したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。

仮投下スレ

47名無しさん:2015/07/19(日) 14:02:18 ID:???0
投下乙です
ひええ、バハムートまで抱えてるのか……
支給品を全てカードで補ってるのも面白そうだけど、死者もカード化してしまうのはゾンビ化能力持ちのリタとかがいるので難しいところ

ウィクロスは2期も含まれていると思うので心配ないかと

48名無しさん:2015/07/19(日) 14:03:22 ID:65OV/Qz20
投下乙です!
流石に二期込じゃね?w>ウィクロス
カードで支給とかカードになるとか面白かったし、バハジェネのノリ全開で楽しかったです
ファバロオオオ!

49名無しさん:2015/07/19(日) 14:31:47 ID:L3JsfHic0
投下乙です
繭主催のOPを待ってました
やっぱり繭は主催映えする
いろんな世界があると知ったらこういう事を真っ先に思いつく性格してるからなぁ
デイパックのカード化は問題無いと思います
死体のカード化に関しては物議をかもすところですが
僕はこのままでもいいと思います
カードにして持ち歩けることで何か面白いことが起こりそうなので

50名無しさん:2015/07/19(日) 17:19:46 ID:ilykv0B.0
投下乙です
ファバロオオオオオオオオオが完全にカイザルの声で脳内再生されましたw
支給品のカード化や首輪爆破の代わりにカード化というのも面白いと思います

死体のカード化に関しては、リタのように死体を使って戦うキャラや
死体を使った展開(埋葬話だとか、死体を見て動揺したり殺害者を分析したり)に影響があるかもしれませんが、
そのあたりは書き手さんの見極めしだいでいいと思います
逆にカード化によってできることがあるかもしれませんし

51 ◆..N2cWeukk:2015/07/19(日) 19:49:14 ID:tvJiYulY0
感想ありがうございます!
リタちゃんのゾンビ化能力は完全に失念してました…
参加者(アイドルとか)をゾンビ兵にしてしまうリタちゃんは見たいような見たくないような気もするけど
死体が残るVerも書いたので投下します

>>43まではOP案4と一緒です

52OP案4-2 ◆..N2cWeukk:2015/07/19(日) 19:50:55 ID:tvJiYulY0
 
 駆け寄って手を取るが、その手は冷たくなり始めている。
 なぜ。この数奇なる同行者は、並みの悪魔なら一撃でのしてしまう強さを持っているはずだ。
 それがなぜ。わずか一合。一撃で。
 あの少女が言っていたのは何だ。あの腕は。『バハムート』?

 ――『バハムート』と言ったのか?


「ファバロオオオオオオオッ!!! アーミラ嬢はッ!? あ、アーミラ嬢オオオオオオオッ!!??」

 遅れてリーゼントの男がその場に到着し、煩い叫びを上げる間にもファバロは思考の渦の中にいた。
 ありえない。封印されているはずだ。
 どころかその封印を解かせないために色々と作戦を練っていたのでは?
 なのに――――だとしたら――それは、あまりにも――最悪だ。


 だが一端の賞金稼ぎの想像する最悪など、連鎖する最悪の始まりに過ぎなかった。

「ルール違反の悪い子には、おしおき」

 灰色の少女が冷たく告げる。
 ファバロとリーゼント男、カイザルが見守る中、桃色少女が力尽きようとしていたそのとき。
 そのからだが淡い光に包まれて、そこからまるで魂が抜け出るような光の奔流が、線状のアーチを描いて伸びた。

「あ……アアアアアアアアアアアアッ!!」
「――なっ」
「――にぃ!?」

 悪魔のまさに断末魔の叫び声と共に、
 光の線は全ての「参加者」に平等に嵌められている腕輪へと吸い込まれていく。
 そして光が全て吸い込まれたその後、腕輪からカードが剥がれ落ちた。

 ファバロとカイザルは瞠目する。
 白紙だった「マスターカード」にイラストが描かれている。
 動かぬ絵となったそれは――

「アーミラ嬢……アーミラ嬢が……カードにぃいいいいい!!??」



「あははははっ。これが最後のルール。
 繭に逆らったり、刃向かったりしたら、あなたたちの「魂」はマスターカードに閉じ込められちゃうの。
 それだけじゃないよ? 死んじゃっても同じ。不死だろうと何だろうと、死んだらみんなカードの中。
 出せるのは繭だけ。でも、出してあーげない。弱い子は、永遠に暗くて寒い所で、暮らす運命。そう、運命!」

 繭は両手を広げる。
 病人らしきその青白い細腕に、漲っているのは呪いだ。

 少女を憎む思い。
 大人を憎む思い。
 世界を憎む思い。

 思いは呪い。呪いはまじない。
 まじないは魔法となり、少女は世界を創造する。
 ここは彼女の世界、羽化できない繭の、彼女だけの為の世界。
 演出も、設定も、規律も倫理もぜんぶぜんぶぜんぶ、彼女の思い通りなのだから。



「――選択、しなさい。
 たくさん殺して生き残るか。
 殺されて永遠にカードの中で暮らすか――ふたつに、ひとつ!!」



********************** 



 それ以外の選択肢は、ない。



**********************

53OP案4-2 ◆..N2cWeukk:2015/07/19(日) 19:52:22 ID:tvJiYulY0
 

 
 説明は終わり、部屋はもう要らないものになった。
 地響きとともに白い部屋の床は崩れゆく。ステージを除いてひび割れる。
 悪魔の少女との戦闘跡も消える。
 動けなかった者、動かなかった者、動きたかった者、困惑も焦燥も恐怖も愉悦も、
 瓦礫と化していく部屋と共に、すべてが下に控えていた巨大なワームホールに飲みこまれていく。

「ち……ちくしょぉおおおおッ!!」
「ファバロォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 赤髪のアフロ・ヘアーは崩れる足場に手を伸ばし、寸での所でアーミラのカードを掴む。
 リーゼントの騎士は戦友の名を叫びながら落ちて行き、ワームホールへと吸い込まれていった。
 遅れてアフロヘアーも宙へ投げ出される。
 近くを落ちるアーミラに手を伸ばすが、すでに魂のないそれは青年の手を握り返さなかった。

「……!」

 そして少女もまたワームホールへと消える。
 逆さまになった視界の中で、青年に残されたのは、絵だけになってしまった同行者のカードだけだ。
 物言わぬカードとなったそれに、道具にされてしまったそれに、
 いつもひょうきんな表情の青年は、真剣に向かい合う。


「……選択……か……」


 そして平等に吸い込まれる。
 向かう先は、繭の世界。
 バトルロワイアル・ゲームのために造られた、いびつな少女の、ゲーム・マップだ。

 すべての参加者はそこで選択する。
 生きるか、死ぬか、殺すか、助けるか。
 叶う願いはひとつだけ。選ばれる選択肢は、ひとりだけ――。



【ゲームスタート】



【主催】

【繭@selector infected WIXOSS】
【???@???】


【4種類のカード】
白:マスターカード
 腕輪に嵌まっているカード。
 地図ナビ、時計、名簿、脱落者の確認、点灯などいろいろ行えるカード型端末。
 死んだり主催に刃向かったりしたら、このカードの中に魂が封印されて喋ったり動いたりできなくなる。
 基本腕輪から取り外せないが、死んでカードに封じられた後に剥がれ落ちる。
黒:ランダムカード
 つまりランダム支給品。出したものをカードに収納できる。
 一回出してからカードに再収納すると効果欄が浮かび上がって詳細が確認可能。
赤:フードカード
青:ウォーターカード
 食料と飲料。任意のものが出せる。1回につき1人前までで、10回まで。
 一度出したものは元には戻せない。

54 ◆..N2cWeukk:2015/07/19(日) 19:59:42 ID:tvJiYulY0
以上です
「死んだら」の基準は致命傷を受けて心臓が止まったら、くらいの感覚で
それこそリタとか流子ちゃんとかの死んでも蘇れる勢へのメタって感じです

55名無しさん:2015/07/19(日) 22:11:58 ID:???0
投下乙です
OP投票には死体が残るVerが立候補って感じでいいですかね?

56 ◆..N2cWeukk:2015/07/19(日) 23:27:32 ID:35jWjk4k0
>>55
そうですね、その方向でお願いします

57名無しさん:2015/07/21(火) 23:23:03 ID:???0
【会場MAP案】
ttp://i.imgur.com/Yh4LXh8.jpg

多ジャンルロワの地図を参考に製作しました
あとから弄ることも可能なのでなにかあればどうぞ

58名無しさん:2015/07/21(火) 23:39:48 ID:aWZLP3c20
会場を通ってる鉄道は高架、地上、地下のどれですかね・・・?

59名無しさん:2015/07/21(火) 23:44:44 ID:???0
>>58
自分のイメージでは地上ですね

60名無しさん:2015/07/21(火) 23:50:05 ID:MFdMiQSE0
>>57
完成度たけーなおい

61名無しさん:2015/07/22(水) 00:00:29 ID:Ipy0m31.0
>>57
おお、色々施設があって面白い
ひとつ提案ですが、映画館はシネマサンシャイン60(および60通り)とかにしてみては?
デュラララ絡みの施設があっても良いかなぁと思ったので

62名無しさん:2015/07/22(水) 00:07:52 ID:BWRJS7Aw0
ウィクロスから出すなら、通称テトリス棒が入りそうなビルかな
正式名称が分からん

63名無しさん:2015/07/22(水) 00:15:02 ID:ldGU9l8s0
鉄道っていうとどうしても高架のイメージがあるな
そもそも電車のタイプどうするか

のんのんびよりに出てきたようなタイプ?

64名無しさん:2015/07/22(水) 10:29:25 ID:WCo4Y5OQ0
これだけ広い街の中で公園は一つか…
本部は結構きつい制限をかけられたな

65 ◆IXB73G6vLY:2015/07/22(水) 11:43:17 ID:4o4hrOic0
地図製作乙です
OP案投下します

66宴の始まり  ◆IXB73G6vLY:2015/07/22(水) 11:43:55 ID:4o4hrOic0
―――彼女は一人だった。

外に出る事を禁じられ、自室にある本と天窓から見える景色しか世界を知らなかった彼女は
自分の思い描いた空想の友達と遊ぶことが唯一の心の拠り所だった。

外に出て色んな事を知りたい。
沢山の友達を作りたい。
数えきれないぐらいの思い出を作りたい。

なのに……なのに、なのになのになのに、なんで私はずっと閉じ込められないと駄目なの?
なんで私はこんな目に合わないと駄目なの?
私が何か悪いことをしたの?

許せない……。私がこんな苦しい思いをしてるのに、のうのうと暮らしている人たちが……
私の苦しみを少しでも皆に受けてもらわないと気が済まない。
みんな苦しめばいい。私だけ苦しむなんて不公平でしょ?誰にも私を責める資格なんて無い。
だってこんなに苦しんでる私を誰も助けようとしてくれなかったんだから。



彼女の憎悪によって生まれたカードの存在によりセレクターバトルという
悲劇の連鎖を繰り返す呪われた争いが続いた。

そんな悲しい物語を終わらせるためにセレクターとなった少女、るう子との出逢いが彼女を変えた。
憎しみに囚われた心は浄化され、彼女の魂は無数の蝶となり消えた。

セレクターバトルに参加していて全ての少女は解放され
それぞれ平和な日常の世界へと戻っていった。


だが、それで悲劇は終わらなかった。
何者かの存在により彼女の魂は再び現世へと引き摺り下ろされた。

67宴の始まり  ◆IXB73G6vLY:2015/07/22(水) 11:44:26 ID:4o4hrOic0
『……さあ起きなさい』

―――誰?

『私は貴女を救いに来たのよ』

救いって、どういうこと?

『このまま貴女が消えて終わるなんてとっても悲しいこと、それじゃ救われないわ
 だから私が貴女を蘇らせる為に、強力してあげる』

……必要ないわ。
私はるう子に抱きしめてもらった……それだけで十分幸せよ。

『フフフ……アーッハハハハハハ!!!遠慮する事なんて無いわ!!
 さあ、私と一緒に楽しみましょう!!この快楽をッこの溢れ出る幸福感をッ!!』

――!?いやっ私の中に入ってこないでぇ!!こんなこと私は望んでっああああ!!
ああっ……染まっていく……私の心が……黒く、塗りつぶされて……いやあああああ!!!!



『フフフフフ……この子はもう、私たちの同志になった。
 これから次の段階への移行を始める』

静かに消える筈だった彼女の魂はドス黒く染め上げられ、精神は歪に歪められた。
それから新たな惨劇が繰り広げられる夜が始まるのはそう遠くなかった。

68宴の始まり  ◆IXB73G6vLY:2015/07/22(水) 11:45:00 ID:4o4hrOic0
そこは白い部屋だった。

床も壁も窓も天井も全てが白一色。

いつの間にかそんな異常な部屋に連れてこられていた。

周囲には見知らぬ人達が狼狽え、ざわめき、泣き出しそうになっているのもいる。
自分と同じ、知らない内に連れてこられた状況なのだろうか。

「皆さん お静かに」

服も髪も真っ白な少女が姿を現す。

「皆さんには、あるゲームをしてもらうために集まってもらいました
 そのゲームの内容は簡単に言えば『殺し合い』最後の一人になるまで生き残ったら勝ちのゲームよ」

「ま、まさか……『バトル・ロワイアル』をさせるつもりか!!」

浮浪者のような小汚い風貌の男が声を荒げる。
少女の言う殺し合いゲームを知っているようだ。

「知ってるのかおっさん!?」

「うむ。正式には戦闘実験第六十八番プログラムと呼ばれ、日本政府によって選ばれた中学3年の1クラスに武器を与え
 最後の一人になるまで殺し合わせるという忌むべき実験だった……。
 もう二度と起こりえないと思っていた悪夢が、こんな所で目の当たりにするとは……一体何の目的があってこんな事をするッッッ!!?」

「それは命よ……争い、傷つき、苦しみ、悲しみ、絶望したあなた達の魂があれば私は再び生き返る事が出来るのよッ!!」

「ふぅざけるなァ!!こぉのガキがァァァ!!!!
 私ならともかく、DIO様の命を欲するとは許さん!!許さんぞォォォォッ!!!!」

「―――――ッ!!」

白い少女の発言にレオタードのような服装をした男が激怒した。
今にも蹴り殺してきそうな勢いの中、何処からともなく刀剣が飛び出し
激怒した男の足元に突き刺さり、歩みを止めた。

「相変わらずですねヴァニラ・アイス、DIO様の事になると冷静さを失い、怒りで我を忘れる」

刀剣を投擲した人物が空中を滑空するように移動して現れた。
それはレオタードの男ヴァニラ・アイスをよく知る人物。

69宴の始まり  ◆IXB73G6vLY:2015/07/22(水) 11:45:44 ID:4o4hrOic0
「貴様は……テレンス・ダービーッ!!」

「お久しぶりです。DIO様、ヴァニラ・アイス、再び会える日を楽しみに待っていました」

「なぜ貴様がここにいる!?」

「私は、このバトルロワイアルの監視役兼、繭様の世話係としての役割を与えられたのです。
 バトルロワイアルを運営する主催者様達の力を目の当たりにした私は心の底から忠誠を誓ったのです」

「つまり……DIO様を裏切ったのだなァ!!」

「現在、この場所ではあなた達の特殊能力は封じてあります。ヴァニラ・アイス、あなたのスタンドもね
 ……つまりあなたでは私ですら倒すのは不可能です」

アイスの振り下ろされた拳をテレンスは片手で難なく受け止めた。
吸血鬼化して人間を超えた力を持つアイスの拳を涼しげな顔で。

「ば、馬鹿な!!貴様如きに……」

「言い忘れていました。我が主様から貰いうけた特注の服のおかげで私の力は格段に強化されているのです
 元々、小道具を作るのは得意な方でしたが、おかげでこのような芸当も出来る様になりました」

テレンスの右手から一瞬にして刀剣が生成された。
先ほどアイスの足元に投げたのも、同様に生み出した武器であった。

「もうよい、下がれアイスよ」

「しかしDIO様!!」

「テレンスのその力、この特殊な空間を作り出す能力。
 私の元を離れて、新たな主として従いたくなる程の存在が彼の背後にいるのだろう。
 ここは大人しく従ってみようではないか」

「分かりました……DIO様」

「エフッ エフッ エフッ ククク ハハハハハハハッッッ!!!!
 どいつもこいつも相手が怖くて僕逆らえませんってかぁ?
 だったら俺がぶっ潰させてもらうぜぇッッッ!!」

豪快に笑う赤毛の男が闘気を発しながらテレンスに向かって駆け出す。

70宴の始まり  ◆IXB73G6vLY:2015/07/22(水) 11:46:24 ID:4o4hrOic0
パンッ

「ッッッ!!!!」

赤毛の男の頭上に大網が投げ降ろされ、俊敏性を封じられる。
その直後、銃声が大量に鳴り響き、男の身体に撃ち込まれる。

「ぬおおおおおおおお!!!!ぐっ……」

「無駄ですよ。一発で巨象を眠らせる麻酔弾を大量に撃ち込まれて耐えられる人間はいません
 ハンターの皆さん。ご苦労様でした」

「では説明を続けさせてもらいます
 これからあなた達を、ある島に送るのでそこで殺し合いをしてもらいます。
 島と言っても、そこは繭様の生み出した空間ですので、島の外に逃げても無意味になります。
 またどんな道具を使い、どんな殺し方でも自由ですが
 指定された進入禁止エリアに1分以上入ったり、無理に首輪を外そうとしないでください。
 おっと、一部の参加者には首以外に付けられてますが同様に外そうとしないでください。
 首輪が爆発してあなた方の命が消える事になります」

「進入禁止エリアに付いてですが0時、6時、12時、18時と1日4回、6時間毎に行われる放送で指示させていただきます。
 うっかり忘れて命を落とす事の無いようメモを取ることをお勧めしますよ。
 それと放送では死んでいった参加者の報告も行いますのでお忘れないように」

「今説明させていただいたルールはこれから島に飛ばす際に渡す支給品の中のルールブックに書かれていますので
 後で確認するといいでしょう。ゲームをするのに説明書を読むのが大事ですからね
 では質問のある方は…………おりませんようなのでバトルロワイアルを開――」

テレンスが言い終えかけた時だった。
金髪の少女が会場を駆け抜け、テレンスの眼前にまで近づき
首を切り落すべく斬りかかった。

「フフフッ……勇ましいですねぇ。だがそれは愚かな選択です。セイバー」

ピッ……ピッ……ピッ……

「夏海!!く、首輪が……」

「あれ?姉ちゃん、なんで私の首輪が?」

夏海と呼ばれた少女の首輪が点滅していた。
点滅速度は徐々に速くなっていく。

71宴の始まり  ◆IXB73G6vLY:2015/07/22(水) 11:47:02 ID:4o4hrOic0
「下郎がぁ!!いますぐそれを止めろ!!」

「フッフッフ……セイバー、貴女のせいですよ。
 貴女が余計な事をしたせいでここで一人死ぬんです」

「貴様ァ!!」

「もう一度抵抗しますか?いいでしょう。その時は新たに一人、誰かが犠牲となるでしょうが」

「くっ……」

「そうです。ここは素直に従うのが聡明な判断です」

セイバーはテレンスを睨み付けながら剣を下げた。
相手への憎しみと何もできない己の無念さを合わせたような表情で
テレンスはセイバーのその姿を見て、笑みを隠しきれないでいた。

ピッピッピッピッ

「やだ……いやだよ、助けてぇお姉ちゃん……」

「夏海!夏海ぃぃ!!」

ピピピピ

「死にたくないよぉ!!お姉ちゃん!お姉」

パァンッ!

「な……つみ……?」

夏海の首は小毬の目の前で吹き飛び、頭部を失った夏海の身体から噴水のように溢れ出す鮮血が小毬を赤く染め上げた。

「やあああああああああ!!!!夏海ぃぃぃぃ!!!!いやあああああああああ!!!!」

「大切な家族が目の前で無残に殺される。ああ、とても悲しい事ですね
 ですが心配しないでください。まだ彼女は死んではいませんよ」

72宴の始まり  ◆IXB73G6vLY:2015/07/22(水) 11:47:55 ID:4o4hrOic0
テレンスは繭に頼み、自分が利用している棚を出現させると
棚の中から人形を取り出し、小毬に向けてみせた。
人形は夏海そっくりの姿をしている。

『……お姉………ちゃん……』

「夏海……?」

「そうです。貴女の妹さんの魂は人形の中で生きています。
 良い出来でしょう?制服も髪型も本物そっくりに似せて作りました」

『動けないよ……苦しいよ……お姉ちゃぁ……うわああ!!』

「夏海ぃ!!」

「助けたいですか?ならば優勝を目指すことです。優勝すれば再び会える事が出来ますから
 もちろん、皆さんの分の人形も用意しています。
 ですから安心して殺し合い、殺され合ってください」

「では始めましょうか『バトルロワイアル』を!!!!」

「絶対に許さんぞ!!お前のような下種は必ず私が――」

参加者達の姿が次々と消えていき、白い部屋にはテレンスと繭が残った。

「お疲れ様です。繭様」

「悪いわね。説明を殆ど任せてしまって」

「繭様は多数の人達と接した経験が無いのですから仕方のないことです。
 むしろ、初対面の人間にこれだけ見つめられて冷静でいられた繭様は十分立派な方です」

「あ、ありがとう……ねえテレンス、これから一緒にF-MEGAで遊ばない?」

「構いませんよ。それと繭様、私にもWIXOSSのやり方を教えてくれませんか?」

「いいわよ♪ゲームマスターの私がしっかり教えてあげる♪」

「ありがとうございます繭様」

73宴の始まり  ◆IXB73G6vLY:2015/07/22(水) 11:50:23 ID:4o4hrOic0
テレンス・ダービーはジョースター家との戦いに敗れリタイアした。

その後、ジョースター家によりDIO、ヴァニラ・アイス両名の死亡を知り
主を失った配下達は、ある者はジョースター家への復讐を誓い
ある者は以前の生活へと戻り、散り散りになって去って行った。

テレンスは復讐を選ばなかった。
それほどDIOへの忠誠心が厚くなかったテレンスはわざわざ危険な橋を渡る気にはなれなかった。
スタンド能力があれば楽に生きていくことなど造作もない。
しばらくはスタンド能力を悪用して気ままに暮らしていた。

ある日、テレンスは彼らと出会った。
彼らの持つ超常的な技術を知ったテレンスは彼らこそ従うべき相手だと確信した。
極制服という特殊な服装を手に入れたテレンスは身体能力及びスタンド能力が格段に強化されていくのを感じた。
テレンスは思った。自身ですらこれだけの力を得られるなら彼らの力は世界……いや宇宙規模まで支配出来るのではないかと。

彼らがバトルロワイアルを企画するのを知った頃、同志として繭が加わった。
繭は肉体を持たない亡霊のような特殊な力を持っていた。
それは繭の想像から世界を構築する力を持ち、とても凄まじく
外部によって邪魔されることのない空間を生み出せるほどであった。

繭は初めは、テレンスを警戒して近づくだけでも拒否反応を示していた。
テレンスに敵意が無い事をしると少しずつ打ち解けていき
そこで趣味であるゲームを見せていくと物凄く食い付いた。
繭はゲームが大好きなようだ。

テレンスは繭と一緒にゲームで遊ぶ事で充分に信頼を得る事が出来た。
それでもあまりスキンシップを図ると嫌がられるので少し距離を置いた接し方が必要だった。
逆に距離を置きすぎると、寂しいのかゲームの催促をされて連れていかれる。
まるで猫みたいな少女だ。


(それが現状の私と繭との関係だ。私としては非常に楽しいじかんだ。
 なにせ彼女はとても脆くて危うい存在だ。彼女の生を望む願いの強さは
 この世界に呼ばれた参加者と比べても一番だろう)

(もし彼女の願いが打ち砕かれ、絶望に打ちひしがれた時
 彼女はどんな表情を見せてくれるでしょうか……。
 私は彼女や参加者達の苦しむ姿を拝めるだけで彼らに従う価値が有ったと心の底から思えます)

【みせしめ】

【越谷 夏海】


【主催】

【繭@selector infected WIXOSS】
【テレンス・T・ダービー@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
【???@???】

会場は繭によって想像された箱庭の世界です。
死んだ参加者の魂はテレンスの能力によって人形に封じ込められる為に成仏が出来ません。

74名無しさん:2015/07/22(水) 11:51:00 ID:4o4hrOic0
投下終了です

75名無しさん:2015/07/22(水) 11:54:29 ID:ldGU9l8s0
投下乙です 
ただ夏海は小鞠のことを「お姉ちゃん」でなく
「姉ちゃん」呼びだったハズなのでそこだけ修正かな

76名無しさん:2015/07/22(水) 14:37:57 ID:oqg04NfU0
投下乙です
コミュ力低すぎて説明を他人に任せるアレが可愛すぎる…アレは本当に可愛いなあ
魂繋がりでダービー弟、バトロワに詳しい本部とか色んな作品出てて賑やかでわくわくするOPでした

77名無しさん:2015/07/22(水) 15:15:25 ID:BangyYyI0
乙です
読みやすくキャラ同士のやり取りがらしくて面白かったです
ヴァニラの参戦時期や夏海以外の死んだ参加者の魂の行方は、あえてぼかした方が展開に幅ができていいような気がします

78 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/22(水) 23:17:24 ID:0abp7gyY0
OP案投下します

79鮮血の開幕 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/22(水) 23:20:31 ID:0abp7gyY0
意識が覚醒した間桐雁夜の目に入った光景は一面に広がる白。
ホワイトガーデンとでも言うべき白い部屋であった。
辺りを見渡すと老若男女問わず大勢の人々。彼ら、彼女らの首には金属製の首輪がはめられていた。

「首輪があるのは……俺もか」

そこでようやく雁夜は自らの首にも首輪がつけられていることに気付く。

「一体、どうなってるんだ。聖杯戦争の最中だってのに」

聖杯戦争を勝ち抜き聖杯を臓硯に渡すことで桜は解放される。
そのために雁夜はこれまで辛い魔術の修行に耐えてきた。
たとえ聖杯戦争の勝者となったとしても、最終的に雁夜は命を落とす。
即席での魔術会得は体に膨大な負担をかけるため、雁夜の余命は長くなかった。
それでも、それでも禅城葵の娘である桜を解放するためならばと、雁夜は聖杯戦争への参加を決意したのだ。

「誰の仕業だ。臓硯か? 俺に嫌がらせをするためにこんな真似を」
「お集まりの皆さん。ごきげんよう」

現れた人物を目にした雁夜は犯人が臓硯ではないことを理解せざるを得なかった。
しかし、その人物とは雁夜にとって臓硯と同じかそれ以上に憎むべき対象である。

「お前の、お前の仕業か……遠坂、時臣ッッッ!!!」

赤い洋服を身にまとい、手に握っているのは先端に宝石のついたステッキ。その優雅な仕草はまさに生粋の貴族そのもの。
雁夜に殺意を向けられてなお、それを平然と受け流す男の名は遠坂時臣である。

「喚くな雁夜、その優雅さに欠ける仕草は見るに堪えない。同じ御三家としてもう少し品格のある振る舞いをとってくれ」
「黙れ、黙れ、黙れッ!! 貴様かッ! 時臣! 俺を拉致したのは」
「だから喚くなと、はぁ。もういい。君のような落伍者に品格のある振る舞いを期待したのが間違いだった。
 それで拉致したのが私か、だったか。その通りだよ雁夜」
「何が目的だ! 時臣、一体何の目的があってこんな」
「話を遮らないでくれ。貴様のような落伍者に問われずともちゃんと説明する。
 君たちをここに集めたのは目的は一つ、それは殺し合いをしてもらうためだ」
「な、何だとッ!!」

宝石付きステッキを右、左、右、左と交互に持ち替えながら優雅な仕草で時臣は語る。

「殺し合いと言っても聖杯戦争ではない。バトル・ロワイアル。それがこの殺し合いの正式名称だ。
 最後の一人になるまで殺し合い、優勝者はどのような願いでも叶えることができる」

80鮮血の開幕 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/22(水) 23:21:41 ID:0abp7gyY0
「つまり、この大人数で聖杯戦争をやるってことか」
「バトル・ロワイアルは聖杯戦争とは異なりサーヴァントは使用しない。あくまでも個人の戦いだと思ってくれていい」
「サーヴァントが、なしッ、だと! それじゃあ、俺は一体なんのために魔術を」
「無駄ではないさ、雁夜。ここに集まったものたちの大半は魔術師ですらない無力な一般人だ。女、子供であればお前の付け焼刃の魔術でも容易に殺害することができる」
「ふ、ふざけるなよ、ふざけるなよ、時臣ッ!!」

そして今度こそ、雁夜の怒りは爆発した。
成程、確かに会場を見渡してみれば時臣の言う通り、女子供がいる。
桜と変わらぬ年頃の少女が何人もいた。

「それを殺せというのか。外道が……やはり貴様は外道だ、時臣ッ!!」
「落伍者の戯言は聞くに堪えないな」
「こ、このッ! それで貴様は高見の見物かッ! 安全な場所から見てるだけか」
「私はバトル・ロワイアルの参加者ではないのでね。今回はあくまでも監督役のような立ち位置だ」
「ふざけるな、俺は、俺は聖杯戦争で貴様を殺すと決めている」
「君の戯言は聞き飽きたよ」

「それはこちらの台詞だな」

ここで第三者の声が上がった。

「ほう。貴方はロード・エルメロイですか」
「遠坂時臣だったか。よくも私にこのような下賤な遊技を強要してくれたな。
 魔術師同士の競い合いでもない、このような野蛮な行為にこのケイネス・エルメロイ・アーチボルトが参加すると思うかッ!」

81鮮血の開幕 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/22(水) 23:22:46 ID:0abp7gyY0
「ふむ、あなたを見せしめにするのは勿体ない。時計塔のロードはこの遠坂時臣が自ら倒すことにしよう」
「はっ! 私と決闘しようというのかね、遠坂。島国の魔術風情が、このロード。エルメロイを倒す?」
「その通り、第三者の介入がなく、不正の入り込む余地のない一対一の決闘です。どちらが優れた魔術師かここで決めるとしましょう」
「私も舐められたものだな。身の程を弁えないとどうなるか、直々に教えてあげよう。
 ――Fervor,mei,sanguis(沸き立て、我が血潮)」

自慢の礼装、月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)を起動すべく、ケイネスは詠唱を行う。

「な、何故だ、何故私の月霊髄液が起動しない」
「無駄ですよ。その首輪がある限り貴方はこの空間で魔術を使うことができない」
「な、何だと、そんな馬鹿なッ!」

時計塔のロードであるケイネスにとって、それは決してあってはならないことだった。
このような首輪で自身の魔術が阻害されるなど、ロードとしてのプライドが許さない。
しかし、現実は残酷なもので、首輪がある限り白い部屋の中では魔術を始めとした一切の異能の力は封じられ、人間離れした身体能力なども制限されているのである。

「先手はそちらに譲りましたが、今度はこちらが攻めさせてもらうことにしましょう。
――Intensive Einascherung(我が敵の火葬は苛烈なるべし)」

宝石付きステッキから噴き出した炎はあらゆるものを燃やし尽くす魔の焔。
魔術による防御も行えず炎に包まれたケイネスは成すすべもなく火達磨になった。
時計塔のエリート魔術師の断末魔が白い部屋に響き渡る。

【ケイネス・エルメロイ・アーチボルト@Fate/Zero 死亡】

82鮮血の開幕 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/22(水) 23:24:03 ID:0abp7gyY0
「き、貴様ァ! よくも我が主を」

ケイネスを主と呼ぶ、この男は聖杯戦争における槍の英霊、ランサーのサーヴァントである。
魔術師ではサーヴァントには勝てない。それは魔術師ならば誰もが知っている常識だ。
だが時臣は狼狽するでもなく、優雅な仕草でステッキを右、左、右、左、と交互に持ち替える。

「何も怒ることはあるまい、ランサー。これから行われるのが聖杯戦争でないことは説明したはずだ。
 その男もまた君の願いの邪魔になる存在でしかなかった。それが減ったのだから感謝するべきだろう」
「黙れ、外道が。俺に願いなどなかった。ただ主のために忠義を尽くせればそれでよかった」
「理解に苦しむな。まあいい。とりあえず、動かないでおいてもらおうか」
「なッ!」

パチン、と時臣が指を鳴らすとランサーが硬直した。
どれだけ力を籠めようとも一切動けず、自慢の槍で眼前にいる主の敵を貫くこともできない。

「さて、あとは首輪の効力を見せるための見せしめだが……ふむ、不要となったホムンクルスにしようか」

もう一度、時臣が指を鳴らすとまるで人形のように白い肌をした美女の首輪が爆ぜた。

【アイリスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/Zero 死亡】

83鮮血の開幕 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/22(水) 23:25:05 ID:0abp7gyY0
「ア、アイリスフィールッ!!!」

甲冑を纏った騎士が声をあげる。

「もう聖杯戦争をやらない以上、その人形は不要だからね。どうせ短命なんだ。それを見せしめに選んだのは、私から君たちへの善意のようなものだよ」

「き、貴様、よくもアイリスフィールを」
「セイバーのサーヴァントか。君もランサーと同じような反応をする。
 まったく騎士という人種の言動は理解に苦しむな」

指を鳴らしてセイバーの動きを封じた時臣は説明を再開する。

「禁止エリアに入ったり、我々に刃向うような真似をすれば、そこの人形と同じ末路をたどることになる。
そして今までの会話を聞けば分かったかもしれないが、この会場には人間離れした力を持った者たちが複数いる。
一般人への配慮として支給品を用意した。強い支給品を引き当てれば魔術師でなかろうとも、そこの落伍者ぐらいは容易に倒せるかもしれないな」

雁夜をステッキで指しながら小馬鹿にした口調で時臣が言う。

「食料と水、それから会場の地図も含めて全員に配布しよう。それでは君たちの健闘を期待している」

左、右、左、と持ち替え、再度右手にステッキ握った時臣は、その先端を優雅な仕草で床につける。
同時に白い部屋に集まっていた参加者たちは次々と会場となる島へと移動させられ始めた。

「遠坂時臣ッ! 俺は絶対に貴様を殺すッ!!」

強制移動させられる寸前、鬼の形相で時臣を睨み付けなら雁夜はそう宣言した。

84鮮血の開幕 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/22(水) 23:26:18 ID:0abp7gyY0
「説明は終わったのね」

参加者が全員会場へと移動させられるのを見計らってから時臣の前に一人の女性が現れた。
女性の首に金属製の首輪はなく、つまり彼女も時臣と同様に主催者側の人間であることが分かる。

「そちらの準備もできたようだね、入巣清香」

この若干ロリっぽい三十路の女性こそ大企業アイリス・グローバルの社長、入巣清香であった。
年齢にそぐわぬ美人である女だが、正直なところ時臣は清香を快く思っていない。
清香は自らの娘である入巣蒔菜をバトル・ロワイアルに参加させていた。
同じく娘を持つ親として、それは許容し難い行為である。
時臣は確かに娘の桜を養子に出したが、それは桜のためを思ってのこと。
間桐の娘にすることが、桜にとっては最善だったからに他ならない。
一方、清香は娘の蒔菜に対しての愛情は皆無であり、今回の参加者選抜で娘が選ばれた時も一切反対しなかった。
その様子を間近で見ていた時臣は清香に対して不快感を覚えると共に、この女が不要になった時は自らの手で罰しようと心に決めていた。

「一体何人があの出まかせを信じるかしら」
「雁夜なら案外、真に受けているかもしれないな」

参加者たちにはああ言ったが時臣には始めから勝者の願望を叶える気などなかった。
優勝者が決定してこの部屋に招かれた瞬間、優勝者の首輪を爆破。願いを叶えるエネルギーを横取りする算段である。
弟子である言峰綺礼が参加者に入ってしまっていることは残念だが、代行者である以上、死は覚悟の上だろうと割り切る。
聖杯戦争と違い自分がリスクを負うことなく根源に至る手段を得られる。
つくづく彼女の協力者になって良かったと時臣は思う。
彼女というのは入巣清香でのことではなく――

「揃っているわね、二人共。計画は順調かしら?」
「無論だ、繭君」

この繭というカリフラワー頭の少女こそ、バトル・ロワイアルの発案者であり、時臣が最も信頼している協力者でもある。

85鮮血の開幕 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/22(水) 23:27:08 ID:0abp7gyY0
魔術師でもない入巣清香とは異なり、繭はこの固有結界にも近い白い部屋を展開できる程の実力者だ。
対等な協力者としての資格は十分に満たされている存在なのである。

「何の問題なくバトル・ロワイアルは進行しているよ。
 彼らは自分たちが道化に過ぎないことも知らずに殺しあうだろう」
「そう。それならいいわ」
「私は部屋でワインでも飲みながら観戦させてもらうとするよ。繭君も後で私の部屋に来るといい。魔術における芸術性について語り合おうではないか」

そう言って時臣は繭に背を向けて自らの個室へと向かう。
繭の口元がにんまりと歪んでいること、その手には一枚のWIXOSSのカードが握られていることに最後まで彼は気付かなかった

繭の手に握られているのは毒牙属性のカード『アイン=ダガ』
場からトラッシュに置くことで相手シグニのパワーをマイナスする黒のカードである。
カードをダガーナイフへと変化させた繭は、無防備に背を向けて部屋へと戻る時臣の心臓にナイフを突き立てた。

「え……?」

おそらく時臣は最後まで何が起こったか理解できなかったであろう。
協力者に裏切られた哀れな魔術師は、瞬く間に動かない肉の塊へと変貌を遂げた。

【遠坂時臣@Fate/Zero 死亡】

86鮮血の開幕 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/22(水) 23:27:48 ID:0abp7gyY0
「殺してよかったの?」
「ええ問題ないわ。彼の役目はここでおしまい。あとは貴方と『あのお方』がいれば十分だもの」

『あのお方』とは時臣には知らせていなかった最後の協力者であり、バトル・ロワイアルの真の発案者、そして繭が最も信頼している人物である。

「……そう」

人が死ぬのを直接見るのは慣れていない清香が時臣の死体から目を逸らす。
そんな清香に配慮したのか、単なる気まぐれか、繭は時臣の死体を消し去った。

「ふふふ、それじゃあ、始めましょう。楽しい、楽しい、ゲームの始まり」

セレクターバトルすら超越した死のゲームの開幕を繭は高らかに宣言した。


【ゲームスタート】


【主催】

【繭@selector infected WIXOSS】
【入巣清香@グリザイアの果実シリーズ】

【黒幕】

【???@???】

87 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/22(水) 23:28:44 ID:0abp7gyY0
投下終了です

88名無しさん:2015/07/22(水) 23:47:44 ID:BangyYyI0
乙です
何人かのキャラに上手く因縁を持たせていい感じですね
そしてあっさり殺される時臣はよい原作再現でした

89 ◆DGGi/wycYo:2015/07/23(木) 00:11:56 ID:NYcE8IAs0
「OP ころしあいが始まった」の修正版を投下します

90 ◆DGGi/wycYo:2015/07/23(木) 00:12:50 ID:NYcE8IAs0

*     *     *

世の中には、大きな野望や変わった趣味を持った生き物がいる。
彼らは可能な限り、その野望、趣味に向けて行動しようとする。
今回のそれもまた、そういった『行動』における『犠牲』であった。

――彼ら、彼女たちは、その薄暗い部屋で目を覚ました。
何だここは、と口々にぼやく者たち、
すぐ傍でまだ寝ている身内を起こす者たち。
彼女はどちらかと言うと後者だった。
「ちょっと、夏海早く起きてってば!」
彼女――私立旭丘分校中学2年、越谷小鞠。目が覚めたら
知らない場所で、傍らで妹の夏海が寝ていたのだ。
何が起こったか分からず不安である以上
とにかく知っている人を起こすしかなかった。
「うーん…姉ちゃん今何時だと思ってるの・・・
 まだ暗い・・・って何じゃここはぁ!?」
眠い目を擦った夏海も、今いる場所の異常さに気づいて目が冴えた。
分からないわよ、と言いながら周囲を見回す。
何人もの人がいる。50人、いやそれ以上か。
少なくとも住んでいた田舎ではまず見かけない光景である。
そんなことを考えていると、やけに響く足音が部屋に響いた。
やがてスポットライトが点灯し、2人の影が壇上に現れた。

91 ◆DGGi/wycYo:2015/07/23(木) 00:13:23 ID:NYcE8IAs0
「どうも、はじめましての人が多いようなので一応
 名乗っておきます。佐々木異三郎という者です。
 あと、こちらは信女。以後お見知りおきを」
その声に動揺する声がちらほら見かけられる。
恐らく男たちの知り合いなのだろうか。
そして、その男からとんでもない言葉が告げられた。
「皆さんには、これから殺し合いをしてもらうことになっています」
殺し合い、と聞いて冷や汗が走る。
「おっと、殺気立ててる人も居るようですが、
 とりあえず皆さんの首についてる「それ」を御覧なさい。
 爆弾です。そして、私たちはいつでもそれを
 起爆出来る状態にある、とだけ言っておきましょう」
言われて、ようやく自分の首に何かが巻かれていることに
気づいた。これが、爆発する・・・。
「強引に外そうとしても爆発するのでご注意を。さて、
 それでは殺し合いのルール説明に移りましょう」
信女、と一言異三郎が促すと、傍らにいた女、今井信女が話を繋いだ。

「これから行われるのは『バトルロワイアル』という
 殺人ゲームよ。とにかく殺し合うことね、最後の一人になるまで。
 参加者は71名。ここでは今までの白も黒も忘れた方がいい。
生き残れるのはたった1人だから。さて、細かい説明に移るわ」
そう言うと突如異三郎たちのいる壇上の
モニターの電源が入り、何かが映し出された。

92 ◆DGGi/wycYo:2015/07/23(木) 00:14:09 ID:NYcE8IAs0
「まず持ち物はあなたたちに後で支給するデイパックが
一つ。その中には全員共通で殺し合いの場となる
エリアの地図、参加者たちの名簿、筆記具、
応急処置用具、腕時計、乾パンと水。あと、
全員ランダムで配布される武器や道具の支給品ね」

「さっきも言ったけれど、このゲームは最後の1人に
 なるまで終わらない。ゲームの途中経過は、
6時間おきの放送で話すわ。そしてここからが
 最も重要。モニターの地図を御覧なさい」
見ると、地図は縦横の線で区分けされている。

「区分けされたこの地図は、禁止エリアをはっきりさせる
役目も果たしているわ。6時間おきの放送では、そこまでの
死者と一緒に次に禁止エリアになる場所を3つずつ伝える」

「伝えられたエリアは、多少の時間を置いて二度と入れなくなるわ。
 これは人数が減ることで他者との遭遇率が下がることへの対策。
もし入ったら最後、首輪がボンよ。いわばその首輪はあなたたちを
縛る手錠・・・枷ね。ついでに、地図には自分の位置だけ知らせる
特殊なマーキングが出るわ、その首輪から出ている信号でね」

「このルール説明が終わり次第、あなたたちを地図上の
 どこかにランダムで飛ばします。その際に一緒に
 デイパックも配らせてもらいます。では異三郎」
「・・・っと。失礼、メールに夢中になっていたもので」
手元の携帯電話でどこかと連絡を取っていた異三郎は、
信女の一言で最後の説明に入った。

「では、生き残った最後の1人に与える『権利』について
お話しましょう。まず生き残れば、望むならこの殺し合いの会場から
あなたたちが元いた世界に戻してあげます。もう一つ、何か一つだけ
願いを叶えて差し上げましょう。ただし、内容に関しては要相談、
といった形で。これで大雑把にルール説明を終わりますよ」
質問は何かありますか、と異三郎が言うか早いか、
小鞠の横から1人の影が壇上へ向かって行った。

93 ◆DGGi/wycYo:2015/07/23(木) 00:14:49 ID:NYcE8IAs0
「あんたら何言ってるんだ!? 殺し合いだなんて、
ウチの身内だって居るんだぞ!?」
「ちょっと夏海、やめなさい!」
壇上に駆け上がった夏海は、小鞠の制止を無視して
異三郎たちに食って掛かる。だが異三郎たちは
意にも介さず、先ほどの台詞を繰り返す。
「言った筈よ、今までの白も黒も忘れなさいと。
 生き残れるのは1人なんだから、
 精々今生の別れを告げておくことね」
ペッ、と夏海が信女の顔面に向けて唾を吐いた。
「やなこった! こんなことやってらんないね。
 早く姉ちゃんたちと一緒に村に帰してくんないかな」
顔を拭きながら、信女は腰の刀を鞘から抜こうとする。
「およしなさい信女。ちょうどいいものがあるじゃありませんか」
異三郎が手元の携帯電話で何かのボタンを押す。

――ピッ。何かが作動する音。
――ボンッ。何かが破裂する音。
――ブシャッ。何かが飛び散る音。
――ドサッ。何かが倒れる音。

え・・・? 小鞠には、何が起きたのかさっぱり分からなかった。
いや、その場に居た異三郎たち以外、誰もこの状況を理解
できていないだろう。越谷夏海の首が、上からなくなって――

「これで皆さんもこの首輪がハッタリではないと
ご理解頂けたでしょう。そして、私たちに逆らうとどうなるかも。
では、そろそろバトルロワイアル開幕です。あ、そうそう。
中には異形の能力を手にしている人たちも居ますが、そういう人は
多少なりと能力に制限を掛けさせてもらいましたので悪しからず」

異三郎が携帯電話でまた何かを操作すると、部屋中に
催眠ガスが充満する。再び眠ってしまった参加者たちは、
これからそれぞれ会場のどこかへワープさせられるのだ。
「さて、我々も行きましょうか」
2人はガスマスクを着け、その場を後にする。
異三郎はメールで誰かと連絡を取りながら。信女は黙々と。

94 ◆DGGi/wycYo:2015/07/23(木) 00:15:23 ID:NYcE8IAs0
後には誰も居なくなっていた。

こうして、アニメキャラ・バトルロワイアル4thが始まったのである。

*     *     *

From さぶちゃん
Sub  ルール説明完了
用件は済んだお C= (-。- ) フゥー
これからそっちに戻るね ≡≡≡ヘ(*--)ノ



主催
【佐々木異三郎@銀魂】
【今井信女@銀魂】
黒幕
【???@???】

【越谷夏海@のんのんびより 死亡】
【残り70人】

【GAME START】

[備考]
・会場の各設備のライフラインは全て通っている。
・能力者たちは能力に制限アリ(書き手さんたちに任せますor要議論)
・禁止エリアは6時間の放送ごとに3つ

95 ◆DGGi/wycYo:2015/07/23(木) 00:16:06 ID:NYcE8IAs0
修正版の投下を終了します

96 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/23(木) 00:48:42 ID:0c4AF2Fg0
誤字、脱字あったので修正版を投下します

97鮮血の開幕 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/23(木) 00:50:54 ID:0c4AF2Fg0
意識が覚醒した間桐雁夜の目に入った光景は一面に広がる白。
ホワイトガーデンとでも言うべき白い部屋であった。
辺りを見渡すと老若男女問わず大勢の人々。彼ら、彼女らの首には金属製の首輪がはめられていた。

「首輪があるのは……俺もか」

そこでようやく雁夜は自らの首にも首輪がつけられていることに気付く。

「一体、どうなってるんだ。聖杯戦争の最中だってのに」

聖杯戦争を勝ち抜き聖杯を臓硯に渡すことで桜は解放される。
そのために雁夜はこれまで辛い魔術の修行に耐えてきた。
たとえ聖杯戦争の勝者となったとしても、最終的に雁夜は命を落とす。
即席での魔術会得は体に膨大な負担をかけるため、雁夜の余命は長くなかった。
それでも、それでも禅城葵の娘である桜を解放するためならばと、雁夜は聖杯戦争への参加を決意したのだ。

「誰の仕業だ。臓硯か? 俺に嫌がらせをするためにこんな真似を」
「お集まりの皆さん。ごきげんよう」

現れた人物を目にした雁夜は犯人が臓硯ではないことを理解せざるを得なかった。
しかし、その人物とは雁夜にとって臓硯と同じかそれ以上に憎むべき対象である。

「お前の、お前の仕業か……遠坂、時臣ッッッ!!!」

赤い洋服を身にまとい、手に握っているのは先端に宝石のついたステッキ。その優雅な仕草はまさに生粋の貴族そのもの。
雁夜に殺意を向けられてなお、それを平然と受け流す男の名は遠坂時臣である。

「喚くな雁夜、その優雅さに欠ける仕草は見るに堪えない。同じ御三家としてもう少し品格のある振る舞いをとってくれ」
「黙れ、黙れ、黙れッ!! 貴様かッ! 時臣! 俺を拉致したのは」
「だから喚くなと、はぁ。もういい。君のような落伍者に品格のある振る舞いを期待したのが間違いだった。
 それで拉致したのが私か、だったか。その通りだよ雁夜」
「何が目的だ! 時臣、一体何の目的があってこんな」
「話を遮らないでくれ。貴様のような落伍者に問われずともちゃんと説明する。
君たちをここに集めたのは目的は一つ、それは殺し合いをしてもらうためだ」
「な、何だとッ!!」

宝石付きステッキを右、左、右、左と交互に持ち替えながら優雅な仕草で時臣は語る。

「殺し合いと言っても聖杯戦争ではない。バトル・ロワイアル。それがこの殺し合いの正式名称だ。
 最後の一人になるまで殺し合い、優勝者はどのような願いでも叶えることができる」

98鮮血の開幕 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/23(木) 00:51:54 ID:0c4AF2Fg0
「つまり、この大人数で聖杯戦争をやるってことか」
「バトル・ロワイアルは聖杯戦争とは異なりサーヴァントは使用しない。あくまでも個人の戦いだと思ってくれていい」
「サーヴァントが、なしッ、だと! それじゃあ、俺は一体なんのために魔術を」
「無駄ではないさ、雁夜。ここに集まったものたちの大半は魔術師ですらない無力な一般人だ。女、子供であればお前の付け焼刃の魔術でも容易に殺害することができる」
「ふ、ふざけるなよ、ふざけるなよ、時臣ッ!!」

そして今度こそ、雁夜の怒りは爆発した。
成程、確かに会場を見渡してみれば時臣の言う通り、女子供がいる。
桜と変わらぬ年頃の少女が何人もいた。

「それを殺せというのか。外道が……やはり貴様は外道だ、時臣ッ!!」
「落伍者の戯言は聞くに堪えないな」
「こ、このッ! それで貴様は高見の見物かッ! 安全な場所から見てるだけか」
「私はバトル・ロワイアルの参加者ではないのでね。今回はあくまでも監督役のような立ち位置だ」
「ふざけるな、俺は、俺は聖杯戦争で貴様を殺すと決めている」
「君の戯言は聞き飽きたよ」

「それはこちらの台詞だな」

ここで第三者の声が上がった。

「ほう。貴方はロード・エルメロイですか」
「遠坂時臣だったか。よくも私にこのような下賤な遊技を強要してくれたな。
 魔術師同士の競い合いでもない、このような野蛮な行為にこのケイネス・エルメロイ・アーチボルトが参加すると思うかッ!」

99鮮血の開幕 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/23(木) 00:53:02 ID:0c4AF2Fg0
「ふむ、あなたを見せしめにするのは勿体ない。時計塔のロードはこの遠坂時臣が自ら倒すことにしよう」
「はっ! 私と決闘しようというのかね、遠坂。島国の魔術師風情が、このロード・エルメロイを倒す?」
「その通り、第三者の介入がなく、不正の入り込む余地のない一対一の決闘です。どちらが優れた魔術師かここで決めるとしましょう」
「私も舐められたものだな。身の程を弁えないとどうなるか、直々に教えてあげよう。
 ――Fervor,mei,sanguis(沸き立て、我が血潮)」

自慢の礼装、月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)を起動すべく、ケイネスは詠唱を行う。

「な、何故だ、何故私の月霊髄液が起動しない」
「無駄ですよ。その首輪がある限り貴方はこの空間で魔術を使うことができない」
「な、何だと、そんな馬鹿なッ!」

時計塔のロードであるケイネスにとって、それは決してあってはならないことだった。
このような首輪で自身の魔術が阻害されるなど、ロードとしてのプライドが許さない。
しかし、現実は残酷なもので、首輪がある限り白い部屋の中では魔術を始めとした一切の異能の力は封じられ、人間離れした身体能力なども制限されているのである。

「先手はそちらに譲りましたが、今度はこちらが攻めさせてもらうことにしましょう。
――Intensive Einascherung(我が敵の火葬は苛烈なるべし)」

宝石付きステッキから噴き出した炎はあらゆるものを燃やし尽くす魔の焔。
魔術による防御も行えず炎に包まれたケイネスは成すすべもなく火達磨になった。
時計塔のエリート魔術師の断末魔が白い部屋に響き渡る。

【ケイネス・エルメロイ・アーチボルト@Fate/Zero 死亡】

100鮮血の開幕 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/23(木) 00:53:57 ID:0c4AF2Fg0
「貴様ァ! よくも我が主を」

ケイネスを主と呼ぶ、この男は聖杯戦争における槍の英霊ランサーのサーヴァントである。
魔術師ではサーヴァントには勝てない。それは魔術師ならば誰もが知っている常識だ。
だが時臣は狼狽するでもなく、優雅な仕草でステッキを右、左、右、左、と交互に持ち替える。

「何も怒ることはあるまい、ランサー。これから行われるのが聖杯戦争でないことは説明したはずだ。
 その男もまた君の願いの邪魔になる存在でしかなかった。それが減ったのだから感謝するべきだろう」
「黙れ、外道が。俺に願いなどなかった。ただ主のために忠義を尽くせればそれでよかった」
「理解に苦しむな。まあいい。とりあえず、動かないでおいてもらおうか」
「なッ!」

パチン、と時臣が指を鳴らすとランサーが硬直した。
どれだけ力を籠めようとも一切動けず、自慢の槍で眼前にいる主の敵を貫くこともできない。

「さて、あとは首輪の効力を見せるための見せしめだが……ふむ、不要となったホムンクルスにしようか」

もう一度、時臣が指を鳴らすとまるで人形のように白い肌をした美女の首輪が爆ぜた。

【アイリスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/Zero 死亡】

101鮮血の開幕 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/23(木) 00:54:53 ID:0c4AF2Fg0
「ア、アイリスフィールッ!!!」

甲冑を纏った騎士が声をあげる。

「もう聖杯戦争をやらない以上、その人形は不要だからな。どうせ短命なんだ。それを見せしめに選んだのは、私から君たちへの善意のようなものだよ」

「き、貴様、よくもアイリスフィールを」
「セイバーのサーヴァントか。君もランサーと同じような反応をする。
 まったく騎士という人種の言動は理解に苦しむな」

指を鳴らしてセイバーの動きを封じた時臣は説明を再開する。

「禁止エリアに入ったり、我々に刃向うような真似をすれば、そこの人形と同じ末路をたどることになる。
そして今までの会話を聞けば分かったかもしれないが、この会場には人間離れした力を持った者たちが複数いる。
一般人への配慮として支給品を用意した。強い支給品を引き当てれば魔術師でなかろうとも、そこの落伍者ぐらいは容易に倒せるかもしれないな」

雁夜をステッキで指しながら小馬鹿にした口調で時臣が言う。

「食料と水、それから会場の地図も含めて全員に配布しよう。それでは君たちの健闘を期待している」

左、右、左、と持ち替え、再度右手にステッキ握った時臣は、その先端を優雅な仕草で床につける。
同時に白い部屋に集まっていた参加者たちは次々と会場となる島へと移動させられ始めた。

「遠坂時臣ッ! 俺は絶対に貴様を殺すッ!!」

強制移動させられる寸前、鬼の形相で時臣を睨み付けなら雁夜はそう宣言した。

102鮮血の開幕 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/23(木) 00:55:54 ID:0c4AF2Fg0
「説明は終わったのね」

参加者が全員会場へと移動させられるのを見計らってから時臣の前に一人の女性が現れた。
女性の首に金属製の首輪はなく、つまり彼女も時臣と同様に主催者側の人間であることが分かる。

「そちらの準備もできたようだな、入巣清香」

この若干ロリっぽい三十路の女性こそ大企業アイリス・グローバルの社長、入巣清香であった。
年齢にそぐわぬ美人である女だが、正直なところ時臣は清香を快く思っていない。
清香は自らの娘である入巣蒔菜をバトル・ロワイアルに参加させていた。
同じく娘を持つ親として、それは許容し難い行為である。
時臣は確かに娘の桜を養子に出したが、それは桜のためを思ってのこと。
間桐の娘にすることが、桜にとっては最善だったからに他ならない。
一方、清香は娘の蒔菜に対しての愛情は皆無であり、今回の参加者選抜で娘が選ばれた時も一切反対しなかった。
その様子を間近で見ていた時臣は清香に対して不快感を覚えると共に、この女が不要になった時は自らの手で罰しようと心に決めていた。

「一体何人があの出まかせを信じるかしら」
「雁夜なら案外、真に受けているかもしれないな」

参加者たちにはああ言ったが時臣には始めから勝者の願望を叶える気などなかった。
優勝者が決定してこの部屋に招かれた瞬間、優勝者の首輪を爆破。願いを叶えるエネルギーを横取りする算段である。
弟子である言峰綺礼が参加者に入ってしまっていることは残念だが、代行者である以上、死は覚悟の上だろうと割り切る。
聖杯戦争と違い自分がリスクを負うことなく根源に至る手段を得られる。
つくづく彼女の協力者になって良かったと時臣は思う。
彼女というのは入巣清香でのことではなく――

「揃っているわね、二人共。計画は順調かしら?」
「無論だ、繭君」

この繭というカリフラワー頭の少女こそ、バトル・ロワイアルの発案者であり、時臣が最も信頼している協力者でもある。

103鮮血の開幕 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/23(木) 00:56:58 ID:0c4AF2Fg0
魔術師でもない入巣清香とは異なり、繭はこの固有結界にも近い白い部屋を展開できる程の実力者だ。
対等な協力者としての資格は十分に満たされている存在なのである。

「何の問題なくバトル・ロワイアルは進行しているよ。
 彼らは自分たちが道化に過ぎないことも知らずに殺しあうだろう」
「そう。それならいいわ」
「私は部屋でワインでも飲みながら観戦させてもらうとするよ。繭君も後で私の部屋に来るといい。魔術における芸術性について語り合おうではないか」

そう言って時臣は繭に背を向けて自らの個室へと向かう。
繭の口元がにんまりと歪んでいること、その手には一枚のWIXOSSのカードが握られていることに最後まで彼は気付かなかった。

繭の手に握られているのは毒牙属性のカード『アイン=ダガ』
場からトラッシュに置くことで相手シグニのパワーをマイナスする黒のカードである。
カードをダガーナイフへと変化させた繭は、無防備に背を向けて部屋へと戻る時臣の心臓にナイフを突き立てた。

「え……?」

おそらく時臣は最後まで何が起こったか理解できなかったであろう。
協力者に裏切られた哀れな魔術師は、瞬く間に動かない肉の塊へと変貌を遂げた。

【遠坂時臣@Fate/Zero 死亡】

104鮮血の開幕 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/23(木) 00:57:46 ID:0c4AF2Fg0
「殺してよかったの?」
「ええ問題ないわ。彼の役目はここでおしまい。あとは貴方と『あのお方』がいれば十分だもの」

『あのお方』とは時臣には知らせていなかった最後の協力者であり、バトル・ロワイアルの真の発案者、そして繭が最も信頼している人物である。

「……そう」

人が死ぬのを直接見るのは慣れていない清香が時臣の死体から目を逸らす。
そんな清香に配慮したのか、単なる気まぐれか、繭は時臣の死体を消し去った。

「ふふふ、それじゃあ、始めましょう。楽しい、楽しい、ゲームの始まり」

セレクターバトルすら超越した死のゲームの開幕を繭は高らかに宣言した。


【ゲームスタート】


【主催】

【繭@selector infected WIXOSS】
【入巣清香@グリザイアの果実シリーズ】

【黒幕】

【???@???】

105 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/23(木) 00:59:10 ID:0c4AF2Fg0
修正版、投下終了しました

106名無しさん:2015/07/23(木) 01:28:30 ID:xt1t6WZs0
皆さん投下乙です
MAP案を投下します

【会場MAP案】
1.
ttp://i.imgur.com/Fcf2ECg.png
2.
ttp://i.imgur.com/regw7yh.png

各施設の詳細および出典作品は描写した方にお任せします
修正点やご意見がありましたらお願いします

107名無しさん:2015/07/23(木) 02:01:03 ID:YddU9zjM0
>>105-106
乙です
地図候補はこれで3つですか

108 ◆7fqukHNUPM:2015/07/29(水) 00:15:52 ID:t.lsNQHs0
では、無事に予約を取れましたので、アニロワ4thの一話目を投下させていただきます。

作中でゆゆゆ勢の制限に触れる部分がありますが、
既にゆゆゆ勢の能力制限についてはある程度決められている部分もありますので
(精霊は本人支給の場合どうなるか等)、その形に則らせていただきました

109 ◆7fqukHNUPM:2015/07/29(水) 00:18:48 ID:t.lsNQHs0

――咲き誇れ、思いの儘に。


🌸    🌸    🌸

満天の星を天井にした、高い夜天の下で。
宮永咲が出会った少女は、名前を小湊るう子といった。

「バトルするかどうか選びなさいって、あの人は言ってました。
選択肢があるぶんだけ、みんなはまだしあわせだ……みたいなことも、前に言ってました。
ゲームをするかどうか選ぶのは私たちなんだからだって」
「うん……さっきも、そう言ってたよね」

後方には途切れた森林があり、前方にはゆるやかな坂道と市街地の景色がぼんやりと広がっていることから、ここが付近一帯でもかなりの高所なのだと分かる。
状況が状況でなければ、かつて夜の帰り道でホタルを見た時のように、自然の眺めに見入ったりもしただろう。
しかし二人が視線を落としているのは、腕輪の中で幾度も切り替わるカードの画面だった。

「でも、死ぬか殺すか、ずっと閉じこめられるかしか選べないなんて、ひどいです。
セレクターバトルでは、願いがマイナスになったりルリグになって苦しんでる人たちがいたけど、死んだら苦しむこともできなくなっちゃう」
「うん……殺しなさいって言われても、そんなことできないしね」

わけのわからない『殺し合い』を強いられてから最初に出会った者同士で、互いに警戒がなかったわけではない。
しかし、遭遇した瞬間にお互いが固まってびくりと身構える姿を目の当たりにすれば、『この人も私と似たようなものなんだ』と警戒を解くのに時間はかからなかった。

「るぅ――私も、そう思います。
誰かを傷つけたり、弄んだり、そんな目に遭わされた人の事は、見てきたつもりだから。
誰かを犠牲にするような選択は、したくないです」

すぐに分かったのは、彼女の方が咲よりも、ずっとたくさんのことを知っているということ。
あの灰色の人は何者なんだろうねと呟いたら、意を決したような顔になって語ってくれた。

「……ごめんなさい、何だか、るうばっかり話しちゃって」
「い、いいよそんなの。殺し合いを命令したのが知ってる人だったら、誰だってショックだし。
……私の方こそ、せっかく教えてくれたのによく分かってなくて、ごめんね」

るう子自身もどこからどこまでを話せばいいのか悩みながらだったらしく、最初は要領を得ないような話が続いたけれど、口を挟むことなく聞いた。
別に好きなように喋らせて落ち着いてもらおうとか狙っての配慮では無い。
咲はどちらかと言えばコミュニケーション下手であり、どういうことだと問いただすことさえもできなかったのが、聞き役に回っていた主な理由である。

「ううん。宮永さんはウィクロスとかセレクターとか全然知らなかったんだし、信じられないのが普通だと思います。――あの、たとえば、どんなことが分かりにくかったですか?」
「えっと、最初はカードゲームをやろうっていう話だったのに、どうしていきなり殺し合いに変わっちゃったのかな、とか……」

そう言うと、るう子は困惑したように目を伏せた。
もしかしてずれた質問をしただろうか、と咲は内心で焦る。

「繭は、ウィクロスのカードバトルだけじゃ、満足できなかったのかも」

るう子は小さな声でそう言った。

110 ◆7fqukHNUPM:2015/07/29(水) 00:19:52 ID:t.lsNQHs0

「私、繭もウィクロスのことは好きなんだと思ってました。
普通の子みたいにバトルがしたかったけど、できなかったから、セレクターバトルを皆にやらせてきたんじゃないかなって。
だから私、バトルで勝ってみんなを助けられるなら、止められても戦うつもりで。
繭とも、バトルのおかげで会えた友達の友達だから、きっと分かり合えるんじゃないかって……」

『戦うつもり』と言っていた時だけ、その瞳が戦う者に変わったかのように強く光った。
すごく麻雀に強い人が、人をぞくりとさせるような、怖い感じと少し似ていた。
だから、この子はきっとそのカードゲームが楽しくて強かったんだと思った。

「でも、違ったのかもしれなくて。
繭にとって、ウィクロスはただ復讐するための道具でしかなくて。
今までのバトルでタマもイオナも変われて、繭にも声を届けるはずだったのに、それも意味が無くて。
るぅの願いは悲しい戦いを終わらせることだったのに、本当の殺し合いなんてどうしたらいいか分からなくて。
ウリスがここにいるなら、イオナとタマもどうなってるか分からないのに……」

咲よりも年下の――合宿に遊びにきた夢乃マホと同い年ぐらいの少女が、他の人のことを心配して顔を曇らせている。
そんな姿を見せられては、いつも頼りない宮永咲だって、何か言わなくちゃと思った。

「意味が無いなんて、言っちゃダメだよ」

口にしてみた自分の声は思いのほか大きく、るう子が虚をつかれたように顔をあげる。

「私はね、麻雀をやってるの。好きだし、楽しいって思うから。
でも、るう子ちゃんたちのゲームほどひどいルールじゃないんだけど、麻雀ってお金を賭けたりもする競技だから。勝っても負けても辛かったり、人を傷つけたりすることがあって。
だから私も、麻雀を楽しくないと思ってたけど、それだけじゃないって分かったの」

宮永咲もまた、自分の好きなことを肯定できなかった歯がゆさを、知っているのだから。

「麻雀をしたから色んな人と打てたし、麻雀を通してなら話せそうな人もいるから。
殺し合いだとどっちのゲームも役に立たないかもしれないけど、ちゃんと経験になってくれてる。
繭って女の子のことを知ってるのも、るう子ちゃんにしかできないことだよ。
だから、意味が無いとか、無いと思うな」
「はい……」
「だからね。何とかして、ここから出る方法を考えよう。
帰ったら、また楽しく麻雀とカードゲームをやろうよ」
「はい」

るう子が少しだけ笑みを見せてくれて、本当にほっとした。
そして、うるうるとした眼で見つめられたのが恥ずかしかった。
こんなかっこよさそうな台詞、相手が年下の女の子じゃなければ絶対に言えてない。

「咲さんは強いんですね」
「ぜ、全然そんなことないよ! こうやって座って話すことになったのも、最初に腰が抜けちゃったからだし――」

いい加減に立ち上がろうと腰を浮かせた時だった。
メキリ、と。
背後から聞こえたのは、車輪で落ち葉や木の枝を踏みつぶしたような音だ。

「「――っ!」」

二人は引きつった声をもらし、身を固くして森林へと振り向く。
女子高生が1人と、女子中学生が1人。
一般の男性が凶器を持って飛び出してきただけで、揃ってこの世からお別れしかねない無力さだ。

111 ◆7fqukHNUPM:2015/07/29(水) 00:20:49 ID:t.lsNQHs0

「あの……」

しかし姿を現したのは、儚げな少女の声と、小さな人影だった。
車椅子に乗った、るう子と同年代のたおやかそうな少女。
そのタイヤを手押しでゆっくりと向かってくる動きは、足が悪くて歩けないヒトのそれだ。
しかも、その手にはスマートフォン以外に何も持っていない。

「……すみません、途中からお話を聞かせていただいて」

ぺこりと頭をさげる少女を見て、ほっと二人の警戒も解けた。
この少女を見て殺されるかもしれないと怯える人間がいたら、そちらの方が無理がある。

「ううん、いいよ。車椅子大変だよね。こっちから行くから――」

二人と一人の間にあるのは、家一軒分ほどの距離。
舗装もされていないその勾配を車椅子で進ませるのもどうかと、咲たちはこちらから近づこうとしたのだが。

「いいえ。お気遣いはありがたいですが、不要だと思います」

硬い、拒絶の意思がある声。
それを耳にして、咲たちは初めて気づく。
腕輪からの明かりに照らされた少女の顔が、思いつめたように眉尻をあげ、張りつめた表情をしていることに。
そして、少女が携帯電話を前方にかざしていることに。

その少女の変質は、一瞬にして劇的だった。
携帯電話が、青いガラス片をたくさん散らしたような光でその少女を包む。
光が収束した場所に身を現したのは、青と白の花飾りやリボンに彩られた天女にも似た装いだった。
頭や肩の周囲から生えている肩巾(ひれ)のようなリボンが幾本も地面へと屹立し、少女を吊り下げるようにして足の代わりを果たしている。
突然のことに対する困惑を差し引いた目でみれば、それはとてもきれいな姿だったけれど。
咲はなぜか、光の花びらを散らすその姿に、ぞくりとするような恐怖を覚えた。
恐怖は、次の瞬間に凶器を持つ。
どこからともなく少女の右手に出現したのはL字型をした金属のかたまり。

拳銃みたいな形の武器、と理解するのと同時。

「死んでいただきますから」

問答無用とばかり。
その銃口は、火を吹いた。


🌸    🌸    🌸


少女――東郷美森は、もとより、その少女たちの会話を聞いていた。
その少女たちをこれから殺すつもりで、潜んでいた。
すぐに飛び出さなかった理由の一つは、色々と考えることが多くて、逡巡していたから。
『勇者』が背負わされた『自殺することさえできない』という宿業はどうなったのだろう、とか。
呼び出した精霊の機動力がいつもよりぎこちない気がするのは、勇者を防御する力が落ちているということだろうか、とか。
バーテックスとも違う、あの巨大な竜は何だったのだろう、とか。

112 ◆7fqukHNUPM:2015/07/29(水) 00:22:05 ID:t.lsNQHs0
四国の中で覚えているどことも違うこの地図の会場は、どこなのだろう、とか。

色々なことを整理して方針を決めるのに時間をかけたこともあったけれど、襲撃を躊躇した理由も別にある。

この場所にいる人達にはみんな死んでもらって、願いを叶える。
東郷美森の願いは、世界をかろうじて延命させている『神樹』を倒すこと。
そして、この場所にいる四人の大切な友達――勇者部の皆の魂を、解放すること。
全てが終われば、先に死ぬことになる四人の仲間たちの後を追って逝く。
それは、やらなければいけないことだ。
勇者部の五人を、永遠に生贄として使い潰される宿命から救うために、必要なことだ。
けれど。
『勇者』の力を使って、人殺しをする。
友奈が『きれい』と言ってくれた勇者の東郷美森が、人間を銃殺する。
それは、いつもの5人の大切な『勇者部』を穢しているような気がして。
本当に、それをやるのだろうかと、身体が震えた。

どのみち、神樹を倒せば人類は生きていられないのだから、最終的にはここにいる70人どころではない大量の人間を殺すことになると、頭では分かっている。
勇者部の皆を解放してもらえれば神樹までも殺す必要はないかもしれないが、
殺し合いが終わった途端に精霊たちが復活して、再び神樹の力で死ねない体にされるかもしれない。やはり神樹は確実に殺しておいた方がいい。

やるしかない、と己に言い聞かせていた時だった。
二人の少女の、会話が聞こえてきたのは。

――誰かを犠牲にして願いを叶えたくなんかない?
勇者たちは、ずっと皆の幸せのために犠牲にされているのに。
『満開』によって体が動かなくなり、好きな人の記憶もなくなり、たった独りで寝たきりになり、それでも死ぬことさえ許されずに戦わされ続けるのに。

――選択しなければいけない?
友奈たちには、選択肢なんて最初から無かった。
『神樹さまを守らなければ世界が死ぬ』なんて言われたら、
『人の役に立つことを勇んでする』人ばかりの勇者部だったから、戦うことは分かりきっていた。
たとえ、『死ねない地獄』へと向かう一本道だったとしても。

――帰ったら、楽しい日常を過ごす?
結城友奈も、犬吠埼風も、犬吠埼樹も、三好夏凜も――そして東郷美森も、
それができれば、どんなに良かったか。

冷静になった。
覚悟は決まった。

無警戒に近づこうとする少女たちの前で、躊躇いなく変身。
すぐさま、短距離用の武器を出現させる。
そばに顕現するのは、いつもそうだったように、精霊の刑部狸だった。
二人の少女のうち、短髪で少し年上の少女が、何かを察したかのように顔色を変えた。

「るう子ちゃん! 危な――」

問答無用で発砲。
もう一人の手を引いて逃げようとした少女の腹部が、ぱっと赤く染まった。


🌸    🌸    🌸


赤くぬめりと迸った血液と、脇腹の衝撃は恐怖をもたらした。

「咲さんっ!!」

とっさに庇う体勢になってしまった少女の悲鳴が、壁を隔てたように遠い。
信じられない。こんなにあっけないなんて聞いてない。
簡殺されてしまうかもしれないと、怯えていた。
でも、たったこれだけで宮永咲が終わるなんて。全部が、終わるなんて。
抗おうとしても、体から力が抜ける。
体が横殴りにされるように、半身がぐるりと回る。
脚が崩れ、視界がななめ後方へと倒れるがままに流れていく。
腹部の焼けるような熱が、『これで終わりだ』と絶望を伝える。
麻雀に愛された才能だとか、全国大会に出場した実績とか、そんなもの人体を貫通する銃弾の前で何の役にも立ちはしない。

ただ、後ろにいるるう子ちゃんが続けて撃たれるところは見たくないな、と思ったので。
流れていく景色を横目に、目を閉じようとして。

113 ◆7fqukHNUPM:2015/07/29(水) 00:22:50 ID:t.lsNQHs0



――山の嶺から見下ろした世界が、目に入って来た。



夜の中でもここに高さがあること、ずっと下の方に真っ平らな地面があることは、輪郭が浮かびあがって分かる。
街の灯りは、まるで小さな花が咲き乱れたかのよう。
そして、高原の下から上へと吹き寄せる風からは、木々の薫りがした。
似ていた。
形も、匂いも。
いつかの、長野で見た『あの景色』と。


🌸    🌸    🌸


「リンシャンカイホー?」
「麻雀の役の名前だよ。
『山の上で花が咲く』って意味なんだ」

空はどこまでも青く、高原の風は緑の匂いがする。
見下ろした景色は、小さな花の集まりのようで。

「咲く?」

嶺上開花(リンシャンカイホウ)。
その言葉の意味を教えてもらって、たちまちに好きになった。

「おんなじだ! 私の名前と!!」
「そうだね、咲」

見上げたその人の口には、笑みがある。
ずっと仲良しでいられると、疑わない人だ。
たとえ喧嘩したとしても、きっと仲直りすると決めている人だ。

「森林限界を超えた、たかーい山でさえ、可憐な花が咲くこともあるんだ。
 咲、おまえもそんな花のように――強く咲けば――」

それは、とっても素敵なことのようで。
この人がそう言ってくれるなら、きっといつかそんな風になれる。
宮永咲は、信じた。


🌸    🌸    🌸

114その嶺上(リンシャン)は満開 ◆7fqukHNUPM:2015/07/29(水) 00:24:13 ID:t.lsNQHs0


――まだ、咲いたところを見せてない!

咲は、諦めてはいけない。



そこで、火が灯った。



右足を後方へと無理やりのばし、ザクリと地面を踏みしめる。
倒れそうになった体を、なかばるう子にもたれるようにして維持した。
るう子が驚き、どうにか咲をかばって前に出ようとする動きを、右手をかざして防ぐ。
眼前にいるのは、とどめを刺そうと狙いをつける少女の銃口だ。
あれがもたらす死だけは、止めないといけない。
左手で、黒いカードを探り当てる。
そのカードに何が入っているかはだいたい分かっていた。怯えながらも、一回だけ出し入れはしていたから。

カードを、自摸(ツモ)る。
口にするのは、いつもの言葉。
麻雀なら、牌が見えた時、それをツモる時にそう言うから。

取り戻せ。
いつか、和ちゃんに認められた、自信に満ちた私を。

――靴下は脱いでないけど、がんばる。





「カン」





🌸    🌸    🌸


腹部に血だまりの少女がそう言った時、東郷美森は次弾の引き金を引いた。
その時点では、命を狩る者と狩られる者のはずだった。

『カン』が言い切られるのと同時。
少女の眼から、『ゴッ』と炎がはじけて揺らぐ。
そしてすさまじい大きさの覇気が東郷を一直線に叩いた。

「きゃっ――!?」

勇者らしかぬ悲鳴が、口からこぼれる。
全ての知覚が、その一瞬で遮断された。
何をされたのかが分からないのに、それが恐怖だということは分かる。
友奈たちと初めて樹海化に巻きこまれて、二年ぶりにバーテックスを見た時に体が震えたような、それは『圧倒的なものに呑まれる』時の恐怖だった。

そして、知覚の戻って来た世界では二つの音が聞こえた。

115その嶺上(リンシャン)は満開 ◆7fqukHNUPM:2015/07/29(水) 00:24:53 ID:t.lsNQHs0

ひとつは、ガキン、と鈍く鳴る金属音。
それは、少女たちを狙った弾丸が遮断された音。
とどめを防いだのは、謎の少女が持つカードから飛び出す『布のような形状の金属の物体』だった。
ただ飛び出しただけのそれは弾丸を逸らすことに成功したものの、そのまま少女の手を滑って地面へと落ちる。

もうひとつは、東郷のすぐ近くで聴こえた『フィン』という音と、小さな光。
それは東郷美森の左胸にある『満開ゲージ』の花びらが、ひとつ花弁を増やした音。
それまで三枚あった花びらが、四枚になった。

とどめを仕損じた。
次弾を撃たなければ。
頭ではそう判断して、しかし感情は、恐怖が、行動を躊躇させる。
少女が圧倒的な気配を纏って攻撃を防いだ瞬間に、満開ゲージ――勇者の『供物』が、一つ埋まった。

たまたま、ゲージが貯まるタイミングになっただけのことかもしれない。
敵を激破した数と満開ゲージの貯まるタイミングは必ずしも比例しない。
一般人に向かって弾丸を撃ちこんでも、ゲージが貯まることだってあるかもしれない。
しかし、ならば、今この時も放出されている『強大な気配』はどういうことだ。
相手は、カンと言っただけだ。
麻雀や賭博遊びなどしたことない東郷美森だったけれど、中学二年生にしては必要以上なほど博学である。
『カン』が麻雀用語だということは知っていた。
その場に『三つ』が集まった時に、相手が放銃をした弾丸(ハイ)とかから『四つ目』を供給して、ひと塊を作る動きのことだ。
そんな言葉に、勇者が花を咲かせるための力が宿るとは思えない。

しかし、それが可能だとすれば。
物事を、とことん考えすぎるまで考えこむきらいのある東郷は、わずかな時間でそこまで考える。
満開ゲージを強制的に溜めることができるのならば。
もう一回でもそれが発生して、満開ゲージが全て埋まった時は、果たしてどうなる。

(もしかして…………強制的な、『満開』も?)



――嶺の上に、花が咲く。



また、『満開』をさせられる。
また、『散華』をする。
また、大切な人を忘れて――。

(――ダメ!!)

考えすぎるのは、悪癖だ。
手荷物――カードを探ろうとする二人をそうさせないため、次の動きを取る。
小型の銃を捨て、狙撃用の巨大な銃を呼び出した。
近距離とはいえ、二人を同時に殺そうと思ったら貫通力のある弾丸を使うべきだから。
銃床を肩にあてて押さえ、安定姿勢を保持。
スコープの中にいる標的たちは、距離が近くていつもより大きい。外しようもない。
だが、異変はとどまらなかった。
ピシ、とスコープに幾すじかの亀裂が生まれる。
まるで大きな地震がきた時の窓のように、のぞき窓はガタガタと震える。
何が起こったと考えるより先に、スコープが破裂した。

116その嶺上(リンシャン)は満開 ◆7fqukHNUPM:2015/07/29(水) 00:26:01 ID:t.lsNQHs0

「いつっ……!」

粉じんのように砕け散った無数の破片。
それが、東郷の右顔面にぶち当たった。
精霊の防御も間に合わず、とっさに閉じた右目をガラス状の破片で叩かれる。
眼球をかばいながらも、それは右目の視界と、平衡感覚――リボンで跳躍して距離を詰めるために必要なものを、しばらく潰す。
それを隙として、もう一人の少女が動いた。
左目には、もう一人の少女が球状の武器を投げる姿が映る。
少し転がすように投擲されたのは、煙幕弾だった。

「…………えいっ!」

弱々しいかけ声とは異なり、煙は爆発的に撒き散らされた。
通常の煙幕榴弾よりも大量の煙を吐くよう改造でもされているのか、折よく風も止まった嶺の上が白煙に包まれる。

闇雲に狙撃銃を撃っても、重たく駆け去る足音の主を捕えた気配はなく。
視界と平衡感覚とが回復した頃には、東郷美森だけがその場に残っていた。
金属の布きれは止血に使われたのか、その場から持ち去られている。

逃がした。
そう認識するのと同時に、どっと重圧がきた。
もし足が動く体だったら、きっと生まれたての小鹿みたいに震えていたと思う。

変身を解いて、地べたに座りこみ車椅子にもたれかかる。
謎の少女の方は、きっと仕留めた。
こんな山の中で、お腹を勇者の武器で撃たれて、そう長く生きていられるとは考えにくい。
勇者部だった東郷美森は、人を殺した。

仕方なかった、とかごめんなさい、なんて言わない。
東郷美森は、これから世界ぜんぶさえ殺すのだから。
そのためなら何だってすると覚悟したはずなのに。
震えが身体を走るのは、彼女がまだ、中学二年生の
そして、満開の恐怖を、今しばし思い出してしまったから。

(あの時……満開ゲージが溜まると思ったら、一瞬だけ躊躇した。
忘れることが、怖かったからだ。
……でも、だけど!
私は、そんな苦しみから、皆を解放する! そうしなきゃ!)

咲いてしまった花は、もう散るばかり。
もし花が散華することに胸を痛め、耐えられないと嘆くなら。



この世から、花そのものを滅ぼしてしまうより他に、道はない。



【F-2/山頂付近/一日目 深夜】
 【東郷美森@結城友奈は勇者である】
 [状態]: 健康、両脚と記憶の一部と左耳が『散華』、満開ゲージ:4
 [服装]:讃州中学の制服
 [装備]:車椅子@結城友奈は勇者である
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:東郷美森のスマートフォン@結城友奈は勇者である
 [思考・行動]
基本方針: 殺し合いに勝ち残り、神樹を滅ぼし勇者部の皆を解放する
   1: 参加者を殺していく。
   2: 友奈ちゃん、みんな……。
 [備考]
※参戦時期は10話時点です
  ※車椅子は、東郷美森の足も同然であると判断され没収されませんでした


🌸    🌸    🌸


意識を浮上させた宮永咲が倒れていたのは、神社の境内だった。

117その嶺上(リンシャン)は満開 ◆7fqukHNUPM:2015/07/29(水) 00:26:44 ID:t.lsNQHs0

目覚めて、目に入ったのはがっちりとお腹に巻き付けられた腹巻のような金蔵の布。
そして、耳に入ってきたのは、ガンガンという鈍い音。
るう子がこぶし大の石を握りしめ、咲の腕輪を必死に壊そうとしていた。
何をしてるんだろ。
そう思い、腕輪にはまったカードを見て、気づく。

死んだり、繭に逆らった人はカードに閉じ込められるというルールだった。
だからるう子は、咲の腕輪を壊し、ルール違反をさせようとしている。
生きているうちに、死ぬ前に、カードに閉じ込められたら、ルリグみたいにそこで暮らせるかもしれないから。
いい子だなぁと思った。
そんな彼女に声をかけようとしたけれど。
声は、かすれた。

「ごめん、無理みたい……」

るう子が、はっとしたように咲と目を合わせる。
涙でぬれた目に、咲の顔が写っている。
水面みたいだ、と思った。

色々な記憶が、走馬灯を作っていく。

キラキラした水面と、お魚さん。
病院と点滴。
炎に包まれた車椅子。
黒い服を着ていた姉。
だから、理解した。
これから、どこに行くのかを。

「カードの中に入っても、変わらないと思う。
死んだら、全部、終わりなんだよ。カードから出てきたりとか、会えたりとか、しないんだよ」
「知ってるなら……ちゃんと分かってるなら! どうして、るぅを、庇ってくれたんですか」

叱りつけられるような声をかけられて、申し訳なさがあった。

和ちゃん。
部長。
優希ちゃん。
マコ先輩。

お姉ちゃん。

会いたい人にも、会えないのに。
どうして、るう子を守ろうとしたのか。

「ごめんね……体が、動いちゃった。
私の方が、ちょっとだけ、お姉さんだから、なのかな?」

会いたい人に会えないのが。
もう麻雀ができないことが、悲しくて、辛くて。
でも、ひとつだけ良かったことがある。
あの嶺の上で、思い出して、踏みとどまったこと。

「……でも、私は…………選択したん、だよ。
私にしか……できない……こ、と」

さっき意味が無くなんかないと、小湊るう子に言った。
だから、彼女の選択も彼女を救けてくれたらいい。
哀しみから抜け出して、また楽しくゲームができるような、そんな選択を。

ああ、でも。
最後にひとつ、気になる。



「私――ちゃんと咲けてたかな?」



嶺の上に咲く、花のように。

118その嶺上(リンシャン)は満開 ◆7fqukHNUPM:2015/07/29(水) 00:27:16 ID:t.lsNQHs0
【宮永咲@咲-Saki- 全国編 死亡】
残り69人

【F-3/神社/一日目 深夜】
 【小湊るう子@selector infected WIXOSS】
 [状態]:健康、悲しみ
 [服装]:中学校の制服
 [装備]:なし
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:チタン鉱製の腹巻@キルラキル
黒カード:不明支給品0〜2枚、宮永咲の不明支給品0〜2枚
 [思考・行動]
基本方針: 誰かを犠牲にして願いを叶えたくない。繭の思惑が知りたい。
   1: 咲さん――!
   2: 浦添伊緒奈(ウリス?)、紅林遊月(花代さん?)、晶さんのことが気になる
 [備考]
※参戦時期は二期の8話から10話にかけての間です



支給品説明

【東郷美森のスマートフォン@結城友奈は勇者である】
東郷美森を勇者へと変身させるアプリが入った携帯電話。
近距離、中距離(ショットガン)、狙撃銃、遠距離砲の攻撃手段をそれぞれ使い分ける。
宿った精霊はそれぞれ刑部狸、不知火、青坊主、川蛍。

【チタン鉱製の腹巻@キルラキル】
蟇郡苛が、最終話の決戦で護身用に着用していた巨大腹巻。
針目縫の攻撃を受けても「ちょっと痛かった」程度で済むらしい(ただし大量に出血していた)。

【煙幕弾@現実】
小湊るう子のアイテムカードに単体で支給。
改造でも施されたのか、通常の煙幕弾よりもかなり多量の煙を排出するため、煙の拡散しやすい屋外でもしばらく持つ。

119その嶺上(リンシャン)は満開 ◆7fqukHNUPM:2015/07/29(水) 00:28:22 ID:t.lsNQHs0
投下終了です

今回、咲さんが行ったことについては議論対象になってしまうかもしれませんが
「たまたま偶然満開ゲージが溜まるタイミングがやって来ただけ」という偶然の可能性もありますよ、ということで一つ

原作でもモノクルを破壊する描写はありますし

120名無しさん:2015/07/29(水) 00:42:51 ID:???0
投下乙です

初っ端からなんて力作だ……

咲とゆゆゆとウィクロスの世界観がこれでもかって程マッチしててビビる
咲の腕輪を壊そうとするるう子でもう……

そして嫌な予感はしてたけど、やっぱり東郷さんはあの時期から参戦かぁ

121 ◆KKELIaaFJU:2015/07/29(水) 02:28:23 ID:WVWLm3c60
投下お疲れ様です。
拙作ですが、自分も投下します。

122輝夜の城で踊りたい  ◆KKELIaaFJU:2015/07/29(水) 02:29:38 ID:WVWLm3c60

「いやぁ、ホンマ助かったわーウチだけじゃ心細くてなー」
「いえいえ、いきなり大きな音が鳴ったので来てみたら、こんなことが……」

 倒れているのは大木。
 その近くには二人の少女。
 その少女たちのバストは豊満であった。

「ウチ、東條希。音ノ木坂学院三年生や」
「東條さんですね……私は神代小蒔と申します。永水女子高校の二年生です」

 一人は普通の学校の制服。
 もう一人は紅白の巫女服。
 そして、その少女たちのバストは豊満であった。

「その喋り方……関西の高校の方ですか?」
「いや、東京の秋葉原にある学校やで……そういう、小蒔ちゃんは学生兼巫女さんなん?」

 結構気さくに話しかけてくる希に対して安心感を覚える小蒔。
 最初に出会えたのが、優しそうな人でよかったと思う。
 
「でも、警戒したほうがええで……まだ近くにこんなことやった犯人がおるかもしれんよ、少し離れよか」
「はい」

 希は小蒔の手を引き引っ張っていく。
 優しく手を引き、誰にも見つからないように静かに歩いていく。
 しばらく歩くと誰もいなさそうな茂みを発見した。
 一先ずはそこで情報交換をしようとした。 

「小蒔ちゃんの知り合いはおるん?」
「知り合いですか? いませんね……」
「ふーん、ホンマに?」
「あっ、はい……東條さんは?」
「……ウチの学校の友達が4人もおるんよ……」
「えっ?」

 二人で名簿を一緒に名簿を見る。
 希は見知った名前を指差していく。
 『高坂穂乃果』『南ことり』『絢瀬絵里』『矢澤にこ』。
 同じスクールアイドルグループ『μ's』のメンバーだ。
 希は一年生三人と二年生で作詞担当の『園田海未』の名前がなかったことには安堵したが。
 それでも皆が心配であることには変わりなかった。

123輝夜の城で踊りたい  ◆KKELIaaFJU:2015/07/29(水) 02:30:16 ID:WVWLm3c60

「探しに行きましょう!」
「えっ?」
「留まっているより探したほうがいいと思います!
 その東條さんのお友達さんもきっと東條さんを探しているはずです!」
「……小蒔ちゃんはええ子やねぇ……けどな」

 少し冷静になり、希は徐に小蒔の顔を指差す。

「さっきから気になってたんやけど?」
「? なんですか?」
「その……顔につけてる、それ何なん?」
「これですか? これはスパウザーです」
「えっ、なんて?」
「スパウザーです。平たく言えば戦闘能力を計る計測器です」

 まるで漫画に出てくるような道具。
 補聴器に小型スクリーンが付いた形状をしている。
 装備してる当人曰く『戦闘能力を計る機械らしい』が胡散臭いったらありゃしない。

「ホンマに……?」
「ちょっと待ってくださいね……計測できました。えーっと、東條さんは53oですね」
「53oってなんなん!? 強いん、それ!?」
「東條さんは53o(オッパイ)……つまり、オッパイ53個分の強さということですね」
「いやいや、ウチのオッパイは二個やし!? というかオッパイの一個分の戦闘能力ってどんだけなん!?」
 
 希は本場関西人のようにガンガン突っ込んでいく。
 しかし、それを天然なのか、小蒔はのらりくらりと自分のペースで話していく。
 
「……しかしな、小蒔ちゃん、戦闘力をちゃんと計るなら……」
「ちゃんと計るなら?」
「ふふふふ……ワシワシMAXや!」
「いや……ちょっと、東條さん!?」

 一瞬のうちに小蒔は希に背後を取られた。
 そして、希は巫女服の上から小蒔の胸を揉む。

「これは88……いや、90……!?
 まさか……それ以上あるやん!!」
「ふぁっ!?」

 ワシワシと胸を揉む。
 ワシワシワシワシと胸を揉む。
 揉まれると同時に小薪の心臓の鼓動が早く、どんどん高まっていく。

124輝夜の城で踊りたい  ◆KKELIaaFJU:2015/07/29(水) 02:31:31 ID:WVWLm3c60

「ふふっ、ウチのワシワシテクニックで堪忍しいや〜」
「……と、東條さん、それ以上は……いけません!」
「ああ、わかったで……」

 急に希は小蒔の胸を揉むのを止める。
 充分に満足したのだ。
 だから、止めた。

 胸を揉みしだかれた小蒔は息を整えようとする。
 こんなことをされたのは自身生まれて初めてだった。
 だが、不思議と嫌な気分にはならなかった。
 寧ろ、気持ちよかった。
 
 だが、次に小蒔が感覚は……胸を突き破るような痛みであった。


「ホンマ勘忍な……」


 小蒔の胸からレーザーブレードのような光の刃が突き出ていた。
 その刃は小蒔の心臓のご丁寧に位置を突き破るように一直線に。


 何が起こったか、わからないまま。




 神代小蒔の意識はそこで途絶えた。



 ◆ ◇ ◆



 ―――私にとってμ'sは大切なもの。
 

 絵里ちもにこっちも穂乃果ちゃんもことりちゃんも大切な友達。
 

 だからな……皆ごめんな……私は、もういつもみたいには笑えんわ……


 ◆ ◇ ◆

125輝夜の城で踊りたい  ◆KKELIaaFJU:2015/07/29(水) 02:32:22 ID:WVWLm3c60

 ビームサーベル。
 最初はただの玩具かと思った。
 だが、カードの説明を読んでれっきとした武器だと判明した。
 最初は半信半疑だった。

 だから、試し斬りを行った。
 最初は近くにあった自分よりも太い大木を斬った。
 レーザーで出来た刃であっさりと切断出来た。
 音を立てて、あっさりと倒れた。

 二回目は【今】……寄ってきた女の子で試し斬りした。
 胸を揉むのはせめて小蒔ちゃんが苦しまないように。
 一撃で仕留められるように、胸を揉んで心臓の位置をしっかり確認して。

 こんなことをして自分の心が痛まないと言えば、嘘になる。
 だから、その心も【今】斬り捨てた。
 
 ―――μ'sを護るために。
 
「ウチ、やっぱラッキーガールやな……いや」

 大きな溜息を吐く。
 最初に遭遇したのが何の戦闘能力もない優しい子だった。
 だから、希にとってはラッキーだった……覚悟を決めるには。
 
「こんなことに巻き込まれた時点でラッキーガールも何もあらへんな……」

 強力そうな武器も引き当てた。
 引くおみくじ全てが大吉になるくらい運がいいというくらい自負している。
 本当に運がいい、こんなことに巻き込まれていることを除けば。

「音ノ木坂学院も廃校の危機を回避出来たと思ったら……こんなところに移転とはとんだ災難やね」

 希は地図を見る。
 地図に記されている音ノ木坂学院。
 その学校も廃校のピンチだったはずなのに、こんなところにある。

「皆、学校が好きやし……そこに行くだろう。
 なら、ウチは……行かんわ」
   
 少女は一人、歩いていく。
 護りたいものを、護るために。
 それが例え間違った道だと分かっていても。

【神代小蒔 咲-Saki- 全国編 死亡】
【残り68人】

126輝夜の城で踊りたい  ◆KKELIaaFJU:2015/07/29(水) 02:33:05 ID:WVWLm3c60

【D-2/墓地近く/一日目 深夜】
【東條希@ラブライブ!】
[状態]:健康
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:黒カード:ビームサーベル@銀魂
[道具]:黒カード:スパウザー@銀魂、腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:不明支給品0〜2枚、神代小蒔の不明支給品0〜2枚(全て確認済み)
[思考・行動]
基本:μ'sのために……
 1:学校には向かわない
 2:μ'sのメンバーには会いたくない
 [備考]
※参戦時期は1期終了後。2期開始前。


支給品説明


【ビームサーベル@銀魂】
 原作46巻第四百二訓〜四百九訓(アニメ版における第262〜264話)のビームサーベ流篇に登場した武器。
 ビーム状の刃の剣。小尾一のように刃は巨大化させることは制限がかかっており不可能である。

【スパウザー@銀魂】
 原作第20〜21巻第百七十四〜百八十二訓(アニメ版における第115〜118話)の夏休み特別篇に登場した道具。
 形状はあの有名漫画に出てくるスカウターであり、戦闘能力を図ることができる。
 また戦闘能力の単位は男の場合はk(こんぶ)で女の子の場合はo(オッパイ)となる。
 あまりにも桁違いの数値を計測すると、爆発する。

127 ◆KKELIaaFJU:2015/07/29(水) 02:34:14 ID:WVWLm3c60
投下終了です。
誤字等、問題点があったらご指摘下さい。

128 ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:06:05 ID:i.F5mlqI0
投下お疲れ様です。
咲勢が早くもリーチとは……

自分も投下させていただきます。

129忘れられないアンビリーバブル ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:06:52 ID:i.F5mlqI0


 

 誰に会いたいの? 会いたいの?
 
 こころが持っている答えは
 
 ひとつ ふたつ たくさん?






 少女は震えていた。
 かたかたと、かたかたと。只でさえ小さなその体は、いつもより余計に小さく見えた。
 ついこの間までは表情の変化さえ多くなかったけれど、最近は微笑むことも増えてきた顔。
 
 ――蒼白に染まっている。額には冷たい汗が浮いて、今にも滴り落ちそうだ。
 ――歯はがちがちと不協和音を奏で、心臓は今にもはち切れそうなほどの躍動を見せている。
 
 不健康なリズムとスピードで脈打つ心の臓は、きっと自分の恐怖心の強さを表しているんだ――そう思った。
 仮にいま、自分の心臓が破裂してなくなってしまったとしても、きっと智乃は驚かなかっただろう。


 ホラー映画を見たことがある。
 勿論、自分から進んで見ようとしたわけじゃない。
 確かあれは、テレビで心霊映像の特集をやった翌日のことだったと思う。
 マヤがレンタルビデオ店でホラー映画のDVDを借りてきて、それを見ようという話になった。
 それで、皆で見たのだが。……正直な所を言えば、智乃には恐怖以前に疑問が勝る映画だった。
 それは実にありきたりな疑問。
 ホラー映画やパニック映画を一度でも見たことがあるなら、誰もが抱いたことのあるだろう感想。

 即ち、"自分ならもっと上手く立ち回れる"――自分なら、恐怖で動けなくなったりはしないはずだ。
 いくら下手に動けば命を失うかもしれない状況だとしても、止まっていては遅かれ早かれ死ぬだけだ。
 死を黙って待ち続けて、恐怖を最高潮まで引き立てられてから殺されるくらいなら、自分ならきちんと動く。
 自分なら、万一の時だって自分を見失わずにしっかりと行動できる。
 智乃は最後、顔を青褪めさせながら感想を語り合う二人に苦笑しつつ、そうして映画鑑賞を締め括ったのだったが。


 いざ実際にその立場へ置かれた彼女は、ピクリともその場から動けずにいた。
 このままではいけないと頭では分かっているにも関わらず、体がそれについて来てくれない。
 立ち上がろうとしても足は痺れてもいないのにガタガタと震え、もし歩きでもすればすぐに転んでしまいそう。
 無理もないだろう。誰も、今の智乃を笑うことは出来ないはずだ。
 
 香風智乃という少女は、普通の少女である。
 同学年の子どもに比べれば確かに大人びてはいるし、喫茶店の娘として接客能力だって備えている。
 けれど、彼女個人の人間性は――過ごしてきた人生は、あくまでも普通の範疇に収まる。
 例えば、先の"ルール説明"。
 見せしめとして少女が殺されたが、あの光景についてだってそうだ。

130忘れられないアンビリーバブル ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:07:37 ID:i.F5mlqI0
 智乃は、人が殺される瞬間を見たことがない。
 怪しげな力を持つカードにだって心当たりはないし、摩訶不思議な魔法を使うことも出来ない。
 智乃が経験した不思議なことといえば精々、喋るウサギと一緒に暮らしている程度のものだ。
 朝起きて、学校へ行き、友達と話して、友達と遊んで――最近では下宿にやって来た年上の少女によって、その日常もずいぶんと賑やかに彩られて。お風呂に入ったら宿題を済ませ、ぬいぐるみと一緒に就寝する。
 そんな暮らしを送ってきた少女が、何の前触れもなく殺し合うことを強要され、目の前で人を惨殺されたのだ。
 ――これで正常でいられるわけがない。今も目を瞑れば、瞼の裏にあの惨状が再生されてしまう。

「う……」

 込み上げてくる嘔吐物を、どうにか喉元で堪え、押し戻す。
 荒い息を吐きながら、智乃は小動物のように周囲を見渡した。
 
「ラビット、ハウス……」

 ラビットハウス――
 見覚えのある光景だった。
 それ以上に、親しみのある、かけがえのない光景だった。

 自分が生まれ育ち、そして手伝ってきた喫茶店。
 昔はアルバイトの理世と自分と、マスコットのティッピーだけしかいなかったが、今では従業員が一人増え、マヤとメグ以外にもいろんな人が遊びに来てくれるようになった大切な店。
 空気も、樹の匂いも、かすかに残るコーヒーの香りも。
 五感全てが、これが本物のラビットハウスであると告げていた。
 智乃が正気を保てていたのは、ひとえに開始位置、最初に目を覚ました場所が此処であったからかもしれない。
 安心感。こんな状況だというのに、慣れ親しんだ店の内装が心を少しずつだが、確かに落ち着かせてくれる。
 
「ティッピー……? お父さん……?」

 智乃はいつの間にか、立ち上がっていた。
 そうだ、ここはラビットハウス。
 いつも通りの――わたし達のラビットハウス。
 
 でも、と智乃は思う。
 
 これは確かにラビットハウスだ。
 けれど、どうしてこれが此処にある?
 智乃はハッとなって、腕輪の端末を弄り始めた。
 使い方には少し手間取ったが、どうにか名簿と地図の出し方を把握する。
 まずは地図だ。会場の一覧図を見て――嫌な予感が、大きくなった。

 違う。
 こんな形の町を、私は知らない。
 ここは、私の住んでいる町じゃない――

「……っ」

 次は名簿へ手を動かした。
 そこには無情に、智乃の友人たちの名前が記されていた。
 心愛、理世、千夜、そして紗路。
 今や家族同然だったり、長い付き合いだったり、はたまた可愛がってもらったり。
 友好を育んできた人物たちも同じ目に遭っていることに心を痛め、マヤやメグの名前がないことに少し安堵した。

131忘れられないアンビリーバブル ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:08:08 ID:i.F5mlqI0
「――お父さん……?」

 そして、ある不気味な疑問が浮かんでくる。
 ラビットハウスがあるのに、どうして父の名前がない?
 それに、いつも一緒のティッピーの姿もない。
 殺し合いの邪魔だからと、どこか別なところにいるのだろうか? ――――それとも。

「――お父さん! ティッピー!」

 震えの大分収まった足で立ち上がると、誰かに見つかることを危惧することさえ忘れて名前を呼ぶ。
 
 ――ラビットハウスは、ある。
 ――なのに経営者である父と、店のマスコットも同然のティッピーの姿はない。
 
 二つの要素が揃った瞬間、智乃の脳裏に浮かび上がるのは嫌な想像だった。
 ありえないと一笑に伏すのは簡単なことだ。
 なのにそれが出来ないのは、やはり先の"見せしめ"の一件。
 人の命を何とも思わず、あっさりと、それでいて残虐に人を殺した彼女。
 彼女なら、そういうこともするのではないか。
 

 つまり、父とティッピーは……もう、とっくに――――


 カウンターの奥、智乃たち香風家の人間と下宿生の心愛が生活する居住空間へ智乃は向かう。
 足は自然と駆け足になっていた。そうだ。そんなことがあるわけがない。
 きっとこの奥に進んだなら、心配そうな顔をした父とティッピーが迎えてくれる筈なのだ。
 
 だってここはラビットハウス。
 私達の、日常の中心なんだから。

 そう思っているのに、智乃はいつからか、小さな果物ナイフを片手にしていた。
 これは彼女の支給品の一つである。
 異能のカードや、それに準ずる品物が多数存在するこの殺し合いでは決して当たりと呼べるものではない。
 これで岩は切れないし、ビームを止めることは出来ないし、剣と打ち合うことも出来ないだろう。
 
 しかし、人は殺せる。
 
 智乃にその認識はなかった。
 正しくは、そんな当たり前に意識を向けている余裕さえ今の彼女にはなかったのだ。
 半ば無意識的に手にしたナイフを片手に、彼女は居間へ急ぐ。
 そこには見知った顔があると信じて。


「お父――」


 リビングに繋がる扉へ手をかけ、一息に引いた。
 しかしその向こうに、過ごし慣れた居間の風景はない。
 壁があった。
 奇妙な模様をした壁だった。

132忘れられないアンビリーバブル ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:08:46 ID:i.F5mlqI0
 ベースは白だが、それでも壁紙に使うような模様じゃない。
 それに、こんなところに壁があるわけもない。
 智乃は茫然とした顔で、その壁を見上げていき――そこで漸く、それが壁なんかではないのだと気付いた。


「貴様、参加者か?」


 それは、巨人だった。
 少なくとも小柄な上に、錯乱状態にある智乃にはそう見えた。
 日焼けした黒い肌と金髪に、太く凛々しい眉毛が特徴的だ。

 "巨人"は智乃の顔を覗き込むように姿勢を屈めさせ、目線を合わせてくる。
 だが、そんなことはどうでもよかった。
 智乃にとって重要だったのは、自分達の家に――自分と、父と、ティッピーと、心愛の家に。


「……? おい、貴様――」
「……あ……ぁ……」


 見知らぬ誰かが、それもこんな"悪そうな"人物が居たということ。それだけ。


「――――あ、あああぁぁぁああっっ!!!!」


 智乃はナイフを振り被る。
 そしてそのまま、振り下ろした。
 
 嫌な音がした。
 それで終わりだった。






 ――血が舞ったのを見た。


 ナイフを使って血を出したことは、智乃とて一度や二度じゃない。
 料理で使ったり、時には工作で使ったり。
 様々な理由で使っていれば、不注意で手を切ってしまうこともままある。
 
 しかし、今回のものは違う。
 不注意なんかじゃない。
 故意だ。
 故意で、誰かを傷付ける為に――殺す為に、手にしたナイフを振り下ろしたのだ。
 "巨人"の額が、血に染まっていた。

133忘れられないアンビリーバブル ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:09:17 ID:i.F5mlqI0
「え」

 智乃は一歩、二歩と後退りをする。
 それから、ぺたんと座り込んでしまった。
 バランス感覚を失ったように、べたんと。
 
「え……」

 智乃は、自分の握ったナイフに視線を落とす。
 ――紅い。――赤い。
 ――朱い。――赫い。
 ――あかい血が、誤魔化しようもなくべっとりとこびり付いていた。
 滴り落ちる血の滴が見慣れた家の床に染みを作っていく。やがて刃から柄を伝い、智乃の手にそれが付着した。

「ひっ!」

 思わず、ナイフを取り落とした。
 水や油なんかとは断じて違うぬるぬるとした感触と、鼻孔を擽る生臭さが、これが現実のことだと告げている。
 いっそ終始錯乱できていれば、彼女にとってはまだ幸いだったのかもしれない。
 今のは仕方のないことだった、正当防衛だと自己を正当化出来る自分勝手さがあれば、早々にこの場を立ち去るという選択肢を取ることも出来たかもしれない。
 いずれにせよ、心にダメージを受けるようなことはなかったろう。形や善悪はどうあれだ。

 だが、香風智乃は身勝手な人間ではなかった。
 もう一つ言うなら、香風智乃は冷静な人間であった。
 
 滴り落ちた血液が床とぶつかる音と、手で触れた血糊の感触が智乃を冷静にさせた。
 目の前にあるのは、言い逃れのしようもない凶行の痕跡だ。
 智乃は身勝手な人間ではないから、相手に責任を擦り付けて自分を正当化出来なかった。
 相手は何もしていない。ただ自分が勝手に錯乱して、無抵抗の相手を斬った。
 さっき起こったことはそれだけだ。――正当防衛? そんな理屈、成り立つ筈もない。

「あ……あ……!」

 そうして智乃は理解する。理解してしまう。
 逃避すればいいものを、事実をしかと受け止め、把握してしまうのだ。

 ――人を殺した。
 この手で、無抵抗な相手を殺した。
 ナイフを握って、
 その手を持ち上げ、
 姿勢を低くしていた相手の頭を狙って、
 ナイフを振り落とした。

「う……お、ぇええっ」

 智乃は今度こそ堪え切れずに嘔吐した。
 未消化の朝食と胃液が、零れた血を塗り潰していく。
 瞳からは滂沱のごとく涙が溢れ出す。
 罪悪感と自分への嫌悪感が、瞬時に恐怖を押し潰した。

 彼女は震える瞳で、自分が殺した"巨人"を見る。

134忘れられないアンビリーバブル ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:09:51 ID:i.F5mlqI0
 ゆっくりと頭を上げて、その凶行の証を見る。
 血は、彼の居た場所へ近付くにつれ量が多くなっていく。
 そして遂に、自身の手で殺めた死体を認識せんとして――智乃は、一瞬自分の心臓が確かに停止する錯覚を覚えた。


「おい」


 そこには。
 

「この俺が――本能字学園風紀部委員長、蟇郡苛が――その程度で死ぬと思ったか」


 壁が。
 今さっき、自分が切り裂いたはずの"壁"が。
 頭から血を流しながら、されど傷を抑えようともせずに、立っていた。





 蟇郡苛は激怒していた。
 それは目の前で怯えた少女に対しての怒りではない。
 繭を名乗った少女。奇怪なカードを使い、人を殺した悪魔の様な少女。
 大半の参加者にとって恐怖の象徴であろう彼女は、しかし蟇郡にとっては異なっていた。

 ――よくも。

 彼は忠臣である。
 鬼龍院財閥のお嬢様であり、本能字学園の生徒会長を務める支配者、鬼龍院皐月に忠誠を誓った臣下である。
 彼女との劇的な出会いは一瞬たりとも忘れることはなかったし、望まれればあの時のやり取りを一言一句言い間違うことなく正確に復唱することだって出来る自信があった。
 そんな蟇郡だからこそ、許せない。
 人を殺したこと? 違う。
 多くの人間を不当に巻き込み、犬畜生のように殺し合うのを強要したこと? 違う。

 ――よくも。

 蟇郡は無論、そこにも怒りを抱いている。
 彼ら本能字学園四天王もまた、鬼龍院羅暁の目論見を打ち砕くべく団結し、武を唱えた身だ。
 顔も名前も知らない人間一人であれ、決して命を軽んじることを良しとしてなどいない。
 ましてそんな悪趣味な光景を皐月に見届けさせるなど、無礼千万である。
 だが、そうではない。蟇郡苛という男を真に激怒させたのは、この"腕輪"の存在だった。

 ――よくも、皐月様にこれほどの狼藉を働いてくれたな。

 腕輪とは言っているが、要するにこれがある限り、生殺与奪は繭なる娘に握られているということ。
 そしてこれは参加者個人の手では外せない。
 ならばそれは首輪と同じだろうと蟇郡は考える。
 犬は、自分の手で首輪を外せない。そして犬の生殺与奪は、首輪のリードを握る飼い主が常に握っているのだ。


(皐月様を犬と同列に扱う無礼……断じて許さん! この蟇郡、これほどの屈辱を味わったのは初めてだ……!!)

135忘れられないアンビリーバブル ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:10:27 ID:i.F5mlqI0


 皐月の被る屈辱は、蟇郡にとっては彼女の数倍もの屈辱である。
 だから彼は今、過去かつてないほどに激怒していた。
 只でさえ悪い人相は、そんな精神状態なこともあって当社比三割増しくらいに悪くなっていたのだ。
 
 そこに錯乱した幼い少女がやって来る。
 少女は武器を持っている。
 そうなれば、何が起こるかは想像に難くないだろう。
 あら不思議、お手軽殺人事件の完成である。
 一つだけ異なることがあるとすれば、この蟇郡苛という男――"普通"の人生を送ってきた人間ではないということ。

 
 智乃の振るったナイフは、確かに蟇郡の頭を捉えた。 
 しかしだ。
 何の心得もない素人、それも幼い娘が錯乱しながらナイフを振り回した所で、その威力はたかが知れている。
 もし蟇郡が顔を覗き込もうとしていなければ、彼の纏う"極制服"に阻まれ、傷一つ付きはしなかっただろう。

 それに加え、蟇郡は頑強な男である。
 今は親戚の鉄工所で作って貰ったアイテムは持っていなかったが、それでもこの程度ならば恐れるに足らない。
 傷の見た目はそこそこ派手だったが、命どころか行動への別条すら皆無だった。
 だがそう、見た目だけはそれなりなのである。
 額を左から右目の下辺りまで、ナイフで切り裂かれた傷が斜め一直線に刻まれている。
 出血も、少女一人に人殺しをしたと錯覚させる程度にはしていた。

「ひ、ひっ……!」
「ええい、そう怯えるな! 貴様を取って食うつもりはない!!」

 危害を受けたのは紛れもなく蟇郡の方なのだが、相手は明らかに一般人だ。
 極制服など勿論纏ってはいないし、ナイフを使う動きも不慣れ。
 ――まず間違いなく、この殺し合いに不運にも巻き込まれた一介の少女と見て間違いないだろう。
 状況が状況だ。錯乱して斬り付けられた程度で激昂するほど蟇郡は器の小さい人間ではなかったし、第一今のは見方を変えれば不注意過ぎた自分にも責任がないとは言えない。

「傷も浅い! この程度、俺ならば唾でも付けておけば治るわ!
 ……それよりもだ。貴様、先程"お父さん"と言いかけていたようだが――この家の住人か?」
「……は、はい……」
「そうか……ならば謝罪しよう。些か考えが足りなかった」

 傷から滲む血を片手で拭いながら、蟇郡は智乃へと謝罪する。
 それに智乃はきょとんとした顔をした。
 彼女にしてみれば、相手は殺しかけた相手だ。
 反撃に遭うのは確実だとばかり思っていたから、この反応には思わず面食らう。
 そして、すぐに自分のしなければならないことに気付いた。

「……私の方こそ、ごめんなさい!」
「貴様が謝る必要はない」
「そんな……でも、私、あなたを殺しそうになって――」
「言ったろう。この蟇郡、錯乱した子女の刃で討ち取られるほど軟な男ではない!
 仮に先の一撃で俺が死んだのだとすれば、どの道その程度では皐月様をお守りするなど到底不可能な話だ。
 皐月様を守れぬ俺など、最早俺ではない。死んで六道輪廻の旅にでも赴いた方が余程有益である!!」

 凛と喝破する蟇郡。
 その大声にびくりと智乃は体を震わせたが、そこに敵意がないことは理解できた。
 ――ついでに、今ので大分頭も冷えた。

136忘れられないアンビリーバブル ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:12:18 ID:i.F5mlqI0
「それに、俺が怒っているのは主催者――あの繭なる女だ」

 主催者、という単語を聞き、智乃は再び"見せしめ"が殺される瞬間を想起する。
 
「貴様は、奴が許せるか?」
「私は……」
「大方、貴様の友も巻き込まれているのだろう。
 ああいった手合いが全くの無作為で参加者を選出するとは思えん。
 ……悪趣味なことだがな。少なくとも俺には許せん。皐月様にこのような仕打ちを働いた挙句の鬼畜の所業、断じて捨て置けるものではないと実に憤慨している」

 心愛たちは、ただ普通に暮らしていただけだ。
 何も悪いことなんてしていない。
 そんな彼女たちが、きっと今頃は恐怖し、怯え、悲しんでいる。
 そう考えると――智乃の中にも、恐怖の他に湧き上がってくる感情があった。

「ません……」

 それは、温厚な彼女にしてはごく珍しい感情。
 彼女自身、これほどまでに強くその感情を抱いたのは初めてだった。
 友達との喧嘩など比べ物にすらならない。
 
「許せません……!」

 許せない。
 人の命を弄び、挙句罪もない人々を――自分の大切な友人を巻き込みせせら笑っている繭が許せない。
 智乃は今、確かに怒っていた。
 蟇郡の言葉は彼女の怒りを煽り立てるようなものであったが、実際、彼はそれを狙っていたのだ。

「ならば、よし」

 力なき者がいることは致し方ないことだ。
 誰もが極制服を纏って戦えるわけでも、あの繭のように摩訶不思議な力を使えるわけでもない。
 むしろそういった者はごく少数派だろう。大概はこの少女のように、無力で平凡な人間。
 それでも、心を強く保つことは出来る。
 恐怖に慄き、怯え続けるだけではなく――強い怒りを燃やし、それを繭への反逆の狼煙とする気概があれば。

 それは、単なる服を着た豚ではない。
 確たる志を持ち、明日へ向かわんとする戦士である。


「あ――あのっ」
「?」
「私は、チノ――香風智乃といいます。
 蟇郡さんが大丈夫なことは分かりましたが……一応、手当てだけはさせてください」
「分からん奴だな。これしきの手傷、唾でも付けておけば治ると……」
「させてください」


 台詞を遮って進言してくる智乃に、さしもの蟇郡も反論ができない。
 こういう強情さを発揮してくる奴には覚えがあった。
 満艦飾マコ。力はないが、しかし"なんだかわからないもの"を秘めた劣等生。
 だから蟇郡は、こういう時には素直に頷いておくのが賢明だと知っている。

137忘れられないアンビリーバブル ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:12:50 ID:i.F5mlqI0


「……好きにするがいい」
「ありがとうございます。では」


 少し微笑んで、智乃は室内の救急箱を持ってくると、手当てへ取りかかりはじめた。
 蟇郡は手慣れたものだと内心感心していたが、当の智乃はといえばおっかなびっくりである。
 保健の授業で習った知識を必死に思い出しながら、丁寧に止血していく。
 それに甘んじながら、蟇郡はふと気が付いた。

「香風。貴様、この家の娘なのだったな? 此処は店か?」
「喫茶店です。名前は、ラビットハウス」
「そうか――茶、か……」

 そういえば、こういった大きな闘いの際に、揃三蔵――皐月の執事が入れる茶を飲まないのは珍しい。
 そう思い、蟇郡は呟いた。
 その声を拾った智乃は、ふと彼へ提案する。

「……飲みますか?」
「なに?」
「お茶じゃなくて、コーヒーですけど」

 ここはラビットハウス。
 智乃の働く喫茶店だ。
 何も全部が全部もぬけの殻というわけでもないだろう。
 コーヒーメーカーと豆、コップくらいはあるはずだ。

「……貰おうか」

 せっかくの提案を蹴り飛ばすのもどうかという話。
 蟇郡は毒気を抜かれた思いで、ふうと溜息を吐き出した。

138忘れられないアンビリーバブル ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:13:20 ID:i.F5mlqI0


【G-7/ラビットハウス/一日目・深夜】
【香風智乃@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康、落ち着いた
[服装]:私服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:果物ナイフ@現実
     黒カード:不明支給品0〜2枚、救急箱(現地調達)
 [思考・行動]
基本方針:皆で帰りたい
   1:蟇郡さんに、コーヒーを淹れる
   2:ココアさんたちを探して、合流したい。
[備考]
※参戦時期は12話終了後からです


【蟇郡苛@キルラキル】
[状態]:健康、顔に傷(処置中、軽度)
[服装]:三ツ星極制服 縛の装・我心開放
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:三ツ星極制服 縛の装・我心開放@キルラキル
     黒カード:なし
 [思考・行動]
基本方針:主催打倒。
   1:コーヒーか……
   2:皐月様、纏、満艦飾との合流を目指す。優先順位は皐月様>満艦飾>纏。
   3:針目縫には最大限警戒。
[備考]
※参戦時期は23話終了後からです


支給品説明

【果物ナイフ@現実】
香風智乃に支給。
その名の通り、果物を切るのに適した小型のナイフ。

【三ツ星極制服 縛の装・我心開放@キルラキル】
蟇郡苛に本人支給。
蟇郡が着用する三ツ星極制服で、これは最終決戦のために用意された最後の戦闘形態。
全身の布が皐月の縛斬と同等の強度を持っており文字通り『生きた盾』として機能する。

139名無しさん:2015/07/29(水) 03:16:10 ID:U4h/rEVE0
蒲郡先輩にすごく安心する

140 ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:16:11 ID:i.F5mlqI0
以上で投下終了です。
ですが、投下中に呼称のミスに気付いたのでそこだけ先んじて修正版を投下します。


「――お父さん……?」

 そして、ある不気味な疑問が浮かんでくる。
 ラビットハウスがあるのに、どうして父の名前がない?
 それに、いつも一緒のティッピーの姿もない。
 殺し合いの邪魔だからと、どこか別なところにいるのだろうか? ――――それとも。

「――お父さん! おじいちゃん!」

 震えの大分収まった足で立ち上がると、誰かに見つかることを危惧することさえ忘れて名前を呼ぶ。
 
 ――ラビットハウスは、ある。
 ――なのに経営者である父と、店のマスコットも同然のティッピーの姿はない。
 
 二つの要素が揃った瞬間、智乃の脳裏に浮かび上がるのは嫌な想像だった。
 ありえないと一笑に伏すのは簡単なことだ。
 なのにそれが出来ないのは、やはり先の"見せしめ"の一件。
 人の命を何とも思わず、あっさりと、それでいて残虐に人を殺した彼女。
 彼女なら、そういうこともするのではないか。
 

 つまり、父とティッピー/おじいちゃんは……もう、とっくに――――


>
 修正箇所は以上です。お目汚し失礼しました。

141名無しさん:2015/07/29(水) 09:05:54 ID:KtSxH2Ek0
投下乙です

>輝夜の城で踊りたい

【悲報】咲勢、早くも池田単騎
また少女が殺し合いに乗ってしまった……
そしてスパウザーとビームサーベルで笑ったけどよく考えりゃかなりの当たりだよねサーベル


>忘れられないアンビリーバブル

智乃は暗黒面に落ちずにすんだか……
保護者も蟇郡先輩だし一安心
やっと今後に期待できるコンビが出来た

142名無しさん:2015/07/29(水) 13:48:15 ID:4GI4UGRw0
デブネキがスピリチュアルに殺し合いに乗ったか…これは強い

143 ◆DGGi/wycYo:2015/07/29(水) 22:10:50 ID:Vyha515w0
予約スレの方ではきちんとカウントされていたようなので投下します

144ひと目で、尋常でないツッコミだと見抜いたよ  ◆DGGi/wycYo:2015/07/29(水) 22:13:20 ID:Vyha515w0
窓に映る月と星々。だが、それに対して感傷に浸る余裕は全くなかった。

とんでもないことに巻き込まれてしまった。
最初に土方十四郎が抱いた感情は至極まっとうなものである。
目が覚めたら知らない場所。突然言い渡された「殺し合い」。
気がついたらここはやけに馬鹿でかい建物の中の一室。
部屋を出ると、『音ノ木坂学院文化祭のお知らせ』とか様々な掲示物が壁沿いに貼られている。学院、ということは学び舎なのだろう。

今自分が置かれている現状が悪い夢だ、という考えはとうに捨てた。
右手首に巻かれている腕輪が、夢ではないという現実を嫌と言うほど見せ付けてくる。
自分は真選組、いわば警察だ。
参加者を殺して生き残るだなんてふざけた話、飲み込むつもりはない。
無論防衛となれば殺すのも已む無しと考えている。
だが、アーミラとかいうのが殺され、カードに吸い込まれた――あれを見る限り、この空間では常識は通用しないと考えていい。
幾ら何度も修羅場を掻い潜ってきた土方といえど、ここまで酷いものはなかったと溜息をつく。

ざっと名簿を確認する限り、坂田銀時をはじめとした知り合いが何人かいる。
と、同時に。

「あいつもか・・・・・・」

少なくとも十四郎にとって一番の頭痛の種は、神威の存在。
彼は自分の知る限りでは一番の危険人物。
好戦的な彼は、ひとたびスイッチが入れば周りの者を次々殺してゆくだろう。
ここが殺し合いの場だというのなら尚更だ。

とにかくこういう時に必要なのは仲間だ。
神威のような者もこの殺し合いに参加しているということは、もしかしたら他にも異様な強さを持った者が参加していてもおかしくはない。
だが、グループを組めば話は変わる。

145ひと目で、尋常でないツッコミだと見抜いたよ  ◆DGGi/wycYo:2015/07/29(水) 22:14:47 ID:Vyha515w0
いつも吸っている煙草が見当たらないことに不満を覚えつつ、とりあえず道具を確かめる。確か黒い「ランダムカード」に入ってる筈・・・・・・。

「何だこれは・・・・・・」

――出てきたのは、どうみても何の変哲もない、着物を着た人形だった。
カードを腕輪から抜くと、人形が消えると同時に名前が浮かび上がってきた。

こまぐるみ(お正月バージョン)・・・・・・。

「何でこんなものあるんだオイ! どう考えても殺し合いと全く関係ないぞ!? 
 何か仕込んでる様子も全くないし、完全にハズレ引いちまったじゃねーか!」

カードを思わず地面に叩き付ける。これはあまりにも幸先が悪い。

「しかもお正月バージョンって何!? もう年あけてからだいぶ経ってるし!? 
 全くめでたくねーよこんなもの!」
ニコチン切れもあって八つ当たりが激しくなっているが、だからといって現状が解決するわけでもない。

一応カードは拾っておき、次のカードを確認する。
残りが武器でなかったらどうしようか。
武器を持った参加者と合流出来るという保障はどこにもない。最悪ただの足手まといになる可能性も否めない。
可能なら扱い慣れている刀剣類であって欲しいと2枚目を出したのと、廊下の方から「あら?」と声を掛けられたのはほぼ同時だった。


「てめーは・・・・・・?」

十四郎が振り向くと、先ほどまで居た教室とは別の教室から1人の少女が出てきた。
黒髪で、白い花の髪飾りをしている。
身長は低く、知り合いの中だと志村新八あたりと同年代だろうか。

「最初に聞く。てめーは殺し合いに乗っているか否か」

返答次第では即座に武器を取り出すつもりで尋ねる。

146ひと目で、尋常でないツッコミだと見抜いたよ  ◆DGGi/wycYo:2015/07/29(水) 22:15:27 ID:Vyha515w0
「大丈夫よ。そんなことよりあなたは? 私は宇治松千夜」
「土方十四郎・・・・・・」

互いに軽く自己紹介を済ませ、しばらく顔を見合わせて様子を伺う。
数十秒の沈黙が過ぎ、千夜が口を開いた。

「・・・・・・あなたはどうするの?」
「こんなふざけた遊戯をとっとと終わらせる。
 誰かに攻撃されれば反撃はするが、こっちから殺して回る気は今んとこねーよ」
「そう、それなら良かったわ。あなた、面白そうな人だし」
「なんだと小娘が!」

ふふ、と微笑む千夜を生意気な野郎だと思いつつも、ひとまず安心出来る人間と出会えたのは幸いとしておこう。
そこで彼女に話を持ちかけた。

「てめー、俺と一緒に来る気、あるか?」

え? と返す千夜に、こう続ける。

「一応元居た場所じゃあ俺は警察やってたんでね・・・・・・
 お嬢さんの護衛くらいなら、引き受けてやるよ。
 それに、仲間ってのは多い方がいいもんだ」
「あら嬉しい。私も会いたい人がいるし・・・・・・。
 それじゃお願いしますね〜、ドシロートさん」
「十四郎だ馬鹿! せめて土方と呼べ! 一発ぶん殴ってやろうか・・・・・・」

痛いのは嫌よ〜 とにこやかに返す千夜。
ともかく、まずはいざと言う時に素早く動けるようにこの建物を出よう。
屋上があるのならそこでもいいのだが、今はまだのんびりしていられない。
支給品の確認は、その後でもいいだろう。

* * *

147ひと目で、尋常でないツッコミだと見抜いたよ  ◆DGGi/wycYo:2015/07/29(水) 22:16:35 ID:Vyha515w0
宇治松千夜のゲーム開始地点は、土方のスタート地点から2つ隣の教室。
制服を着ていたことから、授業中に寝てしまってそのままこんな夜中になったのかと錯覚した。
だが通っている高校とは明らかに違う風景が、そうではないと教えてくれた。
手元にあった黒いカードの中身を取り出してみると、出てきたのは拳銃。
カードには「ベレッタ92及び予備弾倉」と浮かび上がる。

・・・・・・千夜の顔はこれを見るなり青ざめ、即座にカードの中にしまった。
友人である天々座理世のコレクションのモデルガンの1つだと決め付け、あくまでこれが本物の銃であることを認めなかった。
認めてしまえば、この殺し合いが夢やタチの悪いドッキリではないという、『現実』であるということを許してしまうから。
名簿には、千夜以外にも保登心愛たち4人の知り合いが載っている。
どんなに頑張っても、5人のうち4人は確実に死ぬ。
そんなことを、認めたくはなかった。

ふと、廊下の方から聞こえてきた誰かがツッコミを入れる声。
彼女は普段から色んな形でボケては誰かにツッコミを入れてもらい、それを日常風景の1つとしている。
廊下に出て出会った土方十四郎のツッコミはかなり鋭く、割とすんなり打ち解けることも出来た。
名簿にあった見知った名前、友人の持ち物、そしてツッコミを入れてくれる人。
これらの要因が、彼女に現実逃避への一歩を踏み出させてしまったのである。
これは何かの間違いだ、朝にもなれば元の生活に戻れる、と。


宇治松千夜は、殺し合いという現実を直視していない。
それがどんな運命を招くかなど、微塵にも考えようとはしなかった。

148ひと目で、尋常でないツッコミだと見抜いたよ  ◆DGGi/wycYo:2015/07/29(水) 22:17:14 ID:Vyha515w0
【A-2/音ノ木坂学院/深夜】

 【土方十四郎@銀魂】
 [状態]:健康、煙草がないことに若干の苛立ち
 [服装]:真選組の制服
 [装備]:なし
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:こまぐるみ(お正月ver)@のんのんびより
黒カード:不明支給品1〜2枚
 [思考・行動]
基本方針: ゲームからの脱出
   1: 千夜の護衛をしつつ、更に仲間を集める
   2: 神威には警戒

 【宇治松千夜@ご注文はうさぎですか?】
 [状態]:健康、現実逃避
 [服装]:高校の制服
 [装備]:なし
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:ベレッタ92及び予備弾倉@現実
黒カード:不明支給品0〜2枚
 [思考・行動]
基本方針: 土方と共に行動、心愛たちに会いたい
   1: 十四郎さんって面白い人ね〜♪
   2: これは夢か何かの間違いだ
[備考]:ベレッタを天々座理世のコレクションのモデルガンだと思い込んでいます。

支給品説明
【こまぐるみ(お正月バージョン)@のんのんびより】
参加者の1人である一条蛍が、越谷小鞠を模して作った人形・・・・・・のお正月バージョン。

【ベレッタ92及び予備弾倉@現実】
世界中の警察や軍隊で幅広く使われている拳銃。支給された予備弾倉は3つ。

149 ◆DGGi/wycYo:2015/07/29(水) 22:18:30 ID:Vyha515w0
投下を終了します。

150名無しさん:2015/07/29(水) 22:29:26 ID:uyxJnYXI0
乙です
うん、こういう逃避する人っていますよね、表面だけなら微笑ましいやり取りなのに
土方さんがお花畑の餌食にならない事を祈る
それと予約見逃してごめんなさい

151名無しさん:2015/07/30(木) 00:37:21 ID:???0
総合板の方に本スレ(ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1438182076/)を建てたので今後、本投下はそちらにお願いします

そして◆7fqukHNUPM氏の「その嶺上(リンシャン)は満開」を代理投下する際に、環境の違いから花の文字が文字化けしてしまった事をここで謝罪しておきます
申し訳ありませんでした

152名無しさん:2015/07/30(木) 00:51:48 ID:uyxJnYXI0
現在位置のMAP 4話まで更新しました
ローカルルールの現在位置をクリックすれば見れます
ttp://imgur.com/RcIQp9A

153名無しさん:2015/07/30(木) 01:10:16 ID:4j0v9N4w0
>>152
おお、乙です
ただ雑談スレに投下したほうがかもですね

154 ◆7fqukHNUPM:2015/07/30(木) 01:13:43 ID:BdTC6OQA0
>>151
こちらこそ文字化けの可能性を考慮しておりませんでした
代理投下ありがとうございます

そして、今さらですが「その嶺上(リンシャン)は満開」において本来挿入すべきだった文章の抜けがありました
本スレの方に修正版を投下してまいります

155 ◆RPDebfIIlA:2015/08/03(月) 23:04:34 ID:d5cZUgas0
予約分を投下します

156 ◆RPDebfIIlA:2015/08/03(月) 23:06:35 ID:d5cZUgas0
「――――うわああああああああああああ!!!!?」

江戸時代の家屋を匂わせる和風の部屋の中、ソファに全身を乗せていた矢澤にこは意識が覚醒するとともに跳び起きた。
息で肩を揺らしながら、周囲を見渡す。
デスクの上には『糖分』の二文字が額に飾られている。なぜ『糖分』にする必要があったのか意味が分からない。
目の前には膝丈くらいの高さの机、向かい側にはもう一つのソファがある。
そこから少し目線を逸らすと、筒の上に見ているとこっちまでやる気をなくしそうな表情をした顔をちょこんと乗せた、手が生えている変な置物があった。

「ゆ、床が崩れて――私、落ちて、ない?」

この場で目覚める前に起きたことを思い返す。
いつの間にか白い部屋にいたと思ったら髪の毛がもじゃもじゃした女の子がいきなり『殺し合いをしてもらう』なんて言い出した。
そしたら同じもじゃもじゃアフロの男の人が抵抗して、隣にいた綺麗な人が翼を生やして猛スピードで飛んで――。
――待って。待って、ちょっと待って。

「…でも、夢じゃないのよね」

俯きながら暗い声色でつぶやいた。
戦争とは無縁のスクールアイドルのにこにとって、
それは『頭がどうにかなりそうだった』で片づけられることではなかった。
そんなもの夢か幻だろうと自分で自分を鼻で笑ってやりたいが、にこの目に映る見覚えのない部屋がこれは現実だと訴えていた。

「そうだ!白いカード…」

ふと、にこはある不安から殺し合いを強いた少女の言っていた腕輪とカードのことを思い出し、自分の腕を見た。
確か、あの少女は白いカードには必要な情報が「願ったら表示される」といっていた。
にこは真っ白な長方形に向かって、この狂ったゲームに巻き込まれた者達の一覧を映すよう念じてみる。
夢で終わってほしい…そう願っていたことが全て現実なのだとしたら、あの白い部屋で見た――。



高坂穂乃果。南ことり。絢瀬絵里。東條希。



やはり現実だった。
あの白い部屋にいた、にこのかけがえのない友達の名が、無慈悲にも突きつけられた。

1579人いないと野球もできない ◆RPDebfIIlA:2015/08/03(月) 23:07:44 ID:d5cZUgas0

「……黒いカード…黒いカードには何が入っているのかしら」

あまりにも残酷な事実に、にこは何も考えられなかった。
この殺し合いが招く最悪の事態のこと考えたくなくて、そのことをできるだけ考えないようにした。
詰まる所、現実逃避だ。
手始めに、ソファに腰かけ、黒いカードを一枚手に取って『出てこい』と念じてみた。

「ヒィッ!?」

出てきた物は、時代劇でしか見たことのなかった刀だった。
にこは自分が殺し合いの渦中にいることを改めて認識し、短く悲鳴を上げる。
おそるおそる、鞘から刀を抜いてみる。どうやら正真正銘本物のようだ。
その刀身は部屋の明かりを反射して光り輝いており、切れ味も相当なものだとにこの素人目から見てもわかる。
「うう…」と声を上げながら、刀を梢にしまう。

「刀って案外重いのね……って何これ?」

現実から目を背けて何気ない感想を漏らしていると、黒いカードから刀と一緒にある物が出ていたことに気付く。

「…イヤホン?」

にこもよく見慣れている、音楽プレーヤーの再生には欠かせないあのイヤホンだ。
黒いカードは1枚しか使っていない。一緒に出てきたことは間違いないだろう。
スクールアイドルのにこからしてみればイヤホンと刀の組み合わせなど異色以外の何物でもない。
にこは怪しく思い、顔を近づけて刀をよく見てみると――

「…何で刀にイヤホン入れる穴があんの?」

柄の部分にイヤホンジャックがあった。


◆ ◆ ◆


イヤホンを通して、曲がにこの耳に入り込んでくる。
そのイヤホンは刀の柄にあるイヤホンジャックに繋がれていた。
どうやらこの刀は驚くべきことに音楽プレーヤーを内蔵しているらしい。
こんな刀にどんな曲が入っているのか。
好奇心半分、現実逃避欲求半分でイヤホンを両耳に、音楽を聴いてみることにした。
明るい曲調の前奏がエレキギターで奏でられ、女の人の歌声が聞こえてくる。

1589人いないと野球もできない ◆RPDebfIIlA:2015/08/03(月) 23:08:17 ID:d5cZUgas0


怖くなんかないもん だってあなたがいるから
もう覚悟は決めたよ だから引き返したりしない


この人もアイドルをやっているのだろうか。


当たり障りのない世界 そんなのくそくらえ
だって本気の悪ふざけ だからまばたきするな!
及び腰の偉い人 そんなのくそくらえ
だって本気の悪ふざけ なれてくると危ない!


楽しそうに歌う声を聞いているとμ'sのことを否が応にも思い出してしまう。
μ'sがあったからこそ、にこは諦めかけていたスクールアイドルを続けることができた。
高坂穂乃果。園田海未。南ことり。西木野真姫。星空凛。小泉花陽。絢瀬絵里。東條希。
そして、矢澤にこ。この9人は、にこにとって奇跡以外の何物でもなかった。


さあ、規制なんか振り払い、どこまでもいこう
……見たことのない新しい世界へ


だから、そんな奇跡をこんなわけの分からない殺し合いで壊されたくない。
この9人は誰も欠けてはいけない。9人揃って初めてμ'sなのだ。


放送コードがなんぼのもんじゃい! ブレーキなんて必要ねえ!
放送コードがなんぼのもんじゃい! いつも心に白装束
放送コードがなんぼのもんじゃい! 始末書差しかえ関係ねえ!
放送コードがなんぼのもんじゃい! 後戻りはできない


怖い。悲しい。辛い。けれど、この曲を聴いていると、歩き出すためにソファから立ち上がれるくらいの勇気はもらえた気がした。

「なんぼのもんじゃーい……」

歌の練習をしていたときのことを思いながら、少し曲に合わせて歌ってみた。
矢澤にこも、音ノ木坂学院のスクールアイドル『μ's』の一員なのだ。




「――怖いものは××××《ピー》 だってあの人きち××《ピー》だから……!?」

この曲も2番目に入ったのだが、よくよく聴いていると…何かがいけないような気がした。

「ちょっと待てェェェ!!何でこの曲放送コードだとか××××《ピー》だとかきち××《ピー》だとか××《ピー》みたいな単語歌詞に入ってるのよ!!この曲作った人頭おかしいんじゃないの!?」

にこはソファから立ち上がってイヤホンを乱暴に外した。
思えば1番目の歌詞にもくそくらえとかアイドルにしては割と汚い言葉を使っていた。
それとも、この歌を歌うアイドルはそういうキャラ作りをしているのだろうか。

とにかく、ここでじっとしているわけにもいかない。
にこの役に立つかはわからないが、せめてもの護身用にと刀をカードに戻さず持ち歩くことに決めた。
イヤホンをポケットに入れ、手こずりながらも刀をようやく胸の高さまで抱えることができた。
今度は立ち上がるだけではなく、一歩を踏み出す番だ。
にこが意を決し歩を踏み出した瞬間―――

1599人いないと野球もできない ◆RPDebfIIlA:2015/08/03(月) 23:09:03 ID:d5cZUgas0




「お通ちゃんんん!!」




「ヒギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」

ガラガラガラと玄関の引き戸を勢いよく開けて入ってきたのは、袴姿とメガネくらいしか特に特徴のなさそうな地味な少年であった。
突然の出来事にただでさえ高まっていた緊張も最高潮になり、思わず叫んでしまった。

「……」
「……」

ひとしきりの悲鳴が鳴り終わると、今度は沈黙が空間を支配する。
にこは刀を携えたまま固まっている。
少年もどうしていいかわからずその場から動かなかったが、少年の泳いでいた目線が刀を捉えた。

「あ、あの、これは」

刀を凝視する少年を見てなんとなく状況を察したにこは釈明するべくストップしてしまった頭を動かそうとする。
刀を持つ手は震えており、非常に危なっかしい。

「い、いや!違うんです!万事屋の中からお通ちゃんの歌が聞こえたからまさかと思って…と、とにかく僕は乗ってませんから!あなたを襲おうとも思ってませんから!ラブでライブなランデヴーなんてしませんからァァァ!!」

先に釈明したのは少年の方だった。
言葉からは必死さが伝わってきた。

「…ラブでライブなランデヴーって何?」


◆ ◆ ◆


少年の名は志村新八といった。
坂田銀時の営む「万事屋銀ちゃん」で働く、かぶき町における貴重な常識人だ。
外見的特徴はメガネ以外にこれといってない。ぶっちゃけ地味である。
そんな地味なメガネもとい志村新八も、この狂った殺し合いを強要された者たちの一人なのだ。

新八の意識が暗転してから初めて目覚めた場所は、地図によるとF-7らしかった。
なぜそんなことがわかるのかというと、新八の目と鼻の先には慣れ親しんだはずの万事屋銀ちゃんの看板があったからだ。
1階にはスナックお登勢もある。

なんでこんなところに万事屋が…とは思ったが、白い部屋での一件を思うと何があってもおかしくない。
女性が翼を生やして少女に立ち向かったはいいものの、少女が召喚した竜の手によってあっさりと返り討ちにされてしまった。
というか何なんだよあの反則技。なんであの主催者カードバトルしてんの!?しかもいきなりエクゾディアみたく腕だけ召喚したよ!!1ターン目からエクソディアって…最初からクライマックスってレベルじゃねーぞ!!
ってなんでネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲まで地図にあんだよ!!あれ実在したの!?というかあんな卑猥な形したモン集めるとかあの主催者どんな趣味してんだ!!

1609人いないと野球もできない ◆RPDebfIIlA:2015/08/03(月) 23:09:33 ID:d5cZUgas0

…いや、ツッコんでいても仕方がない。
あの少女の話によると、身体が死ぬと魂がこの白いカードに封印されるという。
このルールは単なる死への恐怖とは別の恐怖を煽るだろう、と新八は思った。
あの世にもいけず、永遠にカードの中に閉じ込められるのだ。考えただけで恐ろしい。

名簿にはもう目を通している。
僕の知る人物は銀さん、神楽ちゃん、土方さん、桂さん、長谷川さん、そして神威。
前の4人に関しては簡単に死ぬことはないと思う。
長谷川さんも悪運は妙に強いところがあるので大丈夫だろう。
しかし、問題は神楽ちゃんのお兄さんでもある神威だ。
彼が一度戦闘をすればそこら中が焼け野原になってしまう。
とにかく、神威以外の5人は僕としても信頼できる人物なので、できるだけ早く合流したい。

目の前にある万事屋には、明かりがついていた。
ということは、誰かが中にいるということだ。
僕は神威以外の人物と出くわすことを願いながら万事屋に近づいて――



「――それで、好きなアイドルの曲を歌っていたのを盗み聞きして飛んで入ってきたってわけ?」
「盗み聞きって…まぁ事実だけど。お通ちゃんまでいるのかと思ったらいてもたってもいられなくって。名簿に見落としがあるかもしれないし」
「悪かったわね。好きなアイドルじゃなくって」

にこと新八は向かい合ってソファに腰かけていた。
新八はどうやら、寺門通というアイドルが殺し合いに巻き込まれていると勘違いしていたらしい。
新八も大半の参加者と同じく恐怖心を拭えていなかったため、にこの刀を見てビビッてしまい、
自分は殺し合いに乗ってないことを何とか伝えようとした結果があのセリフだった。

ラブでライブなランデヴーてどういう意味だよお前…と新八は自分で自分にツッコミを入れたかった。
万事屋に飛び入ったものの、そこにいたのは自分より小柄な、どう見ても年下の少女だった。
よりにもよって年端もいかない少女に向かって言ってしまった。

「でも、本当に名前も知らないのかい?」
「寺門通なんていうトップアイドルなんて聞いたこともないし、そんな有名なアイドルだったらにこが知らないはずないわ。江戸も万事屋も知らない」

あれから何とか落ち着きを取り戻した二人は互いのことを話した。
当然のことながら、話が噛み合わない。
江戸で寺門通を知らないとなれば相手を鼻フックデストロイヤーファイナルドリームの刑に処すところだが、
今回ばかりは事情が違い、相手は年下の少女なので新八はさして気にしない。

にこから見ると、この新八という地味なメガネが袴姿だということにもツッコみたかったが、
いざ話してみれば江戸だとか侍だとか天人だとか、わけのわからないことばかり話してくる。
にこの世界では、江戸や侍は歴史の授業と時代劇で触れるくらいでこの世に存在していないのだから無理もないだろう。
天人――宇宙人に関してはSF映画くらいでしか知らない。

「僕もにこちゃんの言ってる『みゅーず』は知らないなぁ。石鹸をPRするためのアイドルでもないんだよね?」
「いや、石鹸じゃないから。スクールアイドルだから」
「じゃあ、B'zの姉妹グループとか?」
「いやそれだとμ'zだから。μ'zじゃなくてμ'sだから」

新八も新八で、秋葉原やμ'sやという言葉を聞いて頭上に疑問符を浮かべていた。
ラブライブ!という言葉を聞いてとても気まずそうな顔をしていた。
一応、にこの熱弁により新八にもスクールアイドルは理解することができた。
テラコヤアイドルとかいったら何故か怒られたが。
結局、二人がきっちりと理解できたのは互いのアイドル事情と住む世界が違うことくらいであった。

1619人いないと野球もできない ◆RPDebfIIlA:2015/08/03(月) 23:12:31 ID:d5cZUgas0

「…あの、一つ聞きたいんだけど」
「なに?」
「その寺門通ってどんなアイドルなの?」

なぜにこがそれを聞いたのかというと、単なる興味だ。
たとえ住む世界が違っても、歌って踊れるアイドルがいるということは共通している。
新八の世界の話を聞いていると、江戸のトップアイドルについて知りたくなったのだ。

「どんなアイドルっていうと…そうだね、歌って踊れて…あと、どんな逆境にもめげずに頑張れる強い精神を持ってるアイドルの中のアイドルだよ!
あとは、語尾に何か言葉を繋げるお通語で話すってとこもポイントかな。ありがとうきびウ○コって感じで」
「ウン――!?」

先ほどの『放送コードがなんぼのもんじゃい!』みたいな歌である程度は察していたが、割と下ネタを進んで使うアイドルなのね、とにこは思った。
まだμ'sに入っていなかった頃に後輩にキャラ作りについて話したことがあったが、寺門通というアイドルはお通語でキャラ作りをしているらしい。

「じゃ、じゃあアンタは、なんでそのお通ちゃんを好きになったの?」
「お通ちゃんも元は無名だったんだけどね。僕が自暴自棄になって何もかもがどうでもいいって思い始めてた頃、
お客さんが誰もいないのに路上ライブしていたお通ちゃんの姿を見ていると元気が湧いてきたんだ。
勇気をもらえたから、僕はお通ちゃんを応援したいんだ」

寺門通の話をしている新八は、なんだか嬉しそうだった。
それを聞いたにこは、μ'sに重なるものを感じた。
μ'sの9人も、逆境にめげずにいたからこそ、前に進むことができた。
アイドルとは笑顔を見せる仕事ではない。笑顔にさせる仕事なのだ。

「…アンタはにこがスクールアイドルってこと、知ってるわよね?」
「うん、μ'sっていう9人のテラ…スクールアイドルなんでしょ?」
「私も最初は怖かったけどね…アンタがここに来る前にお通ちゃんの歌聞いて、ちょっと勇気もらっちゃった。私も形は違うけどアイドルだから、その話なんとなく分かる気がする」

確かに歌詞はツッコミ所満点だったが、なんとなく前に進もうという気になれたのは事実だ。

「私以外のμ'sのメンバーも4人、ここにいるの。μ'sは私にとって奇跡なの。誰も欠けちゃいけないの!だから…その…い、一緒に、探してくれない?」
「もちろん!」

新八は即答した。
誰も欠けてはいけない…それは万事屋にも言えることだ。
銀さんに神楽ちゃん、そして志村新八。
この3人が揃って万事屋銀ちゃんなのだ。
新八はにこの言うことが痛いほど理解できた。

「μ'sって音ノ木坂学院ってとこのスクールアイドルだよね?なら、地図に…あった。ここに向かえば、どっかにいるにこちゃんの仲間も集まってくるんじゃないかな」

そう言って新八は地図が移された白いカードをにこに見せる。

「え!?ちょ、何で音ノ木坂学院がそこにあんのォ!?」
「こっちが聞きたいよ…。一応、ここが万事屋銀ちゃんね。僕がいつも働いてるとこ」

地図を見てにこは愕然とする。
新八によると、二人が今いるこの場所も本来は江戸にあったという。

「にこちゃん、今は考えても仕方ないよ」
「うっ…そ、そうよね。私も音ノ木坂学院に向かおうと思う。駅から電車に乗ったらできるだけ早く着くかしら」
「なら、決まりだね」

今後の方針は決まった。
駅を経由して音ノ木坂学院へ向かい、その過程で協力できる人やμ'sのメンバーを探す。
なぜ鉄道がここに敷いてあるのかは考えたくなかった。

「あ、そうだ。にこちゃんの持ってた刀、使わせてくれない?」
「へ?いいけど…」
「ありがとう。こんななりでも家が剣術道場だから、いざとなったらにこちゃんを守れるかもしれないからね」

新八はソファから腰を上げ、机に置かれていた刀を携える。
袴を着た地味なメガネだというのに、その姿はにこにはとても頼もしく見えた。

こうして、志村新八(16)と矢澤にこ(18)は動き出した。
彼らの行く先に何が待っているのか、それは誰にも分からない。

1629人いないと野球もできない ◆RPDebfIIlA:2015/08/03(月) 23:13:33 ID:d5cZUgas0


【F-7/万事屋銀ちゃん内/深夜】

【志村新八@銀魂】
[状態]:健康
[服装]:いつもの格好
[装備]:菊一文字RX-78@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:不明支給品0〜3枚
[思考・行動]
基本方針:ゲームからの脱出
1:にこと、鉄道を使って音ノ木坂学院に向かう
2:銀さん、神楽ちゃん、桂さん、土方さん、長谷川さん、μ'sのメンバーと合流したい
3:神威を警戒
[備考]
※矢澤にこと情報交換しました
※矢澤にこを年下だと思い込んでいます

【矢澤にこ@ラブライブ!】
[状態]:健康
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:不明支給品0〜2枚、菊一文字RX-78@銀魂に付属していたイヤホン
[思考・行動]
基本方針:皆で脱出
1:新八と、鉄道を使って音ノ木坂学院に向かう 
2:μ'sのメンバーと合流したい
[備考]
※参戦時期は少なくとも2期1話以降です
※志村新八と情報交換しました

【菊一文字RX-78@銀魂】
沖田総悟が使用している刀。矢澤にこに支給。イヤホン同梱。
長船M-IIの倍の価格で売られている大業物。
最大の特徴は内部にデジタル音楽プレーヤーを搭載している点であり、
連続再生時間は最大でなんと124時間(日数にすると5日と4時間分)にも及ぶという、D-snap(100時間再生)を凌駕している代物。
柄の部分にイヤホンジャックがある。
プレーヤーには寺門通の歌う曲が入っているが、他にどんな曲が入っているかは後続の書き手の方にお任せします。

163 ◆RPDebfIIlA:2015/08/03(月) 23:18:08 ID:d5cZUgas0
以上で投下を終了します
◆DbK4jNFgR6氏の『ご注文は狙撃手ですか?』と場所が被っていたため、仮投下させていただきました。
一応時間帯は深夜ですのでリゼ達からは万事屋の間近にいる新八は暗くて見えなかったという理由づけで大丈夫でしょうか?
もし問題があれば指摘お願いします

164名無しさん:2015/08/03(月) 23:30:18 ID:VoAXChtU0
投下乙
そういやぁそんな機能あったなあの刀www
リゼ組とはニアミスしたってことで大丈夫だと思います

165 ◆WqZH3L6gH6:2015/08/10(月) 06:58:40 ID:joh5PNzo0
予約分を投下します

166正義の在処 ◆WqZH3L6gH6:2015/08/10(月) 07:00:14 ID:joh5PNzo0
 ほの暗い闇に覆われた映画館が証明によって照らされる。
 外部に明かりがもれない構造なのは衛宮切嗣は確認済みだった。
 何も写していないスクリーンを前に煙草を手に彼は席に腰掛ける。

(どうしたものか)

 煙草を一本取り出し口に咥え、溜息のような息を吐きながら思案に暮れ、自らの腕輪を調べた。
 腕輪やカードに何らかの力のようなものは感知できるが、魔術師である彼がよく知る魔力かと断ぜない不可解な力。
 先ほどの白い部屋といい、催眠術に完全に掛かったか、あるいは何らかの方法で異界に落とされたとしか材料不足で
無理やりでも判断しなければ彼にとって動きようのない状況だった。

(……サーヴァントが3体、僕と元マスターの言峰綺礼を含めマスターが確認出来るだけでも3人か)

 名簿確認しながら切嗣は苛立ちを吐き出すかのように煙草を噛む。
 スタートの場に自らのサーヴァント セイバーの姿が確認したのを思い出し、また煙草を噛んだ。
 切嗣は繭に生殺与奪権を握られているだけに、殺し合いに対して取るべき手段は優勝狙いが一番効率がいいと思っていた。
 仮に切嗣が参加者内で随一の力を持つなら、女子供を含め鏖殺するのに支障などないだろう。
 衛宮切嗣は感情と行動を切り離せる男だ。
 だがサーヴァントが参加者であるなら話が変わってくる。

 切嗣は繭にさらわれる前、聖杯戦争というバトルロイヤルに参加していた。
 奇跡を起こし得うる願望機を使用するために、7人のマスターと7体の英霊――サーヴァントと最悪最後の一組以下に
なるまで殺しあう争奪戦、それが聖杯戦争。切嗣も願望機の使用が参加理由だった。
 切嗣の知る限り願いを叶えるだけの力を聖杯が発揮するには6体の英霊の脱落が条件である。
 ここでセイバー、ランサー、キャスターのうち2体以上が脱落してしまえば、聖杯戦争が成たたなくなってしまう懸念が彼にはあった。
 その理由は死んだ参加者の魂はカードに封じられるという事実。

 聖杯戦争においてサーヴァントが倒されると、その魂が元の場所に戻る際に空間に孔が開く。
 その孔を利用して聖杯を起動させるのに、その魂がカードに封じられてはどうしようもない。
 優勝者には願いを叶えると言っていたものの、初対面ということもあり願いがどれだけの範囲まで適用されるか判断できなかった。
 その上、あの時の繭の楽しそうな様子から察するに、敗者の魂の解放の要求は容易に受託されるものではないと思えた。
 手間が掛からない、例えば優勝者のみ元の居場所への帰還などは、よほど機嫌を損なわない限り叶えられそうな感じだが、
切嗣にとってそれは受け入れられるものではない。

 
 衛宮切嗣は人間的には外道と見なされる魔術師である。だが冷血ではない。
 彼はこれまでの人生で、何年かの休止があったもののより多くの人を救う為に独自に鍛錬を重ね、心を砕きながら戦場や裏社会で活動していた。
 だがその手段と思想は、より多くを救うために必要最小限の犠牲を見極め、容赦なくそれを駆逐するというもの。
 それはかつて災厄になりうる幼なじみを前に選択を放棄したがゆえに、惨劇を引き起こしてしまった負い目が原点であった。
 そうした行為の繰り返しは現実の過酷さと合わせ彼の心を痛めつけ、遂には超常の聖杯を求めるまでに至った。
 そんな彼が聖杯を、自らの意思で願いを叶える事を簡単に諦められる筈がない。
 切嗣は思案の前に腕輪から出した黒のカードを取り出して呟いた。

「詳しく調べさせてもらうよ」

 声を受け1枚の黒のカードが微かに動き、何枚ものファンタジックなイラストが描かれたカードが現出した。
 支給品確認はここに飛ばされた直後に既に行っている。目当ての武器はなかった。
 代わりにあったもので目を引くものは有益とは思えない面倒臭そうなアイテム。
 1枚のカードが蠢き、それを指に挟んで正面へ向けた。

 衛宮切嗣は英雄が嫌いだ。人々のヒロイズムを刺激し戦争を助長する存在であるから。
 それは自らのサーヴァントであるセイバーにも向けられ、一度しかこちらから話しかけた事がないくらいだった。
 故にここに置いても彼がサーヴァントに話しかける気はない。
 だから指に挟んだあれも煩そうなのもあったが、サーヴァントの一種の可能性を考え早々に黒カードに収納していた。

 そのカードに写るは1人の女性。
 茶色のツインテールに、ドクロのような帽子、胸元にでかいリボンという格好の十代前半の少女だった。
 それはただのイラストなどではなく。

167正義の在処 ◆WqZH3L6gH6:2015/08/10(月) 07:01:28 ID:joh5PNzo0

「いきなり閉じ込めるなんて酷いじゃないの!」
「……君は繭から何も知らされていないんだよな」
「まずは私を……って、ただ拾った人に協力しろって言われただけってば……」

 切嗣の威圧に押され支給品 ルリグ――エルドラはカードの中で身体を動かしながら口を尖らせ渋々質問に答える。

「君はサーヴァント、英霊ではないんだな」
「知らないって」
「そうか」

 風格も戦意もないことから、英霊の類ではないという点だけは信用することに決めた。
 説明書も腕輪からもウィクロスというゲームのカードと、そのゲームのルールしか書かれていない。どうしろと?
 観察するに、エルドラはサーヴァント程ではないが、そこそこの魔力のようなものを感じられる。
 現時点で有用であるとは思えないが、ここは未知が溢れる場所。
 所持しておけばどこかで役に立つかもしれないとそう切嗣は判断した。
 邪魔になれば黒カードにずっと閉じ込めて置けばいい。黒カードに収納している間の外の事は分からないようだ。

 切嗣は姿勢を正し、今後の方針を考える。
 助手の舞弥はいない、妻であり聖杯戦争の協力者であり歯車であるアイリスフィールもいない。
 愛用してきた武器も没収された今、ブランクが祟って下手すれば参加者内で弱い方になっているかも知れない。
 だが繭はこうも言っていた、黒のカードを差して『これらを上手く使って、』と。
 なら支給品を上手く使えば殺し合いは勝ち抜ける可能性がそれなりにありえるか。切嗣は席を立った。

「どこいくの?」
「…………」
 
 第一に情報収集。武器を揃えるまで極力敵を作らず立ち回らなければならない。
 殺しを実行するにしても暗殺が最適か。他の参加者と協力関係を結ぶ必要も出てくるだろう。
 早々に見つかればいいんだが。
 最悪、繭に願いを叶えさせるにしても、自らの帰還と英霊3体分の魂の解放をさせなきゃならない。
 そして、あれだけの非道を働くような奴は野放しにする気はない。
 ならば不本意な願いでも叶えざるを得ないくらい追い詰めなきゃ行けない。
 どんな手を使っても。

「ねえ」
「――」

 切嗣はエルドラの問いに応えた。

168正義の在処 ◆WqZH3L6gH6:2015/08/10(月) 07:02:20 ID:joh5PNzo0
【G-6/映画館内/深夜】
 【衛宮切嗣@Fate/Zero】
 [状態]:健康、僅かな焦り
 [服装]:いつもの黒いスーツ
 [装備]:エルドラのデッキ@selector infected WIXOSS
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:不明支給品0〜2 (確認済み、銃やナイフは無い)
     噛み煙草(現地調達品)
     
 [思考・行動]
基本方針: 手段を問わず繭を追い詰め、願いを叶えさせるか力を奪う
   1: 情報、アイテム収集を優先
   2: 有益な情報や技術を持つ者は確保したい
   3: セイバー、ランサー、言峰とは直接関わりたくない
 [備考]
  ※参戦時期はケイネスを倒し、ランサーと対峙した時です。


支給品説明
【エルドラのデッキ@selector infected WIXOSS】
ちより(ロワ未参戦の)のルリグ エルドラが収納されたカードゲーム『ウィクロス』のカードデッキ。
エルドラ以外のカードは通常はただの紙切れ。エルドラ自身、自由意志を持ち会話が可能。
カードからの脱出や風起こしも可能。セレクターバトルが出来るかどうかは不明。
切嗣から見てそこそこの魔力のようなものは感知できているが、当ロワにおいてどう影響するかは不明。
繭からロワについての説明は殆どされていない模様。黒カードに収納されている間は外の事は解らない。
参戦時期は不明。

169 ◆WqZH3L6gH6:2015/08/10(月) 07:03:38 ID:joh5PNzo0
投下終了です
物議を醸しだしそうなので一先ずここに投下させていただきました。

170名無しさん:2015/08/10(月) 11:50:04 ID:ZSWBxH/w0
投下乙です
ルリグカードの支給は問題ないと思います
ただ、エルドラの口調ってもっと慇懃というか、中学生のるう子たちにも敬語で話してませんでしたっけ?

171 ◆WqZH3L6gH6:2015/08/10(月) 13:53:39 ID:jzgIhPI.O
>>170
ご指摘ありがとうございます
修正スレに修正文を投下した後、今深夜に本投下させていただきます

172名無しさん:2015/08/10(月) 17:06:13 ID:1Az6wwSQ0
投下乙です
感想については本投下の際に述べさせていただくとして
支給品説明について、よく分からない部分がありましたので確認させていただいてよろしいでしょうか

>カードからの脱出や風起こしも可能
これはエルドラが自由にカードから出入りして(その際は人型になる?、カードから出た時に攻撃を受ければ死亡する?)
ウィクロスのカードゲームで使えるような能力(カードゲームのようにシグニやアーツを使える?)を行使し、
無条件、ノーリスクで戦闘に参加することができる、ということでしょうか
仮にそれが可能な支給品だとすれば「何かの役に立つかもしれない」どころではないと思いますが
(ちなみに、原作だとエルドラがカードの外に出ることができたのは持ち主の元から去らなければならない時だけだったと思います)

それとも、現段階ではそこまではっきりしておらず
『今後、エルドラの能力をロワ内で使うことが可能になる可能性がありますよ』
(その手段やどれほど制限されるかは、後続の書き手に任される)、ということなのでしょうか

修正中のところすみませんが、氏の支給品説明だけではそのあたり(エルドラをどのように扱えばよいのか)
が分かりにくいように感じましたので、ご意見をお聞かせいただけたらと思います

173 ◆WqZH3L6gH6:2015/08/10(月) 19:06:03 ID:jzgIhPI.O
>>172
ご意見ありがとうございます
基本的に後続の書き手さん次第のつもりで書きました
戦闘ができるかどうかは不明のままです
描写がまずかったのでその辺訂正します

174 ◆WqZH3L6gH6:2015/08/10(月) 23:36:41 ID:joh5PNzo0
修正SS投下スレに訂正版を投下しました

175 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:13:45 ID:VTq8bey60
予約分が完成しましたが
SSの内容に ◆WqZH3L6gH6の投下された『正義の在処』と同じく

ロワ内におけるルリグの扱い、ルリグの能力に言及している箇所が存在するため
(また、それらについてより踏み込んだ描写をした箇所があるため)
まずは、こちらに仮投下させていただきます

176シャロと殺意なき悪意 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:14:39 ID:VTq8bey60


簡単には教えない、こんなに好きなことは。
――ないしょなの。

ふわふわドキドキないしょですよ
はじめがかんじん、つんだ、つんだ


◆   ◇   ◆    ◇


――それが悪い事だとは、分かっていた。


桐間紗路(シャロ)は、どこにでもいる庶民の少女だった。
否。
どこにでもいる、貧民の少女だった。

両親を出稼ぎに出して一人暮らしをして、それでもシャロ自身だっていくつものアルバイトを掛け持ちしなければ家計は回らなかったし、
住んでいる家は良く言えば『レトロ』、悪く言えば『ボロ小屋』と形容していい有り様だ。
そんな身の上だけれど、ご町内でも有名な私立のお嬢様学校に通えるようになった。
一生懸命に勉強したら成績トップの特待生として入試に合格して、学費の免除を受けることができたからだ。
がんばったおかげで進学ができた。シャロにはそれが嬉しかった。
新しい学校では、あこがれの先輩もできた。
天々座理世という一学年上の先輩で、大人びてしっかりしていて、しかしたまにお嬢様らしく世間知らずで可愛いところもある、本物の才媛と言っていい人だ。
そして、リゼがアルバイトをしている『ラビットハウス』という喫茶店にちょくちょく顔を出すようになるのも、
そこで暮らしているココアとチノとも仲良くなり、幼なじみの千夜を含めた五人で遊んだり勉強をしたりするようになるのも、そう時間はかからなかった。

しかし、高校に入ってからできた友達は、シャロの家のことを知らなかった。
どころか、お嬢様学校に通っていることだとか、シャロという漫画のお嬢様っぽい名前だとか、シャロの髪の毛に光沢があって縦にカールしていること(べつにただの地毛である)だとか、いわく仕草に気品がある(普通にそれなりに礼儀ただしく振る舞っているだけなのに)とかいったこと見て、
シャロのことを『よほどのお嬢様なのだろう』と思い込んでしまった。

悪いことだとは、分かっていた。
でも、訂正することができなかった。
いつしかシャロは、昔馴染みの千夜をのぞく三人の間で、すっかり『お嬢様のシャロちゃん』になっていた。

――美人で頭も良いなんて!まぶしい!

