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虐待・虐殺小説スレッドPART.4
1
:
管理団
:2007/04/12(木) 23:32:19 ID:???
AA ではない活字の並ぶ 虐待・虐殺系 の 新 し い ス タ イ ル 。
━━━━─────────────────────────────────━━━━
皮を剥がされたしぃが、首筋に大きなフックを刺されて吊され、みぞおちから股間までを
切り裂かれている。裂かれた腹からは、勝手にニュルニュルと腸が飛び出て、こぼれた。
吊された中には、ベビしぃも混じっている。
「ウゥゥゥ イタ イヨ、、、 モウ シナ セテ」
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;; 「イチャ ヨ ナコ チテ マチャ リ チタ」
|ミ| |ミ| ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
-、. |ミ|、 |ミ| |ミ| :
/;l |ミ|;l |ミ| ,,、 ,.,,.,.,,.,,.,..,, ,.,,. ,,.,,,.,, |ミ|i | ̄ ̄| ̄
/:;,.;ヽ,.,|ミ| | |ミ| /;,:l ミ,,,,,(★)ミ ミ(★),,,,,ミ |ミ| :| |
,:;´ ;::; ;: ; ;|ミ|.;`,、 、ー-- 、__、、ミ|_,,//,、| <ヽ`∀´> <`∀´* >、 i|ミ| :| |
l.,;:.ー、 ;;,:..;|ミ|;:..:.,;l ヽ;.:;r :;;.,;: ;:、_:;:;ヽ;l ⊂ミ 北 ) m 北 ミmヽ |ミ|i | |
 ̄ ̄|;:.;゚-,.ilヽ|/:|ミ|,; :; ;|  ̄ ̄`l>:;,. ;:( ゚,0.`o ;l: ̄ ̄| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ̄ ̄ ̄ i |ミ| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ヽっ ;i|;/lヽ|ミ|;;:; ;/ |;,.: ;(´ ̄`)" ゚。;:l | 労働党 万歳 | . |ミ|, ー--、
>;:;: :;,. ;(O);:く ヽ;;.:` - ´:;: ;: ;;/ | ____ | . |ミ| ;: ;: ;:、´
/:: :; :,. ;:;l|iノ,.:;:.;;ヽ /;":;:);)(;:(;(;:;`;:, | || ★ || | i |ミ|:;: .:.,ー--、
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::`ー、,:.;;i | __ ̄ ̄__ | ,(O) ;;: ;:;: ;;:,´
::::::::::::::::::::::::::::::::::|/::::::::::::::::::::::::: \|:::::: /:;ヽi|l;;;: ;;: (゚ノ
「フォルフォルフォル、これが全自動畜産場ニカ?」 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
突如、重く冷たい鉄の扉が開き、人が二人、中へ入ってきた。毛皮のコートに、これまた
毛皮の大きな帽子。その帽子に付けられた、大きな赤い星は、彼等が共産国家の兵士で
ある事を、何よりも雄弁に語っていた。
「はい、そのとおりでスミダ」
先に入ってきた男――物腰の低さや、言葉遣いからして、後から入ってきた男の案内役
であろう――は、上機嫌な上官に、この工場の概要を説明し始める。
「ちびギコを使った種付けから、しぃのニクコプンでの飼育、屠殺、解体、全て奴らの手で行われまスミダ」
鳴りやまない笑い声、絶えない悲鳴と怨嗟の声、、、
ここは彼女らの故郷より西に在る、
地 上 の 楽 園 。
384
:
淡麗
:2007/09/06(木) 14:39:43 ID:???
本スレデビュー作、いきます
【マッチ売りのベビ】
①
「マッチ… マッチ カッテクダチャイヨォ… 」
「マッチハ イカガデチュカァ… ヨクモエル マッチデチュヨゥ」
アブ板シティの目抜き通りに、ベビしぃのマッチ売り姉妹がいた。
人々は家路を急ぐもの、これから繁華街へくりだすのか うほっな表情のもの
すでに一杯ひっかけたのか、顔を赤らめているもの・・・
決して人通りがまばらというわけではなかった。
しかし、ベビたちの前で足を止めるものはいない。
ライターだって100円で買えるいまどき、マッチを買うものはいない。
それにしぃが売るものだなんて誰も買いたいとは思わない。
むしろ
「往来の邪魔だ!」
と蹴飛ばされないだけ幸運でもあるのだ。
それでも夕闇はどんどん迫ってくるし、街並みを通り抜ける風も大分冷たい。
冷たい、というより「木枯らし」と表現するほうが正しいかもしれない。
季節は秋深まっているのだから。
「アニャァ… ダレモ カッテクレナイネ…」
「チィ、モウ ヤデチュヨゥ! ハヤク カエリタイデチュヨゥ!」
とうとう耐えかねて、ベビの一匹がぐずりだした。
もう一匹のベビも、ぐっと涙をこらえてそっと寄り添う。
「ミィモ カエリタイデチュ… オナカ チュキマチタ…」
「オテテモ アンヨモ チュメタイ デチュ… コンナノ マターリ ジャナイデチュ…」
木枯らしのなか、大分長いことマッチを売り続けていたのであろう。
ピンク色のお鼻も、淡い桜色のお耳も、今では真っ赤になっている。
マッチの入った籠を持つ小さなオテテは、すっかりかじかんでしまい、手を開くのもやっとの状態だ。
ちっちゃなアンヨもすっかり冷え切ってしまい、痛みすら感じている。
うちに帰りたい。
そう思うのだが、帰るわけには行かなかった。
「 コノママ カエッタラ ママニ チカラレマチュ…」
そう、この幼い姉妹に『マッチ売り』を命じているのは、他でもない姉妹の母なのだ。
「……マンマ、ダッコ チテクレナイ デチュネ…
アンナノ マンマジャナイ デチュ! ギャクサツチュウ ト イッショデチュ!」
「デモ マエハ トッテモ ヤサチイ ママ デチタヨォ…」
姉妹の母親は、いわゆる「アフォしぃ」だった。
姉妹が生まれた当初は、確かに可愛がり世話もしてくれた。
しかし姉妹がベビしぃになった頃、母しぃには男が出来た。
以来母しぃは、この姉妹がすっかり疎ましくなったのだ。
今まで養育費としていたお金は全て男との交際に消え、
それでも足りない分は、姉妹を使い金を稼がせている。
母しぃにとって姉妹はお荷物でしかないが、こうやって寒い街路に立たせ、大して売れもしないものを売らせ
売り上げがあれば全て取れば良いし、寒さで野たれ死ねばそれに越したことは無い。
そのくせ二人がすっかり冷え切った体でうちに帰ってきても、売り上げが無ければ激しく叱りつけた。
それでも姉妹はこんなどうしようもない母親を、未だに母として慕おうとする。
それは時々みせる昔のように優しい母の一面があったから。
だがその「優しいお母さん」は、単にその日男と愛し合い非常に気分が良いだけのことで、
姉妹のことを愛しているからではない。
たまに与える甘いお菓子も、男からの貰いもので自分の口に合わなかっただけ。
そんなことを知る由も無い姉妹は、自分たちが良い子にすれば、母の言いつけをちゃんと守れば
また昔のように優しい母でいてくれる・・・そう信じている。
完全に「虐待」の泥沼の中にいるのだった。
385
:
淡麗
:2007/09/06(木) 14:40:40 ID:???
②
「チィタン、モウスコシ ガンバルデチュ。 キット シンセツナ ヒトガ カッテクレルデチュ。」
「…ウン デモ モウ オテテモ アンヨモ チュメタイデチュ…」
ハァッとかじかんだ手に息を吹きかけ、少しでもぬくもりを得ようと試みる。
ほんの一瞬だけ暖かさを感じるが、すぐに冷たい木枯らしによって温もりは奪われてしまう。
再びかじかみ始める手を見つめ、ベビたちはより悲しみにくれる…
ふと、ミィと呼ばれているベビがかごの中のマッチを見つめ、何かを考え始めた。
自分たちが持っているのは、マッチの入った籠。
そして自分たちが今求めているのは、ぬくもり…
「ハニャッ! コノ マッチデ アタタマリナガラ ウレバ イインデチュ!
ソウスレバ マターリシナガラ マッチ ウルコト デキルデチュヨゥ!」
「ハニャァァ! スゴイデチュヨ! ミィタンハ カシコイ デチュゥ!」
本来売り物であるはずのマッチを消費してしまったら、それこそ問題なのだが
ミニマム脳なベビたちにしては十分考えて導き出された結果なのだろう。
ミィはさっそく籠からマッチ箱をひとつ取り出し、シュッとマッチをする。
シュワッと音を立ててマッチの炎は二人をやさしく照らす。
「ハニャァァ… アッタカイ…」
「ハニャーン… マターリ デチュヨゥ…」
二人はマッチの灯に手をかざし、そのぬくもりを感じていた。
しかしそれも束の間のこと。
マッチ一本の炎はたちまち風に吹き消されてしまう。
「ア アニァャ・・・」
「キエチャイ マチュタ…」
やや呆然と見つめる姉妹。
ベビたちにとってマッチの炎はもっと強く燃え続けるだろうはずのものだったのだ。
「モウイッカイ ヤルデチュ!」
「ウン! 」
いともたやすく消えてしまったマッチの残りくずを捨て、新たなマッチをする。
シュバァ…
リンの燃える香りを立てながら、再びマッチに灯がともる。
二人は小さな炎に小さなオテテをかざしてぬくもりを得る。
「ハニャ…オテテモ アッタカーイ デチュ」
「チィノ オテテモ!」
小さな炎でも、二人の冷え切った小さなオテテを暖めるには十分な炎なのかもしれない。
小さな炎を、今度は大切に大切に、消えないように注意しながら燃やして暖を取る。
しかし、ぴゅうと吹いた風が、いとも簡単に吹き消してしまった。
「ア、アァ…」
「マタ キエチャッタ… モウイッカイ ヤリマチュヨゥ!」
「デモ、ミィタチガ ツカッチャッタラ マタ ママニ チカラレマチュ」
「ウゥゥ… チィタチハ マターリ デキナイ デチュカ…」
温もりを得たい。
たったそれだけの願いも自分たちには適わないのだろうか
そんな悲しみに二人が支配されかけたときだった。
386
:
淡麗
:2007/09/06(木) 14:42:04 ID:???
③
「話は聞いたんだからな! ぐすっ」
「グスッ もう心配いらないモナ。」
勢いよく登場したのはモナーとモララーだった。
しかもなぜか、わざとらしくむせび泣いている。
「?? オニィタンタチ ダレデチュカ?」
突然現れた二人に姉妹は驚き、後ずさりする。
そりゃそうだ。
優しく微笑みながら、ではなくむせび泣き…見ようによっては「漢泣き」している
二人組みが登場したのだから。
しかし、そんな心配をよそにモララーは涙を拭きながら、姉妹に声をかける。
「さっきから君たちの事を見ていたモナよ。
こんなに寒いのに、大変だったモナね。辛かったモナね。
でも、もう心配いらないモナ!」
「あぁ!ベビちゃんたちはマッチで温まりたいんだろう?
だったら俺たちがそのマッチを買ってやるんだからな!」
「マッチ カッテ クレルンデチュカ??」
「ああ!」
「そうモナ。それにそんな小さなマッチじゃ十分温まらないモナよ。
お兄さんたちが、そのカゴのマッチを全部…じゃ厳しいから、
半分買い占めてあげるモナ!」
「ハニャ?! ハンブン カッテ クレルンデチュカ?!」
「ハニャーン! オニイタン タチ マターリノ ツカイ デチュネ! チィ ウレチイ デチュヨゥ!」
「よ〜し!そうと決まればまずは場所を移動しよう!
こんな風の通り道じゃ、すぐに消えちゃうんだからな!
裏の空き地ならば風も通らないし人目にもつかないから
安心して火をつけて温まることが出来るよ!」
「じゃあさっそく移動モナ!ベビちゃん達、おいで。ダッコで移動モナ♪」
「ハニャ! ダッコ?! ダッコ チテ クダチャイ!」
「アニャ! ミィモ! ミィモ ダッコ チテクダチャイ!!」
ダッコにすぐに反応した姉妹は、モナーの腕に飛び込んでいく。
小さなベビをひょいっとダッコするモナー。
その顔は優しさにあふれている。
「アニャァァン… マターリ デチュヨゥ…」
「オニィタンタチ ヤチャチクテ テンチチャマ デチュ…」
「はははッ 天使だなんて大げさモナ。」
「そうだよ。今幸せを感じているのは俺たちのおかげなんかじゃなくて、
今まで辛いことを我慢して耐えたベビちゃん達の頑張りがあるからだよ。」
「アニャァァ…チィタチ ガンバッタカラ マターリデキルンデチュネ!」
「ミィタン、ヨカッタネ! ウレチィネ! イッパイマターリナンダヨ!! 」
「ハニャー… ホントニ カゼガ フイテコナイデチュ」
「サムクナイネ 」
「そうだろう、ここなら風も吹き込んでこないから、ゆっくりと火に当たることが出来るよ。」
モナーとモララーが連れてきたのは、ちょうどビルの間にぽっかりと開いた空き地。
なるほど、確かにここならば吹き込む風はなく、マッチのような小さな炎で暖を取るには最適だ。
「ネェネェ、オニィタン アレッテ ナンテカイテルノ? 」
ふと、ミィが壁に書かれた文字を指差して尋ねた。
そこには、スプレーで綺麗に落書きされた文字がでかでかと書かれていた。
「 虐 殺 愛 」と。
387
:
淡麗
:2007/09/06(木) 14:43:10 ID:???
④
「あぁ、あれね。あれは『抱擁愛』って書いているんだよ(笑)。」
「そう、ホウヨウ。ダッコって言う意味だよ(笑)」
にたにたと笑いながら、全く逆の意味を伝える二人。
当然ベビたちに文字が読めるわけが無い。
「ハニャァァ! ダッコ?! チィ ダッコダイチュキ! 」
「ミィモ ダッコ ダイチュキデチュヨゥ! ヤッパリ オニィタンタチ ダッコノ テンチチャマデチュヨゥ! 」
自分たちの運命がしっかりと決まってしまったわけだが、無知というのは悲しいかな。
未だにこの二人がマターリのつかいだと信じてやまない。
文字が読めなかっただけではない。
「虐殺愛」と書かれた文字の後には、真っ白い、大きな十字架が描かれていたのだから、二人が天使と
勘違いしたのも無理はなかった。
すっかり自分たちを信用しきっているベビたちを優しく地面に置き、モララーは空き地の隅から何かを持ってきた。
それは一斗缶のようなもの。
重そうに抱える様子から、中身は液体であろうことが予想される。
「さ、さっそくベビちゃん達をあったかくしてあげなきゃな!
…そのまえに、まずはこれを…!」
というなり、手にした一斗缶のようなものからミィにバシャバシャ〜と中の水をかけた。
「ウミャァァァァ!! チュ、チュメチャイデチュヨゥ!! チャムイデチュヨゥ!! 」
すっかりずぶぬれになってしまい、一気に寒がり始めるミィ。
中の水は腐っていたのだろうか。
なにやら刺激臭もあたりに立ち込める。
「イヤァァ…ン ミィタンヲ イジメチャダメェ! 」
チィは慌ててモララーの足元に駆け寄り、ポカポカとその足を叩き始める。
もっともベビのネコパンチなんて痛くもなんとも無いので意味が無いのだが。
涙と鼻水をたらしながら必死に抵抗しようとするチィちゃんをひょいっと持ち上げ、モララーは優しい微笑を見せる。
「寒そうで可哀想かい?でも今感じるこの寒さが、ミィrちゃんをもっと、も〜〜っと暖かくして、
最高のマターリをあげることができるんだよ!」
「そうモナ!さっきも言ったモナ。
『苦しいことを我慢した人に、幸せが来る』んだよってね♪」
「ソ ソウナンデチュカ… ジャァ ミィタン ガンバッテクダチャイ! マターリノタメデチュヨゥ! 」
よく分からないが、この後に最高のマターリがある、そのことだけを理解したチィは、泣くのをやめてミィに声援を送る。
「チャ…ヂャ…ヂャム゙イ゙デヂュヨ゙ゥゥ マ゙ッヂ… マ゙ッヂグダヂャイヨゥ…」
声援を送られているミィはそれどころではない。
寒くてたまらないのだろう。ガタガタ震え続けている。
いくら寒い中で行水をさせられたにしては若干異常な寒がり方だが…
「マ゙ッヂ…マ゙ッヂ…グダヂャイ゙…」
「ははは、ミィ゙ちゃんはせっかちさんだなぁ!それじゃ、ハイ、マッチ。
一本二本じゃなくて、盛大にいっぱい使うモナ♪なんせマッチはまだまだあるモナよ。」
ずぶぬれになり、ガタガタと震えながらヨタヨタとモナーとモララーの元へ歩み寄ってくるミィ。
その様子をおかしくてたまらない、というように必死に笑うのを押し殺しながらモナーはマッチを一箱、ぽいっと放り投げる。
「マッ゙ヂ… マ゙ッヂ…」
ガタガタと震えながら、ちいさなオテテでマッチを拾い、さっそく火をつけようとする。
しかし震えているせいでマッチをうまく取り出すことは出来ないし、擦ることも出来ない。
「ウニャ… ヒヲ…マチャーリ…」
パラパラとマッチをこぼしながらやっと3本ほど掴み、何度か失敗しながらもようやくマッチをこすることに成功する。
388
:
淡麗
:2007/09/06(木) 14:44:38 ID:???
⑤
しゅばぁぁぁ……
小気味良い音を立てながら、マッチに灯がともる。
先ほどのように1本ではないので火も大きめだ。
これならさっきよりも十分温まることが出来る…
「アニャァ…」
うっとりとその火に手をかざし、マッチの炎で温もりを得て、まさしくマターリが始まった
と、言いたいトコロだが!!!
しゅぼぼっ!!!
「ハ、ハニャニャ?!!??!?!?」
突如、マッチにかざした手が炎に包まれる。
慌ててマッチを投げ捨て、火のついたてをブンブン!とふり火を消そうとするが火はあっという間に燃え広がる。
「ハ…ハニャァァァ!!」
ものの数秒で火達磨となってしまった。
「タチュケテ!! タチュケテェェ!!! チィタァァァン!!!」
「ア… ア… 」
「ダデュゲデ!! ヂィダァァァン!! ナッゴォ ナッゴォォォォ!!! 」
「ア… アニャァ…」
ミィが火達磨になって言う久様子を成す術も無く見つめるだけのチィ。
モナーとモララーを助けてほしいとばかりに見つめる。
しかし、炎に照らされている二人の顔は、焦った様子など無くニコニコとしているだけ。
「やぁ〜さすがにガソリンは引火性が早いモナ。」
「ただのガソリンじゃないからな!北極でも使用されちゃう寒冷地仕様だからな!」
二人の話からすると、どうやらミィが行水させられたのはタダの水ではなかったようだ。
寒冷地仕様のガソリン・・・
ガソリンは気化する際に熱を奪う。
それが寒冷地でもしっかり気化できるようになっている寒冷地仕様のガソリンを浴びせられたのだから、
ミィのあの異常な寒がり方は理解できる。
「オ、オナガイチマチュ! オニィタンタチ ミィタンヲ タチュケテクダチャイ! ナッコチマチュカラァァ!!」
必死にミィの救出を懇願するチィだが、当然その願いは受け入れてもらえない。
「え〜?何を言ってるモナ?せっかくミィちゃんは火に包まれて暖かくなっているのに??」
「そうだ、チィちゃんも暖まりたいんだよね?だったら一緒にダッコしたりしなよ(笑)」
そう言ってモララーは、自分の胸にひしっとしがみついているチィを引き剥がし、
燃え盛るミィのもとへぽ〜〜んと投げた。
「ギャンッ!! イチャイ… ヒィッ !!」
投げ下ろされたチィには痛みを訴え泣いている暇などなかった。
目の前に、火達磨になって焼け爛れながらもなお生きている自分の姉妹が近づいてきているから。
「ヂィダン… ダズゲデ… ダズゲゲ…」
「ヒッ… イ…イヤァァァ… コッチクルナデチュヨゥ!! 」
ずるっずるっと這いながら焼け爛れた体から炎を上げながらミィは近づいてくる。
その姿にミィの面影などなく、立派な化け物と化している。
その姿にすっかり腰を抜かしてしまったチィはうまく逃げることが出来ない。
そうこうしているうちにミィに追いつかれてしまった。
「ダズベゲ… ナ゙ッゴォァ… ヂィダン… 」
「ヤ… ヤァァヨォォウ!! ハナチテェェェ!! 」
がっしと右足を掴まれてしまったチィは、必死に抵抗する。
足をブンブン振りなんとか振りほどこうとするが、ミィの手は離れない。
「ハナセェェェ!!」
とうとうガスッガスッと自分の姉妹を足蹴にしてその手を振りほどいた。
しかし、その足にはミィの炎が引火してしまっている。
「アニャァァァ!! イヤァ!! イヤァァァ!!!」
半ばパニックになりながら、チィは必死に炎を消そうと自分の足を振り回す。
しかしどんどん炎は自分の毛を伝って燃え広がろうとしている。
このままではミィの二の舞だ。
「オミジュ! オミジュゥゥ!!! 」
この火を消すには水が必要。
何とか水はないか…というその時。
水の入った大きな缶が目には飛び込んできた。
「オミジュゥゥ… ケサナキャ… 」
一目散に駆け出し、チィは水の入った缶に飛び込む。
「あ、馬鹿!」
389
:
淡麗
:2007/09/06(木) 14:50:52 ID:???
⑥
ボォォォォォォン!!!!
チィが水缶に飛び込むのとモララーが叫ぶのが重なった瞬間
轟音とともに水缶から火柱が上がり、チィの体は炎に包まれた。
「ハギャァァァァァ?!?!」
何が起こったのかわからず火達磨になり、大暴れのチィ。
がたーんと水缶は倒れ、火達磨のちぃと炎が流れでる。
もうお分かりと思うが、チィが飛び込んだのはモララーが持ってきたガソリン缶だったのだ。
ガソリンを水と間違え飛び込んでしまうとは。
あきれながらも爆笑するモナーとモララーだが、炎にくるまれているチィの様子がミィとは違う。
げぇげぇと炎を吐き出している??
「ブャ゙ォ゙ゲェギャアァァァァァ!!!!」
二人が聞いたこともないような悲鳴を上げながら燃え続けるチィ。
急におなかが膨らみ始め、ジタバタもがいたと思うと
ボンッ!!
臓物を炎の中に撒き散らし破裂してしまったのだ。
その様はまるで花火のよう。
「うおぉぉ… ひどい有様モナ。」
「ガソリンを飲み込んだんだろう。こんなになるなんてな…」
さすがの二人も、爆発の様子に驚いているようだ。
すっかり動かなくなったベビたちを一瞥しながら、モナーがミュージカル役者よろしく手を振り上げ叫ぶ。
「ほんと、可哀想なベビちゃん達モナ!」
それを見てモララーは、ベビたちの遺品となったマッチを一つ取り上げシュッと擦ると、タバコに火をつける。
一仕事の後の一服か。
ふう〜っと紫煙を吐き出し、モナーは語りだす。
「そうでもないさ。
辛い労働から解放されて、ダッコでマターリできたんだから本望だろ。
それに、バイオリズムどおりの人生じゃないか。」
「…? あぁ、あれね。苦しみの次には幸せが来る…
裏を返せば、幸せの後には悲しみが来るってことモナね♪」
はははと笑いながら、モナーとモララーは立ち去る。
未だに燃え続けるベビたちを残して。
390
:
魔
:2007/09/09(日) 15:52:13 ID:???
>>143
〜より続き
天と地の差の裏話
『まとめ』
※
『今月○日午前○時頃、××商店街で中学生の少年一人が、何者かに殺害される事件がありました。
遺体は、額に鋭利な刃物で刺された痕があり、右腕が現場から消失していました。
警察は目撃者からの証言などを頼りに、捜査をすすめていく方針・・・』
うっすらとノイズが掛かったテレビから、そんなニュースが報道されていた。
「・・・チッ」
自分の部屋でそれを観ていた男、ギコはその事件の最初の被害者だった。
青い身体と濃い緑色をした瞳は、種族特有の雄々しさを放つ。
※
メイと名乗った被虐者に予想だにしない攻撃を喰らってから一ヶ月。
その間、暴君を司る男は、この一ヶ月で更におかしく、イカレていった。
『オブジェにしたモララーの腹の中に、メイを虐殺してぶち込む』のを目標にした時の事だ。
どんなに熱くなっても、自分を見失うことなんて全くないのがギコであり、
また、どんなに冷静でも頭のネジがはずれているような思考を持っているのも、ギコなのだ。
(いつ捕まえられるかわかんねェから、剥製にでもするか)
虐殺した後のモララーを見て、ギコはそう思ったのだ。
ここでは、あえて虐殺対象が一般AAだったというのは無視しておく。
普通ならば、『剥製にする過程の内で虐殺をする』という流れになるだろう。
だが、ギコは殆どの行動を自分の感情を優先として行っている。
メイをモララーの腹にぶち込む予定も、モララーをオブジェにした結果も、何のプランもない感情だけの行動で生まれた事。
メイの事がニュースで初めて報道された時は部屋を真っ赤にリフォームしたこともある。
逆に、その時のやり方が不覚にも自分好みの結果となり、それにハマッて他のことは考えなくなったりと極端だ。
タガが外れ、虐殺厨と化したギコは『暴力で繋がった仲間』を中心に、殺人を犯していた。
骨の髄まで恐怖に染め、メイを殺す為の実験台として扱ったつもりが、一般AAの殺害が齎す快感に、溺れていたのだ。
ニュースが違う内容に切り替わった所で、ギコは足元に目線を落とす。
そこには一人の男が手足を縛られ、さるぐつわを噛まされ横になっていた。
その目からはとめどなく涙が溢れ、身体は冷房をかけていないのに酷く震えている。
その男はタカラという名前を持ち、かつてギコと対立していた者だ。
※
タカラは他とは違っていた。
ギコと関わった奴らの中で唯一、力強くギコに反発した男。
その腕っ節も、ギコには及ばないがかなりのものだ。
逆鱗に触れるどころか、しょっちゅう殴りかかってもいた。
だから、ギコに関わったAAの中では病院送りになった回数がずば抜けている。
いつもすぐ退院してきたが、その回数が増える度にタカラの仲間は減っていった。
その理由は、タカラについていけなくなったり、ギコに引き抜かれたりと様々。
しかし、仲間が一人もいなくなっても、タカラは己の正義を信じてギコとぶつかり合った。
だが、今回は違った。
虐殺厨になったギコに捕まり、『虐殺』を宣言されたのだ。
暴力が襲ってくるのではなく、死が自分を穿つ。
タカラの心は恐怖でいっぱいになり、もはやギコの傀儡と全く変わりなくなっていた。
※
「最近は物騒だよなァ・・・虐殺厨の他にも殺人鬼がうろついててよ」
「・・・」
目線を落とし、涙目のタカラに話し掛ける。
案の定といったところか、タカラはこちらを見る事すらなかった。
唯ひたすら、糞虫のように震え、怯えていた。
391
:
魔
:2007/09/09(日) 15:52:46 ID:???
「・・・フン」
腰を上げ、机に立て掛けてあった棒に手を伸ばす。
赤錆に塗れたその棒は、どこかで拾った鉄パイプ。
虐殺に使われる一般的な道具だが、吸った血が他とは違っていた。
ゴリ、と床を鈍器が擦る音が響くと、タカラの身体がわずかに跳ねる。
水色の身体から溢れる脂汗は、見ていて不快でしかない。
「お前らしくねェな。いつも俺を違う意味で楽しませてくれたのによ」
パイプの先をタカラの身体に宛がい、何かを探すように這わせる。
頬から首、胸と腹を通って右腿に来た所で、手を止めた。
「・・・」
すう、と肺に酸素を集め、鉄パイプを振り上げる。
綺麗な曲線を描く、水色の腿が今から自分の手によって形を失う。
骨折の事を『新しい関節が出来た』なんて冗談、誰が言い始めたのか。
ギコはそんなことを考えながら鈍器を握りしめ、一気に振り下ろした。
「ぐぅぅッッ!!!」
許容しがたい鈍い音がして、タカラの上半身が大きく跳ねる。
直後、恐怖で震えていた水色の身体は、痛みに悶えるように暴れ始めた。
タカラの腿は鉄パイプに沿って陥没したかのようになり、そこだけが赤黒く染まっている。
切断、とまではいかなかったが、手応えからして骨は綺麗に砕いたようだ。
上半身が暴れる度、少し遅れて脚がぶらぶらと動くのがまた面白い。
「は。糞虫みてーな反応しやがって」
さるぐつわの奥でもごもごと喚くタカラを眺めながら、立ち上がる。
涙と涎をばらまく顔、脂汗だらけの身体、そして脚へと視線を流す。
皮や肉の潰れ具合から、もうそのまま引っ張ってもちぎれそうだ。
しかし、その赤黒い傷をまじまじと見詰めていると、何か引っ掛かるものが。
(・・・ああ、そうか)
あまり深く考えずとも、靄はあっさりと晴れた。
ギコはおもむろに陥没した腿を、鉄パイプの先端で押し潰す。
「んがぁぁぁぁ!! あああぁぁぁぁ!!」
ぐりぐりと捏ねるのに併せ、タカラが布に噛み付きながら叫ぶ。
もし歯と歯の間にあるものが舌だったら、既にかみちぎっているかもしれない。
ギコが連想したのは、『挽き肉』だった。
鈍器と砕けた骨が全てを破壊し、それに近いものと化していたのだ。
肉をいじるというのは、虐殺で必ずする行為だし、それを好きになれないと虐殺は行えない。
ギコは何度も鉄パイプを持ち上げ、狙いをずらしては押し潰し、捏ねるを繰り返す。
その都度聞こえるねばっこい音、骨がすり潰されていく音。
そしてなにより、その感触とタカラの悶絶ぶりが愉快でしょうがなかった。
「ううぁ、があああぁぁぁァ!!」
「ハハッ、きったねェ声・・・」
何回目かの押し潰しで、手に伝わる感触が緩くなってきた。
肉片もかなりの量が散乱し、血だまりが床を汚している。
どうやら完全にちぎれてしまったようで、 脚を触ってもタカラ側に反応はない。
当の本人は寝そべりながら天を仰ぎ、自分の脚がどうなったかを見たくないようだ。
というよりも、縛られて自由のきかない身体で、必死に痛みから逃げているような。
どちらでも構わないが、確実に疲弊はしているようだし、扱いやすくはなった。
粗い呼吸と激しい上下動をする腹部を舐めるように見詰め、余韻を楽しむ。
暫く堪能した後、邪魔になった脚を取り除く為、足を縛っていた紐を解く。
タカラから紐がするりと離れた途端、急にもう片方の脚がこちらに向かった。
「っ!?」
392
:
魔
:2007/09/09(日) 15:53:46 ID:???
ギコは身体を引く事で、それを間一髪で回避。
と同時に、その脚を軽快な音をたてて掴んだ。
タカラを一睨みすれば、そこには少しの怒りが混じった、絶望に染まった表情があった。
「・・・っ」
「悪ィ、やっぱりお前はお前だったな」
歯を見せるように笑い、足首を掴んだ手に力を込める。
骨が軋む不快な音がすると、タカラの身体がまた暴れ始めた。
鉄パイプを一度床に投げ、踵をわしづかみにする。
抵抗が酷くなる前に、ギコは一気にそれを捻ってあらぬ方向へと曲げた。
「ぐっ!!!」
皮と繊維と筋がちぎれていくのが、耳と手を通して全身に伝わるのがわかった。
対するタカラはそれが理解できないのかしたくないのか、顔面蒼白で目をひん剥いてそれを見ていた。
既に片脚を潰しているのに、その反応はかえって新鮮で、かつ滑稽だ。
「どうした? そんな驚いたカオしてよ」
ぐりぐりと取れかかった足を弄りながら、喉を鳴らして嘲笑う。
そして、そのままもぎ取り自身の腹に投げてみる。
水色の足は腹の上をそのまま跳ね、床に転がり落ちた。
「ふ・・・っく・・・」
と、唐突にタカラが涙を流し始めた。
それは恐怖に苛まれて、耐え兼ねた所に泣きわめくそれに近い。
先程より更に酷く、極寒の地に放り出されたかのように震える水色の身体。
タカラの精神は今、更に崩壊し始めようとしていた。
「そう泣くなよ。AAの身体ってのは元々壊れやすいモンだ」
タカラの左脚を持ち上げたまま、ギコは自分の感性で物を言う。
そして、床に倒していた鉄パイプを拾いあげ、それを水色の膝に宛がった。
「特に関節はな」
コンコン、と鉄パイプの先端で膝を叩き、逆手に振りかぶる。
後は居合の如く、一気にタカラの膝を打ち抜いた。
「っっあ!! がああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
凄まじい轟音がして、文字通りそれは爆発した。
まるで至近距離から銃火器で撃ち抜かれたかのように、肉と骨の破片が飛び散っている。
何も知らない他人が見れば、タカラはトラックに轢かれ、両足を巻き込まれた哀れなAAである。
だが、この惨たらしい傷は紛れも無く『ギコが鉄パイプでつけた』もの。
しかも拷問のように何度も打ち付けたのではなく、ほぼ一振りでその脚を粉々にしたのだ。
「はははっ! だから脆いって言ったろうが」
切断された脚、タカラの臑を投げ捨て腹を抱えて笑うギコ。
怯えては叫び、再度怯えてまた叫びと、スイッチを交互に切り替えているようなタカラが非常に愉快で堪らない。
もし対象が糞虫だったら、その切り替えの合間にダッコだのコウビだのと命乞いを挟むだろう。
だが、今目の前にいる芋虫は一般AAであるし、自分と対立をしていた者だ。
さるぐつわを噛ませていなければ、不快さを纏わり付かさせた罵倒しかその口からは出ないかもしれない。
(・・・さて、吉と出るか凶と出るか)
ギコは、タカラの暴れっぷりを眺めながら、小さな葛藤をしていた。
『被虐対象者の慟哭』が最も好きなギコは、虐殺厨になってからそれについて悩まされていた。
糞虫の罵倒ならば、耳にタコができるほど聞いたし、回避方法は腐るほどある。
しかし、見ず知らず、或いは自分に不満がある一般AAを虐殺する時には、少々問題ができていた。
もし対象が憎悪の目でこちらを見ていれば、心を折るのは非常に難しい。
心身共に感服させてからの叫びでなければ、本当の爽快感は得られない。
393
:
魔
:2007/09/09(日) 15:54:50 ID:???
