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【添削】小説練習スレッド【キボンヌ】
521
:
廃墟病院
◆ubhTcKtmc.
:2006/11/17(金) 00:35:49
まず狙われたのは、樋口だった。
「まずはお前だ!」
壮年の男性は、腕をゴリラのように変形させ樋口を襲う。
「樋口!」
太田が駆け出すが、間に合わない。ちなみに、猿橋はちゃっかり逃げていた。
受け止めるように、樋口は顔の前でガードする。樋口の腕にゴリラ腕の拳が触れた、その瞬間。
樋口の腕のブレスレットの石―――詳しくはその中の、半透明で白い丸い石が―――柔らかい白に光る。
その光は時計の文字盤の図形を描き、ゴリラ腕の拳にぴたり、とくっついた。
そのゴリラ腕は、動きを止めた。
反動がないことに安堵しつつ、樋口は不思議に思い腕をはずす。
「あれ・・・?」
襲っていたはずの拳が、まったく動かない。まるで、『時が止まった』様に。
そして、目の前の壮年の男は混乱していた。
「なぜだ、なぜ動かねぇ・・・!」
その腕を見ると、白い光で描かれた時計の絵が張り付いている。そして、その時計は針を進めていた。
時計の針の進み方に危険を感じた樋口は、よける。そして、精神を落ち着けた。
時計の針が、『ⅩⅡ』を指す。
『時が進み』、おっちゃんはバランスを崩してこけた。
樋口はその足をつかむ。そして、腕の白い石に意識を集中した。また、柔らかい白の光が時計を描いた。
今度はしっかり時が止まる。ものすごく無様な格好で、ゴリラ腕を持つ男は停止した。
522
:
廃墟病院
◆ubhTcKtmc.
:2006/11/17(金) 00:36:23
樋口 和之
石:スノークォーツ(白石英) 半透明で真っ白な水晶。ほかの、特別な能力の無い石のビーズとともにブレスレットにしている。
落ち着きを得る。個性が出すぎてしまうときに周囲とのバランスを取る。こだわりを開放する。新しい気持ちで再出発するエネルギーを得る。
力:直接触れたものの時間を止める。物体や体の一部分はもちろん、触れられるので影もOK。
条件:直接触れていなくてはいけない。だから空間の時間を止めることは不可能だし、炎も風も止められない。
集中している時間に比例して、止められる時間が増える(例:とっさの判断→30秒程度<1分集中→5分ぐらい)
代償:体力を使う力なのでそんなに多くは使えない。簡単なものでも、一日6回が限度。そして樋口の目がかすむ。
523
:
廃墟病院
◆ubhTcKtmc.
:2006/11/17(金) 00:37:16
壮年の男
石:未定
能力:腕をゴリラの腕にする。
代償:効力が切れると、腕がろくに動かせない。そして、ゴリラの性質に近くなっている。
やられ役なんで、テキトーです。
524
:
名無しさん
:2006/11/17(金) 18:06:37
乙!独特で面白い。
525
:
廃墟病院
◆ubhTcKtmc.
:2006/11/29(水) 00:44:50
>>524
サマ
ありがとうございます!
面白いといわれて、ありがたいです。
今日は続きを投下してみます。
526
:
廃墟病院
◆ubhTcKtmc.
:2006/11/29(水) 00:50:42
『俺達の3時4時 後』
さて、樋口が怪物の腕を持つ男と対峙しているとき。猿橋の感覚に、異常が発生していた。
触覚が、敏感になっているような気がする。
何かが猿橋に『触れた』。それは気持ち悪いとしか言い様がなく、触れた本人に嫌悪感しかもたらさない。
「うわっ! 何だこれ、気持ち悪・・・」
腕をなぎ払い振り払おうとしても、次々とそれに『ぶつかって』しまう。
猿橋は、払うことに躍起になっていた。
足の『時』を止められ、無様な姿をさらす男を一瞥し、馬鹿にする、理知そうな男。
「馬鹿ですね・・・」
「さぁ、田中さん」
彼自身の仲間を馬鹿にした彼が、田中に詰め寄る。先手を打つように、田中の口が開いた。
「何だよ・・・エメラルドなら渡さねーぞ」
敬語を繰り出す彼の口から、ため息が漏れた。
「何も言わないうちから交渉決裂ですか・・・」
「決まりきってるだろおめーらの言うことは! とにかく、太田さんとついでにゴーロクの二人連れて、帰るから」
怒鳴る田中に、理知そうな男がにやりと微笑んだ。そして、気持ち悪いものに夢中になっていた猿橋も、田中の異変に気づく。
「田中さん!」
猿橋が田中の近くに駆け寄る。敬語の出る唇が、大きく歪んだ。
「逃げられませんよ・・・私が居る限りねぇっ!」
その瞬間、猿橋の手に、さっきまでとは違う何かが触れる。猿橋はそれを、無意識に両手で包んだ。
ちょうど、バク天で卵を温めた、あの形のごとく。
527
:
廃墟病院
◆ubhTcKtmc.
:2006/11/29(水) 00:51:26
―――次に猿橋の手が感じたのは、針が突き刺さるような痛み。
「何!?」
攻撃を繰り出した相手は動揺した。絶対あたると信じていた攻撃が、効かない。
猿橋はその手を開く。次に、うめいた。
「いっでぇ・・・」
「おいおい大丈夫か?」
そんな猿橋が心配になって、田中が訊く。
「あ、ハイ大丈夫です」
「そんな、まさか、あれが・・・効かないなんて」
敬語を繰る青年は、動揺していた。
田中はその隙に、立ち上がって一斉に浄化をはじめる。
浄化したのは、怯える無口の青年を除いた五人。
「・・・あ、と一人、」
その一言を残して、田中は倒れた。疲れから来るものだった。
「田中?」
太田が田中に駆け寄る。
「全部・・・力、見たこと、ある、」
無口な青年は恐怖に怯えながら、ずりずりと後ずさりする。
「レピドライドに、スノークオーツ、チャロアイトやエメラルドまで・・・揃ってたら勝ち目なんて・・・」
トン、と、猿橋にあたるの背中。猿橋は再び気持ち悪いそれに触れる。そして、その後何かが吸い出される感覚に陥った。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
敬語の男
石:未定
力:精神攻撃っぽい。
混乱を引き起こすような力を持った針を相手に埋め込む。
528
:
廃墟病院
◆ubhTcKtmc.
:2006/11/29(水) 00:54:20
一分後、無口は一人一人を起こして立ち去った。先輩芸人である太田に、挨拶を残して。5番6番の二人は、呆然とそれを見送った。
その二人に、太田が話し掛ける。
「大丈夫か、二人とも」
その言葉に安心した。
樋口は安心したとたん、足に力が入らなくなってしまい、その場に座り込んだ。
「大丈夫かよ樋口!?」
「・・・すっげぇ疲れた」
樋口はそれを言ったきり、俯き黙り込んでしまった。
猿橋は振り向いて太田に問う。
「一体どうしちまったんですか!?」
問いの答えは簡単なものだった。
「『代償』だよ」
「『代償』・・・? まさか、石の力と何か関係があるんすか?」
再び猿橋が訊く。問いを投げかけられた男は大げさに頷いた。
「おぅおぅ、大アリだ。力を使うとその代償に、樋口みたいに体力奪われたり精神力奪われたり、後は面白いやつだと・・・そうそう霊に取り付かれるやつもいるなぁ」
「・・・・・・」
猿橋は不安になって黙り込んだ。俯くと、タンブルホルダーに入った自分の石が見える。
どことなく、石は歪んでいた。
「!?」
「・・・どうした?」
驚いた猿橋に、太田はそっと聞く。猿橋の口は、もううまく回らなくなっているようだ。
「あ、あの、石がゆゆ歪んでるんですけど・・・ッこれって・・・」
「・・・『代償』だな」
太田がにやりと口端を上げると、猿橋の混乱は頂点へ達した。
「どどどどーすればあqせxふぇgd」
「落ち着けサル。俺は知らねぇ」
「そんなぁ!!」
太田の一言に、猿橋は肩を落とす。
どうしようと頭を回転させていると、ふと、最近調べたパワーストーンの浄化方法を思い出した。
「そーだ、浄化すれば・・・土で浄化する? だめだココ家から遠いし。塩? ・・・駄目だ個人的にヤだ。水・・・そうだ水だ!」
茂みに突撃し、猿橋はバッグをあさる。バッグの中から封をしてあるミネラルウォーターを取り出した。
チャロアイトをタンブルホルダーから外し、その中に入れる。
「・・・ちょっと不安になってきた」
そういいながら蓋をし、バッグにそれを戻した。
自分のバッグとついでに樋口のバッグを担ぐ。そして、太田のところへ向かった。
「どうだった?」
太田の問いに、猿橋は樋口のバッグを下ろす。
「・・・まだちょっと不安です。」
「回復してる感じはすんの?」
今度は太田が問うた。猿橋が首をかしげながら、答える。
「それはあります。ちょっとですけど・・・」
「あるんだったら正解じゃねぇの?
「は、はぁ」
「じゃ、俺は田中つれて帰るから。猿橋も早く帰れよ」
それだけ言って田中を担ぎ、太田は立ち去った。
人の居なくなった公園で、猿橋は樋口を見下ろし、訊く。
「樋口、歩ける?」
「なんとかな」
「仕方ねーなぁ。お前の荷物持ってやるから、自分で歩けよ」
猿橋は笑いながらおろした樋口の荷物を、再び担いだ。
「わりぃな」
苦笑いする樋口。担いだその腕で、猿橋は手を合わせる。
「だから、2万もうちょっと待って」
「珍しく優しいなと思ったらそれか!」
軽く漫才のような会話をし、そして二人は歩き出す。
空を見上げて、猿橋が呟いた。
「うーわー、空真っ赤」
「だな。もう夕方かぁ」
紅い、重い陽が5番6番を、照らした。
『その赤は、俺達の選択を急き立てるようで、とても不安になったんだ』
529
:
廃墟病院
◆ubhTcKtmc.
:2006/11/29(水) 00:55:14
猿橋 英之
石:チャロアイト 紫系のまだら。丸い石をペンダントトップ用のバネみたいな入れ物?にいれてペンダントにしてる。
清く正しい考え方をしたい時に持つと良いとされる石。
精神と感情のバランスを保ちながら両者を融合させ、互いに高めながら発展させる力がある。
浄化にとても優れた石で、持つ人を純粋で優しい気持ちにさせ、心身の働きを正常にする力がある。
力:1)直接触れられないものに触れる。炎も風も、空間や感情、感覚さえ触れて動かすことが出来る。
2)触れた石の、(黒いかけらなどで)穢れた部分を吸い出す。
条件:1)防衛、または何らかの補助でしか使えない。
2) 1)を使った状態で無ければ発動しない。無意識に発動。
代償:1)触れられる分だけダメージが増える。気力を(樋口の体力ほどではないが)大幅に使う。使いすぎると眩暈のち、昏倒。
2)吸い出すと、猿橋の石が歪む。使いすぎると壊れる(ミネラルウォーターに一日漬け込むと直る)。また、黒いかけらは浄化不可能。
共通として、猿橋自身のチキン度がアップ。
530
:
廃墟病院
◆ubhTcKtmc.
:2006/11/29(水) 00:56:47
このお話はココでおしまいです。
531
:
名無しさん
:2006/11/29(水) 23:30:43
お疲れ様です!ゴーロク格好いいですね。
ぜひ本スレ投下お願いします。
532
:
名無しさん
:2007/02/05(月) 11:33:42
能力スレ562の者です。
まとめのロザン・ザ・プラン9編をベースにさせてもらいました。
途中までで、タイトル未定
「なぁ、宇治原」
「何や?」
宇治原はカタカタとパソコンを打ち鳴らしながら
耳をかたむけた
「次にコッチに入れる人やねんけどさ」
「あぁ」
「・・・・この人、どお?」
菅に差し出された写真の人物を見て宇治原はニヤリと笑った
「・・・・ええな。」
♪〜
「・・・・久馬?」
コンビを解散し、仕事でも殆ど会わなくなった
元相方からの突然の電話に後藤は首をかしげた
「はい。もしもし、何?」
ーお前、変な石渡されてへんか?ー
「へ?石って何?どういう石?」
ー持ってないんやったら、ええわー
「何の事?話がわからんのやけど?」
ーええか?誰かに石
コンコン
「ごめん。誰かきたみたいや。その話はまた今度な」
ーあ、ちょっと、ごとー
後藤は電話をきり、ドアを開けた
「・・・・なんや、ロザンか。どないしてん?」
「はい。実は後藤さんにお話があって」
「入っても・・・ええですか?」
「あぁ、別にかまへんよ」
彼はロザンを部屋に入れた。・・・・それが大きな誤算とも知らず
533
:
◆UD94TzLZII
:2007/02/05(月) 15:01:45
名前忘れてました。↑と申します
534
:
ジェット
◆UD94TzLZII
:2007/02/05(月) 15:03:31
失敗。これが名前です。
すいません、何回も。
535
:
◆UD94TzLZII
:2007/02/11(日) 22:02:49
やっぱりこの名前で。
「後藤さんに渡したいものがあって」
「何?」
「これです」
差し出されたのは黒い石
「石?」
「はい」
「そういえば、さっき電話で久馬が石がどうのって言うてたなぁ。これ何の石?」
「「え・・・?」」
二人は唇をかんだ。先をこされたか。
しかし、こんなことで宇治原はひるまない
「なんていってました?」
「いや、なんか変な石もらわんかったか?って聞かれたわ」
ならば。と宇治原は薄く笑った。まだきちんとした存在を知らないのであれば
・・・・いける。
「これ。お守りなんですよ、きっと久馬さんもこれを後藤さんに薦めようとして・・・」
「そんな感じやなかったけどなぁ」
しぶとい後藤に宇治原は最終手段を使った
「実はですね・・・・」
宇治原は今起きているこの石の騒動を簡潔に後藤に話した
もちろん、自分たちに都合の良いように。
「じゃあ、久馬は・・・・」
「はい。後藤さんをそっちに引き込もうとしてるんですよ」
「そんな・・・久馬が・・・」
「ですから、この石を持って僕らと一緒に戦いましょう」
「せやな」
「よろしく、お願いしますね」
菅が後藤に石を手渡した
「あぁ。頑張るわ。それで久馬が救えるなら・・・」
そして後藤は黒い石を手にした
「こんなに簡単にひっかかるとは・・・予想外やな」
「俺は予想通りや。あの二人が今でも仲ええのは有名やからな」
菅は楽しそうに笑った
「ありがとな」
「何言うてんねん。後藤さんなんて単なる通過点、やろ?」
「せやな」
今度は二人でより一層楽しそうにわらった。
「ところで、後藤さん。調子はどうですか?」
「最高の気分や!これで、俺は・・・!」
「そうです」
宇治原はこれから起こる出来事を想像し、微笑んだ
♪〜
後藤の携帯に電話が。
「あ、ちょっと、ごめん」
「はい」
「もしもし・・・・久馬?」
「久馬さんやと・・?感付かれたんか?」
「どないすんねん?宇治原」
「・・・・こっち来るように言ってもらえますか?」
「あ、あぁ・・・」
そして後藤は久馬を呼び出した。
「どないしたん?急に呼び出したりして?」
「あぁ。ちょっと用があるんや」
「・・・後藤、お前石持ってるやろ?」
一瞬、後藤は硬直した
「え。何の事や?」
「黒い石、持ってるやろ?」
「持ってへんって、そういえば前にそんな話しとったなぁ」
「ごまかしたって無駄や」
鋭い眼光が後藤に向けられた
「・・・さすがやな。そうや、石は持っとる」
そこから少し離れた場所で二人はその話を聞いていた。
「ばらしてええんか?」
「あぁ、計画通り。もっと久馬さんには後藤さん追い詰めてもらわな」
菅は反論しなかったが宇治原の考えてる事がわからないらしく、不満げな顔をした
「せやから・・・」
宇治原は菅に耳打ちした
「・・・そういう事かいな」
「そういうことって。お前が見つけたんやろ?」
菅は納得した表情で改めて相方の頭の良さに感服した
「久馬、お前が持ってるんは悪の石や。誰にもらったんか知らんけどすぐに捨てた方がええ」
「それは出来ひんな」
「なんでや?」
「俺が持ってるのは悪の石とちゃう。お前が持ってるんが悪の石や」
「何を言うてんの?」
「お前その石、宇治原にもらったやろ?」
「だったらなんや」
「あいつはその石に操られてんねん」
「・・・何、言うてん?訳わからん・・・」
「もう少しや・・・もう少しで・・・・」
離れた場所で見ている宇治原はほくそ笑んだ
「その石は絶対に使ったらあかん!その石は人間の意識を・・・」
「待って・・・・頭痛い・・・頭・・・おかしなりそうや・・・」
後藤は苦しそうに頭をかかえ、石は赤い光を放った
しかしその手はすぐにブラリと下がってしまった
「・・・しい。」
「え?」
後藤は小さく呟いた
「俺は・・・正しい」
そういうなり、後藤は久馬に攻撃をしかけた
536
:
◆UD94TzLZII
:2007/02/11(日) 22:08:36
「成功や。」
宇治原は呟いた。
「さすが、宇治原やんな」
「あぁ。あとは、久馬さんを倒してもらうだけや」
「残酷やなぁ、お前は。元コンビ同士で戦わせるなんて」
菅はクスクスと笑った
「・・・・褒め言葉か?」
「当たり前やん」
そして二人で笑った。こんなに楽しいことはないといわんばかりに
「じゃあ、俺らは高みの見物といこか」
「せやな」
「後藤!やめろ!」
「うるさい。・・・お前は敵や。正しいんは、俺らや」
「後藤!」
久馬の石が光を放った
「俺、知ってんねんぞ。お前のその石、単体やと何の意味もないんやってなぁ?」
「くっ・・・・」
「さぁ、おとなしく観念せぇや」
後藤は雷をおこした
そしてそれを久馬に放り投げた
「ぐぁ!」
「痛いやろなぁ・・・。どうや?元仲間から受ける攻撃は?」
「っく・・・」
「もう一発いくで〜」
次々に久馬の身体に雷を放り投げた。その光景を後藤は楽しそうに見つめる
しかし、10発目で雷が落とされようとした時
「・・・・っあ!!」
「・・・あ〜ぁ。よけてもうたか。もうちょっとで黒焦げやったのに」
後藤は至極残念そうな顔をした
「はぁ・・・っ、はぁ・・・っ」
「もー終わりか?久馬?」
「ごと・・・っ」
久馬は立ち上がろうとするが力が入らないようで再び地面に伏した
「ふん。弱いな。」
そう言うと、後藤はその場を去った
「よっしゃ。後藤さんとこ行くで」
二人も後藤の後を追った
「ごとーさん。ぴったりみたいですね。その石。」
「あぁ」
「その調子でほかの人もお願いしますね。こっちは人数増やしときますんで」
「あぁ、次に襲うんは・・・」
後藤は膝から崩れた
「え〜。気失うとるやん」
「・・・使いすぎ、ってとこやな」
「そっか」
「このまま放っとこ。目覚めてこれ見て、また発動するかもしらんしな」
「せやね」
二人はその場を去った
「う・・・。あれ、俺?」
目が覚めた後藤は久馬を探した
「久馬!」
後藤は倒れている久馬を見て悟った、自分がやったのだと。
「ごめん、でもお前を助ける為や。」
「ご・・・と?」
「きっとほかの仲間も持ってんのやろ?」
「ち・・・が」
「お前の石は俺が持ってる。」
後藤は久馬の手から石を取り出した。なんだか、酷く熱くて火傷しそうだ。
「・・・俺が救ったるから」
こうして、後藤は間違った正義へ一歩を進めた
537
:
◆UD94TzLZII
:2007/02/11(日) 22:18:55
終了です。
後藤秀樹
アラゴナイト(霰石)
心にたまった負担による心と体の不調を取り去り、心を穏やかにする。
力:混乱を治め、自分に対しての悪に攻撃をしかける。
自分が正しいと思えば思うほどその力は強くなる。
条件:何が正しいのかわからなくなり、混乱した時。
混乱が最大要因なので、使いすぎると頭と心の整理が付かなくなり、所持者が狂う。
そして、混乱の原因は戦いの後にすぐ忘れる。戦いにおいて、それが混乱をよぶから。
538
:
名無しさん
:2007/02/15(木) 17:12:19
添削スレなのでアドバイスさせていただきます。
空白行が多過ぎて読み辛いので減らしたほうが良い。
場面が変わる時とかに使うだけにした方が読みやすくなると思う。
あとはもっと句読点を使ったほうが良いと思う。特に行の終わり。
会話文と会話文の間に登場人物の動きを挟むともっと臨場感が出ると思う。
文体をできるだけ一つにした方が良い。
例)
>後藤は久馬の手から石を取り出した。なんだか、酷く熱くて火傷しそうだ。
(前は「第三者から見た語り調子」後ろは『本人の語り』)
統一するならこんな感じで。
「後藤は久馬の手から石を取り出した。それは何故か酷く熱く、火傷をしてしまいそうな程だ。」
『俺は久馬の手から石を取り出した。何故か酷く熱くて、火傷しそうだ。』
話自体は本スレに落としても問題ないと思われます。では
539
:
◆UD94TzLZII
:2007/02/16(金) 20:44:27
レスどうもです。
句読点つけないのは癖です。すいません、読みにくいですね。
基本的に3人称得意じゃないんですが、本スレの話とかはこれが多いんでその方がいいのかと。
いろいろ手直し出来次第本スレ投下させてもらいます。
540
:
◆RIz.umiCEo
:2007/02/26(月) 23:05:52
能力スレの558です。
ハリセンボン編を書いてみたのですが、評価お願いいたします。
ーone caratー 前編
あるテレビ番組の収録前の楽屋。
女芸人コンビ――ハリセンボンの近藤春菜は眠気覚ましの飲み物を飲んでいた。
こういう飲み物は大抵不味い。
近藤は渋い顔をしながらそれを飲んでいる。
「……。」
突然、近藤はポケットからピンク色の石を取り出した。
「…春菜、もしかしてまた、あれ使うの?」
近藤は頷いた。そして呟いた。
『この飲み物、まあまあの味かな?』
ピンク色の石が光る。
光が飲み物のビンを包んでいく。
そして光が消えた。
ビンに変化が見られなかったが、「味」の方は確かに変わっているらしかった。
さっきとはうってかわって、近藤は飲み物を渋い顔一つせず飲み干した。
そんな近藤を見て、近藤の相方、箕輪は苦笑した。
541
:
◆RIz.umiCEo
:2007/02/26(月) 23:07:44
(手に入れた時期は同じくらいなんだけどな…。)
同じ時期に二人で手に入れた同じような石。
相方は、石を手に入れてすぐ能力が目覚めた。
今では相方なりの使い方をして、使いこなせるまでになっている。
自分の方は、目覚める気配すらない。
やっぱり、こういうのも気持ちの問題なんだろうか。
相方は比較的前に出て行く方で、積極的だ。
自分は比較的後ろへ下がる方で、消極的だ。
石の事も、相方は興味を示していたが、自分はあまり興味がなかった。
相方の石の能力が目覚めたときも、余り気にしていなかった。
ただ、最近の周りの状況から、石の事を気にせざるをえなくなってきた。
だけど、無理に気にする必要はない。まだ、焦る必要は無いはず。―――たぶん。
「何ボーっとしてんの?収録おくれるよ!」
「え?あ!」
時計を見ると収録開始まであと3分しかなかった。
石についてはまだ焦る必要はなかったが、彼女自身は、焦った方が良さそうだった。
542
:
◆RIz.umiCEo
:2007/02/26(月) 23:08:41
近藤 春菜
ピンクコーラル(女性にとってのお守りであり、不安を取り除き愛情豊かになると、伝承される。)
能力:「まぁまぁの○○かな?」と投げかける事で○○の中に入った言葉が「まぁまぁ」になる
(例 まぁまぁの料理かな?→どんなに美味しいor不味い料理でも「まぁまぁ」の味になる)
条件:まぁまぁの定義が曖昧なので良くなるか悪くなるかは本人にもわからない。
(ただし良い物は悪く、悪い物は良くなる傾向性がある)
力はあまり消費しないが、1日30回ぐらいが限度。
また、力が切れると手首が痛くなる。
543
:
◆RIz.umiCEo
:2007/02/26(月) 23:11:26
前編終了です。
後編はまだ書き途中なので後日投下いたします。
544
:
名無しさん
:2007/06/16(土) 09:14:46
age
545
:
◆xNBhsxtsB6
:2007/07/07(土) 13:00:56
初めまして。小説作成依頼スレの156です。
千原兄弟の話を書いたので、添削お願い致します。
次から投稿します。
546
:
◆xNBhsxtsB6
:2007/07/07(土) 13:01:28
「ほんま、迷惑な奴らやな」
完全に気を失い倒れている二人の若手芸人を見ながら、一人の男がつぶやいた。
不思議な力を秘めた石なんて、自分には縁の無い話だ。
以前はそのように考えていた千原ジュニアこと千原浩史だが、
ほんの一月ほど前に石を手にしてから、あっという間に石による争いに巻き込まれてしまった。
それからは、名前も知らない若手芸人達に襲撃される事が多くなった。
彼らは、突然襲撃してくる事から、全員黒側の芸人だったと思う。
幸い浩史の石―チューライトは戦闘に適したものだったので、その都度、返り討ちにしていた。
今も、彼の石を奪おうとした若手芸人を倒したところである。
「あー…しんど」
石を使ったことによる疲労を覚えつつ、浩史は家路に着いた。
547
:
◆xNBhsxtsB6
:2007/07/07(土) 13:02:03
数日後、ルミネtheよしもとの楽屋にて。
楽屋には、浩史の他に、相方であり兄である千原靖史がいた。
浩史はふと靖史のほうへ目をやった。
靖史は、何やら熱心な様子でコンパクトミラーを覗き込んでいる。
「靖史お前、なに鏡なんか見とんねん。ブサイクな顔しとるくせに」
「ブサイクは余計や!…別にええがな」
浩史は「ふーん」と生返事をし、特に気に留めない事にした。
舞台が終わった後、浩史はいきなり誰かに呼び止められた。
見ると、プライベートでも仲の良い後輩がそこにいた。
「これからジュニアさんの家に行ってもいいですか?」
「ええけど…どないしたん?急に」
「ちょっと相談したいことがありまして…」
その後、浩史は、その後輩を連れて、自宅へと向かった。
相手の緊張をほぐそうと、酒を振る舞ったりもしたが、
相手は、なかなか話を切り出そうとしない。
「なんか今日のお前、おかしいで。何かあったん?」
すると、後輩は、ようやく話し出した。
「石を……貸してくれませんか?」
548
:
◆xNBhsxtsB6
:2007/07/07(土) 13:02:36
浩史は嫌な予感がした。以前も、このような事があったのだ。
「何でお前に石貸さなあかんねん」
浩史は後輩の申し出を断ったが、後輩はなお「本当に少しだけでいいんです!」と、しつこく頼んでくる。
これには浩史もさすがにイライラした。そして、とうとうブチ切れてしまった。
「あーー!もう、何やねん!お前もう帰れ!!」
すると後輩は黙り込んだ。そして、
「ジュニアさん……。…すいません!」
後輩は、いきなり浩史に襲いかかってきた。
(…こいつも黒側かいな。うっとうしいわー)
浩史は舌打ちをしつつも、精神を集中し始めた。ポケットの中のチューライトが光り出す。
そして、後輩の攻撃をぎりぎりで交わし、相手の顎にパンチを喰らわせたのだった。
殴られた後輩は、そのまま床に尻餅をついた。
その拍子に、彼の懐から黒いガラス片のようなものがこぼれ落ちた。
「黒い…欠片?」
以前噂で聞いたことがあったが、実物を見るのは初めてだった。
「これは…えーと、ある人が貸してくれて…それで、えっと」
後輩は、かなりしどろもどろな様子で答えた。
「それでそいつが『俺の石奪って来い』って言うたんか?」
「……」
「誰の指示でやったんや!言うてみい!」
後輩は、ほとんど泣きそうな表情を浮かべ、こう答えたのだった。
「…せ、靖史さんです……」
浩史は、ひとまず後輩を帰らせた。黒い欠片は、ゴミ箱に捨てた。
後輩の前では平静を装っていた浩史だったが、内心、かなり動揺していた。
(…まさか靖史が、俺を襲わせただなんて。ひょっとしたら、あいつ……)
その時、浩史の携帯電話が鳴った。番号を確認したが、見たことの無いものだった。
「はい」
『おージュニアか!俺や!』
「靖史!?お前、何で俺の番号…」
『マネージャーから聞いといたわ。それより、さっき家で後輩に襲われたやろ?』
「!」
『今から劇場近くのファミレスに来い。そこで色々と話がある』
じゃー後でな、と言うと、靖史は一方的に電話を切った。
ひょっとしたらワナかも知れない。しかし、今あった事を靖史から聞き出さなければならない。
(…まあ、襲われそうになったら石の力使えばええか)
浩史は、ファミレスへと向かった。
549
:
◆xNBhsxtsB6
:2007/07/07(土) 13:03:11
ファミレスには、既に靖史の姿があった。
浩史は、靖史の向かいの席へ座った。
「…一体何のつもりや。後輩使って俺を襲わして。あと何でお前、俺の様子知っとんねん」
浩史は、靖史を睨みつけながら言った。
「とりあえず落ち着け。順番に説明するわ。
まず理由やけど、単純にお前の石が欲しかっただけや。
あの後輩使ったのは、仲のええ芸人のほうがお前が油断するかと思ったけど、失敗してもうたわ」
「な…!?」
浩史は耳を疑った。やはり、靖史は……
「……黒側の人間か」
「おう」
「…何で、黒に入ったりしたんや!」
浩史は声を荒げた。
「…まあ、黒のほうが色々と面白そうやったからな」
浩史は、靖史がほんの少し悲しそうな表情を浮かべた事に気付いた。
今の質問は、聞いてはいけない事だったかもしれない。
浩史はひとまず落ち着いて、次の質問をした。
「じゃあ、俺の様子知っとったのは…」
「ああ、それな、俺の石の力や。
俺の石な、『こいつの様子が見たい』って思った奴を、鏡で見れんねん。
普段は黒の若手の様子を見とるけど、今日はお前の事を見てたわけや」
「そーいう事か」
浩史は、ルミネにいた時の靖史の行動を思い出していた。
他にも、靖史は黒ユニットについてを事細かに説明した。
550
:
◆xNBhsxtsB6
:2007/07/07(土) 13:03:32
「ところでお前…黒に入る気無いんか?」
いきなり、靖史が尋ねてきた。
「入るわけないやろ」
浩史は、うんざりしながら答えた。
「しゃーない。今日のところは見逃したるわ。お前の石もいらん。
もし黒に入りたくなったら、いつでも俺に言え」
「…誰が言うか。ボケ」
「じゃー俺は帰るわ」
そう言うと、靖史は立ち上がった。
「待て。最後に、もう一つ聞きたい事があるわ」
「ん?何や?」
「…何で俺に黒の事色々と説明したんや」
「お前、白側につくつもりも無いやろ。だからや」
図星であった。実際、白と黒のユニットの争いには興味が無かったのだ。
「せいぜい、他の黒の芸人には気ぃ付けや」
そして靖史は、ファミレスを後にした。
551
:
◆xNBhsxtsB6
:2007/07/07(土) 13:03:51
翌日、浩史は家で煙草を吸っていた。
昨日あった様々な事を、ぼんやりと思い返しながら。
浩史にとって、最も身近な人間が黒だった。
もう今までと同じようにはいられないだろう。靖史が、吉本の後輩をけしかける事がまたあるかもしれない。
(…ったく、しょーもない兄貴やな)
それでも、白側に付くつもりは全く無い。
靖史の事は、必ず自分でケリを付ける。相方として。弟として。
そんな事を思いながら、浩史は、二本目の煙草に火を点けた。
552
:
◆xNBhsxtsB6
:2007/07/07(土) 13:04:22
千原せいじ
石:ブロンザイト(偏見の無い公正な洞察力)
能力:持ち主が今様子を見たい物(人・動物・物)の様子を鏡に映す。
その物が居る(ある)場所までは分からないが、近くだと鮮明に、遠くだと
ぼやけて映る。
条件:持ち主が鏡の近くにいて、「○○の様子を見たい」と念じなければならず、
念じる力が大きければ広範囲が見れるが、疲労も大きくなる。
千原ジュニア
石:チューライト(霊的な感性に恵まれて、直観力、洞察力を高めるとされる)
能力:反射神経が数倍になり、相手の攻撃を避けやすくなってカウンターが出来るようになる。
条件:神経を研ぎ澄まさなければならない。研ぎ澄ますまでは無防備。
疲労が大きいため、1日10回出せればいいところ。(その日の体調で回数が減ったりする)
2人の石の能力は、能力スレの323と333から持ってきました。
553
:
◆wftYYG5GqE
:2007/07/07(土) 13:07:18
以上です。後半は会話だらけになってしまいました。
一応靖史を黒ということにしましたが、問題無いでしょうか。
ご指導、宜しくお願いします。
554
:
名無しさん
:2007/07/07(土) 13:08:18
あれ、トリップおかしいですね…orz
一応、553=554です。
555
:
◆wftYYG5GqE
:2007/07/07(土) 13:19:15
552=553でした…何度もすみませんorz
今度からは、このトリップにします。
556
:
名無しさん
:2007/07/07(土) 20:06:34
乙!
