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持ち帰ったキャラで雑談 その二
1
:
名無しさん
:2007/05/13(日) 21:30:22
リディア「僭越ながら、新しいスレを立てさせてもらいますね」
アーチェ「本スレにはあげられないのをあげる場所だから。主にSSかな」
リディア「それでは、楽しんでください」
アーチェ「いつでも参加募集中〜」
429
:
紫煙に巻かれて
:2008/11/24(月) 11:19:20
「目は醒めましたかぁ?」
床に突っ伏したまま、睨むように顔を動かす。
「…いきなり人の頭に蹴り入れる女性なんて聞いた事ないよ」
「私は非常識の塊ですわ」
おどける様な態度に怒る気力も失せ、深い溜め息をつく。
「ねぇ、エックス」
先程とは違うドロシーの声色にぎょっとしながら、顔をあげる。
背を向けたまま、煙草に火をつける彼女の表情は窺い知れない。
「さっき言う様になった、って言ったじゃない?」
細く吐き出された煙が空気に溶けて、色をなくす。
「来た時のアンタは物凄く暗い目をしてたわ。
それこそ、紫じゃあないけど誰かの意思で動かされてる人形って奴だった。
それこそ皆に何されても反抗する意志なんか砂粒の一つも感じられなかったし」
「酷い言われ様だね」
「まぁ口が悪いのは元からなんでね。
でもさっきのアンタはそれにちゃんと反感覚えたし、言いたい事も言った」
「子供みたいで嫌だな」
「子供じゃないつもり?」
「…すごく頭に来る言い方だね」
「ははは、ご冗談を」
煙草の火を消して、伸びをする彼女の背に視線を送る。
「自信を持ちな。アンタはエックス、うちらのかわいい我儘な家族で誰かのお人形じゃないよ。
…あたしらがその保証人さね」
振り返ったドロシーの金色の瞳は太陽の様に輝いていた。
「あ」
彼女の立ち去って、気を取り直して訓練に挑もうとセイバーを手にした瞬間、
本来の目的を思い出して、エックスは声をあげた。
「ここで煙草吸うなって言いそびれた…」
あの人を馬鹿にした様な笑顔を思い浮かべ、彼は小さく息をつくのだった。
430
:
十六夜日記
:2008/11/24(月) 19:43:49
家に戻ってきた時、あいつはビショ濡れだったわけで。
「くしゃんっ」と唾液をまき散らす災害を食い止めるには、
私が後始末をするしかなかったわけで。
毎度毎度手間をかけさせるこの悪魔には、そろそろお仕置きが必要なわけで。
お仕置き。
18禁な想像した輩はとりあえず逆立ちで池に飛び込め。
今日の晩御飯は抜きにしました。
あすみ、部屋の隅でしょんぼりモード。
なぐさめてるつもりなのか、黒猫はあすみの肩に乗っかって頬を舐めている。
さてさて。
結局、あすみは猫を捨てることは出来なかった。
まぁ、わかってはいたんだけどね。
これで「捨ててきたー」と戻ってきたら、それはそれで私はあすみに腹を立ててたかもしれない。
そんなもんです。
もちろん、私が捨ててくることも出来る。
心情的に「手放す」というのはあまり好きではありませんが。
ただこれ以上飼うのを反対すると、あいつはどんな行動に出るかわからない。
泣き出す?
駄々をこねる?
そんな可愛いもんじゃない。
冗談でも何でもなく、家がなくなるのです。
せっかく手に入れた小さいながらも落ち着く我が家。
猫を飼うのを反対したから、なんて理由で焼失したら泣くに泣けません。
いや泣くけどさ。
かくして、我が家にHI☆MOがまた増えることになったのでした。
めでたくなしめでたくなし。
まぁあの猫、あれでただの猫とは違うみたいだし。
使いようによっては、少しは飯のタネになるかもしれない。
それについては、またいつか。
431
:
※名前欄が空白です。匿名で投稿されます
:2008/11/25(火) 21:45:48
// この投稿は匿名によるものです--------------------------------
踏みしめた震脚が鳴り響くより、速く。
彼女は己の間合いに「敵」を捉えた。
目はわずかだが閉じている。どれだけ己の反射神経を研ぎ澄ませたところで、
雨が目に入った時のわずかなプロセスの乱れは免れない。
地面は舗装されたアスファルト。不調な天気の影響はほとんど受けない。
灰雨となって積もった黒灰も、雨に流れて下水を汚していることだろう。
故に、最速には程遠いが。
最良と言っていい程には、加速に身体がついてきた。
後ろからやってくる「音の壁」を感じつつ、弾き出した速度をそのままに
手指の第二関節まで折り曲げた掌底を標的目掛けて勢いよく突き出す。
狙いは下顎。牙顎とも呼ばれる人体の急所の一つ。
この速度で打ち抜けば、顎が外れるどころか顎関節を破壊する。
向こう数か月は、まともな食事を口にすることもできなくなるだろう。
彼女にしてみれば、それでも手加減している方であり。
そして、それが災いした。
彼女の「非人速」に比べれば、それは亀の歩みと言える速さだったが。
結果として、標的は彼女の攻撃を受けなかった。
かわされた、と認識した時にはすでに次の一打を見舞っている。
――見舞って、しまっていた。
後悔はそれよりも遥か後方、追いついてくるには時間が不足しすぎている。
// この投稿は匿名によるものです--------------------------------
432
:
※名前欄が空白です。匿名で投稿されます
:2008/11/25(火) 22:09:00
// この投稿は匿名によるものです--------------------------------
続け様に放った一撃は、またもすんでのところでかわされた。
いや、かわされたという表現は正確ではない。
彼女の動作を視認してから回避するのは、人間はもとよりあらゆる生物に不可能だ。
これは誇張表現ではなく、物理的にそう決定づけられている。
故に標的はかわしたのではなく、その時点では無意味な方向に身体を動かしただけ。
それは「野生の勘」などという非論理的な表現に頼らざるをえない、
まったくもって非常識な反射速度だった。
時の流れが正される。
もう「非人速」は使えない。
意識と身体がまともに繋がる状態で、しかし体は連撃の後遺症で思うように動かなかった。
二打も立て続けに空振りをかました報いが、これだ。
一撃は覚悟した。
あばら骨折だろうが内蔵破壊だろうが、甘んじて受け入れると。
ただし、それであばらが折れようが内臓が破裂しようが、
その次の一打を先に見舞うのは必ず自分だ。
そんな決意を一瞬で固め、来たる一撃を想定して歯を食いしばる。
――しかし。
「ひゃー、おねーさん危ないなー」
一撃の代わりに来たのは、場の空気を瓦解させるそんな一言だった。
// この投稿は匿名によるものです--------------------------------
433
:
十六夜日記
:2008/11/30(日) 21:56:12
こんにちは。
あるいはこんばんは。
十六夜日記のお時間です。
パーソナリティの十六夜です。
皆さん、昨夜はたっぷりフィーバーされましたか?
私はされませんでした。
間違えました。しませんでした。
――はぁ。
今日はゲストが来ています。
猫です。
間違えてません。お燐です。
よろしくーとか横で騒いでます。
邪魔です。
真似してあすみもバタバタ手を振り回しています。
えらいはしゃぎようです。
邪魔です。
というか、お燐が来てからあすみは毎日こんな感じです。
遊び相手が出来て楽しくてしょうがないようです。
はしゃいで飛び跳ねて家具を破壊します。
邪魔です。
日がな一日騒ぎまくるので、夜型の私は昼間寝ることができません。
寝不足です。
イライラです。
横で猫が、いや猫耳つけた人型妖怪がタイプのじゃえmdfdwws
……もう打ち直すのも面倒なんでそのままで。
ああああああああああああああああああああああああああああ頬を舐めるな髪を引っ張るな歌うな笑うな人の胸に顔をうずめるなああああああああああああああああああ
――はぁ。
誰か私に安眠をくださいませ。
434
:
冬の吸血鬼
:2008/11/30(日) 23:15:35
近所の並木道を一緒に散歩していた時だった。
不意にアサヒが雲を見上げて、呟いた。
「冬の雲だ」
灰色の雲を一緒に見上げるアサヒの手は少しひんやりしていて、ごわごわしたコートが少しくすぐったかった。
「ねぇねぇアサヒ。どうして灰色の雲が冬の雲なの?」
少し前まで、シキというものが何なのか、私にはよく分からなかった。
第一、空ってものが黒以外の色だって事も知らなかったもの。あと雲とか。
だから冬の空とか雲なんていわれても私には何だかちんぷんかんぷんだった。
「あー…なんていうか、雪が降りそうな感じがする雲っていうか…」
雪は知ってる。
前に寒さに耐えかねたあいつが地下に来た時見せびらかしてた白くて冷たい、直ぐに溶けてなくなった物体。
「あんな雲だと雪が降るの?」
「必ず、って訳でもないな。こっちは外に近いからそう簡単には降らないだろうし」
オンダンカって奴だとアサヒは肩をすくめた。
なんだ、降らないのか。
そうだと分かると少し残念な気持ちになった。
「くしゅん」
「…帰ったらココアでも飲むか?」
「…うんっ!」
とりとめもない話
435
:
愉しい紅魔館
:2008/12/01(月) 19:03:57
ナハトはたまに貸し出される場所を間違えたのではないかと思う瞬間があった。
月明かりの降り注ぐテラスで館の主がワイングラスを傾けている。横には彼女ご自慢のメイド。
いつもの光景。だが、今日はどうやらメイドに細やかな悪戯心が芽生えたらしい。
「! ! ! !」
主の視線が手の中のワイングラス―いつの間にか摩り替えられたドクロに釘付けになる。
緩やかに折り畳まれていた背中の翼が限界まで広げられている。
どうやら相当驚いたらしい。
再起動するのに時間のかかりそうな主を尻目に
メイドは表現出来ないほどの素晴らしい笑みで主の手に収まったドクロを回収し、グラスを持たせる。
さりげなく髪の匂いをかぐ彼女の姿をナハトは見なかった事にした。
吸血鬼らしい表情を思い付いたと言う主の妹に捕まり、ナハトは胸中で嘆息した。
適当にあしらおう物なら弾幕ごっこを要求されるのは目に見えている。
仕方ないにどんな表情かと問掛け、主の妹が得意気にやってみせたそれは
どこからどう見ても八重歯な口裂け女の様にしか見えなかった。
頭を抱えたくなるナハトを尻目に図書館の魔女からもそれらしいと好評だったと
誇らしげに(顔はそのまま)言った。
あのもやし魔女め、後でどついてやろう。
一日が終わり、憔悴しきったナハトの目にメイドと門番の姿がうつる。
壮絶な笑みを浮かべて、ナイフをばら蒔くメイドと悲鳴と共に針ネズミと化していく門番の
楽しそうな、参加は勘弁願いたいじゃれあい。
門柱にしがみついている息子に強くイ㌔と呟き、彼は笑顔で床と接吻を交した。
紅魔館は笑顔の絶えない明るい職場です
436
:
雹
:2008/12/05(金) 16:58:06
ガシャン、と陶器の割れる音が響き、藍色の破片が庭へ降り注ぐ。
「こりゃ、屋根は酷いことになってそうだな…」
硝子の器に盛られた白と黒の氷を口運びながら、銀髪の少女が呆れた様に呟いた。
「凄い雹ですからね」
少女の向かい、青い巫女服を着た少女がそれに同意する。
二刻程前からだった。
ひやりとした風が吹き抜け、いつの間にか広がった雲から大小様々な氷の粒が降り始めたのだ。
それからしばらくして山から里へ雲と雹が帯を描くように流れていく中、黒蜜を携えた少女が訪ねてきた。
「しっかし」
ばりぼりと音を立て、銀髪の少女が黒蜜をかけた雹を飲み込む。
「止まねぇな」
「あー…」
地面に落ちた拳大の雹を女は呆れ気味に見つめた。
ようやくと雹が勢いを弱めたと思い、軒を借りていた廃屋を出た途端であった。
「読み違えたかねぇ…」
一つにまとめた水色の髪を揺らめかせながら、紫煙を吐き出す。
背負った木箱を背負いなおすと深めに被った編み笠を片手に支え、歩き出す。
草木の影から奇妙な気配がちらつく。
「…そんなに人間臭いもんかね、あたしは」
笠を打つ音と煙を引き連れて、彼女は里へと続く道を進んでいく。
437
:
十六夜日記
:2008/12/07(日) 20:53:55
すいません。
何で出だしから誤ってるんだろう私。
しかも謝るを誤ってるし。
この前は寝不足でなんか暴走した文字列を並べてました。
夜に働く仕事をしてる関係で、昼に寝ないと体調がやばいのですよ。
あすみ? もう寝てます。
食うだけ食ったら速攻おやすみとは素敵な人生だ。あやかりたい。
お燐はあすみが眠った直後に姿を消した。
もともと「妖怪として」のあいつはあすみに飼われてるわけじゃない。
何でもどこかに飼い主がいるんだとか。
まぁ、「猫として」あのお子様の面倒を見てくれればそれでいいのですが。
夜になるといなくなると言うことは、私とやってることは大差ないのかしら。
その割にうちに食費はいれてくれませんが。
食うだけ食って失踪とか。
すばらしき哉HI☆MO。
さて、お仕事前なのでこんなところで。
今晩もがんばります。
438
:
冬の境内
:2008/12/13(土) 13:30:07
音が消えた境内を一通り見回し、早苗は溜め息をついた。
雪の落ちる音以外は何も聞こえない。まるでそれ以外の音が雪に喰われた様に。
と、そんな事を考えては見たものの、明日の雪掻きが大変な事には変わりはない。
こんな雪の中を参拝にくる粋狂は居ないと分かってはいてもやらずにはいられない生真面目な彼女はそんな事を考え―
降りしきる雪の中で茶色い皮のとんがり帽子を揺らしながらやってくる粋狂な者を見つめた。
聞けば、コートの内側に防寒用の呪を縫い付けた、冬用の代物らしい。
彼女はそう言うと帽子に積もった雪を払い、暖気に曇った眼鏡を外した。
―本やらゲームやらで大分視力が悪いんだ。
眼鏡を外した顔をまじまじと見つめていたのか、彼女は照れ臭そうに笑って見せた。
しばらく他愛もない会話し、思い出したように二柱への奉納品だという酒や食糧を早苗に渡すと彼女は帽子を被り直した。
もう行くのかと聞けば、吸血鬼の館にも用があると肩をすくめられた。
もうしばらくしたら、娘らが遊びに来るかもしれない。
暖かな室内から出るのは流石に抵抗があるらしく、靴を掃く傍らそんな事を口にした。
雪合戦でも誘うつもりなのだろうと、覚悟はしとくように、からかう様な声色をされたので
雪合戦は得意だと笑いながら返す。
音が消えた境内を一通り見回し、早苗は溜め息をついた。
雪の落ちる音以外は何も聞こえない。まるでそれ以外の音が雪に喰われた様に。
「早苗ー!」
雪の中で手を振り、自分を呼ぶ少女達に早苗は込みあげる笑みを隠さずに雪靴に足を通すのだった。
439
:
闇白
:2008/12/20(土) 13:06:26
※グロあり、苦手な方は閲覧ご注意※
※色々狂ってるのでそういうのがだめな方もスルー推奨※
※以上を踏まえて、自己責任でお願いします※
覚悟は出来ましたか?
