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持ち帰ったキャラで雑談 その二

1名無しさん:2007/05/13(日) 21:30:22
リディア「僭越ながら、新しいスレを立てさせてもらいますね」
アーチェ「本スレにはあげられないのをあげる場所だから。主にSSかな」
リディア「それでは、楽しんでください」
アーチェ「いつでも参加募集中〜」

202生きる術 その一、兎の捌き方2:2007/10/22(月) 23:32:48
血抜きは既に終わったらしい兎を目の前に早苗は戸惑った。
毛皮がついている。耳がある。もろ兎である。
「大丈夫?」
既に包丁を持っている紫に早苗は助けを求めるような視線を返した。
「あの…これ…」
「兎だよ、血抜きはしといたから後は皮剥いで食べるんだよ…って聞きたい訳じゃないよね」
蒼白になった顔を見つめ返しながら、紫は困った様に笑った。
「そうだよね、現代っ子はまず兎とか捌くなんてやらんもんねぇ」
包丁を一度置き、少し考え込むようにうめく彼女―自分とそう年に変わりない彼女とぐてんとした兎を交互に見た。
「でもさ、兎美味いよ」
既に捌き終わったフヨウの笑顔とその手元のギャップに早苗はとうとう意識を失った。


目を醒ました後、失神しかけながらも早苗は生まれて始めて兎を捌く事となった。


「あら、今日は兎かい?」
夕食に現れた神奈子は皿に置かれた焼きたての兎肉を見ながら、嬉しそうに呟いた。
隣では諏訪子が同様に立ち上る香りをかいでいた。
そして、早苗はというと―
「早苗ちゃーん?大丈夫かー?」
「あぅぅぅ…あぅぅぅ…」
すっかり参ってしまった様子で床で倒れ付していた。
「まあ最初にしては上出来だったんだから、いいじゃん。
それにこれからは自分でやらなきゃいけないんだし」
紫のほとんど慰めになっていない言葉にうめき声が返ってきた。
「ほんとにやってけんのかねぇ…」
今更ながら心配になりつつも食欲をそそる香りに負け、箸を取る面々であった。

204いつもと変わらぬ?一日:2007/10/27(土) 11:26:16
いつものように目を覚ますといつものように視界に広がる天井。
「…いつも違う天井だなんてシ○ジ君みたいなことは言わなくていいんだ…」

いつものようにリビングに行くといつものように広がる光景。
「もう7時か…、結構寝たんだな」

いつものようにテレビを見る。いつもの番組。
「……みの○んたこの番組に合ってねぇ…」

いつものように学校へ向かう。そしていつものように帰宅。
「だるい…けどやるならやらねば」

そしていつものように、PCへ向かう。
「…さぁ、始めようか…」

そしていつものように夕食を食べ、いつものように風呂へ入る。
「はぁ…気持ちいい…」

そしていつものように布団へもぐりこんで寝る。
「おやすみ…」

そして、いつもとは違う夢をいつものように見る。
そして、またいつものように―――。

205<スキマ送り>:<スキマ送り>
<スキマ送り>

207少女の心:2007/11/02(金) 17:26:01
数冊のノートを持ってドアをくぐったアサヒは暫し目を瞬き、頭を掻いた。
彼女の目の前には困惑した妖精メイド達と家具を壊し続けるフランドールの姿。
別段珍しい光景ではなかった。
フランドールは時折自身の力に引きずられる様に感情を爆発させ、流れるままに家具を壊していくからだ。
片付けが大変だとぼやくメイド長の顔を思い浮かべながら、メイド達を避け、フランドールの後ろに近付く。
「こりゃ」
ぺちん、という軽い音が広間に響き、妖精メイド達が一斉に逃げ出す。
ただでさえ機嫌が悪いフランドールの頭をあろうことかノートで叩くという行動は彼女達から見れば、
空腹の猛獣の前に肉を持って飛び出す様なものだ。
「あ、アサヒだ」
「アサヒだ、じゃねぇだろ?」
不機嫌そうに振り返る彼女の額に再び一撃。
「家具は壊したらだめだってこないだ言ったろ?」
額をさすりながら、フランドールがうつむきながら答える。
「だ、だって、なんだかいらいらしてたんだもん…」
そんな彼女の頭をぐりぐりと撫でながら、アサヒが困った様に笑う。
「しょうがねぇなぁ、けど、誰も壊さなかったから今回は俺もお前の姉ちゃんに謝ってやるよ。
ただしもうすんなよ?」
そう言うとフランドールの顔が渋くなる。
「私、あいつ嫌いだもん…」
「まあまあ、家具ぶっ壊しちまったんだからちゃんと謝んなきゃ駄目だぞ?
それに俺が居るからさ」
そうして、渋々首を縦に振ったフランドールと手を繋ぎ、
「あー、わりぃけどこれ、片付けといてくれないか?」
物陰に隠れたメイド達にそう言付けて、二人は廊下を歩き出した。

208少女の心:2007/11/02(金) 17:39:11
「あーあ、怒られたなぁ、主にメイド長に」
フランドールのベッドにどっかり腰掛けながら、アサヒはあっけらかんと言った。
いまいち表情が晴れないフランドールも同じ様に腰掛ける。
「なんだ、まだ気にしてんのか?」
そんな彼女の顔をアサヒが覗き込む。
小さく頷くフランドールに頬を掻きながら、うーんとうめく。
「まあさ、次から注意すればいいんだよ」
それでも浮かない顔をした彼女にアサヒは。
「よっと」
「わっ」
突然膝の上に抱き上げられ、目を白黒させるフランドールにアサヒはからからと笑った。
「間違ったっていいじゃないか。そこから学んでいけばいいんだ。
何が悪くて、何がいいのか。
もしそれが分からなくなったら俺に言え。
手助けか、抱き枕位にゃあなってやるさ」
アサヒの笑顔に釣られる様にフランドールも笑い、大きく首を縦に振る。
そのまま抱きつく彼女の頭を撫でてやりながら、アサヒは日課にしているおとぎ話を話はじめるのだった。




なんとなくフランドールに甘いアサヒとアサヒに甘えるフランドールの話。

209名無しさん:2007/11/03(土) 23:14:27

   | │                   〈   !
   | |/ノ二__‐──ァ   ヽニニ二二二ヾ } ,'⌒ヽ いい男専用浮上法
  /⌒!| =彳o。ト ̄ヽ     '´ !o_シ`ヾ | i/ ヽ !
  ! ハ!|  ー─ '  i  !    `'   '' "   ||ヽ l |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   :::::;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;::::
     :::::::;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;:::::::     ∧_∧ ウホッ!
      ::::::::::::::::::::::::::::     Σ( ::;;;;;;;;:)
        ::::::::::::        /⌒`'''''''''''^ヽ
               /⌒ヾ/ / .,;;;;;;:/.:;|
-―'――ー'''‐'ー'''―‐'―''''\,./ / .::;;;;;;:/‐'| :;|'''ー'-''――'`'
 ,, ''''  `、 `´'、、,   '''_ソ / `:;;::::ノ,,, | :;| '''  、、,
    ,,,   ''  ,,   ''''' ξ_ノ丶ー'ー< ,ゝ__> '''''  ,,

210名無しさん:2007/11/04(日) 21:50:37
一応浮上

211名無しさん:2007/11/04(日) 22:28:59
二人の姿は周囲にすればもどかしいものだった。
近くにいるのに二人の間にある僅かな距離が周囲の目にはもどかしいものだった。
二人はそれがいいと言った。
呆れる周囲をよそに二人はずっと付かず離れずの微妙なバランスの上で一緒だった。
互いの想いを口にしても、それ以上を望まず。

それでも片方の最後の時は残された方は涙を流して言うのだ。
一人にしないでほしいと。
「…と、俺が知ってるのはそこまでだ」
男はそう言って、カップに口を付けた。
「ずいぶん中途半端な話だね」
男の向かいで同じ様に紅茶を飲む少女が困った様に笑う。
「俺はこのての話に興味がないからな」
「編み物は好きなのにね」
少女の言葉に男は皮肉っぽく笑う。
「マスター」
少女が柔らかに笑いながら男を呼ぶ。
「愛してますよ」
少女の言葉に男が盛大にむせ、そのままテーブルに突っ伏す。
流石にやりすぎたか。そう思い、立ち上がりかけた少女の動きが不意に止まり―その顔が見る間に赤く染まる。
「お返しだ」
してやったり顔の、けれど真っ赤になった男が視線をはずす。
「卑怯だよ…」
言葉を使わずに胸に伝わってきた男の想いに少女はしばらく彼の顔をみられなかったという―



なんとなくイチャイチャさせた。が、糖度がいまいちだ

212未来の息子との対面―ピエット Side 1/4:2007/11/06(火) 15:33:52
遠い昔…遥か彼方の銀河系で…

――アウター・リム/バクラ星系

アウター・リムの外れに位置し、ワイルド・スペースに接しているこの星系は昔からエイリアンや
ならず者、未知の存在の侵略を受けてきた。そして、今度は反乱同盟軍の侵略をこの星と帝国
艦隊は退けたところである。ピエット大提督とヴィアーズ将軍の最強タッグの前に、またしても反
乱同盟軍は敗れた。どうやら銀河共和国が復活するのは遠い日のことになりそうである。そして
今、二人の英雄はバクラ総督のワイレック=ネリアスの歓待を受け、艦に戻ったところであった。

――ESSD『エクリプス』

ヴィアーズ「いやいや…大変な歓待だったな」
ピエット「そりゃそうだ、我々は英雄なんだから…むぅ」

突如、ピエットが額を押さえる。当然ながら彼の親友は疑問に思った。

ヴィアーズ「どうした?」
ピエット「いや…しかし…ありえない」
ヴィアーズ「分かるように話せ」

独り言…いや、うわ言に近い言辞をとるピエットそれに対してヴィアーズは少々の苛立ちを覚え
た。彼の気はそんなに長いものではないのだ。

ピエット「息子の…マキシミリアンのフォースを感じる…」
ヴィアーズ「テトランさんが来ているんじゃないのか?」

彼の幼い息子が1人の筈は無い。したがって、彼の細君と一緒に来たのだろう。彼とテトランは
お互いに愛しあっているのだ。想いのあまり、最前線まで会いに来てもおかしくはない。しかし、
ピエットは首を振った。

ピエット「いや…テトランのもそれ以外の存在も感じない…一人だけだ」
ヴィアーズ「まさか!まだ一歳だろう?」
ピエット「だが、感じるのだ…息子の存在を」

ヴィアーズはフォースに畏れを抱いているが、その不透明さに対していまだに半信半疑なところ
がある。しかし、フォースは正しかった。

213未来の息子との対面―ピエットSide 2/4:2007/11/06(火) 15:34:54
レーダー員が何事か艦長に耳打ちすると、驚いた顔をして、ピエットに近づいてきた。

セシウス「大提督、信じがたいことですが、大提督のコードを発信しているTIE-アグレッサーが接
       近中であります」
ピエット「…艦長、トラクタービームで収容せよ」
セシウス「仰せのままに」

ピエットは収容を命じ、中に乗っていた人物を連れて来るように言った。そして、数分の後、彼ら
の居るブリッジのシャッターが開き、マリーン達が中に居た人物を連れて来た。そして、一目見て
驚いた。ピエットにそっくりなのである。それでも、大分若いが。そして、彼との関係はすぐに分か
った。

マキシミリアン「お父さん!」
ピエット「ひょっとして…マキシミリアンか?」
マキシミリアン「そう、マキシミリアンだよ!30年後のね」

驚いた。まさか30年後の息子に出会えるとは。しかも、彼の制服の階級章を見れば上に赤の徽
章が3つ、青の徽章が3つ、つまりは大佐の地位にあることが分かった。どうやら彼の軍人として
の人生は順調なようである。

ピエット「大佐か…なかなか順調なようだな」
マキシミリアン「うん、今は『キメラ』の艦長をやっているんだ」
ピエット「『キメラ』か!?30歳でインペリアル級の艦長とは…チェル艦長はスーパースターデスト
      ロイヤーの艦長にでもなったのか?」

30代でインペリアル級の艦長を務める例はあまり多くない。チェル艦長などは例外中の例外だ。
彼は特に目立った功績があるわけでもないが、ペレオン提督が人材を育てる意味で抜擢したの
である。30年も経っていれば、彼も熟練の艦長になっていると思い、ピエットはそう言った。

214未来の息子との対面―ピエットSide 3/4:2007/11/06(火) 15:35:29
しかし、息子からは意外な返答が返ってきた。

マキシミリアン「チェル艦長…チェル提督のこと?」
ヴィアーズ/ピエット「何!?彼が提督だと!?」
マキシミリアン「うん、あまり詳しくは言えないけど、銀河大戦とそれに続く―――ああ、これは言
          えない…まあ、これから起こる一連の戦乱の英雄の一人に数えられているよ?
          勿論、お父さんやヴィアーズ大将軍に、ペレオン大提督やジェリルクス参謀総長
          もね?」
ピエット「ギラッドも大提督か…それは妥当だな」
マキシミリアン「うん、お父さんと一緒に戦った人達は大抵、出世しているよ。しかし凄いなぁ…こ
          このブリッジだけでも伝説級の人達ばかりだよ…」

そう言って彼はピエットやヴィアーズの脇に立っている高級軍人やその下で働く司令要員達を一
人一人見回していた。そこにヴィアーズが話しかける。

ヴィアーズ「マキシミリアン、私の息子…ゼヴュロンはどうしているんだ?話せないこともあると思
        うが、生きているかどうかだけでも教えてくれないか?」

彼の息子…ゼヴュロン=ヴィアーズは帝国の理念に疑問を抱き、反乱同盟軍に身を投じていた
のである。最後の消息では、4年前のエンドアの戦いで反乱同盟軍の艦船の砲撃手を務めてい
たと風の噂に聞いただけなのである。彼は過保護な父親ではないが、4年も聞かなければ不安に
なるものである。妻に先立たれた彼にとっては唯一の肉親なのだ。

マキシミリアン「ゼヴュロン=ヴィアーズ将軍の事ですね?AT-AT部隊の司令官になっています
          よ。経緯は言えませんが…」
ヴィアーズ「おお!神よ!久しぶりにあなたに感謝致します…」

30年後の世界で元気に、しかも自分の跡を継いでいるという事は、今もどこかで元気にしている
ということであろう。その奇跡に彼は久しく忘れていた神への感謝を捧げたのであった。

ピエット「ところで…フォースの方はどうだ?」
マキシミリアン「ふふふ、どうだろう?」

そう言うと、彼はダークサイドの電撃を軽く飛ばした。それを見ていた者達が唖然とする中、ピエッ
トだけが目を細めていた。

ピエット「素晴らしい!!ダークサイドを順調に使いこなせているようだな」
ヴィアーズ「次世代の暗黒卿というわけか…」

だが目の前の青年はダース=ヴェイダーのような恐ろしい容貌でもなければ、皇帝のように邪悪
な表情もしていない。澄んだ瞳に微笑を湛えていた。性格も両親のものを受け継いだのだろう。ヴ
ィアーズはその力に畏怖こそすれ、恐怖は感じていなかった。むしろ、帝国の未来に光を見ている
気さえしたのである。

215未来の息子との対面―ピエットSide 4/4:2007/11/06(火) 15:36:06
一通り聞いた後でピエット達は最大の疑問を彼に投げかけてみた。

ピエット「何故、この時代に来たんだ?」
マキシミリアン「んー…これなんだよね…」

そう言って彼は銀色の円筒…ライトセイバーを取り出した。もっとも、まだ作りかけであるが。ジェダ
イやシスは修行の一環として、ライトセイバーを自作する。彼もその例に漏れず、作っていたようだ。

ピエット「作り方なら教えられないぞ?これも修行だ。まあ、それなら30年後の私に聞いているだろ
      うが…もしかして、何か部品が足りないのか?」
マキシミリアン「うん…クリスタルの生産工場が吹っ飛んじゃって…」

シスのライトセイバーに使用されるプライマリー・クリスタルは人工のものを使っており、秘密の工場
で生産される。それが無くなったのは致命的だろう。

ピエット「それでこの時代に来たわけだ、なるほどね」
マキシミリアン「うん、それで開けてもらえないかな…と」
ピエット「まあ…それくらいなら構わないだろう。うん、コードは出しておく。行き方は分かるな?」
マキシミリアン「うん、分かってる。それじゃ…ありがとう」

そう言って、若きピエットは再び銀河の果てへと消えていった。後にはピエットと彼の側近達が残さ
れる。

セシウス「御子息は御立派に成長なさるようですね、お喜び申し上げます」
ピエット「ありがとう、艦長」
ヴィアーズ「私の名前を名乗るだけはあるな、うん」
ピエット「君の息子も帰ってくるようだし…万々歳だな!」

反乱同盟軍が聞いたら、悪夢と思うような話だろう。自分達の努力が少なくとも自分達の生きている
間に報われることは無いのだから。しかし、今聞いた彼らには幸せな話である。自分と自分の家族や
友人が栄達を遂げているのだから。未来というものはある者には明るく、ある者には暗い…



黒閣下のに続いてみましたw

216銀河鉄道の夜:2007/11/11(日) 00:35:31
ふと、目を開けたフランドールは首を傾げた。
がたごとと揺れる、ついぞ見たことがない、窓の沢山ついた―およそ吸血鬼の彼女には似合わない部屋の長椅子に彼女は腰かけていた。
はて、ここはどこなのだろうか、と首を捻るフランドールの前に姉が腰掛けていた。
「あら、お姉様」
「こんばんは、妹様」
彼女の声に、だが応えたのは姉の従者だった。
「お前には話しかけてない」
口を尖らせながらそう呟くと、姉の従者は困ったように笑いながら、頭を下げた。
「申し訳ございません」
姉の方はただ窓の外をぼぅと見つめたまま、一言も喋ろうとはしなかった。


「おかしな夢だね」
いつもの様に笑うフヨウにフランドールはむっとしながら、クッキーを飲み込んだ。
「そんなにおかしいの?別にあいつとあいつの従者と部屋にいただけよ」
少し苛立ち始めた彼女にそれでもフヨウはペースを崩さず天井を見上げて、言った。
「フランがいたのは部屋なんかじゃないよ。フランがいたのはね―」

パタン、と閉じられた本から顔を上げると、アサヒと目が合った。
「どうした?この話、つまんなかったか?」
彼女の問いかけに首を横に振り―思い出したように手を叩く。
「ねぇ、今度さ、この汽車って奴に乗りに行こうよ」
「ああ、そりゃあ名案だな」
くしゃくしゃと髪を撫でる手が暖かくて、フランドールは目を細めて、その感覚を楽しみ―


夢を、見ていた。
暗い部屋を見回しながら、フランドールは息をついた。
果たして何処までが夢で、何処からが現実なのか。
そして今は本当に夢から覚めているのだろうか。
ふと、枕元に置いてある古い本が目につき、それを手に取っていた。
―銀河鉄道の夜
何度も捲ったページは擦れて、表紙に至っては既にボロボロになっていた。
それでも彼女はこの本を捨てる気にはなれなかった。
ページを捲り、目当てのページを見つけ―彼女は知らず知らずその言葉を口にしていた。



久々に劇場アニメ版の銀河鉄道の夜が見たくなったら、こんな夢を見た件
…しかしなんでフラン視点だったんだろう?