タカラの慟哭を聞きたい。
だが、罵倒は絶対に耳に入れたくない。
『変態』とも『狂人』とも取れるギコの思考。
自分にしか理解できない賭けに挑むか、そのまま身体を破壊していくか。
(・・・でもなぁ、あの反応を見たらなあ)
聞かずにはいられない。
ギコの奇妙なこだわりは、もはや性癖と化していた。
妄想が膨らみ居ても立ってもいられなくなり、鉄パイプを投げ捨てる。
そして、さるぐつわに手をかけた。
「あ! っが・・・」
乱暴にそれを解いてタカラの顎を掴み、眼前に持ってくる。
今の自分の顔は、どんな風に相手に映っているだろうか。
血走った目で見詰めてくる、鼻息の荒い変態だろうか。
それとも、AAの皮を被った悪魔か何かだろうか。
「今、お前の眼に、何が映っているか言ってみな」
はち切れんばかりの気持ちを、必死で抑えながら質問をする。
それでも腕の震えは止まらず、いっそこのまま握り潰したいと思ってしまう。
早く答えが欲しい。一秒が十秒にも感じる。
焦らされるのは好きじゃない。興奮が憤怒に変わる前に、早―――。
「・・・ぃ」
と、タカラの口元がかすかに動いた。
ほぼ同時に聴覚に全神経を集中させていく。
対象の喉から湧き出る空気の振動をかき集める。
『こんなやつに、ころされたくない』
虚ろな目をしつつ、タカラは確かにそう言った。
「・・・ッハ」
最初に洩れたのは、渇いた笑いだった。
一瞬にして興奮は冷め、心臓も落ち着きを取り戻す。
すると、急に発情していた自分が馬鹿らしくなり、額に手を宛てて更に笑う。
狂気に満ちたものではなく、一泡吹かされた時に出るような笑いだ。
「はははっ」
やがて笑う事すらも馬鹿らしく思い、大きく息を吐いて芋虫を見詰め直す。
その顔は形を歪め、もはや表情は読み取れなくなっていた。
それは何故か、答えは至極簡単で、自分がタカラの顎を握り潰そうとしているからだ。
「あーあ、また、ハズレかよ」
吐き捨て、タカラの顎を掴んでいた手に力を込める。
骨が軋むより先に、ぐしゃ、と湿った音をたててそれは弾けた。
「〜〜〜!!!」
もう言葉でもない叫びなんて、聞いてもつまらない。
また暴れるスイッチが入る前に、そのモーターサイクル顔を拳で爆ぜさせた。
「・・・クソが」
死体を蹴り飛ばし、あいた空間に腰を落とす。
虐殺で散乱した肉片は部屋を汚し、ブラウン管の光を虫食いのように遮断していた。
ふう、と溜め息をつき、血と肉に塗れた右手を眺める。
「あの糞虫・・・」
指の欠けた手が、心の中の何かを駆り立てる。
宛もないのに、やるだけ無駄かもしれないのに、また身体が勝手に動く。
これで何度目の『我慢ならない』なのだろうか。
ギコは立ち上がり、血を拭って玄関に足を運ぶ。
そして今、失敗した虐殺の余韻を持って『メイを捜しに』出掛けた。
※
物語は止まらない。
歯車は噛み合わないと回らない。
ひかれあうのは必然的なものであり、それは運命なのかもしれない。
ギコの願い、念いは、もうすぐ叶おうとしていた。
394
:
魔
:2007/09/09(日) 15:55:48 ID:???
※
『今月○日午前○時頃、××商店街で中学生の少年一人が、何者かに殺害される事件がありました。
遺体は、額に鋭利な刃物で刺された痕があり、右腕が現場から消失していました。
警察は目撃者からの証言などを頼りに、捜査をすすめていく方針・・・』
同じ時間に違う場所で、同じ報道を見ていたAAが居た。
「・・・またか」
呟くように嘆き、眉を寄せて溜め息をつく男。
本人は自覚していないが、事件の犯人を最初に追った者であり、名前はウララーという。
ウララーは治安の悪いこの街で擬似警官を勤め、銃を握る事が許されている。
今回の件に関しては、やり方も含め被害が甚大なので、本部の方のみで捜査をしていた。
つまり、引き金を引くだけの警官、ウララーはこの事件に介入できないのだ。
しかし、今のウララーの興味と怒りは、そちらに向けたものではなかった。
ブラウン管の光が、その険しい表情を嫌らしく照らす。
※
フーに出会い、一ヶ月が経った。
その間、ウララーはこれ以上被害者を出さないようにと、化け物を追う事を決意。
しかし、この一ヶ月もの間、情報は全く手に入らなかった。
『片腕が黒い少年』の話は、ノイローゼになりそうな程あちこちで聞いた。
が、ウララーが追い求めている『化け物』の話は全く耳にしない。
まるで街全体が、化け物の事をまるまる隠蔽しているのかと疑心暗鬼になった程だ。
当の本人達なら知っているその理由も、至る所から蚊帳の外のウララーには難解な謎である。
真逆、夢でも見たんじゃないかと頬をつねっても、肩には傷、家には保護した被害者がいる。
まるで雲を掴むような捜索に、ウララーは頭を抱えていた。
と、後方から不意に自室の扉が開く音がした。
振り向くと、そこには扉にもたれ掛かったフーがいた。
「おはよ・・・」
まだ眠気が身体に残っているようで、声に力が入っていない。
「お早う」
そう言って、ウララーは座っているソファーを二回叩く。
フーはそれに反応すると、覚束ない足取りだが、確実にそこに向かう。
ソファーの前に来た所で後ろを向き、ウララーが手を握りそのまま倒れ込むように座った。
「まだ寝足りないんじゃないのか? 無理して起きなくてもいいんだぞ」
赤ん坊のように首がすわってないフーを見て、心配し声を掛けてみる。
「・・・ん」
と、生返事の直後、フーはウララーの肩に頭を置き、そのまま寝息をたてて寝てしまった。
可愛い奴だなと思いつつ、そのフサフサした肩に腕をまわす。
※
フーの眼は治らない、と医師に告げられた。
文字通り『目が潰れている』状態だったので、摘出だけしておいたとのこと。
病気や老衰以外での死が多いこの街で、しかも浮浪者を診てくれたのは本当に感謝している。
だが、本人に取ってそれは喜ばしい事だったのだろうか。
光の無い世界で生かされ、生き地獄を味わうことになってしまうというのに。
そんな悩みは、本人と会話を交える事で解消された。
最初は良くない意味で大人しかった性格も、恐らく本来のフーと思われる明るさが段々と前に出てきていった。
『光が無くなっても、まだ音と匂いが自分にはある』
助けた事への感謝の言葉の前に、フーはそう言った。
街から迫害されている者達なのに、力強く生きることを想い、願う。
ウララーは力無き被虐者に感動し、力を持った自分達を恥じた。
そして、慈悲の心は虐殺の世界では決して無駄ではない事を、再度確認した。
395
:
魔
:2007/09/09(日) 15:56:17 ID:???
※
茶の毛並みを覆う白い包帯を見て、ウララーはそんなことを思い出していた。
(音と匂いが自分にはある。・・・か)
実際、フーはその力強さを、言葉はおろか身体でも見せてくれた。
訓練せずとも一人で立ち、障害物を探らずとも避けて歩くことができたのだ。
それはフーが盲目ということを忘れさせ、大道芸のように魅入ってしまう程のもの。
『眼で見なくても、気で場所がわかる』といったマンガのような出来事だった。
流石に、指を使う細かい事や、箸やスプーンを使った食事はできなかった。
というより、箸やスプーンを扱った事がないと言った方が正しいか。
「・・・っと」
気がつけば、ニュースは既に別の内容に変わっていた。
政治やら外国との問題やら、この街にはあまり関係ないものだ。
どうせなら警察の怠慢っぷりを報道し、それに対する意識改革を狙ってほしい。
国のお偉方の粗を探るよりも、ずっと簡単だと思うのに。
「虐殺厨よりも、警察の方がまともじゃねーのにな」
ウララーは、テレビの中の政治家に向かって愚痴を零した。
「・・・んあ」
番組が終わり、時計の短針が新しい数字を指した所で、フーが起きた。
無い筈の目を、包帯の奥にある瞼をこすり、大きな欠伸を一つ。
一連の動作が終わってから、声を掛ける。
「目は覚めたか?」
「うん」
先程より返事はよくなり、勢いよく寝癖を掻いている。
「もう少ししたら、飯にするか」
※
『片腕が黒い少年』の捜査ができなくても、虐殺厨を裁く仕事に休みはない。
フーと共に朝食を摂った後、ハンドガンを片手に外へと出掛ける。
「さ、いくぞ」
「おー!」
勢いよく飛び出したフーを眺めながら、玄関を逆手で静かに閉めた。
気が重くなる仕事をやっていく中、フーの元気さには助けられる。
フーと一緒に外出するようになったのは、ほんの数日前のこと。
本来なら、盲目な者にとっては付き添いがいても外は危険だらけだ。
なるべく家の中に居させてやりたいのだが、本人が希望してきたことだ。
最初は心配だったが、手を繋いでのんびり歩くのが大半だし、万が一には銃がある。
今ではもう、ウララーが率先して誘うようにまでなっていた。
しかし、擬似警官と浮浪者という立ち位置の違いから、ちょっとした悩みが一つできていた。
「・・・なあ」
「何?」
「今日も、虐殺するのか?」
「あー、できれば・・・したい。かな」
先程の明るさより一転、沈黙が二人を包む。
会話は途絶え、歩数が増える度に気まずい空気が濃くなっていった。
だいぶ間をあけてから、ウララーは口を開く。
「いや、俺は割り切れるから別に構わないんだが」
「でも、遊びで殺すのはウララーは嫌なんでしょ?」
「・・・ああ。どっちが『悪』か、わからなくなるしな」
「警官だもんね。ウララーは」
※
被虐者を殺し、喰らって生きてきたフー。
反対に、被虐者を殺さず、裁いてきたウララー。
その価値観の違いから、このような衝突があった。
街のルールなのだから、ウララーの主張は間違いでもある。
しかし、フーは居候の身であり、あまり我が儘を言える立場でもない。
一緒にいる事が楽しくなってきた所で、別の場所で不自由さが新しく生まれてしまったのだ。
396
:
魔
:2007/09/09(日) 15:57:25 ID:???
※
「うーん・・・」
何かいい案はないかと、顎を摘んで考えるフー。
本気で問題を解決したいという気持ちが、ひしひしと伝わってくる。
その気持ちに応えようと、自分も自分なりに考えてみた。
そして、視界にちびギコが飛び込んできた所で、閃いた。
「・・・こういうのは、どうだ」
「え?」
「『悪さをしている被虐者を俺が捕まえ、お前が虐殺する』」
「それは・・・理に適ってるかもしれないけど、都合よくそんなのいるかなぁ」
「目の前に居たから言ったまでだ」
ここで待ってろ、とフーに告げ、握っていた手を街路樹に触れさせる。
そして、足早にちびギコの所に向かった。
彼等から見て天敵である自分達は、昼夜問わず至る所にいる。
だから、普通は身を守る為に物陰に隠れて生きていた。
しかしながら今、目の前にはちびギコが我が物顔でゴミ漁りをしている。
独り言を交ぜてのそれは、どんなに思いやりのあるAAでも『馬鹿』と称してしまいそうな程だ。
「何やってる」
ウララーは近付き、重く刺のある声で質問をする。
するとちびギコは渋々と振り向き、見下した表情でこう返してきた。
「何って、ゴハンを探してるデチ」
「だからって、道路にまで散らかさなくてもいいだろうが」
「そんなの知るかデチ。第一、このチビタンにゴハンをくれないヤツが悪いんデ
チ」
「・・・」
さっそく極論、いや、屁理屈で返してきた。
被虐側が怯えて生きるこの街でこんな切り返しをするなんて、珍しいにも程がある。
恐らく、隣の街か山から降りてきた、比較的運の良い生き方をしてきたのだろう。
「それに、見てたんならなんか恵んでくれるのがお前らの・・・ヒャッ!?」
自分本位な演説が始まる前に、ホルスターから音をたてて銃を抜いてみた。
ちびギコは一瞬青ざめ、驚きの声をあげるもすぐに立ち直る。
「な、なんデチか? そんなオモチャでチビタンを脅すつもりデチか?」
「ハズレだ」
ちびギコが構えるより先に、後方にまわり込む。
そして、首筋より少し上に狙いを定め、グリップの底部で軽く殴る。
「ヒギャッ!?・・・」
と、出来の悪いドラマのようにちびギコはあっさりと気を失い、その場に倒れる。
念のため頬を二、三度叩き、意識が途切れたのを確認した。
ふと、辺りに散乱したゴミを見る。
(・・・やっぱり、片付けないと駄目だろうな)
ウララーは溜め息を零し、フーを呼んでちびギコを持たせた。
そして、ゴミ捨て場にあった箒とちり取りを使ってゴミを集める。
通り掛かったAAに『偉いねぇ』と言われたが、気にしないようにした。
※
「あぁー、なんだかワクワクしてきた!」
集め終えた時には、フーの鼻息はかなり荒くなっていた。
執拗に撫でて部位を確認し、手の中でぐるぐると回したり、逆さ吊りにもしている。
そこまでされても、まだ伸びたままのちびギコには驚かされる。
(俺、そんなに強く殴ったかなあ・・・)
そんなことを考えていたら、フーは我慢できない、といった表情でこちらに顔を
向けていた。
鼻の穴がぷくりと膨らみ、既に興奮しているのがはっきりとわかり、つい苦笑し
てしまった。
「ここじゃ目立つから、近場の公園でな」
「うん!」
やはり、裁くだの虐殺だのと悩むより、フーの笑顔を眺めるのが一番良い。
元気よく返事をしたフーを見て、ウララーはそう思った。
397
:
魔
:2007/09/09(日) 15:58:00 ID:???
※
それほど時間をかけずに、公園に来た。
虫の鳴く声しか聞こえないところから、他のAAは居ないようだ。
「もしもの事があっても、俺がいるからな」
「ありがと!」
フーはもう、ちびギコを虐殺することしか頭にない。
ウララーには、威勢の良い生返事だけをしておいた。
先ずは覚醒させる為と、開始の合図としてちびギコの耳をもいだ。
「ヒギャアアアァァァ!!?」
皮と肉が裂ける音に重なり、ちびギコの悲鳴が辺りに響く。
手の中でちぎった耳を握ってみると、少しのぬめり気と弾力があった。
久しぶりの感触と音、そして被虐者特有の獣臭さはやはり心地よい。
「チ、チビタンの耳がぁ!? お、お前何するんデチ!!」
意識が戻ったと思えば、もう喚き散らし始めた。
フーはその声と、支えている左腕に掛かる動きから、ちびギコのかたちを妄想する。
が、それなりに暴れてくるので、しっかりとイメージできない。
「おっと・・・もう! 動くなってば!」
イメージするのが面倒になり、そのまま地面に押し付け、同時にしゃがむ。
持っていた耳は投げ捨て、手探りでちびギコの暴れている部分を探す。
と、手に何かがぶつかったので、反射的にそれを掴んでもぎ取ってみる。
「ギャアアアァァァぁぁ!! ぁ、足がああぁぁぁ!!」
どこをもいだのかは、本人が丁寧に教えてくれた。
掴んだ時の手応えからして、足だと予想はしていたが。
しかし、それでもなお暴れ続けるちびギコ。
先程の耳もぎで得た恍惚感も失せ、欝陶しく思える。
「あんまり煩いと、もう片方の足もなくなるよ?」
苛立ちを乗せ、面倒ながら釘を刺してみる。
すると、ちびギコの身体がびくんと跳ねた手応えの後、小刻みに震え出した。
「ひ、酷いデチ・・・ぇぐ・・・」
涙声にもなり、やっと自分の立場を理解したようだ。
恐らく、その小ぶりな顔は涙でくしゃくしゃになっている。
見る事はできなくても、今までの虐殺の記憶と重ねてイメージすれば十分だ。
「道端で悪さをしていたヤツに言われなくないなあ」
「だっ、だって・・・お前らがチビタンに、ゴハン、くれない・・・」
「でも、ゴミ捨て場で探すのは間違いだよ?」
「じゃ・・・じゃあ、どこにあるんデチ・・・」
怯えの中に、自分の言葉に対する興味の色が見えた。
取り敢えず笑顔を見せ、心では『してやったり』と笑い、こう答えた。
「目の前にあるじゃん。ほら」
先程もいだ足を、ちびギコの眼前に持っていく。
「・・・ぉ、お前は鬼、デチか? それ、それとも、悪、悪魔デチか?」
と、ちびギコの涙声に拍車が掛かり、手に伝わる震えが酷くなる。
どうやらかなりの精神的ダメージを喰らったようで、ほんのちょっぴり罪悪感を覚えた。
だが、事実は事実である。
「大真面目だよ。俺もコレ食べて生きてきたもん」
「ふ、ふざけるなデチ・・・この、虐殺厨がぁ・・・」
お決まりの『虐殺厨』発言にも、力が全く入っていない。
まだ始めて少ししか経っておらず、しかも片耳と片足をもいだだけ。
あまりにも脆過ぎる精神に、呆れ返ってしまいそうだ。
だが、死への恐怖をしっかりと把握しているようなので、見方を変えればまだ楽しめる。
(痛め付けるより、も少しイジめてみようかな・・・)
ウララーの前でねちっこい虐殺をするのは、少し気が引けるものだ。
しかし、久しぶりに行う事ができたのだから、心から楽しまなくては意味がない
。
398
:
魔
:2007/09/09(日) 15:59:03 ID:???
「まあまあ、騙されたと思って食べてみなよ」
ちびギコを押さえ付けていた手を、小さな顎の方にまわす。
窒息しない程度に緩く掴むと、その華奢な手で力無く抵抗しているのがわかった。
「い、いやデチ・・・ヤめ、やめて・・・許して、ぇ」
ぎゃあぎゃあ喚くでもなく、虐殺に身を委ねるわけでもない。
ちょうどその間の反応は期待通りでもあり、面白くて仕方がない。
「うりゃ」
半ば強引に、もぎ取った足を顔に押し付ける。
べちゃ、と湿ったものを当てた音はしたが、手応えからして口に入ってはいない。
頬にあててしまったか、本人が口を固く閉じているかの二択だ。
「む、むぐー!! むぅぅぅ!!」
ちびギコの抵抗が酷くなる。
片方しかない足はばたばたと上下に動き、爪先が自分の身体を掠める。
これも予想していた反応だし、欝陶しさなんてものはない。
寧ろ、本気で嫌がっているという事自体が、滑稽で堪らないのだ。
(・・・できれば、そのカオも見たかったかな)
細かな表情は、流石に妄想することはできない。
脂汗をだらだらと垂らしながら、力強く目をつむっているのだろうか。
はたまた、顔面蒼白で白目を剥きかけながらの抵抗だろうか。
不意に、あの時の情景が脳裏に浮かぶ。
散乱したノーネの肉体。視界の中で揺れ動く化け物。
自分の眼が潰される直前の、光を奪った化け物の鋭い爪。
「・・・っ!」
『視覚』の事を気にしたから、あの悪夢が甦ったのかもしれないが、そんなことはどうでもいい。
掘り起こしてしまったトラウマを消そうと、顔を左右に強く振る。
しかし、絶対に癒えることのない心の傷は、その真っ暗な世界にしつこくこびりつき始めた。
なるだけ早くに気を紛らわす為、フーは持っていた足を投げ捨てる。
そして、ちびギコの二の腕をひっ掴み、それぞれの方向におもいっきり引っ張った。
「ぎゃあっっあああアアアぁぁぁぁァァ!!!」
筋のちぎれる音と被虐者の絶叫が、悪夢を洗い流していく。
両腕を奪われたちびギコは、水から上げられた魚を彷彿とさせる程暴れ狂う。
時折生暖かいものが腕に触れるが、それが何なのかは考えるまでもない。
「・・・ふう、っ」
心は落ち着きを取り戻し、肉の感触と血の生臭さを再確認する。
「どうした?」
と、気にかけてくれたのか、すぐ後ろでウララーの声がした。
ちびギコの絶叫をBGMにしていても、その独特の雰囲気でしっかりと聞こえた。
「えっ!? い、いや、なんでもないよ。ただコーフンし過ぎただけだから」
振り向き、咄嗟にごまかしてみたものの、動揺が完全に露になっている。
「そうか、それならならいいんだが・・・無理はするなよ」
「う、うん」
ウララーの冷徹さからくる鈍さに助けられた。
ざ、と砂を蹴る音がして、ウララーが離れたのを確認すると、虐殺を再開する。
「あっ、ああぁ!! あぎゃあァァ!!」
まだちびギコはのたうちまわっているようで、それらしき気配と声がする。
持ちっぱなしだった腕は、足と同じように近くに投げ捨てておく。
どうせ芋虫状態だし、逃げられる心配もないので、試しに放置プレイを行ってみた。
「ああ、うあぁ〜・・・痛い、痛いデチィィ」
絶叫も段々おさまり、痛みを言葉で訴えるようになってきた。
大分疲弊もしているようだし、遊べても後少しだけだろう。
試しにその芋虫の身体を触ってみると、ぬめりとざらつきが同時に掌に伝わってきた。
399
:
魔
:2007/09/09(日) 16:00:06 ID:???
「うへ・・・きったね」
反射的に手を引き、叩いてそれを落とす。
どうやら、両腕の付け根からの出血はかなりのもののようだ。
振り撒いた血で身体を濡らし、更に砂を泥にして付着させてしまっている。
それだけの量の血が失われてるとなると、失血死はすぐそこだ。
(・・・まあ、ある程度楽しんだし、もういいかな)
フーはお別れの意を込めて、瀕死のちびギコに話し掛けた。
「ねぇ、この街には『化け物』と『殺人鬼』が居るって、知ってた?」
「痛ぁ、ぁぅ・・・そんなの・・・知らない・・・」
言葉を返すだけの余裕は見えた。
笑みをうかべ、更に話す。
「俺はね、化け物の方に襲われて、こうなった」
顔に巻いた包帯を指差し、囁く。
「ぇ・・・? ぁ、メクラ・・・」
「ナカは空っぽだよ。だから、もう何も見えない」
「・・・へ、っ・・・ざまあ、デチ」
「そうだね。お前はオレより運がいい」
「・・・」
「化け物に襲わなくて、普通に虐殺されたから・・・」
「・・・」
暫く経っても、返事はなかった。
身体に触れると、既に冷えかかっている。
掌をずらし地面に持っていくと、生暖かい水たまりがあった。
ちびギコの頬らしき個所を撫でながら、フーは呟く。
「生まれ変わるなら、次は普通のAAになれよ」
被虐者でもなく、殺人鬼でもなく、浮浪者でもなく、化け物でもない。
血と肉を見ることのない世界に生まれ落ち、平和に生きてほしい。
※
(って、何言ってんだオレは)
我にも無く、被虐者を哀れんでしまった。
どんな奴に出会っても、必ず見下し、暴言を吐いてくる種族。
そんな奴らに心を許せば、不快感だけがその場に残るというのに。
化け物に襲われてから、価値観でも変わったのだろうか。
それとも、ウララーの正義感や慈しむ心に感化されたのか。
「・・・ま、いっか」
今回は違う意味でスッキリはしたし、新しい発見があったということにしておく。
天を仰いで、肺の中の空気を全て吐き出し、余韻に浸る。
どの位時間が経ったかはわからないが、恐らくそんなに長くはない。
十分に堪能した所で、タイミングよくウララーが声を掛けてきた。
「終わったか?」
「うん。ごめんね、我が儘聞いてくれて」
「それは別に構わない。フーが満足したのなら、それでいい」
「・・・へへ」
その言葉を聞いて少し恥ずかしく、くすぐったい気持ちになった。
でも、自分ばかりというのは、やはり良いものではない。
自由の利きづらい身体だけど、いつか恩返し位はしなければ。
「さて、後片付けをしないとな」
「え?」
「え、ってお前・・・こんな公園の真ん中に死体放置してたら、子供が泣くぞ?」
「ああ、成るほど。いっつもやりっぱなしだったから、つい」
「・・・そりゃあ、普通は業者がやるけどさ」
ずる、とちびギコの身体があった所で音がした。
多分、ウララーが処理の為に持ち上げた音だろう。
「水飲み場に案内するから、お前は手を洗ってこい」
「そんなに汚れてる?」
「ああ。ケチャップで悪戯したみてーに酷い」
「ケチャップって、何?」
「・・・」
400
:
魔
:2007/09/09(日) 16:01:23 ID:???
※
そんな二人のやり取りを、敷居の外から見ていたAAがいた。
彼、ギコにとって忌まわしい思い出のあるこの公園。
本人にとってはこれ程とない屈辱を受け、あまつさえ指までも奪われた場所。
景色として視界に入る度、吐き気はおろか復讐心まで燃え上がる。
しかし、今回はその公園に興味を示してしまう。
正確に言えば、公園で虐殺を行っていた二人のAAにだ。
顔に包帯を巻いた、失明していると思われるフサギコ。
それを見守る、腿に拳銃を装備している黒いモララー。
二人を使えば、自分が今追っている者に近付く事ができるかもしれない。
それが何故なのかは、本人にもわからなかった。
ただ単にその二人に惹かれ、直感で思い付いただけだった。
「・・・クク」
頭の中で、シナリオが一気に描かれていく。
その先にあるのは、メイを殺し、目の前の二人を殺した自分の姿。
『力』を使い、『全て』を支配した血塗れのギコがいた。
※
音もなく、黒いモララーに近付く。
獲物を狙う虎のように静かに、それでいて燃え盛る炎のように素早く。
地面の上を滑るように歩けば、目標の姿はもう目前だ。
「・・・ん?」
隠す気のなかった殺気のせいで気付かれたが、もう腕の届く範囲。
銃を構えてくる前に、顎に一発軽く当てにいく。
「っ!」
殆ど死角からの攻撃を、男はあっさりと受け止めた。
素早い反応に防御の正確さといい、何より自分の殺気に負けない凄み。
腕力も決して弱くなく、タカラのそれよりも強い。
(なかなか骨のある奴だな。いや、そうでないとな)
虐殺とは違う楽しさが芽吹き、笑みが零れた。
だが、当初の目的を忘れては意味が無いので、早く事を進めるようにした。
「・・・何しやがる」
「はじめまして。俺はギコっつーもんだ」
みし、と交わった腕が軋む。
澄んでいるようで、ドロドロに濁った目がこちらを睨んでいる。
嗚呼、こいつを利用する為に生け捕るのが勿体ない。
その力強い真っ黒な眼を、苦痛と慟哭で歪めてみたい。
嬲り殺してみたいが、そこは我慢しなければ。
「悪ィな、手荒な事しかできねーんだ。俺」
「目的は何だ」
「アンタ、擬似警官だろ?」
「・・・」
男は挨拶を交わした時の表情のまま、黙ってしまった。
イエスかノーか本人が言わなくても、腿にある銃で既に把握している。
沈黙を無視し、更に続けた。
「『片腕が黒い少年』っているだろ? ソイツ殺したいんだよ」
その言葉の直後、男の表情が険しくなる。
「・・・協力しろと言いたいのか? 脅迫混じりにか?」
軽蔑の念を込めた一言。
その手前には多少の怒りが見えたが、そんなものは関係ない。
先程の興味と今の怒りが重なり、『虐殺したい』とより強く念ってしまう。
落ち着け、と自分にそう言い聞かせたものの、軽蔑からくる怒りはおさまらない。
乱暴に腕を振りほどき、男の胸倉をひっ掴んだ。
「ッ!」
「見ろよ」
右手を男の顔の前に突き出し、話を続ける。
「俺はアイツに最初にやられたんだ。この公園でな」
「・・・っ」
男は欠けた人差し指を見て、眉をひそめる。
胸倉を掴まれた不快感からか、それとも失くなった指への哀れみか。
「憎いんだよ・・・アイツは指どころか俺のプライドまでズタズタにしやがった」
「・・・いつ、やられたんだ」
「明るみになる前だ。俺が最初の被害者なんだよ」
401
:
魔
:2007/09/09(日) 16:01:52 ID:???
自分の必死さ。そこに演技はない。
溜まりに溜まったフラストレーションを、腕でなく口で発散する。
激昂せず、ひたすら低く冷たく、重く這うように言い放つ。
だが、そこまでしても男は動かなかった。
「・・・悪いが、俺は今その『少年』は追ってない」
予想だにしない言葉が、男の口から放たれた。
虚をつかれ、今度は様々な憤怒が込み上げてくる。
「ふざけンなよ。銃持てる職のくせに何言ってやがる」
「持ててもホンモノとは違うんだよ。それに・・・」
「・・・それに何だ」
「『少年』よりも凶悪な『化け物』がこの街にいる。俺はそっちを追ってる」
「・・・」
嘘を言っているようには見えない。
だが、化け物なんて言葉はここ最近聞いたことがなかった。
謎のせいで怒りも冷めたし、男の話に耳を傾ける事にする。
「お前もどうせ信じないだろうな」
「何故、少年でなくそいつを追う?」
「顔に包帯巻いたフサギコがいる。フーっていうんだが、アイツの眼はその化け物に刔られたんだ」
「・・・」
「仲間もやられたらしく、現場は悲惨だったよ。新聞に載ってもおかしくない」
次第に男から覇気が消え、自嘲混じりに話をしていく。
曰く、しっかりと化け物を見たというのに、その日以来全く情報ば入らないのだとか。
更に詳しく聞けば、どこかで耳にした都市伝説の化け物と特徴が類似していた。
男の言うことに嘘はない。
だが、銃を握れる立場であるというのに、裏側の事件しか見ていない。
それが、納得いかなかった。
「お前、化け物だけしか見ないつもりか?」
「・・・?」
「フーとかいう奴と、同じような奴をつくりたくないから追うんだよな」
「ああ・・・」
「『片腕が黒い少年』も、その化け物と同じだろうが」
「・・・どういうことだ」
男が食いつく。
先程と一緒の、冷たい怒りを放ちながら。
「被害者の身になれよ。目の前に現れれば、どっちも同じだ」
「・・・」
「見えない所にいる化け物より、目の前の殺人鬼を追えよ」
その時だった。
胸倉を掴んでいた腕が、自分の意思に反して男から離れる。
「・・・お前の言うことも、尤もだ」
「!?」
違う、離れたのではなく、離されていた。
その手首には男の黒い手があり、凄まじい力で引きはがしていたのだ。
「だがな、俺は最初から化け物しか追う気はない」
男は豹変していた。
眼には更に淀みが加わり、目線に触れなくとも凄んでしまう。
力さえも別人のように、しかも自分をも凌駕している。
「理由はお前と一緒だ。フーとその仲間の為の復讐だよ」
譫言のように呟いているその様は、吐き気を催す程悍ましい。
(・・・なんて奴だ)
触れてはいけないモノに触れてしまった。
ギコはそう思い、心の中は恐怖で染まろうとしていた。
この男は、自分と似ているどころか、全く同じだ。
ただ、己を抑制する感情の方が遥かに大きく、厚い殻となっていただけ。
それを突き、割ってしまったということは、逆鱗に触れた事に等しい。
気が付いた時には、既に立場は逆転していた。
402
:
魔
:2007/09/09(日) 16:02:38 ID:???
身の危険を感じ、男の腕を振りほどいて一歩下がる。
が、念いの為、ここで引き下がるわけにもいかない。
「・・・っ」
こんな感覚は初めてだ。
いつもヒトの上に立っていた自分が、赤の他人に怖じ気づくなんて。
だが、今は屈辱感よりも恐怖の方がそれを勝り、身体が上手く動かない。
「・・・いや、寧ろお前の方が熱意があるな」
「?」
男が唐突に喋り始める。
「ホンモノの警察に頼めと言いたかったが・・・あいつらは無能だからな」
「・・・」
「条件だ。何か『策』があって俺に頼んだのなら、少年の事、一緒に追ってやるよ」
※
先程から一転、チャンスが舞い降りた。
男から覇気も失せ、心も落ち着きを取り戻した。
崩れかかったシナリオも再構築し、また新たに描かれていく。
「ウララー? そこに誰かいるの?」
と、トイレの方から子供の声がした。
見てみれば、目元に包帯をしたフサギコが両手を濡らしていた。
「ああ、さっき知り合った・・・そういえば、申し遅れたな」
俺はウララー、と男は向き直り、軽く頭を下げた。
フサギコもこちらに歩み寄り、フーと名乗る。
「・・・?」
ちょっと待て。
この子供は、フーは目が見えない筈だ。
それなのにこちらに迷う事なく歩き、しかも杖もなしにやってのけた。
「フー・・・って言ったな」
「ん?」
それほど大きくない声にも、しっかりと反応した。
「目、見えないのによく歩けるな」
「うん。耳と鼻がいつもより敏感になったからね」
「細かい物の、位置もわかるのか?」
「指を使う事以外なら、障害物があってもいくらか大丈夫」
「・・・」
また、あの時の感覚が甦る。
初めて二人を見た時の、妙な確信だ。
描いたシナリオに上書きが施され、より形を成していく。
「話、続けようか。『策』があって、俺に頼んだんだよな?」
「・・・ああ」
ここでヘマをすれば、メイを追う事どころか、手痛いしっぺ返しを喰らう事になる。
この街に自分以外にもこんな強い奴が居たのかと確認させられたし、勉強になった。
だが、いずれはお前達も殺す。
それまでは、大人しくしておいてやる。
「俺に、考えがあるんだ」
※
この三人が噛み合った事で、事態は更に加速する。
誰が悪で、誰が正義なのかは誰にもわからない。
『正義は勝つ』なんて言葉は、この街にはない。
―――全ては、全員が出会ってから。
続く
404
:
淡麗
:2007/09/24(月) 09:53:06 ID:???
【ペット大好き♪日記】
その1
ねぇねぇ、みんなはペットを飼っている?
私は飼っているんだよ!
真っ白くて、ふわふわで、ちっちゃなベビちゃん!
え?なんでベビを飼っているか?
そうだよね、私の周りのみんなはベビちゃんを
「キモゴミのガキ」とか「糞虫ぃ」とかひどいこというけど、ベビちゃんって可愛いんだよ?!
確かに、アフォしぃはムカつくよ?
でもね、ベビちゃんの頃からしっかり教育すれば、良しぃになるってテレビでやってたもん!
だから、私がしっかり育ててあげれば、パパもママもお兄ちゃんもビックリするよ♪
それで、みんなで仲良く暮らすのが夢なんだ♪
私がベビちゃんを拾ってきたのには訳があるの。
実はこのベビちゃん、ひっどい母親に育てられていたんだ。
うちの近くにある空き地にいたしぃの親子だったんだけど、この母親はいわゆる虐待親ってヤツね。
自分のベビにはご飯もあげないで放っておくし、あまつさえ他のギコ種と交尾ばっかり!
こんな最低な母親の元にいるなんて、不幸だよね?!
確か前にもベビちゃんが何匹かいたみたいだったけど、みんないなくなっちゃっていたし。
きっと虐待の果てに死んじゃったんだよ!
そんなかわいそうな目にあわせるわけにはいかないから、私が昨日助けに行ったんだ♪
これからベビちゃんの幸せな人生が始まるんだから、私がしっかりと育ててあげなくちゃね!
405
:
淡麗
:2007/09/24(月) 09:54:11 ID:???
②
でも困ったな…
パパもママも、きっとベビちゃんを飼うのは大反対だと思うんだ。
ママなんか
「なんで糞虫ぃがいるのよぉぉぉぉぉ!!!」
ってブチ切れて、大虐殺しちゃう。
明日から学校だから、昼の間に見つかったら大変だし…
ベビちゃんは隠れることが出来るかもしれないけど、トイレの臭いとかで見つかる可能性も高いわ。
うちのお兄ちゃんは気が利かないくせににおいに敏感だし。
ひょっとしたら、私がいなくなって寂しくて泣いちゃうかもしれない。
その泣き声で見つかってしまうかもしれないし…
しっかりしつけが出来れば、私が帰ってくるまで隠れていたりする事も出来るんだろうけど、
それが出来れば苦労しないし…
あ、そうか!
なにも最初からベビちゃんが完璧に出来るわけがないんだもん!
その間だけ、しっかり私が隠しておいてあげればいいんだ!
きゃはー!いいこと考えた〜♪
406
:
淡麗
:2007/09/24(月) 09:55:52 ID:???
