの。
 仲間なら仲間らしく、頑張ってみたくなったんです。だって、夢じゃなくて、現実だから」

ミナソコに身体を沈め、其処から歪んだ夜空を眺める。
月が水面に映っている。三日月が、揺れた。
他には何も無い、音も聞こえない。ここは宇宙だ、透明の、宇宙。

 「醜い夢ほど醒めないんだって。だから願うの、いつも願ってた。
 この死体のような未来が夢でありますようにって」

女性の瞳が次第に虚ろう。
探るように誰かを抱きしめ、誰かがむせび泣く声が響く。
頭を撫でる、サラサラとした髪が、風で揺れる。

 「でも大丈夫だって判ったんだよ、夢はいつかは醒めるんだって。
 だから諦めないで。きっと大丈夫だから」

906名無しリゾナント:2012/09/10(月) 01:58:59
 諦めないで、ガキさん    


新垣里沙は涙を流しながら、女性を強く抱きしめた。
女性の身体がぐったりと動かなくなったから。
やがてセカイの風景も代わり、誰かの悲鳴が木霊する。
黄金の光が弾け、誰かが言葉を紡いだ。

 「終わらせよう、絶望も、希望も。そして…」

ヒト型を模した光は、一人の女性へと姿を変える。
新垣里沙は視線を交差させ、悲しみと喜びを入れ混じらせた表情を浮かべた。
背後に群がるのは【闇】と、狂気。

 「一緒だったはずなのに、どうして?」
 「あーしはただ、変わってほしかっただけなのに」
 「でも分かってたんでしょ?この子達が、私達が"共鳴"のチカラを
 持っていることで、世界は、また一つになることを望んでる。それを覆すことは出来ないの」
 「そうやね、多分、それはあーしらですら間に合わない。
 でも信じてる、何故バラバラだったはずのものが一つになるのか、一つになった後
 どうやって変わっていくのか、その答えが正しいと、信じ切ってみせる」
 「貴方はなぜそこまで…」
 「信じあうんはあーしらの専売特許やろ?」

新垣は唇を噛み締め、女性へと【闇】を解き放つ。
呑み込まれた女性の身体が爆発したように黄金の光を放ち、全ての光景が包まれた。

907名無しリゾナント:2012/09/10(月) 02:01:23
以上です。
少し話しが混雑してたりと読みにくい点もあるかと思います、すみません。

--------------------------------------------ここまで。

いつでも構わないのでよろしくお願いします。

908名無しリゾナント:2012/09/10(月) 21:45:08
行ってきましたー

909名無しリゾナント:2012/09/15(土) 23:06:47
>>630-633 の続き。

――― 醒める。
真っ白な天井、少しだけ不安になる、今は、まだあの現実の中?

 「聖!」
 「みずきちゃん!」

聴覚が、視覚が、触覚が、二人の姿を見つけ、在ることを感じさせる。
元気な笑顔を浮かべてくれる彼女達に、譜久村は自然と、ほころんだ。
瞬間、引き上げられるように意識が覚醒する。

 「里保ちゃんは!?」
 「隣で寝てるよ」

鈴木を挟み、隣のベットには鞘師が寝息を立てていた。
冷静になってみると、ここは保健室らしく、時計を見るともう夜になろうとしている。

 「…里保ちゃんと一緒に居た子は?」
 「大丈夫だよ。先に目が覚めて帰っていったから」
 「そっか、良かった…助けられたんだね」
 「でも不思議やったね、気がついたらあの水も無くなっとったし。
 何よりも窓が元に戻っとったっちゃんっ」
 「え?」
 「確かに割ったはずっちゃけど、まあ先生にも上手く言って、聖達をここまで
 運んでもらえたらええんやけどね、怒られなかったのはラッキー♪」

910名無しリゾナント:2012/09/15(土) 23:08:21
生田がニヒッと笑ってピースした。
妙なことを口走ったが、あまりにもアッサリと言うものだから譜久村は面喰ってしまう。
正直、彼女よりも一緒に居た三人が巻き添えを喰らっていたかもしれない訳だが。

 「どうやって言ったの?」
 「簡単っちゃよ。水にすっころんで気絶しちゃったんですーって」
 「ちょ、私達がアホみたいじゃないそれ」
 「でも信じてくれたけんね」

生田が悪びれた様子もなく言いのけ、譜久村は文句を呟く。
ただそのやりとりが、ようやく終わった事を告げているような気がした。
鈴木も安心したようにその姿を見守っている。

 「ああ、あと、今先生が家に電話してくれとるよ。聖のところは
 お母さんが怖い人やけんね、上手く言ってくれるようにお願いしといたから」
 「あ、そういえばこんな時間…ごめんね、私のせいで二人にも迷惑かけて…」
 「それは里保にも責任があるっちゃよ。なんか変なのに狙われとおみたいだし」
 「うーん、何から話せばいいのか…」

生田の疑問に譜久村が頬を掻く。
すると、保健室のドアがノックする音が聞こえ、三人は顔を見合わせる。
先生が戻ってきたのか?
咄嗟に鈴木が立ちあがり、ドアを開けようと手を伸ばす。
瞬間、グアッと勢いよく外側から開け放たれ、鈴木は思わず横に避けた。

 「りほりほ!りほりほおおおおお!」

911名無しリゾナント:2012/09/15(土) 23:09:13
叫び声が上がる。一瞬空気が固まった様な気がした。
黒髪をなびかせ、長身の背中が走り抜けた先には二人が居る簡易ベット。

 「きゃあああああああああああ」

と、何も無い所でつまづいた長身の影が、譜久村が居る簡易ベットへと倒れ込んだ。
その後に悲鳴。
名も知らない訪問者に抱き倒されてしまった譜久村は慌てふためく。

 「はっ、このふくよかな感じ。
 この持ち主は誰!?もしやこれが覚醒したりほりほだというの!?」
 「聖になにするっちゃこの変態!」
 「む、失礼なの、この私に向かって変態なんてそんな面白みのない名前で
 片付けようという誰かさんは、KYえりぽんね?」
 「な、なんでえりなのこと知っとおと?」

生田が不意をつかれたように珍しく慌てた。

 「ドアの前に居るのがかのんちゃん、で、この子がフクちゃん、ね。
 ふむふむ、やっぱり可愛らしい子が揃ってるの。若くて可愛くて…はぁ」
 「道重さん、あまりそういうことをするのはどうかと思いますよ」

鈴木にバシバシと叩き起こされた鞘師が、ムクリと身体を上げる。
道重と呼ばれた影、女性はその姿を見て更に表情を豊かにさせた。

912名無しリゾナント:2012/09/15(土) 23:14:20
以上です。

この作品において謙虚に隠れて誰かの事をベタ褒めしては
危ない発言をするという行為をしている、という事は一切ありません。
言いたいことは面と向かって言いましょう(真顔

愛ちゃんの誕生日に続き11期メンバーが決定し、9期と10期の
ブログ始まったりといろいろ目まぐるしいですが嬉しいことだらけです。

>>710
愛ガキのお守りを作った人と同じくらいの熱を感じる…。

-----------------------------------ここまで。

いつもお世話になっております。よろしくお願いします。

913名無しリゾナント:2012/09/16(日) 13:35:04
行っときますかね

914名無しリゾナント:2012/09/16(日) 19:01:17
『恋愛ハンター』

〈どんな場面でも逃げない〉

1−1

「No.6も結局失敗したわね。報告書みたけど、あの子達ほんとダメダメよね〜。
殺せるときに殺しとかないと後で酷い目に遭うんだって、なんで分かんないのかな?」
粛正人Rのその言葉に、マルシェは反論する。
「あの…、彼女たち、標的を『殺せ』とは指示されてなかったと思いますけど…」
「そんなの関係ないわよ。『絶対に殺すな』とも言われてないんでしょ?
正当防衛で仕方がありませんでしたって言えば、それで済む話じゃない」
「これまで石川さんはそうしてきたんですか?」
「私は正直者だから、そんな言い訳しない」
「そうですよね…。石川さんはいつも『ムカついたから殺した』ですもんね…」
「分かってるじゃん」
(だから、上から信頼されないんだって、この人、なんで分かんないのかな?)
マルシェはそう思いながら、ある少女のデータを画面に開いた。Rがそれを覗き込む。
「どれどれ…。なんか地味な能力ね〜。やっぱりこの子もダメなんじゃない?」
「そうですかね。これ、初めて戦う相手には、かなり有効だと思いますよ」
「じゃあ、賭ける?もしこの子が失敗したら、最新の能力増幅薬1ダースちょうだい」
「あれ、かなり寿命縮めますよ」
「別にいいわよ。長生きしようなんて思ってないし」
「石川さんがよければ別にいいですけど…。じゃあこの子が成功したら何くれます?」
「そうねえ…、私が趣味で作った、断末魔だけを二時間収録したCDなんてどう?」
「……ほんと、素晴しいご趣味ですね」
Rはそれを褒め言葉として受け取った。
「まあね!それはともかく、この子以外の6人はもう全員『不用品』ってことよね。
てことは私の出番か。あの子達、どんな断末魔を聞かせてくれるのか、楽しみだわ〜」
Rは両手の指を胸の前で組み、嬉しそうにお尻を振った。

915名無しリゾナント:2012/09/16(日) 19:01:55
1−2

鞘師里保と鈴木香音は、とある寂れた歴史博物館に来ていた。
社会科の授業で歴史新聞を作ることになり、その資料を集めるためだ。
入り口の左側にある小窓の向こうでは、受付係と思われるおじさんが爆睡していた。
入場料と書かれた箱に中学生2名分の料金を入れ、二人は暗い廊下を進んでいった。
休日だというのに、他に入館者は一人もいないようだ。
「里保ちゃん!見てて!」
鈴木は、大声で替え歌を歌い、廊下を猛スピードで匍匐前進し始めた。
「香音ちゃん、遊びに来たんじゃないんだよ」
「私さあ、歴史とか超苦手だもん。こういうことは頭のいい里保ちゃんにまかせた!」
鈴木はそう言いながら鞘師の方を振り返り、渾身の変顔をした。
鞘師はニコリともせず、一人で展示室の方へ向かっていった。

鞘師が三番目に入った展示室は、ガランとしていて中学校の教室ほどの広さがあった。
たくさんのガラスケースが壁際に並び、そこに日本の伝統的な武器が展示されている。
鞘師は、その中の一振りの日本刀に釘付けになった。
機能美の塊のような刀身。美しく装飾された鞘。
鞘師は時間を忘れて、その美を堪能していた。
「きれいじゃのう…」
「本当ね」
突然、女性の声がした。鞘師は後ろを振り返る。
そこには、自分よりは年上と思われる、一人の少女が立っていた。
「でも、こんな風に飾られてるだけじゃあ、この子が可哀そう…
この子が生まれたのは、こうやって見世物になるためじゃないのに…」
少女がケースに近づく。その目つきは明らかにおかしい。
「ほら、聞こえるでしょ?『私、もっと綺麗になりたい…、私の唇に紅をさして…』」
少女はガラスを拳で叩き割り、日本刀を手に取った。
「分かったわ…、私が今から綺麗にお化粧してあげますからね…」
妖しい笑みを浮かべて刀に話しかけながら、その少女は鞘師の方を向いた。

916名無しリゾナント:2012/09/16(日) 19:02:37
1−3

「あんた、何者だ?」
少女はその問いに答えず、両手で刀の柄を握り、切っ先越しに鞘師を見据えた。
その構えは、四肢のどこにも力みがない見事なものだった。
だが、鞘師には余裕があった。少女の構えには、わずかではあるが隙がある。
このレベルの相手なら容易に倒せると鞘師は思った。
睨み合って数秒が経った。
(そろそろ来るか…)
鞘師がそう思った時、少女の姿が突然消えた。
(何っ!?)
鞘師は左の脇腹に冷たさを感じた。
そして、左後方から少女の声が聞こえてきた。
「うふふっ…。とっても綺麗よ…」
鞘師が振り向くと、少女が満足そうな顔で、目の前にかざした刃先を見つめている。
自分の左の脇腹を見ると、服が裂けていて、白い肌に一本の赤い筋が走っている。
そこに、赤くて丸い球が幾つか生まれ、大きくなり、じわじわ垂れ落ち始めた。
鞘師は痛みを堪えながら、いま起こったことを冷静に分析した。
少女が消えて、後ろに現れた。そして、その間に自分の腹部が斬られた。
少女は瞬間移動したわけではない。瞬間移動であれば、斬る「時間」がない。
おそらく、彼女は、文字通り目にも止まらぬ高速で移動し、攻撃したのだろう。
人より優れている自分の動体視力をもってしても、少女の動きは全く見えなかった。
ということは、少女は通常時の何十倍、いや、何百倍の速度を出せるということか…。
仕方がない。もう一度少女の動きを観察して、攻略の糸口を掴もう。
そう結論付けると、鞘師は少女の一挙一動を見逃すまいと目を凝らした。
鞘師の頭の中に、「逃げる」という選択肢はなかった。
「この子、あなたの血がもっと欲しいみたい…」
少女は、わずかに血脂のついた刃先を、鞘師に向けていた。
鞘師は瞬きもせず少女を凝視し続ける。少女の視線が一瞬右大腿部の辺りに注がれた。
そして、また少女が消えた。鞘師は、左足に冷たさを感じた。