ざくり、と降り積もった雪を踏みしめながら、ヤラは灰色の空を見上げた。
止む気配の無い雪が視界と彼女の痕跡を覆っていく。
ヤラは雪が好きだった。
溶けて土と混じった泥色の雪も無垢な白さを晒す雪も。
特に全てを飲み込み、容赦なく覆い被さる鋭さを持った吹雪なんて最高だった。
時間が経てば、流れ出た命の色も青ざめた肌も雪の白が全て隠匿してくれる。
握りしめた大鎌の刃は雪の白と命に濡れていた。
彼らは彼女と同じく外から来た種族だった。
手薄な辺境の惑星を蹂躙し、信仰という名の狂気を振りかざした輩だと何人かが顔をしかめて言った。
彼らが使うものは全てに命が宿る。
そう言ったのは、誰であったか。
ふとそんなことを思ったのは、彼らの前に舞い降りた時だった。
銃弾の一発に至るまで、命を宿した彼らを切り捨てる。
聖なる騎士達の探知すら通用しない彼らではあったが、そこに揺らめく命は隠しようがなかった。
どこにいようと、どんなに姿を隠そうとも。
彼女は、闇はどこまでも彼らを追いかけた。
そうして、銃弾の一発、鎧の一欠片に至る命を余すことなくそぎ落とした。
ヤラが思考の海に沈む間に刃の命は溶けた雪に流され、元の冷たい黒へと姿を変えていた。
辺りもすっかり雪に沈み、元の雪原へ戻っていた。
「・・・・・・」
改めて目の前のそれを見る。
両手両足をもがれてなお、憎しみと怒りに燃える瞳は衰えることなく、むしろ
更に暗い輝きを増しながら、彼女を睨み付けていた。
「後はあなただけね、何か遺言はあるかしら?」
息も絶え絶えに、口元から命を溢れさせながら―それでも男は呪詛を彼女へと投げつける。
「我らは、死を恐れない・・・貴様のような悪魔には、けっして」
そう言い放つ男の前に後ろ手に持っていたそれを転がす。
「・・・!!」
「強かったわ、彼女」
残酷な笑みと浮かべながら、ヤラは続ける。
「あなたと同じようにしても、目玉を抉り出してもなお、呻き声一つあげなかったもの」
もっとも、と足でそれを踏みつけながら、徐々に足に力を込める。
「最後はあなたのこと、呼んでたから興ざめだったけどね」
ぐしゃり。と雪の白が色を変える。
「化け物め・・・・!貴様だけは殺してやる・・・!」
その言葉にヤラは歓喜した。瞳だけで神の魂をも焼き焦がさん程の憎悪を持った男は
ようやく彼女と同じ場所へ堕ちた。
「ええ、今更気づいたの?」
これはきっと良い闇になる。
彼女は歪んだ笑みを浮かべたまま、鎌を振り下ろした。
440
:
帝都のクリスマス
:2008/12/25(木) 17:39:41
雪の降りしきるインペリアル・シティ。しかし、この寒い中どこも活気に満ちていた。今日は
クリスマスなのである。若者はイヴの夜に騒ぐものだが、敬虔な人々や常識のある人々は
今日がメインであることを知っている。色とりどりの玉やモールで飾ったクリスマスツリーに
ごちそうのチキン、年代もののワイン。実に楽しみな日である。
インペリアル・シティの中央に聳えるインペリアル・パレスも例外ではない。正門前の広場に
は巨大なツリーが飾られ、中央勤務や出張・報告・休暇などで来ていた高官達がパーティを
楽しんでいた。皇帝一家も同じように身内でささやかに行っていた。
祈りを済ませ、食事に取り掛かる。子供達の食欲は凄まじいもので、作法くらいは弁えてい
るものの、最初に用意した量では足りず、追加で作らせる羽目になった。そしてそれさえも平
らげてしまうと、興味は朝にサンタクロースが置いて行ったプレゼントに移り、各々の自室へ
と引きこもってしまうのであった。
「いやいや…ずいぶん食べるものだね」
「年に一度の特別メニューだもん、あれくらい食べてもいいんじゃない?」
食事が済んで、少々火照った体を冷やす為にバルコニーに出た皇帝が金髪で翼の生えた
妻に驚きの篭った声で話しかける。幼い妻もまた、子供達と同じくらい飲み食いしておきな
がら、そう返す。皇帝は手のひらを見せて肩をすくめるという仕草で更に驚いたことを示す。
「まあ、食べないよりはずっといいな。太りすぎも困るが…痩せ過ぎでは戦えない」
軍人出身らしく、戦いを引き合いに出して肯定するが、子供達に軍人としての道を歩ませよう
としていることも言外に含まれていた。
「おっと、子供たちにはあげたけれど…」
「ん、なぁに?」
内ポケットをまさぐる皇帝、おそらくプレゼントを渡すつもりなのだろうか。彼はこういったところ
にまめである。このことが多くの細君とうまくやっている秘訣なのだろう。
「はいっ。フィフティニー、メリー・クリスマス」
そう言って彼は丁寧にラッピングされた小包を取り出した。天使がリボンを解こうとすると、皇帝
が指でそれを制止し、バルコニー備え付けのテーブルの雪を払い、きちんと置いて開けるよう
に勧めた。
「ありがと…わぁ…」
「気に入って、いただけたかな?」
前にアクセサリーショップで見かけて気に入ったブローチだった。銀製で、品のあるデザインの一
品である。
「覚えていてれたんだ…」
「あの時は別のものを買ったけれど、君が帰り際に視線を送ったのに気づいてね。うん、こういう
ものは今日贈るのにぴったりだろう」
少し自慢げに話す彼だったが、彼女は嬉しかった。『浮気者』と友人達から囁かれる彼だが、今は
それを否定できる気がした。ちょっとしたことを覚えていて、それでこんな日に喜ばせてくれたのだ
から。
雪はまだ降っていた。ホワイトクリスマスの夜が静かに更けていく。
441
:
宴会を二人で抜け出して
:2008/12/25(木) 18:45:44
夜風でほてった頬を覚ましながら、何をするともなしに二人で夜空を眺めていた。
「きれーね」
「ああ」
下からは耐えることのない賑やかな音楽や人々の騒ぐ声が響いていた。
せっかくのハレの日だからだと言わんばかりに、集まった者達は歌い、踊り、手を叩きあって笑っていた。
半ば収拾のつかないそこで様々な者から勧められ、一体どれほどの量の酒を飲んだことだろうか。
そうして杯を重ね、微酔いを越えた頃に手を引かれ、宴会から二人で抜け出したのはほんの少し前。
「大丈夫か?」
アルコールでとろけた頭に声が心地よく広がる。
「ん、だいじょーぶ」
くすくす笑いながら背を預ければ、抱えられるように包み込まれる。
「わたし、あなたがすきだよ。髪とか声とか全部」
酔ったせいか、あるいは今日がハレの日だからか。
「私も、お前の全てが愛しい」
どちらともなく、唇を合わせ―
「ん?おい、馬鹿親父。王の姿がないが?」
「……………」
「…全くここでも馬鹿夫婦発生中か。
やれやれ、一族の集まりだから何事かと思ったがただのパーティとはな」
「……………」
「そうだな…それだけ余裕が出来たとも取れるな。
さて、親父よ。今一度乾杯でもしようか。
我らの王と一族の繁栄を願ってな」
442
:
年明け早々の冒険
:2009/01/01(木) 19:02:01
退屈な日常、神社の手伝い―、
それを抜け出しては街へ繰り出す日々―
だがしかし、悪事はばれるものである。
代わりに化けて働いていた人形が紙に戻り、帰ってくると父に怒られる日々。
そんな日々から抜け出したいと思った少女は、
近くに来ていた蒸気船の中に仲間とともに忍び込み―
そして蒸気船は動き出す、彼女らを乗せて
「大丈夫なん、あかり これどこまで行くん」
「大丈夫や聖、すぐ近くまでや」
―だが、その船は「めりけん」へ帰る船だった
そして、彼女らは太平洋を越え、「めりけん」へとたどり着く―
443
:
十六夜日記
:2009/01/10(土) 22:16:19
私の世界は灰色にまみれている。
変化の乏しい生活を揶揄してるわけじゃない。
恋愛色のない生活を自嘲してるわけじゃない。
世界は、文字通り、灰色に染まっていた。
いつからだったかな。
もう、一年くらい前になると思う。
空から灰が降るようになった。
灰色の灰。当たり前だけど。うん? 当たり前かな?
当たり前のように灰色の灰は、当たり前のように降り積もり。
私の世界を壊滅させていった。
一年。
「三年」しかない私の時間にとって、それは3分の1にもなる長い時間だ。
最初は雪かと思った。冬だったし。
けど、冷たくない。そもそもあんな薄黒い雪が降ってきたら、それはそれで大事です。
それは差された傘を黒く汚し。
頭を抱えて駆け抜ける人の頭を黒く汚し。
もともと薄汚れたアスファルトの道路をさらに汚し。
私の目に映るすべてを汚していった。
理由はよくわかってない。
どこぞの国から風に乗ってきた火山灰じゃないかって言われてるけど、根拠はないらしい。
何故、降ってくるかわからない。
けど、それは確かに降ってくる。
深々と。
世界そのものを、穢していくように
信仰心の篤いとある誰かが言った。
――七つの封印は解かれた。
――高らかに響き渡るはラッパの音。
――かくて、バビロンは崩壊する。
バビロンの大淫婦と貶められた私達は。
こうして歪められた世界の中で、それでも生きている。
444
:
※名前欄が空白です。匿名で投稿されます
:2009/01/11(日) 18:47:56
// この投稿は匿名によるものです--------------------------------
「こんにちは」
言葉を紡いでから頭を下げるまでの動きも流麗に。
玄関の先で両手を揃えて佇む少女は、そうして簡素な挨拶を述べた。
――その瞬間に空気の質が変化したことに、気づいているのか否か。
紫色の髪はこの国では稀有だが、十六夜にはどうでもいい。
彼女自身、その髪は光の遮られた海底のような深い蒼色をしている。
外見から年齢を判断すれば、十代半ばと言ったところだろうか。
だが、決してそんな安易な判断で計れるような存在でないことは、その怪奇な存在感から想像がついた。
十六夜の頬を浅く伝った汗も物語っている。
「…………あんた」
発せられた言葉は、砂漠において水を求める彷徨い人のように乾いていた。
「あんた…………『ナニ』?」
十六夜は問う。
外見では判断のつかないそのイキモノに。
「何、ですか。随分と哲学的な質問をするのですね」
妹と相性がいいかもしれないわね、と小さく微笑む。
十六夜は笑わない――笑えない。
それ以外の筋肉を即座に動かすよう研ぎ澄まされた神経が、頬筋を動かす余裕など与えない。
「この間、すぐ近くに引っ越してきまして。今日はそのご挨拶に」
言って、再び頭を下げる。
「古明地さとりと申します。お見知り置きを」
そのしばらく後に、十六夜は後悔する。
この時、この瞬間であれば、このイキモノを始末できたのではないかと。
そしてその直後にかぶりを振って嘆息する。
それでも、このイキモノを仕留める自分の姿は想像できないと。
// この投稿は匿名によるものです--------------------------------
445
:
※名前欄が空白です。匿名で投稿されます
:2009/01/11(日) 19:43:38
// この投稿は匿名によるものです--------------------------------
「じゃあ、あんたが……」
「ええ、お燐は私のペットです」
立ち話も何だからと、十六夜はさとりを部屋に招いた。
さとりは一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに目を弓形に細めて承諾した。
「あの娘から貴女の話は聞いていたので、遅れたけれどご挨拶を、と」
勘違いだったのだろうか、と十六夜は胸中で首を傾げる。
今、ここには十六夜とさとりしかいない。
あすみは外に出している。普段なら滅多なことでは彼女を独りで外に出したりしないが、
今は逆にこの空間に留まっている方が遥かに危険だった。
彼女が思った通りの相手であれば、
今ここで、十六夜の首を獲りに来ないはずがない。
十六夜を殺そうとする人間は、例外なく昼間を狙う。
彼女を殺すためには彼女を知る必要があり、彼女を知れば皆悟るからだ。
そして、今は昼下がりの、彼女が最も苦手な時刻。
「いや、むしろあすみの面倒を見てもらって助かってるくらいよ」
「あの娘が死体でない人間に興味を持つのは意外でした」
「したい?」
「こちらの話です」
言って、十六夜の出したお茶をすする。
やはり勘違いだったようだ。
でなければ、十六夜が出した茶を平然と飲むはずがない。
毒殺とはいかないまでも、心身を歪める程度の薬品ならグラムいくらで手に入る。
何の迷いもなく『敵』の出した物が飲めるとしたら、それは――
「――鋭いのね」
物思いにふけっていた彼女は、熟しきった果実のように濃密なさとりの笑みに終に気づくことはなかった。
// この投稿は匿名によるものです--------------------------------
446
:
材料
:2009/01/12(月) 07:48:07
曲がりなりにもナハトは男性型ダークマターだ。
女性の裸や下着姿に欲情することはないが―蒼星石は例外―、やはり抵抗感の様な物はある。
と、大量の洗濯物を干しながら、息をつく。
紅魔館、屋上部。
長くに続いた雪が止み、貴重な日差しの降り注ぐ中、シーツやメイド服、ドロワーズが風になびく。
(咲夜め)
その光景を見ながら、館内を掃除しているメイド長を思い浮かべる。
(奴には羞恥心というものがないのか)
あるいは自分が異性と見られていないのか。
「…ん?」
館内への扉の開く音にさては噂をすれば、と振り返る。
「…精が出るわね」
と、眠たげな目をした魔女。
「珍しいな、図書館のもやしっ子がこんな所まで出て来るとは」
驚きながら、手にした本へ目を移し―
「確かめたい事があるの」
すっ、とスペルカードを構える彼女にナハトは思わず後ずさる。
「あ、いや、物凄く嫌な予感がするから、あ、後色々仕事が」
「大丈夫よ、咲夜に正式に借りてきたから」
「だから」
スペルカードが輝きを帯び、展開される。
「大人しく材料になりなさい」
「あのやろぉぉぉぉ!」
逃げるように飛び去るナハトとそれを追う様に飛び立つ魔女が去った屋上には
『ダークマターを使った錬金術レシピ』の本とドロワーズが風に揺れていた。
447
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:2009/01/12(月) 19:42:09
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「あ、お姉ちゃん見つけー」
「こいし……! 何故、あなたがここにいるの?」
「お姉ちゃんのペットに教えてもらったのよ」
「そうじゃなくて」
「だってお姉ちゃんが人間に直接逢いに行くなんて中々ないじゃない」
「…とにかく、人の家にあがったら家主に挨拶くらいはちゃんとしなさい」
「はーい。
家主の人こんにちは。私はさとりお姉ちゃんの妹で古明地こいし。しがない訪問客よ」
一連の姉妹の会話が区切られるまで、十六夜は微動だにしなかった。
先程も浮いた汗が、思いだしたように頬をつぅ、と伝う。
それどころか背中にはびっしりと冷たい汗が噴き出している。
気がつかなかった。
信じられなかった。
まず真っ先にこれは夢だと思った。次に自分が壊れたのだと思った。
あり得ない。空から天使が舞い降りてきてラッパを吹き鳴らすくらいあり得ない。
今、この瞬間まで、確かにこの部屋には自分とさとりしかいなかった。
目の前の「自称妹」など、心音の一つさえ感じられなかったのだ。
――この家に侵入した人間を感知できなかった。
それは屈辱などではない。
十六夜は確かにプライドが高い方だ。自分の主張を批判されるのが大嫌いで、
あらん限りの語彙を尽くして相手の意見そのものを叩き潰す。また自己優位論信者で、
無意識にか他人を見下している節がある。
その彼女も、ことこれに関しては自分のプライドなど気にかけている余裕がない。
十六夜の全身をあますところなく駆け巡ったその感情は、
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:2009/01/12(月) 20:02:08
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「どうしたの? お姉ちゃんとしてたみたいに私ともおしゃべりしてよ」
「あなたが無作法に家に入ってきたから、腹を立ててるのよ」
「そうなの? 人間ってつまらないことで腹を立てるのね」
「…………れ」
「ん、なに?」
「…………もう帰ってくれない?」
息がわずかに荒かった。
寒い。浮き出た汗が体温を奪い、全身が小刻みに震えている。
「なんで? 勝手に家に入ったことは謝るから、私とも遊んでよ」
つまらなさそうに口を尖らせるこいし。
その横で、さとりがうっすらと笑みを浮かべている。
十六夜はそれきり何も言わない。
均衡する三人。
それを破ったのは、
「――そんなに私を怖がらないで、十六夜。
恐怖に覆われてしまったせいで、貴女の心がよく見えないわ」
それは小さな音だった。
カシン、という何かが軋むような音。
雑踏の中では確実に紛れてしまうその音も、張りつめた空間の中では
澄んだ水を打ったように響き渡った。
こいしはきょとんと目を瞬かせる。
さとりは首をわずかに動かし、表情は完全に無。
そして十六夜は、
さとりの眉間目掛けてシャーペンを放ったその体勢のまま、
猛禽のごとき獰猛な目つきで彼女を睨みつけていた。
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:2009/01/12(月) 21:29:53
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「『この場においてのつまらない冗談は死を意味する』、ですか。
それは知りませんでした。前もって教えてもらわないと」
「……読心か」
技術としては聞いたことがある。
相手の口調・目の動き・声の高低差など、些細な行動からプロファイリングし
相手が何を考え、次に何をしようとしているかを予測するのだという。
「そんな技術があるのね。ただ、あくまで予測でしかないようだけれど」
そう、技術としての「読心」は、相手の心理を読み測るだけだ。
だが、さとりの行うそれは、
「私の読心は能力としてのものよ。押し測るまでもなく、すべてが見えるの」
そうだろう。こちらが考えたことをそのまま言葉に出来るのだから。
「あ、ちなみに私は出来ないよ。第三の目を閉じちゃってるからね」
そう言うこいしの言葉は無視。
「なんで私のところに来たの?」
「先ほど伝えましたよ」
「もう一度聞こうか?」
十六夜の深い蒼の双眸が冴え冴えと輝く。
「――何が目的で、私の領域に踏み込んだ?」
すっ、と十六夜の手が動く。
その手の動きの延長線上にあったクッションが、前触れもなく引き裂かれた。
まるで鋭利な刃物で断ち切られたように中身をぶちまけるそれに、
最も近くにいた十六夜は目もくれない。
「おぉっ。え、何今の? あなたがやったの?」
一人状況から取り残されているこいしは、眼前で展開される殺意混じりの応酬から
離れ、完全に傍観に徹している。少なくとも、心配や怯えといったものは見られない。
「駄目ね。力の誇示が目的ならともかく、意思なき力の発露は暴走としか言えないわ」
「意思を持った時は、あんたの首が刎ね跳ぶ時よ」
「……ふぅん、そう。貴女にとって、この部屋こそが『聖域』なのね」
「質問に答えろ」
音が聞こえるほどの歯軋りが十六夜から漏れる。
温度が上がる十六夜に対し、さとりはどこまでも空虚だ。
「深い意味はないわ。お燐の話を聞いて、少し興味を持っただけです」
「なら今すぐ帰れ。それか死ね」
「どちらもお断りよ。ようやく貴女の中が見えてきたところですもの」
それではもう一つ、と、
「十六夜。貴女にとって、『彼女』は何?」
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450
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:2009/01/13(火) 22:04:14
// この投稿は匿名によるものです--------------------------------
「お燐から聞いたわ。『彼女』を見つけた直後に貴女に襲われたって」
「人間とは思えなかった。喰い殺されるかと思ったそうよ」
「あの娘は仮にも私のペット。ただの人間ごとき、餌にこそなれ脅威になんてなり得ない」
「だから貴女に興味を持ったの」
「妖怪を喰い殺そうとする人間は、何を想うのか」
「そうそう、お燐はこんなことも言っていたわ」
――その姿はまるで、奪われた子供を奪り還そうとする母猫のようだった。
言葉の羅列を、一音一音噛み締めた。
ついさっきまで滾っていた衝動はすでに無い。
まるで表を向けていたカードがひっくり返ったような、幽まり還った裏の顔。
視線はさとりを向いている。
否。十六夜の視界には、もうさとりしか映っていない。
彼女の目が見える。鼻が見える。口が見える。髪が見える。
首が、指が、肘が、胸が、腹が、脛が、足が見える。
そのすべてが――もう、ただの物体としか映らない。
「……そう。それが貴女の深淵。貴女の根底。貴女の中にある最も古き原風景なのですね」
十六夜の手には、傍らに立てかけられていた棒状の物体が握られている。
それは何の飾り気もない棒に過ぎなかったが、見ようによっては「杖」にもとれた。
構えるでもなく、中程を掴んでぶら下げる。
さとりが陶然とした笑みを浮かべて言い放つ。
前触れなく、視覚が支配する世界そのものを置き去りにした神速がさとりの胴体を薙ぐ。
そして、
// この投稿は匿名によるものです--------------------------------
451
:
いざます
:2009/01/13(火) 22:30:07
最近記憶と記録は違うことに気づいたので、
書き残すという所作をしておきたいと思ったり
十六夜の怒りのボルテージは二段階
一つは十六夜自身の領域を侵された時
二つは『彼女』に干渉された時
ただしどちらも源泉は同じ
さとりんが見た「原風景」の中に、すべての理由が存在する
452
:
十六夜日記
:2009/01/13(火) 22:44:35
心が読めるってどういう気分なのかしら。
こんばんは。十六夜日記のお時間がやってきました。
パーソナリティの十六夜です。
今日もハイテンションにクールダウンしていきましょう。メメタァ! メメタァ!
すいません、私の脳が溶けてました。
この前、心が読めるっていう古明地さとりという少女に会いました。
最近、引っ越してきたらしい。
会ったその日に思ってることをズバズバ言いあてられました。
うん、キモイって思ったことまでバレましたかっこほし。
周りからもけっこう敬遠されるらしい。そりゃそうだ。
事の発端は、さとりん(小五ロリと呼ばないだけ優しい私)がお燐の飼い主だったってところに始まる。
お世話になってます的な挨拶されたの初めてですよ私。
お世話なら某タダ飯食らいを毎日のようにしてるというのに!