217乃木版ウィリアム・テル【ウィリアムの反乱】:2007/11/11(日) 17:29:58
その日、街には活気がなかった。
と、いうのもその街は謎の「帝国」に支配されていたためであった。
それはつい先月、空からやってきた。
軍隊がそれに対応したがあっけなくやられてしまったのだ。
そして次の日から始まったのは何の意味もない銅像に
お辞儀をしろと言われたのであった。
しかしその銅像にお辞儀しなかったがために逮捕された人物がいた。
ウィリアム・テル…じゃなくてヴェノムである。
しかしヴェノムは街の人々から嫌われていて、
逮捕されたといってもそんなに心配されなかったのだ。
しかし彼には今年18歳になる娘がいた。
彼はその娘がいる方向を見つめながら、連行されていったという。

続く(ぇ

218らいーる ◆AsumiI7ApQ:2007/11/12(月) 21:41:13
逃亡編って2か月前にはプロット出来てたのねと思いつつ
再考に再考を重ね過ぎたあげく、どうにもまとまりが悪いという体たらく
やはりあれか。俺には恋愛物は無理ということか

もっと話をコンパクトにして、書きたいとこだけ書こうかしら

219らいーる ◆AsumiI7ApQ:2007/11/12(月) 21:42:00
うわーい、書くとこ間違えたー。もう今日の俺ダメポ

220夢題:2007/11/13(火) 20:48:31
「何ものも、そこに暗い影を落とすことのないように―――。」

                   バースデイ・ガールより

いつもと変わらぬように、いつもと同じように彼らは暮らしていた。
しかし、彼らは何かに気づいていた。
「何か、忘れているような気がする だが、それが何か思い出せない」
皆、「何を忘れたのか」ということを質問するたびに同じ言葉を、
この答えを発する。
しかし、二人だけはその消えた記憶を知っていた。

ヴェノム「…あれで良かったんだな?」
乃木「ああ、いいんだ あれで…あとで自分の幸せの記憶も封印しておいてくれ」
ヴェノム「わかった…後悔はしないな?」
乃木「ああ、いつまでも偶像に崇拝を続けることも無いだろう?」
ヴェノム「…わかった それじゃ私の研究室に行こうか」
乃木「…ああ 頼むよドクター」

「小英雄の面影は、もとは鮮明このうえなかったのが、
今では急にぼんやりしてしまった。」

              魯迅 「故郷」より

221憐哀編side春原:序章「成り行きの駆け出し」:2007/11/23(金) 16:22:24
 吐く息が白い。
 もう冬が近いってことを、嫌でも思い知らされる。
 街を照らすイルミネーションが鬱陶しい。
 冬なんぞ嫌いだ。
「……寒い、ねっ」
 語尾を無理に上げてるのがバレバレだった。
 ――何で元気な風を装ってんだか。
 僕は無言で歩く。後ろからついてくる足音に耳を澄ましながら。
「何で、冬なんて、あるんだろうねっ」
「神様の嫌がらせに決まってんだろ」
「なるほど。ヨーヘー、頭いい……ねっ」
 尻すぼみなトーンは、まるで声まで凍りつく様を表わしてるようだった。
 軽くイラつきながら振り返る。

 そこにいるのは、一言で言ってしまえばガキだった。
 取るに足らない、そこらへんに掃いて捨てるほど湧いてる連中と同じ。
 いや、同じように見えるだけの、別物。
 別物の――それでも、ただのガキ。

「あのな、この季節に半袖短パンじゃ寒いに決まってんだろうが」
「だってこれがボクのチャームポイントだし」
「チャームポイント丸出しで凍死する気かよ。バカじゃね?」
「ヨーヘーに言われたらおしまいだ、ねっ」
 ――口の減らねーガキ。
 苛立ちはおさまらない。
「ほら」
 着てたコートを脱いで、差し出す。
「?」
「着ろよ。寒いんだろ」
「ボクはチャームポイントのために凍死する覚悟は出来てました!」
「うるせーよ。僕がムカつくんだ、黙って着ろ」
 まったく、鬱陶しい。
「……ありがと」
「今日の晩飯代は僕が7でお前が3だからな」
「ありがたくないっ!?」
 何でこんな寒い日に、こんなとこで、こんなガキと、こんなやりとりをしてるのかと思いつつ。

 僕らは、二人きりで、逃げている。

222翼風 ◆1TOguFFHvI:2007/11/25(日) 10:51:04
ラスト

223月光浴:2007/11/25(日) 15:36:47
 真夜中に、ふいに目が覚めた。
 明るい。
 その眩しさに、光に慣れない目をかばって眇める。
 時計を見れば真夜中の4時半。当然ながら蛍光灯の灯りは消されている。
 頭が回っていなかったのだろう。
 その光がカーテンの隙間から洩れ出でているのに気づくまで、多少の時間を要した。

 十六夜月だった。
 空から降りしきるその光は、夜だと言うのにこの背に影を映しだす。
 月は金色に輝くが、その光は夜色と混ざり溶け合って青く注がれる。
 青。
 それは自分を象徴する色だ。
 きっと私は月なのだろうと、そう思う。
 己の光を持たない月。
 己の心を持たない自分。
 あまりに作為的な偶然にまみれた、自分という存在を照らす光。

 太陽は明るい。明るくて、強い。
 月は儚い。儚くて、美しい。
 私には己の光を持つことは求められていない。
 私には自分で輝くことは許されていない。
 そして――それを嘆くことも、恨むことも出来ない。
 それでも、私は月だ。
 自分で輝くことは出来なくても、光を常に浴び続けることが出来る。
 自分という存在を持たなくても、私は必ずそこに存在し続ける。

 望みはしない。
 求めもしない。

 月の美しさを湛えている限り、それこそが私なのだから。

224憐哀編side春原:一章「価値の模索」     1/4:2007/11/25(日) 19:03:02

 一日目 AM 7:30

「ねぇヨーヘー、今日ボクとデートしてくれないかなっ」
 すべてはノーテンキなお子様の、そんな一言から始まった。

 一日目 PM 15:30

 公園には人っ子一人いやしなかった。
 ま、当然だ。こんなくそ寒い中、シーソーも滑り台もベンチすらもないチンケな公園に
足を踏み入れるのは、アホの子かリストラされて行き場のないリーマンくらいのもんだ。
 だってのに、
「ヨーヘー! 見てみて、イサちゃんエベレスト踏破の瞬間!」
 アホの子はサルよろしく、木の上で喜色満面ときてる。
「へーへー、そりゃすごいですね」
「むっ。もっと喜びをわかちあおうというスポーツマンシップはないのか貴様!」
「ねーよ」
 ベンチすらないので、その場に適当にしゃがみこむ。
 溜息が、白かった。
「……ヨーヘー、退屈?」
 ふいに声に元気がなくなる。
 こちらの真意を伺うように、おそるおそる。
「あー退屈だね。こんな何もないとこで、文明人の僕が楽しめるわけないだろ」
「……ごめん」
 がりがりと頭をかく。
 まったくイライラする。
『こんな状況』でなきゃ、とっくの昔に置き去りにしてるところだ。
 僕はこいつから離れるわけにはいかない。
 もちろん、アホの子のためなんかじゃない。僕自身のためにだ。

225憐哀編side春原:一章「価値の模索」     2/4:2007/11/25(日) 19:03:49
「けどさ」
「あん?」
「普通、デートって男の人が盛り上げようとあれこれするもんじゃないかなっ」
「………………」
 もっともだ。
 男としてこれは恥ずかしいんじゃないだろうか。
 けど僕、デートしたことないぞ。
 どうやって盛り上げればいいんだ?
 ……いや、待て。
「何で僕が盛り上げなきゃなんないんだよ!?」
「ヨーヘー、男の人じゃないの?」
「男だよ!」
「じゃあ盛り上げれー」
「………………」
 もっともだ。
 男としてこれは(以下略)
「だからそうじゃねぇよ! デートしたいとか言ったのお前の方だろ!」
「……ヨーヘーは」
 木から飛び降りた。
 2階以上の高さはあったってのに、呆れるくらい身軽な動作だ。
 けど、そうして目の前に立つ姿は、僕より頭一つは小さい。
 つまりはガキだ。
「ボクのこと……きらい?」
 本当にムカつくガキだ。
 それには応えず、そっぽを向く。
 質問をわざと無視したのに、それ以上は何も聞かずに僕の傍に立つ。

226憐哀編side春原:一章「価値の模索」     3/4:2007/11/25(日) 19:04:22

 一日目 AM 8:00

 僕はそいつの問いかけにYESともNOとも応えなかった。
 応えるより早く連れ出されてたんだからしょうがない。
 寝起き直後にそんな質問されたって、応えられるわけがない。
 デート? そんな誘い受けたの始めてだっての。
 強引にもほどがあるだろ。

 僕がガキ呼ばわりしてるそいつの名前は、イサと言う。
 僕と違って天然の金髪。背が低い。
 男と言えば男、女と言えば女に見える。まぁユニセックスってやつだ。
 ガキほど性別の区別がしずらかったりするが、まさにそれだ。
 服装は大体いつも短パン。その格好がなおさら中性っぽく見せてる。

 そして極めつけの中身は、
「ヨーヘーは何でバカなのっ?」
「ケンカ売ってんのかよてめぇ!」
「だってバカじゃん!」
「バカじゃねぇよ、知性に溢れたこの顔を見ろよ!」
「あ、ディアが半裸でこっちに流し目してる」
「マジかよっ!?」
「やっぱバカじゃん!」
「バカじゃねぇよ、当然の反応だよ!」
「ボ……ワタシはヨーヘーのバカなところが大好きかなっ!」
「嫌いでいいです! ほっといてくれよ!」
「あ、よーちゃんがスカートで体育座りしながら潤んだ瞳をこっちに向けてる」
「マジかよっ!?」
「ヨーヘーのスケベー!」
「周囲から注目されるくらいの大声で言わないでください!」
 こんな有様だった。

227憐哀編side春原:一章「価値の模索」     4/4:2007/11/25(日) 19:05:10
「もうここまできたら今更だから、デートってのはまぁいい」
「本当は嬉しいくせにー」
「ガキにモテたって嬉しくねーよ。で、どこに行くわけ?」
「考えてません!」
「…………は?」
 こんな朝早くに叩き起こされたってのに……考えてない?
「ヨーヘー、考えれ」
 確か僕、誘われた側じゃなかったっけ?
「ワタシはヨーヘーの行きたいとこについてくから」
「……ふ」
「ふ? 古河パン?」
「ふっざけんなぁぁぁっ!」
 天に向かって高らかと叫ぶ。
 イサが小さく悲鳴をあげて遠ざかる。
「いきなり奇声をあげる趣味がヨーヘーにあったなんて」
「違うわっ!」
 反射的にイサを掴もうと手を伸ばす。
 あっさりとかわされた。
「こんな朝早くに叩き起こしといて、考えてないとかどーゆーことだよ!」
「えー、ヨーヘーわがままー」
「僕が悪いのかよっ!?」
「デート出来るだけで嬉しかったりするもんだー」
「だからガキにモテたって嬉しくないんだよ!」
「ワタシこれでも1434歳アルね」
「知るかっ!」
 本人曰く、あくまで悪魔な1434歳。
 羽の生えた女神や、心の底から悪魔な奴も見たことがあるから、別にそれを疑う気はないさ。
 けど、年齢と精神年齢が比例するなんて認めねぇ。
「ボクはさー」
「あ?」
「ヨーヘーと一緒にいられるなら、どこでもいいんだよ」
「………………」
 まったく。
 どうしてこんなガキにしか好かれないんだか。
 何だかんだで動揺した僕は、次に続いたイサの言葉を聞き逃した。

「どこに行っても……きっと、最後は同じだもん」

228憐哀編side春原:二章「幸福の押し売り」     1/4:2007/11/25(日) 21:10:59

 二日目 AM 10:00

 お互いに無言だった。
 何とはなしに、話を切り出しずらい。
 昨夜の僕に言ってやりたい。アホか、と。
「あ、ヨーヘー」
 小さな声で、呼びかけられる。
 何故か立ち止まって振り返ることを躊躇った。
 僕はそのまま通りを歩く。
「ヨー…ヘー」
 無視。
 振り返らない。
 いや、振り返ることが出来ない。
 いったいどんな顔して振り返ればいいってんだ。
 誰か教えてくれ。
『あんなこと』した後って、どうやって会話すればいいんだよ。
 すると、
「ヨー、ヘー!」
 体当たりされた。
 背中に強烈な一撃。
 僕はつんのめり、折り重なるようにして倒れた。
「へへ……ヨーヘー」
「浮かされたような声出すなよ! 気味悪いだろうがっ!」
 背中にのしかかる重さは軽かったけど、子泣き爺のように貼りついてくるせいで立ち上がれない。
「じゃあ無視すんなっ」
「うるせぇ! どんな顔して答えりゃいいんだよ!」
「こんな顔でいーじゃん!」
 僕の真横に顔が生える。
 満面の笑み。見てるこっちまで多幸感に包まれそうになる。
 その頬が、心持ち赤い。
「ヨーヘー」
「何だよ」
「ヨーヘー」
「だから何だって」
「大好き」
「……恥ずかしいんだよ」
 気色の悪い感覚。
 僕はロリコンになるつもりはない。
 ない、はずだ。

229憐哀編side春原:二章「幸福の押し売り」     1/4:2007/11/25(日) 21:13:05
 腕にしがみついて離れないのが邪魔だった。
「だから勘違いすんなよ、別に僕は」
「それでもボクはこーしてたいのでした!」
「僕が迷惑なんだよ!」
「なら喜べ!」
「理不尽すぎませんかねぇっ!?」
 明らかに昨日とは振舞いが違う。
 傍若無人なのは変わらずだけど、それでも昨日はこれだけ近づいてきたりはしなかった。
 距離が変わったんだろうか。
 言うまでもなく、原因は昨夜のやりとりにあるんだけど。
「この方がデートっぽいし」
「デートじゃないんだろ」
 昨夜、こいつ自身が口にしたことだ。
「じゃあデート以上」
「何だよそれ」
 そう言うと、横の姿がニヤリと笑った。
「やーだなー、ボクのこと子供扱いしてるくせに、そんなことも知らないんだー」
「あ? 適当言ってんじゃねぇぞコラ」
「ヨーヘーはドーテーだからそんなことも知らないんだー」
「心の底から大きなお世話ですよねぇっ!?」
 こんなガキにドーテーとか言われたくない。
「大体、これは逃げるためだって昨夜お前自身が……」
 逃げるため。
 そう、これはデートなんかじゃない。

 イサは狙われている、らしい。
 誰にかはわからない。
 本当なのかどうかもわからない。
 けど、少なくとも根も葉もないデタラメじゃないだろう。
 そう思わせるほどのものが、昨夜のイサにはあった。

230憐哀編side春原:二章「幸福の押し売り」     3/4:2007/11/25(日) 21:13:59
「や」
「あ?」
「やだよ、それ忘れて」
「言ったのお前だろーが」
「あれはもののはずみ。なし」
「意味わかんねーっての」
「だって、そんな気持ちでこれから一緒にいても楽しくねぇ!」
「いきなりテンションあげんな。ついてけねーよ」
 こいつの言動は定期的に意味不明になるから困る。
 けど、何となく他人の気がしないんだよな…
「ヨーヘーには迷惑かけないから」
「あ?」
「何度見つかっても、絶対ボクが何とかするから」
 いまいち意味がわからないので無言。
「だからボクを独りにしないで」
 けどイサの目は切実で。
「最後の時まで、ボクと一緒にいて」
 やっぱり嘘を言ってるようにはとても見えない。
「ヨーヘーだけなの」
 何がこいつをここまで追い詰めるのか。
「ボクにはヨーヘーしかいない」
 何がこいつをここまで怯えさせるのか。
「ヨーヘーしか信じられない」
 おそらく、それは絶対にわかりゃしないだろう。
 それでも、
「うるせーよ」
 イサの頭に手をおき、引き剝がす。
 僕の本気を悟ったか、イサはほとんど抵抗せずに手を離した。
 その顔は驚きに満ち溢れてる。
 溜め息。

231憐哀編side春原:二章「幸福の押し売り」     4/4:2007/11/25(日) 21:21:50
「ここまで来て、今更お前だけ置いていけるかよ」
 頭に置いた手を、適当に動かす。
 天然の金髪がぐしゃぐしゃになった。
「え……」
「ずるいんだよお前。僕の意見なんて最初から聞こうともしないくせに、
 自分の意見ばっか僕に押し付けてきやがって」
「…………」
「僕は他人に動かされるなんて御免なんだよ」
 押しつけた手のせいで、イサがどんな顔をしてるかはわからない。
 わかりたくもなかったね。
 こんなこと言わなきゃならない自分にもうんざりだ。
「僕は好き勝手にやる。僕がしたいことだけをな。
 ついてきたけりゃついてこいよ」
 手がはねのけられた。
 見たくもない顔が上目づかいでこちらを見上げてくる。
 薄く涙のにじんだ顔。
 すがられるのなんて御免だ。
 けど、今ここでこいつを見捨てるのはもっと御免だ。

「お前が僕の傍にいる限り、僕はお前を見捨てねーよ」

 前から飛びつかれた。
 ある程度予想してたので、今度は倒れずに済む。
「ヨーヘー」
 面倒なので、もう応えない。
 しばらく、そうしてた。

232神様仏様ミシャグシ様:2007/11/26(月) 12:09:16
正直ナハトは困っていた。
「そこからどけ、掃除機がかけられんぞ」
「やーだ、寒いもん」
こたつ布団にしがみつき、首だけ出した少女を見下ろしながら彼は深く溜め息をついた。
既に十時すぎ。
そろそろ近所のスーパーの朝市で玉子等を買ってこなくてはならない。
ナハトは再び溜め息をつくと掃除機を片付けだした。
「あんまり溜め息つくと幸せ逃げるわよー?」
誰のせいだ、と言わんばかりにこたつむりを睨んでおき、鞄を手に玄関へと向かった。
「ついでになんかつまむもんお願いね〜」
「へーへー」
神様ってこんなもんなのかと思いながらも普段一緒に居る早苗に彼は同情せざる得なかった。

「彼の事、いじるわねぇ」
「そうでもないよ」
テレビの時代劇を見る友人に諏訪子はこたつからはいだした。
「彼がいじられやすいだけよ」
「口ではなんだかんだで世話焼きよねぇ」
テーブルの上に備え付けられた蜜柑を友人に投げてよこしながら、彼女も蜜柑に手を伸ばす。
「でも手は出さないでくださいよ?彼はちゃんと彼女居るんですから」
声に諏訪子達が振り向けば、カップ片手に笑顔を浮かべるドロシアがいた。
「あーうー…、大体彼はすこし細いわ」
「ところが!脱ぐとしっかり腹筋が割れてるのよ!」
「なんで知ってるのよ…」

そんないつもの光景

233名無しさん:2007/11/28(水) 18:31:12
作業age

234まとめ:2007/12/03(月) 01:04:25
浮上

235ピエット大提督:2007/12/05(水) 18:36:30
帝国は情報保護の必要性を感じている為、浮上工作を実行中である

236仰視編 ―神格佇む境内で・昼―:2007/12/09(日) 21:06:14
 その空間だけ、世界から切り離されていた。
 気配はなく。
 木々のこすれ合うわずかな音の中で、独り鳥居を通り過ぎる。
 紅葉も終わりその多くが地を黄金に染め上げる秋の名残りの、
 それでも木々に残る葉の隙間から零れ落ちる光線に、わずかに目が眩んだ。

 まずは左手。次に右手。左手に注ぎ口に含み、最後にもう一度左手。
 手水舎での作法は、冬の近いこの季節には感覚を痺れさせる。
 水の跳ねる音が心地いい。
 手水舎から境内まで歩く間に、財布の中から硬貨を取り出す。
 10円。これ以上の金額にすることも、以下にすることもない。
 高すぎると習慣性が薄らぐし、安すぎると参拝という行為自体まで安っぽくなってしまう。
 ちなみに定番の5円は使わない。御縁に興味はないからだ。
 冷水を浴びた手には、握りしめる硬貨の温度さえほんのり温かく感じられた。

 境内に、一歩。
 視界の先に佇む拝殿。そこに至るまでの真っ白な道。
 恐る恐る歩く。
 いつだってここでは畏怖を覚えずにはいられない。
 神が居る・居ない。神を信じる・信じない。
 そんなの些末事だ。些末だし、どうでもいい。
『参拝』という行為に、「神様にお願いする」なんて意味は微塵も込めていない。
 それでも、ここには確かな畏敬がある。
 そして、それだけでいい。

 最初に小さく会釈。それは魔術儀式における『聖別』に似ている。
 現実と夢の狭間にあって、その2つを切り分ける1つの儀式。
 腕の中でしっかり握りしめていた硬貨を放る。
 木造の賽銭箱にあたる鈍い音。続いて、金属同士がぶつかる鋭い音。
 ゆっくりと目を瞑る。時と場所が違えば、それは寵愛をねだる動作と何ら変わりない。
 そして、最も基本的かつ有名な作法――二拝二拍一拝。
 心の中で念じる。

 ――どうか、平穏を。

 それは願い事『ではない』。
 あえて陳腐な言葉で表現するなら、『誓い』だろうか。
 この一連の流れの中に、自分の意識を刻み込む。
 静謐で彩られた幻想世界を。もはや習慣と言い換えてもいいこの儀式を。
 いつか心の中で思い返す度に、思い出せる。
 今の自分が何を求めていたかを。
 もしも神様が存在するなら、何もしてくれなくていい。
 ただ、許してほしい。
 今この時、この場所で、こういった形で『願い』を歴史に刻みつける自分を。

 最後にもう一度会釈して、儀式は終わる。
 拝殿から振り返ると、ゆるやかな日差しの中に伸びる影が軽く踊った。
 これで穏やかな夢の時間も終わり。
 さぁ、現実に帰ろう。
 騒々しく、慌ただしく、それでもそこにしかない自分の居場所へ帰ろう。

237冬の音:2007/12/16(日) 23:38:19
茶をすすっていた紫がついと顔を上げて、呟くように言った。
「冬の音ね」
「冬の音…ですか?」
向かいに座り、同じ様に茶をすする早苗が不思議そうに紫を見つめた。
黒目黒髪のごく普通の日本人、といった彼女はそうと嬉しそうに頷いた。
「あの音を聞くとね、いよいよ冬だって気になるの。自分はあの音が好きなんだ」
そう言い、目を閉じて耳を澄ます彼女に倣い、早苗も同じ様に目を閉じる。
そうすると普段は気にも留めない小さな音が―風が落ち葉をさらう音や火鉢のはぜる音が聞こえてくる。
これが冬の音なのだろうか。
そう思い、目を空けかけた時だった。
パキ―
先ほどよりももっと小さな、何かの割れる音が早苗の耳へと入った。
「聞こえた?」
紫が嬉しそうに問掛けた。
「今のは?」
聞き慣れないそれを早苗が問いで返す。
「霜が砕ける音さ。外じゃとびきり寒い日の朝にお日様が当たるとほんの少し聞こえるんだ」
そんな、霜が降りた朝のこと。



静かじゃないと聞こえない、霜が砕ける音
もしかしたら明日の朝は聞こえるかもしれない

皆にとっての冬の音はなんだろう。そう思う、冬の夜

238仰視編 ―曙光抱く摩天楼にて―:2007/12/17(月) 23:13:26
 見上げる。
 天に突き刺さらんばかりに延びる巨大な柱が、視界の一面を覆っている。
 けれど、そこにあるのは決して無機質なだけの鈍い光じゃなかった。
 光線。
 ビルの壁面を埋め尽くす透明なガラス窓が、その屈折率から全反射させた朝ぼらけの太陽光。
 空は、太陽から光を受け取りながら、太陽よりも眩しく輝いていた。
 薄く目を凝らす。

 早朝の摩天楼に人の気配はなく。
 あと数時間もすれば雑多な波に覆い尽くされるであろうその場所は、
故にこの時間だけは普段の喧噪を晴らすかのように静寂に包まれている。
 目を閉じる。
 このまま眠ってしまえればどれだけ気持ちがいいだろうか。
 思い、一時間後の惨事が即座に脳裏に浮かび、苦笑。

 日の光がわずかに上方に傾くだけで、人工物が彩る光の幻想は終わりを告げる。
 一日の、わずか十数分の間にだけ訪れる、『ツクリモノノゲンソウ』
 日常の中でそんな幻想に浸れる自分は、さて幸福か。
 あるいはそれはとてつもなく不幸なことなのかもしれない。
 幻想と対比してしまう限り、現実は俗物にまみれた凡庸な世界に過ぎない。
 それはダイヤと比較して、水晶の価値を軽んじるようなものだ。
 決して水晶に価値がないわけではないのに。

 そして、結局のところ、自分は水晶しか手に取れない。
 ダイヤは眺めることは出来ても、その手に納めることは出来ないのだ――

 さて、時間が来た様子。
 これから摩天楼の一角にその身を置き、生きるための労働が始まる。

 胸に抱いたダイヤの輝きは、従事する自分を少しは癒してくれるだろうか?