その褒め言葉には『しかもお嬢様だなんて!』という誤解まで含まれているようで、褒められるたびにドキドキした。

――きっとシャロちゃんは、家ではキャビアとか食べてるんだろうなぁ〜。

そう言われて、心苦しくないと言えばもちろん嘘だった。

でも、今さら貧しい家の子だとは言えなかった。
必死に、自宅の場所を突き止められないように、自宅への帰途を遠回りしたりして隠してきた。
『お嬢さまのシャロちゃん』が、ご町内でもトップクラスに小さくてボロボロの家に暮らしているところなんて、見られたくなかった。
知られたら、幻滅されてしまう。

今になって思えば、いつまでも隠せるはずがなかった。
なんせ、シャロの家の隣には、ココアたちも出入りする千夜の家があるのだから。
ちょうどそのボロ小屋から出てきたところだった。
千夜の家の前にいたリゼとココアとチノに、ばったり。

貧しいことが、ばれた。
それも、ボロボロの実家をばっちりと見られた。

177シャロと殺意なき悪意 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:15:53 ID:VTq8bey60
終わった、と思った。

頭が真っ白になった。
時間が止まった。

いつまでも、止まっていたような気がした。
それはもう、永遠のように。

ずっとずっと、頭が真っ白で。
そして、気が遠くなった。

そして。



『これからあなたたちには、この部屋の外にある世界で殺し合いをしてもらうの。』



次に目が覚めたのは、本当に悪夢のような場所だった。


◆   ◇   ◆    ◇


「フルール・ド・ラパンかぁ。
おしゃれそうな名前だね。なんて意味なの?」
「うさぎの花……ハーブティーを扱ってる、癒しのお店なの。
お茶のことも勉強できるし、クッキーも焼けるし、ティーカップも可愛いし……おすすめのお店かしら」
「すっごい! あたしは甘いモノが好きだけど、ハーブティーとかあんまり飲んだことなかったよ。どんな味がするの?」
「そ、そんなのモノによって種類とか効能とか全然違うわよ。
そうね、甘いお茶だったら、カモミールとかどうかしら。
ジャーマンカモミールだと、リンゴの香りがして、子どもにも飲みやすいわよ」
「あっ。子どもって言ったなぁ〜。シャロさんの方があたしよりも背が低いのに!」
「ちょ、ちょっとそういう意味じゃ……後ろから頭ぺしぺしするのはやめてぇ!」

後ろから軽く頭を叩かれる刺激にびっくりして、両手がつかんでいた白い毛並みをぎゅっと握りしめてしまう。
すると目の前にある『頭』から不機嫌そうな「ぐるる…」という唸り声が聞こえたので、シャロは慌てて手を離した。

「ご、ごめんなさいっ、定春」

唸り声は止んだので、ひとまず安心。
シャロは、紅林遊月と名乗った少女と一緒に、森の中のケモノ道を進んでいた。
より正確に言えば、二人でシャロの『支給品』に乗って移動していた。

178シャロと殺意なき悪意 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:17:05 ID:VTq8bey60
とても軽快に、ケモノ道をかき分けて駆け抜け、四つ足で疾走するのは、熊のように大きな体格をした犬だった。

「ごめんごめん……それにしても定春速いっすねぇ。力持ちだし」
「慣れるのには時間かかったけどね。…………お互いに」

遊月と知り合ったのは、定春とお互いに警戒して冷戦状態になっていた時だった。
どうにかこうして順調に移動するに至ったけど、森の中を抜け出して東の町へと進路を取るまで、実に二時間以上も費やしたのは、
グルグルと機嫌悪そうに唸り声をあげる巨大犬をどうにかなだめて落ち着かせて(二人で食べ物のカードを二回ずつも使って、ドッグフードまでも取り出して)、
それなりの友好関係を築くまでに時間を要したからである。
カードの中に戻しておくことも真剣に考えたけれど、遊月と話してそれは可哀想だということになった。
威嚇してくる巨大な犬は怖かったけれど、それはそれとしてシャロも遊月も、犬を小さなカードの中に押しこめっぱなしにしておくには性格が優しすぎた。
(もしもその生き物が巨大なウサギだったならば、絶対に断固として閉じ込めておくところだったけれど)
さらに言えば、こんな巨大な犬と一緒にいれば、殺し合いに乗った人も襲いかかるのには躊躇するんじゃないかという打算も正直なところあった。

「その……ありがと、ね。遊月ちゃんがいなかったら私、たぶん定春もカードの中に戻すとこ――」
「あっ!」

小さな声でお礼を言いかけた時、後ろに乗っていた遊月が驚いたような声を出した。
振り向くと、遊月も後方の景色を見ている。
後ろにあるのは、地図で言うと緑色をしたF-5の森だ。
これからやっと、緑色から黄緑色で塗られた草原へと突入するあたりのはず。

「どうしたのよ?」

遊月は、引きつった笑顔で言った。

「その……さっき、赤いカードを面白いなーと思って見てたら……落としちゃったみたいで……ちょっと拾ってきていい?」
「ええっ!? 大変じゃないの! すぐに定春を戻して――」

シャロもつられて焦ったけれど、遊月はひらりと定春から飛び降りていた。

「いいよ。落としたところは分かってるから待ってて。定春に先に見つけられたら、カード食べられちゃうからさ」

早口で急ぐようにそう言って、止める間もなくぱたぱたと駆け戻っていく。
その背中は、こんな状況でも飾り気が無く普段のままという感じがして、シャロには羨ましく見えた。

「はぁ……なんだか、あの子を見てると、ココアを思い出すわ。
声も違うように聞こえるのに、何だか声聴くとドキっとするし」

179シャロと殺意なき悪意 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:17:54 ID:VTq8bey60

ココア、と名前を声に出して言ってことで、どんよりと気持ちが曇ってきた。
また、思い出した。
五人ともが、こんなおっかない場所に来てしまったこと。
そして、この場所に連れて来られる直前に、起こってしまったこと。

「ただで『どんなお願いでも叶えてくれる』なら……願ってたのになぁ」

四人が無事なのかはとても心配だし、シャロの独りよがりでなければ、四人もおそらく(特に千夜は)シャロを気にしてくれてはいると思う。
みんな優しい人達だから、殺し合いをするようなことは絶対に無い。

でも、お金持ちだと嘘をついて皆を騙していたシャロのことだ。
リゼたちは、『嘘つき』なシャロのことを信用してくれるだろうか。
みんなとまた会えたら、これまで通りの関係で喜び合えるだろうか。

「ぜんぶ夢なら良かったのに……悪夢から醒めたと思ったら、もっと悪夢だったわよ……」

みんなで殺し合いに呼ばれただけでもぞっとするのに、皆に会いたいのに余計な罪悪感も抱えて行くことになるなんて。
あの時、あんな嘘をつかなければ。隠し通そうとしなければ。
ままらならい自虐に浸りながら、頭をごちんと定春の後ろ頭にくっつけて悶々とする。
……額に犬の白い毛がついてしまったのでやめた。


◆   ◇   ◆   ◇


「あ、遊月ちゃん! 見つかった?」

顔を上げると、まっすぐな黒髪の少女が戻ってくるところだった。
問いかけたシャロは、遊月の右手にすべてのカードが掴まれているのを見つけてほっとする。
しかし、



「うん……それはいいんだけど、あのさ。桐間紗路さん」



すぐに、違和感が襲った。
遊月は、ひどく思いつめたような、怒っているような顔をしていた。
別れた時と、なんだかずいぶん違う表情だ。

180シャロと殺意なき悪意 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:18:43 ID:VTq8bey60

「改めて、聞きたいことができたんだけど」

怒っている――そして、これはシャロの穿ち過ぎかもしれないけれど。
この顔は、なんだかシャロのことを責めるような眼に見える。

「シャロさんにはさ、繭に言われたような、叶えたい願いが、あるの?」

なんで、いきなりそんなことを聞くの。
そう疑問を抱いたのに、その鋭い眼に気圧されたことで、聞き返せなくなった。
さっきまで他愛無い雑談をしていた相手の豹変に、シャロは焦る。言葉が迷子になる。

「べ、べつに私はそんな願いなんて……」

さっき考えたことは、あくまで『ただで願いが叶うなら』の話だった。
そう自分に言い訳して『無いよ』と答えようとしたけれど。
遊月のまっすぐすぎるほどまっすぐな眼光に、虚偽を言ってはならないと問い詰められている気がして、

「しいて言えば、お金持ちになれたらな……なんて。それぐらい、だけど」

まさか『お金持ちだと嘘をついていたのがばれたので、その嘘を無かったことにできれば』なんて言えない。
結果的に、ふんわりした表現で、嘘では無い答え方をした。
すぐに答え方が不味かったらしいと分かった。
それを聞いて、遊月の眉が吊り上がったからだ。

「そんな願いなら、止めた方がいいと思う」
「えっ……?」

震えながら押し出すように、遊月は言った。

「お金持ちになって、どうすんの?
それで人の気を引いたり、自慢したりできるの?
それって、人の命と釣り合うような願いなの?」
「そんな……!」

ほとんど決めつけているような調子の、冷たい断言だった。
悪意あるような言いぐさへの戸惑いと、反射的な怒りが去来する。

181シャロと殺意なき悪意 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:19:39 ID:VTq8bey60
「私は別に自慢したいなんて……貧乏じゃなかったら、もう少し自由だったのかなって思っただけよ!」
「そんなことを、こんな時に考えてたの!?」
「こんな時に考えるわけないでしょ! ここに来る前に思ったことよ!!」
「そんなのっ……!」

売られた喧嘩を、というわけではないが。
謂れのない中傷に対して、分からないままに言い返していた。
それは、そのまま遊月の口撃をヒートアップさせる。

「貧乏でもお金持ちでも、関係ないよ!
貧乏だからって終わるなら、その程度の人間関係ってことじゃん」

投げつけられたトゲが、ぐさりと刺さり、
刺さった力はそのまま、巨大な反発になった。
貧乏だけど、もっと堂々としていたい。
それは紗路のコンプレックスであり、リゼ先輩にあこがれているところだから。

「なんでよっ!! なんで遊月ちゃんに、そんなこと言われなきゃいけないの!?」

そう叫んでしまった時だった。
定春が動いた。
元より、人に懐きにくい感じのする犬ではあった。
それが、シャロと遊月が口論するのを見て『決裂したようなら捨てて行ってもいいか』と判断したのか。
あるいは、『早く出発したい』と考える理由が彼自身にはあったのか。

「ひゃっ!!」

四つ足を力強くのばし、走り始めた。
森を出て、進路は北へ。
つまり、遊月をその場に置き去りにする形で。


◆  ◇   ◆   ◇

182シャロと殺意なき悪意 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:20:16 ID:VTq8bey60

悪いことをした、とシャロは後悔した。

そりゃあ、言われたくないことを言われたのはシャロの方だけれど。
でも、あんな言い方では、『こんな命懸けの場所にいるのに、あの繭という怖いヒトにお金持ちにしてほしいなぁとか夢見てました』と誤解されたかもしれないし。
だから遊月ちゃんも、あんなに怒った顔をしたのかもしれないし。
何より、喧嘩したからと言って、置きざりにするような形で定春を走らせてしまった。それはシャロが悪い。

「大丈夫よね……すぐ近くには、ラビットハウスがあったし。
ラビットハウスなら……先輩たちなら、こんな喧嘩になったりしないし」

今からでも定春をなだめるなり、ドッグフードをあげるなりして、遊月の向かいそうな方角――南東の市街地へと向かってもらうべきだろうか。
そう思いなおそうとしたけれど、それは『ラビットハウスに近づく』ということも意味していた
もしあの子の口から『シャロと喧嘩になってしまった』とかリゼたちに伝わってたら嫌だな、と。
ただでさえ重たく感じていた再会が、よりいっそう重みを増す。
もし、うそつきの悪い子だと思われたら、どうしよう。



「…………そうだ。千夜を、探さなきゃ」



気が付けば、そんなことを呟いていた。

そう、思いついてしまえば、それが一番いい。
千夜を先に探そう。
シャロの幼なじみで、あまりに天然すぎるところがあるから、元から一番心配だったヤツだし。
それに、元から実家の貧乏ぶりを知っていて、シャロが隠していることを気にかけてくれていた。
千夜がそばにいてくれたら、リゼ先輩たちともしっかり向き合える。
千夜を探して守らなきゃいけないし、千夜に相談に乗って欲しい。
『千夜もラビットハウスにいるかもしれない』という可能性からは目を逸らし、シャロは定春が颯爽と走るに任せることにした。

こうして桐間紗路は、ラビットハウスに向かわなかった。

【E-4/F-5との境界付近の道路上/黎明】

【桐間紗路@ご注文はうさぎですか?】
 [状態]:健康、後悔
 [服装]:普段着
 [装備]:定春(乗用中)@銀魂
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(10/10)
     黒カード:不明支給品0〜2 (確認済み)
 [思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。みんなと合流して、謝る
   1:千夜を探す。
   2:1の後、ラビットハウスに向かいリゼたちと合流して謝る。
   3:遊月ちゃんには悪いことをした…。
 [備考]
  ※参戦時期は7話、リゼたちに自宅から出てくるところを見られた時点です。


◆   ◇   ◆    ◇

183シャロと殺意なき悪意 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:20:56 ID:VTq8bey60

それが悪いことだとは、分かっていた。


痛いほど、分かっていた。


悪いことをした、と遊月は後悔した。
とても、ひどく、罪悪感をもって後悔した。

桐間紗路の『願い』をのぞき見するという低劣な真似をして、
しかもその『願い』を責めたててしまった。

紅林遊月にもまた、どうしても叶えたい願いごとがある。
彼女はこの殺し合いに呼ばれるまでの間、その願いごとを叶えるために『危険な遊戯(セレクターバトル)』というものをしていた。

バトルのルールは単純明快だ。
ウィクロスというカードゲームを手に入れ、『ルリグ』という特殊な『願いを叶える少女のカード』を相方として勝ち抜けばいい。
戦って勝ち抜いて、いつしかルリグに『願いを叶えるだけの資格を持った』と判断されれば、『夢限少女』という存在になれる。
『夢限少女になる』とは、『願いを叶えられる自分になれる』ということ。
ただし、三回負けてしまえばその時点で失格となる。夢限少女にはなれなくなる。

遊月は相方のルリグ――花代(ハナヨ)からそう説明を受けたし、
そんな奇跡があるのなら飛びつくしかないと、セレクターバトルへ参加した。

しかし、戦いを続けていくにつれて、知ることとなってしまった。
花代も黙っていたが、代償の伴わない奇跡なんて有り得ないことを。

もし三回負けてしまえば、願いは叶わなくなる――絶対に、叶わなくなる。
失格となったら、願いは反転する。
『友達がほしい』という願いを持った少女は、一生友達ができない身体になる。
『お金持ちになりたい』という願いを持った少女は、一生お金とは縁のない極貧生活という巡りあわせが返ってくる。
『好きな人と結ばれて幸せに暮らしたい』と願ったとしたら、好きな人に嫌われるか、あるいは好きな人を永遠に……。

それを知って、遊月は嘆いた。騙されたと思ったし、花代を責めた。
しかし、それでも止まれなかった。
友達だった小湊るう子は、願いが反転することを知ったら戦うことを辞めた。
遊月にも、辞めるように説得をされた。
でも遊月は、辞退することをしなかった。
他の願いを持った少女たちを、『三回目の敗北』という処刑台に送ることになったとしても、勝ち続けることを選んだ。

184シャロと殺意なき悪意 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:21:43 ID:VTq8bey60
そうまでしなければ、叶わない願いだったからだ。
『友達がほしい』とか『お金持ちになりたい』とか『普通に恋をして好きな人と結ばれたい』なんて願いだったら、本人のがんばりしだいで叶えることもできただろう。
仮に叶わなかったとしても、もしかしたら努力しだいで実現していた可能性はゼロじゃなかった。
けれど、遊月の願いは、普通にかんばっても叶わない。
違う。
最初から遊月には、一生懸命にがんばることさえも許されない。
もし遊月が『私の願いはこういうことです』と口に出したら、社会の全てからお前は悪い女の子だと糾弾され、弾かれる。
そんな願いだった。
奇跡があるとしたら、それにすがりつかなければ耐えられなかった。

だから、初対面の繭という怪しげな少女から『どんな願いでも叶う』と言われた時はドキリとした。
まるで、セレクターバトルのことだとか、遊月に願いがあることを、見抜かれたようで。
まるで、『この戦いは、セレクターバトルの代わりとなる、最後のチャンスなんだぞ』と言われたみたいで。

けれど、願いを叶えるために人を殺せるかと言われたら話は別だ。

遊月はたしかにちょっと人道に外れた願いを抱えているけれど、それでも、人を傷つけることにも本当なら罪悪感を覚えるような、中学二年生の女の子に過ぎない。
ましてこの場には――道をたがえたとはいえ、大切な友人だった小湊るう子もいるし、
セレクターバトルに参加した少女たちだって、願いは異なれど切実な望みを抱いて集まった子ばかりだった。
殺し合いに呼ばれた人たちだって、ここで死ぬわけにはいかないとか、そんな事情があるはずだ。
カードバトルで勝ち抜くことはできても、この手を汚して命を奪い取るようなことはできない。
何より、人を殺した手で『あの人』に触れて、何食わぬ顔で『あの人』に抱きしめられるのは、怖かった。

けれど、『この戦いに勝ち残らなければ、願いは叶わないんじゃないか』という嫌な予感は消えなかった。
人を殺すことで叶えたくはない願いだったけれど、
同時に、あっさりと諦めていい願いでも、なかった。
それは、とてもささやかで小さな願いだけれど、
紅林遊月という少女の、人生に関わることだったのだから。

諦めるしかなかった。
でも、諦めていいのかと、『願い』は絶えず遊月の胸を圧迫する。
このままじゃ叶わない、そうなったらお前は幸せになれないと。
頭では分かっているのに、感情がジクジクと胸を刺す。
一度にひとつ以上のことを背負えるほど、遊月は器用には動けなかった。
シャロと他愛ない談笑をしていても、その会話を楽しめているのかが分からないぐらいだった。
このままでは、この恐ろしい場所で生きていけるのか、ひどく心もとなかった。

だから、どうしても諦められない願いを、この場では封印するために、
遊月は、とても不本意かつシャロに対してひどく身勝手なことに。
その支給品を使うことにした。
カードを落とした振りをして少し遠くまで離れ、そこで私服のポケットに入れていた『それ』を取り出す。

185シャロと殺意なき悪意 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:22:35 ID:VTq8bey60



「ピルルク……あんたの『ピーピング・アナライズ』。使わせてもらう」



黒いカードから出てきたのは、青い少女の絵が描かれたカードと、一束のカードデッキだった。
『ルリグ』というカードの一人である少女、青い髪に青い瞳。そして青い服。
名前は、ピルルク。遊月も大嫌いな卑劣プレイヤー、蒼井晶が使っていた、本当なら絶対に頼りたくなかった大嫌いなカードだ。
その少女、ピルルクは感情をみせない声で問いかける。

「いいの? あんなにこのアーツを毛嫌いしていたクセに」
「きらいだよ!! やっちゃいけないことだよ!」

このカードのアーツ『ピーピング・アナライズ』は、人間の心を読む。
相手が、どんな願いを以って戦いに臨んでいるかを曝け出してしまう。
本当なら、それはセレクターバトルの対戦中に、カードの持つ技として発動する能力だ。
一般人相手には使えない、ウィクロスのバトルフィールドでしか使えない力だ。
でも、シャロと出会う前に、ピルルクから嫌々ながら聞き出した限りだと、『使える』。
カードバトルで、アーツを使うために何ターンかエナチャージしなければならないように、
『何時間か力をためなければいけない』という制限はついているけれど、使える。

「でも、このままじゃ、いつかもっとひどいことを考えそうで……シャロさんをそれに巻き込みそうで、怖いんだよ!」

人を殺すなんて考えたくはないけれど、
もし遊月がこんな風にガタガタになって、それでシャロの足を引っ張り、悪いこと、致命的なことが起こったとすれば。
そんなのは絶対にいけない。
かといって、『願い』のことをルリグの花代と友達のるう子を除いて、誰にも打ち明けてこなかった遊月に、『こんな願いのことで困ってるんです』と相談できるわけもない。

最終的に遊月が出した結論は、『桐間紗路の心を読むことで紗路が抱いている『願い』を知り、『だから、そんな願いを踏みにじるのは止めよう』と自分自身に釘を刺す』というものだった。
ひどく勝手だ。心を読まれるシャロからすれば、たまったものじゃない。
一度、同じように心を読まれて傷だらけにされたことがあるから、その重さは嫌というほど知っていた。
でも、逆に、自分勝手だとしても、それだけ酷いことをすれば。
それ以上の酷いこと――『死なせる』とかに至る前に、絶対にブレーキがかかる。
罪の重さをしれば、それ以上に酷いことをしようなんて思えなくなるはず。

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいと。
彼女には聞こえないのだから、言っても意味の無い謝罪を言いかけて、止めて。
ピルルクから、彼女の願いを聞き出した。
それが、どんな結果を生むかなんて予想もせずに。

ピルルクにこっそりと見させた『シャロ』を、言ってもらった。

186シャロと殺意なき悪意 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:23:55 ID:VTq8bey60
『家がお金持ちだと嘘をついた。貧乏だとばれたら、がっかりされると思ったから』

たぶん死にたくない、とか大切な人を死なせたくない、みたいな願いだろうなと思っていた。
それ以外の、どんな願いであれ、尊重するべきだと思っていた。
自分の願いだって、人から見たらとても不健全なことなのだから。
しかし、その願いは。

『そしたら、そのウソが友達と好きな先輩にばれた。みんなにボロ小屋みたいな家を見られた』

それが『恋愛』に関する願いであることも、予想していなかったわけではなかった。
たとえば好きな人もここにいて、その人を喪いたくないとか。
だけど、その願いは。

『好きな人に、嫌われた』



その願いは、『嫌われるかもしれない』というものだった。



――「紅林遊月は、双子の弟である紅林香月に恋をしている。

――それは許されないことで、隠しているから、香月は遊月のことを訝しんでいる。

――このままだと、香月に嫌われる。他の女に、香月を取られるかもしれない。

――紅林遊月の願いは、紅林香月の恋人になること。

『恥ずかしい。絶対に幻滅された』

恥ずかしい?

幻滅される?

嫌われる?

自分のついた嘘がもとで、そうなったのに?

相手も笑って許してくれるかもしれない嘘ひとつが、そんなに恥ずかしい?
実の弟を好きになることよりも?
実の弟に、下心をもって接するよりも?

187シャロと殺意なき悪意 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:24:38 ID:VTq8bey60

『あこがれの先輩に嫌われた。……なかったことにしたい』

あこがれの先輩。
それは、何の負い目もなく好きになれる人なのだろう。
自力で、ちょっと勇気を出して向かい合えば、嫌われずに済むことで。
それでも嫌われてしまうようなら、それまでの関係だったというだけだろう。

遊月の願いはどんなにがんばっても叶わない。
違う。遊月には最初から、がんばることさえも許されない。
遊月の顔が、かっと熱くなった。
平静な顔をして、シャロと話をするために、何度も深呼吸をしてから彼女の元に戻った。

だけど。
その時点では、『そんな願いのためにあんな誘惑に惑わされるなら、止めよう』というおせっかいの方が大きかった。
少なくとも、勝手にのぞき見した『願い』に勝手にキレて、くだらないと断じるような下劣で悪趣味な人間にはなりたくなかった。
桐間紗路にとっては切実なことなんだ。己にそう言い聞かせながら、戻った。

だけれど。

「お金持ちになれたらな……なんて」

お金さえあれば、好きな人に嫌われずに済んで、
お金さえあれば、好きな人といっしょにいられる。
シャロがそこまで意図しての発言では無かったとしても、
遊月の耳には、そう聞こえた。

陳腐な例えだけれど、
頭で『プツン』という音がした。

そこから先は、感情の赴くままに言葉を発していた。

◆   ◇   ◆    ◇


「謝らなきゃ……私、すっごい理不尽なヤツじゃん……」

セレクターでもない、普通の女の子を傷つけてしまった。
その罪を後悔しながら、遊月は歩く。
シャロが当初の目的地には向かわなかったことを知らず、市街地の建物が見える方へと。

「大丈夫だよね……定春もいるから、何かあっても逃げられるはずだし……。
私なんかと一緒にいるより、安全だよね……?」

188シャロと殺意なき悪意 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:25:12 ID:VTq8bey60
遊月は、まだ気づいていない。

シャロから、この場所にいると説明されていた四人。
保登心愛と、香風智乃と、宇治松千夜と、天々座理世。
シャロにとっての『好きな先輩』とは、その中の天々座理世であること。
紅林遊月と道をたがえた結果として、シャロは彼女たちに会えそうな『ラビットハウス』に向かわなくなったということを。

まだ気付かずに、市街地を目指す。

【G-6/F-5との境界付近、市街地の近く/黎明】

【紅林遊月@selector infected WIXOSS】
 [状態]:健康、後悔
 [服装]:普段着
 [装備]:ブルーアプリ(ピルルクのカードデッキ)@selector infected WIXOSS
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(10/10)
     黒カード:不明支給品0〜2 (確認済み)
 [思考・行動]
基本方針:叶えたい願いはあるけれど、殺し合いはしたくない
   1:シャロを探し、謝る。
   2:るう子には会いたいけど、友達をやめたこともあるので分からない…。
 [備考]
  ※ピルルクの「ピーピング・アナライズ」は(何らかの魔力供給を受けない限り)チャ  ージするのに3時間かかります


【定春@銀魂】
桐間紗路に支給。
万屋で飼われている身長170cmの超大型の犬。
正体は天人襲来後「たーみなる」建造のために取り壊された神社にあった「龍穴」と呼ばれる場所を守護する狛神で、神社の巫女の阿音・百音の経済的理由により捨てられたところを神楽に拾われた。
当初は神楽にしか懐いていない(神楽以外の人物には牙をむいて襲いかかるほどの)猛犬ぶりだったが、「定春編(原作71〜73訓、アニメ45話)」で狛神に変身して暴走したところを止めてもらった際に銀時達への恩義を感じたのか、賢くなり懐いてきた。
「金魂編(アニメ253話〜256話)」では、銀時をはじめとした神楽以外のメンバーにも懐いていることがはっきりと明らかになり、
人に襲いかかるシーンも戦闘だったり神楽の命令だったりスキンシップだったりをのぞけば減少しつつある。
ただ、それでも人見知りが激しいところ自体は治っていないようで、神楽いわく知らない人が家にくるとやたらと吠えるらしい。
殺し合いの状況はよく分かっていないが、所有者から離れてはいけないという制限はぼんやりと理解しているらしく(それが無ければ勝手に神楽たちを探しに走り出していると思われる)、会場のどこかにいる万屋メンバーの元に帰ることを希望している。

189シャロと殺意なき悪意 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:25:47 ID:VTq8bey60

【ブルーアプリ(ピルルクのカードデッキ)@selector infected WIXOSS】
紅林遊月に支給。
蒼井晶のアニメ一期でのルリグ ピルルクが収納されたカードゲーム『ウィクロス』のカードデッキ。
エルドラと同じくロワに関する説明はあまり受けていないようだが、人間に作用するアーツ『ピーピング・アナライズ(後述)』を使用できることは理解している模様。

※ピーピング・アナライズ
ピルルク固有のアーツにして、蒼井晶の十八番である戦法。
またルリグが使える能力の中では、アニメで唯一確認されている、『(ゲーム中での効果だけでなく)現実のプレイヤーへも攻撃(精神攻撃だが)をすることができるアーツ』でもある。
それは、ピーピング・アナライズを受けた人物(対象1人)は、その心に持っている『願い』をつまびらかに覗き見られてしまうというもの。
ただし、彼女と対戦した時の小湊るう子のように、相手が「何の願いも無く、ただ戦うためだけに戦っている」ような時は心が読めなくなる。
本ロワではカードゲームでエナコストを溜めるのに必要な1ターンを現実の時間として見なし、1時間で1コストが溜まるものとし、3コストを消費することで(つまり3時間に一度だけ使用できるという条件で)『ピーピング・アナライズ』を発動できるようになっている。
また、ルリグカード自体も魔力を持っているために、参加者や支給品による魔力(もしくはそれに類するエネルギーの)供給を受けることができれば、エナを溜める手段もこの限りではないかもしれない。
他のルリグカードもコストや魔力しだいではこの会場で持ち技を使えるのかどうか。
それともピルルクのピーピング・アナライズだけが(先述のとおり、カードバトルだけでなく現実の人間にも効果を及ぼせるからこそ)限定的に使えるものなのかは現時点では不明。

190シャロと殺意なき悪意 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:30:51 ID:VTq8bey60
投下終了です

エルドラがロワ内で能力が使えるかどうか分からないと書かれた直後ですのに、
ピルルクに(アニメでも対人用の能力だったとはいえ)能力を使わせる描写をしてしまいました

いちおう「ピーピング・アナライズは原作でも、人間相手に作用するアーツだったからこそ使えただけであり
他のアーツは使えないかもしれない」と理由づけはしましたが
問題がありそうでしたらご意見ご指摘をお願いします

(バンバン心を読めるよなら強すぎるかなぁと考えたこともあり、
三時間に一度(チャージする必要がある)という制限もつけてしまいました)

問題が無いようでしたら、明日か明後日に本投下したいと思っています

191シャロと殺意なき悪意 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:33:26 ID:VTq8bey60
すみません、遊月の状態表に書き忘れがありました

※参戦時期は「selector infected WIXOSS」の8話、夢幻少女になる以前です

ということでひとつ…

192 ◆WqZH3L6gH6:2015/08/19(水) 04:55:59 ID:Nc7Ok3P60
内容は変更してしまいましたが、完成したので仮投下します。

193交わらなかった線 ◆WqZH3L6gH6:2015/08/19(水) 04:59:05 ID:Nc7Ok3P60

 掬いあげた土塊が宮永咲の遺体の上に被せられる。
 青のカードから出したペットボトルの水で汚れた両手を洗浄する。
 そしてるう子は両手を合わせ咲の冥福を祈った。
 遺体に土を被せ、両手を合わせるだけの簡単な弔い。
 心の片隅には近くにいるかも知れない殺人者からさっさと逃げるべきだという危機感はあったが
 それでも命の恩人である咲の弔いだけはやっておきたかった欲求が勝った。
 いま彼女の横には黒い乗り物が止まっている。所持した黒のカードから出した支給品であった。
 埋葬中に危険人物が来なかった1つの幸運にるう子は安堵する。
 埋葬を最後まで済ませることができたのだから。
 亡き咲に対し感謝の意を伝えようとした瞬間、、風が吹いたような音をるう子聴いた。
 るう子は口をつぐみ、感覚を研ぎ澄ませ、不吉さのようなものを感じ取ると乗り物に手を触れる――。

□ ■ □ ■ □ ■ 
□ ■ □ ■ □ ■ 


 俊敏で規則正しい動きで、金髪の白いライダースーツの女は神社へ足を運んだ。
 そして時折思い出すように定期的に右手で手刀を作り横にあるいは縦に振る。
 その動きは人に当たれば相応のダメージを与えると思える迫力があった。

――……うん確認

 彼女の表情は変わらず、代わりに眼差しは機嫌よく輝いた。左手にはカードの束が握られている
 カードの束を手にする前と後とではキレが……格段にとまでは言わないが、良くはなっていた。
 移動速度も上昇しているような気さえする。支給品に武器はなかったが超常の力を持つアイテムを入手できたことに
 女――ヴァローナは静かに感激した。

 彼女の目的は参加者と接触し、敵意がなければ情報収集と支給品確認。
 もし拒み、それでいて有用な支給品を持っていれば強奪する腹積もりだった。
 敵意があれば素手で太刀打ちできそうなら戦闘する事もやぶさかではない。
 その過程で相手が死んでしまっても強ければ構わない。

 そう彼女はどちらかと言えばゲームに乗り気だった。
 ヴァローナは殺人快楽者ではない。
 人を倒すことも殺すことも好きではなく、脆くないと認識出来るだけの強者を探し、打ち倒すのが彼女の最大の欲望であった。
 彼女は確認したいだけだ、自らも含め人間は脆いのかどうかを。
 そうし続けることで渇きとも言える心地悪い違和感が和らぐような気がするから。
 その欲求ゆえに、そして父親がギャングである出自ゆえに彼女は幼い頃から殺し屋紛いの仕事に携わって来た彼女に、
 今参加させられているゲームに対する強い忌避感を抱くはずはなかった。
 仕事の関係上敵対した静雄達との戦いの最中に攫われ、非戦闘員としか思えない子供を含めた殺人ゲームの強要をする繭に怒りはある。
 弱者をなぶったり、壊したりするのはどうしても気が進まないから。
 だが驚嘆すら覚える超常を見せつけた繭に対し、歯向かう気までは今のヴァローナにはない。


「っ!?」


 微かだが、エンジン音らしきものが聞こえる。ヴァローナは足を速めた。

194交わらなかった線 ◆WqZH3L6gH6:2015/08/19(水) 05:01:24 ID:Nc7Ok3P60

 森を抜け、彼女は神社の前に立った。
 そこにはタイヤ跡や不自然な土の盛り上がりはあったものの、参加者の姿はない。
 タイヤ跡をたどり先の森の方へ入ったが、参加者の姿は見当たらない。
 彼女は神社前に戻り思わず嘆息する。
 真っ暗闇に覆われた山の中、またもや彼女の手刀が空を切った。



□ ■ □ ■ □ ■ 
□ ■ □ ■ □ ■ 


――ほんとは会って話をした方が良かったかも知れない。でも……


 やけに低いエンジン音と微妙にサイズの合わないヘルメット。
 それらに少々困惑しながらもるう子はスクーターを走らせる。
 ぶっつけ本番だったが説明書を読んだこともあり、るう子は支給品のスクーターを扱えつつあった。。
 るう子は近くに誰の気配もないことに気づくと、スクーターを止め黒のカードと懐から計2枚のカードを取り出す。
 1枚は宮永咲の絵、もう1枚は咲の支給品で顎鬚の生えた大男の絵が書かれたカードであった。
 生きたカードであるルリグと深く関わっていたるう子には、それが参加者ではない別の人の成れの果てに思える。
 ゲーム開始前、繭は死んだ参加者の魂は白のカードに閉じ込められると言っていたのをるう子は思い出していた。
 
「誰だかわからないけど、あなたもいつか……」

 宮永咲の死を前にしてもるう子の志は揺るがない。
 むしろ2枚のカードを前にしてやる気を増したぐらいだ。
 

――さっきの人とは会う勇気はなかったけど、あなたとは……

 スクーターの座席に座り、ハンドルを握り走らせる。
 道路を僅かな光を照らして、それを頼りに目的地へ向かう。
 舞台の南西の市街地へ。
 殺し合いを阻止する手立てを探るために。



□ ■ □ ■ □ ■ 
□ ■ □ ■ □ ■ 


 盛り上がった土の下にはヴァローナより数歳年下と思わしき少女の遺体があった。
 状態からして直後ではないと推測できる。疵からして下手人は銃を持っている、うまく強奪できればと彼女は考えた。


「……その、あの人をそのままにしておくんですか?」


 手にしたカードから少女の静かなる問いがかけられた、
 カードには緑の長髪を極端に逆立たせた細身の少女の姿があった。
 名は緑子。生きたカードルリグの1人でヴァローナの支給品の1つ。
 ヴァローナの身体能力を若干ながら上昇させているのは緑子の力アーツの『奇々怪々』の力ゆえ。
 本来はルリグの力の大半はウィクロスというカードゲームの中でのみ発現されるもの。
 だがこのゲームに置いてはある意味創造主の繭の力もあり、事情が多少異なっているようだった。

195交わらなかった線 ◆WqZH3L6gH6:2015/08/19(水) 05:04:17 ID:Nc7Ok3P60

ヴァローナは遺体を見つめつつ呟く、

「……土を被せる?」
「……」

 少々怯えのような色をにじませ緑子は頷いた。

「……肯定します」

ヴァローナは静かに返答するや、手早く遺体に土を被せた。
緑子からはまだヴァローナにとって必要最低限の事しか聞いていない。
いくら力に憧れがあるといっても、そう容易に受け入れられるほど柔軟でもない。
別段打算的ではないと思っているものの、機嫌を損ね非協力的になっても困ると直感し受け入れる。
殺害したターゲットにそういうことをしたことはなかったなと思いつつ、ヴァローナは次のプランを練った。


【E-3/道路/一日目 深夜】
 【小湊るう子@selector infected WIXOSS】
 [状態]:健康、スクーター運転中
 [服装]:中学校の制服、チタン鉱製の腹巻
 [装備]:黒のヘルメット着用
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(9/10)
     黒カード:黒のスクーター@現実、チタン鉱製の腹巻@キルラキル
          ライダー(征服王イスカンダル)のカード
          不明支給品0〜1枚、宮永咲の不明支給品0〜1枚 (確認済)
     宮永咲の魂カード
 
 [思考・行動]
基本方針: 誰かを犠牲にして願いを叶えたくない。繭の思惑が知りたい。
   1: 最低限の警戒を忘れず、西の市街地へと向かい協力者を探す。
   2: 浦添伊緒奈(ウリス?)、紅林遊月(花代さん?)、晶さんのことが気になる
   3: 魂のカードを見つけたら回収する。出来れば解放もしたい。
 [備考]
※参戦時期は二期の8話から10話にかけての間です



【F-4/森/一日目 深夜】
 【ヴァローナ@デュラララ!!】
 [状態]:健康、『アーツ 奇々怪々』により若干だが身体能力上昇中
 [服装]:白のライダースーツ
 [装備]:手に緑子のカードデッキ
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
     黒カード:グリーンワナ(緑子のカードデッキ)@selector infected WIXOSS
黒カード:不明支給品0〜2枚(武器と判断できるものはない)
 [思考・行動]
基本方針: 武器を集めた後、強者と戦いながら生き残りを目指す。優勝とかは深く考えない。
   1: 緑子から情報を収集した後、武器になりそうなものを探す。
   2:強そうな参加者がいれば戦って倒したい。特に静雄や黒ヘルメット(セルティ)。
   3:弱者はなるべく手を掛けたくない。
 [備考]
※参戦時期はデュラララ!!×2 承 12話で静雄をナイフで刺す直前です。

196交わらなかった線 ◆WqZH3L6gH6:2015/08/19(水) 05:05:35 ID:Nc7Ok3P60
・支給品説明

【黒のスクーター】
小湊るう子に支給。
ヘルメット付きで、照明とエンジン音に多少の改造が施されている原付きバイクの一種。
トゥデイっぽい。照明はかなり細かい調整が効き、エンジン音も無音に近いとまではいかないが静か。
最高速度は時速60キロまで。説明書付き。


【ライダー(征服王イスカンダル)の魂カード】
宮永咲に支給。
当ロワ未参戦のサーヴァント、ライダー『征服王イスカンダル』の魂が封じられたカード。
ルリグと違って意思の疎通や行動はできないが、高い魔力は感じられる。
関連する宝具があれば何らかの変化はあるかも知れない。今のところ何らかの効果は見当たらない。


【グリーンワナ(緑子のカードデッキ)@selector infected WIXOSS】
ヴァローナに支給。
植村一衣(ロワ未参戦)のルリグ 緑子が収納されたカードゲーム『ウィクロス』のカードデッキ。
外見は逆立った緑の髪の毛をした露出度の高いボーイッシュな衣装と雰囲気のした少女。物静かな性格。
ロワの説明をどれだけされているかは不明。
本来ならカードゲーム内のみで使用できるアーツ『奇々怪々』が使用可能。
他の能力が使えるかは不明。

※アーツ『奇々怪々』について
本来ならカードゲーム内においてシグ二(将棋で言う王将以外の駒のようなもの)を複数強化するのみだが。
当ロワにおいては黒カードから出してカードデッキを手に所持した場合にのみ、身体能力を若干上昇させる効果がある。
デッキを落としたり、カードを損傷させてしまうと効果は失われる。
元が元だけにエナコストはないが、もし別のアーツを使ってエナコストを消費した場合、
回復するまで奇々怪々は使用できない。
エナコストの回復は通常1コストにつき1時間。何らかの要因でエナコストが補充されればその限りではない。

197 ◆WqZH3L6gH6:2015/08/19(水) 05:08:23 ID:Nc7Ok3P60
投下終了
ルリグのカードのアーツに問題があった場合修正いたします
その場合修正は今夜。本投下は次の日の明朝になると思います

198名無しさん:2015/08/19(水) 05:52:24 ID:ARrf6zZQ0
仮投下乙です

カードの関しては問題ないと思いますが、>>194やるう子の状態表で「南西の市街地」、「西の市街地」とありますが、正しくは「南東の市街地」、「東の市街地」だと思います

199 ◆WqZH3L6gH6:2015/08/19(水) 16:54:51 ID:Nc7Ok3P60
>>198
ご指摘ありがとうございます
その辺訂正して10時前に本投下します

200 ◆KKELIaaFJU:2015/08/23(日) 17:16:51 ID:7zrSSusw0
不安なので一旦、仮投下させていただきます。

201 ◆KKELIaaFJU:2015/08/23(日) 17:17:35 ID:7zrSSusw0

 国立音ノ木坂学院。
 穂乃果たち、スクールアイドル『μ'』sの活躍により廃校を免れた学校である。

「ここが私が生徒会長を務める音ノ木坂学院です!」

 ランサーはその話をここにくる道中で何度も聞いた。
 しかし、穂乃果は熱心に何度でも話す。

「そうか、穂乃果はこの音ノ木坂が大好きなのだな」
「はい! 大事な皆で守った学校ですから!! 今から隅から隅まで学院内を案内しますね!!」
「いや、今はそんなことをしている場合ではない」
「ええー!!」

 ぷぅと頬を膨らませ、心底残念そうな表情を浮かべる穂乃果。

「……でもでも、私は学院内を知り尽くしてるんだよ!!
 どこに何があるかは知っておいて損はないよ!」
「……確かにそれは一理ある」
「だよねだよね!」

 しかし、ここは穂乃果のホームステージ。
 学校に詳しくなければ、生徒会長は務まらないと親友の園田海未に言われたことを思い出した。
  
「じゃあ、行こう!」

 そして、軽快にスキップをしながら穂乃果は駆け出して行った。
 しかし、ランサーは警戒を怠らない。
 その表情はさながら戦場立ったときとほぼ同じ。
 セイバーが外道に堕ちたというならいつ奇襲を仕掛けてやもしれない。

 ――無駄の無い見事な構え、俺以上……なのだろうな。
 ――しかし、騎士王……以上じゃねえ

 ――輝く貌(ディルムッド・オディナ)は騎士王(アルトリア・ペンドラゴン)には勝てねぇ


 先程の本部の言葉がランサーの頭の中を巡る。
 あの時、穂乃果がいなれば、自分はあの男に勝てたのだろうか?
 騎士として、弱き者たちをセイバーやキャスターから守護れるのか?
 しかし、そんなこととは裏腹に穂乃果は喜々として学校を案内する。
 
 グラウンドも。
 中庭も。
 弓道場も。
 講堂も。
 生徒会室も。
 図書室も。
 体育館も。
 屋上も。
 アイドル研究会の部室も。
 
 どこもかしこも一年半通い続けた穂乃果が大好きな学校そのままであった。
 ここにあること以外は全く違和感がないほど完全に音ノ木坂学院だった。
 しかし、今の穂乃果にとってはそんなことはどうだってよかった。
 そして、特にイベントもないまま最後に穂乃果のお気に入りの場所に向かった。

202 ◆KKELIaaFJU:2015/08/23(日) 17:18:22 ID:7zrSSusw0
「で、ここがアルパカの……?」

 いつもはアルパカがいる小屋だった。
 だが、そこにいたのはアルパカではなかった。
 
 その代わりに……アルパカの小屋を背にその男は立っていた。
 アルパカの小屋があっては背後からの奇襲はできない。


「俺の忠告を無視したからには……騎士王と戦って死ぬ覚悟は出来ているのか?」
 

 そこには王の財宝の鍵剣を構えた―ー本部以蔵が立っていた。
 

 ◆ ◇ ◆


「―――俺がディルムつっあんを追わねばならぬ」


 気絶から目覚めた直後の一言はそれであった。

 駅構内。
 そこに千夜と本部を抱えたヴィヴィオはやってきた。
 そこのベンチにて千夜は肉体・精神から疲労感から眠気が襲ってきた。

「あまり無理をしないほうが……」
「でも……ランサーさんと穂乃果さんがいない間にこのおじさんが起きたら……」
「そしたら、私が何とかするから!」
「……わかったわ、じゃあ一時間だけ眠らせて……」

 そういうと、千夜は眠りについた。
 その顔は疲れ半分不安半分……そういった感じである。
 
 その数分後。
 本部は目覚めた。
 
「……おじさん?」
「ディルムつっあんは……いや、名簿にある名前で呼ぶならランサーと言っておくべきか。
 ……今のランサーじゃ、アーサー王に……セイバーには勝てねぇ。
 だからこそ、仲間(とも)として騎士王の魔手から俺が守護らねばならぬ」
(このおじさんとランサーさんは友達だったの……?)

 一先ず、ヴィヴィオと本部は情報を交換する。
 その際にヴィヴィオから本部はランサーがどこに行ったかを聞いた。
 苦渋をなめるような表情で本部は聞き続ける。そして……

「急がねばならぬ」
「え?」

 本部が鍵剣を振るう。
 すると空間に歪みが生じ、何かが出てきた。

203 ◆KKELIaaFJU:2015/08/23(日) 17:19:21 ID:7zrSSusw0

「本部さん、それは……?」

 ヴィヴィオの知りうる魔法とは全く違う原理。
 次元転移や召喚魔法とは全く違うということだけはわかった。
 出てきたのは原動機付き自転車。
 後輪カバーに『銀』という彫り物がある原動機付き自転車。通称『原付』。
 
「お嬢ちゃん、これは原動機付き自転車って奴だ。
 起源は、自転車に小型のガソリンエンジンを付けたモペッドと呼ばれる乗り物というものだ。
 モペッドは本来『原動機が付いた自転車』あるいは『ペダルでこげるオートバイ』のことだが……、
 便宜上、日本以外の国ではペダルの有無にかかわらず小排気量のオートバイ全般がモペッドと呼んでいる。
 だが、この原動機付き自転車がわけが違う。なんせ江戸時代に作られたものなんだからよぉ〜」

 原付について長々と解説する本部。
 それにヴィヴィオは話半分くらいしか理解できなかった。
 ヴィヴィオにとって聞きなれない単語があまりにも多すぎたのだ。
 しかし、どちらかといえば『原付』よりも本部の持っている『鍵剣』のほうが気になった。
 
「行ってくる」

 本部は原付に跨り、エンジンをかける。
 原付に付属していたヘルメットを被り、原付をかっ飛ばす。
 法定速度完全オーバーで限界速度ギリギリのハイスピードである。


 ◆ ◇ ◆


「俺の忠告を無視したからに……騎士王と戦って死ぬ覚悟は出来ているのか?」


 ただならぬ殺気。
 それは穂乃果の素人目にでもはっきりわかるくらいだ。

「ランサーさん……」
「下がっていてくれ、穂乃果」
「やだっ!」
「言うことを聞くんだ! 穂乃果!」
「だって、あの小汚いおじさんがここまで来たのはきっとランサーさんを――――ガッ!?」
「!?」
「ディルムつっあん……少し遊んでもらうぜ」

 カーンという軽快な打撃音が響いた。
 ―――穂乃果の頭部から。
 そのそばには王の財宝の鍵剣が転がっている。

「お嬢ちゃんには少なくとも一時間は眠っていてもらうぜぇ」
「ッ!? 穂乃果!? モトベッ! 貴様ァ!!」
「安心しな、殺しちゃいねぇ。
 ……だが、これでアンタのご要望通りの1対1(サシ)になったぜ、ディルムつっあんよ〜」

 本部は王の財宝の鍵剣を穂乃果に向かって投げた。
 鍵剣がピンポイントに穂乃果の額に直撃して、穂乃果はそのまま気を失った。

204 ◆KKELIaaFJU:2015/08/23(日) 17:19:58 ID:7zrSSusw0

 王の財宝の鍵剣自体には切れ味はほとんどない。
 だからこそ、打撃武器としてはかなり有用性は高い。
 なんせ古代バビロニアの宝物庫につながる鍵剣だ。
 その頑丈さは言うまでもない。
 
「守護るものも守護れずに何が騎士道だ? 片腹痛い」
「ッ……黙れ!」

 クスクスと笑う本部。
 それに対して激昂するランサー。
 騎士の誇りを踏みにじられたのだから。

「モトベッッ!!」

 いや、それだけではない。
 何かが引っかかるそのもやもやとした気分を振り切るかのように本部に立ち向かう。
 しかし、そのランサーの迷いとあまりにも直線的な動きは本部に読まれる。

 最小限かつ最速の動きでランサーの脇を抜けるように回避行動をする。
 そのまま本部は転がっていた王の財宝の鍵剣を拾い上げる。
 そして、何処からともかく弾丸のように四角い何かが複数射出された。

「なんだ、この石碑か!?」
「これは『麻雀牌』だ」
 
 まるで石礫のように麻雀牌はランサーに飛んでいく。
 五月雨が如く、ほぼ無尽蔵のように射出されていく麻雀牌。
 それをランサーはキュプリオトの剣で弾き、切り払う。
 
「足元がお留守だぜ」
「なっ!?」

 一瞬のスキを付いて本部はランサーに急接近する。
 そこから腕を掴まれて合気道のような投げと足払いを同時に決まる。
 ランサーの身体は空中で一回転し、そのまま脳天を地面にたたきつけられた。
 そして、押し倒すような形で本部はマウントポジションを取った。


「タフだなァ〜〜常人なら確実に死んでたぜ……」


 ランサーの首筋に本部の日本刀が押し当てられている。
 日本刀の無機質な冷たい感触だけが伝わっていく。

「日本刀ってのは引かなきゃ斬れない」 
「モトベよ……俺に情けを掛けているのか」
「そうだ……」

 完全に負けた。
 この本部という得体のしれない小汚い強者に敗北したのだ。
 もし本部が殺し合いに乗っていたら確実に自身は死んでいた。

205 ◆KKELIaaFJU:2015/08/23(日) 17:20:53 ID:7zrSSusw0

「一度死んだぜ、ディルムつっあん」
「……いや、死ぬのは二度目だ……」

 だが、そこにあったのは屈辱ではない。
 騎士としての戦いに敗れて死んだという清々しさであった。
 本部の安い挑発に乗ってしまったが、故に己の実力不足を痛感させられた。
 そのような体たらくでは……『死んでいる』のと道義だ。

 次の瞬間、ランサーは本部のマウントポジションから脱出した。
 そして、そこで高々と宣言をした。
 




「ランサーのサーヴァントは今ここに死んだ!」

 





 だからこそ、自らの死を受け入れた。
 死ぬ時は潔く死にたい。それは自分の騎士としての本懐であった。
 今、ここにいるのは……

「ここからは俺の三度目の生だ……故に俺は愛でも忠義でもない。
 ……俺は『ディルムッド・オディナ』としてこの戦いを戦い抜くことを選ぶッ!」

 今、全ての迷いは振り切った。
 手には槍がなくても剣がある。
 戦うのならば、それだけで十分だ。

「戦いの勝利ってのは誰かのために捧げるもんじゃねぇからな……」
「モトベ殿……まさかそのことを俺に教えるために……」

 ランサーは男として大切なことを思い出した。
 一度は夢見た『地上最強の男』……いつからだったろう、そんなことも忘れてしまった。
 そして、大切なことを思い出させてくれた本部を自身の仲間(とも)と認めたのであった。

206 ◆KKELIaaFJU:2015/08/23(日) 17:21:32 ID:7zrSSusw0

「俺はセイバーを倒す……その時まで俺は騎士道を捨てるぞ。モトベ殿」
「それでいい、その気迫があれば……あの騎士王さんに一太刀も与えられないぜ。
 ……これは餞別だ、長物ではないが持っていくとよい」
「モトベ殿……かたじけない」

 そういうと本部は村麻紗が入った黒カードをランサーに渡した。
 彼は生前二本の槍だけでなく二本の剣「モラルタ」「ベガルタ」を所持していたとされる。
 故に双剣を使くこともお手の物である……ということを本部は知っていた。

 その時である。
 
 二人は東の方から僅かだが光の残滓を目撃した。
 この時間帯、太陽の光にはまだ早すぎる。
 ここにはいなかった騎士王……そこから導き出される本部の結論は……

「あの光はまさか騎士王の聖剣か!」
「何っ、知っているのかモトベ殿ッ!」
「ああ……間違いねぇ、あの輝き……あんなものを出せるのは騎士王の聖剣ただの一つだけだぜぇ」
「急がねばならない……!」

 ランサーは焦る。
 こんなところにとどまっている理由などもうないのだから。
 そこで最後に本部に頼みをする。

「モトベ殿には南の墓地にいるであろうキャスターの討伐を頼みたい……
 モトベ殿の実力であれば……あるいは……」
「ああ、任された、こういうのがオイシイんだよなぁ」
「……それと穂乃果を皆のところに頼む……互いにご武運を!」

、ランサーはこれ以上穂乃果を連れてはいけないと判断し、本部に託して、自身は東に駆け出した。
 それを確認して本部は気絶した穂乃果を背中に縛り付けて、原付で来た道を戻る。
 
「……嬢ちゃん、ヘルメットっていうのは普通はこういう風に使うんだぜ」

 本部は穂乃果が持っていたヘルメットを穂乃果の頭部にかぶせた。

 正しいヘルメットの使い方は人を殴るのではない。
 ヘルメットは着用者の頭部を危険から守るものである。
 今、このように本部や穂乃果の使用方法こそが正しい用途なのだ。


【A-3/黎明】
【ランサー@Fate/Zero】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:キュプリオトの剣@Fate/zero、村麻紗@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:『ディルムッド・オディナ』としてこの戦いを戦い抜く。
0:東に向かう
1:穂乃果、千夜に「愛の黒子」の呪いがかかったことに罪悪感。
2:セイバーは信用できない。そのマスターは……?
3:キャスターは本部に任せる。
4:俺がセイバーに勝てない……? 否、勝利する!
5:本部を全面的に信頼
[備考]
※参戦時期はアインツベルン城でセイバーと共にキャスターと戦った後。
※「愛の黒子」は異性を魅了する常時発動型の魔術です。魔術的素養がなければ抵抗できません。
※村麻紗の呪いにかかるかどうかは不明です。

【A-2/音ノ木坂学院近く/黎明】
【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:気絶、額にたんこぶ、ランサーへの好意(中)、千夜に対する疎み
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:ヘルメット@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
     黒カード:不明支給品0〜1枚
[思考・行動]
基本方針:誰も殺したくない。生きて帰りたい。
1:μ'sのメンバーを探す。
2:ランサーさんを見てるとドキドキする……。
3;小汚いおじさん(本部)は信頼できない。
[備考]
※参戦時期はμ'sが揃って以降のいつか(2期1話以降)。
※ランサーの「愛の黒子」の効果により、無意識にランサーへ好意を抱いています。時間進行により、徐々に好意は強まっていきます。
※ランサーが離れたことで黒子による好意が少々薄れました。

207 ◆KKELIaaFJU:2015/08/23(日) 17:22:31 ID:7zrSSusw0

【本部以蔵@グラップラー刃牙】
[状態]:確固たる自信
[服装]:胴着
[装備]:黒カード:王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)@Fate/Zero、原付@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:こまぐるみ(お正月ver)@のんのんびより、麻雀牌セット@咲-Saki- 全国編
[思考・行動]
基本方針:全ての参加者を守護(まも)る
0:駅に戻り、穂乃果をヴィヴィオに預け、自身は南下してキャスターを討伐する
1:騎士王及び殺戮者達の魔手から参加者を守護(まも)る
2:騎士王、キャスターを警戒。
[備考]
※参戦時期は最大トーナメント終了後


【B-2/駅構内/一日目・黎明】
【宇治松千夜@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:疲労(大)、睡眠中、ランサーへの好意(軽)
[服装]:高校の制服(腹部が血塗れ、泥などで汚れている)
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:ベレッタ92及び予備弾倉@現実 、不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:心愛たちに会いたい
1:ランサーが心配
2:十四郎さん…
3:ランサーと一緒に居る穂乃果に嫉妬。
[備考]
※現状の精神はランサーに対する好意によって自責の念を抑えられ一旦の落ち着きを取り戻しています。
※ランサーの「愛の黒子」の効果により、無意識にランサーへ好意を抱いています。時間進行により、徐々に好意は強まっていきます。
※ランサーが離れたことで黒子による好意が薄れるかどうかは不明です。

【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはVivid】
[状態]:健康
[服装]:制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:セイクリッド・ハート@魔法少女リリカルなのはVivid
[思考・行動]
基本方針:皆で帰るために行動する
1:駅で本部さん達を待つ。それまでの間は私が千夜さんを守る。
2:アインハルトとコロナを探す
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後です。
※ランサーの黒子の呪いについて大雑把に把握しましたが特に重要なことだとは思っていません
※黒子の呪いの影響は受けていません
※各々の知り合いについての情報交換は済ませています。
※ランサーが離れたことで黒子による好意が薄れるかどうかは不明です。



原付@銀魂
本部以蔵に支給
銀時が移動手段に使用するスクーター(原動機付き自転車)。車種はベスパ。
平賀源外の改造によってロケットブースター・飛行機能が追加されている。
ただし飛行機能は莫大なエネルギーを消費するため、使用すると1分後くらいに大爆発を起こす仕様。


麻雀牌セット(二セット分)@咲-Saki- 全国編
土方十四郎に支給
一般的な全自動卓用の麻雀牌のセット。
萬子・筒子・索子・字牌の136枚が二セット(計272枚)。
そこそこ固いので当たると結構痛い。

208 ◆KKELIaaFJU:2015/08/23(日) 17:23:33 ID:7zrSSusw0
以上で仮投下を終了します。問題点があればご指摘お願いします

209名無しさん:2015/08/23(日) 17:48:30 ID:VPuQhKFg0
投下乙です
特に問題点はないと思います

210 ◆KKELIaaFJU:2015/08/23(日) 18:44:33 ID:7zrSSusw0
問題がないようなので、誤字脱字を修正し一部描写を追加したものを本スレに投下します。

211 ◆DGGi/wycYo:2015/09/01(火) 20:26:46 ID:qIVTDzUI0
一旦仮投下します

212それはあなたと雀が言った  ◆DGGi/wycYo:2015/09/01(火) 20:29:52 ID:qIVTDzUI0
――Who killed Cock Robin?

――I, said the Sparrow,

――with my bow and arrow,

――I killed Cock Robin.

  * * *

真っ暗な空間。
何かから逃げるように走っていた。

私はこの光景を、よく覚えている。
あの時だってそうだった。鎧の女の人に襲われて。
私を庇って、十四郎さんは……。

『手前の所為だ』

どこからか、そんな声が聞こえて来る。
少しの間だったが、同行していたから分かる。紛れもない土方十四郎の声。

(え?)

声も出せず、ただひたすら走り続ける。

213それはあなたと雀が言った  ◆DGGi/wycYo:2015/09/01(火) 20:30:22 ID:qIVTDzUI0
『手前が銃を出さなかったから、俺は死んだ』

(違う。だって、あれは、モデルガンで)


『いいや本物だ。あれを出していれば、結果は変わっていたかも知れねぇ』

(違う。だとしても、襲ってきたのはあの鎧の女の人で)


『手前が現実を認めてさえいれば、違う結果が見えていた』

(違う。やめて。私は何も悪くない。私は、私は……)


『俺を殺したのは……』


「ッ……」

宇治松千夜は、そこで目を覚ました。
荒い息を吐きながら、辺りを見回す。

「あ、起きましたか。随分うなされてましたよ」
「ごめんなさい……夢、だったのかしら」

ヴィヴィオが話しかけてくる。時計を見る限り、本当に1時間程度しか眠れなかったらしい。
夢は深層心理の表れとも言う。彼はあんなことを言いそうな人ではないと思っていたのだが……。

「十四郎さんを、殺したのは……」

自責、後悔。そんなことを考えているうちに、どうやら本部たちが帰ってきたらしい。
笑顔で出迎えようかとも思ったが、今の自分には出来そうになかった。

  * * *

214それはあなたと雀が言った  ◆DGGi/wycYo:2015/09/01(火) 20:30:58 ID:qIVTDzUI0
足首が痛い。
カイザルとラヴァレイ。2人の騎士をボディーガードに付けたことによる少しの精神的な余裕が招いた結果。
こういうのを、『慢心』とでも言うのだろうか。

「アキラ嬢、本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよー。問題なく歩けま……痛っ!」

カイザルが馴れ馴れしく駆け寄る。気持ちは分かるが、非常にむさ苦しい。

「(あーあ。確かにあいつら盾にするために弱者のフリをして行こうとは思ったけどさぁ。
流石に派手にすっ転んで足いためるのってどうなの、ホント。
こんな姿、ウリスには見せたくないなあ)」

「どうしますかね。地図を見る限り、駅とやらまでそんなに遠くはないでしょうが。
少し休んで行かれますか、アキラ君」
「出来ればそれでお願いしまーす。はぁ、あきらアンラッキー……」

支給品に湿布や氷などがあれば良かったのだが、そこまで甘くはないらしい。
青いカードから冷凍スポーツドリンクを出し、それでしばらく冷やすことにした。

「(へぇ、こんなのもきちんと出てくれるんだ。感心感心)」


半時間ほど経ち、流石にこれ以上やると霜焼けになってしまうためスポーツドリンクを足から離す。
だが、それでもすぐには歩けそうにはない。
無理をすると余計に酷くなるのが、この手の怪我にはつき物だ。

「ふむ……なら、少し地下闘技場とやらを見て来るか。
何か役に立つ物が置いてあるかも知れない」
「ラヴァレイ殿、1人では危険です。私も一緒に……」

スポーツドリンクを飲む晶の傍らで、騎士2人が何か相談をしている。

「君にはアキラ君の護衛をお任せしたいのだ。何、私1人でも十分だ」
「はぁ……。それでは、お気をつけて!」

「(いちいち敬礼してんじゃないわよ。流石は上司と部下ってか)」

今ここで油断させ、2人を殺すことは可能だ。だが、それでは何ら面白くない。
なるべくいい気にさせたところを、一気にどん底へ突き落とす。
この時の心の折れる音と言ったら――。

「(あの2人はまだまだ泳がせておくに相応しい)」

それにしても。

「(私でさえもこの殺し合いの場に放り込み、私が封印を解こうとしていたバハムートを召喚して見せたあの小娘……)」

一体何者なのか。まさかベルゼヒュートにこんな真似が出来るとは思えない。
考えても答えは出そうにない。今は闘技場に向かうしかないようだ。


数十分後。

「……ラヴァさん、遅いですね」
「ええ。やはり、私も付いていくべきだったか……」
「(いや、あんたは私の盾でしょ。今私襲われたらどうするつもりなのよ)」

なかなか帰ってこないラヴァレイの身を案じていると、彼の向かった方から何かを引きずるような音が聞こえてきた。

この音は何だと言うが早いか、カイザルは走り出していた。

「ラヴァレイ殿、御無事でしたか! それは……」

無事に帰ってきたラヴァレイは、猫車を持っていた。

「薬の類などは見当たらなかったが、支給品にあったのでな。
これならアキラ君も移動出来るだろう」
「そう……ですね! アハハ……(マジで言ってんのこいつ……私は荷物じゃないっつーの! いや悔しいけど今はお荷物か)」

こんな2人に肩を持たれるよりはこちらの方が精神的に楽だと考え、晶は何も追及しなかった。非常に不本意ではあったが。

  * * *

215それはあなたと雀が言った  ◆DGGi/wycYo:2015/09/01(火) 20:32:09 ID:qIVTDzUI0
駅に戻ってきてからというもの、千夜はずっと土方十四郎という男のことを悔やんでおり、ヴィヴィオはそれに付きっ切り。
本部とかいう浮浪者は、少し様子を見てくるとか言って一旦駅の外へ出て行った。
チャンスは今しかない、私はそう判断した。
3人まとめて殺してしまおう。そして、優勝して、ランサーさんを……。

手元にある青酸カリのカプセルは、カプセルを開けると毒の液体が出てくるようだ。
咄嗟に打ち立てた計画はかなり短絡的ではあるが、事態は一刻を争う。
私は、赤いカードを取り出した。


「2人とも、差し入れだよ〜」

駅のホームのベンチで休んでいる千夜とヴィヴィオに、穂乃果が駆け寄る。
2人の横に座った彼女の手には、サンドイッチが3つ。

「いいんですか? 私たちもまだ赤いカードあるのに」
「いいのいいの。好きなの選んで頂戴」
「好きなのって……全部タマゴじゃないですか、具」

そう言いつつもヴィヴィオはそれを2つ受け取り、1つを千夜に渡した。
千夜も短く「ありがとう」と告げると、再び黙りこくってしまった。

「あ……本部さんにも差し入れして来ないと」

そう言い残し、穂乃果は本部の居る方へ走り去る。


「……あれ。千夜さん、食べないんですか?」
「御免なさい。今、そんな気分じゃなくて」
「もうすぐ朝ですし、食べないと今後どうなるか分かりませんよ。
とりあえず穂乃果さんにも悪いですし、私が食べましょうか」
「じゃあ……お願いするわね」

ヴィヴィオに手渡し、直後に違和感を覚えた。
無論、かなり早い朝ご飯と言ってしまえばそれまでなのだが。
何故、高坂穂乃果はこのタイミングで差し入れをしたのだろう。
わざわざ自分の赤カードを使ってまでする理由などない筈なのに。

まさか、と思った時には。
ヴィヴィオは既に、受け取ったサンドイッチを口に入れた後だった。

216それはあなたと雀が言った  ◆DGGi/wycYo:2015/09/01(火) 20:32:57 ID:qIVTDzUI0
「美味しい、かしら」

やや引きつった顔で尋ねる。

「普通に美味しいで……あれ、ちょっと味が……ぅぐ……」

ヴィヴィオの顔が徐々に青ざめてゆく。様子が変だ。
まさか本当に、このサンドイッチには。

気づいた時には、ヴィヴィオは痙攣し、口から血を吐いていた。

「ヴィヴィオちゃん!?」
「ぢや……さ…ん……」

喉を掻きむしりながら千夜を睨み、ベンチから転げ落ちる。

「ち、違うの、これは……」

何故ヴィヴィオは、私をここまで恨めしそうな目で見るのだ。
私は何もしていないのに。悪いのは、きっと、穂乃果ちゃんで。

「ぢや、ざん……なん…で…」

違う違うちがう私のせいじゃない私は悪くない私は関係ないきっと彼女のサンドイッチにも毒がしこまれていてけっきょくかのじょはしぬことになるんだやめてちがうわたしのせいじゃないわたしはわるくないおねがいだからそんなめでみないで――



バァン! と大きな音がホームに響き渡る。
我に返った時には、既にヴィヴィオは動かなくなっていた。
そして、手には、ベレッタが握られて。

「あ……れ?」

ヴィヴィオの口元だけでなく、胸元からもじわりと赤い染みが広がってゆく。
引き金は……引かれていた。

「いやあああああああああ!!」

すべてを悟り、千夜は逃げるように走り出した。
後に残されたのは、口にされることはなかったもう1つのサンドイッチと、1つの死体だけだった。


【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはVivid  死亡】
【残り56人】

217それはあなたと雀が言った  ◆DGGi/wycYo:2015/09/01(火) 20:34:42 ID:qIVTDzUI0
単純な割に合理的。穂乃果はそう結論付けた。

水などの飲み物に毒を仕込んだ場合、飲んで貰えない可能性だってある。
だから食べ物なのだ。それも、サンドイッチのように片手が塞がり、かつ手軽に食べられる代物。
そうすることで、捨てるか手早く食べるかの2択を相手に迫る。
ヴィヴィオたちに差し出した3つのうち最後の1つは、自分で食べるものではない。
本部以蔵を殺すために毒が仕込んである3つ目だ。
彼は駅周辺の様子を確認したらすぐに出発するだろうし、タイミングを見てそれを渡せばきっと食べる。

「本部さーん。差し入れで……」
「待たれよ」

穂乃果の言葉を遮ると、本部は顎で少し遠くを指し示す。
見ると、複数の影がこちらに向かって来ている。

邪魔が入ったか。思わず舌打ちしそうになるのを堪え、影を注視する。
本部ほどではないがかなりガタイの良い男が2人、何故か猫車に乗せられている小柄な少女が1人だ。

「(ちょっと……これどうするの? このままじゃコイツを迂闊に殺せないじゃない)」

計画の破綻に苛立っても仕方がない。とにかくこの場を切り抜けるしかないようだ。


「(あのさー。何で私、ゴツいおっさんたちばっかりに遭うの?)」

ラヴァレイに押してもらっている猫車に乗りながら、思わず顔をしかめる。
正直、晶にとってこれ以上の道具(ボディーガード)は不要だ。
何とかして2人に駅の前で仁王立ちしている男を消してもらいたいところだが。

「(ん……? 何だ、女もいるじゃないの)」

こちらの存在に気づいたらしく女は物陰に身を隠し、男はこちらをじっと見ている。

「我々に敵意はない! ここを通してもらおうか!」

カイザルが叫ぶと男がこちらに歩み寄り、じっと晶を睨む。
苛立ちを隠し、察してくれと言わんばかりに腫れている足首を指差した。

「そのお嬢ちゃん、足を怪我しておるのか」
「ええ。そちらはお2人で?」
「いいや、向こうにあと2人――」


耳に届いた銃声と悲鳴。
数秒ほど互いに顔を見合わせ、彼らは黙ってホームへ向かう。

既にホームは蛻の空。生きた者は残っていない。
それに彼らが気づいた時、何が起こるのだろうか?

218それはあなたと雀が言った  ◆DGGi/wycYo:2015/09/01(火) 20:35:33 ID:qIVTDzUI0
【B-2/駅付近/早朝】

【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:本部に対する憎悪、動揺
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(6/10)、青カード(10/10)
     黒カード:青酸カリ@現実
[思考・行動]
基本方針:優勝してランサーを生き返らせる
1:この場を何とかして切り抜け、本部を殺害する
2:参加者全員を皆殺しにする
3:μ'sの皆を殺すのは残念だけど、ランサーさんを生き返らせるためなら仕方ないよね
4:い、今のって!? それにこの人たちは……?
[備考]
※参戦時期はμ'sが揃って以降のいつか(2期1話以降)。
※ランサーが本部に殺されたと思い込んでいます。
※ランサーが離れたことで黒子による好意が少々薄れましたが、上記の理由によって現在では好意が暴走して、それが本部たちへの憎悪に変わっています。

【本部以蔵@グラップラー刃牙】
[状態]:確固たる自信
[服装]:胴着
[装備]:黒カード:王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)@Fate/Zero、原付@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:こまぐるみ(お正月ver)@のんのんびより、麻雀牌セット@咲-Saki- 全国編
[思考・行動]
基本方針:全ての参加者を守護(まも)る
1:南下してキャスターを討伐する
2:騎士王及び殺戮者達の魔手から参加者を守護(まも)る
3:騎士王、キャスターを警戒
4:急いでホームへ向かう
[備考]
※参戦時期は最大トーナメント終了後


【カイザル・リドファルド@神撃のバハムートGENESIS】
[状態]:健康、動揺
[服装]:普段通り
[装備]:カイザルの剣@神撃のバハムートGENESIS
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:不明支給品1〜2枚(確認済、武器となりそうな物はなし)
[思考・行動]
基本方針:騎士道に則り、繭の存在を挫く
0:この2人(本部と穂乃果)から話が聞きたい。
1:俺と、ファバロが……。
2:アキラ嬢を守りつつ、アナティ城へと向かう。ラヴァレイ殿も居る以上、体制は万全だ。
3:リタ、聖女ジャンヌと合流する(優先順位はリタ>>>ジャンヌ・ダルク)
4:アザゼルは警戒。ファバロについては保留
[備考]
※参戦時期は6話のアナティ城滞在時から。
※蒼井晶から、浦添伊緒奈は善良で聡明な少女。小湊るう子と紅林遊月は人を陥れる悪辣な少女だと教わりました。
※ラヴァレイから、参戦時期以後の自身の動向についてを聞かされました。

【蒼井晶@selector infected WIXOSS】
[状態]:健康、左足首捻挫(軽度)、猫車に乗せられている。
[服装]:中学校の制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(9/10)
    黒カード:不明支給品1〜3枚(武器があるらしい?)
[思考・行動]
基本方針:ウリスを勝ち残らせるために動く
0:利用できそうな参加者は他の参加者とつぶし合わせ、利用価値が無いものはさっさと始末する。
1:カイザルとラヴァレイを利用しつつ、機会を見て彼らと他の参加者を潰し合わせるなり盾にするなりする。
2:ウリスを探し出し、指示に従う。ウリスの為なら何でもする
3:紅林遊月、小湊るう子は痛い目に遭ってもらう
4:カイザルたちに男(本部)を始末してもらいたい
5:何よ今の……こいつらから話を聞く?
[備考]
※参戦時期は二期の2話、ウリスに焚き付けられた後からです
※カイザル・リドファルドの知っている範囲で、知り合いの情報、バハムートのことを聞き出しました。

【ラヴァレイ@神撃のバハムートGENESIS】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:軍刀@現実 、猫車(蒼井晶乗車中)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:不明支給品0〜1枚
[思考・行動]
基本方針:世界の滅ぶ瞬間を望む
1:蒼井晶の『折れる』音を聞きたい。
2:カイザルは当分利用。だが執着はない。
3:本性は極力隠しつつ立ち回るが、殺すべき対象には適切に対処する
4:さて、どうしたものか……。
[備考]
※参戦時期は11話よりも前です。
※蒼井晶が何かを強く望んでいることを見抜いています。

支給品説明
【猫車@現実】
ラヴァレイに支給。
工事現場などでよく見かける手押し車。


  * * *

219それはあなたと雀が言った  ◆DGGi/wycYo:2015/09/01(火) 20:36:13 ID:qIVTDzUI0
また、走っている。目的地はない。誰かに会いたいという気分でもない。
普段なら既に動けなくなるほど走っているのに、体は止まろうとしなかった。

穂乃果たちは追ってくるだろうか、そんなことはどうでも良かった。
ただただ、逃げたかった。
ランサーという一時的な心の支えを失い、目の前で散った命を見て、千夜の精神は既に限界に近かった。

「私が、彼女、を……」

絞り出すように呟く。

毒を仕込んだのは恐らく高坂穂乃果。その上彼女は、私や本部以蔵をも殺そうとしていた。
結果的に、高町ヴィヴィオが死んだ。私がトドメを刺す形になった。
ここにおける『悪』が誰か、なんていうのはどうでもいい。

穂乃果から受け取る前に気づいていれば。
もっと早く「食べちゃいけない」と教えてあげていれば。
彼女が死んだのは、私のせいだ。それは、土方十四郎も同じ。
自分が2人を殺したと言っても、何らおかしくはない。


随分と走り続け、いつの間にか倒れていた。最後の気力を振り絞り、物陰に身を潜める。
当分動けそうにない。何より、しばらく一人になりたかった。


――誰が殺した? クック・ロビン。

――それは……。


【B-2とC-2の境界付近/早朝】

【宇治松千夜@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:疲労(極大)、情緒不安定
[服装]:高校の制服(腹部が血塗れ、泥などで汚れている)
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:ベレッタ92及び予備弾倉@現実 、不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:心愛たちに会いたい
1:私が、殺した……。
2:しばらく1人で居たい。

[備考]
※現在は黒子の呪いは解けています。

220 ◆DGGi/wycYo:2015/09/01(火) 20:37:07 ID:qIVTDzUI0
仮投下を終了します 指摘などあればお願いします

221 ◆DGGi/wycYo:2015/09/01(火) 20:54:55 ID:qIVTDzUI0
クリスについての描写が無かったので少し時間を空けて追記します

222名無しさん:2015/09/01(火) 22:56:49 ID:2nFyPJaM0
一先ず乙です

223名無しさん:2015/09/02(水) 02:35:57 ID:khYlw5pE0
投下乙です
クリスの描写がない以外は特に気になる点はないかと思います

224名無しさん:2015/09/02(水) 06:51:36 ID:.r5jYbwQ0
クリスねぇ…

225名無しさん:2015/09/02(水) 06:55:28 ID:.r5jYbwQ0
失礼、デバイスの方か

226 ◆RPDebfIIlA:2015/09/02(水) 06:55:35 ID:nFiPKWnI0
仮投下させていただきます

227芸風ノーチェンジ ◆RPDebfIIlA:2015/09/02(水) 06:56:29 ID:nFiPKWnI0
時刻が黎明に入り、普段の日常ならば既に床に入っているような時間帯の頃、志村新八と矢澤にこの両名は映画館の前で一旦休憩を取っていた。
万事屋を出発してからかなりの時間が経ったが、彼らに危険が及ぶようなことは全くと言っていいほどなく、順調に当面の目的地である駅へ向かっていた。
途中で17歳とは思えない筋肉隆々とした範馬刃牙という少年に会ったが、逆に言えば彼くらいしか遭遇した者はいない。
ところが、このまま数時間歩き通して流石に疲労が溜まったのか、新八もにこも膝が痛くなってきた。
まだ歩けるには歩けるが、いざというときに動けなければ困る。
なので、ここに留まって一服することにしたのだ。

「ふぅ…」

にこは映画館の前で地面に尻をつき、一息つく。
長時間立っていることはスクールアイドルをする上で慣れてはいるが、やはり厳しいものがある。

「にこさん、これどうぞ」
「え、これって…」

新八はスポーツドリンクの入ったペットボトルをにこに差し出す。そのラベルには『歩狩汗』と書いてあった。

「新八が出す必要ないじゃない。にこのカードで――」
「さっき刃牙君に2回分使っちゃったじゃないですか。僕の分を使ってくださいよ」

そういえば、にこはヘルゲイザーのカードと引き換えに食料と飲料を2回分失っていた。
それを気遣って新八が自分の青カードでスポーツドリンクを出してくれたのだろう。
そう思うとなんだか申し訳なくなり、小さい声で礼を言ってから、ペットボトルを受け取った。

喉が乾いていないといえば嘘になるので、にこはペットボトルへ口をつけて水分を体内に運ぶ。
ゴクゴクと喉を通る水が身体の渇きを癒していく。
力がみなぎって、いつでも動ける気力が湧き上がってきたような気がした。
半分ほど飲んで、ボトルに蓋をしめる。疲れているといってもヘトヘトまでとはいかないのでこれくらいの水分を補給すれば十分だ。
新八へ目を向けると、にこの持つものとは別のペットボトルを片手に水分補給をしていた。
青カードを2回も使う必要があったのか疑問に感じたが、ペットボトル1本で済ませた場合に起こる不具合をすぐに察して赤面しながら目を伏せた。
新八も新八で、同行者が女の子ということもあってそっちの方面にも気を遣っていた。

「そ、そういえばお腹も空いたわねー」

青カードを2回使ったことをすぐに忘れるために、それとなく切り出してみる。
一応万事屋を出てから何も食べておらず、刃牙へ渡した食料を見て食欲がそそられたのは事実だ。

「あ、それなら僕の赤カードで何か出しますよ。えーと、何出そうかな…まあいいや、何か出ろ!」

すぐさま新八は赤カードを振りかざして食料を出す。
特に何を食べたいとか考えてもいなかったので、とりあえず適当に出して出て来たもので腹ごしらえしようと思っていた。
しかし、その考えが裏目に出てしまう。

「………」
「……何コレ」

赤カードから出てきた食料。新八が何も考えず適当に出したもの。
それは黒く焦げた…とても食料とは思えない、思いたくない暗黒物質《ダークマター》であった。
見ていると食欲が引き立てられるどころか減衰していき、新八とにこの顔はみるみるうちにひきつっていく。
そこら中に漂う異臭が鼻を突き、これを食してはいけないと脳が警鐘を鳴らしている。
そして、2人は心から理解した。これは食料ではない、毒料だと。

「なんでよりにもよって姉上のダークマターが出んだよ!!こんなもん食べるくらいだったらそこらへんの土食うわ!!ふざけんなよあのカリフラワー頭ァァ!!」
「これ新八のお姉さんの料理なの!?アルパカの方がまだマシな料理作れるわよ!!」

こうして、新八は赤カードをもう一度使う羽目になった。
今度はにこの手で食料を出してもらったので、なんとか食料にありつけることができた。


◆ ◆ ◆


万事屋を発ってから現時点まで、新八とにこは刃牙以外と誰も会わずに映画館前まで来た。
今一度言うが、彼らは殺し合いに乗った危険人物とは誰とも遭遇していないのだ。
ここ数時間、2人だけで駅へ向かって移動する中、ずっと無言だったというはずもなく。

「にっこにっこにー♪あなたのハートににこにこにー♪笑顔届ける矢澤にこにこー♪にこにーって覚えてラブにこ♪」
「……どう?」

にこが目の前に座っている新八に向かって持ち前の自己アピールを披露できる程度には緊張感がなくなっていた。
住む世界は違えども、二人とも好きなものがアイドルだということもあり、いつもの調子でおしゃべりする程度には打ち解けていた。
他に話す人物がいないことも大きく、殺し合いの中にいることが嘘であるかのような束の間の平和がそこにはあった。

228芸風ノーチェンジ ◆RPDebfIIlA:2015/09/02(水) 07:00:16 ID:nFiPKWnI0

(ぐっ…なんて破壊力だ…!)

それを見た志村新八は思わず感嘆の声を上げて拍手しようとする自分をどうにかして抑える。
このにこのアピールは新八からすると、非常に高評価であった。
ファンを湧き立たせる力を"破壊力"と形容するならば、その『にっこにっこにー』は寺門通の『お通語』と同じくらいの破壊力を(新八の基準では)有していた。
志村新八は寺門通に一筋ではあるが、アイドル業界に関しても明るい。
仮にμ'sとかいうテラコヤアイドルが江戸にあったとするならば、寺門通とタメを張れるアイドルになっていたであろうことが新八にはわかる。
しかし寺門通親衛隊隊規の十四条には「隊員はお通ちゃん以外のアイドルを決して崇拝することなかれ」というものがある。
絶賛したいのはやまやまだが、果たして寺門通を差し置いて賛辞を送っていいのかどうか考えあぐねていた。

「……まさかアンタ『寒い』なんて思ってんじゃないでしょうね!?」
「…へ?」

しばらく黙っていて何の反応も示さない新八ににこがつっかかる。
かつて後輩に『寒い』とか言われたのがよほどこたえていたのだろうか、凄みのある剣幕で新八に迫る。

「いや、すっごいかわいかったです!最高です!世界のYAZAWAです!!」
「それ別のYAZAWA!!新八、やっぱりアンタも『寒い』って――」
「思ってませんって!!本当に良かったです!!江戸でやったら大ブレイク間違いなしですよ!!」

新八の弁解に嘘偽りがないと判断したのか、にこは気まずそうに「まあ、いいわ」と言って引き下がった。

「そろそろ出発しない?十分休憩とれたし、もう3時過ぎちゃってるわ」

にこは傍らに置いていた板のような物を拾い、それに目を落として現在時刻を確認する。
「それ」に表示されている時刻は3時を過ぎていた。
タブレットPC。にこに支給された黒カードの中の1枚に入っていたものだ。
表示画面に直接触れて操作が可能で、にこの住む年代では既に普及している。
新八は過去に宇宙船だとか頑侍だとかのオーバーテクノロジーに触れてきたが、タブレットPCというからくりの技術には大層驚かされた。
どうやらにこの世界の地球人の技術は江戸よりも進展しているらしい。
にこが言っていた、「江戸は歴史の授業では習ったがもうなくなっている」という言葉はあながち間違ってはいないかもしれない。

「あ、そうだ。出発するのは僕の黒カードの中身を確認してからでもいいですか?」

ふと、新八はにこのタブレットPCを見て自分にも支給された黒カードがあることを思い出す。
取り出してみると、新八の腕輪にある黒カードは全部で3枚あった。
にこの黒カードは刀とタブレットPCで2枚分と、刃牙から譲り受けた魔法の箒。残りの黒カードがあと1枚あるかないかだろう。
どうせなら役に立つものが入っていればいいが、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲を配置したりわざわざ志村妙のダークマターを用意してくる主催者のことだ。
この時点で嫌な予感しかしない。
頼むからツッコまざるを得ないようなモンは出ないでくれと切に願いながら、新八は黒カードからアイテムを出した。

「……」
「…花陽――」



それを見て、新八はメガネを曇らせ、にこは目を見開いた。
新八の黒カードから出てきたのは、μ'sの大切なメンバーの一人である小泉花陽――

229芸風ノーチェンジ ◆RPDebfIIlA:2015/09/02(水) 07:01:23 ID:nFiPKWnI0



「のメガネじゃないの」
「なんでメガネ!?」

1枚目の黒カードから出てきたのは、小泉花陽――小泉花陽のメガネであった。
にこはプライベートで何度かコンタクトを外してメガネを装着した花陽を見たことがあるため、その赤い柄を見て瞬時に判別できた。

「いくら僕がメガネくらいしか特徴ないからって支給品までメガネにする必要ねーだろうが!!
そりゃ確かにメガネのおかげで助かったことあるけど!!周りが性転換してるのに僕だけメガネの柄の色が変わっただけで済んだけども!!」
「自覚してたんだ…」
「自覚って…え、ちょっと待ってください、にこさんの僕の第一印象ってまさか――」

にこは申し訳なさそうに新八から目を逸らしたあと、先ほどの『にっこにっこにー』をしていたときと同じポーズをとり、

「な、何のことだか全然わからないにこー♪にこはー、新八君のことメガネスタンドみたいだなんてぜーんぜん思ってないにこ?」

としらばっくれた。

「腹立つ…!さっきは可愛いと思ったけど今は滅茶苦茶腹立つ!!」

頬にビキビキと血管が浮き出る感触を感じつつ、気を取り直して2枚目の黒カードを手に取り、アイテムを召喚する。
無論、新八の心は殆どを嫌な予感に支配されていた。
それでも。それでもまともなアイテムが出てくれるという一抹の希望に縋りながら、出てきたそれを見た。

「またメガネね」
「うん…なんとなくそんな気はしてた」

その黒カードの裏側に記載されているアイテム名の欄を見ると、【岸谷新羅のメガネ】と書いてあった。
――僕って一体何?
そんな思いの元、新八は涙を堪えながら最後の黒カードを手に取る。
もはや期待などしていない。過去に人間かけたメガネとか揶揄されたこともあるが、こうもメガネが関わってくると諦観しか生まれない。
悲愴感と共に黒カードからアイテムを出す。

「メガネね」
「メガネですね…」

黒カードの裏側を見る。【越谷 卓のメガネ】と書いてあった。

「マジでホントふざけんなよあのカリフラワァァァ!!なんで黒カードの中身が3枚ともメガネなんだよ!!
アレか、僕がメガネのおかげで命拾いしたことあるからってメガネをゲームの残機みたいに扱えってのか!?
できるわけねーだろ!!ここは現実で心臓一突きされたら一巻の終わりなんだよ!!スマブラじゃねーんだよ!!」

230芸風ノーチェンジ ◆RPDebfIIlA:2015/09/02(水) 07:02:02 ID:nFiPKWnI0

目を血走らせて怒り狂う新八をよそに、にこもヘルゲイザーの入ったカードを取り出す。
説明によると、これは魔女が使う箒らしく、この殺し合いの場では素養に左右されるものの誰でも魔法が使えるようになっているらしい。
「プチデビル」という存在が必要な魔法は行使できないようだが、悪魔なんてにこは見たこともないし見たくもないので特に気にしないことにした。

「使える魔法は……相手に幻覚を見せたり視覚を奪ったりする魔法――何よ、魔法少女らしくないわね」

にこの理想的な魔法少女らしい魔法といえば、「箒を飛ばす魔法」くらいか。
「箒を飛ばす」のだからきっと箒に跨って空を飛べるのだろう。
一応、攻撃魔法も使えるらしい。
ひとまず、黒カードからヘルゲイザーを出してみる。
実際に見てみると、確かにただの箒だ。柄の部分には六芒星を模した飾りが付いている。

「…ちょっとやってみようかしら」

にこは何かを思いつき、早速それを実行に移す。
虚空に向かってウィンクをしながら、

「魔法少女――」

ヘルゲイザーを片手に人差し指と小指を突き立て、

「にこにーにこちゃん!」

咄嗟に考えた決め台詞と決めポーズをとる。

「にこっ♪」

なんとなく、魔法少女っぽくなれたような気がする。
殺し合いなんて異常な状況にいるけど…こんな夢でしか味わえないような体験をするのは悪くないかもしれない。

「何寒いことやってんですか」
「ハッキリと寒いって言ったわこの人!!世界のYAZAWAって言ってた割には随分と熱い手の平返しじゃない!?」

落ち込んだ様子で、ポーズをとっていたにこの背後から新八が声をかけた。
メガネを黒カードに回収したのだが、依然としてその表情は暗い。
切り札になり得るアイテムなのに3つともメガネを引き当ててハットトリックを達成してしまったのだから当然といえば当然か。

231芸風ノーチェンジ ◆RPDebfIIlA:2015/09/02(水) 07:03:22 ID:nFiPKWnI0

「私がやろうとしてるのは寒いことじゃなくてま・ほ・う!」
「ああ、それって刃牙君がくれた箒ですよね?本当にそれで魔法なんて使えるんですか?」
「やってみないとわからないわ!『箒を飛ばす魔法』っていうのを使ってみようと思うの」
「『箒を飛ばす魔法』…魔女宅みたいに空を飛ぶ魔法なのかな」

どこか哀愁が漂っているメガネに内心で同情しながら、箒に跨って実際に魔法を使おうとする。

(えっと…)

しかし、よくよく考えればどうやって魔法を使えばいいのかわからない。
にこは魔導士でもなければ、特別な素質を持っているわけでもない。
とりあえず、『箒を飛ばす魔法』の最も近くに『箒星』と書いてあったのを思い出し、

「――箒星」

と唱えた。
――すると。

「…にこさん、動いてます!箒が動いてます!」
「ホントだ…すごい…まるで魔法少女みたい…」

僅かにだが、にこの跨る箒が動き始めた。
しかし、それと同時ににこの体に容赦なく疲労感がのしかかった。
魔法とは、魔力を消費して発動するもの。
素質を持たないにこからただでさえ少ない魔力を持っていかれるので、短時間で疲労が蓄積してしまうのだ。

「だ、大丈夫ですか!?」
「まだいけるけど…ちょっときついかも…」

にこが辛そうな表情を浮かべたのを見て、新八が心配して駆け寄る。
今のところ中程度の疲労で済んでいるが、重ねて魔法を行使したとなれば気絶は免れないであろう。
しかし、にこを襲う災難はこれだけではなかった。

「あの…にこさん、なんかこの箒、様子が変ですよ?」
「へ?」

新八がヘルゲイザーの異変に気づく。
先ほどから箒が小刻みに震えていると思えば、穂の部分が光っていた。
力を溜めているようにも見えて、まるで急発進しようとしているロケットのようで――

「にこさん、コレ危ないです!早く降り――」

232芸風ノーチェンジ ◆RPDebfIIlA:2015/09/02(水) 07:05:22 ID:nFiPKWnI0
新八が言い終える前にヘルゲイザーは空へ向かって一直線に飛び出した。
…それに跨るにこと咄嗟にヘルゲイザーの柄を掴んだ新八を乗せて。

「「ウオアアアアアアァァァァァァァ―――――――!!!!!!」」

数瞬と待たぬうちに、地面がみるみる遠くなっていく。
にこも新八も、自分達が空を旅しているのだと直感的にわかった。
にこが発動した魔法は、『箒星』。
確かに「箒を飛ばす魔法」だが、その実は「箒を猛スピードで飛ばして攻撃する魔法」である。
そのため、ヘルゲイザーは跨っているにこのことなど気にも留めず、定められた方向へ一直線に突進したのだ。
箒の向いていた角度が上向きだったので、結果的に空を飛ぶことになってしまったのは皮肉という他ない。

「……にこさん、目を開けてみてください」
「……新八、私空を飛んでいるわ」

2人は夜空の彼方へと消えていった…。
その向かう先はヘルゲイザーのみぞ知る。

【G-6/上空/一日目・黎明】
【志村新八@銀魂】
[状態]:メガネ
[服装]:特になし
[装備]:菊一文字RX-78@銀魂、メガネかけ器@銀魂
[道具]:特になし
[思考・行動]
基本方針:………。
   1:………。
[備考]
※腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(8/10)、黒カード:3枚(小泉花陽のメガネ@ラブライブ!、岸谷新羅のメガネ@デュラララ!!、越谷 卓のメガネ@のんのんびより)は、メガネかけ器に装着されています。

【矢澤にこ@ラブライブ!】
[状態]:魔力消費(中)、疲労(中)
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:ヘルゲイザー@魔法少女リリカルなのはViVid、タブレットPC@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(8/10)
    黒カード:不明支給品0〜1枚、イヤホン
[思考・行動]
基本方針:皆で脱出
   1:新八と、鉄道を使って音ノ木坂学院に向かう 
   2:μ'sのメンバーと合流したい
[備考]
※参戦時期は少なくとも2期1話以降です
※志村新八と情報交換しました

※歩狩汗@銀魂×2、志村妙のダークマター@銀魂がG-6/映画館前に放置されています。
※ヘルゲイザーに乗ったにこと新八がどこへ向かうかは後続の書き手様にお任せします。
※箒星は魔法に素養のないにこが発動しましたので、そんなに遠くへは行かないかもしれません

【タブレットPC@現実】
2010年頃から本格的な普及が始まった、パーソナル・コンピュータの一種。
板状の外見で、表示画面に直接触れるような操作が可能である。
画面には現在時刻が表示されていますが、機能の詳細は後続の書き手にお任せします。

【小泉花陽のメガネ@ラブライブ!】
小泉花陽が1期にて、主にμ'sに加入する前にかけていたメガネ。
かけるとかよてぃんになれる気がする。

【岸谷新羅のメガネ@デュラララ!!】
岸谷新羅がアニメでかけているメガネ。
かけると一人称がころころと変わる気がする。

【越谷 卓のメガネ@のんのんびより】
越谷 卓がアニメでかけているメガネ。
かけると存在感が薄くなる気がする。

【メガネかけ器@銀魂】
志村新八に本人支給。
新八専用のメガネスタンド。
腕輪はメガネかけ器に装備されている。
ある意味スタンド@ジョジョの奇妙な冒険ともいえるかもしれない。

233芸風ノーチェンジ ◆RPDebfIIlA:2015/09/02(水) 07:06:37 ID:nFiPKWnI0








「おいィィィィィィィィ!!僕の状態表だけなんかおかしいだろうが!!完全にメガネが本体になってんだろうが!!」






【G-6/上空/一日目・黎明】
【志村新八@銀魂】
[状態]:健康
[服装]:いつもの格好
[装備]:菊一文字RX-78@銀魂、メガネ
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(8/10)
    黒カード:3枚(小泉花陽のメガネ@ラブライブ!、岸谷新羅のメガネ@デュラララ!!、越谷 卓のメガネ@のんのんびより)
[思考・行動]
基本方針:ゲームからの脱出
   1:この箒はどこへ向かっているんだ…?
   2:にこさんと、鉄道を使って音ノ木坂学院に向かう
   3:銀さん、神楽ちゃん、桂さん、土方さん、長谷川さん、μ'sのメンバーと合流したい
   4:神威、範馬勇次郎を警戒
[備考]
※矢澤にこと情報交換しました
※範馬刃牙と情報交換しました
※万事屋付近にいる天々座理世、風見雄二とは時間帯が深夜だったこともありニアミスしています


【矢澤にこ@ラブライブ!】
[状態]:魔力消費(中)、疲労(中)
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:ヘルゲイザー@魔法少女リリカルなのはViVid、タブレットPC@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(8/10)
    黒カード:不明支給品0〜1枚、イヤホン
[思考・行動]
基本方針:皆で脱出
   1:私空を飛んでいるわ
   2:新八と、鉄道を使って音ノ木坂学院に向かう
   3:μ'sのメンバーと合流したい
[備考]
※参戦時期は少なくとも2期1話以降です
※志村新八と情報交換しました
※範馬刃牙と情報交換しました


※歩狩汗@銀魂×2、志村妙のダークマター@銀魂がG-6/映画館前に放置されています。
※ヘルゲイザーに乗ったにこと新八がどこへ向かうかは後続の書き手様にお任せします。
※箒星は魔法に素養のないにこが発動しましたので、そんなに遠くへは行かないかもしれません

【タブレットPC@現実】
2010年頃から本格的な普及が始まった、パーソナル・コンピュータの一種。
板状の外見で、表示画面に直接触れるような操作が可能である。
画面には現在時刻が表示されていますが、機能の詳細は後続の書き手にお任せします。

【小泉花陽のメガネ@ラブライブ!】
小泉花陽が1期にて、主にμ'sに加入する前にかけていたメガネ。
かけるとかよてぃんになれる気がする。

【岸谷新羅のメガネ@デュラララ!!】
岸谷新羅がアニメでかけているメガネ。
かけると一人称がころころと変わる気がする。

【越谷 卓のメガネ@のんのんびより】
越谷 卓がアニメでかけているメガネ。
かけると存在感が薄くなる気がする。

234 ◆RPDebfIIlA:2015/09/02(水) 07:09:05 ID:nFiPKWnI0
以上で仮投下を終了します

かなり急ぎで書いたのと、かなりネタ寄り(特に状態表)な内容になりましたので、
そちらの可否判断をよろしくお願いします
もし寒かったら修正した上で本投下したいと思います

235名無しさん:2015/09/02(水) 07:33:58 ID:ouYgfgso0
仮投下乙です
眼鏡かけ器@銀魂に笑った
個人的には問題ないと思います

236名無しさん:2015/09/02(水) 09:13:04 ID:A/I.37/g0
結局ランサーの顔を見たキャラは殺人を躊躇せず行う人格に改変されるということでいいの?

237 ◆zUZG30lVjY:2015/09/02(水) 09:41:49 ID:.uGvEJ4o0
>>236
その辺は議論スレの方で話す方がいいかと


◆DGGi/wycYoさんの投下があったのでこちらも仮投下します

238Libra ◆zUZG30lVjY:2015/09/02(水) 09:42:56 ID:.uGvEJ4o0
狩猟とは常に己の忍耐との戦いである。
時にはいつ来るとも分からない獲物を待ちぶせ、時には獲物の痕跡を探って広大な大地を彷徨う。
たとえ丸一日の労力が無駄に終わることになったとしても、次の日にも同じことを続けられる忍耐力。
それこそが狩猟に要求される最大の能力だ。
無人の市街地を駆け抜けながら、ランサーはあまりにも基本的な心得を思い返していた。

「(だが……これは狩猟よりもよほど厄介だな)」

思わず歯噛みせずにはいられなかった。
ランサーを狩猟者、セイバーを獲物と喩えるのは容易いが、この表現は的を射たものとは言い難い。
これが"狩猟"であるならば、特定の標的を執拗に追いかける必要はない。
追跡困難と判断した時点でその標的を諦め、別の狩り易い標的を探すべきであり、そのサイクルをいつまでも続けられることこそが狩猟に求められる忍耐である。
唯一無二の標的を追い続ける忍耐力は狩猟に求められるものではないのだ。

――思い出されるのはグラニアとの逃亡の日々。
怒りに燃えるフィン・マックールは、フィオナ騎士団の総勢のみならず盟約を結んだ外地の兵までも動員し二人を狩り立てた。
過剰とも言える兵力数は、しかし決して過ぎたものではない。
野に解き放たれた野兎一羽。
他のどの野兎でもなく、そのたった一羽を探し出し仕留めることがどれほど困難か分からぬ者はいないだろう。
現実的な手段で成し遂げようとするなら人海戦術で探し当てるより他にない。

翻って、現状はどうか。
総勢七十人――死亡者を加味しても六十人前後のうち、標的はセイバーただ一人。
それを追うもディルムッド・オディナただ一人。
もはや藁の山から一本の針を見つけ出すにも等しい難行だ。

「(……やはり手がかりが少なすぎる)」

ランサーが得ている手がかりは、学院から見て東の方角に光を見たというただ一点のみ。
その光が具体的にどこで発せられたのかすら定かではなかった。
故にランサーは、ひたすら東へ進みながら破壊の痕跡を探し続けることしかできないでいた。
それでも『不可能だ』と諦めきれないのは、偏に宝具の破壊力の凄まじさを知っているからに他ならない。
光輝の眩さと魔力の迸りから察するに、開放されたのは対軍、あるいはそれ以上の種別の宝具。
ならば地表や周辺構造物に少なからぬ被害がもたらされているはずである。
その痕跡さえ見つかれば有力な手がかりとなるはずだ。

ランサーは低層の建物を踏み台に跳躍を繰り返し、近隣で最も高い建物の屋上に降り立った。
ここなら広範囲を見渡すには充分な高さがある。おおよそエリア1つ分かそれ以上の範囲を見渡すことができるだろう。
夜間故の視認性の悪さも、サーヴァントの超常的な視力にとってはさほど問題にはならない。
――本来ならば濃霧が立ち上っていようと4km先を見通すことができるのだが、この戦場における弱体化は視覚にも及んでいるようだ。

川の河口、否、島々を分断する海峡の向こうに病院と思しき建築物が見える。
いかにも傷ついた者達が集まりそうな場所だ。
仮にランサーが無差別殺戮を試みるなら、真っ先に目をつけておく施設の一つだろう。
支給品というシステムが存在する以上、弱者を殺め装備を奪うことは戦力の拡充に直結する。
恥も外聞もかなぐり捨てて勝利を目指すのならという前提ではあるが、序盤の戦略としてこれ以上に有効なものはないはずだ。
あまり快くない想像を働かせながら、視線を手前の方に戻していく。
やがて、今まで見落としていたことが不思議なくらいの『違和感の塊』が目に止まった。

「(橋が――ない?)」

地図が正しければ現在位置と病院の間には橋が架けられているはずだ。
しかし、どんなに目を凝らしてもそれらしきものは見当たらない。

「……あそこか!」

ランサーは建物から飛び降り、橋があるべき場所へと一直線に駆け出した。
痕跡の在処さえ見つかれば牛歩に徹する必要はない。
最速のクラスの名に恥じぬ俊足で車道を走り抜け、瞬く間に郊外の岸壁まで辿り着く。
そこに広がっていたのは目を疑わずにはいられない光景だった。
橋梁の崩壊自体は想定の範囲内だが、破壊の痕跡が明らかに異質。
爆破による崩壊でも、橋脚の破壊による崩落でもなく、純然たる熱量で丸ごと焼き払らわれている。
一体どれほどの熱量を束ねればこんな芸当が出来るというのか。

239Libra ◆zUZG30lVjY:2015/09/02(水) 09:44:06 ID:.uGvEJ4o0
「…………」

動かぬ証拠が目の前にある。
しかしながら、ランサーは安易にその場を動こうとはしなかった。
焦りに任せて行動を起こすべきではない。戦士としての経験がそう告げていた。

確かに、この破壊が宝具によってもたらされた公算は高い。
だがそれは『セイバーの宝具によってもたらされた破壊』であることを保証しない。
ランサーは腰に提げた――すぐさま抜き放てるようカードには戻していない――キュプリオトの剣に手をかけた。
征服王イスカンダルの剣。それがここにある以上、名簿に名のないサーヴァントの武具も存在しうると考えるのが道理である。
そう、アーチャーの宝具もまた然り。
バーサーカーに放たれた無数の宝具の中に、真名解放によってこれほどの破壊をもたらす宝具があったとしても何の不思議もないのだ。

しかも問題はそれだけではない。
――仮に、橋を破壊したのがセイバーであると仮定しよう。
次に浮かぶ疑問は『何故』だ。
対軍宝具、あるいはそれを凌駕する対城宝具や対国宝具の真名解放ともなれば、魔力消費は極めて膨大なものとなる。
大量の魔力を何の意味もなく浪費するサーヴァントなどいるはずがない。
セイバーには橋を壊さなければならない理由があったはずなのだ。

「それも……橋を渡る前に」

破壊の痕跡を見る限り、宝具の真名解放がこちら側の岸で行われたことは確定的だ。
これから渡ろうとする橋を破壊したというのなら、それこそ相応の意味があったに違いない。

真っ先に思い浮かぶのは、不可抗力。
橋に陣取った強大な敵を倒すため止むを得ず橋を巻き込んだというパターンだ。
この場合は単純明快。敵の撃破と引き換えに橋は破壊され、セイバーは渡海を諦めた可能性が高い。
無論、舟などの渡海手段を確保した可能性もあるが。

次に可能性が高いのは生存者の封じ込めだ。
海峡を渡る手段が豊富に存在するとは考えにくく、常人が自力で泳ぐには過酷過ぎる。
つまり、3箇所の橋と1箇所の鉄道橋が破壊されてしまえば、この島にいる参加者の大部分は他の島に移動できなくなる。
こちらの仮説が正しければ、セイバーは未だにこの北西の島に残っているはずだ。

そして三番目、最も可能性の低い仮説。
三つの島を結ぶあらゆる交通手段を途絶させ、全ての参加者から移動の自由を剥奪する――

「……くっ」

宝具を用いた痕跡さえ見つければ手がかりになるとばかり思っていたが、いざ見つけてみると結果は真逆。
橋が落とされていたという事実が、ランサーに理不尽な選択を突きつけてきていた。
海を渡ったと判断して渡海を試みるべきか。
未だこの島にいると判断して引き返すべきか。
前者は、単なる移動の一環として渡った場合と、諸島全体を巻き込む計略が発動された場合に分かれる。
後者は、島を移ることを諦めた場合と、この島に狙いを絞った封じ込め戦略を取った場合に分かれる。

全体の被害を考慮するなら『島を渡った』と判断するべきだ。
しかし、この島には見知った者達がいる。高坂穂乃果がいる。宇治松千夜がいる。無力な少女達がいる。
もしもセイバーがこの島に残っていたとしたら、彼女達が凶刃に斃れることも覚悟しなければならない。
無様な槍兵が見当違いの方角を彷徨い歩いているうちに――

今、ランサーの前には天秤がある。
片方の腕には、他の2つの島に送り込まれた顔も知らぬ多数の命。
もう片方の腕には、己の呪いが心惑わせた少女を含む少数の命。
選んだ側が『当たり』ならば両方が危機から逃れられる。
選んだ側が『外れ』ならば選ばれなかった側が危機に陥る。
あまりにも不自由な二択。それでもどちらかを選ばなければならない。
ランサーは苦悶を飲み込み、強く瞼を閉じた。

「……すまない」

240Libra ◆zUZG30lVjY:2015/09/02(水) 09:45:16 ID:.uGvEJ4o0
 


    □  □  □



結論を言おう。
ランサーは『少数』を選んだ。

正しき天秤の守り手たらんとするならば、迷うことなく『多数』を選ぶべきである。
しかし、ランサーはそのように振る舞うことを良しとできなかった。
親しき者も見知らぬ者も強き者も弱き者も『1』と数え、純然たる数量の多寡で生死を切り分けるなど、到底許容することができなかったのだ。
そんなものは人間の考えではない。正しくあり続ける機械装置の在り方だ。
もしも人間がこのような思考回路で動こうとするなら、人間らしい感情を捨て去るか、或いは人間らしい感情を際限なく痛めつけ続けるより他にない。
故にランサーは海峡を前に踵を返した。
騎士として、サーヴァントとしての判断ではなく、心あるヒトとしての、ディルムッド・オディナとしての決断だった。







【A-3/市街地/一日目・早朝】
【ランサー@Fate/Zero】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:キュプリオトの剣@Fate/zero、村麻紗@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:『ディルムッド・オディナ』としてこの戦いを戦い抜く。
1:まずは北西の島からセイバーを探す。
2:穂乃果、千夜に「愛の黒子」の呪いがかかったことに罪悪感。
3:セイバーは信用できない。そのマスターは……?
[備考]
※参戦時期はアインツベルン城でセイバーと共にキャスターと戦った後。
※「愛の黒子」は異性を魅了する常時発動型の魔術です。魔術的素養がなければ抵抗できません。
※村麻紗の呪いにかかるかどうかは不明です。

241Libra ◆zUZG30lVjY:2015/09/02(水) 09:46:13 ID:.uGvEJ4o0
仮投下終了です
先の話の修正がどうなっても大丈夫なように、比較的ニュートラルな立ち位置からの考察回ということで

242 ◆zUZG30lVjY:2015/09/02(水) 09:52:39 ID:.uGvEJ4o0
指摘される前に一つ

>総勢七十人――死亡者を加味しても六十人前後のうち、標的はセイバーただ一人。
この六十人前後というのは、だいたいこれくらいだろうというランサー視点での当て推量です

243 ◆0safjpqWKw:2015/09/07(月) 10:21:05 ID:6UIwZmhU0
少し不安な点があるのでこちらに投下します

244フォロウ・ザ・コールド・ヒート・シマーズ ◆0safjpqWKw:2015/09/07(月) 10:22:33 ID:6UIwZmhU0

駅に向かって走り続けるランサーは、ふと立ち止まった。
広い三叉路。左に行けば駅に続き、右に行けば最初の目的地だった音ノ木坂学院がある。
右手の道の先、夜であれば見逃してしまいそうな黒い影。
朝日に照らされ始めた今では、それが人の身体――遺体だとはっきり認識できる。

「……あれが、セイバーと戦って敗れたという、トウシロウか」

遺体の傍らに立ったディルムッドは目を伏せる。
侍は全身に傷を負っていた。一つとして、軽傷と呼べるものはない。
どれもが致命の一撃。命を刈り取ることを目的として放たれた、「殺す」ための剣ばかりだ。
特に、腹部への突きと胴部に走る袈裟切りの一撃が深い。真正面から渾身の力で斬り伏せられたことが容易に想像できる。
思わず簡単しそうなほど見事な切り口。しかしディルムッドの表情は暗い。
ディルムッドの見立てでは、この男は腹部か胴部、どちらかの一撃でほぼ間違いなく力尽きたのだろう。
だが下手人――セイバーはそれだけでは飽き足らず、駄目押しの一撃を加えた。
放っておいても絶命する男に、辞世の句を残すことすら許さず、無慈悲なまでの死を叩きつけた――あの、正しき騎士たらんと揺るがぬ誇りを掲げていたはずのセイバーが。

「モトべの言う通り……お前は、騎士道を捨てたのだな。俺などよりも遥かに……苛烈に、徹底的に」

騎士王と交わした剣を思い出す。
胸踊り血が沸き立つ、騎士の誇りを賭けたあの決闘を。
ディルムッドが生前経験したどんな戦いにも勝るとも劣らない、清澄かつ純粋なあの剣劇を。
初戦はディルムッドが優勢だったものの、まだ決着はついていない。
片腕の自由を奪われてもなお衰えぬあの闘志に、ディルムッドは身震いするほどの敬意と歓喜を掻き立てられた。
騎士王の名に恥じぬ、煌めく星々にも勝る気高さ。
相手にとって不足なし、どころではない。かの王を剣で打ち倒すことこそ、騎士たる者が心震わし挑む大いなる試練――!

「……なるほど、これが甘さか。確かにこんなものを抱えていては、今のセイバーには及ばんな……」

それら全てを――セイバーは、打ち捨てている。
自らを縛る鎖を斬り裂き、身を軽くして、ひたすら前へと突き進んでいる。
今一度覚悟を新たにし、ディルムッドは刀を抜く。
キュプリオトの剣ではなく、本部から預かった村麻紗を――眼前に伏す、一人の侍の魂を。

245フォロウ・ザ・コールド・ヒート・シマーズ ◆0safjpqWKw:2015/09/07(月) 10:22:58 ID:6UIwZmhU0

「トウシロウ、東洋の侍よ。埋葬してやりたいところだが、今は時間がない。
 だが、お前の意志は俺が継ぐ。お前が騎士王と打ち合ったこの刀に誓おう。
 騎士王は必ずや俺が討ち果たす。お前が遺した、この刀でな」

ディルムッドは刀を納め、土方十四郎の亡骸を抱えて跳躍した。行き先は、ほど近くにある音ノ木坂学院。
先を急ぐ身ではあれど、ディルムッドは土方の遺体をあのまま野晒しにしておくことはできなかった。
日が昇れば急速に腐敗が始まる。せめて日の当たらぬところで眠らせてやりたい。
場所の検討も付いている。先ほど穂乃果に案内された際、最後に見た場所、アルパカの小屋だ。
ディルムッドの足ならば、寄り道しても一分とかからない。
あのときは本部が立っていたためじっくりとは見聞していないが、本来の主であるアルパカがいないことはわかっている。
決闘の場から一跳びで小屋の前に到着し、中に土方の遺体を横たえようとして――

「……むっ!?」

突如、ディルムッドの足元が光を放った。
警戒し、瞬時に小屋を出ようとしたディルムッドだがその背中が硬いものに突き当たる。
視線を巡らせれても、そこに壁などない。
あったのは光の帯。小屋の中心から放射線状に広がった青い光が、ディルムッドの退出を防いでいる。
そして光は徐々に勢いを増し、やがて目も眩むほどの光になって――!





「……なん、だと……?」

光が収まった時、ディルムッドの見る景色は一変していた。
狭いアルパカ小屋ではない。
木造の建物。その教室の一つ。


「ば、バカな……ここは音ノ木坂学院ではないぞ。どこだ、ここは!?」

土方の遺体を横たえ、ディルムッドは地図を開き、現在地を確認する。
F-4。旭ヶ丘分校。ディルムッドと土方十四郎の遺体は、音ノ木坂学院から遠く離れた南の島に転移していた。

246フォロウ・ザ・コールド・ヒート・シマーズ ◆0safjpqWKw:2015/09/07(月) 10:23:27 ID:6UIwZmhU0

「何故だ、何故……!」

そのとき、ディルムッドの腕輪からすとんと一枚のカードが落ちる。それは黒カードではなく、IDカード。
キャスターに破壊された「ファバロの剣」と同じく、ディルムッドに支給された黒カードの変化した物体。
その効果は、特定施設のアンロック。
殺し合いの会場となる西の島、東の島、南の島は橋と電車によって繋がっているが、地続きではない。
橋と線路が全て破壊された場合、水面を渡る手段を持たない者は島に閉じ込められてしまう。
無論、そこまでの事態はそうそう起こるものではないが、かといって確実に起こらないとも断言できない。
そうなった場合のフェイルセーフ。
それが、三つの島に一つずつ存在する学び舎――音ノ木坂学院、旭ヶ丘分校、本能字学園――を繋ぐ、ワープ装置であった。
本来、このワープ装置は殺し合いが始まってからリミットの半分、つまり36時間で自動的に開放されるものだった。
が、ディルムッドの持っていたIDカードはそのタイマーをパスし、装置を使用可能にするカードキーだったのだ。
ディルムッドは殺し合いが始まってすぐキャスターの気配を察知したため、己のカードで最初に出てきた剣を掴むやいなや行動を開始した。そのため、残るカードを確認できていなかった。
穂乃果と合流した後も、愛の黒子の呪いにかかった穂乃果をケアすることで忙しく、また征服王の剣という獲物も手の中にあったため確認を怠っていた。
そして知らぬままアルパカの小屋というワープ装置のある施設に踏み入ったため、IDカードを認証した装置が自動で起動し、ここに転移させたのだった。

「装置は一度起動すると……バカな! 六時間は再使用不可だと……!」

黒カードに戻したIDカードから効果詳細が浮かび上がり、ディルムッドは絶句する。
一度起動した装置は再使用が可能になるまで六時間かかる。
つまり西の島の装置は停止しているため、ここから東の島に行くことはできるが、すぐに西の島へ舞い戻ることは不可能なのである。

「ここから走って駅まで、どれだけ時間がかかる……!」

本来であれば、ワープ装置は重要な移動手段となっただろう。
だが先を急ぐ槍兵には、これ以上ないほどの不幸となってその背中を刺したのだった。

「どうすればいい、どうすれば……!?」

ディルムッドの――ランサーの問いに答える者は、誰もいない。
日が差し暖かくなり始めた学校で、土方十四郎の亡骸だけが冷たい汗を流すランサーの慟哭を聞いていた。

247フォロウ・ザ・コールド・ヒート・シマーズ ◆0safjpqWKw:2015/09/07(月) 10:24:11 ID:6UIwZmhU0

【F-4/旭ヶ丘分校教室/一日目・早朝】

【ランサー@Fate/Zero】
[状態]:ダメージ(小)、焦り
[装備]:キュプリオトの剣@Fate/zero、村麻紗@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:IDカード
[思考・行動]
基本方針:『ディルムッド・オディナ』としてこの戦いを戦い抜く。
1:可及的速やかにB-2の駅に戻る。
2:穂乃果達から離れたことに対しての後悔。
3:状況が許す限り、セイバーの追討を優先。場合によっては鉄道も活用する。
4:穂乃果、千夜に「愛の黒子」の呪いがかかったことに罪悪感。
[備考]
※参戦時期はアインツベルン城でセイバーと共にキャスターと戦った後。
※「愛の黒子」は異性を魅了する常時発動型の魔術です。魔術的素養がなければ抵抗できません。
※村麻紗の呪いにかかるかどうかは不明です。
※A-4の橋の消滅を確認しました。
※セイバーの行先に関しては、向こう岸へ渡った場合とこちら側に残った場合の両方を考慮しています。


・支給品説明
「IDカード@アニロワ4オリジナル」
音ノ木坂学院、旭ヶ丘分校、本能字学園を結ぶワープ装置の認証キー。
ワープ装置は本来ゲーム開始から36時間経たなければ開放されないが、このIDカードを持つ人物だけはそのセキュリティを回避して装置を使用できる。

・施設説明
「ワープ装置」
音ノ木坂学院、旭ヶ丘分校、本能字学園にそれぞれ設置されたワープ装置。
橋、電車が不通になった時のための安全装置のため、ゲーム開始から36時間経たなければ開放されない。
ただしIDカードを持つ者であればセキュリティを回避できる。
また、一度使用すると送信側(つまり使用者が最初にいる場所)の装置は六時間システムダウンし、受信も送信もできなくなる。
音ノ木坂学院のワープ装置はアルパカの小屋、旭ヶ丘分校のワープ装置はれんげたちの教室。
本能字学園のワープ装置については後続の書き手にお任せします。

248フォロウ・ザ・コールド・ヒート・シマーズ ◆0safjpqWKw:2015/09/07(月) 10:25:33 ID:6UIwZmhU0
投下終了です。
使用できる人物に制限があるとはいえ、この段階で場所を瞬時に移動できる施設がありかどうかご意見をお願いします。

249名無しさん:2015/09/07(月) 13:02:28 ID:ehzT4OPs0
ワープについては意見が分かれると思いますが、自分は大丈夫だと思います

ワープの転送先については、指定は出来ず、どちらかの施設にランダムで飛ばされるという解釈でよいのでしょうか?

250名無しさん:2015/09/07(月) 14:49:37 ID:nm9I7SEo0
仮投下乙です
特に問題ないかと思います

251名無しさん:2015/09/07(月) 16:07:40 ID:nm9I7SEo0
同じく問題は無いかと

252名無しさん:2015/09/07(月) 16:59:21 ID:ctrPHXNE0
土方の死体は音ノ木坂学院と公園の間で、A-2の右端付近
ランサーはA-4の橋からB-2の駅までまっすぐ戻る途中で、現在位置はB-3

これでたまたま死体を見かけるって、位置関係はどうなっているんだろう

253名無しさん:2015/09/07(月) 19:29:41 ID:6gK5PH3M0
市街地のB-3からB-2にかけて移動している時に、たまたま死体との間に遮るような建物がなく、鯖の視力で目に留まった…って可能性もあるが
それにしたって地図の縮尺がかなり縮まってる感じはある
千夜も夜中で見つかりにくかったとはいえ、かなりの距離を走ってB-2まで逃げ切ったような描写だったし

254名無しさん:2015/09/07(月) 19:35:31 ID:8KDNpeds0
ワープ装置の仕様については特に目立った問題は無いと思います

ただ強いて言うなら、前話までに決められていたキャラの進行方向を一話で変える
ワープ装置の唐突な登場という事実は、正直なところ少しだけ引っ掛かりました
とは言え単なる気持ちの問題といえばそれまでなので、何も無いなら自分も強く主張しません

255名無しさん:2015/09/07(月) 20:05:18 ID:ctrPHXNE0
>>253
>広い三叉路。左に行けば駅に続き、右に行けば最初の目的地だった音ノ木坂学院がある。
>右手の道の先、夜であれば見逃してしまいそうな黒い影。
この表現で位置関係が更にカオスってる気がする

256名無しさん:2015/09/07(月) 20:18:50 ID:ctrPHXNE0
ttp://s1.gazo.cc/up/151962.jpg

図示すると、こう
これ作ってて気付いたけど、ひょっとして修正版の状態表じゃなくて、
Wikiに載ってるバージョンの現在位置地図を見て話を考えたのかな

257名無しさん:2015/09/07(月) 20:25:20 ID:WBGBiakM0
その図以外のパターンはいくらでもあるぞ
そんな難癖じみた指摘するぐらいなら素直に「気に入らないから破棄しろ」って言えば?

258名無しさん:2015/09/07(月) 20:28:45 ID:YnBujQqg0
そのいくらでもあるパターンを示さないと議論を引っ掻き回そうとする荒らしにしか見えんぞ

259名無しさん:2015/09/07(月) 20:32:43 ID:WBGBiakM0
>>258
例えば>>256の図で言うと赤のライン上に三叉路があったと考えればなんの問題もない

260名無しさん:2015/09/07(月) 20:33:54 ID:ctrPHXNE0
>>259
それ三叉路じゃなくて丁字路じゃね

261名無しさん:2015/09/07(月) 20:35:46 ID:WBGBiakM0
>>260
「三叉路があったら」って話だけど

262名無しさん:2015/09/07(月) 20:37:58 ID:ctrPHXNE0
いやまぁ丁字路も三叉路の一種といえばそうなんだが、
上の図みたいに死体が移動ルートの近くにあるならともかく、
駅までの距離と大して変わらないのに寄り道するのはそれはそれでおかしくなる
お前、自分が不在の間に何か起こるの不安がってたじゃねーか、と

263名無しさん:2015/09/07(月) 20:39:51 ID:3STuUG2c0
出先で地図見れないから的外れだと申しわけこの議論もないけど、赤ラインがエリア区分なら死体の置いてあるエリア次第なんじゃないの?

264名無しさん:2015/09/07(月) 20:45:04 ID:WBGBiakM0
>>262
1分掛からないって書いてあるし別に何とも思わないけど

というかこの程度で一々修正要求されてたらやってられん

265名無しさん:2015/09/07(月) 20:46:09 ID:QMM6D7fY0
そもそも市街地なんだから常識的に考えたらまっすぐ移動するんじゃなくてある程度道沿いに動いてるんじゃないですかね
どうも自分の考えたルートしかあり得ないと思ってるぽいけど

266名無しさん:2015/09/07(月) 20:47:45 ID:YnBujQqg0
ランサーの思考に関しては、元々支離滅裂なキャラとして描かれているから多少の不自然な行動はアリだと思う

267名無しさん:2015/09/07(月) 20:48:04 ID:XeIYninU0
それはそうと、アルパカ小屋ってなんか臭いそう
もっといい場所がなかったのかというか、駅に連れて行ってやれなかったのかというか

268名無しさん:2015/09/07(月) 20:52:02 ID:6gK5PH3M0
エリア1マスの距離とか言い出したらきりがないけど、
鯖の身体能力とはいえA-2の端っこからA-2の中央ぐらいにある学園まで行って死体置いてくる寄り道に一分とかからないっていうのもちょっと苦しくないか

269名無しさん:2015/09/07(月) 20:58:02 ID:XeIYninU0
>>263
死体があるのはA-2で現在位置はB-3、目的地はB-2

>>265
初登場話でも跳びまくってるし、急いでるなら建物とか踏み越えてまっすぐ移動するんじゃないかな

270名無しさん:2015/09/07(月) 21:23:08 ID:XeIYninU0
仮投下の本題の方に反応するの忘れてた
ワープ装置については>>254の下の段と同じかな
個人的には最初の放送の前に出す類の追加施設じゃないと思った

>「ここから走って駅まで、どれだけ時間がかかる……!」
市街地エリアの半分を1分足らずで踏破できるならだいたい8分です

271名無しさん:2015/09/07(月) 22:03:43 ID:UEsDYb8I0
全速を維持できる訳じゃないし、市街地でもないから変わってくるでしょ
そもそもロワで移動時間をそこまで細かく分析するのはタブーな気が……

272名無しさん:2015/09/07(月) 22:22:28 ID:XeIYninU0
>>271
>全速を維持できる訳じゃないし、市街地でもないから変わってくるでしょ
市街地は建物跳び越えたり回り道する必要があるからなぁ
それに移動スピードが半分でも15分前後だし、線路に着けば線路沿いを障害物ゼロで走れるし……

>そもそもロワで移動時間をそこまで細かく分析するのはタブーな気が……
リレーを挟んでいたり、位置関係や経過時間がハッキリしてなかったりするからだね
今回みたいに、それぞれの位置関係がある程度明確になっていて、同じ話の中でランドマーク間の移動時間が示されてると事情が違ってくる

一分かからないというのをボカしても、短時間で済むならその8倍程度の距離を走る時間で戻ってこれる勘定になるし、
戻ってくるのに凄く時間が掛かる距離とするなら、その8分の1もの距離を寄り道してる場合じゃないってことになる難しい状況だと思った

273名無しさん:2015/09/07(月) 22:30:13 ID:UEsDYb8I0
>>272
だからそこの辺り突っ込んだら厄介だから書き手側が空気読むしかないってこと

274名無しさん:2015/09/07(月) 22:30:35 ID:nm9I7SEo0
>>272
勘違いしていそうなので一応言っておくとすべての書き手があなたの個人的な違和感の修正に付き合わないといけないわけではないので

正直ワープ装置に関しても移動にしても「個人的に気になる」の域を超えていないと思うので本投下でいいかと

275名無しさん:2015/09/07(月) 22:37:34 ID:iqX..4js0
勘違いしているのはそっちでは?
現段階でワープ装置があるかどうかについての意見、つまりは個人の意見を募っているわけですから
それを無視して本投下でいいなんて、何のために仮投下されたのか理解できてないとしか

276名無しさん:2015/09/07(月) 22:39:35 ID:Bfl1xB8.0
本投下されるならだけど、装置の解禁時間はもう少し早くても良いと思った
36時間だと第六回放送までかかる事になるし、そんな時間まで殺し合いが続くけ分からないし
24時間とか12時間でも良いと思う

277名無しさん:2015/09/07(月) 22:40:08 ID:iqX..4js0
それと自分も、ワープ装置は時期尚早かなと思います

278名無しさん:2015/09/07(月) 22:44:27 ID:jJPmxI..0
ワープ装置そのものは良いかと。
左上の橋が壊されたのは痛いので、解禁時間さえもうちょい速くしてくれるならとても助かります

279名無しさん:2015/09/07(月) 22:48:41 ID:nm9I7SEo0
確かに解禁はもう少し早くてもいいかもしれませんね
これに関しても個人的な意見の域を出ないので氏の意思を尊重しますが
全員が納得しなければ本投下できないなんてルールもありませんしその部分さえ終われば投下でいいかと

280名無しさん:2015/09/07(月) 22:54:01 ID:XeIYninU0
>>273
流石に同じ話の中だったらどのロワでも突っ込まれると思うよ

>>274
修正に付き合わないといけないわけではないけど、
このままなら次の話の冒頭で普通に駅にいてもおかしくないよね、って話

>>276
>左上の橋が壊されたのは痛いので
その観点で言うと6時間使えないというのも厳しそう

281名無しさん:2015/09/07(月) 22:58:27 ID:8KDNpeds0
一応自分の意見だけ付け加えておくと、自分は正確には「今回の話でワープ装置が実際に使用される」のが引っ掛かった
これまでの話の流れからしてちょっとご都合が過ぎないか?というのが疑問だったので、だからこそ強くは言わない感じ

282名無しさん:2015/09/07(月) 23:11:23 ID:6gK5PH3M0
そもそも市街地なら、日差しによる腐敗を避けられる建物くらい学校に行かなくてもありそうだしな

283名無しさん:2015/09/07(月) 23:34:17 ID:nm9I7SEo0
>>282
それ言い始めたら何も進まないんじゃ…

284名無しさん:2015/09/07(月) 23:44:22 ID:XeIYninU0
その施設じゃなきゃダメっていう理由ならまだしも、アルパカ小屋で事足りる用件だし…
これが銀魂本編なら土方の幽霊が怒涛の勢いでツッコんでるボケシーンだよ

285名無しさん:2015/09/08(火) 00:00:10 ID:N9iUFcIM0
移動距離にしろアルパカ小屋にしろ決定的な矛盾のない、「個人的には嫌」という程度の問題に過ぎないな
賛同する意見もある以上書き手がこれでいいと判断すれば本投下で問題ない

286名無しさん:2015/09/08(火) 00:05:14 ID:VVcf26eA0
その通り
嫌なら書き手になって自分の好きな展開を書こう

287名無しさん:2015/09/08(火) 00:05:51 ID:SaqPzFWM0
こうやってゴリ推した結果が後になって火を吹いて、この間みたいなトラブルの元になるわけだ

288名無しさん:2015/09/08(火) 00:07:04 ID:PJb8Vl6s0
ありゃどっちかってーと1人の書き手がゴネただけだろ

289名無しさん:2015/09/08(火) 00:12:03 ID:lo7bUBCU0
それだけじゃ遡っての修正議論にまでは至らんよ

290名無しさん:2015/09/08(火) 20:34:14 ID:QZWwOrVU0
意見出尽くしたっぽいし、あとは書き手待ちかな

291フォロウ・ザ・コールド・ヒート・シマーズ ◆0safjpqWKw:2015/09/09(水) 16:12:29 ID:HkdlK3lY0
反応が遅れて申し訳ありません。
装置の是非について、尚早という意見もある一方、あれば助かるという声もありましたのでこのまま本投下したいと思います。
ただ解禁時間が長すぎるという点は「36時間→12時間」に修正します。
様々なご意見をありがとうございました。

292名無しさん:2015/09/09(水) 20:44:57 ID:jipv8DkE0
お疲れ様です。
本投下お待ちしています

293 ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:00:29 ID:eQQbHSfc0
駅組、投下します
色々と議論になったパートでもありますので、一度仮投下させていただきます

294低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:02:14 ID:eQQbHSfc0
それは、本部以蔵という名前の小汚いおじさんに、高坂穂乃果が倒されていた間のこと。
短い棒きれみたいなものを、額に思いっきりぶつけられて。
頭がぐわんぐわんして、ばったりと倒れて。
なんとか起き上がらなきゃ、ランサーさんを助けなきゃと暗闇の中でじたばたして。

そんな時に見えた、悪夢のような、妄想のような。
結局のところは、ただの夢だったのだけれど。
ある意味では、夢じゃなかった。

暗闇に包まれたアルパカ小屋の近くで、本部以蔵がランサーに挑発らしき言葉を投げている。
殺すつもりかもしれない。
そう危惧したのは、初対面の時に感じたぞっとするほどの殺意あるプレッシャーだった。
今またあの男は、同じだけの恐ろしい気迫でランサーに戦いを迫っている。どんな目に遭わされるか、分かったものじゃない。
立ち上がれ、高坂穂乃果。あなたがランサーさんを守らないで、誰が守るんだ。
念を込めて身を起こし、ヘルメットを振りかざす。
ランサーさんは、絶対に殺させない。
声を張り上げてそう叫ぼうとした。

その時、よく知っている声がした。

『だめだよ。穂乃果ちゃん』

ぐい、と。
ひどく冷たくて柔らかい手に、足首を掴まれた。

「ことりちゃん……っ!?」

早く会いたかったはずの幼なじみは、能面のように冷たい顔をしていた。
ずるりずるりと、地面の下からでも現れるように、幾本もの手が――音乃木坂学園の、青い制服の袖から伸びる手が、絡みついてくる。

「なんで!? ランサーさんが危ないんだよ!
どうしてことりちゃんたちが邪魔するの!? 私が止めなきゃ――」
『止めなくていいよ。だって、穂乃果ちゃんがおかしくなったの、あの人のせいなんでしょ?』
『そうやね。あんな男のために命を賭けるなんておかしいわ。穂乃果ちゃんは大事なμ'sのリーダーなんやから』
『9人全員でもう一度ラブライブに出るって決めたじゃない。
なのに、あんたはあの男ばっかり。にこ達のことなんて思い出さなくなってる』
『千夜って子に嫉妬して、醜い顔をしたのも知ってるわよ?
もし、あれが私や希だったとしても、穂乃果はあんな嫌な顔をしたんでしょう?』

こんな時に何を言ってるの。
そう言い返して、地面と足を縫い付けるその四人をはずそうともがいた。
目の前では、ランサーを殺そうとする本部が、神速の攻防を繰り広げている。
早く、あれを止めないといけないのに。皆はどうして、私が好きになった人に死ねなんて言うの。
そう主張しようとして、穂乃香はやっと気が付いた。

295低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:04:02 ID:eQQbHSfc0
ことりたち4人の身体には、下半身がなかった。
皆、小さな白いカードから体が生えていて、悪霊のように穂乃果の身体を絡めとっていた。

「ひっ――」
『あんたが私たちのことを忘れて男とよろしくやってた間に、可愛いにっこにーの体がこんなになっちゃったわよ。あんたのせいよ』
『ランサーさんが心配だから、止められたのに学園まで付いてきたんだよね。
私たちだって学園に向かってるかもしれないのに、私たちのことは心配してくれなかったんだね』
『知っとるよ。あの人が学校に向かおうとした時も、μ'sのことはいいから自分のそばにいて、って思ったんやね。
”穂乃果ちゃんは恋に目覚めたからμ'sの仲間を見捨てる”。そう占いに出てたんやもの』
『穂乃果は一度にたくさんのことを追えるほど器用じゃないって、自分でも分かってるでしょ?
それなのにあなたときたら……私、生徒会長をあなたに任せたのは失敗だったわ』
『楽しそうに学校デートして、歌まで歌っちゃってさ。その間に、私たちがどんな目に遭ったか考えてもみなかったの?』
「違う! 違う違う、違うの!」

『何が違うの』と。
四人が口をそろえて、冷徹な恨みをこめて穂乃果を責める。

ランサーと一緒にいることに夢中で、μ'sのことを忘れたりなんてしない。
そんなことあるわけないと反論しようとしたのに、できなかった。
だって皆が言ったことは、およそ当たっていたのだから。
高坂穂乃果はμ'sのリーダーなのに、ランサーと一緒にいられるだけで浮かれきっていたから。
足元から背中へと這い上がってきたことりが、追い打ちとなる言葉を囁いた。

『前にも穂乃果ちゃんはこういうことがあったよね。
ラブライブに出ることに夢中になって、周りのことを全然見てくれなくて。
自分が満足するためだけに無理な練習をやらせて、結局自分が真っ先に倒れて。
それでラブライブに出られないって皆をがっかりさせて、私には悩みがあったのに、全然相談に乗ってくれなかった。
あの時と同じように、穂乃果ちゃんは皆を傷つける。μ'sのぜんぶを壊そうとしてるよ』

その言葉が、背後からぐさりと、穂乃果の心臓を貫いた。
違わない。
だってカードにされた皆を見せられても、呪いの言葉を聞かされても、目の前でランサーが無数の麻雀牌に穿たれていくのを見ていれば胸を掻き毟られるのだから。
ランサーが、死んでしまう。
穂乃果が守れなかったせいで、死んでしまう。
どうしてだか分からないけど、とてもドキドキして、幸せな気持ちにさせてくれる人が、消えてしまう。
そう、どうしてだか分からないけど、いつからこうなったのかも知らないけれど、この気持ちは本物に間違いないはずで。

『うちにとって、μ'sは奇跡……でも、穂乃果ちゃんにとっては、その程度だったんやね』
『私、本当に穂乃果が羨ましいわ……素直に、思っている気持ちを行動にうつせて……だからこそ、私たちを捨てられるのね』
『そんなことで、あたし達のことを忘れちゃうの? やっぱり、あんたの『好き』っていい加減なものだったのね』
『穂乃果ちゃん、最低だよ。自分が舞い上がってばっかりで、私の話を聞いてくれない、そんなのあの時と同じだよ』
「やめて! こんな……こんなの、いつもの皆じゃない! 皆はそんなのじゃない!
皆は……μ'sはもっと自分のやりたいようにして、自由で! 好きなことができて!
だれかを強制したり見捨てたりなんてしない! こんな……そんな顔した皆なんて知らないよ! こんなの偽物だ!!」

296低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:04:59 ID:eQQbHSfc0

本部以蔵が獣じみた獰猛な叫び声とともにランサーの身体を投げ飛ばし、容赦なく地面へと叩きつける。
ランサーの頭から鮮血が舞ったように見えて、穂乃果は絶叫した。

「いやだ!! 偽物なんていらない! 私とランサーさんに入ってこないでよ!
あのおじさんだって死んじゃえ! ランサーさんを殺す人なんか――」



――本部の日本刀がランサーの首へと振り下ろされ、黒髪に彩られた美貌が宙を高く飛んだ。



それは、結局のところただの夢であって。
目が覚めて数分もたてば、どんなストーリーだったのかさえ曖昧になる程度の悪夢だったし、友人の声だって幻聴だった。
けれど、そんな声を聴かせたのも、そんな声を図星であるように狼狽したのも、彼女の心が生み出したことだった。

そもそも高坂穂乃果に、ただの歌って踊れる女子高生に。
『殺しあいをしろと命じられた』
『抵抗すればカードにされて、二度と出られない』
『どこかで友達が化けものじみた人たちに襲われて殺されるかもしれない』
そんな極限の環境で『恋愛に夢中になって浮かれる』なんて、心の負担にならないはずがない。
自分の心を安定させるため、だれかと助け合っていくために恋愛をするならまだしも、ランサーへの恋心はそんなものではない。
穂乃果には『好きなことに邁進したせいで、周りの皆をないがしろにする』ことに酷いトラウマがあった。
そんな自分になることを恐れていた時から、殺し合いに呼ばれた。
誰よりも出場したかった念願の第二回ラブライブにさえ『あの時と同じことになるかもしれない』という理由だけで出場を断念しようとしたほどに、気にしていた。

だから、異性に魅力を感じたとしても、そこには必ず『でも、それだけに夢中になって、人に迷惑をかけるなんてだめだ』という、躊躇だとか戒めが働く。
本来の、この時の彼女なら、そうなっていた。

しかしその感情は、愛の黒子によって植えつけられた恋情だった。
もちろん、その黒子と魔貌に、人の心を洗脳してしまう効果などありはしない。
恋心を喚起するという意味では感情を操っているのと大差ないけれど、それもあくまで『恋愛感情を抱く』という一点に限ったことだ。
しかし、それでも、その効能にはある種の強制力があった。
『愛の黒子』によって生まれる好意だったからこそ、穂乃果の好意は『負の感情』にはなりえない。

もちろん、相手を恋しく思うあまりに嫉妬の感情が芽生えたり、恋しい相手が離れていくことによって不安や焦りを覚えたりするように、
『恋愛感情を抱いた結果』としての負の感情が生まれることはある。誰にとっても。
しかし、『恋愛感情そのもの』をストレスとして認識することはできなかった。
英霊が生前に残した伝承の再現とはいっても、つまるところは魔力によって発生する魅了の魔術の類に過ぎない。
そこに『ランサーさんに惹かれていくのが怖い』『ランサーさんに夢中になるのは疲れる』といった自制や躊躇が存在していれば、そもそも魅了の効果だって発揮されていない。
心にとって毒となるストレスだろうとも抗えずに酩酊し、心地よく感じられるからこそ魅了される。
それはもはや、冷水の中に浸かっていながら、そこが心地よい温水だと錯覚しているのに等しい。

297低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:06:31 ID:eQQbHSfc0
こうして、高坂穂乃果の感情は反転する。
冷たく感じられるものは温かくなり、温かかったものは冷たくなる。
ランサーを好きになっていくことへの躊躇や不安は、全て押し込められて、ランサーへの好意の下に圧迫される。
ランサーを好きになればなるほど『ほかの皆だって大事だ』と思う自制心も大きくなり、しかし後者のことを穂乃果は認識できない。認識するだけうっとうしいものとしか思えない。
結果として、『それら』を外側から突き付ける存在――彼女とランサーを引き離そうとする全てのものが、穂乃果にはひたすら煩わしくなっていく。
ひどく煩わしいものに、凶暴な感情が生まれていく。

(ランサーさんが、こんな小汚いおじさんに私を任せるわけがないよ)

まず本部の発言は考えるまでもなく嘘と判断。
このような『小汚い中年』にランサーともあろうものが、穂乃果を任せるはずがない。

そしてその場には、『薄情な女』――宇治松千夜もいた。
ランサーのことなど忘れたかのように、土方十四郎とかいう男の死について悔やんでいるようだった。
自分が足手まといになってしまったことを悔やむ、少女の姿。
それはまるで、ランサーが心配だと意気込んで学校まで同行しながら、何もできずに引き離されてしまった自分を見せつけられるかのようで。
それなのに、同じようにランサーの身にも何が起こったのか分からないのに、この少女はランサーについては何も心配していないように見えて。

(私は違う。私のランサーさんに対する思いは本物だもん)

穂乃果は、そう結論づけてしまった。
そして、『ランサーさんが死んだ』という思い込みの下に、その捻じれは殺意へと成長していくことになる。


◆  ◇  ◆  ◇  ◆


この駅にすべりこむ電車があるとしたら、間違いなく一両編成か二両編成だろう。
その駅は、それぐらいに小さかった。
とはいっても、山の中のド田舎の執着駅というよりは、そこに向かうための郊外の乗り換え駅といったおもむきだ。
駅のホームはかろうじて二つあるし、片方のホームには『立ち食い麺処 こんすけ』という看板のついた食事処も一応あった。
蒼井晶を除いた人間は、みんなそのホームの一つへと向かってしまった。
そちらの方角から、銃声が聞こえたからだ。

「ハァ、むさいおっさん達は幼女たちの安否が心配だしぃ、ホノホノは心ここにあらずでガン無視くれちゃったしぃ……と、ゆーわけでぇ、アキラは今のうちに脱ぎ脱ぎターイム」

まず様子を見に行ったのは、ラヴァレイと本部なる壮年男性の二人だった。
晶は足を捻挫していたのだから皆でぞろぞろと様子を見に行くわけにもいかなかったし、何より銃声の正体は、この場に新しく表れた危険人物のものかもしれない。
よって、中学生の晶と女子高生の高坂穂乃果なる少女、護衛としてカイザルの三人は、改札のあたりで待つようにと指示された。
しかし、高坂穂乃果はじっとしていられなかったらしい。
晶が捻挫した脚でゆっくりと階段を上って改札についた頃合いで、やっぱり心配だからと勝手にもホームへと走り去ってしまった。
穂乃果の独断専行に、カイザルだって困惑した。
そこで晶は、さも健気そうな演技をして、私は駅員室でじっとしているから穂乃果を追ってほしいと上手く言いくるめてカイザルを追い払った。

理由は単純。

298低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:07:32 ID:eQQbHSfc0
駅員の事務室なら、救急箱くらいはあるだろう。
誰かがそのことに気付いて『では改めて晶君の手当をしよう』とか言い出す前に、応急処置を完了させておきたかった。
同性の高坂穂乃果もいるとはいえ、捻挫の手当をするのはやはり慣れていそうな大人の仕事になる可能性が高い。

つまり、『3人の誰か』に靴下を脱がされて素足をベタベタと触られることになる。

カイザル→限りなくアウトに近いセーフだけど、やっぱりこんな時じゃなかったらアウト

ラヴァレイ→完全アウト

小汚いオッサン→論外

つまり、今この時間に自分で済ませるしかない。

「アキラ様のおみ足なんて、ウリスにしか触れねぇんだっつーの……良し」

幸いにも、移動中はずっと猫車で運ばれていたこともあるし、悪化する様子は無さそうだった。湿布を一枚貼っておけば足りるっぽいということで、処置はすぐ完了。

(最初の放送までに最低一人は殺しておきたかったんだけど、この人数だと厳しいかなぁ……)

きょろきょろと見回した室内は、事務室というよりは宿直室のようなおもむきだった。
寝泊りできそうな生活用品は色々と揃っているけれど、武器になりそうな道具は見当たらない。
流し台は存在したものの、戸を開けても包丁の類さえ見当たらなかった。
ブラウン管仕様の小型テレビでは、『吸血忍者カーミラ才蔵』とかいうくそダサい映画が流れている。
さっきもったいつけるような提供クレジットとCMが挟まれたから、おそらく『×曜ロードショー』のような形式だろう。

(だとしたら……ここでまとめて4人殺しっていうのは、いくらなんでもしんどいかも)

ここは自分よりもガタイの良いおっさんばかりが揃っているだけに、誰か一番御しやすい人間を上手く唆せれば良いのだけれど――

「一人きりにしてすまなかったね、アキラ君」

ぼんやりと今後のことを考えていると、鎧を着込んだ年長の方の騎士が帰ってきた。
後ろには暗い顔で、高坂穂乃果が付き従っている。

「さっきはごめんね。勝手に動いたりして……」
「いえいえ〜。いない間にアキラも手当バッチリできましたし、全然気にしてませんから〜」

内心ではかなりむかついていたけれど、まずは何が起こったのかの方に興味がある。

「それで、ラヴァさん達だけが戻ってきたってことはぁ……」
「ああ……ヴィヴィオという少女は、すでに殺されていた。胸のあたりに、穿たれたような致命傷があってね。
そして、チヤという少女はどこにも見当たらなかったよ」
「ええ〜っ。それじゃあ、チヤって女の子がヴィヴィオちゃんを殺して逃げたってことになっちゃいますよ〜?」

299低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:09:34 ID:eQQbHSfc0
驚きながらも、がっかりしたような安心したような拍子抜けを味わった。
少女を殺した殺人者が近くにいるのはぞっとしないけれど、どさくさにまぎれてアキラもウリスへの奉仕活動を実行するチャンスだったかもしれないのに。

「いや、まだそうと決まったわけではない。駅に進入した何者かに襲われた可能性もあるのだから。
いずれにせよ、遺体の安置も兼ねて本部殿とカイザル君が現場を検めているところだ。
二人が戻るまで、私が君たちの護衛と侵入者の見張りを努めよう」
「え〜っとぉ……じゃあ、電車に乗るのはしばらく後回しになっちゃうんですかぁ?
これから千夜っていう女の子探し? それとも、本部とかいうおじさんを連れて、皆で電車に乗ることになるのかなぁ?」
「いや、聞けばモトベ殿は殺し合いに乗った『キャスター』なる人物の討伐に向かうらしいし、詳しく話を聞かんことには判断ができないだろう。
それに、この場を離れたという『ランサー』なる戦士が、戻ってくる可能性もある。
東の方角で目撃された光を確認しにいったとのことだが、それが空振りに終わるやもしれないのでな」
「え? じゃあこの事件が解決しても、ランサーって人を待ってなきゃいけないんですかぁ?
その人も危ないことになってるかもしれないんですよぉ?」
「少なくとも、放送を聴けば無事かどうかは判断できるだろう。
もっともモトベ殿の話では、今のランサー君ならばそうそう死にはしないと自信がある様子だったがね」
「えっ……」

虚をつかれたような声を出したのは、晶ではなかった。

「どうしたんだね、ホノカ君」
「い、いいえっ。なんでもないです」

高坂穂乃果は呆けたような顔をして、しばらく口を半開きにしていた。


◆  ◇  ◆  ◇  ◆


ガサリガサリと、草をかきわけるような音がした。
街路樹のこんもりしたツツジの影に見を潜めていた宇治松千夜は、びくりと身をこわばらせた。
まず怖かったのは、駅にいた誰かが追いかけてきたのではないかということ。
次に怖かったのは、もし殺し合いにのった人だったらどうしようということ。

――人を何人も殺しておいて、自分が死ぬのは怖いの?

ヴィヴィオの声でそう問われたような気がして、逃げるべきという考えはたちまちに砕けた。
ツツジの樹の下をにゅっとくぐるように、それは思いのほかすぐに姿を現した。

300低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:10:18 ID:eQQbHSfc0

「クリス、ちゃん……」

地面に小さな足をつけず、浮いている。
ヴィヴィオが連れていた、空を飛ぶうさぎのぬいぐるみだった。
どういうわけか、その手には自身が収納されていた黒いカードを持っている。
その小さな黒い目と縫い付けられたバツ印のような口に、表情が宿ることはない。
その顔は怒っても、眉をつりあげたり鬼のような顔をしたりしない。
しかしその無表情こそ、千夜にとってはヴィヴィオの受けた苦しみを代弁する存在でしかなかった。

「い、いやっ。近づかないでっ……だめなの。今の私に近づくのも、近づかれるのもダメなのっ!」

座り込んだまま、それを正視できずにかぶりを振る。
クリスの方も、顔には出ないけれど確かに怒りの感情はあったらしい。
拒絶の言葉もおかまいなしに、千夜にその小さな体をぶつけて、ぽかぽかと殴りつけるような動きをした。
その小さく柔らかな拳を、まるで鋭い豪雨に打たれるように感じながらも、
ウサギが怖いなんて、まるでシャロちゃんみたいだと余計なことが頭をよぎった。
そうしたら、思い出してしまった。

――ウサギ。

――ラビットハウス
――甘兎庵
――ティッピー、あんこ、野良ウサギたち

ウサギは、彼女たちの日常に欠かせない存在だった。
まるで大仏のある町の鹿みたいに、町のどこに行ってもウサギたちが風景に溶け込んでいる町だった。
友達の喫茶店や千夜の甘味処でも、店員の一人であり家族の一員として、マスコットウサギがいた。

その『日常』を、裏切ってしまったのだと理解した。

「ごめ、なさい……」

ヴィヴィオを無言で責めていたクリスは、その言葉に動きを止めた。
彼(?)からすれば、大切な主にとどめを刺した(ようにしか見えなかった)人間が逃げたから、とっさに後を追った。その程度の理解でしかなかった。

301低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:11:39 ID:eQQbHSfc0

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

目をとじて、カードも地面にすべて取り落として、血を吐くような謝罪の言葉を繰り返している。
デバイスに『頭に血がのぼる』という状態があるのかはわからないが、ともかくクリスは似たような状態からだんだんと冷めていった。
これが人間だったならば、胸ぐらをつかんで殴りつけようとした人間が、殴る前に勝手にぶっ倒れてしまったような心境なのだろうか。

ヴィヴィオを撃った時は、とっさに防御(セイクリッド・ディフェンダー)を発動させられなかった己を責めた。
千夜が走り出した時は、まだヴィヴィオの遺体にしがみつき揺さぶっていた。
しかし、千夜もヴィヴィオの敵なのかと判断していた。だから逃げ出したことに気づくや、その飛行能力で高所からの視界を利用して追いかけた。
しかし、冷静になってみれば、ここまで謝意に沈んでいる少女に本当に殺意があったのかどうか疑わしく見えてくるし、そもそも原因を作ったのは間違いなくヴィヴィオに毒を盛った存在――おそらくは高坂穂乃果なのだろう。
その彼女とヴィヴィオの遺体は、いまだ駅にいる。

むしろ、とクリスの自律思考は判断を切り替える。
彼女こそ、ヴィヴィオが毒を盛られて苦しんでいるところを見ていたただ一人の目撃者であって――ここまで罪の意識を持っているなら、言葉を話せないクリスの代わりに、何が起こったのかを皆に話して、主の無念を晴らしてくれるのでは?

――ピッ

千夜にいつものジェスチャーで『ペコリ』と頭をさげる。
そして彼女の肩をつかみ、駅に向かって歩いてほしいとグイグイ引っ張った。
どうにかしてこの謝意を、そしてヴィヴィオを殺した犯人の正体を、駅にいる人間に伝えてもらわなければならない。

千夜はその変化に、追いつけないでいる。
この先ずっと責められていくのだとばかり思っていたら、その励ましているようにも見えるジェスチャーに、ただ戸惑った。

「私を……どうするつもりなの……?」

ヴィヴィオの遺品は、彼女に『立て』と言わんばかりの動きをする。
千夜が、『逃げるか戻るか』の選択肢を迫られていることを理解するには、もう少し時間がかかりそうだった。

【B-2とC-2の境界付近/早朝】

【宇治松千夜@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:疲労(極大)、情緒不安定
[服装]:高校の制服(腹部が血塗れ、泥などで汚れている)
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:ベレッタ92及び予備弾倉@現実 、不明支給品0〜2枚、
黒カード:セイクリッド・ハート@魔法少女リリカルなのはVivid
[思考・行動]
基本方針:心愛たちに会いたい……でも
1:駅に戻る? クリスから逃げる?

[備考]
※現在は黒子の呪いは解けています。
※セイクリッド・ハートは所有者であるヴィヴィオが死んだことで、ヴィヴィオの近くから離れられないという制限が解除されました。千夜が現在の所有者だと主催に認識されているかどうかは、次以降の書き手に任せます。

302低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:12:36 ID:eQQbHSfc0

◆  ◇  ◆  ◇  ◆


――もしセイクリッド・ハートが千夜が逃げ出したことに気づいて、追いかけようとしなかったら。

彼(?)にとっては結果的な判断ミスだったのだが。
事件の解明はずいぶんと簡単に済んだだろう。

クリスには言葉をしゃべる機能こそなかったけれど、豊富なジェスチャー表現を駆使できるだけのAIはある。
何より少しだけ待っていれば、その場には本部以蔵とラヴァレイと、高坂穂乃果もやってきた。
もしクリスがそれを見ていれば、必ずや怒りを顕にして穂乃果にぶつかるなり攻撃する仕草をしていたことは想像に難くない。
そうなれば、死んだ少女の遺品から攻撃されいてる彼女を、誰もが不審な目で見たことだろう。
クリスがその場を不在にしたことは、結果として事件の全容を不明瞭にさせた。



「痛ましいものです……幼い少女が、こんな苦しそうな顔で事切れているとは」
「そうだな……」

高町ヴィヴィオの遺体は、もう一つのホームに建てられた屋根つきの場所――蕎麦処の中にひとまず安置された。
もしあのままホームに残されていれば、電車でこの駅に降り立ったすべての人間の前に遺体を晒してしまうことになる。あまりにもよろしくない。
念のために蕎麦屋の入り口にはつっかい棒を立て、不用意に開けて遺体と対面する者が出ないようにした。

「しかしあの傷口――ファバロの持っていた小型のクロスボウにも似ていたが、それ以上に鋭く、小さい。よほど鋭利なもので射撃されたのでしょうか」
「あの傷口はおそらく、9×12mmパラべラム弾によるものだろう。
実は遺体を改めた時に、空薬莢も見つけておいた」
「ミリパラ……?」
「世界で最も広く使用されている弾薬だ。利点は比較的反動が弱いことと、小さいがゆえに多弾倉化が容易となること。
今や、小型機関銃(サブマシンガン)や『女性でも撃てる』ことを売り文句にした小型拳銃の弾丸にはたいがいこの9ミリが採用されてる。
ベレッタ、スプリングフィールドXD、グロック17、ジグ・ザウエル、ブローニング・ハイパワー、イングラム……もちろんあの傷口に限っちゃ、マシンガンで撃たれたってことは無さそうだがね。
ちなみにパラべラムってのはラテン語の『Si Vis Pacem, Para Bellum』(平和を望むならば戦いに備えよ)って諺からだ。
もっとも、グラップラーの世界じゃ『強く鍛えておけば喧嘩をふっかけられることも無くなる』なんて、誰も信じちゃいないがね」
「は、はあ……では、殺害者は、その拳銃を持っているはず、ということですか?
その一撃が致命傷となったのですから」

303低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:14:07 ID:eQQbHSfc0

怒涛のような解説に気おされながらも、カイザルは結論を促そうとした。
しかし、本部は首を横に振った。

「いや、たしかに致命傷は拳銃だが、あの嬢ちゃんを殺した凶器は別にある。
ありゃあ鎬紅葉じゃなくたって分かる。確かに遺体から匂ったんだよ、アーモンド臭がな」
「アーモンド……?」

カイザルが住んでいる世界では、テレビドラマも推理小説も存在しない。
暗殺の手段として毒物が使われることはあっても、一個人が『アーモンド臭が特徴の青酸カリ』の名前と効能を『よく殺人に使われる毒物』として把握しているわけではない。

「青酸カリってのは俗称で、正式な薬品名はシアン化カリウムという。
分かりやすい特徴として、収穫前のアーモンドのような甘酸っぱいにおいがすることから『アーモンド臭』として知られている。
巷じゃあ毒物の代名詞のように扱われているが、本来は治金や鍍金、昆虫標本なんかにも使われる有用な化学薬品だ。
ただし口から摂取した場合、胃酸と反応して青酸ガスを発生させる。これが肺から血液に入り全身を巡るとヘモグロビンなどに含まれる鉄原子と反応して、酸素の運搬やエネルギー(ATP)の産生などの機能を破壊する。
少量……耳かき一杯分より少し多いぐらいの量でも大人一人を死に追いやる、強力な代物だ。ガキならもっと少ない。
今回使われたのは間違いなくこいつだろう……第一、胸を射殺されて即死したなら、あんな苦悶の表情を浮かべる時間も無ぇだろうよ。
ヴィヴィオって嬢ちゃんはまず最初に毒の入ったおにぎりを食わされた。そのあとに射殺されたんだ」

その解説を聞くにつれて、カイザルの顔色が青ざめていく。

「食べ物に毒……ではまさか、彼女たちの中で差し入れを持ってきた者が……」
「いや、それも考えにくい。おにぎりを差し入れたのは穂乃花の嬢ちゃんだったが……嬢ちゃんが毒を盛ったんだとしたら、あまりにもリスクがでかすぎる」

本部は少し前のことを思い出しながら、カイザルにその根拠を語った。
彼女は本部に向かって『差し入れがある』と言いかけていた。
本部たちを三人とも――もしくは三人の誰かを殺害しようと毒を盛ったのだとしたら、
『千夜とヴィヴィオに毒入りのサンドイッチを渡した後で本部を呼びに来る』などという愚かな行為をするはずがない。
三人を仕留めるなら、まず最大戦力である本部へと真っ先にサンドイッチを渡すべきだった。
本部にはスクーターという移動手段がある。これから出発するタイミングでいきなり片手がふさがるサンドイッチ(食料カード一食分の大きさがある)を手渡されても、移動しながら気軽に食べることはできない。
あの場で飲み物も無しにサンドイッチを立ち食いするよりも、どこかで座って皆でいっしょに食べてから出発しようとなっていた可能性は低くなかった。
わざわざ穂乃果に食料のカードを使わせてしまったともなれば、本部もその代わりに何か食べ物を三人に与えていくぐらいのことはしただろう。
そしてもし本部がホームまで向かえば、その時点でヴィヴィオと千夜が毒殺死体となって転がっていたことになる。
誰が毒殺したのかは、あまりにも明白だ。穂乃果が乱心したというなら、他にいくらでもやり方はあっただろう。
サンドイッチを用意したのは穂乃果かもしれないが、だからといって彼女が毒も盛ったと疑ってかかるには状況がおかしい。
それが本部の見解である。

304低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:15:35 ID:eQQbHSfc0

「なるほど……しかしそれでは、チヤという少女はホノカ嬢の差し入れに毒を盛った後で、さらに念を入れて射ち殺すような真似をしたことになります。
いったいどうしてそこまで……」
「こいつは仮説だが……何も強力な毒物だからといって即死するわけじゃねぇ。
ヴィヴィオの嬢ちゃんには格闘技の心得があったようだし、毒で苦しみながらも、暴れるなり体術を使うなりして足掻こうとしたんじゃあねぇか。
そして、相手の方も思わぬ抵抗にびびって銃を持ち出してしまった……」

そんな解説なり考察なりを語って時間を費やしたりしながら、二人はラヴァレイたちの待っている事務室へと足を戻すことにした。

「もっとも、これから嬢ちゃんから黒いカードのチェックと身体検査はさせてもらうがね。、もし青酸カリを持っていたんならコトだ」
「身体検査を……?」
「……おい、いぶかるような眼で見なさんな。もちろんもう一人のお嬢ちゃんにやってもらう」


◆  ◇  ◆  ◇  ◆


本部以蔵の失敗は、あまりにも矛盾が生じないよう徹底的に理詰めで考え過ぎたことだった。
神の視点から見れば、それは単なる穂乃果のうっかりミスに過ぎない。
日頃から推理ドラマなどあまり見ない穂乃果は、青酸カリがそこまで即効性の毒であるというイメージが無かった。
しかも、高坂穂乃果は自他ともに認めるおっちょこちょいな少女である。
いくら冷静に毒殺計画を立てたとしても、おっちょこちょいな人間がおっちょこちょいで無くなるなんてことは有り得ない。
さらに言えば、穂乃果は基本的にあれこれ計画を立てて行動することに弱い。
現在のμ'sメンバーを勧誘していった時だって、基本的に押せ押せで、かつその場に応じての対応だったように、『相手がこう出てきたら自分はこうしよう』とあらかじめ想定して動くのは大の苦手だった。
だから、本部に二人の毒殺死体が露見する可能性をうっかり失念していた。
それだけのことだった。

(どうしたんだろう……私)

だから、色々な偶然が重なったおかげで計画が破綻しなかったことを、穂乃果は未だに自覚していない。
証拠品となる3個目のサンドイッチはホームに向かう途中で落としてしまったことにしたし、問題はない。
皆がホームへと向かった時にはひやりとしたけれど、ヴィヴィオの死体は銃殺されたようにしか見えなかった。
だからほっとすると同時に、やっぱり自分の行動は間違っていなかったんだと自信をつけた。
毒で殺すまでもなく、最初から千夜は危険人物だったのだと、証明されたのだから。
やっぱり、殺さなきゃいけない人だったんだ。そう思おうとした。

それなのに、ヴィヴィオの死体を見てから、ずっと身体が震えている。
寒気のような、痙攣のような何かが、体に染みついて離れようとしない。

(やだ……これじゃ私、今さら殺したことが怖くなったみたいだよ……そんなはず、ないのに)

ゴロリと転がった少女の遺体は、仰向けになっていた。
虚空を見る目は、ぎょろりと穂乃果を向いていた。
ライブの時の観客のキラキラした素敵な目とはぜんぜん真逆の、これ以上ないほどに絶望しきった目だった。

305低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:16:34 ID:eQQbHSfc0

(もう殺した人に怯えるなんて……まだ一人しか殺せてないのに、そんなはずない)

当たり前のことだ。
頭でいくら殺してやると凶暴に念じても、実際に殺人を実行して結果を背負うとなると全く違ってくる。
もし、つい昨日まで人を傷つけたり殺したりするようなことなど考えもしなかったような女子高生が、
愛の黒子を受けた結果とはいえ自分で毒殺した『はじめての死体』を見ても平然としていたりすれば、それは『暴走』を通り越して『人格改造』でしかない。

(そう……これは、怖気付いたわけじゃなくて。
きっと、さっきラヴァレイっておじさんに変なこと言われたからだよ)

しかも、本部の殺害に失敗しただけでなく、新たな来客が三人も訪れたことが穂乃果を不安にさせていた。
このタイミングでまた青酸カリの差し入れをして皆を殺せるかどうかは怪しい。
それだけでなく、三人の中のラヴァレイという男は、もしかしたら何かに気づいているのではないかという感じもする。
事務室に穂乃果と戻る最中に、意味深なことを話しかけられた。

『ヴィヴィオ君は、君の大切な友人だったのかね?』

そんな風に尋ねられた。
なぜ出会ったばかりの、それもかなり年下の少女を『大切な友人』呼ばわりするのか。
その意図がわからず、穂乃果は曖昧に否定すると理由を尋ねた。

『君の様子が、とても悲しんでいるように見えたものだからね。
かつてニコール――大切な方を失った時の私を見ているようだと思ったのだよ』

ぎくりとした。見抜かれたと思ったから。
そう、今の穂乃果は一生でいちばん深く悲しんでいる。
ランサーを、穂乃果が足でまといになったせいで本部に殺されてしまったのだから。
ランサーが心配だと言ってついて行きながら、ランサーとのデート気分で浮かれきっていただけで、何の役にも立てなかった。
真っ先に気絶して、足でまとい以外の何ものでもなく、目覚めたらすべてが終わっていた。

(それに……)

ついさっき、晶とかいう少女に今後の方針を問われた時の言葉。
それを聞いて、胸がざわざわとした。

『少なくとも、放送を聴けば無事かどうかは判断できるだろう。
もっともモトベ殿の話では、今のランサー君ならばそうそう死にはしないと自信がある様子だったがね』

306低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:18:11 ID:eQQbHSfc0

そう、放送を聞けば、ランサーの生死は確定される。
いくら本部がランサーは生きて別行動をしていると言っても、放送で名前が呼ばれたら騙せない。
『おそらく追っていったセイバーに殺されたのだ』とかなんとかごまかすつもりかもしれない。
けれど、本当にそれだけで、全員をごまかし切れると思っているのだろうか……。

(ダメ。考えちゃだめだ……優勝すれば、ランサーさんは生き返る。生き返らせるんだから)

ぶるぶると内心で首を振って、穂乃果は気分の切り替えにつとめようとした。
たしかに、人を殺したことで罪の重さはあったかもしれない。
でもそれは『ランサーを死なせてしまった』という過ちを償うためでもある。
考えなきゃいけないのは、今、怪しまれないことだ。
ラヴァレイの目から見ても、穂乃果は悲しんでいるように見えたらしい。
これは問題だ。穂乃果はまだ放送で『知り合いの誰も呼ばれていない』ことになっている。
それなのに悲しんでいたりしたら怪しいと思われ――



(…………………………知り合い?)



放送で呼ばれるかもしれない知り合いの名前。
それが頭をよぎった時に、思考の渦に『何か』が出現した。
今までモヤがかかっていた部分が、急にくっきりとしてきたように。

知り合いとは誰だ。考えるまでもない。
思い出したのは、ランサーと初めて出会った時の約束だ。
『良かったらライブ見に来てください』と。
なんのライブ?
決まっている。
高坂穂乃果にとっていちばんの自慢であり、好きな人ができたら胸を張って見せられる9人の勇姿。

(そうだ、なんで思いつかなかったの……?)

307低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:18:41 ID:eQQbHSfc0

大好きなライブ。
『僕らのLIVE、君とのLIFE』。

(そうだよ……ランサーさんが生き返るなら、μ'sの皆だって生き返らせれば良かったのに……)

殺し合いに乗ろうと決めた時は、『ランサーの命』と『μ'sの皆』をぼんやりとしか天秤にかけなかった。
でも、そもそも天秤にかける必要などなかったとしたら。
優勝すれば、好きな人は生き返る。その考えを信じているし、この手も汚している。
ならば、この先にμ'sの誰かが死んでしまったとしても、ランサーと同様に蘇生を願うことに躊躇いはない。
ランサーのためにμ'sの絆を捨てることはない。どちらも助ければいい。

(ランサーさんのために、皆を見捨てる必要なんて無かったんだよ……)

そんなに何人も生き返るのか、なんて疑問を挟む余地はない。
最善の結果があるなら、絶対にそれを目指す。
高坂穂乃果は、そういう性格だった。

(そうだ……私は絶対に、絵里ちゃん、にこちゃん、希ちゃん、それにことりちゃんを殺すなんて、できっこなかったんだ……)

ランサーへの好意が消えてしまったわけではない。
いや、今この瞬間にも消えつつあるのかもしれないが、その好意はもはや『本来の高坂穂乃果』を圧迫するところにいない。
何者にも塗りつぶされない思考。それを発見したことによる開放感が、穂乃果の胸をいっぱいに満たそうとしていた。



――ザザッ



その濁ったような音は、テレビのたてる砂嵐だった。



「此度の放映をご覧頂けた幸運なる皆様。私、キャスターのサーヴァント、ジル・ド・レェと申します」

308低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:19:53 ID:eQQbHSfc0


あまりにも聞き覚えのある声――この島でいちばん最初に目撃した『恐怖』が、テレビ画面の向こうに姿を現した。

「……………え!?」

腐乱死体を引き連れ、高坂穂乃果を殺害しようとした男。
ランサーはキャスターと呼んでいた、あのランサーでも逃亡を選択する絶対的な危険人物。

「皆様、各々方の知己朋友の消息を案じ気が気でないことでしょう。
 一体どこにいるのか、今も健在なのか、確かめたくて仕方がないことでしょう」

その放送に動揺したのは、高坂穂乃果だけではなかった。

(ジル・ド・ㇾェだと……!?)

