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改訂版投下用スレッド

161恋慕の袋小路・改定版/9:2003/12/05(金) 03:15
 千鶴の突進と共に突き出された凶器のような右手を避け、楓は走り出す。
速さでは自分に若干分がある、それは知っていたが、相手は文字通りの『鬼』。
完全に撒くまで走っていては、その後に他の鬼にあった場合に消耗しきっているだろう。
それを避けるためには――短期決戦。
楓は冷静にこれからの勝負の事も見通していた。
そのためには、森に入り、自分の速さと、仕掛けられているであろう罠を利用して撹乱するほうがいいことを、既に作戦立てていた。
その手は、自分が鬼達に対してしたことであり、決して無謀な計画ではない。
そしてそれは、皮肉にも敵対者・千鶴が、かつて自分と行動を共にしていたリサ・ヴィクセンに仕掛けられた事であった。
といっても、後者については楓は聞いていないので知る由も無いが。

――森に向かっている。
千鶴もそのことに気付いていた。
走っている方向もさることながら、『鬼』ことエルクゥには共感という能力がある。
楓の思考は、わずかながら千鶴に伝わっているのだ。
そして、それに大して千鶴は、不敵な笑みを浮かべ、走り続ける。

――笑っている!?
楓は、後ろを振り返ることなく悟っていた。エルクゥの共感能力は、楓にも勿論あるし、しかもその能力が高い。
――森は避けた方がいいの……?
少しの逡巡。
が、真剣勝負のこの場、迷いは禁物。考えている間に少しでも速力が落ちると、千鶴は差を詰めてくる。
結局、作戦を変えることはせずに走り続ける。
やがて風景が流れ、森が近付き、空を舞い地から枝へ、枝から枝へと飛び移る。
千鶴との差は徐々に開いていき、あとは罠を利用して逃げ切る……筈だった。
しかし千鶴は遅れることなく付いていく。それどころか、質量の差を活かし、枝の反動を大きく使い、確実に差を詰める。
その事実に気付いた楓は、一瞬動きを止めてしまう。

「なっ!?」
「伊達に、1日中森を走っていたわけではないわよ、楓!」

その隙を見逃さなかった、千鶴の手が、楓に届く、その瞬間だった。
影がふたりの間に割り込んだ。


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