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持ち帰ったキャラで雑談 その二

378食人鬼の滅亡:2008/08/14(木) 12:20:29
常に一流の庭師によって手入れがなされているこの朝の空中庭園の石畳に馬の蹄の音が響き渡る。
銀河皇帝と帝国軍参謀総長の朝の日課によるものだ。彼らはこの地上数km.の楽園を一周してから、
それぞれの家族とともに朝食を摂る事を好んでいる。馬首を並べている間の主な話題は他愛ない世
間話だが、重要な話もさりげなく盛り込まれることもある。

「こればかりは別だろうね、バスト大将軍」
「アンザーティですか、確かに彼らは問題ですね」

アンザーティとは人間に非常に酷似した種族であるが、マインド・テレパシーで犠牲者を魅了し、両頬
に隠された触手で脳味噌や生命エネルギーを吸収する、恐るべき食人鬼である。その能力を活かし
て彼らは暗殺者として銀河社会に参加しているが、捕食される側からすればたまったものではない。
しかし、人間にとって幸運なことに現在の銀河の表社会は人間が圧倒的な勢力を誇り、かつて無い強
大な中央集権国家を築いていた。

『滅ぼすなら今しかない』

上から下までがそういった考えに囚われ、皇帝も例外ではなかった。しかし、いつの時代にも大義名分
は必要である。いきなりの虐殺は到底支持を得られないだろう。そこでいくつか下準備を始めていた。

「して、どのような手を打たれましたか?」
「アンザートに環境ホルモンを密かに工作員に撒かせている。出生率が格段に落ちるだろう。
それから、人間中心主義者に密かに支援を与え、論壇で攻撃をさせている。市民達も影響さ
れている」

彼らは普段銀河を放浪しており、母星には繁殖の時にだけ帰る性質がある。その為、出生率が下がれ
ば多くの者が帰還することになる。また、プロパガンタによって多くの支持を取り付けることも必要だ。即
位したばかりの彼の権力基盤は磐石とは言い難い状況にある。

「陛下、自分の嫌がることは人にはなさらないのが信条では?」
「ああ、『人』にはね」

美しい女性に自らの子を宿させることを楽しみの一つとしている彼への少しきついジョークとして参謀総
長は言ったが、返ってきた言葉も辛辣なものだった。無論、それは食人鬼達に対してであって、彼ら2人
には朝の頭の体操とユーモアでしかなかったが。

数年経ち、予想通り大半のアンザーティがアンザートに集まった。しかし子はできず、できない以上は星
を離れるわけにはいかない。更に帝国は近隣の惑星を焚き付けてアンザートへ侵攻させた。彼らも独自
の防衛軍を組織し、これらと戦ったが、全て帝国の掌の上で踊らされただけだった。

皇帝の息のかかった議員達のアンザーティ達に圧倒的に不利な紛争調査報告、それに伴う、アンザート
の武装放棄勧告、帝国軍の駐留。ここに来てやっと彼らは気がついた。

『帝国と人間に嵌められた』

より一層の軍備拡大と、駐留軍に対するテロを彼らは仕掛けた。直ちに帝国はキラヌー大提督とズィアリ
ング大将軍を総司令官とする遠征軍を派遣し、圧倒的な軍事力で彼らの掃討を開始した。彼らは女子供
に至るまで無慈悲なストーム・トルーパーやスター・デストロイヤーと戦ったが、刀折れ矢尽き、名立たる
都市は灰燼に帰し、皆殺しにされた。更に帝国軍は撤収時にアンザートの大地に塩と放射性物質を満遍
なく、幾層にも渡ってばら撒き、永遠に不毛の地とした。ここに食人鬼は永遠に消滅したのである。

「君は料理も堪能だね、ローストビーフのサンドイッチは最高だ。仕事の後ならなお格別」
「乗馬の後に朝食か、実に優雅な嗜みだな大将軍」
「恐れ入ります両陛下」

朝の庭園には花や木のかぐわしい香りと食事の香りがいつまでも漂っていた。

379滅亡から再誕へ:2008/08/15(金) 01:17:54
荒廃した地面を踏みしめながら、男が進む。
いまだに毒を巻き散らし、生きる者の命を蝕む死の大地は―だが汚染をもろともしない彼の様な者にはむしろ身を休めるのに最適の場所だった。
息を吸い込めば、漂う毒が体の隅々まで染み渡る感覚を彼は夢心地で楽しんでいた。
死を招く毒ですら男にしてみれば酒のように甘美で、体を震わす甘いうずきについ力を振るいたくなり―息をつく。
まだ仕事の最中だ。"酒"に酔うのは仕事の後の方が良かろう。
鼻唄混じりにざらつく地面を踏み砕きながら、軽い足取りで進んでいく。


やがて男の足が止まる。
眼下には岩の山が広がり、気を付けて見なければそれらが建物であったことすら判別出来なかった。
男はしばらく瓦礫の山を見下ろしていたが、やがて地面に腰を降ろし、何かを招くように手を動かす。
「……こい」
陽炎が瓦礫の間で揺らめく。
男の手招きに誘われる様にゆらゆらと揺れながら、ひとつ、ふたつと男の元へと動き出す。
「こい」
それは地面から起き上がるように現れ、次々に集まり―やがてそれらがひとつの形を形成していく。

男は既に手招きを止め、陽炎達の集合体をじぃっと見つめていた。
そうして、肌がざわめくのを止め、ひとつの決まった形を成した頃、
男はようやく立ち上がり、地面にうずくまるそれを見下ろし―静かに笑った。

「再誕、おめでとう。そして、ようこそ―」

380デリコート将軍の乱:2008/08/16(土) 12:14:18
草木も眠る丑三つ時、と古来より言うが忙しい銀河の支配者も眠る時間である。平時ならば。
ニモイディアンのデザイナーに設計させた優美な装飾と、人体工学によって寝心地を極限まで
追求したベッドはまさに一握りの者の為に用意されたものだ。しかし、取り巻く環境は往々にし
てそれを相殺してしまう。枕元のインターコムが突然鳴り響いた。両脇に一糸纏わぬ姿で寝て
いる王族と貴族出身の寵妃をよそに、長年の習慣ではたと目を覚ます皇帝。

「ピエットだ」

残る眠気のせいで幾分不機嫌な調子で応答するが、返ってきた声は切迫していた。もっとも、
切迫した用件以外で夜中に皇帝を叩き起こした者が朝日を拝むことはできないが。

「反乱です、我が皇帝!」
「なんだと…?そんなことで…」

広大な帝国領には反抗的な惑星や野心的な総督や将軍、提督の支配する星系もある。その
為、反乱はいつ起きてもおかしくは無いが、普通は隣の星系の軍、大規模なものなら宙域・宙
界総督が鎮圧し、その後に報告をすればよい。インペリアル=センターにこのような粗忽者が
配属されるとは世も末と思ったが、話し手がすぐに変わった。

「エーシェン将軍です陛下」
「将軍、君が何用だ。まさか反乱がここで起きたなんてことではあるまい」
「そのまさかです、陛下!」

タール=エージェン将軍はインペリアル・パレス内外の防衛を任されている、いわば近衛将軍
である。その彼が直々に反乱の報告などおかしいと思ったが、ここで起こったのなら話は別だ。
当然、彼の管轄内である。

「…そんなまさか。誰なんだ…誰が首謀者だ」
「デリコート将軍です!」

呻く皇帝。だが、疑問は無かった。エヴァー=デリコート将軍は前情報部長官イセイン=アイサ
ード派の、もっと言えばパルパティーン派の将軍だ。クレンネル大提督の反乱に続き、寛大な
彼の心はまたしても踏みにじられたのである。

「今の状況はどうなっている?」
「4つの城門で押しとどめておりますが、援軍が無ければ危険です。正門は大将軍皇后陛下が
自らソヴェリン・プロテクターの一団を率いて防戦しておられます」
「な、何ィ〜!?何故止めなかった!」

ソヴェリン・プロテクターはロイヤル・ガードの中から更に慎重に選抜され、ダークサイドの加護
を付与された恐るべき戦士達である。ロイヤル・ガードが100人力ならば、彼らは一騎当千という
言葉が適当であろう。彼らが付いているとはいえ、愛妻を死地に送ったことを彼は咎めた。

「いえ、反乱の第一報を受けるや戦装束でお出ましになり、そのまま往かれましたので…」
「なんたることだ…いや、最早将軍、君を咎めまい。今すぐ司令室に向かう、君と作戦スタッフを
召集するんだ」
「仰せのままに、我が皇帝」

ベッドから身を起こすと、流石に相次ぐ大声で目を覚ましていた2人が身支度を手伝い、大元帥
の制服を身に着け、クララはそのままロイヤル・ガードとして司令室に同伴していった。後に残さ
れたティータは窓の外の戦闘によってか、反乱軍の蛮行によってか、火災の起こるインペリアル
シティの市外を虚ろな瞳で眺めていた。

381デリコート将軍の乱:2008/08/19(火) 16:28:44
既に司令センターの作戦室内にはエーシェン将軍以下、各所の防衛部隊の司令官や
将位を持つ参謀達が集結し、大元帥の制服を着て現れた皇帝を迎えた。

「将軍、状況のまとめを」
「はっ、デリコート将軍麾下のストーム・トルーパー4個師団が包囲中です。機甲大隊や
自走砲大隊も含まれており、火力は極めて優勢です。この他にアーミー・トルーパーの
2個大隊が市内の制圧にかかっております」

インペリアル・パレスを守るのは近衛1個師団とロイヤル・ガードが200名、ソヴェリン・
プロテクターが10名である。防衛には十分だが、敵が数では遥かに優勢である以上、
撃攘することは困難であろう。

「市民を押さえつけるか…人質探しか…高官達はどうなのだ?」
「アロー副議長とバスト参謀総長、バゼーヌ総督の行方が――今、アロー副議長の安
否確認が取れました、軌道上のインペリアル・スター・デストロイヤー『スリンガー』に収
容されたそうです」
「となると2人か…まずいな」

インペリアル=センター総督のバゼーヌは市民に人気があるので人心収攬の観点か
ら捕まっても殺されることは無い、と彼は考えたが問題はバスト参謀総長である。彼
は皇帝の側近であり、新体制の熱心な支持者である。彼の首はどのような反体制プ
ロパガンタよりも価値があり、効果的だろう。

「まあ、今は手の出しようが無い。夜明けまでには各地から援軍が到着するだろう」
「はい」
「オキンス提督には連絡が取れたか?」
「はっ、半日で到着するそうです」

幸い、インペリアル=センター各地の駐屯地への連絡は可能であり、司令官達に連絡
はついていた。未知領域への援軍に向かったオキンス提督も引き返せる。デリコート将
軍が思慮に欠ける人物であったことが幸いしたおかげでまたしても帝国は延命に成功
した。もしもスローン大提督のような天才的な策士が起こしたならば、コトは確実に運ん
だだろう。クーデターとは、あらゆる外的圧力を排した状況下で速やかに行われてこそ
成功するものである。彼には全てが欠けていた。

「そうか、正午まで頑張れば我々の勝利確実だ。専守防衛に努めよ、市民には我らが
いまだ健在であることを放送せよ、反乱軍への揺さぶりを忘れるな。各員、それぞれの
職責を全うするように、帝国万歳」
『帝国万歳!』

皇帝が徹底抗戦を命じたことで俄かに司令官達の士気が上がったように見えた。恐らく
それは彼らを通じて末端の兵士にまで行き渡ることだろう。援軍が到着次第、皇帝は反
乱軍のパージを命じ、その時に士気は最高潮に達する。司令官達は心中密かに反撃の
機会を待つのだった。

382歌・上:2008/08/21(木) 21:50:11

 ――Forever…
 ――Tears fall, vanish into the night
 ――If I'm a sinnner…
 ――Chivalry, show me the way to go

「――本当に」
 静寂だった空間に、声という亀裂が走る。
 静寂。亀裂が走るまで歌声が響いていた空間を、しかしそう称せずにはいられない。
 鼓膜を震わせる不快を忌み、心へと直に響いてくるような。
 空気よりも自然に世界に馴染み、呼吸するだけで全身に染み渡るような。
 それは歌よりも根源的な何かを孕んだ、しかし紛れもなく歌そのものだった。
「歌声だけだと誰だかわからないわね」
 その歌声は、しかしもう届かない。
 今この時、歌を媒介にして世界の一部を確かに紡いでいた『それ』は、
大きな瞳をさらに見開いて声の主を見つめている。
「意外? 私がここにいることが」
 わずかに顔にかかった真っ青の髪を手で梳き、代理人は『それ』を見遣る。
『それ』。それはまさに『それ』であり、と同時に、
「――アスミ」
 代理人とは対照的なピンク色の髪を下げた、ただの少女だった。

 アスミは人前では歌わない。
 それは彼女の歌の腕前以上に、皆の間に知れ渡っている周知の事実だった。
 歌う場所は専ら地下室で、それも誰かが入るとピタリとやむ。
 ただ地下室には通気のためにいくつも空気穴があり、その一つが部屋に直接
繋がっているため、時折アスミの歌声を耳にすることがある。
 それを聞いた誰もが最初に思うのは、
『――これは一体誰が歌っているのか』
 つまり、それだけ歌っているアスミの声は印象が異なるわけだ。
 アスミが歌うところを見た者はいない。
 とある一件から、葬送歌を紡いでいるところを目の当たりにしたリディアと。
 今この瞬間の、代理人を除いては。

383歌・中:2008/08/21(木) 21:53:37
 大きな瞳が代理人を覗き込んでいる。
 そこに湛えられる光は、驚きと――好奇心か。
「青いのー」
 ぴっ、と代理人を指さして、
「いなかったー、いるー、なんでー?」
「陳腐な表現で申し訳ないけど、私はどこにでもいるの。文字通りにね」
 主語の存在しないアスミの問いかけを、どうやら代理人は理解しているらしい。
「どこにでもいるー、たくさんー?」
「もちろん私は一人だけよ。ダメージを受けると増殖するスキルなら随時募集中」
「たくさんー、ここにもたくさんー、あっちにもたくさんー」
 言って、代理人を指し示した紅葉のような手のひらを、虚空に向ける。
 虚空。言葉の通り、そこには何もない。何も、だ。
「……そう。見えるのね、アスミは」
 わずかに代理人が眉を落としたように見えたのは、果たして錯覚か。
「たくさんいるー、みんなさみしー、いっしょに歌うー」
 くるくると回り始めるアスミ。
 そんな奇行は今に始まったわけではなく、むしろいつも通りなので、
当然のように代理人は気に留めない。
「そうね。貴女の歌はそのためにあるんだもの」
 もっとも、代理人の場合気に留めるものが存在するのかどうか。
「歌ってバイバイー」
「そうやって『彼』ともお別れをしたの?」
 ぴたりと。
 発条の切れた人形のように動きを止めたその体は、首だけを代理人に向けていた。
「お別れ?」
「そう、お別れ。もう会えないことを告げること」
 首を傾げる。理解できないというジェスチャー。
 アスミに限って、惚けるなどという選択肢はない。
 知らないと言えばそれは彼女の知らないことであり、
理解できないと振る舞いで示せばそれは彼女には理解できないことなのだ。
「してないよ?」
「そう」
 故に、していないと言うのなら、していない。
 だがそれに続いた言葉は、代理人の予想を超えていた。

「ここに、いるから」

384歌・下:2008/08/21(木) 21:55:52
 沈黙が場を支配した。
 それは静寂と呼ぶには重苦しく、静謐と呼ぶには世俗的で。
「どーしたー?」
 ぱたぱたと。
 代理人に駆け寄ったアスミは、頬を引っ張ったり抱きついたりして彼女の反応を
窺っていたが、彼女自身が自発的に動こうとするまで代理人は眉さえも動かさなかった。
「――そう」
 再び、前髪を梳く。
「しょせん私の持ち物は、一部でありすべてではないということなのね」
「一部ー、すべてー、たくさんー、ひとつー?」
 またくるくる回り出そうとしたアスミの頭を代理人はおもむろに掴んだ。
「きゃー、青いのはなせー」
 途端にバタバタと暴れ出す。
 自分からはひっついてくる割に、他人から触れられるのをアスミは嫌う。
 代理人の手が届かない安全圏まで逃げ出すと、
己の無事を確認するようにふるふると身を震わせた。
「おなかすいたー、ごはんだー」
 それはモードの切り替わる合図。
 こうなるとアスミは理性よりも食欲を優先するようになるため、
何を聞いてもまともな返答が返ってこなくなる。
 その度に苦労するのは姉役のリディアだったりするのだが、まぁそれはどうでもいい話。
 食べ物を求めて姿を消したアスミにより、残されたのは代理人一人。
 一人、のはずだ。

「偏在を非とし、遍在を是として私をここに置きながら。
 ――それでも未練を捨てることは出来ないとでも言うの?」

 その言葉を聞いた者は、誰もいない。
 誰も。

385正義の名の元に:2008/08/21(木) 22:48:45
正義。これほど胸くそ悪くなる言葉を彼女はいまだに知らない。
正義の名の元に。彼女の居た群れは幾重もの武器で斬り刻まれ、無へ還った。
そうして庇護を失いはしたが、とりあえず生きていく術は覚えていた。
幼子の姿をその手段に、彼女は独り生きた。

だから、という訳ではないが、正義を口に戦いの火種を巻き散らす彼らの姿は至極滑稽であった。

正義の名の元にあるならば。人は敵という名の人を殺せる。

正義の名の元にあるならば。あるものを崇拝する者達は他の者が信ずるものを悪魔と呼び、排除出来た。


人が正義を口にすればするほど正義は血と怨みを纏い―闇となる。

「本当なら…歓迎したいけど」
身の丈以上ある巨大な鎌を手に、彼女は眼下に広がる敵達の陣を無表情に見つめた。
「胸くそ悪いから、退場願うわ」
その背後には無数の目が静かに、狂気を孕みながら漂っていた。



夜が降りてくる。
ただその一言を残して、市街の制圧に向かっていた2個大隊が消失した。


「後は…そちら次第ですわ、ねぇ?」


―人間のお父様…

386もう一つの大会:2008/08/30(土) 08:49:54
夏の名物と言えば夏の甲子園こと、全国高等学校野球選手権大会が行われる。
高校球児たちが野球の聖地と言われている甲子園で
優勝を目指すドカベンでもおなじみのあの大会だ。
そして2008年8月18日、決勝戦で大阪桐蔭が常葉菊川に対し、
打線が大爆発、5回表までに6点を取っていたそのころ、
ドカベンの舞台として有名な保土ヶ谷球場、
正式名称神奈川県立保土ヶ谷公園硬式野球場で
試合の始まりを告げるサイレンが鳴っていた。

だが、相手はいなかった―。

相手求む!資格はわいの豪球打てる人や!