917名無しリゾナント:2012/09/16(日) 19:03:45
〈立場なんてのは関係ない〉

2−1

スカートが裂け、左の太ももの内側から血が流れ出ている。
鞘師は激痛に耐えながら、再び敵の能力を分析し始めた。
消える前の目線から推測するに、少女は、間違いなく右足を斬るつもりだった。
実は、鞘師は「罠」を仕掛けていた。右足に分かりやすい隙を作っておいたのだ。
そして、少女が消えた瞬間、鞘師は右足を引いた。
結果、少女は、狙っていた右足を斬ることができなかった。
左足を斬られたのは、たまたま切っ先が届いてしまっただけだろう。
鞘師は、以上の状況から、二つの結論を導き出した。
一つは、少女は、消える前に、刀で斬りつける場所を予め決めているということ。
もう一つは、攻撃が始まったら、斬りつける場所を途中で変更できないということ。
「里保ちゃん!?」
突然、鈴木の声がした。鞘師の傷と少女の刀を見て、鈴木は状況を理解したようだ。
鈴木は怒りの形相で少女に突進した。鞘師は足の傷で動けない。鞘師が叫ぶ。
「香音ちゃん!そいつ、すごいスピートで襲ってくるから、気を付けて!」
頷く鈴木。とりあえず鞘師は、鈴木の戦いを見守ることにした。
二人の戦いが始まった。だが、少女はなぜかあの「加速」攻撃をしてこない。
鈴木は、物質透過能力を駆使して、少女の斬撃をすり抜けることができる。
そのため、鈴木の方が次第に優勢になり、少女は防戦一方になっていった。
戦い始めて5分後、ついに鈴木の強烈な蹴りが、少女の腹部を完璧にとらえた。
少女は数m吹っ飛ばされて、部屋の壁に背中を打ちつけた。
鈴木もさすがに攻め疲れたのか、その場を動かずに呼吸を整えている。
少女は何とか立ち上がり、刀を構えた。
睨み合う両者。
そして、鈴木が少女へ向かって駆け出そうとした時、少女が消えた。
鈴木は急いで透過能力を発動する。一方、鞘師は鈴木の5mほど後方を見た。
鞘師の視線の先に、少女が現れた。刀に付着している血の量がさっきより増えていた。

918名無しリゾナント:2012/09/16(日) 19:04:24
2−2

「ううッ…」
鈴木がしゃがみこむ。腹部から血が大量に流れ出す。
(香音ちゃん…)
鈴木の状態を心配しつつも、鞘師は懸命に分析を続けた。
この少女の特殊能力が「加速」であることは間違いない。
今の「加速」攻撃を見ると、少女が消えてから鈴木の後方に現れるまで、約0.4秒。
その間に少女は10m程移動した。あの少女の通常の動きなら、2秒はかかる距離だ。
すると、その速度は通常の約5倍…。
だが、その程度であれば、自分の動体視力をもってすれば見えないことはない。
それなのに、今回も自分の目は少女の姿を捉えることができなかった。
このことから導き出される答えはただ一つ。
おそらくこの少女は、「加速」能力だけではなく、「透化」能力も使用している。
動きが見えないのは、速すぎるからではない。見えないように姿を消しているからだ。
加えて、もう一つ気付いたことがある。
それは、少女が「加速」能力を連続で使用できないということだ。
もしできるのであれば、鈴木に攻め込まれ、劣勢になったときに使っていたはずだ。
では、なぜ使用できなかったのか。
おそらく、あの能力は、発動する前に一定の「準備」時間が必要なのだろう。
ちなみに、鈴木は、物質透過能力を発動させるのに、約0.5秒かかる。
しかし、一度発動させれば、3秒間程その状態を持続させることができる。
よって、少女が「加速」能力を発動するタイミングを正確に予測することができれば、
鈴木はその物質透過能力によって、少女の斬撃を完全にかわすことができる。
鞘師は、少女の「加速」攻撃を、もう一度じっくり観察したいと思った。
少女が鞘師にゆっくり近づいて来る。
鞘師の目は、少女が自分の心臓の辺りへ一瞬視線を向けたのを見逃さなかった。
(次はここを狙っちょるんか…。避けそこのうたら一巻の終わりじゃのう…。
じゃが、うちは負けん。絶対に香音ちゃんに攻撃のタイミングを教えるんじゃ)
鞘師は、少女の動きに目を凝らした。

919名無しリゾナント:2012/09/16(日) 19:05:16
2−3

その時、鈴木が叫んだ。
「里保ちゃん!見てて!」
そして、少女に再び突進し、息もつかせぬ連打を繰り出した。
鞘師はすぐに気付いた。
鈴木は、己の身を犠牲にして、鞘師に少女の能力を見せようとしているのだ。
(香音ちゃん…、ありがとう。香音ちゃんの覚悟、絶対に無駄にしない!)
鈴木は攻め続ける。ただし、腹部の流血が尋常ではない。
鈴木の動きはすぐに鈍くなり、ついに足が止まった。
少女がニヤリと笑う。そして、少しの間鈴木を睨みつけてから、また姿を消した。
0.4秒後、少女は鈴木の後方に姿を現し、同時に鈴木の肩口からは鮮血が噴き出た。

少女は倒れている鈴木の頭を踏みつけ、それまでの鬱憤を晴らすかのように喚いた。
「雑魚のくせにでしゃばりやがって!私の標的は、お前じゃなくて鞘師里保なんだよ!
お前みたいな雑魚はなあ、自分の立場をわきまえて、大人しくしてりゃあいいんだ!」
鞘師の目つきが変わる。
鞘師の心の中で固い「殻」のようなものが割れて、灼熱の怒りが溢れだした。
その溶岩のような怒りは、血と混じりあって、全身に満ちていく。
少女はようやく気が済んだのか、鈴木から離れて、刀の切っ先を鞘師に向ける。
鞘師は無意識に、割れたガラスケースの中にある鞘を取り出した。(…1、…2、)
そして、その鞘を左手で握り、自分の左脇腹に押し付ける。(…3、…4、)
脇腹から血があふれ出し、握った鞘の口へ滑り込んでいく。(…5、…6、)
見えない刀の柄を握るように、鞘師は右の拳を鞘の口に当てた。(…7、…8、)
鞘師が両目を閉じる。(…9、…来る!)
少女が消えた。同時に、鞘師の右拳が、凄まじい速さで弧を描く。
その右拳の後を追うように、鞘の口から真っ赤な線が走った。
消えてから0.4秒後、鞘師の後方に、少女の姿が現れる。
少女は刀を右前方に突き出し静止している。鞘師も右拳を天高く掲げたまま動かない。
静かな時が流れる。その静寂を破ったのは、少女が床に倒れた音だった。

920名無しリゾナント:2012/09/16(日) 19:05:53
〈恋のタイミングをのがさない〉

3−1

俯せに倒れている少女の胸の辺りから血が流れ出し、野火のように広がっていく。
鞘師は右手を降ろし、床にゆっくり跪いた。
服の胸元が刀で斬り裂かれている。
だが、露わになった白い肌には、かすり傷一つ無かった。

鞘師は、少女の「加速」攻撃の弱点を掴んでいた。
あの攻撃は、「どこを」・「いつ」襲って来るかさえ分かれば、容易にかわせる。
「どこを」襲って来るか。
これは、少女の視線を追えば簡単に推測できた。
「いつ」襲って来るか。
これも、鈴木香音のおかげで、遂に見極めることができた。
人は、何かに集中すると、どうしても呼吸の仕方や目の動きに変化が生ずる。
鞘師は、そのような変化が少女の身体に現れたのを見逃さなかった。
そして、その変化から、少女が消えるまでの時間を正確に計った。
その結果、少女が集中してからちょうど10秒後、「加速」能力が発動した。

ちなみに鞘師は、異常に正確な「時間感覚」を持っている。
例えば、表示を見ずにストップウォッチを15秒00で止めることなどは朝飯前だ。
今回の戦いにおいては、鞘師のこの精密な「時間感覚」が力を発揮した。

一方、少女を斬ったことについては、鞘師自身、よく覚えていなかった。
戦い終えた鞘師は、周囲をよく見回してみた。
すると、血痕が、自分の足もとの床から、壁、天井まで一直線に走っている。
鞘師はそれを見て、自分があの時何をしたのか、ようやく理解した。
(血で、斬ったんか…)
それが、鞘師の特殊能力、液体限定のサイコキネシスの最初の発現だった。

921名無しリゾナント:2012/09/16(日) 19:06:35
3−2

鞘師の連絡を受け、佐藤優樹が道重さゆみと一緒に瞬間移動してきた。
さゆみは、すぐに、深手を負っている鈴木の治療に取り掛かった。
一方、佐藤は、持参したバケツと雑巾でせっせと展示室の掃除をしている。
さゆみは、両手からピンク色の光を放出し、鈴木の傷を一分ほどで全て治した。
ただし、出血量がかなり多かったため、しばらくは安静が必要だ。
さゆみに「寝てもいいんだよ」と優しく言われると、鈴木はすぐに寝息を立て始めた。
続いてさゆみは、鞘師の治療にとりかかった。
鞘師の傷はさほど深くなく、意識もはっきりしている。治療は数秒で終わった。
「あの…、道重さん…。そこの傷…、もう治ってますよ」
さゆみは、鞘師の内ももを撫でている手を名残惜しそうにゆっくり放した。

さゆみは、敵の少女をそのままにしておけず、傷の治療を始めた。
傷は非常に深く治療には数分かかりそうだった。鞘師は複雑な表情でそれを見ていた。
5分後、佐藤の瞬間移動が可能になり、鈴木を喫茶リゾナントへ運んでいった。
それからすぐに、少女の治療が完了した。しかし、少女は気を失ったままだ。
汗を拭きながらさゆみが顔を上げると、見なれない少女が展示室の入口に立っていた。
鞘師もすぐに気付き、さゆみの前に跳び出して臨戦態勢をとる。
だが、その少女は意外にも二人に深々と頭を下げた。
鞘師の肩越しにさゆみが尋ねる。
「最近、立続けに私たちを襲ってきたのは、あなたの仲間よね?目的は一体何なの?」
「…自分たちの力を組織に認めてもらって、正式な『戦士』に昇格するためです…」
「組織って、ダークネス?」
「はい…」
「あなた、ダークネスがどんな組織か、分かってるの?」
「……」
「あいつらは、人を人とも思わない、ひどいやつらなのよ?そんな…」
突然、さゆみの言葉が止まった。
鞘師が振り返ると、さゆみの鳩尾の辺りに、赤く染まった刃先が突き出ていた。

922名無しリゾナント:2012/09/16(日) 19:07:15
3−3

さゆみの背後には、気を失っていたはずのあの少女が刀を握りしめて立っていた。
「動くな!動いたら、心臓を斬る!」
鞘師は、刃先の位置と鬼気迫る少女の顔とを見て、やむをえず攻撃を断念した。
少女が鞘師を睨みつけながら、後から現れた少女に向って叫ぶ。
「せっきー!早くこいつを洗脳して!こいつさえ始末すればミッションは成功なの!」
「みーこ!もうやめて!その人がみーこの傷を治してくれたこと分かってるんでしょ?
もう、無理して悪人を演じるのはやめて…。そんなみーこ、私、見たくない!」
「なに甘いこと言ってんの!?私が負けたら、7人みんな終わりなのよ!?」
「そんなことない!組織から追放されたって、死ぬわけじゃないわ!」
「あのね、せっきー…、私達はもう組織について深く知りすぎてしまったの…。
そんな私達を、あの組織が無事に外の世界に戻してくれると思う?」
「……」
「…でも、私が昇格できれば、上に頼みこんで皆を救うことができるかもしれない。
私にとってあなた達は、生まれて初めてできた『仲間』なのよ…。
あなた達を守るためなら、私、鬼にでも、悪魔にでもなってやるわ!」
「…あんたこそ、甘いの…」
さゆみが蒼白い顔を苦痛で歪ませながら、後ろで刀を握り締めている少女に言う。
「…あんた、本当は心のどこかで気付いているんでしょ?
ダークネスが、あんたみたいな下っ端の言うことに耳を貸すわけないってこと…。
気付いているくせに、それを認めるのが怖くて、現実から目を背けてる…。
もし仲間を救いたいなら、自分の全てを賭けて、目の前の現実に立ち向かいなよ…。
その覚悟もないくせに、『仲間を守りたい』だなんて、軽々しく言うんじゃねえっ!」
さゆみが前へ動いた。
少女は反射的に刀を左に滑らせ、心臓を斬り裂く。
切っ先が背中から離れ、傷口から大量の血が噴き出した。
鞘師はすぐ刀を蹴り飛ばし、少女の顔面に拳を叩き込む。
さゆみはゆっくり前に倒れながら、胸に両手を当てた。
ピンク色の光が、さゆみの胸で爆発する。

