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YOU、恥ずかしがってないで小説投下しちゃいなYO!

1名無しさん:2006/09/04(月) 00:05:29 ID:ZZXqX536
どんどんこーい。

350 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/02/25(水) 09:54:25 ID:KO0OsBWU
「―――そんで、実際はどうなんだ?」
 先程までおどけていた初紀の口調が途端に引き締まる。
 そういった時だけ、妙に男らしくなっててサマになる。それは女になっても同じで、少し悔しい。
 ―――腹を括って、俺は学ランのポケットをまさぐる。……あった。
「ほらよ」
 ご丁寧に【親展】と判の押された、くしゃくしゃの"青色通知"を左に突き出す。受け取るのは、元は俺と同じ性別だったとは思えない繊細な細い指。
その中央に小さく印字された名前は間違いなく俺だ。
 前田 陸。
 ちなみに言っとくが読み方は"りく"じゃねーぞ。読み方はあの大物芸人の松っちゃんと同じだ。
「あー、やっぱな。心の友よぉー」
 初紀は"青色通知"をまじまじと見つめてから俺に抱擁を求めてきた。
てめーは剛田タケシか。つーか抱きつこうとすんなっ。その満面の笑みがすンげぇムカつくぞ、この野郎。
 ……いや、野郎じゃねぇけどよ。
「別に俺が女になるっつーことが決まったワケじゃねぇだろーが」
 元男の抱擁のおねだりを左手一本で拒否しながら俺は言う。
「う……ん。まぁそうだけど……」
 何だぁ、その好きな人に彼氏が居たことを知ったような切ない乙女顔は?
 いや、実際に見たことねぇけど。
「あん? 言いたいことはハッキリ言えっての、男だろ」
「っ、ちげーよ!」
 そこを真っ先に否定すんなよ。顔真っ赤にして。……かわいい……っじゃなくて。
「……じゃあ"元は"男だろ」
 半分は俺自身に言い聞かせるように、もう半分は初紀の話の続きを促すように俺は言う。
「じゃ……じゃあ聞くけどよ」
 畏まるなっての、告白でもされるんじゃねぇかってドキドキ……じゃねぇっ、ヒヤヒヤすんだろうが!
「―――通知、受けんのか?」
「――――っ」
 核心を突く言葉だった。
 俺が一人屋上で途方に暮れる、なんつー似合わねぇことをしてた……一番の理由。

351 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/02/25(水) 10:01:46 ID:W4rJBJI.
 "青色通知の受諾"

 ―――さっきも言った通り、青色通知はお国様は把握してる限りの『純潔を守る青少年』全員に対し、"性別選択権の行使"を促す通知を送りつけている。
 国からすりゃあ少子高齢化に拍車がかかる中、更なる追い討ちであるこの病気の蔓延を阻止したい目論見がある。
 "選択権"なんて如何にも自由意志を装ったそいつは完全なる善意で運営されてるワケじゃない。
 だから躍起になって通知を何度も何度もポストに突っ込んでいく。血税の無駄遣いもいいとこだ。
 で、そのお国様の目論見にまんまと乗っかった女を知らないケダモノは……国の用意した素性の知れない女を貪るって寸法だ。
 その、男であるために女を抱くか、自分を貫いて女になるか。
理不尽な二者択一を俺はたった今、この瞬間に!
………迫られているんだってよ。



〜以下遂行中〜

お目汚し失礼しました。

352名無しさん:2009/02/25(水) 10:56:39 ID:OmEWV3oY
>>351
GJ!続き待ってるよ!
良かったらトリだけじやなくてコテも付けるヨロシ。

353ファンタ ◆jz1amSfyfg:2009/02/25(水) 11:24:10 ID:6.ufYvY.
>>351
GJ!!

354青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/02/25(水) 12:03:59 ID:W4rJBJI.
>>352
では、お言葉に甘えまして。

>>353
恐縮です。お互いがんがりませう

以下チラ裏

メモ書で書いた時の行間やら何やらが全部省略されてたorz
中二臭さが半減しちまったい、ちくしょう。

355青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/02/25(水) 19:31:06 ID:W4rJBJI.
〜青色通知2〜


『いらっしゃいませぇー2名様ですかぁー?』
『お待たせいたしましたぁ、こちらイタリアンハンバーグと小エビのカクテルサラダになりまーす!』
俺と初紀の座るテーブル席の横を、俺達とそんなに年の違わなそうな制服姿の女の子達が慌ただしく駆け回っている。

―――今の気分を表現するなら"曇天、波今だ高し"……っつーところか。
晴れやかな面をして、半熟卵のミラノ風ドリアを喜々と頬張る対面席の美少女、と比較すると正に天と地の差がある。
「……おい」
「んぁんだぉ〜ひぇっはふひほがほ〜はんひ―――」
「―――せめて飲み込んでから喋れバカ……っ!」
……我慢、我慢だぞ、陸。こんなとこで暴れたら店の人や他のお客さんに迷惑だろ!?
 握り締めた拳がプルプル震え、振動でグラスの氷がカラカラと高い音を鳴らしている。……俺が、どんだけ俺って奴が腹に据えかねてんのかってのを分かって貰えたらありがたい。
「んく……はぁ、おいし」
そんな怒りを全く意にも介さず、半熟卵のミラノ風ドリアを満足そうに飲み下す初紀。ホント、コイツ喧嘩売ってんのか?
「だってよー。旨いもんでも食べねーと気持ちも落ち着かねーだろ?
旨いもん食って、それでから相談に乗ってやろうっていうマブダチの優しーい心遣いに感謝して欲しいよね」
そこまではな。あぁ、百歩譲って認めてやるよ。手を口元で合わせて悪戯っぽく笑う、わざとらしい可愛らしい仕草にいくらムカついても。でもな……
「なら……なんで俺がお前の分を奢らにゃならんのだ!? しかも食後の生チョコケーキまでっ!!?」
「あれ? 彼氏が彼女のメシ奢んのは当たり前じゃないの?」
「んなっ、な、なに、なにを言ってんだバカっ!!?」
どこぞのwiki小説だっつの!?
やべぇ、顔熱い、何慌ててんだ俺。

356青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/02/25(水) 21:16:16 ID:S5.mGiM6
「……そんな態度しなくてもいいじゃんかよ……」
え。初紀のヤツ、結構マジで凹んでねぇか? え、俺のせいかよっ!?
う、嘘泣きしたってスグわかんだぞ!?
「いくら……お、俺が……ひくっ……元男だか……らってさぁ……っく、そん……言い方、えくっ」
うわ、わ、マジ泣き!? やべぇ、向かいのテーブルこっち見てんし……つーかこっち見んなっ!! ヤんぞコラァッ!? ……嘘ですすみませんこっち見ないでください。
……だぁーっ!
「悪かった! わぁるかったから泣くなっ!!」
 エクスプラメーションマークは付いてるものの、俺は精一杯の小声で初紀を宥める。
なんだ……この羞恥プレイ。俺が泣きたい。
「……ほん……と……?」
目頭を抑えながらハナを啜る初紀。その泣き顔は一つ間違えるとホントに女かと錯覚しちまうかのような可愛らしい顔。
 涙は女の武器たぁよく言ったもんだな……はは、はぁ。どんなコイツのパンチよりも効いたぜ……。
「……あぁ、俺が悪かった。お詫びに飯代も出す、な? 機嫌直してく―――」
「―――よっしゃ、勝ったぁっ!」

……は?
 さっきまで顔を覆ってた両手でガッツポーズを取りながら、嬉しそうにテーブル席のソファに寝転がる初紀。……と、呆気にとられた俺。
 
「あっははは、ひっかかったひっかかったーっ! うん、こりゃ青色通知来るな。反応がまんま童貞だもんな、うんうん。おねーさんには分かっていたぞー?」

……あー、そうか。そーいうことか。ほう。
コイツは、俺の純情可憐な俺の男心を弄び、完膚無きまでに叩きのめしたワケだ。……コイツ泣かす、マジ泣かす。
「っわわ!? テーブルナイフ握んな!!?」
「……男に二言はねぇ。飯代は奢ってやる。……だからよ。きぃっちり"相談"に乗ってもらうぜぇ……?」
初紀は、多分今ホントに泣きそうになってるんだろうが、もぉ許さねーぞ。半ベソかくまで、じぃっくり腹割って話合おうぜ?

なぁ、"初紀ちゃん"?


〜一旦中断〜

357名無しさん:2009/02/26(木) 00:17:40 ID:hARrqtxg
>>356
乙乙
いいね〜。

358青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/02/27(金) 01:01:09 ID:3jhcGElI
〜再開します〜

「……そんで? 結局のとこ、お前さんはどーしたいんよ?」
 生チョコケーキのフィルムについたチョコクリームを舐めとりながら、初紀が話の口火を切る。
 はしたないからやめろって前々から言ってんのに……。
「あぁ」
「……あぁ、じゃわかんないだろっ」
 気が付くと、眼前には頬を膨らませた初紀。……やべ。なんかボーッとしてた。初紀のはしたない姿に見とれて……ねぇって! 違うって!
 ……はぁ、もうやだ、この俺。
「ったく、そんな曖昧でいーのかよ。自分の事だろ?」
「ぐ……」
 初紀の正論に返す言葉もない。
 目の前で慣れないスカートを穿いてるコイツとは違って、俺には悩む猶予があるし、あまつさえ自分も大変な時期だってのに――こうして相談に乗ってくれてるダチが居る。
 なのに、今も結論を出すことから逃げてる俺って……マジ死んでいいわ―――「―――こら」
 陰に入りかけた俺の眼前に目一杯映る、初紀の顔。唇には、生チョコクリームが少しくっついてて……って、冷静に分析してる場合かっ!?
 ち、近い、近いっ!!
「今、"俺マジ死んでいいわ"って思っただろ」
「お、思ってね―――」「―――うそつき」
……見抜かれてる。
 笑いながら、でも目だけはマジなその面構えが、カマかけじゃないってことを物語ってた。
「そうやって、何でもかんでもテメーのせいにして、誰が喜ぶんだよ」
「……」
「建設的じゃねーだろ。こんなこと言う為に此処来たわけじゃねーし」
 怒る、というよりは少し呆れた初紀の口調。さっきまで怒りに任せて主導権を握っていたのは俺だったはずなのに。
「な?」
でも初紀は、そんな俺を見捨てなかった。優しく諭してくれて……なんか、悔しい。
 ……そうだ。悔しいけど、今は落ち込んじゃいられねーな。
「―――そう、だな」
「閑話休題だな」
そう言いながら、初紀は生チョコケーキをつつく。
「あぁ」
……ふと、ある疑問が浮かぶ。
「その前に、いっこ質問いいか?」
「なんだ?」
「……"かんわきゅうだい"って、なんだ?」
初紀がフォークをくわえたまま、テーブルに突っ伏した。
なんだ? 俺、悪いこと言ったのか?

359青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/02/27(金) 02:52:30 ID:WvlNbAsA
 改めて、俺は青色通知をテーブルに差し出した。悪い夢じゃねーかってもう一回宛名を見直すが……"前田 陸"。俺の名前。
 やっぱ夢じゃない、つーか過去の経験を思い返せばすぐわかることじゃねーか。……言ってて幾分虚しいが。
「どー見ても本物だな、うん。正真正銘のどーてーだ」
 笑顔の初紀のトドメの一言。爽やかな乙女のツラだが、うん、ぶん殴りてえ。


「……で、さっきも聞いたけど。どうすんだ? 受けんのか?」
 ……国から派遣された赤の他人の女を抱いて、男という性別にすがりつくか。信念貫いて、その末に女になるか。

 理不尽な二択。

「俺は―――」
 言葉に詰まる。迷ってた。……いや、答えは出てる。でも、それを口にする勇気が出なかった。
 ビビってる理由?
 その決断が、ホントに後悔のないもんなのかなんて、わかんねぇから。
 けど時間は待ってはくれない。
 だからせめて、この今の気持ちにだけは、正直で居たい。
 でも……怖ぇ。
 ……はは、情けねぇな。喧嘩した時だって、こんなブルっちまったことはねぇのに。
 ほんの、ちっちぇ決意の一言が、出ない。
 ……くそっ。初紀もさぞかし呆れてんか、笑ってんだろうな―――

 ―――あ……。

 初紀と目が合う。喧嘩でも見たことないような透き通った目。それは俺の情けなさを責めるようなものじゃなくて……俺の二の句を、じぃっと待っている。
 ただ、それだけ。
 ざわざわとしたファミレスのノイズなんか一切耳に入ってこない。ただ、コイツは俺の言葉を待ってる。
 ……応えなきゃなんねぇ。目の前に居るコイツが男だ女だなんてカンケーねぇ。マジで、俺の吐き出す言葉を待つ、ダチのために。

 口を結んで、
 ビビる気持ちを奥歯で噛み締めて、
 俺は、言葉を吐き出す。

「―――俺は、受けない」

360青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/02/27(金) 03:47:13 ID:oGt3xY3A
「そっか」
 重々しく吐き出した俺の言葉に対し、待っていたのは随分とあっさりとした一言。
 ……なんか拍子抜けしてしまう。
「んだよー。人が漸く決心したのに、その態度」
「だって諦めるんだろ? 男で居ることを」
「は? 誰がンなこと言ったよ?」
「通知を受けないってことはだ。女になるってことを認めるってことだろ? 消極的にだけどよ」
 何か、生チョコケーキを頬張る対面席の女と会話が噛み合ってない気がする。
 あ……そうだ。肝心なこと言ってなかった。確かに、このまんまじゃ状況になんの変化もない。

「―――俺、告白する」

 ―――カラン。

 初紀のくわえてたフォークが床に落ちる音がファミレスのホールに響く。

「は……はぁぁあっ!?」

続いて、初紀自身の声がファミレスのホールに響く。
 集まる他の客と店員の視線。
「う、うるせぇよ、静かにしろバカっ!」
「で、でもよ。陸、お前、好きな人居たのかよ?!」
「あぁ」
「お、俺、知らねーぞ!?」
「そりゃ言ってねーもん」
「だ、誰だよ?」
「言わなきゃダメなのかよ?」
「ダメっ!」
「どーして?」
「どーしてもっ!!」
 なんだ、この痴話喧嘩みたいなやりとり? それに、どうして初紀がこんなにも必死なのかも理解に苦しむ。
「で……誰なんだよ?」
 初紀の目がさっきよりも爛々と輝いている。どうしても白状しなきゃならねぇらしい。……仕様がないか。ここまで腹割った仲だ。
「―――坂城だよ! 3組の坂城るい!」
 ……ハズい。死にたい。
「……ほーぉ、ショートカットの美人が好みかお前は」
「うるせーな、やめろそのニヤニヤ顔」


「でもよー。お前と坂城さんて接点あったっけか? それに、いくら告白したからって上手くいくとは限んねぇだろ? 上手くいったとしても、数日で即寝技で一本勝ちなんて無理じゃないか?」
 落ち着きを取り戻した初紀が言う言葉は紛れもなく正論だと思う。
 確かに分の悪い勝負だし、途中まで上手くいっても女になっちまったら元も子もない。
 でも、やれるだけのことはやって納得したい。たとえダメだったにしろ、無駄に足掻いた分だけ、納得した分だけ、後悔は軽くなるだろうしな。

361青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/02/27(金) 04:23:13 ID:4SM/MHKQ
「……よしっ、決めた」
 不意に初紀は拳を握りしめ立ち上がる。何かすげー気合い入ってるけど、俺には何のことやらさっぱりだ。
「"決めた"って……何がだよ?」
 当然の疑問を投げかけると、初紀は胸に手を当てながら大仰なポーズを決めながら―――
「この御堂初紀サマに任せなさいっ!
この甘酸っぱーい童貞クンの恋を見事に成就させてしんぜようッ!」
―――と大声で叫んでいた。そして再び集まる好奇の注視。
 ……本人に悪気は無いんだろう、多分。それは理解できる。
 だが、それをさっ引いたとしてもだ。
 俺は目の前の、頬にチョコクリームをくっつけた女をブッ殺したくなった。



"愛のホームベース帰還大作戦"(命名:御堂初紀)


 ―――……多分ホームベースってのは坂城の名前に引っ掛けたものなんだろうが、坂城の名前は平仮名の"るい"であって、決して"塁"じゃないことを主張しておく。
 そしてネーミングセンスの無さにも激しくツッコミを入れたかった。が、そんな猶予や余裕はもう無い。
 俺は、出来る限りのことをしたい。全力を尽くしたい。
 上手くいくにしろ、女になるにしろ。後悔だけはしたくない。
こうして、元男と童貞による、一世一代の勝負が幕を開けることになるのだが――――。

「うっし、陸、そうと決まれば明日、放課後デートするぞ!」
「おうっ!
……って、なにぃ!? なんでお前とデートなんだよ!?」
「予行練習だよ、予行練習! 俺だって今や立派な女だ。代役くらいにはなるだろ? 緊張して失敗しねーよーにな!」

―――……それはまだ、少し先の話らしい。


〜青色通知2〜



362青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/02/27(金) 05:32:30 ID:wqOO2a7o
〜青色通知3〜


 ―――最初に俺が初紀と会ったのは中1の時だった。
 入学式で同じクラスになって、最初は名前順に座らされる席の関係で、初めてクチをきいたのが初紀。
 俺らの名字が"前田"と"御堂"じゃなかったら、今の関係は築けてなかったかもしれない。
 とは言っても最初の印象はサイアクだったけどな。お互いに不良まがいな格好をして、髪を染め、チャラチャラしてて、顔を合わせる度に拳が飛び交った。
 まぁ、先に手を出してたのは大抵俺で……言っちまえば同族嫌悪ってヤツか?
 名前の呼び方だ、態度だ、なんだってイチャモンつけて喧嘩をふっかけてた気がする。が、負けるのもいっつも俺。で、躍起になってまた喧嘩をふっかけて、軽く去なされる。その繰り返し。

 普通ならそんな奴、当事者じゃなくても毛嫌いするだろ?
 けど、アイツは―――初紀だけは違った。
 俺が修学旅行の班決めで、案の定あぶれると思った矢先に"一緒に回ろーぜ"って誘ってくれた。他の奴らの反対を押し切ってまで。
 アイツはあの人懐っこい性格でクラスの人気者で、俺は一匹狼気取り。……今思えば、少なからず初紀に嫉妬してたんだろうな。
 もちろん素直じゃない俺は"お情けなんか受けねぇ"ってアイツの申し出を突っぱねた。……そん時だっけか、初めて初紀から喧嘩を売ってきたのは。
「負けたら一緒に修学旅行、回れよ? サボんじゃねーぞ?」
 ―――って。
 喜び勇んで挑んだが、瞬殺だった。無論俺が。後で聞いた話だが、アイツ、空手をやってたらしい。しかも有段者だと。……そりゃ勝てねえわ。
 ハズい話だが、校舎裏でぶっ倒れた俺は悔しくて半ベソかいてた。そしたら―――
「お前、やっぱ強いな」
 ―――とか抜かしやがった。最初は嫌味だと思ってたけどそうじゃなかった。
「大抵の奴は刃物とか出して威嚇したりすんだけど、陸だけはずっと素手で俺に挑んできたじゃん」
 ……今思えば、初めて名前を呼んでくれたのも初紀だった気がする。
 それに、俺をこんな素直に認めてくれたのも家族以外じゃ初紀が初めてだった。
 それが、無性に嬉しくて。でも、ちっとばっかり悔しくて。
「いつか、てめぇをブッ倒す」
 とか言ってたっけか。ははっ、我ながらガキだなって思う。
 ……けど、それはもう叶わない。

 俺は男で、初紀は女になっちまったんだから。

363青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/02/27(金) 05:56:31 ID:4SM/MHKQ
 ……なんかヤな夢を見てた気がする。
 よくは覚えてねぇけど、未練がましい夢だった気がする。
 やっぱ学校の硬い机を枕代わりにしてちゃ良い夢は見られないのかもしれねーな……。

ブブブ…ブブブ…

 メールの着信を報せるバイブがズボンのポケットから鳴り響く。先公にバレねーようにケータイを開いて中身を確認すると、それは初紀からのメールだった。

件名:

本文:放課後、裏門で待ってる。

 ………。

件名:Re:

本文:めんどくせぇ。正門じゃダメなのか?

