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【ミ】『フリー・ミッションスレッド』 その2

1名無しは星を見ていたい:2016/01/31(日) 23:55:26
短編、単発のミッションなどにお使いください。
長編やシリーズものの予定でしたら、自分のスレで行うことをお勧めします。

80『きらきら星を追え!』:2016/06/06(月) 23:22:35



 星が輝いているのは、いつか誰もがみんな自分の星を見つけられるようにするためなんじゃないかな。


 ――――フランス作家 アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ の言葉より

81『きらきら星を追え!』:2016/06/06(月) 23:51:53

 その日、貴方……『小石川文子』は、昼下がりに一つの小さな飲食店にいた。
本日は土曜であり学生らしき人や休憩時間を利用してる勤務者らしき人達も
チラホラ見受けられる。その時、ふと声がした。

 「うぅん、コレについては私も余り把握してないんですよ。ある程度
情報通の人を頼るほうが良いんでは?」

 「そう言われたのは、これで五回目ですよ。いい加減たらい回しにされるのは
御免ですっ! もう良いです! あとは自分でこの件に関しては調査しますんでっ」

 余り穏やか、とは言えない声で話してたのは。クールビズな風体で顔をハンケチで
拭いつつ少々困った顔をした30半ばの男性と、そしてプリプリと明らかに機嫌悪く
むっつりとした様子で、テーブルを使い幾つかの束の書類らしきものをトントンと
縦に整える、いかにもライターと言った感じの眼鏡をかけた二十代半ばの女性だった。
 他に目を引くと言えば、拳大の布で出来た袋が通路側にテーブルに置かれてたぐらい。

 其の二人の内、男性は居心地悪そうにして軽い謝罪後にすぐ店を出る。

女性はと言うと、入れ替わりに現れたウェイトレスの出したコーヒーを飲みつつ
イライラとした様子でボールペン片手に周囲に構わず貴方にも聞こえる程の声量で
独り言を呟いていた。

 「まったく……上も上だわ。黄金町、不思議発掘! 幻とも言われる
金平糖の生産地を探れ、だなんて。なーにが不思議よ!
 んなもんで読者が釣られるわけないってのに」

 苛々は女性のピークに達してるのか、少し荒々しくテーブルに置いてた袋を取って
封を開く。すると、彼女の感情に比例した故か勢いよく

 パァンッ!

 「あーもうっ さい あくっ!」

 ……『金平糖』が宙へと四方八方に投げ出された。その散らばった幾つかの内は
貴方のほうまでコロコロと転がり、そして貴方の足元で 止まった。
 貴方と彼女を導こうと『引力』が生じたように。

散らばる金平糖を手探りで拾うその彼女は、貴方のほうへと目線を向けた。

 (『外見』『所持品』『能力』などの提示とレスの開始をお願いします。
また、これは進行上で仮に許可して頂けるのならば、と言う前提の上での話ですが。
 そちらのPCの設定における『最愛の故人』の設定を、こちら側で使用する事が
もし問題なければ、その人物の簡潔な特徴を追記で記して頂ければ、と思います。
 無論、その設定をミッションで使用する事に対し反感ある場合、通常通りの
参加者が楽しめる意向に沿ったミッションを考えての進行させて頂きます。)

82小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/06/08(水) 01:05:59
>>81
その日の午後少し前に、心の中に朧気な『自殺欲求』が芽生えるのを感じた私は、それを抑えるために街へと足を運んだ。
自分にとっての『精神安定剤』――『自傷行為』に頼らなければならない程でもなかったが、一度芽吹いてしまった以上は、それが大きくならない内に摘み取っておく必要があった。
死に別れた『彼』に会えるという甘い囁きで自分を招こうとする『死の世界』とは真逆の、『彼』との約束を守ることができる『生の世界』に身を置いていることで、心に生じた小さな『欲求』は自然と抑制されることになるだろう。
幸いにも、この店に入って軽い食事を取り、食後に運ばれてきたハーブティーを飲み終える頃には、胸の内にあった背徳的かつ魅力的な『欲求』は、ほぼ鳴りを潜めていた。
空になったティーカップをソーサーの上に置くと、そっと目を閉じて、人知れず胸を撫で下ろす。
男女の話し声が聞こえてきたのは、そんな時だっただろうか。

          ――『金平糖』……。そう、この町の名産品だったかしら……。その取材をしている方のようね……。

星見町名物の『金平糖』は、自分も何度か口にしたことがある。
初めて見た時は、その種類の豊富さに驚かされたものだ。
それらは、単に色を変えただけのバリエーションの水増しなどではなく、味の再現度も見事なものだったと記憶している。
つい最近食べた『イナゴの佃煮味』などは、色合いや味は勿論のこと、あの独特のシャリシャリとした歯ごたえのある食感までも鮮明に伝わってくるようで、思わず懐かしい『母の味』が脳裏に浮かんだ程だった。

しかし――その生産地が幻とされているというのは初耳だった。
それが本当だとすれば、確かに不思議なことだろう。
普通なら、そういった情報は公開されていて当たり前だ。
まして、それが町の名産品であるなら、なおさら積極的にアピールする方が自然だろう。
おそらくは雑誌記者らしき女性に話を聞かれていた所を見ると、今しがた退出していった男性は、少なくとも『金平糖』と何らかの繋がりを持つ人物である可能性が高いと思えるのだが……。
しかも、話を聞くのは既に五人目だという。
もしかすると意図的に隠しているのだろうか?そうだとしたら何のために?
今まで特に気に留めることもなかったが、こうして改めて考えてみれば、単なる名菓に見える『星見町名物・金平糖』は、謎と神秘のベールに包まれた未知の存在と言えるのかもしれない……。

                 コロロロロ……
                              「――あら……」

                                               スッ

頬に片手をやり、しばしぼんやりと考えを巡らせていると、ふと足下に『金平糖』が転がってくる。
それを見下ろし、顔を上げた所で、女性と目が合った。
状況を察して静かに席を立つと、膝を折って身を屈め、手の平に置いたハンカチの上に、それらを拾い集めていく。
それが済んだら、女性の下へ歩み寄り、拾い集めた『金平糖』を、ハンカチの上に乗せた状態で差し出す。

「――はい、どうぞ……。これで全部かしら?見落としていないといいのだけど……」

優しくも憂いを含んだ微笑みを浮かべながら、穏やかな口調で語りかける。

83小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/06/08(水) 01:35:43
『外見』
洋装の喪服姿。黒いつば広の帽子。
細身の体型。身長はすらりと高い。
穏やかで人当たりはいいが憂いを帯びた顔つき。
長い黒髪をヘアゴムでうなじの部分でまとめたアップヘア。
両手の薬指に同じデザインの指輪。

『所持品』
財布。携帯電話。化粧品。
コンパクトミラー。ハンカチ。
自傷用の果物ナイフ。自傷した際の止血用ガーゼとテープ不要の包帯。

『スタンド』
己の部位を『切り離す』事で、それを遠隔操作できるナイフ。
解除時に切り離されたままの部位は崩れ、切断面から元通り『生え代わる』。

『スーサイド・ライフ』
破壊力:C スピード:B 射程距離:D(2m)
持続力:C 精密動作性:B 成長性:C

『部位』
破壊力:D スピード:C 射程距離:B(10m)
持続力:C 精密動作性:C 成長性:―
 【能力詳細:ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/comic/7023/1463235536/19】

『追記:最愛の故人について』
名前は『治生(はるお)』。
年齢は少し年上で三十歳ほど。身長は約180cm程度。髪の色は黒で長さは程々。
全体的な雰囲気を一言で言うと『人が良さそう』。
文系理系体育会系で分類するなら文系に当たる。
先天的な奇形の多指症であり、右手の指が『六本』あった。

84『きらきら星を追え!』:2016/06/08(水) 09:02:48
>>82-83(提示有難う御座います)

「あっ…! ど、どうもっすみません。私ってば機嫌悪くなると
つい手元が雑になって」

 顔を赤らめ恥ずかし気に笑う女性は、丁寧に貴方へとお礼を告げ
そして席に戻ろうと背筋を戻す。

 だが、ふとジャーナリストとしての直感か。この、ささやかな金平糖が
齎した縁に何かを思ったのか。座席へと向けてた踝(くびす)の向きを
貴方へと戻し、そして真顔でこう告げた。

 「ねぇ…少し、良ければお時間を頂いても宜しいかしら?」

 ……  ……。

彼女……名刺と共に自己紹介をした『興味 有菜(こしみ ありな)』。
黄金町の一つの出版社に勤める自称敏腕ライターと軽く自分の身を
告げた彼女は、貴方の自己紹介も聞き終えると幾つかの先ほど散らばった内の
テーブルへと落ちずに生き残った金平糖達を指で摘まみつつ話し始めた。

 「黄金町の名産品と言えば、スターフルーツ、干しぶどうって言うのは地元の
人間なら誰しもが知ってるし、場所もある程度そらで言えると思うわ。
 そして、三つめがコレ ね。正式名称って特筆して明記されてないけど
よく聞くのは……星の数ほど金平糖、とか。星屑金平糖とか、そんなところね。
 まぁ名前は今は置いといていいわ! 
私や、他のこの町に住む人達なら一度は口にしてるコレだけど……よくよく考えて見て?
 フルーツやら、まぁ一般のスナックの味を模すのなら、ちょっとはコストもかかるでしょうけど
まだ普通よね。けど、よ……」

 そこで有菜はヒョイっと。白い透き通った金平糖を口に放り込み。ガリ ガリと咀嚼音を
小さく響かせた後に、ふーっと少し長めに息を吐いて続きを話始めた。

 「……今食べたのとか『アフリカキリマンジャロの5万年前の雪どけ水』味だったんだけど。
――有り得ないと思わない?
 食べた瞬間に、鮮明に食べた元である物体の情景や食感まで感じ起こさせる。
けど不思議な事に違和感もなく自然と、あぁ成る程、確かにこの味だとしっくり来る。
勿論、この金平糖一つだけじゃなく、全て、一個一個が一流の職人レベルの味で合成されてる。
こんなの『人間業ではない』わね。ほぼ間違いなく何か秘密が隠れてると見るべきよ!
 けどね……。
金平糖委託の運送会社から小売業者やら色々と当たって調べて見たんだけど。
 金平糖の製作に関してちーーっとも把握してないって言うだらしない結果でねぇ……。
もう、こうなると直接作ってる場所に突撃するべきだと思うんだけど。電話しても
『申し訳ありませんが、当社では金平糖の製作に関しては社長から秘匿厳守を
命じられており、何も申す事は出来ません』……って言うのよっっ!」

 カンッ! と段々と話すに内につれ苦い体験の回想によるヒートで
コーヒーカップの底面が強くテーブルを叩いた。

 我に返り有菜はバツの悪そうな顔で小休止に一回カップに口をつけると。
意を決した様子で貴方へと頼み込んできた。

 「ねぇ、小石川さん……宜しければ私と一緒に工場へと直接赴いて
手伝いをして貰ってもいいかしら!?
 本当っっお願い!! いま社内で、この件に関して手伝ってくれる人手の余裕ないし
何より私見たいな、もろ新聞社からネタを仕入れにきましたーって感じの恰好と雰囲気の
女が一人で乗り込んでも門前払いで終わっちゃうだけよー!
 一人より二人のほうが絶対に心強いし、ほんのちょっと工場にいる人の注意を惹いたら
あとは私が全部調査一任するから!! 礼金も弾むし、この通りっ!」

 パンッと両手を軽く叩き合掌して、そのままの状態で上体だけ頭を下げる
彼女は少し軽い感じが見受けられるものの、貴方に対し心から頼んでる。

85小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/06/08(水) 23:06:17
>>84
                         ――やっぱり……彼女も私と同じなのね……。

熱っぽく語られる有菜の話は、極めて説得力があるものだった。
なぜなら、件の金平糖を食べた時、自分も彼女の言う不思議な感覚を覚えていたからだ。
さっき思い出した『イナゴの佃煮味』をはじめ、『ざざ虫の素揚げ味』や『蜂の子の蒸し焼き味』などを食べた時も、
幼少期に味わっていた実物と変わらないリアルな食感と、郷里にも似た自然あふれる日本の原風景が、まるでフラッシュバックのような鮮明さで頭に浮かんできた。
今まで見過ごしてきたが、この一見なんの変哲もない金平糖は、どこかしら特別な力が加わっているような雰囲気を感じさせる。
そして、やはり金平糖の製作に関わる情報は、意図的に遮断されているようだ。
それも、電話での対応の仕方を見ると、蟻の入る隙間もないくらい徹底的に秘密主義を貫いているらしい。
偽物や類似品の出現を防ぐために製法が外部に漏れないようにする――それ自体は、よくある話だし、もっともな理由だ。
だが、『金平糖側』の頑なな態度は、一般的な範疇を少しばかり越えているように思える。
そこまで神経を尖らせている背後には、単に製法の流出を防ぐということ以外に、もっと大きな秘密が隠されているのかもしれない……。

                   「――そう……。あなたのお話は良く分かったわ。興味さん……」

ほんの少し前に知り合ったばかりの彼女が頭を下げてくるのを見て、軽く目を伏せる。
思い直してみれば、随分と急な話だ。
十分な謝礼を出すと言われても、大抵の人が承知するのを躊躇う提案だろう。
仮に、これを断ったとしても非難されるいわれはない。
しかし――。

       「――もしかしたら……これも何かの縁かもしれないわね……。一緒に行きましょう。私でよければ……」

伏せていた目線を上げて、正面に座る有菜の姿を見据え、この頼み事を承諾する意思を告げた。
最愛の人間を事故で失い、心に深い傷を負ってからというもの、その大小に関わらず、他人が抱えている問題や悩みにも、それまで以上に共感を覚えるようになったと思う。
そして今、目の前に困っている人がいて、真剣に助力を求めているのだ。
第三者からすれば大げさな見方かもしれないが、それが自分にできることならば、迷うことなく手を差し伸べたい。
それは自分にとって、意識せずとも呼吸をしているのと同じように、ごく自然な心の成り行きだった。

86『きらきら星を追え!』:2016/06/09(木) 00:00:34
>>85
>一緒に行きましょう。私でよければ
パァァ―…!
「ありがとーう! 正直、断られても仕方がないと思ったけれど。嬉しいわー!
 そうと決まれば善は急げよ!」
グッ! パチンッ
 「さっそく行きましょう!」
立ち上がり、片手をグッと握りウインクする興味は。つむじ風のように
会計を手早く貴方の分まで済ませて駐車していた車へと乗りこみ
貴方と共に工場へと向かう。忙しないと思えるが、その熱意と迅速な
行動と決断力が彼女なりの魅力なのかも知れない。
 「アポはしてないけれど、まぁ電話で拒否られてるからね。
直接乗り込んで強引にでも中を見させて貰うわ。
ジャーナリスト魂を舐めるなよ! ってね!!」
 そう鼻息荒く、ハンドルを切る彼女は運転中ずっと気炎を昇らせていた。


……昼下がりとなり、貴方たち二人は『H湖』近くにある一つの煙突が昇る
平均的な学舎の体育館程度の大きさある工場へと車は着いた。

「ホームページに記載してるのが正しいのなら、此処が工場地の筈よ。
星屑金平糖の魅力の一つは、天然の自然水である澄み切ったH湖の水を
利用して氷砂糖と組み合わせ生成してます……って説明書きが載ってたけど
それだけで何万種類もある味の表現の秘密の答えには、なっちゃいないものねぇ」

 話しつつ興味は車から降りる。そして鉄柵のついた入口へと彼女は近づく。
「いよいよね……今更だけど緊張してきたわ」
 金平糖工場の入口の柵には錠やチェーンなどで縛られてもせず。力を押せば
どうやら簡単に開きそうである。

「どうする、子石川さん? 私が先に入っていこうかしら」

 無理に手伝いを頼んだ遠慮もあってか、興味は無理に貴方を中に一緒に
連れていく方策を除いた上で、そう告げた。

87小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/06/09(木) 22:22:31
>>86
――私の想像とは……少し違ったようね……。

被っている帽子のつばを片手で少し持ち上げて、意外にも簡単に入ることができそうな鉄柵を見つめ、
うっすらと目を細めて考えを巡らせる。
頑丈な南京錠で施錠された上に、太いチェーンがグルグルと何重にも巻かれ、
屈強な警備員が昼夜問わず目を光らせている。
有菜の話からは、そんな光景をイメージしていたのだ。
そして――ここで一つの疑問が浮かぶ。
相手は徹底した秘匿厳守を方針にしている会社だ。
それなのに、部外者が簡単に敷地内に入れるようになっているのは、いささか妙だ。
果たして、このまま素直に足を踏み入れてもいいものか……。
少しでも不安な要素があるからには、あらかじめ探りを入れておき、
それを取り除いておく必要がある。
自らの考えをまとめると、一人で行くことを提案する有菜に向き直り、それに答える。

  「いえ……。私が先に調べてみるわ。ただし――中には入らずに……ね……。
  そうね……ここで少し待っていてもらえないかしら?車の中に『道具』を置いてきてしまったものだから……」

そう告げて、いったん車の傍らに戻ると、その陰になるように立つ。

     スラァァァァァ―――z____

そして、利き手である左手を軽く握ることで、
『自殺衝動』を持つ自身の精神を象徴する『スーサイド・ライフ』を発現させる。
その刃に視線を落とすと、使い慣れて手に馴染んだ万年筆で『ペン回し』をするかのように、
鮮やかな手つきで回転させ、普段通りのコンディションであることを確認する。

     スパァァァンッ!
             
軽いウォーミングアップが済んだら、まずは『左耳』を根本から一気に削ぎ落とす。

     ザグゥッ! 
            スゥゥゥゥゥ―――z____ッ
                                スパッ

続いて『左目』を抉るように切除し、外科手術のような精密さで摘出する。
わざわざ車の横に移動したのは、いくら出血がないとはいえ少々グロテスクな場面になる『自傷』を、
有菜の前で見せて驚かせてしまうのを控えたためだ。
さらに、帽子を左側に傾けて目深に被り直すことで『左目』と『左耳』を切除した痕跡を隠し、
念のために左の瞼は常に閉じておく。
そして、切り離して自分の側に浮遊させておいた『左耳』と『左目』を右手の中に隠し持ち、
また有菜の下へ戻る。
左手には抜き身の『スーサイド・ライフ』があるが、彼女が一般人ならば見えないだろうし、
スタンド使いだとしたら説明すれば理解してくれるだろうから、特に問題はないだろう。

  「――待っていてくれてありがとう……。『道具』を取ってきたから、今から少し様子を確認してみるわ。
……少し離れていてもらえるかしら?」

一声かけて、彼女に少し下がるように頼む。
離れていれば、仮に『左耳』と『左目』が見えても、それが実物だとは思わないだろう。
有菜が離れたのを確認したら、鉄柵には触れずに、
その隙間から『左耳』と『左目』を低空で浮遊させて送り込む。
こうして切り離されていても、それらの感覚は通常通りに自分に伝わる。
いわば『盗聴機』と『監視カメラ』だ。
最初の5mは浮遊して進ませ、残りの5mは地面に下ろして更に進ませ続け、
射程限界の10mまで到達させたい。
その位置から、『左耳』と『左目』をぐるりと回転させ、周囲の様子を探らせる。
何が見えるのか、あるいは何が聞こえるのか。
もし人の気配がしたなら、そのことを有菜に知らせると共に、
『左耳』と『左目』を目立たない位置に退避させて隠したい。

88『きらきら星を追え!』:2016/06/10(金) 22:12:15
>>87(レス遅れ失礼しました)

「『道具』? あらっ、用意いいのねー小石川さんっ。
うん、どうぞどうぞー。私もちょっと軽くメイク直しするから」

 貴方の言葉に、興味は快諾しつつ、命じられる必要なく明後日の方向
を向いて携帯してたバッグから軽く目元を整え始めた。
 上記の行動も特に周囲を気にする必要もなく無事に『左目』と『左耳』の
切除、そして手元へと隠す。

 「よし、こんなもので良いかな……あれ? 帽子の向き変えたの?
個人的には私、さっきの角度のほうが見た目も映えると思うけどー」

あっけらかんと、貴方を見ても特にリアクションない興味。金平糖の件を
話していた時にも、『奇妙』な金平糖の味に対し『スタンド』を連想するような
言い方もなかった故に、やはり彼女は正真正銘の一般人のようだ。

「うん、離れればいいのね? ……それにしても普通の工場と何ら
変わんないわよねぇー。此処、本当に特別な金平糖を生成してるのかしら……」

 そう、ぼやきながら興味は遠巻きに工場の外観を見上げる。
貴方は気取られる事なく鉄柵の下から耳と目を低空飛行させ滑り込んだ。

 

 『耳』と『目』がグルリと一回転する。

そこから見えた光景は工場と、そして其れを取り巻く茂み。
 右目のほうからも見える工場と連結してるのだろう電柱と電線。
貴方の立つ場所からでも視認出来たが、工場とは約『50m』程の距離があり
その入口近くには三台ほど輸送で使用するのだろうトラックが近くに駐車しており。
 いまは作業中なのか入口の所で作業してるのだろう作業着を着た人影が
まばらながら遠目でも観測する事が出来た。ここまでは何処にでもある
仕事場の風景、と言った所だ。

 そして『此処』から貴方は『奇妙』なものを目撃する。


         ――シュッ

   ―タンッ

                       ―シュッ


 もし、普通に立ったままの状態で工場を見てるだけなら気づかなかったかも知れない。

低空で浮遊をしていた『左耳』と『左目』。
 それは何か小さな虫のようなものが跳ねたり、そしてすばしっこく駆ける音を捉える。
貴方がもし耳だけを浮遊していただけなら、H湖と言う自然の巣窟の近くでもあり
何か小さなバッタなり何かが通ったのだろうと思うだけで終えたかも知れない。
 だが……。


        ――ヨシ タイリョウダ


 その『左目』と『左耳』は……。

 どう見ても、目を凝らしても虫や、小動物の類ではない。
小さく、小さくも 確かに

ブーツのような靴

逆三角形の魔女帽子

サンタクロースのような背丈半分ほどの白い袋。

 それらを纏う、本当に小さな……   『小人』。


そんな『二体』の人影が一つの茂みへと、一言呟いて一瞬にして走り去っていくのを
貴方は目撃した。

89小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/06/10(金) 23:37:46
>>88
質問です。

工場を取り巻く茂みの大きさは?
人間が身を隠せる程の大きさがあるでしょうか?

また、現在地から手近な茂みまでの大体の距離は?
そして、その茂みから入り口までの距離は、およそどのくらいでしょうか?

入り口近くにいる作業員の人数は?
こちらが鉄柵を開けて敷地内に入ったとして、それを見られそうな様子はあるでしょうか?

90『きらきら星を追え!』:2016/06/10(金) 23:54:20
>>89

>工場を取り巻く茂みの大きさは?
大人の膝丈がが隠れる程度。子供が屈んでも少しはみでる程度の大きさ。

>現在地から手近な茂みまでの大体の距離は?
約『5m』 入口までの距離も同等

>入り口近くにいる作業員の人数は?
 約2〜3人程度。
昼下がりで稼働としては忙しい時間帯とも思える。こちらから意図的に
とても大きなアクションを起こさない限り鉄柵の出入り口まで気にしないと思われる。

91小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/06/11(土) 00:04:12
>>90
トラックの近くに作業員はいるでしょうか?
あるいは、今はいなくても来そうな気配はあるでしょうか?

92『きらきら星を追え!』:2016/06/11(土) 00:12:16
>>91

>トラックの近くに作業員はいるでしょうか?
いない。周囲にも人影は見られず直ぐにエンジンも切られてる状態のようなので
直ぐに戻ってきて出すと言う感じにも見えなさそうだ。

93小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/06/11(土) 11:02:22
>>88
  「――『あれ』は……?」

一瞬にして現れ、瞬く間に走り去った『小人』を目撃した瞬間、思わず声が出てしまった。
新手の『スタンド』――奇妙な『小人』の存在から、その可能性が頭を掠める。
自分の『スーサイド・ライフ』は人型ではないが、『スタンド』という超自然的能力を持つ者ならば、
誰もが真っ先に思い至る直感的な発想だ。
工場側に属する存在なのか、もしくは自分達と同じ外部の者なのか――
その正体や目的は気にかかるが、今は放っておくしかない。
今から追いかけるのは無理だろうし、そもそも自分達は工場の調査に来ているのだ。
『小人』の存在を記憶に留めつつ、再び工場に視線を移し、本来の目的に意識を戻す。
用心して鉄柵の外から探ってみたものの、この場所からでは距離があり過ぎて、
大した情報は得られそうにない。
やはり、目の前にある鉄柵を開けて、工場の敷地内に踏み込む他なさそうだ。
しかし、いくら人の数がまばらだといっても、いきなり入口から堂々と中に入っていくのは無謀だろう。
工場を取り巻く茂みは、大人が姿を隠せる程の大きさはない。
あと利用できそうなものは入口付近に駐車されているトラックぐらいだろうか。
一通りの思案を終えると、有菜に言葉をかける。

  「入口の前に止まっている三台のトラック……。ひとまず、そこまで行ってみましょう。
   私の『道具』は10mくらい先の様子を見たり聞いたりできるわ。
   もっと近付けば、工場の中の様子も分かると思うから……。
   そうね……。入口に一番近いトラックの陰にしておきましょう……」

有菜に声をかけたら、彼女と共に敷地内に入り、移動を開始する。
念のために二手に分かれた方がいいかもしれないとも思ったが、そこまで警戒する必要もなさそうだ。
作業員達の視界から逃れるため、入口の正面に立つことを避け、回り込むようにして目的地まで移動したい。
待機させておいた『目』と『耳』は自分達の後ろからついてこさせる。
一応、それらが有菜の目には触れないようにしておこう。
無事にトラックの陰にたどり着けたら、小さな声で有菜に呼びかけて、調査を再開する旨を伝える。

  「――じゃあ、もっと詳しく様子を調べてみるわ……」

後ろから追ってきた『目』と『耳』を、トラックの下を経由して、
入口から中へ送り込み、先程と同じ要領で射程限界まで移動させる。
ただし、数は少ないとはいえ入口付近には人がいるし、中にも何人いるか分からない。
『目』と『耳』が彼らに見つからないように、時折物陰に潜ませるようにしながら、
できるだけ注意して進ませたい。
それができたら、『目』と『耳』を再び一回転させて、周囲を調査する。
内部の構造や配置されている物、人の数や位置、機械の音や話し声。
それらを把握することに集中する。

94『きらきら星を追え!』:2016/06/11(土) 21:08:46
>>93

ギィ ィ……。

鉄柵は如何にも年代的な軋みを醸し出しながら開く。
 決して小さい音とは言えなかったものの工場入口のほうで色々
動いてる作業員らしき幾人かの人影がこちらに気づいてアクションする様子はない。

「潜入捜査ねっ。大丈夫っ、心得てるわ」

 興味も貴方の背後につくようにして、ある程度足音を殺し慎重に二人は
トラックの陰に身を潜める事に成功した。


 以下、『耳』と『目』の情報

参考画像→ttp://www.sasakiseika.co.jp/fs/sasakiseika/conpeito

工場内部で、まず忍び込ませた『目』が捉えたのは、工場入口を前から見て
左側の奥にある大きな銅鑼(どら)だった。幾つかのザラメを攪拌する専用の
窯が数十は置かれており、そして糖蜜をかける器具なども付随して設置してる。
入り口側には金平糖作りの核でもあるザラメが積まれており。作業員の5〜6名は
そのザラメの入った袋を取り出す作業をしている。
 廃棄、と書かれた。恐らくは形や品質がそぐわない金平糖を捨てる為であろう
焼却炉も見えた。工場の煙突の煙の正体は十中八九これだろう。
右手にはトタンで仕切られた、機械を入れてるのか何かしら収納ペースのある仕切りのある
部屋らしきものがあったが、閉まっており其れ以上の事は解らない。
 機械の稼働音はなく、また金平糖を作る様子も見えない。
本日はどうやら既に仕上がったが休みのようだ……。
作業員も、包装を解いてる人達以外には貴方の目と耳からは
これ以外の誰かがいるようには思えなかった。数人は談笑しつつ仕事をしてる。
 『最近子供が一緒に風呂に入るのを嫌がってねぇ』
 『ははっ。うちの子も反抗期ですよ』
そんな感じの世間話だ……今の所、貴方の耳と目に気づく様子も全くなく
特筆して異常は見えなかった。

95小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/06/11(土) 23:16:36
>>94
右手にある部屋らしいものというのは、そこまで行ったとしたら、中を覗いたり入ることはできそうでしょうか?
入口にカギなどがかかっている様子はあるでしょうか?

96『きらきら星を追え!』:2016/06/11(土) 23:23:34
>>95
 描写としてはトタンで構成された小型の車が入れる程度の大きさの
部屋らしきものの中心にアルミ戸が存在してる。
 ドアノブの中心に鍵穴があるタイプのようで、恐らく施錠されてると思われる。

97小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/06/11(土) 23:46:29
>>96
廃棄と書かれた袋は口が縛ってあったりするでしょうか?
その中身を見ることは可能そうでしょうか?

98小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/06/11(土) 23:58:08
>>97
廃棄と書かれているのは焼却炉ですね。
申し訳ありません、見間違いでした。

というわけで>>97は粉微塵になって消えました。

99小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/06/12(日) 00:04:42
>>96
焼却炉は現在も使用中でしょうか?
また、廃棄の金平糖は残っていないでしょうか?
その周囲にでも、何粒か落ちていたりしないでしょうか?