③【翌日】
「ただいま〜」
「あら、おかえり。今日はずいぶん早いじゃない?」
お昼を少し過ぎたくらいで帰宅した俺を母親が迎えた。
「あぁ、今日は講義が午前で終わりなんだよ。」
「まぁ、大学生はいいわねぇ〜」
「去年まで集中して講義を取ったからね。その反動で今楽できているんだよ」
やれやれ、去年まではずいぶん帰りが遅いとか言ってたのに、今じゃコレかよ。
内心苦笑しながら2階の自室へ向かう。
突き当りが俺の部屋。向かいは妹の部屋だ。
今日は平日だから、小学生の妹はまだ学校だろう。
昼食は学食で済ませたから、夕食までなんかしていようか。
課題のレポートは7割方出来上がっているから、それの推敲でもしておくか?
そう思いながらカバンを机に置こうとしたとき、いつもの場所にあるモナテンドォDSがないのに気が付く。
…また妹の仕業か。
確か去年
「私は絶対PSPが欲しいの!」とか言っていたくせに。
まぁ、夕方にでも取りにいけばいいけど、ないと分かると暇つぶしがしたくなる。
よし、さっそく妹の部屋へDSを奪還しに行こう。
隣の妹の部屋はいつ見ても「女の子の部屋」だ。
最近は勝手に入ると怒り出す、お年頃ってヤツか。
そのくせ俺の部屋にはずかずかと入ってくるのだがな…
それと妹の部屋にはベランダに続く窓のほか、大きな出窓がある。
大きな窓が二つもあるから風通しがいいことこの上ない。
それに比べて俺の部屋は…
くそ、やはりこれは兄妹間での差別か?!
まぁ、それはさておきDSはっと…
「ん??」
そうやって部屋を物色し始めた俺の鼻腔を、妙な匂いがくすぐる。
こりゃ「妙な匂い」、というより…「臭い」だな。
俺は人より鼻が利くらしく、においに敏感だ。
ひょっとしたら普通ならば気が付かない程度の臭いなのかもしれない。
くんくん、と犬よろしく鼻に集中する。
やはりこの臭い、この部屋から出ているようだ。
こんなこぎれいな部屋には似つかわしくない臭い…
臭いの元をたどると、どうやら机の下に置かれた箱からのようだ。
木製の小箱だが、なぜかふたの上には消臭剤がくくられている。
「ム゙ゥ…」
中から妙な声もする??
俺は慎重に箱を取り出し、括られている消臭剤をはずす。
フタには複数の穴が開いており、そこからむっとする臭気が上がる。
臭いの元はここから漏れてきているようだ。
…こりゃ中に何か生き物でも入れているな?
妹は動物好きだし、以前からペットが欲しいとか言っていたが…
一体何を拾ってきて隠しているんだか。
中身を確かめるべく、フタをあける
「んげぇ?!」
407
:
淡麗
:2007/09/24(月) 09:57:02 ID:???
④
中身を見ておもわず箱を落としそうになった。
強烈な悪臭が立ち上がったからだけではない。
なんともすさまじいものが中にいたからだ!
中に入れられている生き物は手足を結ばれ、口には猿轡のように布を咥えさせられた状態だ。
しかも箱の中は、こいつが脱糞したのだろう、糞尿が溢れている。
口にはめられている布は、糞尿がしみこみ汚れきっている。
己の糞尿を口に咥えさせられている、ともいえる状態だ。
呼吸のたびに、糞尿に半分埋没した鼻腔から、ブクブク〜と気泡もあげている。
一体コイツはなんだ?!
臭気に耐えながら、よくよく姿を確認すると…
ベビしぃのようだ。
ベビは突然差し込む光に眩しそうにするが、俺の姿を確認すると
「タシュケテ…」とばかりの目で俺を見つめている。
可愛そうに(藁)、ボロボロと涙もこぼし始めたではないか!
己の糞尿にまみれ、必死にもがいている姿は、まさに
糞 虫 ぃ だ な (藁)
この糞虫ぃの状態から推測するに、妹はこのベビをこっそり飼うつもりらしい。
しかし隠しておくには難しいと考え、この箱を準備。
単に箱に入れておくだけでは、箱の中で暴れ物音でバレるだろうから動かないよう手足を拘束。
さらに鳴き声が漏れないように猿轡をかましたというところか。
空気穴を開けたけどそこから臭いがばれることも考え、消臭剤も準備したのだろう…
まぁ、小学生の割にはしっかりと準備できているけど、まさかここまでの事は考え付かなかったのだろう。
所詮は小学生、といったところか。
相変わらず「ム゙ゥー」と変なうめき声のベビを一瞥し、俺はフタを閉める。
ベビは必死にもがいて助けを請うていたが、この臭いは耐えられんよ。
そして元の場所に寸分たがわず戻す。
ふたを開けたせいで、部屋に糞虫ぃの臭気が充満してしまっているので、窓を開け換気をしてやる。
俺は気の利くお兄さんだからな。
出窓を開放し、風を入れながらふぅっと一服。
やれやれ、妹はこの先一体どうするつもりだろうか。
そのうちバレるのは明白だ。
タバコを吸い終え、ぼんやりしていると、ふと面白いことを思いついた。
小学生がベビなんぞを育てきれるのか。
家族の協力は得られるわけがない。
しかしベビは成長していく。
妹はてんてこ舞いになりながら育てようとするだろう。
だが無知な小学生が提供する環境は、ベビにとって地獄になるか天国になるかは目に見えている。
妹にとっては「一生懸命のお世話」だろうが、ベビにとっては「虐殺」そのものだ。
ベビが持つか、妹が根を上げて放棄するか…
俺は何も手出しはしない。
ただ黙って様子を観察するだけ。
今日はこんな事が起こった、明日はどうなるのか、こんな事を始めるようだがどうなるのか…
これってテレビドラマ以上に展開が気になり、目が離せないことだろう。
俺は一視聴者にしか過ぎないのだ。
もう第一話はスタートしている。
この後妹が帰宅して、糞まみれのベビを発見してどうするのか。
まさか家の風呂場で洗ったりは出来ないだろうし、糞まみれのベビの体を優しく手で洗うことも出来ないだろう。
かといって放置するわけにもいかない。
妹はどうこの問題をクリアするのか。
そしてベビに降りかかる厄災は一体……
これは面白い毎日になりそうだ!
…なんか大した虐殺もありませんでしたが、一応
【続く】デス。
408
:
魔
:2007/09/24(月) 23:36:12 ID:???
>>390
より続き
天と地の差の裏話
『まとめ』
※
血塗れのコンクリで被われた空間。
雨水が溜まった取っ手のないバケツ。
赤錆だらけで使い物にならないロッカー。
片隅には無数の白骨化した被虐者達。
取り壊しもされないまま、十数年放置されている小さなビルがあった。
その中では、被虐者がよく連れてこられ、虐殺されている。
表では出来ないやり方を試す疚しい考えの持ち主が、ここをよく利用していた。
商店街とは違う意味での、虐殺スポット。
未だにここは使われている。
しかし、最近では利用する者がどうしてか激減していた。
その理由は、皮肉にも今、その原因となる者がそこを利用していた。
赤褐色の空間に、メイは腰をおろしていた。
その尻の下には、もぞもぞと蠢くものがあった。
「ぁ・・・っ、かひ・・・」
喉を鳴らし、必死に酸素を身体に取り込もうとする茶色の達磨。
四肢の付け根から漏れる血は鮮やかで、まだ新しい傷のよう。
彼の、ちびフサの手足は、既にメイに奪われていた。
目的は勿論虐殺であり、また、食事の為でもあった。
「・・・ん」
丁寧にちびフサの脚の皮を剥ぎ、そこから覗いたピンク色の肉にかじりつく。
水道がないため、血抜きを行わないで食べたものだから生臭さが半端じゃない。
しかし、その臭いと味には当の昔に慣れているので、特に気にならなかった。
「ふぐ、ぅ・・・も、もう許して・・・ぇ」
命の燭が消えかかったちびフサに乗っかり、それを眺めながらの食事。
悦に浸る程の快感は得られないものの、愉快といえば愉快だ。
火傷と片耳を、鬼の首をとったかのように馬鹿にしていた者が、
今ではそれ以下の達磨と化し、死に物狂いで生にしがみついている。
四肢を奪い、それの痛みに絶叫し、叫び疲れた所を狙って今こうしている。
酸欠に近い状態で肺を圧迫されてしまえば、苦しみは半端じゃない。
首を絞められながら、重しを乗っけられているのと同じだ。
「頑張って生きる事を馬鹿にしたくせに、死にたくないなんて我が儘だよ」
「そんな、醜い姿で・・・生きるのが、間違ってる、デチ・・・」
まるで全力疾走した後のように、呼吸を交ぜ途切れ途切れに話すちびフサ。
涙を目尻に沢山溜めながらの罵倒に場違いの根性を感じ、呆れてしまう。
命乞いをして、生を掴む方がよっぽどマシだというのに。
尤も、そんな達磨では一人で生きてはいけないけれど。
「そうだね。醜いよね。でも、キミみたいなダルマの方がもっと醜いと思う」
毛虫みたい。と付け加え、食事を続ける。
と、その言葉の直後、ちびフサは顔を赤くして反論してきた。
「ぉ、おお前が!! こん、こんな・・・こんな姿にしたんデチ!」
変にプライドが高いせいで、屈辱感はかなりのものらしい。
苦しみ、大粒の涙を流しながらも、暴言を吐くことだけは忘れない。
息を大きく吸っては吐き、時折咳込みながらのそれは、滑稽でしかない。
「だって、毛虫なのに手足があったら変だったから」
「そっ、そんな、程度のっ!・・・理由、で・・・っ!」
怒号を飛ばそうにも、圧迫され許容量の小さくなった肺では、満足に行えない。
必死だなあと思いつつ、骨つきチキンの食べ残しみたいにになった毛虫の脚を捨てる。
そして、まだ毛皮のついている残りの四肢に手を付けた。
409
:
魔
:2007/09/24(月) 23:36:44 ID:???
「・・・むう」
毛虫の中途半端な怒りを適度にあしらいながら、全ての四肢を食べ終えたメイ。
だが、いつもこの量の倍近くは食べていたので、少々物足りない。
※
ここ最近、細かく記せばVと出会ってから数日。
メイは、まともな狩りが出来ないでいた。
街中のAA達の警戒心がより高まり、行動を制限されていたからだ。
加虐者は勿論、アフォしぃすら仕留める事が出来ない日々。
ちびギコ達では量が足りず、だからといって一日に何回も狩りは行えない。
警戒が強くなった原因は、Vのせいでも警察の呼び掛けでもない。
真の原因はメイがやってきた事の積み重ね、『時間』だった。
残酷な事件が起こって、かなりの時間が経った今、住民は嫌が応でも怯えなければならない。
そして、その怯えを取り払おうと、事件の根元を絶つべく怒る住民もいた。
加虐者が狙えないのは『怯え』からくる『警戒心』で。
アフォしぃが狩れないのは『怒り』でメイを追う住民のせいだ。
※
(別の街に行こうかな・・・でもなぁ)
程よく閑散としているこの街が、ちょうどよい。
下手に人口密度が高ければ、敵が多過ぎて袋の鼠になる確率が半端じゃないし、
逆にど田舎だったりしたら、獰猛な動物や元気な高齢者が仕掛けた罠など、新しい危険が増えてしまう。
どちらの理由もこの街から抜け出そうとして、被虐者が身体をはって見せてくれたものだ。
できの悪いコントのようだったが、紛れも無い事実であり、反面教師として十分に役にたった。
選択肢が消えた事は残念だったが、自分の命とは比べるまでもない。
「ぅ・・・ぶへっ!」
毛虫の腹を一発殴り、立ち上がる。
そして、硝子のなくなった窓の方へと歩き、外を覗いた。
鉛色の空を除けば、視界の大半を被う雑木林が目に飛び込んだ。
その端に、ぽつぽつと舗装されていない黄土色の地面。
紛れも無く、ここは自分が生き延びる事を誓った公園だ。
あまり高い場所からの眺めではなかったので、妙に大きく目に映る。
できれば、戻りたくはなかった所。
AAの目を避け、なるだけ自分への意識が薄い地域を探して来た。
その逃げ道が塞がれかかった今、全く手を付けてないここに来てしまった。
あのモララーのいる、モナーのいる、ギコのいるここに。
奴らが生きていたら、血眼で自分を追って―――
「・・・?」
思考にストップを掛ける。
『生きていたら』
何故、そんな言葉が浮かんできたのだろうか。
別に死んだ瞬間を見たわけでもないというのに。
しかし、どうしてか脳裏に映るビジョンがあった。
モナーとモララーを殺し、血塗れになったギコの姿が。
『ぐぅぅぅ』
不意に、自分の腹の中の人が不満を告げる。
まだ食べ足りないのか、その声は大きかった。
毛虫の方に向き直ると、それはまだ必死に呼吸をしていた。
大袈裟に上下動する毛むくじゃらの腹部は、針でつついたら萎んでしまいそうだ。
とりあえず近付き、いろんな角度から見詰めてみる。
すると、毛虫は余裕を取り戻したのか、こう言ってきた。
「・・・フサタンの綺麗なおケケが、そんなに羨ましいデチか?」
「・・・」
こいつは本物の馬鹿なのか。
そんな言葉が頭に浮かんだが、口にはしないでおいた。
410
:
魔
:2007/09/24(月) 23:37:59 ID:???
「違うよ。どこ食べようか迷ってるだけ」
「・・・はっ?」
こいつは何を言っているんだ。そういった顔をする毛虫。
直後には喚きだし、手足がない代わりに首を振り回す。
「ふ、ふざけるなデチ! AAを食べるなんて、馬鹿、変態じゃないデチか!?」
「・・・」
もはや反論する事すら面倒なので、片方しかない耳を畳んで塞ぐ。
そして、少しだけ考え込んでから、行動に移った。
毛虫の胸、正中線上にナイフを宛てがう。
狙いを定め、あまり力を込めずに一気に腹へと引いた。
「ヒギャッ!!」
血がいくらか吹き出たが、あまり気にはしない。
切り口を開き、どの位の深さまで入ったのかを見定める。
指を這わせ、皮を引っ張る度に血が漏れ、同時に毛虫が悶える。
(まだまだかな)
目標の、皮の奥にあるピンク色の肉は見えない。
ナイフを握り直し、次は切り込みに沿って刃を走らせる。
ある程度繰り返せば、それはうっすらと顔を出してきた。
そこで、今度は刃を傾けて皮を削いでいく。
「うあ、ぁぁぁああ!! やめろデチィィィ!!」
痛みに耐え兼ねてというよりは、毛皮を想っての叫びに聞こえた。
この状況下でも、まだ自分の身なりを心配している毛虫には、違う意味で感動させられる。
もし自分が毛虫の立場なら、おとなしく死を待つというのに。
そんな事を考えていると、いつの間にか皮を剥ぎ終わらせていた。
小汚い毛皮の扉を開くと、お目当ての肉が血を滴らせながらこちらを待っていた。
毛虫の呼吸に合わせて動くそれに、ゆっくりと刃を入れる。
「あギゃっ!!」
喚く毛虫を見る限り、今度は気持ちより痛みが勝ったようだ。
円を描くようにナイフを動かし、乱暴に切り開く。
落とし蓋のようになった腹の肉を取り除けば、見慣れた物達がすし詰めになっていた。
「・・・さて」
悩んでいたものは、そこにあった。
極太のミミズのような、小腸と大腸。
小さい被虐者を狩った後、手足だけでは足りなかった時によく世話になった。
だが、それは近くに大量の水があった時だけの話だ。
流石に排泄物を食べる程切羽詰まってはないし、そんな特殊な性癖も持っていない。
―――悩んだ末、諦める事にした。
臭い飯より、生臭い飯の方がずっといい。
「ぁ・・・ぁぅぅ」
気が付けば、毛虫の方は段々と衰弱している。
折角開腹したのだから、何か一つくらいは食べないともったいない。
とりあえず、腸のまとまりより上にあるもの、肝臓に手を出した。
摘出し、そのくすんだ色と弾力のある手触りを堪能する。
肉という枠組みの中で、一番まともな美しさを持つ肝臓にも、当たり外れはある。
一度泥酔していたAAを殺し、それを取り出した時は泣きそうになった。
今回は良い方だったので、この喜びを伝えようと持ち主の毛虫に見せる。
「君のこれ、キレイだね」
「ぇ?・・・ぇ、ぇっ? ぇっ?」
虚ろな目で己の臓を見て、じわじわと青ざめる毛虫。
震えだしたかと思えば、急にうなだれて動かなくなった。
酷く端切れの悪い虐殺で終わってしまった。
あえて死因を添えるなら、ショック死だろうか。
(これで何回目だろう・・・)
ナイフ一本では、達磨か割腹ぐらいしか虐殺のメニューがない。
それではつまらないと思い、いくつか自分なりに考えてはいるが、なかなか上手くいかない。
メイは溜め息を一つ零し、手の中にあるつるつるの肝臓にかじりついた。
411
:
魔
:2007/09/24(月) 23:38:26 ID:???
食事を済ませ、虐殺も終えた。
腹の中の人も一応満足したようでなによりだ。
「さて、と」
ヒラキになった毛虫を、白骨の山に投げ込む。
無数の乾いた音が山から響き、毛虫はその中に埋もれた。
真っ白い空間に肉塊が置かれているのは、かなり違和感があった。
が、数週間もすれば、毛虫は彼らと同じ姿になるだろう。
次に身体中についた血を落とす為、バケツの方に近付く。
覗き込むと、そこそこの量の水の上に、自分の顔が映りこんだ。
「・・・」
もう、あの時のような感情は湧かなかった。
さっきの毛虫や、他の頭の悪いちびギコ達に何度も醜いと言われたこの姿。
自分で評価するとなれば、これが『本来の姿』といった所だ。
母と一緒に居た時の、両耳両目のある自分の眼は死んでいた。
だが、一人になって生きて来た今の自分は、皮肉にも生き生きとしている。
(・・・なんで今更、こんなこと)
メイはバケツの中の自分を乱暴に掻き混ぜ、身体についた血と共に思考を拭い去る。
ついでにナイフも丁寧に洗い、何度か振って水を切った。
ふと、振り返る。
顔は後ろを向いたまま、目だけを動かして辺りを見る。
特に何もなかったが、どうしてか違和感を覚えた。
その正体は、自分の呼吸が聞こえた所で理解した。
何故か、音がなかった。
クルマの走る音も、AA達が騒ぐ声も、虫や小鳥のさえずりすら聞こえない。
まるで自分だけ、異世界に飛び込んだかのような気分だ。
注意深く、窓を覗き込む。
身を乗り出しても、一般AAや被虐者の姿はみつからない。
「・・・?」
いや、見つけた。
ちょうどビルの真下で、何かを捜すようにうろうろとしている者が。
毛並みと体格からして、レッサー種ではないフサギコだろうか。
手に持った棒でごみ箱を突いたり、段ボールを殴ったりしている。
理由はわからないが、恐らく被虐者を捜しているのだろう。
両目を被うように包帯を巻いているそのAAは、紛れも無く一人だ。
身体に障害を持ちながら、のうのうとこの辺りを散策するなんて。
久しぶりに大きな肉を食べられるチャンスがやってきた。
獣に襲われるよりも、自ら命を落とすよりも先に、自分が狩ってやる。
舞い降りた幸運を、逃すわけにはいかない。
(・・・やるしかない)
※
フサギコの後を追うため、非常階段の方へ走りそこから外に出る。
錆まみれの階段は、隣の建物の屋根の近くに配置されていた。
そこに飛び降り、なるだけ音を立てずに獲物の方へ駆けた。
息を潜め、気配を殺す。
メクラとはいえ、狩りに気を抜く事はできない。
何事も本気で行かなければ、この街で生は掴めない。
メイは自分にそう言い聞かせ、じっくりと様子を窺った。
「・・・」
この街の路地裏に、抜け道なんて殆ど存在しない。
獲物はいずれ、袋小路へと身を寄せる筈だ。
そこで足を止めたら、後は一気に飛び込んでナイフを突き立てるだけ。
いつもやってきた事だ。
失敗なんて、するはずがない。
娯楽の為に殺すのとは、覚悟が違うんだ。
412
:
魔
:2007/09/24(月) 23:39:51 ID:???
時間はそんなに掛からなかった。
獲物は袋小路に入り込み、コンクリの壁を棒でつついている。
本人からすると、目の前は壁ではなく、何かが積まれているように感じたのだろうか。
だが、片目の自分が見ても、そこは紛れも無くコンクリで阻まれている。
獲物はそれに気付くことができず、丁寧に壁を調べていた。
(・・・やるなら今だ)
十数秒経ってから、メイはそう決意した。
観察のみに留めていた思考を、狩りへと移行させていく。
獲物の頭蓋へと狙いを定め、それ一点のみを見る。
視界に獲物しか映らなくなるまで集中した時、力強く地を蹴り、跳んだ。
―――その時だった。
「みぃ〜つけたっ」
跳び掛かった瞬間、獲物は振り向いてそう言ったのだ。
それは酷く小さく、虫の鳴き声にも掻き消されそうな程だった。
獲物は壁を背にするように動き、ナイフが描く軌道から離れる。
身体は引力に逆らうことなく、そのまま落ちていく。
「ッ!」
気付かれ、そして避けられた。
まるで、こちらが跳ぶタイミングに合わせたかのようだった。
思考が狩りから逃亡へ一気に切り替わる。
だが、脚が地に着かなければ逃げる事はできない。
どすん、と鈍く低い音がして、脚に衝撃が走った。
間髪入れずその場を蹴り、獲物、いやフサギコとの距離を取る。
振り向いた瞬間、そこで自分の足は動かなくなった。
「・・・っ」
フサギコが恐ろしく見える理由は、単純なものだった。
思考が狩りから逃亡に切り替わった時、同時に立場も逆転していたのだ。
『殺人鬼と被害者』から、『被虐者と加虐者』に。
更に、目を患いながら不自由なく動くというフサギコの奇抜さ。
それが感じている恐怖に拍車をかけていた。
あの包帯の巻き方からして、絶対に見えてはいない筈なのに。
奴は今、こちらにしっかりと顔を向けている。
にっこりと笑っているフサギコは、必要以上に悍ましく見えた。
「まだ、そこにいるの?」
唐突に、フサギコが口を開いた。
棒をゆらゆらと揺らしながら、じわじわと近付いてくる。
子供だと思って、油断した。
奴は最初から、自分を誘っていた。
棒で道を探しながら、耳でこちらを捜していたのだ。
(こんな、こと・・・)
Vの時とは違う恐怖が、自分を縫い付ける。
だが、奴は自ら包帯を解かないことから、本物のメクラだ。
少しだけ、ほんの少しだけ自分を奮い立たせられれば、ここから逃げ出せる。
今まで、幾重ものAAから逃げてきたんだ。
(メクラなんかに、捕ってたまるもんか!)
棒が鼻の先に触れるより先に、メイは踵を返す。
途端、更なる恐怖がメイに襲い掛かる。
「あ、待てっ!」
フサギコが棒を投げ捨て、一直線にこちらに向かって来たのだ。
「うわあああっ!!」
堪らず、叫んでしまった。
恐怖で脚が縺れて、うまく走れない。
少しでも時間を稼ごうと、辺りにあるものをナイフで倒し、進路を塞ぐ。
「わっ!?」
倒したものが上手いことフサギコの臑に当たり、よろける。
慌てようからして、流石に不意打ちには弱いようだ。
運よく隙を作らせることができ、後は猛ダッシュで走るのみだ。
413
:
魔
:2007/09/24(月) 23:40:25 ID:???
※
逃げながら、メイは考える。
狩りが失敗した、その前の出来事を。
フサギコを見つける前の、あの奇妙な感覚は何だったのだろうか。
音が消え、導かれるように窓の外を覗いてしまったアレは。
思い返してみれば、路地裏なんて窓から落ちる勢いで見ないと、視界に入らない。
それに、奇妙な感覚に陥った時の自分も、腑に落ちない。
その時の行動を反芻してみると、今まで自分が欠かさなかった警戒心が全くない。
フサギコを一目見ただけで、脳内は狩りでいっぱいだった。
全てが、自分のミスだ。
死に関係なかったからといって、無駄な行動に出た自分が、憎い。
(・・・くそっ!)
歯噛みし、路地裏をひた走る。
何度目かの曲がり角だった。
奥の方ではコンクリの壁はなくなり、道路が見えていた。
左右には木材や粗大ごみが打ち捨てられていて、見た目より狭くなっている。
「はっ・・・はあっ・・・!」
必死になりすぎて、既に息はあがっていた。
振り向いてもフサギコの姿はなく、振り切ることができたようだ。
だが、一本道であるここで休んでいる時間はない。
肺になるだけ酸素を溜め、再び駆け出す。
いや、駆け出すつもりだった。
また足が、恐怖で固まってしまった。
「残念だったな」
道路の方から差し込む光を背に、男が立っていたのだ。
影そのもののような身体の色と、特徴的な赤い線の入った耳。
そして、その手の中にはしっかりと拳銃が握られていた。
「う・・・っ」
予想はしていたし、そうであって欲しくないと願いもした。
『フサギコは囮で、他に仲間がいる』ということ。
吐き気と眩暈が同時に襲ってくるが、必死に堪える。
酸素と冷静さが欠けているが、それでもこの状況を打破する術を考える。
男との距離、周りにあるもの、後方のフサギコ、自分の脚力、ナイフ。
と、ここで男が動いた。
ゆっくりと嫌らしく、拳銃を持ち上げていく。
咄嗟に構えるものの、男はそれを無視するように口を開いた。
「何故、お前はこんなことをしてきた」
「・・・何故、って」
男の声が思ったより緩かったせいか、つい反応してしまった。
吐き気も失せ、いつの間にか思考は会話を優先していた。
「訳もなく、お前のような子供が殺人をするはずがないだろう?」
「・・・」
「復讐か? それとも唯の虐殺厨なだけか?」
「生きる・・・為だから」
自分の一言に、男は眉を寄せる。
それは怒りではなく、哀れみを含んだもののように見えた。
「食べる為に、見境なく殺してきたのか」
「うるさい!」
怒りが込み上げてきたのはこっちだった。
今更になって、同情してくるような奴が現れるなんて。
自分を捕まえて、殺すつもりでいる癖に。
「お前らみたいに、遊びで殺してる訳じゃない!!」
「食べる為に殺していい訳でもない」
「っ!・・・」
「お前はAAを『家畜』扱いしている。そうだろう?」
言葉に詰まった。
男の言う事に、間違いはない。
414
:
魔
:2007/09/24(月) 23:41:24 ID:???
だからといって、今までやってきた事を、生きる為にしてきた事を否定されては意味がない。
こいつの言うことを認めれば、自分は死んだ事に変わりはなくなる。
自分を保ってきたものが、じわじわと失われていくような感覚。
「虐殺の概念があるとはいえ、誰彼構わず殺していい筈がない」
「・・・黙れ」
呟くが、男には届かなかった。
「お前も、結局は『虐殺厨』なんだよ」
「黙れぇぇぇぇッ!!!」
言われたくない一言を言われ、怒りが爆発した。
その場にあった空き瓶を引っつかみ、壁の方に向かって投げる。
ぱあん、と空き瓶は弾け、破片達は跳ね返って男に降り懸かった。
「なッ!?」
男は腕で顔を庇うも、破片は容赦なくその黒い身体を切り裂く。
感情に身を任せた行動が、運よく相手に隙を作らせることができた。
息をつく間もなく、男の脇を縫うように駆け、路地裏を抜けた。
※
無駄な抵抗だとは、うすうす感じていた。
精神力も体力も大分削られた上、通りに出てしまった。
他に逃げ道がないのだから、仕方ない事だけれども。
広い空間では、この小さい身体じゃ不利な要素だらけだ。
追っ手の二人にも、薄皮一枚くらいのダメージしか与えられていない。
身を隠すより先に、どちらかに捕まってしまうのがオチだ。
「待てッ!」
後方で、男の声がした。
振り向かずとも、どのくらい離れているかはすぐにわかった。
それと同時に、互いの距離が早い段階で縮まっていくのも。
唯ひたすら、前を見て脚を動かす。
いくつもの柵を飛び越え、ガードレールを潜った。
それでも、男の気配は消えない。
不意に、視界にあの緑が映った。
街の中央に位置する、巨大の公園の一部。
距離が迫っていたので、身を眩ませるかどうかはわからない。
だが、今の自分に残っている選択肢は殆ど無い。
「っ!!」
ほぼ体当たりに近い動作で、植え込みに飛び込んだ。
身体にぶつかったのは枝だけだったので、運よく雑木林にすんなりと入れた。
「逃がすか!」
男も、負けじと植え込みに突っ込んでくる。
しかし、身体の大きさから引っ掛かる枝が多すぎて、遅れを取ってしまう。
距離が開いた。
辺りには自分より背の高い雑草だらけ。
上手くいけば、逃げられるかもしれない。
なるべく身を低くしながら、必死で雑草をかきわける。
(これなら・・・これならっ!)
右往左往することなく、ひたすら前に突き進む。
目標は雑木林の奥、男が自分を見失うまで。
気合いを入れ、地面を強く蹴っていく。
―――不意に、視界が開けた。
「・・・!!」
目の前には、信じたくない光景が広がっていた。
公園だ。
舗装されてない地面が、草木が全く生えていない地面。
奥には、突入した緑より遥かに大きな緑があった。
(そんな・・・!)
なにもない上、奥の雑木林まではかなりの距離があった。
一直線に駆け抜けても、先程取ったマージンだけでは足りない。
絶対に、追い付かれる。
走りながら振り返った。
自分が逃げ込んだ所は、紛れも無く雑木林。
だが、大きさを比べればその違いは一目瞭然。
それは公園という悪魔によって、親から引きはがされていたようだった。
415
:
魔
:2007/09/24(月) 23:41:53 ID:???
抜け出した所にあった植え込みが、音をたてて暴れた。
その奥には、自分を追う男の影があるのがわかった。
ばさ、と一回り大きな音がして、植え込みの中から男が出て来た。
銃口を、こちらに向けながら。
「うあっ!」
男の手元が光り炸裂音がしたのと、左足を凄まじい痛みが襲ったのは同時だった。
勢いを残したままバランスを崩したので、土の上で身体が二転三転する。
止まった時には、自分の毛は土埃に塗れ、左足はもう赤く染まっていた。
「はあっ、はっ・・・っく・・・ああっ!」
酸素が足りない上、激痛のせいで気を失いそうになる。
だが、同じ痛みにまた覚醒させられてしまい、感じる苦しみは半端じゃない。
幸い骨は砕けていなかったが、弾丸はしっかりと腿を貫通している。
気が付くと、手の中にナイフがなかった。
俯せに倒れ込んだまま、首を動かしてそれを探す。
が、視界が黒い影、男の足に阻まれたせいで見つけることができなかった。
「っあ・・・!」
「・・・観念しろ。お前はやりすぎたんだ」
冷たく、心に刺さるような声色だった。
だが、どうしてかその声の中にまた哀れみの念が込められている。
『悪い奴なんだが、殺したくはない』
そんな風な気持ちが、ごくわずかに感じ取れた。
何故なのだろうか。
こいつは、自分を捕まえて虐殺するつもりじゃないのだろうか。
いや、もしそうだとしたら、囮を使ったり撃ってきたりはしない筈だ。
「どうし、て・・・早く、殺さないの・・・っ」
自分の思考だけでは答が見出だすことができず、つい問い質してしまった。
「・・・」
返事が返ってこない。
傷口を押さえつつ、朦朧とする意識の中、顔を上げて男の顔を見た。
それは哀しみに満ち溢れていた。
銃口を向けていながら、苦虫を潰したかのような表情。
哀れみなどではなかった。
寧ろ、自分で自分を責めているかのような感じだった。
「お前とは・・・事が大きくなる前に会いたかった」
「ぇ・・・っ?」
意味深なことを告げ、男がその場から離れる。
目線を落とすと、そこには探していたナイフがあった。
自分と同じように土埃に塗れたそれは、こちらを待っているかのように見えた。
「・・・拾うか」
「・・・っ」
足の痛みを堪えながら、はいずってナイフに近付く。
男が自ら道を開けた理由なんて、この際どうでもよかった。
真意が読めないことに頭を悩ますより、抗うことを最優先としなければ。
生を諦めることなんて、絶対にしてたまるものか。
後少しで、指先に柄が触れる。
触れるはずなのに。
ナイフは自分を拒むかのように、ゆっくりと遠ざかる。
いや、拒んだわけじゃなく、ただ単に誰かが拾い上げただけだった。
人差し指が異様に短い、青い手だった。
顔を上げると、そこにまた信じられない光景が。
最も会いたくないと思っていた、AAがそこに立っていた。
416
:
魔
:2007/09/24(月) 23:42:54 ID:???
「あ・・・ああ、あ」
心の底から、信じたくなたかった。
こんな状態になってから、こいつに出会ってしまうなんて。
「久しぶりだな。コレ、返して貰うぜ?」
鉛色の空を背にした、無表情のギコが居た。
その感情のない仮面の奥に、鬼が居ること位、考えなくてもわかる。
囁くように問い掛けるその言葉は、酷くねっとりとしていた。
※
身体の傷の殆どは、モララーがつけたものだ。
実際、ギコには左眼だけしか奪われていない。
だが、虐殺されそうになった時に会った三人のAAの中で、最も恐ろしいと思ったのはギコだ。
隙を窺ってナイフを奪い、逃亡を謀った直後に唯一追って来た男。
ただ、それだけなのに。
あの時のギコの全ては、本当に恐ろしかった。
思い出し、言葉に表そうとしても、思考がストップをかける程。
トラウマを通り越し、記憶の引き出しから外されて奈落へと封印されたかのような。
しかし、それは今奈落から引き上げられ、封を解かれようとしている。
あの時の続きが、
想像したくもなかった事が、
皮肉にも、夢なんかじゃなく現実で行われようとしていた。
※
「ウララー、ありがとうよ・・・まさかこんなに早く出会えるなんてな」
ギコは黒い男の方を見て、そう言った。
もう、誰がどうかなんて考える気力は、なかった。
最悪のパターンで、死を迎えることになるなんて。
これなら、危険を犯してでも、毎日空腹に苛まれていた方が幸せだったかもしれない。
このギコが、自分を骨の髄まで苦しめて殺すのは目に見えている。
もしそうでなければ、自分はあの時眼でなく命を奪われていた。
「少年だからといって、甘くみてしまったがな」
「その腕・・・やられたのか?」
「ガラス瓶の破片をうまいこと浴びせられたよ。なに、唯のかすり傷だ」
「かすり傷程度なら、まだいい方じゃないか。俺なんて指だからな」
自分が絶望に打ちひしかれている中、二人は呑気に会話をしている。
まるでこちらが素早く動けない事をいいことに、嘲笑っているかのようだった。
こんな最期、認めたくない。
地獄の始まりなんて、信じたくない。
この出来事の落ちは、夢であって欲しい。
呪詛のように頭の中で繰り返すも、それは無駄でしかなかった。
だが、自分を保つそうするしか他にないわけで。
「ぐぶっ!?」
突然、腹部に鈍痛を覚え、身体はくの字になって宙に投げ出される。
撃たれた腿の痛みを忘れそうな位の激痛が腹を襲った。
蹴られた箇所からして、肋を何本かやられたかもしれない。
「さあて、おっ始めるとしますか・・・」
蹴り飛ばしたのはギコだった。
精神的にもいっぱいいっぱいだった為、全く反応できなかった。
ギコ以外、誰もする筈はないとわかってはいたけれど。
417
:
魔
:2007/09/24(月) 23:43:39 ID:???