 ―――送信、と。

 ………。

 ブブブ…ブブブ…ピッ

件名:Re:RE:

本文:ダメだ。坂城さんに見つかってヘンな誤解に繋がったらどーすんだ?

 ………。

件名:Re:RE:Re:

本文:了解

 ―――送信、と。

 ………。

 ブブブ…ブブブ…ピッ

件名:Re:RE:Re:RE:

本文:あ、あと女の子へのメールの返事は顔文字とか絵文字とか使えよ?
冷たいって思われんぞ?(>_<)

 ―――……余計なお世話だ。

 ………。

件名:Re:RE:Re:RE:Re:

本文:了解\(^O^)/

 送信、と。

 ………。

 ブブブ…ブブブ…ピッ

件名:Re:RE:Re:RE:Re:RE:

本文:待て、その顔文字は色々な意味で終わるぞ?!

 ―――色々と注文の多い野郎だな。……いや、野郎じゃねぇか。

364青色1号:2009/02/27(金) 05:59:26 ID:MrRr0/XM
とりあえずここまでです。何か分かりにくいとことか表現がおかしいとことか指摘してくれるとありがたいです。

365名無しさん:2009/02/27(金) 17:56:54 ID:bXygGhBE
>>364
乙。俺は特に気になったところは無かったな。

366名無しさん:2009/03/02(月) 22:26:00 ID:O6O9UFaU
昔投下したやつのキャラの性格を変えてリメイクって感じなんだけど投下してよさげ?

367名無しさん:2009/03/02(月) 22:52:10 ID:/RBatN/w
よさ気。どんとこ〜い。

368 ◆GlMsi/e8ss:2009/03/02(月) 23:33:47 ID:O6O9UFaU
 星の境界線

  ―イントロダクション― 1

 
 ――本格的な夏の幕開けとなった五年前の夏。

「性転換って知ってる?」
 陰鬱な梅雨の季節の只中のこともあり、その日はいつもより暗い天候に見舞われていて、教
室内で静かに過ごしていた美崎と彰二の二人は一見、空色模様のような気分を打ち消すように
他愛のない会話を交わしながら、給食が乗せられたトレイを囲んでいた。

「…………ふぇ?」
 その最中に、彰二が突然そう切り出したものだから、美崎は一瞬呆気にとられる。
 発音が少しあやしいのは、芋ようかんを運んでいたスプーンを口にふくませたまま聞き返し
たからだ。星は彼との長年の付き合いからその行為がいかにうっかりしたものであったのかを
熟知し、ネタ振りをしてしまった事に若干の後悔を抱く。
 対して彰二は待ってましたと言わんばかりに目を爛々と輝かせ続けて、
「性転換だよ性転換。ほら、よくあるだろ? 男が女になったりーとかよくさ」
「やぶからぼうになんだそれは。お前が好きな漫画の話か?」
「いやそうじゃなくて一種の都市伝説なんだけどね。16才まで童貞だといつか女の子になっち
ゃうって病気があるらしんだよ。興味わかない?」
 彰二は人差し指を立てると手とうでそれを切った。
 人差し指を折り曲げて見せただけなのは言うまでもないことだが、その意味がわからないほ
ど彼の言いたいことがわからない美崎ではない。
 要するに美崎の事情を知っている彼なりのアドバイスなのだ。
「どう?」
「……それでどうと言われてもな」
 それでも、困惑する美崎を前にわざとらしいジェスチャーを続けて興味を仰ぐ彰二。
 握りこぶしで作った穴に人差し指を入れて上下させている……。
 なんて、ハレンチな奴だと美崎は思った。

369 ◆GlMsi/e8ss:2009/03/02(月) 23:37:12 ID:O6O9UFaU
「ジョークのつもり? それともいらぬお節介か?」
 一瞬、スプーンを片手に固まっていたが彰二の行動に深く溜息を吐くとやや半目にしながら
ジトーっとした視線を送った。
「……な、なんだよ。その目は」
「わからないか? 非常識な奴を見る軽侮の眼差しだ。美崎はまだ子供だが、そんな戯言を真
摯に聞けるほど幼くはないんだよ」
「む、難しい言葉使わないでよ」
 彰二は何も言い返せず、そのまま黙り込んだ。
 ――やや堅い言い回し、それが美崎の特徴だった。
 そんな言葉が理解出来る筈がないと踏んだ上で彰二を言い包めるために敢えて使っているの
で、彼にしてみれば厄介な話だが難しい語句を並びたてられては当然そうなる。
「恥を知れと言っている。食事時にそのような下品な話を持ち出されては甚だ不快だ」
 そう言い放ち、芋ようかんを掬ったスプーンに目を向けながら、
「噂話と言うより彰二の作り話だろう」と小声で呟いた。
「…………うっ」
 彰二は創作である事を看破され口を噤む。それに追い討ちをかけるが如く、
「あと、お前はお前の心配をしたらどうだ。その理屈でいくと彰二は女性に直行だぞ?」
 邪悪な笑みを浮かべ彰二に止めを刺した。
「…………う、うぅ……うわあああ!
 そうなった時は星の嫁に行くから良いんだよー!」
 泣き叫びながら、彰二は教室を飛び出した。それを見て美崎はようやく一息付く。

「……ふん」

 一見御伽噺のようでいて、世界ではありふりた現実であることをよく知っている。
 そのことを思う美崎の心には、どこか哀愁が漂っていた。



 そんな会話を交わしたのも、遥か手の届かない空のように遠い昔のこと。
 楽しかった日々が永遠に続くこともなく、幕切れも呆気ないものだった。
 次の日、美崎は海外へと引っ越した。
 だがあの夏の日、突如やってきた別れを別れと認識しないまま渡独してから五年後のこの日。
 美崎、いや――私は、こうしてこの場所に立っている。
 彼がいる、学び舎。見上げると『2-H』と掲げられたプレート。
 ここが私の新しい教室になる。
 耳をすますと扉を隔てた教室からの喧騒が、零れ出ている。
 その中に宮穂の声を聞き、そして彼の声を聞き……つい動機が激しくなった。
 扉の前に伸ばす手はとても震えていて、全身の血が脈を打って駆け、立っているだけで重圧
が圧し掛かった。でもそれは、仕方のないことだった。
 この数年、日本を離れていてわかりかけていたことがある。
 それはここに至ってようやく確信に至った。今なら自信を持って言えるのだ。
 私は、彼のことが好きなのだと。
 ――今日は、あの日と違って雲一つない快晴。春風吹く、出会いの季節。

370 ◆GlMsi/e8ss:2009/03/02(月) 23:39:58 ID:O6O9UFaU
 ―イントロダクション― 2

 本来ならば出会いや別れなどで忙しくなるこの季節。
 とは言え、俺の世界は何の変化もない至って平凡な日常の繰り返しだ。
 日常――非日常の境界とは何だろう。非日常とは突然やってくるものであり、日常と一線を
隔すファンタジーの分野……それが俺の認識。
 だからと言って平凡な日常に永遠なんてものありはせず、当然終わりというものは来る。
 単に短く終わるか、長く続くかそのどちらかだ。
 ……なんて月並みな言葉で語るつもりはないが、変わらない日々にいつも変えにやってくる
のは決まって“アイツ”だ。

「ふぁ。眠くて、辛くて……最悪」

 赤く染まっているであろう俺の目を想像し、つい見えない敵を殺したくなった。
 俺様は今、花粉が、とても憎い。

371 ◆GlMsi/e8ss:2009/03/02(月) 23:42:37 ID:O6O9UFaU
 ――始業式当日。
 あの日の終わりから時を経て、その思いも吹っ切れた今は風が吹きすさぶ春。
 俺に言わせれば陰鬱以外の何ものでもない四月。
 要するにまた花粉症に悩まされる日々が始まってしまった、と言える。それから解放されて
いる者の喜びが、俺の心情における不快度を更に上げる。
 でもそんな粒子の介入とは関係なく、新しい日々に浮かれることなく平凡に送ろうとしてい
る者が多いのがこのクラスの特徴だ。

「……はぁ」
 窓側の一番前――授業をサボるにも真面目に受けるにも安心とは言い難いこの場所に席を置
く俺は、外の景色を無為に眺めながら、そんな思考停止状態のときに流れる無秩序な思惟に気
付き深い溜息をつく。

「――彰二、ねぇ彰二ってば」
「ああー?」
 俺の後ろの席になった奴が背後から話しかけて来る。
 だらけ気味に身体を後ろに反らせながら、声の主を見遣ると全体的にまだ幼い感じが残る華
奢なナリの短髪美少女だった。あぁ、季節に無関心なこの教室にも一人例外はいたようだな。

「また一年よろしくー」
 ハートが頭上に飛び出してしまいそうな満面の笑みを浮かべて、その少女は言った。
 新学期、こんなとき女子に話しかけられると嬉しくなるものだろうか?
 ――そんなわけがない。俺はこの人物の正体に心当たりがある。

「はぁ〜。なんだ、また栄か」
「なんだとはなんだよぅ」
 栄の顔を見て、これみよがしに溜息をついてみせると、栄は上目遣いをして早速男を勘違い
させそうな女々しさを爆発させた。

「それは悪かった、言い直そう。
 ――やったー! また栄かよー! うれしー!」
 この場合、極めて棒読み的に言うのがコツだ。その反応を見て栄はぷぅっと頬を膨らませる。
 女々しさここに極まれリ。

372 ◆GlMsi/e8ss:2009/03/02(月) 23:44:37 ID:O6O9UFaU
「なんだかちっとも嬉しそうに見えない……」
「事実嬉しくないものは嬉しくないからしょうがない」
 なんでいつもいつもこいつはこのポジションに居座るのか……理解に苦しむ。
 さては、教師と密約の一つや二つでも交わしてるんじゃなかろうな。
 あるときには身体を売って、とか。

「まさかお前、俺のいやらしいストーカーだな!」
「……何その強引な決め付け方? それにそこはフォローするとこじゃないの」
「お前をフォローして俺に何の得がある」
「彰二には唯一、優しさが足りない……」
 優しさ? そんなものは必要ない。大事なのは次の行動に移る『速さ』だ。

「ははっ。俺が優しさを与えるのは惚れた女だけさ!」
 机の上に立ち上がりガッチリポーズを決める俺。
 よっしゃ、決まったァッッ!

「あぁっ……正直格好良すぎて濡れそうっ!」

 栄から溢れんばかりの羨望の眼差しを浴び、ついでにクラスの連中から好意の視線も受ける。

「僕を騙って無意味な混乱を生むのはやめてね」
「バレたか」
「それに僕じゃ意味も違ってくるからね」
「良いじゃん、お前男みたいなんだし」
「――は?」
「ごめん、素で間違えた。女みたいだし……だったな!」
「……………………絶対ワザとだ」
「うん、ワザとです……ワザとです……ワザとです…(フェードアウト)」

 果たしてピロシは元気にしているだろうか?
 もし会えるのであれば、釣りばかりしてないで黒歴史と称されるドラマ版の意見を聞きたい。

「……元気ないと思ったら違ったのか。
 言い直すよ、彰二ったらいつにも増してテンション高いね」

 テンション高い……か。フフ、お前にはそう見えるのか。

373 ◆GlMsi/e8ss:2009/03/02(月) 23:48:16 ID:O6O9UFaU
「なに、お前は『世界五分前仮説』を信じるか?」
「はあ?」
「『世界は実は5分前に始まったのかもしれない』というバートランド・ラッセルに提唱され
た仮説さ。それを今俺はひしひしと感じてるんだぜ」
「………………じー」
「何だ、その可哀想なものを見るかのような目は」
「彰二が良いならそれで良いんじゃないかな」
「馬鹿、そんなポジティブなら解決する的な台詞で世の中まかり通るという考えは危険だ。
 世の中ネガティブにしか生きれないネガティブ主義者の人だっているんだぞ」
 仮に俺がネガティブ主義者なら、その発言は危険doレベル4に属する。

「今後、発言に気をつけ給え」
「……やっぱいつにも増して変だ」
「けっ……お前も女なら俺に惚れてるくせによ」
「そ、それは……っ。否定は出キナイケド、でもソレとコレとは話が……」

 ちょっと煽ると早速煩悶し出す。
 ――恩田 栄(おんだ さかえ)
 性格もなよなよしてるが、一応こいつは男だ。俺の中である日突然女体化しそうな奴ナン
バー1に位置する男。これだけ仲が良くとも、数いる友達の一人でしかないわけで俺がそのこ
とで悦に浸っていると、

「その友達と言っても深く付き合っているような間柄の人って一人もいないでしょ」
 というような悲しい現実をともなったツッコミが即座入れられた。

「……貴様、この俺に親友が一人もいないとでも言いたげだな」
「だって、彰二っていわゆる三枚目のキャラで終わりそうなタイプだもん。
 だからこそ永遠にナンバー1にはなれないっていうか〜」
「くっ……可愛い顔して辛辣な評価を下しやがって!」
 それはまるでエロゲの友人キャラのよう……と言っているかのような救われない物言いだ。

「確かにそれは認めるが、BLならメインヒロインなんだぞ……!」
「全てを履き違えてる……っ!」
「あぁ、履き違えてるさ。穿き違えて見せよう……っ! この際トランクスを女モノのパンツ
に変えたって良い。主役になれるものなら何だってしてやる」
「純粋に気持ち悪い」

 処断された。酷い言われようだ。

374 ◆GlMsi/e8ss:2009/03/02(月) 23:50:22 ID:O6O9UFaU
「グス……俺だってなぁ! 親友の一人や二人ぐらい探せば――」
 そこまで口に出して、笑うアイツの姿がフラッシュバックした。

「………………」
 ――思いは振り切ったはずだったのに。
 この先を言おうかどうか考えていると言葉につまり、結局無言を決め込む。

「一人や二人?」
「……親友は、確かにいたよ。うん」
「なんかいきなり沈んじゃってるし。どうしたの? 明るくなったり暗くなったり」
 浮き沈みが激しいのは感情が豊かな証拠だとポジティブに考えてみる。

「俺が暗いと似合わないか?」
「そりゃあ、まぁ……」
 栄は言いかねているが、そのようだ。嬉しい反面、嫌な感情に駆られた。
 俯いてる間に顔を作ると、心配そうに覗き込む栄に視線を合わせる。

「お前も誰かに告白するときは気をつけろよ?」
「彰二は脈絡というものを考えたことある?」
 コイツは女みたいな顔なので、こうして顔を近づけていても気持ち悪くない。
 むしろ、そのままキスしてやりたくもなる。そんなイケない欲情を押し殺すために、俺はと
っておきのお話を披露することにしたのだ。

「フラれて失意のままに山に出かけると宇宙船に跳ね飛ばされて霧散するだろ?」
「聞いてないし」
「そしたら女体化して再生されるだろ? でも一旦霧散して死んでるわけだからそれを考える
とどっからどこまでが生でどっからどこまでが死なのかっていう定義が曖昧になってさ。
 生と死という二つの概念……。全ての生あるものの片隅にある死と言う呪縛……。
 なぜ、人はこうも死を選び次世代に種を紡ぐ手段をとるのか、クラゲのように生活環を逆回
転させることは出来ないのか。死は、免れられぬものなのか……そんな漠然とした不安で夜も
眠れなくなってさ。事実昨日は寝てないんだ」
「へーそれで眠たそうにしてたのか。でもそんなピンポイントなフラグないからね」
「そりゃそうか」
《キーンコーン・カーンコーン》

「あ……新任の先生来たよ」
 キリの良いところで始業の鐘が鳴り、同時にうら若き美人さんが教室内に入ってきた。
 新任というだけに、教室外でハラハラしながらチャイムが鳴るまで待っていたに違いないと
いらぬ邪推をしていたら、よく見るとそれは宮穂先生だった。
 化粧が濃いから一瞬まじでわからなかった。

375 ◆GlMsi/e8ss:2009/03/02(月) 23:54:14 ID:O6O9UFaU
「佐久良宮穂です。今日からあなたたちのクラスの担任になります。まぁ、2-Hの諸君は優秀
だからこれと言った問題も起こらないでしょうけど」
 教卓について早々、初っ端から軽い重圧を受ける俺たちであった。

「だから、担任なんてほっぽいしても良いと思うんだけども。まぁ、一年間よろしくね」
「……なぁ、ほっぽいって何だ?」
「さあ。多分、いつもの略語だろうけど」
 略しても他人に伝わらなければ意味がないと思うのだが。
 そんないい加減な略語の使い方をするのが佐久良宮穂(さくら みやほ)。
 やはり既に顔見知りの身だったりする。
 
「さて、佐久良宮穂さんというと三十路前であるのが気になるが女性教員の中でもとりわけ気
立ての良い美人さんで、どこか大人の魅力を感じてならないわけだが」
「三十路前は余計よ」
「すみません。まさか先生が俺の心の声を読める三十路前の能力者だとは知らなくて」
「だからついでのように付け加えるのは止めなさい」
「で、お約束なんですけど先生」
「何かしら」
「抱きしめても?」
「セクハラで訴えるわよ」
「でも先生、恋人はいませんよね? 立候補して良いですよね?
 出来れば今すぐにでも僕の息子を現世に繋ぎとめる、フィアンセになっていただきたい」
 あるときはイケメンにも程がある鏡の前の俺を想像し、笑顔で宮穂を落としにかかる。

「――悪いけど、既婚者なの」
「な、に?」
「おぉっ! 早速彰二の奴がフラれた!」
 瞬間、教室中がざわめき立つ。
 俺の失敗を喧伝するために教室から出て行ったものまでいる。
 しかしほどなくソイツは何やら顔を赤くして戻り、静かに席に座る。
 ……なんだ?