あははははすいません考えたらまたムカついてきました。
あのお子様と来たらちょっと目を離した隙に飯をこぼす水をこぼす洗剤をこぼすと(ry
まあそんなこんなで妙に我が家の人口密度が増えつつある今日この頃。
追記:
バカな友人が最近うちに入り浸って半ヒモ化してます。
こいしのペットになりたいらしいです(こいしはこいしで何故かよく来る)。
…こいつを引き取ってくれる業者ありませんか? お金なら出すので。
焼却処分とかしてくれるとなおいいです。あ、保健所でも構わない。
453
:
十六夜日記
:2009/01/26(月) 22:29:51
最近、正義って単語をよく考える。
正しいって何かしら。
私の正しさは、私以外の誰かの正しさになるのかしら。
まぁ他人の正義には興味ないんだけどね。
454
:
名無しさん
:2009/01/27(火) 21:48:25
【正義】
1.人の道にかなって正しいこと。
2.正しい意義、また正しい解釈。
3.人間の社会行動の評価基準で、その違反に対し厳格な制裁を伴う規範。
【Yahoo広辞苑より】
正義ってそもそも存在しないと思う。2の意味でならともかくも、だ。
というより、2の解釈でさえ、存在しないのではないだろうか。
正義って、なんだろう。その対極にある悪って、なんだろう。
自分は、何が正義で、何が悪かなんてわからない。
恐らく、生きていても一生わからなそうな、
絶対に理解できないと思う。自分が不器用だから、とかそんな次元ではなく。
いったい正義ってなんなんだー!教えてくれト○ロー!
エリ「待て、なんでトトロなんだ」
455
:
十六夜日記
:2009/01/27(火) 23:13:56
何か晩御飯を作るのがめんどいです。
うちにはタダ飯のくせに大食らいのおガキ様がいらっしゃるので、
それでも作らないわけにはいかないのだけれど。
コンビニの出来あいで済ませようとすると、メチャメチャ怒り出すし。
「おなかすいたー、ごはんだー」とか言ったら
満漢全席が出てくるようなおうちに住みたいです。
456
:
十六夜日記
:2009/01/28(水) 22:15:17
風気味のような気がします。
間違えました。別に身体が昇華しつつあるわけではありません。
いやそれはそれで面白そうというかオラワクワクしてきたぞ!
まぁ風邪っぽいだけなんですが。
幸いこういう時に潰しがきく職業だったりするし。
今日はお仕事に出るのはやめておこう。
457
:
アホくさい話
:2009/01/29(木) 19:58:30
「おー、すごいすごい。流石ダークマター。
外の武器でも全然大丈夫なんだねぇ」
地面に転がった残骸を見下ろしながら、ドロシーはいつもの様に煙草に火をつけた。
「まあな」
対するナハトも黒光りする鋭い鈎爪をした手甲をマントの中へとしまいながら、ほぅと息をつく。
足元には彼が壊したであろう武器がごちゃごちゃと散らばっていた。
「それにしても、流行りなのか?こういう連中」
再びマントから出した―先程とは違い、革の手袋をはめた手で地面を指差す。
「天意は我等にありだとか言いながら、買い物帰りの者を襲うのは
相当気がおかしいか、馬鹿の様にしか思えん」
その言葉にドロシーは肩をすくめて、同意するように苦笑した。
「里でも大分白い目で見られ始めてるみたいねぇ。
実は妖怪だけでなくて、反対する輩まで殺してるんじゃないかって噂あるくらいだし。
言ってることもやってることもカルト教団並…もっと言うならナチスとかそれっぽいねぇ。
その内、原爆で幻想郷吹っ飛ばすんじゃないかしら?くすくす」
そんなことに興味はないと言わんばかりに背を向けるナハトにドロシーが口を尖らせる。
「まあ、あれよあれ。
自分らのやってることは絶対間違っていないとか言って
正義なんてものを振りかざすのは迷惑極まりない事はないって事。
民族浄化とか霊長の長とか思い付くんだから人間ってアホよね、アホ。
あ、でも紅は別よ、別格」
そうして、ふといつの間にかその場から姿を消していたダークマターに軽く舌打ちをし、
その場をぐるりと見回して、首だけでも持って帰ればいいもんかねぇと一人呟いた。
458
:
十六夜日記
:2009/01/29(木) 23:25:46
ん〜、まずい。本格的に身体を壊したかも。
立ち上がるだけで目眩がする。吐き気がする。
こんな時に限って古明地姉妹は姿を見せない。
姉は間違いなく状況を悟っているに違いないというのに。薄情者め。
それでもあすみには飯を食わせなきゃならない。でないと我が身が危うい。
しゃーない、あいつを呼びませうか。
459
:
トラジャをレギュラーで
:2009/02/01(日) 11:26:28
遠い昔、遥か彼方の銀河系で…
大雪が降った次の日のインペリアル・パレスは積もった雪で白く輝いていた。
その雪化粧をした宮殿の一室で皇帝と皇后がミニテーブルを挟んでコーヒーを
飲んでいた。別の銀河、遥か未来を生きる友人達の見解をつまみにしながら。
「正義ねぇ…便利な言葉だ。私も愛用している」
「お前も段々、政治家になってきたんだな」
銀河内乱、ユージャン=ヴォング戦争、ルウィック解放戦争、その他諸々の
帝国への脅威に際して、彼は臣下や市民達に繰り返し正義を説いてきた。
それらは全て自分を正当化する為の飾りに過ぎなかったのだろうか。
彼の糟糠の妻も、少し哀しさを孕んだ口調で返した。
「政治やってるんだ、プロにならなきゃまともな仕事ができない。そうなると市民達の
代表たる議員達が帝室関連予算という名の私への給料を支払うことに同意しない
だろう」
「給料という言い方はどんなものだろうか」
何かをやるにはその道のプロフェッショナルでなければならず、プロには正当な対価を
受け取る権利があるという彼の考え方らしい発言である。しかし、封建社会で育ち、
王家への忠誠ということを幼少より教育されてきた彼女にはいまだに受け入れにくい
考え方である。
「父親が官僚、自分は軍人出身なのでね。まあ、リップサーヴィスに終わらせるのも
また問題だろうけれど。私は現実を見据えて行動するが、砂を噛むような暮らしは
嫌だね」
「で、お前の正義とは何だ?」
彼が正義という言葉は飾りではないということを匂わせた発言にすぐさま彼女は
飛びついた。冷めたように見られがちな皇后だが、内面を知る者は彼女の内に
熱いものが流れていることを知っている。今回もそれが働いたのだ。
「大きく言えば、帝国統治下における秩序正しい社会の維持と発展。小さく言うなら、
こうして君とコーヒー片手に話ができる毎日の維持。これを乱す愚か者はフォースと
1つになってもらう」
つまり、彼には平穏な毎日が正義なのである。統治者としてはまず及第点の答え
であろう。そして、妻たる皇后は文句無しの満点を与えていた。
「コーヒーが切れたな、まだ死にたくないから私が淹れてこよう」
「ふふ、君も淹れ方うまい方だからね、楽しみにしているよ」
コーヒーを淹れに行った皇后の表情は目尻と口元がわずかに緩んでいた。
460
:
朝焼け、黄昏、宵の口
:2009/02/10(火) 12:36:57
まだ夜も明けきらない頃でも様々な人々が居た。
これから仕事へ行く者、ようやく帰路につく者、それぞれの場所へ彼等を運ぶ者。
まだ肌寒い空気の中でマスクから鼻を出して、紅は空を見ていた。
微かな星の残る藍と太陽を連れて、空を染める橙が彼女の最も多く見掛ける空の色だった。
周りは下を向いて、電車を待つ中、紅だけはじっと空を見つめていた。
いずれはこうして見上げる事すらなくなるんじゃないんだろうか。
信号待ちに自転車を止め、ふと見上げた空でアサヒはそんな事を思った。
沈む夕陽を受けて、茜や黄金へ染まった雲の背後から群青色の空が忍び寄る。
そういえば、あの隙間妖怪はそろそろ目を醒ますのではない。
空で混ざりあった、昼と夜の境を見つめながら、彼女は思い出したようにペダルに足をかけた。
湖面の月を肴に神奈子は一人、杯を重ねていた。
外の世界が何時かに忘れてきた空で星と月が宴と洒落込んでいた。
その様を懐かしげに眺めながら、杯へ酒を注ぎ込む。
懐かしきかな、と呟けば、年寄り臭いと声があり
確かに違いないといつの間にか隣に腰掛けた旧い友と杯を交わす。
移ろう空と人へ思いを馳せながら。
461
:
十六夜日記
:2009/02/11(水) 08:55:43
やっと風邪が治りました。
というか、風邪じゃなかったみたいです。インフルエンザとか、なんかそんなの。
決して拾い食いして中ったわけではありません。ないんだからねっ。
その間お仕事にもいけなかったため、家計はそろそろ妖怪死体盗みです。
病み上がりだけど、今日は久し振りに頑張ろうかと思います。
462
:
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:2009/02/11(水) 08:57:17
// この投稿は匿名によるものです--------------------------------
灰が降る夕暮れ。
などと評しても、しょせんは現在の時刻から晴天時の空模様を推測しただけであり、
今日のような『どしゃ降り』の日は日中を通して宵闇と変わらない。
雨よりもはるかに厄介な灰雨は、必然的に人の往来を抑制する。
空気の抵抗を受けて中空をちらつくその様はさながらドス黒い雪のようで、
だからだろうか、水を打ったように静まり返った通りにもそれほど違和感を覚えない。
自分独りだけ残して死に絶えていった世界。
取り残された自分の中に取り残された感情は、さて。
茫洋と、他愛もないことを思い連ねる、そんな黄昏時。
「まぁ、そういうものなのかもしれないけれど」
行きつけのスーパーマーケットが潰れていた。
現状を一言で表すと、その程度のことでしかない。
自然と当然の境界に遍在する、荒廃という名のバックグラウンド。
その原因が暴徒の集団による集団強盗であったとしても、その程度の範疇を超えることはない。
「……どうするかなぁ」
頭をかく。
――約束を、してしまっていた。
今日の晩御飯はハンバーグにすると。
// この投稿は匿名によるものです--------------------------------
463
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※名前欄が空白です。匿名で投稿されます
:2009/02/11(水) 08:58:53
// この投稿は匿名によるものです--------------------------------
あすみは特に好き嫌いなく何でも食べる子だが、それでもとりわけ好むものが2つある。
その1つが、ハンバーグだった。
最近体調が優れなかった十六夜は――仕方がないとは言え――、
出来あいの総菜で何とか夕食という体裁を保たせていたのだが、
「…………………………………………………………ごはん、違う」
あすみにはそれが大層不満だったようで、三日目あたりから夕飯時になると
十六夜をぺしぺし叩き何かを訴え出すようになった。
ようやく復調した時にはすっかりへしょげてしまい、十六夜が台所に立つのに合わせて
部屋の隅にちょこんと丸まり、「いいの晩御飯がお惣菜でも私は大丈夫」とでも
言わんばかりの表情でうずくまるという有様だった。
これがあすみなりの「甘え」であることは十六夜も理解している。
そもそもあすみに食での好き嫌いなど存在しない。
食べられるものなら、究極的には何でもいいはずなのだ。
だから、あすみはレパートリーそのものに不満があったわけではない。
ないがしろにされていると思ったのだろう。
あすみは幼いが、だからこそ最も身近な存在からの愛情には敏感だった。
「ここが使えないとなると、割と遠くまで行かないと肉買えないんだよなぁ」
自動ドアだったガラス戸は踏み割られた水溜りの氷のように地面に散乱し、
まだかすかに灯る蛍光灯の光が断末魔の明滅を繰り返している。
中にはすでに灰が積もり始めているようで、わずか数日の間にここは
疑う事無き廃墟と化していた。
それに対する感情は、やはりない。
だが、それは向けるべき矛先が見当たらなければの話だ。
// この投稿は匿名によるものです--------------------------------
464
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※名前欄が空白です。匿名で投稿されます
:2009/02/11(水) 09:02:59
// この投稿は匿名によるものです--------------------------------
無人と思われた廃墟から、男が飛び出してきた。
この時勢に路頭に迷ったホームレスのようだ。灰で真っ黒になった衣服を見ればわかる。
その両手には、やはり灰で煤けてはいるものの食料を山ほど抱えている。
いわゆる火事場泥棒の類型か。
向こうもすぐに十六夜に気づいたようで、先んじてやったとばかりに
したり顔を浮かべて彼女の脇を駆け抜けていこうとした。
――夢にも思っていなかっただろう。
交差する瞬間に、痛烈な速度で顔面を殴打されるとは。
「今日はいいとしても、明日からどうしようかな。あー、めんどい」
ぎじぎじぎじ! と錆びたカッターの刃を伸ばすような音を立てて、
男がアスファルトの地面を滑っていく。
十六夜は軽く嘆息して、男を殴り飛ばしたのとは反対の方向に歩きだした。
「はんばーぐだー」
ここ数日見ることのなかった満面の笑顔が食卓を彩った。
十六夜が作っている最中から大はしゃぎで、包丁を使っているから危ないと言う
十六夜の言葉も聞かずに跳ねまわり、お燐に抑え込まれてやっと落ち着くという有様だった。
「いい加減『いただきます』くらい覚えなさいよ、もう」
食卓に並ぶなりハンバーグにフォークを突き刺すあすみ。
十六夜はうんざりしたように溜息をついているが、ここまで喜ばれれば無論悪い気はしない。
喜びと苛立ちと諦めが入り混じったその複雑な表情は、時に「人間凝固点」とも
揶揄される凍結した表面世界に短い春が訪れたようだった。
十六夜がこれほどの親愛を浮かべられることを知る者は、ごくごくわずかである。
「おねーさん、私の分は?」
「ごめんなさいね、生憎キャットフードは置いてないの」
「ほしければ奪い取れ、ってことかな?」
「『略奪』はご自由に。その代わり、髭の2・3本は覚悟しときなさいよ」
// この投稿は匿名によるものです--------------------------------
465
:
にゃーにゃー
:2009/02/11(水) 10:37:38
またいつもの病気が始まった。
歯ブラシをくわえた姿でドロシーは肩から服がずり落ちる様な気がした。
縁側に腹這いに寝そべり、至福の表情で猫缶片手ににゃーにゃー言う女性の前には見たこともない艶やかな毛並の黒猫が一匹。
ニャーン。
家の人間の中で特に筋金入りの猫フリークたる彼女は黒猫の美声(多分)に背後に花を背負いながら、
手慣れた手つきで猫缶を発泡スチロールのトレーに盛り付ける。
「可愛いねぇ、お前。何処かのお家の子なの〜?」
これは酷い。
がつがつと猫缶にがっつく黒猫にメロメロな女性。
背後の花がいつの間にかハートマークに変わっている。
そこまで好きか、猫。
「あんまりお家の人に心配かけたら、駄目ですよー」
何やら切なさで胸がいっぱいになりかけ、ドロシーは熱くなった目頭を押さえながら
洗面所へと向かい始めた。
―モンプチの裏―
猫猫にゃーにゃー
―モンプチの裏―
466
:
十六夜日記
:2009/02/11(水) 19:35:05
時々、夢を見ることがある。
それは露頭を彷徨ってた時のものだったり。
いつかどこかで見たような奴に復讐されるものだったり。
無愛想で百合っぽくて電波になるものだったり。
んー、なんか今の私って案外幸せだったりするのかしら。
夢の中の私は、何だかいつも退屈そうにしてる気がする。
それとも私は端から見たら、そんな雰囲気を醸し出してるのかしら。
他人から見た自分のことはやっぱり自分じゃわからない。
好きなことを好きなだけしてれば幸せ?
やりたいことをやりたい時にできれば幸せ?
んー、少なくとも私は好きなこともやりたいことも出来てないよなー。
ほら私の夢ってこの可愛さを活かしてアイドルにすいません何でもないです。
あ、だから私って端から見たら悲愴感とか漂ってるのかも
やりたいこと、やりたいだけしてみようかなー。
467
:
十六夜日記
:2009/02/11(水) 23:08:09
今日は久々にあすみと買い物に行きました。
久々なのは、あれと一緒に出かけるとロクなことがないからだ。
とにかくどうしようもないほどにお子様なあすみは、お子様全開で火の粉を振りまく。
手を離すと5秒で彷徨いだす。
目を離せば10秒で行方不明だ。
その度に迷子コーナーを探す私の身にもなってほしいものです。
話がそれました。
さっきも書いたようにあすみを目を離すとどこにいくかわからない。
だから間違っても何かを頼むことなんて出来ない。
「たまねぎ探してきて」と頼んで、何度あすみを探すことになったことか。
そもそもあすみは満足に数を数えることが出来ません。
何しろ、年を聞けば「え〜と、823さいー」とか答える始末だ。
何ですか823歳って。私より800歳も年上ですか。
そんなわけだから、私は頑なにあすみの手を離すことなく
妙な緊張感を漂わせて買い物に臨まなければならないのでした。
明日は、いつも通りあすみが寝てから出かけることにしよう。
468
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:2009/02/12(木) 22:16:33
// この投稿は匿名によるものです--------------------------------
ぱあん、と肌と肌が跳ねる快音が響く。
弾丸のように打ち出された十六夜の右手が、さとりの顔面を鷲掴みにする。
さとりは無表情。
しかし、それ以上に十六夜は無表情。
「無駄です。心が読める私に、得意の「外人想」は通じません」
「心が読めるならわかるでしょう。何も人の心を弄ることだけが能じゃない」
「あなたは私に嘘をつく無意味を学ぶべきね。
意地とは、相手に真意を悟らせずして初めて張ることが出来るものよ」
「――死ぬか、お前?」
「片腹痛いわ。 ――瞎(めくら)な眼で、私の『さとり』に抗おうなんて」
十六夜が左手の人差し指を立て、さとりの白い首にひたりと当てる。
そして、
――表象「夢枕にご先祖総立ち」
「はいはーい、そこまで」
スペルカードを掲げたこいしが、口を尖らせ拗ねたような口調で言う。
「私一人を置いて二人だけで遊ぶなんてずるいよ。やるなら、私も混ぜて」
その完全に場違いな物言いに、毒気を抜かれた十六夜がさとりを離す。
「妹に感謝しなさい、古明地姉。あと3秒止めるのが遅ければ、あんたの首は、」
すっ、と自分の首を掻き切るしぐさをとり、
「――こうだったわよ」
一方のさとりは、薄く笑みを浮かべるだけ。
「もう、せっかくのお出かけなんだから仲良くしようよ。ね?」
「私の仕事に勝手についてきてるだけでしょうが」
嘆息する。
// この投稿は匿名によるものです--------------------------------
469
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:2009/02/12(木) 23:19:55
// この投稿は匿名によるものです--------------------------------
十六夜の仕事は夜始まる。
理由は簡単。昼では困るからだ。
人目につくのを憚る仕事は、夜にするものと相場が決まっている。
「今日もいい夜ね――星の光さえ差さない」
外灯などとうの昔にその機能を放棄した夜の街、月明かりすら灰に遮られた世界は
己の手指さえ判別できない闇で彩られていた。
そんな沈みきった世界に溶け込むような、烏の羽より薄黒い男物の外套を羽織った
十六夜は、言葉とは裏腹にすべてを嫌悪する鬱な光をその瞳に湛えていた。
「それにしても」
つと、思いだしたように視線を向ける。
「妖怪――ね。そんな生命体が実在するとはだわ」
肩をすくめるように、さとり。
「あら、別に珍しいことではないでしょう? ――『貴女の世界』では」
「私の世界、ね」
吐き捨てるように。
「くだらない記憶だわ。3年より前のことなんて思い出すだけで反吐が出る」
「そうかしら? 少なくとも、今よりはまともな生き方が出来てたようだけど」
「まともだったけど、人らしくはなかった。
――当たり前のように人の心を読むな」
思い出したように、最後にそう付け加える。
「ま、それならあの猫娘的存在も納得がいかなくもないけど。
火車――死体運び。なるほど、この世界に化けて出るにはうってつけね」
「幽霊とは違うわ。化けて出たりはしない」
「同じことよ。『迷惑来訪者(ナイト・ノッカー)』に変わりはない」
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470
:
※名前欄が空白です。匿名で投稿されます
:2009/02/14(土) 22:59:38
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風が吹く。否、風が吹き続ける。
それは十六夜を中心にして、ごく小規模な竜巻を成している。
その風に吹き散らされ、黒灰は一欠片さえ彼女に触れることはない。
「大体、あんた達はいつまで私の周りをつきまとうわけ?