青すじを顔いっぱいに立てているギコは、何者にも例えようがなかった。
それは虐殺厨という、新しい畏怖の象徴が生まれたかのようだった。
「げほっ・・・ぐ」
「ノビるのはまだ早ェぞ? コレは唯の前戯だからなァ」
そう言って、今度は左腕を掴んできた。
未だに血が止まらない火傷が刺激され、痒みに近い痛みを感じる。
しかし、既に大きなものを二回受けていたので、それ程気にならなかった。
寧ろ、虐殺の真の恐怖は、持ち上げられてからやってきた。
「ぎゃっ!?」
痂が裂けたかのように、鋭い痛みが襲い掛かる。
直後、腕の方から生暖かいものが身体へと滴り落ちてきた。
腕を切り裂いたのはナイフだった。
ギコから奪い、半身のように扱ってきたナイフ。
それが今、元の持ち主の手に戻り、こちらに牙を向けている。
「痛ぇだろ? 俺はこの痛ぇナイフで指切られたんだぜ?」
顔を近付け、ナイフを頬に宛がいながら囁いてくる。
嫌悪感など覚えている暇はなく、もはや蛇に睨まれた蛙状態だった。
身体はもう疲労と恐怖でガチガチに固まり、自分では動かすことができない。
唯一、外的刺激を与えられれば、ほんの少しだけ動いてくれる。
つまり、今の自分は『痛みに悶える』事しかできなかった。
「いっ、痛・・・っうぁ! あああっ!」
皮膚が浅く、深く、長く、短く切り刻まれていく。
そこから溢れる真っ赤な血は、身体の大部分を鮮やかに彩る。
何度目かの切り込みで、ギコの手が緩む。
身体は引力に引かれ、そのままの体制で地面にたたき付けられた。
「ぐっ!」
その衝撃で、折れたと思われる肋が体内で暴れた。
恐らく、内臓のどれか一つに刺さっただろう。
吐き気と頭痛が精神を更に苛み、気が触れそうになる。
「どうした? 逃げないのか?」
くく、と喉で笑いながら、ギコが追い打ちを掛けてくる。
先程皮膚を切り裂いた左腕に、そっと足を置いてきた。
(・・・ああ)
生きたいと強く願う中、『諦める』という想いが芽吹いた。
そのまま力強く踏み付け、潰しでもするのだろうか。
四肢を失えば、希望は費える。
ならば、もう諦めるしか他に道はなくなる。
迷う事なく死を望めば、苦しみだって―――
「おい、なんだその顔は」
途端、ギコの態度が豹変した。
悦に浸りながら、復讐を兼ねて虐待していた男に、また鬼が張り付く。
それは気を緩めた自分に対しての怒りだと、すぐわかった。
「まさかお前、死を受け入れるとか思っているんじゃねぇだろうな?」
「・・・っ」
「死にたいっていうなら無限に苦しませてやる。生きたいなら今すぐ殺してやる」
418
:
魔
:2007/09/24(月) 23:44:20 ID:???
「あまり調子こくんじゃねぇぞ?」
その言葉の後、左腕に位置していた足に力が入る。
「ッ!? あっ! ああぎゃああぁっ!!」
ほんの少ししか体重を掛けない代わりに、ぐりぐりと左右に動かしてきた。
傷口に砂粒が入り込み、痛覚神経が無理矢理に刺激されていく。
その痛みは炎に焼かれた時よりも凄まじく、気持ち悪さまで感じてしまう程。
全身の毛穴が開くような感覚を覚えつつ、その激痛を必死に堪える。
腕が足の下にあり、体制を変えられないことからも、苦しみが上乗せされる。
「あああぁぁぁァァァ!!!」
いくら叫んでも、苦痛は止まらない。
涙で視界が滲む中、ふとギコの顔が目に入る。
それは、『今人生で、最高の瞬間を体験している』といった表情だった。
滲んだ世界の中でも、くっきりと見えた吊り上がった口と、弓を張ったような眼。
無限とも取れた地獄の時間が終わる。
ギコの足が持ち上がり、腕から離れたのだ。
だが、その火傷していた腕は更に醜く、その姿を変えていた。
血と膿と、それらで溶けかけた痂に泥となった砂粒。
骨は折れていないし、こんな容姿になっても動くこの腕。
持ち主である自分でも、切り落としたくなる程醜くかった。
「あーあ・・・汚くなっちまったな。お前の腕」
まるで他人事のように話す当事者。
だが、怒る気力すら今の自分にはもうなかった。
「ぐ、ぅ・・・っは・・・あ」
呼吸を一つするだけでも、酷く苦しい。
『諦める』という逃げ道さえ、ギコは否定した。
だからといって、虐待に身を委ねるなんて事、絶対にできやしない。
モララーの所から逃げることを誓った時、出来るなら五体を差し出すなんて考えもした。
だが、あれは間違いだと、今更になって気が付いた。
無意識の内に、される筈がないと思ってから考えていた。
自分は馬鹿だ。
あの時、そのまま虐待に抵抗して死ねばよかった。
イチ被虐者が抗っても、結局はここに辿り着くんだ。
不意に、身体が宙に浮かぶ。
今度は右腕を掴まれての持ち上げだった。
「左腕のその皮、剥いでやろうか。どうせ要らないだろ?」
俺から見ても気持ち悪いしな、とギコは付け加える。
「・・・」
自分は無言でイエスと答えた。
もう何も考えたくないし、考えれば考える程、苦しみが増しそうだったからだ。
―――ナイフが、ゆっくりと左腕に宛がわれる。
続く
419
:
淡麗
:2007/09/26(水) 14:55:41 ID:???
【ペット大好き♪日記〜第2幕〜】
①
ねぇねぇ、みんなはペットを飼っている?
私は飼っているんだよ!
真っ白くて、ふわふわで、ちっちゃなベビちゃん!
え?なんでベビを飼っているか?
そうだよね、私の周りのみんなはベビちゃんを
「キモゴミのガキ」とか「糞虫ぃ」とかひどいこというけど、ベビちゃんって可愛いんだよ?!
確かに、アフォしぃはムカつくよ?
でもね、ベビちゃんの頃からしっかり教育すれば、良しぃになるってテレビでやってたもん!
だから、私がしっかり育ててあげれば、パパもママもお兄ちゃんもビックリするよ♪
それで、みんなで仲良く暮らすのが夢なんだ♪
今日はベビちゃんを飼ってから初めての学校の日。
私はベビちゃんを隠して学校にいって、授業が終わってからすぐに帰ってきたんだ
今日はベビちゃんといっぱい遊べる!
ベビちゃん、ちゃんとお留守番できてるかな?
そう楽しみにしていたのに…
今、私の目の前では酷いことが起きているの…
箱の中に隠していたベビちゃんはウンチまみれになってもがいているの…
どうして?なんでこんな事に??
慌てて箱のフタを閉めたけど、一体どうしよう?
ベビちゃんのことを洗ってあげなきゃいけないけど、お風呂場で洗うことは出来ない…
ていうかこんな状態じゃ家の中ではムリ!臭いでバレちゃう!!
どうしよう・・・
このままじゃベビちゃんが死んじゃう!
ウンチまみれで死んじゃったんじゃ、虐待と一緒だよぉ…
そうだ、近くの公園の水道で洗おう!
洗うのに必要な道具は…スーパーの100円コーナーで買えばいいか♪
そうと決まればすぐに実行!
いそがなくっちゃ。
ベビちゃん、すぐにきれいにしてあげるからね!!
420
:
淡麗
:2007/09/26(水) 14:56:58 ID:???
②
「いってきまーす!」
そういい残して、妹は慌しく外出した。
大方ベビを洗いにいったんだろう。
そりゃ当然だ。この家の中であの糞まみれを洗われたんじゃこっちが迷惑だ。
それに臭いですぐにバレるしな。
どれ、この後どう行動するのか、さっそく追跡に行くとするか。
行き先はおそらく、近場の公園を使用するに違いない。
ただ問題は、あの糞まみれの状態をどう洗うつもりなのか。
まさか素手で洗うわけにはいくまい。
ゴム手袋とか洗剤とか必要なはずだけど、家を飛び出す前に物色していた様子はない。
そうなると近所のスーパーで買い揃えるのだろう。
やれやれ、あんな糞虫ぃに金を使うとは本当に酔狂なヤツだよ。
妹が出発してから10分ほど後、俺も家を出る。
まだ残暑厳しいので車で行きたいところだが、見つかってしまう可能性が高いので徒歩で行こう。
歩いて5分ほどで目的のスーパーについた。
店の駐輪スペースには、確かに妹の自転車がある。
そして自転車カゴの中には、あの箱…糞虫ぃが閉じ込められている箱があった。
おいおい、こんな炎天下の中に放置か?
妹が家を出てから15分は経過していると思うが、この残者だ。
きっと箱の中は温度急上昇中だろう。
一応確認のため、箱に触れてみる。
…おいおい、焦げ茶色の箱はすっかり熱っつくなっているじゃないの。
糞尿の臭いと暑さと湿気…考えただけでも素晴らしい環境だ。
すでにベビは糞に茹で上げられて死んでいたりしてな(笑)
俺は向かいの本屋に入り、立ち読みするフリをしながら妹が出てくるのを待った。
待つこと15分ほどしてから妹はスーパーから出てきた。
100円ショップで購入したことを示す印字されたビニールの買い物袋を持っているけど、一体何を買ったのか、ここからではうかがうことは出来ない。
でも、予想通り近所の公園へと向かっていったのを確認。
俺もゆっくりと出発する事にしよう。
421
:
淡麗
:2007/09/26(水) 14:59:06 ID:???
③
ふぅ、やっと公園に着いたわ。
お買い物で時間かかっちゃったけど、ベビちゃん、今からきれいにしてあげるからね!
さっそく買ってきたゴム手袋を装着!
なんか給食のおばさんみたいだね♪
実はこのベビちゃんクリーン作戦は、給食のおばさんがヒントになっているんだ。
お料理とかするときに、ボールだけじゃなくてザルも一緒に使うけど、こうしたほうが
水切りとかにも便利っていうの、知ってたんだ♪
それにバケツだけじゃ水が溜まってきた時にベビちゃんが溺れちゃうしね。
さぁ、準備も出来たからベビちゃんを洗ってあげようっと。
さっき箱を持ったときに気づいたけど、なんか熱くなっているからすぐに始めないと。
きっと中も暑くなっているだろうから、シャワーをあびればすっきり気持ちいはず♪
気合を入れて箱を開けると…うわぁ…凄いにおい。
もうすっかりベビちゃんがウンチまみれ…
鳴き声が漏れないように、マスク(※一般的には猿轡)をつけたんだけど
それもウンチまみれになっちゃっているし
ベビちゃん、大丈夫かな??
箱の中からベビちゃんを取り出すと、なんだかぐったりして元気がないよぉ
そうだよね、こんなウンチまみれじゃ悲しくなっちゃうもんね…
まずは汚くなっちゃったマスクをはずしてあげなくちゃ。
ベビちゃん、新鮮な空気だよ〜
「ガハッガハッ!!」
あぁ、やっぱり苦しかったんだね。
ゴメンね、ベビちゃん…
「タチュケテクダチャイ・・・ ユルチテクダチャイ…」
ベビちゃん、相当苦しかったんだね。大丈夫、すぐに綺麗にしてあげるから!
まずはベビちゃんを洗わなきゃね。
あ、洗ってる最中に動いたりしたらきれいにならないから、まだ足は縛っておくけど大丈夫だよね。
さぁ、ベビちゃん、シャワーですよ〜
じゃばじゃばじゃばじゃば〜〜
「ヒギャアァァ!! チュメタイデチュヨウゥ!! チャムイデチュヨウ!!!」
あ、いっけなーい!
公園の水道って、いつでも冷たくて美味しいお水が飲めるようにって冷却されているんだっけ
あぁん、いつもは便利って思っているけど、こういうときは困るわ!
でもこのままベビちゃんをウンチまみれにしておくわけにはいかないわ。
心を鬼にして、洗わなくっちゃ!
じゃばじゃばじゃば〜〜
「ベビちゃん、すぐに終わるから我慢してね!」
「アニャアア!! チュメタイデチュヨウ!! ヤメテクダチャイヨウ!! 」
「きれいにしなくちゃいけないの!我慢して!!」
「モウイヤデチュヨウ!! タジュゲデ!! ゴハァッ!!」
ああもう!!洗っているのに騒いだりするからお水を飲んじゃうじゃない!
あ、直接水道の水を当てないほうがいいのかな??
それじゃ今度はバケツに水を貯めて洗わないと…
「ゲハッ ゲハァツ モウヤァァヨウ!! モウ チィヲハナチテ! オネエタンハ ギャクサツチュウデチュヨウ!!」
な・・・!
422
:
淡麗
:2007/09/26(水) 15:00:17 ID:???
④
なんですって!!
あたしが虐殺厨?!
酷い…!!
「…にが 」
「ギャクサツチュウデチュ! ギャクサツチュウハ イッテヨチ!デチュ!! モウチィヲ カイホウスルデチュ!!」
「なーにが虐殺厨よ!一体誰のせいでこんな事になったと思ってるのよ!!」
「ハ バジャバボォォボババァァァ!!!」
もう頭にきた!丁寧になんか扱うもんですか!
大体あんたが糞まみれになったのを私がこうしてきれいにしてやってるんじゃない!
それをいうに事欠いて虐殺厨ですって?!
だったらあんたが汚したこの水を飲んでからいって御覧なさいよ!! ほらほらほら!!
そんなにあたしが洗うのが嫌ならば、しっかり自分で水の中で汚れを落としなさい!!
「ダジュゲデッ!! ゴババボアッ!! バァッゴブボブオオ!!」
もう雑巾みたいにバケツの中に突っ込んではあげ、突っ込んでは上げを繰り返してやったの!
ザブザブザブザブ・・・って。
そ、何度もね。
でもね、こういう洗い方もあるのよね。押し洗いだったっけ?
前に家庭科の実習でやったのが役に立っちゃった♪
ほら、ベビちゃんの体も大分きれいになったでしょ?
さすがにベビちゃんは溺れかけているみたいだけど、さっきまで口にウンチの浸み込んだ
マスクをしていたんだから、お口の中も一緒に洗浄できるわね。
「ゲハァッ ゴハァッ ゲハァッ …ユ゙ル゙ヂデグダジャイ… モウ ヂィ、イイゴニジバジュガラァ… ユルヂデグダジャイ…」
ベビちゃんはようやくおとなしくなったみたい。
そうよね、やっぱりしつける時は厳しくしないと。
でも厳しいだけじゃダメ。
厳しさの後にはしっかり愛情を注いであげないと。
「わかった?あたしは虐殺厨なんかじゃないわよね?!」
「ハイィ… オネータンハ ギャクサツチュウナンカジャ ナイデチュ・・・」
「ん。分かればよろしい。それじゃベビちゃん、シャンプーしてあげるから大人しくできるよね?」
「ハニャァア… オミジュデ ジャバジャバチュルノ??」
「…お水以外に洗うものなんて無いじゃない。」
「ヒッ…! 」
「…なによ、文句あるの?」
「ナ、ナイデチュ… モンクナンテ アリマチェン…」
ちょっと厳しすぎたかな?
でも最初が肝心だって言うし…それに今からお湯なんて準備できないから、一気に洗ってあげたほうがベビちゃんのためでもあるわ。
それじゃもっとスピーディーに、一気に洗い上げないと!
「ハイ、それじゃシャンプーするわよ!」
「ハギャアァァァァ!! オメメニ! オメメニ チャンプーガァ!! イチャーヨォォォォゥ!!」
423
:
淡麗
:2007/09/26(水) 15:01:37 ID:???
⑤
今、妹は公園の水道で洗っているようだ。
あいつはわざとやっているのか?この界隈の公園の水道は冷却されている。
夏でもと〜〜っても冷たい、飲んでさわやかな水しか出ない。
そんな水で行水だなんて、やりたがる奴すらいない。
それにさっきまで糞の蒸し風呂状態だったのに、急に冷たい水を掛けられたら
ベビは心臓麻痺を起こしかねないのでは?!
まぁ、しぃってのはゴキブリ並みに丈夫だから、そう簡単にくたばりはしないだろうけど
それにしても…
俺と妹の距離は大体50m。これくらい離れれば、バレる心配はない。
でも…これじゃ一体何をしているのか見えないじゃないか!!
う〜〜ん、こいつは盲点。
どうしたものか…
いっそ秘密を共有、という手も無いわけではないがそれじゃつまらない。
うむむ・・・
あ、そうだ。「アイツ」がいたではないか!
うっひょ〜 こりゃ本格的な「観察日記」な日々ではないか!
きゃっほ――!!
【続く】
424
:
古爪
:2007/10/05(金) 05:49:00 ID:???
お初です。
よろしくお願いします。
『 ガランドウ 入 』
満月。
普段は大人から子供までいる賑やかな公園は、今は月明かりに照らされ青白く輝きながら、静まり返っている。
その公園のスミ、しぃ、と書かれたダンボールの中で彼女、しぃは月を見上げていた。
・・・世間では虐殺が流行りらしい。
モナーやモララーが、ちびギコや、私と同じしぃを躊躇い無くコロシテイル。
おかげで、綺麗な滑り台の青も今は彼らの血で赤く汚れている。
でも、誰も気にしない。むしろ子供たちはそれを見て、さも嬉しそうに笑う。
・・・・・・
彼女はそれを見ても、特別大きな感情は感じない。
それが、日常だから。
まるで蟻でも踏み潰すような感覚で消えていく命。
425
:
古爪
:2007/10/05(金) 05:50:12 ID:???
その出来事に
慣れてしまった。順応してしまった。
命という巨大な概念への感覚がナクナッテイク。
そんな自分に気づいて、
そんな自分が怖くなって、
もう手遅れなのに、
そんな自分になりたくない。
と、願い、しぃは自分という世界と、外の世界を切り離した。
結果、彼女は壊れた。
体はガランドウ。
精神は、浮遊霊のように意識としてある。
だが、地縛霊と同じく公園の外に出ることは出来なかった。
もう一度戻ろうと思っても、入れない。
しぃは絶望した。
ここから出られず、
体にも戻れず、惨めにこの地で永遠をイキルのか。
そう、壊れた代償は、永遠と孤独。
そのうち感情の起伏なんてものは無くなっていく。
それにも慣れた。
何も感じない、何も考えない。
それが、50年位前の話。
426
:
魔
:2007/10/21(日) 19:15:00 ID:???
>>408
〜より続き
天と地の差の裏話
『まとめ』
※
巷では殺人鬼と言われていても、本質は子供。
もし、普通の家庭で普通に育つことができたなら、
ちょうどその頃は『正義のヒーロー』に憧れてもいい歳だ。
自分がピンチになった時、颯爽と現れ悪人を倒す。
ブラウン管の中の強者は、いつだって弱者を助けてくれる。
いつも一人で生きてきた。
いつも一人で窮地から脱してきた。
そんな生き方をしてきたメイは、ある事を忘れてしまっていた。
自分にも、憧れているAAは居るということを。
超人的な力を持ち、自分の味方になってくれたAA。
殺人鬼として唯一の、理解者。
※
「・・・くくっ」
ギコは今、この瞬間を心から楽しんでいた。
一ヶ月も恋い焦がれ、追い求めていた者に出会えたからだ。
今行っている虐待は、ただのアドリブでしかない。
文字通りの前戯だし、長い間ずっと考え、熟成させた虐殺のメニューでもない。
しかし、ギコはそれでも非常に強い快感を得ていた。
「左腕のその皮、剥いでやろうか。どうせ要らないだろ?」
そして、気付いてしまった。
やり方など関係なく、単にこいつの苦しむ顔が見たかっただけなのだと。
そうと解れば、思考を切り替えなければいけない。
『どうやって殺すか』ではなく、『どうやって生かし、苦しめるか』に。
自害できないようにし、ひたすら延命させつつ、苦しませる。
そうすれば、自分はもう虐殺の為にAAを殺さなくてもいい。
こいつが居れば、他に何も要らないかもしれない。
※
―――そんな風に、ギコは油断しきっていた。
頭がおかしくなってしまいそうな程の強い快楽に、溺れてしまっていたのだ。
そんな筋肉も精神も弛緩しきった状態では、タカラの脚を止めた時のような反応なんてできる筈がない。
だから今、自分に何が起こったかなんてわからなかった。
メイを持ち上げ、ナイフを再度宛がった時の事だ。
足元を何かが通過した。
唐突に視界が反転する。
目下には空、頭上には地面。
それが更に反転し、腹から地面に叩き付けられた。
その時には既に、手の中にナイフとメイはなかった。
「ぐあッ!?」
衝撃で肺の中の空気が押し出され、出す気のない声が漏れる。
受け身も全く取っていなかったので、そのダメージは見た目より大きい。
集中し過ぎた、悪く言えば盲目になっていたせいで、自分に何があったかわからない。
二手、三手程遅れてから、やっとギコは辺りを見回す。
ナイフは近くに転がっているし、メイは自分と同じようにうずくまっている。
メイの目線はどうしてかこちらに向いておらず、気になってそれを追う。
するとそこには、耳が異様な形をしたでぃが立っていた。
虐待を邪魔された怒りが光の速さで膨張し、爆発した。
考えるより先に、身体が動いて立ち上がろうとする。
だが、どうしてか脚が全く動こうとしない。
何事かと思い、ギコは自分の下半身を見る。
―――両足は、腿のちょうど真ん中で綺麗に真っ二つになっていた。
427
:
魔
:2007/10/21(日) 19:15:32 ID:???
「え、えっ? な、うわあああぁぁぁぁ!!?」
堪らず、ギコは叫んだ。
一瞬の内にして、自分の脚が大根のように輪切りにされた。
その切り口からは、現実を突き付けるかの如く血が溢れる。
向き直ると、でぃはいつの間にか手の中に自分の脚を握っていた。
いや、よく見るとその鋭い爪に青い脚を串刺しにしている。
爪というよりは、もはや新しい刃物のような気がしてきた。
「ふふっ」
妖しく笑いながらも凄まじい殺気を放ち、その場に全員を縫い付けるAA。
でぃやびぃのようで、そうではない女の正体は、ギコ以外の者は既に知っていた。
彼女の名前は、Vと言った。
「ッ・・・」
今起きた出来事を全て把握し、理解したのはウララーただ一人。
それどころか、ギコの身体が撥ねられる直前に、Vの存在に気付いていたのだ。
しかし、気付いてからの動作が、Vより遥かに遅かったので、最悪の結果を招いてしまった。
その上とてつもない威圧感を受け、身体の自由も奪われてしまっている。
ウララーは、自分を奮い立たせようと必死になる。
一ヶ月もの間、復讐の為だけに追い続けた奴。
フーの仲間の敵が、今まさに目の前に立っているのに。
奴は今、自分に背中を見せている。
やろうと思えば簡単にやれるのに、腕があがらない。
考えたくはないが、搾取される側にまわっているのは自分達かもしれない。
身体が、精神がいうことをきかない。
「あ、ああ脚が、俺の脚があああぁぁァ!!?」
脚を切断され、喚くギコと、それを眺めるだけのV。
茶褐色のその姿は、新しい加虐者としてこの世に舞い降りた者のようだ。
「あら、あら。そんなに痛かった?」
唐突に姿を現し、場の空気を支配したVは早速我が物顔で話し始める。
全てを無視しながら言葉を紡ぐ様は、本質であるしぃに酷似していた。
「脚、脚がぁ!! 俺の脚を返せぇぇぇ!!!」
対するギコは、あまり頭を回転させずに喚き散らす。
これはこれで、ちびギコのような反応でもあった。
「でも、どうせくっつかないでしょう?」
そう言って、Vは串刺しにしていた青い脚をギコの目の前に放り投げる。
そして、くるりとメイの方に向き直った。
「ごめんね。来るの遅れちゃって」
「・・・V・・・?」
メイは既に疲弊しきっていて、片方しかない真っ黒な目は虚ろだった。
それは、早急に手当てしないと命が危ういということを物語っている。
だが、治療という概念を知らないVには通じなかった。
メイ本人も、身体の事を考えたりする事ができないでいる。
助かるのか、そうでないのかと悩み怯えるよりも、ただVの凄みに驚き、眺めるだけ。
それしか、今のメイにはできなかった。
「ホントはキミを嵌めたコを殺してすぐ行こうかと思ってたけど、懐かしい顔してたから」
428
:
魔
:2007/10/21(日) 19:16:39 ID:???
※
「・・・え?」
Vが続けて吐いた言葉。
それに興味を抱いたのは、メイではなかった。
疑問の声をあげたのは、会話に参加していなかったウララーだ。
Vはそれを知ってか知らずか、ウララーの方を一切向こうとしない。
そのまま、疲労困憊で全く動かないメイとの会話を楽しむ。
まるで、人形に話し掛けるかのように。
「大分前にそのコの眼を潰したんだけど、まだ生きてたの。驚いたわ」
「・・・」
「だからね、つい、つい懐かしんじゃって。あの時の続きが出来るんだって」
外見と、そこから漏れる殺気がなければ普通の少女のような立ち振る舞い。
そのギャップにすくみながらも、ウララーの心の奥底で何かが芽吹く。
(まさか・・・フー・・・!)
信じたくはない。
認めたくもない。
奴の言う事は、全て虚言だと思いたい。
でないと、自分が自分でなくなってしまいそうだ。
恐怖で足が竦み上がっていながら、怒りが沸々と沸き起こる。
相反する気持ちがぶつかり合い、吐き気を催す。
その中で、長い間抱いていた謎が氷解した。
何故、Vという化け物が表に出てこなかったのか。
それは小さな殺人鬼と友達のように会話しているのが、答えだった。
この二人は、仲間だったのだ。
組んでいたことは、意図的なものか、そうでないのかはわからないが。
都市伝説扱いされる程の手練であれば、姿を見せずに虐殺することも可能だ。
加害者がわからず、死体という証拠だけがあれば、今世間で暴れている者の名を挙げてしまう。
ろくすっぽに捜査しないあいつらなら、ほぼ確実にそうしてしまうだろう。
可能性として、考えつくような簡単な答えだった。
どうして、今の今まで気付かなかったのだろうか。
ギコの叫びと喚きをBGMに、Vは笑いながらなお話す。
と、ここでメイが口を開き、一方的な会話は途絶える。
同時にウララーは思考を止め、二つの感情に翻弄されながら聞き耳をたてた。
「そのコは・・・殺したの?」
瞬間、ウララーは心臓が跳ねたかのような感覚を覚えた。
聞きたかった事でもあり、聞きたくなかった事をメイがVに問い掛ける。
(やめろ・・・やめてくれ・・・っ!)
あの時に助けた命だ。
同じ者に殺されては、自分は苦しみを助長させたことになる。
弱者を救うべき者が、弱者により深い地獄に陥れるようなことがあっていいはずがない。
そこまで考えた所で、Vからメイの質問に対する答えが言い渡された。
「殺してはいないわ。殺す前に、凄い音がここでしたから、飛んできちゃったもの」
「・・・ああ、そう」
受け流すメイ。
背中を見せての、Vの発言。
殺してはいない。
確かに、そう言った。
殺してはいない、つまりは生きている。
だが、生きているということにも無数の意味が存在する。
フーが生きている現実は、ウララーにとってどういった意味になるのだろうか。
「耳も、鼻も、手足ももいで、これからって時だったの。残念だったわ」
429
:
魔
:2007/10/21(日) 19:17:13 ID:???
思考が停止した。
Vが紡ぐ出来事の中で、フーは惨たらしい状態になっていた。
唐突に脳裏にモノクロで浮かぶ、ついさっきまでメイを追い詰めた路地裏。
そこにいるのは、牙を見せて笑うVと酷く怯えるフー。
光を失った身体になりながら、更に残りの感覚も奪われる。
唯一感じるのは、『見えない恐怖』と『全身を駆け巡る激痛』。
その場にいたわけでもないのに、断片的でありながら鮮明に映し出される惨状。
「・・・ふざけンなよ」
自分の中で何かが弾け、呟く。
まだ、Vは笑いながらメイに話し掛けている。
全身が麻痺しているかのような感覚。
動かなかった右手がゆっくりと持ち上がり、ホルスターに掛かる。
そして、そこから銃を抜き、腕を地面と水平になるように上げていき―――
迷う事なく、引き金を引いた。
「ッ!」
「なっ!?」
その場にいたウララー以外の全員が、黒い塊から発せられた炸裂音に驚く。
叫んでばかりだったギコも、満身創痍なメイも目を見開いていた。
唯一、ウララーに背を向けていたVだけが、表情を変えずにいる。
それもそのはず、ウララーが狙ったのはVの頭蓋だったからだ。
しっかりと後頭部から穿たれたVの頭。
赤く開いた穴からは、ゆっくりと体液が漏れ出していく。
しかし、それでもその茶褐色の身体は崩れ落ちない。
「へェ・・・動けルんだ」
Vはゆっくりと振り向き、ウララーの方を見る。
その顔は、貫通したと思われる弾丸が上手いこと左眼を潰していた。
文字通り血涙が流れていながら、不気味に笑うその様はどんな者でも身震いしてしまうだろう。
頭蓋を貫かれていながらも、まだ動けるVはもはやAAであってAAではない。
運よく脳を損傷しなかったかもしれないが、重傷であることに変わりはない。
「ソれ、最初は怖かったけど、もう平気」
銃を指差しながら、舌足らず気味に喋るV。
それは壊れかかった人形よりも、獣としての精神が開花していくかのよう。
容姿とのギャップが消えかかりつつ、じわじわと更に殺気が濃くなっていく。
右側しか機能しなくなったVの眼は、既にウララーの喉笛しか見ていない。
「凄く速い石ころが出てくるんでしョ? しくみがワかったから、平気、平気」
「・・・」
狂気じみた言動になりつつ、悍ましさを増幅させていく。
そんなVを見ても、ウララーは全く動じなかった。
恐怖を乗り越えるどころか、飲み込んでしまったウララー。
今、ウララーが動いている理由は『フーの為の復讐』ではない。
『フーを奪われた自分の為の復讐』だ。
もし、Vの言った事が偽りであっても、怒りはその程度ではおさまらない。
何であれ、リミットを開放された瞬間から、目的を果たすか死ぬまでは止まらないものだ。
眼も据わっており、誰が何を言おうと止まりそうにない。
小さな殺人鬼も青い暴君も、息を呑んでしまう程。
大番狂わせのジョーカーは、ウララーという黒い男の中に潜んでいた。
430
:
魔
:2007/10/21(日) 19:18:14 ID:???
※
『今までやってきた事』なんて関係ない。
シリアルキラーも、カニバリストもこの場では唯の自慢でしかない。
肩書が場を支配しているのではない。
対峙している二人の能力と気迫だけが、そこにあるのだ。
「・・・」
それを見ている者は、メイとギコのみ。
互いに痛みなどとうに忘れ、黒い男と茶褐色の化け物に魅入っていた。
それぞれそんな事で麻痺する位のダメージではない筈なのに。
だが、二人は自分の目的、念い、夢を後にまわしても良い、と考えている。
AAの範疇を超えた化け物と、凶器を握った男の行く末。
それを見届けたいと、どうしてか心の底から想っていた。
「・・・ふフッ」
かり、かり、とVの爪が妖しく鳴る。
音だけでは一般AAの脚を切断するという程の業物とは思えない。
それでも、Vは自分の爪で幾人もの四肢と命を奪ってきた。
「・・・」
カチン、とウララーの握っている銃が勇ましく鳴る。
安い裁きの為に使われてきた撃鉄が、今復讐の為に起こされた。
感情だけで扱われれば、銃はこの世で最も恐ろしい武器と化す。
「あはッ」
「っ!」
無駄な時間を過ごしたくないと、先手を打ったのはVの方。
殆ど一瞬だった睨み合いは終わり、殺し合いの火蓋が切って落とされた。
瞬時にウララーの懐に潜り込み、屈む。
音もなく行われたそれは、洗練された殺しの技を思わせる。
ウララーも負けじと、一手遅れながら銃口をVに向ける。
だが、一ヶ月前のあの時と同じように、引き金はまだ引かない。
鉛玉が確実に目標を貫く為に、その機会を待つ為に。
『殺人鬼だけが、命を殺る事だけを考えているわけではない』。
と、ウララーはVに向かって無言で叫び、銃がそれを代弁していた。
Vにはそれが聞こえたのか、或いは偶然なのか。
舌足らずの嘲笑を吐き、ウララーを嘗め上げるように見上げた。
「ハハ、ははハハはっ!!」
『撃ってくる』、と感じるより先に、地面を蹴って横方向に距離を離す。
そして、飛蝗か猿かを連想させるかの如く、ウララーの周囲を跳ね、駆ける。
「くッ!」
挑発を意図した撹乱に、ウララーは歯噛みする。
砂粒で目潰しをされるでもなく、フェイントを仕掛けてきたわけでもない。
ただ格の違いを見せ付けたいが為に、大袈裟に跳び回っているようなV。
それでも、何もない所で踵を返したり、頭上を豪快に通過したりと凄まじい。
ウララー本人は自覚していないが、あの暴君であるギコを黙らせた腕力。
更に、的確な判断力とそれに応えられる瞬発力がウララーにはある。
しかし、Vにこう翻弄されてしまっては、持ち味を発揮することができない。
「きャはハははハ!!」
時折、ギリギリまで近付いては脇を通過するV。
風と一緒に薄皮を裂き、ウララーの体力と精神力をじわじわと奪っていく。
Vは既に、今の自分にウララーが何もできないということを読んでいた。
理由は至って単純で、己の武器である銃を下げていたからだ。
銃口を向けていなければ、鉛弾は身体を貫かない。
至極当たり前の事を理解し、Vは高らかに笑った。
431
:
魔
:2007/10/21(日) 19:18:34 ID:???
気迫や感情の高ぶりだけでは、『格』という差を埋められないのかもしれない。
自分の黒い身体に赤い線が走る毎に、ウララーは追い詰められていく。
Vの技と無数の小さな痛みで、段々と正気に戻されているかのよう。
「クソ・・・っ!」
良い方向に考えれば、それは冷静さを取り戻すことに繋がる。
しかし、熱が冷めてしまえば、また殺気に縫い付けられるだけだ。
無駄に弾を撃つのは自縄自縛。
辺りには文字通り何もない。
どうにかして、Vの動きを止めなければ。
でないと、自分はそのまま皮から細切れにされるだけだ。
焦りと恐怖が舞い戻る前に、解決策を―――
「ぐあっ!?」
突然、左足に激痛が走る。
咄嗟に足を押さえると、夥しい量の血が手に付着したのがわかった。
バランスを崩しかけるが、持ち直す。
だが、精神の方に受けたダメージはかなり大きい。
心の中で再度膨らみつつある、Vへの恐怖が更に加速していく。
(こんなことで・・・殺されてたまるかッ!)