かくして平成の藤村甲子園のひとり試合はスタートした―。

387緋色を背に、魔は嗤う:2008/08/31(日) 21:46:03
人々の奏でるオーケストラが彼女の周りでそれぞれの音をあげる。
自らに敵う者など、この世界にいない。
そう信じて疑わなかった者の奏でる音楽はなんと甘美なことか!
揺らめく炎に髪をなびかせながら、通りを進んでいく。
それが罪である、と自身が警告を発する。だが、今となってはそれらに自分を止める力は無きに等しい。

ここは戦場。居るのは、敵という名の他人。

生きて明日を迎えるか、死して幕となるか。

ここには正義も悪もない。あるのは破壊と殺戮。
「さあ」
生き残った“敵”へ微笑む。最も彼らには死をもたらす狂った笑みでしかない。
「音楽会を続けようか」
遙か遠くに忘れてきた暴威の前に彼らは震えるしかなかった。

幕が下りる。

地面に転がった肉に何の疑問を持たずに手を合わせる。
「終わったかしら?」
目の前に降り立った少女にため息をつく。
「死体に乗るなっての」
その言葉に彼女は驚いたように目を丸くし、からかうように口を歪めた。
「おかしな人、あなたが殺したんじゃない」
思わず肩をすくめる。
「習慣よ、日本人としてのね」
いよいよ少女は声をあげて笑い出す。
「滑稽だわ!破壊と殺戮を好みながら、まだ魔に染まりきっていないとは!」
「二面性に富んでいると言ってほしい」
腹を抱えて笑う少女に通りの向こう側を示す。
駆けつけたのであろう、新たな敵の姿がそこにあった。
「あきないわね」
「そうね」
哀れな生け贄を見つめながら、二人の魔は嗤う。


夜明けはまだ遠い

388デリコート将軍の乱:2008/09/01(月) 08:07:05
インペリアル=センターの炎に焦がされた空が段々白んできた。あげ雲雀なのりいで、かたつむり
枝を這い、神空にしろしめす。下で人間が命のやり取りをしていようが、保身や野心に躍起になっ
ていようが、朝は決まった時間にやってくる。そして、今この世で一番の保身に奔っている皇帝は
睡魔を撃退する超兵器の9杯目にとりかかっていた。

「あー…味も分からなくなってきた…クララ、オーダー66発令宣言の草案はできているのかな?」
「まもなくできあがるって」
「そうか、清書次第目を通して暗記しよう」

彼は宇宙軍出身の為、これといってやることが無い。その為、防衛の状況よりもこちらの方が重要
なのである。

もっとも、防衛の状況も気にする必要は無かった。いくら兵数で勝ろうとも、優秀なストーム・トルー
パーを選抜した近衛師団と百人力のロイヤル・ガード、一騎当千のソヴェリン・プロテクター達、そし
て堅固な城壁と強力な防御火力の前にクーデター軍は手も足も出なかったのである。

更に僥倖が、敵にとっては悲報が舞い込んだ。警察部隊からの報告によると、市内を制圧に向かっ
たクーデター軍が原因不明の壊滅をしたとの情報が入った。誰もが喜びと疑問の混じった顔をして
いたが、皇帝と彼の側室にはすぐに誰がやったか見当がついた。

「ヤラちゃんだね…」
「ああ、戦うのは大人の仕事だと何度言っても聞き分けの無い…」

銀河帝国第2皇女ヤラ=ピエット。彼女は公式には惑星アクシリアの名門軍人の一族から貰い受け
た養子ということになっているが、上層部では彼女が破滅をもたらす闇の一族のダークマターである
ことは公然の秘密である。その常軌を逸した戦闘力は人間の及ぶところではない。それでも皇帝と
皇后は彼女を実の娘同然に愛し、人としての生き方を教えてきた。だが、まだまだ彼女は学ばねば
ならないようだ。

389デリコート将軍の乱:2008/09/01(月) 08:17:28
そして夜が明けた。インペリアル・プライムが四天を遍く照らし、黄金の光に摩天楼が包まれる。そし
て四方からストーム・トルーパーやアーミー・トルーパーを載せたシャトルの大編隊や兵員輸送車の
姿が現れた。実質的に愚か者の将軍に反乱の失敗を思い知らせる光景である。そして追い討ちを
かけるように皇帝の玉音放送がインペリアルシティ全域に放送された。

「おはよう、善良なる帝国市民の諸君。今、諸君らの血と汗の結晶、そして諸君ら自身の安寧が愚
かなる反逆者によって攻撃されている。だが、案ずることは無い。我々の国防軍は諸君らを保護し、
反逆者を一掃する為に必要なあらゆる手段を講じている。よって君達市民が武器を取る必要は無
い。だが!諸君らは心で抵抗を行ってもらいたい!軍人は矛で!市民は心で!それぞれの持てる
もので敵のあらゆる面に対して徹底抗戦しなくてはならない!今こそ私はその旗手となって最前線
で戦おう!ここにオーダー66を発令する、軍民一体となって、我らの繁栄を邪魔する者に死の代償
を払わせるのだ!」

皇帝の熱弁と健在のアピール、そして完全なるパージが発令されたことでクーデター軍の戦意は消
沈し、投降する者や逃亡する者が次から次へと続き、崩壊した。デリコートも「最早これまで」と自決
し、最期は軍人らしい潔い死でこのお粗末な反乱劇は終焉したのである。

日が高くなった。皇帝とその家族達は戦塵を払い落とし、お互いの無事を喜びつつ、遅めの朝食に
とりかかった。帝都惑星は今日も平和と喧騒の中、回り続ける。

390忘却:2008/09/07(日) 12:16:07
街を大勢の人々が歩き、休憩の兵士達が談笑する。
平和、そのものだった。
一週間足らずでここまで復興したのは被害が少なかった事もあるが、純粋な意味で技術力の高さを物語っていた。

それでも、この場を歩く人々は知っているのだろうか。
あの夜、ここは戦場だった事を。
道路を覆いつくした死体の山と血の海があったことを。

良くも悪くも人は忘れる生き物だと、既に声すら思い出せない父の言葉が頭に浮かぶ。
その人間の元で生きていく事になろうとは、
運命とはつくづく自分がキライらしい。


「―――」
名を呼ばれた彼女が思考の海から顔をあげると、通りの向こうで手を振る青年の姿。
かすれた記憶に残った誰かに似た青年に心からの笑みを浮かべ、彼女は「兄」の元へと走り出すのだった。

391真っ暗:2008/09/07(日) 22:04:47
朝起きるとそこは暗闇だった。何も見えない。
どうやら失明してしまったようだ。歩けもしない。
助けを呼ぼうとした。だが声も出ない。助けを呼ぶこともできない。
この絶望の中で私は寝室からリビングまで歩くことにした。
何も見えない。リビングへの方向なのかすらわからない。
何が起きているのだろう。一体これは何のつもりなのだろう。
家族は今旅行に行っている。助けてくれる人なんざ一人もいやしない。
どうしよう、どうするべきか。
考えても絶望的な答えばかりしか思い浮かばない。

と、そのとき私はある事実を思い出した。
そうだ、昨日私は酔いつぶれていたところをトラックに―。

392豪雨2・上:2008/09/07(日) 23:02:20
 天地を裂く撃音。
「………………んっ」
 恐怖の根源を呼び起こす大気の震えに、生存本能が体をすくませる。
 リディアは反射的に少女を抱きかかえる力を強めた。
「……………………」
 そしてその力に対する少女の反応は、皆無だった。
 動かない。ぴくりとも。
 まぶたの動きでさえもその力に抗うことはしない。
 それは――ニンギョウのような。
 それは――ヒトガタのような。
 着やせした胸が浅く上下していなければ、服越しに伝わる温かささえ錯覚と思ったかもしれない。
「いつものことなのはわかってるんだけどなぁ」
 苦笑する。
 雷など、アスミには恐怖どころか関心の対象にさえならないのか、と。
 そもそも耳に届いているのかさえあやしい。
「ぼんやり」を追及した果てに完成した、二時間ごとに空腹を訴える神秘のビスク・ドール。
 そんな触れ込みで売り出したら、意外に好評かもしれない。
 それにしても動かない。
 こうなると梃子でもシーソーでも動かない。
 この状態になったアスミの関心をこちらに向けるとしたら、目の前でお菓子を
ちらつかせるか、あるいは――
「あ」
 と、リディアが声を上げたのは、
「さ〜て、今日のイッテ○は、っと」
 リモコン片手に現れたのは、ピンクの髪をした魔女。
 何の遠慮もなく、何の考慮もなく、何の思慮もなく、何の浅慮もなく、
 彼女はリモコンのボタンをテレビに向けていた。
「……………………!」
 少女は相変わらずの無言。
 が、その目はこれ以上ないほど大きく見開かれていた。
 テレビの画面に支配されたように停滞していた、その瞳が。
「……………………」
 投げだされた足が。だらりと垂れ下がった手が。
 あたかも壊れた人形でも象徴するように、アスミという存在を描く。

 耳をつんざく轟音が走り。
 アスミの首が――まさに糸の切れた人形のように――かくんと落ちた。

393豪雨2・中:2008/09/07(日) 23:03:50
「ちょっと! 今アスミがどうぶつ○想天外見てたでしょ!」
 アスミのお腹辺りに手をまわして、背後から抱きかかえるように座っていた
リディアが、彼女のあまりの落胆ぶりに思わず声を上げた。
 一方、風呂あがりなのか濡れた髪をふいているアーチェは、
「いい? リディア」
 と、やけに真剣めいた声を出す。
「……な、何?」
 萎縮してしまうのは、アーチェの日頃の振る舞いの賜物だ。
 普段バk、もといおちゃらけた印象の人物が突然真面目な雰囲気を醸し出したりすると、
何故か意味もなく怯んでしまう。
 その隙をアーチェは見逃さずに――畳みかけた。
「今日は――○モトが飛び降りるのよ」
「意味がわからない!」
 それは、リディアをして0.1secでツッコミを飛ばすほどのレベルだった。
 勝者と敗者。勝ちと負け。0と1。得た者と失った者。
 それらがすべて、決まるほどに。
「リモコンを持つ者が常に世界を制するのよ」
「大きい! 回収する見込みのまったくない伏線を張りまくった大長編作品並にスケールが大きいよ!」
「あたしは器が大きいから」
「関係ない上に正しくもないし!」
 適当なことを言ってあしらってはいるが、アーチェの視線はとっくにテレビに向かっている。
 もはや何を言っても届かない。
 しょせんは、敗者の言葉だった。
 ――リモコンを手元に置いておかなかった。
 そんなごく些細な、ごく卑近な、ごく矮小なミスが、こんな敗北をもたらすとは――!

 曇天を埋め尽くす白光がきらめき。
 しかしリディアの目に、怯えの色はなかった。

394豪雨2・下:2008/09/07(日) 23:07:20
 テレビのモニターでは今まさに珍獣が塔の上から飛び降りようとしている。
 何やら喚いては笑いを誘っている。
 半ば押し出されるようにその体躯が重力の束縛から解放さr
「あ」
 手動でチャンネルを変えられた。
 そう。別にリモコンでなくても、チャンネルは変えられる。
 ただそれだけのことだったし、それ以上のことでもない。
 大したことではないのだ。少なくとも、戦局を変えたわけではない。
 そう、またリモコンを使って変えればいいのだか「サンダー」。

 天空を轟かせる閃光に比べれば、それは穏やかとさえ言えるものだったが。
 リモコンを破壊するくらいの威力は、有していた。

「……やってくれんじゃない」
 勝ち負けなど、しょせんはコインの裏表に過ぎない。
 些細なことで――ひっくり返る。
「普段あたしのライトニングに文句を言う人のすることじゃないわよねぇ?」
「文句を言っても反省する気のない人に言われたくはないかな」
「反省はしてるのよ。反映させる気がないだけで」
「ふーん。でも結果の伴わない反省なら……ね?」
 あえて最期をぼかすことで、その言葉が意味するところをほのめかす。
『ビシィッ!』という効果音さえ聞こえてきそうな勢いで、アーチェの額に青筋が浮かぶ。
「あたしが、日光の軍団並だとでも?」
「ううん、日光の軍団よりきれいだと思うよ」
 にこりと。
「――かわいくはないけど」
 無邪気に、無慈悲に、無感動に嗤う。 
「……サルより太い足の娘に言われたくはないわね」
 こちらは『バキンッ!』とでも聞こえてきそうな驚愕だった。
「……なん、ですって?」
「いっつも傍にいるからアスミに感化されてるんじゃない?
 ――天高く リディアが肥ゆる なんとやら」
 革新的に、確信的に、核心的に哂う。
「……大草原体形に言われたくはないかな」
「その言葉、そっっっくりそのままお返ししてさしあげましてよ?」
 あるいはこの場に霊夢か慧音でもいれば、最悪の結末は防げたかもしれない。
 それはつまり、そんな仮定を望みたくなるような結末を迎えるということだが。

「出でよ、神の雷」
「雷杖よ――意思通ずるなら、応えて」

 天から降り注ぐ雷柱にも劣らぬ、地から『立ち上る』2本の雷槍も、
しばらくの後に天気が切り替わるようにどこかへ遠ざかっていった。

 残されたのはアスミ一人。
 インスタントラーメンをバリバリとかじりながら(作るのが面倒なのか、
作り方がわからないのかは不明。どちらにせよ同じことだが)、くしくしと目を擦る。
「おなかすいたー、たくさん食べるー、眠いー、どうするー?」
 自問自答しながら、かわいらしく頭を傾げる。
 ただでさえ回転を拒絶する思考は、眠気のせいでさらにその動きが鈍っていた。

 お姫様は、かくんかくんと船を漕ぎながら、誰も作ってくれないインスタントをかじり続ける。

395涙さえ乾かない:2008/09/11(木) 16:34:27
White birds
闇に閉ざされ今
僕等は ah 静寂の彼方まで
 
何もかも変わらない
しらけた この世界
いつも通りの僕と違う自分を
さらけ出して愛を
 
White birds
闇に閉ざされ今
僕等は ah 静寂の彼方まで
 
tell me
生まれ変われるなら
夢の叶え方を教えて
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「無理でしょ」
「貴様よく空気読めないと言われるだろ」
「イヒヒヒ」
 
吸血鬼ユーリと透明人間スマイルは今日も仲良しです。

396行列:2008/09/13(土) 09:00:57
じわりと肌に張り付く様な暑さを感じながら、アサヒは腕時計を見た。
「今何時ー?」
隣で座り込んだ(アサヒ自身もだが)フヨウが覗き込む様にしながら、問掛ける。
「まだ30分もある」
その言葉に周りで溜め息が漏れる。
「まあコミケよりはましだわな」
そう嘘ぶくのは紫。
数年前まではコミケへと足を運んでいた彼女にはこの行列も大した事ないのであろうか?
「比較対象がでかすぎだっての…」
言いながら、鞄からDSを取り出し、電源を付ける。
隣のフヨウ達も同じ様に電源を付け、紫にいたってはイヤホンをつけている。
「暇だし、地下で化石掘りやらん?」
「フラグとられるからやだ」
「ひみつのコハク、誰か持ってない?」
そうこうしているうちに列は徐々に、確実に長くなり、ついに100人程に増えていた。
(こいつらもやっぱりおなじもん目当てかな…)
そう思いながら、アサヒは再び…三回目となる、時間の確認をするのであった。

397再生と再会:2008/09/14(日) 07:15:28
お粗末な反乱劇から一週間、帝都からは完全に戦塵は拭い去られていた。皇帝の宮殿は
四囲を睨み下ろし、摩天楼はいよいよ聳え、街を行きかう人々は賑わい、巡回のストーム・
トルーパー達の足音は整然としていた。

一人の軍事アカデミーの学生が通りを歩いていた。先程まで復旧作業中の市民や将兵、ド
ロイド達を慰労し、大勢の群集からの歓声や礼に手を振って応えていた、皇太子エドゥアー
ルである。本来、彼は別の惑星の軍事アカデミーで腹違いの兄と共に学んでいる筈だが、
事態が事態なので教官から兄と共に帰還を認められていたのである。

あの反乱で多くの命や物が失われたが、生き残った人々は力を合わせて復旧し、更にそれ
以上のものへと発展させようとしている。人はちょっとやそっとでは挫けたりはしない。身体
的には他の種族に後れをとるが、ガッツだけは誰にも負けない、と若き皇太子は確信して
いた。

ふと、よく知った感覚を感じ、通りの向こうを見ると、焼け落ちて、再建途上のビルの足場に
腰掛けている妹がいた。ダークマターらしく、人の中にいる事を好まない彼女らしい。仕方の
ない、という意味と久しぶりに会えたという意味で、笑みを浮かべると、妹の名を呼び、手を
振った。すると、見る者が限られる愛らしい笑顔を浮かべた彼女が駆け寄ってきた。

「ただいま、ヤラ」

頭に手を載せると、兄妹は久々の再会を喜んだのである。空は今日も雲一つ無い青空がど
こまでも広がっている。しばらく散策するには都合がいいだろう。

398愛の欠片:2008/09/18(木) 10:42:54
数多くの犯罪を起こしてきたからなのか 皆、俺の事を警戒している
最近では(悪い意味で)有名になったのか、ついにブラックリストに載せられた。
その後 上司に叱られたな。 恥を知れと 任務以外の犯罪は犯すなと
内心うるせえと思った。何度脳内で上司を殺したことか
俺の周りには敵しか居ないのか、とも思った
 
…だが そうでもない。マスターと呼ばれる人魚だけは警戒してこない
それどころか 時間が空けば遊んでくれて、怪我すれば治療してくれて、悪い事をすれば代わりに謝ってくれた
何故俺の為にそこまでするのかは知らないけど悪い気はしない。 むしろ嬉しい、正直
 
そう言えば彼奴は俺を犯罪者としてではなく一人の人間として見てくれてるのだろうか?
 汚い手を持っていても中傷発言で脅しても監禁して欲望を満たしても、皆みたいに警戒せず俺自身を見てくれている風に感じる
あ…でも犯罪を起こしても謝らない非常識野郎な俺なのに何故?と疑問に思う時もある。
だけど これは考えても仕方ないよな。
 
とりあえず いつか今までされた恩を返そうと考えてたりするんだ。こんな俺でも優しく接してきてくれたから
彼奴はマスターだから当然の事、って言ってたけど 暗殺者として生きていた俺にとっては…凄く嬉しかったんだよ
 
 
 
よし 心に誓う
人魚から貰った幸福は いつか倍にして返すと
 … 果たさないといけないからな 『責任』は。

399ABY10.アクシリアの戦い:2008/09/26(金) 19:27:03
――ESD『エグゼキューター』

「Goooooooooooooood!!」

ビューポート前に据えられた椅子に座りながら、アクシリアⅠ奪回の報告を受けた総司令官
はパルパティーン皇帝のような賛辞を送った。賛辞だけではない、最近の彼はまるで皇帝の
ように振舞い、そのように彼を扱う者も少なからぬ数となっていた。元老議員や帝国顧問達
は彼におべっかを使い、官僚や軍人達は重要な決済を彼に仰ぎ、市民達は帝国の英雄と
祭り上げている。心ある者達や反感を持つ者達はこれを批判するが、彼と彼の側近グルー
プの働きぶりは無視できないものである。彼がいずれ玉座に就くのは明白であった。