「“彰二の奴が完全にフラれた件”“あぁ、フラれたな”“さすが彰二だ”」
 見てください、なんて無秩序なクラスであろうか?
 担任の顔が見てみたい。

376 ◆GlMsi/e8ss:2009/03/02(月) 23:59:15 ID:O6O9UFaU
「担任は私だけどね」
「いまのはご冗談と受け取ってよろしいのですよね?」
「冗談なんかじゃないわよ」
「新学期早々ナンパしたあげくフラれるとはな……大した奴だ」
 だの、ああだのこうだの、あることないことだの、無責任なことを言うモブたちだが俺は動
じない。こんなことで足が震えたりしない。
 なぜなら彼女の言うそれには決定的な穴があるからだ。

「よ、よく恋人募集中とか言ってたじゃないですかかか」
「彰二、足震えてるよ」
「男女男男女男女は黙ってろ」
「なっ」
 俺の策略に嵌まり、最終的にどちらかなのかで悩んでいる様子の栄。
「女を選ぶと後で得するかもしれんぞ」
「なっ――」
「で、どうなんですか先生」 
「恋人最近見つかったの」

 いや待て。そこらにいる男を貪り食いたいとも言ってた気がするぞ。ここ一年、この学校に
女体化者が生まれないのは彼女が原因という噂をまことしやかに聞いたものだ。

「おいおい見苦しいぞ彰二〜」
「うるせえ、外野は黙ってろ!」
「悪いけど、先生軽い男は嫌いなの」
「えー、朝ナンパされたいって言って――……って何奴!?」

 瞬間、ガタっとイスが倒れる音がする。
 俺は正面から黒い影に抱きしめられ、地面に押し倒された。
 ――クラスに割りといるノリの良い野郎、伊藤だった。

「もうやめろ! お前はフラれたんだよ! 現実を見ろ!」
 伊藤は、俺の頭を両手で引っつかむと顔を近づけてきた。
 いや、この場合引き寄せられたのか? いずれにせよヤメロ、カオチカイ、ハナレロ。

「彰二っ!」
 俺が半ば放心状態であることを悟ったのか、伊藤は再び俺を抱きしめる。

「うおおぉ……っ!?」
 しかし先程コイツは何と言った? 俺がフラれた……だと?

「莫迦な……。スポーツ万能、眉目秀麗たるこの俺様が……フラれた……?」
「フラれた。お前はフラれたんだ」
「いや……まさか、そんな……そうだ、夢に違いない……! 夢だこれは!
 でなければ容姿端麗なこの俺がフラれるはずがない……!」
「あんた男でしょう」
「なに……俺は男……? 女……?」
「わからない、もう何もわからない。お前はもしかしたら女になるかもしれない」

「コホン」
 俺的にもわりとどうでも良い問答を見た宮穂先生が、やや白け気味な所作で咳払いをした。

377 ◆GlMsi/e8ss:2009/03/03(火) 00:01:21 ID:/.cxZX76
「いい加減はじめて良い? 後が支えてるのよ」
「「はい、すみません」」
 悪ノリして教室内を賑わしていた男子達が元の席に戻ると小声で談笑する者が多くなる。
 やや冷え固まっていた空気が温まり、いつもの様相を呈し始める。

「静かにー」
「全くだ。静かにしろよお前ら」
「「「「「お前が言うな!」」」」」
 野次が何十音にもなって飛んできた。やれやれ、さすがモブ。息がぴったりだな!

「――実は、転校生が一人いてね」
「!」
 思わぬ、急展開ぶりに俺の思考が停止した。
 当然ざわついていた教室は更に喧騒を増し、誰もが予想外の事態に周囲の様子を窺った。

「転校生って……まじか」
「珍しいね。どんな子だろ」
 栄も驚いているようだ。
 何しろ、こんな半端な時期に2-Hに編入してくる奴がいるなど不意打ちもいいとこだった。
 なぜなら、ここは中高一貫の固定学級。ゆえにその顔ぶれもこの四年間一緒であり、クラス
仲が良くとも外の世界には疎いような特異性を併せ持つ、そんなクラスだ。
 そんな閉鎖された場所に転校生が来る――?

「転校生って、2-Hではないんですよね?」
「残念ながらここのクラスよ」
 更にざわつく。心臓の鼓動が激しくなり、別種の感情が入り混じったような感覚に襲われる。
 なんだ、この感じ。

「うわー、本当に転校生来るんだー」
 まるで夢物語を見ているようなものだろう。栄は感嘆の息を洩らす。
 でも俺は違う。好機や珍しさだけではこうはならない、複雑怪奇な感情を抱いていた。

「海外からの帰国子女さんでね。正直、めっちゃ可愛いわよ」
 男子諸君が妄想するであろうまるで理想上の条件でしかなかった台詞を聞き、教室内の空気
は最高潮に達し、調子づく者まで現れる始末だ。

「栄、俺は嬉しいんだよな」
 人の気持ちなど解るわけなどないのにその滑稽さすら忘れて、俺は後ろに振り返り栄に尋ねた。
 他人の目に映る俺を、なぜだか無性に知りたかった。

「さぁ……僕に聞かれても。というか彰二の顔怖いよ?」
 怖い……?
「そんな顔してる?」
「してるよ、してる……っ! 怖いからずっと前向いてて欲しい」
「ぬっ」

378 ◆GlMsi/e8ss:2009/03/03(火) 00:03:48 ID:/.cxZX76

 前を向き、改めて自分の心情を顧みる。
 転校生を前に、今まで通りの自分でいる気か? それとも素の自分をさらけ出すのか?
 そのことを巡り、頭が混乱を始めた。

 『もうずっとこのままだと思っていたのに』

 四年間自分を偽り続けてきたからこそ、今更元に戻せやしないと思っていた。
 でも、出来ることなら素の自分でありたいとも願っていた。
 そして今、俺を知らない人がこの壁の向こうにいる。

 ――だから焦ってるのか。
 閉鎖されたこの場所だからこそ、急激な変化が恐ろしいのだ。
 このクラスも俺も、代わり映えのない日常に転機を迎えようとしていて、転校生がどんな行
動を取るか、転校生をどう扱うかで今後の生活が変わるかもしれないから。
 たった一人の転校生が大きな波を生むほど、このクラスは人見知りになりすぎたから。

「入って良いわよ。あたしが空気暖めといてあげたから」
「はい」

 先生の言葉に呼応し、教室の外で小さな声が聴こえた。
 それは芯のある、自信で満ち溢れているような、そんな懐かしい雰囲気をともなった声――。
 扉が開く。転校生が姿を見せる。教室中がいつしか固唾を呑んでその最初の言葉を待つ。

「――はじめまして」

 各々が抱く、未知への期待。それは果たしてどのようなモノだったのか。
 期待のベクトルが違う俺にはわかるはずもない。だってそこにいたのは、

「この度、このクラスに転入して参りました美崎 星<みさき あかり>です」
「あ…かり……?」

379 ◆GlMsi/e8ss:2009/03/03(火) 00:08:25 ID:/.cxZX76
 一目見てわかった。俺は、どんな表情で、どんな声でその一声をかけたのだろう。
 今再び、アイツを目の前にして、どっと沸き起こるこの感情を抑え切れなくて、それでも
『美崎 星』と名乗る少女は、

「星と書いてあかりと読ませるというのは、やはり変わっていますよね。
 でも私は大好きなんです、この名前」

 可憐な少女のようでいて既視感ある懐かしい微笑みを浮かべた。

「先日海外から帰って来たばかりなので何分この地の事情に疎く、ときにご迷惑を皆さんにお
かけすることがあるかもしれません――」
「迷惑なんてないない、むしろもっとかけてくれーッ!」
 迷惑という言葉に男子達が反応する。そこから挨拶の内容は覚えていない。
 ――まず面影があった。アイツが成長すればそのまま彼女の姿になるような、そんな力強い
イメージさえ植えつけた。事実、目の前に立つ彼女を見て、容易にアイツと繋がった。
 でも、信じたくなかった。知りたくなかった。
 なぜこんなにも、理解出来ない感情が溢れているのか。
 挨拶を終えた少女は、俺の列の一番後ろの席に座る。すれ違いざまに視線を交わすことはな
かったが、しばらくすると美崎星は何か思うことがあったのか立ち上がって、

「あの、先生。私視力が悪いので一番前の席に移ってもよろしいでしょうか」
「!」
「あら、配慮が足りなかったわね。真ん中の席にくる?」
「いえ……この列の、一番前の席が良いです」
 あぁ。なんで、コイツは。

「美崎はこういってるけど、宮元……あんたは問題ない?」
「別に、ないですけど」
 席の移動が始まる。俺が前から二番目に、美崎星が一番前になった。
 俺のすぐ目の前には、彼女の背中が見える。依然として収拾が付かない教室では、主に俺に
向けての野次が飛び交うがその意味を気にするほどの余裕は無かった。
 
「美崎さんといきなりお近づきになれるなんてうらやましー」
「あぁ……お前はホモじゃなかったんだな」
「違うから。憧れとかあるけどそれだけだからっ……」
 栄との会話で少し気が和む。心臓は相変わらずフル稼働中で、冷や汗たらたらだけど。
 それからというもの、知恵熱でも出たのかってほど身体が異常に熱くなり、朦朧となった意
識が明晰さを取り戻す頃には、既にホームルームが終わっていて目の前には転校生よろしく、
周囲を取り囲まれている美崎星がいた。
 その様子を傍観している俺を見て、伊藤が物珍しそうに話しかけてくる。

380 ◆GlMsi/e8ss:2009/03/03(火) 00:10:58 ID:/.cxZX76
「お前は参加しないの?」
「参加しろったって……」
「へぇ、お前ともあろう者が珍しいこともあるもんだあね」
「俺だってナイーブになるときぐらいあるわ!」
「しっかし、可愛い子が転校してきたな。やばいよ俺、恋したかも」
「お前、彼女いなかった?」
「あいつとは、別れる」

 思わず、その彼女さんを見てしまう。
 ――せいぜい刺されないように祈ってるよ。
 そんな様相もあり話しかけることも出来ず、常に傍観者の立場を取る俺と栄。
 本来なら俺がいの一番にあの連中の一人にならなければならないのに、事態が事態なだけに
当然話しかけることも出来ない。
 ……どうやって話しかけろってんだよ、アイツに。

「うわ、こっち見た」
 栄が無駄に反応し、そして美崎星と目が合う。合った。今。
 俺の思惑を察したのか、彼女は近づいてくるや否や、唐突に俺の手を引いた。

「ちょっと、良い?」
「え――」「ええ……っ!?」
 あまりの成り行きぶりに素っ頓狂な声を上げてしまう。俺は俺で、栄は展開についていけず
あわあわしてる。どうにも焦っているようにも見えたが、把握はしかねた。
 だって、この状況だぜ?

「ちょっ……何を!?」
「私と、来てください」
 思う間もなく星に手を引かれる。なすすべなく人並みを掻き分けさせられて、教室を出るこ
ろには小走りになり、彼女は人気がなくなるまでだらけきった俺の身体を力強く牽引した。
 ――あぁ、本当にアイツなんだと確信に至る瞬間だった。

 その状況が、過去全てを想起させたのだ。

 よく、アイツに苛められたことを。
 よく、アイツに振り回されたことを。
 よく、アイツに手を引かれたことを。

 懐かしい後姿と手のひらの柔い感触に感情は高ぶる一方、どんな状況にあれど今だ変わらな
い立ち位置を知り、そして最後にあの手紙を思い出した。
 今それが出来るんじゃないのか? と思った。なのにまた、流されてしまうのか?

 それだけは、男として、見過ごせない……ッ!
 俺は持ち前の瞬発力で星を追い抜いて、彼女の手を引いてひた走り校舎の外に飛び出した。
 無論、上履きのままでだ。今星と二人きりになれるのなら、その他諸々の事情なんて関係なかった。

381 ◆GlMsi/e8ss:2009/03/03(火) 00:16:21 ID:/.cxZX76
「今度こそ、お前が話しかけてくれるものと踏んでたんだ」
 第一声がそれすか。つーか言葉遣い戻ってんぞ。

「……まぁ、お前らしいけどな」
「“お前”……?」
 星はピキンと目を鋭くさせる。

「うぐっ……星ちゃんらしい――……って! この歳になってちゃん付けはないだろ!」
「まぁ、それもそうだが」
 星の前でツッコミを入れるのがこれほど恥ずかしいとは……。
 ボケの当事者はあまり気にすることなく、乱れきった髪を梳いてみせる。
 ぐぅぅ、そんな女っぽい仕草が異様に癇に障る……!

「そこは、“見ほれる”の間違いではないでしょうか?」
「――――っ!?」
 こいつ、確信犯だ……! 絶対確信犯だ!
 ここに確信犯がいますよー! 警察さん現行犯逮捕してください!

「やれやれ……混乱すると、わけがわからなくなる癖は相変わらずだな」
「もう、ほっといてくれ……」
「嫌だな」
「はあ?」
「期待してたんだぞ。なのに、私から話しかけるというのはどういう了見だ?」
 どうしても話しかけられなかったんだよ……。

「……そういやもう『美崎』って言わないのか」
「あぁ、たまに言ってしまうこともあるが……これは私なりのけじめなんだ。“あっち”の方
の性格にしても、どちらが本当の自分なのかたまにわからなくなるときがあって困る」
「え……?」
 どこがで聞いたような話だった。

「しかしアレだな。
 あらかじめ聞かされていたことだが、皆が皆予想以上の反応をするものだから驚いたぞ」
「あのクラス、変化に飢えてんだ……」
「そんなに私は可愛いのか?」
 澄ました顔をして言うことじゃなかった。
 当然、恥ずかしさ等の関係で肯定出来るわけもない。

382 ◆GlMsi/e8ss:2009/03/03(火) 00:18:06 ID:/.cxZX76

「「はぁ、はぁ、はぁ……」」
 その間会話を挟むことなく人気のない場所を探し、校内にある高台へとやってきていた俺は
切らせた息が落ち着きを取り戻すまで待ち続けた。

「見てみろ……もう俺の方が、絶対早い…だろ…」
 星はそんなこと関係ないと言わんばかりの態度を示す。

「私は女だぞ」
「それは、見りゃわかる」
「一応改めて言っておくべきことだと思ってな」
「感染者自体は珍しくない世の中だしな……女体化したのって最近なのか?」
「違う。私は元々女だ」
「へ? あ? 女?」

 WHY? なぜ? 俺にはコイツが男だった頃の記憶があるんだが。
 この記憶が植えつけられたものだとおっしゃりたいのかかやつは?

「何を根拠に私を男だと決め付けてたんだ?」
「いやだって、お前男だったじゃん」
「馬鹿、お前私の裸を見たことなんてないだろ」
「だけど男……」

 事実、俺の中でコイツは男としてインプットされているわけだし。
 小学校でも男子だったし、一緒にチンコ晒して立ちションした思い出も――……アレ?
 してなくね? 何気に俺コイツの裸見たことなくね?