923名無しリゾナント:2012/09/16(日) 19:08:03
〈Ending:計算なんてのはしない〉

「道重さん!道重さん!」鞘師は、さゆみの上体を抱き上げて叫んだ。
さゆみは、背中に鞘師の温もりを感じ、自分が生きていることを認識できた。

さゆみには強力な治癒能力がある。だが、意識が無ければ、その能力は発動できない。
そして、治癒能力を発動できなければ、当然のことだが、さゆみは死ぬしかない。
それが分かっていながら、さゆみは前に出た。
意識を失う前に能力を発動できるのか。また、できたとしても治療は間に合うのか。
それらの「計算」を、さゆみは一切しなかった。
さゆみは、人質をとられているという呪縛から、一刻も早く鞘師を解き放ちたかった。
さゆみの頭の中にあったのは、仲間を守りたいという思いだけだった。
鞘師は、さゆみを見つめながら、その愚かなまでにまっすぐな仲間への愛情と、心臓を
斬られるという壮絶な恐怖と痛みに耐えたその強靭な精神力に、畏敬の念を抱いた。

「みーこ」は床に這いつくばりながら、さゆみと鞘師の姿を呆然と見ていた。
「せっきー」が「みーこ」の横に跪き、手を肩にそっと乗せる。
八匹の犬が展示室に入ってきて、二人をとり囲み、一緒に消えた。

さゆみは、鞘師の可愛らしい顔を間近で見ているうちに、欲望を抑えきれなくなった。
「りほりほ〜、さゆみ、なんか目が見えなくなってきたの。もっと強く抱いて…」
ハンターのように爛々と輝いている目を見れば、その言葉が嘘なのはすぐに分かる。
だが、鞘師は、自分のささやかな胸の膨らみに、さゆみの顔をギュッと押し付けた。
(道重さん、今回だけ…特別ですよ)
「おー、いっつあぱぁらだいすなの!」

―おしまい―

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
以上、『恋愛ハンター』でした。なお、敵の少女のモデルは、(仮)の仙石さんです。

924名無しリゾナント:2012/09/16(日) 19:09:24
=======================================
>>914からここまでです。
 いつもすみませんが、よろしくお願いします。

925名無しリゾナント:2012/09/16(日) 21:48:45
行ってくるのだよ

926名無しリゾナント:2012/09/16(日) 22:00:46
行って参りましたが性懲りもなくまたレス番入れ忘れて猿さんです…ホントにすみませんm(__)m
さゆのラストのセリフのせいで、素敵な物語が台無しになったような、このセリフだからこそ爽やかな読後感なのかは人それぞれですねw

927名無しリゾナント:2012/09/17(月) 10:27:51
>>926さん
代理投稿ありがとうございました!今後もよろしくお願いします。

さゆの最後のセリフ、実は、削るかどうか、ぎりぎりまで悩みました。
しかし、今回のタイトルが変態ハン…もとい、恋愛ハンターだったので、
「ハンター」的な描写は外せないと思い、結局、残すことにしました。

928名無しリゾナント:2012/09/18(火) 14:22:30
>>722-724 の続き。

道重さゆみと名乗った女性は鞘師の知り合い、らしい。
ただこの人物もきっと普通の人ではない、と思う。

 「りほりほ、寝癖がついてるの、ああでもこの感じがまた寝起きって感じで…」
 「心で呟いてることが全部もれてますけど」
 「意思疎通!やっぱりりほりほは才子なの!」
 「ごめんね皆、ふだんはこんな感じじゃないんだけど」
 
鞘師が苦そうに笑みを浮かべる。

 「この人って、りほちゃんのお姉さん…?」
 「んー保護者、かな」
 「一つ屋根の下で一緒に暮らしてる時点ですでに姉妹に近い繋がりはあるの。
 でもりほりほはそんな風に思ってくれてないみたいね」
 「いや、別にそういう意味じゃなくて、お世話になってるのはいつも感謝してますから」
 「…さゆみ泣きそうなんだけど。りほりほにそんなに感謝されてたなんて…」
 「そんなわけで道重さん、皆を送ってほしいんですけど」
 「判ったの、全力で送ってってあげる。すぐに手配するね」
 「その前に聖が放心状態っちゃけど、おーい聖ー」

上手く言いくるめた鞘師のおかげでその場は落ちつくことに。
職員室に寄ってみたが先生が居なかったため、書き置きを残して学校を後にした。
どこから手配したのか、黒服を着込む運転手に道重は目的地を伝え、車が発車する。

 「もしかしたら危ない仕事とか?」

929名無しリゾナント:2012/09/18(火) 14:23:06
そんな少し失礼な発言が上がってしまうほど、道重の人物像が不透明だった。
不敵に笑みを浮かべた道重が、続いて提案する。

 「それなら私とりほりほの家に遊びに来てみる?さゆみとりほりほの」
 「別に強調しなくてもいいと思うんですけど…」
 「いいじゃないりほりほ。せっかくなら泊まって行くのもアリなの」

突然の提案に顔を見合わせる。鈴木が少し遠慮気味に口を開く。

 「えっと、今じゃダメですか?」
 「今日はいろいろとあったし、皆疲れてるでしょ。
 そんな状態で聞くよりはまた日を改めてって事で」
 「なんで知ってると?事情なんてほとんど話してないのに」
 「まあ来るなら来て、住所は教えておくの。えりぽん以外の二人は大歓迎」
 「うわーん、みずきーっ」

生田に抱きつかれる譜久村に渡された紙には本当に住所が明記されていた。
車が止まり、最初に降りたのは生田だ。次に譜久村。最後は鈴木。
鈴木が車を降りたとき、鞘師が口を開く。

 「ごめんね、かのんちゃん」
 「え?」
 「部活、サボらせちゃったから」
 「ああ、まあ学校もあんな感じだったし、部活どころじゃなかったかもだしね。
 りほちゃんが無事だったから、今回はそれでチャラだよ」

930名無しリゾナント:2012/09/18(火) 14:28:53
鈴木は鞘師の肩をポンポンと叩いて笑顔を浮かばせ、家のドアに消えて行く。
車は自身が住まう家へと発車する、道重の視線に気づいた。

 「良い子たちね。ここまで付き合ってくれるなんて」
 「…多分、そういうセカイだからだと思います」
 「主軸の歪みか。でもあの子達は何も知らないの。純粋に心配してるんじゃないかな。
 "わざと敵に捕まる"っていうのは考えものだけど」
 「…」
 「<MEM>の回収を手伝ってくれるのはホントに感謝してるし、それなりの
 ことをしてあげることが条件にも含まれてる、でもさゆみのチカラでは
 どうすることも出来ないことだってあるの、特にこのセカイではね。
 それは判っていてほしいの」
 「…すみません」
 「ううん、謝るのはさゆみの方。鞘師を、あの子達を巻き込んで
 自分のわがままを突き通すなんて勝手なことだと思ってる。
 だからいつでも止めて良いんだよ、きっとどう転んでも鞘師やあの子達に
 とって、最悪の事態にしかならないんだから」
 「でも私が"歪み"なら、別の道もありえるかもしれないんです。
 答えを見つけれるかもしれない、だからこれは、私の意志です」

 私の、意志と、覚悟なんです。

鞘師の真剣な眼差しに、道重はそれ以上言えなかった。
彼女には心の底から根付く「覚悟」と「意志」に突き動かされている。
それは自分達のせいではないかと、道重は悲しくなった。

931名無しリゾナント:2012/09/18(火) 14:29:27
"Reborn" 、有限の人間に変化を求めた無限の現象。
醜い人間の果てに、それでも必要としたセカイの群れ。

 眠り続ける親友は一体今、どんな夢を見ているのだろう。
 行方不明の同期は一体今、どんな現実を目の当たりにしているのだろう。

自分がこのセカイに在ることにどんな意味を持つのだろう。
答えはまだ、見えなかった。

932名無しリゾナント:2012/09/18(火) 14:37:00
以上です。
これで今の時点でストックは終了です。
ゆっくり投下なのは本当に申し訳ないのですが
実はまだ中盤にも差し掛かってないのが実状(汗
しばらく潜ります。次回はリゾナンターの動向から始まる予定、かも。

---------------------------ここまで。

>>927
最後の台詞が終わりを告げているっぽくて良かったですよ。
終わりの安心感を抱かせてもらいました。
続きを楽しみにしてます。

いつもお世話になっております、いつでも構わないのでよろしくお願いします。

933名無しリゾナント:2012/09/18(火) 20:53:39
いってきます

934名無しリゾナント:2012/09/18(火) 20:57:52
いってきましたー

935名無しリゾナント:2012/09/19(水) 09:35:55
>>934
わわ、ありがとうございますっ。
まだ規制が解けない中、ホントにいつもお世話になってしまって…。

936名無しリゾナント:2012/09/21(金) 17:45:31
『私がいて 君がいる』

〈どうして涙が出るんだろう〉

1−1

「さゆ…、れいなは絶対に賛成できん」
喫茶リゾナントの店内の空気がピンと張り詰める。
道重さゆみはコーヒーカップに目を落としたまま、厳しい顔つきで黙っている。
れいなは、鞘師里保の方を見た。
鞘師は複雑な表情で、天井に目を向けていた。
二階では鈴木香音が寝ている。
鈴木は鞘師のために、自分の身を犠牲にした。そして、あの少女に刀で斬り刻まれた。
大量出血のダメージは大きく、鈴木はすぐに近くの病院に入院し、輸血を受けた。
鈴木が退院して、皆のもとに戻って来れたのは、つい昨日のことだ。
鞘師はれいなの問いに何も答えない。店内は静まり返った。
「私は、道重さんの意見に従います」静寂を破って、譜久村が強い口調で言い切る。
「リーダーの出した結論に従うのが、私達の義務だと思います」
「リゾナンターにそんな義務はない!」れいなが声を荒げる。
れいなの後ろにいた工藤が、おもむろに口を開く。
「あの…、私は、田中さんの方が明らかに正しいと思います。
偉そうに言って申し訳ありませんが…、道重さんの考えは、間違っています」
工藤はれいなの横に並び、さゆみと譜久村の方を見つめた。
飯窪、石田、佐藤は困惑した表情で黙っている。さゆみが懇願するように言った。
「れいな、これがさゆみのわがままだっていうのは、よく分かってるの…。
でも、さゆみ、ほうってはおけないの…。お願い、れいな、分かって…」
「分からん!さゆは、仲間が傷つくことになっても平気なんか!」
現在の体制において、れいなとさゆみの対立はリゾナンターの崩壊に繋がりかねない。
重苦しい雰囲気の中、生田は心の中でつぶやいていた。
(…新垣さん…、早く…早く帰って来て下さい…)

937名無しリゾナント:2012/09/21(金) 17:46:15
1−2

高橋愛・新垣里沙・光井愛佳が相次いで離脱し、一方で新人がどんどん増えた。
その結果、リゾナンターは、結成以来、最も脆弱な体制となってしまった。
愛佳が去って数日経った夜、れいなとさゆみは、二人きりで話し合った。
新人たちの教育、新しいフォーメーション、今後の戦略…。論点は尽きなかった。
二人は、時間が経つのを忘れて、忌憚のない意見を言い合った。
知りあってもう何年もたつが、こんなに長い時間二人だけで話したのは初めてだった。
議論は翌朝になってようやく終わった。
窓の外を眩しそうに眺めながら、れいなが最後に言った。
「さゆ、やっぱり、リーダーはどっちかに決めといたほうがいいと思う。
さゆがリーダーやってよ。れいな、そういうのは性に合わん」
どちらがリーダーになろうが、二人がリゾナンターの中心であることに変わりはない。
そう思ったさゆみは、れいなの提案を快く受け入れ、新リーダーに就任した。
しかし、さゆみはすぐに後悔することとなった。