面白かったし本スレ投下していいと思う
557
:
◆wftYYG5GqE
:2007/07/08(日) 11:35:56
>>556
ありがとうございます。
近いうちに、本スレに投下しに行きます。
558
:
ヴィクラモールヴァシーヤ
◆XNziia/3ao
:2007/07/28(土) 05:20:52
【序曲】
右手を掲げ、ふと手首にぶら下がっている石を見つめる。
ライラック色の美しい石には陽の光が差し込み、高佐は思わず目を細めた。
美しくも、どこかに魔力を感じる、そんな石。
『常時身に着けてなくてはいけない』そんな気持ちにさせる力が、この石にはある。
最初は気味が悪かったし、何度も捨てた。だが、気がついたら鞄に入っていたりと、自分のもとへ戻ってくるのだ。
それが彼にはこれから起こる不幸の予兆のような気がしてならなかったのだが、
折角こんな綺麗な石がタダで手に入ったのだからと思い直し、業者に頼んでブレスレットにしてもらったのだ。
その業者によるとこの石はクリーダイトと言い、ライラック色はその中でも人気が高いものなのだそうだ。
高佐はそれを聞いて尚更手放す気はなくなった。
「(…そういえば、オジェは?)」
尾関は、石を持っていないのだろうか?そんな疑問が高佐の頭に浮かぶ。
気がついたら高佐は枕元に置いてあった携帯電話を開いていた。
ルルルルル ルルルルル
ガチャ
『んーどしたー?』
「あのさ、オジェ。ちょっと聞きたいことあるんだけど。」
『ネタのこと?』
「いや、違う。最近、誰かから石貰ったりしなかった?」
『石ぃ?何でまたそんなこと』
「いいから!」
『あぁ、貰ったよ。石…つーかブレスレット。ファンの人から貰ったんだけどさー、超綺麗なの。』
「…そう、そうか。うん。わかった。有り難う。明日、ネタ合わせ遅れないでね。」
『こっちのセリフだっつの。じゃあな〜』
プツッ
―−偶、然?いやそれにしちゃ出来すぎてないか?
誰かが仕組んだ?いや、そんなの、無理だろ。そこまでして単なる石を持たせる必要性って?
「…単なる、石じゃなかったら?」
ボソリと呟く。石になんか不思議な力でも、あるっていうのか。
「(そういえば)」
そんな話、聞いたことある気がする。
不思議な石の力を使って先輩の芸人さん達が、戦っているとかいないとか。
御伽噺や嘘話の類かと思い聞き流していたが…。
「(いよいよ、信じなきゃいけない感じかな)」
薄暗い部屋で、数人の男が話していた。
一人は知的な雰囲気を漂わせ、ノートにペンを奔らせている。
「調子はどう?『シナリオライター』。」
「…」
「あぁ、そうだ、力を使っている間は話しかけても夢中だったんだっけ。」
クスクスといやらしい笑い声をあげる男。
それを無愛想な顔で見つめるガタイの良い男性。
先程までペンを奔らせていた男は、ピタリと書くのをやめ、ペンを置いた。
「おっ、終わった?」
「えぇ。まぁ、とりあえず、は。」
「どうよ?出来のほうは。」
そう問われ、男はふっと笑う。
ノートをパタンと閉じ、
「なかなかの出来じゃないでしょうかね。」
それを聞いて安心したように男は良かったと呟く。
「…ちゃんと彼らを引き込めるんだろうね、『こちら側』に。」
「えぇ。…設楽さん、土田さん。」
559
:
ヴィクラモールヴァシーヤ
◆XNziia/3ao
:2007/08/02(木) 13:39:57
申し訳ないですがこれで一応ひと段落です
スマソ 名無しに戻ります
560
:
ふしぎなくみあわせ
:2007/08/04(土) 21:32:52
思いついて書いてみました。
なんだか不思議な組み合わせです。
561
:
ふしぎなくみあわせ
:2007/08/04(土) 21:33:09
東京の片隅、いわゆる「隠れ家」的なバー。
深夜と呼ぶにはもはや遅すぎる時間帯だ。高い位置にぽっかりと空いた窓から見える空はもう白み始めている。
閉店時間が迫っているせいもあり、カウンター座っている二人の男以外に、客はいない。
二人の男は、何も話さなかった。黒いシャツを着た男は青い色のカクテルを呷り、眼鏡をかけた男はウーロン茶を飲んでいた。
カクテルを飲み干した男は、空になったグラスを脇にどけた。店員は何も言わずにグラスを取り、店の奥へと消える。
それを見送り、黒シャツの男は傍らの男に話しかけた。
「あのね、是非こちら側に欲しい子がいるんだよね。」
眼鏡の男は何も言わない。俯いたままウーロン茶をまた一口飲む。
話を聞いているのかどうかわからない。ずっと、美味しくなさそうにちびちびとグラスに口をつけるだけだ。
「結構頭いいからね、きっと役に立つと思うんだ。力もね、こっち向きなんだよ。今は向こう寄りではあるんだけどさ、まだ完全にくっついたわけじゃあないみたいだし。」
お構いなしに、黒シャツの男は続ける。どこか芝居かかった口調は、酒のせいもあるのだろうか。
「それにね、そいつの相方、詳しく言えばその相方の力がね、こちらとしては手に入れたらだいぶ有益だと思うんだよね」
そこで初めて、眼鏡の男は顔を上げた。青白い顔を照明が照らす。
やっと興味しめしてくれたね、と黒シャツの男は笑う。
「それは、誰だ?」
探るような言い方で、眼鏡の男は問う。
「協力してくれんなら教えてもいいよ。『シナリオライター』さん。」
「…いいだろう。」
ついでにその呼び名はやめてくれ、と眼鏡の男…小林は引き攣ったような苦笑いをする。
鞄からシャーペンとスケッチブックが取り出し、スケッチブックのページをめくる。
しかし黒シャツの男、設楽の口から出た名前に、その動きは止まることになった。
「麒麟。麒麟だ。」
562
:
黒猫
:2007/08/06(月) 15:48:53
医者に日本語力が無いと言われましたが、頑張って書いてみた。
なんかアドバイスください!
563
:
黒猫
:2007/08/06(月) 15:49:11
ますだおかだ短編
「増田ぁ。」
「なんや。」
「週明けって特に用事ないよな。」
突然の岡田からの質問。
2人は前の仕事を終え、次の仕事に向かっていた。
岡田は車から見える外の景色を眺め、俺は新聞を読んでいた。
Piririririri
突然岡田の携帯がなった。
どうやらメールらしく、しばらく画面と向き合い俺に尋ねたのだ。
「特に無いはずやけど・・・なんで?」
「いやな、俺さ、この間のイベントであのロザンの宇治原呼んだやん。」
「あぁ、呼んどったなぁ。」
「でな、その宇治原からな、今度お互いの相方も連れて4人で会いませんか?って来たから。」
「ふ〜ん・・・まぁ、用事もないしええけど。」
「ん、分かった〜。」
そう言ってまた画面と向き合い返事を打ち始める。
「・・・大丈夫なんか?」
「んっ、何が?」
「何がって・・・・【石】の事や。」
「・・・・・・あぁ〜。」
そう言って岡田は自分の首につけてるネックレスの無彩色と暗い青の石を、俺も携帯につけてるストラップの淡い青の石に手をやった。
今芸人の間で流れている【石】の話。
持ってると不思議な力が使える、それを巡って芸人同士が白と黒とに別れ争っている等・・・。
もちろん、俺らも例外ではなく・・・
「疑ってるんか?」
「いや・・・まぁな。」
「大丈夫やろ。あの子頭エェし、それくらいの事は分かるやろ。」
「そうか・・・。」
「ま、いざって時は増田さん頑張って。」
「俺頼りかい!」
「やって、俺の石2つとも攻撃に向いてへんもん。」
「お前なぁ・・・。」
「だってホントの事やん。」
「そりゃそうやけど・・・。」
そう、俺の石『ブルーレースメノウ』は攻撃系、一方岡田の石『コランダム』と『ピーターサイト』は防御・補助系の能力を持つ。
「ええやん、お前の事頼りにしてるって事なんやから。」
「ふ〜ん・・・・、まぁそれなら岡田さんも補助やらいろいろ頼むよ。」
「お〜。」
まぁ、岡田さんがそういうなら信じますか。
「ますおかさ〜ん、もうそろそろつきますよ〜。」
「「は〜い。」」
564
:
黒猫
:2007/08/08(水) 14:40:59
岡田圭右(ますだおかだ)
石:1・ピーターサイト(理想の石・目標に近づくための方法を持ち主に感づかせ、実現させる力を与える)
2・コランダム(鋼玉。多結晶の塊は加工して研磨材などに使われる)
能力:1・岡田が向いている方向にシャッターを作りだし、石の能力を無効化する。
シャッターの有効時間は5秒程度。
一定時間経つと、がらがらと開く。
2・触れた物の表面の摩擦係数を少なくする。(スベリまくるようにする)
力の調整しだいで、スベりやすさは変わる。(床に使えば「うまく立っていられない程」にも「走ろうとすると転ぶ程度」にも出来る)
対象は無生物に限り、複数の物に使うことも可能。
条件:1・真っ直ぐ立った状態から「閉店がらがら」をする事。
ポーズを取った時岡田が向いている方向にシャッターが出るため
ポーズ前に方向転換し、シャッターの場所は変えられるが、ポーズ中・ポーズ終了時に方向転換をしてもシャッターの場所は変わらない。
また、連発は出来ず最低20秒程の間隔が必要。
2・「パァ!」のフレーズで発動。「閉店ガラガラ」で効果を消す。
岡田の意思で取り消さない限り効果は持続するが、意識が無くなるか体から石が離れるとすると、その時点で消える。
一日に合計20㎡程度が限界。
代償:1・発動後しばらく石で受ける影響が大きくなる。(説得を受けやすい、治療されやすい等)
一度だけ面白いギャグを言ってしまうオプション付き。
増田英彦(ますだおかだ)
石:ブルーレースメノウ(どこかの国で、神の石と崇められてる)
能力:投げる力を増幅する。
とにかく、持ったモノを投げる力が上がる。
野球で言うと、160km/分位の早さ。
条件:片手で持てる大きさのモノに限る。
また、使用しすぎると腕に大きな負担がかかる。
投げたモノが投げた瞬間の力を持続できるのは、3秒。
【提案】新しい石の能力を考えよう【添削】に書かれていた物で考えました。
565
:
名無しさん
:2007/08/08(水) 23:26:03
皆さん乙。だれもいないようなので添削。
>>558
表現がすごくいい。ただ構成があっさりしてるからもっと細かく書いてくれると読み応えがでると思う。
あと、気になったんだが2人の口調ってそんな感じだった?あまり聞く機会ないけど。
>>561
まとまった文章で光景が目に浮かぶようだった。続きあるのかな?
>>563
台詞がリアルだから文章に入っていけた。状況とかはわかるんだけど、増田の語りなのに文章が簡単すぎる。もっと心情とかが欲しいと思った。
えらそうに書いたが皆さんに期待。
566
:
ヴィクラモールヴァシーヤ
◆XNziia/3ao
:2007/08/09(木) 22:20:10
>>565
さん
添削ありがたいっす。
一応何回か御話させていたのとライブで軽く話しているのを
聞いて、自分なりのものを作っていったつもりです。
やはりまだ露出の少ない人はむずいですねorz
567
:
名無しさん
:2007/08/10(金) 06:57:09
>>566
自分があまりフリートーク聞いたことがないから違和感があるだけかもしれない。
>>566
がそういう口調だと思ったのならおそらくそちらの方が正しい。すまんが添削の口調についてはスルーしてください。
ギース好きなんで話読めて嬉しかったよ。
568
:
561
:2007/08/10(金) 10:31:07
>565
添削ありがとうございます。
一応続きは考えているのですが、麒麟は他の書き手さんがまだ使っている(とは言ってももう一年前くらいになりますが…)のと、
麒麟が黒の上層部と出会うという大きな局面であるので続きを投下していいものか…。
というか、悩むんだったら廃棄スレに行けばよかったんですよねorzすみません
569
:
黒猫
:2007/08/11(土) 12:27:45
>>565
添削ありがとうございます。
そうですよね、自分でも増田さんならもっと・・・って感じがします。
もうちょっと頑張ってみます。
はぁ・・・考える力が欲しい。
570
:
名無しさん
:2007/08/15(水) 21:37:03
>>568
よければ続きが読みたい。確かに本編ってことにすると不都合が起きそうだが、
>>568
の言うとおり短篇って形で添削スレか廃棄スレに投下すれば問題ないと思う。この過疎りっぷりだし、本編の進行の話し合いもできないだろう。
期待して待ってるよ。
>>569
えらそうかもしれないけど、何回か客観的に読み返してみてわかりにくいかなーとか増田だったらこんなこと考えるんじゃないかなーとか思う所を書き足してみるといいかなと。あと、どんな状況かも書いてくれると読みやすい。
571
:
561
:2007/08/22(水) 02:37:06
>570
どうもありがとうございます。
とりあえず番外編(パラレル?)として、廃棄スレに投下することにしました。
早く前みたいにたくさん人が戻ってきてくれると嬉しいんですけどね…orz
572
:
名無しさん
:2007/08/27(月) 00:05:28
>>571
期待。
過疎ってるけど人はいるようだし、あくまでネタスレだからヒッソリマッタリやるのもいいとおも。
573
:
1/2
◆s8JDRQ.up6
:2007/08/30(木) 15:15:46
ギースの短編です。
書いたくせにお二人の性格と口調がよくわかりません。
それも含めて添削おながいします。
*****
石を、拾った。
道端に落ちているはずのない石を。
装飾品をあまり付けない男の部屋にあるはずのない石を。
ジーンズのポケットに気付かないうちに入っているはずのない石を。
幾度となく捨てても気が付けば自分の元へ戻ってくる『宝石』を。
奇妙な事だと左手首のブレスレットを蛍光灯へかざす。
銀の冷たい輝きのなか、穏やかな色彩は芯のある強さを訴えているような気がした。
例えるならば
砂塵が丁寧に洗い流された雨上がりの空を、蜘蛛の糸で絡めとった欠片。
無機物でありながら、意志を持つかのごとく俺の生活に入り込み、その青に俺は瞳を奪われたのだ。
574
:
2/2
◆s8JDRQ.up6
:2007/08/30(木) 15:18:48
『クモの巣ターコイズ』というものだと教えてられたのはつい最近の事だった。
どちらも調べてみたんだけど俺はクリーダイトっていう石だったんた、と装飾品のライラック色の石を俺に見せた男は、茶色の頭を傾げていた。
「やっぱり、あの話は本当だったんだ。」
目を伏せため息を吐く相方は、不健康な痩せ方のせいか不安と困惑を隠し切れないように見えた。
「芸人の間で出回っている不思議な力を持つ石なんて、誰かの冗談だと思ってた。」
俺はその時、噂に聞いた芸人の原因不明の負傷を思い出しながら、そうだねと言ったと思う。
特異な力は時に不幸を呼ぶからだ。
俺たちもいずれ何かしら人間の力を超えた能力に目覚める事になるんだろう。
それは修羅場に堕ちた能力者たちを、空へ引き上げる蜘蛛の糸なのだろうか。
石はその糸を俺の目の前に垂らしたということか。
もし、私欲のため切れてしまったら。
「尾関、そろそろネタ合わせ始めよう。」
「・・・あぁ、うん。」
まだ石は沈黙を続ける。
******
以上です。切れてないといいな。
575
:
◆s8JDRQ.up6
:2007/08/30(木) 15:22:34
誤字ハケーン
×→教えてられた
○→教えられた
576
:
①高佐編/ヴィクラモールヴァシーヤ
◆XNziia/3ao
:2007/08/31(金) 13:55:21
追いかけてくる
何かが
恐ろしいほどに禍々しい
何かが
俺は必死に逃げていた。何かからかは分からない。
ただ恐ろしい"何か"。必死に、必死に、逃げていた。
それに手首を掴まれ、俺は振りほどこうとする。だが、手首を掴む恐ろしい力は離れない。
せめてそれの正体を見てやろうと俺は振り返る。そこにいたのは―−
『何で逃げるんだよ、俺?』
間違いなく、そこにいたのは自分だった。
そこでプツリと何かが途切れた。
高佐は夢から醒めた。シャツは汗でぐっしょりと濡れ、先程の夢を思い出させた。
起き上がり、自分の頭をくしゃりと撫ぜた。
「(今の、は)」
こんな恐ろしく奇妙な夢を見たのは初めてだった。
二度とあんな夢はみたくない。そう思いながら今は何時かと携帯電話を開いた。
「…はぁ。」
早朝五時十五分。眠りについてからおよそ三時間であった。
ふと右手首にぶら下がる美しいそれを見る。ぴん、と左手で弾く。
「…お前のせいか?」
もう一つ溜息を吐き、高佐は初めて無機物を恨めしく思った。
今日は尾関とネタ合わせ。自分が遅れるな、と言ったので遅れるわけにはいかない。
高佐はしかたなくそのまま起きていることにした。とりあえずぐっしょりと濡れた寝巻きを何とかしよう。
「(汗かいてるし風呂はいろ)」
妹を起こさぬように息を潜め、こっそりと風呂に向かったのは余談である。
風呂に入りながら、高佐は考えていた。
ネタの事、妹のこと、アルバイトのこと。そして、石のこと。
あの美しい色の石にはどんな力があって、自分達にどんな運命をもたらすのか―−。
少し前に聞いた御伽噺としか思えない話を思い出した。
石は持ち主を選び、その石を手にした人間は必然的に戦いに巻き込まれていく
持ち主は芸人が殆どで、芸人達は各々の信念で『白』になるか『黒』になるか、『灰』になるかを決める
なかには無理やり引き込まれる人間もいる
もし、自分がどこかに入らなくちゃいけなくなったら?
「…だとしたら、迷わず」
灰を選ぶだろう。正義でもなく、悪でもない『中立』。
だがそれはあくまで誰にも干渉されなかった場合の意見。もし、尾関や妹を人質にとられたら
「(でもそこまでするのか?)」
いや、するのか、という疑問は大したことじゃない。する可能性はなくはないのだ。
(尾関がいなくなったら俺は、多分、コントを出来なくなる。)
(俺は書けないわけじゃない)
(でも、アイツの台本で演じたい)
(どこまでのしあがれるのか、そう考えただけでワクワクする)
(――この厳しい世界で)
右手をグッと握る。先程までとは違う。もう、迷いはない。
「(アイツがどうしたいのかちゃんと聞こう)」
「(それで俺の意見も言って、それから二人で考えればいい)」
――俺達はコンビなのだから
577
:
①尾関編/ヴィクラモールヴァシーヤ
◆XNziia/3ao
:2007/08/31(金) 13:59:14
昨日、彼の様子がおかしかった。
俺が言うのも何なのだが、本当におかしかったのだ。
声は微かに震えていて、ネタに関する質問なのかと思えば最近石をもらったか、だとさ。
正直言って彼がおかしくなると困るのだ。ストッパーがいなくなる。
「…(まぁ、いいや、そんなこと。)」
しっかりとした、アイツのことだ。すぐにペースを戻すだろう。
尾関はそう考える。話題にあがった石を見つめた。光が綺麗に透き通る石。
ふとこの石はなんと言う名前なんだろう。そんなことを考えた。
「高佐に調べてもらお」
携帯電話で写真をとり、メールを作成。
「(ちょ っと な ま え し ら べて お い て !)」
送信ボタンを押して携帯電話を閉じる。
やや乱雑に携帯電話を放って、尾関は布団に倒れこんだ。
「(そういえば)」
何であんなに必死だったんだ?
疑問が一つ浮かび上がる。見たところただの綺麗な石。何か変な噂でもあるのか。
…まぁいい、気に留めるほどのことでもないだろう。
今日はネタ合わせだ。あんなに必死になった理由と、石の名前を教えてもらおう。
待ち合わせの時間まであと四時間。尾関はアラームをセットして、眠りについた。
578
:
ヴィクラモールヴァシーヤ
◆XNziia/3ao
:2007/08/31(金) 14:00:17
ここでひと段落的な感じで。
>>573
いい感じだと思いますよー。
ギースさんは仲良しなんでそんな感じかと
579
:
ヴィクラモールヴァシーヤ
◆XNziia/3ao
:2007/08/31(金) 14:00:51
とりあえず本スレのほうに序曲投下したいのですがおkでしょうか?
580
:
名無しさん
:2007/09/01(土) 20:53:11
ぜひ!本スレもしばらく停滞中なんで、盛り上げてほしいねえ
581
:
名無しさん
:2007/09/04(火) 01:39:43
はじめまして。アンジャの話書いてみました。
多分アホみたいに長くなりそうですが、投稿してみてもよろしいでしょうか?
582
:
581
:2007/09/04(火) 01:41:42
↑すみませんさげ忘れ…最悪だ…!!
