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( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )
1
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 19:46:34 ID:tFLjG.4M0
ラノベ祭り参加作品
2
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 19:47:25 ID:tFLjG.4M0
(*´_ゝ`)「旅に出るぞ!」
――と、兄者は言った。
.
3
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 19:48:37 ID:tFLjG.4M0
( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )
.
4
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 19:49:27 ID:tFLjG.4M0
そのいち。 旅に出るぞと、兄者は言った
.
5
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 19:50:19 ID:tFLjG.4M0
世界とは、一面に広がる砂の大地だ。
東の果ての大国や、西にあるという国々ではまた違うという話だが、少なくとも彼の知る世界はそうだった。
一部の季節だけを除いて暑く乾燥する大地は、植物が生えることを邪魔し、人々が足を踏み入れることも許さない。
そんな環境の中でも人々は、限られた水場に集落や街を作り、家畜や農作物を育てて暮らしてきた。
( <_ )「――ああ」
彼が今いるのも、そんな街の一つ。
数十年前に彼の母親らによって開拓された、水辺の街。
流れるのは石くらいと言われた不毛の土地は、今では“流石”という名で呼ばれる交易の要となっている。
(´<_` )「平和だな」
そんな流石の街。その中でも一際大きく豪勢な屋敷の一角に、彼は横になっていた。
薄い緑の体に、猫のような獣の耳。丸い尾は衣服の影に隠れてその姿を見ることはできない。
このあたり独特のゆったりとした衣服は、ひと目で金がかかっているとわかる高級なもの。
吹き寄せるかすかな風にあわせて、青年の耳がぴくりと動く。
6
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 19:52:02 ID:tFLjG.4M0
年の頃は十代後半から二十代前半。
細いながらも、がっしりとした体格をしたこの青年の名前は、弟者=流石。
街と同じ名をした彼は、この街を切り開き実質的に支配する女傑、母者=流石の二人目の息子であった。
(´<_`*)「何事も起こらないというのは、いいものだな」
息を吸うのも苦しいくらい乾いた空気も、見渡す限りの砂も、この場所からは感じられない。
そんな場所で横になっていると、ここがどこなのか忘れてしまうようだ。
夕暮れまでここでこのまま一眠りしようか……
l从・∀・ノ!リ人「ちっちゃい兄者、みっけなのじゃ!」
(´<_` ;)「――ぐぇ」
……そんな彼の願いは長続きしなかった。
どこからか現れた彼の小さな妹が、青色の髪をたなびかせながら彼の体へと飛び込んできたからだ。
いくら体を鍛えようとも、人間一人の体重が不意にかけられればたまったものではない。
平静を装おうとするも失敗し、彼がうめき声をあげるのは仕方のない話であった。
l从・∀・*ノ!リ人「兄者ーちっちゃい兄者ー、今日こそはあそぶのじゃー!」
(´<_` ;)「だがしかし、こっちは久々の休日……」
l从・∀・#ノ!リ人「まえもそういって、あそんでくれなかったのじゃー。
ちっちゃい兄者は妹者にイジワルなのじゃー」
7
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 19:54:04 ID:tFLjG.4M0
小さな妹――妹者の言葉に、弟者は小さくため息をついた。
確かにここ最近は、年に三度の大きな商隊が到着したところで、誰も彼もが忙しそうにしていた。
そんな中で一人取り残された、妹者が寂しい思いをするのは仕方のないことだった。
(´<_` )「……夕方までだぞ」
l从・∀・*ノ!リ人「ちっちゃい兄者だいすきー!!」
一人で取り残された時の寂しさを、弟者は誰よりも知っている。
だから、弟者は年の近い兄弟も、遊んでくれる子供もいないこの小さな妹に、思いの外甘かった。
(´<_` )「どうする?」
l从・∀・ノ!リ人「お庭がみたいのじゃー」
彼らの住む屋敷における庭といえば、屋敷の中心にある中庭一つしかない。
しかし、弟者とその双子の兄――兄者がイタズラに使って以来、彼らの父は子どもたちが庭に立ち入ることを禁止していた。
(´<_` ;)「いくら子どもだったとはいえ、貴重な泉に染料をばらまいたのはまずかったな」
l从・∀・ノ!リ人「?」
8
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 19:56:04 ID:tFLjG.4M0
少し迷った末に弟者は、露台に腰を据えることに決めた。
屋敷の二階にあたるこの場所からならば、中庭を見渡すこともできるし、何よりも風の通り道で涼しい。
l从・∀・*ノ!リ人「お花が咲いてるのじゃー」
(´<_` )「ふむ、あれはなんだろうな。父者ならば知っているのだろうが……」
露台に備え付けられていた椅子に腰を下ろす。
妹者はそんな弟者の様子を見ると、隣にある椅子……ではなく、彼の膝の上にちょこんと座りこんだ。
l从・∀・*ノ!リ人「えへへー」
(´<_` )「少しだけだぞ」
l从^∀^ノ!リ人「はーい」
いくら十に満たないとはいえ、街を背負って立つ家の娘にふさわしい行動ではない。
しかし、弟者は何事もなかったかのように妹者を見つめると、その頭をなではじめる。
堅苦しいのは母や姉に任せておけばいい。流石家の男は基本的にそんな脳天気なところがあった。
l从・∀・ノ!リ人「ちっちゃい兄者ー。もうすぐ何があるか知ってる?」
(´<_` )「ふむ。そうだな……。もうすぐといえば、豊穣祭だな」
9
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 19:58:04 ID:tFLjG.4M0
l从・へ・ノ!リ人「むー、そうじゃないのじゃー」
(´<_` )「そうか?」
l从・∀・ノ!リ人「ヒントは明日なのじゃー」
(´<_` )「明日。明日なら……」
妹者から出された問いに答えようとした瞬間、弟者よりもはるかに脳天気な声が辺りに響き渡った。
弟者によく似た――しかし、それよりもほんの少し高い声。
わざわざ確かめるまでもなく、弟者はその声の主を知っていた。
( ´_ゝ`)「弟者ぁあ、いるかぁぁぁぁあ!!!」
(´<_` )「ふむ、兄者か」
兄の姿を探して、弟者は周囲を見回す。
彼らが今いる露台にも、その奥に続く部屋の暗がりにも人の姿は見えない。
はて、どこにいるのだろう? と、思ったところで、手すりから身を乗り出し地上を覗きこんでいた妹者がうれしそうな声を上げた。
l从・∀・*ノ!リ人「おっきー兄者ぁー! こっちなのじゃー!」
(*´_ゝ`)ノシ「おお、愛しの妹者たんではないか。そっちに、弟者はいるか?」
l从・∀・*ノ!リ人「いるのじゃー」
10
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 19:58:18 ID:RtBXo7hM0
やたら壮大そうなのが来た
支援だ
11
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 19:59:32 ID:tFLjG.4M0
ちっちゃい兄者もはやくはやくーという妹の声に答え、地上を覗きこむ。
そこにあるのは、先程から二人が眺めていた中庭だ。
東方や西方から無節操に集めてきた植物が自由を謳歌し、花が咲き乱れ、中央には大きくはないものの泉がある。
(´<_` ;)「あ、兄者。そこは俺らや妹者は立入禁止……」
(*´_ゝ`)「よく聞こえんなー。どうしたー、弟者ぁー?」
彼らの父が丹精を込めて手入れしているこの庭は、実のところこの街で最高の贅を尽くした空間である。
水が金に勝ることもあるこの一帯で、食うのにもつかえない植物を育てようと思えば、そうなるのは当然のこと。
脳天気な二人の兄は、よりにもよって最高の金のかかった植物たちを踏み潰しそうな位置で堂々と立っていた。
(´<_`#)「そこからとっとと出ろ! この馬鹿兄者!!!」
(; ´_ゝ`)「え?」
(´<_`#)「母者に殺されたいのか!」
(; ´_ゝ`)「ちょ、おま」
( <_ ♯)「いいから、早く!」
弟者の言葉に兄者はきょときょとと辺りを見回す。
しばしの間、腑に落ちないという顔をしていたが、弟者の形相に不穏な事態を感じたのか徐々にその顔が曇り出す。
12
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 20:01:08 ID:tFLjG.4M0
(; ´_ゝ`)「ひょっとして、俺って今やばい?」
(´<_`#)「やばいも何も、お仕置きを覚悟するレベルな件」
うぇぇ、と情けない声を上げて後ずさった瞬間、兄者の足は不運にも白い可憐な花を踏みつけていた。
それに気づくと同時に、今度こそ兄者の顔は真っ青になった。
l从・∀・;ノ!リ人「あぁぁぁあああ」(´<_`; )
ヾ(; ゚_ゝ゚)ノシ「ひぃぃ、どうしよう。どうしよう、俺」
l从・∀・;ノ!リ人「とりあえず、こっちに来るのじゃー」
(; ゚_ゝ゚))「わ、わかった。そっちだなー」
兄者はそう言った後、不意に後ろを見て何事か呟いた後。
弟者と妹者の姿を見上げ、地面を蹴るとそのまま、
――飛んだ。
.
13
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 20:03:07 ID:tFLjG.4M0
当然の話だが、人は飛べない。
昔はそれが可能な魔法使いが多くいたというが、今では数えるほどしか存在しない。
道具があれば可能だとも言うが、それが可能な道具といえば魔法使い以上に貴重だった。
(; ´_ゝ`)「よし、と」
l从・∀・;ノ!リ人「お、おっきい兄者……」
建物の二階。
その場での跳躍では到底届かないはずの距離を“飛んだ”兄者は、手すりの上に足を置いた。
流れる冷や汗を拭いながら、何事もないかのように露台に降り立つと、兄者はようやくため息を付いた。
l从>∀<*ノ!リ人「すっごいのじゃー! 今のどうやってやったのじゃ?」
( *´_ゝ`)「いや、これか? 実はだなぁ」
( <_ )「……この」
( ´_ゝ`)「んー? 弟者、どうし」
バキッ(゚く_゚(#⊂(´<_`#)「くそ虫がぁぁぁぁ―――!!!」
14
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 20:05:03 ID:tFLjG.4M0
弟者の渾身の拳が、兄者の頬にめり込んだ。
手に伝わる感触に弟者は舌打ちをし――己の拳を避けた、真の相手を睨みつけた。
( ^ω^)
まるまると膨れた東方のまんじゅうのような頭。
兄者の頭と同じくらいか、それよりも少し小さいくらいの体躯。
白い体の背からは、硝子のような透明の羽がきらめいている。
( ^ω^)「……危ないところだったお」
人は空を飛べない。
それでも、人が空を飛ぼうとするならば、空を飛ぶことができる貴重な存在の手を借りるしかない。
そして、その貴重な存在は兄者の服の首元を掴んだまま、にへらと笑った。
(´<_`#)「……」
(#);_ゝ;)「弟者、お兄ちゃんは今とぉーっても痛いのだが」
⊂l从・∀・;ノ!リ人「い、いたいのいたいのとんでけーなのじゃ!」
15
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 20:06:12 ID:4uS7bkxE0
あの絵か支援
16
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 20:07:02 ID:tFLjG.4M0
(;^ω^)「アニジャぁー。毎度のことながら、この弟どうにかならないかお?
ブーンは今、100年くらいごぶさただった命の危険を感じたお」
(#)´_ゝ`)「ああ、それはだなー」
(´<_` )「いいか、兄者。
人間は普通、 空 を 飛 べ な い」
兄者が口を開き何か言うよりも早く、弟者は兄者に向けて口早に言い放った。
その言葉に兄者は眉をひそめると、自分の首元にいる生物ではなく弟に向けて不満気な声を上げる。
(;´_ゝ`)「うぇー、人を殴っといてつっこむのそっち? そっちなの?
何かお兄ちゃん、イロイロとおどろきだわー」
(´<_` )「俺はそういうのは嫌いなんだ」
(;^ω^)「? そういうの?」
ブーンの問いかけに、弟者は答えなかった。
しまったと表情を歪め。それでも、次の瞬間には、何事もなかったかのようにもとの落ち着いた表情に戻った。
l从・∀・#ノ!リ人「もー、おっきい兄者もちっちゃい兄者もケンカしちゃめーなのじゃ!」
ヾ('A`)ノシ「そうだーそうだー!」
17
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 20:09:02 ID:tFLjG.4M0
(´<_` ;)「――くっ」
ヾ('A`)ノシ「とっとと謝れ、鬼畜弟ー!」
( ^ω^)「えっとおに……ちく……? 弟ー!
ブーンたちだって生きてるんだおー!!!」
('A`)「このシスコン! ロリコン! ろくでなしぃー!!
お前の母ちゃんゴリマッチョぉ!!」
(*^ω^)ノシ「そうだそうだぁー!!!」
ここぞとばかりに飛び回る、謎の生き物二匹。
白いほうの名前はブーン。新たに現れた、紫色でブーンよりさらに小柄なのはドクオ。
二匹はとある事情から黙りこむ弟者に向かって、せっせと暴言をあびせはじめた。
( ´_ゝ`)「確かに、母者はゴリマッチョだな」
l从・∀・;ノ!リ人「おっきい兄者……?」
一方、殴られた兄者といえばけろりとした顔で、弟と二匹の攻防を眺めている。
そんな、兄の姿を妹者は首をかしげながら見つめた。
18
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 20:11:02 ID:tFLjG.4M0
(*'A`)「弟者ちゃんの根性悪ぅー!! 冷血ぅー! ひとでなしぃー!!」
(*^ω^)「性格が曲がっていてよー」
(´<_`;)「……っ」
(*'A`)「お前の兄ちゃん〜」
二匹の悪口攻勢は止まらない。
普段からの鬱憤を晴らそうとばかりに、弟者の周りを飛び回りはやしたてる。
(;^ω^)「お?」
(*'∀`)「鏡に落ちやんのぉぉお!!!
ほんとに人かよぉwwwwwwwww」
( ;゚_ゝ゚)「それ、俺ぇぇぇぇぇぇえええええええええ!!!!」
Σl从・∀・;ノ!リ人「 ! 」
19
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 20:13:02 ID:tFLjG.4M0
「逆鱗に触れる」という言葉を、ご存知だろうか。
東方のことわざなのだが、知らなかったら「堪忍袋の緒が切れる」や、「腹に据えかねる」という言葉に変えてもいい。
(´<_` )
――要するに、弟者は激怒していた。
表情にはこれっぽっちも出ていないが、そういう時の人間とは大概恐ろしいものだ。
(;´_ゝ`)「えーと、弟者さん?」
(´<_` )「……」
弟者の腕が翻ったのが、ほんの一瞬の出来事。
人にできる限界をはるかに超えた速度で拳はうなり、ドクオの背に広がる二対の羽のうち一枚をむしりとった。
バランスを崩したドクオの首らしき箇所を、弟者は渾身の力で握る。
(゚A゚)「ひっ」
(´<_` )「前言を撤回するか、このまま消滅するか。好きな方を選べ。
忌々しいことだが、お前たちは兄者のお気に入りだからな。猶予くらいは与えてやる」
20
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 20:15:01 ID:tFLjG.4M0
(;´_ゝ`)「ドクオぉぉーー!!! 死ぬなぁぁぁ!!!!」
( ;゚ω゚)「謝るお!!! もうめっちゃ謝るしかないぉおおお!!!」
(;゚A゚)「ごごご、ごめご、ご、ごめんなさ」
弟者の行動により、一気に張り詰めた空気。
誰もが息を呑む、緊迫した一瞬。
(´<_` )「お前らみたいな存在は、全て死ねばいい」
その空気は――
l从・∀・;ノ!リ人「えーと、兄者たちはダレとお話してるのじゃ?」
――わりと、あっさり壊れた。
21
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 20:17:01 ID:tFLjG.4M0
l从・∀・ノ!リ人「えーと、妹者には見えないけど、ここにはせーれいさんってやつがいてー。
おっきい兄者と、ちっちゃい兄者は、そのせーれいさんとケンカしてるのじゃ?」
(;´_ゝ`)「……はい、そうです」
それからしばらく後。兄者と弟者それに、二匹の精霊だった生き物たちは、妹者の前に正座をさせられていた。
たとえ小さくても妹者はこの街では絶対的な力を持つ母者の娘。脳天気なところのある男二人が叶うはずもない。
(;'A`)「なあ、ブーン。ちゃんと羽ひっついてるか?」
( ^ω^)「おー、もう大丈夫だお!」
(;'A`)「なんかもう、50年ぶりくらいにこれは死ぬって思ったわ」
(;^ω^)「本当にヒヤヒヤするおねー。
これ精霊じゃなきゃ死んでたわー的なアレだお」
ちなみにこれは余談だが、精霊――ジンとも呼ばれるこの生き物たちは、人や動物とは異なる超自然的な生き物たちのことだ。
兄者や弟者のように見える人もいるし、妹者のように見えない人もいる。そんな魔法や、神秘に近い存在である。
l从・∀・ノ!リ人「ちっちゃい兄者はせーれいさんにごめんなさいするのじゃー」
(´<_` )「やだ」
22
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 20:19:19 ID:tFLjG.4M0
l从・∀・;ノ!リ人「えーと、じゃあせーれいさんがゴメンナサイしたなら、ちっちゃい兄者もあやまるのじゃ」
(´<_` )「謝罪をする必要が微塵も感じられない」
l从・〜・;ノ!リ人「むー!」
一方、妹者は二人の兄を正座させたところまではよかったものの、ケンカの仲裁に苦心していた。
それというのもこの下の兄が、かたくなに精霊たちに謝罪することを拒否していたからだ。
実際に何があったかは見えなかったけれど、下の兄は「しょーめつ」とか「ころす」とかひどいことを言っていたのだから、謝ったほうがいいのではないか。
彼女は幼いなりに真剣に考え、一生懸命事態に収拾をつけようと頑張っていた。
( ;´_ゝ`)「あー、ごめんなさい! そもそも不用意にブーンの力を借りた俺が、悪かった。
……ほら、俺が謝ったから妹者も、弟者も、ドクオも、ブーンも、もういいだろ?
っていうか、もういいってことにしてください、お願いします!」
そんな状況に流石にいたたまれなくなったのか、口を挟んだのは兄者だった。
年長者だからしっかりしようということらしいが、口調や態度に威厳がないことだけが少々残念だった。
l从・へ・ノ!リ人「……」(´<_`#)
( ´_ゝ`)「ほれー、そんな顔しないー」
(´<_` )「……」
( ´_ゝ`)「弟者」
(´<_` )「……すまなかった、兄者。それに、妹者も」
23
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 20:21:45 ID:tFLjG.4M0
( ´_ゝ`)「はい。よくできました〜」
弟者が一応謝罪の姿勢を見せたことで、場の空気が少し和らかくなる。
とはいえ、事態をややこしくしないために黙ってはいるものの兄者の内心は複雑ではあった。
(;´_ゝ`).。oO(肝心のドクオたちにこれっぽっちも謝ってないのガナー。
まあ、そもそもやりすぎてたのはアイツらだったんだけどなー)
l从・−・ノ!リ人「みんなは、本当にそれでいいのじゃ?」
(;'A`)「正直やりすぎたと思ってるので、これで勘弁してほしい。スマンカッタ」
(;^ω^)「う〜、ブーンも調子にのりすぎてたお。ごめんなさい」
一方、妹者は弟者の言葉に「むむむ」と眉を寄せていた。
なんだか納得行かないが、下の兄は謝っているらしい。では、「せーれいさん」はどうなのだろうか?
怒っている? それとも、泣いている? いろいろと妹者は考えるが、精霊を見ることが出来ない彼女にはよくわからない。
( ´_ゝ`)「二人ともそれでいいとさ。あいつらも謝ってる」
l从・∀・ノ!リ人「なら、それでいいのじゃー」
――妹者の言葉によって、弟者と精霊たちの小競り合いはなんとか幕を下ろした。
というよりも、無理やり幕を下ろすことにした。
彼らにとって平和というものは何よりも大切なものである。
24
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 20:24:00 ID:tFLjG.4M0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
流石の街では、建物の中のほうが過ごしやすい。
それは、一歩でも外に出れば、とてもではないがやっていけないほど暑いという意味でもある。
というわけで、彼ら一同は移動するわけでもなく、ダラダラと過ごしていた。
ちなみに、先ほど兄者が踏みつけた花の件については、皆あえて考えないことにしている。
l从・∀・ノ!リ人「そういえば、おっきい兄者は何でちっちゃい兄者をさがしてたのじゃー?」
そんな一時の中で、妹者はふと気づいた。
先ほどまでいろいろありすぎて忘れていたが、そもそも上の兄は、下の兄に話したいことがあったのではないかと。
(´<_` )「そういえば、そうだな」
(*´_ゝ`)「おお、そうだったそうだった」
兄者は妹者のその言葉に、もったいぶった様子で腕を組み、うんうんと頷いた。
それから、妹者、ブーン、ドクオの姿を見回し、弟者の顔をじっと見つめる。
困惑の表情を浮かべはじめた弟者に向かって、指を突きつけ――
(*´_ゝ`)「旅に出るぞ!」
――と、兄者は言った。
.
25
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 20:27:32 ID:tFLjG.4M0
(´<_` )「は?」
ヽ(*´_ゝ`)ノ「だーかーらー、旅に出るぞぉー弟者ぁー」
兄者の唐突な発言に、弟者は一瞬言葉を失った。
街の中ならいいが、周囲は一面の砂が広がる世界。
砂漠をこえようとするならばそれなりの準備が必要だというのに、近所に買い物に出かけるような気楽さで兄者は言い切った。
l从・∀・*ノ!リ人「たのしそうなのじゃ。妹者もいっしょにいくのじゃ!」
( ´_ゝ`)「これはだな男同士の危険な旅。
妹者たんを危険に晒すことなど俺には出来ないっ……というわけで、妹者はお留守番なー」
( ^ω^)タビ デスッテヨ、オクサン マア、ステキ('A`)
l从・д・ノ!リ人「じゃあ、ダメなのじゃー。
ちっちゃい兄者は夕方まで妹者と遊ぶって言ってくれたのじゃ!」
( ´_ゝ`)「明日、俺と弟者で遊んでやるから、今日は我慢してくれ」
その言葉に、妹者は少しの間首をかしげた。
それから「むー」と小さく唸り声を上げ、その後ぱっと笑顔を浮かべた。
l从・∀・*ノ!リ人「ほんとなのじゃ? 約束はぜったいやぶっちゃダメなのじゃよ!」
( *´_ゝ`)「この兄に任せろ」
l从^ー^ノ!リ人「じゃあ、今日はガマンするのじゃ」
.
26
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 20:29:01 ID:tFLjG.4M0
(´<_`; )「おい。時に兄者よ落ち着け」
兄者と妹者の話はまとまった。
そうなると、焦り出すのが弟者である。
そもそも旅に出るというのが唐突だし、それに兄者の話では翌日には屋敷に帰り着いていることになっている。
(´<_` )「旅に出るとは、そもそもどこにだ?」
(*´_ゝ`)「よくぞ聞いてくれたな、弟者たん。
我らが向かうのはここから西、神秘あふれるソーサク遺跡だ!」
兄者が告げたのは、流石の街から西へと向かった先にある遺跡の名前である。
街からも見る事のできるこの遺跡は、よほど天候が悪くない限り半日もあれば確かに行き来できる場所にあった。
(´<_` )「ふむ、なるほど。それで、その遺跡には何をしに?」
(;´_ゝ`)「――えっ?」
(´<_`;)「――えっ?」
l从・∀・;ノ!リ人「――えっ?」
.
27
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 20:31:11 ID:tFLjG.4M0
('A`)「なんていうか兄妹だな。反応が全員同じだ」
( ^ω^)「うーん、遺跡かぁ。ドクオは暇かお?」
(;'A`)「――えっ?」
同じ反応で驚きを示す一同の中で、一番最初に我に返ったのは弟者だった。
自分とほぼ同じ顔の兄の顔を見上げ、やがて何を言っても無駄だと思ったのか小さくため息をついた。
(´<_`;)「……流石だな、兄者」
(;´_ゝ`)て「ちょ、おま、今すごく俺のこと馬鹿にしただろ。
それは俺がかっこいいことした時にだけ使っていい言葉で、馬鹿にする時には使うなとあれほど」
(´<_` )「だがしかし、あれだけ旅に出るとはしゃいでいて、何も考えてないとは」
(;´_ゝ`)「いや、ちゃんと考えてるぞ!」
(´<_` )「……」
弟者の疑わしげな視線に、兄者は視線をさまよわせる。
それを妹者は興味津々といった様子で眺め、弟者は冷たい表情で兄を見つめた。
(;´_ゝ`)「そうだ、魔法石板だ!
あそこの遺跡には魔法石板にぴったりの材質の石が転がっていると、ギコ者が言っていたぞ!」
.
28
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 20:33:16 ID:tFLjG.4M0
石板魔法と言うものがある。
それは今より魔法がはるかに発達していた時代に作られた、石板を媒介とした魔法の一種のことである。
この魔法が優れているのは、魔法が使えない人間でも石板に刻まれた文字列をなぞるだけで効果を発揮できるという点である。
魔力を込められた石板は魔法石板と呼ばれ、便利な道具として日常生活にも使われることも多かった。
(´<_` )「魔法……石板……」
(;´_ゝ`)「そ、そう! 人によってはかなりの高値で買ってくれるんだぞ。
決して、俺が興味津々というわけではなくてだな……」
(´<_`#)「兄者は、俺が……」
l从・∀・*ノ!リ人「わー、妹者も見たいのじゃ!
それをつかえば新しいまほーせきばんとかも作れちゃうのじゃ?」
弟者が言おうとした言葉を遮って、妹者がはしゃいだ声を上げる。
魔法に触れることがほとんどない彼女にとって、魔法という言葉や不思議な現象は興味を惹かれるものだった。
一方、話を邪魔された弟者は顔をしかめ、不機嫌な表情になっている。
(;´_ゝ`)「そそそ、そう。魔法使いにお願いすれば、なんかすっごーい魔法とかも刻んでもらえるぞ。
でも、あくまでも売るんだからな。魔法石板にぴったりっていっても、魔力こめなきゃただの石だし」
(´<_` )「その言葉は確かか?」
(;´_ゝ`)「……はい」
兄者の言葉に、弟者は黙り込んだ。
その場にいた妹者が飽きてあくびをはじめるほど長い時間沈黙した後で、弟者はようやく口を開く。
.
29
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 20:35:07 ID:tFLjG.4M0
(´<_` )「まったく。兄者のことだから、俺が行かないって言っても一人で行くだろう。
それなら、俺がついていったほうがまだマシということじゃないか」
( ´_ゝ`)「……ということは」
これ以上ないくらいに眉をしかめて、弟者はうなずく。
その反応に、兄者と妹者と、なぜかブーンが歓声をあげた。
l从・∀・*ノ!リ人「兄者、やったのじゃ!」
(*^ω^)「おめでとうだお、アニジャ!」
(*´_ゝ`)「よーし、弟者も妹者もブーンもみんな愛してる!
そういうことなら、お兄ちゃんはりきっちゃうぞー!」
兄者はその場でくるくると回り彼なりに喜びを表現すると、露台の石造りの手すりによいしょっとよじ登った。
そこから、屋敷の壁に囲まれ、四角く見える空を見上げた。
( ´_ゝ`)∩「よーし、ちょっと待ってろよぉ」
そう言うないなや、兄者は指を口元に当てる。
そのままおもいっきり息を吸うと、指笛を吹き鳴らした。
.
30
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 20:37:01 ID:tFLjG.4M0
甲高い音が空へと流れていく。
音は辺りに響き、そして消えるだけの――はずだった。
(*^ω^)「おお、ひさびさに見たお」
('A`;)「でもなー、あれって人に懐くもんか?」
はじめに反応したのは、人とは感覚の違う精霊二匹。
これから起こる何かをすっかり理解した様子で、二匹は空を眺めてはじめた。
( ´_ゝ`)「ふむ。来たようだな」
(´<_`; )「――おい、ちょっと待て」
次に反応したのは双子の兄弟。
二人の見上げる空には何者かの影が落ち、その影の姿はだんだんと近づきはじめた。
やがて、唸るような羽音が聞こえるようになり、その影の姿がはっきりと見て取れるようになる。
l从・∀・ノ!リ人「わー」
l从・∀・*ノ!リ人「――竜なのじゃ!」
彼らの前に降り立った巨大な影。
それは神話の時代から存在するといわれる巨大な生物。竜――ドラゴンであった。
.
31
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 20:39:34 ID:tFLjG.4M0
夕暮れ時の雲のように桃色に色づく鱗。
その体躯は蜥蜴に似ているが、背に広がる翼と、どっしりとした下半身が違う生物であることを告げている。
強く猛々しい体の中で、黄金色の瞳はだけは大きく愛嬌のあるものであった。
( *´_ゝ`)「よしよーし、ピンクたんはかわいいでちゅねー」
(Σ*Οw)⊂(´く_`* )ナデナデ
災いをもたらす凶暴な生き物とも、神に近い神聖な生き物とも言われる竜。
そんな生物に対し、兄者は慣れた様子で話しかけると、鱗におおわれた頭をなで回す。
(*^ω^)「すっげーお」
(;'∀`)「竜相手でも平然としてるとかw あいつ、ホント人間かよ」
(Σ Οw) ⊂l从・∀・;ノ!リ人 ソー
(Σ*Οw)⊂l从・∀・*ノ!リ人カワイイ ノジャー
妹者も兄に続いて、竜におそるおそる手を触れた。
ゴツゴツとした鱗の感触に、彼女は顔を赤く染めて笑顔を見せた。
_,
(´<_`;)「……」
.
32
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 20:41:18 ID:tFLjG.4M0
( ´_ゝ`)「よし、じゃあ頼むわ。妹者もお留守番よろしくなー」
(Σ Οw))コクコク
Σl从・∀・;ノ!リ人「わ、わかったのじゃー!」
妹者が竜を撫でるのをしばし見守った後、兄者はその巨大な生物の背に「よっ」と掛け声をかけ、乗り移った。
人間が一生のうちに一度見れるかどうかといわれる竜。そして、その上にのり笑う兄の姿。
弟者は体が震えが走るのを必死で隠しながら、じっと兄の姿を見上げる。
(*^ω^)「せっかくだから、ブーンたちもついてくお!」
(;'A`)「ちょw オレも強制参加かよ」
兄者を乗せて今にも羽ばたこうとする竜。ついでにブンブンと飛び回る精霊二匹。
目の前に広がるのは、これ以上ないくらいの非日常。
( ´_ゝ`)「弟者、お前もはやく来い」
( <_ ; )「俺は……」
.
33
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 20:43:29 ID:tFLjG.4M0
( <_ ; )「……」
( ´_ゝ`)「――母者曰く、『人よ旅に出よ。まずはそれからだ』とさ」
( ^ω^)「お?」
黙りこみ微動だにしなくなった弟に向けて、兄者は言った。
その言葉に弟者は顔をあげ、しばしの沈黙のあとにようやく口を開いた。
(´<_`; )「……正確には、『ゴロゴロするくらいならどっか行ってこい。そこにいたら邪魔だよ!』だ」
l从・∀・ノ!リ人「あー! おっきい兄者、まちがってるのじゃー」
(;´_ゝ`)「あるぇー?!」
おかしいなーと、首をひねる兄者。その姿は、なんてことはない、いつもの兄者だ。
それを見ているうちに、弟者は自然に笑い出していた。
(´<_` )「まったく、兄者は」
(*´_ゝ`)「ふっふっふっ。流石だろ?」
(´<_` )「どこがだ、ド阿呆」
.