100『きらきら星を追え!』:2016/06/12(日) 00:17:13
>>99
 現在は工場から上がる煙も徐々に細くなり、どうやら使用を終えた様子。
焼却炉近くに廃棄用の金平糖を入れる箱がある。その周囲に幾つかの
欠けた金平糖が『左目』で視認出来る為、ある程度は入ってるものと見受けられる。

101小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/06/12(日) 00:33:36
>>100
現在地(トラックの陰)から廃棄用の箱までの距離はどれくらいでしょう?

102『きらきら星を追え!』:2016/06/12(日) 10:04:31
>>101
 約『30m』程

103小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/06/13(月) 22:26:58
>>94

――『普通』……。そう、『普通』ね……。

眼前に広がる何の変哲もない『普通』の光景――これが他の工場ならば、それで何も問題はない。
しかし、ここで製造されている金平糖は、普通とは言えない代物なのだ。
『普通の工場』で『普通ではない商品』が出来上がるというのは、やはり矛盾しているように思える。
そこで、考え方を変えてみることにした。
『あの金平糖は、本当にこの工場で製造されたものなのだろうか?』と。
馬鹿げた発想かもしれないが、会社のホームページに記載してあるからといって、
それだけでここが製造地だと断言する根拠になるとは限らない。
もしかすると、それさえもカモフラージュの一つであるという可能性も否定できなくはない。
仮に、ここで製造されている金平糖が普通の金平糖だとしたら、とりあえず矛盾はなくなる。
『普通の工場』で『普通の金平糖』が製造されているというのは当たり前だからだ。
その場合、では『例の金平糖』はどこで製造されているのかという謎は残るが、
ひとまずこの仮説を確かめてみたい。
それを確かめる方法は簡単だ。
ここで製造されている金平糖を食べてみればいい。
幸い、廃棄用の金平糖が入っているらしい箱が、送り込んだ『目』を通して見える。
多少見た目が悪かったり、品質が劣っていたりしても、
原材料や製造方法が同じである以上、それは根本的には同じもののはずだ。
もし、それを入手することができれば、疑問を一つ解消することができるだろう。

「興味さん……。私が確認した限り、工場の中は『ごく普通』で、変わった所はなかったわ。
ただ……廃棄用の金平糖が置かれているようなのだけど……。
  それを調べてみれば、『あの金平糖』が本当にここで作られたものかどうかが分かると思うの……。
  それで……一つ考えがあるのだけど……」

そこで、自分が見聞きしてきた内容を有菜に伝えると共に、自分の案を彼女に提示したい。
まず、自分が天文台への道を聞きに立ち寄ったという体裁で、工場に踏み込む。
そして、合図をしたら、その後で有菜に出てきてもらい、取材の申し込みをして欲しいというものだ。
いきなり道を聞きに来れば怪しまれるかもしれないが、
そのすぐ後でマスコミ関係の人間である有菜が出てくれば、相対的にこちらへの注意は薄れるだろう。
民間人の自分と、ライターである有菜を、すぐに結びつけて考える可能性も低いはずだ。
そのチャンスに行動を起こし、廃棄されるであろう金平糖を少しだけ頂きたい……。

  「――そうね……。私が『この辺りの土地には不慣れなもので……』と言ったら、
   出てきてもらいたいのだけど……。そして工場の方達をできるだけ引き留めておいていただけると、
   とても助かるわ……。それから――もしも取材させてもらえることになったら、
   右側にある部屋のことを聞いておいていただけないかしら……?」

こちらの案は、これで終わりだ。
もし、有菜に他の提案や意見があるなら、それを聞いておこう。
なければ、行動に移る準備をしておく。
まず、持ち物の中から、ハンカチと化粧品の口紅を取り出して、
バッグのすぐ取り出せる場所に入れ替えておく。
そして、右手の薬指にしている指輪をそっと外し、バッグの中のポケットに大事にしまう。
続いて、有菜からは見えないようにして、何気ない動作で『右手』を手首から切り落とす。
そのまま体から離さずに、浮遊させた状態を保つことで、
切断した部分が袖の部分で隠れて分からないようにしたい。

104『きらきら星を追え!』:2016/06/14(火) 09:57:47
>>103

思考に耽る貴方。確かに、あの特殊な金平糖が普通の工場で作られてるものなのか?
もしかすれば、ホームページ自体も全て偽装してるものであり。真実の工場は別に
あるのではないか。そう思えてくる。
 だが貴方は二つの事実も思い出してくるだろう。
興味が告げた事が全てが真実である前提であるならば、わざわざコストの掛からない
天然の自然水であるH湖より余程離れた場所に、その特殊な金平糖を作る工場を隠す。
 となると天然水を輸送するなりの方法は必須となり、もし今までそのような隠された
ルートを使っていたのならば誰かが既にその秘密の工場を知る確率が高いであろう事。
 確かにホームページの内容全てが嘘でH湖以外での何処かしらの水源なり何なりを
利用して別の工場で金平糖を作ってる可能性もあるだろう。だが、興味曰く
ジャーナリストとしての勘と、全てが虚偽でまみれた企業と言うのは必ずしも尻尾が出て
暴露されるものだが。真実と嘘を織り交ぜたものと言うのは長々と悟られぬもの、と言う具合だ。

 そして貴方は上記の作戦を決行する。

「あんれまぁ、どうしたんだい。お嬢さん?」

「天文台? そりゃあんた此処とは逆方向になるよ。ちょっと××くん
この娘の為に地図、車から持ってきてや」

突如工場に来訪した貴方に、ザラメを開封していた中年程の業者達は
少々吃驚しつつも、道を迷ったと言う小石川の為に快く応じてくれた。

 少しして貴方は頃合いと感じるタイミングが訪れ。そしてキーワードである
『この辺りの土地には不慣れなもので……』と告げる。

 シュバッ!

「どーも、良いお日柄で! ××社の記者である興味 有菜と言います。
実は今日は、連絡も寄越さず申し訳ありませんが、この工場の取材をと!」

 勢いよく躍り出て取材を強請る興味へ、業者達は鳩が豆鉄砲を食らった顔を
暫し浮かべてから、苦虫を噛んだ顔へと変わる。

 「いや、わざわざ遠い所からお越し頂いてすまんけどね。
この工場は取材は断ってて」

 「そこを何とか! 安心して下さい。写真の掲載せず文面だけのインタビュー
だけで良いんですっ」

 「そうは言ってもねぇ……」

ワイワイと興味のほうへと周囲の関心は集まる。貴方に対しての注意は
完全に消え失せていた。

 既に貴方の『右手』は廃棄される金平糖が入った箱の射程圏内だ……。

105小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/06/14(火) 23:07:59
>>104

  ――予想はしていたけれど……。取材させていただくことは、やはり無理のようね……。

有菜と作業員達のやりとりをちらりと一瞥する。
取材させてもらえるかどうかという点に関しては、どうにも期待できそうにないが、
あの分ならこちらに注意が向くことはないだろう。
行動を起こすのは今だ。
まず、『目』を先行させて、箱の中身を確認する。
そして、あらかじめ『右手』に持たせたハンカチを風呂敷のようにして金平糖を包み、それを『右手』に持たせる。
もし、ハンカチを持たせていなければ、直接『右手』で一掴みほど握って失敬したい。
そして、作業員達の目がこちらに向いていないのなら、
『右手』を体で隠すようにして、彼らの見えない所で自分の下まで戻す。
その際に、金平糖入りのハンカチまたは金平糖は、手早くバッグの中にしまってしまう。
もし、一人でもこちらを見ているようなら、『右手』は目立たない物陰にでも潜ませておき、
『右手』のない右腕はバッグの陰になるように隠しておく。

  ――これで、ひとまずは終えたわ。後は……。

一連の作業を済んだら、有菜と作業員達の様子を確認しておく。
まだ彼らのやりとりが続くようなら、自分自身の目と切り離した『目』の両方を使って、
時間の許す限り改めて工場内を見渡しておこう。
既に工場内に入っているのだから、少なくとも外から見ていた時よりは、詳しいことが分かるはずだ。
念のため、銅鑼や糖密をかける器具の内側も見ておきたい。
できるだけ本体自身は動かず、切り離してある『目』を通して、それらを確認する。
もし射程外にあるのなら、射程内に入るように、少し近付くことで調整する。
そして、射程内かつ作業員達に見られるおそれがないなら、
『右手』を閉じられた部屋の前まで移動させ、ドアノブをひねってみる。
その際は、できるだけ音がしないように注意する。
もし射程外なら、物珍しそうに近付くといった感じで歩み寄り、射程内に収めてから行いたい。
やはり鍵がかかっているようなら、とりあえずは諦めよう。
すぐ分かるような所に鍵が置いてあるとも思えないし、誰かが持っている可能性もあるが……。
一応、どこかに鍵らしきものが見当たらないかどうかも確認しておく。
有菜は粘ってくれているが、彼女の時間稼ぎにも限度がある。
以上の行動は可能な限り素早く行いたい。
それも終わったら、右手を袖口まで戻してくっつけ直す。
あとは、作業員達にお礼を言って退出するだけだが、その前に、
用意しておいた口紅をこっそり工場の床の上を転がして、銅鑼などの物陰に隠れるようにしておく。
落とし物をしたという理由で、再び訪問するきっかけになる。
万一の時の保険だ。

  「――お仕事中に突然お邪魔してご迷惑をおかけしました……。
   ご親切にありがとうございます。お陰様で大変助かりました……」

指を伸ばした両手を体の前で揃え、深々と頭を下げて、感謝の言葉を述べる。
そして、一足先に工場の外へ出ていく。
その内、有菜も出てくるだろう。
ふと――視線が一つの茂みへ向いた。
気になることといえば、もう一つある。
工場に入る前に見た『小人』の存在だ。
少なくとも工場と無関係ではないだろう。
あの『小人』の向かった先に、工場の秘密を知る手がかりがあるのかもしれない。
茂みを見つめながら、漠然とした思いが頭をよぎるのを感じた。

106『きらきら星を追え!』:2016/06/15(水) 18:04:39
>>105

 「だから! ほんの少しでいいんですって! 秘訣と言うか核心に
迫る部分で良いんですから!!」

 「それ、もう全部言ってくれ言うてるのと同じでしょう……。はぁ
私らも、そんな別に特別な事してる気はないんですがね。
 しいて言うなら金平糖を輸送した後に別ん所で味付けでも
やってるんでしょう。それ位しか私らは言う事ありませんよ」

 話をはぐらかしてるのか、もしくは本当に彼らは特別な生成を
知らないのか、真顔で興味に対し応対している。

 興味の話術の冴えのお陰か、貴方は『目』で確認した通り、不揃いで
見た目も余り宜しくないだろうと思える金平糖を幾つかハンカチで失敬する。
 貴方の行いに業者達が気づいた様子は全く見受けられなかった。
 
 そして普通の目で確認した限りでは、銅鑼や糖蜜の器具類には特に
不審な部分は見つける事はなかった。貴方がこう言う器具類の知識が浅いと
言う部分を除いても、この器具が特別に金平糖を作る上で不思議な味付けを
可能に出来るとは思えなかった……。

 以下『目』の情報。

 捕捉に少しなってしまうが、この金平糖工場は当たり前ながら大量の
発注を想定する上で大きな銅鑼が幾つも並列に置かれている。

 隙間なく並べられたその銅鑼の下の空間と言えば、到底『人間では』
入る事も不可能と思え。後ろ側を人力で覗こうとしようとするなら
歩いて少し時間をかけて窓から入りこんで覗くのが一番早いだろうと言える具合。

 だが、貴方の『スーサイド・ライフ』はそんな面倒な行動を起こすまでもなく
一部分を分離させ、その人体の機能を損なわず移動させられる能力ならば
その裏側を確認させる事など容易な事であった。 そして『目』は移動する。

 ス スス……。


    〜〜♪    ガリガリ ガリガリ♬


 ――居た。

 銅鑼を斜めに固定させる台。その台にちょっとだけ出っ張った恐らく
錆なのだろう部分を椅子のようにしながら、座り。
 金平糖なのだろう。綺麗な色合いをした半分割れた形の金平糖を
その小さな体と手では両手で持つのがしっくり来るようで、そう言った風に
金平糖を持ってガリガリといった感じで咀嚼して、ほっぺが落ちそうといった
表情でご機嫌そうに、足をぶらぶらさせて食べる  ……『小人』。

 それを、見つけた。

(※小人を見つけた時点で、何らかのアクションを行いたいならレスはこの部分で
止まらせ次の行動レスを行うのも良し。もしノーリアクションで工場を出たければ
それでも良い。会話の内容から工場の業者達も、そろそろ仕事を終えて帰宅する
であろう事が伺えそう。小人は食事をゆっくり楽しんでる様子なので工場から
出ても、ある程度は暫く目で確認した場所に居そうだと見受けられる)

107小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/06/16(木) 20:12:16
>>106

  「――ふぅ……」

作業員達からは情報を誤魔化しているような雰囲気は感じられない。
どうやら彼らは本当に何も知らないようだ。
興味と作業員達のやりとりを見て、そう判断してもいいと思った。
それでも、この工場で例の金平糖が作られていることは確かなようだ。
だが、やはり不思議な金平糖が出来上がるような場所とは思えない。
あるいは、他の場所で別の処置をしているのではないかという作業員の言葉が当たっているのかもしれない。
そうだとすれば、この場所にはもう有力な手がかりはないことになる。
あとは金平糖を輸送するトラックの行き先を突き止めることくらいだろうか。
しかし、それも既に終わっているようなので、少なくとも今日中に確認するのは無理そうだ。
とりあえず廃棄品を入手するという当初の目的は達した。
ざっと工場内を見渡したら、一足先に退出することにしよう。
そう思っていた時だった。

  「……あら……?」

『目』の操作中に意外なものを見つけて思わず声が漏れる。
おそらくは――いや、間違いなく工場に入る前に見た『小人』と同質の存在だろう。
そして、この場所にいるということは、この工場と繋がりを持っているという説が濃厚になる。
さらに言えば、例の不思議な金平糖に、彼が何らかの形で関わっているとすれば、
この件の大半に納得がいく。
『普通の工場』で『普通ではない金平糖』は作れない。
しかし、そこに『普通でないもの』――つまり『小人』がいて、意図的かどうかは別として、
製造された金平糖に何かをしているとしたら、『普通ではない金平糖』になったとしてもおかしくはないからだ。
いずれにせよ、この『小人』からは、何かしら手がかりを得られることが期待できる。
もしかすると、それは核心に近いものかもしれない。
先程は工場の調査を優先したために見逃したが、これには当たってみるべきだろう。
問題はアプローチの方法だ。
工場に入る前に見た動きからすると、『小人』は見た目のイメージ通りのすばしっこさを持っている。
下手に刺激すると、話を聞く前に逃げられてしまう可能性もある。

  ――『口』を切り離して会話を……。いえ……。それよりは……。

おもむろに携帯電話を取り出し、メール画面を開いたのち、以下の文章を打ち込む。

  『はじめまして。お食事中に失礼します。
   あなたの前にいる手と目と耳は、あなたの後ろにいる私の一部です。
   私は、ある方に頼まれて、この工場を調べるために来ています。
   よろしければ、この場所の外で、少しお話をさせていただけないでしょうか?』

そして、切り離した『右手』に携帯を持たせ、銅鑼の下を通して『小人』の下へ送り込む。
彼の話に、文字通り耳を傾けるため、『耳』も同じように送っておく。
これで上手くいけばいいが……。
『小人』の前に携帯の画面を見せて、『筆談』による対話を試みる。

108『きらきら星を追え!』:2016/06/16(木) 21:16:24
>>107(進行速度は気にしてませんので、お気になさらず)


 貴方は携帯を『右手』に持たせると、『耳』と共に銅鑼の隙間へと送り込み
浮遊し続ける目と同じ位置へと送り込んだ。

 
 ガリガリ♬ …? キョトン    ビクッΣ


 携帯から発される光もあってか、金平糖を咀嚼していた『小人』は
不思議そうに顔を上げて貴方の送り込んだ手達のほうへと顔を向け
 そして体全体を一瞬震わせ、まだ食べてた金平糖を落として凝視する。

ワタワタ! ワタワタ! ピョンッ……。

そして我に返ったとばかりに、座ってた錆部分から飛び降り。決してその
サイズでは低いとは言えない高さの地面に何事もなく着地すると、柱の陰に
急いで隠れ、恐々と顔だけ伺う。
 数秒だけ、貴方の手が掲げる携帯の画面を見つめ。そしてソロソロと小人は
全体像を再度柱の陰から出した。

 『小人』は絵本に出てくるような茶色っぽいブーツ。そして緑っぽい服を纏い
ナイトキャップを着ている。正しく外見は妖精だった。
 顔は普通の人間と大差なくも、つぶらな目と口元は男でなく年少の女の子
らしいと見受けられた。そして耳元は妖精らしく尖ってる。

 その『小人』はまじまじと貴方の手や傍に控えてる耳にも視線を向け。
少ししてから、澄んだ鈴のような音が混じったような声が唇から出た。

 『アナタ  ゴースト?』

そう、貴方の一部分である肉体を指さしつつ呟く。

『私 ゴーストって、工場にいる あの人以外いないと思ってた。
けど 他にもいるのね。
 お話し?
お話しは 大好きよ。でも お兄ちゃん達が帰ってくるまで
ここで待て って言ってるの。
 ちょっとの間だけなら、大丈夫かも知れないけど。けど ちょっとだけ だよ?
お兄ちゃん 怒ると ガウーって とっても怖い顔を するわ』

 そう、小人の少女は貴方へと鈴のように声を鳴らし告げてきた。
どうやら彼女以外にも仲間がいるらしい。

 そして、小石川の通常の視界の中でも。そろそろ業者達が車に
乗り込み帰り支度を行い始めてる。
 帰る時は閂だけかけてくれなぁと、貴方と興味へ告げる。

興味は、まだ取材しようと粘っているが。あとちょっとで、諦めて
貴方に対し自分達も帰ろうと誘うだろう。

109小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/06/17(金) 21:14:05
>>108

  ――『ゴースト』……?

   【Ghost(ゴースト)】
  1.亡霊、怨霊、妖怪
  2.影、幻、面影
  3.少々、極小、微塵

この場合、『目』の前にいる『妖精』が発した『ゴースト』という言葉は、『1番』を意味していると考えられる。
普通の人間(彼女は人間ではないが)が、
切り離された『目』や『耳』や『手』だけが宙に浮いているという奇怪な光景を見て、
それを『ゴースト』と表現したとしても何ら不思議なことではないだろう。
なにはともあれ、話は通じたようだ。
まずはそのことに対して胸を撫で下ろした。
そして、人知れず思考を進める。
工場にいるらしい『あの人』というのも気になるが、それは後回しにしておこう。
そして、彼女の言う『お兄ちゃん達』というのは、
おそらく工場に入る前に見た二体の『小人』のことではないだろうか。
はっきりした証拠はないが、同じ場所に同じような『小人』がいたという状況から考えると、
その考えが一番妥当に思える。
じきに帰ってくるらしい彼らも、この『妖精』の彼女と同じように、こちらの話を聞いてくれればいいのだが……。
ひとまずは『妖精』の彼女から話を聞いてみよう。
送り込んだ『手』を操作して、携帯の画面に新たな文章を打ち込んでいく。

  『ありがとう。では、ここでお話しましょう。私のせいで、あなたが叱られてしまっては悪いから。
   もし教えてもらえるなら、少しあなたのことを聞かせてちょうだい。
   あなたはどなた?いつからここにいるの?ここで何をしているの?』

出来上がった文章を『妖精』に見せて、彼女の答えを待つ。
そして、視界の片隅で、作業員達が帰宅の準備を始めている様子が見えた。

  「――はい、承知しました……。
   本日は、お仕事中に突然お邪魔してしまったにも関わらず、ご親切にしていただいて、
   どうもありがとうございました。どうかお気をつけてお帰りになって下さい……」

彼らの方を向いて、改めてお礼を言い、深々と頭を下げる。
あの様子からすると、もはや彼らは完全に無関係だろう。
最初から、何も知らされていなかったのだろうと思う。
そうなると、彼らから話を聞いたとしても、それらしい情報は何も出なかったということだろうか。
しかし、それに諦めずに食い下がる有菜の熱意には、どこか圧倒されるものを感じずにはいられなかった。
さすがは記者といったところだろうか。
そのエネルギッシュな性格の彼女とは対照的に、
自分はいつも心のどこかで死を意識している人間だということもあり、
情熱にあふれる有菜の姿が余計と際立って見える気がした。
しかし、当の作業員達が全員引き上げてしまっては、さすがにお手上げだろう。
もし、有菜が自分達も帰ろうと声をかけてきたら、少し待ってもらうように頼むつもりだ。
もしかすると、この工場の謎が解けるかもしれないと言えば、彼女も納得してくれるだろうと思う。

110『きらきら星を追え!』:2016/06/17(金) 23:59:11
>>109

 ブロロロォ…。

トラックへと乗り込み帰っていく業者達。
溜息と肩を落とし、興味は仕方がないかと、貴方の予期する通り
帰還の意を告げ。そして其の言葉に対し予め考えていた回答をする。

 「うん、もう少しここで調べるの?
……私から強引に誘ったのに。小石川さんってば義理堅いのね。
ありがとう! 私も犯罪にならない程度に、ここの周囲をちょっと見てくるわ!
 もしかしすれば何か発見もあるかもだし!」

好意的に有菜は解釈して、笑顔で有菜は工場周囲を散策するべく離れる。
多少の時間は戻ってこないと考えて良い。


…………。

「わたし?
わたし 『ロポポ』
 いつから?
今日はおにーちゃん達と一緒に、お昼を食べた後に、お外に出てきたの。
本当はお外のここまで出るのはいけないって言われてるけど。おにーちゃんと
ヨポロが、今日咲く花の蜜を獲りに行くから付いてきたけど
外まで出るのは危ないから、ここでちょっと待っててって言われてるから」

 そう小人は、少し舌っ足らずな声ながらも要約するとこのような事を話し終えた。

その小さな少女の小人が話し終えた、丁度その頃合いだった。

 『ロボポ!』

それは、貴方が工場入口で視認した二人の小人。
 その少女の小人よりも数ミリは少し長身に見える、少女とほぼ同じ格好を
した二人の男の子らしき小人。その二人は驚いた表情と共に銅鑼の陰から
颯爽と現れ。そして少女の小人が貴方の浮遊する手達と一緒にいるのを
見たのと同時に持ってた白い袋を投げ出し爪楊枝のようなものを片手に
構え、残像が見えるスピード(スB)で少女の小人を庇うように立った。

 『ロポポ! 危ないから下がってるんだ!』

 「っ! おにーちゃん、ヨポロ。大丈夫だよ……このゴースト
危ないものじゃないよ……」

 『わかるもんかっ! や、やいっ。ロポポに何かする気なら
おいらが相手になるぞ!』

 そう、兄である小人は貴方の手達を威嚇する……。

111小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/06/18(土) 22:54:00
>>110

  ――『ロポポ』……『お兄ちゃん』……『外に出てきた』『ヨポロ』……『花の蜜』……。

少女の話した内容を頭の中で反芻する。
それらは、いくつかの示唆を与えるものではあったが、まだ核心に至るものではない。
この一件の全貌を知るためには、彼女の仲間達から話を聞く必要があるようだ。
そう考えていた矢先に、二人の『小人』が飛び出してきた。
見るのは二度目だが、改めて見ても素早い動きだ。
自分が『スーサイド・ライフ』を振るう速度と同じくらいのスピードだろうか?
彼女の言う『お兄ちゃん達』というのは、やはり彼らのことだったらしい。
会話の内容から考えると、どうやら『ロポポ』は真ん中に当たるのではないかと思った。
そして、『ロポポ』の言葉からある程度は想像していたが、二人の『小人』は警戒心を露わにしているようだ。
今のままでは、話を聞くどころではない。
まずは、彼らの警戒を解いておくべきだと考える。
携帯を握る『手』を操作して、新たな内容を打ち込む。

  『驚かせてしまってごめんなさい。私は、この工場を調べるために来た者です。
   あなた達に何かをするつもりはありません。
   できるなら、向こうの方で少しお話を聞かせてもらえませんか?どうか、お願いします』

携帯の画面を見せて、『小人』達の反応をうかがう。
それと共に、切り離した『パーツ』を、彼らから遠ざかるようにして、徐々に移動させていく。
本体のいる場所に誘導するためだ。
切り離した『パーツ』を通して話すよりも、直接顔を合わせている方が、話もスムーズに進むだろう。
いずれにしても、この狭い場所では、少々話もしづらい。
もう少し広い工場内中央付近で話をしたい。
そこまで考えて、左手の中にある『スーサイド・ライフ』に気付いた。
なにしろ形が形だけに、それが彼らの警戒心を煽ってしまう恐れがある。
彼らが来る前に左手は背中側に回して見えなくしておく。
彼らが警戒して来てくれないようなら、『パーツ』を途中で静止させて、来てくれるまで待つことにする。
彼らがやって来てくれたのを確認したら、まず切り離した『パーツ』を再接合する。
そののちに、『スーサイド・ライフ』を解除しておこう。

  「――自己紹介が遅れてしまったわね……。私は小石川文子。どうぞ、よろしく……」

もし、彼らがこちらの申し出に応じてくれたら、笑顔でそう言うつもりだ。
そして、その笑顔は、内面の葛藤を完全には隠し切ることのできない、陰のある微笑みとなっているだろう。
果たして、彼らは応じてくれるだろうか……。

112『きらきら星を追え!』:2016/06/19(日) 00:10:16
>>111

貴方が携帯を打ち込む挙動に、兄である小人のほうは威嚇した様子ながらも
恐々と様子を伺い、妹のほうは涙目で兄の衣服の端を引っ張り、その友人は
武器らしきものを構えつつ目を細めて貴方の動きを注意深く見つめる。

そして携帯の画面を見せると、兄のほうは武器を下げて呟く。

「……本当に何もする気はないのか?」

「んー……『ラポポ』、とりあえず言う通り、いや文字通り付いても
良いだろうさ。何もゴーストは小人をとって食うような奴じゃないだろう。
現にロポポも怪我一つなかったんだし」

「うん! ロポポ、何も怖い事されてないよ。お話ししようって言われただけ」

「……んー」

 友達の小人と妹の小人に促され、兄の小人は酷く悩んだ様子を見せる。

だが、十秒程の後。まだ眉はハの字ながらも上下に顔は頷いて呟いた。

「わかったよ。けど、ロポポにもヨポロにも何もしないでくれよ」

 貴方は彼らの返事を聞き、そして手を背中に隠して待つ。

数秒して、肉眼で右手が戻ってきた通路から。残像が残るような速さと
共に小さな影が飛び出てきた。

 『うん、ゴーストは何処に?』

 『! み、見るんだラポポ、ロポポ!!』

 小石川文子。そう貴方たちを見下ろし名乗る人間である貴方。

そして、ゴーストと思い対応していた小人達。かくして貴方が
ゴーストでなく人間である事を、名乗った事からしても時間をかけて気づき……。


 『巨人! ゴーストは巨人だったのか!?』

そう、目を皿のようにして驚く小人達は次の瞬間……。


 『なーんだ! 巨人なら恐がる必要ないなっっ!!』


――そう、一転して驚きから安堵の表情で三人で顔を見合わせ
笑顔になった。

 これは果たして小人と言う種族故の楽観的な発想なのか。
もしくは、彼ら小人が巨人(人間)を友好的なものと見ているのか……。

それは、これから交友しない限り解らない。

113小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/06/19(日) 20:19:48
>>112

  ――どうやら分かってもらえたようね……。

三人の小人達の反応から、そう判断し、同時に安堵した。
現状で分かっていることは、彼らの名前と関係性だ。
てっきり三人兄弟なのかと思っていたが、彼らのやりとりを見ていて、実際は二人と一人らしいと直感した。
そして、彼らは人間である自分――彼らの言うところの巨人を警戒していない。
しかし、先程の『パーツ』――あるいは『ゴースト』だろうか?――に対しては、明らかに強い警戒心を示していた。
このことから、彼らは単に楽観的な性格であるというよりは、
人間を味方あるいはそれに近いものと見なしているらしいことが推測できる。
もしそうだとすれば、その根拠は何なのだろうか?
この工場が、彼らにとって何らかの利益となるものを与えているからというのが、真っ先に思い浮かぶ理由だ。
そう考えるなら、工場側が彼らに利益を与える代わりに、不思議な金平糖が出来上がるような何かを、
彼らから得ているのではないかという仮説も成り立つのだが……。

  「出てきてくれてありがとう。そうね……いくつか聞かせていただきたいことがあるのだけど構わないかしら?
   さっきも少しロポポに聞いたのだけど……この工場には、よく来ているの?
   この辺りで何をしているの?なぜ、ここに来ているの?」

どこかに座れるような場所があるだろうか。
あれば、そこに腰掛ける。
なければ、三人の少し前でしゃがみ、できるだけ目線を合わせよう。
そういえば、廃棄品の金平糖を忘れていた。
一粒だけ摘み出して食べてみる。
今となっては、あまり意味があるとも思えないが、一応確認しておこう。

  「――ところで……ロポポ。さっき言っていた『ゴースト』というのは誰なの……?
   その人は、ここにいるのかしら……」

この『ゴースト』に関しては、工場にいるらしいということ以外、まだ何も分かっていない。
それは何者なのだろうか?
ロポポの話しぶりからして、少なくとも悪意ある存在ではなさそうだが……。
その『ゴースト』も、この一件に関わっているのだろうか?
これも確かめておく必要があるだろう。
しかし、『妖精』や『ゴースト』が関係しているとすれば、
仮に真相を知ったとしても記事にはできないだろうと考えると、有菜が気の毒にも思った。

114『きらきら星を追え!』:2016/06/21(火) 20:08:05
>>113(レス遅くなりました)

>この工場には、よく来ているの?この辺りで何をしているの?なぜ、ここに来ているの?