お燐はあすみが気に入ってるから我慢してるけど、その飼い主にまで敷居をまたぐ権利を与えた覚えはないわ」
「そうね。権利を与える権利なんて貴女にはないもの」
「私はあなたをペットにしないといけないし」
「勝手なところだけはそっくりね」
つと、見上げる。
そこは幾重にも連なるビル群の一角。世界中のどの樹木よりも高く、無様に聳える
無機質のジャングルは、人間の愚かさでも象るかのように闇夜の空を切り崩している。
人の通りはない。そもそも、人が通るところではない。
あたりは水に沈んだように静まり返っている。
音すら飲み込む空虚な世界に、ただずむ生物が3匹。
――そこに混じり出した音は、ちょうど落ち葉が吹き流されるそれに似ていた。
降り積もっていた灰が、十六夜を「目」として吹き荒れる。
「つきまとうのは自由だけど」
ふいに――世界が、「壊れた」。
無機質の建築群に順応した十六夜の心象世界に、
まるで老朽化したコンクリートに走る亀裂のような、
罅割れた笑みが、灯る。
バキバキと音でも立てそうな程に歪んだ瞳が、
「――追いつく頃には、もう終わってるわ」
消えた。
十六夜の姿もろともに。
次いで、遥か上方から鳴り響く破砕音。
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471
:
※名前欄が空白です。匿名で投稿されます
:2009/02/15(日) 09:48:18
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あらかじめ結果を把握していたさとりは、こいしの手を掴んですぐ脇の建物に飛び込んだ。
二人の立っていた場所にバラバラとガラスの破片が降ってくる。
「空も飛べるんだー、あの人間。ますますペットにしたくなっちゃった」
十六夜は、ビルの10階の窓をぶち破って飛び込んだ。
だが飛んだ、という表現は正しくない。
十六夜は「飛んだ」のではなく――「跳んだ」のだ。
「さ、私達も追いかけよ、お姉ちゃん」
「待ちなさい、こいし」
何の躊躇いもなく追いかけようとするこいしを、さとりは静止させる。
「十六夜を追いかけてはいけないわ」
「何で? こんなところにいてもつまらないよ?」
「むざむざあなたを殺されるわけにはいかないもの」
さとりはきょろきょろとあたりを見回した。やがて無造作に並べられたドラム缶を
見つけると、ぱたぱたと手で埃を払ってちょこんと腰かける。
「あれは多重人格というよりも洗脳に近い。
黒を白に塗りかえる類の催眠暗示なら、私も心得があるけれど。
――自分に使うなんて発想はなかったわ」
その瞬間を垣間見た時は、他人の心に触れ飽きたさとりでさえ頬に冷や汗が浮かんだ。
たった一つの意思だけを特化させた、純粋に歪んだ心のカタチ。
「人間はずいぶんと軽んじているのね――命というものを」
さとりは認める。それは動揺といえるものだ、と。
他者の心に踏み込むことに抵抗などないが、一線を越えてはいけない世界もある。
久々に、それを痛感させられた。
「だからこいしも――こいし?」
いつの間にか、あたりに自分以外の気配がなくなっていることに気づく。
思わず舌打ちする――無意識の領域に独りたたずむ、こいしの特性を失念していた。
「こいし、こいし!」
どこに行ったかなど考えるまでもない。十六夜の後を追ったのだ。
慌ててこいしを追おうとする。最悪の可能性が想起されることのないように。
その時、さとりの頭に誰かの心の声が聞こえてきた。
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472
:
戦場の匂い
:2009/02/28(土) 09:51:15
各地で上がる灰色の煙に濁り、澱んでいる空は、夜だというのにまだ明るかった。
灼熱の炎に空までが赤く焼かれ、空は一行に藍色に戻る気配はなかった。
時間などわからない。わかるのはただ、砲撃の音、光、炎の光、煙の色といったものばかり。
地にはただ死体が転がり、誰のとも知らないヘルメットがそこにあるのみだ。
そんな戦場を四人の女性たちが戦車で偵察に来ていた。
漂い、戦車の中にまで入ってくる死者の匂いを嗅ぎながら、
彼女たちはたった四人で荒んだ戦場に来ていた。
「うわ、こりゃひでぇ 一体何があったんだ?」
「大きな戦いがあったのはわかるけど…私たちが来るまでに一体何が…」
実は数時間前まではこの『戦場』は一つの『街』だった。
古き良き時代を捨て、すべての物をハイテクにした、有名な街。
工業用水の排水や、工場から出る煙による汚染という問題を抱えつつ、
街は大きく発展していった。だが、それがいけなかったらしい。
この街は「とある物」を開発した。それが何だか知らないが―。
とある用事で彼女らは立ち寄ることになったのだが、
もう既にそこに『街』はなく、あるのは『戦場』だった。
横たわるのは市民の体ばかり、一体誰がこんなことをしたのか想像もつかなかった。
だが、彼女らが乗るグラントの前には誰も現れることはなかった。
死体を除いて…。
473
:
※名前欄が空白です。匿名で投稿されます
:2009/02/28(土) 23:48:53
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彼女の宣言通り、こいしが追いつく時にはすべてが終わっていた。
こいしは空が飛べる。跳べるのではなく、飛べる。
十六夜の侵入プロセスとまったく同じ経路を使い、窓から入ったのだ。
その間など、1分程度しかなかっただろう。
その空間には暗欝が立ち込めていた。
――それはぶち破られた窓から吹き込む細かい灰のせいであり。
黒灰は風に散ると黒い霧のように空気中を漂う。
そのため、余程のことがあっても住人は窓を開けない。破壊されれば話は別だが。
――それは破壊された照明のせいであり。
20畳以上はある空間は、ところどころ破壊された照明によって
あたかもスポットライトのように局所的に照らし出されている。
薄明かりから漏れる世界には、蹂躙の爪痕が深く刻まれていた。
それはもとからだったのかもしれない。
打ち捨てられた廃ビル群の一角にこのような光景が広がっていても不自然はない。
だが、そこに立つ少女は、一種異様な不自然をまとい超然とそこに立っている。
――そして、それはあちこちから聞こえてくる怨嗟のせいだった。
どれほどの数の人間がここにいるのか――あるいは、いたのかはわからないが、
聞こえてくる声の数はそれほど多いものではなかった。
それは言葉と呼ぶには意味がなく、叫びと呼ぶには弱々しい。
それらを平然と聞き流し、こいしはじっと十六夜を見つめている。
口元に、いつもの無垢な笑みを浮かべながら。
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474
:
※名前欄が空白です。匿名で投稿されます
:2009/03/01(日) 00:40:49
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嫌われるのが怖かった。
そんな、知能ある生き物としてはごく自然の考えが、古明地こいしの運命を決定づけた。
さとりと同じ第三の眼を持つこいしは、しかしさとりのように人の心を読むことはできない。
それは、こいしが己の第三の眼を閉じてしまったからだ。
心を読む能力は他人から疎まれる。
それを身をもって――そして姉の姿を見て理解していたこいしは、
自分の能力を封じ込めることで輪の中に混じろうとした。
嫌われたくなかったから。
だが、その結果として彼女を待っていたのは、知覚世界からの追放だった。
誰も――実の姉でさえも、能動的にこいしを知覚することはできない。
能動的とは、つまり自らの意思でという意味だ。
こいしから話しかける分には、意思の疎通は出来る。
だが、その逆はかなわない。
彼女の意識は無意識へと堕ちた。
絶対的な「無意識の領域」には、彼女以外は足を踏み入れることも出来ない。
嫌われたくないという意識が生んだ、孤独(むいしき)という名の安息。
だが、それを厭う心(いしき)すら、彼女にはない。
こいしは無垢に笑う。
何も知らないというような表情で。
――故に、その瞬間に十六夜が振り返った理由は。
――こいしの気配に気づいたからなどでは、断じてなかった。
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475
:
天空カフェで一時を
:2009/03/02(月) 14:07:57
凄い場所でお茶をしない?
そんな風に早苗を誘ったのは銀髪赤目の少女で。
空と星との境を一望出来るという場所の話を聞いた時だった。
大袈裟な程の身振り手振りを交えて話す彼女に同意するよう頷き、呟いた。
―私もいつかその眺めを見てみたい。
テレビでしか見たことのない星の姿へ馳せた想い。
胸の内に渦巻く故郷への想いが早苗にそう呟かせたのだろう。
それなら、と少女が腰かけていた縁側から立ち上がり、夕陽を背に振り返る。
―今度、皆で一緒にそこに行こう。
まさしくそこは、星の世界と空との境界だった。
眼下に地球の蒼を従え、頭上には手を伸ばせば届きそうな星が輝く。
最も自身が作り出した疑似空間だと肩をすくめる絵画の魔女の隣で眼鏡の女性が
それにしたって、最高の眺めだと笑う。
隙間妖怪が何処からともなく洒落たティーカップを取り出せば、メイドが菓子と紅茶を取り出し、
二人の吸血鬼と魔女が椅子へと腰掛ける。
「ようこそ―」
演技がかった仕草で銀髪の二人が揃って早苗におじきする。
「天空カフェへ」
「という夢をみたんですよ」
476
:
※名前欄が空白です。匿名で投稿されます
:2009/03/02(月) 23:29:08
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相手の姿など見ずとも、踏み込む気配だけで力量は知れた。
十六夜の「射程距離」ギリギリのところで足を止める所作。
こちらの動きを警戒しつつも、振る舞いそれ自体が十六夜への牽制となっている。
名が知れてから「仕事」中の乱入など終ぞされたことがなかったのだが、
どうやら相手は余程自分の腕に自信があるか、でなければ途方もない馬鹿であるらしい。
そんなことを心の片隅で考えながら。
――体は、すでに振り向き様の一撃を放っていた。
踏み込む分だけ遅くなる交差の瞬間は、相手に反応と対応の余裕を生む。
故に、十六夜は踏み込まなかった。
右手の「それ」を、背後へと向けて躍る四肢の遠心力に乗せて投げつける!
音は、なかった。
『……なるほど』
代わりに届いたのは、声だった。
『噂に違わぬ凶暴性。これが巷で騒がれる強盗の正体か』
彼女が放ったそれ――床に転がっていたのを拾った蛍光灯は、相手の左手に握られていた。
言うまでもない、避けもせずに受け止めたのだ。
だが、そんなことはどうでもよかった。
どうでもいい。まったくどうでもいい。
『――同郷か』
憎々しげに――そして、どこか懐かしげに、十六夜はそう言った。
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477
:
※名前欄が空白です。匿名で投稿されます
:2009/03/08(日) 22:58:03
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『言葉が……通じる?』
かち、という小さな音を立て、十六夜が腰に差した武器を抜く。
相手が驚愕を満面に浮かべているのに対し、彼女は極めて冷静だった。
『意味が理解できたなら通じてるんでしょ』
すでに己にかけた「外人想」は解けているので、会話する分には問題がない。
構えるというほどの大仰さはなく、十六夜は握る「それ」の感触を弄ぶ。
『正直に言う。私も、まさか再びこの言葉を使う時が来るとは思ってなかった』
『それじゃあ、お前も……?』
『まあ、そういう事になる。
ちなみに、ルイーダの酒場にも登録済みよ――もはや、意味がないけど』
肩を竦める。
相手は、動きやすい軽装の鎧に青いマントを羽織っていた。
そして腰には、「ここ」には似合わない一振りの長剣。
その様相だけでも、彼がかつての十六夜と同じ場所にいたのだろうと推測できる。
かつての彼女も――そうだった。
『さて、悪いけど私にはあんたとのんびり昔話に浸る時間はないの。
大人しく私の前から消えてくれる?』
『それは……できない』
だろうな、と十六夜は胸中で自嘲。
あの目つき、言動、立ち居振る舞い。
そんな状況証拠を並べ連ねても、しょせんは妄想の域を出ることはなかったが。
それでも、何故だか十六夜には確信めいたものがあった。
この男は、今の自分にとっての難敵だと。
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478
:
宇宙の彼方の幻想郷
:2009/03/08(日) 23:19:02
「不思議よね」
何が、とあえて言わなかったのだろう八雲紫に紫は肯定ともそうでないとも取れるように肩をすくめた。
昼下がりだった。
街のとあるカフェテラスで散り始めた梅を横目に優雅な一時を過ごしていた。
「あの皇帝さん」
皇帝、の一言に紫はようやくああと頷いた。
「確かに、あれは相当な変わり者だ」
苺のショートケーキから苺を摘み上げ、くるりと回す。
「宇宙をこれに喩えたら、あれが欲しがってるのはこいつのへただもんなぁ」
口の中へと苺を放り込み、程良い甘味と酸味を楽しむ。
「あら、また面白い考えですわね」
ティラミスを一掬いし、実に優雅な動作で口へと運ぶ。
「あー、食後の一杯はやっぱりいいなぁ」
「本当にたべるの好きよねぇ」
そう言った脳裏に一瞬友人の姿が横切った。
「あ、そういえば、彼の居るところも幻想がうんぬんって話だったよね?」
紅茶のおかわり(既に6杯目)を注ぎながら、村上紫。
おかわり自由で無料なのは良いが、ここまで飲まれたら店側も流石に焦り出すのではないか。
「いいの。値段分は元を取るからさ。
それより、さっきの続き」
「えぇ、そうだったわね。
…厳密には違うけれど、彼の居るところもまた幻想郷に近しいといえるわ」
発展に発展を重ねた宇宙。
既に魔法と殆んど区別がなくなった科学に不思議な力を持った多様な種族。
そんな人と彼らの生きるあの場所は魔法と妖の生きるこの世界とが僅かにだぶった。
479
:
宇宙の彼方の幻想郷
:2009/03/08(日) 23:32:09
「まあ向こうじゃ地球って星すら幻想みたいな物だしね」
「いずれはこの星自体が幻想の境界へ隠れるかもしれないわね」
人々が挙って宇宙を目指し、誰しもが宇宙へ行けるようになる頃にはもしかするとそうなるかもしれない。
「自分は空も良いけど、地上の方がいいなぁ…」
「あら、そういえば高いところが苦手だったわね。
飛ぶのは好きなのにおかしな人」
「飛ぶのはいいんだよ。
落ちる時のヒューッて無重力感が嫌いなの」
「宇宙飛行士は無理そうね」
「確かにね」
二人はそうして暫く歩き続けた。
既に日は傾き、空では夜と昼が混ざり合っていた。
人間がその空を見上げ、振り返る。
幻想の向こう側で微笑む妖怪に彼女もまた笑い返し、再び歩き出す。
今宵も妖怪の時
480
:
※名前欄が空白です。匿名で投稿されます
:2009/03/11(水) 21:57:04
// この投稿は匿名によるものです--------------------------------
結局のところ――
突き詰めてしまえば、それはただの喧嘩に過ぎなかった。
意志も、意欲も、意味も、価値も、それ自体にはない。
あるのは殴られれば痛いという事実と、殴りきれば勝ちという幻想だけだ。
どんな思想を持ちだしたところで、それは決して変わらない――
自嘲する。
言い訳地味たサーキットを流れるのは、まあ理解しているからなのだろう。
図り合う相手との位置関係を算じながら、手の中の「武器」で固いコンクリートの
床をノックする。無論、返事はなかったが。
「武器」の返す感触は、金属の震わす響きには程遠い――反響すらない。
あるのは重苦しい反作用だけ。
仕方がない。
そもそもそれは金属ではなく、無機物ですらない。
ただの棒だった。
相手の手に握られた刃渡り1メートル以上ある真正の刃物に比べれば、
「武器」と呼称するのさえおこがましいというものだろう。
それでも、十六夜が持てばそこには意味が生まれる。
その長さ1メートルの棒が、例えば両の先端から引くと半ばから引き抜かれ、
有名な刀鍛冶に鍛えられた鉄をも切り裂く名刀が姿を現す――などということもない、
正真正銘ただの檜製の棒だったとしても、やはりそこには意味があるのだ。
――生まれた意味が大きければ、それだけ望む結果を手繰り寄せることができる。
――そんな夢想を抱けるほどの価値はなかったとしても。
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481
:
※名前欄が空白です。匿名で投稿されます
:2009/03/11(水) 22:20:28
// この投稿は匿名によるものです--------------------------------
実のところ、逃げるという選択肢は最初からなかった。
これは何も増長から来るものばかりではない。まあ増長も含まれてはいるのだが。
ここで逃げ出したところで、同じことが繰り返されるだけだ。
『――勇者』
つぶやく。無自覚に揶揄の響きがこもるのは、それだけその単語の持つ意味に
辟易していることの表れだった。勇者。
『どうして来たの?』
その問いが無意味であることは、誰よりも彼女が理解していた。
来る。その言葉に前提として含まれている「己の意思」を、さて一体どのようにすれば持ちうることができたのか。
『……お世話になった人から聞いた』
だが、答えは予想外に返ってきた。
『いや、正確には伝わったのだけれど。言葉が通じないから』
もっとも、十六夜が本来尋ねた意味とはまったく異なる形で、ではあったが。
『――この街には人の財産を根こそぎ「略奪」していく悪魔がいる、と』
悪魔。
くだらない表現だと十六夜は思う。
そんな、今時聖書(おとぎばなし)にしか出てこないような単語を使うのは、
それこそお子様に御伽噺(ゆめものがたり)を語って聞かせる時くらいだろう。
つまりは、それだけ現実味を帯びていない。否、帯びさせない。
この街の――この世界の住人は、誰もがそうだった。
誰一人として、現実を見ている者はいない。
――まるで、ここには現実など存在しないのだとでも言うように。
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482
:
※名前欄が空白です。匿名で投稿されます
:2009/03/15(日) 23:10:46
// この投稿は匿名によるものです--------------------------------
スッ、と十六夜が右手を払う。
生まれたのは風だった。
『勇者』が警戒も露わに剣を掲げたが、そんなものに意味はない。
大気のうねりは黒灰を媒介に視認され、二人を中心に渦を成す。
そして、疾った。
『――――!』
それは十六夜がここに踏み込んだ瞬間に起こったことの再現だった。
風を操り、人間ごと大気を蹴散らし、吹き飛ばす。
台風が直撃したような轟音に混じり聞こえてくるのは、圧縮された大気によって
刻まれる建物の悲鳴と、それすらあげられずに転がる人間達の激突音。
その光景に、ふと何故か十六夜は虚しさを覚えた。
『……さて』
薙ぎ払われた世界に取り残された二人は、綺麗に「掃除」された空間で改めて対峙した。
『これで少しはやりやすくなったでしょう』
『お前は……まさか』
そこから先に続く言葉は予想がついた。
かつての自分ならばそれを肯定していただろうか、などと考えながら、
『ええ。ご想像通り、神職に就いていたこともあるわ。記憶すら朧な過去の話だけれど』
今の十六夜はそれを否定する。
聖者を騙っていた自分は、生に縋りついた時に死んでしまった。
今ここにいるのは――
『始めようか。夜明け前には帰りたいからね』
その言葉に、『勇者』のまなざしが変わる。
覚悟を――ようやくといったところだが――決めたらしい。
彼の全身が俄かに発光する。コンセントに電極を指した時のような炸裂音と共に、
電光がその姿を覆った。その力は左手に集約されている。
勇者のみが使うことの出来ると言われる、紫電の魔法。
『それに、私も興味がないわけじゃない』
それを視界に留めながら、十六夜は微笑する。
『――私の「異端」は、かつての世界(じぶん)を超えることができたのか』
// この投稿は匿名によるものです--------------------------------
483
:
虫ピン
:2009/03/17(火) 23:22:22
うごうごと必死にもがく虫をフランドールはじっと見つめていた。
それは虫ピンで壁に縫い付けられ、哀れなその姿を晒していた。
暫くはその動きを物珍しそうに見つめていたフランドールではあったが、
飽きてしまったのか、床に手の中に残った虫ピンを一本、手にした。
真鋳製のそれを腹へ一刺し。
もう一本手に取り、最初の虫ピンの横へ二刺し。
三刺し。
四刺し。
五刺し。
虫が動きを止めようと、フランドールは虫ピンを何本も何本も突き立てた。
執拗に、楽しむように。
そうして、虫の姿が虫ピンで見えなくなった頃、フランドールはようやく満足げにベッドに腰掛けた。
暫くして、姉お気に入りのメイドが紅茶を携え、やってきた。
そうして、壁の虫ピンに目をやり、首を傾げた。
―妹様、あれはどうしたのですか?
