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持ち帰ったキャラで雑談 その二
1
:
名無しさん
:2007/05/13(日) 21:30:22
リディア「僭越ながら、新しいスレを立てさせてもらいますね」
アーチェ「本スレにはあげられないのをあげる場所だから。主にSSかな」
リディア「それでは、楽しんでください」
アーチェ「いつでも参加募集中〜」
127
:
いつものイツ花の一日
:2007/07/22(日) 16:06:14
AM05:00 起床
イツ花「う〜ん・・・今日もバーンとォ!いい朝ですね!」
AM05:30-05:50 朝食の支度
イツ花「今日は何にしよっかな〜?」
AM06:00-06:35 朝食
一同「いっただきまーす!」
イツ花「召し上がれ〜♪」
AM06:40-06:55 片付け開始
イツ花「♪〜」
エルウィン「食器洗い機買おうか?」
AM07:00-08:00 猫とたわむれる(休憩)
イツ花「たま、おいでー」
南雲「い、一時間も・・・」
AM08:00-09:40 洗濯(手洗い)
イツ花「♪〜」
ななこ「せ、洗濯機使えばええやん・・・」
AM09:50-AM11:00 お掃除(ほうき&ぞうきん)
イツ花「♪〜」
ムウ「そ、掃除機使えば?」
AM11:10-AM11:40 休憩
イツ花「Zzz...」
AM11:50-PM00:10 昼食の支度開始
イツ花「昼は・・・何にしようかしら?」
山本「コンビニの弁当ですませてもいいんだぞ?」
PM00:15-00:50 昼食
一同「いっただっきまーす!(きょ、今日も手作り・・・冷凍でもいいのに」
イツ花「召し上がれ〜♪」
PM00:55-01:10 片付け
イツ花「我が庵は都のたつみしかぞ住む〜」
カリス「た、短歌!?」
PM01:30-02:30 町内会へ
イツ花「じゃ、バーンとォ!行ってきますネ!」
ブランネージュ「た、たまには私が行くわよ?」
PM02:35-03:40 買い物
イツ花「今日はどれを買っていこうかな?」
井上「す、すまんのぅ・・・」
PM03:45-04:00 風呂の掃除
イツ花「五月雨に集めて早し最上川〜」
クララクラン「私も手伝いますわイツ花さん・・・」
イツ花「大 丈 夫 で す !(キラーン」
PM04:20-05:20 食事の勉強
イツ花「なるほど・・・ふむふむ」
マオ「い、いつもありがとにゃん!」
PM05:30-05:50 夕食の準備
イツ花「今日は腕によりをかけて!」
一同「いつもかけさせていただいていますorz」
PM06:00-06:40 夕食
一同「いっただっきまーす!」
イツ花「召し上がれ〜♪」
PM06:45-07:00 片付け
イツ花「♪〜」
パラメディック「て、手伝うわよ!?」
PM07:15-07:30 猫と戯れる
イツ花「ごめんね、たま・・・」
シギント「か、飼ってもいいんだぜ?」
PM07:35-09:00 読書
イツ花「やはり徒然草はいつ読んでもいいですねぇ」
井上「な、なにげにすごいことを・・・!」
PM09:10-PM09:55 風呂
イツ花「つれづれなるままに〜」
エルウィン「・・・なにそれ?」
PM10:05-10:50 町内会の一員として付近見回り
イツ花「それではバーンとォ!行ってきますネ!」
元親「す、すまねぇ・・・」
PM11:00-11:10 日記をつける
イツ花「今日も特に変わらない一日でした。っと」
PM11:15 就寝
イツ花「おやすみなさい・・・」
129
:
ギャラクティック・コンクエスト:序章・工業惑星マイギートー
:2007/07/27(金) 11:59:31
――SSDエグゼキューター・ハンガー02
何十機もの惑星降下用シャトルをバックに、ジェリルクスが数名の中隊長や小隊長とブリーフィングを行
っていた。
ジェリルクス「以上が本作戦の概要である。質問がある者はいないか?」
クローンの指揮官であるバレイポット大尉が質問を行う。彼は第501大隊の最古参であり、隊内で最も信
頼のある人物で、ジェリルクス大佐の重要な片腕である。
バレイポット「交戦規定は?」
ジェリルクス「特に定めていない。必要な時に攻撃してよろしい…他には?」
それに頷き、他の者達を見回した。誰も質問があるような素振りを見せている者は居ない。
バレイポット「ありません」
ジェリルクス「では、我々の職場へと向かうとしよう」
バレイポット「イエッサー!」
そして指揮官達は敵に恐怖を与え、自分を守ってくれるフルフェイスのヘルメットを被り、センティネル級
シャトルに搭乗して、雪の降る惑星へと降りて行った。
――惑星マイギートー・ルーンニウム市郊外
雪が降り、結晶化した氷河や雪原が広がるマイギートー。文明はこの上に築かれており、地表は荒れ放
題である。しかし、ムーンの建設した都市は美しく、氷河は壮大な眺めであった。だが、彼らは観光に来た
のではない。反乱の代償を支払わせる為に来たのだ。
バレイポット「これより我ら第501大隊は人質とされた罪の無い帝国市民を救い、卑怯な反乱軍に鉄槌を
下す為に向かう。…お前達はなんだ?」
バレイポットは兵員達を眺め回す。すると彼らが一斉に大声を張り上げる。だが、バレイポットはやり直し
を何度も要求する。
トルーパー「第501大隊だ!」
バレイポット「ふざけるな!聞こえんぞ!」
トルーパー「精鋭第501大隊だ!」
バレイポット「最近のクローンはタマを落とされているのか!?」
トルーパー「無敵の精鋭第501大隊だ!!」
バレイポット「良し!我々第501大隊は無敵だ!行くぞ豚娘共!」
喚声をあげながら突進していく兵士達。しかし、数分後にはこの高揚を止めねばならない。接近が知られ
ては攻撃を受けるばかりではなく、市民が処刑されるかもしれないからだ。あくまで隠密作戦なのである。
131
:
埋葬、4
:2007/08/11(土) 20:27:44
「……あのさ、ずっと考えてたんだけど」
と彼女が言い出したのは、降りしきる暗黒という名の雨に全身を包まれた頃。
携帯の画面を唯一の灯りにして歩いていた四肢を止め、彼女を見る。
「ひょっとしたら、これは幽霊の仕業なんじゃないかな?」
「……はい?」
予想外の単語だった。
「あ、別に気が変になったとかじゃなくて。
今私たちが住んでる部屋にね、最近幽霊が出るの」
「幽霊……」
つい最近そんなことを別の誰かから聞いた気がする。
「よく知ってる気がするのに、誰だかわからない声。それがね、どこからともなく聞こえてくるの。
アーチェやプリシスも聞いたんだから間違いない」
「まぁ確かに怪談話としてはセオリーすぎる展開ですけど」
「信じてないって声」
見透かされた。隠すつもりもなかったが。
足を止め、軽く肩をすくめる。無論、暗がりの中彼女の目には入らないのを見越した上で。
「信じられません。自分の目で見ない限りはね」
「あなたの目はこの世界でそんなに偉いの?」
非難ではない。どこか、試すような響きを感じた。
思わず苦笑が漏れた。
その言葉の意味を伝えるのに「偉い」という表現を用いる彼女の発想に対して。
「確かに、俺の目はこの世界のすべてを見通せるほど大層な代物じゃありません」
それに――
「天使や悪魔がいる『世界』で、幽霊の存在を嗤うのもナンセンスか」
ふと気付いて、再び足を動かす。
相変わらずだが、体力で目の前の少女に劣る自分の体が恨めしい。
「けどですね、それを踏まえてもリディア様の発想は飛躍しすぎてます」
「……わかってる。そう思いたいだけ」
――あぁ、そうか。
自分の浅薄な回路を呪う。
彼女は明確な敵がほしかったのだ。
懊悩や焦燥は問題が解決されない限り消えない。
敵は倒せば解決する。
――これほど安易かつ平穏な解答はない。
そして、平穏とは大概現実から最も離れた場所に存在するものだ。
132
:
埋葬、5
:2007/08/11(土) 20:30:40
ここは一体なんだろうか。
森の中を、歩いてきたはずだった。
しかしそこに現れたのは、明らかに人間の手によって作られたとしか思えない建造物。
周囲には何もない。
正確には、人工的なにおいを感じさせるものは、何も。
道さえなかったのだ。当然ながら、人が住んでいる気配はない。
森の中にぽつんと立つ、忘れられた廃墟――
「アスミは、この中ですか?」
こくりとうなずく。
足もとに気をつけながら、とりあえず一歩踏み入れる。
そして――自分の認識が間違っていたことに気づいた。
ここは忘れられたのではない。
棄てられたのだ。
「……聞こえる」
何が、と問うより早くその声は自分の耳にも届いた。
格子の外された窓枠から、まるで無粋な侵入者を咎めるように大気を揺らす緑の喧噪――
その中にあって、かすかだがはっきりと鼓膜を震わせる意味ある韻律、あるいはその羅列。
「これ……あの声だ」
「その指示代名詞に該当する具体的名称を共有してください」
「本当に好きだよね、わざわざ回りくどい言い方するの。
だから、幽霊。時々聞こえるあの声とおんなじ」
リディア様の声はわずかだが震えを帯びている。
耳を澄まして聞いてみる。
その声は、廃墟の奥から聞こえてくるようだ。
もともと大きな建物ではない。届く声がおぼろげなのは遠いからではなく、声量が乏しいのだろう。
しかし何より関心を覚えたのは、
「……なるほど」
正直、アーチェやリディア様の言葉には半信半疑だった。
聞いたことがあるような気がするのに、聞き覚えのない――そんな形容で飾られる声など経験がない。
だが――それ以外にどう形容のしようがあるというのか。
二人と同じ表現しか思いつかない自分が、そこにいた。
133
:
埋葬、6
:2007/08/11(土) 21:13:02
静止するより早く、リディア様は一人廃墟の奥へと駆け出した。
彼女が何を考えたのかは想像に難くない。
幽霊にアスミが憑かれた――そんな可能性を一笑に付すことが、何故出来る?
慌てて彼女を追いかける。自分がいたところで足手まといにしかならないことは自覚しつつ。
近づくほどに届く声もはっきりとしたものになった。
眉を潜める。
――The place changes and goes. Like a wind, like clouds
――Like the traces the heart, no halt at the places
耳に届く歌詞は英語のもの。さらに言えばその曲を自分は知っている。
だがそんなことよりも、
――この声で、この曲を知っている人物……?
リディア様はすぐに見つかった。
そして、彼女も。
気のせいか、彼女は暗闇の中でぼんやりと光っているように見えた。
「アス、ミ……?」
そう呼びかけたのは自分か、リディア様か。両方だったかもしれない。
疑問を帯びた口調であることは自覚していた。
何故か?
別に彼女が普段とまったく異なる姿をしていたわけではない。
さすがにいつもの花のように広がったスカートではなく、歩きやすいパンツルックではあったが。
まして空を飛んでいるわけでも、奇行を繰り広げているわけでも。
あるいは彼女を知る人物にしてみれば、奇行と表現してもおかしくはないかもしれない。
――さて、彼女とは誰か。
言うまでもない、アスミだ。
正確には、アスミの姿をした、『誰か』。
それが、歌っていた。
――The place is so far away, be far apart
――People's hand does not reach, so merely has the worship
アスミの声で。
――The place is a profound load, and wear the vain faint light
――But we will find it in the place. The hut at which it stands still
あるいは、幽霊の声で。
134
:
埋葬、7
:2007/08/11(土) 22:16:14
「つまりアスミが幽霊にとりつかれて歌ってたってゆーこと?」
アスミの失踪から一夜明けた、朝。
「そうですね。俺も最初はそうかと思いました」
昨日自分が見た出来事を、そのままアーチェに話す。
スパイスとして己の主観を織り交ぜながら。
何だかんだとあって、結局昨日は話す機会を逸してしまったのだ。
「過去形? そうじゃなかったの?」
「考えてください。そもそも幽霊って単語はどこから出てきました?」
「それは、だから聞いたことがあるようでない声が、どこからともなく……」
「その声の正体はアスミだったんですよ?」
「ん? アスミの声が幽霊で、つまり幽霊はアスミだったわけだから……えっと、死亡フラグ?」
「リディア様が聞いたら斬鉄剣が唸りますよ」
つまりですね、と、
「幽霊という概念。その根源とも言えるものの正体が、アスミだったんです」
聞き覚えのあるようでない。
闇の中を踊る声に、何故そんな印象を覚えたのか、理解した。
声は紛れもなくアスミのものだ。そう認識して聞けば、それ以外の何物でもない。
だがその音を紡ぐテンポが、普段の彼女からは想像できないほどにかけ離れていた。
四車線の公道をジャンボジェットが滑走していくようなものだ。
誰もそんなことがありえるとは思わない。
それはアスミのことをよく知る者にのみ起こる、認識の穴だった。
しかしそれでは即座に次の疑問が生じる。
何故アスミは歌っているのか。
そもそもアスミが倒れたと聞いて自分はここに来たのだ。
その彼女が今、こんな場所で一人歌っている。
135
:
埋葬、8
:2007/08/11(土) 22:18:06
結局、その声が途切れるまで自分もリディア様も動けなかった。
アスミは虚空を見据えて立っている。
その体をリディア様が無言で抱きしめる。
「あついー、はなれろー」
ふいにバタバタと暴れだすアスミ。
そう、アスミだ。こんな間延びした響きを彼女以外の人格が出せるとは思えない。
ぱっとリディア様が手を離す。アスミは猫のように体を軽く震わせ、満面の笑みを浮かべた。
「体は大丈夫? おなかとか痛かったりしない?」
「たくさん元気ー」
ぱたぱたと手を上下に動かす仕草が、彼女なりの元気の表現法らしい。
こういう時、虚飾や虚勢のないアスミの言葉はありがたい。
素直に安堵することができる。
「何で、こんなところに一人で来たの?」
その声には非難の響きが含まれている。
アスミも敏感に感じ取ったようで、ぱたぱたをバタバタに変えて、
「一人じゃないー、いっしょー」
そう言った。
思わず首を傾げ、リディア様と顔を見合わせる。
「誰と…一緒だったの?」
「いっしょー、あっちこっちー、いなくなったー、おいかけるー」
ついには部屋の中を駆け出しながら、右手を矢印にしてくるくると回り出す。
「アスミ落ち着いて…ねぇどうしよう?」
リディア様が自分に意見を求めるのも珍しい。
だが、それには応えない。
「一人はやー、いっしょー、いっぱい一人ー、いくなー」
「今はもう、いないんですね?」
ぴたりとアスミが動きを止めた。
「いないー、いっしょはくるしー、うたってばいばいー」
リディア様の目から、涙が溢れ出した。
何故かはわからない。わかるような気がしても、それはきっと錯覚だろう。
アスミは変わらず満面の笑みを浮かべながら、
矢印の形にした右手で、空を指差していた。
136
:
埋葬、9
:2007/08/11(土) 22:40:58
「……それで?」
「いえ、それで終わりです。その後すぐあなた達と合流して、以降は説明する必要ないでしょう?」
アーチェは口を結んで難しそうな顔をした。
「んー、結局何だったワケ?」
「いや俺に聞かれても」
アスミが何を見て、誰と会話していたのか。
それはアスミにしかわからない。
彼女は嘘をつかないが、すべてが彼女の妄想だったとも考えられる。
だが――
「『あそこ』では、そんなことがあってもおかしくないような気もする、かな」
「あそこって、話に出てきた廃墟のこと?」
頷く。
「多分、数十年前まではどこにでもある普通の家屋だったんでしょう」
「森の中に一軒だけ立ってて普通もないもんだけど」
「いえ、その頃はまだ森じゃなかったんだと思いますよ?