偶然による同性同名にしては、よくある名前ではない。
それはまさに、複数の名前を使い分けてきたラヴァレイ――その正体の、真の名前である。
その名前を騙る、魔術師らしき男。
滅多にないことだが、彼の意識にはその男にばかり目が向くという隙ができた。

「さぁみんな、入っておいで」

ブラウン管のなかで口上を述べていたキャスターは、画面の外に待機していたらしき『何者か』を招く仕草をする。
そして、それぞれに痛々しく血止めの布を巻いた少女が三人、その映像へと映し出された。

「アキラ君。この映像は、遠見の水晶玉のようなものかね?」
「えっと、これはテレビって言って……あ〜、どう説明したらいいんだろ」

それまで『原理のよく分からない娯楽製品』ぐらいにしか思っていなかった『テレビ』とはどういう仕組みなのか、ラヴァレイは晶へと問い詰めていた。
だから、穂乃果の小さなつぶやきを、その時ばかりは聞き逃した。


「ことりちゃん……」


せっかく思い出せたのに、なぜその彼女が『そこ』にいるのか。

その放送は穂乃果にとって、『最悪』が形になったようなものだった。
それは、ずっと一緒にいたいと思っていた親友の姿で。
その親友は、首元に怪我でもしているみたいにきつく布を巻いていて。
その親友は、キャスターの危険性などなにも知らないかのように、淡々とキャスターの招きに従っていて。

高坂穂乃果は、たしかにキャスターの操るゾンビを目撃していた。
しかし、そのゾンビは墓から蘇ってきた亡者――誰が見ても腐乱死体だと分かる容貌だった。
だから、穂乃果の中では『キャスターの操るゾンビ』と『南ことり』は繋がならない。

「不肖ジル・ド・レェ、僭越ながらこの可憐な少女達を保護させて頂いております。
 ご友人の方々は是非とも放送局までお越し下さい。彼女達もきっと喜ぶことでしょう」

『怪我をした南ことりは、極悪人であるキャスターに騙されて連れてこられている』という光景にしか受け取れない。

309低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:20:53 ID:eQQbHSfc0



「…………助けなきゃ」



少しだけタイミングが遅ければ、躊躇したかもしれない。
座り込んでいたままだったかもしれない。
あるいは、千夜やヴィヴィオを平気で殺そうとしたように、『なにも感じない』ように錯覚していたかもしれない。
しかし、今の穂乃果に『一番の親友を見捨てる』という選択肢はない。
死んでも生き返らせればいいとか、今から行ってどうなるという理屈なんて欠片も浮かばなかった。
本部以蔵の敵なのだからつぶし合わせればいいとか、そんな計算すらできなかった。

即断、即決。
すぐに立ち上がる。
すぐに走り出す。

「どうした、ホノカ君!」

その挙動が開始されてから、やっとラヴァレイは背後を振り向き、呼び止めた。
しかし、高坂穂乃果には聞こえていない。
追いかけようにも、テレビについて聞き出すために晶に詰め寄った格好になってしまい、かえって晶が進行方向を邪魔する位置にきてしまった。

そしてラヴァレイにも予想外のことだったが、高坂穂乃果はアイドルのために急な石階段走り込みという過酷なトレーニングを日夜こなしている。
もちろん、それは人間の域を出るものではないし、仮に駅にいる人間で徒競走でもすれば晶を除いて穂乃果が最下位となるだろう。
しかし、ラヴァレイが『ただの少女なら、このぐらいの動きだろう』とたかをくくっているよりは、はるかに早い。
こうして伸ばした手は、あまりにも遠い位置で空振りをした。

「おい!いったい全体何があった!?」
「ラヴァレイ殿!? 今走っていった人影は――」

事務室を出ると、本部とカイザルがホームから駆け戻ってくるところだった。

「理由は分からないが、ホノカ君が急に動転して逃げ出してしまった。
私の責任だ。すぐに追って連れ戻――」
「それより、入口のところにスクーターあったじゃん!
あれに乗った方がすぐ追いつけるってば」

事務室から飛び出してきた晶が、駅階段の下を指差す。
たしかにそこには、本部以蔵が鍵付きで止めていた原動機付自転車があった。

310低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:21:19 ID:eQQbHSfc0

「あれは――たしか馬よりも早い乗り物だったか?」
「そう! アキラなら無免許だけど運転大丈夫だから!
ここはアキラに行かせてください! バイクなら捻挫は関係ないし」

ここぞとばかりに志願し、真っ先に階段を降りる。
何も、殺人の成果をあげられそうになくて焦っていたのは穂乃果だけではなかった。
ここで、見るからに『何か』を知っている穂乃果を取り逃がせば、皆殺し狙いとして致命的に出遅れてしまう。
そんな焦りが、晶を奮い立たせていた。
それに、ここで穂乃果が逃げ出してしまえば、むさいオッサン三人組の中に取り残されることになる。
それは、すごく、嫌だ。
元から蒼井晶には、ボールペンで人を刺して病院送りにするぐらいの火事場の馬鹿力はある。
スクーターぐらい、運転をやってみてできないことはないと思う。

「アキラ嬢! ならばせめて私も一緒に。私は貴女を守ると約束しましたので」
「カイザル君、ここは私が――」
「いえ、自分の方が駅で起こったことについては詳しいですから、ホノカ嬢の話を聞けることがあるかもしれません。
それに、ラヴァレイ殿もモトベ殿の話から状況を把握していただかねばなりませんし」
「……じゃあ、リドさんとアキランデブーで」

正直言えばアキラ一人の方が都合が良かったけれど、ここは『盾』を連れて行った方がいいかもしれない。なので、折れた。

その時、本部が忘れられては困ると言わんばかりに声をあげた。

「おい、やる気を削ぐようで悪いが、そのバイクは俺のもんだ。
それに約束っつうなら、俺だって嬢ちゃんたちのことをディルムッつあんからよろしく守護るようにと――」

アキラは、ただでさえイライラしていた。
そんな時に、この発言だ。

「――何、言ってんだよ」

こいつにだけは言われたくないと思った。
だから、言った。

311低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:22:21 ID:eQQbHSfc0






「アンタに守護らせた結果がこれだから!!」






正論を言ったと思う。
アキラはウリス以外皆殺しにするつもりなので『お前が言うな』だが、それでもアキラの方がたぶん一理ある。


◆   ◆ 


「モトベ殿。ずいぶんときついことを言われましたな」

晶とカイザルが二人乗りで遠ざかっていくのを見届けて、ラヴァレイはもう一人の留守番に声をかけた。
アキラに同行できなかったことは残念だが、ラヴァレイにとってはそれでも好都合だった。
ラヴァレイに背中を向けたままの柔道着に向かって、追求する言葉をかける。

「しかしアキラ君の問いかけは、今の貴殿が直面しなければならないことだ。
もし仮にここにランサー君が戻ってきたとしたら、申し開きのしようもないのだから。
貴方は、『この駅にいたすべての参加者を護れず、殺され、逃げられた』という事実を、どう受け止めていくのか」

好都合のひとつは、この『本部以蔵』なる人物が有用なのかそうでないのかを、見極めることにあった。
なるべく多くの心を壊したいという欲求はあるけれど、その嗜好にかまけて殺し合いでの立ち回りを疎かにするつもりはない。
『キャスターを討伐する』と言っていた本部以蔵。
それをなし得るほどに有用な戦力であるならば利用するだけの価値はあるかもしれないが、
それを任せられない、それこそ『一般人の少女たちに翻弄され、すぐ近くでの殺人を許してしまう』ほどの道化だったのならば、生かしておく必要性は薄い。
幸いにも、カイザルたちがこの場を離れてくれた。
殺したあとで、『モトベ殿とは情報交換を済ませたあと、キャスターの討伐に先行して出発した』とでも言えば、気がつかれることはない。

「いずれお聞かせいただきたい……もちろん、ホノカ君から目を放してしまった私にも言えることだが」

そしてもうひとつは、まさにそのキャスターに関する情報を引き出すことだった。
『キャスターのサーヴァント』を名乗ったジル・ド・ㇾェ。
本部が討伐を頼まれているという、『南方の墓地にいるやもしれぬキャスター』。
放送局と墓地の位置と移動時間を考えても、二つの『キャスター』は同一存在なのだろう。

まずは『キャスター』に関する情報を引き出し、その後で始末するかどうかを決定する。

「いや、結論をせかすつもりもない。まずは先ほど起こったことについて説明いたしましょう。
それにモトベ殿にも話していただきたいことがある。
貴方のいう『キャスター』なる人物かもしれぬ者が、先ほど映像に映ったのですからな……」

【B-2/駅構内/早朝】

312低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:22:59 ID:eQQbHSfc0

【本部以蔵@グラップラー刃牙】
[状態]:確固たる自信???
[服装]:胴着
[装備]:黒カード:王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:こまぐるみ(お正月ver)@のんのんびより、麻雀牌セット@咲-Saki- 全国編
[思考・行動]
基本方針:全ての参加者を守護(まも)る
1:――
2:南下してキャスターを討伐する
3:騎士王及び殺戮者達の魔手から参加者を守護(まも)る
4:騎士王、キャスターを警戒
[備考]
※参戦時期は最大トーナメント終了後

【ラヴァレイ@神撃のバハムートGENESIS】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:軍刀@現実 、猫車(蒼井晶乗車中)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:不明支給品0〜1枚
[思考・行動]
基本方針:世界の滅ぶ瞬間を望む
1:『キャスター』に関する情報を引き出し、モトベを今のうちに始末するかどうか決定する
2:蒼井晶の『折れる』音を聞きたい。
3:カイザルは当分利用。だが執着はない。
4:本性は極力隠しつつ立ち回るが、殺すべき対象には適切に対処する
[備考]
※参戦時期は11話よりも前です。
※蒼井晶が何かを強く望んでいることを見抜いています。


【B-2/駅付近/早朝】
【カイザル・リドファルド@神撃のバハムートGENESIS】
[状態]:健康、原付に同乗中
[服装]:普段通り
[装備]:カイザルの剣@神撃のバハムートGENESIS
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:不明支給品1〜2枚(確認済、武器となりそうな物はなし)
[思考・行動]
基本方針:騎士道に則り、繭の存在を挫く
1:アキラ嬢を守りつつ、ホノカ嬢を連れ戻す
2:俺と、ファバロが……。
3:アキラ嬢を守りつつ、アナティ城へと向かう。ラヴァレイ殿も居る以上、体制は万全だ。
4:リタ、聖女ジャンヌと合流する(優先順位はリタ>>>ジャンヌ・ダルク)
5:アザゼルは警戒。ファバロについては保留
[備考]
※参戦時期は6話のアナティ城滞在時から。
※蒼井晶から、浦添伊緒奈は善良で聡明な少女。小湊るう子と紅林遊月は人を陥れる悪辣な少女だと教わりました。
※ラヴァレイから、参戦時期以後の自身の動向についてを聞かされました。

313低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:24:09 ID:eQQbHSfc0
【蒼井晶@selector infected WIXOSS】
[状態]:健康、左足首捻挫(湿布済み)、スクーター運転中
[服装]:中学校の制服
[装備]:原付@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(9/10)
    黒カード:不明支給品1〜3枚(武器があるらしい?)
[思考・行動]
基本方針:ウリスを勝ち残らせるために動く
0:利用できそうな参加者は他の参加者とつぶし合わせ、利用価値が無いものはさっさと始末する。
1:高坂穂乃果を捕まえる。いざとなったらカイザルを盾に。
2:カイザルとラヴァレイを利用しつつ、機会を見て彼らと他の参加者を潰し合わせるなり盾にするなりする。
3:ウリスを探し出し、指示に従う。ウリスの為なら何でもする
4:紅林遊月、小湊るう子は痛い目に遭ってもらう
5:カイザルたちに男(本部)を始末してもらいたい
[備考]
※参戦時期は二期の2話、ウリスに焚き付けられた後からです
※カイザル・リドファルドの知っている範囲で、知り合いの情報、バハムートのことを聞き出しました。




愛の黒子による効果は、ランサーがそばにいないことで一分一秒刻みに失われていく。
今はまだ、『親友を助ける』という意識と並列して存在しているけれど、それもゆくゆくは。


「ことりちゃん、ことりちゃん、ことりちゃん、ことり、ちゃんっ…………」


彼女は、まだ気がついていない。
そもそも最初に殺意を抱いて、高町ヴィヴィオを殺してしまったその理由が、手の中の砂のようにこぼれ落ちつつあることを。

そしてもうすぐ、最初の放送が流れることを。
そして、その放送で、『南ことりと矢澤にこが呼ばれ』て、『ランサーが呼ばれない』可能性を。


【B-2とC-2の境界付近/早朝】

【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:動揺
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:ヘルメット@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(6/10)、青カード(10/10)
     黒カード:青酸カリ@現実
[思考・行動]
基本方針:優勝してランサーとμ'sの皆を生き返らせる
1:今はただ、ことりの元へ
2:本部を殺害する
3:参加者全員を皆殺しにする(μ'sの皆はこの手で殺したくない)
[備考]
※参戦時期はμ'sが揃って以降のいつか(2期1話以降)。
※ランサーが本部に殺されたという考えに疑念を抱き始めました
※ランサーが離れたことで黒子による好意は時間経過とともに薄れつつあります。また、それに加えて上記の疑念によって殺意が乱れ、『ランサーだけでなくμ'sの皆も生き返らせよう』という発想を得ました。

314低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:24:45 ID:eQQbHSfc0
投下終了です
ヘルメットが状態表から消えていたので、穂乃果が持っていることにしましたがよろしかったでしょうか

ほかにも指摘等ありましたらお願いします

315名無しさん:2015/09/13(日) 23:47:44 ID:s7RPp1Qg0
投下お疲れさまです
穂乃果の心理描写と移り変わりがよく表現されていて、クリスとヘルメットなども含め上手くフォローされていました
一気に爆発しましたねえ
本投下に問題はないと思います

それと今回の投下作品に限った事ではないですし、修正要求ではないのですが、一応指摘
ことりとマコの魂はカードに封じられていないから、当ロワイアルのシステム次第では二人の名は放送で呼ばれない可能性があるんですね
撮影にミスがあれば小蒔の腕輪でゾンビとばれる可能性はありますが、とすると小蒔のカードは放置中かな?
意見は以上です

316低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/14(月) 01:02:08 ID:5uypBbP60
>>315
ご意見ありがとうございます

ことりの名前がよばれない可能性については失念しておりました
ただ、現状放送で魂喰いによってカード化を逃れた参加者が呼ばれるかどうか分からないこともありますので
最後の一行については修正なしでいこうかと思っています

神代さんの腕輪については、今回のSSだと小型旧式のブラウン管テレビということで、
腕輪がアップにでもならない限り腕輪にカードがあるかどうかまでは判別できないだろう、くらいのつもりです
他のテレビや端末だと神代さんの腕輪がどう見えるか(気づかれるか)については、その書き手さんの判断しだいということでひとつ

317低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/14(月) 02:23:48 ID:5uypBbP60
すみません>>303に痛恨のミス…

>ヴィヴィオって嬢ちゃんはまず最初に毒の入ったおにぎりを食わされた。

申し訳ありませんがおにぎりをサンドイッチに訂正させてください。

318名無しさん:2015/09/14(月) 07:14:19 ID:5litZW.Y0
>>316
解りました
本投下楽しみにしてます

319名無しさん:2015/09/14(月) 16:18:49 ID:ZoILGqKUO
投下乙です。
アキラッキーも中々やりますね。

320名無しさん:2015/09/14(月) 22:58:09 ID:gijmv1V20
仮投下乙です
内容は問題ないと思いますが、2つほど細い指摘を
1つ目は「ジル・ド・レェ」が所々「ジル・ド・��ェ」になっている点
2つ目はラヴァレイの状態表の猫車がアキラ乗車中のままになっている点です

321低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/15(火) 07:29:57 ID:3E/mXmTc0
>>320
ご指摘ありがとうございます。
どうやら「レ」が環境依存文字になっていたようで申し訳ありません
指摘いただいた箇所を修正して、今夜にでも本投下したいと思います

322 ◆DGGi/wycYo:2015/09/16(水) 01:14:47 ID:SlnygLWY0
支給品に関することがあるため、一旦仮投下します。

323こんなに■■なことは、内緒なの ◆DGGi/wycYo:2015/09/16(水) 01:15:41 ID:SlnygLWY0
男に対し、悪寒を感じたのは事実だ。
考え過ぎ。そう一蹴した筈であった。
……そうであって、欲しかった。

 * * *

休憩を終えて、駅へ向かう道中のことだった。
龍之介と心愛、そしてリタは、互いに持っている情報を交換していた。
分かったのは、全員揃って他に出会った人物はいないということだけ。

龍之介はその本性については当然触れなかったし、リタもあまりペラペラと語る口ではない。
この場の主導権を握っていたのは、能天気でお喋りな心愛も同然であった。

「…………結局、見つからなかった最後のピースはティッピーのすぐ近くにあったんだよね〜。あの時はビックリしたよ」

彼女の口からは住んでいる街、知り合った人々、起こった出来事などなど……。
次から次へと言葉がマシンガンのように撃ち出され、2人は時々相槌を打つことくらいしか出来ない。
リタは興味無さそうに、それでも一応の情報源として聞いておく。
どちらかと言うと彼女が気になったのはそちらではなく、龍之介の態度だ。

龍之介は、熱心に心愛の話を聞いていた。
相槌を打っているだけではあるが、その顔は妙に活き活きしている。
まるで彼女の言う友人たちにも興味がある、といった顔。
何故だ? 何故赤の他人である筈の龍之介が、そこまで。

324こんなに■■なことは、内緒なの ◆DGGi/wycYo:2015/09/16(水) 01:16:41 ID:SlnygLWY0
「…………それでね、チノちゃんったら私の居ない間にマヤちゃんメグちゃんと内緒でプールに行ってたんだよ〜。あ、リゼちゃんも一緒にね」
「お喋りはいいけれどあなたたち、自衛の手段くらいあるんでしょうね」

リタは口を挟んだ。
龍之介に一抹の不安を感じたのは事実だし、心愛の長話にうんざりしたというのもある。
どちらの意味合いが強いかは……考えなかった。

2人は顔を見合わせる。
言われてみれば、碌に支給品を確認していない。精々狸が一匹出てきた程度だ。
それも今は「モフりたいけど歩く時はさっきみたいにコケちゃうし」とカードにしまっている以上、龍之介と違って心愛は丸腰。

「でも私、これしかないよ?」

心愛が取り出したのは、ライターと携帯ラジオ。

「火なんてヘタに使うと危ないし、ラジオはここじゃ……」
『此度の放映をご覧頂けた幸運なる皆様。私、キャスターのサーヴァント、ジル・ド・レェと申します』

ノイズ混じりに、突然ラジオが音を発した。
誰もが動揺する中、1人だけ違った反応を見せた人物がいた。

「あれ、旦那?」
「え?」

龍之介は、旦那=キャスター=ジル・ド・レェということを知らなかった。
キャスター自身が彼に『青髭』と名乗った程度で、その上互いに聖杯戦争に一切興味を示さなかったからだ。

『皆様、各々方の知己朋友の消息を――』

突然プツンと声が途絶え、ラジオはうんともすんとも言わなくなってしまう。

「あれ、壊れちゃった?」
「ちょっと見せて心愛ちゃん。……あー、これ手回しで充電するタイプだ。全く回してないから充電切れたんだよ」

ラジオの側面に付いていたハンドルをしばらく回す。
ある程度充電を終えた頃には、既にキャスターの放送は聞こえなくなっていた。

「終わっちゃったね。何を言ってたんだろ」
「んー……まあいいんじゃない? とりあえず駅までもうすぐだし、早いとこ行っちゃおうか」

そうだねーと返し、2人はその場を後にする。
後ろではやや彼らから少し距離を取りつつ、リタが龍之介を睨み無言で付いて来ていた。

 * * *

325こんなに■■なことは、内緒なの ◆DGGi/wycYo:2015/09/16(水) 01:17:23 ID:SlnygLWY0
「どうするの、これ」

駅に着いた一行は、無防備にもベンチで寝ている少女の処遇に困っていた。
死んでいるようではなさそうだが、青いカードも赤いカードも持っていない。
誰かに襲われ意識を失った後カードを奪われ、犯人は電車で逃走。

駅周辺に見える戦闘の痕跡から、そう考えるのが自然なのだろうが。
何分この少女、なかなか目覚める気配がないのだ。
無闇に起こすのも悪いと考え、そっとしておくことにする。

「それで、2人はこれからラビットハウスとやらに向かうのよね」
「そうだよ。んじゃ俺ちょいとトイレ行って来るから、電車来たら待ってて」
「……」

ホームを去る龍之介を尻目に、リタは考える。
果たして彼は安全と判断しても良い人間なのか。
先程の出来事から、そうではないとはっきり理解出来た。
彼はキャスター……『ジル・ド・レェ』のことを確かにこう言った。

“旦那”と。

これだけで、危険だと決め付けても何ら問題はないだろう。
200年も生きている(?)と、流石に名前くらいは聞いたことがある。
リタは“ジル・ド・レェ”に関して、悪趣味な魔術を使うことが出来る、程度には把握している。
そのジル・ド・レェと龍之介が、知り合いの関係にある。
それだけでも十分厄介なのに。

「ねえ……心愛って言ったかしら」
「何? リタちゃん」
「あの男、『作品を作って、旦那に見せたい』……そう言ったのよね」
「うん。龍之介さんの旦那って人、呼ばれてたんだね〜。作品を見せたいって願ってたみたいだし」

更に厄介なのがそれだ。
彼の支給品までは把握していないが、彼が刃物の類を現地調達していることはリタも知っている。
それも、見る限り木や石を切るといったものではなく、肉を切るのに適したような刃渡り。

「(こんなこと、想像したくはないんだけどね……)」

彼の言う“作品”の“題材”。
それはもしかしなくても、我々参加者なのではなかろうか。
それも、かなり悪趣味なやり方で。

心愛は底なしの能天気、悪く言えば単純な馬鹿。
ベンチでくたばっているとおぼしき少女に至ってはまだ名前すら聞いていない。
雨生龍之介という男の魔の手から逃れる為には、私がどうにかしなければいけないらしい。

カイザルたちとも合流したいのに、すぐ傍にとんでもない脅威がいる。
今後のことを思うと、思わず頭を抱えたくなるのであった。

 * * *

326こんなに■■なことは、内緒なの ◆DGGi/wycYo:2015/09/16(水) 01:18:25 ID:SlnygLWY0
3人から一度離れた龍之介は、改めてそのカードを見る。
他のカードは現状使えないものばかりだったが、そのカード――ブレスレットだけは、非常に価値が高かった。

そのブレスレットは、かつて龍之介がキャスターからプレゼントとして受け取った代物。
これを使って次々と冬木市の子供たちを誘拐、“パーティ”を執り行おうとした。
結局邪魔が入って破壊されてしまったのだが、どういう因果かそれが再び龍之介の手中にある。

カードに書かれた説明を見る限り、当時のそれより大幅に制限は掛けられている。

①:使用者より年齢が下の者にしか通用しない。
②:並行して催眠を掛けられるのは2人まで。
③:対象を夢遊病患者のようにするだけで、意のままに操れるわけではない。
④:洗脳の効果は一度につき2時間程度。
⑤:魔力の消費は少し大きめ。

主催者の設けた“パワーバランス”なのだろうが、それらの制限があってなお、龍之介にとっては魅力的だった。

心愛、リタ、そしてホームで出会った名も知らない少女。
彼女たちを連れてラビットハウスへ向かい、“お茶会”を開こう。
やがて心愛の友人なども、その“お茶会”のメンバーに加えよう。
無論作品の延命など課題は幾つも残っているが、その時になってから考えればいい。

若干気掛かりなのは、携帯ラジオの放送を聞いてからのリタの態度だ。
何だか自分のことを疑っている、そんな視線だった。
恐らく、旦那がジル・ド・レェと名乗ったことが原因だろう。
まあでも、いずれそんなことを気にしなくてもいいようにすればいいだけだ。
そう結論付け、ホームに戻る。

時計を見る限り、もうすぐ定時放送とやらの時間だ。
4人で軽い朝食にするのもいいかも知れない。
もっとも、4人目がいつ起きるかなど分かったものではないが。


【C-6/駅/早朝】
【雨生龍之介@Fate/Zero】
 [状態]:健康、少年のようなワクワク
 [服装]:普段着
 [装備]:手術用のメスやハサミ(現地調達)
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:不明支給品0〜1枚(本人確認済)、ブレスレット@Fate/Zero、医療用具(現地調達)
[思考・行動]
基本方針: 心愛と一緒にラビットハウスを目指して心愛の友達を探す。
   1: 旦那ともいずれ合流し、作品を見てもらいたい。
   2: リタに激しい興味。彼女もいずれ作品とする。
   3: 心愛、心愛の友人、少女(蒔菜)で作品を作り、“お茶会”を開く。
   4: 作品を延命させる方法を探す。
 [備考]
  ※キャスターが龍之介の知る青髭ということに気付きました。
  ※心愛の友人に関する情報を得ました。


【保登心愛@ご注文はうさぎですか?】
 [状態]:足に擦り傷(処置済、軽度)
 [服装]:ラビットハウスの制服
 [装備]:なし
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:具@のんのんびより、ライター@現実、携帯ラジオ@現実
 [思考・行動]
基本方針:龍之介たちと一緒にラビットハウスを目指して友達を探す。
   1:怖いけどお姉ちゃんとして頑張る。
   2:リタちゃんは不思議ちゃんなんだね〜。
   3:この子(蒔菜)何があったんだろ?

327こんなに■■なことは、内緒なの ◆DGGi/wycYo:2015/09/16(水) 01:18:47 ID:SlnygLWY0
【リタ@神撃のバハムートGENESIS】
 [状態]:健康
 [装備]:アスティオン@魔法少女リリカルなのはvivid
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:不明支給品0〜2枚(本人確認済)
 [思考・行動]
基本方針:カイザルとファバロの保護。もしカイザル達がカードに閉じ込められたなら、『どんな手段を使おうとも』カードから解放する
   0:とりあえずはラビットハウスへの道のりに同行しつつ、人探しを並行させる
   1:カイザル達の捜索。優先順位はカイザル>ファバロ
   2:繭という少女の持つ力について調べる。本当に願いは叶うのか、カードにされた人間は解放できるのかを把握したい
   3:アザゼルは警戒。ラヴァレイも油断ならない。
   4:龍之介を警戒。心愛たちを彼から逃がしたい。
 [備考]
 ※参戦時期は10話でアナティ城を脱出した後。
 ※心愛の友人に関する情報を得ました。


【入巣蒔菜@グリザイアの果実】
[状態]:健康 睡眠中
[服装]:制服
[装備]:ヤブイヌのポーチ@グリザイアの果実
[道具]:腕輪と白カード。
[思考・行動]
基本方針:帰る。
0:……zzz
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後。
※ルールを聞いたのは白のカードの説明までです。ですが、それもうろ覚えです。
※赤、青、黒、のカードは流子に渡りました。
※名簿は見ていません。

【支給品説明】

【ライター@現実】
保登心愛に支給。一般的なジッポライター。

【携帯ラジオ@現実】
保登心愛に支給。充電は手回し式で、回しておかないと割とすぐに電池が切れる。
放送を受信する以外の用途は今のところ不明。

【ブレスレット@Fate/Zero】
雨生龍之介に支給。
アニメ1期10話で出てきたもので、龍之介はこれを使って子供を何人も誘拐した。
このロワでは以下の制限が掛けられている。
①:使用者より年齢が下の者にしか通用しない。
②:並行して催眠を掛けられるのは2人まで。
③:対象を夢遊病患者のようにするだけで、意のままに操れるわけではない。
④:洗脳の効果は一度につき2時間程度。
⑤:魔力の消費は少し大きめ。

328 ◆DGGi/wycYo:2015/09/16(水) 01:19:40 ID:SlnygLWY0
仮投下を終了します。
洗脳系の支給品があるために一度こちらに投下させて頂きました。
指摘等あればお願いします。

329名無しさん:2015/09/16(水) 07:12:45 ID:rM8/t0dw0
投下乙です
不穏さがますます増してきましたね、いまだ暢気な心愛と警戒を強めるリタとの対比がよくできていたと思います
龍之介のたちの悪さもまた。今回蒔菜が起きなかったのもいい兆候じゃない感じですねえ
ところでブレスレットへの魔力による抵抗は可能ですか?
対象が限定されているだけに効果は強くなるのは自然だと思いますが、
修正要求ではないけどその辺気になりました

330名無しさん:2015/09/16(水) 07:51:11 ID:k4cltWfQ0
投下乙です
腕輪の支給自体は問題ないと思います
ただ
>対象を夢遊病患者のようにするだけで、意のままに操れるわけではない
このあたりの説明がどの程度なのかは少し気になりました
「おーいいくぞー」と声をかけられたらついて行っちゃうレベルなんでしょうか
いや、それは洗脳だという意見も、先日のランサーパート(実質騒いでいたのは少数かもしれませんが)のようなことも、あるかもしれませんし
「ぼーっとさせる程度(正気は残っているか否か)」「意識不明に近い状態に陥らせる程度」のようにそこそこ具体的な説明にした方がやや分かりやすいかと思います

あと、これは重箱の隅かもしれませんが
>それも、見る限り木や石を切るといったものではなく、肉を切るのに適したような刃渡り
「(怪我をした時のためだとの言い分で現地調達された)手術用のメスやハサミ(刃渡りもさほど大きくないはず)」に対して抱く感想としては少々不自然かと思いました
龍之助に民家等から更なる刃物を現地調達させるとか、護身用に心愛に刃物を持たせようとしたら断られて不信感を覚えるとかの方が自然かな、と
腕輪支給議論のついでに、のような形ですが言ってみます

331 ◆DGGi/wycYo:2015/09/16(水) 16:57:12 ID:SlnygLWY0
>>329
使用者より強い魔力で防御可能のくだりを追加しておきます

>>330
前者の指摘は、『使用者に声を掛けられれば付いて行く』『対象をぼーっとさせる(その間本人の記憶はない)』のつもりです。
後者の指摘は完全に失念していました。纏めて修正します。

332 ◆X8NDX.mgrA:2015/09/16(水) 21:30:38 ID:o7ANydZE0
仮投下乙です

遅れて申し訳ありませんでした。
自分も仮投下したいと思います。

333 ◆X8NDX.mgrA:2015/09/16(水) 21:36:50 ID:o7ANydZE0
 夜道を三人の男が歩いている。
 先頭は蟇郡苛、その少し後ろに衛宮切嗣と折原臨也。
 各々デザインは違えども黒を基調とした服装をしており、傍目から見るとかなり怪しい。
 それどころか、黒ずくめの服装と独特な風貌が合わさって、非常に近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
 
 先頭を往く蟇郡苛。彼の眼光は鋭く、しっかりと前を見据えている。
 本人にしてみれば進行方向を見ているだけなのだろうが、その視線は一般人を委縮させるのには十分なものだ。
 二メートルはあろうかという大男なのも、誤解を生む原因足り得るだろう。

 次に衛宮切嗣。一見すると普通の男性だが、その眼は明らかに死んでいる。
 虚無を感じさせる黒々とした双眸から、感情の類を読み取ることは難しい。
 これが正義の味方を目指した男だと、誰が想像するだろうか。

 最後に折原臨也。彼は一見すると整った顔立ちの青年だ。
 威圧感も虚無感も持ち合わせておらず、ただその内心では、人間への貪婪な好奇心を膨らませ続けている。
 一見すると危険性に気付かない、という意味では一番危険な男である。

 そんな三人が、行動を共にしている。
 目的地はゲームセンター。殺人事件の現場に向かい、現場を調査するのが主な目的だ。
 もっとも、三人のうち二人は別の目的を持って動いているのだが。

「ねえ蟇郡君、腕輪探知機の反応はどう?」

 ラビットハウスを出てから会話らしい会話をしていなかった三人の間に、きっかけを作ったのは臨也だった。
 といっても、腕輪発見器の人数を確認するだけのこと。
 形式的と言えばそれまでだが、どうやら蟇郡は忘れていたらしく、慌てたように探知機を取り出して操作した。

「む?これは……」

 立ち止まり、怪訝な声を出した蟇郡に、臨也と切嗣は近づいていく。
 蟇郡は振り返ると、二人に人数の表示を見せた。
 しかめっ面の蟇郡に対して、臨也は興味深そうな声を漏らし、切嗣は眉を僅かにひそめた。
 ラビットハウスで確認した際には「7」だった数字が、「9」に増えていたのだ。

「参加者が増えたか……平和島静雄と遭遇していなければいいが」
「このエリアに来たってことは、当然目指すのはゲームセンターかラビットハウスだろうし、もしかしたら承太郎君たちの方に行ったかもね」
「なんにせよ、危険人物でないことを願いたいな」

 名も知らない参加者の身を心配する蟇郡。
 不安を煽るような言葉を吐く臨也。
 嘆息と共に結論付ける切嗣。
 三者三様の反応を示して、三人は再び歩き出した。





 蟇郡たちが腕輪発見機を操作する十数分前。

「あれがゲームセンターか……結構大きいんだな」
「エリアは……G-7だ。間違いないな」

 ゲームセンターの外観を見上げながら、二人の参加者が小声で会話していた。
 風見雄二と天々座理世。
 学生服とメイド服という奇妙な組み合わせの二人だ。
 二人は幸か不幸か、他の参加者とは遭遇せずに、このゲームセンターまで辿り着いていた。
 支給品の確認をして以降、石橋を叩いて渡りながら来たため、時刻はすでに黎明になって、三十分以上が過ぎている。
 そのことにリゼは少なからず焦りを感じているようで、雄二へと早口で話しかけた。

「風見さん、早く入ろう。誰かがいるかもしれない」
「ああ、だが少し待て。……見ろ、あれを」

 雄二が指し示す方向を見たリゼは、その惨状に唖然とした
 剥がれた路面に、変な方向に曲がったガードレール。果ては倒れた自動販売機。
 交通事故のニュースで流れているような映像が、そのまま雄二たちの目の前にあった。

「恐らくは戦闘があったのだろう。遠目からでは詳しくは分からないが、銃火器が使われた可能性が高いな」
「……じ、じゃあ、まだ近くに……!?」

 口を開けたままだったリゼは、雄二のその言葉で現実に引き戻された。
 銃火器を持って、しかも戦闘を行うような参加者がこの近くにいる。
 リゼも武器は保持しているが、戦闘目的で使用した経験がない以上は素人も同然だ。
 危険人物に恐怖が湧いてくるのは必然だった。

(まさか、この近くで待ち伏せをしているんじゃ?)

 戦争で警戒するべきなのは、待ち伏せと急襲。その程度の知識はリゼにもあった。
 それ以上の恐ろしい想像までしたようで、リゼは恐怖を振り払うように頭をぶんぶんと振る。

(弱気になるな、いざというときには、私がチノやシャロたちを守るんだからな!)

334 ◆X8NDX.mgrA:2015/09/16(水) 21:40:55 ID:o7ANydZE0

 そう自分に言い聞かせるリゼをよそに、雄二は惨状に近づいていった。
 地面に落ちた破片を拾ったり、ガードレールの曲がり具合を見たり、抉れた地面をなぞったりしている。
 躊躇なく惨状に近づいて行った雄二の後を、リゼは恐る恐るついていった。

「ちょ、ちょっと」
「しっ。……静かに。周囲で何か聞こえるか?」

 唇に人差し指を当てた雄二の言葉に、リゼは目を閉じて耳をすませた。
 そして十数秒後、ゆっくりと目を開ける。

「……いや、聞こえない」
「そうだな……この近くにはいない、と見るべきか」

 こればかりは二人にとって幸いなことに、平和島静雄はこの場にはいなかった。
 少なくともこの時には、破壊衝動を器物損壊という形で表現することではなく、宿敵折原臨也を探し回ることに集中していたのだ。
 結果として、ニアミスした雄二たちは噴火の余波を受けることはなかった。
 それでも、姿なき破壊者の存在は、雄二たちに危険だという意識を植え付けた。
 とりわけリゼには、その意識が強く植え付けられた。

「その人物がここに戻ってくる可能性もある。それまでにゲームセンターの中を調べよう」
「ちょっと待ってくれ、その危険人物に知り合いが襲われているかもしれない。
 私の知り合いは……襲われたらまず助からない!」

 破壊の痕跡を見たためか、リゼは焦りを隠せないでいた。
 チノやシャロたちを守ると誓ったリゼにしてみれば、その心配は当然のものだ。
 そんなリゼと対照的に、雄二は全く焦った様子はなく、コンクリートの破片が落ちている辺りに屈んで付近の地面を探っていた。
 そしてリゼの言葉に、その体勢のまま返事をした。

「落ち着け。よく考えるんだ、居場所も分からない相手をどうやって探す。
 それにこんな破壊をやってのける奴に、焦って挑んだところで勝ち目はない」

 その雄二の言葉には、説得力が感じられた。
 圧倒的な武力の前に、何の対策も講じずに立ち向かうのは、勇気ではなく無謀である。
 もしこの惨状が銃火器やそれに類するもので行われたのだとすれば、現在の手持ちの装備では対応しきれない。
 このような説明を受けたリゼは、いくらか冷静になって、周囲の破壊の痕跡を確認した。
 改めて見ると、破壊の爪痕はただの拳銃程度では再現できそうもないほどに大きい。

「確かに、こんな破壊をするには、バズーカでもないと……」
「いや、もしかすると銃火器は使用していないのかもしれない」
「え?」

 前言撤回した雄二の言葉に、リゼは疑わしげに首を傾げた。
 リゼにしてみれば、この破壊跡はどう考えても激しい戦闘が行われた結果である。
 そのことを反論しようと口を開きかけるリゼだったが、雄二の真剣な眼差しに口をつぐんだ。
 雄二は立ち上がって辺りを見渡すと、確信を持った口調でリゼに向けて話し始める。

「この辺りには破壊された跡はあるが、弾痕も無ければ薬莢も無い。
 硝煙の臭いが全くしないのも不自然だ。
 それにあの倒れた自販機だ。ぶっ倒れて配線は引き千切れているのに、倒れたときにできた傷以外には凹み一つ見当たらない」

 銃撃や爆発で倒されたにしては綺麗すぎるのだ、と。
 雄二に促され、リゼは二人で倒れた自動販売機を見下ろした。
 リゼの目から見ても、弾丸が撃ち込まれたり、刃物で傷つけられたりといった傷は無かった。
 そして、その事実がリゼを更に困惑させる。
 
「でも、それってつまり、素手で自動販売機を倒したり、電信柱を砕いたりしたってことだよな……。
 そんなのありえるのか!?」
「俺は実際に目の前にある事象は、何であれ信じることにしている。
 ……詳しいことは、あの破壊された壁のあるフロアに行けば分かるかもしれないな」

 「破壊された壁」と言いながら雄二が指し示した方を見て、リゼは再び驚愕した。
 ゲームセンターの壁に、爆弾で破壊されたような大穴が開いていたのだ。
 あの破壊も生身の人間によるものなのだろうかと考えて、リゼは背筋が凍るような感触を覚えた。
 ありえない。そう考えたかったが、雄二の意見も否定することはできない。

「もしかすると、『魔術』とやらが関係しているのかもしれないが……」

 リゼが混乱の極みにいる中で、雄二はぽつりと呟いた。
 アゾット剣の説明にあった魔術という単語が、雄二の心に引っかかっているのだろうとリゼは察した。
 とはいえ、雄二にもリゼにも魔術に関する知識が無い以上、それが現実においてどう作用するのかは想像の域を出ない。
 雄二もそれ以上は考えを保留にしたようで、リゼに向けて顔を上げた。

335 ◆X8NDX.mgrA:2015/09/16(水) 21:43:53 ID:o7ANydZE0
「思わぬ時間を食ってしまったな。さっさと探索を済ませよう」
「ああ。……だが、一つ謝らせてくれ。
すまない、雄二さん。私はまた動揺してしまったらしい……」

 顔を伏せて落ち込む様子を見せるリゼ。
 大切な友人たちを心配するあまり、焦って冷静さを欠いていたのはリゼ自身も理解していた。
 そして、それを責めずに窘めた雄二に、リゼは申し訳なさを感じていた。
 余計な時間を取らせてしまったことは明白だったからだ。
 だが、雄二は特に気にした様子もなく、こんな言葉を返してきた。

「ネガティブなイメージが沸くのは、危機管理が出来ている証拠だ」
「え?」
「危機管理が出来ている方が、俺としても守りやすい。そのままでいてくれ」

 返ってきた発言の意味を噛み砕いて、それがある種の慰めの言葉であるらしいと気付いたリゼは、雄二に対する認識を改めた。
 冷静なのは確かだが、その一言で言い表せる人ではない。

「……ありがとう」
「よし、行くぞ」

 照れながら発した言葉には反応せず、雄二は早足でゲームセンターの入口へと向かう。
 リゼは急いで、雄二の背中を追いかけた。





「そういえば、蟇郡君とは情報交換してなかったよね?」

 ラビットハウスからゲームセンターへの道中。
 数分間続いた無言を破ったのは、またしても折原臨也であった。
 先頭の蟇郡に対して情報交換を持ちかけるその顔は、臨也を詳しく知る人物からすれば胡散臭さを感じるものだったろう。
 しかし、顔を合わせて一時間と経っていない蟇郡に臨也を警戒するという発想はない。

「む、そういえばそうだな」
「衛宮さんとはもう済ませたんだ。君も知り合いとか、もし危険人物がいたら教えてよ」
「了解した。ではまず……」

 鬼龍院皐月、纏流子、そして満艦飾マコ。
 蟇郡は名簿にある知り合いの三人を、簡単な特徴と共に告げていく。
 皐月を紹介するときには些か誇らしげに、マコを紹介するときには些か複雑な面持ちで。
 臨也はそこから、蟇郡の心情の機微を少なからず感じ取った。
 もちろん、それを口に出すことはしない。

「俺も含めた四人は、本能字学園の生徒だ」
「本能字学園?確かこの島にもそんな名前の施設があったよね?」
「ああ、全く同じ名前だ。実際に見ていないからなんとも言えんがな」

 それから、と蟇郡は危険人物についての話をし始めた。
 前置きとして鬼龍院財閥について説明が始まり、その内のREVOCSコーポレーションについて特に詳細を語った。
 ようやく針目縫の名前を出したところで、臨也が一旦蟇郡を遮った。

「ちょっといいかな?
 俺、その鬼龍院財閥とか、REVOCS社?っていうの、初耳なんだよね。
 君の話だと、世界に誇るレベルで相当に有名な会社みたいだけど」

 その言葉に、蟇郡は振り向いて臨也に詰め寄った。
 巨体が覆いかぶさるようにして、臨也にプレッシャーを与える。

「なんだと?REVOCS社は世界各国に進出している大企業だ、知らぬということはあるまい。
 鬼龍院財閥とて同様、遍く世界に名の轟いている財閥だぞ」
「いや、僕もそんな会社は聞いたことがないな」
「なっ!?」

 臨也のみならず切嗣にも否定され、蟇郡はひどく動揺した様子を見せた。
 蟇郡からしてみれば、世界の常識を否定された気分なのだから当然だろう。
 そしてこの反応は、臨也にある推測をさせるのに充分だった。

「どう思う?衛宮さん」
「……文字通り、住む世界が違うということなのかな」
「そう思うよねぇ、やっぱり」
「どういうことだ?」

 臨也と切嗣が頷き合うのを見て、蟇郡は首を傾げる。
 それを見た臨也は、口元に笑みを作り、得意げに推論を話し始める。

「蟇郡君にとっての常識と、俺や衛宮さんにとっての常識が違ってる。
 これってつまり、“世界が違う”か“時代が違う”って考えるしかないんじゃない?」
「……?」

 意味が分からないという顔をする蟇郡を尻目に、臨也は再び歩き出した。
 それを見た蟇郡は、思い出したように臨也の後を追ってくる。

336 ◆X8NDX.mgrA:2015/09/16(水) 21:47:35 ID:o7ANydZE0

「君と俺の住んでいる世界は、異なる世界ってこと。
 平行世界(パラレルワールド)とか、そういうのを想像すると理解しやすいかな」
「馬鹿な……?タイムマシンでも使ったというのか?」

 蟇郡はにわかには信じがたいようで、臨也に不審そうな目を向けている。
 そんな視線を受け流し、臨也は蟇郡に向けて単語を列挙し始めた。
 ひとつひとつ、ゆっくりと、蟇郡の反応を横目に見ながら口にする。

「『首無しライダー』『平和島幽』『聖辺ルリ』『殺人鬼ハリウッド』……」
「ん?なんだ突然」
「今挙げた単語で聞いたことのあるものは?」
「どれも知らないな。殺人鬼など聞いたことも――」
「あれー、おっかしいなぁ。どれも俺の世界では常識なんだけど」

 臨也の言葉に、蟇郡は言葉を詰まらせた。
 蟇郡の世界での常識を臨也が知らないだけならば、蟇郡にとって臨也は単なる世間知らずな人間である。
 だが、臨也の世界の常識を蟇郡が知らないということになれば、双方向に未知の事実が存在していることになり、臨也の平行世界説を補強する。
 蟇郡の反応は、そういう意味で臨也の思惑通りであった。

「……納得はできんが理解はできた。
 つまり、あの少女には異なる世界を移動する手段があるということだな」

 だが、直後の蟇郡の適応の速さは、臨也にとって少し予想外だった。
 もともと蟇郡は、風紀委員長を務めるだけあって堅物なのは間違いないが、だからといって柔軟な思考ができないわけではない。
 極制服や生命繊維など、一般的な感性からすれば超常の存在を知識として持っている。
 パラレルワールドという超常現象も、理解しようとすればできるのだ。

「ま、タイムマシンっていうのも可能性としてはありだよね。
 となると俺からしてみれば、蟇郡君は未来の人ってことになるんだけど。
 ……衛宮さん、時間や空間を移動する、魔法めいた方法に心当たりはない?」

 臨也は軽い調子で、ほとんど喋っていない男性に問いかける。
 臨也にとって、この質問自体に大した意味はない。
 むしろ“切嗣がどう返答するか”を期待するところが大きい。
 切嗣が臨也の性質を見極めようとしているように、臨也も切嗣を観察し分析しようと試みていた。
 この島に来てから、既に空条承太郎という面白い『人間』を見つけていたが、それはそれ。
 飽くなき探求心にも似た貪欲さを発揮して、臨也は切嗣が『人間』なのか否かを観察して判断する。
 その手段として、映画館で承太郎にしたように、カマをかけた。
 とはいえ、まだ切嗣は底が知れない相手であったから、先刻のようにナイフを向けたりはせず、言葉の上での問答を用いたのだ。

「……どうかな。ただ、僕としては折原君の意見を尊重したいと思うよ」

 そんな意味を含んだ問いかけに、目を伏せて答える切嗣。
 第三者からすれば肯定とも否定ともつかない曖昧な返答であったが、臨也は言外に切嗣の意志を感じ取った。
 それは“尊重”という一つの単語だ。
 この単語、出会って間もない相手に使うには非常に違和感があるし、かといって、いい大人が誤用をしてしまうような難単語ではない。
 つまり、臨也に対してプラスの感情を抱いていることを、切嗣が婉曲的に表現した、と臨也は考えた。
 好意的で楽観的な解釈ではあるが、臨也は半ば確信していた。

(出来ることなら、二人だけで話したいね……)

 ただ、切嗣をより深く理解するには、二人きりでの対話が必要だと臨也は判断する。
 返答が曖昧であったのも、一対一の状況ではなかったことが原因であると推測できる。
 ゲームセンターで対話の場が設けられれば万々歳、臨也はそう考えた。

「それより、そろそろゲームセンターだ。ほら、あの――」

 歩く速度はラビットハウスを出た直後に比べれば落ちていたが、それでも歩みを進めていた以上、目的地には辿り着く。
 三人の目の前には、周りの建物よりひときわ高い、ゲームセンターがあった。




337 ◆X8NDX.mgrA:2015/09/16(水) 21:52:31 ID:o7ANydZE0


 ゲームセンターの探索を始めてからしばらく経った雄二は、些か拍子抜けしていた。
 三階までくまなく探索したが、期待した成果は何も得られていない。
 プライズゲームが主な一階では、リゼがUFOキャッチャーの景品に目を奪われてしまい多少時間を喰ったが、肝心の探索は緊張感を持ちつつ淡々と進んだ。
 それなのに、参加者はいない。目立った箇所もない。
 時計を見ると、既に三十分以上を費やしている。
 ここの探索が無駄足で終わるのではないかという不安が、雄二の頭にはよぎり始めていた。

「意外と何もないな。普通のゲームセンターって感じだ」

 近くにいたリゼも、緊張感を失ったのか、だいぶ表情が柔らかくなっている。
 無駄に緊張しすぎるのもよくないため、これは良い傾向だと考えた。

「そうだな。例の壁に開いた大穴は、おそらく次のフロアだろう。
 なにかしら手がかりが残されていればいいんだが」

 言いながら階段を上って行き、新たなフロアへと足を踏み入れる。
 そこは紹介文によれば『』が中心のフロアであり、今までと同様に騒がしさはあったのだが、それとは別のことを雄二は感じ取った。
 風が入り込んでいるのは、開けられた大穴からだろうと推測できる。
 その風に乗って、何かが鼻腔を鈍く刺激する。

(これは――血の臭い!?)

 戦場で何度も嗅いだ臭いに、雄二は足を止め、緊張を募らせた。
 しかし、リゼは今までのフロアで緊張してきた反動か、さして警戒した様子もなく、機械的に探索を進める。
 それは一種の“慣れ”であり、リゼ自身が気づいて抑制することはできなかった。

「リゼ、不用意に進むな!」
「でも壁を壊した犯人は外にいるんだろ?
 だったら平気で…………っ、いやああああっ!!?」
「くっ!」

 悲鳴と同時に、きれいに腰を抜かすリゼ。
 雄二は急いで駆け寄ると、リゼが見ている方向へと視線を向けた。
 そこにあったのは、頭がゲーム筐体の下敷きになっている人間の姿だった。

「……」

 それがもはや動き出さないことは、誰が見ても明らかであった。
 全く動けない様子のリゼは落ち着くまで放置することにして、雄二は遺体の元へと歩み寄る。
 顔は見えずとも、体型から遺体が少女だということは簡単に判別できた。
 遺体はメイド服を着ている。汚れたり破れたりはしていないが、何故か下着を“はいてない”ことには流石の雄二も困惑した。

(いや、落ち着け。こういう趣味ということも考えられる)

 雄二は冷静に死体を検分することを続けた。
 まず、頭部以外の肉体には傷らしき傷がない。
 手足を殴ったり刺したり、あるいは暴行したりといった跡も存在しなかった。
 そして、頭部を潰している凶器は、百キロはあるだろうゲームの筐体だ。
 これで頭部を潰すのは、そうとうな力がなければできないと予想できる。

「な、なあ……ちょっといいか……?」
「ん?……あぁ、気を付けて行ってくれ」

 後ろを振り返ると、そこでは顔色の悪いリゼが口元を押さえていた。
 死体を見たことで嘔吐感に襲われたが、かろうじてその場で吐くことを留まったのだろう。
 雄二はそう判断して、すぐにリゼをお手洗いのマークがある方へと促した。
 リゼは矢も盾もたまらずといった様子で駆け出した。
 そしてその瞬間に、電流が走ったような感覚に襲われる。

(まさか、この少女が下着を付けていない理由は――!)

 雄二はフロアの中をくまなく探索した。
 そして、雄二の仮説を裏付けるものが、このフロアには存在した。
 サイズからして少女の物と思われる、下着を含めた脱ぎたての衣服である。
 雄二はそれをまじまじと見つめながら、これがこのフロアにある意味について考えた。




338 ◆X8NDX.mgrA:2015/09/16(水) 21:56:12 ID:o7ANydZE0



 ゲームセンター内のトイレにて。
 リゼの脳内では、先程見た死体がフラッシュバックしていた。
 力なく床に横たわった小さな身体と、周囲に飛び散った赤黒い血液。
 ゲームセンターという日常に近い場所で、殺人が行われたという事実は、平凡な日常を過ごしてきたリゼに強い衝撃を与えた。

(チマメたちと同い年くらいの女の子が、頭を、潰されて――!!!)
「うぶっ……」

 あまつさえ、リゼ自身や知り合いが物言わぬ死体となった瞬間を想像してしまい、リゼは堪え切れず嘔吐した。
 そうして胃液まで出し切って落ち着くのには、数分間を要した。

「はぁーっ……はぁ……」

 洗面台を汚した吐瀉物を水で流して、リゼは鏡を見た。
 その顔は自分の目から見ても酷いもので、リゼは両手で顔をぴしゃりと張った。

「チノやココアたちを、あんな風に死なせちゃいけない……!」

 自分への戒めの言葉を呟いて、リゼはトイレを出た。
 一番近いトイレは二階にあったため、雄二のいる四階に戻るには階段を登らなければならない。
 そのことに多少の疲れを感じながら、階段に足をかけようとしたその瞬間。

「そこの女子!貴様も参加者か!?」

 質量を持ったような声が、リゼを背後から襲ってきた。

「ひっ!?」

 いくら自分を戒めようが、背後から突如大声で呼びかけられたら、緊張に身体を震わせてしまうのは当然だろう。
 リゼは後ろをゆっくりと振り返る。
 そこにはリゼよりも、同行者の雄二よりも更に大きい男が立っていた。

(まさか、この人が……?)

 蟇郡の巨体を見て、ゲームセンター前の破壊活動を行ったのはこの人物ではないか、とリゼが考えるのもまた、道理であろう。
 なにせ蟇郡は、自動販売機よりも大きい身の丈をしているのだから。
 しかし、リゼが抱いたその不安は、良い意味で裏切られた。

「あのさぁ……どうして怖がらせるようなことするの?」
「え……」

 黒服の巨体の背後から、別の人間が現れたことで、リゼは叫んで雄二を呼ぶことを思い止まった。
 未だに警戒は解かないものの、相手の話を聞くことに集中する。

「いやぁ、ごめんね怖がらせちゃって。この人いつもこんな感じなんだ。
 俺は折原臨也。こっちは蟇郡苛。あともう一人いるんだけど、その人は周囲を捜索してから来るみたい。
 俺たちは目的があってここに来たんだけど……。
 って、いきなりすぎたかな。よかったら名前を訊かせてくれるかな?」
「……私は天々座理世だ」

 両掌をリゼに向けながら、笑顔を見せて警戒を解こうとする臨也。
 実際のところ、臨也の整った容姿と丁寧な対応、優しい声音によって、リゼはこの時点で半ば信頼しかけていた。
 同時に、相手の状況を把握したことから冷静さが生まれて、普段の調子で返答が出来るまでに回復していた。

「そっか、リゼちゃんっていうんだね。
 随分顔色が悪いけど、どうしたのかな?
 ……もしかして、女の子が死んでいるのを見ちゃった、とか?」
「っ!?」

 このとき、リゼは緩めていた警戒を再び引き締めようとした。
 具体的には、距離を取って拳銃に手を伸ばそうとしたのだ。
 だが、こと言葉の上での駆け引きにかけて、情報屋はあまりに有利であった。

「ああ、警戒させちゃったみたいだね。
 実は俺たちがここに来た理由の一つが、その女の子の遺体を調べることなんだ。
 あまり大声じゃ言えないんだけど、俺の知り合いが殺したかもしれなくってさ」

 拳銃に伸ばしかけた手を硬直させ、リゼは臨也の語る内容に耳を傾けた。
 臨也はリゼに気付かれないように薄い笑みを浮かべ、すらすらと淀みなく話し続ける。
 “立て板に水”とはこのことである。

「リゼちゃんも見ただろう?ここの近くが、めちゃめちゃになっていたのを。
 自販機が倒されていたり、このゲーセンの壁に大穴が開いていたり。
 あれをやったのも、そいつの仕業なんだよ。
 だから俺たちは、その女の子の遺体を調べて、確固たる証拠を見つけたいんだ」

339 ◆X8NDX.mgrA:2015/09/16(水) 22:02:26 ID:o7ANydZE0

 確かに理屈は通っていると、リゼは思った。
 女の子の頭部を潰していたのはゲームの筐体で、かなりの重さがありそうだった。
 あれを持ち上げて落としたのだとしたら、それこそ巨体の蟇郡でもないと不可能な芸当だ。

「どうかな、信頼して貰えたかい?」
「えーっと……」
「なるほど。あの女の子が誰に殺されたかは、俺も興味がある」

 リゼの背後から、階段を下りてきた雄二が臨也に声をかけた。
 片手には支給品のキャリコを油断なく構えている。
 戻ってこないリゼを心配してか、それとも蟇郡の声が聞こえたからか、様子を見に来たらしい。

「それじゃ、情報交換といこうか」

 そう呟いた臨也の声を、リゼはとても愉快そうだと感じた。





 ゲームセンターの五階。
 五人の参加者の情報交換は、切嗣が予想したより遙かに早く終了した。
 というのも、風見雄二と天々座理世の二人は他の参加者と遭遇していないらしく、情報らしい情報は知り合いの名前しかなかったのだ。
 一方の切嗣たちが持つ情報は、主に臨也が伝えた。
 空条承太郎、一条蛍、そして香風智乃。ラビットハウスで待っている三人の名前。

「本当か!?ラビットハウスにチノが!?」
「間違いない。俺は香風にコーヒーを振る舞われた」
「そうか……よかった……生きてて……」

 そんなやりとりをしてから、次に臨也と蟇郡の知人の名前が伝わった。
 臨也から園原杏里と平和島静雄の、蟇郡から針目縫の危険性について強く語られたリゼは、安堵した表情を一転して恐怖に曇らせていた。
 その後は、遺体となっていた少女の名前が越谷小鞠であること、支給品は盗難を懸念して預かっておいたことを切嗣が説明した。
 さらにそれが終わると、臨也が再び平和島静雄を貶すことに終始した。

「じゃあ、その静雄って人がゲームの筐体を投げて……」
「ああ。そうに違いないよ。
 外の暴風が通ったみたいな破壊の跡は、間違いなくシズちゃんだ。
 監視カメラでもあればよかったんだけどね……生憎ここのはダミーみたいだし」

 臨也は話しながら、静雄の危険性をオーバーに言いながら、ときおり切嗣と視線を合わせてくる。
 なにもこの瞬間だけでなく、ゲームセンターについてから、臨也はまるで切嗣に協力するかのような行動を取っていた。
 蟇郡が筐体を持ち上げたときには、灰皿の破片が発見されないか焦ったが、臨也が過剰な反応をして、全員の視線が頭部に集中したお陰で事なきを得た。
 遺体に適当な毛布がかけられて、砕けた灰皿が再び筐体の下に隠れてから、臨也がこちらを見てきたのは偶然ではない、と切嗣は考える。
 臨也は切嗣の所業を理解しており、自分に協力する意思があると切嗣は確信していた。

「生身の人間なのに、あれだけの破壊を行えるのか?」
「ああ、池袋でもことあるごとに大暴れしてるよ。
 “最強”って呼ばれてるくらいだ。
 放っておいたら、この殺し合いでどんな被害を出すか分からない」

 ラビットハウスを出てから、折原臨也の動向を観察していた切嗣は、一つの結論を出していた。
 それは臨也が「同盟関係を組むのに相応しい相手である」ということ。
 至極冷静な人物で頭の回転も速い。コミュニケーション能力も申し分ない、そして口がよく回る。
 切嗣が交渉材料を持ち出すより早く、切嗣の犯罪を擁護するという形でフォローを入れる駆け引きの上手さもある。
 協力できれば心強い人間だ――裏を返せば、引き留めておかなければ利用されかねない。

(そうなると、折原臨也と対話したいところだ)

 目下のところ、切嗣が欲しいのは臨也と二人きりで対話をする機会だった。
 とはいえ都合よく事態は進まないもので、情報交換が終わり、臨也は雄二と行動方針について熱心に話し合っている。
 無理に二人きりになろうとすれば、怪しまれる可能性があるために、切嗣は動き出せなかった。
 そして、全員でラビットハウスへ向かうことで話が固まりつつあったとき。

340 ◆X8NDX.mgrA:2015/09/16(水) 22:07:41 ID:igNLH62o0

「あの、なんか変な声が聞こえるような……?」

 この場でただ一人の女性であり、萎縮したのか知り合いの情報を話すとき以外は黙っていたリゼが、ここで口を開いた。
 切嗣が耳をすますと、確かにそれまではしなかった音がBGMに混じって聞こえる。

「声?……ああ、確かに。上のフロアかな?」
「ならば俺が見て来よう」

 臨也が天井を仰ぎながら言うと、それに対して蟇郡が腰を上げた。
 流石は風紀委員長といった堂々とした様子で、声のする上階への階段へと向かう。

「いや、全員で行った方がいい。……何があるか分からないからな」

 結果的に雄二の提案通り、五人は蟇郡を先頭に階段を上がった。
 当然のことながら、広さや奥行きはそれまでのフロアと変わらないが、それまでと違い、ゲームのBGMなどが響く中で、耳に残る声がする。
 雄二たちも未踏だった『ギャンブルゲーム』のフロアの壁に、本来ならばゲームに使用されているのであろう大きな画面がある。
 そこに映っていたのは、ゆったりとしたローブを幾重にも重ねて着ている、長身の男であった。
 遠目から見える不気味なインスマス面にも、独特な抑揚のためか芝居めいて聞こえる話し方にも、切嗣は嫌というほど心当たりがあった。
 画面に近づいて確認するまでもなく、その男は自ら名乗りをあげた。

『此度の放映をご覧頂けた幸運なる皆様。私、キャスターのサーヴァント、ジル・ド・レェと申します』

 切嗣以外の人間は、不快感と好奇心が入り混じったような表情をしている。
 キャスターが口上を述べ終えると、三人の少女が映像に映された。
 少女たちは、明らかな不審人物を前にしても微動だにせず、不自然に身体の一部を隠されていた。
 キャスターによる放送という時点で、切嗣はある程度予想をしていたが、少女たちの様子からある確信に至った。

(あの少女たちは生きて帰れないだろう)

 切嗣はキャスターの主従が冬木市において、聖杯戦争とは無関係の連続殺人を行っていたことから、その危険性を理解している。
 しかも、キャスターがセイバーとアイリに接触した際に名乗った名は、放送でも本人が名乗ったように“ジル・ド・レェ”だ。
 百年戦争の終結に貢献しながら、その後は黒魔術に耽溺、大勢の少年を虐殺したことで知られる、フランスの英雄の一人。
 異常な人物であることは疑いようもない。
 更に、それが聖杯戦争において魔術師(キャスター)の英霊として呼ばれたのだ。
 純粋な戦闘力だけであれば最弱のクラスであるキャスターが、勝利するために取る手段は一つ。

「罠クサいねぇ、これ」

 映像を見て呟いた臨也の言葉に、切嗣は心中で頷いた。
 魔術師のクラスはその特性上、強力な魔術工房と権謀術数を駆使して戦争を勝ち抜かなければならないのだ。
 霊力の強い土地に自らの陣地を作り、その場に他の英霊を誘き寄せて、圧倒的に有利な場所での戦闘を行う。
 キャスターの放送で映された三人の少女は、いわば食虫植物が放つ甘い匂いのようなもの。
 それに釣られて寄って来た参加者を、新たな犠牲とするつもりに違いない。
 切嗣はこの時点で、準備もなしに行動することは危険だと判断していた。

『不肖ジル・ド・レェ、僭越ながらこの可憐な少女達を保護させて頂いております。
 ご友人の方々は是非とも放送局までお越し下さい。彼女達もきっと喜ぶことでしょう』

 切嗣や雄二が地図を確認して、放送局の場所を確認する。
 とはいえ、キャスターの口車に乗って放送局に向かおうと提案する者はいなかった。
 たった一人を除いては。

「間違いない……あれは満艦飾だ!」

 切嗣が階下に戻ろうと歩み始めたそのとき。
 映像が途切れても画面を凝視していた蟇郡が、ゲームの音声をかき消すほどの大声で叫んだ。
 どうやらキャスターが引き連れていた少女たちの中に、知り合いがいたらしい。
 それを聞いた切嗣は、蟇郡の次の発言、及び行動が予想できた。

341 ◆X8NDX.mgrA:2015/09/16(水) 22:13:48 ID:o7ANydZE0
「風見、俺はラビットハウスには行かず、直接放送局へと向かう!」

 薄々感づいてはいたが、切嗣は蟇郡の思考があまりに単純なことに溜息をついた。
 騎士道精神を持つセイバーやランサーよろしく、誰かのために忠義を尽くすタイプの人間であるらしい蟇郡は、友人の保護を選択した。
 しかも、単騎で魔術師の陣地に突入するというのだ。
 サーヴァントの脅威を知る切嗣はもとより、そうでない者でも無謀だと感じるだろう。
 蟇郡の瞳は決意に燃えており、前言を撤回する様子は微塵もない。
 キャスターの連れてきた子供たちを守ろうと、強く切嗣の名を呼んだ騎士王の姿を思い出し、切嗣は舌打ちをしたい気分になった。





 蟇郡の頭の中は、満艦飾を救うということでいっぱいだった。
 蟇郡は同じ四天王の犬牟田と違い、思慮が浅いことは自覚しているが、それでもキャスターの放送が罠であることは理解できた。
 しかし、それを差っ引いても満艦飾を保護するべきだと考えたのだ。

「風見、香風への言伝を頼めるか。『放送局に行き友人を保護してくる』と」
「……了解した」
「それと、これを渡しておこう。元は香風の支給品だが、俺が持つよりはいいだろう」

 頷いた雄二に、蟇郡は腕輪探知機の入ったカードを手渡した。
 雄二はそれをポケットにしまうと、はやる蟇郡に対して尋ねた。

「移動手段はどうするんだ?」
「む……」

 この雄二の質問には、それまで即決してきた蟇郡にも迷いが生まれた。
 放送局があるエリアと、現在地との距離を鑑みるに、徒歩ではどう考えても時間がかかりすぎる。
 一刻も早く放送局に行きたい蟇郡は、迷ったような視線を切嗣に向ける。
 切嗣がコシュタ=バワーを保持していることを知ってのことだ。

「構わないよ。蟇郡くん、これを」
「だが、それでは俺が一方的に好意に甘んじることに……」

 視線に、切嗣は快く応じた。
 一方、コシュタ=バワーの入った黒カードを渡された蟇郡は、少し引け目を感じて受け取ることを渋った。
 蟇郡の支給品は本人支給の極制服のみ。お返しにと切嗣に渡せる道具はなにもないのだ。
 無意識に物欲しげな視線を送ってしまった自分自身を、恥じる気持ちもあった。

「いや、君の支給品はその学生服……極制服だったかい?
 それしかなかったんだ。気にすることはないよ」

 しかし、蟇郡の心配をよそに、切嗣は気遣う言葉さえかけてきた。
 蟇郡は思う。衛宮切嗣のような親切な人間と出会えたことは幸運であったと。

「……恩に着る。では、俺はこれで」

 蟇郡はコシュタ=バワーを取り出すと、念じて愛用の車の形にした。
 念じただけで変化する不思議な物質に興味を抱くこともなく、蟇郡は西を見据えている。

「待っていろ、満艦飾……すぐに行く」

 満艦飾はよくわからない人物だが、こんなところで殺されていい人間ではない。
 本能字学園の風紀部委員長は、大事な生徒を保護するために、一路放送局を目指す。


【G-7/ゲームセンター付近/一日目・早朝】

【蟇郡苛@キルラキル】
[状態]:健康、顔に傷(処置済み、軽度)
[服装]:三ツ星極制服 縛の装・我心開放
[装備]:コシュタ・バワー@デュラララ!!
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
   黒カード:三ツ星極制服 縛の装・我心開放@キルラキル
[思考・行動]
基本方針:主催打倒。
   0:放送局に行き、満艦飾と合流する。待っていろ。
   1:平和島静雄が殺し合いに乗っている人物だと皐月様に報告せねばならない。
   2:皐月様、纏、満艦飾との合流を目指す。優先順位は皐月様>満艦飾>纏。
   3:針目縫、平和島静雄には最大限警戒。
[備考]
※参戦時期は23話終了後からです
※主催者(繭)は異世界を移動する力があると考えています。
※折原臨也、風見雄二、天々座理世から知り合いについて聞きました。




342 ◆X8NDX.mgrA:2015/09/16(水) 22:23:22 ID:o7ANydZE0

 勢いよく放送局へと走り去った蟇郡を見送ると、臨也は雄二たちに向けて言った。
 その顔には、情報交換の頃からずっと、柔和な笑みが浮かんでいる。

「じゃあ、ここは俺と衛宮さんで探索しておくから、風見君たちはラビットハウスに行ってよ」
「え、いいのか!?」

 リゼはこの提案に二つ返事で承諾した。
 知り合いを心配していたリゼならば、当然の反応だろうと雄二は考える。
 しかし、雄二は違う。ある懸念事項が雄二の心中に渦巻いていた。

「できることならもう少し探索したいんだが」
「やだなあ、この島に来てからずっと一緒なんでしょ?一緒に行ってあげなよ。
 俺や衛宮さんが一緒に行ってもいいけど、それはリゼちゃんにとっても負担じゃない?
 さっき知り合ったばかりの大人と一緒にされるよりは、風見くんが一緒の方がいいと思うけど」

 ところが、ゲームセンターに残るという案は臨也によって否定された。
 その反対意見の理屈も通っている以上、無碍にすることもできない。
 リゼを保護するというのが最初の目的であったことも、雄二にそれ以上食い下がることをさせなかった。

「それに、もうこの上の階層には、参加者はいないはずだから、そんなに人手もいらないしね」

 そう言って手をひらひらと振る臨也。
 口調だけでなく動作も軽いが、しかし隙らしい隙は見せない。
 情報屋というのは、そういった技術も必要なのだろうかと雄二は考える。

「そうか。なら言葉に甘えて、俺たちは先にラビットハウスへと向かう」
「ああ。リゼちゃんは一刻も早くチノちゃんに会いたいだろうしね」

 口元に笑みを絶やさずに喋る臨也の姿は、雄二に胡散臭さを感じさせた。
 とはいえ、相手が胡散臭いというだけで食って掛かるのは、短絡的が過ぎる。
 雄二の背後でリゼがそわそわとしていることも手伝って、最期まで雄二には効果的な反論が思いつかなかった。

「それじゃあ、俺たちもすぐ追いつくからさ!承太郎君たちによろしくね」
「道中は気を付けてくれ」

 そう言うと、臨也と切嗣は再びゲームセンターの店内へと入って行った。
 雄二はリゼを促して、共にラビットハウスへと歩き出す。
 ゲームセンターから少し離れたところで、リゼが雄二に話しかけた。

「風見さん、どうしてゲームセンターに残ろうとしたんだ?」

 心から不思議そうな声で問うリゼに、雄二は質問で返した。

「越谷小鞠を殺害した犯人は誰だと思う?」
「え?平和島静雄って人なんだろ?」
「どうしてそう思った?」
「どうしてって……それは……ゲーム機を投げられる馬鹿力があるらしいし……。
 それに、衛宮さんは壁を壊して出てくるところを見たって言っていたじゃないか」

 リゼの意見はもっともだった。
 平和島静雄について、折原臨也は危険性を証言し、衛宮切嗣は壁を破壊したことを証言した。
 二人の発言を全て信じるならば、越谷小鞠の殺害犯は確定したのも同然だ。
 しかし、雄二は蟇郡一行と情報交換をしてから、ある一つの可能性を思い浮かべていた。

「そこが引っかかるんだ。
 平和島静雄が殺人犯だと判断できる情報は、現状では伝聞されたものしかない」

 例えば、犯行の瞬間を捉えた映像や音声。
 或いは、被害者の越谷小鞠によるダイイングメッセージ。
 平和島静雄の凶行を証明する、物的証拠が存在しない。

「あくまで可能性の話だが……全部が全部、嘘ということも考えられる」
「まさか!?」

 リゼは大きな声を出して、それが早朝の街に響いたことに驚いて口を噤んだ。
 しかし、困惑した視線を引き続き向けてくるのは変わらない。
 困惑しているのは雄二も同様だった。
 ただ越谷小鞠の遺体が置いてあるだけなら、悩むことはなかった。

(ただ、あの濡れた下着と、プリクラの試着室からメイド服から考えられる仮説がある。
 『平和島静雄が下着を濡らした越谷小鞠のため、メイド服を上階から調達した』
 この仮説がもし正しいとしたら、平和島静雄はそもそも殺人を行うような人物とは思えない)

 平和島静雄は本当に犯人なのか?という疑い。
 それは殆どが雄二の推測であり、確実性は臨也や切嗣から伝え聞いた情報と大差がない。
 “平和島静雄の犯行ではない”ことを証明するのは、悪魔の証明に近いものがある。
 だからこそ、雄二は三人の前で言い出さなかった。
 殺人を犯していようがいまいが、平和島静雄が危険であるという事実は、ゲームセンター周辺の惨状から見て明らかだ。
 それを徒に覆して場を混乱させるのは、得策ではないと判断した。

343 ◆X8NDX.mgrA:2015/09/16(水) 22:33:17 ID:o7ANydZE0
申し訳ありません、前レスの途中から続けて投下します

 リゼは大きな声を出して、それが早朝の街に響いたことに驚いて口を噤んだ。
 しかし、困惑した視線を引き続き向けてくるのは変わらない。
 困惑しているのは雄二も同様だった。
 ただ越谷小鞠の遺体が置いてあるだけなら、悩むことはなかった。
 少女の服と、その後に探索した上の階層で、不自然に荒らされていたプリクラの衣装が、雄二の頭を悩ませた。

(あの濡れた下着と、プリクラの試着室から越谷が着ていたものと同じメイド服が漁られていたことから考えられる仮説がある。
 『平和島静雄が下着を濡らした越谷小鞠のため、メイド服を上階から調達した』
 この仮説がもし正しいとしたら、平和島静雄はそもそも殺人を行うような人物とは思えない)

 平和島静雄は本当に犯人なのか?という疑い。
 それは殆どが雄二の推測であり、確実性は臨也や切嗣から伝え聞いた情報と大差がない。
 “平和島静雄の犯行ではない”ことを証明するのは、悪魔の証明に近いものがある。
 だからこそ、雄二は三人の前で言い出さなかった。
 殺人を犯していようがいまいが、平和島静雄が危険であるという事実は、ゲームセンター周辺の惨状から見て明らかだ。
 それを徒に覆して場を混乱させるのは、得策ではないと判断した。

「とはいえ、現状では平和島静雄にだけ気を付けていればいいだろう」
「そ、そうだな。なんたって壁を壊すほどの奴だからな……」

 そう言いながらも、雄二は仮説を打ち立てていた。
 平和島静雄が壁を破壊したときに、それを目撃していたということは、即ち近辺にいたということになる。
 腕輪発見機の反応のことを考慮に加えると、越谷小鞠を殺害できるのは二人だけなのだ。
 平和島静雄を除けば、あと一人。

(衛宮切嗣――この男が平和島静雄に罪を着せた……?)

 雄二はこの仮説を、リゼにすら話さない。
 雄二は目の前の事象は信じることを決めているが、翻せばそれは不確定な情報で思考を縛ることをしないということだ。
 切嗣が越谷小鞠を殺害したとして、その動機も殺害方法も、何ひとつ判明していない。
 そこまで考えると、雄二はかぶりを振って思考を断ち切った。
 雄二は切嗣への疑念を、あくまで一つの可能性として、留めておくだけにした。

(それにしても、あのキャスターとかいう男……)

 雄二は続けて、ジル・ド・レェと名乗った男について考えを巡らせた。
 テレビ放送を流すことで、参加者を誘き寄せようとしている危険人物なのは明白だった。
 だが、それ以外にも雄二の心に引っ掛かるものがあった。
 ある男と声が似ていたのだ。
 雄二の父親と絵画を通じて関係があり、身寄りを失った幼少の雄二を引き取って人形めいた扱いをした男。
 雄二の殺人マシンとしての才能を見込んで、少年兵を育成する施設に送り込んだ男。
 雄二の師匠、日下部麻子らによる襲撃で姿を消した男。

(似ていた……ヒース・オスロ、あの男に……)

 このとき、雄二の中の心的外傷(トラウマ)が疼き始めていたことに、雄二自身もまだ気付いてはいなかった。


【風見雄二@グリザイアの果実シリーズ】
[状態]:健康
[服装]:美浜学園の制服
[装備]:キャリコM950@Fate/Zero、アゾット剣@Fate/Zero、腕輪発見機@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:不明支給品0枚、マグロマンのぬいぐるみ@グリザイアの果実シリーズ
[思考・行動]
基本方針:ゲームからの脱出
   1:天々座理世を護衛しながら、ラビットハウスに向かう
   2:入巣蒔菜、桐間紗路、香風智乃、保登心愛、宇治松千夜の保護
   3:外部と連絡をとるための通信機器と白のカードの封印効果を無効化した上で腕輪を外す方法を探す
   4:非科学能力(魔術など)保有者が腕輪解除の鍵になる可能性があると判断、同時に警戒
   5:ステルスマーダーを警戒
   6:平和島静雄、衛宮切嗣、キャスターを警戒
[備考]
※アニメ版グリザイアの果実終了後からの参戦。
※折原臨也、衛宮切嗣、蟇郡苛の三人と情報を交換しました。
※キャスターの声がヒース・オスロに似ていると感じました。

344 ◆X8NDX.mgrA:2015/09/16(水) 22:35:45 ID:o7ANydZE0

【天々座理世@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康
[服装]:メイド服・暴徒鎮圧用「アサルト」@グリザイアの果実シリーズ
[装備]:ベレッタM92@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0枚、越谷小鞠の服(下着込み)
[思考・行動]
基本方針:ゲームからの脱出
   1:ラビットハウスに向かう
   2:チノたちが心配
   3:風見さんと一緒にチノたちを探す
   4:外部との連絡手段と腕輪を外す方法も見つけたい
[備考]
※折原臨也、衛宮切嗣、蟇郡苛の三人と情報交換しました。





 蟇郡苛が去り、風見雄二と天々座理世が去ったゲームセンター内。
 騒がしいフロア内で、二人の男が相対している。
 かたや笑みを浮かべており、かたや一貫して無表情を崩さない。

「さて、と。衛宮さん、やっと二人でお話しできますね」
「ああ……こればかりはあのジル・ド・レェに感謝しないといけないな」

 切嗣は軽口を叩いて臨也と相対する。
 有用な人物に協力を取り付けるせっかくの好機を、逸する訳にはいかない。
 幸いなことに、臨也にも切嗣と対話をするつもりがあるようだ。
 切嗣は噛み煙草を口に含みながら、どう交渉したものかと思案を巡らせた。


【G-7/ゲームセンター内/一日目・早朝】

【衛宮切嗣@Fate/Zero】
[状態]:健康、緊張感
[服装]:いつもの黒いスーツ
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(20/20)、青カード(20/20)
     黒カード:エルドラのデッキ@selector infected WIXOSS
          蝙蝠の使い魔@Fate/Zero
          赤マルジャンプ@銀魂
          越谷小鞠の不明支給品0〜2
     噛み煙草(現地調達品)
[思考・行動]
基本方針:手段を問わず繭を追い詰め、願いを叶えさせるか力を奪う
   1:折原臨也を利用する。そのために臨也と対話。
   2:1の後、ラビットハウスの一団からも改めて情報収集をする
   3:平和島静雄とは無理に交戦しない
   4:有益な情報や技術を持つ者は確保したい
   5:セイバー、ランサー、言峰とは直接関わりたくない
[備考]
※参戦時期はケイネスを倒し、ランサーと対峙した時です。
※能力制限で魅了の魔術が使えなくなってます。
他にどのような制限がかけられてるかは後続の書き手さんにお任せします
※空条承太郎、折原臨也、一条蛍から知り合いと危険人物について聞きました。
※風見雄二、天々座理世と情報交換しました。


【折原臨也@デュラララ!!】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:ナイフ(コートの隠しポケットの中)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:不明支給品0〜2
[思考・行動]
基本方針:生存優先。人間観察。
  1:とりあえず衛宮切嗣は『人間』なのかどうか観察。そのために切嗣と対話。
  2:俺が何もしていないのにシズちゃんが自分から嵌められてくれた。
  3:空条承太郎君、面白い『人間』だなあ。
  4:DIOは潰さないとね。人間はみんな、俺のものなんだから。
[備考]
※空条承太郎、一条蛍と情報交換しました。
※風見雄二、天々座理世と情報交換しました。

345 ◆X8NDX.mgrA:2015/09/16(水) 22:41:47 ID:o7ANydZE0
仮投下を終了します。
タイトルについて失念していたので、本投下の際までに考えておきます
ひとまず指摘等あれば、よろしくお願いします。
といいながら、早速以下のように訂正します

>>337
そこは紹介文によれば『ビデオゲーム・対戦ゲーム』が中心のフロアであり、今までと同様に騒がしさはあったのだが、それとは別のことを雄二は感じ取った。

346名無しさん:2015/09/16(水) 22:47:38 ID:k4cltWfQ0
>>345
仮投下乙です
広まっていく静雄の誤解と、着々と根を広げつつある外道コンビにハラハラさせていただきました
ガマ先輩は放送を聞いたらそりゃあこうなる、そんな先輩を冷淡な目で見つつも、貸しだけは作っておく切嗣が抜け目ない…
そしてこの外道二人の対談、絶対に面白くなる…!

指摘というよりは確認なのですが
同じエリアには早朝に紅林遊月が出入りしているのですが、
今回腕輪発券機の人数が9人となっていたので、遊月はこの話の直前、
もしくは会話中で誰も気づかない時、あるいはこの話の直後にラビットハウスに出入りしたということで良いのでしょうか

347 ◆X8NDX.mgrA:2015/09/16(水) 22:55:27 ID:o7ANydZE0
>>346
感想ありがとうございます。

この話の冒頭でガマ先輩が発見器を作動させたとき、時間帯はまだ「黎明」のつもりでした。
それ以降は発見器を作動させないことで、遊月が「早朝」のどのタイミングでラビットハウスを訪れたとしても整合性が取れるようにしたつもりです。
質問の答えとしては、紅林遊月は「会話中で誰も気づかない時、あるいはこの話でガマ先輩が発見器を確認した後にラビットハウスに出入りした」ということでお願いします。
上記の点は地の文を追加することで誤解のないようにします。

348名無しさん:2015/09/16(水) 23:06:21 ID:k4cltWfQ0
>>347
了解です
細部への解答ありがとうございます

349名無しさん:2015/09/17(木) 14:07:44 ID:ExKxbFDY0
投下乙です

>>333などで言われている「ゲームセンター周辺の破壊跡」は静雄とジャックの戦闘跡のことでしょうか?
そうなると、雄二リゼの到着が黎明、ジャック静雄の戦闘が早朝なので時間軸が矛盾してしまいます

350名無しさん:2015/09/17(木) 15:53:06 ID:ADvXlpeI0
細かいことですが、首なしライダーってあの世界では誰でも知るほど有名でしたっけ?
確かテレビに写ったことはありましたが、むしろ地元民で有名な存在だったような
イザヤが登場話でセルティを紹介した時も「あの有名な首無しライダーだよ」という感じではありませんでしたし

351 ◆698HDQ.GME:2015/09/17(木) 22:57:21 ID:4DGxGwwQ0
ご指摘ありがとうございます。

>>349
ゲームセンター周辺については、静雄が苛立って破壊したものと考えていました。
根拠としては「噴火する平和」内の以下の文章があります。

>バーテンの後ろに広がっている、所々がぐしゃぐしゃになったアスファルトや標識を見れば尚更だ。 
>状況証拠だけでも典型的な激情家と分かる、そんな単細胞が見せる反応にしては大人しすぎる。平和すぎる。 

ここから、静雄はジャックとの戦闘を行うよりも前に、道路に破壊の痕跡を残していたと判断しました。
ですが、黎明の雄二たちがゲーセンに訪れた時点よりも前かどうかは判断できないので、本投下の際には、そう判断できる描写を加えたいと思います。

>>350
本投下の際に、『首無しライダー』を削除したいと思います。
その他の三つは問題ないということでいいでしょうか。

352 ◆X8NDX.mgrA:2015/09/17(木) 22:58:14 ID:4DGxGwwQ0
トリップを間違えました。
>>351は自分です

353 ◆45MxoM2216:2015/09/17(木) 23:03:13 ID:Ax634QW60
初作品で色々と不安な点もあるので、仮投下します

354 ◆45MxoM2216:2015/09/17(木) 23:05:26 ID:Ax634QW60
ぐ…うう…ゲホッ、ゲホッ」
アザゼルの手刀により気絶させられ、あまつさえ空中から放り投げられた浦添伊緒奈ことウリスは口の中になんとも言えない不快感を感じ、柔らかい土の上でなんとか目を覚ます
反射的に咳き込むと、偶然彼女の口の中に入ってしまっていた土が吐き出された

(最悪だわ…)
お世辞にも寝覚めが良いとは言えず、全身がズキズキと痛む伊緒奈は、思わず歯噛みする…
まだ口の中に若干土の味が残っており、彼女の機嫌はさらに悪くなる

――余談だが、人が気絶するほど強く首に手刀を打つと、頸動脈が圧迫され血流障害を起こしたり、延髄が刺激されて脳震盪を起こしたりと、下手をすれば空から放り投げられる以上に死の危険がある
だが、幸い彼女にそれらの症状は見られないようだ――

(一体…何が…)
彼女が戸惑うのも無理はないだろう
伊緒奈にしてみれば、上空の敵に銃口を向けて今にも引き金を引こうとした瞬間、その敵にいつの間にか背後に回り込まれ、何がなんだか分からないうちに気絶させられたのである

全身が痛むが、特に首の痛みが凄まじいことから、おそらく首を殴られたのだろうか…
とりあえず伊緒奈は地面に手をついて起き上がろうと…

355 ◆45MxoM2216:2015/09/17(木) 23:07:23 ID:Ax634QW60
(ん?地面?)
そこまで考えて彼女は気付く…
そう、先ほどまで歩いていた地面と今自分が横たわっている地面が、明らかに違うのだ

(おかしい…さっきまで私は市街地にいたはず…)
市街地のアスファルトを踏みしめていたのに、柔らかい土の上で横たわっているなど…
あまつさえその土が口の中に入っていたなど…
――最も、彼女が落ちたのがアスファルトの上だった場合、確実に彼女は死んでいたのだが――

(ち…あの翼の男…)
しかも、先ほどまで所持していたサブマシンガンがなくなっている…
あの男に奪われたのは明らかだった

どうやらあの男は武器を奪った後、自分をここに移してから去ったようであると彼女はあたりを付けた

(だけど何故、サブマシンガンだけ奪って私を殺さなかった?)
せっかく手に入れた強力な武器…アドバンテージを奪われて腸わたが煮えくりかえりそうになるが、なんとか抑えて思考を続ける伊緒奈

そう、無力化させた相手を殺さない…ウィクロスで例えるなら、相手のライフクロスを全てクラッシュし、いつでも相手のルリグに止めのアタックができるにも関わらず、アタックをしないという愚行だ
意味のない行為の上、そんなことをしてはクラッシュによってエナゾーンに送られたライフクロスを元手に、次のターンに手痛い反撃を受ける可能性がある

これが人殺しを厭うような人間にやられるならまだ分かるが、あの男はどう考えもそのようには見えなかった

(殺す価値もないと舐められた? でも仮にそうだとすると他の支給品…まぁ本やペンはともかく、水や食糧を奪わない理由にはならない…
そもそもなぜわざわざ気絶させた相手をこんな所に運んだの?
気まぐれ…というのもありえないこともないけど、それはいくらなんでもお気楽が過ぎる…
他に理由として考えられるのは…)
と、彼女の思考が堂々巡りになりかけた瞬間、伊緒奈はそれよりも重要なことがあったことを思い出した

356 ◆45MxoM2216:2015/09/17(木) 23:11:03 ID:Ax634QW60
(そうだ、現在地…それに定時放送!)
どうやら覚醒したばかりで頭のキレがいつもより鈍っていたらしい
本来真っ先に確認すべき現在地と時間を後回しにして、あの翼の男について延々と考えてしまっていた

――あるいは、彼女自身が考えている以上にアザゼルへの怒りが強かったのだろうか――

慌てて白いカードで時間を確認すると、現在の時刻は5:57…放送の三分前だ
どうやら、気を失っていた時間は思っていたよりも短いようだ
偶然口の中に土が入ったというのはなんとも不快な話だが、そのおかげで早くに目が覚めたらしい

同じく白いカードで確認したところ、現在地はG―4
先ほどの市街地――G-6から、さほど離れていない森林地帯だ
近くには城のような建物がある
(放送が終わったら、あそこでしばらく休むのもいいかもしれないわね…)
少なくともこんな所よりは居心地よく休めるだろう…
さらに城ともなれば、何か武器になるような物が置いてあるかもしれない

(あの男のもう一つの支給品は、とんだ外れだったし…)
彼女の脳裏に浮かぶのは、もはや顔も朧げなサングラスの男から奪ったもう一つの支給品ーーレーザーポインターだ
何の因果か、またもや文房具である
一応、目に当てれば牽制にはなるかもしれないが、殺傷力は皆無だ

どうやら自分はまだ運に見放されていないらしいと感じた伊緒奈は、青いカードから取り出した水で手早く口を洗ってから、放送に備えた

彼女は身体的に傷つけられたものの、内心に潜む"心”を壊す欲求を失ってはいない
敗北の屈辱は確かにあるが、彼女にとってはそういった屈辱を受けた者が他にいないかどうかの方が重要なのだ
もしそんな者がいたら、あの昌のように依存させたり、敵への憎悪といった"負の感情”を燃やさせるのも面白い

そんなぐちゃぐちゃでドロドロになる"心”を想像しながら、浦添伊緒奈ことウリスは妖しく微笑した…

357 ◆45MxoM2216:2015/09/17(木) 23:13:32 ID:Ax634QW60
【浦添伊緒奈(ウリス)@selector infected WIXOSS】
 [状態]:全身にダメージ(大)
 [服装]:いつもの黒スーツ 土が付着
 [装備]:なし
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(9/10)
     黒カード:うさぎになったバリスタ@ご注文はうさぎですか?
          ボールペン@selector infected WIXOSS
      レーザーポインター@現実
 [思考・行動]
基本方針: 参加者たちの心を壊して勝ち残る。
   0: 放送を聞く
   1: アナティ城に入り休息 あわよくば武器も手に入れたい
2:使える手札を集める。様子を見て壊す。
   3:"負の感情”を持った者は優先的に壊す
   4: 使えないと判断した手札は殺すのも止む無し。
5:蒼井晶たちがどうなろうと知ったことではない。

 [備考]
※参戦時期は二期の10話で再び夢限少女になる直前です。
※E-6の川底に長谷川泰三の死体が沈んでいます。

支給品説明
【レーザーポインター@現実】
赤い光が出てくる、一般的なレーザーポインター
超時間連続して使用すると熱に耐えきれず故障するが、基本的には電池切れの心配はない

358 ◆45MxoM2216:2015/09/17(木) 23:16:44 ID:Ax634QW60
仮投下終了です
何か指摘があればお願いします

タイトルは「その覚醒は重畳」を考えています

359名無しさん:2015/09/17(木) 23:30:58 ID:iFnOEacI0
乙です
ウリスもタフな女ですね。セレクターとしての面も描写されていて惹きつけられるものがあります
現状最弱クラスのマーダーである彼女が武器を入手できる機会はあるのか先が気になりました
本投下に問題はないと思います

360名無しさん:2015/09/17(木) 23:31:09 ID:Yp4SB45g0
投下乙です 備考の長谷川さんのところは削除してもいいんじゃないかと

361名無しさん:2015/09/17(木) 23:59:36 ID:F97d7Whc0
仮投下乙です
なんだかここ最近、はずれ支給品の割合が高いような…違う意味で主催の悪意を感じます
アナティ城と言えば密かにラヴァレイの研究室があったりもするのですが、ウリスは再起を図ることができるのか

一箇所、晶の名前が昌になっている箇所がありますね

362 ◆45MxoM2216:2015/09/18(金) 00:03:33 ID:ogTzEWp.0
>>359
ありがとうございます
ではこのまま致命的な問題が指摘されなかった場合、明日の夜に投下したいと思います

>>360
そうですね
本投下の時に削除したいと思います

363 ◆45MxoM2216:2015/09/18(金) 00:10:37 ID:ogTzEWp.0
>>361
指摘ありがとうございます
そこは自分の凡ミスですので、本投下の時に修正します

ウリスにまた強力な武器を与えることも考えたのですが、そうすると長谷川さんの支給品が強力すぎるかと思いまして
またアナティ城を目指すキャラが他にいないのでしばらくは武器なしでも問題ないと思い、このようになりました
アナティ城の内部については後続の書き手さんに任せるつもりなので、その旨も本投下の時に追加しときます

364名無しさん:2015/09/18(金) 00:21:46 ID:6NMI.TYA0
>>363
あ、そこ指摘のつもりはありませんでした……すみません

ちなみに、今回のSSに対する修正要求とかではなくロワでのルール上の話ですが
強力な武器ばかりを支給されたキャラがいること自体に問題はないですよ
強力な武器ばかりあたった参加者がいても、その格差も含めての「ランダムに支給される」というルールなので

365名無しさん:2015/09/18(金) 00:33:54 ID:cEHNnNRw0
投下乙です
内容は問題ないと思いますが、現在位置と時刻を追加したほうがいいかと

366 ◆45MxoM2216:2015/09/18(金) 00:50:06 ID:ogTzEWp.0
>>364
すいません、変な勘違いしちゃいました
そうですね、なるべく公平な方がいいという固定概念に囚われすぎてました
今後の課題にしたいです

>>365
おっと、そこもうっかりしてました
G-4/アナティ城周辺/一日目早朝
を本投下の時に追加しておきます

367名無しさん:2015/09/18(金) 12:13:03 ID:7Tyiu/QE0
>>351
良いと思います

368 ◆NiwQmtZOLQ:2015/09/27(日) 14:01:43 ID:AkjnIptk0
初ということもありますので、こちらに仮投下させていただきます

369 ◆NiwQmtZOLQ:2015/09/27(日) 14:04:33 ID:AkjnIptk0
申し訳ありません、コピぺが何故か出来ないので、上は無しでお願いします

370「作戦会議を始めよう」 ◆NiwQmtZOLQ:2015/09/27(日) 14:36:35 ID:AkjnIptk0
成功したので、仮投下させていただきます
また失敗するかもしれないので、投下が長くなるかもしれません

既に夜が明け、朝を迎えようとする平野で、六人の男女が南へと歩いていた。
鬼龍院皐月を始めとする、この殺し合いに抗うという志を共にする彼等の次なる方針は、この先にある駅から電車を用いて移動し、旭丘分校を経由して放送局を目指すというもの。
キャスターによる放送の結果満艦飾マコや南ことりが狙われる可能性もあると考えた皐月の判断により、本来なら定時放送を待つはずだったその移動は、無理をしない範囲で早まる事となった。
未だ目を覚まさない友奈を運ぶ為に半壊した病院から先程銀時と桂によって発見されていた担架を運び出し、持つ人間を交代しながらその足を進める。
そうやって、何とか病院から駅までの半分ほどを移動した頃のことだった。

「皐月殿、友奈殿の担架を持つ係も一周した。そろそろ休憩を入れても良いのでは無いだろうか」

そう声を上げたのは、殿を務めていた桂。
最後尾にいた彼には、周囲を警戒している皐月が時折僅かによろめいていた事に気付いていた。
注意深く無ければ見逃してしまいそうな鬼龍院皐月によるほぼ完璧な虚勢も、流石に数多の戦場を潜り抜けてきた攘夷志士の目を誤魔化し切れるものでは無い。

「…ふむ、そうだな」

その進言に、皐月も思考を巡らせる。
鮮血に血を吸わせ流子との戦闘を行い、更には短時間でひとり橋を調べる事までした彼女の身体に未だ大きな負担が掛かっているのは事実。
これ以上の進軍の強行はそれこそ無理をする事になるし、いざという時に力を発揮しきれない可能性も出てくる。

「その通り、か。
よし、全員、一度休息を取る。皆しっかりと身体を休め、これからに備えるように。
それと」

出来れば早々に駅まで着きたかったが、先に言ったように無理をしない事が重要。
まだ幼いれんげの事もある、早めの小休止も重要な要素の一つだ。
そう考えた皐月は、その進言を聞き入れた。
だが、休息を取る事に賛同した理由に、もう一つ。

「そろそろ定時放送だ。聞いたら出発をする、各々しっかりと聞いておくように」

真実を伝える鐘が既に迫っていた事も、確かに存在していた。

時間も頃合いだった為に、同時に朝食も済ませてしまう事となった。
友奈の担架を傍に置いて円を描くように座り、全員が赤カードを使用するわ。
周囲の警戒自体は怠っていないが、それでも空腹の身体に食べ物が入る事でその緊張が和らいでいた。

「生命繊維に魔法…どれも俄かには信じられぬものばかりだな」
「いや、江戸が宇宙人に攻め落とされたってのも大概でしょ」

食べながら、六人はそれぞれの知っている事について改めて情報の交換を行った。
当初こそ様々な世界の話ーーーとりわけ「生命繊維」「天人」「魔法」についてが噛み合わずに泥沼と化しかけたが、コロナから語られた「管理外世界」についてにより一応の収集がついた。

「…ふむ」
「どうかしたか、皐月さんよ?」

ふと、皐月が何かを考えるように顎に手を当てる。
それに気付いた銀時の言葉に「ああ」と返し、彼女は改めて地図を呼び出した。
そしてその更に数秒後、顔を上げて彼女は皆に呼び掛けた。

「すまない、少し気になる事が出てきた。…全員で意見を出し合いたいと考えているが、いいか?」

この殺し合いについて、だと。
後に続いたその言葉で、れんげ以外の全員が顔を引き締めた。
だが、誰も顔を落とそうとはしない。
殺し合いに抗うというその意思を肯定と同義と捉え、皐月は話を始めた。

371「作戦会議を始めよう」 ◆NiwQmtZOLQ:2015/09/27(日) 14:38:34 ID:AkjnIptk0
「まず気になるのは、この殺し合いという舞台について。
とりわけ、施設の名称だ」
「めいしょう…名前ってことなん?」
「そうだ、れんげ殿。しかし、名称の何が気になるのだ?」

そう聞いた桂に、皐月は幾つかの施設を指差す。
『DIOの館』。
『ラビットハウス』。
『アナティ城』。
『ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲』。
『万事屋銀ちゃん』。
そして、それぞれの島に設置された三つの学校。

「これらの施設は、何れも固有名詞。恐らくは、それぞれの世界で重要な施設なのだろう。
ならば、だ。それらと他の施設の違いは何だ?」

あ、という声。
皐月は頷くと、それ以外の施設とも見比べながらこれらを見返す。

「名前がある施設は、それを知っている者にとって目印となろう。
それ以外にも、駅や放送局…或いは武器がありそうな基地。これらには殺し合いの中でも利用価値が存在する」
「だけど逆に言えば、それ以外…映画館やゲームセンター、公園などが何故明記されて地図に載っているのか。
拠点とする場所の強調にしては、南東に多過ぎる気がしますし…確かにおかしいですね」

施設の存在に、何らかの意味がある。
そうやって考えてみると、この地図には何か重大な事実が隠されているのではないだろうか。
そんな考えが、全員の頭に浮かんだ。

「学校が三つもあることについては、皐月殿はどう考える?」
「恐らくは、それぞれの島での目印だろう。
学校は得てして人が集まりやすそうな施設だ。固有名詞があるなら、最終目的地や仲間との集合を目指しそこに進むことも考えられる」
「案外、学校にワープポイントでもあるかもしれないですね。
実際橋が壊れている以上、行き来できなくなった時に人が集まる場所に行けば動ける、というのも考えられます」
「成る程…まあ、そんな不確かなものの為に戻る訳にはいかないがな」

実はこのコロナの提案は実は的を射ていたりするのだが、それはまた別の話。

「この中で一番怪しいのは…やはり砲台だな」
「ああ、俺に関係がある施設だけ二つあるってのはなんかありそうだ」

鮮血の発言に同意するように、銀時が言葉を続ける。

「放送局からも近い。調べてみる価値もありそうだな」

皐月もそれに続く。
ここについては実は彼女も思うところがあった

(…だが、今はそれよりももう一つ存在する疑問を提示する方が先決だな)

心の中でそう考え、皐月は再び皆に向き直る。

「それと、もう一つ。
この殺し合いにおける、黒幕の存在についてだ」

一瞬、皆の息が止まる。
その中で最初に口火を切ったのは、銀時だった。

「根拠は?」
「今ここにいる七人、数にすれば実に全参加者の十分の一。それに各々の知り合いの存在なども加味すれば、殺し合いに牙を剥く人数は少なくとも倍はいると見ておかしくない」
「殺し合いに積極的には乗らない人間を此処まで多く集めている意味、か。
単なる殺し合いが目的では無く、その過程か何かに狙いがあるとそう言いたいのだな?」

続く桂の言葉に皐月が頷く。
何もあり得ない話では全くない。そもそも、戦えない絵里やその友人が招かれている事には違和感があるし、幾ら超常の力を持っていようと子供が行うには些か
尚も話を続けようとしたが、その前にふと絵里が口を開いた。

「…でもあの女の子、それこそ誰でもいいみたいな言い方だったわよ。
望んでいるのは他人の不幸だけで、幸せそうなら誰でも良かったんじゃないかしら。言っていて、嫌になるけれど」
「ああ、そうだ。先の施設の話も、子供の遊びで適当に選んだといっても合点はいく」

372「作戦会議を始めよう」 ◆NiwQmtZOLQ:2015/09/27(日) 14:41:40 ID:AkjnIptk0
子供は時に残酷な遊戯を楽しむ。
もしそういったものの一環で、繭が単に幼いなりの知恵と見合わぬ力を行使したとしても、この会場の違和感は拭いきれるものではある。

「だが、それにしてはこの殺し合いのルール自体は徹底している。
禁止エリアや腕輪、願い事を叶えるなど、『戦うに足る理由』を周到に用意してある所が顕著だ」

だが、このゲームのルールはどうか。
子供が一人で思いつくには、あまりに綿密に作り込まれているように感じる設定。
決して『殺し合いに乗らざるを得ない』状況にはなっていない点を見ると、子供の遊びにありがちな行き過ぎもない絶妙なラインとも言える。
抜け出さんとするには難しく、だが、かといって全員が全員殺し合いに乗らざるを得ない状況は作り出さないルール。
この絶妙なバランスを、あの精神的にも大人には見えにくい少女が考えついたとはどうにも思えない。

「あの繭ってヤローは、あくまで傀儡に過ぎねえって訳か」

繭を倒せばいいとだけ考えていたが、それは確かに早計に過ぎた。
背後にいる存在の思惑、その正体を看破しなければ、恐らく完全な脱出は有り得ないと見ていい。
面倒事が増えたと舌打ちする銀時の傍、ぽつりと絵里が呟く。

「…それでも、人を殺し合わせて、死んだらこんなカードに閉じ込めて楽しむなんて…」

人を喜ばせる為。
そういって輝かしい笑顔を振りまいていた友人達を思い出し、彼女は小さく怒りを燃やした。
何で、そんな形でしか喜べない人間がいるのか。
何で、自分達が巻き込まれなければならなかったのか。

「どんな理由があるにせよ、しているのは外道の所業。あの少女も、然るべき報いは与えなければならん」

そんな絵里の内心の衝動を抑えるように、桂が凛とした声で言い放つ。
それに同意するように頷くと、皐月は改めて皆を見回した。

「それで、だが。
その殺し合いの黒幕、心当たりがある人間はいるか?」

唐突な質問。
顔を見合わせた三人の女子は、揃って首を振る。
当たり前か、と皐月は考える。彼女達はあくまで一般人。
そして、二人の侍の方へと視線を向ける。

「どうやら、心当たりがあるようだな」
「まあな」

銀時と桂は共に嘆息する。
天人が闊歩する江戸の町は表面こそ平和そのもののようだが、過去のものも含めれば様々な暗躍が犇いていた。
中でもこんな事を出来そうな輩と言えば、神威も所属する宇宙海賊『春雨』や高杉率いるテロリスト集団『鬼兵隊』、或いは幕府そのものが怪しいか。
更に過去に遡り言うなら、それこそ夜王鳳仙などの復活も考えられる。
頭が痛くなりそうだと思いながら、銀時は皐月を見返す。

「テメーも、心当たりがありそうなツラしてんな」
「ああ、ある。先にも話したが、鬼龍院羅暁という女だ。
私と流子の母親にして、地球を生命繊維で覆い尽くす事を目的としている」

そりゃあ大したババアだ、と言葉を漏らしつつ、銀時は他の心当たりを頭の中で探す。
一方の桂は冷静に話を聞き、その語り口に一つの疑問を覚えた。

373「作戦会議を始めよう」 ◆NiwQmtZOLQ:2015/09/27(日) 14:42:33 ID:AkjnIptk0
「だが、皐月殿自身、確信が持てていないように見えるが?」
「…ああ。最初はずっと羅暁の仕業だと考えていたが、他の世界の可能性も踏まえて考えると違和感がある事に気付いた」

彼女自身、こんな事が出来るのは羅暁だけだと考えていた。
だが、異なる世界や敵の存在を知った今考えてみると幾つか不審な点が見えてきている。

「針目縫や純潔を着た流子が居て、ヌーディスト・ビーチの面々や蟇郡いが「オイ待てェェェェ!何だヌーディスト・ビーチって!どんな変態集団!?」
…煩い。蟇郡以外の四天王が居ない。全力で私だけを殺しにきたとしても、満艦飾や鮮血、蟇郡がいる事が説明出来なくなる」

途中に銀時のツッコミが入りつつも、その疑問点を語る皐月。
だが、同時に気になる事もあった。
先程話題に出た『ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲』。
砲台という点で一つ気になっているのは、原初生命繊維の事だった。
先程本能字学園には存在していないようだった、天種繭星の為にそれを打ち上げる砲台の役目をしているのはここではないか。
そんな事を考えながらも、そちらはどうか、と銀時に視線で促してみるが、彼もまだ決め手に欠けているようだった。

「理由…どいつもこいつも腹ん中に一物抱え込んでるヤローばっかだからな」
「まだ出会った事の無い参加者もいる。決め付けるには早計か」

とはいえ、状況の整理も出来た。
今後の方針にも役立つし、他の脱出を目指す参加者とも共有して考えるべき問題を提示出来たのは一つの進歩。

「話は大体コイツでシメーか?」
「ああ…しかし、まだ数分近い時間があるな」

どうしたものかとそう考えていた時、おずおずとコロナが声を上げた。

「…あの、もしよければ、みんなの仲間について話してみませんか?
まだお互い、他にどんな人が来てるのか聞いてなかったと思って」
「…あ」
「そう言えばそうであったな。
よし、では私達の知り合いから話をしようか…ん?」

コロナのその提案を受け入れいざ話を始めようとする桂。
だがその直後、何やら怪訝な目つきで彼女の背後を眺めると同時に変な声を漏らす。

「何なのん、あれ?」

更に、その隣にいたれんげの声がそれに続く。
どうしたのかと皆がそちらを向けば、赤カードから取り出した食料が、何時の間にか表れた謎の白い何かに全て食べられていた。

「オイ、何だこのポケ○ンのパチモンみたいな奴は。ふてぶてしいツラしやがって、ノーマルタイプですかコノヤロー」
「いや銀時、これは噂の妖○うぉっちとかいうアレだろう。ほれ、メダルを寄越せメダルを」
「流石に黙れ貴様等。…しかし、本当に何処から」

すぐさま漫才を始める銀時達を一蹴しつつ、謎の生物の出処を探す皐月。
だが、それを見つけるより早く、彼女は吉報を見る事となった。

「目覚めたか、結城友奈」
「……あ、はい!ご心配お掛けしました!」

これまで力を使い果たし眠っていた少女の、目覚め。
その場にいる全員が安堵したような表情を見せ、とりわけ彼女に守られた絵里とれんげは大層喜んで歓声を上げた。

374「作戦会議を始めよう」 ◆NiwQmtZOLQ:2015/09/27(日) 14:43:30 ID:AkjnIptk0
「言うまでもないと思うが、我等はこの殺し合いを打倒せんとする者だ」

代表して皐月が立ち上がり、簡単にこの団体と現状を説明する。
本能字学園からの脱出、病院での放送、それによって出来た目標。
元々他人に不信感を滅多に抱かない友奈もそれを信用し、すぐに結束を固めた。

「さて、起きて直ぐですまないが、放送も近い。簡単でいい、貴方がこの殺し合いに来てから何をしていたか聞かせてもらおう」
「はい、分かりました。ええっと…」

そうして友奈も、また説明を始めようとした。
だが。

「ゆうなん!」
「うわっ!?あ、あ痛たたたた!」

突如左側から飛び出してきたれんげの突進に、なす術もなく倒れてしまう。

「こ、こら!れんげさん、怪我人ですから止めてあげて下さい!」
「あ…ご、ごめんなさいなのん」
「ううん、大丈夫大丈夫!れんげちゃん…だね?よろしくね!」

すかさずコロナがれんげを抑え、それにより落ち着いたれんげが友奈に謝罪した。
友奈もそれを素直に受け止め、普通に仲良くしようと手を伸ばす。
何の変哲もないように見える一幕だが、それを見て怪訝な面持ちをしている人間が二人。

「銀時」
「ああ、分かってらァ。神威のヤロー、やってくれやがって」

歴戦の猛者たる二人には、その違和感が理解出来ていた。
今のれんげの突進は、今の友奈の位置ならば「見えていた筈」。
それならば、受け止めるなりなんなりの行動を反射的にしていた筈だろうに。
だが友奈は、それをせずただ彼女の体当たりを受けてしまっていた。
恐らくは、左目の視力低下か或いは失明。
『散華』を知らぬ二人は、それは神威との戦闘が残した後遺症と受け取った。

「それでなお、おくびにも出さず気丈に振る舞うか…確かに、勇者と呼ぶに相応しい少女だな」

桂はそう呟き、ふと友奈と目が合う。
その気丈さに一抹の不安を抱えつつも、彼はその視線を切り上げた。

(…もしかして、気付かれちゃったかな?)

そして結城友奈もまた、そんな二人の変化を見逃してはいなかった。
勿論、友奈自身が異常に気付いていない訳がない。
目覚めてすぐに普段より視界が狭い事が分かり、満開の代償が支払われた事を理解した。
だが、それを悟らせては皆に影響が出かねない。
ならば、それは自分だけが抱え込んでいればよい。他人にわざわざ心配を掛けるような事は、断じてあってはならない。
結城友奈は、元来そういう性格だった。
だから、彼女はまるで何処にも問題が無いかのように振る舞い、皆を不安にさせぬように話す。
それこそ、幾ら傷を受けても前を向く勇者のように。

「では、改めて聞こう、結城友奈。これまで、どのような行動をしていた?」
「はい、ええと…」

そして、友奈は一先ずここまでの話をした。尤も特筆すべき事と言えば、ジャンヌとの出会いとそこで得た情報、そして本能字学園での戦いへの乱入程度だったが。

「それで、ジャンヌさんは…やっぱり」
「…私を逃す為に、一人残った。
彼女も簡単には死なぬだろうが…妹が負ける姿もまた、想像が出来ん」

苦々しくそう呟く皐月に、友奈は少し驚いたように問いかける。

「…妹さん、なんですか?」

あの時、皐月が戦っていた相手。
遠目にしか見えていなかったが、かなりの殺気を伴った人だと感じた。
そんな人間が目の前の人と姉妹だとは、俄かには信じ難いと思ってしまう。

「ああ、今は『純潔』というものに取り憑かれていてなーーー助けなければいけない相手だ」

だがそれを聞いて、友奈も顔を落とす。
彼女が知っている姉妹、犬吠埼風と犬吠埼樹の二人はいつも仲睦まじい姉妹だった。
彼女達のよう、とまでは言わないけれど、それでも友奈は歯痒く思う。

(姉妹で戦わなきゃいけないなんて、間違ってる)
「絶対に、止めましょう。
残ってくれたジャンヌさんの為にも、皐月さんや流子さんの為にも」

思いの外強い友奈の決意の言葉に、皐月は少し驚かされる。
この少女は、他人の為にここまでの感情を迸らせる事が出来るのかと。
勇者たる友奈の力強さに驚かされながらも、今度は自分達の説明を始めようとする皐月。
だがーーー

「…時間か」

375「作戦会議を始めよう」 ◆NiwQmtZOLQ:2015/09/27(日) 14:46:28 ID:AkjnIptk0
会場全体に、異音が広がり始める。
放送が、始まろうとしていた。

【B-5/平野/1日目・放送直前】

【坂田銀時@銀魂】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(中)
[服装]:いつもの格好
[装備]:無毀なる湖光@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
    黒カード:不明支給品0〜3枚(本人確認済み)、包帯とガーゼ(残り10分の7)、担架
[思考・行動]
基本方針: ゲームからの脱出
 1:駅、旭丘分校、放送局の順で移動する
 2:新八、神楽、長谷川さん、ついでに土方と合流したい
 3:神威、流子、DIOは警戒
 [備考]
※【キルラキル】、【ラブライブ!】、【魔法少女リリカルなのはVivid】、【のんのんびより】の世界観について知りました
※友奈が左目の視力を失っている事に気がついていますが、神威との戦闘のせいだと勘違いしています。
※ジャンヌの知り合いの名前と、アザゼルが危険なことを覚えました。

【絢瀬絵里@ラブライブ!】
[状態]:精神的疲労(中)、疲労(中)
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(9/10)
    黒カード:不明支給品0〜2枚(本人確認済み)
[思考・行動]
基本方針:皆で脱出
 1:放送局に行ってことりを助けたい
 2:μ'sのメンバーと合流したい
 3:エリザベス変身セットを着てみる…?
 [備考]
※参戦時期は2期1話の第二回ラブライブ開催を知る前。
※【キルラキル】、【銀魂】、【魔法少女リリカルなのはVivid】、【のんのんびより】の世界観について知りました
※ジャンヌの知り合いの名前と、アザゼルが危険なことを覚えました。

【鬼龍院皐月@キルラキル】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(中)、こめかみに擦り傷
[服装]:神衣鮮血@キルラキル
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)、 黒カード:神衣鮮血@キルラキル
[思考・行動]
基本方針:纏流子を取り戻し殺し合いを破壊し、鬼龍院羅暁の元へ戻り殺す。
1:駅、旭丘分校、放送局の順で移動する。その後、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲を調べてみたい。
2:鮮血たちと共に殺し合いを破壊する仲間を集める。
3:襲ってくる相手や殺し合いを加速させる人物は倒す。
4:纏流子を取り戻し、純潔から解放させる。その為に、強くなる。
5:神威、DIOには最大限に警戒。
6:刀剣類の確保。
[備考]
※纏流子裸の太陽丸襲撃直後から参加。
※そのため纏流子が神衣純潔を着ていると思い込んでいます。
※【銀魂】、【ラブライブ!】、【魔法少女リリカルなのはVivid】、【のんのんびより】の世界観について知りました
※ジャンヌの知り合いの名前と、アザゼルが危険なことを覚えました。

【桂小太郎@銀魂】
[状態]:疲労(大)、胴体にダメージ(中)
[服装]:いつも通りの袴姿
[装備]:晴嵐@魔法少女リリカルなのはVivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
    黒カード:トランシーバー(A)@現実、鎮痛剤(錠剤。残り10分の9)、抗生物質(軟膏。残り10分の9)
[思考・行動]
基本方針:繭を倒し、殺し合いを終結させる
   1:駅へ向かう。
   2:コロナと行動。まずは彼女の友人を探す
   3:神威、並びに殺し合いに乗った参加者へはその都度適切な対処をしていく
 [備考]
※【キルラキル】、【ラブライブ!】、【魔法少女リリカルなのはVivid】、【のんのんびより】の世界観について知りました
※友奈が左目の視力を失っている事に気がついていますが、神威との戦闘のせいだと勘違いしています。
※ジャンヌの知り合いの名前と、アザゼルが危険なことを覚えました。

376「作戦会議を始めよう」 ◆NiwQmtZOLQ:2015/09/27(日) 14:48:08 ID:AkjnIptk0
【コロナ・ティミル@魔法少女リリカルなのはVivid】
[状態]:疲労(中)、胴体にダメージ(中)、魔力消費(小)
[服装]:制服
[装備]:ブランゼル@魔法少女リリカルなのはVivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(10/10)
     黒カード:トランシーバー(B)@現実
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを終わらせたい。
   0:みんなの知り合いの話をしたい。
   1:みんなと駅へ向かう。
   2:桂さんたちと行動。ヴィヴィオたちを探す
   3:ルーちゃんのデバイス……なんだか、ルーちゃんが助けてくれたみたい。ちょっと嬉しいな。
[備考]
※参戦時期は少なくともアインハルト戦終了以後です。
※【キルラキル】、【ラブライブ!】、【魔法少女リリカルなのはVivid】、【のんのんびより】の世界観について知りました
※ジャンヌの知り合いの名前と、アザゼルが危険なことを覚えました。

【結城友奈@結城友奈は勇者である】
[状態]:疲労(中)、胴体にダメージ(回復中)、味覚・左目が『散華』、前歯欠損、顔が腫れ上がっている、満開ゲージ:0
[服装]:讃州中学の制服
[装備]:友奈のスマートフォン@結城友奈は勇者である、エリザベス変身セット@銀魂(未着用。毛布として使用中)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)、黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止め、主催者を打倒する。
   1:勇者部のみんなと合流したい。
[備考]
※参戦時期は9話終了時点です。
※ジャンヌの知り合いの名前と、アザゼルが危険なことを覚えました。

【宮内れんげ@のんのんびより】
[状態]:疲労(小)、魔力消費(中)
[服装]:普段通り
[装備]:アスクレピオス@魔法少女リリカルなのはVivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
     黒カード:満艦飾家のコロッケ(残り五個)@キルラキル、バタフライナイフ@デュラララ!!
[思考・行動]
基本方針:うち、学校いくん!
   1:うちも、みんなを助けるのん。強くなるのん。
   2:こまちゃん、ほたるん、待ってるのん。
   3:あんりん……。
[備考]
※骨が折れない程度に手加減はされました
※杏里と情報交換しましたが、セルティという人物がいるとしか知らされていません。
 また、セルティが首なしだとは知らされていません。
※魔導師としての適性は高いようです。
※【キルラキル】、【ラブライブ!】、【魔法少女リリカルなのはVivid】、【銀魂】の世界観について知りました
※ジャンヌの知り合いの名前と、アザゼルが危険なことを覚えました。

377 ◆NiwQmtZOLQ:2015/09/27(日) 14:50:20 ID:AkjnIptk0
仮投下を終了します
何も問題がなければ、明日の夜あたりに本投下させていただきます

378名無しさん:2015/09/27(日) 15:16:52 ID:7hI3AKcs0
仮投下乙です
特に問題はないかと思います

379名無しさん:2015/09/27(日) 15:21:43 ID:cyUpDepI0
仮投下乙です

流石に「学校のワープ装置」の存在をピンポイントに推測させるのはどうかなぁと思いました
それ以外は特に問題ないと思いました

380名無しさん:2015/09/27(日) 15:34:32 ID:4j.hi0Ik0
仮投下乙です

ワープポイントの件は「何かあるのでは」程度に抑えて置いた方がいいのでは
あと、白い生物がせめて何なのかはっきりさせておくべきかと
無論状況が状況ですから後続の書き手さんに任せることも出来ますが

気になったのは以上のポイントです。

381名無しさん:2015/09/27(日) 15:41:01 ID:cyUpDepI0
一点いい忘れてましたが、友奈の満開による精霊の増加は無しということですかね?

>>380
普通に友奈の精霊(牛鬼)では?

382名無しさん:2015/09/27(日) 15:45:02 ID:4j.hi0Ik0
>>381
そういうことでしたか 失礼

383名無しさん:2015/09/27(日) 16:14:14 ID:ZDzB8WXU0
投下乙です

文章で気になる箇所があったので指摘します。

>>370
>友奈の担架を傍に置いて円を描くように座り、全員が赤カードを使用するわ。

「わ」が余計だと思います。

>>371
>何もあり得ない話では全くない。そもそも、戦えない絵里やその友人が招かれている事には違和感があるし、幾ら超常の力を持っていようと子供が行うには些か

文が途切れています。

384 ◆NiwQmtZOLQ:2015/09/27(日) 16:28:46 ID:AkjnIptk0
>>379-380
そうですね、確かにそこはメタ要素が強すぎたかもしれません
本投下時に当たり障りのない程度に描写を変更しておきます

>>381
友奈の参戦時期が9話終了時点なので既に火車が出ており、なおかつルールで「精霊を二体以上付けるのは禁止」とあるので、これ以上は精霊が付かないと思っています

>>383
見逃していました、こちらも本投下の際に修正しておきます

385名無しさん:2015/09/27(日) 16:59:39 ID:VIu/o0fQ0
仮投下乙です

ひとつ気になったのは時間経過です

前々話である「本能字の変」の時点で、彼らの時間帯は既に早朝でした
そこから、「One for All , All for One」の時点で、2マスほど離れている病院まで移動します
そしてそのSSのなかで『皐月による橋付近の偵察』『病院の捜索と薬の発掘』『負傷者の手当』『テレビ放送』『放送への反応と作戦会議』といった出来事を順番にこなしています
それに加えて、今回のSSのなかで『駅から病院への移動を半分ほどすませる』『朝食を摂りながらの、互いの世界の情報交換(5世界分)と、さらなる作戦会議』をして
それらが終わってもまだ『放送まで数分の猶予がある』というのは、ちょっと時間の流れが不自然ではないかという印象を受けました
これまでのSSでも、ひとつの時間帯の中で何話も描かれるといったことはありましたが
それらはすべて『ひとつの場所にとどまっている間の話』だったり『せいぜい隣のエリアと往復する程度』であったりと、時間経過を曖昧にすることが可能な範囲でした
しかし今回のSSの場合、(前々話からも含めれて)早朝の間に、何度もエリアを超えての移動などのイベントをこなしているように思います

病院で作戦会議の続きをしたとかならまだしも、ここまで進むと『放送後にこなしていいイベント』を今のうちに進行させているようにも見えかねませんので、ご一考いただけないでしょうか

あと、これは指摘というよりも改めて確認したいことなのですが、
結奈の散華する順番は左目からでよろしいのでしょうか
原作にも散華していく順番はランダムのように描かれていますが
原作12話だと友奈は味覚の次に両足を失っていましたので、いちおう『散華する箇所は(原作と違っていても)書き手の自由』で確定なのかを確認したいと思いまして

長文レス大変失礼しました

386 ◆NiwQmtZOLQ:2015/09/27(日) 18:03:00 ID:AkjnIptk0
>>385
こちらの時間把握としては、本能字学園出立を4:00過ぎとして、
・病院までそこから40分程
・病院捜索ならびに完了、皐月帰還、キャスター放送までで30分
・移動に30分程、そこから会話・考察で15分程
と、結構カツカツではありますが辻褄は合うかな?といった感じです
学園から病院までの距離と病院から橋までを往復するまでだと往復の方が短い、という点などを考慮した上でこのくらいならギリギリ入るかな、と考えましたが、やはり詰め込み過ぎでしょうかね
今少し考えてみた感じだと、
・「One for All , All for One」で皐月が鮮血疾風を使った為に、病院の滞在時間は短かった、という補完描写を入れる
・その為皐月の疲労が濃く、桂の発言を「想像以上に皐月が疲れていそうだから」という理由のみにして移動距離を短くし、かつその移動中に各々の世界の話をした
くらいの短縮はすぐに入れられると思います
それ以外でも入れられる場所は探してみますが、いかがでしょうか

友奈の散華については、一応これまでの話の状態表で「後続の書き手にお任せします」とあったのでこちらで自由に決めさせていただきました
もし原作で散華した場所が確定している友奈、風、夏凜の三人について場所を確定する、という方向にするのならばそれでも構いません

こちらも長文となってしまい、申し訳ありません

387 ◆NiwQmtZOLQ:2015/09/27(日) 18:06:10 ID:AkjnIptk0
>>386
皐月が鮮血疾風を使ったという補完は、病院から橋までの往復にです

388名無しさん:2015/09/27(日) 19:11:02 ID:VIu/o0fQ0
>>386
「本能字の変」を読む限りDIOが離脱した時点(この時点で未だ戦闘は継続中)で既に早朝になっているので、
学園を4時前後に出発したというのはだいぶ危ういかなぁと思いますが、
個人的には移動時間を短縮する案(移動した距離を短くする等)を出してくださるというなら問題はないかと思います
(病院への移動に40分は短すぎる、いや充分だとか言い出すと、移動時間を細かく審議することにもなりかねませんし)

今回に関してはおそらく個人的に、同じ距離を移動したはずの龍之介組(小休憩やリタとの接触ありとはいえ)が、
深夜に病院を出発してもうすぐ放送という時間になってから駅に着いている(駅で放送を迎える予定)というのが違和感の元だったのでしょう
氏の挙げられた修正案(さほど移動していないことにする等)のような形を取れば、その違和感もある程度は解消されるかと思いますし

389 ◆NiwQmtZOLQ:2015/09/27(日) 19:21:59 ID:AkjnIptk0
>>388
ご指摘ありがとうございました

390 ◆NiwQmtZOLQ:2015/09/27(日) 19:25:20 ID:AkjnIptk0
途中送信失礼しました

>>388
ご指摘ありがとうございました
では、上に挙げた修正案を元に、もう少し削る事ができる部分がありましたらそこも修正しつつ調整して本投下したいと思います

391管理人:2015/10/07(水) 22:37:46 ID:???0
■第一回放送案募集テンプレ案 改訂版


アニメキャラ・バトルロワイヤル4thの第一回放送案(リレーSS)を募集します。
以下をよく読んだ上でここのスレに第一回放送案を仮投下スレで投稿してください。
他の人の投下に割り込まないように気をつけて下さい。
後に修正要求される可能性があるのでトリップをつける事をお勧めします。

今回は禁止エリアの存在の明言と3エリア分の禁止エリアの発表を行います。
読み上げられる死者名に南ことりと満艦飾マコを含むかどうかは作者さん方にお任せします。


企画の進行に問題がある内容の場合は修正要求されます。
問題の度合いによっては修正要求の前に破棄になる可能性もあります。
もし修正作業が修正期間までに間に合わないと自動的に破棄になるのでご注意下さい。



【募集期間】10/08(木)00:00〜10/14(水)23:59の7日間。
      修正期間は10/15(木)00:00〜10/16(金)23:59の2日間です。
      10/18日(日)00:00から23:59に投票を行います。
      もし10/15(木)23:59までに各放送案や本投下の修正作業が終わりましたら10/17日(土)に前倒しで投票が行われる可能性があります。
      投票で1位になった作品がアニメキャラ・バトルロワイヤル4thの第一回放送SSとして採用されます。
      募集期間中の放送前のパートの予約投下は可能です。修正は修正期間まで可能です。
      
     
※注意
第一回放送話は主催サイドのキャラが出るとはいえ、あくまで通過点に過ぎません。
話もまだ序盤を過ぎたところ、その事を念頭に投稿して下さい。
主催サイドの新キャラを出すのは構いませんが、黒幕など繭より上位のキャラや外部からの観察者
別組織の同盟者など、扱いに困るキャラを出すのはご遠慮ください。

392 ◆NiwQmtZOLQ:2015/10/11(日) 22:54:10 ID:VzMUQVf20
放送案を投下します

393第一回放送 ◆NiwQmtZOLQ:2015/10/11(日) 22:55:26 ID:VzMUQVf20
そこは、白亜の部屋だった。
規模だけで言えば、そこは三つもの小さな島に相当する。
学校があり、病院があり、その他にも様々な施設が存在する島々。
けれど、建物や樹木といった全て白い箱で凸凹と歪に象られており、随所に窓が存在している。
普通に考えれば、そんな窓の向こうには何がある筈も無く、それは開く事のない只のアンティークに過ぎない。
───けれど、この白い空間が普通ではないのは、誰の目にも明らかな事で。

『う……あ、ぁッ…………――――――!』

───窓が開く。

『死……にたく……ない……し……』

───窓が開く。

『ぢや、ざん……なん…で…』

───窓が開く。
───窓が開く。───窓が開く。───窓が開く。───窓が開く。───窓が開く。───窓が開く。───窓が開く。───窓が開く。───窓が開く。───窓が開く。───窓が開く。───窓が開く。
窓の向こうに広がる風景から、様々な人々の感情が流れ込んでくる。
憎しみ、怒り、哀しみ───負の感情が、窓を通して此方へと伝わってくる。

「………ふふ」

そんな流れ込んでくる感情を、少女───繭は笑いながら聞いていた。
ここから見える、窓の向こうの場所で行われる殺し合い。
そこで死んだ者は、永遠に昏く寂しいカードの中で、未来永劫を過ごす事となる。
嘗ての彼女と、同じように。

「ふふ、あはは」

間違っているのは分かっている。
けれど。
これまで希望に包まれ、選択する自由を持っていた人間達が、選ぶことすらも出来ない自分のようになっていく様は。
そして、そんな現実に押し潰されて悲痛な感情を溢れさせる人々が嘆き悲しむ様は。
彼女にとって、とても心地良いものに映っていた。
だから彼女は、そんな嘆きの瞬間を繰り返し繰り返し見続ける。
その他の場所は、彼女が望まない限りその風景を映す事は無い。
彼女が望むのはあくまでも、『カードに囚われる人間達の絶望』なのだから。
だが───。

「…やっぱり、いるんだ」

再び彼女が手を翳した窓が開き、また新たな場所を映し出す。
そこに映ったのは、その瞳に希望を残した参加者達。
繭を打倒する為に、或いは徒党を組み、或いはその一人の力で以って牙を突き立てんとする者達。

「───気に入らない」

この逃げようのない殺し合いから、脱出してみせようと言うのか。
彼女が漸く見つけた、歪んでいながらも唯一の娯楽を、無情にも奪い取ろうと言うのか。

「出来るものなら、やってみなさい」

その表情にドス黒い感情を滾らせ、彼女は立ち上がる。
そう言えば、そろそろ頃合いだ。思い上がっている彼等にも、再び思い知らせるべきだろう。
この殺し合いでは、全てはこの繭というが絶対である事を。
殺し合いという現実から、目を背ける事など出来ない事を。
救いなんて、存在する筈も無い事を───────

394第一回放送 ◆NiwQmtZOLQ:2015/10/11(日) 22:57:36 ID:VzMUQVf20



おはよう、皆。
ふふふ、繭が憎らしい人もいるかしら?こんな殺し合いをさせられて、怒っている人も一杯いるでしょうね。
でも、ダーメ。出してなんてあげないんだから。
最後の一人になるか、死んでカードの中に囚われるか───選択肢があるだけ、いいと思いなさい。
さて、それじゃあそろそろ重要な話に移る?
まずは、禁止エリアからだね───もしかして、私が言ってないから知らない人もいる?でも、ルールを見れるのに知らないなんて言わせない。そんな人は、真っ先に狙われちゃうんだから。
今回の禁止エリアは───

B-3
D-7
F-2

───この三つ。しっかり覚えておかなきゃダメだよ?
何処かに書いて、残したりしておかないと。でないと───ふふ、どうなるでしょうね。
それじゃあ次は…これまでで死んじゃった人の名前を呼ぶね。
ふふ、こっちの方が気になる人は多いでしょう?
それじゃあ、言うわね。

宮永咲
神代小蒔
範馬勇次郎
池田華菜
土方十四郎
長谷川泰三
犬吠埼樹
越谷小鞠
間桐雁夜
園原杏里
ジャンヌ・ダルク
高町ヴィヴィオ
矢澤にこ
志村新八
ヴァローナ

…今呼んだ、15人が今の脱落者。
知り合いが呼ばれちゃった?友達が呼ばれちゃった?
さっきも言ったけど、優勝すれば、何でも一つ願いを叶えてあげるから───その人の大事な人くらいは、ご褒美に出してあげるかもしれないわ。
それじゃあ、頑張ってね。

395第一回放送 ◆NiwQmtZOLQ:2015/10/11(日) 22:58:28 ID:VzMUQVf20


繭に失敗があるとすれば、彼女がカードに魂が吸い込まれる、そこだけを見ていた事だ。
彼女が嘗て生み出したカードゲーム───WIXOSSにおいて、ルリグとなる少女に語りかけたように。
そのせいで、彼女は二人の死を見逃していた。
満艦飾マコ、そして南ことり。
彼女達は、この殺し合いに招かれた英霊であるサーヴァントにその魂を喰らわれた。
喰らわれた魂はカードに閉じ込められる事は無く、その為に繭が二人の死を知る事は無かったのである。
だから、正確には17人。
それが、この6時間で失われた正確な命の数だ。
また、先の二人の死が正しく伝わらない事は、彼女達の知り合いにとっては仮初めの希望であり、そして最悪の絶望の起爆剤ともなり得るもの。
だが、そんな事とは関係無しに、殺し合いは再び動き出す。
繭も再び窓を開け、その景色を眺め静かに笑う。
彼女が言った、カードから魂を解放するというのは───いや、願いを叶えるというそれさえも。
真実かどうか確かめる術は、今は無い。
広くも狭い、白亜の部屋で。彼女と出会うまでは───

【17人死亡 残り53人】

※繭は殺し合いの世界を覗く事が可能です。
ですが、何らかの理由が無い限りは、『カードに魂が閉じ込められる周辺』しか覗いていません。

396 ◆NiwQmtZOLQ:2015/10/11(日) 22:59:21 ID:VzMUQVf20
放送案投下を終了します。

397 ◆DGGi/wycYo:2015/10/12(月) 11:20:20 ID:eyzFBoNE0
投下乙です こちらも放送案を投下します。

398第一回放送 -この声は冒涜- ◆DGGi/wycYo:2015/10/12(月) 11:21:33 ID:eyzFBoNE0
白い部屋。

無機質なその部屋は、沢山の窓に囲まれている。
開いているそれらの窓は、殺し合いの全てを映し出す。

「ふふ」

少女は笑う。
ゲーム開始から6時間。最初の放送が始まる。


 *  *  *


『――おはよう。午前6時、定時放送の時間よ』

このゲームの生存者全てに等しく与えられる声が、会場全体に響き渡る。
その声は、生者全ての腕輪からも発せられていた。

『ここまでにあなたたちは誰と出会った?
誰を殺した? 誰と闘った?
今はただ、私の声に耳を傾けなさい

まずは、大事な話をしましょう。
腕輪で確認出来るルールに明記したけれど、あの場所で説明していないことがあったわ。
そう、禁止エリアについてよ』

数秒時間を置き、少女は続ける。

『本当はルールを見るべきなんだけど、今回は特別に教えてあげる。
当然、殺し合えば人数は減っていく。すると当然、他の参加者との遭遇率も下がるわ。
それじゃあつまらないから、禁止エリア――エリアを封鎖しちゃうの。
今から3時間後、午前9時になってもそのエリアに居たら、もれなく魂をカードに閉じ込めるわ。そこで何をしていたとしても、問答無用。


【C-4】
【D-7】
【F-3】


これらの3箇所のエリアが、9時になったら入れなくなるの。
でも、鉄道に乗っている間は特別に入れるようにしてあるわ。
今そこに居る人たちは、死にたくないなら出発準備を始めた方がいいかも知れないわね。

それから、これも大事なお話。A-4……北部に設けた橋が壊されちゃったの。
だからここも9時から一時的に禁止エリアにするわ。
次の放送までには直して入れるようにしておくから、それまでの辛抱。

399第一回放送 -この声は冒涜- ◆DGGi/wycYo:2015/10/12(月) 11:22:14 ID:eyzFBoNE0
さあ、次はお待ちかね、ここまでに命を落とした方々の発表といきましょう。
一度しか言わないから、よく聞くことね。


【宮永咲】
【神代小蒔】
【範馬勇次郎】
【池田華菜】
【土方十四郎】
【長谷川泰三】
【犬吠埼樹】
【越谷小鞠】
【間桐雁夜】
【園原杏里】
【ジャンヌ・ダルク】
【高町ヴィヴィオ】
【矢澤にこ】
【志村新八】
【ヴァローナ】


まだいるわ。魂がカードに閉じ込められていないけど、死んだとはっきり分かる子もいる。
私はここからゲームの全てを見ているの。
誰かが魂を食らうだなんて不思議な行動をとっているところも、丸見えよ。


【満艦飾マコ】
【南ことり】


さあこれで全員、残りは53人。マスターカードで名簿をご覧なさい。
脱落した人の横に、赤いバツ印が付いているはずよ。
あなたの大切なお友達が死んでしまったのなら、その子のために頑張りなさい』

クスリ、薄ら笑うような声がする。

『ここまでで17人、素晴らしいペースよ。余程叶えたい願いがあるのね。
でも、無理をして自分が死んでしまったらそこまでよ。それだけは承知しておきなさい。
それじゃあ、これで放送を終了するわ。次は正午、また私の声が聞けるといいわね』

ノイズ混じりの笑い声が途絶え、やがて静かになる。
まだ、呪われたこのゲームは始まったばかり。


 *  *  *

400第一回放送 -この声は冒涜- ◆DGGi/wycYo:2015/10/12(月) 11:22:35 ID:eyzFBoNE0
ため息を吐き、繭は用意しておいた椅子へと腰掛ける。
窓の向こうからは、参加者たちの様々な表情が窺い知れた。
驚きを隠せない者、涙を流す者、淡々と今後の方針を決めようとする者――。

今のところ、殺し合いは順調に進行している。

徒党を組んでゲームの破壊、脱出を目論む者もいるが、あの腕輪がある以上島から出られないのは明白。
もし仮に腕輪を破壊出来たとしても――既に対策は練ってある。

この窓から全てを見ている。
ああは言ったが、魂が吸い込まれなかった2人のことは“そいつ”が教えてくれなければ気づけなかった。
繭にとっては想定外だった橋の破壊も、“そいつ”の用意した提案によって無事解決した。
円滑に進められないゲームなど面白くない、それには同意する。
ただ一つ、問題を挙げるとするなら。

「(なんで……?)」

タマが支給品として紛れ込んでいることだ。
元々、ルリグをアイテム用に調整して支給しようだなんて言い出したのも“そいつ”の提案だ。
繭もそれに賛成こそしたが、タマを支給品にした記憶はない。

ちら、と“そいつ”の方を見る。
命の恩人ではある。この島だって、“そいつ”が用意してくれた舞台だ。
繭に逆らえないようにお膳立てしてくれているのだって。

ルール制定等も含め、“そいつ”がこのゲームの進行に大いに役立っているのは事実である。
だが、少しばかり疑った方がいいのかも知れない。

白い部屋に2人の声は聞こえない。聞こえてくる音は、窓の向こうからばかり。
“そいつ”は何も言わず、ただ……貼り付けたように笑った表情をしていた。


※A-4が橋修理のために一時的に禁止エリアに指定されました。
次の放送までには入れるようになります。
※禁止エリアに指定されている場所も鉄道に乗っている場合はその限りではありません。

401 ◆DGGi/wycYo:2015/10/12(月) 11:22:51 ID:eyzFBoNE0
投下を終了します

402名無しさん:2015/10/12(月) 21:45:53 ID:bWHPeM8A0
お二人とも仮投下乙です

403 ◆WqZH3L6gH6:2015/10/14(水) 23:47:57 ID:n2PrJxpc0
今から仮投下します

404※放送案ではありません ◆WqZH3L6gH6:2015/10/14(水) 23:48:51 ID:n2PrJxpc0


「どうして死んだ人はカードに閉じ込められるんだと思う?」

 椅子くらいの高さの岩に座りながらるう子は三人へ尋ねた。
 今、彼女らはF-3北部の森のやや開けた場所でいる。
 当面の目的地は放送局か南西の市街地のどちらかへと考えていたが、
 4人中2人がまだ不調な事もあり、作戦会議がてらに支給品確認も行う事に決めたのだった。


「……殺し合いが終わった後で私達の魂を利用する為じゃないかしら?」
「そうだとすると、るう子さんの言うルリグへの転生とは大分違いますね」
「ルリグへ変わるのは生きてる人間なんでしょ?死んだ人間をどうこうする力は元は持っていないんでしょ」

 シャロは自らの腕輪を見つつ返答し、アインハルトと夏凛がるう子が扱っているノートパソコンの画面を見つつ問いかける。
 シャロは左右に腕輪を付けている。先ほどまでるう子も身につけていた支給品。

「……わからない。持っていたとしても夢見る女の子達にセレクターバトルをさせるのが目的だったみたいだから」

 申し訳なさげにるう子は夏凛達に顔を向ける。
 さっきまで夏凛は同行している三人と別れて犬吠埼風と東郷美森を追うか、留まるかの選択を迫られていた。
 主に遭遇から時間が経ちすぎているとの理由で夏凛は追跡はせず、るう子達との同行を継続してくれたが、
 多少なりとも無理をしているのは熱でやや朦朧としているるう子の頭でも想像できる。
 
 ゆえにるう子は自らの最後の支給品であるノートパソコンのセットアップに予想以上に時間がかかってしまっているのに焦りを感じていた。
 支給品説明に起動にはかなりの時間がかかるとはあったが、下手すると一時間以上、最悪扱えないかも知れない。
 セットアップを完了させるにはカードから取り出し、常に起動させなければいけない。
 移動しながらセットアップ完了まで待つにはリスクが大きい。
 そもそも彼女らが求めている通信機能があるかどうかさえ定かではない。
 途方に暮れたようにるう子は空を見上げた。

405※放送案ではありません ◆WqZH3L6gH6:2015/10/14(水) 23:49:20 ID:n2PrJxpc0

「もう変に責任感じてんじゃないわよ。他にも収穫はあったんだからいつでも操作できるように集中して」

 沈んだ思考を察したかのように夏凛の叱咤激励が飛ぶ。
 るう子は深呼吸をし、「うん」と返事をして笑顔で返した。
 そう、夏凛が留まったのは無駄ではなかった。
 
「シャロさん、どうですか?」
「うん少し疲れるけど私にも扱えるみたい」
「そうですか」

 淡々と応えるシャロに対し、アインハルトは喜色と困惑が入り混じった表情で返した。
 シャロの支給品の腕輪は今では手錠へと変化していた。
 それはアインハルトもよく知る魔法補助具――デバイス。
 彼女自身、親しい訳ではないがそのデバイスとその元の所持者の事は知っている。
 アインハルト自身も参加していたインターミドル・チャンピオンシップ出場者の1人エルス・タスミン。
 デバイスの固有名はパニッシャー。
 本来なら魔法少女ほどの力も技術も持っていないシャロが扱ったところで起動などできる筈がない。
 3つに分裂した手錠とそれを繋ぐ鎖がシャロの頭上を舞った。

「幾つも出せるのね」

 急な疲労が襲ったのだろうシャロは額に汗を滲ませながら手錠を1つに戻し、上手く手元に戻す。

「……」

 そうおかしいのだ。夏凛が素質ありと推測したるう子はまだしも(起動させただけですぐにシャロに返したが)、
 素質ありとは思えないシャロが起動及びコントロールできてしまっている。
 さすがに元の所持者であるエルスには遠く及ばないが、それでも実戦で扱えてもおかしくないレベルまで及んでいた。

「……すいません、私にも使わせてくれませんか?」
「いいわよ」

 パニッシャーを待機形態の腕輪に戻しながら、シャロはアインハルトにパニッシャーを手渡す。

「……」
 
 腕輪を装着しつつ、エルスは元の所持者であるエルスの事が心配になっていた。
 参加者ではないものの繭に囚われているのではと。デバイスに魔力を通す。
 腕輪は手錠の形態へと変わり、その感覚を元のデバイス ブランゼルのと脳内で比較する。

406※放送案ではありません ◆WqZH3L6gH6:2015/10/14(水) 23:49:52 ID:n2PrJxpc0
「……おかしい」
「何がなの?」
「私は同じ形をしたデバイスに似た別のアイテム、運営が用意したレプリカだと思ったのですが、判別できません」
「本物かも知れないって事?」
「はい。本来ならこのデバイスはシャロさんが扱える道具ではありません」
「だよね」

 シャロとるう子はアインハルトが特別な力を持つことや、補助具である専用デバイスを探している事は彼女からも夏凛からも聞いていた。
 
「なのに性能に反して違和感がないんです」
「……って事は改造?」
「はい。どのような改造を施しているかまでは判断できませんが」

 短い鎖に繋がれた5つに増やした手錠が小さく音を立てて揺れる。
 シャロと違い、アインハルトに疲労は殆ど無い。

「それって……」
「考えたくはないですが……」


 違和感や表立ったい不具合のないほどのデバイスの改造ができるのは、少なくとも極めて高レベルの
 アインハルトがいた世界の魔法使いか、あるいは全能に近い力を持つ存在でなければ説明がつかないとアインハルトは思う。
 どちらにしても絶望に繋がりかねない推測。
 2人の気持ちが更に落ち込もうとした時、ぱたんと何かが閉じる音がした。

「るう子さん?」 
「……」

それはノートパソコンを閉じる音。るう子は俯かせた顔を上げて言った。

407※放送案ではありません ◆WqZH3L6gH6:2015/10/14(水) 23:50:43 ID:n2PrJxpc0

「詳しく言わなかったけど、セレクターバトルって、ただカードを出し合ってするゲームじゃないんだ」
「ルリグが関係してくるワケね」

 スイッチが落ちる前に再びノートパソコンの蓋を上げる夏凛。
 るう子その挙動を気にせず続ける。

「うん」

 頭に浮かぶのは純白のルリグで最初のパートナー タマに会う前に夢に見た光景。
 血の色をした空と大気、そして荒廃したビル群とそれを蹂躙する少女のような姿をした凶悪な巨人。

「セレクターバトルが始まる時、セレクターは別の空間に飛ばされるんだ」
「それって……」
「正確には精神だけが飛ばされるんだけどね」
「……!」
「ルリグはゲームの進行に従って色々とアクションするんだけど」
「まさか魔法を使えるんですか?」

 るう子は頷いた。

「ルリグ同士のバトルは見かけだけなら魔法を撃ち合ってるような派手なもの。
 けど、どちらかが命を落とす事はない。ただバトル後はどっちも消耗する……」

 比較的簡潔に、だが必要な情報分どうしても長くなった説明――推理が終わる。

「ルリグも繭次第で死んでしまうって事か……」
「カードが本体って訳でもないんですね」
「……」

 過去、るう子はちよりという年下のセレクターの脱落(死んだ訳ではないが)を見届けた際。
 彼女のルリグ エルドラがカードを抜け出し、繭の元へ去ったのを目撃していた。
 ルリグとなった参加者とは違う遊月の証言通り、繭の力次第でルリグの肉体は変わるのだろうと推測できた。

「繭が力を付けて、私達の魂を抜き取ってルリグ同様に管理に都合の良い肉体を移し替えた可能性もある、と?」
「うん……咲さんの腕輪を壊そうとした時、どうやっても傷一つ付かなかったから、もしかしたらと思って」

 浮かない顔でパソコンの画面を見つめるるう子。
 セットアップ中の画面が表示されてから一時間はとうに過ぎていた。

「外れてほしい推理ね」

 夏凛は吐き捨てるように言った。
 だがそれはるう子に対する悪態ではなく、繭が用意したゲームのシステムに対してだった。
 絶望はしない。意地でも。同じ勇者である美森や風を止めるのもまた至難。
 それくらい……!

408※放送案ではありません ◆WqZH3L6gH6:2015/10/14(水) 23:56:20 ID:n2PrJxpc0


「るう子ちゃん、バッテリー残量大丈夫?」
「セットアップ完了までは持つと思いたいけど……」

 シャロは呟きに沈んだ声で応えるるう子。
 夏凛は反射的にスマホを出して操作するも、相変わらず通信機能は失われている。
 ノートパソコンの充電をするには建物の中に入らなければならない。
 ここから近いのは放送局だが……。

「研究所に行く手もあるけど」

 シャロの言う事にも一理ある。
 研究所は放送局と比べれば大分遠いが、スクーターと巨大犬 定春。
 そしてもう一つの高速手段がある彼女達にとって遠くはない。
 放送局は殺し合いに乗る参加者も利用する可能性が高い。
 本調子でないるう子とアインハルトが同行している中、知己以外の参加者との不用意な接触は避けたい。
 研究所は駅からは遠く、他の参加者と遭う可能性は低い。
 落ち着いて作戦を練るには持って来いの場所とも思える。

 どうするか?


-----------------------------------------------------------------------------------------------------



【F-3/エリア北部/一日目・早朝】

【三好夏凜@結城友奈は勇者である】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:にぼし(ひと袋)、夏凜のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
     黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:繭を倒して、元の世界に帰る。
   1:研究所、放送局どこに向かう……?
   2:東郷、風を止める。
   3:機会があればパニッシャーをどれだけ扱えるかテストしたい。
[備考]
※参戦時期は9話終了時からです。
※夢限少女になれる条件を満たしたセレクターには、何らかの適性があるのではないかと考えています。

【アインハルト・ストラトス@魔法少女リリカルなのはVivid】
[状態]:魔力消費(小)、歯が折れてぼろぼろ、鼻骨折
[服装]:制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(20/20)、青カード(20/20)
    黒カード:0〜3枚(自分に支給されたカードは、アスティオンではない)
    高速移動できる支給品(詳細不明)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
0:パニッシャーを借りて使う?
   1:私が、するべきこと――。
   2:仲間を探す。
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後からです。

【桐間紗路@ご注文はうさぎですか?】
 [状態]:疲労(小)、魔力消費(小)
 [服装]:普段着
 [装備]:パニッシャー
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(8/10)
     黒カード:不明支給品0〜1(確認済み)
 [思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。みんなと合流して、謝る
   1:研究所か放送局に向かう。
   2:パニッシャーをもっと上手く扱えるように練習する?
 [備考]
  ※参戦時期は7話、リゼたちに自宅から出てくるところを見られた時点です。

409※放送案ではありません ◆WqZH3L6gH6:2015/10/14(水) 23:56:41 ID:n2PrJxpc0

【小湊るう子@selector infected WIXOSS】
 [状態]:微熱(服薬済み) 、魔力消費(微?)
 [服装]:中学校の制服、チタン鉱製の腹巻
 [装備]:黒のヘルメット着用
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(8/10)
     黒カード:黒のスクーター@現実、チタン鉱製の腹巻@キルラキル、風邪薬(2錠消費)@ご注文はうさぎですか?
          ノートパソコン(セットアップ中、バッテリー残量残り僅か)、宮永咲の不明支給品0〜2枚 (すべて確認済)
     宮永咲の魂カード
 [思考・行動]
基本方針: 誰かを犠牲にして願いを叶えたくない。繭の思惑が知りたい。
   0:研究所に向かうか、東の市街地に向かうか
   1: 遊月、浦添伊緒奈(ウリス?)、晶さんのことが気がかり。
   2: 魂のカードを見つけたら回収する。出来れば解放もしたい。
   3:ノートパソコンのバッテリーを充電したい。
 [備考1]
  ※参戦時期は二期の8話から10話にかけての間です。
  ※桐間紗路と情報交換をしました。遊月が過去から呼ばれたのではと疑いを持ちました。
  ※るう子、シャロ、アインハルトはパニッシャーを使用しました。
   効果の強弱は確認できる範囲では強い順にアインハルト、るう子、シャロです。


[備考2]4人が共有している推測は以下の通りです。
1:会場の土地には、神樹の力の代替となる何らかの『力』が働いている。
2:繭に色々な能力を与えた、『神』に匹敵する力を持った存在がいる。
3:参加者の肉体は繭達が用意した可能性がある?



【パニッシャー@魔法少女リリカルなのはVivid】
桐間斜路に支給。
エルス・タスミン(ロワ不参加)が所持している腕輪型デバイス。
起動形態は手錠。複数に増やすことも可能。
用途は見かけどおり拘束主体。

【ノートパソコン@現実】
小湊るう子に支給。
仕様は一応現代基準。通信機能あり。充電機付属。
ただしまともに扱うには1時間超のセットアップが必要。
バッテリー残量が少なくセットアップ完了後には30分も使えないので充電が必要。

410 ◆WqZH3L6gH6:2015/10/14(水) 23:58:51 ID:n2PrJxpc0
仮投下終了です
題名は「その少女は切望」です
この度はここまで遅延してしまった上に、こういう形で本投下してしまいすみませんでした

411名無しさん:2015/10/15(木) 00:59:23 ID:xz0GpZEI0
仮投下乙です
一つ気になったのですが、夏凜のスマホの通信機能が失われているというのは、臨也と切嗣の話に出てきたチャットやメール、電話の機能は「あるけど制限でまだ使えない」のと「少なくとも夏凜のスマホでは全面禁止」のどちらでしょうか?

412 ◆WqZH3L6gH6:2015/10/15(木) 01:13:47 ID:XF5EnJj.0
>>411
勇者スマホ同士の通信機能は失われているつもりで書きました
本投下の際にその辺訂正します
問題がなければ今夜に本投下します

413名無しさん:2015/10/15(木) 01:42:44 ID:XE6bJ61.0
>>412
勇者同士で話せないだけで、他の参加者も使えるチャット機能などはあるということでしょうか?

414 ◆WqZH3L6gH6:2015/10/15(木) 01:51:20 ID:XF5EnJj.0
>>413
はい
作中の夏凛は気づいてませんが

415 ◆3LWjgcR03U:2015/10/20(火) 01:43:55 ID:YUgGVSwI0
度重なる議論を呼んだキャラのパートなのでいったん仮投下します

416誰かの為に生きて ◆3LWjgcR03U:2015/10/20(火) 01:44:39 ID:YUgGVSwI0
小さな分校の教室。
布がかけられた侍の遺体の横で、放送に聞き入る男の姿があった。
絶世の美青年とでもいうべき容貌を持つ男。だが、その顔には冷たい汗が満ちている。
青年――ランサーの胸中を支配するのは焦り。

「馬鹿な……17人……17人だと……!?」

ここに来る直前までサーヴァントとして参加していた聖杯戦争。
戦闘に長けた者同士が争うあの戦いですら、最初に脱落者が出るまでは相応の時間がかかった。
それがこの島においては、たった6時間のうちに全参加者の2割を超える数の命が刈り取られたのだ。
考えられないような速度でこの殺し合いは進んでいる。
さらに。

(ヴィヴィオ……!)

黒子の呪いをはねつけた魔力的素養。さらにあの訓練された者に特有の体さばき。
それは明らかに無力な少女のものではなかった。
加えて彼女の傍らには、自分を圧倒してみせたあの本部もいる。
にも関わらず彼女は死んだ。

(やはり離れるべきではなかった……っ!)

考えられることは一つ。
彼らを上回る力を持つ敵の襲撃を受けたのだ。

(穂乃果、千夜……)

417誰かの為に生きて ◆3LWjgcR03U:2015/10/20(火) 01:45:25 ID:YUgGVSwI0

幸いにも、黒子の呪いにかけてしまった2人の名前は呼ばれなかった。
しかし彼女たちは戦える力を持たない。
襲われ傷付き、今もどこかでただ1人でさまよっているのかもしれないのだ。
何としてもあの場所、駅に戻らなくてはならない。

その時だった。
窓の外に、少女らしき人影が見えた。







「私の名はディルムッド・オディナ! 大丈夫だ、こちらに敵意はない!」

迷いもあったが、穂乃果たちの消息につながる情報をもしこの少女が持っているなら、それだけでも聞き出す必要がある。
黒子の呪いにかからないようにするため、距離をおいた上で話しかける。
攻撃する意思のないことを示すため、キュプリオトの剣と村麻紗を地面に置く。

「出会ってそうそうすまないが、私は急いで駅まで戻らねばならない!」

少女はうつむき加減で、眼帯を付けていることもあってその表情はうかがい知れない。

「すまないが高坂穂乃果、宇治松千夜、もしもこの2人の名に覚えがあるなら教えてほしい!」

声を張り上げて会話を試みるが、少女は相変わらず顔を上げない。

(くそっ、警戒されているか……)

もっと近づいて話しかけるしかない。
黒子の呪いにかけてしまうことになるが、一刻を争う場面だ。

「繰り返すがこちらに敵意はない! 君の名を教えてほしい!」

ランサーは一歩ずつ少女に近づいていく。

418誰かの為に生きて ◆3LWjgcR03U:2015/10/20(火) 01:45:58 ID:YUgGVSwI0







ランサーの胸中には焦りが満ちている。
その証拠に、眼前の少女を穂乃果や千夜と同じ無力な存在とみなしていたこともあるとはいえ、、
真名である「ディルムッド・オディナ」を出会い頭に教えるというのは、サーヴァントとしてはありえない行為だ。
そんなことをしたのも、一刻も早く駅に戻り、穂乃果たちと再会しなければならないという思いに駆られていたから。

そして、そこまでの焦りをもたらす原因は実に複数個にも及んでいた。

17人もの参加者の脱落。
ヴィヴィオの死。
魅了にかけた上、取り残してきてしまった穂乃果と千夜。
外道に堕ちたと思われるかつての好敵手、セイバー。
参加者の脅威になるであろうキャスター。
音ノ木坂学院からここまでの唐突なワープ。
槍の英霊でありながら相応しい得物を手に入れられていないこと。

本部と一戦を交え、騎士でもサーヴァントでもなく、一人のディルムッド・オディナとして生を全うする覚悟を決めたランサー。
だがそのことは、ひたすら戦いに生きるということは意味しない。
むしろそれは、主君にも愛する女性にもマスターにもとらわれることなく眼前の人々を守り抜くという決意を意味している。
だからこそ、こうして必要以上の事柄に責任感を覚えることになったともいえるのだ。

その焦りゆえに、傍に近寄るまで気付くことができなかった。

(何だ? この感じは……)

少女の体の周りに、ヴィヴィオに感じたものにも似た魔力めいた気が集まりつつあることに。

419誰かの為に生きて ◆3LWjgcR03U:2015/10/20(火) 01:46:48 ID:YUgGVSwI0







焦りに満ちたランサーの胸中とは対照的に。
少女――犬吠埼風の心は静まり返っていた。
彼女はつい先ほど、妹である樹の埋葬を終え。
そして、「魔王」としてこのバトルロワイアルを生き抜く決意を固めたばかり。
その心に満ちるのは、魅了の呪いなど歯牙にかけないほどの、純粋で研ぎ澄まされた、殺意。

(樹――行くね)

少女が顔を上げ、男を見据えた。







サーヴァントと勇者。
お互いに人の枠からはみ出した存在。

ここから先の2人の命運を分けたのは、この状況、
つまり「殺し合いという舞台の中2人きりで対峙している」という現状に対する、心構えとでもいうべきものの差。





420誰かの為に生きて ◆3LWjgcR03U:2015/10/20(火) 01:47:21 ID:YUgGVSwI0



(拙いっ!!)

少女の体が急速に光に満ち、衣服が黄色い華やかなものに変化する。
その手に握られているのは、およそ少女の細腕には似つかわしくない、鉄塊ともいうべき大剣。
ここに至り、眼前の少女が極めて危険な敵であることをランサーは認識する。

(武器を――――ッッッッッ!!!!!)