リーダーは、重要な事案の全てに対して、最終的な決定を下さなければならない。
さゆみはいつも恐れていた。
(さゆみが決めたことのせいで、メンバーの誰かが死んじゃったら、どうしよう…)
もちろん、さゆみが独断で何かを決めることはなかった。
必ずれいなや後輩たちと話し合い、皆が納得できる最善の結論を出す。
当然、結論に対する責任は、話し合いに参加したメンバー全員が、負っている。
だが、さゆみは、そうは思っていなかった。
リーダーとして、その結論にGOサインを出した時、全ては自分の責任になる。
リーダーとはそういうものだと、さゆみは考えていた。
ミーティングの最後、決定したことをさゆみが確認する。全員の視線が自分に集まる。
メンバー一人一人の信頼に満ちた視線が、焼けた火箸のようにさゆみの心を突き刺す。
(愛ちゃんだったらどうしてたかな…?ガキさんならもっと良い案を出してたかも…)
ミーティングのあと、さゆみは、誰もいない公園で一人考え込むようになった。
ある夜、れいなが、たまたまその姿を見かけた。

938名無しリゾナント:2012/09/21(金) 17:47:05
1−3

れいなが公園の横を通ると、さゆみが一人でベンチに座っているのが見えた。
薄暗い外灯に照らされたその表情は、今まで見たことがないほど、苦悩に満ちていた。
(さゆが、また何か悩みよう…。最近、毒舌も出んし、ほとんど笑わんくなった。
リーダーになったからって、そんなに一人で背負い込まんでいいのに…)
れいなは苛立っていた。
どうしてさゆみは自分に相談してきてくれないのか。
自分の頭が悪いからか。
いやいや、さゆみだって似たようなもんだ。
さゆみ、絵里、自分の三人は、タイプは違えど間違いなく全員「あほ」に分類される。
(…絵里…か…)
亀井絵里を思い出したことによって、れいなの苛立ちが別の感情に変わった。
(…れいなじゃあ、絵里のかわりは、つとまらんか…)
鉛色の無力感が、れいなの胸の底に重くのしかかった。

だが、れいなは前向きな人間である。
れいなは、これからは自分が全力でさゆみを支えていこうと決意した。
誰かを支えたいなどと思ったのは、れいなにとって、生まれて初めてのことだった。

れいなの不器用な努力の日々が始まる。
れいなはまず、日ごろ思っていることをどんどん口に出すことにした
「さゆ、二人でがんばろう!」
「さゆ、何か悩みがあるなら、れいなに言い!」
「さゆがいてくれて、本当に良かったっちゃ」
れいなは、照れ臭さに耐え、さゆみに声をかけ続けた。
これまで、れいながそんなことを口に出して言うことは、まずなかった。
さゆみは、れいなのそのような変化に驚き、怯え、訝しんだ。
しかし、徐々に、それらがれいなの自分に対する気遣いの表れだと分かってきた。
さゆみは、涙が出そうなほど嬉しかった。

939名無しリゾナント:2012/09/21(金) 17:47:52
〈どうして楽しくなるんだろう〉

2−1

ある日、さゆみが訓練に遅れた。
予定では、その日は新しいフォーメーションを考えることになっていた。
これまでも、さゆみが遅刻することはたまにあった。
そんなとき、れいなは、決まってこう言っていた。
「もういい!さっさと始めよ!さゆは後方担当やし、後で教えればいいっちゃろ!」
だが、その日のれいなは違った。
「さゆが来てから決めたいけん、みんな、ちょっと待っとろう」
そう後輩たちに言って、訓練のスケジュールを大幅に変更した。
遅れて訓練室に入って来たさゆみに、飯窪が耳打ちする。
「田中さんが、道重さんを待とうって、おっしゃったんですよ」
さゆみは、石田と乱取りをしているれいなを、笑顔で見つめた。

また、こんなこともあった。
7月になって、さゆみの誕生日が近づいてきた。
れいながカレンダーを見ながらつぶやく。
「さゆ、誕生日の0時にメールをもらうと、すごく嬉しいって言っとったな…」
れいなは決めた。
今年は、0時ちょうどにさゆみにハッピーバースデイメールを送ってみよう。
もちろん、そんなことをするのは、生まれて初めてだ。
その日かられいなは、暇さえあれば、メールの内容を考えるようになった。
そして、あっという間に誕生日の前日になった。
深夜11時。数十行に及ぶ長文のメールはもうとっくに完成している。
時計をぼんやり眺めていると、突然、携帯が鳴りだした。
「うわっ、佐藤だ。こんな遅くに何やろ?」
れいなは着信ボタンに触れた。

940名無しリゾナント:2012/09/21(金) 17:49:06
2−2

「こんちくわ〜、たなさたん、おきてました〜?」
「ああ、起きとったよ。どうしたと?」
「あの〜、たなさたんにおしえてほしいことがあるんです」
「なによ?」
「みちしげさんのたんじょうびってあしたですか?あさってですか?
きょう、ふくむらさんにおしえてもらったんですけど、
まーちゃん、どっちだったか、わすれちゃって…」
れいなは、自分が今していることを、後輩に知られるのが急に恥ずかしくなった。
「さゆの誕生日?うーん、れいなもよく覚えとらん」
「そうですか〜。まーちゃん、いつもみちしげさんにめいわくかけてるから、
ごめんなさいっていうきもちをつたえたくて〜、たんじょうびのめーるを、
よるの12じにおくりたいなあっておもったんです」
「そっか…。じゃあ、工藤とかに聞きいよ」
「どぅーもあゆみんもはるなんもみんなねちゃってて、おきないんです。
せんぱいさんたちも、るすばんでんわでした」
れいなは、今日の訓練終了後、くたくたになっていた8人の姿を思い出した。
「まあ、あんだけ疲れとったら、しゃあないやろね。佐藤は眠くないんか?」
「まーちゃんは、7じにねて、めざましどけいをせっとして、いま、おきました」
(ふーん、佐藤もああ見えて、けっこう考えとるっちゃね…)
「あ、思い出した!さゆの誕生日は明日で合うとるよ」
「そうですか!たなさたん、ありがとーごだいまったー!おやすみなさ〜い」
れいなは電話を切ったあと、ふと思った。
(あれ?佐藤が0時に送った場合、れいなの送ったメールはどうなるんやろ?
ひょっとして、0時ちょうどには着かんと?)
なにぶん、れいなにとっては初めての挑戦なので、どうなるのか全く予測がつかない。
(佐藤のメールのせいで、れいなのメールが遅れて着いたらどうしよう。
さゆ、0時ちょうどが嬉しいって言っとったしな〜)
れいなは、さゆみの誕生日を佐藤に教えたことを、少し後悔した。

941名無しリゾナント:2012/09/21(金) 17:50:04
2−3

れいなは緊張していた。時計の長針が、59分を指している。
れいなは、佐藤に負けたくなかった。
もちろん、自分のメールが少し遅れても、きっとさゆみは喜んでくれるだろう。
また、一番最初のメールが佐藤のものでも、それはそれでさゆみは嬉しいはずだ。
しかし…、れいなは納得がいかなかった。自分は、三時間もかけてメールを打った。
どんな内容にするか悩んだ時間は、おそらく数十時間を超えている。
こんなに一生懸命考えて書いた自分のメールが、一番に届かないのは納得がいかない。
れいなの胸の中で、負けず嫌いな性格が爆発する。
秒針が頂点に近づいていく。れいなの額を滅多にかかない汗が伝う。
5…4…3…2…1…(いけえっ!)
れいなは、人差し指に全神経を集中させ、画面を超高速で「タン!」と叩いた。
(…うまく、…いったと!?)れいなは携帯を持ったまま、中腰の体勢で立っていた。
そして、座ることも忘れて、数分間、携帯の画面をじっと見つめていた。
♪しょおじきをつたえないのがあ〜♪
メールの着信音が鳴った。れいなは、急いでその返信メールを開いた。
「……おっ、れいなが一番だったって書いてある!やったー!めっちゃ、嬉しい!」
れいなは、自分が一番だったことを、子どものように喜んだ。
そして、満面の笑みで、メールの続きを読んだ。
「うん…うん…、よっしゃ!さゆがよろこびよう!」
メールの文面からは、さゆみの感激がひしひしと伝わってきた。

れいなの気遣いはその後も続いた。そのせいか、さゆみの顔にも明るさが戻ってきた。
次第に毒舌も出てくるようになり、もう一人で公園に行くこともなくなった。
さゆみが元気にしていると、なぜかれいなも嬉しかった。
さゆみが自分を信頼してくれているというのが、以前の何倍も強く伝わってきた。
二人でふざけているときには、今までなかったほどの楽しさを感じた。
れいなは思った。
(れいな、今のさゆが一番好きかも!)

942名無しリゾナント:2012/09/21(金) 17:51:07
〈どうして愛 求めるんだろう〉

3−1

リゾナント店内の空気は、ますます重苦しさを増している。
れいながきつい口調でさゆみに言う。
「さゆ、いい加減に目を覚ましいよ!」
そして、鞘師の方を見て、励ますように言った。
「鞘師も、自分の気持ちをはっきり言い!」
鞘師は複雑な表情のまま、口を固く閉じている。
このままでは埒が明かない。そう思ったれいなは、説得をあきらめ、最終手段に出た。
「こうなったら、多数決で決めるしかないやろ。
さゆの意見に賛成やったら左手を、反対なら右手を挙げる。さゆ、それでええやろ?」
さゆみが頷く。
「それじゃあ、みんな…、手を上げり!」
さゆみと譜久村が左手を挙げる。
れいなと工藤は右手を挙げた。
鞘師・生田・飯窪・石田・佐藤は、どちらの手も挙げていない。
こわばった表情の鞘師に、れいなが諭すように言った。
「鞘師、さゆに遠慮は要らん。自分の気持ちに正直になりい」
それを聞いて、鞘師は、ようやく手を挙げはじめた。
だが、頭上に挙げられたのは、右手と左手、すなわち、両手だった。
れいなの表情が一気に険しくなる。
「鞘師!」「待ってください!」
突然、鈴木の声が響いた。れいなが振り向くと、階段を下りた所に鈴木が立っていた。
「私、里保ちゃんが何を悩んでいるのか、分かるんです。
ずっとここで、皆さんの話し合いを見てました。
里保ちゃんが道重さんの意見に、賛成でも、反対でもあるのは、理由があるんです」
「香音ちゃん、やめて…」
止めようとする鞘師の方を一度見てから、鈴木は意を決したようにこう言った。

943名無しリゾナント:2012/09/21(金) 17:52:46
3−2

「里保ちゃん、亜佑美ちゃんの写真が撮りたいんです!」
「えぇっ!?…鞘師さん…?」石田が、頬を赤らめながら鞘師を見る。
鞘師は恥ずかしそうに顔を隠しながら走って外へ出ていった。飯窪が慌てて後を追う。
「はあああああ!?」目の前の状況に驚くれいな。鈴木が話を続ける。
「里保ちゃん、亜佑美ちゃんの唇が好きなんです。私、ずっと前から気付いてました。
でも、里保ちゃん、あの性格だから、ずっと言い出せないで悩んでたんです…」
「えっと…、れいなは、鞘師が傷つくやろと思って、さゆに反対しとったっちゃけど、
ひょっとして、鞘師も、『そっち』の人やったと?」
「…もういいの。れいな、今回のことはさゆみが悪かったの…」
さゆみが、ホワイトボードに長い横線を引く。その線の下にはこう書いてあった。
『リゾナンター新ルール!写真を撮られても気にしない!』
さゆみが椅子に座り、ため息混じりに言う。
「さゆみ、りほりほの寝顔を見ると、どうしても放っておけないの。
あんなに愛くるしい寝顔は、人類の至宝として永久保存すべきだと思うの」
「道重さんの言う通りです。愛するものを写真に残すのがどうしてだめなんですか!」
興奮して大声になってしまっている譜久村に、工藤が反論する。
「でも譜久村さん、私が着替えてるところまで撮るじゃないですか!」
「撮るわよ。それが何か?」
「『それが何か』って、そんなの、だめに決まってるでしょお!」
「誰にも見せないわよ。聖が一人で愉しむだけ。ねぇ、道重さあん」
「ねぇ、フクちゃあん」
れいなは心底呆れていた。
そして疲れ切ったように階段へ向かいながら、こう思った。
(絵里は、さゆの暴走をうまく操縦しとったなあ。けどれいなはもう付き合いきれん!
やっぱり、れいなじゃ、絵里のかわりはつとまらん!)

