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改訂版投下用スレッド

1書き手さんだよもん:2003/03/31(月) 00:33
作品に不都合が見つかり、改定となった場合、改定された作品を投下するためのスレッドです。
改訂版はこちらに投下してください。
ただし、文の訂正は、書いた本人か議論スレ等で了承されたもののみです。
勝手に投下はしないでください。

編集サイトにおける間違い指摘もこちらにお願いします。
管理人様は、こちらをご覧くださいますよう。

101睦(4):2003/11/04(火) 13:51
(…………ああ……)

 耕一の豪腕が目の前に迫る。
 カミュの脳裏に、今まで出会った人たちの顔が浮かび、そして消えていく……

 ウルトリィ……きっとお姉さまだから素敵に鬼ごっこを楽しんでるよね……
 ディー……神奈さんの話からすると鬼になってるみたいだけど……どうしてるかなんて想像できないな……
 アルルゥ……カミュを叱ってくれた……カミュを励ましてくれた……
 ユズハ……がんばってくれたのに……どうやらカミュ、ここまでみたい……
 ユンナ……助けてもらったばかりなのに……

 ごめんね……

 ごめんねみんな……

 諦めかけた、その時。

(……ひどいね)

 え?

 ドクン!

 心臓が一つ、大きく鳴った。

 ドクン! ドクン!

(私のことを忘れるなんて……)

 躰の内側から声が聞こえてくる。

 あなたは……?

102睦(5):2003/11/04(火) 13:52
(お父様のことを思い出したなら、連鎖的に私に考えが及んでもいいはずだけど……)

 ……あなたは、まさか!

(そう。私はあなた。もう一人のあなた。……私の名は……)

「…………!?」

 ゾクッ!!

 一瞬、カミュと目が合った耕一。

 刹那、耕一のエルクゥとしての本能が叫んだ、けたたましく。

『危険だ!』

「……くっ!」
 体の内部から湧き出る怖気を無理やり押さえ込むと、慌ててカミュから十数Mの距離をとる。

「ど……どうしたんですか耕一さん……?」
 瑞穂が訝しげに耕一の顔を覗き込む。が、そこにあった耕一の顔はいつものおチャラケた表情とは違い、マジな目つき……恐ろしいぐらいの形相に変貌していた。
「瑞穂ちゃん……悪いけど、ちょーっと……このへんで待っててもらえるかな?」
 言いながら、近くの大きな岩の上に瑞穂を置く。
「え……?」

「どうやら……本気を出さなきゃならないみたい……だッ!!!!」

103睦(6):2003/11/04(火) 13:52
 咆哮。耕一は大きく吼えると体の中から吹き出る鬼の力をすべて発現、最強の鬼へと姿を変え、弾丸のごとくカミュへと疾った。
「ちょ……! 耕一さん!?」
 いくら耕一自身にその気がなかろうとも、あの質量の物体が加速をつけてぶつかれば常人ではただではすまない。ましてや今回の相手は華奢な女の子。
 下手をすると怪我ではすまないかもしれない。それを警告しようとする瑞穂。
 だが、耕一はわかっていた。頭ではわからずとも、鬼の本能が叫んでいた。
 これでも足りない。これでやっとかもしれない。たとえ自分の力を全て尽くそうとも、目の前の存在……

 ……カミュではない誰か、に勝てる保障など、ない。

「おおおおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!!!」

 轟音を伴ってカミュが倒れていた地点へと耕一の一撃が決まる。
 水面が弾け、川底がえぐれる。巻き上がった土砂と水は崖を超えてぶちまけられた。
 思わず目を覆ってしまう瑞穂。だが、一瞬後目を開くとそこには耕一しかいなかった。
 先ほどまでへたれこんでいた少女は、どこにも……いや。
 
 耕一の背後、己のすぐ横に……佇んでいた。

「………でも、大丈夫?」
「任せて……。私も今までカミュが頑張っていた姿は見てきた。カミュと一緒にすごした人たちの姿を見てきた……その気持ちを無駄にはしない」
「う〜ん、いざ面と向かって言われるとちょっと恥ずかしいかも……」
「それに……カミュばっかり鬼ごっこを楽しんでるのはちょっとズルイい。今まではずっとカミュが出てたんだから、今度は私の番になってもいいかもしれない」
「うっ……そ、そりは……」
「……決定だね……。今度は私の鬼ごっこ……」

 あたりの状況などまるで気にしないかのように、ブツブツと独りで何やら言っている。

(ひょっとしてこの人も電波さん?)
 即座に彼女がそんな判断を下したのも、普段の環境があってものだろう。ちょっと気味悪いが、この手の人間は慣れている。
(と、とにかく、チャンス……そーっと後ろから近づいて、タ……)
 忍び足で歩み寄り、手を伸ばすが……

104睦(7):2003/11/04(火) 13:53
 フッ

「……え?」
 目の前でその姿が突然掻き消え、いつの間にか空中1Mほどの位置に浮かんでいた。飛び上がったモーションなどは、見えない。
「……なんですか今の?」
 瑞穂の疑問は無視し、カミュ『だった者』、漆黒を超える暗黒の双翼、燃えるような緋色の目、かつてない程の威圧感を伴う、『彼女』は口を開く。

「私の名前はムツミ……」

 ヒュッ!

「!?」

 名を名乗りつつ、突如として具現化させた剣を抜き放つと一回転、密かに一行の背後に迫っていた黒きよ小隊が射掛けた矢郡を切り払う。

「オンカミヤリューの始祖。解放者ウィツァルネミテアが娘」

 さらにムツミがパチン! と指を弾くと、彼女の体にまとわりついていた矢が全て燃え落ちた。

「………………」

 無言のまま、耕一は構えを取る。

 今度は、おチャラケも、ギャグも、一切ない。
 完璧なる狩猟者としての、狩りだ。狩りが始まる。狩りのはじまりだ。

105睦(8):2003/11/04(火) 13:53
「鬼さんこちら……」

 呟きつつフッ、とムツミの姿が消える。

「……手の鳴るほうへ!」

 続く言葉は耕一が呟き、彼の姿もまた消えた。

「!?」

 次の瞬間、空を見上げる瑞穂たち。

 交錯する二つの影。

 極限の対決が始まった。


【カミュ ムツミ化。力を全て発現】
【耕一 鬼化。全能力開放】
【黒きよ小隊 V字谷に流れる川の中】
【瑞穂 岩の上】
【四日目昼 谷】
【登場 ムツミ(カミュ)、【柏木耕一】、【藍原瑞穂】、【杜若きよみ(黒)】、【ドリィ】、【グラァ】】

106ランカーズ:2003/11/05(水) 13:59
 Dだ。

「OK,結構釣ったみてぇだな。こりゃニジマス定食がよさそうだな。ちょっと待ってろ」
「Thanks♪」
 湖畔の屋台。先ほどまでのピリピリした雰囲気とは打って変わり、今はぽややんとした空気が場を支配している。
「私は刺身定食を。御堂、貴様は何にする」
「……食欲なんてねぇよ」
「何か食わんと治る傷も治らなくなるぞ。仙命樹があるとはいえお前の体力そのものはお前の体が回復するしかないのだからな」
「ケッ、言われるまでもねぇ……カツ丼よこせ。あと、茶だ」
「わかった」
 注文を受けたエビルが手際よく調理を済ませていく。

 屋台には今、岩切、御堂、D一家がそれぞれ腰掛けており、各々が自分の料理を口に運んでいた。
「にしても……とんでもねぇガキだぜ」
 先に出された茶を啜りながら御堂が毒づく。
「ヒトの顔に思いっきり水ぶっかけるとは……おかげでまだヒリヒリしやがる」
 御堂の顔は包帯でグルグル巻きにされており、さらにその下は軟膏がコテコテに塗られてある。
 火戦試挑躰としての体と引き換えに手に入れざるを得なかった致命的な弱点――水。
 さしもの仙命樹も弱点を突かれてはお得意の治癒能力を見せ付けることもできず、結果御堂は顔の傷は自然に任せるより他になかった。
「ま、油断した俺が悪りィんだけどよ……」
 もう一杯茶を啜りながら、言葉を続ける。
「とはいえ次はねぇぞ。所詮クソガキの賭けの一撃が偶然決まっただけだ。知ってりゃいくらでも対処のしようがある」
 さすがに少し悔しいのか、言い訳という名の悪態をつく。
「なにかいった? お ぢ さ ん ?」
 が、まいかは笑顔のまま立ち上がると、静かに手のひらを御堂に向けた。
「……やめろ。おっかねぇ真似をするな」
 体半分ずり下がる御堂。
「負けは負けだ。素直に認めろ御堂。戦場ではその偶然の一撃が生死を分かつ境界線となる。お前とてそのぐらいはわかっているだろう」
 岩切は醤油にわさびをあえつつ、彼女にしては珍しく優しく御堂を諭す。
「そりゃわかってるがな……」
 わかっているが、認め難い。
 蝉丸への羨望と同じく、御堂のこのあたりは己でも御しがたい心のロジックだった。

107ランカーズ(2):2003/11/05(水) 14:00
「……フフ、次会ったら坂神に教えてやるか。お前が幼女に負けたことを」
「ゲーーーック! やめろ! やめやがれ!」


「……静かね」
 場面は変わり、美坂香里。さらに彼女に率いられるセリオ、香奈子、編集長のインテリジェントレディースご一行様。
 昨晩、様々な……あまり思い出したくない不運が重なり、大幅な戦力減退に追い込まれた一行。
 森の中で偶然発見した小屋で一晩を過ごし、明けた今日は森の中を中心に歩き回っていた。
「セリオ……どう?」
 斜め後ろを歩くセリオに向かい、香里が視線を向ける。
「申し訳ありません……やはりダメなようです。各センサーの精度は著しく減退、レーダーもほとんど意味を成しません。
 現在の私の外部情報収集能力は皆様とあまり変わらないかと。ほぼアイセンサーの見渡せる範囲しか索敵できません」
「そう……」
「申し訳ありません」
 いつも通りの無表情、しかしどこか寂しげなその顔で、セリオは深々と頭を垂れた。
「気にしなくていいのよ。駆動機関にはさして影響ないんでしょう?」
「はい……それは大丈夫ですか」
「ならいいわ。気長に待ってればまたチャンスもあるでしょ」

 苦笑、という言葉がピッタリな笑顔で、セリオに微笑んだ。

「さて、それはともかくとして香里。これからどうするの?」
 話がひと段落したと見て、香奈子が二人の会話に割って入る。
「気長に待てば、とは言っても本当に何もせずに待ってるわけにもいかないでしょ?」
「……ま、それはそうよね」
 肩を竦めながらうなづく香里。
「とりあえず情報が欲しいわね。今私たちは武器を無くし、センサーも使えなくて文武両道ならぬ文武両盲状態。とにかく何らかの外部情報がほしいわ」
 さらに編集長も口を開く。確かに、今の香里チームはほとんど武器らしい武器、上手く使えば何者よりも役に立つ『情報』という武器を含め、ほとんど武装解除に等しい状態だった。
「情報を得るといえば人の集まるところよね」
「人の集まる場所なら屋台が最も有力でしょうね」
「言われるまでもないわ。ま、残金もほとんど無いから碌な物は買えないでしょうけど……他の人に会えれば何かわかるかもしれないしね」
「あの……香里様」

108ランカーズ(3):2003/11/05(水) 14:00
「ん? どしたのセリオ?」
 話し合う三人に、今度はセリオが口を挟む。
「屋台でしたらちょうど目の前にありますが」
「……え?」
 セリオが指差す方向を眺める。
 ……森が開き、湖が広がり……その脇に、確かに言われてみればポツンと何かがあるようにも……見えないこともないかもしれない。
「……確かに何かあるけど……あれって屋台?」
「はい。確かです」
「セリオ……あなた、センサー類使えないんじゃなかったの?」
「はい。使えません。ですから、『目で見える範囲』しか策敵できません」
 しばしの沈黙。
「……ちなみにセリオ、あなた、視力いくつ?」
「人間の視力に当てはめるならば……6.0から7.0、といったところでしょうか」
「…………十分使えるわ。サンコンさん並じゃない」


「誰かいたかい?」
「いや、人っ子一人いないな」
 こちらは久瀬一行。アパートで一晩、十分な睡眠をとった彼ら。
 朝方には隣への挨拶もそこそこに再出発。今日は山の方を探索することと相成った。
「やっぱりハズレだったかな……午前いっぱい歩き回って成果ゼロとは」
 大木に寄りかかり、バツの悪そうにボリボリと頭を掻く。
「ま、そう腐るな。見通しの甘さは誰だってある」
 ポン、とオボロが久瀬の肩に手を置く。
「月島さん……あなたはどう思いますか?」
「ん、僕かい?」
「ええ。あなたの意見を伺いたい」
「そうだね……」
 不意に話題を振られた月島兄。少々呆けながらも、顎に手を当て、思考開始。
「うん……君の見立てもあながち間違ってはいないと思うよ。確かにこれだけ時間が経てば、残りの逃げ手は少なくなり、逆に鬼の数はかなり増えているはずだ。
 残された逃げ手は、なるべく鬼の少ないところ……すなわち人の少ないところ。山間部に向かう可能性が高くなる。
 昨日と違って今日は晴れた。これなら一般人でもさして行動に支障なくどこへでも行ける。……ただね……」

109ランカーズ(4):2003/11/05(水) 14:00
「……ただ?」
「うん、やっぱりその『どこへでも行ける』っていうのがネックだと思うんだよ。数の少ない逃げ手が、どこへでも行ける。
 わかりきっていたことだけど、やっぱりこうなっては僕ら個々の鬼グループが逃げ手と会える確率はトコトン低くなってしまうんだよ。
 いくら山間部が可能性が高いといってもそれはあくまで可能性。山間部は人が少ないと同時に見通しが利かないというのも大きいからね。
 どっちにしろ、戦いは辛くなるってことさ。ごめんね、結局なんの具体策も提示できなくて」
「そんな……十分ですって」
 すまなそうに頭に手を当てる月島兄。
 久瀬とオボロは口々にそんな彼を慰める。
「いやいや、そこまで考えられるってだけでも大したモンだ。俺なんざ人が少ないから人がいないものだと思ってたからな。はっはっは」
「君はもう少し物事を深く考える癖をつけた方がいいと思うけどね」
「なんだとコラ」
「はっはっは……」

「……ま、それはそれとして、だ。これだけ歩いて誰も発見できないんじゃしょうがない。反対側を一回周って、それでもダメだったら一度住宅街に戻って作戦を練り直そう」
「それが適当だろうな」
「そうだね、そうしようか」
 こうして再度歩き始める一行。
 と、歩き出したところでオボロが傍と足を止めた。
「お、そうだ」
「ん? どうしたんだい?」
「たぶん向こう側のどっかにゃ湖か、それでなくとも川が流れてるぜ。上のほうに源流があった」
「水……?」
「ならひょっとしたら人もいるかもしれないね。人は、というか生物というのはどうしても自然に水場に集まるものだから」
「まぁ期待せずに行きましょう。水場があるなら僕らも一休みできるでしょうし」

110ランカーズ(4):2003/11/05(水) 14:01
「……誰か起こせよ」
「ごめんね……浩平……」
 さらに移り変わって折原部隊。
 晴子をとっ捕まえた家で一晩を明かしたご一行。
 ……一晩というより、正確には一晩と半日ぐらいを家で明かした、とも言える。
 浩平はもちろん、珍しいことに瑞佳も、そしてスフィーも、ゆかりも、なんとトウカまで、まとめて……
「……ここまで豪快な寝坊は俺だって久しぶりだぞ」
「某としたことが……面目ない」
 ……昼近くまで寝過ごしてしまったのだ。いくら疲れていたとはいえ、かなり気合の入ったドジである。
「でも浩平、確か学校で瑞佳過ごしたことなかったっけ?」
「…………あれは早寝早起きだ。健康のバロメータだ」
「早すぎる気がするけど」
「うっさいスフィー。一番豪快に寝てたクセに」
「うっ……」

「まぁそれはそれとして、だ」
 話が逸れかけたところで、無理やり本題に戻す。
「とりあえずの目的地も無いし、今日は川沿いを歩いてみようと思うんだが、どう思う?」
「某は異存はないが……」
「お前たちはどうだ?」
「別にかまわないよ」
 というわけで決定。
「んじゃ、タラタラと川を上流に上っていくとするか。上手い具合にいけば休憩中の逃げ手にも会えるかもしれないしな」
「そうそう都合のいいことは無いと思うけど……」
「うっさい」
「む、浩平殿。あれを」
「ん?」
 話がまたしても逸れかけたところを、今度はトウカが軌道修正。
「あの先で森が途切れている。どうやら湖があるようだ」
「ほぅ……湖か……。……うっし」

111ランカーズ(6) ;↑のは5でした:2003/11/05(水) 14:02
「つまり俺が言いたいのはな。このゲーム、ほとんどルールらしいルールは聞かされてないんだよ。ウン。つまりな、『罰則が決まっていないことは罪ではない』ってことなんだよ。ウン。
 つまりな、ルール説明していたあのおばさんも、『鬼のたすきを外すな』なんて言ってないんだよ。で、外したらどうする、ってもんも一切説明してないんだよ。ウン。
 言ったことといえばな、『島から出ると失格』このくらいなんだよ、ウン。つまりなこの鬼ごっこ、ほとんど無法に近い状態なんだよ。ウン。
 そこでな、俺の作戦なんだが――――――――――」

 徘徊老人の戯言のように、具にもつかない言葉を延々とまくし立てる祐一。
 先行する郁未と由依は祐一の説明を右から左に流しつつ、二人でヒソヒソと話し合っていた。
(郁未さん……どうします? 祐一さん、あれマジでヤバイですよ。チョベリバですよ)
(う〜ん……そうねえ。アレは危険だわ。何度かFARGO信徒の危険な連中にあんなのがいたけど……)
(ホントもうMK5って感じですね。何かいい方法ないでしょうか?)
(ん〜、ん〜、ん〜……放っとく、ってのはダメ?)
(いくらなんでもそれは……)
 昭和54年と53年産まれ。会話のそこかしこに死語が混じるお年頃。

「……でな? いい方法だろう舞。聞いてるか? さすが俺様。俺の頭脳が冴え渡る。なんで誰もこんな単純な手を思いつかないんだろうな―――――」
「うん、うん、聞いてる、聞いてる。祐一はすごい。祐一はえらい。祐一はあたまがいい……」
 舞は介護人のように祐一の傍らに寄り添い、戯言に一々うなづいて返している。ひょっとすると、50年後の風景を映し出しているのかもしれないが……

「……う〜ん、仕方ないわね。よし」
 何やら決心した様子の郁未。くるっと180度向き直ると、虚ろな目をする祐一の前に立つ。
「おお天沢か。お前も聞いていただろう? 俺の史上最大の作戦を。いいか、まずはな……」
 舞は何やら雰囲気から察したのか、祐一から一歩離れ、完全に郁未に任せた。
「―――――祐一」
「お、なんだ? お前もノリノリだろう?」
「ええ、ノリノリよ……」
 ガッ、と両手で祐一の頭を固定すると、右膝を曲げ、後ろに溜める。
「おいおい天沢、まだお天等さまの高いうちから、しかも人前で、こんな……」
「はぁぁぁ……ッ! 目ェ覚ましなさいこのヴァカ! アホ! タコ助! ゴォォォォォォォルデンレトルトカレェ、キーーーーーック!!!!!!」
「―――――祐一、頑張れ!」

 ずぶしゃぁ!