その言葉に、笑い合い安堵していた小人の三人は貴方へと向き直り顔を向けた。

「こっちの工場かい? まぁ偶に来るよ。毎日同じ金平糖ばかりより
スパイスやら何も『込めてない』モノのほうも食べたくなるしな」

そう、兄である『ラポポ』が一番最初の質問に腕を頭の上で組んで告げ。

「あぁ、開花したばかりの花蜜さ。『込める』材料にもなるし、何よりそのまま
舐めてもイケる。小人にとってのセンセーショナルな食べ物さ。
 他に必要なものは特になかったから今日はそれだけ。まぁ時々
仕事で他の人達が来る事もあると思うよ」

と、兄の友人『ヨポロ』が耳を弄りつつ返す。

最後の言葉に妹の『ロポポ』は。生来から引っ込み思案と言うか
大多数の仲間がいると緊張する気性なのだろう。おずおずと答えた。

「えっとね、えっとね。何処でも良かったけど。今日は『込め日』じゃなくて
お休みなの。だからね、此処に来る人たちいないから、私達だけでこっそり来たの。
 普段は、こっちなんかに来るような真似なんてしないの! 家のほうでちゃんと
大人になってお仕事する為の勉強しなさい! ……ってお母さんが言うから」

「な! 本当に喧しいよなっ、母ちゃんってば」

「ラポポのお母さんは真面目だもんなぁ〜」

 そう妹の言葉に賛同しで口々に色々と喋り出す小人達だ。その後も
何やら早口で呟くも。三人で一斉に言い合う為に小石川には正確には聞き取れない。
だが、至極私事的な内容で自分の得になる内容とは思えなかった。

 >『ゴースト』というのは誰なの……?

 その質問に対し、和気藹々と喋る小人達の口が一斉に噤んだ。

怖がってる、と言う顔でもない。しいて言うなら雑談してる時に急に話題で
大嫌いな先生の話題が出た、と言う表情のようにも見えたし。ロポポの顔は
どう言えば良いのかと言う、複雑な顔つきで両の手を頬に添えていた。

「えっとね、うーんとね。『ゴースト』はね、ゴーストだよ。
あのね、巨人さん見たいにね。手も飛ばせるし目も飛ばせるよ。お顔も
足も離れさせる事出来るんじゃないかな……?」

 「ふんっ! 『ゴースト』が頭やら手足やら飛ばせるから何だってんだ!
おいらは、あいつの事をベトベトキャラメルと同じぐらい好かないね!
 いっつも、目元も口元も。あいつは石で出来た見たいに動かさない!
きっと、『ゴースト』は毎日石を食ってるんだぜ! だから、あんなに固まった顔なんだ!」

「ラポポ! そんな酷い言い方ないだろっ。確かに。『ゴースト』を舐めたらきっと
一週間、日向に置き忘れたレモンパイ見たいな味はすると思うけどさっ。
 うん? 『ゴースト』が此処にいるかって?
『ゴースト』は、こっちへ来る事はないよ。少なくとも、『こっち側』に行くのを僕たちは見た事ないな。
 いっつも、みんなの事を見下ろして。見飽きたら別の所に通り透けて行く。
お喋りするのは好きじゃなさそうだし、まるで澄ました薔薇見たいに何時も偉ぶってる感じなんだ!
 きっと、多分薔薇紅茶の風呂を浴びて、薔薇を齧って心もバラバラになってるのさっ。きっとね!」

 ワイワイと小人達は好き勝手に『ゴースト』についての各感想を言い合う。
それは控えめにも良い印象では無さそうだった。

115『きらきら星を追え!』:2016/06/21(火) 20:26:03
>>113

 貴方は取り出した金平糖を一口齧った。

 味の評価は……『微妙』の、一言だった。

具体的なイメージも思い浮かばない、舌で砂糖と染色されていたハッカだか
何かの、何処にでも置いてありそうな市販の金平糖と同じ味が微かに口に残る。
 物凄く不味い、とも感じなければ、途轍もない美味しさ。とも言えない
どう考えても『奇妙』な金平糖と言えないのは確かである。

「うん? それ『込めてない』モノね。どんな、お味? 
私も良かったら食べたい」

 「ロポポ、もう十分食べたろ? そんなに一杯食べたら
帰って母さんの料理、食べれなくなるぞ!
 料理を残すぐらいガリガリ食べてたら。まん丸になって
ゴーストがお前の事を一口でガリガリって齧るぞ!」

「っ! そ、そんなに食べないもん!
 それにゴーストは私なんて食べないもん! お兄ちゃんの馬鹿ばか!」

 貴方が金平糖を齧るのを見て。兄妹は喧嘩を始めた……。
ヨポロは肩を竦めて首を振って見守っている。

116小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/06/22(水) 21:09:55
>>115

  ――『小人と靴屋』……。グリム童話にそんなお話があったわね……。
     この場合は『妖精と金平糖』……かしら……。

『込めてない』、『込める』、『込め日』――彼らの話の中で特に強く印象に残ったのは、それらの言葉だった。
やはり小人達が金平糖に何かをしており、それによって不思議な金平糖に仕上がっていることは間違いない。
彼らの話を総合すると、『込めていない』普通の金平糖に、
『花の蜜か花の蜜を材料にした何か』を『込める』と、不思議な金平糖が出来上がるようなのだが……。
そして、こうして会って話をすることはできたものの、まだ彼らの正体も明らかになっているわけではない。
ファンタジーやメルヘンではないのだから、いくら外見が小人や妖精に近いからといって、
本当におとぎ話の住人だとは思えない。
もし、そんなものが存在したとすれば、その背後にはスタンドの力が働いているはずだ。
仮に彼らがスタンドだとすれば、今まで本体らしい人間を全く見ていないということは、
かなり射程距離が長いタイプなのだろう。
さらに、これまでの彼らの言動を観察していると、本体が操作しているようにも見えないことから、
独立した意志を持っていると考えられる。
あるいは、彼らの言う『家』に本体がいて、この一件の中核を担っているのだろうか?
それも気になるが、今は不思議な金平糖の出来上がる過程について知ることに集中しておこう。
彼らがスタンドだとして、その本体を知るのは後回しだ。
『右手』を切り離した際に外していた指輪をバッグから取り出し、それを再びはめ直しながら思索を巡らせる。

  「――そうね……もう少し聞いてもいい?『込める』というのは、どういう風にしているの?
   『込め日』というのは誰が決めているの?他にはどんな場所に行っているの?
   あなた達が『込めている』のは、お仕事……だからかしら?
        それから……あなた達のおうちはどこにあるの?」

質問した後に、金平糖を食べてみる。
やはりというか、思った通り普通の金平糖だ。
少なくとも例の不思議な金平糖と同じ製品とは思えない。
ロポポが言うには『込めていない』ものらしい。
不思議な金平糖の方は『込めている』ものなのだろう。
一体どんなことをすれば、こうまで違ったものになるのかが、それが不思議だ。

  「そう……その『ゴースト』というのは、私と同じような姿をしているのね?
   『ゴースト』が『こちら側』へ来ないというのは……どういう意味なのかしら?
   さっきロポポから『ゴースト』は工場にいると聞いたのだけど……。
   『こちら側』というのは工場という意味ではないの?
   その『ゴースト』は、色んな場所に出てくるの?
   たとえば……あなた達と同じ場所にいることが多いのかしら?」

彼らの話を聞く限り、『ゴースト』というのは何もしない無害な存在らしいが、
小人達からは好かれていないらしい。
しかし、この『ゴースト』が小人達と繋がりを持っている可能性も捨て切れない。
つまり、『ゴースト』が小人達の本体なのではないかという仮説だ。
本体が既に死んでいるというのは、それを見たことがない自分にとって、あくまで想像の範囲でしかない。
しかし、可能性はあるかもしれない。
これが間違いでも、消去方によって候補を絞っていけば、いずれは正しい答えに行き着くだろう。

117『きらきら星を追え!』:2016/06/22(水) 23:15:57
>>116

貴方は思考する。この『小人』達がスタンドであるとするならば
想定する通り、自動操縦型、それでいて群体であると言う。極めて
特殊且つ、異常に自由が利いている能力となるだろう。

 貴方は右手の指輪を嵌めなおし、再び彼らへと質問する……。

然し、だ。ここで貴方にとっては今まで思い思いの個人的感想
交じりとは言え素直に質問に答えてくれた妖精達であったが。
 兄妹であるラポポとロポポは先程の金平糖を巡っての太ってるか
太ってないかの口喧嘩がヒートし、妹は涙目で兄へ言い返し。
兄のほうも兄のほうで意地を張って幼稚な悪口を返してた。
 とどのつまり、貴方の質問を聞く余裕を兄妹は持ち合わせていなかった。

 それを溜息と共に、彼らの良き友人であるらしき『ヨポロ』は尖った耳を
弄りつつ見つつ。そして貴方に向き直って面倒そうな表情と口振りで告げた。

 「うーん……そんなに一杯言われても正直、困るけどさ」


             


    「――実際に 僕らと一緒に来て見に行こうよ? その方がずっと早いしさ」



   ……ゴゴゴゴゴ

 静けさが保つ工場の空気が 微かに貴方には。今この時 そのヨポロの
言葉で自分が今。大事な局面に置かれてる事が周りの空気が変わったと
感じると共に理解出来る筈。

 彼らの言葉に応じれば、貴方はきっと 『未知の世界』に誘われるだろう。

ただし、もし断るとしても彼らはきっと失望する事も怒る事もない。貴方の
言葉に理解を示し、元の場所に戻るだけだろう。

 ここは、きっと分かれ道だ。

118小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/06/23(木) 20:27:01
>>117

  「――あら……。ごめんなさい。なんだか質問責めにしてしまったようね……」

そのことに気付き、頭を下げて三人に――今は一人しか聞いていないかもしれないが――謝罪する。
今回の件に関わってから、知らず知らずの内に、有菜の熱意に感化されていたのかもしれない。
しかし、幸いなことに、ヨポロが最良であろう案を提示してくれた。
彼らと行動を共にして、いかにして彼らが不思議な金平糖を作り上げているのかという過程を、
自らの目で確認する。
そうすれば、おそらく全ての真相を知ることができるだろう。
まさしく最良であり、これ以上の提案はない。

     ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ・・・・・・

その時――この場の空気が僅かながら変化したのが、確かに感じられた。
この感覚は、今までとは違う『奇妙な世界の入り口』が、目の前に開いていることを予感させるものだ。
そして、この誘いに応じることは、本当の意味での日常から非日常への変化となるだろう。

     スッ

  ――『治生』さん……。

無意識の内に、両手の薬指にはまった指輪を見下ろしていた。
これを手にしたのが、まるで昨日のことのように思える。
実際そんなに時間は立っていないのだが、そう考えると、遠い昔のようにも思えるのが不思議だった。
右手に六本の指を持っていた彼は、それを隠そうともせず、
左手が利き手だったにも関わらず、いつも右手で握手をしていた。
自分が初めて彼と握手した時も、そうだったように思う。
そんな彼が――そんな彼だからこそ好きだった。
少し前の自分なら、この『奇妙な世界への招待状』を受け取らなかったかもしれない。
きっと、この町に来る前の自分は、こんな話は信じられなかったに違いない。
しかし、この町――星見町に来てから、自分自身にも変化が訪れた。
今の自分には『スーサイド・ライフ』がある。
この町で『奇妙な能力』を得たせいか、目の前に差し出された『奇妙な誘い』には、
どこか心惹かれるものを感じていた。
指輪から視線を離すと、ゆっくりと顔を上げる。

「ええ、お願いするわ。私も、一緒に連れていって。何があるのか知りたいの」

はっきりした口調でヨポロの言葉に応じる意志を示した。
果たして、この先には何が待っているのだろうか?
それは、これから明らかになるだろう……。

119『きらきら星を追え!』:2016/06/23(木) 22:37:52
>>118

「よしっ、わかったよ! ほらっラポポにロポポも
喧嘩は止めなよ。巨人が僕たちの居る場所まで来たいってさ!」

 ヨポロは貴方の言葉に鷹揚に頷くと、口喧嘩し続ける兄妹を小突き諫めた。
二人はその言葉に一旦悪口の応酬を止める。目をキラキラさせてロポポは
貴方を見て嬉しそうに叫んだ。

 「貴方も一緒に来てくれるの? 嬉しい!」

万歳して喜びを表現する妹の傍らで、兄のラポポはどちらかと言えば
難しい顔つきで鼻を擦り、ヨポロに目を遣りつつ呟く。

「でもさ、おいら達の場所までどうやって巨人を連れてくんだ?
 でっかすぎて、おいら達の通り道じゃ頭がつっかえちゃうぜ」

「そんなの簡単だろ? ちょーーーっと大き目に『広げて描くんだ』
三人でやれば直ぐさっ。そうすれば巨人だって入れる」

「あぁ! それもそうだなっ。それじゃさっさと取り掛かろう!」

 と、貴方には気になる会話を行った。疑問が頭にもたげる合間にも
彼ら小人は、その俊敏さに伴った素早さと共に行動しだした。

 三人の小人は一斉に素早い速さ(スB)で屈んでいた貴方を横切り駆ける。

『こっちだよー!』

 見失いそうな貴方だったが、心配する必要もないままロポポであるだろう
小さな影は飛び跳ねつつ誘導し……工場にあった>>96あのトタンで仕切られた
小型車が入れる程度の屋内へ案内した。

「別に此処でなくても通り道は出来るんだけど。おいら達が通り道を作る際には
頑丈な場所に描けて、それでいて、あんまり人目のない場所が良いんだ。
 あぁ、でも巨人は別だよ! おいら達と喋れる特別な巨人はね」

 ラポポが言葉と共にトタンの仕切りにある、本当に小さな小指程度の亀裂の穴へ
先に入った二人の仲間達と共に入り、そして数秒後ガチャッと中の
ドアノブのカギが解除された音が響いた……。

120『きらきら星を追え!』:2016/06/23(木) 22:53:34
>>119続き

貴方がドアノブを回し、中へと開くと目に最初に飛び込んだのは
平均の大人の男性より一回りか二回りはある、カプセルトイのような
機械が鎮座していた。その台の上のガラス張りの球形の中には
幾多もの金平糖が置いてある。

 「アレさ。僕らも気になってゴーストに聞いた事あるんだけど。
しつこい詮索屋が何度も探りに来た時には、コレを見せて
『これが我が社の金平糖作成の企業秘密の正体です』って告げる為の
ダミーだ……って言うんだ。何だか僕にはさっぱり解らないけど
ゴーストは答える時、あんまり楽しそうな感じじゃなかったな。
 まぁ、ゴーストが嬉しそうだったり楽しそうな時なんて見た事ないけどね!」

 ヨポロが、そう貴方の疑問を氷解させる。それと共に小人三名は
奥の何の変哲もない銀色の壁の前に立つと、その緑色の服の腰元から
何か小さな筆のようなペンのようなものを取り出すと共に

 『〜♪

  〜〜♬  🎶  ♪!

♬  ♫  ♪🎵!!』


 ……彼らはその壁に大人が屈んで入れる程度、そのサイズの円形を唄い描き終えた。


  キラキラ
            キラキラ

 気の所為でなければ、貴方の目にはその美しい円形の筋は光輝いてるように見える。
 「さぁ巨人 一緒に行こう!」

 「息を止めて! 怖がらないで!」

 「私達と一緒に 小人達の世界へ!」

 彼ら小人は貴方の肩へ飛び移り、その体を揺すって期待する声と目で
そう促す。……壁に描かれたホールは、貴方がその中に入るのを
待ち受けるように輝いている……。

121小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/06/24(金) 21:49:57
>>120

  「このドアの向こう側……。気にはなっていたけど……。そう……中はこうなっていたのね……」

最初に来た時から思っていたが、この工場の中で内部を確認できない場所といえば、ここぐらいしかない。
まず真っ先に疑われる場所であり、だからこそ真相を覆い隠すためのダミーとして使われているという言葉は、
信憑性が高いと感じられた。
そして、見せかけの偽りの中に本当の秘密を隠すという手法が、この会社の方策なのだろう。
全てを虚偽で固めるやり方はいずれ暴かれるが、偽りと真実を織り交ぜたやり方は、
長く見抜かれることがない。
ふと有菜の言葉が脳裏を横切る。
確かに彼女の言う通りだったようだ。
しかし、そのことを『ゴースト』に聞いたという点が引っかかった。
この『ゴースト』は一体何者なのだろうか?
『ゴースト』の正体に関する謎は、ここにきて更に深まったような気がする……。

「――これは……『入口』ということかしら?」

目の前で小人達が描き上げた『輝く円』を前にして、誰ともなしに呟いた。
彼らが言うように、それはまさしく別世界――小人の世界へ通じる『入口』なのだろう。
『不思議の国のアリス』の冒頭に出てくる『ラビット・ホール』が思い起こされる。

「ふう……。まるで『アリス』になったような気分ね。『小人の国のアリス』なんてあったかしら……」

斜めに傾けて被っていた帽子のツバを、両手で軽く持ち上げて、角度が水平になるように整える。
気持ちを整えるための準備運動だ。
不思議な輝きを放つ『ホール』を正面に見据えて、静かに深呼吸する。
先程は『メルヘンやファンタジーではない』と自分に言い聞かせたものの、
こうして小人達を肩に乗せていると、本当は『メルヘンかファンタジーなのではないか』という錯覚すら覚える。
どこかの遊園地の新しいアトラクションだと言われても納得するだろう。
ただし、この先に待っているのは空想ではなく現実だ。
そして――少々大げさかもしれないが、決心はついた。
小人達の言葉に応えるために、その一歩を踏み出す。
そして、そのまま『ホール』の中に進んでいく……。

122『きらきら星を追え!』:2016/06/24(金) 23:39:18
>>121

トタン壁に構成された、小さな光の粒子を放つ円。
貴方は深呼吸を一度行い、帽子のツバを整え身繕いを行い
 意を決すると同時に其の円へと身を乗り出した。


       パ  ァ   ァ  ア  ァ・・・


 ……貴方の体が円の中へと接触した瞬間。その視界は瞬く間に
真っ白に染まり、思わず目を瞑る。
 そして、瞼の裏でも光の残像が残るのを感じつつ次に瞼を開くと
風景は完全に一変していた。

   ―ピチピチ   ピチピチ 

                    ンモォオ〜・・・

      メェェー・・・

 それは『のどかな牧場』
(参考画像→ttp://www.rokkosan.net/cms/resource/themes/rokkosan_net/images/gallery/images/view/pic06_l.jpg)

 ミニチュアサイズの飼育舎が置かれ、爪楊枝サイズの柵が立ち並ぶ。

柵の中には、牛や羊 その他にも牧羊犬と思わしき動物などもチラホラ見られる。
 だが全て、小人と同じミニチュアサイズだ。貴方はアリスと言うよりも自分が
ガリバー旅行記のガリバーになったような錯覚を覚える事だろう。

 屈んでいても、大人な貴方には十分小人には高い視点の先を小さな影が横切る。
それは鳥だ。貴方の出現に驚いたように一際高くピー! と鳴き声を上げると
共に、地面に映えるミニチュアサイズの森林の中へと下降し姿を消した……。

 「よし、無事に帰ってきたね!」

 「ようこそ! 僕らのワンダーランドに!」

 肩の上で、楽し気に小人達が騒ぐ声が耳へと入っていく。

貴方はその風景を見続ける内に、気づく点が三つ程出てくる。

 まず一つは、その小人の国と言うか世界と思われる場所。その場所は
貴方が立ち上がってよくよく見渡せば正方形の部屋状で構成されてる。
 美しい青空や雲も、眺めて手を伸ばして見るが。それは自然なものでなく
何と言うか人工的で、作り物染みた感じであると言う事。
 そして部屋の壁際部分だが。人が一人立って其の全体を眺める為に
意図的に何も置いてないように、芝や草も何もなかった。貴方の立つ場所もそうだ。

 二つ目は、その森林や動物。これは作り物でなく肉感があり本当に現実にある
生き物が小型化したようにも見える。それでも何処か本当の生き物とは微妙に
何かが違うように感じる。謂わば『スタンド物質』と言った感じだ。

最後に

 貴方はその区切られた一室に。貴方が立つ場所から見て三つの壁には
ドアが置かれてるのが見えた。そのドアの真ん中にはプレートが飾っており
左手が『A通路』 真ん中が『砂漠』 右手が『小人居住区』と書かれていた……。

 「右の居住区へ行こうよ! 僕らの家族を紹介するよっ」

 「うんっ! 貴方に私達のお母さんとお父さんに会って欲しいな」

 肩の上で、ロポポとラポポがそう言うのを貴方は聞いた。

123小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/06/25(土) 21:45:42
>>122

  「……え……?あっ……。そう、もう着いたのね……」

光の奔流に飲み込まれてから数瞬後――しばらくの間、瞬きすることさえ忘れて、
その場に立ち尽くしていた。
どのような場所か想像はしていたが、こうして実際に来てみると、
やはり驚きの方が上回っている。
小人の国に上陸したガリバーも、今の自分と同じような気分を味わっていたに違いない。
一度瞼を閉じて心を落ち着け、ゆっくりと呼吸を整えてから再び目を開き、
気を取り直して周囲を隈なく見渡す。
眼下に映る牧場と森と動物達――本当に何もかもが小型化しているようだ。
金平糖を作っている作業員達も、少なくとも表向きは普通の施設にしか見えない工場が、
こんな所へ通じていようとは夢にも思わないだろう。
ここに不思議な金平糖の秘密が隠されている。
そう思うと、今までは朧気な輪郭しか見えていなかった真実に、
少しずつ近づきつつあるという実感が湧いてきた。
ここまで来た以上は、最初に話を持ちかけてきた有菜のためにも、そこにたどり着きたい。

  「――もしかして……。ここは部屋の中……なのかしら……。どうやら……そのようね……」

やがて、のどかな風景を眺めている内に、ここが屋外ではなく屋内らしいことに気付いた。
たとえるなら巨大かつ超リアルなジオラマのようなものだろうか?
空や雲もそうだが、壁際に設けられたスペースの存在が、
この牧場が意図的に作られた人工的な空間であることを、特に強く物語っているように思える。
だからこそ、足下に広がる森林や動物達から感じ取れる生々しさが、
より一層際立って見えるのかもしれない。
おそらくは、小人を生み出しているであろうスタンドと同一の能力によるものと考えるのが妥当だろう。
それらの違う点といえば、今まさに耳元で歓声を上げているような小人達は、
現実にはいないということくらいか。
そして、それぞれの行き先が記された三つのプレートを見て、改めて考えを巡らせる。
牧場や小人達がスタンドだとして、この場所自体がスタンド能力で作られた空間なのか、
それとも現実に存在する場所が先程までの工場と繋がっていたと考えるべきだろうか……。
今の段階では、まだどちらとも言えない。

  「ええ、そうね……。それじゃあ、ご挨拶に伺おうかしら。
   あなた達と同じように仲良くなれるといいのだけど……」

真ん中の『砂漠』には、その名の通りミニチュアサイズの砂漠が広がっていることが予想できる。
個人的には、左側に位置する『A通路』というのが気になった。
もし外が見えるような場所に出ることができれば、ここがどこなのか分かるかもしれない。
しかし、ここへ連れてきてくれた彼らの誘いを無碍に断るのも悪い。
ここは素直に『小人居住区』へ向かうことにした。
右手側のドアを抜けて、その先へ進む。

124『きらきら星を追え!』:2016/06/26(日) 09:43:42
>>123

 貴方は右手の『小人居住区』へと進む。
もし、貴方がこの奇妙な小人達との邂逅をする以前なら。小人が住まう
世界とはどのような光景だろう? と聞かれたらどうイメージしただろうか。
 野鳥や小動物の古巣を使ったり、木の割れ目や古びた建造物を拝借して暮らす?
または花畑のある場所で、虫達と共同するように生活するイメージ。
 様々な想像は織なされるものの、貴方がドアを開いて目に飛び込んだものは
原始的な小人の暮らしとは全く真逆の想像裏切られる光景だった。

 ……『星見町』だ。

そこにあったのは『星見町』そのものだった。建造物から自然公園に
病院などから全て、星見町を象った『ジオラマ』だ。もっとも、普通のジオラマと
違い、その中では縦横無尽に、現実と同じように小人が星見町の人間と
似たような服装やら乗り物に乗っているのが印象的だった。

 『ガヤガヤ…… ガヤガヤ・・・』

 ……! ブンブンッ

 何千、いや何万かも知れない小人、小人の群れ。それが住まう町の規模も
大きく、そしてそのジオラマを収める部屋の大きさも、先ほどの牧場の数倍は
大きなスペースを確保してる。徒歩で部屋の端から一周するとなれば早くても
二分は掛かりそうな大きさをしていた。

 そして、その圧倒する大きさと同じく貴方が気づくのは。部屋に入った時点での
ジオラマでリアルな生活模様をしている小人達が貴方に対し気づいた反応だ。
 普通ならば自分よりも巨大な生物に対峙すれば恐慌するなりの怖れがある筈だが
最初に出会ったロポポ達と同様に、貴方が人間であると視認すると手を振ったりして
歓迎するアピールをしたり、他の事に意識を向けていて貴方に関心なく動いてる小人達などを
除き、貴方と言う人間を小人達が恐れる様子は全く見当たらない。
 むしろ『慣れている』感が見受けられた。

 「お母さん、いま何処だろう?」

 「うーん、多分『自然公園』付近だろう。今日はフキの佃煮を晩御飯に
するって朝に言ってたしな」

 そんな現実味のある会話が貴方の肩の上でなされた。……ジオラマの
『自然公園』のある場所までは、此処から少し十秒程度歩けば辿り着ける。

125小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/06/26(日) 22:25:37
>>124

  「……え……?ここ……は……?」

目の前に現出した予想外の光景――それに圧倒されて思わず言葉を失う。
プレートに記された『小人居住区』という名前から、小人達の住む木造の家が何軒か並んでいるような、
質素で慎ましい山中の小村のようなものを想像していた。
ところが実際には、自分が考えていたよりも、遙かに規模の大きな場所だったようだ。
これは、ささやかな小村どころではない。
ただ一つサイズの違いという点を除けば、完全に現代の町そのものだ。
しかも、この町は自分が暮らしている『星見町』に他ならない。
先程までの牧場も、確かに現実的ではあるが、それでも小人達には似つかわしい場所だった。
しかし、この『ミニチュア版星見町』は、妖精のような姿の小人達に似合う場所とは思えない。
リアルな町とファンタスティックな小人達――対照的な両者の織りなすミスマッチさが、
まるで『沖縄の海辺で開催される札幌雪祭り』のように、
何とも言えない奇妙な雰囲気を醸し出しているように感じられる。

  「――どうもありがとう……。仲良くできるかどうかという心配は……必要なかったみたいね……。」

こちらに向かって手を振る小人達に気付き、自分も軽く手を振り返して、それに応じる。
やはり、ロポポ達の時と同様に、彼らは人間を恐れていない。
小人達にとって、人間は見慣れた存在であると同時に、歓迎すべき対象だと認識されているようだ。
巨人を恐れない小人――その背景には、どんな理由があるのだろうか?
この小人達と直接の繋がりを持つ可能性のある人間といえば、まず金平糖会社の人間しかいないだろう。
彼らが小人達の世界を作り、保護あるいは管理していると考えるのが、最も自然な発想だ。
そうなると、小人達にとって人間というのは、自分達を援助してくれる存在ということになる。
それならば、小人達が人間を恐れたりせず、むしろ友好的に接してくるのも何ら不思議ではない。
まだ会社側の人間と接触しておらず、彼らと小人達の間にある事実関係を確認できていない現段階では、
あくまで推測の範囲を出ていないのだが……。

  「……『自然公園』ね?じゃあ、ちょっと行ってみましょう」

そこには何度か足を運んだことがある。
町の中とは一味違う穏やかな時間が流れる憩いの場だ。
ふと、そこで出会った『綺麗な桜色の瞳を持つ少女』のことを思い出した。
さて――まずは彼らの家族を見つけることにしよう。
『自然公園』を目指して、ゆっくりと歩き出す。
その最中に、ヨポロの言葉が脳裏を掠めた。
彼は、『ゴースト』が『こっち側』に来ることはないと言っていた。
『こっち側』というのは、先程の工場のことだろう。
そうなると、『ゴースト』がいるのは『向こう側』――つまり『ここ』ということになる。
肩の上にいるロポポ達に聞いてみようかとも思ったが、少し前の反応から見て、
彼らの前で『ゴースト』の話題を出すのは、あまり好ましくないようだ。
もし、『ゴースト』が同じ場所にいるとすれば、いずれ対面する機会もあるだろう。
今は、ラポポとロポポの母親を捜すことに専念することにした。