「いや、その……彰二は私の……を見たことなんてないだろう」
「え? なに?聴こえなかった?」
「だから私の……を見たことないだろ」
 ごにょごにょと何を言っているのか決して聴こえはしなかった。

「……本当は聴こえてるだろ」
「聴こえない! 全身全霊を賭して聴こえない……っ!」
「……………………」
「だからぁ、聴こえなかったってぇ。もう一回言って?」
「……うるさい」
 ブチという音が聞こえた気がする(実際は幻聴)

「あ?」
「うるさいうるさいー! 実際、美崎のチンコなんて見たことないだろお前ーっ!」
「あ……はい……」
 勢いに気圧されて、つい固まってしまう。
 驚いた。いや、本来驚くべきところを驚けない状況というのがこれほど驚くものだったとは。

383 ◆GlMsi/e8ss:2009/03/03(火) 00:23:37 ID:/.cxZX76


「とにかくっ、私は男じゃなかったんだ」
「そう、なのか」
「そうなんだっ。女だと知らずに男として過ごしてきた、ただそれだけの……よくある話だ。
 話すと長くなるから日を追って、暇なときにでも気が向いたら話してやらないこともないか
もしれないが……いや、ある」
「どんだけ後ろ向きだよ。言葉尻に不安なら一言で済むよね」
「まぁ、とにかく」「――お前が、自分を変えようと必死だったのはよくわかったよ」
 絶句した。
 あぁ、なんで。コイツは。
 ――俺の世界をこうも簡単に変えてしまうのだろう。

「随分、無理をしたようだな」
「そう……だな」

 あのクラスでの俺の役割は、調子に乗っては毎度痛い目に合うトラブルメーカーだった。
 例えそれが本当の自分ではないと理解していても、おちゃらけた自分を演じなければなけれ
ばならない。それがいつしか苦痛に変わったときでさえ、彼らは本当の俺を知らないから。
 だから、戻れなかった。素の自分を見せるのが怖かった。
 あの日から弱い自分を変えたくて、いつか本当に強くなれるように精一杯に自分を欺き演じ
続けてきた結果、俺は、弱くなったんだ。

「強くなったよ、彰二は」
「俺なんかのどこが強くなったってんだ……っ!」
「――私の手を引いたじゃないか」
「…………――――。」
「お前は、私を追い抜いてここまで来たじゃないか」

 今、正直、俺は星の顔が見れない。太陽が眩しいと言うのもあるのだろう、逆光に立つ星が
眩しくて、つい言ってしまいそうだったから。何より、知ってしまった。
 五年前のあの言葉が、お節介などでなく俺の願望であったことに。
 星はいつまで経っても星のまんまだ。
 素直で、強くて、優しくて。誰よりも一番に先手を切って。だから、
 そんな星の手をいつか引けたらって、思ってたんだ。

「ただいま……彰二」
「――うん」

http://www6.uploader.jp/user/1516vip/images/1516vip_uljp00213.jpg

384 ◆GlMsi/e8ss:2009/03/03(火) 00:27:21 ID:/.cxZX76
うう・・・投下ミスった・・・・

>>380-381の間にこの文章が入ります。

「「はぁ、はぁ、はぁ……」」
 その間会話を挟むことなく人気のない場所を探し、校内にある高台へとやってきていた俺は
切らせた息が落ち着きを取り戻すまで待ち続けた。

「見てみろ……もう俺の方が、絶対早い…だろ…」
 星はそんなこと関係ないと言わんばかりの態度を示す。

385 ◆GlMsi/e8ss:2009/03/03(火) 00:36:25 ID:/.cxZX76
終わり。

ゲーム用に書いてたんでちょい日常シーンが長いですけど、
完結してないのに放置したままにするのもアレなので区切りをつける意味で投下しました。
ちなみに続きます……。

386名無しさん:2009/03/03(火) 12:58:35 ID:7U49YPhQ
(・∀・)凄くイイッ!!

387青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/03(火) 20:20:57 ID:hPf630kU
【徒然なる女人日記-本スレに投下するほどでもない編-】

☆月℡日

 体育祭とか面倒臭い。
とか思ってたけど、よくよく考えてみたら一日中女子の体操服姿や、チアリーダー姿を拝める絶好の視姦デイじゃないか!
 外? ピーカン照りですよ。おんなじオチなんか使いませんよ。

 で、俺の参加種目は100メートル走。
 奇遇なことに委員長と同じレースとは……!
 これはね、もうね、真横で委員長の控えめなオパーイの揺れを見よっ!っていう神の啓示としか思えないだろ!
 運命のクラウチング。となりの委員長が一言。

「負けないからねっ!」

 ふっ、甘いな委員長よ、俺の勝利はカタいんだぜ? レースなんざハナからアウトオブ眼中さ!

 号砲。

 速えっ!!? 委員長速ぇっ!!!

 全力で走ってるはずなのに追い越せる気がしないってどういうこっちゃ!?
 くそっ、元男の意地と性欲で何とかデッドヒートに持ち込めてるもののオパーイなんぞ拝める気がしねぇっ!!

 ま、負けねーっ!!

 …………。

 ゴールテープの感触。
 僅差、ホントにギリギリだった。ほんの数センチ。他の女子なんか遥か後ろをまだ走ってるのに……。委員長、ホントに君は強敵だった……。
 こんな爽やかな気持ちは久方振りだ。俺は委員長を称えようと握手を求めた。

「強かったぜ、委員長……」

「そんなに私に見せつけたいの……っ!? 最っ低!!!」

 何故か委員長に泣かれた。走り去られた。何故だろう。訳も分からず俺も1位の旗を握りながら泣いた。



 結局、同じオチでした。

388名無しさん:2009/03/03(火) 21:01:23 ID:KN1WxRIs
>>385>>387
Gj

389名無しさん:2009/03/03(火) 23:47:48 ID:LKb1bDK.
寝る前にえーもん読ませてもろたわ(*´Д`*)
二人ともGJ!

390青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/04(水) 04:37:37 ID:UIiTYODE
〜青色通知3〜の続き(>>363から)

 ウチの学校の裏門ってのは、俺ら1年の校舎からかなり遠い場所にある。どれくらい遠いかっつーと……だ。


 ―――階段を駆け下り、
 1年の校舎である西棟から実習室と職員室のある中央棟へ抜けて、
 昇降口にたどり着く。

 まずここまでで半分だ。

 更に、靴を履き替え、
 運動部用の多目的球技コートを横切り、
 更に放課後は陸上部しか使わない200メートルトラックのグラウンドを突っ切り、
 その先にある古びた傾斜のキツい階段を37段ほど駆け下りる。

 ……要約、すっと、かなり、めんど、くせぇ、位置に、ある、わけだ……。
 はぁ、はぁっ、心臓、いてぇ……。

「―――おそいっ!!」
 初紀との待ち合わせ場所には、ビシッ! という効果音が付きそうな勢いで、俺に人差し指を突きつける女子が待っていた。
 ―――って、あれ?
「はぁっ、はぁっ……お前……初紀?」
 そこに居た女子は、……初紀だった。まぁ、消去法で考えたらコイツ以外考えられないのだが……。
「……へへっ、どーだ?」
 どこか楽しげに、クルッと一回転して見せる初紀。
 その格好は昨日のものと、かなり違っていて初紀を普通の女の子と見間違えた原因がそれだ。
 短く纏められたポニーテールに、薄手のパーカー、そして今まで気付かなかったキレイな脚が誇張されたスカートと黒いハイソックス。
 なんつーか、その、……好みのタイプだ。
 ……くそっ、走ってきたせいか顔が熱い。

 なんかこのまんまじゃ俺が照れてるみたいじゃねぇかっ!?

391青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/04(水) 04:56:58 ID:UIiTYODE
 ―――って、何動揺してんだ……?
フツーにしてりゃいいじゃねーか。
 いくら可愛いっつったって相手はあの初紀だぞ? なんで動揺しなきゃならねーんだよ……いい加減落ち着け心臓。

「はぁ。……んだよ、失恋でもしたのか―――うぉっと!?」
 目の前を、まるで疾風のごとく掠めるローファの靴底。
 その先に、自慢(かどうか知らんが)の美脚を高く上げる初紀の姿。

 ……縞……じゃなくてっ!!

 コイツ、今マジで俺の横っ面を蹴り倒すつもりだったぞっ!?
 女になったとはいえ空手有段者の蹴りは凶器だろ、キョーキ!!

「あ、あ、あ、あっぶねえじゃねーかっ!!?」
「―――減点」
 憮然とした初紀の声。
「……は?」
「減点だ減点! いいか、陸。女の子の心ってのはお前が想像してる以上に傷つきやすいんだぞっ?! デリカシーが無いっ!」
 ……つい数週間前まで思う存分に男としての人生を謳歌してた奴が、女心を語ってる事にツッコミを入れたい。
 それに、その減点法にもだ。
 が、アイツの蹴りを二度かわす自信は正直無いので黙っておこう。
 代わりに、当然の疑問符で返してみる。
「じゃあ、こういう場合は何て言えば良いんだよ?」
「そりゃ……その、うん……」
 ……何でそこで口ごもんだよ。
「〜〜〜っ! それくらい自分で考えろっ! 減点2っ!!」
 蹴りこそ飛んでこなかったものの、返ってきたのは、よくわからない感情の高ぶりを伴った初紀の八つ当たりだった。

392青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/04(水) 04:58:58 ID:lEp0Gc3g
多分次からは初紀視点になると思います。思うだけでなーんも構想なんぞ浮かんでません。行き当たりばったりでごめんなさい。

393名無しさん:2009/03/04(水) 20:23:16 ID:VPvBHjsY
wktk

394青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/05(木) 18:37:09 ID:BleRHL2Y
〜青色通知3.1(初紀の場合)〜

 初めに言い訳をさせてくれ。
 喧嘩に明け暮れて、異性との交遊を蔑ろにしてたコイツだから、ある程度は予想出来てたんだ。だからこその『予行』だし。
 ―――でもそれは、あくまで"ある程度"の話であって。

「はぁ……減点18点目」
「またか!? 何がダメなんだよっ!!?」
「女の子と食事するのにカウンター席しか無い牛丼屋を迷わず入ろうとするか普通っ!?
 ……はぁ」

 ……どうしよう。今日、陸と待ち合わせてから溜め息ばっかりだ、俺。
 女になっちまった俺より、言い方を選べば"硬派な"、身も蓋もなく言えば"異性交遊の経験値が少ない"不良崩れにデリカシーを求めるのは、そりゃ……酷ってもんだけどさ。
 けど、この喧嘩バカのセンスのなさとニブさと言ったら……。はぁ、……泣きたい。
 ―――好きな子とのデートの臨場感を出すために、わざわざ髪を切ったり、クラスの子達に頭下げて、女の子らしい流行りの服を借りたり、恥を忍んでスカートの丈を少しあげたり……。
 なのに、このバカ、開口一番が言うに事欠いて『失恋したか?』だぞ?
 もっと何か言うことあるだろ?! ……はぁ……。

 ……"予行デートしよう"って突拍子もないことを持ち掛けたのは、確かに俺だし、隣で"?"マークを無数に浮かべてるコイツの鈍感さは、今に始まったことじゃないけどさ……。
 でも、この現状になーんかモヤモヤしてる俺がいる。なんでかは、わかんないけどさ……。

「んじゃ、あそこじゃダメか?」
「えっ? あぁ……うん」
 俺が思い悩んでいる間に、陸は陸で無い知恵を絞って考えていたのだろう。
 コイツが指差した先には、チェーン経営の喫茶店の看板。……まぁ、及第点ってトコかな。
 普通の人の及第点だから、コイツにとっては、かなりの進歩と受け取るべきかも。だから、皮肉を込めて精一杯に笑って言ってやる。
「"ひーちゃん"にしては、頑張った方じゃん?」
「っ! ひーちゃん言うなっ!! 小学生かよ!?」
 お、赤くなった、赤くなった。
「〜〜〜っ! ほら行くぞっ!!」
 照れ隠しなのか、顔を背けたまま陸は俺の左手を掴んできた。
「あ………」
 ―――少し前まで軽く去なしてた喧嘩友達のゴツゴツした右手の感触に、何故か少し顔が熱くなってた。
 ……なんでかは、わかんないけどさ。

395青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/06(金) 04:59:58 ID:U7WrUW6c
「二名様ですね、こちらへどうぞ」
 とりあえず二人とも制服ってコトで有無を言わさず禁煙席に通された。
 別に俺も陸も煙草なんて吸わないから構わないんだけどさ……。 
 ……なんて言うか、店員さんの陸を見る目が気に入らなかった。
 如何にも"コイツは煙草を吸うだろう"っていう……眉をしかめた態度が。
 我慢できずに、俺は立ち去りかけたその店員さんの背中に言葉を投げかけようとした。
「ちょっと―――!」
「―――やめろバカ」
 店員さんに文句の一つでも言ってやりたかったのに、それを遮ったのは他の誰でもない、陸だった。
「なんでだよっ!?」
 "そういう目"で見られてるのは自分だってのに、どうしてそんな落ち着いていられるんだよ?!
「他人が俺をどう見ようが別にどうでもいいじゃねーか」
「よくないっ!」
 陸がそういうふざけた奴じゃないってことは、俺がよく知ってる!
 素直じゃないし、鈍感だし、口は悪いし、その口よりも手が先に出るけど……真正面から悩みとぶつかって、逃げずに考えてる。
 不器用だけど、根っこは真っ直ぐな奴だって俺は知ってる!
 だから―――
「―――しつけーんだよ……バカ」
「えっ……?」
 いきなりの罵倒に目を白黒させてたであろう俺を見ながら陸は言葉を続ける。
「……そりゃ、少しは俺もムカついたけどよ」
「じゃ、どうして―――?」
 普段なら、そんな状況に出くわせば文句だけじゃ済まさない陸が、俺よりも先に、簡単に引き下がるなんて。
 不思議でしょうがなかった。その理由が知りたくてしょうがなかった。
「………」
 でも、陸はなかなか口を開こうとしない。……なんだか俺一人でヒートアップしてたことを陸にバカにされてる気さえしてくる―――そんな失礼なことを俺が本気で考えかけた、その時だった。

「……なんつーか……その……。
 俺をわかってくれてる奴が居てくれんなら、それでいいかって……」
「え……?」
「―――だからっ!! 俺のために怒ろうとしてくれる奴が居てくれんなら、それでいいかって思ったんだよっ!
 悪りぃかよっ!?」
 そう言って、バツが悪そうにそっぽを向く陸。

「……うぅん。そんなわけあるか」

 ―――俺、多分ニヤけてたと思う。その陸の不器用だけど真っ直ぐな言葉がなんだか無性に嬉しくて。……その頬が赤く染まった横顔が、男だった俺から見ても見惚れそうなくらいに、カッコ良くて。

396青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/06(金) 05:51:18 ID:nVheVlkE
「〜〜何笑ってんだよっ!?」
 バカにされてるって思ったんだろうか、陸は拳を構えながら俺を精一杯睨みつけていた。……ったく、陸はそれさえなければなぁ。顔だって悪くないし、女の子だって寄ってくるのに。
「悪い悪い、だからその握り拳はヤメナサイ。物騒だから」
「……ったく」
 とりあえず俺が頭を下げて、この場を諌める。うん、これがいつもの感じだ。

 ………ん?

 でも、それはいつもの俺と陸の関係であって、女の子とデートする時にこれはマズいんじゃないか?

「……なぁ、陸。デートする時もこんな感じじゃ十中八九嫌われるぞ?
 もーちょっとこう、ソフトな感じに接することは出来ないのかよ?」
「んな事言ってもよ……」
 鼻頭を掻きながら、言葉を濁す陸。
なんだなんだ。これは"予行"な訳だから、本腰入れないと困るのは自分だぞ?
 そりゃ……元男とじゃ不満かもしれないけどさ。
「……やっぱ俺じゃ不満か?」
「そういう訳じゃっ……ねぇけどよ」
 意外だった。口の悪い陸のことだ。てっきり"当たり前だボケ"くらいの罵声が返ってくると思ったんだが。
「じゃあ、なんだよ?」
「……言葉」
 陸から返ってきたのは、日常の喧騒の中では消え入りそうなくらい小さな声。
「は? 単語だけじゃ意味が全く分からんぞ。どういうこっちゃ?」
「……お前の言葉遣いが男のまんまだから、どう接して良いかわかんねーんだよっ」
 ……悩んだ末の決死の告白。とでも表現すればいいのかコレ? それくらいに陸は大真面目なのだが、内容が伴っていなくて俺はキョトンとしてしまう。
「……細かいなーお前。予行なんだから俺だったとしても女の子として扱わなきゃ意味ないだろ―――」
「―――そうじゃねぇんだよっ、予行だけの話じゃなくてっ!」
 まだ、かなりシリアスな空気が陸の周りに漂っている。というか、俺もシリアスになるべきなのか?
 とりあえず、ここは陸の言葉を待った方がいいかもしれないな。

「……お前、女になってから何も気にしてねぇみたいに振る舞ってっけどさ。
 そんな筈ねぇだろーが……」
「っ」
 ……いきなり、だな。随分と。

397青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/06(金) 06:11:16 ID:9NK6xHno
とりあえずここまで。寝起きの頭で書いてるから構成おかしいかもです。もともとがおかしいかもです。

398青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/09(月) 01:15:33 ID:8yp5/b/Y
 普段のアイツから想像もつかない程に思い詰めた陸の表情。……大多数の他人から発せられる喋り声が沈黙を埋めていく。
 気付くと俺は口を噤んでた。
 ……もしかして、陸は何を考えてるかって―――全部知った上で俺に質問を投げかけてるのか?
 
「な、なんだよ。似合わない顔して、俺の何を知ってるって言うんだよ―――」
「―――知ってんだよ」
 
 せき止められた言葉に、跳ね上がる心音。
 
「……それくらい分かるんだよ。俺にだって」

 バカ言うなっ! いつも、いつまでも、どこまでも鈍感な陸に、俺の気持ちが分かってたまるかっ!