あそこまでの間に生えてた木はそんなに生長しているようには見えなかった。
戦争時代、家と一緒に多くの木々も焼けたんでしょう。あれは植林されたものです」
「じゃあ、その廃墟は……」
「多分、戦争時代に焼け残ったんでしょう。もっと昔の可能性もありますけど。
取り壊すのにも費用がかかるから、そこに放置された」
「…………」
上を見上げる。
部屋の中だ。見えるのは天井でしかない。
昨夜のアスミには、空に還る誰かの姿が映っていたのだろうか。
「そうしてあの建物は『埋葬』されたんです。
――森という棺の中に、ね」
137
:
埋葬、10
:2007/08/11(土) 23:42:51
「リディアー、ごはんおいしー」
一対の箸をフォークのように掴んで口の中にかきこむせいで、
アスミの食事機能にはデフォルトとして「口の周りを汚す」と「床にこぼす」が備わっている。
それをすべて世話するのがリディア様の日課だ。
「ありがとう、アスミ」
時折ハンカチで彼女の口の周りを拭う。
最初の頃は食事を邪魔する行為として嫌がっていたが、最近は素直に受け入れるようになったようだ。
落ち着きのない妹の世話を焼く姉を見ているようで微笑ましい。
これは余談だが、アスミは時々地下室で歌っていることがあるようだ。
地下室には通気口のための穴が何箇所かある。中には部屋と繋がっているものも。
それが伝声管の役割を果たしたのが、枯れ尾花の原因になったようだ。
アスミが地下室で一人歌っていた理由は、不明である。
箸を動かすアスミの動きが止まった。
怪訝な顔で見やるリディア様。
「これおいしー」
「うん、どうしたのアスミ?」
すっ、とアスミが皿を差し出した。
もういらない、というジェスチャーではないだろう。それは天地がひっくり返るよりもありえない。
「……食べるー?」
リディア様の目が大きく見開かれる。
――独りは嫌だと、彼女は言った。
それはつまり、今は独りではないと。
自分達は「認識されている」と。
そう、思っていいのだろうか。
にこりと笑って、皿を受け取る。
言う言葉は、月並みで、ありふれているかもしれない。
だが、だからこそそれはそこに存在し続ける。
忘れることのない、確かな想い――
「ありがとう、アスミ」
138
:
夏空、時々、雨
:2007/08/14(火) 01:07:48
建物から出ると見事なまでの土砂降りだった。
「すごい雨だねぇ」
ラムネの瓶を開けながら、フヨウ。
「けどこれじゃあ帰れないよ…」
建物の中には泣きそうなフランドールとそんな彼女と手を繋ぐアサヒ。二人の隣ではメイディが携帯を見ている。
ざんざん、ざぁざぁ。
突然の雨に道行く人がかけていく。
「ねぇ」
空になったラムネの瓶と鞄を腰かけていた長椅子に置くと、たんっ、と地面を蹴り、前へ飛び出す。
「あはははは!やっぱりすごーい!」
ざんざん降り注ぐ雨を頭から浴びながら、彼女は嬉しそうに笑った。
「なにやってんだよー!?」
雨に負けない様に叫ぶアサヒにフヨウが同じ様に叫び返す。
「思い出してるんだよー!」
ぽたん、と軒下から落ちる雫に日傘をさしかけていたフランドールが小さな悲鳴を上げる。
「うわぁ、すっごい青空」
思わず感嘆の声を上げ、携帯で空を写す。
「僕とお母さんがあったのも雨の日だったんだ」
複雑そうなアサヒが見つめるなか、濡れた髪をなびかせながら、空を見上げるフヨウの視線の先には
真っ青な夏空と白い雲を繋ぐ大きな虹がかかっていた。
夕立と女の子組
139
:
花火
:2007/08/16(木) 14:06:33
8月のある日―――
皆はこの夏の異様な暑さでだらけていた。
「おーい!今年は冷夏だとか言った奴出てこーい!」
と、巨乳戦闘機の声が一日一回は聞こえるほどだ。
そんなとき―――。
「なぁ、皆で乃木の地元で花火やらへん?」
不意に先生が思いがけない提案をする。
「しっかり夏の思い出は作っておかんと後々後悔するでー?」
そんなこんなで花火をすることになったのだが………。
「………東京やてー!?」
先生は驚いていた。
「や、やる場所確保できへんやん………」
現在の東京というものは広い公園や空き地が無く、
あってもそこは花火禁止の立て看板がいやらしく立っているのであった。
「うーん、それじゃバーンとォ!天界でやります?」
皆がその提案に驚いた。
「て、天界?………上?」
「ええ!上です!さぁ今から皆さんを天界にバーンとォ!ご招待しますので歯を食いしばってくださいね!?」
どこからか金属バットを取り出し………
「ちょっと待て(カキーン」
皆まだ死にたくないと必死に逃げるも見事に打たれたのであった。
―天界―
「ようこそ!極楽浄土の天界へ!」
一同を迎えたのはいつものお手伝いだが、その姿はいつもと違う巫女姿。
「……………」
沈黙する一同。しかしそのお手伝いの口から―――。
「花火はあちらにバーンとォ!沢山用意させていただきました!」
途端に皆の顔が明るくなる。しかし空はまだ青い…。
「どうしよう…まだ…」
また一同の顔が暗くなっていく。すると…。
「あ、昼子様に頼んで夜にしてきてもらうのでバーンとォ!待っててくださいネ!」
それから10分ぐらい経っただろうか…。
みるみるうちに空は暗くなっていき花火をやるには今しかなかった。
「じゃ、打ち上げるでー!?」
一発目の花火は赤く空の野に咲く花の様な…
「じゃ、いっくよー!?スプレッドボム!」
二発目の花火は橙色に丸く―――。あれ?何かおかしい。
「その前にそれは花火じゃなくて爆弾だっ!」
一同の突っ込みが炸裂する。
その後も数時間に渡って花火を楽しんだ一同ではあったが―――。
―ネオトーキョー カツ○カ地区―
「へぇー、未来 の東京ってこんな感じなんだー!」
「………浦島太郎か俺らは?」
彼らが天界からかえってきたときにはすでに500年の歴史が流れていたそうな…。
140
:
メガネとキスと魔女
:2007/08/30(木) 18:27:00
「いつも思うんだけど」
不意に上がった疑問の声に紅は新聞からキャンバスに筆を滑らせているドロシアへと視線を移した。
メガネをはずしてるせいか、キャンバスの絵はあやふやでしか見えず、彼女が何を描いているのかわからなかった。
「紅ってやっぱりメガネないほうがカワイイですよ?」
くすくす、と笑い声が聞こえる。
少し距離があるせいか、振り返ったドロシアの表情まではぼやけて分からない。
「今更何言ってるのよ」
むっとしながら、立ち上がり、メガネを手に―
「ダメ、ですよ?」
トン、と軽い衝撃と油絵の具独特の匂いが近付く。
「メガネかけないと前見えないんだけど?」
「だからだめですって」
「…なんでよ」
「だって」
少しドロシアの顔が近付き―
チュッ
「メガネが邪魔でキス出来ないでしょう?」
やあ、最近ネタが出ないえぐい色の魔道士だぜ
ドロシアさんに最後の台詞を言わせたかっただけなんだ
…BGMに某銀森のアリスの王子さまかけたら脳内がやばいぜ
141
:
勢いでやった、反省はry
:2007/09/01(土) 04:55:23
今日もスパ家は何食わぬ顔して非日常な日常がすぎ、季節も過ぎ今日もまたのんびり過ごしております。
おーい、ライー。
ライ(擬人キリン♂)「呼んだー?(何故か巫女服)」
…だから、何故いつもそういうかっこうしてくるのかと。
ライ「しかたないじゃん、そういう服しか持ち合わせてないのに。」
そういう服しかないの!?
ライ「うん。後はセラ服にチャイナドレスにメイド服にry」
まてえぇい! おまいそれはおかしいだろ!!!
ライ「でも、女の子顔女装ショタってある意味需要あると思うけどなー?」
いやそんなわけないだろ
ライ「ま、ちょっと誰かに写真撮ってもらって写真集にしてネットでばらまくわ。」
ちょ、そうじゃなくてn
ライ「あ、アリオル先生だ。 せんせーwww(たったった…」
…(゚Д゚ )
…(゚Д゜)
…( ゚Д゚ )
今日もまた、スパ家は賑やかそうです。
142
:
ギャラクティック・コンクエスト:序章・工業惑星マイギートー
:2007/09/05(水) 18:51:40
その頃、ルーンニウム郊外のハイウェイを疾走する2台のスピーダーバイクの姿
があった。レイズ上級曹長とその部下のドレロシン軍曹である。彼らは第501大隊
への情報面での援護をする為に、偵察を行っていた。
レイズ「本当に自然に乏しい惑星だなぁ…」
ドレロシン「都市は綺麗なんですがね。まあ、アウター・リムの惑星なんてこんなも
んですよ」
破壊された車や装甲車両を巧みにかわしながら彼らは雑談を行っている。その辺
りのチンピラならすぐに霊柩車の厄介となる行為だ。この事から、彼らの練度の高
さが伺える。その時、彼らは突如バイクを止め、焼け焦げた反乱軍の戦車の陰に
隠れた。
レイズ「こちらST-1138レイズ上級曹長、6号ハイウェイ上に小規模な敵の砲撃陣地
を確認、行動の際は注意されたし」
彼らのヘルメットに内蔵された高性能スコープは数km.先の火点を正確に捉えてい
たのだった。更に周囲を彼らは見回す。ハイウェイは高所に建設され、大地は平坦
で見晴らしが非常に良い。が、これは味方にとって不利であり、敵にとっては利点で
ある。この砲撃陣地を潰さなければ、大隊の行動が通報され、同時に攻撃を受ける。
ドレロシン「分隊長、どうします…?」
レイズ「軍曹、人数を数えろ」
敵の守備隊は10数名…砲兵やその他の兵や将校を入れても30名は超えないだろ
う。奇襲をかければ、一個分隊でも制圧することは容易い。彼は別のエリアを探索
しているスカウトに召集をかけた。奇襲攻撃をかける為に。
143
:
確執編十七章:悟りの終着点 1/12
:2007/09/06(木) 23:04:38
・三日目 AM10:30 サイド:アーチェ
「これが最終日でよかったわよねー」
空を見上げながらしみじみとつぶやく杏。
確かに、と思いつつ倣えば、そこにはちらちらと舞い降りる白い結晶。
「電車止まんないかな。そうしたら『仕方なく』もう一日こっちにいられるじゃん」
「バカね。泊まるとこもお金もないのに、下手したらここで朝まで野宿よ?」
駅の構内を指差す。春原はつまらなそうに舌打ちした。
春原の期待とは裏腹に、電車が止まるというアナウンスは聞こえてこない。
「向こうも雪らしいね。このまま降り続けたら積もるかも」
「その時は雪かきお願いね、陽平」
「はぁ? 旅行疲れの、特にやたらと重い荷物を背負わされてボロボロの僕に、まだそんな重労働をさせるわけ?」
「男でしょ? ここでいいとこ見せなきゃあんたの株は死ぬまでストップ安よ」
「杏がやればいいだろ。僕はお前と違って繊細なんだよ」
「陽平〜、犬神家雪原Verの餌食になりたくなきゃ今すぐ前言を撤回しなさい」
「ひぃっ!?」
二人を無視して、あたしは少し離れたところに一人立つセリスに近寄った。
「来ると思う?」
「ほぼ、間違いなく」
セリスの声は確信に満ちている。
誰か、なんて言うまでもない。
「彼女は『彼』と契約を結んでいる。それを果たすためにも、彼女は来るわ」
「そういや昨日もそんなこと言ってたけど。契約って一体、何? それがあたしとどう関係してるの?」
セリスの顔にわずかに生まれたのは、躊躇いだった。
「…私も、そんなに詳しく知ってるわけじゃない。特に『彼』が何を提示して彼女を従わせてるのかは。
けど、彼女が何をしようとしてるかは知ってる」
「教えて」
「……あなたを、負かし続けること」
呼吸が止まった。
何となく予想はしてた。それでも面と向かって言われるとショックだった。
「正確に言うと、同等の条件下でって制約がつくらしいんだけれど」
「同等の?」
「剣には剣で、魔法には魔法でのみ対すること。
けど彼女はそれを守らなかった。つまり最優先はあくまで――」
「あたしを殺すこと、か」
それは死の劣化した世界であたしを殺させ続ける契約を交わしたってこと。
「……やっぱ、アイツあたしのこと恨んでんのかな」
考えてみれば、あたしは当たり前のようにアイツは中立だと思い込んでた。
けどアイツが使徒を名乗ったのはあくまでリディアに対してだ。あたしじゃない。
秤にかけて向こうを選ぶのは、極めて自然なことじゃないか。
「あなただけじゃないわ。これはリディアに対しても行われてる」
あたしの心理を読んだのか、セリスがそう言葉を付け足した。初耳だ。
「私にはその意図はわからないけれど…負けることに意味があると、そう思ってるみたい」
負けることの意味、か。
144
:
確執編十七章:悟りの終着点 2/12
:2007/09/06(木) 23:06:02
・三日目 AM11:00 サイド:アーチェ
あたしは正義って言葉があんま好きじゃない。
その言葉を好んで使う奴にはロクなのがいない。
自分が正しいことを知ってる奴は、それを自分の中だけに留める。吹聴したりしない。
何故なら、その正しさが自分だけのものだってことをちゃんと知ってるからだ。
正義なんて十人いたら十通りのカタチがあって当然で。
だからこそ――あたし達は、理解し合えない。
そう考えて、あたしは逃げてただけだった。ずっと。
――カチンッ
それは戦闘の始まりを告げる鐘にしてはあっけなさすぎるほど軽い音だった。
「面白い剣術ですね。魔法を『斬る』とは」
どうやらあたしめがけて飛んできた魔法をセリスが防いでくれたらしい。
完全に不意打ちだ。セリスがいなかったら、自覚した瞬間にこの世界から消えてただろう。
「……貴様は何を考えている?」
怒気を隠そうともしていない。今の一撃がよっぽど腹に据えかねたらしい。
それにしても狙われたあたしの方がまだ状況を呑み込めてないってのも何だか恥ずかしい。
一方のアクマは、背から広げた漆黒の翼をはためかせ、
「誰もが理解できる事象など、この世のどこに存在するでしょう?」
世界に染み渡るような澄んだ音色で、そう言った。
セリスが駆ける。
彼女の剣の間合いがアクマを捉えるより早く、大気を引き裂く音が宙を跳ねた。
魔力で凝縮された紫電の槍。狙いは――あたしっ!?
「つぁっ!?」
頭より体の方が先に動いてた。
地面から生えた錐が槍の進行を阻む。
嫌な汗が背筋を伝う。雪のちらつく世界に、かすかに震えるあたしの躰。
これが彼女の――ひいてはアイツの中にある意味。
負けることで得られるものをあたし達に求めてるということ。
実際あたしは何が得られただろう。
自分の無力。悔しさ。それ以上に――後悔と、恐怖。
けどそんなのは今何の役にも立たない。
リディアと仲直りしろといいたいのか。
とにかくいっぺん痛い目見ろってことなのか。
何にせよ、アイツが求めてるものをあげられるとは思えない。あげたいとも思わない。
145
:
確執編十七章:悟りの終着点 3/12
:2007/09/06(木) 23:08:06
セリスは速度を落とさないままアクマを捉えた。
「動揺するとでも思ったか?」
魔法を放った直後の体勢で、アクマの動きは鈍い。
刺突は狙い違わず片翼を貫いた。
「報いろ」
勢いを殺さず、そのまま翼を引き裂く。
アクマの体が堕ちる。なのに、そこには動揺も痛痒もない。
彼女の表情はどこまでも虚無。
体を回転させ、セリスの連撃がうなる。
アクマは右手で受け止めた。掌にわずかに食い込んだ傷口から滴り落ちる血。
「っ!?」
攻めていたはずのセリスの顔が、突然驚愕に彩られた。剣を離し、後ろへ飛び退る。
雷柱が降り注いだ。
平たく言えば、あたしの使う雷撃をでかくして連発したようなもんだ。
「セリス!」
叫ぶ。彼女はこちらを振り返ろうともしない。
呼吸をするのと同じ感覚で、あたしは呪文を紡ぐ。
あとは発動のキーを告げるだけってとこで、激しいフラッシュバックがよぎる。
言葉が――出ない。
あたしの力で何が出来る?
ひょっとしたらアクマを倒せるかもしれない。
――それで? それで、どうなる?
あたしの力は誰も守れない。誰かを傷つけることしかできない。
望むものは、あたしの力じゃ手に入らない。
命中精度を捨てて数を頼りにした攻撃が、実は一番怖い。
自分を狙ってるならまだかわしようがある。
けどランダムに降り注ぐ雷が当たるかはどこまでも運だ。
標的は完全にセリスだった。
広範囲に撒くほど精度は落ちる。あたしが範囲外にいたのもやっぱり運でしかない。
「セリス!」
もはや雷のつんざく音に紛れてあたしの声は届かない。
その姿が、光の中に、消えた。
146
:
確執編十七章:悟りの終着点 4/12
:2007/09/06(木) 23:09:17
雷の集中砲火がやんだ。
アクマの右手にはすでに剣が握られている。
神速の斬撃を彼女は片手で受け止めた。
誰の? そんなの、言うまでもない。
いつのまにかさっきとは別の剣をその手に携えたセリスは、雷直撃の余韻も残さずアクマと切り結ぶ。
「興味深い」
片手でセリスの剣戟を抑えていたアクマが、ふいにその澄んだ声を紡いだ。
「相殺とも違う。強いて言えば――吸収でしょうか」
セリスの力のことを言ってるんだろう。
それはあたしも興味があった。
なんて言うか、セリスのあの力はおかしい。絶対に普通じゃない。
魔法の完全キャンセルなんて聞いたこともなかった。
「随分と余裕だな」
「そう思うなら、もっと追い詰めさせてみなさい」
アクマの剣が青白い輝きを帯び始める。
あたしでもわかる。あれは『斬るための力』だ。
セリスも気づいたんだろう。一瞬で距離を離す。
そして、アクマの一閃。
その一撃はかろうじて原型を留めてたプラットホームをきれいに両断してセリスへ疾る。
対するセリスは剣を鞘に納めて構える。剣閃に対して、抜剣。
――なんてーか、もうムチャクチャだ。
雷を槍の形状に変化させたり、剣に魔力を乗せて『斬る』ことに特化させたりするアクマの技術もそうだけど、
それらをことごとく斬り捨てるセリスの力も桁外れ。
今のあたしじゃ決して届くことのない世界。
わからない。
何故ここにあたしはいるんだろう。
戦う意志も。
覚悟も。
力さえもない。
そもそもそんなもの望んでさえいない。
「それで何もせずここでくすぶってる、と」
振り返る。
飄々とした姿が、そこにあった。
147
:
確執編十七章:悟りの終着点 5/12
:2007/09/06(木) 23:12:02
ほんの三日前まで普通に見てた顔。
二日前には言葉も交わした声。
それなのに、何故かひどく違和感を感じた。
――今あたしの目の前にいるこいつは、本当にあたしの知ってるアイツと同一人物だろうか。
「彼女はまた随分と派手にやってるようですね」
「アンタが指図したんでしょ?」
舌が乾いて言葉がうまく出ない。
何であたし、こいつ相手にこんな緊張してんだろ。
「俺は負かせと言っただけ。手段はすべて彼女に一任してます。
一応ハンデはつけるよう言ったんですが…まぁ、いいか」
それはここ数日のあたし達に対する言葉にしては、あまりにも軽かった。
「ふ…ざけんじゃないわよ!」
一拍遅れて叫びになった。
「何が負かし続ける、よ。そんなワケわかんない理由であたし達をこんなメに遭わせてるっての!?」
「それは誤りですね」
一太刀で切り捨てられた。
「あなたはもう理由に気づいてるはずです。ただそれを認められないだけでしょう?」
「…………!」
わかってはいる。わかってはいるけど、それでもこんな時は腹を立てずにいられない。
こいつはこちらのすべてを把握してる。してる上で、すべてを動かしてる。
普段はまったく感じない――いや感じさせないそれを、今あたしは痛いほど味わってた。
「一方的に負けて終わりにしますか? それもいい、アクマとの契約は今日までですし。
――ただし」
次の一言に、あたしはこれまでの何よりも動揺した。
「リディア様は、これに確かな価値を見出しましたよ」
気づくと、アイツはもういなかった。
最初からいなかったのかもしれない。あたし自身が望んだ幻とは、思いたくないけど。
――リディアは、あたしとは違うと。
そう言いたかったのか。
あるいはあたしが無意識にそう思ってたのか。
それは劣等感? まさか嫉妬、なんて心底考えたくもない。
これに価値があるというなら。
それは自分の負けを肯定したってこと。
自分が足りてないことを、劣ってることを認めて、それでも前に進むと決めたってこと。
――このまま彼女と再会して。
果たして、あたしはリディアの顔をまともに見ることが出来るだろうか。
まっすぐにあたしを見てくるだろう、その瞳に対して、
自信を持って見つめ返すことが、出来るだろうか。
148
:
確執編十七章:悟りの終着点 6/12
:2007/09/06(木) 23:13:02
この前と違い、アクマはセリスと積極的に斬りあおうとはしない。
魔法を使った遠距離攻撃を主体として、極力距離を置こうとしてるように見える。
「翼なしで私と斬り合うのが怖いか?」
そう。完全に対等な条件下でなら、セリスの剣技はアクマより上だ。
これまでも何度かアクマの剣を弾いて隙を作ってもいる。
詰め切れないのは一重に多彩な魔法技術のせいだ。
「怖い、という感情は持ち合わせていません」
「なら知ってみるといい」
激しい金属音。腕力でアクマが勝っても、セリスはそれを技量で受け流す。
アクマの剣が流される。剣の素人なあたしでもわかる、隙。
不自然な体勢でアクマがそれでも剣を揮う。けどそれをセリスが払ったら終わりだ。
実際、その通りにセリスは動いた。
そしてそれが勝敗を決した。
セリスの剣が『斬られた』。
一瞬、何が起こったのかわからなかった。
それはあたしだけじゃない。あのセリスが、戦闘中に動揺をはっきりと出している。
折られたのとは違う。
まるでバターをナイフで切るみたいに、きれいに剣身が断ち切られてた。
『それ』に気づいたのは一拍遅れてから。
金属の輝きとは異なる、淡い銀光がアクマの剣から発せられている。
――剣に魔力を乗せたまま斬ったんだ。
どうすればそんなことが可能なのか、あたしにはさっぱりわからない。
卓越した魔法技術とそれを駆使する力量あって初めて可能となるスキル。
セリスでさえ予想できなかった一撃。
「それなりに楽しませてもらいましたよ」
アクマが軽く手を払う。その手に握っていた剣が消えるのと同時、セリスの周囲を紫色の障壁が囲む。
「では、本題に入るとしましょうか」
そうしてアクマは初めてはっきりとこちらに視線を向けた。
149
:
確執編十七章:悟りの終着点 7/12
:2007/09/06(木) 23:16:20
人は自分の正しさのために力を使う。
どんなにいい言葉を並べてもそれは変わらない。
あたしの力も、あたしの正しさのために使われるべきだ。
けど、あたしの力は人を傷つけることにしか使えない。
――そしたら、あたしは他人を傷つけることでしか、正しさを貫けないんだろうか。
負けてしまえばいい。
そうすれば、誰も傷つけなくて済む。
あたしの正しさは、どこにも表すことなくあたしの中だけに留めてしまえば――
「詭弁ですね」
アクマの声はこんな時でさえも穏やかに澄み渡っていた。
「己を否定するために詭弁を用いるというのも、愚かな話」
それに応える余裕はあたしにはない。
アクマの猛攻をかろうじて退けるので精一杯だ。
「そうしてあなたはこれからも負け続けるのですか?