126『きらきら星を追え!』:2016/06/27(月) 20:37:40
>>125

 「と、それじゃあ先に僕は家に戻ってるよ。何か用事があれば
家にある電話へかけてくれよな、巨人にあんまり迷惑をかけるなよラポポ!」

「何でおいらだけに注意するんだよっ」

 貴方がジオラマの『自然公園』のある部分まで到着すると、そう『ヨポロ』は
肩から飛び降りて貴方とラポロ、ロポポに一度手を振り立ち去る。
 電話、と言う言葉からも。どうやら彼らの文明と言うか通信手段に関しても
特別なスタンド能力を介して、ではなく。ミニチュアと言う特殊なのを除けば
現代のと遜色ない器具を利用してるようだ……。
 すぐに彼も他の歩いていく小人達に紛れ込み、自然公園の緑の陰に去っていった。

「! ラポポにロポポっ」

 そして、貴方はヨポロと入れ替わりに自分の肩の上に腰下す兄妹達へ
大声と共にピョンと大きく跳ねて、自然公園の大樹の一つに飛び乗った
割烹着姿の年長に見える女性の小人が姿を現したのに気付ける。

 「……貴方たち、家から出て行ったの。ヨポロ君のお家に遊びに行った
だけって言っていたのに……っ」


 心なし、語気は震えており。肩の上で、ラポポの呻く声も同時に上がっている。
どうやらロポポが工場の方で黙って抜け出したと言ったのは事実だったようだ。

 「――また、あっちへ行ったのね!? おまけに巨人さんにわざわざ送って貰って!!?
わざわざご迷惑をかけてこっちまで来て貰った、そう言う事よね!!??」

 貴方と自然公園のジオラマ付近まで少し距離あるに関わらず
カン高い声ははっきりと其の怒声の内容を理解させる。

 至極、怒ってる事が理解された。


 「やばいよ、母ちゃんのあの怒声。あぁ、どうしよう。何とか巨人は
説得出来るかな? それとも、こっから逃げちゃう?? おいら、ほとぼりが
冷めるまで巨人と一緒に付いて行くけど……」

 ラポポとロポポ達は『いまアッチに降りたら絶対に地獄を見る』と言う
蒼褪めた顔で、貴方へ顔を向けた……。

127小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/06/28(火) 22:32:52
>>126

  「今日は色々とありがとう……。さようなら。もし縁があったら……その時は、また会いましょう……」

自分の家に帰ることを告げるヨポロに、感謝の言葉と別れの挨拶を贈り、手を振ってその後ろ姿を見送る。
だが、やはり『電話』という言葉には、少し違和感があった。
童話の世界から飛び出してきたようなメルヘンチックな小人達には、
『手紙』辺りが似合っているような気がしたからだ。
しかし、人間の子供のような彼らのやりとりを見ていると昔の記憶を思い出す。
自分の少女時代も、同じような内容の言葉を、友人と交わし合った経験があった。
なんとなく微笑ましい気持ちになり、ふっと笑みが浮かんだ。
それはともかくラポポとロポポの母親を見つけなければ。
彼らの話では、ここにいるはずだが……。
しかし――どうやら捜す必要はなかったようだ。

  「――あら……」

突如として響き渡る怒鳴り声が耳に届き、思わず軽く目を見開く。
声の主がラポポ達の『真面目な母親』であり、
その怒りが子供達から恐れられているらしいことは一目で分かった。
不安げなラポポ達の顔を見返して、『できる限りのことをする』という意味のアイコンタクトを送る。
無断で外出したことがバレて叱られる――さっきは懐かしい気分だったが、
これもある種のノスタルジーと言える。
ラポポの言うように、『逃げる』というのも一つの選択肢ではあるが、この場合あまり適切とは言えないだろう。
そういった問題の先延ばしは、得てして自分の首を絞めることに繋がるものだ。
それに――責任の一端は自分にもある。
自分がここに来たのは、こちらが頼んだからであり、
連れてこられたのではないし、それによって迷惑を被った訳でもない。
少なくとも、この点では彼らに非がないことを明らかにしておかなければ、
自分の頼みを承諾してくれた二人に申し訳ない。

  「はじめまして……。
   差し出がましいことを言うようですが、お子さんを心配するあなたのお気持ちは、よく分かります。
   ですが、私がここに来たのは、私が二人に案内を頼んだからなんです。
   だから……部外者の私が口を出すことではないと承知していますが、
   そのことでは二人を責めないであげてもらえませんか?」

それだけを言って、言葉を切った。
自分が果たすべき責任としては、もう十分だ。
むしろ、これ以上は口を挟むべきではない。
あとは家族の問題であり、他人が口出しするのは失礼に当たる。
しかし――。

  「それから――図々しいお願いで大変恐縮ですが……
   私に免じて、今回だけは二人を許していただけないでしょうか……?」

最後まで言い切ると、二人の母親に向かって頭を下げた。
家族の問題に対して、部外者が口を出すべきではない。
それは確かに理解している。
しかし、自分は二人に『恩』があるのだ。
だからこそ、その『恩』に報いるために、どうしても一言口添えしておきたかった。

128『きらきら星を追え!』:2016/06/28(火) 23:24:54
>>127(お気になさらず)


 「……」

ラポポとロポポの母親は、怒鳴り声を上げていたが。貴方が
謝罪と、そして真摯な対応と言葉を心掛けると口を噤む。
 吊り上がっていた眉は未だ完全には下がらずも、次に口開いた時に
貴方へ向ける表情と声は落ち着いていた。

 「……まぁまぁ、巨人さんがそう畏まる必要ありませんのに。
貴方は、私が今まで出会った巨人や他の方たちの中で、随分礼儀がありますのね」

 そう、貴方を彼女は称賛する。

「……ロポポっ、ラポポ。けど、ソレはソレ! コレはコレ! よっ。
貴方達には『お仕置き』を命じますよ!」

 「うぇぇ!? そりゃないよ母ちゃん! おいら……」

「――その方の為に、私達の工場をちゃんと! 案内して上げなさいっ」

 「へ?」

「礼儀正しい巨人さんに頼まれたんですもの。ならば小人の誇りにかけて
しっかりと、最後までちゃんと遣り遂げなさいっ。いいわね! ロポポもよっ」

「うんっ! 有難う、お母さんっ。……そう言えば、お父さんは……?」

「あの人なら、『砂漠』で採取をしてると思うわ。夜には帰ってくるわよ」

 
 そのような会話をして、ラポポ達の母親は貴方への案内を命じた。
きっと、このしっかり者の母親の子供たち二人は。貴方の為に工場内を
出来る限り、これから案内してくれる。それは確信に近いものだった。

 「よしっ、有難う巨人! 母さんも許してくれたし、これから何処に向かう?
『砂漠』では、父ちゃんが色々珍しい石を探してるだろうし……うちの父ちゃん
少し抜けてる所があるけど、物知りなんだ。
 『通路』へ向かうなら、おいら達がしっかり案内するよっ」

 ラポポは力強く胸を張りつつ貴方に告げる…通路側に行けば工場の
核心へと、また近づける気がする。少々寄り道をして事前に直接確認する
前に聞き込みをしたいのなら。彼らの父親のいる『砂漠』へ向かうのも
一つの手なのかも知れない……。

129小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/06/29(水) 20:20:29
>>128

  「……ありがとうございます」

こちらの話に耳を傾けてくれたことと、温かい心遣いをしてくれたことに対して、心から感謝の言葉を述べる。
『どんな相手であろうと話せば必ず分かり合える』などと言うつもりはない。
この世界には、様々な立場や考えを持つ者がいて、話し合いが通じないこともあるのが現実だ。
しかし、たとえ全く別の存在だとしても、こうして腹を割って話すことで、お互いに理解し合うこともできる。
それを実感できたことが素直に嬉しかった。
星見町で暮らすようになってから、この町がどんな場所なのかを、自らの肌で感じてきたつもりだ。
だからこそ、なんとなく分かるような気がした。
大きさは違えど、ここは紛れもなく『星見町』なのだと。
そこに住む人々は、『体の大きさ』が小さくても、『心の大きさ』は変わらない。
まだ出会ってから短い時間しか経っていないが、彼らとの関わりの中で、そんな思いを感じていた。

  「そうね……。じゃあ、まず『砂漠』の方へ行ってみましょう。
   せっかくだから、あなた達のお父さんにも一言ご挨拶しておきたいし……」

自分の目的は金平糖の秘密について知ることだ。
それは有菜のためでもあり、また自分のためでもある。
しかし、今は特に急ぐ必要もないだろう。
『スタンド』という奇妙な能力を持つ者としての『引力』のせいか、
不思議と心惹かれるものを感じる『小人達の世界(ワンダーランド)』を、
可能な限り見ておきたいという意識もあった。
少し寄り道して、『通路』に行く前に砂漠へ向かうことにする。

  「――あなた達の気持ちも分かるけど、お母さんも二人を心配しているのよ。
   それだけは分かってあげてね……。
   だから、これからは黙って外へ行くのは出来るだけ控えて欲しいの……。
   そのことを、今度は私と約束してくれないかしら?これは、私からあなた達へのお願いよ」

『砂漠』へ向かう道すがら、肩の上にいる二人に、優しく諭すような口調で言葉をかける。
帽子の下にある表情――穏やかな微笑みを浮かべる瞳の奥には陰が差していた。
愛する者を案ずる母親の気持ちは痛い程に分かる。
自分は、それを失ってしまったから。
だからこそ彼らには、そんなことが起きて欲しくないと切に思う。

130『きらきら星を追え!』:2016/06/30(木) 10:59:04
>>129

小人であろうと母は強し、と言ったところだろうか。
 美味しいフキの佃煮を作って待ってるわよ。と、貴方達を自然公園の
大樹の上に飛び乗ったまま貴方達が牧場の中へ入り扉を閉めるまで小人の母は見送った。
 
 小石川の言葉に、ラポポは少し決まり悪そうに、ロポポは素直に首を縦に振る。

「うん、母ちゃんが心配するのも分かってるよ。巨人にも、そうお願いされちゃったら
仕方がないな! おいらもこれからは、もうちょっと母ちゃんに胸張って心配かけず
出掛けられるように成長して見せるよ」

「うん、有難うね巨人。私も、泣き虫を治してお兄ちゃんに負けないぐらい
しっかりものになって、お母さん見たいに立派になるわ」

「いや、ロポポが母ちゃん見たいにはなって欲しくないけど」

二人は貴方と約束した。彼らは貴方のお願いをきっと忘れる事はない。

 『砂漠』への扉を開く。だが、『小人居住区』と違い扉を開けたが直ぐに
部屋の中には入れず、もう一つの扉が貴方の目に映った。

「あぁ、御免ね巨人。説明してなかったけど『砂漠』って言うのはデリケートで
巨人がぐるっと周囲を見て回るのを大人しくする程に出来た奴じゃないんだよ」

「うん、そうなの。だから此処を開いたら直ぐに扉を閉めて欲しいの……
ほらっ。あそこにも書いてる」

 ラポポとロポポは、そう言ってもう一つの砂漠の為に設置されたドアの真ん中に
人間用に書かれたらしい掲げられた文字を同時に指した。

『注意:こちらから小さな物と人の為の砂漠です。
勝手に人の足で砂漠内を踏み荒らさないで下さい。
ドアは開放したままにしないで下さい。
長時間ドアの前で眺める場合は、夜は厚着を、昼の場合はこまめな水分をお願いします。』

 ……等の、注意書きかなされていた。

貴方が、扉を開き直ぐドアを閉じて部屋の中に入る。
 一面に見えるのは部屋の隅から隅までドア周辺の部分を除いて一面に
敷かれた砂と小石。少し離れた付近にはオアシスらしき小さな木々と水が
置かれており。また少し離れた場所にはミニチュアのラクダらしき生き物など
ちょっとした小人達が砂漠で宿泊する為のテントらしきものも見える。
 この部屋に関しては居住区や牧場と違い。空気は完全に乾燥しており
天井にある光源も普通のよりも明らかに強い光源を出している。
 部屋自体の広さは普通の人間で部屋の隅から隅まで徒歩2分かかる程度の広さ。
人間には大した事なくも小人には十分大きい広さだ。

 そして、他にも目を惹く光景があった。


 ブゥゥゥゥン……ッ      ニョワー……ッ


 貴方から四メートル程度の離れた場所で、人の腕程の長さの砂が縦に小刻みに揺れてる。
『砂竜巻』だ。そして、その中から頂点にかけて小さな影が踊るようにして竜巻の上を
浮遊してるのが見えた……。

 「……あ、あれっお父さんじゃない!?」

 「はは、まさかそんな……い、いやっあれ父ちゃんだ!
何でまた竜巻に呑まれてるんだ。助けないとっ!」

 ラポポとロポポは父親らしき竜巻の呑まれた小人を
助けようと肩から立ち上がる。だが、あの砂の竜巻に二人掛かりで挑んでも
ミイラ取りがミイラになる可能性が高い……だが、貴方が普通に徒歩で砂漠を
進んで小人を助けても。砂漠は小人達専用の場所らしい……砂漠の足跡を後で
何とか掃いて証拠を消しても、造り主が気づけば良い顔をしないのは確かだろう。

131小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/07/01(金) 00:01:20
>>130

  「ありがとう。二人は良い子ね……。あら……?」

肩の上の二人に語りかけながらドアを開けるが、そこには『砂漠』はなく、もう一つのドアが設置されていた。
掲げられた注意書きを見て理由を理解し、再びドアを開けようと手を伸ばす。
それにしても、ここには何人くらいの人間が、どれくらいの頻度で出入りしているのだろう。
ここに来る人間――それが会社の人間であることは間違いないだろうが、
もしかしたら小人の世界を管理する担当者のような役職でもあるのかもしれない。
彼らは、自分のような外部の人間が入り込んでいることに、もう気付いているのだろうか?
そして、そのことに対して、どのような対応を取るのだろうか……。
もっとも、小人(スタンド)が関わっているなどと報道できるわけがないのだから、
この場所の存在を知られたとしても問題はないとも言える。
そのことは、ラポポ達が自分をここに招いたという事実が裏付けている。
頭の中で考えをまとめ、ドアを抜けた。

  「――ここは……『日差し』が強いわね……」

ドアの向こうへ足を踏み入れた直後、明るい室内が視界に広がり、眩しそうに目を細めた。
帽子のツバを片手で少し持ち上げて、部屋の様子を観察する。
そこには、おおかた予想していた通りの光景が広がっていた。
それにしても、この『砂漠』という場所は、何のために用意されているのだろうか。
最初に見た『牧場』は何となく分かるのだが……。
ラポポ達の父親が、ここで珍しい石を探していると聞いたが、それと関係しているのかもしれない。
考えながら視線を移し、巻き上がる『砂竜巻』と、その中に捕らわれた『人影』を目撃した。
どうやら、それが彼らの父親らしい。
急いで助けなければならないが……。

  「……二人が行くのは危険だし、私が入っていくこともできない……。
  そう……『どちらもダメ』なのね……。それなら『何も問題はない』わ」

そう言うが早いか、左手の中に『スーサイド・ライフ』を発現する。
さながら食材に包丁を入れる料理人のように、手早くかつ精確な無駄のない動作で、
『右手』を手首から切り落とす。
そうして切り離した『右手』を遠隔操作で『砂竜巻』の方へ向かわせる。
見た感じでは、内部に侵入できるのは一ヶ所しかないだろう。
すなわち『砂竜巻』の真上から内部に侵入を試み、『クレーンゲーム』のように、
彼の体を摘み上げて救出したい。
それが済み次第、速やかに『砂竜巻』から脱出しよう。
『右手』をこちらに戻したら、ラポポ達の父親を地上に下ろそう。
その後は『右手』を接合する。
もう必要ないので、『スーサイド・ライフ』は解除しておく。

132『きらきら星を追え!』:2016/07/01(金) 19:22:43
>>131

 ―ザシュゥ…!

貴方は『スーサイド・ライフ』を発現すると、手早く右手を切り落とした。
 呆気にとられるラポポやロポポを後目に素早く右手は動くと
未だに気の抜ける悲鳴を上げながら竜巻の乱気流の中でもみくちゃになる
小人を貴方の手は……見事に掴む! そして、貴方の目の置ける場所で
その小人は乾いた砂の上に置かれ、そして貴方の手も接合された。

砂漠の砂へと置かれた小人の恰好は、ターバンに砂漠に合わせた熱射を防ぐ
厚着をしていて、眼鏡をかけている。もっとも、その眼鏡は竜巻の影響で
大きくずれていたが、吹き飛ばなかっただけ幸運だろう。

 「お〜あいたた……いやはや、有難う御座いますゴーストさん。
お手数をかけてしまって……おや?
 こりゃ、驚いたっ。ゴーストさんじゃなく巨人さんだったのか!
いや〜、面目ない。お見苦しい所を見せてしまったぁ」

 ラポポとロポポの母親と同じぐらいの背丈。それでいて少しずれた
眼鏡を掛けなおしつつ、貴方を見て驚くのは。ちょっと頼りなさ気だが
優しそうな感じな顔つきの男性小人だ。

 「お父さんっ。もうっ、砂竜巻に呑まれるなんて……巨人さんが
いてくれて良かったけど、そうじゃなきゃ大変だったわよっ」

ロポポは涙目で父親に声かける。

「おーロポポかっ。まぁ、いや何……抜け出せなくて確かに困ってたが
日が暮れれば竜巻も収まっただろうし、大丈夫だよ。お父さんは見た目より
頑丈だからねっ っあいたた……腰が」

 「大丈夫かよ、父ちゃん本当に。しかし何でまた竜巻なんかに呑まれる
ようなドジな事してたんだよ?」

グッと格好つけようとして、小さく鳴る腰を押さえる父親に、呆れた様子でラポポは尋ねる。

 「いたたた。いや、別に竜巻に好きで呑まれた訳でもなさい。実はね。
コレを見つける為に躍起になっていたら。竜巻にも気づかなったんだよ」

 そう言って、小人の父親はポケットから何かを取り出した。貴方の目には
小さすぎて、何か石のような粒に見える。
 
 「父ちゃん、ソレは?」

 「これは『砂漠の薔薇』だよ。砂漠にある化合物の結晶でね
天然ものは貴重なものだよ。これを基に金平糖へ『注ぐ』事になれば
今までにない味のものが仕上がるかも知れない」

 そう鼻を擦る父親の顔は、中々自慢気な様子だった。

「っと、まぁ私の今日の仕事はこれを見つけた事だし、ようやく完了と
いったところだ。これから何日かは家でゆっくり、ロポポとラポポと
一緒に過ごせるぞぉ」

 『そりゃあ良いっ(それは素敵っ)』

 父親の言葉に兄妹は手を叩き喜ぶ。話の限り、この家族は母親は主に
家事をして居住区で生計を。父親は工場内にある別の部屋で何か採掘したり
などして人間のような生活をしているようだ……。

暫く雑談した後に、ラポポやロポポが貴方を案内してる事を聞いた父親は
訳知り顔で頷くと、貴方へ訪ねた。

 「……ふむ、助けて貰った手前。私が知る限りの事は何なりと
答えましょうともっ」

 貴方の前で、ゆっくりターバンを下して深々と頭を下げる父親。

この工場内を探索するに伴い、貴方が今知りたい限りの事を彼は
きっと正しい助言をしてくれるに違いない……。

133小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/07/02(土) 20:38:04
>>132

  「――いえ……。私がしたくてしたことです。ご無事で何よりでした……」

静かに言葉を返しつつ、取り出された『砂漠の薔薇』を観察する。
はっきりとは思い出せないが、何かの結晶だというような話を、どこかで聞いたことがあった。
小さくてよく見えないものの、どこか神秘的な雰囲気を漂わせているという印象を、
おぼろげながら感じ取れるような気がする。
しかし――どう見ても食用に適したものには見えない。
どちらかといえば鑑賞用だろう。
花の蜜ならまだしも、どうすれば『これ』を金平糖の味付けに使えるというのだろうか?
確かに『今までにはない味』にはなることは間違いない。
その製造の様子は気になるところだ。
それも確かに聞いてみたいことではあるが……。

  「そう……ですね……。
   ここ(小人の世界)には普段から『何人』くらいの巨人が、
   どの程度の『ペース』で出入りし、主に『どんなこと』をしているのでしょう?
   それから、その中で一番『偉い立場』にいるのは、どんな人か分かりますか?」

不思議な金平糖の出来上がるプロセスも確かに気になる。
しかし、それは実際に工場を見せてもらった方が早い。
そう考えた結果、ここは『自分以外の巨人』について聞いておくべきだという結論に至った。
会社の人間と接触する前に、少しは彼らのことを知っておく方が、よりスムーズに話が進められるだろう。
ここを管理している『責任者』が誰か――特に、それについて知っておきたい。
そして、聞いておきたいことは、もう一つある――。

  「――ちょっと失礼……。それから……できれば『ゴースト』について教えていただけますか?
   それは一体どういう存在なのでしょう……?」

おもむろに父親の前で膝を折って屈み、やや声のトーンを落として、彼だけに聞こえるように問いかける。
人間でいうところの『内緒話』をするような状態だ。
もっとも、自分と相手のサイズが相当かけ離れているため、上手くいくかどうかは分からないが……。
ただ、同じ質問をラポポとロポポに尋ねても、あまり正確な答えが返ってこないばかりか、
彼らの機嫌を損ねてしまうことは既に分かっている。
しかし、年長者であろう父親なら、彼らよりは落ち着いた対応をしてくれるはずだ。
少なくとも、二人に聞くよりは、客観的な情報を得られる可能性が高いだろう。
この『小人達の世界(ワンダーランド)』に来てから、小人達に関しては、ある程度のことが分かってきた。
だが、この『ゴースト』に関しては、未だに謎だらけだ。
これで多少なりとも、『ゴースト』に関する手がかりを掴めることに期待したい。

134『きらきら星を追え!』:2016/07/02(土) 21:38:37
>>133

 「ふむ、そうだね」

貴方の質問に、鷹揚に小人の父親は頷くと。2、3回飛び跳ねて貴方の耳元
付近まで近づき、そして答えは始めた。

 「まず、この工場に出入りする巨人……まぁ、謂わば貴方のような
人間さん方の事ですな。
 まぁ、本日 目にする巨人さんは貴方が初めてですよ、私に限っては。
 そんなに定期的、とも言えませんが。月に何人かは皆さん私共の部屋を
見学したり、時々は私達小人にプレゼントもしてくれとりますね。皆さん
大したものじゃない、と言いますが。私ともからすれば、そりゃもう
大きな代物ですからねぇ。一度で良いから山見たいなケーキにかぶりつきたいって
言う願いを、貴方がた人間さんは叶えてくれるんですから、はははは」

 と、失敬。話が逸れましたな、と咳払いして彼は続ける。

「まぁ、この工場に来てくれる方がする事は、大抵は『警備』です。あとは
それを兼ねて遊びに来てくれてる、と言うのが正しいかな? まぁ、私達は
巨人さんがたが来てくれるだけで大喜びですとも! 私の腰が良ければ直ぐにでも
歓迎パーティーを開くと言うのにっ! っとと、また話が逸れてしまった。
 ……まぁ『警備』以外ではゴーストさんに色々と、我々が仕上げる『金平糖』
事に関して売り上げやら何やら時々話してる見たいですが……私共は、その
巨人さんがたの、お金のやりとりに関しては全くの無知でしてねぇ。
『偉い方』ですか?
 うーん、偉い方、偉い方……私が目にした巨人さん方は大抵は、そちらのように
若かったりたまに変わった装飾の人を目にしますが。
 特別、際立って偉い人、と言うのは目にした事ありませんなぁ。俗に言う
社長さん、とか言う方ですか? そう言うのは目にした事ないですね。
 まぁ、大したお話しは出来ませんが、そんな感じです、はい」

 照れ笑いしつつ、父親は最初の質問にあらかた答えると。次の貴方の
尋ねた事に対し顔を真顔へと変えた。

 「ふむ……『ゴースト』について、ですか……」

 失礼、と貴方の耳へ小人の父親は飛びつき。そして囁くように告げる。

「ゴーストは、そうですね。外見あ貴方に似ております。眼鏡をかけてなかった
私が見間違う程度には。
 そして私が知る限り。『彼女』は私が生まれる以前からずっとこの工場に住んでおり。
私達の傍に当たり前のように存在しており、そして私達も彼女の傍で当たり前のように
今までの暮らしをしています。
 あの人は……捉えどころのない人です。手を伸ばしてもすり抜けてしまうような
儚さをもっており、それでいて華奢ですねぇ。
 余り感情を出さず、初対面の方は不愛想で余り好かない印象の人ですけど。
私は知ってますとも、あの人の霞のような中に詰まった大きな愛情をね。
 いま彼女が何処に居るかは私はさっぱりですが、それでも貴方が彼女を
求めるなら、彼女もまた貴方の望みに応じるでしょうとも」

 とまぁ、これが私から言える全てです。と、父親は貴方の耳から離れて
ジャンプして砂漠の砂に着地した。

 「私はテントへ戻り、家へ帰る荷造りでもしております。ラポポにロポポ!
申し訳ないが巨人さんの案内は任せるよ! 私は一足先に家でお前たちの
事を待ってるからね。楽しく過ごして、その話を後で聞かせておくれっ」

 腰を軽く抑えつつ、小人の父親はそう言って砂漠のミニチュアテントへと
去っていく……道案内を彼にして貰う妙案もあるだろうが。腰を痛めた彼に
これから工場を見学するにあたって仕事をさせるのも酷だろう……。

135小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/07/03(日) 19:06:18
>>134

  「――そう……ですか……。よく分かりました……」

どうやら、小人に対する巨人の態度は、随分と気さくなものらしい。
話を聞く限りでは、仕事で来ているというよりも、
まるで仕事の息抜きをするために来ているような感じさえする。
小人達と会社の関係は、自分が考えていたよりも、もっと家族的なものかもしれない。
『社長』は来なくても、警備に当たる人間をまとめる代表者――
言うなれば『班長』のような人物がいる可能性を考えていた。
しかし、『そんなに定期的ではない』という言葉から察すると、
厳密な配置や日程が決まっているわけでもなさそうだ。
今まで一度も会社の人間に出会っていないことから考えても、
警備といっても、厳重に固めているというような感じではないらしい。
『小人』と『会社』が関係を持つに至った経緯は不明なままだが、
これで『巨人』のことについては、おおかた判明してきた。
しかし、何よりも気になるのは、やはり『ゴースト』だ。
『巨人』と『ゴースト』が会話していたということから、
金平糖会社と明確な繋がりを持っていることだけは確かだと思うのだが、それが何なのかが分からない。

  ――幻影(ゴースト)の輪郭(シルエット)は見えてきたけど……。
     でも、その『核心』に触れるためには……。
     やっぱり直接対面しなければならないようね……。

『ゴースト』に関する情報――それを頭の中で何度も繰り返し、悩ましげな表情を浮かべて思案に耽る。
今回の一件において最も重要な位置を占めているのは、
金平糖を作っている『小人』でもなければ、それを警備している『巨人』でもない。
父親の話を聞いたことで、『ゴースト』こそが謎の中央に立つ存在なのだということを、
改めて確信することができた。
それに『ゴースト』が自分と似ているというのも気にかかる点だ。
今まで何度か似ているということを言われてきたが、それはあくまで『小人から見ると』という意味であり、
たとえるなら、欧米人から見るとアジア人が同じ顔をしているように見えるのと同じようなものだと思ってきた。
しかし、話の内容から判断すると、『本当の意味で』似ているということらしい。
自分と似た姿の『ゴースト』――『彼女』は何故ここにいるのだろう。
『ゴースト』が文字通りの『幽霊』だったとして、『彼女』を引き留めている何かが、ここにあるというのだろうか?
心の中にあった『彼女』に対する関心が今まで以上に強くなり、会ってみたいという思いに変化するのを感じる。

  「ありがとうございました……。
   どうぞ、お大事に。
   二人とも……次は『通路』の方へ行ってみたいのだけど……」

ラポポ達の父親を見送ってから、『通路』に向かうドアを指し示す。
二人の同意が得られたら、ドアを開けて先へ進みたい。
果たして、この向こうで不思議な金平糖が作られているのだろうか……。

136『きらきら星を追え!』:2016/07/04(月) 22:19:47
>>135(すみません、PCの修理の為にレス遅れました)

「うん、案内するよ。けど、おいらも余り『A通路』の場所を隅々まで
歩き回ってるって訳じゃないんだ。だから、そんなに頼りになるって
訳じゃないけど、精一杯巨人の手伝いをするよ」

「うんっ! 大丈夫、怖いものが出てくる事はないと思うわ」

 ラポポとロポポの言葉が肩で唱えられつつ、貴方は『A通路』の扉を開いた。

 
 ―キィー

 ……視界にまず飛び込んできたのは、壁 白い壁だ。
そして左右を見渡すと10メートル程度の間隔で、『扉』があるのが
確認出来た。それは貴方が背にしてる白い壁、そして向こう端の壁も
同様に双方が合わさらない形で扉が置かれてるのが目に出来た。
 そして100メートル程先には左右とも突き当りにT字路の道がある。
貴方から見て左側の通路奥には『過去←  →この先整備中』
右側の通路奥には『倉庫←  →人間用娯楽向け』
……と、大きく壁に書かれてるのが見えた。

 床はと言えばタイルと言った感じで、材質は大理石のような石で出来て堅い。
天井には等間隔で周囲が暗くならないように蛍光灯が設置されており、工場
と言うよりは何処か研究所的な雰囲気が周囲を満たしてるように見えた。

 そして、人気はない……貴方と、貴方の肩にいる小人を除き通路側には
小人や普通の人間が出歩いてる様子は見えない。

 「今日は静かなもんだよ。けど、何時もなら僕ら以外の仲間も行きかったりしてるよ
そう言う時は、本当に巨人の足場もないぐらいに通路でいっぱい皆が駆けまわるんだ」

「えっとね……巨人さんから見て、直ぐ左側の扉が『グルメ』の部屋、直ぐ右側が『山脈』。
そして左斜めが『魔法』ね……右斜めのお部屋は、私、入った事ないの……御免ね」

 貴方の耳へ、二人はそう声を掛ける。

ロポポの言葉は、色々と貴方に対し興味と想像を掻き立てる語句であるかも知れない。
だが、今までの体験を顧みると。山脈は、文字通り小人達からすれば巨大な
山のジオラマが設置された部屋である事は想像に難くない。
 『グルメ』に関しては恐らくながら『金平糖』の生成の核心に触れそうな予感がする。
そして『魔法』に関しては、まだ色々と想像の範疇にしかならない。だが貴方が
一歩を踏み出せば、自ずとその答えの中に踏み込める筈だ。

137小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/07/05(火) 21:29:55
>>136

  「――どこまでも果てしなく続いているワケではない……とはいっても……。
   私が考えていたよりも広いようね……。主だった場所は回りきれるといいけど……」

外の様子が分かる窓でもあればいいと思ったが、どうやらなさそうだ。
あくまで直感だが、この建物自体はスタンド能力の産物ではなく、現実に存在している場所のような気がする。
未だ確たる根拠はないのだが、従業員達が仕事の息抜きに立ち寄っているような印象から、
人間達と小人達が同じ建物の中で働いていると考える方が自然に思えた。
しかし、当たり前といえば当たり前だが、進めば進む程に新しい場所が増えてくる。
ドアを抜けてすぐに『金平糖』へたどり着けるとは思っていなかったが、それ以外にも色々とありそうだ。
この建物がどれくらいの広さがあるのか分からないが、
『A通路』があるのなら『B通路』もあるだろうし、思った以上に広いのかもしれない。

  「『過去』……?もしかしたら本当に……?
   でも……そんなことが……。
   そう……きっと他の何か……。まさか……ね……」

壁に書かれた意味ありげな文句の中に、特に注意を引かれる単語を見つけて、物憂げな表情で呟く。
左側にあるのが『過去』だとしたら、ちょうど自分が立っている位置が『現在』であり、
右側の整備中というのは『未来』だろうか。
そして、最も気にかかるのは、これが何を意味するかということだ。
たとえば、昔の記録などが置かれている場所のことを、比喩的に『過去』と表現している可能性もある。
そうだとすれば、それほど不思議な事とは言えない。
だが、もしかすると違うかもしれない。
つまり、本当に『過去』や『未来』と繋がっているとも考えられる。
もちろん普通なら有り得ない話だ。
それでも、この一件にスタンドが絡んでいる以上、絶対に有り得ないとも言い切れない。
もし『過去』に戻ることができたら――つい、そんなことを考えてしまいそうになる。
横道に逸れそうになる意識を本来の目的に向け直すため、そっと目を閉じて、静かに深呼吸する。
そうすることで気を取り直し、四つのドアが並んだ左右の壁に視線を移す。

  「――そうね……。それじゃあ、順番に確認していきましょう。
   最初は右の部屋から始めましょうか……」

ロポポの言葉を聞いて、まずは山のジオラマが設置されているであろう『山脈』の部屋に入ってみることにした。
しかし、大体の予想はついている。
入ると言っても、時間をかけるつもりはなく、ざっと室内に目を通すだけだ。
その際、何か変わったものでもあれば記憶に留めておこう。
特に何もなければ『山脈』の部屋を出る。
自分の予想と合っているかどうかが確認できればそれでいい。
それが済んだら、次は『グルメ』の部屋に向かいたい。
『魔法』の部屋も気になるところだが、今はどちらかというと、『金平糖』の謎を先に解いておきたかった。
神秘のベールに包まれた『金平糖』の秘密――遂に、それを知ることができるのだろうか……?

