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【アク禁】スレに作品を上げられない人の依頼スレ【巻き添え】part2

1名無しリゾナント:2011/01/18(火) 17:04:23
アク禁食らって作品を上げられない人のためのスレ第2弾です。

ここに作品を上げる → このスレの中で本スレに代理投稿する人が立候補する
って感じでお願いします。

(例)
>>1-3に作品を投稿
>>4で作者が代理投稿の依頼
>>5で代理投稿者が立候補
>>6で代理投稿完了通知

立候補者が重複したら適宜調整してください。ではよろしこ。

403名無しリゾナント:2012/01/22(日) 22:17:10
衣服を裂き皮膚を撫で肉を断つ感触。
血飛沫が舞い骨の軋む音。
それらの微細な感覚が鋼線を通じて里沙の指先に伝わってくる。

はずだった。

「え…?」

里沙は己の右手と眼を疑った。
手応えが、ない。
振り下ろした鋼線の先は無。
そこには空気以外の何物も存在しておらず、得物が獲物を捉えることはなかった。

一瞬、負った深手が視覚にまで影響を及ぼしたのかと思った。
だが違う。目に異常が生じたわけでも狙いを誤ったわけでもない。
そこに標的は“いなかった”のだ。
倒れ動けなくなっていたはずの亀井絵里。彼女はその場から忽然と姿を消した。

「やられた……」

頭をくしゃりと一掻き。里沙はこの大広間を見渡した。
ひびの入った壁。原型を留めない調度品。大量に散らばるなんらかの破片。
戦いの激しさを物語るには充分な光景だが、先程と比べて足りないものが一つある。
この現状を生んだのはそれだ。

武器を手にした里沙の前から人一人消える。否。消せる。
そんな芸当ができるのはこの場においてたった一人しか思い当たらなかった。

「…愛ちゃん……!」

高橋愛も姿を消していた。
恐らくはその力で亀井絵里を連れて。

404名無しリゾナント:2012/01/22(日) 22:17:45

がくり、膝が折れた。
脱力か安堵か、あるいは出血多量のせいか。
なんにせよ里沙は膝をつく。
張りつめていたものが解けていくような心地がした。

「なんで…そんな、勝手な……」

一度解けた感情は止まらない。
浮かんだ数多の「なぜ」と涙が堰を切ったように溢れ出す。

この十年という間を里沙は愛と共に生きてきた。
だから本当は、「なぜ」なんて思う必要はなかったのかもしれない。
愛の考えが里沙には手に取るようにわかった。
人には優しく甘過ぎて…だけど決して己には妥協を許さない彼女の心理。

愛は独りで幕を引きに行った。
里沙にその手を下させないために。
さらには仲間意識と職務意識の狭間で揺れ動く自分自身に引導を渡すために。

勝手過ぎる。
しかしそれが高橋愛という人間だった。

そしてこれが、新垣里沙という人間の姿。
誰より近くにいながら彼女のすることを止められない。
手を伸ばせばすぐなのに、手を伸ばしても届かない。
僅かながらも決定的な二人の実力差。この差がいつも里沙に悔しくもどかしい思いをさせる。
そんなにたくさん背負わせたくないのに。

405名無しリゾナント:2012/01/22(日) 22:18:17
「…っく……っ…」

恐らく愛は誰にも邪魔されない場所を選んだはずだ。里沙にはもう手が出せない。
その事実がまた悔しくて、もどかしくて。
ひどく視界が歪む。零れ落ちる。大粒。
滲み歪んだ里沙の世界にあって、確かな輪郭を保っているのは今や記憶だけだった。

「かめぇ…っ!…みんな……!」

亀井絵里。
ジュンジュン。
リンリン。
そして久住小春。

彼女たちの笑顔が、言葉が、思い出が。
浮かんでは消え、浮かんでは消えていく。
まるで走馬灯のように。

「……大好きだったよ、守りたかったよ。……でも………………守れなかったね…」

悲痛と無念に染められる魂の叫び。
この広い空間に一人取り残され、咎める者も責める者もいないのに、里沙は声を抑えて秘かに泣いた。

406名無しリゾナント:2012/01/22(日) 22:18:53

―――――――――――――――――――


突然の風切り音がジュンジュンの体を貫いた。
いや突き刺さった。
予期せぬ背後からの一閃に防御も儘ならず、ジュンジュンはその場に崩れ落ちる。

「……あ?」

何が起きたかもわからず呆然としている。
場違いにも、さゆみはジュンジュンのその顔を可愛いと思った。

考えてみれば、彼女に面と向かって「可愛い」と言ったことは一度もなかった。
先輩としてか日本人としてか、はたまた自分の容姿にある程度の自信を持つ年頃の女性としてか。
妙なプライドが邪魔をして、さゆみは正直に彼女を褒めるということができなかった。
こうなる前に一度くらい言ってあげればよかったな。少し後悔をする。
今となってはもう、遅いのだけれど。