112ランカーズ(7):2003/11/05(水) 14:02
「おぼっ、はがぁ!?」
 閃光と化した黄金の右膝が祐一の鼻っ面に決まった。
 1Mほど後ろにぶっ飛ばされ、顔面を押さえ込んで七転八倒する祐一。
「がっ、はぁ!? くはっ!? な、なんだ何をする郁未!? え? お、あ……?」
 鼻血を拭きつつ起き上がる祐一。しかしその瞳は再び輝きを取り戻していた。
「あれ……俺、何を……?」
「目ェ覚めた?」
 憮然とした表情で祐一の顔を覗き込む郁未。
「―――――祐一、頑張った?」
「頑張ったって……なんのことだ、舞」
「―――――うん、頑張った……」
「ええっと、俺は確か、すばしっこい中学生を追ってて、逆に穴にはめられて、出ようとして、んでもって名雪に踏まれて―――――あれ?」
 順々に記憶を整理していく祐一。が、郁未たちはそれならばよしとそんな祐一は無視し、
「さて、目が覚めたんなら話は早いわ。さっさと先に進み……」

『……ーック! …めろ! ……やがれ!』

「!?」
 郁未と舞が顔を見合わせる。
「聞こえた!?」
 郁未の問いに、舞が首を縦に振る。
「……人の声……」
 そうと決まれば話は早い。瞬間、声の方向に向かって駆け出す。
「…………」
 一瞬遅れ、舞もその後を追う。
「あっ、待ってくださいよ郁未さん!」
 さらに数秒遅れ、由依も舞の背中を追いかけて駆け出した。

「………それで、ええっと、名雪の声が聞こえて、怒鳴り返して、それから……ええっと……」

 一分後、祐一は戻ってきた舞に支えられ、ゆっくりと郁未を追いかけていった。

113ランカーズ(8):2003/11/05(水) 14:02
「しかしよかったのか? ……その、宮内とやら。上着代、お前に出させてしまって」
 屋台組の食事もひと段落。食後の茶を飲みながら雑談を交わしていた。
「ウン、かまわないよ。もともと私たちのせいで破いちゃったようなものだし。Dが一万円GETしたんだから、水着の一枚ぐらい平気だヨ」
「そうか……うむ、すまんな。どうやら私は少々アメリカ人への印象を変えねばならぬようだ。お前のような者もいるようだからな」
「Hmm....一応私、日本人なんだけど……」

「……で、おっさん」
「おっさんじゃねぇ。御堂と呼べ」
「なんでれみぃおねぇちゃんがおっさんのめしだいやくすりだいまでださなきゃならないの?」
「ンだと? 俺の怪我ァ手前のせいなんだぞ? ガキの不手際で迷惑こうむったんだ。なら親が保障すんのは当たり前だろうが?」
「さきに手をだしてきたのはそっちなんだけどねぇ〜……」
「あぁ? うっせぇぞ。あんまりギャーギャーわめくと……」
「わめくと……なに?」
 まいかは手をかざし、再度力を収束させる仕草を見せた。
「ぐっ……ひ、卑怯だぞテメェ!? ヒトの弱点突けると思っていい気になりやがって! おい保護者! お前からなんとか言え! 言ってやれ! おい! お前!」
 ガクガクとDの肩を揺する御堂。だが、Dからは何の反応もない。
「おいコラ! ヒトの話を……聞……って!?」
「……うるさい」
 ようやくDの口から出たのは、そんな言葉だった。
「なんだとテメェ!? あんま人をなめると……」
「……うるさい、と言っている」
「つっ……!?」
 睨み。一睨み。
 Dが気だるそうに一睨みすると、一瞬にして御堂は黙ってしまった。
(な、なんなんだコイツ……?)
 少しDから距離をとる御堂。
 だがけっして、彼はけっしてDに胆で負けたわけでない。
 彼が恐ろしかったのは……

(なんなんだアイツの眼。……あれは……まるで……)

114ランカーズ(9):2003/11/05(水) 14:03
 ピキッ。


「ん、どうした?」
 その時、エビルが磨いていたガラスのコップに突然、亀裂が入った。
「……イビル」
 それを確かめると、静かに口を開く。
「……火を灯せ。湯を沸かせ。食器を並べろ。仕込みの準備だ」
「ああ、そうみたいだな……」
 エビルも言われたとおりに準備を整えていく。
「……ほぅ、なるほど」
 数秒後、岩切と御堂も唇をゆがめた。


 ―――――千客万来だ。


「……相沢君? それに、久瀬君!?」

「相沢……だと? あっちは……美坂さん?」

「……アイツは、確か、久瀬!?」

「香里か? 久瀬……お前も来てたのか!?」


 かくして、図らずも鬼のトップランカーたちが集結した。

 この邂逅が何をもたらすのか。

 それは今は誰にもわからない。

115ランカーズ(10):2003/11/05(水) 14:03
【四日目昼下がり 山間部の湖畔】
【D一家、御堂、岩切 弐号屋台で食事】
【香里一行、久瀬一行、浩平一行、祐一一行 集結】
【セリオ 眼がイイんですよ〜】
【祐一 我に返る】
【御堂 顔に包帯】
【登場:
【御堂】【岩切花枝】【ディー】【宮内レミィ】【しのまいか】
【美坂香里】【セリオ】【太田香奈子】【澤田真紀子】
【久瀬】【オボロ】【月島拓也】
【折原浩平】【長森瑞佳】【スフィー】【伏見ゆかり】【トウカ】
【相沢祐一】【天沢郁末】【川澄舞】【名倉由依】
『イビル』『エビル』
(多分これで全員だと思います)】

116ランカーズ(11):2003/11/05(水) 14:03

 さて、今回やったら静かだったDであるが。

 懸命な読者諸兄ならばもうお気づきであろう。

 彼は先だって、岩切との格闘の末、崖下に転げ落ち、お互い少々の傷を負った。

 すなわち……

 仙命樹。

 足すことの。

 異性の身体。

 求むるところは……?


(なんだなんなんだ! どうしてしまったんだ私の身体は!?
 こんな……こんなことなど! なぜこんな状態に……おおおっ!?
 わ、私の感じている感情は精神的疾患の一種なのか!? 鎮める方法は誰が知っている!? 誰に任せればいいと言うのだ!?)

「でぃー……どしたの?」

(いかんやめろまいか! 今私の視界に入るな! うぉお! 私に触るな! ゆするな! がふぅ……こ、これは、まずい! 非常にまずい! 最上級に危険だ!)

 静かだったのではなく、騒げる状態ではなかったのだ。


【D 精神的疾患真っ最中】

117ランカーズ(11):2003/11/05(水) 14:04

 さて、今回やったら静かだったDであるが。

 懸命な読者諸兄ならばもうお気づきであろう。

 彼は先だって、岩切との格闘の末、崖下に転げ落ち、お互い少々の傷を負った。

 すなわち……

 仙命樹。

 足すことの。

 異性の身体。

 求むるところは……?


(なんだなんなんだ! どうしてしまったんだ私の身体は!?
 こんな……こんなことなど! なぜこんな状態に……おおおっ!?
 わ、私の感じている感情は精神的疾患の一種なのか!? 鎮める方法は誰が知っている!? 誰に任せればいいと言うのだ!?)

「でぃー……どしたの?」

(いかんやめろまいか! 今私の視界に入るな! うぉお! 私に触るな! ゆするな! がふぅ……こ、これは、まずい! 非常にまずい! 最上級に危険だ!)

 静かだったのではなく、騒げる状態ではなかったのだ。


【D 精神的疾患真っ最中】

118Shioly Brownie:2003/11/06(木) 19:35
 鶴来屋別館、参加者の間では通称『ホテル』と呼ばれている建物。

 ギギィ……

 と小さな軋みを立て、そこの厨房にある裏口が僅かに開かれた。

「…………よし、誰もいないみたいだ」
 隙間から中を覗き込んだ住井が安全を確認する。
 改めて扉は全開に開かれ、地雷原ズこと住井&北川、そして……

「はぁ、はぁ、はぁ……」
「……栞ちゃん、大丈夫かい?」
 ……北川の背中でへばっている栞が現れた。
「なんとか……」

「ふぅ……さすがに飛んだり跳ねたり走ったりといった野蛮な行動は病弱可憐な薄幸の少女には重荷ですね……」
 北川が冷凍庫から持ってきたシャーベットをつまんでひと段落。三人は厨房の中で小休憩をとっていた。
「ところで栞ちゃん、ホテルにいったい何があるっていうんだい?」
「ああ、まだ俺たち聞かせてもらってないな。ホテルで英語の翻訳ができるのか?」
 訝しげな二人。栞の自信満々な態度とは裏腹に、ちっとも教えてくれないその『希望の芽』に興味津々のようだ。
「わかりませんか……?」
 だが栞はトコトンもったいぶるつもりなのか、挑発的な上目遣いの目線を二人に送るだけで、答えようとはしない。
 ただ、嬉々として唇を歪めるのみだ。
「まぁ楽しみにしていてください。すぐにわかりますよ」

 休憩もそこそこに、二人は廊下を抜けてホールへと出た。
 だいぶ日も高くなってきているのだが、まだ寝ているのか、それともどこかへ出かけているのか。近くに先行者たちの姿は見えない。建物内は静まり返ったままだ。
「……好都合です」
 栞はそのままズカズカとホールの側面、カウンターの台の中に入ると、さらにその奥、従業員詰め所になっていると思しき部屋に繋がるドアノブに手をかけた。

 ガチャガチャ、ガチャガチャ。

119Shioly Brownie(2):2003/11/06(木) 19:36
 ……鍵が掛かっていて開かない。

「まぁそうでしょうね。さすがにそこまで無用心じゃありませんか……」
 キョロキョロとあたりを見回す。某サバイバルホラーゲームならここで別の地点からキラキラ光る鍵を探すところであろうが、当然我らがペテン師栞はそんな面倒な真似はしない。
 自分の後ろに立っている北川に向き直ると、
「破ってください」
 笑顔のままちょっと首をかしげ、命令した。
「……え?」
「ですから、鍵が掛かっていて開かないので、北川さんにブチ破ってほしぃなぁ……とか思ちゃったりするわけです」
「……破るって……」
 もう一度扉を見る。
 確かに木製ではあるが、安普請な気配など微塵もなく、重厚な天然の木目が鈍い光を放っている。
 おそらく職人手製の高級品だ。そう簡単に素人には手が出せそうにない。
「あのー……栞ちゃん、何か武器とか道具は……」
「そんなモンありません。ありゃ私が使ってます。ここは『どーん!』と男の人らしく北川さんのパワーでブッ壊しちゃってください」
「…………」
 もう一度扉を見る。
「……まあ、それじゃ一回……」
 数歩下がって、助走距離をとる。
「死ぬなよマイブラザー」
 少々不吉な住井の応援。
「…………とりゃっ!!」
 たったった、と助走をつけ、渾身のタックルを扉に……

 ぐきぃっ!!!

120Shioly Brownie(3):2003/11/06(木) 19:38
「やっぱりダメでしたか」
 北川の死体を脇に追いやり、栞は次善策を講じる。
「それじゃ次は鬼塚●吉先生直伝のこれでいきましょう」
 どこぞで見つけたガムテープをゴソゴソとストールの裏から取り出すと、
「では住井さん、がんばってください」
 はい、と丸っこいその束を住井に手渡した。
「………は?」
「ですから、奥の部屋に繋がるそっちの窓ガラスを叩き割ってください。音がするとマズイですから、そのガムテープを貼り付けてから」
 平然と説明する。
「割るってったって……」
 確かに壁の一面はドア以外にも大きな窓ガラスで奥の部屋へと繋がっている。今はカーテンで仕切られていて向こうの様子は伺えないが、叩き割れば部屋に入ることもできるだろう。
 だが……
「……これって危なくないの? ガラス片とか刺さったら……」
「(たぶん)大丈夫ですよ。(今までさんざん無茶やってきた)住井さんならやれます。(ダメならダメで私には影響ないから)頑張ってください」
 若干言葉を省いた言葉で応援する。
 可愛いめの女の子にそう言われては住井も引き下がるわけにはいかない。
 覚悟を決めるとガラスの中心部にペタペタとガムテープを貼り付け、
「……(ゴクッ)」
 生唾を飲み込み、勢いをつけた肘をテープの真ん中に……

 ガショッ!!!


「痛てっ! 痛てっ!! 痛ててててっ!! 痛ててっ!! は、挟まった挟まった! 引っかかった引っかかった! 刺さる! 刺さるぅ〜〜!!!!」

 さすがは高級旅館。ガラスもいいものを使っている。
 強化ガラスではないのは幸いであったが、ワイヤーで補強されていたガラスは砕け散るところまでいかず、中途半端に住井の腕に噛み付いた状態で耐えしのいでいた。
 服の袖が引っかかり、下手に動かせば腕を切りそうになるといった状態で住井は身動きが取れなくなる。
「これでもダメですか……秋子さんやりますね……」
 顎に手を当てしばし熟考。とりあえず何か役に立つものはないかと改めてカウンター周辺を調べてみることにした。

121Shioly Brownie(3):2003/11/06(木) 19:37
「やっぱりダメでしたか」
 北川の死体を脇に追いやり、栞は次善策を講じる。
「それじゃ次は鬼塚●吉先生直伝のこれでいきましょう」
 どこぞで見つけたガムテープをゴソゴソとストールの裏から取り出すと、
「では住井さん、がんばってください」
 はい、と丸っこいその束を住井に手渡した。
「………は?」
「ですから、奥の部屋に繋がるそっちの窓ガラスを叩き割ってください。音がするとマズイですから、そのガムテープを貼り付けてから」
 平然と説明する。
「割るってったって……」
 確かに壁の一面はドア以外にも大きな窓ガラスで奥の部屋へと繋がっている。今はカーテンで仕切られていて向こうの様子は伺えないが、叩き割れば部屋に入ることもできるだろう。
 だが……
「……これって危なくないの? ガラス片とか刺さったら……」
「(たぶん)大丈夫ですよ。(今までさんざん無茶やってきた)住井さんならやれます。(ダメならダメで私には影響ないから)頑張ってください」
 若干言葉を省いた言葉で応援する。
 可愛いめの女の子にそう言われては住井も引き下がるわけにはいかない。
 覚悟を決めるとガラスの中心部にペタペタとガムテープを貼り付け、
「……(ゴクッ)」
 生唾を飲み込み、勢いをつけた肘をテープの真ん中に……

 ガショッ!!!


「痛てっ! 痛てっ!! 痛ててててっ!! 痛ててっ!! は、挟まった挟まった! 引っかかった引っかかった! 刺さる! 刺さるぅ〜〜!!!!」

 さすがは高級旅館。ガラスもいいものを使っている。
 強化ガラスではないのは幸いであったが、ワイヤーで補強されていたガラスは砕け散るところまでいかず、中途半端に住井の腕に噛み付いた状態で耐えしのいでいた。
 服の袖が引っかかり、下手に動かせば腕を切りそうになるといった状態で住井は身動きが取れなくなる。
「これでもダメですか……秋子さんやりますね……」
 顎に手を当てしばし熟考。とりあえず何か役に立つものはないかと改めてカウンター周辺を調べてみることにした。

122Shioly Brownie(4):2003/11/06(木) 19:39
「……あ」
 ちょうどそこで目に入った。フロント横の壁に、無数の鍵の束がまとめて掛けられていることに。
「手屁っ♪ 私としたことが。ちょっとドジしちゃいましたね」


 改めて鍵を使って扉を開錠。悠々と中に進入する。
「暗いですね……」
 窓という窓全てには暗幕がかけられており、外の光が一部も入って来ず、まるで夜のような暗さだ。
「ええと、スイッチスイッチ……っと」
 手探りで入り口近くの壁を探る。ほどなくして、それらしきポッチリが指先に触れた。
「じゃ、スイッチオン……っと」

 ぱぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!

 流れるように蛍光灯に灯がともっていく。
「……フフフ……思ったとおりです」
 白色の光に照らし出され、部屋に再び人の活力が吹き込まれた。
 そこに広がる光景を見て、栞は勝利を確信する

 オフィスルームとなっているその部屋には、無数の机と、その上に据えられたデスクトップ型PCが無数に鎮座していた。

123Shioly Brownie(5):2003/11/06(木) 19:40
「Power,ON!」
 とりあえず部屋の中の電源という電源全てをコンセントに繋ぎ、一際大きいサーバマシンに電気を通した後手近な一台のPowerボタンを押す。
 ブゥゥゥン……と鈍い起動音とともに、徐々に液晶モニタに光が満ちていく。
「なかなかいいモニタですね……余裕があったら帰り際、一枚貰っていきましょうか……」

「な、なるほど……そういうことか……」
 ようやくガラス片の戒めから抜け出た住井。ぐったりとした北川を肩に担ぎ、PCルームへと入ってきた。
「ええ、そうです……今の時代、ある程度大規模な施設を運営しようとしたらネットワークを組まなきゃやってられません。
 食品を仕入れる段階まで来ているのなら、確実にLANの設定もすんでいるはずです。さらにLANを組んだのならWANに繋がぬはずはない。
 インターネット。情報の混沌インターネット。今の時代は誰かに聞くまでもなく、WWW上に無数に翻訳サービスなど存在するのですよ」
 回転椅子に座ったまま勝ち誇る栞。そうこうしている間に、モニタにログインウィンドウが現れた。
「ユーザID……それに、パスワード……?」
 それを見た住井の顔が落胆に沈む。
「くっ……けどやはりセキュリティも万全か。思いつきはよかったけど、運営の方が一枚上手……」
「……フッ、まだまだですね住井さん。いいですか? 大抵この手のシステムは……」
 カタカタ、とキーボードを打ち込んでいく。
「ユーザID……guest……Password……無し……チッ、弾かれた。なら……」
 ピポ!
 最後に栞がリターンキーを押すとウィンドウは消え、十数秒後デスクトップ画面が現れた。
「やはりですか。まだまだセキュリティが甘いですねぇ秋子さん。ま、営業前のシステムにあまり大きな期待を寄せるのも酷といえるかもしれませんが」
「パスワード……知ってたのかい栞ちゃん? それとも君あれ? ハッカーってやつ?」
「…………フッ」
 住井に背中を向けたまま、栞は当然の疑問に答える。
「こういうシステムはですねぇ、本格起動する前ならIDは無くてもOKか、あってもせいぜい『guest』というところ。
 Passも無い場合も多いですし、それでなくとも大抵今回のように会社名、『tsurugiya』とかで済んでしまうものなんですよ。
 学校とかのセキュリティが根本的に甘いところなら起動した後もこんな状態が続いてることも多いですからね。中学時代、よくPCルームに忍び込んで勝手にネットサーフィンしたものです」
「はぁ、なるほど……」
 電脳機器に疎い住井としてはただ素直に頷くことしかできない。北川もコンピュータに関しては超一流の腕前を持っていたりする場合もあるが、それは別のところの北川である。第一今は死んでるし。
「さてと、それじゃ情報の海へ……DIVE!」
 デスクトップに存在するInternet Explorerのアイコンをダブルクリック。いざWWWへと飛び込む。

http://www.tsurugiya.co.jp

124Shioly Brownie(6):2003/11/06(木) 19:41
 トップページに鶴来屋のWebサイトが現れる。しかし栞はそんなものにはまるで興味ないかのようにアドレスバーにカーソルを合わせると、慣れた手つきで常用の検索サイトのURLを打ち込んでいく。
 全てブラインドタッチだ。住井にはその手の動きは人外のレベルにしか見えない。
「栞ちゃん……君ってPCとか詳しいの?」
 手は止めず、モニタを向いたまま栞は答える。
「まぁ人並みには触っていると思いますよ。入院中は暇で暇でしょうがなかったんで病室にノート持ち込んで延々とネットサーフィンしてましたから」
「はぁ……それにしても打つの早いねぇ。どんくらいなの?」
「どのくらいと言われましても……それじゃちょっと計ってみましょうか。最近私もやってませんでしたので」
 栞はちゃちゃっと目的のサイトに移動すると、なにやらFlashで作られたゲームで計測を始めた。
「OMAEMONA-……っと」

 一分後。
「終わりました。慣れないキーボードだったのでちょっと調子が悪いですが……こんなモンでしょうね」
 モニタに出たリザルトを住井に示す。

 タイピング●ナー ver 3.20
 タイプ数:392
 ミスタイプ:4(1%)
 平均速度(keys/s):6.466

 スコア:2560
 ランキング:44位/2931人中
 あなたは「神!!++」レベルです

「……2931人中の44位って……結構すごいんじゃ……」
「そうでもありませんよ。慣れればこのくらい楽勝です。あ、住井さんも北川さんも一休みしてていいですよ。ネットでもしてたらいかがです?
 今取説の文章テキストに起こしてるとこですけど、小一時間もあれば終わるでしょうから。あ、そうだその前に。もう一回厨房に行って冷たいジュースとお菓子とアイスを持ってきてください。
 しばらく私集中しますから、話しかけないでくださいね。そのへんに置いといてくだされば結構ですから。それじゃ、お願いします」