138『きらきら星を追え!』:2016/07/05(火) 23:17:21
>>137

 貴方は通路奥の文字を心の中に止め、そしてロポポの言葉を吟味した上で
まず『山脈』と明記されたドアを開いた。
 小石川が予想した通り。そこは牧場や小人居住区がそうであったように
中心に大きな山のジオラマが建てられており、そして周囲を人間が閲覧出来るように
一人分の通り道がある。この山や周囲にある山林も、何処か現実味がある。

 「えっと、この山はね……思い出したっ。『キリマンジャロ』だよ!」

肩の上でラポポの声が一際高く出る。
 そして其の言葉に、貴方は有菜と出る間際に彼女が説明中に食べた
金平糖の味がキリマンジャロの雪解け水味であった事も、思い出すかも知れない……。

 「一番上のほうにある雪になるにつれ、甘味や水の透き通りも増すんだよ」

 ロポポの声が耳に流れてくる。貴方にとって印象的になる部分と言えば
このやりとりであっただろう。

 それ以外では、山脈を重装備で昇る小人が幾つか見た以外特筆した部分なく。
そして、貴方は扉を再度出て通路に戻り『グルメ』のドアを開いた……


 まず、扉を開放して一番強く衝撃を受けたのは ――匂い。
色んな香辛料、焼きあがった肉、魚、揚げ物にデザート。
 お茶の香りもあれば当然コーヒーや、それ以外の飲料水特有の香りも漂う。
余りに多くの刺激のある匂いを受けると、人間気分が悪くなるとも言うが。不思議と
この部屋から漂う匂いに関しては、貴方の鼻腔を苦しませる事なく逆に匂い同士が
邪魔をしないかのように順番に、貴方の鼻の中を料理の匂いが通り過ぎていく。

 そして、次に目の中に飛び込んだのは……小人と、そしてキッチンだ。

数えるには、とてもじゃないが多くの小人が広間程度の大きな部屋の空間に
小さなミニチュアサイズのキッチンを平行に並ばせ、そのキッチン一つ一つに
コック帽を被った小人が熱心に多種多様な料理を作ったり仕込みを行っている。

 そして、完成したのであろうトレーを運んでる小人は。そのキッチンの並ぶ空間の中心にいる…
一番立派な髭をして
一番大きなお腹をして、体格も小人の中では一番立派にまん丸
一番高いコック帽を被った小人へと、せっせと出来立て料理を運んでいた。
 
「あれ、コック長の『コルボ』って言う奴さ。偉そう、って言うか実際に偉いんだけどさ」

「うん、料理に関しては小人の中でも一番だと思うよ……私は、苦手だけど」

 彼らラポポとロポポだが、今までの部屋では貴方の肩の上で
足を揺らして自然体で兄妹で軽く談笑したりなどして過ごしていたが。

 このグルメの部屋では。始めて貴方の首筋のほうに移動し、そのうなじ部分に
二人して移動した。貴方の首部分に少しだけくすぐったいような感触が過る。

 その間にも、グルメ部屋にいる真ん中のまんまるコックの小人、コルポは
他の小人の運ぶ料理を、まるで王様のように少し大きめの柔らかい感じの
小人に合う、猪口に柔らかい布を敷いたような椅子に座り、素手で料理を一口食べ
そして空いてる手で○と×が書かれた棒を、料理を一口味わってから直ぐにどちらか
上げるのを延々と続けるのが見て取れた。

 ○が上げられると、行列をなして味見をして貰った小人は安堵した顔で自分のキッチンに戻り。
そして×の上げられた小人は、泣きそうな表情、もしくは本当に涙目で料理を持って帰る。

 だが、その行動にも変化が起きた。貴方がグルメの部屋に入ったのを少し遅れてから
コック達が気づいたのだ。
 貴方に気づき小人が顔を向け、調理やトレーを運ぶ動きを止める。
それがドミノ式に続き、そしてソレがコック長のコルボの食べる料理のほうまで続き。
ついに自分が食べるものが運ばれない事に不審がり、周囲を見渡す。
 そこでようやく、コルボ含めグルメ部屋の小人一同が貴方に一斉に注意を注いだ。

 「……これは これは! 巨人様の謁見だ!」

バリトン声の、コック長のコルボの声が部屋に響く。小人とは思えぬ声量だ。

「……それで! わざわざ我ら小人の、グルメの探求を邪魔してまで
此処に訪れたのは、それ相応の理由があってだろうね?」

 蓄えた、おおきな髭を撫でるぷっくりと丸い小人は貴方へと
決して歓迎とは言えぬ声色で訪ねてくる。

 今までの人間に対し優しかった小人とは違う。このコルボは
どうやら中々の曲者だと、貴方は感じる。だが、不思議な金平糖の生成を
知るのは、もう一歩の筈だ。

139小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/07/06(水) 23:23:46
>>138

  「『キリマンジャロの雪解け水』味――ここが『原産地』だったようね……」

ラポポの説明を聞いて、有菜と交わしたやりとりを思い出し、そう結論付けた。
あの味の元になったのが、この『ジオラマ版キリマンジャロ』で採取された『雪解け水』であったことは、
想像に難くない。
やはり他の場所と同じように、大きさこそミニサイズだが、その中身は限りなく本物に近いようだ。
もしかすると、本物と比較してみれば、両者の違いが分かるのかもしれない。
しかし、それを判定するのは困難を極めるだろう。
本物の『キリマンジャロの雪解け水』を口にした経験はないが、ここで採取されている『材料』が、
それこそ超越的な味覚のスタンド能力でも持っていない限り、
見分けがつかないレベルの精巧さを持っていることは確かだ。
少なくとも、『虫料理』味に関しては、本物と同等だったと自信を持って断言することができる。
とはいえ――ここにいても、これ以上の手がかりは得られそうにない。
『山脈』を出て、『グルメ』のドアを開ける……。

  「……!?」

ドアを開けた途端に流れ込んできた『匂いの奔流』に驚いて、思わず足を止める。
たとえるなら、香りで構成されたパレードを見ているようだった。
そして、それに酔いしれる間もなく、その匂いの源が視界に飛び込んできた。
ズラリと並べられた無数のキッチンで、数え切れない程のコック達が忙しく働いている様子は、
まるで巨大なレストランの厨房のようだ。
いくら小人に合わせたサイズとはいえ、巨人である自分から見ても、そこが大規模であることは理解できた。
もし、これが人間サイズだったとしたら、調理場としては並外れた大きさになることは間違いない。
自分が食べた『虫料理』味のように、
『金平糖』には料理の味も――もちろん大部分を占めるのは一般的な料理なのだろうが――存在する。
おそらくは、ここで作られている料理も『材料』の一部であり、
各種の料理を元にした味の『原産地』が、この部屋だと考えられる。
ふと――うなじの辺りにくすぐったい感触を覚えて、軽く身をよじるが、
居住まいを正して部屋の様子を観察することに集中する。
重要人物であろうコルボという名のコック長――彼の動きを見ていると、
出来上がった料理の良し悪しを決める審査員のような役割を担っていることが分かる。
そんなことを考えていると、小人らしからぬボリュームの中低音が響き渡り、
部屋の視線が自分に集中していることに気付いた。
コルボに向き直り、向けられた問いに答えるべく、おもむろに口を開く。

  「――お仕事の邪魔をしてしまい、大変申し訳ありません……。
   私は、あなた方の作る金平糖を愛する者です。あの金平糖の味は、他では決して味わえません。
   それが作られる過程を是非とも知りたいと思い、失礼ながらここまでやって来ました。
   どうか、この部屋を少し拝見させていただくというお許しを、いただけないでしょうか……?」

コルボの対応は、明らかに、部外者である自分を遠回しに非難する言葉だった。
しかし、そのこと自体には、あまり驚きは感じなかった。
むしろ、こういった言葉は、もっと早い段階で聞くことになると思っていたからだ。
なにはともあれ、今の状況を客観的に見ると、彼の言葉は正しい。
だからこそ、まずは自分の非を認め、その上で自分の意志を相手に示したい。
ただ、自信家らしいコルボに合わせるため、ほんの少し『脚色』はしているが……。
しかし、決して『嘘』ではない。
あの金平糖が他では食べられないことは確かだし、自分としてもあの金平糖は好きな方であり、
その生成法に興味があるのも事実なのだ。

もし、この申し出が却下されてしまったら――『その時はその時(ケースバイケース)』だ。

140『きらきら星を追え!』:2016/07/07(木) 19:01:37
>>139
 貴方は非が自分にあると考え丁重な詫びと共にコルボへ金平糖に不思議な
味付けをする様の閲覧を願う。
 だが、然しながら。この工場が部屋の区切りごとに人間が見れる造りがあり
尚且つ常に人の出入り可能に開放されてるドアを考えれば…だ。
 コルボ自身が『非』の範疇に据えられる立場なのかも知れない。
「ほぅ ほぅ!我らが技術の結晶であり、小人の術の極みとも言えし
金平糖へと我らが施す魔術の様を見たいとっ!! それは感激だっ!」
 芝居かかった口調でコルボは髭を撫でつつ高らかに声を上げる。周囲の
小人達は、眉を顰めその壇上にいる役者を見る。言葉こそ喜んでるように見えるが
それが皮肉であり、如何にも意地の悪い顔つきに変わったコルボを見ればこその反応だ。
 
 「ふむ、其方はどうやらゴーストが正式に招いた者ではないな。
だが、然様 然様……我ことコルボはひじょーに寛大なるコックの王なのである。
 そうだな……うむっ このコルボは決めたぞ!」

 ビシッ。

 「――其方、その手に嵌められてる指輪! ソレを私に献上すると
言うのであれば、金平糖への秘儀をお披露目しようではないかっ!」

 ギョッと、コルボの周りに居る小人達は貴方の心を代弁するかのように
驚きを浮かべコルボを注視する。恐らくながら、このコルボと言うのがいま
要求したのは、もしかすれば、正しく巨人が小人と付き合うのには
『度が過ぎる真似』をしたのかも知れない。そうでなくも、貴方にとって大切な指輪である。

「或いは……そうだなっ! このコルボを吃驚させるような余興を
見せてくれると言うのであればっ。金平糖への魔法のような味付けを
見せてくれようではないかっ。へッ へッ へッ! どうだっ、良い条件ではないか?」

 コックの王と言うのを名乗る、不届きな小人のコルボ。彼は貴方へと
最も命の次に大切であろう『指輪』を差し出せと。事情を知らないまでも
貴方が一番傷つく真似をしてきた。
 そして、それをしたくないのであれば吃驚させるショーを見せろとまで言ってくる。
これは、一度この傲慢をまん丸なお腹に詰め込んだ小人を少し懲らしめて
やる必要があるかも知れない。無論、あまりに暴力的な真似は他の小人の
巨人に対する心象を悪化させる事になるだろう……。

141小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/07/08(金) 20:41:37
>>140

  「二人とも――悪いけど、少し離れていてもらえないかしら?
   それと……この『帽子』……ちょっとの間だけ預かっていて欲しいの……。
   『汚れるといけない』から」

ラポポとロポポに一度肩から降りるよう促すと、今まで被っていた帽子を脱ぎ、それを二人に手渡す。
重いものではないとはいえ、人間サイズの帽子は一人では持ちにくいかもしれないが、
二人がかりなら問題ないだろう。
そして、これまでと変わらない優しい口調の裏側に、二人は『静かな熱情』のようなものを感じるかもしれない。

傲慢なる小王――コルボを正面に見据えて、おもむろに左手をバッグに突っ込む。

       ス ラ ァ ァ ァ ァ ァ ―――z____

そして、その中で『スーサイド・ライフ』を発現し、引っ張り出す。
傍から見ると、バッグの中から『ナイフ』を取り出したように見えるだろう。

   クルクルッ
         フォンフォンフォンフォン……
                       グルグルグルグルグル

続けて、手にした『スーサイド・ライフ』を、『プロフェッショナルのナイフ捌き』で回転させる。
見る者によっては、これが『余興』かと思うかもしれないが、それは間違いだ。
料理で言えば『オードブル』――『メインディッシュ』に入る前の軽い『前菜』に過ぎない。
この行動の目的は、『スーサイド・ライフ』のスピードを見せることによって、
万が一の可能性で起こる『不慮の事故』を、未然に防ぐことにある。
こちらの『スーサイド・ライフ』が、小人達と同等のスピードを持っていることが分かれば、
自然と思慮深い態度にならざるを得ない。
こうしておけば、コルボが迂闊な行動に出た結果、偶然『スーサイド・ライフ』と接触してしまい、
しなくてもいい怪我をするということもなくなるだろう。
滑らかな回転を継続したまま、コルボの下まで歩み寄っていく。
心なしか、その全身から気迫のようなものが滲み出ているのが感じられるかもしれない。
コルボの正面に来たところで唐突に回転を止め、『スーサイド・ライフ』を握り直す。

  「……あなたは――『死』を目の当たりにしたことはおありかしら……?」

その表情と口調は、あくまでも穏やかであり、決して感情を剥き出しにしたりはしていない。
しかし、問いかけの内容は不穏な気配を漂わせるものだった。
聞く側にとっては、そのアンバランスさが不気味に思えるかもしれない。

  ギ ラ リ ッ
            スゥゥゥゥゥゥ……
                        シュパァァァァァンッ!!

冷たい金属質の輝きを放つ『スーサイド・ライフ』――それが、ゆっくりと振り上げられ、直後に振り抜かれた。
もちろん相手はコルボではない。
一切の躊躇いもなく、自らの首を『はねて』切り落とす。
普通なら、大量の血が噴水のように勢いよく吹き出すところだが、
『スーサイド・ライフ』の能力によって、凄惨な場面が作られることはない。
もっとも、それを差し引いても、かなりショッキングな光景になることは確かだ。
ラポポとロポポにも見せてしまうことが気の毒だが、
彼らには『スーサイド・ライフ』の能力を既に見せているので、驚きは少なくて済むだろうと思う。

  「――さっきの質問の答えですが……私はあります……。
   そして、この『指輪』は『彼』との『絆の証』であり、お渡しする訳にはいきません。
   ですので……『これ』で了承していただきたいと思います……」

あえて浮遊させず、床の上に転がったままにしておいた『首』が、繋がっている時と同じように言葉を発する。
今まで通りの丁寧さを崩してはいないが、その言葉の奥には、有無を言わせない響きが篭っていた。
この一連の光景は、まず不穏な台詞と共に『ナイフ』を振り上げ、
続いて自分の首を切り落としたことと合わせて、コルボに『三重の驚き』を与えることになるだろう。
これで『余興』は終わりだ。
コルボの様子を確かめたら、『首』を浮遊させ、本体の近くに戻したい。
空いている方の手で、断面に降ろした『首』の位置を調整し、接合する。
手の中にある『スーサイド・ライフ』は、発現した時と同じような動作で、
バッグの中にしまうようにして解除しておく。

  「――ありがとう」

全てが済んだら、ラポポとロポポに預けていた帽子を受け取り、元通り被り直す。

142『きらきら星を追え!』:2016/07/08(金) 22:10:23
>>141

 フォンフォンフォンフォン……  グルグルグルグルグル

 「むぅ!? ふむっ 中々のナイフ回しではあるが。ふんっ!
その程度でこのコルボが満足するとでも……」

 傲慢なる小王のコルボは、最初こそ貴方が取り出したナイフ、そして其の
回転に対し少しだけ感心見せつつも鼻で笑う。

 ギ ラ リ ッ

「ほ ほぇっ!? お、おい巨人よっ い 一体全体なな何」

 スゥゥゥゥゥゥ……

「っ!? お、おい止めっ」

 シュパァァァァァンッ!!

「きょええええええぇぇぇ〜〜〜〜!!!!??」

 効果覿面っ!!

一瞬鈍く光るナイフ、そして不穏な台詞と共に貴方の首に向けられたナイフ。
 それに次の行動を予測したコルボは制止しようと声を荒げようとしたものの
自分の偉さを笠に、小人としての俊敏な動きを半ば忘れてグルメの審査だけしてきた
彼に貴方を力ずくで止める術など無い。そしてポロっと転がり落ちた貴方の首を見て
素っ頓狂なソプラノの悲鳴を上げる。周囲の小人はいま起きた現実が整理出来ず固まったままだ。

さて、そんな『三重の驚き』を披露した貴方。そして其の後のグルメの自称小人王であるコルボであるが。

ブクブク……。

「あらまぁ、コック長ってば泡を吹いて気絶してるよ」

「仕方がない、山脈のほうにでも連れてって適当に凄く冷たい雪解け水でも掛けてやれ。
今まで散々偉ぶってたんだから良い薬さ。
 ――巨人よ有難うっ! 我ら小人のコック! 貴方に最大限の賛辞を!」

『貴方に賛辞をっ!』

 何人かの給仕服の小人が、よろめきつつ気絶したコルボを担いで隅のほうにいき
貴方を工場に連れて行ったヨポロ達の時と同じく、壁にキラキラ光る入口を作ると
その光の輪っかへ入り、そして瞬く間に消えた。どうやら小人達は独自で最短で
工場内を移動する事が出来るようだ。
 そして、小人達は我に返ると一斉に貴方へと礼を告げてきた。コルボへと強い
衝撃を与えた貴方に気分を害した様子は見られず、羨望の眼差しがチラホラと見れる。
 きっと、これ以降はコルボも威張る性も大人しくなり、小人としての役割を実直に勤め上げる事だろう。

 「――さて、貴方は金平糖に対する味付けを知りに来たのですよね?
コルボはあぁも勿体ぶっておりましたが。我ら小人にとって、その技巧は
さして労力を厭わぬもので御座います。
 口で説明するよりも、見せるほうが良いでしょうね。よしっ、それじゃあ早速だ!」

 パンパン!

一人の、コック長の次ほどに立場が上なのだろう。コルボより少しだけ短いコック帽を
被った小人の手拍子と共に、給仕服の小人の数人が何処からか忽ち『金平糖』を
二つ運んできた。そして貴方の近くに置く。

 「まず、これは『込めてない』金平糖なのですっ!
普通に、貴方がた巨人の作る金平糖で御座います。このままでも確かに純粋な
ザラメや氷砂糖が合わさった菓子は美味しいかと思いますが。我ら小人はこれに
更に『想い』を込めるのですっ! 実際に、ご照覧あれっ!」

 コック帽の小人は、近くにあったワゴンから『イナゴの佃煮』のミニチュアに
手を伸ばし、目を閉じてパクッと味わった。
 そして、咀嚼して食べ終わると。少しだけ力強い目つきになり両手を上げてモゴモゴと何か唱える。
すると、どうであろう! その小さな両手には僅かながら発光が産まれ、その淡い光の粒子は
徐々に強まっていく。光が最大まで高まったと思えると同時に、掲げた両手を小人は振り下ろす。
 
 チチンプイプイ!!     ―――ぺかーーっ!!

 「……よしっ、どうぞ食べて見てくださいっ!」

そう言って貴方へと小人は金平糖を運び手渡しする。

 貴方は促されるままに金平糖を口に運び、そして噛むと同時に思い起こされるだろう。
イナゴの食感、そして佃煮としての風味、それ等は貴方が前に食べたイナゴの佃煮風味の
金平糖と、また少し微妙に精密な部分で違いを感じたものの。
 この今、コックの小人が見せた行動こそが不思議な金平糖を作る為の工程だろう貴方は知る事が出来た。

143『きらきら星を追え!』:2016/07/08(金) 22:34:48
>>142続き

 ゴホンッと咳払いしつつコックの小人は説明を続ける。

「我々はグルメの探求者。この部屋では古今東西のグルメを作り
そして完成された品を我々が食べて、その食べた『想い』を金平糖に注ぐのです。
 因みに、これは中々の曲者で。例えば、普通の主婦の小人が作ったカレーライスを
居住区内で食べて、そこで金平糖を注ぐとなれば『家庭的な味』として巨人である
貴方がたにも味わって頂けるかと思いますっ。『想い』はとても取り扱いが難しいもの!
環境や、その他の要因で直ぐ変わってしまいます! ですが我々はグルメの探求者!
 自然の風味である芝生味や木の根っこ味、それに食べ過ぎるといけないジャンクフード
などではない、最高の! 職人による職人が手掛けた『グルメ』の『想い』を
金平糖へ込める為に、日夜我らグルメの小人は料理の腕を磨いてると言うわけです。
 無論、失敗した料理や残った料理は何処かに捨てるなんて行儀の悪い事はしません。
料理の残りは他の場所にいる仲間に届けますし。失敗料理は失敗料理としての味の金平糖として
役立ちますからねっ。我らはグルメの小人、グルメは誇りなのでありますっ」

 鼻高々に演説をした小人。これで、おおかたの『不思議な金平糖』の工程は理解出来た。
だが……まだ謎はある。
 この、殆ど人間くさい『小人達』が、一体どのような能力によって形成されてるのか?
また、この工場自体は本当に現実に存在しうるものなのか? 肝心のゴーストの正体も残ってる。

 「……とっ、これはすみませんっ。このように長々と自慢話に付き合わせてしまい。
宜しければ、ここで他の料理も味見しますか? お時間があるのなら。
 むろん他に見たいものがあるのなら引き留めはいたしませんっ! 我らはグルメの小人!
 何時でも、貴方様を歓迎いたしますっ!」

『歓迎いたしますっ!』

 グルメの小人達は、すっかり貴方を歓迎に値する賓客として扱ってる。
このまま長居して、他の貴方の気になる疑問について尋ねれば快く答えてくれるだろう。
 とは言うものの、グルメ専門の彼らが貴方の疑問を氷解する答えを持ってるかは未知だ。
ラポポとロポポは、貴方が首を切った時も帽子の鍔をもって驚きは少ししたものの
砂漠での父親を助けた時の挙動を目撃した事や、有菜といた金平糖工場での手や目を動かしてた
事からも、そこまでショックを受けてはいない。また貴方の肩に気づけば足を揺らし座ってる。

「巨人はどうする? おいらは、ゴースト探しをこのまま手伝うぜっ。
『魔法』部屋は、おいら達が巨人のいる側で役立つ品々を作ってる所だから
興味があれば行こうよ。知り合いも一人いるしね」

 「私は、まだ行ってない右斜めの部屋をちょっと見たいかな……、
あっ、別に後回していいよ? ちょっと、どう言う場所が気になるだけだから……」

ラポポは『魔法』部屋の説明を軽くした上で次の行動への手伝いを示し。
ロポポは未だ探索してない右斜めの部屋に消極的に行く事を希望した。

 どちらかを選ぶのは貴方の自由であり、それ以外の行動を選ぶのも有りだ。

144小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/07/09(土) 20:59:17
>>143

  「どうもありがとう……。
   でも、今は他にすることがあるから、
   また近くまで来ることがあったら、その時は立ち寄らせてもらいます。
   それから……『イナゴの佃煮』味は、是非これからも作り続けて下さい……」

自分が愛好する『虫料理』味――栄養が乏しかった時代に、
貴重なタンパク源として食べられていた『慎ましさ』が感じられるのが好きな理由だ――が、
どれほど売れているのかは知らないが、世間的にはポピュラーな料理ではないだろうし、
人気がないという理由で『販売中止』にならないかが少し心配だった。
ともあれ――それは今すぐに考えなければならないことでもない。
小さなコック達にお礼を言って、彼らの今後に思いを馳せつつ、『グルメ』の部屋を出る。

  ――さて……これで一つは分かったけど……。問題はこれからね……。

本来の目的である金平糖の作り方を知ったことで、第一の目的は達したことになる。
だが――まだ謎は幾らでも残っているのだ。
それらの解明は後回しにしていたが、これからは他の謎に取りかかることにしよう。
まず、今まで出会ってきた小人達が、何かしらのスタンド能力の産物であることは間違いない。
しかし、この工場に入る前も入った後も、その本体らしき存在が一向に見当たらないことが気にかかる。
おそらくは工場内の何処かにいると思ってきたが、このスタンドの射程距離が分からない以上、
工場の外にいる可能性も否定できない。
そもそも、この工場の所在も不明なままだ。
先程は、工場自体は現実に存在する場所に思えるという答えを出したが、
それは金平糖の調査を優先するために結論を保留にしただけに過ぎない。
この点も心に留めておく必要があるだろう。
そして、最大の謎が『ゴースト』だ。
小人達や工場に関しては、まだ謎が残っているものの、こうして実際に自分の目で目撃してきた。
だが、『ゴースト』については、そういった存在がいるという話を聞いただけで、まだ出会ってすらいない。
このままでは文字通りの『幻影(ゴースト)』だ。
ともかく、一度でも『ゴースト』と接触してみないことには話が進まない。
あるいは、『ゴースト』に繋がる手がかりを、今後の探索で得られることに期待したい。
そして、まだ仮説の段階だが、ゴーストの正体が掴めれば、
小人達や工場の謎も、同時に解くことができるような気がする。
もし、小人達と工場が同一のスタンドによって生み出され存在であり、
その本体が『ゴースト』だとすれば、辻褄は合う。
つまり、これらは三つの謎ではなく、一つの大きな謎ではないかと思えるのだ。

  「――そう……ね……。まずは『魔法』の部屋に行きましょう。
   もう一つの部屋にも後で行きましょうね……」

ここは調査をしやすそうな場所から進めていくのが効率的だろう。
そこにラポポの知り合いがいるというなら、コミュニケーションもスムーズに進みそうだ。
少なくとも、コルボの時のように、相手にゴネられることもないだろうと思う。
コルボといえば、彼も一つ気になることを言っていた。
『ゴーストが正式に招いた者ではない』――
つまり、普通は『ゴーストが招いた者』だけがここに来られるということなのだろうか?
そんなことを考えながらドアを開き、室内へ足を踏み入れる……。