優しさというオブラートで誤魔化して、己の臆病を隠して生きるのも――
えぇ、愚かではあっても否定はしません」
何であたしだけが責められなきゃいけないんだろ。
優しさという言葉で臆病を隠す――そんなの、みんなやってることじゃないか。
誰も傷つけたくないって気持ちは本当だ。
それを臆病と嗤いたければ嗤えばいい。
「人間とはつくづく不思議な生き物ですね。生きるために己を否定する思考、私には理解できません」
仕方ない。それが生きるってことなんだから。
「そうですね。このまま私に負けるように、彼女にも負けるといい。
それもまた、あれの望む一つの終りの形でしょうから」
その一言が、眠るように沈みかけたあたしの思考を呼び覚ました。
負ける。リディアに。
具体的なビジョンがあたしの中によぎることで、これまでの自分の思考が具体化される。
誰も傷つけたくないから、自分の正しさを否定する?
何でそうまでして周りを守んなきゃいけないのか。
こう言っちゃ何だけど、あたしはあたしが可愛い。
時と場合にもよるけど、誰かと自分を秤にかけたらあたしは自分を選ぶだろう。
『アクマ』の言う通りだ。
それは優しさなんかじゃない。
自分が傷つきたくないから、誰も傷つけないだけ。
150
:
確執編十七章:悟りの終着点 8/12
:2007/09/06(木) 23:18:33
「ねぇ、『アクマ』。ひとつ聞いてもいい?」
案の定、あたしがそう言った途端、攻撃の手が止まった。
これまで『かろうじてあたしが凌げる程度の攻撃』をしていた理由なんて、他には考えられない。
「えぇ、ひとつだけなら」
「理解するって、どういうこと?」
アクマの表情が変わる。無表情から、わずかな微笑へ。
「そう聞かれた以上、私はこう応えるしかありません。
――『それは穏やかな幻想に包まれること』」
どこかから笑い声が聞こえる。
誰かと思ったら、声の主はすぐ近く。
それはあたし自身が発してたものだった。
――そっか。そういうことか。
ようやくあたしは理解した。
『アクマ』の――いや、『とある誰か』の言葉を借りれば、ようやくあたしは穏やかな幻想に辿り着いたってこと。
何て遠回りをしてたんだろう。
あたしは答えに辿り着くために、答えとはずっと逆の方向に歩いてたわけだ。
他人とはわかりあえないとあたしは悟った。
そんなことはないとセリスは語った。
――それはきっと、どっちも正しい。
結局のところ、他人を理解することなんてできない。
けど、わかりあうことは出来る。
その手段は簡単。
『わかりあえる』って幻想にずっと浸り続けてればいい。
悟った気になったあたしは、その瞬間から他人を理解できなくなった。
それはあたし自身が理解することを放棄したからだ。
「……ずいぶん長いこと忘れてたけど、ようやく見せてやれそうだわ」
それはしょせん幻かもしれない。
実態のない夢でしかないのかもしれない。
けど、あたしは知ってる。
「これが、あたしよ」
覚めない夢は現実と変わりない、と。
151
:
確執編十七章:悟りの終着点 9/12
:2007/09/06(木) 23:21:58
詠唱は一瞬。
あたしが放った雷撃は、アクマの一撃と相殺して虚空に消える。
「魔法合戦なら、アンタにだって負ける気がしないわ」
アクマの手に光が宿る。
純粋に魔力のみを凝縮させた力の結晶。
「それで? あなたは自分の力を肯定するのですか?」
「あたしはあたしのやりたいようにやるだけよ。今も、そしてこれからもね」
どうしてこんな簡単なことを忘れてたんだろ。
思い出した今となっては、逆に思い出すことができない。シーソーの両端に括られた思考。
あたし自身があたしを信じられる行動をとる限り、あたしは決して間違わない。
反省することはあっても、後悔はしない。
それこそがこの世界であたしが唯一信じられる『正しさ』だ。
「それがあなたの結論ですか」
魔力光を、握り潰す。
反射的に後ろへ跳ぶ。結果的にそれが時間の猶予をもたらしてくれた。
アクマを中心として、無数の錐が地面から生えてきた。
さらに錐からはまた別の錐が、その錐からまた別の錐がというように、次々と増殖していく。
たちまち錐で象られた茨で埋め尽くされた。
それは範囲を広げ、あたしの方へと襲いかかってくる。
「アースクエイク」
大地が裂けた。
あたしの魔法は錐を飲み込み、砕き、勢いを殺さないままアクマへと走る。
周囲を錐に囲まれたアクマは動けない。さながら自分で檻を作ったようなもんだ。
と、思ったら。
錐が一瞬で薙ぎ払われた。アクマの振るったたったの一閃で、だ。
その衝撃だけであたしの魔法もねじ伏せられる。
「出でよ、神の雷!」
全力の雷はアクマが上空へ投げ上げた魔力塊で爆砕。
「メテオスォーム!」
飛び交う隕石群を、もはや魔法すら使わず素手で粉砕。
「児戯ですね」
言いながら長髪をかきあげる仕草が悔しいほど様になっている。
「たとえどれほど魔力が優れていたところで、私に勝つなど不可能です」
「……そう。いつもそうよね」
小さくため息。魔力の使い過ぎで息が切れたってのもある。
「あんたみたいに桁違いの力を持ってる奴って、大抵そうやって人をみくびんのよ」
152
:
確執編十七章:悟りの終着点 10/12
:2007/09/06(木) 23:23:13
「…………っ!」
――初めて。
アクマの顔に動揺が走った。
二度も『殺された』身だ。胸がすく思いを感じたって、あたしは悪くない。
「貴様の敗因を強いてあげるとするなら――」
セリスの手には最初に弾かれた剣が握られ、
「アーチェを考えなしの無鉄砲と判断したことだろう」
アクマの胸を貫いていた。
それにしても考えなしの無鉄砲ってどういうことだ。
「あなたが、魔法を乱発したのは……」
アクマの双眸は己を刺し貫いたセリスをまったく見ていない。
まっすぐに、あたしだけを見ていた。
あたしが男だったら、そのまなざしだけで惚れちゃったかもしれない。女で良かったわ。
「セリスを解放するためよ」
セリスの剣はあらゆる魔法を『斬る』。
どれだけ力をぶつけても彼女は傷つかないと計算したんだ。
あのアクマが、小さく息を漏らした。
「まったく。人間とは、愚かであるが故に時に興味深い」
その顔にもはや感情の色はない。苦悶の色なんて最初から感じさせない。
「もっとも、関心を割いてまで突き詰めるほどのものではありませんが」
セリスが横に剣を薙ごうとしたのが、体の動きでわかった。
決まれば致命傷だ。下手したら両だ……やめよ、考えるとひたすら怖い。
そしてそれは呆気なく叶えられた。
「……ちっ」
小さく舌打つセリス。
その手に握る剣には、血の一滴もついてない。
アクマの姿はその残影さえも残さず、夢のように虚空へとかき消えてた。
153
:
確執編十七章:悟りの終着点 11/12
:2007/09/06(木) 23:24:17
「あれ?」
気がつくと地面にへたりこんでた。
「…アーチェ?」
「え? あれ?」
戦いの気配はすでにない。アクマが丸ごとどこかへ持ち去ってしまった。
あたしは安心したんだろうか。
「どうして、泣いてるの?」
わからない。
あたしにもわからない。
何でか涙が止まらなかった。
悲しいわけじゃない。特に嬉しいわけでもない。
それどころか、ここ数日で一番落ち着いてると言っていい。
なのに、何でこんなに涙が出るんだろ。
涙腺が壊れたんじゃないかと、自分の体が心配になってくる。
「あー、ごめん。あたしのことは気にしないで。ホント、何でもないから」
セリスは無言でこちらの顔を覗き込んでる。
昨日といい今日といい、セリスの前では泣いてばっかりだ。
「ありがとう、アーチェ」
目を見開く。
「何で…お礼を言うワケ?」
「あなたは私に見せてくれたもの。
――人はわかりあえる生き物だってことを」
「今の戦いの中に、そんな場面あった?」
特にあたしなんか魔法連発してただけだ。戦いというより魔法のバーゲンセールって感じ。
セリスは意外そうに眉を上げた。気づいてないのかって顔だ。
「うん、そうだね。それがあなたであり、だからこそ私はそれに喜びを覚える」
いや本気でわけわからないんですけど。
まだわからないの?、という言葉の後に繋がったのは、
「だってあなたは私を、私はあなたを理解してたじゃない」
――あぁ、そういえば。
生まれたばかりの赤ちゃんも、同じように泣いてるっけ。
154
:
確執編十七章:悟りの終着点 12/12
:2007/09/06(木) 23:25:24
・三日目
「まったく、とんだ茶番でした」
漆黒の翼をはためかせ、アクマがその髪をかきあげる。
その体には傷一つついていない。
最初からすべてが夢幻にしか過ぎなかったというように。
「お疲れ様です」
その言葉を彼女に対して用いることに意味があるのかと自問しつつ、
「わざと負けるのは納得がいきませんか?」
「最初から負けてなどいません」
「時々変なところで強情ですよね……」
深く、溜息をひとつ。
「これでようやくスタートラインといったところ、か」
「興味ありません」
心の底から無関心な響き。
「契約は果たしてもらいますよ」
「それこそ児戯ですね。貴女が気にかけても詮無いことです」
彼女は答えない。
「アーチェはリディア様と違って聞き分けが悪く、変なところで聡い。
最初から苦戦は覚悟の上だったが……えぇ、十分です」
「あなたの回した歯車はどこで何とかみ合うのでしょう?」
「興味がなかったのでは?」
「歯車には運命を知る権利はないと?」
「貴女でも自虐的なことを言うんですね。意外です。
まぁ運命なんて大層な呼び名をつけるほどのことじゃないですよ。
これからもう少しだけ騒がしくなって、それで、終わり。いや、終わり? 終わりになると、いいなぁ」
「それはどこに行きつくと?」
「無論、俺の望むゴールです」
お互いに、沈黙。
「さて。彼女達は、相手の中に映した自分とどう決着をつけるんでしょうね…」
155
:
名無しさん
:2007/09/09(日) 01:17:01
ageなのですよー
156
:
らいーる
:2007/09/09(日) 23:13:34
age
157
:
コア一族 -ビッグコア&テトラン編-
:2007/09/10(月) 11:59:31
私らコア系統はグラディウスを苦しめたバクテリアン軍の主力艦だ。
しかしそのバクテリアン様も今はビックバイパーによって死に絶え、
私らは宇宙に彷徨うだけの存在となっていた。
その後ヴェノム様に拾っていただくも酷い扱われ方をされた。
最初はビックバイパーを見つけ出し、ヴェノム様と供に倒して
再び第二次バクテリアンを築き、自分の地位を上げようとした。
しかしヴェノム様はビックバイパーに倒された…。
もう、可愛い妹達を自分と同じ目にあわせたくない…。
自由を求めて妹達と旅をしよう…心からそう思った。
そしてそれが叶った…。
それから数十年後…。
テトラン「ビッグコア姉どうしたの…?」
ビッグコア「あ?て、テトランか…昔のことを思い出してて…」
テトラン「そうなんだ…」
ビッグコア「あの頃が懐かしいな…テトランがまだコアだった頃だもの…」
テトラン「それ新手のギャグ?」
私とテトランは顔を見合わせて笑った。
ビッグコア「テトラン…お前は年老いちゃったねぇ…もう72歳か…」
テトラン「あ…うん…人間になってからね…あの人の子供も産めたし良かったよ…」
ビッグコア「馬鹿……………お願いだから死なないで私の可愛い妹…!」
私はぎゅっとテトランを抱きしめた。
テトラン「ビッグコア姉…だけどね…あの人のおかげでもう幸せはたっぷり味わったから…
今までありがとう…ごめんね…心配かけ…て………」
テトラン目を閉じてが動かなくなる。
ビッグコア「テトラン!?テトラン………馬鹿っ…」
私は動かなくなった
次の月、テトランの葬儀が静かに行われた。
そこにはビッグコアやカバードコア、クリスタルコアはもちろんのこと、
ビックバイパーなどの戦闘機一族も来ていたという。
待っていてねテトラン…。私も今、そっちに行くから…。
そう言ってからもう何光年経つだろうか…。
私は今でも生き続けている。テトランとの約束は果たせていない。
でも、いつか果たすつもりでいるんだ…テトランのためにね…
158
:
コア一族 -ビッグコア&テトラン編- 改訂Ver
:2007/09/10(月) 12:08:38
私らコア系統はグラディウスを苦しめたバクテリアン軍の主力艦だ。
しかしそのバクテリアン様も今はビックバイパーによって死に絶え、
私らは宇宙に彷徨うだけの存在となっていた。
その後ヴェノム様に拾っていただくも酷い扱われ方をされた。
最初はビックバイパーを見つけ出し、ヴェノム様と供に倒して
再び第二次バクテリアンを築き、自分の地位を上げようとした。
しかしヴェノム様はビックバイパーに倒された…。
もう、可愛い妹達を自分と同じ目にあわせたくない…。
自由を求めて妹達と旅をしよう…心からそう思った。
そしてそれが叶った…。
それから数十年後…。
テトラン「ビッグコア姉どうしたの…?」
ビッグコア「あ?て、テトランか…昔のことを思い出してて…」
テトラン「そうなんだ…」
ビッグコア「あの頃が懐かしいな…テトランがまだコアだった頃だもの…」
テトラン「それ新手のギャグ?」
私とテトランは顔を見合わせて笑った。
ビッグコア「テトラン…お前は年老いちゃったねぇ…もう72歳か…」
テトラン「あ…うん…人間になってからね…あの人の子供も産めたし良かったよ…」
ビッグコア「馬鹿……………お願いだから死なないで私の可愛い妹…!」
私はぎゅっとテトランを抱きしめた。
テトラン「ビッグコア姉…だけどね…あの人のおかげでもう幸せはたっぷり味わったから…
今までありがとう…ごめんね…心配かけ…て………」
テトラン目を閉じてが動かなくなる。
ビッグコア「テトラン!?テトラン………馬鹿っ…」
私は動かなくなったテトランを抱いて一日中ずっとそのままでいた…。
次の月、テトランの葬儀が静かに行われた。
そこにはビッグコアやカバードコア、クリスタルコアはもちろんのこと、
ビックバイパーなどの戦闘機一族も来ていたという。
しかしテトランが言ったあの人は来ていなかった。
彼は仕事で忙しくて来れなかったらしい…。
代わりに、兵士が何人か来た。
皆、テトランの顔を見るたびに「昔と全然違うな」と一言。
でも、私は昔と変わっていない、そんな気がした。
待っていてねテトラン…。私も今、そっちに行くから…。
そう思ってからもう何光年経つだろうか…。
私は今でも生き続けている。テトランとの約束は果たせていない。
でも、いつか果たすつもりでいるんだ…テトランのためにね…
(まさかのミス発見orz とほほ…)
159
:
ここより続く道、1
:2007/09/17(月) 19:49:21
チャイムが鳴る音で目が覚めた。
珍しい、と言えるだろう。基本的にその音色は予定調和によってもたらされるものであり、
確認を促すため以外の意味を持ちえない。
平たく言えば、何の連絡もなくチャイムを鳴らして我が家に訪れる輩はいないということだ。
つまり「チャイムを鳴らさずに」訪れる輩ならいるわけだが。
――NHKの集金か?