34
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 20:45:29 ID:tFLjG.4M0
夏の出歩くことすら出来ない季節も過ぎ去り、それでも暑さを失わない秋。
天気は土埃がわずかに舞っているものの、晴天。
穏やかな風が吹くこの日――。
( ´_ゝ`)「まあ、いろいろあったが……」
砂漠の一角。
オアシスの麓にひろがる、流れる石の名を持つ街。
夕焼け雲色の竜の上には一人の青年と、精霊二匹の姿。
(*´_ゝ`)つ 「さあ、行こう」
そして、兄者は双子の片割れに向かって、手を差し伸べた――。
.
35
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 20:46:19 ID:tFLjG.4M0
http://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/11.jpg
.
36
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 20:47:03 ID:tFLjG.4M0
そのいち。 旅に出るぞと、兄者は言った
おしまい
.
37
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 20:49:12 ID:tFLjG.4M0
短いけど、投下ここまで。
本当は最後まで書きたかったけど、とてもじゃないけど書き終わらなかったので、連載という形にさせていただきました。
どうしても一目惚れしたイラストを使いたかった。第一話だけでもお祭りに参加できて、とても満足している。
絵師さん。すごく綺麗で魅力的なイラストをありがとうございました!
38
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 21:05:53 ID:dZrc75jo0
おつ
39
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 22:13:04 ID:rNdU5biMO
楽しそう おつ
40
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 00:03:03 ID:hliUgFqA0
絵使ってくださってありがとうございますううう!!
今後兄弟がどうなっていくのかとても楽しみな…!
そしてピンクたんの顔文字かわいいw
真顔でぶちぎれ弟者が大好きなので、一部漫画にしてみましたありがとうございました…!!
http://vippic.mine.nu/up/img/vp99701.jpg
41
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 00:16:06 ID:M9WoOtSM0
うわわわ、ありがとうございました!
続きはちょっと時間がかかりますが、無事完成させます
42
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 01:08:27 ID:OarO2FXUO
乙!
兄弟がわちゃわちゃしてる作品っていいな
続き楽しみにしてるよー!
>>18
のドクオの一言で弟者がなんで切れてるのかわからない…
読解力なくてすまん……
43
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 01:10:22 ID:mrJ1IDpQ0
>>42
伏線かブラコンか好きな方を選んで待ってればいいよ
44
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 21:19:56 ID:gq2xLt0M0
旅に出ないってずっと言ってたやつだなwww
続き待ってるよ!
45
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:12:18 ID:M9WoOtSM0
たくさんの乙ありがとうございました
あと質問があったので少しお返事
>>42
>>43
さんの言うとおり、伏線・ブラコン・ついカッとなったなどお好きなものを選んで下さい
>>44
なぜわかったし
46
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 16:27:21 ID:J2WA92hQ0
完成までに時間がかかりそうなので、gdgdな感じで第二話を投下していきたいと思います。
55レスくらい
47
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 16:30:33 ID:J2WA92hQ0
( ´_ゝ`)「……と、楽しく旅立つつもりだったんだけどな」
視界に広がるのは一面の乾いた大地。
その中で見えるものといったらところどころに転がっている大岩か、元は何だったかわからない白骨ぐらい。
植物の姿なんてものは、街を出てからはほとんど見ることができなかった。
('A`)「ですよねー」
( ^ω^)「お? ブーンはこれはこれで楽しいお」
そのような大地を進むのは竜ではなく――二匹のラクダであった。
(´<_`#)「何を言う、あんなもんに乗るなんて死んでもゴメンだ。
よりにもよって竜だぞ。ドラゴンだ! まったく、油断も隙もない」
( ;´_ゝ`)「うん。弟者たんのことだから、正直こうなる気はしてた」
.
48
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 16:31:17 ID:J2WA92hQ0
( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )
.
49
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 16:31:58 ID:J2WA92hQ0
そのに。 旅をするには準備が必要である
.
50
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 16:32:57 ID:J2WA92hQ0
(*´_ゝ`)つ 「さあ、行こう」
流石邸の一角。
双子の片割れに向かってさしだされた、兄者の手。
それは、
バキッ(゚く_゚(#⊂(´<_`#)「――って、そんなことで誤魔化されるか!」
Σl从・∀・;ノ!リ人「お、おっきい兄者ぁぁぁぁ!!!」
(Σ Οw)て !
弟者の鉄拳によって、見事になかったことになった。
竜の背を足場にした、まさに電光石火の一撃。
そのまま休むこと無く兄者の襟首を掴むと、弟者は兄者を竜の上から露台へと強引に引きずり下ろす。
(´<_`#)「そもそも、竜なんてどこで拾ってきたんだ! さっさと捨ててきなさい!!」
(#)´_ゝ`)「き、今日だけで二度も殴られた件について」
(;^ω^)「ど、どんまいだお!」
+('∀`)b
.
51
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 16:34:09 ID:J2WA92hQ0
(Σ;Οw) ……
(´<_`#)「いい加減みょうちくりんな生物やら、バケモンやらを拾ってくるのをやめろ。
兄者が変なもん連れてくるたびに追い払らわなきゃならない、こっちの身にもなってみろ!」
(#)´_ゝ`)「そんなに変なものをひろってきた覚えは……」
兄者の言葉に、弟者はまずブーン、次にドクオ、最後に竜に向かって指を突きつけた。
弟者の表情は鬼気迫るものがあり、兄者の顔からは冷や汗が伝った。
(´<_` )「そこにいる羽虫二匹。それに、さっきまで兄者が乗っていた竜。」
( ´ω`)「羽虫……」('A`)
(´<_`#)「それから、魚人や、ランプの魔人なんてのもあったな。
勝手に動き回る黒い影。翼の生えた獣。頭と体と足がいろんな生物のつぎはぎなんてやつもいた」
l从・∀・ノ!リ人「お空をとぶ犬さんなら見たことがあるのじゃー」
(-<_-#)「小人に、半透明の人間に、しゃべる植物だの蛇だの。
鶏と蛇が合体した化物に連れさらわれそうになったこともあったよな」
ひたすら並び立てられる過去の悪行やら偉業やら思い出に、流石の兄者も黙り込んだ。
それでも、弟者の言葉は止まる勢いを見せない。
.
52
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 16:37:25 ID:J2WA92hQ0
(;'A`)「お前さんはどんな人生を歩んでるんだ……」
(*´_ゝ`)「えへっ☆彡」
( ^ω^)「ないわー」
(´<_`#)「おい、兄者。俺の話は終わってないぞ」
というか、そもそも黙らないと弟者がすごい剣幕で怒るのだ。
こうなっては兄者も下手なことを口を出せない。
(´<_`#)「そもそも、生態すらよくわかってない生物に乗って砂漠を越えようという発想が理解できない。
こいつの餌は何か知ってるのか? 一日に飲む水の量は? そもそも、ちゃんと遺跡まで飛べるのか?
途中で逃げられたり、食われでもしたらどうするつもりなんだ、兄者は」
( ;´_ゝ`)「……まあ、そのあたりは勘?
ほら、ピンクたんは人の言葉もわかるお利口さんだからきっとなんとか」
(Σ`Οw) エッヘン
兄者の返答に、弟者の眉が不機嫌そうに吊り上がる。
一方、兄者の言葉を理解したのか、竜はどこか誇らしげに唸り声をあげた。
.
53
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 16:40:08 ID:J2WA92hQ0
(´<_`#)「勘でどうにかなってたまるか。そんなもん却下だ、却下!!!」
(;´_ゝ`)「ぅぇー」
そして、その勢いのままに弟者は竜へと向き直る。
相手は人一人は軽く飲み込めてしまいそうな巨大な生物。それなのに、弟者の表情に怯む様子はこれっぽっちもない。
(´<_`#)「ピンクたんだか何だかしらないが、お前もさっさと帰れ!」
(Σ Οw) エー
(´<_`#)「言うことを聞きなさい!」
不満そうに唸る竜に向けて、弟者は一喝する。
その子どもを怒る保護者さながらの態度に、竜の首がしょんぼりと下る。
λ(Σ´Οw)λ ハーイ
(´<_` )「ふむ。わかればいいのだ」
(;´_ゝ`)て「おおぅ、なぜかピンクたんが説得されてるぅー!!」
l从・∀・;ノ!リ人「ちっちゃい兄者。すごいのじゃー」
(;'A`)「奴はバケモノか……」
.
54
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 16:41:05 ID:J2WA92hQ0
・
・
・
λ(Σ*Οw)λ バイバーイ
l从・∀・*ノ!リ人「またくるのじゃー」
( ^ω^)ノシ「ばいばーいだお」
青い空に浮かぶ、夕焼け色の鱗をした竜。
災いをもたらす凶暴な生き物とも、神に近い神聖な生き物とも言われる生物が空へと帰っていく。
その背に兄弟たちの姿はない。
それでも文句をいう事もなく帰っていく竜の姿は、まさに人が言葉もわかるお利口さんというにふさわしいものだった。
(;´_ゝ`)「ああ、俺のピンクたん……」
('A`)「……こうして、全てが終わった……か」
(;´_ゝ`)「そもそも、始まってすらいなかったというのに……」
兄者は、飛び去っていく竜を「あーあ」と見送る。
しかし、いまさらどうにもならないことを悟り、やけになったのか兄者は露台の床にごろんと寝転んだ。
( ´_ゝ`)「弟者のアホー、馬鹿、おたんこなす」
.
55
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 16:42:12 ID:J2WA92hQ0
.
.
.
( ´_ゝ`)「弟のくせに生意気だぞー」
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.
( ´_ゝ`)「アホ者ー!!」
:
:
:
:
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56
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 16:43:02 ID:0B4fuHtA0
おお!待ってたぞ!!
支援!!
57
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 16:43:18 ID:J2WA92hQ0
( -_ゝ-)「それか……ら……」
いくら声を上げても、弟者から反論の声は聞こえてこない。
そのことに調子に乗って弟者のイジワル―などと文句を並び立てるうちに、兄者の瞼は徐々に重くなっていく。
そういえば、昨日は何時に寝たっけ? なんてことを考える間もなく、兄者の意識はどんどんと薄れていく。
(;^ω^)「おーい、アニジャー! ブーンたちを放置して寝るなおー」
('A`)「こりゃ、何言っても無駄だぞ」
耳元でなにやら声が聞こえるが、今の兄者には何と言っているのか聞き取ることができない。
今度こそ完全に意識が消え……兄者はそのまま眠りに落ちる。
( -_ゝ-)「……」
……それから少しして、何かがバサリと掛けられる感触に、兄者は目を覚ました。
一体何だ? と手にとって見ると、それは縁に細やかな刺繍がされた薄紫の飾り布である。
( ´_ゝ`)「――ん?」
首をひねりながら視線を上へと向けると、弟者が呆れたような表情をしていた。
そして、その横では色とりどりの何かを抱えた妹者がじっと兄者の表情を見つめている。
.
58
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 16:45:11 ID:J2WA92hQ0
(´<_` )「おい。兄者は旅に出るんだろう?
まさか、そのまま寝てしまうつもりではあるまいな」
l从・∀・ノ!リ人「というか、もう寝てたのじゃー」
弟者は薄紫のフードつきのマントを羽織り、腰には日頃から愛用している曲刀を下げている。
よく見れば、いつの間にやら身につけているのも部屋着ではなく、外出用のものになっている。
一方、妹者の服装は先ほどまでと変わらなかったが、その手に飾り布や金の留め具などを抱えていた。
(´<_` )「ほれ、出かける気なら日除けの準備くらいはしろ。外は暑いぞ」
ol从・∀・ノ!リ人o「おっきい兄者のお出かけ用の荷物を持ってきたのじゃー」
(*´_ゝ`)「なんと! 持つべきは家族だな」
先程まで文句を言って寝こけていたのが嘘のように、兄者はあわてて身支度を整えはじめる。
先ほど掛けられた飾り布は耳を出せるようにして被り、妹者が持ってきてくれた金具で止める。
腰に飾り布をいくつも巻き、ついでに他人の目から見えない位置に財布やら、いざという時の薬の入った袋やらを固定する。
l从・∀・*ノ!リ人「できたのじゃー」
( ´_ゝ`)b「よし、我ながらかっこいい」
愛らしい妹の言葉に、薄い水色の耳をぴくりと動かしながら兄者は満足そうに頷く。
本当は弟者くらい身長があればもう少しは格好がつくのにと思っているのだが、兄のプライド故にそれは口にしなかった。
.
59
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 16:46:05 ID:J2WA92hQ0
(´<_` )「どこがだ」
( ´_ゝ`)「弟者。その発言は鏡を見てから言おうか」
兄者と弟者は双子の兄弟である。
体の色や、身長、体つきなど違うところはあるものの、彼ら二人の容姿は驚くほど似ている。
今でこそ間違える人間はほぼいなくなったものの。体つきがほとんど同じだった幼い頃は、家族でも間違えるほどであった。
(´<_` )「生憎、鏡と名のつくものは嫌いなんでな」
(;´_ゝ`)「えー、あー、そういう意味で言ったわけじゃないんだけどなー」
l从>∀<ノ!リ人「おっきい兄者とちっちゃい兄者はにてるから、おっきい兄者がかっこよくないならちっちゃい兄者も」
l从・∀・;ノ!リ人「……って、あれ? おっきい兄者にそっくりなちっちゃい兄者は、でもちっちゃい兄者でー」
( ´_ゝ`)「時に妹者よ、落ち着け」(´<_` )
おきっきい兄者とちっちゃい兄者がという言葉が混ざって混乱し始めた妹に向かって、兄弟は同じタイミングで言い放つ。
その内容も一字一句まるっきりそのままで、妹者はその場でクスクスと笑い始めた。
l从・∀・*ノ!リ人「はーい! ちゃんとおちつくのじゃー」
(*´_ゝ`)「うむ。妹者たんは流石だなー」
dl从>∀<*ノ!リ人「流石なのじゃー!」
60
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 16:48:11 ID:J2WA92hQ0
(´<_` )「――そろそろ、行くか」
兄妹たちがひとしきり笑い終えた後、弟者はふと話を切り出した。
それを聞いた兄者は、身支度を確認するとふむと頷く。
( ´_ゝ`)「そうだな。早いこと出発しないと、明日までに帰れるかどうかわからんしな。
時に弟者、西の遺跡までは、歩くとどれだけかかったかな」
l从・∀・ノ!リ人「けっこうかかりそうなのじゃー」
(;´_ゝ`)「やっぱ、歩きだと大変そうだな。
あれぐらいの距離なら、流石に遭難しないと信じたいところだが」
ソーサク遺跡までの距離を頭の中で考える。
遺跡にいる知り合い――ギコの話では、軽装でもわりあいなんとかなるという話ではあった。
砂嵐に遭遇したり、盗賊や魔物に出会うなんてよほど不運でない限り、体力のある男なら困ることはないはずだ。
(´<_` )「二人とも何を言っている? まずは乗り物と、水の調達だろ」
(;´_ゝ`)「いや、乗り物って。ピンクたん、もう帰っちゃったし」
兄者の言葉に弟者は表情を崩すと、笑い出す。
「本気で歩くつもりだったのか」とひとしきり笑い終わった後に、弟者は当然の様に言ってのけた。
(´<_` )「――砂漠といえば、ラクダだろう?」
l从・ワ・ノ!リ人「なるほど、なのじゃー」
.
61
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 16:49:32 ID:J2WA92hQ0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
屋敷から二人が足を向けた先は、街の外れにある広場だった。
l从・∀・*ノ!リ人「いってらっしゃいなのじゃー」
妹者は先ほどの約束通り、屋敷で留守番をしている。
兄者が中庭の植物を踏んだ件については妹者に口止めしたが。それがバレるのは残念ながら時間の問題だろう。
そんな不安はさておいて、兄者と弟者は広場へと向かっていた。
(;´_ゝ`)「やっぱ、暑いなー」
(´<_` )「砂漠はこんなものじゃない件。
とりあえずは、ツンのところか。あそこならいろいろと用立てしてもらえるはず……」
砂漠の位置するこの街では、早朝と夕暮れからが人の動き出す時間である。
太陽に照らされる昼間は暑すぎて、外を出歩く人間自体が少ない。
だから、広場であったとしても露天が立ち並ぶのは普通、早朝や夕暮れだ。
( ´_ゝ`)「というか、そもそも店なんて開いてるのか?」
.
62
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 16:50:44 ID:J2WA92hQ0
朝の涼しさも薄れ、夕暮れの訪れを今か今かと待ちわびる昼前。
普段ならばこの時間は夕暮れからの商いに備えてほとんどの露天が店を閉めている。
しかし、閑散としているはずの広場は、今日に限っては多くの露天と喧騒で満ち溢れていた。
(;^ω^)「うぉ、ニンゲンがいっぱいいるおー。暑くないのかお?」
('A`)「あー、妙に異国のやつの姿が多いな」
金の髪に白い薄衣をまとった女。黒い髪に黄色い肌をして東方独特の衣装をまとった男。
ターバンをまとった髭面の男や。長い尾に動物の耳を生やした猫のような姿の人。
見た目も、服装も全く違う男女が思い思いに品物をひろげ、それを見るために多くの人が集まっていた。
( `ハ´)「東の果ての大国。大都で使われる香辛料アルよー
西の方では金一粒と同じ価値のある一品。早いもの勝ちアルねー」
J( 'ー`)し「カーチャン手作りの焼きたて小麦粉パンだよー」
( ゚∋゚)「ヤキトリ クエ」
広場は太陽だけでなく、人の発する熱気に満ちている。
パンや肉の焼ける臭いや、花や香水。それに香辛料や家畜の香りが混ざり合う。
誰も彼もが酔っ払ったかのように辺りを歩き、売り買いの声をあげる。
……そんな人ごみの中を、どこかで見たことがある生物が二匹飛び回っていた。
.
63
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 16:52:04 ID:J2WA92hQ0
(;´_ゝ`)⊂(´<_`#)「兄者。 な ぜ あ い つ ら が い る」
兄者の薄水色の耳をおもいっきり引っ張りながら、弟者は言った。
人目を気にしてかその声はひそめられていたが、その視線は思いっきりブーンとドクオを向いている。
(;´_ゝ`)「いや、俺に言われても……」
(´<_`#)「ピンクたん?とやらと一緒に帰ったんじゃなかったのか」
(;´_ゝ`)「確かに、気づいたらいつの間にかいなくなってたけどさー」
そして、そんな双子の姿を二匹の生物。もとい、精霊は見逃すはずがなかった。
ブーンは両手を広げた姿勢で。ドクオはフラフラと上下に飛びながら、兄弟たちの元へと飛んできた。
⊂二( ^ω^)二⊃「さっきぶりだおー」
('A`)ノシ
(*´_ゝ`)ノシ 「……」(´<_`#)
.
64
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 16:52:49 ID:J2WA92hQ0
( ´_ゝ`)「お前ら、さっきは何で消えたん?」
ブーンたちが現れるなり不機嫌になる弟者をとりあえず置いておいて、兄者は二匹の精霊に話しかける。
宙にむけて突然話し始めた兄者の姿に、通行人の何人かがぎょっとした顔つきになるがそれもすぐに止んだ。
( ^ω^)「おー、それはつまんなさそうだったからだお」
( ´_ゝ`)「なんで?」
(;'A`)「こいつ……こっちを無視して、いきなり寝だしたこと忘れてるぞ」
_,
( ^ω^)「オトジャは話しかけても相手してくれないから、つまらんかったお」
('A`)「竜も帰っちまったしな」
兄者はちらりと弟者の姿を見る。
彼は先ほどまでと同じ不機嫌そのものの表情でそっぽを向き、一言もしゃべる気配がない。
話しかけてきたブーンやドクオたちに対しても、こんな態度だったのだろう。
――確かに、いくら話しかけてもこれでは、確かにつまらんよなと兄者は苦笑いを浮かべる。
( ´_ゝ`)「いやー、正直スマンカッタ。
弟者たんはあれでも寂しがりやで甘えんぼさんな、いいやつなのだ。
お前さんたちも傷ついたり、イラついたり、腹が立ったりしたと思うが、許してやってくれ」
.
65
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 16:56:28 ID:J2WA92hQ0
兄者が言い放った言葉は、周囲に沈黙を落とした。
ドクオは羽を動かすことを忘れ地面に落ちかけ、ブーンは笑顔のまま首をひねる。
弟者はというとぎょっとした顔をして、兄者たち一同に視線を戻していた。
(;'A`)て「寂しがりやで甘えんぼって誰だよ! 妹か? あのかわいい妹ちゃんのことだよな?!
――っていうか、弟はない、マジでない。真剣にない!!!
お前、頭は大丈夫か? 目はいかれてないか?」
(´<_`#)
(;゚A゚)て「って、めっちや睨まれてる。俺ら絶対、睨まれてるー!!
お前があることないこと適当に言うから、あの弟絶対怒ってるぅ」
(;´_ゝ`)「お、弟者よ。時に、落ちつけ!」
( ^ω^)「……ドクオ。イラついたり、腹が立つってなんだったかお?」
('A`)「へ?」
大はしゃぎする一同の中で、ブーンは首をひねったまま不思議そうに言った。
ふざけたところの一切ない。純粋な声で、ブーンは疑問を口にしていく。
(;^ω^)「んー。寂しいは、まだ何となくわかるんだけど。
もうそのへんのやつはすっかり、わかんねーですお」
('A`)「あー、弟の方の顔見とけ。多分、それだ」
(*^ω^)「おっおっ。なるほどだおー」
.
66
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 16:57:34 ID:J2WA92hQ0
(;´_ゝ`)「?」
(´<_` )「アレは俺たちとは全く違う生き物だ。
俺たちにわかることが、あいつらにもわかるとは限らない。いい加減理解しろ」
ブーンとドクオのやり取りを前にして、今度は兄者が首をひねる。
兄者の無言の疑問に答えたのは、ずっと黙り込んでいた弟者だった。
( ´_ゝ`)「そうかなぁ。おんなじだと思うんだがな〜」
( ^ω^)「まあ、オトジャのいうことも正しいと思うお」
小さい体で腕を広げながらブーンは言う。
ブーンが飛び回るたびに、羽がキラキラと光りを放つ。
それを見えているものがいるのか、「あれ、見ろよ」という声がどこかから聞こえる。
( ^ω^)「寿命ってのがないと、娯楽ぐらいしか楽しみがなくなってくるっていうか。
それ以外の感情なんてもんは、だんだん磨耗してくるもんだお」
精霊の姿を見ることができるものは、限られる。
その精霊が見える人間の中においても、精霊たちの声まで聞くことができる者というのは、そう多くないらしい。
先程からブーンやドクオが騒ぎ立てているのに、それほど大騒ぎにならないのはそのためだ。
.
67
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 16:59:11 ID:J2WA92hQ0
( ^ω^)「ぶっちゃけ。楽しいか楽しくないかくらいしか感情残ってないですおー」
( ´_ゝ`)「そう、なのか?」
ブーンの言葉に兄者の耳がしょんぼりと垂れ下がるのを、弟者は見た。
弟者はこれまでの経験から、このような時の兄者はろくでもないことを考えていると判断する。
それこそ兄者のことだから、「ブーンに感情を思い出させてあげよう」などと言い出しかねないと、弟者は考え、
(´<_` )「おい、兄者」
⊂二二(*^ω^))二⊃「だから、早く遊びに行くおー!」
(;'A`)て「これはひどい」
(;´_ゝ`)て「俺の心配を返せ!」
(´<_`#)「……」
余計なことなんて考えなければよかったと後悔した。
.
68
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:00:02 ID:J2WA92hQ0
('A`)「それで、どうしてここはこんなに賑やかなんだ?」
少し早い昼飯とばかりに屋台に並べられた肉の串や、香辛料を利かせた汁物。
それから、いたるところに積み上げられた果物の数々を物珍しそうに眺めながら、ドクオは呟いた。
屋台の食料の数々に兄者の腹がなるが、腹が減るという感情に疎いドクオは気づかなかった
(;´_ゝ`)「え? よりにもよって俺に聞いちゃう、それ?
いつもならこの時間だと、このへんはなんもないんだが」
J( 'ー`)し「はい。ありがとうねぇ」
空腹を我慢できなかったのだろう。
目についた屋台でパンを買っていた兄者は、マヌケな声を上げながら傍らの弟者の姿を見る。
( ´_ゝ`)「時に弟者。どうして、こんなお祭り騒ぎなのか三行で頼む。
あと、このパンうまいぞ。弟者も食え」
(´<_` )「年に三度の大商隊到来
大市
なぜ、兄者が知らないか小一時間問いたい」
( ´_ゝ`)「ふむ。実質、二言で説明されたが問題ない」
モグモグ(´<_` )
.
69
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:01:49 ID:J2WA92hQ0
('A`)「いや、一番最後も聞いてやれよ。何で知らないんだよ、お前」
(;´_ゝ`)て「いや、街全体が死ぬほど賑やかなのは知ってたよ。知ってたよ、一応。
でもさー。何か母者がやたらと天気見ろ星見ろってうるさいから俺も忙しくて」
パンにかじりつきながら、兄者は答える。
まだ熱々のパンはもっちりとした小麦の味がして、ほんのりと甘い。
先程までかなり苛立った顔をしていた弟者も、「うまいな」と小さくつぶやいた後はおとなしく食事に精を出している。
( ^ω^)「天気?」
(*´_ゝ`)「聞いて驚け、俺の特技の一つだ!
この兄者。星読みと、天気の予測については外したことないもんねー」
(´<_` )「というか、それしか働こうとしない件について。
こっちは酔っぱらいだ、警護だ、タチの悪い商人だので引っ張り回されているというのに」
(;´_ゝ`)て
弟者は街の治安を担当する組織、自警団の一員としてあちらこちらに引っ張り出されている。
一方の兄者はといえば、母者が押し付けてくる天候やら、星の動きやら、風向きやらを見るだけという、気楽な生活である。
( ^ω^)「アニジャは働いてないのかお?」
.
70
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:02:57 ID:J2WA92hQ0
( ;´_ゝ`)「えっとぉー、今は大きな商隊が来ているからなー。年に数度のお祭り騒ぎってやつ?
人もモノもいっぱい到着していて、母者や姉者の商売もウハウハってやつだ」
('A`)「それは、ついさっき弟者が(´<_` )「虫に呼ばれる名は無い」
(;'A`)「本当にお前、俺らに辛辣すぎない?!」
(´<_` )「……」
('A`) ムシ デスカ
( ^ω^)ノ ムシ ダケニ
人ごみをかき分けながら一同は進む。
途中で、妙な声が上がるのはブーンやドクオの姿を見たものだろう。
彼らのような生き物はめったにいない。そのため、見える人間にはとにかく目立つ。
(゚A゚* )「ニダやん、あそこ! ほら精霊がいはる!」
<ヽ`∀´>「?」
(゚A゚* )「わー、珍し。すごいわー」
.
71
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:03:58 ID:J2WA92hQ0
(´<_` )「ほら兄者。よそ見してないでさっさと進め。
このままでは、ソーサク遺跡につく前に日が暮れてしまうぞ」
(;´_ゝ`)「ちょっとくらいは、いいじゃないか」
( ゚∋゚)「オマチ」
(*´_ゝ`)つ―{}@{}@{}- 「ほれ、香辛料たっぷりクックルの串焼き」
モグモグ(´<_` )「……これもうまいな」
(;^ω^)「ブーンも食べたいおー」
('A`)「いや、オレらは飯食えないし」
ブーンたち精霊に限らず、ほとんど同じ顔である双子の容姿は目立つ。
“流石”の街の実質的な元締めである母者の息子であることから、彼ら双子はある程度は顔も知られている。
< `∀´>「んー?」
<*`∀´>「のーちゃんお手柄ニダ! あそにいるアイツらすっげー金持ちニダ!」
そして何より、彼らの着ている服は一目見てわかるほどに高価である。
そんな二人連れが、精霊を連れて広場を歩いている。それで目立たないはずがなかった。
.
72
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:05:29 ID:J2WA92hQ0
<*ヽ`∀´>ホルホルホル
(゚A゚; )「に、ニダやんあかんよ!」
┌<ヽ`∀´>┘「こうなったら気炎万丈意気揚々、行くニダよ!」
そうであるから、彼ら双子や、妹者は、性質のよからぬ者に目をつけられることが多い。
大抵の者は母者や、彼ら兄妹の長姉である姉者の報復を恐れて近づかないが、そうでないものもたまにはいる。
そして、先程から声を上げているこの男もみるから性質のよくない男の一人であった。
(´<_` )「今、妙な声が聞こえなかったか、兄者?」
食べ終えた串焼きの串を捨てながら声を上げた弟者は、眉を寄せた。
いつもならば、すぐ返ってくるはずの返事がなかなか返ってこない。
ブーンたちとの会話にでも夢中になっているのだろうかと視線を辺りに向けるのだが、兄者の姿は見えない。
(´<_` )「……兄者?」
( ・∀・)「おー! 流石のところのお坊ちゃんじゃないか! 今日も、悪徳商人の取締りか?」
かわりに声をかけてきた男が一人。
黄色い毛並みに黒い瞳をした猫のようなこの男は、細工職人をしているモララーだ。
ちょうど店を出していたところらしく、彼の立つ屋台には彼が作ったと思われる装飾品が所狭しと並べられていた。
.
73
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:06:41 ID:J2WA92hQ0
(´<_` )「モララーか。兄者の姿を見かけなかったか?」
( ・∀・)「んー、気づかなかったけどそこらへんにいるんじゃないかい。砂漠じゃないんだから、すぐに合流できるさ。
せっかくだし、僕んところで買っていくといいんだからな!」
(´<_` )「ふむ。装飾品か……」
モララーの声に、弟者は売り物を眺める。
金や銀で作られたきらびやかな首輪や腕輪。
シャラシャラと音がなるように作られた首飾り。目立つところに置かれた耳飾りには、大きなルビーが嵌めこまれている。
それらの飾りを見るうちに、彼の脳裏に妹との会話がよぎる。
l从・∀・ノ!リ人「ちっちゃい兄者ー。もうすぐ何があるか知ってる?」
l从・∀・ノ!リ人「ヒントは明日なのじゃー」
弟者の膝の上に座り、なにやらご機嫌な様子だった妹者。
あのときの会話は兄者の登場によりうやむやになってしまったが、そういえば明日は……
( ;・∀・)「いつも堅物の坊ちゃんにしては、妙にノリがいいな。
何? 意中の女の子でもできたか?」
(´<_` )「明日は、妹者の誕生日なんだ」
そう。妹者の誕生日である。
ここ最近は多忙だったこともあり、まだ誕生日の贈り物の用意ができていなかったことを弟者は思い出す。
.
74
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:10:05 ID:J2WA92hQ0
( ・∀・)「女の子って、妹か。
いつまでも、妹にかまけてないで嫁さんの一人や二人や三人でも作ったらどうなんだ。
その点、お前さんの兄貴は優秀だぞ〜。この前も、踊り子さんに声かけて見事に振られてたからな」
(´<_` )「人妻や婚礼の決まった令嬢に手を出した挙句、殺されかけたお前にだけは言われたくない。
……というか、そんなことをしていたのか兄者は」
( ・∀・)「女っていうのは、障害がある方が燃えていいんだよね。
ちなみに、お前の兄貴。お前ん所の御用商人の子を、食事に誘って断られてたよ」
( ・∀・)「ははは」(´<_` )
ひと通り心あたたまるようで全く温まらない会話を交わした後で、モララーはうんと頷いた。
モララーは屋台に並べられた商品のうち比較的細工がおとなしめで、軽そうな商品を手に取り、眉をしかめる。
( -∀・)「んー。でも、妹かー。あの子はちびっちゃいからうちの売り物だとちょっとなぁ。
どうせなら、もっとかわいらしいもんのほうがいいと思うからな」
(´<_` )「もっとかわいらしいものか?」
弟者はモララーの言葉に商品を見つめなおす。
確かに彼の言うとおり、妹者にはこういった派手なものよりも、かわいらしいもののほうがいいのかもしれない。
かわいらしいものといったら何だろう?