「お前、さ―――」

 ―――やめろっ!! 言うなっ!!!
 口は動くし、声も出る。なのに俺のカラダはそれを拒絶する。
 
 ………本当はわかってる。
 陸の言葉を遮らないのは、他の誰でもない、俺自身なんだって。
 だから、こうして怯えた振りで淡い機体を隠してるんだって。
 ……それを自覚して、理性がそれを止めようとした時には―――。

 ―――もう、陸が言葉を放った後だった。



「―――まだ、決めかねてるんだろ?」

「…………。へ?」

 重々しく放たれた言葉と、間抜けに上擦った裏声。

「俺だって、"青色通知"を受けた身だ。それくらい想像出来んだよ。
 ……けどお前は俺と違う。
 何の前触れもなく女になっちまった。
 だからって、"ハイそうですか"なんて自分の生き方を急に変えられる器用な奴なんかそうそう居ねぇ。
 だから、お前は……そんなに宙ぶらりんな状態なんだろ?」

 ……やっぱ、陸は陸だった。何もわかっちゃいない、いつもの鈍感な奴だった。
 ……はぁ。なんなんだろ。
 ホッとしたような……肩透かしを喰らったような……。
 でも、あながち間違ってはいないな。
 俺が"どうすればいいのか決めかねてる"っていうのは本当のことだし。
 
 ……ま、陸にしては良い推論だったよ、うん。
 
 ……俺は力無く首を縦に振ることにした。

399青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/09(月) 01:42:50 ID:srqS2knc

「……そうだよ。ごめんな? なんか陸のこと……戸惑わせちまったみたいで」
 半ば、芝居をしている気分にさせられた。
 演じる相手は一人だけど、多分、主演女優賞くらい貰ってもバチは当たらないと思う。……それくらいのリアリティがある名演技だ。

「……しょうがねぇよ」

 どこか、誇らしげに笑う陸。
 ……くそっ、蹴り倒したい衝動に駆られたけど、ガマン、ガマンだぞ、俺……!

 ―――ひとしきり笑ってから、陸は憔悴したような表情を浮かべた。

「―――だからさ、ぶっちゃけた話……俺、お前に恨まれてるんじゃねーかって思ってる」
「……はいっ?」
 
 再びの重々しく放たれた言葉と、間抜けに上擦った裏声。

 ……ちょっと待て、なんでそんな話になるんだ?
 何が"だから"なんだよ?!
 確かに俺達、男同士だった時は殴り合いの喧嘩ばっかしてたけど。俺は陸のことを恨んだ試しなんか一度も無いぞ……?

 ……いや、考えても仕方ないのかも。
 目の前でしょんぼりしてる―――鈍感で天然な不良崩れと、今やクラスメイトに可憐な美少女と持て囃される―――俺とは、決定的に思考回路が違っているみたいだし……。

「……ま、なんでそんなバカな考えに至ったのか聞こうか、陸くん?」
「んだよ?! バカって!!?」

 ―――自分の胸に聞いて欲しいな、おねーさんとしては。
 ……とは口が裂けても言えないわけで。
 
「まぁまぁ。とりあえず先に言っておくと、陸を恨むなんて思いつきもしなかったよ。
 ……で? どうして恨まれてるなんて被害妄想に発展したんだ?」

400青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/09(月) 02:28:14 ID:rJf39qo2

 恨んでないと俺が言ったものの、陸は言葉に出すことを躊躇してるようだった。
 ……これを口にすれば、もしかしたら寝た子を起こす結果になるかもしれないとか、多分、そんなとこを考えてるんだろうな。
 ……何だか笑ってしまう。

 バカだなぁ、相変わらずって。

 たまに喧嘩はするけどさ……たとえどんな理由であれ、俺がお前を嫌いになんかなってやるもんか。

 ……でも、アイツはまだ不毛な一人相撲を続けてる。その男のくせに煮え切らない態度にちょっとだけイラッてしたから―――

「言わないと逆に恨むぞ?」

 ―――って少し首を傾げながら女の子っぽく言ってやる。
 それで漸く覚悟を決めたらしい。おずおずと、陸は口を開いた。

「……さっきも言ったけどよ。お前は何の前触れもなく女になっちまったじゃねーか」
 首肯。
 どうやら俺のような例は稀だとか。
 こういう突発的な発症例のパーセンテージは、コンマを下回る程度らしい。
 でもまぁ、日本の人口に換算すれば宝くじでも4等くらいしか当たらない、それくらいの確率だしな。
 たまたまそれに俺が該当しちまったってだけで。

「でも、俺はこうして国から"青色通知"が来て……変な意地を張らなきゃ、なんの心配もなく―――男でいられる」
「………」
「……だから! 単なるワガママで"権利"を蹴ってる俺を……恨んでんじゃねーかって、そう、……思ったんだよ」

 段々と尻すぼみになってく陸の言葉。

「……そっか」
「……これでも恨んでねぇって言えるのかよ……っ?!」
「ばーかっ」

 俺は心の底から出た本音を親友にぶつけてやる。

「んなっ!? バカはねぇだろっ!! 人が本気で悩んでたのに―――」
「―――ばーかばーかっ」
「てめ……っ! 人をおちょくるのもいい加減に―――!!」
「―――おちょくってんのどっちだよ?」

 今度は、こっちが陸の言葉を遮ってやる番だ。どうやら、陸も俺の雰囲気の違いに気付いたらしく、口を噤む。

「あのな、陸。もしお前が、何の考えもなしに国から派遣された女の子を抱いたり、自棄になって女になったりしたら……俺はお前を軽蔑した。
 でも、違うだろ? お前は、お前の状況を鑑みて、真剣に悩んで、考え抜いた挙げ句に決めたんだろ?
 ……違うか?」

 ……陸は静かに首を横に振る。

401青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/09(月) 03:17:32 ID:8yp5/b/Y

「お前の決心を、俺は知ってる。だからこうして協力してるんだろ? じゃなかったら、俺は……………とっくに愛想を尽かしてるっての!」

 一瞬言葉に詰まった。……危ない危ない、変なこと口走りそうになった。
―――お前のことを……だぁぁあっ! 考えるのヤメだヤメっ!!

「……とにかくっ! 俺はお前をそんな理由で逆恨みしないし、愛想を尽かしたりもしないってことだよ。
 ……見損なうなよ、陸」

 唯一、俺が陸に対して腹が立ったのは、俺をそういう風に見てたこと。それさえわかって貰えれば、何も言うことはない。

「……あぁ。お前を疑ったりして……ホント悪かったっ」
「よし!」

 ……ん?

 短い文字数の言葉を言い切ってから、ふと、ある疑問が浮かんだ。

「……なぁ、そういえば陸ってさ、俺が女になってから、俺を名前呼ばなくなったよな?
 もしかして……気を遣ってくれてたのか?
 ……俺が、"答え"を出すまでって」


 陸の中で、俺は"自分がどうあるべきか決めかねてる"状態だと思われていた。

「あ……その、……悪りぃ」

 だから、不器用な陸は、俺を名が変わる前の"はつのり"とも、名が変わった後の"はつき"とも呼べなかった。

 だから、不器用な陸は、ずーっと俺を"お前"っていう二人称で呼び続けたのだろう。

 だから、不器用な陸は、どう接して良いかわからなくなった。

 ……でも、それは俺の狡っこい考えが招いた結果だ。
 ―――陸が、なんて呼んでくれるかで生き方を決めようって、狡いことを考えるから。
 決して、陸が謝るような事じゃない。

「……なぁ、"お前"は…?どっちでもいいって言ってたけどさ。
 俺……"お前"のこと、なんて呼べばいいんだ?」

 陸だって、考えて、悩んで決心したんだ。
 ……じゃあ俺だって。

 ……ううん、違う。

「"私"のことは"はつき"って呼んで欲しい。
"御堂 初紀(みどう はつき)"」

 ―――案の定、目を丸くした陸の姿に思わず吹き出してしまった。

〜青色通知3〜




402青色1号:2009/03/09(月) 03:19:45 ID:zkAFjeNg
書いてる最中に何度死にたくなったかわからない所で青色通知3はおしまいです。

次くらいから陸の好きな人が出てきます。……多分。

403名無しさん:2009/03/09(月) 03:26:38 ID:tVSnycD2


罪な男だねえ

404青色1号:2009/03/09(月) 03:35:33 ID:iVZVyytc
>>403
陸も初紀もオイラからしたら大罪人です。

405名無しさん:2009/03/09(月) 21:44:51 ID:i7FfcIbQ
続きwktk

406青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/09(月) 23:57:20 ID:NE1LEr7Q
〜青色通知4(初紀の場合)〜

 陸は、胸のつかえが取れたのか晴れやかな顔でショコラ・ラテとレアチーズケーキ(恐ろしく食べ合わせが悪い気がするのは気のせいか?)をものの数十秒で平らげ、
 "仕事に行く"と新札の二千円をテーブルに置き、晴れやか顔で出て行った。

 その去り際に―――

「じゃあな、"初紀"」

 ―――だってさ。
 勿論、男だった時の名前じゃなくて。
 ……どうやら、"私"の変化もキチンと受け入れてくれたみたいで嬉しくて。もう一度、喧騒の中で、小さく自分の名前を口にしてみる。

「みどう……はつき」

 今まで、こんなに自分の名前が愛おしく感じたことなんて一度もなかったけど……こうして、ゆっくりと口に出してみると照れくさい中に……確かに嬉しさが混じっていることを再認識した。


 ……あ、ちなみに陸が言ってる"仕事"っていうのはガソリンスタンドのアルバイトのこと。
 話だけでしか聞いたことないけど、"バイト"と言わないのは陸のポリシーらしい。
 責任感を軽くするみたいな言葉で逃げたくないってことか?
 まぁ何にせよ、悪ぶってはいるものの、陸は生真面目な良い奴だ。うん。
 そんな奴と親友で居られるなんて、私は幸せ者だ。

 ……それ以上は望まないことにしよう。

 アイツは"俺"から"私"になった"初紀"を受け入れてくれたんだから。
 今はただ、アイツが最も幸せな形で男で居られることを祈ろう。

 ……それ以上は、考えちゃダメなんだ。

407青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/10(火) 00:05:42 ID:2WZxJJ7I
 せっかく好きになれそうな私と私の名前を、嫌いになってしまいそうだから。

「……ぐすっ」

 ……花粉症か? 最近はやたら鼻の奥がツンとしたり、目が赤くなることが多くて困る。別に泣いてるわけでもないのに。

 ……泣いてないっての。


「……ふぅ」

 とりあえず、ラ・フランスのタルトとカプチーノを美味しく頂戴してから、千円札と小銭で会計を済ませ外に出る。
 ……しばらくアイツの置いていった2千円は財布の中に取っておこう。

「さて、と」

 外の空気を吸いながら大きく伸びを一つ。
 帰るかな。
 ここら辺は歓楽街だから、ゲーセンやカラオケといった娯楽施設から大人なお店や宿泊施設まで何でもござれだけど、一人じゃ何もすることないし。
 …………あ。
 今更気付いたけど、陸とプリクラくらい撮れば良かったかな。
 予行とは言えさ、ほら、その……デートなんだしさ?
 ………ま、陸のあの鈍感っぷりじゃなぁ。
 私の査定が、減点20の大台に乗る危険もあったわけだし。……だからって何かしらのデメリットがあるわけじゃないけど。
 ……ま、いっか。帰ろ帰ろ。


  ―――さて。
 ここからウチに帰るとなると、大人な宿泊施設の通りを突っ切った方が近いんだけど……なんかヤなんだよなぁ。
 まぁ、女になったとは言え、これでも空手有段者だから身の危険は感じないけど、そうだとしても気が引ける。

 ……以前のこと思い出すから。


 うぅん、過去のことを引き摺っててどうするんだオ……じゃなかった私!
 さぁ、とっとと真っ直ぐ帰ろう!

408青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/10(火) 00:13:26 ID:.UPjcI06


「………………ぇ?」

 踵を返した、その刹那に私は思わず声を漏らしていた。

 ―――虫の報せってホントにあるもんなんだ……。

 ヤな予感っていうか……なんか、こう、……そういう口じゃ表現出来ないような、ぞわぞわした感覚。
 多分、数分前の私が感じていたであろうそれは、現実のものとなって目の前に具現化した。


 ―――もし髪を結うとしたら、今の私と同じ―――短めのポニーテールが凄く似合いそうな……可愛らしい女の子。

 そして、その後をおずおずとついていく、冴えない外見の若い男。
 制服は着てなかったけど、恐らく間違いない。


 ……坂城 るい。
 陸が、想いを寄せる同学年、他クラスの女の子だ。

 道の途中ですれ違う程度ならば、ぞわぞわなんてしなかった。
 けど、そうじゃない。
 
 坂城さんと若い男は……派手な外装の宿泊施設、要は……ラブホに姿を消した。

 ―――気がつくと、私は電柱の影に隠れて息を殺していた。

 ……見た、見ちゃった、見てしまった!

 思わず電柱に寄りかかりながら、その場にへたり込む。情けないことに足腰が立たなくってた。
 ……あの純粋そうな坂城さんが、誰とも分からない男と……ラブホに入っていく瞬間を、はっきりくっきりと!!
 ……髪は下ろしてたけど、間違いない。あんなに可愛い娘はそんじょそこらでお目に掛かれるようなものじゃないし……右目の目尻に、坂城の特徴である涙黒子があったのも見えてしまったっ!

 ―――ど、どどど、とうしよう……。

409青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/10(火) 00:49:50 ID:8otnmR6w

「はぁ……はっ、っはぁ……っ!」

 心臓が、バクバクと私の中で騒音を掻き鳴らす。
 陸の前で高鳴った時と、同じ場所が鳴らしているとは思えない―――無粋で乱暴な音。
 そのダイレクトな振動が、嫌で、気持ち悪くて、必死で呼吸を整える……。

「ふー……っ、っふぅ……」
 漸く、心音が大人しくなったと思ったら、今度はじんわりと汗がまとわりついてた。
 ったくもぉ……帰ったら風呂に直行だな、これは。
 ……って、そんなことより!

 ―――あれは、確かに坂城さんだった。
 髪型は確かに違ってたけど、双子の姉妹が居るとかなんて聞いたことないし……。だとしたら、あの子は……やっぱり―――?

 私の中で上手く思考がまとまらない。
 もし、本当に坂城さんなら、どうしてあんな所に入っていったのだろう……?

 恋人だから? うぅん、多分それは違うと思う。
 なんて言うか、あの二人にそういう感情が見えてこなかった。

 じゃあ、何のために……?

 勿論、高校生ともなれば、あーいう所で……その、……どんなコトするかなんて、みんな暗黙の了解で知っている。
 まさか、あんな所で優雅にティータイムってことはまずないだろうし……。


 もしかしたら、他人の空似ってのかもしれない。でも、もし、万が一……本当に坂城さんだったとしたら……?

 ……ふと、陸の顔がチラつく。

 ―――よし、帰りは遅くなるけど、少し張り込もう……っ!!


 そうと決まったらコンビニに直行だ!
 え……何でかって?

 アンパンと牛乳は、張り込みの基本じゃなかったっけ?
 ……あれ、違うの?

410青色1号:2009/03/10(火) 00:52:32 ID:2WZxJJ7I
今んとこ書いたのここまでです。
毎回、この投下後の"やっちまった感"との戦いが一番ツラいです。

411名無しさん:2009/03/10(火) 01:43:32 ID:Zg2KuAaU
最後和んだw

412青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/15(日) 16:15:51 ID:cVraPI4Y
〜青色通知4.1(陸の場合)〜
 
「―――じゃ、お疲れッス」
「おう、お疲れぃ。気ぃつけて帰れよ〜?」
 ガソリンの匂いが染み付いた店員の制服をハンガーに掛けて、先輩形に挨拶して仕事場を後にする。

 すっかり暗くなった国道沿いの歩道を歩きながら、ふと思う。
 そうだ、そういや初紀との――……"予行"で忘れてたけど、今日って発売日じゃん、まじめの一歩の、単行本の。
 
 カモン、俺の財務省。

 ………………はぁ。

 ……ここ最近の外交経費が嵩んだせいか財政難だってよ。
 ゆうちょの口座から幾らか降ろそうかとも思ったが、そーいうことしてたら際限がなくなりそうだしなぁ。
 ……立ち読みだな、こりゃ。

 適当に入ったコンビニの文庫本コーナーを物色する。
 ……ない。
 くそっ、売り切れかよっ!?
 ……ん?

『一通の青い封書が語る、女体化症候群を取り巻く実態が今明らかになる!』

 代わりに、そのコーナーに大量に積まれた文庫本の帯の文字が目に入った。その下に小さなフォントで―――

『この国が生み出した歪み。次の被害者は、あなたかもしれない。』

 ―――とか何とか書かれていた。
 なんだ、この煽りの文章は。仕事先に置いてある東スポとか週刊誌かよ?
 ……普段なら気にも留めないが、今の現状が現状のせいか……その本に手が伸びる。
 えーとタイトルは……
 『――の――』
 読めない。唯一読めたのは平仮名だけ。
 ……悪かったな、ゆとりで。
 誰ともつかず毒づきながら本を開く。目次を指でなぞりながら各章のタイトルを追っていく。

・第一章 【女体化症候群について】P4
・第二章 【性別選択権】P11
・第三章 【青色通知】P25
・第四章 【性別選択権に於けるあれこれ】P36
・第五章 【通知受取人と選択権給付】P51

 ―――通知受取人? 選択権給付?
 どっちも初めて見る言葉だな。
 最近、女体化症候群についてあれこれ調べていたつもりだったけど、こんな言葉は微塵も聞いたことがない。
 P51、P51……と、あったあった。

413青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/15(日) 16:18:29 ID:U71RbV5.