そんなメイドの様子がおかしかったのか、フランドールはくすくすと笑って見せる。
―部屋に入ってきたから、壁に飾ってみたの。
でも飾ってみたらあんまり綺麗じゃなかったんだ。
左様ですかとメイドが言い、壁の虫を見つめる。
後で片付けられるだろうそれの話を今度誰かにしてみようか。
そんな風に思いながら、フランドールは紅い紅茶に口をつけた。
ピンから覗く虫の足は人の形をしているものだった。
484
:
辺境の星の空
:2009/03/19(木) 05:59:04
こんな空はあんまり好きじゃない。
雲一つとしてない、何処までも突き抜ける様な青空をヤラは睨みつける様に見上げていた。
とある辺境の星に、彼女は居た。
見聞を広めるためにという名目で義父の治める帝国から遠く離れた星を点々と渡り歩き、
その星土着の民と交流する事もあれば、暇潰しに傭兵の真似事もしてみた。
今しているのは…どちらかと言えば、後者だった。
外から来た侵略者―その星に住む者にとっての―からの略奪を阻止したせいか、
その腕を買われ、客将として手厚くもてなされていた。
そろそろ次の星へ向かいたい所だったが、熱心な侵略者達がそれを許さない。
いっそ中央部にその悪逆ぶりをチクってやろうかしら。五割増し凶悪に。
等と考えながら、溜め息をつく。
もう一度、空を見上げる。
空の果てから降りてくる点のように見える何かに口の端がつり上がる。
「さぁて、仕事と行きますか」
傍らの大鎌を肩にかけ、彼女はゆっくりと歩き出した。
485
:
無責任
:2009/03/24(火) 00:27:37
テレビを見つめる彼女の姿を蒼星石はちらりと横目で見た。暗く沈んだ瞳に画面の点滅を写し、彼女は無表情にそこに座っていた。
『…男は死刑になりたくてと話しており―』
「………だったのかね、彼も」
ニュースキャスターの言葉に重ねるように、かすれた彼女の声に蒼星石はとうとうそちらに振り向いた。
先程と変わりない様に見える彼女の瞳が僅かにうるんでいる…様な気がした。
「一体いつから人間はこんなに冷たくなったんだろうね…」
どういう意味か、問い掛けようとした蒼星石の横を彼女が通り過ぎる。
その横顔に深い何かを見た気がした。
「ああ多分それはこう言ったんじゃない?」
相変わらずゴチャゴチャとした部屋の中で彼女の妹が肩をすくめる。
「その男も独りになっちゃったんだろうってね」
「…つまり?」
いまいち理解出来ない様子の蒼星石に相手は苦笑しながら、ベッドに腰掛ける。
「誰かに助けを求められず、でも、差しのべられた手に気付くことも出来ない。
…ううん、もしかすると助けを求めて、気付いてもらえなかった、って事かも」
天井を見上げながら、彼女が溜め息をつく。
「周りは励ましたつもりでも本人には責められる様にしか聞こえない事もあるからさ。
頑張れ、とか逃げるな、って思ってみれば物凄く無責任な言葉だよ。
耐えて耐えて誰かにもう頑張らなくていいって言って欲しくて…でもこれは人によるかな」
自身の手を握っては開く彼女は長く息を吐き出し、困った様に笑った。
「あいつららしいな」
服にアイロンをかける男の背中に寄りかかりながら、蒼星石は深く息を吐いた。
「まぁ、ね。でもなんであんな事言ったんだろうってさ」
男は暫し考える様に小さくうめくとアイロンを傍らに置いた。
「あいつらもその男と同じ場所に居るからだろうな」
「…?」
「つまり、だ」
男が蒼星石を抱き上げ、膝へと招く。
「あいつらも自分の中の闇に飲まれたんだろう、とな」
486
:
信頼
:2009/03/28(土) 12:44:57
「…という訳なんだけど、分かった?そもそも起きてる?」
机に突っ伏したままの紫と船を漕ぐ面子にコピーエックス―コピックの愛称で呼ばれるは思わず頭を抱えた。
彼の背後のホワイトボードには『電子空間視覚化スコープ』と巨大な文字とそれを囲むように様々な数式が散りばめられていた。
村上家の地下居住スペースの一角に設けられた会議室で新たな装備についての発表がされていたのだが…。
「ちょっと説明があれだったらしいね」
いまだに頭を抱えるコピックに茶を取りに戻っていた蒼星石が苦笑しながら、声をかける。
「分かりやすくしたつもりだったんだけどなぁ」
「でもほとんど数式とか理論とかみたいだし、疲れてる皆には子守り歌になっちゃったんだよ」
差し出されたE缶―いつも何処から調達しているのか、コピックには不思議でたまらなかった―を受け取り、諦め気味に息をつく。
「まぁそれもそうだけどさ、こっちだってエンジニアじゃないんだし結構大変だったんだよ?
試作作ればもっと軽くだの、でかいからコンパクトにしろだの…」
文句を言いながら、E缶をあおる彼に蒼星石も肩をすくめる。
「それだけ君は皆に信用されてるって事だよ」
「…素直に喜んでいいのかな、それ」
「多分ね」
不機嫌そうな、ただどこか満更でもなさそうなコピックの視線の先で
紫が椅子からころ下落ちていった。
487
:
10ABY. アクシリアの戦い
:2009/04/04(土) 09:59:34
―――アクシリア軌道上
既に両軍のレーダーがお互いの艦隊を認識していた。両軍のハンガーでは第二波の航空隊の
発進の為に整備員が駆け回り、両軍の砲撃手達は敵の最新の位置を入力し続け、
両軍の司令官達はいかにして優勢に持ち込むかを思案していた。
―――TIEハンター レインボー1
エグゼキューターに配置されているレインボー中隊は最新鋭のTIEハンターを授かるという名誉に
いち早く与ったエリート部隊である。そのようなエリート部隊の仕事とは前線の露払いである。
レインボー中隊を率いるヘブスリィ大尉は部下達を引き連れて、帝国軍の最前列に居た。
「レインボー1より中隊各機へ、ようやく俺達の出番だ」
「早くコイツを実戦で試したくてウズウズしていました!」
ヘブスリィが言い終わるか終わらないかの内に若い声が返ってきた。ハンターと一緒に配属された
グレシャム少尉である。アカデミーを優秀な成績で卒業したものの、まだ実戦を経験していない彼は
新鋭機で初陣を飾れるのが嬉しくてたまらないのだ。
「レインボー16、お前は俺の後ろにつけ。さもないとヒヨコがターキーにされてしまうぞ」
そう言って、中隊のほぼ全員の笑いを取ることに成功したのはクリストファー副隊長である。
歴戦の勇士の彼はユーモアの中に警告と心遣いを含ませたのである。しかし、この楽しい空気は
すぐに吹き飛んだ。両軍がミサイルの有効レンジに入ったのである。
すぐさまミサイルとレーザーが飛び交い、一瞬にして何十機もの戦闘機が宇宙の塵となる。
しかし、それを生き延びる者はもっと多い。生き延びた者同士でドッグファイトが始まるのだ。
幸いにもレインボー中隊は全員が最初の洗礼を抜け、本戦への出場権を手に入れた。
「レインボー6、レインボー7、俺の両翼を固めろ!あのAウィングのグループを潰しておく!」
「「了解!」」
3機のTIEハンターが乱戦の中で目標を真っ直ぐに捉え、一斉射撃を浴びせて落としていく。
数と連携に優れ、防御力に劣る帝国らしいやり方である。本戦に出場したことで安心していた
Aウィングのパイロットは何が起きたのか分かる間もなく、退場させられたのであった。
488
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:2009/04/04(土) 23:34:01
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初撃は、『勇者』の方が速かった。
見舞った瞬間に完了するのは、光の速さで疾駆する呪文特有の利点だろう。
その必殺性故に、勇者以外は扱うことすら許されない禁忌の力。
『勇者』を中心にして全方位に放射される稲光をかわす手段などはなく。
十六夜は考えられうるあらゆる最悪の事態をすべて臓腑に飲み込み踏み込んだ。
世界が鮮烈な白で包まれる。
痛い、という感覚はない。
痛覚さえ麻痺させるショックが全身を駆け巡った。
『…………なっ!?』
それにも関わらず、驚愕の表情を浮かべたのは『勇者』の方だった。
床に倒れこむ。長時間正座した後のように足が痺れ立ち上がることが出来ない。
先程の風で黒灰は吹き散らされたため汚れることはなかったことに安堵する――
今置かれた状況そのものよりも、そちらの方が遥かに重要だとでも言うように。
『……ひさびしゃに効いたわ』
全身が小刻みに痙攣するため、呂律さえも満足に回らない。
全力で舌打ちして、小さく呪文を唱える――ホイミ。
『つくづく厄介ね、「魔法」ってのは』
立ち上がる。激しい嘔吐感は残っていたが、活動に支障はきたさない。
むしろそれを心配すべきは『勇者』の方だろう。
『こんなのを1対1の戦いに持ち込む私達は、人の道から外れた卑怯者だとは思わない?』
『これは……一体……』
わずかに混濁していたらしい意識が戻り、苦瓜でも噛み砕いたような渋面を浮かべる。
『勇者』の雷撃は光の速さで十六夜を貫いた。
同じ時間に、十六夜の掌底は『勇者』の顎を撃ち抜いた。
意識が混濁したのは軽い脳震盪を起こしたせいだろう。
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489
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:2009/04/05(日) 10:50:14
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それを戦いと呼べるほど上等なものだと十六夜は思うことが出来なかった。
故に、やはりこれはただの喧嘩だろうと思う。
鞘に納められたまま振り下ろされた『勇者』の一撃を檜の棒で弾く。
向こうも予想していたらしく、あらぬ方向に走る剣閃の向きを素早く変え、
返す一撃で十六夜の左脇を狙ってくる。慣性を無視した強引な燕返しだったが
それなりの速度があり、十六夜は一歩身を引いてそれをかわす。
そこに『勇者』の放ったギラが飛んできた。
不意をついて追撃する形となったその一撃。予想の範疇外にあったそれを、
十六夜は舌打ちと共に棒を持たない左手で叩き落とす。
おぞましい虫の這いずりのように伝う火傷の痛みの暴走をかろうじて理性で圧し殺し、
『勇者』の畳みかけを防ぐ目的でバギマを放つ。
あわよくば傷の一つでもと思ったが、イオラの爆発にかき消されダメージには至らない。
再び間合いを開きあった二人は、回復呪文でそれまでの傷を癒す。
『久々ね――いや、このスタイルをとってからは初めてか』
独白のつもりだったが、その言葉に『勇者』がいぶかしむ顔をした。
答える義理などなかったが、何とはなしに言葉が口をついた。
『私がこの戦い方を覚えたのはこっちに来てからなの』
僧侶は一人では戦えない。
それは数年前までの十六夜にとっての常識であり、今の十六夜にとっての汚点だった。
一人で戦うことを強要される状況になって初めて気づいたのだ。
それまでの常識など、蜂蜜のように甘ったるく粘質の海に浸かっていた己の抱く願望に過ぎなかったのだと。
『ここは私達みたいな「魔法使い」は少数派だから。
――魔法を使われるのがこんなに厄介だとは思わなかった』
『……お前の悪行なんて知ったことじゃない』
硬質化したままの『勇者』の言葉に。
十六夜はかすかに眉根を上げた。興味深そうに――あるいは、腹立たしげに。
『悪行。悪行――ね。面白い、少し興味がわいてきた。
夜明けまでにはまだ時間がある、ちょっとお姉さんと話をしようか――「勇者様」?』
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490
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:2009/04/05(日) 18:38:41
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つと、もはやただの穴と化した窓の方を見遣る。
そこには最初の雷撃に巻き込まれて目を回しているこいしがいたりしたのだが、
十六夜は気づいた様子もなく――あるいは気づいた上で無視して、視線を戻す。
『自己紹介が遅れたわね。私が貴方の探していた張本人、「拷盗」その人よ』
軽く腕を持ち上げ、芝居がかった口調でそう告げる。
『「拷盗」と呼ばれる所以はもう知ってるのよね?
「略奪」だけを目的とした愉快犯。その対象は金品に留まらず、時には人の身体と
心さえも奪うことで知られ、行方不明や記憶喪失に陥った者は数知れず。
あまりに残虐な手口に、今では半ば都市伝説と化してさえいる――とか、そんなところかしら』
他人事のように語ったのが癇に障ったのか、『勇者』のまなじりが下がる。
『どうしてそんな事をするんだ』
『どうして。そんな疑問が湧く時点で滑稽ね』
図るように『勇者』の全身を睨めつける。
『あなたは自分が何故呼吸するか、いちいち疑問に思ったりするの?』
『自分さえ良ければいいのか。その為なら、誰を傷つけてもいいと』
『誰でもいいとは言わない。私が「略奪」するのは、私の得になる奴だけよ』
『自分さえ良ければいいのか!』
『大事なことでもないのに2回も言う必要はないわ』
『勇者』が強く拳を握り締める。
『お前みたいな悪党が蔓延るせいで、夜も眠れずにやつれてる人々がいる。
そういう人達のことを少しでも顧みようという気持ちに、どうしてなれない?』
『そう、それよ』
面白がるように口の端を上げ、『勇者』を指さす。
『悪党――って、何?』
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491
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:2009/04/05(日) 19:17:31
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『ねえ、勇者様。あんたは正義って看板背負って生きる運命にあるんだと思う。
故にあんたが例え正義の味方を自負したところで、否定する気はないわ』
けど、
『あんたは、どうして私を悪と呼ぶことが出来るの?』
悪とは何か。
幸福すぎたかつての自分は、いつもそれを考えていた。
『お前が、罪のない人達を傷つけるからだ』
『なら罪って何?』
『言葉遊びをするつもりはない!』
『勇者』の言葉を無視して、再び窓の外を見遣る。
先程から視界の端々に映る紫色の髪が目障りで仕様がなかった。
あの読心女も、この会話を聞いている。
しかもこちらの真意をすべて読み取った上で。
『言葉遊び? 私は私を悪と貶める根拠を聞いてるだけでしょう?』
『そうやって言い逃れて自分のしてきた事を正当化するつもりか!』
『正当化するつもりなんてない。正当化するまでもなく、私は常に正しい』
『お前はそれを傷つけた人達の前でも言えるのか!』
『言える』
きっぱりと。
あらゆるものを断ち切る迷いのない一言に、『勇者』が絶句する。
『私は正しい。正義という言葉がお好みなら言い換えてもいい――私は正義よ』
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:2009/04/06(月) 23:06:47
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『勇者』の瞳に怒りとは異なる色が混ざり出したことに十六夜は気づいていた。
それは困惑。そして――
『お前……それでも僧侶だったのか!? 何でそんな卑劣なことが言える!?』
『卑劣? 私は自分の正しさを貫くだけよ。あんたと何が違うの?』
ようやく十六夜の言葉の意味がわかりだしたのだろう。
これまでのように刹那的な感情を撒き散らすのをやめ、『勇者』は落ち着いた口調で語りだした。
『……僕は罪のない人達を傷つけたりはしない』
『…………』
『あるいは、無意識に傷つけてしまうことはあるかもしれない。
だがそれは罪だ。だからそれに気づけば、僕は必ず償おうとするだろう。
けどお前のやってることは違う。
自覚を持って他人を傷つけ、自分の利だけを最優先し、弱者を貶める。
それが罪だ。それが――悪だ』
『そう。それが聞きたかった』
かつての自分と同じ結論を聞けたことに満足する。
聖職者だった十六夜も、この『勇者』と同じように「悪」を定義した。
そして――絶望したのだ。
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:2009/04/06(月) 23:35:15
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『あるところに、とても悪いことをした罪深い人がいました』
急に語り口調で話しだす十六夜。
『…………?』
意図が読めず、『勇者』が怪訝な顔つきを浮かべる。
『罪人はたくさんの人を悲しませた罪で極刑になることが決まりました。
とてもとてもたくさんの人を傷つけた罪です。それはそれは思い罰でした。
罰。それは悲しみを被った人達の手で、その悲しみが癒えるまで罰を受け続けることでした』
十六夜の声音はかつてないほどに平坦だった。
まるでともすれば吹き荒れる激情を気取られぬよう、無理に押し殺しているかのように。
『罰を受け続けるという罰。
それは死とイコールではありません。
魔法という力は、罪人から死という逃避さえも奪います。
――目を13回抉り出されたところで、罪人は許しを乞い始めました。
――腸を35回引き千切られたところで、絶叫と共に神様に死を願い始めました。
――性器を44回嬲られたところで、罪人はついに自我が壊れ発狂しました。
罪人が死ぬ事を許された時。
そこにはもとは脳漿だったか臓器だったか、それさえも判別できないほど
ミキシングされた人間のなれの果てが、ほんの数百グラムほど転がっていたそうです』
かしん
かすかに響いたその音は、しかし静まり返った空間に異様なほど響き渡り、
巻き付けられた糸がふいに切られたように、ビクリと『勇者』が肩を震わせる。
十六夜は同じ動作で、二度、三度と檜の棒で床を叩く。
『……だから、正義なんてありはしないと言いたいのか?』
『信じたの? ただの御伽話よ。お・と・ぎ・ば・な・し、子供が大好きな、ね?』
底冷えするような声で、十六夜。
「ただの御伽話」を憎悪のまなざしで語る十六夜は、
『そうね、楽しい御伽噺にこんな終わりを付け加えてみましょうか』
かしん
『罪人は理性がクラッシュする少し前、とある聖職者にこう尋ねました』
――ワタシノツミハ、ナニ?