だが今はそれを論じる時ではない。陽道作戦の一手の成功を皆が喜んだ。更に喜ばしいこ
とに、反乱軍に潜入している諜報員が反乱同盟軍の司令部に動きがあったことを報告した。
まず間違いなく敵の艦隊は出撃してくるだろう。しかし、敵もこの作戦に乗るだけではなかっ
た。こちらが一番危惧していることへの布石をしたのである。裏切り者のモフに軍隊の通行
許可を打診したのだ。すなわち、有力な部隊が後背を突くことに他ならない。

「この戦い、我々が敵を敗北させるニュースが広まるが早いか、敵がインペリアル=センター
を陥落させるのが早いかで決まりますな…まさに決戦です、閣下」

老練なペレオンが重い口を開いた。既にピエットにも慢心の色は無い、堅実な歴戦の司令官
としての顔になっていた。再びピエットは敵が来襲してくるであろう方向の暗い宇宙空間を睨
んだ。

「来るなら来い、ここを貴様らの取るに足らない反逆の墓標としてやろう…!」

ソヴェリン・プロテクターのマイン=カイニューはどこかで似たような言葉を誰かから聞いたよ
うな気がした。そうだ、自分が――ここに居る全員がかつて忠誠を誓い、畏怖していた皇帝か
らだ。

400葉の落ちる音:2008/09/29(月) 22:13:22
窓の外で色付き始めた木の葉を見つめながら、少女は儚げに呟いた。
「嗚呼あの葉が全て散ったら、私ももう―」
その言葉が終わる間際に木が激しく揺れ、葉がバラバラと舞い落ちる。
容赦なく。大量に。
「・・・・」
庭では鬼ごっこをする子供達の笑い声が響いていた。

「焼き芋だー」
新聞紙にくるんだ芋を落ち葉の中へ放り込み、少女達は焼けるまでの時間すら待てないと言わんばかりにそこら中を駆け回っていた。
その様子を見守る紅の隣に女性がゆらりと現れる。
「おはよう、紫さん」
金髪の女性―紫はけだるそうに縁側に腰掛け、欠伸をひとつ。
そうして、ぼんやりとした視線を少女達に向ける。
「元気ね」
「まあ、子供ですから」
そう言うと手にした竹の棒で弱々しく燃える落ち葉をつつきながら―思い出したように問い掛ける。
「冬眠って、もうすぐだっけ?」
「えぇ」
すこし寒そうに手を擦り合わせながら、紫が答える。
「難儀なものね」
「割と楽しいわよ。
色々な夢を見て、現との境界に漂うんだから」
「じゃ、そろそろ食い溜めしないとね」
「えぇ」
ぱちん、とはぜる音を聞きながら、少女達の一日は過ぎていく。

401秋更ける:2008/10/08(水) 22:04:39
目を開けた時には既に布団のなかであった。
自分の匂いの染み込んだ枕に顔を埋めながら、ぼんやりと頭の中を整理していく。

ここは何処か?
   ―境界にある自分の家の、自分の部屋。

今はいつか?
   ―そろそろ支度をするべき季節。


「ん?」
頼まれていた服を手に障子に手をかけた紫は障子の間からはみ出ている何かに手を引っ込めた。
金色の糸のようなものの一本を摘み、軽く引っ張る。
ツンツン。
「むぅ」
おもむろに糸のようなそれから手を離すと今度は自身の頭の毛を一本ばかり摘み、引っ張る。
ツンツン。
「ん」
合点いったという様子で髪から手を離し、別の障子を開け、中を覗き込む。
障子に頭を押し付けるようにして横たわる人物(人外)が一人、それと荒れ放題の室内に目を丸くする。
はてさて寝惚けて探しものでもしたのか。
とりあえず布団を(紫なりに)綺麗に畳み、散らばった掛け軸だのを元の場所らしき場所へと戻し、布団を敷き直す。
一通り布団を整えてから、障子の人物を布団へ運び―
「いででっ」
痛みを持った腰を擦りながら、立ち上がろうとして―目が合う。
「痛そうね」
眠たげなまま、金髪の女性。
「まあ、持病みたいなもんだからさ」
苦笑いで、紫。
「さっき藍さんが一旦帰ってきてて、家のこと粗方やってくれたみたいよ。
なんでもぱぱっとしちゃうなんて流石だよ」
「主人がいいからね」
「違いない」
布団に潜り込む女性を見届け、入口に歩き出す。
「ねぇ紫」
障子に手をかけたまま、肩越しに振り返る。
「今はいつかしら?」

402十六夜日記(予定):2008/10/13(月) 23:09:21

 これは日記である。

 日本人はいい人ばかりだと聞いたので、これも日本語で書いています。

 仮に私の名前を「十六夜」と仮名しよう。

 これだから現実ってのは嫌だ。事実はネット小説より奇なり。

 何か相手もヤンデレだったし。ヤンデレうざい。いやマジで。

 くるくると宙で回転するのは――十六夜の、左腕。

 黒灰を混じらせたスモッグをまとう空気は、常にどこか薄暗い。

 私、十六夜の住むこの世界は、現在ひどく歪んでいる。
 

 ――これはオチもない、嘘のような、本当のような、嘘でも本当でもない話。

403十六夜の空:2008/10/15(水) 22:42:42
「風流な事してるじゃない」
縁側に腰掛け、一人晩酌をしていた紫の背に紅がにやつきながら声をかける。
「…ん」
ぶっきらぼうな妹の隣に腰を下ろし、手にした硝子の小さな杯を差し出す。
「ん」
差し出された紫はそれと姉の顔を交互に見ていたが、
やがて呆れたように傍らに置かれた黄金色の液体で満たされた小さな瓶を自身と姉の間に移した。
「氷は?」
「ない、セルフサービス」
そう言う紫のコップに姉の手が伸び、ひょいと氷をつまみあげる。
「…お姉ちゃぁん」
恨めしげな妹の視線を涼しい顔で受け流しながら、紅はさっさと杯に氷を落とし、液体を注ぎ込む。
「かんぱい」
にっと笑う姉に妹は呆れながらも笑いながら、コップに酒を注ぎ足し杯を鳴らした。


「こいつらはここで何してるんだ?」
縁側ですっかり出来上がった姉妹を見、ナハトは溜め息をついた。
羽目をはずしすぎたのか、二人の側にはすっかり空になった瓶とコップが転がっていた。
(月に当てられでもしたのか?)
二人を居間へと運び終えたナハトを少し欠けた月が照らしていた。

404楽園:2008/10/17(金) 18:21:15
熱が入った男の声に紫は何事かと足を止めた。
周りの人々も同じ様に足を止めては、くだらないと再び歩き出している。
男は妖怪の根絶をうたっていた。人間だけの、平和な世界を作る。取り巻きだろうか、周りの若い男達も一緒になって叫ぶ。
馬鹿らしい。目を細めながら、紫は口の中で呟いた。
人間が世界の支配者となった外の世界の現状を知らないが故にそう言えるんだ。
そんな事を口の中でぶつぶつと呟き―ほんの気まぐれに手を振るった。
そんなに人間だけの世界がいいなら、見てこいと、嫉妬にも似た気持ちを抱きながら―


「人間が何人か外に逃げたわ」
八雲紫の一言に紫は持ち上げかけた湯呑をちゃぶ台に置いた。
「やっぱり怒ってる?」
否定とも肯定とも取れる笑みに紫は怒られた子供の様にうなだれ、ぽつりと呟いた。
「…ごめんなさい」


行方知れずになっていた男達が見付かったのはそれからすぐ後だった。
魂が抜けたような、酷い状態だったとは様子を見に行った早苗の話。
「ああなるなんでどこに送り込んだのかしら?」
茶化す様な妖怪の言葉に人間は生気の抜けた瞳を空に向け、ただ「外で一番馬鹿な人間のいる所」とだけこたえた。

405メイド館 1:2008/10/18(土) 21:01:29
これから始まるのは乃木家内で起きた世にも奇妙な物語―。

とある朝、女性陣は起きると共に、自分が来ていた服に愕然とした。
それというのも奉公や仕事に言ってる一部の擬人化一族や、
太陽が昇る前から修行へ山へ行っていたレイレイら以外の女性は、
一人残らずメイド服となっていたのだ。
男は、というとマスターの乃木平八郎は昨日の夜から姿が見えない。
もう一人の男性であるカリス王子―正確には国王だが―は、
それを知らずに洗面所へと向かっていた。
そのころ女性陣はメイド服からいつもの服へ着替えようとしたが、
RPGの呪われた装備みたいに呪われているらしく、取れようとはしない。
それを悟った女性陣はそのままの姿で部屋を出る―、
それと同時に相手の姿を見てまた愕然としたのだった。
「まさかあなたも!?」との声が廊下にこだまする。
かくして、乃木家女性陣の災難は始まったのだった。

406現代百鬼夜行:2008/10/19(日) 19:40:55
とあるときのこと、イタリアからの留学生、
フィオことフィオリーナ・ジェルミは仕事で榛名山を
ワーゲンスラッグに乗り走っていた。
するといつの間にか日も暮れて、彼女は宿を探すことにした。
しかし山奥にあったのは大きなお寺だけ。
しかも不気味で古ぼけていて誰もいないときた。
しかし外にはぱらぱらと小雨が降りはじめ、
雨に打たれながらの野宿よりはましだと思い、
今までのってきたワーゲンスラッグを隠すように置き、
その寺の中に小走りで入っていった。
明日に備え寝ることにしたフィオは、
夜中に珍しく何も用事がないのに目が覚めた。
すると人の声が外からたくさん聞こえてきた。
こんな古ぼけたお寺に、しかもこんな時間に誰が来たのだろうと覗くと、
そこには松明に火をともし、百人ほどが集まっていた。
その人々の頭には角が確認できた。「鬼」である。
フィオはそれを見て隠れるようにして
不動明王が祀られている部屋へ急いで逃げた。
しかしフィオのその行動とは裏腹に、鬼たちはその部屋へと集まってきた。
そしてフィオと鬼たちはばったりと会ってしまったのだ。
鬼たちが目の前に現れた渡来人を見て何を思ったかは知らないが、
フィオは目の前に現れた鬼を見て身の毛もよだつ思いをしたのは確かである。
とっさにフィオは逃げる。それを追う鬼。
そして大きな寺の中での「鬼ごっこ」が数分の間続き、
フィオは不動明王像の後ろに隠れた。
すると鬼たちはそれを見てこういった。
「この方はもしかしたら不動明王の奥方やも知れぬ
  渡来人を嫁にした理由はわからぬが、不動明王を敵にまわしたら
  今この山に残っている鬼たちも駆逐されてしまう」とて、
フィオを襲うのをやめ、鬼たちは会議に入った。
そしてそれから何時間経ったのだろうか、朝日が出てくると共に
鬼たちは重い腰をあげ、ぞろぞろと山の中へと帰って行った。
しかしフィオはその帰りを見届けながら、
不動明王の像の後ろでまた深い眠りに入ってしまった。
気がつくとフィオは自身が用意した寝袋にくるまって、
起きる前と同じように寝ていたという。
朝、フィオを乗せたワーゲンスラッグが榛名山を出発した。
それを多くの鬼が見守っていたことはフィオは知らなかった。
そして、フィオがこのことを夢の中の出来事としたため、
このことが伝わることは二度となかったそうな…。

407※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2008/10/20(月) 21:25:22

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

 おそらく、それは彼女の物語と呼んでいいものだ。

 何も始まることがない。
 何も終わることがない。
 何も生まれず。
 何も潰えず。
 何もかもがそこに停滞する。

 それは、あるいは夢のようなものだろう。
 目覚めた瞬間、すべては泡沫となって消えていく。
 千の希望も、万の願いも、そこにはきっと届かない。

 しかし。
 それでも。

 これを彼女の物語と呼ぼう。
 傲慢に。
 貪欲に。
 ――切実に。

 それが、彼女にしてやれるせめてもの償いだと思うから。

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

408備えあれば嬉しいな:2008/10/22(水) 08:56:50
重い鉄鍋をようやく卓上コンロに置き、紫はバットに並んだ色とりどりの野菜等を鍋へと放り込んだ。
腹ペコな者の箸がわきわき動くのを視界の隅で見ながら、スイッチを回す。

カチッ。カチッ。

「………」「………」「………」
ガス切れの様だった。
仕方なしに廊下にガスボンベを取りにいったゼロツーが悲鳴を上げた。
「大変だ!」
「どうした!?」
「ボンベのストックがない!」

結局、魚を焼くときに重宝した七輪の出番となった。
いささか煙いが、空腹と扇風機の前では障害にすらならない。寒さはあるが。
二組六人で鍋…とフライパンをつついていると、誰かが酒を取り出したのを皮切りに年長者達で酒盛りが始まる。
鍋の中身が無くなった後もやれうどんはまたか、やれ肉はまだ冷凍のストックがある筈だと騒ぐ年長者達の鍋に
紫はただ黙って野菜をしこたま追加した。
ブーイングが飛ぶが、無視しておく。肉を出せば、最限なく食べるのに肉は出せるか。
ざるに上げたうどんを傍らに置き、ついでにほんのすこしの牛肉を入れると
酒盛り続く居間を後に、二階に上がっていくのだった。

409紅魔の盾:2008/10/25(土) 22:46:24
「負けるわね」
紅の一言にゼーレはちらりと彼女を見、今更と言わんばかりに息をついた。
紅魔館。その門前で紅の髪をなびかせる女性と絞め縄を背負い、威圧感を放つ女性が睨みあう。
紅魔館が門番長、紅美鈴と守矢神社が神、八坂神奈子だ。
「中々気骨のある子だね」
自身の気迫に一歩も引く素振りを見せない美鈴に八坂の神が嬉しそうに笑う。
「けど」
場を支配する威圧感が増し、神の周りに幾つもの柱が浮かび上がる。
不安げな妖精達を背に、美鈴が無言で柱を見る。その瞳に迷いは、ない。
「これを前に引かないなんてほんとに大した子だよ。
だが、この柱を受けてなおそうしていられるか!」
その言葉と共に掲げられた腕が振り下ろされる。
門へと振り注ぐ柱。美鈴は動かない。

「勝負あり、ね」

大地が、大気が震え、砂煙が美鈴の周りをつつみ込む。
遠野く地響きに勝利を確信する八坂の神。だがその顔が煙が晴れるにつれ、驚きに染まる。
「な……!?」
柱は確かに美鈴へ向かって飛ばしていた。

その柱が

残らず彼女の手前に突き刺さっている


気を放ったままの構えを解く美鈴を見ながら、紅が当然という様に笑う。
「力の差は八坂神のが上だけど気迫じゃ美鈴の方が勝ってた」
それに、と背中を指差し、こう言うのだった。
「ここが紅魔館だからさ」

410十六夜日記:2008/10/26(日) 21:27:29
 これは日記である。
 違う。これは日記です。日記でございます。日記でガンス。あー、日本語わかりにけぇ!
 日記というか、何かそんなの(妥協)。
 これをあなたが読んでるということは、私の作品に興味を持とうとしてくれているのだと信じる。
 ――信じていいんだよね?
 信じていいものと仮定します。
 日本人はいい人ばかりだと聞いたので、これも日本語で書いています。
 別に日本語しかわからないわけでない。
 本当だ。決して日本人であるわけではない、勘違いしないように。
 信じてくれたものと仮定します。ニポンジンイイヒト。
 唐突だが、この日記にオチはない。期待厳禁。
 ――ごめんなさい、ブラウザを閉じないでください。
 いきなりぶっちゃけたら許してもらえるだろうとか思ってました。甘かったです自分。
 オチはないけど、お話はあります。
 嘘のような、本当のような、嘘でも本当でもない話。
 え? 日記じゃなかったのかって?
 日記ですよ? 私は嘘をつかないクレタ人ですもの。
 とりあえず読んでほしい。
 これを読むことが出来ると言うことは、何らかの形で私とあなたは繋がっているということだろうから。
 それなら、きっと理解できる。
 理解してくれる。
 そんな人が一人でもいてくれることを信じて。

 これはオチもない、嘘のような、本当のような、嘘でも本当でもない話。
 あなたにとっての嘘で、私にとっての本当。
 あなたにとっての作り話で、私にとっての日記。
 あなたにとっての虚構で、私にとっての現実。

 そんな、物語。

411もうだめだ:2008/10/27(月) 07:48:04
神様は何て酷いものなのでしょう。
泥酔した風神様が居る。凍りついたギャラリーが居る。
ゲラゲラ笑う神様に文句の一つ位投げつけたかったが、今は口を開くどころか、鼻で呼吸する気分にすらなれない。
直接表現は本人が可哀想になるのでぼかすことになるが、リバースカード直撃とだけ言っておこう。
「と、とりあえずさ、お風呂入ってきたらどう?」
早速血涙を流す奇襲爆撃の被害者に伴侶が優しく声をかける。
無言のまま、宴会を後にするその背中には悲しみが漂っていた。


もうだめだ

412:2008/10/27(月) 11:06:23
闇は鬼の巣食う場所、そしてその鬼はその闇の中でしか生きられない。
だがその闇は広く、大きく、どこにでもある。
闇の世界は既に世界を侵食しているのだ。

さあ、受け入れようじゃないか、この闇を
さあ、闇をもっと広げようじゃないか、鬼たちをおびき寄せるために
この闇はいくらでも広がる、世界を完全に闇で浸食しつくすまで、永遠に

闇は、素晴らしい―

413十六夜日記:2008/10/30(木) 20:45:55
 仮に私の名前を「十六夜」と仮名しよう。
 え? トートロジー? 黙れ話の腰を折るなこの哲学者気取りのビッチめ!
 失礼、取り乱した。
 私は哲学者ぶった単語の羅列を並べる輩が嫌いなのです。
 ――世界中の哲学者がマーフィーの法則を信じて鬱になればいいのに。
 というわけで、私の名前は十六夜です。
 My name is Izayoi。
 十六夜は 狭いマンションに 暮らしています 同居人と 一緒に。
 あらあら、何だか日本語と英語と英語を直訳した日本語が混ざった文章ね。
 そしてこれで私がニポンジンでないことは信じてもらえたと思う。
 ――ごめんなさい、調子に乗りました。
 だからその右上のバッテンにカーソルを移動させる作業を思い留まってください。
 仕方ないんです初めてなんです必死なんです。
 ほら、何でも初めてって緊張するでしょう? きゃっ(照れ)。
 ……自分で書いてて吐きそうになった鬱だ死のう。
 で、私の同居人―あすみは、現在無職のプータローです。
 よりぶっちゃけると、ヒモ。
 私の少ない稼ぎを食い潰す穀潰しだ。
 働く気なんて微塵もなく、そもそも働こうという意欲を持ち合わせていない。
 おかげで我が家は毎月火の車。
 ちなみにあすみは実名ですザマアミロ。
 いえ、同居人の愚痴を書くのが目的ではありません。
 話が逸れすぎました。
 本題に入りたいと思います。