145『きらきら星を追え!』:2016/07/10(日) 21:13:31
>>144

 貴方は『魔法』の扉を開く。

その部屋は、今までのどの部屋とも違っていた。居住区や牧場に山脈などの
見学するような造りでもない。また砂漠のように人の足を踏み入れないものでもない。
 かと言ってグルメ部屋のように実用的に金平糖の為の部屋でもない。

その部屋は壁一面に子供が描いた落書きのようなものから芸術に近いものまで
風景画らしきものが四方に背景として浮かび、その壁からは現実のものらしき
木々の枝が生えている。生えている枝の中には鳥の巣らしきものもある。
 
 地面に置いてあるものも、また奇妙な品々ばかりだ。統一性のない実験器具のような
ものから現実には見た事のない幻想めいた花が咲く鉢植え。
 全て観察しても目的性が見えず、どう言う意図があって作られた部屋なのか考えても分からない。
強いて言うならば、人の頭の空想の一部を部屋として表現するとしたら、こんな
部屋になるのかも知れない。と言った空間が其処には広がっていた。

 ――ポンッ。

 「……ごほんっごほんっ!! うんんっ! またよろしくないらしい!!
何がいけなかったじゃろう?? ぷるんっと言う音色? 大好きな人への眼差しの光量??
それとも何か足りないものがあるのじゃろうか……」

 部屋の景観が貴方の頭にある程度入る頃に、また一つ小さな爆発音。
そして一つのピンク色とレモン色の小さな一筋の煙が昇ったフラスコの影から
白衣を着た如何にも博士といった風貌の小人が明るい煤を被りブツブツ呟きつつ現れた。

 「アレが、おいらの知り合いの『ポポノ』博士だよ。物凄く頭がいいんだ
まぁ、それ以上に凄く変わってもいるけど。……ポポノ博士っ!」

ラポポの呼びかけ、それに年季が入った小人は反応して貴方のほうを見やる。
 突然の巨人の来訪にも全く動じる事ない。いや、動じてないと言うより
貴方と言う存在が意識に入ってないように見えた。

 「……うーん、ドキドキのリズムをもう少々上げてみるべきか。
ん? おぉ! こりゃあラポコ君か。今日はどうしたんじゃい」

「おいらはラポポだよ、博士。今日は友達になった巨人を……」

「いや、待てよっ? 潤みを、もう少し夜明けの花の滴で増させるのはどうじゃろう?
 焦がれた瞳と相似するには、その方法が一番……ブツブツ」

貴方の肩でラポポは紹介しようとするものの、小人の博士は明後日の方向を見つつ
何事かを呟いている。ラポポは溜息をつき、ロポポは少々困った様子で博士を見る。

「……ポポノ博士、実験が上手くいってない見たいね」

「あーなると、かなり長いんだよなぁ。
 巨人、博士は物凄く頭がいいけど。それ以上に魔法の実験に傾倒していて
それに集中してる時は周囲の事を全く気にしないんだよ」

ラポポは貴方に、そう説明した。
 部屋の中で動くのは、その博士と助手らしき幾人かの白衣らしきものを
纏った小人も忙しなく動いている。かなり忙しそうで、貴方の話に対応
してくれそうなのは、そんな何かの実験に憑りつかれたような博士一人だ。

 ある程度、貴方の質問にも答えてくれるかも知れないが。深く込み入った話や
細々とした質問には、先ほどのラポポの対応と同じく途中で自分の世界に入ってしまうかも知れない。

146小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/07/11(月) 20:47:21
>>145

  「――すごいわね……。なんというか……うまく言葉にできないけれど……。
   とにかく『スゴい』わ……」

室内を埋め尽くす『奇妙』の山――まるで『前衛アートの展覧会』のような様相を見て、
無意識の内に溜め息が出る。
この工場で色々なものを見てきたお陰で、もう驚くことには慣れたつもりだったし、
『魔法』という名前やラポポの説明から、これまで以上に不思議なものが待っているという覚悟はしていた。
それでも、実際に目の当たりにすると、少なからず衝撃は受けるものだ。
気を取り直して全体を観察するが、そこには統一感の欠片も見当たらない。
あえて挙げるとすれば、『奇妙』であることだけが共通点だろうか?
間違いなく、今まで見てきた中で、一番『奇妙』な場所だと言えるだろう。
そんな時、小さな爆発音の後に、ポポノ博士の姿が視界に入った。
この『魔法』の部屋では、コミュニケーションはスムーズに進むと思っていたが、
どうやら一筋縄ではいかないようだ。
ここの主であろう博士は、コルボとは違う意味で、なかなか難しい人物らしい。

  「はじめまして……。ところで――今は何の実験をなさっているのですか?」

挨拶もそこそこに最初の質問に入る。
ラポポとのやりとりを見ると、この研究熱心な博士は、すぐ話が横道に逸れてしまう癖があるようだ。
質問するにしても、できるだけ余計な言葉を省いて、可能な限り手短に済ませる必要があると感じた。
そして、先程の彼の台詞――それらは一見すると支離滅裂ではあるものの、
何となく関連性があるようにも思える。
これは推測だが、『愛』とか『恋』とか、そういったものに関係した何かではないだろうか。
もしかすると『惚れ薬』の類でも作っているのかもしれない。
仮にそうだとしたら、何故そんなものを作るのかという疑問はないでもないが……。
しかし、これだけ奇妙な品々が溢れているのだから、そんなことを聞くのは無意味なことだろう。
おそらくは、明確な使用目的がある訳ではなく、
彼自身の好奇心や探求心を満たすために作っているのではないかと思われるからだ。

  「――それから『ゴースト』について何かご存じでしょうか……?」

博士の様子を観察し、話しかけられそうなタイミングを見計らって、もう一つの質問を投げかける。
この部屋で何か手がかりが見つかるといいが、そこまで期待している訳ではない。
とりあえず、これで有力な情報が得られなければ、また他の場所へ移動するつもりだ。

147『きらきら星を追え!』:2016/07/11(月) 22:55:46
>>146

 小石川の問いかけ。それに少し別の方向に旅立っていた目に力が戻ってくる。

「ん? 何の実験じゃと??
そりゃ、お前さん決まっておる。『愛するものどうしのキス』の『味』を作る為じゃい。
 これが完成すれば、注がれた金平糖を食べた者は、一口齧った瞬間に
自分の愛する者と口付けする瞬間を体感する。ヨボヨボで恋や愛が褪せた者も
若き頃と同じようなドキドキが味わえる。恋も愛も知らぬような子供には
母親や父親にキスされた時、或いはそれに近い時の事が体感できる。
 齧るだけで『恋』が、若しくは『愛』が味わえる。正に『魔法』じゃ。
 だが、まだ成分が足りんのか上手くいかん。一体何が足りん…何が」

 そこでポポノ博士は自分の世界へと帰っていった。
貴方が声を掛けると、結構長く天使が通った後に顔を上げる。

「……ん、ゴーストじゃと?
お前さんがゴーストじゃろ? んっ ラポコ君、この人は巨人だとな?
まぁゴーストでも巨人でもフラダンスする風船でも何でもいいんじゃが
ゴーストが何であるかなど決まっておるじゃろう。
 ――この工場の一番最初の『住人』じゃよ。
……いや、生きてないのじゃから『住霊』と言うべきなのか?? まぁ
ともかく、彼女は工場の事を一番熟知しておるじゃろう。
 おぉ、そうじゃ。あの人にも今度、まだ試作運転中ながらも稼働出来るアノ
マシーンを扱って……記憶、合成、甘い思い出……その相乗のリズムを……ブツブツ」

 そこで、また自分の世界へと旅立った。
全ての情報を掌握した訳ではないが、どうやら『ゴースト』が比喩や何かの能力の
産物とかでなく、実際の幽霊らしいと言うのは話を総合してみると一番有力そうだ……。

148小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/07/12(火) 21:02:04
>>147

  「――そんな『味』も……あるのね……」

ポポノ博士の説明を聞いて得心が行った。
この部屋の奇抜さに圧倒されて、ここが金平糖工場の一部だということを忘れていた。
それなら、この部屋でも新しい味の開発が行われていたとしても不思議はない。

     スッ

知らず知らずの内に、そっと指先を伸ばして自分の唇に触れる。
愛する者との口付けの体感――もし、それが実現できたとしたら、どんなに素敵なことだろう。
今は上手くいっていないようだが、是非とも完成させて欲しいと、心から思った。
しかし――そうなると、この部屋に置かれている奇妙な品々も、そういった研究の結果なのだろうか。
だとすれば、それらは一体どんな味を目指して作られたものなのだろう?
その点に関しての疑問は尽きないが、ひとまず頭の片隅に追いやることにした。

  ――この『工場』の『最初』の『住人』……。

博士の言葉から、『ゴースト』がスタンドの本体であるという仮説は、より信憑性を増してきたように思える。
やはり、『彼女』に出会うことができれば、一連の謎を氷解させられる可能性は高い。
問題は、『ゴースト』の居場所だが、こればかりは自力で探すしかなさそうだ。
そして、ここにきて、また同じ言葉を聞かされてしまった。
こうも間違えられるということは、自分と『ゴースト』の容姿は、よほど似通っているのだろう。
何度も言われていると、まだ一度も出会ったことがないにも関わらず、奇妙な親近感を覚える。
そして、気になることは、もう一つあった。
『ゴースト』が文字通りの意味で『幽霊』であることは、博士の話で既に確定している。
また、ラポポ達の父親は、『彼女の中には大きな愛情が詰まっている』と言っていた。
そうなると、『ゴースト』である『彼女』が工場に留まっている理由は、『愛』なのだろうか……。
もし、この仮定が正しいとするなら、とても他人とは思えない。
『彼女』に会ってみたい――その思いが、自分の中で一段と強くなるのを感じた。

  「――ありがとうございました。この研究の成功をお祈りします……。
   二人とも……もう一つの部屋に行くことにしましょう」

収穫としては十分だ。
あとは二人も行ったことがないという部屋を調べてみよう。
『魔法』の部屋を出て、残った部屋へ向かいたい。
ラポポ達の父親は、『求めたならば彼女は望みに応じるでしょう』とも言っていた。
彼の言葉を信じるならば、自分は少しずつ『ゴースト』に近付けているのだろうか?

     ドクン ドクン ドクン ドクン

ひそかな期待を込めて、最後の部屋の扉を開く……。

149『きらきら星を追え!』:2016/07/12(火) 22:54:26
>>148

 その扉は……今までのように何か説明書きがされてる事もない、白い扉だった。

「お兄ちゃん、この部屋。何の部屋かわかる?」

「いや、おいらも良くこの部屋の事は知らないな……。ポポノ博士が
確かこの部屋のほうに行ってたのは見かけた事あるけど。
 詳しい事は教えて貰ってないし……あぁ、そうだ。そう言えばゴーストは
この部屋によく入ってたんだよ。だから、あんまり近づく気にならなかったんだ」

兄妹の声を聞きながら、貴方は扉を開く。

 
 ――真っ白だ。

四方全体が白い。縦も横も大体五メートル程度だろうか? 狭くはないが
そんなに広い訳でもない。そして、部屋には余計なもの何一つない

 「あれ? 何も置かれてないな……何もないし、ただの空き部屋か?」

「うぅん、お兄ちゃん。よく見て……真ん中に何か描かれてる」

 ロポポが指した場所。その部屋の真ん中には目を凝らすと
何か紋章のようなものが描かれてるのか見て取れた。
 描かれてるものの近くにも、ミミズのようなのたくった文字らしきものもある。

 ……近づかないと、正確に何を書いてるのが解らない。




(※確認ですが、小石川PCの旦那様の呼び方は『文子』でしょうか?
また、よく二人で一緒に過ごしてた場所を大雑把でも構いませんし
星見町の細かい場所でも良いので、申訳ありませんが
 教えて頂けるとありがたいです)

150小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/07/13(水) 21:19:55
>>149

     スゥッ

この白い扉が明らかに異質であることは、最初に見た時から理解できた。
だからこそ真っ先に調べるという選択もできたが、あえて最後にしておいたのは、
できるだけ多くの情報を集めた後で入りたかったからだ。
おそらくは重要な場所であろうし、何も知らないで入るよりは、
事前に知識を得た状態で入った方が、大事なことを見落とさずに済むだろうと思えた。

     カチャ

『ゴーストがよく入っていた』という言葉は、心の中にある期待を強めるには、十分すぎる裏付けだった。
もしかすると、今も室内にいる可能性もある。
この工場で最も謎に満ちた存在である『ゴースト』――『彼女』と対面した時、
自分はどのように声をかけるべきだろうか。

     キィィィ……

  「……何もない部屋ね……。それに、誰もいない……」

だが、にわかに高まる期待に反して、部屋は無人の状態だった。
しかし、まだ諦めるのは早い。
この部屋の中に『ゴースト』の手がかりが残されているかもしれない。
そんなことを考えていると、ロポポの言葉が耳に入った。
よく見ると、確かに何かが描かれているようだ。
紋章らしきものの傍らにあるのは、文字……だろうか?

  「――これは……?」

ゆっくりと近付いていく。
これが手がかりになってくれるといいのだが……。
その内容に目を走らせ、静かに黙読する。





【※備考】

・呼び方について
その認識で構いません。

・よく二人で過ごした場所
『彼』と出会った場所でもある『Heads or Tails(ヘッズ・オア・テイルズ)』というカフェとバー兼業の店。
白と黒のモノトーンで統一された落ち着いた内装で、昼はカフェ、夜はバーを経営している。
マスターは無口で物静かだが愛想はいい。
以前に住んでいた町(星見町近辺の町)で営業していたため、星見町にはなかった。
しかし、最近になって星見町に店舗が移転しており、自分もそのことを最近知った。

151『きらきら星を追え!』:2016/07/14(木) 09:44:26
>>150

 ソレは、不可思議な形をした印章だった。
貴方の記憶の、どの国や地図などに載ってる記号にも当てはまらない不思議な形。
 だが、その形は今この場ではそこまで重要ではないだろう。
下には、小さな文字でこう書かれていた。

    
          決して色褪せぬ光は すぐ傍に すぐ此処に
                
                Twinkle, Twinkle,Little Star


 その文章が目に留まると同時に。

 「み 見て……!」

 「紋章が光り始めたぞっ!?」

 貴方が何かを止める間もなく、行動を起こすよりも早く
その地面に刻まれた紋章は、最初青白く、そして瞬く間に赤と黄を
入り混じったようになり、そして真っ白な光へと変化する。

        そして


    ――ペ     カーーーーーーーーーッッ!!!


 そして、室内全体を瞬く間に発光が満たした。

 貴方も、小人達もその眩さに目を閉じてしまう。

 僅かな時間ながらも強烈な奔流となった光の圧力に、瞼を閉じるその間。

 〜〜〜♬

 貴方は、音楽が耳の中を通り過ぎるのを聞いた。

 この音楽を、貴方は良く知っている。よく理解している。

コレは……『Heads or Tails(ヘッズ・オア・テイルズ)』で良く流れる伴奏だ。

152『きらきら星を追え!』:2016/07/14(木) 10:02:27
>>151続き
〜〜〜♬

 伴奏が流れている。曲はピアノのスローJジャズだ。

貴方はバーのカウンターの丁度手前に立っている。周囲は薄暗い中に
淡く輝くオレンジのライトを見るに時間帯は夜だろう。
 
 「うわぁ……綺麗な場所」

 「へぇ、大人の巨人達ってこんな洒落た場所に来るんだなぁ」

肩のほうから声がした。無論、貴方にずっと付き従ってるラポポにロポポだ。
 真っ白な室内に居た筈が、貴方にとって思い出深い場所である
Heads or Tails(ヘッズ・オア・テイルズへと、小人と共に貴方はいる。
 カウンターでは、丁度貴方の知り合いであるマスターが黙々とグラスを拭いている。
わざとか、それとも気づいてないのか。貴方に対して何か反応して干渉する様子はなかった。
 これはスタンドによる幻覚なのか、それとも本当の瞬間転移なのか。そう言った
疑問も貴方には生まれてくるかもしれない。だが、それは次に後ろから聞こえた
言葉によって、全て芽吹こうとしていた疑問は終ぞ流されてしまう事であろう。


            「――文子」


 ……それは、貴方がもっとも忘れずにいた人の声であった。
 
   それは、貴方のことをきっと誰よりも知るものの声だった。
   
   それは、貴方にとって、何モノにも替え難い、もう一度聞きたい声であった。

   
 貴方が振り向けば、其処には。

 右手の指は『六本』。身長は180程の長身ながらも全体的な雰囲気から優しさが滲み出ている。

 たった一言の名前の呼びかけ。それだけにも関わらず慈愛と貴方を想う気持ちが
溢れ出ていて、そして其の顔と眼差しは全てを貴方に委ねる事を認知している。


 貴方の愛する者   ――『小石川 治生』
 
 その彼が……貴方へと微笑みかけ佇んでいた。

153小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/07/14(木) 21:10:58
>>152

  「……『きらきら星』……?……ッ!?」

紋章の下に記された文章――謎めいたメッセージが視界に入る。
しかし、そこに込められた意味を理解することはできなかった。
より正確に言えば、理解している『時間』がなかった。
紋章から放たれた強烈な光は、瞬時に室内を満たす。
咄嗟に後ずさろうとするが、それさえも間に合わない。
為す術もなく、まばゆい光の中に飲み込まれていくのを感じた。
自分にできることといえば、ただ瞼を閉じることだけだ。
だからこそ、余計に耳の感覚が鋭敏になっていたのかもしれない。
聞き覚えのあるピアノ曲が聞こえた時には、そこは既に『白い部屋』ではなかった。

  「――こ……『ここ』は……!」

     ゴ   ゴ   ゴ   ゴ   ゴ   ゴ   ゴ

初めて工場に来た時と同じような瞬間的な移動(ワープ)――それから僅かに遅れて状況を理解し、
驚きの声を上げる。
自分にとって思い出深い場所を見間違えるはずがない。
ここは確かに『Heads or Tails(ヘッズ・オア・テイルズ)』の店内だ。
昼のカフェと夜のバーという異なる姿を持つ様を、コインの表と裏になぞらえた名前は、
愛する者と出会った場所として、記憶の中に強く残っている。
白と黒のモノトーンで統一された内装も、穏やかに流れる情感豊かな音楽も、
それらが一体となって織り成す雰囲気も、何もかもが同じだった。
ご丁寧にも、カウンターの向こう側には、顔見知りである初老のマスターまで立っている。
いよいよもって、完全に本物と同様だ。
果たして、これは現実なのだろうか?
マスターがこちらに対して何か反応を示していれば、
――もともと客に対して不要な干渉はしない人物なので分かりにくいというのはあるが――
ある程度は区別できたかもしれない。
だが、次の瞬間――そんな考えは、まるで最初からなかったかのように、忽然と頭から消え去っていた。

     ド   ド   ド   ド   ド   ド   ド

それは、もう一度聞きたいと願っていた声だった。
同時に、もう二度と聞くことのできない声でもあった。
反射的に振り向いた顔は、工場で数々の秘密と対面した時とは比べものにならない程の驚愕に彩られ、
両方の瞳を大きく見開いたまま硬直していた。

  「あ……」

息が詰まり、一筋の涙が頬を伝う。
『彼』が、ここにいるはずがない。
再会できるわけがない。

  「は――」

だって、彼は。
彼は、もう。
――『死んでしまった』のだから。

  「――『治生さん』ッ!!」

そんなことを考えている余裕など、あるはずがなかった。
片時も忘れたことのなかった『彼』の名前を呼び、照明を反射して煌めく涙の粒を散らしながら、
その胸に飛び込むために駆け出す。

今の自分にあるのは、ただ『それだけ』だった。

154『きらきら星を追え!』:2016/07/15(金) 00:41:19
>>153

 貴方、小石川は。最愛の相手の胸に飛び込まんと駆け出した。

これが、ただの幻想であり。もしかすれば今の風景や、その相手すらも
ホログラムのような脆いものかも知れない。
 そう言う、悲しい現実も存在していた可能性はあった。だが、この工場は
この部屋は……『夢を抱くもの』を、裏切る事はないのだ。

 
 ―ガシッ

胸板の中に納まるように、貴方の体は『治生』へ預けられる。すり抜けたりもせず
彼の体は死者のように冷たく作り物めいたものではない。
 長く共に居た貴方ならば実感できる。密着した際に聞こえる鼓動も、その体温も
その背中に回される、泣きたい程に優しい腕の感触も全てリアルで。これがチャチな
幻覚の産物である等と、疑う余地はないだろう。

 夢だろうとマヤカシであろうと構わない。 この時間が永遠に続けばいい。

時間にしては一分も満たなかったかも知れない。だけど、貴方が望むよりも
無常に、貴方を取り巻く時間は貴方の意思に関係なく前に進んでいく。

 「――文子   忘れないで欲しいんだ」

抱きすくめた彼は、貴方の両肩に手を置き、お互いの顔が見えるように
少しだけ密着した体に距離を置いて、そう言葉が紡がれた。
 貴方の目元に流れる涙を、その六本指の人指し指の腹が拭い
ゆっくりと、耳に染み込ませるように声はピアノジャズに交じるように発せられる。

 「僕の言葉を 僕が君と歩んだ道のりを」

「文子   君が覚えてくれる限り、僕はいなくならないよ 決して
目に見えなくても、瞼を閉じれば。すぐ傍に    僕はいるよ」

「君を愛してる   ――文子」

 
 其の言葉と共に、『治生』の体から、淡い白い光の粒子が昇る。
感覚的に、貴方は直感で『終わり』が近いのだと予感した。
 
 足先から、頭のてっぺんまで彼の体を白い優しい光が包み込む。
『Heads or Tails(ヘッズ・オア・テイルズ)』の中、すべても気づけば
白い粒子へと包まれていく。

 あとは、一瞬だった。

 また再び、白い奔流が貴方達を襲い。目を開いた時には
白い何もない壁が貴方を迎え入れる。
 先ほどの邂逅が、ただの短い夢であったように。彼の痕跡も全てない。
……いや。
 貴方は覚えてる。肌と肌をあわせ感じた優しい体温を。目元を拭った
その感触を、覚えている。

 光がすべてを包み込む前に、何もかも知り抜いてるかのように
包み込む微笑みを投げかけた治生の表情を、想いを。


 ……ガチャ。

 ふと、背後から扉を開く音が聞こえた。……この工場で
人間用サイズの扉が開く音は自分の手を除いて聞いた事はない。

第三の人間か、或いは貴方が会いたいと望んだ意中の相手か。
 振り向けば、相対する事だろう。

155小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/07/15(金) 22:17:05
>>154

  「あぁ……!私も……私も愛しています……!!治生さん……!」

これは夢?それとも幻覚なのだろう?
しかし、そんなことはどちらでも良かった。
再び『彼』と出会えるなら、たとえ残酷な悪魔の戯れであろうと、一向に構わない。

  「――これからも私は生きます……!
   この世界で生き続けます!
  あなたとの約束を必ず果たします……!」

『彼』の『言葉』――それは今でも昨日のように思い出せる。
あの日、『彼』は『自分の分まで生きて欲しい』と言い残し、すすり泣く自分の前で息を引き取った。
それが『彼』の『遺言』だった。
その『遺言』を全うすることこそが、『彼』に対して自分がすることのできる最大の手向けであり、
『真実の愛の証明』なのだ。
自らの命を絶つことで、『彼』の下へ旅立ちたいという欲望に苦しめられたとしても、
『死の誘惑』に負けることは許されない。
その決意を、今この場で改めて、強く胸の内に刻み込む。

「だから――どうか私を見守っていてください……!」

心の中では、この時間が永遠に続いて欲しいと願っているが、
それが叶わない望みであることも分かっている。
それでも、終わりが訪れる前に、この一言だけは伝えておきたかった。
光の粒子に包まれた空間の中で、最後の瞬間まで目を離すことなく『彼』と向き合ったまま、
白い奔流に押し流されていく――。

やがて――目の前にある白い壁を見て、戻ってきたことが分かった。
だが、しばらくの間は動くことができず、呆然と立ち尽くしていた。
まだ夢の中にいるような気分だった。
しかし、それは決して夢ではない。
あの思い出深い場所で、死に別れたはずの『彼』と再会し、確かに触れ合ったという感触が、
そのことを裏付けている。
『彼』がいなくなった後の空白を埋めるには、余りにも短い時間ではあったが、
『彼』と想いを伝え合えたことを実感できただけでも十分だった。
そっと胸に手を当てて、静かに深呼吸する。
未だ深い底に沈んでいる意識が、現実の世界に引き戻される。
背後から音が聞こえたのは、その直後だった。

それは、自分と同じように工場に迷い込んだ第三者なのか。
それとも工場を管理している金平糖会社の人間なのだろうか。
あるいは――この工場の最初の住人である『彼女』なのかもしれない。

     ゴ   ゴ   ゴ   ゴ   ゴ   ゴ   ゴ

その正体を確かめるために、ゆっくりと振り向いた……。

156『きらきら星を追え!』:2016/07/16(土) 19:12:03
>>155

 白い奔流が、彼の姿を覆い隠す前に。小石川が告げた言葉
それを、しっかりと力強い微笑を交え頷く『治生』の姿を、貴方は目に焼き付けた。

 深呼吸、それと同時に背後から聞こえる音。 貴方はゆっくりと振り向いた……。


 ┣¨ド┣¨ド┣¨ド┣¨ド┣¨ド┣¨ドド┣¨

               『――……』


 ……その開いた扉に佇んでいたのは  女性だ。
背格好は中肉中背、貴方と似た体形をしてる。だが背丈は少し小さいように見える。
 うなじは余裕をもって隠れ、自然に下げた腕の肘さき程度まである長髪。
 髪の色はおそらく黒、だが……『透き通っている』。そう、その女性は全体像を
見る限り、向こう側が見えると言う程の透明度ではなくも、ガラスめいた透明さを帯びてる。
 着ている服などはチェスターコートで、年代を感じさせない。恐らくは現実の服らしきものを
身に着けてるようだが、露出してる顔や手などが服により其れを一段と際立たせていた。
 それと、次に注目されたのは『雰囲気』だ。
女性は……何処か『儚げ』な空気を身にまとっていた。
 貴方を見る顔に、不法侵入さに対する憤り及び意外なる歓迎の色など
持ってはおらず、彫刻めいた無機質さが少しあるものの、何処か哀愁が漂っていた。
 推測なるが、この『哀愁』めいた気配が。貴方と、ゴーストを小人が
見間違える要因なりえたのだろう。

 『……此処はね』

その容姿は十代後半のようにも妙齢の女性にも見える
年齢感じさせぬ顔ながら、発せられた声は歳月を長く帯びてるように思える。

『追憶……そう名付ける予定だったんだ。この部屋はね』

 女性は、普通の人間の足音よりも幾分軽い反響と共に貴方に距離を狭める。
部屋の中へと溶ける言葉は、勝手に工場に入った貴方を咎めないし非難してる
様子もない。ただ、ただ何かを想い偲ぶように、切ない感じを秘めている。
 白い壁に手をつけ、ゴーストの女性は淡々と語り続ける。

 『とは、言うものの……この部屋をずっと稼働させるべきか悩んでもいる。
余りに辛い傷は、余りにも辛く心が頷けない出来事を、人は時間が
癒してくれるまで、その胸のなかに収め続ける。いつか其の痛々しい光も
星となって還るまでね……それは、定めでも苦しい事には変わりない』

 女性は、貴方がこの部屋で何を見聞きし、何を感じたのかを理解してるようだった。

暫く、どちらも何も言えない空気が続いてから、女性は貴方に顔を向けた。

 『……私はゴースト。貴方は私に
聞きたい事 知りたい事が沢山あるだろうね』

 そう、透き通った瞳の色は貴方の姿へと染めて言葉を待つ。

157小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/07/17(日) 19:45:19
>>156

  ――この女性(ヒト)が……『ゴースト』……。

     ドクンッ

背後にいる者の正体を確認し、思わず息を飲む。
その透明感を帯びた姿を一目見ただけで、『彼女』が自ら名乗る前から、それが誰なのかは理解できた。
初めて存在を知った時から、会ってみたいと思っていた『ゴースト』――その『彼女』が、
自分の目の前に立っているのだ。
こうして相対してみると、彼女からは確かに自分と似たものを感じる。
それは外見の共通点というよりも、むしろ内面から滲み出る雰囲気によるものだ。
そのことに気付いた時、小人達が自分と『彼女』を見間違えていた理由も納得できた。
そして、また新たな疑問も生じる。
『彼女』が身に纏う『哀愁』は、どこからくるものなのだろう?
愛する者を失った自分と同じように、『彼女』にも何か背負っているものがあるのだろうか……。

  「――初対面でこんなことを言うのは失礼かもしれませんが……
   私はあなたに『不思議な親近感』を覚えています。
   あなたに近付いていく度に、その思いは強くなっていきました……。
   あなたという人が他人とは思えないのです」