半年放置プレイの刑に処したのに、まだ懲りていないのだろうか。
だとしたら随分とガッツのある集金員だ。実に好感が持てる。
もう半年放置してやろう。
そう結論づけ、聞かなかったことにした。
再びチャイムの音――居留守ですが何か?
さらにもう一度。
もう一度。
もう一度もう一度もう一度もう一度もう一度もう一度もう一度もう一度もう一度もう一度もう一度…
25回目のチャイムを聞いたところで、さすがに何かおかしい事に気がついた。
いくらなんでもガッツとバカの意味を履き違えた集金員などいないだろう。
――どっかのネタ製造機じゃあるまいし。
ちなみに現在の所在地はマンションである。どんなに入口で喚き散らされても、
自分のいる部屋までは聞こえてこない。
わずかに。
そう、ここにきてわずかに。
――嫌な予感がした。
自分は二択の――そう、たった二つしかない選択肢の――半分は正解となる確率を有した事象の――
はずれを選んでしまったのではないか。
そしてその予感は反省も悔悛も許さぬ速度で確信に相転移する。
「居留守使ってんじゃないわよ!!!」
すさまじい轟音・爆音・騒音と共に視界が暗転する。
平たく言えば、脳天を打ち据えられて昏倒した。
160
:
ここより続く道、2
:2007/09/17(月) 19:50:27
目が覚めると、そこは楽園だった。
即座に理解する。
「あぁ、俺、死んだのか……」
「アンタはいいけど、あたし達まで死んだことにしないでくれる?」
「天国でも理不尽な物言いをありがとう」
かぶりを振って起き上がる。
「いきかえったー」
視界に収まっていた顔のひとつが横に転がる――落ちた。
「? ……? ここはどこだー」
足をバタバタと振り回す。頭から床に落下したにしては元気なセリフだ。
それでも気にはなるので、スカートの大輪を咲かせた花をどかしつつ見下ろす。
「大丈夫ですか?」
「あ、はっけー」
満面の笑み。こちらは苦笑交じりに溜息ひとつ。
「…あなたは全然変わりませんね、アスミ」
この性格が一年やそこらで変わるはずもないが。
見回してみれば、なるほど、ここに彼女達がいる理由が理解できる。
「いつの間に……」
半年前まで日常を過ごした場所が、そこにはあった。
何も変わってない――そう感じるのはただの錯覚か、あるいは幻想だろう。
無駄に書籍が積まれていた場所には箪笥がある。
寝袋を置いていた場所にはハンガーラックがある。
自分の存在した痕跡には墓標が立てられている――は、自虐が過ぎるか。
「アーチェですね?」
ここまで歩いて来た記憶は、当然だが、まったくない。
というか窓をブチ割られた直後に脳天強打されたあたりからプツリと糸が途切れている。
とりあえず主犯格を犯人扱いしてみる。
「違うわよ」
即答。まるで質問されるのを予想していたかのようだ。
「アーチェですね?」
「違うってば」
「アーチェです」
「わかってんならいちいち聞くなバカ!」
雷撃。というか逆ギレ。
161
:
ここより続く道、3
:2007/09/17(月) 19:55:09
――さて。
ある程度落ち着いてから見回してみると、何かがおかしなことに気づく。
「あの、イサ?」
人の真ん前で胡坐をかいて座っている姿に問いかける。
「ん、何かな何かな?」
イサと呼ばれたその姿は、持っていたコミックから視線をこちらに向けた。
少年や少女という形容はあまり相応しいとは言えない――故にどちらも相応しいと言える、そんな『少女』。
それがイサだ。
「何で俺は足を縛られてるんです?」
――むしろ最初に気づけと言う感じだが。
「決まってんじゃん、動けなくするためですだよ!」
「敬語とタメ口が混在してカオスと化してます。それにそれは聞きたい回答じゃありません」
「難しいこと言うね! 謎人!」
「いえ言ってません。あの…俺の言葉、通じてます?」
「ジャパニーズ日本語通じてます! ハラキリ、ゲイシャ、カネカエセ!」
「決死の覚悟をした芸者から金まで毟らないであげてください」
「あはははは! 面白いねおじさん! ボク大好き!」
「………………」
笑われたことに腹を立てるべきか。
大好きと言われたことに喜ぶべきか。
――おじさんと言われたことに凹むべきか。
とりあえず一番インパクトのあったラストに沈むことにする。
「リディア様とかは何をしてるんです?」
日本語が――いや、そもそも人間としての会話が成立するのかと思いつつ、
如何せん相手が目の前の悪魔しかいない現状では、いい悪いに関わらず話しかけるしかない。
「ディア? 朝から何かやってるよ! ボ……ワタクシサマは詳しいことは知らないかな!
ってか、知ってても言うなって言われてる!」
と、言うことらしい。
それにしても度重なる脳への衝撃の後に、この廃テンションに市中引き回しの刑にされるのはかなりこたえる。
せめてもう少しまっとうに会話できる人材はいないのかと、思索を巡らす。
リヴァルやフィーナなんて贅沢は言わない。せめて霧香か杏ぐらいの常識度はほしい。
というのを(具体的に述べるのは伏せ、ニュアンスで)イサに伝えると、
「おっけー了解! イサちゃん承りまくりましたでござる!」
いつの時代の日本語だ、と言いたくなるのをこらえる。
きっと彼女には1000年ぐらい未来の日本語を1Tビットの脳内無線LANで受信する機能でも備わっているのだろう。
何にせよこちらの日本語を理解した(らしい)イサは、窓から勢いよく飛び出して行った。
――その光景も、何とはなしに懐かしい。
しばらく独りの退屈な時間を過ごす。何しろ動けない。
「イサちゃん無事帰還! ただし乗組員全員逃亡、ドゾー!」
どこが無事なんだ、と言いたくなるのをこらえる。
何せ相手は1000年後だ。10世紀だ。ドラ○もんでさえ1世紀の差でギガゾンビに負けたというのに。
で、その無事(?)に帰還した宇宙戦艦イサは、
「おなかすいたー、ごはんだー」
わざわざ、遥か遠くのイスカンダルから、
常識度皆無、絶無、それはもう完璧にゼロの娘さんを連れてきてくれた。
「……………………………………イサ、ちょっと来てもらえます?」
「ごほうび? ワタクシサマにごほうびですね? 謹んで強奪させていただきます!」
嬉しそうに近寄ってくるイサの頭を両手で掴み、
振り回す。
「自分の脳みそを、一体、どこに、置き忘れてきたんですか、あなたは?」
「うぎゃー! 暴力反対だよおじさん! ボク大嫌い!」
「繊細な硝子のハートをハンマーで殴りつけるのはこの口か? この口か? あぁこの口か」
「うにゃににゃににゃにゅにゃにょ!」
「おなかすいたー、ごはんだー」
162
:
Gradius
:2007/09/19(水) 01:10:51
ここは蒼き聖なる惑星グラディウス。
第五次バクテリアン戦役(グラディウスⅤ)から幾多のも年月が過ぎ、
惑星グラディウスの歴史は1万を迎えようとしていた。
そんなとき、皇帝ラーズ63世による他の惑星にいると思われるリーク人の
捜索が始まった。
それというのも絶滅したはずのリーク人の子孫達が、
他の惑星で繁栄していたという話を聞きつけたためである。
そしてグラディウス帝国はとんでもない場所でリーク人を見つけることになる。
そこはかつて特殊部隊サラマンダと戦った星。
爆発して消えたと思っていたあのサラマンダの本拠地であった。
しかもグラディウスからそんなに離れていない。
グラディウスはすぐさまその地に軍隊と調査隊を派遣する。
しかし送ってすぐに音信が途絶えてしまう。
予測していた事態とはいえグラディウス連邦政府は
超時空戦闘機ビックバイパーを緊急発動させることにしたのだった。
今回ビックバイパーのパイロットになったのはなんと
皇帝ラーズ68世の息子、イアン・ドゥーリットルだった。
163
:
Gradius2
:2007/09/19(水) 01:50:28
そしてすぐさまイアンの乗ったビックバイパーが
グラディウス空軍基地から発射していった。
目指すはサラマンダの元本拠地。
ビックバイパーはものすごい速さでその元本拠地へと近づいていく。
そのときグラディウスから通信が入る。
「7つのスペース・プラントが何者かによって占領された!」
イアンは驚きを隠せなかった。
これでは4000年前と同じサイレント・ナイトメア事件の二の舞である。
「もしかして…ヴェノム?」
イアンの脳裏にふと一人の人物の名がよぎる。
しかし第五次バクテリアン戦役においてヴェノムは完璧に死に絶えた。
宇宙各地に分散されたヴェノムの脳みそも完全に破壊され
バクテリアンは完全に消え去ったはずである。
しかしイアンにはそんなことを考えている余裕もなかった。
まずはグラディウスに一番近いスペース・プラント、
「アルマティア」へ向かうことにした。
164
:
Gradius3
:2007/09/19(水) 16:39:49
―スペース・プラント「アルマティア」―
このプラント「アルマティア」は商業が盛んなプラントとして有名であったが
ビックバイパーとイアンが到着した頃に地表が氷で覆われた
無残な姿へとなっていた。
氷の中に閉ざされた建物や犬や猫などの小動物、そして人。
イアンはただただ呆然としているのみだった。
「これが…アルマティア…?」
しばらく進むとそこには大きな要塞があった。
間違いなかった。それは紛れも無くバクテリアンだった。
青いコアを持った要塞。それは第二次バクテリアン戦役(グラディウスⅡ)のときに
確認された「要塞ヴァリス」とほぼ同じものだった。
もはや侵略者はヴェノムぐらいしかいなかった。
165
:
ここより続く道、4
:2007/09/19(水) 22:54:17
というわけで暇だった。
何が「というわけで」なのかを解説すると、
1:イサ、泣きながらイスカンダルへと再出航。
2:アスミ、食糧がないことを悲観して失踪(単に別の部屋へ移っただけとも言う)。
3:残された一人、身動きも満足に出来ず放置プレイ。
空間は静かだった。何せ自分以外誰もいない。
隣の部屋から時々聞こえてくる喧噪がまた哀れを誘う。
そもそも理不尽ではないだろうか。
望んで来たのならいい。フォズの着替えを覗いた末路だと言うなら、この仕打ちも甘んじて受けよう。
自分はここに誘拐されてきたのだ。
――とここまで頭を巡らせて、あれ誘拐ならこの監禁的状況もおかしくないかと妙な納得感に包まれる。
つまり。これは。
俺を誘拐して身代金を要求しようとする――
「なんて卑劣な犯罪……」
「いきなりわけのわからないこと呟いてるし」
「うわっ!」
声が聞こえてきたのは頭の後ろ。
振り返る。
「こんにちは、『観測者』」
目の覚めるような蒼が佇んでいた。
髪も青なら、着ている服もほぼ青一色。
胸に描かれた金の十字架が、何故だろう、恐ろしく似合っている気がしてならない。
無論、ずっとそこにいたわけではない、はずだ。
しかし声を聞くまでそこに『いる』ことをまったく知覚出来なかった。
「……影が薄いのか」
「わけのわかるすっげー失礼なこと呟いてるし」
淡々とした口調。そこには感情の欠片も伺えない。
世界の終わりを韻律で表現するなら、こんな音になるのではないだろうか。
すべてを見据えた上でそれらを片っ端から見下すような――
そんな極地を『限りなく希釈した』、まぁつまり単なる無味乾燥な声。
「すっげー失礼な奴にはすっげー失礼な対応をしろと師匠から教わりました」
「あえて聞きますが……師匠とは?」
「私」
自分かよ! とツッコむのに気を取られてるうちに腕を縛られた。
ごく自然に、縛られた。
「…あの、これだと完全に一人じゃ身動き取れないんですけど」
足縛り + 腕縛り = 推してシルベスタ・スタローン。
「青虫や蛇は動けるじゃない」
「人間と比較してください頼みますから」
「今の貴方、とっても素敵」
「手放しで誉められても現状に満足したりしませんから」
「…………チッ」
舌打ちしたいのはこっちだ。
いや、心底から。
166
:
ここより続く道、5
:2007/09/19(水) 22:55:56
「で、あなたは何しに来たんです? まさか俺の腕を縛りに来たわけじゃないですよね?」
「そうだと言ったら?」
「全力で逃げます」
と言ったら、何故か意外っぽい顔をされた。
『ぽい』というのは、変化したのが僧帽筋の伸縮だけで、目の奥の光は微塵も揺るがなかったからだが。
「……おかしい」
「はい?」
「あなたはMのはず」
「どっから仕入れたそのソース」
「むしろM」
「断言されたし」
「ならまさかS!?」
「この世にはSかMの二種類しかいないのかってか体を両手で隠すな縛られた腕じゃ何も出来ん」
ナイロンで出来た(自分で言っても説得力がないが)堪忍袋の緒も、摩耗の果てに擦り切れつつあった。
「すべてじょーだんです。やーいやーい釣られたクマー」
「……………………」
体を反対側に向け、視界から彼女を消した。
これならまだ誘拐の方がマシだ。少なくとも誘拐犯には人並の理性があると思うから。
「怒った?」
無視。
「ごめんなさい」
……無視。
「挨拶したのに無視されたから、少し落ち込んだ。だからからかってやろうと思った」
…………無視。
「手を縛ったのはやり過ぎだった。そこまで怒ると思わなかったの、ごめんなさい」
縛られていた腕が自由になる感覚。足の方は相変わらずだったが。
……………………嘆息。
体の向きを戻す。
「……わかりましたよ、今回だけは」
水に流そうと言う前に、
「すべてじょーだんです。やーいやーい釣られたクマー」
即座に彼女の顔の『征服』にとりかかった。
ひとしきり憂さ晴らしを敢行した後。
「あぁ、もうお嫁に行けない私。およよよよ」
「およよとか泣くな被害者ぶるないいから黙れ」
名誉のために言うが、誓って人の(自分も含め)尊厳を損なう行為はしていない。
まぁ自身の主観だと言われてしまえばそれまでだが。
「女の子に対してそんな暴言を吐くなんて。鬼畜」
「……あなたは『女の子』なんてカテゴリーに含まれる生温い存在じゃないでしょう」
「差別発言。人非人。こんな可愛い女の子を前にしてそんなことが言えるなんて。……薔薇?」
血が出そうなくらい下唇を噛みこらえる。
「…………で? 真面目な話、俺に何の用です?」
「いや、別に」
あっけらかんと。
「さっきも言ったけど。挨拶に来ただけ」
そこには喜びも悲しみも怒りも焦燥も何もない。
どこまでも、無。
「改めまして。こんにちは、『観測者』」
「えぇ。こんにちは、『代理人』」
――そして、それ故の『代理人』だった。
167
:
Gradius4
:2007/09/21(金) 19:34:37
ビックバイパーが要塞ヴァリスとほぼ同じ要塞を見つけた頃、
惑星グラディウスはバクテリアン軍と必死の戦いを繰り広げていた。
そして次第に勢いを増すバクテリアン軍。
最後には壊滅し、敗走していくグラディウス軍。
勝負は敗北という最悪の形でついてしまった。
聖なる蒼き惑星グラディウスはついにバクテリアンの支配下となってしまったのだ。
巨大なダーク・フォースの力に飲み込まれていくグラディウス。
そしてすぐさまバクテリアンの要塞と化していった。
???(これで私の願いがやっと叶ったぞ…リーク人に栄光あれ…!)
168
:
少女、思い
:2007/09/22(土) 02:31:28
最近、自分を呼ぶ声がする。
そう、姉に話すと姉はただ寂しげに笑って「それは“オトウサマ”の声だよ」と言った。
オトウサマ、私を作った知らない、ニンゲン。
姉にとってお父様より大切な…ニンゲン。
以前お父様とそのニンゲンのどちらが大切か、聞いた事があった。
お姉様は手入れの手を止め、困った様に笑っていたのを、私は覚えている。
彼はそんなに、そんなに大切な存在なのだろうか?
姉妹を互いに戦わせる様なニンゲンが。
その問いかけにもお姉様は困った様に笑っていた。
「アリスがオトウサマの願いだから…」
“薔薇水晶…”
また、声がした。
「どうしたんだ?」
お父様のぶっきらぼうな、心配してくれてる声に私は首を振った。
お父様は少し肩をすくめると、再び髪を柔らかなブラシでとかし始める。
…お姉様は贅沢だ、お父様の愛を受けながら、他のニンゲンを求めている。
そんな、姉への嫉妬にも似た思いがいつしか私にオトウサマに対して怒りに近い感情を抱かせていた。
「はて、では貴方はアリスゲームを放棄すると?」
目の前の兎男の問いに薔薇水晶はただ無言で見つめ返した。
ただ、彼女が纏う闇は落ち着きなくうごめき、明らかな敵意を現していた。
「ですが…宿命から逃れられませんよ?
貴方がいくらあがこうとも全てはいずれ一つとなるのですから」
―あら、今日はずいぶんと早いじゃない
―え?ナハト?
―紫が言うにはゼロツーともども帰ってこれなかったみたいよ?
―それより、一緒に朝御飯はいかが?