一方、生田は、皆の話を全く聞いておらず、相変わらず新垣のことばかり考えていた。
(愛する新垣さん、早く帰って来て下さいね…。衣梨奈、毎日待ってるんですよ…)

944名無しリゾナント:2012/09/21(金) 17:54:57
3−3

ミーティングは自然に終了となった。
皆が帰り支度をし始めた時、突然、「カランコロン」とドアベルが鳴った。
入ってきたのは、一人の少女と、八匹の犬。
とっさに警戒するメンバーたち。だが、少女は背中に深い傷を負っていた。
さゆみが前に出て言った。「あなた…、『せっきー』さんよね?」
すると、その少女は、その場でいきなり土下座をし、大声で叫んだ。
「お願いです、助けて下さい!このままじゃあ、みんな、殺されちゃう!」
床についた手に、涙がぽたぽた落ちている。
さゆみは、すぐに少女を奥の部屋に連れて行き、傷の治療をした。
戻ってきた鞘師・飯窪も含めて全員が見守る中、少女の治療は無事に終わった。
梓は、さゆみに礼を言ってから、自分がここに来た理由を涙ながらに話し始めた。
ミッションに失敗した梓たち7人は、自分たちが死刑になると確信していた。
そこで、ダークネスから逃げ出す計画を立て、今日、それを決行した。
だが、脱走は失敗した。梓以外の6人はすぐに捕まってしまった。
何とか逃げ出すことのできた梓は、仲間を助けたくてリゾナントに瞬間移動してきた…。
「自分の言ってることが、すごくずうずうしいってことは分かってます…。
でも…、他に頼る人がいないんです…」

梓を奥の部屋に残し、全員が店の方に移動した。
「…さゆ、どうする?」れいながさゆみに言う。
「…あの目は嘘をついてないと思う…。さゆみは、あの子達を助けに行きたい」
さゆみはそう言うと、メンバー一人一人の顔を見た。
鞘師が、鈴木が、そして後輩全員が、それぞれさゆみを見て頷いた。
最後に、隣にいるれいなが、引き締まった表情でさゆみの目を見て言う。
「罠かもしれんけど、まあ、れいながおるし、なんとかなるっちゃろ。
とにかくれいなは、リーダーのさゆについていくけん!」
「…れいな、ありがとう!」
メンバー一人一人の信頼に満ちた視線が、さゆみの心を暖かく包み込んだ。

945名無しリゾナント:2012/09/21(金) 17:55:58
〈Ending:少し大人になったかな〉

関根梓を加えた11人が、8匹の犬の作る円の中に入った。
工藤の顔がこわばっているのを見て、佐藤がニヤニヤしながら言う。
「どぅー、きんちょうしてるでしょ〜?」
「してないよ!まーちゃんと『飛ぶ』より、犬と『飛ぶ』方がずっと恐くないわ!」
「えー!どぅーはまーより、いぬさんのほうがすきなの!?」
「もう、うるさい!佐藤!工藤!静かにしい!
…さゆ、佐藤って、もう13歳やろ?年の割りに、幼すぎると思わん?
れいな、あのくらいの頃は、絶対、もっと大人やったと思う。
そういえば、さゆ、佐藤からの誕生日メール、なんて書いてあったと?」
「え?誕生日メール?佐藤からは来んかったよ。来たのは次の日…だったかな?」
「はあ!?ちょっと!佐藤!聞きたいことがあるっちゃけど!」
梓が大きな声で言う。「みなさん、準備はいいですか?」
佐藤がれいなの方を見て、口の前に人差し指を立てて「シーッ」とする。
れいなが佐藤に「べーだ!」と言う。佐藤も「べーだ!」と返す。
さゆみが溜息をつく。
「それでは、行きます!」梓の合図で、11人と8匹が、一斉に消えた。

その数分後…。
リゾナントから遠く離れた地で、光井愛佳は携帯を懸命に操作していた。
「どうしよう…、誰の携帯にも繋がらへん…。みんな、どこにおるん…?
…お願い…、電話に出て……」

―おしまい―

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
以上、『私がいて 君がいる』でした。
次回からは、(仮)篇のクライマックスになります。

946名無しリゾナント:2012/09/21(金) 17:57:33
=======================================
>>936からここまでです。
 いつもすみませんが、よろしくお願いします。

>>932さん
ご感想ありがとうございました。とっても励みになります。

932さんの今後の展開、楽しみです。
「"Reborn" 、有限の人間に変化を求めた無限の現象。
醜い人間の果てに、それでも必要としたセカイの群れ。」
こういう表現が、「うまいな〜」って思っちゃいます。

「眠り続ける親友」「行方不明の同期」
きたきたきたー!

947名無しリゾナント:2012/09/21(金) 21:13:54
じゃあ行ってくるのだよ

948名無しリゾナント:2012/09/21(金) 21:23:43
行ってきたのだよ
現実の話とリンクしたさゆれな話や新ルールに笑ってしまう反面
長く続いた(仮)編も綺麗に3×3+1でまとめていてお見事だなと敬服します
つづきまってますよー

949名無しリゾナント:2012/09/22(土) 13:24:11
>>948さん
代理投稿ありがとうございました!

皆さんの感想を読むと、話し合いの落ちは見抜かれてたみたいで、
ちょっとへこんでます。失敗いかし次は成功するのさ〜

今後もよろしくお願いします!

950名無しリゾナント:2012/10/25(木) 23:10:30
「おまえら〜街を破壊するのだ〜」
「「「「「イイイィィィィィ〜」」」」」」

黒頭巾に黒の全身タイツのいかにも悪役ですと自己主張の強い集団が突然現れたのはうきうきした日曜の午後
手にどうみても殺傷能力はあるが、効率極まりなく悪い斧だの重そうなバズーカを持ち暴れている
どうみても警察なり自衛隊が遠距離から射撃すれば一掃できそうなのだが、ここは小説の世界
数少ない役割を果たそうとモブキャラの市民達は悲鳴を上げて、蜘蛛の子を散らすように逃げ回る

昼間に日曜朝7時半の光景が広がっているのを見て黒ずくめ集団の女ボス、中澤は高らかに笑う
「これぞ、ダークネスの力や!まずはここ、浅草を制圧し、次いで巣鴨、柴又と広げていくのだぁ」
「待てい!!悪事を働くのはそこまでじゃ!」
「誰や?姿を現せ!」
現実的には姿を現さないで長距離からライフルとかで狙撃しちゃえばいいのだがそんなことはしない
そして、こんなどう考えても世界征服なんてできそうにない組織にすら当然のようにヒーローは現れる

「悪は許さない、リゾナントレッド! 鞘師里保」
「正義の名のもとに立ちあがる リゾナントブルー 石田亜佑美」
「お前たちだけは許せねえ リゾナントハニー 飯窪春菜」
「共鳴の輪の中に生まれたから リゾナントノーマルグリーン 鈴木香音」
「えり達は立ちあがる リゾナント新垣グリーン 生田衣梨奈」
「まーちゃんも立ち上がる リゾナントエメラレルドグリーン 佐藤優樹」
「あなたの心に優しい風が流れますように リゾナントももち色 譜久村聖」
「「「「「「「7人そろってリゾナントガールズ(仮)」」」」」」」
そしてしゅびしぃぃぃっと決めポーズを決める7人

「・・・おい、待てや」
「正義の名のもとに悪は許さない!正義は待たない」
「・・・待ていうとるやろ」
「待ちません。共鳴の元に生まれし絆を見せつけてあげます!」
「待ていうとるんやから話聞けや!!黙らんと奥歯に指入れて歯ぁガタガタいわすぞ、こらあ!」

951名無しリゾナント:2012/10/25(木) 23:11:15
「ヒィィィィ・・な、なんですか?」
レッドと名乗った少女が恐る恐る女ボスに尋ねる
「お前ら、色々とつっこむところ多すぎるやろ!お前ら自分達の名前名乗ってみい!」
「リゾナントガールズ(仮)っちゃ♪かわいいやろ?」
何も言わずに女ボスは新垣グリーンに光弾を放った
「うざいわ、うざい。ほんでなんや?(仮)って?正式名称つけんかい!」

「いや、それはですね、まだ私達正式なグループではないので、戒めとして(仮)として」
「・・・ええねん、お前ら、自分に自身もてや!一応、正式なメンバーとして認められているんやから
 メジャーやろ?このスレではお前らメジャーな存在になりつつあるねん
おそらくもう辻とかAより知名度も人気もあるやろ。あいつら意外に使いずらいのバレとんねん」
「そ、そんなことないですわ。過去の功績を見る限り聖達にできるのはただ頑張るだけですわ
ほら、こうやって頑張っているうちに見てください♪アッパーカットが得意になりましたわ」
「いや、知らんから!あとアッパーカットするときに胸が揺れてるの見たブルーの目が怖いやろ」
「・・・悔しくはないです。動きの邪魔になるだけで、頑張れば私だって。私だってこのさらしを」
「嘘はあかんで」
もちろんブルーの目はうるんでいるのだが、その理由は言わなくてもいいだろう

「それからな、おい、緑色!」
「なんだろうね?」「は〜い、まぁちゃんで〜す」「えりのこと呼んだと?」
「ほら、こうなるやろ!3人も緑がいるって混乱するだけや!三人だけ自己紹介してみい」
「リゾナントノーマルグリーン 鈴木香音」
ノーマルグリーンが蟷螂のように両手を構える
「リゾナント新垣グリーン 生田衣梨奈」
新垣グリーンが両手を眉毛の近くで構える
「リゾナントエメラレルドグリーン 佐藤優樹ことまぁちゃんで〜す」
・・・佐藤が両手を上げて手を振る
「おい、作者!手を抜くな!何しとんねん」
・・・いや、だって「エメラルドグリーン」ってうつの地味に大変で(汗

952名無しリゾナント:2012/10/25(木) 23:12:05
「いやいや、そこは頑張れよ!表現力稚拙なんやからせめて人並みに書けるように努力せえや
・・・さて、本題に戻るが、おかしいやろ!緑が三人って!区別つかん!」
「いや。それは、その、色じゃなくて中身をみてほしいっていう思いからなんだろうね」
「いや、違う。それはおかしいやろ。色変えた方が個性出るやろ」

「え〜エメラルドグリーン好きな色だから、まーちゃんはいいんですよ」
「お前の主観はいらんねん!大事なのは区別がつくことや!見た目区別つかんとやってけんねん!
それから生田!お前に至っては色じゃないやろ!なんや!新垣色って」
「黄緑っちゃ!先代の新垣さんのイメージカラーにきまっとうやろ?」
何も言わずに生田の腹にまた光弾が撃ち込まれた
「おめえは先代の福岡と一緒に寝てろ」
新垣グリーンは色は新垣だが中身はれいなであった

「だいたい、ノーマルグリーンがその立場にいるのが問題あるんだよ」
「な、なんでだろうね!香音だって立派なヒーローなんだろうね!」
突然名指しで呼ばれたノーマルグリーン(以下G)は
「いやいや、香音はGじゃないんだろうね、せめてノーマルとかにしてほしいよ!
 Gだと偉大な人にも嫌われている虫になるし、香音はGさんの真似はさすがにできないんだろうね」
「ほら、それや、香音、お前は突っ込みなんやって!
 他の二人のボケが濃すぎて、キャラ消されているんやで!3の字とかいうとったけど、最近そうでもないやろ?」
痛いところをつかれたノーマルは一歩後ずさり、頭を抱え込む
「うっ、そ、そうなんだよね、みんな、天然だったりキャラが濃くて常識通じないんだよね
 この前までは新垣さんと光井さんがいて突っ込みキャラいたけど、それもいないんだろうね」

そうなのだ。この世界における突っ込みキャラは新垣、光井、鈴木、強いて言えば中澤、藤本くらいしかいない
しかしながら魔女は今現在、白くドロドロした液体と戦っておりそれどころではない
かといって、かつての仲間達が敵として出るのも誰も望んでいない
そして至った結論はこうだ
「今、突っ込みキャラが不足しているんだろうね」「不足しているんや」

953名無しリゾナント:2012/10/25(木) 23:12:59
「せやから、私からお前ら7人に提案や」
唐突に呼ばれたのでレッドは飲んでいたサイダーが変なところに入ってむせ込んだ
「おい、レッド、オマエ、敵と戦っているのに何休んどるんや!高橋から何も言われんかったと違うんか?」
「え、いや、これは、あの、そうですね、私、水を操る能力持っているので常に持ち歩いているんですよ
それで、ボスさんが香音ちゃんと話しているから邪魔してはいけないと思ってですね」
「そうっちゃ!里保はあなたに気を使って」
三度目の光弾がKYを襲った

「基本的に緑色は鈴木にするんや。後の二人は他のメンバーと共鳴した時に現れる設定にする
 こうしたら、お前らの共鳴の力もイメージつきやすいし、突っ込みキャラも守れる
 ついでに言うなら執筆能力の低い作者も助かる」
・・・うん、その通り。作者としては助かります(笑)
「確かに、それはいい設定ですね!さすが、ボスさん!」
ハニー色の褒め芸も炸裂する
「それでは、まぁちゃんのエメラルドはグリーンと私、ブルーが共鳴した時にしましょう」
「生田さんの新垣グリーンは飯窪ちゃんと共鳴した時にするんですわ」
「じゃあ、里保ちゃんと共鳴した時は・・・」

電柱柱の影から一人の少女が心臓をwktkさせて8人の様子を見ていた
(私だよね?私だよね?)