 一方的にまくし立てると回転椅子を半回転。モニタに向かい、高速のタイプを再開した。

125Shioly Brownie(7):2003/11/06(木) 19:41
【栞 ホテルからWWWへ接続。翻訳サービスで解読に挑戦】
【北川 ぐったり】
【住井 ほとんど小間使い】
【四日目午前 ホテル コンピュータルーム】
【登場 【美坂栞】【北川潤】【住井護】】

126セパレイト:2003/11/08(土) 21:45
「……ねぇ、美凪……」
「……みちる?」
 ホテルの暗がりの中、みちるは美凪の耳元に囁く。
「……まだ寝てなかったの……?」
「んに……目が覚めた……」
 時刻は、ちょうど先ほどハクオロと美凪が見張りを交代したところだ。
 二人の背後ではソファに腰掛けたまま、トゥスクル皇が瞑想しているかのような静かな寝息を立てている。
 美凪の睡眠も十分とは言えず、頭にはうすぼんやりとした睡魔がこびり付いているが、我慢が効く程度だ。
 少なくとも、ほぼ不休で動いているハクオロに比べればはるかにマシなはずである。ここで弱音を吐くわけにはいかない。
 しかしそれにしても、みちるは今夜一晩はゆっくりと睡眠を取らせる予定だったのだが……
「……ダメですよ……寝ていなくては……。二日続けて動き回ったのです……みちるもだいぶ疲れているはず……」
「んん、それは平気」
 諭す美凪だが、みちるは首を横に振る。
 むしろ、幾分か真面目な顔に頬を引き締め、話を続けた。
「それより、美凪にちょっと話がある」
「お話……?」
「ん。みちる、ずっと思ってたんだけど……」



「ん?」
 場面は移って四日目午前。ホテルから離れ、わき道をひた走るハクオロ一行。
 みちるを小脇に抱え、美凪の手を引いてずっと走ってきたハクオロだが、その美凪が森の中途で不意に足を止めた。
「どうした美凪。まだ旅館からは十分離れきっていない。悪いが、休憩はもう少し先で……」
 しかし美凪はハクオロの言葉をさえぎり、ふるふると首を横に振る。
「ハクオロさん……」
 そして、静かに口を開くと、
「……このあたりでお別れしませんか……?」
 ……と言った。

127セパレイト(2):2003/11/08(土) 21:46
「な!?」
 仰天のハクオロ。
「ど、どういうことだ!?」
 美凪の手を引き、問い詰める。
「痛いです……」
「あ、す、スマン」
 慌てて手を離す。二人は50cmの距離を取り、お互いに向き合った。

「その……何故だ? 急に。何か……私はお前を怒らせるような真似をしてしまったか? いや確かにお前たちの疲労のことも考えず、連れまわしてしまった。だが……」
 自分が気づかぬうちに粗相をしてしまったかと思うハクオロ。先に謝罪しようとするが……
「いいえ。それは違います」
 それは美凪が彼女にしては強く否定する。
「……ハクオロさんには感謝しています……。それこそ、感謝してもしきれないぐらい……いっぱいお世話になっちゃいました。
 ハクオロさんは自分のことも省みず、ずっとずっと私たちを庇い続けてくださいました……ありがとうございます」
 いきなりペコリと深くお辞儀する美凪。ついつられてハクオロも頭を下げる。
「あ、いや、感謝されるほどのことではない。当たり前のことをしただけだ。……だが、それならなぜ……?」
「……それは……」
「……そこからはみちるが説明するよ」
「みちる?」
 いつの間にか、みちるはハクオロの腕をすり抜け、美凪に寄り添うように立っていた。

 ずいと体半分を美凪とハクオロの間に割りこませ、神妙な顔でみちるは口を開く。
「思ったんだ。……思ってたんだ。みちるたち、全然鬼ごっこしてないなぁ、って」
「……え?」
「みちるたち、最初にオロに会って、エルルゥとアルルゥを探すって言って一緒になって、そのままずっと過ごしてきた」
 続けて美凪も口を開く。
「楽しかったです……」
「エルルゥと追いかけっこしたり、駅に行ったり、トロッコに乗ったり。ずっと三人で一緒に過ごしてきた」
「借金生活も、それはそれでオツなもの……」
「オロと同じようなでっかいのとの追いかけっこも、スリルがあって面白かった」
「柳川さんたちはご無事でしょうか……」
「……なら」

128セパレイト(3):2003/11/08(土) 21:47
 語り口がいったん止まったところでハクオロが割って入ろうとする。しかし。

「でも、それだけなんだ」

「……?」
「ずっとずっと、みちるたちはオロに守られてばっかだったなぁ、って」
「『人探ししながら逃げま賞』ではなく、『守られちゃいま賞』になってしまいました……」
「今まで会ったほとんど人たちは、逃げ手の人も、鬼も、自分の力で『鬼ごっこに参加していた』」
「これ以上ハクオロさんにご迷惑はかけられません……」
「それは!」
 その言葉を聴き、ハクオロは語調を強くした。
「それは違う! 私は、迷惑など!」
「……うん、わかってる」
「わかっています。ハクオロさんは、そういう方ですから……人がいいで賞、進呈」
 はい、と紙袋をハクオロに手渡す。
「あ、ありがとう……」
 ……改めて、説明再開。
「オロはみちるたちのわがままをずっと聞いてくれた」
「……だから、これが最後のわがままだと思ってください……」
「……?」

「みちるたちは」

「私たちはは」

「……自分の力で、鬼ごっこをしたいのです」

129セパレイト(5):2003/11/08(土) 21:48
 しばしの沈黙。
「それはつまり、私に一人で行け……ということか?」
「……そうなります。ここで私たちはお別れして、ハクオロさんはご自分の優勝を目指してひた走る、私たちは自分の力で鬼ごっこに挑戦する。
 ……このまま私たちがいれば足手まとい。そのうちハクオロさんに取り返しのつかないご迷惑をおかけしてしまうことになるかもしれません」
「それに、もしみちるたちが最後の三人になれても結局優勝できるのは一人なわけだしね」
 しかしハクオロが素直に首を縦に振るわけがない。
「そんなことは、そんなことはどうでもいい。お前たちのせいで私が鬼になろうとも、それがどれほどのことか。私たちが三人一緒にいることの方がはるかに尊い。違うか?」
「違いません。違いません。違いません。私も、できればそうしたいです。けれど……」
「……それでも、やっぱり、こうした方がいいと思うんだ。みちるたちは、ハクオロに優勝してほしいと思う。みちるたちは自分の力で鬼ごっこをするべきだと思う。
 だから、みちるたちは、ここで別れた方がいいと思う……んだ」
「馬鹿な!」
 ハクオロは声を荒げる。
「私がいいと言っているのだ! 私はお前たちを守りきってみせる。最後の、最期まで! 私の優勝を望んでくれるのなら、私たちが三人になったところで、そこでもう一度考えればいい問題だ!
 第一このゲームも最早終盤戦! 島にいる人間はほとんど鬼だ! お前たちだけで……逃げ切ることなど!
 お前たちは、お前たちがそんなことを気にする必要はない。私たちが別れる必要も理由も、ただの一つもないのだ!」
「……ありがとうございます。けど、やはり……」
「……これが、みちるたちの、わがままだから。最後のわがままだから」
「今までさんざんご迷惑おかけしてこんなことを言うのは失礼なことだとわかっています。しかし……けれど……」
「みちるたちの最後のわがまま、聞いてほしい」
 それだけ言うと二人は手を取りあい、草むらの奥、道も無いような森の中に消えようとした。
 だが、納得できないハクオロはその背中に追いすがる。
「待て! 待ってくれ美凪、みちる! 私は、私はお前たちを……」
「……ごめんなさい」

130セパレイト(6):2003/11/08(土) 21:48
 ちょうど、それと同じタイミングで。
「……あの〜……お取り込み中、すいません」
 一行がやってきた方向から、突然二つの人影が現れた。
 二人の方には、たすきが。鬼を示す御印であるその鬼のたすきが掛けられている。

「しまった! 気配を探るのを……忘れていたッ! 美凪! みちる! 話は後だ! 今は……逃げるぞ!」
 ハクオロはそのまま後ろから美凪とみちるを抱きかかえ、森の中へと走り去ろうとする。
 しかし、鬼の片割れ……佐藤雅史は慌てて叫ぶ。
「ま、待ってください! 僕らは怪しいものではありません! ……鬼ではありますけど、あなたを捕まえる気はありません! ハクオロさん!」
 傍とハクオロが足を止める。
「……私の、名を……?」

 息を整えると、雅史は言葉の続きを伝える。
「突然失礼しました。僕の名前は佐藤雅史。……ハクオロさん、あなたへのお手紙を預かっています。差出人は……エルルゥさんです」
「……エルルゥだと!?」


【美凪、みちる 決別の意思をハクオロへ伝える】
【雅史、沙織 ハクオロに追いつく】
【まなみ 近くにいる】
【四日目午前 森の中】
【登場 ハクオロ・遠野美凪・みちる・【佐藤雅史】・【新城沙織】・【皆瀬まなみ】】

131Shiori unlimited:2003/11/13(木) 01:02
 さて。
 ブラウザを立ち上げ、任意のURLを選択しました。
 現在閲覧しているのはネット上の機械翻訳のなかでも一度に可能な翻訳の文字数と処理の速さに
定評のある、某翻訳SITE。

 ―――カタカタカタカタッ

 キーボードの上を、細い指が軽やかに踊って、フォームにアルファベットを刻んでいきます。
 モニターを見つめているのは愁いを帯びた可憐な美少女。
 なんてすんばらすぃしちゅえーしょん。
 なんて絵になる光景なんでしょーかっ。
 ふふふふふ……これは、首尾よく目的を達成して家に帰った後には、絵に起こさなければ
なりませんね。
 お、打ち込み終わりました。
 やっぱりこういうときのためにインターフェイスは最も普及しているものを習得しておくべき
ですねー。日本語キーボードに依存して、アルファベット配置を覚えなおさなければならない
カナ入力などナンセンスです。まして親指シフトなんて黒歴史です。OASYS共々墓地に葬りさら
なければなりません。

132Shiori unlimited:2003/11/13(木) 01:03
 ―――と。
 いけませんいけません。
 最終兵器GETを前にして、ちょっとテンションが高くなっているようです。
 とっとと終わらせて、世間様御公認人類の敵・美坂香里を始末しに行きましょう。
 『翻訳開始』ボタンをクリックします。
 そーれっ、ぽちっとな。


 ―――ブチン


「ふぇ?」
 思わず目をぱちくりさせてしまいました。
 モニターに表示されたのは、待ちに待った英文の翻訳結果ではなく、まっくろ黒画面。
 つまり、電源を入れる前の状態です。

 HOLY SHIT!!!

 こんなときにトラブルですかっ!!!!

133Shiori unlimited:2003/11/13(木) 01:03
 急いで本体の裏を確認します。
 電源ケーブル、OK。
 モニターケーブル、OK。
 外観からわかるような異常はないようです。
 焼鳥ができあがったかHDDが昇天したか、或いはウィルスとかOS仕様のバグの類でしょうか。
 …とりあえず、再び電源をいれようと試みたり…する、わたしの視界の端にソレが映りました。
 PCルームの入り口に浮かぶ人影――――抜かれたコンセントを持つHM-13の姿が。
「―――――美坂栞様。申し訳ございませんが、それは不許可です」
 ヤツはそう無表情に言い放ちやがりました。



「納得できません!」

 だんっ

 わたしはデスクに両手をたたきつけました。
 …正直、ちょっとイタイです。
「おーぼーですっ! じんけんじゅーりんですっ! そんなこと言う人大っ嫌いですっ!!」
「――――美坂様、何度も申し上げました通り、当ホテルのPC使用は『鬼ごっこ』参加者に
対して運営者により提供されるサービスの範囲外となっております」
「ホテルのPCを利用してはいけないなんてルール説明なかったじゃないですかっ!!!」
 当然の権利として、わたしは抗議してます。
 え? 不法侵入や器物損壊の方が問題じゃないのか?
 都合の悪いことは棚に置いてごり押しするくれーまーみたい?
 …違いますよ。誤解です。
 隠しマイクで録音なんてしていませんし。
 WEB上であることないこと書き散らすわけでもありません。
 第一、こんな可憐な乙女を捕まえくれーまーなどと、とんでもないことです。

134Shiori unlimited:2003/11/13(木) 01:04
「栞ちゃんの言うとおりだよ。基本的に参加者が島内の設備を利用するのは構わないわけだろ? 
ホテルだって他の参加者はフツーに利用していたんだし、PCだけダメってのはおかしいじゃないか」
 住井さんが柄も無く良識的な台詞を吐きました。
 偉いです。ないすふぉろーです。下僕B。 
 栞的好感度+1ですね。
 フラグが立つことは永久にありませんけど。
「そうおっしゃると思いまして、ここに本葉鍵鬼ごっこ運営者側から美坂栞様へのメッセージを
受け取っております」
 そういってヤツが無表情に取り出したのは、一冊の封筒。
 見ると、独特な質感を持つ西洋紙に蝋印で封をした、いまどき呆れるくらいレトロ趣味な
シロモノ。
 いい趣味ですね。レクター博士みたいでカッコいいですー。
 わたしは胸を高鳴らせながら、封筒と一緒に受け取ったペーパーナイフで開けました。
 

『法律もウェッブルールもクソ食らえだ。俺が嫌だと言っている』

135Shiori unlimited:2003/11/13(木) 01:07
 ――――ビリビリビリビリッ


 破り捨てました。ええ、破り捨てましたとも。
 なんですかこの厨房丸出しのどこかの漫画家みたいな文章は。
 カッコ悪いです。センス最悪です。
 ええ。ええ。わかってます。
 こんなことをするのは、あの人以外にいません。
 頬に手を当てて「了承」つってりゃ人気採れると思って、近頃イイ気になりすぎてませんか、
ってんです。ジャム狂いは大人しく(ry
「というわけですので、翻訳作業は自力で行うか、他の参加者の助力を得るか。…厳しいかも
しれませんが、申し訳ございません。何分『最終兵器』を冠するアイテムですので」
 
 …いいやがりましたね。
 わかりました。やりましょう。
 やってやりましょう。
 この最終兵器をなんとしてもモノにしてやろうじゃないですかっ!

136Shiori unlimited:2003/11/13(木) 01:07


 一方、管理側分室――――。
 
「ゲートウェイサーバーを落としました。これでホテル内LANから外部への接続は不可です」
 足立社長が報告書を手渡した。
 ある事件により分室は半壊してしまい機能の大半が停止しているため、HMを数体とホテルのPCを
動員しクラスタを構築していた。現状では、サーバーひとつ停止させるのも簡単ではない。
「…HMX-13のサテライトキャノン、探知機等の屋台の便利すぎるアイテム、そして今回の件。
少々、事前の手回しの不備が目立ちますね。担当者は『めっ』です」
 秋子は報告書を受け取り、モニターを見上げた。 
 モニターにはPC室で喧喧囂囂の彼らの模様が映し出されている。
「ところで、あの最終兵器のことなのですが…」
 彼女の手が弄んでいる瓶をそらおそろしそうに見つめながら、足立社長が問い掛けた。
「あぁ、アレですか」
 くすり、と秋子は含み笑いをした。
「もともとは不測の事態に備えて講じておいた緊急措置の一部なんですよ。アレ」
「……はぁ?」
「適切な手続に従って使用すると、来栖川のサテライトサービスを介し島全域に配置している
HMに対し強制的にコマンドを割り込ませることができます。固有の周波数と独自のアルゴリズム

(中略)

上位コマンドと認識され、最優先で実行される。――――これを使用することで、例えば、島中のHM-13に対して、まだ鬼になっていない方たちの身柄を確保・連行を命じることも可能となります」
「それ、本当ですか…?」
 それでは、事実上最終兵器を使用できる人物のワンサイドゲームになるではないか。
 この鬼ごっこのルール下においては、ほとんど反則技だ。
 表情を引きつらせる足立社長を見て、秋子は頬に片手を置いてたおやかに微笑んだ。
「―――冗談です」



【栞、北川、住井 ホテル】
【HM−13 栞に注意】
【水瀬秋子 足立社長 管理分室】
【柏木千鶴 ???】
【最終兵器、未だ不明。英文解読進まず】
【四日目朝】

137BATMAN:2003/11/19(水) 19:11
 青々と茂った草花の頭を微風が撫で、通りすぎていく。
 澄み渡った空の中央には太陽が煌々と輝き、命あるものに恵みを与える。
 ここは島の高台、なだらかな丘陵地帯。緑色の絨毯のその真ん中で、彼、ハウエンクアは一人大地に寝そべっていた。

「ぼっくらはみんなー 生きているー……」
 その口元から、鼻歌のメロディが漏れ聞こえてくる。
「生きーているから 歌うんだー……」
 誰に聞かせるでもなく、風のタクトに合わせ、静かに歌う。
「ぼっくらはみんなー 生きているー……」
 思えば、この島に来て以来こんなに落ちついた気分になったのは初めてかもしれなかった。
「生きーているから 悲しーんだー……」
 ヒエンの目を盗み、参加を決意したはいいが始まっていきなり路頭に迷い、
「てーのひらを太陽に 透かしてみーれーばー」
 まなみに騙され鬼にされ、しかも穴底に引きずり込まれ、
「まーっかーにながーれるー 僕のちーしーおー」
 なんとか助かり、ホテルに着いてからは国崎たちの捕り物劇に巻きこまれ、
「まーっかーな秋にー 囲まれてーいるー」
 ゴタゴタの後、まるで某アルティメットなSS群における北川のような扱いの果てに叩き出されてしまった……

「……ちょっと違ったかな……?」
 歌を止めると、いったんよいしょと起き上がり、頭の後ろの手を組みなおしてもう一度寝転ぶ。

「……でもディーに会えたしな……」
 数少ない友人の一人に会え、その幸せそうな姿を確認することができた。確かに、これだけは喜ばしいことかもしれない。
 だが……
「……僕の居場所がなくなっちゃった……」
 それは、初恋が破れた瞬間でもあった。

138BATMAN/2:2003/11/19(水) 19:12
『朝はウルトにかしづいて、さっきは俺達の邪魔をしてみて、
 それが終わったら今度は、俺、か。この蝙蝠野郎が』

「蝙蝠野郎か……」
 何とはなしに、昨日、国崎に吐き捨てられた言葉を思い出す。
「……そうだよね……」
 無理もあるまい。自分でも言うのもなんだが、錯乱した己は何をしでかすかわからない。
 傍から見れば全く持ってその通り。昨日までの自分の行動は、ただの卑怯な蝙蝠野郎にしか見えないことだろう。
「……けどね……」
 確かに、童話にあるように蝙蝠という動物には卑怯なイメージが付きまとう。少なくとも、その名を聞いてプラスの印象を持つ者は少ないだろう。
「……けど、きっと蝙蝠は……」
 物語の中の蝙蝠。鳥と、獣との戦いの最中、両者の間を行き来した卑怯な動物……
「……きっと、寂しかったんじゃないかな……」
 ツッ……と閉じた瞳から、一筋の涙が流れた。

 シャクコポル族として、穴人として、蔑みの、嘲りの、罵りの対象として生きてきた自分に照らし合わせてみる。
「きっと蝙蝠は……ずっと鳥と獣の……どっちからも仲間外れにされて生きてきたんだ……
 戦争になって……戦いの中ならどっちからか認めてもらえるかと思って……でもやっぱり仲間とは見てもらえなくて……
 そして……そして戦争が終わって……結局どちらからも卑怯者と罵られて……」

 ……物語はそこで終わる。蝙蝠に一片の救いも残すことなく。

「きっと……蝙蝠が望んだのは……勝利や保身なんかじゃなく……彼が、彼が本当に欲しかったのは……」

139BATMAN/3:2003/11/19(水) 19:12
「ちょっと失礼」
 と思考がクライマックスに近づいたところで、突如ハウエンクアの眼前に人の顔が現れた。
「お兄さん、瞑想中悪いんだけど、手伝ってもらいたいことが……」
「わひゃぁあ〜!! おっ、おばけぇぇぇぇぇ〜〜〜!!」
 基本的に彼はビビリである。突然現れた人影に滑稽なほどの叫びを上げ、正しく脱兎のごとく逃げ出した。もうこれで逃げるのは何度目だろう。
「待っちなさい」
 が、人影はがっしとハウの奥襟を掴むと難なく引き寄せる。
「おわっ、たっ、たっ、たっ、お助けぇぇぇぇぇ! ぼぼぼぼぼ僕食べても美味しくありません! シャクコポル族で半分ウサギですし!」
「……兎鍋って結構好きなんだけどね」
「あひゃわはほぅ!? いいいいいいやいや違います違います違います! 半分ウサギと言ってもウサギそのものとはだいぶ違いまして!
 だいぶ大味になって余計な栄養素とかもたくさんありまして! 美味しくない上に身体に悪いというほとんどメリケンのチョコレートみたいな代物でして!
 ぼぼぼぼぼ僕を食べるくらいでしたらもっとええとこうエヴェンクルガとかオンカミヤリューなら程よく肉が締まって美味かと! 手羽先に似た味だって噂ですし!
 そ、そ、そ、そりゃもうどこぞのオールバックの美食家親父も唸る出来かと! ぼ、僕なんか出してもその放蕩息子にメタクソに言われちゃうってモンで……」