239―地上の咆哮―:2007/12/22(土) 10:29:47
ただ、音が外から聞こえるだけである。

それは爆発音であったり、機銃を撃つ音でもあり、
そして突貫の命令の声でもあり、悲鳴でもある。

次々と倒れゆく味方、迫ってくる敵。
私はこのやうな戦火の中で、決断をしなくてはならない。
味方にどのやうな指揮するかをだ。
私は迫られている。それは決断なり。

「サイパン全島の皇軍将兵に告ぐ 鬼畜米帝への侵攻を始め、既に約二年も過ぎた。
このサイパンにいる陸海軍の将兵ならびに軍属達は皆が一致団結して協力し、
皇軍の面目を十分に発揮し、負託の任務を完遂することと思われたが、
天に見放され、地の利は十分に発揮できず、だが、人の和を発揮して今日まで生きてきた。
だが、資材は尽き果て、銃や大砲も鹵獲されたり、壊されるなどして、
戦友達は相次いで戦死している。これは真に無念だが、彼らが国に貢献してことを信ずる。
だが、敵の進行は依然として悠々たるものであり、サイパンの一角を占領するも、
敵の爆撃に曝され散っていくのみで、今や止まっても、進んでも死ぬという最悪の事態となっている。
だが、今は大日本帝国男児の真骨頂は発揮するときであり、私南雲忠一は、
今ここにいる君ら将兵、軍属とともに喜んで鬼畜米帝の懐に飛び込み、
太平洋への防波堤として、ここに骨を埋めようと思っている。
今こそ戦争での教訓、「生きて虜囚の辱めを受けず」を実行するときであり、
勇気を持って躍進し、全身全霊で戦ひ、悠久の大義に生きることを
最後の喜びとするのだ。」

1944年7月8日 南雲忠一 戦死(ただし自決説もあり)

二階級特進にて、海軍大将へ

サイパンの戦いで日本軍は文字通り玉砕し、
生き残った日本兵は重症の兵士一人だけだったという。

240願いの雪:2007/12/23(日) 21:47:10
「…雪だ」
つまらなそうに窓の外を見ていたコピーエックスが驚いたように目を丸くした。
「ポッケ村は雪山に近いからね、降っても不思議じゃないよ」
鎧の手入れをしていたフヨウが彼の方を振り返る。
まるで子供のように窓から身を乗り出し、雪に手を伸ばすコピーエックスの様子が
普段の彼からは想像もつかず、フヨウは思わず笑ってしまった。
けれど、いつものなら飛んでくるであろう皮肉はいつまでもなく、
不思議に思った彼女は首をかしげて、問いかけた。
「もしかして雪見るの、初めて?」
彼女に背を向けたまま、彼が首を横に振る。
「視察にいったとき何回も見てるよ?…ただ、そこで見たのは
天候操作装置で操作して降らせた雪だからさ」

人だけでなく、天候と言う自然でさえ操作されていた彼のいた場所。

そんな環境だったからこそ、人々の間にはあるジンクスが出来上がっていた。

―曰く、自然に降る雪を見れた者は願いが叶う、と。

(ついでだから、何か願掛けしてみようかな)
柄にもなく、そんなことを思いながら、すっかり溶けてしまった手の中の雪を見つめる。
「そか」
一方、答えに満足したのか、フヨウは再びコピーエックスに背を向け、
今度は盾を点検しだした。
二人の間に流れる、静かな時間。
暖炉では暖かな火が燃え、時折薪の爆ぜる音を辺りに響かせる。
「そういえば」
思い出したようにフヨウが武具を床においたまま、コピーエックスの隣に身を乗り出す。
「昔お父さんに聞いたんだけど、静かにしてると雪が地面に落ちる音が聞こえるんだって」
「ほんとうかい?なんだかにわかには信じられないけどな」
「まぁさ、ほんとかどうかは目、閉じてみよう」
そう言いながら、二人がゆっくり目を閉じ、
「するね」「…ん」
どちらともなく互いの手に自分の手を重ね、
二人は飽きることなく雪の落ちる音をただ静かに聞いていたのだった。
どうやら、天然の雪は溶けてしまっても願いを叶えてくれるのだと、思いながら……

241憐哀編side春原:三章「諦観の共有」     1/4:2007/12/24(月) 19:50:01

 二日目 PM 22:30

 結局僕らが最後に辿り着いたのは、昨日も訪れた何もない公園だった。

 二日目 PM 16:00

 ――おい、パス!
 その言葉が耳に届いた瞬間、忘れかけてた何かがわずかに疼いた。
「? どったんヨーヘー?」
「……あ? いや、別に」
 顔に出した覚えはない。
 ほとんど反応なんてしてなかったはずだ。
 それなのに、
「気になんの? 今の声が」
 コイツは僕の考えを当たり前のように読み取ってくる。
「んなことねーよ」
 ――まったく、鬱陶しい。
 そんな思いさえも伝わったのか、イサは顔を伏せて、
「そっか」
 とだけ言った。
 何か悪者っぽかった。むしろ悪者だった。
 僕は何もしてないってのに。
「おい、ちょっとついてこい」
「え?」
 イサの手を引いて、僕は声のする方へ歩く。

242憐哀編side春原:三章「諦観の共有」     2/4:2007/12/24(月) 19:51:47
 そこは運動場だった。
 ちょっとした祭りぐらいなら余裕で開けそうな広さがある。
 娯楽がない、って意味じゃ昨日の公園と何も変わらない。
 けど、
「何かやたらと人がいやがりまくります」
 そりゃそうだ。
 運動場は運動場らしく、運動のために使われてる。
 走りまわる『同じ服装(ユニフォーム)』の連中。
 間を行き交うたった一個のボール。

 つまりは、まぁ、サッカーの試合中ってことだ。

「ヨーヘー、あれ何してんの?」
 イサが僕の服の端を引っ張りながらそう聞いてくる。
 その光景が、ふといつかの何かと重なり――胸中ではっ、と笑う。
「あ? お前サッカー知らないのかよ」
「知らねー。ヨーヘー教えれー」
「それが人に物聞く態度ですかねぇっ!?」
 と言いつつ、これについて語らせると僕はうるさい。
 伊達にサッカーのスポーツ推薦で高校に進んだわけじゃない。
 そこらのなんちゃってスポーツマンとは格が違うわけよ。
「いいか、サッカーってのは…」
「入った! ボールがデカい籠に入った! ねぇあれで勝ち? 勝ち?」
「聞けよっ!」
 聞きやしなかった。

243憐哀編side春原:三章「諦観の共有」     3/4:2007/12/24(月) 19:52:38
「ボールでけー。投げますか? イサちゃん遠投は大得意でした!」
「投げねーよ」
 僕らは運動場から一つサッカーボールを拝借して、広場の隅へと場所を移した。
「これはこうやって使うんだ、よっと」
 慣れ親しんだ感覚。
 ボールに触れる回数は減っても、体に染みついた技術は簡単になくならない。
「ヨーヘーかっけー! 驚異のボール捌き、ただしハンドみたいなっ」
「お前ホントは知ってるだろ!」
 まぁただのリフティングでも、ここまで驚かれればやった甲斐はある。
「ほら、パス」
「あ、えっ!?」
 山なりにボールを送ると、イサはバタバタと手を振って、
 顔面でリフティングした。
「……もう少し機敏に動けねーのかよ」
「あはははははははっ!」
「何がおかしいんだよ?」
「ヨーヘーが笑ったから! ボクも笑う!」
 口元が知らず歪む。
「そーかよ」
 自分の頭と同じくらいの大きさのボールを抱えながらイサが笑う。
 それを見ながら僕も笑う。

 ムカつくことに、僕はこの時少しだけ思ってしまった。
 こんなのも、悪くはないと。

244憐哀編side春原:三章「諦観の共有」    4/4:2007/12/24(月) 19:53:26

 二日目 PM 23:30

 イサの息はわずかに荒い。
 それ以上に、弱い。
 普段のイサを知っていれば、なおさら今の姿は異様に映る。
 その顔に普段のむやみやたらな快活さはほんのこれっぽっちもなく。
 そのまま夜の闇の中に溶けていくかのような、昏い表情をしていた。

 ――ボクはもう、ムリ。
 ――これ以上は、何も持っていけない。
 ――アイツは間違いなくボクを『壊す』。
 ――だから、もう、お別れしない、と。

 けど、何より異常だったのは。

「こんなの……ヤだ。もっと、ずっと…ずっとヨーヘーといたかったのにぃ……」

 その瞳から、壊れたように涙がとめどなく溢れていることだった。

 二日目 PM 17:00

 ボールを適当な場所に返して、僕達は再びあてどもなく歩く。
 いつまでこんなことを続けるのか、とか。
 そもそも僕達は何をしてるんだ、とか。
 ――昨夜のコイツを見たら、何も聞けないんだよな……
「ヨーヘー」
「あん?」
「楽しかった?」
「何が?」
「さっきの。サッカーってやつ。球蹴り。ナイッシュー」
 相変わらず言葉はおかしかったけど。
「……まぁな」
 自然と、そんな言葉が漏れた。
「へへっ」
 手が握られる。

 もう、その温かい感触を振りほどく気にはならなかった。

 この時には何となく気がついてた。
 僕が何故コイツの勝手気ままをここまで許してるのかを。
 僕が何故コイツの手を振りほどく気にならないのかを。

 僕はコイツを守りたい。
 このバカなお子様を助けてやりたい。
 間抜けなことに、硬派で通るこの僕がそんなことを思ってしまってた。

245何かが足りない:2007/12/25(火) 16:47:11
マキシミリアン=ヴィアーズ…帝国軍の大将軍にして、数々の戦いの英雄にして、機甲部隊の
運用の天才…肩書きと名声をほしいままにし、大提督ピエットの親友であることから、その地位
も磐石。軍人としては非の打ち所無い人生を送っていた。軍人としては。

ヴィアーズ「…」

1人で自身のオフィスに篭っている時には、ポケットからロケットを取り出し、ある写真を見るの
が彼の習慣となっていた。息子、ゼヴュロン=ヴィアーズの写真である。彼の息子は皇帝の掲
げる新秩序を崇拝する父親と袂を分かち、反乱同盟軍に行ってしまったのである。妻を事故で
亡くした彼にとっては唯一の肉親であるにも関わらず、だ。

ヴィアーズ「私の方針が間違っていたのだろうか…?」

虚空に疑問を放つのもいつもの事だ。彼は典型的な仕事人間であり、家庭的では無い、とは
言い切れないが、過保護な父親でもなかった。妻が亡くなったときでさえ、軍事アカデミーを卒
業したばかりの息子には、帝国軍に仕えることで母との思い出を誇りに思うようにと言った。
それが彼の心の琴線に触れたのだろう。親子の溝は決定的なものとなった。

ゼヴュロンはしばらくの間、将校として働いていたが、機を見て、反乱軍に逃亡した。この時は
ヴィアーズも連日査問委員会へと呼び出された。彼はヴェイダーに拾われたことで、不問にさ
れたが、息子の上官と同僚は軍籍を剥奪され、その後の行方は分からなくなってしまった。彼
は今でもそのことを思うと、胸が痛む。しかし、それでも考えを改めることは無い。

ヴィアーズ「いや、そんな事はあるまい。ゼヴュロンは愚かな反動分子に誑かされただけなのだ」

先程放った自分の疑問に答えるのも自分だった。自分を否定することは皇帝の理想を否定す
ることになる。彼にできることではなかった。

ヴィアーズ「ならば…」

自分と同じ者をこれ以上出さないようにしよう。椅子から腰を上げ、背後の窓から下を見下ろす。
インペリアル・パレスには数階ごとに空中庭園が設けられている。その中でも最も高いところに
ある庭園を、彼の親友とその妻と息子達が散歩していた。その妻の数に彼は苦言を呈したくも
なるが、今のところ仲良くやっているようなので口出しはしない。ただ、自分の役割は彼らを見
守り、破滅を再び起こさせないようにすることであると再確認した。

246さんどいっち記念日:2008/01/12(土) 23:36:10
食卓に並べられた野菜の山と柔らかなフランスパンとを諏訪子は交互に見つめた。
「あれ、ケロちゃんだ」
声に振り向けば、片手にクリームチーズを持った赤目の少女。
「今日は何かやるの?」
「んーん、お母さん達の気まぐれのサンドイッチパーティーやるだけ」
言われて見れば成程、彼女の母達が台所に明け暮れていた。
鶏肉と香草の芳しい香りに、肉の焼ける音。
それだけでも食欲をそそるそれらに諏訪子も唾を飲み込む。
「おーずいぶん準備進んでるじゃん」
そう言いながら、現れたのは伊吹の鬼。
「どぉれ、ひとつ味見…うん!中々いい野菜使ってるじゃん」
手近なトマトを摘んだ彼女の体がふわりと浮きあがる。
「こら」
襟をつかまれたままデコピンを喰らう彼女。
「まあ野菜くらいいいじゃないの、まだ鶏やらは出してないんだし」
皿に盛られた鶏の香草焼きを卓へ並べながら、人間の紫がくすくす笑う。
ああ、ここは今日も平和だ。
そう思いながら、諏訪子は野菜に手を伸ばすのだった。
「…ん、おいし」


サブウェイの奴を家でつくってるときに思い付いたネタ
野菜がっつり入れるのが最近のお気に入り
…オリーブないけどな!

247雪と子と巫女:2008/01/18(金) 21:43:04
寒いと思えば。
窓の外にちらつく白片を見上げながら、早苗は火鉢に炭を入れた。
冬になる前に「必要不可欠だ」と山のように拵えられたそれらは暖房機器など
ほとんどないこの場所では重宝できるものであった。
きっと朝入れた掘り炬燵の炭も残り少ないだろう。
そうなれば、寒さに弱い神様がまた寒い寒いと布団に潜り込むだろう。
それではあまりにも情けない気がして、早苗は足早に土間を後にした。

「あら…?」
寒い廊下を進む彼女の目に雪の降る境内に立つ誰かの姿が入る。
その人物は踊るように空に手を伸ばし、白くなった息を何度も弾ませていた。
石畳を跳ねるように裸足で踏みしめながら、誰かがその場でターンを決め、
「あ、早苗ちゃんだ」
白い髪から覗く深紅の目を細めながら、彼女は笑った。
「村上、さん?」
「んもぅ、呼び捨てでいいってば」
驚き、立ったままの早苗を見つめながら、フヨウは再び舞い始める。
「あの、何を?」
「踊ってる!」
それは見れば分かる。
少し馬鹿にされた気がして、早苗は火鉢を手近な場所に置き、その場に座った。
「あのさ、空から雪が降ってくると何だか
『一緒にダンスはいかが?』って誘われてる気がしない?」
思わず首をかしげる。
フヨウは少し変わった子だとは思っていたが、感性等は早苗の理解の域を出ていた。
「でね、踊ってるとそのうち雪の結晶がね、きらきらしてすごく綺麗になってくの」
ほら、と差し出された手の上には木の葉に乗せられた雪の結晶たち。
「綺麗でしょ?」
まるでビー玉を見せに来る幼い子供のような彼女に早苗はそうですね、と
つられるように笑うのだった。

その後、すっかり少なくなった炭の追加に再び土間に戻り、
居間に向かった早苗が見たのは寒さに耐えきれず、炬燵の争奪戦を繰り広げる二柱の神と
ちゃっかり炬燵で暖をとるフヨウの姿だった。
「でもさ、やっぱり寒いじゃん」

248窓辺に二人、月見酒:2008/01/26(土) 08:10:25
「ぬ」
「お?」
片や嫌そうに、片や意外そうに、二人はそんな声を上げた。
「月見か」
「…そんな所です」
満月よりは少し欠けた、それでもまだ強い光を宿す月のある夜である。
その光に誘われたのか、はたまた偶然か。
しばらくして両者とも手に杯、それに僅かなつまみを持って縁側に並んだ。
「粋狂ですな」
「お互いにな」
話すことはほとんどなく(元より声にする必要は二人にはない)、ただ黙々と互いの酒を酌み交わし、寒々とした夜空を見上げるばかりであった。
時折思い出したように言葉を交わし、また沈黙。

別段互いを嫌っている訳ではない。これが二人にとって自然の反応だった。
少し前までは言葉すらほとんど交わさず、ましてやこうして酒を酌み交わすことすらなかった。
「変わったものだな」
「えぇ、全く」
片方の言葉にもう一方が苦笑しつつ、酒瓶を傾ける。
瓶は二人の杯を満たすと酒瓶としての役目を終えた。
「お開きですかね」
「そうなるな」
瓶を適当に横に置くと、既に傾きつつある月を見上げて、互いの杯を掲げる。
「乾杯」
「乾杯」


リクがあったナハトとゼロツー話
二人の関係は多分こんな感じ

249双翼と宿木:2008/01/27(日) 17:54:17

これは私の望むものではありません。

胸を貫く充足。全身を焼き焦がすような安寧。
髪の毛一本の先にまで行き渡る幸福感。
この瞬間に己の生が途絶えたとしても、何一つ禍根を残すことはないでしょう。
世を儚むことも、恨むこともなく、清らかなまま逝けるでしょう。

それは何という――不幸。

心が仮初の幸福に包まれるほど、虚ろなその本性が醜く際立つ。
私の中には何もないことを思い知らされずにはいられないのです。
知己を望まなければ、自分がどれだけ愚かであるか知らずにすみます。
温もりを望まなければ、自分がどれだけ孤独であるか知らずにすみます。

幸福を望まなければ、自分がどれだけ不幸であるかを知らずにすむのです。

何かで満たされるほど、私の中の虚ろが際立つ。
けれど、満たされないことに私の小さな心は耐えられないでしょう。
繰り返しです。
これから先、私はどれほどの幸福を得るでしょう。
そうしてどれほど苦しんでいくことになるのでしょう。