 私、十六夜の住むこの世界は、現在ひどく歪んでいる。

414夢の狭間:2008/11/01(土) 07:23:39
夢を、見た。
見たことがない場所で知らない子と誰かによく似た子が笑って歩いていた。
誰かによく似た金髪の子がうつむいて何かを言う。
前を歩く知らない黒髪の子が上を向いてそれに答える。
誰かによく似た子の足が止まる。
知らない黒髪の子は泣きながら歩いていく。
「さよなら―」
そう言ったのはどっちだったんだろう。

知らない黒髪の子の背中が遠ざかる。

その子からと誰かによく似た子の方を向いて―

そこにいたのは、もう誰かによく似た子じゃなかった。


紫色のドレスの裾をつかんで泣いていたのは―




夢が終わる。

415幻想の狭間:2008/11/01(土) 07:42:39
ぼんやりとした様子で起きてきた少女にゼロツーは
「おはよう、フヨウ」
「うん…おはよう」
いつもに比べて元気のない娘の様子に首を傾げながら、経済面に視線を戻す。
しばらくの沈黙の後、口を開いたのはフヨウだった。
「ねぇ、お父さん。もし、もしも、大切な友達と大切な世界のどっちか選べって言われたらどうする?」
「ふむ…」
読んでいた新聞を畳み、目を閉じて考え込むゼロツーにフヨウは申し訳なさそうな視線を送り、うつむいた。
「夢を、見たんだ」
椅子に腰掛け、テーブルに視線を投げながら続ける。
「凄く、仲の良さそうな二人の女の子の夢」
ぽたり、と目から涙がテーブルに落ちる。
不思議な気持ち、とフヨウ自身も驚いた。悲しいとも愛しいとも言えない彼女の知らない感情が何処からか溢れ、涙になる。
「…だが、片方は異なる世界の守人となった。いや、ならざる得なかった夢」
顔を上げると、父親の何処か遠くを見つめる目が見えた。
「お父さんも…見たの?」
「見たのはお母さんだがな、父さんはそれを聞いただけだ」

416現実の狭間:2008/11/01(土) 08:06:29
「自分には、多分どっちも選べない」
妹はそう言い、テーブルに顔を伏せた。
「どっちも大事で、でもどっちか選べ、か」
彼女の語った夢の話を黙って聞いていた姉が口を開く。
「けど、現実はそれ以上の選択ばっか迫ってくる様になるよ」
空になった湯呑みを流しへ持っていく姉に妹が顔を上げる。
「理不尽だね」
「理不尽だよ」
妹はそんな姉の背を見つめたまま、ぽつりと呟いた。
「難しいね、大人になるのって」

417名無しさん:2008/11/03(月) 22:09:09
誰も信じられない。誰もいない。誰も話しかけてくれない。
でも、この世界から離れようとは思わない。この世界が気持ちいいから

私は、何を信じればいいのだろうか
考えれば考えるほど絶望という文字が浮かんでくる。
だが、それでもあの世界から離れようとは思わない。
いい、私が何を言われようとも。

私はこの世界から離れようとは、幾分の間は思えそうにない。
もしかしたら、絶望という名の希望が、
私を突き動かしているのかもしれない。

この世界に、私は何を求めているのだろうか

418十六夜日記:2008/11/03(月) 22:32:51
 はい、「何だよセカイ系かよ」とか思ったそこのあなた。
 半分は正解だけど、半分は不正解。
 別に私はこれから世界を救おうとしている勇者ではない。
 どこにでもいる普通の女の子だ。
 あ、そうそう。仮名からは判断がつかないだろうけど、私は女です。
 ドキドキしてください。
 期待を裏切ることには定評があるが。
 なお、成人を「子」と評することにご意見のある方がいらっしゃいましたら、
Lovely_Izayoi●mail.goo.ne.jpまで。
 住所も記載していただければ、直々に殴りに行きます。
 まぁ最近は一般人が世界を救うラノベもあるから、
必ずしも普通という表現がセカイ系を否定するわけじゃないけど。
 ただ、私の日記に限ってそれはない。
 断言しよう。
 保証はしないけど。

 自分の世界を「歪んでいる」と評する異常さは理解している。
 異常と対比させて正常とする世界なんてあり得ないからだ。
 それはこの世界「以外に」別の世界が存在することを前提とするのだから。
 ――普通なら。
 それこそが現在の歪み、異常性を体現としていると言ってもいいかと思います。
 思いますた。

 詳しい話は、また今度。

419妖怪よりも怖いもの:2008/11/05(水) 08:41:09
獣を散らしたそこは酷い有り様だった。
人の残骸があちこちに転がり、蒸せかえる様な鉄の臭いが辺りに漂っていた。
その内の一人は人間の世界を、とあの通りで叫んでいた者だった。
里の周辺で弱い妖怪だけを倒し、増長した彼等が吸血鬼の館へ出向いたと聞いたのは、ほんの少し前。
(辿り着けさえもしなかった、か)
彼等を殺したのは、彼等と同じ人間だった。
野党だの山賊だのと呼ばれる者達は妖怪達を倒すだけ支度しかしていなかった彼等へ襲いかかり―
(破魔符なんぞ人間には効果ないからな)
格好の獲物、というわけだった。


遺体を回収し、里へ届けた。
血に釣られた獣に喰い散らかされたモノもあったが、おおむね五体満足だった。
遺体を渡して、里長の家を出た所で男に呼び止められる。
問われたのはいつもの言葉。
―妖怪にやられたのか?
首を横に振る。人と獣に彼等は殺されたのだと。
男は自分も人間の世界をと理想を唱えている事を言った。
そうして理想を語る男に問いかける。
人の世となれば、こういう事が多くなる。妖怪の恐怖より隣人に殺されるかもしれない恐怖に脅かされる日々。
そうなった時、世界を変えたお前達はどうするつもりかと問う。
男は何も答えなかった。予想はしていたが。
結局この男も日々の不満を誰かにぶつけたいだけであったのか。
惰性で最もらしい事を言う者とつるみ、正義に酔いしれては過ちから目をそらす。
小さく息をつけば、男がうつむいたまま問いかける。
なら、どうすればいいのかと。
そんなこと自分で考えろと返して、途方にくれる男に背を向けた。


里の外れまで歩いて、腰巾着から取り出した煙管に煙草を詰める。
火をつけ吸えば、いつもの味。だがそれも今日のドロシーにはやたらに不味く感じた。


もうすぐ冬が来る

420銃声:2008/11/09(日) 13:02:46
銃声が木霊する。
どこまでも、どこまでも。
ここはとある射撃場。山の中にある人の手によって作られた射撃場。
木の緑で覆われた山には全く似合わない白い壁の、白い外見をした射撃場。
そこからうるさく銃声が響く。
その銃声が響くたびに、鳥たちは慌てふためき逃げていく。
中では何が行われているのだろうか。
その建物にかかってる小さな看板には、「スパローズ」と英語で書かれていた。
そう、ここは正規軍情報部特殊部隊スパローズの専用訓練場。
今日は3人の女性たちがそこにいるのみだった。
一人は何もためらうことなく撃ち続け、
一人は何かを考えながら、ぼーっとしながら撃ち続け、
そしてもう一人は、「何か」にためらいながら、
重い引き金を撃っていた。
「何かあったの?引き金が重いようだけど」
赤い髪の、ツインテールの特徴的な髪形をした女性が話しかける。
「…私、軍人で本当によかったのかな、って…」
それをイタリア産まれの茶髪のポニーテールの女性が受け答えする。
とてもイタリア系とは思えない、日本人らしい顔の女性―、
彼女の名は、フィオリーナ・ジェルミ。
一人娘のため家を継ぐことになり、
そして家を継いだことにより、彼女は初めての女性軍人となった。
もちろん、ジェルミ家としての、だ。
その彼女が軍人になろうとしたとき、彼女は日本の大学に留学生として来ていた。
その時、彼女はこう言われた。
「人殺しの軍人になるつもり?」
その時は吹っ切れたが、今も彼女の心に深く残っている。
その迷いは時々であるが、今のように心の中から自然に現れる。
「本当にこの職業を選んでよかったのか?」
今でも彼女はこのことで葛藤する。
そこに緑のバンダナを巻いた金髪の女性、エリがフィオに話しかける。
「ねえ、またあのことで悩んでるの?もういいじゃない
  いつまでくよくよしてたって始まらないさ、そうだろ?」
その言葉にフィオは何もない、いや、
薬莢が転がっている床へ顔をうつむかせた。
「フィオ、今のあんたは逃げてるだけだよ
  いいじゃないか、軍人が人殺しって言われても
  だってそうなんだから、否定のしようがないだろう?
  くよくよするな、おまえはおまえだ」
「私は…私?そ、そうですよね…ありがとうございますw
  吹っ切れることができました 私は…そのとおり、軍人です!」
その瞬間、すべて吹っ切れたフィオは、銃を連射し始めた。
人型の的の頭の部分の中心に弾丸が当たり、そして貫通する。
そのあとを続くように弾丸がずれることもなく、その穴をくぐり抜けていく。
「これが、私の答えです!」
そしてまた、さらに銃声が山中に木霊する。
この木霊は、しばらくは途切れそうにない。

421因果応報:2008/11/09(日) 18:28:09
とある島国にわずかに知られている伝説がある。そこは閉鎖された空間で、魑魅魍魎と人間が不安定な
和平の内に共に暮らしている、と。理想郷のように見えなくもないが、どんな所にも悪党は居るものである。
そしてその悪党が今、人を殺めることによって不正に得た物品を囲みながら酒盛りをしていた。先程まで。

「全員拘束しました」
「御苦労、上級曹長」

骸骨のようなフルフェイスのヘルメットを被り、黒い戦闘服にグレーのプロテクターを装着した者が一つ目の
これまたフルフェイスのヘルメットを被り、グレーのボディ・グローブと白いアーマーを着けた者に敬礼しなが
ら報告する。体型は人間の女性をしているが、機械文明に縁遠いこの地の人間達にはコンバイン・フォース
の彼女らを人間と認識することは困難だった。

彼女らは薄汚い大男達を囚人護送用のカプセルに納めると、それらを生体工学の産物の輸送機に載せて、
来た時と同じように無理やり開けたポータルと呼ばれる次元の裂け目を通り、東欧のCity17という、コンバイ
ンの首都へと飛び去った。後には盗品と、宴の後が残されただけである。

彼らが次に目を覚ましたのは、薄暗く、冷たい金属の床の上だった。辺りを見回すと、何かの紋章の描かれ
た垂れ旗が壁にいくつも下がり、その下にはあの白い一つ目の兵士達、そして奥には数段高くなっていると
ころがあり、そこには玉座が据えられ、そこから何者かが彼らを見下ろしていた。

「幻想郷のならず者諸君、ようこそCity17へ―――いや、『外の世界』と言った方が諸君には理解しやすいか
な?もっとも、君らの同意を積極的に欲しいとは考えていないが」

状況が今一つ掴めないのと、玉座に座る男の傲慢な態度に苛立つ彼らだが、拘束されていて抗うことができ
ない。彼らは芋虫のように体をくねらせるだけだった。

「まあ落ち着いてくれたまえよ、これから諸君の悪事に関する簡単な裁判を行うのだから。ちなみに本法廷で
は弁護士を呼ぶ権利と、証人及び証拠物件並びに陪審員の必要を認めていない。また、この裁判の進行一
切と前述の行為を私が行使するにあたっては、銀河帝国憲法第一条の銀河皇帝の権利に由来するものであ
る」

訳の分からない事を矢継早に捲くし立てる男に呆然とするばかりだったが、この男が相当理不尽なことを言っ
ているのは理解できた。それにまた腹を立てるが、日頃愛用の山刀も見当たらない。

「ま、時間の無駄だし、審理も省こう。強盗殺人を数多繰り返した罪は重い。主文、被告人全員を死刑に処す。
処刑は即時行われるものとする」

他人の命など虫の羽ほどにも気に留めない彼らだが、自分の命は地球よりも重い。それが簡単に奪われよう
としているのである。まさか自分達が殺される側に回るなど、夢にも思わなかったのだ。情けないことに、声に
ならぬ声で泣きながら許しを請おうとする者も居た。それを冷笑しながら、玉座の男は彼らに囁く。

422因果応報:2008/11/09(日) 18:28:52
「今まで散々人を殺めたのだから、一回くらい体験してみるのも面白いと思ったんだがね?まあ、今日は機嫌
が良い。タイマンで私を殺せたら、無罪放免してやろう。が、仕損じたらこうだ!」

そう言うと、そばに控えていたガードから拳銃を受け取り、泣いて命乞いをした賊の額に穴を開けた。鮮血が
噴出し、それがそばに居た者達に降りかかる。とうとう迫り来る死を実感することになったのだ。それでも、一
縷の望みを託し、立ち上がる者が居た。ガードに命じて拘束具を外させ、押収したものから得物を取らせると、
一気に斬り込んで来る。男はそれをかわすと、拳銃をガードに返した。丸腰になったのである。

「ほら、私は丸腰だ。これで負けたら恥だなぁ?」

涼しい顔での挑発に怒り心頭に達する賊。何度も斬り込んではかわされる。それを繰り返した後に、男は欠伸
さえした。

「飽きた」

そう一言言うと、突撃してくる賊を指差し―――それをゆっくりと下ろし、指を跳ね上げる。すると、男の動きが
止まった。一同が不思議に思っていると、閃光を発しながら、男の体が真っ二つに裂けたのである。

「な…南斗南斗紅鶴拳奥義の1つ、南斗鷹爪破斬!あまりに早いスピードの為、衝撃は一気に背中へと突き
抜ける!」
「返り血で身を紅く染めた美しき鶴に名を喩え、紅鶴拳と呼ばれる艶やかな殺人拳法…!」
「いつ見てもお美しい…」

ガード達は見惚れ、賊達が恐怖に震え上がる中、一人冷静なのが皇帝だった。その後、それでも僅かな可能
性に賭けた賊が次々に挑み、その度に美しくも残虐な殺され方をした。残り数人となったところで皇帝も飽きた
ようだ。

「ガード、カプセルに生き残りを詰めろ。幻想郷へ向かう」
「Yes Your Majesty」

生き残りの賊達は再び意識を失った。そしてまた意識を取り戻した時、目の前は薄暗く冷たいが、見慣れた地
面だった。さっきのことは夢だったのだろうか。あの恐ろしい男も不気味な将兵も居ない。しかし、体が動かない。
どうしたことか。

疑問はすぐに氷解した。首から下が地面に埋まっているのである。更に、よく見えなかったが横にはのこぎりが、
目の前には人里、すぐ脇には『山賊の生き残り。好きにしろ』と書かれた立て札があった。朝日が昇ってきた。村
人が目を覚ます頃だろう。仲間を殺された、人間中心主義の活動家達も同じく。

423どこにもいる、どこにもいない:2008/11/09(日) 21:04:43
突きつけられた言葉に彼女たちはしばし口を閉ざした。
「冗談…ではなさそうね」
家長の役割に就いた女の瞳に影が落ちる。
他の者も同様に視線を床に落とし、誰一人として話す者は居なかった。
「…現実の科学から身を守るためには、こことの交わりを絶つ」
誰かの台詞に壁際の女が頭を壁に打ち付ける。
傍らの男がそれを止める。女は自身にあらん限りの呪詛を向け続ける。
「関わりを持った者の記憶は」
家長の女が妖怪に問いかける。
「忘却の境界をいじって、彼女たちの中から貴方達に関する記憶は消させてもらうわ」

そうか、とだけ彼女は答えると壁際の女へ視線を移す。
「…悪いが、あれのも消してはもらえないかしら?」
妖怪の瞳が一瞬揺らぎ―首を横に振った。

「彼女には悪いけど、それは出来ないわ」

「…二度とあの地に来ないようにか」

妖怪が頷く。



キーを打つ指が止まる。
はて次はどうするべきか。
愚かな女にいかなる罰を下そうか。人を殺し、幻想を殺し、自身すら殺した女にふさわしい罰はなんだろうか。
女の代わりとして生まれた自身に下せる、最もふさわしい罰は。

……なんだ、簡単じゃないか。

女の姿をした何かはそう言って、立っていた椅子を蹴り飛ばした。


ぎしり、と縄の軋む音が聞こえた気がした。



自殺する夢を見た。
縁起が良いと知ってはいても、目覚めは最悪で彼女は掛け布団の中に顔を埋めた。
朝を告げる目覚ましにいつまでもそうしている訳にもいかず、緩慢な動きで布団から這い出る。
枕元の鏡と目が合う。

鏡は、暗い目をして笑っていた。

424十六夜日記:2008/11/10(月) 18:24:14
 友人との会話

私「どうしよう…最近私、アレがないの」
友「おいおい、だからって銀行を襲うなよ。困るだろ? ――俺が」
私「なんで銀行強盗の実行犯扱いされてますか私」
友「あ、面会には行かないから」
私「この際だから今後の私達の関係について語り合おうか。主に拳で」
友「金の話はいいのか」
私「金の話も重要だけど」
友「やっぱり金かよ。無心されても貸さんぞ」
私「貸しなさい」
友「お前、話の流れちゃんと理解出来てるか?」
私「私の命令にあんたが咽いで金を差し出す流れでしょう?」
友「それは恐喝だ馬鹿。
  金がないなら働けばいいだろ」
私「働いてるわよ、失敬ね」
友「そんな嘘で自分をごまかして虚しくならないか?」
私「ごまかして虚しくなるのはカップのサイズだけよ」
友「得意気に言っても恥以外の何物でもねぇよ」
私「カップサイズをサバ読んだ後、パッドを探しに行く気持ちはあんたにはわからないでしょうね」
友「いいからもう黙れ。それか死ね」
私「私が働いても、あいつが食い潰すのよ」
友「あすみか。まぁそれは仕方ないだろ」
私「あ? あぁ、あんたロリコンですか」
友「当たり前の事実を吹聴するな」
私「日本語と頭、どっちを先に狂ってると指摘したらいい?」
友「俺は正常だ。狂ってるのは世界の方だ」
私「私より先にあんたが死ね」