愛佳が時間を稼ごうとしているのはさゆみにもわかっていた。
それこそ先輩として、その頑張りを無駄にさせたくない。
敵二人のどちらかが隙を見せたらさゆみはいつでも向かっていくつもりでいた。
誰かに先を越されるなんて考えてもみなかった。

407名無しリゾナント:2012/01/22(日) 22:19:26
「そ、れ……見たこ…ない。田中さ……その武器、なぁに…?」

息も絶え絶えにジュンジュンが振り向いてれいなに問いかける。
れいなはうつ伏せから半身を起こした体勢のまま、まだそれを構えていた。
軽量化された小型のボウガン。
その発射口に矢はない。一発しか用意されていないそれはすでにジュンジュンの左の背中に刺さっている。

さゆみより早くれいなが動いたのだ。
れいなは自らがジュンジュンとリンリンの死角に入った機を逃さず、隠し持っていたボウガンを撃った。
勢いよく口外に飛び出した牙は迷うことなくジュンジュンの心臓付近を突き立てる。

予期せぬ速攻に驚かされたのはさゆみもだが、ジュンジュンにしてみれば思いがけないにも程があるだろう。
気を失っていると思っていたれいなに致命傷を負わされ、しかもそのれいながいつの間にか武器を持つようになっていたなんて。

「…れいなだって変わると」

武器に頼らず己の体技のみで戦うスタイルを採っていたれいな。
そんな彼女が方針転換をしたのは「リゾナンター」が五人になった頃。絵里たちが去ってからだ。
あの日かられいなはボウガンを使うようになった。
『確実に相手を仕留められる手段があったほうがいい』と。
時期はちょうどすれ違い、ジュンジュンが知らなかったのも無理はない。

れいなは徐に立ち上がった。

408名無しリゾナント:2012/01/22(日) 22:20:09
「もう甘い顔はせん。さゆと愛佳を…れいなの仲間を傷つける奴は、ただじゃおかん」

言葉の迫力とは裏腹の静穏な口調。
怒りに震えているようにも感情を抑えつけているようにも見えない。
淡々と言葉が紡がれていく。

あの日から裏でどんな葛藤があったのかさゆみは知らない。
知らないが、彼女の立ち居振る舞いが大きく変化していく様をずっと傍で感じていた。


物腰が柔らかくなった。
一歩引いて全体のことを考えられるようになった。
人に話しかけることが増えた。
反抗的な態度が減った。
以前よりも物事に寛容になった。
少し、優しくなった。


失う痛みを知って今あるものを愛しんでいるのだろうと述べた人物もいた。
しかし、さゆみは。

れいなは全ての敵意を外に向けることにした。だからその分だけ内が穏やかになった。
“これ以上自分から何かを奪おうとする者は容赦しない”。彼女の背中がそう叫んでいるように思えてならなかった。

409名無しリゾナント:2012/01/22(日) 22:21:02

「…その、武器……かっ、こ…いね。これか、らも……使、うの…?」

血塗られた微笑は苦しげな息を吐く。
ジュンジュンは理解しているようだった。満足しているようだった。
己の運命を。
彼女の顔には、失せた殺気や生気の代わりに充足と寂寞の念が拡がっている。

「使っ…て、ほし…な。それがジュンジュン…こ、殺したの、ず…っと、忘、れな…よ…に」

一筋の涙が彼女の頬を伝う。
焦点の定まらない瞳が虚空を見上げた。

「忘れんよ。絶対に忘れん」
「言うだけじゃ……嫌だよぉ…!お願…っい……………」

途切れる。

項垂れる。

よろめく。

横倒れる。

ジュンジュンは動かなくなった。
もう笑うことも話すことも聞くことも歌うことも走ることも食べることも立つことも嘆くことも怒ることも泣くこともない。
彼女は逝った。
“忘れないで”。最期にその一言を残して。

410名無しリゾナント:2012/01/22(日) 22:22:18
誰もその場を動かない。動けない。
ただじっとその亡骸を見つめ、立ち尽くす。
もしかしたら、もしかしたら何事もなかったかのように起き上がるのではないかと。
待っているのかもしれない。
だが本当は皆わかっているはずだった。


賽はとうに投げられた。終わりの始まりは半ばを過ぎた。亀裂の修復は不可能だった。
やり直しのきく段階はとっくに過ぎている。
だけどそれでも。今なら。まだ。
心のどこか深い部分に燻っていた想い。

『戻ろうと思えば戻れるんじゃないのか?』

だけどやっぱり。今となっては。もう。
心の奥に忍ばせていた祈るような想いは露と消えた。
賽の目は開かれた。終わりの始まりは終わった。亀裂は完全に断裂した。
もう元には戻れない。二度と。

時計の針は“今”しか刻めない。
過去に巻き戻すことも未来に早送りすることも叶わないなら、今を生きるしかないのだ。

さゆみは決意を固めた。
目を閉じ集中し、未だ脈打つ痛覚を遮断する。
やるべきことは一つ。
全員の視線がジュンジュンの亡骸に注がれているのを確認し、さゆみはそっと床に手を這わせた。

なぜだか無性に、絵里に会いたくなった。


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