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494
:
死を望む者
:2009/04/09(木) 09:08:42
「無駄な事してるわね」
手近なスクラップに腰掛け、疲れたようにヤラが息をつく。
『無駄な事…なのでしょうか?』
彼女の呟いた言葉に男の声が答える。
だが、彼女の周りには乱雑に積み上げられたスクラップや未練がましく動く残骸しか存在しない。
「えぇ、私から見たら十分無駄な事よ」
濁った空の向こうから僅かに降り注ぐ光に照らされて、薄い影がそこかしこで揺らめく。
「何が起こったのかも分からない一瞬の内に葬ってやるなんて慈悲深いにも程があるとは思わない?」
『は、はぁ…』
煮えきらない返答に僅かに苛立ちを覚えるも、すぐさまそれを塗り潰すような感情を抱く。
『……っ、相変わらずいきなりなんですね。こちらまで引っ張られそうですよ』
「あら、ごめんなさい」
そう答えながらも、ヤラは自分の中で沸き上がる感情を押さえようとはしなかった。
普段の武器とは別の、切れ味が格段に劣るナイフを逆手に哀れな獲物へと近付く。
「はろー、まだ生きてるかしら?」
体中を棘で地面に縫いつけられ、無惨に地面に転がされた残骸は彼女を濁った瞳で見つめた。
「こ………殺せ………」
血混じりの懇願とも取れる訴えに、しかしヤラは笑顔で答えた。
「嫌よ。
ねぇさっきも言ったわよね?死は貴方達にとっての最高の名誉なら
私は貴方達に死を絶対与えないって」
止血した傷口を開くようにナイフを突き立てる。
残骸からは苦悶の声が漏れ、手足のない体をよじる。
「あら駄目よ、まだ死んだら」
ナイフを傷口から外し、癒しの力を注ぎ込む。
塞がっていく傷口を絶望するように目を見開く相手にヤラは暗い笑みを向けた。
「闇に飲まれるまで一緒にいましょう」
495
:
桜月
:2009/04/13(月) 21:46:15
鼻先に舞い落ちた花びらを手に取り、コピーエックスは頭上の木を見上げた。
ソメイヨシノと呼ばれるこの木は彼が居た世界では遥か昔に絶えて久しかったが、
その時よりも過去であろうこの時代の日本エリアはそこかしこで見る事が出来た。
視線を下へと戻す。
四季の情緒を愛するこの国の人々が満開の木の元へ集い、あちこちから陽気な歌声が上がっていた。
ここいう日はハレの日だと教えてくれたのは、これまた彼が居た時代には姿を消した異形の者―土着神と呼ばれた者だった。
「あーした、ハレの日ぃ…」
口ずさむのは誰かの歌っていた歌。
幼さが残る声は人々の喧騒に紛れ、桜の花と共に風にかすれて―
「おやまぁ」
桜に誘われ、ふらりと公園に足を運んだ紅は桜の根本に座り込んだ青年に目を丸くした。
目を閉じて眠る青年を起こさぬ様に隣へ腰掛け、鞄から缶入りのアルコール飲料を取り出す。
「月にむら雲、華に風って奴かねぇ」
しみじみと呟く彼女の頭上で桜吹雪が月と踊っていた。
496
:
戦場の亡霊
:2009/04/17(金) 14:45:20
各地を歩けば、それだけ色々な人物と出会う機会が多くなる。
アンドロイド。闇商人。暗殺者。
だが―この相手ほど奇怪な相手は果たして居ただろうか。
ヤラは普段の大鎌を地面に突き立て、真紅のセイバーを構えながら、相手を注意深く見つめた。
「シスか……」
喘息を思わせる咳払いをし、相手はそれぞれの手に青と緑のセイバーを構える。
ジェダイを殺して奪った物か、元々本人の物かは定かではないが、
ただそこから感じられる気迫にヤラはいつでも飛び退ける様にしている自分がいる事に気付いた。
(強敵ね…)
相手の挙動を見逃さぬ様にしながら、彼女はここに来る事となった経緯を思い出していた。
497
:
戦場の亡霊
:2009/04/17(金) 15:30:53
「…所属不明のアンドロイドの大群?」
敬礼をし、報告してきたトルーパーにヤラは眉をしかめた。
宇宙船の補給をしに―という名目で降り立った星の駐留基地でヤラを出迎えたのは、慌ただしく行き交うトルーパー達だった。
この基地を預かる壮年の長官は彼女の言葉に表面上は冷静に、言葉の所々に悔しさをにじませながら答える。
「先日、この星に置いて中規模の地震が発生し、それに伴い、基地下層に巨大な空洞が出現したのですが…」
調査に向かった中隊からの連絡はなく、不審に思った彼は自ら精鋭を率いて、空洞へと赴いた。
だが、そこで彼らを待ち受けていたのは、無数とも思えるドロイドと物言わぬ戦友の姿だった。
「調査には多くの犠牲を払う事となりましたが、敵が何であるかは判明いたしました。
…こちらをご覧ください」
そう言いながら、オペレーターがスクリーンにそのドロイドの姿を映し出す。
「…マグナ・ガードじゃない。
かつてIGシリーズのプロトタイプとして、一時期少数のみ市場に出回っていたとは聞いていたけど…」
ヤラの言葉に長官が首を頷く。
「はい。ですが、何者かがその後密かにこの地下で製造を行っていたようでして…」
オペレーターの言葉にヤラの表情が曇る。
(まさに灯台もと暗し、ね)
知らず知らずに自分達の足下深くでドロイドの製造が行われていたとは夢にも思わなかっただろう。
それが地震により外部へ露見した事が果たして幸か不幸だったかはさておき、ヤラがすべき事が決まった。
何者であろうと、自分の縄張りを荒らす不届き者にはそれなりの代価を支払わせてやろう。
498
:
戦場の亡霊
:2009/04/17(金) 19:04:32
24時間しても連絡がなければ、中央へ連絡する様言い残し、引き止めるトルーパー達を振り払いながら、ヤラは地下へ足を踏み入れた。
入ってみれば、予想以上に内部は入り組み、下へ下へと伸びていた。
途中まではバトルドロイドに出会うこともなく、些か拍子抜けだと思いながら、
そこへ足を踏み入れた瞬間だった。
出迎えたのは通路をうろつくドロイド達の熱烈な歓迎だった。
(数が多いとは聞いてたけど…)
振り向き様に背後の敵を切り捨て、一息つく間もなく奥から沸いてくるドロイドにいい加減辟易しながら、壁に身を隠す。
「一体どれだけ居るのよ」
雨の如く降り注ぐブラスターを受け、次第に頼りなくなりつつある壁の後ろで愚痴を呟き、安全ピンを抜いた手榴弾を投げ込む。
「おまけにほいっ、と」
続け様に同じ様にいくつか投げ込み―爆音と衝撃波が脆くなった壁とドロイド達を吹き飛ばす。
地上でも今の揺れは感じられただろうが、この際知った事ではない。
体の上から瓦礫を退け、砂埃の収まらぬ奥へ視覚を飛ばす。
倒れているドロイド5体の内、機能しているものは2体。その内の1体は両腕と片足が潰れている。
(相手は実質1体…一々相手をするのも面倒ね)
闇へ紛れる様に人の形を崩しながら、音もなく天井まで浮かび上がる。
(今の姿なら奴らのセンサーにも引っ掛からない筈だけど…)
目標を見失い、辺りを見回すドロイドの頭上を漂い―
(…!?)
一瞬ドロイドがこちらを向き、ブラスターを向ける。
が、何事もなかったの様に首を傾げるような仕草をし、空洞の奥へと引き返していく。
(流石にびっくりしたわね……)
後をつけるように距離を置きながら、胸中で息をつく。
499
:
戦場の亡霊
:2009/04/17(金) 19:28:23
「…何者だ」
そう言われた瞬間、ヤラはまさか自分の事だとは思いもしなかった。
「ドロイド共を欺き、ここまで来れた事は称賛しよう」
ドロイドの残骸に囲まれたそれはそう言いながら、傍らのスピアを手に―
「………っ」
天井から床へ降りると同時に先程まで居た場所へスピアが突き刺さる。
「…いつから気付いていたのかしら?」
ヤラの言葉に相手は驚いた様子で答える。
「先程の揺れと帰還した部下の様子でかなりの者だとは思っていたが…よもや女とはな」
咳払いをする相手に人の姿を取ったヤラが忌々しそうに吐き捨てる。
「あら、女だからって油断しない方が良いわよ?」
それを示すかの様に鎌をドロイドへと袈裟掛けに切りつける。
その様に満足したようで相手はヤラへ背を向け、奥へと来るように促した。
「どういうつもりかしら?」
罠だと警戒する彼女に相手は軽く咳をし、肩越しに振り向く。
「ここは狭い…戦うならば広い方が良いだろう?」
…どうやら、相手は意外に正々堂々とした勝負を好むらしい。
それでも罠である可能性を頭に起きながら、彼女は相手の後に続いた。
500
:
戦場の亡霊
:2009/04/17(金) 20:01:50
「来ないならば、こちらから行くぞ」
その声にヤラは顔を上げ、セイバーを踏み込んできた相手へ突き出した。
相手はそれをヤラの横へ回り込む事で避け、上段と横からセイバーをヤラへと振り下ろす。
横へも後ろにも避けられない彼女はあえて相手の懐へ飛び込み、股下をくぐり抜け、足へ切りかかる。
相手もそれを読んでいたのか、前へ跳躍してヤラへと向き直る。
「流石だな」
「貴方もね、ついでに名前でも聞こうかしら。
墓、作ってあげなくもないわよ?」
距離を取り、セイバーを構え直しながら吐いた言葉に相手の様子が変わる。
セイバーを握る手は震え、怒りをにじませた瞳がヤラを射抜く。
「名乗る名など…とうに無くした!」
ダンッ!と床を踏み抜かんばかりの跳躍から放たれた突きにヤラのセイバーが宙へと舞う。
舌打ちをし、拳を固める彼女の右肩をもう一方のセイバーが貫き、後ろの壁へと叩き付ける。
「がっ……!」
肩を瞬間に焼ききられる痛みに歯を食い縛りながら、続け様に貫かれた左肩の痛みに耐える。
「終わりだ」
肩からセイバーを引き抜き、逆手に持ち変えた相手を見上げながら、ヤラは口を歪めて笑った。
「えぇ、その様ね。でも最期にひとつ」
その言葉に相手は怪訝そうな様子を見せて…次の瞬間、まるで信じられない目つきで自身の胸を見下ろした。
「シスもフォース使える事を、お忘れなく」
501
:
戦場の亡霊
:2009/04/17(金) 20:27:09
「テレキネシス、か…」
背中から貫いた鎌を見下ろしながら、相手が息苦しそうに呟く。
「肉を切らせて、骨を絶つ…ま、あんまり好きな戦い方じゃないけどね。
それより…あなた、何者?どこに頼まれてあのドロイド達を作った?」
「…作ったのではない。我々は以前から、ここに、居た」
「なんですって?」
咳込みながら、言葉を続ける相手にヤラは一言も聞き逃さぬよう、耳を傾けた。
「戦いに破れ…地下へ打ち捨てられ、そのまま死ぬ筈であった。
だが、死ぬ瞬間、心の中である感情が芽生えた」
体を軋ませながら、なおも立ち上がろうとする相手に思わず後ずさる。
「まだ、戦い足りない。まだ、ジェダイ共をこの手で滅ぼし足りない!
特に奴を、手傷を負わせた奴ヲ!」
覆っていた金属が体からはがれ落ち、床へ散らばっていく。
「あなた…まさか…」
「奴ハ何処だ!奴ヲ出セ!ヤツヲヤツヲヤツヲ!」
…体を覆っていた金属の下から現れたのは、見慣れた漆黒の体。
「…だが、地上への道は閉ざされたまま、我々はなす術なくここで時を待った」
「そして地震が起きて、地上への道が開けた…」
相手から抜け落ちた鎌を手元へ引き寄せ、構える。
「執念もここまで来ると恐ろしいわね。
ま、私も同じ様なものなんだけどね」
「邪魔ヲ…する気か」
顔を覆う金属の仮面のみとなった相手が再びセイバーを構える。
「えぇ、そうよ」
唇を歪め、暗く歪んだ笑みを向けながら、皮肉っぽく言い放つ。
「さようなら、未練がましい亡霊さん」
502
:
クロネコ
:2009/04/20(月) 19:08:42
彼女を例えるならば何であろう?
いつもの様に仲間とくだらない話をしていた時にふとそんな話が出た。
数ヶ月ぶりにここ、インペリアル=パレスに放浪癖のある第二皇女が帰ってきた。
相変わらず訳が分からないもの―妙な装飾がされたドロイドのパーツやら不思議な色合いの鉱物やらを持ち帰っては、部屋に飾っているだの
辺境の地を荒らし回る海賊共を一人で絞め上げただの、
何かしら(皇族にしては)噂話に事欠かない人物ではあるがそれもあいまってか、彼女には一部から人気がある。
風に流れる艶やかな黒髪が素敵だ、いやいや敵を射抜くあの視線だ、
しなやかな身のこなしだ、等々。
日頃彼女の暴言(に近い台詞)を聞いている彼は
同僚達の言葉にただ苦笑するしかなかった。
「××はどうなんだ?」
同僚の一人がこちらに話題を振る。
「あー…そうだな」
言われて少し考え込む素振りを見せる。
「ネコ、だな」
「ネコだぁ?」
彼の言葉にどっと笑いが起きる。
またまた、やっぱり××はジョークが上手い、とはやしたてる同僚達に彼が肩をすくめると同時に休憩終了を告げるベルが鳴り響いた。
上司は気まぐれなクロネコ
503
:
評価
:2009/04/26(日) 22:15:06
訴えようとも訴えることができない。これほどつらいことはない。
言いたいことも言えないのだ。ひとえにそれは自らの性格にある。
前に他人に人間関係は『外交』じゃない、と言ったが、
実はそう捉えているのはそれを言った本人なのだ。
卑屈になることしかできない自分に腹が立つ。
己の中では己を貫きとおしてはいるが、外に出るとすぐに曲げてしまう。
きっと、あと数年もこんな感じなのだろう。
結局、まだ言いたいことが言えずにいる。
そして、自分の欲望を曲げて出すことしかできない最低の人間へとなり下がっていくのだ。
そこにいる意味を見失ったら、他人との比較でしかそこにいる意味を見つけられないのだ。
恐らく、これからも言いたいことを自分は黙りとおしていくのだろう、永遠に。
504
:
潜む者
:2009/04/28(火) 11:32:44
いつもと変わらない夜だった。
同僚たちと仕事明けの一杯へ赴いた彼は、街のざわめきを聞きながら、いつものように空を見上げた。
「!!!」
遠くの空が赤く染まり、何かが焦げる臭いと煙に人々は何事かと足を止めて、彼と同じように空を
見上げていた。
なんだどっかで火事か?向こうはインペリアルパレスの方じゃないか?
ざわめく人々を尻目に本部と連絡を取っていた同僚の一人が吐き捨てる。
「くそったれ!妨害されてる!」
本部との連絡が取れない以上、武器が必要になるであろう状況なのは疑いない。
足早に詰め所に戻っていく同僚たちの後を追うように振り返り―
「おーい、この資料を取ってきてくれないか?」
「はい!ただいま!」
彼女は渡されたメモを片手に資料庫にいくつかの荷物を抱えて廊下を歩いていた。
IDカードを扉に差し込み、相変わらず乱雑に置かれた荷物の山を崩さないようにゆっくりと奥へと
進み・・・
{緊急事態発生!緊急事態発生!社内の職員は速やかに所定の場所への退避をお願いします!
繰り返します!社内の・・・}
避難訓練は果たして今日であったのだろうか?