武者震いでない震えを必死で止め、己を奮い立たせる。
全てはフーの為、自分の為。
ざ、と前方で砂が弾ける音がした。
同時に風を切る音も止み、静寂が辺りを包む。
ウララーは痛みを堪え、音がした方に目線を持っていく。
そこには口元を血で汚した、Vの姿があった。
牙に付着したそれをよく見ると、ウララーのものと思われる肉片だった。
「ク、ヒヒっ」
Vは器用に、牙を剥いたまま嫌らしく笑う。
先程の一撃は爪ではなく、顎でやったものと見せ付けるかのように。
「てめェ・・・」
Vの艶かしい嘲笑の直後、消えかかった怒りが再び爆発的に燃え上がる。
「どうしタの? 撃たなイの?」
肉片を吐き捨て、へらへらと頭を揺らしながらの挑発。
上半身を折り、腕を脚として扱っているその容姿は、まさに獣そのもの。
絶対的な差を見せ付けるかの如く振る舞うVは、今までにない威圧感を放つ。
だが、それが効いているのはギャラリーであるメイとギコのみ。
ウララーから見たら、単純に馬鹿にしているだけとしか取れていない。
そのせいでウララーは静かに怒り、空気は更に張り詰めていく。
再度睨み合いに持ち込んだ所で、ウララーは考える。
(・・・どうする)
このまま、また銃口を向けたとしても、Vは同じように飛び回るだけ。
繰り返されれば、自分の黒い身体が赤い身体になるのは明白。
嬲り殺しだけはどうにかして避けたいもの。
いや、何であれ命を落とす事そのものを避けなければ。
「・・・!」
そこまで思考を張り巡らせた時、不意に答えが見つかる。
しかし、それは考えとは真逆のもので、下手をすれば自分が先に死ぬ。
ハイリスク、ハイリターン過ぎるその答えは、行動に移すのに一瞬戸惑ってしまう。
だからといって、ここで動かない訳にはいかない。
元より、自分の命と復讐を天秤にかける方がおかしいのだ。
手足をもがれても、首があれば相手の喉笛くらい食いちぎる事ができる。
その位の覚悟がなければ意味がない。
※
至極簡単で、かつ危険な賭けに挑む事にしたウララー。
Vを強く睨むと、迷うことなく銃口を目標に向けた。
432
:
魔
:2007/10/21(日) 19:19:44 ID:???
「ハはッ!!」
威嚇とわかっていても、安全のマージンを取る為に回避は欠かさない。
狙いが定まるより先に跳躍し、辺りをまた縦横無尽に駆け回る。
後は最初と全く同じで、ウララーは目線だけしかこちらを追えなくなる。
(次はどこを狙おうかしら・・・首? いや、まだ早いわ)
リズミカルに地を蹴り、常識外れな速度を出しながらVは考える。
念いと怨みの為にこの公園に集った中で、唯一虐殺を優先していた。
己でも持て余す程の『力』を持ち、かつ簡単に扱える状態にある。
そうなると、その『力を持った者』が求めるのは娯楽のみ。
Vもまた、娯楽の事しか頭になく、それだけを探して生きてきた。
メイを好きになったのも、その過程の一つでもある。
今この状況にある娯楽は、『窮鼠猫を噛む』という諺の延長線上。
初めて弱い者が自分に牙を剥いてきたのだから、怒りより驚きしかそこにはなかった。
それに加え、いざ攻撃を開始した時には、簡単に嬲ることができた。
泣いて命乞いをする者もいれば、喉笛に噛み付こうと必死になる者もいる。
それを知らなかったVにとって、この瞬間は凄まじい快楽を得るものとなった。
「ヒヒ!! は、ハハははハ!!」
笑いが止まらない。
ウララーの、その力強い眼が濁り、涙で汚れていくのを想像すると、堪らなく気持ち良い。
時間をかけて、このまま皮を削いで削いで削いでしまおう。
Vはそう思いつつも、また肉を刔る体制に入る。
※
―――要は、気持ちが相反していたということ。
それは小さい事でもあり、大きな差でもある。
これが全てを覆す要因となったことは、当の本人達には理解できないわけで。
※
ウララーの方に向かって、強く跳ねた。
狙いは脇腹、また軽くその肉を頂戴する。
だが、あまり深く入ってしまっては致命傷になりかねない。
あえてここでは、爪を使ってそれを刔る。
「キヒイイィィ!!」
先程から、興奮し過ぎているせいか雄叫びのようなものが止まらない。
それは本能でもあり、理性というちっぽけなものでは抑止できなかった。
―――だから。
「カスが」
「っ!?」
ウララーが攻撃を待っていた事に気付かなかった。
自分の攻撃を、身体をはって受け止めようとしていることに。
軌道はもう修正できない。
幸い、銃口はこちらに向いていない。
爪があたってからでも、距離を取る事は遅くはない。
筈だった。
爪が肉に入り込むより先に、ウララーが跳躍する。
突っ込んでくるVに併せるように、後方に跳んだのだ。
「えっ?」
Vには一瞬、それが理解できなかった。
そして同じように、一瞬でそれを理解した。
爪が肉に触れ、ゆっくりと潜り込む。
が、己の自慢の逸品であるそれは、そこで止まってしまった。
刔るのではなく、刺さってしまったのだ。
自分の身体の一部が相手に触れたまま。
それでは、刹那を大事に動く者にとって死活問題である。
心の中で焦りと戸惑いが一気に噴き出し、Vはかなりの遅れを取ってしまう。
逆に見れば、ウララーには欠伸ができる程の余裕ができた。
その余裕を使って、ウララーはまずVにこう言い放った。
「捕まえたぜ。この糞野郎」
433
:
魔
:2007/10/21(日) 19:20:17 ID:???
※
自分の腹が貫かれていながらも、暴言を吐くのを優先する。
激痛に悶絶するどころか、微動だにしないウララー。
賭けにあっさりと勝つことが出来た今、後はVの命を取る事を考えるのみ。
「ふッ!」
空いた手で素早くVの手首を掴み、肘に銃を宛がう。
間髪入れず引き金を引くと、茶褐色の腕が弾け、真っ二つに別れた。
「キィィイイイイィ!!!」
堪らずVは種特有の叫び声をあげ、その場に崩れ落ちる。
銃口に物を密着させて撃った場合、暴発する可能性だってある。
なのに、ウララーはそれを知らなかったかのように無視して行った。
結果として良い方向に動いたものの、下手をすれば己の手が駄目になっていたかもしれない。
躊躇なく行動に移せた理由は、やはり復讐という感情が原因だった。
「キイィ!! ウウゥァァアアア!!」
無くなった腕を庇いながら、うずくまるV。
と、眼前に 何かが投げ出される。
それは紛れも無く自分の腕。ウララーに突き刺さった己の腕だ。
あの時、一ヶ月前に腹を撃たれた時に匹敵する痛み。
二度目の屈辱に怒りが込み上げ、力強くウララーを見上げる。
―――それとほぼ同時に、Vの頭は綺麗に撃ち抜かれた。
「ブぅグギゃッ!!?」
「・・・」
茶褐色の頭蓋は弾け、脳漿が飛び散る。
息をつく間もなく、二発目、三発目の炸裂音。
その度にVの身体は痙攣し、言葉では表現できない声をあげる。
「グ・・・ゥゥ、ウアアァァ」
もはや顔の凹凸は消え、穴と血と脳漿だけのボールがそこにあった。
そんな無惨な姿になっても、僅かだが動き息もあるV。
対峙している者が正常であれば、それは畏怖となるはずだった。
ふるふると震えながら、なおウララーに爪を向けるV。
それはまさに壊れかかったロボットが、必死に命令を遂行しようとしているかのよう。
そんなVを見ても、ウララーは眉一つ動かさない。
どころか、ゴキブリ並の生命力に苛つきさえ覚えてしまう。
「・・・お前さ、俺ら加虐者にやられてそんな姿になったんじゃないよな」
肘を破壊した最初の一発から数えて、これが最後。
確認の為に呟きながら、狙いを定める。
「そうだったら、俺やフーみたいに復讐を誓う筈だよな」
「ゥ、くァ・・・」
「唯一綺麗な桃色の毛皮・・・あってもなくても、本質は変わらねぇのか」
「・・・」
「糞虫はどこまでも糞虫ってことか? あ?」
何度も問い掛けるが、Vは答えない。
それ程までに痛め付けたのだから、仕方ない。
見限り、最後の言葉を渡して引き金を引く。
「テメェはもう、生まれ変わるんじゃねェ」
遊底が伸びきり、今の弾倉にある正真正銘最後の鉛玉が吐き出される。
その時の炸裂音は何故か酷く小さく聞こえ、Vの断末魔さえも耳に届かなかった。
434
:
魔
:2007/10/21(日) 19:21:28 ID:???
※
「あ・・・」
Vが、死んだ。
自分が、メイが憧れていたAAは、呆気なく死んだ。
凄まじい生命力も肉体も、鉛弾を放つ黒い塊には勝てなかった。
流れからして、次は自分の番だ。
このまま殺されてもよかったが、Vが遺してくれたものがある。
半ば芋虫と化した、ギコのことだ。
ギコが動けなくなったとなれば、生き地獄は逃れたも同然。
生か死かのチャンスが舞い降りた今、Vの死に浸る暇はない。
ギコとウララーの注意がこちらに向く前にナイフを取り返す。
Vの亡きがらを眺めている今が、絶好のタイミング。
「くっ!」
駆け出すと同時に全身が悲鳴をあげるも、堪える。
そして、転がり込むようにナイフに飛び付き、それを拾った。
「! ウララァァァぁッ!!」
「っ!」
やはり、二人はナイフを取り返した直後にこちらに気付いた。
飛び道具の事を懸念し、逃げ出すより対峙を選ぶ。
「・・・」
「この糞虫がああァ!! 無駄な抵抗してんじゃねぇぇぇ!!」
地響きを感じる程喚くギコよりも、無言を保つウララーの方が驚異である。
先程見せたあの眼に、自分には躊躇という言葉は無いものと報せていたからだ。
しかし、今のウララーは少し違っていた。
眼に変化はないものの、その気迫が薄れているのだ。
極端な殺意は感じない。
それでも、ウララーは弾の切れた銃に新しい弾倉を込め、遊底を引き直す。
ガチン、と黒い塊が唸り、張り詰めた空気を更に重くする。
「う・・・っ」
ナイフをウララーに向けるが、切っ先が震える。
体力の低下と、露骨な殺しの道具が眼の前にあるからだ。
ついさっきまでの、死にたいと願っていた自分なら、ここまで恐怖に苛まれなかっただろう。
だが、生きる道がまた見え出した今、それは最も避けて通りたい壁。
まだ死にたくないと、心が叫び、それに頭が怯える。
銃口が、こちらを向く。
酷く小さく黒い穴、そこから死が吐き出されるなんて想像できない。
「ウララー!! 早くそいつを殺せぇぇェ!!」
「・・・」
なお怒号を響かせるギコ。
それとは真逆の、沈黙を通すウララー。
二人は正に、罵声を浴びせ掛ける群集と血も涙もない処刑人のよう。
さしずめ自分は大罪を犯し、極刑を言い渡されたAA。
いや、寧ろ奴らに居場所を追われた魔女でない魔女か。
混沌としたこの街では、魔女狩りと同じで力を持った者の言葉が正しいのだ。
(・・・そうか、力か)
自分にも、ナイフという力がある。
それに、こんな醜い姿にしてくれた加虐者への怒り。
『感情』という力ならば、誰にも負けない。
AAを殺してきたのは、生きる為だけだと思っていた。
だが、加虐者とこうやって対峙して、やっと理解した。
自分は、『復讐』の為にも加虐者を殺しているのだと。
不意打ちと、逃げてばかりでそんなことを考える余裕がなかったのだ。
思考を張り巡らせていた所で、新たな怒りが込み上げる。
ナイフを握る手に力が入り、震えが止まる。
Vにウララーが抗ったように、今度は自分がウララーに抗う番だ。
435
:
魔
:2007/10/21(日) 19:21:47 ID:???
※
メイはその片目だけで、力強くウララーを睨み付ける。
「・・・」
すると、何故かウララーの眉間が緩んだ。
据わっていた眼も消え、少し前に会話した時と同じ表情になった。
「ギコ、ちょっといいか?」
ウララーは銃を下ろし、脚を失ったギコに問う。
「あァ?」
濁音が混じったその声は、不満を誰彼構わず撒き散らしているように思える。
それもそのはず、ギコの描いたシナリオは既に崩れ、重傷まで負ってしまったのだ。
それでも、絶望に打ちひしかれるよりも、納得いかないと憤怒する。
そんなギコの気持ちを知ってか知らずか、ウララーは会話を続けた。
「俺が頼まれたのは、こいつを追うことだけだったよな?」
「は?・・・い、今更何言ってんだテメェェェ!!!」
もはやギコのプライドは達磨にされた被虐者のように、ズタズタである。
―――そして、これからギコは今までで感じたことのない『恐怖』に襲われる。
「結論から言う。お前虐殺厨だろ?」
ウララーの冷たい言葉の直後、炸裂音。
鉛弾はギコの右手を穿ち、真っ赤な穴を開けた。
「っ!! うがあああぁぁっ!?」
Vに脚を奪われた時とは違い、はっきりとした激痛が右手を襲う。
空いている手でそれを庇おうとした時、また炸裂音。
今度は左手にも同じような穴が開いた。
「ギャアアアアァァァ!!」
「お前の頼み事も終え、俺自身の復讐も終えた・・・だから」
「ぐ、っううぅ・・・痛ぁぁぁァ!」
「俺は仕事を熟すだけだ」
噛み合わない会話を無理矢理繋ぐのは、やはり炸裂音だった。
ギコの耳が弾け、赤い液と肉の破片が辺りの飛び散る。
「っああああぁぁぁぁ!!!」
押さえようにも、穿たれた手ではより痛みが増すだけ。
吐き気を催す程のもどかしさに、ギコは一層叫びだす。
涙やら鼻水やら涎やらを撒き散らすその様からは、少なくとも爽快感は得られない。
暴君としてのギコは、簡単に、そして既にウララーに殺されていた。
Vの時とは全く逆のベクトルで叫び、痛みに悶えるギコ。
脚にひびくのか、のたうちまわることなく唯々泣き叫ぶのみ。
そんなギコと、無表情を貫き通すウララーをメイは交互に見て、呆気に取られた。
物事の中心である小さな殺人鬼を抜きにして、話は続く。
「最初に出会った時の暴力的な所とか、それっぽさが滲み出ていた」
「なんなんだよォっ!! こんな、こんな理不尽なことあってたまるかよぉっ!!」
「それにな、お前の身体から被虐者のものでない血の臭いもした」
「ッッ!?」
それを聞いて、ギコは一瞬動きを止めた。
それはもう暴君の反応ではなく、犯罪者が追い詰められている時のようなものだった。
「立場上、嗅ぎ分ける事くらい簡単なんだよ」
「そ、そんなことッ・・・第一、証拠が無ぇじゃねーかァっ!!」
「証拠なんていらねぇよ。ホンモノじゃあるまいし」
これまでにない醜態を晒しているギコに、追い打ちをかけていくウララー。
彼の言う事に偽りも嘲りも全くないが、十分にギコの心をいたぶっていく。
436
:
魔
:2007/10/21(日) 19:23:07 ID:???
※
ウララーが言葉を紡ぐ度、ギコは泣き叫ぶ。
仲間割れのような、そうでないようなやり取り。
それを見ていたメイは、混乱と共に心に落ち着きを取り戻す。
「ぐぎゃああああぁぁぁァ!!」
連続した発砲音がして、ギコの慟哭が強くなった。
見てみれば、肩甲骨の所に赤い穴ができていた。
もう、これでは両腕もまともに動かす事ができないだろう。
「・・・ねえ」
堪らず、ウララーに問う。
だが、ギコの慟哭が酷いせいか届かなかったようだ。
もう一度、少し声を荒げて問う。
「ねえ、なんで殺すの?」
今度はちゃんと届いたようで、ウララーがこちらを振り向く。
その眼は威圧感を放つものの、先程のように強い感情があるわけではなかった。
「虐殺厨だからだよ。爽快感欲しさに、誰彼構わず殺すような奴の事さ」
「虐殺・・・」
「加虐者であれ、虐殺厨になった奴は糞虫と同じ価値。いや、それ以下だ」
「・・・」
「勘違いするなよ。助けるつもりでやったわけじゃないからな」
冷徹に、淡々と喋るウララーは機械のように冷たかった。
Vと彼との関係はわからないが、復讐を終えた今、ウララーに点く火はないようだ。
それでも、燃え尽きてその場に崩れ落ちることなく仕事を熟すのには、寧ろ畏怖してしまう。
(虐殺・・・厨・・・)
ギコの方に目線を落とす。
余りにも醜い顔を晒し、腕のついた達磨と化したそれにはもう恐怖することはない。
泣き叫び、様々な体液を垂れ流す様は自分に新しい感情を芽生えさせた。
声には出さず、心の中で高らかに、ギコを見下ろしてこう呟く。
―――ざまあみろ、と。
「うあ、ぁぁぁ・・・ぐうううぅぅぁァ!」
地面にかじりつき、なお悶絶するギコ。
自分が眼前まで近付いても、気付く気配はない。
それほど、今感じている痛みは凄まじいのだろう。
「糞虫以下なら、何やってもいいの?」
ウララーに、二度目の質問を投げ掛ける。
「さあな」
至極短い返答。
雰囲気からして、本当の質問にも答えてくれたようだ。
再度ギコに向き直り、ナイフを構える。
「・・・僕、は。こいつの仲間にこんな身体にされた」
何故か、口を開いてしまった。
別に重要な話でもないというのに。
それでも、誰かに聞いてほしいという気持ちが、更に言葉を紡ぐ。
「だから、刃を向けるのはこいつじゃないかもしれない」
「・・・」
「でも、虐殺厨とかいう奴だったなら・・・多分、仲間も殺してる」
譫言に近いそれを、ウララーは黙って聞いているようだ。
顔が見えないから、どういった気持ちで聞いているのかわからないけど。
「・・・虐殺はしない。復讐だから、僕はこいつを殺す」
ナイフを握り締め、切っ先を目標に向けたまま掲げる。
そこで、ギコに左眼を奪われた時の事を思い出した。
眉間を狙っていた刃を少しずらし、一気に振り下ろす。
ギコは、惨めな姿のまま左眼を失って事切れた。
437
:
魔
:2007/10/21(日) 19:23:40 ID:???
※
最後の最期まで慟哭を吐いていたことから、恐らく誰に殺されたか理解していないだろう。
僕は柄が潜り込むまで刺さったナイフを抜きながら、そんなことを考える。
「・・・」
もう、この青い死体には何の感情を持つことはない。
それに、まだやるべき事は残っている。
今この場にいる加虐者の、ウララーとの決着だ。
ぽつ、と頬を何かが叩く。
仰ぎ見れば、鉛色の空が泣いていた。
誰の為に、何の為に泣いているのかはわからない。
木々もそれにざわつき始めた時、場違いな金属音がした。
振り向くと、ウララーがこちらに銃口を向けている。
「計算があっていれば、後一発残ってる」
雨音のノイズに遮られることなく、その言葉ははっきりと聞こえた。
「この弾、誰に使えばいいと思う?」
「・・・」
真意は、汲み取れない。
雨粒というスクリーンが、ウララーの心を覆ったから。
でも、雨の冷たさに打たれ、頭の冷えた僕は既にその答えを知っていた。
「少なくとも、僕に使うべきじゃないと思う」
まだ、死にたくないから。
そういった意味で、発した。
「・・・そう、だよな」
ありがとう、とウララーは続けた。
理由は、わからなかった。
わかった所で、僕にとってはなんの意味もなさないないだろうけれど。
「俺が殺すのは虐殺厨で、お前は殺人鬼。つまり、そういうことだな」
「・・・」
「もうお前を追う理由はない。行け」
その言葉を聞いて、僕の脚は動き出す。
ほんの少し前に、飛び込もうとした森の中へと、進む。
「・・・だがな」
二、三歩歩いた所で、ウララーが呼び止める。
僕は止まり、背中でそれを聞いた。
「次に何のしがらみもなく出会った時は、容赦なく殺す。いいな」
暫く、雨音というノイズに聴き入りながら、その言葉を噛み締めた。
そして、無言で頷き、緑の中へと駆け込む。
水が打つ音。
木々がざわつく音。
何も聞こえなくなるまで、僕は駆けた。
438
:
魔
:2007/10/21(日) 19:24:44 ID:???
エピローグ
『裏』
※
視界を阻む程降りしきる雨の中を、ひたすら走る。
灰色に染まった世界で、AAの気配は己以外に感じなかった。
「・・・痛、っ」
Vを仕留める為にした無茶が、やっと声をあげた。
内臓はやられていないようだが、その傷は深い。
ウララーはその傷を握るように押さえ、ひた走る。
メイに使わず、銃弾を残した理由はある。
まあ、あの時本人が死を受け入れていたならば、そこで使ってはいたのだが。
着いた所は、小さな殺人鬼を追い詰めた路地裏。
フーがここで殺されるなんて、予想できる筈がなかった所。
いや、実際は殺されてはいない。
Vの言葉が正しければ、フーは生きている。
そうでなくとも、確認をしなければならない。
一時期だけでも、己が助けた命なのだから。
段々と、足取りが重くなる。
フーの姿を見るのを、心が拒んでいる。
それでも、行かなければならない。
ホルスターにおさめた銃を握り、水溜まりを踏み潰していく。
不意に、足元の水溜まりにまだ新しい血が流れ込む。
息を呑んで、更に奥へと進んでいく。
まだ洗い流されなかった肉片や血糊が、壁にこびりついているのを眺めながら。
じわじわと、鼓動が嫌な感じに強くなっていく。
「・・・!」
見つけた。
そこにあったのは、肉塊だった。
目を凝らすと、皮を剥がされた達磨だということがわかった。
壁に横たわるように置かれているそれは、まだ生きている。
必死に腹を上下動させ、ひゅうひゅうと鳴る喉。
時折、口と思われる部分からは血と涎が一緒に流れ落ちる。
遠目に見ても、その体格はフーと同じ。
いや、もうウララーは既にその肉塊がフーだと理解していた。
肉塊の足元に落ちている赤黒い紐が、全てを語っていたからだ。
「・・・」
言葉が、見付からなかった。
もう助からないということしか、わからなかった。
歯を抜かれ、自害もできなくなったフーは何をどう思っているのだろうか。
これ以上の散策は不要か。
そう思ったウララーは銃をその肉塊へと向ける。
そして、最後の炸裂音を路地裏に響かせた。
腹すらも動かなくなった肉塊。
ウララーはそれをゆっくりと抱き上げる。
(墓・・・作ってやらないとな・・・)
黒い腕が赤く染まり、血の臭いが己を包む。
何も考えず、ゆっくりと足を動かして帰路につく。
―――途中、頬を何かがつたうのを感じた。
それは涙なのか、雨粒なのかはウララーにはわからなかった。
439
:
魔
:2007/10/21(日) 19:25:22 ID:???
エピローグ
『表』
※
視界を阻む程降りしきる雨の中を、ひたすら走る。
灰色に染まった世界で、AAの気配は己以外に感じなかった。
殆ど同じような景色を縫い、駆けていく。
すると、不意に視界が開けた。
足を止めてみれば、そこは懐かしい場所だった。
一ヶ月前に、奴らの手から逃れてきた場所。
似たような景色の中でも、ここだけははっきりと覚えていた。
「・・・う、っ」
不意に、吐き気を催す。
吐こうとすると、胸元に鋭い痛みが走った。
構わず、胃の中にあるものを押し出す。
雨が降っているさなかで、別の液体が撒かれる音。
全てを吐き、二、三度咳き込む。
胸の痛みが取れないまま、出たものに目線を落としてみる。
「あ・・・」
そこには夥しい量の血が流れていた。
愕然として、握っていたナイフが指から滑るように落ちた。
堪らず、何度も咳き込む。
口を押さえている手に、更に血が付着していく。
止まったかと思えば、立て続けに目眩が襲ってきた。
成す術なく、その場に倒れ込む。
正直、よくここまで来れたなと思う。
ギコの恐ろしい暴力のせいで、ボロボロになった身体。
あの時に、暴れた肋骨が内臓を傷付けた事には気付いてはいた。
それが今になって、揺り返しのように一気に襲ってくるなんて。
喉が熱い。
身体は冷たくなっていく。
段々と、呼吸することすらきつくなってくる。
死ぬ。
その運命は、すぐそこまで来ていた。
眼も霞み、もう何も感じることができない。
指先一つ動かせない程麻痺してきた時、ふと眼前のナイフを見遣る。
銀色の刃に雨粒が落ちては消え、まるで宝石のように輝いている。
(・・・ああ)
『生き延びる』という願いが潰えそうな今になって、いいものが見れた気がした。
思えば、このナイフがなければ、自分は何も出来なかった。
身体の一部のように、当たり前のように扱ってきて、あまり向き合うこともなかった。
今更だけれど、このナイフに感謝をしなければ。
メイは心の中でありがとうと呟き、醒めることのない眠りへと落ちた。
―――被虐者であったメイは、被虐者の運命を拒んでここまで来た。
そして、それに必死で抗ってもきた。
だが、その時はあまりにも短すぎた。
たった一ヶ月の間だけ、自分なりの冒険をした。
雨に打たれ、横たわっている今、彼は何を想っているのか。
それは、誰にもわからない。
440
:
魔
:2007/10/21(日) 19:25:58 ID:???
※
全ての歯車は、回転を止めた。
隣り合う者も、ぶつかり合った者も、砕けていった。
今、残っている歯車は一
歯車は一人では回ることはできない。
しかし、歯車がなくても街という時計は時を刻む。
街は更に新しい歯車を生み出し、壊す。
混沌とした輪廻の輪は、止まる事を知らない。
今日もまた何処かで、様々な歯車が噛み合い、回っている。
―――天と地の差の裏話。
小さなこの物語は、ここでおしまい。
441
:
魔
:2007/11/10(土) 15:33:54 ID:???
『表話』
※
世の中には様々な姿のちびギコがいる。
目の色から毛並み、尻尾の形も含めると数え切れない程だ。
そういったちびギコが産まれる理由は、同じように様々だった。
どこぞの変態がアフォしぃを犯したり、逆にアフォしぃが自分より弱い者と無理矢理交えたり。
そういった異種同士のやりとりからの発生、あるいは唯の突然変異という事と世間では言われている。
今回はその様々なちびギコ達の中でも、『より珍しい者』の話。
上記の理由をもってしても、なかなかお目にかかれない者の物語だ。
※
街の中央に位置する、雑木林を切り拓いた巨大な公園。
そこからあまり離れていない所に、被虐者の集まる空き地がある。
雑に置かれた土管やブロックもあり、雨風をしのぐ位はできる。
そんなごく普通の空き地に、物語の要はいた。
「・・・ぐぅ」
空き地の真ん中で、ブロックを高く重ねたものの上で丸くなっているちびギコ。
彼には勿論家などなく、出生もわからぬままここで暮らしている。
普通ならば、家族も名前も何もないちびギコなど仲間にまでも見捨てられるだろう。
だが、彼は違った。
誰も持っていない武器を持ち、それを最大限に利用してきたのだ。
その武器とは、『身体の色』の事だ。
ギコ種のそれよりも濃い青と、光沢さえ見えてしまう毛並み。
先の折れた耳には、一文字に鮮やかな白いラインが走っている。
瞳は身体の色と相反して、朱と紅が混じったかのように輝いていた。
あまりにも世間離れしつつ、被虐者らしからぬ艶やかさ。
何も知らない者なら、血統書つきと言われてもすぐに信じてしまう程だ。
しかし、一枚皮を剥いでしまえば糞虫と呼ばれているちびギコと全く同じ。
彼の浅はかな思考では、今の生活で精一杯、かつご満悦なのだ。
「アオ様、起きて下さいデチ」
ブロックを昇り、青いちびギコに仲間と思われる者が耳打ちをする。
それに反応し、アオ様と呼ばれた青いちびギコはゆっくりと顔を上げた。
二、三度目を擦り、大きく背伸びした後、仲間の方を向く。
「何デチか?・・・アオ様はまだ眠いデチよ」
「ご飯の時間デチ。既に準備をしてるから早く来て下さいデチ」
「ああ、なるほど。ご飯なら仕方ないデチね」
渋々とした意思を言葉に表しても、表情は嘘をつけない。
気怠さを吹き飛ばし、眼を爛々と光らせながらブロックを飛び降りる。
積み上げたブロックの、後方にある土管の裏に回り込む。
そこではまた別の仲間が数匹、残飯とおぼしきものを列べて待っていた。
彼等のちょうど真後ろ、木で出来た塀の下には、小さな穴があいている。
恐らく、あまり目立たないそこを主に、このちびギコ達は残飯探しをしているようだ。
「アオ様、これが今日のご飯デチ」
「いつもより多く肉をゲットできたデチよ」
アオ様とやらに収穫の成果を報告する彼等も、やはり様々な姿である。
しかし、その身体もゴミ漁りやら何やらで汚れてしまっている。
それに対し、アオ様はその綺麗な体毛を綺麗なままで維持できていた。
何故、同じ場所で生活をする彼等に、ここまで差があるのだろうか。
442
:
魔
:2007/11/10(土) 15:34:17 ID:???
※
答えは至極単純なものだった。
アオ様が、他の仲間に雑用等を全て押し付けていたのだ。
だが、それだけの理由では、ちびギコ達はおろか、全てのAAは納得できないだろう。
『働かざる者、食うべからず』。それを無視できたのは、やはり身体という武器が関係していた。
上流階級でもない限り、見る者全てを魅了する毛並。
物心ついた時には、住む場所もなく、家族も既にいなかった。
しかも、その派手さのせいかよく他のちびギコが寄ってきた。
本来ならば、ここで奇形だ害虫だと罵る輩が多くいる。
だが、このちびギコを見た者は、その美しさの前ににそんな言葉は口に出来なかった。
それでも、輝くものを持っていながらも所詮はちびギコ。
『弱き者は強き者に弄ばれる』という理を、脱する可能性を得たというのに。
青いちびギコは頭脳を悪い方向に、しかも稚拙に回転させた。
『ボクはマターリの神サマの、御使いなんデチ!』
群がってきたちびギコ達に、彼はそう言い放ったのだ。
勿論それはでっちあげで、本人はマターリの神など信じていない。
頭の悪い奴らを利用したいが為に、そんな嘘を吐いたのだ。
アオ様と呼ばれるようになったのも、その時に咄嗟に名付けたもの。
それから、アオは色々な嘘を作り上げては、ちびギコ達を利用した。
あまりにも無茶な注文をした時には、流石に反発する者も出てくる。
それすらも、その美しい姿に既に魅了された者達を使って排除した。
※
「ふむ・・・」
アオは、目の前に並べられた食料を品定めしていく。
肉や味の濃いものはそのまますぐに口に運び、他は乱雑に扱う。
残飯とはいえ、被虐者達から見たらそれは恐ろしい程の贅沢。
アオの傍若無人な行動に、涎をだらしなく垂らす者や、憤りを感じる者もいた。
それでも、彼等にとってアオは『マターリの神の御使い』である。
アオに不満を言ってしまえば、マターリの神から天罰が下るだろう。
そんなありもしない事に彼等は怯えつつ、アオの毛並みを眺めていた。
「今日はご苦労デチ。残りはお前らにやるデチよ」
と、品定めという名の好き嫌いをし終えたアオは、そそくさと元の場所ヘ戻る。
その場に残ったのは、汚いちびギコ達と生ゴミに近い残飯だけだった。
「・・・残りって、またコレだけデチか」
虫喰いのあるキャベツの芯を摘み、溜め息をつく者。
その横で、人参の皮をしゃぶる者も居た。
「文句も、陰口も言ったら駄目デチ。アオ様に失礼な事があったら、どうなるか・・・」
「でも、これで本当にマターリできるんデチかね・・・」
「・・・」
「信じる者は救われる。それを守るだけでいいんデチ」
「そうデチね。信じていれば、いずれアオ様がマターリへと導いてくれるデチ」
いつもと同じ流れからくるのは、いつもと同じ会話。
嘆く者がいれば、それの背中を押し助けあう。
健気ではあるのだが、やはり現実は厳しいものだった。
(フン・・・そうやって一生バカやって、僕の為に死ぬがいいデチ)
まともな敷居もないこの空き地では、そんな会話はアオの元に簡単に届く。
それを聞き、ほくそ笑みながらひなたぼっこをするのも、彼の日課。
まあ、視野を狭めればこれも『弱き者は、強き者に弄ばれる』事に等しい。
弱者は、強者の慰み物、或いは利用されるべきなのだろう。
443
:
魔
:2007/11/10(土) 15:35:14 ID:???
※
そんな被虐者達のやりとりを、影から観察する者が二人。
一人は頬がこけ、やたらとエラが目立つニダー。
職についていないものの、その肩書には守銭奴というものがある。
もう一人は、細長い髭をたくわえたシナーという男で、料理人だ。
「アイツか・・・噂通り、無駄に綺麗な奴ニダ」
ニダーの手にはいかにもといった怪しいスプレーと、袋があった。
吊り上がった細い目の奥では、アオを見詰めて爛々と光る瞳。
しかしそれは、毛並みに魅了されてのものとは違うようだ。
二人の目的は、言わずもがなアオを捕獲する事。
その筈だが、ニダーの相方であるシナーは、どこか不満げである。
「普通のちびギコじゃないアルか。あんなの、毛皮にしても価値ないアルよ」
「お前の発言は否定と肯定が混ざっててややこしいニダ」
どうやらシナーはニダーに詳しい説明を聞かされず、連れて来られたようだ。
ぶすくれて愚痴と不満を垂らしつつも、その手の中にはアタッシュケース。
中には自慢の包丁を入れており、料理ではなく虐殺に扱うものだ。
互いに相反する道具を持つ理由は、やはりニダーの考え。
そうこうしているうちに、目標であるアオはうとうととし始めていた。
「チャンスニダ! シナー、ウリの言ったように、しっかりと動くニダよ?」
「わかってるアル。寧ろそれの為に来ただけアルよ」
声を押し殺しての会話の直後、ニダーが動く。
足音をたてないように小走りをするが、枯れ葉や小石がそれを邪魔する。
地面を踏む度に乾いた音がして、これでは隠れていた意味がない。
案の定、後少しといった所でアオは目を覚まし、ニダーに気付いた。
「ん・・・誰デチか?」
(しまったニダ! でも、まだこれがあるニダ!)
アオが完全に目覚めるより前に、素早くブロックの前に走る。
そして、間髪入れずスプレーをアオに向けて、噴射。
「ひぎゃっ!? な、何・・・」
何するんデチか。そう言い終える前にアオは再び眠りについた。
ニダーが持っていたのは、睡眠薬の入った即効性のあるスプレーだった。
ふら、と倒れそうになる青い身体をニダーは上手くキャッチし、そのまま袋の中へ落とす。
「ホルホルホル。上手くいったニダ!」
独特な笑い声をあげ、ニダーはご満悦だ。
踵を返し、帰路につこうとした途端、ブロックの奥の土管の方から音がした。
ガサガサとその音は大きく、複数がこちらに向かっている。
「アオ様!?」
「そこのお前! 何やってるデチか!」
「アオ様が虐殺厨に掠われるデチ!!」
物音達はニダーに姿を見せるや否や、様々な罵声を浴びせる。
纏まりの全く感じられない発言は、ちびギコの頭の足りなさを感じさせてくれる。
それでも、アオに対する忠誠心、信仰心はかなりのもののようだ。
「煩い奴らニダ・・・」
普通ならば、こういった場合は他の者に見つかった時に『しまった』と思う筈だ。
しかし、ニダーはそう思うどころか、面倒事が増えたと歎いている。
それもその筈、ニダーは抵抗する者に対してはしっかりと対策を練っていたからだ。
まあ、実際はそこまで考え込んでの対策ではないのだが。
「シナー、出番ニダ」
444
:
魔
:2007/11/10(土) 15:35:45 ID:???