「赤と緑でお花みたいだからさくらちゃんですわ」

電柱柱の影でオレンジは泣いた
ハoT 。Tル<なんでどぅだけ出番無いの・・・

「ちょっと待つっちゃ!えりはその提案に反対っちゃ!」
「おまえ、タフすぎるやろ!」
さすがKYほとんど決定している流れでも意見を挙げる

954名無しリゾナント:2012/10/25(木) 23:14:46
「新垣グリーンどうしたんだろうね?」「なんや?」
二人のこの世界数少ない生き残りのつっこみに睨まれてもKYの壁に守られた新垣グリーンは動じない
「確かにそのアイデアは戦隊ヒーロー好きなえりとしても面白いと思うっちゃ!
 でも、でっかい問題点もあることにきづいとうと?」
にやにやして言う新垣グリーンに思わず光弾を放とうとする中澤だったが、そこは必死でこらえた
「なんや?いうてみい?」

「もし、えりとまぁちゃんが出て来なくなったら、今度はボケが弱くなるとよ」
「あ、ほんまや」
残ったのは鞘師、石田のダンスコンビ、天然の譜久村、エピソードトークが得意な飯窪
どう考えても自然なボケが出そうなのは譜久村しかいない
「確かに・・・話の流れとして真面目になりそうなんだろうね」

ボケと突っ込みのバランスは難しい。公式なんて存在しない
つっこみは一人でも十分なのだが、ボケは多くいるからといっていいわけではない
つっこみが面白さを増す部分はあるにせよ、どうしてもそのボケの質は大事なのだ
そう、数よりも質なのだ。数よりも質なのだ。

「やけん、えりとまぁちゃんのコンビがいたほうが予測不能になっていいと思うと」
「確かに二人がいないと突発的な事件は起きないんだろうね。
 二人とも何をしでかすか先が読めないからコメディには向いているだよね」
そうやって真面目に考えている横ではエメラルドは電信柱の後ろにいる工藤(オレンジ)に気付いて笑っている

「というか、気付いたんやけど、お前らの仲間のオレンジ色の戦隊ヒーロー無駄に強いやろ!」

Berryz仮面 オレンジ⇒夏焼 雅
キューティーレンジャー⇒矢島 舞美
リゾナントガールズ(仮)⇒工藤 遥

「なんや、この格闘に圧倒的に強そうな三人組!正直、本体より強いやろ、こいつらだけなら」
「確かにそれはそうかもしれないんだろうね(汗)」

955名無しリゾナント:2012/10/25(木) 23:15:18
「戦隊ヒーローはピンチになると心強い味方が現れるものですわ!ですから、オレンジはサブなんですわ!」
そういい胸をますます張り出すのはももち色である
「やめい!お前がそれやると、目のやり場に困って、色々問題おこんねん!」
「それなら、私がズキューーーーーーーーーーーーン!」
「やめい!JOJO立ちすんなや、ハニー色!違う問題起こるやろ!」

「あ、あの〜すみません、ちょっといいですか?」
申し訳なさそうに声をかけたのはレッドだった
「あ、なんや?」
「あの〜私達って敵ですよね?そろそろ戦わなくてはいけないのではないでしょうか?」
「・・・そやったな。よし、来いや!女、中澤相手になったるわ!」
しかし、更に申し訳なさそうな態度のレッド

「どうした?こっちから行くのか台本やったか?」
「いや、そうではなくてですね、限界です」
「・・・・は?」
「いや、話が長くなって、読者が飽きていると思うんです。だから戦うのは次回ということで」
「・・・せやな、そうするか」

♪エンディングテーマ

〜次回予告〜
ハo´ 。`ル<7人の少女たちの前に現れた女ボス。
色と名前の事だけで終わった一回目の放送をどう思ったのか
視聴率は?視聴者の評判は?そして、次こそ中身はあるのか?そして、第三話目はあるのか?
次回 カラフル戦隊リゾナントガールズ(仮)第二話『ハニー色とももち色』
ハoT 。Tル<出番は予告だけ?

ノノ∮‘ _l‘)<この番組は譜久村の提供でお送りいたしましたわ

956名無しリゾナント:2012/10/25(木) 23:20:03
以上「colorfull戦隊リゾナントガールズ(仮)①」です。
「あえあ」ネタに飽きたから書き始めたものです。コメディは書いていて楽しいですw
リゾナンター関係ないかもしれないけど、堪忍してくれるとありがたい
まぁちゃん、鞘師のシリアルな話の後にこんなんで申し訳ないです

代理投稿よろしくお願いします。

957名無しリゾナント:2012/10/26(金) 12:22:05
遅くなったけど行ってきたよん
本スレでも書いたけどメンバーのカラーを巡るやりとりはゴレンジャイを思い出した
作者さんはごっつ世代の人ですかねw

958名無しリゾナント:2012/10/26(金) 21:06:58
ありがとうございます!いや〜改良の余地まだまだありますね、こうやってみると
さっき、ゴレンジャイ初めて観ましたw板尾さんおもしろいですね〜
知らなかったけど、かぶっていてなんか悔しいっす・・・オリジナリティないな・・・
作者は24歳です

959名無しリゾナント:2012/11/04(日) 18:46:46
スーこれがりほりほの匂い…
子供特有のミルクみたいな匂いにちょっとだけ思春期を思わせる酸っぱいアクセントが…
幸せ、ってこういうものなのね。もうこのまま時が止まってしまえばいいの。

しかし背後にTシャツを忘れた事に気づき戻ってきた里保がいると知って、さゆみは本当に時が止まってしまった。

否。店内に里保が足を踏み入れるわずか1秒前に、さゆみは普段からは想像もつかないような反射神経と跳躍力
によって、Tシャツを咥えたままカウンターの下に隠れることに成功する。りほりほに変態バレしたくないという保身と、
いつまでもクンカクンカしていたいという欲望が重なる事で実現したまさに奇跡であった。

「さっ鞘師、どうしたの?」

何事もなかったかのようにカウンターから姿を現すさゆみ。
顔は赤いし息も荒いし、おまけにさゆみの重さんも大変なことになってるが、里保には気づかれていないようだった。

960名無しリゾナント:2012/11/04(日) 18:48:08
「実は道重さんに相談があって」
「相談って何…あひっ?!」

真剣な顔つきで話す里保を他所に、さゆみの重さんに電撃が走る。
実は奇跡の大ジャンプを決めた時に、懐の携帯電話が何故か股間の位置にずれてしまったのだった。
携帯はマナーモードになっており、着信があるとブルブル震えていけない刺激を与え続ける。

「私…この能力のせいで、学校の友達とも馴染めなくて。水があるところには迂闊に近づけないし。
だから色々経験してそうな道重さんに教えてもらいたくて」

里保が心を開いている。
のは結構なことだったが、さゆみの重さんも股の機械のせいでぱっくり開いてしまっていた。
慌てて股を閉じようとすると刺激がよりダイレクトに伝わり、さゆみの腰が思わずくの字になる。

「あの、どうしたんですか?」
「ううん、何でもないの」

何でもなくはない。
既にさっきの変態プレイと今の携帯バイブでおまた大洪水である。
そしてあまりの刺激に、ついにさゆみが声を上げる。

961名無しリゾナント:2012/11/04(日) 18:49:18
「あっあっ、ま、股の機械にぃぃ」
「は?」
「またのきかいにいいいいい!!!!!」

急に叫びだしたさゆみ。
顔を見ると、眉を吊り上げ紅潮させている。里保はさゆみを怒らせてしまったのだと思った。
ただここで引くわけにはいかない。

「道重さんにとっては確かにくだらないことなのかもしれません。でも、わたしは」
「またのきかいに!!またのきかいに!!!」
「何ですかさっきから又の機会にって!今じゃなきゃダメなんです!」
「だからまたのきかいにいいいいいい!!!!!」

さゆみは涙を浮かべ涎を垂らし髪を振り乱している。
そんな、相談にすら乗ってくれないなんて。里保は慈悲のないさゆみの態度にショックを受けた。
ある意味さゆみは今自慰をしてるのだが。

962名無しリゾナント:2012/11/04(日) 18:50:35
里保が顔の表情をなくしていくのを見たさゆみは大いに焦った。
もしかしてりほりほ、勘違いしてる!?
でも誤解を解くには一度イッてからでないと、ろくな答えすら口にできない。今までのりほりほ
盗撮画像を頭に思い描き、渾身の力を込めて叫ぶ。

「イッて!!!もうイッて!!!!」
「そんな、行ってだなんて!!」
「違うの!行って欲しくないけどさっさとイッて欲しいの!!!」
「…わかりました。失礼します」

肩を落とし去ってゆく里保。

「待って行かないででもイッちゃうのあっあああああああああ」

里保の淋しそうな後姿を見ながら、さゆみもまたいってしまうのだった。
里保との心の距離は開いてしまったし、さゆみの重さんも開きっぱなしだった。

963名無しリゾナント:2012/11/04(日) 18:51:14
この後、里保は頼れる先輩・田中れいなに相談した。

964名無しリゾナント:2012/11/04(日) 18:56:33
>>959-963
りほりほのTシャツネタの続きです。
こんなものを代理の方に頼むのも心苦しいんですが、代理投稿お願いします。
題名は「またのきかいがリゾナント」で。今適当につけました。

最初は見つけたのがりほりほじゃなくて石井さんで、いきり立った黒い焼き芋がどうのこうの・・・
という話だったんですが、みなさんの「股の機械に」への食いつきに共鳴してこういう結果になり
ました。とある話のリスペクトで心苦しいので、元ネタも貼っておきます。

http://m-seek.net/kako/event/messe08/1118769937.html

965名無し募集中。。。:2012/11/04(日) 19:59:20
ひどい茶番劇・・・いや、今年の最優秀作品候補の続編がきましたね
完走できなかったからテンプレ使い回すかね

966名無し募集中。。。:2012/11/04(日) 20:08:21
リゾナントブルーAnother Versからストーリーを想像するスレ 第75話
http://hayabusa3.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1352026898/

967名無し募集中。。。:2012/11/04(日) 20:08:54
>>964
転載します

968名無し募集中。。。:2012/11/04(日) 20:19:25
>>967さんありがとうございます!

969名無し募集中。。。:2012/11/10(土) 21:12:32
どこまでも続くかと思うような、長い廊下。
薄闇に包まれた道を、白衣をゆらゆらとはためかせ、歩く。

約束の時間を大分過ぎてしまったか。

ひとりごちてみたが、急ぐ気はさらさらない。
どうせ幹部連中も、私がいないことには話を始められない。

これから私はあるひとつの提案をしてみるつもりだ。
その提案に対する反応。私は彼女たちの不満に満ちた声を想像する。
甲高い声。ヒステリックな声。やる気のなさそうな声。興味のなさそうな声。
全て、自分が持っているデータで黙らせることができるだろう。それは確信に近かった。

力技、なのかもしれない。
けれども、彼女たち自身、自らの任務が徐々にではあるが何らかの原因で支障をきたしていることは
薄々は気づいていることだろう。私の提案は、その事実に光をあてるだけ。
……闇が、光をあてる?
自らが喩えた表現の滑稽さについ笑みを漏らしてしまったその時。

目の前に、扉が立ちふさがる。
いつの間にか長い廊下の終着点にたどり着いたようだ。
廊下を歩くまでの時間を、たっぷりと思案に耽る為に、わざと長く設計したのは他ならぬこの私だった。
どうやら、長さがまだ足りなかったらしい。倍の長さにしてみようか。そんなことを考えながら、薄闇に
覆われた扉をゆっくりと押し開いた。

970名無し募集中。。。:2012/11/10(土) 21:14:09
視界が、開ける。
円筒型の空間を取り囲むようにして、13の座席と、9人の先客たちが私を待ち受けていた。

「遅いっての!自分から呼んどいて何で遅刻できるんだよ!!」

頭から出ているのではないかと疑いたくなるほどの声。
その背に見合わない背もたれに埋まるようにして、彼女は私の遅刻を責める。

「申し訳ありません。研究が、長引いていたもので」
「ハァ?お前ふざけんなよ!!」

顔を真っ赤にする小さな金髪。「詐術師」の二つ名を持つ彼女は、もう少し冷静な面を持ては組織にと
って真に有用な人材となるのだけれど。

「はは、まあええやん。あんま怒ってばっかやと背が縮むで」
「ちょ、組織のトップがそんなこと言ってたら示しがつかないじゃんか!!」

早くも頭に血が上る小さな大人を、13の座席の中央に座する女性が嗜める。
彼女が、私の所属する組織のリーダーだった。

「あんたがマイペースなのはいつものことやからな。さ、早よ座り」

促され、空いている席に適当に座った。
即座に18の瞳が私に集中する。

971名無し募集中。。。:2012/11/10(土) 21:16:52
「で、多忙なあたしたちを集めた理由って、何?」

随分棘のある言葉だ。
言葉を発した本人に似つかわしい、陰湿で攻撃性を秘めている。
下らない理由だったら許さないんだから。そんな心の声が聞こえてきそうだった。
彼女は私たちの敵対勢力からは「粛清人」と呼ばれている。ただ、私たちの中には「粛清人」は二人い
る。浅黒い肌と、策略に嵌めて標的を粛清するやり方から彼女は「黒の粛清」、そしてもう一人のほう
は・・・・・・