 どっちもどっちか。
 そんなこんなで。

425朝靄に眠る街:2008/11/12(水) 22:46:00
朝霧をかきわけながら、彼はまだ眠る街を歩いていた。

街灯の仄かな光に伸びる影を道連れに、あてもなく道を進む。

早起きな烏達の声とようやく帰路につく車を横目に、彼は傍らの林の中へ足を踏み入れる。

湿った土と落ち葉の匂いがするそこを注意深く進めば、見えてくるのがペンキの剥げた古びたベンチ。

夜が残る空を一度見上げ、ベンチを通りすぎ、林の奥へ歩き出す。

かつては道だったそこを進むと、不意に林の向こうに階段が姿を見せる。

人に忘れられて久しい、苔と枯草に覆われた石段に足をかけ、頂上を目指す。

ようやく頂上についた頃には、東の空がほんのりと紅色へ染まっていた。

息をついて、階段の一番上に腰掛け、その時を待つ。

やがて、山の間から太陽が顔を覗かせ、霧に包まれた街を一息に染め上げる。

燃える様な橙の光を放つ街と西へと逃げていく紺の空。

とびきり素敵な光景だと、彼をここへ導いた少女は笑って言っていた。

夜から朝に新しく生まれ変わる世界はゾッとするほど綺麗だと、神様は嬉しそうに言っていた。


太陽の光は、暖かく彼の体を包み込み、空へと駆け上がっていった。

426十六夜日記:2008/11/15(土) 22:41:26
友「おいちょっと聞いてくれよ」
私「嫌だと言ったら黙ってくれるの?」
友「帰り際にコンビニに寄ったんだけどさ」
私「無視かよ。最初の了解は何のために」
友「ちゃんと了解取っただろ。 ――俺に」
私「事後承諾ならぬ自己承諾、と。事故承諾と誤変換しても正しい気がするから素敵」
友「で、普段見ない駄菓子屋に売ってるような菓子売り場にふと目が行ったわけ」
私「うわ完全スルーキター。目も合わせやがらねー」
友「そしたらそこに売ってたんだよ」
私「ICBMが?」
友「なんで駄菓子コーナーに大陸間弾道ミサイルが並べられてんだよ!」
私「買うのよ、子供が」
友「BB弾感覚で買われたら三日で世界が崩壊するぞ」
私「たまに大きな子供が大人買いしていったり」
友「それはテロリストの物資調達だ」
私「これが本当のコンビニウォーズ」
友「ねえよ。
  で、そこにはチョコが売ってたんだ」
私「チョコ?」
友「あぁ。院生――学生時代に毎日のように食ってたチョコ」
私「ふーん、何ともメタボな思い出ね」
友「俺の思い出を現代症候群扱いするな。
  けど懐かしかったわ。2/14に買いに行ったら、女性店員に微妙な目線を
  投げられた記憶がはっきりと」
私「それトラウマって言うんじゃ」
友「で、買ってきてさっそく食ってみたわけだ」
私「味は?」
友「まったく変わらんかった」
私「あ、そうなんだ」
友「軽く涙が出てきたよ――味変わらないのに、何で10円高くなってるんだと」
私「あんたの思い出は10円以下なのね」

 お手軽ですこと。
 そんなこんなで。

427十六夜日記:2008/11/16(日) 20:31:24
 今日はお友達が遊びに来ました。
 はい嘘です。
 日記っぽい出だしにしてみたかっただけですごめんなさい怒らないで。
 遊びに来たのはお友達ではない。
 猫だった。
 それも見覚えのない真っ黒の猫だ。
「にゃーん」と可愛らしく鳴いたりしている。
 何で部屋の中に猫がなんて悩むまでもない。
 奴だ。
 猫なで声で呼びつける、あすみちゃーん。
 てとてととバカが来たので、優しく問いかけてみた。
「この猫はあすみちゃんが拾ってきやがったの?」
「拾ったー、おともだちー」
 満面の笑顔で言われても私にそんなのは通じない。
 向こうが核ミサイル級の破壊力なら、こちらは放射能も弾くシェルターだ。
 ――あれ、あんまり頭のいい例えじゃないな。
 じゃあ、おともだちは1972年創刊の講●社発行幼児向け雑誌だけで十分です。
 話がそれました。
 当然ながら道端で野良猫拾ってきたおバカさんには注意が必要です。
 頭をひっぱたきました。先制攻撃。
「だ・か・ら! うちはこれ以上『HI☆MO』増やせる余裕なんざないっての!」
 そんなことが可能なのは、謎の出資先から金を見繕っては
六畳間にハーレムを作って悦に浸る異常性癖誘拐犯くらいのものだ。
「…………」
 頭を叩かれたあすみは、目をまんまるにしてから、しょんぼりと肩を落とす。
 最近はある程度の意思疎通が可能になったので、
私がひどく怒ってることを態度と行動で示せば大体理解してくれる。
 私の怒りを知ってか知らずか、「にゃーん」と鳴く猫。
「……おともだち、ダメ?」
 その猫をぎゅっと抱きしめるあすみ。
 あー、媚びるなムカつく!
「ダ・メ! その猫を捨ててくるまで帰ってくんな!」
 追い出しました。

 ちなみに追い出した直後にこれを書いてるので。
 あすみはまだ帰ってきていません。

428紫煙に巻かれて:2008/11/24(月) 10:38:50
煙草を吸う者との口付けは苦いと話していたのは、果たして誰であったか。
出力が有り得ない程高いセイバーを何とか扱おうと格闘する傍ら、視界を流れる煙にコピーエックスはいい加減苛立ちを覚えていた。
「ロッシー」
煙草をくわえたまま、振り返る目つきの悪い女性。
「何よ鉄屑」
「その呼び名はやめてくれないかい?」
そうだったとばかりに肩をすくめるドロシーに苛立つ。
一々人を馬鹿にする様な態度も言動も、何もかも気にいらない。
「んで、何よ鉄屑」
一際大きく煙を吸い込んだと思うと、煙が視界を塞ぎ、その臭いで思わず咳き込む。
「げほっ…そういうのはやめろ、って言ってるんだよ」
「ほほぉう、よわっちいアンタも言う様になったじゃない」

その一言が引き金になった。

気付いた時には、ドロシーは壁にまで吹き飛ばされ、吸う者が居なくなった煙草が床に転がる。
「……お前なんかに何が分かるんだっ!」
力の限り、煙草を踏みつけながら、半ば叫ぶように言葉を投げる。
「いつもいつもいつも!ボクが言う事なんて聞こうともしないで!
嫌だって、何回言ったと思ってるんだよ!」
ドロシーには目もくれず、煙草を踏み続ける。
「ボクを何だと思ってるんだ!?ボクは…誰かの身代わりの人形じゃないんだぞ!」
怒りに乗じて、何処かに封じ込めていたものが口を飛び出す。
誰かが止めろ、と叫ぶのが聞こえた気がした。
その声は、彼を作った科学者であったり、彼を見ようとしなかった人間達であったり。
「おい」
誰も彼もが叫んでいる。英雄はそんな事をしてはいけないと。
「おーい…エックスぅ?」
ふざけるな。なら、ボクは一体なんなんだ…

429紫煙に巻かれて:2008/11/24(月) 11:19:20
「目は醒めましたかぁ?」
床に突っ伏したまま、睨むように顔を動かす。
「…いきなり人の頭に蹴り入れる女性なんて聞いた事ないよ」
「私は非常識の塊ですわ」
おどける様な態度に怒る気力も失せ、深い溜め息をつく。
「ねぇ、エックス」
先程とは違うドロシーの声色にぎょっとしながら、顔をあげる。
背を向けたまま、煙草に火をつける彼女の表情は窺い知れない。
「さっき言う様になった、って言ったじゃない?」
細く吐き出された煙が空気に溶けて、色をなくす。
「来た時のアンタは物凄く暗い目をしてたわ。
それこそ、紫じゃあないけど誰かの意思で動かされてる人形って奴だった。
それこそ皆に何されても反抗する意志なんか砂粒の一つも感じられなかったし」
「酷い言われ様だね」
「まぁ口が悪いのは元からなんでね。
でもさっきのアンタはそれにちゃんと反感覚えたし、言いたい事も言った」
「子供みたいで嫌だな」
「子供じゃないつもり?」
「…すごく頭に来る言い方だね」
「ははは、ご冗談を」
煙草の火を消して、伸びをする彼女の背に視線を送る。
「自信を持ちな。アンタはエックス、うちらのかわいい我儘な家族で誰かのお人形じゃないよ。
…あたしらがその保証人さね」
振り返ったドロシーの金色の瞳は太陽の様に輝いていた。



「あ」
彼女の立ち去って、気を取り直して訓練に挑もうとセイバーを手にした瞬間、
本来の目的を思い出して、エックスは声をあげた。
「ここで煙草吸うなって言いそびれた…」
あの人を馬鹿にした様な笑顔を思い浮かべ、彼は小さく息をつくのだった。

430十六夜日記:2008/11/24(月) 19:43:49
 家に戻ってきた時、あいつはビショ濡れだったわけで。
「くしゃんっ」と唾液をまき散らす災害を食い止めるには、
私が後始末をするしかなかったわけで。
 毎度毎度手間をかけさせるこの悪魔には、そろそろお仕置きが必要なわけで。
 お仕置き。
 18禁な想像した輩はとりあえず逆立ちで池に飛び込め。
 今日の晩御飯は抜きにしました。
 あすみ、部屋の隅でしょんぼりモード。
 なぐさめてるつもりなのか、黒猫はあすみの肩に乗っかって頬を舐めている。
 さてさて。
 結局、あすみは猫を捨てることは出来なかった。
 まぁ、わかってはいたんだけどね。
 これで「捨ててきたー」と戻ってきたら、それはそれで私はあすみに腹を立ててたかもしれない。
 そんなもんです。
 もちろん、私が捨ててくることも出来る。
 心情的に「手放す」というのはあまり好きではありませんが。
 ただこれ以上飼うのを反対すると、あいつはどんな行動に出るかわからない。

 泣き出す?
 駄々をこねる?
 そんな可愛いもんじゃない。

 冗談でも何でもなく、家がなくなるのです。

 せっかく手に入れた小さいながらも落ち着く我が家。
 猫を飼うのを反対したから、なんて理由で焼失したら泣くに泣けません。
 いや泣くけどさ。
 かくして、我が家にHI☆MOがまた増えることになったのでした。
 めでたくなしめでたくなし。

 まぁあの猫、あれでただの猫とは違うみたいだし。
 使いようによっては、少しは飯のタネになるかもしれない。
 それについては、またいつか。

431※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2008/11/25(火) 21:45:48

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

 踏みしめた震脚が鳴り響くより、速く。
 彼女は己の間合いに「敵」を捉えた。
 目はわずかだが閉じている。どれだけ己の反射神経を研ぎ澄ませたところで、
雨が目に入った時のわずかなプロセスの乱れは免れない。
 地面は舗装されたアスファルト。不調な天気の影響はほとんど受けない。
 灰雨となって積もった黒灰も、雨に流れて下水を汚していることだろう。
 故に、最速には程遠いが。
 最良と言っていい程には、加速に身体がついてきた。
 後ろからやってくる「音の壁」を感じつつ、弾き出した速度をそのままに
手指の第二関節まで折り曲げた掌底を標的目掛けて勢いよく突き出す。
 狙いは下顎。牙顎とも呼ばれる人体の急所の一つ。
 この速度で打ち抜けば、顎が外れるどころか顎関節を破壊する。
 向こう数か月は、まともな食事を口にすることもできなくなるだろう。

 彼女にしてみれば、それでも手加減している方であり。
 そして、それが災いした。

 彼女の「非人速」に比べれば、それは亀の歩みと言える速さだったが。
 結果として、標的は彼女の攻撃を受けなかった。
 かわされた、と認識した時にはすでに次の一打を見舞っている。
 ――見舞って、しまっていた。

 後悔はそれよりも遥か後方、追いついてくるには時間が不足しすぎている。

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

432※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2008/11/25(火) 22:09:00

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

 続け様に放った一撃は、またもすんでのところでかわされた。
 いや、かわされたという表現は正確ではない。
 彼女の動作を視認してから回避するのは、人間はもとよりあらゆる生物に不可能だ。
 これは誇張表現ではなく、物理的にそう決定づけられている。
 故に標的はかわしたのではなく、その時点では無意味な方向に身体を動かしただけ。
 それは「野生の勘」などという非論理的な表現に頼らざるをえない、
まったくもって非常識な反射速度だった。
 時の流れが正される。
 もう「非人速」は使えない。
 意識と身体がまともに繋がる状態で、しかし体は連撃の後遺症で思うように動かなかった。
 二打も立て続けに空振りをかました報いが、これだ。
 一撃は覚悟した。
 あばら骨折だろうが内蔵破壊だろうが、甘んじて受け入れると。
 ただし、それであばらが折れようが内臓が破裂しようが、
その次の一打を先に見舞うのは必ず自分だ。
 そんな決意を一瞬で固め、来たる一撃を想定して歯を食いしばる。

 ――しかし。

「ひゃー、おねーさん危ないなー」
 一撃の代わりに来たのは、場の空気を瓦解させるそんな一言だった。

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

433十六夜日記:2008/11/30(日) 21:56:12
 こんにちは。
 あるいはこんばんは。
 十六夜日記のお時間です。
 パーソナリティの十六夜です。
 皆さん、昨夜はたっぷりフィーバーされましたか?
 私はされませんでした。
 間違えました。しませんでした。
 ――はぁ。

 今日はゲストが来ています。
 猫です。
 間違えてません。お燐です。
 よろしくーとか横で騒いでます。
 邪魔です。
 真似してあすみもバタバタ手を振り回しています。
 えらいはしゃぎようです。
 邪魔です。
 というか、お燐が来てからあすみは毎日こんな感じです。
 遊び相手が出来て楽しくてしょうがないようです。
 はしゃいで飛び跳ねて家具を破壊します。
 邪魔です。
 日がな一日騒ぎまくるので、夜型の私は昼間寝ることができません。
 寝不足です。
 イライラです。
 横で猫が、いや猫耳つけた人型妖怪がタイプのじゃえmdfdwws
 ……もう打ち直すのも面倒なんでそのままで。
 ああああああああああああああああああああああああああああ頬を舐めるな髪を引っ張るな歌うな笑うな人の胸に顔をうずめるなああああああああああああああああああ
 ――はぁ。

 誰か私に安眠をくださいませ。

434冬の吸血鬼:2008/11/30(日) 23:15:35
近所の並木道を一緒に散歩していた時だった。
不意にアサヒが雲を見上げて、呟いた。
「冬の雲だ」
灰色の雲を一緒に見上げるアサヒの手は少しひんやりしていて、ごわごわしたコートが少しくすぐったかった。
「ねぇねぇアサヒ。どうして灰色の雲が冬の雲なの?」
少し前まで、シキというものが何なのか、私にはよく分からなかった。
第一、空ってものが黒以外の色だって事も知らなかったもの。あと雲とか。
だから冬の空とか雲なんていわれても私には何だかちんぷんかんぷんだった。
「あー…なんていうか、雪が降りそうな感じがする雲っていうか…」
雪は知ってる。
前に寒さに耐えかねたあいつが地下に来た時見せびらかしてた白くて冷たい、直ぐに溶けてなくなった物体。
「あんな雲だと雪が降るの?」
「必ず、って訳でもないな。こっちは外に近いからそう簡単には降らないだろうし」
オンダンカって奴だとアサヒは肩をすくめた。
なんだ、降らないのか。
そうだと分かると少し残念な気持ちになった。

「くしゅん」
「…帰ったらココアでも飲むか?」
「…うんっ!」



とりとめもない話

435愉しい紅魔館:2008/12/01(月) 19:03:57
ナハトはたまに貸し出される場所を間違えたのではないかと思う瞬間があった。

月明かりの降り注ぐテラスで館の主がワイングラスを傾けている。横には彼女ご自慢のメイド。
いつもの光景。だが、今日はどうやらメイドに細やかな悪戯心が芽生えたらしい。
「! ! ! !」
主の視線が手の中のワイングラス―いつの間にか摩り替えられたドクロに釘付けになる。
緩やかに折り畳まれていた背中の翼が限界まで広げられている。
どうやら相当驚いたらしい。
再起動するのに時間のかかりそうな主を尻目に
メイドは表現出来ないほどの素晴らしい笑みで主の手に収まったドクロを回収し、グラスを持たせる。
さりげなく髪の匂いをかぐ彼女の姿をナハトは見なかった事にした。


吸血鬼らしい表情を思い付いたと言う主の妹に捕まり、ナハトは胸中で嘆息した。
適当にあしらおう物なら弾幕ごっこを要求されるのは目に見えている。
仕方ないにどんな表情かと問掛け、主の妹が得意気にやってみせたそれは

どこからどう見ても八重歯な口裂け女の様にしか見えなかった。

頭を抱えたくなるナハトを尻目に図書館の魔女からもそれらしいと好評だったと
誇らしげに(顔はそのまま)言った。
あのもやし魔女め、後でどついてやろう。


一日が終わり、憔悴しきったナハトの目にメイドと門番の姿がうつる。

壮絶な笑みを浮かべて、ナイフをばら蒔くメイドと悲鳴と共に針ネズミと化していく門番の
楽しそうな、参加は勘弁願いたいじゃれあい。
門柱にしがみついている息子に強くイ㌔と呟き、彼は笑顔で床と接吻を交した。



紅魔館は笑顔の絶えない明るい職場です

436:2008/12/05(金) 16:58:06
ガシャン、と陶器の割れる音が響き、藍色の破片が庭へ降り注ぐ。
「こりゃ、屋根は酷いことになってそうだな…」
硝子の器に盛られた白と黒の氷を口運びながら、銀髪の少女が呆れた様に呟いた。
「凄い雹ですからね」
少女の向かい、青い巫女服を着た少女がそれに同意する。
二刻程前からだった。
ひやりとした風が吹き抜け、いつの間にか広がった雲から大小様々な氷の粒が降り始めたのだ。
それからしばらくして山から里へ雲と雹が帯を描くように流れていく中、黒蜜を携えた少女が訪ねてきた。
「しっかし」
ばりぼりと音を立て、銀髪の少女が黒蜜をかけた雹を飲み込む。
「止まねぇな」


「あー…」
地面に落ちた拳大の雹を女は呆れ気味に見つめた。
ようやくと雹が勢いを弱めたと思い、軒を借りていた廃屋を出た途端であった。
「読み違えたかねぇ…」
一つにまとめた水色の髪を揺らめかせながら、紫煙を吐き出す。
背負った木箱を背負いなおすと深めに被った編み笠を片手に支え、歩き出す。
草木の影から奇妙な気配がちらつく。
「…そんなに人間臭いもんかね、あたしは」
笠を打つ音と煙を引き連れて、彼女は里へと続く道を進んでいく。

437十六夜日記:2008/12/07(日) 20:53:55
 すいません。
 何で出だしから誤ってるんだろう私。
 しかも謝るを誤ってるし。
 この前は寝不足でなんか暴走した文字列を並べてました。
 夜に働く仕事をしてる関係で、昼に寝ないと体調がやばいのですよ。
 あすみ? もう寝てます。
 食うだけ食ったら速攻おやすみとは素敵な人生だ。あやかりたい。
 お燐はあすみが眠った直後に姿を消した。
 もともと「妖怪として」のあいつはあすみに飼われてるわけじゃない。
 何でもどこかに飼い主がいるんだとか。
 まぁ、「猫として」あのお子様の面倒を見てくれればそれでいいのですが。
 夜になるといなくなると言うことは、私とやってることは大差ないのかしら。
 その割にうちに食費はいれてくれませんが。
 食うだけ食って失踪とか。
 すばらしき哉HI☆MO。

 さて、お仕事前なのでこんなところで。
 今晩もがんばります。

438冬の境内:2008/12/13(土) 13:30:07
音が消えた境内を一通り見回し、早苗は溜め息をついた。
雪の落ちる音以外は何も聞こえない。まるでそれ以外の音が雪に喰われた様に。
と、そんな事を考えては見たものの、明日の雪掻きが大変な事には変わりはない。
こんな雪の中を参拝にくる粋狂は居ないと分かってはいてもやらずにはいられない生真面目な彼女はそんな事を考え―
降りしきる雪の中で茶色い皮のとんがり帽子を揺らしながらやってくる粋狂な者を見つめた。


聞けば、コートの内側に防寒用の呪を縫い付けた、冬用の代物らしい。
彼女はそう言うと帽子に積もった雪を払い、暖気に曇った眼鏡を外した。
―本やらゲームやらで大分視力が悪いんだ。
眼鏡を外した顔をまじまじと見つめていたのか、彼女は照れ臭そうに笑って見せた。


しばらく他愛もない会話し、思い出したように二柱への奉納品だという酒や食糧を早苗に渡すと彼女は帽子を被り直した。
もう行くのかと聞けば、吸血鬼の館にも用があると肩をすくめられた。
もうしばらくしたら、娘らが遊びに来るかもしれない。
暖かな室内から出るのは流石に抵抗があるらしく、靴を掃く傍らそんな事を口にした。
雪合戦でも誘うつもりなのだろうと、覚悟はしとくように、からかう様な声色をされたので
雪合戦は得意だと笑いながら返す。


音が消えた境内を一通り見回し、早苗は溜め息をついた。
雪の落ちる音以外は何も聞こえない。まるでそれ以外の音が雪に喰われた様に。
「早苗ー!」
雪の中で手を振り、自分を呼ぶ少女達に早苗は込みあげる笑みを隠さずに雪靴に足を通すのだった。

439闇白:2008/12/20(土) 13:06:26
※グロあり、苦手な方は閲覧ご注意※
※色々狂ってるのでそういうのがだめな方もスルー推奨※
※以上を踏まえて、自己責任でお願いします※






覚悟は出来ましたか?