ぎゃあぎゃあ喚き立てるだけのちびギコ達を無視し、ニダーは連れの男の名を呼ぶ。
あまり間をあけずに、シナーがアタッシュケースの中身を持ち出してやって来た。
「なんと。こんな数の糞虫がここに居たのアルか」
「さ、後は頼んだニダよ」
ニダーはシナーの後ろ手にまわり、アオを入れた袋を肩に担ぐ。
それと同時にシナーは大振りの中華包丁を構え、切っ先を眼前に置く。
「直接的な恨みはないアルが、『食』の害虫として貴様等は捌いてやるアル!」
「アオ様を掠う虐殺厨め! 返り討ちデチ!」
互いに気持ちをぶつけ合うと、ちびギコは力強く地を蹴った。
それを迎え撃たんと、シナーは包丁を握り直す。
※
シナーは料理人であり、糞虫のことは人一倍嫌っていた。
アオを生け捕りにする時に不満を垂らしていたのは、この理由も含んでいる。
ちびギコは飲食店ではゴキブリと同一視されるものだから、それは仕方ないのだが。
生理的に受け付けないとはいえ、それが虐殺対象になると話は変わる。
ちびギコへのベクトルは一気に真逆を向き、虐殺には最高の相手と化す。
今のシナーは、眼に火が燈ったかのように熱くなっていた。
「はイイィィィ!!」
飛び掛かってきたちびギコに向かい、刃を振るう。
空を切り裂く音がしたかと思えば、瞬く間にちびギコの身体に赤い線が走った。
「!?」
そのちびギコは叫ぶことなく、空中で綺麗に輪切りにされた。
受け身も取れる筈がなく、そのまま肉塊として地にばらまかれる。
「ああっ!」
「そんなぁ!」
仲間が次々に驚くものの、名前らしきものは発さない。
どうやら名前を親から貰う事なく生まれ落ち、ここまで生き延びてきたようだ。
哀れむ事なんてあるはずはないし、それにこいつらには共通の名前がある。
「せめて『糞虫タン』と叫んでやるネ!!」
嘲りを含めた、気合いを込めての言葉。
包丁を振りかぶり、肩が外れんばかりの勢いで投擲。
鈍く重たい音を響かせながら、ちびギコ達の方へと包丁が飛ぶ。
「え ひぎゃブっ!?」
「ぐゃあぁがぁ!?」
軌道のど真ん中にいたちびギコ達は、首や腹を次々とかっ切られていく。
ボロ雑巾のような毛皮が、自身の血で艶やかに染まっていった。
水平に弧を画いた包丁は、軽快な音をたてて持ち主の手の中に戻る。
「ふむ。まだ生きてるアルか」
「あ、あうぅ・・・」
咄嗟に屈み、難を逃れた者が数匹。
全員、仲間の血が身体に付着しており、それが原因なのか腰を抜かしていた。
名前がないせいで馬鹿みたいな馴れ合いができず、恐怖に盲目になれていない。
シナーはちびギコ達を見てそう読み取り、次の行動に移った。
445
:
魔
:2007/11/10(土) 15:36:37 ID:???
「フム・・・」
死体を数えてみれば、思った以上のちびギコがここに居た。
一匹見れば三十匹と考えるのだが、流石に一辺に沢山集まっているのには堪え難い。
しかもニダーが狙っていたアオとやらにこき使われたのか、非常に汚い身体をしている。
より近くで見る程、毛並みはガビガビで変な方向に固まっているし、その色も凄まじい。
漂泊剤で洗うよりも、いっそペンキで塗り隠した方が楽ではないかと思われる。
ふと、ここで疑問が浮かび上がった。
身体をボロボロにしてまでアオに仕えていた様なのに、虐殺に入るとこの反応。
例えばアフォしぃによく見られる『マターリ』に関する宗教がある。
その信者達は様々な地域で活動し、酷い時には暴動や殺人を犯す者もいる。
神の為なら命懸けで尽くすというか、こいつらにはその精神が見当たらない。
自分だって、愛国心ならば誰にも負けない。
もしこいつらと同じ立場になったとしても、足首にくらいは噛み付いてやる。
(ひとつ、聞いてみるアルか)
疑問に対する一つの解答が閃いた所で、シナーは答え合わせの為にちびギコの前に進んだ。
おおざっぱな虐殺を仕掛け、残ったのは三匹。
ざ、と砂を踏む音に反応して、一匹のちびギコが驚く。
何の気無しに歩いただけなのに、この怯えっぷりには流石に呆れ返る。
「あひ・・・ひぃぃっ!」
あと一歩という所まで近付けば、糞尿を垂らして後退る。
涙も鼻水も涎もだらだらと溢れ、その様はどう見てもまともではない。
こうまでなっては、ちゃんとした会話は出来ないだろう。
そう解釈したシナーは足を早め、ちびギコの眼前まで近付いた。
そして、何も言わず包丁を動かし、そのちびギコの首を撥ねる。
「ひ、ひぎゃあああぁぁぁ!!」
真っ赤な生臭い噴水があがると同時に、側にいたちびギコが悲鳴をあげる。
仲間の血をもろに浴びたせいで、その不快感と恐怖は半端ではないようだ。
どちゃ、と首のなくなったちびギコが崩れると、つられて叫んだちびギコも泡を噴いて倒れた。
不愉快である。
何時もなら無茶苦茶な屁理屈を並べた後、自分達に虐殺されるのが定石だろう。
これではこちらがシリアルキラー、もとい悪者扱いだ。
最後の一匹に問うことが出来なかったら、ニダーに解釈を求めよう。
シナーは諦め気味にそう考え、残った者に近付いた。
「う・・・」
先程殺した者と同じような反応はしたものの、そこまで露骨なものではない。
逃げられないようにと首の後ろの皮を掴むと、すんなりと受け入れてくれた。
ひびは入っているものの、まだ精神崩壊は起こしていないようだ。
少しの余裕が見えた所で、先ずは最初の疑問を問う。
「お前、どうして真面目に助けてやらないアルか?」
「え、っ!?」
恐怖に震えあがっているちびギコの身体が、強く跳ねるのがわかった。
それと、隠し事がバレたかのような勢いで、心臓が激しく動き始めたようだ。
耳を寄せなくとも、掴んでいる手から心音が聞こえると錯覚する程。
構わず、質問を投げ掛ける。
446
:
魔
:2007/11/10(土) 15:36:56 ID:???
「アオ様とやらを、マターリを信奉してたんじゃないアルか?」
「そ、それ、は・・・その、っ」
「たった二人の加虐者が来ただけで、その信奉は崩れるものアルか?」
「あ、あう・・・」
疑問が、確信へと変わっていく。
それに倣って、ちびギコの愚かさから感じる愉快さが込み上げる。
シナーは鼻息がかかる距離まで顔を近付け、その確信を投げ掛けた。
「お前は馬鹿アル。騙されていると理解していながら、何故アオを崇め敬っていた?」
少しの間の後、ちびギコの眼が泳ぐ。
続いて身体の震えも加速し、小汚い顔は土気色でいっぱいだ。
今このちびギコは、己の弱さからくる葛藤で頭がいっぱいなのだろう。
アオの姿、加虐者の言葉、嘘か真か、自分がやってきた事は・・・と。
深く探らずとも、ちびギコの天秤には何が乗せられているか位はわかる。
真であれ偽であれ、こいつらにはマターリが必要不可欠のようだ。
だが、そのマターリはマターリでなく、しかも騙していた者があのような姿。
ならば自分達が信じていたマターリとは、一体何なのか。
ちびギコの思考など、だいたいこのような感じだろう。
(やっぱり、コレが最高アル・・・)
被虐者が己の愚かさに気付いたこの瞬間が、一番面白い。
眼の前で子供を殺された母親よりも、崩壊の度合いが違うからだ。
それに、このちびギコは中途半端な賢さのせいでこうなった。
アオの言うマターリが、嘘なのかと疑問視する位の賢さだ。
打開策を考える良さもなければ、逃避できる馬鹿さもない。
時間に余裕があれば、もっともっと遊んでいただろう。
だが、ニダーを待たせてはいけないので、ここらでお開きにする事にした。
シナーは最後にちびギコに耳打ちし、その場に打ち捨てた。
※
「二言三言で潰れるなんて、余程自分を追い詰めていたようだったアル」
「意見を表に出せない、自己主張できない奴らの末路はこれでいいニダ」
「自身で悩み、自身を責め、自身を破壊するなんて、手間のかからない良い奴アル」
「そういえばシナー、最後に糞虫に何か耳打ちをしてたニダ。なんと言ったニダ?」
「ああ、それは・・・」
二つの嵐が談笑しながら空き地から離れていくのを、一匹のちびギコだけが見ていた。
マターリの為に、アオ様に必死で仕えてきたはずなのに。
その頑張りは、虐殺厨にあっさりと砕かれてしまった。
仲間も殺され、あまつさえ御使いであるアオ様まで奪われた。
地獄よりも凄まじい世界となったこの空き地で、自分は何をしていけばいいのだろう。
恐怖と絶望と、あの虐殺厨が吐いた言葉のせいで身体が動かない。
『マターリとは、裏切りの味を濃くする為の調味料アル』
異国の訛りが入ったそれは、耳と脳にこびりついてしまっていた。
自分は死ぬまで、この惨状と言葉を脳裏に焼き付けなければならない。
そう考えてしまっても、叫ぶ気力すら失ったちびギコ。
他にある道も、後悔に後悔を重ねるだけの無限回廊。
現実と無知は、弱者にとってあまりにも残酷なものとなった。
447
:
魔
:2007/11/10(土) 15:37:58 ID:???
※
互いに結果に満足し、余韻に浸りながら帰路につく。
と、シナーはここで自分の中にまだ残っていた謎を思い出す。
「そういえば、まだ捕獲の理由を聞いてなかったアル」
「そんなに知りたいニダか」
にやにやと勿体振るニダーを見て、シナーは不満げだ。
だが、虐殺の余韻かその口元は緩んだままである。
「当たり前アル。料理人として、そのちびギコ捕獲のメリットが見付からないからアル」
「ホルホルホル。まあ、まだシナーには手伝って貰うから、今教えても支障はないニダね」
「いいから、早く教えるアル」
「わかったニダ。それは・・・」
「それは?」
稼げるものなら何でも扱う、守銭奴として名高いニダー。
そのニダーが今までやってきた事の中でも、それは一番奇抜なものだった。
「こいつを使って、マターリならぬ『健康』の信者を釣るニダ!」
その言葉の直後、シナーの眼が点になる。
訳がわからないのと、妄想についていけないという理由が半々だ。
あまりにも素っ頓狂な解答に、シナーは自分を宥める意味で掘り下げる。
「ニ、ニダー? そんな抽象的だと余計わからないアルよ?」
「これからじっくり説明するニダ」
※
要約すると、
『このちびギコを珍獣扱いして、店に出す』
『珍しさを武器に、身体の至る所に薬効があると偽る』
『客は効果のない霊薬に喜び、自分達は金に喜ぶ』
ということ。
シナーはニダーの説明に段々と食いつくも、その怪しげなやり方に不安を抱く。
その顔色を察したのか、ニダーは自分の細目を更に吊り上げてこう言った。
「質問があるならどうぞニダ。あらゆる解答、打開策はあるニダよ」
「・・・薬効がないかもしれないとケチつけられた場合はどうするアル?」
「その前に薬のもう一つの効果、『思い込み』を使うニダ」
「思い込み?」
ニダーいわく、薬の効果の半分は薬効で、残りは思い込みとのこと。
珍しいから、御利益があるから効くだろうといった事は、田舎等ではよく耳にする。
特に珍しいものに関しては、そこに医学的根拠がなくとも信じ込みやすいらしい。
今回の場合は、珍しさを全面的に押し出しての商売を狙うようだ。
「この毛並みと珍しさを利用して、『薬効があると思い込ませる』ニダ」
「ほうほう」
「更に、シナーの祖国から捕まえたと話を上乗せすれば完璧ニダ」
「・・・なぜ、私の祖国アル?」
「『脚のあるものは机と椅子以外食べる』と言われる程エキゾチックな国ニダ。そこから取り寄せたと言えば、信じ込みやすいニダ」
「・・・それは偏見アル。というか、もしかしてまだ付き合わさせるつもりアルか」
「当たり前ニダ。でも、お前に損はさせないニダ。どころか満足させてやるニダ」
「満足?」
448
:
魔
:2007/11/10(土) 15:38:19 ID:???
※
翌日。
人気の多い百貨店の横に簡易な店を設け、それは始まった。
勿論、その百貨店からの了承はちゃんと得て行っている。
「さあさあチョッパリ共! ウリの店に寄るがいいニダ!」
(こいつは真面目にする気はないのアルか?・・・)
ニダーの無茶苦茶な呼び込みに、シナーは多少不安を覚える。
だが、彼もニダーと同じ思いであり、早く客にきてほしいと心の中で願っていた。
何故ならば、見世物としてこのアオを『吊るし切り』にするからだ。
ニダーの言っていた、満足とはそのことだった。
シナーが想像していたのは、アオの写真と実物の毛皮の切れ端を肉骨粉にしたそれを袋詰めにする作業。
霊薬と呼ぶものだし、糞尿や細胞の一欠けらまで金にすると思っていた。
が、まさか一般AAの前でこんな珍しい者を虐殺するとは一片足りとも考えてもいなった。
解体ショーという相手も自分も楽しいものをしつつ、金儲けとは素晴らしいものだ。
(・・・にしても、コイツは大丈夫アルか?)
捕まえて以来、今だ眠っているアオ。
両手首をきつく縛り、そこから吊るしているというのに、本人は寝息を立てている。
ニダーの使ったスプレーが強すぎたのか、或いはこいつが鈍いだけなのか。
そんな事を考えていると、既に主婦達が店の前に集まっていた。
「あらホント。綺麗なちびギコねー」
「流石に鑑賞用に飼うなんて酔狂な事はできないけど、お薬になるならいいかもしれないわ」
「その毛並みの美しさが、私達に貰えるような薬って本当?」
「そうニダ! どころか身体の中もたちまち健康に、美しくなるニダよ!」
台本通りの説明で、食いつきはなかなかのようだが、まだ不安は全て拭えていない。
自分達だけが考えた要素だけでは、完全に保険という逃げ道を作ることはできない。
その場にいなかった者が、ごくまれに意外な目線で突っ込みを入れる事もある。
と、早速一人の主婦が疑問を持ち掛けてきた。
「念の為に聞くけど、そのちびギコってカラーひよこと同じ原理じゃないわよね?」
「どういうことニダ?」
「染めてるんじゃないかって。よくよく考えると、そんな綺麗な毛並みのちびギコっておかしいわ」
「ファビョーン!! このニダー様が用意したものに文句をつけるとはどういうことニダ!!」
「じゃあ証拠を見せなさいよ。本物だったら私達も文句は言わないわ」
「わかってるニダ!! シナー!」
短気過ぎるというか、物凄い剣幕でまくし立てるニダー。
毛皮を少しだけこちらに寄越せと、叱るように促す。
自分は呆れ気味に返事を返し、包丁を持った。
毛皮を扱う職人ではないが、トリの皮なら数え切れない程剥いできた。
それと同じ要領で、アオの臀部に切り込みを入れる。
「・・・ひぎゃっ! え、痛、痛い痛いっ!!」
と、どうやら痛みでアオが目を覚ましたようだ。
幸い暴れ始めるより先に切り離すことができたので、被害は少ない。
アオの両足首を片手で器用に掴んだ後、毛皮をニダーに渡した。
449
:
魔
:2007/11/10(土) 15:39:09 ID:???
「何す、い、いや、何デチかここは!?」
アオは喚き出すも、周りの騒々しさには勝らない。
寧ろニダーの怒りようの方が酷いと感じる位だ。
皆も気にしていないようだし、自分も無視するようにした。
「さあ、しっかりと目に焼き付けるニダよ!」
威勢よく声を出したニダーが取り出したのは、水の入ったボウルと漂白剤。
ボウルを置き、中に毛皮を入れた後漂白剤をなみなみと注ぐ。
直後、これでもかという位に乱暴に揉み洗いを始めた。
暫くそれを行った後、天に掲げるようにそれを取り出す。
「どうニダ!」
その言葉に続いて、主婦から感嘆の声。
それどころか、当たり前だと感じていた自分も驚いてしまった。
勿論色は落ちていないし、あれだけ乱暴にしておいて、毛がへたっていないのだ。
クセのようなものもなく、渡した時と同じ流れを保っている。
触った時には、そんなに硬く感じはしなかったのだが。
突然変異、偶然とはいえ、なぜそのような美しさをこんな糞虫が持っているのか。
そこだけは、やはり納得がいかない。
「まだ信じられないなら、通販で手に入るヤバイ洗剤ても持ってこいニダ!」
「誰もそこまでヒクツじゃないわよ。私買うわ!」
「ホルホルホル! そうなれば話は早いニダ!」
早速注文がやってきた。
値段はしっかりと店の前に書き記し、『1g100円』とかなりのぼったくりだというのに。
深い事を考えるより前に、誰もがこの毛並みに魅了されている。
虐殺という麻薬さえ超えたその中毒性は、どこか悍ましさを覚えた。
「シナー! 早速作るから材料を寄越すニダ!」
「了解アルよ」
作る、というのも、公平さを保つ為にアオをペーストにする事だ。
なにもかもを挽き肉より細かいものにし、後は適当な香料で臭みを消す。
主食でなく、調味料的な扱いを促せば、より嘘と気付きにくくなる。
早速取り掛かろうと、アオの脚を自由にさせる。
途端にばたばたと仰ぎ始めるも、声と一緒で周りの騒々しさに負けるもの。
あえてアオの罵声も耳にせず、包丁を逆手に構える。
後は簡単な精神統一。そして、
「はイイィァ!!」
脚を狙い、一閃。
「ひぎゃあぁぁぁあああぁ!!?」
すると、アオの甲高い悲鳴に併せてその青い脚が宙に浮く。
引力に引かれるより先に空いた手でまな板を持ち、しっかりとキャッチ。
ばたたっ、と複数の音がしたかと思えば、アオの脚は輪切りになってまな板に並んでいた。
「さ、どうぞアル」
「お見事ニダ!」
差し出せば、ニダーの褒め言葉と主婦達の黄色い声が重なる。
次いで、その奥のギャラリーからの拍手があがった。
「いあ、あああぁぁァ!! 脚、脚ぃぃぃ!!」
その中で不快に取れるものが一つ、アオの慟哭が耳に入る。
流石に脚は精神的ダメージも大きかったようで、いずれは痛みで更に叫ぶだろう。
ニダーと主婦達が喋っている間は、自分はこいつと遊ぶのもいいだろう。
「やあ、やあ。御目覚めアルか」
「な、なんなんデチかぁ! オマエはぁ!」
450
:
魔
:2007/11/10(土) 15:40:23 ID:???
「いや、なに。唯の料理人と商人アル」
「商人って! このアオ様にこんな事するのが商売デチか!?」
「そうアルね。しかも私達は君にいい事教えてるアル」
「はァ!?」
「お前、あの空き地でちびギコを利用していたアルね? マターリを巧みに使って」
その言葉の後、アオは言い留まる。
罪悪感のせいかどうかはわからないが、悪い事とは自覚していたのだろう。
まあ、そこで開き直ろうが反省しようが構わないのだが。
「そ、それがどうかしたデチか!」
「勿体ないアル。お前の毛並みは、もっと上手に扱えるアル」
「・・・え?」
と、アオは自分の発言に食いつく。
そこで、今行っている事全てをアオに教える。
勿論、詐欺ということは言わないでおいた。
※
「そ、そん・・・ふざけるなデチィイ!!!」
全てを知るや否や、怒りで泣き叫ぶアオ。
「勿体ない使い方をしたお前が悪いアル。だから、私達が教えてやってるだけアル」
「だからって! だからってぇぇ!!」
「授業料が命なのがそんなに不服アルか? まだ破格値だというのに・・・」
「シナー、早く次をくれニダ!」
「アイサー」
「あ、ちょ、待っ・・・ひぎゃあああああぁぁ!!」
脚を切り、尻尾を落とし、尻を削ぐ。
刃がアオの身体を走る度、それは心地よい音色となって返ってくる。
切り離したものをニダーに渡せば、アオはそれを拒んでまた叫ぶ。
定石である反応を示す様は、ギャラリーにも受けがよく、やっている側も気持ちが良い。
「も、もうやめてデチぃぃぃぃぃぃ!!!」
「まだまだアル。滴る血液もしっかりと金にして、ボロ儲けアルよー」
「誰かあぁぁぁぁ!! 助けるデチぃぃぃぃ!!!」
助けを呼んでも、皆亡くなっているわけで。
万が一に来たとしても、そいつにはアオの目論みも話した。
復讐に燃えるちびギコがアオを殺すというシチュエーションも見たかったが、それは心の中に仕舞うとしよう。
シナーはそう思い、なお叫ぶアオに包丁を走らせた。
※
アオがそういった毛並みだったのは、本当に偶然である。
突然変異。それが起こる確率は、天文学的な桁なのかどうかはわからない。
所詮はちびギコであるし、詳しく調べるという酔狂な科学者はいないだろう。
だから、今回の事もアオの肉の持つ成分がどうとか調べる者はいなかった。
それはニダー達にとって嬉しい誤算であり、本人は勿論気付いていない。
詐欺は誰にもバレる事なく、作戦は大成功のようだ。
―――これは、突然変異を成したちびギコの中の一人の物語。
街のどこかでは、似たような者のまた違った物語が語られているだろう。
機会があれば、それもまたいつか。
完
451
:
魔
:2007/12/13(木) 23:09:33 ID:???
『小話』(前編)
街にも忘れられた、とある廃屋。
外も内も草木が己を主張し、家としての機能を奪っている。
そんな廃屋の傍、森のようになった庭に、彼等はいた。
「・・・ふぅ」
どこか寂し気な表情を浮かべながら、毛づくろいをするちびフサ。
虐殺厨から逃れ、身を隠す為にこの土地に根を降ろしている。
家の中は使い物にならないので、彼は拾ってきた段ボールで雨風をしのいでいた。
「フサタン。そんな無理しないで、僕に一言頼めばいいデチよ」
「ちびタン・・・」
と、もう一人の住人であり、相方のちびギコがちびフサの後ろに立つ。
そして、手際よくちびフサの毛を綺麗にしていった。
ちびギコが『無理』と言ったのには、訳があった。
彼、ちびフサは加虐者に襲われ、その腕を一つ失ったのだ。
※
食糧確保の為にゴミ漁りをしていた所を、あるモララーに捕獲された時の事。
抵抗虚しく、赤子の手を捻るかのように左腕はもぎ取られてしまった。
『ヒギャアアアァァァ!!』
『今回は、これだけで勘弁してやる』
凄まじい痛みに悶える自分に、モララーははっきりとそう言った。
その後は命からがら逃げてきたものの、直後に激しい喪失感に襲われる。
身体の一部がなくなったということは、どんな事よりも辛いものだった。
同じ種族からは奇形と罵られ、自分のことすら満足に行えない。
マターリとは遠く掛け離れ、その思考を捨てるまでの時間はそんなに掛からなかった。
心にぽっかりと穴が開き、生きる理由さえ己の中から消えてしまいそうだった。
そんな自分を救ってくれたのは、ちびタンだった。
死人と何等変わりない自分に声を掛けてくれた、唯一のちびギコ。
『一人でも多く、マターリできたら嬉しいデチ』
ちびタンという、ごく普通の名前を持ったちびギコだった。
既にマターリなんて信じていなかったが、その気持ちが嬉しかった。
片腕になってから友人は皆逃げ、あまつさえ石まで投げて来た。
だが、ちびタンだけは、手を差し延べてくれた。
それから、生きようという考えが戻ったのはすぐだった。
―――だが、それもほんの少しの間だけだった。
ちびタンは身体の不自由な僕を助けてきてくれたが、まだ問題は残っていた。
心に開いた、大きな穴。
ちびタンの好意は、その穴を埋めてはくれなかった。
一時的に忘れさせてくれただけで、根本的な解決になっていなかった。
「・・・」
必死に毛づくろいをしてくれているちびタン。
嬉しいのだけれども、やはり何かが足りない。
俯いての溜め息は、これで何度目なのだろうか。
452
:
魔
:2007/12/13(木) 23:10:24 ID:???
※
夜。
ちびタンは既に夢の世界に旅立っていた。
僕はいつものように、心の穴、このもやもやした感覚と向き合っていた。
仮説も立てられない、理由づけも出来ない問題。
頭も心もずっと唸ってばかりの平行線。
埒があかないので、気晴らしに散歩でもすることにした。
ここ最近、虐殺という行為があまり目につかなくなった。
正確に言えば、表に出る虐殺厨の数が減っていただけなのだが。
だから、日中より更に安全になった夜は、散歩するのに絶好の時間だ。
虐殺が減ったという情報は、落ちていた新聞や、ラジオを盗み聞きしてのもの。
『一匹のちびギコが、無差別殺人を繰り返している』。
普通なら考えられないが、嘘の報道などすぐに忘れ去られる筈だ。
このニュースはもう一週間前から流れ、様々な場所で耳にしている。
警察が警戒も促していたし、実際に虐殺も減っていたし、事実に間違いないだろう。
(・・・会ってみたいな)
虐殺厨を虐殺し返す。
そんなちびギコがいるのなら、一度話をしてみたい。
何故、見境なくAAを殺しているのか。
どうして、虐殺厨を殺すことができるのか。
どうせなら、弟子入りも視野に入れてみようか。
虐殺厨を殺す程強いのなら、ついていけば楽に生き延びる事が出来る。
情報を耳にしてから、僕はそのことをずっと考えていた。
ふと空を見上げると、満月が出ていた。
その美しさは、空っぽな自分を癒してくれる。
マターリの神様は信じないけど、お月様はいつも僕を見てくれる。
ひとつ、お月様に願いごとをしてみようか。
流れ星のそれではないが、祈る形での願いだ。
目を閉じ、胸に手を宛てる。
「お月様、願わくばその強いちびギコに逢わせて下さいデチ」
心の底から、切に願った。
―――その時だった。
「グエっ!?」
短い断末魔が近くから聞こえてきた。
声色からして、それは虐殺厨のもの。
真逆と思い、その声がした所へと走る。
恐らく日中でも人気のない、細い道。
そこに、虐殺厨は倒れていた。
ぱっくりと裂けた首が、月光に照らされている。
そして、その影にその虐殺厨を殺した者が立っていた。
考えるまでもなく、そのAAは噂になっているちびギコ。
新聞にも書かれていた通り、ラジオで聞いた通り。
少し大きな身体をしたちびギコが、虐殺厨の血をしっかりと浴びていた。
「あ・・・」
僕は歓喜すると同時に、恐怖を覚えた。
それは、ちびギコから放たれる殺気が、僕に向けられていたからだ。
453
:
魔
:2007/12/13(木) 23:11:06 ID:???
影から出てくるちびギコ。
ゆっくりと、その身体が月光に晒される。
真っ白なその毛並みには、べっとりと血糊が付着している。
目線を上げると、地の白に茶と黒が混じっている顔。
あまりお目にかからない毛の色に、僕は少し驚いた。
ただ、負傷か虐待かはわからないけど、左目と左耳が彼にはなかった。
そして、もう一度目線を落とすと、真っ黒な腕が握るナイフがあった。
血を吸ったまま月光を反射するそれは、恐怖を感じさせる。
話し掛けようとするも、声がでない。
彼の真っ黒な眼が、とても恐ろしく思えたから。
口を開けば、手の中にあるナイフで切り殺される。
そんな幻覚さえ見えてしまった。
「・・・何か用?」
感情のない声。
彼の問い掛けに、我に返る。
「あ、その・・・キミが、噂になってるちびギコデチか?」
咄嗟に出した言葉は、当たり前の事を問うものになった。
他にも重要な質問なんて沢山あるだろう。
僕は自分に毒づくも、彼の返答を待つことにした。
「・・・」
不快だったのか、彼は無表情のまま死体に目を遣る。
そして、その死体にナイフを力強く突き立てると、そのまま切り開いていく。
ぐちゃ、と湿った気持ち悪い音が、肉塊となっていく虐殺厨から聞こえる。
照らすものが月であるせいか、溢れた血液がコールタールのように黒く見えた。
「君、片腕なの?」
と、解体に見取れていて、質問が来たのに気付くのが一瞬遅れた。
「あ、えと・・・そう、デチ」
腕のことに触れられるのは嫌だったけど、不満を言っても何にもならない。
寧ろ、片腕ということに恥ずかしささえも感じてしまった。
彼はあんな身体になっても、一人で生きているというのに。
僕は他人の力を借りて、生きている。
「・・・君達って、面白いね」
「えっ?」
思いもしない返答に、つい聞き返す。
「今まで色んなちびギコに出会ったけど、まともに話せたちびギコは皆身体の一部がなかった」
「・・・」
「そうでない人達は全員『マターリ』とか言って話が通じなかったから」
そう言うと、彼はどこか寂し気な表情を浮かべる。
庇うように左腕を握る彼を見て、僕はやっとそれに気付いた。
真っ黒な彼の左腕は、最初は毛の色だと思っていた。
だけど、それは間違いだった。
よく目を凝らすと、彼の左腕は重度の火傷。
花火やライターくらいの火ではつかない程、酷いものだった。
使えてはいるようだけど、片腕よりかなり目立つ怪我。
もしかすると、彼は僕より沢山のちびギコに馬鹿にされたのかもしれない。
それを裏付けるかのような発言が、彼の口からぽつりと零れた。
「僕もこんな身体だし、有る者には見下されても仕方ないのかもしれないね」
「・・・」
そんなことない。
そう言いたかった。
だけど、僕が言えたことではなかった。
454
:
魔
:2007/12/13(木) 23:11:46 ID:???
僕が言葉を捜していると、彼は解体に勤しむ。
どうしてバラバラにするのか、ふと疑問に思う。
だけど、その答えは聞かなくても、彼から教えてくれた。
虐殺厨の腕を切り離した彼は、更に皮を剥ぐ。
そして、露になったぬらぬらと光る肉を見詰め、それに口をつけたのだ。
一つ咀嚼し飲み込んだ後、今度は力強くかじりついた。
僕はそれを見て、一瞬寒気がした。
その直後、謎が氷解し感動という気持ちが心を染めた。
何故無差別に虐殺厨を殺してきたのか。
それは、自分の力を誇示させる為ではなかった。
彼は、『食事の為に虐殺厨を殺している』。
ゴミ漁りというハイリスク、ローリターンのそれよりも遥かに効率が良い。
先に殺せば、殺される心配もないし、手に入る量も半端じゃない。
「・・・それの為に、君は虐殺厨を殺してしたんデチか」
「うん」
感動し過ぎて、ついわかりきった事を問い掛けてしまったが、満更でもないらしい。
虐殺厨だったものを食べる彼は無表情だったけど、凄く嬉しそうだった。
だから、段々羨ましく感じてきた。
僕らより遥かに強い彼に、更に憧れを抱くようになった。
「あの・・・無理を承知で頼みたい事があるデチ」
利用する、という考えはいつの間にか吹き飛んでいた。
実際に出会ってみて、彼に心の底から魅入ったからだろうか。
或いは、同じような身体を持つからだろうか。
意を決して、問い掛ける。
「何?」
「僕も、き、君についていきたいんデチ・・・」
全て話してみた。
自身の強さに惚れ込んだこと。
虐殺厨を殺す術を教えて欲しいこと。
死に怯える日々から抜け出したいこと。
嘘偽りなく、あるがままを話した。
「ごめんね」
返ってきたのは、否定だった。
「僕も、自分だけの事で手一杯なんだ」
「・・・いや、いいんデチ。赤の他人がいきなり我が儘を言って、ごめんなさいデチ」
予想はしていたけど、少し寂しく感じた。
彼なら、僕の心の穴を埋めてくれそうな気がしたのに。
だけども、やはり片腕というハンデは大きすぎるのか。
俯くと、視界がうっすらとぼやける。
いつの間にか、僕の目には涙が溜まっていたようだ。
見られまいと顔を逸らすと、血の匂いが強くなる。
顔をあげると、彼は虐殺厨のもう一つの腕を持っていた。
「代わりと言ったら難だけど・・・これ」
申し訳なさそうに、差し出してくれた。
僕は涙をこっそりと拭い、それを受け取る。
「ありがとう・・・デチ」
「いつも食べ切れないから、残しちゃうんだ」
軽い自虐を含めながら、彼は笑う。
つられて、僕も少しだけ笑った。
455
:
魔
:2007/12/13(木) 23:12:57 ID:???
初めて虐殺厨の肉を食べた。
火を通してないせいか、残飯よりも凄く生臭い。
だけど、一度口の中に入れれば、臭いは消えて美味しさが広がる。
新しい感覚に僕はひたすら感動し、貪るように食べた。
お腹も、何ヶ月ぶりにいっぱいにすることができたし、嬉しかった。
「虐殺厨って、こんなに美味しいんデチね」
「僕も、初めて食べた時は驚いたよ」
「それで、食べる為に殺すようになったんデチか」
「うん」
「羨ましいデチ。僕にも、そんな強さが欲しいデチ」
虐殺厨も殺す事ができて、食事にも困らない。
そんな素晴らしい生活ができる彼が、本当に羨ましくて堪らない。
夢物語なんかじゃなく、それを体言しているから、より憧れてしまう。
そんなことを思っていると、彼の口から意外な言葉が発せられた。
「僕は、強くなんかないよ」
「えっ?」
流石に、一瞬で理解できなかった。
謙遜なんかじゃなく、本当にそう思っての言葉。
どういうことか聞く前に、彼が先に答えを教えてくれた。
「僕は君達と変わらない、普通のちびギコなんだ。ただ、ナイフを持ってるだけ」
次いで、ナイフと身体の傷の事も話してくれた。
虐殺厨に捕まり、生き地獄を見たこと。
「耳をもぎ取られ、腕を焼かれた。
それでも、絶対に生き延びる事を誓った。
どんな小さなものでも、チャンスだけは逃さなかった。
そして、左目を犠牲にして虐殺厨から逃げ出せる事が出来た。
その時に、このナイフを手に入れたんだ。」
坦々と話す彼。
その内容は僕が体験したものよりも遥かに辛いものだった。
ナイフを手に入れた後の話も、決してゴミ漁りより楽じゃない。
仲間も親もなく、たった一人で生き延びてきた彼。
なのに、彼自身は自分を強くないと評する。
納得がいかなくなって、僕は更に聞いてみた。
「虐殺厨を殺せるだけでも、十分に強いデチ。なのにどうして・・・」
「・・・君と、僕の違う所。わかる?」
「?」
「ナイフがあるかないか。それだけ」
ナイフという『力』。
ちびギコでも、力を持つことができる。
それを持つことができれば、後は『気持ち』次第だ。
彼はそう語ってくれた。
凄く単純なことだけど、僕はそれに心を打たれた。
『気持ち』と『力』があれば、なんでもできる。
彼だって、生き延びたいという気持ちとナイフという力だけで、虐殺厨を殺している。
段々と、僕の心の穴が埋まっていく。
高ぶる気持ちに合わせて、それは小さくなっていく。
彼についていくという事はできなかったけど、新しい道を教えてくれた。
それだけで、凄く嬉しかった。
※
暫くの間、僕等は会話と食事を楽しんだ。
二人で食べたせいか、虐殺厨は殆ど骨だけになった。
肋骨を露にした間抜けな虐殺厨を見て、一緒に笑ったりもした。
そして、彼はまた『生き延びる』為にここを離れるようだ。
僕は感謝の言葉と、また逢いたいという願いを込めて、
「またね」
と大きく手を振って言った。
名前を聞く事は、すっかり忘れてしまっていた。
456
:
魔
:2007/12/13(木) 23:13:33 ID:???