異国の鳥、猫。リボン。装飾の施された綺麗な布――そこまで考えて、弟者はふと思い出す。
l从・∀・*ノ!リ人「お花が咲いてるのじゃー」
そうだ。花はどうだろうか。
これだけ店がやっているのだから、屋敷にはない異国の花も売られているに違いない。
.
75
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:12:58 ID:J2WA92hQ0
(´<_` )「帰りにでも、買うか」
(*・∀・)「で、妹はそれでいいとして。なんか買って行かないの?
この腕輪なんて会心の出来で、坊ちゃんの姉上にも気に入ってもらえると」
(´<_`;)「確かに姉者なら……」
(*゚∀゚)「兄ちゃんジャマー!!!」
(´<_` )*゚∀゚) て ドンッ
モララーによる呼び込みに引きこまれていた弟者は、割り込んできた少年の姿に我に返った。
擦り切れた服を着た、裸足の少年。赤い毛並みの体からは、細長い猫のような尾が緊張したように上を向いている。
その少年の腕を――、弟者は渾身の力を込めて掴んだ。
(#゚∀゚)「いってー、なにやってんだよこのオッサン!」
(´<_` )「ついてきてもらおうか」
毛並みを逆立てて荒っぽい声を上げる少年に、弟者は腕を掴んだままで答える。
少年は腕をふり「離せ」と意思表示してきたが、弟者はそれを無視する。
(#゚∀゚)「はなせー、はなせよぉー!!!」
( ;・∀・)「おい、お坊ちゃん。急にどうした」
慌てて仲裁に入ろうとするモララーに、弟者は屋台の商品に顎を向け首を動かす。
その行動にモララーは、きょとんとした表情になる。
.
76
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:14:17 ID:J2WA92hQ0
(´<_` )「そこの首飾りの数を数えてみろ」
( ・∀・)て Σ(;゚∀゚)⊂(´<_` )
弟者がそう口で指摘すると、モララーはようやくしまったという表情を見せる。
普段は職人をしているモララーは、商売だけで暮らしている者と比べるとどうにもこういう状況にはうとい。
首飾りの数をあわてて数えはじめ、その数が二つか三つほど足りなくなっていることに、モララーはようやく気づいた。
(; -∀-)「あー、助かったわ。
休みみたいなのにわざわざ仕事をしてくださって、ありがたいばかりで」
(;゚∀゚)「うぅ」
ガジッ(#゚皿⊂(´<_` )
弟者の腕から離れようと、歯を剥きだして弟者に向かう少年。
弟者はそれを特にかまえることもなく避けると、少年の腕をひねりあっさりとその小柄な体を拘束する。
(*;∀;)「ううっ」
(´<_` )「こっちはこれが本業だからな。泣き落としなんてしようとするだけ無駄だ」
表情を歪め涙を流し出しはじめた少年の拘束されていない方の手を、弟者は強引に開かせる。
そこにはモララーが丹誠込めて作った首飾りが三つ。汗でベタベタになった状態で握られていた。
.
77
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:16:52 ID:J2WA92hQ0
(*;∀;)「おれはヤダって言ったのに、親方が……」
(#・∀・)「三つもガメておいて、よく言えるな」
少年は泣きながら何事か言っているが、弟者は拘束の手を緩めないまま周囲を見回す。
白や赤など色とりどりの衣装で歩いている人々の中から、黒色で全身を固めた男を見つけ、声をあげる。
(´<_` )「おい、そこの。……なんだ、モナーさんか」
( ´∀`)「はいはい、モナーさんですモナ」
黒い飾り布に、黒い装束。この街において全身を覆う黒の装束は、自警団の一員であることを表す。
弟者が呼び止めたこの男も自警団員であると同時に、弟者の仕事仲間であった。
( ´∀`)「今日は休みだって言うのに、どうしたモナ?」
(´<_` )「こそ泥の現行犯。後は頼んだ」
( ´∀`)ノ「あー、任せるモナ」
少年とモララーの相手をモナーに任せ、弟者はそのまま歩き出す。
モララーの「ありがとなー」の声に軽く手を上げて返すと、あたりを見回し兄者の姿を探す。
(#゚∀゚)「はーなーせー、クソたぬきー!」
( #´∀`)「ぶ ち こ ろ さ れ た い か、小 僧」
あの少年のようなこそ泥や、荒っぽい男たちが増えるのも、大商隊が訪れるこの時期ならではのことである。
少年の処遇については、モナーや他の団員たちかどうにかしてくれることだろう。
弟者は小さくため息をつくと、モララーに軽く手を振り別れを告げた。
78
:
77訂正
:2013/01/01(火) 17:17:45 ID:J2WA92hQ0
(*;∀;)「おれはヤダって言ったのに、親方が……」
(#・∀・)「三つもガメておいて、よく言えるな」
少年は泣きながら何事か言っているが、弟者は拘束の手を緩めないまま周囲を見回す。
白や赤など色とりどりの衣装で歩いている人々の中から、黒色で全身を固めた男を見つけ、声をあげる。
(´<_` )「おい、そこの。……なんだ、モナーさんか」
( ´∀`)「はいはい、モナーさんですモナ」
黒い飾り布に、黒い装束。この街において全身を覆う黒の装束は、自警団の一員であることを表す。
弟者が呼び止めたこの男も自警団員であると同時に、弟者の仕事仲間であった。
( ´∀`)「今日は休みだって言うのに、どうしたモナ?」
(´<_` )「こそ泥の現行犯。後は頼んだ」
( ´∀`)ノ「あー、任せるモナ」
少年とモララーの相手をモナーに任せ、弟者はそのまま歩き出す。
モララーの「ありがとなー」の声に軽く手を上げて返すと、あたりを見回し兄者の姿を探す。
(#゚∀゚)「はーなーせー、クソたぬきー!」
( #´∀`)「ぶ ち こ ろ さ れ た い か、小 僧」
あの少年のようなこそ泥や、荒っぽい男たちが増えるのも、大商隊が訪れるこの時期ならではのことである。
少年の処遇については、モナーや他の団員たちかどうにかしてくれることだろう。
79
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:18:45 ID:J2WA92hQ0
.
.
.
(´<_`; )「それにしても、兄者はどこだ」
装飾品、壺、水、野菜、家畜、煙草、香……立ち並ぶ屋台の中に兄者の姿は見えない。
弟者の脳裏に一瞬、このまま帰ってしまおうかという考えが浮かんだが、そういうわけにはいかない。
人ごみをすり抜け、兄者の声が――この際、ブーンやドクオでも構わない――聞こえないか、弟者は懸命に耳を澄ます。
(´・ω・`)「精霊様だ。うわー、ありがたいなぁ」
_
( ゚∀゚)「精霊って、ホントかよ。なーなー、何処にいるんだよ!」
(´・ω・`)「ほらあそこ、白いのと紫の」
_
(;゚∀゚)「えー、そんなのみえねーし」
从'ー'从「なんでもー、精霊様がーいるんだってぇー」
('、`*川「ご利益、あるかもっ!」
そして、弟者の耳は――精霊について噂する声を捉えた。
慌てて声の主を確認すると、その視線をたどる。
精霊はあまり人前には姿を現さない。そんな精霊が二匹、しかも白いのと紫のといえば……
.
80
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:19:44 ID:J2WA92hQ0
( <_ ;)「――見つけた!」
広場の中に立てられた、紫と黒を基調とした色の小さなテント。
その前に並べられた長机を眺める、見覚えのある薄水色の獣の耳。
その周りをブンブンと飛び回る白と紫の影も見えるが。弟者はそれについてはあえて無視をすることにした。
(*´_ゝ`)「おお、弟者じゃないか。もうラクダは手に入れたのか?」
(´<_` )「それよりも前に、兄者が行方不明になった件。
……ん? それは」
弟者は兄者が目にしている長机の上に目を移す。
赤や黒で模様が織り込まれた敷き布の上に並べられているそれは、黒く光沢を放つ石板たちだ。
その石板を見た瞬間。弟者の顔が、苦虫を一度に十匹ほど噛んだようなる。
机の上に並べられているのは――魔力と呪文を刻み込んだ魔力石板。
比較的新しいものであるようだが、模造品ではなくちゃんと魔力を吹きこまれた本物であるようだ。
それは、兄者が興味津々で眺めていることからもわかる。
ヾ(*^ω^)ノシ「オトジャー! オトジャだおー!」
(*´_ゝ`)「見てみろ、弟者! 魔法石板2枚組、ついさっき買ったんだがこれすごいぞ。
旅に便利な魔法を刻んであるので、どんな状況でも安心です――だってさ!」
(´<_`#)「買 っ た の か 。いますぐ返品しようか、兄者。
そもそも魔法石板の素材を取りに行くといったのは兄者だぞ。ここで石板を買ってどうする」
.
81
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:20:43 ID:J2WA92hQ0
(*^ω^)ノ「オトジャも一緒に見るおー」
(;´_ゝ`)「弟者は相変わらずそういうのが嫌いだなぁ。
そもそも石板の材料と、魔法石板じゃ別物なんですー。ほらー、いいだろー、文明の利器ー。
水袋を持ち歩かなくてもコップ一杯の水が出せるし、マッチ一本分の火力で火おこし楽々なのだが」
(;'A`)「コップ一杯にマッチ一本とか……、威力しょっぺぇ」
弟者の形相に冷や汗を書きながら、それでも理解を得ようとする兄者。
しかし、弟者の表情は相変わらずの不機嫌そのもので、兄者の言葉を聞く気配すら見えない。
( ´ω`)「また、オトジャに無視されたお」
('A`)ドンマイ
(´<_`#)「……兄者」
( ;´_ゝ`)「えーと、俺は旅をするには準備が必要であると思うんだけどなぁ……」
弟者は弱々しく声を上げる兄者を見ると、笑みを浮かべ言った。
(´<_` )「商品は返すから、金を返してもらえるか」
ジタ∩( ;_ゝ;)⊃バタ「やだやだ返品やだー」
.
82
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:21:34 ID:J2WA92hQ0
(´<_` )「返品が無理ならば、この石板を引き取ってくれ」
大袈裟に手足を振り抵抗の姿勢を見せる兄者に、弟者はさわやかな笑顔のままで追い打ちをかける。
そして、兄者の手から石板を奪い去ると、それをそのままテントの前に立つ店主へと突きつける。
弟の暴挙に、兄者は天を仰ぎ号泣を始めた。
( ;_ゝ;)「弟者の悪鬼――!!!」
アベシ(゚く_゚(#⊂(´<_`#)ウルサイ
(;'A`)「本日、三度目ー」
(;^ω^)「痛そうだお……」
容赦なく、自分よりも少し小さな兄の姿を殴る弟一人。
ドクオやブーンにとってこの光景はそろそろ見慣れはじめたものになってきていた。
ある意味では平和なこの光景を、――遮る声があった。
川 ゚ -゚)「こっちも商売なんだから、《そんなことされては困る》」
( <_ ∩)「――っ」
凛とした女の声――、その言葉が響くのとほぼ同時に弟者は自分の耳をふさいだ。
言葉の中に紛れ込んだ音の羅列に舌打ちしながら、弟者は声の主の姿を確認する。
.
83
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:23:01 ID:J2WA92hQ0
川 ゚ -゚)「ふむ。精霊を連れているだけあって、やはり鋭いな」
そう言ったのは、先程からずっと兄弟のやり取りを見せつけられていた店主だった。
テントの前に立った彼女は、濃紺色のヴェールを被り、顔の半ばを隠している。
薄布の向こうに隠された肌は透けるように白く、布の合間からかろうじて見える瞳は漆黒の空の色。
素顔を隠されていても、その美しさが容易に想像できる女だった。
しかし、彼女の美しさも今の弟者の目には映らない。
( ;´_ゝ`)「おい、弟者。大丈夫か?」
(´<_`∩)「……暗示とは御大層な」
先ほどの言葉に紛れていた音。それは魔法だった。
弟者は魔法を使う際に行使される力、魔力を――奇妙な音と、体を走る妙な感覚として感じとる。
そして、それが聞こえたということは、この女は魔法使いだということだ。
川 ゚ ー゚)「なに。挨拶のようなものだよ。そんなに大したものじゃなかったし、実害もないだろう?
商売には熱心なほうではないが、こうやって邪魔ばかりされるのも面白くはないのでね」
( ^ω^)「確かにつまらないのはよくないお」
(;'A`)ノシ「おいブーン。今はちょっと黙っておけ」
彼女の首元や手首には、古い宝石の嵌めこまれた銀の装飾品。
注意してみればその飾り一つ一つにも魔力が込められているのがわかる。
そして、それをちらつかせながら、女は口元だけを微かにあげた。
弟者はそれを「これ以上こちらの機嫌を損ねるようならば、実力行使をいとわない」という意味だと判断する。
.
84
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:23:55 ID:J2WA92hQ0
(´<_` )「……」
川 ゚ -゚)「今度はだんまりか。まあ、いいだろう。
先ほどから君たちが騒いでいる件だが、断らせてもらう。
私はそこの彼と金銭でもって正式に契約を交わした。それについて、君にあれこれ言われる覚えはない」
弟者と店主との間で、空気が凍っていく。
一触即発の雰囲気は、本日二度目。あの時と同じように、弟者の顔から表情が失せていくのを兄者は見た。
ヴェールを被った女と身なりのいい男の険悪な空気に、通りを歩く通行人が一人、二人と足を止めていく。
( ;´_ゝ`)つ⊆#⊇「弟者弟者! ついさっき買ったなんか珍しい菓子だぞぉー!!」
(;'A`)「ちょ、いくらなんでもそれでどうにかするのは無理だろ!
お前も羽むしられるぞ、羽! いや、羽はないか。何か羽的なものがむしられるぞ」
(´<_` )「……」
コレデモクラエー( ´_ゝ`)つ⊆#⊇(´<_`; )
そして、そんな険悪な空気の中に突撃する男が一人。
兄者は懐から取り出した菓子を弟者の口に突っ込むと、弟に向けて一喝した。
∩(#´_ゝ`)∩「お前ばっかり美人のおねーさんと話してずるいぞ!」
.
85
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:25:27 ID:0B4fuHtA0
こういう兄弟良いな
86
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:26:07 ID:J2WA92hQ0
(;'A`)て「ちょ、お前この状況を止めるんじゃないのかよ!」
あんまりといえばあんまりな一喝に、思わずツッコミを入れるドクオ。
一方、一喝を入れられた当人の弟者は、口に入れられた菓子を眺め、
⊆#⊇(´<_` )モグ
(;゚A゚)「って、弟者が食ったー! なんで?!」
( ´_ゝ`)b「弟者くんはあれでいて食べ物が大好きなのだよ」
(´<_`; )「……マズイんだが」
( ´_ゝ`)「いや、外国のって大体そんな感じの味じゃん。慣れだよ、慣れ」
とりあえず、おとなしく菓子を食べ始めた弟者にドクオと兄者はほっとする。
もうひとりの方はどうだろうと、兄者とドクオが店主の様子を見ると、
( ^ω^)「ブーンはドクオに言われた通り、ちゃんと黙っているお」
川 ゚ -゚)「別にしゃべってもいいんだぞ」
(*^ω^)「ほんと?」
川*゚ -゚) フフフ (^ω^*)
こちらはこちらでなぜか落ち着いていた。
.
87
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:28:45 ID:J2WA92hQ0
川 ゚ -゚)「お前の相方は、しょっぱいなんて言っていたが、私の石板は本当はスゴイんだぞー。
コップ一杯とか、マッチ一本とか言っていたが、あれは魔力を込めない場合だけだからな。
それなりの術者が魔力を込めて使えば、本当にもうすごいんだからなー」
( ^ω^)「ほうほう。そうですかおー」
川;゚ -゚)「私はもう頑張って魔力を込めて作っているというのに、最近の客はみんなひどいんだ。
自分に魔法の素養が無いのを棚に上げて、しょぼいだの高いだのと。
もう人間というやつはどうしてああなんだ。そこの男なんて金はいらないから、石板を回収しろときた」
( ^ω^)「そうなんですかおー」
店主とブーンはいつの間にかいつの間にか意気投合していた。
というか、店主の愚痴を一方的にブーンが聞かされている。
突然ブーンのいる虚空に向けて話し始めた店主の姿に、足を止めていた通行人の大半がそそくさと逃げ出す。
ブーンの見えない人間にとって、店主の姿は完全に頭が大変なことになっている女。逃げるのも仕方がないことだろう。
(´<_` )「……だから問題なんだ」
(;´_ゝ`)「そんなに不味かった、あの菓子?」
モグモグ(´<_` )「いや、これはこれでアリのような気がしてきた」
('A`)「そんなにうまいもんかね、食べ物ってやつは」
弟者はおとなしく菓子を食べ続けている。
どうやら、弟者と魔法使いの店主が互いに争うという最悪の状況はなんとか回避されたようである。
.
88
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:30:23 ID:J2WA92hQ0
川 ゚ -゚)「まあ何が言いたいのかというと、お前も兄なら弟のワガママくらい聞いてやれということだ。
お前はどうやら魔法が嫌いなようだが、それと弟は関係ないことだろう?」
散々ブーンに向けて愚痴をこぼした後に、店主は言った。
その様子は理知的で、先程まで愚痴をこぼしていたようにはとても見えない。
(´<_` )「残念ながら、弟は俺だ。
さっきからワガママいっているのが俺の兄だ」
川 ゚ ー゚)「そうか。私には、お前のほうが年上に見えたんだがな」
間違いを指摘されながらも、あくまでも余裕なその声に、弟者は一瞬言葉を失う。
が、それに猛烈に反応した人物が一人いた。
\(#´_ゝ`)/「どうみても俺が兄だろうに。名前にもちゃんと“兄”って入ってるぞ。
ちょっとばかり、弟者のほうが背が高いからって、高いからって!!!」
('A`)「敗北者乙」
ヾ(♯`_ゝ´)ノ ムキー
(♯`_ゝ´)「俺だってあと二年もたてば身長だって伸びるもん!」
(;'A`)「もんとか言うな、気持ち悪い」
┌(♯`_ゝ´)┘「気持ち悪いとはなんだー!!」
手をバタバタさせて、抗議の意志をしめす馬鹿が一人。
その様子はとてもじゃないが、弟者よりも年長者である様には見えなかった。
.
89
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:31:24 ID:J2WA92hQ0
('A`)「そもそも、どう考えてもお前より弟のほうがしっかりしているだろ」
( ´ω`)キレトトキハ オトジャノホウガ コワインデスケドネー
ドクオのさらなる追い打ちに、兄者はとうとう泣きはじめる。
その仕種はあまりにも大袈裟で、お世辞にも本気で泣いているとはとても思えないものだ。
( ;_ゝ;)「お前らは、俺の敵か? 敵なのか?」
( ^ω^)「でも、ブーンはそんなアニジャが好きですお」
( ´_ゝ`)「だが断るっ!」
(;^ω^)「ひどいおー!」
はしゃぐ兄者とブーンの二人。
そんな二人の姿を弟者がぼんやりと眺めていることに気づき、ドクオは声をかける。
(´<_` )「……」
('A`)「どした?」
(´<_` )「羽虫が人間に話しかけるな」
(;'A`)て「辛辣っ!」
川 ゚ -゚)「やれやれ。よくもまあ、飽きないものだな。
いつまでもここで揉められては困るし、一つ提案がしたいのだが……」
一同の様子を呆れ半分で見守っていた店主は、手首にはめた腕輪に手をやるとそっと口を開いた――
.
90
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:32:43 ID:J2WA92hQ0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
(*´_ゝ`)ノ[]「ふふーん。やったぞ、やった。
やっぱ、魔法石板はいいよな。文明の利器って本当に素晴らしい〜」
店主とのやり取りの末、魔法石版二枚組は、無事兄者の手に渡ることになった。
兄者は大喜びで石板を抱えて跳びまわるが、その喜びはそう長くは続かなかった。
[]⊂(´<_` )「ほい、没収」
( ;゚_ゝ゚)て「弟者さん、それはあんまりじゃありませんかー!!
どうか、ご慈悲をー。このお兄ちゃんにご慈悲をぉぉ!!!」
[]⊂(´<_` )「慈悲なら既に十分すぎるほど与えている件について」
('A`)「もうあきらめろよ」
( ^ω^)「ですおねー」
兄者が手にしていた石板はあっさりと弟者の手に渡り、彼が肩から下げていた鞄の中に放り込まれる。
いたるところに装飾の施された豪奢な鞄は、それなりの大きさのある石板二枚でもしっかりと収納する。
そして、鞄は弟者が手にしたまま。兄者に渡される気配は微塵もない。
(;´_ゝ`)「ぐぬぬぬ。まさか強制的に没収してくるとは……」
.
91
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:34:26 ID:J2WA92hQ0
(´<_` )「はしゃぐのはいいが、そろそろ到着するぞ」
人ごみをかき分けて、広場を進んだ一番奥。
街を取り囲む城壁に一番近い場所にある建物へ視線を向けて、弟者は言った。
日干し煉瓦を石灰で固めたこの地方特有の建物。そこは、兄者も見覚えがある場所だった。
(*´_ゝ`)「おお、ツン者とデレ者の店ではないか!」
(´<_` )「そう。兄者が食事に誘って見事に断られた、な」
(;´_ゝ`)て「え? 何で知ってるの?!」
その建物は“流石”の街で最も信用のある、ツン=デレ商会のものだ。
ツン=デレ商会は流石邸の御用商人をつとめており、現在の店主である姉妹は兄弟にとって古くからの知り合いであった。
春から店主が代替わりしその規模は縮小したものの、流石の街では知らないものはない店である。
ξ゚⊿゚)ξ「――あら、どうしたの?」
弟者が入り口をくぐると声をかけてきたのは、姉妹の姉であるツンであった。
透けるような白い肌に、絹のような金糸の髪。
西の生まれの者の特徴を持ったこの娘は、兄弟の姿を見ると営業用の笑みを消し、打ち解けた様子で話しかけてきた。
姉妹の中でもツンは先代である父に連れられて幼い頃から流石邸に出入りしていたため、双子たちとは特に親しい。
そのため彼女が兄弟に対し、敬語やかしこまった態度をとることは稀だ。
.
92
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:36:48 ID:J2WA92hQ0
(´<_` )「ラクダを二頭、それから水を丸一日分用立ててくれないか」
ξ-⊿-)ξ「アンタの家なら、わざわざ金なんて出さなくてもいくらでもあるでしょうか」
(´<_` )「家にあるのは母者のものだからな。兄者の道楽で引っ張り出すわけにはいかんさ」
弟者とツンは手慣れた調子で、交渉を進めていく。
そうなると自然と兄者やブーンたち一同は、次第にすることがなくなってくる。
はじめは床に敷いていある絨毯や、壁に飾ってある張り紙を見ていたが、やがてはそれにも飽きた様だった。
('A`)「お前ん家、金持ちなのか?」
(;´_ゝ`)「それは否定できんが。ぶっちゃけ自由に大金を使えるのは、母者と姉者だけな件について」
( ^ω^)「そういえばハハジャってアニジャのカーチャンかお?」
( ´_ゝ`)「おお、そうだ。母者は強くて怖くておっかないんだ。
ちなみに、姉者っていうのは俺たちの姉ちゃん。あと、うちには父者っていうトーチャンが……」
('A`)「妹ちゃんの名前は妹者だったよな。安直というかなんというか……」
ヽ(#´_ゝ`)ノ「妹者っていったら最高に可愛い名前だろうが!」
とうとう雑談を始めだした兄者に対して、ツンはぎょっとした表情になる。
精霊を見ることの出来ない彼女は交渉を中断し、やや怯えたような目で弟者の姿を見上げる。
ξ;゚⊿゚)ξ「……兄者は、何と話してるの?」
(´<_` )「いつもの病気だ。気にするな」
ξ゚⊿゚)ξ「なるほど。いつもの、アレね」
(;´_ゝ`)「ちょ、勝手に人を病人扱いするなし!」
.
93
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:38:02 ID:J2WA92hQ0
弟者とツンはそれから少し会話をした後、無事に交渉を成立させた。
ツンは手元の帳面に書き込みをしながら、兄者たち一同に向けて裏口を指さす。
ξ゚⊿゚)ξ「アンタたちがラクダを選んでる間、こっちは荷物の方の準備をしておくわ」
(*´_ゝ`)ノ「頼むぞ、ツン者」
⊂二( ^ω^)二⊃「ブーンも行くおー」
('A`)「そっちは何があるんだ」
そうツンが言うやいなや、兄者と他二匹の姿はもう裏口に向け走り出している。
一人置いていかれた形になった弟者は、ツンに向けて「すまないな」と、小さく苦笑を浮かべる。
ξ゚⊿゚)ξ「あっちにはデレがいるから、兄者があんまり好き放題するようなら頼むわね」
好き勝手に動きまわる兄者をどうにかしようとするためには、下手に止めるよりも弟者に任せたほうがいい。
長年の付き合いからツンがそう判断して告げると、弟者は慣れきった様子で片手を振って答えた。
が、手振りで答えを返す時の弟者は大抵「めんどくさい」と思っている――と、いうことがわかるため、ツンの表情は渋くなっていく。
ξ#゚⊿゚)ξ「く れ ぐ れ も 頼 む わ ね」
(´<_` )「そう怒るな。……そういえば、ツン。兄者に夕飯を誘われたというのはお前か?」
ξ# ⊿ )ξ「デレよ。だから、好き放題するようならってわざわざアンタに頼んでるのよ。
それに兄者も兄者よ。まったく、こんなうら若い乙女を無視するなんて、ひどいと思わない?
その場に私がいたら、きっちり姉妹二人分の夕飯代を払わせてやったのに」
(´<_`;)「……それはすまんかった」
.
94
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:39:55 ID:J2WA92hQ0
怒り心頭のツンをなだめつつ、弟者は裏口の木戸を開けた。
ツン=デレ商会の裏手は、ラクダやヤギなどの家畜を一時的につないだり、資材の置く場所として使われている。
木々がいたるところに植えられ、家畜の鳴き声くらいしか聞こえないそこは、広場と建物一つ分しか離れていないとは思えない。
(´<_` )「さてと」
弟者は、周囲を見回す。
広場とは違いそれほど広くもなく、警備のために数人がうろついているくらいで人も多くない。
そんな環境なので、兄者の姿はすぐに見つかる。
( ´_ゝ`)「よし、君に決めた!」
ζ(゚ー゚*ζ「この子はスカルチノフっていうんですよ。
頭はちょっとよくないけど、とってもいい子なんですよぉー」
( ^ω^)「オトジャのはどうするんだお?」
('A`)「そこのぶっさいくで貧弱そうなやつにしようぜ」
( ^ω^)「ドクオにそっく('A`)「やっぱなしで」
ラクダがたちが並ぶ金網で作られた柵。その向こうにいるのは見慣れた、兄者と精霊に二匹の姿。
そして、その隣にいるのは先程まで話していたツンとよく似た、金糸の髪をした可愛らしい娘。
ツンとは違い柔らかな表情を浮かべたこの娘は、ツンの妹であるデレだった。
彼女は薄茶色の体毛を持つラクダの体を臆することもなく撫でながら、兄者と話している。
撫でられている方の獣はといえば、起きているのか寝ているのかさっぱりわからない顔つきで独特の声をあげた。
.
95
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:41:58 ID:J2WA92hQ0
(´<_` )「兄者」
( ´_ゝ`)「おお、弟者! 弟者はこいつなー」
弟者が声をかけると、兄者は10頭ばかりいるラクダの中から一頭を指さした。
デレが撫でているラクダよりも少しだけ小さい、やはり起きているのか寝ているのかさっぱりわからない顔つきのラクダである。
ζ(゚ー゚*ζ「この子はバルケンちゃんです。
気性はちょっと荒いけど、とっても賢いんですよー」
(´<_`;)「というか、コイツで本当に大丈夫なのか?」
ラクダはもともと気性の荒い動物だから、おとなしいにこしたことはない。
だが、しかしいくらおとなしいといっても、この半分寝ているようなラクダに乗れるのかと問われれば不安になるのが人情だろう。
ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃんが選んだラクダですから、大丈夫です!」
( ^ω^)「おねーちゃんって誰だお?」
('A`)「んー、受付にいた性格がキツそうな姉ちゃんじゃね?」
ζ(゚、゚;ζ「ん? 今、お姉ちゃんの悪口が聞こえませんでしたか?」
.
96
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:44:05 ID:J2WA92hQ0
(*´_ゝ`)「ふっふっふっ、デレ者。それはイタズラな精霊さんの仕業さ☆」
ζ(゚、゚ ζ「気色悪いです、兄者さん」
真実を口にしたにもかかわらず、デレに真顔で「気色悪いです」と言い切られてしまった兄者の顔に、涙が浮かぶ。
その光景を見て、弟者は「兄者がデレに好き放題するのでは?」と心配していたツンをはじめて気の毒に思った。
姉の心、妹は知らず。姉が心配をしなくとも、妹は兄者を泣かせる程度にはしたたかである。
( ;_ゝ;)「ひどいやい、ひどいやい……」
(ヽ´ω`)「……気色悪い」
('A`)「俺らの存在は、兄者ごと完全に否定されたな」
たった一言で見事に落ち込む兄者他二匹の姿を見て、弟者も流石に気の毒となった。
話を変えようかと辺りを見回し、弟者はラクダについて話をすることにした。
(´<_` )「時に、デレ。
この半分寝かかってるようなのではなくて、もう少ししっかりとしたやつはいないのか」
ζ(^ー^*ζ「いますけど。そういう子はかなりお高いですよー。
兄者さんから聞きましたけど、ちょっとお出かけするだけなんですよねー。
でも、どうせなら西のお貴族様が乗るような子に手を出してみますか? 商会としては大歓迎ですよー」
(´<_` )「……さて、兄者。ラクダは決まったからそろそろ出発しようか」
妹とはしたたかである。
弟者は家で待っている愛らしい妹が、このように成長を遂げないことを祈るのみであった。
.
97
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:45:36 ID:J2WA92hQ0
(*´_ゝ`)「よーし、いい子いい子ー」
(;'A`)て「噛んだ! この動物、絶対オレを食おうとしてる!」
( ^ω^)「ドクオは食べもんじゃないおー。
食べ物っていうのはきっと、もっとおいしいものなんだお」
ラクダを決めたことをデレに告げると、それからほどなくしてツンが荷車を引いて店から現れた。
荷車にはラクダにつけるための鞍や手綱、それから先ほど弟者が注文していた水袋などが乗せられている。
ξ゚⊿゚)ξ「デレ? 兄者に何にもされてない? 大丈夫だった?」
ζ(゚ー゚;ζ「もー、兄者さんは変な人だけど別になんにもないよー」
( ;_ゝ;)「……デレ者」
('A`)「元気だせよ」
( ^ω^)「おっおっ、アニジャはさっきから泣いたり笑ったり楽しそうだお」
デレの何気ない一言に兄者がまた涙を滲ませる。
しかし、二度目となると話を変えるのも少々面倒であるので、弟者はツンとの会話を進めることにした。
.
98
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:47:13 ID:J2WA92hQ0
(´<_` )「ツンは随分とデレに甘いんだな」
ξ;゚⊿゚)ξて「……アンタがそれをいや、なんでもない。
えっと、そうね。出発はいつ? すぐに出るなら今から鞍をつけちゃうけど」
(*´_ゝ`)ノ「今すぐで頼むぞ、ツン者!」
(´<_` )「……と、いうことらしい」
言いながら弟者は、ツンの手に慣れた手つきで金貨を2枚落とす。
ツンはその金貨の質をざっと確かめると、何事か考える仕種をした。
ξ-⊿゚)ξ「んー。この額なら食料もつけておくわ。多めにね。
行き先は何処? 裏の方にある出入り口も使っていいわよ」
(´<_` )「それは助かる。ソーサク遺跡まで行くつもりでな」
ξ゚⊿゚)ξ「あら、珍しいわね」
そう言いながらも、ツンはラクダを座らせると、デレとともに手早く鞍をつけ、鞭と荷物の用意をしていく。
この春、父の跡を継いだ娘たちは、そつなく仕事をこなしていく。
そして、それからさほどたたないうちに、ラクダには鞍と水。それに食料品がつまれていた。
ξ゚⊿゚)ξ「はい、できたわよ」
(´<_` )「すまない」
ξ-⊿゚)ξ「こっちも商売なんだから、気にしないで」
.