そんな風に首を傾げて、一番近くの窓から外を見―
「お母さん・・・」
不安げに見上げてくるわが子を抱きしめる娘に老婆は優しく笑いかけ、孫の頭を優しく撫でた。
「おばあちゃん?」
もう少し、この子供たちの側にいた方がいいのかもしれない。
だが、それでは敵を通すまいとする子供の夫、父が命を落とすやもしれない。
「・・・お母さん?」
「大丈夫」
不安げな娘の目元から涙をぬぐい、入口へ歩いていく。
「おかあさ・・・」
閉まる扉の向こう側で娘の声を背に聞きながら、老婆は空を仰ぎ―
あるものは大切なものを守るためといった。
別のものは戦う意味など持たないといった。
しかし、自らが根を下ろしたその場所を守るため
その夜、人の中へ身を潜めていた数多の暗闇が
黒い三日月の呼ぶ声に集まり
深く暗い夜となり、仇なす者達へ
その牙をむいた
505
:
産まれることのできない命
:2009/04/29(水) 15:39:41
ここはどこか遠い、でも技術の最先端を行く惑星での、小さな小さな物語。
とある一人の女性―外見年齢は18歳ぐらいか―が、自らの体を透明にすると、
自分の部屋を飛び出し、こことは違う遠いどこかへ向かっていた。
そしていくつかの宙域を生身のまま抜け、そして、数時間の『航行』ののち
ついた先は未開惑星―とは言っても、彼女には古戦場でもあった惑星―だった。
彼女は自らの体を可視状態にすると誰もいない、酸素もない惑星をただ一人歩き始めた。
だが彼女は酸素がないこの惑星を、生身のままで宙域を抜けた私には、
何も案ずることは無しと言わんがばかりに白いドーム状の建物へとてくてくと歩いて行く。
まるで、『我が故郷』と言わんばかりに、だ。
彼女はその建物に入ると、人造物でありながら、
人の気配を感じることができないその建物の電気をつけ、
水槽の中に入った、まだ喋ったことも、考えたことも、
自ら動いたこともない自分の姉妹たちに挨拶をした。
「…まだOS見つからないの、もう少しだからね、待っててね」
いつも彼女の恋人に毒を吐いてるその口で、彼女は動かない自分の姉妹たちに、
優しく、だけど、力強く話しかけていた。
そして彼女は、その施設を後にした。彼女の眼には、うっすらとだが、涙が浮かんでいた。
だが、彼女がもといた惑星に戻る頃には、いつもの毒舌を彼女の恋人に向かって吐いていたという。
506
:
昼
:2009/05/05(火) 14:25:14
湿った空気を感じながら、ドロシーはぷかりと煙を吐き出した。
暇である。
妙に厄介な依頼も今のところ入ってはおらず、かと言って何かしたい事がある訳でもない。
出掛けようにも今の時期ではどこも人だらけだろう。
いつもなら煩い年少組も今日は紅魔館だ守矢神社だと出掛けていて、居ない。
唯一家に居る鉄屑は定期メンテナンス中でからかうことすら出来ない。
珍しく静かなのはよろしいが、暇でたまらない。
いつの間にかフィルターのみとなった煙草を灰皿に捨て、新たな煙草を取り出そうとし―
「…………ない」
くしゃりと空になった箱を握り潰し、仕方ないとばかりに重い腰を上げる。
日用品のついでに買いに行くか。
財布をジーンズのポケットへねじこみ、椅子にかけたままの上着に袖を通す。
玄関で靴を履き、扉へ手をかけ―
「……あー」
くるりと後ろを振り返り、一言。
「行ってきます」
507
:
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:2009/05/05(火) 22:27:01
// この投稿は匿名によるものです--------------------------------
『罪なんて――悪なんて、他人が決めていいものではないのよ』
嘲るように――その対象が『勇者』なのか、あるいはかつての自分だったのか――
十六夜は言い放つ。
『だから何をしても罪にはならないと? それこそただの言い逃れだ』
『罪になるかどうかは私自身が決める。そして私以外の誰にも決めさせない』
「勇者」が歯ぎしりする。
『悪党の理屈だ!』
『なら聞こう。あんたは悪を定義して、何を成す?』
その問いに対して、「勇者」は迷わなかった。
間髪入れずに答えを返す。わかりきったことを聞くなと、言外に怒りを込めて。
『罪を犯す者を止める。止めてみせる』
そしてその答えをも予想していた十六夜は立て続けに言葉を投げる。
『どうやって? あんたの言う罪は、あんたにとっての罪でしかない。
それを押し付けることの是非を問うても堂々巡りだから置いておくとしても、
あんたが悪と定義した相手は、自分が正しいと主張するでしょうね。
自分だけの「正義の味方」を、あんたは如何なる手段でもって止めると言うの?』
『それは……』
言葉を濁す。
答えを持たないわけではない。そんなはずはない。
彼はすでに具体的な行動でもって十六夜にそれを提示しているのだから。
『とっくにわかってるんでしょう?
物理的暴力にせよ、司法的権力にせよ、力づくで止めるしかないのよ。
口で言って聞かない奴は、殴って言い聞かせるしかない。
それはまったくもって正しい。そしてそれ故にあんたは間違ってる』
十六夜は言い放つ。
眼前の、現実を知ろうともしない御伽噺の中の勇者へと。
そして、現実を見もせずに人を諭していたかつての僧侶(じぶん)へと。
『自覚を持って相手を傷つけ、己の利を最優先するために力で相手をねじ伏せる「正義」。
――それこそ、あんたが定義する「悪」そのものだ!』
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508
:
※名前欄が空白です。匿名で投稿されます
:2009/05/05(火) 23:19:50
// この投稿は匿名によるものです--------------------------------
語り合うまでもなく、結論など最初からわかりきっていた。
究極的な「正義」などない。
そんなものはどこにもありはしない。
魔王にとっての正義が人間にとっての悪でしかないように。
主張を異にする限り、正義の裏側に必ず悪が存在する。
それはどちらが正しくて、どちらが間違っているなどということはない。
そんなものは立ち位置の違いを示しているにすぎないのだから。
それに気づいた時、十六夜は聖職者としての地位を捨てた。
正義を信じられない者が、神を信じることなど出来るはずもなかった。
『僕、は……』
拠り所を失った世界の救世主は、くず折れるように己の剣に体重を預ける。
その姿に、懐かしさと、わずかの苛立ちを覚えながら、
『認めなさい。あんたは「正義」であると同時に「悪」だ。私と何も変わらない。
守るべきものが私とあんたでは異なるという、ただそれだけの違いに過ぎないのよ』
『……信じたいんだな』
ぴくりと、十六夜の眉が上がる。
『そう信じないと、そしてそう僕に信じさせないと、お前は僕を斃せないんだな』
十六夜は無言。そこには先程までの憤りも消え失せたいつもの無表情だけがある。
『ようやくわかったよ。何故、お前がこんな禅問答を語り出したのか。
さっきのお前の言を借りるなら、今の僕はかつてのお前そのものなんだろう。
正義を信じることを諦めたお前は、正義を信じる僕には勝てない。
だから語りを入れたんだろう? 僕を、お前と同じところへ堕とすために』
かしん
『そうだ、理屈なんかじゃない。僕には守りたい、守るべき人達がいる。
その人達を守り通すことが誰かにとって「悪」となるなら、それでもいいさ。
僕は、僕を信じてくれるみんなにとっての「正義の味方」で在り続けよう』
そうして、「勇者」は目を眇めた。
心の底から憐れみを込めたまなざしで、
『――お前は、信じられる人を失った僕なんだな』
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509
:
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:2009/05/05(火) 23:23:48
// この投稿は匿名によるものです--------------------------------
「………………ッ!」
胸を締め付けられるような痛みに、十六夜の体が震えた。
――僕を信じてくれるみんなにとっての「正義の味方」
「かっ……は……」
喉に詰まったしこりを取り出すかのように、激しく嘔く。
唾液が溢れ、涙が伝う。
――お前は、信じられる人を失った僕なんだな
発作のようなしゃっくりを繰り返す度に、意識が逆行する。
思い出してはいけない。
理性が強硬に想起を拒んでいる。
だが、すべては手遅れだ。
己の頭の中を弄ってまで封印していた箱は、一度開いたら最後あらゆる負の感情を吐き出すまで収まることはない。
最後の友達を失った夜。
傷つき、嬲られ、蹂躙される様を、見ていることしか出来なかった地獄の夜。
最初の家族に出会った夜。
何もかもが終わりきり、ゴミのように打ち捨てられた「それ」を抱きしめることしか出来なかった悪夢の夜。
思い、出しては、
――そーなの、よかったねー
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
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510
:
母の日
:2009/05/08(金) 20:01:38
花屋を埋め尽さんばかりの赤い花とそれを一生懸命に選ぼうと見つめる少女とをエックスは黙って見ていた。
「そういえば」
一見同じ様な二輪を両手に少女がエックスへと振り返る。
「コピックは見なくていいの?」
少女の問いかけに短くこたえると彼女は少し考えるような仕草をし―やがて、申し訳なさそうな顔を自分へ向けた。
「…ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ」
落ち込む彼女に花の会計を済ます様に促しながら、エックスはぼんやりと思った。
―自分を作った人を母とするなら、
―その人は自分を捨てた
「別に、今更なんともないよ」
花屋からの帰り道に謝ろうと口を開きかけたフヨウの言葉を青年が遮る。
居心地の悪い空気に先を歩く彼の姿を見る。
「どうした?」
不思議そうに眉根を寄せる青年の顔を間近にし、フヨウは驚いたように後ろへ飛び退いた。
「…君ってば本当にぼんやりしすぎだよ、ほら」
差し出された手は人間のそれと変わりなかった。
511
:
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:2009/05/10(日) 21:21:57
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「こいしっ!」
総毛立つ感触に、さとりは思わず叫んでいた。
「ん、お姉ちゃん?」
初めてその存在に気付いたというような声をあげるこいし。
事実、こいしは声をかけられるその時までさとりを失念していた。
声をかけようにもこいしを知覚できなかったさとりとは対照的とも言える。
「どうしたの?」
危機感の欠落したその声に、さとりはまた別の理由で慄然する。
それはさとりだけが抱いている危惧なのだろうか?
さとりには十六夜の心が読める。
それ故に、さとりの全感情が訴えるのだ。
「逃げるわよ」
――逃げろ、と。
「逃げる? 何から?」
だが、こいしにはそれが伝わらない。
「この前のことを忘れたの?」
「この前? あぁ、ひょっとして十六夜に初めましての挨拶をした時?」
「あの時と同じことが起こるわ」
「そうなんだ。でも、その方が面白いよね」
「こいしっ!」
「んー、お姉ちゃんが何でそんなにビクビクしてるのか私にはわかんないよ」
何故、伝わらないのか。
それが普通なのだろうか。
さとりにはわからない。
心の読めるさとりに、心の読めないこいしのことは――
「……違う」
そうではない。そんなことは関係ないはずだ。
「お願い、こいし。私の言うことを聞いて」
「……お姉ちゃん?」
「お願いだから……」
こいしに理解させることができなくても。
さとりの思いをそのまま伝えることが出来れば。
「あなたが傷つく姿を、私に見せないで」
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512
:
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:2009/05/10(日) 22:12:54
// この投稿は匿名によるものです--------------------------------
灰が降り積もる。
雪とは異なり結晶構造を成さないそれに吸音効果があるとは到底思えないのだが、
あたりは不気味なほど静まり返っていた。
かすかな光に照らされたその場所は、よく見れば思いの外広かった。
ただのコンクリートだと思っていた床は実は一部に過ぎず、その大部分は学校の
廊下のようなリノリウム張りとなっていた。建設途中に破棄されたというよりは、
破棄された後に風化ないし破壊されたのだろう。先程十六夜の風によって吹き飛ばされた
家具らしきものはよく見れば長机で、どうやらここは予備校だったらしい。
放棄されてかなりの年月が経っているのか、あちこち壁の塗装が剥がれた様はさながら
腐乱死体のようで、廃墟特有の押し潰されそうな空気が忸々と立ち込めている。
常人なら間違っても留まりたいとは思わないその場所を塒(ねぐら)としていた
とある「普通」の強盗犯達は、十六夜の強襲から意識を回復させた直後に一目散で
遁走している。追いかけなかったのは、彼らが戦利品を置いていくのを確認していたからだ。
故に、ここに残っているのは二人だけ。
夜の中に混じる朱。
その光を吸収し、黒灰がちらちらと彼らのもとに降り注ぐ。
「――いい夜だったわね」
告げる十六夜の相貌には、笑みがあった。
凍結したような瞳は敵を見据えてまばたきもせず、口元だけが異様に吊り上がった
その表情を、笑みと評していいのかはわからないが。
ビルの建物の一室。
そこに『降り積もる』雪。
10階より上層が跡形もなく消し飛ばされたビルで、彼らは最後の対峙を迎えた。
// この投稿は匿名によるものです--------------------------------
513
:
小ネタ
:2009/05/15(金) 23:19:50
1 魔がさした
居間で何時ものようにフヨウが何かの物真似を披露し、
酔っ払った周囲が囃したてるのをコピーエックスは若干冷めた目で見ていた。
「なんだい、青いののノリが悪いよぉ?」
絡んでくる酔っ払いを避けるように洗面所へ逃げ込み、息をつく。
…ふと、鏡台の横に置いてあったブラシが目に入り、それを手に―
「………キラッ☆」
なんとなくポーズを取ってみる。
「……………」
「……………」
風呂に入りにきた紅と鏡の中で目があった。
2 三十七歳
アサヒにはどうしても一息に物を言う癖があった。
「お、紫さんだ」
珍しく縁側に現れた八雲紫にアサヒは常々疑問に思っていた事を聞いてみた。
「紫さん十七歳って本当なのか?」
アサヒが最期に見たのは、視界を埋める弾幕だった。
514
:
ここにいる
:2009/05/27(水) 18:43:32
「結局さぁ、何があったんよ?」
壁に顔面からめり込んだ…本性である姿な為、色々と酷い事になっているドロシーから距離を取るようにしていたコピーエックスにふと翳る。
「そりゃあさぁ、あんたの百式をシルバーカラーにしたり、専用ザクの角折って普通のザクにしたのは悪いとは思うよ、但し反省はしてない。
あ、うそうそ。反省はしてるからバスターこっち向けんな。
おーけー落ち着け鉄屑話し合おう」
うごうごと混ざった絵の具の様な体表を揺らして、焦る彼女にエックスはほんの少し笑みを溢し―肩を落として、壁にもたれるように座り込んだ。
その様子を察したのか、ドロシーはコピーエックスの動きに注意を払うように…あるいは彼の言葉を聞き逃すまいと体を揺らすのを止めた。
床に視線を投げ掛けるコピーエックスは何かを言うわけでもなく、ただ黙ったままにその場へ身を縮めるように蹲っていた。
水音に視線を動かせば、人の姿へと化けた化性が一人、裸を晒したまま、彼を見下ろしていた。
「話して、くれる?」
いつもよりかすれたドロシーの声にコピーエックスはぽつりぽつりと言葉を吐き出し始めた。
515
:
ここにいる
:2009/05/27(水) 19:02:59
「夢で、あいつに会ったんだ」
「うん」
「僕の事を見て、あいつはこう言ったんだ」
肩を抱くようにしていた手に力がこもり、瞳に激しい怒りと憎悪が宿る。
「僕は、あいつがなりたくなったあいつなんだって」
「…うん」
「ふざけるなよ!勝手に居なくなっておいて、いきなり帰ってくるなり僕が、僕が出来損ないみたいに言いやがって!」
その顔は怒りに歪んでいたが、ドロシーの目にはそれが今にも泣き出しそうな顔にうつった。
だからだろうか、そうしなければ彼が何処かへ、かつてドロシー達が、この家に流れついた者達が居た冷たいあの場所へ行ってしまいそうで―
『英雄』という名の呪いに縛られた彼を胸に抱き締めていた。
突然の事にエックスはドロシーの胸に顔を埋めたまま、目を丸くしていた。
「エックス、あんたは強い子だ」
わしゃわしゃと彼の人工毛髪を撫でながら、彼女はエックスを強く抱き締め続けた。
「だけど、ここでまで強くある必要はないよ。
だって、私達は
家族でしょ?」
516
:
昼下がりの1コマ
:2009/06/16(火) 13:27:42 ID:Ps7ymsCw0
グランド・モフ…元々は複数の宙域の統括を命じられた総督のことであり、銀河史に永久に残るであろう、
オルデラン破壊を行ったターキンも最初のグランド・モフの1人だった。
帝国の設立から半世紀が経とうとしている今日ではグランド・モフは宙界を丸ごと1つ支配する権力者と
なっていた。この地位を「ばかげたもの」と評したのはダース=ヴェイダーが最初で最後だろう。
彼らの権力は皇帝を除けば、銀河史上かつてないものにまで強くなっているのである。
現皇帝の故郷の惑星として知られるアクシリアにもアウター=リムを統括するグランド・モフの総督府が
存在する。そしてその最上階のオフィスに初老の男の姿があった。
彼の名はグランド・モフ・アーダス=ケイン。姿こそ初老だが、彼はすでに100標準年を越える年月を
生きており、その内の半分を総督、モフ、グランド・モフとして過ごしてきた。顔が映るほどぴかぴかに
磨き上げられたブーツ、皺一つ無いカーキ色の軍服、アカデミーを卒業したばかりの少尉のように
ぴんと伸びた背筋、いかめしい顔つき、短くカットされた頭髪…外見の特徴のどれをとっても彼の
隙の無い性格が表れていた。
「ブラクサント・セクターの月例経済報告はできあがっているかね?」
「はい、閣下。2時間前に送られてきました」
「大変結構だ、バスティオンの官僚達は極めて優秀だね」
補佐官の大佐が厳重に梱包されたホロ・ディスクを渡すと、彼は自分のデータパッドにそれを取り込み、
目を通す。数字は全てが好調なことを知らせており、彼の機嫌を損ねることは無かった。
「これで主要セクターの月例経済報告は集まった。3日で皇帝陛下への報告書を製作してくれたまえ、
一週間後に委員会があるから、その時に陛下に報告する」
「仰せのままに、閣下」
大佐が踵を鳴らして敬礼し、オフィスを後にする。報告を読み、それに意見を付け加えて部下に渡すまでに
1時間が過ぎていた。昼食を摂るには良い頃だろう。
「今日のメニューは『ブルアルキのワイン煮込み』か…ふむ!」
彼は微妙な表情をした。といっても彼は献立に不満があるわけではない、むしろ彼の好物なのだ。
問題はブルアルキが非常に高カロリーであることと、自分がそれを不安を抱かずに食べるには
歳をとりすぎているという点だった。結局、数切れを残せば問題は無いという結論に達し彼は
補佐官に食事を持ってくるように伝えた。
「皇帝が羨ましい、あれだけ暴飲暴食をしてよく体が持つものだ…」
そう独り言を呟くと、読みかけの『シーリン詩集 悲劇編』をめくり始めた。
料理が運ばれるまでに10分は待たなければならない。数ページ読み進めることはできるだろう。
517
:
記憶
:2009/06/16(火) 18:53:34 ID:bjIIsJPQO
嫌だ。
喉を掻き斬ってなおも収まらない嫌悪感にヤラは鎌を男の頭へ振り下ろした。
骨と肉を裂く感触が手に伝わり―だが、次の瞬間にはじわりと胸の中で嫌な物が広がった。
嫌だ、嫌だ。
悲鳴を上げて逃げ惑っていた者、銃を手に応戦してきた者。
それを一人残らず肉塊へと変え、彼女は最後の男の腕を跳ねた。
「ま、待ってくれ!たかが一人だろう!?