幸福でありたい。
けれど、幸福であることは――辛い。


「……なんて、可哀想な人」

どこかで、誰かが、そうつぶやきました。

これは私の望むものでは、ありません。

250手記、1:2008/01/27(日) 22:30:26
 彼女の話をしよう。

 彼女はいつもシングルベッドの隅で小さくなって寝ている。
 シングルベッドと言っても、いつも2人――多い時は3人で使うこともある。
 部屋の広さに対して人数が多すぎるからしょうがないんだけれど。
 彼女は同じベッドを使う子の間では、とても評判が良かった。
 とにかく彼女は寝相がいい。
 一度眠りについたらピクリとも動かなくなる。
 おまけに寝付きもいいから、自分から起きない限りはまず起きようとしない。
 何度、急な心臓発作でも起こして死んじゃったんじゃないかと焦ったことか。
 これがあのピンクのポニテ娘だとこうはいかない。
 何度ベッドから蹴り落とされたかわからない。

 それはともかく、彼女は寝相がよく、寝付きがいい。
 時折、壁にぴったり貼りついて眠る彼女の顔を覗き込む。
 もう日はとっくに昇り、みんなも少しずつ起きだしてくる頃合いだ。
 放っておいてもその時が来れば必ず目を覚ますのだけれど、今日は何となく
幸せそうに寝ている彼女にいたずらをしてみたくなった。
 仕方がない。だってこんなに可愛いんだから。
 頬をつついてみる。
 反応なし。
 頭を撫でてみる。
 反応なし。
 身じろぎの一つもしてくれたらさらに可愛いのに。
 そんな身勝手なことを考えつつ、その後も耳に息を吹きかけたり鼻をつまんだり
してみたけど、結局彼女は何一つリアクションをしなかった。
 結局、今日も諦める。

 そうして私は朝の作業に戻る。
 フライパンに卵を落とし、トースターにパンを放り込む。
 そんなことをしていれば――ほら。
 布団にくるまるその姿がもそもそと動き出す。

 彼女が目を覚ます時間は、朝食が始まる直前と決まってる。
 
「おなかすいたー、ごはんだー」

 布団が内側から爆発した。
 寝相も寝付きもよければ寝起きもいい彼女は、ベッドから起き上がるなり
朝の第一声を響かせた。
 長い髪はあちこち飛び跳ね、パジャマは下がずり落ちて白いラインが覗いてるけど、
その顔に浮かんだ笑顔だけは百点満点、完璧だ。
 私は告げる。
 朝の挨拶と共に、彼女の名を。

 ――おはよう、アスミ。

 彼女の話をしよう。
 可愛くて、強くて、私の大切な大切な『妹』の話をしよう。

251煙の向こう側:2008/01/29(火) 23:01:53
縁側から立ち昇る煙にナハトは首を傾げた。
はて、こんな時間に誰か縁側でするめでも焼いているのだろう。
そう思い、鼻を動かすも感じたのは独特の苦味を含んだ臭い。
それが煙草だと分かっても彼には誰が吸っているのか、見当もつかなかった。
そもそもこの家に煙草を吸う粋狂などいない筈だ。
そう思いながら、庭へ回り込み、縁側に腰かけている彼女と目があった。
冬眠したんじゃないのか、と問えば、珍しく目が覚めたのだと返された。
自前の物だろう肘掛けにもたれながら、煙を吐き出す彼女に肩をすくめ、隣に腰掛ける。
縁側と居間とを仕切る障子は閉めきられおり、縁側はひんやりとした空気と煙草の煙に包まれていた。
何をする訳でもなく、ぼんやりとするナハトへ彼女が一服いかが?とキセルを差し出す。
煙草は吸わない主義だと返せば、残念ねと彼女にしては珍しくあっさり引き下がった。

煙草の煙が出なくなった頃、彼女は自身のキセルに残った灰を火鉢に落とした。
今度は春まで起きるなよ。
皮肉を込めて、ナハトが笑いかけると彼女は
なら早起きしようかしらと微笑み返す。

性悪め。
お互い様でしょう?

彼女がいなくなったそこから彼もようやく腰を上げ、
縁側に僅かに残った煙を空気に溶かしていくのだった。


なんとなくゆかりんはキセル吸ってそうなイメージ

252静寂:2008/02/02(土) 20:39:00




 ――私は、あなたのためにいるのに。

 ――あなたのためだけの存在なのに。

 ――あなたの中に、私はいない。




 ……………………

253覚醒:2008/02/03(日) 22:28:22

 ある時、気がついた。
『それ』が当然であることを。

 知るとはつまり、踏み越えるということだ。
 明確に引かれた一線を、私は自覚した瞬間にまたいでいた。
 もちろん、それで世界が変わるわけじゃない。
 けれどおそらく、私は変わった。
「おそらく」というのは、今となってはそれ以前の自分を思い出すことができないから。
 それこそ、その瞬間に私は生まれ変わったようなものだ。

 気がつくと私はすべてを知り。
 同時に私のすべてを失った。
 それは神の祝福であり。
 同時に悪魔の呪いでもあった。

 想うことはない。
 感じることもない。

 ただ、知った。

 世界のすべてを。
 その真実を。
 その偽りを。
 その愛おしさを。
 その虚しさを。

 ――そして、『彼』もそうであったことを。

 ……………………

254エンドアの戦い・IF 1/4:2008/02/08(金) 13:47:25
森林惑星エンドア…アウター・リムの外れに浮かぶ、文明の香りは遠いが美しい惑星である。この
惑星の軌道上に最近、人工の天体が浮かぶようになった。銀河帝国軍の"極秘超兵器"が建造さ
れつつあったのである。

そしてこの惑星の地表にはそれを守るシールド発生装置が建設され、守備隊も配置された。反乱
同盟軍の破滅は近く、帝国の一層の隆盛を誰も疑うことは無かった。しかし、破滅に向かっていた
のは彼らの方だった。

――エンドア星系・エリア48

普段は往来もまばらなこのエリアに、大規模な帝国艦隊が集結していた。フリゲートやクルーザー、
そしてスターデストロイヤーも。しかし、それらの決して小さくは無い艦船が救命ボートか駆逐艦の
ように見えてしまうほど巨大な戦艦が中心にいた。エグゼキューター級スタードレッドノートである。

エグゼキューターは銀河帝国の威信をかけて建造した帝国艦隊の総旗艦である。全長は17km.を
超え、数千の航空機と数個師団を内包し、一つの惑星を破壊できるだけの力を秘めていた。まさに
皇帝パルパティーンの理想の果てを体現したと言える代物であった。

今、この戦艦の艦橋に2人の男が立っていた。この艦隊の司令長官ピエット提督と、艦長のゲラント
大佐である。彼らは皇帝によって、"極秘超兵器"の護衛任務を与えられていたのである。その内、
黒い制服を着た将校がやって来た。彼の踵を鳴らした音で、初めて彼らは気付き、振り返る。

「提督、全艦船戦闘配置に就きました。サラストの敵艦隊はハイパースペースに突入し、こちらに向
 かっているとのことです」

偵察部隊の指揮官のメリジク中佐である。彼はしばしば、民間船の船長に化けて諜報活動を行うこ
とを得意としており、優秀なスパイとして知られている。

「よろしい、ここで待機するとしよう」
「迎撃なさらないのですか?」

提督の意外な言葉に、艦長がすぐさま疑問を口にする。報告をしたメリジクや、彼らのそばに居た司
令要員達も艦長と似たような反応を示す。言った本人の提督も、少々、落ち着かないそぶりを見せな
がら続けた。

「皇帝陛下の勅命だ。何か特別な計画がおありらしい。我々は敵の退路を塞ぎさえすれば良いのだ」

そう言って彼は再び窓の外を眺めた。勅命とあれば、彼らに議論の余地は無い。ただ、戸惑いながら
も従うしかなかった。

――第2デス・スター・火器管制室

この"極秘超兵器"の北半球に設置されたこの区画は、この計画の中で最も重要なものであり、存在
意義そのものである。帝国艦隊の半分を動員してやっとという仕事を、一発で片付けてしまうからだ。

この区画は体感的には決して寒くは無い。デス・スター内は完全に温度が調節されており、快適な環
境で将兵から作業員に至るまで自分の仕事を行える。ただ、あらゆるものが金属を始めとする無機物
で構成されている為か、視覚的には寒々としたものだった。そして人の心も。

255エンドアの戦い・IF 2/4:2008/02/08(金) 13:49:07
ここに一人の男が居た。他の将校と見かけは変わらないが、腕の腕章で総督職にあることが分かる。
彼がこの"極秘超兵器"の建造と攻撃指揮を任されているジャジャーロッド総督である。彼は今、巨大
なスクリーンに映された、反乱同盟軍艦隊の映像や、スーパーレーザーの様々なデータを見ていた。

突如、画面が切り替わった。黒いローブを纏い、厳しい表情をした男――皇帝パルパティーンである。
直ちに彼や将校達が跪く。そして、次の言葉を待った。

「司令官、適宜砲撃せよ」

ついに、この兵器が運用される時が来たのである。と言っても、彼が予定していたのは、もっと後だっ
たが。皇帝の思いつきは彼の予定を大幅に短縮したのである。

「仰せのままに、陛下」

その返事を聞いたのか、画面は元に戻った。直ちに彼らは戦闘配置に就き、攻撃準備に取り掛かった。
そして、ついに最初の発射命令が下される。

「発射!」

腕をまっすぐ伸ばし、革のグローブを嵌めた人差し指で命令を下す。すぐさま周辺の8基のタワーから
レーザーが放たれ、中央のレンズに収束し、一筋の巨大な緑色の光の矢となって、不運な敵艦を貫き、
破壊する。この時、彼らの心の中には不思議な高揚が生まれていた。

――惑星エンドア・シールドバンカー

「くそっ…」

そう呟いたのは、この基地の司令官のアイガー将軍である。彼はホスの戦いにも従軍した、天性の指
揮官であったが、原住民達をうまく味方につけた反乱同盟軍の奇襲攻撃により、部下の将兵と共に、
捕虜として木にくくりつけられていた。

先程まで彼らの居た基地から、反乱軍の指揮官らしい男――もっとも、ならず者のような風貌だが。が
逃げろ!と叫びながら飛び出してくる。何が起こるかは容易に予想ができた。その直後、目の前のバン
カーが大爆発を起こし、アンテナは焼け崩れた。最早、自分の軍人としての人生が終わった事を象徴
しているかのように。

――エンドア星系・エリア48

デス・スターの砲撃に驚いた反乱同盟軍艦隊は退却をしようとした。しかし、その先にはピエット提督
率いる大艦隊が待ち構えていた。まさに前門の虎、後門の狼…または、袋のネズミである。

しかし、デス・スターと戦うよりは賢明だっただろう。艦隊の中に突っ込むと、彼らは砲撃してこなくなっ
た。人命軽視の帝国軍でも、流石に戦艦を沈める真似はしなかった。その為、至近距離での撃ち合い
となり、ここに銀河内乱初の艦隊決戦という事になった。

「提督、シールドに負荷がかかり始めました。敵の集中砲火です」
「我々と刺し違えようと言うわけか…よろしい、反乱軍のクズ共とはいえ、見上げた根性だ。それに敬
 意を表し、全力で戦うとしよう。シールド、並びに攻撃出力強化!」

提督は邪悪な笑みを浮かべると、そう命令を下した。そして、白い巨艦は持てる火力と防御力をフル
に発揮し、次々に敵の艦船と航空機を飲み込んでいったのである。

256エンドアの戦い・IF 3/4:2008/02/08(金) 13:52:27
「前方!敵機急降下!」

次の瞬間、強い衝撃が彼らを襲った。弾幕を潜り抜け、満身創痍になった攻撃機が特攻を仕掛けて
きたのである。シールド発生装置や艦橋には影響は無かったが、通信アレイと発電設備が大爆発を
起こしたのである。これにより、指揮と攻撃が全くできなくなってしまったのだ。

「提督!通信アレイ並びに発電室大破!攻撃及び指揮不可能!」
「ダメコンチームを全員差し向けろ!指揮能力だけでも回復させるのだ!」

統制の取れない軍隊ほど弱いものは無い。事実、この戦いの戦没艦の多くは指揮系統が麻痺して
いた時間に撃破されている。しかし、彼の判断は正しかった。攻撃を優先させていたら、それこそ全
滅ものだっただろう。彼らの目の前で、デス・スターは吹き飛んだ。

――第2デス・スター

いまや、デス・スターの全てが崩壊していた。あらゆる計器が危険であることを告げ、壁や天井は崩
れ落ち、あちらこちらで大小の爆発が起きていた。皇帝の計画は自身と共に滅び去り、帝国の崩壊
を示していた。しかし、今はそれを考える余裕は誰にも無い。生き延びることで精一杯だった。

「ああ、もうおしまいだ…どこへ逃げようと言うんだ…」

総督の、いや総督だった彼はとうとう座り込んでしまった。どこのハンガーも、逃げ出してしまったか、
崩壊してしまったものばかりで、彼の逃げる手段は無かった。もっとも、あったとしても、彼は航空機
の操縦の心得は無い。さらに育ちの良い彼は、見苦しく逃げ回るのにも嫌気が刺していた。

「総督!お早くお乗り下さい!これが最後です!」

どこかで聞いたような声だ。見れば、赤いアーマーのクローン・コマンダー…名前はバレイポットとか
言ったか。ヴェイダー直属部隊の指揮官で、デス・スター防衛責任者の一人でもあった。彼らは、来
るかも分からない、彼の為に待っていたのである。背後には廊下から爆発と猛火が迫っている。慌
てて、彼はそのシャトルに転がり込んだ。ハッチを閉める前に、シャトルは上昇し、少し火が入って、
コマンダーのスカートの裾を焦がした。しかし、間一髪で彼らは逃げだすことに成功したのである。

――惑星エンドア・シールドバンカー

この惑星の地上からも、デス・スターの崩壊を望むことができた。原住民と反乱同盟軍が歓声を挙
げる中、帝国軍将兵達は通夜のように静まり返り、時折落胆の声が聞こえたり、親族か友人が居た
のか、すすり泣く者も居た。

「ああ…」

将軍も例に漏れず、頭を垂れていた。しかし、処刑されずに済むかもしれないという、安堵の気持ち
もあった。あの爆発から、2人の暗黒卿が逃れられたとは思えないからだ。

ふと、背後に気配を感じた。スカウトの一人が自分の縄を切っていたのである。思わず、声を出しそ
うになるが、スカウトが人差し指を口元にあてて制止した。小さなナイフだったので数分かかったが、
縄は解けた。そして、シャトルが確保してあるので逃げるようにと言われた。

「…君の名前を聞いておこう」
「レイズです、レイズ軍曹です」
「軍曹、感謝する」

そう言って将軍は、勝利に酔う反徒達の隙を衝いて数人の将兵と共に森に消えた。

257エンドアの戦い・IF 4/4:2008/02/08(金) 13:53:04
――エンドア星系・エリア48

「通信回復しました!」

ダメコンチームは当初の目的を達成したことを伝えた。しかし、時すでに遅く、守るべきものは失われ
ていた。全員が呆然とする中、通信が入った。皇帝かヴェイダーが現れて、死刑宣告をするのかと、
全員が恐怖した。しかし、現れたのは初老の将校だった。

「提督、インペリアル・スターデストロイヤー・キメラのペレオン副長です」

ホロに浮かんだ彼はそう告げた。何回か、艦長達との作戦会議の時に会ったのを覚えている。しかし、
なぜ彼なのか。その疑問はすぐに溶けることになる。

「副長、君が何用だ」
「艦長が名誉の戦死を遂げられたので、ただいまは私が指揮をしております」
「そうか、では今から君が艦長だ」
「ありがとうございます、提督。本題ですが、これからどうなさるのか御指示を」

心の中で少し悼んでから、副長の昇格を告げた。そして、新しい艦長が礼を言った後に、指示を仰い
だ。今や、自分が全てを決めねばならない。そうは思ったが、なかなか整理がつかないものである。2
人の暗黒卿に怯えながら仕えていたが、改めて偉大さを感じていたのである。その為少々、弱気な発
言をしてしまった。

「その事だが…どうしたものだろう」

言ってから、しまったと思ったが、目の前の艦長は動じる様子も無く、強い口調で自分の意見を示した。

「デス・スターは失われました、ここは退却すべきです!これ以上犠牲を出すことはありません!」

正論である。皇帝には恐怖こそ抱いていたが、殉ずるというまでの忠誠心は持ち合わせていなかった。
それに、戦争もさらに続くことになるだろう。ならば、戦力をどれだけ残せるかが彼の仕事だった。

背筋を伸ばすと、全てのチャンネルを開き、命令を下した。

「その通りだ。…私はピエット提督だ、艦隊の全艦並びにパイロット諸君に告ぐ。作戦は中止だ、直ちに
 カリダン星系へと撤退する!繰り返す、作戦中止、カリダン星系へ撤退せよ!」

展開していた航空機や、デス・スターとエンドアの生き残りを拾うのに多少時間はかかったが、敵の主力
は戦線から離れており、これ以上の犠牲を出すことは無く、撤退を行うことに成功した。

最悪の戦場を生き延びた彼らは、さらに大きく、泥沼化した戦いに身を投じることとなる…

258双翼と宿木、2:2008/02/11(月) 22:59:46

『そこ』は安息の地であり、また地獄でもありました。

 そのまなざしが私に絡まるだけで心が躍り。
 その手が軽く触れ合うだけで全身が焼けるような温かさに包まれ。
 その声で名を呼ばれるだけで、すべてを捧げても良いと思えるのです。

 けれど、想えば想うほど。
 慕えば慕うほど。
 彼のしたその仕打ちを、私は思い出さずにはいられないのです。
 彼を非道と罵れば、私の心は少しは軽くなるでしょう。
 けれどその代償に、そのまなざしは二度と私を見てはくれなくなるでしょう。

 いえ、彼だけではありません。
 もう誰も、私を見てくれる人はいないのです。
 彼はこの世で最も憎むべき存在であると同時に、
 この世で唯一私を認めてくれている存在なのですカラ。

 そこにいるだけで、私は例えようのない幸福に包まれます。
 同時に、その幸福の大きさに不安を感じずにはいられなくなるのです。
 私が望めば、あなたはいつまでも私を側においてくれますか?
 それとも、意義に反するからと冷たくあしらいますか?
 彼ならどちらもありえそうで、私は問うことが出来ません。

 彼は私のすべてです。
 憎しみも、好意も、私はすべてを彼に捧げました。
 だってそうでしょう?
 もはや『どこにもいない』私は、彼の幻想の中でのみ形を留めていられるのですから。

 安らぎと、絶望と、ほんの少しの虚無を与えてくれる場所。
 ――あなたの、隣。

 そこは安息の地であり、また地獄でもありました。


 ………………………

259手記、2:2008/02/24(日) 22:41:59
 食卓とは、一言で言えば世界の縮図のようなものだ。
 ある者は平和に朝のひと時を語らい。
 またある者は、一握りのパンを求めて醜く争う。
「……大人しくその焼き魚をそちらに寄越しなさい。
 今日は目覚めがいいから、スペルカードの餌食にするのだけは勘弁してあげるわ」
「あらあら、巫女ともあろう御方が脅迫? 世も末ねー」
 朝食は和食と洋食の二種類を毎朝用意する。
 人によっては朝からパンなんて食べたくないという我儘さんもいるからだ。
 私の担当は主に洋。一方の和食は杏の担当だ。
 けど、どちらか一方だけ、なんて明確な仕切りを持っている人は、実はほとんどいない。
「ソーセージー、ソーセージを食べるよー」
「イサ! 今すぐその皿のソーセージを3つだけ残して退避させなさい!」
「らじゃー!」
 ご飯を食べながらコーヒーを飲む子もいれば、パンに梅干しを塗って食べる子もいる。
 その辺は人によって様々だと思うし、片方に寄られて残ってしまうなんて心配もしなくて済む。
 けど、それはつまり、それだけお互いに食べるものが交錯するって意味でもあるんだけど。
「パンー、パンー」
「残り一枚…そこはもうダメよ! 諦めなさい!」
「そんなっ。ボク、まだ今日は一枚も食べられてないのに!」
「悲しいけど……これは戦争なのよ」
「いや、朝御飯でしょ」
 さっきからやかましく騒ぎながら食べてるのは、まぁいつも通りアーチェとイサのバカコンビだ。
 どちらかというと洋の傾向が強い二人は、いつも彼女と食べ物を争っている。
 そう、アスミも相対的に洋食傾向が強い。
 小さな両手でしっかりとパンを掴み、はくはくと口の中に詰め込んでいく。
 その口からポロポロとパンくずが零れ落ちるのも、まぁいつも通り。
「アスミ、いい加減零さないで食べるのを覚えてほしいかなぁ」
「……リディアも食べるー?」
 全然聞いてないのはわかってたことなので、特に気落ちもせず受け取ったソーセージを口に入れる。
「私から食事を奪って、まさか無事で済むとは思ってないでしょうね…」
「あんたのその言葉はもう聞き飽きたわ」
「飽きるほど聞いてるってことは、これから私がすることも想像がつくわよね?」
「あ、その海苔いただき」
「――『夢想封印』」
 食卓が吹っ飛んだ。
「今がチャンスよイサ! この混乱に乗じてさっさと食べ…ってあぁ!」
「この食べ物達はイサちゃんが獲得しました故、これにてさらばー!」
「裏切ったなーーーーーーー!!!」
 怒号。雷撃。符の嵐。
 まぁ、いつも通りだ。