半身になりながら全力で飛びずさる。目指すのはさきほど地面に置いた武器。
が、相手が完全に警戒を解いた状態で間合いに踏み込んでいたこと、大剣のリーチ、それに加え勇者としての高い身体能力。
様々な要素が積み重なり、犬吠埼風の攻撃は、聖杯戦争において最速を誇るクラスをも上回る。

(がっ――――――)

横薙ぎに払われた大剣の切先はランサーの胴体を深々と捉えていた。







(何が、起きた……やられ、た、の、か……)

腹部から、血と共に生命そのものがどくどくと流れ出すような感覚。
数多の戦場をくぐり抜けた経験が教えている。これは致命傷に等しいものだと。

(武器、が……武器が、あれ、ば……)

それでも、大量の血を流して倒れ伏しながら、震える手を伸ばす。

「死んで」

421誰かの為に生きて ◆3LWjgcR03U:2015/10/20(火) 01:48:45 ID:YUgGVSwI0
だが、その手は無残に踏みつけられる。
見上げれば、霞む視界の中、目に入るのは大剣をふりかぶった少女の姿。

(ああ……)

この後に及んでも、胸中に満ちた焦りは消えてはくれない。

(穂乃果……すまない……どうか無事で……)

――最期の瞬間、誰でもなくここに来て初めて出会った少女のことが脳裏によぎったという事実は。
――彼が英霊でも戦士でもない、ディルムッド・オディナとしての束の間の生を全うしたことの、証左だったのかもしれない。







「ふぅ……」

そして一人残った眼帯の少女、犬吠埼風は汗をぬぐいため息をつく。
樹の遺体を埋葬し、校庭に戻ってきた時に、校舎の中の人影にはすぐ気付いた。
もともと食事と休息を取ろうと思っていた。だから、隠れてやり過ごすこともできた。
だが、あまりにも早く巡ってきた「魔王」としての初陣の機会。
犬吠埼風は、戦いを仕掛ける道を迷わず選んだ。

(普通の女の子を装って、近付いてきたところを一気に仕留める。――ここまでうまく行くとはなあ)

作戦は極めて単純。しかし結果的に大成功。
あろうことか自分から武器を捨ててくれた時は、あまりに理想通りの展開に内心あぜんとしてしまった。
放送で知り合いの名前が呼ばれて動揺している、とでも思われたのかもしれない。

(あんまり感慨ってものがないね)

初めて殺しに手を染めた。
だが、風の心は動揺してはいない。それどころか、目的をより強く見据えてますます静まり返っているといっていい。

422誰かの為に生きて ◆3LWjgcR03U:2015/10/20(火) 01:49:22 ID:YUgGVSwI0

(さてと)

あまり目立つ場所に放置するわけにもいかないので、男の死体は校舎の中に放り込んでおく。
その際、2本の剣を回収するのと、カードを抜き取っておくのも忘れない。

(どうしますかね……)

赤のカードから出したうどんを啜り、青のカードで出したお茶を飲みながら考える。

(このIDカードとかいうのが使えればラッキーだったけど、6時間も待ってられない)

つい数刻前の彼女であれば、人を殺した直後にもかかわらず平然とうどんを啜るようなことはありえなかっただろう。
まして、死体を校舎に投げ入れる際には別の男の死体も目にしているのだ。
死の臭いが濃厚に立ち込める中、必要な食事を摂り、次に取るべき最適な行動を思案しているということ。
それは、彼女のメンテリティが常人のものを凌駕しつつあることをはっきりと示していた。

(人が多そうなのは、やっぱりこっちの市街地のほうかな)

特に市街地の中でも南のほうは名の付いた施設が多く、いかにも人が集まっていそうだ。
たどり着いたらどう戦うか。先ほどこそ奇襲に成功したが、そう何度も同じ作戦が成功するとは思えない。
場合によっては、最初から変身をした上で殴り込んで暴れるほうが効率的なこともありえる。
また17人も死んだということは、自分と同じように殺して回っている人間は確実にいる。彼らと一時的に手を組むのも有効かもしれない。
いずれにせよ、そこは状況を読んで仕掛けていく。

(それからこのチャット)

423誰かの為に生きて ◆3LWjgcR03U:2015/10/20(火) 01:50:42 ID:YUgGVSwI0
スマートフォンにチャットが送られてきたことには、変身を解除した時に気付いてた。
折原臨也という情報屋と名乗るうさんくさい人物が送ってきた長々とした文章。
ざっと読んで分かるのは、やはり市街地にあるゲームセンターで小鞠という女の子が殺害され、犯人である衛宮切嗣が折原の知り合いらしい平和島静雄に罪を着せたという顛末。

(危ない連中がいるなあ……って、私が言えたことじゃないか)

風にとって重要なのは事件の真相うんぬんよりも、これから向かう先にいるかもしれない衛宮切嗣と、自販機を投げつけてくる怪力の持ち主らしい平和島静雄の2人が危険人物であるということ。
加えて、これを送ってきた折原臨也のことも警戒しておくべきだと感じる。
文章を信じるなら、これを書いていた当時、彼は真犯人である衛宮切嗣と2人で対話していたという。
このチャットが送られてきた時刻は放送の前。そして、名簿にある彼の名前に×は付いていない。
つまり折原は、危険人物と一対一で渡り合えるだけの実力を持っているということだ。

(ま、どんな連中がいてもやることは変わらないか――樹、もう少しだけ待っててね)

先ほど遺体を埋葬した方をもう一度だけ一瞥し、風はこの場を去っていく。







こうして、朝日の照らす中で魔王の進軍が始まる。
彼女を説得できる勇者はもうどこにもいない。



【ランサー@Fate ZERO 死亡】
【残り52人】

424誰かの為に生きて ◆3LWjgcR03U:2015/10/20(火) 01:51:16 ID:YUgGVSwI0
【F-5 北東/朝】
【犬吠埼風@結城友奈は勇者である】
[状態]:健康、参加者を皆殺しにする覚悟
[服装]:普段通り
[装備]:風のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(29/30)、青カード(29/30)
     黒カード:樹のスマートフォン@結城友奈は勇者である、IDカード、キュプリオトの剣@Fate/zero、村麻紗@銀魂
     犬吠埼樹の魂カード
[思考・行動]
基本方針:樹の望む世界を作るために優勝する。
   1:市街地の南部に行き参加者を殺害する。戦う手法は状況次第で判断。
   3:衛宮切嗣、平和島静雄、折原臨也には警戒。
[備考]
※大赦への反乱を企て、友奈たちに止められるまでの間からの参戦です。
※優勝するためには勇者部の面々を殺さなくてはならない、という現実に向き合い、覚悟を決めました。
※東郷が世界を正しい形に変えたいという理由で殺し合いに乗ったと勘違いしています。
※村麻紗の呪いは精霊によって防がれるようです。

425 ◆3LWjgcR03U:2015/10/20(火) 01:52:56 ID:YUgGVSwI0
仮投下終了です

426名無しさん:2015/10/20(火) 02:12:15 ID:WMQ2Lgys0
セイバーっていう見た目は少女でも物凄く強い実例(体格的にもセイバーより9cm長身)を知っているのにこの対応は流石に結果ありき過ぎる感が……

>(このIDカードとかいうのが使えればラッキーだったけど、6時間も待ってられない)
6時間経たないと使えないのは送信側の装置だけなので、旭ヶ丘分校から本能字学園への移動は今すぐ可能ですね
というか駅に行くのも、分校から学園へすぐにワープしてC-6の駅に行くっていう最短ルートがあったり

427名無しさん:2015/10/20(火) 02:17:20 ID:WMQ2Lgys0
あと、黒子の呪いが通じなかったってことはゆゆゆのキャラにはこの手の洗脳系?能力は通じない扱いってことになるのかな

428名無しさん:2015/10/20(火) 02:19:17 ID:9InEhZ6o0
投下乙です
ランサーに関しては油断しすぎかなとは思いますが、作中でその原因が説明されていますしそこまで不自然には感じませんでした
ただ、

>ざっと読んで分かるのは、やはり市街地にあるゲームセンターで小鞠という女の子が殺害され、犯人である衛宮切嗣が折原の知り合いらしい平和島静雄に罪を着せたという顛末。

「 『犯人』に罪状が追加されました 」では臨也の気が変わらない限り、切嗣との同盟が成立すれば切嗣の情報は流さずにおくと描写されていたかと思います
チャットの書き込みの内容についてはぼかしておいた方が無難ではないでしょうか

429名無しさん:2015/10/20(火) 02:24:00 ID:fg6215820
自分は不自然過ぎるって思ったな
女の子だから無害っていうのとは正反対な出展作成だし

あとゆゆゆの精霊って普段はどんな状態でいるんだっけ
霊体の気配も分かるサーヴァントが精霊の気配に気付かず無害判定するような状態なのかな

430名無しさん:2015/10/20(火) 02:25:43 ID:iTqDz8AQ0
ランサーの顛末自体は自分も問題ないと思いました。
ちゃんと理由付けもされているようなので、これを不自然とするのはさすがにどうかと

431名無しさん:2015/10/20(火) 02:26:54 ID:fg6215820
作成ってなんだ作品だ

焦ってるから云々ってのも、足早いんだからさっさと走って帰らず情報収集ってのもちょっと

432名無しさん:2015/10/20(火) 02:30:15 ID:WMQ2Lgys0
>>431
ああ、それも思った
何の情報を聞き出そうとしたっていう想定なんだろう

位置も時間も腕輪見れば一発なんだから、一瞬の内に遠くへワープさせられたってのはすぐ分かるわけで
そんな駅から遠くを歩いてた子に声かけて、ずっと違う島にいた穂乃果と千夜について何を教えてもらえると思ったのかな

433名無しさん:2015/10/20(火) 02:35:24 ID:fg6215820
>>432
理由は説明されてるっていうけど、一番大事なそこの説明が抜けてるな
ワープ先の見知らぬ人が二人の現状について何か知ってると思ってるのが一番不自然

434名無しさん:2015/10/20(火) 02:50:09 ID:G/qlYN5g0
そこの理由は確かに変だね、あとチャットの件くらいかな
そこ直せば筋も通るし多分大丈夫かと

洗脳については対面時間が少ないからってので一応説明はつく
精霊については神樹ありきって設定になってるから分からないけど、霊体とは違ってあくまで土地にアクセス・抽出って形だから鯖にも感知はできないと思う

435名無しさん:2015/10/20(火) 02:59:29 ID:ABx05Td.O
焦ってるのは別にいいけどその理由が情報収集っていうのがね
通りすがりだけど風先輩も守るべきだとか考えたならまだ分からなくもないけど

436名無しさん:2015/10/20(火) 02:59:31 ID:WMQ2Lgys0
・先を急いでいる割に放送をその場に留まったまま聞いている
 放送は腕輪からも流れているので走りながらでも聞けるのでは?
 (サーヴァントの感覚は優れているので尚更)

>>432で挙げた点に補足。現在位置について確認済みなら>>432だが、
 前の話で「ここから走って駅まで、どれだけ時間がかかる」か気にしているので、現在位置を未だに確かめていないと解釈すると余計におかしくなる

他に自分が気になったのはこの辺りかな
特に前者、放送は腕輪からも流れてるのに何でお前ずっと教室で聞き入ってんの、と

437名無しさん:2015/10/20(火) 03:10:50 ID:fg6215820
もっかい前話読み直したけど、早く戻らなきゃって焦ってるのはやっぱり前話からなんだよね
放送を聞いてから焦り出したわけじゃない

だから確かに、放送をその場に留まって聞いてるのは不自然だな
施設からしか流れない放送だったならまだしも、そういうシステムじゃないし

438 ◆eNKD8JkIOw:2015/10/20(火) 07:31:06 ID:wvwiHhhk0
仮投下乙です

まずは、申し訳ありません。
自作「犯人に罪状が追加されたようです」にて誤解を招く表現をしてしまいましたが、臨也の遺書は彼が「死ぬ」と判断していないため、未だチャットに送信されてはいません
紛らわしい書き方をしてしまい、誠に申し訳ございませんでした

その他の指摘については、出先から拝見しているため精査は出来ていませんが、流し台見したところ決定的な矛盾はないように見受けられました
今夜、帰宅後にまたこちらの意見も書かせていただきます。

439名無しさん:2015/10/20(火) 07:48:53 ID:9InEhZ6o0
>>425
すでに書き手さんが指摘された箇所を修正すれば大丈夫だと思いますが、細かいことですがもうひとつだけ
>特に市街地の中でも南のほうは名の付いた施設が多く、いかにも人が集まっていそうだ。
>たどり着いたらどう戦うか。先ほどこそ奇襲に成功したが、そう何度も同じ作戦が成功するとは思えない。
>場合によっては、最初から変身をした上で殴り込んで暴れるほうが効率的なこともありえる。
>また17人も死んだということは、自分と同じように殺して回っている人間は確実にいる。彼らと一時的に手を組むのも有効かもしれない。

風はすでに東郷さんから「自分が市街地に向かうので、効率よく殺して回るためにも市街地以外の場所で殺してください」と言われてますので、
それでも市街地に向かうのか、あるいは東郷と組むことを視野にいれた上で市街地に向かうのか、何らかの言及はあった方がいいかと思います

>>437
走りながら放送を聞いたか止まって放送を聞いたかがそんなに重要でしょうか
急いで走り出したのは放送前からかもしれませんが、別に誰しも常に最適の行動を取れるわけではないのだし
つい放送で動きが止まってしまったとかでもいいと思います

440 ◆3LWjgcR03U:2015/10/20(火) 10:39:23 ID:YUgGVSwI0
色々な意見ありがとうございます。

・IDカードについての描写
・ランサーと風の邂逅時の描写
・チャットに関する記述の全削除
・風の今後の行動方針についての描写

ひとまず以上の4点を加筆修正します。
修正ルールに従い明日夜までには本投下いたします。

441 ◆3LWjgcR03U:2015/10/20(火) 10:40:18 ID:YUgGVSwI0
書き忘れていました

・放送時のランサーの描写

これも同様に加筆修正します

442名無しさん:2015/10/20(火) 10:52:41 ID:D66PD6oI0
ヴィヴィオのように見た目幼女でも何らかの強さがある者がいる と知っててここまで油断するのはちょっと無理あるような
武器置くにしてもなんで馬鹿正直に二本とも置いてるんですかね。剣か刀のどっちかをカード化させておけば不意打ちにも対応できるのに
むしろこれだと捨てたはずの騎士道どっかで拾ってるよね

443名無しさん:2015/10/20(火) 16:36:59 ID:bkrWSX/I0
>>439
迅速に駅へ引き返すというのは、ワープ前の前々話でも、ワープ後の前話でもずっと引き継がれてきた最優先の方針です
急にワープさせられた大混乱の最中でも一番優先して考えている選択肢なわけですから、混乱して忘れていたというのはおかしいでしょう
つい放送で動きが止まってしまったとしても、金縛りにあうわけでもなし、またすぐに移動再開できるわけですし

一旦B-2の駅に戻る→可及的速やかにB-2の駅に戻る、とリレーを経てどんどん強化されていった方針をあっさりなかったものにして、
移動しながら放送を聞けると即座に分かるはずなのに分校から少しも移動することなく聞いていたり、
可及的速やかに駅に戻るのが優先事項なのに手間暇かけて聞き込み調査を始めたり
このリレー無視が一番の問題点だと思いますね

444名無しさん:2015/10/20(火) 17:03:22 ID:bkrWSX/I0
ついでなので、細かいのも含めて今まで出ていない点もいくつか

>考えられることは一つ。
>彼らを上回る力を持つ敵の襲撃を受けたのだ。
穂乃果が独断専行して危険に陥るかもしれないとこれまでの話で想定していたんですから、
いなくなった穂乃果を探しに出たヴィヴィオが犠牲になった、とかもキャラ視点では想定の範囲内なのでは

>槍の英霊でありながら相応しい得物を手に入れられていないこと。
ディルムッドはもともと剣と槍を同時に扱う戦士なので、剣の扱いでもエキスパートですね

>むしろそれは、主君にも愛する女性にもマスターにもとらわれることなく眼前の人々を守り抜くという決意を意味している。
以前までの話だと、見ず知らずの相手よりも駅組を優先する思考で動いています
駅組の生き残りのために他の全員を殺すという展開も選択肢に入りうると想定していますし
ここでもやはりリレー無視の感が

>>442
>油断するのはちょっと無理あるような
やっぱりそこも違和感ありますよね
本部のように見た目が強くなさそうでも技術面で秀でている者もいる、とも知っているわけですし
騎士道精神全開の対応になっているのも同意です

445 ◆eNKD8JkIOw:2015/10/20(火) 18:38:18 ID:mjEI9p8I0
ただいま帰宅しました。
◆3LWjgcR03U氏が既に修正にかかっているようですので多くは語りませんが、一つだけ
「急いでいたから焦った」というだけにするよりも「放送を聞いて泣いている少女を見捨てられず、またこれ以上彼女の不安を煽らないために武器を捨てた」という要素も追加したほうがよりランサーらしいかと
拙作「犬吠埼風は■■である」でもふれたように、風先輩が放送を聞いて泣く可能性は十分にありえます
ですので、それを見たランサーが「こんなに傷ついている少女を見捨てることなどできない」という感じで彼女を保護しようと決意し、まずは信頼を得るため武器を捨てる、といったような具合にしたほうが、よりディルムッドらしいと思います
「単なる弱者」として見るのではなく「大切な人の死を悲しんでいる少女」として見て、ランサーの「つねに我が身の苦難よりも相手の心の痛みに想いを致す」という信念に付け込まれた、という形ですね。
また、駅組を優先するという思考なのだから目の前の少女は切り捨てるはずだ、という意見も見受けられましたが、それこそ今までのリレー無視となりえますね。

例えば◆zUZG30lVjY氏の書かれた「Libra」におかれましても
>
『多数』を切り捨て『少数』を選ぶに等しいこの決断。
正しき天秤の守り手たらんとするならば、迷うことなく『多数』を選ぶべきである。
しかし、ランサーはそのように振る舞うことを良しとできなかった。
親しき者も見知らぬ者も強き者も弱き者も『1』と数え、純然たる数量の多寡で生死を切り分けるなど、到底許容することができなかったのだ。
そんなものは人間の考えではない。正しくあり続ける機械装置の在り方だ。

とあるように、駅組という親しき多数のために目の前の泣いている見知らぬ少女という少数を切り捨てることをよしとしないはずですし
放送で呼ばれなかった以上、本部に守護られている可能性が高い穂乃果、千夜よりも、保護者もおらず、おまけに放送を聞いて泣いている少女の安全を少なからず想ったとしても、矛盾とはなりえません

また

>つねに我が身の苦難よりも相手の心の痛みに想いを致す。それがディルムッド・オディナという男の本質。たとえ騎士道を捨てようと消え失せない生まれ持った色である。
彼が"マスターに従うサーヴァント"として戦う心積もりでいたなら、あくまでも忠節を尽くす道を優先し、このような思考は心の奥底に押し込めていたかもしれない。
しかし、サーヴァントとしてではなくディルムッド・オディナとして戦い抜くと決めたのなら話は別だ。

とあるように、自身の身の危険よりも、大切な人が死んで泣いているであろう少女のために、武器を捨ててでも彼女を安心させたいと思うのは当然のはずです

さらに言えば、◆0safjpqWKw氏の書かれた「フォロウ・ザ・コールド・ヒート・シマーズ」においても、ランサーは駅に真っ先に向かわず、土方の遺体を移動させています
ランサーはロボットのように「駅組のためだけに動く」わけではなく、血の通った人間(サーヴァント)ですので、例えば土方を尊重したように目の前の泣いている少女を見捨てられなかったとしても、決定的な矛盾にはなりえないかと

放送を分校内で聞いていることに関しては、自分としてはそこまで違和感がありませんでしたが、何なら放送を聞きながら移動している際にばったり風先輩に遭遇した、とでもすれば問題は解決するかと

もちろん、◆3LWjgcR03U氏がこのように修正せずとも問題が解決できるSSを投下していただければ、自分としては何の問題もございません。
長々とお目汚し、失礼致しました。氏の修正案を心よりお待ちしております。

446名無しさん:2015/10/20(火) 18:45:15 ID:bkrWSX/I0
>>445
>親しき者も見知らぬ者も強き者も弱き者も『1』と数え、純然たる数量の多寡で生死を切り分けるなど、到底許容することができなかったのだ。
>とあるように、駅組という親しき多数のために目の前の泣いている見知らぬ少女という少数を切り捨てることをよしとしないはずですし
これって、駅の面々を少数、それ以外を多数として「駅の面々以外の人々の為に、駅の面々を不利益に晒すことはできない」って意味じゃ……

>放送で呼ばれなかった以上、本部に守護られている可能性が高い穂乃果、千夜よりも、保護者もおらず、おまけに放送を聞いて泣いている少女の安全を少なからず想ったとしても、矛盾とはなりえません
「彼らを上回る力を持つ敵の襲撃を受けたのだ。」って考えているわけですから、ヴィヴィオが死んで本部が無事と考えるのはおかしいと思いますけど
本部は死んではいないけどより強い敵にやられ、ヴィヴィオを守りきれずに殺されたって感じで

447 ◆eNKD8JkIOw:2015/10/20(火) 19:04:40 ID:mjEI9p8I0
繰り返し言いますが、ランサーは土方を見捨てられなかったように、駅組だけを絶対に優先するというロボットめいた思考でのリレーはされていません。
ですので、ちゃんとした理由さえあれば「他の誰か」も助けたいと考えるのも、人間として当然の思考です。

ヴィヴィオが死んで本部が無事と考えるかどうかは、それこそ書き手の裁量次第だと考えます
ヴィヴィオが死力を尽くして相手を撃退したために本部、穂乃果、千夜は無事だったと考えることもできますし
絶対にこう考えるはずだ、とは言えない以上、矛盾にはなりませんね。

448名無しさん:2015/10/20(火) 20:53:09 ID:srA1FCfc0
土方を回収したときは「一旦駅に戻る」という程度だったけど、その後不慮のワープに遭って「可及的速やかに駅に戻る」と方針を改めた(より緊急性を高めた)わけでしょう
明確なきっかけがあってわざわざ状態表レベルで方針をアップデートしてるのに、アップデート前の方針と行動だけを元にリレーしていることになりますよ?
土方のときとは文字通り事情が違うんですから

後半の方も、守護役の本部ではなくヴィヴィオが戦うこと自体が異常事態では
本部が守護を放棄したか、どちらが駅を離れたか、先に本部が敗北したかのどれかになるかと

449名無しさん:2015/10/20(火) 21:03:25 ID:srA1FCfc0
というか、情に負けて寄り道したせいでこんなことになってるのに、また情で動くとかやったら学習能力がヤバい……

450名無しさん:2015/10/20(火) 22:19:15 ID:ae1WhpwI0
書き手さんが良しと言ってるのに何を騒いでるんだ…

451 ◆3LWjgcR03U:2015/10/20(火) 22:55:01 ID:YUgGVSwI0
>>440と重複しますが、修正点について改めて

・IDカードについての描写
・チャットに関する記述の全削除
・風の今後の行動方針についての描写
・「考えられることは一つ〜」のくだりを他の可能性も考慮している描写に差し替え
・「槍の英霊でありながら〜」のくだりを削除
・放送中のランサーの描写
以上は比較的単純な修正ですので特に説明は不要かと思います。


以下は説明が必要と思われる箇所についてです。

・ランサーの前話からの行動方針
ランサーは駅組を優先するか、それとも風の保護を優先するか、2通りのご指摘を頂いております。
どちらの展開も自分が書く上では問題はありません。ですが今回は、登場キャラの1人のリレー元のSSを書かれた方ということがあるので
◆eNKD8JkIOw氏のご指摘に従って修正しようかと思います。

・ランサーと風の邂逅時の描写
ご指摘の通り確かにランサーが油断しすぎていると感じますので、風が自ら油断を誘ったような描写に差し替えます。
また>>445で提案いただいた描写も可能な限り加筆いたします。

452名無しさん:2015/10/20(火) 23:16:47 ID:srA1FCfc0
その理由だと、ランサー側の以前の話を書いた人から逆の指摘があったら修正内容を変えちゃうのかな

453名無しさん:2015/10/20(火) 23:17:48 ID:w/YpsUbE0
修正作業大変でしょうが頑張って下さい

454 ◆zUZG30lVjY:2015/10/21(水) 03:01:30 ID:KbnY6hJw0
正直あまり口を挟むべきではないかもしれませんが、自分の文章の解釈が根拠に使われていたので、参考までに1レスで補足を
トリを出して書き込む予定は一切なかったですし、自分でこんな風に意図を解説するのは褒められたものではないですけど、
他の書き手さんがトリ付きで文章解釈を修正議論の根拠に使っているなら、自分もトリを付けて説明しておくべきだろうと思った次第です


結論から言いますと、>>445
>とあるように、駅組という親しき多数のために目の前の泣いている見知らぬ少女という少数を切り捨てることをよしとしないはず
という読解は少なくとも書いた本人の意図とは正反対です

引用箇所の少し前に
>片方の腕には、他の2つの島に送り込まれた顔も知らぬ多数の命。
>もう片方の腕には、己の呪いが心惑わせた少女を含む少数の命。
と書いてあるように、その部分の多数少数という表現は>>446で指摘してある内容の方が正しいです
「Libra」では、風のように単独行動あるいは少人数行動をしている駅組以外の参加者も前者の『多数』に含めて記述していて、
そういった参加者よりもいわゆる駅組の少女達を優先するという指針を固めた、というのが「Libra」での描写の意図ですね

また、
>とあるように、自身の身の危険よりも、大切な人が死んで泣いているであろう少女のために、武器を捨ててでも彼女を安心させたいと思うのは当然のはずです
という部分の根拠にされている引用箇所も、書いた当人の意図とは違う解釈になっています
>「(……彼女達の身にもしものことがあれば……例えどのような形であろうと、俺の責任だ)」
>(中略)あの少女達から心の痛みを訴える声と共に手を伸ばされたなら、きっとその手を取ることだろう。
>たとえ多くを敵に回すことになろうとも――
という文脈の中で書いてあるとおり、そういう理由で駅組の少女達の身の安全と去就に強い責任感を抱いているのだという意図の文章であり、
>>445で提示されているシチュエーションのように、最重要点である強い責任感とその対象を一時的にせよ後回しにする根拠として引用するのは、いささか恣意的な切り抜きかと感じました
駅組の件が最初から無ければ充分ありうる展開だとは思いますが……

以上、書いた本人としてはこういう意図だったということで、参考までに

455名無しさん:2015/10/21(水) 08:14:54 ID:Nqb13w5A0
書き手さんの修正中に言うのもなんですが

ランサーが少女より駅組を優先するはずだったから不自然だというなら
「少女が穂乃果や千夜の同年代であり、元からの知り合いの可能性を考慮したから」といった理由を追加すればいいんじゃないでしょうか
そこまで駅組の身とメンタルを心配してるようなランサーなら、「穂乃果や千夜と合流した後で泣いてる友達を見捨てていたことが発覚したら目も当てられない」とか懸念しても不自然ではないでしょう

456名無しさん:2015/10/21(水) 08:40:32 ID:B.UWcYWE0
流石にロワにいる知り合いの情報(名前とかみんな同じ学校だとか)くらいは聞いてるだろうから、それは難しいんじゃないかな
制服も違うから違う学校の生徒だってことは一目で分かるし

まぁとりあえず修正待ちかな

457名無しさん:2015/10/21(水) 08:51:30 ID:aQ4jvSdM0
そもそも相手が少女だからってこの状況で油断するキャラではないような
普通に戦って勝つんじゃ駄目なんですか?
本部が勝てるくらいなんだから勇者だったら少なくとも性能の面でも互角くらいでしょうし

458名無しさん:2015/10/21(水) 09:09:19 ID:x6gPxKt.0
勇者もルールで戦闘能力の制限対象なのでパワーダウン中

459名無しさん:2015/10/21(水) 10:19:07 ID:5sWpsBvo0
ラブライブはともかくごちうさは5人で3つの学校通ってるし、制服は違う子もいるぞ
そもそもみんな制服で来てるとも限らないんだし

460名無しさん:2015/10/21(水) 12:26:49 ID:qmTtpMGU0
そもそもあの短時間の接触で千夜から知り合い1人1人の名前と特徴まで聞き出す余裕があったかは怪しい
穂乃果もランサーも知り合いが巻き込まれている前提なんだから
見た目15歳前後の女の子を見れば知り合いの可能性くらいは考えるだろう

461名無しさん:2015/10/21(水) 18:03:50 ID:3OHXNBLY0
確かに千夜からは「これまでにあったこと」しか聞いてないからな
でも逆にいうと、千夜からは友達が違う学校に通っているという情報もないわけだから、
違う制服の生徒が知り合いかもしれないと思う理由もないし、ここにいる知り合いの中に同年代がいると判断できる材料もない
横並びで女子高生ばかりだっていうのは本人達とメタ視点からしか分からないんだし

だから、千夜の知り合いかもしれないから見捨てられないって理由付けは、ほぼ全年代に適用できてしまって本末転倒だろうな

462名無しさん:2015/10/21(水) 18:15:12 ID:Q8/KxI8Y0
そこまで行くとただの水掛け論じゃないか
一旦修整を待とうや

463名無しさん:2015/10/21(水) 18:18:05 ID:3OHXNBLY0
あと見た目15歳前後っていうけど、風って成人女性の平均身長より5〜6センチも背が高くて発育も良かったりするからなぁ(DVD Vol3パッケ参照)
ラブライブで一番長身の高3の絵里より1センチ大きくて、成人女性にしか見えないとネタにされてるほたるんより1センチ低い程度という

464名無しさん:2015/10/21(水) 18:18:27 ID:3OHXNBLY0
>>462
そうだな、脱線しすぎてた

465 ◆DGGi/wycYo:2015/10/22(木) 20:04:03 ID:nIWoZ2aQ0
一度仮投下します

466この花弁は悪意 ◆DGGi/wycYo:2015/10/22(木) 20:04:56 ID:nIWoZ2aQ0

――真実は偏に、カードの裏/表


 *  *  *


犬吠埼樹が死んだ。

いつかこうなると、分かっていたこと。
皆が死ぬというのも、覚悟していたこと。
もうどうにもならないと、諦めは付いていたこと。

「……そう、か」

だが、私はいい。勇者部の皆はどうだろうか。
友奈、風、夏凜。私同様にこのゲームに呼ばれている彼女たちは。
特に風。先刻あの旅館で話をしたところだが、感情的な彼女のことだから今頃大泣きしているかも知れない。
或いは……吹っ切れて、どこかで暴れているだろうか。

夏凜と友奈はどうだ。
風は夏凜と遭遇したらしいが、何があったかまでは聞いていない。
“ただ、一緒に戦うとなると、勇者部の皆を思い出しちゃう、っていうか”
こう言っていたくらいだし、大方逃げてきたというところだろう。
そもそも、夏凜が殺し合いに乗るような性格だとは思えない。
遭遇したら……殺すことになるだろう。

友奈は……友奈は。
きっと、風同様に泣いているに違いない。
友奈も殺し合いには乗らないだろう。彼女も、手にかけることになるだろう。
――なるのだろうか。

優勝し、願いを叶えて世界を滅ぼしてしまえば、どうせ皆死んでしまうのに。
友奈までも、殺すのだろうか。

「(……駄目)」

これだけは、白黒つけることが出来ない。
きっと樹のように、他の誰かが勇者部の面々を、友奈を殺してくれる。
死ぬ姿なんて見たくない。心のどこかで、そう願っているのだろう。

どんな環境で育ったからとはいえ、幾ら覚悟を決めたとはいえ。
東郷美森にとって、親友を、友奈を殺すということ。
それだけは、割り切ることが出来なかった。
いつかそんな局面が起こるかも知れないというのに。

考えているうちに、大きな建造物が前方に姿を現す。
地図を見る限り、『アナティ城』だろうか。

友奈たちのことを思考の隅に追いやり、東郷は一度アナティ城へと寄り道をする。
支給されている黒カードがスマホしかない以上、普段の自身は丸腰、それも車椅子だ。
何か今後に役立つ物資が欲しいところではあるし、何より少々疲れた。

 *  *  *

467この花弁は悪意 ◆DGGi/wycYo:2015/10/22(木) 20:05:55 ID:nIWoZ2aQ0
放送を淡々と聞き終えた浦添伊緒奈は、アナティ城を物色しているうちに薄暗く狭い部屋に来た。
その手には厨房から持ち出したナイフが握られて、背中には兵士たちの武器庫から失敬した弓矢を担いでいる。
武器庫には大剣もあったが、“ウリス”ではなく“浦添伊緒奈”の身体で扱うには少々無理がある。
鎧を纏うかどうかも少々悩んだが、機動力が落ちることも考えた結果やめた。

彼女にとって、死者の読み上げなど心の底からどうでも良いものだった。
最初に殺した男の名前などとうに忘れたし、次に会った空飛ぶ男の名前は知るつもりもない。
強いて気掛かりだったのは禁止エリアの件だったが、幸いこの近辺は安全そうだ。
だからこうして堂々と物色に勤しんでいたのだが。

「ほんっと、カビくさい城ね……ん?」

異様な雰囲気を放つその部屋は、毒々しい色をした茸、今にも叫び声を上げそうな植物、何かの臓器……。
城の備品と言う割には、随分と物騒な物に溢れていた。
一際目に付くのは、部屋の隅に描かれた魔法陣らしきもの。
それらはまるで。

「黒魔術の工房……?」

とりあえず役に立ちそうなものがないか、手当たり次第に棚を探る。

空っぽ、よく分からない物、空っぽ、何かの材料。

埃まみれの棚には、まるで使えそうな物が見当たらない。
もし仮にあったとしても、魔術や薬学に精通していない伊緒奈にとっては無理な相談だった。
テーブルの上も全て、何かの材料や実験道具らしき物に溢れている。

「……クソったれ」

一言、そう結論付けるには十分すぎた。
最終的な戦果はナイフと弓矢だけ。やはりあの空飛ぶ男に奪われたマシンガンが非常に惜しい。
部屋を去ろうとして……伊緒奈は、城に誰かが足を踏み入れる気配を感じた。
気取られないように、物陰から気配の正体を探る。

車椅子に乗った少女が周囲を警戒している姿が目に入った。
そのままどこかへ向かう少女を観察し、ニヤリと笑みを浮かべる。

今までに遭遇した2人は、いずれも道具にする価値もない程度の相手だった。
だが、ここに来てようやくの獲物になり得る人間だ。逃がすわけには行かない。
手に持っているそれを持ち替え、こっそりと少女の後を付けた。


 *  *  *

468この花弁は悪意 ◆DGGi/wycYo:2015/10/22(木) 20:07:56 ID:nIWoZ2aQ0
城内の狭い通路を移動していた東郷美森は、朝日の差し込む大きな広間に出た。
羽の生えた像に囲まれ、中央にでかでかと位置するのは巨大な龍の像。
青カードから出した「はるかす」を飲みながら目を凝らすと、龍の頭部には鎧の騎士が跨って剣を突き刺している。

まるで勇者ではないか、と思わず苦笑した。
龍/バーテックスからの侵略を防ぐために、剣を抜いて戦う騎士/勇者。
羽の生えた像は……神樹か大赦にあたるだろうか。

「もっとも、そんなに綺麗事ではないけれどね……」

そう。いかにもありがちな御伽話なんかと違い、東郷たち勇者の真実は――。

少し時間を無駄にした。
先を急ごうとする東郷の右耳に、コツン、とわざとらしい革靴の足音が聞こえて来た。

「!!」

この時、東郷の身に降り掛かった不運が3つある。
後方からの不意打ちに驚いたあまり、思わずスマホを取り落としそうになってしまったこと。
もたついた一時のタイムラグを縫って、相手が左目に赤い何かを飛ばしてきたこと。

「ッ――!」

そして、思わず左目を押さえてしまったその隙に、素早い動きで右手首を掴まれ、

「ご苦労様」

――スマホを、奪われてしまったこと。

「始めまして、私は浦添伊緒奈。あなたは?」
「……東郷…美森」

伊緒奈と名乗った相手が持っていたのは、赤い光を放つレーザーポインター。
成る程、これで目潰しをして時間を稼いだということか。

「何をそんなに睨んでいるの? 奪われたコレが惜しい?」
「……」
「それとも……奪われたら困るだけの『秘密』があるのかしら」
「……っ」

あくまで表情を一貫させていた東郷が、この時ばかりは少しだけ顔を顰めた。
伊緒奈は、それを見逃しはしなかった。
そして、嘲笑を浮かべると、スマホの画面をタップし――

――薄青紫の花弁に包み込まれた。


東郷は目を疑った。
まさか、勇者部以外にそれを扱える者が居ようとは。
或いは、誰でも扱えるように主催者が何かテコ入れをしたのかも知れない。

花弁が飛び散ると、更に目を疑う様相が展開されていた。
ついでに言うなら、伊緒奈自身も驚きを隠せなかった。
よく知っている姿と違う点として、全体的に青みを帯びているが。

その姿は紛れも無く、ウリス――ルリグのそれと、何ら変わりなかったからだ。
肩にはロベリアの花があしらわれ、武器は東郷のそれと全く同じく複数の銃。
伊緒奈はその内の1つを手に取ると、彼女の額に押し当てる。

469この花弁は悪意 ◆DGGi/wycYo:2015/10/22(木) 20:09:11 ID:nIWoZ2aQ0
「バイバイ」

動作1つに手間取った結果が、これか。
抵抗することもなく、大人しく目を閉じる。
思い返すのは、これまでの行動全て。これが走馬灯というやつか。
それでも、失われていた2年間の記憶はどこにも見当たらないのだな、と苦笑いしたくなる気分に駆られ。


……一向に引かれない引き金に、痺れを切らして目を開けた。

「なんて、言うと思った?」

既に伊緒奈は変身を解き、スマホ片手にケラケラと笑っていた。

「……馬鹿にしているのかしら」
「そんなつもりはないわ。ちょっとした“取引”をしましょうっていうのよ」
「取引ですって?」

怪訝な顔を露にする東郷を意に介さず、伊緒奈は続ける。

「あなた、知人の誰かが殺されたでしょう。
そして、あなた自身も既に誰かを殺している」
「……!」

培った勘があるとはいえ適当にカマをかけたつもりだったが、どうやら図星だったらしい。

「どう? 私と組んでみないかしら」

それは、悪意に満ちた誘いだった。

「なにぶん私もこのゲームに勝ち残りたいクチなんだけど、いかんせん手札が悪くてねえ。
これなんかもこの城で調達したってワケ。そこで「いいですよ」

伊緒奈の言葉を遮ってまで誘いに乗った東郷の顔を、しげしげと見つめる。

「いいですよ。一時的になるとは思いますが、共同戦線を張りましょう」
「……そう、なら話は早いわね。とりあえず、食堂で朝食にしながら情報交換と洒落込みましょうか」


 ✿  ✿  ✿

食堂、というよりはパーティー会場に近いホールで黙々と朝のエネルギーを摂る2人。
東郷はうどんを啜り、伊緒奈は片手間で食べられる握り飯を頬張る。

ここまで東郷が提供した情報は、
・伊緒奈の言うように、既に2人以上殺した
・知り合いと温泉旅館で出会い、互いに協定を結んだ
・スマホで変身すると、複数の銃器を扱える

対する伊緒奈は、
・1人と遭遇、後に別れた
・次に遭遇した男に襲われ、一時意識を失っていた

元いた世界や他の知り合い等踏み込んだ話は一切せず、教えるつもりのない情報は全て隠し、嘘偽りで塗り固めた。
2人はそれ以上話もせず、付け入ろうともしなかった。

470この花弁は悪意 ◆DGGi/wycYo:2015/10/22(木) 20:09:59 ID:nIWoZ2aQ0
「御馳走様でした」
「じゃあ、今後の方針だけど」

朝食が終わると、伊緒奈は背負っていた弓矢を差し出してきた。

「あなた、こういうの出来るかしら」
「大丈夫ですよ。身体には染み付いているので」

記憶は無いけれど、と心の中で付け加える。
当時の知り合いだった乃木園子曰く、失われた2年間の間に愛用していた武器、らしい。
ならば、記憶が散華していようとも身体は覚えているだろう。

「ならこれはあなたにあげるわ」
「スマホは預かっておくつもりなんですね」
「必要になったら返すわよ。あくまで『契約料』といったところかしら」
「……では、必要な場面で」

やけにすんなり引き下がったな、と不審がりつつも、伊緒奈は続ける。

「目的地は?」
「私は当初の予定通り、市街地に向かうつもりです。
風先輩との協定もありますから」
「奇遇ね。じゃあ決定」

会話がひと段落して、立ち上がる。もう出発の時間だ。

「車椅子の方は大丈夫かしら」
「結構です。一人で大丈夫なので」

こうして2人は、アナティ城を後にした。

 ✿  ✿  ✿

【side:東郷】

上手く隠し通すことが出来た。

スマホの主導権を握られてしまったのは手痛いが、このまま伊緒奈に戦わせるのもいいかも知れない。
満開の代償を恐れている自分にとって、それを代理してくれる“生贄”の存在は非常に好都合だ。

彼女の満開ゲージは0だったが、自分は4。
神社での一件もあったお陰で、変身を躊躇する理由にするには十分過ぎた。

「(いつだって、犠牲になるのは何も知らない者ばかり)」

だから、勇者の実態を知らない浦添伊緒奈を利用する。
やっていることがまるで大赦そのものだな、と苦い顔をした。


【side:ウリス】

妙にあっさりしている女だな、と思った。
スマホの件もそうだが、同盟に至っては言葉を遮ってまで同意して来た。

「(……随分と手の掛かる手札を引いちゃったかもね)」

彼女もこちらを利用する腹積もりか。
どちらにしても、とスマホを弄る。

6時から解放されたというチャット機能と名簿を見比べながら、文面を打ち込んで行く。
“風先輩”とは“犬吠埼風”のことだろう。そして、同じ苗字であり赤いバツ印のついている“犬吠埼樹”。
こんな苗字がそう簡単にあるものではないし、血縁者、ひいては東郷美森の知り合いと見ていいだろう。

『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』

だから、電子の海中にその文言を放り込んだ。

471この花弁は悪意 ◆DGGi/wycYo:2015/10/22(木) 20:15:36 ID:nIWoZ2aQ0
 ✿  ✿  ✿

互いに相手を利用するつもりでいる2人。
悪意の花は、まだ開花したばかり。


【G-4/アナティ城/朝】
【東郷美森@結城友奈は勇者である】
[状態]:健康、両脚と記憶の一部と左耳が『散華』、満開ゲージ:4
[服装]:讃州中学の制服 [装備]:車椅子@結城友奈は勇者である、弓矢(現地調達)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いに勝ち残り、神樹を滅ぼし勇者部の皆を解放する
     1:南東の市街地に行って、参加者を「確実に」殺していく。
     2:友奈ちゃんたちのことは……考えない。
     3:浦添伊緒奈を利用する。
[備考]
※参戦時期は10話時点です


【浦添伊緒奈(ウリス)@selector infected WIXOSS】  
[状態]:全身にダメージ(軽度)
[服装]:いつもの黒スーツ
[装備]:ナイフ(現地調達)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)      
     黒カード:うさぎになったバリスタ@ご注文はうさぎですか?
     ボールペン@selector infected WIXOSS
      レーザーポインター@現実
     東郷美森のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[思考・行動]
基本方針:参加者たちの心を壊して勝ち残る。
     1:東郷美森を利用する。
     2:使える手札を集める。様子を見て壊す。
     3:"負の感情”を持った者は優先的に壊す。
     4:使えないと判断した手札は殺すのも止む無し。    
     5:蒼井晶たちがどうなろうと知ったことではない。
[備考]
※東郷美森が犬吠埼樹を殺したという嘘をチャットに流しました。
※変身した際はルリグの姿になります。その際、東郷のスマホに依存してカラーリングが青みがかっています。

472 ◆DGGi/wycYo:2015/10/22(木) 20:18:20 ID:nIWoZ2aQ0
仮投下を終了します
タイトルはWIXOSS風+ゆゆゆ風にロベリアの花言葉です

指摘等あればお願いします

473名無しさん:2015/10/22(木) 20:32:40 ID:xcxL8zoQO
仮投下乙です、特に問題はないかと
腹に一物抱えてる二人は手を組んだか、お互いに騙し合いしてるのがどう影響するか
そしてこっそりウリスがエグいことしてきたなあ…樹ちゃんの死因知ってる風先輩はともかく残りの二人が不安、特に東郷さんが乗ってるのを知ってる夏凜

474名無しさん:2015/10/22(木) 20:54:44 ID:o6WzLrv.0
仮投下乙です
しかし、問題というか疑問が一つ
弓矢、しかも魔法のとかではなく普通の弓矢って、車椅子に乗ってる状態ではまともに扱えないのでは…

475 ◆DGGi/wycYo:2015/10/22(木) 21:30:40 ID:nIWoZ2aQ0
>>474
完全に失念していました
本投下の際にはそこに関する描写を修正します

476名無しさん:2015/10/23(金) 01:12:03 ID:x/vJ4B/Y0
スマホ手に入れても伊緒奈の方には満開ゲージって付かないのかな
状態表には無いっぽいけど

477名無しさん:2015/10/23(金) 07:35:35 ID:8acIEuHYO
まだ0だから明記してないだけでは?

478名無しさん:2015/10/23(金) 07:37:34 ID:8acIEuHYO
連レス失礼
>>470にも、ウリスの満開ゲージはまだ0って描写があるしね

479名無しさん:2015/10/23(金) 10:38:14 ID:kpTfUj.E0
仮投下乙です

強いて言えば、勇者について全く知らないウリスがいきなりスマホを奪うのに違和感がありましたが、これについてはいくらでも理由付けできそうですね

本投下に問題ないと思います

480 ◆45MxoM2216:2015/11/15(日) 17:47:17 ID:AawIviBk0
仮投下します

481 ◆45MxoM2216:2015/11/15(日) 17:48:11 ID:AawIviBk0
花京院典明は迷っていた
ここで"姿の見えないスタンド使い”を追って放送局へ踏み入るか、それとも一旦退いて当初の予定通りに島を南下し、仲間を集めるか

元々"姿の見えないスタンド使い”を撒くために墓地を経由して南下していた上、相手のスタンドは明らかに逃げ場の少ない閉所でこそ真価を発揮するタイプだ
先ほど奴が入っていった放送局など、どう考えても相手のホームグラウンドだろう
最悪の場合、既に何かの罠が仕掛けられているかもしれない

さらに言えば、先ほど邂逅したアフロの男にしても、まだ善玉であると決まったわけではない
本人は襲ってきたのは女の方だと言っていたが、その女が否定も肯定もする前に死んでしまったのだから、確認する術も最早ない
普通に考えれば、ここは無理をせずに一旦退くのが良いのだろうが…

(僕が拘束していなければ、彼女は……)
花京院は、彼女の死の原因を作ってしまったことに苦悩していた

『法皇の緑』で周囲を警戒していた花京院でさえ、一切の無駄なく殺しにきたあのスタンド使いの攻撃は避けるのが精一杯だったのだから、拘束しようとしなかろうと、アフロの男との戦いに注力していた彼女にあの攻撃を避けることは難しかっただろう
さらに、あの状況では一旦アフロの男と女の両方を拘束して場を収めるのが最善の手であったことは間違いない
だからと言って、そう簡単に割り切れる訳もなかったが

(どれだけ逃げても追ってくる"姿の見えないスタンド使い”…
このまま追跡され続けるくらいなら…奴に他の参加者を殺され続けるくらいなら、いっそここで倒すか…?)
彼女の死に対する自責の念が、花京院を焦らせ、蛮勇へと走らせそうになる…







「なんでもいいけどよ、何が起きてんのか説明してくれよ!」
そんな花京院の思考を邪魔するような声が響いた
アフロの男ことファバロ・レオーネである

しかもこの男、『法皇の緑』による拘束を解かれた後、ちゃっかりヴァローナの持ち物を回収していた
賞金稼ぎはがめついのである

482 ◆45MxoM2216:2015/11/15(日) 17:49:38 ID:AawIviBk0
「ありゃ召喚魔法か!?でもよぉ、あんな召喚魔法見たことねぇぞ!」
ファバロは賞金稼ぎとして、報酬をかけられた賞金首たちと何度も戦っており、その中には召喚魔法を駆使して戦う者たちもいた
召喚された魔物は得てして、人間よりも強力な力を持っている
しかし、魔法陣もなしにいきなり現れて、一撃で人を〝削り取る〟ような召喚魔法は彼は知らない

「本当に一瞬で死んだアル…」
神楽は困惑していた
あらかじめ敵の能力を花京院から聞いていたとはいえ、目の前で女性が一瞬で死んだのである
流石の彼女も動揺を隠せなかった

「あれは『スタンド』!特殊な守護霊のようなものだ!それも姿を消し、探知にも掛からず、一撃で相手を殺す、とびきり強力な!」

「おいおい、その『スタンド』ってのはよく分からねぇがよ、それってヤバいんじゃねぇか?」
スタンドについては全く知らないファバロだが、花京院の説明からその危険性を嫌でも理解させられた

(ジル・ド・レェってゾンビ使いも大概だが、お次は見えない一撃必殺の殺人者かよ…)
チャンスがあれば危険極まりないゾンビ使いを倒すつもりだったファバロだが、あるいはそれ以上に厄介な相手と遭遇してしまった

「どうするネ?あいつ、あの中に入っていったアルヨ」
神楽はそう言って放送局を指差す
日が出てきたからか、持っていた傘を差している

「僕もそれを考えていたんだが…」
と言って、花京院はファバロに顔を向ける

「ん?勝算があるなら俺も手伝うぜ?」
(ま、勝算がないんだったら、さっさと逃げちまおう)

"姿の見えないスタンド使い”をのさばらせておく危険性を分かっているファバロは、勝算があるのであればこの二人組に手を貸して戦うつもりだった
先ほどの拘束の手際からして少なくとも男の方はかなりの使い手だろうし、敵の『スタンド』とやらにも詳しいようだから、協力すれば勝ちの目もあるとファバロは踏んでいた

「それはありがたいんだが…」
と、花京院は微妙そうな表情をする
ファバロを信用していいかどうか、まだ迷っているらしい

483 ◆45MxoM2216:2015/11/15(日) 17:50:46 ID:AawIviBk0
「んだよ、まだ疑ってんのかよ?
ならよ、こいつに聞けば俺が被害者だったってわかるぜ?」
そういってファバロは、先ほど失敬したヴァローナの持ち物から、「あるもの」を見せた

「え、僕?」
言わずもがな、緑子のカードデッキである
ヴァローナの突然の死に呆然としていた緑子は、急に話を振られたことによって狼狽えた

「そうだよ、お前最初っから見てた…つーかあの女に協力してただろ?」
「たしかに、最初に攻撃したのはヴァローナの方だったけど…」
「ほらよ聞いたかぁ!?俺は逃げながら応戦してただけだっつーの!」

「…なんか釈然としないアルけど、とりあえず信用してやるアル、ハナ◯ソ頭」
「だから言い過ぎじゃね?」
アフロだのボンバーヘッドだのはよく言われるが、さすがにハナ◯ソ呼ばわりはされたことのないファバロであった

「勝算はある、だが今から戦えば、まず放送は聞き逃すだろう」
「でもよ、放送の内容って白のカードでも確認できるんだろ?だったら問題ねぇだろ」
「大事なことは後回し、それでも大抵なんとかなるネ」
(そこはかとなく不安を感じるな…)
しかしそんな不安は顔には出さない花京院であった

「えっと…放送を聞いてからじゃだめなのかな?」
「おいおい、姿の見えない敵がいつ狙ってくるかも分からない状況で、呑気に放送なんて聞いてられるかよ」
「それに情けない話だが、もし承太郎たち…僕の仲間たちの名が放送で流れたとしたら、少なからず動揺してしまうだろう…その隙を突かれたりしたら大変だ」
「ま、銀ちゃん達がそう簡単にくたばるとは思えないアルけどね」
緑子の提案はにべもなく却下された

彼らにとって不幸だったのは、同じ世界の出身でありながら花京院がヴァニラ・アイスについて詳しくは知らなかったことだろう
もしヴァニラ・アイスが吸血鬼であることを知っていれば、太陽の出ているこの時間帯に見えない襲撃に怯えることも、被害の拡大を防ぐために無理を押して放送局へ攻撃を仕掛ける必要もなかったのだから…

「よし、では簡単に説明する
先ほどのやつの行動で、やつのスタンドの弱点も大よそわかった いいか、まずは…」

484 ◆45MxoM2216:2015/11/15(日) 17:51:57 ID:AawIviBk0


「と、その前にさ、そういやまだ名乗ってなかったよな
俺はファバロ、ファバロ・レオーネだ」
「話の腰を折るんじゃねーヨ、厨二くさい傷なんて付けやがって…神楽アル」
「僕は花京院典明。スタンドの名は『法皇の緑』だ」
「お、やっぱアンタもその『スタンド』ってのを使えるんだな」
「ああ、詳しくは次の機会にでも話すよ。それで作戦なんだが……」








◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






(フフ…どうやら追ってきたようだな 何やらスタンドで索敵しているようだが、『クリーム』にそれは通じん)
自分の支給品の一つである双眼鏡を覗きながら、ヴァニラ・アイスは早くも勝利を確信していた

(だが焦りは禁物だ…あまり入り口付近で戦って太陽の光を浴びては敵わんからな…もう少し奥へと進んだ時が貴様の最期だ、花京院!)


どうやら先ほどのアフロの男が一行に加わっているようだが、それでも三対一
奇しくも憎きポルナレフと戦った時と同じ人数差であり、不意打ちで十分一網打尽にできる数だ
あの時は自分の身よりも仲間の命を救うことを選んだアブドゥルによって不意打ちでの一網打尽は失敗したが、今自分が狙っている相手たちは出会ってからほんの僅かな時しか経っていない烏合の衆…そのような事態が起こるはずもない

(不意打ちの上、この狭い通路では先ほどのようには避けられまい…)
入口から真っ直ぐ奥へ進んだ所の通路の左右に一つずつドアがあり、そこからさらに真っ直ぐ行った所、花京院のスタンド『法皇の緑』の索敵範囲外ギリギリにヴァニラ・アイスは待ち受けていた

彼にとって幸運だったのは、DIOの僕が何度もジョースター一行と戦っており、そのおかげで彼らのスタンドの情報をある程度手に入れていることだった
しかも、花京院とポルナレフに至っては元々は同じDIOの僕
一行の中でも特に正確な情報を手に入れていた

(さて、奴のスタンドに感知されてはかなわんからな、そろそろ暗黒空間に入るとしよう)
彼は望遠鏡を黒のカードに戻してから自分だけの空間に入り、外部からの干渉を完全にシャットアウトする
これにより、
こちらも相手の状況が分からなくなり攻撃のタイミングは当てずっぽうになるが、ここまで来れば多少タイミングがずれようとこの形態で突撃すればそれだけで事足りる

(目の前にドアがあれば、自ずとそちらに注意がいくもの…それを踏まえ、あえて正面から攻撃を仕掛ける!)
ちなみに、二つのドアはいずれも内側から重い物を立て掛けて簡単には開かないようにしている
『クリーム』の力を持ってすれば、花京院達が追うかどうか迷っているうちにこの程度の小細工は可能だ
これにより、攻撃の際に部屋の中に咄嗟に入るということもなくなった

(死ね、花京院…この裏切り者が!)
そして、いよいよヴァニラ・アイスは攻撃を行った

485 ◆45MxoM2216:2015/11/15(日) 17:53:08 ID:AawIviBk0














「跡形もなく消滅したか…はたまたアブドゥルのように一部だけは残ったか…」
『クリーム』の内部でヴァニラ・アイスは再度勝利を確信した
花京院らにあの攻撃を躱せる道理はない
彼は悠々と暗黒空間から出て、周りを確かめようとした
その直後…



「おらぁ!」
突如、奇妙な銃声がしたと思ったら、これまた奇妙な弾丸がヴァニラ・アイスめがけて飛んできた
なんと、アフロの男が奇妙な銃をこちらに撃ってきているではないか!

「なに!?」
咄嗟にスタンドでガードするが、スタンドを通して体にダメージが入る

(スタンドのスタンド以外に対する無敵性がなくなっている…?)
このバトルロワイヤルが始まって以降、初めてまともな攻撃を喰らった彼は、スタンドに制限がかけられていることにようやく気付く

「ふぅん!」
と、今度はチャイナ服の娘が傘を構えて突っこんできた
…と思ったら、なんと傘から銃撃が発射された!

「が!?」
接近戦を予想していたヴァニラ・アイスは、意表を突かれて弾丸をもろにくらってしまった

(く、一旦暗黒空間に戻るか…)
体操選手の倒立静止のような体制を取って飛び上がり、クリームの口の中に戻ろうとするヴァニラ・アイス
だが…


「エメラルドスプラッシュ!」
「な!?」

突如飛来してきた固い氷のような物体を腹部に受けて吹き飛ばされてしまい、暗黒空間へ戻ることに失敗してしてしまった



「な、何故だ…何故全員、五体満足で生きている!?」
床に這いつくばりながら、ヴァニラ・アイスは叫ぶ
彼の前には、花京院典明、ファバロ・レオーネ、神楽の三人が無傷で立っていたのである

「作戦成功だな、花京院」
「まったく、緊張して損したアル」

花京院の立てた作戦というのは至極単純なものだ
"姿の見えないスタンド使い”の弱点…物質を消滅させながらでないとステルス状態での移動ができないことを放送局の破壊具合や道まで削り取られていることから察した花京院は、自らのスタンドを紐状にして周囲に張り巡らせておいたのだ
これにより"姿の見えないスタンド使い”が迫ってきたとしても、『法皇の緑』の損害具合からその軌道が分かるということだ

幸い、紐状にした『法皇の緑』ならば多少の損壊はダメージにならない
攻撃の瞬間はステルス状態を解除しなければならないことにも当たりを付けた花京院は、その瞬間の迎撃をファバロと神楽に頼み、怯んだ所にエメラルドスプラッシュを放つという算段だった

ステルス状態を解除せずに突っこんで来たことは想定外だったが、軌道が分かっていればいくら狭い室内とはいえ、避けるのは容易かった

486 ◆45MxoM2216:2015/11/15(日) 17:55:22 ID:AawIviBk0



(い、いくら紐状ならダメージが軽いとはいえ、限度があるだろう!
花京院のスタンドにこんなに耐久力があるとは聞いてなかったぞ…?)


「…ハッ!」
そういえば、以前もこんなことがなかったか?
そうだ、ポルナレフと戦った時も、聞いていた以上のスタンドパワーを発揮していた
ポルナレフよりもアブドゥルを評価していたこともあり、所詮火事場の馬鹿力と大気にも留めなかったが…

「"姿の見えないスタンド使い”…貴様は既に知っているだろうが、一応名乗っておこう」

そう、ヴァニラ・アイスは知らないが、スタンドの性能は本人の精神力によって成長するのである


「我が名は花京院典明」

では、何が花京院の精神力を増大させたのか?

「悪人とはいえ、貴様に後ろから殺された範馬勇次郎の無念のために」

ポルナレフの時はアブドゥルを殺されたことだった
ならば花京院は…

「僕の判断ミスで死なせてしまった、名も知らぬ女性の魂の安らぎのために」

下手人であるヴァニラ・アイスへの怒りだけでなく自らの判断ミスを責め、自分への怒りで静かな怒りを爆発させている


「死をもって償わせてやる」

【E-1/放送局近辺/一日目・朝】


【花京院典明@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(大)、脚部へダメージ(小)、腹部にダメージ(中)、自分への怒り
[服装]:学生服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:繭とDIOを倒すために仲間を集める
   1:死をもって償わせてやる
   2:承太郎たちと合流したい。
   3:ホル・ホースと『姿の見えないスタンド使い』、神楽の言う神威には警戒。
   4:スタンドが誰でも見れるようになっている…?
   5:僕が拘束していなければ、彼女は……
[備考]
※DIOの館突入直前からの参戦です。
※繭のことをスタンド使いだと思っています。
※スタンドの可視化に気づきました。これも繭のスタンド能力ではないかと思っています。
※第一回放送を聞き逃しました


【神楽@銀魂】
[状態]:健康、呆然
[服装]:チャイナ服
[装備]:番傘@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らないアル
   1: 『姿の見えないスタンド使い』を倒すアル
   2:神威を探し出し、なんとしてでも止めるネ。けど、殺さなきゃならないってんなら、私がやるヨ。
   3:銀ちゃん、新八、マヨ、ヅラ、マダオと合流したいヨ
[備考]
※花京院から範馬勇次郎、『姿の見えないスタンド使い』についての情報を得ました。
※第一回放送を聞き逃しました


【ファバロ・レオーネ@神撃のバハムート GENESIS】
[状態]:疲労(中)、右頬に痺れ、酔いも覚めた
[服装]:私服の下に黄長瀬紬の装備を仕込んでいる
[装備]:ミシンガン@キルラキル
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(8/10)
    黒カード:黄長瀬紬の装備セット、狸の着ぐるみ@のんのんびより、小型テレビ@現実 グリーンワナ(緑子のカードデッキ)@selector infected WIXOSS、カードキー(詳細不明)ビームサーベル@銀魂
[思考・行動]
基本方針:女、自由、酒ってか? 手の内は明かしたくねえんだよ
   1: まだ油断はできねぇな
   2:チャンスがあればジル・ド・レェを殺す。無理そうなら潔く諦める。
   3:カイザルの奴は放っておいても出会いそうだよなあ。リタにも話聞かねえとだし。
4:『スタンド』ってなんだ?    
5:寝たい。
 [備考]
※参戦時期は9話のエンシェントフォレストドラゴンの領域から抜け出た時点かもしれません。
 アーミラの言動が自分の知るものとずれていることに疑問を持っています。
※繭の能力に当たりをつけ、その力で神の鍵をアーミラから奪い取ったのではと推測しています。
 またバハムートを操っている以上、魔の鍵を彼女に渡した存在がいるのではと勘ぐっています。
 バハムートに関しても、夢で見たサイズより小さかったのではと疑問を持っています。
※今のところ、スタンドを召喚魔法の一種だと考えています
※第一回放送を聞き逃しました

487 ◆45MxoM2216:2015/11/15(日) 17:56:07 ID:AawIviBk0
【ヴァニラ・アイス@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]: ダメージ(中) 疲労(中)
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:双眼鏡@現実 不明支給品0〜2、範馬勇次郎の右腕(腕輪付き)、範馬勇次郎の不明支給品0〜3枚
[思考・行動]
基本方針:DIO様以外の参加者を皆殺しにする
   1:おのれ、花京院!
2:血を吸って回復したい
   3:承太郎とポルナレフも見つけ次第排除。特にポルナレフは絶対に逃さない
[備考]
※死亡後からの参戦です
※腕輪を暗黒空間に飲み込めないことに気付きました
※スタンドに制限がかけられていることに気付きました
※第一回放送を聞き逃しました

支給品説明
【双眼鏡@現実】
ヴァニラ・アイスに支給。
一般に流通している物と同じ仕様の双眼鏡。 遠くを見渡すことができる。














「ふむ、こんなものですか」
キャスターは放送局の一室で水晶玉を用い、局内で起こっている戦闘を観察していた
今のところ三人組が有利だが、まだまだ勝負は分からない
色々な人物が放送局を目指しており、いつ何時どんな形で妨害が起こっても不思議ではない現状なら、なおのことだ

「それにしても、先ほどの放送で呼ばれたジャンヌの名前…なんだったんでしょうねぇ」
本物のジャンヌ・ダルクであるセイバーがこの場にいる以上、先ほど呼ばれたジャンヌが本物であることはありえない

最悪のパターンとしては、セイバーというのは別の聖杯戦争のセイバーであり、先ほど呼ばれたジャンヌこそが本物のジャンヌであることだが、キャスターの自分と先ほど遭遇したランサーがクラス名で呼ばれている以上、その可能性は低いだろう

「やはり、偽物…でしょうね ジャンヌの名を騙る不徳者が死んだというのは、喜ばしいことです」
結局、偽物だったということで思考から追いやることにした


涜神の舞台は、まだ始まったばかり…

【E-1/放送局/一日目 朝】
【キャスター@Fate/Zero】
[状態]:健康、魔力300%チャージ
[装備]:リタの魔導書@神撃のバハムート GENESIS、神代小蒔、南ことり、満艦飾マコのゾンビ
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:生命繊維の糸束@キルラキル、遠見の水晶球@Fate/Zero
[思考・行動]
基本方針:ジャンヌ・ダルクと再会する。
1: ひとまず、今起こっている戦闘を見届ける
2: 放送局で宝具を持つ参加者とジャンヌを待ち受ける
[備考]
※参戦時期はアインツベルン城でセイバー、ランサーと戦った後。
※ジャック・ハンマーをバーサーカーかあるいは他のサーヴァントかと疑っています。
※神代小蒔、南ことり、満艦飾マコの遺体をゾンビ化しました。

488 ◆45MxoM2216:2015/11/15(日) 17:57:03 ID:AawIviBk0
仮投下終了です
何か意見があれば、ご指摘お願いします

489 ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:30:15 ID:UtG9Nc7s0
仮投下します

490和を以て尊しと為す(上) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:30:55 ID:UtG9Nc7s0
ラビットハウス。
その2階で眠る少女、香風智乃の意識を覚醒させたのは、燦燦と降り注ぐ朝の陽射しだった。
見れば、隣で眠っていた大人びた少女、一条蛍も身を起こしている。

時刻はまもなく午前6時。
殺し合いの区切りを告げる最初の定時放送、その時間だった。











ラビットハウス、その1階。
腕輪から女の声が響く。
それに聞き入るのは2人の少女――香風智乃、一条蛍。加えて大柄な学ランの不良――空条承太郎。

『それじゃあ、これで放送を終了するわ。次は正午、また私の声が聞けるといいわね』

やがて放送が終わりを告げる。
安堵と狼狽が入り混じった顔のチノ、「越谷小鞠」の名前を聞いて少しうつむく蛍、終始顔を伏せる承太郎。
聞き終わった3人の表情は文字通り三者三様だった。

「私の友達、誰も呼ばれませんでした……」

最初に口を開いたのはチノ。

「でも、17人も……それに、最後に呼ばれた満飾艦さんって、蟇郡さんの……!」

「知り合いか」

チノの言葉に承太郎が顔を上げる。

「はい、ちょっと難しい名前でしたけど、最初にお話しした時におっしゃってましたから、覚えています。
 満飾艦マコさん……蟇郡さんの後輩で、纏流子さんのご親友だと」

「私は眠っていたから覚えてないですけど、蟇郡さんたちって今ごろ……」

「ああ、ゲームセンターに行ってるはずだ」

蛍も口を挟み、承太郎が後を継ぐ。

「『満飾艦マコ』『南ことり』……さっきの放送で、この2人だけが別に呼ばれたな。よくわからねえが魂を喰われたとか何とか」

承太郎が確認を仰ぐように言うと、2人も頷く。

「出目金野郎のテレビ放送……あるいは、あれに映ってた3人のうち2人がこの2人なのかもしれねえ」

491和を以て尊しと為す(上) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:31:28 ID:UtG9Nc7s0
「え、それって……!」

「じゃあ、蟇郡さんがあれを見てたら……」

「1人だけ放送局に向かってもおかしくねえな」

17人もの死。
この場において、大切な人を失ったのは決して蛍だけではないのだ。
それを再び思い知らされる。3人の間に再び重苦しい雰囲気が流れた。

その時だった。
ラビットハウスの入口をノックする音が聞こえた。
放送を聞いた直後だったこともあり、3人の間には緊張が走る。

「ゲームセンターに行った人たち、帰ってきたんでしょうか」

「俺が出る」

やや剣呑な空気を纏わせ、承太郎が立ち上がる。

「待ってください」

それを制したのはチノだった。

「その、ラビットハウスを預かってるのは私ですから……お客様は私がお出迎えします」

「……分かった」

少し雰囲気を緩め、承太郎は一歩下がる。
気を付けろよ、とうながされたチノが、扉の前に立った。

「どうぞ」











扉の前に立っていたのはなぜかメイド服を来た少女。そして精悍な顔つきをした青年の2人だった。

「……リゼさん?」

強く待ち望んでいた人のはずなのに。
いざ目の前に現れたら、チノはなぜかきょとんとした顔になってしまった。

「チノ!!!!!!」

「わっ」

待ち望んでいた人に会えたのは、リゼにとっても同じだったから。
感極まって、思わず抱きついた。

「会いたかった、会いたかった……!! チノ……よかった、無事で……!」

「く、苦しいですよ〜、リゼさん」

チノの抗議の声も構わず、ひたすらぎゅっと抱きしめ続ける。

「感動の再会、ですね」

先ほどの緊張した空気から一転。
蛍が満面の笑顔で承太郎に語りかける。

「やれやれ……」

こういう場面は苦手だぜ、と呟き承太郎は店の奥に引っ込んでしまう。
そんな姿に、本当は嬉しいはずなのに、と蛍は苦笑する。

492和を以て尊しと為す(上) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:31:57 ID:UtG9Nc7s0
「チノ、チノっ……!」

「もう、いい加減にしてくださいリゼさん……!!」

依然として、リゼは抱き着きをやめようとはしない。

「百合の花が見えるな」

その光景を前にして、青年は一人呟くのだった。











空条承太郎、香風智乃、一条蛍、天々座理世、風見雄二。
今、ラビットハウスに集まった3人の少女と2人の青年。
彼らがまず行ったのは、朝食をとりつつの情報交換であった。

「キリマンジャロか。こんな朝にはなかなかいいものだな」

「風見さん、すぐ分かるなんてすごいです……銘柄はうちのココアさんも分からないのに」

途中、煎れたコーヒーの銘柄をすぐに言い当てた雄二にチノが尊敬の目を向けるという一幕や、

「私、一条蛍っていいます。ええと、小学5年生です」

「「小5!!!???」」馬鹿な、その姿でだと……?」

半ばお決まりのように、蛍の容姿と実年齢のギャップにリゼと雄二が驚愕するという一幕もありつつ。
情報交換は比較的円滑に進んでいく。
雄二とリゼは、殺し合いが始まってすぐに出会い、ずっと行動を共にしていたこと。
ゲームセンター付近では道路や標識がめちゃくちゃになっているのを見つけたこと。
中では女の子――越谷小鞠の死体を発見し、そして衛宮切嗣、折原臨也、蟇郡苛の3人と会ったこと。

「3人と会ったのか」

「ああ、軽くだが情報交換もした」

それから、折原たち一行との顛末を語っていく。
折原からは、小鞠を殺した犯人――平和島静雄の危険性を強調されたこと。
そこでキャスターを名乗る男のテレビ放送が流れてきたこと。

「あの放送を見たんだな、お前らも」

「そうだ! 蟇郡さんからチノに言伝てを預かってたんだ、放送局に行って友達を保護してくるって」

「それって! やっぱり、満飾艦さん……!」

「……どうやら危惧していた通りになっちまったな」

ため息をつき、座りなおす承太郎。
蟇郡は大切な友人を助けに行ったが、向かった時には既に手遅れだったということだ。
彼と接した時間は短かかったが、その内に熱いものを秘めていたことは十分に理解できた。
最も長く彼と触れ合っていたチノもその心中を思い目を伏せる。

「……彼らと分かれてからここに来るまでの間は、特に何事もない。
 さて、承太郎。今度は君たちの話も聞かせてほしいな」

雄二に促され、蛍、チノ、承太郎が顔を見合わせる。
3人は語る。
まず、チノは真っ先にここで蟇郡と会い、蛍と承太郎と折原臨也は映画館で会った後、衛宮切嗣と合流しここに来たこと。
今は雄二の持っている探知機を使って発見した2人の人物の探索に出ていた間、そのうち一人の反応が消えた――それはいまでは越谷小鞠であることがはっきりしている――こと。
衛宮が戻ってきたあと、折原と蟇郡と臨也の3人が再び探索へ出かけたこと。
その間、紅林遊月という少女の訪問の後は、残った3人で再度の情報交換などを進めていたこと。

493和を以て尊しと為す(上) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:32:34 ID:UtG9Nc7s0
「なるほどな、あの3人がゲームセンターまで来た事情……俺があそこで折原臨也に聞いたものと相違はないな」

「チノ、大変だったんだな……大丈夫だったか? 誰かに怖いことされなかったか?」

「え、ええと」

「……風見、天々座。ちょっとばかし質問があるんだが」

また暴走しそうになるリゼを抑え、承太郎は聞いておかなければならないことのために言葉を紡ぐ。

「あのテレビを見てたってなら話は早い……あいつが名乗っていた『ジル・ド・レェ』ってのがどうにも気になる。何か知ってることはないか」

その質問に、リゼもチノから離れて考え込む。

「ジル・ド・レェって、そういえば高校の世界史の授業でそんな名前を聞いたような……確か、昔のフランスの戦争で……」

「……14世紀から15世紀にかけて、フランスとイングランドとの間に百年戦争といわれる戦争があった」

静かに語り出したのは雄二。

「その末期、オルレアンの戦いでフランスの一軍を率いたジャンヌ・ダルク……
 彼女を助け、勝利に導いたのがジル・ド・レェ――。本名は確か、ジル・ド・モンモランシ=ラヴァルだったな。
 その後は錬金術や魔術に耽溺し、何百人もの幼い少年を殺害。最後は絞首刑となったはずだ」

「え? え? ちょっと待ってください、14世紀、15世紀って……?」

唐突に始まった歴史の話に、チノは戸惑いを隠せない。

「1300年代から1400年代。今から600年ほど前になるな」

「そんなバカな……! タイムマシンでもあるってのか!?」

「え、それにその、ジャンヌ・ダルクって名前、さっき……」

ここに来てからというもの数多くの不思議な事象に行き会ってきたリゼや蛍にも、この話はかなりの驚きだった。

「ああ、放送で呼ばれていたな。
 聖処女ジャンヌ・ダルク……やはり百年戦争終結の立役者。ごく普通の農民の娘だったが、神の声を聞いてフランスを率い、最後は火炙りにされた」

「とんだこった……歴史上の英雄様がこんな辺鄙な島に勢揃い、でもって片割れは勝手にくたばりましたってか? 不思議のバーゲンセールだなここは」

「まあ、どっちも本人とは限らないな。単に自分のことを過去の英雄だと思い込んだ妄想狂の類なのかもしれん。
 それに承太郎、不思議のバーゲンセールと言ったが、俺にはさっき君が見せてくれたスタンド能力とやらも十分すぎるほど不思議に見える」

「まあな……」

「それだけじゃない。このカードと腕輪。俺の支給品の剣の解説にある『魔術』。生身で街を破壊したらしい平和島静雄とかいう男。
 チノ、君の友人が記憶を消されているらしいって話もあったね。
 正直、俺がここで出くわすのは、俺の常識や理解のレベルを超えたものばかりだった。
 そういう怪しげな類のものには十分注意すべきだが、しかし逆に――」

雄二はそこで一旦言葉を切り、低い声で続ける。

「逆に、そうした力がこの腕輪、そして魂を閉じ込めるという白いカード――
 これらを何とかするための鍵になるんじゃないかと、俺は考えている」

雄二の言葉に、一同は再び緊張に包まれる。
無理もないだろう。話が、世界史の復習から一気にこの殺し合いの核心へと移ったのだから。

「たっだいまーー! ごめんねー、いやいや〜入念に調べてたらすっかり遅くなっちゃって」

その緊張を破ったのは、雰囲気に似つかわしくない軽薄な声。
最初にここからゲームセンターに向かっていった3人のうち2人。折原臨也と衛宮切嗣。
彼らが遅れて帰ってきたのだ。







494和を以て尊しと為す(上) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:33:00 ID:UtG9Nc7s0





「でもよかったよ、チノちゃんも蛍ちゃんもリゼちゃんもみんな無事で。女の子は大事だからねえ」

男女合わせて7人の大所帯となったラビットハウス。
帰ってきた臨也と切嗣の2人を加え、チノとリゼが甲斐甲斐しくコーヒーを出す中、再び各自で朝食をとりながらの情報交換となる。

「リゼちゃんたちが行ったあと、僕と衛宮さんの2人でゲームセンターをよく調べたけど。怪しいものはなかった……。ですよね。衛宮さん」

ここに入ってきたときのままの軽い口調でありながら会話の主導権を握ったのは、折原臨也。

「……ああ。折原君の言う通りだったよ」

一方、衛宮切嗣は自ら言葉は発さず、ほとんど受け答えに終始する。

「……」

そんな2人に、空条承太郎は雄二や少女たちに向けるものとは違った眼差しをときおり送っていた。

「ま、この通り僕らのほうは新しい収穫なしって有様だよ。
 ただ、僕の支給品のこのスマートフォン。これに入ってるチャットとかを使って連絡ができそうってのは分かったんだけど。
 でも、どうもこれ、あの繭ちゃんって子に監視されてるっぽいんだよねえ」

「なるほどな。外部への連絡手段がないかと思っていたが、そう簡単に渡すはずもないか。
 ……繭に監視されてるだけじゃなく、危険人物に覗き見される可能性もあるな」

臨也の言葉に、雄二が更なる懸念を述べる。
協議の結果、スマートフォンの扱いについては以下のようなことが決定した。

・位置の特定に繋がる情報は、チャットとメールではやり取りしない。
・電話で話す際は、念のためこの場にいる8人で決めた合言葉を言いあってからにする。
・電話番号とアドレスは記憶するに留めて紙などには書かない。
・腕輪や脱出に関する大事な情報の交換は直接会って行う。

「それじゃあ、チノちゃんに蛍ちゃん。僕らがいない間に何か進展とかあったのか、聞かせてもらえると嬉しいな」

そしてチノと蛍は、先ほど雄二たちに話したこととほぼ同じことを語る。
しかし、記憶を消されたらしいチノの友人――桐間紗路のことに話が及ぶと、新しい可能性が浮上してきた。

「なるほどね、その遊月ちゃんって子が会ったシャロちゃんは、チノちゃんの知ってるシャロちゃんとは明らかに様子が違っていた。
 だからシャロちゃんは、何かの力で記憶を消されてると考えるのが辻褄が合ってる……そういうわけだね。だけど、こうは考えられないかな?
 ――チノちゃんとシャロちゃんは、時間が違うんだ」

「?」

臨也と切嗣を除く6人の顔に一斉に疑問が浮かぶ。
それを前に、臨也は滔々と自説を語っていく。
ゲームセンターまで行動を共にしていた蟇郡苛。彼が住んでいた世界では、鬼龍院財閥やREVOCS社といった存在が世界の覇権を握っていたという。
しかし、臨也はそんな話は全く聞いたことがなかったのだ。

495和を以て尊しと為す(上) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:33:31 ID:UtG9Nc7s0
「ついでに言うと、俺がここに来る前は『殺人鬼ハリウッド』って名前の連続殺人犯が世間を賑わせてたんだけど……やっぱり誰も知らないって感じだよね。
 こうなると、俺たちは『全く違う世界から連れてこられた』って考えるしかないんじゃないかな」

世界が違う。
この場にいる70人――今は53人――は、それぞれ違う平行世界のような場所から連れてこられたということだ。

「あの白い部屋の女の子――彼女には、俺たちの住んでる色んな世界を移動する力があるとする。
 そう考えていくと、俺たちを『全く違う世界から連れてくる』と同時に、『全く違う時間から連れてくる』ことができても不思議じゃないと思わない?
 時間が違うとしたら、さっきのジル・ド・レェだのジャンヌ・ダルクだのがいるのも、このスマートフォンを知らない人がいるのも説明がつく。
 チノちゃんとシャロちゃんの場合だと、シャロちゃんは貧乏だったことがばれちゃったときの時間からここに来て、チノちゃんはその後の時間から来たってことになるね」

臨也の言っていることは、本来ならば少女たちには難しいものだったかもしれない。
しかし、3人ともここに来てから十分すぎるほどに不思議な経験を積んでいる。理解はできなくても、何となく受け入れることはできる。

「時間が、違う……」

臨也の言葉に、考え込んだのはチノだった。

「リゼさん。自分の記憶だと、クリスマスパーティーのあと、ココアさんが熱を出して倒れてしまったことがあるんです。
 そのこと、リゼさんは覚えていますか?」

その言葉に、明らかに困惑した顔でリゼは答える。

「いや、自分にはココアが倒れたなんてことは記憶にない……
 というか、クリスマスパーティー、って……間違いない! 自分の記憶じゃそんな季節になってもいなかったはずだ!」

「――ビンゴだ」

やり取りを聞き、してやったりという顔で指を鳴らす臨也。

「どうやらはっきりしたね。繭ちゃんには、全く違う世界を移動すると同時に、全く違う時間を移動する力がある」

「違う時間、か……厄介なことをしてくれるぜ。これはちと面倒になってきやがったな」

時間軸の違いという話を聞き、俄かに色めき立ったのは承太郎だった。

「覚えてねえかもしれねえが、名簿に載ってる俺の仲間、花京院典明とジャン=ピエール・ポルナレフ――
 こいつら2人はな、最初に会った時はDIOに肉の芽を埋め込まれて俺たちと敵対してたんだよ」

「な……それでは」

雄二の反応を受け、続ける。

「ああ、もしその敵対していた時間から来てるなら、今ごろは他の参加者を殺して回っていても不思議じゃねえ。
 ……そういう可能性があると分かっちゃ、これ以上ゆっくりはしてられねえな。
 俺はすぐにでもここを出て、DIOの館へ向かうぜ。歩いていくか……いや、俺だけなら電車のほうが早ええな」

承太郎は立ち上がり、7人の中のある人物に眼を向ける。

「衛宮。あんたは吸血鬼について色々と知ってると話してたな。危険だろうが一緒に来てもらえねえか」

言葉をかけられた切嗣は、わずかに臨也と目配せを送り合い、頷く。

「……わかった。僕でよければ力になろう」

俄かに慌ただしくなってきた空気を断つように、臨也が再び言葉を発する。

「さてと、情報交換もあらかた終わったし、僕らも空条君が出ていく前に今後どうするか決めないとね。
 レディーファーストで行こうか。蛍ちゃん、君はどうする?」

「私は……」

臨也の言葉に、あまり会話に参加していなかった蛍がゆっくり口を開く。

496和を以て尊しと為す(上) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:33:59 ID:UtG9Nc7s0
「私は、旭丘分校に行きたいです。れんちゃん……私の友達の宮内れんげちゃんも、そこに向かうはずですから」

「私はここに残ろうと思う」

続いて、リゼが口を開く。

「さっきの放送、私たちの友達は誰も名前を呼ばれなかった……。今ごろはみんなここを目指してるはずだ。
 チノも、一緒でいいよな」

リゼに促され、チノも意思を告げる。

「はい。今は私がここを預かってますから。お客さんの相手は私がつとめます」

「わかった。3人ともそれだけ強く思えるお友達がいるってのは羨ましいね……。じゃあ俺は、せいぜいそのお手伝いをさせてもらおうかな。
 蛍ちゃんと一緒に分校まで行くことにしよう。
 風見君。君はここに2人と残ってもらえるかい。君はリゼちゃんとずっと一緒だったそうだから、そばにいてあげるといい」

「了解した。俺も2人を守る盾くらいにはなれる。君たちも、それで異論はないかな」

雄二の言葉に、蛍だけは少し複雑そうな顔を見せたが、3人とも頷く。
こうして、7人のこれからの方針が決まった。

電車を利用してDIOの館に向かうのが、空条承太郎、衛宮切嗣。
旭丘分校に向かうのが、一条蛍、折原臨也。
ラビットハウスに残るのが、天々座理世、香風智乃、風見雄二。
そして、7人は午後6時になったらラビットハウスにいったん帰還する。

すでに、6時の放送から相当な時間が経過していた。











8人がこれからに向け、思い思いに支給品の確認などを行う中。
承太郎は蛍に声をかける。

「一条。お前には渡しておくものがある」

「何でしょう?――っ!!」

承太郎が蛍に渡したもの。
それは白のカード――他の誰でもない、越谷小鞠の姿が書かれたカード。

「渡すのが遅れちまったが、これはお前が持っているべきだな」

「――はい」

カードをしっかりと握りしめるその体が、以前のように震えてはいないのを見届けると、続いてチノにも声をかける。

「香風、コーヒーを馳走になったな。この借りは必ず返すぜ」

「借りなんて――」

そう言いかけて、その言葉の裏にあるものにチノは気付く。
承太郎は、必ずチノの元に戻ってくると言っているのだと。

「――わかりました、また来て下さいね。ラビットハウスは食い逃げ厳禁です」

「ああ。風見、……折原。彼女たちは頼んだ」

「この風見雄二、命に代えても守り抜くと誓おう」

「そんなに怖い顔しなくても大丈夫だって。俺の『実力』は見たでしょ?」

「承太郎君、そろそろ」

最後まで口数の少ないままだった切嗣にも促され。

「じゃあな」

承太郎はラビットハウスを後にする。







497和を以て尊しと為す(上) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:34:20 ID:UtG9Nc7s0





「さてと、蛍ちゃん。僕らもそろそろ行こうか」

「……はい」

飄々とした態度を崩さない崩さないままの臨也と、僅かに表情に固さを残す蛍。
彼ら2人もまた、歩き出そうとしていた。

「ああ、そうだ。最後にこれを言っておかないとね。
 俺は考えたんだけど、小鞠ちゃんを殺した『真犯人』は――DIOかもしれない」

「なっ――」

長くなったラビットハウスでの会合。その最後の最後に投下された爆弾。
残った面々は驚きを隠せない。

「どういうことだ、それは」

詰め寄る雄二を抑え、臨也はこれまでと変わらない口調で自説を語っていく。

「……なるほどな。確かにそれであの状況の説明はつく。
 しかし、なぜそれを肝心の承太郎には話さなかったんだ」

「そこはほら、承太郎君は肉の芽を抜き取ることができるって聞いたでしょ?
 そんな彼なら、この話をしたら当然こう思う。『自分がシズちゃんの肉の芽を抜き取ってやろう』ってね。
 けど、いい加減しつこいようだけど、シズちゃんはそもそもが超危険人物なんだよね。
 加えて今はDIOに操られて、猛獣から悪魔にランクアップしてる可能性がある。
 そんな代物を相手に、『肉の芽を抜き取るために、手加減して』ことに当たったら
 ――いくら承太郎君でも、どういうことになるか分かるよね」

「……確かに」

推理の成否は別に置くとしても、臨也の言うことは筋が通っている。

「君たちも気を付けなよ。今のシズちゃんはゴリラパワーに加えて、俺たちみたいな善良な集団の中に紛れ込む悪知恵まで身に付けてるかもしれない。
 もし見かけたら、即座に撃ち殺すなり逃げるなりするのをおすすめするね。
 それじゃあ、俺たちももう行くよ。分校で蛍ちゃんのお友達が待ってるだろうからね」

もし連絡手段が手に入っても、さっき決めたことは忘れないでね、と言い残し。
その物腰は最後まで変わらないまま。大人びた少女と2人、情報屋もまた喫茶店を出ていく。







498 ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:34:48 ID:UtG9Nc7s0
以下からは下編になります

499和を以て尊しと為す(下) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:35:38 ID:UtG9Nc7s0
7人もの参加者が集ったラビットハウス。
そのうち3人の男と1人の少女が去り、2人の少女と1人の青年がここに残っていた。

「……」

青年――風見雄二は、しかしシックな店内に似合わない、難しい顔をしていた。
その頭を悩ませるのは、先ほどの会合の中にいた1人の男の存在だった。

(衛宮……切嗣)

あの中では最も年長に見え、そして最も言葉少なだった黒いコートの男。
雄二はラビットハウスの会合の前に彼に会っている。
そして。

『(衛宮切嗣――この男が平和島静雄に罪を着せた……?)』

僅かな、疑惑を抱いた。
その彼と、空条承太郎を共に行かせても良かったのだろうか。
さらに――放送の男、「ジル・ド・レェ」の存在。

(あれが本物の青髭――ジル・ド・レェだとしても、誇大妄想狂の類だとしても。あの声は、いったい――)

気のせいなどではない。
思い返せば思い返すほど、似ている。
自分を殺人マシーンに仕立て上げたあの男、ヒース・オスロに。

「大丈夫ですか」

思いに沈んでいた雄二を現実に引き戻したのは、この喫茶店のマスターの娘だという少女――香風智乃。

「何だか怖い顔をしてらしたので……。よかったら、リゼさんみたいに休みますか」

そういって、テーブルに突っ伏して寝入るもう1人の少女……天々座理世の姿を見やる。
不慣れな状況で、精神的な疲れが限界だったのだろう。
会合が終わった後ほどなくして、こうして眠りに落ちてしまったのだ。

「……俺は、そんなに怖い顔をしていたか」

「い、いえそんな! ただ少し元気がなさそうに見えたので、その」

(……まずいな、失態だ)

護衛対象に余計な心配をかけさせるなど、あってはならないことだ。
思わぬ事態の連続で、集中力が乱れている。

「……承太郎さん、心配です」

会話が途切れてしばらくして、チノが口を開いた。

「実は承太郎さん、言っていたんです。……衛宮さんは怪しいかもしれない、帰ってきたら問い詰めるって」

「何……!」

雄二の身体に少なくない衝撃が走る。
自分が衛宮切嗣に抱いた疑念。承太郎は、その疑念をさらにはっきりした形で持っていたということだ。

「じゃあ、2人で向かったのは――問い詰めにかかろうとしたということか」

チノが小さく頷く。

(どうする……今からでも追うか?)

500和を以て尊しと為す(下) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:35:59 ID:UtG9Nc7s0
心中に浮かんだその考えを、しかしすぐに打ち消す。
ここを発った時の承太郎の顔は、月並みな言い方になるが――確かに、覚悟を決めた顔だった。
自分はその承太郎からここを任されたのだ。2人から離れるにしても、3人で行くにしても、いずれにせよ2人を危険に晒すことになる。

(もしも2人に何かがあったら――何度腹を切っても詫びようがない)

今の自分がしなければならないことは、この少女たちを守り抜くこと。
余計な心残りを残したまま任務に当たることは、市ヶ谷の人間にとっては命取りになる。
雄二は過去の経験からそれを嫌というほど学んでいた。
不安げに顔をのぞき込むチノに、ゆっくりと語る。

「チノ。承太郎は覚悟を持ってここを発ったのだろう。心配もあるが、今は彼を信頼し、無事を祈ろう。
 ――そうだな、もう一杯コーヒーを頼めるか。浅煎りで、とびきり目の覚めるようなやつを頼む」

その言葉に、チノの表情も少しだけ緩んだ。

「――はい!」


【G-7/ラビットハウス/二日目・午前】
【香風智乃@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康
[服装]:私服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
    黒カード:果物ナイフ@現実、救急箱(現地調達)、チャンピオンベルト@グラップラー刃牙、グロック17@Fate/Zero、ジャスタウェイ×2@銀魂
 [思考・行動]
基本方針:皆で帰りたい
   1:ラビットハウスの店番として留守を預かる。
   2:ここでココアさんたちを待つ。探しに行くかは相談。
   3:衛宮さんと折原さんには、一応気をつけておく。
   4:承太郎さんが心配。
[備考]
※参戦時期は12羽終了後からです。
※空条承太郎、一条蛍、衛宮切嗣、折原臨也、風見雄二と情報交換しました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。


【風見雄二@グリザイアの果実シリーズ】
[状態]:健康
[服装]:美浜学園の制服
[装備]:キャリコM950@Fate/Zero、アゾット剣@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
    黒カード:マグロマンのぬいぐるみ@グリザイアの果実シリーズ、腕輪発見機@現実
[思考・行動]
基本方針:ゲームからの脱出
   1:天々座理世、香風智乃を護衛。2人の意思に従う。
   2:入巣蒔菜、桐間紗路、保登心愛、宇治松千夜の保護。こちらから探しに行くかは3人で相談する。
   3:外部と連絡をとるための通信機器と白のカードの封印効果を無効化した上で腕輪を外す方法を探す
   4:非科学能力(魔術など)保有者が腕輪解除の鍵になる可能性があると判断、同時に警戒
   5:ステルスマーダーを警戒
   6:平和島静雄、衛宮切嗣、キャスター、DIO、花京院典明、ジャン=ピエール・ポルナレフを警戒
[備考]
※アニメ版グリザイアの果実終了後からの参戦。
※折原臨也、衛宮切嗣、蟇郡苛、空条承太郎と情報交換しました。
※キャスターの声がヒース・オスロに似ていると感じました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。


【天々座理世@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康
[服装]:メイド服・暴徒鎮圧用「アサルト」@グリザイアの果実シリーズ
[装備]:ベレッタM92@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
     黒カード:不明支給品0枚
[思考・行動]
基本方針:ゲームからの脱出
   0:……zzz
   1:ここで友人たちを待つ。
   3:外部との連絡手段と腕輪を外す方法も見つけたい
   4:平和島静雄、キャスター、DIO、花京院典明、ジャン=ピエール・ポルナレフを警戒
[備考]
※参戦時期は10羽以前。
※折原臨也、衛宮切嗣、蟇郡苛、空条承太郎、一条蛍、香風智乃と情報交換しました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。












501和を以て尊しと為す(下) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:36:21 ID:UtG9Nc7s0





ラビットハウスからだいぶ離れ、建物の数もまばらになってきた市街地の外れ。
その中を駅を目指して歩む2人の姿があった。
学ランを羽織った大柄な不良。そして一切の光の消えた目をした男性。
2人の間に会話はない。











不良――空条承太郎の誤算は、単純に言えば人が増えすぎたことだった。
チノに語った通り、衛宮切嗣と折原臨也が帰ってきたら、即時にでも尋問を始める予定だった。
だが、その前に風見雄二と天々座理世がやってくる。
そして2人の帰還。危惧していた通り、会話の主導権は折原臨也に握られる。
こうなってくると、集団の話し合いを無視して切嗣たちを問い詰めるというわけにはいかなくなる。
そもそもこの殺し合いにおける最優先事項は、何よりもまず主催者を打倒し、脱出を図ることにある。
風見雄二は修羅場の経験値が高そうに見えたし、頭も回る。天々座理世も守るべき対象だ。
香風智乃、一条蛍の2人もそう。せっかく結んだ友好関係。目の前で不穏な動きを見せ、雰囲気を崩壊させるような真似は避けなければならない。
いや、単に雰囲気が悪くだけならまだいいだろう。
下手に追いつめたことで、もしもキレた2人が爆弾でも使ってきたりしたら、取り返しのつかない大惨事になる。
あるいは、かつてニューヨークで不動産王に成り上がった経歴を持つ祖父ならば。
多人数を前にしながらうまく誘導尋問に持っていくようなこともできるのかもしれないが、あいにくそんなテクニックも持ち合わせていない。
承太郎は密かに話し合いの中で考えを進め、次善の策を巡らせる。

次善の策――すなわち、2人を集団から遠ざけ、危険の及ばない場所で尋問すること。
しかし、2人両方を連れ出していくのは難しいと承太郎は考える。
なぜなら、自分と折原臨也と衛宮切嗣の3人がここを離れれば、残された3人の少女を守るのは風見雄二1人だけになってしまうからだ。
そのことを理由に折原あたりが反対するのはいかにもありそうなことだ。そこで無理を通せば、これまた不和の原因が発生してしまう。
そうなれば、連れ出すのは1人。

折原臨也。
衛宮切嗣。
どちらにすべきか。

まず、折原臨也。
情報屋などど名乗る男。最初に遭遇した映画館ではいきなりナイフを向けてきた。
見るからに胡散臭く怪しげだが、逆に言えばそれだけともいえる。
承太郎が目を光らせていた範囲内では、少なくとも誰かに直接危害を加えるようなことはしていない。
ナイフの件については……実力を図るための行為として、この際100歩譲って見逃す。
また風見雄二の話では、雄二とリゼと最初に情報交換した時にも、嘘は一切ついてはいないようだった。
参加者の時間がずれているという情報を、惜しげもなく渡したというのも確かだ。
そして、次の点。これが最も大きい。
越谷小鞠の反応が腕輪探知機から消えた時、折原臨也は間違いなくラビットハウスにいたという『アリバイ』がある。
油断をしていい人物では絶対に決してないのは明らかだが、それでも折原は『危険度』は低いと見積もる。

502和を以て尊しと為す(下) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:37:08 ID:UtG9Nc7s0

そうなると、消去法で残るのは――衛宮切嗣。
越谷小鞠が死んだ瞬間、まだ姿の見えない平和島静雄と並び、全く『アリバイ』を持っていない男。
吸血鬼について知っているという彼ならば、DIOの討伐を理由に連れ出す口実も作りやすい。
ついでに言えば、DIOの館に行きたいというのも、最初からの目的であり6割方は本心だ。
最初は忌避していた電車を使用するのも、一刻も早く到着したいがため。
『容疑者』の筆頭は――定まった。











『容疑者』――衛宮切嗣の心中を占めるのは、全く別のことであった。

(DIO。……吸血鬼)

承太郎が追い求めている敵が吸血鬼であることは、最初に出会った時にすでに聞いた。
そのため、ラビットハウスに戻った後の目標は、2度目にあそこを発ったあたりからすでに決めていた。
吸血鬼といえば、多くの場合、魔術師にとっては吸血によって他者を自らの眷属としていく『死徒』のこと。
DIOは肉の芽という手法を用いるらしいが、感染を広げていくという点においてはその危険性は変わらない。
そして、万が一DIOが『真祖』に類するものであれば――その危険度ははね上がる。

衛宮切嗣はしばしば外道と称される男だ。
事実として、この場においてもすでに幼い少女をその手にかけている。
だがその行動原理は、常に多数の利となることを前提としたもの。
吸血鬼という、多数の脅威となる物がこの島にいるとなっては――それを放置しておくことはできない。

(そのためならば……空条君のことも『利用』させてもらおう)

だからこそ、『同盟者』である折原臨也と離れることになっても、承太郎の誘いに応じたのだ。
今の自分には妻のアイリスフィールも、助手の久宇舞弥もいない。
愛用してきた武器も絶対命令権である令呪もなく、さらにはあの女の細工によって術のいくつかも使えない。
普段の力を使うことができない以上は、利用できる手駒を増やすことが何としても必要だ。
空条承太郎。未だその底を見せてはいないが、スタンドという魔術とは異なる体系の力を持ち、何度も戦いを切り抜けてきたらしい。
風貌の似ている蟇郡苛とは違い、単純な直情型ではなく冷静さも持ち合わせている。
加えて今は、DIOを抹殺するという目的を共有してもいる。
利用する手駒としては、十分に価値があると当たりを付ける。

(僕にとって理想的なタイプではないだろうがね……)

舞弥のような自分の行動原理を理解して協力してくれる人材が都合よく現れるとは、この6時間あまりの経験も踏まえ、もはや毛ほども思っていない。
ならば、利用する。
聖杯戦争で、自分の一番嫌うタイプであるセイバーを利用していたように。
もっとも、先ほどの会合の中で彼が自分に鋭い視線を送ってきているのには気づいていた。
おそらくその原因は、越谷小鞠の死。
承太郎はそれについて必ず追及してくるだろう。
だが、折原臨也とのゲームセンターでの会談をやりすごしたように。
魔術師殺しの異名は伊達でも酔狂でもない。この程度の修羅場は何度も潜ってきている。
たとえ『信頼』は得られなくても、一時的な協力関係くらいには持ち込む自信は――ある。

(しかし、吸血鬼……。死徒か……)

脳裏に浮かぶのは、思い出したくない――
いや、彼の人生の全てを変え、魔術師殺しとしての道を踏み出す切っ掛けとなった、二つの記憶。
島を覆い尽くす死徒。炎を上げて墜落していく飛行機。
殺せなかった少女。殺してしまった師。

吸血鬼。
まだ見ぬその存在を前に、自らの心に少しずつ焦燥とざわつきが生まれ始めていることに、切嗣は未だ気付いてはいなかった。

503和を以て尊しと為す(下) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:37:32 ID:UtG9Nc7s0











ふと、承太郎がその歩みを止めた。
切嗣は、7、8歩ほど歩くと、同行者が遅れているのに気付き、また歩みを止める。











「衛宮。――こんな所ですまねえが、話がある」

低い声で、数メートル前で立ち止まった切嗣に向かって話しかける。

「――何かな、空条君」

切嗣も振り返り、承太郎に向き直る。

「君の見たっていう時刻表だと、電車の間隔はかなり開いていたんだろう?
 話は電車に乗ってからか、ホームに着いてからのほうがいいんじゃないかな」

「いや」

ずい、と一歩。承太郎が踏み出す。

「今ここで、聞いておかなきゃならねえ」

問い詰める場所として、駅や電車の中でなく離れた場所を選んだのも理由がある。
万が一。切嗣たちがあの少女たちに対して、よからぬ企てを働いているようなら、承太郎は全速力でラビットハウスに引き返すつもりだった。
それは電車に乗ってしまったら不可能だ。それに切嗣が電車で逃走する可能性も考慮しなければならない。

「俺が聞きてえことってのは、たった一つだ」

「あんたが俺から離れてる間、つまりゲームセンターとあのサ店を2回往復してる間――本当は何があったかってことだ」

睨みつける、という表現にふさわしいくらいの眼力で。
切嗣の虚ろな目を見据え、質問を発する。

「――はあ、何かと思えばそんなことかい」

承太郎の迫力にも構わず、切嗣はため息をついてみせる。

「僕の回答は何も変わらないし、変えようがないよ。
 最初にゲームセンターに行ったときは、平和島静雄に殺された、越谷小鞠ちゃんの死体を見つけた。
 2度目に行ったときは、折原君と一緒に入念に調べてみたけど、やっぱり手がかりは見つけられなかったよ。
 ……僕が言えるのはこれだけだ。さあ、DIOの館を目指そうか」

再び背を向けて駅に向かおうとする切嗣。

「待ちな」

その背に、承太郎は声をかける。
それは、この対話が始まってから最も鋭く切嗣を捉えた。

「俺はこれでもそこそこの数の敵とやり合ってきたからな……分かるつもりだぜ。
 衛宮、あんたはまだ何か、俺やあいつらに言ってねえことがあるんじゃねえのか」

「空条君……君は」

切嗣も再び承太郎に向き直り、その目を見据える。

「自分が何を言っているのか、分かっているのかい」

静寂が流れる。
しかし、この場に他の人間がいれば、ゴゴゴゴゴと言う音と共に、2人の間の空間が歪む錯覚を見ただろう。
空条承太郎はまだスタンドは出していない。
しかし、今にも獲物に食いつく猛獣のごとき殺気をみなぎらせている。
衛宮切嗣も、武器の類は見せない。
だが、その表情からは先ほどまでの無感情さは減り、険しさが増している。

その時、極限に達した2人の緊張を破ったのは。

「おーい! そこの2人!!」

駅の方角から聞こえてきた、少女の声だった。







504和を以て尊しと為す(下) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:37:53 ID:UtG9Nc7s0





時刻は、ラビットハウスで7人が集まって情報交換を始めたころに遡る。
まんまと紅林遊月をトイレに閉じ込め、その姿を盗むことに成功した生命戦維の怪物――針目縫。
彼女は映画館の前に佇んでいた。

「どっこにしようかな〜」

一体何をしているのかというと、迷っていたのだ。
ここからどこへ向かうべきかということに。

向かう候補は3つ。
万事屋。何でも屋というなら、武器の類も豊富に揃っているかもしれない。
ゲームセンター。こんな時にゲームに興じる者がいるとはあまり思えないが、人は集まってきそうだ。
駅。この島の中でも最も人が集まりやすそうな、移動のための施設。

「そうだ、もうこうしちゃえ」

さんざん迷った末に、彼女が最終的に決めたのは。運を天に任せることだった。
地面に大きく円を描き、それを線で3分割。
3つの枠の中にそれぞれ

「よろずや☆」
「えき♪」
「げーせん><」

と書く。

「そーれっ」

そして、手にもつ片太刀バサミを、くるくると投げ上げた。
その刃先が突き立ったのは――











「おっかしいなあ〜、だっれも来ないや」

それから数刻後。少女の姿は駅のホームにあった。
しかし、こうしていれば誰かがやってくるだろうと踏んでいたのだが、人の姿も見えず、電車もやって来ない。
参加者が過度に逃げ回ることを防ぐためか、この島の電車のスピードはかなり遅くなっているのだ。

「ピルルクちゃんも大したこと教えてくれないしぃ」

「……別に、隠していることは何もないわ」

カードをつんつんとつつき回す。
カードの少女――ピルルクに話を聞いてみたものの、彼女は単に繭から参加者に協力するように言われただけだという。
ただ、彼女の読心能力「ピーピング・アナライズ」と、セレクターバトルについて最低限の話を聞くことが出来たのは収穫といえる。

「うーん、もう待ってるの飽きちゃったな★」

ベンチから立ち上がり、思い切り伸びをする。
この場における目的は有益な人間を探し出すこと。待っても誰も来ないなら自分から探しに行ったほうがよいだろう。
ついでに言えば、縫はあの鬼龍院羅暁にすら、制御は不能と言わしめた気まぐれさの持ち主でもある。
参加者を待ち伏せる作戦を立ててはいたが、一か所にじっと長く留まって、来るかも分からない人間を待つようなことには向いていないのだ。
時間は間もなく午前8時。
次に向かうのはどこにしようか。
最初に決めた行き先のうち、万事屋とゲームセンターはほとんど同じ距離にある。

505和を以て尊しと為す(下) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:38:28 ID:hkOETiuo0
「ま、いいか。とりあえず街のほうに行ってみよ」

ホームから降り、街を目指して歩きはじめる。
しかし、ほどなくして縫の目に飛び込んできたのは――2人の男が向かい合っている光景。

(あはっ、やーっと会えたよ)

紅林遊月と別れて以来、待望の出会いだ。
片太刀バサミを腕輪にしまい、2人に近づいていく。
揃って仲良くお出かけ、という雰囲気には見えなかったが、例え2人がどういう関係だろうと縫にはどうでもいいことである。
制限解除に繋がる情報を持っているなら――それを聞き出す。
何の情報も持たず、他の利用価値もないなら――切り捨てる。
問答無用で襲いかかってくる輩なら――その戦いを、最大限に楽しむ。

「おーい! そこの2人!!」











針目縫は知らなかった。
この時刻、先ほど閉じ込めた紅林遊月が拘束を解いて脱出に成功していたことを。
そして目の前の学ランの男――空条承太郎こそ、遊月がラビットハウスで会っていた人物であるということを。





【G-6/駅付近/午前】

【針目縫@キルラキル】
[状態]:紅林遊月にそっくりな女の子に変身中、繭への苛立ち
[服装]:紅林遊月の普段着
[装備]:ブルーアプリ(ピルルクのカードデッキ)@selector infected WIXOSS
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(18/18)、青カード(20/20)、黒カード:片太刀バサミ@キルラキル、歩狩汗@銀魂×2、不明支給品0〜1(紅林遊月が確認済み)
[思考・行動]
基本方針:神羅纐纈を完成させるため、元の世界へ何としても帰還する。その過程(戦闘、殺人など)を楽しむ。
   0:目の前の2人から情報収集。
   1:腕輪を外して、制限を解きたい。その為に利用できる参加者を探す。
   2:何勝手な真似してくれてるのかなあ、あの女の子(繭)。
   3:流子ちゃんのことは残念だけど、神羅纐纈を完成させられるのはボクだけだもん。仕方ないよね♪
[備考]
※流子が純潔を着用してから、腕を切り落とされるまでの間からの参戦です。
※流子は鮮血ではなく純潔を着用していると思っています。
※再生能力に制限が加えられています。
 傷の治りが全体的に遅くなっており、また、即死するような攻撃を加えられた場合は治癒が追いつかずに死亡します。
※変身能力の使用中は身体能力が低下します。度合いは後の書き手さんにお任せします。
※分身能力の制限がどうかは、後の書き手さんへお任せします。
※紅林遊月そっくりな女の子に変身しています。ただし令呪は遊月が隠し通したため模倣できていません。
※ピルルクの「ピーピング・アナライズ」は(何らかの魔力供給を受けない限り)チャージするのに3時間かかります。
※ピルルクからセレクターバトルに関する最低限の知識を得ました。


【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10) 噛み煙草(現地調達品)
[思考・行動]
基本方針:脱出狙い。DIOも倒す。
   0:紅林……?
   1:衛宮切嗣への疑念にここで決着を付ける。
   2:その後、電車でDIOの館に向かう。
   3:平和島静雄と会い、直接話をしたい。
   4:静雄が本当に殺し合いに乗っていたなら、その時はきっちりこの手でブチのめす。
   5:午後6時までにラビットハウスに戻る。
[備考]
※少なくともホル・ホースの名前を知った後から参戦。
※折原臨也、一条蛍、香風智乃、衛宮切嗣、天々座理世、風見雄二と情報交換しました(蟇郡苛とはまだ詳しい情報交換をしていません)
※龍(バハムート)を繭のスタンドかもしれないと考えています。
※風見雄二から、歴史上の「ジル・ド・レェ」についての知識を得ました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。

506和を以て尊しと為す(下) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:38:50 ID:UtG9Nc7s0


【衛宮切嗣@Fate/Zero】
[状態]:健康
[服装]:いつもの黒いスーツ
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(19/20)、青カード(20/20)
     黒カード:エルドラのデッキ@selector infected WIXOSS
          蝙蝠の使い魔@Fate/Zero
          赤マルジャンプ@銀魂
          越谷小鞠の不明支給品1〜2(切嗣が確認済み、起源弾及びトンプソン・コンテンダーはない)
          噛み煙草(現地調達品)
[思考・行動]
基本方針:手段を問わず繭を追い詰め、願いを叶えさせるか力を奪う
   1:さて、どうするか……。
   2:DIOおよびその配下の吸血鬼を抹殺する。
   3:平和島静雄とは無理に交戦しない。折原臨也や他の参加者を利用し殺す。
   4:有益な情報や技術を持つ者は確保したい。
   5:セイバー、ランサー、言峰とは直接関わりたくない。
   6:折原臨也の『遺書』については……。
[備考]
※参戦時期はケイネスを倒し、ランサーと対峙した時です。
※能力制限で魅了の魔術が使えなくなってます。
他にどのような制限がかけられてるかは後続の書き手さんにお任せします
※空条承太郎、折原臨也、一条蛍、風見雄二、天々座理世、香風智乃と情報交換し、知り合いと危険人物について聞きました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
















空条承太郎と衛宮切嗣が駅の付近で対峙している、まさにそのころ。
島の南の海岸沿いを行く、1人の男と少女の姿があった。
少女――一条蛍の顔はどこか暗い。だが、僅かに差す憂いは身長とあいまって、大人びたその雰囲気をいっそう引き立てている。
蛍の歩幅に合わせて歩く一方の男――折原臨也は、少女とは対照的に薄い笑みを絶やさない。

情報屋の内面には、『人間』への興味がどろどろと渦巻き続ける。
放送からラビットハウスでの会合を経てここに至るまで、臨也の興味を引くに足る様々な発見があった。
まずは、放送で呼ばれた17人。その中の、園原杏里という名前。

(杏里ちゃん――逝ったんだね)

罪歌憑きにして、池袋に君臨する三つの勢力のうち一つを束ねる少女。
彼女を上回る存在が、ここにはいたということだ。
願わくば、彼女のような『異形の化け物』を倒したのは、同じ『化け物』ではなく『人間』であってほしいものだ。
次に。

(チャットの『悪用』――。早速やってくるお方がいたんだねえ)

スマートフォンに送り付けられた『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』という文章。
『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』――。この文章だけでは、特定の人物を陥れるための偽情報という可能性は高い割合で残されている。
発言者は『M』となっているが、これが問題の東郷美森だとすると、このような自殺行為はあまりに不自然。
あるいは端末を奪われて、その人物によってこれが書かれた可能性もある。
また、文章中の2人の素性も全く分らない。が、名簿では『東郷美森』の名前は『犬吠埼樹』の近くに配置されている。
この二人は何らかの近しい関係にあったと見るべきかもしれない。
臨也はこのことを話し合いでは告げなかった。
『東郷美森』――。その知り合いかもしれない参加者を殺害したかもしれない人物。
この人物をどうするか決めるのは、彼女(?)がどんな人物なのか――『人間』なのか――を見極めてからだ。
そして。

(空条承太郎君。――あはは! また随分と警戒されちゃったもんだ)

507和を以て尊しと為す(下) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:39:08 ID:UtG9Nc7s0

学ランの男、空条承太郎。
あの話し合いの中で、彼が自分と衛宮切嗣にたびたび鋭い視線を送ってくることには当然気付いていた。
切嗣と一緒に発った彼は、きっと問い詰めるつもりなのだろう。『殺人事件』の、その真相を。
静かな内に熱いものを燃やす不良と、畸形的な正義のままに行動する男――。

(とびきり面白い『人間』が二人――どんな化学反応が起こるか、楽しみだなあ)

臨也はまだ切嗣との『同盟』を捨ててしまったわけではない。
この場における目標の一つは、可能な限り平和島静雄を追い詰めていくこと。
別れたとしても協力をしあうことは、ラビットハウスに到着する前に確認しておいた。
そもそも、何が起こるか分からない中、常に2人だけで行動ができるとは臨也は全く考えていない。
だが、平和島静雄を打ち倒すために、彼にはこの先も協力してもらわなければならない。

(シズちゃんだけじゃなく、『化け物』はまだまだいるみたいだしね)

風見雄二たちに『DIO真犯人説』を教えたのも、平和島静雄を追いつめる策の1つだ。
『DIO真犯人説』――。潰すべき対象である平和島静雄とDIOを同時に追い込むことのできる方策。
我ながらなかなかいい出来だと思い、臨也はその笑みを深める。
そして、自分の横を歩く少女――。

「ねえ、蛍ちゃんは俺のこと、怖いかな?」

「え……?」

いきなり奇妙なことを問われ、蛍は戸惑いを隠せなかった。
そんな間も、男の顔から笑みが消えることはない。
ちょっと休んでいこうか、と臨也が促し、2人は海のすぐそばまで移動する。











「怖い……っていうか、その、……ごめんなさい、よく、わからない、です」

波打ち際に腰かけた2人。
改めて先ほどの問いを投げかけられた蛍の、精いっぱいの答えがこれだった。
実際、よくわからない、というのは考えを放棄したわけではなく、蛍にとっての事実だった。
最初の映画館で、いきなり承太郎にナイフを向け。
でも、自分やチノたちには優しく振る舞い。
あの7人の中でも進んで弁舌を振るい、みんなをリードし。
それでいて、シズちゃんと親しげな愛称で呼んでいる平和島静雄のことを、操られているから殺すべきだとためらいもなく言い切る。
そんな折原臨也のことが――蛍には、理解できなかったのだ。

「ああ、謝らなくていいよ。変なこと聞いてごめんね。
 ……よくわからない、か。はは、まあそうだよね。
 俺としては常にみんなに好かれようと頑張ってるんだけど、どうにもうまく行かないんだよねえ。
 妹たちにもたまに言われるよ。『臨兄は何考えてるのかわかんない』ってね」

508和を以て尊しと為す(下) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:39:28 ID:UtG9Nc7s0

「え……」

唐突に臨也の口から飛び出した、彼の『家族』に関する情報。
それは蛍に少なくない驚きを与えた。

「妹さんが……いるんですか?」

「うん。双子でね。クルリとマイルっていうんだけど、漢字は蛍ちゃんにはちょっと難しいかな?」

砂の上に、九瑠璃、舞流、と書き、臨也は語る。

「ちょっと変わった子たちだけど、2人とも俺のことをとっても大切に思ってくれてるんだよね。
 もし俺がこんなとこで死んじゃったら、きっと泣くよ。それどころか、もう立ち直れなくなっちゃうと思うんだ」

臨也は続ける。

「俺は、妹たちのところに生きて帰りたい。そうだ、蛍ちゃんたちにも紹介してあげたいな。きっとお友達になれるよ。
 だからね。俺は理由もなく他人を傷つけたり、殺したりなんかしないと誓うよ。
 何も俺のこと、好きになってくれってわけじゃない――。でも、今言ったことだけは、分かってくれないかな?」

臨也の言葉に、蛍の心は大きく揺れ動いた。
うまく理解するのが難しい存在だった折原臨也。
その彼にも、自分やれんげと同じように大切な家族がいる。
それを知ったとたん、急速に彼が、血の通った『人間』だと、感じられるようになった。

「分かり、ました……。……でも、なんで」

しかし、蛍の中にあるわだかまりは完全には消えない。

「どうして、あんなこと、したんですか。
 最初、映画館で、会った時……どうして、承太郎さんに、っ、ナイフを、向けたりしたんですか」

いつの間にか取り出した、小鞠の白のカードを握りしめ、震えながら、問う。

「ナイフ?……ああ、あのことか」

「っ、こたえて……、答えて、下さい!!」











(素晴らしい)

このとき臨也の心の全てを占めていたのは、平和島静雄でも、衛宮切嗣でも、空条承太郎でもなく。
自分の年齢の半分にも満たないであろう、眼前の少女であった。

(はじめは泣いてるばかりだったこの子が、『怖いお兄さん』であるこの俺に、詰問してくるとはね……)

最初に映画館で遭遇した時の彼女は、異常な状況に怯え、それでいて大人である自分と承太郎にやたらと気を遣ったりする、普通の女の子だった。
体は大人顔負けであっても、その心はどこにでもいる小学生と同じだった。

(彼女を変えたのはおそらく、友達――越谷小鞠ちゃんの死か)

切嗣が小鞠の死を告げたときは、彼女は眠っていた。
その後は、自分たちはゲームセンターに行っていた。
だから、友達の死を知った彼女がどんな反応を示して、残っていた承太郎やチノたちとどんな話をして、どうやって立ち直ったのかは分からない。

(それにしても……たった半日もしないうちに、こんなにも成長を見せるとはね)

殺し合いなどというわけのわからない状況の中で。
単なる子どもに過ぎなかった人間が、成長――いや、進化を、自分に見せてくれたのだ。

これだから――人間は素晴らしい。
これだから――人間を愛することは、やめられない
これだから――自分は、人間愛を捨てられない。

(――そして、そのことに改めて気付かせてくれた彼女には――当然、『お礼』をすべきだよね)

509和を以て尊しと為す(下) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:40:26 ID:UtG9Nc7s0





そして臨也の意識は、再び現実へ戻る。

「……なんで、答えてくれないんですか。答えてくれないと、私……」

「ああ、ごめんね」

カードを握る蛍の手を包み、臨也は答えた。

「最初のあれはね、変に聞こえるかもしれないけど……承太郎君を、試したんだよ」

「ためした……?」

蛍の緊張が、僅かに緩む。

「ほら、承太郎君は何だか吸血鬼と戦ってるとかで、すごく強そうだったけどさ。
 蛍ちゃんやチノちゃんたちみたいな子を守る力がちゃんとあるかどうか、ちゃんと確かめておきたかったんだよね。
 むろん、あの時は本気じゃなかったよ。それは承太郎君も絶対に分かってるはずだよ」

「あの、じゃあ、傷つけたりしたくて、あんなことをしたわけじゃ、ないんですね」

「ああ、そうだよ。今も言ったけど、それは承太郎君も証明してくれるさ。
 もっとも、君みたいな子の前であんな真似をしたことは謝らなきゃいけないね。
 なんせほら、いきなりこんな事に巻き込まれるなんてのは俺でも初めてだったからさ。
 テンションが変になっちゃって、ついやっちゃったってことで……許してくれないかな」

蛍の前で手を合わせる臨也。
その姿に、蛍も緊張を解く。

「……わかり、ました。でも、約束してください。二度と、あんなことはしないって」

「もちろん。約束するよ」

それから、2人は子供同士がするように、指切りをした。
緊張が一気に抜けてしまったのか、蛍は地面にへたり込む。

「余計に疲れさせちゃって本当にごめんね。これを飲みなよ。もうちょっと休んでいこうか」

臨也は腕輪の青のカードから、子供が好きなパックのオレンジジュースを取り出し、蛍に渡す。
蛍も最初はためらったが、少しずつ口を付けるのだった。






510和を以て尊しと為す(下) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:40:43 ID:UtG9Nc7s0





(――『お礼』。彼女になら、あげてもいいかもしれない)

それは、情報を売りさばいて魍魎の行きかう池袋を生きる普段の臨也ならば、絶対にありえない行為。
大切な友人の死から立ち直り、『人間』としての輝きを見せてくれた少女に、最大限の敬意を払い。
この殺し合いの場において、もしもランク付けするなら特A級には位置するであろう情報。
一流の情報屋である臨也が、自らの死と引き換えに『遺書』としてばらまこうとしている情報。
『殺人事件』の犯人候補として挙がった名前――折原臨也、平和島静雄、DIO――のうち、誰とも違う人物を犯人とする、第四の推理。
それでいて、最も真実に近く、否――真実そのものである推理。
今なお、スマートフォンの中で静かに眠っているそれ。

すなわち、越谷小鞠を殺した犯人は衛宮切嗣であるという事実。
それを少女――一条蛍に、教えるということ。



(――どうする?)





【H-5/東端の海岸/午前】

【折原臨也@デュラララ!!】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:ナイフ(コートの隠しポケットの中) スマートフォン@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
    黒カード:不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:生存優先。人間観察。
    1:一条蛍に『真実』を教えるか?
    2:2人で旭丘分校へ向かう。
    3:衛宮切嗣と協力し、シズちゃんを殺す。
    4:空条承太郎君に衛宮切嗣さん、面白い『人間』たちだなあ。
    5:DIOは潰さないとね。人間はみんな、俺のものなんだから。
[備考]
※空条承太郎、一条蛍、風見雄二、天々座理世、香風智乃と情報交換しました。
※主催者(繭)は異世界および時間を移動する力があると考えています。
※スマートフォン内の『遺書』は今後編集される可能性があります。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という推理(大嘘)をしました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。


【一条蛍@のんのんびより】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
    黒カード:フルール・ド・ラパンの制服@ご注文はうさぎですか?、カッターナイフ@グリザイアの果実シリーズ、ジャスタウェイ×2@銀魂、越谷小鞠の白カード
[思考・行動]
基本方針:れんちゃんと合流したいです。
   1:旭丘分校を目指す。
   2:折原さんを、信じてもいいのかも……。
   3:午後6時までにラビットハウスに戻る。
[備考]
※空条承太郎、香風智乃、折原臨也、風見雄二、天々座理世、衛宮切嗣と情報交換しました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。



【スマートフォン@現実】
チャット機能の発言者名は、最初に支給された人物のファーストネームの頭文字が表記されます。
例:東郷美森=M 折原臨也=O

511 ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:42:24 ID:UtG9Nc7s0
以上で仮投下を終了します。ご意見頂ければ幸いです。

512名無しさん:2015/11/15(日) 21:52:52 ID:UvjhzjPM0
仮投下乙です。うおお、これはどう動くかな

本編には関係無いのですが、一つだけ
チャットのハンドルネームがファーストネームで表示されるなら、臨也はIで表示されるかと

513名無しさん:2015/11/15(日) 22:07:53 ID:ewB8b79U0
仮投下乙です
上で上がっているチャットのハンドルネーム以外は、特に問題はなかったかと
本投下を楽しみにさせていただきます

514名無しさん:2015/11/15(日) 22:41:11 ID:bE1F.PDM0
仮投下乙です
細かいところですが少し気になったのが、

> 臨也と切嗣を除く6人の顔に一斉に疑問が浮かぶ。

ここは6人ではなく5人かと。

> 8人がこれからに向け、思い思いに支給品の確認などを行う中。

ここは7人になるかと思います。

その他に関しては特に問題ないです。

515名無しさん:2015/11/16(月) 02:46:13 ID:pk80Q./U0
お二方とも投下乙です
◆45MxoM2216氏の作品についての指摘なのですが、放送は腕輪からも流れる設定なので、戦闘中とはいえ聞き逃すのは無理があるというかもう少し理由付け必要かと思いました

516 ◆45MxoM2216:2015/11/16(月) 10:24:56 ID:gjd0uKDs0
>>515
ご指摘ありがとうございます
では、聞こえてはいるもののちゃんと頭に入ってこないという形で修正しようと思います

517 ◆3LWjgcR03U:2015/11/16(月) 21:01:02 ID:zY/YGax20
ご指摘ありがとうございます。指摘いただいた部分を修正し投下いたします

518 ◆KYq8z3jrYA:2015/11/25(水) 23:04:37 ID:574g.qOo0
投下します

519 ◆KYq8z3jrYA:2015/11/25(水) 23:05:43 ID:574g.qOo0
『怪物』は、目的地である映画館へ向かうため、鍛え抜かれた太い足でもって南に歩を進めていた。
バーテンダーとの戦いは敗北を迎え、定時放送による死者の発表は思わぬ衝撃を与え、その悲しみの咆哮は世界の全てを壊してしまうのかと錯覚するほどだったが、それも今や幻だったかのように無表情を貫き前だけを据えている。
なにか大きな変化でも起きたのか。しかし、真実は怪物以外知る由もない。
発した声は、誰にも聞こえず風に流されていった。

怪物の姿は、街角に消えていく。


◇◆◇


泣き叫び震えていることだけが恐怖を表すものではない。
紅林遊月はどこかで聞いたその言葉の意味を身をもって刻んでいた。

針目縫。この悪趣味な催しに少なくとも賛同しているのであろう人物。
彼女を止めるために拘束から抜け出した遊月は、使命感や正義感といった小さく燃え上がった炎とは別の、一つのある感情がふつふつと芽生え始めていた。
嵐が去った後にやってくるのは安心感なのではない。コップいっぱいに注がれた水が小さな振動で溢れ落ちるように、止まった時間から動き出した熱は、あの死の感覚よりも更に熱くも身を焦がしているーー

遊月はタールさながらの暗闇に横たわる自分の姿を想像し、妄想を消し去るように頭を振って散らして、するべきこと考えるべきことを心中で何度も反芻する。
それが嫌なことから逃げているだけなのか一刻も早く彼女を止めたいのかは分からないが、どちらであっても次に進むためのステップとしては正解であると確信する。


遊月は急ぐ。胸に焦りを抱えたまま素足から伝わってくる、冷たいリノリウムの床を踏み抜く。


まず、早急にするべきことは針目縫の動向について知らなくてはならない。
その情報を得るためには彼女がどんな人間であり、どのような目的があるのかを考える必要がある。
言葉の一つ一つに至るまで、会話を記憶を掘り起こす。

縫が聞いてきたのは主催者に繋がる情報について。これは優勝を目指すにしてもそうでないにしても、参加者同士の交流では獲得しておきたいものだ。
そこにおかしなところはない。敵意がなく、襲ってくる気配もない彼女は普通の女の子だった。
話した内容はこれまでの道筋。そこから当然のように自分たちを誘拐した繭へと繋がっていく。
魂などといった理解の及ばない現象。これまでの人間関係。どこで誰とどうやって出会ったのか。
さり気ない風を装いながらも一方的に情報を盗まれた。こちらに与えられた情報は殆どない。
ただ、西からやってきたという本当かどうかも分からないどうでもいいことだけを残して、繭で覆われていた仮面を外して本性を現わした。

(何で、わたしを殺さなかったんだろう)

一度、結論付けたことを、もう一度考える。
保険、だろうか。ルール通り優勝を目指す一方、自ら脱出の方法を探っていく。自分を殺さなかったのは利用価値があるから。
ならば、鏡写しにしたような同じ顔になった意味は? 情報の収集か。いや、そもそも、その行為に意味はあるのか。
まさかゲームに乗っているとは思えないほど、外見は小さく愛くるしいと言える容姿だ。敵意もなく近づかれたら警戒のレベルは下がる。実際に自分は騙され殺されかけた。
そんな彼女が小細工を使う意味はあるのだろうか。情報を得るなら普通に聞けばいいし、殺すのなら堂々と不意を打ってすればいい。

力のない少女だなんて、あの人形のような目を見た瞬間に頭から吹き飛んでいる。
機械のように、道端に落ちてあるゴミを踏みつけるように、簡単に生命を奪ってしまう凶器を向けていた時も変わらず、嘘くさいぐらいのニコニコとしたその表情のまま刃を振り下ろすことが可能だと理解をしたから。
息を吸うように彼女は人を殺すのだろう。殺せるのだろう。

そんな、彼女がなぜ自分を生かしたのか。

520 ◆KYq8z3jrYA:2015/11/25(水) 23:07:01 ID:574g.qOo0
そして、姿形を真似てどうするのか。友人たちに何か繋がるものでもあって、近づくことが目的なのか。
それとも借り物の姿で暴虐を尽くし、本当の自分を見せず汚さないで勝ち抜くつもりか。
もしくは苦戦をするような一筋縄ではいかない存在がいて、その打倒のためだけに奪ったのか。
または殺人を犯すたびに顔を変えていき、安心安全に殺し合いを制すつもりであるのか。
あるいは、これは飛躍した説ではあるが彼女は意図的に用意された舞台装置。参加者を悪意のある方向に導く役割を持っており、それが意味することはこの場で結成した集団の崩壊。
少しでも触れれば脆く崩れ去ってしまいそうな特殊な状況下で疑心暗鬼が発生したのなら、あとは坂道を転がっていくように事態は悪い方へ収束していく。
シャロとの小さなすれ違いでさえ亀裂を生んだ。いや、初めから、あの白い部屋からすでに自分たちの日常はひび割れている。


縫に挑む勇気はあるというのにこのまま外へ出るには躊躇がある。
ロビーから続く通路を右に曲がり、劇場に『忘れ物』がないか早足に調べていく。


では、縫が主催者から差し向けられた者であると仮定するとして。
それにしては彼女の行動は、繭と繋がっていると考えるならば不自然と言えるだろう。
あちら側の人間であるならば、此方の情報など紙屑にも劣るものであるはずなのに求めてきた。
そして、あの時、笑顔の仮面の中から一瞬だけ覗いた、彼女の顔。

(違うにせよそうでないにしろ、そういう存在はいるのかも)

争いの停滞時に備え、火種をばら撒いている者がこの世界に潜んでいるかもしれない。
どのような死に方であろうとも関わらず、ここで死んでしまえば魂を閉じ込めるというカードに入れられ、一人寂しく冷たい牢獄のような場所で永遠に意識が残る、と繭は言った。
言い聞かせるように、生き残りたければ他者を殺せとも。勝ち残り最後の一人になる以外にここからの脱出は不可能なのだと、力を示して見せながら。
脅しとしては感想を聞くまでもない、目を耳を塞ぎたくなるような血溜まりの中での厳しいルールの数々。
それを見せられてもまだ歯向かう参加者に対する切り札を用意してきてもいい筈だ。
いや、むしろそうしない理由はない。始まりから悪意に満ちたこんな世界なら、なおさら。


一つ二つ三つ四つ、こちら側の通路の劇場に『忘れ物』はないようだ。


優勝したからといって生きて帰れるという保証もないと縫は考えたのだろうか。
細い糸に掴まるような気軽さで、いつ折れても自分には正方向にゲームを終わらせられる力があるという自信が、あの薄気味悪い笑顔に反映でもされているのか。
良く言えば現実的、悪く言っても現実的。いや、ほんとうにそうだろうか。

少なくとも自分が知りうる情報だけでは脱出は夢のまた夢。
友人たちを死なせたくないとみんなで無事に助かりたいと思ってはいても、大人数の人間を攫ってきたという事実は決して無視できるものではない。
海に囲われたどこかも知らない島。いつでも殺せるように設定された禁止エリアの存在。腕につけられた奇怪な腕輪、魂を封印するという白のカード。
そんな監獄のような場所。脱出のための道など残しているような間抜けなことはないだろう。
一度しか会ってなく、一度しか話してもなく、受け取った内容も吹けば飛ぶようなものだけれど、微かな希望に望みを賭けるような人物ではないことは分かる。
だからこそ、意図が分からない。繭に閉じ篭もった仮面の中を、最後まで見ることは未だ出来ていない。

深く考えすぎなのだろうか。答えはもっとシンプルなのだろうか。


いけない、横道に逸れている。元に戻さないと。


(仮に、本当に西から来たのだとしたら南下をしていることになる)


血で手を汚しているような不都合なことは隠すだろうが、何処からやって来たのかという小さな嘘はつくのだろうか。思考を戻すためにふと思ったことは、なるほど辻褄は合う。
自分がラビッハウスから北上してきたことを考慮すると、少なくとも南からのルートを辿ってはいない。
では、彼女はどこを目的地にしているのか。気ままに渡り歩いているというのは考えたくはないが。


腕輪から地図の機能を表示させてざっと目を通す。

521 ◆KYq8z3jrYA:2015/11/25(水) 23:07:56 ID:574g.qOo0
どうやらここは海に囲われた三つの島が線路を挟んで出来ているようで、八×八の計六十四のブロックに切り分けられているらしい。
このブロックというのが放送での禁止エリアというものに六時間ごとに変わっていく。
分かりやすさという意味でも地図に複数記されているシンボルマークはいい目印になる。参加者と積極的に出会うのが目的である以上、そういった施設を回っていくことは効率的だ。
現在地、南東の市街地に立つ映画館もそう。おそらく、縫もそう思うことは想像に難くない。
彼女がやって来た経路は北西から南下として、これで随分と行動は絞り込める。
映画館の近くに存在するシンボルマークは四つ。万屋銀ちゃん、ゲームセンター、駅、ラビットハウス。


そして、遊月はラビットハウスにいる三人のことを話してしまった。


(……うん、ラビットハウスへ行こう)

喉に骨が引っかかったような違和感の正体はまだ晴れてはいないけれど、彼女たちの目前の危機と比べるなら粗末なことだ。
店内には挽いたばかりの豆の香りが漂っていて、そこは何処か異国に迷い込んだような雰囲気を醸し出しいるラビットハウスに到着したら、呑気にコーヒーを飲んでいる二人がいて、承太郎さんはそんな二人を眺めながら泡立つビールを煽っている。
そんな、ふわふわとした空気の女の子たちと街の不良みたいな人が並ぶ光景を想像して、思わず口元が笑ってしまう。


開いた扉から中を覗いて見れば、今の自分に必要な物があった。



◇◆◇


ーー『怪物』が映画館に辿り着いたのは放送から暫く経ってからだった。

正面から侵入し自分の家だと言わんばかりに遠慮一つなしにロビーを物色していく。万屋を荒らした時と同じ要領で、人が隠れられる隙間以外に目をつけるところは特にない。
その際に物を壊すなどということはしていないので、これでは異常に体格の大きいお客様なのだが
、表情なく淡々と動かれるだけでどこか不気味なものを漂わせていた。
カウンターの奥、チケットボックスの近くにある二つのゴミ箱、ストア商品棚の下、コンセッション周り、休憩室の扉をぶち破りはせず、ドアノブに手を掛け中を探る。
数分もすれば呆気なく捜索は終わりを迎えようとする。既に事の終わったトイレを後にして、まだ調べていない劇場へ怪物は足を向けた。


◇◆◇


映画館の一階、入り口のプレートには9と表記された劇場、白と黒と移り変わるスクリーンを背後に遊月は重たく息を漏いた。
普段当たり前のように身に付けている服がこんなにも暖かいなんて思いもよらず、安堵するように漏らしてしまった行動である。
下から二番目の列にある席に掛けてあった藍色のロングコートは、冷たくなった体から熱を戻す仕事をしてくれる。下半身も同時に隠してくれるというのもありがたい。
遊月はコートに包まりながら劇場に入室した時から気になっていたものに目を向けると、世話忙しく点滅していたスクリーンが視線に答えるように切り替わり明るくなり始めた。
どうやらタイミングよく上映が始まるところだったよう。映写室から発射されていた光はスクリーンに映像を映していく。

静まり返った劇場内は暗闇に覆われていき、始まりを告げるように流れ始めたのは早めのアップテンポで聞こえてきたピアノの音。
確かこれは、‘子犬のワルツ’だっただろうか。遊月はぼんやりと、もう間もなく変化があるだろうスクリーンを眺める。
頭、足、そして胴体の順で画面の端からゆっくりと現れたのは、もこもことした白色の毛並みが特徴的のアルパカ。
クリッとした丸い目は今時の女子学生には黄色い声を掛けられることだろうと、そう思わせるほどの真っ白で純粋な瞳。
続くように姿を出したのは、目元が焦げ茶色の毛で完全に隠れてしまっているアルパカ。
白いアルパカとは違う方面で喜ばれそうな、笑っているような表情はとてもチャーミング。
くるくるくる、と二頭のアルパカは画面の中で踊るように回り始める。健を叩く指が絡まっていしないかと想像してしまうほど、リズミカルなテンポはそのまま終曲を迎える。


二頭のアルパカは画面外へと帰っていき、スクリーンは再び沈黙を見せた。

522 ◆KYq8z3jrYA:2015/11/25(水) 23:10:38 ID:574g.qOo0
可愛いなと、遊月は素直に思ったがこんな場所で休んでいるわけにはいかないと立ち上がる。
あまりに突然なことに言葉を失ったが、見てみればアルパカがただ回っているだけの映像だ。
毒にも薬にもならず、他人の命が掛かっているこの状況で貴重な時間を消費することは出来ない。
劇場に入ったその時図ったようスクリーンに明かりが灯ったのは、何か意図的なものがあってのものなのか興味がないと言えば嘘になるが、一刻も早くラビットハウスへ向かいそこに来店している彼女たちの無事の確認と、危険が迫っているかもしれない警告を出すことが何よりの優先事項。


『21世紀、世界の麻雀競技人口は1億人の大台を突破ーー』


遊月が目を逸らしている間に、いつの間にかスクリーンには映像が流れていた。
高らかに牌を持つ手を掲げて、学生服を着た少女たちが卓を囲んでいる姿。
終始表情を崩さない少女もいれば、対面に華が咲いていると錯覚してしまいそうなほど心の底から楽しそうに打っている少女もいる。
次々に少女たちが画面に大きく映されていくのを尻目に、足の裏と床が接触する音を場内に響かせながら遊月は出口へと目指す。

縫への課題は山ほどある。遊月が短い時間で考えた彼女に対する対策は、接触をせず奉仕対象の方を逃すという何とも情けないものだが、これが精一杯の出来ることだ。
言葉をやり繰りして止まるような相手なら、あのような無様は晒していない。
身包みを剥がされたのは衣服だけではなく、正面から立ち向かうという心までも引き剥がされた。
遊月はリルグが宿るカードを手にしたセレクターと呼ばれる少女たちの一人であるが、肉体や精神が強いというわけではなく、力も知恵もその辺にいるただの女子中学生。
彼女が危険だから殺さないといけないとそんな物騒な思考にはたどり着かず、かと言って話の通じる相手ではないことも身を持って経験済みだ。
選択肢は限られ、至る道筋も限定されているが、だからこそ、この道は正解だと確信出来る。

酷い別れ方をしたシャロの存在も勿論忘れてはいない。しかし、どこにいるのかも分からない人を見つけるというのは中々に骨が折れるものだ。
島であるとはいえ、発達した街や広大な森は存在している。この映画館があるブロックもビル群こそ見えないものの、商業施設や住宅などが点々と並び立っている。
その一つ一つを調べていくのは砂漠で一粒の砂粒を探すに等しい行為。
この世界が閉ざされる方が早いのでは、そう考えているのは仲違いしたシャロに対して一方的に自分が悪いと分かった遊月が悲観的になっているのが原因、だと本人は気がついているのだが、少なくとも彼女には目先の危機は迫っていないとして、ラビットハウスへ向かう選択を取った。
もしかしたらシャロもラビットハウスへ戻って来ているかもしれないというのも、悩む遊月の行動を後押しをする。

はた、と遊月はまだ見えない友人のことを考えて気分が重くなる。
酷いことをしたのはシャロだけに留まらない。るう子にしたのは心を覗いてしまったシャロ以上に無責任で一方的な関係の断絶。
それはいけないことだと理解はしていても、納得が出来ず諦めて心の奥に押し込んでいるしかない感情は、花代に出会い奇跡を知ったその時に抑えきれなくなった。
セレクターバトルに負けた敗者の末路を知ってもなお、胸に燻った炎は消えてはいない。
そう、今もまだ、こんな絶望しかない世界でも、遊月は諦めてなどいない。
花代にセレクターバトルの一端を教えて貰った後も、他のセレクターの願いを奪い取っている。
願いの代償は、その願いの反転。そうと知っていて、分かっていて、戦い続けた。


(……ん?)


音が止んだ。
スクリーンには、もう麻雀を打つ少女たちの姿は映し出されていない。
ブラックアウト、遊月の心を表したように、色は消え音は死んでいる。
場内が暗いままということは、まだ映画は終わっていないのだろう。
そんな、大きな変化に気づかず、遊月はなにを疑問に思ったのか立ち止まりポカンとした顔つき。

(セレクターバトルに勝ち続ければ無限少女になりどんな願いでも叶えられる)

523 ◆KYq8z3jrYA:2015/11/25(水) 23:12:15 ID:574g.qOo0
それが本当であるかどうかを問うのは意味のないこと。
遊月が望む願いは、例え、世界が滅びようとも叶えられる願いではなく、許されるものではないのだから。
選択肢など初めから与えられていない。だから奇跡に頼った。

(バトルに三回負けたら、願いはマイナスになり、反転して叶えられる)

例えば、友達が欲しいと願い負ければ、友達を作ることは出来なくなる。
かつて遊月の友達だった少女の願いは反転して、現実となり少女は一人きりになった。
セレクターバトルで叶えられた願いを覆すことは、同じセレクターの願いであっても出来ない。
だから、死ぬまでその少女は一人。

(わたしの願いは香月を……)

恋なんて生易しいものではない。遊月は血の繋がった実の兄を狂おしいほどに愛している。
この気持ちを忘れたことなど一日足りともなく、ずっとずっと想い続けてきた。
自分では絶対に叶えられない願いを叶えてくれる奇跡があるならば、遊月はどんな代償を示されても手を伸ばす。

(願いの代償……白のカード……)

カチリと、遊月の頭の中で感じていた違和感が溶ける。

(同じなんだ、この殺し合いとセレクターバトルは)

針目縫との短い会話の中で得た情報に有益なものは一つある。
豹変した彼女に圧倒されたのが原因か、今の今まですっかりと頭の中から外れていた。
セレクターバトル。願いを叶えるため、無限少女を目指す少女たちのカードバトルゲーム。
無限少女となった少女は望む願いを叶えて、三回負けた少女の願いは反転されセレクターに関わった記憶も失われる、勝者と敗者がはっきりと分かれるカードゲーム。

細かい違いはあるけれど遊月が置かれた状況はセレクターバトルに近い。
殺し合いに勝ち残れたら願いを叶えて、負けたら命を落としカードに魂を封じられる。
誰かの願いを踏みつけ、勝ち続けられたら願いを叶えられるセレクターと同じ。

(本当に……?)

リルグはセレクターには欠かせないパートナー。
彼女たちがいなければセレクターバトルに参加出来ず、願いを叶える挑戦をすることも出来ない。
魂を囚われた少女。それこそがリルグとするならば。

(花代さんたちは、殺し合いに参加していた? そして、負けてしまった?)

遊月は頭を振る。飛躍しすぎた発想を払うためだ。
あと少しでなにか掴めそうな気がする。静まり返った劇場は陽が当たらないからか肌寒い。
自身が感じたなにかを掴むまで、あと数歩。


ーーコツン。

524 ◆KYq8z3jrYA:2015/11/25(水) 23:15:23 ID:574g.qOo0
手に掴もうとしたその間際、思考はリノリウムの床を踏みつける足音によって切られた。
一秒でも早くと急いでいた遊月が力押しで開いた、開けっ放しの重厚な扉。今や防音の役割を果たしていない扉の外から、思考を乱した足音が聞こえている。
遊月が初めに思ったことは縫が戻ってきたということ。しかし響く足音は、通快なステップを踏む小柄な彼女の音ではなく、まるで逆、重く一切乱れることのない。
男性だろうか、根拠もない考えは実りを見せず、足音の主に対してどう対応するか決めかねる……のは、一瞬だけ。

(……行こう、衣服を回収しただけで、この場は十分)

遊月の決断は早かった。劇場、入り口近くにまで来ていた体の方向を変える。万が一、足音の主が針目縫のような危険な『怪物』であったのなら、なにも出来ることなどないから。
危機に対して防衛する手段がないため、抗える相手というのは少なく限られている。
女子中学生というステータス。この小さな世界では弱者に位置付けられる遊月が、下手な好奇心を出したならすぐにあの世行きだ。自分の身を弁えている、とも言える。
何より、正体の見えない侵入者より、現在進行中で危険な彼女を相手にするべきだろう。


何かを探すよう静かに足音は続いている。どうやら遊月の読みは‘当たり’なのかもしれない。


ロビーの正面入り口に向かうと侵入者の視界に入ってしまうので無理として、であるならどうやって気づかれずに脱出をできるか。
映画館は二階建ての構造になっている。入り口からロビーへ入ると、右手に受付、左手にストアがあり、もう少し奥に進んだ右手にはポップコーンやチュロスを販売しているコンセッション、更に奥に進むと左手に二階へ続くエレベーター、右手がチケットの受け渡し、劇場の入り口。
劇場は二階のものを全て合わせると14部屋と多いが、1階のものだけだと7部屋になる。
二階に捜索の手を伸ばすか、トイレに行っている隙でも狙わない限り、正面から外へ出ることは出来ない。
劇場へ続く通路はT字に分かれており、番号が振り分けられたそれぞれの場所に繋がっている。
ここで問題になるのが遊月がいる劇場の扉が開いてしまっている。元に戻そうにも、閉める時の音が響く。
これが意味することは、見つかるまでのタイムリミットはそれほど長くはないということ。
侵入者がフロアの捜索を終えて次に探しに来るのは当然、劇場になる。

ーー鼓動が少し早まるが、それだけ。奇しくも針目縫との邂逅が糧となったのか、怯えるのではなく状況を打開するために頭を回す。

現在、遊月が置かれた状況は非情に辛い。外へ出るためにはロビー正面の入り口が必要で、そこを通るためには侵入者との接触をせざるを得なくなる。
他の出口を探そうにも劇場の前の通路にはトイレしかないことを確認しており、その通路の入り口であり出口はロビーへ繋がっている。
そんな、表情こそ平静を保っているものの時が経つごとに焦りを顔に出していく遊月の努力も虚しく、足音は明らかに此方に向かって来ている。
微かに震え始めた体はまるで袋小路に追い詰められたウサギのよう。
どうにかして頭を切り替えようとしたのか、足音から少しでも遠ざかろうとしたのか、衣擦れの音を響かせないようにそっと息を潜めて劇場の奥に進む。
鼓動は正反対にボルテージが上がっている。口を開けたら音となって飛び出してくるように思えて、遊月は口元を手で押さえるようにして歩みを続ける……とその先にあっさりと出口は見つかった。


視線の先には、強く光を発している誘導灯ーー非常口。


希望の光。


◇◆◇

525 ◆KYq8z3jrYA:2015/11/25(水) 23:18:27 ID:574g.qOo0
ーースクリーンの画面には煌びやかな衣装を纏ったアイドルが歌い踊っている。

そんな光景を『怪物』ジャック・ハンマーは、深く座席に座り眺めていた。

(……さて)

映画館でジャックが求める参加者は見つけられなかった。人がいた‘形跡’こそあるものの、それが‘いつ’であるのか判断がつかない。
トイレに散乱していたガラクタ然り、目の前で上映している映像然り。一階に一つだけ劇場のドアが開いていたが、これも‘いつ’であるのか彼には分からない。
その劇場には非常口が存在していたが、開いたのは場内を調べ終わった後。
まさか足音だけを聞いて、話もせず逃げる者がいるとはとても思えず、いたとしてもそんな腰抜けは
放っておいても勝手に死んでいくだろうと様々な考えはあったが、単に場内に隠れている方が可能性は高いとそちらを優先しただけである。
ともあれ、獲物を見つけられずその報酬を取れなかったジャックは流れていた映像に足を止め、人一人いない貸切の劇場で、少しだけ疲労した体を休めていた。

ーー否、限界を超えたジャック・ハンマーはこの世界が終わる三日間を休みなく戦い続けることなど、東から西へ太陽が昇るより当たり前のことであり、鶏が卵を産むことより簡単なこと。

では、貴重な時間を使ってまで進撃を止めた訳とはーー

(……勇次郎ヨ、なぜ死んだのだ)

目的であり目標であり、ジャックの人生そのものと言っても過言ではない、父、範馬勇次郎。
その『死』をこの身に深く刻みつけるため、ジャックは留まる選択を選んだ。

(地上最強ではなかったのか、貴様の強さはそんなものだったのか)

武に生きる者であるならば範馬勇次郎を知らない者はいない。
この世のどんな生物であろうとも、彼を相手にすれば最弱に成り下がる。
勝てないからではない。圧倒的な戦力差ゆえ、ボロ布のように扱われ自らの強さの核を砕かれてしまうからだ。
アリがティラノサウルスに挑んで負けたとして、アリの強さを証明など出来るであろうか。
踏み潰されて死ぬ、所詮、アリはアリ。根本から勝てる要素などない。
一方的な蹂躙は相手の心を折り、そして二度と立ち上がることのない体になる。
例え 、癌細胞であろうとも勇次郎に打ち勝つとは不可能であり、核爆弾を使おうとも殺すことは出来ない。
そんな、自他共に最強と謳われている彼が、この地で命を落とした。

(負けた……などと言うつもりはないだろうな、勇次郎)

範馬勇次郎が負けたらそれはもう範馬勇次郎ではない。範馬勇次郎をした‘なにか’だ。
地上最強から最強を取ったら、そこらにいる有象無象の生物と何一つ変わらないということ。
そこにジャックが求める範馬勇次郎はいない。最強である彼だからこそ目標とする意味がある。
ティラノサウルスだろうと負ければアリだ。ジャックはアリに微塵も興味はない。

(……戦えば、自ずと分かること)

暗雲に支配されつつあった心を、拳でもって破壊しヤシの実も�筋り取る歯で�筋み砕く。
ノイズが掛かったまま戦いに赴くなど、これから出会う全ての者に失礼な態度である。
ジャックは全力で彼らを潰し優勝を勝ち取る。勇次郎を倒すという最大の目標は潰えたものの、その心までも、その戦いの道までも失ったわけではない。
それとこれとは、別。勇次郎の問題は参加者である彼らに関係はない。

(…………)

僅か、一分にも満たない思考は、防音加工してある扉を貫くほど強烈な音によって途切れる。
足を上げ落とした、その動作だけで床を踏み鳴らしたジャックは、大きく凹んだ床に目もくれず立ち上がる。


決意も新たに、出撃の時は来た。


(刃牙、お前はどんな選択をする)


『怪物』は一歩を踏み出す。





【G-6/映画館/一日目・午前】
【ジャック・ハンマー@グラップラー刃牙】
[状態]:頭部にダメージ(小)、腹八分目、服が濡れている
[服装]:ラフ
[装備]:喧嘩部特化型二つ星極制服
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
     黒カード:刻印虫@Fate/Zeroが入った瓶(残4匹)
[思考・行動]
基本方針:優勝し、勇次郎を蘇生させて闘う。
   1:人が集まりそうな施設に出向き、出会った人間を殺害し、カードを奪う。
   2:機会があれば平和島 静雄とも再戦したい
[備考]
※参戦時期は北極熊を倒して最大トーナメントに向かった直後。
※喧嘩部特化型二つ星極制服は制限により燃費が悪化しています。
 戦闘になった場合補給無しだと数分が限度だと思われます。


◇◇◇

526 ◆KYq8z3jrYA:2015/11/25(水) 23:22:30 ID:574g.qOo0
『怪物』が来襲していた事などいざ知れず、非常口を通り映画館から外へ出た遊月は振り返る事もせず去っていく。

『化け物』の危険を知らせるため、ラビットハウスへと走る。




【G-6/市街地/一日目・午前】
【紅林遊月@selector infected WIXOSS】
[状態]:口元に縫い合わされた跡、決意
[服装]:藍色のロングコート@現地調達
[装備]:令呪(残り3画)@Fate/Zero、超硬化生命繊維の付け爪@キルラキル
[道具]:腕輪と白カード
[思考・行動]
基本方針:叶えたい願いはあるけれど、殺し合いはしたくない
1:シャロを探し、謝る。 今は、ラビットハウスに戻る。
2:るう子には会いたいけど、友達をやめたこともあるので分からない…。
3:蒼井晶、衛宮切嗣、折原臨也を警戒。
[備考]
※参戦時期は「selector infected WIXOSS」の8話、夢幻少女になる以前です

527 ◆KYq8z3jrYA:2015/11/25(水) 23:23:04 ID:574g.qOo0
投下終了します

528名無しさん:2015/11/28(土) 16:40:53 ID:bavq3zpo0
投下乙です
指摘もないようですし、本スレに投下して大丈夫だと思います

529 ◆DGGi/wycYo:2015/12/03(木) 23:36:39 ID:jNueIgOs0
仮投下します

530震えている胸で  ◆DGGi/wycYo:2015/12/03(木) 23:38:57 ID:jNueIgOs0
――放送が終わり、少しの間をおいてシャロさんが「よかった」と呟く。
きっと、この殺し合いに巻き込まれている友達の名前が誰も呼ばれなかった。
だからほっと一息をつくこと自体は、何も悪いことではありませんでした。

それは私だって同じ。
もし、少しでもタイミングがズレていたら。
もし、今自分たちのいる場所が禁止エリアになるということに気付いて神経が尖っていなければ。
理由はどうあれ、遊月の名前が呼ばれなかった、それだけで私も同じ言葉を口にしたと思います。

私は何も言わず黙っていて、シャロさんは違った。
ただ、それだけの違いでした。

でも、私やシャロさんは良くても。
良しとしない、いや、出来ないだけの理由が“彼女”にはありました。
その事実に、もっと早く気付くべきでした。


*  *  *


3時間後にはここ、F-3が禁止エリアになる。
ここから北のE-3まではさほど距離がないから早く移動した方がいい。
皆にそう伝えようとして顔をあげた小湊るう子が感じたのは、不穏な空気。

シャロはともかく、夏凜とアインハルト、特に後者の様子が何だかおかしい。
蹲っているその身体が僅かに震えている。

「あんた……」

夏凜が何か言おうとするが、もう遅い。
急にアインハルトが立ち上がったかと思うと、目にも止まらない速さで紗路の元へ踏み込む。

「っ!?」

そして、横顔にその拳を叩き込んだ。
魔法に慣れていない人間がパニッシャーを展開するには猶予が足りず、紗路の身体は宙を舞う。

「シャロさん!?」

慌てて数メートル程吹き飛ばされた紗路の元へ急ぐ。
動かないが、軽く気を失っているだけでまだ息はある。
直撃を受けた左頬はしばらく腫れるだろうが、幸い命に別状は無さそうだ。

振り返ると、アインハルトがすぐ後ろまで来ていた。
彼女の姿は先刻までの少女のそれではなく、成人女性のようになっている。
あまりの事態に足が竦み、腰が抜ける。
それでも、このままでは危険だと感じたるう子は、何とかして紗路を庇おうとする。

アインハルトの拳が再度放たれる。
思わず目を閉じる前に見えたのは、嘆くような表情と、飛び散る赤いもの。
ああ、人間の血というものは、こんなにも綺麗なのか――。


いや、違う。今のは血ではない。
るう子は、それに見覚えがあった。
色こそ違うが、神社で見たものと同じ……?

恐る恐る目を開けると、アインハルトを遮るようにして立つ、1人の少女の姿。

「夏凜さん!」

2本の刀を手に、三好夏凜がアインハルトを食い止めている。
その背中は震え、何も語らないが、ただ“逃げなさい”と告げられているような気がして。

「…分かりました」

るう子もただそれに従い、カードから出したスクーターでシャロと共に北へと走る。
その後を追おうと動きを見せるアインハルトだが、

「させないわよ」

彼女の意図を読み取った夏凜が阻止する。
邪魔をされたと判断したアインハルトは、黙って夏凜と向き合った。

「どういうつもり、アインハルト。
何で桐間紗路を殴ったの?」

答えることもなく彼女は次から次へと拳、蹴りを繰り出し、夏凜はそれら全てに対処しつつ、違和感に覚える。
今の彼女の攻撃は犬吠埼風に殺されかけていた時と違い、八つ当たりという表現が丁度いい。
どうにも、感情任せの攻撃としか思えないのだ。

531震えている胸で  ◆DGGi/wycYo:2015/12/03(木) 23:39:51 ID:jNueIgOs0
拳と刀がぶつかるたび、火花が散らされる。
やがて、左肩に紅いサツキの花弁が一枚灯る。
これが何を意味するかは、夏凜には容易に想像出来た。
以前だったら気にも留めなかったことだが、今はそうもいかない。

あの日、風はこう言った。
“満開の後遺症は治らない、過去に犠牲になった勇者がいた”と。
流石にこれ以上こんなことで戦闘を続けるのは良くないと判断し、夏凜は呟いた。

「…………高町ヴィヴィオ」

その名を聞いた途端、ぴたりと拳が、アインハルトの動きが停止する。
ビンゴ、やはり原因はそれだ。

「アンタは友達の名前が呼ばれて、シャロは呼ばれなかった。
それを知ってか知らずか、彼女は良かったと言い放った。
だから殴ったってところでしょう、でもね――」
「違うんです」

いつの間にか元の華奢な少女に戻ったアインハルトが、口を開く。

「何が違うっていうのよ」
「友達だとか親友だとか……ヴィヴィオさんは、そんな簡単な言葉で表せる人じゃ、ないんです」

答えるアインハルトの両目からは、大粒の涙が零れていて。
ほとんど表情を変えない彼女が、この時ばかりはうっすらと苦笑いしている。
夏凜の目には、そう映っていた。


*  *  *


ひとまずE-3、かつてアインハルトたちと出会った道路の脇まで出たるう子はスクーターを停止させた。

「ん……」
「シャロさん、気が付きましたか」

気を失っている少女を連れて運転するのは少々苦労したが、今のところ大事には至っていない。

「夏凜さんがアインハルトさんを説得してくれている筈です、きっと大丈夫ですよ」
「ねえ、るう子ちゃん。私、悪いこと、しちゃったのかしら」

左頬に手をあて、反省するように尋ねる。
紗路自身、何故殴られたのかくらいはうっすら理解していた。
まさかこんなことになるだなんて、夢にも思わなかったが。

「シャロさんは、悪くありませんよ」
「……だって」
「るうだって、遊月が死んでないって分かってほっとしました。
こんな、殺し合いなんてものに巻き込まれたら、誰だって同じだと思うんです」
「でも、私が余計なことを言ったせいで、あの2人は」
「シャロさんのせいじゃないですよ、気にしないでください。
でも……2人が戻ってきたら、ちゃんと謝りましょう。
大丈夫、きっと戻って来て……許してくれますよ。るうも一緒に、謝ります」

どんなにカードゲームの腕が上達したって、どんなにセレクターバトルで心が成長したからといって。
小湊るう子は、結局は非力な一般人の少女であるという事実は変わらない。
だから、彼女が桐間紗路にしてやれることは、それくらいしか無かった。

「…………ありがと」

もう1人の非力な少女は、申し訳なさそうに感謝の意を述べた。


【E-3/エリア南部、道路脇/朝】

【桐間紗路@ご注文はうさぎですか?】
 [状態]:疲労(小)、魔力消費(小)、左頬が軽く腫れている
 [服装]:普段着
 [装備]:パニッシャー
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(8/10)
     黒カード:不明支給品0〜1(確認済み)
 [思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。みんなと合流して、謝る
   0:アインハルトたちが来るのを待って、謝る
   1:研究所か放送局に向かう
   2:パニッシャーをもっと上手く扱えるように練習する?
 [備考]
  ※参戦時期は7話、リゼたちに自宅から出てくるところを見られた時点です。


【小湊るう子@selector infected WIXOSS】
[状態]:微熱(服薬済み) 、魔力消費(微?)体力消費(微)
[服装]:中学校の制服、チタン鉱製の腹巻
[装備]:黒のヘルメット着用
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(8/10)
    黒カード:黒のスクーター@現実、チタン鉱製の腹巻@キルラキル、風邪薬(2錠消費)@ご注文はうさぎですか?
         ノートパソコン(セットアップ中、バッテリー残量残りわずか)、宮永咲の不明支給品0〜2枚 (すべて確認済)
     宮永咲の魂カード
 [思考・行動]
基本方針: 誰かを犠牲にして願いを叶えたくない。繭の思惑が知りたい。
   0:アインハルトさんたちを待つ。
   1:遊月、浦添伊緒奈(ウリス?)、晶さんのことが気がかり。
   2:魂のカードを見つけたら回収する。出来れば解放もしたい。
   3:ノートパソコンのバッテリーを落ち着ける場所で充電したい。
   4:研究所に向かうか、東の市街地に向かうか。



✿  ✿  ✿

532震えている胸で  ◆DGGi/wycYo:2015/12/03(木) 23:41:02 ID:jNueIgOs0


「そういうのじゃないって、じゃあ何なのよ。
友達、血縁、或いは想い人……結局はそういった関係のどれかなんじゃないの?」

夏凜には、アインハルトの言葉の意味は分からない。
アインハルトもまた、理解してもらおうとは思っていない。

「いいんです、別に。私はまた彼女を守ることが出来なかった。
この殺し合いの中で、大切な人が死んでしまった。
夏凜さんもそうなんでしょう?」
「っ――」

急にその話に触れられ、返す言葉が見当たらない。
犬吠埼樹、今では大切な勇者部の一員が死んだという事実は、少なからず夏凜の心に衝撃を与えた。

正直、夏凜自身も無責任な発言をした(と思っている)紗路に小言くらいは言うつもりでいた。
それでもしなかったのは、突如アインハルトが暴れ出したから。
今ここで止めなければ、きっと戻れなくなる。
かつて暴走した風を止めようとした時の経験から、それは痛いほど分かっているつもりだった。

「今の私には、ヴィヴィオさんが全てでした。
あの人のお陰で、色んな人と出会えて、私の狭かった世界は変わりました。
ただ強さだけを求めて彷徨っていた私に、あの人たちが、ヴィヴィオさんが手を差し伸べてくれた」

一度言葉を区切り、アインハルトは叫んだ。

「でも! 死んでしまったら、何も意味はありません。
私はコロナさんやリオさん、ノーヴェさん、それになのはさんやフェイトさんたちに、何て言えばいいんですか!?
私はもう、あの人たちに顔向けなんて出来ない! もう、私には――」
「ふざけんじゃ………ないわよ!」

業を煮やした夏凜が、言葉と共に渾身の平手打ちを飛ばす。
あなたに何が分かるんだ、と視線を飛ばすアインハルトに、叫んだ。

「あんたに何があったかは知らない。
そりゃ、大切な人が死んだからヤケクソになりたくなる気持ちは分かるわよ。
でも言ったでしょう、あんたがどんなに悔やんだって、人に八つ当たりしたって、死んだ人は戻りはしないの!」

それに、と夏凜は続ける。

「コロナって言ったかしら、その子はまだ生きているんでしょう?
その子だってあんたと死んだ高町ヴィヴィオの友達なのよね?
だったら……次にすべきことくらい、あんた自身でも分かるでしょう!?」

話が終わり、アインハルトは「……ごめんなさい」と小さく声を放つ。
それが何に対しての“ごめんなさい”なのか、夏凜には分からない。
ただ、一応この場は収束したのだと理解し、変身を解いて額の汗を拭った。


✿  ✿  ✿


とりあえず紗路たちに合流して謝ろうという話になり、2人は北へと歩いて行く。
飛ぶなり何なりすれば早いのだろうが、ここがやがて禁止エリアになるという事実を思い出したお陰でそれどころでは無かった。

道中横に並んでいた2人だったが、突如夏凜が足を止めた。

「夏凜さん?」

アインハルトが様子を伺うが、夏凜はスマホの画面を凝視しながら驚愕の表情を見せているだけ。

「夏凜さん、あの、大丈夫ですか……?」
「嘘でしょ……ん、あ、大丈夫よ、何でもない」

さっとスマホを後ろに隠し、夏凜は取り繕ったように笑ってみせる。
そう、ですか……と呆気に取られたアインハルトの少し後ろを歩きながら、再びスマホの画面を見返す。

本当に通信機能が失われているのかと色々と弄っていた時に、偶然見つけたものだった。
使えないと思っていたチャット機能がいつの間にか使えるようになっている。
(もっとも勇者部のみが使えるアプリであるNARUKOではなく、至って普通のチャット機能だったのだが)

問題は画面に映し出されていた一つの文章。
……出来るなら、見間違いであって欲しかった。

533震えている胸で  ◆DGGi/wycYo:2015/12/03(木) 23:41:53 ID:jNueIgOs0
『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』

るう子たちと合流する前の彼女なら、これは誰かが悪意を持って流した嘘だと一蹴しただろう。
だが、今はるう子から得た1つの確かな情報がある。

“東郷美森は既に宮永咲という少女を殺害している”

「(まさか、東郷が……)」

考えたくない。
あの東郷が、同じ勇者部の仲間を殺しているだなんて。

それでも、考えざるを得ない。
樹の姉である風がこの文章を見て、何を思うか。
東郷の親友である友奈がこの文章を見て、何を思うか。

考えれば考えるほど、最悪の構図が目に浮かんで来る。
アインハルトにあんな説教をした手前、相談することも適わない。
それでも何とかして、気持ちの整理を付けないといけない。
だって、自分がきちんとしなければ、誰が彼女たちを一丸にまとめ上げられる。
他に適任なのはるう子だろうが、彼女に戦闘能力は一切ない以上危険だ。

「どこにいるのよ、友奈……」

アインハルトにも聞こえないように、弱弱しい助けを求める。
双刀の勇者は、まだ挫けるわけにはいかない。


*  *  *


拝啓、ヴィヴィオさん。

あなたを喪ったことは辛いですが、私は何とか大丈夫です。
コロナさんのことは、どうか心配しないでください。
もし、いつか、どこかで会えたなら。
その時は、また――――


【F-3/エリア北部/朝】

【三好夏凜@結城友奈は勇者である】
[状態]:健康、精神的疲労(小)、満開ゲージ:1
[服装]:普段通り
[装備]:にぼし(ひと袋)、夏凜のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
     黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:繭を倒して、元の世界に帰る。
   0:助けて、友奈……
   1:研究所、放送局どこに向かう……?
   2:東郷、風を止める。
   3:機会があればパニッシャーをどれだけ扱えるかテストしたい。
   4:紗路たちと合流する
[備考]
※参戦時期は9話終了時からです。
※夢限少女になれる条件を満たしたセレクターには、何らかの適性があるのではないかとの考えてを強めています。
※夏凛の勇者スマホは他の勇者スマホとの通信機能が全て使えなくなっています。
 ただし他の電話やパソコンなどの通信機器に関しては制限されていません。
※東郷美森が犬吠埼樹を殺したという情報(大嘘)を知りました。

【アインハルト・ストラトス@魔法少女リリカルなのはVivid】
[状態]:魔力消費(小)、歯が折れてぼろぼろ、鼻骨折 (処置済み)、精神的疲労(大)
[服装]:制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(20/20)、青カード(20/20)
    黒カード:0〜3枚(自分に支給されたカードは、アスティオンではない)
    高速移動できる支給品(詳細不明)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
   0:ヴィヴィオさん……。
   1:紗路たちと合流し、謝る。
   2:私が、するべきこと――。
   3:コロナを探し出す。
   4:余裕があれば池田華菜のカードを回収したい。
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後からです。

[備考2]
4人が共有している情報
※夏凛、アインハルト、シャロ、るう子の4人は互いに情報交換をしました。
※現所持品の大半をチェックしました。
※るう子、シャロ、アインハルトはパニッシャーを使用しました。
 効果の強弱は確認できる範囲では強い順にアインハルト、るう子、シャロです。
 バリアジャケットを装着可能ですが、余分に魔力及び体力を消耗します。

4人の推測
1:会場の土地には、神樹の力の代替となる何らかの『力』が働いている。
2:繭に色々な能力を与えた、『神』に匹敵する力を持った存在がいる。
3:参加者の肉体は繭達が用意した可能性があり、その場合腕輪は身体の一部であり解除は不可で 本当の肉体は繭がいる場所で隔離されている?
  もし現在の参加者達の身体が本来のものなら、幽体離脱など精神をコントロールできる力を用いることである程度対応可能ではと考えています。

534 ◆DGGi/wycYo:2015/12/03(木) 23:42:48 ID:jNueIgOs0
仮投下を終了します
指摘等あればお願いします

535名無しさん:2015/12/03(木) 23:57:26 ID:wU5NTj5Q0
投下乙です
アインハルトが苦笑いとは言え、笑っている描写に違和感が
漫画を読めば分かりますが、彼女にとって笑顔とはかなり大事な意味があるものなので

536 ◆DGGi/wycYo:2015/12/04(金) 00:00:04 ID:MpOz9id.0
>>535
あくまであれは夏凜視点でそう見えただけでアインハルト自身は表情を変えてない、のつもりで書きました
本投下の際には何かしら修正を加えます

537 ◆45MxoM2216:2015/12/07(月) 22:42:43 ID:aRXx8lUc0
仮投下します

538 ◆45MxoM2216:2015/12/07(月) 22:44:19 ID:aRXx8lUc0
平和島静雄は、暴力が嫌いである




「臨也じゃ…ない!?」
平和島静雄が学生の割には老け顔の大男蟇郡苛と合流してしばらく
互いに情報交換をするうち、静雄にとっては寝耳に水な事実が判明した

「ああ、あの折原という男、越谷小鞠が殺された時間帯はずっとラビットハウスという喫茶店にいた。この俺自身も一緒にいたのだから間違いない。
さらに言えばこの殺しあいが始まった直後、折原は先ほど話した空条承太郎と一条蛍の二人と合流している。
普通の少女である一条はともかく、空条は中々の使い手のようであった。
折原も中々小賢しいようだが、空条に隠れて誰かを殺せるとは思えんぞ」

言われてみれば不自然な点は多くあった
詳しく思い出そうとすると暴れたくなってしまうので朧気だが、あの妙な館内放送では臨也の声はしなかった
あの耳障りな声がしなかったおかげ…いや、せいでキレる寸前でありながら小鞠を巻き添えにしないために隠して行く程度の判断力は残ったのだ

考えてみれば、臨也にはわざわざ自分の声を誤魔化す必要はない
あの声で「シズちゃん」なんて呼ばれたら、それだけで静雄がキレると知っているのだから、それをしない理由もない

さらに、臨也はああ見えて直接凶器を持って静雄以外の誰かを殺そうとしたことはなかった

女の子を殴る趣味はないと言って笑いながら女の子の携帯電話を踏みつけるような人間だが…
普段からナイフを隠し持っていて初めて会った時も(静雄の方から殴りかかったとはいえ)斬りかかってくるような人間だが…





折原臨也は、人間を直接殺すような人間ではない



「じゃあ…誰なんだよ…!クソが…!」

539 ◆45MxoM2216:2015/12/07(月) 22:47:01 ID:aRXx8lUc0





蟇郡苛は、平和島静雄を評価していた
誰かを失った悲しみを背負う者同士、一種のシンパシーがあったのかもしれない
先ほどの一瞬の衝突の際、生身でありながら極制服着用者を凌駕するような一撃を放ってきたこともあり、これから共に戦う者として頼りになるとも思っていた
短気で熱くなりやすいようだが、直情型なのは自分も同じだ

だからだろうか…
彼は余計なことを言ってしまった


「うむ、あのキャスターという外道を討伐した後、衛宮殿に話を聞こう」

「衛宮?」

「うむ、ゲームセンターの様子を確認しに行ったのは彼だからな。
俺が平和島を越谷小鞠殺しの下手人だと思ったのも――」
そして、蒲郡は説明してしまった

ラビットハウスで香風智乃が腕輪探知機を使ったこと
その結果、ラビットハウスのあるG―7エリアに蒲郡苛と香風智乃含め八人もの参加者がいたこと
その後折原臨也を含む四人組と合流したこと
その四人組の中の衛宮切嗣が残る二人――平和島静雄と、越谷小鞠を探しに行ったこと
衛宮切嗣が越谷小鞠の死体を発見し、平和島静雄が犯人の可能性が高いと話したこと






バキ、と何かが折れる音がした
蒲郡が驚いて横を見ると、なんと平和島静雄が車の縁を手で砕いていた

「何をする!」
車を止めて蒲郡は思わず叫ぶ

「衛宮…衛宮切嗣…」
「おい、平和島?」
ただならぬ雰囲気で呟く平和島静雄に、蟇郡は困惑する

540 ◆45MxoM2216:2015/12/07(月) 22:51:02 ID:aRXx8lUc0


平和島静雄は、決して頭の良い人間ではない
小学生の頃、同級生である岸谷新羅が言っていた「一世代での進化」という推察も、未だによく理解できていない(これに関しては静雄が馬鹿というよりは新羅が天才すぎただけなのだが)
だが、物を一切考えられないような能無しでもない
あの時G―7エリアにいた八人
空条承太郎
一条蛍
折原臨也
香風智乃
蟇郡苛
衛宮切嗣
越谷小鞠
そして自分―――平和島静雄

そのうち、自分と小鞠を除いたら六人
その六人のうち、折原臨也を含む五人がラビットハウスにて待機
越谷小鞠を殺せるのは…唯一単独行動をとっていた、衛宮切嗣だけだということが分からないような能無しではない





「ええええぇぇぇぇぇぇえ゛みいいいいいいぃぃぃぃい゛や゛あああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛!!!!」




喉も裂けよと言わんばかりの絶叫をあげる平和島静雄
車から素早く降りたと思ったら、なんと車を持ち上げだしたではないか!

541 ◆45MxoM2216:2015/12/07(月) 22:52:06 ID:aRXx8lUc0






平和島静雄は、暴力が嫌いである


「落ち着けぇ!!!確かに状況証拠的には衛宮殿が怪しいかもしれんが、彼はこの便利な乗り物を快く俺に譲ってくれた!とても悪人には見えん!」
持ち上げられた車から飛び降りて着地した蒲郡は、持ち前の大声で一喝した後に静雄に説得を試みる
蟇郡にとって衛宮切嗣という男は、物欲しげな視線を送ってきた自分に対して快くコシュタ=バワーを譲ってくれた上に、気遣う言葉さえかけてくれた恩人だ

さらに言えば蟇郡はこの殺し合いに巻き込まれてから、パラレルワールドといった「なんだかよく分からない」現象に遭遇した
そんな「なんだかよく分からない」中で、状況証拠だけで恩人を殺人者だと決めつけるほど短気ではなかった


だが…

「あああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
平和島静雄の暴力には、理屈も理論も通用しない

激情を抑えきれない静雄は、とうとう車を空高く放り投げてしまった
数瞬の後、大きな音を立てて落下した車は、いつかの壊惨総戦挙(かいさんそうせんきょ)でサバイバル自動車部に襲撃された時のようにボロボロになってしまった
そしてなんと、静雄は南東…ラビットハウスの方面へ行こうとしているではないか!