『前章で紹介した通り、女体化のボーダーラインである"15〜6歳の性交渉未経験の男子"には、希望すれば性交渉を行う"相手"を国から用意してもらえる。
 これがいわゆる、"通知受取人"というものである。』

 ―――"通知受取人"っていう凄ぇお役所仕事的な名前が付いてんのに、やってることは……ヤることかよ。
 ……そう思いながらページを捲る。

『この"通知受取人"という名称の由来は、その性別選択権のシステムそのものにある。
 性別選択権該当者が、選択権を行使する際―――つまり"性交渉後"、証拠として性別選択権該当者の通知の一部を受け取るというもの。
 その通知の一部を役所に持っていくと、通知受取人に"選択権給付"として一定の金額が手渡しされる算段だ。』
 
 
 要は風俗と同じじゃねぇか……ま、タダで見ず知らずの野郎とヤるなんて誰だって嫌だろうからな。
 ……俺なら金積まれても願い下げだが。

 更にページを捲る。

『この一連のシステムはここ数年で確実な成果を挙げており、世論も黙認し始めたのだが、未だに幾つかの問題がある。
 
 1点目、通知受取人は"18歳以上、健康状態に問題がない女性"に限られるが、年齢に関しての事実確認はほぼ行われていないこと。
 これは"性交渉"というデリケートな問題が絡む故の、社会的信用を考慮した結果である(但し、匿名での定期的な健康・性病診断は義務付けられているので、感染についての問題は無いとされている)。
 
 2点目、"通知受取人"を騙った性別選択権行使者に対する詐欺、若しくは仲介業者を騙った女性への詐欺が横行していること。
 まだまだ世の中に定着しきっていないこのシステムの穴を突いた卑劣な詐欺の被害が後を絶たないのが現状だ――――』

 ………何か気分が悪くなってきた。
 本を閉じてコンビニを後にする。
 
 ―――ま、俺には関係ないことだしな………男で居られよう居られまいと。




 ―――陸の誕生日まで、あと5日。

〜青色通知4〜



414青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/28(土) 07:03:24 ID:LkzkZp2E
〜青色通知5(陸の場合)〜

 翌日。
 初紀は、学校を欠席していた。や、欠席っていうのは正確な言い方じゃねぇけどよ。
 アイツのクラスの奴を問い詰めたら、学校に来てない、連絡も寄越さないっつー話だし……釈然としなかった。
 元々、(主に俺との)喧嘩に明け暮れていたから……先公から見れば、素行が良い生徒とは言えなかっただろうけど。
 でも、理由なくズル休みするようなヤツじゃないって事は先公達よりはわかっているつもりだ。
 だから、釈然としない。
 ―――くそっ、会ったら、昨日読んだ暴露本のこととか話したり、作戦の次の段取りを決めようとか思ってたのに。
 
 ……ふと、ここで考えが止まる。

「何で俺、……初紀のことばっか考えてんだ」

 理由が口から漏れ出してた。昼休みの屋上で。
 鍵は掛けてるので聞き耳を立てるヤツなんざ誰も居ない。居たらぶっ飛ばすだけだ。
 なのに周囲を気にするってのは、俺は要するにかなりのビビりだったっつーことか。ははははは………
 ………はぁ。
 ………情けね。

415青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/28(土) 07:05:11 ID:0RrCqv7E
 俺は、坂城が好きだった。いや、今でもその気持ちに嘘はねぇ筈だ。
 でも、いつもならこの屋上から遠まきに眺めていた坂城の姿を……今は探す努力すらしてない。
 女々しく真横に視線を落とし、溜め息ばかりつく。

 ……この堕落した俺は一体誰なんだ?!

 …………。
 ………。
 ……。
 …いや。俺、か。

「んだよ、らしくねーなぁ陸!」
 
 不意に、辿々しくて甲高い声がした。
その声の主の名前を呼ぼうとして振り向いて―――
「初―――」
 ―――"き"の口形で、俺の声は止まった。
 初紀によく似た髪型。けど、初紀じゃない。

「あれ、似てなかった?」

 一瞬本当に間違えそうなほどに背格好は似ていた。
 口調が、そんなに辿々しくなければ。
 それがなけりゃ、遠目から別人だって気付かなかっただろうな……。

 短く纏め上げられたポニーテールと、少しだけ裾上げされたスカートが、常に雲の流れに沿って吹く風に靡いていて、いつスカートが捲れてもおかしくない。
 それが目的で凝視していると思われたくなくて思わず背を向ける。
 
 ……"そいつ"の名前を呼びながら。

「―――坂城……だったっけか?」

 我ながらすげぇ白々しい。
 多分、赤の他人の中では最も知っている自信があるってのに。
 ……何かストーカーみたいで凹む。

「ありゃ。私のこと知ってた?」

 知ってるも何もねぇだろ。とは口が裂けても言えるわけもなく。

「人相覚えは得意なんだよ」

 とか何とか適当にあしらってコンビニで売ってる安い1Lパックの緑茶をストローで、ずずーっ、と啜る。

「へぇ〜……刑事さん向きだねっ、将来はエリート官僚?」
 
 ぶーーっ!!
 濁点付きの霧散音が屋上に響き渡る。

416青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/28(土) 07:06:35 ID:HED5R53U
「うわわっ、虹が出たっ!?」
「けほ、げほっ、たまたま茶ぁ吹き出しただけだっての!」
「もっかいもっかいっ! 虹出してにじっ!」
「できねえよ!! つーか人相覚えってバリバリ現場向けの仕事じゃねーかよ、あぁっ!!?」

 ……あ、やべぇ。
 つい初紀とのノリで喋ってた。普通の女の子じゃビビっちまうじゃねぇか俺のバカッ!
 悪い坂城、怖がらせるつもりは―――。

「とりあえず前田くん! わんもあ!」

 ―――全く怖がってなかった。
 つーか俺は大道芸人か悪役レスラーかっつの!?
 ………って、今何つって――?

「坂城、……俺の名前、知ってんのか?」
 淡い期待―――
「ううん。さっきまで、知らなかった。興味なかったし」
 ―――は、あっさり根こそぎ打ち砕かれた。
「……あ、そ…。」
 
 さっきまで虹だ何だってはしゃいでた癖に、キョトンとした顔で、グサリと来るコト言いますね……アンタ。

 ……そんな俺の心境を知ってか知らずか、坂城は思い出すように人差し指を唇にちょこんと当てながら、口を開く。

「えとね、御堂さんがね、"前田くんって不良さんとお話ししてきてもらえないかな"って」
「はつの―――初紀がか?!」

 あいつ、いつの間にか学校に来てやがったのか!?

「へぇ、下の名前は"はつき"ちゃんかぁ。可愛い名前だねっ」

 ……そんなこたぁ今はどうでもいい。

「アイツ、今何処に行るんだ?」
「……さぁ。なんか気分悪そうにしてたから早退したんじゃないのかなぁ?」
 再び人差し指で触れながらの返答。
 
 ―――初紀……無茶しやがって。
 ……そんでもって。
 ―――俺にも無茶させやがって。

417青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/28(土) 07:08:01 ID:qGFIdd56
 今、坂城から豆電球の点灯音が聞こえた。訳知りのニコニコ顔でこちらを見ている。

「ひょっとしてさ……前田くん」

 開口一番の坂城の浮かれた声……マズい、本人に感づかれたか?

「な、なんだよ」

 と、とにかく茶でもって啜って一端落ち着け俺。茶にはポリフェノールとかいうのがあるらしいからなっ。
 ずずーっ、と残り少ない緑茶を一気に啜る。

「"はつき"ちゃんと、デキてるでしょ?」

 ぶーーっ!!
 濁点付きの霧散音、再び。

「わわっ、また前田くんから虹がっ!」
「けほっ、げほっ! どこをどう見たらそんな結論が出るんだよ?!!」
「今度からレインボー前田くんって呼ぼうかなぁ」
「人の話を聞けぇいッ!!」
「聞いてるって、ちゃんとレインボー前田くんって呼ぶからさっ」
「論点そこじゃねーよっ!!」
「そうだねっ、ちょっと名前長いよね。じゃあ【虹 前田】くんって呼ぶからねっ」
「だから論点そこじゃねーっつのっ! つーかなんだよっ、その続けて言ったら、ちょっと小腹が減る時間帯みたいなネーミングは!!?」
「ん〜。わかりにくいし、おもしろくなぁい」
「レインボー前田のがよっぽど面白くねーよっ!!! つーか何なんだよ、その無ッ茶苦茶弱そうなレスラーのリングネームみたいなのはっ!!!?」
「あ、そっちのが面白いかもっ!」

 ……ダメだ、会話になる気がしねぇ。でも、何故か苛立ちはなかった。
 はぁ、これも惚れた弱みってことなんかなぁ……。

418青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/28(土) 07:09:48 ID:RZ6009tY
「ま、冗談はさておき。デキちゃってるわけですねっ、結論としては」

 ……そして、惚れた相手は俺と初紀の関係性について壮大な勘違いをしてるらしい。頭が痛くなってきた。

「……そもそも、何で初紀と俺がそんなカンケーだと思うんだよ?」
「え……だって前田くんと"はつき"ちゃんってさ、最近いっつも一緒に居るじゃない、ここで」

 それは、初紀が"元男"だと知っていて言っているのだろうか? いや、知らないからこそそんな勘違いが出来るのかもしれないな……。

「……違うの?」
「っ」

 ……不安げに坂城が俺の顔を覗き込んできた。反射的に顔を背けることしか出来ない自分のヘタレ具合に嫌気が差す。

「……違う、の……?」

 同じ質問が投げかけられる。
 ……そりゃあ、事実を話して憶測を否定することは簡単なことだ。でも、それは初紀のコトを洗いざらいブチまけることになる。
 ……でもそれって、許されることなのか?
 ダチの隠しておきたい事実を、てめー本位の勝手な理由で、本人の知らないところで暴露して、それがマジで許されることなのか?
 いや、んなコト……たとえ初紀が許しても、俺が俺を許せねぇ。

「初紀とは、その……男と女の関係じゃねぇよ。腐れ縁みてーなもんだ」
「ふぅん、じゃあ片想いだねっ」
「………はぁ? 俺がか?」
「ん〜6割方、"はつき"ちゃんかな」

 残りの4割は俺だって言いたいのか。ほぼ両想いじゃねぇかそれ。つーか俺にはそんな気はねぇぞ? ……多分。

「どーしても俺と初紀をカップルに仕立て上げてぇのか?」
「客観的事実を率直に述べてるだけのつもりだけどなぁ」
「ありえないね、冗談も大概にしやがれってんだ」

 ……やれやれ、どんな色眼鏡でモノを見ればそんな客観的事実に行き着けるんだが。

419青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/28(土) 07:11:41 ID:xWmabcpU


「―――そんなんじゃ、逃がした魚の大きさを後悔する羽目になるよ、きっと」


 これまでの脳天気な坂城の声のトーンが急に下がって、俺は目を丸くしながら彼女を見た。
 その顔は、まるで、自分の過去の汚点を振り返りでもするような、苦々しいもので―――それまで俺が遠目から見ていた時には、決して見つけることが出来なかった顔だった。
 ……触れてしまうだけで、粉々になっちまいそうな、そんな坂城の沈んだ顔が凄い印象的で。

「坂城……?」
「―――っ、あ、ごめんごめん! なんかボーッとしちゃってたっ、……で、なんだっけ? あはっ、あははは……」

 また、坂城の表情はいつもの明るいものに戻ってた。
 いや、戻ってたってのとは違う。作り直したっつった方が的確かもしれない。
 まるで、その明るい表情が自分を守る盾だと言わんばかりに。

「坂城……」
「な、なぁに、前田くんっ、そんなカオして……」
「―――何か悩んでんなら、いつでも相談に乗るからな」
「ふぇ……っ?」
 多分、坂城は予想もしてなかったのだろう。鳩が豆鉄砲を喰らったように目を白黒とさせている。
「なんつーか、俺……口下手だから愚痴を聞くくらいしか出来ねぇけどさ。
 でも、一人で悩むよりは、ちったぁマシじゃねぇかって……勝手にそう思っただけだ」
 らしくねぇコト言ってるのは俺でもわかる。けど、悩んでんなら力になってやりたかった。それが惚れた相手だって言うんなら尚更だ。
 ……自己満足にしか過ぎないのかもしんねぇけどな。
 でも、坂城は―――
「……ありがと」
 ―――そんな俺をバカにすることなく、優しく笑いかけてくれた。
 ……それだけで、歯の浮くようなセリフを口にした甲斐があったってもんだ。
「……おう」
「じゃ、これからは友達だねっ、私達」
「お、おう」
 友達か……。何か進展してるような、してねぇような……。
「――――――も、わからなくもないかな」
 不意に吹く突風が坂城の言葉を遮って、後半部分しか聞き取れなかった。
「……なんか言ったか?」
「なんでもなぁい」

420青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/28(土) 07:17:17 ID:RZ6009tY
 坂城は、完全にもとの明るい表情を浮かべていた。
 何を言ってたかは気になったが、それ以上に坂城が元気を取り戻してくれたことに安堵する。
「そっか」
「―――前田くん」
「んぁ?」
「前田くんの下の名前ってなに?」
「ん、あぁ。"陸"って書いて"ひとし"だ」
「そっか、じゃあ"まっちゃん"て呼ぶことにしよっかな」
「それ下の名前聞いた意味ねぇだろっ?!」
「いや、フルネームが何となくお笑い芸人っぽいから、ね?」
「頼むから同意を求めるな……」
「わがままだなぁ、じゃあなんて呼べばいい? 友達なのに"前田くん"なんて他人行儀みたいでヤだよ?」
「……んじゃ、お笑い芸人やレスラーを連想させなきゃ何でもいいよ」
「ん〜……じゃ"ひーちゃん"」
「……なんで"ちゃん"なんだ?」
 ―――そして何で初紀と同じセンスなんだ?
「可愛いでしょ、小鳥っぽくて」
「それ、確実に半濁点が抜けてるよな……はぁ、まぁいいか。好きに呼んでくれ」
「うんっ。私のコトは"るい"でいいから。坂城って名字は……なんかゲームに出てくる悪の秘密結社の親玉みたいだし」
「確実にジムリーダーも兼任してそうだもんな」
「あはは、じめんタイプだねっ。じゃあ、今日はもう帰るね。色々話せて楽しかった。
 また明日ね、"ひーちゃん"!」
「……あぁ、じゃな。"るい"」

 坂城……"るい"は、明るく何度か手を振って屋上を後にした。
 なんとなく、今日1日で進展したような気がしないでもない。そういう意味では、今日は顔を見せなかった初紀に……感謝するべきなのかもしれねぇな。

 ただ、初紀の奴、体調が悪いとかなら多分ケータイにメールくらいはする筈なんだけどなぁ……。

 ―――結局、その日はメールにも電話にも初紀は反応を見せなかった。当然、初紀自身とも会えずじまいだった。
 何故か、妙な不安感だけが胸に残ってた。

421青色1号:2009/03/28(土) 07:18:19 ID:qGFIdd56
とりあえずここまで。間隔空いて申し訳ないです。

422名無しさん:2009/03/28(土) 11:41:10 ID:T.IK4Gf.


パー速のスレが病んでるからそっちに投下してあげたほうがいいかも

423青色1号:2009/03/28(土) 12:04:23 ID:5Dlbz9To
>>422
見てきた。確かに病んでた。
つーかあの状況を打破出来る力がオイラにあるんかどーか不安です

424青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/29(日) 01:34:10 ID:QWLl1vOU
〜青色通知5.1(初紀の場合)〜

 ―――夢、……そう、これは悪い夢だ。目が覚めたら、なんて気色の悪い夢を見たんだろうって、ストンと平らかな胸を見下ろして。
 ……なんつー夢を見たんだろう、って自己嫌悪と寒気を覚えて。
 喧嘩友達に対する邪な想いは消えていて。
 制服にゆるゆると袖を通しながら、"あぁ、またどうせアイツのことだから、まぁた殴り合いか"って思って。
 一方的にあしらうだけだから殴り合いと呼んでいいもんかどうかなぁ、とかなんとか一人で笑って。
 ……日常が始まる。何でもない、でも、どっかが幸せな日常が。

 ………そう信じながら、目を覚ますんだ。






 ………私が、張り込みを続けてからどれくらい経っただろう。
 時間を掛けて頬張ったあんパンも牛乳も全て平らげてしまって、電柱に寄りかかるだけの私は、どう見ても不審者だった。
 通り過ぎる―――もしくは宿泊施設に入っていくカップルはみんな不思議そうにこっちを見て、目が合うとみんな夜の帳に姿を消していく。
 そんなことを繰り返して数時間が経過した時だった。

「あれぇ、こんなとこで女の子一人ぃ?」
「ひょっとして欲求フマンで俺らに声掛けられんの待ってたとかぁ?」

 下卑た笑い声が複数。……どう見ても陸とは違う部類の不良グループ。
 っていうか、コイツらは……昔、成り行きで陸と一緒に潰したことのあるグループだ。
 二度とこの界隈に顔出すなって言ったのに、なんでこんなトコに居るんだ?

「……御堂さんとの約束、破るつもりなの?」

 あくまで御堂 初紀という男を知る一女子高生のフリをしてグループを問い詰める。
 一瞬、奴らは動揺したような素振りは見せたけど、また下卑た笑いをこちらに向けた。

425青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/29(日) 01:36:48 ID:Ej..Bvn.
「あン? 御堂? お前、アイツの知り合いかよ?」
「別にアイツにビビっていつまでもヒッキーしてる俺達じゃねぇし」
「つーか最近アイツ姿見せねぇらしいじゃん?」
「なんか女になっちまったとかって噂もあるしなぁ」
「あーあ、だっせぇ奴だよなぁ〜今時、女体化症候群の発症なんてよぉ〜」

 ―――っ!

