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【ミ】『フリー・ミッションスレッド』 その2

176小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/07/28(木) 20:38:02
>>175

  ――もしかすると……。

その話し声や走る音は、数日前の『奇妙な出来事』を喚起させるものだった。
ドアを開けてリビングに踏み込み、自分の想像が当たっていたことを知る。
彼らならば、鍵が掛かっていたのに入ってこれたことも納得だ。

  「――これは……。ふふふ……。
   あなた達には、いつも驚かされるのね。
   でも、すごく……すごく嬉しいわ……。本当に……ありがとう」

この突然のサプライズパーティーには確かに驚いた。
しかし、それ以上に喜びの方が大きい。
彼らの『想い』を受け止めて、急速に胸の内が熱くなり、また涙が出そうになった。
実際には、少し泣いていたのかもしれない。
この家に、こんなにたくさんの友人達を招いたことはなかった。
いや、これだけの人数が自分のために集まってくれるというのは、生まれて初めてだ。
これまで自分は幸が薄いと思われることが多かった。
しかし、こんなにも大勢の友人に囲まれて、心の籠もったもてなしを受けている。
これで『自分は不幸だ』などと言っていては、罰が当たってしまう。

     カリッ……

第三者から見ればささやかなものかもしれないが、自分にとっては大きな幸福を噛みしめながら、
彼らが用意してくれた金平糖を順番に味わう。
最初は『佃煮味』だ。
懐かしさと素朴さの入り交じった感慨深い味が口の中に広がる。

続いて『思い出起こし味』をかじった。
眼前に現れたのは、スカイモールで出会ったココロと、自然公園で知り合った恋姫の姿だ。
それから、よく買い物をする商店街の人々の顔が、次々と脳裏に浮かぶ。

最後の一粒である『愛する者同士のキスの味』は特に鮮烈だった。
お互いの唇が触れ合う繊細な感覚、優しく包み込むような腕の感触、
重なって一つになる鼓動と体温――それら全てが『彼』の存在を身近に感じさせてくれる。
金平糖が溶けてなくなってしまった後も、その余韻が心の中に強く残っている程だ。

机の上に乗っていた封筒はバッグの中にしまっておき、金平糖の入った袋を手に取った。
見た目も綺麗な金平糖は、舌だけではなく目でも楽しませてくれる。
色とりどりの『想い』の込められた金平糖(きらきら星)――これは大切に食べることにしよう。

  「――ありがとう。もちろんいいわよ。でも……『二つ』お願いしたいことがあるの」

金平糖の袋を胸に抱いて、ラポポとロポポに向かって柔らかく笑う。
その微笑みに陰はない。
なぜなら、今の自分は、とても幸せだから。

  「次に来る時は、あらかじめ教えておいてくれないかしら。
   今度は、私がご馳走してあげたいから……。
   コックのみんなには、かなわないかもしれないけど……」

リビングにいる全員の顔をぐるりと見渡して、工場での出来事を思い返す。
彼ら『小人』や『ゴースト』との出会いは不可思議で刺激的な体験だった。
そして同時に温かく優しい経験だったと思う。

  「それから……私のことは『文子(アヤコ)』って呼んで欲しいの。
  『友達になった印』に……ね……。それでもいい?」

この町に来て良かった。
生きることを選んで良かった。
少なくとも、この瞬間は――心から、そう感じている。


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