99
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:48:42 ID:J2WA92hQ0
(;´_ゝ`)「うおっ、早くないかツン者?」
ξ-⊿-)ξ「このくらい当然でしょ」
肩でもこったのか、腰に手をやり首を左右に伸ばしながらツンは言う。
女らしさの欠片もない行動だけれども、彼女は流石家の娘や息子の前では常にこうであった。
ζ(゚ー゚*ζ「ふふ。兄者さんや弟者さんの前だから、お姉ちゃんも見栄はっちゃってるんですよー」
ξ#゚⊿゚)ξ「デレぇー!!」
ζ(゚、゚*ζ「それじゃあ、兄者さんと弟者さんを送ってきますねー」
デレは姉をからかいながら、ラクダの手綱を取ると兄者と弟者にそれぞれ手渡す。
弟者が手綱を引くとつながれたラクダは、面倒そうな表情で首を動かした。
とりあえず、いきなり暴れることは無さそうだと判断すると、弟者はラクダの首を指でかいてやる。
ζ(^ー^*ζ「じゃあ、ついてきてくださいねー」
ξ゚⊿゚)ξ「気をつけて行ってくるのよー」
(*´_ゝ`)「おお、じゃあ行ってくるぞ!」
(´<_` )「世話になった」
( ^ω^)ノシ ('A`)ノ
.
100
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:49:33 ID:J2WA92hQ0
ラクダにつけられた手綱を引き、一同はデレの後に続く。
柵から出てさらに先に進むと、街を取り囲む城壁へと突き当たる。
そのまま、デレの誘導にしたがって少し歩くと、やがて城壁に備え付けられた木製の扉が見え始めた。
从 ゚∀从「おー、弟者。兄貴なんて引き連れてどうした?
今日は、ガキ捕まえたって話だし、休みにしてはやけに働くじゃないか。」
(;^Д^)「は、は、ハインさん。弟者さんたちの周りに何か変、変なのがー!!」
从#゚∀从「あ゙あ゙? 何もいないじゃねーか。
いい加減にしろよ、このへなちょこ野郎が」
( ´ω`)「変なの……」 ('A`)イイカゲン ナレロ
扉といっても、馬車一頭ならばかろうじて通れるという大きさはある。
そして、それを守るようにうろついているのは、そろいの黒衣を纏った自警団たちだ。
弟者は仕事仲間たちの姿に、適当に手をふって返す。
( ´_ゝ`)「弟者、ここは?」
(´<_` )「関係者用出入り口ってやつだ。こいつらは、今日の警備担当」
从 ゚∀从∩「どうもー、ハインちゃんでーす」
( ^Д^)「お、お疲れ様です!」
.
101
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:52:26 ID:J2WA92hQ0
ζ(゚、゚*ζ「ツン=デレ商会ですけど、通らせてもらいますねー」
从 ゚∀从「おう、了解。おい、開けてやれ」
(*^Д^)「――はいっ」
ギギと、軋む音とともにいかにも重そうな造りの扉が開く。
その向こうに見えるのは、まばらに生えた木々と、荒野。そして、砂漠の姿だ。
( *´_ゝ`)「おお、あれだ!」
兄者が、街の西をまっすぐ指さす。
砂の世界のまっただ中。そこには、陽炎に揺れる白い石造りの建物が立っている。
ソーサク遺跡。この街ができるよりはるか昔、魔王時代と呼ばれた時代から立っているとされる建物だ。
( ^ω^)「おー、あれがソーサクかお?」
('A`)「そういやー、知ってるな。行ったことはないが……」
.
102
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:54:00 ID:J2WA92hQ0
( ´_ゝ`)ノ「こうして見ると、案外近いではないか。
荒巻たちもいるし、これは案外早く着くのではないか?」
(´<_` )「見た目通りならばな」
この距離ならば、一刻ほど進めば到着するだろうか。
間に一度か二度ほど休憩をはさめば、体力のない兄者でも大丈夫だろう。
――と、弟者は今後の予定を脳裏で組み立て始めたところで、ふと疑問に思った。
(´<_`;)「というか、荒巻とは誰だ」
(*´_ゝ`)「俺のラクダちゃん。ちなみに、弟者のは中嶋な」
ζ(゚、゚*ζ「もー、スカルチノフちゃんと、バルケンちゃんだって言ったじゃないですか!」
(;´_ゝ`)「……はて。そうだったか?」
ζ(゚、゚#ζ「言いましたよー」
まあ、そのへんはどうでもいいだろうと兄者たちの会話を聞き流し、弟者は視線を再び城壁の外へと向ける。
見渡す限りの砂の海。
正確には、砂の海と言っても砂だけで構成されているというわけではない。
草さえも生えない乾いた土が続いている場所も、岩や石がゴロゴロと転がっているところもある。
.
103
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:54:48 ID:J2WA92hQ0
(;´_ゝ`)「弟者っ、ブーンっ、ドクオっ!
これ以上、デレ者に怒られる前にさっさと行くぞ!!」
ζ(゚、゚#ζ「ちょっとぉー、誰が怒ったって言うんですかぁー」
⊂二( ^ω^)二⊃「じゃあ、僕らもいくおー!」
(;'A`)「ちょっ、オレを置いていくなー」
从 ゚∀从「おーおー、楽しそうじゃねーか」
(;^Д^)「何か、あの変なのついていってるみたいなんですが……」
迂回するルートなんて上等なものはないから、進む道はひたすら真っ直ぐ。
兄者曰く中嶋というらしいそのラクダに乗って、町の外に一歩踏み出す。
木々や草が生える恵みの大地を抜けて、乾いた砂の大地へ。
(´<_` )「さて、行くか」
.
104
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:55:40 ID:J2WA92hQ0
――こうして彼らは、ようやく第一歩を踏み出した。
.
105
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:56:47 ID:J2WA92hQ0
そのに。 旅には準備が必要である
おしまい
.
106
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 17:58:15 ID:J2WA92hQ0
投下ここまで
何事もなければ一月後くらいに第三話を投下したいと思います
支援ありがとうございました
107
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 18:04:16 ID:0B4fuHtA0
乙乙!!
どのキャラも良い味だしてんな
ちらほらと見える複線っぽいのが気になる!
次の投下も楽しみに待ってるからなー!!
108
:
名も無きAAのようです
:2013/01/01(火) 21:38:25 ID:POSoQEOs0
乙!
弟者がほんと二人に辛辣だな
続き待ってるぞ
109
:
名も無きAAのようです
:2013/01/02(水) 08:14:40 ID:sOccfdwc0
おつ
期待してる
110
:
名も無きAAのようです
:2013/01/31(木) 12:56:07 ID:x1TebV5gO
そろそろかな〜
期待支援
111
:
名も無きAAのようです
:2013/02/06(水) 07:47:32 ID:Y.eikCXgO
携帯から失礼します
諸事情により、投下は14日の以降になりそうです
112
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 20:06:20 ID:UWFaEmzk0
"流石"の街の西に広がる砂漠の一角。
石や岩があちらこちらに転がり、乾いた大地はひび割れ、今にも砂丘の一角となろうとしているその場所。
そこに大岩に身を隠すようにして立つ男が一人いた。
つり目でエラの張った顔立ち、猫のような立ち姿。
濃い緑の体に纏うのは、ここよりはるか東の地特有の装束だ。
<ヽ`∀´>「見たぞ見たニダ。あれは絶対、金持ちニダ」
男は眩しさにくらむ目を瞬かせながら、市場で見た光景を思い返す。
――二人連れの男。
一目見ただけでも高価だとわかる、豪奢な刺繍がされた服。キラキラと光を放つ装身具。
そして極めつけは、あの豪快な買い物ぶり。
買っているものが食べ物ばかりなのは気になったが、あれはどう見たって金持ちだ。
まあ、買い物をしている方の服は多少地味だったが、きっといい布地を使っているに違いない。
<ヽ`∀´>「これは用意周到にも先回りしておいて、大正解だったニダ」
腰に下げた武器に手をやりながら、男はついさきほどまでいた街と、西に見える遺跡を交互に見る。
あの金持ちそうな男は「ソーサク遺跡につく前に日が暮れてしまうぞ」と言っていた。
だとしたら、街から西の遺跡へと向かうこの場所で待ち構えていれば、必ず出会えるはず。
まさしく完璧な計算であると、男は一人頷く。
<*`∀´>「ウェー、ハッハッハ!!!!」
――そして、見るからに怪しそうな男は高笑いをした。
.
113
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 20:07:02 ID:UWFaEmzk0
( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )
.
114
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 20:07:44 ID:UWFaEmzk0
そのさん。 弟者は砂塵を駆ける
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115
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 20:08:39 ID:UWFaEmzk0
――その昔、世界は魔王に支配されていたという。
人が生まれ、育ち、死ぬ。それよりもはるかに長い間、魔王による治世は続いた。
人間でたとえるならば十数代、精霊でたとえるならば生まれ一人前に育つまでの年月。
それだけ続いた魔王の統治はある日、唐突に崩れ去る。
勇者の出現。
彼の勇者が何者だったのかは、今となってはわからない。
人間だったのか、精霊だったのか、幻獣だったのか、魔族だったのか。
男か女かもわからないその何者かが、仲間とともに魔王を討ち取ったのが今から数十年前。
そして、魔王を倒した勇者は何処かに消え、世界には平和が戻った。
めでたしめでたし……といいたいところだが、現実は少し違っていた。
魔王によって長らく続いた支配は、世界から流通というものをことごとく奪い去っていた。
勇者の出現を恐れた魔王は人から船を、馬車を、そして、空を飛ぶための発明を次々と滅ぼした。
かつて一つの国によって統治されていたという世界は、魔王により小さな町や都市ごとに分断された。
そして、魔王の死後、人々はようやく流通の自由というものを取り戻した。
そこから先は、流通経路を手に入れたものがのし上がる、大交易時代の始まりだ。
兄者と弟者の暮らす、"流石"の街もそうして作られた街の一つ。
彼ら双子の母、母者=流石は砂漠を通り東と西をつなぐ経路の一つと、流通の要となる街をつくったことでのし上がった。
.
116
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 20:10:39 ID:UWFaEmzk0
ひび割れ、水気のほとんどない大地を双子は進む。
視界に映るものはことごとくが土色の世界。そこでは、たまにお目にかかる植物でさえも茶色に煤けている。
ここはまだかろうじて土も植物もあるが、もう少し先へと進めば、そこに広がるのは本格的な砂丘だ。
(´<_`;)「暑いな」
振り返れば、先程までいた懐かしの街と、池の姿。
こうして一歩踏み出して見れば、砂と岩石しか見えない荒地に立つ“流石”の街は、奇跡のような場所だ。
( ´_ゝ`)「ちぇー、ラクダよりもドラゴンがよかったー。
俺のピンクたん……」
(´<_` )「まだ言っていたのか」
のそりのそりと歩くラクダに揺られながら、兄者は一人つぶやく。
街を出た直後は若干危なげな手つきであったが、今ではすっかり乗りこなしている。
たまにラクダの首筋に手をやり、「荒巻がんばれよー」などと声をかけて機嫌をとっている。
( ^ω^)「アニジャはずっとそうだおー」
(´<_` )「……」
.
117
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 20:12:07 ID:UWFaEmzk0
( ´ω`)「……オトジャー、そろそろブーンともお話してほしいおー」
(´<_` )「……」
風に乗りながら飛び回るブーンの言葉を聞き流しながら、弟者はマントのフードを深く被り直す。
太陽が支配する乾ききったこの大地では、脱ぐよりもゆったりとした衣装を纏ったほうがかえって涼しい。
弟者はフードの下にできた影に人心地つきながら、精霊というものはこの暑さの中でどうして平気なのだろうかと考える。
('A`)「ムダムダ。そこの冷血人間に話しかけるだけ、無駄なこった」
(;^ω^)「えー、でもオトジャだってアニジャと同じなんだから、今は無理でもトモダチになれるはずだおー」
('A`)ノ「はぁ? 兄者とあの弟者のどこが同じだって?
あいつ、ものすげぇ冷血非道極悪暴力鬼畜弟だぜ」
Σ('A`;)⊂(´<_` )ガシッ
∩(´<_` )ポイッ l l l
('A×)アベシ
(;´_ゝ`)「ドクオーー!!!!」(^ω^;)
.
118
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 20:14:08 ID:UWFaEmzk0
(´<_`; )「やはり暑いな……」
(;´_ゝ`)「いや、それよりも他に言うことがあるよな! な!」
ラクダの頭上に着地したドクオを問答無用で投げ飛ばし、弟者はため息を付いた。
市場で時間をとったために、日はかなり高く昇ってしまっている。
このままでは一日で一番暑い時間を砂漠で過ごすことになりそうだと、弟者は半ば憂鬱な気持ちになる。
( ^ω^)「大丈夫かお?」
('A`)「オレ飛ぶの苦手なんだから、ラクダの頭に座ったって別にいいじゃねぇかよ」
(;´_ゝ`)「ほれ、ドクオこっちに来い。荒巻ちゃんの頭なら空いているぞ」
(;'A`)「でもオレがそっちに座ったら、ブーンが」
( ^ω^)「おっおー、ブーンは飛ぶから平気だお!」
弟者が憂鬱になる一方で、同行者たちはのん気なものだった。
先ほど投げ飛ばされたドクオは、ブーンに手を引っ張られてへろへろと飛んでいる。
たしかに本人の申告の通り、ドクオは飛ぶのが得意そうではない。あちこちを楽しそうに飛び回るブーンとは対照的である。
(*^ω^)「ブーンは風に縁があるから、もともと"飛ん"だり"飛ば"したりすることは得意なんだお」
(*´_ゝ`)「へー、じゃあドクオは?」
('A`)「……」
( ´_ゝ`)「ドクオ?」
.
119
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 20:16:29 ID:UWFaEmzk0
(゚A゚)「どうせ俺の領分は影ですよ!
夜とか闇とかみたいにかっこよくないし。そもそも影って、影って!」
(*´_ゝ`)「おお、影とは涼しくなっていいではないか!」
(*'A`)「え? え? なにそれ」
( ^ω^)「ドクオはとっても後ろ向きだからほめられ慣れてないんだおー」
あいも変わらず賑やかな兄者と、精霊二匹。
その光景に兄者だけではなく、自分も馴染みつつあることが、弟者は気に食わない。
(´<_` )「まったく、兄者は」
( ´_ゝ`)「どうした?」
(´<_` )「別に」
ブーンやドクオと話している時の、兄者はたいそう楽しそうである。
別に、ブーンたちに限った話ではない。
物心ついた頃から兄者は、こういった普通の人間には見えない生き物や化物と呼ばれるたぐいの存在が好きだった。
――たとえば、ちょうど目の前を飛ぶ透き通った魚。
これなどいかにも兄者が好きそうではないかと、弟者は思い……
Σ(´<_`;)「――って、何ぃ!!!」
.
120
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 20:18:12 ID:UWFaEmzk0
空飛ぶ透き通った魚。
そんな話は聞いたことがないし、目にしたこともない。
しかし、弟者の目の前を、身をくねらせて泳ぐのは、確かに魚だった。
(*´_ゝ`)б「弟者、見ろ! 何か変なものが!」
(´<_`#)「そんなものなどいない! 魚は飛ばない! 透明じゃない!」
(;´_ゝ`)「えー、やっぱ見えてるじゃないか」
('A`)「あれはお前さんのお仲間か?」
(;^ω^)「んー、多分そうだおー。風の領域のお仲間だと思うお」
兄者は目を輝かせて、なんとか魚を捕まえようと手を伸ばす。
弟者は手にした鞭でそれを妨害しながら、元凶らしい生物の姿を睨みつける。
(´<_`#)
(;'A`)「おい、めっちゃ弟に睨まれてんぞ。ブーン」
( ^ω^)ノシ「わーい、オトジャがこっち見たお!」
(;'A`))「おいやめろ。むしられるか投げられるぞ!」
.
121
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 20:20:09 ID:UWFaEmzk0
(*´_ゝ`)「いやぁ、砂漠なんてめったに出ないが、出かけるというのは楽しいものだな」
(´<_` )「俺は最悪な気分だ」
ラクダは空飛ぶ魚など見えないように、進んでいく。
そもそも見えていないのか。それとも、見えていたとしてもどうでもいいのか。
兄者は何度も振り返っては、魚の姿を名残惜しそうに眺めている。
( ;´_ゝ`)∩「俺の鈴木ダイオードちゃんが……」
(´<_`#)「名前をつけるな。それといくら振り返っても無駄だぞ」
( ^ω^)「鈴木? ダイオード?」
(;'A`)「……ひどすぎんだろ、名前」
ヾ(#´_ゝ`)ノシ「拾ってもいいじゃん、弟者のケチー。
あと、ドクオ! 俺の考えたかっこいい名前がひどいとはこれいかに」
('A`)「え? かっこいいの、あれ?」
兄者が普通ではない生き物や化物が好きなためか。
それとも、兄者が普通ではない生き物や化物に好かれるのか。
兄者とともに行動すると、普通ではめったに見かけることの出来ない生き物に遭遇することが多い。
それが、無害なものであるのならばいいが。
――そうでないことも多いのが、現実である。
.
122
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 20:22:13 ID:UWFaEmzk0
(´<_` )「……ケチで結構」
( ´_ゝ`)「んー、どうした弟者?」
弟者はラクダを走らせる。
先ほどの魚から離れようとするかのように、ラクダに鞭を入れ速度を上げていく。
それを見た兄者が、慌てて弟者を追いかけはじめ、ブーンがそれに続く。
一方、兄者のラクダの上に座っていたドクオは残念なことに地に落ちかけて、あわててはい上がっていた。
(;´_ゝ`)「ちょ、早い、早いって!」
(´<_` )「……」
( ´_ゝ`)「おい、急にすねるなってー」
(´<_` )「すねてない」
(;´_ゝ`)「すねてるじゃないか!」
兄者の大声での問いかけに、弟者は言葉少なにしか応じない。
ただでさえ豊かではない表情を、さらに無表情にして弟者はラクダを走らせる。
余裕がなくなれば無くなるほど弟者が無表情になることを、兄者は長年の経験から知っていた。
そうであるため、兄者はラクダの速度をさらに上げ、なんとか弟者に追いつこうとする。
(;'A`)「おち、おちる……」
⊂二(^ω^;)二⊃「ドクオー!!!」
――そんな兄弟たちに振り回されるはめになった精霊二匹は、とても大変だった。
体の小さいこの二人にとって、ラクダの速さと振動はかなりの脅威である。
.
123
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 20:24:05 ID:UWFaEmzk0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
<*`∀´>「ウェー、ハッハッハ!!!!」
ほぼ同じ時刻、異国の服をまとった男は本日、数度目の高笑いを上げていた。
<ヽ`∀´>「古今東西に伝わるウリの名声を聞くがいい!」
と、男は威勢よく言うが、それに言葉を返す相方の姿はない。
ひび割れた大地に響くのは男一人の声と、ごうごうとなる風の音だけ。
感心してくれる者も、何をバカなことをと言ってくるような相手もいない。
ついでに言えば、待ち構えている獲物が来る気配も一切ない。
<ヽ`∀´>「……まだ、来ないニカ?」
目を焼く日差しの下、男の甲高い声だけがぽつりと響いた。
.
124
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 20:26:27 ID:UWFaEmzk0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
(;´_ゝ`)「弟者、休憩! きゅうけい!」
ラクダによる不毛な追いかけっこがしばらく続いた後、兄者はとうとう降参の声を上げた。
まるきりの素人というわけではないが、兄者は普段ラクダに乗ることはほとんどない。
そんな彼にとって、ラクダをなだめすかしつつ操る事自体が骨である。
首を揺らし、体をおもいっきり上下に動かして走り続けるラクダに乗り続けるのにも限界だった。
(; _ゝ )「ほんと、疲れたもうだめ」
(;'A`)「俺も無理ー。ラクダってなんでこんなに凶暴なん?」
⊂二( ^ω^)二⊃「ドクオはよくがんばったお」
兄者は自分の体の状態を、改めて確認する。
ずっと同じ姿勢でいた時や、久しぶりに運動をした後のように、体がやたらと固くなっている。
ちょっと動かそうとすると鈍く痛むし、ずっとラクダに乗っていた腰や尻など最悪の一言に尽きる。
.
125
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 20:28:48 ID:UWFaEmzk0
(;´_ゝ`)「弟者、(なんだかわからんが)俺が悪かった(ような気がする)から休憩しよう。
そう休憩とは素晴らしいものだ。お前も、ちょっと休めばきっと気分もよくなるぞ」
言いたいことはいろいろあるが、それを何とか抑えこんで兄者は弟者に訴えかける。
声を張り上げた際に、どうも口に砂が思いっきり入ったようで、その言葉が終わった後も兄者は口をもごもごと動かしている。
(;'A`)「もう無理。地面、地面が恋しい。
それが無理ならもう影に引っ込んでやるぅぅううう」
⊂二( ^ω^)二⊃「おー、どこの影に行くんだお?」
('A`)「この際、影ならラクダでも、そこのちゃらんぽらんな兄貴のやつでもなんでもいい」
ヽ(#´_ゝ`)ノ「お前にやる影なんかねーから!」
口々に疲れを訴えかける一同。
ブーンだけ余裕そうだが、他の二名についてはやかましいことこの上ない。
……それが軽口なのは、弟者もわかっている。
それでも、弟者は苛立ちのあまり叫びたくなる気持ちを何とか抑えこむ。
_,
(´<_` )「……」
.
126
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 20:31:13 ID:UWFaEmzk0
ヽ(; ゚_ゝ゚)ノ「やば、落ちる」
⊂二(;^ω^)二⊃「アニジャしっかりするお!!!!」
(;'A`)「ラクダ―、もう俺には君だけしかいないー」
弟者から見た一同は、口やかましくあきらかに元気そうである。
実際のところは、不用意に両手を放した兄者がラクダから落ちそうになっているが、それ以外は概ね平和であった。
弟者は日の高さと、ソーサク遺跡の位置を見やり、しばらく考え込んだ後、小さくため息をつく。
(´<_` )「……少しだけだ」
(*´_ゝ`)「え、本当?! やったー、弟者たん大好きぃ!!」
弟者の出した声は小さかったはずなのに、兄者は即座に反応した。
よほど休憩がしたかったらしく、弟者の声の続きを待つこともなくラクダに足を止めさせる。
ラクダが不機嫌そうにうなり声を上げるが、兄者はもうそんなことはお構いなしである。
(*´_ゝ`)「流石は弟者だ、話がわかる!」
(*'A`)「休憩だと!」
⊂二(*^ω^)二⊃「やったお!」
(´<_` )「そんなに元気があるなら行くぞ」
(; ゚_ゝ゚)「それはらめぇぇ!!!」
あまりにも兄者が浮かれているので、つい投げかけた弟者の言葉は、悲鳴で返された。
.
127
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 20:32:59 ID:UWFaEmzk0
(;´_ゝ`)「ふぃー。
もう体中がバキバキだ。尻とかすげぇいてぇ」
ラクダをその場に座らせて、兄者は固い地面に降り立つ。
久しぶりの地面の感覚に、兄者は危なっかしく体を右や左に揺らす。
しかし、それもすぐに落ち着いたのか、すぐに体を伸ばしたり、腕を回し始めた。
('A`)「今にも落ちそうだったオレと違って、お前は座ってただけだろ」
(;´_ゝ`)「めちゃめちゃ揺れるから! それに座るのにも体力を使う件について」
街を出てから、どれほどの時間がたっているのだろうか。
途中からラクダの速度を上げたから、もうかなり進んでいるに違いない――と、兄者は視線を上げる。
が、自分の予想よりもはるかに進んでいなことに気づき。すぐに考えるのをやめた。
こういうことの采配は自分よりも、弟者のほうが得意である。それに弟者本人もそういった役割を好んでいるのを、兄者は知っていた。
(´<_` )「日頃から鍛えないからだ」
(#´_ゝ`)「そもそも急に中嶋を走らせた弟者が悪いんじゃないか!
叫んだから、口の中とか砂でじゃりじゃりだし」
少し遅れてラクダから降り立った弟に向けて、兄者は文句を言う。
といっても、兄者はそれほど本気では怒ってはいないようで、その表情はそれほど険しくなかった。
..
128
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 20:34:27 ID:UWFaEmzk0
(´<_` )「……水、多めに使ってもいいぞ」
(*´_ゝ`))「水浴びは?」
案の定、兄者はそれほど怒ってはなかったようで、弟者の言葉にすぐ表情を変えた。
先程までとは一転して瞳を輝かせる兄者に、弟者は「ふむ」と考えこむ素振りをみせる。
(´<_` )「その前に、今後の天候」
( ´_ゝ`)ゝ「晴天。砂嵐なし。風、気温ともに良好。夕暮れに雨が降るけど、霧雨。地面には届かずだ」
(;^ω^)「おおお」
('A`)「なんだ、ありゃ」
(*´_ゝ`)b「特技です」
弟者の問いかけに、兄者は言い淀む様子もなく答える。
兄者の星読みと天候の予測は、女傑と呼ばれ恐れ敬われている母者でさえも信頼するシロモノだ。
弟者もこの二つについては、兄の能力を全面的に信用している。
.
129
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 20:36:15 ID:UWFaEmzk0
(´<_` )「じゃあ、許可。ただし、一回だけ」
残りの行程を、弟者は脳内で組み立てていく。
ソーサク遺跡の見え方と、街の遠ざかり具合。それから、まだ砂丘地帯へは足を踏み入れていないこと。
そこから、現在いる地点をざっと把握する。――結果、進み具合はかなり上等。
当初の予定よりも距離は稼げているし、かなり多めに水も積んできている。
ソーサク遺跡では水を補給できるから、無駄遣いする余裕は十分あるだろう。
(´<_` )「この後は、すぐ砂丘地帯に突入する。
もう一度休憩する予定だが、兄者はどうする?」
\(*´_ゝ`)/「もちろん今浴びる――!!!」
兄者は我先にとラクダにくくりつけた荷物へと走りだしていく。
その様子に、ラクダ――兄者命名・荒巻――が、迷惑そうに口をもぐもぐと動かした。
(´<_` )「清々しいまでに本能に忠実だよな、兄者」
( ^ω^)「こういう時に、流石だよなって言うのかお?」
('A`)「いや、言わないだろ」
( ´_ゝ`)b「いや、ここは『流石だよな、兄者』だ」
('A`)「言うんだ……」
.
130
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 20:38:32 ID:UWFaEmzk0
(*´_ゝ`)ノシ「おっとじゃー! いっくぞー!!」
よいしょっと、掛け声をかけると兄者は水袋を傾ける。
普段からあまり体を動かさない兄者にはやはり重いのか、その体がフラフラと左右に揺れている。
(´<_` ;)「大丈夫か、兄者?」
(;´_ゝ`)「ぐ、だいじょーぶ、だいじょーぶ!」
( ^ω^)「ブーンもお手伝いするお!」
ブーンの力をちょっとだけ借りて水袋を抱え直すと、座り込んだ弟者の頭に向けて兄者は水をかけはじめる。
服は脱がずにその上から水をかけるだけという豪快極まりない水浴びだが、彼らにとってそれは一番の楽しみであった。
なにしろこの日差しに暑さ、どれだけ濡らしても水なんてものはすぐ乾く。
それならかえって服を着たままの浴びた方が、この地では涼しくなるのであった。
(*´_ゝ`)「水だばぁー!!!」
(*^ω^)「だばぁー」
(-<_- ;)「ちょっと黙ろうか、兄者」
('∀`)「だばぁー」
('∀`(⊂(-<_-#)ガッ
.
131
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 20:41:20 ID:UWFaEmzk0
('A`(#)「ちょっとしたお茶目心が……。
なんであの弟はこっちを無視するくせに、殴るかなぁ。しかも物理攻撃で」
(;^ω^)アウアウ
水は弟者のマントに染み込み、その下の服を濡らし、肌まで伝わっていく。
適度に水がかかったのを確認すると、兄者は弟の頭をぺちぺちと叩き「ほい、終了」と告げる。
妙なところに水が入り込んだのか、弟者はしばらく薄緑の耳を軽く動かしてから、その細い目を開いた。
(´<_` )「……生きかえるな」
(*´_ゝ`)「母者にバレたら怒られるだけじゃすまないけどな」
(´<_` ;)「確実に殺されるな」
そのまま水袋の口を閉じようとして、兄者はふとその動きを止める。
兄者の表情がイタズラを思いついた子供のように一瞬止まり。その後すぐに、はじけるような笑顔を浮かべる。
(*´_ゝ`)ノ「ブーンもドクオもやるか?」
⊂二(*^ω^)二⊃「おおお、やるお! やるお!」
('A`(#)「え、何? 何を?」
.
132
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 20:43:31 ID:UWFaEmzk0
(*´_ゝ`)「よーし、どっせぇぇい!」
兄者の掛け声とともに、ブーンとドクオたちに向かって水がかけられる。
といっても、体の小さい二人に水袋から直接水をかけるというのは流石に贅沢。
そういうわけなので、兄者は荷袋の中に入っていたポットを使いブーン達に水をかけていた。
(*゚ω゚)「おお!」
(*'A`)「これは……」
(*'∀`)b「最高だな」
(*´_ゝ`)「どっくんキメェ!!!」(^ω^*)
(´<_` )「……」
――兄者のそんな行動を、精霊二匹に辛辣なはずの弟者は止めなかった。
かわりに無言で様子をうかがっていた弟者の表情が、ほんの少しだけ楽しそうに緩む。
が、次の瞬間には自分でも表情の変化に気づいたのか、慌てて首を振ると、顔をしかめた。
(´<_` )「……いくらなんでも兄者に影響されすぎだ」
……そんな弟者の様子に、兄者やブーンやドクオは気づかなかった。
.
133
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 20:45:42 ID:UWFaEmzk0
(*´_ゝ`)ノシ「おーい弟者! 次、俺な!」
(´<_` )「把握した」
( ^ω^)「ブーンは手伝わなくても、大丈夫かお?」
気がすんだのだろう。兄者は手にしたポットを片付けて、弟者に向かって手をふった。
弟者はその声に答えると、未だに体から水を滴らせた状態のままで水袋を抱える。
その動きは先ほどの兄者とは違い、少しもふらつくことがない。
_,
( ^ω^)「むー、オトジャは力持ちだお」
(´<_` )「おい馬鹿、さっさと屈め」
そう言いながら、弟者は水袋の口を緩めるとその体に向けて、水をふりかける。
袋から飛び出した水が、乾いた大地に落ち。土の匂いが辺りに漂う。
(;´_ゝ-)「ちょ、弟者早いって。ってわー、いきなり掛けんなって!!」
(´<_`*)「油断した兄者が悪い」
(;'A`)「うわー、弟者キメェ」
チャッ(#´_>`)つ==|ニニニ二フ('A`;)
.