「うっそだぁ。あんた最近仕事なくて暇だって聞いたよ。にゃはは」
「な、何よ!そんなこと言ったらあんただって粛清の仕事が減ってるって……」
「残念でしたー。あたしは本業?副業?でほんとに忙しいから」
「……そういうとこが…あんたの全存在がむかつくのよ!!」

「黒の粛清」をからかい、小ばかにし、そして軽くあしらう。
彼女こそがもう一人の「粛清人」。自らの身の丈もあるかと思うほどの巨大な鎌を得物とし、鎌の刃の
色から「桃色の粛清」と名づけられそうになったのを慌てて「赤の粛清」を自ら名乗ったという。本人
曰く、何か弱そうだから、とか。

粛清人同士がやいやいやっているのを無視し、話を進めることにした。

972名無し募集中。。。:2012/11/10(土) 21:19:28
「本題の前に、みなさんに色々聞きたいことがあります」

再び複数の視線が私を射る。
さて、どのような反応が出るか。
私はこれから訪れる出来事に対して、楽しさすら覚えていた。

「私たちの崇高な目的のため、みなさんは日々資金集めをされてるかと思います。犯罪絡みの案件や、
アイドル業なんて変わり種まで。いわゆる組織の仕事、というやつです。その仕事が、最近あまりはか
どっていない、そう思われたことはありませんか?」

互いに顔を見合わせる幹部たち。
もちろん、これはわかりきった反応。

「……確かに、私が目をかけてた新興宗教の団体が、わけのわかんない連中に潰されたって聞くけど」

不承不承に答える、「詐術師」。
すると、他の面々も思い当たる節があるのか、各々の手がけたプロジェクトの一部が失敗に終わった旨
の説明をはじめた。

「あのさあ、これって何なんだよ。言ってる事が回りくどくてさ、あたしの頭じゃ理解できねえんだけ
ど。分かりやすく話してくんねえかなあ?」

ぼりぼりと頭を掻きながら、仕草に似合わない、色白の金髪の女性が不満を述べる。
近接格闘術に優れ、特にその蹴りは頑丈な鉄骨ですらへし折ってしまうという。「鋼脚」の異名に相応
しい、ストレートな物言いだ。

973名無し募集中。。。:2012/11/10(土) 21:21:28
「あんたは難しく考え過ぎだから。こんなのただの偶然じゃん。ピーポ君とこの能力者たちが頑張って
る結果じゃないの?」

「鋼脚」に追随するは、「氷の魔女」と謳われし女性。普段は鋭い目つきと冷酷な表情を湛える彼女だ
けれど、今はこんな問題は取るに足らないものとばかりに手鼻をかんでいる。
ただ、次の私の話にどういう反応を見せるだろうか?

「偶然、ですか。みなさんはご存知ないかもしれませんね。『詐術師』さんの新興宗教団体崩壊、『氷
の魔女』さんの地方自治体乗っ取り計画破綻、まああとはご自分の胸にでも聞いてみてください。我々
の手がけた計画の数少ない失敗例、その約8割が・・・・・・13歳〜18歳の少女たちによって引き起こさ
れています」

言い終わった瞬間、私の頬を鋭い何かが掠める。
見るまでもない。壁から、氷柱が生えているのだ。

「さっさと本題を言いな。次はあんたのふくよかな頬が切り裂かれるよ?」
「成る程」

私は小さく肩を竦め、殺気だった視線を交わしながら話を続ける。
正直、床の下から無数の氷の刃が生えてくるものかと思ったが、想像以上に控えめな反応でがっかりし
てしまったのだ。

「この少女たち。決して警察の手のものではありません。むしろ、普段は普通に学校に通っている少女
たち、と言っても過言ではないでしょう。ただ、彼女たちは定期的にある喫茶店を利用しています。そ
う、みなさんもご存知の」

わざと一呼吸置き、それから続けた。

「喫茶リゾナント」

場の空気が、変わった。
これだから、勿体ぶった前置きはやめられない。

974名無し募集中。。。:2012/11/10(土) 21:24:40
>>969-973
引き続きの代理投稿依頼、申し訳ありません。
とりあえず前編上げました。後編は日をおいて上げます。
宜しくお願い致します。

975名無しリゾナント:2012/11/11(日) 02:48:53
いってくる

976名無しリゾナント:2012/11/11(日) 02:53:29
いってきました
これは新旧対決になるのかそれとも裏があるのか…期待

977名無し募集中。。。:2012/11/11(日) 21:21:24
>>976
ありがとうございました。
では、続きます。

978名無し募集中。。。:2012/11/11(日) 21:24:52
>>182-186 続きです。

「おいおい、そこでその名前が出てくるかよ」

嫌なものを思い出したかのような表情を浮かべ、「鋼脚」が頭を振る。
このメンバーの中で間接的とは言え、一番深くあの喫茶店に関わったのは間違いなく彼女だ。自らの手駒
を送り込み、そして裏切られた。私のある発明が成功してしまったのが裏切りの原因なのだけれど、結果
喫茶店の連中― リゾナンター ―の戦力の多くを削り取る事に成功したのだから、責められる咎はない。

そこへそれまで沈黙していた、いかめしい造形の顔が口を開いた。
いよいよ重鎮のお出ましか。

「ちょっと。聞きたいんだけれど」
「何でしょう?」
「私が受け取った報告書だと、リゾナンターは覚醒した『銀翼の天使』の襲撃が原因で壊滅状態に追い込ま
れた、ってなってるけれど」

まるで綺麗なハンカチの下にナイフを隠し持っているかのような物言いだ。
彼女の名前は「永遠殺し」。組織の首領や先に名の挙がった「銀翼の天使」、「詐術師」たちと今の組織の
前身を作り上げた古参幹部。

「確かに。リゾナンターは1人の再起不能者を出し、残った人間も負傷などの理由で喫茶店を去り、最終的
には道重さゆみと田中れいなの2人だけになりました。その時点で取るに足りない存在として組織のブラッ
クリストから消去した。という報告だったかと思います」
「じゃあ、何故その喫茶店の名前が出てくるの?」
「簡単です。道重さゆみと田中れいなは、再び我々の脅威となりうる戦力を揃えつつあるからです」

979名無し募集中。。。:2012/11/11(日) 21:28:09
幹部たちが、ざわつく。
さもありなん、潰したはずの組織が復活していて、それが組織を揺るがす存在になろうかとしていると
いう話をしているのだ。「詐術師」や「黒の粛清」が感情任せに不快な音を発しているのが遠くで聞こ
える。

とりあえず、口以外の器官に神経を集中させるか。
私は、部屋を設計する時に秘密裏に仕込んでおいた巨大モニターを出現させた。

様々な理由を抱えながら、喫茶店に集うことになった8人の少女たち。
彼女たちの写真を皮切りに、特殊能力の詳細、我々が失敗した計画における実戦データを数値化したも
のを次々とモニターに映し出す。

「能力複写(リプロデュスエディション)、精神妨害(マインドジャミング)、千里眼(クレヤボンス)
……どれもありきたりじゃない?似たようなの、うちにもいるし。つまんなくて欠伸が出そうなんです
けど」

「氷の魔女」が、そんなことを言いながらいつの間にか手にしていたボックスティッシュで鼻をかむ。
隣で迷惑そうにしている、私がよく知っているぼんやりとした顔の女性の手配だろう。幹部でも末席の
彼女には、未だに二つ名がなかった。

「……これだけでは、あなたがこの子たちを脅威視する理由が見えてこないわ」

「永遠殺し」がそう言うのも無理はない。
私だって、何もこんなもので一癖も二癖もある面々を黙らせる事ができるなんて、毛ほども思ってはい
ない。お楽しみは、これからだ。

「そうですね。確かに個々の能力では取るに足りない子たちです。経験も浅い。けど、次のデータを見
ても、そう言い切れるでしょうか?」

ある一つのデータを、モニターに映し出す。
それは、驚愕の結果となって彼女たちの目に焼きついたはずだ。

980名無し募集中。。。:2012/11/11(日) 21:29:55
しん、と静まり返る部屋。
誰も、一言も話さない。水を打ったような静けさとは、こういうことを言うのだろう。人間、実際に体
験しないとわからないことが多い。それはもちろん、全ての研究者と呼ばれる人種の思想の礎でもある。
完璧な静寂の支配する世界。
ただ、どこの世界にも沈黙に耐え切れない輩はいる。

「こ、こんなのデタラメだって。何をどうしたらこんな数値が出るんだよ」

案の定、「詐術師」が頭の先から甲高い声を上げた。
今度、彼女の声を1オクターブ下げる薬の研究に着手しよう。そう心に決めた。

「で、ですよねえ。あんた、もう一度計算し直して来なさいよ!」

「黒の粛清」が賛同の声を上げる。
彼女の場合は声の高さはもちろんのこと、音程もずれている。新薬の研究が忙しくなりそうだ。

周りの顔を見回すと、程度の差こそあれ、ほとんどが懐疑の色を隠していない。
そう、彼女たちは重要なことを忘れているのだ。

「これは彼女たちがある特殊能力を発動した際の状況から、はじき出した数値です。例えば、例の新興
宗教団体が壊滅した件。ここでは譜久村聖・生田衣梨奈・鈴木香音・鞘師里保の4人が能力発動し、組
織が差し向けた能力者を退けています。彼女たちにあって、我々にない能力。そう、『共鳴による能力
増強』です」

981名無し募集中。。。:2012/11/11(日) 21:34:19
「なるほど。小さくてもリゾナンター、そういうことやな?」

リーダーが、口を開く。
さすがはこれだけの能力者を束ねているだけのことはある。理解が早い。
互いの能力が共鳴しあった時、相乗効果によりもともとのポテンシャルを遥かに超える力を出す事ができ
る。かつて我々を苦しめた9人が「リゾナンター」と呼ばれた所以だ。
そして、導かれたように喫茶リゾナントを訪れた8人の少女たちもまた、この能力を使うことができる。
それが私の集めたデータの結論であり、彼女たちを脅威とみなす最大の理由だった。

組織のトップが納得してしまっては、他の幹部はそれを追認せざるを得ない。それでなくても、9人時代
のリゾナンターたちによる共鳴に頭を悩ませてきた連中だ。と、ここまでは想定の範囲内。
私は話を進めるため、質問を投げかける。

「それで、誰が彼女たちを処理しに行きますか?」

私の一言は、流れからすれば当然の話だった。
脅威となりつつある人材が育ってきている。組織のために、不安の芽は早いうちに摘むべきだ。
じゃあ一体、誰がその任務に「適任」なのか。

「要するに、厄介な共鳴能力を使われる前に一人ずつ潰せばいいんでしょ?はいはーい、立候補しまーす」

嬉しそうに挙手するのは、「赤の粛清」。
あの日「銀翼の天使」がリゾナンターを蹂躙しているのを見て、自分も同じような事をしてみたくなった
のだろう。

982名無し募集中。。。:2012/11/11(日) 21:36:02
「ちょっと!同じ『粛清人』が出るんなら、あたしにだって権利があるはずよ!!みなさん、そう思いま
すよねえ?」

脅威になりうる標的を狩ることは、そのまま組織内の評価を上げる事になる。
言わばライバルが抜け駆けするのは我慢ならない、とばかりに「黒の粛清」も立ち上がった。

「二人とも引っ込んでろよ。喫茶リゾナントの一件はもともとあたしが持ってたんだ。ここはあたしがけ
じめを、つける」

割って入ったのが、「鋼脚」。それもそうだ。彼女には、子飼いのスパイをリゾナンターに奪われたばか
りか、「銀翼の天使」による介入で怒りの矛先すら向ける先がなくなってしまった。ここで雪辱を晴らし
たい、というのは当たり前の考え方だ。

「あたし的には別に誰でもいいんだけど。て言うかまた『銀翼の天使』にやらせりゃいいじゃん」

事も無げに、「氷の魔女」が言う。
確かに面倒な事を嫌う彼女らしいものの考え方だ。
しかしここは私が口を挟まなければならないだろう。

「残念ながら、今『銀翼の天使』を実戦投入するわけにいきません」
「は?何で?」
「薬の副作用です。あれは人の押し殺してきた欲望を開放するとともに、精神を激しく病んでしまう。今
の状態で野に解き放ったら、殺戮マシーンと化すでしょうね」