そして、今日もまた一日が始まる
169
:
ここより続く道、6
:2007/09/25(火) 21:50:54
「あの。準備が、終わりました」
視線を遣る。が、姿は見えない。
世界は闇色に溶け込み、視界は夜色に染まる。
『代理人』との他愛ない会話は、時間を忘れるほどには充実していたようだ。
――いや、そんなことよりも。
「フォズ、ですよね?」
「え、あ、はい」
応えが返ってきた直後、言葉が「証明」された。
光が灯る。
電気? そんな無粋な光ではない。婚礼衣裳のように彼女を包む、純白の光。
佇むのは、10歳ほどの少女。
「御挨拶が遅れました。お久しぶりです」
利発そうな大きな瞳が、下げられて降りた髪に隠れた。
「確かに。こうして面と向かって会話するのは、久方ぶりですね」
「久方ぶりの再開。ロ(ryコン観測者、大興奮」
「黙れ戯言代理人」
困ったような笑みを浮かべるフォズ。
それにしても、
「準備――とは、一体何のことです?」
そういえば、と。さっきイサも同じようなことを言っていたことを思い出す。
フォズは瞳を意外そうに揺らした。
「え? あの、そちらの代理人さんからは、何も?」
首は動かさず、黒瞳だけを彼女に向ける。
「知ってることを吐け」
「『教えてください、セクシィでビューティフルな代理人さん』。はい復唱」
「知ってることを吐きやがってください、リスキィでデンジャラスな代理人さん」
「よろしい」
「いいんだ」
「ディアからの伝言です。『パーティの準備が終わるまで部屋で待っていてください』」
「……準備が終わってから言うことでは?」
「ありませんが何か」
「…………」
「いやー、犯されるー」
「誤解を招くことを大声で言うな!」
こほんと、咳ばらい――したのは自分ではなく、フォズ。
唐突に『代理人』との子供じみたやり取りに羞恥心が湧いてくる。
「……ともかく、こちらの準備は終わったので、早く来てほしいとのことです」
「はぁ、それはいいんですが……」
尾ひれを跳ねさせる人魚姫さながらに、ぱたぱたと足を動かす。相変わらず縛られたままだ。
フォズは初めてそれに気づいたようだった。怪訝そうに、
「何をなさっているんです?」
「趣味なんです。緊縛が。Mなので」
「フォズー、このイカれたお姉さんの言うことは無視していいですからねー」
結局、縛られた足はフォズの魔法で解放された。
170
:
ここより続く道、7
:2007/09/25(火) 21:52:06
案内されたのは隣の部屋。
扉を開けた瞬間、軽い破裂音が鼓膜を揺らす。
「…………!」
軽く、絶句する。
音に驚いたということもあるが、それ以上に、
――前にもこんなことがあったような。
あれは、そう、ちょうど一年前――
「あ……」
遅まきながら気がついた。
『にしぅねん☆ばんざい』(筆跡から察するにメイドバイアスミ)
正確には、思いだした。
そう、あの日から、もう、
「2年か……」
「なにアンタ、ひょっとしてマジで忘れてたワケ?」
呆れた、とアーチェ。
「まぁ部屋に乗り込んだ時の反応から、だろうと思ってたけどさー」
「そういえば、去年も、忘れてたもんね」
「リディア様……」
「アスミがいなくなった時以来だよね。二ケ月ぶり、かな?」
翠の双眸が微笑む。そこだけ空気が火照ったかのように、温かい。
「んじゃま、始めますか!」
そしてパーティが始まった。
一部屋に全員が入るのは無理がある。
多くは部屋の外に領域を広げはしゃいでいた。
然り。
「あー、それボクの!」
「あん? 肉に名前でも書いてたか?」
「ヨーヘーのバカー! 肉泥棒! 罰として逆立ちで二階から飛び降りを要求します!」
「するかっ」
然り。
「今日は何を『代理』してんの?」
「主人公の代理などを」
「は?」
「オラは怒ったぞー、フ○ーザー」
「感情なし、抑揚なしで激怒されても。むしろこっちが金髪化したいわ」
「正確には主人公の代理の予行演習。私の『代理権限』は本来そのために『執行』されるものだから」
「…あんたの電波は今に始まったことじゃないけど、そこそこにしときなさいよ」
「『と、何だかんだと拒みつつも、そんな代理人がみんな大好きなのでした』――ありがとう、杏」
「都合のいいモノローグを捏造してんじゃないわよ!」
1年前とは色々なものが違う。
迷わなくなった。
正しいとまでは云わずとも、疑問を抱くことはなくなった。
心から思う。
――こんな『世界』も、悪くない。
171
:
I pray, you must have the smile.
:2007/09/26(水) 00:47:07
「ひどい顔だな」
言われて、顔を上げてみれば、確かに涙やら鼻水やらで顔は相当ひどい有り様だった。
「ごめん…わざわざこんなことの為に起こしちゃってさ…」
うなだれながら、握りすぎて皺になってしまった服から手を離すと、
突然、髪がぐちゃぐちゃになるのではないかという勢いで頭を撫でられた。
「またすぐそういう事を言う」
「だ、だって…」
困惑しながら、手をどけようとする彼女を彼はにんまりと笑いながら、抱きしめた。
「お前は苦しくて助けを求めてたんだろう?
ならつまらなくもなんともないじゃないか」
そこまで言って、腕のなかの彼女がまた鼻をすすりだしたのに気付き、
彼は黙って彼女が落ち着くその時まで再び頭を―今度は優しく撫で続けるのだった。
「やっぱりひどい顔だな」
泣き疲れて寝息を立てる彼女の顔を覗きこみながら、彼は呟く。
「それでも独りで苦しむよりはずっとマシだな」
目元に残った涙を指で掬い、彼はそのまま部屋の明かりを消した。
「I pray, you must have the smile…」
やがて寝息は二つになり、夜はゆっくり更けていくのだった…
枕の裏
英語は自信なしだぜ
たまにこんな感じで現実逃避を(ダメジャン
枕の裏
172
:
名無しさん
:2007/10/02(火) 00:07:45
あげませう
173
:
英雄
:2007/10/07(日) 22:53:58
地響きを立てながら、地面に倒れ伏す魔物の横をくぐり抜けながら、ナハトはようやく息をついた。
火を自在に操る相手との戦いはまさに死闘そのものであり、彼もまた無傷ではなかった。
それでも、彼は大地に立ち、魔物は大地に沈んだ。
ナハトにとってそれだけで十分だった。
「ありがとうございます!お陰でこの街は救われました!」
証拠の魔物の角を持ち帰った彼を出迎えたのは人々の歓声と憧れ等が混じった視線だった。
「この村を救ってくださった貴方様こそまさに英雄にふさわしい!」
禿げかかった街長の言葉を無言で聞きながら、彼は杯をあおった。
皮肉な話である。彼は元々忌み嫌われる破壊と破滅をもたらす負の血族。
それを英雄と呼ぶ彼らは滑稽以外の何者でもなかった。
英雄というのは、とナハトは抱きつこうとする女を払い退けながら、思う。
英雄というのは、そう、命を賭して大切な者を守ろうとする、弱く、誰よりも強い彼女の事だろう。
ああ、本当に滑稽だ―
彼はほくそ笑みながら、再び酒で満たされた杯を傾けるのだった。
英雄の定義と闇の剣士のお話
174
:
星の海
:2007/10/07(日) 23:15:06
「たまには見上げる星というのもいいものだ」
そう言ったのは白い軍服を着た男―――大提督ピエットである。そしてその傍らには少々、
変わったポニーテールの女性―――アッシュが座っていた。彼らは今、都市郊外の丘に座
って、空を眺めていた。人工の光の少ないここでは、普段は見えない星も明瞭に見る事が
でき、まさに、星の海と形容するにふさわしい光景が彼らの視界の先に広がっていた。
「そうだな…いや、私にとってはこういう視点が当然だったのだが…」
男の先程の発言に対して相槌を打ち、自分のかつての立場を告げるアッシュ。彼女は元は
といえば、ハイラルという異世界の王国の騎士である。当然、その世界では、彼女のみなら
ず、多数の人々にとって、星々と同じ高さに登ろうなどとは夢にも思う事ではなかった。が、
今ではその非現実が現実となっている。そうなった後で、かつての常識の中に戻ると、違和
を感じるものである。
「まあ、喧騒を離れれば色々、考えや感じ方も湧くものさ。いつもなら、何がおかしくて、何が
当たり前かだなんて考えないだろう?それだけでも出てくる価値はあったさ」
彼女が言葉にしていない部分までを見通して、彼は語りかけた。普段、彼の喋る諧謔や口説
き文句とは違って、こんな時の彼の言葉は傾聴に値するように思われる。
「ふん…確かに出てくる価値はあったな。久しぶりにまともなお前を見た気がする」
「相変わらず、君は辛辣だね…だいぶ冷えてきた。そろそろ戻った方が良さそうだ」
そう言うと、彼は待機させていたシャトルへと彼女を促した。彼らの姿が消えると同時に、ライト
ブルーの機体が浮き上がり、星の海へと消えていった。
「間近で眺める星もいいものだ」
戦争物から離れてみようと試行錯誤した産物…o...rz
お題に沿っているかも怪しいものです…
175
:
確執編十八章:調和という名の歯車 1/7
:2007/10/08(月) 17:18:12
・三日目 サイド: ――――
吐く息が白い。
空が高い。
目の前の建物は白く、
見上げるほどの高さ。
不思議な感じがする。
ありふれた場所。
ありふれた場所――だった、はずだ。
違和感。
ここはどこだろう。
知っている場所なのに。
答えを求めることさえ意味がない。
そんな場所のはずなのに。
変わったのは世界?
変わったのは時間?
変わったのは――自分?
・三日目
「『あの高さはどれほどでしょう、と貴方は言っていた』、か」
「? 何です、それ?」
エプロン姿のリヴァルが、ふいに台所からこちらに声をかけてきた。
苦笑。まさか独り言を口にした上、その意味を聞かれることになるとは思わなかった。
「いえ――何の意味もありません」
時計を見やる。
「そういや今更と言えば今更ですけど、この三日間炊事洗濯家事等々ありがとうございました」
「今更――というかいきなりですね」
と言う割に、わずかに声には喜びがこもっている。
一昨日早苗さんが作り置きしていったパンは両手を合わせて供養し、
(何しろ食の権化とも言えるアスミでさえ首を横に振り、頑として口に入れようとしない)
以来ほとんどの家事は彼女に任せっきりだった。
「こういう仕事って、やってて楽しいんです。
私が楽しめて、皆さんに喜んでもらえたら、それに勝ることはありませんよね?」
「……きれいですね」
「ありがとうございます。そう言ってもらえると、掃除のしがいもあります」
そういう意味ではなかったが、まぁ、それでいいのだろう。
「さ、そろそろ皆さんも帰っていらっしゃる頃ですよね。
私は夕食の支度をすませちゃいます」
「お願いします、リヴァル」
そう。今日は三日目。
確執から始まり、憎悪を経て、今、辿り着く。
176
:
確執編十八章:調和という名の歯車 2/7
:2007/10/08(月) 17:20:41
「ただい、まっ!」
「おかえ、りィィィィィィィィッ!?」
己の発した声より速く体が吹っ飛ぶ。
極めて珍しい現象かもしれない。体感する本人としては珍しがる余裕もなかったが。
そういえば1キロ以上離れた場所からライフルで狙撃すると、着弾した後に発射音が届くらしい。
そんなどうでもいいことを考えてる間に、体が壁に激突。
「て、敵襲だ! ライフルで狙撃された! 皆の者であえであえ!」
「またわけのわからないことを」
空気の色が変わった。
『人がいる』というのはそれだけで世界を変質させる。
無論、己の認識する世界が変わるだけなのだが。
「それ、おみやげだから。ありがたく受け取りなさい」
「ありがたく受け取ってほしいなら全力で投げつけないでください」
どうやら当たったのは角だったらしい。直方体が凶悪に歪んでいる。
この凹んだ分だけ脳が揺さぶられたのかと思いつつ、包装を解く。
温泉饅頭だった。
「あ、あたしにも頂戴。お腹すいたわ」
「まぁいいですけど……すぐにリヴァルが夕食を作ってくれますよ?」
「いいから寄越しなさい」
ふんだくられた。手持無沙汰になった両の手に、饅頭が一つ載せられる。
「覚悟はしてたのよね?」
これまでとトーンが変わる。
「その話はまた後にしましょう。今はまだその時じゃない。
――あぁ、一度でいいから言ってみたかったんですよね、このセリフ」
「浸んなバカ」
「なら真面目な話。片割れがいない状況で語る気はない、ってことで」
「………………」
「睨まないでください。お互いさまでしょう?」
彼女は諦めたようだった。嘆息して、かぶりを振る。
「それより他の面子はどうしたんです?」
「春原が道の真ん中でブッ倒れて、四葉が看病中。杏は隣の部屋に行ったわ。
あと、国崎とは向こうで別れた。しばらくあっちで稼いでからまた旅に出るってさ」
「それは心配ですね、四葉が。彼は……なるほど、流石としかいいようがない」
177
:
確執編十八章:調和という名の歯車 3/7
:2007/10/08(月) 17:22:25
「ただいまー」
「あ、リディアだー」
ぱたぱたと駆け寄るアスミを、優しく抱きとめるリディア様。
「ただいま、アスミ」
「おなかすいたー」
「こらこら、いきなり晩飯を要求しない」
襟首をつまむ。「はなせー」と暴れるアスミを一蹴しつつ、
「おかえりなさい、リディア様」
「ただいま。はいこれ、おみやげ」
手渡された包みを見て、感慨深い思いを抱く。
「これが正しい渡し方です。満点です。さっき零点を見せ付けられたばかりだからなおさらそう感じます」
「うん、わけがわからない」
「そんなところだけアーチェと被らないでください」
表情が、わずかに変わる。
穏やかな笑みの中に、かすかに混じったそれは――
「もう帰ってきてるんだ、向こうも」
「えぇ、ほんのついさっきですけどね」
包みを開けてみる。案の定というか、出てきたのは八つ橋だった。
「流石です。見事です。京都と言えばこれ以外にありえない」
「アーチェは、どこにいるのかな」
トーンが変わっているところはあえて無視。
「彼女なら地下にいると思いますよ。さっき下りてくのが見えたん」
で、と言い切る前に言葉を止める。
地下へのハッチがふいに開いた。
この季節、体感温度が異様に低く感じられる地下室に、好んで下りたがる者はほとんどいない。
開発者コンビを除けば、「外よりはマシ」と寝床に使っている男組だけだ。
そして今日に限って、例外がもう一人。
178
:
確執編十八章:調和という名の歯車 4/7
:2007/10/08(月) 17:24:43
見つめ合う。
それは互いに親を殺された仇を見るように。
あるいは、親愛なる家族を見るように。
179
:
確執編十八章:調和という名の歯車 5/7
:2007/10/08(月) 17:27:18
「賑やかな夕食は久しぶりですねー」
言ってる間に目の前に置いてあった皿が消えた。
「………………」
沈黙している間に持っていた茶碗も消えた。
「浸ってるとなくなるわよ? 割と凶悪に」
「……これはご忠告どうも」
人の手から茶碗をかっさらっていった張本人――つまりは杏――が頬張るのを、冷めた目で睨む。
ここは戦場だった。
「これは私がたべるー、これは私がたべるー、これは」
「って、全部じゃないっ! 誰かアスミを抑えなさい!」
「すいません本当にすいません、私がもっとちゃんと準備しておけば」
「仕方ないよリヴァル。一人でこれだけの準備お疲れ様、あとは私がやるから」
「あの……僕の箸がないんですけど」
「それならさっき折って捨てた」
「僕に素手で食えと!?」
「汚いわね。大皿にその手を突っ込んだら両手足縛って外に放り投げるわよ」
「食うなってことかよ!」
「そうよ」
それは本当に久しく見なかった光景だった。
2日や3日などではない。『あの日』以来だ。
何より大きいのがアーチェの存在だった。
この空間の雰囲気を杏と秋生の三人で作り上げていると言っても過言ではない、
そんな彼女が『意図的に』塞ぎこんでいたせいで、食事時はまさに火の消える有様だった。
しかし。
この場にいる誰も(アスミ除く)が理解している。
こんなものは気休めに過ぎない。
問題は何一つ解決していないと。
事実、二人はさっき一度目を合わせたきり、一言も語り合っていない。
互いの存在を完全に無視、それに関しては旅行の前からまったく変化がない。
それでもそう言った空気を示さないのは、考えなくしてのことでは無論なく。
――リディア様は不穏な空気をアスミに気取られるわけにはいかず。
――アーチェは『俺』に対する反感を示すために、自分を理由に空気を乱すわけにはいかない。
打算にまみれているのはわかっている。わかりきっている。
だが、それで良かった。
――歯車はかみ合わない限り虚しく空転するしかないが。
一度かみ合えば、どちらかが壊れるまで相手に影響を及ぼし続けることになるのだから――
ちなみに、浸っている間に料理がきれいさっぱりなくなっていたことは、まぁ、蛇足である。
180
:
確執編十八章:調和という名の歯車 6/7
:2007/10/08(月) 17:29:06
「人間ってすごいよね。あんなにきれいな建物が造れるんだもん」
「で、春原のバカを引き取るために駐在所まで行かされてさー」
さてこの状況は何だろう。
二人の話を聞きながら、頭の片隅で考える。
右にリディア様。左にアーチェが座り、挟まれる形でここにいる。
部屋には自分達3人以外の姿はない。
空気を読んだ? そんな生温いものではないだろう。
誰もが望んでいる。
おそらくは、彼女達自身さえも。
――この現状を、確執を、是正することを。
『ねぇ、聞いてるの?』
ハモったところで、互いに相手の顔を見やる。
一応、お互いの顔を覗いてみた。
怒っているのか悲しんでいるのか、あるいは喜んでいるのか――複雑だ。
「いや俺としてはこんなドキモテシチュエーションも悪くはありませんよ?」
「頭の悪い表現すんなバカ」
「だけどですね、いくらなんでもステレオで旅日記を語られても。聖徳太子じゃないんですから」
何より、と、
「あなた達の仲違いのダシにされてるのがわかりきってるんじゃ、喜びようがない」
『………………』
二人の目つきが変わる。
無理に装っていた『普通』から、臨戦態勢に入ったかのように。
「んじゃま、本題に入りましょうか」
切り出したのは、やはりというか、アーチェの方。
「アンタがしようとしたこと。今ならはっきりわかる」
「それは何より」
「最初はわけがわかんなかった。次にムカついた。嫌な思いもした。殺されもした」
「知ってます」
「アンタがどんな気持ちでそれをやらせたのかはわかんない」
「わかられても困りますね」
「けど、これだけは言える」
一拍置いて、
「あたしは、アンタが、だいっっきらいよ」
言って、彼女は満面の笑みを浮かべた。
181
:
確執編十八章:調和という名の歯車 7/7
:2007/10/08(月) 17:31:11
「……私は」
アーチェが言葉を切ったのは合図にして、反対側のリディア様が口を開く。
「アスミに嫌われて、そのアスミに襲われて、やっぱりわけがわからなかった」
けど、と、
「何より、私は独りになるのが怖かった」
「………………」
「たったの一言が、何もかもを壊してしまうことを知った。
たったの一言が、大切だったはずのものをすべてゴミにしてしまうことを知った。
――たったの一言が、その一言が言えなかったばかりに、道を見失うことを知った」
リディア様は自分の手を顔の前にかざし、かすかに首を横に振る。
「それに関しては、誰の責任にも出来ない。私自身の問題。
貴方にはね、感謝してるの。昔抱いた私の『罪』を、思い出させてくれたから。
――だから、ね」
気がつくと、目が合っていた。
彼女が微笑む。
――そしておそらくは、自分も。
「私は、貴方が望むことをするよ」
全力で平手打ちされた。
しばらくの間、頬に残る熱の余韻を楽しんだ。
「……ありがとうございます。無償で許されるより、よっぽど心地がいい」
「M」
「はいそこ、変な掘り返し方しない」
二人、同時に立ち上がる。まるで示し合わせたかのように。
残った一人は座ったまま、
「俺が干渉するのはここまで。後は完全にあなた達二人の問題です」
「うん」
「わかってるわよ」
片や穏やかな笑みを浮かべ、片や不機嫌そうにそっぽを向く。
そうして部屋から出ていく二人を見送ってから。
「……さて、俺はアスミの注意を逸らしておかないと」
立ち上がる。
そして独り、つぶやいた。
「あぁ、くそ……ここは寒いな……」
182
:
確執編十九章:確執編十九章:開演の再演 1/6
:2007/10/09(火) 21:24:32
・三日目 サイド:リディア
そんな簡単に割り切れるものなら苦労はしない。
そんな簡単になかったことに出来るなら誰も苦しんだりしない。
頭は理解してる。
悪いのは決してアーチェだけじゃないと。
私自身が抱えていたものに、彼女が触れてきただけだ。
触れたことだけが悪いなんて、どうして言える?