134
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 20:48:11 ID:UWFaEmzk0
珍しいことにはしゃいだ声を上げた弟者に対し、ドクオは頭に浮かんだ言葉をそのまま告げた。告げてしまった。
悲しいことにドクオは精霊。人間の微妙な感情の動きなんてものはさっぱりわからない。
――そして、案の定こうなった。
(#´_>`)つ==|ニニニ二フ('A`;)
('A`;)「ええと、」
うっかり口から出た言葉とほぼ同時につきつけられたのは、一振りの刀。
片手に水袋を抱えたかなり不安定な体勢だというのに、弟者は目にも止まらぬ速さで動いた。
獅子の尾とも呼ばれる、優美な曲線を描く刀。シャムシールとも呼ばれるそれは今、ドクオの眼前できらめいている。
('∀`;)「お、俺が悪かったので、刀はしまって下さい」
(#´_>`)「今日という今日こそは息の根を止めてやる」
弟者の声に、ドクオは息を呑む。いや、呑んだような気がした。
今のドクオには、つきつけられた刀の刀身に刻み込まれた花や蔦の文様の美しさは何の救いにもならない。
むしろこれほどまでにこった細工がされているというのに、殺傷能力を秘めているという事実のほうが重要であった。
(;^ω^)「あばばばばば」
(#´_ゝ`)ノ「弟者ぁー、水止まってるぞー!! ――って、」
.
135
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 20:52:44 ID:UWFaEmzk0
顔にかかった水をぬぐっていた、兄者の言葉が止まる。
兄者の視線はまず弟者の顔を見て、次にドクオの姿を見て、それから弟者の手にした曲刀へと移った。
考えることしばし、兄者の表情はすぐに真っ青になった。
(; ゚_ゝ゚)て「刀やばい。ダメ絶対ぃぃ!!!」
( ´_>`)「止めるな、兄者」
すがる兄と、すげなく断る弟。
そして、紫の体を青に染めるという器用なまねをしてのける精霊が一匹。
(;^ω^)「おー、どうしてこうなったおー」
('A`;)「……死ぬ。これは死ぬ。
ここ50年間は死ぬなんて一度も感じなかったのに、今日だけで二回とか……」
おろおろとして飛び回るブーンの内心には、もうどういう意味を持つのかわからない感情が動き回っている。
それはドクオとて同じようで、「死ぬ」と口では言いながらもその様子はどこか楽しそうである。
( ´_>`)「大丈夫だ、すぐ終わる」
(; ゚_ゝ゚)「らめぇぇぇぇぇ!!!!」
荒野の中に、兄者の悲痛な叫びだけが響いた――。
.
136
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 20:54:26 ID:UWFaEmzk0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
<;ヽ`∀´>「まだ、こないニダ」
岩の影から顔を出し、男はため息をついた。
何やら「らめぇぇぇ」という叫び声が聞こえた気がするのだが、それらしき人影の姿はなかなか見えない。
気のせいだったのかと悟ると、男は今にも泣きたい気分になった。
<;ヽ`Д´>「いくらウリのことが怖いからって、いくらなんでも遅いニダ」
待ち構える獲物の姿は、未だに見えない。
視界に入るのは、岩と大岩と、何だかわからない骨やらだけ。
高笑いをしようにも、笑えば笑うほど口の中はからからに乾き、喉には砂が張り付いて不快感ばかりが増えていく。
<;ヽ Д >「……あぢぃー。ヤツらはまだニダ?」
ぽたりぽたりとかいた汗は、地面へと落ちることなくすぐに消える。
目を焼く日差しに顔を拭いながら、男は震える手で携行していた水を一口飲む。
ここが彼の故郷ならば水だってもっと豊かだった。飲む水に困ることがあっても、これほどの暑さに身を焼くことはなかった。
それが、どうしてこんなことに――と、男は考える。
<;ヽ Д >「このウリがこんな目にあわされるとは……
なんて無礼千万なやつニダ! ウリ以上の悪党ニダ!」
そして、男はこうなった元凶が待ち構えている獲物であることに気づく。
彼は怒りに体を震わせながら、幾度目になるかわからない声を上げた。
<#ヽ`∀´>「あいつらは何をしてるニダ!!!」
.
137
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 20:56:07 ID:UWFaEmzk0
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――――――――――――
一方、すったもんだの騒ぎの末に水浴びを浴びた“あいつら”は、枯れ草と木の枝を前にして苦心していた。
弟者が手にした火打石を打ち付け、兄者と精霊二匹がそれを覗いているのだが、先ほどから一向に火がつく気配がない。
(´<_` )「荷物の中に茶道具一式を見つけたまではよかったのだがな」
('A`)「それがごらんのありさ(*^ω^)「オトジャオトジャ、茶ってなんだお? オイシイのかお?」
(´<_` )「……」
ドクオに向けて拳を構えかけた弟者の行動は、ブーンの無邪気な問いによって阻止された。
弟者は何事か答えようと口を開きかけるが、何も言わないまますぐに口を閉ざす。
その代わりに火打石を見つめると、彼はため息を付いた。
(´<_` )「ツンは随分と気を使ってくれたようだが、これでは……」
( ´_ゝ`)「ふっふっふっー、火がなかなかつかないんだろ?
このお兄ちゃんには、全てがお見通しだぞ!」
(´<_` )「うるさい」
お見通しもなにも一目瞭然の光景なのだが、兄者は嬉々とした表情でその場をくるくると回る。
ひとしきり回り終えた後で、弟者の傍らに置かれた鞄を兄者は「びしっ」といいながら指さした。
.
138
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 21:00:56 ID:UWFaEmzk0
(*´_ゝ`)b「ここは、マッチ一本分の火力の出番」
どうやら兄者は、街で購入した魔法石板を使えと言いたいらしい。
購入した石板のうち一つの効果は、確かにマッチ一本分の威力の火を出すものであった。
('A`)「なぜ回ったし」
ビシッ\( ´_ゝ`)>「なんかカッコイイような気がして」
\( ^ω^)>「たしかに、かっこいいおね」
(´<_`#)「……」
ブーンと楽しそうにはしゃいでいた兄者は、弟の表情が怒りの色を浮かべているのを見て、動きを止める。
相も変わらずの魔法嫌いと思いつつ、兄者は話題をそらすために辺りを見回す。
( ´_ゝ`)ハッ
兄者の目が、かすかに動いた小さな生き物の姿を捉える。
兄者は腕を伸ばしその生き物を思いっきり掴むと、弟者にその生き物の姿を見せつけた。
.
139
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 21:03:09 ID:UWFaEmzk0
(*´_ゝ`)「弟者、弟者ぁー! 見ろ、火トカゲだ!
こいつさえいれば、火起こしもとっても楽に!」
兄者の手にしたそれは、トカゲによく似た生き物だった。
一見、赤い鱗を持つトカゲなのだが、その体はオレンジ色に揺れる炎のようなモヤを纏っている。
兄者の手にしたその生き物はうぞうぞとうごめくと、弟者に向けて口を開く。
(*´_ゝ`),(・)(・),∠ ノ)ノ,(ノi
てらてらと光る赤い舌が大気にさらされ、そこから赤と橙に輝く炎がごおっと上がる。
弟者はその炎を見つめ、火トカゲに手を伸ばすと――
(´<_`#)ノイ ポイッ
(*^ω^)o彡゜「投げたぁぁぁぁ!!!!」(゚A゚;)
( ;゚_ゝ゚)「俺のシャーミンちゃんがぁぁぁ!!!」
投げ捨てられた火トカゲの姿を見つめ、兄者は悲痛な声をあげた。
一方、投げ捨てられた火トカゲの方は何事もなかったかのように着地すると、近くの岩陰へと逃げこんでいく。
(´<_`#)「変なものを拾うな 名前をつけるな トカゲは火なんて吐かない」
(;´_ゝ`)「ああ、シャーミン松中ぁー」
('A`)「お前、本当に名前のセンスどうかしてるわ。
俺なら“輝ける炎の申し子”とかつけるのに」
(;´_ゝ`)て「ドクオもひどっ!!」
.
140
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 21:05:18 ID:UWFaEmzk0
( ;´_ゝ`)「……やはり、ここは弟者の好きにするべきかと」
(;^ω^)「ですおね」
('A`)「だな」
その後もひとしきり大騒ぎをした末に、一同が出した結論はこれだった。
そもそも火を起こそうとしているのは弟者なのだから邪魔をしてはならないという理論である。
(´<_` )「……まいったな」
(;´_ゝ`)「大丈夫か?」
しかし、火打石を使う作業を再開したのはいいがやはり火はつかない。
弟者はこれ以上ないというほど渋い顔をして、嫌がっているのが明らかにわかる表情で鞄の中のものを取り出した。
(*´_ゝ`)ノ「はいはーい。俺がやる俺がやりたいー!!」
(´<_` )「却下」
(; ´_ゝ`)「弟者のケチー」
弟者は、鞄の中に入っていた石板を取り出す。
二枚の石板は見た目はほぼ同じだが、刻み込まれている文様だけが違う。
その文様に、弟者はじっと目を凝らす。
.
141
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 21:08:09 ID:UWFaEmzk0
黒の盤面。そこに刻まれた文様は、普通ならば読むことが出来ない。
――しかし、精霊を見ることのできる弟者の眼ならば、刻まれた魔力をある程度なら“見る”ことができる。
一方は、炎の術式。もう一方は、水の術式。
弟者は魔法使いではないため、術式の詳細までは読み取れない。
それでも、これが相当な魔力によって組み上げられた複雑な術式であるということはわかる。
紛れもなく本物。しかも、一級品。
――大商隊の到来でいくら賑やかだからとはいえ、たかだか砂漠の街で気軽に売られていいようなものではない。
兄者が惹かれるのも、当然の出来。
やはり、取引など応じず突き返しておくべきだったと、弟者は思う。
川 ゚ -゚)「こっちも商売なんだから、《そんなことされては困る》」
この石板に比べれば、彼女が路上で仕掛けてきた暗示などは完全に子供のお遊びだ。
一体何者だったかはわからないが、出来れば二度と会いたくない相手である。
(-<_- )「……」
弟者は、黒の盤面に刻まれた文様をなぞっていく。
術式自体は既に吹きこまれているので、余計なことをする必要はない。
石板魔法に必要なのは、刻み込まれた魔法を起動するための最期のキーを指でなぞること。
魔力を吹き込む必要はない。
そんなことが必要なのは、大魔法を行使しようとする魔法使いくらいだ。
.
142
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 21:10:07 ID:UWFaEmzk0
( ´_ゝ`)「ちぇー、火をつけたかったなー」
( ^ω^)「また、次があるお」
右から左。
刻み込まれた凹凸を確かめるように。弟者は、静かに指を動かす。
指がたどる軌跡は淡い光を放ち……
(*^ω^)「おお」
……目の間の枯れ草が燃え上がったのは、最後の一角をたどり終えたのと同時だった。
誰一人として指を触れていないというのに、草はその身を捩り枯れ枝へ熱と炎を伝える。
魔法が発動したのは一目瞭然だった。
('A`)「便利なもんだ」
( ´_ゝ`)「だろー?」
.
143
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 21:12:16 ID:UWFaEmzk0
指先ひとつで叶う、お手軽な魔法の行使。
普通ではありえない奇跡の大盤振る舞い。
その威力や能力の違いはあれど、魔法石板は今や大概の商店や家庭で使われている。
西には魔法石板がないと生活が成り立たないという国すらあるらしい。
(´<_` )「どこが……」
奇跡、魔法、神秘、幻想。
そんな類が身近に触れられるところに、それこそ生活の一部として使われている。
(-<_- )「……」
――その事実に弟者は、いつも吐き気を覚える。
.
144
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 21:14:09 ID:UWFaEmzk0
広がる炎は、ポットの水を温めていく。
弟者はその中に茶葉と砂糖を投入し、しばらくしてから茶道具の中にあった香草を揉んで放り込んだ。
( ´_ゝ`)「ほれ、やっぱり便利だろ。文明の利器」
(´<_` )「知るか」
(;´_ゝ`)「ちぇー」
周囲には香草の強い香りと、それに紛れるように茶葉の匂いが漂いはじめる。
しかし、弟者の表情は先程からずっと動かない。
ああこれは完全に機嫌を損ねているなぁと兄者は思うが、あえて口にはしなかった。
( ^ω^)「なにしてるんだお?」
('A`)「また、食い物じゃないか?」
(*^ω^)「やっぱり、食べ物って楽しいもんなんだおね」
弟者の魔法嫌いは、筋金入りである。
それなのに、魔法石板を使うなんてこの弟は……などと兄者は思考する。
俺に任せばいいのにという言葉を、兄者はなんとか口に飲み込んだ。
( ´_ゝ`)「んー、まあ、楽しいっていえば楽しいんじゃないか?」
(*^ω^)「おー、ブーンも飲みたいお!」
(;'A`)「いや、お前は飲めないだろ」
.
145
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 21:16:08 ID:UWFaEmzk0
旦⊂(´<_` )「……できたぞ」
∩(*´_ゝ`)∩「流石だよな、弟者」
弟者が渡してきたカップを受け取り、兄者は口をつける。
まだ熱いその飲み物を口の中で転がすと、砂糖の甘さが口中に広がった。
それから少し遅れて、喉と鼻に抜ける香草独特の刺激。
ああ、これでこそ茶だよなぁと兄者はうんうんと頷く。
( ^ω^)「ブーンも飲みたいお……」
( ´_ゝ`)「じゃあ、飲むか?」
⊂二(*^ω^)二⊃「飲むおー!!!」
(*´_ゝ`)⊃旦「ほれ」
(;^ω^)「……ぉ」
( ´ω`)フルフル
(´<_` )「おい、やめろ」
兄者が差し出したカップに、ブーンは戸惑ったような表情を浮かべた後、首を横に振った。
どうやら香草の臭いが鼻をついたようで、ブーンはしょんぼりとした表情を浮かべる。
そんなブーンの様子に、お茶を沸かした当人は気分を悪くしたようだった。
.
146
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 21:18:10 ID:UWFaEmzk0
(;'A`)「だから、飲めないと言っただろ」
( ´ω`)「うー、でもー」
カラカラに乾いた喉にお茶が落ちると、喉に張り付いていた砂の感触が少しはましになる。
「ああ美味いなぁ」と兄者がつぶやくと、弟者の表情が少し和らぐ。
流石だな、弟者。我が弟ながら単純だ。――と、兄者は心のなかでつぶやく
(´<_` )「おかわりは?」
( ´_ゝ`)「おお。頼む」
カップを弟者に差し出すと、すぐに中身が注がれて返される。
二杯目の味は。刺激も甘みも少し抑え目だ。
再び注がれた茶に兄者は満足したように頷くと、腰に下げた袋から小さな包みを取り出す。
(*´_ゝ`)ノ「ふむ、弟者よ大儀である。
褒美にこの菓子をやろう、西の国産の小麦の焼き菓子だ」
(´<_` )「なんと。兄者もたまにはよいことをするな」
(*´_ゝ`)b「流石だろ?」
(´<_` )「いや、別に」
.
147
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 21:20:22 ID:UWFaEmzk0
ヽ(#´_ゝ`)ノバカー ヤメテ!(^ω^;)
(´<_` )モグ モグ
('A`)「なんて言うか、本当にお前らは楽しそうだな……」
ドクオは兄者の足元の影に腰を下ろすと、ふぅと息をはいて空を見上げる。
青い空に輝く太陽は、一面の砂の大地を照らしている。
光がなければ生まれることが出来ない影。その精霊であるドクオにとって、太陽はまさに恵みの存在である。
('A`)「あー、今日も天気がいいなぁ」
( ´_ゝ`)「ん、どうしたドクオ? 空に何」
か……という言葉は兄者の口からは出て来なかった。
――兄者は空へと視線を向けたきり、そのまま微動だにしようとしない。
(´<_` )「どうした、兄者?」
( ´_ゝ`)「……いや、……月がだな……」
.
148
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 21:22:16 ID:UWFaEmzk0
青空には太陽と、ドクオは見逃していたが白くぼんやりと輝く月の姿がある。
夜に見ることのできる月と違って、今にも消えてしまいそうな弱々しい月。
兄者は白い月の姿をじっと見つめ、それから何かを見つめるように視線を走らせていく。
北。南。それから、西と、東。
( ´_ゝ`)「……」
兄者は何も話さない。
天をぼんやりとながめたまま、動きもしない。
――星を見ているのだ。
と、弟者はしばし考えた末に理解した。
真昼の月と、この時刻ではほとんど見えない星をつなげて兄者は何かを読み取っているのだろう。
( ´_ゝ`)「あー、今日はダメだわこりゃ。
星の動き最悪。今日は波乱の一日になるってさ」
(´<_` ;)「……出かける前に聞きたかったぞ、兄者」
(;´_ゝ`)「やー、昨日の段階ではいろいろあるけど、まあ良い一日でしょうって感じだったんだ。
でも、途中でなんか変なの引っ掛けたらしくてな。星の巡りが変わったっぽい」
兄者が首を傾けながら空の一角を指さす。
それから、その指をすっと西へと動かす。
.
149
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 21:24:09 ID:UWFaEmzk0
( ´_ゝ`)「龍刻星がこっちだろ、それから狐狼星がこっちに動いて……
でもって、月がここだからこれから動きを考えると」
(;^ω^)「ぶ、ブーンにはアニジャが何を言っているのかわからないお」
('A`)「安心しろ。オレもだ」
(´<_` )「要点は?」
弟者の言葉に兄者は腕を組んで、「うーん」と唸る。
それから何やら星らしきものの名前を呟いた後、残りのお茶をごくりと飲んだ。
(;´_ゝ`)「まぁ、……どうにかなるん……じゃないかなぁ……」
(´<_` )「それは兄者の感想だ。要点を頼むと言ったはずだが」
(; ゚_ゝ゚)「は、え?」
兄者は視線を左右に辿らせながら、ポットからお茶を注ぐと口を湿らせる。
それから、「どうしよっかなぁ」とモゴモゴと口を動かす。
これは明らかに何かを隠そうとしている。そう悟った弟者は、兄者を睨みつける。
(;´_ゝ`)「……えーと、とりあえず。今から、すこーしばかり危険かな☆彡」
(´<_` )「荷物をまとめろ。すぐ砂丘に出るぞ」
弟者の決断は素早かった。
.
150
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 21:28:11 ID:UWFaEmzk0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
<;ヽ Д >「あ゛ち゛ぃ゛」
暑さにあえぐ男の鼻が、ふいに妙な臭いを捉えた。
鼻を突く刺激的な臭い――薬によく似たその香りを男は知っていた。
そう。これはこの地方でよく飲まれるお茶に入れる香草の臭いのはずだ。
<;ヽ ∀ >「……?」
それはいい。それはいいのだが、砂丘を目の前にしてのんびりと茶を飲む馬鹿なんているのだろうか。
男は強い視界に目を細め、今にも倒れそうなほどの暑さに顔をしかめながら、岩陰から飛び出す。
ただよう臭いの元を求めて嗅覚をとぎ澄まし――周囲に目を凝らす。
が、見つからない。
しかし、臭いがするのだ。そう遠くないところに原因があるはずだ。
<ヽ`―´>「……」
.
151
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 21:30:19 ID:UWFaEmzk0
鼻を利かせながら、体勢を低くし周囲を見回す。
足音を殺しながら、所々にある大岩を超え進み――
やがて、待ち構えた獲物の姿を、見つけた。
まだ若い男の二人連れ。
片や20代になるかならないかくらいの、背の高い男。
もう片方は、それよりも年下――おそらくは弟であろう、顔のよく似た男。
間違いなく市場で見つけた、二人連れだった。
<*`∀´>「ここであったが百年目。一網打尽にしてやるニダ……」
二人連れの姿を、男は観察する。
乗り物はラクダ。その背には水であろうか、荷が括りつけられている。
兄らしき人物の腰には刀と鞄。弟らしき人物に武装は無し。
そして、二人の手には――カップが1つずつ。
やはりというか、なんというか。あの臭いの主はこの二人連れだったらしい。
<ヽ;゚Д゚>「アイゴー!!! 何、ニダ!
何であのチョパーリたちは茶なんて飲んでるニダァァァ!!!」
獲物たちはすでに火の始末を終え、荷物を片付け始めている。
兄が指示を出し、弟がそれに従う。どうやら、ここから離れようとしているらしい。
<#ヽ゚∀゚>「許さん! この屈辱、決して許さんニダァァァ!」
許せないと男は思う。
男が暑さにあえいでいたというのに、あの獲物たちは呑気に茶を飲んでいた。それが許せない。
――二人連れを獲物と呼び、勝手に待ち伏せしていたのは男なのだが、それに彼は気づかなかった。
152
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 21:33:07 ID:UWFaEmzk0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
(´<_` )「急げ、兄者」
(;´_ゝ`)「……急げって。ちょ、」
(;'A`)て「オレを置いていくんじゃねーぞ」
弟者に急かされて、兄者はラクダ――荒巻にまたがる。
突然のことに状況が理解できない兄者と違い、弟者は警戒するように視線を走らせている。
(´<_` )「ここは視界が悪い。その状況で狙われたらこちらが不利だ」
(;´_ゝ`)「だからって言っても、そんなに急がなくとも」
( ^ω^)「……そうだお。急にどうしちゃったんだお、オトジャ」
慌てて兄者のもとに飛んできたブーンが、首をかしげながら質問する。
が、弟者はそれに視線を向けただけ。かわりに厳しい表情のままラクダに乗り込むと、言った。
(´<_` )「兄者の星読みは、外れたことがない。
……間違いなく、狙われる。それも今すぐに、だ」
.
153
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 21:34:29 ID:UWFaEmzk0
(;゚A゚)「なんだと……」
(;´_ゝ`)「だから、言うのは嫌だったんだ」
(´<_`#)「そういう場合はすぐ言えと、日頃から言っているだろう。手遅れになるぞ!」
そう言って、弟者がラクダ――中嶋を走らせようとした時。
すぐ近くの岩陰から、その男は飛び出して来た。
<ヽ`∀´>「ここで会ったが百年目ニダ!!」
濃い緑の体をした、目のつり上がった男だった。
白と黒。そして、ところどころ赤を配した、東方独特のはっきりとした色使いの長衣。
長衣の下には黒の下袴を履き、素足の上に先の尖った靴を履いている。
――そして、その手には銀の光を放つ無骨な刀。
('A`)「何かスゴイのがいるんだが……」
(´<_` )「……噂をすれば、もうお出ましか」
兄者と弟者の前に現れた男は、耳障りな甲高い声で高らかに笑い始めた。
.
154
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 21:36:22 ID:UWFaEmzk0
<*`∀´>「ウェーハッハッハ!
この極悪非道なニダー様から逃れたければ、有り金と水と、その乗り物をおいていくニダ!」
(*´_ゝ`)σ「弟者見ろ。盗賊だぞ盗賊!」
( ^ω^)「おー! すっごい服だお」
(´<_` )「……指をさすんじゃない。見なかったふりをしろ」
刀を突きつけながらそう宣言した男に対する、兄者とブーンの反応は実にのんきなものであった。
星読みで、何かが起こるということは既にわかっていたためもあってか、驚く様子も怯える様子も見せない。
そんな一同の様子に、馬鹿にされたと感じたのか、男の顔が一気に赤く染まる。
<#`∀´>「ウリはお前らが来るのを一日千秋の思いで待っていたというのに、その反応は何ニダ!」
(;´_ゝ`)「いや、そう言われてもな。
正直、お前さんが待ってたのなんて知らんかったし」
(;'A`)「……っていうか、誰だよこいつ」
男の怒りはどんどん激しくなっていく。
それとともに、手にした刀はぶるぶると震え、声もさらに甲高く耳障りなものへと変わった。
.
155
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 21:39:01 ID:UWFaEmzk0
∩<#`Д´>∩「ウリは暑くて死にかけてるって言うのに、何でお前らは優雅にお茶とか飲んじゃうニダ!
それにこっちのお茶臭くてクソマズイニダ! 変な草をお茶に入れるなんて言語道断ニダ!」
(#´_ゝ`)ノ「弟者のお茶は母者が入れる劇物と違って、めっちゃ美味いんだぞ!
まあ、ダントツで美味いのは父者がいれたやつだがな」
(´<_` )「香草とかいれまくるから、こっちの茶は東方の茶とは味が全然違う件。
あの香草は喉に張り付いた砂をとり清涼感をもたらし、また体を冷やす効果のあるもの。
それを知らず、また慣れようともせずにクソマズイと言うのは不快極まりない。
こっちから言わせてもらえば、お前らの方の茶こそ甘さが足りない。大体、茶というものはだな」
(;'A`)「……あの弟者が、語っているだと」
(*^ω^)「やっぱり、食べ物ってすごいんだお」
男が怒りの末に言い放った言葉はどこかズレていた。
そして、それに対する兄者たち一同の返事もやはりズレたものだった。
<#`Д´>「言ったニダね!!! そもそもウリの祖国では」
男は祖国で飲んだ最高のお茶の話をしようとして、言葉を止めた。
そもそも何故、自分はお茶の話をしているのだろうか。
そうなった原因を思い返し、そしてようやく男は自分が目的を見失っていることに気づいた。
.
156
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 21:41:01 ID:UWFaEmzk0
<;ヽ`∀´>「……」
――そうだ、自分はこの獲物たちから大金をせしめるためにここに来たのだ。
それだというのにこの獲物たちは怯えるどころか、自分を小馬鹿にしているではないか。
<#ヽ`∀´>「ファビョーン!!!
この屈辱、この恨み。未来永劫、子々孫々に渡ってゆるさんニダ!」
それに気づいた瞬間、男は先程よりも更に激しく怒り狂った。
興奮に赤く染まった顔で、男は手にした刀を握り直す。
細長い刃先の歪曲した鉄の刀。
青龍刀とも呼ばれるそれは、長年彼が愛用してきた最も信用する武器だ。
<#`∀´>「ウリを侮辱した罪、命で賠償シル!」
男は青竜刀を武装していない方の獲物――兄者へと向ける。
体を低くし足を引くと、兄者に向かって一気に駆け出した。
.
157
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 21:42:19 ID:UWFaEmzk0
('A`)「おい。こっちに向かってきてるぞ……」
( ^ω^)+「どうやらブーンたちは、奴を怒らせてしまったようだお」
ドクオやブーンの声を聞くまでもなく、弟者はラクダに鞭を入れ走りだしていた。
そのまま兄者の乗っているラクダの尻を打つと、語気するどく言い放った。
(´<_` )「一気に駆けるぞ!」
(;´_ゝ`)「――お、おう」
<#`∀´>「逃がさんニダ!!!!」
黄色に光る砂の丘陵に向かって駆け出す二頭のラクダ。
男はそれを見ると即座に、近くに転がっていた大岩を抱える。
そして、それをそのまま弟者たちに向かって――何と、投げつけた。
(;'A`)て「どんだけ、馬鹿力なんだよ!」
本来ならば男一人でようやく抱えられるそれは、勢いよく飛んでいく。
飛来する岩。それは、ぐんぐんと距離を伸ばすとラクダのすぐ脇をすり抜けて落下した。
.
158
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 21:44:27 ID:UWFaEmzk0
(;´_ゝ`)「うぇー、正気かよ」
<*ヽ`∀´>「ホルホルホル ウリに逆らった罰ニダ!」
乾いた大地から砂地に入っても、ラクダの速度は一向に落ちない。
そんなラクダたちに向けて飛来する、岩。
(;^ω^)「なんかめっちゃ飛んでくるお」
(´<_` )「……化物め」
飛来する岩は、一つでは止まらない。
駆けぬけるラクダを潰さんとする勢いで、岩や石が次々と飛来する。
幸いなことに岩が当たることはなかったが、ラクダたちの様子が次第に落ち着かなくなり始める。
手綱を外さんばかりに首を上下に動かし唸り声を上げ、激しく跳ねまわる。
(;'A`)「おいおい。ヤバイんじゃね、これ」
(´<_` )「兄者。ラクダ頼んだ」
(;´_ゝ`)「――はぇ?」
もう一匹のラクダが接近し、弟者がその上から手綱を差し出す。
兄者が差し出された手綱をなんとか掴んだ時には、弟者の姿は消えていた。
.
159
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 21:46:32 ID:UWFaEmzk0
( ;゚_ゝ゚)「ちょ、弟者!!!」
暴れまわるラクダの背になんとかしがみつきながら、兄者は弟者の姿を探す。
隣のラクダの背にはいない。だとしたら……
振り落とされないように必死でしがみつきながら、兄者は後ろに視線を向ける。
(´<_` )「……」
いた。
弟者はすでに曲刀を抜き放ちながら盗賊に向けて走り出している。
風と弟者自身が作り出す動きによって、薄紫のマントが鮮やかに翻る。
(;^ω^)「オトジャが行っちゃったお」
(;´_ゝ`)「わかってる。あいつ戦うつもりだ」
黄色い砂の大地を、疾駆する弟者の姿――それを、完全に見送ることができずに兄者は顔を伏せる。
ラクダは完全に暴走し始めている。このままでは、振り落とされるのは時間の問題だ。
( ;゚_ゝ゚)「ひぃぃぃぃぃいいいいいい!!!!!」
そんな状態なのに、弟者のラクダの紐を持たされるなんて正直洒落にもならない。
手綱を手にした腕が、千切れそうなほどに痛む。
兄者の腕では落ち着きを失ったラクダ二頭を同時に操ることなど出来はしない。
自分の乗っているラクダと、暴走するもう一頭のラクダに引っ張られて兄者の手は今にも引っこ抜けそうである。
.
160
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 21:48:38 ID:UWFaEmzk0
そんな状況だというのに、変わらず岩は迫り来る。
もう距離はだいぶ離れているというのに、その飛行速度は落ちない。
( ;゚_ゝ゚)「もう無理、ぜったいに死ぬぅぅ!!!
死ななくても落ちるか、腕がちぎれるぅぅぅ!!!!」
荒巻は走るばかりで、完全に止まる気配がない。
岩は今にも当たりそうな軌道をとっているというのに、荒巻は速度を上げるだけで避けるそぶりをみせない。
――岩の迫る音に兄者はぎゅっと目をつぶる。
ああ、
今度の今度は間違いなく死んだな
(#^ω^) 《飛べお!》
――という兄者の心配は、杞憂に終わった。
近くを飛んでいたブーンが、片手を岩へとつきだしその“力”を行使したためだ。
ぞわりと肌が粟立つ感覚とブーンの放つ奇妙な音が、兄者に魔力の行使を告げる。
(#^ω^)「アニジャ危ないお!!!」
(;´_ゝ`)「スマン!」
.
161
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 21:54:27 ID:UWFaEmzk0
“飛ん”だり“飛ば”したりすることは得意――ブーンがそう言っていたことを、兄者は思い出す。
ということは、先ほどの岩もブーンが飛ばしたのだろうと、兄者はかろうじて理解する。
(; _ゝ )「ブーン。その力はどれくらい使える?」
( ^ω^)「まだまだいけるけど、ブーンじゃアニジャ一人を飛ばせるくらいが限界だお。
あまりおっきい岩とか、ラクダとかはムリだお」
(;´_ゝ`)「把握した」
岩の飛来は止まらず、兄者の腕は相変わらず千切れそうなほどに傷んでいる。
今はラクダ――荒巻も中嶋も同じ方向に進んでいるから良いが、これが別の方向へと走り出したらもうどうしようもない。
(#^ω^)「く、《飛べお》! こっちくるんじゃないお!」
(;´_ゝ`)「ドクオ、そっちのラクダは任せ……」
弟者が合流するまで、中嶋を逃がすわけにはいかない。
兄者はもう一人の精霊に手助けを頼もうと声を上げて……ドクオの姿が先程からまったく見えないことに気づく。
( ;゚_ゝ゚)「って、どこ行ったぁぁぁぁ!!!!」
(;^ω^)「あいつ逃げたお!
ドクオは逃げるのと隠れるのだけはすっごい得意なんだお!」
(♯゚_ゝ゚)「あんの、裏切りモノ!」
荒巻と中嶋が起こした砂煙の中で、兄者は怨嗟の声をあげた。
.