(平和島静雄という男…見誤ったか!)
短気なところもあるが、信用できる男だと思っていた
しかし、あまりにも短気すぎてすぐに我を忘れるほどの怒りを見せる男だったようだ
完全に回りが見えなくなっているようで、あれではもしラビットハウスに行ったら衛宮だけでなく周りの人間も巻き込んで暴れるだろうことは容易に想像できた

これでは、折原臨也の言った『誰であろうと喜び勇んで暴力を振るう悪いやつ』というのも、ある意味的を射ている
本人に悪気はなくても、結果的にそうなってしまうのだ

「行かせんぞ!!」
蟇郡は静雄の前に立ちふさがる

「三ツ星極制服、最終形態…!」
(だが!!そんな人間だからこそ、風紀部委員長として手綱を握らなければならん!)
蟇郡の身体を光が包む
なんか全裸になってるようにも見えるが、光で局部は隠れているのでよしとしよう

542 ◆45MxoM2216:2015/12/07(月) 22:54:10 ID:aRXx8lUc0


「縛の装・我心開放!!極戦装束!!!」
そして、蟇郡は『変身』した
そこに先ほどまでの制服の面影はない
顔には防具のような戒めがあり、腹部は大きく開いている
さらに両腕が金属質の布で覆われており、右腕には炎を纏っている

「さぁ、気が済むまで俺を殴れ!」
蟇郡は静雄の激情を受け止めることにした
言葉での説得が通じないなら、肉体言語で臨むまでだ

「邪魔だああああああ!!」
完全に我を失っている静雄は、全力で腕を振りかぶる

(我心開放に変身した以上、多少殴られようがかまわん!俺の胸を貸してやる!)
自らの防御能力に絶対の自信を持つ蟇郡は、静雄が落ち着くまで彼の攻撃を受けきることにした

「こい!平和島静雄!」
平和島静雄の拳が縛りの装の腕に当たり…










「ああ〜いいぞぉ、もっとだ、もっと責めろ、俺を責めてみろ〜!」
蟇郡の甘い声が周囲に響き渡った…









「お前、変態だったのか…」
余りにも予想外の出来事に怒りが霧散した静雄は、複雑そうに呟く

平和島静雄は、暴力が嫌いである
折原臨也以外には好んで暴力を振るわない彼は、一度激情が収まると、とりあえず話を聞く気にはなった

「変態ではない、変身だ!」
『変態』などという言いがかりをつけられた蟇郡は『変身』を解いて断固抗議するが、とにかく今は平和島が冷静なうちに話をするべきだと判断した

「先ほどの情報交換でも話したように、この島にはなんだかよく分からないものが溢れている
状況証拠だけでは犯人と断定はできん!なにより今は、あのキャスターという外道を成敗するべきであろう!!」

キャスター討伐が本来の目的だった以上、静雄もこれには反論できなかった

543 ◆45MxoM2216:2015/12/07(月) 22:55:15 ID:aRXx8lUc0


「しかし!お前が彼を疑うのもまた道理!
キャスター討伐を終えた後、改めてもう一度彼に話を聞く!
それで構わんな!!?」

「…ああ」
渋々といったように返事をする静雄

完全に納得したわけではないようだが、ひとまず落ち着かせることができたようである

「さぁ、時間を浪費してしまった
乗れ!!放送局へ急ぐぞ!!」

示される通りに助手席へ乗り込めば、蟇郡の運転でボロボロのオープンカーは走り始める
かくして、今度こそ衝突は必至であった筈の二人は一人の甘い嬌声によって再び道を同じくした

静雄は、老け顔の変態の大男と二人きりたぁうすら寒いな、と内心で愚痴をこぼした
それから、本当ならばこの車の後部座席に、小さくて怖がりなメイド服の少女が一人乗るかもしれなかったと考えて
犠牲者は俺だけで充分かもな、と遠くの空を見た

【E-4 T字路/朝】


【蟇郡苛@キルラキル】
[状態]:健康、顔に傷(処置済み、軽度)、左顔面に少しの腫れ
[服装]:三ツ星極制服 縛の装・我心開放
[装備]:コシュタ・バワー@デュラララ!!(蟇郡苛の車の形)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
   黒カード:三ツ星極制服 縛の装・我心開放@キルラキル
[思考・行動]
基本方針:主催打倒。
   0:放送局に行き、外道を討ち、満艦飾を弔う。
   1:平和島静雄の手綱を握る
2:キャスター討伐後、衛宮切嗣から話を聞く
   3:皐月様、纏との合流を目指す。優先順位は皐月様>纏。
   4:針目縫には最大限警戒。

[備考]
※参戦時期は23話終了後からです
※主催者(繭)は異世界を移動する力があると考えています。
※折原臨也、風見雄二、天々座理世から知り合いについて聞きました。


【平和島静雄@デュラララ!!】
[状態]:折原臨也およびテレビの男(キャスター)への強い怒り 衛宮切嗣への不信感
[服装]:バーテン服、グラサン
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:ボゼの仮面@咲-Saki- 全国編
         不明支給品0〜1(本人確認済み)
[思考・行動]
基本方針:あの女(繭)を殺す
  0:テレビの男(キャスター)をブチのめす。そして臨也を殺す
  1:蟇郡と放送局を目指す
  2:犯人と確認できたら衛宮も殺す
  3:こいつ(蟇郡)、変態だったのか…

[周辺への影響]:
E-4エリアのT字路にて、平和島静雄がコシュタ・バワー@デュラララ!!を空高く放り投げました
近隣エリアにいれば、コシュタ・バワーを目撃できたかもしれません

544 ◆45MxoM2216:2015/12/07(月) 22:58:23 ID:aRXx8lUc0
仮投下終了です
結構な距離を移動しましたが、車だったので一応時間は朝にしました
その辺りも含め、何かご意見ありましたら指摘お願いします

タイトルはちょっと迷ったんですが、「変態ではない!変身だ!」を考えています

545名無しさん:2015/12/08(火) 21:08:39 ID:utatR3Ck0
遅くなりましたが仮投下乙です
一つだけ気になったのは、コシュタ・バワーは形を自由に事が出来るのにボロボロのままなのは少しおかしいのではないかという点ですね
そこ以外には特に問題無いと思います

546名無しさん:2015/12/08(火) 21:11:06 ID:utatR3Ck0
重要なところが抜けてました
形を自由に変える事が出来るのに、です

547 ◆45MxoM2216:2015/12/08(火) 21:50:01 ID:nV/ZZI6.0
>>545
ご指摘ありがとうございます
本投下の際には修正しておきます

548One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:08:01 ID:reOR3keM0
─────どうして、あんなことを言っちゃったんだろう。

零してしまった言葉が、どうして亀裂を生んだのか。
その理由が分からないほど、彼女は馬鹿ではない。
周囲のことを全く考えず、自分勝手な言動を漏らして。
そのせいで、要らぬ亀裂を、要らぬ対立を招いてしまった。

思えば、遊月の時もそうだった。
自分の都合で酷い事を言って、相手に嫌な思いをさせてしまう。
ここに来てから、そんなことばっかりだった。
どうしてだろう。

だって私は、取り繕う事には慣れていた筈だったじゃない。

そうだ。
あの木組みの町で、自分は皆に嘘を吐きながら、その嘘を頼りにして皆と繋がっていた。
お嬢様である桐間紗路。
それが求められていたような気がしたから、頑張って期待に応えようとしていた。
そうすれば、ココアもチノも、リゼ先輩も、一緒にいてくれるから。

………ああ、でも。

嘘がバレたから、どうせもう、一緒には居られないのかな。

そんな事を、桐間紗路は考えていた。






放送が終わってから、大体数十分が経過した頃。
小湊るう子と桐間紗路は、未だに道路脇近辺にいた。

「………遅い、ですね」

そう。
三好夏凜、そしてアインハルト・ストラトス。
先程まで同行していた二人が、何時になってもやって来なかったのだ。
放送直後に起こった、小さないざこざ。
それが原因となって、一旦彼女達は二人ずつになっていた。
しかし、合流しない事には、先の和解も出来なければ
だからこそ、彼女達は此処で合流する為に待っていたのだが。
そして、その合流が出来ない事が、何よりの問題になっていた。
勿論、彼女達は待つだけだったのでは無い。
一度は先の場所に戻り、その周辺を探したりもしたが、結果は芳しく無く。
彼女達と逸れてしまった、という事実だけが、得られた唯一の情報だった。

「やっぱり、私達が東に行っちゃったと思ってるのかな……?」

そのシャロの呟きに、るう子は頷く。
恐らく、考えられるのはそれくらいだろう。
アインハルトはかなり取り乱しているようだったが、あの様子なら夏凜は禁止エリアについての文言は耳に入っているだろう。
そして、非力である二人だけで、危険人物も集まりやすいと思われる放送局に向かう可能性は小さいというのは、向こうも理解している筈。
そうなれば、残るは東。
市街地か、或いは研究所の方角に向かっただろう、と推測するのはそう難しくない。

「一回、東に向かった方が良さそうですね」

となれば、自然と結論はそうなる。
出しっ放しにしていたスクーターに跨るが、シャロは何やらまだ考えているようだった。

「どうしたんですか?」
「あー……、定晴は言う事聞くか分からないから、どうしようかなって」

るう子の質問にそう答えつつ、溜息を吐くシャロ。
先程までなら、四人で三つの乗り物に乗れた為に、万が一暴走しても無理矢理抑え込む事が出来ただろう。
だが、それが一つ減ってしまった今、るう子のスクーターだけでそれをするに少々荷が重いだろう。

「それじゃあ、二人乗りで行きましょうか?」

「るう子がいいならそれで良いけど………もう体調は大丈夫なの?」
「ええ、大分回復したのでいけそうです」

心配の言葉をかけられつつも、るう子は気丈な返事を返す。
事実、風邪薬の服用と休息によって、彼女の体調はほぼ平時と変わらないと言ってもいい程度に回復していた。
スクーターの運転も無理ではないだろうし、

「よし、行きましょう!」

549One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:10:49 ID:reOR3keM0
肉を叩く音。
上がる嬌声。

「………………えっ」
「………………えっ」

再び、肉を叩く音。
再び、上がる嬌声。

「………………えっ」
「………………えっ」

三度、肉を叩く音。
三度、上がる嬌声。

「「………………………………………えっ、えっ」」

そこで繰り広げられていた光景は、有り体に言えば異常だった。
バーテン服の男が、轟音と共に拳を振るえば。
半裸のようにも見える男が、甘い声を出す。
文字通り、『打てば響く』というものだ。
響いているのは、こう、聞いていると不安になるものなのだが。

「………ええっと、どうしましょう」

呟いた言葉はしかし、シャロはまだしも発言したるう子自身さえしっかりと認識していたか怪しい。

元は、進んでいた途中に空飛ぶ車を発見した事だった。
どう見てもまともな人間が出来る事ではないそれを見て、しかし彼女達も引くわけにはいかなかった。
というのも、放り投げられたのが恐らくE-4の交差点であるからだ。
ここから市街地に行くなら恐らく確実に通る場所だし、そうで無くともそこに夏凜やアインハルトがいる可能性が無い訳では無い。
それに、この付近にいるなら、危険人物としてやがて出会う可能性がある相手の姿を確認しておくのは悪手ではないだろう。
最悪の事態を想定し、いつでもスクーターが発進出来るようにした上で、シャロもパニッシャーを出す準備を整え。
道路から外れたところでそれを目に入れて─────そこから、今に至った。

シャロもるう子も、年頃の乙女だ。
一般人には当て嵌まらない性癖というものの存在は知っている。
特にるう子は、実際に弟に好意を向ける少女を知っている。
それらを偏見し差別する程、彼女達の価値観は固定されてはいない。
けれど。
男同士で、しかも道のど真ん中で、ここまでの有様を見せつけられれば、動けなくなるのも当然というものだろう。

永遠にも感じられるその時間が終わり、二人の男が何やら会話を始め。
そこで、漸く少女達も正気を取り戻した。

「る、るう子ちゃん!早く逃げるわよ!」
「は、─────」

はい、と答えようとして、るう子の動きが止まる。
その目線の先を追って、シャロもまた動きが止まる。

いつの間にか服を着て、車に乗り込んでいた「打たれる側」の男が。
しっかりと、こちらを見ていた。
勘違いか?
いや、ここはかなり開けた場所だ。背後に何かある訳でもなければ、相手と自分の間に何かがある訳でも無い。

そして。
相手がその右腕を上げた時、二人はしっかりと認識した。

あの男は、確かに私達二人を見ている、と。

「………い、いやあああああああああっっっっ!!!??」

アクセルをフルスロットル。
凄まじい唸りと共に、バイクが猛進を始める、
二人の女子は、全力で「変態と危険人物のコンビ」から逃走を始めた。

550One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:11:35 ID:reOR3keM0
「ちょ、ぅお、落ち、落ち、落ち!」

振り落とされそうになるシャロが慌ててパニッシャーを使い、しっかりと姿勢を固定する。
感じた事のない時速80キロオーバーの風圧に圧倒されながらも、逃げる事に全神経を費やす少女二人の脳内に「速度を下げる」という選択肢はない。

尤も、殺し合いという環境の中ではなかったとしても。
聞いているだけでその勢いがわかる轟音を響かせる程の拳を持つ相手を見ても野次馬に行くような事はしないし、道路のど真ん中で嬌声を上げる男はそもそもお近づきになりたい人間はそもそも稀だろう。
だから、その相手がこの殺し合い屈指の実力を誇り、且つ彼女たちと同じく主催の打倒を目指しているという事実をそこに見出すのは不可能だっただろう。

かくして。
暫く道なりに飛ばした彼女達が見たのは、旭丘分校へと続く坂。
問答無用とばかりに駆け上がり、その校庭の中心で一度停止する。

「………ま、撒いた………?」
「多分………」

その一言で、はあ、と二人が息を吐く。
何だったんだ。
二人の心中を占めるその疑問を、しかし二人共暗黙の内に思考の奥底に葬った。
それこそ、年頃の乙女と言うべき二人に手に負えるような問題ではないだろう、と感じ取ったからだ。
ともかく校舎の中に入りながら、空気を変える為にるう子が提案する。

「………と、とりあえず。
少しだけ休憩したら、また南下しましょう。
南からぐるっと回り込めば市街地に出れます。そこからなら、ラビットハウスが近いでしょう」

地図を見、パソコンを立ち上げながらそう指摘し、選択したルートを提示してみる。
途中までは同意していたシャロだったが、ラビットハウスという単語には少し肩を震わせ。
どうでしょうか、と目を向けたるう子に、彼女は心ここに在らず、といった雰囲気で言葉を零す。

「でも、夏凜とアインハルトには……」
「夏凜さんがスマホを持ってますから、多分伝わると思います」
「そ、そうね」

挙動不審。
明らかに、と言う程ではないが、かと言って隠し通しているとも言えない。

─────やっぱり、まだラビットハウスには……

彼女の事情は聞いている。
それに、もしかしたら先程彼女と口論になったという遊月が向かっている可能性もあるのだ。
どうしても足が遠のいてしまう、というものだって、当然あるだろう。
そんな風に思いながらも、るう子はチャットに文面を打ち込む。

『義輝と覇王へ。フルール・ド・ラパンとタマはティッピーの小屋へ』

無論、これは暗号だ。
フルール・ド・ラパンとはシャロ、タマがるう子、そしてティッピーの小屋がラビットハウスとなっている。
そして、義輝が夏凜、覇王がアインハルト。
各々の知り合いにも伝わる暗号という事で、それぞれが自分を指した言葉を代名詞としたのだ。
地名は殆ど暗号化出来なかった為に、ラビットハウスか映画館、その他いくつかくらいしか婉曲的に伝える事が出来る場所は無いが、まあ上々だろう。
このチャットにおける唯一の問題点は、東郷や風、晶、そしてウリスなど、「暗号が通じ、かつゲームに乗っているかその可能性がある参加者」だが、かといってそれらを恐れて使わないのは本末転倒にも程がある。
少なくとも、とにかく合流を急ぎたい今、使わない手は無いだろう。
そうして、彼女はその文面を送信した。

551One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:12:31 ID:reOR3keM0

「る、るう子、ああああれ!」

その直後、分校に声が響き渡る。
シャロの緊迫した叫び声に驚くと、窓の外を見ていたらしいシャロが半泣きになって訴えていた。

「あ、あああああいつらが来ちゃったわよ!?」

その一言で、るう子の表情も凍りつく。
この状況であいつらが誰を指すのかなど、今更言うまでもない。
先程のあの二人が、また追ってきたという事だ。
善人か悪人かはともかくとしても、やはり現状接するにはこちらに決め手が少ない。
辛うじて自衛に使える武器といえばパニッシャー程度だが、激しく動揺しているこの二人では使いこなせるかどうかは怪しい。
兎に角、現状をどうにかして打開しなければ。

「今すぐ出たら、流石にエンジン音で気付かれるわよね…」
「裏口までこっそり抜け出して、裏山に逃げ込みましょう」

恐らくは、それが一番の手だ。
顔を揃えて頷くと、息を潜めて静かに歩き出す。

「…………れは……………………だな………」
「……こと………………がる…………………」

僅かに聞こえてくる声から方向が分かるのが幸いとばかりに、二人はその反対方向へ歩を進める。
と。

「「────────ッッッッ!!?」」

木造校舎ならではの、重さに軋む床の音。
しっかりとした現代の学校に籍を置く二人が全く警戒していなかったそれが、想像以上の音を響かせる。
こうなっては、もう形振り構ってはいられない。
偶然開いていた窓から全力で飛び出し、そのまま校舎裏へ走る。
幸いすぐに追ってくるような影は見えないが、そういつまでも振り返っていられる訳でも無く。
全力で逃げる二人が、漸く見つけたものは─────

「………!こ、ここを使いましょう!」

校舎の裏山から伸びる、小さな小道。
舗装してあるという訳では無いが、余計な草は殆ど生えていない。
僅かな起伏に注意すれば、スクーターでも余裕で飛ばせるような道。

200メートル程で小さな小屋がある突き当たりに出て、そこから南方向へと続きそうな方へと曲がり更に進む。
やがて地面は獣道のようなそれへと変わっていったものの、分校からは結構な距離を置けた。

「……ふう、ひとまず安心ですね」

背後から迫る気配も無い事を確認し、再び落ち着きを取り戻す二人。
あの交差点の邂逅から、気付けばもうそこそこの時間が過ぎている。

「さっきみたいな速度だとキツイし、普通の速度で行きましょうか」
「そうですね、あれはもう勘弁です…」

思い出したように陰鬱な顔を揃えつつも、スクーターを発進させる。
宣言通り、先程よりは速度を落とした発進。
しかし、その数刻後、彼女達は再び自分の足で歩く事になっていた。

「やっぱりちょっとガタガタですね……どうします?」
「うーん……さっさとあの二人から離れたいけど、こうも地面がガタガタしてるとねえ。
定晴を出すって手もあるけど、どうしたものかしら」

ひとまずスクーターから降りて、歩きながら相談を始める。
道の様子─────決して運転出来ない訳ではないが、それなりのオフロードだ。
道幅も少々狭く、西側は崖とまでは言わないがそれなりに傾斜がある。もしスクーターの速度で落ちれば、ちょっとした怪我で済むかどうかは怪しいかもしれない。
どうしたものか。
ひとまずもう一度スクーターに跨り、るう子は何ともなしに空を見上げ─────その動きが、止まる。

552One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:14:10 ID:reOR3keM0

あの光は見間違いだろうか?
いや、あんな光を二度も、真紅の色違いも含めれば三度も見ておいて、今更こうも似た物を見続けるものか。

あの姿は見間違いだろうか?
いや、本来現実に有り得そうもないあんな浮世離れした姿を、ここで幻視する事に何の意味があるだろうか。

ならば、本来全く別の存在である筈の二つが一つとなっているのは、一体どういうことなのだろうか。

「………ウリス!?いや、東郷美森さん………!?」

だが、遅過ぎた。
るう子が気付き、シャロがその叫びに気付いてバイクに飛び乗って。
その時には既に、その手には銃があり。

疑問の叫びへの返答は、放たれた弾丸だった。

シャロが跨った直後に、スクーターのエンジンをフルスロットルにして─────しかし、間に合わない。
目の前の地面が爆ぜた音と、衝撃と共に襲ってきた浮遊感が、ほぼ同時に二人の少女を襲った。

「─────ッ!!」
「か、はっ」

声にならない悲鳴と、吐息にならない呼吸が、不協和音となって響いたかと思えば。
まるで鞠のように、るう子とシャロは地面へと叩きつけられた。
辛うじて二人とも崖下へと落下する事は避けられたが、それでもその身を動かす事が出来ない程の痛みが全身を覆っている。

「気分は………最悪、かしらね」

近付いてきた少女の声が、るう子の耳に入る。
激痛の中で顔を上げれば、そこにあるのは二重の意味で現実には有り得ない姿。

「ウリス……その、格好……」
「あら、もしかして貴女もこの格好を……『勇者』とやらを知っているのかしら?」

青白い装束を身に纏ったルリグ─────『ウリス』は、そう言って妖しくその表情を歪ませた。

「本当ならもっと話したい事もあるのだけれど、こっちも色々事情があるの」

その手に握る青白の銃を、るう子の眉間へと向けながら。





「さようなら、小湊るう子」

553One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:15:07 ID:reOR3keM0
数刻前の事。
辺りを望遠スコープで見渡しながら、ウリスは思考を重ねていた。

先程から、押している車椅子に乗った東郷美森との会話は無い。
無論、それだけなら特に何を思う事もない。
アナティ城から先程の狙撃まで、彼女との会話はほぼ無かったに等しいのだから。
仮初めの同盟関係を結んではいるが、その実互いに互いを利用する腹積もりなのは明確だ。
だが、会話が無いという事と、会話している余裕そのものが無いという事は大きな違いを持つ。
此処が獲物を喰い合うデスゲームの中であるから、尚更だ。

そして、この行動が敵からの逃避行である以上。
本来なら、今持っている全ての『荷物』を捨て去り、少しでもその身を軽くするべきなのだろう。
特に、『目立つ様な形状』をしている上に、『行動を大きく制限する』ようなものがあったら、そんなものは邪魔以外の何物でもない。

つまり、東郷美森という存在そのものが。
現状、ウリスにとっては最大の妨げになっていると言って差し支えないのだ。

だが、自分は今もこうやって車椅子を押している。

無論、どうしようもない様な時は遠慮無く放り出すだろう。
だが、そうでなければ捨てない程には、東郷美森には利用価値がある─────いや、利用しなければいけない理由がある。

(隠し事─────一体何を、腹の中に抱えているんでしょうね?)

自分が何かを企んでいる事は、恐らく向こうも承知の上だろう。
現に自分も、既に彼女に対する全くのデマを島中に撒き散らしているのだから。
そもそもこのバトルロワイアルの中で、ゲームに乗っている人間同士の同盟に、何の策謀も巡らせない方が間違っているだろう。
東郷美森は、そんな事をする馬鹿な人種には到底見えない。

(だったら、話さざるを得ない状況にさせる)

これは、恐らく「貸し」になる。
見捨てる事が出来るのに、見捨てずに共に逃げたという事実。
その代償として、知っている事を語らせる。

無論、向こうが嘘を吐く事も出来る。
適当な事を言って誤魔化す事も、或いは都合の悪い真実だけを隠す事も。
だが、そこから下手な亀裂が出来れば、そこで彼女は終わりだ。
この関係は「同盟」から「隷属」へと変わり、手札の無い彼女に打つ手は無くなる。
勿論彼女もそれを弁えているだろうから、何か策を打ってくる可能性はあるが。
─────尤も、どれもこれも今自分達に迫っているピンチを抜け出せたらの話だ。

と。
そこで、ウリスは発見する。

「─────朗報よ」

スコープの中に捉えた、スクーターで走る見覚えのある少女。
それを見たウリスは、小さくほくそ笑んだ。

554One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:17:59 ID:reOR3keM0





全身の鈍痛と、青白い幻想じみた少女が持つ銃。
それが、全てを告げていた。

(この、まま、じゃ)

死ぬ。
そんな現実を突き付けられて、しかし紗路の思考は落ち着いていた。

桐間紗路は、確かに一般人だった。
けれど、少しだけ。
少しだけ、一般人より「死」について学んだ。
だから、死がどのようなものか、ほんの少しだけ理解を深めていた。
それが彼女自身の失言のお陰だというのは、皮肉な話だが。
先程の、一言。
アインハルトと夏凜の友人の死を、結果的に自分は侵してしまった。

だから、考えた。
彼女なりに、死というモノについて。

そのお陰で彼女は、それを直前にして尚、ほんの少しだけ冷静さを失わずにいられた。

どうしようもない、破滅。
それが、死だ。

仮に、自分の言った何気無い一言が、他人の琴線に触れてしまっても。
仮に、自分の事でいっぱいいっぱいで、他人を慮る事が出来なくても。
仮に─────期待に無理に応えようとして、嘘を吐いていたのがバレても。
それくらいなら、関係が完全に失われたりしない。
精一杯謝って、修復出来るかもしれない。
またやり直して、また皆で笑い合える日が来るかもしれない。

死は、そんな一切の希望を踏み躙る。
何も伝えられない。
それが今、自分に迫っている。

(─────嫌だ)

それは、嫌だ。
もう二度と、皆と会えない。
ココアが作った暖かくて美味しいパンも、チノが淹れたコーヒー……は体質で飲めないけれど。
千夜が自信満々で見せてくる和菓子の変な名前も、リゼ先輩が見せるかっこいい姿と時折見える可愛さも。
全部、全部、壊れてしまう。
それは。

「………い、やぁっ!」

だから、彼女は叫んだ。
死にたくないという、ただ一つの、生きる者として当然の感情を。
けれど、それは決して諦念ではない。

諦めたくない。
死にたくない。
もっと、もっと─────生きたい。

だから、彼女は、立ち上がった。

パニッシャー。
魔法のデバイス。
それを握り締めて、彼女は─────

555One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:19:12 ID:reOR3keM0





─────すとん、と。

やけに綺麗な音が、やけにその場に響いた。
掠れた声で、え、と力無く言葉を発するるう子と。
驚きが収まり、ふ、と顔を歪ませるウリス。
胸─────心臓に生えた一本の矢を見下ろして、何も言う事が出来ないシャロと、そして。



すとん。



間髪入れず、二の矢をシャロの頭部へと命中させた東郷が。

その音を、静かに聞き届けていた。

―――――え?
―――――わた、し?

ゆっくりと頽れる自分の体が、やけに非現実じみていて。

滲み出る血が、何処か現実味の無い暖かさを伴って流れ出ていく。

―――――い、や。

「や、めて」

訴える。

目の前に迫る、死刑執行人に―――――ではなくて。

「わたしを、ひとりに」

それは、嘆願か贖罪か。
彼女が最期に見たものは、離れていく三人の姿で。

「しない、でぇ………」





―――――だってうさぎは、寂しいときっと死んでしまう。

【桐間紗路@ご注文はうさぎですか? 死亡】

556One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:20:10 ID:reOR3keM0
至近距離からの矢が、その頭部に突き刺さって。
助かる見込みがないなんて、もう誰の目にも明らかだった。

「─────しゃ、ろさああああああんっっ!!」

静寂を破ったのは、るう子の悲鳴だった。
それを愉快そうに眺めながら、ウリスは背後から近付いてくる東郷へと声を掛ける。

「ありがとう、助かったわ」
「………いえ、先程までの『借り』は返しましたから」

その台詞に、僅かにウリスが眉を顰める。
思惑がバレていた、というのは、想定の範囲内であっても気分が良いものではない。
それに、今回は看破された上でその想定を
あの怪物の事に気を取られていたとしても、やはり注意不足。
教訓を肝に銘じながら、表情を元のそれへと戻した。

「それで」
「分かってるわ」

転がっているスクーターを検分する。
凹んでいる部分があるのは仕方ないが、乗り物としては正常に起動してくれるようで。

「さて、随分とお待たせしちゃったわね?」

一方のウリスは、改めてるう子へと銃口を向けていた。
その目を涙に濡らしながら、尚も此方を睨んでくる彼女。
そんな彼女へと、ウリスは歪んだ笑顔を浮かべ。

「さよなら─────は、もう少し後みたいね」

え、とるう子が呟いた時には、彼女は首根っこを掴まれていた。
無理矢理立たせられた、と理解すると同時に、目に入ってきたのは─────

(さ、さっきの人達!?)
「貴様等─────」
「あら、変な事はしないのがこの子の為よ?」

飛び出しかけた二人を止めたのは。
こめかみに銃器を突きつけられた小湊るう子と、突きつけているウリスの姿。
単純にして強力な手段─────人質だ。

これには、男達─────静雄と蟇郡も、押し黙るしかない。
一歩間違えば、二人に抱えられた少女は死ぬ。
静雄ですら、怒りを極限まで抑え大人しく手を上げている。
これといって切れる札も存在しない二人には、ただそれしか出来なかった。
その間に、東郷が車椅子からスクーターへと移ると共にその操作を確かめる。
ウリスも油断無くその銃口を向け続け、二人の行動を抑えている。
それらを見る事しか出来ない自分に、蟇郡は腹を立てる。
少女二人を追ってここまで来たものの、その二人を見失い。
悲鳴を聞いて駆けつけた時には、既に手が出せぬ状況。
何という醜態だ、と思わずにはいられない。

と。

「…………東、郷さん、ウリスっっ……!」

ボロボロになったるう子が、小さく、だが蟇郡達にも聞こえる程度の声を発した。
本人は朧げな意識の中で呟いたその言葉は、しかしそれ以外の四人にはそうはならない言葉。
ウリスはともかくとしても、東郷という名はしっかりと名簿に刻まれている。
いや、そうでなくとも。
本名が明らかになった─────その事実が重要な事は、言わずもがなで。
だからこそ、そちらに全員の意識が動き。
その一瞬の間隙に、素早く蟇郡が行動を起こそうとする。
そして、ウリスもそれを迎え撃つように銃を構え。
新たなる戦端が、ここに開かれる─────筈だった。

557One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:21:16 ID:reOR3keM0
だが。
小湊るう子の言葉と、蟇郡の行動。
それは、東郷とウリスの警戒心を引き付けるに足りるもので。
だからこそ、二人はそれへの対処に追われてしまった。
だが、彼女達二人は正に一刻も早く動くべきだったのだ。
彼女達がバイクを欲したその大元の理由を、忘れるべきではなかったのだ。
それなのに。
彼女達は、その対応を一時的に忘れてしまっていた。
だからこそ。



怪物は、牙を剥く。



植物の枝や葉が薙ぎ倒される音が聞こえた、という時にはもう遅かった。
ウリスが思わず振り返った、その次の瞬間には─────電流が走るような音、そして青い障壁と共に、彼女の身体が吹き飛んでいた。
引き金が引かれ銃声が響くが、衝撃によりあらぬ方向を向いた銃口から放たれた弾丸はるう子を撃ち抜く事はなく。
結果として残ったのは、唐突な展開に驚きを隠せない東郷と、その場でただ立っていた蟇郡、静雄。
そして。

「─────弱い。が、手応えも無い」

彼等の中心に降り立った、怪物だった。




再び、時刻は巻き戻る。
ジャック・ハンマーは、ただひたすらに山を駆けていた。
時たま立ち止まり、獲物の位置を探るかのように鼻を鳴らす。
野性動物染みた行動だが、それは自己暗示のようなものだ。
今の彼は、人間の知性を持ちながら、野性の獰猛さを併せ持つハンター。
そんな自分を自覚し、ならばとそれを意識して動く。
そうしてひた走る彼の形相は、正しく怪物染みていた。

やがて、彼は一つの城に辿り着く。
アナティ城。
彼はその場所に辿り着き、されどその中には入らず背を向けた。

彼の獣のようなカンが告げていた。
これは、巣だ。
しかし、帰るべき巣という訳ではない。
恐らくは、あの少女たちは一定時間ここにいたが、現在はもう離れている。
僅かなズレに、しかし彼は動揺しない。
巣を当てられたのだから、その巣から逃げ出した獲物を捕らえるのは決して難しいとは思わない。
むしろ、巣を当てた自分ならば、敵を見つけるなど造作も無いだろう、と。

恐らく、この『寄り道』が無ければ、東郷とウリスはもっと早くに捕まっていただろう。
そういう意味では、彼は不幸であり、あの二人は幸運だった訳だが─────それはさておき。
ジャックは、再び鼻を鳴らす。
そうして、その足を向けるのは─────北。
再びその足を進め始めた彼は、正しく獲物を狩る肉食獣のようだった。

そして、数刻ののち。
彼は発見する。
何かに相対している、スクーターに跨った少女と、少女を抱えそのこめかみに銃口を向ける別の少女。
狙撃手は─────あの弾丸の性質から見ても、浮世離れした外見で銃を握る少女だろう。



怪物は、地を蹴った。

558One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:22:47 ID:reOR3keM0
反応が早かったのは、東郷だった。
目の前の怪物に構う事なく、スクーターでウリスとるう子の回収に向かう。
ジャックへの応対を後回しにしたのは、ウリスが恐れていたものがこれだと瞬時に理解したから。

そして、そんな彼女を─────ジャックは無視し、再びウリスへと迫る。

(─────これと並ぶ程に速い!?)

東郷は驚愕する。
彼女がいかに初めての運転で速度を落としているとはいえ、スクーターに並ぶ事が出来る生身の人間など存在するのか。
起き上がったウリスが、銃口を向け立て続けに弾丸を放つ。
だが、それらは大半が回避され、身体に届いたものも薄皮一枚を切り裂くに留まる。
馬鹿な─────東郷だけでなく、ウリスもそれに驚愕を隠せない。
確かに、ウリスの射撃スキルは決して高くない。
あくまで一般人の女子中学生の域を出ない彼女が銃撃に慣れている筈は無いのだから、それは致し方ないことだろう。
けれど、僅か数メートルの距離から放たれた弾丸を、こうも容易く連続で回避するのか。

―――――化け物

東郷の脳裏に、そんな言葉が脳裏をよぎる。
しかし、今はそんな事を考えている余裕は無い。
このままでは、ウリスは殺され、恐らくその次は非力かつ手近な自分かあのるう子という少女。
しかし、東郷は届かない。
ある一部分以外はあくまで一般的な体型の少女の域を出ず、またその下半身を全く活かせない彼女より、ジャックの方が早いのは道理だった。
一瞬の内に、ジャックの手がウリスへと伸び─────

「ぬ」

その身体ごと、押し返された。
かといって、ウリスが唐突に筋力を高めただとかそういう訳では無い。
至近処理からの、狙撃銃の生成。
それが二人の距離を無理矢理こじ開け、迫り来る敵から僅かに距離を置いた。

「手を!」

その、一瞬の間隙。
そこを突いて、東郷がウリスの手を握る。
手を引くと同時に、勇者の力を以てるう子を離さぬままスクーターの後部へと飛び乗る。
再びマフラーが爆音を吹き出して、三人を乗せたスクーターが遠ざかる。

─────逃さん。

勿論、喧嘩を売られた彼が、そうやって簡単に「勝ち逃げ」を逃す筈も無い。
すぐさまそれを追うために、走り出そうとした─────その瞬間。

「三つほど、聞きたい事がある」

ガシリと。
ジャックの左肩を力強く掴む、巨大な人影があった。
振り返って、彼はその男の体を確かめる。
自分をも上回る身長、金髪に濃い色の肌。その肉体も中々の鍛えようだ。
中々に戦い甲斐がある相手だ、と判断する。
先の少女達は力押しでどうとでもなる。今はこの男を倒し、カードを奪い、自らの力をより高めるべきだ。

「まず、一つ─────」

その言葉が巨漢から発された時には、彼はもう拳を放っていた。
ここからでも狙え、かつ人間の急所である鳩尾への一撃。
どんな人間だろうと、腹を抱え悶え苦しむような一撃。

「その服は、貴様が誰かから奪った物か?」

だが。
それ越しに、ジャックに伝わってきた感触は─────肉を打ち据える柔らかなそれでは無い。
まるで、何重にも鍛え上げた鋼を叩いたかのような硬いもの。

「沈黙は肯定と見なすぞ─────次の質問だ。
貴様がその服を奪った相手は、小柄な少女だったか?」

気付けば、彼の右手は。
巨漢の左腕に装着されたプロテクターのようなそれによって、完全に止められていた。
鉄や鋼の比では無い、圧倒的なまでに「硬い」というものを突き詰めたような感触だった。
ならば、と。
今度は身体を大きく捻り、プロテクターが存在しない顔面へと上段蹴りを放つ。

「最後の、質問だ」

今度のそれは、躱される。
いくら予備動作が大きいとはいえ、巨躯には似合わぬ素早い動作での回避。
面白そうだ─────そう感じ、更に数発の拳を打ち込む。

559One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:23:50 ID:reOR3keM0



「貴様は、その少女を─────殺したか?」

それも往なし、カウンターを放ってくる巨漢。
しかし、各分野での歴戦の強者達を下す彼に仕掛けるには些か安置。
油断無く躱し、本命の拳を顔面へと叩き込む。
既に両腕は打ち据えられ、ガードは間に合わない。
無防備になった頭部へと、凄まじい威力の拳が吸い込まれ。

「………沈黙は、肯定と見なすと言った筈だッッッッ!!!」

それでも、蟇郡苛は倒れなかった。
尚も立ち続ける彼を前に、ジャックは小さな疑問を覚える。
この男は、ここまで大きな男だったか、と。
その身から発せられる威圧感に、呑まれないまでも僅かに気圧される。

「満艦飾の仇、今ここで!貴様を打ち倒してくれるッッ!!」

蟇郡は、決して倒れない。
満艦飾マコの極制服を前に、彼は倒れる訳にはいかなくなった。
その目は激しい怒りを宿し、今にもその身体を弾丸のように放たんとする。
それに応えるように、ジャックもまた

「………つまり」

だが。
ジャックへと投げ付けられた車椅子が、二人の激突を妨げる。

「テメェはもう、誰かを殺したって事だよなぁ…………?」

二人が驚いて振り向けば。
そこには、一匹の「化け物」がいた。

「だったらよぉ……………………殺されても文句は言えねぇよなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!」

平和島静雄という、怒りに燃える化け物が。
その存在にジャックが対応するよりも早く、彼は先程と同じように、コシュタ・バワーをぶん投げた。
自動車の形をしたそれを、ジャックは受け止めようとし─────反対に、弾き飛ばされる。
ジャックとぶつかって戻ってきたコシュタ・バワーだけが小道に残り、吹き飛んだジャックを追うように静雄も駆けて行く。

「くっ…!!」

蟇郡が僅かに逡巡する。
奇しくも、自分より怒りを見せている静雄のお陰で冷静さを取り戻した彼は、それでも逸る鼓動を抑えながら思考を纏めた。
まず、あの少女達─────どう考えても危険だ。
人質と称されたもう一人の少女の身も危ない以上、迅速な対処が求められる。

そして、今現れた男。
平和島静雄のように、現実を超越したレベルではないにしろ、あの男の筋力は並大抵のものではない。
それに、満艦飾の仇だとするならば。
蟇郡苛という一人の個人としては、決して許してはいけない存在である。

(放送局も気になるが、すぐそこにいる殺人者を逃していいものか─────断じて否!)

車での一撃で吹っ飛んだのを見るに、単純なパワーなら静雄が上回っているであろう以上、あの男は彼に任せてもそこまでの問題にはなるまい。
どちらかと言えば、負傷しているとはいえ何らかの力と人質を持っているあの少女達の方が厄介だ。
先に対処すべきは彼女達―――――しかし、そこで何も考えず特攻するような真似はする筈もない。
蟇郡とて馬鹿ではない。このまま孤軍で特攻しても、また同じように人質を盾にされるのは目に見えている。
となれば、選ぶべき行動は一つ。
この付近で、同じように殺し合いに反抗している誰かを探す。
しかし、遠くに逃げられては堪らない。
遅くとも正午の放送が始まるまでには、あの少女を奪還せねばなるまい。
つまり、こうだ。
協力者を探しながら付近のエリアを移動し、仲間が見つからず放送の数十分前になってしまった場合は単独でも行動を開始。
それが、今の蟇郡苛に出来る最善だろう。
そうと決まれば、と急いで車へと乗り込みかけて、一度それを取り止める。
小走りで死体へと駆け寄り、丁寧に担ぎ上げて後部座席へと寝かせる。
そこで、蟇郡はふと気付く。
彼女の制服が、ゲームセンターで出会った天々座理世と同じものだと。
それに、そうだとすればチノの証言とも一致する。

「……すまない、桐間紗路。後になってしまうが、必ず然るべき形で弔おう」

一瞬の、空白の後に。
そう呟いて、改めて蟇郡は車を走らせた。

560One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:25:04 ID:reOR3keM0



「今回は、貴女に随分と助けられたわね」
「…少なくとも、先程逃げる時の分のお礼はお返し出来たかと」

スクーターに乗り、南西へと向かう三人。
るう子は先程ウリスと共に吹き飛ばされた時にはもう気絶しており、未だ目覚める気配は無い。
目指すのは、最も近く、且つ東郷が一度訪ねて勝手が分かっている温泉。
彼女が乗り捨てた車椅子も、貸し出しサービスと称してそこそこの数の予備が存在しているのは確認済みだ。
ひとまずはそこで休息を挟み、改めて市街地か、或いは西の放送局を目指す。
先の男達に追われている可能性がある為に、そこまで長居は出来ないが。
少なくとも、先の狙撃から始まった一連の危機は脱したと見ていいだろう。
けれど、東郷の心は決して晴れてはいなかった。

『私を、一人にしないでぇ………』

先程自分が殺した少女の、最期の言葉。
それが、ずっと彼女の心に突き刺さっている。



東郷美森には、小さな欺瞞がある。

無論、勇者部の仲間を終わりのない地獄から抜け出させる、というのも、彼女の偽らざる本心である。
けれど、彼女を動かしているのは、決してそれだけではない。
乃木園子。
東郷美森が、まだ鷲尾須美と呼ばれていた頃の友人の存在。
彼女と接した事で、東郷は気付いてしまった。

どんなに固く誓った約束も。
どんなに強く願った祈りも。
どんなに強い絆で結ばれた、友達さえも。
華が散れば、それは全て「無かった事」になってしまう。

それが、東郷美森が世界を壊すもう一つの理由。
もう、忘れたくない。
もう、忘れられたくない。
全てが忘却の彼方に消え去るくらいなら、せめて優しい記憶の中で眠ってしまいたい。
だから、東郷美森は他でもない「世界の破滅」を願った。

(─────余計な事を考えている暇は、無いわね)

果たして、それに彼女自身が気付いているのかどうかは分からない。
けれど少なくとも、シャロの最期の言葉と自分の願いが重なったのは事実で。
意識的にか、はたまた無意識的にか、その言葉は東郷の思考に僅かな澱を残した。

その澱がどうなるか─────それは、未だ分かりはしない。

【G-4/道路/一日目・午前】
【東郷美森@結城友奈は勇者である】
[状態]:健康、両脚と記憶の一部と左耳が『散華』、満開ゲージ:4
[服装]:讃州中学の制服
[装備]:弓矢(現地調達)、黒のスクーター@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(17/20)、青カード(17/20)、定晴@銀魂、不明支給品0〜1(確認済み)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いに勝ち残り、神樹を滅ぼし勇者部の皆を解放する
     0:無駄な事を、考えている暇は………
     1:南東の市街地に行って、参加者を「確実に」殺していく。
     2:友奈ちゃんたちのことは……考えない。
     3:浦添伊緒奈を利用する。
     4:ただし、彼女を『切る』際のことも考えておかねばならない。
[備考]
※参戦時期は10話時点です

561One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:26:25 ID:reOR3keM0
【浦添伊緒奈(ウリス)@selector infected WIXOSS】  
[状態]:全身にダメージ(中)、疲労(中)
[服装]:いつもの黒スーツ
[装備]:ナイフ(現地調達)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)      
     黒カード:うさぎになったバリスタ@ご注文はうさぎですか?
     ボールペン@selector infected WIXOSS
     レーザーポインター@現実
     東郷美森のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[思考・行動]
基本方針:参加者たちの心を壊して勝ち残る。
     0:温泉で休息。
     1:東郷美森、及び小湊るう子を利用する。
     2:使える手札を集める。様子を見て壊す。
     3:"負の感情”を持った者は優先的に壊す。
     4:使えないと判断した手札は殺すのも止む無し。    
     5:蒼井晶たちがどうなろうと知ったことではない。
     6:出来れば力を使いこなせるようにしておきたい。
     7:それまでは出来る限り、弱者相手の戦闘か狙撃による殺害を心がける
[備考]
※東郷美森が犬吠埼樹を殺したという嘘をチャットに流しました。
※変身した際はルリグの姿になります。その際、東郷のスマホに依存してカラーリングが青みがかっています。

【小湊るう子@selector infected WIXOSS】
[状態]:全身にダメージ(大)、左腕にヒビ、微熱(服薬済み)、魔力消費(微?)、体力消費(大)、気絶
[服装]:中学校の制服、チタン鉱製の腹巻
[装備]:黒のヘルメット着用
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(8/10)
    黒カード:チタン鉱製の腹巻@キルラキル、風邪薬(2錠消費)@ご注文はうさぎですか?
         ノートパソコン(セットアップ完了、バッテリー残量ほぼ0%)、宮永咲の不明支給品0〜2枚 (すべて確認済)
     宮永咲の白カード
 [思考・行動]
基本方針: 誰かを犠牲にして願いを叶えたくない。繭の思惑が知りたい。
   0:…………………………
   1:シャロさん………
   2:ウリスと東郷さんに対処したい。
   3:遊月、晶さんのことが気がかり。
   4:魂のカードを見つけたら回収する。出来れば解放もしたい。
   5:ノートパソコンのバッテリーを落ち着ける場所で充電したい。


周囲より比較的開けた、広場のような場所。
そこが、平和島静雄とジャック・ハンマーの第二ラウンドのリングだった。
だが、それは早くも─────一方的な様相を呈していた。

静雄が振るう竹を、辛うじてジャックが回避する。
その隙を突いて接近した静雄が、竹を踏み割りつつ拳を叩き込もうとし。
紙一重でそれを受け流し、しかし次の一撃にその身を引かざるを得なくなる。
平和島静雄の優勢は、誰が見ても明らかだった。

ある意味では、当然。
ジャックも静雄も、先のコンディションから大きな変化を経てはいない。
寧ろ、ジャックは山を越える走りを見せた事で若干の疲労があると言ってもいい状態。
そんな状態での再戦が、先の結果と何ら変わるはずが無かった。

562One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:27:41 ID:reOR3keM0
そして、何時しかジャックは追い込まれていた。
崖っぷち。
それに気が付いたのと時を同じくして、静雄の拳が彼へと迫っていた。

一瞬、気付くのが遅れ。
回避が、間に合わず。
反射的に両腕をクロスさせるが、それで守れるような拳ではないのはジャックにも分かっていた。

落ちる。
その瞬間、ジャックはそう思った。
そこに余計な思考は無く、ただ純粋に生物としての直感がそう彼の全身へと伝えていた。
極限状態。
全身の機能が、そう悟った。

無論、そんなことで何かの異能が彼に宿る訳ではない。
あくまでジャックの力はその肉体に起因するものであり、それに魔術や異形といったモノは何ら関係していない。
けれど。
そんなものに頼らなければ強くなれないのか。
そんなものでしか、強さを得る事は出来ないのか。

否。
人間の身体の限界は、更なるその先の力をまだ引き出して余りある。

両腕をクロスさせた、渾身のガード。
ジャックのそれは、平和島静雄の拳を「受け止めていた」。

「お……?」

静雄の動きが、一瞬だけ停止する。
先程までなら、今の拳はこの男をガードごと吹き飛ばしていた筈だ。
しかし、そうはならず、男は崖下には落ちずに留まっている。

─────何だ?

余計な思考が、ノイズとして静雄の頭を満たす怒りを過ぎった。
その一瞬を突いて、ジャックが反撃に出る。
至近距離からの拳を左腕で受け止め、そのまま伸びた腕を掴もうとするが―――――その行動が、一瞬遅れた。
静雄の伸ばした左手は空を切り、一方のジャックは再び拳を放たんとする。
その時には、二人共理解が追いつきかけていた。

─────力が、上がっている。

二人の拳が再び、正面からぶつかり合い。
そして、そのまま『静止した』。
これが先程までなら、ジャックの右手は弾き飛ばされ、静雄による更なる一撃に防戦一方になっていただろう。
なのに、そうはならなかった─────ジャック・ハンマーの強さが、僅かながら平和島静雄へと通じていた。




平和島静雄という人間の、強さの秘密。
それは偏に、彼が生来「常に火事場の馬鹿力を発揮出来た」というスキルの恩恵に他ならない。
火事場の馬鹿力とは、人間工学的にも証明されている歴とした人間の身体のシステムの一つだ。

人間が異常や危機を感知した時、脳がそのストッパーを解除し、危機から逃れる為に全力を尽くす事を求める。
これを、静雄は「怒り」というスイッチのみで発動させる事が出来た。
だからこそ、どんなに鍛えた格闘家であろうとも。
平常時での単純な力比べをした時、きっと彼の前に立つ者はいないだろう。

だが、それは裏を返せば。
平常時の彼と同等か、或いはそれ以上の力を持つ存在が、「火事場の馬鹿力」を発揮したならば。
理論上、彼を上回る事は可能である、ということだ。

勿論これは、書いてある程に容易い事ではない。
火事場の馬鹿力を発揮する身体に耐え切る為に、平和島静雄の肉体はかの闇医者に「人間一代の中での進化」とまで言わしめる程の成長を遂げている。
既に人間を殆ど超越している彼の肉体と「同等の力の発揮」するなど、それこそ人間の限界そのものを超越している必要があるだろう。

そして、ジャック・ハンマーは。
その、人間の限界を超越している類の人間だった。
数多のドーピングや手術によって生まれたその肉体を、一日30時間という矛盾を乗り越え明日をも知らぬトレーニングで育て上げた彼が、生命繊維で編まれた極制服により更なる強化を施されている今。
「怒っていない平和島静雄」と、素の力が並んでいてもおかしくはない。

563One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:29:17 ID:reOR3keM0




─────いや、それでも、まだ。

「だったら…………なんだってんだあああぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!」

今の平和島静雄には、届かない。
越谷小鞠の死、キャスターの放送、そして名も知らぬ少女の死体と、同じ少女を人質にする卑怯な少女。
それら全ての怒りが内包された今の平和島静雄は─────計り知れない程の馬鹿力を引き出している。
ジャックの顔面に、渾身の右アッパーが突き刺さる。
筋肉の鎧を突き抜ける、全てを破壊するような衝撃。
もろにそれを喰らった肉体が、上空数メートルまで吹き飛ばされる。
後方に大きく吹っ飛び、しかしそれでも立っているジャックへと。

「人の左腕食ってくれるたぁいい度胸してんじゃあねーか………」

池袋に神社が存在する鬼子母神のような表情を浮かべながら、静雄はゆっくりと歩みを進める。

─────まだ、足りないか。

そこで、ふと冷静になったジャック・ハンマーは悟った。
冷静になった事で、今の爆発的な力の奔流が無くなった事。
同時に、纏う服の力が失われた事。
それらが無ければ、目の前の存在に立ち向かうのは不可能だ、という判断が下る。

─────口惜しいが、戦うべきは決して今ではない。

不意に、ジャックから静雄へと何かが投げつけられる。
それをいとも容易く払いのけ─────砕けた瓶から飛び出してきた気色の悪い蟲に、静雄は僅かに眉を顰める。
けれど、それも一瞬。
迫り来る蟲も簡単に叩き落とし、こんなものを投げつけやがってよし殺す、と静雄が前を見ると。
ジャックは既に、彼に背を向けて走り始めていた。

「何………逃げてんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

勿論、それを見逃す静雄ではない。
弾丸のように地を蹴った彼の身体が、凄まじい速度でジャックの背中へと迫る。
逃走するジャック。
追い掛ける静雄。
森を駆け抜ける二人の鬼ごっこは、暫く続き。
その進行方向上に、ふと二人分の人影が現れる。
遠目にも分かる、黒いコートに身を包んだ青年の姿。
そして、良く見えないが、恐らくは成人女性のような姿。
二人の影を見て、ジャックは思考する。
使えるな、と。

あの程度の女ならば、先の自分にも簡単に投げつける事が出来る。
人間という弾が突然飛来して、驚かない人間はそうはいまい。
いや、仮に平和島静雄が驚かないような特異な側の人間だったとしても、それで不意を突ければそれでいいのだ。
更に男の方も蹴り飛ばしてやれば、あの男と言えどもたたらを踏む筈。
その隙に、傍にあるそこそこ流れが速い渓流から一気に下ってしまえばいい。

そこまで思考したところで─────ジャックは、自分の頭が何かに掴まれるのを感じた。

564One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:31:05 ID:reOR3keM0
─────ジャック・ハンマーがそれを知らないのは、当然の事だっただろう。
彼は知らない。
平和島静雄が、どんな生活を送り、どんな人間関係を築いてきたのかを
彼は知らない。
平和島静雄が、最も嫌っている人間の名を。

驚愕する。
先程まで、恐らくは十メートル程の距離があった筈なのに。
まさか、平和島静雄とは
そして、次の瞬間─────身体を包む浮遊感に、ジャックは静雄の意図を理解する。
まさに今、自分もそれをしようとしていたのだから。
成る程確かに、自販機を軽々と放り投げる彼の膂力ならばそれも可能だろう。
だが、とジャックは考え直す。
そうまでして、平和島静雄は何がしたいのか。
或いは、あの二人のどちらかが、彼にとって因縁のある相手なのか。
だとしたら、それは果たしてどんな人間なのか─────

彼の考察は、正解だった。
キャスターへの怒りも、衛宮切嗣への怒りも、東郷美森への怒りも、今目の前にいたジャックへの怒りさえも。
平和島静雄から、その人間への怒りには到底敵いやしない。
いや、違う。
それまでの怒りが、その姿を見た瞬間に全てその相手への怒りへと変換されたのだ。
ジャック・ハンマーが知り得なかった、平和島静雄の因縁の相手。
その名は─────

「ぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいざぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁやああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!」

最早天をも割らんと響く咆哮と共に、ジャックの身体が宙に浮く。
100キロを超えるジャックの肉体が軽々と振りかぶられ、そのまま野球のボールのように投げられる。
筋骨隆々の大男が一見普通の細身の男に投げられるその姿は、平和島静雄を知らぬ者には到底信じられぬ光景。
そして、それはあまりに正確に過ぎるコントロールで、黒コートの男へと迫る。
退避する少女も、ジャック自身も、男がぶつかって悲惨な事になる光景を幻視した。
けれど。
男は、たった今『イザヤ』と呼ばれた青年は。
それを、あろうことか、数歩歩いただけで回避した。
何にも命中する事なく空中を飛行するジャックは、図らずも当初の予定通り渓流へと落下し。
そして、図らずも彼の思い通り、静雄がそれを追う事も無かった。
尤も、その理由までは彼の思い通りにはならなかったのだが。

落とされるか自分から入るか、という差異はあれど、結果的に渓流に入ったジャックはそのまま川の流れに従って逃走を果たした。
渓流の先、水が地下へと流れる最下流で、彼は起き上がる。
案の定とでも言うべきか、近くには平和島静雄の姿も先程の男女の姿も見えない。

ふむ、と一息吐き、現在地を確認する。
G-4、その南東の端に自分はいるらしい。

ここから西に行けば、平和島静雄との再会は難しくない。
だが、今は休息だ。
服の力や、先の溢れんばかりの力。
その代償か、残る体力は少なく、両腕も決して良い状態とは言えない。
だが、あれらを行使出来なければ、あの男には─────ひいては、その先にいる範馬勇次郎に勝てはしない。
自分の本領を完全に出し切り、その先の勝利を掴む為にも。
ジャック・ハンマーは、束の間の休息を得る。

【G-4/エリア南東端/一日目・昼】
【ジャック・ハンマー@グラップラー刃牙】
[状態]:疲労(大)、頭部にダメージ(小)、腹部にダメージ(中)、服が濡れている
[服装]:ラフ
[装備]:喧嘩部特化型二つ星極制服
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
     黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:優勝し、勇次郎を蘇生させて闘う。
   0:一時休息。
   1:人が集まりそうな施設に出向き、出会った人間を殺害し、カードを奪う。
   2:平和島静雄との再戦は最後。
[備考]
※参戦時期は北極熊を倒して最大トーナメントに向かった直後。
※喧嘩部特化型二つ星極制服は制限により燃費が悪化しています。
 戦闘になった場合補給無しだと数分が限度だと思われます。

565One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:32:48 ID:reOR3keM0



「全く、こんな状況で数少ない知り合いに人間を投げつけるなんて、本当に俺の事が嫌いで嫌いで堪らないんだねえ─────シズちゃん」
「ったりめぇだろうが…………いぃぃぃぃざぁぁぁぁやぁぁぁぁ……………」

飄々と語る臨也と、烈火のように
対象的な二人の間に流れる空気は、一見して剣呑だと読み取れるものだった。
そんな空気に相応しく、相当の威圧感を佇まいから生み出している静雄。
そして、そんな彼の威圧感など何処吹く風と言うようにいつも通りに振る舞う臨也。
両者の緊張が、あっという間にピークへと達しそうになり。

「何をしている、折原に平和島!」

と。
その一触即発の空気に、巨大な声が割り込んだ。
聞き覚えの無い声ならば無視もしただろうが、生憎それは二人にとって初めて聞く声では無かった。

「おやおや、蟇郡さんじゃあないですか」
「テメェ、蟇郡……」

温泉へと乗り込む仲間を探す、蟇郡苛。
その目的を果たす為にひとまず静雄とも合流を図ろうとした彼だが、それでもこの空気には驚く他無い。
彼が出会った、殺し合いに乗った参加者はまだあの筋骨隆々の大男だけだが。
たとえこの後にどんな敵が現れようと、ここまで剣呑な雰囲気になるのは無いだろうと断言出来るほどに、その空気は凄まじいものだった。
臨也の静雄に対する物言いや、静雄から臨也への暴言の数々から察してはいたが。
それでも、ここで初めて蟇郡苛は理解する。
折原臨也と平和島静雄。
池袋の町で何度もぶつかり合った二人は、ここに再会し。
そして、こんな殺し合いの中でさえ。
彼等は決して相容れないし、互いに互いを否定して『殺し合う』という事を。

「が─────今はその時ではない!」

けれど。
如何なる因縁があろうと、今目指すべきは主催の打倒。
たとえどのような因縁があろうと、皆が生き残り元の世界へと帰るならば、潰しあっている場合ではない。
この二人が、「相手は絶対に殺してから帰る」と誓っているような人間だとは知らぬままに、彼は一人決意を固める。

「貴様等にどのような因縁があるかは知らん!だが、この状況で争うのは愚策!因縁の清算は後回しにして、先ずはこの場にいる悪意を持つ連中を断たねばならん!」
「悪意を持つってんならよぉ……まずはこのノミ蟲野郎をぶっ飛ばすべきだろうがよぉ………!?」

無論、冷静な臨也はまだしも、静雄が引き下がる筈は無い。
く、と蟇郡は歯噛みする。
死者を利用するようなこの言葉は使いたく無かったが、仕方がない。
そうでもしなければ、この男は再び助けられる物を見捨てる事になる。
そんな事は、決してさせる訳にはいかないのだから。

「平和島、先の少女はまだ生きている。それを下らぬ因縁などで放り投げ─────」






蟇郡苛がそれを知り得なかったのは、やはり仕方が無いことだった。
彼は放送後、ラビットハウスに戻る事無く放送局へと向かったのだから。
そんな彼に、折原臨也がどうしてここに居るのかという、その理由を推察しろと言うのは、酷だっただろう。
だから、蟇郡は叫んでしまった。

「越谷小鞠の惨劇を、繰り返すというのか!?」

566One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:34:44 ID:reOR3keM0


折原臨也は思考する。

(まあ、正直今シズちゃんに構ってる暇はないよねぇ)

蟇郡も「彼女」もいる現状、ここで静雄に対して何かをするには蟇郡の目が問題だ。
本来ならばそれでも何らかの策を講じただろうが、こと今に限ってはそれよりも優先したい事がある。
臨也は心の中でほくそ笑む。
今、自分の目の前にある状況を。
とてもとても楽しい、最高の「人間観察」の機会を。
それをモノにする為に、臨也はその口を開いた。

「蟇郡先輩の言う通りだよ。ここで俺を殺せば、君は多分誰からの信用も無くすよ?
それに、今は俺より先に─────君に話がある子がいるからね」

それは静雄にとって、いつもの煙に巻く発言の一環だと思っていた。
その少女というのも、大方池袋で侍らせているような狂信者の類いだろうと。
それには騙されないとでも言うように、一歩一歩臨也へと歩を進め。

「越谷小鞠ちゃんの後輩、一条蛍ちゃんがね」

だが。
その一言で、彼の思考が急速に冷えていく。

コシガヤコマリ。
ソノコウハイ。
イチジョウホタル。

それらのワードが、平和島静雄の中で繋がると同時に。

「平和島、静雄さんですか」

彼へと、声がかけられた。

一条蛍は怖かった。
今、目の前で臨也に向かって人間を投げつけたこの男が。
彼の前評判通りの危険な男だと、心からそう思った。

「答えて、答えて下さい」

けれど、蟇郡の言葉が本当なら、彼は本当に知っている事になる。
越谷小鞠の死の真相を、彼は知っているという事になる。

「小鞠先輩を、殺したのは」

ならば、聞かなければならない。

「あなたなんですか?」

越谷小鞠の後輩である、『被害者遺族』一条蛍として。

「─────小鞠先輩は、誰が殺したんですか!」

『容疑者』平和島静雄へと。

【G-4/南部/一日目・昼】
【蟇郡苛@キルラキル】
[状態]:健康、顔に傷(処置済み、軽度)、左顔面に少しの腫れ
[服装]:三ツ星極制服 縛の装・我心開放
[装備]:コシュタ・バワー@デュラララ!!(蟇郡苛の車の形)、パニッシャー@魔法少女リリカルなのはvivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
   黒カード:三ツ星極制服 縛の装・我心開放@キルラキル、桐間紗路の白カード
[思考・行動]
基本方針:主催打倒。
   0:な、一条………!?
   1:この場にいる仲間と共に、温泉の敵を打倒する。
   2:放送局に行き、外道を討ち、満艦飾を弔う。
   3:平和島静雄と折原臨也の激突を阻止。
   4:キャスター討伐後、衛宮切嗣から話を聞く
   5:皐月様、纏との合流を目指す。優先順位は皐月様>纏。
   6:針目縫には最大限警戒。
   7:分校にあった死体と桐間の死体はきちんと埋葬したい。
[備考]
※参戦時期は23話終了後からです
※主催者(繭)は異世界を移動する力があると考えています。
※折原臨也、風見雄二、天々座理世から知り合いについて聞きました。
※桐間紗路の死体はコシュタ・バワーに置かれています。

【平和島静雄@デュラララ!!】
[状態]:折原臨也、テレビの男(キャスター)、少女達(東郷美森、浦添伊緒奈)への強い怒り 衛宮切嗣への不信感 若干の疲労
[服装]:バーテン服、グラサン
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:ボゼの仮面@咲-Saki- 全国編
         不明支給品0〜1(本人確認済み)
[思考・行動]
基本方針:あの女(繭)を殺す
  0:コマリの………?
  1:テレビの男(キャスター)とあの女ども(東郷、ウリス)をブチのめす。そして臨也を殺す
  2:蟇郡と放送局を目指す
  3:犯人と確認できたら衛宮も殺す

567One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:35:37 ID:reOR3keM0
【折原臨也@デュラララ!!】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:ナイフ(コートの隠しポケットの中) スマートフォン@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
    黒カード:不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:生存優先。人間観察。
    0:さて、面白くなってきたねえ。
    1:ひとまず目の前の状況をまとめる。シズちゃんは……どうしよう。
    2:2人で旭丘分校へ向かう。……予定だったけど、どうなるかな?
    3:衛宮切嗣と協力し、シズちゃんを殺す。
    4:空条承太郎君に衛宮切嗣さん、面白い『人間』たちだなあ。
    5:DIOは潰さないとね。人間はみんな、俺のものなんだから。
[備考]
※空条承太郎、一条蛍、風見雄二、天々座理世、香風智乃と情報交換しました。
※主催者(繭)は異世界および時間を移動する力があると考えています。
※スマートフォン内の『遺書』は今後編集される可能性があります。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という推理(大嘘)をしました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。

【一条蛍@のんのんびより】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
    黒カード:フルール・ド・ラパンの制服@ご注文はうさぎですか?、カッターナイフ@グリザイアの果実シリーズ、ジャスタウェイ×2@銀魂、越谷小鞠の白カード
[思考・行動]
基本方針:れんちゃんと合流したいです。
   0:答えて………!!
   1:旭丘分校を目指す。
   2:折原さんを、信じてもいいのかも……。
   3:午後6時までにラビットハウスに戻る。
[備考]
※空条承太郎、香風智乃、折原臨也、風見雄二、天々座理世、衛宮切嗣と情報交換しました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。

568 ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:40:11 ID:reOR3keM0
仮投下を終了します。
あと、>>548の下から3行目について、途中で抜けていたみたいなので。正しくは、

スクーターの運転だって無理ではないだろうし、二人乗りでも問題はないだろう。

です

569 ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:52:41 ID:reOR3keM0
すいません、他にも幾つか抜けと消し忘れがあったので

>>564
まさか、平和島静雄とは
の部分は削除、

>>565
飄々と語る臨也と、烈火のように

飄々と語る臨也と、烈火のように猛り狂う静雄。

ですね
本投下の際は修正しておきます

570名無しさん:2016/01/09(土) 01:13:33 ID:Yj.5Eu1k0
投下乙です
シャロちゃん・・・遊月にも夏凜ハルトにもチノたちにも謝ること叶わずか
そして勇者をやめた(?)東郷さんはキル数1位に

一つ指摘ですが、
>そこで、蟇郡はふと気付く。
>彼女の制服が、ゲームセンターで出会った天々座理世と同じものだと。
>それに、そうだとすればチノの証言とも一致する。

リゼちゃんはグリザイア出典のメイド服を着用、シャロちゃんは普段着ですのでここは矛盾するかと

571 ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 23:12:21 ID:reOR3keM0
>>570
指摘ありがとうございます。
該当部分等を修正した上で、明日中には本投下したいと思います。

572 ◆DGGi/wycYo:2016/01/23(土) 01:28:25 ID:XANdSxh60
仮投下します

573あなたの死を望みます。  ◆DGGi/wycYo:2016/01/23(土) 01:29:33 ID:XANdSxh60


M:『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』

Y:『私、結城友奈は放送局に向かっています!』

R:『義輝と覇王へ。フルール・ド・ラパンとタマはティッピーの小屋へ』


「……」

――『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』
――『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』
――『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』

――『M』


「………………」


*  *  *

574あなたの死を望みます。  ◆DGGi/wycYo:2016/01/23(土) 01:30:20 ID:XANdSxh60


「ぅ……ん……?」

右目を照らす眩しい光で覚醒した少女は、まず自分が仰向けに寝かされていること、そして両手両足を縛られていることに気が付いた。口は……塞がれて居ない。
次に判ったのは、ここが畳の上だということ。
最後に視認したのは……東郷美森と、浦添伊緒奈――ウリスが同じ空間にいたこと。

「おはよう、小湊るう子」

ウリスの手には、レーザーポインターが握られている。
そうか、私は――。

「迂闊に叫んだりすると、殺しはしないけど痛い目を見るわよ」
「……二、三、質問があります」

ため息を吐いた東郷が、ウリスに代わって話し始めた。
車椅子の彼女はその膝にノートパソコンをのせていた。恐らく、持っていたカードは全て奪われたのだろう。
腹巻だけは見逃してくれたようだが、時間の問題かも知れない。

「あなたがチャットに書き込んでいたと思われる内容について、詳しく聞かせてもらいます。
それも含めて、ここまでの動向を全て。答えない場合や嘘を吐いた場合は――」
「あまり好きじゃないけど、手足に刺したっていいのよ」

とっくに乾いている血の付いたボールペン片手に、ウリスが笑う。
どう考えてもこれは質問ではなくて尋問、いや拷問なのだが、打つ手の無い今、素直に答えるのが懸命だろう。
二人を刺激しないよう、るう子は慎重に話した。

神社を出たあとは、“フルール・ド・ラパン”つまり先程亡くなった桐間紗路と遭遇、続いて“義輝”三好夏凜、“覇王”アインハルト・ストラトスと合流。
わけあって一旦二組に別れた後、なかなか戻って来ない二人のために流したチャットの文章。
“ティッピーの巣”は、ラビットハウスのこと。

「残る“タマ”はるう子。成る程、考えたじゃない」
「あなたは黙っていてください。では、その方たちと交換した情報も話せるだけ話してもらいます。
最低限……私のことについてどこまで話したか」

やはり踏み込んできたか。
ウリスとはともかく、るう子と東郷はこれが初対面ではない。

殺し合いが始まってすぐのこと。
宮永咲を殺害し、るう子をも殺そうとして、……いつの間にか姿を消していた、あの出来事。
彼女は間違いなく殺し合いに乗っている。
どういうわけか“あの”ウリスと共に行動しているのだ。同じ目的同士、手を組んだのだろうか。
そんな東郷にとって、『車椅子の少女に殺されそうになった』という情報を広められるのは大きな痛手だろう。

「――つまり、三好夏凜を通じて私が殺人を犯したという話が彼女とアインハルト・ストラトスに今も伝わっている。間違いはないですね」
「……はい」

事実、その情報は伝播した。
彼女の知り合いと出会えたのは本当にただの偶然なのだが、本人にとっては不都合であるに違いない。

575あなたの死を望みます。  ◆DGGi/wycYo:2016/01/23(土) 01:31:49 ID:XANdSxh60
「じゃあ、さっさとそいつらも始末した方があなたの身のためなんじゃないかしら」
「……考えておきます」

カタカタとパソコンに何かを打ち込む東郷。
後ろから覗けたなら、集めた情報をテキストファイルに打ち込む姿を見ることが出来ただろう。
それを抜きにしても、彼女の異常なタイピング速度は機械音痴なるう子や、ウリスでさえも目を見張るものがあった。
ともかく尋問はこれで終わったらしい。

「じゃあ、私は外の様子を見てくるわ。
盗み聞きなんて無粋な真似はしないから、お二人で積もる話でもあればどうぞ。
……ああ、小湊るう子を勝手に殺したりしたらダメよ、東郷美森さん」

そう言うと、ウリスは“スマートフォンをるう子にわざと見せるように持ちながら”部屋を出た。

「(あれって……)」

ウリスが離れたのを確認した東郷は、テキストファイルを他人に見られないよう暗号化、そしてパソコンをシャットダウン、カードに収納。
もしここが殺し合いの場でなかったなら、是非ともパソコンというもののイロハを習いたいくらいの手際の良さだった。
当の本人はといえば……顔色はお世辞にも良いとは言えず、下手をすれば嘔吐してもおかしくはなかった。

「風邪薬だけど、私持っていたんで、よかったら……」
「余計なお世話です」
「でも……」

るう子には、気になることが幾つもあった。
咲との会話を盗み聞きしていた彼女は、小湊るう子の人となりを多少は把握している。
それにウリスも居るのだから、情報は筒抜けだろう。
だがるう子は、三好夏凜から聞いている情報程度でしか東郷美森という少女のことを知らない。
人助けをする勇者の一員である彼女が何故殺し合いに乗っているのか、理由が分からない。
何故ウリスと一緒に行動しているのか、どう見ても不仲なのに、何故。
何よりも。

「携帯電話、ウリス……伊緒奈さんに取られちゃったんですか?」

目下最大の疑問点は、そこだった。

「あなたには関係のないことです」
「見ました、チャット。東郷さんが犬吠埼樹って人……同じ勇者部の人を殺したって」
「関係ないって言っているでしょう」
「ちょっとだけヘンだと思ったんです。幾らチャットが始まったのが最初の放送の後だからって、何で書く必要があるのかなって」
「だから、あなたには……」
「でも、東郷さんとウリスが居て、ウリスがあれを持ってて……」
「いい加減にして!」

東郷の声色には、隠せない動揺がはっきりと表れていた。
事実、彼女はかなり焦っていた。


*  *  *

576あなたの死を望みます。  ◆DGGi/wycYo:2016/01/23(土) 01:32:48 ID:XANdSxh60

「どうするつもりかしら」
「この子から持っている情報を聞き出して、後は始末するつもりです。ところでその手紙は?」

旅館に着いた時、二人の目に真っ先に飛び込んできたのは一通の手紙。
ウリスはそれを手早く回収してざっと目を通すと、東郷に見せることなくポケットにしまった。

「殺すのは後にするわ。まだまだ利用価値があるみたいだし」

どういう意味だ、と聞いても無駄なのだろう。
ウリスが客間でるう子を縛っている間に、彼女の所持していたノートパソコンのケーブルをコンセントに繋いだ。
そして、チャット機能が午前6時に開放されたということに気付き、書き込みに目を通す。

「……」

真っ先に書き込まれていたあの一文。書き込み主は『M』。
最初は冗談だろうと思い、ウリスの顔をちらりと見た。
視線に気付いた彼女は、煽るような笑みだけを返した。

次にあった書き込みは、友奈のものだった。書き込み主は『Y』、イニシャルも一致する。
きっと私のことを心配してくれているのだと、すぐに分かった。
こんな、既に四人を手に掛けた、勇者という言葉から掛け離れてしまった私を。

最後の書き込みは、聞き覚えのある『義輝』、そして神社でるう子が言っていた『タマ』。るう子が夏凜と会っているということが、容易に想像出来た。
書き込み主は『R』。るう子のRだとしたら、全て説明が付く。

ウリスが私のイニシャルである『M』を騙り、そのスマートフォンで嘘を流したのだ、と。

頭を抱えていた矢先、るう子が目を覚ました。
嘘を吐いたと分かれば始末する――そのつもりで放った言葉が、ウリスの横槍でただの拷問に成り下がる。
しまいには、殺すべき相手にすら心配されていた。

分かっている。
この八方塞がりな状況を打破するためには、ウリスという悪意の塊を切らなければならない。
だが彼女は勇者の力をいつでも使え、自身の手には、弓矢だけ。

「(どうすればいい……どうすれば……)」

ぴしゃり、と東郷の思考をまたしても遮ったのは、襖が開かれた音。

「さて、そろそろお話も済んだかしら」
「ウリス……」
「心配することはないわ小湊るう子。タマに会えるかも知れないわよ」
「え?」

どういうことだ、東郷も問い詰める。
すると、玄関で見つけた手紙を取り出した。
さっきは見る前にウリスに取られたが、封筒には『小湊るう子へ』と書かれている。

「知ったツラした奴がタマを持っていることが分かったわ」
「それって……」
「三回目の放送までにはあなたを探しにここに戻ってくるって、ねっ!」

るう子の首筋にあてられたウリスの手から、バチバチと電流が流れ出す。

「づ、あぁっ!?」

意識を失ったるう子を抱えるウリスの手には、手袋のようなものがされていた。

「スタンガン……ではないようですが」
「用途は同じね、ガンじゃなくてグローブだけれど。そろそろ行きましょうか」


玄関を出て、スクーターに三人乗り。幸いにも車椅子は折り畳めるのでさほど荷物にはならない。
が、やはり三人だと全速力とはいかないか。

「そういや定春……例のデカい犬とやら、乗り物として使えるのかしらね」
「生き物ですから、何をするかは分かりません。今は不確定要素を増やすべきではないかと」
「ふーん……」

別に構わない。彼女はいつものように、悪意に満ちた笑みを浮かべる。

577あなたの死を望みます。  ◆DGGi/wycYo:2016/01/23(土) 01:33:25 ID:XANdSxh60
手紙の主である“アザゼル”と名乗る人物。文面には、彼が悪魔であることが書かれていた。
心当たりが一つ。
高圧的な態度を取り、あまつさえ自分を放り投げた忌まわしいあの男のことだとしたら。
あの時は遅れを取ったが、今この手には勇者の力がある。

煮え湯を飲まされた相手が、“人質”の友人を手札に持っていて、更に“人質”を探している。
ここまで面白く重なった偶然を利用しない手はない。
問題は彼の行方だが、最初に出会った場所とこの旅館に訪れたという事実。
そのままの進路で、禁止エリアを避けつつ人を探しているとなれば……行く先は決まりだ。

三人を乗せたスクーターが向かうは放送局。
アザゼルが居なかったとしても、東からの追跡者から逃げるには必然的に通ることになる。
その後は島を反時計周りするか、それとも“ティッピーの巣”に向かうか……?

「(精々首を洗って待ってなさいよ、クソったれさん)」



東郷美森は考えた。
今ここで隙を付けばウリスを殺せるかも知れない。だが、無理だろう。
犬吠埼風の悪ふざけの一撃すら難なく耐えた勇者の精霊防御だ。
きっと、ただの弓矢でも結果は同じだろう。

るう子を利用してでも、主導権を取り戻す。
思考回路の大半をそこに割いた結果、彼女は気付かなかった。
このスクーターが、放送局に向かっていることに。
三好夏凜や結城友奈が向かっている、放送局に。


*  *  *

――現在チャットルームには誰もいません――

――入室者有り――


K:『友奈?友奈なの?私よ、にぼっしーよ』


――退室しました――

――現在チャットルームには誰もいません――



【G-3/宿泊施設付近/一日目・昼】
【浦添伊緒奈(ウリス)@selector infected WIXOSS】  
[状態]:全身にダメージ(小)、疲労(小)、スクーター運転中
[服装]:いつもの黒スーツ
[装備]:ナイフ(現地調達)、スタングローブ@デュラララ!!
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(19/20)、青カード(18/20)、小湊るう子宛の手紙    
    黒カード:うさぎになったバリスタ@ご注文はうさぎですか?
     ボールペン@selector infected WIXOSS
     レーザーポインター@現実
     東郷美森のスマートフォン@結城友奈は勇者である
     スクーター@現実
     宮永咲の不明支給品0〜1(確認済)
[思考・行動]
基本方針:参加者たちの心を壊して勝ち残る。
     0:放送局に向かう。アザゼルを見つけ次第復讐する。
     1:東郷美森、及び小湊るう子を利用する。
     2:使える手札を集める。様子を見て壊す。
     3:"負の感情”を持った者は優先的に壊す。
     4:使えないと判断した手札は殺すのも止む無し。    
     5:蒼井晶たちがどうなろうと知ったことではない。
     6:出来れば力を使いこなせるようにしておきたい。
     7:それまでは出来る限り、弱者相手の戦闘か狙撃による殺害を心がける
[備考]
※東郷美森が犬吠埼樹を殺したという嘘をチャットに流しました。
※変身した際はルリグの姿になります。その際、東郷のスマホに依存してカラーリングが青みがかっています。
※チャットの書き込み(3件目まで)を把握しました。

578あなたの死を望みます。  ◆DGGi/wycYo:2016/01/23(土) 01:34:10 ID:XANdSxh60

【東郷美森@結城友奈は勇者である】
[状態]:健康、両脚と記憶の一部と左耳が『散華』、動揺、満開ゲージ:4
[服装]:讃州中学の制服
[装備]:弓矢(現地調達)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(17/20)、青カード(17/20)、
    定春@銀魂、不明支給品0〜1(確認済み)
    風邪薬(2錠消費)@ご注文はうさぎですか?
    ノートパソコン(セットアップ完了、バッテリー残量少し)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いに勝ち残り、神樹を滅ぼし勇者部の皆を解放する
     0:早急に浦添伊緒奈を切りたい
     1:南東の市街地に行って、参加者を「確実に」殺していく。
     2:友奈ちゃんたちのことは……考えない。
     3:浦添伊緒奈と小湊るう子を利用して、始末する。
     4:どうすれば……?
[備考]
※参戦時期は10話時点です
※チャットの書き込み(3件目まで)を把握しました。

【小湊るう子@selector infected WIXOSS】
[状態]:全身にダメージ(小)、左腕にヒビ、微熱(服薬済み)、魔力消費(微?)、体力消費(中)、両手両足拘束、気絶
[服装]:中学校の制服、チタン鉱製の腹巻
[装備]:黒のヘルメット着用
[道具]:腕輪と白カード
    黒カード:チタン鉱製の腹巻@キルラキル
     宮永咲の白カード
 [思考・行動]
基本方針:誰かを犠牲にして願いを叶えたくない。繭の思惑が知りたい。
   0:……………。
   1:シャロさん………
   2:ウリスと東郷さんに対処したい。
   3:遊月、晶さんのことが気がかり。
   4:魂のカードを見つけたら回収する。出来れば解放もしたい。
   5:東郷さんとウリス、仲が悪いの……?


【スタングローブ@デュラララ!!】
宮永咲に支給。
鯨木かさねが使用していたグローブで、肘に付けたスイッチを押すと電流が流れる。

579 ◆DGGi/wycYo:2016/01/23(土) 01:34:54 ID:XANdSxh60
仮投下を終了します

580 ◆DGGi/wycYo:2016/03/02(水) 15:45:53 ID:ho6pdns.0
放送案を投下します

581第二回放送 -カプリスの繭-  ◆DGGi/wycYo:2016/03/02(水) 15:47:25 ID:ho6pdns.0
――白い部屋、大きな窓、繭。

時を告げる重厚な針が二つ、頂上で重なる。
少女は手近な窓を一つ開け、“向こう側”へと語りかけた。


『――正午。こんにちは、とでも言えばいいかしら。二回目の定時放送の時間よ。
今あなたたちが何をしているかなんて関係ないわ。
大事な放送なんだもの、きちんと繭の話を聞きなさい。聞かない子はどうなっても知らない。
まずは禁止エリアの発表よ。


【B-8】
【E-5】
【H-4】


午後三時になったら、今言った三つの場所は禁止エリアになる。死ぬのがイヤならそこから離れるのをお勧めするわ。
それから、A-4に掛けてあった橋が直ったの。だからここの禁止エリアは解除してあげる。頭の片隅にでも置いておきなさい。

それじゃあ、死んじゃったみんなの名前を言うわよ。


【ランサー】
【保登心愛】
【入巣蒔菜】
【雨生龍之介】
【蒼井晶】
【カイザル・リドファルド】
【範馬刃牙】
【高坂穂乃果】
【桐間紗路】
【花京院典明】
【キャスター】
【ジャン=ピエール・ポルナレフ】
【折原臨也】
【蟇郡苛】


さあこれで全員、14人よ。6時間前の分も合わせたら……残りは39人。
ふふ、まさかたった半日でこんなに死んでいくなんて思わなかったわ。
ここまで残ってきた人はとっても強いのか、誰かに守ってもらったのか、それともとっても運がいいのか、どうかしら。

でもあなたも、あなたも、そしてあなたなんかも。横に居る子に突然裏切られたりしないように気をつけた方がいいわよ。
もしかしたらその子はこの放送で大切な人が呼ばれたことで行動を変えた、なんてことがあるかも知れない。
他人が何を考えているかなんて、分かりっこないんだから。

それじゃあこの放送はここでおしまい。
次はまた6時間後、夕方6時。その頃に繭の声が聞ける子は……何人かしら。期待しているわ』


*   *   *

582第二回放送 -カプリスの繭-  ◆DGGi/wycYo:2016/03/02(水) 15:47:52 ID:ho6pdns.0

放送が終わり、再び部屋は静まり返る。
窓の向こうを幾つか覗いてみるが、なかなか面白いことになっている。
ここまで来たのだ。恐らく誰もが一人や二人、或いはそれ以上の知人友人等を失っていてもおかしくはない。
驚きや嘆き、その他諸々が色濃く伝わって来る。



「ふむ……」



繭のすぐ傍で、一つの声がした。

「何を見ているの?」

“男”はグラスに注いだワインを片手に、沢山の窓の中のある一つをじっと見ていた。
繭に声を掛けられた男は、にこりと微笑み返すだけだ。
ちらりとその窓を覗くと、参加者の一人である青年の姿が映っている。

「…………」

繭には、彼が何を考えているかは判らない。
この殺し合いを持ち掛けてきたのは彼なのだが、如何せん彼が何を思ってやっているのか、それが理解出来ない。

少女はただ一言、男の名前を呟いた。



「ヒース・オスロ……」



※A-4の橋が修理され、渡れるようになりました。
それに伴い、A-4の禁止エリア状態が解除されます。

583 ◆DGGi/wycYo:2016/03/02(水) 15:48:13 ID:ho6pdns.0
放送案投下を終了します

584 ◆gsq46R5/OE:2016/03/02(水) 16:22:36 ID:NLj2Npss0
放送案投下します。

585第二回放送-Love your enemies- ◆gsq46R5/OE:2016/03/02(水) 16:23:36 ID:NLj2Npss0


  命が、消えていく。
  虚空に解けた夢が、消えていく。
  魂は一枚のカードに封じられ、ゆっくりと、人は死んでいく。
  
  ディルムッド・オディナが死んだ。
  その呪いで多くの錯乱を生み出し、されども前を向いたその果てに、彼の英雄譚は呆気なく終わりを告げた。
  魔王の剣に抱いた誉れも、友への誓いも切り裂かれ。
  守ると誓ったものを守れずに、無念の中で朽ち果てた。

  保登心愛が死んだ。
  同伴者の本性に気付くことなく同じ道を歩み続けたが、きっと彼女は幸運だったのだろう。
  痛みも恐怖もないままに、魔王の断頭台で首を刎ねられ。
  苦痛の芸術の矛先となるより先に、舞台から転げ落ちた。

  入巣蒔菜が死んだ。
  彼女の生き様を語ることは、あまりにも難しい。確かなのは、眠り姫が成せたことは何もなかったということ。
  眠りの園で心地よく微睡みながら、叩き切られ。
  何かを残すこともなく、無念ですらなく、ただ死んでいった。

  雨生龍之介が死んだ。
  若き青さを胸に、この箱庭でも自分の芸術へ没頭し続けた男。彼の首を絞めたのは、その芸術趣向だった。
  迂闊が招いた銃声を前に、あっさりと撃ち抜かれ。
  最後に答えらしいものを得ながら、永遠の眠りについた。

  蒼井晶が死んだ。
  深愛する少女の為にと刃を隠し持ち、状況の変化に翻弄されながらも戦った少女は、あまりに不運だった。
  父を喪った子鬼を前に、セレクターが出来ることは何もなく。
  自身の思いの行く末さえ知らぬまま、その首はあらぬ方向へねじ曲がった。

  カイザル・リドファルドが死んだ。
  誰よりも正しい騎士道精神で、箱庭の殺し合いへと刃向かった彼の末路は、予定調和。
  少女の狂乱を見抜けず、その正しさが仇となり、血反吐を吐いて。
  かつて友と呼んだ男に全てを託し、魂の牢獄へ収監された。

  範馬刃牙が死んだ。
  最強の男、範馬勇次郎の死を前にして、若いグラップラーの心は簡単に壊れた。
  勝利を目前で摘み取られ、一人の男が修羅となるきっかけを生み出して。
  その遺骸はグラップラー・刃牙としてではなく、ただの『範馬』として海の底へと投げ捨てられた。

  高坂穂乃果が死んだ。
  愛と恐怖と友情に狂い果て、多くの罪を犯した少女に立ちはだかった死神は、最強の神衣であった。
  彼女が敵うわけもなく、されども最期に――犯した全てを赦されて。
  運命に翻弄され続けたスクールアイドルは、その生き様とは裏腹の、安らかな眠りに落ちた。

  桐間紗路が死んだ。
  迷いと罪悪感で対立を招いた、どこまでも普通の少女だった彼女。
  あまりにも殺し合いの場には向かない娘は、堕ちた勇者の矢に貫かれて。
  臆病な一匹のうさぎは、独りを恐れて、孤独に死んだ。

  花京院典明が死んだ。
  目の前で殺され続けた、見えざる敵に敗北し続けたスタンド使い。
  彼が勝利を収めることはついぞなく、宿敵の養分に成り果てて。
  それでも最期に勝利を宣言し、人間賛歌を証明した。

  ジル・ド・レェが死んだ。
  信仰に狂った魔元帥は、あまりにも多くの混乱と、数多の怒りを会場中に生み出した。
  盟友の書なくして彼の本領が発揮されることはなく、神衣の怪物に一蹴され。
  怨嗟の絶叫をあげながら、その妄執もろとも、粉みじんになって死んだ。

  ジャン=ピエール・ポルナレフが死んだ。
  優しく気高い騎士は、一人の少女に気を取られた。それは、生命戦維の怪物を相手取る上で致命的すぎた。
  その報いとばかりに、その背を片太刀の欠けた鋏で貫かれ。
  かつて守れなかった、妹のところへと旅立っていった。

  折原臨也が死んだ。
  愛する、愛する、愛する。彼は心の底から、人間という生き物を愛していた。
  愛に基づき寿命を縮め、まさに蟲を踏み潰すように、情報屋は怪物に蹂躙されて。
  一足先に、彼はあるかもわからない天国を目指す。

  蟇郡苛が死んだ。
  本能字学園の生きた盾という自らの役割を貫き、彼は常に盾であり続けた。
  顔面半分を貫かれてもなお、不沈艦・蟇郡を沈めること叶わず。
  一縷の後悔も、その胸になく。最後まで忠誠を貫いて、漢は逝った。

586第二回放送-Love your enemies- ◆gsq46R5/OE:2016/03/02(水) 16:24:04 ID:NLj2Npss0


  日輪が、箱庭の頂上へと昇る。
  数多の物語と。
  数多の無念と。
  数多の未来と。
  数多の絶望を載せて。
  時は進む、それはまるで物語の頁を捲るように。

  
 「――元気にしているかしら。定時放送の時間よ」


  白い部屋からの起爆剤が、投下される。

587第二回放送-Love your enemies- ◆gsq46R5/OE:2016/03/02(水) 16:24:29 ID:NLj2Npss0
◯  ●


 『あれから、十四人が死んだわ。
  ある者は勇ましく、ある者は迷走の末に、ある者は無念の中で、死んでいったわ。
  残っているのは三十九人。次に日が沈む頃には、きっと盤面の駒数は半分を切るでしょうね』

  くすくすと、その声は嗤う。
  生者全ての腕輪から発せられる声。
  繭――箱庭の主であり、参加者達の絶対支配者。
  そして、打開を目指す者にとっての不倶戴天の敵。
  その声は鈴の鳴るような音色で、昼を迎える箱庭によく響く。

 『じゃあ、早速死んだ子の名前を――』

  ふふっ。
  また、繭が嗤った。
  神経を逆撫でするような、声だった。

 『――言う前に、新しい禁止エリアを教えてあげないとね。
  今回も、封鎖されるのは三箇所よ。
  ペナルティは六時間前に言ったのと同じだから、勘違いしたりしないようにね。
  

  【B-5】
  【E-3】
  【G-7】

  
  ……以上三つのエリアが、三時間後の午後三時にはもう入れなくなるわ。
  鉄道に乗っている間は入れるのは変わらないし、そこは安心していいわよ。
  
  ああ、それと。 
  時間をかけちゃってごめんなさいね。
  A-4の橋の修理が、ついさっき完了したわ。これからは普通に通れるようになる』

  どくん。
  どくん。
  どくん。
  会場中から、心臓の鼓動が聞こえてくるようだった。
  すべての参加者にとって、最も大事な事項。
  すなわち――誰が死んで、誰が生きているのか。
  それを、繭の声が読み上げる。
  笑みを、浮かべた。
  にちゃあと、唾液が歯と歯の間で糸を引いた。

588第二回放送-Love your enemies- ◆gsq46R5/OE:2016/03/02(水) 16:27:09 ID:NLj2Npss0

 「では、死者の名前を読み上げるわ。
  よく聞きなさい。そして受け止めるの。
  もう戻らない命を噛みしめて、これからのゲームに臨んで。


  【ランサー】
  【保登心愛】
  【入巣蒔菜】
  【雨生龍之介】
  【蒼井晶】
  【カイザル・リドファルド】
  【範馬刃牙】
  【高坂穂乃果】
  【桐間紗路】
  【花京院典明】
  【キャスター】
  【ジャン=ピエール・ポルナレフ】
  【折原臨也】
  【蟇郡苛】


  ――はい、全部で十四人。生き残りは、あと三十九人。
  そろそろゲームも中盤で、もっと加速してくる頃かしら。
  さあ、噛み締めなさい。
  そして自分が何をすべきかを、理解するの。『選択』するのよ。
  ……ふふ。
  それができたなら、これからどう生きるかなんて、自ずと見えてくるはずよ――」


  囃し立てる声。
  それは愉快そうに嗤ってから、最後を締め括った。


 「次の放送は午後十八時――また、私の声が聞けるといいわね」

589第二回放送-Love your enemies- ◆gsq46R5/OE:2016/03/02(水) 16:27:42 ID:NLj2Npss0
●  ◯


 「随分とご機嫌だったではないか、娘よ」
 「…………」

  放送を終えた繭へ、そう笑いかけたのは、いけ好かない男だった。
  黄金の頭髪を逆立たせ、目が痛くなるような同色の鎧を纏った美しい風貌の男。
  古代バビロニア――繭が生まれる遥か、遥か以前の時代に名を馳せたとされる、万古不当の英雄王。
  真名・ギルガメッシュ。繭は、そう聞かされている。
  『あいつ』が呼んだ、『いざという時』の為のカードの一枚であると、聞かされている。

 「ギルガメッシュ」

  繭にはわかる。
  というよりも、こいつの笑い方を見ていれば誰でもわかることだ。
  この男は、馬鹿にしたように笑う。――嗤うのだ。
  繭のことを、いつもいつも、憐れな道化を見るような瞳で見る。

 「『あいつ』は、何をするつもりなの」
 「くく――流石の貴様でも気付くか。あれが、おまえの望みとは違う方へ歩もうとしていることに」
 「……答えて」

  繭にとっての命の恩人。
  繭だけでは追い付かない部分を、補ってくれた協力者。
  タマヨリヒメを支給品に混入させた、張本人。

 「さてな。それには未だ時期が早い――今はそう答えておこうか」

  だが、と、黄金の男は付け加える。

 「我(オレ)に言わせれば、貴様も奴も、等しく愉快な見世物だ。
  存分に躍るがよいぞ、我がそれを許す」

  くつくつと笑い、霊体になって消え去る姿を見送って…… 
  繭は、ぎりっと歯を噛み締めた。
  やっぱり、こいつは嫌いだ。
  そう、改めて思うのだった。

  ――事態は、少しずつ、少しずつ……彼女の手を離れて、どこかへ向かい始めている――

  黄金は笑う。
  己を呼んだ者。
  紛れもない邪悪へ。
  人類種の仇敵へと。
  その在り方を心の底から嫌悪しつつも、さりとて、彼女達の奏でる音色はあまりにも愉快であったから。
  今はまだ、協力する。
  サーヴァントらしく、従属に預かって。
  黄金の王は、事態を俯瞰するのみ――。

 「何を夢見る、鬼龍院羅暁」

590 ◆gsq46R5/OE:2016/03/02(水) 16:28:09 ID:NLj2Npss0
投下終了です

591 ◆DbK4jNFgR6:2016/03/02(水) 17:04:32 ID:4lDIj7gE0
放送案投下します

592第二回放送 -その老人は黒幕- ◆DbK4jNFgR6:2016/03/02(水) 17:09:39 ID:4lDIj7gE0
白い部屋。このゲーム二度目となる死の宣告を下すべく、口を開いたのは主催者の『一人』である繭だった。

「ごきげんよう。皆、ゲームを楽しんでくれているかしら」

繭の声には自らが加害の立場にあるという優越感が含まれていた。
元の世界でどれだけ圧倒的な力を持つ人物であろうとも、この会場では等しくゲームの駒でしかない。
繭という絶対的な存在の前に成すすべもない塵芥にも劣る虫けら共である。
にもかかわらず、身の程知らずにもゲームに乗らず脱出を目指しているものがいる。
最初の内は見逃していたが、いい加減あの駒たちには自分の立場を分からせなければならない。。

「でもね、楽しむのは結構だけど、あんまり生意気な態度を見せて私を不快にさせない方がいいわ」

歌うように、けれども若干声のトーンを落として繭が言う。

「ここからの脱出なんて、できるわけがないんだから。脱出なんて無駄な事を考えるのはやめなさい」

それはあまりにも残酷な恫喝であった。お前らはここから出られない、ここで殺しあうしかないという呪いのい言葉。ゲームの過酷な現実を再度参加者に突きつける悪魔じみた宣言である。

「例えゲームに乗っていても、繭に露骨な反抗心を持ってる奴は気に入らないわ」

ギリッ、と歯をかみ締める。

「まさかとは思うけど、優勝した後、繭を倒そうと考えてる奴なんていないわよねぇ?」

反抗心を持つのは構わないにしても、それを隠そうともしない一部の参加者の態度は非常に不愉快だ。
ここでは繭が支配者であり、参加者はゲームの駒でしかない。駒が支配者に生意気な態度をとるなど許されることではない。

「もう一度、思い出した方がいいわ。今あなた達の命を握っているのが誰なのか」

再び声に加害の立場にいる人間特有の優越感が宿る。

「優勝しても、繭の機嫌を損ねたら、その場でカードにすることも、できるってことを、理解しなさい」

命を握られている人間の立場からすれば恐ろしいことこの上ない発言。それが分かっているからこそ、繭はその言葉を一言一言、刻みこむように参加者たちに告げた。

593第二回放送 -その老人は黒幕- ◆DbK4jNFgR6:2016/03/02(水) 17:11:28 ID:4lDIj7gE0
「それじゃあ、禁止エリア……今回も発表してあげるから感謝しなさい」


【B-7】
【C-2】
【G-7】


「次は脱落者ね」


【ランサー】
【保登心愛】
【入巣蒔菜】
【雨生龍之介】
【蒼井晶】
【カイザル・リドファルド】
【範馬刃牙】
【高坂穂乃果】
【桐間紗路】
【花京院典明】
【キャスター】
【ジャン=ピエール・ポルナレフ】
【折原臨也】
【蟇郡苛】


「さっきはキツイ言葉をかけたけど、あなた達には期待もしているわ。その期待を裏切らないように、ゲームに励みなさい」

594第二回放送 -その老人は黒幕- ◆DbK4jNFgR6:2016/03/02(水) 17:12:54 ID:4lDIj7gE0
◆◆◆


放送を終えた繭は背後に控える協力者に向き直り言葉をかけた。

「それで、聞きたいことは分かっているわよね」

協力者は男であった。整った顔立ちに真紅のスーツを見事なまでに着こなした中年男性はオルゴールを片手に握っている。

「さて、まずは怒りを静めてもらえないかな。君に怒った顔は似合わない」

猫なで声で繭を宥めながら男性は繭にチョコレートを差し出した。
繭はそれを乱暴に受け取ると、ビニールを破って中身を取り出し口に運び、もきゅもきゅと租借する。

「君が何を言いたいのかは理解しているとも。タマヨリヒメが何故、参加者の支給品に紛れ込んでいるかだろう」

男性は、まるで舞台役者のような素振りで両手を翳しながら、繭の疑問を言い当てる。

「そうよ、私の質問に答えてくれるわよね……ヒース・オスロ」

その男はヒース・オスロと名乗る人物だった。

「非常に申し上げにくいのだが、あれは私の手違いだ。君には大変申し訳ないと思っている」

全く焦った様子もなく、オスロは淡々と告げた。

「ッ! 手違いで済む話ではッ!」
「落ち着くんだ、繭。腕輪がある限り奴らは我々に反抗できない。それに例の保険もあるだろう」

子供に言聞かせるような調子でオスロ。

「それは、そうだけれど」
「タマヨリヒメを誤って支給品に紛れ込ませてしまったことは改めて謝罪する。すまなかった」
「……もう、いいわ」

言いながら手のひらを差し出す繭。その意を汲み取ってオスロは再びチョコレートを手渡す。

「一つじゃ足りないわ」

更に三つほど受け取ってから、繭は満足げに頷き、その場を後にした。

595第二回放送 -その老人は黒幕- ◆DbK4jNFgR6:2016/03/02(水) 17:14:35 ID:4lDIj7gE0
◆◆◆


繭が去った後、オスロの周りに一匹、また一匹とおぞましい何かが集まり始めた。
その正体は蟲だ。ゲーム参加者の一人である間桐雁夜が使役していたのと同種の蟲であった。
しかし、これはおかしい。間桐雁夜は既に脱落しており、現在はカードになっている。
そもそも、仮に脱落していなかったとしても、参加者の一人でしかない間桐雁夜が、この部屋の中に入ってこれるはずがない。
となればこの蟲を使役するのは、間桐雁夜とは別の人物であることになる。
ならば蟲が同種であることには、どう説明をつければよいのか。
その答えは至って単純である。蟲を使役する人間が間桐雁夜の関係者であれば説明がつく。

「カカカ、クカカカ、娘の世話が随分と板についているようじゃな」

姿を現したのは老人であった。
名を間桐臓硯。否、マキリ・ゾォルケンと呼ぶのが適切であろうか。
500年の時を生きる、正真正銘の妖怪であり、この舞台を整えた黒幕とも呼べる人物だった。
元の世界ではテロリストでしかないオスロが繭にこの舞台を提供できたのも、裏でこの老人が動いたからである。

「順調、順調、実に順調に儀式が進んでおる」
「全てこちらの目論見どおりですね」

グラスを二つ用意してそれにワインを注ぎながらオスロはそう口にした。
『タマヨリヒメ』が参加者の手に渡ったのも計画通り、言外にそう言い含める。

「ゲーム、いやあなたの言葉を借りるなら儀式か。その儀式が完成すれば、貴方は願いを叶える」

優勝者にはどのような願いも叶えるというのは欺瞞であった。
それはある意味では聖杯戦争やセレクターバトルと同じような仕組み。
勝ち残れば願いが叶うなどといったふわふわした言葉など、本気で信じる方が間抜けなのである。
単に願いが叶う、叶わないで言えば叶う、セレクターバトルではなく聖杯戦争寄りなこのゲーム。
しかし、その願いを叶えるのは優勝者ではなく間桐臓硯なのだ。

ではオスロはどうなのか。願いを叶えられるのは一人だけである。隙を突いて臓硯を出し抜くつもりなのか。
否である。あの妖怪を自分がどうこうできると思うほど、オスロは自意識過剰ではない。
確かにオスロは戦闘のプロであり、特にナイフによる近接戦に秀でているが、あの怪物を殺しきる自信はなかった。
オスロが欲したのは願いを叶える権利ではなく優勝者の肉体である。優勝者を元の世界に返すつもりなど初めからありはしなかったのだ。
臓硯は願いを叶え、オスロは優勝者の体を手に入れる。利害の一致によって両者は手を結ぶことができた。

「ご子息については残念でしたね。早々に退場することになってしまって」
「所詮あれは生き残れる器ではない。が、死に方が気に入らんがな」
「というと?」
「あれはもっと無様に見苦しく足掻いて死ぬと思うとったが、期待はずれにも程がある」

カッ、と臓硯が不愉快そうに白い床に杖を付く。

「そんなことより、貴様はどうなのだ。確か目をかけていた小僧がいただろう。風見雄二だったか」
「正直なところ、期待以上ですね」

雄二に殺しの技を仕込んだのはオスロであり、彼の戦闘技能の高さはオスロ自身が一番よく分かっていた。
しかし、このゲームには人間を超越した化け物たちが参加している。どれだけ一般レベルで強かろうと、あれらにその常識は通用しない。

「あの環境で雄二はここまで生き残った。他人と共闘したとはいえ針目縫を相手にして生存しているのも評価に値する」

優勝者として雄二が再び手元に戻ってくるのであれば、それはそれで良いかもしれない。
そんなことを思いながらオスロは自らがグラスに注いだワインに口をつけた。

596 ◆DbK4jNFgR6:2016/03/02(水) 17:16:15 ID:4lDIj7gE0
放送案投下終了します

597 ◆NiwQmtZOLQ:2016/03/02(水) 23:32:31 ID:8YOKizEM0
遅くなりましたが、自分も放送案を投下させていただきます

598第二回放送 -EXODUS- ◆NiwQmtZOLQ:2016/03/02(水) 23:34:49 ID:8YOKizEM0



踊るように、少女が跳ねる。
バレエのように美しく舞うその身体は、重力を感じさせない動きで空を横切り。
黒い背景に映えていた彼女の姿は、やがて壁が保護色の白となって部屋へと溶け込んだ。

「ふふっ」

少女━━━━━繭の機嫌は悪くなかった。
殺し合いの中で生き残った人間の数は、既に当初の半数に近い。
この分ならば、もうすぐ行われる自分の放送が終わって間も無く半数を切るだろう。


少女は思い出す。

自らの行いに悔いながら、無惨に死んでいった少女を。

何も出来なかった自らを呪い、最後にはただ捨て台詞を吐いて死んでいった青年を。

自分の最期の行動となったそれが根本から間違っており、救われた筈の少女を人殺しにしてしまった青年を。


思い出す度に、彼女の昏い心は嗤う。
堕ちていく魂の行く先である、自分がいた永遠の孤独。
絶望と失意に塗れそこへ叩き込まれる魂が、孤独で傷付いた彼女の心を歪ながらも癒している。


だが、同時に少女は思い出す。

悲惨な現実に何度も何度も打ちのめされ、最早何も信じられなくなりながら、最期の最期でほんの僅かに救われた少女を。

自分の愛する存在へとその身を捧げ、末期の意識の中で自分の全てに決着をつけ、最期の瞬間までその愛を貫いた青年を。

目の前の少女を救う事も斃す事も出来ず、それでも尚その生き様に一切の悔いは無いと言い切り、仁王立ちのまで逝った漢を。


それらを思い出す度に、繭の心はざわざわと揺れる。
魂をカードに閉じ込めて、永久に孤独を味合わせる。
嘗ての少女と同じ境遇で、嘗ての少女と同じ生涯の孤独に陥れる。
その言葉に偽りはないにも関わらず、希望を抱いて現世を去った彼等が、繭の心を揺らめかせている。

或いは、その言葉を信じていないのか。
死んで尚、天国へと導かれ、そこで救いがあるなんて思っているのか。
それとも、カードに閉じ込められて尚、誰かに希望を残したのか。
死ねば皆独りの筈なのに、まるでその先に誰かがいるとでもいうのか。

そして、繭が何より腹を立てているのは。
まるで、見せつけられているようだった事だ。
お前には、これが無いと。
お前には、こんな細やかな希望すら許されていないのだと。
お前には━━━━━救いも何もない孤独しか知らないお前には、分かるまい、と。

腹立ちを紛らわせるように、彼女はその足を進める。
向かう先は、決まっていた。






「やあ〜、こんにちは〜」

間延びした声が、広い部屋に響く。
部屋の中には、一つだけポツンと置かれているベッド以外には特に物が存在していない。

「こんにちは、乃木園子さん」
「園子でいいよ、まゆゆ〜」

気の抜けたような間延びした声で、更に変な呼び名で呼ばれた事にむっとしながらも、すぐに表情を元に戻す。

この場所に来た理由は二つ。
一つは、この少女が何らかの行動を起こしていないか確認する為。
乃木園子━━━━━彼女自体が殺し合いに賛同するような人物ではない事は分かっている。
ゲームの維持の為には居て貰わなければ困る存在だが、核心に近い分下手な謀反を起こされる訳にもいかない。
そう言っていたのは「あいつ」。
その顔が脳を過ぎったが、特に気にする事もなく意識から消した。

そして、もう一つは。

599第二回放送 -EXODUS- ◆NiwQmtZOLQ:2016/03/02(水) 23:36:24 ID:8YOKizEM0

「ねえ、あなたもそろそろ、殺し合いの会場は見飽きたかしら?」
「…………まあね〜。これだけ見てれば、見覚えのある景色ばっかりにもなってくるかな〜」

その言葉に、繭は顔を歪める。
にやりと笑う彼女を見返す園子に、繭は小さく囁いた。




「━━━━━それじゃあ、面白いものを見ましょうか」

そう言うと同時に、幾つもの窓が壁に現れる。
ふわふわと浮かんでいるそれを、薄笑いを浮かべて眺める繭と、顔色一つ変えないまま━━━━━尤も顔自体は包帯に隠れているのだが━━━━━見据える園子。
そうして間も無く、その窓が開く。
その中に移るのは、一人の少女。
ポニーテールに纏めたオレンジ髪の少女が、虚ろな目で何処かを見ている姿。



『…………ねえ、ちゃん……………』



ふと漏らしたその言葉から、園子も彼女の境遇を察する。
恐らくは姉が巻き込まれ、命を落としたのだろう。
二人はそうして暫く眺めていたが、全くと言っていい程動きのない彼女に飽きたかのような表情の繭が腕を振ると同時にその窓は閉じた。

「あの子は、あんまり動かなかったけれど…………他の子も見るかしら?」
「…………ううん、いいや」
「そう」

つれない返事に呆れながら、窓を全て消していく。
様々な柄や色で彩られた窓枠の中からは、全て今のように『観客』の姿が眺められるようになっている。



━━━━━『観客』を呼ぶにあたって、「あいつ」が制限したのは一つだった。

戦いに秀で、肝も据わっているような、そんな「強者」を呼ばない事。

それさえ守れば、何人呼ぼうが構わない、と言われた。

結局、『観客』として招いた人として選ばれたのは、平凡な毎日を生きているような少女達だった。

例えば、喫茶店で働く先輩や同級生に憧れる少女達。
例えば、廃校となる母校を救う為に歌を歌い踊りを踊る事を決意した少女達。
例えば、当たり前の平和になった世界で、当たり前のように平和な格闘技を行う少女達。
『観客』として招かれたのは、そんな少女達だった。

だが、それでいい。
繭にとって最も我慢ならない人種は、そういった「当たり前の日常を謳歌する人々」だったから。

険しい道程の中で、親しい仲間を殺される、或いは失った、そういう運命の中にいる、だとか。
得てして「強者」は、そういった不幸な環境に身を置く事が多い。
或いは、そういった不幸な環境にあったからこそ、「強者」となれたのか。

何であれ、そんな彼等だから、繭はまだ我慢出来た。
あの殺し合いに閉じ込めたほんの一部だけで、まだ十分だった。

けれど。
そんな残酷な現実など何処吹く風と、日常を謳歌する少女達。
或いは安穏と。
或いは平凡と。
そうやって過ごしていた少女達に対しては、それだけで済ませたくはなかった。

殺し合いとは別に、閉じ込めた部屋の中でひたすら殺し合いを鑑賞させる。
先輩や後輩や仲間や、そんな人々が打ちのめされ、死んでいく様を、まじまじとその目に焼き付けさせる。
悲しみに咽び泣く姿、激情に駆られ叫ぶ姿、ただ放心する姿━━━━━様々な彼女達の姿は、殺し合いとは別に繭の心を満たしてくれた。

600第二回放送 -EXODUS- ◆NiwQmtZOLQ:2016/03/02(水) 23:38:43 ID:8YOKizEM0

ふと改めて、目の前の少女を見る。

目の前の少女、乃木園子は『観客』ではない。
あの世界を保つ為に用意された、歴とした舞台装置の一つだ。
だが、その境遇に、繭は僅かに興味を覚えていた。

一人の仲間が死に。
もう一人の仲間には忘れられ。
動かない体で、二年間延々と縛られている少女。
その境遇に、僅かに親近感を抱いていたのかもしれない。

だから、と。
繭は、園子へと口を開いた。

「ねえ、あなたはどう思う?
とっても可哀想なあなたは、この殺し合いをどう思っているのかしらね?
あなただって、本当はあの子達に嫉妬して━━━━━」



「━━━━━それ以上何か言ったら許さないよ?」

その言葉に、繭の身体は一瞬硬直した。
園子の言葉遣いや表情は、一切変化していない。
だが、その言葉に込められた怒りは、繭の心を押し潰す程に激しく煮え滾っている。

想定の範囲内、ではあった。
怒りを向けられて当然だし、その反応を楽しむ為にそう言ったとも言えるのだから。
下手に繭に手出しをすれば、何もかもがおじゃんになるのは園子にも分かっているだろう。
それを見越して煽るような言い方をした。

だから、それでも。
一時的に恐れこそすれ、繭はその言葉に心を変える事はなかった。
話は終わったとばかりに立ち上がり、そのまま放送に向かおうかと考え始めた。


それで、終わりのはずだった。





だが。
激情が収まった様子の少女が、ふと目を伏せて。
小さく、呟いた、言葉は。





「…………でも、うん。
━━━━━しょうがないよね、あなたも。
だから」




その、言葉は。



「私は、あなたを責めたりはしないよ」



繭の心に、一つの楔となって突き刺さった。



「……………ふ、ふふ、そうね、そうかもね」

ぎこちなく振り返り、口角を吊り上げて笑顔を形作る。
その表情のまま園子を見据えながら、逃げるように彼女はその部屋を後にする。
再びそこに残るのは、暗闇と小さなベッド、そしてそれに横たわる少女だけだった。

「……………だって、私がどうこう言える訳じゃあないからね」

ぽつりと。
友の思うままの世界の滅亡を、何をするでもなくただ見届けようとした事。
それを思い出しながら、残された少女も呟いていた。



部屋から出た瞬間に、繭は壁に拳を叩きつけた。

「何で…何でよ………!!」

苛立ちをそのまま口から吐き出すように、そんな言葉がついて出る。


それは、或いは望んでいた言葉なのかもしれなかった。
「同情」。
自分と同じ孤独にある少女に、自分を理解して欲しかったという感情が皆無だったとは、彼女自身も言い切れないかもしれなかった。


けれど、実際に彼女から言われたそれは。
自分と同じ、孤独な少女からのそれは。
気が変になりそうな程に、繭の心を打ち砕いた。

601第二回放送 -EXODUS- ◆NiwQmtZOLQ:2016/03/02(水) 23:42:36 ID:8YOKizEM0


人の善意に触れる事が無かった、永遠の孤独の中にあった少女への。
人の善意を信じ、自らも善行を積む世界で、孤独になってしまった少女の言葉。
元が同じ孤独であるからこそ、繭はそこから生まれる心の違いに気付かされてしまっていた。

許せる、という事が。
許せてしまう、という事が。
繭には、どうしようもない程に見せつけられているように感じた。


自分が手にする事が無く、与えられる事もなかった━━━━━優しさだとか温もりだとか、そんな「当たり前」を。


「━━━━━許さない」

そして。
だからこそ、彼女は更に募らせる。
自分がそれを手に出来なかった事への怒りを。
それを手に入れて、輝かしい日々を送っている人々への憎しみを。
彼女の騒めく心が、更に加速していく━━━━━その時。

「繭様」

不意に、少女の背後から声が掛かる。
少女が振り返ると、そこにいるのは一人の女性。
黄色のスーツに身を包んだキャリアウーマンのような彼女━━━━━鯨木かさねは、繭に対して言葉を続ける。

「そろそろ放送の時間です。準備の方を━━━━━」
「…………ねえ」

鯨木の声を遮って、繭が口を開く。
そこから紡がれる言葉の内容に、鯨木は僅かに眉を顰めた。

「頼み事があるの」

より、絶望を加速させる為に。
自分という存在の道連れに、共に絶望に堕ちる人々の姿を見る為に。

「あいつには、内密にしてほしいんだけど━━━━━どうかしら?」

繭は、そんな言葉を言い放つ。
まるで、苛立ちを吐き棄てるように。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


『お待たせ。
ふふっ、良かったわね。前の放送から六時間、無事に私の声を聞けて。
もしかしたら、全く無事じゃないかもしれないし、私の声なんてむしろ聞きたくないなんて怒っている人も多いかしら?
でも、私のこの話を聞き逃して勝手に自滅なんてしたくないでしょう?
だったら、しっかり聞いておいた方が良いわよ。

まずは報告。
前の放送でも教えた、A-4の橋だけど……ついさっき、修理が終わったわ。
それと一緒に、A-4の禁止エリア設定もおしまい。また最初と同じように、島を行き来出来るようになったわよ。
お互いの島に、もしかしたら気になる人もいるんじゃないかしら?
探す為に、あるいは━━━━━殺す為に。
せっかく直したんだもの、ちゃんと使ってくれると助かるわ。

じゃあ、次。
とっても重要な、禁止エリアの発表よ。


【B-5】
【E-3】
【G-5】


今回の禁止エリアは以上よ。
今そこにいるって人は、急いで出ていった方がいいんじゃないかしら?
近くにいる人も、うっかり入っちゃってカードに閉じ込められたくはないでしょうから、気をつける事ね。

602第二回放送 -EXODUS- ◆NiwQmtZOLQ:2016/03/02(水) 23:43:43 ID:8YOKizEM0

そして、お待たせ。
多分皆お待ちかねの、この六時間での死者の発表よ。
ふふっ、皆不安かしら?好きな人が、仲間が、呼ばれちゃうかもしれないって?
それじゃあ、発表するわよ。



【ランサー】
【保登心愛】
【入巣蒔菜】
【雨生龍之介】
【蒼井晶】
【カイザル・リドファルド】
【範馬刃牙】
【高坂穂乃果】
【桐間紗路】
【花京院典明】
【キャスター】
【ジャン=ピエール・ポルナレフ】
【折原臨也】
【蟇郡苛】



以上、おしまい。
今回は。前回と合わせれば………ふふっ、もう半分を切りそうね。
たった半日でこれなんて、皆頑張っているみたいね。
それに、半分だから………そろそろ皆一人くらい、知り合いが呼ばれちゃったんじゃないかしら?

最後に、二つ言いたい事があるわ。
でも、どっちも直接言っちゃうのはつまらないわね。
まず、一つは………そうね、ヒントは学校よ。
もう知っている人も少しいるみたいだから、分からない人は実際に行ってみるか、その人達に聞いてみるのはどうかしら?
もう一つは━━━━━もう忘れちゃってるかしら?それなら、思い出して、とだけ言っておくわね。
それとも、まだ知らないだけなら━━━━━もう一回、自分の手札を見直しておきなさい。カードバトルなら、自分の手札を把握する事はとっても大事なんだから。

━━━━━それじゃあ、今回の放送はここまで。
もしもまだ生き残れていたら、六時間後にまた会いましょう』




そうして。

様々な思惑を乗せて、ゲームは更に加速していく。

その終着点も━━━━━その最深部に蠢く存在すらも、未だ明かさないままに。






※A-4の橋の修理が完了し、同エリアの禁止エリア設定が解除されました。
※繭が鯨木に頼んだ頼み事の内容は後続の書き手さんにお任せします。

603 ◆NiwQmtZOLQ:2016/03/02(水) 23:44:27 ID:8YOKizEM0
投下を終了します。

604 ◆DGGi/wycYo:2016/03/04(金) 15:11:21 ID:b2ZrrbAM0
少々加筆修正したものを再投下します 一応指定はなかったので修正スレではなくこちらで。

605第二回放送 -カプリスの繭-  ◆DGGi/wycYo:2016/03/04(金) 15:12:10 ID:b2ZrrbAM0
――白い部屋、大きな窓、繭。

カードに閉じ込められた魂は一度この部屋に送られ、すぐに別の窓へと再び閉じ込められる。
バタンと大きな音を立て、また一つの窓が閉じた。

やがて時を告げる重厚な針が二つ、頂上で重なる。
少女は手近な窓を一つ開け、“向こう側”へと語りかけた。


『――正午。こんにちは、とでも言えばいいかしら。二回目の定時放送の時間よ。
今あなたたちが何をしているかなんて関係ないわ。
大事な放送なんだもの、きちんと繭の話を聞きなさい。聞かない子はどうなっても知らない。
まずは禁止エリアの発表よ。


【B-8】
【D-3】
【F-6】


午後三時になったら、今言った三つの場所は禁止エリアになる。死ぬのがイヤならそこから離れるのをお勧めするわ。
それから、A-4に掛けてあった橋が直ったの。だからここの禁止エリアは解除してあげる。頭の片隅にでも置いておきなさい。

それじゃあ、きっと一番欲しがっているお話、ここまでに死んじゃったみんなの名前を言うわよ。
大事な人が死んだなら……この後の身の振り方は、当然分かっているわよね?


【ランサー】
【保登心愛】
【入巣蒔菜】
【雨生龍之介】
【蒼井晶】
【カイザル・リドファルド】
【範馬刃牙】
【高坂穂乃果】
【桐間紗路】
【花京院典明】
【キャスター】
【ジャン=ピエール・ポルナレフ】
【折原臨也】
【蟇郡苛】


さあこれで全員、14人よ。6時間前の分も合わせたら……残りは39人。
ふふ、まさかたった半日でこんなに死んでいくなんて思わなかったわ。
ここまで残ってきた人はとっても強いのか、誰かに守ってもらったのか、それともとっても運がいいのか、どうかしら。

でもあなたも、あなたも、そしてあなたなんかも。横に居る子に突然裏切られたりしないように気をつけた方がいいわよ。
もしかしたらその子は大切な誰かが死んだことで行動を変えた、なんてことがあるかも知れない。
他人が何を考えているかなんて、分かりっこないんだから。

それじゃあこの放送はここでおしまい。
次はまた6時間後、夕方6時。その頃に繭の声が聞ける子は……何人かしら。
半分? もっと少ない? 期待しているわ』


*   *   *

606第二回放送 -カプリスの繭-  ◆DGGi/wycYo:2016/03/04(金) 15:12:27 ID:b2ZrrbAM0

放送が終わり、再び部屋は静まり返る。
窓の向こうを幾つか覗いてみるが、繭にとってはなかなか愉快な光景が広がっている。
既に半日が過ぎたのだ。誰もが一人や二人、或いはそれ以上の知人友人等を失っていてもおかしくはない。
現に誰もが驚き、嘆き、涙を流し、放心する。彼も、そして彼女も。


「ふむ……」



繭のすぐ傍で、一つの声がした。

「何を見ているの?」

金髪の“男”はグラスに注いだワインを片手に、沢山の窓の中のある一つをじっと見ていた。
繭に声を掛けられた男は、にこりと微笑み返すだけだ。
ちらりとその窓を覗くと、参加者の一人である青年の姿が映っている。
名前は確か『風見雄二』だったか。

男の傍には、いつからそこに居たのか風見雄二に瓜二つな青年が立っていた。
白髪赤眼の彼もまた、沈黙を崩さない。

「…………」

繭には、彼らが何を考えているかは判らない。
この殺し合いを持ち掛けてきたのは金髪の男であり、ルール調整や舞台となる島の準備等をお膳立てしたのも彼だ。
だが何がそこまで彼、若しくは彼らを駆り立てるのか、どうしても理解することが出来ない。


ヴヴヴ、と何かが振動する音。
その発生源であるスマートフォンをポケットから取り出すと、男は誰かとの会話を始めた。


「ああ、君か――」



少女はただ一言、憎しみの混ざった声色で男の名前を呟いた。



「ヒース・オスロ……」



※A-4の橋が修理され、渡れるようになりました。
それに伴い、A-4の禁止エリア状態が解除されます。

607 ◆DGGi/wycYo:2016/03/04(金) 15:13:11 ID:b2ZrrbAM0
以上で修正版を投下終了します
ダメだ、ということでしたら様子を見て破棄という形で構わないです

608名無しさん:2016/03/04(金) 16:28:05 ID:KGnSVus.O
乙です
問題はないと思います

609 ◆KKELIaaFJU:2016/03/08(火) 19:15:12 ID:3jm/cueA0
一旦、仮投下させていただきます。

610 ◆KKELIaaFJU:2016/03/08(火) 19:15:53 ID:3jm/cueA0


 人との出会いは一期一会。


 時期や出会い方が違うだけで……最高にいい出会いもあれば。
 どんな相性のいい相手同士でも――最悪の破滅に導いてしまうこともある。

 だからこそ、彼女は人と人との出会いを大切にしていた。

 
 ――――『ここ』に連れて来られるまでは。



 ◆ ◆ ◆

611 ◆KKELIaaFJU:2016/03/08(火) 19:16:51 ID:3jm/cueA0



 あれから、しばらく歩いた。

『あの場から逃げた自分は間違っていない』
 
 そう何度も心の中でいい聴かせながら歩く。
 自分の行為の正当性を肯定するかのように。
 

(近くには人は……いないようやね……)


 地図の示す通りであれば間違いはないはずである。
 希は大きく溜息を吐き、辺りを見渡す。
 ……人の気配は感じられない。

(中に誰かおるんかな……)

 左手で研究所の扉を開ける。
 ゆっくりと……出来る限り気配を消して、音を立てずに。
 左手に縛斬・餓虎を持ち、いつでも護身は出来るように準備はする。

(……ッ!?)

 最初の部屋で希が見たのは破壊された痕跡。   
 思わず、目を瞑りたくなるような光景。
 しかし、希は決して目を逸らしたりはしない。 
 
 あの化け物たちならばこれくらいの惨状を作り出すくらいはできそうだ。
  
 あの守護霊? 幽霊?のようなもので戦っていたポルナレフ。
 そのポルナレフの仲間らしき学ランの男――承太郎。
 その二人相手を手玉に取っていた名前がわからない眼帯の少女。
 そんな奴らの戦いを目の当たりにしたら、そんな考えに至ってしまった。
 
(……そんな人らには学校に近づいて欲しくないわ……)

 国立音ノ木坂学院。
 最初から決めていた絶対に行かないと決めていた場所。
 希は3年間その学校に通っていた。
 一度の転校もせずに、同じ学校に通い続けた。
 そこが自分の『場所』と初めて思える所だった。

 その『場所』で出会えた『奇跡』。

 この殺し合いでその『場所』も『奇跡』を奪われた。

「ホンマ……勘弁してほしいわ……」
 
 思わず、声に出てしまった。

 溜息を吐いて、希は思もう。
 あの少女―――繭と言ったか。
 あの化け物どもばかり集まるここにただの少女達を呼んで彼女は何がしたいのか?
 狩られるための小動物(ターゲット)として呼ばれたのか?
 必死に生きるために戦って死ねとでも言いたいのか? 
 だが今、そんなことを自分が考えても埒が明かない。
 ただ、あの繭という少女が非常にスピリチュアルな雰囲気を醸し出していたのはよく覚えている。


(……絵里ち、穂乃果ちゃん……ウチは『穢れた奇跡』にもう縋るしかないんよ……)


 この汚れてしまった手ではどんなに綺麗な『奇跡』を掴んでも汚れてしまう。
 ましてやこんな殺し合いで叶うような『奇跡』だ。
 
 だが……今はそれでも構わない。

612 ◆KKELIaaFJU:2016/03/08(火) 19:17:35 ID:3jm/cueA0

 
 一人で研究所の奥をどんどん歩いていく。
 非常に静かな自分の足音だけが反響しているのだけがわかる。
 人の気配どころか、奥はまだ綺麗な状態であった。
 そして、未だにここが何を研究している研究所なのかもわからない。

(…………どういうことやねん)

 思わず声に出してツッコミたくなった。
 そう考えた時、ふと時間が気になった。
 放送の時間が近づいて、もうそろそろのはずだ。
 
 希は一先ず、近くの部屋に入った。
 その部屋にあったのはテーブルと椅子と一台のコンピューターだけであった。
 
(このコンピューター使えるんかな……?)
 

 腰を掛ける前にコンピューター周りを調べてみる。
 コンセントは差さっている。
 しかし、ディスプレイは真っ黒で自分の貌しか映さない。
 電源のスイッチらしきものは見当たらない。
 あるのはカードの挿入口らしきものだけ。

「………ほんまわけわからんわ……」

 ここに着いて何度目かの溜息が零れそうだった時であった。


  『――正午。こんにちは、とでも言えばいいかしら。二回目の定時放送の時間よ』

 
 ――二回目の放送が始まってしまった。

「…………」

 まずは禁止エリアが発表された。
 この研究所の隣のエリアが指定されていた。
 ここが禁止エリアでない、今はそれだけで十分だった。
  
  
  『それじゃあ、きっと一番欲しがっているお話、ここまでに死んじゃったみんなの名前を言うわよ』

 希は大きく息を呑む。

(絵里ちと穂乃果ちゃんは大丈夫やろうか……)

 会いたくない二人の顔が過る。
 それと同時に別のことを思ってしまった。

(……出来ればあの眼帯の女の子が神父さんや承太郎と呼ばれた人を殺してくれてるとええんやけどな)

 初めて人の不幸を願ってしまった。
 自分の胸の中で罪悪感に似たようなドス黒い感情が沸き上がっている。  

 固唾を呑み、繭の声に耳を立てる。

613 ◆KKELIaaFJU:2016/03/08(火) 19:18:20 ID:3jm/cueA0


『ランサー』

 知らない名前。

『保登心愛』

 知らない名前。

『入巣蒔菜』

 知らない名前。

『雨生龍之介』

 知らない名前。

『カイザル・リドファルド』

 知らない名前。

『範馬刃牙』

 知らない名前。


『高坂穂乃果』


「……………え?」


『桐間紗路』

 ……………。

『花京院典明』

 ……………。

『キャスター』

 ……ことりの仇で自分の右手をこんなにした男。

『ジャン=ピエール・ポルナレフ』

 ……自分が見殺しにした男。

『折原臨也』

 ……………。

『蟇郡苛』

 ……………。

 その名前で死者の発表は終わった。
 もうその声を聴きたくなかった。

614 ◆KKELIaaFJU:2016/03/08(火) 19:19:07 ID:3jm/cueA0

 だが、太陽が沈んだ。
 太陽が無ければ星や月はもう輝くことはできない。
 
 虚ろな目には黒いディスプレイに反射したただただ弱く惨めな自分の顔だけが映る。
 自身の頬に涙が伝っていくのが、はっきりとわかった。


「…………穂乃果ちゃん…………」


 μ'sのリーダー。
 自分の大切な友達。
 
 いつもひたすら真っすぐで皆を引っ張っていた。
 
 彼女には言葉に出来ないほどの感謝している。
 
 あの伸ばした手には皆が救われた。


 絵里もにこもことりも……。


 ここにはいない、海未も花陽も凜も真姫も……。


 自分だって。


 ――――彼女の大切なものはこの理不尽な場所でまた奪われてしまった。


 零れ落ちる涙が止まらない。
 溢れ出る感情を抑えきれない。


 色々な感情がぐちゃぐちゃに混じり合って自分でも分からない。
 
 
 放送が終わって数分経ってもその場を動けなかった。


 ただただその場から動きたくも何もしたくなかった。


「絵里ち……ウチはどうしたらええんや………」


 親友の名前が自然と出てしまった。
 会いたくないはずなのに今は無性に会いたい。
 会って何をしたいのか? 何を話したいのか? 
 それは自分でもわからない。

615 ◆KKELIaaFJU:2016/03/08(火) 19:19:51 ID:3jm/cueA0


 その時である。
 

 彼女の目の前に突然起動し始めた。

(放送が終わって……動き始めたん……?
 最初からそう言う設定されてたんかな……?)

 しばらく、じっとコンピューターを眺める。
 すると、ディスプレイにこう表示された。

『IN
 RED……5
 BLUE……5
 BLACK……1
 WHITE……1

 OUT
 BLACK……1』

「………なるほど、カードの交換機っちゅうわけか………」

 ディスプレイに表示される文字列で希は理解した。
 恐らくは第二回放送までオミットされていたのだろう。

(ウチがいたからスイッチが入ったんかな? 偶然か? それとも……)
 

 そんなことはわからない。
 だが、それでも彼女は欲しかった。


 ―――力が欲しかった。


 ―――私たちの夢を守る力が欲しかった。

616 ◆KKELIaaFJU:2016/03/08(火) 19:20:32 ID:3jm/cueA0
 

【D-4/研究所内/日中】

【東條希@ラブライブ!】
[状態]:精神的疲労(大)、右手首から先を粉砕骨折(応急処置済み)
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:縛斬・餓虎@キルラキル
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(8/10)、ヴィマーナ@Fate/Zero(4時間使用不能)
基本方針:μ's全員を生き返らせるために優勝狙い。
  0:カードの交換機を使う?
  1:集団に紛れ込み、隙あらば相手を殺害する。
  2:にこと穂乃果を殺した相手に復讐したい。
  3:絵里ちには会いたくない……?
[備考]
※参戦時期は1期終了後。2期開始前。



【カードの交換機について】
・研究所に配置されており、一人あたりのカードの交換上限はない。
・赤カード5回分or青カード5回分or黒カード2枚or白カード1枚で新たな黒カード1枚と交換できる。
・出てくる黒カードは完全にランダム。超当たりアイテムもあれば超ハズレアイテム、重複もありうる。

617 ◆KKELIaaFJU:2016/03/08(火) 19:22:04 ID:3jm/cueA0
以上で仮投下終了となります。
問題点等がありましら、ご指摘ください。

618名無しさん:2016/03/08(火) 19:43:48 ID:yqs5xVlE0
仮投下乙です
カード交換機の「重複もありうる」は消した方がよろしいかと
ただでさえ書き手の意思次第でいくらでも贔屓が出来るシステムなのに、例えば神威純潔にエアにアヴァロンが一気に出た、のような超強化が簡単にされるようになるのは困りますので
もっと言うならカード交換機自体がキャラへの贔屓等の荒れる原因になりかねないので、ない方が良いのではとも思いました

本投下時にどうされるかは書き手氏に一任します

619 ◆KKELIaaFJU:2016/03/08(火) 21:36:48 ID:MgQz1tlc0
ご指摘ありがとうございます。
カードの交換機の件は全カットし、誤字等を修正したものを後ほど投下します。

620 ◆DGGi/wycYo:2016/03/15(火) 00:51:41 ID:4/9DJ61M0
遅くなりました 一旦仮投下します

621記憶の中の間違った景色 ◆DGGi/wycYo:2016/03/15(火) 00:52:54 ID:4/9DJ61M0
香風智乃という少女は幼い頃に母を亡くし、父と祖父、そして一匹のウサギと共に育ってきました。
友達と呼べる存在に出会えたのは中学の頃で、やがて自宅兼喫茶店には一人、また一人とバイトの少女がやって来ました。

チノの全てを変えたのは、その二人目のバイト――保登心愛であると言っても過言ではありません。

ココアはあっという間にチノに馴染み、血縁関係でもないのに馴れ馴れしく「姉と呼んでくれ」と頼んできたりもしました。
人懐っこい彼女は次々と友達を増やし、やがてチノを含めて全員の繋がりを作り上げました。

そんな彼女に対し、チノも最初はそっけない態度ばかりを取っていましたが、季節が過ぎ、徐々に心を開き始めていました。
ココアのことを、たった一度だけれど「お姉ちゃん」と呼ぶくらいには、チノ自身も知らず知らずのうちに懐いていたのかも知れません。

そんな矢先のことでした。


保登心愛が、死んだのは。



*    *    *

622記憶の中の間違った景色 ◆DGGi/wycYo:2016/03/15(火) 00:53:56 ID:4/9DJ61M0


二階にあるチノの部屋に集まった六人は、テーブルを囲むように座った。
行われているのでは合コンなどではない。情報交換だ。

とりわけ言峰綺礼の持っていた情報は、ほとんど市街地の範囲内から動いていない残りの彼らにとって非常に有用なものばかりだった。

一つ、殺し合いが始まって早々、DIOの館にてDIO本人と出会ったというもの。
ゲームセンターで起こった越谷小鞠殺人事件――その容疑者の一人であると折原臨也が示していた男。
ここでポルナレフとも出会い、館を破壊した上での逃走。もう彼は別の拠点に移っているだろうと綺礼は語る。

二つ、綺礼がポルナレフから聞かされていた『敵』の話。
正体不明のスタンド能力を使うDIOと、その配下、ヴァニラ・アイス。
吸血鬼であるDIOの血を分けてもらっていたが故に日の下に出られないが、空間を一瞬で飲み込む凶悪なスタンド使いだと言う。

三つ、逃げられてしまったが、東條希に出会ったこと。
元々はごく普通の学生だったにも関わらず、今は繭の思惑通りに“仕上がってしまい”その手を血に染めた少女。
そして彼女の友人の中には、キャスターの放送で呼ばれた者も居るという。
キャスターのことを知る綺礼が言うには、もう――。

四つ、今なお生き残っていてかつ綺礼の知る者たちに関して。
雨生龍之介とキャスター……残虐な連続殺人鬼。
ランサーにセイバー……誇りを持った騎士たち。
衛宮切嗣……手段を選ばないフリーランスの傭兵であり、平和島静雄とDIOに並ぶ、越谷小鞠殺人事件のもう一人の容疑者。

雄二はそれらをメモに手早く書き出すと、数枚の束になっている、びっしりと書かれたメモを手渡した。

「俺たちが持っている情報や仮説を全て書き記している。役に立つ筈だ」
「すまないな。しかし、これだけのものを書いて肩の傷は大丈夫なのか」
「ほとんど針目縫が来る前に書き終えてある。それに傷の手当はした。さっきのメモ程度ならどうということはない」

ならば良し、と綺礼もメモの束に視線を走らせる。

「そう言えば君の持っていたアゾット剣や紅林の持っていた令呪についての話がまだだったな」

その言葉に誰もが、特に雄二の意識が綺礼の方に向き――


――遮るように、第二回放送が始まった。





「……え」

最初に口を開いたのは、チノだった。
その意味は、この場に居る誰もが理解していた。

「リゼ、さん……」
「チノ……」

勿論リゼもよく分かっている、が。

「縁起でもないようなこと、言わないでください」
「!?」

623記憶の中の間違った景色 ◆DGGi/wycYo:2016/03/15(火) 00:54:40 ID:4/9DJ61M0
リゼと遊月が困惑する中、男たちは彼女の言っていることを瞬時に把握した。

確かに“似ている”。
すぐそこに居る天々座理世と先ほど放送を行った繭の声は、どういうわけか少々似通っていた。
そして、チノにとって大切な人が死に……それを、彼女は受け入れられなかった。
だから彼女は――

「あ、おい!」

横に居た遊月を押しのけ、部屋から走り去るチノ。
誰か追えばいいのに、そう思いつつ周りを見るが。
皆が同じだ。リゼは勿論、他の皆もどこか重苦しい雰囲気を漂わせている。

「くそっ」

仕方がない、と遊月はチノの後を追った。
少し遅れて、思い出したようにすっと立ち上がった雄二も部屋を発つ。


「……はぁ」

三人が部屋を出た後、リゼは仰向けに寝転がる。
そして目元を隠すように顔に腕を乗せ、誰ともなしに語り始めた。

「ココアは、何というか……ヘンな奴だった」

二人は黙って話を聞いている。

「私も、チノも、シャロも、千夜も、マメの二人も……みんなに分け隔てなく接してさ。
しかも出会ってすぐからそうだ。傍から見れば、馴れ馴れしいもいいところだ。
……私とのファーストコンタクトは、ちょっとアレな形だったけど」

思い出す。あの時は下着姿に拳銃という、あまりにも奇抜すぎる対面の仕方だった。

「でも……あいつが居て、シャロが居て、みんなが居て。
ちょっと平和ボケしてるって言われるかも知れないけど、それが当たり前の日常だった」

図々しいとは分かっていても。

「正直さ、ここでチノがいつものようにコーヒーを淹れていて、最初の放送で誰も呼ばれなかった。
もしかしたらこのまましばらくしたら千夜がシャロを連れて来てさ、ココアはいつもみたいに迷子になりながらもここに来て。
そうしたら、みんなで一緒に帰れるって――」

思っていたのに。言葉の端は、嗚咽で途切れた。

畜生、私はあいつらの中では一番年上なのに。一番しっかりしなくちゃいけない筈なのに。


「……すまない、一人で色々喋ってしまった」

気にするな、と返す承太郎。
彼とて同じだ。

「(ポルナレフ、花京院……それに……)」

承太郎とて仲間を喪うことは初めてではない。けれども、決して慣れているわけでもない。
ただ目を閉じ、奥歯を噛み締め、彼らの顔を思い浮かべた。
目の前で針目縫に殺されたポルナレフ。どこで誰に殺されたのか、肉の芽に操られていたかさえ分からない花京院。それに、蟇郡苛に折原臨也。
……最後の一人は思い浮かべるべきか少し考えたが、気にしないことにする。

泣き叫びはしない。どうして死んでしまったのかなどとは問わない。
ただ、心の中で別れを告げた。今はそれだけだ、と判断した。

目を開けた承太郎は、そのまま綺礼に視線を移す。
ペンを走らせているそのメモは、恐らく魔術についての記述だろう。

「なあ、神父さん――いや、言峰綺礼」
「改まって何だ」

筆を止め、承太郎に顔を向ける。

「この放送で色々気になることはある」

蟇郡苛が死んだ。
折原臨也が死に、一条蛍が生きている。
キャスターも、蒼井晶も。他複数の危険人物が死んだ。
そして、衛宮切嗣や平和島静雄の名前はまだ挙がっていない。

これからどうするだとか。
『DIOが平和島静雄を洗脳した』という臨也の推理についてだとか。
臨也が死んだ今、蛍の安否はどうなっただとか。

「だがその話は後でする。……天々座、少し席を外すぞ」
「ああ、分かった」

来い、と綺礼に促し、承太郎は部屋を出た。

624記憶の中の間違った景色 ◆DGGi/wycYo:2016/03/15(火) 00:55:32 ID:4/9DJ61M0

「……千夜はどうしてるんだろう」

一人になった部屋で、リゼはボソリと呟いた。
千夜にとって、ココアは親友、シャロに至っては幼馴染だ。

たまにネガティブ思考になる彼女だ。もしかしたら。

「(考えないでおこう)」

今はしばらく、一人で居たい。


*   *   *


チノの向かった先は、リゼたちの居る部屋のちょうど真上――ココアの部屋。
息を切らせ、扉を開ける。

「ココア、さん」

誰も居ない。

「居るんですか」

ベッドが膨らんでいる。

「ココアさん、起きてください」

布団を捲る。

「っ……」

うさぎの人形が入っていただけ。

ガチャリ。誰かが入ってきた。

「居た……」

息を切らせて、彼女は入ってきた。
涙でぼやけた視界が、その姿を捉える。

「ココアさん、今までどこに居たんですか!」
「お、おい……」
突然チノに抱きつかれたココア――ではなく紅林遊月は、少し考えて、理解した。

自分が今着ている服は、ラビットハウスの色違いの制服。
バータイムの服を除けばチノの水色、行方不明のココアのピンク、リゼに借りている紫。
更に、自分の声は“保登心愛”と少し似ているとチノは言っていた。
まさか、私を“ココアさん”だと――?

「違う、私は“ココアさん”じゃない」
「今度は何の冗談ですか……私の部屋にリゼさんたちも居ます。早く会ってあげてください」

落ち着け、と言わんばかりにチノの顔を真正面から覗き、手をあてる。
私は紅林遊月だ。決して保登心愛ではない。

「私の顔に、何か付いてますか」
「付いてるも何も、私は……」

「その辺にしておいた方がいい」

開きっぱなしの扉の外から、第三者の声が聞こえた。

「ちょうど良かった。風見さん、チノが……」

焦る遊月を制止するように、雄二は言う。

「チノ、部屋に戻っていてくれ。彼女を連れてすぐに戻る」
「でも、ココアさんが」
「五分だ。五分だけ、時間をくれ」

彼がそう言うとチノは大人しく引き下がり、部屋を出た。
パタンと扉が閉まると、雄二は遊月に向き直った。

「遊月、少しの間でいい。チノに合わせてくれないか」
「……え?」
「何かおかしいところでもあるか」

おかしいも何も。
何故私がそんなことをしなければいけないんだ、というのが本音だった。
チノ自身に僅かな苦手意識を持ってしまっている私が。

「私に、ココアさんの代わりなんて務まらないよ」
「判っている。それでも頼みたいんだ」

冗談だろう、と言いたくなる。
だが、彼の目は冗談を言う人のそれではない。

「……もしかしてだけど風見さん」
「何だ」

今から思い返しても、何故そんな質問が出たかはよく分からない。

「風見さんにも、姉か妹、居たの? それに、入巣蒔菜って確か」

その質問に対し雄二は、と短く肯定した。

625記憶の中の間違った景色 ◆DGGi/wycYo:2016/03/15(火) 00:56:38 ID:4/9DJ61M0

妹、というより娘にあたるのだろうか。
自分のことを『パパ』と呼んでいた蒔菜は、もう居ない。

訓練を受けている彼女は、人並みには強い。
……恐らく、承太郎のスタンドや針目縫のような“常人ならざる力”に遭遇したのだろう。

何が『もう自分は一人前だから十人救う』だ。
蒔菜は死んだ。守ると誓った五人の少女たちも、その二人が命を落とした。

だがまだ自分は生きている。まだ死ぬことを許されていない。
だったらせめて、雄二の傍で“壊れた”少女を救うことくらいは。
それが、風見雄二という人間に科せられた、罰なのだろうか。


紅林遊月の心境は複雑だった。

桐間紗路の名前が呼ばれた。
喧嘩さえなければ、きっと今頃彼女はここに着いていただろう。
彼女が死んだ原因は、元を辿っていけば自分に来る。

そんな自分が、シャロと仲の良かったチノとリゼの居るこの場所に居て、いいのだろうかと。
二人に責められれば、すぐにでもここを出て行こうかと思っていた。
チノを追いかけたのも、そんな思惑があったからかも知れない。

返ってきた言葉は、予想の斜め上を行くものだった。
ココアの幻影扱いされ、しばらく幻影を演じろというもの。

どうしてこんなことになったのか。
およそ半日前の、シャロと喧嘩した時の自分を問いただしても、答えは見つからない。




荒れた喫茶店に、二人は立つ。

「わざわざここまで来て、一体何を話すつもりなんだ」
「夜中にDIOと会ったって言ってたよな」

承太郎の鋭い眼光が綺礼を捉える。

「ああ。気になることでもあったか」

――極限状態における、人間の本性、魂の輝きを見ること。
――分かりやすく言うなら、他人が苦しんだり、必死になったりしているところを見てよろこ……。

青いカードの口から飛び出た、彼の“根源的な願望”。

放送が終わって、幾つかのゴタゴタがあった。
その中で彼は、堪えてこそいたが笑っていた。“愉悦”の笑みを浮かべていた。

言峰綺礼は歪みを抱えている。
どうにかそれを断ち切るには、今しかない。

「なあ、言峰綺礼」

かつて、肉の芽を埋められる直前のポルナレフがそうであったように。

「手前はDIOに何を言われたんだ」




626記憶の中の間違った景色 ◆DGGi/wycYo:2016/03/15(火) 00:58:07 ID:Sv9lOze.0


ココアの部屋を出たチノは、バルコニーに足を運びました。
下を覗いてみると、先程の戦闘の跡が生々しく残っています。

はぁ、と小さなため息。

彼女は分かっていました。
ココアやシャロは既にどこかで息を引き取っているのだと。
もう、生きている彼女たちには会えないのだと。

でも、それを認めてしまうと、自分が“壊れてしまう”気がして。
だから彼女は、自分から壊れた『演技』をすることにしました。

香風智乃という少女を保つために、わざとココアの幻影を作り上げたのです。
もし紅林遊月が居なかったら、彼女はきっと天々座理世を幻影に仕立てていたことでしょう。

喫茶店を失い、最初に自分を支えてくれた蟇郡苛も喪い、桐間紗路も、大切な義姉さえも喪った彼女には、それしか出来なかったのです。
そのくらいには、今の香風智乃は、脆い存在でした。



「助けてください……お姉ちゃ…………“ココアさん”」



【G-7/ラビットハウス/一日目・日中】
【香風智乃@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康、現実逃避
[服装]:私服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(10/10)
   黒カード:果物ナイフ@現実、救急箱(現地調達)、チャンピオンベルト@グラップラー刃牙、グロック17@Fate/Zero
[思考・行動]
基本方針:皆で帰りたい……けど。
   0:……。

[備考]
※参戦時期は12羽終了後からです。
※空条承太郎、一条蛍、衛宮切嗣、折原臨也、風見雄二、紅林遊月、言峰綺礼と情報交換しました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。

※紅林遊月の声が保登心愛に少し似ていると感じました。
※紅林遊月を保登心愛として接しています。



【天々座理世@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康、精神的疲労(中)
[服装]:メイド服・暴徒鎮圧用「アサルト」@グリザイアの果実シリーズ
[装備]:ベレッタM92@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
    黒カード:不明支給品0枚
[思考・行動]
基本方針:ゲームからの脱出
     0:ココア、シャロ……。
     1:ここで千夜を待つ? 探しに行く?
     2:外部との連絡手段と腕輪を外す方法も見つけたい
     3:平和島静雄、DIO、針目縫を警戒
[備考]
※参戦時期は10羽以前。
※折原臨也、衛宮切嗣、蟇郡苛、空条承太郎、一条蛍、香風智乃、紅林遊月、言峰綺礼と情報交換しました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。

627記憶の中の間違った景色 ◆DGGi/wycYo:2016/03/15(火) 00:59:40 ID:4/9DJ61M0
【天々座理世@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康、精神的疲労(中)
[服装]:メイド服・暴徒鎮圧用「アサルト」@グリザイアの果実シリーズ
[装備]:ベレッタM92@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
    黒カード:不明支給品0枚
[思考・行動]
基本方針:ゲームからの脱出
     0:ココア、シャロ……。
     1:ここで千夜を待つ? 探しに行く?
     2:外部との連絡手段と腕輪を外す方法も見つけたい
     3:平和島静雄、DIO、針目縫を警戒
[備考]
※参戦時期は10羽以前。
※折原臨也、衛宮切嗣、蟇郡苛、空条承太郎、一条蛍、香風智乃、紅林遊月、言峰綺礼と情報交換しました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。


【紅林遊月@selector infected WIXOSS】
[状態]:口元に縫い合わされた跡、決意、不安
[服装]:天々座理世の喫茶店の制服(現地調達)
[装備]:令呪(残り3画)@Fate/Zero、超硬化生命繊維の付け爪@キルラキル
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(18/20)、青カード(20/20)
黒カード:ブルーアプリ(ピルルクのカードデッキ)@selector infected WIXOSS
[思考・行動]
基本方針:叶えたい願いはあるけれど、殺し合いはしたくない
   0:情報交換を兼ねてラビットハウスで休憩。特に魔術の話を注意して聞く。それから……。
   1:シャロ……。
   2:るう子には会いたいけど、友達をやめたこともあるので分からない……。
   3:衛宮切嗣、針目縫を警戒。
   4:私は、どうしたら……。
   5:“保登心愛”としてチノと接するべきなの……?
[備考]
※参戦時期は「selector infected WIXOSS」の8話、夢幻少女になる以前です
※香風智乃、風見雄二、言峰綺礼と情報交換をしました。
※ピルルクの「ピーピング・アナライズ」は(何らかの魔力供給を受けない限り)チャージするのに3時間かかります。



【風見雄二@グリザイアの果実シリーズ】
[状態]:疲労(小)、右肩に切り傷、全身に小さな切り傷(処置済)
[服装]:美浜学園の制服
[装備]:キャリコM950(残弾半分以下)@Fate/Zero、アゾット剣@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
   黒カード:マグロマンのぬいぐるみ@グリザイアの果実シリーズ、腕輪発見機@現実、歩狩汗@銀魂×2
[思考・行動]
基本方針:ゲームからの脱出
     0:情報交換を兼ねてラビットハウスで休憩。特に魔術の話を注意して聞く。
     1:天々座理世、香風智乃、紅林遊月を護衛。3人の意思に従う。
     2:宇治松千夜の保護。こちらから探しに行くかは全員で相談する。
     3:外部と連絡をとるための通信機器と白のカードの封印効果を無効化した上で腕輪を外す方法を探す
     4:非科学能力(魔術など)保有者が腕輪解除の鍵になる可能性があると判断、同時に警戒
     5:ステルスマーダーを警戒
     6:平和島静雄、衛宮切嗣、DIO、針目縫を警戒
     7:香風智乃の対処をどうしたものか……。
[備考]
※アニメ版グリザイアの果実終了後からの参戦。
※折原臨也、衛宮切嗣、蟇郡苛、空条承太郎、紅林遊月、言峰綺礼と情報交換しました。
※キャスターの声がヒース・オスロに、繭の声が天々座理世に似ていると感じました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。
[雄二の考察まとめ]
※繭には、殺し合いを隠蔽する技術を提供した、協力者がいる。
※殺し合いを隠蔽する装置が、この島のどこかにある。それを破壊すれば外部と連絡が取れる。

628記憶の中の間違った景色 ◆DGGi/wycYo:2016/03/15(火) 00:59:59 ID:4/9DJ61M0

【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(中)、胸に刀傷(中、処置済)、全身に小さな切り傷、針目縫への怒り
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)、噛み煙草(現地調達品)
[思考・行動]
基本方針:脱出狙い。DIOも倒す。
   0:体力が回復するまで、情報交換を兼ねてラビットハウスで休憩。
   1:その後、これからの行動を決める。
   2:平和島静雄と会い、直接話をしたい。
   3:静雄が本当に殺し合いに乗っていたなら、その時はきっちりこの手でブチのめす。
   4:言峰、お前は――
[備考]
※少なくともホル・ホースの名前を知った後から参戦。
※折原臨也、一条蛍、香風智乃、衛宮切嗣、天々座理世、風見雄二、言峰綺礼と情報交換しました(蟇郡苛とはまだ詳しい情報交換をしていません)
※龍(バハムート)を繭のスタンドかもしれないと考えています。
※風見雄二から、歴史上の「ジル・ド・レェ」についての知識を得ました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。



【言峰綺礼@Fate/Zero】
[状態]:疲労(中)、全身に小さな切り傷
[服装]:僧衣
[装備]:神威の車輪(片方の牛が死亡)@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(18/20)、青カード(17/20)
黒カード:不明支給品0〜1、各種雑貨(ショッピングモールで調達)、不明支給品0〜3(ポルナレフの分)、スパウザー@銀魂
    不明支給品1枚(希の分)、不明支給品2枚(ことりの分、確認済み)、雄二のメモ
[思考・行動]
基本方針:早急な脱出を。戦闘は避けるが、仕方が無い場合は排除する。
   0:体力が回復するまで、情報交換を兼ねてラビットハウスで休憩。魔術について教える。
   1:その後、これからの行動を決める。
   2:DIOの言葉への興味&嫌悪。
   3:希への無意識の関心。
   4:私の、願望……。
   5:空条承太郎と話をする



[全体備考]
※針目縫が落とした持ち物は、風見雄二と紅林遊月が回収しました。
※ポルナレフの遺体は、ラビットハウス二階の部屋に安置されています。
※ポルナレフの支給品及び持ち物は、言峰綺礼が全て回収しました。まだ確認していないものもあります。
※神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)は、二頭のうち片方の牛が死んだことで、若干スピードと火力が下がりました。
※二階のチノの部屋に、言峰綺礼の書きかけの魔術に関するメモがあります。

629 ◆DGGi/wycYo:2016/03/15(火) 01:00:36 ID:4/9DJ61M0
仮投下を終了します 指摘等ありましたらお願いします

630名無しさん:2016/03/15(火) 03:54:19 ID:ZkyafNhQ0
仮投下乙です
承太郎、ここで言峰の歪みに突っ込むかあ
遊月はここからが本番って感じですね、原作同様に成長できるかどうか
チノはやばくなってる感じだけど、喚いたり飛び出さなかったあたりあまり足を引っ張らなさそう
雄二が一番痛々しかったです
本投下に問題はないと思います

631名無しさん:2016/03/15(火) 10:54:48 ID:B/XQqpt60
仮投下乙です
男性陣は言峰以外は安定してるし、その言峰も承太郎が説得するのならなんとかなりそうかな
ただ女性陣、特にチノちゃんはヤバいな…
近くにマーダーがいないうちになんとか立ち直ってほしいけど…

一つだけ指摘を

>>624
その質問に対し雄二は、と短く肯定した。

返事の部分が抜けていますね

632 ◆X8NDX.mgrA:2016/03/15(火) 12:58:26 ID:2h9.07uY0
遅くなりましたが、仮投下します。
また、リアルの都合により本投下は二日後になることを先に伝えておきます。

633 ◆X8NDX.mgrA:2016/03/15(火) 12:59:04 ID:2h9.07uY0
 魔王ゴールデンウィンドは、セイバーとの同盟を受けることにした。
 悩みこそしたが、自身の力不足を補うための手段と考えれば、断る理由などない。
 しかし、一時間ぶりに対面したセイバーから掛けられた言葉は、予想外のものだった。

「そうか、同盟を組むか。……ならば今から、ショッピングモールへ行け」
「えっ?」

 一緒に行動する内に戦闘の技術を盗むつもりでいたのに、まさか単独行動を命じられるとは。
 困惑するゴールデンウィンドに対して、セイバーは淡々と言葉を続ける。

「男が一人、女が三人。女の二人は幼い。
 徒党を組んだ参加者たちが、その辺りにいるはずだ。
 首級を挙げろ、などとは言わない。奴らの実力が知りたい」

 ゴールデンウィンドは、セイバーの言う四人に心当たりがあった。
 セーラー服の女と、侍の格好をしたヅラみたいな男、それと二人の女の子。
 一度は襲撃をしようとした参加者たち。彼らを襲撃していたらどうなっていただろうか。
 それはそうと、実力を知りたいも何も、セイバーなら大抵の参加者は相手にならないだろう、と思いながら、皮肉気味に問いかけた。

「それって、さっきあんたが見逃した相手?」
「知っているなら話は早い。私も遅れて向かい、貴様の戦闘の様子を見てやる」

 同盟関係とはいえ、セイバーは上からの姿勢を崩さない。
 力量差は歴然、同盟もあくまでセイバーが妥協した形となれば、それも当然か。
 早く行けと言わんばかりの視線を向けて、ゴールデンウィンドはセイバーに背を向けた。
 跳び出そうとするが、ふと思い止まり背後に尋ねた。

「もし居なかったらどうするの?」
「そのときは合流して、南の市街地に向かう」
「了解っと!」

 ゴールデンウィンドはスマホを取り出して変身した。
 そして、膝を曲げた反動で空中に跳び上がると、ショッピングモールを目指して屋根伝いに北上し始めた。





634 ◆X8NDX.mgrA:2016/03/15(火) 12:59:57 ID:2h9.07uY0



 鬼龍院皐月を先頭に、コロナたち四人はC-6を南下していた。
 C-7にはDIOの館が存在したが、現状で訪れる意義はないというのが桂の判断だった。
 DIOが危険極まりない存在だということは、全員が理解していた。
 放置すれば、無残にも殺された園原杏里のように、多くの犠牲者が出る。
 本能字学園で戦闘を繰り広げ、圧倒的な力を見せつけられたコロナは、とりわけその脅威を深く感じていた。
 そう感じていたからこそ、確実に打倒できるまでは手を出すべきではないと説く桂の言葉にも素直に頷いた。

「今は万事屋に行き、仲間と合流するのが最優先だろう」
「学校にもいくのん!」
「そうですね!」

 今はただ、一人でも多くの、信頼できる仲間と合流する。
 意見が一致した四人は、更に南下していき、やがてショッピングモールへと到達した。
 雑貨店、書店、寝具店など、通路の両側に店が立ち並んでいる。
 大勢の顧客を集めるための商業施設であるが、人の気配は微塵もない。

「人気がないですね」
「怯え隠れている可能性はあるが、虱潰しに探すのは骨が折れそうだ」
「皐月殿、時間も惜しいことだ。二人ずつに分かれて探索するのはどうだろうか」
「……うむ、それが良いだろう」

 四人は二組に分かれて、それぞれ探索を始めた。
 桂とコロナの二人は、フードコート、つまり飲食店が中心のエリアへと足を踏み入れた。
 きょろきょろと店を見渡しながら、コロナは桂に話しかける。

「そういえば、探索らしい探索はしていませんでしたね」
「確かにそうだな」

 数時間前に二人が出会ったのも、このショッピングモールだ。
 とはいえ、その頃は深夜で暗かったこともあり、ここでは桂がトイレに行き、次の目的地を決定しただけで、探索などはしていなかった。
 コロナは思う。空が明るくなると、場所の印象も些か変わるものだと。

「…………」
「桂さん、どうしたんですか?急に立ち止まって」

 桂が立ち止まり見つめている方向に、コロナも視線を向けた。
 「ら〜めん」の暖簾に、その両脇の赤い提灯。やや上には『北斗心軒』と書かれた看板。
 年若いコロナでも、その場所が何かくらいは分かった。

「ラーメン屋さん、ですよね?」
「ああ」

 桂は短く返事をすると、ガラガラと引き戸を開けて店内に入っていった。
 その動きはあまりに自然で、迷いがない。
 突然の行動に意表を突かれたコロナは、少し焦りながら、ひょいと首だけで覗いた。店内の様子は、普通の飲食店と変わりない。
 しかし、カウンター席に座る桂の表情は見えなかった。

「あの、ここに何か?」
「……いや、なんでもない。時間を取らせてすまない」

 桂は振り向きながら席を立った。
 そのときコロナは、桂が居た場所にそばが置いてあるのを見た。
 赤カードで出したもののようだが、手を付けた様子はない。
 意図を尋ねようとしたものの、真剣な桂の表情に、開けようとした口を閉じた。

(なにか、思い入れがあるお店なのかな……?)

 次の瞬間、ガラスが割れるような音が、コロナの耳に響いた。
 それを皮切りに、次々と物が破壊される音が聞こえてくる。

「桂さんっ!」
「ああ、皐月殿とれんげ殿がいる方角だ」

 コロナは桂と顔を見合わせた。
 皐月もれんげも、意味もなく物を破壊するような人間ではない。何者かに襲われたと考えるのが自然だった。
 二人は頷き合うと、皐月たちと別れた方へと走り出した。
 放送まで、そう時間はない。





635名無しさん:2016/03/15(火) 13:00:29 ID:2h9.07uY0


 勇者の身体能力を以てすれば、一キロ程度の距離は疲労せずに駆け抜けられる。
 ゴールデンウィンドが問題の四人を発見したのは、十数分後だった。

「さて、どうするか……」

 高所から四人を監視するゴールデンウィンド。
 標的は捉えたが、すぐには手を出せない。
 セイバーが実力を懸念する相手ともなれば、数の差がある状態で挑むのは無謀。
 欲を言えば全員バラバラに、せめて二人ずつに別れてからでないと、襲撃も難しい。

「って、ホントに別れた!?」

 四人の動向を追って数分、実に都合のいいタイミングで、二人ずつに別れた。
 ゴールデンウィンドは一時間ほど前に嵌められていることもあり罠を疑ったが、どうやら探索のために別れただけらしい。
 この機を逃す手はない。

「狙うのは、女二人!」

 即断即決も女子として大事な要素だ。
 ゴールデンウィンドは勢いよく飛び降りると、セーラー服の女に大剣で斬りかかった。
 しかし、俊敏な動きで回避された。やはり常人ではない、とこの時点で察した。

「殺気は感じていたが、まさか少女とはな。
 しかし、殺し合いに乗ったとなれば、容赦するわけには行かんな――」

 鋭い眼差しを向けられながら、ゴールデンウィンドは相手の一挙手一投足に注目する。
 相手の動きを見切る。簡単な話ではないが、それができれば強くなれる。
 人間相手の闘いを覚えなければ、優勝は難しいと理解したが故の行動だった。
 セーラー服の女は自身の背中に少女を隠すと、左手で握りこぶしを作り、右手を左手首に近づけていく。

「――ゆくぞ、鮮血!」
「応ッ!」

 叫んだ女に応えて、セーラー服が声を上げた。
 思わぬ事態に混乱していると、女が光に包まれ、次の瞬間には痴女もかくやという衣装に変身していた。
 その過剰な露出度もさることながら、身に纏うオーラが強大なものへと変化している。

(まさか、相手も『勇者』みたいな存在?)

 心中で冷や汗をかきながら、それでも相手からは目を逸らさない。
 ひしひしと感じる闘気に負けまいと、ゴールデンウィンドもまた大剣を構え直した。





636名無しさん:2016/03/15(火) 13:01:14 ID:2h9.07uY0



 放送を前に、結城友奈は全力で駆けていた。
 犬吠埼風の居所が分からないままでいることに、尋常ではない程の焦りを感じながら。
 今までになく激しい動悸に襲われながら、友奈は辺りを見回した。

(風先輩、どこに……)

 そう問いかけても、街並みは何も答えてくれない。
 道中DIOの館にも立ち寄ったものの、既に崩壊した館に人影は存在しなかった。
 友奈はショッピングモールの入口をくぐりながら、もしこの場所にも風がいなかったら、と軽い恐慌に襲われた。
 その不安は、剣戟の音が吹き飛ばした。

「この音って……!」

 勇者の強化された聴力は、普段なら聞き逃す音も漏らさない。
 戦闘が行われていることを確信した友奈は、急いで音のする場所へと走り出した。
 角を曲がった瞬間、目の前に飛び込んできたのは、同じ勇者の姿。



「――風先輩!」



 コンマ数秒、思考を停止させた後で、友奈は大きく叫んだ。
 その声に反応して、戦闘が止まる。戦っていたのは、桂小太郎と鬼龍院皐月、そして声に振り向いた、勇者の姿である風。
 かたや数時間前までの同行者、かたや勇者部の先輩。
 どちらが仕掛けたのか、それは友奈の持つ情報を考慮すれば明白なのだが、しかし友奈にとっては信じたくない事実だった。

(まさか、本当に――)

 二人の参加者を殺害したのは、部活の先輩なのか。
 既に理性は事実を弾き出していたが、それでも疑問に思わずにはいられない。
 何かの間違いであるならば、それに越したことはないのだから。

「ゆうなん!」
「友奈さん!どうしてここに!?」

 コロナとれんげが、友奈の名を呼んだ。
 その問いに冷静に答えることが出来ないまま、友奈は風に近づいた。
 誰もが黙ったまま、ただ一つの足音だけが響く。
 そして数秒後、友奈と風が対面した。

「風先輩……っ!」
「……」

 風は口を開かない。眼帯で塞がれていない方の眼は、正面を見ていなかった。
 皐月も桂も、警戒態勢ではあるが、相手が大剣を降ろしている今は戦うつもりはないようだ。
 友奈は気づかいに感謝しながら、更に風へと問いかけた。 

「どうしてですか……?」

 返答は言葉ではなく、振るわれた大剣だった。
 周囲の空間が唸りを上げた。

「くっ……!」

 友奈は腕を重ねて防御する。
 互いに変身した状態であるため、一方的に吹き飛ばされることはない。
 しかしそれでも、気迫や圧力という要素は侮れないのか。
 力で押し切られた友奈は、後ろに数歩よろめいた。

(っ、やられる!!)