583
:
名無しさん
:2007/09/04(火) 04:25:07
いいですよー
584
:
581
:2007/09/04(火) 14:26:55
ありがとうございます
ではとりあえず書けた分だけ投下します…
585
:
581
:2007/09/04(火) 14:27:22
しまった、と思う時には、すでに遅すぎる。
何でもっと早くに気付けないんだろう。
今となっては、それも無意味な思考かもしれないけれど。
とある日。児嶋は、楽屋の椅子に腰掛けて一人紫煙を燻らせていた。
タバコを咥えたまま、ジーパンのポケットから銀色のゴツいブレスレットを取り出す。
トップに埋め込まれているのは、綺麗な宝石。名前は知らない。
「…怪しいよな、やっぱ」
ぼそりと独りごちる。右手でチャラチャラ弄んでみるも、意味は無かった。
先日、差出人不明の小包が届いた。中身は、この高そうなブレスレット。
熱狂的なファンからのプレゼント?なんだか悪いなあ。
送り返そうにも宛先は謎だけど。
母親からのプレゼント?宛名ぐらい書けっての。
電話で確認してみたが、違った。謎かよ。
じゃあ悪徳商法か、何かか?クーリングオフとか効くのかな。
いや会社の住所は謎なんだけどさ。
586
:
581
:2007/09/04(火) 14:31:00
(…渡部、遅いな)
とりあえず思考を逸らした。考え続けたところで、どうせ答えは出ないだろうから。
壁時計を見上げ、自分が早く来すぎていることにやっと気付く。
手元の灰皿にねじ込まれた吸殻が多すぎることにも気付き、目を見開く。それ程の量だった。
児嶋は一旦タバコを置き、再びブレスレットを摘み上げた。
トップの石が白い輝きを放ちながら揺れている。
角度を変えると、何色もの色が輝いた。虹色。やっぱ高そうだな、と思う。
じいっとそれを見つめていると、児嶋は、なんだか自身が透けていくような錯覚に襲われた。
途端、すうっと雑音が消えていく。静寂。
背景に溶け込んだ自分を、かき消すように紫煙が通り抜けて――
そこまでイメージした所で、思い出したように瞬きをした。
石は、相変わらず澄ました顔でぶら下がっている。無視されている気分になり、少し苛立つ。
(…渡部なら訪問販売のバイトとかやってたらしいから、何か分かるかもしれないな)
しっかり者の相方が、しかし時間にはルーズであったことを思い出す。
早く来てしまった分、待ち時間は相当長くなりそうだ。大げさに肩を落として。
ともあれ気を紛らわそうと、さっきのタバコを咥えた。
不安混じりの溜め息は長くて、白かった。
587
:
581
:2007/09/04(火) 14:40:44
楽屋へと向かう渡部の足取りは、軽やかだった。
Tシャツの中に隠しているが、細身のシルバーペンダントはそこに存在している。
トップには水晶。透明な光は、すべてを浄化してくれるような気さえした。
不思議な「石」については、聞いたことがあった。
芸人たちの滾る情熱が結晶として具現化されたものだ、といっても過言ではない、それ。
最近若手芸人の間で出回り始めたらしいが、まさか自分の元にも来ようとは。
「どんな能力なんだろう…」
わくわくして独りごちる。服の上から胸をなでると、石の存在が実感できた。
渡部はその性格上、こんなに夢のある話を黙っていたくなかった。
(言いふらしたい。先輩、後輩、同期。いや、素人の友達でも、いっそ犬でもいいや)
だがもちろん、それが利口な行動でないことは知っている。
自分の石の情報を知る者が増えると、それだけ危険も高まる。
知られた自分も、場合によっては、知った相手にも害が及ぶかもしれない。
本能、というより、冷静な”もう一人の自分”が、そう理解していた。
故になんとか気を紛らわせるべく、親指の爪を、噛んだ。
588
:
581
:2007/09/04(火) 15:58:00
とりあえず一旦ここまで…また書けたら投下します
愛あるツッコミやアドバイス、よろしくお願いします
589
:
581
:2007/09/05(水) 11:38:31
おっす。後ろから声を掛けられ、渡部は振り向いた。設楽だ。
そういえば、今日はバナナマンと同じ番組に出るんだった。そう思い出す。
渡部も挨拶を返し、二人は並んで歩き出した。
「あれ、なんか嬉しそうじゃない?」と設楽。
何だ、ばればれなのか?ともあれ口から爪を離して。
「そうでもねえよ。あ、統は…、」思わず石のことを尋ねそうになり、しかし口をつぐんだ。
「ん、何?」
いや、こいつなら仲良いから別にいいかな。いいよな。
「その…聞いたことあるか、『石』のこと」
とはいえ当たり障りのない質問にした。自分が石を持っていることは漏らすべきではない。
…と思う。多分。
「あー、芸人の間に出回ってるってやつね」
都市伝説じゃねえの、と軽く笑われる。当然かもしれない。
渡部は、ところがどっこい、という台詞を必死に飲み込んで、続けた。
「いやさ、もし本当だったらカッコイイなーと思って」
「ああ確かにね。めちゃくちゃ欲しいもん、俺」
「お、マジで?」
「そりゃーそうでしょ。こう…”選ばれし者”みたいな?」
「ははは、漫画読みすぎだって!」
「そっちがフッたんじゃなかった?」
他愛無いやり取り。こいつは持ってないんだな、と何故か安心する。
くだらないことで笑い合ううちに、目的地の目の前まで来ていた。
番組は同じでも、それぞれ楽屋は違った。渡部は左、設楽は右の部屋へ。
ありふれた日常の、ほんの1ページ。
…と思う。多分。
590
:
581
:2007/09/05(水) 11:43:33
楽屋のドアが開き、児嶋は、待ってましたとばかりに顔を上げた。
目線の先には、はたして渡部の姿があった。親指の爪を噛んでいる。
相方のいつもの癖だったが、今日は、なんだかいい事でもあったかのように見えた。
尋ねてみると、渡部はすぐに口から爪を離した。
…まあともかく、相談するには良いタイミングだろう。
「あのさ、ちょっといいか」児嶋は、思い切って話を切り出した。
渡部は、何だ改まって、と荷物を降ろしている。やっぱり機嫌は良さそうだ。ラッキー。
そうして児嶋の向かいの椅子に座ったところに、例のブレスレットを見せてやった。
「…要らねえよ、気持ちわりいな」
「お前にじゃねえよ」
あからさまに嫌悪を示されたので、ツッコミを入れる。
「で、何よそれ」渡部はまだ眉をひそめたままだ。
「送られてきたんだよ、こないだ」
「マザコンめ」
「いや、差出人不明なんだって」
そう言うと、渡部の顔つきが急に真剣みを帯びた。
「ちょっと貸して」
言われたとおりそれを手渡す。ああ、やはり心当たりがあるのか。
まさか、その筋では有名な詐欺だったりするのだろうか。
児嶋は緊張しながら、いまや鑑定士となった相方を不安げに見つめた。
591
:
581
:2007/09/05(水) 11:47:59
ブレスレットのトップにある綺麗な宝石を見て、渡部は確信した。
これは「石」だ。都市伝説なんかじゃない、あの「石」だ。違いない。
「…オパールだな」
渡部は、それだけ呟いてブレスレットを返した。
「やっぱ高そう?」おそるおそる、児嶋。
「ああ、本物っぽいからなあ。大事にしろよ」
「って、大丈夫なのか、そのなんていうか、法的に…」
「心配ねーよ、…っていうか、お前も芸人だったんだな。忘れてた」
「はああ!?」
さっぱり分からない、という様子で聞き返される。
(フツーに何にも知らなさそうだな、こいつ)
溜め息をつくと、渡部は説明を始めた。
「『石』って聞いたことあるか?」
簡単な説明を受けた児嶋は、怪訝そうな表情を浮かべ腕組みしていた。
「つまり…俺とお前は”選ばれし者”ってことか?」
そう言って自身のオパールと渡部の手元に置かれた水晶を交互に指差している。
「うーん…じゃ、そういうことでもいいか」
適当に頷く。こいつも漫画の読みすぎだな、と苦笑が漏れる。
「どんな能力なんだろう…」
心配そうに独りごちて石を覗き込む児嶋。渡部と正反対のリアクションだった。
592
:
名無しさん
:2007/09/05(水) 20:26:58
なんか反応がアンジャッシュらしくて、考え方とかもリアルでいいなあ
続き期待
593
:
581
:2007/09/06(木) 00:28:31
うおお、ありがたき幸せ!
これからもちょっとずつ投下していきますのでご指導よろしくです
594
:
581
:2007/09/06(木) 00:42:11
渡部が自分の能力に気づいたのは、その日の収録終わりだった。
自販機前の長椅子に座り、右手の缶コーヒーを一口。熱くて苦い。
そこに「お疲れさん」と呼びかけてきたのは、上田だった。
その右手には缶ジュース。見たことのない派手な柄だった。何味なんだろう。
「お疲れ様です…最近忙しそうっすねえ」
苦笑混じりに、渡部。皮肉ではなく、心からの労いだった。
おかげさんでな、と笑んで、上田は缶の封を切った。シパッ、と清々しい音。
「あの、上田さん」
隣に腰掛けた先輩に再び口を開く。何か話さなくては。ええと。
「何だ」
「…あー、どうです最近」
「アバウトだな」
円周率か、と呟きジュースに口を付けている。それにしてもカラフルな缶だ、と思った。
「もうちょい具体的に聞いてくれよ」
「そうっすね、じゃあ…味とか?」
「うは、何じゃそりゃ!中身吹き出すとこだったぞ、はは」
「何だちょろいな…」
冗談めかして呟くと、くしゃくしゃの笑顔に額をはたかれた。
595
:
581
:2007/09/06(木) 00:56:44
「…で、どうなんです?味」
再び問う。適当に質問したことだったが、一応答えは得ておきたかった。
「おう、果物だってのは分かんだけどなあ」
そう呟き、上田は首をひねりながらもう一口含んだ。しかしますます眉を寄せて。
「…あれー?何の味だっけこれ!分かりそうで分かんねえぞ」
「缶には書いてないんすか?」
「『トロピカル』…って広いな!結局何味だよ!」缶にまでツッコむ先輩に感心。
じゃなくて。うわ、気になる。どんな味なんだろう。当ててやりたい。
俺も、飲んで味わってみたい。
そう考え、渡部は冗談半分に目を閉じ、念じてみた。気分は超能力者。
すると。
途端、口いっぱいに甘酸っぱい感覚が広がる。
閉じたはずの目の前には、カラフルな缶。「トロピカル味」と書かれている。
その缶を握る右手には、確かに冷たい感触。缶コーヒーはどこへ消えた?
これじゃあまるで、
俺が上田さんになってしまったみたいじゃ、ないか?
596
:
581
:2007/09/06(木) 01:07:46
「この状況で寝たフリってあるかいっ」
豪快な笑い声と共に頭をはたかれ、渡部はハッと目を開けた。
自分の感覚が戻ってくる。コーヒーの苦い後味。右手に握っている硬い熱。
瞬きを繰り返す。辺りを見回す。視力は正常だった。
どうした、と不思議そうに自分を見つめる上田に向き直って。
「パインと、…マンゴーあたりっすかね」
自信はあった。
上田は少し考えて、「それだ!」と顔を輝かせた。「お前すげえな」、と。
結局それから少し会話を楽しんだ後、上田は次の仕事のため立ち上がった。
「じゃ体に気をつけろよ」と言って去ろうとする先輩に、
「むしろそちらが」、と笑った。
仕事の量は、圧倒的に上田のほうが多いに決まっているので。
残された渡部は、缶コーヒーを一気に飲み干した。ぬるくて苦い。
甘酸っぱい後味は、もう無かった。
597
:
581
:2007/09/06(木) 01:21:12
その日を境に、渡部は石の能力を小出しに使用し、実験するようになった。
そうして分かったのが、自分は目を閉じて念じることで他人と「同調」できるらしいこと。
対象人物一人の見るもの、聞くもの、味わうものなどを共有できるらしいこと。
つまり、相手の五感を探る事ができる、ということ。しかも、本人に気付かれずに、だ。
あと、どうやらそれは自分の目の前にいない人物でも可能だということ。
また、同調している最中は自分の体が全くの無防備状態になってしまうという、こと。
「…なあって!」
不意の大声に驚き、「同調」を解く。
目を開けると、児嶋がバックミラー越しに自分を睨んでいた。
今は、児嶋が運転する車で仕事に向かう最中だった。
一人後部座席に揺られる退屈を紛らわすべく、さっきまで山崎に「同調」していたのだ。
居酒屋らしきところで仲間と飲んでいた後輩は、相変わらず大声で喋り散らしていた。
店の熱気と喧騒から帰ってきた今も、耳に違和感。相方のせいではない。
「寝るなよ、人が話してる時に」苛立った様子で、児嶋。
「寝かせろよ、退屈なんだから」
「退屈ってあるかい、相方が喋ってんだよ!」
「わりいわりい」魂を込めずに謝ると、渡部は窓から遠くを眺めた。
何でさっさと焼き鳥食わねえんだよ、と山崎のおしゃべりな性格を、恨んだ。
598
:
581
:2007/09/06(木) 10:42:32
ありがたいことに氏ねって言われてないし、
なんかアイディアも湧いてきたので一気に書いちゃいます!
599
:
581
:2007/09/06(木) 10:58:52
児嶋は、局内の喫煙コーナーに足を踏み入れた。
濁った独特の空気の中、タバコを咥え、一人思考する。
(渡部の様子が、おかしい)
最近相方が頻繁に居眠りをすることには、とっくに気付いていた。
ほぼ毎日。しかも、時にはこちらが話している最中にさえも、目を閉じている。
おかしい。一体どうしたのだろう。極度の疲労なのか?
そういえば、顔色も悪くなった気がする。気のせいだと思いたいけれど。
…いや、実は、心当たりがあった。
「石」だ。
俺は馬鹿だけど、頭が悪いわけじゃあない。
あいつは何も言わないけど、もしかして何か能力が目覚めたんじゃないか?
その能力を使った反動で、疲れが出ているんじゃないか?
……。
「…って、漫画の読みすぎかなあ」
ぼそりと呟く。もちろん独り言だ。
左手を掲げると、チャラ、とチェーンの擦れる音がした。白と虹色が揺れている。
本当に選ばれたのか、俺は。
そう石に問う。
返事が無いのは、もちろん独り言だ。
溜め息が白くないことで、ようやく火をつけ忘れていたことに、気付いた。
600
:
581
:2007/09/06(木) 11:07:06
局の外に出ると、渡部は深呼吸した。禁煙中なので、タバコは見たくもなかった。
都会独特の空気の中、空を見上げ、一人思考する。曇り空。
(近頃、体がだるい)
首に下げていた石を手に取った。相変わらず透明だな、と思う。
疲労の原因は分かっていた。能力の多用だ。タダで使える力なんてこの世には無い。
程度こそあれ、物事はいつだって何かと引き換えなんだ。知ってんだ、俺。
渡部が毎日のように石を試すのには、目的があった。
一つは、自分の能力をよく知るため。
使い慣れていないと、いざというときに困るだろうから。
すっと自然に「同調」できるようにしておくことは、今後役立つだろうから。
一つは、能力を磨くため。
何度も力を使ううちに、精度が上がるかもしれないから。
今は五感だけだが、いつか精神さえも共有できるようになるかもしれないから。
(…できるようになって、どうするんだ?)
自分の不安な心が干渉してくる。うるさいな、なっといた方がいいんだよ。
(何に使うんだ、その力を)
悪いことには使わない。他人の心まで覗かなきゃいけない日が、いつか来る。
(「いつか」って、いつのことだ?)
「…一生来て欲しくない日のことだろ」
声に出す。何故か、全ては”もう一人の自分”が理解していた。知ってんだ、俺。
601
:
581
:2007/09/06(木) 11:18:39
とある日。渡部は楽屋のソファに腰掛け、台本を確認していた。
児嶋は、他の芸人の楽屋に遊びに行っている。暢気なやつだな、と思う。
一通り確認した台本を閉じる。そろそろ、「練習」しなくては。
今日のターゲットは、設楽に決めた。理由なんて無い。なんとなく。いつもの事。
渡部はおもむろに目を閉じた。「同調」の体勢だ。
普段の練習のおかげで、「同調」に至るまでの作業は幾分スムーズかつ精確になっていた。
気分はコンピュータ。遠くの対象に素早くアクセスし、情報を読み取る。
真っ先に得たのは、視覚。漫画を読んでいるようだった。不気味な絵だな、と思う。
続いて、触覚。左手で頬杖を付き、右手はページを掴む。肌と紙の感触。
「で、そっちはどう?」
そして聴覚。設楽の、気の入っていない、緩い声が届く。
いわゆる骨伝導のせいか、普段の声より少しくぐもっている気がした。
「…いえ、全然。設楽さんみたいに大胆には聞き出せませんよ」
穏やかな声。聞き覚えがある。誰だっけ、ええと。
「はは、俺そんな大胆かなあ」
軽く笑い、右手がページを一枚繰る。本当に独特の絵柄だ、と思う。
「大体、聞いたところでそう簡単に教えてくれますかね」
「そりゃーもう。お前誠実そうだし、大丈夫だろ」
「っていうか、話聞いてます?」
相手の一言に、視点がゆるゆると漫画から人物に移る。
ああ、そうだ、こいつの声だったか。
「大事な話なんですよ」諌めるような口調で、ラーメンズ・小林はそう続けた。
602
:
581
:2007/09/06(木) 11:26:44
「わーかってるよ。先公かっての、もう」設楽の右手が、渋々漫画を閉じて。
(大事な話だからこそ、漫画読みながらでも聞けるのにさ)
心で呟く。これは、しかし渡部の心中ではなかった。
ということは。
今一瞬、設楽の精神に同調できたのでは、ないか?
逸る気持ちを抑え、渡部は再び感覚を研ぎ澄ました。
読み取ってやる、もう一度。来い。
「いいか、」とのんびりした声は、設楽。
「人間っていうのはな、誰だって不安なんだよ」
はい、と真剣な声は、小林。
「誰だって、最初っから自分のことペラペラしゃべらねえよ。分かるだろ?」
「…はい」
「でもさ、相手がすげえ気の合う奴だったり、頼れる奴だったらさ、ほら。
自分から喋りたくなっちゃうんだよ。共有してもらいたくなるんだ、全部」
「いや、だからそこが難しいんですって、」真面目な声が頭を掻いた。
「設楽さんと違って、人を誘うのに向いてないんですよ、”僕の”は。」
”僕の”が修飾しているであろう名詞は、省略されていた。何だろう、顔か?
「それ、『シナリオ』に頼りすぎ。俺だって、毎回『説得』するわけじゃねえもん」
(…それにしても、随分真剣にナンパ論を語るんだなあ)
心で呟く。これは、しかし渡部の心中であった。
603
:
581
:2007/09/06(木) 11:37:20
(やっぱり、変だ)
児嶋は、ソファに座ったまま動かない相方を、ドアの隙間越しに観察していた。
実は、他の芸人の楽屋に遊びに行くフリをして、楽屋の入り口にじっと潜んでいたのだ。
もちろん、渡部の挙動を探るためだった。
一人になれば、「石」を使うかもしれないから。
渡部が台本を閉じたとき、いよいよか、と身構えた。
が、期待に反し、どうやらそのまま眠ってしまったようで。肩を落とす。
…でも。
居眠りなら、普通身じろぎの一つぐらいしていいんじゃあ、ないか?
そうして観察を始めてから5分が経過しようとした時。
渡部の胸の辺りから、微かに透明の光が漏れていることに、やっと気が付いた。
(…いつから光っていた?最初からだったか?一体何が光っている?)
そうだ。「石」の疲労で居眠りが増えたんじゃあない。
多分、「石」の使用が居眠りに見えていたんだ。
そんな頻度で石を使っていたならば、そりゃあ体調だって悪くなる、はずだ。
答えが分かった瞬間、児嶋は勢いよく相方の元へ駆け出していた。
力を使うのを、やめさせるために。
604
:
581
:2007/09/06(木) 11:49:13
渡部は、急に「同調」の精度が落ち始めたのを感じた。
かろうじて視覚は残っているが、いまや触覚と聴覚が完全に奪われつつある。
接続した自分の意識が、設楽の中から徐々に追い出されていくような、感覚。
必死に視覚だけでも保とうとしたが、それも上手くいかない。
(そういえば、設楽の中に入ってから、どれぐらい経った?)
普段は、安全のために3分程度に留めていた。
しかし今日は、とっくに5分ぐらい経っていそうで。
(限界か、くそ)
両肩を掴まれているのを感じた。触覚。
次いで聴覚。何度も名前を呼ばれている。聞こえてるっての。
ゆっくり目を開ける。うろたえまくった表情は、相方だった。視覚。
割と何度も両肩を揺さぶられていたのだろうか、前後の方向に眩暈を感じた。
「…何だ、居たのかよ…」
平静を装うも、内心は焦りに満ちていた。自分の能力については、隠していたので。
やられた。いつから見られていた?ばれただろうな、さすがに。
だがここで、急に瞼が鉛のようになった。とても目を開けていられない。
しまった、と思った時には、すでに遅すぎた。
何でもっと早くに気付けなかったんだろう。
今となっては、それも無意味な思考かもしれなかったけれど。
児嶋の顔や声が一気に遠のき、渡部の意識は、ついに途切れた。
気分はコンピュータ。強制終了。
605
:
名無しさん
:2007/09/06(木) 14:37:48
面白いです。ストーリーに引き込まれる。
今までの設定もちゃんと生かせているし、ぜひ本スレに投下してください。
ただ一つだけ苦言を呈しておくと
投下の合間の581さんのコメントはもうすこし落ち着いてほしい。
あんまりテンション高いと気になる人もいるから。
606
:
581
:2007/09/06(木) 21:39:56
ありがとうございます、嬉しいです
そしてすみません、まさかそっちで叱られるとは…w
まだ少し続くので、もうしばらくお付き合い願います
607
:
581
:2007/09/07(金) 23:53:05
(――今、何時だろう)
目を覚ました渡部の、最初の思考だった。
重い瞼を無理やりこじ開ける。頭が痛い。
どうやらベッドで眠っていたようだ。自分のベッドでないことは分かった。
布団にくるまれている感覚を再認すると、また意識が遠のきそうになった。まだ眠い。
目だけで辺りを見回す。もちろん、自分の部屋でないことも、分かった。
なぜここに居るのかは把握できなかったが、場所には見覚えがあった。確かここは…
「お、いけるか渡部」
ドアから、声が近づいてくる。苦労してそちらに目をやると、眠気が飛んだ。
「…有田さん?」
そうだ、昔よく遊びに来たっけ。
渡部が上半身を起こそうとするのを、しかし有田は冷静に制した。「無理すんな」、と。
言葉に甘え、再び枕に頭を落とす。確かに、まだ体は本調子ではない。
「あの、」と渡部。「何で僕、寝てんすか、有田さん家で」
覚えがなかった。最後の記憶を必死に辿ってみる。台本しか思い出せない。
「そうそう、それね。楽屋で倒れたんだよ、お前」
さらりと言ってのけると、有田はドアの向こうに呼びかけた。
「おーい、やっと起きたぞ」
えっ、という弾んだ声の後、どたどたと騒がしくやってきたのは、山崎だった。
「ああよかった、大丈夫ですか?」渡部を覗き込み、満面の笑みだ。
渡部はというと、与えられた情報を消化しきれずに、呆然と頷くだけだった。
608
:
581
:2007/09/08(土) 01:44:39
山崎から水の入ったコップを受け取り、一気に飲み干す。
その渇きの具合から、気を失っていた時間が長かったことを、悟った。
「…どれぐらい寝てました、僕」気になっていたことを尋ねてみる。
有田は腕時計を見やり、今は1時前だなあ、と噛み合わない返答。
「1時…ってことは…?」
「ああ、夜中のですよ」山崎が補足する。いや、うん、そこじゃなくてさ。
「冗談冗談。11時間ちょっとだよ。仕事の方は田中がなんとかしてくれたから」
当たり前のような口ぶりで有田。しかし、どうしても意味が飲み込めない。
「…田中…?」
「ああ、アンガールズのですよ」山崎が補足する。いや、うん、そこじゃなくてさ。
改めて有田に問う。「っていうか、田中が何をしてくれたんすか?」
「収録を来月に延期するよう、プロデューサーさんに頼んでくれたんだよ」
「ほら、石ですよ。田中さんの能力、相手を納得させるやつなんです」
山崎の補足。今度はありがたかった。
(…って、石、だって?)目を見開く。
田中が石を持っていること以上に、有田と山崎がその能力を把握していることに驚いた。
「あれ、石、知りません?渡部さんだって持ってるじゃないすかあ」
「っていうか、力の使いすぎでダウンしたんだろ、お前」
「いや、その…」どう答えていいか分からない。
「聞いたぞ、児嶋から。何で隠すんだよ」不機嫌そうに、有田。
「そうですよ、水臭いなあ、」山崎も、軽く笑って便乗する。「仲間でしょ、俺ら」
――『仲間』。
月並みな単語だが、その一言で幾分心が軽くなった気が、した。
609
:
581
:2007/09/08(土) 01:55:55
直後、携帯の電子音が鳴り響く。急な物音に心臓が跳ね上がった。
「あ。わりい、俺だわ」と有田。のそのそと応答して。
何やら親しげに会話を交わしたあと、それを渡部に差し出してきた。
「…え、」
「上田。替われってさ」
よく分からないまま携帯を受け取り、もしもし、と呼びかけてみる。
『おう、どうだ、よく寝られたか?』
「…はは、おかげさまで」受話器越しのジョークに、力なく笑んだ。
『ったくよー、自販機前で忠告しただろ?”体に気をつけろ”ってさ』
叱られた。何だ、そういう意味だったのか、あれは。
「って上田さんも知ってたんですか、石のこと」
『まあな。大体あれだ、お前が寝たフリしてた時、光ってたぞ、石』
「……」
『児嶋からお前が倒れたって聞いたときは、まあピンときたね』
「…すみません」
『病院に担ぎこむのも、ややこしいしな。
それにその症状じゃ周期性傾眠症とか言われるのがオチだろうから、
とりあえず児嶋には、車で有田ん家に運ぶよう指示しといたってわけだ。この俺が』
「あー…」倒れるまでの記憶が蘇ってくる。石。設楽。同調。以降闇のち現在。
『うお、じゃあな、後で柴田にも礼言っとけよ!』
そう言い残すと、上田は慌ただしく電話を切った。
仕事の合間に、わざわざ電話をくれたのだろう。その心遣いが嬉しい。
渡部は、やっぱりこの人のほうが忙しそうだな、と改めて思った。
610
:
581
:2007/09/08(土) 02:24:52
「柴田の石はですね、」と突然口を開いたのは、山崎。
「回復とか手助けに役立つ能力なんです」
渡部と有田は同時に声の主を見つめた。
「…ああ、そうそう。柴田が介抱してくれたおかげなんだぞ、今お前が動けるの。
仕事があったから、もう帰ったんだけどな。心配してたぞ、あいつ」
思い出したように有田が説明する。
それによって渡部は、先刻の上田の台詞を理解した。
山崎が続ける。
「僕の能力は召喚で、有田さんの能力は、ええと…弱点エグリです」
「もっと言い方ってあるだろ」
有田は苦笑し、あとの台詞を引き継いで。
「上田はサイコメトラーだ。いちいち薀蓄言わないと駄目とかで、うっとおしいけど」
「ほんと、なんか偉そうで腹立つんですよねえ」
「な、生理的にきもいよな」
そう言い合って、からからと二人笑っている。
渡部は、終始ぽかんとしていた。
611
:
581
:2007/09/08(土) 02:32:41
「ほら、渡部さんも。教えてくださいって、能力」
「そうそう、秘密はみんなで持った方が、楽だろ。荷物は軽いに限るんだって」
脳が、だんだん巡り始めてくる。
確かに一人よりも、『仲間』同士で助け合った方が、楽だ。
だがその結果、その大切な『仲間』まで危険に巻き込んでしまうと、したら?