 ――それからしばらくして。
「さて、じゃあ朝ごはんを作りますね」
「よろしく」
 第一陣が去った荒涼たる食卓に、再び人が集まる。
 そうして、私も含めた第二陣の、穏やかな朝御飯が始まる。
「ごはんだー」
 食卓に座りっぱなしのアスミも、うん、まったくのいつも通り。

2601日遅れのHappyBirthday:2008/03/02(日) 14:18:51
ポケットの中にある小さな紙袋をいじりながら、コピーエックスは息をついた。
(…どうしよう)
彼が居るのは、とある住人の部屋の前。
何度も扉をノックしようとしては手を引っ込めるを繰り返す彼は
傍目から見れば、怪しいの一言であった。
「…よし、フヨ」
意を決して、出したつもりの声は本当に蚊の鳴く様な声で
彼はまた小さく息をついた。
(何をしてるんだ、僕は)
左手を固く握りながら、コピーエックスは自分に問掛ける。
(簡単じゃないか、今まで通りに話して、昨日渡しそびれたこれを渡すだけだ)
これまでと同じ、これからも変わらない日常の一コマ。
それだけの、はずだった。
(なのになんでこんなに躊躇してるんだ…)
くしゃり、とポケットの紙袋が鳴る。
プレゼントを気に入らない―はない筈だ。
そう思って無難に、けれど彼女が好きそうな物を選んでおいた。


―ああ、そっか。
すっと背筋を伸ばし、ノブに手をかける。
―僕は、彼女が好きなんだ。

「フヨウ、HappyBirthday」

261空白:2008/03/02(日) 21:29:47

 だからこそ、存在出来ていると言えるのだろうが。
『それ』は普段はそこにはいない。
 どこにもいない。
 だからこそ。そう、だからこそ、私はここにいる。

 交わらないことを前提に、私は存在している。

 もともと、その必要性すらなかった。
 すべては未練だ。
 執着ともいえる。
 あるいは、愛情、と言葉を変えても誤りではないかもしれない。
 ともあれ、それ故に邂逅が可能ではあった。
 もっとも、それは私ではないのだけれど。

 執着は終わらない。
 手放しても、終わらない。
 故に、いつか終わる。
 すべては終着する。

 その時、私はどこに立っているんだろうか。


 ………………………

262君のとなり:2008/03/03(月) 23:32:41
普段はそう何気無くしている動作も意識した途端、全く出来なくなってしまう。
(手、近いな…)
ちらちらと隣を歩く男の横顔を窺いながら、もぞもぞと手を引っ込める。
普段なら知らず知らずに手を繋いでいたりするが、
意識してしまう手前、どうにも体が緊張してしまう。
(すごく、ドキドキしてる)
坂道を歩いている事もあるが、今はいつも以上に胸が高鳴っている。
そのせいか、歩き慣れたいつもの道ですら、まるで初めて歩く様な新鮮さがあった。
となりに彼が居るだけでここまで違うとは。
(ほんとに…ほんとに重症だ)
愛はまさに盲目。
そんな言葉が頭をよぎる。
けれども次の瞬間にはもう決心はついていた。
「ねぇ」
私の思い、あなたに届け

「手、繋いでもいい?」
こんな春の一時―

263手記、3:2008/03/09(日) 22:57:56
朝食が終わると、たちまち部屋は静かになる。
15人の大所帯でこの静けさはありえない、と思うかもしれない。
けど、大所帯だからこそ、静かになることもあるんだ。

今でこそ部屋数もそれなりにあるけど、昔は六畳間に15人+1人という
どう考えても物理的に入りきらない密度の中で生活してた。
食事時以外でメンバーが全員揃うことなんてまずない。
でないと、あっと言う間に酸欠の犠牲者が出てたと思う。

だからみんなどこかに「自分だけの場所」を持ってる。
中にはご飯と寝る時以外ここには戻ってこない、なんて人もいるくらいだ。
かく言う私にもそういう場所はある。
どこかって? もちろん、それはヒミツ。

そういう意味ではアスミも例外じゃない。
ご飯を食べ終えると、アスミはどこかに姿を消す。
「行ってきます」という言語概念はまだ身についてないので、
ふと思い立った瞬間に彼女はどこかへ飛び出していってしまう。
場所は決まってないみたいだ。一度ついていった事があるけど、
その時は少し離れた小さな神社に着いた。
どうもここはいつかの鬼ごっこの時に見つけた場所のようで、
よくふらふらとやってきては、勝手に中に入って遊んでるみたい。

基本的にアスミは一人で遊んでることが多い。
もともとあまり他人には寄ってこない子、と書くと意外だろうか。
アスミの中にはどうも何かの基準があるみたいで、
それを満たしている人以外には、初対面かつ無条件で懐くことはない。
私が知ってる中では、エトナと『彼』だけだ。
もっとも、後者はあまりアテにはならないけれど。

264戦場に舞う音:2008/03/15(土) 12:08:41
岩の上から見張りをしていたアサヒが慌てて降りてくる様子に一行の間に緊張が走った。
「凄い数のゴーレムとメカニロイドの軍勢がこっちに向かってきてる!」
その声を聞くまでもなく、互いが顔を見合わせ頷く。
「やはり本気で潰しに来たようだな」
普段は軽装のナハトがいつもは身に付けない鎧の留め金を鳴らしながら、
巻き上がる砂塵を睨む。
「死んだことになってるからね、今更姿を現されちゃ奴も困るんだよ」
ライトセイバーを腰に吊しながら、紫が立ち上がる。
その顔は不快そのものだと言わんばかりに歪んでいる。
「それだけこっちの存在が邪魔なんだよ、バイルは」
砂塵を見つめていた紅も脇に抱えていた漆黒の兜を被り、
地面に突き立てていた得物を手にする。
「敵は多い。
だがいいか!奴らは所詮機械!我等は歴戦の猛者だ!」
振り返り、なだらかな丘の下を埋め尽す黒い軍勢に声を張り上げる。
彼女の声に歓声が沸き起こる。
「敵には闇の恐怖と死を!
我等には勝利の栄光を!」
ジャキン!と槍と盾を構えた一団が丘の上で命令を待つ。
「全軍…」
太陽の光に透かされた紅い刃を振り下ろされる。
「進めーっ!」

265戦場に舞う音:2008/03/15(土) 12:23:32
号令に地響きを轟かせながら、一団が坂を一気に駆け降りる。
下で待ち構えていたメカニロイド達が迎え撃つように武器を構える。
その瞬間、空からいつもの流星が彼等のもとへ降り注ぐ。
「流石に、連続メテオは応えるね…」
その場に膝を突きながら、荒く息をつく紫がにたりと笑う。
轟音と爆風の中をくぐり抜けた戦士達が敵と斬り合う。
繰り広げられる弾幕をかいくぐりながら、紅は寄る敵をすれちがい様に切り捨てていた。
「紅!」
銀の鎧にオイルをまとわりつかせたゼロツーが
彼女の背後に近付いてきていた敵を槍で突き刺す。
「ヤツが来ている」
そう言われて指差された方向を見れば、敵の遥か後方で
手下を従えたその姿。
「バイルーッ!」
声に振り返れば、空を飛ぶ妹の姿。
「紫!」
制止する声を届かず、彼女は敵を避けながら走り出した。
紅い光刃を手に近付く紫の姿にバイルの近くで待機していた
レプリロイド達が直ぐ様反応する。
「ちぃっ!」
冷たく鋭い氷を避けながら、術を展開する。
少しだけ背後を振り返ると両手を空に掲げ、正反対の魔法をぶつけ合う。
カッ!と辺りが閃光に包まれ、視界を一瞬白く染め上げる。
その光に他のレプリロイド達も一瞬注意をそらした。
それが光を背に受けながら現れた黒い鎧への反応を遅らせた。

266戦場に舞う音:2008/03/15(土) 12:36:14
一歩。
レプリロイド達が慌てて黒い鎧の紅に迫る。
それを一緒に現れた仲間が迎え撃つ。
一歩。
踏み込んだ力で地面を蹴り、得物を振りかぶる。
「覚悟―!」
紅い軌跡を残しながら、刃は相手へと―届かなかった。
「……!」
衝撃に地面へと吹き飛ばされ、何度も転がりながら、目を見開く。
「オメガ…」
巨大な兵器の肩に悠然と立ちながら、男が笑っている。
「紅!」
倒れた彼女の周りに仲間が集まり、同じ様に男を見上げる。
割れた兜を脱ぎ捨て、血を拭いながら、紅は再び構える。
強大ではあるが、決して勝てないこともない力。
仲間を見回す彼女に誰もが頷き返す。
―愚かな、やれ!オメガ!
男の声に力が雄叫びを上げる。
魂まで揺さぶられるような錯覚を覚えながらも一歩も引くことはない。

もう一つの戦いが、終りの時を迎える―


たまにはこんなんもいいよね?

267彼女の見た、茜の空:2008/03/20(木) 21:28:43
西へと傾く夕日を受けながら、フヨウは石段の上に腰掛け、空を見つめていた。
空を横切る家路につく鳥の群れや取材が終わったであろう鴉天狗を目で追い掛けていると、
不意に目隠しをされる。
「誰だ?」
目隠しをした人物の声に笑いながら答える。
「早苗ちゃん!」
すっと手が外され、彼女の横に蒼い巫子服の少女が降り立つ。
「おつとめ?」
「うん、さっき里から帰ってきたとこ」
同じ様に石段に腰掛けながら、空を見上げる。
「何を見てたの?」
早苗の言葉にフヨウは大袈裟に腕を組み、唸った。
年はほとんど変わらないのだが、一方は年の割には幼く、もう一方は大人びているせいか、
二人並ぶ様はさながら年の離れた姉妹の様であった。
「うーんと、空かな?綺麗な夕焼け空だったからさ」
そう言いながら組んでいた腕をほどき、立ち上がったかと思うと空に向かって手を伸ばした。
「目の前にあるけど絶対触れない、綺麗な空を見ると何だか嬉しいんだ」
首を傾げる早苗にフヨウはくすくすと笑いながら、地面を蹴る。
「だってさ、同じなんだよ」
一瞬、風の流れが変わる。
「お父さんからもらった、僕の羽根と」
夕焼けと同じ色をした妖精の様な羽根を持った少女は嬉しそうに空へと上った。

268憐哀編side春原:四章「平穏の裏表」     1/5:2008/03/20(木) 22:42:30

 一日目 PM 16:30

 ――文明人の僕が、もっと遊べる場所を教えてやるよ。
 そう言ってから、歩いて、歩いて。
 僕達はようやく目的地に辿り着いた。
「この辺は遊べる場所が少ないんだよな」
 もともと存在価値が「大学に近い」しかない駅の前だ。
 近くにあるのは何でも取り揃えているだけが取り柄のスーパーを除けば、
個人経営のしがない小型店舗しかない。
 都会人の僕には耐えられない田舎っぷりだ。
 いや、僕の実家の田舎っぷりはこんなもんじゃないけど。
「ここ何? 中、暗くてすごい音がしてるんだけど」
「入ればわかるさ」
「……はっ! まさかイサちゃんは大人の階段上るシンデレラですか!?」
「どっから覚えてくんだよ、んな言葉」
「ダメです! だってイサちゃんはまだ1434歳なのですから!」
「いやむしろ大丈夫だろそれ」
 ネジの飛んだイサの手を掴む。
 ひどく汗ばんでいた。やたら緊張しているらしい。
「ほら、行くぞ」
「え、あ、でも……恥ずかしい、よ…………」
 半眼でイサの顔を見る。
 何をどう勘違いしてるか、耳まで真っ赤な動揺ぶりを見れば一目瞭然だ。
 ――なんつーマセたガキだ。
 わざわざ口頭で誤解を解くのはひどく面倒だったし、
そうまでしてやるほど僕はお人好しじゃない。
 イサの態度は完全に無視して、中へと強引に連れ込む。

 イサは、ほとんど抵抗しなかった。

269憐哀編side春原:四章「平穏の裏表」     2/5:2008/03/20(木) 22:45:11
 薄暗い中にぼんやりと灯る光。
 心の高揚と引き換えに正常な鼓膜を失いそうな大音量。
 つまりはゲームセンターだった。
「…………あの、ヨーヘー。ここ本気で何?」
 赤かった頬は、一転して暗闇の中で真っ青になっている。
 イサの声にはいつもの無意味な快活さがない。
 ってか、さっきから僕の服の端をつまんで離そうとしない。
「お前本気でゲーセンも知らないのかよ」
「何? ねぇ、何ここ? 怖い? 怖いの?」
 本気で怯えてるらしかった。
 完全に初めての奴にしてみれば、怖いと思うのは自然なのかもしれない。
 正体不明の場所に、正体不明の大音量。
 人の気配はある。けど、その姿は暗闇に紛れて判然としない。
 何をしてるってゲームしてるに決まってるんだが、それもこの場所を
知らない奴からすれば、異常に真剣な顔つきで不気味に発光するモニターの前で
黙々と手を動かしているようにしか映らない。
 イサの目にはアヤしい宗教を信仰する信者にでも見えてるのかもしれない。
「――まぁな」
 ここまで怯えられると、その期待に応えてやりたくなるのが人情ってもんだ。
「ここは選ばれた者だけが足を踏み入れることを許されてる」
「ボクはっ!? ボクは許されてるの!?」
「許可を得るためにはある条件をクリアーしなきゃいけないんだ」
「よし! ヨーヘーに出来たならボクにも出来るかなっ!」
「どういう意味だてめぇ!」
 安堵した上に僕をけなすという見事なコンボが決まった。
 これが僕じゃなければKOだっただろう。
 ここからどうやってねじ伏せてやろうかと頭を巡らす。
 とある友人いわく、僕は悪知恵を働かせたら一流らしいしな。

270憐哀編side春原:四章「平穏の裏表」     3/5:2008/03/20(木) 22:46:24
「それは……」
「それは?」
「……男であること」
「いきなりダメでした!」
 頭を抱えるイサ。
「けどこれには抜け道がある」
「つまりあれですかっ。『勇者、ズル技を覚える』」
「それバグですよねぇ!?」
 大体何でそんな知識を持ってるんだこいつは。
「抜け道ってのはなぁ……」
 言って、イサの頭からつま先までを軽く一瞥。
 何かに気づいたように胸の前で手を組むイサ。
「外見が男っぽければいいんだ」
「外見が……」
 今度はイサ自身が自分の体をしげしげと。
「……残念っ、イサちゃんにはここに入る資格はないようです!」
「嘘つけよっ!? バリバリOKだっつの!」
「イサちゃんはどこからどう見ても女の子です!」
「後ろ姿は99%の確率で男に間違われるっての!」
「慰謝料払えヨーヘー!!!」
「マジギレしたって一円だって払わねーよ!!」
 ってかコイツ地味に力強いんですが。
 ボカボカ殴られてる腹がムチャクチャ痛い。
 しかも周りからウザさ満点って目で睨まれてるし。
 やかましい兄妹ゲンカするなら余所でやれ、とでも思われてんだろう。
 普段なら「何見てやがんだコラ」で済ませるとこだけど、
こんなガキを横に従えてちゃ迫力ってものが出ない。
 結局、ひとしきり騒いだ挙句に自然鎮火した。

271憐哀編side春原:四章「平穏の裏表」     4/5:2008/03/20(木) 22:47:28
「ま、ガキ相手ならこれでいいだろ」
 初心者でもそれなりに楽しめるものを、ってことで。
 レーシングゲーの筐体にイサを座らせて、コインを入れる。
 イサには適当にキャラを選ばせて、スタート。
「おー、走る」
 最初はアクセルとカーブの使い方に慣れてなく、
しょっちゅう端にぶつかって僕を楽しませてくれた。
 ――ってのに。
「はい、ボクの勝ちー」
 そんな楽しみは最初の一回であっけなく終わりを告げた。
「んで、こんな強いんだよてめぇ!」
 僅差とかならまだ言いわけのしようもある。
 ぶっちぎりだ。
 周回遅れの僕に背後から追突するくらいの余裕をかますほどの。
「ボ……ワタシに勝とうなんて1000年早いかなっ」
 イサは勘がいいんだ。
 どのタイミングで、どれだけの強さでアクセルを踏み、
どれだけの量ハンドルを回せば最適な角度でカーブを曲がれるか。
 それを知識でなく感覚だけでこなしてやがる。
「ちっ、マグレで勝ったくらいでいい気になってんじゃねぇ」
「マグレは連続で10回も続かないかなっ」
「じゃあ超マグレだよ!」
「やっぱヨーヘーってバカだよね」
「大きなお世話ですよねぇ!?」
 と、他愛もない会話がダラダラと続いて――

272憐哀編side春原:四章「平穏の裏表」     5/5:2008/03/20(木) 22:48:15
「……ヨーヘー」
「あん? 勝ち逃げは許さないからな」
「ボク、ちょっとトイレ」
「だから勝ち逃げは許さないって言ってんだろ」
「漏らせと!? ヨーヘーったら何てマニアック」
「…………とっとと行ってこい」
 毒気を抜かれるとは、まさに今の僕のことを言うんだろう。
 まったく、こいつといるとペースを狂わされる。
 間違っても僕は子供に優しい優しいお兄さんなんかじゃない。
 むしろガキなんてウザいだけだ。
 実際、目の前のガキも本気で鬱陶しくてしょうがない。
 おかしな縁で知り合ってさえいなきゃ、鼻にもかけやしないさ。

 けど、こうして『知り合って』しまった以上は、無視することも出来ない。
 そう。ただ、それだけだ。

 10分ほどでイサは戻ってきた。
「おっせーよ」
「トイレを急かすなんて、ヨーヘーはつくづくデリカシーが足りねぇ!」
「僕のデリカシーは高いんだよ。誰彼構わず使えるほど数に余裕もないしな」
「エロ気は売るほどあるのにね」
「エロ気って何だよ!」
「えらくロクでもない汚らしい心」
「よりひどい方向にデマるな!」
「わかってんなら聞くんじゃねぇ!」
「ここで逆ギレする意味がわかんねぇよ!」
 それからは、筺体の前でひたすらダベって時間を過ごした。
 時折筐体を占領する俺らを鬱陶しそうに見る奴らがいたが、知ったこっちゃなかった。

 当然、僕は知らなかった。
 何も。

273君の笑顔と虹の空:2008/03/22(土) 17:01:35
「うそつき」
両目に涙をためながら、自分を睨む妹にレミリアはただ立ちつくすだけしかできなかった。
後ろでパチュリーが息を飲む気配がする。
「お姉様なんか…」

「大嫌い!」


枕に顔を押しつけながら、フランドールは大声で泣いていた。
周りでは溢れた力が荒れ狂いながら、ベッド以外のものを壁に叩き付けていた。
その音にも彼女が顔を上げる事はなく、部屋の中はどんどん荒れていった。
ゴンゴン。
吹き飛んだものが重い扉に当たって、音を立てる。
ゴンゴン。
「妹様」
誰かの声に枕に顔を埋めたままのフランドールの肩がぴくりと動く。
「…今誰とも会いたくないの」
扉の外にいる誰かにそう冷たく言い放つ。
それでもその誰かは彼女の声を無視して、扉を開け―

「来ないでって言ってるでしょ!?」

その声とともに入ってきた誰かに魔力を放つ。
弾のはじける音とくぐもった声。
その音にようやくフランドールは顔を上げ、床に倒れた誰かを見下ろす。
見た事のない誰かは苦しそうに―けれど悲しそうな瞳でフランドールを見上げる。
「そんな目で…見ないでよ!」
相手の頭をつかむとそのまま床に叩き付ける。何度も何度も。
それでも彼女は自分の髪をつかんだその手にそっと己の手を重ねた。
「大丈夫ですよ」
誰かは血まみれの顔で笑った。
ただやさしく、フランドールを包み込むように。
「あ…う…」
いままで向けられた事のないその顔にフランドールはたじろぎ、手を離し後ずさった。
その彼女を誰かはただ黙って抱きしめた。
「私はレミリア様の部下です」
その言葉にフランドールの顔が歪む。
「やっぱり、あいつの思い通りって訳ね」
振り解こうとする彼女にでも、と誰かは続ける。
「私はフランドール様の友達になりたい」