 誰が見ても明らかなその隙を、風も逃しはしなかった。
 大剣を振りかぶり、気合と共に薙ぎ払う。当たれば胴体が持って行かれることは明白。
 精霊による防御は間に合うだろうか。それとも死ぬ気で回避をするべきか。
 そうした刹那の逡巡は、またも予想外な出来事で無為になる。

『――正午。こんにちは、とでも言えばいいかしら』

 二回目の定時放送。
 誰が死亡して、誰が生存しているのかを知る機会。
 殺し合いに乗った――もはや確定事項だろう――風も放送は確認したいのか、ピタリと攻撃が停止した。
 そして、踵を返して跳躍すると、屋根伝いに逃走していった。

「私、追います!!」

 友奈は焦燥を隠そうともせず、皐月たちに宣言した。
 風に話を聞くために、ここまでひたすら駆けてきたのだ。
 一度や二度、逃げられたくらいで諦めるのは違う。それは勇者ではない。

「……ああ」

 皐月の了承を受けるが早いか、友奈も跳躍した。
 自分が説得をすれば、元の先輩に戻ってくれると信じて。





637名無しさん:2016/03/15(火) 13:01:53 ID:2h9.07uY0


『まずは禁止エリアの発表よ』
「風……犬吠埼、風か」

 放送が現在進行形で続いている。
 そんな中、鬼龍院皐月は重々しい声色で呟いた。
 皐月は友奈のことを、幼いながらも立派な勇者であると認めていた。
 また、その友奈から聞かされた、勇者部のメンバー全員が、友奈と同じような強さの持ち主だと考えていた。
 物理的な強さだけではない、精神的な強さも含めてだ。
 しかし、そうした勇者も殺し合いに乗っているという事実は、対主催者のスタンスを取る皐月としては心苦しいものだった。


――願いに釣られ己の欲を駆り立てられた人間は何処かで道を踏み外す。


 雁夜への宣言を思い出す。
 風という勇者もまた、願いに釣られて道を踏み外した人間ということになる。
 勇者ですらも、と言うべきか。
 神樹様とやらに選ばれ、世界の敵となるバーテックスと必死に戦う、勇者ですらも。
 繭の思惑通りに、殺し合いに乗ってしまうのだ。
 人の弱さを否定することはできない。
 犬吠埼風が優勝を目指す理由を、皐月は察していた。

『それじゃあ、きっと一番欲しがっているお話、ここまでに死んじゃったみんなの名前を言うわよ』

 もったいぶる繭の口調に、皐月は眉を顰めた。
 六時間前の放送で呼ばれた名前に、犬吠埼樹があった。
 友奈からも詳細は聞いていた――犬吠埼風と犬吠埼樹は、とても仲のいい姉妹だと。

「喪った親族を生き返らせたい、というわけか」

 隣では桂小太郎が、真面目な口調で呟いた。
 皐月は歯噛みする。仮初めの幸福を享受する、服を着た豚になるなと皐月は説いてきた。
 であればこそ、真実の幸福を奪われた者の怒りを、嘆きを、悲しみを、どうして否定することができようか。

「もはや外道の所業と言えるな」
「ああ……繭、そしてその裏に居るだろう黒幕よ。
 貴様たちの邪知暴虐は、例え天が赦そうとも、この私が許さない……!」

 そう呟く皐月の瞳には、静かな炎が燃えていた。


『蟇郡苛』


 その名前が呼ばれた瞬間、僅かに揺らぎはした。
 腹心たる蟇郡を喪ったことに、満艦飾マコの名前を聞いたときよりも遙かに大きな重みが圧し掛かってきた。
 それでも、あの男が無為に死ぬ筈はないと思えた。
 ましてや、無念の内に死ぬ筈がないと確信していた。
 絶大な信頼を置く四天王の中でも、特に忠臣として仕えた男の顔を浮かべながら。


『半分? もっと少ない? 期待しているわ』
「……十四人。また多くの命が失われたな」


 放送が終わる頃には、普段通りの態度で話すことができた。
 桂たちを振り返り、これからの行動について確認しようと口火を切ったとき。

「危ないのん!」

 れんげが皐月のことを突き飛ばした。
 体格差のある皐月にとっては、それは抱き着きと変わらない威力ではあったが。
 それでも後ろに十数センチは移動した。
 するとその直後、皐月の眼前の地面に、刀が突き刺さった。

638名無しさん:2016/03/15(火) 13:02:13 ID:2h9.07uY0
【鬼龍院皐月@キルラキル】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ(中)、こめかみに擦り傷
[服装]:神衣鮮血@キルラキル
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)、 黒カード:神衣鮮血@キルラキル
[思考・行動]
基本方針:纏流子を取り戻し殺し合いを破壊し、鬼龍院羅暁の元へ戻り殺す。
0:この刀は――?
1:万事屋へと向かう。
2:ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲を調べてみたい。
3:鮮血たちと共に殺し合いを破壊する仲間を集める。
4:襲ってくる相手や殺し合いを加速させる人物は倒す。
5:纏流子を取り戻し、純潔から解放させる。その為に、強くなる。
6:神威、DIOには最大限に警戒。
7:刀剣類の確保。
8:金髪の女(セイバー)へ警戒
[備考]
※纏流子裸の太陽丸襲撃直後から参加。
※そのため纏流子が神衣純潔を着ていると思い込んでいます。
※【銀魂】【ラブライブ!】【魔法少女リリカルなのはVivid】【のんのんびより】【結城友奈は勇者である】の世界観について知りました。
※ジャンヌの知り合いの名前とアザゼルが危険なことを覚えました。
※金髪の女(セイバー)とDIOが同盟を結んだ可能性について考察しました。


【桂小太郎@銀魂】
[状態]:疲労(中)、胴体にダメージ(中)
[服装]:いつも通りの袴姿
[装備]:晴嵐@魔法少女リリカルなのはVivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
    黒カード:鎖分銅@ラブライブ!、鎮痛剤(錠剤。残り10分の9)、抗生物質(軟膏。残り10分の9)
[思考・行動]
基本方針:繭を倒し、殺し合いを終結させる
0:その刀は――?
1:万事屋へと向かう。
2:コロナと行動。まずは彼女の友人を探し、できれば神楽と合流したい。
3:神威、並びに殺し合いに乗った参加者へはその都度適切な対処をしていく
4:金髪の女(セイバー)、犬吠埼風へ警戒
[備考]
※【キルラキル】【ラブライブ!】【魔法少女リリカルなのはVivid】【のんのんびより】【結城友奈は勇者である】の世界観について知りました
※友奈が左目の視力を失っている事に気がついていますが、神威との戦闘のせいだと勘違いしています。
※ジャンヌの知り合いの名前とアザゼルが危険なことを覚えました。
※金髪の女(セイバー)とDIOが同盟を結んだ可能性について考察しました。


【コロナ・ティミル@魔法少女リリカルなのはVivid】
[状態]:疲労(小)、胴体にダメージ(中)
[服装]:制服
[装備]:ブランゼル@魔法少女リリカルなのはVivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(10/10)
     黒カード:トランシーバー(B)@現実
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを終わらせたい。
0:危なかった……。
1:みんなの知り合いの話をしたい。
2:桂さんたちと行動。アインハルトさんを探す
3:金髪の女の人(セイバー)、犬吠埼風へ警戒
[備考]
※参戦時期は少なくともアインハルト戦終了以後です。
※【キルラキル】【ラブライブ!】【魔法少女リリカルなのはVivid】【のんのんびより】【結城友奈は勇者である】の世界観について知りました
※ジャンヌの知り合いの名前とアザゼルが危険なことを覚えました。
※金髪の女(セイバー)とDIOが同盟を結んだ可能性について考察しました。


【宮内れんげ@のんのんびより】
[状態]:疲労(小)、魔力消費(小)
[服装]:普段通り、絵里のリボン
[装備]:アスクレピオス@魔法少女リリカルなのはVivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
     黒カード:満艦飾家のコロッケ(残り四個)@キルラキル、バタフライナイフ@デュラララ!!
[思考・行動]
基本方針:うち、学校いくん!
0:危なかったのん……。
1:うちも、みんなを助けるのん。強くなるのん。
2:ほたるん、待ってるのん。
3:あんりん……。
4:きんぱつさんが二人、どっちも危ないのん?
[備考]
※杏里と情報交換しましたが、セルティという人物がいるとしか知らされていません。
 また、セルティが首なしだとは知らされていません。
※魔導師としての適性は高いようです。
※【キルラキル】【ラブライブ!】【魔法少女リリカルなのはVivid】【銀魂】【結城友奈は勇者である】の世界観について知りました
※ジャンヌの知り合いの名前とアザゼルが危険なことを覚えました。
※金髪の女(セイバー)とDIOが同盟を結んだ可能性について考察しました。

[備考]
※罪歌@デュラララ!!が皐月たちの目の前にあります。

639名無しさん:2016/03/15(火) 13:02:47 ID:2h9.07uY0

 セイバーは嘆息した。ランサーもキャスターも、この地で二度目の死を迎えた。
 放送によれば、参加者の残りは半分近くになっている。
 DIOや神威、纏流子といった実力者は流石に脱落していないが、それでも先行きは暗くない。
 魔力も僅かながら回復したこともあり、セイバーは幾分か調子を回復していた。

「WIXOSSについては大体把握できた」
「物覚えが良いのね」

 風を待つ時間で、WIXOSSという遊戯についてもルールを理解しつつあった。
 セイバーは花代の言うセレクターでこそないが、万能の願望機と同等の価値がある遊戯ともなれば、ルールを覚えるのも無駄ではあるまい。
 そうした考えが後に何を生むのか、セイバーも花代もまだ知らない。

「そういえば、蒼井晶はセレクターだったな?」
「ええ。性格は良くなかったわ……実力はまあまあね」
「ふむ……」

 セレクターは無力な少女だと聞いている。
 この島に呼ばれたセレクターは、花代が知る限り四名。
 それにもかかわらず、六時間を過ぎて死んだのは一名だけ。
 単に運が良いからと取るか、それとも、セレクターに選ばれるに足る理由がそこにあるのか。
 セイバーは未だ見ぬセレクターに、少しばかり興味が湧いていた。

「さて、フウをどうするか……」
「逃げ出したみたいね」
「ああ。おそらく元の仲間なのだろうが、戦闘を中断して逃げるとは。
 だいぶ動揺しているようだ。後を追うのは容易だが、そこまでする理由があるか――」

 同盟を結んだとはいえ、あくまでセイバーの目的は優勝。
 風に固執する理由も必要も全くない。

「悩みどころね」

 ルリグ・花代は何も提案しない。
 次の行動を選ぶのは、セイバー自身だ。



【セイバー@Fate/Zero】
[状態]:魔力消費(大)、左肩に治癒不可能な傷
[服装]:鎧
[装備]:約束された勝利の剣@Fate/Zero、蟇郡苛の車@キルラキル
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:レッドアンビジョン(花代のカードデッキ)@selector infected WIXOSS、キュプリオトの剣@Fate/zero
[思考・行動]
基本方針:優勝し、願いを叶える
 0:今後の動向について考える。風については……?
 1:島を時計回りに巡り参加者を殺して回る。
 2:時間のロスにならない程度に、橋や施設を破壊しておく。
 3:戦闘能力の低い者は無理には追わない。
 4:自分以外のサーヴァントと衛宮切嗣、ジョースター一行には警戒。
 5:銀時、桂、コロナ、神威と会った場合、状況判断だが積極的に手出しはしない。
 6:銀時から『無毀なる湖光(アロンダイト)』を回収したい。
 7:ヴァニラ・アイスとホル・ホースに会った時、DIOの伝言を伝えるか、それともDIOの戦力を削いでおくか……
 8:いずれ神威と再び出会い、『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)』を破壊しなければならない。
 9:WIXOSS、及びセレクターに興味。
[備考]
 ※参戦時期はアニメ終了後です。
 ※自己治癒能力は低下していますが、それでも常人以上ではあるようです。
 ※時間経過のみで魔力を回復する場合、宝具の真名解放は12時間に一度が目安。(システム的な制限ではなく自主的なペース配分)
 ※セイバー以外が使用した場合の消耗の度合いは不明です。
 ※DIOとの同盟は生存者が残り十名を切るまで続けるつもりです。
 ※魔力で車をコーティングすることで強度を上げることができます。
 ※左肩の傷は、必滅の黄薔薇@Fate/Zeroが壊れることによって治癒が可能になります。
 ※花代からセレクターバトルについて聞きました。WIXOSSについて大体覚えました。

640名無しさん:2016/03/15(火) 13:03:14 ID:2h9.07uY0


 バランスの悪い屋根を伝いながら、友奈が叫んだ。

「風先輩!どうして逃げるんですか!」

 風は頑なに返答をしようとしない。
 それどころか、振り向くことすら考えていないようだ。
 明確な拒絶を感じながらも、友奈は再び声をかけた。

「みんなのためになることを勇んでやる、それが勇者部の活動ですよね!?先輩!」

 しかし、その言葉は流される。
 友奈の言葉がどれだけ正しいものだろうと、風の胸には届かない。
 優勝するという魔王の決意は、もはや勇者の呼びかけでは揺らがない。

「っ!」

 キン、と甲高い音がした。
 友奈の拳が、前方から飛来した刀を打ち払ったのだ。刀はあらぬ方向へと飛んで行った。
 言葉を発しない拒絶の次は、攻撃を加えるという拒絶。

「先輩……!」

 挫けそうな表情を一瞬浮かべながら、それでも友奈は諦めない。
 ひときわ強く屋根瓦を踏みしめて、前に向けて跳躍した。

「はあああああぁぁぁぁっっっ!!!」

 もはや実力行使しかない。
 力で倒してでも、話をしてもらうしかない。

「うおおおおおぉぉぉぉっっっ!!!」

 そして、風もまたそのことを理解したのだろう。
 しつこい勇者を倒すには、やはり撃破するしかないのだ。
 振り向きざまに、大剣を切り払う。


 ここに、勇者と魔王が激突した。


【結城友奈@結城友奈は勇者である】
[状態]:疲労(小)、味覚・左目が『散華』、前歯欠損、顔が腫れ上がっている、満開ゲージ:5
[服装]:讃州中学の制服
[装備]:友奈のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(10/10)、黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止め、主催者を打倒する。
0:風先輩を、止める。
1:勇者部のみんなと合流したい。
2:早急に東郷さんに会いたい。
[備考]
※参戦時期は9話終了時点です。
※ジャンヌの知り合いの名前とアザゼルが危険なことを覚えました。
※【銀魂】【キルラキル】【ラブライブ!】【魔法少女リリカルなのはVivid】【のんのんびより】の世界観について知りました。


【犬吠埼風@結城友奈は勇者である】
[状態]:健康、優勝する覚悟、魔王であるという自己暗示
[服装]:普段通り
[装備]:風のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(39/40)、青カード(39/40)
    黒カード:樹のスマートフォン@結城友奈は勇者である、IDカード、村麻紗@銀魂、不明支給品0〜2 枚
     犬吠埼樹の魂カード
[思考・行動]
基本方針:樹の望む世界を作るために優勝する。
 0:魔王ゴールデンウィンドとして、勇者を倒す。
 1:南下しながら参加者を殺害していく。戦う手法は状況次第で判断。
 2:市街地で東郷と会ったら問い詰める。
 3:一時間後、セイバーの元へ向かうか、あるいは……。
[備考]
 ※大赦への反乱を企て、友奈たちに止められるまでの間からの参戦です。
 ※優勝するためには勇者部の面々を殺さなくてはならない、という現実に向き合い、覚悟を決めました。
 ※東郷が世界を正しい形に変えたいという理由で殺し合いに乗ったと勘違いしています。
 ※村麻紗と罪歌の呪いは、現時点では精霊によって防がれているようです。
 ※村麻紗の呪いは精霊によって防がれるようです。
 ※罪歌はただの日本刀だと考え、黒カードにして詳細を確認せずしまい込んでいるようです。
 ※東郷美森が犬吠埼樹を殺したという情報(大嘘)を知りました。

641 ◆X8NDX.mgrA:2016/03/15(火) 13:03:49 ID:2h9.07uY0
投下終了です。タイトルは後で決めます。

642名無しさん:2016/03/17(木) 20:15:35 ID:AS.QkpsQ0
投下乙です。特に問題はないと思います。

643 ◆45MxoM2216:2016/03/21(月) 01:54:29 ID:3vBKHcMg0
一旦仮投下します

644EXiSTENCE ◆45MxoM2216:2016/03/21(月) 01:54:57 ID:3vBKHcMg0
「ったく、マジか……勘弁してくれよ」
鼻の良い者ならば潮の香も嗅げるであろう海辺近くの道。
そこに、少女を背負って進むアフロの青年―――ファバロ・レオーネがいた。

「気絶して重くなったガキ背負って情婦みてぇな格好の化け物女から必死に逃げて、やっと一息付けそうな場所が見えてきたってのによ……。
禁止エリアだぁ?そういう重要なことは最初に言えってんだよ」
ひとまず基地で腰を落ち着けようとしていたファバロだったが、放送にて禁止エリアという聞きなれない言葉を聞いて腕輪で調べたところ、なんでも放送の度に禁止エリアが増えていき、参加者が禁止エリアに入ると魂が引き剥がされ死亡するそうだ。

そして運悪く、ファバロの目的地だった基地は禁止エリアに選ばれてしまった。
基地でゆっくり今後のあれこれを考えようとしていたファバロの見通しは狂ってしまったことになる。
せめてファバロ一人ならば放送前に基地に着いたかもしれないが、気絶した人間一人背負っての移動は思いの外時間がかかってしまった。

「いつの間にか聖女さんも死んじまってるしよぉ……。
さっきの化け物女といい、どんだけ化け物が溢れてるんだっての」
悪魔ともサシでやりあえるような聖女、ジャンヌ・ダルクも死んでしまった。
先ほどの放送で呼ばれなかったにも関わらずマスターカードの情報では死亡扱いになっていることから、自分が聞き逃した一回目の放送の時点で死んでいたということになる。

「だからよ……俺らみたいな真っ当な人間は、いつくたばっても不思議じゃねぇよな」
アザゼルのような悪魔や、アーミラのような半神半魔に比べれば、普通の人間の力は取るに足らない小石のようなものだ。
一応自分達はかつてそのアザゼルに勝利したが、その勝利も神から賜った武器を使う聖女の力あってこその勝利だ。

「そういやさ……お前も成長したよな。
視野が狭くて後ろの橋にも気づかなかったようなお前がよ、あの時は後ろから聖女さんが来てるのに気付いたんだろ?
大したもんだよ」
あの時は自分たちの武器が全く有効打にならず、ジリ貧状態だった。
正直もうダメかと覚悟したが、まさか頭の固いあの男が機転を利かして戦うとは夢にも思わなかった。


「なぁ、カイザル……!」
いくら前より成長しても、馬鹿正直な本質は変わらない。
どこぞの悪人にいいようにあしらわれたのかもしれないし、化け物に敵わずに殺されたのかもしれない。
どちらにせよ、こういう悪意の溢れる場で長生きできるタイプの人間ではなかった。

そもそも、賞金稼ぎに身を窶した時点で、いつ死んでもおかしくなかったのだ。
そしてカイザルが賞金稼ぎになったのは……ファバロの父親のせいだ。
裏で悪魔が絡んでいようと、ファバロの父がカイザルの父を襲ったという事実は変わらない。
そのせいでリドファルド家が没落したという事実は変わらない。

「ちくしょう……!」
陰鬱な気持ちを抱えながら、ファバロは北へと進む。
基地が禁止エリアになった以上、来た道を戻るか北上するしかないが、まだ先ほどの女が近くにいるかもしれないのに来た道を戻るなど自殺行為だ。
とにかく進むしかない……のだが、その足取りは遅い。
基地以外に近場で休めそうな場所といえばガソリンスタンドだが、残念なことにファバロはガソリンスタンドがどんなものか知らない。
ならば少し遠くまで足を伸ばすかと言えば、長々と少女を背負って行動すれば、その分危険も増す。

「ああ、重いなちくしょう……いっそ捨てちまうか?」
そもそも、こんな小娘一人のために自分が苦労する必要などないはずだ。
確かに戦力として見れば有用だが、逆に言えばそれだけだ。
労力に対しての見返りが小さすぎる。
そもそもこの娘がアーミラのようなナイスバディでもないのに重すぎるのだ。
まぁ、重いと言っても比較対象がそのアーミラと―――

「お前しかいないわけだがな、リタ!」
「……何の話よ?」
「こっちの話だ」



(まったく、運が良いのか悪いのか……)
殺し合いに乗って早々に知り合いと遭遇してしまったリタは、舌打ちの一つでもしたい気分になった。

リタは殺し合いに乗っているとはいえ、表立って動く気はなかったのだ。
本当に繭に願いを叶えるような力はあるのか。
囚われたカイザルの魂を救い出すことはできるのか。
その確証が持てるまでは、行動は下準備に留めるつもりだった。

645EXiSTENCE ◆45MxoM2216:2016/03/21(月) 01:56:56 ID:3vBKHcMg0

というのも、もし繭の言っていることがハッタリだった場合には、繭を打倒しようとする者たちに混ざるつもりだからだ。
あまり派手に暴れまわると、いざ他の参加者と合流しようとした時に不利益が起こることは確実だ。

あくまで下準備。
確実に殺せると判断した相手にしか手を出さない。

では、この男―――ファバロ・レオーネとその男に担がれている少女は確実に殺せるだろうか?

まずは担がれている少女。
重傷を負っている上に気絶しているので、その気になればココアでも殺せるくらいの存在だ。
計算に入れる必要すらない。

しかし、ファバロはそうもいかない。
この男は歴戦の賞金稼ぎであり、カイザルとアーミラもいたとはいえ自分のけしかけたゾンビを危なげなく殲滅したこともある。
決して勝ち目がないわけではないが、確実に殺せるかと言われれば疑問が残る。
疑問が残るのだが……。

「リタ、お前―――やる気か?」

気付く頃にはもうyou're in a coffin
it's too late if you want to do something




ファバロがリタが殺し合いに乗っていることに気付けたのは何故か?
リタのカイザルへの入れ込み具合を元々知っていたこともある。
アーミラとカイザルがアザゼルに攫われた時には一も二もなく助けだそうとしたし、アザゼルとの会話から一時休戦の取引を持ち掛けてまで自分たちの身を守ろうとしたらしい。
そんなリタがカイザルの死を知って、外道へと堕ちるのを想像するのは容易だった。

だが、一番の要因は……目だ。
かつてアーミラに散々自分の目が嘘を付いている人間の目かと嘯いてきたが、実際良からぬことを企んでいる人間というのは目に移る。
今まで賞金稼ぎとしてたくさんの人間のクズの目を見てきたファバロは、リタの瞳に卑しい光が宿っている事を見逃さなかった。

「ええ、そのつもりよ」
ばれた以上、下手に取り繕う必要もない。
リタはあっさりとその事実を認めた。
分かってる。
こんな馬鹿げた殺し合いに乗るなど、鬼畜にも劣る所業だ。
今ならまだ引き返せる。
まだ誰も傷つけていない今なら。

「悪いけど……カイザルの魂を救うことにしたの」
だけど、それはできない。
村が魔獣に襲われ、自分一人だけ生き残った。
それを認められなくて、死人に鞭打ってまでくだらない家族ごっこを続けた。

「けっ、所詮賞金首だったってことかよ」
今引き返したら、自分はもう進めない。
二百年も引きこもっていた自分と―――カイザルに救われる前の自分と同じになってしまう。
そんなのは御免だ。

ファバロは背負っている少女に何か話しかけながら慎重な手つきで地面に降ろした。
その間も、決してリタから目を離さない。
ファバロはああ見えて意外とお人よしな所もある。
気絶して足手纏いになった少女も、なんだかんだ言いながら見捨てるようなことはしないのだろう。

646EXiSTENCE ◆45MxoM2216:2016/03/21(月) 02:00:09 ID:3vBKHcMg0

(アスティオンは戦闘には使わない方が懸命ね……
機械のくせに意思があるみたいだし、最悪手を貸してくれなくなるかもしれないわ)
アスティオンは支給品だが、人殺しをする時に使われて良い気分はしないだろう。
いざという時に飼い犬(猫だけど)に手を噛まれたら目も当てられない。
バトルロワイヤルという長期戦において、一時的なハイリターンと恒久的なローリターンのどちらが重要かは言うまでもないことだ。
白のマスターカードによればアスティオンは攻撃補助をしないが、ダメージ緩和と回復補助能力に特化しているらしい。

これでもし戦闘に特化していたらもっと迷ったかもしれないが、戦闘で使用する際の利益と戦闘以外で使用する利益はトントン。
ただ戦うだけなら相手を無力化した後にカードに戻してから殺せば済む話だが、今回は相手が悪い。
気絶した少女を庇う男と戦っていれば、どう取り繕ってもこちらが悪玉だとバレてしまう。
とりあえず今回は、戦闘後の回復に使うに留めなければならない。
と、なれば……

「……ファバロ、手を組むつもりはないかしら?」
「なにぃ?」
「私だって、できればあんたを殺したくはないもの。
あんただって、カイザルとアーミラを助けたいでしょ?」
リタが行ったのは、勧誘。
勝てるかどうか五分五分の上、心情的にも戦いたくない相手に対する行動てしては妥当な所だろう。

「へっ、俺が?あいつらを助けたいだって?
俺に呪いをかけやがった悪魔の女と、年中俺の命を狙ってる商売敵をか?」
「前もそんなこと言ってたけど、結局賞金稼ぎの腕輪を壊してまで助けにいったじゃない」
彼はお人好しだ。
憎まれ口を叩いたり、良からぬことを企んだりはしても、根っこの所は善人なのだ。
だから―――

「はっ、お断りだ」
こう言われることは、心のどこかで分かっていたかもしれない。


「俺は俺のために生きる」
この殺し合いが始まってすぐ、ファバロはアザゼルと遭遇し、少し話をした。
その時の葛藤を思い出す。
復讐に縛られた生き方なんざ真平ゴメン。
ならば、生かすための生き方はどうか?
アザゼルには教えてやらなかったが……リタには少しだけ胸の内を明かしてもいいかもしれない。

「他人を蹴落としてまで誰かを助けるような生き方ができるんだったら、俺はとっくに親父の後を継いで義賊にでもなってるっての」
結局、ファバロ・レオーネとはこういう男だ。
他人を頼りにしない、他人に寄生しない。
自分を守れるのは自分だけ。
だから、自分らしく生きられる。
友の死に悲しみはしても、畜生にも劣るような所業に手を染めてまで助けたいとは思わない。

「じゃあ、優勝する気……はないわよね、わざわざそんなお子ちゃま背負ってたくらいだし」
「別に義理人情だけで助けたわけじゃねぇよ……ま、殺し合いに乗らない程度の義理人情はあるつもりだけどな」
軽口を叩くファバロだが、その殺し合いに乗っているリタからすれば笑えない話だ。
ここまでくれば、流石にリタも腹をくくる。
リタとファバロは戦うしかないのだ。
しかし、悲壮感はない。賞金首と賞金稼ぎが結局、戻る所に戻っただけ。

「仕方ないわね……!恨むんじゃないわよ!」
カイザルの剣を構えて突っ込む。
彼我の距離は20メートル足らず。
剣を持ちながらでも、全力で走れば数秒で詰められる距離だ。
自分は訓練など受けていないし、型もまるでなっていないデタラメな斬りつけ方しかできない。
それでも、杖でスケルトンをバラバラにできる程の力によってそこそこの脅威となる。
ゾンビとはいえ、銃撃をモロに喰らえば無事ではすまない。
剣を両手で水平に構えて防御の構えを取りつつ、横に平行移動して可能な限り銃弾を避ける。

647EXiSTENCE ◆45MxoM2216:2016/03/21(月) 02:01:16 ID:3vBKHcMg0

(やはり、簡単にはいかないわね……
でも、あの妙な武器、火力自体はそれほどでもないみたいね)
見たこともない武器だが、戦闘の後にアスティオンで回復できることも考えれば多少の無茶は聞く。
自分の獲物が剣である以上、近づかなくては始まらない。
腕を飛ばせば一応遠距離攻撃も可能だが、飛ばした後にしばらく片腕で戦わなければならなくなるので却下。
多少のダメージは覚悟して突き進もうとするリタ。
しかし―――

「おらよっと!」
戦闘においては、ファバロが一枚上手だった。
なんとファバロは、自分からリタとの距離を詰め、水平になった剣の切っ先側に身を晒したのである。

「!」
慌てて切っ先を突き付けるが、ファバロの予想外の行動に意表を突かれ、動きが僅かに鈍る。
さらに言えば、突きというのは難しい技だ。
右手に少しでも力を入れてしまうと、太刀筋が簡単にぶれてしまう。
動きも鈍く、太刀筋もぶれた突きを躱すことなど、ファバロにとって朝飯前だった。

斜めに袈裟切りするならば剣の腕が悪くても腕力さえあればかなりの脅威となったであろう。
ゾンビであるリタならば真横、それも切っ先側に回り込まれてしまっても人体の構造を無視して腰を曲げ、袈裟切りを放つことだってその気になれば可能だった。
しかし咄嗟の行動故に、袈裟切りではなく出の早い突きを放ってしまった。

どこまで計算していたかは分からないが、自分は突きを放って腕が伸びきってしまって隙だらけなのに対し、ファバロは身を捻って剣を躱したことで、完璧な体重移動をしている。
そのまま身体のバネをフルに使って繰り出してきた蹴りを、リタは躱すことができなかった。

「ガハッ!」
元々、ファバロとリタにはかなりの体格差がある。
蹴りの一発だって脅威だ。
踏ん張りきれずに後ろへと吹っ飛んでいくリタ。
ファバロは糸巻き型の手榴弾のピンを抜き、容赦のない追い打ちをかける。

「く……!少しは死人を労わりなさいよ。これだから若造は」
軽口を叩きつつバックステップで手榴弾を躱すも、爆風に煽られて身体が熱い。
ゾンビは炎に弱いというのが通説だというのに容赦のないことだ。

(まずいわね……結局、気絶してるお子様とも大分離されたわ。
利用できるかと思ったのだけど、上手くいかないものね)
この攻防によって自分は後退せざるを得なくなり、気絶している少女との距離も離されてしまった。
ファバロにとっては一石二鳥の攻防だったが、自分にとっては骨折り損のくたびれ儲けだ。

と、爆発による煙の中からファバロが突っ込んでくる。
横薙ぎに剣を振るうも、ファバロはナイフで剣をいなしながら懐に潜りこんできた。
近付かれすぎるとナイフの方が強い。
慌てて距離を取ろうとするも、ファバロに右手を掴まれる……と思ったら、次の瞬間には視界が反転し、背中に強い衝撃が走る。

648EXiSTENCE ◆45MxoM2216:2016/03/21(月) 02:02:10 ID:3vBKHcMg0

背負い投げ……というには少々大味すぎるが、ファバロが行ったのは確かに背負い投げだった。
掴んだ右腕を振り上げ、そのまま反対側の地面に叩きつける。
普通は右腕だけ掴んで背負い投げなどできない……が、リタは普通ではない。
かつてアザゼルに捕まったアーミラとカイザルを助けようと、アザゼルの空飛ぶ城グレゴールに突入したことがある。
その時にリタを背負ったことがあるファバロは、リタの体重が異常なまでに軽いことを知っていた。
故にファバロは大味な背負い投げを行う大胆な行動に移れたのである。

「ぐぁ……!」
それでも、リタはカイザルの剣を決して手放さない。
必ず返すと誓った、この剣だけは!

起き上がりざまに剣を振るうも、ファバロは飛び退って簡単に避ける。
そのまま剣を支えに起き上がり、ファバロを睨み付ける。

「おー、怖い怖い。でもな、一つ忠告してやる。お前の欠点はカイザルと同じだ。とにかく視野が狭い。
もっと周りに目を向けないとな」
「……?何を言っているのかしら?」
「俺がなんでわざわざお前に背負い投げしたんだと思う?」
急に語りかけてきたファバロに対して訝し気な表情を作るリタ。
ファバロは勝ち誇ったようなムカつく顔をしたかと思うと―――


「今だ緑子ぉおおおお!!」
「う、うわあああああ!」

「な!?」
しばらくは気絶したまま動かないと思っていた少女の方向から、突如鬨の声が響く。
まずい。
今自分は少女にガラ空きの背中を晒している。
咄嗟に後ろを振り返るが―――そこには誰もいない。
否、厳密に言えば離れた場所に少女がいるのだが、その少女は依然として気絶したままである。
そして鬨の声は、少女の近くに置いてあるカードから響いている。

「かかったなアホが!」
罠だ、と気付いた時にはもう遅い。
既にファバロは光る剣―――ビームサーベルを取り出して目前に迫っている。
咄嗟に剣で防御するが、ビームサーベルはまるでバターを切るかのように剣をスライスする。

(カイザルの剣が……!)
必ずカイザルに返すと誓った剣が、あっさりと両断された。
そのことにショックを受ける暇もない。
返す刀でリタを両断しようと迫るビームサーベルをなんとか避ける。
しかし、その避け方は先ほどファバロがしたような次に繫げる避け方ではない。
足さばきも体重移動もめちゃくちゃな、避けた後に隙だらけになるような避け方だ。

「まさか、『あの時』に……!」
絶体絶命のピンチの中、先ほどの罠のからくりに気付くリタ。
後から思い返せば、とても単純なことだった。

「察しが良いな、そう、『あの時』だよ」
背負った少女を地面に降ろした時、ファバロは何か呟いていた。
てっきりその少女に語りかけていると思ったのだが……
実はその時にリタからは見えないように緑子のカードを取り出し、合図をしたら鬨の声をあげるように指示していたのである。
やけに慎重な手つきで地面に降ろしたのも、多少説明に時間がかかっても不信感を与えないため。
リタは最初から、ファバロの術中にはまっていたことになる。

「ま、今さら気付いたって遅いけどなぁ!」
無理な避け方をして体制の崩れたリタにトドメを刺すべく、ファバロはビームサーベルを振るう。
剣をバターのようにスライスするあの光の剣に貫かれれば、いくらゾンビとはいえ致命傷だ。
元々二百年前に潰えるはずだった命だ。今さら死ぬのは怖くない。
だが、今ここで自分が死んだら、カイザルはどうなる。
自分は二百年もの間、寂しさに耐えられずにたった一人でくだらないおままごとを続けた。
それでも嫌になるくらい苦しかったというのに、カイザルは寂しさを紛らわすおままごとすらできずに、永遠に―――

「う、」
そんなことはさせない。
繭に本当に願いを叶える力はあるのか、それはまだ分からない。
それでも、この男は今殺さなければならない。
殺し合いに乗っていることがばれた上、自分の情報をばら撒かれたりしたら、せっかくの幼い見た目とゾンビの特殊性の利点が薄くなってしまう。

「うああああああああああああああああ!!!」
そして何より、何より自分自身にけじめを付けたい!
最初にファバロを殺せれば、自分はもう絶対に迷わない。
残った知り合いは敵のアザゼルと胡散臭いラヴァレイのみ。
腐った行動を心情的に阻害するものはなくなる。
我ながら似合わない叫び声をあげながら、最後の意地で左腕をビームサーベルへ突き出す。

649EXiSTENCE ◆45MxoM2216:2016/03/21(月) 02:03:25 ID:3vBKHcMg0


ビチャリ、という嫌な音が聞こえた
リタの左腕が切断された音……ではない。
切断されたリタの左腕から飛び出た液体が、ファバロの顔面にかかった音だ。

「んな!?」
流石のファバロもこれは予想外だったらしく、ビームサーベルを振りぬこうとしていた動きが一瞬止まった。
その一瞬の隙を逃さず、リタは右腕の腕輪でビームサーベルを抑えにかかる。
SFチックな音を立てながらも、ビームサーベルは腕輪を切断できない。
ファバロの攻撃を防ぎつつ、隙を作る。
ゾンビの左腕一本にしては十分すぎる対価だ。

リタの左腕から飛び出した液体とは、ガソリンである。
そう、リタはカイザルの遺体を見つけてから、すぐには南下せずに近くのガソリンスタンドへと立ち寄ったのだ。
ガソリンスタンドにて発火性も強く、燃料としても非常に優秀な液体を見つけたリタはなんとかその液体を持ち運ぼうとするも容れ物を持っていなかった。
そこで彼女が選んだのは、自分の体内にガソリンを入れるというゾンビならではの行動だった。

自分の左腕を外し、ホースでガソリンを注入。
右腕も外そうとしたが、こちらは何故か外れなかった。
おそらく、右腕を腕輪ごと簡単に取り外せるリタに対しての繭の制限だと当たりを付けたのだが、そこまでするということは当然腕輪自体にも細工を施しているだろう。
軽い耐久テストをした結果、腕輪はかなり頑丈な素材で作られていることが判明した。
そう、いざという時の盾にもできるくらい頑丈な素材で。

ここに来て、放送までの空き時間を有効に使ったリタと無為に使ったファバロの差が如実に現れた。
殺し合いに乗り、一人で行動したが故に気軽に探索へ動きだせたリタ。
殺し合いに乗らず、気絶した少女を背負ったが故に行動範囲が狭まったファバロ。
道徳的にはファバロが善でリタが悪だろうが、お生憎様リタはゾンビだから道徳など気にかけない。
おそらくリタにとって最大かつ最後であろうチャンスが生まれたことの方が重要だ。

懐に隠し持っていた元々は龍之介の支給品だったブレスレットを取り出す。
龍之介本人の腕輪ではなかったせいか曖昧な情報しか記されていなかったが、白のマスターカードによれば強力なマジックアイテムらしい。
こんな曖昧で不確かな手段に頼るなんて、自分も焼きが回ったものだ。


焼きが回ったついでに、もう一つ柄でもないことをやってみよう。
この男との決着に相応しい台詞がある。
それをカイザルへの手向けとしよう。
気の利いた台詞の一つも出てこないが、そんなものは必要ない。
さぁ、叫ぼう―――あの騎士のように。


「ファバロォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」



(のりピー……!)
神楽が目を覚まして最初に思い浮かべたのは、あの白い女にその身を貫かれた花京院のことだった。
しかし、周囲の光景は先程までの放送局ではなく、野外だった。
近くにはファバロが突っ立っている。気絶した自分を助けてくれた後、上手くあの女から逃げられたようだ。
そのことには素直に感謝するが、やはり花京院は助からなかったらしい。
自分があの女に勝てていれば、花京院を早いうちに手当できたかもしれない。
花京院は死なずにすんだかもしれない。

『てめえ、弱すぎんだよ。
何もかも、兄貴の劣化でしかねえ』

『夜兎の本能を抑えようとするあまり、拳が俺に届く前に死んじまってんだよォ!』

あの白い女の言葉と、かつてとある夜兎に言われた言葉が自分の中で重なる。
結局、自分は誰かを傷つけるのが怖い臆病者だ。
血と戦うと言えば聞こえは良いが、いざという時に本気を出せずにむざむざ仲間を殺させてしまった。

(強くなりたいアル……!)
今まで幾度となく思ってきたことだが、今はひと際強くそう思う。
夜兎の血に頼らずとも、みんなを守れるくらい強くなりたい。
あの白い女にも、馬鹿兄貴にも負けないくらいに……強く。

650EXiSTENCE ◆45MxoM2216:2016/03/21(月) 02:04:25 ID:3vBKHcMg0
「ファバロ!」
急に耳元で響いた声にハッと我に帰る。
何故か自分のすぐそばに遊○王みたいなカードが置いてあり、その中で緑子がファバロの名を叫んでいる。

(そもそも、あのハナ○ソ頭はさっきから突っ立って何をやってるアル……え?)
突っ立ったまま動こうとしないファバロに痺れを切らして首を伸ばしてファバロの方を覗き込んだ神楽は、絶句する。
夜兎である自分すらも霞む程異常なまでに青白い肌をした少女が、短剣をファバロに突き刺していた。


ドクン、と心臓が波打ち、血が滾る。

「やめろ……」
ファバロは動かない。
ただ、少女にされるがままになっている。
何をやってるのだと緑子が叫ぶも、ファバロはまるで動かない。

「やめろ……!」
神楽は動けない。
白い女にやられた傷のせいだ。
何をやってるのだと自問するも、身体はまるで動かない。

『どいつもこいつも、やれ意地だ、救いだと。
地獄でやってろ』

『人を傷つけたくない、人を殺したくない、大層立派な考えだ。
このぬるま湯地球ではな』


「やめろぉおおおおおおおおおおおおお!!」



グシャリ、という嫌な音がした。
リタが折れたカイザルの剣でファバロを突き刺した音……ではない。
気絶していた少女が突如起き上がり、リタを殴り飛ばした音だ。

その人ならざる腕力によってありえない程吹き飛ばされたリタは、何が起こったのか理解できなかった。
それはそうだろう。
重傷を負っていた少女が急に起き上がるなど予想できるはずもない。
起き上がった少女が常識外れの腕力を発揮してくるなど予想できるはずもない。

(一体……何が……)
なんとか状況を把握するため起き上がろうとするも―――
次の瞬間、肩を踏みつぶされた。

思わず悲鳴をあげるリタだが、目の前の獣は止まらない。
執拗なまでに何度も何度も、リタの肩を、足を、腕を、腹を踏みつけ続ける。

(見誤ったわね……!ファバロは後回しにして、どうにかして先にこのお子様に対処しておくべきだったわ)
どうせ気絶しているから計算に入れる必要もないと侮っていた少女は、手負いの獣だった。
情け容赦ない、夜の兎が解き放たれた。

こうなっては四の五の言っていられない。
虎の子のアスティオンを使おうと黒カードを取り出そうとして―――腕を蹴り飛ばされた。
嫌な音を立てながら千切れた右腕があらぬ方向へと飛んでいく。
左腕は先ほどのファバロとの戦闘で使い物にならなくなった。

両腕を失い、目の前には獣……いや、化け物がそびえ立つ。
ああ、自分は死ぬんだな、と他人事のように思う。
カイザルの魂を救うこともできずに、ただ無為に死ぬ。
結局、外道は何をしても失敗するようだ。

そう、自分はただの外道だ。
ネクロマンサーとして、ゾンビとして、人殺しに乗った危険人物として。
真っ当な人間というには、余りにも道を踏み外しすぎた。
それでも、ネクロマンサーとしての、ゾンビとしての、危険人物としての生き方は―――全部ひっくるめて自分の性。

(腕輪ごと腕が飛ばされたから捕まらない……なんてお気楽なことにはならないわよね)
これから殺されるというのに、妙に晴れやかな気分だ。
誰も手にかけないうちに死ねるのは、それはそれで悪くないようにも思う。
カイザルの魂を救えずに死ぬのは心残りだが、逆に言えばそれぐらいしか無念はない。
自分は長く生きすぎた。
そろそろ年貢の納め時だろう。


(カイザル、魂が囚われた先で―――私はあんたに呼びかけ続けるわ。
向こうで喋れるかは分からないし、喋れても届かないかもしれない。
それでも、ずっとずっと、呼びかけ続けるわ。
だから、もし私の声が聞こえたら―――ちゃんと返事してよね)

化け物の足が振り上げられる。
狙いはリタの首だ。

(向こうに行ったら、ちょっと今までとは違う私になってるかもね。だって―――)

足で首を撥ねられた。
死ぬのは二度目だが、どうにも慣れないものだ。

(死んだらもう、私はゾンビじゃないから)

【リタ@神撃のバハムートGENESIS 死亡】

651EXiSTENCE ◆45MxoM2216:2016/03/21(月) 02:05:01 ID:3vBKHcMg0


我に帰ったファバロの目に移ったのは、立ち尽くす神楽と変わり果てたリタの姿だった。
別にリタが死んでるのはいい。
思う所がないと言えば嘘になるが、リタは殺し合いに乗っていた。
普段より生き死にをドライに今のファバロにとってみれば、死んでも仕方ない存在だと割り切れる。

「おい、神楽……」
だが、神楽の様子がおかしい。
思わず声をかけたファバロは、ゆっくりと振り返った神楽の目を見て絶句する。
目が完全にイッている。

思わずファバロが後ずさった時―――
神楽は声にならない叫びをあげ、北へと走って行ってしまう。

「ちょ、おい……!いってぇ……!」
反射的に呼び止めようとしたファバロだったが、急に腹部が痛み出してきた。
見ると、血が滲んでいた。

「リタの奴、また妙なマジックアイテム使いやがったな。
……なぁカイザル、お前が助けてくれたのか?」
リタのブレスレットによって意識が飛び、抵抗もできずに刺されたファバロが何故こうも元気なのか?
それは、リタがカイザルの剣を使ってファバロにトドメを刺すことにこだわったからである。
ビームサーベルによって壊れたカイザルの剣は、殺傷力が著しく低下していた。
騎士として剣でファバロと決着を付けようとし続けたカイザル。
その姿を知っているが故に、リタは壊れていてもカイザルの剣でファバロを殺すことにこだわった。
つまり、カイザルに助けられたと言っても過言ではない。

「ねぇファバロ、神楽を追いかけないと!」
「あー?」
すっかり忘れてたが、近くには緑子がいたのだった。

「あんな目がイッてる女、わざわざ追いかけてどうすんだよ」
「ファバロ!神楽は君を助けるためにああなったんだよ!」
確かに、リタに殺されかけた自分を助けたのは神楽だ。
だが、明らかにあの神楽はまともではない。
下手に刺激してなにかの拍子にこっちにまで被害が飛び火しないとも限らない。
限らないのだが―――

「ねぇ、ファバロ!」
「だぁもう分かったよ、追いかけりゃいいんだろ追いかければ!」
結局、ファバロ・レオーネとはこういう男だ。
なんだかんだ言いつつ根っこの所はお人よしである。

「そこらへんにちょうどリタが持ってた医療道具があることだし、ちょっくら応急処置したら神楽を追いかけるか」
腹部を押さえつつ近くに散らばったリタの持ち物を回収しながら、ファバロは思う。
これでよかったのかと。
本気で説得すれば、リタは殺し合いに乗るのを止めてくれたかもしれない。
そうすれば死なずにすんだかもしれない。

そんなたらればを考えながら、リタの遺品を回収し続ける。
一瞬、リタの死に顔でも見てみようと思ったが……やっぱり止めた。

明日へとそよぐ風の中、心の中には、ぽっかりと穴が空いたようだった。

【C-2とC-3の境目/一日目・日中】

【ファバロ・レオーネ@神撃のバハムート GENESIS】
[状態]:疲労(大)、腹部にダメージ(小)、精神的疲労(中)
[服装]:私服の下に黄長瀬紬の装備を仕込んでいる
[装備]:ミシンガン@キルラキル グリーンワナ(緑子のカードデッキ)@selector infected WIXOSS
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(8/10)
    黒カード:黄長瀬紬の装備セット、狸の着ぐるみ@のんのんびより、小型テレビ@現実、、カードキー(詳細不明)、ビームサーベル@銀魂
[思考・行動]
基本方針:俺は俺のために生きる。殺し合いに乗る気はねぇ。
   0:リタの遺品を回収し、傷の応急処置をする。
   1:神楽を追う。
   2:カイザル……リタ……。
   3:『スタンド』ってなんだ?    
   4:寝たい。
 [備考]
※参戦時期は9話のエンシェントフォレストドラゴンの領域から抜け出た時点かもしれません。
 アーミラの言動が自分の知るものとずれていることに疑問を持っています。
※繭の能力に当たりをつけ、その力で神の鍵をアーミラから奪い取ったのではと推測しています。
 またバハムートを操っている以上、魔の鍵を彼女に渡した存在がいるのではと勘ぐっています。
 バハムートに関しても、夢で見たサイズより小さかったのではと疑問を持っています。
※今のところ、スタンドを召喚魔法の一種だと考えています
※白のマスターカードによって第一回放送の情報を得ました。
※C-2とC-3の境目にリタの持ち物が散乱しています。

652EXiSTENCE ◆45MxoM2216:2016/03/21(月) 02:05:48 ID:3vBKHcMg0


鎖が外れ、夜兎の本能に呑まれた神楽。
ファバロの怯えたような目を見た瞬間、本能はファバロから逃げるかのように身体を北へと動かした。
彼女は知らない。
本能に呑まれた自分をかつて止めてくれた少年は、もうこの世にいないことを。
彼女は知らない。
自らの進む先に、大切な仲間の侍や相容れない兄がいることを。

彼女は考えられない。
理性と知性の吹っ飛んだ神楽には、この先に何が待っているかなど―――想像すらできない。

【C-2/一日目・日中】

【神楽@銀魂】
[状態]:暴走、疲労(中)、頭にダメージ(大)、胴にダメージ(大)、右足・両腕・左足の甲に刺傷(行動に支障なし)
[服装]:チャイナ服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らないアル
   1:………………(ひとまず北上する)。
   2:神威を探し出し、なんとしてでも止めるネ。けど、殺さなきゃならないってんなら、私がやるヨ。
   3:銀ちゃん、新八、マヨ、ヅラ、マダオと合流したいヨ
[備考]
※花京院から範馬勇次郎、『姿の見えないスタンド使い』についての情報を得ました。
※第一回放送を聞き流しました
どの程度情報を得れたかは、後続の書き手さんにお任せします

653EXiSTENCE ◆45MxoM2216:2016/03/21(月) 02:07:13 ID:3vBKHcMg0
仮投下終了です。
長くなってしまったので、本投下時には前後編にするかもしれません。

何か問題点などございましたら、ご指摘お願いします。

654名無しさん:2016/03/21(月) 10:44:26 ID:5PMyP8X60
乙です
互いの駆け引きが、それぞれらしい心理描写光る話でした
腕輪やカードについて言及したのも良かったです
緑子ルリグの中で一番活躍してるなあ、リタの魂が吸い込まれたのを見ていたら何かヒントを掴めるかも?
本投下に問題はないと思います

655 ◆NiwQmtZOLQ:2016/04/08(金) 19:58:25 ID:BdiowsKo0
仮投下します。

656悪意の種、密やかに割れて ◆NiwQmtZOLQ:2016/04/08(金) 19:59:40 ID:BdiowsKo0

B-7にあるホテル、その一室。
東側に窓があるその部屋は既に日光が差し込む危険もなく、カーテンが閉められている。
かといって室内の照明器具が点いている訳では無く、結果として部屋の中は、普通の人間が辛うじて活字を読めるか程度の明るさで満たされていた。
薄暗闇に包まれたそんな部屋の中で、唯一ひっそりと自ずから光を放っているものが一つ。
ありふれたサイズの液晶画面であるそこに反射する姿は、先程のシャワーのお蔭で殺し合いの場であるにも関わらず清潔感に溢れる一人の男。

帝王DIO、その人だった。





あれから。
麻雀に快勝し気分を良くしたDIOは、尚も他の娯楽で暇を潰そうとして、娯楽場の案内図を見に行こうとした。
しかし、実際に案内図を見て―――――正確にはその横にあるホテルの案内図を見て、より有意義な時間の過ごし方を発見した。

―――――ホテル内の、綿密な探索。
もしも敵が強襲してきた時、そしてその敵が万が一にでも日光というDIOの弱点を把握し、外に面する場所へ誘導するなどといった姑息な手を使ってきた場合。
こちらも流石にホテルの中を、単に地図で掴んだ概要以上にしっかり把握しておかなければいけない。
吸血鬼としての身体に『世界』という最強のスタンドを持つ自分だが、あのクソッタレの侍共のように、必死に小さい頭を捻って考え付いたなけなしの策が、「偶然」このDIOの域に達することが「万が一にでも」存在するかもしれない。
だが、帝王が完全に地の利を理解しているのであれば、そんなちっぽけな偶然すらも水泡と帰す。
そう、これはこのDIOの勝利をより盤石にし、虫ケラごときがあろうことか二度も勝利するような、間違ってもあってはならない事態を防ぐもの。

DIOの持論の一つに、「恐怖を克服する為に生きる」というものがある。
名声、支配、金、友人―――――それらのものは全て人間が生きている上で安心するために手に入れようとする、という論。
DIOが今しているのは、まさに今「万全を期す」という形で安心を得るという行為だった。

「ふむ、ここは…」

DIOが開いた扉は、そのほかの部屋のような豪奢さがなく、シンプルにデザインされた机が並ぶ事務室。
整理整頓がきちんとなされている―――――というより、机の奇妙なまでの小奇麗さや、ペン立てに入った使用した形跡がほとんどないように見えるペンを見るに、実際には一回も使用されていないのだろう。

「つまりは、このDIOが初めに使うことができるということか」

東向きの窓に念入りにブラインドとカーテンを掛け、部屋を物色しようとして、少し奇妙な事に気付く。
どの机にも、テレビに似た画面が嵌め込まれた、見慣れないものが並んでいる。
しかし、DIOが知るテレビはこんなに薄くないし、そもそも一つあれば十分といった代物の筈だ。
それがいちいち個人の為に用意されているというのは奇妙だし、そもそも娯楽である筈のテレビがこんなに遊びが無いように見える場所に大量に設置されているというのもおかしな話だ。

「面白そうだな…調べてみるとするか」

そう言って机に近寄り、慎重にディスプレイを調べてみる。
間もなく裏面にあるコードが、下にある何やら大きな箱のようなものとつながっていることがわかり、興味の対象はそちらに移る。
手で触ること数十秒、そちらにランプが併設された小さなボタンがあることを知り、迷いなくそのボタンを押しこむ。

―――――途端、先程まで暗転していた液晶が輝きだした。

やはりテレビのようなものだったのか、と思うDIOの前に現れたのは、しかし彼の興味を引くには十分な一文。




『殺し合いサポート専用パーソナルコンピュータ システム起動』




という、そんな一文だった。

657悪意の種、密やかに割れて ◆NiwQmtZOLQ:2016/04/08(金) 20:00:11 ID:BdiowsKo0

「ほう……?」

疑問符と好奇心が同時に顔を擡げる。
薄暗闇の中にぼんやりと浮かぶディスプレイを愉快そうに眺める。
恐らくはテレンスがやっているゲームを司るという、『コンピュータ』というものだろう。
触れた事はなかったが、幸いにもこういった物を扱った事が無い参加者への気遣いか、取り扱いを説明するマニュアルが立ち上がるようになっていた。
もちろんスキップも可能となっており、分かる人間も気分を悪くしない仕様だ。

「随分と親切だな」

小さく呟き、一人になると口が軽くなっていけないなとふと思う。
そして同時に、口元に僅かな笑いが浮かんだ。
無条件な親切―――――そんなものを、こんなに悪趣味な殺し合いを開いた者共に求めるなどもっての外だ。
わざわざ殺し合いのサポートとまで書かれているのだ。殺し合いを促進させるためのものだとは容易に想像がつく。
となると、あるのもホテルだけではないだろう。ここ以外の施設にも、恐らくは設置されている筈。
或いは、脱出の為に活用できないかと考える輩もいるだろうが―――――無駄。
もしここに穴があるのならば、主催は態々自分達から弱点を晒しているという事になる。
よっぽどの馬鹿か、或いは何か理由がない限りは、そんなことをやるとは思えない。

そうこうしているうちにパソコン操作のノウハウもその大部分の説明を終え、マニュアルが表示されていたウィンドウが閉じる。
整理されたレイアウトや専門用語を用いない解説からなる説明はそれなりに分かりやすく、全くパソコンを弄ったことのないDIOも流し見で充分内容を理解できた。
そうして彼にも一通りこのパソコンの扱い方が分かったところで、それまで白塗りだった画面に一文が現れた。
それは、これまでの解説のようなポップな自体ではなく、最初に殺し合いサポート云々と書かれていたものと同じような印象を受けるようなもの。

「『白カードを提示してください……』か」

白カード、というのは、この忌々しい腕輪に取り付けられたこれの事だろう。
てっきりただの首輪代わりかと思ったが、なるほど本人認証にも使えるとは面白い。
どこに見せればいいのかと机を見ると、妙なオブジェのようなものが楕円形の光を出していた。
その中心にカードのような四角が描かれているのを見て、ひとまずそこに腕輪に嵌った白カードを翳してみる。
画面に一本のゲージが現れ、数秒でそれが満たされた後、画面にウィンドウが改めて開かれた。

『認証終了 参加者・DIO』

そんな文字列が浮かび上がり、またその数秒後には通常のデスクトップ画面へと変わる。
表示されていたのは、幾つかのアイコン。
『チャットルーム』、『メール機能』、そして『DIO・個人ファイル』と書かれた一つのフォルダ─────合計四つのアイコンが、画面上に表示されていた。
ざっと

「個人ファイル………なるほど」

その内容は、少し考えれば一瞬で分かる。
恐らくは、DIOのこれまでの行動やらなにやらが記録されているのだろう。
このカードにそれだけの機能があるのかは不思議だが、よく考えてみればその記録が腕輪に残っているという可能性もあったと思い直す。
ともあれ、ここに入っているのは一人の参加者がここまでどうやって過ごしてきたのか、というもの。

658悪意の種、密やかに割れて ◆NiwQmtZOLQ:2016/04/08(金) 20:01:04 ID:BdiowsKo0

「見る必要は無いな」

だが、ここにあるものはDIO自身のもの。
如何に時間があるとはいえ、わざわざ見る必要のないものに割く時間はない。
というよりむしろ、そんなに大した事に使えるような情報もないだろう。
その内心は、或いは先の戦闘で慢心により敗北した、そして地下通路で自分の末路を見てしまったという、苦々しい事実を改めて見ることをよしとしなかったというのもあったのかもしれないが─────。

「それより、本題はこっちか」

そんなことを自覚している様子は一切なく、DIOは残る二つのアイコンに交互にカーソルを合わせる。
現在解放されていると思しき二つの機能。
メールはともかく、この『チャット』なるものが何かは全く分からない。
恐らくは海の底で眠っている間に出来た文化の一つだろう。
外界のことについては書籍やエンヤ婆による伝聞だけなので、自分で仕入れた情報といえば深夜にカイロを出歩いた時に目にしたものくらいだ。
ともあれ、チャットというらしきこれの利用価値を確かめないことには話にならない。
二連続でマウスを押す、ダブルクリックというらしい技術を駆使して、『チャットルーム』を開いてみる。
途端に先程と同じようなウィンドウが立ち上がるが、その背景は打って変わって黒塗りのそれ。




M:『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』

Y:『私、結城友奈は放送局に向かっています!』

R:『義輝と覇王へ。フルール・ド・ラパンとタマはティッピーの小屋へ』

K:『友奈?友奈なの?私よ、にぼっしーよ』




「………ふむ」

そこにあったのは、アルファベット一文字に続く文字列。
結城友奈や東郷美森、犬吠埼樹は確か名簿にもあった名前だが、果たしてこれはなんだと首をかしげる。
幸いすぐにヘルプがあることに気付き、チャットの仕組みも先と同じように簡単な解説を受けて内容を理解した。
要するに、匿名で情報を流す為のツールという事だ。
余談だが、これはDIO自身には気付きようがないことだが、これはDIO用にカスタマイズされたアカウントの為名簿などと同じようにDIOにも読めるように翻訳もされている。

「情報、か………ホル・ホースが寄越したものがあったな」

危険人物・一条蛍の存在。
それと反対の事を伝えて混乱させるか、と思い立ったが、しかしそれは違うなと首を振る。
対主催を掲げる集団をバラバラにしているのだから、嘘を吐いて信用を上げてやっても自分からそれを壊していく野蛮なタイプなのだろう。
そんな人間の為に態々このDIOが手を煩わせてやる必要性はほんの少しも感じない。

それに、少し気になっている事がある。
このMという人物の書き込み─────『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』。
先程出会ったホル・ホースは、これまでに二人の参加者を殺害したと言っていた。
その二人とは、志村新八と、そして犬吠埼樹。
だが、ここに書き込まれている情報はそれとは食い違うもの。
犬吠埼樹という人物を殺した犯人は、果たしてどちらか。
―――――実際にはこの二人のどちらでもないのだが、それはDIOが知る由もない事実だった。

「ホル・ホースとここの情報、か…」

659悪意の種、密やかに割れて ◆NiwQmtZOLQ:2016/04/08(金) 20:02:30 ID:BdiowsKo0

このチャットルームの情報は、お世辞にも簡単に信じられるとは言えない。
何処の誰とも知らぬ人間が書いたものを容易に信じるなど、不用心にも程がある。
しかし、ならばホル・ホースは完全に信用出来る人間かと言われると、こちらもそう簡単に肯定出来はしない。
あの男は良くも悪くも人間的だ。常に強い方に味方し、殺し屋という職業に就きながら己の命に拘る。
その熟練度も並大抵のものではなく、自分を暗殺しようとした時も、常人なら殺気どころかその一挙一動にすら気付かないだろうと言うほどに見事な手際だった。
そんな男が、この殺し合いを生き抜く為に必死で考えを絞らせている―――――そんな時に、帝王と出会ってしまったとするなら。
狡猾な思考を持つ彼は、口から出任せでもどうにか「貢献している」というアピールをこちらに見せつけ、未だに忠誠を誓っているように思わせることで、無事に切り抜けようとしてもおかしくない。
仮にも暗殺者としては逸材だ、このDIOに嘘を吐き信じ込ませるというのもやってのけられないとは言い切れない。
どこか挙動不審な態度も、そう考えれば一応は納得がいく。

「ふむ」

ならば、どうするべきか。
既に先の邂逅から時間は経ちすぎており、ホル・ホースも地下通路からは脱出して地上にいることだろう。
未だに日が沈むには早い時間であり、外に出る事が叶わない身としては追って問い詰めることも出来ない。
一見、この件でDIOが打てる手は存在しないようにも見える。

だが、目の前にあるチャットでならどうか。
これを用いれば、出来ないことは決して皆無ではない。
しかし、かといって不用意な発言をすると、取り消しのできないこのチャットは反対に命取りになりかねない。
慎重に考える事数分、DIOは一つの短い文を流れるように打ち込んだ。


『犬吠埼樹を殺したのはホル・ホース』


思考の末、DIOが最善手として選んだのはその文章だった。
この一文、単純なように見えて面白い効果を齎す可能性があると彼は睨んだのだ。

先程の説明で、イニシャルが表示されることは既に分かっている。
しかし、DIOと同じ「D」を持つ参加者はもとより参加すらしていない。
となると、承太郎や先程出会った侍たち、更には死亡した花京院やポルナレフからDIOについての情報を得た者達は、当然このイニシャルには警戒する筈だ。
例えば、『ホル・ホースは信用できる』という一文なら、きっとホル・ホースに対する警戒は高まるだろう。
だが、その内容がこれならばどうか。
ホル・ホースについての人物評は、恐らくはDIOと同じく伝わっている事だろう。
そして、それならば「わざわざ手下が信用ならないという情報を流すのか」という疑心暗鬼に勝手に陥ってくれる可能性が高いと言える。
承太郎などは、「ホル・ホースがDIOを怒らせた」なんて風に受け取ってくれる可能性すらある。
無論、承太郎たちと何の関わりもない人間にはホル・ホースは警戒の対象として見られるだろう。
だが、それはそれでただ単に根も葉もない噂にしかなり得ない。
東郷美森というもう一人の容疑者が同時に開示されているのだ。暗殺のプロである彼ならば、その程度の疑念があろうと潜り込むのは決して不可能にはなり得ない。
総じて、彼が集団に潜り込もうとすれば、恐らくは「信用しきってはいけないが、かといって無条件で追い払うにも証拠が足りない」程度の信用に落ち着くはず。
その程度の状況ならば、暗殺者である彼は手慣れている筈だ。
もしも彼が未だに忠実な僕であるならば、このDIOの為に人を殺すチャンスはきっと見誤るまい。

660悪意の種、密やかに割れて ◆NiwQmtZOLQ:2016/04/08(金) 20:03:15 ID:BdiowsKo0


仮に、の話だが。
もしも、あの男が本当に虚偽の報告をし、帝王を騙そうとしたのならば。
その時は─────惜しい人材だが、次にこのDIOの目の前に現れた時が、奴の命運が尽きる時だ。
せめてもの餞に、もう一度『世界』の能力を見せて葬ってやるのも悪くないか。
そう考えながら、邪悪の化身はにやりと口角を吊り上げた。





─────これは、DIOが気付かなかった、気付きようがなかった事実。
尤も、気付いてもどうしようもなかった事でもある、事実だが。

白カード。
パソコンが個人認証の為に求めたのは、あくまで白カードだけ。
別に、そこにいる人間の白カードを使わなければならないという制約はない。
尤も、カードは基本的に腕輪に嵌め込まれたまま。
遠くにいる人間の白カードを使う事は、基本的には出来ない事だろう。

─────その腕輪を持つ人間が、命を落としていなければ。

つまり、それは。
死者の白カードも、使用が可能だという事だ。

例えば誰かの白カードを持っている、というのならともかく、ホル・ホースへの疑念でテンションが下がる前、麻雀に勝って浮かれていた彼が気付く筈もなかった。
一見利用価値が少ないようにも見える個人ファイルの存在は、この為。
その中に隠されているものが何かは─────未だに明かされず。
パンドラの匣になり得る何十枚ものカードは、開示される時を待っている。



ともあれ。
ラヴァレイという男が蒔いた種は、こうしてゆっくりと育ち始めた。
結実の時は、そう遠くない。




【B-7/ホテル/一日目・日中】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康、麻雀に勝ってテンションが高い
[服装]:いつもの帝王の格好
[装備]:サバイバルナイフ@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(9/10)
[思考・行動]
基本方針:主催者を殺す。そのために手っ取り早く他参加者を始末する。
0:さて、この後はどうするかな。
1:夕刻までホテルで体を休める。その後、DIOの館でセイバーと合流。
2:ヴァニラ・アイスと連絡を取りたい。
3:銀髪の侍(銀時)、長髪の侍(桂)、格闘家の娘コロナ、三つ編みの男(神威)は絶対に殺す。優先順位は銀時=コロナ=桂>神威。
4:先ほどのホル・ホース、やはり信用する訳にはいかないかもしれんな。
5:衛宮切嗣を警戒。
6:言峰綺礼への興味。
7:承太郎を殺して血を吸いたい。
8:一条蛍なる女に警戒。セイバーやヴァニラ・アイスと合流した時にはその旨も一応伝えてやるか。
[備考]
※参戦時期は、少なくとも花京院の肉の芽が取り除かれた後のようです。
※時止めはいつもより疲労が増加しています。一呼吸だけではなく、数呼吸間隔を開けなければ時止め出来ません。
※車の運転を覚えました。
※時間停止中に肉の芽は使えません。無理に使おうとすれば時間停止が解けます。
※セイバーとの同盟は生存者が残り十名を切るまで続けるつもりです。
※ホル・ホース(ラヴァレイ)の様子がおかしかったことには気付いていますが、偽物という確信はありません。
※ラヴァレイから嘘の情報を教えられました。内容を要約すると以下の通りです。
 ・『ホル・ホース』は犬吠埼樹、志村新八の二名を殺害した
 ・その後、対主催の集団に潜伏しているところを一条蛍に襲撃され、集団は散開。
 ・蛍から逃れる最中で地下通路を発見した。
※麻雀のルールを覚えました。
※パソコンの使い方を覚えました。
※チャットルームの書き込みを見ました。
※ホル・ホースの様子がおかしかった理由について、自分に嘘を吐いている可能性を考慮に入れました。



・施設備え付けのパソコンについて
スキップ可能のマニュアルが起動時に立ち上がります。その後、白カードをスキャンする事でパソコンの使用が出来るようになります。白カードについては本人のものでなく、死者のものも使用できます。
使用出来るのは携帯電話やスマートフォンと同じチャット機能・メール、及び個人ファイルの閲覧です。
個人ファイルの細かい内容については後の書き手さんにお任せします。

661 ◆NiwQmtZOLQ:2016/04/08(金) 20:05:09 ID:BdiowsKo0
仮投下を終了します。
施設のパソコンについて結構踏み込んでしまったので、指摘があれば是非お願いします。

662 ◆NiwQmtZOLQ:2016/04/10(日) 13:02:27 ID:U4XvQGNI0
特に指摘がないようなので、本投下してこようと思います。

663 ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 11:43:30 ID:D9Yha4U20
仮投下します。

664飼い犬に手を噛まれる ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 11:44:27 ID:D9Yha4U20
放送局の一室。
勇者、セレクター、騎士団長、デュラハン、そして悪魔。
年齢も性別も、種族さえ違う5人が、食事を摂り、顔を突き合わせて話し合っている。
ちなみにフードカードを奪われていたるう子は、多く持っている夏凛から10枚ほど分けてもらっている。
それは奇妙な光景だった――この場が、幾多の世界から集められた人々が殺し合う舞台だということを知らなければ、だが。

話し合いは意外にも円滑に進んでいった。
少なくとも、未だ倒れているウリス――浦添伊緒奈を除けば、この場にいる者は全員、今すぐ事を荒立てるような意図はない。

(ふむ――杞憂だったか)

ラヴァレイは内心で一人ごちる。
賞金首が考えた最悪の可能性は、アザゼルが何らかの形で自分の真の正体を看破しているケースだった。
「見知った顔がいる」と言われたときは少しヒヤリとしたが、副騎士団長「ラヴァレイ」と悪魔「マルチネ」と賞金首「ジル・ド・レェ」が同一人物であることは知らないようだ。
また、今の自分は悪魔と敵対していた「ラヴァレイ」の顔であることからして、揉め事に発展する可能性も考慮していた。
が、多少の挑発的な言葉はあったものの、今の状況では戦意はないことと、大人しく恭順する意思を示すと、アザゼルもそれ以上やり合うことはなく引き下がった。
敵対する勢力の一員であったとはいえ、直接交戦したことはなかったことも幸いしたのだろう。

665飼い犬に手を噛まれる ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 11:44:43 ID:D9Yha4U20
5人のうち三好夏凛、セルティ・ストゥルルソン、アザゼルは元から行動していたこともあり、情報交換は手短に終っていく。
ラヴァレイは己の行動を少しずつ伏せながら語った。
具体的に隠した部分は、本部以蔵との顛末、DIOとの邂逅、そして地下通路で見た「ジョースターの系譜」。
どれも、単独で行動していた時の出来事であり、迂闊に話せば自分に不利をもたらしかねないことだからだ。
6時間以上前に別れた本部が未だ生きているのにも関わらずここにおらず、戦闘の痕跡もないということは、途中で何らかの戦闘に巻き込まれた可能性がある。
もしも今さらのこのことこの場に登場してきて、紅桜のことを責められたときは、「そんなに危ない代物だとは思わなかった」、「本部なら扱えると思った」と言えばよい。
事実として、黒のカードには「妖刀」としか書かれておらず、意識を乗っ取るような感覚にはラヴァレイ自身手にしてみるまで気付かなかったのだから。
また、後に地下通路から映像が見つかり、なぜ話さなかったのかと咎められた場合は、「その時はまだ灯りがともっておらず、映像も流れていなかった」とでも話せばよい。

小湊るう子が、三好夏凛、アインハルト・ストラトス、桐間紗路と散りぢりになった後のことを話し終える。
すると次にアザゼルが興味を示したのは、車椅子の少女――東郷美森が持っていた、今は夏凛が持っている白い犬の姿が描かれたカードだった。

「出してみろ」

アザゼルに促された夏凛が黒いカードをかざすと、巨大犬・定春が姿を現した。
どうやらカードの中で寝ていたところを起されたらしく、寝ぼけつつもかなり不機嫌な様子を見せている。
2人の少女が慌ててなだめに走り、ふわふわした毛を撫でてやる。

「ほう、ケルベロスの一種ですかな」

動物の登場にラヴァレイでさえも、纏う雰囲気をわずかに弛める。

666飼い犬に手を噛まれる ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 11:44:59 ID:D9Yha4U20
(かわいい……!)

口にこそ出さない、いや出せないが、セルティも定春の愛らしさに一瞬で魅了されてしまった。
セルティは可愛いものがわりと好きだ。少なくとも、普段から使用するヘルメットに、猫耳のついたデザインを選ぶくらいには。
少しくらいは触ってみても大丈夫だろう、と思い、2人の少女に混ざろうとして。

「面白い。余興に芸の一つでも見せてみろ、犬」

そんな和みかけた空気を見事にぶち壊したのは、またもこの悪魔だった。
定春は飛びのき、歯をむき出しにしうなり声を上げて露骨に警戒心をあらわにする。

(――まったく)

この悪魔は、動物とすらまともにコミュニケーションというものが取れないのか。
もう何度目か分らない呆れを感じながら仲裁に入ろうとして。

事件は起こった。

アザゼルが、ほれほれ、とばかりに不用意に定春に手を伸ばし。
鋭い鳴き声と共に、定春はその手を噛んだ。


場の空気が凍り付いた。


「――ふむ」

アザゼルは、呆けたような顔で手から流れる血と定春を見比べた後。

667飼い犬に手を噛まれる ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 11:45:19 ID:D9Yha4U20
「主人に刃向かう犬は要らん」

おもむろに、片太刀バサミを振り上げた。


「「――!」」


夏凛が、セルティが、悪魔を止めるべく動き――しかし。


「やめて!!」


悪魔を止めたのは、予想外の人物だった。

「やめて下さい!――お願い!」

少女――小湊るう子が、振り上げかかったアザゼルの腕に全身で飛びついていた。

「ええい、離せ!」

左手に走る痛みにも構わず、るう子は悪魔の腕にしがみついて離れない。
これには予想外だったのか、アザゼルは犬の存在も、手の怪我も忘れたかのようにるう子を振りほどく。

「軽い冗談だ――いちいち本気にするな。
 小湊! その犬は貴様が躾けておけ!」

噛み痕から流れる血を拭いながら、ややきまり悪げにアザゼルがぼやく。

668飼い犬に手を噛まれる ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 11:45:38 ID:D9Yha4U20
「ごめんね、怖い思いさせて――もう大丈夫だよ」

るう子は定春のもとに駆け寄り、その首筋に抱きついてなだめながら、黒のカードに戻す。
一連の光景に、セルティは肩を落とし、ため息をつきながら(実際には息はしていないのだが)。

『笑えない冗談だ』

心底からの言葉をPDAに打ち込み、悪魔に突きつける。

「ふん」

悪魔は憎々しげに横を向いた。





『――それで。この後はどうするんだ? 全員揃ってここで人を待つのか?』

そんな騒動があった後。
主導権を握られるのは危険と判断したセルティは、多少強引にでも会話を進めていく。

「うむ――当然、考えている」

その文面に、アザゼルは倒れているウリスを含む5人をじろりと見渡す。

「この俺と小湊はここに残り、4人は残るセレクターの紅林遊月、ひいては役に立つ参加者や情報、アイテムを集めてもらおう。
 連絡の手段も、移動の手段も豊富な現状だ。これだけの戦力、6人そろって待ちぼうけているのは意味が薄い。
 そう思うだろう、なあ三好?」

突然名を呼ばれ、夏凛の頬がピクリと動く。

「……なんで私を呼ぶのよ。私は別に、待っていてもいいけど」

669飼い犬に手を噛まれる ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 11:46:08 ID:D9Yha4U20
「とぼけるなよ。お前の仲間――おおかた先ほどの放送で俺に断りもなくここに呼んだのだろうが、探しに行きたくて仕方ないという顔をしているぞ」

図星を突かれ、夏凛に再び動揺が走る。

「まあ、今さら探しに行っても無駄かもしれんがな」

「……どういう意味よ。友奈は――」

「結城友奈、だったか」

悪魔の顔に、またしても愉悦の笑みが浮かぶ。

「そいつがチャットとやらに言葉を残してから、今の今までいったい何時間が経ったかな?」

ただでさえ疲労の色が濃い夏凛の顔が、一層青ざめる。

「それに返答をして、さらに放送で呼びかけ――ここに現れるどころか、まともな返事の一つすらよこさないではないか。
 つまり考えられるのは、最初に言葉を残した輩が偽物だったか、連絡の手段を失ったか、あるいは既に」

『やめろ』、何度目かすら分らない苛立ちを覚えながらセルティがそうPDAに打ち込み、割って入ろうとして――

「いいの」

夏凛は、それを制する。

「分ってるわよ、そんなことは……! でも、だけどね」

670飼い犬に手を噛まれる ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 11:46:31 ID:D9Yha4U20
そしてアザゼルに向き合い、言い放つ。

「勇者部にはね、こんな掟があるの。
 『なるべく諦めない』ってね……!」

「ほう」

青ざめた顔の中でも、その目に宿る炎。

「……好きにするがいい」

それを品定めするように見ると、アザゼルはそれ以上の興味を失ったかのように顔をそらす。

「それでは、私は騎士としてこのお嬢さんをお守りしましょう。
 別れると仰りましたが、道はどういたしますかな」

夏凛の傍らに、ラヴァレイが立つ。

「うむ、2人は先ほど別れたホル・ホースどもに追い付き合流し、そのまま東の市街地を探索し、遅くとも次の次の放送までには戻ってこい。
 デュラハンはそこの女と2人、北の島を同様に探索し、戻ってこい。
 全員、有事の際はこのPCに連絡をしろ」

『私はそれで構わないが、セレクターを手放していいのか?』

当然の疑問を、セルティは打ち込んで見せる。

「そいつは確かに重要人物なのかもしれんが、同時に俺を殺そうとしてきた危険人物でもある。
 あくまで保険にすぎん爆弾など、あえて手元に置き続けるものでもあるまい?
 それから、既にくたばったという蒼井晶の死体も回収しておきたい所だしな。生きてはいなくても何らかの役には立つかもしれん」

『白のカードか』

671飼い犬に手を噛まれる ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 11:46:49 ID:D9Yha4U20
「ああ。より蒼井に詳しいこいつなら適任でもあるだろう。
 ――小湊! いつまでも寝かせておくな。そろそろ水でも掛けて起こせ」

「は、はい」

アザゼルが青のカードから出した水瓶を受取ったるう子が、伊緒奈さんごめんなさい……と謝りながら水を掛けて起こす。

「う……」

冷たい感触に目覚めたウリスが、頭を抱えながら周囲を見渡す。

「ここは、――っ!」

アザゼルの存在を視界に認め、憎々しげな表情を露わにする。

「ようやくお目覚めだな、女」

アザゼルがウリスを見下す。

「この悪魔……!」

睨み付け、くってかかろうとし――そこで、自分の腕が黒い影に拘束されていることに気付く。
それだけではない。5人もの男女が、自分を取り囲んでいる。

「起きて早早だが、貴様には仕事をしてもらおう。そこのデュラハンと共に行動し、役立つ連中を連れてこい。
 せいぜい、ない悪知恵でも働かせるがいいぞ」

「何を勝手に――」

672飼い犬に手を噛まれる ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 11:47:05 ID:D9Yha4U20
そう言いかけて、再び周囲を見渡し、諦めたようにうつむく。
ウリスは、異常者ではあっても馬鹿ではない。
今の状況で下手にあがけば、即、死に繋がることくらいは十二分に理解できる。

「……何だか分らないけれど、分ったわよ」

「うむ、阿呆は物分りが肝心だ。三好、そのスマートフォンとやらはデュラハンに預けておけ。
 最低限の餞別だ。敵に襲われたら渡してやるがいい。そんな時なら寝首をかく余裕はあるまい」

伊緒奈の危険性を知っている夏凛は、少しためらった後、セルティにスマホを渡す。

『それじゃあ、いい加減にそろそろ行くぞ。
 それから、ここにあった遺体を2つともを埋葬しておきたいが、構わないか』

「……私も、東郷をちゃんと弔ってあげたいんだけど。いいかしら」

「好きにしろ。小湊、忘れずにホル・ホース共に連絡を入れておけ」

命令を受けたるう子が、ノートPCを立ち上げてメールを送る。
文面はこうだった。「夏凛さんたちがそっちに行きます。合流したら、詳しい話を聞いてください」


――こうして、紆余曲折を経て。
放送局に集った6名は2人ずつに分れ、しばし別の道を行く。





2つの遺体を埋葬し、白のカードは集めているという小湊るう子に託した後。
数刻後、デュラハンと少女の姿は島と島を結ぶ橋の上にあった。

「ねえ」

疾走するバイク。

「ねえったら」

673飼い犬に手を噛まれる ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 11:47:28 ID:D9Yha4U20
相変わらず影で括り付けられたままのウリスが、セルティに執拗に話しかける。
始めは無視していたセルティだが、バイクを急停止させる。

『何だ』

「本当にいいのかしら? あの悪魔の言いなりになって私なんかと来て。
 もしも残してきたあの子に何かあったら――」

『余計な気を回さなくてもいい』

ぴしゃりとPDAを叩きつける。

『スマホを奪おう、なんて考えても無駄だよ。仕事柄、君のような危ない女の子には慣れっこでね』

そして、ヘルメットをとって空っぽの頭を見せる。

『それと、私は見ての通りだからな。運転の最中に話しかけられても話せない。
 落ちて怪我なんかすることのないように、しっかり掴まっておくことだ』

「へえ、怖ぁい」

それを見ても、ウリスは依然として飄々としたまま。
やがてバイクは再び走り出す。

(――やれやれ)

674飼い犬に手を噛まれる ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 11:47:46 ID:D9Yha4U20
内心で、またしてもため息をつく。
アザゼルの支配下から一時だけでも逃れたのは僥倖だが、彼に比べたらいくぶん御しやすいとはいえ、新たに火種を抱え込んだ。
悪魔と共に残してきてしまった小湊るう子については――もちろん心配ではあるが、実を言えばそれほど不安ではない。
彼にとっては少なくとも、るう子は待ち望んでいた保護する対象であり、必要もなく追いつめる意図はないということが、会話の端々から理解できたからだ。
巨犬を斬り捨てようとした所を止められた際に、彼女が傷付かないように振り払ったことを見ても分る。
ついでに言えば、自分には扱いづらいと言って自分に銃を渡しもした。
むしろ、不安なのは。

(夏凛ちゃん)

騎士とともに、東の市街地に向った勇者の少女。
出会った時からずっと、彼女が無理をしていることは明らかだった。
そして、仲間だという結城友奈。これも、正直に言ってアザゼルの言う通り、生存の望みは正直いって薄いと感じた。
今の彼女は、僅かな希望にすがりついていることで何とか自分を保っているような状態だ。
……そして、悪魔と同類だというあの騎士。
出会った直後から紳士然とした態度を貫いていたが、彼は本当に信頼のできる人物だったのか。
そもそも、どんな理由があろうと、この殺し合いの場で正体を隠していること自体が、疑わしいといえば疑わしい。

(今さら考えても仕方ないが――無事でいてくれ)

手の届く場所にいる人々を守るために、そして愛する人の元へ戻るために。
不安を抱えながらも、首なしライダーは進んでいく。

675飼い犬に手を噛まれる ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 11:48:09 ID:D9Yha4U20



【E-1/橋上/一日目・午後】

【浦添伊緒奈(ウリス)@selector infected WIXOSS】  
[状態]:全身にダメージ(大)、疲労(中)
[服装]:いつもの黒スーツ
[装備]:ナイフ(現地調達)、スタングローブ@デュラララ!!
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(18/20)、青カード(17/20)、小湊るう子宛の手紙
    黒カード:うさぎになったバリスタ@ご注文はうさぎですか?、ボールペン@selector infected WIXOSS、レーザーポインター@現実
         宮永咲の不明支給品0〜1(確認済)
[思考・行動]
基本方針:参加者たちの心を壊して勝ち残る。
0:今はセルティ・ストゥルルソンに従う。
1:使える手札を集める。様子を見て壊す。
2:"負の感情”を持った者は優先的に壊す。
3:使えないと判断した手札は殺すのも止む無し。    
4:可能ならばスマホを奪い返し、力を使いこなせるようにしておきたい。
5:それまでは出来る限り、弱者相手の戦闘か狙撃による殺害を心がける
[備考]
※東郷美森が犬吠埼樹を殺したという嘘をチャットに流しました。
※変身した際はルリグの姿になります。その際、東郷のスマホに依存してカラーリングが青みがかっています。
※チャットの書き込み(3件目まで)を把握しました。


【セルティ・ストゥルルソン@デュラララ!!】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:VMAX@Fate/Zero ヘルメット@現地調達
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、
    黒カード:PDA@デュラララ!! 、宮内ひかげの携帯電話@のんのんびより、東郷美森のスマートフォン@結城友奈は勇者である、イングラムM10(32/32)@現実
[思考・行動]
基本方針:殺し合いからの脱出を狙う
0:北の島に向かい、紅林遊月および役に立ちそうな人・物を探索。蒼井晶の遺体も回収する。
1:アザゼル……どうしたものか。
2:静雄との合流。
3:縫い目(針目縫)はいずれどうにかする。
4:旦那、か……まあそうだよな……。
5:ラヴァレイに若干の不安。
[備考]
※制限により、スーツの耐久力が微量ではありますが低下しています。
 少なくとも、弾丸程度では大きなダメージにはなりません。
※小湊るう子と繭について、アザゼルの仮説を聞きました。
※三好夏凜、アインハルト・ストラトスと情報交換しました。
※チャットの新たな書き込み(発言者:D)にはまだ気付いていません。





放送局のすぐ南の道。
穴を掘っている2人の姿があった。

「東郷……」

勇者の力を借りることで、埋葬するための穴を掘ることはあっという間に終わった。
腹部の血も渇き始めた東郷美森の遺体をそこに横たえる。

676飼い犬に手を噛まれる ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 11:48:25 ID:D9Yha4U20
「あんたが乗った理由は知らないし、知りたくもないわ」

ゆっくりと土をかけていく。

「仇を取る、なんて今はまだ言えない」

友奈と戯れる姿、勇者として敵に立ち向かう姿。
今まで過ごした日々が、夏凛の胸をよぎって止まらない。

「でも、今はゆっくり寝ていてね」

土をかけ終え、手を合わせる。傍らではラヴァレイも同じ動作を見せている。
数十秒ほど、手を合わせ続け――

「……行きましょう」

セルティの話によると、旭丘分校で戦って死んだという少女が、樹の特徴に一致する。
付近に埋葬してきたらしいが、できることなら東郷と同じように自分も弔ってあげたい。

「承知いたしました」

2人は空飛ぶ箒――ヘルゲイザーに乗り込んだ。
この箒は、放送局を出る際にアザゼルから渡されたものだ。
スクーターとどちらを選ぶかと言われ、こちらを選んだ。
前に乗って操作する役はラヴァレイが買って出た。空飛ぶ箒は珍品ではあったが、操作感は馬とさほど変わらなかった。
そのまま、周囲の木々とすれ違う程度の高さを保ちながら飛行する。
この箒の元の所持者は、「撃ち落とされた」という。
位置関係から見て、その犯人は東郷である可能性が高いのだが――夏凛はそのことはなるべく考えないようにする。

677飼い犬に手を噛まれる ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 11:48:41 ID:D9Yha4U20
(三好夏凛――勇者、か)

おくびにも出さないが、賞金首が夏凛との同行を申し出たのは、騎士道などという理由などではない。


『勇者部にはね、こんな掟があるの。
 『なるべく諦めない』ってね……!』


彼女が悪魔に言い放った言葉を思い返す。
仲間を失った、孤独な勇者。
結城友奈とやらも、詳細は知らないが、アザゼルの話を聞く限りではもはや生きてはいないだろう。

ほとんど消えかけている僅かな希望に必死にすがり、ぎりぎりの線で自我を保つ少女。
三好夏凛の「折れる」音は――蒼井晶とは比較にならないほど、心地よいものだろう。

(友奈……風……!)

少女は、一心に仲間を思い続ける。
騎士の歪んだ笑みになど、気付くことはなく。


【E-1/放送局外/一日目・午後】

【三好夏凜@結城友奈は勇者である】
[状態]:疲労(大)、精神的ダメージ(極大)、顔にダメージ(中)、左顔面が腫れている、胴体にダメージ(小)、満開ゲージ:最大
[服装]:普段通り
[装備]:にぼし(ひと袋)、夏凜のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(16/20)、青カード(15/20)
    黒カード:不明支給品0〜1(確認済み)、東郷美森の白カード
[思考・行動]
基本方針:繭を倒して、元の世界に帰る。
0:南回りで東の市街地に向かい、ホル・ホースらと合流し紅林遊月らを探索する。
1:友奈を探したい。
2:樹のことも弔いたい。
3:アザゼル……
4:風を止める。
[備考]
※参戦時期は9話終了時からです。
※夢限少女になれる条件を満たしたセレクターには、何らかの適性があるのではないかとの考えてを強めています。
※夏凛の勇者スマホは他の勇者スマホとの通信機能が全て使えなくなっています。
 ただし他の電話やパソコンなどの通信機器に関しては制限されていません。
※東郷美森が犬吠埼樹を殺したという情報(大嘘)を知りました。
※小湊るう子と繭について、アザゼルの仮説を聞きました。
※セルティ・ストゥルルソン、ホル・ホース、アザゼルと情報交換しました。
※チャットの新たな書き込み(発言者:D)にはまだ気付いていません。

678飼い犬に手を噛まれる ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 11:48:57 ID:D9Yha4U20
【ラヴァレイ@神撃のバハムートGENESIS】
[状態]:健康、低空飛行中
[服装]:普段通り
[装備]:軍刀@現実、、ヘルゲイザー@魔法少女リリカルなのはVivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
    黒カード:猫車@現実、拡声器@現実
[思考・行動]
基本方針:世界の滅ぶ瞬間を望む。
0:三好夏凜の『折れる』音を聞きたい。
1:東の市街地に向かう。ホル・ホースについてはできれば遭遇したくはないが。
2:アザゼルにはそれなりに気を付けつつ、隙を見て排除したい。
3:セルティ・ストゥルルソンか……一応警戒しておこう。
4:DIOの知り合いに会ったら上手く利用する。
5:本性は極力隠しつつ立ち回るが、殺すべき対象には適切に対処する。
[備考]
※参戦時期は11話よりも前です。
※蒼井晶が何かを強く望んでいることを見抜いていました。
※繭に協力者が居るのではと考えました。
※空条承太郎、花京院典明、ジャン=ピエール・ポルナレフ、ホル・ホース、ヴァニラ・アイス、DIOの情報を知りました。 ヴァニラ・アイス以外の全員に変身可能です。





放送局、その屋上。
その場所に、悪魔と少女、そして巨大な白い犬の姿があった。
るう子は、疲れた体を休めるように定春の毛の中に体を預けている。

「休んだか」

アザゼルがるう子を起こす。
屋上に身を移したのは、この悪魔の命令だった。
さほど高い建物というわけではないが、ここからならば周囲に遮蔽物もなく、外敵の発見には便利だ。
その上、ここならばアザゼルにはなじみのない近代的な建物の中で迷うこともない。

679飼い犬に手を噛まれる ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 11:49:12 ID:D9Yha4U20
「あの……」

「貴様をただただ俺の下で遊ばせておくつもりはない」

不安げな問いかけを制するアザゼル。

「遊ばせるつもりはないが、これで遊んでみるか」

その手には、2組のカードデッキが握られていた。

「貴様ら『セレクター』とやらは、これを使って戦うのだろう?
 あの貴様らの親玉、繭とやらは、単なる力ではなくこれで打ち倒さねばならん。
 ――予行演習だ。遊び相手になれ、小湊るう子」

デッキの片割れを、タマのカードとともに投げ渡す。

『るう?』

「タマ……!」

カードの中では、ルリグ――タマが眠たげに目を擦っている。

「喜べ、タマ。貴様の大好きな『バトル』とやらの時間だぞ」

思わぬ再会に感慨に浸る間もなく、悪魔の声が響く。

『ばとる……?』

「ああ、そうだ」

『タマ……ばとる、したい。るう! いっしょにばとる、する!』

680飼い犬に手を噛まれる ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 11:49:29 ID:D9Yha4U20
はしゃぎ始めたタマの姿を見つめながら、るう子はこれまでのことを考えていた。

ここまで、自分には何ができたのだろうか。
咲を殺され。
3人が喧嘩別れになるのを止めることはできず。
シャロも殺され。
伊緒奈に誘拐され。
今もまた、こうして悪魔に軟禁されている。

何もできなかった。
状況に流されるまま、目の前で誰かが傷付き、死んでいくのを見ているしかなかった。

――けれど。
カードゲーム。
WIXOSS。

大好きな、これならば。
初めて巡ってきたチャンスなのかもしれない。
自分だって、何かができるかもしれない。

『るう……?』

黙り込んだるう子に、タマが不安げに声をかける。

「ごめんね。ちょっと考え事してた」

るう子は、顔を上げる。

「分かった。――うん。バトル、しよう」

681飼い犬に手を噛まれる ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 11:49:46 ID:D9Yha4U20
その言葉に、タマがはしゃぎ出す。
悪魔もまた、感心したような顔でるう子を見る。

(ほう……)

ただの小娘に過ぎないと思っていたが、この悪魔を前にして、なかなかどうして堂に入った態度を見せる。
「セレクター」――選ばれし者の名は伊達ではないということか。
札遊びをすると言った瞬間のあの目はどうだ。
単に遊びが楽しいだとか、そういったものではない。
もっと根源的なもの――闘争心、それも青く熱いもの――が燃え上ったではないか。

「あの、せっかくだから……賭けて、みませんか?」

「何?」

「私が勝ったら、定春――この子のご飯を、貴方のカードであげてください」

その言葉に、悪魔は一瞬呆け――

「ふはははははは!!」

哄笑した。

「面白い! この俺相手に賭けをするか、小娘!」

るう子は笑みさえ浮かべ、引き下がらない。
アザゼルはさらに愉悦に顔を歪ませる。

「いいぞ――貴様の力、存分に見せてみるがいい」

682飼い犬に手を噛まれる ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 11:49:59 ID:D9Yha4U20



【E-1/放送局/屋上/一日目・午後】

【アザゼル@神撃のバハムート GENESIS】
[状態]:ダメージ(中)、脇腹にダメージ(中)
[服装]:包帯ぐるぐる巻
[装備]:市販のカードデッキの片割れ@selector infected WIXOSS
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(9/10)
    黒カード:不明支給品0〜1枚(確認済)、片太刀バサミ@キルラキル、弓矢(現地調達)
[思考・行動]
基本方針:繭及びその背後にいるかもしれない者たちに借りを返す
0:小湊るう子と対戦し、もちろん勝利する。
1:三好…面白い奴だ。
2:借りを返すための準備をする。手段は選ばない
3:ファバロ、リタと今すぐ事を構える気はない。
4:繭らへ借りを返すために、邪魔となる殺し合いに乗った参加者を殺す。
5:繭の脅威を認識。
6:先の死体(新八、にこ)どもが撃ち落とされた可能性を考慮するならば、あまり上空への飛行は控えるべきか。
7:『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』……面白いことになりそうだ。
8:デュラハン(セルティ)への興味。
[備考]
※10話終了後。そのため、制限されているかは不明だが、元からの怪我や魔力の消費で現状本来よりは弱っている。
※繭の裏にベルゼビュート@神撃のバハムート GENESISがいると睨んでいますが、そうでない可能性も視野に入れました。
※繭とセレクターについて、タマから話を聞きました。
 何処まで聞いたかは後の話に準拠しますが、少なくとも夢限少女の真実については知っています。
※繭を倒す上で、ウィクロスによるバトルが重要なのではないか、との仮説を立てました。
※東郷美森が犬吠埼樹を殺したという情報(大嘘)を知りました。


【小湊るう子@selector infected WIXOSS】
[状態]:全身にダメージ(小)、左腕にヒビ、微熱(服薬済み)、魔力消費(微?)、体力消費(中)
[服装]:中学校の制服、チタン鉱製の腹巻 @キルラキル、
[装備]:ホワイトホープ(タマのカードデッキ)@selector infected WIXOSS、市販のカードデッキの片割れ@selector infected WIXOSS、定春@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
    黒カード:黒のヘルメット、宮永咲の白カード、キャスターの白カード、花京院典明の白カード
         風邪薬(2錠消費)@ご注文はうさぎですか?、ノートパソコン(セットアップ完了、バッテリー残量少し)
[思考・行動]
基本方針:誰かを犠牲にして願いを叶えたくない。繭の思惑が知りたい。
0:アザゼルと対戦する。
1:シャロさん、東郷さん………
2:夏凜さん、大丈夫かな……
3:遊月のことが気がかり。
4:魂のカードを見つけたら回収する。出来れば解放もしたい。
[備考]
※チャットの新たな書き込み(発言者:D)にはまだ気付いていません。


※キャスター、花京院典明、東郷美森の遺体が放送局付近に埋められました。
※市販のWIXOSSのカードデッキの対戦では、異空間は発生しないと思われます。

683 ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 11:51:10 ID:D9Yha4U20
以上です。
最後にウィクロスを実際に使用して対戦するという展開に踏み込んでいるため、念のため仮投下いたしました。
ご指摘等あればよろしくお願いします。

684名無しさん:2016/04/16(土) 14:31:09 ID:w7G.UDr20
投下乙です
ウィクロスに関してはルリグがタマだけなので大丈夫だと思います
アザゼルさんが前回わざわざ生かしたウリスを危険だからと即遠ざけてなおかつ危険人物にスマホも与えようとしてるのは流石におかしいので、その辺り修正していただければ助かります

685名無しさん:2016/04/16(土) 16:14:17 ID:Hz0uyHjwO
投下乙です!
ここは分割か、相変わらずセルティの胃痛とにぼっしーの心労がマッハ
アザゼルさんとるう子はウィクロスの時間、勝つ気満々なアザゼルさんだけど相手が悪い

一つだけ、指摘という程ではないですが、タマの言動が繭について知っているにしては初期に近すぎるかな、という点が少し気になりました

686 ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 18:42:39 ID:D9Yha4U20
ご指摘ありがとうございます。
指摘いただいた部分以外にも、アザゼルのウリスの処遇について直したい部分があるため、修正して投下いたします。
申し訳ありませんが、その際は若干の展開変更があるかと思いますので、ご容赦下さい。

687 ◆X8NDX.mgrA:2016/04/21(木) 21:26:18 ID:my5wRt/E0
仮投下します。

688 ◆X8NDX.mgrA:2016/04/21(木) 21:27:34 ID:f4EOfDks0

 傷付いたガンマンを気絶から回復させたのは、頬を撫ぜる風だった。
 このときホル・ホースには、単なる自然現象に過ぎない風が、やけに優しく柔らかに感じられた。
 まるで純粋な愛情を向けてくる女の、滑らかな肌のような感触。全ての女を敬愛する男にとって、これほど心地いい感覚はない。
 しばらくの間、ホル・ホースは風が流れるのを楽しんだ。

 そうして目を開けたものの、視界が明瞭でない。それは疲労や消耗だけが原因ではないと直感的に理解して、同時にホル・ホースは嘆息した。
 先程の戦闘は、どうあがいても夢ではなく現実。
 ガンマンにとっての生命線の一つである“目”の片方を失ったのだと。

(妙な気分だな、コリャ……)

 片目の視力がない状態は、戦闘では大きなディスアドバンテージだ。
 相手との間合いが測りにくくなる上に、死角が増える。
 地下闘技場のチャンピオン・範馬刃牙と、鎬流空手の使い手・鎬昂昇の勝負が好例だ。
 相手の神経を直接切る技、『紐切り』により視力を奪われた刃牙は、昂昇との間合いを測ることが困難になり、苦戦を強いられた。
 範馬の血を引く天才の刃牙は、それでも対処して見せたのだが。
 スタンド以外に天性の才能を持たないホル・ホースに、チャンピオンと同じことをしろというのは無茶だろう。
 これから先、戦闘には細心の注意が必要になる。

(俺の『皇帝(エンペラー)』が実力を発揮できなくなるのは、ちとショックだぜ)

 声には出さずにぼやくホル・ホース。
 とはいえ視力が悪い、あるいは盲目のスタンド使いも存在はする。
 エジプト9栄神が一柱、『ゲブ神』のスタンド使い・ンドゥールは、砂漠で音や感覚を頼りにジョースター一行を急襲した。
 また、DIOに忠誠を誓ったジョンガリ・Aは、空気の流れから周囲の状況を感じ取り、刑務所内で空条親子をこれまだ襲撃した。
 常人と比べて大きなハンデを抱えているが、その強さは確たるものだ。

 そんな彼らとホル・ホースは根本的に違う。
 ンドゥールは、視覚の代わりに鋭敏な聴覚と感覚を得ている。
 ジョンガリ・Aの場合も同様で、気流を読む独自の感覚、そして彼自身のスタンドによる狙撃の補助があればこそ襲撃が可能だった。
 対するホル・ホースには、先にも述べた通り、天性の才能や鋭敏な感覚機能はない。『皇帝』のスタンド一つで暗殺稼業を続けてきた。
 しかし、そもそもホル・ホースは、己に才能がないことを後悔していない。
 自分が誰より上手い鉄砲を撃つガンマンだと自負しているのだから。

(なにせ、俺のハジキの腕前はグンバツだったからな)

 とはいうものの、ホル・ホースが暗殺者を続けてこられたのは、『皇帝』が暗殺に非常に適したスタンドだったからという点も大きい。
 一般人には見えない銃。本人の目に映る範囲なら、自由に軌道を変化させられる弾丸。
 狙撃手の存在を知らぬ間に、眉間を撃ち抜かれて死んだ人間が、果たしてどれほどいるだろうか。
 強いて言うなら、そのようなスタンドを発現させたこと自体が才能か。

(まあ、ここじゃあスタンドもパンピーに見えちまってるんだけどな……)

 それがこの島では一般人に可視化され、更には左目を失う始末。
 とはいえ、可視化という措置でスタンドが制限されていることは、既に理解していたことだ。
 失明については、何もホル・ホース自身が不覚をとったことばかりが原因ではなく、凶悪な相手と遭遇してしまった不運もその一因だ。
 己の不運を恨むのも、もう何度目になるだろうか。

689 ◆X8NDX.mgrA:2016/04/21(木) 21:28:31 ID:my5wRt/E0
(まぁ、クヨクヨ悩んでも仕方ねぇ。
 いつまでも無防備にはいられねぇし、起きてどこか、安全な場所へ……)

 考えをまとめながら周囲を見回す。他の参加者の姿は見えない。
 危険な参加者がいる以上、安全な場所などありえないのだが、それはそれ。このまま動かずにいる方が危険だと、ホル・ホースは判断した。
 上半身を起こそうとしたが、折れた肋骨が邪魔をする。

「イテテテ……」

 ホル・ホースは戦闘スタイルが拳銃なだけに、特性上こうした物理的な痛みを受けることはあまりない。
 これが本当の骨折り損か、などと留まることのない愚痴や後悔を垂れながら、どうにか立ち上がる。
 体を少し曲げて楽な姿勢を取ることで、呼吸を楽にする。

「あー……まずは水だな」

 そうして落ち着いてから、ホル・ホースは、懐から取り出した青いカードでペットボトルの飲料水を出した。
 喉がはり付くように渇いていたのだ。
 キャップを無造作に開けてその辺りに投げ捨てると、ぐびぐびと一息に飲み干す。
 続けてもう一本。今度は瓶のビールをぐいぐいと飲む。これは流石にイッキとはいかなかったが、それでも時間を空けずに飲み干した。

「かぁ〜っ!美味い!」

 美酒に酔い痴れながら叫んだホル・ホースは、ついでとばかりに赤いカードを使用した。
 取り出したのはハンバーガー。原型はアメリカで誕生したとされ、アメリカ合衆国を代表する国民食と表現されることもあるファストフードである。
 ちなみに、原型が誕生していた時期については諸説あるが、少なくとも二十世紀の初頭には既に生まれていたと考えられている。
 ホル・ホースの着ている衣装からすると、微妙に時期がずれているが、そこはご愛嬌。
 見た目はガンマンでも、一九八七年を生きる男なのだ。

(カードから出た食いもんなんて、怪しすぎるがよぉ……)

 アツアツのハンバーガーをまじまじと見つめるホル・ホース。
 カードから武器が出ることもそうだが、食べ物が出ることはそれ以上の衝撃だ。
 好きな食べ物を、それが美味しく食べられる状態で出現させる。回数制限こそあれ、便利すぎる道具だ。
 スタンド使いの能力でも絡んでいるのかと、半ば本気で考えた。
 本当に食えるのかどうか、そんな不確かな物を食べていいのか、少しばかり逡巡したが、美味しそうな食欲に勝てるはずもなく。

「ええい、ままよ!」
「それでも、食わずにはいられないッ!そんな心情だぜ!」

 食前酒とばかりにビールを口にしてから、フワフワのトーストバンズをガブリとかじった。
 バンズの間に挟まれたシャキシャキのレタスとビーフパティが、口内で絶妙な食感を演出する。
 トマトケチャップの酸味がアクセントになり、口を動かす勢いは更に増す。
 鼻を突き抜けるツンとすました辛味は、マスタード。
 そうかと思えば、香り高いバターも存在を主張してくる。
 口いっぱいに広がる食材の旋律は、食べるそばから涎が溢れて来るほど調和している。
 ゴクリと飲み込めば、ガツンと胃に落ちる感覚。ボリュームもバツグンだ。

「んぐ……、んぐ……」

 その様子、まさしく無我夢中。
 これまで食事をせずに来た反動だろうか、しばしの間、無言でハンバーガーを咀嚼する。
 グルメ番組では、食べてすぐ「おいしい!」「ウマイ!」とコメントが飛ぶが、空腹な人間が美味な食べ物を食べたとき、言葉は失われる。
 極度の緊張から逃れた安堵感も手伝い、ホル・ホースは続けざまにハンバーガーを食べていく。
 まるで、この機を逃せばもう食事をする機会がないと考えているかのように。

 ちなみに、骨折した際には、骨の形成を促すカルシウムやタンパク質を摂取することも重要ではあるが、全体でバランスの取れた食事が一番良いとされる。
 つまりホル・ホースが選んだハンバーガーは失敗というほかないが、本人がそれに気づくことはないだろう。





690 ◆X8NDX.mgrA:2016/04/21(木) 21:29:07 ID:lfKHchzU0

 ここで場面は入れ替わる。

 旭丘分校から飛び出した針目縫は、ゆっくりと歩いて温泉へと到着した。
 悠々と旅館内を歩き回り、誰か獲物がいないかと探し回るも、ほとんど無為に終わる。完全にあてが外れた形だ。
 さてどうしようかと考えて、何の気なしに部屋のテレビをつけると。

『私の名前は三好夏凜。この島の中で、人を探しているの』

 格好の餌がぶら下がっていた。
 少女は緊張した面持ちで、メモを見ながら話している。

『るう子…小湊るう子、紅林遊月、それに浦添伊緒奈』

 縫の耳がピクリと反応する。
 自分の拘束から抜け出した裸の猿。
 確実に殺害しておけば、今のような苦渋を味わうこともなかったかもしれない。
 笑顔を浮かべながら、内心で殺意を滾らせる。

『この三人に、聞きたい事があるわ。
 他にも、『セレクター』と聞いて分かる人がいたら教えて欲しい』

 しかし単純な殺意の他にも、縫の関心を惹く言葉が、画面の中から発される。
 セレクター。選択する者。
 映画館で紅林遊月が話していた、カードゲームに関連する用語だ。

『ええっと、見えるかしら?これが私の端末のアドレスよ。
 さっきの放送で、メールが使えるようになったみたい。
 もし遠くにいても、もし施設の中にパソコンや端末があればそれで連絡も取れると思う』

 放送は続いたが、縫はセレクターへの呼びかけが気になり、これ以降の話は頭に入らなかった。
 遊月から聞いた話はうろ覚えだが、それでも重要な部分は覚えている。
 ウィクロス――夢限少女へと至るためのバトル。

「ルリグに選ばれた少女たちが戦い、三回勝利すれば願いが叶う……」

 そして、三回敗北すれば、願いは反転して叶わなくなる。
 まるでおとぎ話に出てくるような、信じがたい内容だ。
 しかし、生命戦維という超常の存在から生まれた縫が、いまさらその程度の不可思議を認められないはずもない。
 むしろ、繭が「魂」をカードに閉じ込めることができるのは、そうした不可思議な力を応用しているからではないか、とさえ考えていた。

(もしかしてこの放送、かなり重要かもね♪)

 殺し合いは半日が過ぎ、およそ半分の参加者が死亡した。
 残っているのは、縫や流子のように強い力を持つ人物が大半だろう。
 この状況で、島の全域に届く放送を行なうのは危険極まりない。しかし、彼らはそんな危険を冒してでも、セレクターを集める必要があるということだ。
 つまり、セレクターは繭へと繋がる鍵。
 縫は直感的にそう判断すると、目的地を定めた。

「放送局……そこにセレクターが集まるんだね!」

 意気揚々と外に出た縫が目にしたのは、風に吹かれて転がる学生服だった。





691 ◆X8NDX.mgrA:2016/04/21(木) 21:32:32 ID:f4EOfDks0


 場面は再びホル・ホースに転換する。

「さぁーて、次はどうするかね……とと、そうだそうだ」

 赤カードを四回使い、ハンバーガーを食べに食べたガンマンは、腹を撫でてから呟いた。
 特に健啖家なわけでもないのに、食べる勢いと量は普段の倍以上だったことから、空腹の度合いが分かるだろう。
 そんなホル・ホースも、ようやく自分がするべきことを思い出した。

「あぶねぇあぶねぇ。忘れるところだったぜ」

 ホル・ホースはアザゼルから渡されたタブレットPCを取り出した。
 小湊るう子か紅林遊月、あるいは浦添伊緒奈のうち、どれか一人でも発見したら連絡を入れろと言われていたそれ。
 近代人ではないホル・ホースは、今の今まで存在を忘れていた。
 セルティに教わった操作を反復して、どうにかメールの画面を出す。

『夏凛さんたちがそっちに行きます。合流したら、詳しい話を聞いてください』

 出てきたのは、こんな内容のメールだった。
 内容はごくごく自然な連絡。しかし、見た瞬間にホル・ホースは首を傾げた。

「ん……?このメール、誰からだぁ?」

 メールの文面は、ですます調の敬語が使用されている。
 放送局で別れた三人の内、誰がこのような文章を書くか。
 アザゼルは敬語を使う性格ではない。
 セルティは敬語も使いそうだが、今までホル・ホースに対しては使用していない。
 残るは夏凜だが、本人が書いた文章にしては違和感がある。

「するってーと、誰かが放送局に来たってことか」

 となれば考えられるのは、第三者による文章である。
 ホル・ホースたちが別れた後で、何者かが放送局を訪れ、アザゼルたちに協力することになった。
 このメールは、その何者かが送ったものだと考えれば辻褄は合う。

「……ふむ、合流するときたか。
 だったら動かないのも手だけどよ……こっちから向かうのもアリだよなぁ」

 ホル・ホースは考える。
 本来なら今頃は、ラビットハウスへ向かっているはずだった。
 しかし、襲撃され同行者は死亡。この状態で、単騎で進むのでは心もとない。
 夏凜たちが来るまで待つのもいいが、こちらからも放送局方面に向かい、合流して話を聞いてから次の目標を定める方が安全だ。
 誰かと組んで真価を発揮するホル・ホースだからこその臆病さである。

 そうしてホル・ホースは、近くのメルセデス・ベンツを見やった。
 近づいて確認すると、フロントガラスは割れているものの、それ以外の場所、エンジンなどに損傷はないようだ。
 少し寒くなるが、ドライブも可能だろう。

692 ◆X8NDX.mgrA:2016/04/21(木) 21:33:26 ID:f4EOfDks0
「さて、と」

 移動手段は確保できた。あとは来た道を戻るだけ。
 その段階に至り、今まで意図して視界から避けていたものを、ホル・ホースは今再び直視した。
 アインハルト・ストラトスにジャック・ハンマー。凄絶な戦闘を終えた二人の格闘家は、改めて確認するまでもなく絶命していた。
 プロレスの流血試合の後のような、顔面から服に至るまで血みどろになった姿。
 身体のあちこちが傷付き、欠損した状態の二人を見て、ホル・ホースは顔をしかめた。
 特にアインハルトは、元の顔が整っていただけに痛々しさも倍増だ。

「ったく……佳人薄命たぁよく言うぜ」

 美人になるはずの少女もまた、薄命なのだろうか。そんなポエムめいた皮肉を思いつく。
 ホル・ホースは自称『世界で最も女に優しい男』である。
 冗談めかして語るその言葉を抜きにしても、実際にホル・ホースはアインハルトの生き様には強い敬意を抱いていた。
 凶悪な狂人と対峙する勇気。
 不屈の闘志とでも呼ぶべき根性。
 このような場所で、このような若さで死なせるのはあまりに惜しい。

「……ま、ゆっくり休むんだな」

 そうした少女の強さに、今のホル・ホースは生かされているも同然。
 女は尊敬していても、利用することは躊躇わないホル・ホース。しかしこのときばかりは、真顔で黙祷を捧げた。
 再び顔を上げて、次に見たのは筋骨隆々の男の死体。
 こちらには敬意も好感もなく、ただ哀れみの視線のみを向けた。

「テメーも哀れよのぉ……こんな場に呼ばれなければ、格闘技大会で有名になれたかもしれんのに」

 投げかけるのは、憐憫を含んだ言葉。
 確かにバトルロワイアルに招かれなければ、ジャックは地下闘技場で恐るべきファイターとして名を上げていただろう。
 しかし、それはまた、別の話。
 ホル・ホースがそのIF(もしも)を知ることは、おそらくありえない。

「そういや、コイツの着ていた変な学生服……」

 死体をじろじろと見ていたホル・ホースは、あることに気がつく。
 ジャック・ハンマーの着ていた、顔に似合わない学生服。
 空条承太郎が着ているような服が、近くには見当たらないのだ。
 誰かが持ち去りでもしたかと考えたが、それではホル・ホースや他の支給品に目もくれていない理由が判然としない。

「まぁ、俺には関係ねぇか」

 学生服が飛ばされていたところで、ホル・ホースには大した影響は無い。
 おおかた風で飛ばされたのだろうと結論付けた。
 そうして、いよいよこの場を離れようとした、その矢先である。

「やあ☆」

 背後から、可愛らしい声がした。





693 ◆X8NDX.mgrA:2016/04/21(木) 21:34:07 ID:wovwAFeU0

 声をかけて数秒後。
 油をさしていないブリキの人形のように、小刻みな挙動で振り向いたガンマンを見て、縫はにっこりと笑んだ。

「久しぶりだね、ガンマンさん!」
「あ、あ……」

 かろうじて返事をしたホル・ホースだが、その表情は硬いなんてものではない。
 恐怖。絶望。諦観。そうした感情が渦巻いているのが、傍目からでもよく分かる。
 極制服が飛んできた方角に来てみて正解だった。

「首の無いお仲間さんはどうしたの?」
「……」

 歩み寄りながら問いかけると、無言のまま後ずさりされる。
 いくらなんでも恐れすぎじゃないかと、縫としては不満も出てくる対応だったが、我慢して話しかける。
 見ればホル・ホースも怪我をしているらしい。
 周りにある死体と、戦闘をくり広げてでもいたのだろう。
 仲間も近くにいないようで、フラストレーションを発散するにはこれ以上ない相手だ。

「ちょっと遊んでよ♪」
「……はは、お嬢ちゃん。冗談はよくないぜ」

 乾いた声で答えたホル・ホースに、縫は片太刀バサミをくるくると回して見せた。
 縫も傷付いて万全ではないが、元々の身体能力では遥かに上回っているのだ。負ける道理はない。
 さらににじり寄ると、ホル・ホースが声を上げた。

「……提案がある」
「聞いてあげるよ!答えるとは限らないけど☆」

 真面目に返すつもりがないことがバレバレな返事。
 縫は武器を下ろさぬまま、さらに近づいていく。
 それでも、ホル・ホースは真面目な顔で言葉を続けた。

「俺も縫い目の嬢ちゃんも、究極的には目標は同じ。
 このくだらねぇ殺し合いから脱出すること――違うか?」

 縫はこれを否定しない。いや、否定できない。
 ホル・ホースの言葉に間違いはないからだ。
 縫には鬼龍院羅暁のために、神羅纐纈を完成させるという使命がある。
 務めを果たすためにも、元の世界に帰らなければならない。
 ただし、縫が目指すのはあくまで優勝。
 無粋な制限をかけた繭には怒りをぶつけたいが、それ以外の参加者は、利用できるなら利用して、できないなら殺すだけだ。

「だったら、まずはこれを見な」

 そう言いながらホル・ホースが渡してきたのは、タブレットPC。
 画面にはメールの文面が表示されていた。

「そのメールを見れば分かるだろーが、俺は三好夏凜と繋がりがある」
「ふ〜ん。で?それが何だっていうの?」

 ホル・ホースが三好某と関係があろうがなかろうが、些細なことだ。
 しかし、その次に出てきた言葉で、縫の意識は転換する。

「この島から、殺し合いから、脱出できるかもしれねぇ」





694 ◆X8NDX.mgrA:2016/04/21(木) 21:34:42 ID:my5wRt/E0

 ロシアンルーレットというゲームがある。
 リボルバーの弾を一発だけ装填し、何発目に飛び出すか分からない状態にして、二人で自分の頭に向けて引き金を引くゲームだ。
 負ければ即刻死が確定する、狂気のゲーム。
 ホル・ホースは今、それに挑んでいるような感覚だった。

「脱出する方法?」
「あぁそうさ。この邪魔な腕輪も外せて、無事にトンズラこける方法よ!」

 生き延びるためには、多少の嘘はご愛嬌だ。
 縫も興味はあるらしく、問答無用で殺そうとはしてこない。
 ホル・ホースはその猶予を逃さずに、質問を投げかける。

「放送は見たか?」
「放送?……それがどうかしたの?」

 ホル・ホースはその反応から、既にアザゼルの指示のもと、放送が行なわれたことを察した。
 なので、それを前提として話を進めていく。
 脳内では、放送局でアザゼルや三好夏凜たちと交わした情報を必死で思い出しながら。

「あれを流したやつは、俺やセルティの旦那とも組んでいる。
 放送の中身を覚えてるか?
 小湊るう子、紅林遊月、浦添伊緒奈。俺たちはこの三人を集めようとしているんだ」

――ならば俺と三好、そしてセルティで放送局に向かい、セレクター達に繭打倒を呼びかける。

 アザゼルはこう言っていた。
 となれば、第二回目の放送で呼ばれた蒼井晶を除く三人のセレクターへと、放送で呼びかけているはず。
 縫もそれを否定しない以上、当たらずとも遠からずといったところだろう。

「なんでそんなことをするか?
 答えは決まってるぜ。セレクターが繭に対抗するキーパーソンだからだ」

 横目でちらりと縫を見る。
 口を挟んでくる様子がない以上、同じ予測をしていたと考えられる。
 それならば、とホル・ホースは縫の思考に先んじた。

「おーっと、縫い目よ。テメーは今、こう考えただろ?」
『その三人が関係しているというのなら、目の前の男は殺しても構わない』ってな」

 考えを言い当てられたからか、縫は手を止めた。
 二人の距離は、さほど遠くない。
 縫が手にした片太刀バサミを一振りすれば、ホル・ホースは即座に殺される位置だ。

「だが、そうは問屋が卸さないぜ?
 放送局には嬢ちゃんに匹敵する相手が三人以上いる。
 そして俺は、情報を交換したときに、そいつらに嬢ちゃんの危険性を伝えてある」

 その言葉に、縫は怪訝そうな顔つきをした。
 ホル・ホースは顔を上向きにして、得意げな顔で続きを言う。

695 ◆X8NDX.mgrA:2016/04/21(木) 21:35:17 ID:my5wRt/E0

「縫い目の女は危険すぎる。見つけたら即刻殺すべきだ、ってな」

 これは完全なハッタリである。
 縫の情報こそ共有しているものの、即刻殺すことまでは決定していない。
 無論、縫がアザゼルと対峙すれば戦闘は必至なので、完全な嘘というわけでもないが。

「だが俺がいれば、放送局にいるメンバーにも話がつけられる。
 今の縫い目は殺し合いに反対する立場だから、殺さなくていい、ってなァー」

 我ながらチャレンジャーだと、ホル・ホースは自嘲した。
 彼我の実力差を弁えないホル・ホースではない。
 縫なら自分のことを一瞬で料理できるというのは、最初に分校で戦闘したときから理解していたことだ。
 それでも、嘘とハッタリで生き延びようとしている。
 生きる道を見つけようとしている。

「つまり、提案って……」
「そう、一時休戦と行こうじゃねぇか。
 放送局で情報を共有して、この島から脱出するためにセレクターを集める。
 お互い殺し合わずに済む道があるってんなら、それに越したことはねぇだろ?」

 これは賭けだった。
 文字通り命を賭けた勝負だ。負ければ即死。
 勝てたとしても、放送局に危険人物を招くことになるが、そのときはアザゼルにでも任せればいい。
 縫とアザゼルの勝負がどうなるかは分からないものの、このまま無惨に殺されるよりはよほど生き延びる可能性がある。

「……話にならないや。ボクを舐めてるの?」

 しかし、相手は規格外の化け物。
 常識の範疇では予測できない行動をする相手だ。

「ガンマンさんがいなくったって、セレクター以外皆殺しにしちゃえばいいのに」

 ニコニコと浮かべる笑みの下。
 そこにある本心を、ホル・ホースは知ることができない。

「なんでボクが指図を受けないといけないのかな?」

 自由奔放な少女は、束縛されるのが極端に嫌いらしい。
 とんだじゃじゃ馬娘を相手にしたものだと、ホル・ホースは唇を噛んだ。

「っ……舐めてなんかいねぇさ、むしろ俺は嬢ちゃんを恐れてるんだぜ?
 だからこそ、俺は俺自身ができるだけ長生きする道を選ぼうとしているだけさ」

 これは間違いなく本心だ。
 バトルロワイアルの中でも、セルティや刃牙を利用しようと試みたのは、生き延びる確率を上げるためだ。
 自身の命を最優先に。これもまた、人生哲学。

「いーよ、もう。とりあえず斬らせてよ!」
「ま、待て――!」

 しかし、それが通じる相手ばかりではない。
 とうとう片太刀バサミの刃を閃かせた縫を見て、さしものホル・ホースも焦りを隠せない。
 これ以上の猶予はない。選択を誤れば死へ直行だ。

696 ◆X8NDX.mgrA:2016/04/21(木) 21:36:01 ID:f4EOfDks0
「く――分かった!嬢ちゃんの下につく!」

 その言葉に、再び縫の動きが止まった。
 呆けたような顔――というより、信じられない馬鹿を見るような目でホル・ホースを見てくる。
 どうやら予想斜め上の返事だったようだ。

「俺を利用してくれて構わない!いや、むしろ利用しろ!
 たったそれだけで命が助かるってんなら、安いもんだぜ!」

 なりふり構わずに、ホル・ホースは魂の叫びを上げた。
 生きることへの強い執着心が、とうとうその言葉までも口にさせた。

「へえ」

 そして、その言葉が縫の嗜虐心を刺激したらしく。
 口を半月の形に開くと、いかにも楽しそうな声でこう言った。

「じゃあ、ちょっと実験させてよ!」

 そうして気持ち悪いくらいに可愛い笑顔で、ホル・ホースの近くに歩み寄る。

「な、おい、なんだってんだ!?」

 縫に頭を掴まれた、次の瞬間。
 ホル・ホースは、生命戦維を脳内の奥深くまで侵入させられた。
 『精神仮縫い』とは異なる、異物を脳に入れられたことにより走る激痛。

「ぐあああああああああっっっ!!?」

 ホル・ホース自身、どういう状況なのか理解できていないだろう。
 未知の痛みに耐えかねて、両手で頭を押さえたまま、その場に倒れこんだ。

「ぐ、テメー……」
「あーあ、実験失敗かな?残念無念☆」

 少しも残念そうではない声を、朦朧とする意識の中で聞きながら。
 ホル・ホースは、縫のお遊びで殺される自分の不甲斐なさを、痛感していた。

(すまねぇな、アインハルトの嬢ちゃん……)

 その瞬間。
 このまま死んで、諦められるのか。
 そんな、よくある自分への問いかけが聞こえた気がした。





697 ◆X8NDX.mgrA:2016/04/21(木) 21:37:35 ID:lfKHchzU0




 そのとき、不思議なことが起こった!!


 スタンド(幽波紋)とは、生命エネルギーが作り出す像(ヴィジョン)!


 通常『魂』や『精神』と称される、程度の差はあれ、人間なら誰でも持つエネルギーが具現化した存在だ!


 全てのスタンド使いは、エネルギーを自らの意志で使役することができるのだ!


 対する生命戦維とは、文字通り生命を有する戦う繊維!


 太古の昔、宇宙から地球へと飛来した、生物の神経電流を主食とする地球外生命体である!


 縫はその生命戦維を、直接ホル・ホースの脳内へと侵入させたのだ!


 そしてホル・ホースの脳内、更には神経へと、生命戦維が到達した瞬間である!


 生命戦維が持つ強力な生体エネルギーと、スタンド使いが持つ生命エネルギーが共鳴した!







 生命戦維と人間の融合。
 自身も生命戦維でできた子宮で育ち、人間以上の存在となった縫だが、しかし目の前でそうした光景を見るのは初めてだった。
 赤白く光る繊維と、黄金に輝くスタンドのパワー。
 それらが混ざり合うことで発される煌きは、縫の視線を釘付けにした。

「すっごーい!」

 縫はホル・ホースが生命戦維と融合することを期待していたわけではない。
 単純に、相手がもだえ苦しんで死ぬ方法として選んだに過ぎない。
 期待を裏切られた形になるが、それでも縫の表情は満面の笑みだった。

「どうなるのかなぁ、楽しみ!」


【G-2/一日目・午後】
【ホル・ホース@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(大)、肋骨数本骨折、左目失明、生命戦維との融合の途中
[服装]:普段通り
[装備]:デリンジャー(1/2)@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(6/10)、青カード(6/10) 黒カード:不明支給品0〜2、タブレットPC@現実
[思考・行動]
基本方針:生存優先。女は殺さない……つもり。
0:???
[備考]
※参戦時期は少なくともDIOの暗殺に失敗した以降です
※犬吠崎樹の首は山の斜面にある民家の庭に埋められました。
※小湊るう子と繭について、アザゼルの仮説を聞きました。
※三好夏凜、アインハルト・ストラトスと情報交換しました。
※生命戦維との融合を開始しました。今後、どのような状態になるかは後の書き手にお任せします。

698 ◆X8NDX.mgrA:2016/04/21(木) 21:38:09 ID:f4EOfDks0

【針目縫@キルラキル】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、全身に細かい刺し傷複数、繭とラビットハウス組への苛立ち、纏流子への強い殺意
[服装]:普段通り
[装備]:片太刀バサミ@キルラキル
[道具]:腕輪と白カード、黒カード:不明支給品0〜1(紅林遊月が確認済み)、喧嘩部特化型二つ星極制服@キルラキル
[思考・行動]
基本方針:神羅纐纈を完成させるため、元の世界へ何としても帰還する。その過程(戦闘、殺人など)を楽しむ。
   0:ホル・ホースの結末を見届けてから、放送局へ向かう。
   1:紅林遊月を踏み躙った上で殺害する。 ただ、拘りすぎるつもりはない。
   2:空条承太郎は絶対に許さない。悪行を働く際に姿を借り、徹底的に追い詰めた上で殺す。 ラビットハウス組も同様。
   3:腕輪を外して、制限を解きたい。その為に利用できる参加者を探す。
   4:何勝手な真似してくれてるのかなあ、あの女の子(繭)。
   5:神羅纐纈を完成させられるのはボクだけ。流子ちゃんは必ず、可能な限り無残に殺す。
[備考]
※流子が純潔を着用してから、腕を切り落とされるまでの間からの参戦です。
※流子は鮮血ではなく純潔を着用していると思っています。
※再生能力に制限が加えられています。
傷の治りが全体的に遅くなっており、また、即死するような攻撃を加えられた場合は治癒が追いつかずに死亡します。
※変身能力の使用中は身体能力が低下します。少なくとも、承太郎に不覚を取るほどには弱くなります。
※疲労せずに作れる分身は五体までです。強さは本体より少し弱くなっています。
※『精神仮縫い』は十分程で効果が切れます。本人が抵抗する意思が強い場合、効果時間は更に短くなるかもしれません。
※ピルルクからセレクターバトルに関する最低限の知識を得ました。

699 ◆X8NDX.mgrA:2016/04/21(木) 21:39:16 ID:wovwAFeU0
仮投下終了です。
後続に投げる部分が大きいので仮投下させていただきました。
ご指摘あればよろしくお願いいたします。

700名無しさん:2016/04/22(金) 12:23:58 ID:YeNIN2iYO
投下乙
飯テロだこれ
ホル・ホースがんばれ、超がんばれ
本投下は大丈夫だと思います

702 ◆X8NDX.mgrA:2016/04/22(金) 19:11:17 ID:cX1Mtorg0
感想ありがとうございます。
これから先、指摘がなければ、明日の午後には投下したいと思います。

703名無しさん:2016/04/23(土) 09:28:28 ID:ajVFhJeI0
投下乙です
無事ではないけどとりあえずホルは命の先延ばしはできたかな?
縫の制限を解かれでもされない限りは他参加者への害が増えないように言いくるめようとしているのも流石か
内容には問題ないと思いますが、本投下の際は空条親子の下りは何とかした方がいいと思います
3部アニメのみ視聴ですと意味が通じませんし

704 ◆X8NDX.mgrA:2016/04/23(土) 17:14:09 ID:MXAB8YRA0
>>703
ありがとうございます。
該当する箇所を削除したものを投下しました。
また指摘等あればお願いします。

705 ◆45MxoM2216:2016/06/17(金) 00:57:50 ID:oto35/Kk0
一旦仮投下します

706Ice Ice Vampire ◆45MxoM2216:2016/06/17(金) 00:59:27 ID:oto35/Kk0
「ふむ、5分少々……といったところか」

G-6に位置する映画館。
しかしそこはすでに映画館としての機能を失っていた。
カウンターの奥、ストア商品棚の下、コンセッション周り、休憩室、劇場。
そういった人が隠れられそうな所はことごとく破壊され、劇場に至っては壁に大きな穴が空いている。
映画館内に人っ子一人いないことを確認したヴァニラ・アイスは、休憩がてら自らに課せられた制限を確認する際、意識して映画館を破壊しながら制限を確認したのだ。

敬愛し忠誠を誓うDIOに関すること以外には氷のごとし冷静さをもつ彼がなぜそんなことをしたかというと――――


「これで劇場に隠れ続けるような手は使えんな」

彼は映画館に参加者が殺し合いもせずに立て籠もることを警戒したのである。
ホテル程の設備はないとはいえ、映画館というものは存外入り組んだ構造をしている。
さらに劇場の中では多少騒ごうが外に音が漏れることはない。
もし映画館に殺し合いに乗った強者と乗っていない弱者の双方がいても、運が良ければ鉢合わせることなくニアミスすることもあり得る。
3日間という時間制限がある以上、戦いもせずに逃げ回るネズミは害悪でしかない。
直接的な脅威になりうる堅牢な『要塞』にはならなくとも、こういった施設を破壊することは後々必ずプラスに働くと踏んだ彼は、制限の確認と施設の破壊を併行して進めることにしたのだ。

「妙な感覚だな、慣れ親しんだスタンドの使い心地が変わるのは」

そして彼はクリームにかけられた制限を概ね理解した。
5分少々暗黒空間に入り続けていると、何の前振りもなく唐突にクリームが解除される。

強制的に解除されたすぐ後にもう一度スタンドを発現させようとしても、数瞬のインターバルを置かなければ暗黒空間には入れない。
逆に5分少々の時間制限が訪れる前にスタンドを解除すれば普段通りの使い心地というわけだ。
先ほどクリームの優位性にものを言わせたがむしゃらな攻撃で同盟相手を失ったばかりなことだし、インターバルを挟みながら周りを確認しつつスタンドを使うこと自体はやぶさかでもない。
やぶさかでもないが……。



「あのド畜生女がぁあああああああああああああああ!!!!」



近くに転がっていたゴミ箱を蹴り飛ばす。
中のゴミをまき散らしながら壁に激突しこぎみよい音を立てて砕け散るプラスチック製のゴミ箱。
その光景を見てもはらわたが煮えたくるような激情は鎮まらない。
ヴァニラ・アイス本人にとってやぶさかではなかろうと、彼にとって自分のことなど二の次にすぎない。
それより問題なのは――――。


「手をかけたな……!DIO様のスタンドに!DIO様の『世界』に!!」


クリームに制限がかけられている以上、DIO様のスタンドにもくだらん制限がかけられていることは想像に難くない。
その可能性を自らの制限を確認することで改めて認識したヴァニラ・アイスは激怒した。
自分のスタンドに手をかけられるのは構わない。
だが、DIO様のスタンドにコソ泥以下のこすっからい細工を施すなど到底許されることではない。
もし、もしも『世界』にかけたくだらん制限のせいで、自分も知らないその能力を他の参加者が暴くようなことがあれば――――

「ゆ、許さん……!DIO様は全ての頂点に君臨するお方!そのDIO様の能力を知る人間など存在してはならない!」

707Ice Ice Vampire ◆45MxoM2216:2016/06/17(金) 01:00:32 ID:oto35/Kk0

もちろん、能力を知られただけでDIO様が不覚をとることなど万に一つもあり得ない。
しかし、DIO様の神聖なるスタンドの秘密をゴミカス共が知ってしまうかもしれない……。
それだけでヴァニラ・アイスが激昂するには十分すぎる理由だった。

「どれだけDIO様を馬鹿にすれば気がすむのだ!あのドグサレがぁあああああああ!!!!」

例え劇場の壁が壊れていなくとも外に聞こえるのではないかと思える程の叫び声。
下等生物とDIO様を同等に扱うあの忌々しい地下通路といい、くだらん制限といい、腹立たしいことこの上ない!

「ハァ――――!ハァ――――!」

だが、ヴァニラ・アイスは逆上しても心の奥底の冷静さを見失わなかった。
制限も確認し、最低限の休養も取った以上、これ以上ここに留まる理由はない。
日中は自由に動けないからこそ、その時間を無駄に過ごすようなことは愚策だ。
日が沈むまでにやれることはやっておかなければならない。

さっさと地下通路を通り、展示物を確認しつつホテルへと向かう――――

「それにしても……」

――――前に、ふと劇場のスクリーンに目を向ける。

『21世紀、世界の麻雀競技人口は1億人の大台を突破ーー』

「なぜ麻雀の映画が?」

そこには数時間前にとある少女が訪れた時と同じように、学生服を着た少女たちが卓を囲んでいる姿が映し出されていた。




「なんだこれは?CDディスク……ではないようだが」

映画館とホテルを繋ぐ地下通路。
そこには『第四次聖杯戦争の様子』『ジョースター一行の旅の風景』『本能寺学園の歴史』といった題名の付けられたDVDが等間隔で並べられ、その下にはタッチパネルが設置されていた。
DVDは透明なケースに入れられており、そのケースを同じく透明な箱に入れるという中々に厳重な保管をされている。

1980年代の人物であるヴァニラ・アイスは当然DVDのことなど存在すら知らないし、タッチパネルも馴染みの薄い代物だった。
僅かな間困惑したが、近くに案内板のようなものを見つけたので確認する。

『参加者と関係のある映像をDVDにして集めました。
DVDの下のタッチパネルに腕輪をタッチさせればDVDを持っていくことができます。
ただし、持っていけるDVDは腕輪一つにつき一枚なのでご利用は計画的に』

「ふむ、DVD……それに、タッチパネルというのか」

案内板にはDVDの利用法について懇切丁寧な説明が載っていた。
これだけ丁寧に説明されれば、DVDの存在はおろか電化製品そのものに馴染みのないような人間でも理解できるだろう。

「なるほど、どこぞの馬鹿がテレビを破壊でもしていない限り、どちらから地下通路を通っても映像を見れるようになっているというわけか」

映画館にあった映像を閲覧できる機材は壊していないし、ホテルならばテレビの1つや2つあって当然だ。
このままホテルへ向かっても日が沈むまでには少し間がある。
ホテルに誰もいなかった場合はこのDVDを見て他の参加者の情報を集めるのも面白い。
幸い自分は範馬勇次郎の腕輪も持っていることからDVDを2枚持っていける。

クリームで箱を破壊して無理矢理すべてのDVDを持っていくことも考えたが、すぐにその考えを頭から振り払う。
あの淫売が用意した腕輪を呑み込めない以上、同じくあの雌豚が用意したこの箱にもクリームは通用しないと考えるべきだ。
忌々しいが、現状自分はあのクサレ脳ミソの掌の上にいることは認めざるをえない。

708Ice Ice Vampire ◆45MxoM2216:2016/06/17(金) 01:01:07 ID:oto35/Kk0

「だが、覚悟しているがいい。
DIO様が優勝なされた暁には、貴様のようなアバズレをあの方は見逃しはしない」

自らの命すら供物として割り切る狂信者。
どのDVDを持っていくか物色しながら、彼は歩き出す。
狂気の忠誠を誓う帝王の元へと少しずつ少しずつ近いづいていることにも気付かずに――――。

【E-6/地下通路/一日目・午後】


【ヴァニラ・アイス@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:ダメージ(小)
[服装]:普段通り
[装備]:範馬勇次郎の右腕(腕輪付き)、ブローニングM2キャリバー(68/650)@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:双眼鏡@現実、不明支給品0〜1(確認済、武器ではない)、範馬勇次郎の不明支給品0〜1枚(確認済)、ブローニングM2キャリバー予備弾倉(650/650)
[思考・行動]
基本方針:DIO様以外の参加者を皆殺しにする
   1:さて、どのDVDを持っていくか。
   2:ホテルへ向かい、DIO様の館にも赴く。
3:日差しを避ける方法も出来れば探りたいが、日中に無理に外は出歩かない。
4:自分の能力を知っている可能性のある者を優先的に排除。
   5:承太郎は見つけ次第排除。
   6:白い服の餓鬼(纏流子)はいずれ必ず殺す
[備考]
※死亡後からの参戦です
※腕輪を暗黒空間に飲み込めないことに気付きました
※スタンドに制限がかけられていることに気付きました
※第一回放送を聞き流しました
 どの程度情報を得れたかは、後続の書き手さんにお任せします
※クリームは5分少々使い続けると強制的に解除されます。
強制的に解除された後、続けて使うには数瞬のインターバルが必要です。

※映画館の内部は破壊されましたが、倒壊などの危険はありません。

【施設情報・地下通路】
『映画館』⇔『ホテル』間には『映像資料集』が展示されています。
参加者と関わりのある映像をDVDにして展示しています。
DVDを持っていくには下のタッチパネルに腕輪をかざす必要がありますが、一度腕輪をかざすと次からはその腕輪は反応しなくなります。
当然他の腕輪を使えばさらにDVDを持っていくことも可能です。
また、かなり丁寧な説明が案内板に書かれているため、機械に疎い人物でもDVDの仕様を理解できると思われます。

709 ◆45MxoM2216:2016/06/17(金) 01:02:30 ID:oto35/Kk0
仮投下終了です。
なにか問題点や疑問点ございましたら、ご指摘お願いします。

710名無しさん:2016/06/17(金) 21:00:04 ID:iB6KjuCI0
仮投下乙です
特に問題はないと思います

711夜へ急ぐ ◆WqZH3L6gH6:2016/07/15(金) 15:56:57 ID:/gRdK6EA0
遅れてしまいましたが、仮投下します。

712夜へ急ぐ ◆WqZH3L6gH6:2016/07/15(金) 15:57:27 ID:/gRdK6EA0
自動車の形に変化したコシュタ・パワーの運転に大分慣れてきたなと長身の男はふと思った。
人智を超える力と強靭を併せ持つ指先が硬い地面をえぐり続け大きな穴を形成していく。
地面を掘る長身の男は平和島静雄、その傍らには小柄な少女の壊れた人形のような遺体があった。
静雄は埋葬作業による疲労からではない溜息をつくや、今も車の中で眠り続ける少女の事を思う。

一条蛍。
相容れない敵である折原臨也と同行した、最初の仲間であった越谷小鞠の大切な後輩。
纏流子の強襲で傷浅くも倒れ未だ目覚めぬ少女。
小柄な少女の、蒼井晶の遺体を見つけたのはたまたま。
過去いくつもの死体を見てきた静雄でも無残な遺体をそのままにするのは気が咎め、蛍が眠っていることもあり、
簡単にだが弔うことに決めた。


土を被せ、瞑目する静雄。
流子との戦闘の合間に言われた蟇郡の警告が脳内に響く。


――俺が守っていなければ、一条は既に3度は死んでいた


口元を引き締める。
蛍を守れるのか、いやそれ以前に鬼のような自分を見て恐慌してしまわないだろうか……。
怒りに流されて害を撒き散らせてしまわないだろうか……。
不安に胸を押されるようだ。苦悩から汗が一滴流れる。だけどこれ以上喪わない為に折れる訳にはいかない。

「セルティ……」

数少ない友人の名を思わず呟く。彼女は放送では呼ばれていない。
でも縋るつもりはなかった。
彼女は彼女で苦難にぶちあたっている可能性があると思い至ったから。
同時に彼はここに来て漠然とだが仲間が必要だと思った。
せめて自分が戦っている間に同行者を避難させてくれる人を……。


「は……」


漏れた声に含まれるは自嘲。
静雄でさえも殺意と殺意が渦巻くこの地でそれは贅沢とも言える望みかも知れないと思ったから。


「……!」


何かを叩く小さな音。音の発生源は少し離れた所。
停めてある車のドアからだ。
こんこん、とまた音がした。
駆けつけたい衝動を抑え静雄は振り向く。
車の方から軽い緊張が感じられた。静雄は僅かに身をこわばらせ向こうの反応を待つ。

713夜へ急ぐ ◆WqZH3L6gH6:2016/07/15(金) 15:58:14 ID:/gRdK6EA0

「……」
「……」



音なくドアがゆっくり開けられる。
車内にいた少女は背を屈め、ドアを盾にするようにゆっくりと静雄を見ようとする。
怯えている。小鞠とは反応の差はあれどこちらを警戒しているのは静雄の眼に明らかだった。
静雄は土をかぶせた遺体を意識する。
予想はしていたもののこのタイミングはまずいと彼は内心慌てた。説得する為の言葉も思いつかない。
小鞠を宥めた時に使ったボゼの仮面を出そうと思ったが、余計不審がられるとその考えは却下。
見た目にも静雄は慌てていた。


「……」

少女、一条蛍は姿勢をそのままに目をぱちくりさせ、息を強く吸うと顔を出した。


「平和島、静雄さん……ですね?」
「……ああ」


蛍の視線は静雄の傍らの土の盛り上がりに移った。


「……」
「見ていました」


覗きこむような視線。怯えが少々感じられるものの明確な拒絶は感じられない。
互いにすぐに言葉を発せられず、気まずい生暖かい風のような沈黙が訪れる。
質問と視線に対し静雄の眼差しはすべてを受け止めるかのように真剣だった。


「あの……」
「……」


呼びかけに対し、更なる問を促すように静雄は頷いた。


「その人は平和島さんの知ってる人ですか?」
「……いいや知らない子だ」


蛍は視線を落とした。
目をつむり、しばし何かを考えた後、静雄の全身を観察する。
静雄自身はあまり意識はしてないが、服はあちこち破れ土砂や自らの乾いた血で汚れている。

714夜へ急ぐ ◆WqZH3L6gH6:2016/07/15(金) 15:58:45 ID:/gRdK6EA0

「……っ」


蛍の瞳孔が開き、右手で胸を押さえた。
気絶する前の状況を思い出したのだろう、静雄にはそう判断でき間近にならない程度まで慌てて近づいた。


「蛍ちゃん」
「……大丈夫、大丈夫です…………」


荒い呼吸を繰返しながら、汗をかきながら何かに耐えるかの様にドアにもたれ掛かる。
静雄は蛍の手を背に当てながらいいかと訊いた。
蛍は顔を向けないまま頷いた。

-----------------------------------------------------------------------------------------


停まった車の中。



「平和島さん、ごめんなさい……」
「謝らなくてもいいよ、責められるのは俺の方だよ」


一瞬、否定するような表情を蛍は向けるが、後悔の混じった静雄の表情から心中を察し、黙った。
実は蛍は蒼井晶の遺体を発見する数分前から意識を回復させていた。
ショックからか流子に強襲される前の記憶が曖昧だった事からか、ゆっくりと走行する車内にいたからか
蛍は静雄をある程度見続ける余裕ができていた。


「……ディオって人とは遭っていないんですよね」


蛍の何度目かの問いに静雄はただただ頷く。
良かったと蛍は思い涙を一滴こぼした。今度こそ言葉でなく心で実感できたから。
もともと蛍は静雄と臨也との諍いの最中でも、静雄が加害者である断定はできず揺れていたのだ。
その上負傷した身体を押して蛍を保護し、見知らぬ少女まで弔う静雄を敵意を持ったまま接し続けられる訳がない。
それに耐えられそうに無いくらいに疲れた。
――今でも折原臨也への親しみを失った訳でも、彼から教えられた疑惑を全て払拭出来たわけでは無い。
だがそれを抱えていて尚、静雄との和解を前提とした対話を彼女は求めたのだ。

「……」
「……」
「蟇郡さん……達は?」


静雄が明らかに嫌悪していた臨也の名は蛍は出さなかった。
彼の表情が苦痛に彩られる。


「蒲郡とあいつは放送で呼ばれたよ、れんげちゃんは呼ばれていない」
「そうですか……」

"あいつ"が臨也であるのはすぐに解った。
嫌でも認識させられる喪失へのショックと、宮内れんげが存命である安堵が心中で交じり合い苦い気持ちをこみ上げさせる。
蛍は続いてラビットハウスにいる仲間達の事の行方を尋ねた。
放送で呼ばれていないのを知りもっと安心した。思わず安堵の息を吐いた。

715夜へ急ぐ ◆WqZH3L6gH6:2016/07/15(金) 15:59:14 ID:/gRdK6EA0
-----------------------------------------------------------------------------------------

情報交換を兼ねた談話の締めくくりは以下のやり取りだった。


「分校に行きたいです」
「解った」


運転に集中する静雄を他所に蛍は車外を時折見回していた。
警戒していると言ってもいい。
臨也を殺害し、蛍に一生消えないだろうトラウマを植えつけた纏流子は死んでいないと推測していたから。
そんな彼女へ、若干不安そうに静雄は顔を向けずに言った。


「……あいつに会わなくていいのか?」


研究所に安置されている折原臨也の事である。


「気にならないと言っちゃうと嘘になりますけど……い」


今はと言いかけて、それを押し留めた。
あの時の臨也の言動は明らかに静雄を破滅に導こうとしていたと今の蛍に判断できるもの。
押しとどめなければ、あそこまで混沌とした感情に任せて不仲な理由を訊いてしまいそうだった。
折原臨也が一条蛍の命の恩人である事は変わりはない。
必要も無しに臨也への悪感情を抱いてしまいそうな質問は止めた方がいいと思えた。


「……悪い、巻き込んじまって」


それを知ってか知らずかの静雄の乾いた声。横顔を見ると渋い表情。
蛍は色んな感情をこり固めたかのようなその一声で、もうこの場で二人の関係を知ろうとする気は失せてしまった。


「……」
「……」


気まずい沈黙を抱えながら車は分校へ向かう。
程なくして旭丘分校の正門前へ到着する。


車から降りた二人は正門へ向かおうとした。


「あの平和島さん?」
「車をカードに戻したほうがよくありませんか?」
「……そういや、そうだな」

盗まれる可能性を思い至った事もあって、静雄は車に手を触れると漠然と戻れと念じた。
車は一瞬で縮小し、1枚の黒いカードへと変化していく。
静雄は珍しく気味悪そうに手にしたカードを見つめた。


「どうしたんです?」
「これ知り合いの持ち物なんだけどな……」

静雄の表情がどこか途方に暮れたように変化する。
蛍は曖昧に笑った。静雄は蛍の方へ顔を向けた。
恐怖の色はほぼ消えていたが、視線はやや彼の顔から外れていた。
仕方がないなと彼は思った。

716夜へ急ぐ ◆WqZH3L6gH6:2016/07/15(金) 15:59:45 ID:/gRdK6EA0

-----------------------------------------------------------------------------------------

二人は校門をくぐり、しばし歩みを進める。
先に分校内の惨状に気づいたのは静雄だった。
察知したのは焼き焦げた僅かな匂いと血臭。
そして程なくして蛍が分校の破壊跡を発見する。
分校に危険が及んでいると判断した彼は蛍を遠ざけようと声をかける。


「蛍ちゃんはここで……」
「……」


拒否。一人校内に行こうとする静雄を、蛍は服を掴んで止める。
静雄はここで二人しかいない事を改めて気付かされる。


「きっと死体があるぞ」
「……が、ガマンします」
「殺人鬼がいるかも知れねえぞ」
「…………その時は」

咎めるような静雄の忠告に蛍はたどたどしく返答する。
大きく息を吸う音がした。


「いっしょに逃げて下さい!」


蛍の必死と取れるの願いに我ながら不謹慎にもあのなあと静雄は思ってしまった。
二人は表情を変えずにしばし黙った。
ままだったが、やがて渋面ながらも静雄を黒いカードを1枚取り出し。
蛍に渡した。


「これは?」
「どこかの国の土産のトーテムポールのような仮面だよ」
「?」
「死体を直にみるのはきつからよ、見ないように気をつけてくれ」
「なんで……」
「それ小鞠ちゃんも気に入ってたと思うから……やるよ」


静雄の返答が淀んだのは誰かの所有物の可能性に気づいたから。
蛍はというと元の形に戻した仮面に怯えることもなく、しげしげと見つめ
やがて抱きしめるかのように両手で抱え、静雄に付いて行った。

717夜へ急ぐ ◆WqZH3L6gH6:2016/07/15(金) 16:00:53 ID:/gRdK6EA0

-----------------------------------------------------------------------------------------


空は既に夕暮れ。
校舎内の探索を終えた二人は途方にくれた顔で手頃なサイズの岩に腰掛けていた。


「……」


蛍は赤カードから出した蜜柑の皮の匂いを嗅ぎながら、蜜柑の実を口に放り込む。
彼女が校舎内でかろうじて嘔吐しなかったのは注意を払っていたのと匂いのきつい果物を現出させたからだ。
静雄は青カードから缶コーヒーを出すや、勢い良く中身を飲み干した。


「私はここでれんちゃんを待った方がいいのでしょうか?」


蛍は静雄ほど虚無感はなかった。
静雄は空き缶を片手で握りつぶし、ほぼ球状になったそれを適当に放り投げた。
返答はない。何枚かの黒カードが擦れる音がした。


「何なんだったんだ、あいつはよ……!」


静雄は見つけたのだ、許せない敵と認識していた衛宮切嗣の死体と彼の遺品である黒カード等を。
ある程度は心に整理つけていた蛍と違って、静雄は切嗣に対する敵意は以前強いままだった。
見つけ次第、締めあげて小鞠殺しの真相を明らかにさせてぶちのめすつもりだったが。
何者かに惨殺されていたのを発見し目標の一つを失って途方に暮れたのだ。
やり場のない感情を、蛍を避難させた上で建物に対しぶつけようとしたのだが(死体に当たり散らすような真似はしたくなかった)、
蛍に大声で止められた事もあって、それはできなかった。


「平和島さん、そろそろいいですか?」


手持ちぶたさにいじっていたカードを静雄に見せる蛍。
回収するだけ気を回せたのは、暴れようとする静雄を止めた直後、頭が冷えたからに過ぎない。
今、蛍がこうして回収品の確認できているのも、彼女が物事に集中したのもあった。


「ああ、頼む」
「えい」


蛍が念じるとカードは1羽の蝙蝠へと変わった。
羽根をパタ付かせて低く飛空するとすぐに蛍の横に止まって大人しくなった。
その様子に二人は和んだのか、表情を和らげてもう1枚のカードに注目した。


「えい」
「……?!」


次に出たのは同じくカード。
ただそれは1枚のカードではない。
数十枚ものカードのセット、いわばデッキ。
所謂、トレーディングカードという名称のそれは種別こそ特定できないものの二人とも知っている玩具であった。


蛍は首をかしげながらも蝙蝠に手を伸ばしてカードに戻す。
カードの裏面を見て、効果を確認する。

718夜へ急ぐ ◆WqZH3L6gH6:2016/07/15(金) 16:01:27 ID:/gRdK6EA0

「……」


彼女は次にカードデッキを黒カードに戻し、裏面を見る。


「……ルリグ?」


裏面には"詳細はルリグカードから訊くこと"との文面があった。
蛍は戸惑った、それを察した静雄が近づく。
少し迷いながらも蛍はデッキを静雄に渡した。
静雄はわりと慣れた手つきでカードを検分していく。
イラストが少女である以外はありがちとも言えるカードゲームであるのが二人には見て取れた。
やがて静雄はデッキの底に近い位置にあった、仰向けに寝たドクロを彷彿とさせる帽子を被った少女のイラストのカードを発見した。
そのカードはあきらかに他のカードと雰囲気が違っていた。
静雄は小声で寝ている少女に呼びかける。
カードの中の少女は身を捩らせつつ、眼をこすりながら目の前の青年に声をかけた。


「切嗣さん……アンタは……」
「?!」

2人の息を呑む音がした。

「……切嗣さんじゃ……ないですよねー」

緊張を感じ取ってか、ルリグ――エルドラは困ったように頭をかいた。
場の空気が一変した。


-----------------------------------------------------------------------------------------



「あの人は上手く行ったら私らルリグに悪いようにしないって言ったんですよ」
「……参加者にはどうこうするとは」
「言ってなかったですね」

しばしば頭に血管を浮かばせながらも、静雄と蛍とエルドラの情報交換は進んでいる。
あの後、切嗣の他に状態の悪いランサーの死体も見つけて、人目のつかない場所に移動させている。
埋葬しなかったのは、悪感情からの拒否感があった……からでなくエルドラが死体から力みたいなのを感じると発言したからであった。
後で調査してから弔うに事にした。
更に魂が封じられたカードからも微小だが力が感じると言った事から、こちらは回収する事にした。

当初エルドラは飄々とした感じで会話を進めようとした節があった。
だが2人の真剣さを察してか途中から真面目に対応していた。


「衛宮さんは誰に殺されたのかも」
「解らないですね、嫌われたのかカードから出してもらえなかったですし」
「……どうしてでしょうか?」
「冗談めかしてですが、正義の味方みたいですねって言ったのがまずかったのかなっと……」
「何だよ……それ!」


静雄の怒りに任せた足踏みが地面をたたき、陥没させた。

719夜へ急ぐ ◆WqZH3L6gH6:2016/07/15(金) 16:01:56 ID:/gRdK6EA0


「……悪ぃ、続けてくれ」



若干の怯えが交じる2人の顔を見て、静雄はバツが悪そうに片手で頭を抱えた。



「マジで殺し合いが行われてるんですね?」


外見に似合わないくらいの真剣なエルドラの問いかけに蛍は強く頷いた。
静雄はこの殺し合いの今後に思いを馳せ、上空を見上げた、陽はさらに沈んでいる。
つられて蛍も夕空を見上げた。
静雄は呻くようにエルドラへ言う。


「お前最初はこの殺し合いはセレクターバトルと同じようなものだと言ってたよな」
「ええ」
「違ってるて言うのかよ」
「私は繭から一方的に言われただけですからね」
「……」
「セレクターバトルとそう変わらないわ、と」


蛍は首を下げ、意を決したかのように口元を引き締め、腕輪を起動させた。
腕輪に参加者名簿が浮かび上がる。


「エルドラさん、この中であなたの知り合いはいますか?」
「どれどれ……!」
「どうした」
「いやあ……もう、ますますわけが解りませんねえ……」

720夜へ急ぐ ◆WqZH3L6gH6:2016/07/15(金) 16:07:01 ID:/gRdK6EA0
----------------------------------------------------------------------------------------


蛍が再び校舎に入り、戻ってきた後。


「平和島さん、ラビットハウスへお願いします」
「おう」
「近くにルリグがいたら知らせるっすよ」

今からだと次の放送までには間に合わないだろう。
だがそれを承知の上で3人は向かう事にした。
蛍は約束を果たそうとし、仲間と合流するために。
れんげへの書き置きは校舎に残してある。
静雄は蛍を守りつつ小鞠殺害事件を調査した空条承太郎と対面し、自らのけじめの一つと、蟇郡が果たせなかった小湊るう子を救出するために。
エルドラは小湊るう子、紅林遊月からある確認をとるために。
車に乗り込みつつ静雄は蛍の顔を見た、蛍は僅かに視線を逸らした。
2人はそれに内心少し後悔した。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



【F-4/旭丘分校前/一日目・夕方】

【平和島静雄@デュラララ!!】
[状態]:東條希への苛立ち、全身にダメージ(中)、疲労(中) 、やり場のない怒り(小)
[服装]:バーテン服、グラサン
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(8/10)
    衛宮切嗣とランサーの白カード
    黒カード:ボゼの仮面@咲Saki 全国編
         縛斬・餓虎@キルラキル
         不明支給品0〜1(本人確認済み)
[思考・行動]
基本方針:あの女(繭)を殺す
  0:蛍を守りたい。強くなりたい。
  1:ラビットハウスに向かい、承太郎と話しあう
  2:小湊るう子と紅林遊月を保護する
  3:テレビの男(キャスター)とあの女ども(東郷、ウリス)をブチのめす




【一条蛍@のんのんびより】
[状態]:全身にダメージ(小)、精神的疲労(中)、静雄に対する負い目と恐怖(微)
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
    黒カード:フルール・ド・ラパンの制服@ご注文はうさぎですか?、カッターナイフ@グリザイアの果実シリーズ、ジャスタウェイ@銀魂、越谷小鞠の白カード 折原臨也のスマートフォン
    エルドラのデッキselector infected WIXOSS、蝙蝠の使い魔@Fate/Zero、ボゼの仮面咲-Saki- 全国編、裁縫道具@現地調達品
[思考・行動]
基本方針:れんちゃんと合流したいです。
   1:ラビットハウスに向かって、承太郎らと合流する
   2:何があっても、誰も殺したくない。
   3:余裕ができたら旭丘分校でれんちゃんを待つ
[備考]
※空条承太郎、香風智乃、折原臨也、風見雄二、天々座理世、衛宮切嗣と情報交換しました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。現状他の参加者に伝える気はありません。
※衛宮切嗣が犯人である可能性に思い至りました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
※旭丘分校のどこかにれんげにあてた手紙があります。内容は後続の書き手さんにお任せします。
※エルドラの参加時期は二期でちよりと別れる少し前です。
 ルリグの他に魔力や微弱ながらも魂入りの白カードも察知できるようです。
 黒カード状態のルリグを察知できるかどうかは不明です。

721 ◆WqZH3L6gH6:2016/07/15(金) 16:07:31 ID:/gRdK6EA0
仮投下終了です。

722名無しさん:2016/07/16(土) 00:32:42 ID:q7uniV0Q0
仮投下乙です
特に問題はないと思われます

723 ◆WqZH3L6gH6:2016/07/16(土) 15:03:15 ID:sma/YgdE0
本スレでの投下が完了しました。
状態表を主に一部修正しました。

724 ◆DGGi/wycYo:2016/07/19(火) 19:43:00 ID:4O4Oo8p20
一応こちらにも
本スレの方で状態表を修正しました

725 ◆WqZH3L6gH6:2016/08/01(月) 06:54:33 ID:Ac9S5Cso0
仮投下します。

726ろうたけたる ◆WqZH3L6gH6:2016/08/01(月) 06:55:05 ID:Ac9S5Cso0
拾い上げると、それはサングラスをかけた中年男の魂が封じられた白カードであった。


「……桂さん」
「ああ……」


足早に南方を目指していた桂小太郎とコロナ・ティミルが橋を渡ろうとした際。
水面に浮かぶ光るものを発見したのはつい先程。
それは長谷川泰三の白カード。
桂と親交があり、コロナも桂から話に聞いた男。
1回目の放送に名を呼ばれ彼の死を受け入れているが、
いざ死の事実を目の当たりにすると、度合いは異なれど2人ともやるせない気分に陥らざるを得ない。



「どうしますか?」


コロナの問いを聴きながら、桂は周囲を見渡すが長谷川の遺体は容易に見つけられそうにない。


「先に急ごう」


桂は一先ず捜索を諦めると、カードを懐に仕舞いコロナを促した。
淀んだ気持ちを少しずつ吐き出すかのように、両者は南西の島へ繋がる橋へと走って向かった。



「……カードの絵って固定されているんですかね?」
「……証明写真のように至極普通に写っているから、そうだろう」


白カードは死亡者それぞれの感情をまったく写さない。
参加者の誰々が死んだという証にしかなり得ないように思えた。
実際は各地に点在するパソコンを使えば情報を得られるが2人には知る由もない。


「友奈さんと犬吠埼さんのカードも拾えばよかったですかね……」
「……」

結城友奈と犬吠埼姉妹のカードはそれぞれの遺体の下に置いてきている。
2人は無言になり、並走を続け橋を渡る。
空は赤く染まり始めていた。

727ろうたけたるおもい ◆WqZH3L6gH6:2016/08/01(月) 06:56:16 ID:Ac9S5Cso0
----------------------------------------------------------------------------------------



「どうしたんですか桂さん」

コロナは息を切らせながら問いかけた。
桂は黒カードを変化させたスマートフォン素早く効率よく操作している。
それは斃れた勇者の遺品であるスマートフォンだった。
いま2人がいる場はE-4南西のある民家。
桂の提案で休息を取る事にコロナも異論はなかった。
放送ギリギリで目的地に着くのは避けたかったから。
好奇心もあり彼女は桂が操作するスマートフォンを覗き込た。
彼の慣れた手つきに軽く感動を覚えながら、コロナはある一文を見て声を上げる。


M:『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』


「それは……」
「……騙りかも知れん」


友奈を単独行動へと駆り立てたチャットの一文。
桂も樹の事は聞いているが、あえてそれのみに囚われず、他の記録をチェックしていく。


D:『犬吠埼樹を殺したのはホル・ホース』


「あれ?」
「順番通りならMの後に送信された文だが……」


桂は表情を変えず思考する。


「今は置いておこう。コロナ殿、三番目の文に心当たりはないか?」
「……はい。覇王はアインハルトさんだと思います」
「単純に捉えるとRはアインハルト殿の協力者と言う事になるな」
「せめて発信者が誰か解ればいいんですが」
「姓か名の頭文字か、あるいは本名か……うむ」
「?」

桂はコロナに顔を向け、スマホを手渡した。


「コロナ殿、発信して確認を取ってくれ」
「え、桂さんの方が」
「いや、もし俺の名からだと確認が取りづらい。下手すれば二つ名でさえ同じになってしまう」
「……解りました、やってみますね」

728ろうたけたるおもい ◆WqZH3L6gH6:2016/08/01(月) 06:57:10 ID:Ac9S5Cso0
----------------------------------------------------------------------------------------

チャットに書き込みして30分が経った。
新しい書き込みはまだない。


「コロナ殿、このゲームに見覚えは無いか?」
「ウィクロスっていうんですか。ないです」

コロナはスマホの画面に映るカードゲームを見て答える。
まったく心当たりがない。


「そうか……どうしたものか」
「そのゲームが何か?」
「ゲームはこれだけなんだ」
「?。桂さん、遊びたい訳じゃないですよね?」
「……まあそうだが。ゲームを入れるにしてももっと知名度の高いのを入れるべきではと思うのだが」
「……現実逃避でゲームにする人はいてもおかしくないとは思いますが……。そう言えば」

疑問に思うコロナ。桂はスマホを操作しWIXOSSのゲームの説明を読み、プレイ画面へと進める。
そしてゲームスタートとは別の項目をクリックした。

「ん。ランキングがあるだと?」
「え」

ランキングは得点が表示されるものではなく、どれだけ運営が用意した対戦相手を倒せたかが表示されるものだった。


「……7人か」
「プレイする人が本当にいるなんて」
「名無しか……特定できんな」


桂は先のゲームプレイヤーの推理を諦めつつも更に操作を続ける。
やがて画面にプレイヤーキャラにあたるルリグの姿が現れた。
桂は質問するかのように顔をコロナへ向けたが、彼女も首を振って否定。
ルリグの姿は頭にターバンを巻いた、肌の色がダークグレーの、白のレオタードのような衣装を着た少女だった。
それは桂達は知る由もないが、数時間前勇者の力を行使したウリスに似ていた。


「この子がクロ……」
「……何かあるな」
「参加者でこの子を……このゲームを知ってる人はいるんでしょうか……」
「いたら手がかりになりそうではあるが」


もし2人が勇者の姿を見ていなければ、注目まではしなかっただろう。
興味を引いた理由の1つはクロの雰囲気が勇者か、あるいは少々繭に通じる幻想的なものがあったからだ。
桂の指が震えた。

「…………」
「桂さん」


コロナはプレイをさせないように咎めるように言った。
だがその口調はゲームセンター行きを止めた時のように強くない。

729ろうたけたるおもい ◆WqZH3L6gH6:2016/08/01(月) 06:58:11 ID:Ac9S5Cso0

戦闘者の役割を忘れていない桂の姿を見て、コロナは思わず視線を落とした。
時間にして18時間未満経過。DIOらとの戦いに敗走を余儀なくされた上に、これまで協力者や仲間も少なからず喪っている。
にも関わらず主催打倒に繋がる情報は現状何一つ得られていない。
今のままではゲームに翻弄され、流されているだけだとコロナは実感した。
アプリWIXOSS。クリアしても殺し合いの打開にはならないだろうが、少々なりとも興味を出せるものをここに来て発見したとなれば。


「わかりました桂さん。もう止めません」
「そうか」


桂は柔らかさを感じる声を上げ、画面を切り替えた。
コロナはそのままプレイをすると思っていただけに少々呆気にとられた。
けど続ける。


「桂さん」
「?」
「後で皐月さん達にそのこと伝えましょうね。他の人にもですけど」
「む」
「こんな状況でゲームを勧めるなんて、普通は不真面目に見られちゃいますから」


----------------------------------------------------------------------------------------

放送まで1時間を切った。
2人はスマホの機能は大体チェックした。
もっとも肝心な機能のも、今。
実体を伴わない花弁が舞う。
緑色の桜の花びらと、どの花とも判別できぬものと。


勇者スマホの力を行使した桂は羽織を着用していた。
その羽織は勇者の戦闘服に酷似している。
それ以外は先程までの服装と容姿のまま。


勇者スマホの力を行使したコロナは、友奈の勇者服と同じデザインのものを着用していた。
ただその色彩はコロナのバトルジャケットと同じ紺色を中心としたものだった。
容姿は髪の色以外に違いはない。その色はアインハルト・ストラトスと同じ緑がかったもの。



「友奈さんの口ぶりだと他の人は変身できなさそうだったのに……」
「……」


戸惑うコロナと若干厳し目の表情をする桂。
黒カードの裏の説明文を見て、疑問に思った2人が試しにと使ってみた結果がこれだ。
コロナは掌を開いては握りを繰りかえす。
2人の感想は多少の違いはあれど共通していた。
未知の力が自らの肉体を増強させていると。


「…………桂さん」
「どうした」
「ちょっと手合わせ願えませんか?」

730ろうたけたるおもい ◆WqZH3L6gH6:2016/08/01(月) 06:58:48 ID:Ac9S5Cso0
----------------------------------------------------------------------------------------

2人は走る。先程とは明確に早い速度で。


「魔法は強化されない?」
「ええ、他の能力はかなり強化されてはいるんですが……」


申し訳無さそうにコロナ。
桂はコロナのいう魔法や魔力をあまり理解はできないというか、しきる事はできない。
だが彼女が得意とする技術は勇者の力と同時に扱うのは困難なのは手合わせしたからか理解はできた。


「DIOのような相手と戦っても単独では……」
「僅かな隙を狙われては、か」
「……アインハルトさんならもっと上手く扱えると思うんですが」
「強いんだな」
「……はいっ」


桂のその言葉は自分とアインハルトに向けられたもののように聞こえた。


「……ところで桂さん、神威と針目縫と、あとアザゼルって人と交渉するって本気ですか?」
「奴も、皐月殿から聞いた針目縫も、多分アザゼルという男も性格的に主催に反感を持つのは予想できる」
「だけど……」
「それ以上、殺し合いを加速させるつもりはない」
「それは分かるんですけど」


コロナからしてもこれだけゲームが進行しているだけに足止めの意味でも、
対主催戦の準備という意味でも、あえて敵対戦力と部分的に協力するという行動は否定できない。
だが、神威とアザゼルはまだしも針目縫と交渉となると不安が強かった。
コロナも皐月から針目縫に関して情報を聞いている。
会話は可能だが、交渉は無理な性分だと。
アザゼルに至ってはもっと情報が少ない。

勇者の力はコロナ同様に桂の身体能力も強化できている。
だが、その強化はコロナのと比べて明らかに見劣りするもの。
コロナから見て単独で神威やDIOと戦っても勝ち目はないと思えたし、桂も否定はしていない。
彼女の心は不安で占められていた。


「……なに。直接面前に出て会話しようとは思わん」
「え?それなら、いいんですが……」
「それも皐月殿と、放送後に連絡してからのつもりだ」
「解りました」


一先ずコロナは安心した。



「まあこの力、移動には便利だろう」
「……ですね」

たなびく桂の長髪を見ながら、ようやくコロナは笑った。

731ろうたけたるおもい ◆WqZH3L6gH6:2016/08/01(月) 07:00:26 ID:Ac9S5Cso0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【F-7/万事屋銀ちゃん付近/一日目・夕方】

【桂小太郎@銀魂】
[状態]:胴体にダメージ(小) 、勇者に変身して移動中
[服装]:いつも通りの袴姿
[装備]:風or樹のスマートフォン@結城友奈は勇者である
    晴嵐@魔法少女リリカルなのはVivid 、
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(17/20)、青カード(17/20)
    黒カード:鎖分銅@ラブライブ!、鎮痛剤(錠剤。残り10分の9)、抗生物質(軟膏。残り10分の9)
    長谷川泰三の白カード
[思考・行動]
基本方針:繭を倒し、殺し合いを終結させる
1:万事屋へと向かう。
2:コロナと行動。まずは彼女の友人を探し、できれば神楽と合流したい。
3:神威、並びに殺し合いに乗った参加者や危険人物へはその都度適切な対処をしていく。
  殺し合いの進行がなされないと判断できれば交渉も視野に入れる。用心はする。
4:スマホアプリWIXOSSのゲームをクリアできる人材、及びWIXOSSについての(主にクロ)情報を入手したい。
5:金髪の女(セイバー)に警戒
[備考]
※【キルラキル】【ラブライブ!】【魔法少女リリカルなのはVivid】【のんのんびより】【結城友奈は勇者である】の世界観について知りました
※ジャンヌの知り合いの名前とアザゼルが危険なことを覚えました。
※金髪の女(セイバー)とDIOが同盟を結んだ可能性について考察しました。
※勇者に変身した場合は風か樹の勇者服を模した羽織を着用します。他に外見に変化はありません。
 変身の際の花弁は不定形です。強化の度合いはコロナと比べ低めです。


【コロナ・ティミル@魔法少女リリカルなのはVivid】
[状態]:胴体にダメージ(小) 、勇者に変身して移動中
[服装]:制服
[装備]:友奈のスマートフォン@結城友奈は勇者である
    ブランゼル@魔法少女リリカルなのはVivid 、
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(16/20)、青カード(17/20)
     黒カード:トランシーバー(B)@現実
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを終わらせたい。
1:みんなの知り合いの話をしたい。
2:桂さんと行動。アインハルトさんを探す
3:桂さんのフォローをする
4:金髪の女の人(セイバー)へ警戒
[備考]
※参戦時期は少なくともアインハルト戦終了以後です。
※【キルラキル】【ラブライブ!】【魔法少女リリカルなのはVivid】【のんのんびより】【結城友奈は勇者である】の世界観について知りました
※ジャンヌの知り合いの名前とアザゼルが危険なことを覚えました。
※金髪の女(セイバー)とDIOが同盟を結んだ可能性について考察しました。
※勇者に変身した場合は友奈の勇者服が紺色に変化したものを着用します。
 髪の色と変身の際の桜の花弁が薄緑に変化します。魔力と魔法技術は強化されません。


[全体備考]
※結城友奈、犬吠崎風の死体の周辺に散らばっていた黒カードは回収されました。
桂及び皐月・れんげの所持するスマホが風か樹のどちらであるかは次以降の書き手に任せます。
※勇者スマホにアプリゲームWIXOSSがインストールされています。内容は折原臨也のスマホのと同一です。
※桂とコロナが少しばかり模擬戦をしました。
※友奈か風か樹のスマホでチャットに書き込みをしました。
 内容は次回以降の書き手さんにお任せします。

732 ◆WqZH3L6gH6:2016/08/01(月) 07:03:04 ID:Ac9S5Cso0
仮投下終了です。
チャットの書き込みは丸投げなので、まずかったら今晩追記します。
タイトルはおもいが付いている方です。
問題点や疑問点がありましたら、ご指摘をお願いします。

733名無しさん:2016/08/01(月) 17:57:55 ID:qMgSr6kc0
仮投下乙です
勇者ヅラと勇者コロナで戦力は大幅にアップしたけど、肝心の散華を把握出来てないのは怖いなぁ
友奈が黙ってたのがここで響いてくるとは…
チャットについては個人的に問題はないかと思います

一つ指摘ですが、>>727で「いま2人がいる場はE-4南西のある民家」とありますが、C-6からF-7を目指してる桂達がE-4にいるにはあり得ないかと思います

734 ◆WqZH3L6gH6:2016/08/01(月) 23:17:21 ID:Ac9S5Cso0
>>733
感想とご指摘ありがとうございます。
E-4をE-7に訂正して本投下します。

735 ◆WqZH3L6gH6:2016/08/01(月) 23:34:21 ID:Ac9S5Cso0
投下しました。
仮投下の際、ヅラの方針4を裏付ける文が抜けていたので、本スレの>>667に投下しました。

736管理人:2016/08/04(木) 23:47:55 ID:???0
■第三回放送案募集テンプレ

アニメキャラ・バトルロワイヤル4thの第三回放送案(リレーSS)を募集します。
以下をよく読んだ上で第三回放送案を仮投下スレで投稿してください。
他の人の投下に割り込まないように気をつけて下さい。
後に修正要求される可能性があるのでトリップをつける事をお勧めします。

今回は死亡者と3エリア分の禁止エリアの発表を行います。

放送案の内容に企画の進行に問題がある内容の場合は修正要求されます。
問題の度合いによっては修正要求の前に破棄になる可能性もあります。
もし修正作業が修正期間までに間に合わないと本編投稿作品も含めて自動的に破棄になるのでご注意下さい。


【募集期間】08/05(金)00:00〜08/18(木)23:59の14日間。
      修正期間は08/19(金)00:00〜08/20(土)23:59までの2日間の予定です。
      募集作品と本編投稿作品の修正の有無によっては修正期間無しとし、前倒しで投票を行う可能性があります。
      修正期日の翌日の00:00から23:59に投票を行います。
      投票で1位になった作品がアニメキャラ・バトルロワイヤル4thの第三回放送SSとして採用されます。

      募集期間中の放送前のパートの予約投下は08/05(金)00:00〜08/11(木)23:59まで可能です。
      修正は二日間までです。
      
      
     
※補足
第三回放送話は参加者残り24名という事もあり終盤一歩手前、
とはいえクライマックスにはまだちょっと遠いというという後半ながらやや不明瞭な局面です。
主催サイドの新キャラを出すのは構いませんが、現在のゲーム・参加者達の状況をよく把握した上で
今後の進行の阻害になりうる扱いに困るキャラ、設定等を出してしまわないようご注意下さい。

放送前の本編パートの投稿も内容次第では放送案投稿の支障になってしまう恐れがあるので、慎重にお願いします。

737 ◆WqZH3L6gH6:2016/08/18(木) 23:40:54 ID:fIO4wV760
放送案を投下します。

738第三回放送 ◆WqZH3L6gH6:2016/08/18(木) 23:41:25 ID:fIO4wV760
白い部屋と多数の大きな窓に覆われた部屋。
朧気な少女――繭は頭上にある巨大な時計を見上げていた。
午後5時58分。舞台となる会場の上空の陽は殆ど落ちており、夕日は端っこで消えかけの炎のようになっている。
陽光に弱い人外も外出が可能だろう。
そして繭が主軸となり回っているゲームはいよいよ佳境に入った。
今しがた一人が命を落とし、場合によっては5名以上の死者を出すであろう集団戦が部隊の南方で起こっている。
楽しみだ。懸念は定時放送中に決着が着いてしまう場合くらいであろう。
繭はためらわず、放送を開始した。


『今晩は。三回目の定時放送の時間よ
 忙しい方もいるでしょうけど、最低でも名簿と禁止エリアの確認はしておいた方がいいわよ。
 繭、つまらない結末は見たくはないもの。
 まずは禁止エリアの発表よ』


【B-7】
【C-3】
【G-7】



『午後9時になったら、今言ったエリアは禁止エリアになるわ。
 エリア内に留まっている子は時間までに離れなさい。
 それから、自分の支給品確認や禁止エリア予定地を調べてみるのもいいかもね。
 それじゃあ次は死んでしまった参加者の発表を始めるわよ』


【衛宮切嗣】
【東郷美森】
【リタ】
【結城友奈】
【犬吠埼風】
【アインハルト・ストラトス】
【ジャック・ハンマー】
【神楽】
【本部以蔵】
【ファバロ・レオーネ】
【坂田銀時】
【ホル・ホース】
【宇治松千夜】
【東條希】
【香風智乃】

739第三回放送 ◆WqZH3L6gH6:2016/08/18(木) 23:42:18 ID:fIO4wV760


『全部で15人よ。残り24人。
 ふふ……ここまでやる気があるなんて驚いたわ。今夜中に決着がつきそう。
 でもね、決着がいつになるにしても優勝した子にはご褒美を上げるから心配しないで。
 次は正子――午前0時に放送を始めるわ』




放送が終わった。


「……」


繭は一息をつくと、椅子状になった窪みに腰を下ろし考える。
放送数分前に協力者の一人から忠告された繭自らによる白カードの確認と黒カードの確認。
繭は遅くとも優勝者が決まる瞬間までに、カードに封じられた参加者の魂を手元に集めなければならない。
でなければゲーム終了後、予定していた取っておきの遊びができなくなる。それではつまらない。
黒カードに関しては自分の力がちゃんと支給品に影響を及ぼしているかの確認である。
ひとつ妙な動きをしているのがいる。所持者が死んだこともあり放っておこうかと思ったが。
枷を外す所謂、意思持ち支給品が増えても難儀だ。
密かに手を打つか、もしくは臨時放送でもするか。もしくは……。


「……まあ、9時を回ってからでいいわよね」


繭は歩く。協力者たち、ヒース・オスロとテュポーンらの元へ。



「クロがそののままで、シロもシロのままでいてくれればよかったのだけど……」



足取りは重い。まだ身体は健全とまではいかないようだ。
でもヒースらの協力があってこその肉体。このまま時間が経てば……。
そう奮い立たせ、繭は未練を打ち切り、さらにそれを強調するかのように呟く。


「あのシロはタマ、クロはユキ……。
 わたしの知るシロとクロじゃないもの。
 ねえ……もうひとりの繭……。あなたはいまどうしてるの?
 わたしはね、呪いながらしあわせになるの。
 シロとクロが消えてしまった代わりに動けるようになった、このわたしで。
 バハムートといっしょに」

740 ◆WqZH3L6gH6:2016/08/18(木) 23:42:58 ID:fIO4wV760
放送案投下終了です。
タイトルは明日までに。

741第3回放送  ◆DGGi/wycYo:2016/08/19(金) 00:00:06 ID:l6AyPUO.0
「…………」

白い部屋。
男は静かに、グラスに注いだワインを口にする。

「随分と早いペースだ」
「…………」

少女は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべ、そっぽを向いている。

「開いていた71の窓は、今や24まで減った。それに……」

男――ヒース・オスロは、個人的に目をかけている見知った参加者――風見雄二の窓を注視する。
あくまで目をかけているだけだ。特に優遇しているわけではないが、彼が今置かれている状況は――

「いや、君には関係のない話だったね」
「…………」

「この世の中は3割の悪意、1割の善意、6割の偽善で出来ている。そして、偽善は簡単に悪に変わる」
「……何が言いたいの?」

ようやく少女――繭がその口を開く。

「君は私を信用していないんだろう?」

繭は再び、その口を閉ざす。

「まあいい。さて、そろそろ時間だ」

オスロは読み上げる内容を大雑把にまとめた紙を手渡し、繭はそれを引っ手繰るように受け取る。

そして、窓の向こうへと言葉を投げかけた。





『――午後六時、三回目の放送よ。まずは次に禁止エリアになる場所の発表からいきましょう』






『午後九時を過ぎたら、何度も言うけれどそこには入れないわ。死ぬつもりなら知らない。次は脱落者の発表よ』



【衛宮切嗣】
【東郷美森】
【リタ】
【結城友奈】
【犬吠埼風】
【アインハルト・ストラトス】
【ジャック・ハンマー】
【神楽】
【本部以蔵】
【ファバロ・レオーネ】
【坂田銀時】
【ホル・ホース】
【宇治松千夜】
【東條希】
【香風智乃】


『――全部で15人、残りは24人よ。次はまた6時間後、深夜0時。今度は私の声を聞ける人は何人かしら、検討を祈るわ』






「随分と手短だったじゃないか」
「あなたには関係のないことでしょう」

二人は対峙する。もっとも、オスロの傍にはもう一人、白髪の青年が立っているが。


(しかし……目を付けられるのが思いのほか早かったようだ)

オスロが思い出すのは、数時間前に掛かってきた一本の電話。

「安心したまえ、君の目的は果たされる」

少しばかりの挑発を含んだ声。
それに対し、繭も口を開く。


「――――――」

742第3回放送  ◆DGGi/wycYo:2016/08/19(金) 00:01:14 ID:l6AyPUO.0
時間オーバーしてましたね。
もし通るのでしたら修正版で禁止エリアの追記をします。ダメでしたら破棄します。

743名無しさん:2016/08/19(金) 00:13:05 ID:WF1wRqz.0
お二人共投下乙です

◆DGGi/wycYo氏の投下については、ほんのわずかですが募集期限を超過しているので通しというのは難しいと思います

744 ◆WqZH3L6gH6:2016/08/19(金) 23:58:16 ID:Rb.Xymeg0
第三回放送案のタイトルは修正前と後も変わらずタイトルは
『第三回放送 -あの思いは漂着-』です。
明日に修正版をここで投下させていただきます。

745 ◆WqZH3L6gH6:2016/08/20(土) 17:22:23 ID:TNaq16Tg0
修正版投下します。

746第三回放送 -あの思いは漂着- ◆WqZH3L6gH6:2016/08/20(土) 17:24:24 ID:TNaq16Tg0

朧気な少女――繭は素足のまま白き砦の中を歩き、時折口元に笑みを浮かべながら思い出し考える。
彼女の殺し合いの第一回放送より少し前、第二回放送より少し前と同じく死んでいった参加者の事を考える。


魔術師殺しは愚かだった。
参加者の中でも最強格の怪物相手にあれだけ渡り合える底力がありながら、
自らの悪謀に足元を掬われ、情けない痕跡を残すのみの最期を遂げたのだから。
その上、優秀な支給品に分類されるWIXOSSルリグデッキ『ブルーリクエスト』を
自らの好悪から持て余してしまうとは。
ルリグに与えた力に興味を持ち、どう立ち回るか少々注目していただけに拍子抜けだ。
正義の暗示を持つルリグを引き当ててあれだとは。あの願いを持っていて……嗤う。


車椅子の勇者は油断が過ぎた。
想定した通りの動きを見せ、途中までプレイヤーとして期待以上の働きを見せていたのにも関わらず
一度の油断から力を奪われ、強奪者に対しまともな抵抗もできないまま、セレクターに引き摺られ、呆気ない最期を向かえたのだから。
もし優勝に積極的なプレイヤーらしく、黒カードをよく確認しカード裏の説明の意味を理解できていれば、
もう少し有利に動けただろうに。
とはいえ彼女はよかった。特に力を奪われてからの焦りはこちらにも伝わり、心に響いた。
今際に銀の勇者に対し何も言い残さなかったのはちょっと不満だったけれど。


ゾンビの魔法少女は不運だった。
同行者に恵まれず、同行者を全て喪った後に親愛の情を抱いていた騎士の躯を見つけてしまったのだから。
彼女も焦りに支配されず所持カードを念入りに調べていれば、あの最期は回避できていたに違いない。
とはいえ、どこか達観していてつまらなそうだった彼女が必死になる様はそれはそれで良かった。
それに彼女の体質は一参加者として見たら懸念があっただけに、不具合が生じ参加者にそれを見られる事がなかったのは
こちらにとっては少しばかり幸いだった。


桃色の勇者は無力なはずだった。
彼女は優秀なプレイヤーとなった二勇者とは逆の、無能なゲーム破壊希望者として想定していた通りの動きを見せ、
こちらはおろか、プレイヤーに対してもほとんどダメージを与えることなく、何も成せずに死んだと思えた。
なのにどういう訳か、優秀なプレイヤーのひとりを自死に追いやる影響を与えていたとは。
彼女の本意ではないにしろ、残った黒カードの行方を考えればこちらにとっては望まない結末だった。
それにあの戦いはどこか違和感を感じた。調べる必要があるかも知れない。


元隻眼の勇者、魔王ゴールデンウインドはサプライズの塊だった。
彼女は車椅子の勇者と違って、当初は積極的なプレイヤーになるのは期待していなかった。
だけどいざ蓋を開けてみればプレイヤーとなってからの働きはこちらの予想をはるかに超えたもの。
彼女の妹の死の影響は実にこちらに有利に働いていてくれている。
悪魔化の薬を入手していた事も含めてサプライズの連続。
大半の参加者とは別の意味で有意義な存在であった。
桃色の勇者を殺した直後自ら命を絶った事を除いてだが。


覇王はちょっと力の強い反ゲーム派の一人として、ただ殺されて終わると思っていた。
武術家にも関わらず彼女の嘆き、苦悩は大半のセレクターと同質のもの。
意外ではあったが、それだけに嫌いでは決してなかった。
最初の放送で暴走したのもプラス材料。今頃いいカードになっているだろう。

747第三回放送 -あの思いは漂着- ◆WqZH3L6gH6:2016/08/20(土) 17:25:17 ID:TNaq16Tg0
ピットファイターも不運であった。
支給品に恵まれず、目標を早々に喪った影響がマイナスに働いていたのは、早くに伝わっていたから。
にも関わらず彼はゲーム進行によく貢献してくれた。彼もまた良かった。


夜兎の少女は面白くない意味で滑稽だった。
兄と和解できたと勘違いして満足気に逝ったのだから。
友人の死を知る事がなかった事もあり、面白みのある参加者ではなかった。


柔術家は最後まで道化だった。
修業によってついたらしい過剰な自信が徐々に確実に崩される様は、セレクターの苦悩を見ているのと同様にこちらから見て痛快なもの。
ただ、予想外の動きをした時は面白くなく、素直に良いと思える参加者ではなかった。


アフロ男は拙速に過ぎた。
あの緑のルリグの急かしに完全に流されなければ、あんな最期は避けられたのに。
追跡するにしてもゾンビの少女の遺品くらいは回収すると思っていたのに。
賢い男だと思えていたけれど、結局は初見通りのばかだったのだろう。


白夜叉と皇帝のスタンド使いは力尽き、斃れただけ。
彼らの行動と感情は最初から最後まで、出した結果を含めてもこちらを楽しませる類のものでは決してなかった。
殺し合いではなく、ただの人間観察として見れば人によっては面白かっただろうけど。
どの道、死んだ今これ以上思いを馳せることはない。できれば忘れていたい男達。


甘味屋の弱い方は命を無駄に捨てた。
あれだけあの柔術家が身も心も削って守ろうとしていたのに。
でもあそこで死んでくれたのはこちらにとって好都合。
反ゲーム派の回復役が一人いなくなってくれたのだから。
イレギュラーのセイクリッド・ハートに対し調査できる余地も生まれた。


あのアイドル巫女も不運だった。死ななかったら反ゲーム派内に混乱が広がっていたのに。
彼女は非力だったけどこちらにとって非常に都合のいいプレイヤーだった。最後の最後まで。
友達を見殺しにした時開き直れば良かったのに、実に残念。


「ふふ」


死んだ参加者を一通りに思い出した繭は上機嫌で目的の部屋に向かう。


「……」


今、繭の心に湧き出る感情は他者の不幸を喜ぶ愉悦ばかりではない。
愉悦とは真逆の特定の参加者に対する不快な感情も
そして彼女もよく分からない得体の知れない感情もあった。
だが、それらは繭の喜びを上回るものではない。
故に繭はこのゲームを止めるつもりはない。
憂さ晴らしをし、生を謳歌できるようにする為に。

748第三回放送 -あの思いは漂着- ◆WqZH3L6gH6:2016/08/20(土) 17:27:06 ID:TNaq16Tg0

繭は顔を少し上げた。視線の先は開いた窓一つ。
彼女は立ち止まる。ゲームの一場面を鑑賞する為に。



「あら?」


その声は驚きと興味に彩られていて。

-------------------------------------------------------------------------------------------------



白い部屋と多数の大きな窓に覆われた部屋。
朧気な少女――繭は頭上に浮かぶ巨大な時計を見上げていた。
午後5時59分。舞台となる会場の上空の陽は殆ど落ちており、夕日は端っこで消えかけの炎のようになっている。
陽光に弱い人外どももこれなら外出が可能だろう。
そして繭が主軸となり回っているゲームはいよいよ佳境に入った。
今しがた一人が命を落とし、場合によっては5名以上の死者を出すであろう集団戦が舞台の南方で起ころうとしている。
楽しみだ。懸念は定時放送中に決着が着いてしまう場合くらいであろう。
繭の口端がわずかにつり上がっていた。


「……」


うさぎ小屋の少女は迂闊だった。
もっともあの場で殺されなくても、あの不安定な状態だとそう遠くない時期に命を落としていただろう。
協力者いわく元より最弱クラスの参加者。生きていても死んでいても大して影響はなかったと思える。
毒にも薬にもなれなかった、そんなちょっと面白い程度の参加者だったなと繭は位置づけた。

繭は放送を開始した。


『今晩は。三回目の定時放送の時間よ
 忙しい子もいるでしょうけど、最低でも名簿と禁止エリアの確認はしておいた方がいいわよ。
 繭、つまらない結末は見たくはないもの。
 まずは禁止エリアの発表よ』


【B-7】
【C-3】
【G-7】


『午後9時になったら、今言ったエリアは禁止エリアになるわ。
 エリア内に留まっている子は時間までに離れなさい。
 それから、自分の支給品確認はきちんとやっておいた方がいいわよ。
 あと時間が来るまでに禁止エリア予定地を調べてみるのもいいかもね。
 思わぬ所で得るものがあるかも知れないのだから。
 これは繭からのアドバイスよ。
 次は死んでしまった参加者の発表を始めるわよ』

749第三回放送 -あの思いは漂着- ◆WqZH3L6gH6:2016/08/20(土) 17:28:29 ID:TNaq16Tg0
【衛宮切嗣】
【東郷美森】
【リタ】
【結城友奈】
【犬吠埼風】
【アインハルト・ストラトス】
【ジャック・ハンマー】
【神楽】
【本部以蔵】
【ファバロ・レオーネ】
【坂田銀時】
【ホル・ホース】
【宇治松千夜】
【東條希】
【香風智乃】


『全部で15人よ、15人。残り24人。
 ふふ……ここまでやる気があるなんて驚いたわ。今夜中にも決着がつきそうよね。
 でもね、もし長引いて決着がタイムリミット寸前になったとしても、優勝した子にはご褒美を上げるから心配しないで。
 次は正子――午前0時に放送を始めるわ。また放送が聞けるといいわね』




放送が終わった。


「……」


繭は一息をつくと、椅子状になった窪みに腰を下ろし考える。
放送一時間前に協力者の一人から提案された繭自らによる黒カードの確認と白カードの確認。
繭は遅くとも優勝者が決まる瞬間までに、カードに封じられた参加者の魂を手元に集めなければならない。
でなければゲーム終了後、予定していた取っておきの遊びができなくなる。それではつまらない。

黒カードに関しては自分の力がちゃんと支給品に影響を及ぼしているかの確認である。
黒カードは参加者の枷である腕輪と白カードと比べて、仕様上及んでいる力は少ない。
だが、それでも強弱に関係なく意思持ち支給品の自由を奪う事には成功している。
ただひとつ、高町ヴィヴィオの支給品でパートナーであったセイクリッドハートを除いて。

繭は参加者の意思と力が及ばない範囲での支給品の自律行動はできないようにしている。
なのにあのデバイスは単独で助けを呼び、つかの間だが宇治松千夜の救命に成功していた。
千夜がどう転ぶか解らなかった事もあり、これまであえて介入はしなかったが。
さらに枷を外す意思持ち支給品が出てくるか解らない今、参加者への干渉を極力避けつつ
何とか原因を調査する必要があるだろう。
能力制限が解除されると厄介な支給品もある。


そして腕輪と白カード。
腕輪については第一回放送前にある懸念が生じたが、今は放置していいだろう。
あれから何の変化もない。

750第三回放送 -あの思いは漂着- ◆WqZH3L6gH6:2016/08/20(土) 17:30:01 ID:TNaq16Tg0

白カードについて気がかりが2つある。
1つは開始時に見せしめとしたアーミラの白カードが、会場のどこかに落ちて行方が解らなくなっている事。
もう1つは魂喰いとやらを行ったキャスターの白カードの詳細。

アーミラの白カードは今は無くても、今後特に大きな影響はないがあって困るものでもない。
形式上非参加者である彼女の白カードは回収するに躊躇する理由はない。捜索は協力者に頼むか。

そしてキャスターの魂喰い。協力者の一人からどういうものか聞いている。
そうなってしまったものだったら諦めるしかないが、キャスターが死んだ後も聞いた通りのままだと困る。
死んだ参加者は生前の強弱経歴に関わらず、等しく非力な魂になって封印されなければいけないから。
よって同化とやらをされた魂2つの有無と、自らの能力の欠点を知る為にもできるだけ早く調べておきたいが、
当のカードは参加者の一人が所持している。
よりにもよってこちらの秘密の幾つかを知る反ゲーム派のセレクターが。


繭も少々のイレギュラーは覚悟していたが、シロが支給品にされたことも含め、
これだけ積み重なると何もせず放置する訳にも行かない。
密かに手を打つか、臨時放送でもするか。もしくは……。


「……まあ、9時を回ってからでいいわよね」


3つの区域が禁止エリアとなり、南方での大戦の決着が付いていると想定される時間帯。
強豪含め消耗した参加者が多数になった現状なら、隙はある。


「……」



繭は歩く。協力者たち、ヒース・オスロらの元へ。



「……クロの」


それはシロと対になる原初のルリグの名前。
繭は自らの長髪を手で撫で、髪の色を見た。


「……クロがそののままで、シロもシロのままでいてくれればよかったのだけど……」


髪の色は昔と違って薄緑。足取りは重い。
寝たきりだった頃よりはずっとましだけれど、身体はまた健全とまではいかないようだ。
能力とバハムート無しで敵対者と遭ったらと思うと寒気がしてしまう。


「早く健康になりたいのに、あの人は……。あんなことを……!」

751第三回放送 -あの思いは漂着- ◆WqZH3L6gH6:2016/08/20(土) 17:35:27 ID:TNaq16Tg0
やや強く踏みしめる。
ほとんど力が入ってないはずなのに地面が一部陥没した。それは繭の異能がなせる現象。
そしてこれは協力者に対する不満の表れ。でも強く叩くようなことは考えていない。

繭の今の身体と増強された異能はヒース・オスロの協力があってこそのもの。
恩義もあるが、生き続ける為にも彼の存在は必要。
このまま時間が経ち、健康になるまでは。
そう奮い立たせ、繭は不満と未練を打ち切り、さらにそれを強調するかのように呟く。


「あのシロはタマ、クロはユキ……。
 わたしの分身で大事で必要な子達だけど、わたしの知るシロとクロじゃないもの」


ヒース・オスロと会ってから、しばらくして繭の知るシロとクロは消えてしまった。
繭は最初こそ小さい喪失感を覚えるのみだったが、日に日にその思いは強くなり、
やがて行動に支障が出るほどの大きなものとなった。
それは協力者の一人の提案が実行されるまで続いた。


「でもいいの。わたしの目に届く所で居続けてくれれば、それで」


その提案は別のシロとクロを攫ってくる事。
繭はそれで自らの欠落を埋められるか不安だったが、杞憂だったようだ。
ここに原初のルリグがこの世界に連れられた時、繭の欠落感はほぼ消えていた。
それどころか2人のルリグの記憶も一部流れ込んできたくらいだ。
もっともそれは現状ゲーム開催への少々の助力にしかなってないが。


「ねえ……もうひとりの繭……。あなたはいまどうしてるの?」


その呟きは別の繭に問たものではなく、行方を知ろうとするものでもなく。
自虐を込めた、別の自分への哀れみの言葉。
繭は1枚のカードを出す。ドラゴンの寝顔を写している、バハムートのカードを。
繭がカードを凝視する。ドラゴンの両眼が開き、繭は黒い物体に包まれる。
それは実態を伴わない、ドラゴンの肉体。
だが、もしここに繭以外の誰かがいれば感じ取れるであろう。トップクラスのプレイヤーからも絶大と認識されるだろう力を。


「いい子ね……。もう少ししたら出られるからね。それまで辛抱よ……」


繭は実体の無いドラゴンの体を撫でた。
バハムートはどこか満足気に顔を歪ませるとカードへと戻った。
万が一、敵対者がここに入り込んでもこれなら……。
繭は薄く笑う。

「わたしはね、呪いながらしあわせになるの。
 むかしのシロとクロが消えてしまった代わりに動けるようになった、このわたしで。
 バハムートといっしょにねえ」

そして――

752 ◆WqZH3L6gH6:2016/08/20(土) 17:36:52 ID:TNaq16Tg0
遅くなりましたが修正版投下終了です。
まずい箇所があったら削ります。
修正しきれなかったら修正前の方を投下します。

753 ◆WqZH3L6gH6:2016/08/20(土) 17:40:59 ID:TNaq16Tg0
あと本投下は明日中にする予定です。

754名無しさん:2016/08/20(土) 18:09:11 ID:GxaeVx1k0
大幅な加筆修正乙です!
そりゃ旦那の魂喰いは繭にとっても予想外だよなぁ
そしてアーミラの白カードですか、これは驚きの新事実ですね

修正前版の九時を回ってから云々というのはイレギュラーへの対処も含まれていただ
のですね
繭は魂を集めて一体何を企んでいるのやら…

放送後の南の決戦にも注目が高まる中、その後に起こるであろう主催側のアクションも気になりますね

一つだけ質問なのですが、原初のシロとクロを奪われたもう一人の繭というのは、所謂パラレルワールドのようなものという認識で大丈夫ですか?