「シャラップ!」

「ひいっ!!?」
 人影の一喝。瞬間ハウは黙りこくる。
「落ちつきなさいこの獣耳属性! あたしは零号屋台の管理人。ショップ屋ねーちゃんとでも呼びなさい! おばちゃんとか言ったら殺スわよ!
 今あたしはちょっと困ってる! あなたはそこで暇そうにしていた! んであたしはあなたに手伝ってもらおうと声をかけた! オーケー!?
 だからあたしの頼みを聞きなさい! わかった!? ドゥー・ユー・アンダスタン!?」
「い、いや僕今色々忙しくて……」
「忙しい? 何してたっての。言ってみなさい。事情によっては解放してあげる」
「そ、その……ゴロゴロしたり、ウトウトしたり……」
「クイズ百人に聞きました! 問題!『ゴロゴロしたり、ウトウトしたりは忙しいと言えるのか?』 No:99人 はい却下! 着いて来なさい!」
 問答無用という言葉が相応しく、ねーちゃんはそのままハウを引きずって森の中へと戻っていった。
「お助けぇぇぇぇ〜……」

140BATMAN/4:2003/11/19(水) 19:13
「……で、僕に頼みっていったい何なんだい?」
 状況適応能力だけは高いハウエンクア。しばらくすると落ち着きを取り戻し、事情もあらかた把握すると一人でしゃんと歩き、ねーちゃんの後ろを着いて行っていた。
「ん〜……屋台がね〜、ちょっと轍にはまっちゃって。あたし一人の力じゃどうしようもないから、押すの誰かに手伝ってもらおっかなって」
「君、屋台を引いてるんだろう? 売ってる道具の中に何か使えるものはないのかい?」
「ん、まーね。本来『シュイン』ていう魔法があって、屋台の移動はそれを使うはずだから問題ないんだけど……」
「……ないんだけど?」
「ちょーっとあたしの屋台だけは大荷物抱えててねぇ。魔法を使った移動ができないから困りものなのよ」
「大荷物?」
「そ。参加者の持ち物だったんだけど、放っておいたらゲームバランスを著しく崩しかねない代物だったからね。今はあたしが引き取ってるの。
 ……とはいえ、あたしじゃ扱い方がわからないから荷物にしかなんないんだけどね」
「そりゃまたずいぶん面倒な代物を抱え込んだんだねぇ」
「ま、それでも一応あたしも運営側の一人だからね……っと、ああ、見えた。あれよあれ。あれがあたしの零号屋台に、どこぞのお嬢ちゃんが持ち込んだ……」
 森の中、ねーちゃんが指をさす。
 その先で木々の間から顔を覗かせるのは、昨日の雨の影響か、ぬかるんだ地面にしっかりと車輪を食いこませた零号屋台。
 そして……
「……確か、名前は……ア、ア、アヴなんとか……」
「あれは……!」
 思い出そうとするねーちゃん。だが、ハウに説明は必要なかった。なぜなら、それはハウにとってはあまりに見慣れたものだったから。
 林間に聳えるは、白亜の巨人。クンネカムンが最終兵器。
「アヴ・カムゥ! 聖上の機体だ!」
「そうそう。それよそれ」


【ハウ 零号屋台。クーヤのアヴを発見】
【零号屋台 現在身動きとれず】
【四日目午前 高台の森】
【登場 ハウエンクア・ショップ屋ねーちゃん】

141チェインギャング:2003/11/21(金) 21:39
 あれからどこをどう歩いたのかはよく覚えていない。
 脚の続く限り森の中を走り続け、ようやく頭が体の疲労を聞き取ったころ、家々の建ち並ぶ区画へと出た。

「……………」

 やはり何を考えていたのかは覚えていない。いや、たぶん何も考えていなかったんだと思う。
 僕の足は勝手に、目の前の一際大きな建物に向かっていた。

 エレベーターはあったんだと思う。ていうか普通あるよね。あれだけ大きい建物なら。
 だけど僕は階段を一歩一歩上っていた。体は疲れてもう一歩も動きたくないはずだったけど、なぜか、僕はわざわざ階段を使っていた。

 階段を一番上に上にと上ることしばし。やがて上りの段差が消えるころ、踊り場が現れ、奥に鉄扉が見えた。
 試しに近づきノブをひねってみる。……ガチャリと重い手ごたえと共に、回転した。どうやら鍵は掛かっていないようだ。
 そのまま体全体で押すようにして扉を開き、僕は、屋上へと進み出た。

 青い。
 澄み渡りどこまでも広がる空が青かった。とてつもなく青かった。
 目が痛くなるくらいに。
 建物へと吹き込む風が頬を撫でる。扉を閉めると止まる。
 どうやらこのマンションは近隣一帯で一番高いようだ。見上げれば、半円形の青空が僕を包み込んでいる。

 ガシャン。

 屋上の周りにグルリと張り巡らされているフェンスに指を掛ける。
 住宅街とはいえ、少し離れれば延々と森が広がっているだけだ。見下ろす風景は軒並み深緑だった。

142チェインギャング/2:2003/11/21(金) 21:40
 はぁ、とため息をつく。
 どうしてこうなってしまったんだろう、と思い返す。
 僕も何か変われるだろうかと思い、仕事をヒエンに押し付けてまで参加したこの企画。
 おそらく今頃彼は聖上・大老に続いて僕まで消えたことで忙殺寸前であろう。まぁいいんだけど。
 結局何一つ変わりはしなかった。あっちにいる時とまるで変わりない。相も変わらず僕は侮蔑と嘲笑と罵りの対象でしかなかった。
 くそっ。何が蝙蝠野郎だ。国崎往人め。お前に蝙蝠の気持ちがわかるとでもいうのか。
 排斥された人間の気持ちがわかるとでもいうのか。

 ガシャン、ガシャンとフェンスを揺らす。

「……空か」

 ああ、あるいは。
 僕にも翼があれば。
 ディーのような、オンカミヤムカイのあの姫巫女のような翼があれば。
 あるいは……僕も……もっと……

 かぷっ。

 不意に脚に軽い衝撃が走った。
 足元を覗き込んでみる。
「………………」
「………ぴこ〜」
 綿あめが僕の脚にひっついていた。

「………………」
 落ち着け、僕。
 世の中は広い。ひょっとすると、こういう綿あめみたいな種族もいるのかもしれない。
 落ち着いて対応すれば、きっとコミュニケーションだって成立するさ。

143チェインギャング/3:2003/11/21(金) 21:40
「……誰だい、キミ?」
「ぴこっ」
「ぴこ君か。よろしく。僕の名前はハウエンクア」
 よし、とりあえず第一段階成功。自己紹介は人間関係の基本だからね。
「ところでぴこ君。悪いが、僕の脚から口を放してもらえないかな。いや、痛くはないんだが、ちょっとね」
「ぴこぴこっ!」
 どうやらぴこ君は首を振っているようだが、どうみてもその光景は気味の悪い塊が微妙な振動をしているようにしか見えない。
「なぜだい。僕の脚はそんなに美味しいのかい?」
「ぴこぴこぴこっ!!」
 ……弱った。コミュニケーションはできても言葉が通じなければ如何ともしがたい。
「……う〜む、言語の壁というのは予想以上に厚いものだね。こうまで意思疎通に弊害が出てしまうとは」

「ええと、たぶんこっちにいると思うんですが……」
 牧村南は、醍醐を見送った後、いつの間にやら消えていたポテトを探して屋上まで来ていた。
「あ、いたいた」
 予想的中。そこには探し犬であるポテト、別名ぴこぴこの姿が。
「あら……?」
 しかし、それとセットで……

「え〜と、僕の名前はハウエンクア。君の名前はぴこ。ここまではオーケイ?」
「ぴこっ」
「僕は今ここで人生について考えているところなんだ。そこんとこオーケイ?」
「ぴこっ」
「オーライ。上出来だ。というわけでぴこ君、僕の脚から口を放してもらえないかな? 君がそのへんで遊んでる分には僕もぜんぜんかまわないからさ」
「ぴこぴこっ」
「だからなぜそこで首を振るんだい。う〜ん、困ったなぁ……」
「ぴこぉ〜……」
「……君も困ってるのかい。僕も困ってるんだよ。Wお困り君だねぇ。あっはっは」
「ぴっこっこ」
「だからそろそろ開放してもらえないかな?」
「ぴこぴこっ」
 綿あめと会話を繰り広げる、ウサギな青年がそこにいた。

144チェインギャング/4:2003/11/21(金) 21:42
「……え〜と……」
 珍妙な光景に少々面食らいながらも、意を決して南はその後姿に声をかける。
「あの〜……すいませ〜ん……」
「ん?」
 さすがにこの距離ならハウも気づく。南の声に従い、ゆっくりと振り返る。
「あの……すみません。どうやら私どもの犬がご迷惑を……」
「…………」
 目が合う二人。とりあえず、と詫びを入れる南だが、他方のハウエンクアは振り向いた姿勢のまま、膠着していた。
「……あの?」
 いぶがる南。しかし、そんな南を無視してハウエンクアは口を開く。


「……マーマ?」


【ハウエンクア 南 接触】
【ポテト ハウの脚】
【四日目午前 マンション屋上】
【登場 ハウエンクア・牧村南・ポテト】

145奥義・フリオニール式戦闘術:2003/12/04(木) 12:59
 崖の間に漆黒の旋風が吹き乱れる。

 オンカミヤリューが始祖、ムツミ。
 地上最強の鬼、柏木耕一。

 常人では視認することすらできぬ動き。
 秒間数回の交錯。
 極限の戦いは互いに熾烈を極める一進一退の攻防へと至っていた。

(クッ!? さっきまでとは段違いの動きだ!)
 崖面を蹴りつつ、耕一は内心吐き捨てる。
(今は場所の有利さでこっちがアドバンテージを取ってるが……一度空に逃したらもう捕まえられない! ここで仕留める!)
 巧みにコースを選択、ムツミの頭上を潰すようにはね回る。
(短期決戦だ! 場所を変えられたら俺が不利!)

 一方のムツミも余裕綽々と言える状況ではなかった。
(……速い)
 予想以上の敵の実力に、普段は憮然とした態度を崩さない彼女も、多少なりとも憔悴していた。表情は変わってないけど。
(場所が悪いね。空に出れば逃げられるけど、下手に背中を見せたらその瞬間がかわせない)
 側面から耕一が飛んでくる。無理矢理身をひねり、翼すれすれの位置でいなす。
 が、さらに一瞬後反対側から飛んでくる。この繰り返しだった。
(空間転移……だめ。術が成功すれば確かに大丈夫だけど、法力を集中させてる間が無防備になる。だからだめ)
 崖の中腹でホバリングしつつ、360°全方位から襲い来る耕一をかわし続ける。この閉鎖的な空間では、天翔ける翼も十分な仕事を果たすことができなかった。
(なら……)

146奥義・フリオニール式戦闘術/2:2003/12/04(木) 13:00
 んでこちらは川の中の黒きよ小隊。二人からは少し離れた場所。
「……何なのよあの二人」
 さすがの黒きよもこの人外の戦いには参加できず、ただ成り行きを見守るしかなかった。
「まぁ、なにせムツミさんはウィツァルネミテア様の娘ですし」
「対抗するには少なくとも兄者様ぐらいの実力がないと」
「ちょっと僕らじゃ」
「辛いですねー」
 顔を合わせてあきらめの言葉を漏らす二人。
「何かないの? あなたたち、國では一応弓兵部隊率いてるんでしょう?」
「うーん、そういわれましても」
「モノホンの矢を使うわけにいきませんし」
「……別に倒す必要はないのよ。要するに触ることができれば、一瞬でも動きが止められればいいのよ」
 と言いながら前方を指さす。そこでは『目にもとまらぬ』という表現ピッタリに二人が壮絶な戦いを繰り広げていた。
「まぁ……必殺技でも使えれば別でしょうけど……」
「必殺技?」
「はい。僕らは技のレベルを上げると連撃の最後に強力な必殺技が使えるようになるんです」
「たぶん、それなら焼かれることなく多少はムツミさんやあっちのおっきい人にも効果はあると思いますが……」
「なんだ、いい方法があるじゃない。ならさっさとやりなさいよ、その必殺技とやら」
「いやー、しかしですねー……」
「何よ。まさか『MPがたりない!』とか言うんじゃないでしょうね」
「いえ、僕らにMPの概念はありませんから。実際カミュ様やウルトリィ様も術法使い放題ですし」
「それに僕らの必殺技は物理攻撃扱いですから」
「じゃあ、さっさと……」
「あ、いえ、その代わり『技ゲージ』がたまらないとダメなんです」
「けど、今僕らはほぼゼロ。当分使えそうにありません」
「……それ、どうやったらたまるの?」
「攻撃したり……」
「攻撃されたりすれば……」
「ふ〜ん……」

147奥義・フリオニール式戦闘術/3:2003/12/04(木) 13:01
「じゃ……これはどうかな」
 耕一の突進をかわしたムツミ。切り返しが来る前に翼の力を収束、そのまま地、すなわち川の中へと降り立った。
「!? 下に!?」
 一瞬訝しがる耕一。少なくとも、地上ならば自分が有利だ。相手もそれはわかっているはず。
 だがそれでもあえて自分の不利なフィールドに降りるということは……
「なにか……来るな!?」
 叫びながらも大きく跳躍。太陽を背に、真上からムツミに迫った。
「……ハッ!」
 瞬間、裂帛の気合いとともにムツミの瞳の色が変わる。川底に手のひらを叩きつけ、
「土神招来! 土の……術法!」
 呪文を叫ぶ。同時に川底の岩盤が大きく剥がれ、数個の巨大な岩と化し耕一へと迫った。
「ヒュゥ! 魔法! やっぱ君もアッチ側……いや、コッチ側の人間か!」
 耕一の巨体が轟音を伴い岩盤の中へと消える。それを確認するとムツミは即座に側転。
 後ろから岩とともに耕一が川へ落ちた音を確認すると、飛び立たんと翼を広げるが……
「けど甘い! この程度じゃ俺は止めれないな!」
「ッ!?」
 後ろから聞こえてきた軽口。振り向いたムツミが見たものは……
「忍法土の術法返し! ……ちょっと違うかな?」
 魔法で作り出した岩の塊を、生身の馬鹿力で投げ返してきた耕一の姿だった。
「……冗談みたいな人だね」
「よく言われるよ!」

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、ちょ! 黒きよさん!!」
 そのちょっと下流。黒きよ小隊。一行はムツミの追撃は一休み。揃って河原へと上がっていた。
「な、なんなんですか、これは〜!」
 黒きよの足下でドリィが悲痛な声を上げる。そりゃそうだ。今の彼は上着を剥がされた上四肢を巨大な流木と結びつけられ、身動きとれない状況になっていた。
「黒きよさ〜ん、できました〜!」
「ご苦労、グラァ」
 とその時、さらに下流の方向からグラァが現れた。その手には一本の鞭が握られている。
「蔓を縒って作りました。急場しのぎですが、実用性に問題はないはずです」
「な、ぐ、グラァ!」
 ドリィの悲鳴は無視し、

148奥義・フリオニール式戦闘術/4:2003/12/04(木) 13:01
「どれどれ……」
 ヒュッ! ヒュッ! ヒュッ!
 数回鞭を振るう黒きよ。空気を切り裂く音が鋭く聞こえてきた。
「……ぐっじょぶ。褒めて使わす、グラァ」
「はいっ! ありがとうございます!」
「ちょ、ちょ、黒きよさん! な、なにするつもりですか!」
 半分恐怖に引きつったドリィの問い。黒きよはニヤリと唇を歪め、答えた。
「……技ゲージをためるのよ。『攻撃されれば』たまるんでしょう……?」
「…………!」
 ドリィの顔面が蒼白になる。ここに来て、やっと黒きよの考えがわかった。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください! な、なんで僕なんですか! ぐ、グラァでもいいじゃないですか!」
 当然のようなドリィの抗議。
「ドリィの方が攻撃力高いから。僕が推薦したんだよ」
 グラァはしれっと答えた。
「……ドリィ! お前、僕を売ったな!?」
「売った……?」
 グラァは不機嫌そうに眉をひそめると、ドリィの耳元に唇を近づけ、囁いた。
(ドリィ……お前、僕が知らないとでも思ってたのか?)
(え……?)
(先週のおやつ、お前、僕の分も食べただろう?)
(な……ッ!?)
(焼きチマク……楽しみにしてたのに……最後の一個、大切に、た・い・せ・つ・に取っておいたのに……お前は……!)
(ちょ、ちょっと待てグラァ! そ、それは違う! は、話せばわかる……!)
(問答無用。これは天罰……食べ物の恨みは深いのだ! 黒きよ様の聖なる鞭を受けるがいい!)
「黒きよ様! ドリィも納得したようです! この身、肉の一片まで黒きよ様のために捧げると!」
「なー! ぐらぁー!」
「偉いわドリィよく言った! あなたのその想い……無駄にはしない! 私も断腸の思いで……とりゃーーーーっ!」
 バチィン! としなる鞭がドリィの背中を打ち据える。

149奥義・フリオニール式戦闘術/5:2003/12/04(木) 13:02
「ああっ、痛いです!」
「我慢なさいドリィ! 私も辛いのよ! 仲間であり、従者である(いつの間に)あなたを撲つだなんて! 私も辛いのよ!
 けど、これもすべては勝利のため……我慢してちょうだい!」
 バチィン! バチィン! バチィン!
「あつっ! あわっ! くあっ……! く、黒きよさん! なんか、楽しんでませんか!? 喜んでやってませんか!? ひょっとして!?」
「そんなことないわ!」
 バチィン! バチィン! バチィン!
「私も本当はこんな手段を取りたくない! けど事は急ぐのよ! ドリィ、我慢して!」
「その割には顔が妙にうれしそうなんですけどー!」

 数分後。

「うう〜ん……」
「どう、グラァ!?」
「ダメです! マゾレベルと下僕レベルは順調に上がってますが、技ゲージはまだまだです!」
「よしよし! いやよくない! まだまだいくわよぉぉぉぉぉーーーーーー!!!」
「……やっぱ楽しんでんじゃないですかーーーー!!!!」

 ガッ!
 両手に具現化させた闇の剣をクロスさせ、迫る巨岩を受け止める。
「くっ……!」
 その動きが止まった瞬間を耕一が見逃すはずがない。巨大な水柱を伴い、一足でムツミへと飛ぶ。
「もらった!」
 岩の真後ろから、直線に拳を振り下ろす。……岩を砕き、そのままムツミも捕まえるつもりだ。耕一の腕力ならば造作もないだろう。
(……回避。いや、間に合わない! なら!)
 ムツミも一瞬で判断を下す。瞬間二本の剣を解放。そのまま×の字に岩を斬りつけた。