「別に苦労しなくたって国が男を保証してくれンし、それなりにいい女ともヤれんのに、フェミニスト気取りで女になってりゃダセェだけだっての!」

 ……私のことなんかどうでも良かった。
 ただ、その"男"としての御堂初紀に向けられている言葉は、間接的に私の親友を酷く侮辱しているように聞こえた。
 
 ―――お前らに……何がわかる!? 一生懸命に悩んで、苦しんで、それでも自分を貫こうとしてる私の親友を……何の権利があってそこまで侮辱するんだよッ!!!

「あー、何? その面?」
「ひょっとして君、御堂に惚れてたとか? 残念だったなぁ。俺らがそこらへんで慰めてやるから元気出せって」
「元気なンのは基本俺らだけどなぁ?」

 下卑た嘲笑。今すぐにでもこの下衆共を殴りかかりたい衝動に駆られた。けど―――。

『女になったテメェなんぞ相手にならねぇんだよ』

 それを、陸の言葉が制した。あれは挑発でも何でもなく……事実だった。
 試してもみた。真っ向からの力勝負じゃ陸相手に敵わなかったことを思い出す。

426青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/29(日) 01:39:26 ID:2qC9GAoc
 悔しかった。
 女って、こんなに無力だったんだって。弱かったんだって。今更になって……それを実感する。

「んじゃ行こうか?」
「俺、口ね」
「あ、ずりぃぞ!!」
「俺ケツだ!」

 私を連れ込んで輪姦する手筈を笑いながら話すコイツらは、元男の私から見ても十二分に汚らわしかった。
 その、汚らわしい複数の野獣の手が私の身体に触れようとしている。……それだけで我慢出来なかった。

「〜〜〜触るなっ!!」

 身体に伸ばされた手を振り払い、その中の一人の顎に上段蹴りを浴びせる!

「……ってぇーっ!!」

 以前のコイツらなら、一発で失神するほどの威力だった筈なのに、今は顔を歪めるだけ。コイツらが鍛えたのか、或いは……私の蹴りの威力が落ちたのか。
 恐らくは後者だろう。コイツらは群れて強さをアピールするタイプだから、鍛錬なんて面倒なことはしないはずだ。
 ……ショックだった。

「ナメやがって!!」

 不意に、首筋に生暖かくて気持ち悪い手の感触。
 次いで、襲い来る息苦しさと……地の感触を失う足。
「あ………ぅっ……」

 苦し……い……。
 いくら手足をバタつかせても、何の抵抗にもなりはしなかった。
 …ぼやける視界。
 ……次第に遠のく意識。
 ………怖かった。助けて欲しかった。
 だから、何度も名前を叫んでみる。たとえ口に出せなくても……。

(……陸………陸……ッ!)

 視界が歪む、意識が………霞む。

427青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/29(日) 01:46:11 ID:bJP8VZoo

「はーい、お兄さん方、そこまで〜」

 ―――不意に耳に飛び込んできたのは……陸の声じゃなかった。というよりは……そもそも男の声じゃない。
 女の人だ。下手をしたら私と同い年くらいの子かもしれない。


「あぁ? アンタも仲間に入れて欲しいのかよ?」
「アンタも可愛いから喜んで混ぜてやんよ?」

 威圧感を漂わせる下卑た笑い。
 ―――……ダメだよ、私でも敵わないんだ、普通の女の子じゃ……危ないよ……!

「残念だね、私、"仕事"以外じゃ結構奥手なんだ。それにお兄さん達、タイプじゃないし。
 ていうか、鏡、ちゃんと見えてる?」
「んだとぉ!!?」
「ナメやがってぇっ!!」
「ぶっ殺してやるぁぁっ!!」
「その前にじっくり楽しませてくれよなぁ!? あぁっ!!?」

 女の子の挑発にグループは予想通り激昂した。このままじゃ、本当に危ない……っ!!

「どうでも良いけどさ。
 私、"通知受取人"なんだよね」

 ……ピタリと、男達の手足が固まり、そのおかげで私は漸く長い苦しみから脱出することが出来た。

「けほっ、けほっ!」

けれど、極度の酸欠のせいか、視界がボヤけたままだ。
 って言うか、女の子は今なんて言ったんだろう……?

「わっかるかなぁ? 私に手を出したら、そこで見張ってる警官さん達が黙ってないんだよ? 公務執行妨害もついちゃうよぉ?」
 ……やけに浮かれた女の子の声。まるで、この状況を無邪気に楽しむかのような。
「んなハッタリ……通用すっかよ!?」
「……試してみる?」

 何のことだかイマイチ分からないけど、耳から入ってくるグループの男達の声は明らかに動揺の色をはらんでいて。
 比べて、女の子の声はとても冷静で、むしろ余裕すら感じられた。

428青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/29(日) 01:50:37 ID:Ej..Bvn.
 ―――そして、複数の遠ざかっていく足音。
 ……どうやら、助かった……みたい。

「……ふぅっ、まったくもぉ。警察も融通効かないっていうか。目の前で女の子がピンチなら助けなさいってのっ」

 私ではない誰かに聞かせるような非難の声。それは、さっき言ってた"通知受取人"というものと関係してるのだろうか?
 直ぐにでも問い質したかった。でも、今は何だか悔しさと安堵の方が勝っていて……。

「……っく、ひっく……ぐすっ」

 私は情けないくらいにしゃくりを上げていた……。元男の威厳も何もあったもんじゃないな……ホントに。

「やわわっ!? 大丈夫だよぉ、おねーさんは二刀流でも逆刃刀でもないよぉ」

 私を助けてくれた女の子は何を勘違いしたのか、お門違いな言動で私を宥める。それが、何だか可笑しくて。

「ぐすっ……ひっ、……くすくす……ひっく」
「……なんか今明らかに泣くとは違う何かが混ざってたよね?」
「ごっ、ごめん……なさい、なんだかっ、可笑しくなっちゃって……ふふっ」
「……救急車呼ぼうかっ、頭が大変になってますって」
「す、すみませんすみませんっ! ………あっ」

 ホントに救急車を呼ばれかねないので、本気で謝ろうと顔を上げた時に、漸く視界が開けてきて。
 私のことを助けてくれた女の子の顔も視認出来るまでになった。
 ……そこで私は思わず声を上げた。

「坂城……さん」

 ……私が真似て結った短めのポニーテールではないけれど、その可愛らしい姿と、目元の黒子。
 その可愛らしい顔が一瞬で曇るのが、まだ霞がかった視界でも認識出来た。

429青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/29(日) 01:52:38 ID:0X771OxU
「―――その制服だもんね、やっぱ気付いちゃうよね、うんっ」

 坂城さんは、困ったような苦笑いを浮かべて。
 ……それすらも可愛らしく見えた。なのに、それを素直に羨めないのは何故だろう。
 
「ごめんなさい、助けてくれたのに」
「うぅん、私が勝手にしたことだし」

 "勝手にしたこと"。
 そう言って困ったように微笑む坂城さん。……この人は自分のしたことを"善意"と認めたくないのか……?
 笑っていたのに、まるで、自分が他人のためにすることは全部偽善だって言いたげな、そんなことすら感じさせる寂しい目をしてた。

「えと、さ。立てる、かな。……このままじゃ、えと……君が恥ずかしいかも」
「え?」
 顔を赤らめて気まずそうな坂城さんの言葉。その意味が分からず、私は首を傾げてしまう。
「その……見えてるし、さ。薄水色の……が」
 不意に下に落とされる坂城さんの視点。そこには、気付かずに三角座りになってた私のスカートの………――――っ!!?
「わわっ、ごめんなさいっ!!」
 慌てて立ち上がる。あぁ、なんつーはしたない……。
「あはは……か、可愛いの着けてるんだねぇ、う、うん、似合ってるよ」
 なんかよく分からないフォローをされた。
 女の子としての反応がよくわからないし、凄い恥ずかしいから……とりあえず俯いて黙るしかなかった。……とほほ。
 自分のセンスで買ったわけじゃないから尚更恥ずかしい……。

430青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/29(日) 01:56:42 ID:0X771OxU

「……あのさ。同い年だよね、きっと」
 不意に核心を突く坂城さんの言葉に、心臓が高鳴る。私のコト、気付かれてた……?
「え……?」
「校章の色、赤だし。1年生だよね」
「あっ、う、うん……」
 良かった。少なくとも陸のコトまでは気付かれてな―――。

「ん〜と、多分だけど、いっつも屋上で男の子と話してる子だよね」

 ―――くなかった。

「う、ん……」
「ふぅ〜〜ん?」

 浮ついた返答。あー、どうしよう、きっと坂城さん、なんか勘違いしてるっ!

「彼氏?」
「違いますっ!!!」
「ふぅ〜〜〜ん?」

 脊髄反射にも似た即答に、坂城さんは更に顔を綻ばせてる。
 ……前言撤回、絶対坂城さんなんか勘違いしてるっ!!

「だから、違うんですってばっ!!」
「私、何にも言ってないけどっ?」
「〜〜〜〜〜〜!」

 ……ダメだ、何を言っても墓穴を深めることになりそうな気がしてきた……。

「ウブだねぇ、君って」
「……御堂です、君って名前じゃないです」
「ん〜。御堂さんは私を知ってるみたいだけど……自己紹介はお茶でもしながら聞こうかなっ」

 そう言って坂城さんは歓楽街の外れにある喫茶店を指しながらニコリと笑いかけてくれた。その喫茶店には見覚えがあった。
 ……さっき陸が連れてってくれた所だった。

431青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/29(日) 02:05:42 ID:qG/fs6yA
「―――じゃ、御堂さんの片想い?」

 場所が変わっても結局坂城さんのペースは変わらない。
 簡単な自己紹介の後はやっぱり私が質問攻めに遭う羽目になってた。

 ―――聞かなきゃいけないことは山ほどあるのに。

「どっちも違いますっ! 少しはこっちの話も聞いて下さいっ!!」
「御堂さんがホントのコト、話してくれたらね?」
「そんな……私は、ホントのコト―――!」
「―――言ってないよね?」

 私は語気を強めた筈なのに、坂城さんは全く物怖じする気配すらなく言葉を遮る。
 ……まるで警察か何かの誘導尋問みたいな、強制力を感じさせる静かな微笑み。

「好きなんだよね。その男の子のコト」

 無為に従うことなんて今まで一度もなかった。これからもそのつもりでいた。でも、坂城さんの言葉は……そんな薄弱なものでは曲げられないくらい強い何かをもっていて逆らうことが出来ない。
 どうしてだろう。
 ……なんで私は首を縦に振ることしか出来ないんだろう。
 ずっとずっと他の誰にも悟られたくなかった感情を、どうして坂城さんは簡単に引きずり出せてしまうのだろう。
 ―――自覚はしていた。けれど、認めなくなかった想いを目の前に突きつけられて、景色が水滴に歪む。

 でも、今は前を向け。

 ……事実を告げるためだけに。

「……はい。でも、わた……俺は……アイツの傍らには居られません」
「………ぁ」

 敢えて、私は決別した自称で自らを示す。それが、全てだった。

「……アイツの想い人は―――坂城さん、あなたなんですから」

432青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/29(日) 02:17:00 ID:2qC9GAoc
「……御堂さん」

 坂城さんが同情めいた物悲しい声をあげた刹那、私の左目からは涙が一筋だけ流れた。
 頬を伝って、握りしめた手の甲に落ちたそれは、熱を失っていて……ただ、ただ冷たいモノだった。

 もう、大丈夫。私には訊かなきゃいけないことがある。

「……もう十分に答えましたよね。今度は私の番です」

 二の句を探していた坂城さんの目が、諦観の色に染まっていくのが分かる。
 ……でも、それは長くは続かなかった。

「―――多分、御堂さんは"通知受取人"のことを訊きたいんだよね」
 ―――違うっ、そんな小難しい話じゃないっ! 私が訊きたいのは―――そう口を開こうとした、その時だった。
「あははははっ、多分、御堂さんは勘違いしてるなぁ」
「どういうコト……ですか?」
「見てたよね。……多分、一部始終を」
「っ!?」
 ……気付かれてた!? 今目の前にいる坂城さんと、見知らぬ男性がホテルに入っていくところを、そして私が見張っていたことまで―――全部。
「―――だからだよね、あんな連中に絡まれたのって。
 ダメだよー? あんなとこで女の子一人で突っ立ってるなんて。タダでさえ御堂さんは可愛いんだから。
 ……たとえ、キミが御堂くん"だった"としても……そんなの素性知らない奴らからしたらカンケーないんだし」
「………すみません。注意が足りませんでした」
 …………それ以外に、返す言葉もなかった。実際に坂城さんが割って入らなかったら……考えただけで寒気と吐き気が同時に襲ってくる。

433青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/29(日) 02:20:54 ID:3iGibXjY
 それだけ私はキケンなことをしていたんだ……自分の浅はかさに嫌気が差す。

「ま、過ぎたことを必要以上にとやかく言うつもりはないよっ」

 そう前置きをして、彼女は視線をテーブルのコップに落とした。……言うのに決心が要ることなんだろう。私は彼女の言葉を待った。
 遂に、コトの真相が聞ける……!
 
「……多分ね、御堂さんの思ってる通りだと思うよっ」
「えっ」

 坂城さんは明るく努めるように、笑って言った。でも、その声は消え入りそうなほど、小さくて、低かった。
 それが何を意味するかくらい、わかるつもりだ。恋愛感情の有無は分からないけど、間違いなく、彼女はあの男性と………その、"した"んだ。

「あのヒトの素性は"ここ一ヶ月以内に誕生日が来る15〜6歳のヒト"って以外……何にも知らないっ、……知りたくもないしね」

 切り張りしたような坂城さんの可愛い笑顔が向けられる。
 自分が、どういう顔をしたらいいのか分からない、そんな悩むような、困ったような……哀しい顔。
 そして、その笑顔から発せられる言葉は、全てを物語っていた。
 キーワードは全部出揃っていたのだから、発想は―――容易だった。

「―――まさか!?」
 ……続きを口に出すのが怖かった。
 確かにそういうヒトが居るのは保健の授業知識程度として知っている……。
 でも、それはヒトゴトだ。
 どっかの知らない大人の女性が、どっかの知らない役人と、どっかの知らない政治家達とで、勝手に決めてるだけのヒトゴトでしかない!
 ……その筈だったのに。
 それが、足元から崩れていくような感覚が、たまらなく怖かった。

434青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/03/29(日) 02:26:37 ID:KZyUQt6g

「……そっ。私は、女体化症候群を食い止めるために国から雇われて、女の子に縁の無い男の子の為に派遣される―――子作りごっこの"相手役"の一人」

 事も無げに"事実"を話す同い年の女の子が、こんな近くに居るなんて……信じたくない。
「ウソ……ウソ、ですよね。こんな……」
「ん〜……せっかくだから、教えてあげよっか。"御堂くん"」
 坂城さんが、皮肉めいた笑みを浮かべる。
 彼女の"正体"を知ったのに、これ以上何が起こるっていうのだろう。
 ―――そう思った刹那、彼女は肩から襷掛けに下げていた小さなバッグから、封書を取り出していた。
「読んでごらん?」
 つい最近どこかで見たことがある薄青の封書。そこの中央に印字された、文字……そこに妙な違和感。

 ―――え? だって、この通知は……いや、そんな筈ない、え? だって、……なんで……?