755 ◆WqZH3L6gH6:2016/08/20(土) 20:42:00 ID:TNaq16Tg0
>>754
感想ありがとうございます。
もう一人の繭についてはその認識で大丈夫です。

756 ◆WqZH3L6gH6:2016/08/21(日) 10:23:27 ID:KXZLuLqE0
第三回放送、微修正し本投下しました。

757 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/05(月) 05:04:44 ID:IoUHUwsQ0
仮投下します。

758distract ◆WqZH3L6gH6:2016/09/05(月) 05:05:49 ID:IoUHUwsQ0
――の命が尽きてからも彼女は■■を叩いていた。

-------------------------------------------------------------------------------------------------


ラヴァレイは黒カードを猫車に戻すと、担いでいた少女 小湊るう子をそのままそっと乗せた。
るう子は未だ気絶しており目覚める気配はない。
それに対し、今しがた協力者となった浦添伊緒奈――ウリスは疑念を含んだ眼差しを彼に向けた。


「さっさと起こせばいいじゃない」
「……加減を間違えたようだ。しばらくはそのままにしておいた方がいいだろう」
「はあ?貴方がやった癖によく言うわね」
「いやまったくだ」


嫌味を簡単に流すラヴァレイに、ウリスは不満気だったが気持ちを切り替え一旦黙る。
今のるう子の状態は良くない。何より治りかけた風邪も再発し発熱もしている。
放置してもすぐ死ぬことはないだろうが、尋問するにしても思考が纏まらない状態では情報を聞き出しにくいだろうし、
いざ人質として使う時に不便が生じかねない。だが、この状況は一方で好都合でもあった。

ラヴァレイがるう子を起こさないのは人質として気遣っただけではない。
彼がウリスを協力者として誘ったのは嗜好が共通する同類の匂いを嗅ぎとったのもあるが、主因ではない。
一番の理由はゲームの主催 繭と何かしら関係があり、なおかつ殺し合いに乗った者である人物であった事。
ウリスが自分にとってどれだけ有益であるか観察する為だ。
可能であれば一対一で対話それが彼の目的である。


「で、北に行くって言ってたけど、何処に出入り口があるのかしら?」
「地下闘技場だ」
「ふぅん、人はあまりいなさそうね」



ウリスは皮肉げに顔を歪ませた。彼には彼女も体調は思わしくないように思えた。
これまでアザゼルの攻撃を受け続けたダメージが見て取れたから。
ただ、るう子と違うのは痛みに意を介してないように振舞っている事。
所々不満を滲ませながらも、何だかんだで楽しくて楽しくてしょうがないという様子。

ラヴァレイは戦力としては期待できないなと分析し、せめて足手まといにならぬようどうしようかと思った。
ウリスは彼の胸中を他所に軽い口調で続ける。


「ねえ、南東に向かうってのはどうかしら」
「……市街地に出るとしても距離がありすぎる、あまり意味は無いな」
「でも、私の知り合いがいる可能性が高いわよ」
「……紅林遊月か」


アザゼルが繭打倒の手札として注目しているセレクターで、ラヴァレイの協力者である針目縫も少なからず執着している少女。
ウリスもるう子を尋問した際に行き先はラビットハウスだろうと見当をつけている。
ウリスは遊月に対して興味のない対象だが、それでもおおまかな性格は把握していた。
迷惑をかける方向性でのまっすぐな性格。
遭遇したとされる桐間紗路亡き後も、罪悪からかよほどの事が無ければあの家に留まっているだろうと想像できた。
だが、ラヴァレイの方針は変わらなかった。

759distract ◆WqZH3L6gH6:2016/09/05(月) 05:07:46 ID:IoUHUwsQ0
「やはり止めておこう」
「ち」


今のウリスの提案はあくまで軽口、ゆえに彼女も未練はない。
だが、そのままウリスを伴って北へ向うとしたラヴァレイは、それがきっかけである可能性に気づいた。
彼は猫車を操作し逆方向へ向いた。


「あら、止めるんじゃなかったの?」
「気にかかることがあってな」


彼は黙ったまま南へ移動を始め、ウリスも追った。


「気にかかる事って?」
「……闘技場の近くの通路に特別な施設がある。放送局の近辺にも可能性はあるだろう」
「へえ」
「説明せずとも見れば解る」


ゲームの脱落者の情報が提示されている施設『死の瞬間を捉えた道』をウリスに伝えるのは抵抗があった。
しかし有能ではないにしろ折角できた協力者、ある程度でも足並みを揃える必要ありと判断し遠回しに告げた。
どの道、単独行動を取らせる気はないし邪魔になったら処理する腹づもりではあるからこその選択だが。
そして放送局近辺に施設があると思ったもう1つの理由は北東にある『ジョースターの軌跡』の存在。
施設が2カ所確認できていたからこそ向かう。

当初の方針ではゆっくりと北に向かい、放送直後に『死の瞬間を捉えた道』での更新情報を集め。
地下闘技場でしばし休憩しながら駅に向かうつもりであった。
3人は南東へと進む。
しばらくして遠くから何かが崩れる音がした。

-------------------------------------------------------------------------------------------------


3人の男女が無言で地下通路を進んでいる。るう子はまだ目覚めていない。
通路の左右の壁には映像。六時間ほど前ヴァニラ・アイスが通過していた通路。
『万事屋の軌跡』という映像が設置されている場所。
映像を鑑賞したウリスが嫌味たらしく呟く。


「邦画にしては良くできてるわねえ」
「……君の提案を聞いた甲斐があったな」
「嫌味のつもり?」
「まさか」


映像はそこで途切れた。
ラヴァレイが気は良くした様子で猫車を転換させ、ウリスも従う。
思った以上の収穫があった。るう子から強奪した定春は万事屋メンバーと親しい仲。
いざという時の取り引きにも使えるだろう。
彼等が次の放送まで生きてるかはまだ不明だが、死んでいたとしても無駄ではない。
それに神威という男。アザゼルに匹敵するかも知れない力量を持つ彼の存在を知れたのが大きい。
少なくとも警戒が可能となった。

760distract ◆WqZH3L6gH6:2016/09/05(月) 05:08:48 ID:IoUHUwsQ0

「ところでこれから何処に向かうのかしら?」
「……」


腕輪を操作し歩きながらウリスはラヴァレイに問う。
白カードには地下通路についての最新情報が記されている。
崩れる音がして数分後。ウリスがライト代わりに腕輪を操作した際、発見したのはたまたま。
放送局にあった地下通路出入り口が使用不可となったとの通知。
更に放送後に放送局に代わる出入り口が開通されるとの通知もあったのだ。
南東は遠方により選択肢にない。

あるのは地下闘技場と代わりの出入り口。
放送局の代わりなら、元の出入り口とはそう離れていない場所にあるだろう。
場所が放送局と同エリアならアザゼルがいる可能性が高く、地上に出ようとは思わない。
だが、もし別エリアに開通するなら出るのも選択に入れようかと彼は思う。
知り合った参加者の大半が死に、物資も心許ない状況。
放送局へ向かっている参加者との接触や、脱落者の遺品を入手する機会が生まれるかも知れないのだから。


「着いたわね」

そこは放送局の地下にある出入り口だった場所。
ラヴァレイは五感を研ぎすませながら慎重に階段を登る。
ドアに手を当てる。動かない。いつのか定かではないがそこに書かれた文章を彼は確認する。


『この出入り口は使用不可となりました。放送後またの確認をお願いします』

-------------------------------------------------------------------------------------------------

彼女達が斃れていく光景が繰り返される。
それを見るに連れ、自らの至らなさを痛感させられる。
最低。
その言葉よりも下回るものがあると夢の中で、現実の中であるのを少女は悟った

-------------------------------------------------------------------------------------------------

ここは地下通路C-2とD-2の境目。
ラヴァレイとウリスはここで休憩を取っていた。

「つまりアザゼルの、セレクターバトルを利用しての策は無意味と言いたいのかね」
「ええ、繭単独だろうが協力者がいようがそれに変わりはない。
 無限少女になっても繭に支配されるルリグになるだけだし、
 仮に逆らえてもあの竜や協力者をどうこうできるとは思えないしね」
「しかしアザゼルはタマというルリグを利用すれば突破口を開けるみたいな事を言ってたが」


ラヴァレイの疑問にウリスは嘲りの色を見せ答える。
手にはるう子から奪った黒カード。それを元の形に戻し見下しつつ。


「ぷっ、ハハハハハハ。繭は何やら執着していたみたいだけど、コイツにルリグ以上の力も度胸もないわ。
 だってあたしが使っていて観察していたから間違いない。ねぇ、クソッタレさん」

761distract ◆WqZH3L6gH6:2016/09/05(月) 05:10:11 ID:IoUHUwsQ0
「……っ」


ウリスの嘲笑に対しカードの中のルリグ タマは泣き出しそうな顔で頭を下げ何も言えなかった。


「第一、他にルリグデッキが支給されているかも解らないしね」
「……あの竜、バハムートについて何か知らないかね?」
「知らないわ。ああいうのって神話や創作では珍しくないみたいだけど」
「……」

ラヴァレイはその神話についても聞き出そうと考えたが、その辺に詳しく無さそうと察し止めた。

「るぅ……」

タマが見つめる先は未だ意識を回復しないパートナー るう子。


「薄情なヤツね、るうは」
「……ウリス!」


タマは泣き叫ぶ一歩手前まで声を荒げる。
ウリスはそれに怯むどころか愉しげに顔を歪めながら悪意を向け続ける。

「だって、あの子あれほどあんたを取り戻したいって言ってた割には、あたしに達に捕まった時戸惑って何もできないでいたわ」
「そんなのっ」
「嘘じゃない。それにあんたの事頭にないって感じでもあったわ」
「……!」

タマはウリスを睨みつける。だがそれ以上アクションを取ろうとはせず黙る。
ウリスは畳み掛けようとするが、それはラヴァレイに止められた。


「まだ私の質問が終わっていないぞ、ウリス君」
「……はいはい。あんたも楽しんでいた癖に」
「……」

ウリスは弾を黒カードに戻し悪態を付き、ラヴァレイは彼女の肩に置いた手を引っ込めた。
彼の目は笑っている。
苦笑しながらウリスが黒カードを仕舞おうとしたその時だった。


「!」


突如起き上がったるう子の両手がウリスの右腕を掴んでいた。

762distract ◆WqZH3L6gH6:2016/09/05(月) 05:12:15 ID:IoUHUwsQ0
「こ、こいつ」


ウリスはとっさに引き剥がそうとするが動けない。


「タマを、タマを返して……!」
「何今更、いい子ぶってるの?」


殴りつけ離そうとするができない、ウリスはダメージもあり逆に押し倒される。
堪りかねたラヴァレイが事態の収拾に当たろうとする。

その時、放送が始まった。

-------------------------------------------------------------------------------------------------

 次は正子――午前0時に放送を始めるわ。また放送が聞けるといいわね』

放送が終わった。
るう子は黒カードをしっかり手にしながらも項垂れていた。

――アインハルト・ストラトス


桐間紗路に続き、あの時集った仲間がまた逝った事による衝撃は大きかった。
その上、結城友奈や宇治松千夜といった仲間の大切な人が次々と亡くなったのも悲しかった。
両眼からは涙がポロポロと落ちる。

「――」


ウリスがこちらを罵倒しているが、まともに聞こえない。
るう子は顔を上げる。一瞬、ウリスは怒りを滲ませたが、すぐに嘲るような笑顔でこちらに対する中傷を再開した。
しかし、るう子の心には大して響かなかった。
頭痛がし、発熱していることも一因だった。
ふともう一人の同行者へ顔を向ける。
髭面のドレッドヘアーの騎士風の男は、気味の悪い視線をこちらに向けながらも、忌々しげに口を歪めている。

「ねぇ!こいつから取り上げないの?!」
「……」

ウリスの非難に構わず、彼は今後の計画に思いを馳せる。
ラヴァレイにとってるう子の放送への反応は見ものだったが、同時に放送の内容は彼にとっても不都合であったから。
ファバロ・レオーネ、リタ、本部以蔵、坂田銀時、宇治松千夜の死。
そしてアザゼル、三好夏凛の健在。
前の放送の時はこういう事もあると納得させていたが、ここまで変身対象やコネが絶たれてくると、
決して楽観視できる状況ではない。それに脱落者の出るペースが未だに早い。
こうなると情報操作の効果も存分に発揮できなくなってくる。
一刻も早く未知の参加者の情報を収集し、物資も集めなければ。生存できる選択肢がなくなってしまう。
ラヴァレイはゆっくりと2人の少女へ顔を向けるや少女達にとって思いがけない事を言った。


「今は彼女に持たせておこう」
「はあっ?!何考えてんの?」

763distract ◆WqZH3L6gH6:2016/09/05(月) 05:14:11 ID:IoUHUwsQ0
「タマ君が何もできないと言ったのは君だ。ただしこれ以上返す気は無いがね」
「……ラヴァレイ……さん、あなたがるうを……!」
「悪いが、私にも立場というものがある」


咳き込みながら彼を糾弾するるう子に対し、彼は悪びれない態度で返す。


「……君の持ち物を全て没収しなかった理由が解るかね?」
「……」

るう子は睨みつけたまま黙る。カードを握っているのは両手だが痛みに意を返さない。
ウリスは不満タラタラで2人を交互に見つめる。

「君には人質としても、情報源としても我々に協力してもらう」
「……!」
「見返りとしては悪くはないだろう」


るう子はルリグカードだけでなく腹巻きも没収されていない。


「アンタ、優勝を目指すんじゃなかったの?!」
「……」

ウリスの叫びにラヴァレイは虚勢からの笑みを浮かべる。
繭に対し、ゲームのルールに対し、何ら手がかりや抜け道が見当たらなければ、僅かな可能性にかけてでもそのスタンスを取り続けていただろう。
しかし事態は彼の予想を大きく超えて終息に向かい、優勝も不確実なものに思えてきた。
今のアザゼルや針目、DIOには勝機は見当たれれど、神威が健在だった場合遭遇すれば勝ち目はほぼ無い。
機会を失う前に挑戦する必要が出てきた。だから問う、もう一人のセレクターに。


「アザゼルのセレクターバトルを利用しての策は無意味なのかね?」
「…………」

るう子は即答できなかった。
東郷美森から救出されてからのるう子はアザゼルの策に対し、微かな希望を持った。
だが同時に漠然とした不安も抱いている。捕らえられるまでその不安は成功の是非からによる不安と思っていた。
しかし先ほどのタマの悲痛な声とウリスの中傷を聞き、それは違うんじゃないかと思った。
それは桜色の甘い夢の様な――


「すぐに答えられないなら、ホワイトホープは……」
「そのままでは意味はないと思います」
「ほう?」
「るう達セレクターは肉体的には普通の人間。
 だからそのまま繭、もしくは別の犯人の所に行っても倒すとかはできないです」
ウリスが反論するかのように口を挟みかけるが、ラヴァレイが手を振るとウリスは気絶し沈黙した。

「……」

るう子はそれに怖気が走ったが、負けずに続ける。

「だけど交渉はできると思います。ゲームをやめさせるとかじゃなく、多分クリア条件の一つとして」

764distract ◆WqZH3L6gH6:2016/09/05(月) 05:15:52 ID:IoUHUwsQ0

あの時のるう子には言えなかった、心の奥に秘めたカードゲームユーザーとしての推理。


「つまりセレクターバトルは主催のルールの範疇だと」
「そうだと思います。るうが知る限り繭はゲーム崩壊に繋がることは簡単に許容したりしません」


ラヴァレイは得心し密かに歓喜した。
少なくとも闇雲に優勝を目指すよりは生存できる可能性が見えてきたから。
ただそれは皆殺し行為への回避から来る安堵ではなく、こちらが有利になる状況からの喜びに過ぎないが。

るう子は黒カードをホワイトホープに戻すと、ルリグカードを取り除き、デッキを彼に向けた。
吐く息はこれまで以上に荒い。


「何かね?」
「ラヴァレイ……さんの目的はあなたも含めた全参加者の……破滅ですか」


ラヴァレイは一瞬、何世迷い言を言ってるのだと思ったが、その言葉はウリスの事を指しているのだろうと判断し返答した。


「いや、私は元の居場所に戻れればそれで構わない」


嘘は言っていない。だが真実を伝えきってもいない。
彼は元の世界の帰還が目的だが、それは世界を滅ぼすバハムートの力と共にだ。
もし、この舞台でバハムートを得られれば間違いなく殺戮に力を行使するだろう。


「……」
「もし、余裕ができれば君達の目的を手伝うのも吝かではないが」


るう子はラヴァレイが悪党だと思っている。
しかし自己含めた全ての破滅が目的なウリスと違い、自らの保身が目的なプレイヤーなら話が通じると思った。
タマの救助も交渉に踏み切った理由でもある。これ以上、翻弄され何もできないでいるのが嫌だった。
るう子は黙って頷く。言葉には出さない。

「次の質問いいかね?」
「はい」
「セレクターは誰にでもなれるものかね?」
「ルールを覚えればなれます。無限……少女になれるかは人それぞれですけど」
「他のゲームでは代用はできないのか」
「るうが知るかぎりでは無理ですけど、ここではどうだろ?」


ラヴァレイはタマ除くルリグデッキをるう子から回収する。
そして、先程気絶させたウリスを猫車に乗せる。


「ウリス君の事聞いていいかね」
「……いいですけど」

765distract ◆WqZH3L6gH6:2016/09/05(月) 05:17:46 ID:IoUHUwsQ0

気が進まない。ウリスは心はともかく肉体はるう子が好感を抱いた浦添伊緒奈本人のもの。
いくら悪党とはいえむざむざ命を奪わせさせるような行為は許容したくなかった。

「何、悪いようにはならないと思うよ、ウリス君も賢いからね」
「……」


殺されないようにまともな返答をしてほしいとるう子は思った。
るう子は思うままを説明する。
ラヴァレイはそれを聞き、そのままでは使えないなと思った。
3人は向かう、ある地点へ。


「あの竜について心当たりはないかね?ああ、別に似ているものでもいいんだ」
「……ドラゴンならウィクロスにもいますし、あれだけ不思議な現象があったらどこかで同じような存在はいてもおかしくない、かな?」
「……時空を超える力はあるか?」
「カード内の設定、たぶん創作ですけどあってもおかしくないような……」
「伝承だが、私のいた世界のバハムートは時空を超える力があるのだよ」
「えっ」
「恐らく繭はその力を使って我々を拉致したと思われる」
「……何で知ってるんですか?」
「私というか我々はバハムート対策が任務だったからね。ある程度知っていてもおかしくはないだろう」

嘘は言っていない。真実も伝えきっていないが。
るう子も鵜呑みにはしてない。

「そうですか……」
「セレクターバトルはいつから始まったか解るかね」
「何年も前から行われています……ごほっ……」
「……るう子君、水でも飲んではどうかね。このままでは見ていられん」
「……はい」

るう子は足を止め、青カードと黒カードを使い風邪薬を服用する。


「君の思惑が叶うといいな」

一息ついた彼女に掛けられたのは優しい言葉。
上辺だけの、見透かそうとする悪意の込められたもの。
るう子はそれにしぶしぶ頷くと、これまで忘れていた参加者の事を思い出す。

池田華菜と神代小蒔。
宮永咲いわく友人の一人と、直接試合しなかった対戦チームの一人。
池田はまだしも、小蒔については咲さんからどうこうしたいとは言われていなかった。
だが、おおまかな特徴は伝えられていたし、咲さんを喪った直後はなんとか合流し協力しあいたいと思っていた。

なのにるう子はついさっきまで彼女達の事を忘れていた。
タマの事にしても、元いた世界での目標 全ルリグの救出にしてもそう。薄っぺらな物になりかけていた。
少女はウリスを見る。
今のるう子にしてみれば確かに最低と言われても仕方のないたいらく。
だから忘れない。虐められたタマを前にようやく湧き上がった思いを。
こちらが悪く思われてもいい。これ以上何もしない選択を選ばないためにも。
他者の悪意を抑える為にも。たとえ不可能に思えても。

766distract ◆WqZH3L6gH6:2016/09/05(月) 05:19:49 ID:IoUHUwsQ0

るう子はウリスの腕輪を見た。傷一つ無いように見える。
ラヴァレイの腕輪を見た。こちらも傷一つ無いように見える。
最後に自分の腕輪を見る。何度か叩いたはずなのに傷一つ無い。


「ラヴァレイさん」
「?」
「タマが見えるんですよね」
「普段は見えないのか?」
「はい」
「セレクターバトルもセレクターとルリグ以外は感知できない」
「……」

ラヴァレイは興味深げに見るが、これ以上の反応はなく。
様子から推理に行き詰まったと判断し、興味を失い視線を逸らす。
目的地までもうすぐ。
先は『死の瞬間を捉えた道』か未知なる出入口か。


半ば朦朧とした意識の中、彼女は考えた。
白カードは無効化できないけど、腕輪は腕輪を強い力をぶつければ壊せるんじゃないかと。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




【D-2/地下通路/一日目・夜】

【ラヴァレイ@神撃のバハムートGENESIS】
[状態]:健康 、上機嫌、セレクターバトルに強い興味
[服装]:普段通り
[装備]:軍刀@現実、定春@銀魂、ホワイトホープ(タマ除くカードデッキ)@selector infected WIXOSS
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
    黒カード:猫車@現実、拡声器@現実
[思考・行動]
基本方針:手段を選ばず生還し、可能ならバハムートの力を得たい。
0:地下闘技場に向かうか、新しい地下通路出入り口に向かうか。
1:るう子を利用し勝者になるべく立ちまわる。 それが無理なら即座に殺し、優勝狙い。ルリグデッキを探す。
2:ウリスが目覚めれば質問をし、その反応で今後の扱いを決定する。
3:アザゼルと夏凜と神威は殺したいが無理はしない。
3:セルティ・ストゥルルソンか……一応警戒しておこう。
5:本性はるう子とウリス以外には極力隠しつつ立ち回るが、殺すべき対象には適切に対処する。
[備考]
※参戦時期は11話よりも前です。
※蒼井晶が何かを強く望んでいることを見抜いていました。
※繭に協力者が居るのではと考えました。
※空条承太郎、花京院典明、ジャン=ピエール・ポルナレフ、ホル・ホース、ヴァニラ・アイス、DIOの情報を知りました。 ヴァニラ・アイス以外の全員に変身可能です。
※坂田銀時ら銀魂勢の情報を得ました。桂小太郎、神威等の変身が可能です。

767distract ◆WqZH3L6gH6:2016/09/05(月) 05:20:27 ID:IoUHUwsQ0
【小湊るう子@selector infected WIXOSS】
[状態]:全身にダメージ(小)、左腕にヒビ、風邪気味(服薬済み)、体力消費(中)、精神的疲労(中)
[服装]:中学校の制服、チタン鉱製の腹巻 @キルラキル 、タマのルリグデッキ@selector infected WIXOSS
[装備]:
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(7/10)
    黒カード:黒のヘルメット、宮永咲の白カード、キャスターの白カード、花京院典明の白カード、ヴァローナの白カード
          風邪薬(4錠消費)@ご注文はうさぎですか?
[思考・行動]
基本方針:自分が悪く思われてもいいから、これ以上被害を出したくない。繭の思惑が知りたい。
0:どこに向かっているんだろう?
1:悪事を働かない分にはラヴァレイに協力する。ラヴァレイとウリスによる被害を防ぎたい。
2:ゲームの打開方法を模索する。
3:白カードを集めたい。
4:遊月と夏凛さんが心配。あとアザゼルさんも。
5:死んでしまった人の事は忘れない。
[備考]
※チャットの新たな書き込み(発言者:D)にはまだ気付いていません。
※セレクターバトルは主催のゲームの一部と推測。



【浦添伊緒奈(ウリス)@selector infected WIXOSS】
[状態]:全身にダメージ(大)、疲労(中)、気絶、ラヴァレイに対する不満(大)
[服装]:いつもの黒スーツ
[装備]:ナイフ@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(17/20)、青カード(17/20)、小湊るう子宛の手紙
    黒カード:うさぎになったバリスタ@ご注文はうさぎですか?、ボールペン@selector infected WIXOSS、レーザーポインター@現実
         宮永咲の不明支給品0〜1(確認済、武器ではない)
[思考・行動]
基本方針:参加者たちの心を壊して勝ち残る。
0:…………………
1:使える手札を集める。様子を見て壊す。
2:"負の感情”を持った者は優先的に壊す。
3:使えないと判断した手札は殺すのも止む無し。
4:可能ならばスマホを奪い返し、力を使いこなせるようにしておきたい。
5:それまでは出来る限り、弱者相手の戦闘か狙撃による殺害を心がける
[備考]
※東郷美森が犬吠埼樹を殺したという嘘をチャットに流しました。
※変身した際はルリグの姿になります。その際、東郷のスマホに依存してカラーリングが青みがかっています。
※チャットの書き込み(3件目まで)を把握しました。

768 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/05(月) 05:22:26 ID:IoUHUwsQ0
仮投下終了です。
指摘等があればよろしくお願いします。

769名無しさん:2016/09/05(月) 16:27:33 ID:Hk86HAcI0
>>768
るう子が腕輪を壊せるのではないかと推測していますが
確かるう子は咲の死に際に腕輪を壊そうとして失敗していませんでしたっけ

770名無しさん:2016/09/05(月) 21:06:45 ID:jq4GB8Qk0
自分の力じゃ無理だったけど他の超常の力を使えばあるいは、ってことなんじゃないでしょうか

771 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/05(月) 22:18:46 ID:tpqMz1XU0
>>769
>>770さんの超常の力をという〜そんな感じです。解りにくくてすいません。
その辺を含めていくつか微修正し、明日の朝に本投下したいと思います。

772 ◆X8NDX.mgrA:2016/09/08(木) 21:25:22 ID:mah/nPlc0
仮投下します

773Nothing But a Dreamer ◆X8NDX.mgrA:2016/09/08(木) 21:29:06 ID:mah/nPlc0

 瀟洒な印象の部屋がある。
 入り口から見て正面奥に位置する大きな机、それと同じデザインの椅子に、その男は腰掛けていた。
 男は左腕にした時計をちらりと見やると、わずかに目を細めた。

「ふむ、そろそろゲームの開始から十八時間か。
 駒の数も随分と寂しくなったものだ……そう思わないか、ユウジ?」
「……」

 ワイングラスを傾けて、ヒース・オスロは傍らの青年に訊ねた。
 日本人離れした銀色の髪と赤色の瞳が目立つ青年は、表情を変えず無言のまま。
 そのことに気を悪くした様子もなく、オスロは言葉を続ける。

「彼女……繭の知り合いは、まだ三人もいるらしい。
 よほど幸運なのか、はたまた手心を加えているのか……まあ、知ったことではないがね」

 オスロはある目的の元で、このバトルロワイアルをお膳立てした。
 しかし、繭とオスロの目的は同一ではない。
 そもそも、オスロにとって繭は一つの道具に過ぎない。
 異なる世界線から招かれた参加者たちで、開かれるバトルロワイアル。
 そんな、言わば「お遊戯会」の主催者に相応しい者として、繭が選ばれたというだけの話。

「この盤上から、どうゲームが展開していくか……。
 『彼』は生き残ることができるかな?どう思う、ユウジ。はははっ」
「……」

 愉快そうに笑う主人と、能面を崩さない従者。
 ゲームの進捗状況を肴に、オスロはつらつらと話し続けるだろう。
 バトルロワイアルが終局に至るまで、このやり取りは続くに違いない。

「……談笑とは余裕ですな」

 ――第三者がここに訪れない限りは。




774Nothing But a Dreamer ◆X8NDX.mgrA:2016/09/08(木) 21:30:12 ID:mah/nPlc0

「おや、ミスター時臣。お勤めご苦労様」

 男性はドアから悠然と歩き、オスロのデスクへと近づいた。
 その立ち居振る舞いは、誰が見ても紳士であるその男性――魔術師・遠坂時臣は、渋い顔でこう告げた。

「なぜ私に連絡を取らないのです?」
「連絡とは?」

 とぼけた返答をするオスロに、時臣は渋い顔のまま返した。

「この島を隠匿する結界についてです。
 結界の基盤は既に二か所が破壊されています。すぐにでも修復作業に取り掛かりたい」
「ああ、そのことか……」

 面倒くさそうに視線を逸らすオスロ。
 その姿を見て、時臣は更に眉間に皺を寄せたが、何かの言葉をかけるよりも速く、オスロが弁解を始めた。

「連絡をしなかった理由は、その必要がないと判断したからだよ。
 結界は四つの基盤から成り立つのだから、一つや二つ壊れたところで、完全に崩壊するわけではない。
 それにまさか、簡単に崩壊しかねない程度の結界を構築されたわけでもないだろう?
 由緒ある魔術師一族の当主様ともあろうものが」

 あからさまな嘲りを入れるオスロに、時臣は厳しい視線を向けた。
 年齢は四十近いと推察される目の前の男と、時臣が出会ったのはつい数日前のこと。
 数週間前、遠坂家と古くから交友のある、言峰璃正から連絡が来たのだ。



『急にお呼びだてして申し訳ありません』
『いえ、構いませんよ。それで、用件というのは』

 遠坂の私邸にて、時臣と璃正の二人は監視や盗聴にも配慮した上で会談を開いた。

『まず、この件に聖堂教会は関与どころか、認知すらしていない。
 あくまでも、言峰璃正という個人からの頼みだと理解して頂きたいのです』
『承知しました。……わざわざ人払いまでする内容なのですか?』
『ふむ、どう話したものか……』

 いかにも話しにくそうに、老神父は頭をひとつ掻いてから、意を決したように口を開いた。

『数年後の聖杯戦争に際して、準備を進めておられることでしょう。
 その目的は無論、根源への到達を成すこと――だが、もしもの話。
 “聖杯の力を得ずとも根源に到達できる”と聞いたなら、どう思われますかな?』
『な、それは――』

 時臣は瞠目した。
 根源。およそ全ての魔術師の悲願であるはずのもの。
 万物の起源にして終焉、この世の全てを記録し、この世の全てを創造できる座標だ。
 始まりの御三家とされる遠坂、マキリ、アインツベルンは、聖杯を再現することでその奇跡を成そうとしていた。
 時代は流れ、今や根源への到達を真摯に求めるのは、遠坂家だけとなってしまったが。
 その手段の話となれば、どうしても無視はできない。

『私の古い知人に、とある依頼をされたのです。優秀な魔術師を紹介してほしいとね。
 依頼自体は一端の魔術師なら簡単にこなせるものです。ただ、根源への到達の手段を示唆していた辺り……』
『神父が遠坂家と懇意にしていると、知った上でしょうね』

 根源への到達というエサをちらつかせて、璃正神父に遠坂時臣へと話を持ち掛けさせる。
 璃正神父の知人が、時臣が依頼を受けることを望んでいるのは間違いなかった。
 聖杯も無しに根源への到達を成せるなど、眉唾物の話ではあるが。

『……いいでしょう。話の真偽を確かめたい。
 璃正神父、話を通しておいてもらえますかな』
『ではそう伝えておきましょう。くれぐれもお気をつけて。依頼主の名前は――』

775Nothing But a Dreamer ◆X8NDX.mgrA:2016/09/08(木) 21:31:07 ID:mah/nPlc0

(ヒース・オスロ……。魔術結界を張ることを依頼してきたのは其方だというのに、どういうつもりだ?)

 その後、オスロと出会い依頼内容を確認した時臣は、その容易さに拍子抜けした。
 依頼とは、殺し合いを隠蔽するための装置、すなわち結界を張るだけだったのだ。
 それ自体は当然だろう、と時臣は感じていた。
 魔術は秘匿されるべきもの。魔術師の鉄則を厳格に守る身としても、遊戯の隠蔽自体はなんら不自然に感じない。
 しかし、その結界を張り終え、殺し合いが本格始動してからが問題だ。

(セイバーの『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』により病院は倒壊。
 それに、度重なる戦闘の結果として放送局は崩落。
 結界の基盤とした四か所のうち二か所が、既に修復が必要な状態だというのに……)

 確かにオスロの言う通り、結界は基盤の全てが壊されるまで効力を持ち続けるが、それでも限度がある。
 危うい状態で放置するのは、隠蔽という本来の意図を外れている。
 時臣は目の前で悠然と構える男を観察した。
 魔術回路の脈動を感じることはない――つまりは、魔術的素養を全く持ち合わせていない。
 油断のない物腰から、完全なる一般人ではないと見受けられるが、それでも魔術とは無縁の生き方をしてきたに違いない。

(……この男は魔術を軽んじているのだろう。
 大方、結界の重要性もそれほど考えていないに違いない)

 魔術のいろはも知らずに、上からの命令を聞いているだけ。
 結界の修復は頼まれていないからする必要がない――時臣には、オスロがこう考えている怠慢な人間に見えた。

(となると、根源への到達もいよいよ信憑性が薄くなる)

 オスロ自身が殺し合いの主催者に利用されるだけの存在ならば、その口から出た根源への到達はおそらく虚言。
 全ては時臣を釣るための文句だったと考えられる。

「そう睨まないで欲しいな、ミスター時臣」
「これは失敬。しかし、私は魔術師として不十分な結界を放置するというのは看過できない。
 依頼された仕事であれば猶更のこと。それは理解して頂けるでしょう?」

 時臣は半ば高圧的に、結界の修復作業を認可させようとしていた。
 オスロに説いた意図も確かにあるが、それ以上に時臣自身の矜持が、おめおめと退室することを拒んだのだ。
 すると、ため息をついて、オスロは椅子に深くかけた。

「……少し話し合おうじゃないか。今後のことも含めて」
「ありがとうございます」

 時臣はオスロに促されて、机の前にあるソファに腰掛けた。
 オスロが傍に立つ青年に「お飲み物を差し上げなさい」と命じると、青年は時臣に一礼し、足音も立てずにドアから出て行った。
 まるで御三家の一角、アインツベルンのホムンクルスを思わせるアルビノ。
 オスロと同じく魔術の脈動は感じないものの、何か妙な雰囲気を漂わせている。
 時臣の直感は、青年は単なる執事役ではないと告げていたが、今は指摘する理由も必要もない。
 そうこう考える内に、オスロが改めて話を切り出した。

「さて、ご協力には感謝しているよ、ミスター時臣。
 この殺し合いには魔術に関わる参加者もいる以上、君のように優秀な魔術師の存在は不可欠だった。
 とはいえ結界を張り終えた時点で、君から得たい力添えは充分。
 あとは結果を待つだけだ。君の求めるものが、いずれ掌中に収まるときが訪れるだろう」

 暗に結界の修復作業は不要だと告げたオスロ。
 話をはぐらかして終わらせるつもりだと時臣は察知して、別の問いをぶつけた。

776Nothing But a Dreamer ◆X8NDX.mgrA:2016/09/08(木) 21:32:11 ID:mah/nPlc0
「ところで、そもそもこの殺し合いは何が目的なのでしょう。
 集めて殺し合わせるという形態は蟲毒のようにも思えますが、それにしては実力差に幅がありすぎる」

 殺し合いの情景は、時臣も“窓”から観察していた。
 無垢な女子高生から『セイバー』のような英霊まで、多種多様な人選には些か驚いたものだが、殊更それを嫌悪することはなかった。
 魔術や呪術といった世界に足を踏み入れていれば、外の世界から見て残酷に思われる儀式も多く存在する。
 根源への到達の手段としては疑わしいが、この殺し合いも何らかの儀式の側面があると時臣は考えていた。
 ただし、それにしては力の優劣があまりに大きすぎるとも感じていた。

「フ、フフ……」

 問われたオスロはニヤニヤと笑う。
 何を馬鹿なことを質問するのだとでも言うように。

「どれだけ実力に差があろうとも、殺さなければ殺される状況下なら、人は誰でも殺せるさ」

 言われて時臣は、今までに見た死者の姿を思い出した。
 スクールアイドルが麻雀少女を殺した。
 神樹に選ばれた勇者が槍の英霊を殺した。
 喫茶店の店員が快楽殺人鬼(シリアルキラー)を殺した。
 この殺し合いにおける死者は、必ずしも強者に蹂躙された弱者ばかりではない。

「極限状態の中で殺し殺される、その過程に意味がある。
 なぜなら、この殺し合い自体が、根源へと至るための手段なのだから」
「根源へと至るための手段……?」

 唐突に出た核心の言葉に、時臣は疑念を隠せなかった。
 結界の重要性を無視するような無知な男を信用していいのか、と。
 虚言や妄言の類ならば即座に一蹴するつもりで、オスロが続きを語るのを待った。

「不思議に思わなかったかい?参加者が一様に嵌めた“腕輪”を。
 理不尽な殺し合いに従わせる抑止力としてなら、毒物や爆弾でも事足りる。
 それなのに、用意する時間も手間もかかる“魂を吸い取る腕輪”を使う理由はなんだ?」

 一呼吸置いて、オスロは天気について話すかのような気軽さで言った。

「答えは簡単。魂を封じ込めたカードが、根源へと至る鍵となるからだ」

 根源へと至る鍵。
 時臣はオスロの言葉を反芻する。
 遠坂家が追求してきた願望の手がかりが、そこにあると感じて。

「魂とは意志。死ぬ間際のそれはとても強く光り輝いている。
 その強い意志のエネルギーをカードに封じ込める。ここまでは分かるかい?」
「……えぇ」

 この説明を、時臣は簡単に理解することができた。
 魔術師の備える魔術回路は、通常時は普通の人間と同様の神経として存在しており、精神面のスイッチにより反転して機能する。
 つまり、精神と魔力の間には関係性があるのだ。
 わざわざ殺し合わせる理由も、精神を平常時と異なる状態で封じ込めるためだと言われれば納得できた。

「そうして出来た参加者のカードが重要な鍵となり、根源への道筋は開かれる。
 もちろん、その鍵を使用できる者は選ばれている。少なくとも優勝者は確実だろうね」
「……その鍵の使用には資格がいるという訳ですか」

 時臣は冷静に相槌を打ちながら、心中では油断なく思考を巡らせていた。
 必要な資格と、それを得る方法を暗に聞き出せれば、根源への到達ができるのか、と。

777Nothing But a Dreamer ◆X8NDX.mgrA:2016/09/08(木) 21:32:56 ID:mah/nPlc0
「時に、ミスター時臣。WIXOSSという遊戯を知っているかな?」

 とはいえ、全ての思惑が上手くいくとは限らない。
 オスロの唐突な話題転換により、それ以上の追及は難しくなった。

「ウィクロス?いえ、世俗の遊戯には疎いものでして」
「ならば、教えてあげよう――」

 そして、オスロが時臣へと告げたのは、世間の大半が三流芝居と酷評するだろう物語。
 たった一人の少女が、新たな世界を創造して、現実世界にその原理(ルール)を持ち込むなどと。
 しかし、今しがた殺し合いの意味を聞いた時臣は一笑に付すことができない。

「……俄かには信じがたいですな」
「しかし事実なのだよ。信じるか信じないかは別にして、ね」

 オスロは口元に笑みを浮かべている。
 話は一応理屈が通っているので、虚言や妄言と一蹴できないのがもどかしい。
 まさしく「信じるか信じないか」は時臣に委ねられているというわけだ。
 結局、時臣は適当な相槌を打ちながら話を聞くしかなかった。

「そして、その遊戯を創造した少女というのが――おや、ようやくお茶が来たようだ」

 いよいよ核心に迫るタイミングで、話の腰を折るようにオスロは時臣から目を逸らした。
 時臣が反応するよりも早く、銀髪の青年はソファの横に居た。
 気付けなかったのは、魔術師としてオスロの話の続きに興味を引かれていたからだ。

「……おっと、ミスター時臣。ここは一旦退室願おう」

 しかし、青年にティーカップを配ろうとする様子はない。
 オスロの言葉で、時臣は第三者が訪問してきたことを察した。
 改めて振り向けば、やはりドアのそばには幼気な少女が立っている。
 薄緑の色の髪をした少女――オスロが「繭」と呼んでいるその娘の詳細を、時臣はまだ知らされていない。

(あるいは、この少女が?……まさかな)

 この薄幸な雰囲気の少女が、根源へ至る資格を持つのだろうか。
 否定しつつも断定はできない状況に、時臣は再びもどかしさを覚えた。

「やあ、繭。放送は無事に終わったかい?」
「ええ……それより、いくつか相談があるの。
 まずはアーミラの魂が封じられたカードのこと……」

 少女には似合わない事務的な会話に後ろ髪を引かれながら、時臣は部屋を去る。
 最終的に結界の修復は許可されなかったが、それはもはや二の次だ。
 根源への到達、その手段が未だ抽象的であるにせよ明かされた。
 自らの手で悲願を達成するためにも、時臣はその手段をどうにかして知らなければならない。

(白いカードが鍵となる、か……)

 しばしの黙考の後、魔術師が向かった場所は――。




778Nothing But a Dreamer ◆X8NDX.mgrA:2016/09/08(木) 21:33:25 ID:mah/nPlc0


「ふう、繭のお陰で助かったよ」

「なんのこと?」

「此方の話さ。気にしなくてもいい」

「……まあいいけど。とにかく、よろしく頼むわよ」

「もちろん、協力は惜しまないさ」

「それならいいの。それじゃ」

「一ついいかな、繭」

「なに?」

「このゲーム、楽しんでいるかい?」

「――ええ、とても」



※島には結界が張られており、結界の基点が四つ、どこかに存在します。
 既に病院と放送局の二つの基点が破壊されています。

779 ◆X8NDX.mgrA:2016/09/08(木) 21:41:04 ID:mah/nPlc0
仮投下終了です。
指摘等あればよろしくお願いします。

780名無しさん:2016/09/08(木) 21:49:19 ID:sJ4CwdYY0
仮投下乙です。
ゲーム破壊に必要な条件が一つ明かされましたか。
腕輪の謎にも一歩踏み込んだ内容で名実ともに終盤になってきた感じでよかったです。
それだけに今回の繭が不気味。あとどれだけ共犯者がいることやら。
本投下に問題はないと思います。

781 ◆X8NDX.mgrA:2016/09/09(金) 07:00:14 ID:WPRQ5LUg0
>>780
ありがとうございます。
仮投下終了時刻より一日待って、なんらかの指摘も来なければ本投下します

782 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/15(木) 05:42:21 ID:zUQ.LMKE0
仮投下します。

783タイトル未定 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/15(木) 05:43:28 ID:zUQ.LMKE0
ここはC-5 駅。
神威は電車から降りた後、駅構内のベンチに腰掛けていた。
手元には絢瀬絵里に渡された黒カードが数枚。
彼は黒カードを順に元の形に戻し、DIO討伐の前準備を進めていく。

あの時、セイバーからDIOは日没後にDIOの館と落ち合う約束をしていると聞いた
DIOとセイバーが約束を守るなら、セイバーは神威にとって邪魔者になる可能性が高い。
数刻前の彼ならセイバーと再会後すぐに必滅の黄薔薇を折って呪縛を解放していたに違いない。
DIOと彼女との2対1の戦闘に持ち込まれる可能性が見えたとしても。
だが、今の彼にとってDIO討伐は最優先事項であるからして、セイバーとの戦闘は今は望んでいない。
ゆえにどうやってセイバーに対処しようかと考えたが答えは出そうもなく、
黒カードに対多人数向けの武器が確認できたもあって、その時になってから考えようという
いつもの彼らしくもある結論を出し、その考えを打ち切った。

ある1枚の黒カードを戻すとそれは数冊の本に変わる。
本にはいずれもウィクロスカード大全と記されていた。全5冊。そのウィクロスという単語には見覚えがあった。
12時間近く前セイバーに譲渡したカードの束、ウィクロス ルリグデッキ『レッドアンビジョン』。
神威はあの時、有益とは思えなかったから詳しく確認せずにいた。

何気なく初巻を手に取り流し読みしていく。
ざっと内容をみるとカードのイラストと内容が書かれている簡素なものだった。
内容がただそれだけなら、神威は飽きて次の黒カードの点検に移っていただろう。
だが巻末に近いページでのある項目を見つけた時、それは彼の興味を引いた。


『参加者様に支給されたルリグカードについて その1』


それには4ページに渡り、『花代』というルリグの利用方法について書かれていた。
花代というルリグに関連するカードについては別の項目でも扱われていたが、
今読んでいるページはそれまでの遊戯のルールのとは違い、今ここで行われている殺し合いについてのもの。


「スペルは本ゲームでは扱えませんが、形だけならほぼ再現する事は可能です……か」


ルリグの必殺技扱いであるアーツと異なる補助カード スペル。
漠然としか把握していないものの、スペルはカードゲームの範疇にしかない記号と判断しそれ以上考えるのをやめる。
問題はアーツの方。他の巻も開き、読むと花代とは別の支給ルリグの説明があった。
彼女らのアーツは神威から見て、どれも参加者が殺し合いを勝ち抜くのに有益なものと判断できた。


「……って、あの時の友奈ちゃんの技なのかなぁ?」


本能字の乱戦時、いきなり強くなって少なからず神威にダメージを与えた少女 結城友奈。
花代のアーツにはあの時の彼女の変容を髣髴とさせるような説明があった。
セイバーは殺し合いに乗った参加者。余程の事がなければ先程別れた絢瀬絵里らの脅威であり続ける。
意図せずとしてセイバーに切り札を与えてしまった神威はしばし考えこむ。


「……」

784タイトル未定 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/15(木) 05:44:29 ID:zUQ.LMKE0
先の事は解らないし、切りがないと結論付け読書を再開する。
乗っていない参加者とあったら伝えようかなと思いながら。


「……ルリグって沢山いるんだなあ」


その数は軽く50を超えていた。カードゲームの形式上プレイヤーの分身の役割を持つルリグは多種でない方が商品としてもゲームツールとしても扱い易い。
なのにその数は多く、専用カードのないルリグも珍しくなく、その全容はアンバランスそのものに思える。
ゲーム自体ほとんど興味のない神威から見てもそれは異常に見えた。
彼はある事に思い至り、ルリグ達の名称を確認しつつ腕輪を作動させる。
白カードに参加者名簿が映し出された。


「……紅林 遊月と浦添 伊緒奈(イオナ)かあ」


ルリグ一覧で確認できた名前2つ。そして参加者名簿にも確認できる名前2つ。
支給ルリグではないが、もし他の参加者が大全を読めば主催絡みで2人に興味を抱く事はほぼ間違いないと思える。
神威は絵里から離れる前に黒カードを一通り確認すればよかったかなと思った。
聡明そうな彼女になら面白い感じに推理をしてくれそうと期待できたから。
彼は本を閉じ黒カードに戻し、次のカードを検分する。程なくして渡された黒カードは最後の1枚になった。


(これは)


絵里が強調しながら渡していたから覚えがある。
妹 神楽の支給品で遺品となった血痕が多く付着した黒カード。
空っぽに限りなく近いはずの自分に何かが流れるのを感じる。
彼は素早くその黒カードを元の形に戻した。

-------------------------------------------------------------------------------------------------

駅から出て、すぐ近くにベンチがいくつかあった。
神威は真夜中にそこで眠り続ける栗色髪の短めのツインテールの少女がいたのを覚えている。
彼は意識してそちらに足を運ぶ。あの少女の姿はなかった。
だが少女がどうなったかはベンチに残された大量の血痕が答えを出していた。


「あのまま殺されるとはね」


最後に見た時は路上で眠る姿。
血痕の位置から察するに一度目覚めて他のベンチに移動したか、あるいは他の参加者に気遣われて運ばれたかしたのだろう。
もう少し先の方にも大量の血痕が確認でき、壁に落書きのような跡もあった。
どちらにせよ眠り姫は抵抗すること無くあのまま殺されたのだろう事は見て取れる。
信じがたいが最初から生を放棄していたとも取れる有様であった。

「はぁ……」

神威の口からため息が漏れる。そのまま去って目的地へ行こうと思った。
しかし先ほどの黒カードの検分の際、己と妹の不足を認識させられたこともありもう少し調べる事にする。

785タイトル未定 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/15(木) 05:45:09 ID:zUQ.LMKE0

調べれば発見した血だまりの周囲には目立たないが、移動痕と見れる少量の血痕が見つかった。
それを辿ることにする。


「見つけた」


駅前の掲示板の影にそれらは隠されるように安置されていた。
半日前に発見した眠り姫の両断死体とやや小柄な少女の首なし死体が一つ。
そしてそれぞれの遺体の脇に置かれた2枚の白カードと1枚の黒カード。
遺体を移動させた者の意図は人道的なものであるのは神威にも理解はできた。


「……」


次に彼が興味を持ったのは白カード。それぞれには死亡者の顔が映し出されている。
人道的な理由ではないにしろ一度は纏流子の魔の手から助けた少女。
眠り姫の無残な死体に対し哀れみや憤り、嘲りなど自分を揺るがすほどの情は湧かない。
ただどういう人物だったのかというちょっとした好奇心は湧いていた。
それは妹へのささやかでひねくれた対抗心から来たもの。


神威は番傘とは別の支給品を神楽が一度目に止めていたのは知っている。
軽く調べただけで遊具品と判断し、それ以降使おうとしなかったのも。
彼はそれを推測できたからこそ、そっち方面では一歩先を行ってやろうかとぼんやりとでも思った。
骨組みか、殻のみになったバカ兄貴の意地にかけて。


神威は白カードを2枚拾い上げると、黒カードにも手を伸ばす。
黒カードを元に戻すとそれは動物を模したポーチだった。彼はそれは置いていく事にした。
もう1枚はついでだが、眠り姫の白カードがあれば他の参加者から情報を聞き出すには充分かと思ったから。


「そう言えば」


参加者の事を知っているのは何も他参加者や主催のみとは限らない。
人並みの知能を持った支給品なら知っていてもおかしくはないはず。
神威は遺体から離れると神楽の形見の黒カードを変化させる。
その黒カードにもう血は付いていなかった。

-------------------------------------------------------------------------------------------------

「あっ待って。そこに誰かいるみたいだよ」

DIOの館へ走る神威は神楽の支給品であった青のルリグ――ミルルンに呼び止められた。
彼は速度を落とすと、指さされた方向へと向かう。
横切る風景は超常の力を用いた戦闘痕が散見される。ミルルンは驚嘆の声を小さくあげた。


「墓標か……」

786タイトル未定 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/15(木) 05:45:45 ID:zUQ.LMKE0


神威の目前には墓が2つあった。墓前には赤カードと青カードが備えられている。


「藪蛇かなあ……」


ミルルンのバツの悪そうな声を聴きながら、彼は一方の墓が誰なのかを確かめた。


「友奈ちゃんか」


周囲の破壊跡は彼女の力によるものと推測できるもの。
ミルルンは、トーンはさっきと比べ落としたまま神威に言う。

「さっきと比べて強い気配が3つある」

白カードの事かと神威は判断した。
ルリグには同属以外にも魂が封じられた白カードを朧気ながらも察知できる力がある。
先ほどの2枚より強い力があるということなのだろう。
だがどうしたものか。白カードは土中に埋められた状態のようである。
それを掘り起こすのはマズいのではという迷いが少々ながらもあった。それはミルルンの表情にも表れている。
神威は素面で繭のゲーム開始前の説明を思い出していた。


(死んだ人の魂は白いカードに閉じ込められ、永久の孤独を強いられる、か……)


墓とは死んだ人を弔うのに必要なもの。
しかし真の安らぎとやらを与えるには白カードから魂を解放せねばならない。
となると墓が本来の効用を発揮するには、魂の解放が不可欠となってくる。
ミルルンの方を向く、彼女はどちらの選択を強いることもなく神妙な顔で墓を見ている。

神威は墓前の青と赤のカードを丁重に脇に退け、スコップを出して発掘を始めた。
ミルルンから驚きの声が上がるが非難はない。

「……」


実の所を言うと今の神威に主催から死者を救いあげたいという明確な意思はない。
しかし支給品からの提案とはいえ、取るに足る行動理由を与えられれば何もしないと言う訳には行かなかった。
ルリグはそっぽを向いた。神威はあっという間に2人の少女の遺体と3枚の白カードを発掘する。


「おや?」


白カードの1枚。3人の中で一際幼い少女の顔写真にある異変を神威は発見する。
切れ込みが入ったままの白カードを。
彼は白カードを仕舞い、簡単に遺体の検死を済ませると再び遺体を素早く埋葬した。

787タイトル未定 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/15(木) 05:46:41 ID:zUQ.LMKE0
-------------------------------------------------------------------------------------------------

ここはC-7 DIOの館玄関前。
神威は保登心愛の白カードを宙に浮かせると、その端を指で弾く。
カードの端が破れ散った。だが次の瞬間に破損した箇所が音もなく元に戻った。
彼はなおも2度指でカードを弾いた。またもカードを大きく破損させるがまた元に戻る。
彼は次にカードを片手に取り、中心部分を指で弾いた。
音を立ててカードに大穴が空いた。だがそれも同じように復元された。
彼はルリグカードに視線を移した、やろうとする事を察したミルルンはノーセンキューのゼスチャーをし拒否。
神威は手を止めた。


「はー。どーいうことなんだろうね?」
「俺はDIOを倒せればそれでよかった筈なんだけどな」


黒カード確認からここまで神威がやった事と言えばアイテム集めとその考察。
柄にもないと彼は思った。現実から目を背き続けた男が。


「……」


ミルルンは言葉を続けない。今の神威の本質を理解し始めたからこそ。
地下闘技場での一戦が無ければウィクロスカード大全に対し、今と同じくらい注目はしなかっただろう。
もし坂田銀時らによってわずかでも自分を取り戻せなければ、神楽の支給品の価値に気づく事はなかっただろうし、
妹への細やかな対抗心からくる探究心も目覚めなかっただろう。
もし探究心が芽生えなえれば結城友奈ら勇者たちの白カードの異変を発見できなかっただろう。
かつて神威は最終的に主催を屠るつもりで行動していた。その為、参加者で唯一破壊された橋の修復現場にも立ち会えている。
客観的に見ずとも今の彼は対主催に関しかなりの有力者になっていると言える。しかし。


「だったら」
「先約があるんだ。まずはそっちを守らなきゃね」
「うーん。そこまでなら仕方ないかな」



それらの事実は空虚を埋めずに適わず、彼の長所を多く含める残った部分も絢瀬絵里ら対主催サイドとの共闘を拒んだ。

気が付けば日が暮れようとしている。セイバーやDIOがやって来る気配はない。
神威は玄関の方へ向くと館内部に入っていった。
休憩と情報整理がてらにミルルンにウィクロスカード大全を読ませる為に。


-------------------------------------------------------------------------------------------------

神威は館の最深部、DIOの部屋にてミルルンと繭についての情報交換をしていた。


「灰色の服なんて着て、イメチェンしたのかなあ?」
「ひょっとして俺が見た彼女とは雰囲気が違うのかな?」
「幻想的で幼気なとっても大きいカリフラワーみたいな髪をした女の子でしょ。その辺は共通してるけど何か違うんだよねー」
「君はルリグになる前に繭ちゃんとあった事はあるのかな?」
「……遭ったことはないけど、その辺は聞かないでほしいな。言うなと言われたの」

788タイトル未定 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/15(木) 05:47:35 ID:zUQ.LMKE0
「……それはこのゲームでの事かな」
「その前から」
「解ったもう詮索はしないよ。君の正体は俺が思っている通りで間違いは無さそうだし」
「……」


ミルルンは神妙に頷き、神威も納得したように話題を変える。
ウィクロス大全のルリグリストからして彼女も元人間なのだろうと神威は結論づけた。


「違うって言うのは姿じゃないんだろ」
「うん。前は詐欺同然なゲームで女の子を引っ掛けて、それを眺めて楽しんでるって感じだったけど
 話聞く分だと別の人が色々やっちゃってるって感じ。同じ子が計画したとは思えないの」
「俺はウィクロスを作った組織が今回のゲームを始めたと思っているんだけど」
「それ私も考えた事があるけど違うと思う。セレクターバトルが始まる前からウィクロスあったみたいだし。
 バトルが始まった頃から大ヒットした位だから、むしろ繭ぴーが会社を乗っ取ったってパターンが自然かなあ」
「…………彼女の協力者については手がかりなしか。
 君が初めて繭ちゃんに出会った時と、最後に出会った時と違いは無かったかい?」
「う〜ん。髪の色がちょっと濃くなったかもってくらい、かなあ?」
「元は何色だった?」
「白に近い緑だったよ」


別人という線は無さそうだねと神威は推測した。
神威が繭の容姿について尋ねたのはゲーム説明を受けた時は繭から大分離れた位置にいたから。
そのせいか、彼女の顔や髪の色にいたるまで光源の具合によって不鮮明だったからだ。
カードから出てきた竜についてもよく解らないでいた。



「次はこっちからいいかな?」
「……質問内容にもよるよ」
「私が指差している所に何があるか確かめてほしいの?」


部屋には照明などは機能しておらず。光源は腕輪から。
ミルルンが指差した先は神威が座っている寝台よりかなり高い位置にあった。
お安い御用とばかり神威は指の力だけで張り付いたように壁を登っていく。
指したその箇所には棒状の様なものの置き場所、更に上の方にもそれらは確認できた。



「既に持ち去られた後みたいだね」
「えー残念」
「……」



館の探索は神威と流子が半日前にすでに済ませてあった。
よってもし調達するに値する物品があればとうに回収しているはず。
だからミルルンが発見した置き場には元から何も置かれていない。それが事実。
神威とミルルンは興味をなくし、今後について話をしようとする。
どんな物が置かれていたとか、支給品になっている可能性とか、どこかにあるとかいう可能性は考えずに。

789タイトル未定 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/15(木) 05:48:34 ID:zUQ.LMKE0
『今晩は。三回目の定時放送の時間よ』

「!」
「……!」


そして放送が始まった。

-------------------------------------------------------------------------------------------------

放送から30分を大きく過ぎた、館外には未だにDIOの姿もセイバーの姿も見えない。


「まいっちゃうね」
「ああ」


日は完全に落ちた。


「そろそろ俺はこっちに行こうと思うんだけど異論はないかい?」
「ここまで待たせる方が悪いと思うしぃ、いいんじゃない」


ミルルンは異論があっても変える気はないのに?っていうからかうような小言を発するが、
神威はごく自然にスルーすると黒カードの1枚を武器に変える。
彼は武器を片手に館の方を指差すと言った。


「この建物壊そうと思うんだけど、いいかな」
「……。さんせーい」

両者の声には苛立ちがあった。
待たされた事もあるが、神威にとって一番腹立たしいのはそれではない。


――宇治松千夜。

先ほどの放送で呼ばれた黒髪ロングの少女。本部以蔵に保護されていた無力な参加者。
千夜の人物像に関して言えば、彼女は神威にとって心打つ存在では決してない。
恩人を救うべく助けを呼びに行く選択も、そう特別珍しいものでもない。性格的にも相容れないだろう。
だが彼女は神威が知るだけでも多くの人の命によって生かされていたはずの少女だった。

千夜が周辺に救助を呼びかけたのも、元はといえば彼女を助けた本部以蔵を助けるためであったし、
それらに応えた銀時、神楽、ファバロも自分という障害を廃除あるいは無力化するために全身全霊で挑んでいた。
なのに千夜は命を落とした。
あれだけの犠牲を出し、力も出しきった後がこれか?とやり場のない感情の波が神威の全身を駆け巡った。

神威は早足に館へ向かう。館を最後に一目見渡す。
DIOの威圧がなければ贔屓目に見てもリアルお化け屋敷。
悪く見れば猟奇要素のある娼館辺りにしか見えない。
半壊したDIOの館に神威の攻撃が繰り出された。
非力な少女でも持てば超人を殺し得る強力な武器を携えた神威に対し、館が長く持ちこたえられる道理は無く。
5分もしない内にDIOの館は倒壊した。

790タイトル未定 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/15(木) 05:50:11 ID:zUQ.LMKE0

-------------------------------------------------------------------------------------------------

「アーツは使える、それで間違いはないね」
「だいじょうぶ」
「そう」
「……」

神威が向いた先にあるはB-7にあるホテル。
彼が日中推測した通りならあそこにDIOがいるはずだ。
遭遇できるかどうかは自信がない。待機している間時間を大幅にロスしてしまったから。


「……休んでいい?」
「……」


神威はミルルンの要求に黙って頷く。
彼女の表情は沈痛の色が見て取れた。
彼の手にはカードデッキ。一部分が神楽のミスか何かでひしゃげたもの。

「カード大全続き読ませてね」

ミルルンの言葉とともに神威はルリグデッキをカードに戻す。

「ばいばいるーん」
「……」


うるさい子だなと神威は思う。けれど嫌いにはなれない。
軽薄で煩わしく見えたがそれは演技ではなく素なのだろう。
彼に対し悪意のようなものも向けられなかったのも悪印象を抱かなかった一因。
彼は知る由もないが、地下闘技場での一戦がなければ友好関係は築けなかっただろう。
邪念がほぼ失せた現状で対面できたのもお互いにとって幸いだった。


「異能は事前に察知できるか……」


ミルルンはアーツ アンチスペルの能力の一部で発動直前の異能を一つのみ察知できるという。
それに加え アンチスペルは大全の説明通りならどんな異能も一度は無効化できるとの事。
DIOとの戦いの際、彼女のアーツは彼の異能に対するカウンターになり得る。
しかしもしその機会で撃ち漏らしてしまうと、今度はミルルンが標的になる可能性が高い。
なので自分ではなく違う複数人で行動する参加者に持たせるべきと思うが、あいにく参加者の姿はない。
どこまでもままならないなと彼は苦笑した。


「……」


放送後、神威はミルルンに参加者名簿を見せゲームについても教えた。
その結果、パートナーの死を知ってしまい少なからずショックを与えてしまったのだ。
参加者名簿を見せた際にはパートナーである蒼井晶に対して悪態をいくつか付いていたが、
嫌い抜いていた訳ではなかったようだ。ミスだった。

791タイトル未定 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/15(木) 05:53:09 ID:zUQ.LMKE0
神威はさっきのカードデッキの形と元の所持者の事を思い出す。
ミルルンいわく一度元に戻され、カードが何枚かめくられたが自分に気づく間も無く黒カードに戻された。
その際、元の所持者は何かを呟いていたがそれはよく聞こえていなかったとの事だった。
もし仮に神楽がルリグカードの効力に気づいていれば、もっと上手く事を運べただろうか?
自分が妹を殺す羽目にならなくてすんだだろうか?答えはない。
なのでせめて妹と同じミスもしないと心がけようと思った。


「まったくしょうがない奴だなあ……」


ひしゃげたカードデッキの形を思い浮かべ、神威は泣き笑いに似た笑顔でそう呟いた。
彼はホテルへと急いだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【C-7/一日目・夜】

【神威@銀魂】
[状態]:全身にダメージ(小)、頭部にダメージ(小) 、宇治松千夜の死への苛立ち(無自覚、小)
    よく分からない感情(微)
[服装]:普段通り
[装備]:王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)、ブルーデマンド(ミルルンのカードデッキ、一部カードがひしゃげてる)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(24/30)、青カード(24/30)、電子辞書@現実
    黒カード:必滅の黄薔薇@Fate/Zero、不明支給品0〜2枚(初期支給)、不明支給品1枚(回収品、雁夜)
    黒カード(絵里から渡されたもの) :麻雀牌セット(二セット分)、麻雀牌セット(ルールブック付き)、トランプ(ゲームルールブック付き)
                      ウィクロスカード大全5冊セット、アスティオン、シャベル、携帯ラジオ、乖離剣エア
    白カード:蒔菜、ココア、友奈、風、樹(切れ込みあり)
[思考・行動]
基本方針:俺の名前は――
0:DIO打倒の為、ホテルへ向かう。
1:見どころのある対主催に情報や一部支給品を託したい。
2:眠り姫(入巣蒔菜)について素性を知りたい。けど執着はしない。
[備考]
※DIOおよび各スタンド使いに関する最低限の情報を入手しました。
※「DIOとセイバーは日が暮れてからDIOの館で待ち合わせている」ことを知りました。
※DIOの館は完全に倒壊させました。
※ホテルにDIOは潜伏していると思っています。
※大まかですがウィクロスのルールを覚えました。
※ルリグは人間の成れの果てだと推測しました。
※樹の白カードに切れ込みがあるのを疑問に思っています。

※白カードは通常は損壊、破壊する事は不可能です。すぐ復元されます。
 (ジョジョ6部の各種DISCみたいな感じ)
※友奈、風、樹のカードは他参加の白カードより強い力を発しているようです。


・支給品説明
【ブルーデマンド(ミルルンのカードデッキ)@selector infected WIXOSS】
神楽に支給。
蒼井晶の二代目ルリグ、ミルルンが収納されたカードデッキ。
ロワに関する説明はあまり受けていないが、アーツについては聞かされている。
外見は黒猫の髪飾りを付けた団子状の髪型をした、ノースリーブの水色ドレスを着た青髪の少女。
性格は気ままで明るい性格でマイペース。口癖は語尾にるん。
蒼井晶との関係は一見険悪だが、実のところ悪態をつきつつもそれなりに気にかけていた。
参戦時期は2期でウリスがルリグに戻る以前。

792タイトル未定 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/15(木) 05:55:40 ID:zUQ.LMKE0
※アーツ『アンチ・スペル』について。
ゲームにおいてはコストを2払う事によって発動する。
スペルならどんなに強力でも効果を打ち消す事ができる。アーツに対しては無力。

当ロワに置いては最小コスト2払う事によってアーツ以外の異能を事前に打ち消すことができる。
ただし異能のレベルが高いと払うコストが増大していく(最大6)。
エナコストは一時間休憩すると1回復する。
コストが支払えないと消費はせずに住むが、効果も発揮しない。
完全に(累積6)消耗すると、以後六時間は使用できない。
エナが万全(6)ならどんな異能も一度は打ち消すことができる。
ミルルンは使用アーツの特性上、ある程度異能を事前に察知することができる。



【麻雀牌セット(ルールブック付き)@咲-Saki- 全国編】
カイザル・リドファルドに支給。
本部以蔵に支給された麻雀牌セットとは別物。
違いは麻雀について詳細かつ解りやすい良質のルールブックが付属されている。



【トランプ@現実(ゲームのルールブック付き)】
坂田銀時に支給。
材質はそこそこ上等なものが使われている。
すぐに遊べるようルールブックまで付属している。
所有していた人が人なだけにいたずら書き等があるかもしれない。



【ウィクロスカード大全5冊@selector infected WIXOSS】
リタに支給。
初出はinfected3話より。書籍は実在しており旧シリーズ5巻まで発売されている。
ただしこれはアニメ世界でのカード大全で、しかも当ロワ仕様に変更されている。
内容はspread終盤でユキが登場する直前までのウィクロスのカードのデータが収録。
市販のカードのみならず人間が変じたルリグまで記録されているので、内容はとってもカオスである。
一冊ごとに当ロワで支給されたルリグ一体(?)の詳細(正体以外)が書かれてもおり、
アーツの効果やルリグを活用する上でのヒントが書かれている。
現在は花代、緑子、ピルルク、エルドラ、ミルルンの詳細が確認されている。
支給ルリグ タマヨリヒメやセレクターバトル、夢幻少女、原初ルリグに関する情報は記載されていない。


※レッドアンビジョン(花代のカードデッキ) アーツ『背炎の陣』について
ゲームにおいては手札を三枚捨てることにより、敵味方すべてのシグニを消し去ることができる。
使い方次第ではエナを貯める事ができる強力なアーツ。

当ロワにおいては花代がコストを3消費し、セレクターが行動後感覚の一つを失う事により発動させることができる。
いわゆる勇者の満開を再現させるアーツ。効果の詳細は使用キャラによって異なる。
消費したコストは1時間休憩する事により1回復する。



※エルドラのデッキ(ブルーリクエスト 補足)アーツ『ハンマー・チャンス』について
ゲームにおいてはライフクロスがゼロになった時のみ使用できるアーツ。
1レベルにグロウするだけで使用可、コストなしでライフクロスをに2回復させる効果がある。

793タイトル未定 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/15(木) 05:56:14 ID:zUQ.LMKE0

エルドラが手にしたピコピコハンマーで叩けば発動。
当ロワにおいては致命傷以上のダメージを受けた存在に対してのみ効果を発揮する。
エナコストはなし。一度使用した対象には二度と使用できない。一度使用すると6時間は使用不可になる制限が課せられている。
回復はダメージ(大)までが現界だが、対象がどんな状態であろうと生きていれば確実に戦闘可能状態にまで救命・回復させる事ができる。
使用条件はルリグに解るようになっているので、エルドラはある程度ダメージの度合いが解るようになっている。


※支給ルリグ共通
花代、緑子、ピルルク、エルドラ、ミルルンには繭から新しい力を与えられている。
その為アーツ(最低一種使用可能)が単独で使用可能となっている。他にも未発動の力があり?

794 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/15(木) 05:58:01 ID:zUQ.LMKE0
仮投下終了です。
ご指摘等がありましたらよろしくお願いします。
タイトルは本投下までに考えます。

795名無しさん:2016/09/16(金) 01:00:10 ID:lmkcAJRc0
仮投下乙です

アーツの詳細が分かったことでルリグの価値がぐんと上がったなぁ
完璧なDIO様キラーと化したミルルンといい空気気味だったエルドラといいルリグ勢がどう戦闘に関わってくるかが楽しみ

二点ほど指摘ですが、冒頭で「ここはC-5 駅」とありますが駅の位置はC-6です
もう一点は、同じ参加者に2度使用出来ないとはいえ、瀕死状態からの回復が6時間に1度使えるエルドラのアーツ、満開が3コスト(3時間に1回)で使える花代のアーツは少し制限が緩いというか強力すぎるなと思いました

796 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/16(金) 09:14:21 ID:vlNGjTew0
>>795
ご意見ありがとうございます。
以下の修正をした上で問題がなければ、今夜11時くらいに本投下させていただきます。


アーツ『ハンマー・チャンス』の再使用は12時間後に変更。
アーツ『背炎の陣』の再使用には6時間経過が条件を追加。
駅の位置を始めとする誤字を訂正。
デッキの破損理由を水たまりに落としたに変更。
トランプを不明支給品(武器)に変更。

797 ◆WqZH3L6gH6:2016/10/03(月) 08:45:47 ID:kY30gObg0
仮投下します。

798ヤツの時間がきた ◆WqZH3L6gH6:2016/10/03(月) 08:46:20 ID:kY30gObg0
『今晩は。三回目の定時放送の時間よ』


三回目の放送が始まった。
ホテルにいる吸血鬼主従 DIOとヴァニラ・アイスにもそれは告げられる。


『繭、つまらない結末は見たくはないもの』


日光に弱点とする我々に対する当て付けか?とDIOは内心毒を吐いた。


『まずは禁止エリアの発表よ』


今いるエリアのB-7が選ばれる事はあるまいとDIOは高をくくる。
地下通路への出入口があり、殺し合いに乗り気である2人がいる施設、殺し合いの進行の加速を願う主催者がここを塞ぐ筈がないと。


【B-7】
【C-3】
【G-7】


「……!?」

何ィ!?
DIOの胸中がざわめく。隣にいるヴァニラ・アイスかも僅かながら動揺が感じられた。


『それから、自分の支給品確認はきちんとやっておいた方がいいわよ。
 あと時間が来るまでに禁止エリア予定地を調べてみるのもいいかもね。
 思わぬ所で得るものがあるかも知れないのだから
 これは繭からのアドバイスよ』


既にホテルの探索は充分にしてある。まだ何かあるというのか?


『次は死んでしまった参加者の発表を始めるわよ』
「……」


脱落者の発表は情報不足な事もあり、今のDIOにとって内容よりも数の多さが重要である。


【衛宮切嗣】


……死んだか。先程視聴したDVDからして予想しにくい悪辣な策を用いる男でまともに相手にしたくない類の敵であったが
個人としての戦闘力はそれほどでもなかった事から脱落自体は驚くほどではない。むしろ朗報。


【東郷美森】
【リタ】
【結城友奈】
【犬吠埼風】
【アインハルト・ストラトス】
【ジャック・ハンマー】


読み上げられていく脱落者の多さにDIOの気が少々晴れていく。


【神楽】
【本部以蔵】
【ファバロ・レオーネ】
【坂田銀時】



一方で従者であるヴァニラ・アイスは神妙な面持ちで放送を聞いている。

799ヤツの時間がきた ◆WqZH3L6gH6:2016/10/03(月) 08:46:41 ID:kY30gObg0

【ホル・ホース】


「……」


奴も死んだか。一度不審な行動こそあったが、このゲームにおいても上手く立ち回っていたと取れる優秀な部類の部下だった。
死んでしまったのは仕方がない。今後の計画にも組み込まれていなかった駒……未練はない。


【宇治松千夜】
【東條希】
【香風智乃】


『全部で15人よ、15人。残り24人。
 ふふ……ここまでやる気があるなんて驚いたわ。今夜中にも決着がつきそうよね』


DIOとしても夜明け前にゲームの決着を付けるつもりだった。


『でもね、もし長引いて決着がタイムリミット寸前になったとしても、
 優勝した子にはちゃんとご褒美を上げるから心配しないで』


「…………」


DIOの困惑は強くなる。
もし追加の禁止エリアにホテルが含まれていなければ戯言と一蹴しただろうが。



『次は正子――午前0時に放送を始めるわ。また放送が聞けるといいわね』


放送が終わった。
DIOとヴァニラ・アイスは言葉を発さず、沈黙を続ける。


「……」


自尊と好奇と殺意に彩られていたDIOの心に疑問という感情が広がっていく。
今回の放送以前に感じられたゲーム推進という主催のスタンスを否定する放送をしたのは何故か。
DIOはホテルに愛着を持っている。まさか嫌がらせの為にB-7を禁止エリアに指定したのか?
地下通路の『ジョースターの軌跡』の内容からして主催がDIOを舐めているのは否定できない。
しかしそれでもだ、ゲームに忠実で優秀な我々を不利にする事にメリットはあるのか?
このホテルは夜明けまでに決着がつかない場合、引続き拠点として使える施設であるにも関わらず。
訳が解らない。
DIOは目標はそのままに今後の計画の見直しをせざるを得なかった。
主催がこちらに更なる害意を持っているなら、単純に動くのはまずいと思ったから。

800ヤツの時間がきた ◆WqZH3L6gH6:2016/10/03(月) 08:47:00 ID:kY30gObg0


「…………」


彼は熟考の末、傍らの部下の方を振り向く。
ヴァニラ・アイスは顔を少し上げ、主の命令を待った。


「執務室に行こうか。ああそれと、君の身にこれまで起こった出来事も詳しく話してくれないか?」


そう言うDIOの声は少しばかり掠れていた。

-------------------------------------------------------------------------------------------------


D:『すまないが故あって例の場所に行けなくなった。
   契約は続行するので、可能ならまたこちらから連絡する』


先ほど自分が書き込んだのも含めたチャットの文章を確認しながら、DIOは部下から提供された情報……事実を噛みしめる。


――坂田銀時


己に多大な屈辱を与えた3人の内1人。
名は地下施設『万事屋の軌跡』を確認したヴァニラ・アイスによって知らされた。
先程の放送で死が判明した、銀髪の寝ぼけ眼の口減らずな侍。


「……」


あの実力から脱落はしないと思っていたが、それでも命を落とした。
予想外であった。予想できなかった自分に対しても得体の知れない悪感情が湧いてくるのをDIOは悟った。
彼に報復する事はもうできない。その事実からもDIOの唇が怒りに歪んだ。


「戻りました」
「セイバーはこちらに来ていないようだな」


素面に戻ったDIOの問いに、ホテルの外を確認してきたヴァニラが頷く。
DIOが席を外すと、ヴァニラ・アイスはパソコンに向かい文章を打ち込む。


I:『一番目のMと、五番目のD。地下闘技場で話がある』


それはヴァニラ・アイスの策。主の許可は取ってある。
これから自分らが向かう方角に参加者を集める為のと、チャットでの頭文字を確認の為の。
DIOはその文章を見て満足そうに口元を歪ませた。

801ヤツの時間がきた ◆WqZH3L6gH6:2016/10/03(月) 08:47:44 ID:kY30gObg0

「行こうか」
「はっ」


放送前はチャットを確認してからDIOの館に向かい、そこで待っているだろうセイバーを殺害するつもりだった。
しかし放送をきっかけに、冷静さと用心深さを強くしたDIOはその選択を少々の逡巡の後切り捨てた。
セイバーにも制限が掛けられている可能性にも気づいたし、
神威のようなセイバーと同等の危険性を持ち得る未知の参加者がいる可能性にも思い至ったからだ。
地下施設『モンスター博物館』でヴァニラ・アイスが人外の情報を得たのも大きい。




2人は地下を降りていく。
行き先は地下通路 地下闘技場方面。
4箇所あると思われる地下施設の、唯一未確認の施設を確認する為に。
優勝を目指すにしても情報を得る事は有益に違いない。そのまま主催の思惑の多くをそのまま乗るのも癪だった。


ヴァニラ・アイスとの緻密な情報交換の結果、得られたものは非常に大きい。
更なる地下施設の存在やヴァニラ・アイスのスタンドの制限なども。
そして主催に対する警戒心も。
2人は程なくして地下通路出入り口に着く。扉にはこう書かれていた。


『一日目 午後9時にここは通行禁止になります
 新しい出入口は本能字学園 本校舎内になります』


最初に見た時なかった文章に2人は書き込んだ第三者の存在を警戒したが。
痕跡は見当たらない。元から遠くから書けるような細工がしてあったのだろうか。
どこまでもコケにしやがって。
2人は眉間に皺を寄せながら扉をくぐった。
時間は放送から一時間は過ぎていた。

――しばらくして出入り口に白と黒の蝶がどこからともなく現れた。

802ヤツの時間がきた ◆WqZH3L6gH6:2016/10/03(月) 08:47:58 ID:kY30gObg0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



【B-6/地下通路/一日目・夜】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康、桂、コロナと主催への屈辱と怒り(大)
[服装]:いつもの帝王の格好
[装備]:サバイバルナイフ@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(9/10)
[思考・行動]
基本方針:とりあえず他参加者を10人以下になるまで始末する。それと同時に主催殺害への準備を進める。
0:地下通路で地下闘技場方面に向かい、その近辺にあると思われる施設を確認し、それから今後の進路を決定する。
1:長髪の侍(桂)、格闘家の娘コロナ、三つ編みの男(神威)は絶対に殺す。優先順位はコロナ=桂>神威。
2:セイバーの聖剣に強い警戒。もし遭遇すればヴァニラ・アイスと共に彼女を殺す。 捜索はしない。
3:情報収集をする。
4:言峰綺礼への興味。
5:承太郎を殺して血を吸いたい。
6:一条蛍なる女に警戒。
[備考]
※参戦時期は、少なくとも花京院の肉の芽が取り除かれた後のようです。
※時止めはいつもより疲労が増加しています。一呼吸だけではなく、数呼吸間隔を開けなければ時止め出来ません。
※車の運転を覚えました。
※時間停止中に肉の芽は使えません。無理に使おうとすれば時間停止が解けます。
※セイバーとの同盟は生存者が残り十名を切るまで続けるつもりです。
※ホル・ホース(ラヴァレイ)の様子がおかしかったことには気付いていますが、偽物という確信はありません。
※ラヴァレイから嘘の情報を教えられました。内容を要約すると以下の通りです。
 ・『ホル・ホース』は犬吠埼樹、志村新八の二名を殺害した
 ・その後、対主催の集団に潜伏しているところを一条蛍に襲撃され、集団は散開。
 ・蛍から逃れる最中で地下通路を発見した。
※麻雀のルールを覚えました。
※パソコンの使い方を覚えました。
※チャットルームの書き込みを見ました。
※ホル・ホースの様子がおかしかった理由について、自分に嘘を吐いている可能性を考慮に入れました。


【ヴァニラ・アイス@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康、怒り
[服装]:普段通り
[装備]:範馬勇次郎の右腕(腕輪付き)、ブローニングM2キャリバー(68/650)@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:双眼鏡@現実、不明支給品0〜1(確認済、武器ではない)、悪魔化の薬(勇次郎の支給品)、ブローニングM2キャリバー予備弾倉(650/650)
[思考・行動]
基本方針:DIO様の命令に従う。
1:DIO様に土を付けた参加者は絶対に殺す
2:腕輪を解除する方法を探す。
3:セイバーの聖剣に強い警戒。可能な限り優先して排除する
4:日差しを避ける方法も出来れば探りたいが、日中に無理に外は出歩かない。
5:自分の能力を知っている可能性のある者を優先的に排除。
6:承太郎は見つけ次第排除。
7:白い服の餓鬼(纏流子)はいずれ必ず殺す
[備考]
※死亡後からの参戦です
※腕輪を暗黒空間に飲み込めないことに気付きました
※スタンドに制限がかけられていることに気付きました
※第一回放送を聞き流しました
 どの程度情報を得れたかは、後続の書き手さんにお任せします
※クリームは5分少々使い続けると強制的に解除されます。
 強制的に解除された後、続けて使うには数瞬のインターバルが必要です。

803 ◆WqZH3L6gH6:2016/10/03(月) 08:48:53 ID:kY30gObg0
仮投下終了です。
指摘等がありましたらよろしくお願いします。

804 ◆WqZH3L6gH6:2016/10/04(火) 08:22:08 ID:JCwwpR/Y0
異論がなければ今深夜に本投下します。
その際に悪魔化の薬についての本編での言及や、状態表にチャット関連の追記をします。

805 ◆WqZH3L6gH6:2016/10/05(水) 02:45:59 ID:27Xxo2pg0
本投下の際、加筆修正しました。
悪魔薬、状態表におけるチャット関連の追記はカットしました。

806 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/28(土) 17:21:16 ID:SJmPatgU0
急用ができたので調整できた分だけ仮投下します。

807【紡ぐ者】 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/28(土) 17:22:44 ID:SJmPatgU0

――第四次聖杯戦争と繭のセレクターバトル
  どちらも各々の願いの為に行われた大規模かつ、それでいて世間からほぼ秘匿された闘争劇
  いずれも願いを叶える資格があるは参加者のみ
  その二つの要素を含めたゲームに置いてもそれは――

-------------------------------------------------------------------------------------------------


何年も前のある日。その日は晴れ。
ある広い古びた館に何人もの大人が慌ただしく作業をしていた。
そこは廃屋。大人達――白衣を着用し顔を隠した何人もの男女とは対象的に、
喧騒の中心にいる点滴を打っている灰色髪のパジャマ姿の少女は
落ち着いた様子で金髪の男と作業をしていない白衣の1人と対面している。
金髪の男が作業中の白衣の男を一瞥した。それに気づいた男は他の白衣達に声をかける。
短いやり取りの後、少しして彼を含めた男女は俊敏かつ丁寧に作業を中断し居た部屋を去っていった。

残されたのは灰色の少女と金髪の男と性別の解らぬ白衣ひとり。
退屈げな表情をしていた少女は辺りをきょときょとと見回し、眉をひそめる。
そして苦笑しつつも何かを肯定するような感想を漏らした。

金髪の男は満足気にそれに返答し、懐から冊子を取り出す。
少女は落ち着いた様子で冊子を受けとり読んだ。
金髪の男は期待混じりの声で少女に問いかける。
冊子に書かれていた事は実現できるか?と。


少女は灰色の髪を揺らしつつ顔を上げ思い巡らせる。
目の前の2人は自分の恩人の様なものだから、ここで恩返ししても良いかも知れないと。
沈黙が訪れた。他2人も黙ったまま解答を待つ。その最中、電話が鳴った。
白衣の顔が金髪の男へ向く。金髪の男は自らの電話を取り、向こうの相手と会話しながら苦笑浮かべた。
彼は多少の未練を残しながら少女に挨拶をしその場を去った。


そして、金髪の男が去ってしばらくして少女の思考は纏まり、残ったひとりに告げる。
それを聞き白衣は初めて口を開く。喜びとそれが入り交じった問いが少女へと飛んだ。

少女は釣られたような病からの咳をしながらも、脇に置かれた遊具を手に取る。
白衣はそれに見覚えがあった。少女の異能の発生源でもあるカードゲーム ウィクロスのカードデッキ。
少女はそのデッキを手渡そうと寄って来た。
速やかな返答を期待していた白衣はその反応に当惑し、少女に疑問を投げかける。
少女は心外といった表情をし立ち止まり、挑発の混じった笑みを浮かべ言った。


「説明するより、手に取って考えた方が簡単よ」


白衣は口を噤み、多少迷いを見せつつも少女の手からカードデッキを受け取る。
ふと見ると少女の肩から小さな人の顔が見えた様な気がした。


――灰色の少女にとってもその無人だった館は薄気味悪い事この上なかった。
後で調べてみるとそこは有名な怪奇スポットやらだったという。
あの大人達の何人かは後日病にかかったらしい。初めここに長く居たくはなかった。
でも白窓の部屋を彷彿とさせる神秘的な所でもあったので暫くここに居るのも悪くないと思った。

808【紡ぐ者】 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/28(土) 17:24:11 ID:SJmPatgU0
-------------------------------------------------------------------------------------------------


大きな窓と百近い小さな窓が果てしない高所、人の手で容易に届く位置にある小窓が五十以上ある大部屋。中心には針時計が備えられてる柱が一つ。
大窓から今しがた死んだ騎士王と呼ばれた英雄の魂が大部屋に入り込んだ。
その魂はこれまで小窓に封じられた他の魂の中でも大きい。
けれどこれまでのと同様に区別なく吸い寄せられるように小窓に引き寄せられる。
閉じた窓の向こうから女の苦痛の呻きが漏れた。
それとほぼ同時に生来の歪みを抱えた神父の魂が大部屋へと入り込む。
大きさは騎士王と比べ一回り小さい。だがその輝きは多少の歪さを感じさせるものだったが騎士王のそれと比べ鮮やかだった。
そして彼の魂も小窓に封じられる。声はなかった。
今閉じた小窓は2つ。柱から微かに鈴の様な音が鳴る。
部屋の主たる繭は今其処にはいなかった。


-------------------------------------------------------------------------------------------------

セイバーの胴がスタンド 星の白金の拳に貫かれる。
少しして空条承太郎は今倒したサーヴァントへ何かを言い捨て、この場を去った。
セイバーは後悔の念を顔に表しながら息を引き取る。
その直前、腕輪から青白い光が発せられ彼女の魂を絡め取りカードに封印した。

「……」

ヒース・オスロは相変わらず貼り付けた様な笑顔を崩さなかったが、両眉は困ったかの様に一瞬歪んだ。
繭はそれに気づいた様子だったがそれについてはあえて何も言わなかった。

放送直前に行われたエリアH-5の大戦。
それは風見雄二と纏流子の追走劇と、空条承太郎と言峰綺礼対セイバーの2つの戦に分かれた。
それらを観察するは繭とヒース・オスロとその従者 テュポーン。
三者の居る場はヒース・オスロの部屋。
遠坂時臣が一先ず去った後、繭はオスロからゲームの感想を求められ返答した直後にある懸念に気づき、
会話を延長して今度はそれについての対策を求めようとしていた。
だが、遠見の窓に承太郎らとセイバーの戦闘が白熱しつつあったのを認め、それの観戦に徹する事に決めて中断していた。


「……南ことりと満艦飾マコの白カードの事なのだけれど」


繭は他の生存者が映し出された窓を一通り見渡すと、オスロが言い出す前に新たな問題を伝えようとする。



「アザゼル達の様子からして彼女達の白カードには異変は無かったようだが?」


参加者の魂が封じられたカードについてはオスロも注意を払っている。


「白カードが剥がれた後と誤認したのでしょ、解りにくいものね。
 本当は腕輪にくっついたままなのに」


その声にはさっきまでの会話で自分の要望がほぼ却下された不満の色が明らかに含まれていた。
オスロは顎を手に当てると低い声で呟く。

809【紡ぐ者】 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/28(土) 17:26:21 ID:SJmPatgU0
「しかし腕輪の破壊方法に気づき得る参加者は現時点では……」
「窓はすべてを把握できる訳じゃないわ。基地の一部や、変な仕掛けをしている四つの施設の一部。
 地下道に至っては音声をほとんど拾えない上に映像も不鮮明な事が多いのよ。注意を払えって言っていたのは貴方じゃない?」

不機嫌からかテュポーンの眉間に皺が寄る、オスロは苦笑しつつ片手で従者を宥めると真剣な面持ちになった。

「埋葬されているが、気づかれると拙いか……」
「私でも参加者と繋がっていない白カードはコントロールできないわ。
 それに腕輪の破壊は生存者のより簡単よ。早く何とかした方が良いと思うけど」
「……」
「禁止エリア侵入以外の理由でで私が参加者を殺す訳にはいかないんでしょう?」


オスロの目つきが一瞬鋭くなるが、すぐ平素に戻った。
繭は気づいてるのか気づいてないのか曖昧な様子で喋り続ける。

「私ルール違反以外でお仕置きはしたくないのよ。何とかして」


すうっとオスロが深く息を吸った。


「次放送でE-1の禁止エリア化を向こうに伝えて置こう」
「あら?それだけで間に合うかしら」
「……」
「起こる筈の無い事は、ここでも何度か起こっているのに」
「……?」
「そう例えば、宮永咲っていうセレクターによく似た感じの麻雀使いだったかしら。
 参加させるあの娘の知り合いって本当は違う子が選出される手筈だったんでしょ」
「……何故そう思うのかね?早期の全滅はともかく選出はだいぶ前に行われたと……」
「だって他のコミュニティと比べてあまりにも関係が希薄だもの。ミスしたとしか思えないわ。
 私だってゲーム開始前に幾つかの世界は見てきてるのよ」
「?!」


オスロはそれに対し僅かにだが驚愕し、そして苦笑した。
繭には聖杯戦争関連を含め自分達に不都合な情報は伝えない様にしている。
理由の一つとして繭の不安定さに危惧を抱いていたというのがある。
オスロはゲーム開始前までは関係悪化をしないよう振る舞って来たが、安全に確証を持てる程の材料が無かった為、
主にここにはいない協力者と共同で防護策を練っていたのだ。警戒はしていたが、最近の浅薄な様子から見くびりすぎたか。


「……伝えてくれないとは人が悪い」
「伝える必要がある程の事かしら。白窓の部屋の性質の事、あの人から訊いてなかったの?」
「聞いてはいたが、実感がね……」


あの人か……なるべく関わりたく無いお方の、それも更なる超常に慣れていなかった時期での情報だったからか頭に入り切らなかったようだ。
既に数年前にオスロは『あの方』から白窓の部屋は稀に時空を超えた映像や音声が発生すると伝えられている。
だからこそ有力な協力者と同じく、時間こそ掛かったが白窓の部屋と似た機能を持ち、より強大な超常を持った『ここ』を含めた別の部屋を利用できていたのだ。


「さっき言った事、まともに聞いていないみたいだし。そんなので貴方達の目的が達成できるの?」
「悪い、解ったよ繭。今すぐには無理だが君もよく知るあの人と相談した上で放送前に対策を取ろう」
「……」

810【紡ぐ者】 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/28(土) 17:28:53 ID:SJmPatgU0
オスロは繭に気を使って接していた。だがそれは長く共にいた事と同様ではない。
テロリストという立場に加え、異世界に関わってからは強大な敵が増え、構ってやる事ができなくなっていたのだ。
加えて繭自身はオスロの嗜好から程遠い人物で便利な道具としてしか見れなかった。
本来あるべき道を歩んだヒース・オスロ同様に参加者ではない方の風見雄二に傾倒していたのも大きい。
故に融和より、警戒の方へ舵切るのは仕方のない面があった。
かと言って繭を必要以上に軽く扱う事はできない。不用意に危害を加える事は自分の利益にも反し、他の協力者の反発も必至だから。


「あの人ねぇ」
「人手がいればすぐに対策はできるのだが」
「あの2人じゃいけないのね」


オスロは2人は正確では無いなと胸中で呟く。
主催には名目上は管理者である繭を除けば、いくつもの立場の者で分けられている。
オスロや『あの人』など身内で凌ぎを削って、願いを叶える手段を勝ち得た権利者。
運営に欠かせない人材でありながら拘束と警戒をせざるを得ない能力と反抗心を持つ要人。
願いの権利を巡る権力闘争に参加できなかった、又はしなかったが故に、権利を持たないことさえ知らぬ者さえいる遠坂時臣を含めた所謂外様。
一旦参加者として運営によって選ばれ拉致されてきたものの、ゲームには参加させられず半ば弄び気味に幽閉されている捕虜。
運営者の意思持ちアイテム。
そして運営には必要とされているがゲームの性質上、最低限の役割と能力しか与えられていない制約の厳しい駒がいる。
いずれの立場の者は各数名しかいないがこれが運営の陣容である。


あの2人とはいわば駒。
これまでは地下通路の更に隠された通路と繭のサポートで、橋の修復や地下通路の新たな出入り口の開通の作業をこなしていたが。
既に埋葬された腕輪の発掘回収やタマヨリヒメ回収になってくると無理があった。
駒は参加者への攻撃はおろか直の接触さえもゲームによって禁止されている。
純粋な参加者であるならそこそこ以上の力を持っているだけにあの2人を使えないのをオスロは惜しんだ。
挑発するかのように繭は甘い声で囁く。


「別の方法はなかったの?」
「……」


無い。身内が繭を発見できなければ願いを叶える力なんて間違いなく発見できなかった。
白窓の部屋を別にすれば、代替になるものは十を超える異世界においても聖杯しかない。
最低でも白窓の部屋に連なる力と聖杯システム両方がなければゲーム開催など不可能。


「!」
「……あらあら、また始まったわよ」


戦況の変化にいち早く気づいたはテュポーン。
少し遅れてほぼ同時にオスロと繭。
3人の上方の窓に映るは鬼龍院皐月と宮内れんげ、そして針目縫。
運営の3者は会話をまたも中断し、観戦する。


「……っ」


針目縫脱落というの結末に、表情こそ変えなかったがテュポーンの声が漏れる。
繭は薄ら笑いをしつつ身をかがめてオスロを覗き込んだ。

811 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/28(土) 17:31:26 ID:SJmPatgU0
とりあえず以上です。
残りは今深夜か朝に投下する予定です。
重ね重ねすみません。

812 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/29(日) 13:03:04 ID:u./WxJ8Y0
続きを投下します。

813【紡ぐ者】 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/29(日) 13:03:47 ID:u./WxJ8Y0


「タマを支給品にしなければ良かったのにね」
「……」
「……」


繭の嫌味にオスロと従者は表情を変えずただ沈黙を続ける。
その様子に繭は不満げに口を尖らせた。
この主従、表面こそ平静を保っているが心中は穏やかではない。
テュポーンは主を侮辱する繭に対し少々ではあるが怒りを抱いていたし、
オスロは危機感を否応なしに自覚させられていた。
繭の怒りと不信は未だ治まっておらず、現状ままだとこちらへの協力が望めないという事実に。

彼が知る限り、ゲームに乗り気である参加者は現時点で多く見積もって残り5名程度。
内DIO、ヴァニラ・アイス、ラヴァレイは窓からの様子からしてスタンスを変えた可能性が感じ取れた。
オスロして見ればラヴァレイと平常時のDIOは彼等の経歴を知っている事もあり最も油断ならない部類の参加者。
前者は立ち回りが非常に上手く、後者は行動が読みにくい。ヴァニラ・アイスは主に従うだろう。
よってその3名はそれぞれの敵対者以外の参加者減らしに期待できる人材と見れなくなった。
残る現・浦添伊緒奈ことウリスは参加者の中では非力で不用心な傾向が強くもっと当てにできない。
となると有望な参加者は纏流子のみとなるが、こちらは少なからず消耗しいつ脱落しても不思議でない状態。
このまま行けばゲーム進行が停滞する可能性が高く、まともに繭の協力が得られなくなるのは拙かった。
白カードの問題もある。


「……」


繭は無表情で呆れたような視線を2人に向けた。不遜な態度。
もしこの場にオスロの部下が多数いればこれ以上大人しくしようとは思わなかっただろう。
それだけにゲームの制限により部下の殆どを連れて来られない現状はむしろ幸いしたと言える。
精神を乱される事無くオスロは現状の最適解を考え、顔を僅かに伏せ表情は少しばかり悲痛に歪ませ口を開いた。



「タマヨリヒメを保護すれば、私を許してくれるか」
「!?」
「…………ええ、そうよ話が早いじゃない」


オスロの明らかに遜った態度にテュポーンは身を震わせ、繭は戸惑いつつも喜色を浮かべる。


「私はどうすればいい……」
「……」


繭は態度を変えたオスロを気味悪そうに見つめつつ問いた。


「何でタマを支給品の中に混ぜたの?」
「……」

814【紡ぐ者】 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/29(日) 13:04:55 ID:u./WxJ8Y0

その質問が来るのは予想していた。先程は適当に言葉を濁したが、次そんな態度を取ればもう必要最低限以上の協力は望めない。
セイバー、針目縫といった優秀な殺戮者が脱落した今、繭にも言っていない願いを叶える方法のノルマが達成できない可能性が高くなっていた。
繭いわく協力者であるあの人がまだここにいない以上、ゲームの盤面に介入できうる切り札はまだ切れない。
厳しいこの状況を打開できうる手段が繭にあるなら、何としてもそれを使わせる。
よってあの人……いや『奴』との協力関係はこの際破棄する事をオスロは決めた。


「君も知るあの人から頼まれたのだよ」
「……っ」
「理由はタマヨリヒメを詳しく知らない私には大凡しか見当がつかないがね」


オスロがタマヨリヒメについて詳しく知らないのは事実である。
白窓は全てを見れるものではない。見れる情景には個人差と運が絡む。
オスロはセレクターやルリグの過去は見れず、逆に『奴』は多くを知れた。
それが大きな違い

「何で断らなかったの?」
「断ったら、タマヨリヒメに直に危害を加える可能性があると思ったからだ
 君もあの人の経歴……危険性は知っているだろう?」
「……」


嘘である。オスロがホワイトホープを支給品の山に加えたのは、仮に繭がこちらに刃を向けた場合、
有力な参加者にタマヨリヒメの力を抑止力して発揮させてもらう狙いがあったからだ。
その点に置いては『奴』とオスロの思惑は一致している。
繭は収まらぬ怒りを含めた眼差しを彼へ向け冷たく言い放った。


「貴方怖いから、あの人に従ったんでしょ」
「……」
「……!」


真っ向からの侮辱に部屋に痛い程の沈黙が訪れる。
部屋にいる3人は能面のような表情で立ち尽くした。


「…………まぁ良いわ、あの人が悪かった事にしてあげる」
「……助かるよ」


繭は後ろを向き部屋から立ち去ろうとする。
テュポーンはその動作に微かに殺気を発するが、これもオスロが宥めた。
繭は振り向かない。


「タマは保護するわよ」
「さっきも言ったが、参加者の所持品を運営が没収するのはバランス的に良くないのではないか?」
「もしタマと接触できそうだったら別のルリグカードと交換するよう説得させるわ」
「……」

815【紡ぐ者】 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/29(日) 13:05:41 ID:u./WxJ8Y0

オスロは落胆した。繭への抑止力の一つを失ってしまう事に。
彼はゲームでの元の所持者であったアザゼルの顔を思い浮かべる。
繭とタマヨリヒメと小湊るう子の関係を自らの推理で言い当てた高位の悪魔。
彼と遭った対主催傾向の参加者はその高い頭脳と実力に彼に期待をしたが、オスロはそれに値する人物ではないと思った。
アザゼルの残忍な行動はるう子とタマヨリヒメを萎縮させ、三好夏凛に多大な負担を強いたからである。
肝心要のタマヨリヒメ――全ルリグもそうだが力を発揮させるためには精神的な成長が必要であると『奴』から聞いている。
進化がどうこう言ってた割に目立つ行動は自衛以外は基本他者への嫌がらせ。あれでは何も成せないなとオスロは心中で悪魔を嘲った。


「アーミラのカードは?」
「しばらく様子を見るわ。吸血鬼コンビが拾いそうだし」
「……」


マイナス2か。オスロは沈痛さを表に出さずまたも落胆する。
バハムートへの抑止力が高い確率で此方に強い敵意を抱いているだろう凶暴な吸血鬼に渡るのだ。
気落ちしないほうが無理がある。
ファバロ・レオーネがアーミラの白カードを回収していたのは繭より先に知っていた。
オスロが知る限り、アーミラから神の鍵を分断させたとかいう話は聞かない。
よってあえてこれまでアーミラのカードを放置したのは白のルリグデッキと同様の理由だった。


「じゃ行くわね」
「何処へだい?」
「中核に」
「……解った」


ゲームのシステムについて独自に調査するつもりなのだろう。
繭が暴走した場合取れる手段が更に限られるという意味ではこちらにとって不都合な流れ。
だがゲームが破綻するよりはと自らを納得させそのまま見送った。
繭の姿が見えなくなると同時にオスロは従者に命令を下した。
他の運営者の様子を見てきなさいと。
テュポーンは頷くと、そのまま主の元を離れる。
従者の姿が見えなくなるや、オスロは青カードを取り出しそれをワインへと変化させた。
彼はソファへ深く座り込み深く息を着いた。疲労が一気に押し寄せて来て思わず顔をしかめた。

816【紡ぐ者】 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/29(日) 13:06:08 ID:u./WxJ8Y0
-------------------------------------------------------------------------------------------------


「……」


遠坂時臣は運営基地の外にいた。
場所は地図のすぐ外の海辺。時臣が基地に出向いた時は船に乗り乗船員もいたはずだった。
待機を命じたにも関わらず、船と乗員は姿を消していたのだ。
時臣自身、目的を果たすまでは帰還するつもりはなく、一旦外出したのも船を帰す為であったが。
かといって無断でやられると面白くない。
渋面で慣れない手つきで通信機を操作し雇った乗員と連絡を取ろうとする。

連絡はすぐ取れた。勝手に出航した乗員へ叱責をする。
向こうは要領を得ない様子で気がついたら出航していたと言った。
まるで意思操作の魔術に掛かったかのようだ。
人払いは済ませてあるというのに、これは。
時臣は再度こちらに来るよう伝えようと考えたが、今度は行方不明になる可能性に気づき一旦帰還するよう向こうに伝えた。

時臣は船着き場に足を運び、魔術が使われた痕跡がないか調べる。
基地全体および島から妙な力が働いているのは確認できたが、魔力の残渣のようなものはなかった。
少なくともあの乗員は自分が知る魔の力によって惑わされたのでは無いという事か。


「……成る程、結界の破壊を危惧しなかったのはこれが理由か」


この島には結界とは別に、固有結界……あるいは空想具現化に似た力が働いている可能性があると時臣は推測する。
己の心象をそのまま異界として発現操作するという、どちらも人の範疇を大きく超えた高位の吸血鬼や英霊のような存在しか扱えないような力。
これだけの事ができるなら自動で人の認識を術者の望む方向で惑わさせる現象を作り出すのは容易だろうと時臣は納得し口を歪めた。
とは言え、人工衛星など超長距離からの監視には対応できるかは疑問である。
こちらに結界を張るのを依頼したのはカバーできない部分を補う為だと時臣は断定した。

関わった事態の大きさから、重圧から来る冷や汗が全身から滲み出るのを感じつつ、時臣は運営基地の門を見据える。


「……」


数時間前、白窓から観察したあの吸血鬼達が見たあの聖杯戦争の映像からして冬木の聖杯は使い物にならない。
つまり遠坂家の悲願である根源への到達はこのままでは実質不可能という事だ。
あの映像が虚偽の可能性も浮かんだが、ゲーム内の間桐雁夜の様子からして恐らく真実だろう。
なら目的を成すには今行われているゲームに賭けるしかない。

「……」

時臣は眼を瞑り、拳を強く握りしめた。
瞼に浮かぶは親交ある神父の息子で、本来なら聖杯戦争の共闘者になっていた筈の若き屈強なる神父の姿。
未来の自分を裏切り殺めた言峰綺礼。先程死んだ彼との親交はここの時臣にはない。
よって何もと言う程でもないが彼個人への感傷や憎悪の念はない。未来の己への不甲斐なさはあったが。
ただ別個体とは言え、息子を喪い生来からの苦しみを理解してやれなかった父である言峰璃正の心境を思うと気の毒になってくる。
今はそれが気がかりだった。

時臣は門へ向かった。
悲願を達成する第一歩として、言峰璃正と最近知り合ったここに来ているだろう運営の一人と会い、今後の為の作戦を練る為に。

817【紡ぐ者】 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/29(日) 13:09:01 ID:u./WxJ8Y0
-------------------------------------------------------------------------------------------------

大窓からついさっき死んだセレクターの魂が大部屋に入り込んだ。
その魂はジャケットを着たポニーテールの少女の形をしていた。
空いた窓の一つから発せられるは強力な引力。
魂はそれに抵抗を試みる。他の魂よりは粘れたが、すぐ疲労した。
もう逆らえそうもない。
封印を悟った魂は覚悟を決め自嘲の笑みを浮かべ顔を下げた。


「!?」


その時、視界に入ったのは勘違いではあるが少女の魂を驚かせるもので。

-------------------------------------------------------------------------------------------------

紅林遊月の脱落と封魂を確認した繭は大部屋をウロウロ歩きながら不思議に思った。
封印される直前何に驚いていたのだろうと、こちらを見た訳ではないのに。
繭は手にしたカードの絵を見た。疑問は程なくして解けた。
多分マフラーを巻いたあの娘にそっくりだったから勘違いしたのだろうと。
得心した繭はカードから目を離すと、高所にある無数の窓を見上げる。


犬吠埼姉妹、南ことり、満艦飾マコ、キャスターの魂を封じた筈の窓。
今からこれらをじっくり調べ上げなければならない。
繭はカードを遠くに投げつけ、そちらに向かって何やら指示を出すと、
今度は竜の絵が描かれたカードを取り出す。
巨大な竜の身体が一瞬で現出し、繭の身体を天井近くまで押し上げた。


-------------------------------------------------------------------------------------------------

――彼の人生は最初から定められていた。
『あの方』の理想を粗方だが実現させるだけの能力と身分が生まれた時から彼に与えられていた。
その生き方に疑問を持っていたかどうかまではもう覚えていない。
彼はその理想に一定の共感を覚えながらも、『あの方』の理想の範疇を逸脱しない程度に好き勝手に悪どく生きている。
彼の名はヒース・オスロ。
一説によればそれは彼の所属する組織、ひいては彼を生み出した『あの方』の名前でもあったという――

-------------------------------------------------------------------------------------------------

オスロはスマホで地下通路にいる2人の駒に指示を出すと、壁に立てかけてあった武器を手に取った
剃刀のような剣の手入れをしながら、彼はワインボトルを眺める。
青カードか変じたもの。赤カード同様に一種の聖杯によって生み出された奇跡の産物。


彼はスマホが振動しているのに気づき画面を見る。紅林遊月の脱落の情報が載っていた。


(思うように行かないものだ)


スマホアプリウィクロスは、原初のルリグたるユキを参加者に協力させる足がかりにさせるつもりで導入したツールだった。

818【紡ぐ者】 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/29(日) 13:09:51 ID:u./WxJ8Y0
紅林遊月がゲームに気づく前に退場してはクリアできないでは無いかと肩を落とす。
ユキ(名前は植村一衣に仮に付けてもらったらしいが)には繭の異能に抗する力がある。
このゲームにおいてもそれは健在で、黒カードの呪縛程度なら解呪できるくらいの力を持っていた

(新しい策をまた考えないといけないのか)


「……」


(『あの方』の命で自分を繭と認識しているあの娘を救出をしてもう何年にもなる。
  あの館のある町で発生した怪奇現象発生源でもあった彼女は救助されしばらくしてからお礼がしたいと言ってきた。
  それは白窓の部屋にあった未知なる力。彼女はそれを用いて礼をしたいと言ってきたのだ。
  セレクターバトルの実在を確認していたからか『あの方』を含め、その力には期待を持った者は多かった。
  我々はまず意識を別のものに移すシステムを望んだ。その願いはすぐさま叶えられ、我等は大いに喜んだ。
  欲に駆られた一部の連中は更なる願いを求めて彼女に頼み込んだ、だがそれは叶えられかった)


オスロはグラスにワインを注ぎ香りを嗅いだ。


(力を使い果たしたからだ。我々はその力に頼るのを止め。彼女の力と当初の研究に注力した)


グラスの柄を強く握った。まるで苛立ちを表すように。


(……我々は正確ではないな。私はあの日を境に彼女とは疎遠になっていったのだから)


ドンッとグラスの柄が強く机を叩く。


(思えばあの時からだった『奴』のような規格外といえる連中がどこからともなく集まってきたのは。
 セレクターバトルが拡大するにつれ彼女を取り巻く超常現象も頻度を増していった。
 同時に白窓の部屋の未知の力が蓄え始められ、それに比例するかのようになぜか彼女の容態は悪化していった)

オスロはワインを一口口に含んだ。美味いはずのワインは苦く感じた。

(我々と『奴』は彼女の延命を試みると同時に、蓄えられた未知の力を有効活用する術を考えた)

ワインを更に二口飲む。

(結果的に『あの方』のお陰もあってか彼女は死なずに済んだ。
 二度目の願いを無理に叶えたのが原因で、その叶える力は使えなくなってしまったが……)


オスロは空になったグラスを宙にかざす。


(我々は願いを叶える力を扱える代わりの技術を発見し、彼女にそれを実現させるように頼みこんだ)

819【紡ぐ者】 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/29(日) 13:10:41 ID:u./WxJ8Y0
グラスを指で弾いた綺麗な音がした。


(聖杯の再現)


グラスにまた液体が注がれる。今度は水だった。
オスロは苦々しい顔で過去を思い出す。


(聖杯は出現したものの我々の思っていたのと異なりまともに起動させる事はできなかった。
 なのにそれを今は滅びたあの連中がそれを強く欲し、それがきっかけで内紛が始まった)



オスロは左足で右足を踏み、苛々するかのようにその動作を繰り返した。


(……あの勢力を相手によく生き残れたものだ。回復後の繭がバハムートのカードを得ていたのが幸いだった。
 ……まぁ『奴』が味方にいたのも大きかったがね)


今度は右足で左足を踏む。


(『奴』主導で異世界における白窓の部屋の増築と拡大が行われ。
  私は敵対勢力への繭の隠匿。本性を隠しての異世界の有力組織との交渉を担当した)


オスロは2つの窓を見る。
地下道を行くDIOとヴァニラ・アイス、ラヴァレイと小湊るう子とウリスの姿が映し出された。

(結果。今は神樹の一部や『あの方』が命を捨てて聖杯――『システム』の一部になってくれたお陰で
 私はこうして生きている)


右足を左足から離す。
オスロの顔には歪んだ笑みが浮かんでいた。


(連中や『奴』を含めた力と勢力が制限されたお陰でな)


オスロは水を飲み干した。
彼の笑みは余裕のあるものに既に変わっている。


(とはいえ、このままでは私の組織も機能せずに朽ちてしまう。
 何としてもこのゲームで決着を付けなければ)

820【紡ぐ者】 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/29(日) 13:11:35 ID:u./WxJ8Y0

オスロは2グループの様子を眺めた。
主従は急いだ様子もなく神妙な面持ちで何やら会話をし、もう一方もラヴァレイとるう子が真剣に会話をしている。
放送前とは明らかに様子が違う。





従来の聖杯は魔術師を呼び水に英霊を呼び込むものだ。
だが情念と因縁渦巻く白窓の部屋の力を無理やり聖杯の形にした『システム』は求めるものが違う。


『システム』が求める参加者という生贄を選出する方法は三種類ある。
一つ目は『システム』が身近にいるコミュニティを指定して選ぶ、オスロや『奴』のようなケース。
二つ目は繋がった世界の中から参加者となりうる人物を『システム』がそれに関わる者に知らせるケース。
三つ目は一つ目と二つ目での選出者がある程度増えた場合、可能となる方法で既存の参加者と縁のある者を繋がった世界から無理やり召喚するケースである。


(三番目のシステムには実に奇妙だった。ない知識や力を持った者がいたし、一部参加者の選出も異常だった。
 どの時期に呼ばれたのか『システム』でも把握できない奴もいたくらいだ)


本来ならオスロを含めた権利者はゲームに参加しなければ願いを叶えることができない。
しかしオスロら権利者はその資格を持っている。
その理由は内戦を生き残った彼らを『システム』が勝者と見なしたからだ。
『システム』は願望機として作動することはなかった。
理由は広範囲に渡り戦闘を繰り広げたため力を集めることができなかったから。


内戦が終わっても制限と権利を失わなかった彼らは今度は範囲を狭めたゲームを開催すると決めたのだった。
四次聖杯戦争も参考の役に立った。

「……」


オスロはスマホを取り出し操作した。映った画面にオスロは安堵と苦悩の入り混じった妙な表情を形作る。

(蓄えられた力は予想より随分多い。しかし現状だと願望機能発動させる最低限の力が収集できるか不透明だ)

 
願望機を起動させる方法は2つ、願望機に力を充分蓄えさせた上で参加者が残り1人になる事。
その方法でゲームが終わった場合、権利者全員が願いを叶えることができる。
本当の勝者の数は1+α人である
それは権利者にとってベストケース。

もう1つは願望機を起動させるのに最低限の力を蓄えさせた上で、システムが設定した管理者を倒す事。
それだと叶えられる願いは2つになってしまう。
これはオスロが許容できるベターパターン。


「……」

そろそろテュポーンは戻ってくるだろう。
腕輪の製作者である酒の神の元から。
仮に介入が実現できたとしても展開次第では戦力的に不安が残る。
外様の中には戦闘に秀で状況次第では神威や皐月を倒しうる実力者がいる。
そして直接の戦闘では及ばずとも異能で強者相手に賢しく立ち回れる者もいる。

821【紡ぐ者】 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/29(日) 13:12:55 ID:u./WxJ8Y0
オスロは顔を上げた。視線の先に映るは天々座理世の姿。
あるいはあえて非戦闘者を投入するのも効果的かもしれない。
非力さと無知さを抱えた一般人は下手な敵よりも危険だ。



その時、オスロのスマホが振動すた。


「……」


オスロは応対すべくスマホを取った。
-------------------------------------------------------------------------------------------------


「……」

一通り小窓の点検を終えた繭の表情は険しかった。
南ことりと満艦飾マコの小窓に魂は入っていない。
犬吠埼風の魂は封印済。
キャスターの窓は何かが封印されているのは確認できたが正体不明。
窓から聞こえる声はなく、キャスターとしての自我は残っていないと推定できる。
そして犬吠埼樹の窓は壊されていた。

破壊された窓に手を触れるが亀裂の中に手を突っ込む事はできない。
これ以上調べるには白カードを調べる必要があった。」


(魂のエネルギーは少しだけど感じ取れる。そうなると魂はカードの外側に居る?)


繭自身、結城友奈と犬吠埼風の戦闘後に犬吠埼樹の白カードは窓を通じて存在を確認していた。
生前の樹同様の姿が再現された一枚絵。
つまり樹の魂はカードから脱出できるにも関わらず留まっている事になる。



「……やってくれるわね」


繭は呻くが、どうすることもできない状況と悟りあえて放置する事にした。


「一番の問題は2枚の白カードよね」


白カードは参加者と腕輪が揃って初めてその強制力を発揮できる。
白カードのみが参加者の手に渡るのは拙い。
白カードは白窓への大部屋へと通じる通路そのものでもある。
無論そのままでは入り込む事などできはしない。
だが白カードの原理とセキュリティは腕輪や黒カードと比べて単純で。
仮に魔術の知識を持つ者に渡れば短時間で解析されてしまう。
桂小太郎やDIOといった柔軟な思考の持ち主に渡るのも危険だ。


「そういえばオスロって腕輪を欲しがっていたわよね
 埋められたあの二着を渡したら喜ぶかもしれないわよね」



淡々と繭はとぼけたような口調で呟きながら柱に右掌を当てた。
そして言峰綺礼の最期の戦いを思い浮かべる。
繭の右手が柱に吸い込まれていく。
腕に小さな痛みを幾つか感じるや、ゆっくりと繭は腕を引き抜いた。
腕には切り傷のような入れ墨が6つ刻まれていた。それは令呪だった。

繭は不敵な笑みを浮かべると、駒が待機する場所をイメージ。
彼女の身体から白と黒の幻想的な蝶が何羽も現れる。
そして一枚のカードを翳すと赤光で縁取られた次元の穴が開いた。
無数の白と黒の蝶の中にいつしか真紅の蝶が現れ始める。
繭は高熱による大気の歪みを纏いながら次元の穴へと消えた。

822【紡ぐ者】 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/29(日) 13:13:43 ID:u./WxJ8Y0

-------------------------------------------------------------------------------------------------


通話は終わった。
ヒース・オスロの側には腕輪を数着包んだ袋を持ったテュポーンがいる。
通話相手は『奴』の息がかかった運営者。
オスロはソファに腰掛け手を組んだまま考え込んでいた。
あくまで介入の許可を取るに留める積もりにだった。
繭への嫌がらせをネタに交渉を有利に進めようとした矢先、
『奴』ははっきりと伝えた。


――第四回放送前に運営全員で話し合おうと


(覚悟はしていた。だがいざ『奴』がここに来るとなると平静を保つことすら難しい)


オスロの自尊心は一度完膚無きまでに潰されている。天導衆と鬼龍院財閥との抗争によって。
『システム』によって能力に制限が掛けられていたにも関わらず。

「……」


オスロの手を組む力が自然と強くなる。彼は繭以外にも用心を重ね対策を取っている。
テュポーンに願いの権利を持たせているのもその一環だったし、邪魔者に繭をぶつける作戦をも構想してある。

現ヒース・オスロはテロリストだ。ある程度の品位こそ持ち合わせているが、指揮官としての矜持も、
時として死をも恐れぬ勇猛さも持たない悪趣味な重犯罪者。
強さを示し続けられなければただの屑に過ぎないと抗争のさなかに彼は思い知った。
今は亡き開祖の理想を自分なりに実現し続け、ヒース・オスロであり続けるが為に策を巡らせる。


(『奴』はこのゲームで殺す)

ヒトの形をした心身ともにバケモノの『奴』の姿がオスロの脳裏に浮かぶ。
『奴』への恐怖心は既に消えていた。

823 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/29(日) 13:15:43 ID:u./WxJ8Y0
仮投下終了です。
この度は長期に渡ってパートを拘束し多大な迷惑をお掛けしてしまいました。
誠に申し訳ありませんでした。

824 ◆3LWjgcR03U:2017/01/29(日) 21:37:10 ID:OopqJsko0
投下乙です。
主催の内幕の詳細がかなり明らかになってきましたね。色んな人物が関わっているようですが、捕虜もいたりするようで一筋縄ではいかなそう。
参加者の選出方法や時臣の時間軸といった細かい点も出てきて興味深いです。そして過去の鬼龍院財閥VS天導衆が気になる。
本投下に問題ないと思います。ただ、封印された参加者の魂にどの程度意思や行動力があるのかについては今後議論の余地があると思うので、留意しておいた方がいいかもしれません。(現時点での加筆等の判断はお任せします)
改めて、投下お疲れ様でした!

825 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/30(月) 00:27:11 ID:V08/R.po0
感想ありがとうございます。
参加者の魂について了解しました。
明日の晩に本投下させていただきます。

826 ◆WqZH3L6gH6:2017/02/20(月) 06:41:55 ID:PrdeHxpA0
時間を超過してすみません!
出来上がったので一先ず仮投下致します。

827New Game ◆WqZH3L6gH6:2017/02/20(月) 06:43:10 ID:PrdeHxpA0

大型二輪のバイク V-MAXが放送局を目指して疾走る。しかし速度はやや遅めだった。
運転手のセルティはついさっき気がかりがふたつでき、速度を落とさざるを得なかった。
その理由の一つは後部座席に同乗する少女の事が心配だったから。


――良くないな。


セルティは同乗者―絢瀬絵里と、しがみついている小さなうさぎ―クリスを意識せざるを得なかった。
先の放送前、何人もの同行者の死と友人の誤殺という悲劇に見舞われた少女。
絵里は自らの悲哀を押し殺し、前に進もうと放送局への出立を意思表示した。
だがセルティには、それは強がりにしか思えない。息遣いが荒く、短い悲鳴のような声が時折漏れている。
ヘルメットも着用していない。それに既に遠方に見えてくるはずの放送局がまだ見えてこない。
一旦休ませる必要があると判断し、セルティは更に速度を落としつつ墓場の塀の近くにバイクを留めた。

「……セルティさん?」

ややよろけながらも絵里はバイクから降り、セルティに近づく。
セルティは既にPDAに打ち込んだ文を絵里に見せた。

『放送局が見えない』

絵里はきょとんとした表情で、状況をなんとか理解しようと務める。

「……放送局に何かあったって事ですか」

仲間を案じているだろう少女のどきりとした声に、セルティはすかさず次の文章を見せる。

『多分。だから今からこちらから連絡を入れてみる』

セルティはV-MAXの座席に手を触れ黒カードに仕舞うと、次に落ち着ける場所を探そうとあたまをきょときょとと動かす。
それはどこかもたついた動作。絵里はその様子に困惑し、塀の方を向き数秒考えるや提案した。

――これは。


セルティは地面に落ちていたカードを見つけ拾う。
絵里はそれに気づきカードを見る。
巫女服を着用したおっとりとした少女の絵があった。
絵里は迷うこと無く受け取り、絵を見て表情を曇らせる。

セルティにはその理由がわかった。
絵里が誤って殺した友人の事を思い出したからだろう。
少々だが似ている、間が悪いとセルティは思った。
気を取り直した絵里は視認に注力し、その甲斐あってか目当てに近い場所を発見する。


「あの、そちらに良さそうな場所がありますよ」
『そうかありがとう』

セルティはその案に乗り、絵里もそれに続いた。
直接休憩を提案しても不安を与えてしまうと判断したセルティの演技。

「?!」

828New Game ◆WqZH3L6gH6:2017/02/20(月) 06:44:27 ID:PrdeHxpA0
乗ってしまった絵里はここがどこか知り思わず顔をひきつらせる。
セルティはここが墓場だと言うのに気づき、掌をヘルメットの目元に当て面目無く思った。


『駄目なら別の場所に移動するけど?』
「……い、いえ私が決めた事だし、そのまま」
『そう、じゃあ私の後ろに付いて来てくれ。それと良いと言うまで横は見ない方がいい』
「?」
『多分墓荒らされているから』


セルティは放送局内での遺体の埋葬作業の事を思い出す。
腕輪を着用した5人もの無残な遺体と腕輪の無い3体もの半ば腐乱した遺体があった事を。
あの惨状がどういう経緯でそれに至ったか、協力者の1人アザゼルの推理からおおよそ見当がついている。
参加者の遺体を、あるいは墓場から遺体を掘り起こし支給品か死霊術を用いてゾンビとして使役していたのだろうと。
墓場も荒らされ、死体があちこちに転がっていてもおかしくないとセルティを推測した。
損壊が激しく解りにくかったが絵里と同じ制服を着た遺体もあったような気がする。
あとで伝えたほうが良いだろう。
絵里は「ちょっと待っててください」と言い黒カードを2枚取り出す。
眉間に皺を寄せながら考え込む仕草を数秒した後、1枚を元の形に戻した。


「?!」


セルティはあっと思った。
イエローカラーで猫耳のような一対の突起が付いたヘルメットを被る絵里を見て。

『それ私の……』
「え……」

謝ろうとする絵里を、『いや、いい。私も支給品の中に混ざっていたとは思わなかったから』とセルティはあわてて制止する。
ふよふよ浮いているうさぎ クリスは見守るように2人を見下ろしていた。


「っ……」


いくつも転がる死体からの臭気にもう1枚の支給品 エリザベス変身セットをハンカチ代わりに使い絵里は耐えつつ進む。
セルティは墓場の居心地の悪さといま絵里の羽織っている物体への突っ込みの衝動に耐えつつ、なるべく遠くから遺体を認めつつ落ち着ける場所を探す。
斬撃によって損壊した死体が何体か確認できた。剣の破片も見つかったことからここで戦闘が行われたと判断する。
――絵里ちゃんに死体を見せないために先を急いだのに……と葛藤しながら。

「仕方ないですよ。開けた場所で休憩するわけにも行かないから」

罪悪感に悩まされるセルティの心理を察したのか絵里の気遣いがかかる。
セルティは更に申し訳ない気持ちになりつつも奮起しようと静かに気合を入れようとした。

――あれは

セルティの前方の木々の間に石碑と思しき建造物が見える。

829New Game ◆WqZH3L6gH6:2017/02/20(月) 06:45:54 ID:PrdeHxpA0
絵里はまだ前方のそれに気づかず、猫耳ヘルメットを着用し、某有名仮想オバケとアヒルをミックスさせたような物体をコート代わりに羽織って、腕輪の明かりをちらせかせつつ付いていっている。
寒気に耐えているような素振りを見せながら。

――寒くは無い筈だが……

セルティの体感的に人間が凍えるような気候ではない。
なのに絵里の様子は……とセルティは少女の心身を案じ、自らの疑問を伝えようとする。
絵里はいち早く気づき、苦笑いを見せた。


「……変ですか?」
「……」

セルティは明らかに変な支給品にはあえて突っ込まず、頭部?を動かして、先の光景を知らせた。
一行は既に数メートル先に進んでいる。

「あれは、家?」

石碑より更に先にあるのは一階建ての現代風の小屋であった。明かりは付いていない。
更に周辺には遺体も転がっていなかった。

『あそこで休憩しよう』

セルティは素早く文字を打ち込むと疲れたように肩をすくめた。
絵里は一瞬躊躇したが、肩を上げ下げする彼女を見て仕方ないかあという感じで口元に笑みを浮かべてセルティの前を行こうとする。
セルティは用心させるように絵里の身体を軽く掴んだ。
絵里はどきりとし歩みを止め、苦笑しつつ軽く頭を下げ、ゆっくりと先に進む。

「……」

掴んだ布はとても頑丈そうで、布越しからは明らかに震えがあった。

石碑は小屋より高く立っている。セルティはつい数時間前に墓場の側を通過していた。
通過した際に気づいてもおかしくない程。セルティは石碑に書かれた文字をちらりと確認する。

「?」
『後で話す』

今は絵里を休ませ、アザゼルに連絡を取るのが先決とセルティは決断する。
遠方で暗闇にも関わらず石碑の文字を確認できた彼女に対しての絵里の驚嘆の眼差しを感じつつ、セルティはドアに手を伸ばす。
そして絵里に見えないよう影をドアの隙間に侵入させ罠が仕掛けられてないか確認し終えると、ドアを開け中に入った。

照明のスイッチを入れると絵里にも部屋の全容が見えた。
食糧を除けば標準の生活が何日もできるだけの設備と物資があった。


セルティはシーツを探し出すと、先に腰掛けた絵里に手渡。
そして何気なしに訪ねてみる。

『絵里さんは参加者のカードを拾ったが、それで何かするつもりはあるのか?』
「え?私はただ……」

絵里が白カードに気を止めるようになったのはついさっきのこと。
カードを同行する発想など湧くはずもない。セルティだってそうだった。
――そうだろうなと納得し、落ち込む前に明るい材料を提示した。

830New Game ◆WqZH3L6gH6:2017/02/20(月) 06:47:06 ID:PrdeHxpA0


『囚われた魂、解放してやりたくはないか?』
「え……」

絵里は慌てたような声を出す。

『私の仲間に1人それを望む子がいる
 もし良かったら協力してやってくれないか?』
「……ええ、はい」

その子は既に仲間を1人喪っている。友好的とまでは行かないもの支えになってくれればとセルティは思った。
彼女は自らの携帯電話を取り出す。

絵里は前かがみで顔を伏せ何度も瞬きしていた。
額には汗が浮かび、苦々しい表情を浮かべている。
ガタリとセルティは絵里に駆け寄る、『私、何か言ってはいけないことを言ったか?』

絵里ははっと顔をあげるとどうにか笑みを浮かべた。

「私がその、勝手に思い出して」
『そうか』


セルティは自分を落ち着けつつ片手で器用に文字を打ち込みながら、絵里が顔を上げたと同時にPDAを見せた。

『アザゼルという男を知っているか?』
「……!」

何事かと戸惑った絵里の目が見開かれ、少々だが警戒の色を見せる。
一応その名に覚えがあったと判断したセルティはすかさず入力を続けた。

『その様子だと良くない意味で知っていたか』

それは絵里のかつての同行者である結城友奈へジャンヌ・ダルクから伝えられた殺し合いに乗った可能性が高い悪魔の名。

『実はな、あいつは殺し合いに乗っていないんだ』
「……?」

訝しげな絵里を安心させるべく、言葉を選んで入力してゆく。

『この殺し合いを打破できる方法を探し、実行するために私達は彼に協力している』

思わぬ情報に絵里の表情が僅かに明るくなる。

『成功すれば繭の能力を無力化でき、カードから魂だけでなく、私達参加者を腕輪から解放させる事もできるはずだ』

「ハラショー」

絵里は感動した。
彼女を含む、本能字の乱戦の生き残りの何人かもは催打倒のためにそれなりに明確な目標を立てている。
主催の居場所の特定と、枷である腕輪の解除、殺し合いに乗った参加者の無力化および懐柔を。
にも関わらずここまで進展がなく、焦りをひしひしと感じつつあったところでこの情報。嬉しくない訳がない。
セルティは微塵の気楽さが感じられない様子で警告文を入力する。

831New Game ◆WqZH3L6gH6:2017/02/20(月) 06:49:04 ID:PrdeHxpA0
『アザゼル、ただあいつは性格に難がある』
「……」
『連絡を入れるつもりだが、その前に私の話を見てそれで彼に会うかどうか決めてほしい』
「……」

セルティの切羽詰まった様子に絵里は思わず押し黙る。
考え込む絵里を他所にクリスはセルティの肩をぽんぽんと叩く仕草をした。
十回くらい叩かれた後、クリスの意図を察したセルティは黒カードを1枚取り出し、絵里に告げた。

『さっき言ったように私達は殺し合いの打破において有効な手段を見つけ出した筈なんだが、実のところ迷っている部分もあるんだ』
「……どうしてでしょうか?」
『その手段というのは主催者が最初から対策を取っていて、実行に移しても失敗に終わりそうに思えるんだ。
 だからこそ頼れる人達に会い、関わってきたあなたからも意見を聞きたい』
「…………はい!」

絵里の神妙な面持ちにセルティは軽く頷いて返した。

「あのセルティさん……」
「?」
「食われた魂を何とか助ける方法に心当たりないでしょうか?」

なるほどとセルティは悟った。絵里は第一回放送時に魂を喰われた2人の内の1人と関係がある参加者であることに。

『悪い』
「そうですか、ごめんなさい」
「……」

『話の前にだけど絵里さん、薬を持っていないか?』
「え?」
『私が服用したい訳じゃないんだが、仲間に1人必要になる子がいるかも知れないんだ』
「……」

絵里は10枚を超える黒カードを点検すると、1枚を引き原型に戻す。

「!?」

絵里の目前に幾つもの薬品と本が入ったビニール袋が3袋出現し、重い音を立てて床に落ちる。
高度が低く、中身が破損する事は無かった。
カードの裏に書かれていたのは『ジャック・ハンマー御用達薬品セット』。
セルティが断りを入れて袋を開け、中の本を読む。それには薬物の効用と調合のレシピが丁寧に書かれている。
幸い目当ての薬も少量だがあるようだった。
セルティは絵里に僅かでも休息を取らせようと説得を試みる。
少々渋ったが、絵里本人も精神衰弱から来る不調を実感していたため、了承。
必要な薬品のみをテーブルに並べた後、セルティは1枚の黒カードを解放した。
グリーンワナ―緑子のルリグデッキを。


-------------------------------------------------------------------------------------------------


三好夏凜が目覚め、アザゼルの悪意を一蹴した後。

「という訳で、車を見つけた時に眼帯をした人間離れした女と、学ランと学帽をした大男に襲われたのよ」
「……眼帯女は俺の方にも仕掛けてきた。お前と同行したラヴァレイに預けたヘルゲイザーを持ってな」

832New Game ◆WqZH3L6gH6:2017/02/20(月) 06:49:49 ID:PrdeHxpA0

夏凜は眼帯女のいう単語に犬吠埼風を思い出し、眉をひそめるが気にしないと決め話を続ける。
2人は放送局跡の南方へ歩く。身体中に支給品である包帯などが巻かれた痛々しい姿で。

「あの人はいつの間にかいなくなっていた……。私がアイツに攻撃を仕掛けていた最中に」
「命惜しさに眼帯女に協力したか、あるいは端からゲームに乗っていたか……」
「学ランの大男は……」
「ホル・ホースの言だと乗るまい」

アザゼルは手当の最中に回収したホル・ホースの白カードを取り出し断定口調で言う。
夏凜は不意を突かれたかのように身じろぎし反論しようとする。

「……それは」
「楽観論とでも言いたいのか?くだらん。
 貴様を襲撃した際のやり口からして、ほぼ眼帯女の意思が反映されていたと見て間違いなかろう」

アザゼルは皮肉げに呟くと夏凜から顔を背けた。
先ほどとは違う冷たさも感じる彼の挙動に夏凜は何が何だか解らぬ様子で少々戸惑う。

「支給品を回収し終えたらセルティと合流し小湊達を捜索する」

アザゼルの方針表明は強い意志はあったものの、どこか独り言に近い響きが混じっていた。
夏凜はその発言で放送局で何が起こったか悟り、奥歯を噛み締める。
あの眼帯女を取り逃がさなければ、今となっては唯一安心できる仲間のるう子がいなくなったりはしなかったのに……。

「っ」

けれど、煮えたぎるような激情は何故か湧かなかった。
夏凜はそれがおかしいと思った。

「……」

アザゼルはやや不機嫌な表情で参加者を捜索し、夏凜はきつい眼差しで時折「るう子」と呟きながらかつての同行者を探しつつ
自らが重傷を負わせたホル・ホースの乗車していた車を探していた。。
彼女の右目に光はあれどそれは弱く、疲労からか視界が狭くなったからか頼りない足取り進んでいる。

「これか」

アザゼルは当面の目標の対象を発見し呟く。
窓ガラスが破損した車―メルセデス・ベンツ。今は亡きアインハルトの支給品。
夏凜は強く息を吐くとすぐさまドアに手を掛けようとするが、アザゼルに遮られ尻餅をつきそうになる。
彼女は抗議をしようとしたが、声を発する事も動く事もできない。

「?」

833New Game ◆WqZH3L6gH6:2017/02/20(月) 06:50:36 ID:PrdeHxpA0
動けぬ自分に困惑する夏凜を無視し、アザゼルは車内を漁ろうとする。
すぐにアインハルトの遺体を見つけた彼は軽く舌打ちをし、車内の布を引っぺはがす。
アザゼルの身体の隙間から仲間の身体の一部が見えた。
夏凜は駆け寄ろうとするが、アザゼルが邪魔だと言わんばかりに手で軽く振り払われた。
遺体に布を掛け終えたアザゼルは回収した黒と白のカードを仕舞うと、視線をそらしたまま夏凜に質問する。

「そう言えばアインハルトは池田とかいう奴の魂カードを回収すると言ってたはずだが何か知らないか?」
「……放送聞いてそれどころじゃなかったんでしょ」
「……桐間紗路か」

アザゼルはその返答に納得はしたのか、遺体をシーツにくるんだまま草むらに安置し、ベンツを黒カードに収納する。
そして折れた樹に近づくと触手で切り株の面を平坦にしそこに座った。ノートパソコンを取り出す。
夏凜はその行動を、自分でも何でこうなのか解らないまま半ば呆然と見ていた。

「どうした?アインハルトをそのままにしておくのか」
「!」

アザゼルの思わぬ問いに夏凜は包まれた遺体へ駆け寄る。頼りない足取りで。
悪魔の吐き捨てるかのような嘲りの吐息を聞き、少女は自分を情けなく思った。

-------------------------------------------------------------------------------------------------

「あの人はヴァローナって名乗ってたんだよ」
『解った。ありがとう』

髪の毛を逆立てたスレンダーなルリグ―緑子はこれまでの経緯を説明した。
最初の所持者であるセルティとも交戦経験のあった、白いライダースーツの女 ヴァローナのこと。
そして絵里も数瞬しか邂逅しなかったファバロ・レオーネや神楽。そしてDIOと敵対していたスタンド使い 花京院典明のことも知った。

「……」

支給品から精神安定剤を選別し服用した絵里は、額にタオルを当てながら横になっている。
彼女も顔を緑子の方を向けていた。その表情は感謝と気遣いの色が含まれていた。

照れたような仕草をする緑子を見てセルティは安心する。
元の形に戻した時、緑子はファバロを死なせた重責で落ち込んでいたから。
けれどセルティからゲーム打破の手がかりと、絵里から桂や皐月といった有力な対主催の情報を伝えられると
何とか奮起できるだけの元気を取り戻し協力してくれる事になった。
彼女もタマヨリヒメ同様、るう子と縁のあるルリグだったから。

絵里もこれまで出会った参加者の事を伝え、セルティもだいたい伝えていた。
反ゲームの協力者がまだまだいることに安心し、空気が和やかになる。
だがセルティは遠慮がちに現実を彼女らに伝える。

『アザゼルからメールが来た』

セルティはPDAの文章を絵里、緑子、クリスの3者に見せる。軽い緊張が走った。

『アザゼルと夏凜ちゃんは一応無事。だけどるう子ちゃんは行方知れず。
 多分同じく行方知れずのラヴァレイ、浦添伊緒奈。あるいは第三者の危険人物に拐われたと見て間違い無さそうだ』

セルティはPDAを持たぬ手を強く握りしめる。ラヴァレイを警戒していれば!と後悔する。
絵里からは「そんな……」と嘆きが漏れる。
緑子はぽかんとした顔でPDAを見続け、そして声を荒げた。

834New Game ◆WqZH3L6gH6:2017/02/20(月) 06:51:49 ID:PrdeHxpA0

「なんで、保護されていたんじゃなかったの?」

セルティは緑子から顔を背けず、断りを入れる仕草をしながら携帯電話のメールに返答し、返事を待つ。
彼女らの発言がされる前に着信音が鳴り響いた。
一同はメールに注目し集まる。今度はみんなにメールの方を見せた。

『一刻を争う。早く此方に来い』

セルティは危険人物アザゼルの要請に更なる緊張に包まれた一同を見回し、絵里と緑子に尋ねる。

『命を狙われる事はないだろうが、嫌がらせはしてくるかも知れない』
「「……」」

2人は強く瞬きをしながら黙る。

『でも、あなた達の協力も必要なんだ』

セルティも命は惜しい。何でも犠牲にできるという訳でもないが執着があり愛情もある
そしてその場においてアザゼルを強く支持はできないが頼れる存在であってほしいという願望もあった。
だからセルティは2人に懇願し、頭を下げた。

「……セルティさん、私行きます」

絵里はセルティの手を強く握りしめて、ヘルメットの方を見つめながら決断を伝えた。

『いいのか』
「この状況でこうしてくれるだけでもとても嬉しいです」
「そう、だよね」
「……」
「っ」

絵里の身体の中で暴れる吹雪のような罪悪感は薬のおかげもあってかさっきほどではないが、なおも絵里を痛めつける。
東條希のも含め罪を背負っていくという決意はしたが、それで痛みがなくなるはずもない。
銀さんやセルティと遭わなければ、ここまで自分がこうして生き残れたとは思えない。
だからこそ乗り越える必要があるものに対して恐れず前に進みたかった。止まると押しつぶされそうだったから。

「……」

緑子は疑いの混ざった眼差しを向けていたものの、纏う空気は拒絶する類のとは別のもの。
「よろしく」と小さく呟いて絵里と今後の相談を始めた。
クリスは聞くまでもないという感じでぷかぷか浮いている。

『もし、あいつがあなた達に害を及ぼそうとするなら私が止めるから』

セルティは3者に強い感謝の意を伝えつつ、アザゼルへメールを送った。
-------------------------------------------------------------------------------------------------


三好夏凜は体育座りで蹲っていた。
アザゼルは彼女を無視し、セルティらの到着を待つ。
一人でるう子を探そうとしたが止められ、それっきり。

「……」

835New Game ◆WqZH3L6gH6:2017/02/20(月) 06:52:45 ID:PrdeHxpA0
世界がどこかガラスで遮られたような感じがする。
夏凜はそう自覚し、途方に暮れる。
原因は解っていた。
仲間であるホル・ホースに重傷を負わせたにも関わらず、覚醒した直後彼に対して何の痛痺も感じなかったこと。
樹を侮辱され激昂するあまり、倒せるかもしれない大敵に良いように弄ばれたこと。
そしてどこか気の合う、こういう状況においてかけがえのない存在である筈の仲間のアインハルトと
るう子に対してあるべき対応ができなかったこと。

夏凜は溜息を付いた。泣きたかったけど泣けない。
そんな状態にも関わらず勇者としての闘争心みたいなものは自分の足を動かそうとする。
辛いことを忘れきれれば元気に走り回れそうだと錯覚してしまうほどに。

「……」

罪悪感で狂い悶える事を回避できた代わりに、自分の心のどこかが壊れてしまったのだろう。
夏凜は一枚のカードを元に戻す。東郷美森の勇者スマホ。アインハルトに渡すはずだったもの。
夏凜は東郷のスマホを眺めつつ、仲間のことを考える。
るう子はアザゼルと共にいて何をし、何を掴んでいたのだろうか?現実味がない。
4人いた時、ゲーム打破のための議論や支給品のチェックをしていたことが今となっては夢の様だ。

「!」

近くからエンジン音が聞こえる。
アザゼルが動き、夏凜もそれに続く。
ここに来たのはセルティと金髪の少女 絵里。
そしてルリグ―緑子とうさぎ―クリスの4者だった。緑子の事は既にメールで通達済みだ。
アザゼルが皮肉げな笑みを浮かべセルティに近づく。だがセルティは手を上げ押しとどめた。

「?」

セルティの背後では絵里と緑子が何か話し合っている。どこか慌ただしい様子。
セルティは夏凜の方を見た。驚いたように身体が震えた。

アザゼルは「やはりな」と自嘲に似た笑みを浮かべてそして嗤った。
セルティは強く足を踏みしめつつ、アザゼルへと詰め寄る。

『何をした?』
「俺は何もしていない、あいつが……」

アザゼルの反論は夏凜には全部聞こえないでいた、全て訊いたセルティの右腕が何かを叩きつけるかのように空振る。
絵里と緑子はアザゼルの方を向いて非難が混じった眼差しを向ける。
アザゼルはこれまでとは違い勘弁してくれと言う仕草で渋面をした。

夏凜は彼女らの様子を見て自分がどう見られているか強く自覚する。
絶望というものがどこか新鮮に思えた。

-------------------------------------------------------------------------------------------------

『結構やられたな』
「フン、貴様も蒼井晶の死体の回収が出来なかったではないか」
『お互い様とでも言いたいの?』
「いや、此方の方が無様だ」
アザゼルの身体を診察したセルティは互いに悪態を交えつつ情報交換を進める。

「……」

836New Game ◆WqZH3L6gH6:2017/02/20(月) 06:53:39 ID:PrdeHxpA0

彼より前に診察を受けた夏凜は仰向けに寝転がっていた。
額には小屋で回収したタオルが当てられている。抵抗はなかった。
看病するかのように絵里が側に付いている。彼女の顔も辛そうに変化していた。

クリスは緑子のカードを持ってアザゼルとセルティの近くで浮いている。
セルティは絵里に合図を送った。少女の手には綺麗な鞘がある。
アザゼルはそれに目を奪われる。セルティは前進し動きを遮る。
彼の顔が不満に彩られる前にセルティは切り出した。

『お前にどうこう危害を加える訳じゃない』
「ほぅ」

脅しに近い発言に、彼の声に怒気が篭もるが怯まず彼女は続ける。

『ただ殺し合い打破の為、今ここで真剣に話をしたい』
「……はっ、セレクターもタマヨリヒメもいない状況でか?」

セルティは黙ってもう1枚の黒カードを出す。そして言う。

『もし絵里ちゃんや緑子に危害を加えないと約束できるなら、ここでその怪我を治させる』
「……力づくという手段では俺に損が多いか」

セルティの影が周囲に広がり立体化し宙を漂う。
影の脚の一つには黒カードが挟まっているのが確認できた。
夏凜が悪魔を横目で見ている、その姿は既に勇者へと変じている。
気狂いも同然に見られながらも目に篭もる闘気は以前衰えていない。
相手の手の内と狙いが見えない以上、仮にここで鏖殺できたとして得るものは少ないと悪魔は考える。
強硬に近い態度に出たのは尋問よりも安全と計画の確認を意識してのものだろうと彼は判断した。

「いいだろう」

アザゼルの了解に、絵里は鞘をセルティに渡す。

『後で返せよ』

念を押しつつ鞘をアザゼルに渡す。
鞘を傷に当てると徐々に確実にアザゼルの傷が癒え始める。

「……!」

宝具の力に感嘆しながらアザゼルはセルティ達の言葉を待つ。
その時、割り込むように絵里はアザゼルに訪ねた。

「アザゼルさん。第一回放送の内容覚えていませんか?」
「覚えているが」
「……食われた魂を助けることはできるんでしょうか?」
「……わからんな」
「!?」
「魂喰いとでもいうのか、俺が知る限りあの手の能力には個人差があって可能性もそれぞれだ」
「じゃあ……」
「だが今は無理だな

837New Game ◆WqZH3L6gH6:2017/02/20(月) 06:54:00 ID:PrdeHxpA0

アザゼルが腕輪をこつこつと叩きながら冷徹に告げる。

「カードから魂を解放する術を得ない限り、ああいったケースの場合喰った奴の魂を解放してそれからの話だ」

セルティは絵里を気遣いながらアザゼルに質問をぶつける。

『腕輪を解析するのは可能なのか?』
「無理だ。何の力も感じ取れんし、こちらの力も通らない」
「つまり」
「生者も死者も区別なく腕輪の防御機能は同等としか取れん」
『だからセレクターバトルに注目したのか……』

フンっとアザゼルが鼻で笑った。
絵里は心非ずといった感で何かに気づきうわ言のように呟く。

「という事はアザゼルさんはまだ魂が入っていない、死者の腕輪を手にしていない……」
「絵里さん!」

その言を意味することに気づいた緑子が思わず叫んだ。

「ほぅ」

アザゼルが喜色の混ざった歓声を上げる。

「成る程な、確かに俺はそういった腕輪を手にしていない」

セルティはゆっくりとした動作で絵里の方へ向いた。

『私達は埋葬手伝ったけど、腕輪に変化は無かったように思えた。徒労に終わるかもしれない』
「……」
『でも、それでも腕輪を調べたいなら、友達の腕を』
「……お願いします」

しばしの沈黙。

『悔しいんだな絵里さん』

絵里ははっきりと頷く。
熱気を帯びた瞳はちょっと綺麗で泣いたように歪んで見えた。
セルティにはその瞳の中に執念のようなものを感じ取った。

「ふっ、そう言えば南の温泉街に同じ制服を着た参加者の死体があったな」
「!」
『アザゼル!』

「カードを回収していないし、余裕があったら行ってみたらどうだ?」
「……」

838New Game ◆WqZH3L6gH6:2017/02/20(月) 06:54:25 ID:PrdeHxpA0

絵里は愉しげなアザゼルを淡々と横目で見ていたが、頭を小さく下げ、夏凛の側に戻った。

セルティは肩を竦めながら疲労を感じつつもアザゼルに本題を切り出す。

『何でセレクターを集めるって言い出したんだ?』

アザゼルは鼻で笑い切り返す。

「腕の立つセレクターのみが繭の元へ行けると言う話ではないのか?」

それはセルティにも聞かされたこと。だが緑子は静かに反論する。

「正確には3回勝って、尚且つセレクターそれぞれの条件を達成して初めて夢幻少女になれるんだよ」
「?!」
『それと何でセレクターを……』
「待て、俺の推測が多くが外れているとでも言いたいのか……」

事態を察したアザゼルが声を荒げる。
緑子は悲しげに首を縦に振り肯定する。

「っ……」
「タマが特別なルリグかどうかは僕には解らなかったけど、ただセレクターが所持するだけでは駄目なんだよ
 上手く進化させられないと繭には到底届かないと思う」
「セレクターを2人以上集めるのは……」
「セレクター1人と素人1人の組み合わせでも、バトル自体は突入できるんだ。
 るう子はそうだったと聞いたしね」

アザゼルは先程自らを出し抜いた浦添伊緒奈―ウリスの顔を思い浮かべて顔をひきつらせる。
ウリスはただ脱出しようと動いただけ。

「タマヨリヒメはそんな事を言わなかったぞ」
「? 僕の知ってるタマは好戦的でニャアとしか喋れなかった前ならいざしらず、今なら率先して教えてくれそうだけど」

アザゼルは思い出した。ファバロとのやり取りで知った主催の罠―時間軸の違いを。
タマヨリヒメは自分を騙していたのか?とアザゼルは混乱から呻いた。

――そう言えば

セルティはるう子とタマの再会時の時を思い出す。
嬉しがるタマに戸惑ったように何とか笑顔を浮かべるるう子。
それは2人が別々の時間から来たからこその混乱ではなかっただろうか。

「……るう子が言っていたわ、もし繭の元に行けるなら見つけたい友達がいるって」

839New Game ◆WqZH3L6gH6:2017/02/20(月) 06:54:52 ID:PrdeHxpA0

夏凜は絞り出すように言った。アザゼルは更に大きくうめき仰け反った。
緑子は成り行きを見て別の事にも気づいたのか深く考え込む。

「……あのアザゼルさん?」
「……」

座った目で絵里をアザゼルは見る。
殺気よりも疲労が色濃い。恐怖を押さえ込み少女は中断せず続ける。

「ええと、ルリグとセレクターの捜索ってセルティさんに依頼したんですよね」
「……」

アザゼルは無言で肯定する。絵里には今のアザゼルが十年以上年取ったように見える。

「るう子ちゃん、それ知ってました?」
「知らずとも関係ないだろう」

暴言に夏凜が突っ込む。

「おい」
「ルリグって他のルリグの存在を察知できるんだけど……」

緑子が声をこわばらせて言った。
ルリグの特性である察知能力を知らないセレクターとルリグはまずいない。

「……」
『もしかして、るう子ちゃんには人と物を探すと伝えたのか』
「ああ」

そう力なく呟くとアザゼルは近くの岩に腰掛けた。

『ところで、るう子ちゃんとはどう接したんだ』
「……」

どこか観念したかのようにアザゼルは大きく息を吐いて語り始めた。
それを聞き夏凜は激高した。
幸い変身せずに暴れようとしたためセルティが抑える事に成功した。
更なる火種―カードキーを意識しながら。
-------------------------------------------------------------------------------------------------

「……」

840New Game ◆WqZH3L6gH6:2017/02/20(月) 06:55:40 ID:PrdeHxpA0

アザゼルはぼんやりとした様子でかつてヴァローナが所持していたカードキーを眺めている。
時は既に第三回放送後、解禁された効果欄にはこう書いてあった。

『研究室のシロという名称のモニターに、このカードとルリグカード1枚をかざすべし。
 その際使用したルリグカードは運営に回収されるので注意されたし。
 条件を達成すればこの場における夢幻少女と同様の特典が得られる。ただし行った先での戦闘行為は禁止。ゲームのみ。
 一度このシロを利用した場合6時間は使用不可となる。新たなカードキーは会場のどこかに再発行される
 このシステムの存在は一度使用した後に腕輪等を通じて全参加者に通知される』


セルティは全てが徒労かと空を仰ぎ見るが、実の所希望が残り収穫もあった。
タマヨリヒメの特異性が消えたわけではないから。
アザゼルはタマからるう子も知らない真実を一つ教えられている。
それはるう子が夢幻少女になるのに失敗したセレクターバトルで、繭が直にタマと精神的接触を行った事。
通常の夢幻少女は繭の元に行った所でルリグへ変えられるだけ。
だがその時の繭は夢幻少女の誕生を阻止しようと動いていた。
つまりタマヨリヒメが繭に対するワイルドカードに近い存在であるのは間違いないと言う事ではないかと。
カードキーを使うにしても、セレクターバトルを実行するにしてもタマがいなければ意味が無いのは一同の共通認識だった。

「セルティ」

アザゼルは何とか立ち直ったのかセルティに宝具を返し、これからの予定を告げる。

「俺は小湊とタマヨリヒメを探す」

向いた先は北方。


『1人でか?危険すぎる』

一同はチャットでのDIO達の書き込みを確認している。
闘技場方面に行けば挑発に応じたDIOがいる可能性が高いと推測できた。

「誰が馬鹿正直に戦うと言った」

そう吐き捨てながら、アザゼルが取り出したのは古びた弓矢。

『それは』
「どうやら奴にとって大切なものらしい」

セルティはアザゼルの狙いを察知した。交渉するつもりか。
DIOとの和平は園原杏里達被害者の事を思うとセルティには受け入れられない。

「付いてくるな」

振り向かずにアザゼルは別れを告げようとする。
彼―悪魔達に人の気持ちは解らない。
だが恥という概念はあり、無能者を嫌う傾向も強い。
だからこそ所持品の幾つかをセルティらに譲渡したのだ。
失敗を重ねた自分自身をそのままにしておけなかったから。

841New Game ◆WqZH3L6gH6:2017/02/20(月) 06:57:10 ID:PrdeHxpA0


アザゼルの態度にけじめのようなものを感じたセルティは黒カードを1枚投げた。
彼はそれをキャッチし、解放する。現れたのは不気味な魔導書だった。
それは螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)。キャスターの宝具。
少し動かしただけで効果が分かったのか、口を歪ませながらカードに戻した。
その時、アザゼルに向かって機器が飛んだ、アザゼルは鬱陶しげにそれもキャッチする。
それは東郷美森の勇者スマホだった。

「三好」
「……」

顔を涙で濡らし、それを拭った少女。顔から狂気は薄れている。

「私達もるう子達を探すから、連絡にはそれを使いなさいよ」

一同は墓場に地下道の入口があるのをセルティから聞いていた。
アザゼルは自らが殺めた勇者の所持品を嘲るように見る。

「まだ狂っているのか?俺は……」
「それセルティの携帯の番号を記録したから」
『夏凜ちゃん』
「私にも責任はあるから……」

夏凜は目を伏せた。
アザゼルとの対決の結果、アザゼルがるう子に危害を加えず、死者を冒涜しなくなったのは事実である。
だが、かと言ってるう子を丁重に扱ったかというとそうではない。
言わなかったからと手の怪我を知りつつ放置し、ゲームに乗ったウリスの近くに配置し、
命の恩人である宮永咲の支給品を返却させず、ろくすっぽコミュニケーションを取らず、居心地の悪い場所で飼い殺しも同然にしたのも事実。
出発前夏凜に余裕がなかったのは確かだが、るう子も余裕なんて無かったはずだ。
気の迷いでゲームに乗ったに過ぎないと判断するくらい夏凜に勇者部部員の事を熱く語られたから。
そんな対象から命を狙われ、目の前で殺されるなんて負担にならないはずがないと夏凜は思う。
東郷に責任を取ってもらいたいという気持ちもあった。

『地下と地上、両方で緑子の力を借りて探索だな』
「……フン、勝手にしろ」
「アザゼル!」
「……」

アザゼルは応えず、低空飛行でこの場を去った。
セルティは夏凜の肩に手を置くと、絵里達の方へ促す。
責任を感じているのはセルティも同じだ。
よくアザゼルを観察していればこんな事にとセルティは悔いた。

「……」

ちょっと遠くでは絵里達が携帯電話を手に他参加者の連絡を取ろうとしながらこちらを待っている。
セルティは夏凜とともに協力者達の元へ急いだ。
早く腕輪を回収し、るう子たちを救助しなきゃと決意しながら。

842New Game ◆WqZH3L6gH6:2017/02/20(月) 06:57:45 ID:PrdeHxpA0

【D-1/橋/一日目・夜中】

【アザゼル@神撃のバハムート GENESIS】
[状態]:ダメージ(小)、脇腹にダメージ(小)、疲労(小)、胸部に切り傷(小) 、虚無感(中)、低空飛行中
[服装]:包帯ぐるぐる巻
[装備]:市販のカードデッキの片割れ@selector infected WIXOSS、ノートパソコン(セットアップ完了、バッテリー残量少し)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(16/20)、青カード(15/20)
    黒カード:東郷美森のスマートフォン@結城友奈は勇者である 不明支給品0〜1枚(確認済)、片太刀バサミ@キルラキル)
         市販のカードデッキ@selector infected WIXOSS、ナイフ(現地調達)、スタングローブ@デュラララ!!、
         不明支給品0〜2、デリンジャー(1/2)@現実
         螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)@Fate/Zero、弓と矢@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[思考・行動]
基本方針:繭及びその背後にいるかもしれない者たちに借りを返す。
0: 墓場に行き地下道か、地上で北方を主にるう子とタマヨリヒメを捜索する。
   優先順位はタマヨリヒメ>るう子>他ルリグ>他セレクター
1:時間が経てばセルティ達に連絡をする
2:借りを返すための準備をする。手段は選ばない。DIOと遭遇すれば交渉を試みる?
3:繭らへ借りを返すために、邪魔となる殺し合いに乗った参加者(ラヴァレイを含む)を殺す。
4:繭の脅威を認識。
5:デュラハン(セルティ)への興味。
[備考]
※10話終了後。そのため、制限されているかは不明だが、元からの怪我や魔力の消費で現状本来よりは弱っている。
※繭の裏にベルゼビュート@神撃のバハムート GENESISがいると睨んでいますが、そうでない可能性も視野に入れました。
※繭とセレクターについて、タマとるう子から話を聞きましたが、上手くコミュニケーションが取れていなかったため間違いがある可能性があります。
 何処まで聞いたかは後の話に準拠しますが、少なくとも夢限少女の真実については知っています。
※繭を倒す上で、タマヨリヒメが重要なのではないか、と思いました。
※東郷美森が犬吠埼樹を殺したという情報(大嘘)を知りました。
※チャットの新たな書き込み(発言者:DとI)に気づきました。
※アヴァロンで大体回復しました。



【D-1/放送局跡付近/一日目・夜中】
【三好夏凜@結城友奈は勇者である】
[状態]: 精神的疲労(大、精神安定剤使用)疲労(中)、顔にダメージ(中)、左顔面が腫れている、胴体にダメージ(小)、罪悪感(大)
    満開ゲージ:0、左目の視力を『散華』、「勇者」であろうとする意志(半ば現実逃避)、肉体的ダメージはアヴァロンで回復中
    多少落ち着いた、顔に泣きはらした跡
[服装]:普段通り
[装備]:にぼし(ひと袋)、夏凜のスマートフォン@結城友奈は勇者である、アヴァロン@Fate/Zero 、スクーター@現実、
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(16/20)、青カード(15/20)
    黒カード:不明支給品0〜1(確認済み)、東郷美森の白カード
[思考・行動]
基本方針:繭を倒して、元の世界に帰る。
0:るう子を救助する。
1:『勇者として』行動する?
2:セルティらのサポートをする。
[備考]
※参戦時期は9話終了時からです。
※夢限少女になれる条件を満たしたセレクターには、何らかの適性があるのではないかとの考えてを強めています。
※夏凛の勇者スマホは他の勇者スマホとの通信機能が全て使えなくなっています。
 ただし他の電話やパソコンなどの通信機器に関しては制限されていません。
※東郷美森が犬吠埼樹を殺したという情報(大嘘)を知りました。
※小湊るう子と繭、セレクターバトルについて、緑子とアザゼルを通じて結構な情報を得ました。
※セルティ・ストゥルルソン、ホル・ホース、アザゼル、絢瀬絵里、緑子と情報交換しました。
※チャットの新たな書き込み(発言者:DとI)に気づきました。

843New Game ◆WqZH3L6gH6:2017/02/20(月) 06:58:05 ID:PrdeHxpA0



【絢瀬絵里@ラブライブ!】
[状態]:精神的疲労(大、精神安定剤使用)、髪下し状態、ショックからの寒気(小)
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:無毀なる湖光@Fate/Zero、 グリーンワナ(緑子のカードデッキ)@selector infected WIXOSS
    セイクリッド・ハート@魔法少女リリカルなのはVivid    
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(24/30)、青カード(21/30)、最高級うどん玉
    黒カード:エリザベス変身セット@銀魂、ベレッタM92&ベレッタ92予備弾倉@現実、 タブレットPC@現実
         盗聴器@現実、ヴィマーナ@Fate/Zero(使用可能)、、セルティのヘルメット@デュラララ、不明支給品(武器)          
         その他不明(坂田銀時、本部以蔵、ファバロ・リオーネの持っていた赤カード、青カード黒カードの内神威に渡したもの以外全て)
    白カード:坂田銀時、本部以蔵、ファバロ・リオーネ、東條希、宇治松千夜、神代小蒔
    その他不明
[思考・行動]
基本方針:皆で脱出。
0:ことりの墓を見舞った後でセルティらのサポートに務める。
1:皐月、桂、神威と連絡を取る
 [備考]
※参戦時期は2期1話の第二回ラブライブ開催を知る前。
※【キルラキル】【銀魂】【魔法少女リリカルなのはVivid】【のんのんびより】【結城友奈は勇者である】の世界観について知りました
※アザゼル、三好夏凜、緑子と情報交換しました。
※多元世界についてなんとなくですが、理解しました。
※全て遠き理想郷(アヴァロン)の効果に気付きました。
※左肩の怪我は骨は既に治癒しており、今は若干痛い程度になっています。行動に支障はありません。
※セルティがデュラハンであることに気づいていませんが、変なのは気づきました。


【セルティ・ストゥルルソン@デュラララ!!】
[状態]:健康、精神的疲労(小)、罪悪感(中)
[服装]:普段通り
[装備]:V‐MAX@Fate/Zero、ヘルメット@現地調達 、カードキー@
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:PDA@デュラララ!! 、宮内ひかげの携帯電話@のんのんびより、イングラムM10(32/32)@現実
    ジャック・ハンマー御用達薬品セット(精神安定剤抜き)、精神安定剤2回分     
[思考・行動]
基本方針:殺し合いからの脱出を狙う
0: 南ことりの腕輪を回収後、アザゼルと連絡を取りつつ北方でるう子達を捜索する。
1: 絵里、夏凜をサポートする。
2:静雄との合流。
4:縫い目(針目縫)はいずれどうにかする。
5:杏里ちゃんを殺したのはDIO……
6:静雄、一体何をやっているんだ……?