また、”自分”の声。そんな事分かってる。
…だけど、その時は。
(――その時は、俺が責任を取れば良いから)
そうして慎重な”自分”を押さえ込んで。
覚悟を決めると、渡部は自分の能力について、ゆっくりと話し出した。
『でもさ、相手がすげえ気の合う奴だったり、頼れる奴だったらさ、ほら。
自分から喋りたくなっちゃうんだよ。共有してもらいたくなるんだ、全部』
心の中で、”自分”に言い訳。
設楽のナンパ論も的を射ているな、と自嘲気味に笑んだ。
612
:
581
:2007/09/08(土) 02:44:22
それから二日後。児嶋は、自分の楽屋に向かう途中だった。が。
「おざーっす!」と元気の良い挨拶に背中をぴしゃりとぶたれ足を止めた。
びっくりして振り返る。にこにこテンションの高いのは、柴田だ。
「いてえな、もう…」叩かれた箇所をさすりながら苦情を漏らす。
「今日は、ネタ番組ですか?」って先輩殴っといてスルーかい。せめてイジれよ。
頷いてやると、「よかったですね」、と返される。どうも柴田との会話は、ちぐはぐだ。
「…ほらあ、渡部さんですよ。もう元気になったんですよね?」
「ああ、昨日会ったらピンピンしてた。人騒がせな奴だよ、まったく」
これも上田の機転と、柴田の石、そして有田・山崎のフォローのおかげだろう。
あと、半日弱もの睡眠といったところか。羨ましい。自分だってたっぷり寝たい。
児嶋はというと、渡部を有田の家に運んだ後は、離れた地でそわそわしていただけだった。
だって田中には仕事の件のお礼に奢ってやりたかったし。
大体、別にあの場に居ても何の役にも立てなかったろうし。
「で、やっと教えてもらったんでしょ、渡部さんの能力」
「…っつうかさ、あいつ慎重すぎだよな。偉そうなくせに、てんでビビリなの。
もし俺だったら、自分の能力分かったら、まず皆に自慢して回るって、はは」
「ってまだ分かってないんすか、自分の能力!?」
「そこかい」
何だ、やはり間の抜けたことなのか。恥ずかしくなり、自分の頭を乱暴に掻く。
「まあ、でも大丈夫ですよ、いつかは分かるもんですから」
「『いつか』っていつだよ?」
「そりゃあ、一刻も早く来て欲しい日でしょうよ」そう言うと、柴田は満足げに去っていった。
何じゃそりゃ。後輩の適当な返しに呆れ顔になった。
613
:
581
:2007/09/08(土) 02:48:08
児嶋は楽屋のドアノブを捻った。
正面の壁時計を見て、また早く来すぎたことに気づく。
どうせ今日も、渡部は遅いんだろうな。
どうせ今日も、タバコ吸いまくる羽目になるんだろうな。
そう考え、苦笑を浮かべた。
児嶋の期待する『いつか』は、この日から三週間後の、とある日。
渡部の危惧する『いつか』は、既に動き始めている。
614
:
581
:2007/09/08(土) 02:52:34
これで一応終了です、長々と失礼いたしました
もともと見切り発車だったので強引な展開になってしまいましたが…
みなさんからのツッコミ、意見などいただければ嬉しいです
615
:
名無しさん
:2007/09/08(土) 08:07:23
乙!白は暖かいな
渡部が設楽と同調してるのにすれちがってる辺り面白い
本スレ行っていいと思う
616
:
名無しさん
:2007/09/08(土) 12:09:17
>>614
面白かった。
展開も別に強引さを感じなかったよ。
本スレ行きに賛成。
617
:
581
:2007/09/08(土) 15:21:45
褒めていただけて嬉しいです、ありがとうございます
めっさ長いですが、本スレにそのままコピペで投下しちゃって大丈夫でしょうか…
618
:
名無しさん
:2007/09/08(土) 20:21:30
別にいいと思う 本スレ盛り上がるし
619
:
581
:2007/09/09(日) 00:13:36
よかった、では今から投下してきます
620
:
名無しさん
:2007/09/13(木) 01:01:48
ga
621
:
名無しさん
:2007/10/28(日) 19:49:40
age
622
:
4696
◆2sdZ4rmEDQ
:2007/12/07(金) 18:23:09
NON STYLE編の冒頭だけ書いてみました。
評価いただければ続きを書いたり本スレ投下してみたりするので、よろしくお願いします。
石。
ベッドの中に棲んでいた見覚えのないそれが、手になじんだ感触はこの上ない快感のように心が揺らいで、小さな体を全体で抱きしめた。手の中からじんわりと感情に共鳴するように温まる感触には、緩やかに心が安らいでいく。
手の中のきらめきはかすかに己に力を与えるような強さを持って、その中の闇に紛れたような黒ずみが、不思議に心を吸い込まれるような、ともすれば怖ろしい閃光を放っている。何度も見返してしまう鮮烈な美しさは、心臓に直接入っていくような激しい一体感を感じた。
久々に憶える、子供に似通った純粋で激烈な愛に、手が勝手に黄色い石をポケットに入れた。
「お前」
「何やそれ」
二人で楽屋にいた。井上が手の中で石を弄んでいると、石田が聡くそれを見つけ出し、井上の手の中の石の美しさに惚れ惚れしていた。
井上が何も言わずもったいぶった風の含んだ笑みをこぼすと、手を強く握り締め、黄色い輝きは手の中に収まって見えなくなる。
「めっちゃ綺麗や! くれ!」
「無理や」
「なんで!」
石田の声が炸裂する。井上が大口を開けて笑うと、伸びきった前髪をめくり、ゆっくり目を細めた。
「気に入ったから」
できれば一緒に寝たいくらい愛しかった。わずかに黒ずんだ輝きが髪の先から足の爪先まで掴んで離さない。
すべてを魅了された。
もしかしたら偏執的に見えるくらいこの石コロに触っている。体温で熱くなってきた石を握り込んでは開放すると、命あるもののように鼓動を打って反応を返すのが、脳が溶けかけるほど気持ち良かった。狂ったように静かに応酬する様子を見ると胸を押しつぶされるが。
「……石田」
「もしかしたら俺、お前みたいになるかもしれん」
「どういう意味?」
「石に話しかけるヤツになるかもしれんって事」
「……ハァ?」
623
:
名無しさん
:2007/12/09(日) 03:43:41
これだけじゃまだ解らんけれども、楽しみです
続きキボン
624
:
暗膿-予告編-
◆8Ke0JvodNc
:2007/12/18(火) 21:04:56
はじめまして、能力スレにラバーガールの能力案を募っていた者です。
ずっと読み専だったので色々とおかしな点もあるだろうし
いきなり本スレというのも気が引けるので、予告編として投下します。
そういえば、石。
自分達とバイト店員以外はいないモスバーガーで大水が何の気なしに呟いたのは、
ちょうどネタをつくっている最中のことだった。
それが今までネタの案を挙げていた口調と全く同じに呟かれたものだったので
反射的に「石」と書いてしまった飛永はその一文字に取り消し線を引きながら顔を上げた。
「石?」
「とうとう来ちゃったよ」
そう言いながらゴソゴソと取り出した大水は、石をテーブルにコロンと転がす。
テーブル上を落ち着きなく転がりまわる球体の石は紺色の絵の具に白を混ぜたような深い青で、
透き通ってはいないかわりにしっかりと磨かれ、キラキラと輝いていた。
石の様子を目で追う飛永に、アベンチュリンっていうらしいよ、と大水は告げる。
「アベ…なに?」
「アベンチュリン。別名はインド翡翠。あ、でも翡翠では無いんだって。
翡翠に似てるからそう呼ばれているだけで。
似てるって言われるだけあって大抵は緑のものが多く出回っているんだけど、
こういう風に青いのは珍しいんだって。それで…」
「ちょ、ちょっと待って」
止めなければいくらでも話し続けそうな大水を一度制して、飛永はノートを閉じた。
こういう話はついで感覚でするものじゃないし、何より聞きたいことがたくさんあったからだ。
飛永は石をつまみあげると大水に渡してしまうよう促し、きちんとしまったところで口を開いた。
「なんで種類とか知ってるわけ?」
「調べてもわからなかったから、持って行って聞いた」
しれっと答える大水に、飛永は驚きと呆れを隠せなかった。
ひくりと顔がひきつったのが自分でもわかる。
大水の口ぶりから石を手に入れたのはここ数日の出来事なのだと勝手に解釈していたが、
もっとずっと以前から大水は既に石を手に入れていて自分に黙っていたのではないか。
嫌な予感を否定してくれるようにと、飛永は祈るような思いで言葉を続ける。
「ちなみにその石で何が出来るかわかってるとか言わないよね」
「いや、もうわかってるけど」
頼みの綱も簡単に切られ、飛永は頬杖をつくと大きなため息を吐きだした。
噂を聞く限り、石を手に入れた者が能力に目覚めるのは個人差があるという。
石を手に入れた瞬間反射的に能力に目覚める人もいれば、
何かの拍子に発動して初めて能力を知る人もいる。
大水のことだから手に入れてすぐに能力を…という仮定も出来ないことはなかったが、
そういう人はごく少数だそうなので、多分石を手にしてからある程度経っている可能性の方が高い。
別に自分に言わなければならないという決まりごとはなかったが、
石については散々二人で話していたことだったのだから
手に入れていたのならすぐにでも教えてくれたっていいだろう。
飛永は恨めしげに大水を睨むと、もう一度深いため息を吐いた。
625
:
暗膿-予告編-
◆8Ke0JvodNc
:2007/12/18(火) 21:08:35
彼らにとって、石の話は決してまことしやかに語られる噂話などではなかった。
厳密に言えば「身近な話だが蚊帳の外」といった具合だろうか。
他の事務所や他の芸人はどうだかわからないが、
彼らにとっての石とはそういう存在だった。
その点は人力舎という事務所柄が多いに関与している。
大っぴらに石を使って行動する先輩やら、突如奇怪な行動をとったと噂される先輩やら、
白のユニットや黒のユニットと呼ばれる者達の攻防やら。
人数が少なく厳しい上下関係があまり存在しない人力舎内において、
不思議な石とそれを持つ人々の能力、そして彼らの戦いは後輩達に筒抜けだった。
中には実際に石を使っている現場を目撃した者までいる始末だ。
ただし、話を耳にした後輩達の感想は様々である。
ある者は芸人たる証である石が欲しいと望んだし、
ある者は面倒事に巻き込まれたくないと感じた。
そして、ラバーガールは二人とも間違いなく後者であった。
そんな二人が仮定の話で、と石についての方針を決めたのはもうずっと前のことである。
方針、といってもそんなに大そうなものではない。
あくまで「もしも」の話を、ぼんやりと話し合ったにすぎない。
能力が開花する時期はともかく、一方にだけとても早く石が渡ることはないだろうし、
一方が勝手に動いても絶対互いの関係がギクシャクする。
石のために石を手に入れるきっかけとなった芸事を疎かにするのもどうかと思うし。
石にまつわる噂話が徐々に熱を帯びて飛び交い始めた頃二人が話し合って決めた方針は、
「石が実際に手に入ってから改めて話し合うが、手に入るまでは無関心・無知を装う」というものだった。
それから二人は何年もの間、興味の無いふりを徹底した。
実物を持っていなかったから特に意識をせずにできたし、
石についての話を持ちかけられても何度か敬遠してやれば、
次第に話し相手に選ばれることはなくなった。
けれどそれはあくまで「装う」だけであって、
耳に入って来た情報や石・能力に関しての知識は徹底的に収集した。
いつかやってくるかもしれないその時、身の振り方を決めやすいように。
これを続け、今。
とうとう自分達の元にも石がやってきてしまった。
他人事だったものが自分達にも関わりのある話になってしまう恐ろしさ。
これからのことを考えると、二人はただただ憂鬱で仕方ない。
「一か月前、起きたら枕元にあってさ」
「そんなに前からかよ。少しは言ってくれてもいいんじゃないの」
「いや、できればこのままなかったことに出来ればいいと思ってたから」
面倒、と言いながら大水は紙ナプキンに手を伸ばす。
そしてグラスなど周囲のものをどかしナプキンを広げると、
飛永のノートに挟んであるペンを抜きだし何かを書き始めた。
2本の縦線で区切られた3つの空間に、少しずつ文字が書き込まれていく。
飛永は眉を寄せながら字を見つめ、どうにか書かれている内容を理解した。
本来書く用途に使われる紙でないこと、飛永から見ると逆さに見えることを差し引いても大水の字は汚く読みづらい。
例えばそれが見慣れた名前でなかったから読むことなど出来なかっただろうと、飛永は心の中で苦笑する。
大水が書き込んでいたのは芸人達の名前だった。
3つに分けられているのは「白」「中立」「黒」なのだろう。
事務所の先輩、ライブや番組で見知っている芸人、舞台上以外でも親交のある芸人、様々な名前が書き込まれていく。
少しの時間を要し書き終えた大水は満足げに息をつくと、右手で氷が溶けきって水だらけになったグラスをあおり
左手でナプキンを反転させ、飛永に見せた。
飛永はもう既に大体の内容を把握している紙を律儀にもう一度確認すると、へえ、と声をあげる。
相方ながら、よくぞここまで調べ上げたものだ。
飛永は感心しながら字を追い、ふとした疑問が浮かんだ。
それは、お互い公私ともに親交のあるコンビのこと。
「ギースは?」
「ギース?わかんない。まだ持ってないんじゃない?この前もそういう素振りなかったし」
「まーね」
最近、この2組は合同ライブを行っていた。
その時は稽古・楽屋・本番・打ち上げ等、相当な時間を共に過ごしたが、
彼らの石の目撃もしなければ特に話題としてのぼることもなかった。
元々石への関心が無いように装っていたので気を遣って話をしなかっただけかもしれないが。
626
:
暗膿-予告編-
◆8Ke0JvodNc
:2007/12/18(火) 21:14:13
疑問がいったんの解決を見せたところで、大水は本題とばかりに指でナプキンを叩く。
下のテーブルがコンコンと音を立てたのに反応して、飛永は視線を再びナプキンへと戻した。
「知ってるのはこれだけだけど、大体は白に偏ってる」
「そうだなぁ…人力内の情報がほとんど、ってのが原因だと思うけどな」
「っていうか黒の情報が少ない」
「黒は簡単に尻尾出さないだろ。それに人力内で黒側って相当勇気必要じゃない?」
「確かにね」
皮肉るように笑いながら、大水はペンで真ん中の空間を指した。
「出来れば、希望はここなんだよ」
「あくまで出来れば、な…難しそうだよ」
「そう。おぎやはぎさんならともかく、下っぱの俺らがずっと中立でいられるかって言うと微妙だし」
「協力しろって言われたらしなくちゃいけないだろうし、もしもが無いとも言い切れない」
「矢作さんのこともあったし。どんなに抵抗したって、やられる時はやられるよ」
「となるとやっぱり白かぁ」
戦うの嫌だなーと頬杖をついていた方の手で頭を掻く飛永を見て、大水が声を抑えて笑う。
それに気づいた飛永がわけがわからないといった表情で見てくるので、
大水はからかい交じりに飛永に腹のうちを告げた。
「まだ石持ってないのに、って思って」
「どうせそのうち来るでしょ」
「万が一の時のために使える力だと良いね」
「…そうだ、力だ力。どんなことできるの、それ」
出来れば自分達を守るのに少しでも有利な力の方が良い。
飛永の問いかけに、大水は少し考えてから、実際にやってみようか、と言った。
以上です。あくまで予告編なので、一旦ここで切りあげておきます。
普段の口調というものが定かでないのも不安要素です。
能力は能力スレに堂々と書いてしまっていますが、
今のところまだ出てきていないので伏せたままにしておきます。
本スレに耐えうるものであるか、もしくはそうなれるか。
添削よろしくお願いします。
627
:
名無しさん
:2007/12/19(水) 08:35:16
ラバーガールは詳しく知らないけれど、本スレでも大丈夫だと思いますよ。
続きが楽しみです。
628
:
632
:2007/12/19(水) 22:32:58
おお〜乙です!
まったりした雰囲気が本人っぽいですねー。続編も期待してます。
629
:
◆A4vkhzVPCM
:2007/12/25(火) 13:00:25
はじめまして、新登場スレや能力スレで犬の心について書いていたものです。
ラバーガールの書き手さんと同じく、ずっと読み専で、かつ二次小説初挑戦なもので
不安な点が多々あります。皆様の意見を取り入れて、本スレに投下できるような作品や
連作を書けるようにしていきたいと思っております。石能力と合わせて、添削宜しくお願いいたします。
今日は何の日かと聞かれれば、天皇誕生日だと答える気で居たが、誰とも遭わなかったし電話もかかって来なかった。
午後三時だというのに部屋は薄暗くて、かといって照明を付ける気にもならずに、窓際に立ち尽くす押見は力無くカーテンを揺さぶった。
恨めしかったのだ。
誰が? もしくは、何が? 答えを出すつもりはなかった。ただ、敗者復活戦が行われる大井競馬場へ赴くだけの強靭な精神力を押見は持ち合わせていない。
野外会場では、音が篭らないという事を分かっていたからである。
自分を破った強者達を笑う声が、か弱く虚空に掻き消えるのを聞きたくなかった。
M-1だけがお笑いじゃないとか、公正さを疑って喜んでみたりとか、酸っぱい葡萄を引き合いに出すまでもない。
受動的にうな垂れると冷たい床が見えた。靴下を履こうかと考えた。
もういい加減、子どもじゃないんだから、誰に要請まれた事でもないのに、そんな嘲笑が頭の中で反響した。
意味も無く裸足でいるのは自尊心のためだと、皆にからかわれる度にいじらしい気持ちになる。
その瞬間、ああ、俺を翻弄したあいつも、俺より大分歳を下回るあいつも、今西日を背に受けて戦っているんだという悪い考えがよぎった。
嵐のような不快感。押見は大股で部屋を横切ると、小さくて赤色の、古ぼけたテレビを蹴飛ばした。
精密機器であるはずのその箱は思いのほか軽く、床にぶつかって鈍い音を立て、あっけなく横倒しになった。
しかし押見はテレビには目もくれず、さっきまでテレビが置いてあった黒色の台を見下ろした。
表面には細かい埃が溜まっていた。蹴打の衝撃で舞い上がった塵の粒子が、目線の高さまで上がってくる。
聖夜を控えたというのに、孤独で、負け犬で、何もかもが腹立たしい。押見はもう一度、今度はテレビ台の側面を、力いっぱい蹴たぐった。
ガサ、と重いものが擦れ合う音と共に、一層の埃が宙に繰り出した。
吸い込まないよう、息を止めた押見の目に、飛び込んでくるものがあった。
乳白色の三角形。
はじめは、取るに足らないゴミだろうと思った。ソファーの下や物置の隅などに、見覚えの無いゴミが落ちているのは珍しい事ではない。
だからこれも、いつか知らぬ間にテレビと台の隙間に潜り込んだ、正体の不明瞭なゴミだろうと、推測したのである。
触りたくなかった。箒とちり取りを持ってこよう、と思ったその時、掃き溜めと化したテレビ台の上でその三角が一つ二つ輝いている事に気が付いたのである。
半ば混濁する意識の中、押見はしゃがみこみ、ためらわずにそれを手にとった。
重量感が噂と直結する。
「石だ」
630
:
◆A4vkhzVPCM
:2007/12/25(火) 13:01:31
自分自身でも意外な事に、事実と直面してからも押見は冷静だった。取り乱したり大きな声を出したりしなかった。
そのかわり、非常に高い熱を持った何かが頭の中を猛スピードで侵食していき、同時に、自分の中のもう一人の自分がそれを俯瞰し始めた。
押見はしゃがんだまま、埃の中で呼吸していた。
石を巡る戦いについては、知らないという訳ではなかった。
先輩に可愛がられるタイプでないから直接話を聞いたことは皆無だし、周囲の芸人らもそういう事とは無縁な奴ばかりだった。
それでも、吉本という入り組んだ組織に属する以上、情報はそこここから入ってくる。
そして押見は、それら情報に関して、人一倍敏感だった。
持ち前のプライドの高さから、人前でその好奇心を発揮する事は伏せていたが、本当は知りたくて知りたくて仕方がなかった。
誰と誰が戦っているんだろう、石の力ってどんなものだろう、この戦いはいつから始まったのか、そもそも石の正体とは何なのか……
だが非関係者でしかない押見に伝わってくる情報といったらどれもこれも断片的なものと不明瞭なものばかりで、彼の底知れない知識欲を満たすには不足だった。
せいぜい、白や黒といった勢力の名前と、石を持つ芸人の名前をいくつか聞く程度。
それが今や、この手の中に石があるのだ。押見は石を持った右手を閉じ、少し力を込めた。上を向いた口角がさらに大きく吊り上がる。
俺は当事者になったのだ。今はまだ希望しかないが、これからどんどん現実が押し寄せてくるに違いない。
そして優越感――石を持つものと、持たないものの間に生まれる圧倒的な格差が、自分にとって有利なものに転換したのだ。
次第に鼓動が早くなっていく。
と、その時不意に、あの俯瞰的な自分が高揚感に水をさした。
馬鹿みたい、石ころに振り回されて、惨めなくらいに迷妄的だ。
『うるさいうるさいうるさい丸くなって踵をかえせば?』
いつもの癖で無意識に、意味の無いうたが脳内を反響した。
すると、にわかに手の中の石が熱をもって、ほんのりと赤く光り出した。
押見は手を開き、吸い寄せられるように石を見つめた。
重たい耳鳴りがし、軽い目眩で体勢が崩れる。押見はどっ、と腰を落とした。
石の事が分かる自分がいた。
全部ではない、まだ名前すら教えてくれないが、力量を確信するには十分すぎる程の情報量だ。
石の力や発動条件といった未知の知識が、押見の脳へとおぼろげに流れ込んでくる。
押見は立ち上がり、いける、と小さく呟いた。
631
:
◆A4vkhzVPCM
:2007/12/25(火) 13:02:00
押見は石をローテーブルの上に置いて、その前に座って観察を始めた。
石は既に光るのをやめており、はじめ見たときと同じように、ひどく不透明な乳白色をまとっていた。
片手で握れる位だからあまり大きくない。しかし不恰好にごつごつしていて、牙のように尖っている。
押見は腕を背後に投げ出すと、ぼんやりと、これからどうするかについて思案した。
黒に入るのは嫌だった。否、怖かった。
善悪の問題ではなく、伝え聞いた噂から判断し、目的のためには手段を選ばない団体に属するのはリスクが大きすぎると考えたのだ。
切り捨てられ、石だけ盗られてポイ捨て、なんて事になったら目も当てられない。
かといって、白に入る気にもならなかった。
ひねくれ者の性格が鎌首をもたげ、正義の味方を気取るなんて、と否定的な事をいうのだ。
それに黒にせよ白にせよ、自分が先輩との関わりが薄い事を考慮すれば、飛び込むのには勇気が要った。
と、すれば、無所属。
しかし――静観するのは心が許さない。
何故だろう。大して積極的でもない自分が、こんな気持ちになるのは久しぶりだ。
押見は首を折り、天井へ視線を移した。
戦いに関与したい。
目的の下で動きたい。
そして何より、石の力を使いたい。
俯瞰的な自分によれば、押見は暴走していた。まさしく力に振り回されようとしていた。
それを踏まえた上で、押見は、石を巡るこの戦いをめちゃくちゃにしてやりたいと望んだ。
自分を散々置き去りにしておいて、今更歯車になれなどと言われても、従えるはずがなかった。
暴走しよう。迷妄しよう。
そして押見は、この石にならそれが出来ると確信していた。
池谷はどうしよう?
この疑問が、今の今まで浮かんでこなかった事の方が不思議なのかもしれないが、それはある意味仕方がなかった。
押見から見て、相方であるこの男は、どうしようもなく能天気で、平和ボケで、戦いや諍いには結びつかない存在だったからだ。
石についても、池谷は押見と違って、さほど関心を示さないでいた。実物も、恐らくまだ持っていないだろう。
自分が石を手に入れた事については黙っておいて、この計画には相方を巻き込むべきでないのかもしれない。
そういう正常な意見を、押見は否定した。
合理的に考えて、異能者だらけのこの戦いをかき回そうと思うなら、池谷に協力させない道理はない。
体力、身の軽さ、意志の強さ……いつか池谷の元へ来るであろう石の力を度外視しても、計画に池谷を巻き込む価値はあった。
反射的に携帯電話を探る右手を意識しながら、押見は、相方を数値化する自分の合理性を嘆いた。
感情的な自分と理知的な自分が争っていた。心地よさに任せて暴走などしなければよかったと後悔した。
それでも、身体は自然に立ち上がるし、指はぎこちなく携帯のボタンを探る。左手は石をポケットにしまう。
家を出ようとしていたが部屋を片付けるつもりはなかった。
「――あ、もしもし池谷? 今どこよ? ふーん、バイト中か……ちょっと、話したい事あるからさ、そっち行っていい?」
倒れたままのテレビが、押見の背中をじっと見ていた。
632
:
◆A4vkhzVPCM
:2007/12/25(火) 13:02:26
駅前に馬鹿でかいクリスマスツリーが輝いていて遠くの景色が見えなかった。
時刻は五時前、そろそろ日が傾いていく頃だ。ツリーの電飾が一つずつ灯っていく。
押見は広場の隅の方を通った。若々しい中高生や足を弾ませて歩く人々の中で、
真っ黒なコートに身を包んで眉間にしわを寄せる押見はほんの少し浮いていた。
電車の中で隣に座った二人組がM-1の下馬評をするのを聞いてしまったのだ。
せっかく石を得た恍惚のおかげで忘れかけていたというのに、甲高い声で喋る彼女らのせいで、色々と思い出してしまったのである。
悔しさや恥ずかしさで胸が一杯になった。
それでも、頭の中はまだ幸せだった。
石を操って、これから自分がどう振る舞うか、という予想図が次から次へ浮かんでくる。
それらは全て――「犬の心」の予想図でもあった。
空が白い。気温が下がってきた。
店の前の舗道を掃除していた店員に事情を説明すると裏口から入れてくれた。
厨房は細長く、騒がしく、暖かかった。料理人が二、三人いた。池谷は部屋の一番奥におり、熱心に魚をさばいていた。
「池谷」
戸の後ろに隠れるようにして押見は呼ぶと、右手を挙げて手招きをした。
それに気付くと、池谷は包丁を扱う手を止め、早足で押見の方へ近づいてきた。
料理人らしい真っ白な服を着ていて、押見は自分の格好とのコントラストを覚えた。
そして、どうか池谷に石があれば、それは黒色であってほしいと唐突に願った。
「どうしたの、押見さん」
「何作ってんの? まだお客さん来てないみたいだけど」
押見は質問に答えなかった。腕組みをして、さっきまで池谷が立っていた辺りを眺めた。
「仕込みだよ。今日はクリスマス直前だから、忙しくなると思うんだよ」
「ふーん……」
「聞いてくれよ。今日はいい鰆が入ってさあ」
「またその話? 言っとくけど、お前が思ってるほど魚って面白くないから」
「それは押見さんが鰆の事を知らないからだって! それにそれだけじゃなくて。クリスマスは鶏肉ばっかりちやほやされるけど、魚料理もまた乙なんだよ」
「別にちやほやはしてないでしょ」
押見は自分の脈の音を聞いた。それはだんだん大きくなってくる。
押見の目は料理人としての池谷を見た。押見の耳はクリスマスという単語を聞いた。
その時、押見は、世界は途方もなく広がっているという事――つまり、芸人どうしの世界、
さらに言えば、石を巡る戦いの周りにある世界なんて、吹けば飛ぶような小さい世界ではないかと思えてきたのだ。
そして次に浮かんできたのが、羞恥心――M-1の結果に落ち込んだ自分や、反動ででもあるかのように石を歓喜した自分、
静止のきかない妄想の末、練り上げた計画――それら全てをもう一人の自分が俯瞰し、あざけった。
押見は前を向けなかった。じっとりと汗をかいてうつむくと、床が鏡のように反射して赤くなった顔が見えた。
「押見さん? 具合、悪いの?」
前触れもなく黙った押見を案じて、池谷が声をかける。
また押見は返事をしない。深呼吸をして、池谷と目を合わせた。
「頭冷やしてくる。邪魔して、ごめん」
引き止めて何か言おうとする池谷を放り出すと、押見は店を駆け出た。
633
:
◆A4vkhzVPCM
:2007/12/25(火) 13:05:32
気が付くと人気の無い川べりまで来ていた。精一杯走ったものだから息が上がっていた。
川は東から西に向かって流れていて、下流を見やると黄金色に輝く夕日が映った。
押見は泣き出したかった。何もかもが虚しいものに思えた。
自分が笑いに対して抱く感情や、石を使う事に関する憧れ、果ては存在意義まで、明瞭なものは一つもなかった。
乱れた呼吸を押しとどめようともせずに、押見はコートのポケットをまさぐった。
尖った石の先が、押見の指を傷つけた。構わなかった。
震える手で乱暴に引っ張り出して、その姿を一瞬だけ確認する。
石は朱を注いだように光っていた。
左目の端から涙が零れた。押見は石を持ったまま、水面を見据え、右腕を大きく振りかぶった。
手首を冷たい感触が襲う。
「捨てる位なら譲って下さい」
押見の背筋が凍りついた。横目で見ると、何物かが自分の手首を掴んでいた。来訪者の姿は見えなかった。
恐ろしくなって振りほどこうとしたが、強く握り締められていてなかなか自由にならない。
「いぃっ! 嫌だあっっ!」
絶叫し、身体を大きくよじって身をかわした。とっさにあいた方の手で突き飛ばすと、不意をつかれた男は尻餅をうった。
押見の奥歯がカチカチうち合わさった。男は自分より若く見えたが、目は空ろで、倒れた時も、立ち上がる時も、視線を押見から離さなかった。
さては黒のユニットの手先か。
本能的な恐怖にあてられた押見はようやく、自分が巻き込まれた戦いの壮大さを悟った。
男が一歩、また一歩、押見の傍へ近寄ってくる。
その時間は、押見にとって、尋常ではない長さに感じられた。
「来るな、来るな、来るなあっ!」
押見は石を体の前にかざし、身を守るように振り回した。
だが、男がダメージを受けた様子はまるでない。
心臓が爆発したように感じられて、気が遠くなっていく。もう駄目だ、と、焦る気持ちの中絶望した。
馬鹿だなあ、意味の無いうたを唱えないと。
そう、くすぐるように呟いたのは、分析的な自分だった。
突然の忠告に押見は当惑したが、すがるとすればこの言葉しかなかった。