「…あー」
天井を見上げながら、声を上げる。
懐かしい夢を見た、気がした。
といっても昔のことなんてよくおぼえてはいない。
伸びをしながら、服を着ていると誰かの足音が聞こえてくる。
少し早歩きのそれに背中の羽をばたつかせながら、扉へ向かう。
「おはよう!アサヒ!」
「おお、今日は随分早起きじゃねぇか」
「えへへ、だって今日は魔里沙にお呼ばれしてるんだもん」
「ははは、そうだったな。じゃ、行くか」
「うん!」
手を繋ぎながら、正面玄関へ向かい、門の近くまで歩く。
「ああ、アサヒにフランドール様。お出かけですか?」
あくびをしていた美鈴が二人の姿を見つけ、背筋を正す。
「うん!魔里沙のとこにいくんだ!」
嬉しそうに笑うフランドールに美鈴は優しく笑いかけながら、その頭を撫でる。

「よかったですよ、ああして笑えるようになって」
「の割には寂しそうじゃないか」
「そんなことないですよ。私は彼女が笑っていられるだけで幸せなんです」

―そうですよね?フランドール様
空にかかった虹へと飛ぶ二人を見ながら、美鈴は今日も門の前に立っていた。


蛇足
めーりんは紅魔館みんなのお母さん
異論?そんなもん知らんニャ

274無為:2008/03/24(月) 22:32:10





 必要ないなんて、言わないで。





 ……………………

275桜月夜:2008/03/29(土) 23:00:06

「月を眺める風情は、私には理解出来ない」

 振り返る。
「月光浴。言葉はこんなにも美しく響くというのに。
 あの光を眺めていると、冥い生の闇に震えずにはいられない」
「それは千年生きても変わらない?」
「千年程度、私の永遠の前には塵芥に等しい」
 かすかに灯る、紅い炎。
 富士から立ち上る、不尽の煙を生む力。
「あの絶え間無く続く闇夜の凌辱に、人は何を思うものなのかしら」
「あなたも人でしょう?」
「そう。私も人。不死の冥路を永劫彷徨う、呪われた蓬莱人。
 お前は?」
「私も人よ。見ての通り」
 蓬莱人はわずかに目を細めて嗤う。
「あら。私の目には『人』なんて映っていないけれど」
「不死で瞎(めくら)とは救いようのない」
「心無き器を人とは言わない」
 まなじりを、わずかに細める。
 蓬莱人は薄い笑みを張り付けたまま、一歩後ろに下がる。
「おお怖い。人の形にも、怒りが存在するのかしら」
「私にそんなものは存在しない」
「それは面白い。心無き人形に怒りはなくとも、月を眺める風情はあると?」
「ないわ。私には何もない」
 告げている。
 この生き物は危険だと。
 不死など実に些細なこと。

 その本質は、生き続けるという地獄の果てに得たパーソナリティにある。

「消えなさい。邪魔だわ」
「つれない事。せっかく夜桜の中で一杯と思ったのに」
 カチンと鳴る小さな音。
 見ると、その手には一升瓶と二杯のグラス。
 気がつかなかったが、最初から持っていたようだ。
「月明かりが疎ましいんでしょう?」
「その罪を妖しく咲き乱れる桜に求めるほど無粋ではない」
「私に月を眺める風情はないと言ったでしょう?」
「なら、お前はここで何をしていたの?」
 言葉に詰まる。
「いいから付き合いなさい、人の形」
「私は代理人よ」
「何も変わるまい。己を持たぬという意味では」
 反射的に額に一閃。
『目にも止まらせない』その一撃は、狙い違わず蓬莱人の眉間を貫く。
「痛ッ! いーたーいー! 何するの!」
「私は代理人よ」
「死ななくても痛いものは痛いんだからー!」
「あ、そこにまんじゅうが」
「ひっ!」
 さっきまでの危険はもう微塵も感じられない。
 文字通り飛び上がるその手からグラスを一つかっさらう。
「そっちも寄越しなさい」
 蓬莱人は目に涙を浮かべたまま、大人しく一升瓶を差し出した。
「……お前は私に似ている」
「錯覚だわ」
「だからわかる。お前に『生』はない」

 瞬間。
 世界が、燃えた。

「――終わらない無の中で燻ぶる、憐れな蒼炎」
 紅い炎をその背に宿し、蓬莱人は空を見上げる。
 視線の先に映える月光に、不死の煙は届いているだろうか。
「盛ろう人の形。私達には『その時』を焼き尽くす炎がある」
 再びこちらに遣られた双眸には、純粋な笑みが浮かんでいる。
「永遠を抱える私と、無を抱えるお前。
 無限と零は対極に在れど、それ故に輪廻の果てで結びつく」
 それには応えを返さず、蓬莱人のグラスに注ぐ。
「お前とは仲良くやれそうよ、人の形」
「私は代理人よ」
「なら私のことは妹紅と呼ぶこと」
 差し出したグラスに注ぐ蓬莱人――もとい、藤原妹紅。
「宵闇を包む蒼い炎に」
「宵闇を裂く紅い炎に」


「乾杯」

276絶望:2008/04/01(火) 10:44:09
ここはとある国。
何もかもが配給制の国だ。
今日はその国に来ていたコア姉妹たちが、
その列に並んでパンを買おうととした時の話である。
ずらりと並んでいる人の列。
それはきれいに一直線にならび、大袈裟だが地平線の彼方まで続いているような、
そんな行列だった。行列のできる法律相談所なんて目じゃない。
ラブ「まだかしらねぇ…」
クリス「ええい!私はもう我慢できん!はやく飯をよこせーっ!」
オルト「この国に来たいって言ったの水晶姉じゃん…」
デス「留守番組がうらやましい…」
そのとき、コア姉妹が騒がしすぎたのか、コートの男がやってくる。
そのコートの男はクリスのこめかみに人さし指を当てると、
なにもせずそのまま帰っていってしまった。
クリス「あ…帰ろう…日本に…」
ラブ「こ、ここまで並んで!?」
クリス「銃を買うお金もないのに食糧なんて全員分支給できるはずないじゃないか…」
そう、クリスはそのコートの男のしたことですべてを感じ取ったのだ。
ラブ「ったく、しっかりしなさいよ、次女なんでしょ?まあ我慢するからいいけど」
説教しつつもクリスを遠回しに励ます長女ラブ。
オルト「そうだね…1日2日は我慢できるし」
笑いながら、周りを明るくするオルト。
デス「珍しいミス…これはいい土産話」
あえて怒らせることで元気づけようとするデス。
その三人に支えられ、彼女らがまだ全員機械だったころの旅は終わった。
その時の旅行の記憶は今もみんなの心の奥底に刻まれている。

277転がり墜ちるように:2008/04/09(水) 14:25:40
彼の目から見ても、父はあまりにも愚かな王であった。
無謀な侵略を繰り返し、いたずらに国を疲弊させるその姿を幼い頃から悪い見本として見つめていた。
それでも、父は別の面も持ちあわせていた。
厳しくも優しかったその時の父は彼は一番大好きであった。
成長してからもそれは変わらず、寧ろ王位継承の日が近付くにつれ、
その恩に報いるためにこの国を豊かにしようという気持ちが強くなっていた。



扉の向こうで行われていた惨劇に彼は息を飲んだ。
臣下達が何かを斬っている。 ―何を?
紅い絨毯が更に紅く紅く染まっていく。 ―何で?
ごとり、と床に何かが転がる。 ―あれは、何だ?
「…………!」
扉から後退り、その場から走り出す。
込み上げてくる吐き気を無理矢理飲み込み、がむしゃらに走る。
気付けば、母の部屋の前にいた。
せめて、病に臥せている母だけでも助けなければ。
そう思い、扉を開けた彼は現れた光景を理解出来なかった。
力なく投げ出された裸の肢体にランプの明かりが揺らめく。
部屋に充満している臭いと肌に残されたそれがここで何が合ったかを物語っていた。
「は、ははは…」
その場に膝をつきながら、彼は笑った。
もしかしたら悪い夢でも見ているのではないだろうか、それほどに目の前の光景は理解し難いものであった。


(…復讐したくはないか?)
闇の中でそれがこちらを見つめながら、そう問掛けてきた。
その声に彼はゆっくり立ち上がり、声の方へ歩み寄る。
(侵略者に)
差し出された手を生気のない瞳で見つめる。
(偽りに満ちた世界に)

―ああ、そうしよう。
―自分から全てを奪ったこの世界に。

(世界に)
「破滅と復讐を」

手を掴んだ彼の姿は闇の中へ転がり墜ちるように飲まれ、
後には何も残っていなかった。


悲劇の幕開けはもうすぐ―

278長雨:2008/04/13(日) 21:12:48
「こんな夜更けに、何処へ?」
 声は唐突に彼女の背後からした。
 気配は、しなかった。雨に打たれる音も、濡れた地面を歩く音も。
 まるでその瞬間に、その場に現れたかのような。
「春の長雨に気配も薄れる闇の中。よく私のことがわかったわね」
「それはもう。あなたの夜を否定する銀の髪は、百由旬先からでもわかる」
「畜生の分際で……いえ、畜生だからこそ、か」
 挑発のつもりだったが、狐は軽く笑んだだけ。
 その狐――とある妖怪の式であり、その姓を賜って『八雲藍』と名乗る人狐は、
9つの尾をわずかに振りながら雨の中に佇んでいた。
「言わなければならない?」
 最初の問いに、問いで返す。
「いえ、特に興味は。ただ…」
 肩を竦める。
「害成す毒花は咲かせず摘むのもまた一理、とも思うのよ」
「嫌われたものね」
 雨に濡れた銀の髪が頬に張り付く。
 遠目から見たら、その姿は幽鬼と間違われたかもしれない。
 血の色を湛える紅い瞳も、病的ささえ超えて死人のように白い肌も、およそ人らしさから外れていた。
 唯一、この世のすべてを嘲るように笑みを浮かべる、その形相を除けば。
 人ならぬ人。蓬莱人とも呼ばれる人の形――藤原妹紅。
「別に、お前にも、お前の式にも害を成す気はない」
「正直ね。もっとも、嘘吐きは正直に嘘を吐くものだけれど」
「お前に害を成して、私に何の益がある?」
「なら何故あの女の側につく」
 妹紅の表情が、わずかに変わった。
 藍の顔からはとっくに笑みが消えている。
「気付かれていないとでも思った? 接触を持ったことはとうに知れている」
「代理人とはただの呑み仲間よ」
「ただの、ね」
 立場こそ隠れてどこかへ赴く様に奇を呈した形ではあるが、
余裕が欠けているのが藍の方なのは明らかだった。
 彼女は知っている――『何も知れないこと』を。
 この蓬莱人と、あの蒼い僧服をまとった存在の、計り知れなさを。
「不穏分子が二つ合わされば、それはもう必然」
「私は代理人と酒を呑み交わすだけで敵対意思を持たれるわけ」
「痛くないと言うなら、その腹開いて晒しなさい」
「開いたら痛いでしょう」
「不死の身で何を言う」
「痛いのよ。死なないだけで」
「……とにかく。あまりおかしな行動をとらないことね。
 橙に少しでも危害を加えるような真似をすれば、決して黙ってはいない」
 妹紅はふぅ、とわざとらしく溜息をつき、かぶりを振った。
 そうしてまばたきより長く目を閉じ、

「――不愉快だ」

 紅蓮の翼が生えた。
 瞬時に妹紅の周囲の水分が蒸発する。立ち上る水蒸気に藍の髪が激しくなびいた。
「畜生ごときが、分不相応と知れ」
「その短絡さはわかりやすくて嫌いじゃない。だが……」
 激しく吊り上げた口元から犬歯が覗く。
「畜生畜生と、侮辱するのも大概にしろ人の出来損ない。
 誇り高き八雲の姓を持つ式を貶めて、五体満足に済むと思うなよ」
 スペルカードを掲げたのは、二人同時。

 ――貴人「サンジェルマンの忠告」
 ――密符「御大師様の秘鍵」

 二つの怪物が夜の空を朱で染める頃。
 それを更なる高みから見下ろす一つの影があった。
 ――影。そう、その姿は影のようだった。
 それは夜に溶け込む漆黒の翼によるもの、ではなく。
 獲物を狩るために気配を殺す、獰猛な肉食動物のそれだった。
「質対量、の争いになりますかね」
 右手には望遠用レンズのついたカメラが握られている。
「いつ起こるかはわからない。けれどいつか必ず起こる」
 髪がなびく程度の風が吹き。
 次の瞬間には、大気の流れにその身を移し気配が完全に消えた。
 あとに残されたのは、残像のように空気を震わせる一語だけ。


 ――来る日の第二次終末戦争、この射命丸文がすべてを歴史に留めましょう。

279朝御飯と新聞:2008/04/16(水) 08:28:17
「あら」
「ん?」
目の前に広げられた新聞から上がった声に彼女はトーストをかじりながら、顔を上げた。
朝の静かな食卓。
住人達の殆んどが朝食を済ませたそこに偶然顔を合わせた二人はいた。
最も縁側で寝ている酒飲み鬼が立てる大鼾で実際には静かさとは縁遠い。
閑話休題。
文々。新聞と書かれたそれの向こうで相手は相変わらず何かに目を通しながら、
教育が足りないかしら等と呟いている。
「…何か面白い記事でもありました?」
指についた油を舐めとりながら、問いかける。
「ちょっとうちの式がね」
それだけ言うと相手は新聞を畳み、その記事が見える様に彼女へと差し出す。
『大激突!雨夜の死闘』等と銘打たれているそれに目を通しながら、訊いた。
「で、藍がどっかの誰かさんと闘うのに不都合でも?」
まだわからないのかとか言わんばかりに大袈裟に呆れながら、湯呑の茶をすする。
「私が決めた通りに動かなければ力は十分に発揮出来ないのは…」
答えを待つようなそぶりの相手に彼女は肩をすくめる。
「耳にタコ。
ってつまり今回のは彼女の独断?」
「そういうことになるわね」
どこから取り出したのか、日傘を手に、空中をなぞるように横に手を動かす。
「式は道具、道具は指示通り動いて初めて真価を発揮する。
…それを自身の考え、感情で動けばいずれは命を落とす。
…あの子ほど有能な道具を失うのは惜しいわ」
言いながら、日傘を開けた隙間へと差し込み、ぐりぐりと手を動かす。
何をしているかは、大体想像がつく。
(でも、本当は心配なんだろうな)
口では道具、道具と言いながら、その口調には僅かだが不安を感じてた。
(とは言え、気のせいかもだけどね)
隙間から聞こえてくるか細い悲鳴様な声にきっと隙間の向こうでは朝から
スプラッターショー絶賛開幕中なんだろうな、とどうでもいいことを考えながら
最後のカフェオレを胃に流し込み、彼女、村上紫は食卓を後にするのだった。

おおむね、今日も平和です。

280抱擁:2008/04/19(土) 18:20:35

 あなたには、わからないでしょう。

 何故、私は自覚してしまったのでしょうか。
 意識がそちらに向くだけで、絶望的な衝動が心の深淵からせりあがってくる。
 吐き出すことが出来るというなら、胃液で喉が焼けつくまで嘔吐するのに。
 どれだけ思い患ったところで、それは量を増して深淵に沈んでくるだけ。
 重すぎて、浮かび上がる事もなく、心の底に泥土のように積もっていく。
 それは昏く、絶望と呼ぶにはあまりに虚ろで、明確な形を持たない。
 虚ろであるからこそ、形を持たないからこそ、私自身ではどうすることも出来ない。
 足掻くことすら許されず、蹂躙されていくのです。

 何故、私は自覚してしまったのでしょうか。
 ただ平穏であれば良かったのに。
 幸せになりたい、なんて贅沢は言いません。
 少し怒って、少し悲しんで、それよりほんの少しだけ多く笑えれば、
それ以上なんて決して望みはしなかったのに。

 ――いいえ、平穏さえも望みません。
 何もなければ良かった。
 苦しむことで生まれる苦しみを抱くくらいなら。
 決して報われることのない想いを背負うくらいなら。

 自覚していることを、私は自覚したくなかった――

 あなたには、わからないでしょう。
 私の心を犯しつくした、世界で最も憎むべき、愛しい人。

 ……………………

281向日葵畑の真ん中で:2008/04/20(日) 12:34:31
幻想郷の中の、向日葵の花畑。
向日葵の黄色に覆われたその真中に一人の少女が佇んでいる。
その少女はくるくると日傘を回しながら、退屈そうに欠伸を一つして呟く。

「何か面白いことは無いかしらね…」

退屈、と一言付け加える直前、遠くから足音が聞こえた。
ふと音の方向へ振り向くと、こちらに向かって走ってくる小さな人影が一つ。

「…あらあら、また来たのね。」
少女は、その突然の来訪者が誰か把握すると、微笑みながら声をかける。
そして、その小さな来訪者も笑顔で言葉を返す。
「あら、こんにちはメディ。」
「幽香〜っ、こんにちは〜!」

…今日も、また楽しくなりそうね。
そう心のながで少女…風見 幽香は呟いた。





ごめん、個人的に幽香×メディが書きたかったんだ。
異論は認めるから鈴蘭の毒は勘弁を(ピチューン

282月光:2008/04/21(月) 01:34:17
「貴方が外に出るなんて珍しいわね」
背後に降り立った相手に声をかける。
先程まで騒がしかった妖精達は慌てて姿を隠し、息を殺していた。
「こんないい夜だもの。外に出ないのは惜しいわ」
「今頃、貴方が居なくてきっと大騒ぎよ」
「大丈夫、皆眠ってもらったから」
彼女の言葉に少女は紅い眼を細め、にぃっと笑う。
その表情に彼女の顔が僅かに曇る。
「ふふ、大丈夫。誰も゙壊してない゙わ」
手にした歪な杖を彼女に向けながら、続ける。
「貴方はあいつを倒して、契約を結ばせたのよね?」
彼女もまた閉じていた卍傘を広げて、薄く笑う。
「えぇ、そうですわ。そして、それは貴女にも言えること」
ぴくりと少女の羽根が動く。
「私はあいつよりも強いわよ?」
「力だけが強さに非ず、そして貴女はまだ彼女より弱いわ」
その言葉に少女、フランドールの周囲が漏れ出した妖気で紅く染まっていく。
あらあら、と慌てる様子もない彼女、八雲紫の周りの空間が軋みを上げる。
「ならば、ここでわからせてよう、八雲の大妖!」
「その未熟さを知らしめよう、悪魔の妹!」
それぞれがスペルカードを掲げ、高らかに宣言する。
――秘弾『そして誰もいなくなるか?』
――紫奥義『弾幕結界』


月の光の元、繰り広げられる光景に彼女は溜め息をついた。
「まさか八雲紫に喧嘩を売りに行くなんて、あの子も大胆ね」
背中の羽根を落ち着きなく動かしながら、
彼女、レミリア・スカーレットは何度目かの溜め息をついた。
いつものように神社から帰ってみれば、妹は脱走、館内は酷い有り様であった。
挙げ句、幻想郷の賢者に喧嘩を売る妹の姿を目の当たりにし、彼女は
「…まあ、とりあえず帰って紅茶でも飲みましょ」
飽きたのか、いまだに弾幕ごっこの続くそこから飛び去るのであった。


翌朝、フランドールの機嫌が悪かったのはいうまでもない。

283黒兄貴からのリクエストSS その1:2008/04/21(月) 18:13:59
遠い昔、遥か彼方の銀河系で…

――エグゼキューター級スター・ドレッドノート『リーパー』

銀河内乱や帝国の継承者争い、反乱同盟軍の再来、シ=ルウクの乱、イェヴェサの乱等、平和を
脅かした数々の戦乱が遠い日の記憶となりつつあった時、この巨大戦艦に2人の新米パイロットが
着任した。

新しい人員の着任自体は珍しいことではない。欠員が出たり、他の艦や基地に欠員が出れば、人
の移動は付き物だからだ。しかし、送られてくる人員の内容によって迎える側の対応は異なる。今
回もそういったケースの一つだった。配属される中隊の全員、そして航空団司令、艦長、提督まで
が勢ぞろいして迎えたのである。普通、新米パイロットに対してこのような待遇はありえない。しか
し、人物が人物であった。

「申告致します!クリスティアン=ピエット少尉、ESD『リーパー』第1戦闘機中隊配属の辞令により、
 13:20分着任致しました!」
「申告致します!クリスティアーヌ=ピエット少尉、ESD『リーパー』第1戦闘機中隊配属の辞令によ
 り、 13:20分着任致しました!」