162
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 21:56:14 ID:UWFaEmzk0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
弟者は砂塵を駆ける。
彼が地を踏むたびに、足元の砂がさらりと流れる。
< `∀´>「ウリナラに逆らおうとは笑止千万。
そんなことしようものならば、ウリのオモニやアボジや一族全員がこの砂という砂を埋め尽くし、
オマケにウリと起源を同じくする東の民たちが十万千万と駆けつけ、さらには属国である諸州の……」
一見穏やかそうな砂たちは、慣れぬ者であれば容赦なく足を引きずり込む。
人の足を阻むその流れの上を、弟者は半ば強引に駆け、あるいは飛び越えながら――腕を振るう。
ギン――という甲高い音。どうやら、初撃は受け止められたらしい。
体に走る衝撃を、弟者は体を回転させることで受け流す。
<;ヽ゚∀゚>「う――ひぃぃぃ」
(´<_` )「……」
そして、さらに一撃。
半ば不意打ちに放った攻撃は、男が手にした岩で受け止められていた。
.
163
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 21:58:16 ID:UWFaEmzk0
男が弟者の接近に気づいた様子はなかった。
それでも視界に弟者の姿が入ると同時に、その攻撃を受け止めた。それが二度。
普通に考えればそれなりの技量の持ち主。
それにしては、様子が妙だ――と、弟者は分析する。
<;ヽ`∀´>「う、ウリはまだ話の途中ニダ!」
(´<_` ).。oO(試してみるか)
ペラペラとよく喋る顔面へ向けて、弟者は曲刀をなぐ。
それを目の前の男はぎょっと目をむいたあと「わわわ」と岩を落としながらも、その場から下がることで慌てて回避する。
――その動きで、これはおかしいと弟者は確信する。
<*`∀´>「ホルホルホル! このニダー様の油断をつこうなどその所業はまさに悪鬼魍魎の……」
(´<_` ).。oO(あれだけ反応が遅れたのに、回避した)
<;ヽ`∀´>「――って、聞くニダ! この偉大なる大国の王族……も認めたような気がするウリの」
半回転。
そこから再度、逆に回りながら腕を振るう。
しかし、その攻撃も男の手にした刀――青龍刀によって阻まれる。
手にかかる衝撃に、弟者は眉を小さくひそめる。
(´<_` ).。oO(これも止めるか)
.
164
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 22:00:13 ID:UWFaEmzk0
<;ヽ゚∀゚>「あ、アイヤー!!! じゃなかった、アイゴー!!」
(´<_` ;).。oO(……厄介だな)
<;ヽ`Д´>「あばばばば」
何やら奇っ怪な叫びをあげる男を前に、どうすれば――と、弟者は逡巡する。
その時間はほんの数秒。しかし、そのほんの僅かな隙を突いて飛来するものがあった。
男の振るう、青龍刀。その切り裂くことに特化した刃が弟者に迫り来る。
(´<_` ;)「……くっ」
油断をしていた。
弟者はそう理解するよりも早く、青龍刀の軌道に曲刀を割りこませる。
そして、一際高い音とともに火花がはじけ飛ぶ。
( <_ ;)「……」
<*ヽ`∀´>「お?」
弟者の手には叩きつけられたかのような痛みと、肩にまで及ぶしびれ。
取り落としそうになる曲刀を握りしめながら、弟者は思考する。
.
165
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 22:02:09 ID:UWFaEmzk0
この男の攻撃は重い。
岩を軽々と投げつけるほどの腕力。それを使った力任せの攻撃。
こんなものをまともにくらえば、ひとたまりもない。
<*ヽ`∀´>「……ひょっとしてこれは、千載一遇の機会?」
弟者は、足を引き、後退しながら曲刀の角度をずらす。
刀身をぶつけあっていた刀が少しずつすべりその位置を変え、やがて男と弟者の距離は離れる。
<*ヽ゚∀゚>「勝利は今来たれりぃぃぃ!!!」
男の動きは妙だ。それはもうわかっている。
今重要なのは、男が攻撃に気づくのが遅れても、その攻撃を受け止められるほど素早いということ。
<*ヽ゚∀゚>「食らうニダ!!」
(´<_` )「ならば」
ならば、――それよりも早く、動いてしまえばいい。
.
166
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 22:04:33 ID:UWFaEmzk0
<;`∀´>「なにぃ?!」
上段から振りかぶられた青竜刀を、弟者は左に動くことで回避する。
男の攻撃は威力があるが、動作は大振り。これならば避けられないことはない。
しかし、当たれば大きな被害は避けられない以上、それよりももっと有効な手段がある。
早いならば、それよりも早く。
重いならば、それよりも重く。
足りないのならば、より多くの手数で。
――攻撃を受けられないのであれば、攻撃をさせなければいい。
(´<_` )「……」
未だしびれをうったえる右腕で曲刀を強く握ると、弟者は回転しながら刀を振るう。
弟者の振るう刀にとりわけ高度な技術はない。
あるのはがむしゃらな、あてるためだけの愚直な攻撃だけ。
――ただ、その一撃一撃が先ほどよりもずっと早くて、重い。
<;ヽ`∀´>「ア、アイゴー!」
正面で受け止められた刀を強引にひくと、その場で逆に回りながらもう一撃。
止められた曲刀を右上にひきあげ、勢いを殺さないままななめに切り下ろす。
それも無理ならば、曲刀を水平にし、左腹を薙ぐように斬りつける。
.
167
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 22:06:48 ID:UWFaEmzk0
息もつかさぬ弟者の攻撃に、男の表情にあせりの色が浮かぶ。
――弟者の動きはまるで、剣の舞だ。
くるりと回り、刀を振るい、それでもその動きは一向に鈍る気配はない。
右腕に、首へ、頭へ、心臓へと休むこと無く攻撃は繰り出される。
(´<_` )「……」
<;ヽ`Д´>「……く」
砂漠の民と、東方の男。
ともに向け合うは、形は違えど刃の反り返った曲刀。
繰り出される弟者の攻撃の苛烈さ。翻る銀の軌跡と、橙の火花。
風の音だけが響く無音の世界に、剣戟の音が高らかになる。
その光景はまるで芝居の一場面のように鮮やかだった。
(´<_` )つ==|ニニニ二フ
弟者の動きを受け、軽やかに翻る紫のマント。
――そして、彼の繰り出した愛刀は、人のなしうる速さの限界を超えて、男の腕に叩きこまれた。
.
168
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 22:08:18 ID:UWFaEmzk0
が、
.
169
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 22:10:10 ID:UWFaEmzk0
(´<_`;)「……くっ」
弟者は曲刀を下げると、即座に後ろへと飛ぶ。
全体重ののったブーツが乾いた大地をえぐるが、弟者の顔は男に向けられたまま動かない。
驚きのあまり引きつる表情を抑えながら、弟者は男の姿を観察していく。
(´<_`;).。oO(何だ?)
先ほど決まった、一撃。
――その手応えがあまりにもおかしかった。
人ではなく石や鋼にむかって打ち込んだかのような、その感触。
<;ヽ`∀´>「――って、あれ? 怪我が、ない?」
曲刀は確かに男の右手を切った――はずだ。
現に男は顔を歪め、そして今も腕をかばう素振りをしている。
それなのに、男の体には傷の一つもない。
.
170
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 22:12:33 ID:UWFaEmzk0
だがそれはおかしい。
弟者の持つ曲刀――シャムシールは、男の持つ青龍刀と同様に切り裂くことだけに特化した剣だ。
――あれだけの手応えがあったというのだ。
たとえ鎧や防具を仕込んでいたとしても、その上に着ている服が切り裂かれていないのはおかしいのだ。
( <_ ).。oO(これは……)
弟者は息を呑んで、目の前の男を見据える――。
エラの張った特徴的な顔、つり上がった眼、黒と白の鮮やかな衣装。
傷一つ無い体……
(´<_` )「……」
<;ヽ`∀´>「い、一世一代の攻撃だったようだが、ウリには無駄だったようニダね」
弟者の脳裏に、一つの確信が浮かぶ。
そして、これからとるべき行動も。
<*ヽ`∀´>「栄枯盛衰。厚顔無恥なお前らも、とうとう終わりの時が来たようニダ!!」
男が手にした青竜刀を上段へと構える。
――そして、弟者は愛刀を握り直すと足を踏み出した。
.
171
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 22:13:16 ID:UWFaEmzk0
時はまだ、昼前。
――彼らの波乱の一日は、まだ始まったばかりである。
.
172
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 22:14:11 ID:UWFaEmzk0
そのさん。 弟者は砂塵を駆ける
おしまい
.
173
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 22:15:26 ID:UWFaEmzk0
そのさん投下ここまでー。
今回はオマケが6レスあるので、そっちも投下します。
174
:
おまけ劇場 l从・∀・ノ!リ人 でざーと×しすたーのようです
:2013/02/20(水) 22:17:47 ID:UWFaEmzk0
__________
//|‖‖‖‖‖‖‖‖‖
/;/ ;| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
/;;/ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
/;;;/ :::::::/ 〃'´⌒`ヽ
/;;;;/;::::::::::/ 〈((リノ)))i iヽ
/;;;;;/:::::::::::::/ l从・∀・ノ!リ人
/;;;;;;/:::::::::::::::/ ⊂)二二(⊃ヽ)
;;;;/::::::::::::::::/ 〈_l_) ((
;;;/::::::::::::::::::/ U U
/::::::::::::::::::/
:::::::::::::::::::::/
おまけ劇場 l从・∀・ノ!リ人 でざーと×しすたーのようです
.
175
:
おまけ劇場 l从・∀・ノ!リ人 でざーと×しすたーのようです
:2013/02/20(水) 22:19:43 ID:UWFaEmzk0
l从・〜・ノ!リ人「うむぅ。兄者たち、行っちゃったのじゃー」
l从‐ 。‐ノ!リ人「でも」
キラーン 十+l从・∀・ノ!リ人
l从・∀・ノ!リ人「妹者にはすっごくリッパなシメイがあるのじゃー!!」
∩l从・∀・ノ!リ人「妹者はおっきい兄者がダメにしたお花がみつかんないようにするのじゃ!」
グッdl从・ 、・´ノ!リ人「サスガだよな、妹者」
゜ミol从>∀<ノ!リ人o彡゜「今の、おっきい兄者そっくりだったのじゃー!!!」
.
176
:
おまけ劇場 l从・∀・ノ!リ人 でざーと×しすたーのようです
:2013/02/20(水) 22:22:00 ID:UWFaEmzk0
+ l从・∀・ノ!リ人「バレないように、みはりをするのじゃー!!」
じー l从・∀・ノ!リ人
l从・∀・ノ!リ人.。oO(がんばって、シメイをたっせいしたら……)
;'⌒ヽ、_ノ⌒ヽ、_ノ⌒ヽ、_ノ⌒ 、_ノ⌒ 、_ノ⌒ 、_ノ⌒ 、_ノ⌒ 、_ノ⌒ 、_
/ )
( (*´_ゝ`)「流石は俺の天使! 妹者たんかわいい! エラいすごいリッパ!」 (
) )
( (´<_` )「やるではないか、妹者」 (
) )
( \(*´_ゝ`)/「よーし、お兄ちゃん高い高いしてあげちゃうぞー!!」 (
) )
( (´<_`*)「……特別に妹者の好きな甘いお菓子をわけてやるからな」 (
) )
ヽ、_ノ⌒ヽ、_ノ⌒ヽ_ノ⌒ヽ、_ノ⌒~、_ノ⌒ヽ、_ノ⌒ヽ、_ノ⌒ヽ、_ノ⌒~ヽ_ノ~
O
O
l从‐ 、‐ノ!リ人 .。o
l从・∀・*ノ!リ人「どうしようどうしよう、いっぱいほめられちゃうのじゃ!」
゚・*:.。. ol从>∀<*ノ!リ人o .。.:*・゚ キャー
.
177
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 22:24:29 ID:UWFaEmzk0
+l从・∀・*ノ!リ人「みはるのじゃー!!」
じー l从・∀・ノ!リ人
l从・∀・´ノ!リ人「がんばるのじゃー」
じぃぃー ol从・∀・ノ!リ人o
l从・〜・ノ!リ人「うむむむむー」
あふー l从‐д‐ノ!リ人.。O
l从‐∀‐;ノ!リ人「……ねむいのじゃー」
じー l从・∀・;ノ!リ人
.
178
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 22:26:32 ID:UWFaEmzk0
l从・∀・;ノ!リ人「妹者は、まだがんばれる」
l从>∀<;ノ!リ人「がんばれるのじゃぁ〜」
じぃぃ l从・∀・;ノ!リ人
うとっ Oo.l从-∀-ノ!リ人
すや〜.......l从- 、-*ノ!リ人
l从- 。-ノ!リ人「……ぐぁんばる……のじゃ……」
l从-〜-ノ!リ人 ムニャ ムニャ
でざーと×しすたー おしまい
.
179
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 22:29:45 ID:UWFaEmzk0
本日の投下、今度こそここまで!
次回は三月中に投下ができたらいいなぁと思っている
あと、ブンツンドーさんにまとめていただけました。ありがとうございます!
180
:
名も無きAAのようです
:2013/02/20(水) 23:52:28 ID:3wG.kjZ60
いいとこで切るなー
乙
181
:
名も無きAAのようです
:2013/02/21(木) 09:50:51 ID:kUKf2Dbk0
おつおつ
182
:
名も無きAAのようです
:2013/03/15(金) 12:33:53 ID:5V4RR1zYO
17日か18日に投下します
レス数多めなので、2回に分けて投下するかも
183
:
名も無きAAのようです
:2013/03/15(金) 20:57:26 ID:L5alWG.o0
ヒャッハー!
184
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 21:55:51 ID:T2xLTBNg0
見直し終わったので投下開始
84レス+おまけ6レス。長いので途中で投下中断するかもです。
185
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 21:59:45 ID:T2xLTBNg0
ラクダは砂丘を疾駆する。
こいつらどうしてこんなにも早いんだと嘆くと、兄者はラクダの首にしがみついていた顔をなんとか上げた。
ブーンが魔力を使う気配が先ほどからない。ひょっとしたらこれは――と、兄者は考える。
(;´_ゝ`)「ブーン、攻撃の方は?!」
(^ω^;)「もう何も飛んでこないお」
弟者はどうやら、あの盗賊の元へと到達したらしい。
ここからでは確認することができないが、弟者のことだから戦っているのかもしれない。
( ´_ゝ`)「……とりあえずは、ひとあ、あんしししっ」
( ;゚_ゝ゚)そ「……やばっ」
ぐらりと体が大きくゆれる感覚がして、兄者はラクダ――荒巻の首に回した手に力を込める。
荒巻たちの暴走を止めないことには、ろくに話も出来ないらしい。
兄者はあいも変わらずラクダの首にしがみつきながらも、顔だけをブーンへと向けた。
(;´_ゝ`)「ブーン。中嶋を任せられるか?」
.
186
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 22:00:46 ID:T2xLTBNg0
( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )
.
187
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 22:01:46 ID:T2xLTBNg0
そのよん。 人生とは戦いの連続である
.
188
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 22:03:59 ID:T2xLTBNg0
(;^ω^)「お? でも、ブーンは」
砂漠を疾走するラクダが二頭。
その内の一頭に乗った兄者に見据えられて、ブーンは戸惑ったような表情を浮かべた。
( ´_ゝ`)「精霊のお前なら、動物と話せるだろ。
正直、俺一人じゃ荒巻と中嶋は抑えられない……ってうへぇあ!」
兄者はブーンにそう訴えかけると、体のバランスを崩したようだった。
「もう死ぬ、ぜったいに死ぬぅー」と叫びながら、彼は荒巻の鞍にのった足に力を込める。
ラクダの背に乗り続けてるだけも、すでに必死なこの状況。兄者が弟者のラクダの手綱を手に持ち続けるのはそろそろ限界の様だった。
(;^ω^)「わかった、やるお」
( ´_ゝ`)b「流石だよな、ブーン。これで安心だー」
(; ゚ω゚)「手を話しちゃ危ないお、アニジャ!」
.
189
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 22:05:40 ID:T2xLTBNg0
兄者の手から手綱を受け取ると、ブーンは中嶋の耳元に近づく。
それから、彼もしくは彼女が怯えないようにほんの少しだけ魔力を込めると、ブーンは口を開いた。
( ^ω^)「もう《大丈夫》だお」
《大丈夫》、という音の響きに中嶋の低い唸り声が止まる。
ささやかながらも込められた魔力は、発せられた言葉をほんの少しだけ真実にする。
ブーンの口にした言葉は、中嶋を安心させるためのごく弱い暗示となって響く。
ブーンの使ったそれは、ほんの小さな魔法だった。
( ^ω^)ノシ「もう大丈夫だおー、ナカジマ。
石も飛んでこないし、安心だおー」
ブーンの小さな手が、中嶋の耳の後ろを撫でる。
羽を動かしながら飛び、中嶋の首筋をさすり話しかけていく。
( ^ω^)「ナカジマー、もう怖くないお」
怖くないという言葉の意味は、ブーンにはよくわからない。
それでも、こういう時は怖いって思うものなのだと遠い昔のブーンは知っていたような気がする。
かれこれ400年くらい前だろうか。兄者や弟者どころか、“流石”の街が生まれるよりもはるかに前のことである。
.
190
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 22:08:15 ID:T2xLTBNg0
( ^ω^)「だから、もう落ち着くお」
あのころ自分にあった感情はどこへ行ってしまったのだろう。と、ブーンは考える。
ブーンはこの400年何も変わっていないはずなのに、いつの間にか随分とわからないことが増えてしまった。
(*^ω^)「お?」
そんな思いをはせていたブーンの横で、中嶋の足が止まる。
大きなまつ毛を瞬かせながら、中嶋はブーンに顔を寄せた。
( ^ω^)「どうしたんだお?」
中嶋はその首をブーンにこすりつける。
その動きはまるでブーンを慰めているかのようだった。が、ブーンはそれに気づかない。
(;^ω^)「お、ブーンは食べ物じゃないお」
中嶋のごわごわとした毛の感触を感じながら、ブーンはラクダにかじられていたドクオの姿を思い出す。
そして、ドクオのようにかじられないといいなぁと、呑気なことを考えるのであった。
.
191
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 22:10:04 ID:T2xLTBNg0
(;^ω^)「ナカジマー、もういいかお?」
中嶋に首をこすりつけられた状況のまま、動けなくなっていたブーンの耳が聞き慣れた声を捉えた。
その声の主は……と、ちょっと考えこんでから、兄者の声かなとブーンは判断する。
“流石”の街の双子たちは、見た目以外で見分けようとするとかなり難しい。
なにしろ違いと言ったら、声の高さがほんの少し違うだけ。
声質も、精霊を見る眼も、魔力を感じ取った時の反応も、おそらく魔力も。そして、何より人を構成する上で最も大切な要素までも同じだ。
見た目が違うのが不思議に思えるほど、あの双子は同じ存在なのだ――と、ブーンは思っている。
(;´_ゝ`)ノシ「おい、ブーン!!!」
ヾ( ^ω^)ノシ「やっぱり、アニジャだお!」
……ブーンの予想の通り、姿を現したのは兄者だった。
そもそも状況から言っても兄者が来るほうが自然なのだが、ブーンは予想が当たったことが楽しいと思ったらしい。
中嶋の周囲を勢い良く飛び回りながら、ブーンは両腕を振った。
(;´_ゝ`)「今からそっち行くから、ちょっと待ってろ」
(*^ω^)「わかったお!」
砂丘の影からひょっこりと姿を表した兄者は、機嫌の悪そうな荒巻を引き連れていた。
兄者は荒巻とともにブーンのもとへと駆け出そうとして、――おもいっきり転んだ。
.
192
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 22:12:35 ID:T2xLTBNg0
(;^ω^)「あちゃー」
思わずその場で跳ねあがって、ブーンは兄者の様子を見守る。
兄者は苦笑いをしながら立ち上がると、荒巻の手綱を引き走りだそうとして――、ふたたび転んだ。
(; ^ω^)「大丈夫かおー?」
( ´_ゝ`)「あー、平気平気ー」
兄者は取り立てて慌てた様子もなく立ち上がると、砂を払う。
そして、同じ調子で歩き出したが、その動きはどことなくふらふらしており一歩踏み出すたびによろけている。
それでも、兄者は荒巻の手綱を手放さずに進み――、三度目の転倒をした。
(; ^ω^)「アニジャは歩いてるのかお? それとも転んでるのかお?」
( ´_ゝ`)「一応、全力疾走のつもりなのだが。……砂か、砂がいかんのか?!」
(;^ω^)「おー」
「そんな目で見るなー」と荒巻の手綱を持っていない方の手をふりながら、兄者は訴える。
そして彼のそんな動きに、荒巻は不機嫌そうにうなり声をあげた。
.
193
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 22:14:17 ID:T2xLTBNg0
(;´_ゝ`)「……仕方ないだろう。運動と名のつく能力の大半は弟者が持ってるんだから」
それからまた数回ほど転び、ぜいぜいと息を乱しながら、兄者はブーンと中嶋の元へと到着した。
荒巻にやられたのか、頭に被った飾り布の布地がよだれでべったりと光っている。
そして、ブーンと再会した途端、兄者は意味不明な泣き言を並べ立て始めた。
( ;_ゝ;)「あー、お兄ちゃん悲しいー
お兄ちゃんにはもうかっこいいとこくらいしか残ってないわー」
( ^ω^)「大丈夫だお。アニジャはかっこいいだけじゃなくて、とっても楽しいお!」
( ´_ゝ`)「ブーン」
( ^ω^)「アニジャ」
ナカヨシー(*´_ゝ`)人(^ω^*)ナカヨシー
ドクオか弟者がいたならば確実に口を挟んだであろうが、この場には残念ながら二人ともいなかった。
兄者とブーンは互いに手を取り友情を深めると、これまで来た道を振り返った。
.
194
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 22:19:23 ID:T2xLTBNg0
(;^ω^)「オトジャは大丈夫かお」
( ´_ゝ`)「弟者がやられることはないとは、思うが……」
ブーンの言葉に、兄者は目を閉じ黙りこむ。
普段賑やかな兄者が急に黙りこむと、ブーンはとたんに胸がざわざわとする。
そんな心境の変化にびっくりとして、ブーンはあわてて兄者の飾り布をひっぱった。
( ´_ゝ`)「どうした、ブーン?」
(;^ω^)「えーと、あと」
( ´_ゝ`)「落ち着かないのか?」
( ^ω^)「おちつかない」
兄者の言葉にブーンはきょとんとした顔を見せた。
しかし、その顔はすべて満面の笑みに変わる。
何が原因であるかはわからないが、兄者の言葉はブーンにとってどうやら嬉しいものであったらしい。
(*^ω^)「たぶん、ブーンは落ち着かないってやつなんだお!」
( ´_ゝ`)「おお、そうかそうか」
.
195
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 22:20:20 ID:T2xLTBNg0
そして、兄者は再び目を閉じた。
しばらく黙り込んだ後に、「んーどうしようかなー神様ー仏様ー母者様ー」などとつぶやいてから目を開く。
そして、うんと頷くと兄者は腕を上げた。
( ´_ゝ`)ノ「よし、戻ろう!」
( ^ω^)「戻るのかお?」
( ´_ゝ`)「今のところ怪我はしてないみたいだが、あいつにしては苦戦しているみたいだ」
( ^ω^)「そう、なのかお?」
兄者はどうやら自信満々のようだが、ブーンにはその理由がよくわからない。
ブーンの目ではここから離れてしまった場所にいる弟者の姿は見えない。
でも、兄者が言うのならばそうなのだろうと、とりあえずブーンは納得することにする。
( ´_ゝ`)「正直、俺が行ったところで足手まといにしかならんが。
まあ、お出迎えがきたほうがあいつも嬉しかろう。多分、きっと、そうだといいなぁ」
(;^ω^)「それ、本当かお?」
(;´_ゝ`)ノシ「いや、別に今、適当にでっち上げたとかそんなことはないからな! な!」
( ^ω^)「それならいいおー」
ここにドクオがいたのならば、「そんなわけねぇだろ」とでも言い出しただろうが、残念ながら彼は未だ行方不明のままだ。
どうみても兄者の態度は不審なのだが、ブーンはニコニコとした表情で納得している。
.
196
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 22:21:17 ID:T2xLTBNg0
(;´_ゝ`)ゝ「だいぶ弟者から、離れてしまったようだな」
足元の砂を踏みしめて、兄者は周囲を見回す。
これまで荒巻に乗ることに必死でわからなかったが、どうやらいつの間にやら本格的な砂丘地帯に突入してしまったらしい。
先程まで転がっていた岩たちは姿を消し、周囲には太陽の光に輝く砂ばかりが広がっている。
( ^ω^)つ「おー。でも、ずっとまっすぐに進んできたからすぐに戻れるお」
(;´_ゝ`)ゝ「ふむ。まっすぐか……」
ブーンの指差す方向を見て、兄者はため息をつく。
見るからに越えるのが大変そうな、巨大な砂丘。その砂で形作られた山の上に、荒巻たちの足跡が残っている。
一瞬、回り道はないものかと思ったが、そうすると道に迷ってしまいそうなので、兄者は諦めることにした。
( ´_ゝ`)「がんばれ、荒巻。今の俺達には君が頼りだ。
ブーン、このまま中嶋のことを頼めるか?」
(*^ω^)「了解だお! ナカジマ、ブーンたちを頼むおー」
兄者の声に荒巻は低い唸りをあげ嫌がり、中嶋はおとなしく首を縦にふり答える。
ラクダたちの足は下が砂地でも関係ないのか、目の前の山にも怯むこともない。
荒巻の高い背に乗っても、視界を塞ぐ砂丘にため息をつきながら、兄者は荒巻の足を進めていく。
.
197
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 22:22:43 ID:T2xLTBNg0
( ´_ゝ`)ゝ「んー、弟者はどこだー」
( ^ω^)ゝ「んー、もいっこくらい砂丘を超えなきゃいけないみたいだお?」
片手を目の上に軽く上げながら兄者がつぶやくと、中嶋の手綱を握ったまま飛んでいたブーンが答えた。
その言葉に兄者は「あーあ」と嘆くと、がくりと首を落とす。
(;´_ゝ`)「うえー、どんだけ走ったんだよ荒巻ぃー、中嶋ぁー」
(;^ω^)「むー、ナカジマもアラマキも怖かったんだから仕方がないお」
( ´_ゝ`)「……怖いねぇ」
「お」と表情を変えてブーンの姿を見やった兄者の表情が、ふと変わる。
荒巻と中嶋が登りはじめた砂丘。
その砂丘の一角。彼らが目指す方向とは少しずれたところに、一瞬鮮やかな色彩が見えた……ような気がする。
( ´_ゝ`)σ「ブーン、ちょっと待て。こっちこっち!」
( ^ω^)「どうしたお?」
( ´_ゝ`)σ「なんか、なんか見えた!」
_,
( ^ω^)「おー」
.
198
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 22:24:08 ID:T2xLTBNg0
( ^ω^)「なにも見えんお」
(;´_ゝ`)σ「いや、いるし!」
兄者は荒巻の手綱を引っ張ると、荒巻の進む方向を変える。
そのまま手綱を操って、先ほど何か色が見えた方に進んでいく。
( ´_ゝ`)「ほら、見ろ」
(;^ω^)「そう言われれば……」
砂丘の尾根の向こうには、さきほどまで彼らが休憩していたのと同じ荒野が見える。
それを望むようにして、人一人をすっぽりと覆えるような赤い布が広がっている。
そして、その下には何やら人らしき影……。それは、もう露骨に怪しいといわんばかりの光景だった。
( ´_ゝ`)σ「ブーン、行くぞ!」
(;^ω^)「え? 行くのかお?」
ブーンは戸惑った顔を浮かべるが、兄者は荒巻の速度上げ一人突き進む。
その姿を見て、ブーンは慌てて中嶋の耳元によると、兄者の後を追いかけるようにお願いする。
( ^ω^)「というわけで、お願いしますおナカジマ」
ブーンの声に中嶋は、優しい鳴き声で答えた。
.
199
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 22:26:11 ID:T2xLTBNg0
( ´_ゝ`)「おい、そこの布っ!」
兄者の声に、地に横たわっていた赤い布は――いや、その下にいる人物はびくりと震えた。
赤い布がもぞりと動くと、その下にいる何者かが体を起こす気配がした。
(;´_ゝ`)「そ、そちらにいらっしゃるのはどなたでしょうか?
あ、俺そんなに怪しいものじゃないですよ。兄者といいまして」
( A * )「……」
布の下に誰かがいると思っていなかったのか、それとも話しかけた後のことは考えていなかったのか……。
兄者は威勢よく掛け声をかけたわりには、弱気な態度で布の下にいた何者かに話しかけた。
(゚A゚* )「――あ」
( ;゚_ゝ゚)「へ?」
赤い布が落ちる。
そこにいたのは、妹者よりも少し大きいくらいの年頃の少女だった。
赤と白、そして黄を基調とした東方の服。
驚いたように目を見開いた顔には大きな猫の耳。よくみれば、その耳には赤い花をかたどった飾りをつけている。
薄紫色の毛並みに長い尾の、猫のような少女がそこにいた。
.
200
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 22:28:04 ID:T2xLTBNg0
(; ゚_ゝ゚)「……」
どうして、子供がこんな所に……。しかも、たったの一人で。
兄者は呆然と少女の顔を見つめる。
キンッ
混乱して何も言えない彼の耳がぴくりと動き、かすかに金属音を拾う。
最初に脳裏に閃いたのは、弟の名前。
それから、先ほどの音が剣戟の音であるということに兄者は気づく。
(゚A゚* )「……あの」
状況は確認できないが、弟者とあの盗賊はまだ戦っている。
下手をしたら、ここが戦場になる可能性も高い。
(;´_ゝ`)「そこのお嬢ちゃん! ここは危ないぞ!!」
(゚A゚* )「へ、え?」
.
201
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 22:30:08 ID:T2xLTBNg0
(;^ω^)「アニジャーっ、大丈夫かお?」
(;´_ゝ`)「俺は大丈夫だが……」
追いついてきたブーンと中嶋の姿を振り返り、兄者は何か思いついたのかはっとした表情を浮かべる。
ブーンたちの姿と自らが乗る荒巻の姿を交互に見比べ、それから兄者は少女を見つめた。
視線を受けた少女の表情が固まっていく。その様子を見て取って、兄者はその表情を笑みに変える。
少女が怯えないように、兄者は笑顔を浮かべたまま、できうる限りの優しい声で話しかけた。
(*´_ゝ`)「お嬢ちゃん。ちょっとの間、俺と一緒に来てもらってもいいか?」
(゚A゚; )「あの……」
_,
(*´_ゝ`)「さっきも言ったけど、今ちょーっとだけ、ここは危ないんだ。
ほんとーぉに申し訳ないんだが、ちょっとだけ。ちょっとだけだから、ね?」
どう見ても不審者丸出しの言葉。
しかし、兄者の名誉のために言うならば、彼は年端の行かない少女に欲情する趣味は持っていない。
単に、真剣を持った男二人がすぐ近くにいるような場所に、幼い子供が一人でいることを嫌っただけである。
( ´_ゝ`)「ブーン、いけるか?」
(;^ω^)「はへ?」
( ´_ゝ`)σ「あの子を荒巻に乗っけてやってくれないか?
俺の鞍の前の方に乗せるから、ちょっと頼むわ」
.