わかっていても、戻れない。
もう私は引き返すことの出来ないところまで来てしまった。
言っちゃいけないことを言った。
しちゃいけないことをした。
今更、どうやって謝れと言うのか。
何より、私はまだ彼女を許していない。
・三日目 サイド:アーチェ
あたしが悪かったことは認める。
最初に引き金をひいたのはあたし。
最初に力を振るおうとしたのはあたし。
最初に三行半を突き付けたのはあたしだ。
けど、あたしだけが悪かったわけじゃない。
あたしだけが責められるいわれはない。
あたしはあの時のあたし自身を許せない。
けどそれはリディアを許せることとイコールにはならない。
理解し合うという幻想に浸るには、まだ、足りない。
183
:
確執編十九章:開演の再演 2/6
:2007/10/09(火) 21:25:31
・三日目 サイド:リディア
「……ここは」
あたりは水を打ったように静かだった。
小さな林の中にひっそりと佇む神社。
普段から静かな場所ではあるけれど、葉の擦れる音くらい聞こえてきてもいいはずだ。
「アイツが……っと、正確には違うか、気を利かせてくれたみたいね」
「ここは一体……」
「アンタは『ここ』に来たことがないわけ?」
ここ、とはこの場所を指しているわけじゃないだろう。
音のしない世界。
誰もいない世界。
「2回だけあるけど……人がいないことくらいしか知らない」
「人がいないんじゃなくて、あたし達がいるんだろうけどね。
確かなのは、ここなら余計な邪魔も周りへの気遣いも一切無用ってことよ」
どうやらアーチェは私よりもここに詳しいらしい。
彼女の方にはアクマが行ったらしいけれど。
そこで一体、何を見たんだろう。
けれど、これだけはわかる。
アーチェはもう迷っていない。
私と、同じように。
・三日目 サイド:アーチェ
「こうやって話すのも随分久しぶりだね」
揺れる木々の中、なびく髪をおさえてリディアが口を開く。
あたしはいつものポニーテールだから、顔の前に髪がかかる心配をしなくていい。
久しぶり。確かに、そうかもしれない。
「あたしは全然そんな気がしないけどね」
簡単なことだ。
話してなかった時間より。
話してた時間の方が、ずっと長い。
「旅行は、楽しかった?」
「ん? まぁまぁよ。金髪と銀髪がバカやって色々大変だったけどね」
「春原と国崎ね。うん、二人はどこにいてもあんな感じな気がする」
「あのバカ共の手綱を引いてたあたしの身にもなってほしいっての」
「多分、一番大変だったのは四葉だったんじゃないかな」
「なんでよ!」
苦笑するリディア。
つられてあたしも笑う。
話してみれば、こんなに自然に触れ合えるのに。
それでも、あたし達は足りてない。
お互いに目を合わせないようにしながら、あたし達は無為なことを語り合う。
184
:
確執編十九章:開演の再演 3/6
:2007/10/09(火) 21:26:22
・三日目 サイド:リディア
いつしか、語ることがなくなって。
私達は無言でそこにいた。
語るべきことなら、いくらでもある。
ただ、切り出せないだけだ。
ふいに一際強く風が吹いた。
風はあるのに、音がないなんて不思議な世界だ。
目を眇めてふとアーチェの方に目を遣る。
――視線が、合った
「そろそろ始めよっか」
まるでゲームでも始めるかのような気軽さで、そう言った。
「……何を?」
「何を? そんなの決まってんじゃん」
目を見開く。
アーチェの足元が赤く輝いた――高位魔法を使う時に現れる、魔法陣。
つまりは、そういうことだ。
「まさか、あたしのことを許せたわけじゃないんでしょ?」
・三日目 サイド:アーチェ
リディアが、小さく微笑んだ。
「――許せたわけじゃない、か。うん、その表現は面白い」
その手が青く輝いてる。
あたしと違って、彼女の魔法に余分なイミテーションはない。
「私は私を許せない。許す気もない。
だけど、あなたのことは許したいと思うよ、アーチェ」
「勝手なこと言ってんじゃないわよ」
右手を掲げる。脳裏に『あの日』の光景が蘇る。
けどあの時とは違う。
あたしは、あたしを疑わない。
「誰も許してほしいなんて頼んでない。思いあがんのも大概にして」
同じように。
あたしは、もう、リディアを疑わない。
わかりあうという幻想に浸るのに足りないもの。
それは――
「そうだね。私達はそうやって、自分を許すために、相手を責めた」
息が漏れた。
体が小刻みに震える。
誰が見てもそんな場面じゃない。
それなのに、あたしは――笑いをこらえることが、出来なかった。
「あなたも私も、一緒。自分が許せないのに、自分を肯定したくて。
そのためにお互いを否定した。……そんなの、本末転倒なのにね」
――ほら、やっぱりあたしは正しかった。
「決着をつけよう。私達はお互いを『赦すことが出来る』。
足りないものがあるとしたら、それは――」
185
:
確執編十九章:開演の再演 4/6
:2007/10/09(火) 21:27:11
・三日目 サイド:リディア
アーチェが言うには、この世界に死はないらしい。
実際、私自身すぐに、それも何度となく身をもって知ることになった。
せめてもの救いは、威力がありすぎて痛みを感じる間もなく終わることだろうか。
ほとんどゲーム感覚だ。
けど、もちろんゲームとは違う。
「彩れ――フレア!」
ここでは容赦が返って相手を苦しめる。
全力で『殺さない』と、死ぬ痛みを与えることになるだろう。
最初こそ攻撃をかわそうとしてたけど、すぐに諦めた。
回避行動には何の意味もない。
アーチェの全力は半径数キロを一瞬で焦土に変えられるんだから。
彼女はここの仕組みを私よりずっと理解してるみたいで、最初から捨て身で攻めてきている。
それにしても、彼女の力には改めて驚かされる。
彼に対して雷撃を落としている時。
彼女はどれだけ力をセーブしてるんだろう。
・三日目 サイド:アーチェ
リディアの状況判断と適応力は、はっきり言って異常だ。
聞けば、あたしと違って直接『殺された』ことは一度もないらしい。
にも関わらず、死なないことを体で覚えてるあたしと即座に同じフィールドに立ってきた。
これは口で言うほど簡単なことじゃない。簡単なはずがないんだ。
死ぬって言葉の意味は、そんなに軽くない。
「ビッグバン!」
あたしは自分の力に自信がある。
自信がありすぎて、使うことを躊躇ったぐらいだ。
苦しみなんて与えない。
そんなのが神経を駆け抜けて脳に届く前に、あたしの魔法はすべてを塵に還す。
最初からリディアの攻撃をかわすつもりはなかった。
かわす意味なんてないし、かわせるとも思えない。
リディアの全力はあたしがそれと知覚するより早く空間を沸騰させられる。
そもそもこれは『相手を倒す』ことが目的じゃない。
それには、この世界はこれ以上ないほどうってつけだった。
186
:
確執編十九章:開演の再演 5/6
:2007/10/09(火) 21:28:17
・三日目 サイド:リディア
当然といえば当然で、私達はやがて力尽きた。
死なないけれど、力の総量は変わらないらしい。
お互いに特に示し合うこともせず、『何もない』場所で私達は対峙する。
「あたしはリディアのいいこちゃんぶってるとこが嫌い」
いきなり、そう言われた――と、思う。
魔力が乏しくなるというのは、つまるところ気力が尽きるのと同じだ。
これが眠気なのか、失神直前のあがきなのか、私には区別がつかない。
落ちそうな意識を、だけどギリギリのところで繋ぎ留め、私は『聞く』。
「優しいのと甘いのは違う。アンタのはただ甘いだけ。
何でもすぐ自己犠牲的な精神を発揮するとこなんか特に大嫌い。
そのくせキレると周りをまったく見なくなるし」
淡々と言葉を紡ぐアーチェ。
私は何も言い返さない。
そんなことをするわけにはいかない。
・三日目 サイド:アーチェ
この時点ですでにあたしは確信してた。
お互いに目的を確認しあったわけじゃない。
だけど、彼女は確実にあたしと同じものを目指してる、と。
「私はアーチェの無責任なところが嫌い」
あたしが言葉をなくした段階で、リディアが言葉を紡ぎ始める。
それは望みどおり――あたしを否定するものだった。
内心で苦笑しながら、倒れそうな体に鞭を打つ。
ここであたしだけが倒れたらもとの木阿弥だ。
「天真爛漫なんて言えば聞こえがいいけど、やるべきことをやらないならいい加減なだけ。
正直者はバカを見るって暗に言われてるみたい。そういう人に支えられて生きてるのにね。
それと秋生さんのお酒を呑んで暴れた時はオーディンに本気で締め上げさせようかと思った」
なるほど。こうして聞いてみると、いくらでも出てくるもんだ。
あたし自身、さっき口にするまで忘れてたようなこともあったし。
けど、それが当然だ。
赤の他人同士が一緒に暮らしてて、何の不満も出ないはずがない。
何で一年以上こんなことが起こらなかったのか、逆に不思議なくらいだ。
ま、言うまでもなく原因はわかってるんだけど。
187
:
確執編十九章:開演の再演 6/6
:2007/10/09(火) 21:31:05
・三日目 サイド:リディア
お互いにやるべきことはやった。
言うべきことも言った。
・三日目 サイド:アーチェ
その上で確かめなきゃいけない。
今のあたし達に足りていないもの。
・三日目
どれだけの時間が過ぎただろうか。
折り重なるようにして――しかし、決して重なることはなく――
二人同時に倒れてから、さらにしばらく後のこと。
「私達は、お互いを理解してると思う?」
切り出したのはリディアの方。
アーチェは笑う。そんなことは当然だ、とばかりに。
「してるわけないじゃん」
「どうして?」
「あたしとアンタは赤の他人。わかりあえるはずがないのよ」
「……だから、あの時ケンカになった?」
「わかってんでしょ。あたし達は自分が一番可愛かったのに、相手を可愛がってる気になってた。
まったく理解出来てなかったのに、理解した気になってた」
「そうだね。信じてるつもりになってたから、裏切られたと思った」
「自分が一番可愛いくせに、信じてるも何もあるわけないじゃん」
「ほんと、バカだったね、私達」
「バカもバカ。最高にバカだったわ。春原に勝るとも劣らないくらい」
「友達って大変だね」
「大変だなんて思ってる時点で相当ダメだと思うけど」
「けど、私はあなたと友達でいたいよ」
「あたしだってそうしたいに決まってんじゃない」
「……じゃあ、私を許してくれる?」
「は? 本気で言ってるなら怒るわよ?」
「うん、冗談。アーチェがどんな反応をするか試してみた」
「えげつなー」
「お互い様だよ。さっきあなたもやったでしょ」
「私もアンタも似た者同士、と」
「性格は正反対だけどね」
「……お母さんのこと、好きだった?」
「……! うん、好きだったよ。ううん、今でも大好き」
「なんであたしにはお母さんの記憶がないのかなぁ……」
「代わりにお父さんがいるんだからいいじゃない」
「代わりになるもんじゃない気もするけど、ま、そっか」
「考えてみたら羨まれる筋合いなんてなかったよね」
「だから羨んでなんかないっての」
「嘘ですー、嫉妬してましたー」
「それ以上言うとアイツの前でトラクタービームかけるわよ。スカートだと大惨事」
「……まぁ、結局、あれだよね」
「うん。まぁ、あれだーね」
今までの彼女達に足りていなかったもの。
それは――
『これからも、こうやってケンカしてこうか』
188
:
確執編終章:無知の再通知
:2007/10/09(火) 21:33:03
『ただいまー』
戻ってきた二人を見た時点で、終わりを悟った。
「おかえりなさい」
「おなかすいたー、ごはんだー」
目を剥く。
「冗談だよ。そんなに驚かなくても」
「……アスミ病が伝染したのかと思いました」
「けどお腹が空いたのは本当だったり」
「じゃあ俺がとっておきの夜食を作りましょう」
「インスタントラーメン以外なら大歓迎」
「…………お疲れ様でしたー」
「やれやれ…」
嘆息されてしまった。
「仲直り出来たみたいですね」
「うん? 何のこと?」
割と不思議そうな顔をされた。
「とぼけないでくださいよ。仲良く帰ってきたでしょう?」
リディア様は、軽く呆気にとられた様子の後。
たまりかねたように笑い出した。
「……なんだ、じゃあこれはあなたが望んだ結末とは違ったんだ」
彼女の言うことが理解できない。
「リディアー、そんな何でも知ったかぶってる奴に教えてやる義理はないわよー」
「んー……それもそうだね」
「いやそこは納得しないでほしいなー、と懇願してみたり」
「アーチェ、どうする?」
「アンタに任せる。あたしはお風呂に入ってから寝る」
「おやすみ、アーチェ」
「おやすみ、リディア」
「わー、俺一人蚊帳の外ですよー…」
そうして、一人の部屋に、二人きり。
「教えてほしい?」
焦らすように言うリディア様。
「それはもう」
「簡単に教えてあげられる方法があるけど、どうする?」
「……なんか嫌な予感がしますが、それで」
「じゃあ、まずトイレのドアの前に立ってー」
「立ちました」
「おもむろに扉を開けてー」
「開けました」
「傍らのカーテンを無造作に開けてー」
「開けましぎゃぁあああああああああっ!」
借家の浴槽はトイレと繋がっている。いわゆるユニットバスだ。
そこに誰がいたかは――まぁ、語るまでもなく。
「あなたも一度本気でケンカしてみたらわかるよ。いやでも、ね」
189
:
英雄・マキシミリアン=ヴィアーズ 1/2
:2007/10/10(水) 18:25:19
遠い昔…遥か彼方の銀河系で…
依然として銀河系は戦乱の渦中にあった。銀河帝国、銀河共和国、軍閥、犯罪組織、外宇宙の
エイリアン…各々、自分の主義主張を正当化せんが為に武力や謀略に訴え、毎日至る所で大
小の戦闘が発生しており、戦場となった所では市民が塗炭の苦しみに嘆息し、天を呪詛する声
は絶えない。そして、今日もアウター・リムの惑星で戦闘が始まろうとしていた…。
アーネット「失礼致します。将軍、攻撃準備整いました。いつでも御命令を」
長身の若い士官が入ってきて、用件を告げる。それに対して壮健な体格の将軍が「そうか」と短
く答えた。ホロマップで地形を睥睨するのをやめると、彼は席を立ち、下知を下す。
ヴィアーズ「クレンネル将軍に通達、ここの部隊に対して30分間絨毯砲撃を行え。その後に、タ
スクル将軍と私の機甲部隊を突入させる」
アーネット「はっ、仰せのままに!」
若い士官は一礼の後、元来た道を引き返して、彼の命令を伝達すべく、将軍達の所へと歩を進
めた。そして、彼も自身の愛機が休息している駐機場へと向かった。その通路を闊歩している途
中で、早くもレーザー砲特有の高音と着弾したであろう地点から聞こえる大音声を聞く。その音
一つ一つがが反逆者を窮迫させていると思えば、心地よく彼の耳に響いた。そして彼は愛機の
前に立つ。帝国の誇る巨大ウォーカー『AT-AT』…数十年間に渡って彼はこの白い機械の巨獣
に魅せられ、共に戦場を駆け抜けてきた。そして今日も命運を共にする。傍らには専属の整備
兵達が整列していた。
バウール「将軍、整備は完璧です。どうぞ御搭乗下さい」
ヴィアーズ「よろしい、曹長。いつもながら行き届いた整備だ。御苦労」
バウール「はっ!」
彼らに慰労の言葉を掛けると、彼は最敬礼で将軍がコクピットに消えるのを見送る。そして、彼
らの目には光るものがあった。
将校用のヘルメットとアーマーに身を包み、自身の戦支度は既に整った。砲撃終了予定時刻が
近づき、そして時計のアラームがその時を告げる。味方からは『英雄』と称えられ、敵からは『死
神』と畏怖される、闘将・マキシミリアン=ヴィアーズの出陣である。
192
:
楽園に響くデクテット
:2007/10/15(月) 09:36:24
「なるほど、それでわざわざ未来から戻って来たってわけね」
「ああ」
フラスコの中の光る物体から目を離そうとしない魔女にハルピュイアは苛立ちを覚え始めていた。
ここに来て、すでに数十分。彼女の作業とやらはいまだ終わる気配がなく、同じ様な作業が延々繰り返されていた。
「…いい加減まだ終らないのか!」
とうとう痺れを切らし、声を上げるハルピュイアに一方の魔女は呆れたと言わんばかりに肩をすくめた。
「前から少し短気だとは思ってたけど、今の貴方は全く短気そのものね」
「エックス様の大事に落ち着いてなどいられるか!ただでさえ我々が遠ざけられているというのに」
「エックス様」
巻くし立てていた彼を遮る様に魔女が言葉をつむぐ。
「エックス様の為だ、とか大事だとか黙って聞いていれば何?」
フラスコに封をして、魔女が振り返る。その顔はまるで子供を諭す時の母親のそれだった。
「確かに彼は大事かも知れないわ。
けど、あの子がそれをどう感じているか、貴方に分かる?」
魔女の問いにハルピュイアは首を振った。
彼にしてみれば、エックス様に仕える事は生まれた頃から当然の事であり、今更疑問すら抱いてはいなかった。
予想通り、という風に溜め息を付きながら、彼女は続けた。
「あの子はね、本当に必要とされているのは自分じゃなくてオリジナルのエックスだと、本気でそう思っているのよ」
197
:
英雄・マキシミリアン=ヴィアーズ 2/2
:2007/10/21(日) 18:21:15
永遠に続くかと思われた砲撃が止んだ。塹壕に隠れていた反乱軍が這い出してきて、熱気の
混じった外の空気を吸う。決して新鮮なものではないが、雄臭い地下よりはましだろう。だが、
ここは戦場。気の緩みは許されない。ただちにスコープで周囲を警戒する。が、彼らの目には
白い巨獣と地を這う機甲部隊が荒野を悠々と進軍してくるのが見えた。
反乱軍歩兵A「…!正面にAT-AT多数!」
反乱軍歩兵B「TB-4接近中!」
次々に入る報告に、再び司令部は緊張の度合いを増す。司令要員が何かメモされた紙を持