150奥義・フリオニール式戦闘術/6:2003/12/04(木) 13:04
「……やるねぇ、お嬢ちゃん……!」
「あなた……こそ……!」
 両側からの攻撃でド派手に飛び散った岩。その後に残ったのは、ムツミの眼前に迫った耕一の拳と、クロスさせた剣でそれを受け止めたムツミの姿だった。
「けど……ここは俺が……!」
 当然のごとく、空いた左手を繰り出す耕一。が、ムツミは一瞬で右腕の剣を真横に反らし、これも受け止めた。
 耕一の右手を止めている左腕の不可がさらに強まり、ムツミの表情が歪む。
「くっ……!」
「ふ、ふ、ふ……!」
 対照的に、耕一は不敵な笑みを漏らした。
「さて……力比べの体勢に……なった、わけだが……!」
「あなたは……なにもの……?」
「ふ……ふ……知りたい……かい……?」
「そうだね……ちょっと……気になる……かも……」
「そうかい……じゃあ、そうだね……」
 ぱ、と耕一の足下の水が跳ねた。巨木のような脚が、呻りをあげてムツミの身体に迫る。
「俺に捕まってくれたら教えてあげるよ! 手取り足取り身体にね!」
「じゃあ別にいいよ! お父様に訊くから!」
 ムツミもその場にバク転。とんぼを切って前蹴りを避ける。
「させるか!」
 一歩、歩を進め耕一は手を伸ばす。この体勢なら、間違いなく……
「……甘い」
 パチン――空中で逆さになった状態で、指をはじく。
 ぱっ!
「なっ!?」
 刹那、耕一の目に火花が散った。比喩表現ではなく、事実として、目の前に小さな炎が。
「火ィ!?」
「そう。じゃ、さよなら!」
 生物の本能。一瞬だけ動きが止まった耕一の身体。
 ムツミは踵を返すと、その股の間をスルリと通り抜けていった。そのまま下流へ向かい、まっすぐ飛ぶ。
「トンネル!? くっ、そうはいくか!」
 耕一も慌てて跳ぶと、それを追う。
 ――決着は近い。狩猟者の本能がそう告げていた。

151奥義・フリオニール式戦闘術/7:2003/12/04(木) 13:05
「……どう?」
「オッケーです! MAXいきましたぁ!」
「よし」
 そしてこちらは川辺のSM場。ようやっとドリィの技ゲージもたまったようだった。
「え……終わり、ですか?」
 何かに目覚めてしまったのか、背中を赤く腫らしたドリィが潤んだ瞳で黒きよを見つめる。
「そうよ。終わり。さ、早く服を着て。準備するのよ」
 と言いつつドリィの戒めを手際よく解いていく。
「よし、それじゃ早速出発しましょう。お二方は上流の方に行きました。いい勝負してましたから、まだ近くにいるはずです。
 ドリィの必殺技で隙をこじ開けて、一発逆転を狙い……って、え?」
 先頭に立って発とうとするグラァ。が、彼は気づいてしまった。黒きよが、手の中で鞭を遊びつつ、怪しげな目線で自分を見ていることに。
「……あの、黒きよ……さん?」
「グラァ」
 そして、黒きよは言い切る。
「脱ぎなさい」
「……え?」
「あなたも脱ぐのよ」
「あ、あの……」
「あ・な・た・も・ぬ・ぐ・の・よ」
「何をおっしゃって……」
 信じられぬ、といった様子のグラァ。
「あの、その、あのですね。先ほども言ったように、攻撃力はドリィの方が……」
「ドリィ!」
「はい! 黒きよ様!」
 バッ、と突然グラァの背後に現れたドリィ。そのまま彼を羽交い締めにすると、先ほどの自分と同じように木々に縛り付ける。
「準備完了しました! 黒きよ様!」
「ご苦労。今度さっきの続きやってあげるわ」
「ありがたき幸せ」
 ヒュッ、ヒュと鞭で空気を切り裂きながら、グラァの背後に立つ。

152奥義・フリオニール式戦闘術/8:2003/12/04(木) 13:06
「あ、あのですね黒きよさん、ですから、さっきから言ってるように、必殺技担当は僕よりドリィの方が……」
「黙りなさい」
 往生際が悪いグラァ。
「私だって、本当はこんなことしたくない。したくないのよ。けど……」
 心底楽しげなほほえみをたたえたまま、黒きよは答える。


「……1より2の方が確実でしょう?」


【黒きよ女王 断腸の思いで二人を調教。ああ、戦いって悲しい】
【ドリィ 目覚める。技ゲージMAX。連撃の準備完了】
【グラァ 人を呪わば穴二つ】
【耕一VSムツミ 絶好調。現在は下流(黒きよ小隊)の方へ】
【瑞穂 そのへん】
【四日目昼下がり 谷】
【登場 ムツミ(カミュ)・【柏木耕一】・【藍原瑞穂】・【杜若きよみ(黒)】・【ドリィ】・【グラァ】】

153恋慕の袋小路・改定版/1:2003/12/05(金) 03:03
 柏木千鶴は、森の中を走り回り、或いは枝を飛び移っていた。
その髪は汚れ痛み、服も汚れところどころ破れ、身体には無数の傷が付いては消えていく。
しかしそんなことは意に解さない様子で、正に一心不乱に走り回っていた。
ある人物を探し回って。
管理者室にいた彼女が何故、ここでこんなことをしているか、理由はおよそ1日前にまでさかのぼる。

154恋慕の袋小路・改定版/2:2003/12/05(金) 03:07
 管理者・水瀬秋子が食事などのために席を外すというので、社長業務をしていた手を止め、管理者の仕事を始めた千鶴。
有事の際にこそ出てきていたが、実は通常の管理者としての仕事はあまりこなしていなかった。
管理者の仕事を続けていて疲れの見える足立にはサポートに専念してもらい、その仕事を順調に覚えていった頃、事件は起きた。
自分が惜しくも逃がした相手、リサ・ヴィクセンと、自分の想い人、柏木耕一が逃げ手と鬼として対峙したのだ。
当然、耕一の華麗な活躍を期待していた千鶴だったが、事実は違った。
柏木耕一は浮気したのだ。(別に千鶴に対して耕一が操を立てているわけでもないので、妄想ともいえるが)
キレたとしか表現しようのない千鶴は管理人室内で暴走した。
来栖川エレクトロニクス自慢の暴徒鎮圧用HMでも止められなかった彼女を止めたのは、状況を聞いた秋子のたった2度の発言であった。

「大丈夫よ、千鶴さん。浮気は男の甲斐性って言うでしょう。それとも、耕一さんは甲斐性無しなのかしら?」
「ま、まさか!耕一さんほど素敵な男性がそんなはずは…!」
「なら、何の心配も無いでしょう?耕一さんは、他の女の人とあなたを比べて、あなたには誰もかなわないことを確認しているのよ」
「まぁ、耕一さんが、そこまで私のことを…」

 暴走もすっかりおさまり、少女のように顔を赤らめる千鶴。
普段なら絶対に納得しないであろう理屈に、暴走していて短絡的になっていた彼女は秋子の語調もあってか見事に簡単にやり込められた。
その後は秋子が管理業務に戻ったが、耕一のことを思うと社長業務が手に付かず、頭を冷やすため、と言って千鶴は外に出た。

155恋慕の袋小路・改定版/3:2003/12/05(金) 03:08
 外に出た千鶴は、鬼の証、白いタスキをかけていた。
社長業務と管理者としての仕事で忘れていたが、自分も鬼として参加していることを思い出したのだ。
といっても、勿論、逃げ手を捕まえる気は無い。
目的はあくまでも散歩なのだから。

「晴れた空の下がよかったけど……雨の中の森の散歩もいいものね……」

 言葉の通り、雨の中の森の散歩で心が晴れてきた千鶴。
これなら社長業務もはかどりそうだと思った頃、偶然か運命か血の導きか、彼女は出会った。

「あ、千鶴お姉ちゃん!」
「あら、初音。なんだか久し振りね」

天使の微笑みとさえ形容される笑顔を浮かべる、自分の妹、柏木初音と。

156恋慕の袋小路・改定版/4:2003/12/05(金) 03:09
「そのタスキ…初音は捕まっちゃったのね」
「え、お姉ちゃん、知らなかったの?主催者さんだからてっきり…」
「管理のお仕事は任せてたから、私が捕まえた相手以外では、殆ど誰が捕まってるか知らないの」

 一部の鬼は有事の際に関わったので知っているが、それは初音に言っても詮無いこと。千鶴は笑顔のまま話を続ける。

「初音は何をしていたの?…もしかして、誰かを追いかけている最中だったのかしら?…もしそうなら」
「あ、違うよ、お姉ちゃん。私は、ちょっとお散歩してただけだから。お姉ちゃんこそ、もしかしてお仕事中だったんじゃないの?」
「私もお散歩の最中だったから、全然構わないわよ」

 姉妹揃って笑う。その光景は誰が見てものどかなものであった。

「でも、初音も捕まっちゃったのね…耕一さんもいつのまにか捕まってしまったようだし」
「え、耕一お兄ちゃんが!?」
「あ、えっと…言っちゃいけなかったのかもしれないわね。てへっ」

 そういって少し舌を出して反省の意を示す千鶴。
失言ではあるが、純粋でよく出来たこの妹なら、悪用する事もないだろうと思い、自然に話題を変えた。

「梓や楓はどうしてるのかしらね……」
「楓お姉ちゃん……」

 楓の名前を聞いた初音の顔が明らかに暗くなる。
千鶴は何事があったかを尋ねた。

「実はね……」

157恋慕の袋小路・改定版/5:2003/12/05(金) 03:10
 初音は、楓と出会ってから、逃げられるまでの経緯を話した。当然、「賭け」のことも。

「楓が優勝したら、耕一さんが、永久に楓のもの……?」

 耕一は、他の女を品定めして、結果、自分のところに返ってきて結ばれる筈。
耕一本人の意思など全く関係しない理屈だが、柏木千鶴はそう思い込んでいた。
だから、楓の提案した賭けなど、意味はなさないはず…そう考えて、思いだす。
『……なるほど、優勝者の願いを一つだけ他の参加者と企画側でかなえてあげる、ですか。
 面白いかもしれませんね』
(正式に発表していないとはいえ)そう言ったのは自分ではないか!
いくら耕一が自分のために尽くしてくれていても、楓がそんなことを言っていては、耕一とは結ばれない。
少しの焦燥感、大いなる怒り、そして、楓に対する殺意にさえ似た敵意を覚える。

「初音」

 そんな千鶴を見て、怯えていた初音。突然呼ばれて返事がまともにできない。

「ふぁ、は、はい!」
「ここで私と会ったことは忘れていいわ。いえ、寧ろ楓に悟られないために忘れなさい」
「う、うん。忘れる、忘れるよ。私、散歩にだって出てないよ、うん」

 正に鬼気迫る千鶴への恐怖の余り、錯乱状態に近い初音。
千鶴は、そんな初音に、笑みを浮かべる。

「じゃあ、お互い頑張りましょう、初音」

そういって、千鶴は風になった。
その後、駅舎に戻った初音は、本当に散歩に出たことさえ忘れていたという。

158恋慕の袋小路・改定版/6:2003/12/05(金) 03:11
 そんなこんなで、初音とあってから、約24時間。
千鶴は楓を捕まえるために奔走していた。
管理者特権を使って、楓の位置を探る、などの小細工(そもそも反則だが)は思いつかなかったらしく、楓には出会えていない。
感情に任せて走り続けた足がもつれて、千鶴は転んだ。
すっかり乾いた地面に顔から突っ伏す形になり、鼻の痛みと共に少しだけ冷静さを取り戻した。
――なんて酷い格好。もしも耕一さんに会った時に、これでは心配をかけてしまうじゃない。
現在の千鶴の思考は、森での散歩のかいもなく耕一、あるいは楓に直結していた。
――川にでも行って、身体を洗わなくちゃいけない。そんな時に耕一さんが来たら…キャッ☆
徹夜でハイになっている思考は、先ほどまでの体と同様に暴走気味である。
そして鬼の力を解放したまま向かった川。そこに、彼女はいた。いてしまった。
偶然か、運命か、エルクゥの血の宿命か、それとも耕一への愛のなせる業なのか。
千鶴は、一気に加速した。

159恋慕の袋小路・改定版/7:2003/12/05(金) 03:12
 昼も大分過ぎて、柏木楓は先ほど自分の妹たる柏木初音と分かれた川に戻ってきていた。
(見つかった場所からは離れたがる、という人間の心理をついて、わざと戻ってきたのだ――犯人は現場に戻る、という説もあるが。)
彼女には鬼の証たるタスキはかけられていない
――無論、手に持ってもいない、正真正銘の逃げ手である。
彼女は、微かに顔を歪め、見るものが見ないとわからない笑みを――愉悦の笑みを浮かべていた。
この長い鬼ごっこも、さすがにもう終盤だろう。
時々見かける人間は鬼――本当の意味ではなく、タスキを掛けた人間――が殆どだった。
中には本当の意味での鬼や、共に僅かな時を過ごしたリサ・ヴィクセンのような逃げ手もいたが今は誰もそばにはいない。
残っている人間を把握する手段は無いが、自分はかなり優秀な逃げ手だろうという自覚は、僅かながらある。
確実に数を増している鬼達に気付かれる事無くやりすごし、或いは襲撃された場合も、能力を遺憾なく発揮し全て順調にかわしてきた。
この実績は、彼女に少しの満足感を与え、笑みのささやかな理由ではあった。
だが、そんな輝かしいと言える実績よりも、彼女が笑みを浮かべていた理由。
以前に交わした初音との賭けに勝つ、即ち、優勝すれば、あの人が手に入る。
とても愛しい人。次郎衛門。柏木耕一。
もうすぐ、あの人が手に入る。しかも、永遠に。
そう思うと、どうしても頬が緩んでいた。
が、突然エルクゥとしての血が騒いだ。力を解放する時間もなく、横に跳ぶ。
楓の身体の真横を一陣の風が背後へ通り抜けた。
楓はふりかえる。
そこには、そこかしこに大分傷ついてはいたが、自分のとてもよく知った顔が有った。

「リズエル……千鶴姉さん…!!」

160恋慕の袋小路・改定版/8:2003/12/05(金) 03:13
「今のをかわすなんて……だいぶ頑張っているみたいね、楓」

 いつもと変わらない笑みを浮かべている千鶴。
だが、その身体からは圧倒的な威圧感が醸し出されている。
狩猟者エルクゥ……またの名を『鬼』としての力を発揮しているのだ。

「姉さん……わざわざ気付けに来てくれたのですか?」

 そうでは無いことは勿論わかっている。
楓は、形式的な質問をしつつ、自分の身体を簡単に調べる。
その様子を見て、千鶴が答える。

「フフ…、楓。残念ながらまだタッチはできていないわ」

 確かに、楓の身体には裂傷どころか、かすり傷一つ無かった。
千鶴が突進してきた勢いから鑑みるに、触られていないと考えて間違いない。
だが、楓は戦慄を覚えざるを得ない。
『残念ながら』『まだ』タッチはできていない。
その言葉には含みがあるように、否、含みではなく、明確に意志がある。
――姉さんは、私を捕まえる気だ。けれど、私は捕まる気は、無い。
そして、楓は『鬼』の力を解放する。楓にもすさまじい威圧感が生まれる。

「貴方、初音と賭けをしてるんですってね」

 楓の『鬼』の力など無視するかのように、唐突に放たれる言葉。
千鶴の威圧感が増し、普通の人間では腰が抜けるほどの殺気さえも放ちはじめる。

「ええ、しています」

 何故、千鶴がそれを知っているのか、楓にはわからない。
強くなった威圧感に臆することなく、瞳を逸らさず、答えた。

「未成年で賭けなんていけない子ね。で、内容は勿論冗談よね?耕一さんを、もらうなんて」

 語調だけは優しく、しかし言霊はナイフのごとく。
それでも、楓は引かない。

「いえ、優勝して、私は耕一さんを頂きます」

 キッパリと言い放つ。

「そう……私の耕一さんを奪おうというなら……!」

 千鶴の殺気が、さらに増し、体勢を低くし走り出そうと構える。

「耕一さんは、姉さんのものじゃない……!」

 楓の威圧感も増す。姉と同様に体勢を低くし、構える。
開戦の準備。

「貴方に絶対に優勝させるわけにはいかない……貴方を、捕まえる!!」

『鬼』の姉妹が風になる。

161恋慕の袋小路・改定版/9:2003/12/05(金) 03:15
 千鶴の突進と共に突き出された凶器のような右手を避け、楓は走り出す。
速さでは自分に若干分がある、それは知っていたが、相手は文字通りの『鬼』。
完全に撒くまで走っていては、その後に他の鬼にあった場合に消耗しきっているだろう。
それを避けるためには――短期決戦。
楓は冷静にこれからの勝負の事も見通していた。
そのためには、森に入り、自分の速さと、仕掛けられているであろう罠を利用して撹乱するほうがいいことを、既に作戦立てていた。
その手は、自分が鬼達に対してしたことであり、決して無謀な計画ではない。
そしてそれは、皮肉にも敵対者・千鶴が、かつて自分と行動を共にしていたリサ・ヴィクセンに仕掛けられた事であった。
といっても、後者については楓は聞いていないので知る由も無いが。

――森に向かっている。
千鶴もそのことに気付いていた。
走っている方向もさることながら、『鬼』ことエルクゥには共感という能力がある。
楓の思考は、わずかながら千鶴に伝わっているのだ。
そして、それに大して千鶴は、不敵な笑みを浮かべ、走り続ける。

――笑っている!?
楓は、後ろを振り返ることなく悟っていた。エルクゥの共感能力は、楓にも勿論あるし、しかもその能力が高い。
――森は避けた方がいいの……?
少しの逡巡。
が、真剣勝負のこの場、迷いは禁物。考えている間に少しでも速力が落ちると、千鶴は差を詰めてくる。
結局、作戦を変えることはせずに走り続ける。
やがて風景が流れ、森が近付き、空を舞い地から枝へ、枝から枝へと飛び移る。
千鶴との差は徐々に開いていき、あとは罠を利用して逃げ切る……筈だった。
しかし千鶴は遅れることなく付いていく。それどころか、質量の差を活かし、枝の反動を大きく使い、確実に差を詰める。
その事実に気付いた楓は、一瞬動きを止めてしまう。

「なっ!?」
「伊達に、1日中森を走っていたわけではないわよ、楓!」

その隙を見逃さなかった、千鶴の手が、楓に届く、その瞬間だった。
影がふたりの間に割り込んだ。

162恋慕の袋小路・改定版/10:2003/12/05(金) 03:17
「そこまでですよ、千鶴さん」
「秋子さん…」

それは、島に数多く配備された管理用HMの1機であった。
いつまでも戻ってこない千鶴が森の中を走り回っていた事に、当然、管理室の秋子は気付いていた。
のみならず、千鶴が前日に森を走り回っていた動きから、今の千鶴の動きを正確に予測していた。
そのため、本来性能で千鶴に圧倒的に劣るHMをまったく破損させずに割り込ませる事に成功したのだ。

「管理者でもある貴方が、これ以上点を取ってはいけませんよ、千鶴さん」

HMは秋子の声で喋り続ける。無論、管理室からの声を放送しているのであるが。

「けど、楓は私の耕一さんを!」
「耕一さんは姉さんのものではないです!」
「千鶴さん、それに、楓ちゃん」

激昂する千鶴と、珍しく大きな声を出した楓を、静かな、しかし威厳漂う声で秋子は制する。

「私には、どちらが耕一さんにふさわしいのか、わかりません。どうやら二人とも、愛の深さでは負けていないようだし」

黙って頷く二人。ぴったりとタイミングが揃っていた。

「だから、この鬼ごっこでハッキリさせましょう。どちらが、ふさわしいのか」
「ですよね!なら…」
「いえ、千鶴さんは帰ってきてください」
「でも、今…」
「直接戦え、とは言っていないでしょう?」

なおも言葉は紡がれ続けた。

163恋慕の袋小路・改定版/11:2003/12/05(金) 03:18
「つまり、このまま鬼の中で私が一人トップになるのなら、私と耕一さんの愛が運命で」
「私が逃げ切れば、私と耕一さんは再び結ばれ、耕一さんは永遠に私のもの」
「そういうことね。納得してくれましたか?」

またも揃って頷く二人。

「では、千鶴さん。誰にもタッチしたりせずに戻ってきてください。楓ちゃん頑張ってね」
「はい」

二つの声は揃っていて、同じように聞こえた。



同刻、管理室。

「見事な手腕ですね、秋子さん。千鶴さんの暴走をまた簡単に止めるとは」
「ふふ……私は、恋する乙女の母ですから。それに、千鶴さんはわかりやすいですし」


【4日目昼大分過ぎ】
【楓、森に残る。逃げ切る決意を強くする。周囲の鬼や逃げ手に関してはわかっていない】
【千鶴、管理室に帰る。誰にもタッチはしない】
【秋子、ちーちゃんマスター】