202
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 22:32:12 ID:T2xLTBNg0
少女の周りには同行者の姿はおろか、乗り物姿さえも見えない。
兄者とて砂漠の民であるから、その不自然さは十分理解している。
しかし、それでも彼はこの場に少女を放置することを選ばなかった。
( ^ω^)b「まかせるお!」
(゚A゚; )「え? あ、どないしはったんです?」
少女はこのあたりではほとんど聞かない言葉遣いで言った。
東の大都よりも、はるかに東。東の果ての島で使われるのに近い言葉。しかし、そのことを兄者は知らない。
ただ、この少女は随分と遠くから来たのだなぁとだけ兄者は理解する。
(;´_ゝ`)「緊急事態だ。しばらくの間我慢してくれ」
( ^ω^)つ 《飛ぶお》
ブーンの手が動き、言葉ともとれない奇妙な音が兄者の耳に響く。
魔力を感じ取るとき特有の肌がぞわぞわと粟立つ感触は、兄者にとってどうにも慣れない。
弟者が魔法を好まないのは、この体質も影響しているのではないかと兄者は思う。
((゚A゚; )「え、や。何?」
( ´_ゝ`)「おっと、余計なことを考えている場合ではなかったな」
.
203
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 22:34:20 ID:T2xLTBNg0
兄者はその場からふわりと“飛んだ”少女の体を抱きとめると、自分の座る鞍の前の方に座るようにと誘導する。
少女の体は見た目よりもはるかに華奢で、力のほとんどない兄者でもどうにかなるくらいだった。
( ^ω^)「これでいいのかお?」
( ´_ゝ`)b「流石だな、ブーン。まさに完璧な仕事ぶりだ」
(゚A゚; )「えと、あの」
少女は兄者の手から離れて地面に降りようとして、荒巻の背の高さに怖気づいたようだった。
ラクダという生き物は、大人の男よりも背が高い。
その鞍の上となると体の小さな少女では、なかなか逃げられない。
( ´_ゝ`)「ここは今、盗賊と“流石”の自警団員が戦っていて危険だ。
あのままあそこにいたら、巻き込まれる可能性が高い」
(゚A゚* )「……」
( ´_ゝ`)「だから、お嬢ちゃんの身柄は俺が一時的に保護させてもらう。
まあ、ここは街でもないし、俺は弟者じゃないからそんな権限なんてないんだけどな」
_,
( ^ω^)「アニジャが難しいこと言ってるお」
(*´_ゝ`)ノ「え? 俺って、超かっこいい? 照れるじゃないか!」
.
204
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 22:36:03 ID:T2xLTBNg0
少女は兄者の言葉になにやら考え込んでいるようだった。
胸の前でぎゅっと小さな手を握り、兄者に問いかけた。
(゚A゚; )「えと、お兄さんはその、エライ人なん?」
( ´_ゝ`)「いやー、俺は別に偉くないけどね。
でも、妹がいるから、こんなところで女の子が一人なのはほっとけないみたいな感じで」
ヾ( ^ω^)ノシ「オトジャのほうが多分エライおー」
ヽ(;´_ゝ`)ノ コノ ウラギリ モノー ワーヾ(^ω^*)ノシ
少女はぎゅっと目を閉じる。
そして、砂丘の向こうの方向をじっと見てから、口を開いた。
(゚A゚* )「……その、ちょっとの間お世話かけます」
(*´_ゝ`)b「俺は兄者=流石。しばらくのあいだよろしくなー」
( ^ω^)∩「ブーンはブーンだお!」
彼らの挨拶に、少女はこくりと頷く。
……しかし、彼女は自らの名前を名乗ろうとはしなかった。
.
205
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 22:38:13 ID:T2xLTBNg0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
<*ヽ`∀´>「ウェーハハハハハ! 千載一遇の好機!」
男が振り上げた青龍刀に力を込める。
それが目に入っているというのに、弟者は男にへと突っ込んでいく。
( <_ )つ==|ニニニ二フ
大地を踏みしめる足は、人の速さを超え――。
一撃を加えた時よりも、男が武器を振り下ろすよりも、はるかに速く。
弟者は瞬く間に男の真横を通り過ぎると、すれ違いざまにその腹を撫で切った。
<;ヽ`∀´>「……くっ」
男の口から苦痛のうめきがあがるが、弟者は立ち止まらない。
青龍刀の間合いから完全に外れる場所まで来たところで、弟者はようやく振り返ると立ち止まった。
.
206
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 22:40:10 ID:T2xLTBNg0
(´<_` ).。oO(やはり、斬りつけても攻撃は通らない。か)
男との間の距離を図りながら、弟者は思考する。
男の長衣はどれだけ観察しても腹にあたる部分に血の染みどころか、傷ひとつない。
先ほどと同じ。確かに攻撃が通った感触があったというのに、切り裂かれた形跡はどこにもない。
( <_ ).。oO(魔道具か、もしくは魔法か。服だけじゃなく身体の強化もしているな)
弟者は奥歯を噛み締め、自分を抑えこむ。
今は激情に流されている場合ではない。ここで仕損じては、俺に危害が及ぶ。
弟者は、男の姿を見据えると口を開く。
<;ヽ`∀´>「い、一世一代の攻撃だったようだが、ウリには無駄だったようニダね」
(´<_` )「は、どうだか」
<#ヽ`∀´>「な、う、ウリは東の大陸の果てにある全ての起源の大国でも名のしれた男ニダ!
お前らみたいな有象無象のへなちょこ野郎とは違うニダ!」
男の顔色が赤くなるのと見て取ると、弟者は口元に笑みを浮かべる。
口の端を吊り上げ、しかし視線は相手を見下したまま。感情を乗せない平坦な声を出す。
(´<_,` )「ふーん。で?」
.
207
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 22:42:06 ID:T2xLTBNg0
その言葉の効果は劇的だった。
男の赤くなった顔が一瞬白くなり、それからすぐに怒りで沸騰する。
(´<_` )「その有象無象のへなちょこ野郎相手に、何もできないのは誰か。
そうだな。小一時間ほど問い詰めたいものだな。一体何処の誰が、そんなマヌケなことをするのかと」
<#`∀´> >「――なっ」
(´<_`*)「まったく、ド低能にもほどがある」
声を上げて笑いながらも、弟者の目は男との距離を測り続ける。
そして、掲げた曲刀を鞘に戻すと、やれやれと肩をすくめて見せた。
(´<_,`*)「お前さんのご立派な国とやらの程度が知れるな」
<#ヽ ∀ >「もう許さんニダぁぁぁぁぁ!!!!」
男は青竜刀を頭上に掲げると、弟者に向けて走りだす。
一歩、二歩、三歩。
間合いに入ると同時に振り下ろされる刀を、弟者は後ろに下がって避ける。
<#ヽ゚∀゚>「絶対に殺すっ!!!」
.
208
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 22:44:07 ID:T2xLTBNg0
そして、繰り出される右からの二撃目と、返す刀での三撃目。
( <_ )「……っ」
弟者の曲刀は鞘にしまわれている。
その無防備きわまりない状態のままで男の二つの攻撃を、後ろへと下がりながら回避していく。
一撃でもかすれば、おそらく最後。
そのギリギリの状況に弟者の頭からは血の気が失せ、息が上手くつけなくなる。
それでも、彼は余裕の表情だけは決して崩そうとしない。
<#ヽ゚∀゚>「これで最後ニダっ!!!」
(´<_` )「当たらん」
再び上段、めいいっぱいの力を込めて男の青竜刀が振り上げられる。
その攻撃を回避できる距離まで、弟者は渾身の力を込めると後ろへ跳ぶ。
着地。
それとほぼ同時に、体を反転。
男の攻撃の行く末は確認せずに、そのまま足に力を込める。
(´<_` )「お前では俺に追いつくことなど、出来ないからな」
<#ヽ ∀ > >「ぐぅぅ」
.
209
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 22:46:24 ID:T2xLTBNg0
踏み出した足が、砂の感触を伝える。
ひび割れた大地が、砂だけで満ちた砂丘へと姿を変えていく。
<#ヽ゚∀゚> >「ぜったいに、逃がさんニダ!!!」
(´<_` )「いくらでも吠えろ、下衆が」
そして、砂を踏むじゃりりという音と、ぶんっという刀を振るう音。
その音を耳に捉えながら、弟者は砂塵を再び駆けはじめる。
<#ヽ゚∀゚>「待てぇぇぇぇ!!!!」
走りだした弟者の背を狙わんと駆ける、男の姿。
それを確認して、弟者は確信する。
――かかった。
男が追いつけそうで追いつけない、ギリギリの速さを見極めながら走る。
速すぎてもいけないし、遅すぎても命が無い。
命をかけた鬼ごっこなど、とても笑えたものじゃないな――この状況下なのにそんな軽口を思いつく自分に、弟者は呆れる。
.
210
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 22:48:36 ID:T2xLTBNg0
息はつける。
頭の血の巡りも、今はもう良好。
あとは、最後の詰めでしくじらないだけ。
(´<_` )「そこで待つマヌケがいるか」
首元に手を伸ばす。
指に伝わるのは金属の感触。
気取られぬように細心の注意を払いながら、指を動かしその留め金を外す。
<#ヽ゚∀゚>「信賞必罰、とっととウリに首を差し出すニダァァァァ!!!」
やがて視界に広がりはじめる砂の丘。
弟者はそれをためらうこと無く、駆け上がる。
踏みしめるはじから崩れ落ちていく砂山を、弟者はこともなげに駆け登っていく。
<#ヽ゚∀゚>「ウリがこれくらいで力尽きるかと思ったニダ?!」
それから、少し遅れて男が砂の丘を駆け上がる。
足にも砂が絡みつくが、男の頭の中には弟者をしとめることしか残っていない。
素足に直接履かれた靴に、熱せられた砂が入り込むがそれにすら男は気づかない。
――そして、
.
211
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 22:50:09 ID:T2xLTBNg0
顔を上げた男の目にうつったのは、一面の薄紫。
夕暮れの終わりに広がる空の色。しかし、当然のことながら今は夕方ではない。
――だとしたら、これは一体……。
……その時、男は完全に不意をつかれていた。
だから、その色彩が弟者の身に着けていたマントの色だと気づけなかったのは仕方のないことだった。
<;ヽ ∀ >「……くっ」
しかし、それでも男はマントの向こうから迫り来る何か――弟者の曲刀を、振り回した手でかろうじて受け止めた。
男の体に働く不可思議な作用は、不意打ちの攻撃でも刃を通さない。
男の体も、服も先程までと変わらず。切り裂かれた様子は一切ない。しかし、それでも痛みまでは完全に消せない。
<;ヽ ∀ >「――っ、たいニダ!」
バサリと音を立て男の顔にマントが落ちる。
男は痛みに顔を歪めながら布を顔からどけようとして、
何かに、足を
とられ、
――地に倒れ込んでいた。
.
212
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 22:52:46 ID:T2xLTBNg0
下が砂地であるため、男の体にさほどのダメージはない。
<;ヽ`∀´>「――っ!?」
しかし、それでも彼には何が起きているのか、理解できない。
ただ、自分が地に倒れ伏しているという事実に男は狼狽し。
(´<_` )「お前のそれは刃は防げても、衝撃までは殺せない」
声と、
己の上へと落下してくる弟者の姿を見た――
(´<_` )「それに気づかなかった時点で、お前の負けだ」
衝撃。
痛いのかすらわからなくなるほどの振動と熱とともに視界が一気に狭くなる。
チカチカとする光、消えた音、吸えない息……男はなんとか息を吸おうと口を開き、
……それっきり意識は完全に途絶えた。
.
213
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 22:54:20 ID:T2xLTBNg0
(´<_` )「……」
弟者は立ち上がると、動かなくなった男の顔を踏みつけた。
気絶したらしく、男が反応する様子はない。
それを確認すると、弟者は一息ついてから未だしびれる右腕を振った。
(´<_`;)「……ふぅ」
砂の丘に落ちたマントと、それを留めていた金具を見やる。
そして、小さくため息を付いた。
(‐<_‐;)「かろうじて及第点といったところか」
マントで視界を覆った上での、曲刀による不意打ち。
攻撃が通らないとわかった上で放ったそれは、あくまでも本命を隠すための目眩まし。
――本命は、足払い。
ここは慣れぬ者であれば、砂地に足を取られすぐに立ち上がることはできない。
この上ないほどに単純な手だが上手くはまった場合、その効果は馬鹿にできない。
そして、倒れこんだ男へと向かい、弟者は砂地へと飛び込むようにしながら肘打ちを放ったのだ。
.
214
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 22:56:36 ID:T2xLTBNg0
l从・∀・ノ!リ人「ちっちゃい兄者、みっけなのじゃ!」
(´<_` ;)「――ぐぇ」
弟者は、今朝方の妹者とのやりとりを思い出す。
あの時の妹者は、突然弟者の体へと飛び込んできた。
子供一人の体重が不意に掛けられただけでも、彼は痛みにうめき声をあげたのだ。
同じ不意打ちの状況で、弟者の全体重と落下の勢いが加わった攻撃を受けた男はどうだったのか。
その結果は、ご覧のとおり。どれだけ不思議な力で身を守ろうと、その衝撃だけで意識が綺麗に刈り取られている。
(´<_` ).。oO(妹者には感謝しないとな)
弟者はここにはいない妹の姿に、感謝をささげた。
.
215
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 22:58:24 ID:T2xLTBNg0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
(;´_ゝ`)「弟者ぁっ! 怪我はしてないか!」
(;^ω^)「オトジャー、大丈夫かお?」
ラクダに乗った兄者と、ラクダの手綱を持ちながら飛ぶブーン。それと、もう一人。
彼らが到着したのは、それから幾ばくもしないうちだった。
一同は盗賊を縛り上げている弟者を確認すると、慌ててラクダから降りた。
⊂二( ^ω^)二⊃「オトジャオトジャー」
⊂( ´_ゝ`)∩「大丈夫か?」
(´<_`;)「……兄者、何だか頭が妙にテカテカしているんだが」
兄者とブーンの声に弟者は手を一旦止めると、ひきつった表情を浮かべた。
どうやら兄者が被った飾り布が、妙な具合に汚れているのが気にかかったらしい。
.
216
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 23:00:24 ID:T2xLTBNg0
( ´_ゝ`)ゝ「これは荒巻にもしゃもしゃ食わ――って、そうじゃなくて怪我はないのか!?」
(´<_` )「大丈夫だ。問題ない」
一方の兄者は、ざっと弟の姿を見回し怪我がないことを確認するとほっと息をついた。
それから倒れている盗賊の姿をおそるおそる確認する。
( ^ω^)「動かないお」
(;´_ゝ`)「……生きてはいる、みたいだな」
(-<_- )「とりあえずはな」
弟者は手を動かし、男を縛り終える。それから顔を上げ、その表情を変えた。
あまり動かないながらもそれなりに変化のあった弟者の表情が、失われていく。
(´<_` )「……」
( ´_ゝ`)「弟者?」
視線の先は――、兄者の後方。
彼の影にこっそりと隠れるように立った小さな人影。
.
217
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 23:02:27 ID:T2xLTBNg0
弟者の手が、曲刀を引き抜く。
花や蔦の文様が刻み込まれた美しい刀が、ためらい一つ見せること無く振るわれる。
目一杯速さで振るわれた曲刀が向かうのは、兄者の向こうの人影。
(; ゚_ゝ゚)「え?」
(;^ω^)「お?」
(゚A゚* )「……」
薄紫の獣の耳を持つ、まだ幼い少女。
彼女の首元へと向かって、弟者の曲刀はつきつけられる。
――しかし、刀はそれ以上先に動こうとはしない。
(´<_` )「……」
(; ゚_ゝ゚)「なん……で……」
何故ならば、
刀をつきつけられた少女のその手には光り輝く凶器が握られ、その武器は――
.
218
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 23:04:11 ID:T2xLTBNg0
――兄者に突きつけられていた。
.
219
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 23:06:17 ID:T2xLTBNg0
人生とは戦いの連続である――そう言ったのは彼ら双子の母であったか。
兄者にとってはまさしく今の状況こそ、その言葉にもっともふさわしいものであった。
(; ゚_ゝ゚)「……あばばば」
(;^ω^)「あ、アニジャっ!!」
目の前には曲刀を幼い少女の首へと向ける弟。
そして、背後には手にした武器を自分の腹へと突きつける少女。
両者は武器を互いに突きつけたまま、微動だにしようとしない。
(^A^* )「そりゃあ、ウチだって痛いのは嫌ですもん。
ニダやん風に言うなら、人質ってやつでしょか?」
(´<_` )「……」
一方は笑顔。もう片方は、一切の感情が抜け落ちた無表情。
どちらかが動けば確実に、無事では済まない。その重圧に兄者の体は知らず知らずのうちに震える。
(;´_ゝ`)))..「えーと、これは一体、どういうこと?」
(´<_` )「……そいつはさっきの盗賊の仲間」
.
220
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 23:08:28 ID:T2xLTBNg0
( <_ )「そして、おそらく……こいつが“魔法使い”だ」
(゚A゚* )「……どうして、ウチがニダやんの仲間やってわからはったの?」
少女は小首をひねりながら、弟者に尋ね返した。
もし自分が単なる通りすがりの少女だったらどうしたのと、彼女は問いかけるが弟者は答えようともしない。
(;^ω^)「ひ、人質? 人質ってなんだお!」
(;´_ゝ`))「すごく危ないってことだ!」
(*^ω^)「なるほど!」
ブーンと兄者は言葉の応酬を交わすが、それで状況が落ち着くはずもない。
むしろ、その場の空気はますます悪くなっているといってもいい。
(゚A゚* )「……だんまりね。まあ、ええよ」
( <_ )「……」
少女は兄者につきつけた凶器に力を込める。
彼女が兄者の腹につきつけられているのは、銀の刀身を輝かせる小さなナイフであった。
小さな――といっても、小柄な少女の手には大きすぎるようで、彼女は弟者を睨みつけながらも何度も握り直していた。
あと少し。あと少しだけ勢いをつけて刺せば、その武器は兄者の服を肌を貫くことだろう。
.
221
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 23:10:35 ID:T2xLTBNg0
(゚A゚* )「ニダやんを解放して。
そうしてくれはらへんのなら、弟さんがどないなるかわからんよ」
そして、彼女は弟者に向けてきっぱりと言い切った。
首元に突きつけられた刀に怯む様子は一切ない。
無謀なのか、それとも単純に度胸があるのか。
少なくとも彼女は、弟者の攻撃を受けるたびに声を上げていた盗賊よりはるかに肝が座っていた。
(´<_` )「それよりも俺がお前の首を切るほうが早い」
(゚A゚* )「嘘。せやったら、とうにそうしてる」
(;´_ゝ`)「俺、弟じゃなくてお兄ちゃん……」
恐る恐る口に出された兄者の言葉は、少女にも弟にも届かずに消える。
ブーンからは「ブーンはちゃんと知ってるお!」と声があがったのだが、やはり状況に変化はなかった。
(゚A゚* )「ウチは本気や」
(´<_` )「……」
弟者の表情に変化はない。
それは余裕だからではなくて、余裕が無いからこそだ。
.
222
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 23:12:42 ID:T2xLTBNg0
(゚A゚* )「なんなら、試す?」
脅しのためか、それとも本気なのか……。
少女は兄者の体に突きつけたナイフに力を込めて、その刃先をほんの少しだけ前に進めた。
( ;゚_ゝ゚)「ちょ、お願いヤメテ!!」
(゚<_゚♯)「――」
弟者の体が弾けるように動く。
しかし、その動きよりも速く、動いたものがあった。
.
223
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 23:14:20 ID:T2xLTBNg0
……それは兄者の腹。正確には彼の身につけた装束の懐部分。
(;゚A゚)「ひっ、何でオレ武器なんてつきつけられてんの!!!」
(;´_ゝ`)「ドクオ!!!」(^ω^;)
そして、辺りに響いたのそれは――ドクオの声だった。
兄者の懐がもぞりと動き、そこからずっと姿を消していたはずのドクオ顔を出す。
.
224
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 23:17:01 ID:T2xLTBNg0
……ドクオ、よりにもよってそこに隠れていたのか。
兄者とブーンにとってはその程度の感想なのだが、完全に不意をつかれた少女にとってはそれは脅威だった。
予想外の状況に動けなくなる少女。
一方、ドクオの登場にも弟者の動きは止まらなかった。
(;´_ゝ`)⊂(´<_` )グイッ
首を断とうとしていた動きを接近する動きに変えると、弟者は凄まじい速度で兄者の腕をつかむ。
力を入れすぎたせいか、兄者の体勢が崩れ、そのまま倒れかける。
しかし、弟者はそれには構わずに腕を引くと、兄者を少女から強引に引き剥がす。
⊂(;´_ゝ`)∩「痛い! 痛いって、弟者っ!」
(´<_` )「大怪我よりマシだろ」
兄者が少女から十分離れたのを見計らって、弟者はその手を離す。
支えを失ったことで、兄者の体は砂の上にどさりと倒れ落ちるが弟者はそれには気を止めなかった。
(゚A゚; )「――っ」
(;'A`)「なになに、どうしたのこの子?」
(;^ω^)つ「ドクオ! こっち来るお!」
一方、事情のつかめないドクオと少女は、弟者の動きに反応出来なかった。
.
225
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 23:19:03 ID:T2xLTBNg0
( <_ )「すまない、仕損じた」
少女の手から開放された兄者に向けて、弟者は謝罪の言葉を口にする。
といっても、その眼は少女を見据えたままで、いつでも動き出せるように体勢を整えている。
(;´_ゝ`)∩「いや、しくじったのは俺だ」
(´<_` )「……もう一人いることは予想できたはずだ。
あの男に魔法がつかえるはずがなかったんだから」
弟者は奥歯を噛み、表情を歪めながら言う。
あの男は、自らを助けている“魔法”もしくは“魔道具”の力を理解している様子はなかった。
それどころか、自分が魔法に助けられているということにすら気づいていなかった。
それは男自身が術者でないことに他ならない。だとしたら、男に魔法や魔道具を授けたもう一人がいて当然なのだ。
そしてその術者は、おそらくあの少女。
本人は明言を避けていたが、この状況で出てきたのだ。十中八九彼女が術者で間違いない。
(゚A゚* )「……なんで、精霊が」
(;'A`)「本当にどうなってるんだ?!」
そして、その少女はドクオの姿に呆然としていた。
兄者が助かったことにも、弟者の行動にも思考が向いていない。
.
226
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 23:20:10 ID:T2xLTBNg0
(´<_` )「……」
(;´_ゝ`)「くっ」
隙だらけの少女に向けて弟者が一歩踏み出そうとするのを、兄者は見た。
弟者の手には抜き身の曲刀。相手は少女だというのに、素手で取り押さえるという発想はそもそも無いらしい。
弟者の顔に表情はなく、ためらう様子など欠片も見せない。
それだけで、兄者には理解できてしまった。
――こいつは、殺す気なのだと。
(;´_ゝ`)「弟者っ!」
Σ(゚A゚* )「――っ!!」
兄者の声に、呆けていた少女の瞳が、はっきりとした理性を取り戻す。
彼女は弟者の姿を見やると、ためらうこともなくその口を開いた。
(゚A゚* )
ぞわりと兄者の肌が粟立つ感触。
毛並みは逆立ち、その耳へと奇妙な音を伝える。
.
227
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 23:22:19 ID:T2xLTBNg0
(゚A゚# ) 《速く》
少女の口が音を紡ぐ。
――それは、魔力の乗った言葉の羅列だ。
ただの言葉に魔力を込めることで、その言葉を実現可能にするもっとも典型的な魔法。
発する言葉がシンプルであればあるほど。込める魔力が強ければ強いほどその魔法の威力は上がる。
少女の口にした音は、ブーンや、広場で出会った女が戯れに使ったのとは違う。
その目的だけを込めた、強固でシンプルな言葉だった。
( <_ )「……」
(;´_ゝ`)「……ぅ」
弟者を止めるべきであるという思考と、相手は魔法使いであるという戸惑い。
その迷いが、兄者の動きを遅らせた。
彼女の魔法使いとしての実力が高いものであった場合、死ぬのはこちらだ。
(´<_` )
弟者が、肉食の獣の速さで動く。
手にした曲刀が弧を描き、その軌跡を銀に輝かせる。
.
228
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 23:25:05 ID:T2xLTBNg0
少女の体から鮮血が飛び散るのを、兄者は見た。
.
229
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 23:26:34 ID:T2xLTBNg0
( A * )「――っ!」
弟者の手にした刀身が、獲物の流した赤い液体でべっとりと濡れる。
切り裂いた部位は腕。
少女が手にしていたナイフが砂の上に、落下する。
(´<_` )「悪いな」
(´<_` )「――そういうのは嫌いなんだ」
身にまとった衣服ごと、柔らかい肉を切り裂いて、それでも弟者の動きは止まらない。
魔法で自身の動きを“速く”した少女よりも、弟者の動きは速い。
むせ返るような血の匂いが、あたりを満たす。
(#´_ゝ`)「やめろっ!!!」
(´<_` )「……」
弟者は空いている手で、体勢を崩した少女の首元を掴み。そのまま、砂の地面に押さえつける。
頭を打ったのか、それとも傷口が痛むのか、少女の顔が苦痛にあえぐ。
( A ; )「……いた……ぃ」
.
230
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 23:28:35 ID:T2xLTBNg0
弟者はその顔に向かって、緩やかな曲線を描く刀を突きつけ。
そのままその刀を切――
( <_ )「死ね」
(;´_ゝ`)つ「弟者待て!」
兄者の声が響いたのは、弟者が声を発すると同時。
(;^ω^)「あ、あうあう」
(;'A`)「な、なあ。本当にどうなってるんだ?!」
(´<_` )「……」
弟者は手の動きを、ピタリと止める。
しかし、視線は未だ少女を睨みつけたまま。その目は決して、兄者を見ようとしない。
(;´_ゝ`)「殺すな。殺しはよくないぞー」
(´<_` )「それはできない」
.
231
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 23:30:35 ID:T2xLTBNg0
(;'A`)「おいおい、これマズイんじゃねぇの?」
( ´ω`)「……だお」
ドクオは慌ててふらふらとした動きで弟者の顔の回りを飛び回る。
が、その動きすらも弟者は目に入れようとしない。
彼の眼は少女の姿だけを、まったく感情のこもらない眼で睨み続けている。
(;´_ゝ`)「やめろ、弟者」
(´<_` )「ここは街じゃない。今後の憂いを断つためにも、盗賊は殺すのが鉄則だ」
(;´_ゝ`)「……うっ。でも、殺すのはよくないと思うのだが」
(´<_` )「殺すなというならば、最低でも舌を切るか喉を潰すことになるがいいな。
……念をいれるなら、手足も潰さねばなるまい」
(゚A゚* )「……っ」
寸前で止められた刀が、少女の肌をほんの少しかすめる。
致命傷には成り得ない小さな傷。しかし、彼女の肌からは血が滲みその紫の毛並みを汚す。
(;'A`)て「やめろ、弟っ!」
.
232
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 23:32:24 ID:T2xLTBNg0
ドクオの言葉にも、弟者は耳を貸す様子がない。
このままではダメだ。と兄者は声を上げ――、
(#´_ゝ`)「ううっ、ダメ絶対!」
あいも変わらず倒れこんだままの視界の端に、あるものの姿をとらえる。
それは縛られた姿で気を失った盗賊の姿と……薄紫の布でしつらえられた、弟者が身に着けていたはずのマントだった。
(#´_ゝ`)「絶対に殺すな、首も舌も手足も潰したらダメ!!」
兄者は叫びながらもマントをつかむと――、そこに縫い付けられている隠しに手を伸ばす。
幾ばくかの金貨と銀貨が触れる。しかし、兄者の目的はそれではない。
さらに指を進め、兄者はついにそれを掴んだ。
(; _ゝ )「……」
触れた途端に、全身に伝わる悪寒。
視界に光がはじけ。赤や青の光が渦巻く。
その感覚を強引にねじ伏せると、兄者はそれをマントから引きずり出す。
――それは、幾重にも文様や文字が刻み込まれた銀の腕輪だった。
.
233
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 23:34:30 ID:T2xLTBNg0
(´<_` )「……」
あれほどうるさかった兄者の声がいつの間にか止んでいることに、弟者は気づいた。
代わりになにやら羽音が聞こえるが、そちらは今は関係ない。
関係有るのは目の前の――、
(;A゚* )「……や、」
目に涙を浮かべながらも、なおも言葉を発しようとする少女の口を、手で押さえつける。
面倒だがこのまま舌を引きずり出せば、魔法を使われる心配はなくなる。
――いや、それよりもひと思いにやってしまうか。
そんな思考が、弟者の頭によぎる。
兄はおそらくこの少女を解放しろと言うだろう。
……幼いから、殺しはよくないから、たったそれだけ理由で。
甘すぎる。いつもそうだ。兄者には自分がいかに危険にさらされていたのか、全く自覚がないのだ。
(´<_` ).。oO(ならば、いっそ)
(#´_ゝ`)「――待て!」
曲刀を握り直した弟者に向けて、兄者の大声が上がる。
それから砂を踏み、こちらへと駆け寄る音。
.
234
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 23:36:24 ID:T2xLTBNg0
兄者の、足が視界に入る。
息を荒げ、なかば転がるようになりながらも、その足は止まらない。
(´<_` )「もう十分に待った。邪魔をするな」
(#´_ゝ`)「いいや、ジャマさせてもらうね!
お前さんには堪え性というものが圧倒的に足りない。それではいかんぞと」
兄者の様子はいやに自信に満ち溢れている。
弟者は少女の口元を強く押さえつけながら、兄者の様子を見やる。
( ´ω`)「……アニジャ」
(;'A`)て「おい、無茶はするなよ」
( ´_ゝ`)b「大丈夫だ。この俺が来たからにはもう安心だ!」
(#'A`)て「よりにもよって、お前だから心配してるんだよ!」
兄者の様子は普段と何ら変わりはない。
しかし、いや……その手に何かを掴んでいる。
(´<_`; ).。oO(まさか、)
それが何か悟った瞬間、弟者は息を飲んだ。
銀の腕輪――未だに見慣れぬそれは今日、手に入れたばかりのものだ。
.
235
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 23:38:25 ID:T2xLTBNg0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
それは昼前。
物売りの声と、人々の歓声。肉や食材の焼ける香ばしい匂いと、煙草や香草の鼻を突く臭い。
広場に立つ黒と紫を基調とした、小さなテント。
川 ゚ -゚)「やれやれ。よくもまあ、飽きないものだな。
いつまでもここで揉められては困るし、一つ提案がしたいのだが……」
魔法石板売りの店主から買った石板を返すと言い出した弟者と、それにつられて大騒ぎになった一同。
一同の様子を呆れ半分で見守っていた店主は、手首にはめた腕輪に手をやるとそっと口を開いた――
川 ゚ ー゚)「どうだろう、魔力封じというものに興味はあるかな?」
(´<_` )「……秘術の一つだと聞いているが」
彼女は口元に薄く笑みを浮かべると、腕輪を外す。
素材はおそらく銀。中央に嵌めこまれているのは、丸く加工された水晶か。
全面に刻み込まれた文字や模様は、装飾品としてはあまり見かけないものであった。
.
236
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 23:40:55 ID:T2xLTBNg0
(´<_` )「……」
その腕輪を見たとたん、――これはあまり良くないものだ、と弟者は直感した。
同じ事を兄者も感じたようで、「うへぇー」と言いながらその表情を歪ませた。
それだけではなく、兄者はそのまま体をぶるりと震わせると、両腕をさすり出す。
( ^ω^)「これはなんだお?」
川 ゚ ー゚)「これはちょっと特殊なものなんだ。
一説には、魔神の持ち物だったとも言われている」
(;'A`)「げぇぇっ、魔神かよー」
弟者は店主の言葉に自分でも気づかないうちに、奥歯を噛み締めていた。
魔神――それは、精霊や竜なんかよりもはるかに格上の、それこそ神に等しい力を持った存在だ。
……それはもちろん、悪い意味で。
神と等しい力をもちながらも、気向くのままに魔力を振るい好き放題をする。
善行をすることもあれば、悪行もすることもある――と、世間一般では言われる存在だ。
川 ゚ ー゚)「そう怖い顔をするな。あくまでも噂だ」
薄く笑った表情は崩さないまま、彼女はそっと腕輪に指を這わせる。
そのまま彼女がそっと息を吸うと、弟者の肌がざわりと反応する。
.