※
朝になった。
僕はあの後、ちゃんとちびタンの所に戻った。
興奮し過ぎていて、なかなか寝付けなかったけど。
今日は早速、あの彼に教えてもらったことを試すことにした。
先ずは、『AAを殺すことが出来る道具』を手に入れないと。
虐殺厨は、身体の丈夫さを武器にできる。
ならば、その丈夫さを超える力があればいいんだ。
ガラス片であれ、丸腰な虐殺厨なら上手くやれば殺せる。
小さな刃物でも、扱うことができれば十分。
あのナイフの彼だって、刃渡り十数センチの力で何人も殺してきたんだ。
「・・・ねぇ、何するんデチか? こんな所で」
僕が来たのは、大小様々な鉄くずを集めている広場。
どういう施設なのか、詳しいことはわからない。
けど、ここに来たら何かありそうな気がしたから。
「ちびタンには関係ないデチ。別についてこなくてもよかったのに」
「で、でも、片腕のフサタンはほっとけないし・・・危ないことは、しちゃ駄目デチ」
急に、ちびタンが欝陶しく思えるようになった。
僕の事を想い、いろいろとしてくれるのは素直に嬉しい。
だけど、四肢があるくせに纏わり付くのが、段々と不快に感じてくる。
彼に出会ったせいだろうか。
いつも傍にいるちびタンより、一夜だけ話した彼の方が、優しかった。
上からでも下からでもなく、同じ目線で僕を見てくれた。
「・・・」
そこまで考えた所で、僕は思考を止めた。
先に成すべきことを成してから、そこから次の問題に取り掛かろう。
僕は小さい鉄クズの山に手を置き、目当てのものを探した。
※
ガシャガシャと、鉄クズの山が唸る。
それを聞く度、ちびタンはオロオロと落ち着かない。
辺りを見回しては、いちいち耳打ちをしてくる。
「そ、そんなに音を立てたら、虐殺厨に見つかるデチよ」
「ちびタンは黙ってて欲しいデチ」
それに、虐殺厨はこんな所に来る筈がない。
僕等ちびギコが殆どいないのに、わざわざ歩きにくいここに足を運ぶことはない。
何度も説明したのに、ちびタンは全く聞いてくれない。
ガラクタを掻き分ける度、掌が汚れていく。
自慢の毛並みもくしゃくしゃだし、疲れも感じてきた。
だけど、僕の手はもう頭では止まらなかった。
帰巣本能のような、磁力のような感覚が僕の心を埋め尽くしている。
と、
「痛っ!」
指が何かに刺さったようで、咄嗟に腕を引っ込める。
ふと、痛みを感じた指を見ると、ちょっとした量の血。
それは小さな膨らみになった後、つう、と掌へと滑り落ちた。
「大丈夫デチか!?」
怪我をした僕を見て、酷く慌てるちびタン。
手を見せるよう言われたが、僕はそれを無言であしらう。
ちびタンの不快な思いやりよりも、それが気になる。
ガラクタを掻き出し、僕の手に傷をつけたものを、取り出した。
457
:
魔
:2007/12/13(木) 23:14:20 ID:???
※
それは、単なる金属片だった。
多分、何か大きな鉄の塊の一部分だろう。
金属片は引きちぎられたように伸び、そこが刃の役割をしている。
都合よく柄のような形をした部分もあり、そこを握ってみる。
翳してみると、なかなかかっこよく見えた。
ギザギザの刃は銀色に光り、他は錆で被われ、僕の毛色みたいだ。
(・・・これデチ)
求めていたものは、あっさりと見つかった。
切れ味は、どう考えてもまともではなさそう。
だけど、この金属片はどの刃物よりも僕に馴染みそうな気がした。
力を手に入れた。
まだ試してすらいないのに、漠然とそう頭の中に言葉が浮かぶ。
後は、『気持ち』。
それは既に用意してある。
僕の中で、燻っていた念い。
片腕だからという理由で、諦めていた。
だけど、これを見付けた途端、その念いは燃え盛る。
―――僕を馬鹿にした奴らへの、復讐。
好きでこんな身体になったわけじゃないのに。
僕を見る度嘲笑い、暴言や石を投げて来た奴ら。
あの時は本当に何もできなかったから、成すがままだった。
ちびタンはそんな僕を支えてくれたけど、それも今日でおしまいだ。
今の僕は、何もできないわけじゃない。
心を真っ黒な炎が包み、激しく、それでいて静かに燃え盛る。
その炎が消えてしまう前に、奴らを焼き殺してしまおう。
そう決意し、ガラクタの山から離れようとした。
その時だった。
「フサタン!」
ちびタンが、僕を呼び止めた。
その声は少し掠れていて、本人も息があがっている。
どうやら僕が物思いに耽っている間も、喚いていたようだ。
振り向き、聞き返す。
「何デチか?・・・僕は今から、することがあるデチ」
「そんな危ない物使って、何する気デチか!」
半ばヒステリックに叫ぶちびタン。
その顔は少し青ざめ、どこか怯えているように見える。
僕は包み隠さず、胸中の事を伝える。
「復讐デチよ。僕はもう、何もできないわけじゃない」
「復讐って・・・まさか!?」
「そんなに驚かなくてもいいデチ。まあ、そのまさかなんデチが」
金属片を見詰めながら、呟く。
くい、と角度を変えて刃に光を当ててみると、僕の顔が映った。
それは刃の形に沿って歪み、僕の顔そっくりな悪魔が笑っているかのよう。
暫く眺めていたかったが、ちびタンの言葉でそれは叶わなかった。
それは、あまりにも心ない言葉だった。
「はぁ、全く。何を言い出すかと思えば・・・」
「・・・ちびタン?」
「いつも僕に助けられてるフサタンが、そんなこと出来る筈ないデチ」
「・・・」
「片腕のくせに、そんなガラクタ持っただけで復讐なんて無理デチよ」
458
:
魔
:2007/12/13(木) 23:15:10 ID:???
※
最も聞きたくなかった言葉。
それは、いつも傍にいたちびタンの口から、放たれた。
「いやはや、まさか自殺するんじゃないかってヒヤヒヤしてたけど、杞憂だったデチ」
「・・・」
「下手に引き止めたりしたら、フサタンが暴れて山が崩れて生き埋めだとか、考え過ぎてたデチ」
頭の中が真っ白になった。
でも、ちびタンは構わず喋り続ける。
ちびタンは僕の為にいろいろしてくれた。
だけど、心の中では片腕の事を馬鹿にしていた。
信じたくないけれど、本人が目の前でそう言った。
片腕のくせに―――。
そこに嘲けりがなくても、僕の心は酷く傷つく。
そして、その傷から激しく炎が顔を出す。
「ちびタン・・・」
「ん、何デチか?」
「僕にやさしくしておいて・・・本当は、影で馬鹿にしていたんデチね・・・」
「馬鹿も何も、片腕を擁護する奴なんているわけないデチよ」
話を全て聞けば、ちびタンは自分の為に僕を手助けしていたとのこと。
表面上では優しくしておいて、裏で僕を見下す。
『キケイを介護してやるなんて、僕はなんて慈悲深いんだろう』と。
そこに罪の意識なんてなかったかのように、ちびタンは面白おかしく喋る。
結局、ちびタンは奴らと同じだった。
こんな奴に心を開いた自分が情けない。
得物を握る手に、力が入る。
炎が、そいつも殺してしまえと命令する。
味わわせてやる。
僕の苦しみを。
切り刻んでやる。
僕の力で。
得物を逆手に持ち直し、ちびタンに迫る。
まだへらへらと喋るちびタンは、僕の殺気に気付いていない。
目と鼻の先まで近付いて、得物を振り上げる。
そこでやっと、ちびタンは口を動かす事をやめた。
「・・・へっ?」
刃物が、自分の肩口に突き刺さっていたからだ。
僕も、いつ振り下ろし、刺したのかわからなかった程。
そのくらい、ちびタンの肉が脆いのか、得物の切れ味が凄まじかったのか。
「ひ、ヒギャアアアァァァァア!!?」
ちびタンは刃から離れるように倒れ、その場を転げ回る。
真っ赤に染まった金属片は、ぬらぬらと光る血を滴らす。
刺してしまった。
虐殺厨なんかじゃなく、同じ種族をだ。
だけど、罪悪感なんてこれっぽっちも生まれない。
生臭さと肉を裂く感触に、ちびタンの慟哭から感じるもの。
それは、他人を見下す時に得られる『幸福』だった。
459
:
魔
:2007/12/13(木) 23:16:23 ID:???
『見下す』。
その行為は、あまりした覚えはなかった。
見下されたことなら、不本意だけど腐る程あった。
沢山のちびギコが、それをしてきた訳が今理解できた。
誰かを見下す事は、この上なく気持ち良い。
僕は暴れるちびタンを止める為、脚でそのお腹を踏み付ける。
呻きが聞こえると同時に馬乗りになり、刃を首に宛てがった。
「ひい・・・っ!」
怯え、涙目でこちらを見遣るちびタン。
完全に恐怖に呑まれているようで、身体の震えが嫌というほど伝わってくる。
肩口を傷付けただけだというのに、先程の態度とは全く違っていた。
「どうしたんデチ? そんなに怯えて・・・」
「いや、やめて、デチ。こっ、殺さない、でえっ」
と、ちびタンが嗚咽を漏らしながら懇願する。
そこで、どうしてそこまで恐怖に苛まれているのかがわかった。
ちびタンの真っ黒な瞳に、僕の顔が映ったから。
それは、自分さえも竦み上がる程酷いものだった。
憎しみがそこから駄々漏れているのも、はっきりとわかる。
憎悪という化け物に睨まれて、ちびタンはこうなったんだろう。
「・・・」
だからといって、気持ちがわかったからって、手を止める理由にはならない。
寧ろ怯えてくれて好都合。ここから、ちびタンを僕の好きなように扱えるわけで。
手は傷口を押さえてて、自ら抵抗しないようにしてるのと同じ。
脚はもちろん、僕が馬乗りになっているせいで使えるわけない。
今から、得物という力を使って、ちびタンを十二分に弄んでやれる。
「殺すか殺さないかは・・・僕が受けた苦痛の大きさで決まるデチ」
刃を反し、付着していた血をちびタンの頬になすりつける。
自分の血だというのに、ちびタンは悲鳴を押し殺して顔を逸らす。
嫌がるくせに、傷口を押さえる手は動かそうとしない。
しかも、そのくらいの傷で痛がるなんて、もぎ取られた僕はどうなるのだろう。
「ご、ごめ・・・ごめんなさ・・・い」
「謝るデチか。さっきはやって当然といった物言いだったくせに」
「あ、ああぅ・・・」
「片腕に命乞いなんて、ちびタンは馬鹿デチねー」
眼はそのまま、刃を向けて嘲笑う。
すると、ちびタンにもプライドはあるのか、涙目で睨み返してきた。
倫理感に欠けるその意地は、少し不愉快ではあったけれど。
ただ殺すだけじゃあ、僕の怒りはおさまりそうにない。
だから、ちびタンにこれとない苦痛を与えるべきだ。
そこで、僕はある事を思い付いた。
恐らくそれはちびタンにとって、究極の二択かもしれない。
天秤にかける、一つの要素は命。
そして、もう一つは―――。
「ちびタン」
「え・・・?」
僕は問い掛ける。
囁くように、脅すように。
「片腕になるのと、死ぬのと。どっちがいいデチか?」
460
:
魔
:2007/12/13(木) 23:17:05 ID:???
「な、なん・・・っ!」
ちびタンが喚くより先に、得物の刃を頬に押し付ける。
そこから新しく血が流れた所で、ちびタンは喋るのをぴたりと止めた。
「文句でもあるんデチか? 断るなら、殺すかわりに『虐殺』してあげるデチ」
使う事はないと思っていた単語が、あっさりと言葉になる。
力を手に入れてからは、それが簡単に熟せそうな気もしている。
いや、今の僕は絶対に熟せる。
自分が片腕でも、ちびギコという弱い種族でも。
気持ちと力があれば、なんだってできる。
ナイフの彼が言っていた事は、本当なんだ。
「さあ、早く決めるデチ」
「うぅ・・・っく・・・」
涙をボロボロと零しながら、葛藤するちびタン。
十秒か、多分そのくらいの時間が経ってから、ちびタンは動いた。
傷口を押さえていた手を退かし、こう答えた。
「せめて・・・こっち・・・」
プライドよりも、命を選んだ。
死ぬことよりも、生き地獄を選んだ。
ただ、それは僅かな差での答だったようで、ちびタンは更に涙を流す。
身体の震えは、既に恐怖のものではなくなっていた。
「わかったデチ」
僕は、あまり間をあけずに言葉を返した。
そして、あえてゆっくりと刃を傷口に持っていく。
刃先で軽く傷口をつつくと、あわせるようにちびタンの身体は小さく跳ねた。
何度かそれを行った後、僕は囁く。
「叫んだりしたら、殺すデチ」
釘を打ったのは、決して他のAAに見つかる恐れをなくす為ではない。
単純に、ちびタンの行動を制限させる為だけのもの。
これとない激痛の上、叫ぶことができないのは、かなりの苦痛だろう。
だけど、僕はそれ以上に苦しんだわけで。
ちびタンは歯を食いしばり、右手は身体でなく地面を掴む。
どうやら、僕の言葉を綺麗に飲み込んでくれたようだ。
反論も罵倒もなく、怯えながら従うちびタンは見ていて面白い。
得物を強く握り、刃を進ませる。
先程刺した時よりも、更に深く、遅く入れていく。
ずぶずぶと入り込む感触は心地よく、肉を切断しているというのがよくわかる。
当の本人は瞼を強く閉じ、必死で痛みに堪えていた。
「よく我慢できるデチね・・・ちびタンは強いデチ」
「〜〜〜っ!!」
手応えがきつくなれば、一度引き抜いてまた入れる。
乱暴に突き刺すなんて事はせず、あえてゆっくりと行う。
長い間僕を苛んできた苦痛は、そうしないとわからないから。
また深くに刃を入れていくと、ちびタンは眼を見開いて堪える。
それでも、決して叫ぶことはなかった。
涙を零しながら、激痛に静かにかつ激しく悶えるちびタン。
その表情を見れば、絶景を眺めるより心が洗われる。
僕は網膜に嫌というほど焼き付ける為に、刃を動かす速度を更に緩めた。
461
:
魔
:2007/12/13(木) 23:17:57 ID:???
暫くして、ごつ、と鈍い手応えがあった。
一応意識しながら行ってきたけれど、こんなに硬いとは思っていなかった。
くすんだ赤や黄に塗れた肉の芯を成す、骨にぶつかったのだ。
果物を食べていて、偶然にも種を噛んでしまったような感触。
故意に邪魔されたような気がして、この上なく不快に感じた。
こんなに硬いものがあれば、出来るものも出来なくなる。
もっと、肉を切断することに浸っていたかったけれど。
僕は覚悟を促す為、口を開いた。
「ちびタン」
「っ・・・?」
「ちょっと乱暴にするけれど、大丈夫デチね?」
「・・・」
ちびタンは僕の言葉に頷く。
直後、地面を握っていた右手を口に持って行き、そのまま塞ぐ。
血や涙で汚れた顔に土だらけの掌が被さると、土埃は泥になり更に汚れる。
あまりにも汚いちびタンの顔に、僕はほんの少しだけ吐き気を催した。
だけど、ちびタンは僕の無茶苦茶な行動言動に素直に応じている。
そこだけは評価してやらないといけないかな。と僕は思った。
「・・・まあ、それが賢明デチ」
わざと口角を吊り上げながら、囁く。
ちびタンはもう、痛みを堪えるのに必死なようで、何も反応を示さなかった。
少しばかり生意気に感じたが、見方を変えたら余裕がないのと同じ。
ちびタンが壊れるのも、もう目の前かもしれない。
※
今から、ちびタンの腕を殺す。
骨はいわゆる、腕の命に等しいものだ。
それを砕けば、ちびタンの腕は死ぬ。
あの時の僕みたいに、激しい絶望感と喪失感に苛まれるだろう。
ちびタンが悪いんだ。
僕の事を影で嘲笑っていたから。
ただ馬鹿にし、石を投げるだけならここまでしなかった。
だけど、ちびタンは僕にやさしくしてくれた。
やさしくしてくれたから、『裏切り』なんてものが生まれたんだ。
※
得物を大きく振り上げる。
唯の金属片であるそれは、今だけギロチンの刃のように思えた。
罪人とも取れるちびタン専用の、断頭台でなく断腕台。
僕はそれ以上何も考えず、一気に振り下ろした。
途中、憎しみという感情が僕の腕を強く押したような気さえした。
「―――ッッ!!!!」
ばき、と凄まじい音がして、ちびタンの腕の骨が砕ける。
想像を絶する激痛だったのか、僕を振り落としそうな程ちびタンは身体を大きく跳ねさせた。
その後も、首やら脚やらをばたばたさせて酷く悶絶するちびタン。
叫ぶことができないぶん、苦しさは半端でない様子。
だけど、約束はしっかり守っていることから、まだ精神は壊れてないようだ。
こんな目にあっても、必死で自我を保とうとするちびタン。
捩曲がったその根性は何処からくるのかと、僕は心の中で毒づく。
肝心の骨は、どうやら上半分だけが割れただけのようで、完全に切断できていない。
骨の破片を刃先で取り除くと、骨髄らしきものがどろりと流れ出た。
462
:
魔
:2007/12/13(木) 23:18:18 ID:???
血が溢れ、肉が顔を出し、骨が露になっているちびタンの腕。
汚いそれが身体と離れるのは、もうすぐそこ。
もっと痛め付けてあげたかったけど、これ以上長引くと気絶させてしまいそう。
意識のないちびタンを虐めても、僕の心は晴れたりはしない。
「ちびタン、もう少しで終わるデチ。頑張るデチよ」
「・・・!!・・・!」
口を押さえて悶えるばかりのちびタン。
僕はそれを無視し、得物を振り上げ―――。
ばきん。
と、乾いた音が辺りに響き、ちびタンの骨は見事に割れた。
勢い余って、そのまま骨の下の肉も切断してしまったようだ。
「・・・やったデチ」
ちょっとした達成感に、僕はうっかり感嘆の声を漏らす。
ちびタンは眼を見開いたまま、涙をひたすら流している。
小刻みに震え、腹は上下動している所から、気絶はしていない様子。
ちびタンは今、何を考え何を想っているのだろう。
恐らくその心は僕と同じように、絶望と激痛でズタズタな筈だ。
しかも、これからちびタンは仲間と思っていたAAに見放されていく。
僕が見て来た地獄を、そっくりそのまま見てもらうんだ。
僕は立ち上がり、ちびタンから離れる。
もう、裏切り者には用はない。
「お疲れ様デチ。もう喋ってもいいデチよ」
「・・・ぅ・・・ぅあ」
何か恨み言の一つでも喋るかと思えば、それではなかった。
ただ、流す涙に合わせてえづき、鳴咽を漏らすだけ。
その様子から、十二分にちびタンの精神は傷ついたようだ。
僕は最後の仕上げに、ちびタンの耳にこう囁いた。
「ようこそデチ・・・僕が体験した『地獄』へ」
※
最初の復讐は、満足のいくものとなった。
これから、僕は更にAAを殺すだろう。
この得物を使って、僕を馬鹿にした者を片っ端から殺す。
虐殺厨と同類になっても、別に構わない。
力を手に入れた今、気持ちで突き進むだけ。
「ぁ、ぁ・・・うわあああああああああああ!!!」
広場を離れる途中、後方からちびタンの慟哭が聞こえた。
それは身体の芯にまで染み渡る程、良い声だった。
続く
463
:
淡麗
:2008/01/04(金) 20:22:21 ID:???
明けましておめでとうございます。
記憶のかなたに忘れかけているかと思われますが、
>>419
〜423の続きです。
どぞ
【ペット大好き日記!〜第3幕〜】
ただいまっと・・・
大学から帰宅した俺はわざとらしく声をかける。
返ってくる声はない。
だろうな。母親はサークル活動とやらで夕方まで居ないのを確認済み。
目標地点の主はまだ学校だ。
「いいぜ、モラ川。」
「いよいよモナ〜 なんかどきどきするモナ」
俺の後ろから入ってきたのは、大学の後輩のモラ川。
コイツの趣味は盗撮。しかし
「モラが盗撮するのは、暗躍する悪事を暴くする為モナ。エロには興味ない!」
というのが自負だとかで、その腕前はかなりのもの。
今回コイツを呼んだのは、妹の部屋でベビがどんな目にあっているのかを観察する為だ。
モラ川に状況を説明すると、初めは渋っていた。
「そんな家庭内の事なんて、どうでもいい事モナ…」
と渋っていたのだが、
無知で無謀な小学生のベビ育成観察の面白さを延々と語り聞かせること小一時間。
「…分かったモナ。でもやるからには万全体制で臨むモナ。」
と決心してくれたのだ。
さて、さっそく妹の部屋へ侵入。
ここが奴らのアジトだぜ…なんていって雰囲気を高める。まぁ、モナ川はあきれているが。
モナ川は部屋に入ると同時に、あちこち観察を始めた。
なんでも埃の状況などから家主の行動パターンなどを推測して、カメラやマイクを仕掛けるとか。
なんかよくわからん世界だからそっちの事は全てお任せしよう。
で、俺はベビを探し始める。
昨日と同様に鼻を利かせてみるが、異臭はしない。
ふむ、さすがに糞まみれ事件で何らかの対処をしたと見える…。
なかなかやるじゃないか。
でも机の下には、昨日と同様に不自然な箱が置かれている。
箱、というより蓋付きのゴミ箱といえるものだ。
そしてやはり蓋の上には空気穴と消臭剤…
ビンゴ、これに違いない。
箱に耳をつけ、中の音を確認すると「ム゙ゥゥ…」とやっぱりうめき声が。
「モナ川、おい、これ。ビンゴだぜ。」
「これ?この中にベビがいるモナ?それにしては小さすぎるというか…」
「だから小学生の考えることの面白さがここにあるんだよ♪」
「じゃあ昨日と同様に糞まみれ?」
「いや、さすがに懲りたらしくなんか対策しているみたいだ」
ワクワクしながら、蓋をオープン!
そこには・・・
464
:
淡麗
:2008/01/04(金) 20:29:03 ID:???
②
「ム゙ゥゥゥ…」
またまた猿轡を噛ませられたベビがいた。
しかし今回は糞まみれではない。
ないが…
首から下が砂に埋まった状態…生き埋めなのだ。
「…なにこれ?」
「砂に埋めてんのか??」
さすがに俺もモラ川も言葉が出ない。
というか何をしたいんだ、わが妹よ。
よくよく見ると、この埋められている砂は室内犬とかの排泄用の砂…
糞尿をしたとしても、砂が固まって回収が簡単、そして消臭剤だから臭いも気にならない
というあの商品だ。
妹はあの糞尿まみれ状態を洗ったりするのに相当難儀したんだな。
箱に隠しておくだけでは糞尿まみれになるのは目に見えているが、排便させないという事も出来はしない。
だったら排泄しても大丈夫なようにする為に…と考えた結果がこれか。
「先輩の妹は中々のインスピレーションをお持ちのようモナ」
くくく・・・と笑いをこらえながら、モナ川は称してくれた。
正直俺もこうくるとは思わなかった。
恐らく、ケツに栓でもねじ込んでいると思っていたが、こういう発想が出るとは。
大抵は行動を抑制するのが定番なのだが、なまじ
「ベビちゃん大好き!」とか言っちゃっているからこういう発想になるのかもしれない。
「…先輩、モナもなんか気になってきたモナ。
コイツ、これからどんな事されるか…ワクワクしてきたモナ」
おいおい、今までは乗り気じゃなかったってか。
ま、それでもいいさ。
「さて、頑張れよ〜ベビちゃん。お前のご主人様は素ン晴らしい方だからな〜」
笑いをこらえながら、蓋を閉めて元の場所に戻す。
それにしても、蓋を閉めるときのあのベビの表情…!
助けを請う「哀願」ってのはああいう目をすんだな(笑)
モナ川も同感なのか、笑いをこらえながら作業を進める。
小一時間後、カメラのセットも終わり一旦俺の部屋へ戻る。
セットしたカメラの状況を確認するのだ。
映像はバッチリ。音声も別にセットしているという。
しっかりレクチャーを受けながら、俺は妹の帰宅を待ちわびる。
恐らく人生で一番妹の帰宅を待ち焦がれている。
465
:
淡麗
:2008/01/04(金) 20:32:24 ID:???
③
ただいま、ベビちゃん。
今日はいい子にしていたかな?
箱を開けるとベビちゃんが私の事を待っていたかのように、大きなおめめで見つめてくれるの。
きゃは♪
うれしいな♪
「ただいま〜ベビちゃん。」
さっそく箱から出してあげるからね。
箱からベビちゃんを出してあげると、早速遊びたいのかモゾモゾするんだ
もう、あわてんぼうさんなんだから
マスクをはずして、手足のロープを外してあげるの。
一日中子の格好じゃ、やっぱり苦しいよねぇ。。。
でもベビちゃんがちゃんとお留守番できるまでの辛抱だよ?
「ぷはぁぁぁぁ!!!」
「ただいま、ベビちゃん。いい子にしていた?」
そういってあたしは優しくベビちゃんをナデナデ。
「ハ、ハニャァァァ・・・・・」
うふふっ
ベビちゃんは目をおっきく開いて、あたしを見つめてくれるの♪
ベビちゃんの大きなおめめ、本当に可愛いなあ
「さぁ、ベビちゃん。ずっと動けなくって退屈だったでしょ?これから沢山遊ぼうねぇ♪」
「オネェタン ナッコチテクレルンデシュカ?」
「ん〜〜抱っこもいいけど、少しは動かなくっちゃ。お部屋の中だけど、ベビちゃんとなら
大丈夫だよ♪鬼ごっことか、かくれんぼとか。」
「…ソレジャァカクレンボチマチュ! チィガ ニゲルデチュヨウ!」
あぁん、ロープが外れたとたん、ベビちゃんはすぐに走り出してベッドの下に隠れちゃった。
もう、さっそくかくれんぼうしたいのかな??
すぐに遊んであげたいけど、その前に箱の中をきれいにしなきゃ。
いくらネコ砂を入れているって言っても、ちゃんときれいに片付けなきゃ。
ベビちゃんが隠れている間に、お片づけしよっと。
汚れた砂を片付けて、ベビちゃんといっぱい遊んであげるんだから♪
466
:
淡麗
:2008/01/04(金) 20:35:19 ID:???
④
「ベビちゃ〜ん、どこかな〜〜♪」
掃除も終わったことだし、さっそくベビちゃんを探すの♪
ま、さっきベッドの下に入ったの見ちゃったから、探すってことも無いけどね
ベッドの下を覗くと…ほ〜ら、ベビちゃん発見♪
「み〜つけたぁぁっ!」
「イ…イヤァァァ…ッッッ!!」
もう、ベビちゃんったら、見つかったのにイヤイヤして出てこないじゃない。
簡単に見つけすぎちゃったカナ?
「ベビちゃん、見つかったんだから出て来ないと」
「ヤァァヨォォ! ヤァァヨォォゥ!!」
もう、わがままだなぁ…
あ、そっかドロケのつもりなのかな?
※ドロケ:「泥棒と警察」の略。鬼ごっことかくれんぼをミックスしたようなもの。
私も学校でやっているドロケは、見つかったあとに捕まるまで逃げ続けるのが醍醐味だしね♪
よ〜し、ベビちゃんがドロケしたいなら、こっちも一生懸命捕まえるからね!
「隠れても無駄よー!あたりは完全に包囲されているぅぅぅ!」
「ヤァァァヨォォ!! オネェタン チイヲツカマエテ ヒドイコトチマチュヨォ! イヤデチュヨゥ!!」
おっ なかなか雰囲気作りが上手ね♪
「そんなことは無い!あなたのみがらは、我々がしっかり保障する!
だから出てきなさーい!」
「イヤデチュヨゥ! アッチイッテェェ!」
むむ!なかなか抵抗する犯人ね!
それならば…
「投降しないのならば、実力行使だー!」
じゃーん!取り出したのはこのフローリングワイパー!
狭いベッドの下にも届いちゃうんだぞ〜♪
これを使って、ベビちゃん捕獲作戦開始!
「イヤデチュヨゥ! イヤデチュヨゥ!!」
あ、あれ??
うまくいかない?!確かにフローリングワイパーはベビちゃんに届いているのに、
ベビちゃんはころころってうまいこと逃げちゃっている!
う〜〜ん、なかなかすばしっこいわね!
それじゃあの「秘密兵器」の登場ね!
「犯人のベビちゃんに告ぐ!もう一度言うわよ!
無駄な抵抗は止めて、今すぐ出てきなさい!」
「イヤデチュヨォォォ!! モウ チィヲ ジユウニチテクダチャイ!!」
「くっ、しかたない!例の兵器を投入する!」
467
:
淡麗
:2008/01/04(金) 20:38:45 ID:???
⑤
投入する兵器は・・・じゃ〜〜ん!掃除機ぃ!!
狭い隙間にもするする入って、吸引力はわずかなホコリも逃さないって言うのよ?!
さぁ〜ベビちゃん、逃げ切れる?!
スイッチオン♪
ズィィイィィイィィィィンン・・・・
「チッ…チィィィィィ---!!! ヒッパラレマチュヨゥ!」
ベビちゃん、必死に抵抗するけどずるずると近づいてきているわ♪
さっすがハイパワー掃除機ねぇ
ベビちゃんが一生懸命爪を立てて踏ん張っているみたいだけど、無・駄・よ・♪
あ、でもあんまり抵抗されたら床に傷がついちゃうんだけどな。
もう少し近づけながら…
「ほ〜〜らぁ、ほら〜ベビちゃんどんどん引っ張られるわよ〜抵抗は無駄よ〜」
「イヤァァヨォォゥゥ・・・ ハニャァッ?!」
ずぼぼぼぉぉっっ!!!!
「ブギュァァアアア!!!」
キャーどうしよう!ベビちゃんが頭から吸い込まれちゃった!
ス、スイッチ!!スイッチ切らなきゃ!!!
キャー!足は出ているけど、取れなくなっちゃってるぅぅ!!しっかり頭が吸い込まれているぅぅ!!
急いで取り出さなきゃ・・・
思いっきり引っ張って…
「ム゙ム゙---!!」
あぁ、そっか。ひっぱったら痛いか!
あぁん、どうしよう?!
あ、そうだ思いっきり振ったら出てくるかも?!
えいっ!えいっ!!えいっ!!!
お願い、イチローさん、私にも力を貸してぇぇぇぇ!!!!
ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいいいいいいいいっっっっっっっっっっ!!!!!!
ブゥゥンッッッ!!!
すぽ
「あ、抜けた♪」
ベシィィィィィッッッッッ
「ブギァョッ!!」
きゃー!抜けた勢いのまんま、ベビちゃんが壁に激突ぅぅぅ・・・!!
だ、大丈夫?!ベビちゃん!!
「ブギュゥゥ…」
あぁ、なんか口から泡吹いちゃっている!
どうしよう、どうしよう…
と、とりあえずお水を持ってこなきゃ!
ベビちゃん、すぐに戻るからね!!
468
:
淡麗
:2008/01/04(金) 20:43:00 ID:???
⑥
リビングからお水をもって戻ってくると、お部屋の中にベビちゃんが居ない?!
そんな…さっきまで意識がなかったのに?!
ベッドの下をみると、ずりっずりって、ベビちゃんが這っているの。
あぁ、よかった。気が付いたんだね、ベビちゃん♪
ベッドのすぐ下にいたから、十分手が届くわね。
すっとベビちゃんを救い上げると、ベビちゃんはブルブル震えるばかり。
「イヤァァ… コナイデェェェ… ギャクサツチュウ… ギャクサツチュウゥゥ…」
私の事を虐殺厨だなんて。
きっとベビちゃんはショックで気が動転しちゃって、変になっちゃっているんだわ。
なんだか怪物を見ているみたいに、じたばたともがいているなんて…
よっぽど怖い思いをしているのね…まぁ、当然よね。
急いで正気に戻して上げなきゃ。
でもどうやって戻すんだろう??
た…確か、ショック状態の人に強い刺激を与えると正気に戻るってテレビでやっていたわね。
でも、「しろうとにはおすすめできない、もろはのつるぎ」って言ってたし・・・
ううん、やるしかないわ!
だってベビちゃんが苦しんでいるし、私がベビちゃんを育てるって決めたんだもん!
強いショックっていったら、前にパパが買ってくれた防犯用のスタンガンがあったよね。
あれを使ってみよう!
えっと、確かここの「しゅつりょく」っていうところを調節するんだったよね。
しゅつりょく、だから大きいほうがいいよね?
あ、でもベビちゃんは小さいから、あんまり大きなショックじゃ良くないかも…
う〜〜ん、よくわかんないから真ん中にしよっと。
ベビちゃん、正気にもどってぇぇぇ!!!
パリィィッッ!!
「ヒギャァァァッ!!」
正気に戻って…ベビちゃん…
って、あれ?
なんかベビちゃん、ぴくぴくってして動かないんだけど・・・
「ベビちゃん、ベビちゃん!?」
必死になって揺すってみるけど、目を覚まさない…
とりあえず息はしているみたいだから、大丈夫…だよね?
さっきのショックが強すぎたのかな?
一番弱いくらいのしゅつりょくでよかったのかな??
でも、スタンガンって受けたらしばらくは動けないって言ってたから、そのせいかな…
しばらくはベビちゃんをベッドで休ませて、様子を見ようかな。
ベビちゃん、ゆっくり休んでね…
しばらくして、ベビちゃんはスースーと寝息を立てていたんだ。
よかった。これでもう安心だね。
ベビちゃんが眠っているそばで、私はベビちゃんのベッドとかを作っていたんだ。
綿をいっぱい敷いて、ふかふかのじゅうたんを敷いたみたいな箱だよ。
トイレは別の箱を用意して…。そろそろベビちゃんにもトイレの場所とかを教えないとね。
いつまでも学校言っている間砂に入れておくわけには行かないもんね。
あ、ママが呼んでいるから下に行かなくっちゃ。
夕飯の準備かな?今日はなんだろう♪
469
:
魔
:2008/01/29(火) 23:17:23 ID:???