ざくり、と降り積もった雪を踏みしめながら、ヤラは灰色の空を見上げた。
止む気配の無い雪が視界と彼女の痕跡を覆っていく。
ヤラは雪が好きだった。
溶けて土と混じった泥色の雪も無垢な白さを晒す雪も。
特に全てを飲み込み、容赦なく覆い被さる鋭さを持った吹雪なんて最高だった。
時間が経てば、流れ出た命の色も青ざめた肌も雪の白が全て隠匿してくれる。

握りしめた大鎌の刃は雪の白と命に濡れていた。


彼らは彼女と同じく外から来た種族だった。
手薄な辺境の惑星を蹂躙し、信仰という名の狂気を振りかざした輩だと何人かが顔をしかめて言った。
彼らが使うものは全てに命が宿る。
そう言ったのは、誰であったか。
ふとそんなことを思ったのは、彼らの前に舞い降りた時だった。
銃弾の一発に至るまで、命を宿した彼らを切り捨てる。
聖なる騎士達の探知すら通用しない彼らではあったが、そこに揺らめく命は隠しようがなかった。

どこにいようと、どんなに姿を隠そうとも。

彼女は、闇はどこまでも彼らを追いかけた。

そうして、銃弾の一発、鎧の一欠片に至る命を余すことなくそぎ落とした。


ヤラが思考の海に沈む間に刃の命は溶けた雪に流され、元の冷たい黒へと姿を変えていた。
辺りもすっかり雪に沈み、元の雪原へ戻っていた。
「・・・・・・」
改めて目の前のそれを見る。
両手両足をもがれてなお、憎しみと怒りに燃える瞳は衰えることなく、むしろ
更に暗い輝きを増しながら、彼女を睨み付けていた。
「後はあなただけね、何か遺言はあるかしら?」
息も絶え絶えに、口元から命を溢れさせながら―それでも男は呪詛を彼女へと投げつける。
「我らは、死を恐れない・・・貴様のような悪魔には、けっして」
そう言い放つ男の前に後ろ手に持っていたそれを転がす。
「・・・!!」
「強かったわ、彼女」
残酷な笑みと浮かべながら、ヤラは続ける。
「あなたと同じようにしても、目玉を抉り出してもなお、呻き声一つあげなかったもの」
もっとも、と足でそれを踏みつけながら、徐々に足に力を込める。
「最後はあなたのこと、呼んでたから興ざめだったけどね」
ぐしゃり。と雪の白が色を変える。

「化け物め・・・・!貴様だけは殺してやる・・・!」
その言葉にヤラは歓喜した。瞳だけで神の魂をも焼き焦がさん程の憎悪を持った男は
ようやく彼女と同じ場所へ堕ちた。
「ええ、今更気づいたの?」
これはきっと良い闇になる。
彼女は歪んだ笑みを浮かべたまま、鎌を振り下ろした。

440帝都のクリスマス:2008/12/25(木) 17:39:41
雪の降りしきるインペリアル・シティ。しかし、この寒い中どこも活気に満ちていた。今日は
クリスマスなのである。若者はイヴの夜に騒ぐものだが、敬虔な人々や常識のある人々は
今日がメインであることを知っている。色とりどりの玉やモールで飾ったクリスマスツリーに
ごちそうのチキン、年代もののワイン。実に楽しみな日である。

インペリアル・シティの中央に聳えるインペリアル・パレスも例外ではない。正門前の広場に
は巨大なツリーが飾られ、中央勤務や出張・報告・休暇などで来ていた高官達がパーティを
楽しんでいた。皇帝一家も同じように身内でささやかに行っていた。

祈りを済ませ、食事に取り掛かる。子供達の食欲は凄まじいもので、作法くらいは弁えてい
るものの、最初に用意した量では足りず、追加で作らせる羽目になった。そしてそれさえも平
らげてしまうと、興味は朝にサンタクロースが置いて行ったプレゼントに移り、各々の自室へ
と引きこもってしまうのであった。

「いやいや…ずいぶん食べるものだね」
「年に一度の特別メニューだもん、あれくらい食べてもいいんじゃない?」

食事が済んで、少々火照った体を冷やす為にバルコニーに出た皇帝が金髪で翼の生えた
妻に驚きの篭った声で話しかける。幼い妻もまた、子供達と同じくらい飲み食いしておきな
がら、そう返す。皇帝は手のひらを見せて肩をすくめるという仕草で更に驚いたことを示す。

「まあ、食べないよりはずっといいな。太りすぎも困るが…痩せ過ぎでは戦えない」

軍人出身らしく、戦いを引き合いに出して肯定するが、子供達に軍人としての道を歩ませよう
としていることも言外に含まれていた。

「おっと、子供たちにはあげたけれど…」
「ん、なぁに?」

内ポケットをまさぐる皇帝、おそらくプレゼントを渡すつもりなのだろうか。彼はこういったところ
にまめである。このことが多くの細君とうまくやっている秘訣なのだろう。

「はいっ。フィフティニー、メリー・クリスマス」

そう言って彼は丁寧にラッピングされた小包を取り出した。天使がリボンを解こうとすると、皇帝
が指でそれを制止し、バルコニー備え付けのテーブルの雪を払い、きちんと置いて開けるよう
に勧めた。

「ありがと…わぁ…」
「気に入って、いただけたかな?」

前にアクセサリーショップで見かけて気に入ったブローチだった。銀製で、品のあるデザインの一
品である。

「覚えていてれたんだ…」
「あの時は別のものを買ったけれど、君が帰り際に視線を送ったのに気づいてね。うん、こういう
ものは今日贈るのにぴったりだろう」

少し自慢げに話す彼だったが、彼女は嬉しかった。『浮気者』と友人達から囁かれる彼だが、今は
それを否定できる気がした。ちょっとしたことを覚えていて、それでこんな日に喜ばせてくれたのだ
から。

雪はまだ降っていた。ホワイトクリスマスの夜が静かに更けていく。

441宴会を二人で抜け出して:2008/12/25(木) 18:45:44
夜風でほてった頬を覚ましながら、何をするともなしに二人で夜空を眺めていた。
「きれーね」
「ああ」
下からは耐えることのない賑やかな音楽や人々の騒ぐ声が響いていた。
せっかくのハレの日だからだと言わんばかりに、集まった者達は歌い、踊り、手を叩きあって笑っていた。

半ば収拾のつかないそこで様々な者から勧められ、一体どれほどの量の酒を飲んだことだろうか。
そうして杯を重ね、微酔いを越えた頃に手を引かれ、宴会から二人で抜け出したのはほんの少し前。

「大丈夫か?」
アルコールでとろけた頭に声が心地よく広がる。
「ん、だいじょーぶ」
くすくす笑いながら背を預ければ、抱えられるように包み込まれる。
「わたし、あなたがすきだよ。髪とか声とか全部」
酔ったせいか、あるいは今日がハレの日だからか。
「私も、お前の全てが愛しい」
どちらともなく、唇を合わせ―


「ん?おい、馬鹿親父。王の姿がないが?」
「……………」
「…全くここでも馬鹿夫婦発生中か。
やれやれ、一族の集まりだから何事かと思ったがただのパーティとはな」
「……………」
「そうだな…それだけ余裕が出来たとも取れるな。
さて、親父よ。今一度乾杯でもしようか。
我らの王と一族の繁栄を願ってな」

442年明け早々の冒険:2009/01/01(木) 19:02:01
退屈な日常、神社の手伝い―、
それを抜け出しては街へ繰り出す日々―
だがしかし、悪事はばれるものである。
代わりに化けて働いていた人形が紙に戻り、帰ってくると父に怒られる日々。
そんな日々から抜け出したいと思った少女は、
近くに来ていた蒸気船の中に仲間とともに忍び込み―
そして蒸気船は動き出す、彼女らを乗せて
「大丈夫なん、あかり これどこまで行くん」
「大丈夫や聖、すぐ近くまでや」

―だが、その船は「めりけん」へ帰る船だった
     そして、彼女らは太平洋を越え、「めりけん」へとたどり着く―

443十六夜日記:2009/01/10(土) 22:16:19
 私の世界は灰色にまみれている。

 変化の乏しい生活を揶揄してるわけじゃない。
 恋愛色のない生活を自嘲してるわけじゃない。
 世界は、文字通り、灰色に染まっていた。

 いつからだったかな。
 もう、一年くらい前になると思う。
 空から灰が降るようになった。
 灰色の灰。当たり前だけど。うん? 当たり前かな?
 当たり前のように灰色の灰は、当たり前のように降り積もり。
 私の世界を壊滅させていった。

 一年。
「三年」しかない私の時間にとって、それは3分の1にもなる長い時間だ。
 最初は雪かと思った。冬だったし。
 けど、冷たくない。そもそもあんな薄黒い雪が降ってきたら、それはそれで大事です。
 それは差された傘を黒く汚し。
 頭を抱えて駆け抜ける人の頭を黒く汚し。
 もともと薄汚れたアスファルトの道路をさらに汚し。
 私の目に映るすべてを汚していった。

 理由はよくわかってない。
 どこぞの国から風に乗ってきた火山灰じゃないかって言われてるけど、根拠はないらしい。
 何故、降ってくるかわからない。
 けど、それは確かに降ってくる。
 深々と。
 世界そのものを、穢していくように

 信仰心の篤いとある誰かが言った。

 ――七つの封印は解かれた。
 ――高らかに響き渡るはラッパの音。
 ――かくて、バビロンは崩壊する。

 バビロンの大淫婦と貶められた私達は。
 こうして歪められた世界の中で、それでも生きている。

444※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/01/11(日) 18:47:56

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

「こんにちは」
 言葉を紡いでから頭を下げるまでの動きも流麗に。
 玄関の先で両手を揃えて佇む少女は、そうして簡素な挨拶を述べた。
 ――その瞬間に空気の質が変化したことに、気づいているのか否か。
 紫色の髪はこの国では稀有だが、十六夜にはどうでもいい。
彼女自身、その髪は光の遮られた海底のような深い蒼色をしている。
 外見から年齢を判断すれば、十代半ばと言ったところだろうか。
 だが、決してそんな安易な判断で計れるような存在でないことは、その怪奇な存在感から想像がついた。
 十六夜の頬を浅く伝った汗も物語っている。
「…………あんた」
 発せられた言葉は、砂漠において水を求める彷徨い人のように乾いていた。

「あんた…………『ナニ』?」

 十六夜は問う。
 外見では判断のつかないそのイキモノに。
「何、ですか。随分と哲学的な質問をするのですね」
 妹と相性がいいかもしれないわね、と小さく微笑む。
 十六夜は笑わない――笑えない。
 それ以外の筋肉を即座に動かすよう研ぎ澄まされた神経が、頬筋を動かす余裕など与えない。
「この間、すぐ近くに引っ越してきまして。今日はそのご挨拶に」
 言って、再び頭を下げる。
「古明地さとりと申します。お見知り置きを」

 そのしばらく後に、十六夜は後悔する。
 この時、この瞬間であれば、このイキモノを始末できたのではないかと。
 そしてその直後にかぶりを振って嘆息する。
 それでも、このイキモノを仕留める自分の姿は想像できないと。

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

445※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/01/11(日) 19:43:38

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

「じゃあ、あんたが……」
「ええ、お燐は私のペットです」
 立ち話も何だからと、十六夜はさとりを部屋に招いた。
 さとりは一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに目を弓形に細めて承諾した。
「あの娘から貴女の話は聞いていたので、遅れたけれどご挨拶を、と」
 勘違いだったのだろうか、と十六夜は胸中で首を傾げる。
 今、ここには十六夜とさとりしかいない。
 あすみは外に出している。普段なら滅多なことでは彼女を独りで外に出したりしないが、
今は逆にこの空間に留まっている方が遥かに危険だった。
 彼女が思った通りの相手であれば、

 今ここで、十六夜の首を獲りに来ないはずがない。

 十六夜を殺そうとする人間は、例外なく昼間を狙う。
 彼女を殺すためには彼女を知る必要があり、彼女を知れば皆悟るからだ。
 そして、今は昼下がりの、彼女が最も苦手な時刻。

「いや、むしろあすみの面倒を見てもらって助かってるくらいよ」
「あの娘が死体でない人間に興味を持つのは意外でした」
「したい?」
「こちらの話です」
 言って、十六夜の出したお茶をすする。
 やはり勘違いだったようだ。
 でなければ、十六夜が出した茶を平然と飲むはずがない。
 毒殺とはいかないまでも、心身を歪める程度の薬品ならグラムいくらで手に入る。
 何の迷いもなく『敵』の出した物が飲めるとしたら、それは――

「――鋭いのね」

 物思いにふけっていた彼女は、熟しきった果実のように濃密なさとりの笑みに終に気づくことはなかった。

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446材料:2009/01/12(月) 07:48:07
曲がりなりにもナハトは男性型ダークマターだ。
女性の裸や下着姿に欲情することはないが―蒼星石は例外―、やはり抵抗感の様な物はある。
と、大量の洗濯物を干しながら、息をつく。
紅魔館、屋上部。
長くに続いた雪が止み、貴重な日差しの降り注ぐ中、シーツやメイド服、ドロワーズが風になびく。
(咲夜め)
その光景を見ながら、館内を掃除しているメイド長を思い浮かべる。
(奴には羞恥心というものがないのか)
あるいは自分が異性と見られていないのか。
「…ん?」
館内への扉の開く音にさては噂をすれば、と振り返る。
「…精が出るわね」
と、眠たげな目をした魔女。
「珍しいな、図書館のもやしっ子がこんな所まで出て来るとは」
驚きながら、手にした本へ目を移し―
「確かめたい事があるの」
すっ、とスペルカードを構える彼女にナハトは思わず後ずさる。
「あ、いや、物凄く嫌な予感がするから、あ、後色々仕事が」
「大丈夫よ、咲夜に正式に借りてきたから」
「だから」
スペルカードが輝きを帯び、展開される。
「大人しく材料になりなさい」
「あのやろぉぉぉぉ!」


逃げるように飛び去るナハトとそれを追う様に飛び立つ魔女が去った屋上には
『ダークマターを使った錬金術レシピ』の本とドロワーズが風に揺れていた。

447※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/01/12(月) 19:42:09

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

「あ、お姉ちゃん見つけー」
「こいし……! 何故、あなたがここにいるの?」
「お姉ちゃんのペットに教えてもらったのよ」
「そうじゃなくて」
「だってお姉ちゃんが人間に直接逢いに行くなんて中々ないじゃない」
「…とにかく、人の家にあがったら家主に挨拶くらいはちゃんとしなさい」
「はーい。
 家主の人こんにちは。私はさとりお姉ちゃんの妹で古明地こいし。しがない訪問客よ」
 一連の姉妹の会話が区切られるまで、十六夜は微動だにしなかった。
 先程も浮いた汗が、思いだしたように頬をつぅ、と伝う。
 それどころか背中にはびっしりと冷たい汗が噴き出している。

 気がつかなかった。

 信じられなかった。
 まず真っ先にこれは夢だと思った。次に自分が壊れたのだと思った。
 あり得ない。空から天使が舞い降りてきてラッパを吹き鳴らすくらいあり得ない。
 今、この瞬間まで、確かにこの部屋には自分とさとりしかいなかった。
 目の前の「自称妹」など、心音の一つさえ感じられなかったのだ。
 ――この家に侵入した人間を感知できなかった。
 それは屈辱などではない。
 十六夜は確かにプライドが高い方だ。自分の主張を批判されるのが大嫌いで、
あらん限りの語彙を尽くして相手の意見そのものを叩き潰す。また自己優位論信者で、
無意識にか他人を見下している節がある。
 その彼女も、ことこれに関しては自分のプライドなど気にかけている余裕がない。
 十六夜の全身をあますところなく駆け巡ったその感情は、

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

448※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/01/12(月) 20:02:08

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

「どうしたの? お姉ちゃんとしてたみたいに私ともおしゃべりしてよ」
「あなたが無作法に家に入ってきたから、腹を立ててるのよ」
「そうなの? 人間ってつまらないことで腹を立てるのね」
「…………れ」
「ん、なに?」
「…………もう帰ってくれない?」
 息がわずかに荒かった。
 寒い。浮き出た汗が体温を奪い、全身が小刻みに震えている。
「なんで? 勝手に家に入ったことは謝るから、私とも遊んでよ」
 つまらなさそうに口を尖らせるこいし。
 その横で、さとりがうっすらと笑みを浮かべている。
 十六夜はそれきり何も言わない。