 多分、それは"彼女"の名前。でも少し違う。
 例えるなら、……そう、私の名前。
 私は女になった時に名を変えた。同じ文字の"読み方"を変えて"はつのり"から"はつき"になった。
 それと、多分同じコトなんだろう。

『"坂城 塁"様』

 ……まさか。

「キミと同じだよ、"御堂くん"」

 さっきまでの甲高い声が嘘のような落ち着き払った、冷たい声。そして、余裕に満ちた表情。
 それは……まるで、イタズラがバレた子供のような照れた笑い。
 それは……まさしく"男の子"の顔。

「せっかくだからさ、ちょっと昔話に付き合ってよっ」

 それは……また女の子に戻っていた。

435青色1号:2009/03/29(日) 02:28:08 ID:bJP8VZoo
読み返しらなっげぇです。斜め読みしててくださいな

436名無しさん:2009/04/01(水) 23:11:28 ID:/mZf2WnY
イイヨイイヨー

437青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/04/02(木) 16:49:30 ID:wDaYCI2M
〜青色通知5.2(るいの場合)〜

 出会ったばかり他人に私は何を話そうとしてるんだろう。同じ境遇だから? この子を助けた時とおんなじ……気まぐれ? 同情を引きたい? ただ、目を丸くするこの子のリアクションが面白いから?
 まぁ、偶には思い出話に花を咲かせるのも悪くないかな。


 ―――"ボク"はね、両親から将来を切望された野球少年だった。父はプロ野球選手、母は元アナウンサーっていう、いかにもな家庭で育ってさ。
 ボクが物心つく頃には父さんはもう引退……というかクビだね。
 知ってる? 坂城 亮。持ち前の俊足と守備の巧さで大学からドラフト2位で入団した地味ぃな選手。
 あははははっ、そうだよね。注目されたのは入団から最初の2、3年だけ。その間にアナウンサーと運良く結婚したからボクが生まれた。御堂さんが知らないのも無理ないよ。
 順風満帆に見えたらしいよ? そこまでは。
 ―――うん? そう、そこまで。
 勝負の世界に生きていたら、淘汰されるヒトなんて山ほど居るからね。その中のヒトの一人だったんだよ、ボクの父さんは。
 情けない話だよねぇ、二軍の試合中、フライの捕球で選手同士がぶつかって左足を骨折。リハビリを含めて完治まで一年掛かったってさ。
 ―――故障した二軍の守備要員なんて、復帰してから球団に居場所なんかありはしなかったよ。……だからかな、ボクが物心ついた時に覚えてる父さんは荒れてた。
 ……でも。ううん、だからかな、両親はボクに夢を託した。
 託したなんていうと聞こえが良すぎるなぁ……うん、自分たちの夢をボクに押し付けたんだ。
 あははは、今からすると笑っちゃうけど、当時はいい子チャンだったボクは、野球クラブに入り、それに懸命に応えたんだ。

438青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/04/02(木) 16:51:53 ID:XU0wpHLs
 来る日も来る日もバッドを握って、ボールを投げて、今じゃ分かんないけど手も肉刺だらけで凄いゴツゴツしててさ。苦しかったけど、楽しかった。
 昨日出来なかったことが今日出来るようになって、周りは評価してくれて、結果に繋がって。
 なんていうか、こういうのが"幸せ"なんじゃないかって真面目にそんなクサイこと思ってたりしてた。まだ子供のくせにそんな達観までしてた。
 でもさ、そういうのって長く続かないよね、何でか知らないけどさ。

 そんなボクに青色通知が届いたのは12歳の頃だった。キッカケは些細なコトだったよ。
 昔から母さんにそっくりだと言われてた僕の顔は、とうとう女の子と見分けがつかなくなってさ。
 なんでだろう? って調べた結果に行き着いた先が、その異例の若さの青色通知だよ。
 女体化症候群の特異例で、超若年性のものだったんだって。
 しかもこの病状ではポピュラーな突発性のものじゃなくて二次性徴に比例して徐々に徐々に女の子になっていく。
 その発症確率は宝くじ一等が前後賞含め3年連続で当たる確率だってさ。前例は日本ではゼロ。天体的数値と言わざるを得ない確率。笑っちゃうよねぇ。

 "なんでボクなんだ"

 "なんでお前なんだ"

 ボクを含めた皆がやり場のない怒りをボクに向けた。それだけ期待しててくれたのだから、みんなに怒りは湧いてこなかった。
 解決法は只一つ。男性器が女性器に変異を終えるまでに、異性と交わること。期日は女になるまで。
 迷わず青色通知に従えば道は拓ける。答えは簡単なことだった。
 でもさ、それが思春期に入りたての子供にとってどれだけ苦痛だったか分かる?
 女になっても、男のままでも、奇異の目に晒されて、笑われて。何も悪くない筈のボクがっ!!

439青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/04/02(木) 16:54:35 ID:PwVBMzLs

 ……ボクは逃げるように一人練習を続けた。
 縋るものがそれしかなかったから。
 でも、因果なもので日に日に抜けていく力、落ちていく体力、膨らむ胸。それらを実感する羽目になったよ。
 その無力感に苛まれながら、がむしゃらにバットを振り、ボールを投げて、帰るのは両親が寝静まる頃。

 ……そんな生活を繰り返してたある日、ボクはいつものように練習を終えて帰路に着いた。
 その日は土砂降りの雨が降ってた。
 ホント馬鹿だよね、そんな中で何時間も雨に打たれながらバットを振ってたら、体調だって崩すよ。
 そう、案の定、ボクは家路の途中で気を失ったんだ。
 
 ……次に気付いた時、真白い天井が真っ先に目に入った。
 そして、その横の見舞い客用の席には、どこかで見た女の人が眠っていたよ。青いリボンで髪を結った人だった。

 ―――そして、そこでボクは気付いてしまった。

 着せられたピンクの病院着が全てを象徴してた。
 手も脚も。まるでスポーツなんてしたことのないような真白いものキレイなものに変わってた。
 体は丸みを帯びて、力はまるで入らない。
 最後の希望とばかりに内腿を締めても、あるべき感触は綺麗に無くなってて。
 ―――こんな日が来るのは前々から分かってた筈なのに……。

 ……あぁ、ボクはとうとう女の子になってしまったんだって。

 泣くつもりはなかったけど嗚咽だけは止められなかったよ。
 その僅かなしゃくりが、どこかで見た女性の目を覚まさせたみたいだった。
 その開口一番、彼女は困ったような笑顔を浮かべながら言ったよ。

「―――逃がした魚は……やっぱり大きかったかな?」

 ……って。

440青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/04/02(木) 16:56:00 ID:I4UyHQJY
 ―――人の気持ちも考えないで何を勝手なことを……!!
 そう言おうとした。でも言えなかったよ。
 ……急に泣き出すんだもん。思わずこっちの怒りが引っ込んじゃうくらいにさ。

 ―――"ごめんね、ごめんなさい"って何度も、………何度も。

 それで思い出したんだ。
 彼女は、ボクの通知受取人……になる予定のヒトだったんだよ。
 両親が一応面談だけは受けとけって。

 ……うん? あ、そっか。御堂さんは知らないよね。
 一応ね、通知受取人との間に間違いが起こるのを防ぐために面談が行われるんだよ。
 まぁ、性別選択権を行使するかどうは別としてね。
 ……で、その面談相手が、彼女だったってワケ。

 ―――話、続けるよ?
 
 ……と、その前に。
 すみませーん!
 カフェオレのホット下さいっ。……御堂さんも何か頼む? 奢るよ?
 ……そっか、わかった。じゃ、それだけでお願いしますっ。

 ……どこまで話したっけ?
 あぁ、そうそう、彼女の話だっけ……。

441青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/04/02(木) 16:59:57 ID:XU0wpHLs
――――――
―――――
――――


「……なんで、あなたが泣くんですか」

 怒りや悲しみを通り越して笑えてさえくる。
 彼女なりに同情してくれてるのかもしれないけど、ボクからしたら余計なお世話だ。他人に涙を流されるいわれなんて無いんだから。
 彼女も少しは空気が読めたのだろう。俯いたまま黙っている。

「……助けてくれたことに関しては礼を言いますけど……これ以上ボクに関わらないで下さ―――」

 言い終える前に、柔らかな女の子の感触がボクの口を噤ませた。……何度となく優しく撫でられる後頭部。
 ……長い間、忘れていたような暖かみ。

「……っ、な、なに……して……」

 ……ともすれば、身を委ねて泣きじゃくってしまいそうな暖かみ。それに甘んじてしまうのが、どうしようもなく怖かった。
 ……頭ではわかってたつもりだった。
 ボクは完全に女の子になってしまった。もう、父さんや母さんの背負うことも赦されないカラダになってしまった!
 ……その容赦のない現実を突きつけられても尚、ボクは諦めきれていなかったんだ。

 泣いてしまえば、ボクがそれを受けいれてしまうことと……おんなじだから。
 だから、泣けなかったのに。

「…………」

 彼女は黙ったまま、ずっと、ずぅっとボクの頭を撫で続けた。顔は見えなかったけど、肩が微かに震えてる。
 まるで、ボクの言葉を待つみたいに。
 
「っ、ズルいよ、……ハルさん―――ッ!」

 彼女の名前を口にした瞬間、抑えつけていた感情が堰を切ったように溢れ出した。
 涙と一緒に、理不尽な現実に対する恨み言も自分への後悔も止まらなくなって……それでも、彼女はボクを抱き締めてくれてた。
 一緒に、子供みたいに泣きじゃくりながら……。

442青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/04/02(木) 17:01:29 ID:yVMAugSo
 ……頭を撫でる手のひらが、抱き締めてくれる腕や胸の暖かさが、どうしようもなく心地よかった。
 ……ボクは、漸く受け入れることが出来た、救われた。
 彼女―――ハルさんのおかげで。

 だからボクは……一生を掛けてでも、彼女に恩返しをするんだ。
 それが―――次の目標になった。

 ―――思えば、それはボクが今まで見向きもしなかった、男の子としての最初で最後の恋だったのかもしれない。



 ―――それからは、目まぐるしく日々は過ぎていった。やるべきことは沢山あったし、いつまでも過去に囚われていたら、きっとハルさんも苦しむから。
 今は、前だけを向いていようとココロに決めて。
 
 名を変えた。

 "坂城 るい"と。

他の漢字をあてがうことも考えたけれど、それはボクを名付けてくれた両親への裏切りみたいで嫌だったから、平仮名にして。

 ハルさんとはその後も連絡を取り合ってた。彼女と会う度に彼女を知っていくことが純粋に嬉しかった。
 歳は実は5つしか違わないとか、甘いものが苦手だとか、笑うと口元を押さえる癖とか―――数えたらキリがないくらいに。

 彼女の部屋に行って女の子としての特訓もした。

 他人から見たら元男だと絶対気づかれないくらい徹底的に。
 でも、ハルさんが相手だと時々ボロが出る。
 異性としてなのか、同性としてなのか……それは分からないけど、大好きな人だから。安心できる人だから。

 いつか、ハルさんが通知受取人の仕事をしなくても良いように、自分が頑張るんだって、勝手なことを思い描いたりもしてた。
 その事をハルさんに話すと、彼女は困ったような笑みを浮かべながら―――『期待しないで待ってるね』―――とだけ言ってくれた。

443青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/04/02(木) 17:03:12 ID:I4UyHQJY






 ―――全てが順風満帆とまではいかないけれど、少しずつ日々が充実し始め、彼女と出会ってから季節が一周しようとしてたある日。
 いつものように、ボ……私は女の子としての特訓をしようとハルさんの部屋に向かう。
 確か今日は"仕事"がない筈だし、ケータイにメールはしておいたから、多分ハルさんはアパートに居る筈。
 二週間ぶりにハルさんに逢える。おろしたて制服姿を真っ先に見せたくて、逸る気持ちを抑えきれなくて、ついつい早足になる。

「……あれ?」

 アパートの入り口に辿り着いた私を待ち受けていたのは、思わず口から漏れだしてしまうような妙な違和感だった。
 彼女用である一番右上に設置された郵便受けには、雨風に曝されて色褪せた広告や郵便物が詰まっていた。
 マメな人だったから、そういうのを放っておくのを一番嫌う筈なのに。
 仕様が無いなぁ、と独り言を呟きながら溜まった郵便物を抜き取ってハルさんの部屋に急ぐ。

 呼び鈴を鳴らす。でも返事はなかった。
 二度、三度、四度。結果は同じ。
 ……どうしたんだろう。エイプリルフールにはまだ早いし、他人が傷付くような真似は絶対にしない人だ。
 一応、ドアノブに手を掛けてみる。

 ――――ガチャ

「開いてるし、不用心だなぁ……。
 …………えっ?」

 乾いた音を立てながら、私の手から溜まった郵便物が滑り落ちる。
 目の前の光景が理解できなかった。部屋番号を間違えたと思った。
 だって―――つい二週間前まで、そこにはこじんまりとした家具が所狭しと並んでいて。
 パステルカラーのクッションとか、洋楽のCDばっかりのラックとか、ちっちゃくて可愛らしい化粧台とか……見慣れたものはみんなみんな消えて無くなっていた。

444青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/04/02(木) 17:04:34 ID:1UA2wBn2
 まるで、初めからハルさんという人なんて居なかったかのような。がらんどうの部屋。

 ……なんだよ、これ。一体何の冗談だよ……!!

「ハルさんっ!?」

 まるで隠れん坊の鬼でもしてる気分だった。

「ハルさんっ!!?」

 何もない風呂場も、便座カバーすらなくなってたトイレも、空っぽの押し入れも、みんな調べた。

「ハルさぁんッ!!!?」

 喉を痛めるくらいに声を張り上げた。返事は……あるはず無かった。

 ……頭ではわかってたつもりだった。
 ここには、ハルさんはもう居ないんだって。泣き出したかった。でも泣けなかった。

 泣いてしまえば、私がそれを受けいれてしまうことと……おんなじだから。
 だから、泣けなかった。
 その哀しみを抱き止めて、分かち合ってくれる優しい人も、居ない。
 だから、泣けなかった。

「っく、……ぅく、ハル……さん……」

 ―――ガタッ

「っ、ハルさんっ!?」

 玄関から物音がして、脊髄反射で振り返る。でも、そこに居たのはハルさんじゃなくて……見覚えのある恰幅のよいお婆さん。
 ……思い出した、このアパートの管理人さんだ。

「あなた、"るい"ちゃん……だったかしら?」

 ゆっくりとした口調の質問に私は首肯で答える。そして続け様に……私は一番聞きたくて、一番聞きたくないことを訊いた。

「あのっ、ハルさんは……ここに住んでた、女の人は……っ!!?」

「――――――」

 ………………え?
 今なんて言ったんだろう。意味が……わからない。
 え?
 なんで、そんな物騒な嘘吐くの? エイプリルフールには、まだ、早い……よ?

 ……ワケが分からない。

445青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/04/02(木) 17:05:46 ID:JVlCL8dM

 ―――ピリリリリリッ!

 不意に私のケータイが鳴り響いた。ポケットから取り出したケータイのサブディスプレイに表示されたのは……"ハルさん"の文字。メールの返信だった。
 あはっ、あははは……そうだよね、今のは管理人さんのタチの悪い冗談なんだよねっ。
 ……ていうか、バカだなぁ私。さっさとケータイに掛ければ良かったのに。

「……あ、ちょっとすいません」

 タチの悪い冗談にこれ以上付き合うつもりは無かったから、早々にケータイを開き、ハルさんのメールを確認する。
 壁紙には、私と一緒にポーズを取るハルさんの笑顔。

"あなたは、娘の携帯に写っている子ですか?"

 …………何、これ?

"あなたには、知らせが滞っていたようなので、勝手ながら娘の携帯から連絡させて頂きました。"

"番号が入っていない為、メールでしかお伝え出来ないのが心苦しいです。"

 ……だからさ、何の冗談? ……ねぇ、何の冗談っ!?



"3月17日、娘は亡くなりました。"




 ………みんなさ。気が早いよ、みんなして、こんないたいけな女の子騙すなんてさ。

"小さな子供を庇っての交通事故でした。その際、たまたま娘が携帯電話を忘れていた為、こうしてあなたに連絡をとることが出来ました。
 もし、あなたが娘のアパートを訪れることがあれば、娘からの手紙をアパートの管理人さんに渡してありますので、受け取ってください。
 生前、娘はあなたのことをとても大切に想っていたようなので、是非とも、お願い致します。"

「………」
「もう、いいかしら?」

 ケータイを閉じた瞬間に、管理人さんが、青いリボンと、真白い封筒を差し出した。封筒の表書きには"to 坂城 るいさま"と可愛らしい字で書かれている。
 間違いなく、ハルさんの字だった。

446青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/04/02(木) 17:07:13 ID:PwVBMzLs

"るいちゃんへ。

 こうして手紙を書くなんて何年もしてなかったから、なんだか気恥ずかしい気持ちでいっぱいです。
 初めてキミと逢ったのはちょうど1年前でしたね。その時のキミは、今から考えられないくらいに落ち込んでいました。
 泣くことも、笑うこともなく、たった一人で理不尽な現実と戦っていたるいちゃんは、見ていてとても辛かったです。

 まるで、昔、私が付き合っていた男の子みたいでした。
 その男の子は、私を大切にするあまり、るいちゃんと同じく女の子になり……そして自ら命を断ちました。

 ずっと、ずっと言えなかったけれど、それが私が通知受取人というお仕事を選んだ理由でした。
 るいちゃんには理解できないかもしれないけど、私はこの仕事を誇りに思っています。確かに他の人から見たら汚らわしいだけかもしれません。
 でも、るいちゃんはそんな私を差別することなく一生懸命に見てくれました。
 時には喧嘩もしたけど、るいちゃんは私にとって大切な人です。
 こんな私だけど、これからも、ずっとずっと私の大切な人で居てくれたら嬉しいな。
 立ち止まることなく、一緒に歩いていけたら、って……ワガママなこと言っちゃってるなぁ、私。
 でも、もし……るいちゃんが良かったら、そうしてくれると、もれなく私が大喜びします。
 口に出すと何だか恥ずかしいから手紙にしてみたけど、書いてて顔が熱くなってきちゃったから、最後にこれだけは書かせてね。

 卒業、そして入学おめでとう。
 
             ハルより。


 P.S、るいちゃんの制服姿、早く見てみたいな。きっと似合うんだろうなぁ。"

447青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y:2009/04/02(木) 17:09:25 ID:v7UclnLQ


 ……ハルさん……。

 ……ハルさん……!

 ……ハルさん……!!


「―――――っ!!!」

 私は、いつの間にか一人で泣けるようになっていた。それは、彼女がくれた強さと、弱さだったのかもしれない。
 涙が涸れるまで泣けば楽になるはずなのに、一向に止むことのない涙。
 手紙をくしゃくしゃになるまで抱いたまま、私は独りぼっちで泣き続けた……。



 ――――ハルさん。
 手紙の答えだけどさ、私も一緒に歩くよ。
 ハルさんが歩いていた道を、私も。

 私はその日、髪を切った。ちょうどハルさんと同じくらいに。
 そして、生前、ハルさんがよくしていた髪型にした。彼女の形見である、青いリボンで整えた、短めのポニーテールに。

 ―――そして、更に季節が一巡りした彼女の命日に……私は、通知受取人の資格を取得した。
 記録には残らないにしろ、恐らくは日本で史上最年少の通知受取人が誕生した日だった。




〜青色通知5〜

 終

448青色1号:2009/04/02(木) 17:11:44 ID:wTDDwqXI
相変わらず内容と文の長さが合ってません。
 あーあ、エロシーン書きたい

449名無しさん:2009/04/02(木) 19:37:16 ID:hAJYcqwg
乙!!!!!!!!!!111!!!!




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