「分かってるけど困っちゃうなあ、いつかは仔猫が帰ってくるさ」
適当に思いついた言葉を、呼吸音と勘違いしそうなほど小さな声で囁きながら、
押見は牙のような石を持ち、切り裂くつもりで振り払った。
男が歩みを止め、苦しそうに頭をかかえたのが見えた。
だが、押見はもう限界だった。
深い呼吸が出来ない。頭の片側が割れるように痛む。警報音のような高い音が聞こえて、今にも鼓膜が破れそうだ。
全部吐きたい。目の前が真っ暗になる。どうして、ここに立っているのか分からない。
思わず後ずさりすると、背後が土手になっていた。
息が苦しい。この川に飛び込んでやろうか。今の押見には、主観的で愚かな自分しか残っていなかった。
力の抜けた手から石を落とすと、少し気が楽になった。
634
:
◆A4vkhzVPCM
:2007/12/25(火) 13:05:57
情緒不安定な押見の様子が気になって、あの後池谷は店を出た。
勘と聞き込みを頼りにようやく探し当てた押見は、しゃがんで憔悴した男を背にして川べりに立ち、淀んだ目で水面を見ていた。
ぱっと見ではよく分からない状況だったが、押見が正気で無い事だけは誰が見ても確かだった。
池谷は押見の元へ走った。
そして、持てる力の全てを込めて、押見のコートの首根っこを掴むと、思いっきり引き落とした。
ほぼ惰性で立っていた押見は簡単に倒れると、そのまま意識を失った。
次に池谷は男の傍へ駆け寄った。
そして、手に持った、黒地に白い星が散りばめられた蜻蛉玉を指先で撫でると、男の両目を力強く覗き込んだ。
しばらくすると男は生気を取り戻し、きょとんとして、何気なく横になったままの押見を見た。
少しの沈黙の後、男は池谷を振り払って立ち上がり、一目散に走り去った。
「じゃあ、帰ろうか、押見さん」
池谷は暖かい溜息を一つつくと、安らかに呼吸する押見の身体を持ち上げ、来た道を引き返していった。
押見泰憲(犬の心)
ドッグトゥースカルサイト(犬歯型のカルサイト、サイキックな手術に使われる強力な石)
能力 石を手に持って切り裂くような動作をすることによって相手の精神力を削り取り、神経不安を呼び起こす。相手の精神を大きく傷つけることがあり、不安定な能力。
条件 使用している間は、意味の無いうたを唱え続けなければならない。また、能力の反動で自分自身が混乱することもある。
池谷賢二(犬の心)
星柄の蜻蛉玉(依存心を払う・多種多様)
能力 不安や混乱で判断力を失った相手を立ち直らせ、冷静な状態に戻す。また鎮静効果もあり、激情した相手や号泣している相手を鎮めることもできる。
条件 相手が池谷と三秒以上目を合わせること。
以上で終りです。乱文・長文失礼しました。
M-1の行われた12月23日の設定で書いています(本当はhypeをやっているはずなのですが)
気が付いたら暴走して、しかもかなり会話が少なくなってしまったと反省しております……
口調や雰囲気は∞一部でのトークを参考にしました。
未熟な点、見苦しい点など多いかと思いますが、皆様の意見を取り入れて、少しでも読むに堪えうる作品にしたいと思います。
添削宜しくお願いいたします。
635
:
◆8Ke0JvodNc
:2007/12/27(木) 02:53:57
>>627
>>628
米おそくなりました、そう言ってもらえて嬉しかったです。
ありがとうございました。
もう本スレには投下しましたが、続きも今執筆中です。
>>634
乙です、同じ読み専だったとは思えない心理描写の巧みさ。
ぐっと引きこまれました。犬の心好きなのもあり、続きが楽しみです。
本スレ行って大丈夫だと思いますよ。
636
:
◆A4vkhzVPCM
:2007/12/27(木) 15:31:10
>>635
ありがたいお言葉感謝します。
635さんのラバーガール編も続きを楽しみにしています。
本スレを盛り上げていけるように、
少しでも尽力したいと思います。
635さんも頑張ってください。
637
:
名無しさん
:2008/06/23(月) 23:18:48
本スレの
>>71
に書き込んだ者です
リチャホ編の話が気になりすぎて続きを書きそうになっているのですが、私は作者さん本人ではありません
もし作者さんが見てくださっているなら「やめてくれ」「別にどっちでもいい」などご意見ください
もし作者さんからのお返事がいただけなければ、ここの住人さんにご意見を伺いたいと思い書き込ませていただきました
スレ違いでしたら、廃棄の方に投下いたします
638
:
名無しさん
:2008/06/24(火) 01:12:17
問題ないと思う
あの話のオチ見たかったし、個人的に期待しております
639
:
名無しさん
:2008/06/24(火) 21:23:34
自分もいいと思います
640
:
本71現637
:2008/06/25(水) 19:45:12
ご意見ありがとうございます
ただし皆さんのご期待に添える形になるかは自信がありませんが…
もしかしたら作者さんがいらっしゃるかもしれないので、一応来週まで待ってみます
641
:
名無しさん
:2008/06/27(金) 00:10:59
楽しみにしてるノシ
642
:
本71現637
:2008/07/06(日) 02:03:57
こんばんは
とりあえず今日からぼちぼちと、かなりのスローペースで投下していこうと思います
展開に無理があったり矛盾があったりする場合、厳しくも愛のあるご指摘をよろしくお願いいたします
作者さんの了承を得ることが出来なさそうなので残念です…
643
:
本71現637
:2008/07/06(日) 02:12:11
人は、失って初めて、ものの大切さを知る、というけれど。
ならば「奪う」ということは、案外「教える」行為に通じるところがあるのかもしれない。
だからといって、「白」の連中に石や相方の大切さを教えて回る気など、毛頭ないわけで。
状況に反して哲学的な思想が浮かび、柴田は右手で頭を乱暴に掻きむしった。
今、彼は土田の楽屋にいる。苛立ちながら、忙しく部屋中を歩き回っていた。
というのも、本来なら同局の屋上で矢作が転落死するのを見届けているはずだったのだ。
しかし、予定外の土田の登場に加え、階下からは「白」の奴らのやって来る、気配。
さすがにその場に留まれなくなった柴田は、土田の能力―瞬間移動―に助けられ、窮地を脱することができたのだった。
…おそらく、矢作は死んでいない。局内の平和な静寂が破られていないからだ。
「まあ落ち着けって、」淡々とした声にたしなめられた。土田だ。ゆったりとソファに腰掛けている。
「お前さ、焦りすぎだよ。別に殺す必要はないじゃんか。大体、矢作さんは白じゃないんだし」
「何言ってんだよ。甘ぇぞあんた、」
すかさず柴田が噛み付く。とはいえ、今の柴田は、柴田であって柴田でなかった。
つまり、黒い欠片に思考を乗っ取られている状態であり、彼自身の健康的な意識は闇に沈んでいたので。
「白かどうかは関係ねえよ。黒じゃない時点でそいつは敵だ!敵は居ないに限るだろ」
「…短絡的だな」
「お前らが慎重すぎなんだ、くそ!」
依然として鼻息荒く歩き回っている後輩に、土田は溜め息を吐いて。
「慎重にもなるって。死人が出たりして、事が表沙汰になったら、色々と面倒だろ?」
そんな“シナリオ”、今は組み込まれてないんだぞ。
そう付け足す。幹部の意思をほのめかされて、多少頭が冷えた柴田は、ようやくその足を止めた。
「…じゃあ、ほっとけっていうのかよ、このまま」
不満をあらわにして土田を睨みつける。せっかく精神の極限まで追い詰めた獲物を諦めることなど、まっぴら御免だったので。
「いいか、矢作さんに限らず、白の奴らにだってそうだ。俺たち黒は、別に殺しが目的なんじゃあない。石だ。奴らの石を奪って無力化させること。
それだけに心血を注げばいい。もちろん、『シナリオ』に注意しながらな」
そう宥める先輩の向かいにあるソファに腰を下ろして、口を尖らせる。
「白の奴らの石だけを、かよ?」
すると、
「…白かどうかは関係ねえよ。黒じゃない時点でそいつは敵だ。敵は居ないに限るだろ」
聞いた台詞を吐き、土田はにやりと笑んでみせた。
どっちが短絡的だよ、と柴田も苦笑を返した。
644
:
本71現637
:2008/07/07(月) 00:48:00
「大丈夫?大丈夫、矢作さん?」
山崎は、地面にうずくまって咳き込んでいる弱々しい先輩の背中をさすってやっていた。
「ちょっと山崎君、俺の心配もしてよ」
「小木さんは大丈夫でしょ、ピンピンしてんじゃん」
同じく隣でへたり込み不平を漏らす大きな先輩を軽くあしらい、右手を休めないまま夜空を仰ぐ。
屋上までは相当な高さがあり、てっぺんは闇にかき消されて見えない。すぐに首が痛くなった。
(あんな高いところ、仕事でだって飛び降りられないや)
心で呟き、目線を先輩たちに戻す。どちらも疲労しきった様子だ。
その二人の後ろには、巨大なトランポリンが頼もしく佇んでいた。
あの時。
後藤の能力が及ばず、小木と矢作の落下速度が元に戻り始めていた、あの時。
山崎は、携帯片手にスタジオを奔走していた。
電話の相手は、渡部。彼に指示されるまま、訳も分からず目的地に向かっていたのだ。
詳細は分からなくても、受話器越しに事の重大さは伝わってくる。
そうして着いた場所は、局の外。冷たい夜風。
上空からは、今まさに後藤の力が届かなくなる寸前だったおぎやはぎの影。――その事実は知らなくても、今自分のすべきことは理解できたので。
静かに携帯を切り、息を吸い込むと、
「あんたらはアレだ、飛び上がって死ね!!」
この場に適した「キーワード」を、大声で叫ぶ。次の瞬間、人影の真下のアスファルトに大きなトランポリンが出現して。
待ち構えていた丈夫な布に無事着地した二つの影は、それぞれ反動で何度か跳ね上がる。
走り寄る山崎がその影の正体を確認できる距離にまで達したときには、すっかり反動も落ち着いていて。
トランポリンの上には、憔悴しきった様子で横たわる矢作と、味わった恐怖を取り乱しながら訴えてくる小木。
そうして今に至る、というわけだ。
「矢作、歩ける?」
小木が立ち上がり、相方に手を伸べる。だが、彼自身もまだ落下の際の恐怖を拭い去れていないようで。
「いや膝大爆笑じゃないすか、小木さん」と山崎がツッコミを入れる。
「…うるさいなもー!本当に怖かったんだって!」
「っつか紐なしバンジーとか馬鹿でしょ!体のでかさに脳みそ追いつけてないし!」
「なんてこと言うかな!俺未熟児なのに」
「気ぃ使うわ!っつかネタじゃなかったんすか、それ?」
山崎と小木とのやりとりを見て、今まで黙りこくっていた矢作が、小さく、しかし楽しそうな笑い声を上げた。
それに気づいた二人は言い合いを止め、ほぼ同時にきょとんと矢作の方を見やった。
「…ごめんな。小木、山崎、」その真っ直ぐな瞳に、先ほどまでの怯えは微塵も無くて。
「もう二度と紐無しバンジーなんかしねえからさ、俺」
そう言って、再び俯き、笑った。
命の極限に身を置かれたことが、皮肉にも彼にとっては立ち直るための大きなきっかけになったのだ。
不安と絶望の闇が、さあっと霧散していく、感覚。
(――俺は、生きている。俺には、頼れる大事な仲間がいる。だったら、まだ他にやることがいっぱい、あるはずだ)
「矢作…、」小木からも笑みがこぼれる。「よかった、“いつもの”矢作だ」
「…えー、矢作さんって普段こんな悟ったみたいな人でしたっけ?」
「そのテの感想は俺がいないときに言ってくれよ」
異議を唱える山崎に、淡々と矢作がツッコんで。今度は三人同時に、笑い声を上げた。
645
:
本71現637
:2008/07/08(火) 00:34:55
目を閉じる。
自分は独りじゃないという安堵感。
自分は生きているという充実感。
矢作の胸の中が、そういった前向きな感情に満たされているのを確認すると、渡部はほっと胸を撫で下ろし目を開けた。
「同調」が解除され、自分の感覚に素早く切り替わる。
彼は今、スタジオの倉庫前に立っていた。この時間帯は人通りがない場所なのだが、しかし油断はできない。
力を使っている間は、全くの無防備状態なので。「矢作を自殺寸前にまで追い込んだ人物」が、いつ現れるか分からないので。
その「人物」にはプロテクタのようなものが掛かっていて、同調で動向を探ることが困難なので。
――先ほども柴田に同調を試みたが、やはり普段より体力の消耗が激しく、うまくいかない。
ただ、証拠としてはその事実だけで十分なので。(信じたくは、ないけれど。)
自分の能力が戦闘向きでないことを、渡部は承知していた。
できることといえば、予め敵の思考を読み取り、危機を回避すること。あるいは、いち早く仲間のピンチに気付き、他の仲間に助けを求めること。
ちなみに、あの時山崎に向かうよう指示した場所は、矢作を含む現場の芸人たちに素早く同調し、それぞれの視覚が認識している風景から割り出した予想落下地点だった。
幾分ゆっくりだったとはいえ、落ちる感覚には肝が冷えた。「仕事でも無理だ」、という山崎の思考に全く同意する。
…自分の能力では、それぐらいしかできない。攻撃することはできないし、急な襲撃にあった時には「同調」する暇すらない。
肝心の「思考」まで精確に読み取るためには、最低でも5秒は同調できないと意味がないのだ。
ほんの0.5秒の判断が命取りになる戦闘において、それはあまりに痛い。
(俺にできること。事前に敵を予測して“常に”見張りつつ、仲間に危険が及んでいないか“常に”確かめること)
そう、これはあくまで理想論。そんなことを“常に”行なっていれば、己の身がもたない。
今自分が倒れてしまっては、じわじわと侵食するように迫り来る危険を、誰が察知できるというのだ。
無理をするのと責任を果たすこととは、絶対に違う。
でも。いつか無理をしてでも責任を果たさなきゃいけない日が来る。これは予感でなく確信だった。
今はまだ、立っていなければ。
その思考の一瞬後に、携帯のバイブ音が鳴り響いた。画面には、さっき自分が呼び出した山崎の名前。
軽く深呼吸し、気持ちを切り替える。ともあれ、矢作は助かったのだ。改めて心の底から歓喜が湧き上がってくる。
「…おう、よかったよー間に合って!ありがとな、お疲れさん」開口一番、後輩を労ってやる。
『はい!…って何で知っ…?ああそうか、“使った”んすね!』
受話器の向こうで山崎の声が感情豊かに移り変わっている。
『えっと、一応報告しときますけど、矢作さんも小木さんも、二人とも無事ですよ!』
「本当ありがと。今まだ外だよな?三人で俺の楽屋向かって。児嶋居るし」
『え?』
「ほら、“飴”だよ。みんな疲れてるみたいだし、一個食べるだけで大分違うぜ」
『…はいっ、あざっす!』
心の底から嬉しそうな後輩の返事に、渡部は思わず笑みをこぼした。
ある日ビッキーズの須知がくれた、体力回復効果のあるキャンディ。(自家製、らしい。)
彼らは芸人としての活動を辞めてしまったが、今も白の味方で、時々飴を送ってくれている。
黒に知られてしまうと危険に巻き込んでしまう可能性があるので、飴は白を代表して児嶋のもとに送られることになっていたのだ。
これは白の中心ユニットの中で最も影が薄いから、という理由の人選で、当の児嶋はそうとも知らず得意げにしている。
『あ、渡部さんは今どこです?今後のこととか色々相談したいんすけど』
「4階の倉庫前。…分かった、俺も戻るわ。楽屋で会おうぜ」
じゃあ後でな、と短く添えると、電話を切った。正直なところ、渡部自身もこれ以上は“飴”がないと限界だった。
「――『今後のこと』、か」
山崎の言った一言を、噛み締める。
きっと彼は知らない。矢作を追い詰めたその「人物」の正体を。
きっと小木も、他の仲間たちも、誰も知らないだろう。
――そして、きっとそのほうがいい。
世の中には皆で背負った方が良いものとそうでないものとが、あるから。知ってんだ、俺。
もう一度だけ柴田に同調してみようと目を閉じたが、やはり激しい眩暈がしたので、やめた。
646
:
名無しさん
:2008/07/08(火) 07:07:37
オパール編続き読みたかったので、乙です!
でも、ちょっと気になる部分が。
>>645
で、ビッキーズの描写がありましたが、オパール編は
2004年〜05年あたりの話、という設定なので、
ビッキーズが07年に解散したのと矛盾してるな、と思いました。
なんだか口やかましくてすみません…。
でも「芸人の活動を辞めてしまったが」という描写を抜かせば大丈夫だと思いますよ。
647
:
名無しさん
:2008/07/08(火) 07:09:01
>>646
ミスです。
×芸人の
○芸人としての
648
:
本71現637
:2008/07/08(火) 10:39:27
>>646
的確なご指摘ありがとうございます
時系列を今と完全に混同してしまっていました
おっしゃるとおり「芸人としての〜」のフレーズはカットします、すみません
そして全体的につじつまを合わせようと必死すぎて中身が疎かになっていないか心配です…
649
:
本71現637
:2008/07/15(火) 12:07:34
「おい、もういいよ。これ以上無理すんなって」
真剣な表情でそう言う有田に肩を借りながら、上田は黙って屋上のドアを見つめている。
一陣の夜風が、二人の髪をゆらりと駆けた。
先ほど山崎から有田に着信があり、小木と矢作の無事が分かった時、屋上は歓喜に沸いた。
その後、後藤も上田も力を使いすぎているので、一旦全員楽屋に戻ろうという流れになったのだけれど。(実際、岩尾と後藤は既に下へ降りていた。)
「みんな無事だったんだから、今日はもういいじゃん、な?」
もう一度宥める。相変わらず上田の目はじっとドアを見据えていて。
左半身に相方の重みを感じながら、有田は溜め息をついた。
また“使う”気なんだ、というのはすぐ分かった。
ここに駆けつける際、既に上田は石を使用している。それも、通常の比にならない激痛と引き換えに。
だからこそ、彼は今、一人では立つこともままならない状態だった。ダメージは、まだ確実に残っているのだ。
「――俺は、見たんだ、記憶の中で、あいつを、」
うわごとのように、上田が呟く。「さっきまでは、ここに、居たはず、なんだ」
「…そうとは限らねえだろ」
「有田…もし俺があいつなら、矢作が死ぬとこ、見たいと、思うよ、この目で」
「やめろよ、そういうの」
「自分で、追い詰めた、獲物だしな。それに、本当に死ぬか、どうか、見張らないと、不安だ」
「……」
そんなことは、有田にだって分かっていた。あいつは、――柴田は、確実に屋上に居たはずだ。
しかし。
例の激痛は柴田に関する記憶を探ったときに襲い掛かるようだった。
大げさでなく、これ以上痛みが蓄積したら、本当に命に関わるだろう。
「…馬鹿じゃないんだからさ、頭冷やせよ、なあ。それで死んでちゃあ意味無いだろって」
あえて厳しい口調で返す。何としても、今上田に力を使わせてはいけない。そう思った。
「――えー、皆さんご存知でしょうか、」
「…やめろっつってんだろ!」
発動条件である薀蓄を語ろうとした上田の胸倉を引っつかむ。
たったそれだけの動きで、上田は酷く痛そうに呻き、顔をしかめた。
「ほら見ろ、そんな体でもつわけねえだろ」
「……覚悟は、してる」
「そんなに死にたいのかよ」
「後悔、したくない、だけだ」
その真っ直ぐな目を見て、有田は返す言葉に詰まってしまった。
こうなると、頑固な上田はてこでも動かないのだ。
溜め息を吐き、しかし最終手段を決意した有田は、相方を掴んでいた手をそうっと離した。
ゆっくりその場にひざまづいた上田に向かって、自分の石をかざして。
「じゃ、俺もお前に使うけど、いいか」
予想外の展開だったのか、上田は目を丸くしている。
明らかにさっきまでの勢いが萎れていくのが見て取れたので、有田は石をしまうと、
「…独りでやるのは、漫才とは呼ばないよ」
歯を食いしばって俯いている相方に、そう言った。
650
:
本71現637
:2008/08/17(日) 13:52:45
諸事情によりパソコンを開けない日々が続き、大変長い空白になってしまいました…ごめんなさい
続きをまた少しずつ投下していきたいと思っていますが、ひき続き矛盾点等のご指摘をよろしくお願いします
651
:
本71現637
:2008/08/17(日) 14:00:16
しかも急ぐあまり下げ忘れてしまい重ね重ね申し訳ありません
次回から気をつけますorz
652
:
本71現637
:2008/08/17(日) 14:04:43
前ぶれなく楽屋の扉が開いた。
「おっす、大変そうだね」
まもなく設楽が軽い調子で入ってきた。真剣な面持ちの小林がその後ろに続く。
土田と柴田は会話を止め、そちらを見やった。
そのままどっかりと隣に腰を下ろす設楽に、土田は表情も変えずに「早かったな」とだけ言った。
柴田は「いつの間に連絡したんだ」と聞こうとして、やめた。幹部3人がここに居るという事実は、どのみち変わらない。
「まあね、ちょうど近くまで来てたし。いやー、たまたま小林も一緒だったからさ、」
「設楽さん。そんなことより…」
小林が厳しい口調で諫める。彼としては早く本題に入りたいようで。(ちなみに彼はソファーの横にしゃんと立ったままだった。)
はいはい、と面倒くさそうに頭を掻くと、設楽は呆然と突っ立っている柴田をちらりと見上げた。
「やってくれるよなぁ。お前が派手に暴れてくれたおかげで、シナリオ狂っちゃったんだけど」
「…何だよ、俺のせいだってのかよ」
と柴田。突然の展開に戸惑いながらも、媚びる様子のない強気な口調だった。
「シナリオ上、矢作さんは『心労による入院』になるはずだった、」淡々と小林が言葉を紡ぐ。
「自殺を図るまでに追い詰めたせいで、シナリオが本来のものとズレ始めているんだ」
「知ったことかよ。俺はこいつの悪意を増幅させただけだぜ。俺のやり方にケチつけるってのかよ」
「っていうかさ、」
突然土田が口を開いた。皆の視線が集まる。
「もう限界なんじゃないの、あんた」
そう言って、柴田の胸――Tシャツの下にあるファイアオパール――を指差した。
「それってどういうこと?」動じる様子もなく、設楽が尋ねた。
「亀裂が入ってる。多分、『石』自身の悪意が強すぎて、持ち主の柴田が耐え切れてないんじゃないの」
653
:
本71現637
:2008/08/17(日) 14:10:14
土田の言葉を聞いて、柴田の顔色が変わる。
「馬鹿な…」
「ああ、やっぱり気づいてなかったんだ、」土田は尚も続ける。
「多分さ、柴田は根が良い奴すぎるんだよ。普段抱かない感情を無理やり、それも急激に増幅させられたせいで、予想以上に暴走してる。
真っ直ぐすぎる性格ってのも相まって、あんたの影響もろに受けすぎちゃってんだと思うけど」
柴田は悔しさに身を震わせながら下を向いた。その邪悪に満ちた眼は、本来の柴田には似つかわしくなく、無理やりはめ込まれた宝石のようだった。
「…このままじゃ、もたないんじゃない?あんたも、持ち主も」
追い討ちをかけるような一言に、柴田は弾かれたように顔を上げた。
「ふざけるな!6年前の復讐を果たすまで、消えてたまるか!」
土田、設楽、小林の三人に緊張が走った。楽屋には奇妙な沈黙が、流れる。
「――『ミサの日』のことか?」
ようやく口を開いたのは、土田だった。
「はっ、愚問だな、」怒りの色の混じった声で、柴田。
「『俺』はお前らなんかよりずっと鮮明に覚えてるんだぜ。まあ、なのに何でコイツが何にも覚えてないのか甚だ疑問だがな」
コイツ、とはファイアオパールの持ち主である柴田自身を指す言葉だった。
6年前に起こった事件。白と黒とが一旦“ミサ(解散)”を余儀なくされた、あの事件。
ほとんどの芸人はその日を境に石に関する記憶を全て失っているのだが、完全には忘れていない者たちも一部おり、はたして黒の幹部3人はその中に含まれる。
彼ら3人の記憶は他の者たちに比べると色濃いものだったが、しかしそれでも断片的で漠然としたものでしかなかった。
(やっぱり、無機物の方が記憶を刻むのには適しているんだろうか)
詩人じみた考えを浮かべ、しかし小林はすぐにそれを脳の片隅に追いやった。今思考すべきことではない、と。
654
:
本71現637
:2008/08/17(日) 14:13:50
―驚くね、お前がそこまで執着してたとは。
土田の石・ブラックオパールが、ここで初めて言葉を発した。
「…ともかく、コイツには死なれちゃ困るんだよ。俺まで消えちまう。なあ、なんとかならねえのか?」
柴田、いや正確には柴田の体を借りたファイアオパールは、いつの間にか弱気な口調になり始めていた。
「そう焦んなよ。要は、お前が暴れすぎなきゃいいだけじゃん、」
相変わらず軽い調子で設楽が宥める。
「俺たちは『白を潰す』って目的が一致してるんだからさ。もっと仲良くやろうぜ」
「…君の目的を中心に置いたシナリオを書くよ。それで問題ないんじゃないかな」
小林が穏やかな口調で提案した。言いながら横目でちらりと設楽、土田の顔を窺う。
「ああ、俺ならいーよ、」と設楽。「じゃさ、ついでに前のシナリオで達成できなかった辺りとかクリアできない?」
「分かりません。ただ、どちらも叶えるとなると、それなりに複雑なものになってしまうかと」
「要は失敗しやすくなるってことでしょ?」土田が口を挟む。
「その確率は多少上がることに…どうします、どちらかの確実な成功を取るか、一気に2つ片付ける賭けに出るか」
「後者だろ」
冷静な声は、意外にも柴田だった。
「上手くいくときはいくし、いかないときは何やっても上手くいかねえんだよ。確率なんざ問題じゃねえ。
ただ言えるのは、あんたのシナリオで上手くいかないなら、俺は何をやったってどっちみち消える運命にあるってことだ」
「…いいね、そーいうの」
少しの間を経て、設楽が楽しそうに笑った。
「オーケイ、決まりな。賭けに出ようぜ。失敗したら、そういう運命なんだよ」
「でも…」
小林は何か言いたげな様子だった。堅実に事を進めたい彼としては、危険な橋は渡りたくなかったので。
「俺もいいよ、後者で」
土田もそう言って手をひらひらやった。早くやってくれ、と言わんばかりに。
3人をそれぞれ見つめた後、小林は胸ポケットから手帳とボールペンを取り出した。
「…失敗しても俺のせいにしないでくださいよ?」
不満げに呟いた小林に、「そんなことするわけないじゃん、したことあった?今まで」と設楽。
しれっとしたその様子を見て、どの口が、と言い掛けるが、ともあれ彼はボールペンを1回、ノックした。
655
:
カンナ
:2013/03/15(金) 13:40:15
ekt663D/rEさんの邪悪石編の続き書かせていただきました。
及ばないところもありますが、ご容赦ください。
まだ途中ですが、添削よろしくお願いします。
【23:12 都内・居酒屋】
その気配に最初に気づいたのは誰だったのか。今となっては知る術もないが、島田が『それ』を察したときにはまだ居酒屋に変化はなかった。
手にしていたグラスを置き、代わりに白珊瑚を取り出す。肝試しと宴会で得た高揚感はもう、完全に吹き飛んでいる。
急に黙り込んで石まで取り出した後輩に、日村が心配げに声をかけた。
「ど、どうした島田?」
「・・・日村さん、気づきません?」
「は、」
何のこと。そう思ったのだろう、そして実際そう言いかけたのだろう日村の口は、言葉を発する前に動かなくなる。口だけではない。ぴたりと音が聞こえそうなほど、すべての行動が一度に停止した。唯一、島田の奇行に訝しげに細まっていた瞳が、大きく見開かれる。
開いたままだった口から、『それ』の正体が漏れる。
「・・・これ、石?」
656
:
カンナ
:2013/03/15(金) 13:40:45
そう、『それ』は知らない石の気配だった。が、気配を感じること自体は別に大したことじゃない。強い力を持った石が近くで発動すると、石の使い手はそれを察知する。姿も見えないような距離から気配がわかるほど強力な石は珍しいものの、全く存在しない訳ではない。過去の号泣の行動指針上、強力な石は幾つも見てきただろう。それは敵のものだった時もあれば味方のものだった時もあり。石を持ちたての若手ならばともかく、いくつもの修羅場を潜ってきた彼らはちょっとやそっとのことじゃ動揺しない度胸が身についていた。
しかし、『それ』は明らかに今までの石とは毛色が違う。悪意なんて言葉じゃ生温い。まるで全てを憎み、破壊するためだけが生きがいだとでも言うような、身も竦むような負の感情に溢れている。
「分かりましたか?」
「お、おう。でも、え、え、なにこれ?え!?」
「いや僕が聞きたいぐらいですよそんなの!日村さん心当たり無いですか!?」
「ないないないない!え、つーかこれやばくね?」
一転、焦り丸出しの表情で泣きつく島田と、それに感化されたか一緒ぐらい慌てる日村。周囲からの不思議そうな視線に気づく様子もなく、わたわたと話し始めた。
657
:
名無しさん
:2013/03/15(金) 20:45:09
おお、乙です!それでこちらからの注釈ですが、
職人さんはコテハン(トリップ推奨)
・長編になる場合は、このスレのみの固定ハンドル・トリップを使用する事を推奨
<トリップの付け方→名前欄に#(半角)好きな文字(全角でも半角でもOK)>
をやっていただく事をお勧めします
あと小説のタイトルも(この話は『Phantom in August』ですね)名前欄などに入れていただけると
後の方が読みやすくなるかと このスレや廃棄小説スレの書き込みとか、参考にしてくださいませ
まあ他人の話の続き書かれてる方はすぐ上の「本71現637」さんもいる事だし、これによって
またここが盛り上がるといいなあ
あともう一つ、依頼スレの内容、また見ていただけますかね?あれからいろいろ見てて時間軸の
把握とか変化がありましたので、X−GUNについては章内での土田に近い感じで「過去の記憶を
取り戻したキャブラー大戦経験者」といった描写をそれとなく(名前を伏せるのも可)織り込むように
していただけるとありがたいです
658
:
◆u.6gZGoSVk
:2013/03/16(土) 21:50:53
書き込み途切れちゃってすみません。フリーズしてました。
>>653
さん、まだ途中だったのにありがとうございます。トリップってこういうことでしょうか?