 均衡する三人。
 それを破ったのは、

「――そんなに私を怖がらないで、十六夜。
 恐怖に覆われてしまったせいで、貴女の心がよく見えないわ」

 それは小さな音だった。
 カシン、という何かが軋むような音。
 雑踏の中では確実に紛れてしまうその音も、張りつめた空間の中では
澄んだ水を打ったように響き渡った。
 こいしはきょとんと目を瞬かせる。
 さとりは首をわずかに動かし、表情は完全に無。
 そして十六夜は、

 さとりの眉間目掛けてシャーペンを放ったその体勢のまま、
猛禽のごとき獰猛な目つきで彼女を睨みつけていた。

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

449※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/01/12(月) 21:29:53

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

「『この場においてのつまらない冗談は死を意味する』、ですか。
 それは知りませんでした。前もって教えてもらわないと」
「……読心か」
 技術としては聞いたことがある。
 相手の口調・目の動き・声の高低差など、些細な行動からプロファイリングし
相手が何を考え、次に何をしようとしているかを予測するのだという。
「そんな技術があるのね。ただ、あくまで予測でしかないようだけれど」
 そう、技術としての「読心」は、相手の心理を読み測るだけだ。
 だが、さとりの行うそれは、
「私の読心は能力としてのものよ。押し測るまでもなく、すべてが見えるの」
 そうだろう。こちらが考えたことをそのまま言葉に出来るのだから。
「あ、ちなみに私は出来ないよ。第三の目を閉じちゃってるからね」
 そう言うこいしの言葉は無視。
「なんで私のところに来たの?」
「先ほど伝えましたよ」
「もう一度聞こうか?」
 十六夜の深い蒼の双眸が冴え冴えと輝く。

「――何が目的で、私の領域に踏み込んだ?」

 すっ、と十六夜の手が動く。
 その手の動きの延長線上にあったクッションが、前触れもなく引き裂かれた。
 まるで鋭利な刃物で断ち切られたように中身をぶちまけるそれに、
最も近くにいた十六夜は目もくれない。
「おぉっ。え、何今の? あなたがやったの?」
 一人状況から取り残されているこいしは、眼前で展開される殺意混じりの応酬から
離れ、完全に傍観に徹している。少なくとも、心配や怯えといったものは見られない。
「駄目ね。力の誇示が目的ならともかく、意思なき力の発露は暴走としか言えないわ」
「意思を持った時は、あんたの首が刎ね跳ぶ時よ」
「……ふぅん、そう。貴女にとって、この部屋こそが『聖域』なのね」
「質問に答えろ」
 音が聞こえるほどの歯軋りが十六夜から漏れる。
 温度が上がる十六夜に対し、さとりはどこまでも空虚だ。
「深い意味はないわ。お燐の話を聞いて、少し興味を持っただけです」
「なら今すぐ帰れ。それか死ね」
「どちらもお断りよ。ようやく貴女の中が見えてきたところですもの」
 それではもう一つ、と、

「十六夜。貴女にとって、『彼女』は何?」

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

450※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/01/13(火) 22:04:14

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

「お燐から聞いたわ。『彼女』を見つけた直後に貴女に襲われたって」
「人間とは思えなかった。喰い殺されるかと思ったそうよ」
「あの娘は仮にも私のペット。ただの人間ごとき、餌にこそなれ脅威になんてなり得ない」
「だから貴女に興味を持ったの」
「妖怪を喰い殺そうとする人間は、何を想うのか」
「そうそう、お燐はこんなことも言っていたわ」

 ――その姿はまるで、奪われた子供を奪り還そうとする母猫のようだった。

 言葉の羅列を、一音一音噛み締めた。
 ついさっきまで滾っていた衝動はすでに無い。
 まるで表を向けていたカードがひっくり返ったような、幽まり還った裏の顔。
 視線はさとりを向いている。
 否。十六夜の視界には、もうさとりしか映っていない。
 彼女の目が見える。鼻が見える。口が見える。髪が見える。
 首が、指が、肘が、胸が、腹が、脛が、足が見える。
 そのすべてが――もう、ただの物体としか映らない。

「……そう。それが貴女の深淵。貴女の根底。貴女の中にある最も古き原風景なのですね」

 十六夜の手には、傍らに立てかけられていた棒状の物体が握られている。
 それは何の飾り気もない棒に過ぎなかったが、見ようによっては「杖」にもとれた。
 構えるでもなく、中程を掴んでぶら下げる。

 さとりが陶然とした笑みを浮かべて言い放つ。

 前触れなく、視覚が支配する世界そのものを置き去りにした神速がさとりの胴体を薙ぐ。

 そして、

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

451いざます:2009/01/13(火) 22:30:07
最近記憶と記録は違うことに気づいたので、
書き残すという所作をしておきたいと思ったり

十六夜の怒りのボルテージは二段階

一つは十六夜自身の領域を侵された時
二つは『彼女』に干渉された時
ただしどちらも源泉は同じ

さとりんが見た「原風景」の中に、すべての理由が存在する

452十六夜日記:2009/01/13(火) 22:44:35

 心が読めるってどういう気分なのかしら。
 こんばんは。十六夜日記のお時間がやってきました。
 パーソナリティの十六夜です。
 今日もハイテンションにクールダウンしていきましょう。メメタァ! メメタァ!

 すいません、私の脳が溶けてました。

 この前、心が読めるっていう古明地さとりという少女に会いました。
 最近、引っ越してきたらしい。
 会ったその日に思ってることをズバズバ言いあてられました。
 うん、キモイって思ったことまでバレましたかっこほし。
 周りからもけっこう敬遠されるらしい。そりゃそうだ。

 事の発端は、さとりん(小五ロリと呼ばないだけ優しい私)がお燐の飼い主だったってところに始まる。
 お世話になってます的な挨拶されたの初めてですよ私。
 お世話なら某タダ飯食らいを毎日のようにしてるというのに!
 あははははすいません考えたらまたムカついてきました。
 あのお子様と来たらちょっと目を離した隙に飯をこぼす水をこぼす洗剤をこぼすと(ry

 まあそんなこんなで妙に我が家の人口密度が増えつつある今日この頃。

 追記:
 バカな友人が最近うちに入り浸って半ヒモ化してます。
 こいしのペットになりたいらしいです(こいしはこいしで何故かよく来る)。
 …こいつを引き取ってくれる業者ありませんか? お金なら出すので。
 焼却処分とかしてくれるとなおいいです。あ、保健所でも構わない。

453十六夜日記:2009/01/26(月) 22:29:51

最近、正義って単語をよく考える。
正しいって何かしら。
私の正しさは、私以外の誰かの正しさになるのかしら。

まぁ他人の正義には興味ないんだけどね。

454名無しさん:2009/01/27(火) 21:48:25
【正義】
1.人の道にかなって正しいこと。
2.正しい意義、また正しい解釈。
3.人間の社会行動の評価基準で、その違反に対し厳格な制裁を伴う規範。
【Yahoo広辞苑より】

正義ってそもそも存在しないと思う。2の意味でならともかくも、だ。
というより、2の解釈でさえ、存在しないのではないだろうか。
正義って、なんだろう。その対極にある悪って、なんだろう。

自分は、何が正義で、何が悪かなんてわからない。
恐らく、生きていても一生わからなそうな、
絶対に理解できないと思う。自分が不器用だから、とかそんな次元ではなく。

いったい正義ってなんなんだー!教えてくれト○ロー!
エリ「待て、なんでトトロなんだ」

455十六夜日記:2009/01/27(火) 23:13:56

何か晩御飯を作るのがめんどいです。

うちにはタダ飯のくせに大食らいのおガキ様がいらっしゃるので、
それでも作らないわけにはいかないのだけれど。
コンビニの出来あいで済ませようとすると、メチャメチャ怒り出すし。

「おなかすいたー、ごはんだー」とか言ったら
満漢全席が出てくるようなおうちに住みたいです。

456十六夜日記:2009/01/28(水) 22:15:17

風気味のような気がします。

間違えました。別に身体が昇華しつつあるわけではありません。
いやそれはそれで面白そうというかオラワクワクしてきたぞ!

まぁ風邪っぽいだけなんですが。

幸いこういう時に潰しがきく職業だったりするし。
今日はお仕事に出るのはやめておこう。

457アホくさい話:2009/01/29(木) 19:58:30
「おー、すごいすごい。流石ダークマター。
外の武器でも全然大丈夫なんだねぇ」
地面に転がった残骸を見下ろしながら、ドロシーはいつもの様に煙草に火をつけた。
「まあな」
対するナハトも黒光りする鋭い鈎爪をした手甲をマントの中へとしまいながら、ほぅと息をつく。
足元には彼が壊したであろう武器がごちゃごちゃと散らばっていた。
「それにしても、流行りなのか?こういう連中」
再びマントから出した―先程とは違い、革の手袋をはめた手で地面を指差す。
「天意は我等にありだとか言いながら、買い物帰りの者を襲うのは
相当気がおかしいか、馬鹿の様にしか思えん」
その言葉にドロシーは肩をすくめて、同意するように苦笑した。
「里でも大分白い目で見られ始めてるみたいねぇ。
実は妖怪だけでなくて、反対する輩まで殺してるんじゃないかって噂あるくらいだし。
言ってることもやってることもカルト教団並…もっと言うならナチスとかそれっぽいねぇ。
その内、原爆で幻想郷吹っ飛ばすんじゃないかしら?くすくす」
そんなことに興味はないと言わんばかりに背を向けるナハトにドロシーが口を尖らせる。
「まあ、あれよあれ。
自分らのやってることは絶対間違っていないとか言って
正義なんてものを振りかざすのは迷惑極まりない事はないって事。
民族浄化とか霊長の長とか思い付くんだから人間ってアホよね、アホ。
あ、でも紅は別よ、別格」
そうして、ふといつの間にかその場から姿を消していたダークマターに軽く舌打ちをし、
その場をぐるりと見回して、首だけでも持って帰ればいいもんかねぇと一人呟いた。

458十六夜日記:2009/01/29(木) 23:25:46

ん〜、まずい。本格的に身体を壊したかも。

立ち上がるだけで目眩がする。吐き気がする。
こんな時に限って古明地姉妹は姿を見せない。
姉は間違いなく状況を悟っているに違いないというのに。薄情者め。

それでもあすみには飯を食わせなきゃならない。でないと我が身が危うい。
しゃーない、あいつを呼びませうか。

459トラジャをレギュラーで:2009/02/01(日) 11:26:28
遠い昔、遥か彼方の銀河系で…

大雪が降った次の日のインペリアル・パレスは積もった雪で白く輝いていた。
その雪化粧をした宮殿の一室で皇帝と皇后がミニテーブルを挟んでコーヒーを
飲んでいた。別の銀河、遥か未来を生きる友人達の見解をつまみにしながら。

「正義ねぇ…便利な言葉だ。私も愛用している」
「お前も段々、政治家になってきたんだな」

銀河内乱、ユージャン=ヴォング戦争、ルウィック解放戦争、その他諸々の
帝国への脅威に際して、彼は臣下や市民達に繰り返し正義を説いてきた。
それらは全て自分を正当化する為の飾りに過ぎなかったのだろうか。
彼の糟糠の妻も、少し哀しさを孕んだ口調で返した。

「政治やってるんだ、プロにならなきゃまともな仕事ができない。そうなると市民達の
代表たる議員達が帝室関連予算という名の私への給料を支払うことに同意しない
だろう」
「給料という言い方はどんなものだろうか」

何かをやるにはその道のプロフェッショナルでなければならず、プロには正当な対価を
受け取る権利があるという彼の考え方らしい発言である。しかし、封建社会で育ち、
王家への忠誠ということを幼少より教育されてきた彼女にはいまだに受け入れにくい
考え方である。

「父親が官僚、自分は軍人出身なのでね。まあ、リップサーヴィスに終わらせるのも
また問題だろうけれど。私は現実を見据えて行動するが、砂を噛むような暮らしは
嫌だね」
「で、お前の正義とは何だ?」

彼が正義という言葉は飾りではないということを匂わせた発言にすぐさま彼女は
飛びついた。冷めたように見られがちな皇后だが、内面を知る者は彼女の内に
熱いものが流れていることを知っている。今回もそれが働いたのだ。

「大きく言えば、帝国統治下における秩序正しい社会の維持と発展。小さく言うなら、
こうして君とコーヒー片手に話ができる毎日の維持。これを乱す愚か者はフォースと
1つになってもらう」

つまり、彼には平穏な毎日が正義なのである。統治者としてはまず及第点の答え
であろう。そして、妻たる皇后は文句無しの満点を与えていた。

「コーヒーが切れたな、まだ死にたくないから私が淹れてこよう」
「ふふ、君も淹れ方うまい方だからね、楽しみにしているよ」

コーヒーを淹れに行った皇后の表情は目尻と口元がわずかに緩んでいた。

460朝焼け、黄昏、宵の口:2009/02/10(火) 12:36:57
まだ夜も明けきらない頃でも様々な人々が居た。
これから仕事へ行く者、ようやく帰路につく者、それぞれの場所へ彼等を運ぶ者。
まだ肌寒い空気の中でマスクから鼻を出して、紅は空を見ていた。
微かな星の残る藍と太陽を連れて、空を染める橙が彼女の最も多く見掛ける空の色だった。
周りは下を向いて、電車を待つ中、紅だけはじっと空を見つめていた。


いずれはこうして見上げる事すらなくなるんじゃないんだろうか。
信号待ちに自転車を止め、ふと見上げた空でアサヒはそんな事を思った。
沈む夕陽を受けて、茜や黄金へ染まった雲の背後から群青色の空が忍び寄る。

そういえば、あの隙間妖怪はそろそろ目を醒ますのではない。
空で混ざりあった、昼と夜の境を見つめながら、彼女は思い出したようにペダルに足をかけた。


湖面の月を肴に神奈子は一人、杯を重ねていた。
外の世界が何時かに忘れてきた空で星と月が宴と洒落込んでいた。
その様を懐かしげに眺めながら、杯へ酒を注ぎ込む。
懐かしきかな、と呟けば、年寄り臭いと声があり
確かに違いないといつの間にか隣に腰掛けた旧い友と杯を交わす。
移ろう空と人へ思いを馳せながら。

461十六夜日記:2009/02/11(水) 08:55:43

やっと風邪が治りました。

というか、風邪じゃなかったみたいです。インフルエンザとか、なんかそんなの。
決して拾い食いして中ったわけではありません。ないんだからねっ。

その間お仕事にもいけなかったため、家計はそろそろ妖怪死体盗みです。
病み上がりだけど、今日は久し振りに頑張ろうかと思います。

462※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/02/11(水) 08:57:17

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

 灰が降る夕暮れ。
 などと評しても、しょせんは現在の時刻から晴天時の空模様を推測しただけであり、
今日のような『どしゃ降り』の日は日中を通して宵闇と変わらない。
 雨よりもはるかに厄介な灰雨は、必然的に人の往来を抑制する。
 空気の抵抗を受けて中空をちらつくその様はさながらドス黒い雪のようで、
だからだろうか、水を打ったように静まり返った通りにもそれほど違和感を覚えない。
 自分独りだけ残して死に絶えていった世界。
取り残された自分の中に取り残された感情は、さて。
茫洋と、他愛もないことを思い連ねる、そんな黄昏時。

「まぁ、そういうものなのかもしれないけれど」
 行きつけのスーパーマーケットが潰れていた。
 現状を一言で表すと、その程度のことでしかない。
 自然と当然の境界に遍在する、荒廃という名のバックグラウンド。
 その原因が暴徒の集団による集団強盗であったとしても、その程度の範疇を超えることはない。
「……どうするかなぁ」
 頭をかく。

 ――約束を、してしまっていた。
 今日の晩御飯はハンバーグにすると。

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

463※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/02/11(水) 08:58:53

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

 あすみは特に好き嫌いなく何でも食べる子だが、それでもとりわけ好むものが2つある。
 その1つが、ハンバーグだった。
 最近体調が優れなかった十六夜は――仕方がないとは言え――、
出来あいの総菜で何とか夕食という体裁を保たせていたのだが、
「…………………………………………………………ごはん、違う」
あすみにはそれが大層不満だったようで、三日目あたりから夕飯時になると
十六夜をぺしぺし叩き何かを訴え出すようになった。
 ようやく復調した時にはすっかりへしょげてしまい、十六夜が台所に立つのに合わせて
部屋の隅にちょこんと丸まり、「いいの晩御飯がお惣菜でも私は大丈夫」とでも
言わんばかりの表情でうずくまるという有様だった。
 これがあすみなりの「甘え」であることは十六夜も理解している。
 そもそもあすみに食での好き嫌いなど存在しない。
 食べられるものなら、究極的には何でもいいはずなのだ。
 だから、あすみはレパートリーそのものに不満があったわけではない。

 ないがしろにされていると思ったのだろう。

 あすみは幼いが、だからこそ最も身近な存在からの愛情には敏感だった。

「ここが使えないとなると、割と遠くまで行かないと肉買えないんだよなぁ」
 自動ドアだったガラス戸は踏み割られた水溜りの氷のように地面に散乱し、
まだかすかに灯る蛍光灯の光が断末魔の明滅を繰り返している。
 中にはすでに灰が積もり始めているようで、わずか数日の間にここは
疑う事無き廃墟と化していた。
 それに対する感情は、やはりない。

 だが、それは向けるべき矛先が見当たらなければの話だ。

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

464※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/02/11(水) 09:02:59

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

 無人と思われた廃墟から、男が飛び出してきた。
 この時勢に路頭に迷ったホームレスのようだ。灰で真っ黒になった衣服を見ればわかる。
 その両手には、やはり灰で煤けてはいるものの食料を山ほど抱えている。
 いわゆる火事場泥棒の類型か。
 向こうもすぐに十六夜に気づいたようで、先んじてやったとばかりに
したり顔を浮かべて彼女の脇を駆け抜けていこうとした。
 ――夢にも思っていなかっただろう。
 交差する瞬間に、痛烈な速度で顔面を殴打されるとは。
「今日はいいとしても、明日からどうしようかな。あー、めんどい」
 ぎじぎじぎじ! と錆びたカッターの刃を伸ばすような音を立てて、
男がアスファルトの地面を滑っていく。
 十六夜は軽く嘆息して、男を殴り飛ばしたのとは反対の方向に歩きだした。

「はんばーぐだー」
 ここ数日見ることのなかった満面の笑顔が食卓を彩った。
 十六夜が作っている最中から大はしゃぎで、包丁を使っているから危ないと言う
十六夜の言葉も聞かずに跳ねまわり、お燐に抑え込まれてやっと落ち着くという有様だった。
「いい加減『いただきます』くらい覚えなさいよ、もう」
 食卓に並ぶなりハンバーグにフォークを突き刺すあすみ。
 十六夜はうんざりしたように溜息をついているが、ここまで喜ばれれば無論悪い気はしない。
 喜びと苛立ちと諦めが入り混じったその複雑な表情は、時に「人間凝固点」とも
揶揄される凍結した表面世界に短い春が訪れたようだった。

 十六夜がこれほどの親愛を浮かべられることを知る者は、ごくごくわずかである。

「おねーさん、私の分は?」
「ごめんなさいね、生憎キャットフードは置いてないの」
「ほしければ奪い取れ、ってことかな?」
「『略奪』はご自由に。その代わり、髭の2・3本は覚悟しときなさいよ」

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

465にゃーにゃー:2009/02/11(水) 10:37:38
またいつもの病気が始まった。
歯ブラシをくわえた姿でドロシーは肩から服がずり落ちる様な気がした。
縁側に腹這いに寝そべり、至福の表情で猫缶片手ににゃーにゃー言う女性の前には見たこともない艶やかな毛並の黒猫が一匹。

ニャーン。

家の人間の中で特に筋金入りの猫フリークたる彼女は黒猫の美声(多分)に背後に花を背負いながら、
手慣れた手つきで猫缶を発泡スチロールのトレーに盛り付ける。
「可愛いねぇ、お前。何処かのお家の子なの〜?」
これは酷い。
がつがつと猫缶にがっつく黒猫にメロメロな女性。
背後の花がいつの間にかハートマークに変わっている。
そこまで好きか、猫。
「あんまりお家の人に心配かけたら、駄目ですよー」
何やら切なさで胸がいっぱいになりかけ、ドロシーは熱くなった目頭を押さえながら
洗面所へと向かい始めた。

―モンプチの裏―
猫猫にゃーにゃー
―モンプチの裏―

466十六夜日記:2009/02/11(水) 19:35:05

時々、夢を見ることがある。

それは露頭を彷徨ってた時のものだったり。
いつかどこかで見たような奴に復讐されるものだったり。
無愛想で百合っぽくて電波になるものだったり。

んー、なんか今の私って案外幸せだったりするのかしら。
夢の中の私は、何だかいつも退屈そうにしてる気がする。
それとも私は端から見たら、そんな雰囲気を醸し出してるのかしら。
他人から見た自分のことはやっぱり自分じゃわからない。

好きなことを好きなだけしてれば幸せ?
やりたいことをやりたい時にできれば幸せ?