若い男女が航空団司令に着任の報告を行う。二人とも整った顔をしており、水晶色の髪と尖った耳
を持っていた。その身体的特徴と名前で分かるだろう、二人はピエット大提督とその夫人のシュヴェ
ルトライテ将軍との間にできた双子なのである。生まれながらにフォースの才に恵まれたシスの双
子はパイロットの道を志し、今その第一歩を踏み始めたのである。

「よろしい、両少尉。諸君の直属上官になるのがバリック中佐だ。しっかりやってくれたまえ」

将位を持つ航空団司令も緊張気味に2人にそう言った。この場で緊張を覚えていないのはペレオン
大提督くらい…いや、もう一人居た。中隊長のバリック中佐である。

284濡羽:2008/04/22(火) 23:55:34
「天狗。私のところに来てもあんたの好むスクープはないわよ」
 開口一番、彼女は宙から舞い降りた翼に牽制を加える。
「私には文という名前があるんだけど」
「知ってるわ」
 文(あや)と名乗った少女は肩を竦めて苦笑。
 ブンヤを自称するこの鴉天狗は、時折こうして誰かの前に姿を現しては
無許可かつ強硬に取材を行うことで知られている。
 またそうして収集した情報をまとめた「文々。新聞」なる報道誌は、
その遠慮容赦の少なさに反比例するように諸処で好まれている。
 だが、この巫女が文の揃える『スクープ』に興味を示すことは稀だ。
 そして関心のベクトルが合わない事象に対してとる所作は、
道端に転がる石ころを拾う動作よりも情動に欠けている。
 人間味がないとは言わない――人ならぬ身故『人間味』を定義できないというのもあるが。
 しかし少なくとも文の知る人間の多くは、そこに類似した方向性が見られるものだ。
 一切の類似を見出せない、そもそもベクトルの次元が違う存在。
 そんな人間を、文は『変わり者』と呼んでいる。
 ――無論、胸中でだが。
「今日は世間話をしに」
 意外そのものといった表情で、巫女。
「この世界はどう?」
 文の問いに、わずかに微笑。
「おかしな言い回し。世界…そうね、幻想郷と大差はないんじゃない?」
 一度区切ってから、付け足す。
「――人為的に隔絶されている、という意味では」
「さすが博麗の巫女。わかるの?」
「そんな気がするだけ」
 今しがたまで掃除に用いていた箒を、手持無沙汰にもてあそぶ。
 神社の境内に比べれば猫の額に等しい庭。掃除などする必要性さえないのだが、
それでも何となく決まった時間にこうしているのは、単なる習慣の延長である。
 ちなみにこの箒、ピンク髪の魔女所有のものを無断で使っているのだが、今のところバレてはいない。
「けどおかしな話。何故、私達はここにいるのかしら」
 博麗大結界。その名を知らぬ者は幻想郷にはいない。
 一方でその博麗の姓を持つ巫女はあっさりと、
「あんたは夢の中で何故自分がここにいるのかいちいち懊悩するの?」
 ハゲたら天狗から河童になるわよ、と付け足される。
 その理屈は文の理解を超えていたが、おそらく知る必要のないことなのだろうと判断。
 ふと、
「結界と言えば、八雲の神隠しに会ってきたわよ」
「紫に?」
 巫女の応対がその一言で激変した。
「……あんた、それを私に伝えてどうするつもり?」
「ふと思い出しただけ。あの家はお得意さんだもの」
 その言葉に含まれた真意に、巫女は気づいただろうか。
「ふん。そんな近くにいるのなら、熨し付けて送りつけてやろうかしら」
「何を?」
「紫の式をよ」
 ここにきて初めて、巫女は文をひたりと見据えた。

「言っとくけど、私はどちらにもつく気はないからね」

 これで満足? と付け足そうと思い、やめた。
 そこにはすでに文の姿はなかった。
 それこそ夢のように消えていた。

285閃光:2008/04/27(日) 09:26:10

 見上げる空はあまりにも高く。
 突き刺さる夜明けの閃光に、自然目を細める。
 何かを、愛おしむように。

 草一本のなびく音さえ聞こえる静寂の下、この身を震わす感情を持て余す。
 喜びにしては頽廃。
 悲しみにしては蠱惑。
 言葉で表すには何もかもが足りない。
 ただ胸の中を埋め尽くす充足だけが、そこには在る。

 独りであることの幸福。
 孤独であることの不幸。
 幸せであることは難しく。
 不幸であることは、こんなにも、容易。

 月が傾き、色褪せる。
 大地を貫く十字の暁に、生死の罪が裁かれる。
 見上げる空には、届かない。
 空を飛べても、地平の果てまで駆けても、届かない。

 ――こんなにも近くて、遠い世界。

 涙が溢れ、止まらない。

286憐哀編side春原:間章:2008/04/27(日) 19:33:07

 ――さよなら、ヨーヘー

「なんだよ、それ…」
 わからない。
 こいつは一体何を言ってるんだろう。
 突然だった。
 わずか数十分。
 その間に、一体何が――いや、一体誰が。

 この少女を、ここまで追い詰めさせたのだろう。

「なんだよ、それ!!」
 僕は今、何に腹を立てているんだろう。
「意味わかんねぇよ! これまで好き勝手に僕を振り回しといて!
 今さら一方的になめたこと言ってんじゃねぇよ! 自分勝手にも程があるだろ!」
 違う。
 僕はこんなつまらないセリフを吐きたかったわけじゃない。
 なぜ、こんなことになったのかと。
 何が、ここまでイサを追い詰めるのかと。
 ――どうして、何も語らず独りでどうにかしようとするのかと。
 イサは、背中を向けたまま何も答えない。
「こっち向けよコラ!」
 それは普段の行動が反射となって表れた結果だった。
 見た目僕よりお子様の彼女の肩を、僕は力任せに引っ張っていた。
 お子様相手と遠慮する余裕もない。そのくらい僕は動揺していた。
 いつも突き放す側だったからこそ、今突き放されたことに平静を失っていた。
 当たり前だったものが失われんとする、その瞬間。

 けど、僕の必死よりも、イサの覚悟の方が遥かに上だった。

「!?」
 腹部に走るすさまじい衝撃。
 痛い、なんて感じる余裕もない。
 腰が抜ける感覚を、僕は生まれて初めて知った。
 足に力が入らない。
 膝から崩れ落ちるように、僕の体は力を失っていく。
 ――ごめんね。
 耳に届く、かすかな声。
 軽く抱きしめられる。
 見えない。呼吸ができない。苦しい。
 ――大好き、だから。
 口が塞がれる。温かい柔らかさ。
 頬に当たる冷たい感触。

 この時のことを、僕はこれから忘れることは出来ないだろう。
 縋られていたものに、縋ろうとして。
 突き放された時の、やるさなさを。

 僕は、決して、忘れない――

287神葬祭:2008/04/29(火) 21:42:31
「霊夢、何をしてるの?」
 昼間から部屋の片隅に佇んでいた博麗神社の巫女に、
夜も更けたこの時になって初めてリディアは声をかけた。
 何しろ、食事もとらずに黙々と作業をしているのだ。
 ――いや、それは作業と呼んでいいのかさえ不明だった。
 彼女は手に旗のようなものを持ち、正座姿でずっと目を閉じていた。
 声に反応した霊夢は、わずかに疲れているようだった。
「頼まれたのよ」
 微妙に答えになっていない。
「そもそも私は巫女であって神主じゃない。神職にも就いてない。
 祀りを行うには分不相応だって言ったのに」
 溜息交じりに肩をすくめる。
「祖霊舎も奥津城も用意できない。それ以前に遷霊祭だって無理よ」
 おまけに何やら不平不満。
「その割に、やけに一生懸命に見えたけど」
「一生懸命、ね。柄にもないわ、本当」
 軽く自嘲しながら、額の汗を拭うように前髪を軽くかき上げる。
 その重い動きに、頭の可愛らしいリボンさえ重苦しく感じる。
「始めて10分で後悔したわ。やめときゃよかったって」
 リディアにはその言葉の意味が理解できない。
「……でも、すっと目を閉じてただけでしょ?」
 そこに何の意味があるかはわからない。
 だが、やめようと思えばいつだってやめられたような気がした。
 少なくともリディアには、霊夢の今日一日の行動によって何かが変わったようには思えない。
「変わるのよ」
 リディアの言葉を、霊夢は一言で一蹴。
「こういうのはね。変わると思えば変わるの。
 経験ない? 『今日はきっとついてない』と思った朝に限って、その日はついてないとか」
 こくこくと頷く。
「それはその日が本当についてなかったわけじゃない。
 いつもなら瑣末事として気に止めないことを、何でも『ついてない』と捉えるからついてないの」
 だから、
「こうして祈ることで、誰かの想いに報いることが出来るのであれば。
 ……そこには意味があるのよ。確かにね」
 そこでようやくリディアにも理解できた。
 彼女がここで、どんな気持ちで、何をしていたのかを。
「……一生懸命だったんだね」
 同じ言葉を繰り返す。さっきとは、微妙にニュアンスを変えて。
「当たり前でしょ」
 すると、返ってきた言葉も変わった。
 霊夢は深く息を吐き、目を閉じる。
 少し翳を帯びたその表情は、薄白い明かりの下でもはっきりと陰影が浮かぶ。
 今、彼女の胸の中ではどんな感情が廻っているのか。
 リディアにはわからない。
 ――ただ、ひとつだけ言えるのは。
「私には何も出来ない。せいぜい祈ることぐらいだって――そう言ったのに」
 彼女は自ら望んでそうしていたのだと言うこと――
「知り合いの知り合いの知り合いなら、赤の他人とも呼べないしね」
「まだ続けるの?」
「そうね、日付が変わるまでは。そこに意味はないけど」
 リディアは少しだけ逡巡し、やがて意を決して、
「……私も、参加していいかな」
「ご自由にどうぞ」
 その言葉をあらかじめ予想していたかのように、霊夢は即答。
「ただし、日付が終わったら直会を用意してもらうわよ」
「なおらい?」
「後で教えたげるわ。ほら、正座しなさい。
 言っとくけど、途中でやめることは許さないからね」


 これが俺に出来る精一杯ってことで。
 せめて冥福だけは祈らせていただきます。

288衝動:2008/05/01(木) 00:07:28
 背後から寄る気配が自分を目的としているのは明白だった。
 故に、妹紅は振り返る。
「何?」
「……いや、そんな先制攻撃かけられると、返って聞きずらいんだけど」
 気配を具体化したその存在は、何故か両手をあげて万歳――もしくは降参の合図――をしていた。
 無論、見覚えがある。
「バカコンビの片割れか」
「ネジが緩み過ぎてあちこちに落として回ってるアホ盗賊と一緒にすんな!」
 誰とも言ってないのに相方がわかる時点で、自覚してると吹聴しているようなものだ。
 嘆息するのさえ馬鹿らしく、視線を明後日に逸らす。
「あのさ、もこー」
 そこで会話が終わらなかったことにやや苛立ちつつ、視線を戻す。
 鮮やかなピンクの髪を、尾のように頭の後ろで揺らすその姿。
 彼女――アーチェは、はっきり言って妹紅の苦手なタイプだった。
 いや苦手と言うよりも、もっと純粋に、嫌いだった。
「も・こ・う。無闇にのばさないでくれない?」
「はいはい、でさ、もこー」
 これだ。
 バカはバカであるが故に、こちらとそちらの境界線に気づかない。
 ――あるいは、気づきながらなおそれを無視して踏み込んでくる。
 妹紅にはそれが不快でならない。
 体の中を這い回る蛆のように、おぞましく鬱陶しい。
「あたしの箒を知らない?」
「は?」
 即座に生じた疑問は二つ。
 ひとつ。何故それを自分に聞くのか。
 ふたつ。何故その問いに自分が答えると思っているのか。
「なんか今朝から見当たんないのよ。あちこちに聞いて回ってんだけどさー。
 あと聞いてないのは、文に霊夢、それにナミ……は聞きようがないか。
 あれがないと空飛べないし、空飛べないと歩いて街まで行かなきゃなんない。
 そんなのこのアーチェさんに耐えられるわけないじゃん?」
 ――知るか。
「どっかで見かけた、ってのでもいいからさ。知ってたら教えてくんない?」
「……生憎と、私は知らないわ」
 衝動で込み上げた破滅的な感情を、すんでのところで圧し留める。
 あと少し抑える力が弱ければ、懐に忍ばせたスペルカードに手をかけていた。
 ――忌々しい。
 漆黒の殺意と共に思い起こされるのはひとつの顔(かんばせ)。
 妹紅から人としてのすべてを奪い去った、万の死を刻みつけてなお足りぬ大罪人の顔。
「んー、そっか。あんがと」
 妹紅の衝動を知ってか知らずか、アーチェは軽く言って妹紅に背を向ける。
「あぁ、それと」
 まだあるのかと再び湧き上がった熱い揺らぎは、次の瞬間に凍結した。

「気をつけんのよ。『ここ』はアンタが思うほど、優しくも辛くもない」

 すぐに扉の向こうに消えた背中を見送ってから、妹紅は後悔した。
 躊躇わずに、撃つべきだったと。

289レイレイの探し物:2008/05/05(月) 20:55:56
ときどき私はとある物を無くす。
でも私には何がないのかわからない。
それは大切な物というのはわかっているのだが、
しかし何を忘れていたのかは覚えていない。
「何を忘れてるんだろ、私」
青空の下、青々とした草の上にねっ転がり、しばらく考えていた。
でも何も答えはでない。眠くなっただけ。
そのまま私はぐっすりと眠ってしまった。
気がつくと辺り一面は真っ暗になっていた。
誰もいない。見慣れている風景さえ怖く感じる。
どうしたんだろう、魔界じゃこんなこと感じなかったのに。
そうか、ゆっくりすること、安心することを忘れていたんだ。私は悟った。
魔界ではいつも神経を研ぎ澄ませ、後ろから来る敵に備えていたが、
今ではその必要は全くない。当たり前だ、何もない平穏な世界なのだから。
だが、だからこそ安心できたのだと私は思う。

ああ、魔界には戻りたくないなぁ

290憐哀編sideイサ:序章:2008/05/05(月) 22:41:52

 生まれつき、ボクの心は欠けていた。

 それは悪魔として生を受けた身であれば歓迎すべきことだと、いつか言われた記憶がある。
 ――悪魔。
 自分という種族を表すその単語に、特にこれといった他意を覚えたことはない。
 ただ、『悪魔』であれば自分は喜ばれるのだと、幼心にそんなことを考えた。
 喜ばれることは、嬉しい。
 ボクは『悪魔』であることを誇りに思った。

 ――それなのに。

 歯車は、一体いつの間に歪んでしまったんだろう。
 理由はわからない。
 ――嘘。
 わかっている。
 教えてくれたから。
 ただその当時のボクはまだまだ幼くて、拒絶される意味を理解することなんて到底出来なかった。
 けれど、覚えていた。
 言われた事実は事実として、整理されることもなく、心の引出しの片隅に
ずっとずっと置きっぱなしにされているだけ。
 今でも簡単に思い出せる。
 昨日のことのように。

 そして今ならその時の言葉の意味がわかる。
 思い出しても、痛くない。
 思い出しても、辛くない。

 生まれつき、ボクの心は欠けていた。

291憐哀編sideイサ、1:2008/05/05(月) 22:43:10

 一日目 AM 3:00

 限界が近いことをイサは自覚した。

 ――時間がない。

 このままでは終わってしまう。
 いや、終わってしまうことは仕方がない。
 それは不可避の事象だ。
 イサがイサとして存在する以上、それからは決して逃れることは出来ない。
 それは、息を吸えば吐くように、手を挙げれば下ろすように。
 起点から終点までの過程に疑念を抱く余地すらない、当たり前のこと。

 自分は終わる。
 それはいい。

 だが、このままではダメだ、とイサは考える。

 このままでは、何も残らない。
 自分はただの悪魔の一人として、誰の心にも残ることなく、消えてしまう。
 それは嫌だ。
 せめて、せめて今の自分のことを覚えていてほしい。
 これ以上ないというくらいに。
 心の根に当たる部分を縛り上げ、一生自分という存在に囚われ続けるほどに。

 そんな『ささやかな願い』を叶えてくれる存在を、イサは一人しか知らない――

292紅夜:2008/05/06(火) 08:18:07
(さて、どう終わらせたものか)
視界を塞ぐ紅の波をかわしながら、彼は月を背後に浮かぶ少女を見上げた。
機嫌がいいのか、人であれば卒倒しかねない笑みを彼に向けながら、その手を振るう。
ばっ!と少女の姿が無数のコウモリへ四散し、その一つ一つからナイフが彼へと降り注ぐ。
「ふん」
それに対してか、男は鼻を鳴らし、少女ど同じ様゙に四散した。
「そういえば、貴方も霧になれるんだったわね」
コウモリ達が集まり、元の形へと戻りながら、霧になった男を見つめる。
「お前ほど万能でもないがな」
少女と対になるような、黒く深い闇を纏いながら、男が答える。
紅に呑み込まれながら、黒へと染まる場で二人は暫し見つめ合った。
その視線は愛しい恋人同士のそれの様な熱を帯び、獲物を狩る獣の様な鋭さを秘めていた。
「そろそろ、夜が明けるわね」
少女の言葉が二人の時間の終わりを告げ、
「ああ、また忌むべき朝が来るな」
男の言葉が始まりを告げた。

「なら」
「今この時を」
「楽しみましょう」
「楽しもう」


「「こんなにも月が紅いから」」

日の光が世界を染めるその時まで紅と黒は世界を染め上げる。

293キルアから見た恋愛:2008/05/07(水) 15:38:17
ここに恋する男が2人(+1匹)。
「はぁ…ジラーチさん…」
「雪…」
「レイレイ…」
 
――なんだろう。恋愛は別に悪くないと思うよ?俺は。あいつ等の恋を応援してあげたいという気持ちもあるし。ついでに言うと、 (頼まれたらの話だけど) 恋愛を手伝ってやってもいい。
――けど…モヤモヤする。
あ、 断 じ て 嫉 妬 じ ゃ な い か ら 。
 
このモヤモヤの原因はあれだ。『理由が分からない』。
ジラーチは常に元気で可愛いし雪という奴はシッカリしていて女らしいしレイレイは異性を魅了させるようなオーラがある。
だけど、これだけで恋に落ちるか普通?人それぞれと言ったらそこで終わりだけど俺は納得いかない。
 
 
「ジラーチさんってかっこいいよね」
「雪とは、いずれまた交際したい」
「レイレイのフィギュアで毎晩(ry」
あーあ、始まったよコイバナって奴が。女だけがすると思ってたけど男もするんだな…って最後待てよ最後。変態発言だろ?あいつが見てたらどうすんだよ。
 
…………
なんか恋って凄いな。
こんなに他人を虜にできるなんて。ま、俺はゴメンだけど

294宵闇:2008/05/07(水) 23:02:19

 ――月符「ムーンライトレイ」

 文字通り夜を裂く閃光の槍。
 完全な不意打ちに、妹紅の反応は致命的なまでに遅れた。
 そして――直撃。
「……っ!」
 声は出なかった。
 ――声帯が消滅したのかもしれない。
 左半身の感覚がない。
 ――そもそもまだ存在しているのか。
 思考が徐々に鈍っていく。
 ――まさか、脳が、壊れ……

 ――「リザレクション」

 意識が戻った。
 左手を動かしてみる。五指は妹紅の思うままに従った。
 念のため頭に触れてみる。陥没している気配はない。銀の髪一本までそのままだ。
 ――完全に「復活」していた。
 こんな短期間で復活できたところを見るに、威力はさほどなかったらしい。
 おそらく突然の衝撃に脳がパニックを起こしたのだろう。
「……またお前か」
 妹紅は語りかける。突如奇襲をかけてきた相手に向かって。
「む、その声はまさか『はずれ人』?」
 声の返ってきた先に、しかし姿はない。
 ――いや、姿は『あった』。
 夜よりもさらに昏い宵闇。
 如何に目をこらしたところで決して見透かすことの出来ない深淵。
 それが声の正体だ。
「なんであなたばかりひっかかるのかしら」
 それはこっちが聞きたいと妹紅は思う。
「魚を獲るつもりがヒトデやクラゲばかりひっかかってしまう漁師の気持ちって、
 きっとこんな感じなんでしょうね」
「…そもそもお前はこんなところに『網』を張って、一体何を狙ってるわけ?」
 やや呆れ声の妹紅に対して、宵闇は応える。
「決まってるでしょ。人間よ、人間。今晩のおかず」
「一応聞くけど。ここはどこ?」
「空ね。地上200メートルくらい?」
 しばし、お互いに無言。
「……木に縁りて魚を求むとはこのことか」
「? そーなのかー」
「鬱陶しいからやめてもらえる? お前の闇は夜に紛れると区別がつかない」
「だから罠になるんじゃない」
「相手を視認できない罠に何の意味があると?」
 宵闇がかすかに蠢いた、気がする。
 正確に言えば、人為的に作られた闇の中に埋もれた姿が、だが。
 その闇は外から中を見ることが一切叶わない代わりに、中から外を見ることも一切叶わない。
 しばらく逡巡してから、闇はぽつりと、
「……そういえば、私はどうやって罠にかかったことを知ればいいのかしら?」