何かしらの反応もらえたのがすごく嬉しいです。
ちょと手違いで書いてた小説消してしまったので、しばらく書き直そうとしてましたが
まだちょっとかかりそうです。中途半端なところですみません。
659
:
名無しさん
:2013/03/17(日) 14:38:29
ああ、トリップはそれでいいですよー
なんかいろいろ大変なようだけど頑張ってくださいませ
んで、自分も今から短編投下しちゃいます
小沢さんが石を拾った時の、スピワ編のプロローグ的話で
タイトルは「仮面ライダーウィザード」の「指輪の魔法使い」を踏まえてたり
660
:
青い石の魔法使い
:2013/03/17(日) 14:40:37
時は2004年5月。
とあるテレビ局の楽屋で、一組の若手芸人コンビが次の番組出演に備えている所だった。
そのコンビの名はスピードワゴン。前々年のM−1グランプリ2002で、敗者復活枠で決勝に
進んだ事がきっかけで頭角を現し、今や全国区の人気と知名度を持つ売れっ子の一組にまで
出世を遂げた若手の出世頭の一組である。
そんな彼らの本番前の一時、黒髪の青年―小沢一敬は、テーブルに頬杖をつきもう一方の手で
何かをつまんでひっくり返したりしながら眺めている。彼は後の石を巡る激闘において
「白ユニットの作戦参謀」と称され数々の活躍をする事になるのだが、それはまた後々の話。
彼の手の中にあるそれは、わずかに緑がかった青い透き通った石。その石を、彼は先刻から
指で弄びつつ飽きもせずに眺めているのだった。
そんな様子に、傍らで雑誌か何かを読んでいた、少しくすんだ色の金髪をトサカのように立てた
青年―井戸田潤が声をかける。彼もまた、後の石を巡る激闘で常に白ユニットの先頭に
立って数々の活躍をする事になる者である。
「さっきから何眺めてんの?ずいぶんきれいな石じゃんそれ」
「うん、これね…昨日、鞄からポロッて出てきたの。なんかきれいだから気に入っちゃって」
「ふーん。そういう物気に入るなんてなんか小沢さんらしいな」
「そう思う?」
ここで井戸田が壁の時計を見て、本を閉じつつ小沢に声をかける。
「いい時間になったし、そろそろネタ合わせすっか?」
「そうだね」
小沢は弄んでいた石を胸ポケットに入れ、井戸田と同時に立ち上がるとネタ合わせに入った。
661
:
青い石の魔法使い
:2013/03/17(日) 14:41:15
いつものように小沢が何か甘い言葉を囁いてパチンと指を鳴らし、それに井戸田が
「甘―――――――――い!」と叫ぶというネタの形式。その時小沢が口にしたのは
「君は僕の可愛い子猫ちゃんだから!」という言葉。
それに続けてパチンと指を鳴らした時、彼の胸ポケットから一瞬淡い青緑の光がこぼれた。
とここでいつもなら井戸田の「甘―――――――――い!」の叫びが入るはずなのだが、
この時は違った。小沢が指を鳴らしその胸ポケットから青緑の光がこぼれるや否や、
井戸田はいきなりその場にしゃがんで四つ足で歩き出したり手で顔をゴシゴシこすったりゴロゴロ
喉を鳴らしたりと、まるで猫のような挙動を始めたのである。
「ちょちょっと、潤 !? どうしたの !? 」
小沢が慌ててその体に手をかけて揺さぶると、井戸田は我に返ったらしくすぐに立ち上がった。
「ビックリしちゃったよもう…いきなり猫の真似なんか始めるんだもん」
「え、俺そんな事してた?」
「自分でわかんないの?何してたか」
「うん、今小沢さんが指鳴らしたろ?そしたら小沢さんのポケットが青く光って…そっから先は覚えてない」
「え、これ?」
その言葉に、小沢は胸ポケットからかの青い石を取り出す。しばらくの間何か考え込むような
表情で石を眺めていたが、やがておもむろに鏡の前に置かれた生け花の花瓶に指を向け、一連の
動作をやってみる。
「ミツバチが、君を花と間違えて集まってきちゃうだろ?」
すると指を鳴らす音と同時に手の中の石が青緑の光を発し、さらにどこからかミツバチの群れが
飛んできて花に群がり始めた。その光景に、2人は目を丸くする。
662
:
青い石の魔法使い
:2013/03/17(日) 14:48:10
「おおお !? 」
「何これ !? 何これ !? 」
続けてまた少し考え込んだ後、小沢が目をつけたのはテーブルの隅に置かれた灰皿。それに向けて
「君を手に入れる事によって一生分の運を使ってしまったんだから!」と一言発しつつ指を鳴らすと、
灰皿は青緑色の輝きに包まれてその場から消え、次の瞬間には小沢の手元にあった。
「うわ !? 」
また驚きの声を上げる井戸田の隣で、小沢は手の中の石と井戸田の顔を何度も交互に見ながら言う。
「ねえねえ潤、すごいよこれ!俺魔法使いになっちゃったかも !? この石のおかげで!」
その時の小沢の表情は、目を輝かせ無邪気な子供がはしゃぐようだった。
どうやらこの青い石には、口にした言葉を何らかの形で具現化させる力があるようなのだ。
「ああ、小沢さんそういうの好きだからねー。魔法とかファンタジーとか」
苦笑いを浮かべる井戸田の横で、小沢はこの不思議な石を手にしたまま楽しげにはしゃいでいる。
「ああそうだ、はしゃぐのもいいけどネタ合わせ…」
「あ、そうだね忘れてた」
「それと、本番の時はその石、置いてかなきゃな」
「あーそうだ、確かに」
そんな楽しげな会話が繰り広げられる楽屋の光景。
この不思議な石が後に彼ら2人を過酷な戦いに誘う物である事を、彼らはまだ知らない―。
663
:
名無しさん
:2013/03/17(日) 14:54:52
以上です
興味のある方、感想お待ちしてます
664
:
名無しさん
:2013/03/17(日) 15:33:37
幸せそうでいいですね!小沢さんカワイイww
力に気づいた経緯がこんな平和的な感じの人って意外と少ないですよね
なんかほっこりとさせてもらいました
665
:
名無しさん
:2013/03/17(日) 15:51:54
>>664
おお、感想どうもです
潤さんの方は廃棄小説スレに途中までのとその後のプロットが出てるけど、
なんかすごく劇的な物になりそうな感じだなあ
相方が死にかけた時に目覚める力、てな感じで
666
:
Phantom in August続き
◆u.6gZGoSVk
:2013/03/22(金) 01:15:18
【22:22 渋谷・シアターD】
「っく・・・!」
背中にくらった衝撃で、平井の口から呻き声が出る。辛うじて両足を踏ん張るが
、続けざまにきた二発目、三発目にたまらず膝をついた。
「平田!後ろにも気ぃつけ!」
同じく不意打ちを受けたであろう松丘の苦しげな声に首だけ振り向くと、
彼の目に飛び込んできたのは到底認めたくないような光景だった。
「・・・嘘だろ!?」
ついさっきまで何もない殺風景な路地だった場所が、いつの間にか前方と同じく、白い球体で埋め尽くされていた。
前後左右上下どこへも動けないこの状況では、相手を止めるどころか防御すらままならない。
数メートル向こうにある大通りにもこれではいける訳もなく、退路すら完全に塞がれた形となった。
咄嗟に頭を回転させ、この状況を打開する方法を探ろうとする。
が、周囲を見渡せど、視界に入るのは目の前で無表情に立っている『白い悪意』と、彼をじっと睨みつけている松丘。
そして、相変わらずシューティングゲームのように隙間なく散らばった球体だけ。
一気にひっくり返った優位を取り戻せそうなものは何も見当たらない。
それでも彼は、僅かなものも見逃さないよう、目を皿のようにして、きっかけとなりうる何かを探してしていた。
その時、平井の思考を遮るように『白い悪意』が一歩踏み出す。
即座に構え直した二人には目もくれず、その視線は持ち主に呼応するように輝きを増した二つの石に注がれていた。
不意に口元がにぃっとつり上がる。
「おや?さっきまでの威勢はどうした?」
向けられた言葉に込もったあらかさまな侮蔑と挑発。それに気づかぬほど二人も馬鹿ではない。
が、二人がそれに反応する前に、涼しげだった表情が突然大きく歪んだ。
「・・・これだからお前らはっ!」
ここまで書いてちょっと先が思いつかなくなったので、とりあえず投稿します。
時間かかった上短くてグダグダ&特に進展もしてなくてすみません。
批評お願いします。
667
:
眠り犬
◆XU22gipAH.
:2013/04/09(火) 17:47:22
どうも。かつて、眠り犬と名乗っていた書き手です。
当時、リア厨だった私はトリップの付け方が分からず、最終的には逃亡してしまいました。
私の作品を呼んで下さった方全てに、申し訳ないと思っています。
まだ石スレに住人がいることを知り、自分の作品を完結させたいと思ったので、投下させて頂きます。
668
:
眠り犬
◆XU22gipAH.
:2013/04/09(火) 17:47:55
『ゆびきりげんまん 4』
それは、南海キャンディーズが襲われる数日前のことだ。
とある女性芸人が、ファンを名乗る男から一通の黒い封筒を手渡された。
女性芸人は事務所の一室で封筒を開けたのだが。
「……何、これ……」
女性芸人の唇からは、彼女らしくない、弱々しい声が漏れた。
封筒に入れられていたのは、数枚の写真。撮影方法は分からないが、
『女性芸人が写っている人間を元相方だと認識出来る』写真だ。要するに、顔が映っていた。
腹部が破れた、血で濡れているTシャツ。憑依されたような、表情の無い顔。爛々と光る、翠色の瞳。
女性芸人は、直感と石から伝わるエネルギーで、写真から事件を読み取った。
どこかの駐車場らしき場所で、元相方と、きっと、彼の今の相方も戦った。
そのせいで、石が暴走したんだ……!
『黒』の封筒には、日付の示された某テレビ局付近の地図が、同封されていた。
669
:
眠り犬
◆XU22gipAH.
:2013/04/09(火) 17:48:35
意を決した山里の表情に、高野は気付いていた。それでも悠然と構えていられるのは、彼の石の能力と、
何より元来持ち合わせている『自信』のおかげだ。対する山里も、考え無しに高野に向かって歩いている訳ではない。
山崎と松田の戦いを自分と同じように、ただ見ていた高野の石の能力も、攻撃向きではないと確信していた。
「うおりゃあー!!」
雄叫びを上げて、山里は全速力で駆け出す。タックルをかまして吹き飛ぶ相手ではないことは百も承知。
しかし、日本人女性として規格外の体を持つ相方の隣にいるから目立たないものの、
自分だって、決して体が小さい男ではないのだ。高野から石を奪える可能性はゼロではない。多分。
そんな山里の行動に一番驚いたのは、もちろん山崎である。
「あのアホ、何してんねん…!」
ただでさえピンチなのに。珍しく焦っている彼女へ、松田は石を使わずに近付いた。
「もう疲れたっしょ。石渡すの、ヤだろ。俺らもヤだったし。で、提案なんだけど『黒』に入らない?」
「断ります。私らのことナメんといて下さい」
言うや否や、振りかざされた山崎の拳を止めるのに、松田の一言は充分過ぎた。
「山里はもうすぐ石を手放すぞ」
渾身の体当たりを喰らい、高野はアスファルトに転ぶはめになった。腰が痛むが、余裕は崩れない。それどころか。
「サンキューな。…手間が省けた」
厚い手が覆い被さった山里の手首を掴み、空いている手はポケットから取り出したオレンジ色の石を握る。
「ハウライトトルコを俺に――」
670
:
眠り犬
◆XU22gipAH.
:2013/04/09(火) 17:49:28
スペサルタイトが橙の光を発しかけた、まさに、その瞬間だった。
「ちょっと待てーッ!!」
女の怒号。それも、テレビでおなじみの。全ての視線は一点に注がれる。
「何やってんのかしら、松田君?」
「青木!?」
元相方、青木さやかの登場に愕然としている隙をついて、山崎は羽ばたき、松田との距離を置く。
「どこ見てんのよ!」
松田を睨んで言霊を放った青木は、四人の視界から姿を消した。
「……消えた…」
山崎が呟いてから十数秒経った頃だろうか。見えない手により、山里はずるずると何メートルも
引きずられ、高野から引き剥がされた。山里を山崎の足下に置いた青木は、松田の目の前で石の力を解く。
「アンタほんっと馬鹿ね!ばーか!」
「るせぇな!一体何の話だ、バカ!」
バカバカと怒鳴り合う元・温泉こんにゃくアクロバットショーを見て、山里がごちる。
「何なんだろう…痴話喧嘩ですか」
「男と女ってだけでそういう風に思われんのは嫌やろうな。私も嫌やねん」
「おう、悲しいけれどウチの場合そういう風に思う人はいないぜ?」
芸人の性か。危機的状況でもジョークを忘れない南海キャンディーズである。
671
:
眠り犬
◆XU22gipAH.
:2013/04/09(火) 17:50:09
「石が暴走して『黒』に加担するはめになるなんて、馬鹿の極みじゃない」
一転して、落ち着いた青木の声が、高野と松田の顔色を変えた。
「誰から何を聞いたんだ、お前」
「あら、『黒』からご丁寧に証拠の品を渡されたんだけど?」
「…何だと?」
皆が青木に気を取られている間に、のそりと高野が起き上がった。
背後から青木へ歩み寄る。南海キャンディーズが疲労で動けないことを分かった上での行動だ。
青木はすうっ、と大きく息を吸い込み、『黒』への宣戦布告のように、叫ぶ。
「お望み通り、私がぶっ飛ばしてやるわよ!」
「それは嫌だな」
太い手が細い手首を掴んだ。今度こそ、橙の輝きが高野の手の中に溢れる。
「『白』の加勢を呼んだのかどうかだけ、俺に教えて」
その能力は――『洗脳』。抗えず、青木は問いに答えていた。
「波田君に、相談した」
中立の立場にいる人気ピン芸人の姿が、高野の脳内で忠実に描かれる。
「…波田陽区か」
スケジュールの都合でこの場には来られなかったのだろう。波田が『白』に協力を頼んだ可能性は否めない。
「――あれ? 私…今…?」
我に返った青木は呆然としている。高野はすぐ傍の相方の肩をぽんと叩いた。
「逃げんぞ、松田さん。糞みてえな『シナリオ』に付き合う筋合いねーわ」
「だけど!」
672
:
眠り犬
◆XU22gipAH.
:2013/04/09(火) 17:50:47
作られた状況は『南海キャンディーズと加勢に来た芸人を仕留めろ』という、無茶な命令に他ならない。だが。
「指示に無いことする筋合いはねえし、ペナルティ科せられる筋合いもねえだろ」
「……それもそっか」
幸いなことに、彼らは操り人形ではなかった。俺達が『黒』を選んでやった。少なくとも高野はそう思っている。
「ちょっと待ちなさいよ!」
立ち去ろうとする東京ダイナマイトを呼び止める必死の声。
「青木」
振り返った松田は、青木の心を見透かしたように言う。
「俺達がお前に手を出さないと思って一人で来たんなら、大間違いだぜ」
大きく目を見開いて硬直する青木を見た松田と高野は、ふっと笑い、彼女とすれ違うように、歩みを進めた。
「た、助かったぁ……」
実は青木に引きずられた辺りから腰を抜かしていた山里が、よろよろと立ち上がり、笑顔を見せる。
「青木さん、ありがとうございます!」
「私は何もしてないわよ」
そう言った青木の表情は、苦悩に満ちていた。
「何も出来なかった」
「私らが助かったんは、間違いなく青木さんのおかげです。ありがとうございました」
俯く先輩に、山崎も笑みを見せて、深々とお辞儀をする。
「…どういたしまして」
山崎の言葉に救われた青木も、ようやく微笑んだ。
673
:
眠り犬
◆XU22gipAH.
:2013/04/09(火) 17:51:20
収録の時刻に遅れてしまったが、不思議と怒られることはなかった。
それどころか、収録前にスタッフが「大変ですね」と言って、ペットボトルの水とタオルを手渡してきたのだ。
石を巡る芸人の戦いは、裏方の人間をも巻き込んでいる。二人は実感した。
そして、収録後の楽屋。
「決めた」
会話の無い楽屋で発せられた、唐突な山崎の決意表明。山里は尋ねる。
「何を?」
「あんたがまた頭のおかしいことになったら、ぶっ飛ばしてでも正気に戻したるわ」
「……それはそれは恐ろしい……」
相方のシャドーボクシングに本気で脅えながらも、山里は笑った。
「俺は意地でも正気を保つことに決めたよ」
「小指、出し」
言葉の意図を理解した山里は、先程とは違う種類の笑いを滲ませる。
「あら。しずちゃんにも可愛いところあるじゃない」
言われた通りに小指を出して、山崎のそれと絡めた。
「ゆびきりげんまん」
山里は子どもの頃を思い出していた。懐かしい。
「嘘ついたら〜♪」
「自分、何歌ってんの。気持ち悪いな」
「今の状況さ、映画とかドラマだったら結構良いシーンだよ?そのツッコミ絶対必要ないってー」
「気にせんでも、今日の出来事はノンフィクションや」
小指と小指が、この言葉のやり取りが出来る幸せを守っていこうと、誓い合った。
674
:
眠り犬
◆XU22gipAH.
:2013/04/09(火) 17:51:58
登場芸人能力一覧
山ちゃん(山里亮太)
ハウライトトルコ(青く着色してトルコ石(ターコイズ)に模倣したハウライト。心を清らかにさせてくれる。
人間関係の良化、感情トラブルの回避、安全の約束。危険を察知、幸運を呼び込む)[ストラップ]
一定時間一流の追跡者(…ストーカー?)に変身し、相手に見つからず尾行/追跡できる。
解除後、使った時間分異常に悪目立ちする(周囲からやたらキモがられる)。
しずちゃん(山崎静代)
ファイアアゲート(「情念/スムーズなアクセス」)[ペンダント]
背中から翼を生やし飛行できる。発動中は運動能力が通常の10倍となる。また、口笛で鳥を操ることもできる。
発動時には感覚が鳥に近づくため、暗闇では視力が極度に低下する。口笛使用では鳥に好かれるが、
翼が生えている時は鳥に怖がられるので、二つの能力は同時に使用できない。
パワーが少ない時に発動させると、野生動物のように暴走してしまう(数分経てば治まる)。
暴走している間の記憶は無い。
675
:
眠り犬
◆XU22gipAH.
:2013/04/09(火) 17:52:29
松田大輔
デマントイド(「疾走」。ダイヤモンドの光沢を放つ稀少な石。明るいグリーン)[ブレスレット]
爆発的に動作が速くなる。
走る時に使えば目にも留まらないほどの速度で走れるし、相手を殴る時に使えば威力が増す。
連続/長時間の使用後は、使った箇所が痛むのでまともに動かせなくなる。
ハチミツ二郎(高野二郎)
スペサルタイト(「忠実/従う心」。別名:マンダリン・ガーネット。オレンジ)
自分が言った事を相手にその通り実行させる。いわゆる洗脳。第三者が洗脳されている事を当事者に教え、
強く説得しなければ洗脳は解けない。もちろん、高野の意思で解くことも出来る。
相手の体、もしくは石に触れる事。持ち物や服は駄目。使用回数は一日一回のみ。
対象者が(黒い欠片などに)操られていても発動できる。だが、極度な興奮状態の人間には発動できない。
青木さやか
マラカイト(「危険を察知し、不思議な力で身を守る」濃いめのエメラルドグリーン)
「どこ見てんのよ!!」と相手を睨みながら叫ぶことで、自分の姿を消すことが出来る。
自分の石によって姿を見えなくするだけだったり、物理的にも存在を消したりと調節可能。
ちょっとした物理攻撃ならば衝撃や裂傷から身を守ってくれる。
言葉を発しなければ能力は発動しない。
姿を消す度合いにより、パワーの消費量が変わり眩暈がしたりする。
676
:
眠り犬
◆XU22gipAH.
:2013/04/09(火) 17:52:48
以上です。昔の文体に近づけようとして苦労しました。
後日、東京ダイナマイトが黒に入ることになった話を投下したいと思います。
677
:
名無しさん
:2013/04/09(火) 20:45:33
>>676
おお、眠り犬さんだ
もう続きが読めないと思ってたから素直に嬉しい
相変わらず本人たちの空気感が出ていて、東ダイ青木は男前で……
とにかく乙!
678
:
名無しさん
:2013/04/09(火) 20:59:48
おおお、これはお久しぶりで!
また素敵な文章ありがとうです!せっかくだから、ここの各スレに出されている
プロットとかについて意見や感想お寄せいただけるとうれしいです
これで他の書き手さんもどんどん出てきてくれたら…
あと、石の参考になりそうな資料をいくつか…
なんでもアパタイトには感染症に対する抵抗力を強めたり心中の負の感情を
取り除く働きが、
シトリンには毒や呪いを跳ね返す働きがあるのだとか
この辺から、スピワが共に黒い欠片に拒絶反応を起こした裏づけができそうな?
あと余談だが小沢=ブルースウィートハート、井戸田=ゴールドサンシャイン
なんて通り名が浮かんでしまったw
なんかの形で話に入れたらかっこいいかも知れないw
ttp://stones.karakaraso.com/
ttp://aora.jp/gemcards.html
679
:
眠り犬
◆XU22gipAH.
:2013/04/10(水) 20:08:24
>>677
>>678
温かいコメントありがとうございます!
申し訳ありませんが、私が投下した話は「戦いの核心」に迫るものではないため
(要するに、他の書き手さんの議論を見るだけで、自分は何も考えていなかった)
大掛かりな展開に関してご協力出来ることは少ないと思います。すみません。
そんな奴がこんなこと書くのもなんですが、議論や設定ももちろん大切ですが、
古参新参問わず書き手に小説を書いてもらうことが何よりも大切なんじゃないかと…。
2ちゃんでスレが賑わっていた頃を思い出して、そう感じました。
とにかく、石スレが完結することを願っております。
680
:
眠り犬
◆XU22gipAH.
:2013/04/10(水) 20:09:03
東京ダイナマイト編を投下します。流血表現がありますので、ご注意を。
『限りなく灰色に近いブラック』
2004年、秋、東京。会場には、集まった大勢の人間の数に相応しい、尋常ではない
緊張感が張り詰めている。M-1グランプリ予選第二回戦が、ここで行われていた。
出番を終えたプロのコンビに、とあるアマチュアのコンビが声を掛ける。
「お疲れ様です」
プロの――東京ダイナマイトの松田は、キャップ帽を被った見知らぬ男の声に戸惑った。
「えっと…」
「アマチュアでお笑いやってるもんです」
帽子の男の相方の、黒縁眼鏡を掛けた男が自己紹介をした。
事件は、ここから始まる。
「石、持ってますよね」
心の底から面倒臭そうな顔をした高野(ハチミツ二郎)は、ふぅと溜め息を吐いた。
「だったら何。おたくらも持ってるんだろ、勘で分かる」
「俺達は、ハチミツさんと松田さんの石が欲しいんですよ」
まるで当然のことのような口ぶりで帽子の男が言い、眼鏡の男が続ける。
「ここじゃ戦えませんし、僕の車でドライブに行きませんか」
高野は「お前ら頭おかしい」という本音を心に留めて、相手を追い返そうとする。
「『白』とか『黒』とか俺達キョーミねえから、悪ィけど」
681
:
眠り犬
◆XU22gipAH.
:2013/04/10(水) 20:09:48
今はM-1に集中したい。ユニットに所属する漫才師であっても、そう思う時期だ。
しかし、長身でやや威圧感のある高野と松田に睨まれても、中肉中背のコンビは引かなかった。
そして、帽子の男の駄目押しの一言。
「別の日に、いきなり襲われるよりはマシだと思いませんか」
「…二郎ちゃん、どーするよ」
「めんどくせえけど行くしかねェだろ、ドライブ」
アマチュアコンビが戦いの場所に選んだのは、小さな廃ビルの地下駐車場だった。
車から下りた四人は二対二で向かい合い、対峙する。
「ちょっと待ってて下さい」
眼鏡の男が、石を握った拳を天高くかざした。淡い光が辺り一帯を包んで、消える。
「これで一般人はここに来ません。石持ってる人には効果無いですけど」
帽子の男は、筆ペンとメモ帳サイズに破られた半紙を、ジャケットのポケットから取り出した。
半紙を地面に置き、筆ペンを使って『刀』と書く。かなりの達筆だ。書道が彼の特技なのだろう。
目映い光を発する半紙。次の瞬間には半紙が置いてあった所に、時代劇に出てくるような日本刀が存在していた。
今まで何度か『正当防衛の喧嘩』をしてきた東京ダイナマイトも、これには目を丸くする。
「じゃ、始めますか」
刀を鞘から抜いた帽子の男の目は虚ろでありながらも、鋭い殺意が宿っていた。
からんと鞘が落ちる音。現実味が無さ過ぎるせいか、思わず笑ってしまう高野と松田だ。
「全然面白くないよ、そのボケ。人殺しになりたいのか?」
問い掛ける松田に、アマチュアコンビは嬉しそうな笑みを返した。
「はい。なァ、この人達を殺したら、俺らプロの芸人になれるんだよな?」
「『手加減しなくていい』って言われたろ。殺しても、何とかしてくれるって意味だ」
682
:
眠り犬
◆XU22gipAH.
:2013/04/10(水) 20:10:35
高野と松田は顔を見合わせる。恐怖や呆れるという感情を通り越して、二人は冷静になっていた。
「二郎ちゃん。ひょっとしなくても、こいつらクスリやってるよ」
「つうかアレだろ。『黒い欠片』。まァ、お前なら刀相手でも勝てるって。後は俺が言うこと聞かせっから」
「俺は少年漫画みてェなバトルするために芸人になったわけじゃねえぞ、糞ったれ」
そう言いつつも松田が腹をくくると、腕に付けているブレスレットの石、デマントイドが光輝いた。
「うおあああ!!」
刀を振り上げて帽子の男が走り出す。石の能力で補助された松田の足も地面を蹴る。
「う!」
帽子の男の鳩尾に、速度を上げた肘打ちがヒットした。呻いて刀を振り下ろすが、松田が退く方が速い。
「何やってんだよ! 斬れ! 斬っちまえよ!」
「がああ!」
眼鏡の男の声に圧されるように、帽子の男は一歩踏み出し、刀を横一線に薙ぎ払う。
デマントイドで動体視力は強化されないため、反応が少し遅れたが、松田はしゃがんでそれを躱した。
斬られた黒髪が数本、宙を舞う。地面に手を付いた松田は、帽子の男の脛に蹴りを喰らわせる。
バランスを崩した帽子の男は、そのまま硬い地面に倒れ込んだ。
「はい。お前らの負け」
立ち上がった松田が、持ち主の手から落ちた刀を拾う。その様子を見ていた高野は、ふと思いついた。
「松田さん。そのままソレ持ち上げて『刀持って来た』って言ってみて」
咳払いをした後、松田は『イイ声』を使い、高野の言う通りにしてみた。
「刀持って来たぞーぃ!」
「…うん。ちょっと面白えわ」
「何だよそれ」
683
:
眠り犬
◆XU22gipAH.
:2013/04/10(水) 20:11:23
アマチュアコンビの心に、どろりと憎しみが満ち溢れた。本来ならば、それは憧れという感情のはずだ。
こんな時でもネタのことを考えている。石の戦いなど下らないと、一蹴するかのように、笑っている。
「「ぶっ殺してやる」」
微かな呟きは同時だった。帽子の男が、再び取り出した筆ペンでアスファルトに文字を書き殴る。
石の波動と人の立ち上がる気配を察した松田は、振り返ることさえ、出来なかった。
「……いっ、てぇ……」
自分の腹から生えた銀色は、自分の赤色で濡れていて。薄れゆく意識の中で、マジかよ、と呻く。
「松田!!」
刀を引き抜かれる激痛に耐えられるはずもなく、相方が自分の名を叫ぶ声を遠くに聞きながら、どさりと崩れ落ちた。
「松田!! オイ…返事しろ、松田!!」
「相方の命よりも、自分の命の心配をしたらどうですか?」
『黒い欠片』で増幅された悪意に支配されている眼鏡の男は、高野に歩み寄り、小柄なナイフを突きつける。
「……死ね」
”死なせはしない”
684
:
眠り犬
◆XU22gipAH.