こちらに向けられた文字通り透き通るような『彼女』の瞳を見つめて口を開く。
向かい合っていると、まるで鏡を見ているような気分だ。
しかし、改めて考えてみると、不思議な道のりだった。
最初は、取材に行き詰まっていた有菜を手助けするためだった。
だが、思いがけず小人達と出会ったことで、少しずつ奇妙な世界に引き込まれていった。
そして、最後には自分の意志で、工場を司る『ゴースト』に会いたいと強く思うようになっていた。
こうして、もう一人の自分とも思える『彼女』に巡り会ったことは、果たして偶然なのだろうか。
最初に足下に転がってきた金平糖(リトルスター)――その導きに従った自分がここまで来たのは、
もしかすると『運命』だったのかもしれない。
今の自分は、そんな心持ちだった。

  「ですから――教えて下さい。あなたのことを。そして、この場所のことを。
   もし、あなたが話したくないなら、全てを教えて欲しいとは言いません。
   ですが……できる限りのことを話してもらいたいのです」

もし――これが『運命』だというのなら、自分は受け入れよう。
だからこそ、自分が知ることのできる全てを知っておきたい。
自分の意志を伝え、静かに『彼女』の返事を待つ……。

158『きらきら星を追え!』:2016/07/17(日) 23:23:32
>>157

 『    ……    』

『私が何者か   か……』

『……もう永く  此処で過ごし続けた。もう永い間……記憶を背負う事を
億劫と感じる程に。……私が何者か か……』

 『   ……忘れて …………しまったよ。
しいて言えば 私はゴースト。この工場の管理人……それでいいじゃないか』

暫く、女性は眼を閉じ 瞑想するような表情で白い壁に額を突き合わせるように沈黙を守っていた。
 そして、掛けられた貴方の言葉に。静かにだが良く通る声で室内の白に溶かすように答えた。
ゴーストは自身の事を、貴方に独白する事はしない。それが文面通りにすべての過去を過去と割り切り
工場の外へ出してしまったが為か……若しくは彼女も貴方と同じく誰かに伝えるには苦しい過去を
背負う者の一人なのかも知れない。一つだけ事実なのは、これ以上彼女は自分自身について
深く内情を洗いざらい言う事はない。少なくとも『今』はまだ……。


また暫く鎖された口、そして時。だが次に後に開いた瞳は。
 透明な中に何かしら強い一点の光を携え。貴方を見て告げる。

 『少し   歩こうか』

 ……貴方はゴーストに連れたって歩き始めた。肩には居心地悪そうなラポポに
少し緊張した感じでロポポが座り、ゴーストの背を見つめてる。
 歩く方向は、あの廊下の突き当りの過去←→この先整備中 の方角だ。
 
 床を叩く一定の音と共に、ゴーストは流れるように貴方へ告げる。
『……この工場は、謂わば現実に近くも、かなり遠い場所にある。
謂わば【異空間】と称すべきなんだろうな。其処に、此処はある』

 彼女が何て事のないように話し始めたのは、貴方にとっては
衝撃的に感じられるかも知れない内容が幾つか含まれていた。

 曰く、この『工場』は現実とは異なる空間に存在する。
この『工場』を行き来する手段としては、一番自由に出入り出来るのは
『小人』であり、次に『小人』が許したものが工場に入る事が出来る、との事だった。

『だが、これも意外とね。中々安易なものではない』

『小人は一度気が許したものに対しては寛容だし、犬猫のように人懐っこいのが大部分だが。
反面……危害を加えようとする行動や意思には頗る敏感だ。
 だから危険だと思える生物には直ぐに自分達から離れていく……その性質が
長らく彼らが他の、スタンド使いと言われる者たちからも暴露されてない理由だろう。
 例外としては私が何かしら小人が見える存在を連れて来てくれるようにするとか、そう言う
指示をしてたりなどすれば別かも知れないが……そう言った部分も含めて
突然の招かざる客であるが、貴方を強引に追い出さない訳でもある……最も
工場を、小人達を傷つけようとする素振りが少しでもあれば……私も何かしら手段を講じたか』

 「! おいっ、巨人は何もおいら達にひどい事をしてないぞっ。
おいらにロポポも母ちゃんから守ってくれたし父ちゃんも助けた。
意地悪なコルボだって驚かせただけだったし、それに それにっ」

『……』

穏やかでない言葉に。ラポポは向きになって言い返す。だが、それを
暫し無表情で見つめてから。フッとゴーストは軽く、その時はじめて柔らかと
思える表情を作り上げた。

 『大丈夫だよ……君らの友達を傷つける気はない。
むしろ……あの部屋に入って苦しんだのは、彼女のほうだろうから』

 「それは どうして?』

ロポポが次にゴーストへ首を傾げ聞く。ゴーストは、少しだけ瞼を伏せて呟いた。

『……追憶の間は、去りし日々の、一番思い出深い時を再現してくれる。
それは、とても焦がれた時であり、願ってもない光景だろうけど。
 だけど自由の利くものじゃない。すべては過去の自身の記憶のリプレイでしかない。
だから、どんなに再現をしても。自分の最も会いたいと思える人の姿は
記憶の産物の再現にしか鳴り得ない……そう気づけば、更に深く傷は増すばかりさ』

 「……え? ん??」

ロポポは、ゴーストの言葉を聞いて困惑と疑問を織り交ぜた顔で貴方と
ゴーストを交互に見比べた。……確かに今の内容は少し何か齟齬がある気がする。

 ゴーストは整備中の道に曲がるようだ……まだ何点かの質問に答えてくれるだろう。

159小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/07/18(月) 19:54:54
>>158

  「――そう……ですか……」

『彼女』は本当に忘れてしまっているのだろうか。
それとも、言いたくないという意味なのかもしれない。
いずれにせよ、『彼女』に話す気がないというのなら、これ以上の追及はできないだろう。
だが、それでもいい。
もともと無理に聞き出すつもりはなかった。
全てを知りたいという気持ちはあるが、それよりも『彼女』の意志を尊重したいと思う。

     コクッ……

『彼女』の言葉を聞いて黙って頷き、その後に続いて廊下を歩く。
向かう先は、初めて見た時にも不思議に感じた場所だ。
あるいは、自分の質問に対する『彼女』の答えが、この先に待っているのだろうか。

  ――この場所そのものが能力の産物……?

この工場の所在に関しては、決め手になるような手がかりが得られなかった。
しかし、『彼女』の話によると、この工場自体がスタンド能力で作り出された空間だと考えた方が良さそうだ。
今までは確証がなかったが、管理人である『彼女』の言葉によって、それが裏付けられたことになる。

  「――もし違ったのならごめんなさい……。『ご存じ』だったのですか?私の行動を……」

そして、『彼女』は『傷つけようとする素振りが少しでもあれば』と言った。
つまり、工場に来てからの自分の行動は、最初から把握されていたということだろうか。
そう考えると、『追憶』の部屋で自分が現実に帰還した直後に、
まるで見計らったかのように『彼女』が姿を現したことの説明にもなるように思えた。

  ――記憶の再現……。やっぱり、そう考えるのが一番……。でも、あれは……。

柔らかな表情の後に続く言葉――分かってはいたものの、率直に言われると、
それを受け入れるのには勇気がいる。
確かに、冷静に考えれば、『彼』と出会えることなど有り得ない。
『彼女』の言うように、部屋に入った人間の記憶の再現だというのが、最も理にかなった解釈だろう。
しかし、あのリアルな感覚は、単なる幻想だったとは思えない。
現実と見間違う程の実体感を持った幻とも言えるかもしれないが……。
実際に体験した自分としては、とてもそうとは思えなかった。
それに、あの部屋で自分は苦しみなど受けなかったし、むしろ感謝しているくらいなのだ。
安っぽい表現ではあるが、そこで何かの奇跡が起こって『彼』と出会えたのだと、自分は信じていたい。
これだけは、誰に何を言われようとも、譲りたくなかった。

  「スタンド使い……。先程あなたはその言葉を使っていました。
   既にご存知でしょうが……私もスタンド使いです。
   あなたも……そうなのですか?
   この工場や住人達は、あなたの能力が関わっているものだと……?」

一瞬だけ『スーサイド・ライフ』を発現してみせ、すぐに解除する。
『彼女』が工場や小人達の本体だというのは、もはや疑いようがないようにも思えるが、
念のために確認しておきたい。
万に一つという可能性もないではない。

  「この工場に来る他の人達もスタンド使いなのですか?
   会社の方達のようですが……。
   あなたとは、どういった繋がりがあるのでしょう……?」

これも気になる点だ。
『彼女』の方から――または小人の方から――会社と接触したのか、それとも逆なのだろうか。
ここが『異世界』であることを考慮すると、前者の方が妥当に思えるが……。

160『きらきら星を追え!』:2016/07/18(月) 23:34:39
>>159

>『ご存じ』だったのですか?私の行動を
>この工場や住人達は、あなたの能力が関わっているものだと……?

『あぁ、そうとも。だからこそ工場内で起きてる事は全て私は理解出来る……
と、言えれば良いんだがね』

フゥー…

ゴーストは、長く細い溜息をはき。少し顔を俯かせてから気怠く
天井へと仰いだ。

『……最初に貴方が訪れたのは牧場……だったかな。一応、例外を除き
殆どの場所には小人達が各々の働きをしている。その内の幾つかには私が
頼んで……知らない人間が訪れたら私に報せる。そう役目を課した。
 本当に、そんな何て事のない理由なんだ。』

『……単純に、この工場が私の力の産物。と答えられればいいんだがね。
正直……本当に正直に言わせて貰えれば
   私には解らないんだ。
 私が、私と言う肉体から離れた時。私はそう、幽霊と言う存在になっていた。
今の世間一般の幽霊と言うものがどうかは知らないが。
 その当時、私は酷く脆かった。小さな鳥、いや強めの風に運ばれた枯れ葉が
体に当たっても私は千切れ千切れになって何処かに野晒しになっていただろう。
 君が考えるよりずっと、私は脆弱で、幼子よりも希薄だ。
もっとも、今では何とか現実の服を羽織れるぐらいの固さはあるが……』

『話を戻すが。私は死人だ、其れはこの透き通った体からも明白な事だ。
 そして、私は私と言う存在の壊れ易さに恐怖していた時、ふと、気づけばだ。
狭く、暗い場所に気づけば私は一人、そこに居た。
 ――それが工場だ。
 私と言う存在が、人でもない、スタンドと言う精神的なエネルギーの塊でもないからこそ
工場は私を管理人として認めてくれて、此処の管理人に仕立て上げたか。
 それとも私の恐怖が発端となり、この工場が生まれたのか……私には今もその理由を
推し量る事は出来ない。そして、解明出来なくても別に構わないんだよ。
 試してはいなくとも、私は君たちのいる場所まで……この身で出ようと思えないんでね』

そう、ゴーストは錆び付いたような微笑を浮かべ告げた。

>この工場に来る他の人達もスタンド使いなのですか?会社の方達のようですが……。
   あなたとは、どういった繋がりがあるのでしょう……?

『あぁ……ソレか』

ゴーストは、その問いに軽く息を吐きだす。重たく、長い過去を
掘り出すかのように、大きく息を吸い目を閉じる。

 そして、目を開くと答えはじめた……。

161『きらきら星を追え!』:2016/07/18(月) 23:35:25
>>160続き

『……話が戻る事になるが。私はこの工場の管理人となった。随分と昔になる。
 私は、最初こそ生まれてきた小人……君の肩にいる子達と話したりする事でも
満ち足りていた……だが、私は結局の所、死因が何であれ人恋しかったんだろう。
 私は、私の事を見れる小人以外の誰かと会いたいと願った。そしてソレを口にした。
……彼らは、私の願いに答えてくれたよ。長くなるし、そこまで細かく言う事ではないから
簡潔に言うがね。
 ある日、その希望を叶え来てくれた人間は、私と言う存在に驚きつつも……元から
頭の回る人だったんだ。この工場と、そして私を取り巻く小人達の力を把握出来る人だった。
 だから、それで現実の世界と強固な繋がりを作らないかと提案した。
アレは、私のゴースト人生の中でも、かなり衝撃的な出来事だったろうな。
あれやこれやと、気づけば私は小人達の力で不思議な金平糖を作る工場の工場長と言う
立場になっていた……と、これが真相だよ。
 招かれる人間は、小人が見えると言う資格がない以外で工場に来るのは困難だろうからね。
結果的に、スタンド使い。そう言う事になる……私がスタンド使いと言う単語を知ったのも
小人達が人間を招いてくれたからこそ知った事だ。
 彼らはまぁ、この工場と言う存在自体に関心もっていたり、私と言う存在が危険がどうかと
言うのに懸念を抱いてたり様々だが……私としては、小人達が常に幸せでいてくれさえいれば
何も望まないよ……彼らは私の大事な星(リトルスター)なんだから』
 
 言い切る彼女の顔は。多少正直に話してる事で恥じらいに近い感情が見えつつも
嘘や何か白を切る様子はなかった。彼女の小人達に対する感情が真実だと
悟ったからか、ラポポも軽く照れた様子でそっぽを向いてるし、ロポポも頬を軽くピンクに
染めて笑顔を浮かべていた……。

 ――――――――――――――――――――――――

『整備中』の通路を入っていくと、その空間は随分と歪と化していた。
 通路部分は湾曲となり、部屋と言える部屋らしき扉がない。
前方への道が段々と全てに曲線の線と線と言う部分らしきものが
なくなっていくと言う、見るだけで段々気分が変になってくる状態になっている。

『……此処は、まだ作られてないんだ。【想い』が多分、不完全なんだろう』

『それでも、この先を進まなくちゃいけない。気分が悪くなったら
私の背中だけをじっと見続けなさい』

 ゴーストは、そう言葉を掛けて先導して歩いていく。
道と言うものが形成しえない中で、貴方は彼女と共に前へ進んでいく。
 これから何処に行くのか? その外にもまだ聞きたい事があれば
彼女は歩きがてら目的の地に着くまで良識の範囲で答えてくれるだろう……。

162小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/07/19(火) 20:44:17
>>161

  「――よく……分かりました……」

『彼女』の話によって、ほとんどの謎は解けたことになる。
それでも、まだ明らかになっていない部分も幾つかある。
その一つが、工場と『彼女』の繋がりだ。
『彼女』が死後にスタンドに目覚めたのかもしれないし、
本体がいない状態で一人歩きしていたスタンドが、『彼女』を本体と認めた可能性もある。
先に存在したのは『彼女』か、それともスタンドか。
それは、まるで『卵と鶏のどちらが先か』という議論のように掴み所がなく、結論の出しにくい問題だと言える。
なにしろ当の『彼女』自身にも分からないというのだから、その点はどうしようもない。
しかし、それも悪くはない。
謎は謎のまま――それも一つの結論だと思う。

     フラッ

それにしても、このトリックアートを思わせる奇妙な通路は、
『魔法』の部屋に勝るとも劣らない異様な雰囲気を発している。
今も足下がおぼつかなくなっているが、ずっと見続けていると、
自分が立っている場所すら分からなくなりそうだ。
気分を落ち着かせるという意味も兼ねて、再び『彼女』に質問を投げかける。

  「ところで……この工場の部屋というのは、自然に作られるものなのでしょうか?
   あなたが作っているというわけでは……なさそうですね……。
   よければ、その『想い』について聞かせてもらえませんか?
   金平糖の作り方を説明していただいた際にも、同じ言葉を聞きましたが……」

『グルメ』の部屋で出会った小さなコック達――彼らは、
『想い』を込めることで不思議な金平糖を作り上げていた。
その『想い』こそが、工場内に新たな部屋を生み出す源にもなっているのだろうか。
どうやら『想い』という言葉は、金平糖だけではなく、この工場全体に関わるキーワードのようだ。

  「それから……差し支えなければ教えていただきたいのですが――
   『向こう』には何があるのですか?」

そう言って、こちらから見て反対側に位置する『過去』の方を振り返る。
自分達が進んでいるのは『整備中』だが、向こうは既に完成していることが伺える。
その意味ありげな名前が意味するものは一体なんなのだろう。

  「――そう……言い忘れていたことがあります。『ありがとうございました』……。
   私は追憶の部屋で、私にとってはとても……とても貴重な経験をさせていただきました……。
   あなたは、私のことを気遣って下さいましたが……。
   どのような形であれ……私は、もう一度愛する人と言葉を交わし合い、
   そして触れ合えたことに感謝しています……」

ただ少し不思議なのは、『自分と治生の邂逅』を、『彼女』が知っているらしいということだ。
さっき聞いたように、『彼女』自身が工場内を把握できる能力を持たないというのなら、
部屋の外にいながら中の様子を確認できたとは思えない。
また、小人であるラポポやロポポが、自分が気付かない間に『彼女』に教えたということも考えられない。
そういえば、先程のロポポと『彼女』のやりとりにも、少々引っかかるものを感じた。
なぜ『彼女』は、私が『苦しんだ』と考えているのだろうか。
それは『所詮は一時の幻だから』という意味なのかもしれない。
それなら、単にお互いの感覚の違いということになる。
しかし――本当にそれだけだろうか。
なぜかは分からないが、何か気になった――。

163『きらきら星を追え!』:2016/07/20(水) 15:56:10
>>162

 >この工場の部屋というのは、自然に作られるものなのでしょうか?
その『想い』について聞かせてもらえませんか?
>『向こう』には何があるのですか?

『……』

小石川の問いかけに、ゴーストは暫し無言で歩だけを進めた。
 無視、と言う形に結果的になるが。彼女は貴方の質問に故意に返答
するのを拒否してる訳でなく、その不定形になりつつある工場の奥に
進む事に集中してるようだった。

 周囲は今や完全に道と言う道というものを形成し得ないものと変わっていた。
視界に映るものは白っぽい周囲の色合い以外では踏みしめてる地面と思しきものも
グニャグニャと不安定に揺れており、縦横上下共々、手を伸ばしても硬い感触が反って
こないと思ってしまう、無重力に似た不安定さが寄り集まっている。
 「うぇぇ……周りが全部ぐにゃぐにゃのゼリーで出来た見たいになってる。
此処に長くいたら、きっと体の中身まで上も下もごちゃ混ぜになりそうだ
流石に、おいらも気持ち悪くなってきたぞ」
 「おにーちゃん……私も気分が悪くなってきたぁ」

肩の小人も青い顔でグロッキー寸前だ。
 
『此処を左……前に……右……さらに右……真っすぐ、少し斜めに……よし』

 その方角という概念が全て歪んでる場所を、ゴーストは淀みなくしっかりと
歩を進んでいる。船酔いにも似た、その平衡感覚が可笑しくなりそうな状態は
ゴーストの背だけをしっかり見る事で何とか貴方は歩みを保てる筈だ。

『この道程を乗り越えられるのは……私のような存在、若しくは特殊な能力を
持った使い手か、または鍛えぬいた小人だけだろう』
 
 重々しくゴーストは、告げる。そして、少し立ち止まって、貴方の歩みが
続いてるのを確認すると、こう告げて更に何歩が進んだ。

 『大きく息を吸い込んで、そして腰に力を入れて前に倒れないようにして。
怪我はしないと思うが……それでもだ』

   カツ   コツ  カツ


    ギュ       ゥーーーーーーッンッ!!!

言われるがままに数歩の先を行くと、突如視界の中が急激に変化した。
 今まで平衡感覚が狂うような三次元を超えた湾曲で出来た周囲一帯か
ゴーストと同じ地点まで貴方が進むと、急激に空間全体が貴方のいる地場まで
空間全体が吸い込まれるように、両方の目に白い壁が貴方より少し離れた所に
納まり、そして目の中に、小さな黒い点のように感じる遠距離にあった物体が
新幹線並みの速さで迫り、そして数メートル先に『黒い扉』として確立されるのを、見た。
 貴方は、ある程度のスピードで電車が急停止した時に受けた時と同じ慣性が体に
走るのを感じたが、ゴーストのアドバイスを聞いたのなら踏鞴を踏んでも、前方に
転ぶような事は起きないだろう。

 『……着いた』



     ――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 ゴーストが見つめる、黒い扉にはプレートが掛けられ、其処には
はっきりとした字で、こう飾られている。


               『心臓部』

164『きらきら星を追え!』:2016/07/20(水) 16:19:52
>>163続き

「『整備中』の区画は、文字通りまだ小人達の手と工場の『成長』が
加わらない場所であり……それでいて『近道』でもある。
 もっとも、このルートを使えるのは。かなり少人数だが」

「この『部屋』に、貴方が知りたい『全て』が在ると言っても良い。
この『工場』の根幹を、その能力の本質を知りたければドアを開くだけで良い」

「『過去』……か。あそこには数十年前、或いはそれより最も古い場所。
人の記憶で出来る限りの再現された『山脈』に『星見町』、他にも幾つかの
建造物が小人のサイズで各部屋に設置されてる。……何故そんな場所を作るかと言えば
懐郷……言うなれば過去に埋もれ、すでに味わえなくなった味を、せめて金平糖を齧る
一瞬だけでも再現する為だな……無論、限界もあるだろうが」

 『過去』の区画も『金平糖』の味への素材。そうゴーストは説明する。

だが、次の貴方の質問。その質問には初めてゴーストは滑らかに動かしていた口を止めた。

>どのような形であれ……私は、もう一度愛する人と言葉を交わし合い、
>そして触れ合えたことに感謝しています……


           「――何?」

 ゴーストは、その時初めて。ぎこちない微笑みや、造りめいた徒労の表情など以外で
初めて……『驚き』と思しき顔を露わにした。
 目を大きく開き、その透明な視線は貴方に固定され、そして肩への小人に移る。

 「……本当に? 本当に、触れ合って望みの言葉を
『追憶の間』で想い人が告げたと?」

「うん。巨人は嘘を言ってないよ、ゴースト。
あのねっ、あったかそうな空気を羽織った巨人がね。こっちの巨人と
一緒に抱きしめあって、涙も拭ってたよ。本当だよ」

 「…………」

ロポポの答えに『ゴースト』は、小さな驚愕を顔に秘めたまま貴方を数秒じっと見つめる。
そして、大きく息をついてから。再び彫刻に近く無の表情へ顔を固めた。

 「……一先ず、だ」

口火を切る。貴方が追憶の間で体験した事柄に関しては、少し後回しになるが
この本題を終わらせてから『ゴースト』が回答してくれるだろう。

「貴方には選択がある。扉を開くか……それとも元の場所に戻るか。
決して中のものが恐ろしいものとかではないが……この工場の秘密を
知ると言う事は……小さな確立かもしれない。けれど、この『工場』を
掌握しようと邪念を抱いてるかも知れないものがいれば、その危険を
貴方も背負う事を意味してる。その些細かも知れないリスクを負いたくなれば
このまま扉を開けず、帰る事も一つの道だと私は告げる。
 そうするなら、私は貴方を元の場所まで送り届けよう。
さぁ……     選んで欲しい」

 『ゴースト』は、貴方に選択をなした。

このまま『心臓部』のある黒い扉を開くか。

または……あるかも知れない危うい未来を考慮して、このまま幾らか
目にした工場の秘密を胸に秘めて現実世界に戻るか……だ。

165小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/07/20(水) 21:52:09
>>164

  ――……きっと、今の質問の答えは、私達の進む先にあるのね……。

『彼女』が無言を貫いたのは、答えたくないのではなく、答える必要がないということなのだろう。
ならば、あえて聞き返す必要もない。
そのように解釈し、こちらも沈黙を守ったまま、『彼女』の背中を追って歩き続ける。

     グ ラ ァ ッ

軽い目眩を覚えて、額を手で押さえて俯き、その場に立ち止まる。
顔を上げると、近くにあるはずの『彼女』の背中が、遙か遠くにあるように見える。
いったん目を閉じて心を静め、再び目を開けて気持ちを落ち着かせ、また歩きだす。
それにしても、この異様な光景は、一体どこまで続いているのだろうか?
今すぐ意識を失うということはないが、一歩ずつ歩みを進めるごとに、
確実に神経を消耗していることが分かる。
この状態が長く続くようだと、本当に倒れてしまいかねない。

  「……分かり……ました……」

精神の限界が近付くにつれて、徐々に気が遠くなりかけていたが、
『彼女』から声をかけられて踏みとどまり、その指示に従う。
そのお陰で、急激な慣性を体に受けながらも何とか持ちこたえ、転倒するようなことは避けられた。
空間が安定したことによって、不安定になっていた神経も正常な状態を取り戻し、
扉に綴られた文字も問題なく読むことができる。

  「――『心臓部』……!ここが……『工場』の『中枢』……!」

     ゴ   ゴ   ゴ   ゴ   ゴ   ゴ   ゴ

この工場に来てから、これまでも数々の秘密と対面してきた。
しかし、それらはあくまで一部であり、核心に至るものではない。
『彼女』の言うように、この先に全ての答えがあるのだと思うと、自然と緊張が高まってくる。

  「え……?」

返ってきた予想外の反応に、逆にこちらが驚かされた。
『過去の間』に対する答えには、なんら疑問はない。
しかし、『追憶の間』に対する『彼女』の反応は、明らかに不可解だった。
『彼女』の表情から読み取れるのは、あの部屋で自分が体験した出来事と、
『彼女』の予想していた内容が違っていたらしいということだ。
『そんなことはありえない』――まるで、そう言っているかのような態度だった。
それが意味するものとは何なのだろう。

もしかすると――ある予感が頭をよぎる。
いや、それを確かめるのは後回しにしよう。
今は目の前の問題に集中しなければ。

  ――治生さん……。

死に別れた『彼』の分まで生きると決めた自分にとって、何よりも大切なのは、この命だ。
だからこそ、身を危険にさらすようなことをする訳にはいかない。
このまま元の世界に帰れば、その心配をする必要はなくなるだろう。

  「私は――」

肩の上に乗るラポポとロポポを見る。
ここまで行動を共にして、工場を案内してくれた彼らは、今や立派な友人達なのだ。
そして――決心は固まった。

  「この扉の先に行きます」

     ド   ド   ド   ド   ド   ド   ド

もし、この工場を狙う者がいたとしたら、そこにいる『彼女』や小人達も危険になる。
そうなった時は、彼らを救う助けになりたい。
どこか共感を覚える『ゴースト』と友人である小人達――手助けする理由としては、それだけでも十分だ。
彼らに危険が及ぶ可能性を無視して、自分だけ無関係な場所にいることはできない。
そして、そのためには、この先へ進まなくてはならない。
その結果、自分が危機に陥ったとしても、問題はない。
もし自分に危険が迫ったならば、その時は自らの努力で切り抜ければいい。
自分の命と工場の住人達――自分が守りたいのは、どちらか片方ではなく、その両方なのだ。
静かな決意を胸に秘めて、黒い扉に手をかける……。

166『きらきら星を追え!』:2016/07/22(金) 18:11:03
>>165(あと数レスで『終了』になると思います。
希望あれば、少しだけ『エピローグ』を追加する所存です)

        >この扉の先に行きます

ゴーストは、貴方の答えと、毅然とした様を見て口を開く。

 「……私は 貴方の選択を最良とも、愚かとも告げる事はない」

「だが、私は思う。いま、貴方の胸の中に きっと一つの星明りが点いた と」

 貴方は選択した。殻に篭るでもない、亡き夫と約束した時と同じく
気高い信念を胸に秘めてた。貴方はドアノブを開く。


  ――開かれた先に闇が広がる。

 ドアを開くと、見渡す限りは光のない黒一色だった。内部からは物音もせず
耳が痛い程の静寂だけが内包されている。然し、それ以外では危険が貴方を
待ち伏せてるような予兆は見当たらない……。

 「それじゃあ、足を踏み出そう」

 ゴーストは、貴方の選択に頷き先導して中に入る。付いてくるのも
来ないのも自由とばかりに、その歩みは一定の速度で。そして歩いて
約三十程した距離で立ち止まった。

 「――『想い』とは、一体何であろうか。考えてみた事はあるだろうか」

誰に告げようとしてるのか。貴方か? 小人か? 自分自身か。いや
実際に誰に聞かせる訳で唱えた口上でないかも知れない。ゴーストは謳う。

 「かつて……この地球が生まれる以前。全ては真っ白な存在であり、一点の
黒のみが世界の在り方だった。それが、今の黒の海に白い輝きがちりばめられる
状態に至ったのをアメリカ天文学者エドウィン・ハップルによって
観測された宇宙の動き、イギリス天文学者のフレッド・ホイル等を始め。
その黒い点が超膨張して、今の宇宙になったのを『ビッグ・バン』と名付けた」

「『想い』とは何であろうか? 何故、人はある日突然に、今まで関心薄いと
思っていた異性に対し、恋を実らせるのか。永久の愛を誓おうと決意するのか。
 何故、人は真実、突き詰めれば只の文字の羅列であるものを耳にして
喜怒哀楽を抱き、黒よりも昏い憎悪や、白銀より鋭い使命感を抱くのか。
 
 人は、学ぶ過程の中で突如稲妻が走るように真理に目覚め、心で理解するのは
何故であろうか? それは本当に脳細胞の偶然の合致だけで済むだろうか。
 人は、何故死を屈服しようと探求するのか? 死にたくないと、生きたいと
強く 強く願うのは 大切な人の生を背負おうとするのは何故なのか
  それは生存本能と言う。種の繁栄と存続と言う生理的な行動であると言えるのか?