んー、少なくとも私は好きなこともやりたいことも出来てないよなー。
ほら私の夢ってこの可愛さを活かしてアイドルにすいません何でもないです。
あ、だから私って端から見たら悲愴感とか漂ってるのかも

やりたいこと、やりたいだけしてみようかなー。

467十六夜日記:2009/02/11(水) 23:08:09

今日は久々にあすみと買い物に行きました。
久々なのは、あれと一緒に出かけるとロクなことがないからだ。
とにかくどうしようもないほどにお子様なあすみは、お子様全開で火の粉を振りまく。
手を離すと5秒で彷徨いだす。
目を離せば10秒で行方不明だ。
その度に迷子コーナーを探す私の身にもなってほしいものです。

話がそれました。
さっきも書いたようにあすみを目を離すとどこにいくかわからない。
だから間違っても何かを頼むことなんて出来ない。
「たまねぎ探してきて」と頼んで、何度あすみを探すことになったことか。
そもそもあすみは満足に数を数えることが出来ません。
何しろ、年を聞けば「え〜と、823さいー」とか答える始末だ。
何ですか823歳って。私より800歳も年上ですか。

そんなわけだから、私は頑なにあすみの手を離すことなく
妙な緊張感を漂わせて買い物に臨まなければならないのでした。

明日は、いつも通りあすみが寝てから出かけることにしよう。

468※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/02/12(木) 22:16:33

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

 ぱあん、と肌と肌が跳ねる快音が響く。
 弾丸のように打ち出された十六夜の右手が、さとりの顔面を鷲掴みにする。
 さとりは無表情。
しかし、それ以上に十六夜は無表情。
「無駄です。心が読める私に、得意の「外人想」は通じません」
「心が読めるならわかるでしょう。何も人の心を弄ることだけが能じゃない」
「あなたは私に嘘をつく無意味を学ぶべきね。
 意地とは、相手に真意を悟らせずして初めて張ることが出来るものよ」
「――死ぬか、お前?」
「片腹痛いわ。 ――瞎(めくら)な眼で、私の『さとり』に抗おうなんて」
 十六夜が左手の人差し指を立て、さとりの白い首にひたりと当てる。
 そして、

 ――表象「夢枕にご先祖総立ち」

「はいはーい、そこまで」
 スペルカードを掲げたこいしが、口を尖らせ拗ねたような口調で言う。
「私一人を置いて二人だけで遊ぶなんてずるいよ。やるなら、私も混ぜて」
 その完全に場違いな物言いに、毒気を抜かれた十六夜がさとりを離す。
「妹に感謝しなさい、古明地姉。あと3秒止めるのが遅ければ、あんたの首は、」
 すっ、と自分の首を掻き切るしぐさをとり、
「――こうだったわよ」
 一方のさとりは、薄く笑みを浮かべるだけ。
「もう、せっかくのお出かけなんだから仲良くしようよ。ね?」
「私の仕事に勝手についてきてるだけでしょうが」
 嘆息する。

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

469※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/02/12(木) 23:19:55

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

 十六夜の仕事は夜始まる。
 理由は簡単。昼では困るからだ。
 人目につくのを憚る仕事は、夜にするものと相場が決まっている。
「今日もいい夜ね――星の光さえ差さない」
 外灯などとうの昔にその機能を放棄した夜の街、月明かりすら灰に遮られた世界は
己の手指さえ判別できない闇で彩られていた。
そんな沈みきった世界に溶け込むような、烏の羽より薄黒い男物の外套を羽織った
十六夜は、言葉とは裏腹にすべてを嫌悪する鬱な光をその瞳に湛えていた。
「それにしても」
 つと、思いだしたように視線を向ける。
「妖怪――ね。そんな生命体が実在するとはだわ」
 肩をすくめるように、さとり。
「あら、別に珍しいことではないでしょう? ――『貴女の世界』では」
「私の世界、ね」
 吐き捨てるように。
「くだらない記憶だわ。3年より前のことなんて思い出すだけで反吐が出る」
「そうかしら? 少なくとも、今よりはまともな生き方が出来てたようだけど」
「まともだったけど、人らしくはなかった。
 ――当たり前のように人の心を読むな」
 思い出したように、最後にそう付け加える。
「ま、それならあの猫娘的存在も納得がいかなくもないけど。
 火車――死体運び。なるほど、この世界に化けて出るにはうってつけね」
「幽霊とは違うわ。化けて出たりはしない」
「同じことよ。『迷惑来訪者(ナイト・ノッカー)』に変わりはない」

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

470※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/02/14(土) 22:59:38

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 風が吹く。否、風が吹き続ける。
 それは十六夜を中心にして、ごく小規模な竜巻を成している。
 その風に吹き散らされ、黒灰は一欠片さえ彼女に触れることはない。
「大体、あんた達はいつまで私の周りをつきまとうわけ?
 お燐はあすみが気に入ってるから我慢してるけど、その飼い主にまで敷居をまたぐ権利を与えた覚えはないわ」
「そうね。権利を与える権利なんて貴女にはないもの」
「私はあなたをペットにしないといけないし」
「勝手なところだけはそっくりね」
 つと、見上げる。
 そこは幾重にも連なるビル群の一角。世界中のどの樹木よりも高く、無様に聳える
無機質のジャングルは、人間の愚かさでも象るかのように闇夜の空を切り崩している。
 人の通りはない。そもそも、人が通るところではない。
 あたりは水に沈んだように静まり返っている。
 音すら飲み込む空虚な世界に、ただずむ生物が3匹。
 ――そこに混じり出した音は、ちょうど落ち葉が吹き流されるそれに似ていた。
 降り積もっていた灰が、十六夜を「目」として吹き荒れる。
「つきまとうのは自由だけど」
 ふいに――世界が、「壊れた」。
 無機質の建築群に順応した十六夜の心象世界に、
 まるで老朽化したコンクリートに走る亀裂のような、

 罅割れた笑みが、灯る。

 バキバキと音でも立てそうな程に歪んだ瞳が、
「――追いつく頃には、もう終わってるわ」
 消えた。

 十六夜の姿もろともに。

 次いで、遥か上方から鳴り響く破砕音。

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

471※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/02/15(日) 09:48:18

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

 あらかじめ結果を把握していたさとりは、こいしの手を掴んですぐ脇の建物に飛び込んだ。
 二人の立っていた場所にバラバラとガラスの破片が降ってくる。
「空も飛べるんだー、あの人間。ますますペットにしたくなっちゃった」
 十六夜は、ビルの10階の窓をぶち破って飛び込んだ。
 だが飛んだ、という表現は正しくない。
 十六夜は「飛んだ」のではなく――「跳んだ」のだ。
「さ、私達も追いかけよ、お姉ちゃん」
「待ちなさい、こいし」
 何の躊躇いもなく追いかけようとするこいしを、さとりは静止させる。
「十六夜を追いかけてはいけないわ」
「何で? こんなところにいてもつまらないよ?」
「むざむざあなたを殺されるわけにはいかないもの」
 さとりはきょろきょろとあたりを見回した。やがて無造作に並べられたドラム缶を
見つけると、ぱたぱたと手で埃を払ってちょこんと腰かける。
「あれは多重人格というよりも洗脳に近い。
 黒を白に塗りかえる類の催眠暗示なら、私も心得があるけれど。
 ――自分に使うなんて発想はなかったわ」
 その瞬間を垣間見た時は、他人の心に触れ飽きたさとりでさえ頬に冷や汗が浮かんだ。
 たった一つの意思だけを特化させた、純粋に歪んだ心のカタチ。

「人間はずいぶんと軽んじているのね――命というものを」

 さとりは認める。それは動揺といえるものだ、と。
 他者の心に踏み込むことに抵抗などないが、一線を越えてはいけない世界もある。
 久々に、それを痛感させられた。
「だからこいしも――こいし?」
 いつの間にか、あたりに自分以外の気配がなくなっていることに気づく。
 思わず舌打ちする――無意識の領域に独りたたずむ、こいしの特性を失念していた。
「こいし、こいし!」
 どこに行ったかなど考えるまでもない。十六夜の後を追ったのだ。
 慌ててこいしを追おうとする。最悪の可能性が想起されることのないように。

 その時、さとりの頭に誰かの心の声が聞こえてきた。

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472戦場の匂い:2009/02/28(土) 09:51:15
各地で上がる灰色の煙に濁り、澱んでいる空は、夜だというのにまだ明るかった。
灼熱の炎に空までが赤く焼かれ、空は一行に藍色に戻る気配はなかった。
時間などわからない。わかるのはただ、砲撃の音、光、炎の光、煙の色といったものばかり。
地にはただ死体が転がり、誰のとも知らないヘルメットがそこにあるのみだ。
そんな戦場を四人の女性たちが戦車で偵察に来ていた。
漂い、戦車の中にまで入ってくる死者の匂いを嗅ぎながら、
彼女たちはたった四人で荒んだ戦場に来ていた。
「うわ、こりゃひでぇ 一体何があったんだ?」
「大きな戦いがあったのはわかるけど…私たちが来るまでに一体何が…」
実は数時間前まではこの『戦場』は一つの『街』だった。
古き良き時代を捨て、すべての物をハイテクにした、有名な街。
工業用水の排水や、工場から出る煙による汚染という問題を抱えつつ、
街は大きく発展していった。だが、それがいけなかったらしい。
この街は「とある物」を開発した。それが何だか知らないが―。
とある用事で彼女らは立ち寄ることになったのだが、
もう既にそこに『街』はなく、あるのは『戦場』だった。
横たわるのは市民の体ばかり、一体誰がこんなことをしたのか想像もつかなかった。
だが、彼女らが乗るグラントの前には誰も現れることはなかった。
死体を除いて…。

473※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/02/28(土) 23:48:53

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

 彼女の宣言通り、こいしが追いつく時にはすべてが終わっていた。
 こいしは空が飛べる。跳べるのではなく、飛べる。
 十六夜の侵入プロセスとまったく同じ経路を使い、窓から入ったのだ。
 その間など、1分程度しかなかっただろう。

 その空間には暗欝が立ち込めていた。

 ――それはぶち破られた窓から吹き込む細かい灰のせいであり。
 黒灰は風に散ると黒い霧のように空気中を漂う。
 そのため、余程のことがあっても住人は窓を開けない。破壊されれば話は別だが。

 ――それは破壊された照明のせいであり。
20畳以上はある空間は、ところどころ破壊された照明によって
あたかもスポットライトのように局所的に照らし出されている。
 薄明かりから漏れる世界には、蹂躙の爪痕が深く刻まれていた。
 それはもとからだったのかもしれない。
 打ち捨てられた廃ビル群の一角にこのような光景が広がっていても不自然はない。
 だが、そこに立つ少女は、一種異様な不自然をまとい超然とそこに立っている。
 
 ――そして、それはあちこちから聞こえてくる怨嗟のせいだった。
 どれほどの数の人間がここにいるのか――あるいは、いたのかはわからないが、
聞こえてくる声の数はそれほど多いものではなかった。
 それは言葉と呼ぶには意味がなく、叫びと呼ぶには弱々しい。

 それらを平然と聞き流し、こいしはじっと十六夜を見つめている。
 口元に、いつもの無垢な笑みを浮かべながら。

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

474※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/03/01(日) 00:40:49

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 嫌われるのが怖かった。
 そんな、知能ある生き物としてはごく自然の考えが、古明地こいしの運命を決定づけた。
 さとりと同じ第三の眼を持つこいしは、しかしさとりのように人の心を読むことはできない。
 それは、こいしが己の第三の眼を閉じてしまったからだ。
 心を読む能力は他人から疎まれる。
 それを身をもって――そして姉の姿を見て理解していたこいしは、
自分の能力を封じ込めることで輪の中に混じろうとした。
 嫌われたくなかったから。
 だが、その結果として彼女を待っていたのは、知覚世界からの追放だった。
 誰も――実の姉でさえも、能動的にこいしを知覚することはできない。
 能動的とは、つまり自らの意思でという意味だ。
 こいしから話しかける分には、意思の疎通は出来る。
 だが、その逆はかなわない。

 彼女の意識は無意識へと堕ちた。
 絶対的な「無意識の領域」には、彼女以外は足を踏み入れることも出来ない。
 嫌われたくないという意識が生んだ、孤独(むいしき)という名の安息。
 だが、それを厭う心(いしき)すら、彼女にはない。

 こいしは無垢に笑う。
 何も知らないというような表情で。

 ――故に、その瞬間に十六夜が振り返った理由は。
 ――こいしの気配に気づいたからなどでは、断じてなかった。

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475天空カフェで一時を:2009/03/02(月) 14:07:57
凄い場所でお茶をしない?
そんな風に早苗を誘ったのは銀髪赤目の少女で。
空と星との境を一望出来るという場所の話を聞いた時だった。
大袈裟な程の身振り手振りを交えて話す彼女に同意するよう頷き、呟いた。
―私もいつかその眺めを見てみたい。
テレビでしか見たことのない星の姿へ馳せた想い。
胸の内に渦巻く故郷への想いが早苗にそう呟かせたのだろう。
それなら、と少女が腰かけていた縁側から立ち上がり、夕陽を背に振り返る。
―今度、皆で一緒にそこに行こう。


まさしくそこは、星の世界と空との境界だった。
眼下に地球の蒼を従え、頭上には手を伸ばせば届きそうな星が輝く。
最も自身が作り出した疑似空間だと肩をすくめる絵画の魔女の隣で眼鏡の女性が
それにしたって、最高の眺めだと笑う。
隙間妖怪が何処からともなく洒落たティーカップを取り出せば、メイドが菓子と紅茶を取り出し、
二人の吸血鬼と魔女が椅子へと腰掛ける。
「ようこそ―」
演技がかった仕草で銀髪の二人が揃って早苗におじきする。
「天空カフェへ」




「という夢をみたんですよ」

476※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/03/02(月) 23:29:08

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 相手の姿など見ずとも、踏み込む気配だけで力量は知れた。
 十六夜の「射程距離」ギリギリのところで足を止める所作。
 こちらの動きを警戒しつつも、振る舞いそれ自体が十六夜への牽制となっている。
 名が知れてから「仕事」中の乱入など終ぞされたことがなかったのだが、
どうやら相手は余程自分の腕に自信があるか、でなければ途方もない馬鹿であるらしい。
 そんなことを心の片隅で考えながら。

 ――体は、すでに振り向き様の一撃を放っていた。

 踏み込む分だけ遅くなる交差の瞬間は、相手に反応と対応の余裕を生む。
 故に、十六夜は踏み込まなかった。
 右手の「それ」を、背後へと向けて躍る四肢の遠心力に乗せて投げつける!

 音は、なかった。
『……なるほど』
 代わりに届いたのは、声だった。
『噂に違わぬ凶暴性。これが巷で騒がれる強盗の正体か』
 彼女が放ったそれ――床に転がっていたのを拾った蛍光灯は、相手の左手に握られていた。
 言うまでもない、避けもせずに受け止めたのだ。
 だが、そんなことはどうでもよかった。
 どうでもいい。まったくどうでもいい。

『――同郷か』

 憎々しげに――そして、どこか懐かしげに、十六夜はそう言った。

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477※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/03/08(日) 22:58:03

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『言葉が……通じる?』
 かち、という小さな音を立て、十六夜が腰に差した武器を抜く。
 相手が驚愕を満面に浮かべているのに対し、彼女は極めて冷静だった。
『意味が理解できたなら通じてるんでしょ』
 すでに己にかけた「外人想」は解けているので、会話する分には問題がない。
 構えるというほどの大仰さはなく、十六夜は握る「それ」の感触を弄ぶ。
『正直に言う。私も、まさか再びこの言葉を使う時が来るとは思ってなかった』
『それじゃあ、お前も……?』
『まあ、そういう事になる。
ちなみに、ルイーダの酒場にも登録済みよ――もはや、意味がないけど』
 肩を竦める。
 相手は、動きやすい軽装の鎧に青いマントを羽織っていた。
 そして腰には、「ここ」には似合わない一振りの長剣。
 その様相だけでも、彼がかつての十六夜と同じ場所にいたのだろうと推測できる。
 かつての彼女も――そうだった。
『さて、悪いけど私にはあんたとのんびり昔話に浸る時間はないの。
 大人しく私の前から消えてくれる?』
『それは……できない』
 だろうな、と十六夜は胸中で自嘲。
 あの目つき、言動、立ち居振る舞い。
 そんな状況証拠を並べ連ねても、しょせんは妄想の域を出ることはなかったが。

 それでも、何故だか十六夜には確信めいたものがあった。
 この男は、今の自分にとっての難敵だと。

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