:2013/04/10(水) 20:11:47
突然、芝居掛かったような、厳かな女の声が、高野とアマチュアコンビの脳内に響いた。
”二郎と言ったな。案ずるな。私はお前も、宿主のこの男…大輔も死なせはしない”
声が途絶える。すると、腹部に重傷を負っているはずの松田が、刀を握り締めて、ゆらりと立ち上がった。
「てめえ、どうして…!!」
言い掛けて、帽子の男は息を呑んだ。自分が刺した男の光彩が、翠に染まっていたからだ。
”ああ、この肉体は若くて良い。前の宿主よりも活力に満ちている”
松田の唇が動く度、先程の女の声が周囲の脳にダイレクトに伝わる。
松田の手が自身のシャツの裾を捲り、腹部を見せた。そこにあるはずの傷が、消えていた。
”細胞の『動きを速めて』、負傷箇所を癒した。残念だったな。芸人を名乗るには未熟すぎる者達よ”
「ざけんな…たかが石コロの分際でッ…誰が未熟だぁ!!」
帽子の男が刀を振るう。松田の体を借りたデマントイドは、いとも容易く剣撃を受け止めた。
何度も刀と刀の交わる音が駐車場に響き渡る。だがそれも長くは続かず、帽子の男の刀は弾き飛ばされた。
そして。
「ぐあああっ!!」
肩を斬られた帽子の男が、血の噴き出す傷口を押さえ、のたうち回る。今度は、眼鏡の男が
帽子の男の名前を叫んでいた。持ち主の気力が弱まったことで、二本の刀は消失していく。
685
:
眠り犬
◆XU22gipAH.
:2013/04/10(水) 20:12:21
「やめろ。やりすぎだ」
これ以上、相方の体を使って凶行をされては堪らない。高野はデマントイドを制止する。
”何を焦っている。致命傷ではないだろう。さて、もう一人……”
「やめろっつってんだろ!!」
主の感情に呼応して、ポケットのスペサルタイトが力強い光を放った。
眼鏡の男がナイフを落とし、ふらふらと地面にへたりつく。高野はスペサルタイトを取り出した。
松田に視線をやると、瞳の色は日本人特有の茶色いソレに戻っていた。どうやら元に戻ったらしい。
普段は、体か石に直接触れなければ発動しないスペサルタイトが、高野の思いに応えたのだ。
”――私は、笑いに『忠実』な宿主を守る石……”
「うわっ、どうしたんだコイツ!?」
のたうち回っているうちにトレードマークが取れてしまった帽子の男を見て、松田が驚いている。
「ていうか、俺…思いっきり刺されたよな」
血まみれの破れたシャツと上着が、夢では無いことを物語っている。
「自力で回復したんだぞ、お前。石の力で。そんでソイツのこと斬ったんだから」
「マジ? ……全然記憶無いのが怖ぇよ…。そんなことより、救急車!」
686
:
眠り犬
◆XU22gipAH.
:2013/04/10(水) 20:12:55
「記憶が無いなら、画像で説明してあげるよ」
やけに淡々とした声音に二人が振り返ると、そこにはカメラを持った男、土田晃之がいた。
「コレ、最新型なんだけど、めっちゃ高性能なんだわ。『石の研究のために持って行け』って言われてさ」
その土田の背後にいるのは、東京ダイナマイトと親交のある、吉本興業のコンビ――。
「よう」
「災難だったな」
ダイノジの大地と大谷だ。
「……見ない、組み合わせですね」
高野の眉間に皺が寄った。世間話やお笑い論を交わしに来たわけではないだろう。松田が尋ねる。
「いつからいたんすか」
土田はあっけらかんとした口調で答えた。
「君が刺された辺りから。あの状況じゃ、俺達の気配に気付かなくても不思議じゃないかな」
そして、アマチュアコンビを見遣る。
「酷いケガさせちゃったな。こんなつもりじゃなかったんだけど」
「一般人と大差ない学生アマチュアに、石を渡した幹部さんが悪いですよね」
大谷はそう皮肉を言うと、東京ダイナマイトの二人に真っ直ぐな眼差しを向けた。
「お前らの石、浅草キッドさんから譲り受けたんだろ。だから今まで大切に守り抜いてきた。偉いよ」
687
:
眠り犬
◆XU22gipAH.
:2013/04/10(水) 20:13:16
大地の口から、高野と松田が予想もしない――いや、本当は予想していたのかもしれない――台詞が発せられる。
「なあ。二人とも、『黒のユニット』に入ってくれないか?」
『黒』の芸人らしくない、頼りになりそうな、明るい微笑みを、大地は携えていた。
「強力な石をコントロールして、なおかつ、『白』にその石が封印されることを防ぐためにさ!」
今日の戦いは、スペサルタイトとデマントイドの力を測るために仕掛けられたのだろうか。
想定されていたのか否かは分からないが、どちらの石も、通常時を超える能力を発現した。
「俺達も、東京ダイナマイトが仲間になってくれると心強いしな!」
大地の言葉に大谷が付け加えると、そこに土田もわざとらしく一言付け加えた。
「あー、『黒』に入ってくれたら、あいつの大怪我はウチの奴に治させるから」
暫しの沈黙の後、高野と松田は目と目を合わせて、お互いの意志を確認し合う。
「俺は二郎ちゃんについてくよ」
「ま、ヒール役も悪くねえかな」
そう。どこに属していようが、彼らは何も変わらない。
688
:
眠り犬
◆XU22gipAH.
:2013/04/10(水) 20:14:03
以上です。昔考えていたプロットとはだいぶ違うものになってしまいました。
「ダイノジの2人は黒が正しいと思い込んでいる」という設定をお借りしています。
稚拙な文章を読んで下さり、ありがとうございました。
689
:
名無しさん
:2013/04/10(水) 21:38:57
また投下乙です
これに触発されたんですが、進行会議スレ>343の書き込みを踏まえて…
時間設定は04年秋ごろくらい
・ダイノジの2人は黒が正しいと思い込んでいる。ある日、プライベートで親しい
スピードワゴンが白のユニットのメンバーであり、「石の力を全て封じ、自分たちだけ
で石の力を独り占めしてその力で他の芸人たちを支配しようとしている」
と黒の誰かに吹き込まれる
・ダイノジはその話を信じ、石の力に呑まれた(と吹き込まれた)スピワの目を覚まさせ
るために2人を呼び出し、スピワVSダイノジで甘いVSモテル対決のような感じに
・対戦中、先走ったか何かした黒の者が2組が共倒れになるよう仕向けて石をせしめようと
横槍を入れ、それに気づいた小沢がダイノジを庇って負傷
・それがきっかけでダイノジは「全ての石たちとその持ち主を黒の力から守る」というスピワの
意志を知り2組は和解。力を合わせて横槍を入れた者を撃退し、ダイノジは白に回る事を決意する
690
:
名無しさん
:2013/04/10(水) 22:08:09
>>679-688
乙乙!
黒でも白でも同じ、確かにそうかもと思わされてしまった
タイトルも凄く好きだ
それにしてもデマンドイド女なのかw
>古参新参〜
完結に関係ない話でいいなら書いてみようかと思うんだけど、
やっぱり設定が最近だと厳しいかなとか白黒勝手に決めて良いのかってので躊躇する
完結時期によっては完全に矛盾するし
691
:
名無しさん
:2013/04/17(水) 10:06:39
>>690
それならまずどういう話を書きたいか、誰を使いたいか大まかな案を
ここのスレのどれかに提示してみてはいかがでしょう?
廃棄小説スレに出してみるのも一つの手かと
それで、周りの意見次第で手直しして本投稿とかも可能だし
692
:
名無しさん
:2013/04/17(水) 21:25:55
>>691
ありがとう
よく考えたら廃棄スレなら注釈入れれば大丈夫そうだし、完全な番外編として書いてくる
今月中に投下…できるといいなあ
693
:
名無しさん
:2013/06/06(木) 15:40:16
スペサルタイトとデマントイドがかつて浅草キッドの石だったとあるけど、
その時はどんな能力立ったのかちょっと気になる今日この頃
あと比喩的に意識操作や脅迫などで芸人を黒ユニに属させるのを「黒き鎖」と
称し、それから石たちとその持ち主を解放する白ユニの人たちを「鎖を解く者」
と表現するくだりがあってもいいかなと思ってみたり
694
:
眠り犬
◆XU22gipAH.
:2013/06/08(土) 15:52:08
>>693
個人の自己満足設定なのでいくらでも変更して貰って構いませんが…
スペサルタイトを博士が、デマントイドを玉ちゃんが持っていました。能力は変わっていません。
浅草キッドは、「白と黒の抗争を観察したい」という博士の好奇心を軸に行動していた無所属です。
東京ダイナマイトの能力は石言葉に合わせて決めてしまったため、後付けになりますが、
人間観察に長けた博士&人望の厚いハチミツが「洗脳」の能力を持つのはアリかと。
「忠実」「疾走」の石言葉も、たけしを慕うオフィス北野の芸人に相応しいのかもしれません。
石が女か!wというツッコミを頂きましたが、男臭い事務所の石が女でもいいじゃないか!w
「限りなく〜」の導入で、浅草キッドが東京ダイナマイトに石を渡すシーンを
入れようかと考えたのですが、玉ちゃんの口調・性格をよく知らないため省略してしまいました。
ちなみに、最後の一文はコンビの吉本移籍に掛けていたりします。
695
:
名無しさん
:2013/06/08(土) 18:55:24
>>694
おお、お返事どうもです
ちなみにあくまで当方の私案ですが、スピワの石は前はX−GUNの物だったとか
思案しとります、詳しくは進行会議スレ参照ですが
西尾がアパタイトでボキャ天のデブフレーズかオバサンダーで能力発動、
嵯峨根がシトリンで「最初はグー、シャンパンポーン!」で石の光を噴水のように
放って当たった物をしばらく(酔っ払わせて)無力化するとか
ただX−GUNは石との波長のシンクロ率が低めで、そのため石の力を完全には
引き出せていない、みたいな感じかなと
んで石とのシンクロ率が歴代の持ち主中最高なのが今の持ち主であるスピワでは、とか
またアパタイトの人格は穏やかで優しい女性、シトリンの人格はやんちゃでやや口数の
多い少年とかイメージしとります
さらに廃棄小説スレ
>>388-390
を踏まえてスピワvs東ダイみたいな話もできないかなとか思ってみたり
ハチミツが黒に入った事でなく腰に持病あるのに無茶する事を怒る小沢とかw
んでその中で、
>>693
に出てきた「黒き鎖」と「鎖を解く者」という表現使えたらなあ、とか
またその話に出てくる小沢の友達ってのは「東京花火」を踏まえて次長課長の井上では、とか
解釈しております
「俺には見えるよ、2人をどこかに繋ぎ止めている黒い鎖が。その鎖、必ず俺が解いてあげるから。
…いつになるかはわからないけど」
696
:
名無しさん
:2013/08/16(金) 16:01:31
ちょっとダンディな小沢さんが描きたくて書いた短編です
「お節介焼きのスピードワゴン」
2005年1月、とある冬の夜の路地の中。
一人の若手芸人が、数人の男たちに追いかけられて懸命に逃げていた。
石を巡る2つの芸人たちの組織─白ユニットと黒ユニットの抗争が本格化し、
双方とも勢力の拡大に火花を散らしていたその頃である。
この若手芸人もまた力ある石を手にしていて、それを追っているのは黒の側の者。
双方とも白い息を吐きながら、懸命に走っている。狙いは彼の石か彼を味方に
引き込む事かは定かではないが、とにかくこの若手を追っているのだった。
そんな様子がしばらく続いたその時、突然路地の片側の壁に青緑の光が迸ったかと思うと
そこから数十本はあろうかという材木が現れ、道をふさぐように倒れかかってきた。
「うわっ !? 」
「なんだこれは!」
追われていた若手は前へ、追っていた黒の者は後ろへ、それぞれ飛び退いて、広がった
両者の間に材木の束は崩れ落ちる。そして轟音と共にもうもうと土埃を舞い上げ、両者の間の
視界を完全に遮った。その様子に気づいた若手はすぐに前方へ駆け出し、少し先に見える
横道を見つけるとそこを目指す。
(なんかよくわからないけど、今のうちに奴らを撒くんだ!)
そして横道に駆け込んでやや奥まで行ったところで足を止め、両手を膝に置いて乱れた呼吸を
整えていると、前方から掠れた声がした。
「危ない所だったね」
その声のした方を見ると、腕組みをした人影が壁にもたれかかっている。
「あ、あなたは…小沢さん !? 」
697
:
名無しさん
:2013/08/16(金) 16:02:29
その人影、すなわち掠れた声の主は、スピードワゴンの小沢一敬だった。
「でも、俺が来たからにはもう大丈夫」
小沢はそう言って静かに壁から離れ、若手の方へ向き直る。
「じゃあ、さっき倒れてきた材木は…」
「そう、俺の能力で出したの」
若手の問いに、小沢は微笑みつつ返す。一方路地の方からは、かの追っ手たちが見失った
目標を懸命に捜している様子が伝わってくる。
「くそ、どこへ行った !? 」
「しらみつぶしに捜せ!横道も片っ端から当たるんだ!」
「追っ手はまだその辺にいるようだな、ちょっと待ってて」
その様子に気づいた小沢は若手に一言告げ、路地の方へ進んでいって様子を確認すると、
おもむろに言霊を紡ぎ指を鳴らす。
「そんな事より、踊らない?」
すると路地の両側の壁に青緑の光が迸り、次の瞬間にはいくつもの横道がズラリと
並ぶように現れた。
「な、なんだこりゃあ !? 道が増えたぞ !? 」
「ええい、こうなったら一つずつ徹底的に捜せ!なんとしても捕まえるんだ!」
698
:
名無しさん
:2013/08/16(金) 16:05:51
明らかに混乱し、動揺している追っ手たちの声に続き、壁にぶつかる音や短い悲鳴が
立て続けに聞こえてくる。今現れた横道の大半は壁の上に映し出されたただの映像
なのだから、入ろうとすれば壁にぶつかるのは当然な訳で。
小沢はその様子を見届けると若手の下に戻り、告げる。
「これで当分は追ってこれないだろうね。今のうちにここを離れるとしようか。それじゃ…
そんな事よりパーティ抜け出さない?」
指を鳴らす音がしたかと思うと2人の姿は青緑の光と共にその場からかき消えた。
次の瞬間には、2人はその若手の自宅の前に立っていた。
「あ、ここは俺の家 !? わざわざ送り届けてくれたんですか !? 助けてくれたばかりか
こんな事まで…本当にありがとうございます!」
「お礼ならいいよ」
「でも…小沢さんは石を悪い事に使う奴らと戦ってる、白いユニットの中核にいるほどの
人なんでしょう?そんな人が、なんで俺みたいな無名のペーペーをわざわざ助けて
くれるんですか?」
「俺はただ…黒の犠牲者を、石のせいで苦しむ人を、これ以上増やしたくない。それだけだよ」
「小沢さん…」
そう語る小沢の表情は、穏やかに微笑みつつもどこか切なげで辛そうに見えた。
699
:
名無しさん
:2013/08/16(金) 16:07:30
聞いた所では、その若手は最近石を手にしたばかりで、能力についてもハッキリとは把握
できていないらしい。2つのユニットの事や小沢の立場も、話として聞いていたという。
「なるほどね…でも、黒の奴らがお前を襲ったという事は、その石が強い力を持ってるか
黒が『役に立つ』と見たって事だ。黒の奴らはあの手この手で勢力を広げようとしてる…
今黒に属してる人の中には、脅されたり騙されたり、無理矢理黒い欠片を飲まされたりして
引き込まれた人もいっぱいいるんだ。それでたくさんの人が辛い目に遭ってる…」
小沢は悲しげに語る。
「だから俺は白の先頭に立って黒の奴らと戦ってるんだ。黒の犠牲者を、石のせいで苦しむ
人を、これ以上増やさないために。そして俺の石もそう願ってる」
「……」
「俺としてはできる限り助けてあげたいけど、手が回らない事だってあるし、だから自分自身
でもこれから黒の奴らには気をつけてほしいんだ。わかった?」
「はい…」
「じゃ、俺はこれで。そんな事よりパーティ抜け出さない?」
その言葉と指を鳴らす音を残し、小沢の姿は青緑の光と共に消える。小沢が去った後の
玄関前の空間を、その若手はしばらくの間何か考え込むような顔で眺めるのだった。
700
:
名無しさん
:2013/08/16(金) 16:10:58
「ただいまー」
一仕事終えた小沢は、相方の井戸田が待つとあるテレビ局の楽屋へ戻っていた。
「いつ戻ってくるかヒヤヒヤしながら待ってたよもう。本番までそんなに時間ないのに
いきなりどっか行っちまうんだもん。ま、どうせまた黒の奴らに襲われた奴を
助けに行ってたんだろうけどさ」
そう言う井戸田の言葉からは、どこかある種の諦めみたいな物が感じられる。
「あ、わかる?」
「わかるよ、もう毎度の事なんだから。小沢さんって本っ当に、困ってる奴をほっとけないんだよな」
「だって俺はほら、『お節介焼きのスピードワゴン』だからさ」
「言うと思ったよ、それ」
そんな2人の他愛ない会話が流れる楽屋の一時。この一時が少しでも長く続いてくれる事を、
小沢は内心願うのだった。
以上です、感想お待ちしてます
701
:
名無しさん
:2013/08/27(火) 20:02:49
「ブルースウィートハート」
その夜、小沢は夢を見ていた。
彼は緑がかった青い光に満たされた空間にいて、そこで何かが語りかけてくる。
その声は、穏やかで優しい女性の声だった。
”お願い、私に力を貸して。今、石を濁らせそれを手にした人を狂わせる、『黒い力』が
動き出している…それを食い止めなければならないの”
「黒い力?」
”そう、その力は石の力を暴走させ、その持ち主の心を歪ませ狂わせる恐ろしい力。
ここで食い止めなければ、多くの石や人たちが傷つき苦しむ事になるわ。私はその黒い力
から他の石たちや人々を守りたい。そのためにはあなたの協力が必要なの”
「俺の?」
”私の力を使って、黒い力に呑まれた石たちと人々を助けてあげて。あなたならきっとできるわ…
優しく強い心を持ったあなたなら、必ず”
「え、ちょっと待って!あなたは一体…」
”これだけは忘れないで。私はいつもあなたのそばにいるから…”
ふと目が覚めると、そこは自室のベッドの中。いつも通りの静かな朝だった。
「なんか妙な夢だったな…黒い力とかなんとか」
起き上がって何気なく枕元に目を向けると、そこに置かれたアパタイトは朝日の光を受けて
キラキラと光り輝いている。それを見て、先ほどの夢の事に思い至る。
702
:
名無しさん
:2013/08/27(火) 20:07:47
そうだ、夢の中で見た光の色はこの石の色と同じ─という事は、あの声は今目の前にある
アパタイトの声なのだろうか。
「そうだ、そういえば…」
小沢は、昨日くりぃむしちゅーの二人から聞いた話を思い出す。
白と黒のユニットの話、石の力に呑まれたり石の力を悪用する者がいるという話。夢の中の
声が言った「黒い力」は、それらと関わっているのだろうか。そうだ、きっとそうに違いない─
小沢はおもむろに石を手に取り、語りかける。
「あの声はあなたの声だったんですね?あなたの想い、しっかりと受け止めました。
これから一緒に戦いましょう…黒い力から全ての石とその持ち主を守るために」
青く優しき力を持つ石と、その想いに応えた優しく強い心を持つ芸人。
黒に染まった石を封印する白の側に立つ者が、また新たに生まれた瞬間だった─
小沢が白の側に立つ経緯の話、軽く書いてみた
もし「ここから話を膨らませたい」とか希望する方がいるなら加筆・改変して
いただいても構いませんよー
703
:
名無しさん
:2013/09/27(金) 17:24:10
★ある時の白ユニット集会
「…これで、俺からは以上です。あと皆さんも、引き続き黒のメンバーや能力に関する
情報がありましたら俺やくりぃむまで報告してください。では上田さん、最後お願いします」
白ユニットの各メンバーがそれぞれの状況の報告や今後の方針などについて話し合う集会の
最後、一通り話し終えた「作戦参謀」こと小沢が席に着くと同時に、上田が締めの挨拶にかかる。
「取りあえず今回の集会はこれでお開きだな、後はみんな楽しく飲もうか」
その言葉が終わるや否や集会は親睦の場となり、あちこちから歓声が飛ぶ。
「よっ、待ってましたああ!」
「ヒューヒュー!」
この集会の舞台となっているのは、メンバーの知り合いが経営しているそこそこ大きな居酒屋。
今回は特別にこの店をまるまる一店貸し切りにして、白ユニットの集会を行っているのだった。
いつぞやの黒ユニット集会の舞台となった神楽坂の高級料亭に比べればだいぶん質素で庶民的
ではあるが、ある意味今や一つの目的の下に強い絆で結ばれた彼らにはふさわしいのかも知れない。
乾杯の合図から程なくして場内には楽しげな声が満ち溢れ、時折怒声や呂律の回らない様子の
声もする。テーブルは酒類・ソフトドリンクの瓶やら注文した料理やら、さらに厨房に飛び入りして
きた腕に覚えのあるメンバーの手料理で埋め尽くされ、皆それらに舌鼓を打った。その様子に
感慨深げなのはハイキングウォーキングの松田だった。
「白の皆さんは本当にいつも和気藹々としてて…これが人間らしい本来の姿ですよね」
「ああそうか、お前黒の集会も見てたんだっけな」
松田の語る所によれば、黒ユニットの集会に来ていた者たちは多くが目は虚ろで本人の意思が
働いているのかさえわからない、ただ命じられる事を淡々とこなす操り人形のような状態だったり、
自我を残していて時折怯えたりしながらも洗脳された相方や友人の行動に同調していたりとそれは
悲惨な様子だったという。一見楽しく盛り上がっているように見えてもどこか機械的で操られた
わざとらしさが垣間見え、松田は自我を持ってはいたが生きた心地がせず、普段口に入る事は
ないような高級な料理や酒を味わう余裕もなかったのだった。その話を聞いた白のメンバーたち
は、皆青くなって震え上がったり今この場にいられる事を安堵したりといった反応を見せた。
「まあ、ここがいっぱしの組織らしくなったのもお前らのおかげだろうな」
小沢と井戸田にそう語るのは劇団ひとりだった。
彼は前に有田の主導で行われた事実上最初の白ユニットの集会に参加していたのだが、
その時は実のある話もほとんどできないまま実質ただの飲み会と化してしまったという。
「まあ中核があんな人たちだし仕方ないかなと思ってたんだけどさ、でもやっぱ緩すぎだよな。
『ここらへんは黒を見習ってほしい』と思ったもん」
「……」
二人の表情が若干引きつったように見えたのは気のせいだろうか。
とその時、けたたましい物音と怒声、それに石の能力によると思われる雷の音が聞こえた。
「あーっ、喧嘩はダメっ!」
血相を変えて仲裁にすっ飛んでいく小沢と井戸田の後ろ姿を見ながら、ひとりは思う。
(確かにだいぶ組織らしくなったけど、やっぱ根っこは変わってねーのな…いいんだか悪いんだか)
-------------------------------------------------------------------------------
―繋がれし者と鎖を解く者―
ハチミツ「小沢さん…?」
小沢「俺には見えるよ、二人をどこかに繋ぎ止めている黒い鎖が。その鎖、必ず俺が解いて
あげるから。…いつになるかはわからないけど」
-------------------------------------------------------------------------------
渡部「いつもいつも悪いな、俺らの能力がもっと直接戦闘に向いた物だったらお前らにこんなに
負担かけずにすむのに」
井戸田「それは言わねー約束だろ?メンバーそれぞれが持ってる物を存分に活かしてお互いの
足りない所を補い合う、それが俺ら白ユニットじゃねーか」
児嶋「ほら、例のビッキーズの飴だ。オザが頑張ってるから早く行ってやれ」
井戸田「お、これはありがてえ!じゃあもう一頑張りしてくっか!」
-------------------------------------------------------------------------------
小木「もともとこの争いに関わる気はなかったが…矢作があんな目に遭わされたとなっては話は
別だ。黒の連中を、俺は絶対許さない」
秋山「はなわを狂わせ、俺らはねトびメンバーの絆を傷つけた事もな」
704
:
名無しさん
:2013/09/30(月) 17:09:04
―作戦参謀―
小沢の話は続く。
「黒に対抗するには、ただメンバーの数を増やすだけでは不充分なんです。それぞれがもっと
石の力を引き出せるよう努力する、それが不可欠だと俺は思います。黒の方は人の負の
感情を増幅し、石の力を暴走させる黒い欠片を持ってます。それに対抗するには、ここに
いる皆さんが仲間を信じる、自分と自分の石の力を信じる、石の可能性を引き出す、それが
重要な要素だと思うんです」
話を聞きつつ、井戸田は呟く。
「そういや島田が言ってたっけな、『力は外から得る物じゃなくて自分の内側から自ら
導き出す物だ』って。自分の持ってる物をどう活かすかを考える…石の事と芸人としての
あり方って、根っこは一緒なんだな」
黒に属する者の中には、自分の石が戦うのや身を守るのに使えない弱い石だと嘆いたり、
早く自分の使える石が欲しいと焦るあまり「黒に入れば強い力が手に入る」との甘言に乗って
引き込まれた者もかなりの数に上るらしい―ビームがそうだったように。
そういう点に目を向けてみると、号泣が、自分も一度わずかながら興味を持った虫入り琥珀に
手を出した理由がわかろうという物だ。「自分の『存在』を削る」というリスクを冒してでも
相手を有無を言わさず捻じ伏せられる力が欲しい―それがその時の、彼らの心理だったのなら。
そこまで考えて、井戸田は一つ息を吐きつつ顔を上げた。
「潤の石はどっちかというと防御向きだし、俺の石だって様々な形で周りに干渉はできるけど
基本的に直接攻撃する力はありません。それでも自分なりに工夫を重ねる事でいろんな形で
石の力を引き出し、暴走した石に呑まれた人や石を悪用する人とも互角に戦う事ができたん
です。皆さんの石にも、きっとそれだけの物はあると思うんです」
そう、スピードワゴンは最初に石を手にした時から自分の石の力をどう活かすかを考え、実践
し、少しずつその可能性を引き出してきた。「石の力を引き出せるかは使い手次第」そう意識
せずとも、彼らは「自分の持つ物をどう活かすかを考える」理念を石の扱いにおいても応用
し、実際に効果を上げてきたのだった。この辺は、小沢の旺盛な探求心の賜物でもあった。
そして小沢はさらに言う。
「有田さん、上田さん、お願いがあります。俺はこうした石の可能性を引き出す手助けがしたい
んです、黒と戦うために。つまり…白の皆さんの能力を解析し、能力を最大限に引き出せる
連携や使い道や役割を考案する、そういう役割をしたいんです。底知れない規模と力を持つ
黒ユニットと戦うためには、そうした役割が絶対に必要だと思うんです」
その発言に、その場の全員が目を丸くした。これまでずっと他の者を巻き込みたくないがために
一人で、あるいは相方と二人だけで戦い続けてきた小沢が、今は他の者たちと積極的に関わ
ろうとしているのである。こうした行動も、今この場に来て設楽の事を他の白のメンバーに教えた
のも、「これ以上犠牲者を出さないように黒の侵攻を止める」という決断による物だった。
また草野球チームの監督もやっている自分ならこうした人選や起用のノウハウも持ち合わせて
いるから、この役割もきっとうまくできるはずという思いもあったのだった。
しばしの後、上田が口を開いた。
「そうか…お前自身がそう思うならその役割、お前に任せよう。児嶋が言ってたけど、お前は
麻雀やってても自分だけでなくその時の対局者全員の大まかな配牌や流れを、見て覚えて
られるらしいからな。黒の奴らは今聞いた設楽を含めて頭のいい奴が多いようなんだが、お前
のそれだけの記憶力や観察力なら、奴らに対抗できるかも知れん…ま、とにかく頼むぞ」
「はい…ありがとうございます」
その言葉と共に小沢は席に着く。
これが後に知られる「白ユニットの作戦参謀」誕生の瞬間だった―。
705
:
名無しさん
:2013/09/30(月) 17:10:19
-------------------------------------------------------------------------------
緊急集会の後、渡部は小沢と井戸田を呼び、話し始めた。
「俺、自分の石の力に気づいた時から時々能力の訓練してたんだよ、いろんな人に同調して。
少しでも石の可能性を引き出そうと思ってさ。その結果、わずかながら五感だけでなく心の中も
見れるようになった」
「どうしてそんな事を?」
小沢が驚いて問う。
「その時から思ってたんだよ、『いつかこの力が必要になる時が来る』って。今思えばこれは
決して思い過ごしなんかじゃなかったんだ。そしてその中で統に同調する機会があってさ、
そこであいつはラーメンズの小林と話してた。で、話の中に『説得』とか『シナリオ』ってな
単語が出てきたんだよ」
「え、まさか…それって…!」
次に驚きの声を上げたのは井戸田だ。
「そう、その時は何の事かよくわからなかった。でもさっきのお前の話で全てつながったよ。
『説得』とか『シナリオ』ってのは、あいつらの能力の事だったんだ」
「『説得』は設楽さんの能力だから…じゃあ『シナリオ』はコバケンさんの?そういや彼って、
コントの脚本とか書いたりしてるからね」
「うん、たぶんそうだろうな、あいつの能力は『シナリオ』とか『脚本』にまつわる物なんだろう。
それでこれはここだけの話なんだが…あいつが能力とかの件で統と話してたって事は…」
「…!」
「たぶん、小林も黒の幹部じゃないかと思うんだ。まだ断言はできないけど」
ここまで話して、渡部はふと思う。目の前の二人は、前に自分の「石の声」を聞いた事があった
という。ひょっとして、これまでに何度か接した「もう一人の自分」の正体は、自分の石・クリアクォーツ
の声だったのではないか?と。
(あれが俺の石の声だとしたら、ずいぶん慎重というか心配性なんだな、あれは…)
-------------------------------------------------------------------------------
(黒の誰か)「お前がそんな目に遭うのもみんなそいつのせいだ、いつも損な役回りばっかりだろ?」
井戸田「どんな目に遭ったっていい!俺は小沢さんと一緒にいたいんだ!」
小沢「それが潤の優しさだ、相方の俺が一番わかってる!」
(黒の誰か)「わかってる?一人ぼっちのお前に何がわかる?仲間など見捨てて逃げればいいのに」
小沢「俺は決して逃げないし、諦めないし、誰も見捨てたりしない!」
井戸田「小沢さんは一人じゃない、俺もみんなもいる!一人ぼっちになんか、絶対にさせねえよ!」
-------------------------------------------------------------------------------
「あいつらの事、心配か?アパタイトよ」
”…ええ、確かに心配だったわ”
かつて自分と共に戦った石と、西尾は話していた。
”でも、あの人は一人じゃない”
「そう、俺らの時とは違う。あいつらは幸せや、絆ほど強い力はないからな」
”止めようとは思わない?”