 私は、そう思えない。私は、そんな学者めいた論理(ロジック)で終わらせたくない。
 『想い』とは、それこそ
        ――人が唯一無二で抱く 『光』であり『魔法』だ   」


     パァァ      ァ   ァ・・・

167『きらきら星を追え!』:2016/07/22(金) 18:15:35
>>166続き

 ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆ ★ ☆ ★  ☆  ★  ☆ ★ ☆
 
★ ☆  ★  ☆ ★ ☆  ★ ☆ ★ ☆  ★ ☆  ★  ☆ ★ ☆  
 ☆ ★ ☆ ★ ☆  ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
    

 ゴーストの謳い文句が終わると共に、無数の『星』が室内を満たした。

全方位の空間を満たすプラネタリウムのように、大小は細かいながらも少し
あるも無数の輝きが室内に漂う。手を差し伸べ触れようとすれば、その光を
貴方の手の中を透け抜けて、流れ星のごとく部屋の中より遠くの向こう側へ行く。


    「   ――Twinkle, twinkle, little star(きらきら星)
 そう私は、この工場を名付けた。小人達を、そしてこの小さな宇宙を詰めた部屋に
星見町にいるであろう人々から産まれる『想い』を『星』へと変えて、この工場全てに
行き届き、小人や他の自然物、人工者、はたまた小さな生き物達へと変えていく。
 
 私は、永くこの工場『世界』で生き続けた。
突然、真っ暗な一つだけの個室に。神の悪戯か何かが
 星が降り注ぎ、そしてソレは幾つもの形へ成した。悪とも良しともならぬ
善悪区別なく輝く光を、私は時間をかけ、ソレは現実の人の想いだろうと
何となく、本当に何の根拠もなくも、何故か気づけば理解していた。
 理解が深まるにつれ、工場は段々と大きく、そして幾つもの部屋を造り上げた。
小人達が人間を招けば、工場自体が彼らの意思に応じるように人の為の席を工場内に設けた。

        『想い』とは『魔法』であり『全て』だ。この工場の中では
私は、私がゴースト足りえる理由がある限り、星見町に生き続ける人が『想い』を
持ち続ける限り。生きとし生ける全ての者が『光』ある限り……。
 この『工場(Twinkle, twinkle, little star)』を輝かせ続ける  永遠に」


 ……室内に満ちる光の大半が、飛び去って行く。辺り全体の煌きは徐々に減り
部屋全体の明度も比例して消えていく。

 フゥー…

 ゴーストは、一つの流星の軌跡を眺め終えると、小さく細い溜息と共に。
弱弱しくも感じる錆び付いた微笑みを、貴方に向けた。

 「……これで、私が言える事は、ほぼ告げた」

「これから、どうする? 外へ戻る手段は……その肩にいる貴方の
大切な友人達が心得てるね。
 この部屋は『心臓部』だから……すぐに貴方の傍の二人が入口を作れば
元の通った現実の場所まで戻れるだろう。
 それとも……居直り強盗でもしてみるかい? この工場の防犯設備を
試してみたいとかなら……それも一興かも知れないが」

ゴーストは貴方に、そう冗談気味で口上を止めた。小人達二人はゴーストが
冗談を言った事に驚いた様子をしている。

 「……私と違って、帰りを待ってる人が貴方にはいるんじゃないかい?
大切な人、と言う特定の者ではないよ……貴方が思う以上に、きっと貴方を
必要とする人は、今でなくも、今の先に……いる筈だからね」
 
 貴方はゴーストの言葉に、頭の中にチラリと『興味 有菜』の姿が浮かんだであろう。

そろそろ、帰らなければきっと心配する

168小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/07/23(土) 18:19:28
>>167

  「……ええ。行きましょう」

黒一色で覆われた闇の中を、『ゴースト』に続いて歩き始める。
本当の意味で何もない空間――今しがた通ってきた通路とは異なるが、これはこれで奇妙な光景だ。
しかし、先程のような不安感は感じられず、心なしか奇妙な安心感さえ感じていた。

『想い』とは何か――厳かな静寂に包まれた中で、『彼女』の言葉に耳を傾けながら、
自身の過去を回想する。
私は『彼』を愛し、『彼』も私を愛してくれた。
だからこそ、『彼』の後を追って自らの命を断つことが、愛の証であると思っていた。
しかし、『彼』の言葉を守るために思いとどまり、今日まで生き続けてきた。
たとえ辛い道だとしても、それこそが自分のするべき愛の証明なのだ。
今では、そう思えるようになった。
それも『想い』の一つだ。
そして、その『光』がある限り、今日も明日も、自分は生きていくことができる。

そんな気持ちを心に抱いていた時、周囲が『光』に満たされていくのを感じた――。

  「――凄い……。これが……『想い』……。
   こんなに綺麗なものは見たことがないわ……」

部屋全体を覆い尽くす星々の美しさに、思わずため息が出る。
どんなに規模の大きなプラネタリウムでも、これほどのものは見られないだろう。
ここにあるのは、まさしく『小さな宇宙』だ。
室内に瞬く星達が、人々の『想い』の結晶ならば、そこには自分の『想い』もあるのだろうか。
そして、『彼』の『想い』も、星となって存在し続けているのだろうか?
ふと、そんな考えが脳裏を掠めた。
『想い』とは『魔法』であり『全て』――『彼女』の言葉が胸に響く。
『想い』こそが、この『工場(きらきら星)』の本質なのだ。
飛び去っていく星々の煌めきを目に焼き付けながら、それを悟った。

  「せっかくですが……今は遠慮しておきます。今日は下見のつもりですから……。
   また日を改めてお伺いします」

丁寧な口調ではあるが、こちらも少し砕けた調子の返事を返す。
なぜだか分からないが、今は冗談の一つでも言いたくなるような晴れやかな気分だった。
それは、『工場(きらきら星)』の真相を目の当たりにしたせいかもしれない。
そういえば、あれからどれくらいの時間が経っているのだろうか。
ここにいたのは長いような短いような――何とも言えない不思議な感覚だった。
しかし、それなりの時間が経過していることは予想できる。
『表の工場』にいる有菜は、まだ調査を続けているのだろうか?
そして、彼女に対して、自分はどのような説明をすべきなのだろう。
それはともかく――『ゴースト』の言葉通り、そろそろ元の世界に帰還した方が良さそうだ。

  「――それでは……私はお暇します。二人とも、また入口を作ってもらえるかしら?
   ここに来て、あなたに会えて良かった。そう思います……」

肩の上の二人に声をかけた後、再び『ゴースト』に向き直り、そう告げた。
ここでの経験は、自分にとって大きな収穫になった。
特に、『追憶の間』での出来事は、自分の心に深く残っている。

あれは、本当に記憶(メモリー)の再現(リプレイ)だったのだろうか。
それとも――。
ただ一つ言えることは、それがどちらであったとしても、自分は確かに勇気づけられたということだ。

169『きらきら星を追え!』:2016/07/23(土) 19:56:04
>>168

 「うん、任せて!」

「もう一仕事だねっ! お兄ちゃんっ」

 〜〜♬  ♪

小人二人が独特のステップとリズムを奏でる。
 その傍らで、ゴーストは貴方にゆっくり近づき。そして暫し
言葉を選ぶように目を閉じ、そして開くと告げた。

 「私は、貴方の想い人がどう言う人物か知らない」

「あの追憶の間はね。そんなに昔に工場が産み出したものではない。
人恋しさを、覚え。私が私である存在に至ったよりも前を懐かしみ始めた頃……
部屋は産まれ、そして私が最も切望してた過去を映し出した……大切な人、ソレが
目の前にいた……けど、結局のところ『追憶』は追憶だったんだ。

 人の手でも小人でも、幽霊でも……過去に触れる事は出来ない。そして放たれる
言葉も全て、リプレイでしかなかった。最初こそ私は満たされた気になってたけど
何度も脆い浅瀬を続ける内に、段々と同じ動作しかしない大切な人に悲しくなってしまった。
全て、自分の中に残る脆い記憶の再生でしかない。決して、いま私がもっとも欲しい言葉も
暖かい手で握る事は叶わない……そう考えると、あれ程の残酷な部屋もない」

 説明する彼女は、風雨に晒されてもびくともしない岩のように顔は変化せずも
何処か泣きそうに気の所為でなくば見える。

 「だから……その……。私は 思うんだ 貴方が出会った人は『本物』だったと」

「……此処は 現実の世界ではない。夢と光で包まれてる場所だから。たぶん、『天国』が
あるとすれば、其処に近い場所だと私は思うから……。
 だから、こんな言葉もどうかと思うけど。貴方が『想い』を抱き続けてたからこそ
神様が、奇跡を贈ってくれたんじゃないかっ て……」

 そこで、顔をゴーストは伏せた。次に顔を上げた時にその包む空気は
静かで元の状態へと至っていた。

「……なんて、ね。もしかすれば工場の部屋の誤作動かも知れないんだ。
私の言葉は、深く気に留めないでくれ……」
 
 >また日を改めてお伺いします
>ここに来て、あなたに会えて良かった。そう思います

その言葉に、僅かにだが貴方とゴーストを包む空気に。この部屋は温度と言う
温度はないのだけれども、暖かい風が流れるような気がした。

    「……あぁ  また会おう。私が愛する 小さな星」

貴方が光のゲートを通る瞬間、ゴーストの優しい声が背中に当たった。

 そして、再び光の奔流が襲う。

瞼を強く瞑っても、その強い強い光の波は貴方の目の奥へと流れ込んでいく。

 今度の光は、最初に工場へ入った時よりも長く長く続いたような気がした。

――愛している 永遠に

 刹那、光の切れ目に貴方は見かけた気がした。大切な人を 最も強く想う人を
その人が貴方の耳に そう伝えたような感触を最後に。


      パ    ァ   ァ……

170『きらきら星を追え!』:2016/07/23(土) 20:09:15
>>169続き

光は納まり……貴方はトタンで構成された一室に気づけば立っていた。

 バタン!

 『小石川さーん!! ……あー! 居たぁ!』

そして、貴方の声を呼ぶ女性の声と共に足音荒くトタンの部屋の中心に
置いてるオブジェを迂回して駆け寄る『興味 有菜』が少し涙目で現れた。

 「もーうっ! 小石川さんってば心配したのよ!?
近くに実は隠された金平糖造りの秘密の部屋でもあるんじゃないかって
工場の外を5分程度探して、けど結局何もなかったから戻ってきたら
小石川さんってば居ないんだもんっ! 車に戻っても居ないし、ここら辺りに
野犬とかいないとも限らないから、襲われたんじゃないかって、てっきり……
もぅ! つまり本当に心配してたのよ!」

 そう、少しだけ指をタクトのように振って貴方を叱る興味。
だが直ぐに喜色を顔中に満たして、貴方に怒涛の勢いで告げる。

 「けどけど! 大スクープよぉ小石川さん!!!
貴方もどうやら発見してたようだけど、この巨大なガチャガチャ見たいな機械!
 タグを見たら『秘密の味注入の機械、精密機械により手を触れず!』って
書いてるじゃなーい! フフフ!! これを写真に収めて、そして工場の上の人に
直接、洗いざらいこの機械について白状してもらえば、私も一躍トップ記者ね……」

そう、怪しい笑いをする興味は。どうやら貴方が心配せずとも自分で自分だけの
スクープを手に入れたようだ……。

 そして、気づけばロポポにラポポも肩の上はおろか見渡しても何処にも
いなかった……。見えずとも有菜と言う存在を警戒して遠くに隠れたか
 若しくは、そのまま あの工場の中で貴方を見送ったのだろうか?

 「それじゃー帰りましょう! お家、何処ら辺だっけ?
本当なら一杯おごって今回の手柄を一緒に分かち合いたいけど、すぐに
今回撮ったの現像したり何なりしないといけないのよーっ。祝勝会は
また今度にしましょうねぇー」

 と、本当に残念そうに貴方と少し一緒にお酒でも飲みたいのを心残りにして
興味は貴方を家へ送り返す……。

 (※お家は一軒家で問題なし?)

171小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/07/24(日) 19:05:56
>>170

  「……ありがとうございます。あなたの優しさに、心から感謝します。
   『ゴースト』のあなたに対して、こんな言い方をするのはおかしなことかもしれませんが――
   『いつまでもお元気で』……」

思案するような態度、どこか悲しそうな顔、そして自分に対する気遣い――
それらを目の当たりにして、ラポポとロポポの父親の言葉を思い出す。
確かに、彼女の霞のような体の中には、とても大きな愛情が詰まっていた。
感謝の思いを込めて『ゴースト』に頭を下げ、光のゲートへ進んでいく。

  「あなた達も、ありがとう。あなた達と会えて、とても楽しかったわ……。
   お友達のヨポロにも『よろしく』と伝えておいて……。縁があれば、また会いましょう」

ゲートに入る前に、今まで助けてくれたラポポとロポポにも声をかける。
もし、彼らと出会わなければ、ここまで来ることもできなかった。
そして――数多くの『想い』を胸に、ゲートの中に踏み込んだ。
眼前に迸る強烈な光を受けて、溜まらず目を瞑る。
しかし、不意に聞き慣れた声が聞こえ、うっすらと目を開ける。
その瞬間、確かに見えたのだ。

  ――いつか私もあなたの下へ行きます。
     それは五十年後か、それとも六十年後か、いつになるかは分からないけれど。
     この命を全うして、寿命が尽きたら、あなたに会いに行きます。
     だから、それまで待っていて下さい。私の愛する大切な人――。

光の中で最後に見聞きした愛おしい姿と忘れられない声――
それに応じ、こちらの『想い』を伝えるべく、心の中で強く思った。
光の渦を潜り抜け、やがて気付けば、元通りの場所に立っている。
目の前に置かれた『大きな機械』を見て、こちら側の世界に帰ってきたことが実感できた。

  「……心配かけてしまってごめんなさい。でも、大丈夫。
   私は、見かけほど弱くはないつもりだから……」

最初に比べると、いくらか明るさが増した微笑みと共に、有菜に向かい合う。
大げさに言うつもりはないが、今回の一件で、ほんの少しだけ精神的に強くなれたと思う。
そのきっかけを与えてくれた彼女には感謝している。

  「――そう……ね……。そうかもしれないわね……。
   それじゃあ、帰りましょうか……」

手放しで喜ぶ有菜の姿を見て、明るい笑みにも少々陰りが差した。
「しつこい詮索屋が探りに来た時に、
『これが我が社の金平糖作成の企業秘密の正体です』と告げるためのダミーだ」――
そんなヨポロの言葉が思い起こされる。
これから先、彼女が気付くかどうかはともかく、少なくとも今のところは、
ダミーは無事に役目を果たしたようだ……。



--------------------------------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------------------------------

--------------------------------------------------------------------------------



     ガチャ

  「『ただいま』」

この家で、自分を待っている人間は誰もいない。
それが分かっていても、つい挨拶をしてしまう癖は、今でも抜けていない。
静まり返ったリビングに入り、電気を点けようとして途中で止め、
ソファに腰を下ろして、手元のスタンドライトを点けた。
新婚旅行から帰ってきたら、この星見町の新居に引っ越して、二人で住む予定だった。
しかし、旅行先で事故が起きて、帰ってきたのは自分だけだった。
しばらくは気持ちの整理がつかず、ずっと前の町を離れずにいたのだが、
ようやく踏ん切りがついて、最近この家に移ってきた。
『彼』のいない空っぽの家――でも、今夜は何故だか満たされたような気持ちだった。
今でも自分の傍らに『彼』がいてくれるような気がしていた。

「目に見えなくても瞼を閉じれば僕は傍にいるよ」――
『彼』が伝えてくれた忘れえぬ言葉を胸に抱きながら、いつの間にか眠りに就いていた……。

(※問題なしです)

172『きらきら星を追え!』:2016/07/25(月) 19:16:31
>>171


  ……あれから数日程の日数が過ぎた。
その晩、貴方は確かに愛する人の面影が自分の傍らに、直ぐ近くにあるのを
感じながら眠りについた。それはきっと安息の眠りであっただろう。

 そして、数日経過した或る日だ。買い物か、または何かの用事で外に
出かけた貴方は家に戻ると、その郵便受けに一冊のタウン誌が挟まってるのに気づく。
 一枚の付箋が挟まった、その雑誌を捲ると二ページ程使い、こんな題名のものが記載されてた。
『興味 有菜が送る、星見町の、この場所あの場所興味津々特集!
今回の不思議スポットは、彼の人々を魅了して止まない魅惑な味付けがされた
金平糖の生成の秘密を暴くべく、興味は或る人物と共謀を果たし、数々の危険と隣り合わせの
修羅場を潜り抜け、ついに我々は金平糖工場への中心に……』
 と、かなり大幅な脚色がなされてるものの、金平糖工場に置いていたダミー機械の写真に
後日インタビューしたのだろう金平糖工場の役員らしき人物の黒線でぼかされた人物の
当たり障りないコメントなどが載っていた。
 色々貴方には思うところがあるかも知れないが、記事と一緒に一枚のメモ用紙で
『これで私も一流ライターよ! 有難うね小石川さんっ。暇な時にでも一緒に飲みましょう! 
交換した電話番号に連絡頂戴ね!』と書かれてるのを見るに。彼女は彼女で奇妙な体験せずとも
良い思いをしたのは間違いないだろう……。

 そして、貴方はドアノブを回し玄関へと足を踏み込み、気づく。


……?   ……何だか、何者かの気配がする気がする……。

173小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/07/26(火) 12:45:29
>>172

ある日の夕暮れ――商店街で数軒の店を回り、夕食の買い物を済ませて家路に就いた。
ここ数日は落ち着いた精神状態を保っているので、『発作』を抑えるための『鎮静剤』に頼る必要もない。
これも、あの一件のお陰だ。
しかし、この穏やかな状態が永遠に続いてくれるとは思えない。
時が経つにつれて、いずれは『発作』も再発することになるだろう。
それでも、あの場所で得た『想い』がある限り、決して自分に負けることはないと信じている。

「――?」

投函された雑誌を見つけて手に取り、付箋の貼られたページを開いて、その部分に目を通す。
予想した通り、そこには有菜の書いた記事が掲載されていた。
真偽はともかく――読む人に活力を与える豪快で勢いのある内容であることは間違いない。

――そう……これでいいのよね……。

おそらくは、これが最善の結末なのだと思いたい。
少なくとも、誰も傷ついてはいないのだから。
きっと、あの『工場』の秘密は、これからも守られていくのだろう……。

クスッ

思わず笑いが漏れた。
メモ用紙を通してでさえ、彼女の明るい顔が容易に想像できる。
こうして新しい友人と知り合えたことは、自分にとっても有り難いことだ。

――……?誰かが訪ねてくるという話は聞いていなかったと思うけど……。

家の中に気配を感じて、首を傾げる。
鍵は掛かっていたし、合い鍵を持っている人間もいない。
奇妙なことだと思った。
けれど、不思議と恐怖は感じなかった。
雑誌と買い物袋を抱えて部屋に入っていく。

そこには誰がいるのだろうか――?

174『きらきら星を追え!』:2016/07/27(水) 19:20:00
>>173(レス遅れ失礼しました)

 ガヤガヤガヤガヤ   ガヤガヤガヤガヤ
      タッタッタッタッ
               タッタッタッタッ

貴方は玄関に入り靴を脱ぎ、恐れる事なくリムジン方面まで歩けば
 小さいながらも、多数の結構な話し声や駆け足が聞こえた。
泥棒でも留守の家人の中を、こんな風に動く事はない。消し忘れた
テレビの音声だとしても生々しい。そして……これは貴方にとって
まだ忘れるには早すぎる、『馴染みある』物音だと伺い知れる。

   ガチャ

 『コック達、整列―――! 点呼!』 『1! 2! 3! 4!……』

 『まったく、何故このコックの王が雑用もどきの事をせにゃならんのだ ブツブツ……』

『くさってないで、シャキッと飾り付けをなさいっ! 小人は速さあってこそなのに
貴方は食べる事ばっかり集中してるから、そんなノロノロしてるのよ。
 小人としての誇りをもっと持ちなさい! ほらほらっ! ずれてるわよ!』

『母さん、そんなきつく言ってやらないであげなよ。さて、この葉っぱは
このコップに置こうかな……よっ うっ!? あたたっまた腰が!』

 『薄幸を消すには虹の根の煌きを注ぎ、イルカの涙が必要なんじゃ!
よしよしっ、最良の幸福。その味が見えてきたわい!!』

『へーいっ! ラポポっ、そっちの金平糖をパス パス!』

 『よっしゃー! おいらの剛速球を受けてみろー!』

『お兄ちゃんに、ヨポロも、危ないし、金平糖が割れたら大変だよぉ……あっ!!』

 
        『――お帰りなさいっ  巨人』

 リムジンには あのコルボが、グルメ部屋のコック達が。
 あの小人兄妹の父と母が、ポポノ博士が。
ラポポの親友であるヨポロが。そしてラポポにヨポロ。
貴方が出会った小人達が、貴方がこの前に幾つもの扉を開いて部屋に入ったのを
思い起こさせるように、出迎えた。
リムジンには、彼らが持ってきたのだろう小さくも輝く色合いの飾りつけが
机の上や壁にも点けられ、ささやかながらも部屋を輝かせている。

 そして、机の上には一枚封筒。それと、お皿に
色合いが異なる数種類の金平糖が十数ほどキラキラしながら乗っていた。

 「やぁ巨人! お邪魔してるよ。へへっ……ゴーストがさ
私の代わりに、君たちで親愛なる彼女に遅くながらお土産を渡してくれってさ!
 それと封筒はさ。金平糖を提供してる巨人達からなんだ。
言伝で、ないとは思うが貴方が体験した事は極力口外は止めて頂く
少ないながらも、これは我々からの気持ちです……ってさ」

ヨポロが耳を弄りつつ、告げる。

 「おぉ、巨人君! 遂に完成したんじゃよ! 君が、あの部屋で
涙を落した事によってな! さぁさぁ! 巨人の試食第一号じゃ! 
齧ってみなされ! ほれっ ガリ! っと!!」

 「言ったでしょ? 歓迎パーティーを開く  って!!
 貴方の助けで欠損する事なく手に入れた『砂漠の薔薇』、そうです!
あの素材で面白い味が出来上がりましたよ。ずばり『思い出起こし味』です!」

 「佃煮も作りましたよ! 好きだってグルメのコック達から聞きましたのでね!
イナゴを始め、私の得意のフキのもね!」


 めぐるましく、小人達は思い思いに貴方へ喋り金平糖を指す。

175『きらきら星を追え!』:2016/07/27(水) 19:42:32
>>173続き



 貴方は、その数種類の味を食べれば、鮮明に脳裏に浮かぶ筈。

彼ら、小人の母親の指した金平糖二つを拾い上げ食べれば、頭の中に
かつての母が作ったのと、ほぼ同じ。イナゴ、そして柔らかなフキの佃煮の
味がした……。
 小人の父の指した金平糖を齧る。
すると、頭の中に過ったのは。かつて貴方が『綺麗な桜色の瞳の少女』との出会い
若しくは、近しい知人に至った人々との最初の邂逅などが浮かぶ。
 最後に、博士の味を齧ってみれば。

貴方は、彼を 『治生』の姿を目の奥底で感じ、そして見た。
 追憶の間の時と同じく、リアルに感じる唇の温度が、自分の唇に触れあうのを。
 背中に触れる、暖かい腕の感触。密着した事で溶け合うかと錯覚するような両方の鼓動
それ等の愛する人の温もり、感触を貴方は短い時ながら生なましく感じる事が出来たであろう。

 「母さんの想いの味は、全部で『15』個! 父さんのは、結構砂漠の薔薇は
貴重なものだったから……『5』個!」

「あとは、グルメの人たちの渾身の出来栄えだって自慢の、料理の味が『8』個。
あっ、それでね……博士の作った愛する人同士のキスの味は、涙の量もだけど
かなり合成が難しかった見たいで、『3』個しか作れなかったみたい……ごめんね」

そう言って、試食分を除いた『31』個……ひと月分の金平糖が
違う色合いで、どの味が判明出来るように一つのラッピングされた袋で
皿の隣にちょこんと気づけば置かれてる。
 封筒に入ってたのは7,8程度の諭吉だ……興味が雑誌と一緒に同封した
礼金と合わせれば、丁度これで『十万』と言った額だろう。

 「あとね、お土産って言うのは金平糖だけじゃないんだぜ!
ゴーストがさ。たまには、巨人の家に遊びに行っても良いって
おいら達が巨人にもう一度会いたいって言ったら、許可してくれたんだ!
 そう毎日って訳にはいかないかも知れないけどさ……けど、巨人が
迷惑じゃなかったらさ、これって素敵なアイデアじゃないかっ?」

「巨人! 私たち、いつでも時間が許せば巨人に会いに行くよっ。ヨポロも、お兄ちゃんも
コックのヨポロに、お父さんやお母さん、グルメの皆に博士。
 だって、だってね…… 巨人は、私たちの大切な ――友達だもんっ!」
 
 ヨポロとラポポは、貴方を見上げて自信に満ち溢れた笑みと共に両手を広げ告げた。

これに……貴方がその提案にyesともnoとも告げるのも、貴方にはどちらの選択にするのも
貴方の『想い』が決める事だ。

176小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/07/28(木) 20:38:02
>>175

  ――もしかすると……。

その話し声や走る音は、数日前の『奇妙な出来事』を喚起させるものだった。
ドアを開けてリビングに踏み込み、自分の想像が当たっていたことを知る。
彼らならば、鍵が掛かっていたのに入ってこれたことも納得だ。

  「――これは……。ふふふ……。
   あなた達には、いつも驚かされるのね。
   でも、すごく……すごく嬉しいわ……。本当に……ありがとう」

この突然のサプライズパーティーには確かに驚いた。
しかし、それ以上に喜びの方が大きい。
彼らの『想い』を受け止めて、急速に胸の内が熱くなり、また涙が出そうになった。
実際には、少し泣いていたのかもしれない。
この家に、こんなにたくさんの友人達を招いたことはなかった。
いや、これだけの人数が自分のために集まってくれるというのは、生まれて初めてだ。
これまで自分は幸が薄いと思われることが多かった。
しかし、こんなにも大勢の友人に囲まれて、心の籠もったもてなしを受けている。
これで『自分は不幸だ』などと言っていては、罰が当たってしまう。

     カリッ……

第三者から見ればささやかなものかもしれないが、自分にとっては大きな幸福を噛みしめながら、
彼らが用意してくれた金平糖を順番に味わう。
最初は『佃煮味』だ。
懐かしさと素朴さの入り交じった感慨深い味が口の中に広がる。

続いて『思い出起こし味』をかじった。
眼前に現れたのは、スカイモールで出会ったココロと、自然公園で知り合った恋姫の姿だ。
それから、よく買い物をする商店街の人々の顔が、次々と脳裏に浮かぶ。

最後の一粒である『愛する者同士のキスの味』は特に鮮烈だった。
お互いの唇が触れ合う繊細な感覚、優しく包み込むような腕の感触、
重なって一つになる鼓動と体温――それら全てが『彼』の存在を身近に感じさせてくれる。
金平糖が溶けてなくなってしまった後も、その余韻が心の中に強く残っている程だ。

机の上に乗っていた封筒はバッグの中にしまっておき、金平糖の入った袋を手に取った。
見た目も綺麗な金平糖は、舌だけではなく目でも楽しませてくれる。
色とりどりの『想い』の込められた金平糖(きらきら星)――これは大切に食べることにしよう。

  「――ありがとう。もちろんいいわよ。でも……『二つ』お願いしたいことがあるの」

金平糖の袋を胸に抱いて、ラポポとロポポに向かって柔らかく笑う。
その微笑みに陰はない。
なぜなら、今の自分は、とても幸せだから。

  「次に来る時は、あらかじめ教えておいてくれないかしら。
   今度は、私がご馳走してあげたいから……。
   コックのみんなには、かなわないかもしれないけど……」

リビングにいる全員の顔をぐるりと見渡して、工場での出来事を思い返す。
彼ら『小人』や『ゴースト』との出会いは不可思議で刺激的な体験だった。
そして同時に温かく優しい経験だったと思う。

  「それから……私のことは『文子(アヤコ)』って呼んで欲しいの。
  『友達になった印』に……ね……。それでもいい?」

この町に来て良かった。
生きることを選んで良かった。
少なくとも、この瞬間は――心から、そう感じている。

177『きらきら星を追え!』:2016/07/28(木) 22:08:26
>>176

 貴方は小人達と『約束』した……。

小石川……いや、『文子(アヤコ)』の願いに、小人達は迷うことなく快諾する。
 時間が許す限り、貴方が目覚める朝に花弁を小人達の誰かが訪れ机の上に
花弁を置き。それを庭などに埋めてくれれば、その翌日にでも皆で訪れると
小人流の合図を、貴方と作り上げる。

 Twinkle, twinkle, little star

貴方は、これからも生き続ける。また、唐突に『発作』が起きる事も
あるかも知れない。同じぐらいの悲しみと不運にも巡り合う事もあるかも知れない。

それでも 『想い』は貴方の中に受け継がれている。貴方は一番の光が
自分の胸のなかにあるのを、知っているのだから。

 Like a diamond in the sky.(空に輝くダイヤのような)
Twinkle, twinkle, little star,(きらきら星)

 
 夜になれば、見上げる夜空には無数の星が輝く。
ある人は、星とは無数の旅たった人達の命の輝きなのだと謡った。
 だが、貴方は『奇妙な邂逅』を経て、この夜空に輝く無数の輝きは。
幾多もの、産まれてきた者達が抱いた『想い』の跡だと知る事が出来る。

 貴方は、これからも歩き続ける。その無数の『想い』に囲まれ いだいて……



小石川 文子『スーサイド・ライフ』→『十万』get!
                  『星の数ほど味金平糖一月分』get!

ゴースト『Twinkle・twinkle・little star』→『信じあう友』を得る 
        『little star(小人達)』→『貴方と言う友』を得る


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