164第一回ランカーズマラソン:2003/12/07(日) 12:26
前方を失踪するバイク、その後方をいくランカーズ、浩平はやや焦っていた。
「くっ、やはりバイク相手は無謀だったのか・・・」
浩平の頼みの綱で前方を走るトウカでさえ、距離を縮めることができていない。
ましてや常人である浩平にとってはすでに視界から消えかけている。
(これを使うしかないか・・・)
そうつぶやき、すっと懐に手を入れた。
「あれ、浩平それ・・・トウカさんの人形じゃ?」
「ああ、こんなこともあろうかとスっておいた。
 スフィー、これをあのバイクまで運べるか?」
「泥棒は犯罪だよ!」
などと言う長森を無視して続けて言う、
「これがバイクまで行けばトウカが目覚める筈だ!!」
「ホントにいいのかなぁ・・・?なんか忘れてる気がするんだよね
 まぁいいやわかった、えいっ!」
すると、魔法の力で人形がバイクに向かっていく・・・
「・・・はぁ、はぁ。でも、それじゃあトウカさんが捕まえちゃったりしませんか?」

一同「・・・・・・・」

「ゆかり、そういうことは、
 
 もっと早く言ってくれ――――!!!」

「浩平に泥棒のばちが当ったんだよ・・・」

そのころ追走者第一グループ・・・
「む、オボロ殿、何か飛んでくるぞ」
「そんなもん関係ねぇ、トウカ、(うっかりものの)お前には負けねぇ!」

165第一回ランカーズマラソン:2003/12/07(日) 12:27
一方、他の鬼たちの状況も厳しかった。
ここは第二グループ、
「ゲェーク!くそ、速ぇ!最初の差がいてぇな・・・」
「はぁ、はぁ、くっ、体がもう乾き始めている・・・屋台で水を補給できていれば・・・」
と、その時、
「むおぉぉーーーー!!!」
疲れの見える岩切の横をまいかを抱えたDが猛スピードで駈けていった。
「く、またこいつに負けるのか?私は・・・」
(私はいったい何のために戦っている?このままでいいのか?)
と、岩切が思ったその時、天使は舞い降りた。
「・・・おねえちゃんお水飲みたいの?」
「何?」
「おねえちゃんお水ほしいならだそうか・・・?
 さっきDがひどいことした、まいかからのおわび」
(水?水を持っているのか、しかし・・・・
このような幼女に情けをかけられるというのは・・・このままではいかん!)
「はっ、はっ、いや、わびはもういい。それより、取引をしないか?」
「ん、なぁに?」
「水をくれたらこの勝負、お前達に協力しよう。」
(今から鬼をやっても優勝は不可能だろう、
 ならせめて、私を負かせたこの男を優勝させるのが、私なりのけじめ!!)
「いいの?D達もいい?」
「O.K!」
「むおぉぉーーー」
「・・・いっか、じゃあちょっとまっててね。」
そう言うと目を閉じ、精神を集中させる。そして、
「みずのじゅっぽう!」
ばしゃ!水が岩切にかかった。
「な、何!?水が突然!?」
「うう、ごめんね、うまくできくてお水、かかっちゃった。」
(この娘見かけによらず妖術を使うとは・・・あなどれん!)
「いや、これがいい。ふふ、いい戦友になれそうだよ・・・」

「・・・・・ゲ、ゲ、ゲーック!!!」
水は勢い余って御堂にもかかっていた。
「こ、こ、この・・・く、ち、ちくしょー
なんだってこの俺様がこんな幼女に逆らえんのだ――!!」
御堂の叫びが虚しく森に木霊する・・・

「はぁ、いくら私でもバイクはキツイわ・・・力も射程外ね。」

166第一回ランカーズマラソン:2003/12/07(日) 12:28
そのさらに後方の追走者第3グループにて、
「はぁ、はぁ、前が騒がしいわね・・・」
香里がぼやいている。だがぼやきたくもなる、すでに彼女の視界にバイクはない、ただエンジン音が響くだけだ。
「あいつらについて行くしかないんだから、しっかりして欲しいわ・・・ふぅ。」
「心配ありません、エンジン音からして方向は間違っていませんから。」
「そうね、ああ、ここでとれないと状況厳しいわ・・・」

「ふっ、ふっ、不味いな、俺たちは追いつけそうにない、郁未も厳しいかもしれないな」
「祐一、弱音を吐いちゃダメ」
「ああ、そうだな、ん?由衣はどうした?」
「・・・祐一、酷い。」

「ぜぇ、ぜぇ、オボロ君は追いつけただろうか・・・」
「久瀬君、追いつけたとしても僕達がこんなに後方ではどうしようもない、頑張ろう!」
「ああ、・・・そうだな」

167第一回ランカーズマラソン:2003/12/07(日) 12:29
そして、
「あれ、詩子さん、何か飛んでくる。」
「鬼からの攻撃かもしれないわ!気をつけて!」
「うん、あっ」
ひゅーん、ぽす。
「わ、キャッチしちゃった。
 あれ、お人形さんだ。詩子さん、大丈夫みたい。」
むろん大丈夫ではない、詩子の推測はある意味当っている。

その後方にて、
「え?あ?そ、某の人形・・・?
 馬鹿な、確かにここに・・・・な、な、無い・・・!?」
「おいおい、まさか・・・」
「ク、クケェ――!!!!!!」
トウカが吼え、一気にスピードをあげる。
「ヲイデゲェー――!!」
「あびゅっ!」
その裏で一人の男が轢かれて犠牲になったことを、誰も知らない・・・

168第一回ランカーズマラソン:2003/12/07(日) 12:29
「わっ、わっ、詩子さん、一人すごい勢いで追いかけてくるよ!」
「くそ、なんてやつ!昨日のやつ以上かも知れない!」
「な、なんか叫んでる・・・」
「無視よ、無視!どうせ待てとか言ってんのよ、そうは問屋が卸さないって!!」

「ヲイデケェー――!」

「・・・ヲイデケ?オイデケ?あっ、おいてけ?
 置くって何・・・あっ!まさか・・・
 鬼さぁーん!これですかぁー!?」

と、そのすぐ後方でものすごい勢いでトウカがうなずく。
「が、がえしてぇーー!!」
泣いていた。

「お人形さん飛ばされちゃったのかな・・・にはは、往人さんもそうだったな。
 どうぞ、はい。」
観鈴が手を差し伸べ、
まさにバイクに飛び掛らんとしていたトウカの手に人形をポンっと投げる。
「あ、か、か、かたじけない!!」
「にはは、今度はなくさないようにね?」
そういってにっこり微笑む観鈴。
その笑顔は覚醒状態から戻ったばかりのトウカには、太陽だった。
「か、かわいいにゃ〜」
ぶろろろろ・・・
「何あいつ?固まってるわ・・・ちょうどいいけど」
バイクはトウカを置いて走り去っていった。

169第一回ランカーズマラソン:2003/12/07(日) 12:30
ぶろろろ・・・
バイクで奔走すること約10分。
「・・・なんか嫌な感じね」
「どうしたの?」
「うん、ちょっとエンジンから異音がするの、結構無茶してるからかな・・・
 観鈴ちゃん、追っては今どうなってる?」
「うん、声は遠くでするけど姿はもう見えないよ。」
「よし、しょうがないわ、いったん何処かに隠れましょう。」
「うん」

がさがさ、バイクを降りてちょっとした茂みを掻き分ける
「この辺がいいんじゃないかな。」
「そうね、さて、バイクを診なきゃ。」
「ううん・・・
 ・・・ああ、もう、よくわからないわ。こんな時涅槃の師匠なら・・・」
(おかあさん・・・)
「ああ、師匠私に力を!!]
(お母さん、私、もう、ツッコメないよ・・・)

170第一回ランカーズマラソン:2003/12/07(日) 12:30
「・・・それでどうかな?」
「ええ、たぶん大丈夫だと思うんだけど、油断はできないわ。
 ずっと二人乗りで無茶してきたから調子が悪いのよ。」
(二人乗り・・・今、鬼に見つかったら・・?)
「とりあえず鬼は撒いたみたいだし注意しながら茜達の方へ歩きましょう。
 いざとなったらバイクってことで。歩きなら音で探知されることもないだろうし。」
「うん・・・」
「さぁ、歩きましょうか?罠があるかもしれないから気をつけてね。」
(今、鬼に見つかったら・・・それならまだいいかもしれない、
 でもあの大勢の鬼に囲まれたら・・・?きっと、もう・・・
 そうなったら、私は・・・?わたしは・・・。
 頑張らないとダメだよ、うん、だって詩子さんは、私の・・・
 ・・・観鈴ちん、ふぁいと!・・・・ん、あれ?)
急に、足に違和感があった。
そして直後、体が平衡を失う。
「わっわっ・・・」
ついに、足が地面から離れた。

ベシャッ!!

「観鈴ちゃん!」


「こんなところで転ばないでよ、大丈夫?」
「が、がお・・・」
(み、みすずちん、ふぁいとぉ・・・)

171第一回ランカーズマラソン:2003/12/07(日) 12:31
【詩子、観鈴 徒歩で茜たちを探す、バイク、調子が微妙】
【鬼たち 一時的に見失う】
【場所 山間部】
【時間 四日目昼過ぎ】
【登場 柚木詩子、神尾観鈴、【御堂】、【岩切花枝】、【ディー】、【宮内レミィ】、【しのまいか】、【美坂香里】、【セリオ】、【太田香奈子】
   【澤田真紀子】、【相沢祐一】、【川澄舞】、【天沢郁未】、【名倉由依】、【久瀬】、【オボロ】、【月島拓也】、【折原浩平】、【長森瑞佳】
   【伏見ゆかり】、【スフィー】、【トウカ】、『イビル』、『エビル』】

172名無しさんだよもん:2003/12/08(月) 23:39
<TR>
<TD width=36>724</TD>
<TD width=221><A href=SS/724.html>笑っている場合ではない</A></TD>
<TD>
柚木詩子<BR>
神尾観鈴<BR>
【御堂】<BR>
【岩切花枝】<BR>
【ディー】<BR>
【宮内レミィ】<BR>
【しのまいか】<BR>
【美坂香里】<BR>
【セリオ】<BR>
【太田香奈子】<BR>
【澤田真紀子】<BR>
【久瀬】<BR>
【オボロ】<BR>
【月島拓也】<BR>
【折原浩平】<BR>
【長森瑞佳】<BR>
【伏見ゆかり】<BR>
【スフィー】<BR>
【トウカ】<BR>
【相沢祐一】<BR>
【天沢郁末】<BR>
【川澄舞】<BR>
【名倉由依】<BR>
『イビル』<BR>
『エビル』
</TD>
</TR>

<TR>
<TD width=36>725</TD>
<TD width=221><A href=SS/725.html>サヨナラ</A></TD>
<TD>
ハクオロ<BR>
遠野美凪<BR>
みちる<BR>
【佐藤雅史】<BR>
【新城沙織】<BR>
【皆瀬まなみ】
</TD>
</TR>

<TR>
<TD width=36>726</TD>
<TD width=221><A href=SS/726.html>グッドナイト スイートハーツ</A></TD>
<TD>
【エルルゥ】<BR>
【田沢圭子】<BR>
【観月マナ】<BR>
【少年】
</TD>
</TR>

<TR>
<TD width=36>727</TD>
<TD width=221><A href=SS/727.html>第一回ランカーズマラソン</A></TD>
<TD>
柚木詩子<BR>
神尾観鈴<BR>
【御堂】<BR>
【岩切花枝】<BR>
【ディー】<BR>
【宮内レミィ】<BR>
【しのまいか】<BR>
【美坂香里】<BR>
【セリオ】<BR>
【太田香奈子】<BR>
【澤田真紀子】<BR>
【久瀬】<BR>
【オボロ】<BR>
【月島拓也】<BR>
【折原浩平】<BR>
【長森瑞佳】<BR>
【伏見ゆかり】<BR>
【スフィー】<BR>
【トウカ】<BR>
【相沢祐一】<BR>
【天沢郁末】<BR>
【川澄舞】
</TD>
</TR>

<TR>
<TD width=36>728</TD>
<TD width=221><A href=SS/728.html>智略と、勘と、脱落と</A></TD>
<TD>
【御堂】<BR>
【岩切花枝】<BR>
【ディー】<BR>
【宮内レミィ】<BR>
【しのまいか】<BR>
【美坂香里】<BR>
【セリオ】<BR>
【太田香奈子】<BR>
【澤田真紀子】<BR>
【久瀬】<BR>
【オボロ】<BR>
【月島拓也】<BR>
【折原浩平】<BR>
【長森瑞佳】<BR>
【伏見ゆかり】<BR>
【スフィー】<BR>
【トウカ】<BR>
【相沢祐一】<BR>
【天沢郁末】<BR>
【川澄舞】<BR>
【名倉由依】<BR>
『イビル』<BR>
『エビル』
</TD>
</TR>

173Dead end:2003/12/10(水) 09:53
「チィ! どこに消えやがった!」
 ランカーズ追撃戦先頭グループ・俊足鬼ズ。
「クッ、見失ったか!」
「参ったわね……ここまで来て」
 脇道に逸れた後続グループの数キロ先。木々が互いに遠慮したようなその山腹の開けた場所で一行は立ち往生していた。
「呆けてる暇は無い! 探すわよ!」
 不可視の力を解放。筋力を増強し、木の上に飛び乗ってあたりを見回す郁未。
「だが! みすみすここまで来て! 獲物を逃すわけにはいかん!」
 いきみ勇んで森の中へと飛び込むトウカ。
「………………」
 無言のままその場に蹲り、地面を調べ出す御堂。

 そして……

「……ふむ。さすがは文明の力。我らの脚を持ってしてもそう簡単には追いつかせてもらえない、か……」
 岩切は憮然としたまま広場の中心に佇み、特に何をするというわけでもなく他の面々の様子を眺めていた。
「……ガッ、ぐっ……ううう……ッ……!」
「でぃー……だいじょうぶ?」
 Dはその脇でまいかを胸に抱いたまま突っ伏し、苦しげなうめき声を漏らしている。
 仙命樹の催淫効果(別名精神的疾患)による精神の高揚。理性の崩壊は驚異的な精神力で押さえ込みつつ、
 引きずられるように肉体の限界ギリギリの力を発揮してここまで来たDだが、すでにリミットはすぐそこまで近づいていた。
「だ、大丈夫、だ……この程度……あ、崇められうたわれるものである……こ、この私が……この程度で……
 そ、それに……すぐ近くに二人の逃げ手が、いるのだ……こんなところで……倒れるわけには……」
「でぃー……けど、けど、れみぃおねぇちゃんが……」
「レミィ……だと? そう言えば……」

174Dead end/2:2003/12/10(水) 09:54
「よっしゃ!」
 その時、御堂の喚声がDの思考を止めた。
 叫ぶと同時に御堂は広場から続く山頂への道を駆け出す。
「やはり最初に見つけたのは御堂か! 追うぞ! D!」
 声に驚き一瞬動きを止めた郁未とトウカとは違い、岩切はそれを認めるとすぐさま後に続く。
「ど、どういうことだ……?」
「我らの間でも特に御堂は山岳戦における追跡術の成績がダントツであった! 奴なら放っておいてもバイクの痕跡を見つける!
 苦労して自ら探す必要などない! 我らは奴の後をついて行けばよいのだ!」
「な、なるほど……」
 まいかを抱いたまま岩切の横を疾走するD。
 さらにワンテンポ遅れ、郁未とトウカもその後ろについた。
 そして一行は御堂の後を追い、道の途中の大きな段差を超えたところで――

「ああ、その通りだぜ岩切。確かに俺ァこいつだけには自信がある。山岳訓練では坂神のヤローにだって結構勝ってたからな」

「……なッ!?」

 一行の目の前に飛び込んできたのは、段差の影に潜み――こちらに銃口を向けた御堂の姿であった。

「それを知ってるお前なら、性根の悪ィお前ならそうすると思ったよ。せいぜい俺を利用すると思ったよ」

 狙いをつけ、迷わず引き金を引く。

 バシュッ! バシュッ! バシュッ! ……バシュッ!

 ……四回。

175Dead end/3:2003/12/10(水) 09:57
「クッ!」
「ちぃっ!!」
「おのれ!!!」
 すんでのところでかわす岩切。
 不可視による防護壁で叩き落とした郁未。
 迫る粘着性の塊を一瞬の抜刀術で切り払うトウカ。

 さすがはこの人外レベルの追撃戦に追いついてきた者たちである。御堂の狙撃とはいえ、そう簡単には喰らいはしない。
 だが……

「ッッ! ……まいかッ!」
「え……っ? きゃあっ!!!」

 この二人は、別である。
 目の前の獲物を追うことのみに全てを傾注、精神の変調を誤魔化していたD。
 そんな彼に抱きかかえられたままの、多少不思議な力を使えるようになっても基本的にはただの子供であるまいか。
 この二人に、近距離からの御堂の銃撃を避ける術などなかった。

 Dは奇跡に近いギリギリの反射で己の懐の中にまいかを隠す。
 しかし――それが、限界だった。

「ぐあぁっ!!」

176Dead end/4:2003/12/10(水) 09:58
 上半身に弾の直撃。そのままもろに吹き飛ばされ、数回地面に転がったところで巨木に背中を打ち、止まる。
「D!」
 岩切の叫びにも反応しない。
「馬鹿共が!」
 一方御堂は未だ固まったままの三人の間をすり抜け、一直線に反対側の道へと下っていった。
「俺が跡を見つけたのはこっちの道だよ! 見事に引っかかってくれたなケーーーーーッケッケッケ!!!!」
 高笑いとともに山道を下っていく。数瞬遅れ、我に返ったようにトウカと郁未が走り出す。
「某としたことが! かような単純な手に乗ってしまうとは! ええい修行が足りんぞトウカ!」
「くっ! 私としたことがつられちゃうとはね! けど……まだまだッ! 次はこっちの番よ!」
 若干のアドバンテージを取られながらも、必死にその背中を追う。

「………はっ!?」
 しばし己を失い、呆然としていた岩切。だが今はこうしているわけにはいかない。
 自分の『ケジメ』であるDを一刻も早く起こさなくては。
「D! しっかりしろD! 傷は浅いぞ! 目を覚ませ!」
 必死に揺さぶり、名を呼びかける。……反応はない。
 その間にも木の幹との間にねっとりと張り付いたとりもちを剥がしていくが、その面積はあまりに大きく、あまり芳しくない。
「ええい目を覚ませ! 起きろ! 起きないか! ここでお前に負けられては私はどうなってしまうというのだッ――――!!!」


 ……しかし、岩切の呼びかけにもかかわらず、再びディーの目が開くことはなかった。


【追撃戦先頭グループ バイクの痕跡を発見、御堂が抜け出る。その後ろをトウカ・郁未が追跡。後続からは数キロ距離有り】
【D とりもち弾の直撃。気絶。木に打ち付けられる】
【まいか Dの胸の中】
【岩切 Dの救出を試みるも難航】
【時間 四日目昼過ぎ】
【場所 山腹の小さな広場】
【登場 【御堂】・【岩切花枝】・【ディー】・【しのまいか】・【トウカ】・【天沢郁未】】

177夢魔:2003/12/13(土) 18:31
 四日目も午後に入り、気温もだいぶ上がってきた。それは森の中とて例外ではない。
 セリオに率いられ、森の中をひた走る先回りA班の面々の額にもわずかに汗が浮かんでいる。
 隊列は当然先頭がナビゲーターのセリオ、続いて舞、レミィ、祐一、香里、香奈子、編集長、と基本的に体力に従った順でほぼ一直線に並んでいた。
 もっとも、セリオがナビゲーターとは言え、道で最後に聞いたエンジン音、そしてバイクの速度を計算してのやや心ともない予測に基づくものでしかないのだが。
「………………お待ちください」
 ひた走ること約十分ちょっと。鬱蒼と茂る森の中ほどで、不意にセリオは足を止めた。

「ふぅ、ふぅ……セリオ、どうしたの?」
 息を整えながらも、後ろから香里が声をかける。
「……着いた?」
 こちらはあまり疲れていないようだ。舞も訝しげな反応を示す。
「……いえ、まだ目的地には少々距離があります」
「ならどうしたんだ?」
「……音を。他の参加者の足音のような音を……感知しました」
「足音?」
「はい。なにぶんここは森の中。先ほどまでとは違い、音の反響が複雑。何より雑音が多いため正確な判別はつきませんが……
 ……人の歩行に近い間隔の音が、聞こえてきました」
「距離は?」
「申し訳ありません、そこまではわかりませんでした。ともかく、私が様子を見てきますので、皆さんはしばしここでお待ちを……」
 と言いながら、数歩、セリオが森の奥へと歩を進める。
 そこで、誰かの叫び声が聞こえてきた。

