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【ミ】『フリー・ミッションスレッド』 その2

153小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/07/14(木) 21:10:58
>>152

  「……『きらきら星』……?……ッ!?」

紋章の下に記された文章――謎めいたメッセージが視界に入る。
しかし、そこに込められた意味を理解することはできなかった。
より正確に言えば、理解している『時間』がなかった。
紋章から放たれた強烈な光は、瞬時に室内を満たす。
咄嗟に後ずさろうとするが、それさえも間に合わない。
為す術もなく、まばゆい光の中に飲み込まれていくのを感じた。
自分にできることといえば、ただ瞼を閉じることだけだ。
だからこそ、余計に耳の感覚が鋭敏になっていたのかもしれない。
聞き覚えのあるピアノ曲が聞こえた時には、そこは既に『白い部屋』ではなかった。

  「――こ……『ここ』は……!」

     ゴ   ゴ   ゴ   ゴ   ゴ   ゴ   ゴ

初めて工場に来た時と同じような瞬間的な移動(ワープ)――それから僅かに遅れて状況を理解し、
驚きの声を上げる。
自分にとって思い出深い場所を見間違えるはずがない。
ここは確かに『Heads or Tails(ヘッズ・オア・テイルズ)』の店内だ。
昼のカフェと夜のバーという異なる姿を持つ様を、コインの表と裏になぞらえた名前は、
愛する者と出会った場所として、記憶の中に強く残っている。
白と黒のモノトーンで統一された内装も、穏やかに流れる情感豊かな音楽も、
それらが一体となって織り成す雰囲気も、何もかもが同じだった。
ご丁寧にも、カウンターの向こう側には、顔見知りである初老のマスターまで立っている。
いよいよもって、完全に本物と同様だ。
果たして、これは現実なのだろうか?
マスターがこちらに対して何か反応を示していれば、
――もともと客に対して不要な干渉はしない人物なので分かりにくいというのはあるが――
ある程度は区別できたかもしれない。
だが、次の瞬間――そんな考えは、まるで最初からなかったかのように、忽然と頭から消え去っていた。

     ド   ド   ド   ド   ド   ド   ド

それは、もう一度聞きたいと願っていた声だった。
同時に、もう二度と聞くことのできない声でもあった。
反射的に振り向いた顔は、工場で数々の秘密と対面した時とは比べものにならない程の驚愕に彩られ、
両方の瞳を大きく見開いたまま硬直していた。

  「あ……」

息が詰まり、一筋の涙が頬を伝う。
『彼』が、ここにいるはずがない。
再会できるわけがない。

  「は――」

だって、彼は。
彼は、もう。
――『死んでしまった』のだから。

  「――『治生さん』ッ!!」

そんなことを考えている余裕など、あるはずがなかった。
片時も忘れたことのなかった『彼』の名前を呼び、照明を反射して煌めく涙の粒を散らしながら、
その胸に飛び込むために駆け出す。

今の自分にあるのは、ただ『それだけ』だった。


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