「思わんな、あいつらが望んだ事やから。今度は俺らが見守る番や」
”それなら私は…『彼』の相手をする。あの時のあなたと相方さんのように”
そう語る石の声に、西尾はそっと微笑みかけた。
「そうか。そうやな、あいつらに託そう、絆の光と希望の光を」
706
:
名無しさん
:2013/09/30(月) 17:11:53
-------------------------------------------------------------------------------
―闇の鎖を焼く太陽―
シトリンの光の照り返しの中、井戸田は静かに語りかける。
「この輝きは太陽の光だ。太陽の光はこの世のあらゆる物に分け隔てなく光とぬくもりを与える
もんだ。だから俺も、この輝きでお前らに勇気と希望を与えてやる。自分の意志で黒の鎖を
断ち切る勇気と、黒の支配から逃れて自由の身になれるという希望をな」
-------------------------------------------------------------------------------
―処刑人―
「出番だ、パニッシャー。今度はこいつだ」
「…はい…」
設楽の言葉に応じて抑揚のない声で返事を返すのはどことなく地味な風体をした若い女芸人。
人形のような生気のない表情、鈍く光る虚ろな瞳。完全に自我を奪われ「黒の操り人形」と
なっているのは間違いないだろう。その手に握られた石―天然ガラスの一種であるリビアングラス
が黒く濁った輝きを放つと、そこから黒いローブを纏った小ぶりな死神が現れ、目的の相手に
憑くべく飛び去っていく。なんらかの失策や造反を働いたと思われる、その相手に裁きを下すべく。
707
:
名無しさん
:2013/10/13(日) 19:40:02
-------------------------------------------------------------------------------
西尾「俺の考えが正しいなら、石ってもんは波長の合う芸人に共鳴して導かれ、その芸人の物
になる。失くしても捨てても自力で持ち主の下へ帰ってくる、『つながり』が切れない限り
はな。前に俺らが石の記憶を失くした事で自分の石との『つながり』は切れ、後になって
その石はお前らの物になった…よりふさわしい持ち主を、石自身が見つけたんやな」
-------------------------------------------------------------------------------
小沢「俺は誰も傷つけたくない。みんなを守れればそれでいい」
-------------------------------------------------------------------------------
―月の虜―
「川島はどこや!川島をどこへやった !? 」
田村の怒りに満ちた声が響く。
「眠ったらあかん、石に呑まれたらあかん!諦めるな、自分をしっかり持つんや!」
礼二が懸命に呼びかける。
「お前が石の力に溺れたら何もかも消されてまうんやで、お前の大切なもんも何もかもや!
それでもええんか !? はよ目覚めぇや、そうすれば…!」
そうすれば、踏みとどまれる、手遅れになる前に。「自分の嫌いな物を全て消し去ってくれる」という
ムーンストーンの見せる甘い夢から目を覚まして、強い心で石の力を制御するんだ―陣内は
おぼろげな意識の中、大切な仲間たちの声を聞いた。
-------------------------------------------------------------------------------
―抜擢―
その石との戦いでキーマンとして小沢が選んだのは、アンガールズの二人だった。
石の力が持ち主の感情の高まりに応じて増大するならば、感情を鎮めれば力も弱まり、
封印しやすくなるはず―そう考えたのだ。そしてそれに適した能力を持つとして選ばれたのが、
他でもない彼らだったのである。
「でも俺の力って、相手の方が強いと自分に跳ね返ってきちゃうんですよー」
「それにあんなの、近づくのさえ難しそうだし…」
「だから自分と自分の石を信じるんだ。『必ずあれを抑える』という強い想いを以て当たれば
負ける事はないはず。いざとなったら俺やみんなも援護するから」
-------------------------------------------------------------------------------
―決着の後で―
床に横たわる設楽は、若干荒い息の中で言う。
「オザ、俺の負けだ。お前が正しかったのかも知れん…。すまんな…俺は様々な人を苦しめ、
傷つけ、迷惑をかけた」
「あなたはただ自分の信念を貫いただけなんでしょう?それは俺だって…同じなんですから…」
傍らに腰を下ろし答える小沢だったが、たちまち声は潤み、幾筋もの熱い流れが頬を伝い始める。
その隣の井戸田も涙をこらえている様子だ。
「お前ら…こんな俺のために涙を流してくれるのか?俺が憎くないのか?」
「そんな、憎いだなんて…あなただって…苦しかったんでしょう?今までずっと…」
「あんた、日村さんを守りたかったんだろ?『傷つくのは、泥かぶるのは自分だけでいい』って思って
たんだろ?それなら小沢さんと一緒だよ」
小沢は静かに設楽の手を取り、両手でそっと包むように握った。その感触に、設楽は短く心中を語る。
「これが人の絆のぬくもりというヤツか…しばらく忘れていたよ…」
-------------------------------------------------------------------------------
708
:
名無しさん
:2013/10/13(日) 19:41:33
―秘密基地―
仕事などで顔を合わせる機会も多いとはいえ、周囲の目をはばからず石の事やユニットの事を
話せる場所がないのもまた事実であった。そこでくりぃむらの主導で白ユニットとしての活動拠点
を設ける事になり、都内の近代的なアパート一軒を丸々借り切って「秘密基地」としたのである。
表向きにはネタ作りや稽古の場としてあり、各部屋には質素ながら炊事・洗濯・休息・沐浴と
いった生活のできる場が設けられ、うち一室は各自の能力を磨くためのトレーニングルームと
された。また負傷者が出た時のために救急箱や医薬品の類も置かれ、そして全体は白の
メンバーの力を結集した結界で覆われ、黒い力を持つ者を寄せつけないようにされていた。
また関西にも、大阪市内にこれと同規模の秘密基地を設ける予定となっていた。
自分たちの秘密基地の完成に、誰もが大なり小なり持っているヒーロー願望や童心を
くすぐられた白のメンバーたちは口々に声を上げる。
「なんかますますヒーローっぽくなってきたんじゃね?」
「かっこいいよな、秘密基地って!」
そんな無邪気な声をよそに、くりぃむの二人は別な会話を交わす。
「これで思ったんだけどさ、黒の方にはこういう基地みたいなのってあるのかねえ」
「小沢たちの情報を始め断片的になんだが、いろんな話は出てきてるな。なんでも高級旅館の
一フロアを貸し切りにして拠点にしてるんだとか。今をときめく売れっ子の芸人とか、一度は
仕事を頼みたいと思わせるような構成作家とか、俺らが仕事で共演する事もままならないような
大物芸人とか、そういう人たちを軽く洗脳してスポンサーにしてるらしいぞ。その財力で旅館を
借り切ってそこの仲居や従業員なんかも一時的に洗脳して、グラビアモデルの女の子なんかも
連れてきて身の回りの世話とかさせてるって。そのスポンサーになった人たちには『旅館を借り
切り若手やスタッフを楽しく豪遊させてやった』ってな記憶しか残らないし、仲居や従業員たち
にも『いつも利用してくれている常連客』程度の記憶しか残らないから、情報統制も完璧と」
「え、なんだよそれ!俺らよりずっと豪華じゃねーか!」
有田の脳裏に真っ先に浮かんだのは「酒池肉林」という単語だった。
上田は内心「突っ込む所そこかよ…」とぼやきつつも話を続ける。
「で、その旅館てーのがまだどこなのか特定できてないんだよな、情報量が少なすぎて。おそらく
は黒い欠片を生み出す『本体』に当たる物もそこに潜伏してる可能性が高いと思うんだ。そして
芸人以外の奴に持たせる熔錬水晶の指輪を作ってる所もどこかにあるはずなんだが」
709
:
名無しさん
:2013/10/15(火) 17:27:11
-------------------------------------------------------------------------------
不思議な力を持った「石」。
それを巡って、「白いユニット」と「黒いユニット」が対立している、という程度の事は
彼らも知っていた。ただ、自分たちはどちらに味方するつもりもない。
石を持つ者として、取りあえず降りかかる火の粉は払わねばならないと襲ってくる者には
立ち向かうが、それ以上の事はしない。この苛烈な争いになるべく関わらないようにして
己の本業に専念したい、それが彼らの思いだった。
白にも黒にも入らない―それが、二人して決めた雨上がり決死隊の立場だった。
そう、ずっとそのつもりだった、初めのうちは。
だが―この間の一連の出来事が、彼らの意識を変えた。
ペナルティのヒデに襲われて石を濁らされ、その相方のワッキーの力に救われた事。
そのヒデもまた、黒い欠片に思考を操作され自身の「黒い感情」を引き出された犠牲者だった事。
欠片の力から解放されたヒデが、自身の罪を償うべく率先して黒いユニットと戦うと誓った事。
そして、事情を知る小沢が、「ヒデさんを許してあげてほしい」と懇願してきた事―
「今、何考えとん?」
最初に口を開いたのは蛍原だった。
「オザの事や。あいつ、あんな一生懸命やっとんのなって」
「そやなあ。それ見ると、俺らこれでええんかなって気になった」
そう、石を持つ者の中には率先して黒いユニットと戦おうとしている者が確かにいた。
それは二人もよく知る、可愛がっている後輩。彼らは自ら渦中に身を投じてでも、例え周りを
敵に回そうとも、平穏で一生懸命バカができる日々を取り戻そうとしている―
そんな一生懸命な者たちがいるのに、自分たちはこのままでいいのか?
「なあ…オザの力になってやりたいと思わへんか?あんなに頑張っとるあいつの」
「それって白に入るっちゅう事?」
「ま、そういう事になるなあ。俺らの力がどこまで役に立つかはわからんけど、取りあえず何か
できる事はあると思うんや、あいつのためにな」
「そやな。こっちでもたむけんとかチュートあたりが動いてるって話やし、そいつらに話してみるか?」
こうして、雨上がり決死隊もまたこの争いに終止符を打つべく動き出した。
一部を除き烏合の衆同然だった白いユニットの様相は、大きく変わり始めていたのである―
「蒼き絆の光」を手にした一人の芸人によって。
710
:
名無しさん
:2013/10/18(金) 19:45:18
-------------------------------------------------------------------------------
小沢「確かに俺は痛いのや怖いのは嫌だよ。でも…逃げるのはもっと嫌だ」
-------------------------------------------------------------------------------
小沢「俺の考えは甘いかも知れない。でも俺は、あの石の持ち主も、他の人もみんな助けたい
んだ。誰一人見捨てはしない、見捨てたくない」
井戸田「それでこそ小沢さんだよな、その優しさが弱さだとしても俺は小沢さんについてくよ」
小沢「…ありがとう。潤が俺を必要としてくれているなら、俺はどんな痛みも苦労も乗り越えられ
る…そんな気がするんだ」
-------------------------------------------------------------------------------
―誘惑―
黒く濁った手の中の石が、彼に向かって語りかけてくる。
”お前は力が欲しいか?『黒いユニット』に来ればお前の望む力が手に入るぞ”
「…力?黒いユニット?」
”そうだ、敵対する者を叩きのめし捻じ伏せる力だ。お前は弱い自分が嫌なんだろう?
情けないんだろう?強くなりたいんだろう?”
「…そうだ。俺は強い力が欲しい…戦える力が欲しい…」
”ならば今から俺の言う通りにすればいい。『黒い力』に身を任せるなら、お前には素晴らしい
力が与えられるだろう…”
-------------------------------------------------------------------------------
―闇を払う漆黒の影―
「ああっ !? 」
その芸人が影の中に吸い込まれるという思いがけない光景に、小沢と井戸田は思わず叫ぶ。
だが川島は冷静に返した。
「大丈夫や、こいつの黒い力を取り除いたってるだけやねん」
少し経つとその芸人はポンと影から吐き出されてきた。意識を失っているが命に別状はないよう
で、確かめてみるとつい今し方まで感じられた「黒の気配」も消え失せている。
「俺は今まで何度かこのモリオンの強大な力に呑まれ、自我を失くしてもうた事があった。それに
目ぇつけた黒の奴らに引き込まれそうになったりもした。でもこの力を、今ようやく完全に物に
できたんや…田村の助けもあってな」
「川島くん…」
そういえばモリオンという石は、魔除けや邪気祓いの効果がある石の中でも最強の力を持つと
いう。その強い力故にしばしば持ち主の心を呑み込み暴走する危険性があるというのは、石の
使い手ならば誰もが理解できる事だろう。そんな力を、川島は様々な苦難の末に完全に己の
制御下に置く事ができたというのだ。
「そう、それでこの石の真の力をも引き出す事ができた。人を影に呑み込む事でその黒い力を
清めるという…浄化の力や」
711
:
名無しさん
:2014/01/27(月) 19:29:36
-------------------------------------------------------------------------------
―歴戦の勇士―
「それよりお前ら、手当てしなくて大丈夫か?」
心配する上田の言葉に、井戸田は渡されたウェットティッシュで額の擦り傷から流れる血を拭い
ながら若干荒い息遣いで応える。
「大丈夫っすよこれくらい、まずはあれを片づける方が先でしょ」
小沢の方も、やはり頬の切り傷と口元に滲む血をウェットティッシュで拭いつつ無言で頷く。
(痛いけどみんなのために頑張らなきゃ…今ここには他にまともに戦える人がいないんだから)
口中にほのかに広がる鉄っぽい味を、そんな思いと共に飲み込む。
これまでにない強大な石の暴走との対戦で、二人は満身創痍と言っていい状態だった。
傷はいずれも小さな擦り傷や切り傷や打ち身程度で深い物ではないが、体のそこかしこから
血を滲ませている姿はやはり見ていて痛々しい。しかしそれでも二人の闘志は全く衰えを
知らず、一息ついた所で再び相手に向かうべく駆けだしていった。そんな後ろ姿に、有田が呟く。
「すげーなああいつら…あれだけのもんにも一歩も引かずに向かってっぞ」
それに答えるのは上田だ。
「ああ、俺の知る限りあいつらは白の中でも一番多くの相手と戦ってきてる…あんな風に暴走
した石とか、化け物みたいに強い相手とも何度も渡り合ってるんだろうな。そんな経験がある
から、今でもいつも率先してあんな強い相手にも向かっていけるんだろう」
-------------------------------------------------------------------------------
(黒の誰か)「ふん、そんな子供のオモチャみたいな能力しか持たないお前に何ができる?」
劇団ひとり「こんな俺にだってできる事は必ずある…小沢たちがいつも言ってた!」
-------------------------------------------------------------------------------
―禁断の石―
力ある石の大半は自我や意志と呼ばれる物を持っているが、中にはあまりにも力が強大であったり
意志が邪悪・凶悪な物だったりという理由で黒ユニットの者でさえ恐れをなし、勝手に使用されない
よう厳重な管理下に置いている物もあるという。そうした物は強大な力を以て持ち主に選んだ者の
心身を支配し、自分の意のままに動く操り人形にしてしまう事が多く、それ故「禁断の石」と称され
ているのである。他の石も力が暴走した時などに持ち主の意識を呑み込んでしまう事があるが、
この「禁断の石」は(黒い欠片の影響如何を問わずに)特にそうした現象を引き起こす危険性の
高い石なのである。もちろん、持ち主の精神が黒い欠片の働きで妬み・憎しみなどの負の感情を
強められていれば、より強く石の力が引き出されるのは言うまでもない。
-------------------------------------------------------------------------------
「もしお前が石の力で他人を傷つけたりしたら、その時はどんな手使ってでもお前を倒しに行く」
石の力に目覚めた芸人たちに対していつも必ず言うその言葉を、上田はその時だけはなぜか
言わなかった。目の前の小沢は既に石の力に目覚めていはたが、その姿には石に呑まれている
ような危険さは感じられず、またアパタイトから伝わる波動にはどこか穏やかで、優しさや慈愛と
いった物が感じられたからだ。そして何より、小沢は「石の力を悪用する者がいる」といった話を
聞いたその直後に、「こんな魔法みたいな力を悪い奴に渡す事はできない」と力強く言い切った。
それを見て上田は確信したのだ―「こいつなら大丈夫だ、少なくとも石を悪用する心配はない」と。
* * *
小沢の覚悟と決意を聞いた井戸田は、シトリンを収めた手を突き出して力強く言い切った。
「なら俺はこの石の力で小沢さんを助ける!一緒に戦う!あいつの事、絶対一人にはさせねえ!」
まだ自分の石の力がどんな物なのかもわからないうちに、である。石の力は千差万別だ―戦う
どころか身を守る事すらままならない弱い物かも知れないし、あるいは見境なく人を傷つけてしまう
ような危険極まりない物かも知れない。それでも井戸田は相方を助けたい、力になりたいと言った。
そこにあるのは「この石はきっと自分たちを助けてくれる」というある種の自信―根拠のない自信と
いえばそうだが、まさに太陽のような明るさやポジティブさを感じさせた。その姿に上田は言う―
「小沢は本当に幸せだよ。お前みたいな奴を相方に持ててな…」
712
:
名無しさん
:2014/06/02(月) 16:21:32
2丁拳銃とスピードワゴンは笑金の05年正月特番でコラボユニットやったりしてるので、
その辺踏まえて
>>693
や
>>703
で出てる「黒の鎖に繋がれた者」と「鎖を解く者」との
話とかやったら面白そうだ
そこで
>>706
のシーン・小ネタ集にあった「闇の鎖を焼く太陽」のセリフを入れたいな
713
:
名無しさん
:2014/08/18(月) 19:33:47
>>689
大谷にとって小沢は芸人になって初めての友達だそうだから、 「大切な友達が石に呑まれて
悪い事をしてるなら、自分が目を覚まさせてやらなければ」との強い使命感に燃えてても
おかしくはなさそうだな
それで自分を庇って傷を負った小沢を見て「目を覚まさなきゃいけないのは俺たちの方
だったんだ」と泣きながら小沢に謝ったりして名
714
:
取扱注意-ある本番前の光景-
:2015/11/16(月) 16:08:14
ageついでに、コメディタッチの短編を投下させていただきます。
時期的には、以前の書き込みによると第5次お笑いブームの沈静化と共に白黒抗争が
一段落するとされる、2006〜07年ごろのホリプロライブかラママの楽屋を想定しております。
あと一昨年にはここや他スレにいろいろ短いのを投下しましたが、それらの感想もいただけると
ありがたいです。
-------------------------------------------------------------
「ああああぁぁぁぁ !!! やってもうたああぁぁぁ !!! 」
とあるお笑いライブ本番前の喧噪に満ちた大きな楽屋に、突如女の叫び声が響き渡った。
その声に驚き、一斉に声のした方に目を向ける他の出演者たち。
そこにはスピードワゴンの井戸田潤が放心したように座り込んでおり、そのすぐそばでは
先ほどの叫び声の主であるクワバタオハラのくわばたりえが慌てふためいていた。
「ちょっとどうしたの !? あー!潤!」
そこに駆けつけるなり叫び声を上げたのは、井戸田の相方の小沢一敬だった。
「潤!しっかりして!もうすぐ本番なんだから!」
そう言いつつ井戸田の体を揺すったりしてみるが、井戸田の方は全く反応を示さない。
くわばたはオロオロしながら小沢に事の次第を話す。
「あああの、今潤さんがちょっとした事で他の人と揉めて…それで仲裁せな思ったんやけど、
うっかりこれしてたの忘れとっててそのまんま潤さんに触ったら…」
そう言ってくわばたは自分の左手中指にはまったチタナイトの指輪を見せる。
相方の小原が持つジンカイトのブローチ共々、ファンからのプレゼントとしてもらった物だという。
この石の能力は、「周りの者の怒りの感情を吸い取り、それを緑の光弾にして撃ち出す」と
いう物だった。そしてこの石に怒りの感情を吸い取られた者は、しばらく放心状態になり
何もできなくなってしまうのだ。この事態には、さすがの小沢も狼狽を隠せなかった。
「どうすんのこれ、本番までもう30分しかないのに!あっそうだ、あれが使えるかも!」
そう言うなり傍らのテーブルに置かれた自分の鞄から小さなポーチを取り出し、そこからさらに
自分の石であるブルーアパタイトを取り出す。そして石を片手に収めてもう片手を井戸田に
向けると、軽く意識を集中させて言霊を紡ぎつつ井戸田に向けた手の指をパチンと鳴らした。
「夜は寝る時間じゃない。愛が目覚める時間だぜ!」
手の中のブルーアパタイトが一瞬緑がかった青い光を放つと、放心状態だった井戸田は
即座に我に返り、何度も瞬きをしたりキョロキョロ周りを見たりし始める。
「あ、あれ…俺今何してた ?? 」
「あーよかったー!一時はどうなるかと思ったよ!気をつけてよ、ホントにもう」
「ごめんなあほんま、次からは気ぃつけるから」
715
:
取扱注意-ある本番前の光景-
:2015/11/16(月) 16:09:52
安堵の溜め息と共に石を元通りしまいつつ、小沢は思う。
数年前からだろうか、芸人たちの間に不思議な力を持つ石が出回ってからというものの、
ちょっとした不注意やら何やらで石の力を「暴発」させてしまい、後始末やら場を取り繕う
手間やらで騒動になるといったトラブルがチラホラ起こっていたのだ。
今の件もまた、そうした暴発事故の一つといえる訳で…これが芸人だけの場ならまだしも、
一般人の目にも触れるライブやテレビでの本番中に起こってしまったら目も当てられない。
(まあ、幸いにも俺たちの石は暴発の危険は少ないけどね…でも油断は禁物だな)
そう、スピードワゴンの2人の石は共にあるキーワードによって力を発動させる性質であるため
暴発の危険は少ないが、それでもうっかり石を持ったままネタをやってしまったらと
思うと気が気でない。小沢は改めて、石の取り扱いには気をつけねばと肝に銘じた。
このちょっとしたトラブルはあったものの、ライブの方は滞りなく開始を迎える事ができたのだった。
2時間後、ライブは大盛況のうちに幕を下ろし、出演者たちはこの後の打ち上げ会に向かうべく
楽屋で着替えやら何やらに入り、楽屋内は楽しげな話し声に満ちていた。その中心にいたのは
スピードワゴンの2人で、周りには若手や中堅など多数の芸人がいる。
「それでさぁ、その時の動きがおっもしろいの。まるでゴキブリみたいでさあ」
「アハハハ、そうなんだー」
その場にはライブのスペシャルゲストとして来ていたさまぁ〜ずもおり、その一人の三村マサカズ
は、自分の石のフローライトを片手で弄びつつ小沢たちの話に加わろうとする。
「おいおい、ゴキブリはねえだろゴキブリは〜」
「ん !? 」
その時、三村の手の中のフローライトが一瞬輝きを放ったのを、井戸田は見逃さなかった。
「ちょっと三村さん、石!」
「へっ !? 」
「うわああああぁぁぁぁぁ !!! 」
「きゃあああぁぁぁぁぁぁ !!! 」
小沢の顔面めがけて飛んできた一匹のゴキブリのせいで、その場がちょっとした惨事になったのは
言うまでもなかった。
END
716
:
名無しさん
:2015/11/17(火) 16:46:58
>>714-715
投下乙です。小説練習スレだからきついことも言うよー。
前の投下した短編等についてはトリップがついてなかったから多分この辺の作品群だろうという推測で書きます。
違う人の作品に関する感想が混じってたらごめん。
これからはトリップを付けてくれると助かる。
前に投下された短編はかなり読みづらくて感想を持つまでに至らなかった。目が滑るというか。
あと 人名「セリフ」 という形式はやっちゃだめ。それだけで読む気がなくなる人も多いよ。
それから自分は珊瑚編やファントム編のスピードワゴンが好きだったから
あなたの書くスピードワゴンはキャラが変わりすぎててそれであんまり受け付けなかった。
あと周りの人間がスピワを(特に小沢さんを)持ち上げすぎ称えすぎ。
書き手の嗜好が強く出過ぎて、読み手をシャットアウトする作品になっちゃってたと思う。
でも今回の楽屋編はそういうのがあまり出てなかったし話も面白かったよ。
文章も前のに比べたら上手になってると思う。読みやすくなってる。
まだちょっと説明的な文になってるところがあってテンポを悪くしているので
もっと時間をかけてプロットを練ったり推敲したりしていくといいんじゃないかな。
717
:
名無しさん
:2015/11/17(火) 17:17:19
>>716
どうもありがとうございます
当方の場合、「全体のストーリーとかは浮かばないけどこのシーンを書きたい」とか
「この人にこのセリフが似合うだろうな」的な物が多かったので、箇条書き的に
人の目に触れる形にしてみた次第でして
あと人名「セリフ」 という形式についてですが、上記の事情もあって短い内容の中で
誰がどのセリフを言ってるのかをわかりやすくするためにやった訳です
ビデオゲームの会話のあるデモシーンをイメージしていただけたらと思います
まあ当方の脳内のプロットとか大まかな流れみたいな物をお伝えできればと思いまして…
718
:
名無しさん
:2015/11/21(土) 01:41:14
>>704
小沢が参謀というのに激しく違和感。
「石の可能性を引き出すために能力を解析して連携や使い道や役割を考案する」というのはいいとしてもそれを小沢ができる気がしない。
小沢はその場での状況判断や対応の能力に優れていると思うけど
参謀に必要なのはどちらかというと「情に流されない冷静な判断力」とか「緻密な作戦立案能力」なわけで。
現時点ではくりぃむが指揮官と参謀を兼ねているからそもそも参謀を立てる必要を感じないけど
どうしてもというなら小沢より渡部でしょ、適性的に。
719
:
名無しさん
:2015/11/21(土) 11:17:25
>>718
その辺なんですけど、進行会議スレ>326及び感想スレ>461の内容から発想した物なんですけどね
ブルーアパタイトが古来から「信頼・信念」を示す石とされてた点を踏まえて、
「立場を明確にして戦ってる芸人は意外と少ないし、黒みたいに全体をまとめている
リーダーもいない」という白ユニの欠けたピースがスピワの合流によって埋まり、本格的に
組織としての形を成すようになるという流れをイメージしてたらああいう物ができました
あと小沢は、児嶋の麻雀サイト「こじまーじゃん」によると「記憶力や観察力がとても高く、
自身だけでなくその時の対局者全員の大まかな配牌や流れを記憶している、つまりその場の
全員の状態や心境を把握できている」んだそうで
その辺からある意味適任かなと思った訳なんですよ
この辺については、他の人(特に小蝿さん)の話も聞いてみたいんですけどね
ttp://ginoh-news.blog.so-net.ne.jp/2015-06-28-1
720
:
名無しさん
:2015/11/21(土) 12:05:42
まあ、「作戦参謀」という肩書きではありますが、実質的には前線指揮官に近い
位置づけかなと
黒の誰か(設楽?)がそう呼び始めた、みたいな感じでもいいかも知れませんね
あとついでにですが、ピースの過去編について…
ピースの結成は2003年10月だそうなので、設楽(というか黒の枢軸)だけは
一足先に石が覚醒していた、的な感じになるのかな?
原(又吉の前の相方)は設楽の前のソーダライト所持者が黒に引き込んでて(2001年ごろ?)、
それを設楽が何らかの形で知って…みたいな形が自然かなと
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