「チッ、自動人形風情がいい耳を! 一網打尽にしたかったんですが仕方ありません! 住井さん! やってください!」
「お、おうっ!」

178夢魔/2:2003/12/13(土) 18:31
「この声は……」
 声と同時にセリオの右側面、数メートルの位置に人影が現れる。
「あなたは……確か北川君と一緒にいた!?」
 唯一一行の中で面識がある香里が反応する。
「住井護だ! すまないな、これも命令なもんで! ……とりゃっ!!」
 名乗ると同時に、自分の足下の何か細い紐が括り付けてある木片を蹴り飛ばす。
「これは……! 皆さん! お下がりください!」
 瞬間、セリオの足下から複数の縄が弾け、そのうち一本が彼女の脚を絡め取り高々とつるし上げた。
「くっ!」
「Shit!」
 セリオの警告に従い、舞が、レミィが、そして皆が一歩ずつ下がる。
 唯一最後尾の編集長だけが一瞬反応が遅れ、真横に飛び退いたが……
「え……っ!?」
 飛んだ先の地面に抗力は無く、編集長の脚がそのまま地面の下に沈んでいった。
 ややあってドスン、と鈍い衝撃。
「いたたたた……これは……?」
 大きな腰をさすりながら上を見上げる。そこには小さくなった空が。
「……落とし穴?」

「このタイプの罠は……北川君ね!」
 編集長が一行の側面に仕掛けてあった穴に落ちたのを見ると、激昂しつつ香里が叫んだ。
「ま、な。スマンな美坂」
 セリオを挟んで住井から反対側。そこの木の陰から今度は北川が現れた。
「北川君……あなた……」
「なぜか展開的にこうなってしまってな。あんまり動かない方がいいぞ。お前たちの周りには大量に仕掛けてあるからな」

179夢魔/3:2003/12/13(土) 18:32
 一団の中心で祐一がソッと香里の耳元に囁く。
「……香里、まさか……」
「……ええ。どうやらそのまさかのようね」
 祐一が何を言わんとしているか、香里はすでに察していた。
「……北川に命令できる人物」
「そして、私たちを狙う人物」
「何より……」
「……さっきの声」
「……間違いなさそうだな」
「ええ……。よくもまぁ、性懲りもなく……」
 確信した香里。一団から一歩進み出ると、呼んだ。
「……栞! 出てきなさい栞! そこにいるんでしょう!」
 住井と北川の中心。そこの茂みに向かい、己の妹の名を。

「……大正解。さすがはお姉ちゃん、そして祐一さんですね……」
 元凶は、微笑と共に現れた。

 距離にして約10メートル。竜虎姉妹は再び邂逅した。
「……どうやって返り咲いたのかは知らないけど、相変わらず精力的に動いてるようで何よりね」
「お姉ちゃんも相変わらず便利すぎるメイドロボを引き連れて新たなお仲間を招き入れて、頑張って鬼ごっこやってるみたいですね。私も妹としてうれしいです」
「私としてはできればあなたにはもう少し精力を押さえ込んで大人しくしててもらいたいんだけどねぇ」
「そんなひどいこと言わないでくださいよぅ。私だってお姉ちゃんに負けない活躍がしたいんですから」
「活躍をするのは勝手よ。けどそれならもう少し手段をまともにしたらどう?」
「まとも? まともってどういうことですか?」
「北川君とその連れをたらし込んだり、月宮さんから最終兵器を奪い取ったりっていう卑怯な手を使わない、ってことよ」
「卑怯? 今卑怯って言いましたか? どこが卑怯でしょうか? 北川住井さんは私を助けてくれたことをきっかけに一緒に行動、協力して鬼ごっこをやっているだけですし
 あゆさんとはきちんと交渉、お互い合意の上での物品交換だったんですよ? 私だってちゃんと一万円払いました。これのどこが卑怯なんですか?」
「全部卑怯じゃない」
「嫌ですねぇお姉ちゃん。お姉ちゃんらしくないですよ。もっと日本語は正しく使わないと」
 唇をニヤリと歪め、答える。

「これらは全て……知略です!」

180夢魔/5:2003/12/13(土) 18:32
「ここですよ。ココ。ここが違います。こーこ」
 言いながらトントン、と自分の眉間をつつく。
「ものは言いようね……」
 一方、香里は呆れたようにため息を漏らした。

(怖い……)
 姉妹を除いてその場にいた全員、それが正直な感想だった。
 表面的には姉妹がじゃれ合っているだけ、しかしその皮一枚下を覗けば猛烈な罵り合い。
 二人の間に流れる空気は、それはそれは壮絶な冷気となっていた。

 ざっ。

「……おや?」
「あ、舞っ!」
 次に動いたのは舞だ。香里の一歩前に進み、キツい視線を栞にぶつける。
「祐一の邪魔はさせない……」
 チャキッ、と剣を手にする。
「あなたは……確か、三年生の川澄さんでしたか? ガラス破壊で有名な」
「……邪魔をするというのなら……」
 殺気に近いまでのすさまじい闘気。常人ならその異様さに身体を竦ませるところだろうが、栞には通じない。
「……押し通る!!」
 刃を構え、一直線に栞のもとへ。
「おい! 舞!」
「心配いらない……追い払うだけ!」

181夢魔/5:2003/12/13(土) 18:33
「栞ちゃん!?」
 北川と住井が不安げな視線を栞に送る。罠の発動の可不可を問いかけているのだ。
 しかし舞には自信があった。半端な罠など飛び越え、かわし、そのまま栞の下へ行き、組み伏せる。
 相手はただの元病弱少女。難しいことはない、はずだったのだが……
「……いりません。実験にちょうどいいです」
「!?」
 栞は悠然とした態度のまま、何かの機械を取り出した。
 それは異様な形に栞の左手に絡みついており、かぎ爪のようにも手甲のようにも銃のようにも見えた。
「Ultimate Weapon Attack-mode on……」
 ゆっくりと、左手を舞へと向ける。
 迫る標的。いくら栞であろうとも、この距離なら外さない。
「……Nightmare-α, Fire!!」
「!」
 栞の叫びとともに、機械の先端部から、ピッ、と一条の光が放たれた。
 剣を振りかぶっていた舞。その胸を光が貫くと瞬間、その場に力無く崩れ落ちる。
「舞!」
 慌てて祐一がその身体を抱き上げる。
「だ、大丈夫か舞! し、栞……お前、まさか……」
「安心してください祐一さん」
 しかし栞は微笑んだまま祐一を諭す。
「川澄さんは眠っていらっしゃるだけです。身体には怪我ひとつありませんよ」
「え……あ、ああ……確かに」
 もう一度舞の顔をのぞき込んでみる。……なるほど、確かに苦しがったり痛がってる様子はなく、可愛い顔でスヤスヤと静かに寝息を立てているだけだ。
「その武器は……睡眠薬か何かか?」
「ん〜……まぁ、そんなところなんでしょ〜かね……」
 ちょっと悩みながらの返答。
「……ちなみに、どのくらいで目が覚める?」
 祐一の質問。栞は待ってました、とばかりに
「いつまで眠っているか、ということですか……? ……フフフ、そうですね。安心してください。ほんのちょっとですよ……。
 そう、本当にちょっとだけ……」
 にっこりと笑って
「――――ゲームが終わるまで、ですから」

182夢魔/6:2003/12/13(土) 18:33
「……な?」
 祐一の表情が驚愕に変わる。
「な、なんだそりゃ?」
「そうですねぇ……そのあたりは私よりもお姉ちゃんに聞いた方がいいと思いますよ。最初に買ったの、お姉ちゃんらしいですから」
「か、香里?」
 改めて香里に向き直る。
「..."Nightmare-α" (Ultimate Weapon in Attack mode)
 Whenever a player damaged from Nightmare-α, that player into sleeping until end of the game.
 If damaged player were sleeping(by Nightmare-α), that player awakening once again」
 答えるように、香里は静かに説明書の一文を読み上げた。
「まぁ文面通りの効果を持つ道具です。これを一発相手にぶち込めばその人はゲーム終了時まで昏々と眠り続ける。
 ルールの意味上において相手を"殺す"ことができる。なんとも素晴らしい。まさしく最終兵器の名に相応しいアイテムですね」
 悪夢をさすりながら、上機嫌に説明を続ける。
「安心してください。皆さんを寝かしつけたあとは、適当な洞穴か小屋にでも運んでおいてさしあげます。風邪を引くことはありませんよ。
 皆さん、この四日間動き通しでお疲れでしょう? このあたりで休憩をとるのも悪くありませんよ。あとは……」
 ジャキッ、と銃口(らしきもの)を一行へと向ける。
「私が引き継ぎますから」

 勝利を確信した笑み。
「お姉ちゃん、いつかとは逆の形になりましたね」
 嬉しそうに勝ち誇る。
「お姉ちゃん、私はとうとうお姉ちゃんに勝ちます」
 歓喜の微笑みを。
「お姉ちゃん、私はあなたを……超えます!」

183夢魔/7:2003/12/13(土) 18:34
【栞、北川、住井 チェックメイト】
【香里、祐一、レミィ、香奈子 大ピンチ】
【舞 Nightmare-αによる睡眠中】
【セリオ 住井の罠にかかる。吊され中】
【編集長 北川の罠にかかる。穴の底】
【四日目午後、山間部の森の中。だいぶ気温が上がってきた】
【最終兵器・攻撃モード「Nightmare-α」
 光線兵器。光に貫かれた人間はゲーム終了時まで眠り続ける。ただし、もう一度光をあてることにより復活可能】
【登場 【美坂栞】【北川潤】【住井護】【美坂香里】【セリオ】【太田香奈子】【澤田真紀子】【相沢祐一】【川澄舞】【宮内レミィ】】

184水は何度でも還る(1)改訂版:2003/12/14(日) 00:27

場所は山腹の広場、幼い泣き声がこだまする。
「うぅ、ひっく、ひっく、でぃ〜こわいよぉ〜・・・」
「ええい、泣くな、すぐ出してやるから。」
トリモチで強く木に打ち付けられ、固定され気絶したDと、それに抱えられるまいか。
岩切は懸命にそのトリモチを除こうとしていた。
「くそっ、おのれ御堂・・・この借りは必ず返すぞ・・・」
恨み言を言いながらも作業は続くが、なかなか進まない。
「うぅ、れみぃおねぇちゃん・・・ひっく、どこいったのぉ・・・ぐすっ」
Dに抱えられている間は気付かなかったが、一度立ち止まった折、レミィの不在を知覚した。
その不安が木に縛り付けられた厳しい状況下で溢れ出してしまったのである。
「だから泣くな、やつも目標は同じなのだから追撃を再開すればきっと会える、な?」
さすがの岩切も泣き止まないまいかに対し、母性本能を発揮したのかやさしく接する。
「うぅ・・・、ほんとぉ?」
「ああ、だからさっさとこれを片付けないとな。
お前はDをどうにか起こしてくれ、そうすれば作業も早まるから。」
「ひっく、うん、がんばる。」
そういうとまいかは涙をこらえ、懸命にDを起こそうとする。が、Dは一向に目覚めそうに無かった。
その間も作業を進める岩切だが、短刀をも絡めとるトリモチに対し、てこずってしまう。
「まずい、このままでは・・・。」
「ねぇ、でぃーおきてよぉー、ねぇー・・・うぅ、あっ、そうだ!」
と、まいかの声が急に明るくなる。
「どうした?」
「うん、でぃーもおみずかければおきるよね?」
「むぅ、叩いても起きないのだから・・・いや、やってみろ、何もしないよりはましだ。
だが思いっきりやれ、そうでもなければ起きまい。」
「うんっ」

185水は何度でも還る(1)改改訂版:2003/12/14(日) 00:30

場所は山腹の広場、幼い泣き声がこだまする。
「うぅ、ひっく、ひっく、でぃ〜こわいよぉ〜・・・」
「ええい、泣くな、すぐ出してやるから。」
トリモチで強く木に打ち付けられ、固定され気絶したDと、それに抱えられるまいか。
岩切は懸命にそのトリモチを除こうとしていた。
「くそっ、おのれ御堂・・・この借りは必ず返すぞ・・・」
恨み言を言いながらも作業は続くが、なかなか進まない。
「うぅ、れみぃおねぇちゃん・・・ひっく、どこいったのぉ・・・ぐすっ」
Dに抱えられている間は気付かなかったが、一度立ち止まった折、レミィの不在を知覚した。
その不安が木に縛り付けられた厳しい状況下で溢れ出してしまったのである。
「だから泣くな、やつも目標は同じなのだから追撃を再開すればきっと会える、な?」
さすがの岩切も泣き止まないまいかに対し、母性本能を発揮したのかやさしく接する。
「うぅ・・・、ほんとぉ?」
「ああ、だからさっさとこれを片付けないとな。
お前はDをどうにか起こしてくれ、そうすれば作業も早まるから。」
「ひっく、うん、がんばる。」
そういうとまいかは涙をこらえ、懸命にDを起こそうとする。が、Dは一向に目覚めそうに無かった。
 その間も作業を進める岩切だが、短刀をも絡めとるトリモチに対し、てこずってしまう。
「まずい、このままでは・・・。」
「ねぇ、でぃーおきてよぉー、ねぇー・・・うぅ、あっ、そうだ!」
 と、まいかの声が急に明るくなる。
「どうした?」
「うん、でぃーもおみずかければおきるよね?」
「むぅ、叩いても起きないのだから・・・いや、やってみろ、何もしないよりはましだ。
だが思いっきりやれ、そうでもなければ起きまい。」
「うんっ」

186水は何度でも還る(1)決定稿:2003/12/14(日) 00:43

場所は山腹の広場、泣き声がこだまする。

「うぅ、ひっく、ひっく、でぃ〜こわいよぉ〜・・・」
「ええい、泣くな、すぐ出してやるから。」

トリモチで強く木に打ち付けられ、固定され気絶したDと、それに抱えられるまいか。
岩切は懸命にそのトリモチを除こうとしていた。

「くそっ、おのれ御堂・・・この借りは必ず返すぞ・・・」

恨み言を言いながらも作業は続くが、なかなか進まない。

「うぅ、れみぃおねぇちゃん・・・ひっく、どこいったのぉ・・・ぐすっ」

Dに抱えられている間は気付かなかったが、一度立ち止まった折、レミィの不在を知覚した。
その不安が木に縛り付けられた厳しい状況下で溢れ出してしまったのである。

「だから泣くな、やつも目標は同じなのだから追撃を再開すればきっと会える、な?」

さすがの岩切も泣き止まないまいかに対し、母性本能を発揮したのかやさしく接する。

「うぅ・・・、ほんとぉ?」

「ああ、だからさっさとこれを片付けないとな。
お前はDをどうにか起こしてくれ、そうすれば作業も早まるから。」
「ひっく、うん、がんばる。」

そういうとまいかは涙をこらえ、懸命にDを起こそうとする。が、Dは一向に目覚めそうに無かった。
その間も作業を進める岩切だが、短刀をも絡めとるトリモチに対し、てこずってしまう。

「まずい、このままでは・・・。」
「ねぇ、でぃーおきてよぉー、ねぇー・・・うぅ、あっ、そうだ!」

と、まいかの声が急に明るくなる。

187水は何度でも還る(2)決定稿:2003/12/14(日) 00:44

「どうした?」
「うん、でぃーもおみずかければおきるよね?」
「むぅ、叩いても起きないのだから・・・いや、やってみろ、何もしないよりはましだ。
だが思いっきりやれ、そうでもなければ起きまい。」
「うんっ」

返事をすると、まいかは目を閉じ、精神を集中させる。すると体が光に包まれる。

(きた・・・でももっと、もっと、つよく、つよく・・・)

岩切の助言通り以前より深く精神を集中させていく。

(あぁ、べつの、なにか、くる・・?)

そんなまいかの集中に呼応するかのように力が高まり、あふれ出てくる、

「あぁ、くるぅ、くるぅ・・・!」

輝きが一気に増し、まいかが叫ぶ、


「みずのじゅっぽう!!」


――バリバリバリ!!――

瞬間、まばゆく蒼い閃光と音が炸裂した。それは、まさに小型ながら、イカズチだった。
スパークする蒼雷がまいかの手から放たれているのだ。

「なっ!?」

岩切に驚愕の声があがる。そして、

「はぁ、はぁ、やった、これならでぃーも・・・」


――焦げていた。目を覚ますどころか痙攣している。

「なんというか状況が悪化したような・・・」
「うぅ、ごめんねぇ・・・」

が、岩切は気付いた。焦げたのがDだけでないことに。

「いや、これなら・・・」

そういって再びトリモチに手を伸ばす。すると、
ボロリ、と崩れる。残ったトリモチも固まりかけていた。
異臭が鼻につくが、気にせずに次々と除いていく。

「よしっ!」

拘束は、解かれた。

「わぁい、ありがとう、おねぇちゃん!」
「礼はいい、それより追うぞ。」
「よぉし、いこー!」

188水は何度でも還る(3)決定稿:2003/12/14(日) 00:46


「・・・と、言ったものの考え物だな。」
「えっ?」

走り出そうとしたまいかが立ち止まる。

「このまま走り出しても追いつくまい・・・さて。」
「だめなの?」
「ああ、あれから少なくとも10分以上経過している。
鬼はおろか御堂たちにも追いつけまい。何か策はないものか・・・」

そういってしばし考え込む。そして、

「そうか!下り、やつは確かに山を下っていった。それなら可能性はある!」
「え、え、どういうこと?」
「川だ、川さえあれば一気に山を下れる、そうすればあるいは。」
「あのひとたちにおいついて、れみぃおねぇちゃんにあえる?」
「ああ、逃げ手がその川に近づくかどうかも、そもそも川の方向にいるかもあやしいが、距離だけは確 実に稼げる、いけるさ、きっと再会も出来る。」
「うん、じゃあかわをさがそうっ!」

それに軽くうなづくと岩切は耳を澄ます。

(近くにあるなら流れの音がするはず・・・あってくれ、どこだ・・・)
「どこかなぁ〜」
(・・・ザ―――・・・むっ!これか!?・・・いや、ダメだ、反響のせいで正確な方向が・・・)
「ううん・・・」
(くっ、せっかく近くにあったというのに・・・)

「あっ、あっちだ!」

「・・・って、何ぃ??」
「うん、たぶんあっちだよ。」

そういうと呆然とする岩切に方向を示す。

「馬鹿者、勘でものを言うな。」
「うぅ・・・だってあっちにあるんだよぉ、うまくいえないけどわかるんだもん・・・」
(まさか・・・妖術の一種か?ならば・・・)
「よし、お前を信じよう。お前はただの幼女ではなかったな。」

岩切の考えは間違いではない。
まいかは水神(クスカミ)の力に目覚め、さらに先ほど力量を上げている。
水神のホームグラウンドたる川を察知するのは、そう難しいことではないのだ。

「またようじょっていわれた・・・」
「ああ、そうだ、川へ行く前にもしあの女がここを通った時のためのメモでも残しておこうか。」
「うん」

そういうと目に付くであろうトリモチのついた木に短刀で文字を刻み、
これから行くべき方向を示すメモを残す。

(他の鬼がこれを見たとしても追いつくのは決着後だろうし、これでいいだろう。)
「さぁ、走るぞ!]

岩切は片手でDの服の襟をつかみ、もう一方の手でまいかを抱えて走り出した。
ずがががが・・・Dを引きずって一路、川へ。

189水は何度でも還る(4)決定稿:2003/12/14(日) 00:47



そして・・・


「よしっ!」

岩切が会心の笑みを浮かべた。

「この川の方向なら逃げ手の方向と大きくは違わない、可能性が上がったぞ!」

確かに川はあり、それはさほど大きくはないが、十分流れに乗れるサイズだった。
静かな山間をひっそりと流れる清流だ。

「・・・でも、でも。」

そこにまいかが声を小さくしていう。

「わたし、およげないよ・・・」
「心配いらん、どれだけ水につかっているかわからんからな、常人では低体温症になりうる。元々お前達を泳がせる気は無い。」
「え?じゃあどうするの?」
「ああ、ちょうどそこに流木がある、あれを使おう。」

そういうと流木、わりと大き目の、の方へ歩み寄り、

「ふんっ!」

ドボンッ!と、川に投げ入れた。そして自身も川に入り、それを流れないように押さえる。

「さぁこれに掴まれ、私が後ろで支えるから心配するな。」
「う、うん、わかった。」

岩切がDを流木の上に載せ、どこからか持って来たツタでくくりつけると、その後ろにまいかが乗る。

「よし、行くぞ!振り落とされるなよ!!」
「しゅっぱーつ!」

まいかの言葉を聞くと体を水に沈め、流木を支え、押しながら流れに乗る。

(逃げ手がバイクを降りてから約15分強、やつらの足はおそらく常人並。
流速と方向の違いを計算すれば川を使うべき時間は・・・
うむ、さぁ、あとは吉と出るか凶とでるか・・・勝負!!)

