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【ミ】『フリー・ミッションスレッド』 その2

165小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/07/20(水) 21:52:09
>>164

  ――……きっと、今の質問の答えは、私達の進む先にあるのね……。

『彼女』が無言を貫いたのは、答えたくないのではなく、答える必要がないということなのだろう。
ならば、あえて聞き返す必要もない。
そのように解釈し、こちらも沈黙を守ったまま、『彼女』の背中を追って歩き続ける。

     グ ラ ァ ッ

軽い目眩を覚えて、額を手で押さえて俯き、その場に立ち止まる。
顔を上げると、近くにあるはずの『彼女』の背中が、遙か遠くにあるように見える。
いったん目を閉じて心を静め、再び目を開けて気持ちを落ち着かせ、また歩きだす。
それにしても、この異様な光景は、一体どこまで続いているのだろうか?
今すぐ意識を失うということはないが、一歩ずつ歩みを進めるごとに、
確実に神経を消耗していることが分かる。
この状態が長く続くようだと、本当に倒れてしまいかねない。

  「……分かり……ました……」

精神の限界が近付くにつれて、徐々に気が遠くなりかけていたが、
『彼女』から声をかけられて踏みとどまり、その指示に従う。
そのお陰で、急激な慣性を体に受けながらも何とか持ちこたえ、転倒するようなことは避けられた。
空間が安定したことによって、不安定になっていた神経も正常な状態を取り戻し、
扉に綴られた文字も問題なく読むことができる。

  「――『心臓部』……!ここが……『工場』の『中枢』……!」

     ゴ   ゴ   ゴ   ゴ   ゴ   ゴ   ゴ

この工場に来てから、これまでも数々の秘密と対面してきた。
しかし、それらはあくまで一部であり、核心に至るものではない。
『彼女』の言うように、この先に全ての答えがあるのだと思うと、自然と緊張が高まってくる。

  「え……?」

返ってきた予想外の反応に、逆にこちらが驚かされた。
『過去の間』に対する答えには、なんら疑問はない。
しかし、『追憶の間』に対する『彼女』の反応は、明らかに不可解だった。
『彼女』の表情から読み取れるのは、あの部屋で自分が体験した出来事と、
『彼女』の予想していた内容が違っていたらしいということだ。
『そんなことはありえない』――まるで、そう言っているかのような態度だった。
それが意味するものとは何なのだろう。

もしかすると――ある予感が頭をよぎる。
いや、それを確かめるのは後回しにしよう。
今は目の前の問題に集中しなければ。

  ――治生さん……。

死に別れた『彼』の分まで生きると決めた自分にとって、何よりも大切なのは、この命だ。
だからこそ、身を危険にさらすようなことをする訳にはいかない。
このまま元の世界に帰れば、その心配をする必要はなくなるだろう。

  「私は――」

肩の上に乗るラポポとロポポを見る。
ここまで行動を共にして、工場を案内してくれた彼らは、今や立派な友人達なのだ。
そして――決心は固まった。

  「この扉の先に行きます」

     ド   ド   ド   ド   ド   ド   ド

もし、この工場を狙う者がいたとしたら、そこにいる『彼女』や小人達も危険になる。
そうなった時は、彼らを救う助けになりたい。
どこか共感を覚える『ゴースト』と友人である小人達――手助けする理由としては、それだけでも十分だ。
彼らに危険が及ぶ可能性を無視して、自分だけ無関係な場所にいることはできない。
そして、そのためには、この先へ進まなくてはならない。
その結果、自分が危機に陥ったとしても、問題はない。
もし自分に危険が迫ったならば、その時は自らの努力で切り抜ければいい。
自分の命と工場の住人達――自分が守りたいのは、どちらか片方ではなく、その両方なのだ。
静かな決意を胸に秘めて、黒い扉に手をかける……。


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