って走り回り、通路では大型の兵器を抱えた兵士が地上へと向かっていた。将校達は騒が
ず指揮を下している。
反乱軍将校「重火器兵は配置につけ!ここがこの惑星最後の拠点だ、絶対に帝国に明け渡
すな!」
反乱軍将兵「おおーっ!」
気勢を挙げる反乱軍の将兵達。彼ら一人一人が銀河系に自由を取り戻すという使命に燃え
ていた。しかし、それだけで帝国を止めることはできない。
アーネット「将軍、前方に歩兵小隊です」
ヴィアーズ「重火器部隊か。全く問題ない、各車輌適宜攻撃せよ」
マーカンド「ブリザード2了解」
ワッツ「ブリザード3了解」
アーネット「敵、有効射程内に入りました」
ヴィアーズ「情け無用、ファイア!」
たちまち赤い光弾が無数にAT-ATの頭部から吐き出され、自由の戦士達を薙ぎ払っていく。
最初の数秒で40名の小隊は全滅したのであった。彼らにとっては理不尽と言うしかないだろ
う。数多の戦場を潜り抜けてきた彼らが一発も撃たずに倒れることになったのだから。陣地
に配備された兵士達は、前方の虐殺に憤慨し、歯軋りするも、自分達の番が近づいている
ことに恐怖を覚えていた。
反乱軍将校「お前達何を怯えているんだ?帝国の司令官はヴィアーズだ!討ち取って名を
挙げろ!ホスで死んだ仲間の敵討ちだ!」
彼は士気高揚を図ったつもりかもしれない。だが、却って逆効果だったようだ。帝国の将官
達は大抵、侮られている。ピエットは『皇帝とヴェイダーのイエスマン』などという不名誉な
称号を与えられていたし、ペレオン提督はチキンと呼ばれていた。しかし、彼は違った。敵
からも畏敬を受けていたのである。その間にもヴィアーズと彼のスタッフは重要拠点を探
していた。
ヴィアーズ「敵の最有力抵抗拠点は?」
アーネット「10時方向、距離13.37の陣地です!」
ヴィアーズ「よろしい、照準敵野戦陣地!火力最大…ファイア!」
たちまち、最も強力な抵抗を見せていた陣地から巨大な火柱が上がる。おそらく生存者は
いないだろう。AT-ATの主砲の出力の高さだけではなく、そこには燃料や弾薬が集積して
あった為、誘爆を起こしたのだ。指揮官の失言と、強まる攻勢で完全に反乱軍の士気は崩
壊した。我先に脱出の為の輸送艦を目指し、陣地を放棄していく。最早誰も帝国の進撃と
反乱軍の逃亡を止めることはできなかった。止めにストーム・トルーパーが降車して、陣地
内の残敵を掃討した時、全ては終わった。
アーネット「バレイポット大佐から報告。反乱同盟軍陣地の残敵の無力化を完了。この地
域は完全に帝国の支配下にあり」
ヴィアーズ「結構。大提督にも通達せよ」
アーネット「はっ!」
ヴィアーズ「これでまた一つの惑星に秩序が戻ったな」
かくしてマキシミリアン=ヴィアーズと彼のブリザードフォースはまたも帝国中の賞賛を集
めたのである。
198
:
未来の息子との対面
:2007/10/21(日) 23:06:06
いつもと変わりなく暮らすテトランにある時、訪問者が訪れた。
ピンポーン、とベルがなる。
テトランが出るとそこにはある一人の男性がいた。
テトラン「…誰…ですか?」
するとその男性は意外な一言を発した。
マキシミリアン「僕だよ、マキシミリアンだよ 若いねぇ、母さん…」
テトラン「えっ!?あっ!?うっ!? あ…でもファーマスに似てる…」
マキシミリアン「でしょ? おっと、30年後の未来から来たんだ!
そういえばお父さんは?」
テトラン「え!?あ…えーとね、エクリプスに乗って仕事中…」
マキシミリアンは呆れたように一言。
マキシミリアン「父さんは本当に仕事が好きなんだなぁ…30年後の世界でもまだ現役さ」
テトラン「えっ!?そうなの!? あ…でもわかるような…」
マキシミリアン「でしょ!? ってことで父さんに会ってくるよ! じゃあね、若い母さん!」
テトラン「あ、じゃ、じゃーねー…あは、あはは…あぅ…」
テトランは思いもよらぬ訪問者にテトランは一日中ぼーっとしていたそうな。
201
:
生きる術 その一、兎の捌き方1
:2007/10/22(月) 23:12:14
「さーなえちゃ…あれ?」
妙に暗い顔で縁側に腰掛ける青巫子にフヨウは首を傾げた。
具合が悪いのか、顔は頬が痩け、目はどこか虚ろだった。
「あー…えーっと、大丈夫?」
「………たい」
「えっ?」
ぼそりと呟かれたその言葉を聞くべく、近くにより―
「…お肉が食べたい」
ただその発言に目を丸くするばかりであった。
「じゃあここ最近魚と野菜だけなんだ」
力なく頷く早苗にフヨウはいかにもわからないと言わんばかりに首を傾げた。
「捕ればいいんじゃない?」
しごく簡単なフヨウの答えに早苗は溜め息を漏らした。
つい最近まで外に居た彼女には鳥はおろか、小動物の捌き方や罠の作り方を知らない。
故に今日まで魚と野菜でしのぐ羽目になったのだ。
「なら今日は僕が何か捕ってこようか?」
そんな彼女とは裏腹にフヨウがまるで何か買いに行く様な感覚でそう尋ねた。
え、と声を漏らせば、相手はにかっと笑った。
「大丈夫、蛙じゃないからさ。蛙も美味しいとは思うけどケロちゃんが共食いになっちゃうし」
言っている意味が分からない早苗を取り残し、話はどんどん進み、
ようやくその意味が分かったのは、フヨウが彼女の母と兎をぶら下げて帰って来た時の事だった。
202
:
生きる術 その一、兎の捌き方2
:2007/10/22(月) 23:32:48
血抜きは既に終わったらしい兎を目の前に早苗は戸惑った。
毛皮がついている。耳がある。もろ兎である。
「大丈夫?」
既に包丁を持っている紫に早苗は助けを求めるような視線を返した。
「あの…これ…」
「兎だよ、血抜きはしといたから後は皮剥いで食べるんだよ…って聞きたい訳じゃないよね」
蒼白になった顔を見つめ返しながら、紫は困った様に笑った。
「そうだよね、現代っ子はまず兎とか捌くなんてやらんもんねぇ」
包丁を一度置き、少し考え込むようにうめく彼女―自分とそう年に変わりない彼女とぐてんとした兎を交互に見た。
「でもさ、兎美味いよ」
既に捌き終わったフヨウの笑顔とその手元のギャップに早苗はとうとう意識を失った。
目を醒ました後、失神しかけながらも早苗は生まれて始めて兎を捌く事となった。
「あら、今日は兎かい?」
夕食に現れた神奈子は皿に置かれた焼きたての兎肉を見ながら、嬉しそうに呟いた。
隣では諏訪子が同様に立ち上る香りをかいでいた。
そして、早苗はというと―
「早苗ちゃーん?大丈夫かー?」
「あぅぅぅ…あぅぅぅ…」
すっかり参ってしまった様子で床で倒れ付していた。
「まあ最初にしては上出来だったんだから、いいじゃん。
それにこれからは自分でやらなきゃいけないんだし」
紫のほとんど慰めになっていない言葉にうめき声が返ってきた。
「ほんとにやってけんのかねぇ…」
今更ながら心配になりつつも食欲をそそる香りに負け、箸を取る面々であった。
204
:
いつもと変わらぬ?一日
:2007/10/27(土) 11:26:16
いつものように目を覚ますといつものように視界に広がる天井。
「…いつも違う天井だなんてシ○ジ君みたいなことは言わなくていいんだ…」
いつものようにリビングに行くといつものように広がる光景。
「もう7時か…、結構寝たんだな」
いつものようにテレビを見る。いつもの番組。
「……みの○んたこの番組に合ってねぇ…」
いつものように学校へ向かう。そしていつものように帰宅。
「だるい…けどやるならやらねば」
そしていつものように、PCへ向かう。
「…さぁ、始めようか…」
そしていつものように夕食を食べ、いつものように風呂へ入る。
「はぁ…気持ちいい…」
そしていつものように布団へもぐりこんで寝る。
「おやすみ…」
そして、いつもとは違う夢をいつものように見る。
そして、またいつものように―――。
205
:
<スキマ送り>
:<スキマ送り>
<スキマ送り>
207
:
少女の心
:2007/11/02(金) 17:26:01
数冊のノートを持ってドアをくぐったアサヒは暫し目を瞬き、頭を掻いた。
彼女の目の前には困惑した妖精メイド達と家具を壊し続けるフランドールの姿。
別段珍しい光景ではなかった。
フランドールは時折自身の力に引きずられる様に感情を爆発させ、流れるままに家具を壊していくからだ。
片付けが大変だとぼやくメイド長の顔を思い浮かべながら、メイド達を避け、フランドールの後ろに近付く。
「こりゃ」
ぺちん、という軽い音が広間に響き、妖精メイド達が一斉に逃げ出す。
ただでさえ機嫌が悪いフランドールの頭をあろうことかノートで叩くという行動は彼女達から見れば、
空腹の猛獣の前に肉を持って飛び出す様なものだ。
「あ、アサヒだ」
「アサヒだ、じゃねぇだろ?」
不機嫌そうに振り返る彼女の額に再び一撃。
「家具は壊したらだめだってこないだ言ったろ?」
額をさすりながら、フランドールがうつむきながら答える。
「だ、だって、なんだかいらいらしてたんだもん…」
そんな彼女の頭をぐりぐりと撫でながら、アサヒが困った様に笑う。
「しょうがねぇなぁ、けど、誰も壊さなかったから今回は俺もお前の姉ちゃんに謝ってやるよ。
ただしもうすんなよ?」
そう言うとフランドールの顔が渋くなる。
「私、あいつ嫌いだもん…」
「まあまあ、家具ぶっ壊しちまったんだからちゃんと謝んなきゃ駄目だぞ?
それに俺が居るからさ」
そうして、渋々首を縦に振ったフランドールと手を繋ぎ、
「あー、わりぃけどこれ、片付けといてくれないか?」
物陰に隠れたメイド達にそう言付けて、二人は廊下を歩き出した。
208
:
少女の心
:2007/11/02(金) 17:39:11
「あーあ、怒られたなぁ、主にメイド長に」
フランドールのベッドにどっかり腰掛けながら、アサヒはあっけらかんと言った。
いまいち表情が晴れないフランドールも同じ様に腰掛ける。
「なんだ、まだ気にしてんのか?」
そんな彼女の顔をアサヒが覗き込む。
小さく頷くフランドールに頬を掻きながら、うーんとうめく。
「まあさ、次から注意すればいいんだよ」
それでも浮かない顔をした彼女にアサヒは。
「よっと」
「わっ」
突然膝の上に抱き上げられ、目を白黒させるフランドールにアサヒはからからと笑った。
「間違ったっていいじゃないか。そこから学んでいけばいいんだ。
何が悪くて、何がいいのか。
もしそれが分からなくなったら俺に言え。
手助けか、抱き枕位にゃあなってやるさ」
アサヒの笑顔に釣られる様にフランドールも笑い、大きく首を縦に振る。
そのまま抱きつく彼女の頭を撫でてやりながら、アサヒは日課にしているおとぎ話を話はじめるのだった。
なんとなくフランドールに甘いアサヒとアサヒに甘えるフランドールの話。
209
:
名無しさん
:2007/11/03(土) 23:14:27
| │ 〈 !
| |/ノ二__‐──ァ ヽニニ二二二ヾ } ,'⌒ヽ いい男専用浮上法
/⌒!| =彳o。ト ̄ヽ '´ !o_シ`ヾ | i/ ヽ !
! ハ!| ー─ ' i ! `' '' " ||ヽ l |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
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:::::::;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;::::::: ∧_∧ ウホッ!
:::::::::::::::::::::::::::: Σ( ::;;;;;;;;:)
:::::::::::: /⌒`'''''''''''^ヽ
/⌒ヾ/ / .,;;;;;;:/.:;|
-―'――ー'''‐'ー'''―‐'―''''\,./ / .::;;;;;;:/‐'| :;|'''ー'-''――'`'
,, '''' `、 `´'、、, '''_ソ / `:;;::::ノ,,, | :;| ''' 、、,
,,, '' ,, ''''' ξ_ノ丶ー'ー< ,ゝ__> ''''' ,,
210
:
名無しさん
:2007/11/04(日) 21:50:37
一応浮上
211
:
名無しさん
:2007/11/04(日) 22:28:59
二人の姿は周囲にすればもどかしいものだった。
近くにいるのに二人の間にある僅かな距離が周囲の目にはもどかしいものだった。
二人はそれがいいと言った。
呆れる周囲をよそに二人はずっと付かず離れずの微妙なバランスの上で一緒だった。
互いの想いを口にしても、それ以上を望まず。
それでも片方の最後の時は残された方は涙を流して言うのだ。
一人にしないでほしいと。
「…と、俺が知ってるのはそこまでだ」
男はそう言って、カップに口を付けた。
「ずいぶん中途半端な話だね」
男の向かいで同じ様に紅茶を飲む少女が困った様に笑う。
「俺はこのての話に興味がないからな」
「編み物は好きなのにね」
少女の言葉に男は皮肉っぽく笑う。
「マスター」
少女が柔らかに笑いながら男を呼ぶ。
「愛してますよ」
少女の言葉に男が盛大にむせ、そのままテーブルに突っ伏す。
流石にやりすぎたか。そう思い、立ち上がりかけた少女の動きが不意に止まり―その顔が見る間に赤く染まる。
「お返しだ」
してやったり顔の、けれど真っ赤になった男が視線をはずす。
「卑怯だよ…」
言葉を使わずに胸に伝わってきた男の想いに少女はしばらく彼の顔をみられなかったという―
なんとなくイチャイチャさせた。が、糖度がいまいちだ
212
:
未来の息子との対面―ピエット Side 1/4
:2007/11/06(火) 15:33:52
遠い昔…遥か彼方の銀河系で…
――アウター・リム/バクラ星系
アウター・リムの外れに位置し、ワイルド・スペースに接しているこの星系は昔からエイリアンや
ならず者、未知の存在の侵略を受けてきた。そして、今度は反乱同盟軍の侵略をこの星と帝国
艦隊は退けたところである。ピエット大提督とヴィアーズ将軍の最強タッグの前に、またしても反
乱同盟軍は敗れた。どうやら銀河共和国が復活するのは遠い日のことになりそうである。そして
今、二人の英雄はバクラ総督のワイレック=ネリアスの歓待を受け、艦に戻ったところであった。
――ESSD『エクリプス』
ヴィアーズ「いやいや…大変な歓待だったな」
ピエット「そりゃそうだ、我々は英雄なんだから…むぅ」
突如、ピエットが額を押さえる。当然ながら彼の親友は疑問に思った。
ヴィアーズ「どうした?」
ピエット「いや…しかし…ありえない」
ヴィアーズ「分かるように話せ」
独り言…いや、うわ言に近い言辞をとるピエットそれに対してヴィアーズは少々の苛立ちを覚え
た。彼の気はそんなに長いものではないのだ。
ピエット「息子の…マキシミリアンのフォースを感じる…」
ヴィアーズ「テトランさんが来ているんじゃないのか?」
彼の幼い息子が1人の筈は無い。したがって、彼の細君と一緒に来たのだろう。彼とテトランは
お互いに愛しあっているのだ。想いのあまり、最前線まで会いに来てもおかしくはない。しかし、
ピエットは首を振った。
ピエット「いや…テトランのもそれ以外の存在も感じない…一人だけだ」
ヴィアーズ「まさか!まだ一歳だろう?」
ピエット「だが、感じるのだ…息子の存在を」
ヴィアーズはフォースに畏れを抱いているが、その不透明さに対していまだに半信半疑なところ
がある。しかし、フォースは正しかった。
213
:
未来の息子との対面―ピエットSide 2/4
:2007/11/06(火) 15:34:54
レーダー員が何事か艦長に耳打ちすると、驚いた顔をして、ピエットに近づいてきた。
セシウス「大提督、信じがたいことですが、大提督のコードを発信しているTIE-アグレッサーが接
近中であります」
ピエット「…艦長、トラクタービームで収容せよ」
セシウス「仰せのままに」
ピエットは収容を命じ、中に乗っていた人物を連れて来るように言った。そして、数分の後、彼ら
の居るブリッジのシャッターが開き、マリーン達が中に居た人物を連れて来た。そして、一目見て
驚いた。ピエットにそっくりなのである。それでも、大分若いが。そして、彼との関係はすぐに分か
った。
マキシミリアン「お父さん!」
ピエット「ひょっとして…マキシミリアンか?」
マキシミリアン「そう、マキシミリアンだよ!30年後のね」
驚いた。まさか30年後の息子に出会えるとは。しかも、彼の制服の階級章を見れば上に赤の徽
章が3つ、青の徽章が3つ、つまりは大佐の地位にあることが分かった。どうやら彼の軍人として
の人生は順調なようである。
ピエット「大佐か…なかなか順調なようだな」
マキシミリアン「うん、今は『キメラ』の艦長をやっているんだ」
ピエット「『キメラ』か!?30歳でインペリアル級の艦長とは…チェル艦長はスーパースターデスト
ロイヤーの艦長にでもなったのか?」
30代でインペリアル級の艦長を務める例はあまり多くない。チェル艦長などは例外中の例外だ。
彼は特に目立った功績があるわけでもないが、ペレオン提督が人材を育てる意味で抜擢したの
である。30年も経っていれば、彼も熟練の艦長になっていると思い、ピエットはそう言った。
214
:
未来の息子との対面―ピエットSide 3/4
:2007/11/06(火) 15:35:29
しかし、息子からは意外な返答が返ってきた。
マキシミリアン「チェル艦長…チェル提督のこと?」
ヴィアーズ/ピエット「何!?彼が提督だと!?」
マキシミリアン「うん、あまり詳しくは言えないけど、銀河大戦とそれに続く―――ああ、これは言
えない…まあ、これから起こる一連の戦乱の英雄の一人に数えられているよ?