かくしてD一行は川を流れていった。

190水は何度でも還る(5)決定稿:2003/12/14(日) 00:47

【D一行(レミィ除く)は一か八か川で山を下る。】
【D トリモチを抜けるも気絶中、というか瀕死?】
【まいか 流木にのって。術法レベルアップ】
【岩切 流木をおして泳ぐ】
【時間 四日目昼過ぎ】
【場所 山腹の小さな広場から川へ】
【登場 【ディー】【岩切花枝】【しのまいか】】

191課題が見出される瞬間:2003/12/16(火) 15:03
「待てぇぇぇぇぇぃ! 逮捕するーーーーーー!!」
 どこぞの昭和一桁生まれの警部のような叫びを上げながら、耕一が川の中を疾走していた。というより壮絶な水しぶきを伴ったその姿は『爆走』という言葉の方がしっくり来るだろう。
 追われる水面スレスレを滑空する漆黒の翼の少女――オンカミヤリューの始祖、ムツミは軽く後ろを振り向くが、嘆息を一つ吐いただけで再び前方を見据え、翼に力を込めた。
(参ったね……やっぱり直線の速度は向こうの方が速い。どうしようかな……)
 常人なら鬼の力を全て発現した耕一の姿を見ただけで恐怖に足が竦むところである。が、そこは化け物の類は見慣れたムツミ。
 見慣れたというかお父さんが神様なムツミ。特に臆することもなく、冷静に状況を分析、対抗策を練っていた。
(ちょっとずつ差を詰められてるな……このままじゃジリ貧……空に飛んで……逃げてもさっきまでと同じ。中途半端に浮くぐらいなら地面スレスレを飛ぶ方が向こうも手を出しにくい)
 現在のムツミの高度は耕一の膝以下である。川面で水が弾ければ飛沫が身体を濡らす、そのくらいの高さ。
 しかし逆にこの位置はさすがの耕一も手を出しがたく、タッチをするには身をかがめる必要がある。が、身をかがめるには一瞬足の動きを緩めなければならない。
 そうするとムツミに距離を離される――確かに、下手に空中に浮き上がるよりよほど耕一にとっては嫌らしい位置取りをキープしていた。
(けど本質的な解決にはなってないしな……このままじゃ蹴りとばされるか、あるいはもっと距離を詰められてタッチされるのは時間の問題……
 術……はもう一度使っちゃったしな……さすがに同じ手を二度と使うのはちょっとリスクが大きいね……結局土の術法は効かなかったし)
 語り口は落ち着いているし顔は相変わらずの無表情だが、内心ムツミにしてはかなり焦っていた。
 まぁもっともその微妙な変化を見抜けるのはお父様ズであるハクオロ・ディーの二人ぐらいであろうが。
(どうしたものかな……)

192課題が見出される瞬間/2:2003/12/16(火) 15:04
「ああっ……あああっ……ああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!」
 一際高い嬌声が山間に響き渡った。
「はぁ……はぁ、はぁ……はぁ……どう、ドリィ?」
「オッケーです! MAXいきましたぁ!」
 場面は変わって黒きよ女王様のSM場。先ほどとは代わり、今はグラァが木に四肢をつながれ、やはり背中を腫らして目を潤ませていた。
「よし! 準備完了ね! ドリィ! 即刻グラァの縄をほどき二人で必殺技の準備をなさい!」
「サー・イエッサー!」
 手早くグラァの手足を縛る縄を解いていく。すっかり従僕属性が板に付いたドリィ。
 解放されたグラァはやはり真っ赤な頬で、上目遣いに黒きよの顔をのぞき込んでいる。
「あの……その……黒きよ、さま……」
 しかも股間をもじもじさせながら。
「あの……僕、こういうの初めてだったんですけど……あの、その……」
 ポン、と黒きよはそんなグラァの肩に手を置き、
「安心なさい……」
 聖母の笑みで、
「……上手くあの鳥娘を撃ち落としたら一晩中撲ってあげるから」
 魔女の台詞を言ってのけた。
 しかしたちまちグラァの表情がぱぁぁっと明るくなる。
「はい黒きよ様! 僕、頑張ります! 何としてでもムツミさんをこの川の藻屑と化してみせます!」
 弓を手にしつつ、高らかに叫んだ。
「ああ〜っ、ずるいぞグラァ! お前、さっき僕が撲たれてたのよりず〜っと長く叩かれてたじゃないか! 次は僕だ!」
「嫌だ! 黒きよ様の鞭は僕のものだ! 僕はもっと撲たれるんだ! 罵られるんだ! 嬲られるんだッ!」
「なんだとぉ! そんなわがままが通ると思ってるのかぁ!」
「文句あるのかぁ! なんなら受けて立つぞぉ!」
「言ったなこのやろー! やってろうじゃないか!」
「やらいでかぁ!」
 お互いの得物を構え、一触即発……!
「だまっ! らっ!! しゃーーーーーいっ!!!」
 ……が、黒きよの一喝。たちまち身を強張らせる二人。

193課題が見出される瞬間/3:2003/12/16(火) 15:04
 黒きよはガッと二人の頭を両脇に抱えると、その耳元に囁く。
(あのね……私はそんな口うるさい奴隷を持った覚えはないわよ?)
 とうとうドリグラ、奴隷扱い。
(私が奴隷に求めるのは二つのみ……! いい声で鳴くことと、私の命令に絶対服従することのみ! わかった!?)
(は……)
(……はいっ!)
 黒きよ、ここでにっこりと微笑み、
(ああ……そんなに怖がる必要ないのよ……私だってあなたたちは大好きなんだから……
 ……そうね。ここで上手くやってのければ……今夜は、二人まとめて面倒みてあげようじゃない!)
 キラーン! とドリグラの目が輝く。
(ホ……)
(……ホントですかぁ!?)
(ホントもホント……だからいい? ここは双子喧嘩してる場合じゃないわ……二人一致団結、なんとしてもあの黒娘を殺るのよ!)
(わかりました!)
(必ずや殺ってみせます!)
 ビシッ! と敬礼。
「その意気やよし! 出陣(で)なさい! ドリィ! グラァ!」
「はい!」
「はいっ!」
 意気込み高く、二人はザバザバと川の中ほどまで進み、川底に片膝をつくとキリリと弓を引き絞る。
「……………………」
「……………………」
 目指すは上流の一点。狙うはムツミが姿を見せるその一瞬。
 下僕レベルが上がろうとも、イケナイ快感に目覚めようとも、そこは朱組、蒼組を率いるトゥスクルの武将、ドリィとグラァである。
 水を打ったような静寂とともに、写し鏡のような二人の姿。壮絶なまでの集中力(コンセントレーション)で全神経を目の前の一点に集中させる。
「……………………」
 狙撃準備は、整った。

194課題が見出される瞬間/4:2003/12/16(火) 15:04
(――――来る!)
 耕一は『感じ』た。
『何を』かはわからないが、『何か』を感じた。
 ――――実際のところ言えば、それは勝負への賭けに出たドリグラの『覚悟』をエルクゥの本能が感じ取ったわけだが――――
 それをロジックとして受け止められるほど、耕一の勘は鋭くなかった。
 しかし、それでもわかった。『決着の時』が来たことを。
(――勝負を決するのは……今! ここだ! ここしかないッ!!)
 確証のない確信。しかしそれは引き金を引くには十分すぎた。
「……ォォォォ………ぉおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!」
 一際高く、高すぎるほどの獣の咆吼。
 空気が泣き、川面が暴れ、崖が震え、森が叫ぶ。
 全ての生あるあるものが本能的な畏怖を感じるほどの底知れない咆吼。
 吠えたくる最後の声とともに……
「鬼の力全開! 100パーセント中の100パーセントぉ!!!」
 耕一の筋肉がさらに質量を増した。短時間の、だがしかし肉体限界を超える120パーセントの力。
 冗談抜きに音速の壁を破るほどの勢いで、一足にムツミへと迫る。

「まだ速く……!?」
 ここに来て初めてはっきりとムツミの表情が歪んだ。
 後ろの鬼はさらに一回り大きくなり、そして矛盾することに速度を上げた。
 まずい……このままでは、終わる!
「なら……! 力は抜かないよ!」
 くるりと空中で半回転。両手を迫る耕一の巨体に向かい、かざす。
「火神招来! 我が剣となれ! 土神招来! 我が盾となれ! はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
 両手それぞれ違う四神の力を収束、法力を全力解放。
「火の……術法!」
 空気を切り裂くように右腕を振り抜く。刹那、巨大な炎が耕一の身体に襲いかかる。
「土の……術法!!」
 貫くほどの勢いで左腕を川底に叩きつける。刹那、先ほど以上に巨大な岩盤が一枚岩となり、耕一を押しつぶさんとする。

195課題が見出される瞬間/5:2003/12/16(火) 15:05
「来るか! 来たな!! 来たか!!! だが……この程度!!!!」
 耕一。二本の豪腕を眼前で交差させると、炎の渦に飲み込まれる直前、一気に振り抜く。
「ッ!? また無茶を……!」
 ムツミの眉間に皺が刻まれる。耕一は振り抜いた腕で無理矢理つむじ風を発現、強制的に炎の渦に『切れ目』を作り、抜けた。
「そして……岩か……だが、それが……どうしたァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」
 耕一は右腕に全ての力を込める。
「いい加減にしてよ!」
 とうとうムツミが叫んだ。しかし……今度は彼女も黙ってはいない。翼の動きを止めると、自らが作り上げた岩壁。垂直に切り立ったその壁に、両の足を接地した。
(……吉と出るかなそれとも凶と出るかな!)
「エルクーーーーービックバーーーーーーーン・アターーーーーーーーーーーック!!!!」
 ネーミングセンスの欠片もない技名とともに、耕一が全てを込めた右腕を振り抜いた。
 ダイヤモンドすら木っ端微塵に砕きそうなその拳。いかなムツミの作り出した岩盤といえど、紙に等しく貫き……
「……ッ!?」
 違和感。僅かな、否、僅か故に強烈な違和感。
 振り抜いた右腕。正確には右の拳。難なく岩を砕いたその拳に、強烈な違和感が。
 岩を砕いた。それはいい。
 だが、『一枚隔てた向こう側』に『何か柔らかいもの感触』が!!

196課題が見出される瞬間/6:2003/12/16(火) 15:05
「賭けは私の勝ち!」
 砕け散った岩の壁。その向こうに耕一が見たのは、空中を壮絶な勢いで回転しながら空気を切り裂き、崖の奥へと向かうムツミの姿。
「……まさか!」
「そう! そのまさか!」
「……俺の拳で加速した、だと!?」
「ごめんね……正攻法じゃ追いつかれそうだったから! それじゃ!」
 だが所詮は他人の力、借り物の力である。加速している時間自体はそう大したことはない。
 大したことがあるのは……その『瞬間最高速度』である。
「くっ!」
 思わず耕一が目を覆う。ムツミが去った一瞬後、川面が爆裂するように弾け、そそり立った水柱が崖の頂上を遙かに超えた。
 さらに尋常ではない衝撃波が耕一の身体を洗う。
「だが……まだだ! 陽気な気のいいアンちゃんである俺こと柏木耕一は諦めない!」
 再度地を蹴り、だいぶ小さくなったムツミの背を追う。
「最後まで……諦めないィィィーーーーーーーーーーーーーっ!!!! 決してな!!!!!」
 全力で、追う。

197課題が見出される瞬間/7:2003/12/16(火) 15:06
 ある程度耕一を引き離したムツミ。『ある程度』と言ってもそのアドバンテージは1秒少々でしかないのだが。
 だがこの極限の戦いにおいて1secの価値はあまりに思い。
 ある程度川の広がった空間。変わらず周囲に崖はそそり立っているが、空間転移の前には意味を成さない。
「ふぅ……はっ!!」
 バッ! と翼を広げ、中空に停止。
 限界を超えた速度を支えた両翼から『澱み』を振り払うように、最後に一際大きく一回転、法力を収束しつつ、なにげに前方を見やる――――

 ――――ムツミは忘れていた。
 いや、耕一との追撃戦があまりに激しく、思い出す暇が、考える時間が無かった、と言う方が的確である。
 己が翼を休めたそこ。その場所。そここそは――――

「来たわよ! ドリィ! グラァ! ……」
 目に飛び込んできたのは、川の中心に居座るドリィ、グラァ、そしてその直後の黒きよみ。
「臨める兵闘う者、皆陣烈れて前に在り!!!」
「南無八幡大菩薩! この矢外させたもうな!!!」
 きよみが、鬨の声高らかにその鞭を振るう。
「…………てぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーいッ!!!!」

 ――――最初、己が目覚めた場所だったのだ。


【ムツミ 空間転移で逃げんとするも、挟撃を喰らう】
【ドリィ・グラァ ムツミの前方より一斉射撃】
【耕一 ムツミの背後より迫る】
【黒きよ 薙ぎ払え!】
【瑞穂 そのへん】
【登場 カミュ(ムツミ)・【柏木耕一】・【藍原瑞穂】・【杜若きよみ(黒)】・【ドリィ】・【グラァ】】

198るみまんが七瀬 改訂版:2003/12/17(水) 21:14
沢渡真琴は気がつけば、学校の廊下にいた。
「あぅー、ここどこ? なんでこんなところにいるの? 肉まんは?」
そう言ってあたりを見回す。そこにあるのはありふれた学校生活の一ページ、休み時間だった。
気付けば真琴も制服を着ている。丁度先ほど捕まえた澪と同じ制服だ。
「あぅー?」
何がなんだかよく分からないが、真琴は廊下を歩いた。
すると、遠くに他と違った黄色の制服、そして青いツインテールが見えた。
「あれ? 七瀬?」
そこにいたのは我等が漢、七瀬留美。
「七瀬ー」
真琴はその背中に呼びかける。だが反応がない。向こう側を向いたまま立ち尽くしている。
「七瀬ー?」
すぐ後ろまで近寄って呼びかける。だが反応がない。
「あぅー……そうだ」
真琴はツインテールの左側に手をかける。くいと引っ張って上に持ち上げた。

ぴょこん。

両方のツインテールが持ち上がった。


上月澪は気がつけば、学校の廊下にいた。
いつもの学校の廊下だが、窓からの風景が少々違う。どうやら2年生の階のようだ。
澪はとりあえず廊下を歩く。すると、一つの影が見えてきた。
黄色の制服にツインテール。先ほど自分を追いかけてきた七瀬留美だ。
何故、今学校にいるのかよく分からなかったので、とりあえずそのことについて訊ねてみる事にした。
くいくい、とちょっと強めに袖を引っ張って呼びかける。

ぽろり。

リボンごと、ツインテールがそんな音を立てて落ちた。

199るみまんが七瀬 改訂版:2003/12/17(水) 21:14
里村茜は気がつけば、学校の教室にいた。
いつもの学校のいつもの教室。どうやら今は休み時間のようだ。
確か自分は鬼ごっこの最中で、落とし穴に落ちているはずだからこれは夢だ、と自覚する。
学校の夢を見るなんて随分珍しい、と思いつつ視線を横にやる。
すると、先ほどまで自分を追っていて、浩平の言を認め、鬼と認定した七瀬留美の机の上に大きな箱が乗っていた。
妙に興味をそそられて、七瀬の机まで行く。
七瀬が自分を認めて、こちらを向く。
「どうしたの、里村さん?」
「七瀬さん、これは何なのですか?」
「ああ、これ?」
七瀬は机に向き直ると、箱の蓋を開ける。
中から出て来たのは、青く、先のほうになるにつれ細くなっていく奇妙な物体。太い方にリボンが括りつけられている。それが2本。
「……何ですか、これ……」
怪訝な顔をして茜が訊くと、七瀬はカラリ、と笑ってツインテールに手をかけ。
がきり、と外し。

「新しいのよ」
と言うと。

がちん、と元あった場所にはめた。


倉田佐祐理は、何もない真っ白な地面と、一面に広がる青い空、そんな空間に佇んでいた。
「ここは……?」
呟いてあたりを見回す。すると、地面に影が差した。
上を見上げる。なんと、先ほど自分を引っ張り上げて穴に落ちた七瀬留美が飛んでいた。
ツインテールをくるくるとプロペラのように回転させて。
一瞬呆然としたあと、佐祐理は七瀬に呼びかけた。
「七瀬さんはなんで飛ぶんですかー?」
七瀬は何度か自分の周りを8の字に旋回した後、
「乙女だけどー」
と、要領を得ない返答が帰って来た。
すぐに七瀬はツインテールの回転を落とし、佐祐理の前に立つと、
「佐祐理さんも飛ぶ?」
と訊いてきた。
「え、飛べるんですか?」
思わず佐祐理は訊き返す。
「はい、これ」
かちゃん、とリボンごとツインテールを外すと佐祐理に差し出した。
「これをつけると飛べるわよ」
「は、はぁ……」
いまいち状況がつかめないままそれに手を伸ばす。
「どこまでもな」
その瞬間、妙に甲高い不気味な声がそのツインテールから聞こえる。
佐祐理はびっくりして、思わず手を引っ込めた。
「え、いらないの? 折角飛べるのに」
七瀬はツインテールを元あった場所に、かちゃんという音を立てて戻す。
「なんやっちゅーねん」
先ほどの声がはめ戻したツインテールから聞こえる。
(……ま、まさか……七瀬さんはアレに操られて!?)
嫌な予感がした佐祐理は、思わず叫んだ。
「七瀬さん! 助けます!」
振り向いた七瀬の頭から強引にツインテールを取り外す。
がきん、というさっきよりも幾分か鈍い音が聞こえてそれが外れた。
その瞬間。

七瀬の瞳から生気が消え。
ぱたり、と倒れた。

200るみまんが七瀬 改訂版:2003/12/17(水) 21:15
「え、え、え、え、え?」
佐祐理は訳がわからず動転する。
「ま、まさか……」
――死んだ?
「えぇー!? そ、そんな……」
そういえば、さっきとは音が違ったような気がする。何かが壊れるような鈍い音。
つまり。
「外し方が……間違ってたんですね……ごめんなさい、七瀬さん……」
ああ、私はなんて最低なんだろう。そんな自責の念が佐祐理の心中を支配する。
「私なんか……私なんか……どっかに飛んでいってしまえー!」
がちゃん、と自分の側頭部にツインテールを装着した。
ぱたぱたぱた、とツインテールは回転し始め、佐祐理の体が宙に浮く。
「どこ行くのー?」
そんなツインテールの声と共に、佐祐理は何処かへ去っていった。
ツインテールのなくなった七瀬の身体を残して。


場所は穴の底。そこには5人の人間がいる。
その穴はちょっとした喧騒に包まれていた。
「え? え? え? 七瀬のアレって持ち上がるの?」
キョロキョロあたりを見回しながら自分のツインテールをいじる真琴と。
『うわぁ』『なの』『うわぁ』『なの』『うわぁ』『なの』……
意味の分からない事をスケッチブックに書いていく澪と。
「……アホですか? 私……」
呆れかえった顔でほぅ、と息をつく茜と。
「何なんですかー! 今のはー! 七瀬さんは飛べるんですかー! ていうかツインテールはみんなそうなんですかー!」 
混乱状態でちょっと意味不明なことを叫ぶ佐祐理と。
(クスクス……ちょっと電波で悪戯してみたけど、面白いなぁ。あとで七瀬ちゃんに謝っておこう……)
笑いをかみ殺している瑠璃子がいた。
ネタは最近読んだ漫画だ。七瀬のツインテールがなんとなくハマったから使ってみた。
要は退屈した瑠璃子のちょっとした悪戯だったらしい。


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