言いながら、空白の1席に目を向ける。ここに、彼女が座る日は来るのだろうか。

983名無し募集中。。。:2012/11/11(日) 21:39:22
>>978-982
以上です。お手数ですが、代理投稿をお願いします。
思いのほか長くなってしまいました。次回更新でとりあえず終わるよう頑張ります。

984名無しリゾナント:2012/11/12(月) 16:15:06
遅くなったけど行ってきます

985名無しリゾナント:2012/11/12(月) 16:21:25
行ってきました
次でとりあえず終わる、ということは壮大な物語の序章で終わる…のかな?
続き待ってますよー

986名無し募集中。。。:2012/11/24(土) 10:48:50
>>985 ありがとうございました。
更新期間は開いてしまいましたが、続きを投下します。

987名無し募集中。。。:2012/11/24(土) 10:52:13
>>982からの続きです

「じゃ、じゃあ……あの二人にやらせるってのは、どうですかね?ほら、双子じゃないのに双子みたいな彼女
たちに」

恐る恐る意見を述べたのは、「氷の魔女」のティッシュ係だ。いや、ちゃんとした名前はあるんだけれど。下っ
端の身でありながら意見を述べるのは大いに結構、けど緊張しすぎて顎が猪木になっている。
と言うより。

その話題に触れてはいけない。

「……あんた、今何て言った?」
「は、は、はひっ!?」

ティッシュ係を激しく詰問するは、「黒の粛清」。
あの人も、手ひどくあの二人にやられたタチだ。

「えと、あの、あの二人なら……問答無用でリゾナンターを抹殺してくれるんじゃないかなあ、って思って。あは
は」

もちろん、他の幹部連中もみな、苦い顔をしている。
我々の組織 ―ダークネス― 、しかも幹部同士で殺し合いなんて、前代未聞だったから。
詰め寄られてあたふたしているあの子に教えておくべきだった。あなたはその前代未聞の事件で席がひとつ空
いたから、幹部に昇進できたんですよと。

「なあ。お前は目の前の家が火事になってるからって、その火を消すために家に爆弾を投下するか?お前が言
ってるのは、それと同じ意味なんだよっ!!」
「そそそそそんなぁ!」

今度は「鋼脚」が「氷の魔女」のパシリに詰め寄る。
右から左から忙しいことだ。
まあ仕方ない。かつての友を救うため、私はひと肌脱いであげることにした。

988名無し募集中。。。:2012/11/24(土) 10:54:06
「……彼女たちを開放する事は、ある意味『銀翼の天使』を差し向けるよりも怖ろしいことかもしれません。
悪意の方向性がはっきりしてる分だけね。ただ、いざとなったら彼女たちの戦線復帰も考えたほうがいいんじ
ゃないでしょうか。例えば、我々の人数が半分程度に減った時とか」

一斉に複数の目線が私に突き刺さる。
実にわかりやすい人たちだ。
もちろん、対案もなしに戯言を述べるほど私も物好きではない。

「……ときに『詐術師』さん。そろそろ、あなたにお貸ししているものを返していただきたいんですけど」
「へ?な、なんだっけ?」

白々しい返事を無視して、私は話を続ける。

「あなたが拾ってきた身寄りのない子供たちのことですよ」
「ちっ。『キッズ』のことかよ」
「ええ。臨床試験とか言いつつあなたが私用に使っている、私の技術の結晶たちのことです」

苦虫を噛み潰したような表情になる「詐術師」。
まったく、盗人猛々しいとはこのことを言うんですね。やはり実地で体験することは貴重だ。

「ああ、思い出したわ。確か『詐術師』んとこの私兵みたいになってる、パチモン能力者たちのことだろ?あ
いつらを、何かに使うわけ?」
「パチモンとは心外ですね、『氷の魔女』さん。人工的に能力を付与したとは言え、彼女たちの能力はお墨付
きですよ。『詐術師』さんに丁寧に臨床試験を繰り返していただいたおかげでね」

989名無し募集中。。。:2012/11/24(土) 10:55:41
話が纏りかけてきたところへ、先の3人、つまり「黒の粛清」「赤の粛清」「鋼脚」が揃って待ったをかける。
それぞれが席を立ち、私の元へ詰め寄る。
まあ、そうなりますよね。これじゃ私が横から獲物を掻っ攫ったような形だ。

「勝手に話を決めないでよ!」
「あたしはそういうやり方、好きじゃないなあ」
「お前、途中から出てきてしれっと横取りしてんなよ」

これもまた、予想通りの反応。
だから彼女たちを論破するのは、容易い。

「先ほど、説明したはずですよ。新生リゾナンターもまた、共鳴することで実力以上の力を発揮すると。あなた
たちが彼女たちを瞬殺してくれればいい。けど、下手に追い詰めると」

言いながら、懐から音叉を取り出す。
論より証拠、というやつだ。

音叉の片方の金属板を、弱く叩く。
金属板同士の共鳴によって、微かな音が鳴る。
次は、強く。
さっきよりより強く、確かな音が鳴り響いた。

「外部の力が大きければ大きいほど、共鳴効果は向上します。あなたたちのおかげで、彼女たちが覚醒するよう
なことがあれば……責任問題ですよね?」

下手な理論を滔々と垂れ流すより、よほど効果的だ。
さっきまで勢い凄んでいたお三方も、渋々自らの席へと戻っていった。

990名無し募集中。。。:2012/11/24(土) 11:01:41
「と、言うわけです。どうでしょう」
「まあ、ええやろ。そのガキンチョどもを、ぶつけてみよか。必要最低限の力で最大の効率を得る。あんたらし
くない選択肢やけどな」
「本来科学者とはそうあるべきです。私が、異端なだけでね」

ダークネスの主は、お手並み拝見とばかりに私に今回の件を委任する。今のやりとりは、そういう意味だ。

組織の方針は決まった。これにて会合はお開き。
そう感じたのだろう。「氷の魔女」が、何やら隣の哀れな新米幹部に命じている。次の瞬間、「氷の魔女」の姿
が煙のように掻き消えた。続いて、「黒の粛清」「赤の粛清」「鋼脚」「詐術師」「永遠殺し」も消えてゆく。
どうやら、瞬間移動(テレポーテーション)の能力を便利に使われているようだ。私としては気の遠くなるよう
な長さの廊下を、幹部の方々にも堪能していただきたかったのだけれど。

「相変わらず、回りくどいことをするんだね」

私がこの場所に来てから、一言も声を発しなかった人物。
「不戦の守護者」と呼ばれる長身の女性が不満を込めた口調で、私にそう言った。
もちろん廊下の長さの話じゃないことはわかっている。

「未来を見ることができるあなたにはそう感じるのかもしれませんね」
「ま、最終的にはうちらの利益になるみたいだから、別にいいけど」

不承不承、といったニュアンスを残し、彼女もまた退場する。
未来視。それが「不戦の守護者」の持つ能力だった。ともすれば、私の計画が破綻しかねない、万能の力。

ただ、彼女がその力を行使しないことはわかっている。いや、正確に言えば「できない」のだけど。
未来視という途方も無い力を使うには、人間の精神はあまりに脆い。そのセーフティーとなるのが自らに賭す制
約だ。「不戦の守護者」は組織に仇なす未来でなければ見ることができないように、制約をかけていると聞く。
だから、私の計画は揺るがない。なぜならそれが、「組織にとって有用な」計画だから。

991名無し募集中。。。:2012/11/24(土) 11:05:44
「…お疲れさん。よくもまあうちの癖だらけの幹部たちと渡り合えるな。いつもながらに感心するわ」

気がつくと、我々の組織の長が側に立っていた。
思考に耽ると、どうも他への集中力がなくなっていけない。

「最終的には、我々が見る夢は同じだと信じてますから」
「…まんじゅうみたいな顔して、よう言うわ」

ダークネスの顔とも言うべき彼女が、わざと悪そうな表情をして言う。
まんじゅうは一応誉め言葉と受け取っておこう。

「なあコンノ」

改まった言い方。
自分の名前を呼ばれるのは、何年ぶりだろうか。

「私は能力者たちが大手を振って歩ける世界を創りたい。ただそれだけやねん」
「承知してます」
「みんなもそう思って、やってる。だから、少しくらいの罵詈雑言は多めに見といて」
「…肝に銘じておきますよ」

それだけ言うと、彼女もまた他の幹部と同じように刹那の向こう側へと消えていった。
彼女と対峙する度、組織のトップの資質というものを考えさせられる。時に恐怖で部下を縛り、そして時に部下
を懐柔する。しかもあの面々に対して。私には、とても真似できない芸当だと素直に思える。

ふと部屋の中に目線を移すと、残された新米幹部が私に向けてばつの悪そうな顔を浮かべている。私が肩を竦め
たのを合図にしたかのように、とぼとぼと部屋を出て行った。自分自身はテレポートできない。実に彼女らしい
能力だ。

992名無し募集中。。。:2012/11/24(土) 11:07:08



最終的に、一人取り残された私。
広すぎる空間と、13の空席が逆に心地よい。
とは言え、厳密に言えば私は一人じゃない。おそらく、「いる」。

「終わったー?」

間伸びた声が、上空から聞こえる。予想通りだ。
ただ、登場の仕方はいささか予想の斜め上だったけれども。

上空の何もない空間が、ばりばりと音を立てて割けてゆく。
まるで暖簾をくぐるかのように空間から出てきたその人は、気だるそうに背中のそれをぱたぱたさせて、ゆっく
りと地上に降りてきた。

「ずっといたんですよね。人が悪い」
「だってめんどくさいじゃん。組織じゃ一応行方不明ってことになってるし」

体に妙にフィットした露出度の高い衣服から生えている小さな翼をはためかせ、彼女はにへらと笑った。
この緊張感の無い女性が、かつてダークネス最強と謳われた能力者だと誰が気づくだろうか。

「彼女たちの様子はどうですか」
「んー、相変わらず退屈だよ。さゆみんだっけ。あの子が仲間のちっちゃい子の鞄漁ってたりとか、投げっぱの
Tシャツの匂いかいだり、そんな日常ばっかり」

それは果たして日常と言えるのだろうか。
ともかく、私が聞きたいのはそんなことではない。

「…能力の方は」
「そっちのほうね。うん。毎日すくすく成長してるよ」
「それは何より」
「でさ。いつ『潰す』の?」

途端に、彼女の瞳の色が昏さを帯びる。
おそらく、彼女たちの成長を見ながら毎日のようにうずうずしてるのだろう。

993名無し募集中。。。:2012/11/24(土) 11:10:56
「それは『キッズ』たちがやることになりました」
「えー、なんかずるいなあ」
「あなたの出番はもっとずっと後ですよ。『黒翼の悪魔』さん」
「はいはい」

まるでふて腐れたかのように、というより明らかにふて腐れてるのだろうけど、『黒翼の悪魔』は布団にでも入
り込むかのように空間の裂け目に潜り込みそしていなくなった。こうなるともう、どんな能力者からも彼女の存
在は感知できなくなる。行方不明扱いなのは、こういうところに起因していた。

彼女は私の切り札の一つ。
いかなる状況に追い込まれたとしても、彼女の存在が全てをひっくり返してくれる。「銀翼の天使」と対をなす
ダークネス最強の能力者、それが「黒翼の悪魔」の力を保障する最適な表現だった。
しかしながら皮肉なものだ。今や天使のほうが悪魔に堕し、悪魔が天使のようにふらふらと漂っている。とは言
え、もともと天使と悪魔など人間が超越者の定義づけるための二面性でしかない。

何ごとにも囚われない彼女は、ともすれば切り札として扱うには危険なのかもしれない。
それでも。定められた秩序よりも、先の見えない混沌のほうが私はいい。

懐から、携帯を取り出す。
遠く離れた相手と会話をする陳腐な道具だけれど、脳裏を探る事無く見たい画像を見ることができる点において
は素晴らしい。

画面に映るのは、水槽のような培養ポットの中でひざを抱えて浮かんでいる、一人の少女。
彼女は、いわば私の計画そのもの。
瞳を閉じたままのその表情は、何かの夢を見ているようにも見える。

彼女の見る夢はきっと、私と同じ夢だ。
その夢が花開く日は、そう遠くはない。

994名無し募集中。。。:2012/11/24(土) 11:12:46
>>987-993
以上にて終了です。
お手数ですが、代理投稿をお願いします。

995名無しリゾナント:2012/11/24(土) 11:35:26
行ってきます

996名無しリゾナント:2012/11/24(土) 11:48:58
行ってきました
投下の都合上何箇所か改行させてもらいました

会議の終了で話が終わるかと思ってたら続きそうなので楽しみです

997名無しリゾナント:2012/11/24(土) 11:57:45
もういっぱいになったので次スレを立てときました
次からはそちらの方に

【アク禁】スレに作品を上げられない人の依頼スレ【巻き添え】part3 http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/music/22534/1353725751/

998Cheap Snapback Hats:2014/06/26(木) 18:19:18
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