>>451
〜より続き
『小話』(中編)
※
あれから。
ちびタンの腕を奪ってから数日。
僕は僕を馬鹿にしていた奴らを、片っ端から殺していった。
勿論、首をかっ切る心臓を貫くなんて単純な殺し方なんかじゃない。
耳を削ぎ、腕を切断し、脚を裂き、腹を捌く。
ひたすら様々な箇所から、血を肉を空気に触れさせる殺し方。
僕は、奴らをいろんな方法で『虐殺』していった。
得物を振るう度、奴らは泣き叫んだ。
刃を走らせる度、奴らは悶え苦しんだ。
その声や表情を見ていると、えもいわれぬ心地良さが僕を包み込む。
虐殺が与えてくれる爽快感は、半端なものじゃなかった。
※
薄暗い、閑散とした商店街。
そこで今、僕はある男と対峙していた。
僕を見下し、馬鹿にしていた奴らのリーダー的存在。
『レコ』という名のちびギコの前に立っている。
「・・・」
「片腕が・・・このレコ様に何の用だコゾウ」
独特な訛りと語尾のそれは、不快で堪らない。
更に長毛種でもないのに、額に前髪のような毛を持つレコ
端から見たらこいつの方が奇形だの気違いだのと罵られそうなのに。
こいつが他のちびギコから支えられているのは、腕っ節の強さから。
アフォしぃやでぃという体格差があるAAさえも、返り討ちにすることがよくある。
僕だって、ちびタンに助けられる前は何度かボコボコにされたことがあった。
だけど、ちびタンもその事ももう過去の話だ。
今の僕は、虐殺をすることができる強いちびギコだ。
『殴る』事はできないけれど『殺す』事は出来るんだから。
「精算デチ。僕が受けてきた苦痛の、ツケを払ってもらいに来たんデチ」
「寝言は永眠してから言うべきだぞコゾウ」
指の関節を器用に鳴らしながら、近付いてくるレコ。
そんな小さい身体で凄みを出そうとするなんて、間抜け過ぎる。
僕も同じちびギコだから、口には出せないけれど。
僕はあえてその場を動かず、様子を伺う。
待ちに待った復讐で我を見失わないように、心を落ち着かせる。
頭ではわかっているけれど、これがなかなか難しかった。
「それにな・・・」
「?」
不意に、レコがまた口を開く。
「俺も、沢山の仲間をお前に殺されたんだコゾウ」
「・・・」
「復讐はお前だけのものじゃねぇんだよコゾウ」
何を言い出すかと思えば、あまりにもくだらないこと。
あんなしょうもない奴らの為に、復讐を誓うなんて。
同じ種族を馬鹿にするAAなんか死んだ方がいいのに。
「寝言を言ってるのはどっちデチかね?」
「なんだと・・・」
「それに、その気持ち悪い口癖止めてほしいデチ。虫酸が走るデチ」
僕がそう挑発するや否や、レコが物凄い勢いで飛び掛かってきた。
既にレコの怒りはトサカにきていたようで、その形相は悍ましかった。
「殺すぞコゾウ!!」
470
:
魔
:2008/01/29(火) 23:18:11 ID:???
レコはそう叫ぶと同時に殴り掛かる。
力強く振りかぶってのそれは、なかなかに重たそうだ。
だが、
「!?」
僕はあえて防がず、そのままレコの拳を顔で受けた。
鈍い音と共に、拳が右頬に減り込むのがはっきりとわかる。
だけど、レコの一撃はそこで止まった。
歯も折れていなければ、口の中が切れた様子もない。
腕っ節は確かにあるが、僕の気持ちはそれを遥かに超える。
この頬の痛みも、腕を奪われた時に比べれば痒いもの。
気持ちだけで止められる程、レコの技はちいさなものだった。
「そ、そんなはず・・・」
「・・・馬鹿デチね」
レコの考え、いや妄想では僕は今頃後方におもいっきり吹き飛んでる筈のようだ。
でも、この程度のパンチじゃあベビしぃ位しか吹き飛ばない。
間抜けなリーダーさんの目を覚ますべく、僕は反撃に移る。
レコの拳からするりと離れ、更に距離を詰める。
眼と鼻の先まで近付けば、殴る事も蹴る事も難しい。
「こ、この奇形野郎っ!」
レコはそう吐き捨て、僕から距離を取ろうとする。
まるで気持ち悪いもの見たかのような、本当に怯えている様子。
間を置いて、心を落ち着かせてから反撃に移ろうという魂胆。
全て、手に取るようにはっきりとわかった。
だけど、もう遅い。
復讐は、既に始まっている。
「なんなんだコゾ・・・ッ!?」
レコは突然、僕の得物を見て驚く。
次いで、段々と顔が青ざめていく。
何故なら、その得物の刃に真っ赤な血が付着していたから。
誰のものかなんて僕は言わない。
その答は、自ずとやってくるから。
「テメ・・・いつの、間に・・・」
「馬鹿デチ」
もう、僕はレコにその言葉しか投げ掛けないことにした。
近付いた時に、既に刃をその腿に刺したというのに。
気付くまでの時間の掛かりっぷりに、少し笑いたくもなった。
腿を押さえ、ゆっくりと崩れ落ちるレコ。
刃は通っても、鋭くはない得物のお陰で痛みはしっかりと感じているようだ。
傷口からは血が溢れ、レコの身体を赤く汚していく。
「っぐ・・・クソ、ッ!」
痛みを堪える為か、或いは攻撃された事の否定か。
レコはその場で悶え、必死に立とうとする。
しかし、深く刻まれた傷は脚の機能を奪ったようで、なかなか上手くいかない。
顔を上げては転び、崩れ落ち、悶絶を繰り返す。
そんなレコを見て、やはり僕はこう思い、更に口にした。
「・・・馬鹿デチ」
挑発ではなく、嘲笑の意を込めた発言。
それを聞いたレコは、怒りではなく恐怖で顔を歪める。
それがどうしてなのかは、自分でもちゃんと理解していた。
471
:
魔
:2008/01/29(火) 23:18:48 ID:???
※
ゆっくりと、レコに近付く。
それに合わせ、レコは空いた手を使って後ずさる。
その表情は引き攣っていて、先程の強気な所は微塵にも感じ取れない。
相反して、僕の口角はじわじわと吊り上がっていく。
レコは、『虐殺される』という未来に怯えている。
僕は、『虐殺する』というシナリオに喜んでいる。
客観的に見れば、恐らくそんな感じなんだろう。
今の自分は、自分でないようにも思えたから。
「な、何する気だコゾウ!」
自分でもわかっているくせに。
認めたくないから、そんな言葉を吐くんだ。
「馬鹿デチ」
僕は身体で理解させてやろうと、得物を強く握る。
狙うのは、傷つけていない方の脚。
まだ血に塗れていない綺麗な脚だ。
予備動作もなしに、振り下ろす。
ぶつ、と湿った音と共に、刃はレコの脚に入り込んだ。
「ッ! がああっ!?」
遅れて、レコは刃から逃げるように離れる。
急に得物を抜いた事と、鋸状のそれのせいで傷口からは血が一気に噴き出る。
飛び散った血は僕の身体を汚し、染め上げていく。
両足を攻撃され、まともに立つことができなくなったレコ。
それでも、僕から逃げるように必死で手足を動かす。
真っ黒な眼もこちらを睨んではいるものの、瞳の奥は怯えていた。
まるで、昔レコにボコボコにされていた自分が乗り移ったかのよう。
あの時僕は精神的に死んでいたから、睨みつけることはしていなかったけど。
(昔の自分がそこにいる・・・それなら)
その自分ごと、虐殺しよう。
弱かった自分と別れて、強い自分に出会う為に。
だけど、そこにいる自分を虐殺してしまったら、僕は何になるのだろうか。
心の芯から、『虐殺厨』になってしまうのだろうか。
そんな考えが頭を過ぎったけど、気にしないことにした。
自分がどうあるかより、復讐の方が大事だから。
素早く詰め寄り、得物でレコの頬を叩く。
「がっ!?」
反応が遅れたレコは、成すがままそれを受ける。
続け様に僕は刃をその白い身体に走らせ、傷を付けた。
レコの腹部には赤い線が描かれ、そこからいくらかの血が溢れる。
更にその傷に交わるように、刃で赤い線をまた描く。
「ぐッ! っあ! ああッ!」
何度も刃を動かせば、同じタイミングでレコは悶える。
単純な反応ではあるけれど、この上なく楽しく感じた。
時折レコは腹やら顔やらを庇うが、それは無意味な行動でしかない。
腕であれ脚であれ、僕は今君の皮膚を切り裂く事しか考えていないから。
だから、その些細な抵抗は滑稽にしか見えないわけで。
「はははっ! 馬鹿デチ、馬鹿デチ!」
少量の返り血が僕の身体に付着していく。
僕は赤く汚れていき、レコはひたすら悶え苦しむ。
あまりの爽快感に、声をあげて笑っている事に気がつくのが遅れてしまう程。
もはや、自分の意思で得物を振るう事は止められない。
寧ろこのままずっとやっていたいという気持ちで、僕の心はいっぱいだった。
472
:
魔
:2008/01/29(火) 23:19:09 ID:???
しかし、その快楽も長くは続かなかった。
何度目かの振り回しで、僕はレコの耳を狙う。
振りの速さで、それは一撃で削ぐことはできた。
「ギャアアアアァァァァァぁ!!!」
唯、ぶつ、といった鈍い手応えがしたのが引っ掛かる。
レコは脚に攻撃した時とは違い、すぐに反応をしてみせた。
爆竹のそれよりも激しい叫びに、僕は驚いて手を止めてしまう。
「ああぁ!! うううあぁぁぁぁァ!!!」
耳があった所を押さえ、ひたすら転げ回るレコ。
身体中につけられた切り傷に砂利が食い込もうとも、レコは止まらない。
まるで、神経が全て耳の方に行ってしまったかのようだ。
「・・・馬鹿、デチ」
僕はいつのまにかあがりきった息を調えつつ、また呟く。
目線をずらし、血と泥で汚れたちぎれた耳を見遣る。
それを得物に突き刺し、目元に持ってきて眺めてみた。
やはり、その鈍い感触は間違いではなかった。
耳にある切り口は、途中まで真っ直ぐであり、そこからは汚くささくれていた。
恐らく、得物の鋸状の部分に引っ掛かるかどうかしたのだろう。
通らなくなった刃の代わりに、勢いだけでレコの耳をちぎったようなもの。
だからレコはひたすら叫び、のたうちまわっているようだ。
切られるよりちぎられる方の痛みが凄まじいかなんて、僕も知ってる。
「あぁ、痛い、痛い・・・耳、耳がぁぁ・・・」
暫く様子を見ていれば、レコの悶絶もおさまってきた。
唯、今度は耳をちぎられた事に対し涙を流して嘆き始めた。
(・・・こいつ)
たかが耳、こんなちっぽけな肉片を失っただけで、こんな風になるのか。
あの暴力を武器に暴れまわっていたレコが、虐められっこのように泣いている。
それはあまりにも情けなさ過ぎて、こっちが涙を流したくなる程だ。
「ぎゃっ!」
レコの頬を得物で叩き、目を覚まさせる。
耳をちぎるより前に、顔にもいくつか傷はつけていた。
面と向かってそれを見直すと、様々な液体が付着しているせいか気持ち悪い。
それでいて媚びたような潤んだ眼をこちらに向けるものだから、不快さは更に増す。
僕はレコに『馬鹿』としか言わないルールを破り、話し掛ける。
「情けない奴デチね。片腕なんかにここまでやられるなんて」
「・・・ッ」
いつものような、自虐を込めた一言を放つ。
流石にそれには頭にきたのか、レコは一瞬怒りを露にする。
が、息をつく間も与えず得物を喉元に突き付ける事で、それを抑止させる。
再び泣き顔に戻ったレコは、あの時のちびタンにそっくりだった。
大の字になり、急所である喉笛と腹部を不様に晒すレコ。
まるで好きにしてくれ、と無意識に語っているかのよう。
精神は折れずとも、その身体はとうに限界を超えていたようだ。
473
:
魔
:2008/01/29(火) 23:20:46 ID:???
こころとからだが相反しては、苦痛が更に強くなるだけ。
元々肉体が弱い種族なのに、妙に高いプライドを持つからこうなるんだ。
「無理しない方がいいデチよ。変に気張っても、苦しむだけデチ」
僕は、涙目のレコに含みを持たせない言葉を投げ掛ける。
それなのに、命乞いはおろか逃げようとすらしない。
よくわからないレコの心の内は、本人自ら答えを語った。
「馬鹿、に、するな・・・コゾウ・・・」
多少えづきながらも、言葉を返すレコ。
語尾も消え消え、涙はボロボロではあるが、どこか力強さが戻ってきた様子。
突き付けた得物を更に押し、喉元の皮に軽く刺すも、その勢いは変わらない。
「・・・」
「さっき、言った筈、だ・・・」
寧ろ、その得物を自ら押し返している。
下手をすれば、そのまま喉を突き破るかもしれないというのに。
僕は、そうやって死なれては困る、という意味合いで得物を離す。
しかし、レコはそれを『怯んだ』と解釈したようで、更に力強さが増した。
相手の勘違いだけど、余裕を持たせた事は少し不愉快だ。
レコはそんな僕の気持ちを無視し、虫の息のような演説を続ける。
「復讐は・・・お前だけ、の、ものじゃない、と・・・」
最後に『コゾウ』と聞こえなかったなんてのはどうでもいい。
気が付けば、レコはしっかりと地に足をつけ、僕はレコから数歩下がっていた。
僕は自ら、レコをたきつけてしまったようだ。
そのまま虐殺していれば、素直にカタがついたかもしれないのに。
面倒事が増え、先程の高揚感とは正反対の気持ちが心を包む。
「・・・するなと言われても、馬鹿なのは馬鹿なんデチ」
ボロボロになった身体。
どう見ても満身創痍だというのに、レコは立った。
そんな状態で、どうやれば僕に復讐が出来るのだろうか。
考えれば考える程、苛々してしまう。
それに、何故自分は後ろに下がってしまったのか。
立つのもやっとなレコに、警戒する理由なんてどこにもなかったのに。
眉をひそめる僕に対し、レコは笑う。
まるで、悪役に嬲られた後に復活しだすヒーローのよう。
それがまた不快で堪らなく、怒りの意味で歯噛みする。
殺そう。
虐殺なんて遊びは止め、殺してしまおう。
屈辱を味わわせるなんて事は、もうどうでもいい。
どうせ、僕は片腕なんだから。
殺すだけの安っぽい復讐だけを、望めばよかった。
そうすれば、こんな馬鹿げたことで心を乱されずにすんだのに。
レコはその傷痕だらけの脚を、ゆっくりと動かす。
ずる、と滑るような足音は、まさに動く死体。
どうせできたとしても、僕の頬を軽く小突くくらいだろうに。
レコの足は地面を擦り、その音は止みそうにない。
つまり、歩みを止める気はないと、僕は悟る。
ならば、目覚めさせてやるしかない。
474
:
魔
:2008/01/29(火) 23:21:27 ID:???
※
「・・・何、笑ってんデチか」
先に、不満を吐く。
しかし、レコはまだ口角を吊り上げたまま。
寧ろその笑みは、僕の言葉を聞いて更に上がったような気がした。
涙で潤んでいた眼も、こちらに鋭い視線を送り、無言で威圧しているかのよう。
でも、それはハッタリだとすぐにわかった。
レコが振りかぶった拳は、あまりにも遅くて。
勢いを殺すように、出鼻をくじくように。
僕は自分の右肩をレコの腹にこつんと宛てた。
「あ・・・?」
発射されようとしたレコのパンチは、不発に終わる。
だけど、本人はそのことを思って疑問の声をあげたわけじゃない。
手に取るようにわかる。
レコの思考が、腐りきった妄想が。
自分を正義として、主人公として見た、勧善懲悪の世界。
レコの妄想は、だいたいそんな感じ。
その妄想から目を覚まさせるには、こうすればいい。
「あ、あ・・・あああああああああ!!?」
僕はするりとレコから離れ、観察を始める。
右肩を宛てる際に、既に得物をレコの腹に刺していた。
そして、レコが疑問の声をあげる時、手首を捻ってそれを切り開いた。
粘り気の強い液体が溢れるように、レコの腹から腸が零れ落ちる。
それに合わせるように、本人もがっくりと膝をついた。
顔面蒼白で、今度は涙でなく脂汗を垂らす。
声は酷く慌てているようだったが、身体は小刻みに震えるだけ。
「お、おい・・・何、何だよ、こ、これ・・・」
レコは零れ落ちた自分の中身を見てそう言った。
血に濡れた巨大な蚯蚓は、当たり前だが何も答えない。
どうやら、レコの推進力である妄想という支柱は完全に折れたようだ。
まあ、自分の内臓を自分で見て、心が壊れないなんて奴はいないと思うけど。
僕は最後の仕上げに、もう少しだけ会話すれ事にした。
「馬鹿デチ」
先ずは、自分で作ったルールから。
「コゾ・・・お、お前、何・・・」
「復讐って、お前が考えてるような甘いものじゃないデチ」
「ふ、ふざけた事・・・言、っ」
「まさかとは思うけど、殴り合うだけで命が奪えるとでも?」
その言葉の後、レコの呻き声が消える。
どうやら、図星のようだった。
構わず、僕は話を続ける。
「お前のパンチじゃあ、どんなに強く放っても青痣しか作れないデチ」
「・・・う、嘘、だ、コゾ・・・俺の・・・力は、っ」
得物を持った、『力』を手にした今、レコへの評価は変わった。
レコに好きなように殴られてた時は、仲間もパシリも沢山いて物凄く強く見えた。
だけど、その仲間を虐殺して、段々とその考えは変わっていった。
そして今、目の前で情けない姿を、醜いはらわたを晒しているレコを見て、それは確信となった。
レコは、僕より遥かに弱い。
こいつは威圧だけでリーダーにのし上がった、ただの羊だ。
475
:
魔
:2008/01/29(火) 23:22:01 ID:???
おそらく、本人も死んだ取り巻きもその事には気付いていないだろう。
強い意思なんてなかったから、奴らは無意識の内に強さの基準をレコにあわせていた。
だから、得物を持った僕に対しても、皆昔のように見下してばかり。
覇気のない僕は、勿論奴らにはナメられっぱなし。
『片腕ごときが、鉄クズを持って復讐か』。
そう言われたのはほぼ必ずだったし、何より腹が立った。
だけど、その油断のお陰で楽に虐殺する事ができた。
「お、俺、俺は・・・お、ッ」
壊れたラジカセのように、様々な単語を途切れ途切れに繰り返す。
もう、その姿には沢山のちびギコを纏めていたリーダーの面影はない。
耳は欠け、そこかしこに付けられた切り傷からは血が溢れている。
あまつさえ、腹の中の物までもさらけ出し、本人はそれにまで怯えていた。
僕は、こんな奴を『強い』と思っていた事を恥じた。
※
力と気持ちだけあれば、何でも出来る。
ナイフの彼が言っていたことは、本当だった。
片腕の僕でも、ここまで来ることが出来たのだから。
(さて、どうしよう)
赤く汚れたレコを見て、僕は考える。
腹をかっ捌いてしまったから、もう先は長くないだろう。
でも、僕ら被虐者は生きる事への執着は他の追随を許さない筈。
あの時のちびタンだって、死よりも生き地獄を選んだから。
「嘘、嘘、だ・・・こんな、事、あ、ありえな・・・」
ふと見遣ると、まだレコは現状を受け入れず、ひたすら怯えている。
どうやら目が覚めたのはほんの一瞬のようで、また妄想の世界に入り込んだ様子。
その虚ろな眼が見るのは、くすんでいながらぬらぬらと光る自分の中身。
「・・・」
僕はそれを見て、すぐに思い付いた。
復讐は、虐殺へと再度切り替わる。
先ずは空いた手が僕にはないから、得物を口にくわえる。
次に一気にレコとの距離を詰め、目と鼻の先まで近付く。
そして、そのはみ出た腸をおもむろにひっ掴んだ。
「!? ぎゃっ!!」
レコは短く叫び、肩をびくんと跳ねさせる。
だけど、僕はそれを無視して次の行動に移った。
掴んだ腸を、そのままずるずると引っ張り出していく。
「ッあ!! あ、い、痛い! 痛い! 痛いぃぃぃぃっ!!!」
凄まじい激痛がレコを苛んでいるようで、その叫び声はかなり大きい。
思わず耳を塞ぎたくなったが、出来るわけがないので我慢する。
と、少しでも痛みを和らげようとしての行動か、レコがこちらに歩きだした。
身体は既にボロボロにしてあるから、その速度はカメよりも遅い。
それに、痛みに堪えながらのものだから、ふらふらと覚束ない足取りでもある。
本人は必死なのだろうけれど、稚拙な歩き方は酷く滑稽だ。
(こてっちゃん晒してよたよた歩く・・・本当に馬鹿デチね)
476
:
魔
:2008/01/29(火) 23:22:35 ID:???
脱腸が嫌なら、掴み返せばいいのに。
そう思ったけれど、もしかしたら触るだけでも相当の痛みを感じるのかも。
あるいは、無闇に抵抗したら腸を潰されてしまうと思っている可能性もある。
「痛い痛い痛い痛い!! 痛、やッ、やめ、やめてええぇぇぇェ!!!」
大粒の涙を零し、顔を振って抑止を乞うレコ。
勿論、そんな願いなんて受け入れる筈もなく、僕はそのまま腸を引きずり出す。
レコと僕との距離はじわじわと広がり、互いを内臓が結ぶ。
想像以上に長いレコの小腸は、自重で逆さに弧を描く。
その最も沈んだ所では、腹から伝う血が雫となり、ぽたぽたと地に落ちていた。
試しに腸を軽く揺らしてみると、それにあわせてレコは叫ぶ。
まるで、触ると反応して動き出すおもちゃのようで、なかなかに面白い。
「これで、縄跳びでもしたら楽しいかもしれないデチね」
「あ、だ、駄目! やだ、やだ!! やだああぁぁぁッ!!」
冗談を本気になって止めようとする所をみると、心に余裕は無い様子。
だけど、そこまで叫ぶ気力はあるようだから、まだ精神は焼き切れていないようだ。
どうせだから、レコの限界を見てみようか。
肉体も精神も全ておかしくしてから、殺すのも悪くはない。
「ほら、ほら!」
緩い掛け声と共に、腸を強く振り回す。
肉の紐が地にたたき付けられ、暴れ狂う。
「ああぎゃ!! ああ! ヒギャあああアァァァァぁぁああ!!」
同じように、レコも激しく暴れだした。
先程まで腸を慎重に扱っていたのが嘘のように、その場でのたうちまわる。
もはや、それは自分で肉の紐をちぎってしまってもおかしくはない程だ。
何度も何度も腸を地面に打ち付け、レコの反応を楽しむ。
もし得物をくわえていなかったら、先程のようにひたすら笑っていたかもしれない。
自我を簡単に保つことが出来、少し嬉しい誤算となった。
「痛、っああぁァ! うあ・・・ぁぁぁああ!」
暫くすると、レコの暴れ方も弱くなってきた。
痛みを感じ過ぎて、いくらか麻痺してしまったのかも。
僕は一旦腕を止め、レコの様子を見る。
その場をのたうちまわったせいで、全身は砂埃に塗れていた。
腹部の穴も、暴れた反動で更に広がっていた。
傷口には砂粒が入り込んでいて、でぃのそれよりも汚く見える。
目線を腸に戻すと、これもまた酷くなっていた。
地面に打ち付け過ぎたのか、至る所が破裂したかのように裂けている。
その裂けた部分からはどろりとした何かが漏れ、辺りに飛び散っていた。
(少し、遊びすぎたデチかね)
なかなかに凄まじい状態となった空間を眺め、僕は思った。
勿論、レコにではなくこの薄暗い商店街の事を想っての事だ。
477
:
魔
:2008/01/29(火) 23:23:43 ID:???
※
レコから奪ったのは、せいぜい仲間とプライドと片耳か。
できれば、もっと四肢や歯、眼などを破壊したかった。
だけど、片腕じゃあ出来ることに限りがあるし、余裕もない。
それに当の本人も、とっくに限界にきている筈。
そろそろ決着をつけるべきだろう。
僕自身がとどめをさす前に旅立たれては、意味がないから。
「・・・」
握っていた腸をその場に落とし、大の字になって寝ているレコに近付く。
血と泥まみれの身体は、とっくに満身創痍になっていたようだ。
口にくわえていた得物も手の中におさめ、切っ先を向ける。
「ああ、痛い、痛い・・・痛いぃぃぃ」
至近距離まで近付いても、レコは僕を無視して歎いていた。
あまりの情けなさに、僕は大きく溜め息をつく。
そして、得物をその場に落として腸を乱暴に掴んだ。
「うぎゃッ!?」
と、レコは身体を強く跳ねさせる。
僕はそれを無視するように、腸をおもいっきり引っ張った。
「ヒギャああああぁぁぁぁァァ!!!」
勢いよく肉の紐がレコの腹から出ていく。
それとほぼ同時に、ぶちんと不快な音がして、腸が腹からちぎれ飛んだ。
巨大な蚯蚓は空中で少し踊った後、湿った音をたてて地面にたたき付けられる。
レコは新しい激痛に跳ね起き、再度暴れ狂う。
腹部にはぽっかりと開いた空間ができていて、そこからは新たに血が溢れている。
皮膚を切り裂いた時よりも、耳を削いだ時よりも量が多い。
その大量の出血は、身体の中を逆流して口から流れ出す。
「ぅあ、ガフぅあ!! いだ、痛い、痛いぃぃぃぃ!!」
ひたすら腹の痛みに悶絶し、のたうちまわるレコ。
逃げる事も、自殺する事もなく、ひたすら激痛に嘆いている。
僕はそれがおさまるまで、ひたすら眺めていた。
数十回目の『痛い』の言葉の後、レコは仰向けになり、腹を押さえつつ肩で呼吸をし始めた。
それでもまだ、呻きながら痛い痛いと弱く叫ぶけれど。
僕はレコの顔の横に立ち、見下ろす。
「・・・」
「痛い・・・痛・・・」
荒い息遣いが、耳をすまさなくてもよく聞こえる。
赤く腫れた瞼の中、涙で濡れた瞳に光は見えない。
何もしなくても、ほうっておけば死んでしまうだろう。
肉体も、精神も、十二分に痛め付けてやった。
殆どアドリブのような虐殺だったけど、片腕でここまでやれたから、良しとしよう。
後は、自らの手で息の根を止めてやれば、全ては終わる。
「・・・レコ、さよならデチ。次は地獄で苦しむといいデチ」
恐らく聞いていないであろうレコに、僕はささやく。
そして、得物を逆手に持ち天に掲げる。
狙うのは、心臓。
とどめとはいえ、一撃で楽にさせる気は毛頭ない。
ほんの数秒でも、最大限の苦痛を味わわせるつもりだから。
478
:
魔
:2008/01/29(火) 23:24:30 ID:???
得物を勢いよく振り下ろし、レコの胸元に突き立てる。
「―――!!!??」
ごぼ、と濁った音が、レコの喉から聞こえた。
構わず、僕は得物を引き抜いてまた突き立てる。
血が噴水のように噴き出て、身体を汚していく。
レコの悲鳴は血となって口から溢れ、辺りに飛び散る。
肋骨の砕ける音、肉が裂ける音、内臓が潰れる音、そして感触。
それら全てを無視して、僕は何度も得物を振り下ろす。
何度も、何度も、何度も、何度も、繰り返した。
視界がうっすらぼやけたけれど、それも無視した。
※
「・・・」
気がつくと、レコは肉塊になっていた。
赤黒いどろどろとしたそれは、元々が何だったかわからない程。
僕はいつの間にか、我を忘れる程腕を動かしていた。
これで、僕を馬鹿にした奴らは全員殺した。
復讐は完璧に終わった。
筈なのに。
自分の心は、何も変わっていない。
まだ何かしこりが残っているかのような、違和感。
終えたはずなのに、終わっていない。
そう考える、頭がある。
(じゃあ、誰か・・・)
殺し損ねていたのだろうか。
いや、それは有り得ない。
奴らの事は全員把握していた。
誰ひとりも、漏らすことなく殺した。
ちびタンは生きているけど、心が違うと告げる。
同じ片腕にしてやったから、もう復讐の念なんて持っていない。
一体、この感覚は―――。
※
不意に、パチパチと何処からか手を叩く音が聞こえる。
一定のリズムから成るそれは、拍手だと理解した。
僕は、その乾いた音がする方を向く。
それと同時に、身体が凍り付いた。
「っ!?」
―――そこには、モララーがいた。
しかも、見知らぬAAというわけではない。
身体的特徴なんてなかったけど、はっきりと覚えている。
あの時、あの場所で、僕の腕を奪ったモララー。
そいつが今、僕の目の前に立ち、拍手を送ってきていた。
「・・・やぁ、これは驚いたな」
手を止め、モララーは話す。
「あの時、躾る意味で腕をもいでやったちびギコが、同族殺しをしてるなんて」
「・・・」
単純なことだったけど、僕はようやっと理解した。
レコを殺しただけじゃあ、復讐は終わっていない事を。
片腕になったその元凶を殺さないと、僕の心は晴れない事を。
だけど、相手は虐殺厨だ。
体格差だってかなりあるし、力も強い。
片腕である僕が、勝てるのだろうか。
「大方、片腕だって事を馬鹿にされたから、殺したんだろ?」
「・・・」
479
:
魔
:2008/01/29(火) 23:25:27 ID:???
いや、殺そう。
相手がモララーだからって、関係ない。
僕を馬鹿にする奴は、皆殺す。
そう念って、得物という『力』を求め、得たんだから。
「短気な奴だなあ。お前がそうなったのは自業自得だろうに」
モララーはまだ言葉を紡ぐ。
時折嫌らしく笑い、眼を細めてこちらを睨む。
その都度、僕の心の中で何かが燃え広がる。
ちびタンに裏切られた時のような、どす黒い感情が。
「同族に馬鹿にされて、当たり前だと思うんだがな」
気が付くと、僕は既にモララーに飛び掛かっていた。
「うあああああああああッ!!!」
怒りという感情が身を包み、身体を動かす。
空中で得物を振りかぶり、モララーの首目掛け刃を走らせた。
「ッ!?」
が、不意打ちとは言い難い攻撃はしっかりと防がれてしまう。
それでも、相手は生身だったから、防御にまわした腕の皮を切る事ができた。
地面に着地し、モララーの方に素早く向き直る。
心の中で燃え盛る怒りの炎は、おさまるどころか更に酷くなっていく。
僕は低く重く唸りながら、モララーを強く睨む。
「殺す・・・殺してやるデチ・・・」
「・・・テメェ」
腕に赤い線を作ったモララー。
その形相にも、悍ましいものがある。
だけど、その程度で動けなくなる僕じゃない。
ナイフの彼だって言っていた。
『気持ち』と『力』があれば、何でもできると。
僕にだって、復讐という大きな気持ちがある。
得物も、元はただの金属片だけど、力であることに変わりはない。
逃げる事はできない。
僕は、この虐殺厨を殺して、復讐を終わらせるんだ。
続く
480
:
魔
:2008/02/29(金) 23:36:49 ID:???
>>469
〜より続き
『小話』(後編)
※
命は、命と出会うことで成長する。
ちびフサも、ナイフの彼と出会う事によって復讐を誓えた。
友の腕を奪い、憎い者は次々に殺していった。
しかし、その出会いというものは所詮はきっかけ。
人生の新たなレールを見付ける為の、ほんの小さな要素に過ぎない。
成長というのも、種が芽吹くくらいのちっぽけな成長。
価値観は大幅に変わるかもしれないが、本質は変わりはしない。
それをしっかりと理解していれば、或いは―――。
※
「殺す・・・殺してやるデチ・・・」
「・・・テメェ」
奴らを殺しても、僕の心は晴れなかった。
レコを虐殺しても、黒い炎は消えなかった。
復讐は復讐なんかじゃなくて、唯の憂さ晴らしだった。
モララーに再会し、溜まっていた『怒り』が燃え盛る。
心の奥底で眠っていた怒りは、僕を黒く奮い立たせる。
何も、考えることができない。
いや、考える必要なんてない。
唯、目の前にいるこの虐殺厨を殺したい。
この力と気持ちで、絶対に殺す。
「あああああああぁぁぁぁァァ!!!」
僕は怒りを得物に乗せ、モララーに向かって跳んだ。
爆ぜるようにして蹴った地面は、一瞬で遠くなる。
同時に、モララーとの距離も簡単に、素早く縮まった。
やはり、先程と同じで狙いは首。
その黄色い喉笛を、一思いにかっ切ってやりたいから。
自分の身体を自分の血で汚させてやりたいから。
(お前の死に化粧は、自身の体液デチ!)
空中で得物を振りかぶる。
モララーはこちらを睨んだままで、動こうとしない。
それが罠なのかどうかなんて、どうでもいい。
僕は、モララーの喉笛を切り裂く事だけを考えればいい。
頭に血がのぼっていたから、僕の思考は一方通行だった。
思い付く全ての結果は、とにもかくにもモララーの死。
相手の行動の予測なんて、微塵にもしていなかった。
「馬鹿か?」
「ッ!?」
渾身の一撃を回避されて、僕はようやっと我に返る。
力である刃は首でなく空を切り、乗せた感情も消え失せた。
と、身体が引力に引っ張られるより前に、空中で停止する。
同時に後方に強く戻され、モララーの眼が大きく映った。
「っ、は・・・離せッ!」
いつの間にか、僕はモララーに捕まっていた。
攻撃を避けた直後、素早く僕の腕を掴んだようだ。
ばたばたと脚を動かして抵抗するも、全く効果がない。
更に、手首のあたりを握られているから、どうすることもできない。
無理して暴れても、得物を落としてしまうかもしれない。
「ちびギコの癖に、調子に乗ンなよ」
僕の心を覆い尽くしていた黒い炎が、少しずつ消えていく。
それに相反するように、『虐殺』の不安と焦りがじわじわと滲み出す。
このままでは、モララーに殺される。
481
:
魔
:2008/02/29(金) 23:37:45 ID:???
ほんの一瞬の間に、形勢逆転されてしまった。
いや、その前に僕の方が有利だったかすら怪しい。
唯単にモララーに出会い、憤慨していただけだ。
たった薄皮一枚切り裂いただけで、殺せると思った僕が馬鹿だった。
それでも、復讐はしたい。殺したい。
動きは止められても、憎悪という感情は消える訳がない。
確かに、目の前にいるモララーの形相は恐ろしい。
だけど、睨まれるだけで畏縮するような気持ちではない。
そうでなければ、レコやその仲間を殺した意味がなくなる。
カタワにしてやった、ちびタンの事も―――。
「おい」
「!?」
唐突に、モララーが話し掛けてくる。
不安と焦りが物凄い勢いで膨れ上がり、僕を苛む。
「お前、こんな鉄クズでよく仲間を殺せたな」
「・・・っ」
「しかもその眼、俺から逃げた後に何があったのか気になる位酷ェな」
モララーは黙り込む僕を無視し、話し続ける。
時折嘲笑を混ぜたり、自問自答をしたりとせわしない。
だけど、その悍ましい表情は全くかわらなかった。
このモララーから逃げたいという気持ち。
逆に、殺してやりたいという気持ち。
虐殺されたくないという願い。
復讐を果たしたいという念い。
全てがごちゃまぜになり、僕の心を苛む。
相反する気持ち達が、全身をぐるぐると駆け巡る。
強い吐き気を催すも、歯をくいしばって押さえ込む。
「マターリとかほざく奴よりは面白いが、あまり血の気が多いのもアレだな・・・っと!」
「ヒギャッ!?」
と、突如腹部に激痛が走る。
精神を落ち着かせるのに集中し過ぎて、何が怒ったのかわからなかった。
一手遅れて、僕は地面にたたき付けられたのだと理解した。
左脇から落とされたので、衝撃はかなりのもの。
肺の中の空気と、胃液が一緒に逆流してくる。
「ぐうぇっ! ゲホっ!!」
不快感も相俟って、酷く濁った咳が漏れる。
激しい腹部の痛みもあり、僕は手の中の得物を捨てて腹を押さえる。
更に何度か咳込むと、酸っぱいものが口の中に広がった。
「おおっと、流石にキツかったかな?」
苦しむ僕を尻目に、モララーは嘲る。
今すぐ罵倒してやりたいが、痛みのせいで呻くことしかできない。
殺してやりたいと、頭は叫んでいる。
だけど、身体は逆に悲鳴をあげている。
様々な感情の渦に更に要素が加わり、肥大していく。
それらは僕の中の容量を易々と超え、暴れていた。
一旦全てを整理しようとしても、その余裕すら全くない。
何もかもが手付かずで、好き放題に自己主張する。
その間、モララーは二手も三手も先に進んでいた。
視界の隅にあった得物が、黄色い手に掴まれ宙に浮く。
必死でそれを眼で追うと、モララーの眼前で得物は止まる。
「・・・ふぅん」
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