み、身寄りもねぇ、能力だってそんなに高くもねぇ。
そんな奴を実験台にして何g」
ズダン、と石突きで男の足を貫く。
「ぎっ…」
「黙れ」
無表情のまま、手をかざすと闇が男の口を塞ぐ。
恐怖に染まったその顔に石突きを突き立てる。
「黙れ、黙れ、黙れ、黙れ!」
悲鳴を上げることも出来ず、他の者同様に肉塊へ男が姿を変えても、
ヤラはいいようのない嫌悪感と怒りに手を止める事すら出来ずにいた。
血を吸い、すっかり重たくなった黒いローブを脱ぎ捨て、ヤラは鎖に繋がれたままの子供を見つめた。
実験台とは良く言ったものだ。体に残された痕跡は子供が何をされたのかを物語っていた。
鎖を斬り離しても子供は動こうとせず、床にただ転がるだけだった。
ああ、とヤラは息をついた。
もうこの子は壊されてしまっている。
光を失ったその瞳を伏せてやり、すっと背筋を伸ばし―
…………
518
:
記憶
:2009/06/16(火) 19:01:11 ID:bjIIsJPQO
アラーム音に目を開ける。
アナウンスは港についた旨を話し、ヤラはそれに面倒そうに体を起こした。
夢、というより父や仲間から受け継いだ記憶を見ていた。
誰のかは定かではないが、仲間の誰かしらのものだろう。
(しかしまたなんでこんな夢を見たんだか)
欠伸を噛み締めながら、簡素なベッドから降り、他の乗客に混じって港に降りていく。
「おかえりなさい、よく無事に帰ってきたわ」
「お父さん!おかえりなさい!」
港で家族を迎える者の姿に混じって聞こえるのは誰かが誕生日を祝う歌。
「ああ、そういえば」
思い出したように足を止め、外を見つめる。
「群れの皆が私を拾った日だったっけ」
インペリアルセンターを染める夕日を横に浴びながら、ヤラは久しぶりの我が家へと急いだ。
519
:
存在の意味
:2009/06/16(火) 23:07:36 ID:g1SrzQBM0
ベランダから夕方を見つめる一体のアンドロイド。
時折吹く強い風が彼女の紫色のポニーテールをなびかせていた。
だが、彼女、アルファがこうしているときは何かしら悩んでいるときだった。
その悩みというのが存在だった。
もはや、彼女には存在などどうでもよくなっていた。
自分の存在する意味を失っていたからだ。
ここ最近、彼女が本気で稼動することは全くない。
彼女はアンドロイドで、戦うことで今まで生きてきた。
それが今、その彼女の力は必要とされなくなってきていた。
無論、その方が平和でいいのだが、彼女には何かが物足りないような気がしていた。
相方は相変わらず元気にやっていた。何が原動力なのかたまにわからなくなる。
ベランダに近づいてくる相方の元気な声をよそに、一人憂鬱な雰囲気にかられていた。
相方のほうはその金髪をなびかせながら遠くを見つめている。彼女の顔には笑みが浮かんでいる。
そして、アルファはやってきた相方、シャーリィに一言つぶやいた。
「私みたいな兵器には今の平和な時代に生きていく資格はないのでしょうか」
それを聞いた相方は、紫色の髪をつかんでわしゃわしゃとかきまわし、こういった。
「あのなぁ、おまえはおまえなんだよ、気にせず生きてきゃいいんだよ
細けぇこと気にしてると老けちまうぞ?…お前、アンドロイドだから老けないのか
全く…それにしても羨ましくてエロい体してやがるぜ」
そう言うとシャーリィはアルファの隣に腰をおろした。
「お前がいなくなっていい理由はどこにもないさ そうだろ?」
シャーリィの笑顔は、まるで今、沈んでいる最中の真っ赤な夕日の様だった。
そしてアルファは決意した。
『私が必要とされていなくても、壊れるその日まで生きつづけよう』、と。
以降、ベランダにアルファが来ることはなくなったという
520
:
暗い場所で
:2009/06/26(金) 00:41:14 ID:f0IKFGZgO
「あら、あら、まけてしまったわ」
ジジ…と火花を散らし倒れたロボットを見下ろしながら、少女はさもおかしそうに―何の感情も篭っていない声で笑った。
「ゆかい、ゆかい、全くたのしい人々ですわ」
背後に仮面の男を従えて、少女は壊された機械の間を踊るように進んでいく。
その度に白いリボンがふわりふわりと場違いに山を撫でていく。
「てかげん、てかげん、でも本気?そうだとしたら素晴らしい!」
言葉の羅列を繰り返し、少女がくすくすと笑う。
男はただ無言でそれに従う。
「さんぽ、さんぽ、また外まで行きましょう。
沢山、大勢、おもちゃはいっぱい!嗚呼、世界はなんてすてきなの!」
外、の一言に少女の後ろに従っていた男が体を覆う鎧に手をかけ――
521
:
名無しさん
:2009/06/27(土) 20:52:37 ID:j1Olu0.MO
洗面所の鏡に走る亀裂を見て、ドロシアは溜め息混じりに手帳を開いた。
『
・洗面所×
・風呂場×
・二階洗面所×
・地下
・倉庫内の鏡×?(確か割れてた)
なんだこれオワタ』
…一番下のは先程二階を調べた義妹が書いたのだろう。
余計な事はあまり書かない様釘を差した筈だが、いつもの様に聞いていなかったのだろう。
(それにしても…)
一夜の内に家中の―まだ全部を見て回った訳ではないが多分―鏡に
ヒビが入っているのは、いくらなんでも異常な事である。
…一瞬酔った挙げ句に窓ガラスという窓ガラスを全てぶち破ったという黒い歴史が頭を横切ったが、
頭を振ってそれらを記憶の彼方へ追いやり、鏡に背を向け―
くすくす…
「?!」
背後から聞こえた…気がした声の主に手帳を反射的に投げつける。
ガシャン!
金具の部分が当たったのか、鏡はとうとう壊滅的な迄に砕け散り、陶器の洗面台へとこぼれ落ちた。
「……ー?何か凄い音したけど大丈夫ー?
…シア姉ー?」
使い魔を展開したまま、ドロシアは壁づたいに床へ座り込んだ。
522
:
それでも朝はやってくる
:2009/07/06(月) 08:44:13 ID:45.52UcY0
最初はただもう少し早く走ってみたくなっただけだった。
アクセルを握る手に力を入れ、前へ前へと進んでいく。
風が耳元を掠めて鳴り響き、景色が前から後ろへ流れていく。
メーターが乱暴にぶれるのも気に留めず、ただ走り続けた。
気づけば、訳のわからない涙が風に流され、頬を伝っていた。
「はぁ、ぜぇ、はっ」
嗚咽交じりの吐息を吐き出しながら、涙の滲んだ世界を振り払うように。
ここから逃げ出すように。
真っ赤なテールランプを闇夜に残して、遠くへもっと遠くへと囁く声に
急かされる様にスピードを上げて―
気づいたときには、ガードレールはすぐ目の前に迫り―
「―あ」
飛び散るバイクのパーツの向こうに見えた空はぼんやりとした星と
空を紅へ染めていく朝日が浮かんでいた。
「え?大丈夫かって?・・・あたしの丈夫さはわかって・・・はぁ?バイクのほう?
ありゃもう駄目ね、思いっきりぶつけたし。
・・・わかってるわよ、ちゃんと帰れるって・・・子供じゃないんだから」
もはや鉄屑と化したバイクの傍らでタバコに火をつけ、煙を吸い込み
昇り来る朝日へにたりと笑う。
「こんなくそったれな夜にも朝日は来る・・・ってか」
523
:
廃アパート
:2009/07/10(金) 18:12:36 ID:bZCAwxzEO
学校にほど近い場所に噂の廃アパートはあった。
昭和の中程に立てられ、いつからかうち捨てられたそこには曰く「呪い」がかかっている、らしい。
強引な地上げ屋に殺された老婆のものだとか一家心中を図った一家が憑り付いている等…
オカルト倶楽部が不定期に発行する「ザ・怪奇新聞」を流し読みしながら、アサヒは
各地の美術館でのイベントを告げるポスターを張り替えていた。
「美化委員ってフツーこんな事までするか?」
古いポスターを床にまとめているフヨウが首を傾げる。
「さあ?」
「さあ…ってお前、美化委員じゃねぇかよ」
アサヒの言葉にフヨウはいつものようにうーとうめきながら、腕を組む。
「アーちゃん帰宅部なんだから暇だよね?」
「うるせぇ、こう見えてもオレは色々やりたい事あんだよ。
サーティワンで新作食おうかと思ってたのに…くそぅ」
「帰り道では買い食いは良くないよ?」
「…お前は小学生のがきんちょか」
律儀で天然な彼女を尻目にアサヒは最後の画鋲を掲示板に突き刺した。
524
:
廃アパート
:2009/07/10(金) 18:22:51 ID:bZCAwxzEO
「あれ?」
「ん?なんだ、忘れもんか」
突然立ち止まったフヨウにアサヒはアイス(手伝い賃としてフヨウに買わせた)を手に振り向いた。
彼女の視線の先を辿れば、ボロいアパートにともった灯り。
「あー、どーせホームレスかなんかが上がり込んで住んでんだろ。
いいじゃねぇか、誰も住んじゃいねぇんだし」
出来ることなら早く帰りたいアサヒの心境を知ってか知らずか、フヨウはじっと窓を凝視していた。
「ほら、あんまり見てるとその内ゴミ投げられっぞ。早いとこ…」
「アーちゃん」
「帰ろうぜ…って何だよ、まだ何かあんのかよ?」
すっと窓を指差し、一言。
「中の人、天井からぶら下がってるよ」
525
:
盈月明夜
:2009/07/12(日) 22:12:19 ID:OVB69jK60
轟、と。
無を焼き尽くす炎が、夜の帳を引き裂いた。
「もう、邪魔しないで、よ!」
少女が素早くスペルカードを構える。
――核熱「ニュークリアフュージョン」
炎と炎がぶつかり、互いを食い合うようにして渦を描き、そして消滅する。
急激な気流の変化に風が吹き荒れる。すでにあたりは台風に近しい暴風域となっていた。
その風に髪をなびかせる者は、二人。
――いや、果たしてそれらを二人と表現するのは正しいのか。
紅蓮と漆黒。それぞれの翼をはためかせ、中空にて対峙。
その時点で、およそ常人とはかけ離れた世界に存在していることがわかるだろう。
漆黒の翼を宿した少女が、その背の力をばさりと一度大きく打つ。
本来の翼あるモノならば、吹き荒れるその風に弄ばれ地上に叩きつけられるものだが、
少女の翼は風などものともせずにゆったりと上下している。
それは降臨する天使を思わせる雄大な動きではあったが、
「しょ〜めつ〜、あははははッ!」
右手の制御棒を振り回して笑う姿に、およそ威厳と評する部分は見当たらない。
「まったく、いっつも私の邪魔する貴方は何者?」
自由な左手でかきあげる、膝まで伸びた長い黒髪。
その、夜に吸い込まれそうな深い色は、しかし上品さを醸し出す濡羽色というよりも、
百獣の王の鬣のような粗野と荒々しさを生み出している。
「八咫の神様の力を借りた私と同じ炎を作れるなんて、ね」
その表情も人間のそれと酷似しているものの、やはりどこか異なる。
あえてその差異を挙げるとすれば、「目」だろう。
少女の相貌をしたその目は、しかし少女のものではありえなかった。
獰猛。
それ以外に言語化の出来ない輝きは、食いつき、食い破り、食い荒らさんばかりの
プレッシャーを漲らせている。
それこそ、無限の焔で世界を焼き焦がす、あの中天の光のように。
「――さてね」
応えるのは、対照的な白い輝き。
銀色の髪を夜闇にたなびかせるその顔には、あたかも感情を目の前の少女に奪われた
かのように暗欝な無表情が浮かんでいる。
しかし、その背に生えた紅蓮の翼は揺るがない。
留まることなく、抑まることなく、絶えることのない不尽の炎は、彼女の内面の力強さを
象徴するかのごとく光熱を発していた。
「季節の巡りに背く熱を」
そっけなくつぶやくその手には、すでにもう一枚のスペルカード。
――貴人「サンジェルマンの忠告」
――爆符「メガフレア」
526
:
皿洗い
:2009/07/20(月) 23:18:50 ID:Vh6IChyc0
今日の夕飯が終わった。食器が次々と台所に運ばれていく。
その食器を洗うのは今日はアルファの番だった。
いつもならイツ花が一人でやるのだが、
生憎今夜は町内会へ用事へ出ていて帰ってきそうにない。
そこで夕食前、ジャンケンをして決めることになった。
そして、最後まで負け続けたのがアルファだった。
積まれていく皿をいとも気にせずただ洗い続けるアルファ。
だが、そこに広がっていたのは一種の異様な光景だった。
洗剤も付けず、ただスポンジでごしごしと洗い続けるアルファ。
このままではいつまで経っても終わりそうにない。
心配になってきたので、声をかけることにした。
「アルファ、大丈夫かい?手伝おうか?っていうか、洗剤付けようよ」
ロボットにも荒れ性があるのだろうか、でもそれだって手袋をつけてやればいいだけの話だ。
するとアルファは一言言った。
「洗剤は戦車に使うものではないのですか?」
そうだ、アルファは戦車全盛期、しかもオイルショックどころではない時代だ。
恐らく洗剤を使うのは戦車にのみ、だったのだろう。
だが今は時代が違う、世界が違う。すかさず突っ込みを入れる。
「あのね、皿洗い用の洗剤があるのね?それを使えばてっとり早く綺麗になるから、使っていいよ」
それを聞いたアルファは目を丸くする。ぽかーん、というか、驚きというか、そんな感じだ。
「マスター、皿を洗う為の洗剤なんて贅沢じゃありませんか?」
彼女にとっては当たり前だろうが…。
「それに、イツ花も使っていませんでしたよ?」
「いや、イツ花は使わないでも洗えるからいいの」
イツ花は平安の生まれだ。洗剤なんて知っても使わないだろう。
…いや、実のところ塩を洗剤代わりとして使っているのだが。
ちなみに平安の時代では塩は高級品のはずである。あれをああも簡単に使うとは。さすが神。
それは置いておいて、問題のアルファだが、プライドを傷つけられたらしく、頬をふくらましている。
「マスター、私にだって洗剤がなくても皿は洗えます」
そう言うと、またもくもくと皿を洗い始めた。
少なくとも、見た目的には綺麗ではあるが…塩さえもつけないのは…。
すると、アルファが一言。
「まだ細菌がついています…く…これはピロリ菌…」
「いや、だから洗剤使えよ!ってかよく見えるな!!」
結局、アルファの皿洗いはすべて終わる前に、イツ花に引き継がれた。
あんな真剣なくせに遅いの見てたら夜が明けてしまう。
そして、イツ花は引き継ぐついでに殺菌のテクニックも教えていた。
「いいですか?殺菌はですねぇ、お湯にバーンとォ!入れて熱湯消毒しちゃうんです」
「なるほど…確かにそっちのほうが効率がいいですね」
「…熱湯消毒でいいって君らアバウトだな いや、確かにそうかもしれんが」
こうして、乃木家の台所は今日も優しさに包まれていた。
…そして、明日も…?
527
:
洗濯
:2009/07/21(火) 13:59:58 ID:omLhYaF60
夏の晴れた日、洗濯日和と告げる太陽が空で威張ってる。
今日は雲ひとつない快晴である。こういう日こそ海の日にするべきだろう。
いや、休日を増やせと言っているのではない。ただ単に、言っただけだ。
決して休みがほしいわけではない、ないのだ。
洗濯はいつも通りイツ花の担当…のはずだった。
今日も町内会の用事でいない。回覧板を回すだけなのに、あれは絶対しゃべってる。
しかも本気で、ああ、いつになったら帰ってくるのだろう。
するとアルファが昨夜のリベンジとばかりに洗濯ものを持ってくる。
イツ花愛用の洗濯用桶と洗濯板、そして、これまたイツ花愛用の洗濯石鹸を持ってきた。
何というアナログな方法だろうか…。
アルファは洗濯物を洗濯板の上でごしごしとやり始めた。
時々石鹸をつけて、桶の中の水で洗って、まだごしごしと。
手慣れているイツ花はともかく、それ以外は皆洗濯機に持っていくのに、
先ほども言ったが昨日のリベンジなのか、アルファはごしごしと洗濯ものを洗っている。
彼女だって洗濯機のほうが効率がいいことぐらい知っているのに。
…もう見ていられない、洗濯機で洗うように促そう。
「おい、アルファ 洗濯機で洗ったほうがいいんじゃないのか?」
するとアルファは顔を真っ赤にして答える。これは照れではない、怒りだ。
「マスター、あなたにはピョンヤンというものがないのですか?!」
「ソウルと言いたいのか?!ピョンヤンは北朝鮮だよアルファ!」
「すいません、迎春のことを考えていたら…」
「青春じゃないの?まあ、とにかくそれはいいとして、なんで洗濯機で洗わないの?
そっちのほうが効率もいいし、少なくとも洗濯板よりかはずっと綺麗になる。」
「だからマスターにはペキンが足りないんです!」
「いや、だからね、ソウルが足りないのはわかったから」
「何の影響受けたかは知らんけど、いつものアルファでいいの」
頭をぐしゃりと撫でる。「ふみゅ」、と聞こえたような感じがした。
「…わざわざ失敗する方法でせんでも」
「うるさいです、マスター それに失敗は…あ」
「あー、破れて…ってこれ自分のシャツ!?」
追記
この日は実は東京はしとしと雨でした じめじめ
528
:
盈月明夜
:2009/07/27(月) 21:56:29 ID:ZqlKNNqM0
音すら消し飛ぶ大爆発。
その爆心地にあって、妹紅は涼風でも浴びるかのように佇む。猛然とたなびく
髪の束が天を突くように怒髪しているが、表情は相変わらず暗欝なままだ。
喜怒哀楽を殺しているわけではなく、単に気分が晴れないだけだった。
それを「仕事」と呼ぶのだろうと妹紅は思う。
仕事――己の意思が望まぬことを、しかし己の利益のために成す。
無論、これが初めての労働ではない。
生きるために必要なものが余りにも少ない身であるとは言え、それでも対価を得るために
労働力を行使したことくらいは経験があった。
だが、今している「仕事」は明らかにそれとは異なる。
対価として得られるものは、今の彼女にはゴミ同然の代物だ。
「まったく……被害ばかり増やす」
つぶやく。込められた感情は忌避の念。
周囲になるべく被害を与えない場所を選んだつもりだった。建物としては巨大だが、
損壊が激しくホームレスでさえ住めそうにない廃墟の頭上。またその傍らには
楕円形の白いラインが引かれた空白地帯が広がり、戦場にはうってつけだった。
これまでの経験上、場所を選ばないと被害の規模を推し量ることすら出来なくなる。
一度、人の通りが疎らにある商店街の遥か上方で相対した時は、あの翼人――否、
人面烏の恒星落とし(メテオスマッシュ)で街が蒸発しかけた。文字通り死力で止めたが。
しかし、人がいなければ何をしてもいいと言うものでもないだろう。
空白地帯には隕石でも落下したようなクレーターがいくつも出来上がっている
――いや、「ような」も何も文字通りのことが起きているのだが。
埋められた対人地雷を根こそぎ爆破させても、ここまでにはなるまい。
今でこそ誰も住んでいない廃墟だが、使われていた当時というものが必ずあったはずで、
それを考えると無価値にして無遠慮な破壊の爪跡に、言い知れぬ不快がこみ上げてくる。
これで終わりに出来ればと、何度思ったことか。
そして、それは未だに叶ってはいない。人面烏の言う通り、これで何度目の対峙になるか
数えるのも億劫になるほど相見えてきた。
そう――その異質極まる炎でさえも見飽きてしまうほどに。
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