[備考]
※制限により、スーツの耐久力が微量ではありますが低下しています。
 少なくとも、弾丸程度では大きなダメージにはなりません。
※小湊るう子と繭、セレクターバトルについて、緑子とアザゼルを通じて結構な情報を得ました。
※三好夏凜、アインハルト・ストラトス、アザゼル、絢瀬絵里と情報交換しました。
※チャットの新たな書き込み(発言者:D、I)に気づきました。


・支給品説明

【螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)@Fate/Zero】
蒼井晶に支給。
人間の皮で装帳された魔道書の宝具。
この本自体が魔力炉となっており、所有者の魔力と技量に関係なしに深海の水魔の類を召喚し使役できる。
ただ召喚数は制限されており、それほど巨大な海魔は通常では召喚できない。細かいところは書き手様任せ。
以上の能力に加え海魔を召喚、使役していなければ少々の治癒能力を発揮できる。
効力は言峰綺礼の治癒術と同程度で回復速度は遅め。

【弓と矢@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
ホル・ホースに支給。
DIOの宝物。アニメでは42話に登場。鏃そのもの成分が遅行性の毒(ウイルス)であると記されている。
ジョジョキャラ以外に使用しても基本的にスタンド能力は発現、変化しない。ぶっちゃけ変な古びた毒矢。


【ジャックのドーピング薬セット@グラップラー刃牙】
カイザル・リドファルドに支給。
ジャックのドーピング薬セット。大きな袋3袋分。
薬品についての取扱が記された本も付属している。
強めだが様々な種類の薬品がある。

【セルティのヘルメット@デュラララ】
神楽に支給。
セルティが愛用しているイエローカラーのヘルメット。
ネコ耳付き。

844 ◆WqZH3L6gH6:2017/02/20(月) 07:01:13 ID:PrdeHxpA0
仮投下終了です。
問題がなければ今日の深夜に本投下させていただきます。
あと今更ながら【紡ぐ者】の本投下時に多少の加筆があったことをお伝えします。

845名無しさん:2017/02/20(月) 18:16:12 ID:9oUnrtUY0
仮投下乙です、特に問題はないと思います

846 ◆7fqukHNUPM:2017/02/20(月) 21:29:06 ID:EzKsSxgQ0
仮投下乙です

カードキーの解禁やDIOとの交渉の予感など、新要素にたいへんワクワクさせていただきました

個人的に気になった点としては、細かいところもありますが以下の事があります

>「楽観論とでも言いたいのか?くだらん。
>貴様を襲撃した際のやり口からして、ほぼ眼帯女の意思が反映されていたと見て間違いなかろう」

この言い方では、結局アザゼルが偽承太郎のことをどう認識しているのか分かりにくいように感じました
(承太郎は針目に操られている、という意味でしょうか。それとも針目が幻術のような能力で作り出した存在だと思っているのでしょうか)
できれば他の言葉に置き替えていただいた方が分かりやすいかと思います

>『ただ殺し合い打破の為、今ここで真剣に話をしたい』
>「……はっ、セレクターもタマヨリヒメもいない状況でか?」

アザゼルの方から『一刻を争う。早く此方に来い』と呼んだ割には、投げやりな言い回しのような…。

>『もしかして、るう子ちゃんには人と物を探すと伝えたのか』
>「ああ」

アザゼルは『飼い犬に手を噛まれる』の中で、るう子を含めた一同の前で
『この俺と小湊、そして浦添はここに残り、3人は残るセレクターの紅林遊月。
他にも、特に腕輪の解除に役に立ちそうな者や情報を捜索してもらおう。』と公言する描写があります

ですので、『るう子(とタマ)がルリグやセレクターを探す上で役に立てること、を黙っていた理由』に関する提案ですが、
アザゼルの傲慢な態度や酷薄な性格、定晴を殺そうとした対応、またこれまでアザゼルが一方的にチームの方針を決定してきた経緯などから、
(氏の描写を拝借するならば『ろくすっぽコミュニケーションを取らず、居心地の悪い場所で飼い殺しも同然にした』せいで)
『るう子はアザゼルのことを信用していないどころか警戒していた為に、積極的に協力するような発言ができなかった』という事にするのはいかがでしょう?

これならば、氏の書かれたアザゼルが自らの行動を失敗だったと自覚する描写とも合致するのではないかと思いました


あと、さらに細かいことで申し訳ありませんが、セルティは杏里のこともちゃん付けでしたし、未成年女子に対する呼び方はちゃん付けでもいいのではないかと思います

847 ◆WqZH3L6gH6:2017/02/20(月) 22:22:21 ID:PrdeHxpA0
>>845-846
感想、ご指摘等まことにありがとうございます。
問題の部分を修正した上で本投下させていただきます。

848 ◆WqZH3L6gH6:2017/03/21(火) 14:39:18 ID:c9XBxMJM0
遅れてしまいましたが今から仮投下いたします。

849有為転変 ◆WqZH3L6gH6:2017/03/21(火) 14:41:57 ID:c9XBxMJM0
「持っていかないんですか?」
「あ?」

平和島静雄は支給品であり同行者であるエルドラから問いかけられる。
静雄は先程、落命した紅林遊月に手早く土砂を被せその場を立ち去ろうと考えていた。
彼が問いの意味を理解整理するのに時間がかかった。
もう一人の同行者一条蛍が先に理解し発言する。
エルドラのカードをかざし現場を見せているのは彼女。

「……お姉さんのカードを」
「……ああ」

静雄が後悔に曇らされた頭で問いの意味を咀嚼するのに少々時間がかかるのは仕方のない事。
彼は遊月が所持していた支給品を手早く回収していく。死体漁りに嫌悪を感じながら。
アドバイスをしたエルドラに少々ながら嫌気を持ち、思わず顔をちらりと見る。

「……」

彼女は渋面で遺体を中心に周囲を観察している。僅かに顔を伏せながら。
静雄はその様子をみて、恥を感じながら作業を続行する。
エルドラは半ば放心している蛍に聞こえるように呟いた。

「紅林遊月……」
「……はい」

蛍はここで自らを庇って死んだ少女の名を思い出す。最初にその名を聞いたのは今は亡き香風智乃の口から。
自身を庇い命を落とした人はこれで2人目。

「……あ、静雄さん。そのつけ爪も支給品かと。」

静雄は遺体の指に着けられている、指輪のようなものに手を触れる。

「カードに戻して」

静雄は車をカードに収納したのと同じように念じた。
指輪はどこかに落ちていた黒カードに収納され静雄の手に渡る。
静雄は全ての支給品を回収したのを確認し、地面を音を立てないように掘り上げようする。

「エルドラさん?」

その行為を止めたのは蛍の疑問の声だった。

「……」
「……白カードか」

エルドラは頷く。静雄は遊月の腕輪から剥がれ落ちたカードを拾う。
血液が付着していたが他のカード同様に染みていない。
軽く振るうと血液は飛び散り、血糊は剥がれ落ちた。
カードを見ると生前の遊月の顔がある。その絵をエルドラにも見せた。
エルドラは顔をうつむかせ、落胆したかのように目を瞑った。

静雄は無言で遺体の近くの地面を蹴り上げ、地面の土を遺体へと被せていく。
極力音を出さないように。本当は手厚く埋葬したかったが時間がない。

850有為転変 ◆WqZH3L6gH6:2017/03/21(火) 14:42:53 ID:c9XBxMJM0
付近に殺人者いる可能性があり、先程の発砲音を聞きつけてここに来るかも知れなかったから。
僅かな時間で遺体は土に隠れた。
3人はその場を去ろうとする、静雄の顔は西を向いている。
蛍は――リゼさんは?と口に出そうとする。
智乃の大事な仲間の1人で静雄に対し殺意を向け、やがて蛍にも敵意を向けた天々座理世。
過失とはいえ遊月を殺し東方面へ立ち去った少女。蛍はリゼが味方だった事もありいまだに気がかりである。

「……」

考えを察したのだろうエルドラは非難めいた眼差しこそしなかったが、肯定しているとは言えない表情を蛍に向けた。
蛍はリゼの静雄への誤解を解きたかった。だが全身全霊をかけたと言ってもいい説得は通じず、より敵意を膨らませたに過ぎなかった。
説得を切り上げその場を立ち去れば少なくとも遊月さんは死ななかったのだろうか?
蛍は湧き起こる後悔と無力感を抱えながら静雄に声をかけた。

「……。平和島さんどこに?」
「城に行こうと思っただけどよ……エルドラ、向こう魔力とやらが弾けて危険なんだよな」
「今は収まっていると思いますけど。休む場所としてはどうかという気もしますね。
 森に入ったら迷いそうな気がしますし」
「温泉方面に行こうと思う。途中に家の幾つかはあるだろ」
「どうしてですか?」
「服の替えが必要だろ」

静雄は蛍の今の姿を見て断言した。
蛍はそれに納得し、静雄の顔を見て思わず息を飲んだ。
静雄の眉間には皺が刻まれていたから。さっきの発言はリゼへの追跡はもうしないと言ってるのも同義。
蛍は未練を持ちつつもその考えを否定できないでいた。
今のリゼは不可思議な力を持つ銃を所持している、あれで撃たれたら誰も無事でいられる保証はないと蛍が判断してしまう代物。
蛍は彼には聞こえないようにそっと溜息をついた。

「わかりました」

諦めざるを得なかった。
静雄と蛍は立ち去るべく、その前に遊月の遺体がある場所に謝罪の言葉を掛けようとする。
それを遮るようにエルドラは遊月の白カードに向かって一言呟いた。

「ごめん」

真摯さが込められたその言葉を耳にし、2人は黙って遺体から背を向ける。紅林遊月はここにいないから。
2人は真に報いるべき行動を優先する為に足早に西に向かい林に入った。

「……」
「……」
「道路照明灯はあるんですかね?」

殺人者との接触を避け為に林中を歩く2人に掛けられたのは、陰鬱な空気を振り払うようなエルドラの気楽そうな声だった。
静雄は蟇郡苛と出会う前後の記憶を思い起こす。
エリアFからEにかけての照明はいくつか怒りにまかせて破壊してしまったが、HからGにかけての照明には手を付けていない。
さっきコシュタ・バワーを運転していた時は急いでいた事も道路でなく草原を走っていたが、
もし照明灯がある道路なら、ライトがない車でもさっきよりは速度を出せるだろう。
静雄は蛍に顔を向ける、彼女は虚ろな目をしていた。

「……」
「蛍ちゃん、大丈夫か?」
「……えっ、ハイ」

851有為転変 ◆WqZH3L6gH6:2017/03/21(火) 14:43:43 ID:c9XBxMJM0
「……」

さっきの遊月の件が辛くない訳がない。
現に静雄とエルドラさえショックを受けているのに、まだ小学生の蛍の負担が小さい筈がないのだ。
静雄は足の向きを南へ変え、方針を2人に伝える。少女達はそれに同意し彼に続いた。

林を抜け草原を抜けた先には少々ながらも照明に照らされた道路が見える。
他参加者の姿は見えない。東には相変わらず煙が立ち上っているが延焼が拡大しているようには見えない。
今がチャンスとばかり静雄は急いで漆黒の車 コシュタ・バワーを現出させる。
蛍は静雄に続く前に尻に手を当てるが返り血が掛かっていない事を確認するやそのまま乗車する。
温泉街に向う3人の行動を止めるものはなかった。

----------------------------------------------------------------------------------------------------

半日前、H-5の海岸にて。

衛宮切嗣に関する情報をどうしようかと考えていた折原臨也。

「折原さん」

そんな彼に一条蛍はジュースを手に立ち上がり声をかけた。

「ジュースありがとうございました」
「ああ良いんだよ」

臨也は笑みを浮かべつつ、ぺこりと頭を下げる蛍を愉しげ見るや、切嗣についての情報の提供を保留とする事にした。
わざわざ情報屋としての禁忌を侵さなくても、同様の効果が期待できる面白い反応が見られる方法を思いついたから。

「蛍ちゃん、ちょっと悪いことを訊くけど、君はもし殺し合いに乗った危険なヤツにあったらどうする?」
「え、それは?」
「無理に答えなくてもいいよ、これから俺がするのはそういった危険を乗り越える為の作戦さ」

蛍の表情が引き締められたものに変わった。
彼女は臨也の今後の計画――主に危険人物と遭遇した場合の対策について、相槌や短い返事を交えながら懸命に記憶していく。
臨也は暗に静雄への悪評が混じった作戦を聞く蛍の様子に胸中でほくそ笑む。
いくつかの対応手段を伝え終わった臨也は最後に緊急時の連絡方法について蛍に伝えた。

「×××-××××-××××ですか?」
「そう。紙に書き写すのは危険だからちょっとキツいけど我慢して覚えて」


教えられた番号は臨也のスマートフォンの電話番号。
もし何らかのトラブルで2人が離れ離れになった場合における連携手段。

「わかりました」

蛍は臨也の細やかな気遣いに感謝した。

「いいんだよ。さ、行こうか」

臨也にとっては片手間的な手段の一つに過ぎない事を知らないまま。
彼の残酷さをその時は知らないまま。

852有為転変 ◆WqZH3L6gH6:2017/03/21(火) 14:44:20 ID:c9XBxMJM0

----------------------------------------------------------------------------------------------------

「ハンドルを大きく右に切って〜」

車は危なげなくカーブし先に温泉がある道へ移行する。
ラビットハウスを目指していた頃より上手く運転できるようにはなっていると静雄は思った。
とりあえず危機を脱した事もあり少々なりともリラックスできたのも大きいようだ。

「……詳しいな」
「適当です、テヘ」
「おい」

静雄は冗談と受け取る事にした。

「……」

蛍は乗車して数分後に眠っており、運転のサポートはエルドラが行っている。
ルリグカードは前窓の内側に立てかけていた。

「手紙、れんげちゃんの手に渡ってるといいですね」
「ああ」

静雄とエルドラは分校から出発する前、蛍からある相談を持ちかけられていた。
電話番号の情報を残して良いのでしょうか?と。
悪意ある参加者から情報を利用されるのを恐れたのだろう。
静雄は悪用されるのを想定して考えればいいと受託し、エルドラも少し考えた後に「いいんじゃないですかね」と答えた。

「建物が見えて来たっすよ」
「……」

車は林に挟まれた車道に入る。身近な建物の近くに駐車すべく減速してゆく。
温泉へは目と鼻の先だが、まず蛍の衣服の替えを入手しなければならない。
車は停車する。急ではないが多少揺れて。

「う……ん」

その衝撃で蛍は目覚めた。静雄はバツが悪そうに目を細めた。

車を降りてから3人は今後どうするかぽつぽつと相談を始める。
蛍はまずルリグカードを極力出した状態にできるようカードホルダーを作りたいと提案した。
エルドラと会話しやすいように。正直、静雄と2人だけでは相談相手が少ないと思ったからだ。
それに対してエルドラは「頼みますよ」と答える。
家の玄関が見えた。静雄はこいつの分はどうするんだとばかりに胸ポケットに入れたルリグカードを出して見せた。
カードには仰向けに寝た少女が映し出されている。
パーマがかった水色髪をした少女――青のルリグ ピルルク。

放心してルリグに気づけなかった蛍は目を丸くしてカードを見、エルドラは観察するようにピルルクを凝視した。
そして納得したように手を打って、訴えかけるような顔を静雄へ向ける。

「知り合いなのか?」
「だいぶ前にこの子とバトルをした事がありましてね」
「……セレクターバトルの方だよな?」

殺し合いの方を想像し険のある声で問いてしまう。
エルドラは気にせず続けた。

「ええ。そん時は私が勝ちましたが。まさかここで出遭うとは」
「どういう人だったんですか?」
「ルリグにしては愛想のない子でしたねえ」

人物像については解らないという事か。
静雄はそう解釈しピルルクをポケットに戻した。

「その人の、セレクターさんはここにはいないんですか?」
「……さあ?」

実はエルドラは確信が持てる程ではないが、ピルルクの元セレクターについて予想を付けていた。
蒼井晶。現ルリグ ミルルン以前に使役していた青ルリグがいただろう事を。
赤のルリグ ユヅキ達の交流を通じて。はぐらかしたのはわざわざ蛍に負担をかけたくないとの判断だった。

「ルリグなんて何十人もいますからね、そんなにレアじゃないっスよ」
「一体、何を考えてんだあのアマ」

静雄は明言こそされなかったものの、ルリグが元人間なのを薄々は感づいている。
エルドラの説明と会話からそれは推測できた。そもそもエルドラに隠す気がほとんどないのも原因だったが。
静雄は繭の更なる非道から来る怒りに不快げに歯ぎしりし、何とか衝動を堪らえながら戸に手をかける。
戸は開き3人は中に入り、程なくしてタンスがある和室へと入った。

853有為転変 ◆WqZH3L6gH6:2017/03/21(火) 14:45:51 ID:c9XBxMJM0


照明は豆電球のみに留め、蛍は白カードの照明を頼りに遠慮がちにタンスの中を物色している。
静雄はスマートフォンを机に置いた。スイッチが入っている。
エルドラとのちょっとした質疑応答を交えながら、静雄はチャットの画面を見続ける。

I:『一番目のMと、五番目のD。今夜、地下闘技場で話がある』

「D……」

静雄の脳裏に連想される頭文字Dの人物はただ1人。
臨也との最期の会話で存在が示唆された、肉の芽という洗脳能力を使う危険人物 DIO。
チャット機能による頭文字の方則を知らない静雄でもその一文には意識をせざるを得なかった。
発言者Mについては正体に想像が付かなかったが、少なくともDIOは北西の方に行くだろうという想像はできた。
突如、透き通ったような声が聞こえた。

「DIOですか……」

それは探索が終わった蛍の声。彼女の手には手帳や衣服や下着が抱えられている。

「知っているのか?」
「承太郎さんから聞きましたから」

蛍ははっきりそう答えると、今度は居心地が悪そうに視線を落とした。

「?」
「その……着替えをしたいので」

彼女の服に付着した血は既に固まっているが、とてもじゃないが他者に見せられる姿ではない。
静雄は失念していた自分を恥じつつエルドラを手に立ち上がり、彼女を隣室へと促した。

「……」


数分後、蛍が着替えをしている部屋の前に静雄が立っている。
待機する静雄に対しエルドラは小さな声で言う。

「静雄さん、繭に対してこれからする事伝えるんですか?」
「!」

ピルルクとの会話を聞いていたのかと静雄はバツが悪そうに顔を歪ませる。
エルドラは神妙な顔で続ける。

「繭を倒すって言うなら、今のうちに蛍ちゃんに伝えた方がいい」
「……」

静雄がここに来て蛍に自らの主張を告げなかったのにはいくつか理由がある。
自分たちを安全な場所に避難させる必要があって言い出せなかったのが一番大きい。
だがそれとそう変わらないくらい大きな原因もあった。

それは蛍の信念を挫けば、これからの行動に支障をきたすくらい衰弱する可能性が見えたから。
通用こそしなかったが、リゼを説得する際に蛍からは強い信念が感じられた。
ただの小学生を超える説得を発言できるほどに。その強さを否定するような事は静雄には気が進まなかった。
両者はしばし黙り、沈黙が訪れる。また口火を切ったのはエルドラであった。

854有為転変 ◆WqZH3L6gH6:2017/03/21(火) 14:47:12 ID:c9XBxMJM0

「こんな状況だし……いつ敵が襲撃して話し合いができなくなるかも知れない」

そう冷然と現実を告げる。

「……!」

静雄は蟇郡の事を思い出し葛藤する。もう果たせない約束を意識して。
白服の怪物に圧倒された事実からくる無力感も意識して。
また訪れるは沈黙の時間。静雄は思考の海に落ち発言できない。
ルリグは訴えかけるようにゆっくりと呟いた。

「……私はやるべき時に必要な事を伝えられなかった」
「!」


静雄はトーンを落としたルリグの声を聞き、目を見開く。
これ以上発言させるわけには行かないと静雄は思った。
それは自己保身や現実逃避の防止からくる不快の念からではない。
エルドラがが深い後悔を抱えているからこそ、それ以上に年長者として彼女に負担を強いる訳には行かなかった。
ここに来て伝わった。未熟な大人でも静雄は今すべきことが解る。
力なんて関係ない、越谷小鞠の死を最も悲しみ怒った外部の"人間"として彼は決断する。

「そうする」

エルドラが次の句を告げる前に、静雄は力強く頷いた。

「……」

気づいたエルドラは独白を止め、両手を頭の後ろに回し気恥ずかしそうに音のしない口笛を吹いた。
静雄は呆れたような表情を浮かべると聞かなかったように腕を組んで蛍を待った。
少しして部屋の戸が開き、蛍が姿を見せた。
その姿は細部は異なるがさっきまで着用してた服とそう変わらなかった。

「あー静雄さん、腕輪を見たいのでお願い」

3人はさっきの部屋に戻り。相談を再開している。
静雄は腕輪を操作しながらエルドラに情報を見せている。

「蛍ちゃんは最初どこにいたんだ?」
「え?私は映画館で……承太郎さん達と一緒に」
「俺はゲームセンタ-にいたんだ」
「え」

静雄は湧き出す感情を抑えながら、柔らかい笑みを浮かべ照れくさそうに言う。

「俺さ、繭がやった事に腹が立って暴れてたんだ」
「……」
「その時、小鞠ちゃんに遭ったんだ」
「!?」
「最初、訳が解らなかったけどよ……」
「?」
「話して見て解ったんだ」

855有為転変 ◆WqZH3L6gH6:2017/03/21(火) 14:49:12 ID:c9XBxMJM0

「……。小鞠ちゃん、乱暴者の俺を受け入れてくれたんだ」
「!」
「間違いなくいい子だったよ。上級生として君達の事を守ろうと頑張ろうとして」

蛍の左目から涙が流れた。
静雄は表情を変えずに続けようとする。それがぎこちないものと自覚していても。

「……もっと話を小鞠ちゃんの話を聞きたいか?」
「お願いしますっ」

掠れた声で蛍は言う。鼻水を吸った音がした。静雄は話を続ける。
会話にはやがて蛍による小鞠の思い出話が入り始めた。それでも2人の会話が中断する事はない。
襲撃者も来客もない心からの対話。エルドラは黙って2人のやり取りを聞いている。
その対話は静雄が蛍に対しての隠している感情に気づいても尚続いた。

----------------------------------------------------------------------------------------------------

I:『犬吠埼樹さんのスマホから書き込んでいます。鮮血とアスクレピオスは目的地に到着しました。
途中針目縫と交戦し倒しました』

それはスマホのチャット画面に新たに加わった文章。
3人はそれを意識しながら支給品の再点検を行っていた。
これからの方針についての相談は粗方終えている。
写真立てにはエルドラが立たされていた。
蛍は上目つかいで静雄を見て「主催者は……」と言った。

静雄は黙ったまま真剣な眼差しを蛍を見つめている。
それは繭に対する非道による怒りから来るもの。繭殺害は今の蛍の主義には反する。
だがその根源から来る怒りを蛍は否定しない。だから彼女なりの熟考からきた主張を口出すタイミングを待った。

「俺はあの女のやった事はどうしても許せねえ」

拳を握る音が聞こえた。

「だからアイツに……報いを与えたい」

さっきと同じように殺すとは言わない、それは嘘を付きたいから言葉を変えたのとは違う。
さっきの対話の途中で殺す殺す……発言を蛍に咎められたのが原因だから。
"繭に怒りをぶつける"それだけは誰が相手でも譲れなかった。

「分かりました」
「……」

蛍が強いショックを受けた様子はない。
無理を通した罪悪をちょっと感じながら静雄は安堵する。

「ただ……」
「!」
「もし……主催者に限りませんけど、機会があったら私、話してみたいんです」
「……」
「……」
「解った、できるだけ善処する。だから無理だけはしないでくれ」

856有為転変 ◆WqZH3L6gH6:2017/03/21(火) 14:50:23 ID:c9XBxMJM0
「はいっ」

蛍はようやく元気を含んだ笑顔を浮かべエルドラの方へ向いた。

「へ?私はおふたりがする事に反対はしませんよ。何せ支給品ですからねー」

静雄は呆れたようにエルドラに質問をぶつける。冗談めかした感じで。

「何でそのただの支給品がそこまですんだよ?何か魂胆でもあるのか?」
「……いやぁ、私だって生き残りたいですからねー。御二人には仲良くしてもらわんと」
「ふっ」
「なんですかねぇ、その冷笑は」

その時、スマホから発信音がした。
3人は即座にチャット画面に注目する。


I:『犬吠埼樹さんのスマホから書き込んでいます。鮮血とアスクレピオスは目的地に到着しました。
途中針目縫と交戦し倒しました』


「これは……」

名称の選択は3番めと6番目の文章と似たような感じだったが、
そこから人物を特定できるようなものは静雄にはないと思えた。
困惑する彼を他所にエルドラはどこともなく呟く。

「義輝と覇王へ。フルール・ド・ラパンとタマはティッピーの小屋へ。
 タマは小湊るう子……」
「!」
「それって小湊さんのルリグの名前ですか?」
「ええ聞いた所によると以前の。今はイオナって名前のルリグと組んでますが」
「イオナ……浦添伊緒奈とは違うんだよな?」
「……どうですかね?時系列の違いもありますし」
「ティッピーの小屋はラビットハウスの事です」
「4番目の発言のタイミングからすると、あの子があの女達に攫われる前の文章か。クソ!」

ここに来て携帯電話を握りつぶしたのを静雄は後悔する。チャット機能があったかも知れないのにと。
どこぞの吸血鬼以上に。

「針目縫……」

蛍は蟇郡から智乃を通じて伝えられ知った最上級の危険人物の事を思い出し、呟く。
針目が倒された事は僥倖だが、倒した人達の手がかりが少ない。
智乃は蟇郡から神衣鮮血の事までは教えられていなかったから。

「……これだけじゃ判断の材料に乏しい気もしますね」
「……」

蛍は意見を求めるべく静雄の方を向く。
静雄はスマホに登録された電話番号を見て考える。
登録されているのはラビットハウス、ゲームセンター、映画館、万事屋銀ちゃんの4箇所。
万事屋を除いて、生前の臨也が登録した番号。

857有為転変 ◆WqZH3L6gH6:2017/03/21(火) 14:51:33 ID:c9XBxMJM0
より多くの協力者が必要だとここに至って静雄は思った。
生前の臨也による情報工作の悪影響の懸念はある。
だがエルドラが気づかせたようにいつどうなるか解らない状況が故に恐れを隠して電話を掛けようとする。

「待って下さい」

蛍が静雄を止め、自らの提案を口にする。

「チャットかメールでリゼさんのこと伝えられないでしょうか?」
「……そうだな」

書き込む文章をエルドラも交えた3人で考える。
相談の傍ら、蛍の手帳と糸と布を使った作業は進行している。
10分以上をかけてもいい文章が浮かばなかった。
それだけリゼの扱いは難儀なのだ。

蛍は出来上がったカードホルダーにエルドラの同意を得た上で彼女を収納する。
次に彼女はまだ眠り続けるピルルク用のカードホルダーの制作に着手する。
その時、スマートフォンが振動した。

3人は相談を中断し、誰が受け持つかを考える。静雄は慎重にスマホを手に取ると蛍へと手渡す。

「……」

映し出された番号は先のどの施設のものでもない。
もしかしたら、と期待半分不安半分に蛍は意を決してボタンを押した。


「もしもし……」
『……』

電話の向こうから微かな喧騒が聞こえたような気がする。
蛍は気を落ち着かせ、誰が話し掛けても対応できるよう気を引き締める。

『ほたるん……』
「れんちゃん」

最後に会ってから感覚的に2日も経っていないのに、長い時が流れたような気がした。
的外れとも取れるその思考の後、蛍は表情を緩めた。

「無事なの、元気なの?」

それは嗚咽混じりとも取れる問いかけ。
だがその感情は悲しみとは相反するもの。

『ウチ、無事なん!さっつん達のおかげで元気なん!』
「っ」

蛍が深呼吸をした。
そして何かが決壊したように安堵から来る言葉が、要領の得ないものも含めて次々と飛び出す。
電話の向こうの少女 れんげも同じように喋りまくった。

「……」

858有為転変 ◆WqZH3L6gH6:2017/03/21(火) 14:53:21 ID:c9XBxMJM0
静雄はそんな2人のやり取りを見守っていた。

----------------------------------------------------------------------------------------------------

同じ村に住む2人のやりとりが一段落した後。
静雄は現在のれんげの保護者である鬼龍院皐月と通話していた。

『そうか、蟇郡と纏流子は……』
「す……」

詳細までは聞いていないが静雄は蟇郡の主君である皐月について
静雄は詫びの言葉を口にしようとした。

『謝らなくてもいい。あいつ自身それを望むような者ではない』

凛としたその声に静雄は口を噤んだ。

『しかし、極制服を着用していたとは……』

微かな困惑が入り交じった皐月の声に、エルドラは助け舟を出すべく静雄に声をかける。

「それってまた時系列の……ってやつじゃないですかね」

同意を求められた蛍は黙って頷く。
蛍自身、その行き違いから生命を落としかけたのだ。忘れるはずがない。

『どういう事だ?』
「……話したいんだけど、代わっていいですかね?」

静雄は黙ってスマホを蛍に渡す。

「はい。こちらルリグのエルドラー」
『ルリグ?何の事だ』

知らないようですねって感じで静雄達に目配せしたエルドラは、蛍にサポートを頼みつつ慎重に皐月との通話を続けた。

----------------------------------------------------------------------------------------------------

「……」

蛍は鉛筆は手に皐月から教えられた電話番号を記録していく。
そしてその番号をスマホに登録していく。
生前、臨也は記録は残さず、自分で記憶した方がいいと言っていたのを蛍は思い出し、
恥を感じながらもやるべきことを続けた。

『では、こちらは手紙を処分するがいいのか?』

皐月とれんげは既に記憶したという。
その言葉に力強さを感じた静雄は「ああ」と同意する。

『それで静雄さんが探している相手は……』
「小湊るう子。紅顔の中肉中背の中学生くらいの女の子だ。後、俺の事は呼び捨てで良い。蟇郡もそう呼んでいたから」

859有為転変 ◆WqZH3L6gH6:2017/03/21(火) 14:54:51 ID:c9XBxMJM0
『小湊……るう子か』
「はい」

それは蛍の声。

『解った。我々は今分校にいるが、あなた達はどうする?』
「俺達は……今からそっちに向かおうと思う」
『そうか。では我々もそちらに行こう』

そうした方が早く合流できるかと3人は合意する。

「そうだな。頼むぜ」
『そちらこそ』

静雄は蛍にスマホを渡すと、彼女は電話の向こうに声をかける。

「じゃ、またねれんちゃん!」
『うん、またなん!』

通話が終了した。
静雄と蛍はさっきと比べ晴れやかな表情で立ち上がる。

「ちょっと、待って」

とエルドラは2人にストップをかけた。
机の上には1枚の黒カードがある。
静雄はそのカードを捲ると裏面には支給品 蝙蝠の使い魔の詳細が書かれていた。

「私をその蝙蝠に触れさせて来れませんかね?」
「何でだ?」
「ちょいと思い当たる節がありまして」

静雄は黒カードから蝙蝠を出し、蛍はホルダーからルリグカードを出す。
欠伸をした蝙蝠にエルドラは触れた。
すると蝙蝠は青白く発光し目をぱちくりさせた。

「これは……?」
「うーむ。静雄さん、ちょっと戸を開けてもらえませんかね?」

静雄は戸を開けると、蝙蝠は飛び立ち暗闇へと身を躍らせる。

「おい」
「……おー、見える見える」
「あのエルドラさん、もしかして」

ある事を記憶している蛍はエルドラに問いかける。

「どうやらこの子、シグニと同じように扱えるみたいっすね」
「シグニ?」
「ルリグの使い魔……って言って良いのかな?みたいなものです」

ルリグは稀にだが触れた物体を自らの眷属 シグニへと進化させる事ができる力を持つ。
ゲームとしてだけではなく創作小説としてのウィクロスにも詳しいエルドラだからこそ思い至った発想だった。

860有為転変 ◆WqZH3L6gH6:2017/03/21(火) 14:57:46 ID:c9XBxMJM0

「あまりスピードは出せないけど、これで車の運転も楽にできるっしょ」
「じゃあ私にも」
「色々試してみるのも良いかもですね」

和気あいあいとした2人の感情に釣られたように嬉しそうな鳴き声を上げて蝙蝠が戻ってくる。
蛍はスマホを手に思案し、首に掛けられたエルドラも画面を見つめる。
静雄はそんな彼女等を見て、強くなりたい気持ちを一層強めた。

----------------------------------------------------------------------------------------------------

一方、その頃の旭丘分校では

通話を終えた皐月とれんげは校舎から出ると、蛍らと合流すべく足早に南下しようとする。
さっきまでの通話の情報交換は必要最低限のものに過ぎない。
彼女等と合流してからが本番。桂さんや絢瀬と平穏に会話するための暗号等も伝えた。
連絡は……今はあの3人に頼るしかない。
れんげの精霊が哨戒するかのように宙を舞う。
走った2人は校門を出た。

2人は道路の脇の林に入って進む。辺りは静寂に包まれいる。

今後の進路は、これからのあの3人の成果次第だが、おおよそに決めている。
島の中央の道路を西進し放送局に向うか、あるいは天々座理世を含めた苦境に立たされた反ゲーム派の参加者の救援の為に、
分校の転送装置を使って、駅までの道をショートカットして電車を利用するか。

「……」

城周辺にいるかも知れない妹 纏流子と再会して止めたい気持ちはある。
だが皐月は今はあえてれんげの希望を叶えたかった。貫き通すために。
2人も行く、約束を果たす為に。

861有為転変 ◆WqZH3L6gH6:2017/03/21(火) 14:58:37 ID:c9XBxMJM0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【G-3/温泉付近の民家/夜中】

【平和島静雄@デュラララ!!】
[状態]:こんな状況を招いた自分への怒り(中)、全身にダメージ(中)
[服装]:バーテン服、グラサン
[装備]:ブルーアプリ(ピルルクのカードデッキ)@selector infected WIXOSS
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(18/18)、青カード(13/18)
    黒カード:縛斬・餓虎@キルラキル、 コルト・ガバメント@現実、軍用手榴弾×2@現実、
         コシュタ・バワー@デュラララ!!、不明支給品0〜1(本人確認済み)
    白カード :紅林遊月、衛宮切嗣、ランサー
    自分と蛍の換えの服(上下1〜2着分)@現地調達

[思考・行動]
基本方針:あの女(繭)に報いを与えたい。殺す発言は極力しないように心がける。
  0:道路照明と使い魔を駆使し車で分校方面へ向う。
  1:蛍を守りたい。強くなりたい。
  2:蛍とれんげを再会させ守る為にスマホを通じて情報収集する。
  3:小湊るう子を保護する。
  5:2と3を解決できたら蟇郡を弔う。
  6:リゼが気がかり。
  7:余裕があれば衛宮切嗣とランサーの遺体、東條希の事を協力者に伝える。

[備考]
※一条蛍、越谷小鞠と情報交換しました。
※エルドラから小湊るう子、紅林遊月、蒼井晶、浦添伊緒奈、繭、セレクターバトルについての情報を得ました。
  先程、簡単にですが皐月、れんげとも情報交換を行いました。
※東條希の事を一条蛍にはまだ話していません。
※D-4沿岸で蒼井晶の遺体を簡単にですが埋葬しました。
※D-4の研究室内で折原臨也の死体との近くに彼の不明支給品0〜1枚が放置されています。
※校庭に土方十四郎の遺体を埋葬しました。
※H-4での火災に気付いています。 遊月を埋葬した時点では拡大も鎮火もしていないようです。
※G-4とH-5の境界付近で紅林遊月を簡単にですが埋葬しました。
※ピルルクの「ピーピング・アナライズ」は(何らかの魔力供給を受けない限り)チャージするのにあと1〜2時間かかります。


【一条蛍@のんのんびより】
[状態]:全身にダメージ(小)、精神的疲労(中)
[服装]:普段通りに近い服@現地調達
[装備]:ブルーリクエスト(エルドラのデッキ)@selector infected WIXOSS、蝙蝠の使い魔@Fate/Zero(シグニ化?)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(17/20)、青カード(18/20)
    黒カード:フルール・ド・ラパンの制服@ご注文はうさぎですか?、カッターナイフ@グリザイアの果実シリーズ、
    ジャスタウェイ@銀魂、越谷小鞠の白カード 折原臨也のスマートフォン(考察メモ付き)
    ボゼの仮面咲-Saki- 全国編、赤マルジャンプ@銀魂、ジャスタウェイ×1@銀魂、     
    超硬化生命繊維の付け爪@キルラキル 、およびM84スタングレネード@現実
    越谷小鞠の不明支給品(刀剣や銃の類ではない)、筆記具と紙数枚+裁縫道具@現地調達品

[思考・行動]
基本方針:できる範囲で自分も含めて誰も死なないように行動していきたい。
   1:れんちゃんと再会すべく分校方面へ向う。
   2:平和島さんに付いて行く。
   3:どうにかスマホを活用してリゼさんを始めとした仲間達を助けたい。   
   4:主催者と遭えたら話をしてみたい。
   5:折原さんがどんなに悪い人だったとしても、折原さんがしてくれたことは忘れない
   6:何があっても、誰も殺したくない。

862有為転変 ◆WqZH3L6gH6:2017/03/21(火) 14:59:18 ID:c9XBxMJM0
[備考]
※セレクターバトルに関する情報を得ました。ゲームのルールを覚えている最中です。
※空条承太郎、香風智乃、折原臨也、風見雄二、天々座理世、衛宮切嗣、平和島静雄、エルドラと情報交換しました。
 先程、簡単にですが皐月、れんげとも情報交換を行いました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。現状他の参加者に伝える気はありません。
※衛宮切嗣が犯人である可能性に思い至りました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
※エルドラのルリグカードは自作の透明のカードホルダーに収納されています。
 現在2つ目を制作している最中です。
※折原臨也のスマートフォンにメモがいくつか残されていることに気付きました。 現状、『天国で、また会おう』というメモしか確認していません。
 他のメモについては『「犯人」に罪状が追加されました』『キルラララララ!!』をご参照ください。また、臨也の手に入れた情報の範囲で、他にも考察が書かれている可能性があります。

※エルドラの参加時期は二期でちよりと別れる少し前です。平和島静雄、一条蛍と情報交換しました。
 ルリグの気配以外にも、魔力や微弱ながらも魂入りの白カードを察知できるようです。
 黒カード状態のルリグを察知できるかどうかは不明です。
※現在、蝙蝠の使い魔はエルドラと感覚を共有しています。



※【蝙蝠の使い魔 補足】
 セレクター役がいるルリグと接触させると、ルリグが魔術師と同様に感覚を共有でき使役できるようになります。
 命までは共有しません。なおどちらかを黒カードに収納するか意識を失うとそれらの効果は失われます。
 制限や、ルリグを扱うセレクターが同様に扱えるかどうかは後の書き手にお任せします。
 支給品による強化で魔術の力を得た場合も扱えるかもしれません。

【追記】
臨也のスマホにラビットハウス、ゲームセンター、映画館、万事屋銀ちゃんの電話番号が登録されています。
今回の話で新たに各勇者スマホの番号が登録されました。

863有為転変 ◆WqZH3L6gH6:2017/03/21(火) 14:59:50 ID:c9XBxMJM0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【F-4/旭丘分校付近/夜中】
【鬼龍院皐月@キルラキル】
[状態]:疲労(小)、全身にダメージ(中)、袈裟懸けに斬撃(回復中)
[服装]:神衣鮮血@キルラキル(ダメージ小)
[装備]:体内に罪歌、バタフライナイフ@デュラララ!!
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(5/10)、青カード(8/10)
    黒カード:片太刀バサミ@キルラキル
    白カード:針目縫
    針目縫の腕輪(糸が括り付けられている)、鉛筆2本
[思考・行動]
基本方針:纏流子を取り戻し殺し合いを破壊し、鬼龍院羅暁の元へ戻り殺す。
0:まず平和島静雄と合流する。それから放送局に向うか分校の転送装置を利用して電車を利用するか判断する。
1:絢瀬絵里が心配。 何とか連絡を取りたい。
2:鮮血たちと共に殺し合いを破壊する仲間を集める。
3:纏流子を取り戻し、純潔から解放させる。その為に、強くなる。
4:ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲を調べてみたい。
5:襲ってくる相手や殺し合いを加速させる人物は倒す。
6:神威、DIOには最大限に警戒。また、金髪の女(セイバー)へ警戒
[備考]
※纏流子裸の太陽丸襲撃直後から参加。
※【銀魂】【ラブライブ!】【魔法少女リリカルなのはVivid】【のんのんびより】【結城友奈は勇者である】の世界観について知りました。
※ジャンヌの知り合いの名前とアザゼルが危険なことを覚えました。
※金髪の女(セイバー)とDIOが同盟を結んだ可能性について考察しました。
※罪歌を支配しました。支配した場合の変形は身体から実際の刀身以上までの範囲内でなら自由です。
※一条蛍(I)の書き込みまでチャットを確認しました。
※IDカードから転送装置の存在と詳細を知りました。
※静雄との会話で蟇郡が流子に殺された事を知りました。

【宮内れんげ@のんのんびより】
[状態]:魔力消費(中)、勇者に変身中
[服装]:普段通り、絵里のリボン
[装備]:アスクレピオス@魔法少女リリカルなのはVivid 、犬吠埼樹のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(9/10)
    黒カード:満艦飾家のコロッケ(残り三個)@キルラキル
    飴の入った袋(残り8割)
[思考・行動]
基本方針:ほたるんと再開するために南下する。
1:うちも、みんなを助けるのん。強くなるのん。
2:銀さん、えりりん心配のん。
3:あんりん……ゆうなん……。
4:きんぱつさん、危ないのん?
[備考]
※杏里と情報交換しましたが、セルティという人物がいるとしか知らされていません。
 また、セルティが首なしだとは知らされていません。
※魔導師としての適性は高いようです。 魔術師的な感覚も備わり始めました。
※【キルラキル】【ラブライブ!】【魔法少女リリカルなのはVivid】【銀魂】【結城友奈は勇者である】の世界観について知りました
※ジャンヌの知り合いの名前とアザゼルが危険なことを覚えました。
※金髪の女(セイバー)とDIOが同盟を結んだ可能性について考察しました。
※一条蛍(I)の書き込みまでチャットを確認しました。
※放送を聞いていません。
※IDカードから転送装置の存在と詳細を知りました。

【追記】
※静雄達との通話による情報交換は必要最低限に留まっています。
 少なくとも第二放送前の流子と蟇郡の事、小湊るう子の事、天々座理世を始めとする混乱については伝えられています。
※樹の勇者スマホに臨也のスマホとラビットハウス、ゲームセンター、映画館、万事屋銀ちゃんの電話番号が登録されました。
※蛍の手紙は処分されました。
※衛宮切嗣の遺体とランサーの生首は埋葬されました。  影響はありませんが両者の遺体からは差異はあれど魔力が残留しています。
※旭丘分校からの転移先は本能字学園の校庭です。装置に関する説明文の有無や細かい場所は後の書き手さんにお任せします。
※IDカードは針目縫との空中戦の折紛失しました。現在D-4かD-5の海上に落ちている可能性が高いです。

864 ◆WqZH3L6gH6:2017/03/21(火) 15:02:37 ID:c9XBxMJM0
仮投下終了です。
ご指摘等がありましたらよろしくお願いいたします。
今回は前作も含めて大きな迷惑を掛けてしまい申し訳ありませんでした。

865名無しさん:2017/03/21(火) 21:53:21 ID:cJa1vYI.0
仮投下乙です
シグニの設定を利用して使い魔と感覚共有するというのが面白い…
エルドラが二人の良い潤滑油になっていますね

気になったのですが、蛍の行動方針が前話までの『誰かを死なせるぐらいなら自分が庇って死ぬ』という考えから一転して
『できる範囲で自分も含めて誰も死なないように行動していきたい』になっていることです
きっかけとして静雄との対話やれんげと話ができたことなどの明るい要素はあったのですが
1話の間で(時間経過はあるとはいえ)急に立ち直ったかのようにも見えてしまいましたので、その考えに至る描写が抜けているように感じました

もう一点、
>蛍はここで自らを庇って死んだ少女の名を思い出す。最初にその名を聞いたのは今は亡き香風智乃の口から。
修正スレでも指摘されていますが、『スマイルメーカー』で蛍は遊月と直接に対面しています

866 ◆WqZH3L6gH6:2017/03/22(水) 12:04:46 ID:GgHybcvo0
>>865
感想と指摘ありがとうございます。
蛍と遊月が対面してたのは知っていたんですが、自己紹介をしていた可能性を失念していました。
蛍の行動方針も含め描写の追加と訂正を修正スレに投下させていただきます。

867 ◆WqZH3L6gH6:2017/06/28(水) 12:04:18 ID:.k6mjIJg0
大変遅れてしまいましたが仮投下します。
問題がいくつもありそうなので。

868題名未定 ◆WqZH3L6gH6:2017/06/28(水) 12:05:10 ID:.k6mjIJg0

・??

それは数日前のあるゲームの運営者達の一幕。
もし支給品が何らかの原因で許容以上の効果を発揮したらどうするの?と誰かが訪ねた。
当時その場にいた責任者はこう返した。
その時点、その場にいる責任者次第だと。
質問者は恐る恐る質問を続けた。
それは拙くないかと。
その場の責任者は苦笑しながら言った。責めてどうなるんだい?と。



・神威1



ホテルから本能字学園へ、そして駅までの道のりを走破した神威は、息を整えると身近の掲示板を見る。
時刻は既に夜10時を過ぎている。だが、これくらいの時間なら間に合うと神威は思った。
若干強い風が吹いた。冷たい風だ。
手に持った袋から声が聞こえた。
彼は袋から小さく大雑把に切り取られたクリアファイルを出し、青のルリグ ミルルンに声を掛けた。

「今度は何だい?」

透明色のファイルに挟まれたルリグカードは訝しげな面持ちで口を尖らせながら返答した。

「さっきの校庭の死体あったるん?」

神威は小さく頷く。

「それで……ここにも死体があるるん」

数時間前、初めて黒カードからミルルンが開放された場所でもある。
神威は瞬きをしながら意外そうに訪ねる。

「また何か感じたのかい」

ここにあったルリグが感知できる白カードは既に回収済みだ。
少々とはいえ何があるか、海賊として興味があった
ミルルンは頬杖を突きながら、真顔で言う。

「学校のと、ここでの死体、雰囲気が違うるん。さっきまでは不自然に思わなかったけど変るん」

「へぇ……」と神威は好奇からの声を上げ、掲示板に隠されてる遺体へと近づいた。
学校での遺体は間桐雁夜と園原杏里とジャンヌ・ダルクのもの。
彼が危険視していた妖刀が何者かに回収されている以外は変化がない。
ミルルンが気づけた現象も雁夜の遺体から弱い何かが感じるようなくらいのもので、両者の興味を強く引くものはなかった。
2人が本能字学園の校庭でやった事は白カードを回収し、遺体を荷車に乗せちょっと移動させたくらいだ。

ここでは発見がありそうな予感に浸りながら、彼は遺体を見る前にミルルンに質問をした。

「これまで感じた力の中では、ここのは何が近いのかな?」

ミルルンは目を瞬きしながら言った。

869題名未定 ◆WqZH3L6gH6:2017/06/28(水) 12:06:56 ID:.k6mjIJg0

「ホテルの……遊技場にあった、あの人形に近い力を感じるるん」

神威は一瞬宙を仰ぎ、手に持った袋を動かしながら2つの遺体を検分する。
彼の瞳が不思議そうに揺れた。


「……どっちがだい」
「神威が今見てる方にきまってるるんっ」

神威は苦笑いに近い笑みを浮かべ、少々途方に暮れたように呟く。


「俺、呪いには詳しく無いんだけどな」
「ミルルンもるん」
「……後回しにしようか?」
「……賛成るん」

彼は力とやらを感じる遺体をもう一度凝視するや、迷わず方向転換し駅へ向かった。
入巣蒔菜だった遺体を、変化があったにも関らず再度放置しつつ。


・桂1



『犬吠埼風さんのスマホから書き込んでいます。
 放送までにこちらから連絡出来なければ、先に行くようお願いします。
                   狂乱の貴公子とブランゼルより』




映画館の中を再度探索するは桂小太郎とコロナ・ティミル。
あちこちに点在する大きな穴を確認しながら、桂は思索を続けている。
本来ならスマホで皐月に連絡をした後、旭丘分校に行く予定だったが、それは出来ないでいた。

「電話線はすべて切られているか」

彼は羽織を小さく揺らせながら、穴から覗く電話線を見つつ表情を厳しくさせる。
結城友奈ら勇者達のスマホは同じ勇者スマホで通話出来ないようにされているのを知ったのは、ついさっきの事。
なら施設の電話ならと劇場の電話の使用を試みたが、既に荒らされ電話のみならず大半の映画館の機能が利用できなくなっていたのだ。
そうなると身近な施設で電話がありそうなのは駅となってくる。
同じく勇者スマホを所持する皐月達も同じ状況と見たコロナの提案で、もう少し映画館を調べて見ようと決めたのはその直後だった。
絢瀬絵里達の電話を通じ、こちらへの連絡を待つ為に。
2人は階段を降り、やがて地下への出入り口を発見した。


「……ちょっと失礼しますね」

コロナは自重に耐えきれず崩れた壁の前に立つと、ブランゼルを掲げ魔法を行使する。
破損した壁が固まり、石人形が形成される。
DIOとの戦闘で用いたゴライアスと比べれば小さくデザインが違うゴーレム。
そしてコロナは額に浮かんだ汗を拭い、勇者スマホを操作し変身を解除した。

870題名未定 ◆WqZH3L6gH6:2017/06/28(水) 12:07:46 ID:.k6mjIJg0

「何を?」

コロナの行動の意図を桂は尋ねる。
出現した魔法陣も前とどこか違っている。何か無理したのではないか。


「大丈夫です。確認したい事がありまして」

コロナは桂に説明すると、彼はそれに納得する。
桂にはコロナの持つような魔力はないが、一応はそれに習い変身を継続する事にした。

2人は扉を開き、入った。
階段を降りてゆく。
目の前に広がる光景は2人が予想だにしないものだった。
桂の視界にある物体が入り込む。
彼は大きく口を開いた。



――コロナは桂の顔を見る。彼は首を振り、顔を上げる。
彼女は僅かに顔を俯かせると、地下通路を見渡す。
外壁は白く、あのゲーム開始時のあの部屋のようだった。
ゴーレムの両手は崩れている。
コロナは外壁に興味を持ち、強度を確かめるべく壁の破壊を試みたのだ。
繭の居場所を突き止めれば、そこは要塞で多少なりとも破壊活動が必要になると思ったからだ。
しかし、壁には傷一つつかず、ゴーレムの両腕が自壊したのみだった。

コロナは壁の破壊を一旦諦め、せめて材質を把握すべく手に触れた。
壁は依然固く、より大きな力を加えても壊れないかもしれない。そう思わせる不気味さがあった。
先が思いやられる。コロナは意気消沈しそうになるが、それでも自分を奮い立たせた。

「……地下通路があったのは盲点でしたね」

気を取り直したようにそう言うと、コロナは埃の付いた学生服を払った。

「コロナ殿、魔力の調子はどうだ?」

コロナは右掌を握りしめ考え込む。

「回復していってます。桂さんの方は?」

桂はつま先で壁を軽く蹴りながら変わらぬ調子で返答する。

「分からん。だが不調は感じられない」

変身中は魔力の回復がしない。その事を知ったコロナは心配そうに言う。


「れんげちゃんにその事伝えた方がいいですね」

桂は頷く。

871題名未定 ◆WqZH3L6gH6:2017/06/28(水) 12:08:23 ID:.k6mjIJg0
「調べた甲斐はあったな」

桂はあえては明るい調子で強く言った。

「ですね」

コロナも笑顔で応え……目に着いた物体を見て思わず目を反らした。

『吸血鬼』


――ここは地下通路施設モンスター博物館の出口付近。
桂が威嚇の叫びを挙げたそれは模型と解るような材質で作られていた。
でなければ桂は一目見て破壊に踏み切っていただろう。


「できればもっと沢山の人と見て回りたかったですね」


コロナは嘆息し、桂は首をコキコキ回し出口の方を向いた。
今は駅に向うが先決。全て見て回るには時間が惜しい。
そう未練を残しながら、コロナは桂に続こうとする。

「あれ?」

階段を登る途中、彼女は丸っこい毛玉のような物体を発見する。
地下通路発見の衝撃から気づけなかったのか。
コロナは足早に階段を登り切ると、汚れた物体をそっと拾い上げた。


・皐月1

れんげから借りたスマホの通話を切り、現在の持ち主へ返却する。
皐月は白カードの僅かな明かりを頼りにれんげと共に南下を再開した。
脇にはアスファルトで舗装された道路が見える。照明灯は見当たらない。
僅かに乱れたれんげの息遣いを感じながら、皐月はさっきのチャット内容と絵里からの連絡を思い出す。
絵里の無事が確認できた。その上、友奈の仲間であった三好夏凛や、杏里と親しかったセルティと同行していたのは更なる幸いだった。
桂とコロナの無事も伝えられた。
後は平和島静雄達と合流できれば本格的に前進できる。
それだけにより一層の連携の為にも坂田銀時の死は早めにれんげに伝える必要がある。
どのタイミングで言おうか。
桂さんとコロナの使用しているスマホはこちらへの通話は無理だ。

そうなって来ると現状頼れるのは平和島静雄が所持していると思われる端末だが、
北上しているはずの彼らの車が一向に見つけられない。何かあったのか?
少々の焦りを感じつつ、皐月はれんげの方を向く。
れんげはこちらを振り向き、返答を待とうとする。
皐月は「いや、まだいい」と小さく言うと正面に顔を向けた。
彼女が纏う神衣鮮血も安心したかのように小さく動いた。

通話から時間は経っていない。
先程聞かされた、未だに凶行を働いているであろう纏流子を意識しているからだ。

872題名未定 ◆WqZH3L6gH6:2017/06/28(水) 12:09:34 ID:.k6mjIJg0
用心に越したことはないが、焦るのは良くない。
何てていたらく。彼女は笑うように息を吐いた。

「おっ」

突如、れんげが声を上げた。
皐月も彼女が見つけた何かを発見する。

「ほたるん!!」

黒い車らしき物体の側で途方に暮れたように座り会話をする2人の男女がいた。
2人もこちらに気づき、女性の方――一条蛍が嬉しそうに立ち上がった。

「れんちゃん……!」

両手を上げて駆け寄るれんげと、とてとてと疲労が残る足取りで近づく蛍。
男――平和島静雄はカードホルダーを手に、一応警戒してるのだろう――周囲を見回しながら早足で皐月の方へ向かった。

皐月はそれを見て、ちょっと怒ったように両手を組んだ。
静雄はバツが悪そうに頭を掻いた。

「鬼龍院皐月……さんか。あー車……がよ」

手にしたカードから女性の声がした。

「生き物とは思わなかったっすねー」
「ああ……」


皐月はその声を一瞬不思議に思った。だがそれは話に聞いたルリグ エルドラと気づき理解。
彼女は両手を腰に当て口元に微かに笑みを浮かべて言った。

「何をやってるんだ、あなた達は」

静雄は両手を繋いで手を振る蛍とれんげを横目で見つつ「すまねぇ」と返答した。

皐月が二の句を継ごうとした時、背筋に寒気が走った。

「な……」

彼女が身を動かす前に、それは聞こえた。


平和島、愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛
静雄、愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛
見つけた、愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛
愛しましょう愛しましょう愛しましょう愛しましょう愛しましょう愛しましょう愛しましょう愛しましょう……
愛しましょう愛しましょう愛しましょう愛しましょう愛しましょう愛しましょう愛しましょう愛しましょう……


「ひっ……」

怖気を感じたエルドラが短く悲鳴あげた。

873題名未定 ◆WqZH3L6gH6:2017/06/28(水) 12:10:31 ID:.k6mjIJg0
・コロナ1

冷たく気持ちいい。そう夜風を感じながらコロナは前向きに足取りを軽くしようとする。
映画館の探索を終えた桂とコロナは駅に向かっていた。
彼女の手には風呂敷があり、中には数時間前にヴァニラ・アイスが手荒に扱ったティッピーの模型が収納されている。
破損とまでは行かなかったが汚れたそれを何となく不憫に思い、余裕があればコロナが洗おうと回収したのだ。

目の前に駅が見える。

「……コロナ殿」

緊張を孕んだ桂の声。
小さく何かが擦れる音がした。
警戒し身体を固くするコロナ。
しかし桂の息遣いが徐々に緊張が薄らいだものに変化していく。

「……お前は」

理由はコロナにも解かった。駅付近にいた男から殺気のようなものは感じられない。
だが同時に桂の声色に険しさらしきものが混じってるのに疑問に思う。
彼女は目を凝らし、男の姿をよく確認しようとする。

「あ、あなたは!」

声が震える。
それは彼女達を散々痛めつけた吸血鬼を力においては圧倒した男だったから。
今の彼の事は絵里を通じて三好夏凛から聞いている。
吸血鬼DIOの居場所が解らぬ以上、ここに居ても不思議でないが……。

カードの様な物を拾い上げた男は2人の前に顔を向け言った。
少年と言ってもいい若い男の声だった。

「……参ったなぁ、あんたと出遭うかぁ」
「戦意は無い、か。……絵里殿の言った通りだな」

感情の抑えた声で桂は呟く。
少年はそれを受け笑うように口元を歪める。

「話があるんだけど……良かったらそちらの子に話して置くけど?」

桂は視線を逸らさず、真剣な面持ちで言った。

「……否、いい」

神威は「へぇ?」と意外そうに返事する。

ぐ……と歯を食いしばる音がした。
神威の目を見据えながら、桂はやや掠れた声言った。

「絵里殿とあいつの選択を無駄にしたくない」
「ふぅん……」

桂は神威の持つカードを見る。

「それに今のお前はDIO以外に全力は出せまい」

874題名未定 ◆WqZH3L6gH6:2017/06/28(水) 12:11:27 ID:.k6mjIJg0

神威は虚ろな笑顔を止め、目を閉じ溜息をつくように返した。

「……解っていたか」

コロナは少し緊張を解き、桂の裾を引っ張り何かを伝えるべく神威の持つ袋の方に注目するように目配せする。
神威は笑顔になると袋からルリグカードを出した。

「……!」
「それは?!」
「あれれ、知り合い?」


神威はミルルンに対し無言で頷くと駅の方に踵を返す。

「あ……」

2人が呼び止める前に神威はすかさず提案した。


「発車時刻まではまだ時間がある。それまでホームで話をしようか」



・静雄1

「天々座理世……桐間紗路の友人」

皐月の呟きに静雄は深く頷くと、蛍の方に顔を向けた。
蛍は訴えかけるように皐月の目を見た。

『俺が動ければ力になれたんだが』
「未知の力を持つ銃か……」

電話越しで会話した時より濃密な情報交換は終えた。
残りの参加者の危険性もヴァニラ・アイスとセイバー以外はほぼ把握できた。
静雄とエルドラは少し離れた位置を見て憂鬱そうに顔を曇らせる。
地面に一本の刀が突き刺さっているのが確認できる。
れんげが遠目からその刀――罪歌を観察していた。

「我々だと見つからないよう取り押さえるしか無いな」
「そんな……」
『すまんな』

鮮血が蛍に謝意を伝える。
本来なら鮮血はある程度の自律行動を行えるはずだった。
だが制限の為にそれは出来ない。ただの服と見せかけてリゼを取り押さえるのは無理なのだ。

「で、コイツはどういう訳か変わらねえのかよ」

鬱陶しそうに静雄は罪歌を見やる。
静雄の姿に反応した罪歌は皐月をこれまでにない支配力を持って操ろうとした。
だがそれでも支配するに遠く及ばず、皐月自身が静雄から離れ地面に突き刺し事なきを得ている。
その際、黒カードに収納しようとしたがその機能は何故かなかった。

875題名未定 ◆WqZH3L6gH6:2017/06/28(水) 12:12:22 ID:.k6mjIJg0
「私はこれに乗っ取られはしない自信はあるが、戦闘で自在に操るとなると難しいな」
「なるべく俺は離れた方がいいって事か」
『解せん』

鮮血は不満そうに罪歌を睨む。
念の為に鮮血の状態をチェックしたのも先程。
その際、鮮血は他の支給品同様黒カードに収納できた。
ちなみに今は皐月は鮮血を着用している。

「……黒カードの仕組みの解明もいずれ必要になるんだ。手がかりを得られたのは悪い事ではない」
「私も解放されたいっすね」

皐月は考える。
纏流子の神衣純潔も黒カードに支配されているのかを。
もし支配がされていたなら無理に引き剥がさなくても解放するのは不可能では無いと。
しかし。

「あの皐月さん」
「ん?」
「流子さんの事」
「向こうから攻めてきたなら、こちらも対応するしか無い」
「だけど……」
「蛍ちゃん」

皐月に詰め寄ろうとする蛍を静雄が止める。

「あいつは止めたって意味ねぇよ」
「なぜ!?」
「……蛍ちゃんが庇ったところで足止めにもならないんだよ」

そのやり取りを聞き、れんげが心配そうに蛍に顔を向けた。
蛍は悲しみと困惑が入り交じった表情で立つ尽くす。
皐月はしばし考えた後、何かに気づいた様子で蛍に言った。

「何か勘違いしているようだが……」
「え?」
「平和島は薄情とか決めつけで君に言ってるのではないぞ」
「それって……」
「平和島、ちょっと模擬戦がしたいんだが、いいか?」
「……構わねえが、大丈夫か」

皐月の身体の他に、蛍への影響も危惧しての発言。

「私は蟇郡の主だぞ、舐めるな」


不敵に皐月は笑う。蛍の精神状態も折り込み済み。
静雄は少し考えた後、エルドラに周囲の警戒をするよう伝え、皐月に向き合った。
皐月が強い事は聞いている。ほぼ基礎能力のみ静雄でも皐月が只者で無いのは伝わる。
シグニ化した蝙蝠がエルドラの命で再び舞う。
よく分からないままわたわたと2人を止めようとする蛍を、これまたよく分からないまま直感のままにれんげは押しとどめる。
皐月が地面を蹴る音がする。静雄が反応したのは少し遅れてからだった。

876題名未定 ◆WqZH3L6gH6:2017/06/28(水) 12:13:59 ID:.k6mjIJg0

・桂2

桂とコロナと神威はベンチに座ったまま情報交換と交渉を続けている。
神威が数枚の白カードを桂に手渡した。
その中にはラビットハウス内で死んでいた銀髪の男 ポルナレフの顔もあった。

「全員は調べきれそうに無いから、渡した分はあんた達が調べてくれよ
 俺はDIO相手に集中したいからさ」
「お前……繭を倒すつもりなのか」

驚いたように桂は言う。神威は心外とばかりに言い返す。

「俺は戦いも楽しむけど、同時に繭ちゃんも倒すつもりだったんだ
 その為に情報収集や腕輪の解析も進めなきゃね」
「そうだったんですか……」

コロナが声をわななかせながら、劣等感が混ざった眼差しで神威を見つめる。
ミルルンがそんな彼女達を見て、呆れたようにジト目で見続けている。

「じゃあ、神威……さんは何か手がかりを……」
「まぁ、決め手に欠けるけど幾つかはね。あと呼び捨てでいいよ」
「……信じられん」

桂の声が震える。コロナが泣きそうな声色で言う。

「桂さん……わたし達無力ですね……」
「ねー、帰っていいるん?」
「まぁ冗談はさておき、どういうつもりだ?」
「持て余した情報をお裾分けって感じかな?」

桂は棒状の物体――乖離剣エアを手に持ちながら会話を続ける。

「DIOの動向は伝えたが、その見返りとしては大きすぎる感じだが」
「ああ、地下闘技場にいるかもだっけ?これ俺には扱いにくくてさ、そこの君なら使えるんじゃないかな?」

コロナはハッっとした様子で宝具を見た。
今の自分には扱えそうにないが、魔法の心得がある自分なら神威や桂よりは有用に使えるかも知れない。

「DIOを過小評価し過ぎてないか、それに敵は奴だけでは……」
「それは心配する事ではないだろ」
「……お前」

怒りを滲ませず淡々と会話を続けていた桂の表情に初めて怒りの色が浮かぶ。

「小湊るう子ちゃんだっけ?彼女の悪いようにはする積もりはないさ」
「…………俺達と同行はできないのか?」
「それはできないね。理由はあんたには言うまでも無いだろ?」
「そうだな。しかし詰まらない事でお前は命を落とす気か」
「……あいつを倒せるなら詰まらなくはないさ」

神威の声に少しだが怒りの色が孕む。

「準備くらいは充分に整えたらどうだ?」
「? 俺は充分に整えた積もりだけど」

877題名未定 ◆WqZH3L6gH6:2017/06/28(水) 12:14:50 ID:.k6mjIJg0
「いいや、整えていない。DIOや繭以外の敵に倒されるという詰まらない結末の恐れがまだまだ残っている」
「うるさいなぁ。そんなにあいつの命を無駄にしたくないのかい」
「そうだ。あいつの命を終わらせた貴様の終わりはここではない」
「……あいつと一緒にケリを着けたいと言う事かな?」

そのあいつは銀時ではなく、神威とも関係があるもう1人の幼馴染というのが神威に解った。

「……単純な命のやり取りで終わらせる積もりはない。
 もっと訳の分からないドロドロとした状況で話を着けてみせる」
「その状況っていうのは解らないけど、もし、そうなったらアンタに勝ち目なんか無いよ」

王の財宝を片手に自らの肩をトントンと神威は叩く。挑発するように。

「いーや俺が勝つさ」
「あの……」
「むかつくなぁ。邪魔する気?」
「フッ……」

風を切る音がし、金属が擦り合う音がした。
空気が爆ぜた重圧をコロナは感じた。

「……」
「詰まらない終わりには腹が立つのだろう、お前も」
「誰の事を言ってるんだかね……」

かろうじて攻撃を受け流した桂を見ながら、神威は笑みを浮かべながら該当する人物を当てはめようとする。
妹……は納得できないから除外するとして、他は眠りながら殺された少女と助けられたのにすぐ死んだ宇治松千夜の姿が浮かぶ。
どちらかは決められそうもない。となると。
神威は疲れた口調で手をひらひらとさせて、宝具を収める。

「いいさ、準備をもっと整える事にするよ」

神威はそう言いつつベンチに座った。
その時、桂のスマホが振動した。



・皐月2

蛍が呆けたように岩に座り込んでる。
れんげが声を掛け続けてる。
程なくして、蛍は我に返り、ぎこちない笑顔でれんげに応じた。
周辺の幾つかの岩や木が切断、あるいは粉砕されている。
静雄と皐月の所謂超人バトルを目撃したのは蛍にとってそれは初めての事。
多少なりとも刺激が強い。例え、それが静雄の暴力を皐月がいなし続ける内容だったとしても。
身を挺したくらいで流子の殺人行為は止められないどころか、なんにもならないのは明白。
そんな彼女を他所に皐月と連絡先の桂の会話は続く。

「車を入手できたのか?」
「ああ、うん」
「? どうした歯切れが悪いな」

電話の向こうの桂の説明がされる。
皐月は渋い顔になった。

878題名未定 ◆WqZH3L6gH6:2017/06/28(水) 12:15:59 ID:.k6mjIJg0

「…………これは考えものだな」
『皐月殿、そちらはどうだ?』
「あるにはあるんだが。生き物だったらしくてこれまでのダメージが蓄積されて休ませないといけないんだ。
 それに乗用車として利用するにしてはライトがなくて不便でな」

セルティの愛馬であるコシュタ・バワーの事である。
本来ならこれまでの静雄の暴力によるダメージでも大したものでは無かったのだが。
制限で相応にダメージを受けていたのが発覚し、これ以上の使用に躊躇せざるを得ないの状況だ。
それは蛍とエルドラの提案でコシュタ・バワーをシグニ化できないかで試行した際に明らかになった。


『仕方がない。俺達は……』
「……ああ、無理はするなよ。もし、纏流子や天々座理世を発見したら……」
『了解だ、皐月殿』
「……あ、待ってください」

慌てて蛍が皐月の元に駆け寄る。そして桂達に皐月が伝えたのとほぼ同じ要望を伝える。

「空条承太郎さんと……風見雄二さんもお願いします」
「解りました一条さん」

桂の代わりにコロナが返答した。そして電話が切れた。

「……さて、平和島少し遠くに離れてくれないか?」
「ああ」

罪歌を刺激させないべく静雄は移動を開始する。
皐月の手には蛍に渡された裁縫セットが有る。
罪歌が活性化したところで精神を皐月の精神が乗っ取られる事はないが、その代わりコントロールが困難になってくる。
針目縫戦のように鮮やかに形状変化させての使用など望めない。
だから静雄遠ざける。
皐月は視線を下の落とした。
皐月のそばにいるれんげが治療魔法の準備をしている。

れんげが勇者の変身を解けば、皐月の切り傷を縫っている緑の糸が消える。
その前にれんげは再び治癒魔法を掛けて皐月の切り傷を更に癒やす。
その際、もし完全に癒えなかった場合に備えて、再出血しないよう再度罪歌を針に変化させて実体のある糸で縫おうというのだ。

変身を解かせるのはれんげの魔力の回復の為。
そのままだと治癒魔法は後1、2度の行使が限度。今後の事を思うと拙いし、れんげ自身の身体も心配になってくる。

「平和島さん、大丈夫ですか?」
「俺は問題ねえ」

2人の会話を耳にし、皐月はふと再考する。
よく見れば静雄の流子から受けた傷も浅くはない。
救助活動はまだしも戦闘において、静雄の力は有用だ。
先に治癒魔法で癒やすのは静雄を優先すべきではないか。
こちらは実体のある糸で縫えば当面は問題ないくらいの状態に改善している。
そう思案をし皐月は自分の結論を心の中で出した。

879題名未定 ◆WqZH3L6gH6:2017/06/28(水) 12:16:42 ID:.k6mjIJg0

・桂3

螺旋状のサイドポニーをした人形の頭部を手に抱え、コロナはそれを見つめている。
数時間前、DIO発見の為ホテルを捜索した神威の戦利品。
麻雀卓に座らされていた、3体の人形の内1体。
ミルルン曰く、結構な力を感じたから取ってきたとの事。
また同様の魔力を放つ物体――遺体が北の駅付近にもあり、その遺体には異様な変化を遂げていたとの情報も神威によってもたらされた。

桂は一枚の白カードを見つめる。
短めのツインテールの少女――入巣蒔菜のカード。
神威がかねてから興味を持ったという件の遺体の少女。
これらの怪情報が繭打倒の手がかりになるのか?桂は甚だ疑問だ。

「桂さんどうしました?」
「いや、何でも無い。コロナ殿本当に良かったのか?」
「……やだなぁ、背に腹は変えられませんよ」
「う、うむ。油断はしないようにな……」

彼らが乗っているのは高性能ジープ。譲渡された神威の支給品の一つ。
コンピューター制御で悪路も難なく走行できる代物だが、使用するのに条件がある。
それは。

「使用には参加者の命を一生共有とはな……」
「大丈夫ですって……殺し合いの破壊が出来れば解決ですし」

表情は明るく、冷や汗をダラダラ流しながらコロナは言う。
神威がこの支給品をこれまで使わなかったのは自分じゃすぐ壊すからと判断しての事。
廃棄せず取っておいたのは、闘技場との戦いの前は頭脳明晰な対主催を利用する為の材料に使えると思ったから。
桂は内心ビクビクしながら車を発進させた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【G-4/北側/夜中】

【鬼龍院皐月@キルラキル】
[状態]:疲労(小)、全身にダメージ(中)、袈裟懸けに斬撃(回復中)
[服装]:神衣鮮血@キルラキル(ダメージ小)
[装備]:バタフライナイフ@デュラララ!!、罪歌@デュラララ!!(離れた場所に罪歌)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(5/10)、青カード(8/10)
    黒カード:片太刀バサミ@キルラキル
    白カード:針目縫
    針目縫の腕輪(糸が括り付けられている)、鉛筆2本
[思考・行動]
基本方針:纏流子を取り戻し殺し合いを破壊し、鬼龍院羅暁の元へ戻り殺す。
0:転移装置使用の為、分校に向う。途中妨害や探し人(承太郎やリゼ)に遭えばそっちを優先する。
  可能な限り、別行動の仲間と連絡をする。
1:れんげの治癒魔法を自分か静雄誰をどちらを優先させる(?)。
2:鮮血たちと共に殺し合いを破壊する仲間を集める。
3:纏流子を取り戻し、純潔から解放させる。その為に、強くなる。
4:ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲を調べてみたい。
5:襲ってくる相手や殺し合いを加速させる人物は倒す。
6:DIOには最大限に警戒。また、金髪の女(セイバー)へ警戒

880題名未定 ◆WqZH3L6gH6:2017/06/28(水) 12:17:20 ID:.k6mjIJg0

[備考]
※纏流子裸の太陽丸襲撃直後から参加。
※【銀魂】【ラブライブ!】【魔法少女リリカルなのはVivid】【のんのんびより】【結城友奈は勇者である】の世界観について知りました。
※ジャンヌの知り合いの名前とアザゼルが危険なことを覚えました。 浦添伊緒奈とラヴァレイを危険視しています。
※金髪の女(セイバー)とDIOが同盟を結んだ可能性について考察しました。
※罪歌を支配しました。支配した場合の変形は身体から実際の刀身以上までの範囲内でなら自由です。
 ただし静雄が付近にいればコントロールが困難になります。その場合支配はされません。
※桂小太郎ら(I)の書き込みまでチャットを確認しました。
※IDカードから転送装置の存在と詳細を知りました。
※静雄との会話で蟇郡が流子に殺されたらしい事を知りました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
※ヴァニラ・アイスとセイバー以外の参加者の大まかな人物像を把握しました。


【宮内れんげ@のんのんびより】
[状態]:魔力消費(中)、勇者に変身中
[服装]:普段通り、絵里のリボン
[装備]:アスクレピオス@魔法少女リリカルなのはVivid 、犬吠埼樹のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(9/10)
    黒カード:満艦飾家のコロッケ(残り三個)@キルラキル
    飴の入った袋(残り8割)
[思考・行動]
基本方針:うちも、みんなを助けるのん。強くなるのん。
1:銀さん、えりりん心配のん。
2:ほたるんにあえてうれしいけど、しんぱい。
3:あんりん……ゆうなん……。
4:きんぱつさん、危ないのん?
[備考]
※杏里と情報交換しましたが、セルティという人物がいるとしか知らされていません。
 また、セルティが首なしだとは知らされていません。
※魔導師としての適性は高いようです。 魔術師的な感覚も備わり始めました。
※【キルラキル】【ラブライブ!】【魔法少女リリカルなのはVivid】【銀魂】【結城友奈は勇者である】の世界観について知りました
※ジャンヌの知り合いの名前とアザゼルが危険なことを覚えました。
※金髪の女(セイバー)とDIOが同盟を結んだ可能性について考察しました。
※一条蛍(I)の書き込みまでチャットを確認しました。
※放送を聞いていません。
※IDカードから転送装置の存在と詳細を知りました。
※変身を解除しない限り魔力は回復しません。回復魔法の使用は現状あと1、2回が限度です。

【平和島静雄@デュラララ!!】
[状態]:こんな状況を招いた自分への怒り(中)、全身にダメージ(中)
[服装]:バーテン服、グラサン
[装備]:ブルーアプリ(ピルルクのカードデッキ)@selector infected WIXOSS
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(18/18)、青カード(13/18)
    黒カード:縛斬・餓虎@キルラキル、 コルト・ガバメント@現実、軍用手榴弾×2@現実、
         コシュタ・バワー@デュラララ!!、不明支給品0〜1(本人確認済み)
    白カード :紅林遊月、衛宮切嗣、ランサー
    自分と蛍の換えの服(上下1〜2着分)@現地調達

[思考・行動]
基本方針:あの女(繭)に報いを与えたい。殺す発言は極力しないように心がける。
  0:分校に向う。
  1:蛍を守りたい。強くなりたい。
  2:小湊るう子を保護する。
  3:2を解決できたら蟇郡を弔う。
  4:リゼが気がかり。
  5:余裕があれば衛宮切嗣とランサーの遺体、東條希の事を協力者に伝える。

[備考]
※一条蛍、越谷小鞠と情報交換しました。
※エルドラから小湊るう子、紅林遊月、蒼井晶、浦添伊緒奈、繭、セレクターバトルについての情報を得ました。
 簡単にですが皐月、れんげとも情報交換を行いました。
※東條希の事を一条蛍にはまだ話していません。
※D-4沿岸で蒼井晶の遺体を簡単にですが埋葬しました。
※D-4の研究室内で折原臨也の死体と桐間紗路の近くに臨也の不明支給品0〜1枚が放置されています。
※校庭に土方十四郎の遺体を埋葬しました。
※H-4での火災に気付いています。 遊月を埋葬した時点では拡大も鎮火もしていないようです。
※G-4とH-5の境界付近で紅林遊月を簡単にですが埋葬しました。
※ピルルクの「ピーピング・アナライズ」は(何らかの魔力供給を受けない限り)チャージするのにあと1時間かかります。

881題名未定 ◆WqZH3L6gH6:2017/06/28(水) 12:18:47 ID:.k6mjIJg0

【一条蛍@のんのんびより】
[状態]:全身にダメージ(小)、精神的疲労(中)
[服装]:普段通りに近い服@現地調達
[装備]:ブルーリクエスト(エルドラのデッキ)@selector infected WIXOSS、蝙蝠の使い魔@Fate/Zero(シグニ化?)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(17/20)、青カード(18/20)
    黒カード:フルール・ド・ラパンの制服@ご注文はうさぎですか?、カッターナイフ@グリザイアの果実シリーズ、
    ジャスタウェイ@銀魂、折原臨也のスマートフォン(考察メモ付き)
    ボゼの仮面咲-Saki- 全国編、赤マルジャンプ@銀魂、ジャスタウェイ×1@銀魂、     
    超硬化生命繊維の付け爪@キルラキル 、およびM84スタングレネード@現実
    越谷小鞠の不明支給品(刀剣や銃の類ではない)、
    白カード:越谷小鞠
    筆記具と紙数枚+裁縫道具@現地調達品

[思考・行動]
基本方針:誰かを死なせて悲しむ人を増やしたくない。自分の命についてはまだ分からない。
   1:れんちゃんと再会すべく分校方面へ向う。
   2:平和島さんと皐月さんに付いて行く。
   3:どうにかスマホを活用してリゼさんを含めた仲間達を助けたい。   
   4:主催者と遭えたら話をしてみたい。
   5:折原さんがどんなに悪い人だったとしても、折原さんがしてくれたことは忘れない
   6:何があっても、誰も殺したくない。

[備考]
※セレクターバトルに関する情報を得ました。ゲームのルールを覚えている最中です。
※空条承太郎、香風智乃、折原臨也、風見雄二、天々座理世、衛宮切嗣、平和島静雄、エルドラと情報交換しました。
 簡単にですが皐月、れんげとも情報交換を行いました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。現状他の参加者に伝える気はありません。
※衛宮切嗣が犯人である可能性に思い至りました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
※エルドラのルリグカードは自作の透明のカードホルダーに収納されています。
 現在2つ目を制作している最中です。
※折原臨也のスマートフォンにメモがいくつか残されていることに気付きました。 現状、『天国で、また会おう』というメモしか確認していません。
 他のメモについては『「犯人」に罪状が追加されました』『キルラララララ!!』をご参照ください。また、臨也の手に入れた情報の範囲で、他にも考察が書かれている可能性があります。

※エルドラの参加時期は二期でちよりと別れる少し前です。平和島静雄、一条蛍と情報交換しました。
 ルリグの気配以外にも、魔力や微弱ながらも魂入りの白カードを察知できるようです。
 黒カード状態のルリグを察知できるかどうかは不明です。
※現在、蝙蝠の使い魔はエルドラと感覚を共有しています。
※静雄と皐月の模擬戦を観戦しました。





【追記】
※静雄達との通話による情報交換は必要最低限に留まっています。
 少なくとも第二回放送前の流子と蟇郡の件、小湊るう子の誘拐の件、天々座理世ついての混乱については伝えられています。
※樹の勇者スマホに臨也のスマホとラビットハウス、ゲームセンター、映画館、万事屋銀ちゃんの電話番号が登録されました。
※蛍の手紙は処分されました。
※衛宮切嗣の遺体とランサーの生首は埋葬されました。影響はありませんが両者の遺体からは差異はあれど魔力が残留しています。
※旭丘分校からの転移先は本能字学園の校庭です。装置に関する説明文の有無や細かい場所は後の書き手さんにお任せします。
※IDカードは針目縫との空中戦の折紛失しました。現在D-4かD-5の海上に落ちている可能性が高いです。

882題名未定 ◆WqZH3L6gH6:2017/06/28(水) 12:19:16 ID:.k6mjIJg0
【G-6/道路/夜中】

【桂小太郎@銀魂】
[状態]:胴体にダメージ(小) 、勇者に変身中
[服装]:いつも通りの袴姿 、高性能ジープ@現実?
[装備]:風のスマートフォン@結城友奈は勇者である
    晴嵐@魔法少女リリカルなのはVivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(17/20)、青カード(17/20)
    黒カード:鎖分銅@ラブライブ!、鎮痛剤(錠剤。残り10分の9)、抗生物質(軟膏。残り10分の9)
    白カード:長谷川、ポルナレフ、蒔菜、心愛、雁夜、杏里、ジャンヌ
[思考・行動]
基本方針:繭を倒し、殺し合いを終結させる
1:皐月達を先に分校に向かわせ、自分達は他の参加者との合流、または危険人物を無力化させるべく動く。
  放送が過ぎるか、あるいは皐月達が分校にいけなくなった場合は何らかの方法で北西を目指す。
2:コロナと行動。
3:殺し合いに乗った参加者や危険人物へはその都度適切な対処をしていく。
  殺し合いの進行がなされないと判断できれば交渉も視野に入れる。用心はする。
4:スマホアプリWIXOSSのゲームをクリアできる人材、及びWIXOSSについての(主にクロ)情報を入手したい。
5:金髪の女(セイバー)に警戒
[備考]
※【キルラキル】【ラブライブ!】【魔法少女リリカルなのはVivid】【のんのんびより】【結城友奈は勇者である】の世界観について知りました
※ジャンヌの知り合いの名前とアザゼルが危険なことを覚えました。
※金髪の女(セイバー)とDIOが同盟を結んだ可能性について考察しました。
※勇者に変身した場合は風か樹の勇者服を模した羽織を着用します。他に外見に変化はありません。
 変身の際の花弁は不定形です。強化の度合いはコロナと比べ低めです。
※入巣蒔菜の遺体の異常を神威から伝えられました。多少の魔力の他に明らかな変化があります(詳細は後続の書き手さんにお任せ)


【コロナ・ティミル@魔法少女リリカルなのはVivid】
[状態]:胴体にダメージ(小) 、ちょっとドキドキ、高性能ジープと命を共有
[服装]:制服
[装備]:友奈のスマートフォン@結城友奈は勇者である
    ブランゼル@魔法少女リリカルなのはVivid 、
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(16/20)、青カード(17/20)
     黒カード:トランシーバー(B)@現実、勇者部五箇条ポスター@結城友奈は勇者である
     ティッピーのぬいぐるみ?、小走やえ人形の頭部
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを終わらせたい。
1:桂さんと行動。
2:桂さんのフォローをする
3:金髪の女の人(セイバー)へ警戒
4:高性能ジープと命を共有したことにちょっと後悔
[備考]
※参戦時期は少なくともアインハルト戦終了以後です。
※【キルラキル】【ラブライブ!】【魔法少女リリカルなのはVivid】【のんのんびより】【結城友奈は勇者である】の世界観について知りました
※ジャンヌの知り合いの名前とアザゼルが危険なことを覚えました。
※金髪の女(セイバー)とDIOが同盟を結んだ可能性について考察しました。
※勇者に変身した場合は友奈の勇者服が紺色に変化したものを着用します。
 髪の色と変身の際の桜の花弁が薄緑に変化します。魔力と魔法技術は強化されません。
※高性能ジープと命を共有しました。修理不可まで破壊された場合彼女は死にます。
※入巣蒔菜の遺体の異常を神威から伝えられました。多少の魔力の他に明らかな変化があります(詳細は後続の書き手さんにお任せ)
※小走やえ人形の頭部を神威から譲渡されました。多少の魔力が込められています。

883題名未定 ◆WqZH3L6gH6:2017/06/28(水) 12:19:54 ID:.k6mjIJg0

【?/?/夜中】※G-6の駅のホームか、G-6/道路で桂と同行。
【神威@銀魂】
[状態]:全身にダメージ(小)、頭部にダメージ(小) 、宇治松千夜の死に対する苛立ち(小)
    よく分からない感情(小)、桂小太郎への苛立ち(小)
[服装]:普段通り
[装備]:王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)、ブルーデマンド(ミルルンのカードデッキ、半分以上泥で汚れている)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(24/30)、青カード(24/30)、電子辞書@現実
    黒カード:必滅の黄薔薇@Fate/Zero、不明支給品0〜2枚(初期支給)、不明支給品1枚(回収品、雁夜)
    黒カード(絵里から渡されたもの) :麻雀牌セット(二セット分)、麻雀牌セット(ルールブック付き)、不明支給品(銀時に支給、武器)
                      ウィクロスカード大全5冊セット、アスティオン、シャベル、携帯ラジオ、乖離剣エア
    白カード:友奈、風、樹(切れ込みあり)
[思考・行動]
基本方針:俺の名前は――
0:DIO討伐の為、ホテルへ向かう。
1:見どころのある対主催に情報や一部支給品を渡したい。
2:眠り姫(入巣蒔菜)について素性を知りたい。ただしあまり執着はない。
[備考]
※DIOおよび各スタンド使いに関する最低限の情報を入手しました。
※「DIOとセイバーは日が暮れてからDIOの館で待ち合わせている」ことを知りました。
※DIOの館は完全に倒壊させました。
※ホテルにDIOは潜伏していると思っています。
※大まかですがウィクロスのルールを覚えました。
※ルリグは人間の成れの果てだと推測しました。入れ替わりやセレクターバトルの事はまだ知りません。
※樹の白カードに切れ込みがあるのを疑問に思っています。
※入巣蒔菜の遺体の異常を確認しました。多少の魔力の他に明らかな変化があります(詳細は後続の書き手さんにお任せ)
※ホテルの遊技場に強大な力(魔力)があるのを発見しました。


※白カードは通常は損壊、破壊する事は不可能です。すぐ復元されます。
 (ジョジョ6部の各種DISCみたいな感じ)
※友奈、風、樹のカードは他参加の白カードより強い力を発しているようです。



【高性能ジープ@現実?】
神威に支給。現代世界で考えうる限り最高級の性能を持つ車体。
危険回避にそこそこ以上のコンピューターが使われている。多少の悪路は平気。
ただしカーナビなどロワ進行に不都合な機能は停止させられている。
使用には生きてる参加者の白カードで認証する必要があり。一度登録すると一生車と命を共有しなければいけない。
車が修理不能にまで大破すると認証した参加者は死ぬ。一層解除できない。
認証した参加者が先に死亡すれば、使用不可となる。再起動には新しく認証が必要。

884 ◆WqZH3L6gH6:2017/06/28(水) 12:21:13 ID:.k6mjIJg0
仮投下終了です。
問題がない、あるいは問題がなくなれば翌日に本投下させていただきます。

885 ◆WqZH3L6gH6:2017/06/28(水) 15:24:30 ID:.k6mjIJg0
状態表は明日に修正スレで訂正します。

886 ◆WqZH3L6gH6:2017/06/29(木) 12:22:15 ID:33fQlLnE0
すみません。
諸事情により本投下明日になってしまいそうです。

887名無しさん:2017/06/29(木) 22:25:07 ID:QFfbpbKQ0
仮投下乙です
車入手の下りが唐突に見えたので説明が欲しかったです

888名無しさん:2017/06/30(金) 22:09:31 ID:idiBZask0


889 ◆WqZH3L6gH6:2017/06/30(金) 22:15:14 ID:idiBZask0
途中送信失礼しました。
書き込みさえ難しい状況です。
明日の昼12時までに投下が可能だと思いますが、できなかった場合は破棄宣言させていただきます。

890 ◆WqZH3L6gH6:2017/08/17(木) 07:25:11 ID:AQlBGyAw0
遅れましたが仮投下いたします。

891題名不明 ◆WqZH3L6gH6:2017/08/17(木) 07:26:04 ID:AQlBGyAw0


・承太郎1

離れて四半刻は過ぎただろうか。本人の望みとは程遠い緩やかな足取りで前を進む。
紅林遊月と分かれた後、空条承太郎は南東へ向かっている。
全身が痛む。殺戮者に負わせられた多数の小傷と、小と言えぬ3つの裂傷。
その肉体的ダメージは仲間である風見雄二を探し求める承太郎にとって行動を阻害するものであった。

「……」

何度目になるか解らぬ深い息を彼はつく。
吐息を漏らす度に彼の脳内に少女の糾弾のような高音が響く錯覚に囚われる。
その声ではない声は紅林遊月が捜索しているだろう、天々座理世のに似ていた。
突き放すような事を言ったのが行けなかったのは解っている。
先の乱戦の初めに親しかった香風智乃を殺され、激昂の最中気絶させられ、目覚めた時にはここまでの戦況も
ろくに把握出来てない状況。これで落ち着けと言うのが無理な話だろう。
自分の欠点からの負い目が承太郎の傷の痛みを更に強くする。彼の体力だけでなく気力も削るように。

「!」

負荷に耐えきれなくなったのか、ついに承太郎の右膝がかくんと折れた。
彼は態勢をすぐ整えるものの、顔を少し下げてしまい、観念したかのように両膝を負った。
背と後頭部が草と軟土にとすんと着いた。焦りを覚える間もなく承太郎は意識を失い、仰向けに倒れた。




・1日目 11:??〜12:?? ラビットハウス1階(1)

「これのことは、あとで話すよ」

遊月はピルルクのルリグカードを仕舞うと雄二に問いかけ、
雄二は針目縫の変装を見破った理由を話し、仲間達を感心させた。
そして承太郎は情報交換に臨もうと言峰と雄二の方へ向かう、女性3人はぎこちない空気を漂わせつつ、
情報交換の場にいるのを申し訳なさげに拒否するや一塊になって二階に行こうとした。

その時遊月の身体に軽く当たった。遊月は返答に詰まるが承太郎は気にしないという素振りを見える。
遊月は察したのか軽く微笑む、承太郎はルリグカードを仕舞った箇所を見る。
それにも遊月は気づいた風だったが、今度は構わず無視して理世と智乃と一緒に上に上がった。
その後の三好夏凛の放送局からの放送の際も、承太郎は遊月に説明を求める様に見つめる事で暗に促したが、

「……」

それでも尚、遊月がルリグカードについて話す気配はなかった。

892題名不明 ◆WqZH3L6gH6:2017/08/17(木) 07:26:58 ID:AQlBGyAw0

・承太郎2

きな臭い煙の匂いがする。
承太郎の瞼が震え、僅かな光が目に入る。
吸い込まれるような眠気が彼の意識を刈り取ろうとするのを感じる。

「っ……」

承太郎は気合を入れ、目を見開く。
空の何割かを遮る木の葉の隙間からごく微弱なオレンジ色の光が見える。
慌てて上体を起こす。すぐ近くに火の熱と煙はない。
彼はすぐ立ち上がろうとしたが身体はまだ満足に動かせそうになかった。

仕方なく引き摺るような感じで後ずさりをし、木の幹にもたれ掛かる。
少々和らいだが疲労と痛み、焦りが彼の心身を巡る中、承太郎は亡き戦友の忠言を思い出した。

――待つのは君だ、承太郎!

理世を追いかけようとした時も、逸り傷が開いたのを思い出す。

――その怪我で行けば殺されるだけだ

今の状態で風見雄二に加勢しようとした所で何になる。
承太郎は現状を憂いた。だが彼は弱さに屈せず不調の身体の代わりに頭を働かせる。

ここで、ある事に気づいた。セイバーから奪い、言峰に託された黒カード。
特にセイバーの黒カードはチェックさえしてない。

「やれやれだぜ……」


承太郎はため息を付きつつ小声でぼやきながら、再度も含め黒カードを確認し始める。

「………………」

全ての黒カードの裏面確認が終わった。
その中で彼が強く意識するカードは2つ。
ただのと思っていたが、実際は何らかの回復の効用があるとの説明書があった酒。
そして、もう1つは遊月が所持していたのと同種のレッドアンビジョンなるルリグデッキだった。

言峰が生前、正体を知りたがっていたルリグ ピルルク。
彼がそれを知る事が不可能となった今、それは……。
沈んだ表情のまま、承太郎は思案しつつ木と木の影に身体を移動させながら、瓶の蓋を回そうとする。

「……!」

ある経験から不可能ではない可能性に彼は気づく。
ゲーム開始時の繭の説明と、カードから出てきた龍の腕。そして魂を形にするスタンド。
魂の解放方法も、死者の魂との交信方法も彼にはない。
だがルリグやあるいはスタンドの使い方によっては、白カードからの魂の解放は不可能ではないのではないかと。
主催の打倒には直接結びつかない、仮に試みようとした所で制限もある。
いずれも0に等しい行動かも知れない。だが探る価値はあると思った。

893題名不明 ◆WqZH3L6gH6:2017/08/17(木) 07:27:43 ID:AQlBGyAw0
承太郎は死者を蘇らせられるとは思っていないし、仮に死者との会話が可能になっても向こうから望まない限りは考えようとさえしない。
けれど孤独を強いられた魂をドライに見捨てられる男でもない。
承太郎は瓶の蓋を強く持つ。繭に囚われた魂の解放、それを目標の一つと定めつつ。
彼は両目を見開き、気を強く持ちながら瓶の中身を飲んだ。


・?日前 ??:?? 主催??

数々の武具、道具、果ては玩具が白い地面に散らばっている。
何人かの男女がそれを拾っては確認し口を出し、それを聴いた別の者がメモを取りつつ歩き回っていた。
ある1人の男が怪訝そうな表情で、その場を監督している者に近づく。
その男は2つの銃と2つの瓶を手に取っている。
それは所謂重複した支給品。男は■日後始まるゲームにおいてこれは良いのかと尋ねた。
監督役は懐から電子機器を取り出し、向こうに聞いた。
通話はすぐ終わり、監督役は男を一瞥すると「別に構わない」と返答した。
ゲームは予定通り行われ、同種の2丁の銃は1人は天々座理世、もう1丁は宇治松千夜に支給された。
そして2つの瓶――ある薬品は1つは園原杏里に、もう1つは――


・理世1

息はとうに切れている。
視界に映るは黒と深緑と霞がかった白。
胸中に渦巻く感情は混乱と罪悪感。
天々座理世は走っていた。ゲームの舞台H-4地点に向かって。
森の外に近づくに連れ熱気と煙が濃くなるのを感じる。
徐々に、今の彼女が知る由もない風見雄二と纏流子による戦火が広がっていたから。
だが火災があろうと、危険があろうと理世は避けながらもある場所に向かう。
香風智乃の遺体がある路上に。
ラビットハウスという拠り所の代わりとして。無意味と理解していても。

「…………」

森を抜け、やや離れた火災の煙に顔をしかめつつも彼女は進む。
真っ直ぐではなくふらふらと。
遺体に近づくに連れ、理世は生前の智乃に持っていた感情が変化していくのを感じる。
それは親愛だけでない。

目に映った遺体は紛れもなく智乃だった。
しかし今の理世には死んだ以上に認められない雰囲気が漂っていた。

「智乃だ、よな……」

智乃の遺体の状態は悪くない。絶望に固まった表情と致命傷である腹の傷を別にすれば。
戻ってきた理由はただ一つ、智乃を弔うこと。
理世は近づいた。

意外と悲しみも絶望も感じなかった。
理世は遺体を触れ森の方へ運ぼうとする。
遺体は固く、冷たく、そして重かった。

「う、うぅ……」

これは人でなくだった物だと、遺体の重みからそれを痛感した。

894題名不明 ◆WqZH3L6gH6:2017/08/17(木) 07:29:03 ID:AQlBGyAw0

「ん、んぐ……うぁ」

疲労が蓄積した中、彼女がこれから弔おうとする行為、埋葬を実現する体力がない事をすぐ自覚する事はできなかった。
それに気づいたは一息着いたその時。
露出した地面がある森の側までまだ遠い。そして彼女はもう一つ気づく。
なぜ背負うとしなかったのか。それは冷たさと生理的嫌悪をこれ以上味わいたくなかったから。
彼女は脱力し、遺体から手を話した。かくんと仰向けに仰け反った。空には雨雲が見える。

「はは……」

理世は呆けた表情のまま口から乾いた笑いを出す。
そして大粒の涙が右目からこぼれた。
理世は両手を地面に着き、うずくまり掠れた声で泣いた。
霞んだ視界には智乃の遺体と一枚のカードがぼんやりと見えている。



・??日前 ??:?? 主催??

あの支給品に懸念がなかった訳ではない。
そう思考するとある者は1人の少女に尋ねた。
あの施設やあの施設であれが起動するとどうなるのかを。
少女はしばし考えてから、返答する。
ある者は肝を冷やした。それは懸念通りの解答だったから。
慌ててその者はそうならないように少女に陳情した。
少女は薄い笑みを浮かべつつ、「わたしが管理する訳じゃないもの」と言った。
その態度はその者の懸念が消えるものではなかったが、一応納得できるものだった。
その者の直接の主にの気を害する事は、あの管理役がする訳がないと確信していたから。



・流子

白い神衣を着た化物はトラックから降りる。
遠ざかっていく爆弾を見送りながら纏流子は南に向かい疾駆する。
そして先の木陰に見を躍らせると、制止した。

「……」

彼女は周囲を見渡す。
追跡者がいないかとフェイントを掛けたが、人影は確認できない。
流子は舌打ちをし、南に向けて走った。
数時間前、刺殺した少女がいた場所に。
そして走りながら彼女は考える。見つけた獲物を逃さない方法を。
あの自動車爆弾が目標である、気持ち悪いオブジェ ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲に接触する時間を考慮に入れつつ。


・雄二

白装束の女から離れた後、風見雄二は高所からある物体を見下ろしている。
無人で動くトラックらしき物体。よく確認したい気はあるが、あの女が近くにいる可能性が高いのでそれはできなかった。
雄二は踵を返すと南へ向かった。女剣士や白装束と戦うなら戦闘痕も相応に目立つだろうと予測しながら。
彼は人外相手に勝機を拾うべく考える。空条承太郎や言峰綺礼の戦力も算段に入れつつ。
雄二の双眸は静かで熱い光を放っている。

895題名不明 ◆WqZH3L6gH6:2017/08/17(木) 07:38:05 ID:AQlBGyAw0

・理世2

腹や胸を押さえつつ理世は当てもなく森を進む。
手には一枚のカードがある。
彼女は服で泣き跡のある顔を拭うと、そのカードを見た。
カードに写った香風智乃は綺麗なカメラで綺麗に撮られているように見えた。
理世はバツが悪そうに視線を反らし、仲間の捜索を再開した。

「……」


結論から言うと天々座理世は香風智乃を弔う事はできなかった。
地面を掘り起こす体力も、遺体を森へ移動させる体力も無かったから。
代わりに出来たのは智乃の魂が封じられたカードを回収した事と遺体の手を組ませる事のみだった。
理世は自己嫌悪から思わず呻き、動きを止めた。

周囲を見ると同じような光景だった森林がどこか開けたように見える。
今、理世は仲間を探している。風見雄二だけでなく空条承太郎も。
ついさっき自らの非力と醜さを自覚した彼女は、雄二からの救いだけでなく承太郎に対するけじめを果たすベく
捜索を続けていた。再開した際、どうなるかは深く考えられない。ただ謝りたかった。
平和島静雄と一条蛍に見つかるならそれでも構わないとさえ思っている。
白装束の女や針目縫に殺されるのだけは嫌だけど。

自暴自棄と薄々気づいていても彼女は進んだ。



・承太郎2

疲労感に身を捩らせつつ、承太郎は目を覚ます。
手から微かなアルコール臭がした。
また眠ってしまったようだ。敵に遭遇しなかったのは幸運という他ない。
承太郎は自嘲からの苦笑をすると目的地に向かう。
しばらく歩くと風が吹いた。
上空の枝葉が揺れ、隙間が広がる。

「……!」

隙間に何かが舞っているように見えた。
承太郎は星の白金を現出させると、視界をスタンドへと切り替える。
小さい何かが過ぎったように見えた。あれは……。
承太郎は声を上げようとする。

「いつまで黙ってるんだい」

突如、手に持ったカードデッキから少女の不機嫌な声が聞こえた。
風が止み、上空の隙間が埋まり、向こうは見えなくなった。
声の主の顔を見ようと承太郎はカードの上面を顔に近づける。
妖精に似た長髪の少女の姿をしたルリグ。
花代と言ったか。彼女からも情報を聞こうと解放したまま捜索を続けていたが。
どちらもどうにもいかない。承太郎は悩んだ。さっきの二の舞いは御免だと思いつつ、どうにか上手く接しられないかと。
一時期、母に対して猫被っていた事を思い出し、自己嫌悪を覚えつつあの頃を上っ面を再現しようかと思った矢先、
ふと顔を挙げた先にその光景が目に入った。

896題名不明 ◆WqZH3L6gH6:2017/08/17(木) 07:39:58 ID:AQlBGyAw0

「これは……」

前方には木々がいくつもなぎ倒され、地面さえも人外の力で抉られたと推測できる箇所が幾つもあった。
承太郎は唾を飲み込む。
そこは纏流子が平和島静雄と蟇郡苛が戦い、蟇郡が命を落とした場所のすぐ近く。
強い風が吹き、何者かの気配を感じ承太郎は身構えた。

----------------------------------------------------------------------------------------------------

【G-4/南部(蟇郡の遺体がある場所のすぐ近く)/真夜中】

【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、精神的疲労(小)、胸に刀傷(中、処置済)、全身に小さな切り傷、
    左腕・左肩に裂傷(処置済み)、貧血(大)、強い決意、焦り(小) 、神代の酒による酔い(小?)と何らかの回復効果
[服装]:普段通り
[装備]:レッドアンビジョン(花代のカードデッキ)@selector WIXOSS(解放中)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(37/38)、青カード(35/37)
黒カード:約束された勝利の剣@Fate/Zero、不明支給品0〜1(言峰の分)、スパウザー@銀魂、
         キュプリオトの剣@Fate/zero 、不明支給品2枚(ことりの分、確認済み)、神代の酒@Fate/zero (3分の1消費)
    現地調達品:雄二のメモ、噛み煙草、各種雑貨(ショッピングモールで調達)
[思考・行動]
基本方針:脱出狙い。DIOも倒す。
   0:目の前の相手に対応する。
   1:雄二と理世を探す。
   2:白カードに閉じ込められた魂の解放方法を探し出す。
   3:花代から情報を聞き出す。
[備考]
※少なくともホル・ホースの名前を知った後から参戦。
※折原臨也、一条蛍、香風智乃、衛宮切嗣、天々座理世、風見雄二、言峰綺礼と情報交換しました(蟇郡苛とはまだ詳しい情報交換をしていません)
※龍(バハムート)を繭のスタンドかもしれないと考えています。
※風見雄二から、歴史上の「ジル・ド・レェ」についての知識を得ました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
※越谷小鞠を殺害した人物と、ゲームセンター付近を破壊した人物は別人であるという仮説を立てました。また、少なくともDIOは真犯人でないと確信しました。
※第三放送を聞いていませんが、脱落者と禁止エリアは確認しています。
※神代の酒3分の1を摂取しました。その効果からか出血は止まり、何かしらの回復をしています。
 詳細は後の書き手にお任せ。
※承太郎の前に何者かが現れました。誰かは後の書き手にお任せします。




【G-4(詳細不明)/真夜中】

【風見雄二@グリザイアの果実シリーズ】
[状態]:ダメージ(中、処置済み)疲労(小)右肩に切り傷(処置済み)、全身に切り傷 (処置済み)
[服装]:美浜学園の制服
[装備]: トンプソン・コンテンダーと弾丸各種(残りの弾丸の種類と数は後続の書き手に任せます)@Fate/zero 、ベレッタM92@現実(残弾0)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(7/10)、青カード(7/10)
   黒カード:マグロマンのぬいぐるみ@グリザイアの果実シリーズ、腕輪発見機@現実
   歩狩汗@銀魂×2、旧式の携帯電話(ゲームセンターで入手、通話機能のみ)
   小さな木杭3本、小さな鉄杭3本、タオル2枚、包帯代わりの布2枚、包丁一本(低品質)
[思考・行動]
基本方針:ゲームからの脱出
   0:承太郎と理世と言峰と合流する。
   1:纏流子を始めとする危険人物への対策を考える。

897題名不明 ◆WqZH3L6gH6:2017/08/17(木) 07:41:08 ID:AQlBGyAw0

[備考]
※アニメ版グリザイアの果実終了後からの参戦。
※折原臨也、衛宮切嗣、蟇郡苛、空条承太郎、紅林遊月、言峰綺礼と情報交換しました。
※キャスターの声がヒース・オスロに、繭の声が天々座理世に似ていると感じました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。
※言峰から魔術についてのおおまかな概要を聞きました
※纏流子の純潔の胸元に隙間があるなどの異変に気づいています。

[雄二の考察まとめ]
※繭には、分の殺し合いを隠蔽する技術を提供した、協力者がいる。
※殺し合いを隠蔽する装置が、この島のどこかにある。それを破壊すれば外部と連絡が取れる。
※第三放送を聞いていません。
※城近くの山小屋から武器になりそうなものを入手しました(鉛筆サイズの即席の木杭3本、即席の鉄杭3本、包丁一本(低品質))
※自動車爆弾が北西へ向かうのを目撃しました。爆弾とは気づいていません。
※承太郎のすぐ近くにいる可能性があります。



【G-4(詳細不明)/真夜中】

【天々座理世@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(極大) 、無力感(大)、自暴自棄
[服装]:メイド服・暴徒鎮圧用「アサルト」@グリザイアの果実シリーズ
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
    黒カード:キャリコM950(残弾半分以下)@Fate/Zero
    白カード:香風智乃
[思考・行動]
基本方針:風見雄二、又は承太郎に再会し自分の処遇を委ねる。
   1:白い服の女には殺されたくないし、許したくもない。

[備考]
※参戦時期は10羽以前。
※折原臨也、衛宮切嗣、蟇郡苛、空条承太郎、一条蛍、香風智乃、紅林遊月、言峰綺礼と情報交換しました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。
※第三放送を聞いていません。ラビットハウス周辺が禁止エリアになったことは知りました
※承太郎のすぐ近くにいる可能性があります。



【G-4(詳細不明)/真夜中】

【纏流子@キルラキル】
[状態]:全身にダメージ(中)、左肩・左太ももに銃創(糸束で処置済み)、疲労(中)、精神的疲労(極大)、
    数本骨折、説明しきれない感情(恐怖心?)
[服装]:神衣純潔@キルラキル(僅かな綻びあり)
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(19/20)、青カード(17/20)
    黒カード:縛斬・蛟竜@キルラキル、自動車爆弾@現実?、番傘@銀魂、生命繊維の糸束(一割消費)@キルラキル、遠見の水晶球@Fate/Zero、
         花京院典明の不明支給品0〜1枚(確認済み) 、ジャンヌの不明支給品1枚(確認済み、武器とは取れない)

898題名不明 ◆WqZH3L6gH6:2017/08/17(木) 07:41:41 ID:AQlBGyAw0

[備考]
※少なくとも、鮮血を着用した皐月と決闘する前からの参戦です。
※DIOおよび各スタンド使いに関する最低限の情報を入手しました。
※満艦飾マコと自分に関する記憶が完全に戻りました。
※針目縫に対する嫌悪感と敵対心が戻りました。羅暁への忠誠心はまだ残っています。
※第三放送を聞いていません。
※肉体のダメージは前の話よりは良くなっています。
※雄二が比較的近くにいるのに気づいていません。
※現在自動車爆弾は屋根に乗った流子と共に健在のランドマークか各エリアの中央のいずれかにへ向けて移動しています。
 妨害がなければ一定時間後に標的の施設は爆破されます。

※承太郎のすぐ近くにいる可能性があります。


・支給品説明

【神代の酒@Fate/Zero】
ギルガメッシュの宝具の一つ。酒。
媒体によっては体力回復のような効用を持つ。
3分の1の量を飲むと何らかの回復効果が得られ、少々だが止血作用も生じる?
回復するのは体力か、魔力か、ダメージかは不明(後の書き手さんにお任せ)。

899 ◆WqZH3L6gH6:2017/08/17(木) 07:43:07 ID:AQlBGyAw0
仮投下終了です。
問題がなければ明日の早朝に本投下させていただきます。
この度、投下が大変遅れてしまった事を深くお詫びします。

900名無しさん:2017/08/17(木) 12:15:18 ID:nAPyRO1E0
仮投下乙です
リゼ少しは落ち着いたのか
承太郎とあわせて参り具合が辛かったです
指摘ですが、神代の酒に体力回復以外の効果はどの媒体にもなかったと思うので付けない方がいいと思います

901 ◆WqZH3L6gH6:2017/08/17(木) 21:55:27 ID:AQlBGyAw0
>>900
感想と指摘ありがとうございます。
本投下の際、効果を体力回復のみ訂正します。

902 ◆WqZH3L6gH6:2017/08/18(金) 08:18:55 ID:NPLytGnY0
本投下終了しました。
投下にあたり神代の酒を中心に一部加筆訂正をしました。

903 ◆NiwQmtZOLQ:2017/09/28(木) 23:08:46 ID:6C.hKJws0
ギリギリになってしまいましたが、こちらに仮投下します。

904Girls Murder License ◆NiwQmtZOLQ:2017/09/28(木) 23:12:38 ID:6C.hKJws0
 
足取りは、思っていたより重くなかった。
人間、もうどうにでもなれと一度思ってしまえば、とことん楽になれるらしい。
重荷も責任も、全て投げ捨てて歩んでいるのだから、当然といえば当然か。
そんな無意味な自嘲が頭に浮かび、そしてその度に理世は乾いた溜息で己の中の澱を吐き出していた。
一つ一つ、身体の内側にあったものを廃棄していくように。

「……はは」

その内、理世の顔には段々と笑いが込み上げてくる。
嗄れた笑い声が、森の騒めきに掻き消されて隠されていく様は、彼女にとっては何処か痛快にすら感じられていた。
まるでそれは、自分が消えていくようだったから。
最早どうしようもない人間となってしまった自分など、消えてしまってもいいのかもしれない。
それでもそうしないのは、やはりただ申し訳が立たないからだった。
彼女を守ってくれた空条承太郎、そして銃の撃ち方、心構え、ここまで生きてくるためにしがみついていた縁をくれた風見雄二。
せめて彼等に謝って、そして、その後は──どうしようかな、と、楽観的にすら思える予想を始める。
ああ、こんなことを考えてしまう自分は、なんて酷いヤツなんだろう。
そんな退廃的な自虐の笑みを浮かべながら、理世はただ歩き続けていた。


退廃的な行軍は、彼女が広場を見つけたことで停止した。
精神の摩耗とは別に、肉体も着実な疲労を溜め込んでいたことを、そこでようやく彼女は思い出した。
このままあてのない歩みを続け、その結果倒れるというのは、格好がつかない──というより、無様に過ぎる。
とりあえず一度、腰を下ろして水分でも摂ろうと、茂みを掻き分け広場に出た。

「誰だ」

──と。
そこで、唐突に声が聞こえた。
ビクリ、と肩を震わせるが、声そのものに対する聞き覚えがあった為にすぐに恐怖は無くなった。

「承太郎、さん」
「……天々座」

空条承太郎──探し人の一人が、そこにいた。

「無事、だったみたいだが──何も無かった、って訳でも無えみてぇだな」

何やら支給品らしきものを制服のポケットにしまいつつ、此方にゆっくりと歩み寄ってくる承太郎。
そんな彼に対し、安心感とともに何かを言おうとして。

「……えっと、あの」

そこでようやく、彼女は自分が何を言うか、その具体的な内容を何一つ決めていなかったことに気が付いた。
どうしようか、と思考が硬直しかけるも、頭の冷静な部分が、彼に会ったら言わなければならないと思っていたことをすぐにサルベージする。

「……まずは、ごめんなさい」

──まず、最初に。
天々座理世は、空条承太郎に謝罪をせねばならないのだ、と。
頭を垂れ、心の底にあった罪悪感という最後の澱を、そうやって吐き出した。

「勝手に、私のワガママで逸れて……」
「……別に、テメーがやったことだ」

ぶっきらぼうに吐き出した承太郎に、思わず理世は萎縮する。
彼にしては珍しく、僅かに仏頂面を和らげてはいたのだが、それが伝わる程に理世は彼と長く過ごしていなかった。
それでも、一つ目の謝罪の意図は伝わったということを確認はでき──そこで、彼女は一度深呼吸した後にもう一度口を開いた。

「それと、……もう一つ」

それは、何があろうと言わなければならないことだった。
自分達をずっと守ってくれていた、彼に対しては。

「……遊月ちゃんは、死にました。……私が、……殺しました」

その言葉は、他の言葉よりも遅く、それでも彼女が思ったよりも遥かに早いスピードで流れ出た。
場の空気が一瞬にして冷えていくのが、彼女にも分かった。
頭を下げている故に顔こそ見えないが、それだけの威圧感、気配が、目の前の男から発せられている。

「……お前が、紅林を?」

ポケットに手を突っ込んだままそう問いかけた承太郎の声音に、思わず背筋が凍る。
同年代とは思えぬ程の重圧、そして決して小さくない警戒の音を耳に入れながら、それでも理世はただ静かに耐えていた。

905Girls Murder License ◆D9ykZl2/rg:2017/09/28(木) 23:14:11 ID:6C.hKJws0
 
「……何があった」

やがて、僅かな静寂の後、承太郎はそんな簡潔な言葉を投げてきた。
どこから話すか迷ったものの、結局は気付いたら別れてからここに至るまでの過程を全て打ち明けていた。
追いかけてきた遊月との対峙。平和島静雄と一条蛍。肉の芽で操られている可能性のある二人。向けた銃口。飛び出してきた彼女──。

「──なるほど」

すべて語り終えた時には、少なくとも先よりは幾分か重圧は和らいでいた。
尤も、それでも此処に来る前までの理世なら恐怖で動けなくなっていただろうが。
ともあれ、幾分かは和らいだ雰囲気に、理世も下げていた頭を漸く上げる。
見上げてみれば、承太郎は、神妙な顔をして佇んでいた。

「一条や平和島についても気になることはあるが──」

そう言いながら、承太郎は背後を振り替える。
彼の視線の先へと理世も目を向けようとして、それが遮られる。
そこに突如として現れたのは、何度か見てきた彼のスタンド、スタープラチナ。
なぜ突然それを出現させたのか、理世が問おうとした次の瞬間──


「オラァ!」

──めきり、と音を立てて、『承太郎と理世の方向へ飛来した樹』が、拳に弾かれ飛んでいった。
空を舞い、その後轟音と共にそれが着地して、理世は始めてその現実を正しく認識する。
あれだけの質量がもし直撃していたら、即死とはいかないまでも甚大なダメージを受けることは疑いようもない。まして、これを投げてきた、悪意があるとしか思えない相手を、その状態で相手取るなど不可能に等しい。
そして、そもそもこんな芸当ができるような人間で、こちらに殺意を向けている存在といえば──

「──オイオイオイ、気付いてんじゃねーか。それで無視してるたぁ随分とデカい態度でいるもんだなぁ?」

──無論、それは生命繊維を纏った白亜の獣。
からからと笑い声を上げながら、纏流子が現れる。
その存在だけで、理世の背筋に氷柱を挿されたかのような感覚が走る。
時間だけ見れば彼女達の邂逅は僅かだが、その間に理世に刻まれた恐怖は並大抵のものではない。
先程までの思考は一割も残らず吹き飛んで、彼女には立ち竦むことしか出来なかった。

「誰かさんが分かりやすいくらいの殺気を出してくれていたお陰だぜ…礼は言わねえがな」

対して、その横にいる承太郎は、あくまで己のペースを崩さぬままに言葉を返す。
ぴったりと寄り添うように構えるスタープラチナと共に立つその姿に、しかし纏流子は不敵に笑う。

「生意気な口を叩く余裕は残ってるみてえだなぁオイ。ちったあ遠慮して優しめにブッ殺してやろうかと思ったが、余計な心配だったようで何よりだよ」

そんな流子の言葉に、承太郎は眉一つ動かさない。
だが、事実、その指摘自体は的を得ていた。
セイバーとの戦いによって蓄積された疲労、そして負傷は、彼の行動を縛る重石となって積み上げられている。
空条承太郎程の男であっても、つい先程まで癒しの酒と休息に随分と助けられていた──それほどの痛手であったのだ。

「全く、あの騎士王サマも優しいこったなあ。わざわざテメーの獲物を残しといて、しかも殺しやすくしてくれるたあな」

それを煽るように流子が野次を飛ばすが、承太郎は尚も動きはない。
だが、流子の笑いを遮るように一陣の風が吹き──それと同時に、空条承太郎が纏う空気が変わる。
それまでのどの空気よりも張り詰めた、しかしそれに護られている者には何処か安心感を与える空気。
空条承太郎の持つその覇気は、それこそ星の輝きと形容するのが道理であろう。

「テメーに勝手に心配される筋合いはねえ──それに、獲物、とか言ったが、ソイツは違うぜ」

学帽のツバを掴み、それまでより僅かに深く被る。
鋭い眼光を更に尖らせ、曇りなき瞳で流子を睨む。
ざり、という砂利の音と共に、力強くその脚が一歩を踏み出し。
唸りを上げた幻影が、拳を高く振り上げて。

「テメーはこれから、俺が倒すんだからよ」

空条承太郎のスタープラチナが、纏流子へと真正面に殴りかかった。

対し、化物は笑う。
口の端を吊り上げ、歯を剥き出しにしたその顔は、正しく肉食獣が如し。
同時にドンと大地が鳴り、彼女の足元が僅かに沈む。
蓄えられた力に弾みをつけ、次の瞬間──

「──随分と言ってくれるじゃねえか、老け顔野郎がよォ!」

流星にも見紛う白の弾丸となり、その拳を正面から殴り返した。

906 ◆D9ykZl2/rg:2017/09/28(木) 23:16:19 ID:6C.hKJws0
 
大砲にも似た轟音が響く。
拳と拳の衝突が生み出した衝撃が、木々を、大地を、理世の臓腑を震わせる。
数分にすら感じられる一瞬がすぎ、ギチリ、と、肉の擦れる音が続いて──その直後、承太郎が僅かに後退する。
セイバーとの戦いで流した血の多さは、流子程の実力を持つ相手ではやはり誤魔化しきれない。寧ろ、そこまでの傷を負っていながら応戦できる程のスタープラチナと承太郎の精神力の強さが窺い知れる。
だが、この場に於いて試されるのは一時の強さであることには変わりはない。

「ハッ、想像以上に酷えみてえだな!大丈夫かよオイ!」

押すべきタイミングを見逃す流子ではなく、即座に取り出した縛斬の刃で畳み掛けんとする。
辛うじて踏みとどまり、斬撃を受け流すスタープラチナ。しかし、純潔の圧倒的な膂力が齎す熾烈な連撃を受ければ受ける分だけ、スタンドも承太郎自身も余裕は無くなっていく。
弾き、弾き、受け流し──その直後に飛来した大鎌のような左足の一撃で、流石に後退を余儀なくされる。
その勢いを逆に利用し、幾らか距離を置こうとするも、それすら純潔は認めない。
獣が喰らい付くかのような踏み込みの後に、承太郎のウィークポイント、左半身へと一気に攻勢を仕掛ける。
必然、そのカバーに回らざるを得ない承太郎だが、それは同時により大きな隙を作るという意味だ。
より鋭く、より強かに、より荒々しく。加速度的に激しさを増す猛攻に、如何に承太郎といえども反撃の隙を見出す事が出来ずにいた。
その間にも、流子の手が休まる事はなく──遂に、承太郎のガードが甘くなったその瞬間を流子が射止めた。
辛うじて受身を取り着地した承太郎だが、その隙はあまりにも大きく。
再び瞬時に間合いを詰めた流子が、止めとばかりに縛斬を閃かせる。
だが、承太郎の次の行動を見て、流子も流石にその動きを止めた。
スタープラチナが持ち上げ、構えたそれは──先程流子が投げつけ、承太郎が殴り飛ばした一本の樹。
真下から抉るように放たれたフルスイングが、辛うじてガードを間に合わせた流子の体を強かに打ち据える。
角度がついた放物線を描いて吹き飛ぶも、流子も為されるがままとはいく筈もない。
冷静に純潔を飛行形態に変え、追撃に留意して距離をとりつつ着地した。

「認めたくはねえが、どうやらそうみてーだな」

それに対し、承太郎は深追いすることもなく、戦闘中に流子が吐き捨てた台詞に律儀にも言葉を返す。
その内容は、現状を的確に認識した上での判断だった。
──空条承太郎はクレバーな男だ。
周りが見れなくなる程に怒る事は少なく、戦闘中においても冷静に立ち回る事ができる人間。
スタープラチナを一目置くべき存在たらしめている要因のひとつは、間違いなくその主人である彼の冷静さと知性なのだ。
そして、その承太郎が下した判断は。

「こいつは、ジョースター家に伝わる伝統的な戦術を使うしかねーようだな…」

その一言に、ピクリ、と流子が反応する。
伝統的な戦術──聞き慣れない言葉だが、しかし相対している彼女としてはむしろ上等。それをどう打ち破るかの算段すらも始める。

「へえ、面白えじゃねーか。一体全体なんなんだよその戦術ってやらは?」

何が来ようと正面から叩き潰す、そんな殺意を漏らす流子に対し、あくまで承太郎は表情を変えない。
広場をゆっくりと、間合いはそのままに円を描くように歩きながら、流子を睨み続けていた。

「ああ、それはだな………」

スタープラチナが力を溜めるように腕を引き、それに呼応して流子もまた全身に力を漲らせていく。
やがて、承太郎がある場所で立ち止まり、ゆっくりと流子の方へ向き直る。
張り詰めた空気が、今にもパンクしそうになった──その、瞬間。

スタープラチナと承太郎が、思い切り振り返り。
スタープラチナの腕が、いつの間にか近付いていた理世へと伸び、その身体を抱き締めて。
スタープラチナの両足が、承太郎と重なるように地に着いて。

「──『逃げる』、だぜ」

スタンドパワーで思い切り地面を蹴り上げ、二人分の体重を物ともせずに射出した。
残されたのは──力の行き場を無くした、白い化物ひとり。

907 ◆D9ykZl2/rg:2017/09/28(木) 23:22:02 ID:6C.hKJws0
  



「──じょ、承太郎さん!」
「なんだ、天々座」

森の中、木々を蹴って飛び続ける承太郎に対し、いきなり連れ去られたに等しい理世は只管に混乱していた。
そのまま吹き飛んでいく景色に気を取られそうになるが、辛うじて理性を取り戻した彼女は承太郎に呼びかける。

「逃げる、って、アイツはまだ──!」

そう、承太郎は流子を完全に、何ら制約をすることもダメージを与えることもなく放置したまま離脱したのだ。
これまで見てきた彼のスタンスとはあまりにかけ離れた行動。流子をそのまま放置すれば、被害が出続ける事は予想出来る。
それに、彼女は智乃の仇でもある。願わくば相応の報いを受けさせたい、という気持ちも全くなくなった訳ではない。

「安心しな」

しかし、そんな理世の言葉を奪うように、承太郎が呟く。
その言葉に込められたのは、確かな力強さ。
聞くものすらも立ち上がらせるような勇気を底に秘めた、ジョースター家の男の言葉。

「ヤツを放っておく気はさらさら無え。キッチリと、俺とスタープラチナでブチのめさせてもらうぜ」

──ジョセフ・ジョースターに曰く、戦闘から逃げたことはあっても、戦闘そのものを放棄したことは一度も無い。
それと同じく、承太郎もまた、纏流子との戦いそのものを放棄してなどいない。
彼の胸に宿った正義の光は、彼女を見逃すなどということを許すつもりはさらさらないのだ。

「じゃあ、何で……」

しかし、それでは今の行動はどういう事なのか。
事実として、今二人はこうして流子に背を向け、森を駆けているのだ。
どういうつもりなのか──そんな視線を察し、承太郎は一言、簡潔に答える。

「お前を巻き込む訳にはいかねえ」

その言葉で、理世はう、と言葉に詰まった。
あくまで一般人の範疇を出ない彼女が、先の戦闘に於いても承太郎にとって足枷となっていたのは、庇われる側だった理世自身が良く理解していた。

「どうせヤツは俺を追ってくる。だが、ヤツの狙いは思い切り虚仮にしてやった俺に移っているはずだ」

承太郎の判断からするに、流子はやはり感情に任せることが少なくないタイプだと踏んだ。
理性的な部分も決してないというわけではなかろうが、少なくとも、あのような巫山戯た真似をした相手をわざわざ見逃すほどに寛大な心を持っているようには見えなかった。
だからこそ、理世の近くに寄るまでの時間をあそこまで掛けたのだ。彼女が「ハメられた」という事に気付いた時、よりその精神を刺激できるように。
そうでなくとも、今逃げているのと同じ方法を用いれば、承太郎はあの近辺まですぐに舞い戻れるのだが。
そして、それをする理由は明らか。

「それなら、お前を逃した上で、俺も周囲を気にせずヤツをブン殴れる」

理世に対する不意打ちや、戦闘の余波を考慮して戦う──そこまでのことを手負いの身でやるには、あの纏流子が持つ個人戦力は規格外に過ぎる。
針目縫との戦闘において、衛宮切嗣に気を払いつつ戦ったのとは訳が違う。バッドコンディションに加えて森の中という立ち回りづらいフィールド、何より不穏な行動にさえ気を配れば良い「見張る」と全ての条件を考慮して立ち回る必要がある「守る」には天地の差があるのだから。

「……承太郎、さん」

そんな承太郎の真意を知り、理世は言葉に詰まる。
自分なんてどうだっていいのにという思い、足手まといになっているという罪悪感、そして承太郎のことを少しでも疑った自分への嫌悪。
それらを一先ずは飲み込むと同時に、承太郎から言葉が飛んできた。

「──もう少しで下ろす。一旦城に戻れ。ヤツを倒したら俺もあそこに戻る」

908 ◆D9ykZl2/rg:2017/09/28(木) 23:25:42 ID:6C.hKJws0
 



──と、そこで。

「──ところが、そういうワケにもいかないんだよなあ?」

響く筈のない声が、『前方から』聞こえた。
な、と両者が呆気に取られると同時に、正面から伸びるのは二本の白い槍。
神衣純潔の肩部が変形したそれを前に、一瞬二人の思考は完全に停止した。

「──オラァ!」

それでも、承太郎は無理矢理意識を引き戻してスタンドの拳を振るう。
迫ってきた二本のそれを理世を抱えていない方の手で弾くと、そのまま進行方向の障害となる木や枝を殴り飛ばす。
地に足を着けてブレーキをかけ、立ち止まろうとして──そこで、初めて承太郎は気付く。

「──よお、死ね」

その場所、ちょうど両脇にゲートのように生えた木の間に立っている、先程まで戦っていた化物に。
何故彼女が先回り出来たか──それは、彼女が持つ遠見の水晶玉によるもの。
細かい作業が苦手故に一度は使用を諦めたが、反対に単純な操作なら十分に利用できるということ。
流子自身が飛び上がって目立つ位置に陣取り、山頂の城と見比べて方角を確認。その後ズームアウトし、二人が動いている方向を察知する──程度の使用なら、どうにか彼女にも使用出来た。
彼女が振り上げている刃が、無慈悲にも止まることの出来ない彼等へと降り注ぎ──

「──スタープラチナッ!!」

それでも、空条承太郎は最適解を導き出した。
止まることなく、反対に地を蹴って加速。懐に潜り込むことで刃を回避し、拳を以て流子が阻む道を押し通る。
その行動は、確かに彼がその場で採れる選択肢の中では最適解であっただろう。
事実、流子の刃が届くことはなく、反対に承太郎の拳は流子に突き刺さらんとしていた。

「──残念だったなぁ」

しかし。
その拳が収まる先は、纏流子の掌の中。
軌道がわかりきっている攻撃に対する正確な防御──しかもそれを行うのが生命繊維の化物ともなれば、如何にスタープラチナの速度を以てしても貫くことは出来ず。

「死ね」

今度こそ、翻った刃が二人まとめて刺し貫かんと閃いた。
それを間一髪で逸らし、乱暴ながらも逃す為にと理世を放り投げ。
次の瞬間、承太郎の眼前には左ストレートが迫っており──それを最後に、彼の意識は途切れた。











「──口程にも無かったなぁ、オイ」

左手をぷらぷらと振りながら、流子はつまらなさそうにそう吐き棄てた。
視界の先には、吹き飛んでピクリとも動かない承太郎の姿。
純潔を纏った流子の膂力で殴られたのだから、人間の顔面などとうに挽肉になっているのが普通なのだが──彼の頭部は依然として残っており、脳漿を撒き散らしてもいないようだった。
その理由は、何より殴った流子がよく知っていた。
こちらが顔面を殴り飛ばそうとした直前に、スタープラチナを頭部に纏わせ反対に頭突きをお見舞いしてきたのだ。
スタンドの力に後押しされた頭部は、その頭蓋に致命的な損傷を与えることなく拳の衝撃をも和らげた、という訳だ。
──尤も、殺しきれなかった余波が引き起こした脳震盪かそれに近い症状は彼の意識は吹き飛ばすに足るものだったようで。
先程まで彼女と渡り合っていた男は、無防備な姿を晒して気絶していた。
こうなってしまえば、最早殺すことなど造作もない。
溜息を一つ吐いて、再び縛斬を握り直し──

909Girls Murder License ◆NiwQmtZOLQ:2017/09/28(木) 23:28:15 ID:6C.hKJws0
 
「……やめ、ろ」

と、そこで。
余りにも頼りなく、か細い声が、流子の耳に届いた。
それと同時に、立ち塞がるように現れたのは──紫の髪の、少女だった。
先程承太郎に守られていた、如何にも何も出来ない一般人ですと書いてあるかのような外見の少女。

「あァ?何だテメェ、テメェから先に殺されてえのか?」

鐵の切っ先を突きつけながら、嘲るように言葉を放つ。
下らない義憤とやらでここまでやるというのは大したタマだが、しかしこうして目の前に死を提示してやってもそれが保つものか。
惨めに引き下がって後で殺すか、さもなくば両断してやろうか──そう思いながら、ゆっくりと歩み寄っていく。

「……そうだ。殺すなら、先に私を殺せ」

それでも尚、理世が退くことはなかった。
ほぼ無駄な行為だろうと理解しているだろうに、無様な立ち姿を続けていた。
その哀れにすら見える様に、

「その胆力だけは認めてやるよ。わざわざゴミが出しゃばりやがって、何で死に急ぐかねえ」

──それは、問いかけですら無かった。
答えなど求めていない、ただ独りごちることと何ら変わらない言葉。
けれど、それに確かに、天々座理世は反応して。

「──私は、人を殺したから」

ぽつり。
唐突に零れ出たそんな言葉に、流子は不意に立ち止まる。
歩みを止めた彼女とは反対に、堰を切ったように、理世の口からは言葉が漏れ出す。

「私は、人を殺したんだ。謝らなきゃいけなかった人を」

先の承太郎とのやり取りの時のように、ゆっくりながらも詰まるところ無しに。
ただ滔々と、目の前の化け物に向けて、理世は言葉を吐き出してゆく。
兎にも角にも、言わずにはいられない、とばかりに。
承太郎に話した時と何も変わらないかのように、止まることなく。

「だったら、罰を受けなきゃいけない。こうやって殺されることで、それで罪が償えるなら……それなら、安いものだから」

──だから、そうして語ることに夢中の理世は気付かない。
纏流子が纏う気配の変化も、その感情の変化も。
何もかもに気付かぬまま、延々と、理世は己の罪を告白し。

「──償わなきゃ、いけないんだ。遊月を殺した私は、裁かれなきゃ──」

そう、言いかけたところで、理世の言葉は止まる。
否、止まらざるを得なくなった。
彼女の首根っこを、流子がつかんで持ち上げたから。

「──何を、ほざいてやがる」

締め上げられ、文字通り息が詰まる感覚。
辛うじて呼吸こそ出来るが、ただ掴んでいるだけの流子の右手から伝わるありのままの力が、逃げられないと彼女に告げていて。
そして、何より、理世はその瞬間、真正面からその時の流子の表情を直視してしまって。

「テメェの勝手で殺したからなんだってんだ。それが私やアイツに関係あんのか、えぇ?」

そして、その瞬間、理世は──初めて、明確に恐怖した。
纏流子の、その表情に。
嘲りでも、怒りでもない、彼女が未だ見たことも無いその表情に。
──『■■』の、表情に。
その表情が真に意味するところを、理世は理解できていなかった。
ただ、分かることは──きっと、自分が、彼女の何よりの地雷の、その一端を踏んでしまったこと。
そして、このままいけば取り返しのつかないことになるような、そんな予感。

けれど、彼女に為す術などなくて。
纏流子がその言葉を発するのを止めることなど、出来なかった。

910Girls Murder License ◆NiwQmtZOLQ:2017/09/28(木) 23:31:17 ID:6C.hKJws0
 


「テメーはただ、許してほしいだけだろうがよ」



──時間が、止まった気がした。
ざわめく木々の葉の音も、ただ頬を撫でる風も、何一つ彼女の脳に届くことはなかった。

「……ちが、う」

ほぼ、何も考えずに出てきた言葉だった。
気付けば、自然とそんな否定が口から零れ落ちていた。
──無論、それは致し方ないことでもあっただろう。
だって彼女は、所詮ただの一般人、高校生の少女に過ぎないというのに。
人を殺して、その罪を背負う、なんてことが、そう簡単にできるわけがないのだから。
それも、自分の寄る辺を全て失っているような状態でなら、尚更。
天々座理世が、誰かに許してもらう、あるいは殺されることで、「楽になりたい」と思うのは、やはり仕方ないというべきことでもあったのだろう。
そして──例えば、「遊月の知り合いの誰か」の存在、とりわけ彼の弟──いわば彼女にとっての智乃に対しての想像を避けるのも、またしかり。
だが、そんな深層心理、卑怯とも言える本性を理性的に認められるかは、別の話で。

「違う、違う違う違う!!私は、そんな事を思ってなんか──」

いない、と言おうとしたところで、首を持つ位置が乱暴に持ち上がる。
ぐ、という呻き声を漏らした彼女のその位置からは、いつの間にか俯いていた流子の表情は見えない。
だが、その陰に隠れた表情に、恐らくは先程から変わっていない表情に、先程以上にどうしようもなく恐怖を感じる。
──いや、恐怖ではない。
それは、きっと。
どうしようもなく人間らしい、悔やむかのような表情を。
まるで自分が、遊月を殺した時のような表情を。
そこに見出すのが、嫌だったから。

「……あぁ、そうだろうなあ」

尚も俯いたまま、静かに流子が呟く。
それが既に理世に向けられたものではないと、彼女は気付かない。
けれど、それでもその言葉は理世を抉る。

「認められねえよなあ──認めたくねえよなあ」

纏流子の発言が、これまでただの人殺しで、歩み寄る必要もない、許せないと思っていた人間の言葉が。
自分と同じようなことを思っている、などとは、思いたくはなかった。
どれだけ堕ちたとしても、それでも尚、好んで人を殺すような彼女たちに会って死ぬことなど嫌だと思っていたのに。
それと自分が、同じ穴の狢だったなんて、信じたくはなかった。

「──良いよなあ、そうやってテメェは、優しい優しい誰かさんに助けてもらえてよォ」

──その言葉だけは、明確に理世に向けられたもので。
彼女が、そんなことを叫ぶのかと言えば。
それは、そう思えたらどんなに楽かと、そんな羨望を叫んでいるようなものだったのかもしれなくて。
そう思えて、そして実際にそうやって彼女を迎えてくれる──どんなことがあってもきっと迎えてくれるだろう人間が。
彼女にとっての讃美歌を歌ってくれるような人間が理世にはまだいることに、どうしようもなく嫉妬していたのかもしれない。
しかしそんな、何処か透けて見える嫉妬の情こそが、理世の心を突き刺す槍となってもいた。
その感情こそが、まさに今、自分が憐れまれるべきではない「ただの人殺し」としての証明を突きつけているものだったから。
だから、そのまま背後の樹木に叩きつけられ、首元を締め付ける力がどんどん強くなっても、最早抵抗するだけの力は残っていなくて。
段々朦朧となっていく世界の中で、理世はただ譫言のように繰り返していた、

──違う。

──私は、そんな人間じゃ、ないんだ。

──だから、誰か──私を、間違って、ないって──

911Girls Murder License ◆NiwQmtZOLQ:2017/09/28(木) 23:33:26 ID:6C.hKJws0
 



「──随分とお喋りなのは、治ってはいないようだな」



──銃声が、澱んだ空気を切り裂いて走る。
顔面を狙ったそれを、流子は空いていた左手で弾き飛ばす。
尚も断続的に放たれる弾丸に対し、流子は理世を盾にしようとするが──その一瞬を突いて、飛び出してきた男が思いきり地面を蹴る。
一気に肉薄し、すれ違い様に理世を持つ右腕に弾丸を撃ち込む。
咄嗟に理世を手放し腕を引く流子、放り出された理世を拾うのは、乱入者──風見雄二の右腕。

「…よぉ。わざわざ来やがったか」
「あれだけ喚いていれば、近くに来れば来ないやつはいないさ」

縛斬を再び抜刀して雄二へと向き直る流子に対し、雄二は姿勢を立て直しつつ油断なく周囲に気を配る。
少し離れたが、流子よりは近い位置に承太郎がいるのを確認すると、再び立ち上がって銃を突きつけ直す。

「随分と癇癪を起こしていたようだが、何か気に入らないことでもあったか?」
「うっるせぇんだよ…テメエには関係ねえ」

その声に籠る怒気は、先程とは比べ物にならない程のもの。
理世に向けていた感情を薪にして、猛々しく燃え上がるがごとき怒りの炎を滾らせた獣が、雄二へと狙いを定めていた。

「理世」

そんな彼女を冷静に観察しながら、雄二は理世に対して言葉を飛ばす。
へたりこんでいたままの彼女が、それでものろのろと顔をあげて反応したのを見て、僅かに安心したかのような表情を浮かべる。
だが、その焦燥しきった表情は、やはり安心できるようなものではなく。

「承太郎を連れて、ここから逃げろ」

故に、彼女にはそう命ずる。
それは、二人の安全のためにも、そして理世の精神を僅かに安定させるために必要なこと。
何事か必要なことをして、僅かでも気を紛らせるという処方──状況も加味すれば、今できることは、これしかない。
理世が何をして、どう思ったのか聞いている猶予など、今は無いのだから。

「……待って、風見、さん」

──それでも。
そんな憔悴しきった声をした少女を、そのまま放り出すことは出来ず。
何を言うべきか、一瞬迷い──そこで、ふと思い出した事があった。
奇しくも状況の似たこんな山の中で、自分の姉が周防天音を助けた時の言葉。
天音を身を挺して逃した時に言ったという、その言葉。
あの天才の「姉」の言葉を借りて、言葉を伝えることにした。

「──大丈夫だ。お前はまだ、生きるために人を殺すしかない鬼なんかじゃない。お前はまだ、人として生きることができる。
だから逃げろ、そして──生き延びろ」

微笑みながらそう言い残して、後はただ「行け!」と叫ぶ。
その声で弾かれたように顔を上げた理世が、承太郎を担いだまま歩き出す。
承太郎の重みに苦戦しながら、それでも何とか逃げるだけの速度を確保していることわ確認し──そこで、空気を割く刃の音。

「させっかよ──テメーら全員、ここで殺──」

流子がその全てを言い終わる前に、もう一度銃声が鳴響く。
反対に突撃し、クロスカウンターの要領で放った銃弾が、流子の頭部左二センチの場所を飛んでいく。
そのまますぐさま流子の背後へと取り付き、頭部に向けて弾丸を発射しながら身体を捻る。
先と同じような体術で、ある程度は凌ぐ──その基本戦法は、場所が変わろうと同じだった。
しかし、仕掛ける直後に唸りを上げて飛んできた裏拳を避け、更に回転を活かしてそのまま殴りかかってくるという連撃を間一髪で避けた時、雄二も悟る。
先と同じではない──より感情を剥き出しにして、「とにかく殺す」という殺意のままに暴れている獣と化している。
動きを読みやすいのが救いだが、速度と荒々しさは数割増しているような気さえする。

「さっきも言ったが、やたらとお喋りだな。おかげで二人を逃がせた」

煽るような言葉を投げるが、流子の様子が変わる事はない。
言動や態度から滲み出る殺意から察するに、既に彼女の感情は相当に振り切れているのだろう。
彼女に近しいものでもなければ、これ以上の刺激を与える事は難しいだろう──それほどまでに、彼女は今暴走している。
そこまでの地雷を、理世が踏んだ、ということか。
ともあれ、ここからが正念場。
改めて剣の矛先を此方に向ける流子に対し、雄二も右手の銃の状態と残弾を確認する。

「変わんねえよ、とっととテメーをブッ殺して彼奴らも殺すだけだ」
「やってみろ」

その言葉を最後に──真夜中の戦場を、二者が駈け出した。

912Girls Murder License ◆NiwQmtZOLQ:2017/09/28(木) 23:36:34 ID:6C.hKJws0
【Gー4(中心部)/真夜中】

【纏流子@キルラキル】
[状態]:全身にダメージ(中)、左肩・左太ももに銃創(糸束で処置済み)、疲労(中)、精神的疲労(極大)、
    数本骨折、大激怒、説明しきれない感情(恐怖心?)、理世に対する嫉妬
[服装]:神衣純潔@キルラキル(僅かな綻びあり)
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(19/20)、青カード(17/20)
    黒カード:縛斬・蛟竜@キルラキル、自動車爆弾@現実?、番傘@銀魂、生命繊維の糸束(一割消費)@キルラキル、遠見の水晶球@Fate/Zero、
         花京院典明の不明支給品0〜1枚(確認済み) 、ジャンヌの不明支給品1枚(確認済み、武器とは取れない)
[思考・行動]
基本方針:全員殺して優勝する。最後には繭も殺す
   0:雄二を殺す。承太郎と理世も追って殺す。
   1:次に出会った時、雄二と皐月と鮮血は必ず殺す。
   2:神威を一時的な協力者として利用する……が、今は会いたくない。
   3:消える奴(ヴァニラ)は手の出しようがないので一旦放置。だが、次に会ったら絶対殺す。
   4:針目縫は殺す。    
   5:純潔の綻びを修繕したい。
   6:マコの事を忘れたい。

[備考]
※少なくとも、鮮血を着用した皐月と決闘する前からの参戦です。
※DIOおよび各スタンド使いに関する最低限の情報を入手しました。
※満艦飾マコと自分に関する記憶が完全に戻りました。
※針目縫に対する嫌悪感と敵対心が戻りました。羅暁への忠誠心はまだ残っています。
※第三放送を聞いていません。
※肉体のダメージは前の話よりは良くなっています。
※現在自動車爆弾はネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲にへ向かって移動しています。
 そのまま行けば一定時間後に標的の砲台は爆破されます。誘爆し爆発範囲が広がる可能性があります。


【風見雄二@グリザイアの果実シリーズ】
[状態]:ダメージ(中、処置済み)疲労(小)右肩に切り傷(処置済み)、全身に切り傷 (処置済み)
[服装]:美浜学園の制服
[装備]: トンプソン・コンテンダーと弾丸各種(残りの弾丸の種類と数は後続の書き手に任せます)@Fate/zero 、ベレッタM92@現実(残弾0)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(7/10)、青カード(7/10)
   黒カード:マグロマンのぬいぐるみ@グリザイアの果実シリーズ、腕輪発見機@現実
   歩狩汗@銀魂×2、旧式の携帯電話(ゲームセンターで入手、通話機能のみ)
   小さな木杭3本、小さな鉄杭3本、タオル2枚、包帯代わりの布2枚、包丁一本(低品質)
[思考・行動]
基本方針:ゲームからの脱出
   0:理世と承太郎が逃げる時間を稼ぐ。
   1:纏流子を始めとする危険人物への対策を考える。

[備考]
※アニメ版グリザイアの果実終了後からの参戦。
※折原臨也、衛宮切嗣、蟇郡苛、空条承太郎、紅林遊月、言峰綺礼と情報交換しました。
※キャスターの声がヒース・オスロに、繭の声が天々座理世に似ていると感じました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。
※言峰から魔術についてのおおまかな概要を聞きました
※纏流子の純潔の胸元に隙間があるなどの異変に気づいています。

[雄二の考察まとめ]
※繭には、分の殺し合いを隠蔽する技術を提供した、協力者がいる。
※殺し合いを隠蔽する装置が、この島のどこかにある。それを破壊すれば外部と連絡が取れる。
※第三放送を聞いていません。
※城近くの山小屋から武器になりそうなものを入手しました(鉛筆サイズの即席の木杭3本、即席の鉄杭3本、包丁一本(低品質))
※自動車爆弾が北西へ向かうのを目撃しました。爆弾とは気づいていません。

913Girls Murder License ◆NiwQmtZOLQ:2017/09/28(木) 23:38:08 ID:6C.hKJws0
 




表情を動かす余裕すらも、もう残っていなかった。
自分がどれだけ醜いか、少し考えただけでも本当に嫌になるのに、それでも歩みを止めるわけにはいかないという呪いだけが自分を縛っている。
千夜に会えばきっと蔑まれ、他の人間にも人殺しと呼ばれるだろうという悲観的な未来以外に、この先の見通しなんてもう一つも見えなくて。
今はただ、背負っている承太郎命が、歩みを止めるなと彼女を詰る。
すぐに死に至るような傷こそ追っていないが、気絶から目覚めるまではまだ時間がかかる。それまでに襲われるようなことがあれば、二人ともどうしようもない。
雄二に逃がしてもらっておいて、このまま倒れるということは嫌だ──そんな気持ちが、今は唯一の原動力だった。
一歩一歩、己の体が前に進んでいる感覚だけを頼りにして。
吐き出した息は、じっとりと身体に纏わり付いて離れない。
今の自分の酷すぎるであろう表情も、誰にも見られたくなかった。

「……わた、しは」

もう、吐き出すものは何一つなくて。
最早余計なものとなった思考をそれでも巡らす度に、どうあっても取り除けない己の愚かさに辟易するしかなく。
自分の中に残された醜さと約束が、何よりもずっしりと体を重くする重りとなって。
今はもう、苦痛でしかない行軍をただ進んでいくしかなくて。
足取りは、ただ只管に重かった。

──理世は、未だに知る事は無い。
紅林遊月の死に対し、衝撃を受けるであろう存在の内の一人はは、すぐそこにいるという事に。
承太郎が理世と出会ったとき、咄嗟にカードに戻しておいたルリグ『花代』。
未だ真実を知らぬ彼女との相対の時が、何を生むのか、それもまた──




【G-4/南部(蟇郡の遺体がある場所のすぐ近く)/真夜中】

【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:気絶、ダメージ(大)、疲労(大?、ある程度回復した可能性あり)、精神的疲労(小)、胸に刀傷(中、処置済)、全身に小さな切り傷、
    左腕・左肩に裂傷(処置済み)、貧血(大)、強い決意、焦り(小) 、神代の酒による酔い(小)。
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(37/38)、青カード(35/37)
黒カード:約束された勝利の剣@Fate/Zero、不明支給品0〜1(言峰の分、確認済み)、スパウザー@銀魂、
         キュプリオトの剣@Fate/zero 、不明支給品1枚(ことりの分、確認済み)、神代の酒@Fate/zero (3分の1消費)、レッドアンビジョン(花代のカードデッキ)@selector WIXOSS
    現地調達品:雄二のメモ、噛み煙草、各種雑貨(ショッピングモールで調達)
[思考・行動]
基本方針:脱出狙い。DIOも倒す。
   0:……………
   1:理世に対し何らかの処置をとりたい。
   2:白カードに閉じ込められた魂の解放方法を探る。
   3:花代から情報を聞き出す。
[備考]
※少なくともホル・ホースの名前を知った後から参戦。
※折原臨也、一条蛍、香風智乃、衛宮切嗣、天々座理世、風見雄二、言峰綺礼と情報交換しました(蟇郡苛とはまだ詳しい情報交換をしていません)
※龍(バハムート)を繭のスタンドかもしれないと考えています。
※風見雄二から、歴史上の「ジル・ド・レェ」についての知識を得ました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
※越谷小鞠を殺害した人物と、ゲームセンター付近を破壊した人物は別人であるという仮説を立てました。また、少なくともDIOは真犯人でないと確信しました。
※第三放送を聞いていませんが、脱落者と禁止エリアは確認しています。
※神代の酒3分の1を摂取しました。その効果から体力が回復をしている可能性があります。詳細は後の書き手にお任せします。


【天々座理世@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(極大)、無力感(大)、自分自身に対する疑心と絶望
[服装]:メイド服・暴徒鎮圧用「アサルト」@グリザイアの果実シリーズ
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
    黒カード:キャリコM950(残弾半分以下)@Fate/Zero
    白カード:香風智乃
[思考・行動]
基本方針:?
   1:今は、ただ、逃げる。
[備考]
※参戦時期は10羽以前。
※折原臨也、衛宮切嗣、蟇郡苛、空条承太郎、一条蛍、香風智乃、紅林遊月、言峰綺礼と情報交換しました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。
※第三放送を聞いていません。ラビットハウス周辺が禁止エリアになったことは知りました

914名無しさん:2017/09/28(木) 23:39:01 ID:6C.hKJws0
仮投下を終了します。指摘がありましたらお願いします

915名無しさん:2017/09/28(木) 23:47:51 ID:gQe5o6kY0
仮投下乙
理世の心の動きと流子の台詞が上手いなぁ

916名無しさん:2017/09/29(金) 19:13:02 ID:aGOf7JbA0
仮投下乙です
あちこちに地雷が転がってる……
>>913の承太郎命などの些細な脱字がある他は本投下に問題はないと思います


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板