 ――適当に放ったのであろう先のスペルカードが偶然にも直撃したことは、妹紅にとって屈辱の極みだった。

「……木は炭に」
「え?」
「物は灰に。人は焼死体に」
 闇の奥の気配がすくみあがるのがわかる。
 妹紅の背に生える炎の双翼が、彼女の意思を反映して燃え盛る。
「――闇は、焼けば何になるのか知らん」
 光も通さない闇から一人の少女が飛び出した。
 金髪の幼い容姿に、黒のロングスカート。
 宵闇を生む妖怪――ルーミア。
 一目散に逃げ出すその背に向かって、妹紅は掲げる。
 不尽の煙を生む炎を。

 ――不死「火の鳥 -鳳翼天翔-」

 そうしてあたりに夜が戻った。
 火の鳥に貫かれた闇は、霧散して夜に溶けた。
『私は焼いてもおいしくないよーーーーーーーー!!!』と叫びながら遠ざかった声も、もう届いてこない。
 深々と嘆息。しばらくしてから、来た道を逆に辿る。

 今晩もそこには届かなかった、と思いつつ。

295ありがた迷惑:2008/05/09(金) 23:52:03
テーブルの上に鎮座する大きな箱を覗き込み、紅は思わずぎょっとした。
黄色の長方形の物体がこれでもかと言わんばかりに箱の中にぎっしりと詰め込まれていたのだ。
「食べちゃ嫌よ?」
いつの間にやら、彼女の隣には八雲紫がいた―但し、スキマから逆さまの上半身のみ。
「…つか、これ食べ物なんだ」
最もらしい疑問を口にしながらも、半眼のまま黄色い物体(食べ物?)を見下ろす。
「しかしこんなにどこに送るのよ。白玉楼かなんか?」
一番可能性の高い場所を口にし、だが、逆さまの紫は扇子で口許を隠して笑った。
「今回は違うわ、私の式の所よ」
式、と言われて、紅はああと声を上げた。
「藍か」
「そ」
箱の蓋がひとりでに閉まり、封がされる。と、箱の真下に隙間が開き、重力のまま箱が下へと落下する。
隙間からはドスンという音と向こうの住人だろう声がいくつか聞こえたが、
紫は笑うだけで紅は思わず頭を抱えた。
「ああそれと」
まだ何かあるのかと言わんばかりに視線を向けた紅の目の前に一枚の紙が差し出される。
「請求書、貴方の名前でつけておいたからお願いね☆」
まさにゆかりん!
ワナワナと震える彼女の異変を察知したのか、今でくつろいでいた者は脱兎のごとく逃げ出し
「――っんの、隙間があぁぁぁぁぁっ!!」
吠える彼女の魔法で家が半壊したのはいうまでもない。
どっとはらい

296悦び:2008/05/11(日) 01:05:40

 この気持ちを言葉で表すとしたら、適切な語彙は何になるのでしょう。

 何かに追い詰められているのがわかる。
 進むということは、いつか辿りつくということ。
 一本しかない道を歩き続けている限り、その日は必ずやってくる。
 たとえそれが望まぬゴールであろうとも。

 その時こそが私の始まりであり。
 すべてが終わる日でもあるのです。

 何かに追い詰められているのがわかる。
 それがこんなにも悦ばしいことだったなんて。
 愛しい人。
 もっと悩んでください。
 もっと苦しんでください。
 あなたがそうして苦しむのは、私のせいなのですから。

 もっと、もっと。
 私の存在を刻みつけてください。

 あぁ、いつになればやってくるのでしょう。
 ――世界の終わりは。
 ――私の始まりは。

297老大提督の贖罪:2008/05/11(日) 09:49:40
――惑星ビィス軌道上・ESD『リーパー』ブリッジ

帝国の副都ビィス。この惑星はインペリアル・センターに次いで二番目の規模を誇る
メトロポリス惑星である。地表を摩天楼で覆いつくした惑星の軌道上には、この惑星
を母港とし、『死神』の名を持つ旗艦を有するペレオン艦隊が浮かんでいた。

ブリッジの窓の前で佇む老人が居た。ギラッド=ペレオン…エンドアの撤退戦におけ
る最大の功労者で、その後の数々の戦いで『キメラ』、『ルサンキア』、そして今の旗艦
である『リーパー』を率いて武功を立ててきた老将である。彼はまたしてもディープ・コ
アに侵入してきた反乱同盟軍の機動部隊を撃破してきたばかりだったのであった。

「…ふぅ」
「お疲れですか?大提督」

溜息を吐いた彼に、『キメラ』以来彼の旗艦の艦長を勤めてきたアーディフ艦長が声
をかける。無理も無い、パルパティーン皇帝というカリスマ指導者が居なくなった後の
彼らの職務は激務の上に激務を重ねるものだった。自由と解放を掲げる反乱同盟軍
はそのスローガンとは裏腹に帝国の高官から自由を奪っていることに気が付いている
のだろうか。更に、彼は既に70歳を超えている。普通ならば彼くらいの齢の者は退役
して、帝国へ長年の忠誠を捧げたことに対する見返りとしての十分な額の年金を受け
取り、悠々自適に暮らしているはずだ。しかし、一連の混乱が彼に安息を与えることは
しなかった。艦長が気遣うのも当然のことである。

だが彼はいいや、と首を軽く横に振った。恐らく彼の見栄もあっただろうが、実際のとこ
ろ彼は別のことを考えていた。

「息子の事を…考えていたんだ」
「息子…」

艦長は少し考えて納得した。しかし、もし彼でなかったら納得には至らなかっただろう。
公式の記録によれば、ペレオン大提督に妻子が居たという記録もクローン施設を利用
した記録も養子を取った記録も無い。従って、息子と呼ぶ存在は皆無の筈だが、存在
した。私生児として。

マイナー=デヴィス…インペリアル・スター・デストロイヤーの艦長を務める帝国軍将校
だ。2度のデス・スター破壊による高級軍人の大量喪失を利用して30代半ばでのし上が
った者だ。しかし、勤務記録によれば彼の成績はどの階級・ポストでも優秀なものであり、
勲章や賞状の授与に何回も与っている。しかし、その出生は謎に包まれていた。いくら
高級軍人の大量喪失があったとしても、インペリアル級の艦長ともなれば高官が後ろ楯
にいなければ、彼の若さで任命されるのは難しい。その為、色々な憶測が流れていたが、
ペレオンの隠し子だったのである。

マイナーの母が妊娠したことを若き日のペレオンに告げた時、彼は結婚していない相手
との間に子ができたことが公になれば自身の出世に傷が付くと考え、私が父親というこ
とは伏せて欲しいと頼み、彼女は泣く泣くそれを承諾した。彼も自分を冷たい男だと自分
を呪い、彼女と息子に対して可能な限りの援助を続けていた。いずれ出世した暁には妻
として迎え、息子として認知しようと。しかし、その願いは永久に果たせなくなった。彼が
キャッシークのウーキー奴隷化任務に赴いた時、不慮の病に彼女は斃れ、帰らぬ人とな
った。この事を後で知ったペレオンは人知れず慟哭した。しかし、まだ息子が居た。せめ
てもの罪滅ぼしに彼にはできることをしてやろうと考えた。

親しい同僚に息子を預かるように頼み、軍事アカデミーに入る際も教官達に根回しを行
い、長じては重要なポストに就けるように手を回した。息子だけが彼の生きる理由なので
あった。

彼は何度か息子に会っている。会う度に息子の成長に目を細め、自分とかつて愛した人
の面影が彼に表れていることをまた喜んだ。マイナーも最初は父が母子を出世の犠牲に
したことを良くは思わなかったが、彼をペレオンが裏で支えたことを育ての親から聞かされ、
ペレオン自身の告白もあったことで、わだかまりも大分消えた。

「もう…よろしいのではありませんか?十分に贖罪は…」
「いや、生涯…永遠に償えるものではない…それにまだ1つやるべきことが残っている」
「1つ…?」
「ああ、この休暇に取り掛かるとしよう」

数日後、帝国軍人事局の整理課の仕事が一つ増えた。ある将校の名前を書き換える仕事
である。1人の事務官がコンピュータの電源を入れ、インスタント・コーヒーを傾けながら作業
を確認していた。

「どれ、今日もお仕事に取り掛かりますか!最初の奴は…マイナー=デヴィス大佐…姓を変
更…改姓前:デヴィス…改姓後:ペレオン…マイナー=ペレオン、か!」

298贈り物:2008/05/11(日) 10:20:32
 一瞬、そのシュールな光景にアーチェは我を忘れた。
「きゃー潰されたー」
 ぱたぱたと手足を振り回す様は、さながら胴体にピンを打たれもがく虫のようで。
 何で先に防腐剤を打ってあげないのかとかいやそうではなく。
「ちょ、え? 何これどうしたの!?」
 アスミが潰れていた。
 正確には、大きな箱を背中に乗せもがいていた。
「潰されたー」
 言っている内容の割には、アスミはやたらと楽しそうだった。
 かたつむりにでもなっているつもりなのかもしれない。
 本人が嬉しそうなのでやや躊躇ったが、とりあえずアーチェはその背に
乗った荷物をどかしてやることにする。
 重さは思ったほどではなかった。
 というか、サイズの割には軽い。
「何だろこれ……爆弾?」
「何でそんな結論に到達するかな……」
 突如別の声がしたので振り返ると、リディアが後ろから覗き込んでいる。
「だってこれどこにも宛名がついてないし」
「宛名がついてないなら、郵便物じゃないってことでしょ。
 文の配達物とかじゃない?」
「文って配達員だっけ?」
「う〜ん…? まぁ、似たようなものなんじゃないかな」
 本人が聞いたら全力で否定しそうな会話を続ける二人。
 ちなみにアスミは自由になった身を謳歌しているのか、
ある一点――ちょうどアスミが潰れていた場所の少し上あたりだ――を
指さしながらくるくると回っている。

 と、そこに、
「ここに紫様が来なかった!?」
 何やら緊張の面持ちをした藍と、それに従うようについてきた橙がやってきた。
 しかしメンバーの中でも良識な部類に入る藍が、動揺をここまではっきり表しているのも珍しい。
 一方、問われた二人は、
「紫? 誰、それ?」
 知らぬ名が出てきたことに首を傾げる。
「平たく言えば、私のご主人さま。今、ここであの方の力の気配を感じたから…」
 おそらく望んだ状況とは異なっていたのだろう。声のトーンが明らかに落ちている。
「そう言われてみると……何か、見慣れない魔力の残滓があるね」
 敏感なリディアも、うっすらとだがここに残った何かを感じた。
「けど、私達も今ここに来たところなの。今はいないみたいだけど…」
「アスミなら知ってるかもよ。あたしが来た時に、ここで潰れてたし」
「潰れてた?」
 全員の視線がアスミへ。
 そのアスミはと言えば、何故か橙にフライングボディアタックをかましていた。
「やったなー!」と叫ぶ橙が、負けじとアスミに対してくすぐり攻撃をかけている。
 まぁ要するに、じゃれあっていた。
「……それで、潰れてたっていうのは?」
「いやじゃれるアスミをうっとりと見てたまばたき一回後に、そんな真面目な声出されても。
 それと藍、アンタは鼻血の跡を拭け」
 アーチェはつい先ほどここで見た出来事を簡単に説明した。
「これに潰されてた……か」
 視線の先には、大きな箱。
 藍を見やると、目が合った。
「ひょっとして……上から、落ちてきた?」
 藍は確信を持って頷いた。
「紫様なら、その力で物をどこかに送るなんて造作もないことよ。
 おそらく隙間で、これだけを……」
「じゃ、とりあえず開けてみよっか」
 爆弾と推測した時から、アーチェは開けたくてしょうがないという顔をしている。
 間違いなく、プレゼントをもらったら包み紙を散々蹂躙したあげく中身を取り出すタイプだ。
 アーチェを制して、藍が慎重に箱を開けた。
 そこには、
「……………………油揚げ?」
 としか呼べないものが入っていた。それもぎっしりと。
「…どうりでサイズの割に軽かったわけだわ」
 さしものアーチェもその光景には圧倒された。
「うん。それにこれはどう見ても……」
 視線の先には、9つの尾。
「紫、様」
 藍のお尻あたりから生えたそれは、彼女の心中を反映するようにふるふると揺れている。
 何となく声をかけるのも憚られて、しばらく二人も無言でその時を過ごした。
「……すまなかった」
 最初にその場の均衡を破ったのは、藍当人だった。
「これは私宛のもので間違いないわ。けど、ここでは私も相伴に預かる身。
 良かったら今晩のおかずにでも使いましょう――橙!」
「くの、くのっ! ……あ、はい藍様。何でしょう?」
「これを運ぶのを手伝って頂戴」
「わかりました! …この勝負はお預けだからね、赤いの」
「これで勝ったと思うなー」
 ぱたぱた手を振るアスミ。
「しかし、何の前触れもなくいきなりあれだけの油揚げって……」
 二人が運ぶ姿を傍観しながら、ぽつりとつぶやく。
「……うん。なんて言うか」
 リディアとアーチェ。お互いを見やって、苦笑。

『世界は広いわ』

299誰もがやられた:2008/05/12(月) 15:10:20
逃げ惑う妖精メイド達(役立たず)とそれに執拗に弾幕を放つ少女を紫は半眼で見ていた。
弾幕が放たれて随分時間が経っているのか、辺りはまさに地獄絵図と化していた。
(…流石に地獄絵図は言い過ぎか)
頭を振りながら、体の回りに結界を展開する。
幸いな事に向こうはまだ自分に気付いていない。
最も気付いていても無視してるだけかもしれないが。
その場に浮かび上がると弾を結界で防ぎながら、少女へと近付く。と―
少女がこちらに振り返る。
(けど、もう遅い)
がっしりと彼女の腰を脇に抱える。
喚きながら暴れる少女のドロワーズに手をかけると、弾幕が更に濃くなる。
(フォーオブアカインド…)
分身した少女を一瞥し、手を一気に降ろす。
「いやああああっ!」
恥ずかしさからか、更に暴れる少女の声と弾幕に負けない様に紫も声を張り上げる。
「このっ!悪い子がぁ!」

ピチューン

真っ赤になった尻を出したまま、鼻をすする少女―フランドールを見下ろしながら、紫は息をついた。
「そういうのが嫌なのは自分もよぉく分かるけど、だからって弾幕でどかーんは駄目よ」
「ひぐっ…う、うん」
ドロワを穿きながら、小さく頷く。
その様子に苦笑しつつ、目線を合わせる様に片膝をつく。
「けどさ、姉貴だとこうはいかないんだよ?
昔やられたけど、それこそばちーんばちーんって凄い音させるし、
あのつるぺた姉貴「…へぇ、人のことそんな風に思ってたんだ」は…」
背後からした声に紫の顔から汗が滝のように流れる。
そのままゆっくりと、さながら油が切れたブリキの玩具の如く振り返る。
そこには満面の笑みをたたえた、けれど、背後に般若の面が見えそうなオーラを従えた女性がいた。
「…こ、ここからが本当の地獄だ」
壁際で震え上がるメイド達とフランドールの目の前で惨劇は幕を開けるのだった。



尻叩きって痛いよねって話
皆も小さい頃やられたよな?!

300禊雨・上:2008/05/13(火) 23:40:30
 雨の降りしきる夜だった。
 音を立てるほど強くはなく、さりとて無視できるほど弱くもない。
 この雨を楽しむ風情は濡れることにあると妹紅は思う。
 傘も差さず、街灯の薄明かりに映える暗緑の森を肴にして。
 彼女達は酒を酌み交わしていた。
「お二人はここで何をしているのですか?」
 声をかけられた二人――代理人と妹紅は、共に感情の希薄な表情をしていた。
 代理人に至っては、横に一升瓶を置きながら顔色一つ変えていない。
「あなたこそ、こんなところへ何をしに? お嬢ちゃん」
 お嬢ちゃんと呼ばれたその少女は、「にぱ〜☆」と満面の笑みを浮かべ、
「楽しいことをしているなら、ボクも混ぜてほしいのですよ」
 意外そうな顔をしたのは、妹紅一人だけ。代理人は変わらず無表情にグラスを傾けている。
 その齢10歳にも満たないように見える少女がここまで一人でやってきたことも意外なら、
雨に打たれながら淡々と酒を交わす光景をまさか「楽しいこと」と評されるとも思わなかった。
 だが、子供の発想が固定観念に縛られた『大人』とは異なる感性から生まれることは知っている。
 その程度のことだろうと、妹紅は安直に考えた。
「私達にとって楽しいことが、お嬢ちゃんにとっても楽しいとは限らないよ」
 言いながらグラスを煽る。
 特に美味いとは感じなかった。
 ――気分が悪いのならなおさらだ。
「それは混ざればわかることなのですよ」
 言って、代理人の隣に座る。
 ちなみにその少女は二人と違ってきちんと傘を差していた。
もっとも、濡れた地面に腰を下ろしている時点で傘の役割など無きに等しいが。
「雨がざーざーで水たまりがぱしゃぱしゃなのです。とってもいい気持ちなのですよ」
 少女は始終ご機嫌という様子だった。
 ただの八つ当たりと知りつつも、妹紅にはそれが面白くない。
 何しろ、つい今しがたまで胸が悪くなる会話を展開していたのだ。
 そしてそれはまだ終わっていない。
「妹紅。無駄と知りつつも、もう一度だけ言うわ」
 少女の存在を完璧に無視して、代理人が口を開く。
「愚かな思索はやめなさい。そこには何の価値もない」
「価値を決めるのは私。違う?」
「違わない。だから表現を変える。
 あなたは自分の魂を貶めてでも、『この世界』の根幹に触れようと言うの?」
 妹紅の眉根がわずかに上がる。
「何も変わらない。何も叶わない。そもそもここには何もない。
 求めれば求めるほど、足掻き、醜態を晒すことになる」
「……だから私は」
「『自分の信じるものを貫くだけ』、と? なるほど、その言葉を口にするだけの強さをあなたは持ってる」
 けれど、と、
「少しは学びなさい。そのメンタリティこそが、今のあなたに一人相撲をとらせる因となっていることを」
「……るのか」
 妹紅の周囲に空気の流れが生まれる。
 周囲の温度が急激に上昇し――そして。

「わかるのかっ!! 貴様にっ!! 蓬莱人としての苦しみがっ!!!」

 怒りに燃え上がる妹紅の顔は、まるで泣いているようだった。
「この永遠の苦輪から逃れられるというのなら、私は泥をすすることさえ厭わない……!」
「…………戯れか」
 代理人が、動いた。

301禊雨・下:2008/05/13(火) 23:41:40
 妹紅は反応できなかった。
 油断があったのは事実だろう。
 それは代理人が自分を急襲するわけがないという甘えと、
そもそも代理人が自分を急襲できるわけがないという自負から来ていた。
 ――だが、それだけではない。
 妹紅は『自分の体が吹っ飛ばされる』まで、代理人を知覚することが出来なかった。
「な……っ」
 吹っ飛ばされたと言っても、威力はほとんどなかった。
妹紅の体が抵抗を示すより早く衝撃が伝わったため、思いのほか体が跳ねただけだ。
 逆に言えば、今の一撃にはそれだけの速さがあったということか。
「私の素早さはカンストよ」
 妹紅を吹っ飛ばした体勢のまま――つまりは拳を前に掲げた状態でそう告げる。
「学びなさい。あなたの唯一にして最大の敵は、その悪夢に繋がれた楔にこそあることを」
 それだけ言い放ち、代理人は再び無言で酒を呷り出した。
 妹紅は濡れた地面にぺたんと座りこんだまましばらく呆気にとられていたが、
やがて小さく「……ごめん」とだけ言うと、代理人に追従するようにグラスに酒を注ぎだした。
 そうして、辺りに静寂が戻る。

 粛々と。
 まるで彼女達の罪を身削ぐように、降りしきる雨。

「…………感想は?」
 ぽつりと。
 ここに来て初めて、代理人は少女に語りかけた。
「よくわからなかったのですが、ケンカはダメなのですよ」
「違う」
 無機質な視線が少女を睨め付ける。
「満足したかと聞いてるの」
「……何のことなのか、ボクにはちっともわからないのですよ」
 言って「にぱ〜☆」と笑う。
 代理人は今度こそ口を閉ざし、そして二度と開くことはなかった。

 沈黙の酒会は、こうして更けていく。


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