勿論、お父さんやヴィアーズ大将軍に、ペレオン大提督やジェリルクス参謀総長
もね?」
ピエット「ギラッドも大提督か…それは妥当だな」
マキシミリアン「うん、お父さんと一緒に戦った人達は大抵、出世しているよ。しかし凄いなぁ…こ
このブリッジだけでも伝説級の人達ばかりだよ…」
そう言って彼はピエットやヴィアーズの脇に立っている高級軍人やその下で働く司令要員達を一
人一人見回していた。そこにヴィアーズが話しかける。
ヴィアーズ「マキシミリアン、私の息子…ゼヴュロンはどうしているんだ?話せないこともあると思
うが、生きているかどうかだけでも教えてくれないか?」
彼の息子…ゼヴュロン=ヴィアーズは帝国の理念に疑問を抱き、反乱同盟軍に身を投じていた
のである。最後の消息では、4年前のエンドアの戦いで反乱同盟軍の艦船の砲撃手を務めてい
たと風の噂に聞いただけなのである。彼は過保護な父親ではないが、4年も聞かなければ不安に
なるものである。妻に先立たれた彼にとっては唯一の肉親なのだ。
マキシミリアン「ゼヴュロン=ヴィアーズ将軍の事ですね?AT-AT部隊の司令官になっています
よ。経緯は言えませんが…」
ヴィアーズ「おお!神よ!久しぶりにあなたに感謝致します…」
30年後の世界で元気に、しかも自分の跡を継いでいるという事は、今もどこかで元気にしている
ということであろう。その奇跡に彼は久しく忘れていた神への感謝を捧げたのであった。
ピエット「ところで…フォースの方はどうだ?」
マキシミリアン「ふふふ、どうだろう?」
そう言うと、彼はダークサイドの電撃を軽く飛ばした。それを見ていた者達が唖然とする中、ピエッ
トだけが目を細めていた。
ピエット「素晴らしい!!ダークサイドを順調に使いこなせているようだな」
ヴィアーズ「次世代の暗黒卿というわけか…」
だが目の前の青年はダース=ヴェイダーのような恐ろしい容貌でもなければ、皇帝のように邪悪
な表情もしていない。澄んだ瞳に微笑を湛えていた。性格も両親のものを受け継いだのだろう。ヴ
ィアーズはその力に畏怖こそすれ、恐怖は感じていなかった。むしろ、帝国の未来に光を見ている
気さえしたのである。
215
:
未来の息子との対面―ピエットSide 4/4
:2007/11/06(火) 15:36:06
一通り聞いた後でピエット達は最大の疑問を彼に投げかけてみた。
ピエット「何故、この時代に来たんだ?」
マキシミリアン「んー…これなんだよね…」
そう言って彼は銀色の円筒…ライトセイバーを取り出した。もっとも、まだ作りかけであるが。ジェダ
イやシスは修行の一環として、ライトセイバーを自作する。彼もその例に漏れず、作っていたようだ。
ピエット「作り方なら教えられないぞ?これも修行だ。まあ、それなら30年後の私に聞いているだろ
うが…もしかして、何か部品が足りないのか?」
マキシミリアン「うん…クリスタルの生産工場が吹っ飛んじゃって…」
シスのライトセイバーに使用されるプライマリー・クリスタルは人工のものを使っており、秘密の工場
で生産される。それが無くなったのは致命的だろう。
ピエット「それでこの時代に来たわけだ、なるほどね」
マキシミリアン「うん、それで開けてもらえないかな…と」
ピエット「まあ…それくらいなら構わないだろう。うん、コードは出しておく。行き方は分かるな?」
マキシミリアン「うん、分かってる。それじゃ…ありがとう」
そう言って、若きピエットは再び銀河の果てへと消えていった。後にはピエットと彼の側近達が残さ
れる。
セシウス「御子息は御立派に成長なさるようですね、お喜び申し上げます」
ピエット「ありがとう、艦長」
ヴィアーズ「私の名前を名乗るだけはあるな、うん」
ピエット「君の息子も帰ってくるようだし…万々歳だな!」
反乱同盟軍が聞いたら、悪夢と思うような話だろう。自分達の努力が少なくとも自分達の生きている
間に報われることは無いのだから。しかし、今聞いた彼らには幸せな話である。自分と自分の家族や
友人が栄達を遂げているのだから。未来というものはある者には明るく、ある者には暗い…
黒閣下のに続いてみましたw
216
:
銀河鉄道の夜
:2007/11/11(日) 00:35:31
ふと、目を開けたフランドールは首を傾げた。
がたごとと揺れる、ついぞ見たことがない、窓の沢山ついた―およそ吸血鬼の彼女には似合わない部屋の長椅子に彼女は腰かけていた。
はて、ここはどこなのだろうか、と首を捻るフランドールの前に姉が腰掛けていた。
「あら、お姉様」
「こんばんは、妹様」
彼女の声に、だが応えたのは姉の従者だった。
「お前には話しかけてない」
口を尖らせながらそう呟くと、姉の従者は困ったように笑いながら、頭を下げた。
「申し訳ございません」
姉の方はただ窓の外をぼぅと見つめたまま、一言も喋ろうとはしなかった。
「おかしな夢だね」
いつもの様に笑うフヨウにフランドールはむっとしながら、クッキーを飲み込んだ。
「そんなにおかしいの?別にあいつとあいつの従者と部屋にいただけよ」
少し苛立ち始めた彼女にそれでもフヨウはペースを崩さず天井を見上げて、言った。
「フランがいたのは部屋なんかじゃないよ。フランがいたのはね―」
パタン、と閉じられた本から顔を上げると、アサヒと目が合った。
「どうした?この話、つまんなかったか?」
彼女の問いかけに首を横に振り―思い出したように手を叩く。
「ねぇ、今度さ、この汽車って奴に乗りに行こうよ」
「ああ、そりゃあ名案だな」
くしゃくしゃと髪を撫でる手が暖かくて、フランドールは目を細めて、その感覚を楽しみ―
夢を、見ていた。
暗い部屋を見回しながら、フランドールは息をついた。
果たして何処までが夢で、何処からが現実なのか。
そして今は本当に夢から覚めているのだろうか。
ふと、枕元に置いてある古い本が目につき、それを手に取っていた。
―銀河鉄道の夜
何度も捲ったページは擦れて、表紙に至っては既にボロボロになっていた。
それでも彼女はこの本を捨てる気にはなれなかった。
ページを捲り、目当てのページを見つけ―彼女は知らず知らずその言葉を口にしていた。
久々に劇場アニメ版の銀河鉄道の夜が見たくなったら、こんな夢を見た件
…しかしなんでフラン視点だったんだろう?
217
:
乃木版ウィリアム・テル【ウィリアムの反乱】
:2007/11/11(日) 17:29:58
その日、街には活気がなかった。
と、いうのもその街は謎の「帝国」に支配されていたためであった。
それはつい先月、空からやってきた。
軍隊がそれに対応したがあっけなくやられてしまったのだ。
そして次の日から始まったのは何の意味もない銅像に
お辞儀をしろと言われたのであった。
しかしその銅像にお辞儀しなかったがために逮捕された人物がいた。
ウィリアム・テル…じゃなくてヴェノムである。
しかしヴェノムは街の人々から嫌われていて、
逮捕されたといってもそんなに心配されなかったのだ。
しかし彼には今年18歳になる娘がいた。
彼はその娘がいる方向を見つめながら、連行されていったという。
続く(ぇ
218
:
らいーる
◆AsumiI7ApQ
:2007/11/12(月) 21:41:13
逃亡編って2か月前にはプロット出来てたのねと思いつつ
再考に再考を重ね過ぎたあげく、どうにもまとまりが悪いという体たらく
やはりあれか。俺には恋愛物は無理ということか
もっと話をコンパクトにして、書きたいとこだけ書こうかしら
219
:
らいーる
◆AsumiI7ApQ
:2007/11/12(月) 21:42:00
うわーい、書くとこ間違えたー。もう今日の俺ダメポ
220
:
夢題
:2007/11/13(火) 20:48:31
「何ものも、そこに暗い影を落とすことのないように―――。」
バースデイ・ガールより
いつもと変わらぬように、いつもと同じように彼らは暮らしていた。
しかし、彼らは何かに気づいていた。
「何か、忘れているような気がする だが、それが何か思い出せない」
皆、「何を忘れたのか」ということを質問するたびに同じ言葉を、
この答えを発する。
しかし、二人だけはその消えた記憶を知っていた。
ヴェノム「…あれで良かったんだな?」
乃木「ああ、いいんだ あれで…あとで自分の幸せの記憶も封印しておいてくれ」
ヴェノム「わかった…後悔はしないな?」
乃木「ああ、いつまでも偶像に崇拝を続けることも無いだろう?」
ヴェノム「…わかった それじゃ私の研究室に行こうか」
乃木「…ああ 頼むよドクター」
「小英雄の面影は、もとは鮮明このうえなかったのが、
今では急にぼんやりしてしまった。」
魯迅 「故郷」より
221
:
憐哀編side春原:序章「成り行きの駆け出し」
:2007/11/23(金) 16:22:24
吐く息が白い。
もう冬が近いってことを、嫌でも思い知らされる。
街を照らすイルミネーションが鬱陶しい。
冬なんぞ嫌いだ。
「……寒い、ねっ」
語尾を無理に上げてるのがバレバレだった。
――何で元気な風を装ってんだか。
僕は無言で歩く。後ろからついてくる足音に耳を澄ましながら。
「何で、冬なんて、あるんだろうねっ」
「神様の嫌がらせに決まってんだろ」
「なるほど。ヨーヘー、頭いい……ねっ」
尻すぼみなトーンは、まるで声まで凍りつく様を表わしてるようだった。
軽くイラつきながら振り返る。
そこにいるのは、一言で言ってしまえばガキだった。
取るに足らない、そこらへんに掃いて捨てるほど湧いてる連中と同じ。
いや、同じように見えるだけの、別物。
別物の――それでも、ただのガキ。
「あのな、この季節に半袖短パンじゃ寒いに決まってんだろうが」
「だってこれがボクのチャームポイントだし」
「チャームポイント丸出しで凍死する気かよ。バカじゃね?」
「ヨーヘーに言われたらおしまいだ、ねっ」
――口の減らねーガキ。
苛立ちはおさまらない。
「ほら」
着てたコートを脱いで、差し出す。
「?」
「着ろよ。寒いんだろ」
「ボクはチャームポイントのために凍死する覚悟は出来てました!」
「うるせーよ。僕がムカつくんだ、黙って着ろ」
まったく、鬱陶しい。
「……ありがと」
「今日の晩飯代は僕が7でお前が3だからな」
「ありがたくないっ!?」
何でこんな寒い日に、こんなとこで、こんなガキと、こんなやりとりをしてるのかと思いつつ。
僕らは、二人きりで、逃げている。
222
:
翼風
◆1TOguFFHvI
:2007/11/25(日) 10:51:04
ラスト
223
:
月光浴
:2007/11/25(日) 15:36:47
真夜中に、ふいに目が覚めた。
明るい。
その眩しさに、光に慣れない目をかばって眇める。
時計を見れば真夜中の4時半。当然ながら蛍光灯の灯りは消されている。
頭が回っていなかったのだろう。
その光がカーテンの隙間から洩れ出でているのに気づくまで、多少の時間を要した。
十六夜月だった。
空から降りしきるその光は、夜だと言うのにこの背に影を映しだす。
月は金色に輝くが、その光は夜色と混ざり溶け合って青く注がれる。
青。
それは自分を象徴する色だ。
きっと私は月なのだろうと、そう思う。
己の光を持たない月。
己の心を持たない自分。
あまりに作為的な偶然にまみれた、自分という存在を照らす光。
太陽は明るい。明るくて、強い。
月は儚い。儚くて、美しい。
私には己の光を持つことは求められていない。
私には自分で輝くことは許されていない。
そして――それを嘆くことも、恨むことも出来ない。
それでも、私は月だ。
自分で輝くことは出来なくても、光を常に浴び続けることが出来る。
自分という存在を持たなくても、私は必ずそこに存在し続ける。
望みはしない。
求めもしない。
月の美しさを湛えている限り、それこそが私なのだから。
224
:
憐哀編side春原:一章「価値の模索」 1/4
:2007/11/25(日) 19:03:02
一日目 AM 7:30
「ねぇヨーヘー、今日ボクとデートしてくれないかなっ」
すべてはノーテンキなお子様の、そんな一言から始まった。
一日目 PM 15:30
公園には人っ子一人いやしなかった。
ま、当然だ。こんなくそ寒い中、シーソーも滑り台もベンチすらもないチンケな公園に
足を踏み入れるのは、アホの子かリストラされて行き場のないリーマンくらいのもんだ。
だってのに、
「ヨーヘー! 見てみて、イサちゃんエベレスト踏破の瞬間!」
アホの子はサルよろしく、木の上で喜色満面ときてる。
「へーへー、そりゃすごいですね」
「むっ。もっと喜びをわかちあおうというスポーツマンシップはないのか貴様!」
「ねーよ」
ベンチすらないので、その場に適当にしゃがみこむ。
溜息が、白かった。
「……ヨーヘー、退屈?」
ふいに声に元気がなくなる。
こちらの真意を伺うように、おそるおそる。
「あー退屈だね。こんな何もないとこで、文明人の僕が楽しめるわけないだろ」
「……ごめん」
がりがりと頭をかく。
まったくイライラする。
『こんな状況』でなきゃ、とっくの昔に置き去りにしてるところだ。
僕はこいつから離れるわけにはいかない。
もちろん、アホの子のためなんかじゃない。僕自身のためにだ。
225
:
憐哀編side春原:一章「価値の模索」 2/4
:2007/11/25(日) 19:03:49
「けどさ」
「あん?」
「普通、デートって男の人が盛り上げようとあれこれするもんじゃないかなっ」
「………………」
もっともだ。
男としてこれは恥ずかしいんじゃないだろうか。
けど僕、デートしたことないぞ。
どうやって盛り上げればいいんだ?
……いや、待て。
「何で僕が盛り上げなきゃなんないんだよ!?」
「ヨーヘー、男の人じゃないの?」
「男だよ!」
「じゃあ盛り上げれー」
「………………」
もっともだ。
男としてこれは(以下略)
「だからそうじゃねぇよ! デートしたいとか言ったのお前の方だろ!」
「……ヨーヘーは」
木から飛び降りた。
2階以上の高さはあったってのに、呆れるくらい身軽な動作だ。
けど、そうして目の前に立つ姿は、僕より頭一つは小さい。
つまりはガキだ。
「ボクのこと……きらい?」
本当にムカつくガキだ。
それには応えず、そっぽを向く。
質問をわざと無視したのに、それ以上は何も聞かずに僕の傍に立つ。
226
:
憐哀編side春原:一章「価値の模索」 3/4
:2007/11/25(日) 19:04:22
一日目 AM 8:00
僕はそいつの問いかけにYESともNOとも応えなかった。
応えるより早く連れ出されてたんだからしょうがない。
寝起き直後にそんな質問されたって、応えられるわけがない。
デート? そんな誘い受けたの始めてだっての。
強引にもほどがあるだろ。
僕がガキ呼ばわりしてるそいつの名前は、イサと言う。
僕と違って天然の金髪。背が低い。
男と言えば男、女と言えば女に見える。まぁユニセックスってやつだ。
ガキほど性別の区別がしずらかったりするが、まさにそれだ。
服装は大体いつも短パン。その格好がなおさら中性っぽく見せてる。
そして極めつけの中身は、
「ヨーヘーは何でバカなのっ?」
「ケンカ売ってんのかよてめぇ!」
「だってバカじゃん!」
「バカじゃねぇよ、知性に溢れたこの顔を見ろよ!」
「あ、ディアが半裸でこっちに流し目してる」
「マジかよっ!?」
「やっぱバカじゃん!」
「バカじゃねぇよ、当然の反応だよ!」
「ボ……ワタシはヨーヘーのバカなところが大好きかなっ!」
「嫌いでいいです! ほっといてくれよ!」
「あ、よーちゃんがスカートで体育座りしながら潤んだ瞳をこっちに向けてる」
「マジかよっ!?」
「ヨーヘーのスケベー!」
「周囲から注目されるくらいの大声で言わないでください!」
こんな有様だった。
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