237
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 23:45:05 ID:T2xLTBNg0
これは、魔力だ。
この女はこれから、魔法を使う。漂う魔力の量は、先ほどの戯れに使った暗示よりもはるかに強い。
弟者の手は腰に下げた曲刀へと伸びていた。
得体のしれない腕輪と、魔神、それから魔法石板と、魔法使い。
それらは弟者にとって刀を抜くのに十分な理由となった。
(;´_ゝ`)「おい、弟者待て!」
(´<_`#)「止めるな、兄者」
弟者の様子に気づいたのか、兄者の手が弟者の肩にかかる。
それを振り払おうとして、弟者は自分の行動が遅かったことを悟る。
川 ゚ -゚) 《 》
――魔法が発動する。
しかし、店主の発した音が何を示すのか弟者にはわからなかった。
……こういった魔法のたぐいが生じた場合、それが何を示す言葉なのか弟者には大抵読み取ることができる。
それが出来ないということは、それこそ弟者の理解を越える高度な魔法か、未知の魔法か。
魔法封じという言葉もあながち嘘ではないかもしれないと、店主を睨みつけながらも弟者は理解する。
川 ゚ -゚)「……これでこの腕輪は魔法や魔力を封印するようになった。
残念ながら、効果は一度だけだがな」
.
238
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 23:46:07 ID:T2xLTBNg0
(*^ω^)「おお、すっごいおー」
(;'A`)「魔力封じなんて貴重なもんを……随分とまぁ、大盤振る舞いなことで」
川 ゚ -゚)「これをやるから、お前たちは私の石板をおとなしく引き取って帰れ。
石板が気に食わないならばこれを使って封じればいいし、それ以外に使っても一向に構わん」
そして、店主は使い方を説明すると腕輪を机の上に放る。
弟者は無言で店主と、腕輪を見比べる。
(´<_` )「……それ以外に使っても、か」
(;´_ゝ`)「弟者さん。なんで、そこで俺の顔を見るのかな?」
(´<_` )「実験台が必要だと思ってな」
(; ゚_ゝ゚)「ちょ、おま、目、目が本気!! それ一度っきりしか使えないんだぞ!
魔法嫌いなのに、魔道具使うとかちょっと考えなおせ! 考えなおして下さい!!!」
銀の腕輪を拾い上げると、弟者はマントの隠しへとしまう。
二枚の魔法石板を抱えたままの兄者の腕を引きその場を離れるよう促すと、店主へ向けて言い放った。
(´<_` )「いいだろう、交渉成立だ」
川 ゚ ー゚)「お前なら、きっとそう言うと思ったよ」
.
239
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 23:47:36 ID:T2xLTBNg0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
一度きりの、魔力を封じる銀の腕輪。
その腕輪が今、兄者の手に握られている――。
兄者の意図はその動きでもう明らかだ。
(*'A`)「なるほど魔力封じか!」
(;^ω^)「え? え?」
魔力を封じて少女を解放する。
兄者の大馬鹿野郎は一度しか使えない貴重な道具を、たったそれだけのために浪費するつもりらしい。
(´<_`#)「――兄者」
少女の口から手を離し伸ばした弟者の手は、空を切った。
舌打ちし、兄者を捉えようと体を起こすが――、
(´<_`; )「――な、」
.
240
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 23:49:09 ID:T2xLTBNg0
前進に砂が絡みついているのでないかと思うほど、体が重くのしかかり上手く動くことができない。
自分のものとも思えない、その動きに弟者は愕然とする。
(*´_ゝ`)b「ちょっと、持って行かせてもらった」
(´<_`#)「くっ」
一方の兄者の動きは、これまでとは完全に別人。
砂丘で転んでいた時とは比べ物にならない速さで、弟者の腕をかいくぐり少女へと駆け寄る。
( `ω´)「がんばるお、アニジャ!」
(#'A`)ノ「行けー!!」
それでもなお兄者を阻もうとする弟者の顔に、ドクオが張り付く。
弟者は怒りの表情を浮かべながら引き剥がそうとするが、ドクオも渾身の力で耐える。
⊂(´<_`#)「どけっ、この羽虫っ!」
(#'A`)「いーやーだー!!」
弟者がドクオに気を取られた隙に、兄者は少女の元へとたどり着いた。
.
241
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 23:50:07 ID:T2xLTBNg0
(;A゚* )「……」
少女はその瞳に涙こそにじませてはいたものの、泣いてはいなかった。
ただその表情は青ざめ、その手は小さく震えている。
_,
(;´_ゝ`)「ごめんな」
(;A゚* )「……」
そして兄者は震える少女の左腕に、銀の腕輪をはめた。
嵌めこまれた水晶が光ったように見えたが、それも一瞬のこと。
すぐにその光も見えなくなる。
(゚A゚* )「――な、なに?」
(*´_ゝ`)ノ「ほい、たった今を持ちましてお嬢ちゃんの魔力は封印させてもらいましたー。
この腕輪が外れるまでは、絶対に魔法を使うことは出来ません!」
そう少女に向けてへらりと笑う兄者の顔に向けて――間髪入れず弟者の拳がつきささった。
ヘブッ(´く_`(#⊂(´<_`#)
.
242
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 23:53:07 ID:T2xLTBNg0
(;'A`)「スマン、弟止めるの無理だった!」
(; ゚ω゚)て「今日、4回目だお!」
痛みを訴える頬を抑えながら、兄者は弟の姿を睨みつける。
弟者が怒りの表情を浮かべていることに怯み、あわてて謝りそうになるがそれを何とかこらえ兄者は言う。
( ´_ゝ`)「弟者よ、痛いではないか」
(´<_`#)「殴ったのだから、当然だ。
……兄者は、自分が何をしたのかわかっているのか?」
(#´_ゝ`)「弟の狼藉を止めたに決まってるだろ。
これでめでたく魔力封印。魔法も使えないから解放しても大丈夫で、万々歳ですぅ!」
そう言い切った兄者の頬に、再び弟者の拳が唸る。
その拳は避ける暇もなく、兄者の頬に直撃する。
殴られたのは先程とは反対の頬。弟者は思い切り殴ったのか、痛いことこの上ない。
しかし、それでも兄者は引こうとはしなかった。
(´<_`#)「兄者はわかっていない!」
(#´_ゝ`)「いいや、わかっている。
俺は謝らないし、絶対に止めるからな!」
.
243
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 23:54:06 ID:T2xLTBNg0
同じ顔の二人が声を荒げ罵り合う。
両者はお互いしか目が入っていない。そして、精霊たちも兄弟たちの姿に完全に動きを止めている。
その隙を突いて――動いたものがいた。
(゚A゚* )「――――強くっ!!!」
先程まで震えていた少女が起き上がりながら、声を上げている。
しかし、それは魔法ではなく、単なる言葉として周囲に響いた。
少女が体から組み上げようとした魔力は、どうあがいても形にならない。
いや、組み上げようにも魔力そのものが今の彼女には捉えられない。
少女の顔がこわばりその視線は自らの腕――、はめられた腕輪へと落ちる。
(゚A゚; )「――っ」
腕輪に手をやるが、幾度試しても外れる様子がない。
決して頑丈そうではないのに、まるで意志があるかのように少女の腕から離れようとしない。
普通の腕輪ではない。少女はその瞬間にようやく理解した。
(゚A゚; )「魔力……封じ……」
魔力の封印。そんなことができる者は、そうめったにいない。
――だから、そんなものは嘘なのだと信じて、少女は逆転に賭けた。
なのに、なのに、なのにっ!
.
244
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 23:56:16 ID:T2xLTBNg0
( <_ )「だから、言っただろ」
どちらのものかわからない、男の声。
その声に少女は自分の残りの時間が尽きたことを、あきらめと共に悟った。
ああ、ニダやん。すまんかったなぁと――彼女は心のなかで、縛られ倒れたままの男に向けて謝罪する。
顔を上げて、少女は見る。
(´<_` )「殺すべきだって」
銀の光。
翻るシャムシールの刃。それが、彼女の視界いっぱいに映り……
(♯゚_ゝ゚)「――やめろっ!!!」
そして、鈍い音とともに少女の体に衝撃が走った――。
.
245
:
名も無きAAのようです
:2013/03/17(日) 23:58:33 ID:T2xLTBNg0
――――――‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
‐‐‐‐‐‐‐‐‐
(゚A゚* )
< `∀´>つε=(~⌒) 「なんだガキか。生者必滅、さっさとのたれ死ぬといいニダ」
( A;* )「……ぅ」
<;`д´>て
< `―´>「……」
< `∀´>「あー、腹いっぱいニダ。もう食いきれないからこれは捨てるニダ。
捨てたものをそこにいる腹をすかせてそうなガキが食べたとしても、ウリには全然っ関係ないニダ」
(゚A゚; )「……あ」
< `∀´>「さっさと食うニダ」
(⌒~)=o(゚A゚* )「ありがとう」
< `∀´>「それ食ったらついてくるニダ
どうせ、ニムには家なんて無いニダ。ウリなら飯くらいは食わせてやれるニダ」
‐‐‐‐‐‐‐‐‐
――――――‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
246
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 00:00:28 ID:c1EC81wI0
( <_ )「――兄者」
(; _ゝ )「ふぃー、危ね」
( A ; )「……なんで、」
刀は確かに振るわれた。
彼女の頭は激しい衝撃に打たれ、それに耐え切れずに首はがくりと揺れた。
目がくらみ、なかなか焦点を結んでくれない。しかし、それでも彼女は血の一滴もこぼすことはなかった。
(゚A゚; )「……あ、」
代わりに落ちたのは、花の飾り。
彼女が耳に飾っていた赤い花をかたどったそれは、無残にも割れ。原型を留めていない。
あの男が、攻撃を外すとは思えない。
それでも外したというのならば、その原因がどこかにあるはずだ。
そう、その原因となったのは――
(;´_ゝ`)「大丈夫だったか、お嬢ちゃん」
.
247
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 00:02:05 ID:c1EC81wI0
(;'A`)「おい、止めるならもうちょっとマシな方法あっただろ!」
( ´_ゝ`)「今の俺じゃあれが限界なんだよ」
これまで殴られるばかりだった兄者の拳が、弟者の頬へとつきささっていた。
おそらく少女の命を護るために振るわれたであろう兄者の拳。それをまともに受けた弟者は、兄の姿をギロリと睨みつけた。
弟者の瞳は激情が燃え、その表情にもはっきりと怒りの色が浮かぶ。
(;^ω^)て「アニジャっ!」
⊂(´<_`#)「こんのっ、ド低能がっ!」
弟者の表情の変化に兄者がほっとしたのもつかの間、今度は弟者の拳が兄者に向かって振るわれた。
ブーンの声もむなしく、反応が遅れた兄者はその拳をもろに受ける。
兄者の体がふらつくが、それでも彼は倒れずに弟の姿を睨みつけた。
兄者の顔に怒りの表情が浮かぶ。同じ顔をした二人は、まったく同じ表情で向かい合った。
(∩ _ゝ )「――っ、やったな弟者」
(´<_`#)「なぜわかならない。俺は、俺の――」
(#´_ゝ`)「違うっ、お前はただ魔法使いを殺したいだけだ!」
(´<_`#)「それの何が悪い!」
.
248
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 00:04:11 ID:c1EC81wI0
怒声を上げる兄弟。二人の拳が動いたのは同時だった。
両者の頭に避けるなどという思考はない。
あるのは、ぶんなぐってやりたいという衝動だけ。
そして、振るわれた拳は、数秒の間をおいて両者の頬をえぐった。
(;^ω^)て
(;'A`)「……うわぁ」
痛みと、それを上回る衝撃に二人はよろけ、一歩後退る。
しかし、そんなためらいはほんの一瞬で、すぐにお互いの胸ぐらを掴み始めた。
その一連の動きは――まるで、鏡に写ったかのように、そっくり同じ。
(´<_`#)「何をしやがる。兄者はアホかとバカかと」
(#´_ゝ`)「そういうお前こそ、アボカドバナナかと」
(´<_`#)「こんな時までふざけるな!」
兄者が弟者の頬を殴りつければ、仕返しのように弟者も兄者の頬を殴りさらに蹴りを加える。
腹を蹴られた兄者は顔をしかめると、弟者を蹴り倒し、そのまま馬乗りの体制になる。
そして、そのまま抵抗の出来ない弟者の顔を殴りつける。
.
249
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 00:06:37 ID:c1EC81wI0
(´<_`#)「こん……の」
(; _ゝ )「ぐっ」
弟者を殴りつけるのに必死になっていた兄者の体を、弟者の肘が打つ。
必死の力を込めたのか。それとも、当たりどころが良かったためか、兄者の体が怯む。
その一瞬の隙を突いて、弟者は体を傾け兄者の下から脱出する。
その弟者の動きに今度は、兄者の体勢が崩れた。
それを弟者は見逃さず、今度は弟者が兄者に馬乗りになる体勢となる。
弟者の拳は兄者の頬を、瞼を、鼻を殴りつけていく。
(;゚ω゚)「な、な、な、何をしてるんだお!」
('A`)「……よくもまあ、やるもんだ」
(;^ω^)「ああいうのはよくないお! ブーンは全然楽しくないお」
お互いに一切引く気配はない。
蹴りつけ、衣服をひっぱり、引きずり倒し、殴る。
口が切れ、瞼が腫れようともその動きは止まらない。
顔面をかばう腕ごと殴りとばし、蹴り飛ばす。そして、殴られ、蹴り飛ばされる。
(;^ω^)「もうやめるお!」
.
250
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 00:09:13 ID:c1EC81wI0
('A`)「いいから、やらせとけ。死ぬようなことはないだろ」
(;^ω^)「でも、アニジャもオトジャも間違ってないお。なのににどうして……」
ドクオの言葉にブーンはその表情を歪める。
ブーンの目からみた兄弟はどちらも間違っていないように見えた。
命を脅かす敵は排除すべきだという弟者の主張は正しい。
しかし、それど同時に同族の命を奪いたくないという兄者の思いもまた、間違ってはいない。
('A`)「弟は間違ってはいないだろうけど、オレは兄者に協力する。
ブーン。お前はどうなんだ?」
(;^ω^)「……お」
助けを求めるように動いたブーンの視線が、少女の姿を見た。
弟者の手から開放された少女が、後退りをするとフラリと立ち上がる。
(゚A゚* )「……」
少女にはもはや魔法を使おうとするそぶりも、武器を拾おうとするそぶりもなかった。
二度の反撃の失敗は彼女から抵抗する気力を根こそぎ奪い去っていた。
彼女は力ない足取りで歩くと、未だ縛り付けられたままの盗賊の元へとたどり着く。
.
251
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 00:10:19 ID:c1EC81wI0
(゚A゚* )「ニダやん……」
しかし、少女の手は男の縛めをほどこうとはしない。
うちひしがれた表情で彼女は、男を見下ろしている。
(;A;* )「ニダやん。ごめん。ごめんなぁ……」
(;^ω^)「……」
少女の目から涙があふれこぼれていく。
その姿にかわいそうだという言葉がブーンの脳裏に浮かぶ。
胸の中にただよう痛いようなむずむずする感じは、いつかの感情の名残だ。
('A`)「おい、お前さん。気持ちはわかるが、逃げようとはするなよ」
そんなブーンの様子には気づかないまま、ドクオは声を上げる。
ドクオは少女の傍ら、その視線の前を危なっかしい姿勢で飛び回る。
('A`)「オレが言うのも何だが、兄者はなんの義理もないお前さんのために弟にケンカ売ってるんだ。
それを無駄にするような行動はやめろ。余計なことをすれば、今度こそ弟がやらかしかねん。それに……」
:.。.('∀`).。.:「兄者ならなんとかするさ!」
.
252
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 00:13:01 ID:c1EC81wI0
( ^ω^)「……ドクオ」
ドクオの弾けるような笑顔に、ブーンは言葉を失った。
その理由はわからないが、知らないほうがいい感情の作用によるものの気がして、ブーンは話を変えることにした。
( ^ω^)「そういうドクオこそ、まっさきに逃げたおね」
+('A`)「え?」
(゚A゚* )「……精霊はん。何、言わはってるんやろ」
そんな二人のやり取りは、少女の耳には届かなかった。
彼女の耳は精霊の声を捉えることができない。
しかし、訴えるような精霊たちの姿に、何か大切なことを言われているような気がして、彼女はそっと目を閉じる。
(‐A‐* )「……」
耳を澄ましてどれだけ集中してみても、精霊の声は聞き取れない。
その代わりなのだろうか、自分に向けて「ごめんな」と告げた男の声と表情が浮かんで消える。
武器を突きつけた相手に言う言葉とはとても思えない。優しい声。
.
253
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 00:14:21 ID:c1EC81wI0
ああ、そうか。
あの男は彼女がニダやんと呼ぶ男と同じ、とんでもない馬鹿なのだと少女は悟る。
……そう悟ったと同時に、彼女の心は折れた。
(゚A゚* )「あーあ。ウチの負けやわ」
裏切られたというのに、兄弟相手に拳を交えて少女の命を守ろうとするとんでもないお人好し。
そんな相手を、これ以上裏切ることなんてできない。
したくないと……彼女は思ってしまった。
(;A;* )「……ニダやん」
お人好しに拾われたことで永らえた命だ。
その最期がお人好しのために終わるのであれば、その帳尻だってあっている。
(;A;* )「ごめんなぁ。助けてあげられなくて……」
ただ、その思いが、選択が、ニダやんの命を救うことにならないことだけが、胸に痛かった。
.
254
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 00:16:14 ID:c1EC81wI0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
はたしてドクオの言葉通り、兄弟はしばらく殴りあった後、その動きを止めた。
砂山の上に体を投げ出し、二人はぐったりと動かなくなる。
( ノ_ゝ`)「……あー、口の中切れてら」
(ノ<_` )「調子に乗るからだ、ド阿呆」
互いの顔は腫れ上がりボロボロ。
それでも、互いの口は減る様子がない。
しかし、互いの表情は先程までとは違い、随分と晴れやかになっていた。
殴りあったのことでお互いにスッキリとしたのだろう。向けられる言葉も随分と落ち着いていた。
彼らの母である母者=流石の教えの一つ、納得するまで殴り合え。
その言葉は彼らにとって思いの外、有効であるようだった。
(♯ノ_ゝ`)ノ「とにかく、もう魔法が使えないんだから、この子は解放!」
(ノ<_`#)「その件で報復でもされたらどうする!」
(♯ノ_ゝ`)「その時は、その時だ!」
.
255
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 00:18:30 ID:c1EC81wI0
そう言い切った兄者の声の鋭さに、弟者はため息をついた。
普段は適当なことしか言わないのに、こうと決めたことは断固として譲ろうとしない。
兄のそういった性格を、弟者は誰よりも知っていた。
( ´_ゝ`)「弟者ぁー」
兄者がポツリと声を上げる。
( ´_ゝ`)「やっぱり、殺しはよくない。
ほら、後味悪いし、きっと後悔しちゃうんだぜ☆彡」
(´<_` )「……」
二人とも、こんなところでいつまでも貴重な体力を消費するわけにはいかないということは理解していた。
まだ、道のりは半分きたかどうか。
だけど、彼らはまだこんな所で足踏みをしている。
(´<_` )「……俺が言うなら」
(;´_ゝ`)て「いや、お前は何も言ってないし!」
そして、長い沈黙の末に弟者は言った。
その言葉に兄者は笑いかけてから、あわててツッコミを入れる。
弟者の表情が不満そうに歪むが、兄者はそれを無視して言葉をつむぐ。
.
256
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 00:19:50 ID:enVc4rq.0
しえん!
257
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 00:20:31 ID:c1EC81wI0
( ´_ゝ`)「まあ、封じたもんはもうどうしようもないしな」
(´<_` )「いかんともしがたいが、封じてしまったものは仕方がない」
(*´_ゝ`)「ほう、わかってくれるか弟者!」
兄者はぱっと明るい表情になると、体を起こす。
両手を天に掲げパタパタと振り彼なりに喜びを表現すると、再び弟の姿を見やる。
(´<_` )「こうなった兄者には何を言っても無駄だからな。
……まったく、困った兄を持ったものだ」
( ´_ゝ`)b「だけど、流石だろ?」
(´<_` )「知るか」
ヽ(;´_ゝ`)ノ「いや、でも流石だっただろ。今のは!」
(´<_` )「……さてな」
そう言って、血をにじませ腫れ上がった顔をした兄弟は笑いあった。
.
258
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 00:22:44 ID:c1EC81wI0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
( ´_ゝ`)「ブーンも、ドクオも心配かけたな。めでたいことに話はどうにかまとまったぞ」
(;'A`)「なんというか、お前さんたちはよくもまあ、あんなに殴りあったもんだな」
( ´ω`)「ブーンはもうこんなのやだお」
腫れ上がった顔はそのままにして、兄弟はブーンの元へと舞い戻った。
彼ら二匹は、先ほどまで弟者が生命を狙っていた少女の回りを飛び回っている。
( ´_ゝ`)「それから、」
兄者は少女へと視線を動かす。
ナイフも魔法も失った少女は、盗賊の傍らに座り込んでいる。
そんな彼女に向けて、兄者は笑顔を作ると声をかけた。
( ´_ゝ`)「ごめんな。ひどい目にあわせてしまって」
(゚A゚* )「……、お兄はんは、ほんまにアホな人やわ」
.
259
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 00:25:16 ID:c1EC81wI0
どこか呆然としていた少女の瞳が、その顔が柔らかい表情を取り戻す。
ほっとしたような、すがるようなその少女の表情に、兄者の胸が少しだけ痛みを訴える。
(-A-* )「うちらの負けや」
少女はぽつりとつぶやく。
そして、その言葉とともに、少女は服の下から何かを落とした。
( ´_ゝ`)「ん?」('A`)
( ^ω^)「お?」
銃。金属で作られた刃。裁縫に使うには巨大すぎる針。
よくぞまあ集めたものだと言わんばかりの武器が、少女の服の下からは出てくる。
武器の数々に兄者の顔が一瞬固まり、その顔がさっと青くなる。
ナイフではなくてこちらの武器が使われていたら……それは考えたくもない想像だった。
(;´_ゝ`)「……弟者、やっぱお前が正しかったかもしれん」
(´<_` )「言い出したのは兄者だからな、ちゃんと責任はとれ」
(;'A`)「こぇー、こぇーわー」
(゚A゚* )「ウチもニダやんも投降する」
兄弟の言葉に少女は笑いを漏らすと、少女は負けを認めた。
.
260
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 00:26:18 ID:c1EC81wI0
・
・
・
<#ヽ`∀´>「のーちゃんに何するニダ!」
砂漠に男の声が響く。
盗賊の男――彼は相変わらず縛り付けられた体勢のままで、一同から見下されていた。
(;'A`)「こいつ、ずっと寝てたのか」
(*´_ゝ`)ノ「おはよう! なんかよくわかならいお茶の人!」
<#ヽ`∀´>「お茶はお前らのほうニダ!
なんたる侮辱、なんたる屈辱! 縛られてさえなければお前らなんて」
チャッ( ´_>`)つ==|ニニニ二フ<#ヽ`∀´>「ケチョンケチョンに……」
(;^ω^)「やめて!」
(;´_ゝ`)「弟者さん、止まって!」
兄者の声に、弟者は曲刀を鞘へと収める。
弟者が刀をしまうのをちゃんと確認してから、その様子を眺めていた少女は声を上げた。
.
261
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 00:28:05 ID:c1EC81wI0
(゚A゚* )「ニダやん。ウチらはもう負けたんよ」
少女の服は先ほどまでの戦闘で、いたるところが破れ、血がにじんでいる。
しかし、傷を負った腕には今は包帯が巻かれ、きちんと手当がされていた。
首の傷も同様で、兄者が持っていた薬によって治療がされていた。
<;ヽ`∀´>「のーちゃんなんで……。
巻き込まれないように、街にいろって」
(゚A゚* )「ニダやんは阿呆やなぁ。ウチが二ダやんを見捨てるわけないやろ。
ニダやんにはウチがついてなきゃあかんもん。
……まあ、今回ばかりは力及ばずやったけど」
少女の傷。それを見て取るった男の表情が、凍りついたように歪む。
少女はそれに困ったように笑うと、兄者を、そして弟者を見やった。
(´<_` )「相方は投降した。本来ならお前たちは殺されてしかるべきだが」
<;ヽ´∀`>「の、の、のーちゃん大丈夫アルか! じゃなかった、大丈夫ニダっ!」
(´<_` )「話を聞け。本来なら、二人とも殺すべきなのだが、
……とある筋からの要請で、それはしない」
(*´_ゝ`)「えっへん」
兄者の声に弟者は口元を曲げるが、すぐにその表情をとりつくろう。
そして、何事もなかったかのような表情を浮かべると、再び男へと向き直った。
.
262
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 00:30:22 ID:c1EC81wI0
('A`)「素直に兄者からの頼みって言えばいいのに、弟者のやつ……」
( ^ω^)「おっおー。でも、本当によかったお」
ブーンは明るい表情で言うと、兄者や少女の回りを勢い良く飛び回る。
それを眺めるドクオの表情もどことなく明るい。おそらく彼も機嫌が良いのであろう。
<;ヽ`∀´>「ふ、ふん。このウリが唯々諾々と従うと思ったニダ? そうはいかないニダ!
そんな事言って、動けないウリやのーちゃんを騙し討ちに」
(゚A゚# )「ニダやん。怒ってもええ?」
<;ヽ´Д`>「のーちゃん!」
少女の剣幕に男の表情がみるみる歪む。
そんな男の表情を見ながら、弟者は再び声をあげる。
(´<_` )「武器は回収させてもらう。最低限の水だけは持たせてやるからあとは何処にでも行くといい」
(*´_ゝ`)ノ「なー、こいつの武器ってこれだろー!!」
<;ヽ`∀´>て「う、ウリの愛刀ちゃんがぁぁぁぁ!! 天はウリにかくも艱難辛苦を味わえと」
兄者が男の近くに転がっていた刀を拾い上げると、男が大袈裟にも悲鳴を上げる。
弟者は兄者から刀を受け取ると、まじまじとその刀身を眺めた。
.
263
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 00:32:16 ID:c1EC81wI0
(´<_` )「――東方の武器だな」
( ´_ゝ`)「へー」
男の獲物は青龍刀。
美術品としても通じそうな弟者のシャムシールとは異なり、男のそれは無骨な切るためだけの刀だ。
装飾は柄の先にとりつけられた布のみ。柄には布が巻きつけてあるだけ。
柄にも刀身にも、鞘でさえも余計なものは一切ない。
それは純粋に戦いのためだけに作られた、武器であった。
<;ヽ`Д´>「ああ、ウリの愛刀ちゃん……」
(゚A゚* )「ニダやん、みっともない。それが条件やさかい、しゃあないやろ」
<;ヽ`∀´>て「のーちゃん冷たい!」
弟者は青龍刀を軽く振るう。
幅広のその刀は弟者の動きに、風を切り唸りをあげる。
(´<_` )「ふむ。少し軽いが……悪くはないな」
(*´_ゝ`)ノシ「弟者ーっ、そのままじゃ危ないから鞘も貰っちゃおうぜ!」
(´<_` )「ああ、俺がやるから兄者は下がってろ。マタ ヒトジチ ニ サレルゾ」
(;´_ゝ`) …ゴメン
.
264
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 00:34:48 ID:c1EC81wI0
まばたきほどの間に男から鞘は奪い取られ、弟者は奪い取った獲物をその身につける。
それに不満気な声を上げたのは、刀の元の持ち主と兄者の二人である。
<ヽ;∀;>「ウリの愛刀ちゃん……」
ヾ(#´_ゝ`)ノシ「弟者ばっかずるいぞー! 俺もそういうかっこいい武器ほしい!」
(´<_` )「兄者にはナイフをやっただろうが。あとその他もろもろ」
(;´_ゝ`)「……あのナイフにはちょっと苦い思い出しかないので。
っていうか、銃とかその他もろもろとか使い方すらわからないですしおすし」
弟者の腰には青龍刀とシャムシール。
そして、兄者の腰には小さなナイフが一つ。その他のよくわからない武器たちは袋に詰めて荒巻の上に。
男と少女の武器をあらかた取り上げたのを確認したところで、弟者は少女に向けて問いかける。
(´<_` )「他に武装は?」
(゚A゚* )「帯のところ。ほとんど使わへんけど、かっこええからて腰帯剣仕込んでる」
<;ヽ゚∀゚>「のーちゃぁぁぁぁん!!!」
(;'A`)「容赦ねぇなあの嬢ちゃん」
相方に裏切られたショックで男が声を上げるが、弟者はそれに構わず器用にも武装を剥ぎ取る。
.
265
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 00:37:51 ID:c1EC81wI0
( ^ω^)「これも武器かお?」
_,
(;´_ゝ`)「東方怖ぇー」
,_
(´<_`; )「流石にこれは……」
(;'A`)「武器にかけるなんとも無駄な労力……人間ってすごいんだな」
帯を模した鞘に仕込まれた剣。その姿は流石に衝撃的だったらしく、四人はそれぞれ声を上げる。
彼らはしばしその武器を眺めた後に、荒巻の背にした袋に放りこんだ。
(´<_` )「これで全部か」
<ヽ`∀´>「それはどうかな。ウリには実は隠された必殺技とか伝説の武器とかがあって……」
(゚A゚* )「せやな、これで全部や」
<;ヽ`Д´>「だから、のーちゃぁぁぁぁん!!!」
弟者は少女の言葉に頷き返すと、兄者にラクダに乗るように促す。
兄者は少女の姿を心配そうに眺めていたが、「荒巻―ぃ」と声を上げるとラクダにまたがった。
空をとぶのが苦手なドクオが、急げとばかりに兄者に続く。
.
266
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 00:38:36 ID:c1EC81wI0
( ´_ゝ`)「おーい、弟者ぁー」
(´<_` )「わかった」
兄者がラクダを乗るのを確認してから、弟者は盗賊たちへと再び向き直る。
何やら揉めはじめた男と少女の会話を中断しようと、弟者は口を開き――、その言葉を失った。
<#ヽ`∀´>「覚えていやがれニダー!!!
この屈辱、たとえウリが忘れようとも十億一兆の群集たちが」
(゚A゚; )「ニダやん。盗賊稼業なんてアコギな商売、もうやめたほうがええよ」
∩<#`∀´>⊃「やるニダ!! ウリはこの無限砂漠で伝説とうたわれる極悪非道の大悪人になるニダー!!!」
(゚A゚# )「うっさい! このボケ!!」
(;^ω^)「あばばばばば」
縛り付けられたままの男に、少女の回し蹴りがあびせられている。
一度や二度ではなく、三度や四度。
その光景を間近に見ていたブーンは、何か感じるものがあったのか「あばばば」と奇声を上げている。
(゚A゚* )「あ」
(´<_`; )「……」
(゚A゚* )「なんやもう、いろいろとご迷惑をかけまして。
ニダやんのこと助けてくれはって、感謝の言葉しかあらしまへん」
.
267
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 00:41:37 ID:c1EC81wI0
自分を殺しかけた相手を前にして、少女には動じる様子がない。
それどころか、口元に淡く笑みを浮かべると弟者の顔をじっと見つめた。
(´<_` )「……」
(;^ω^)「オトジャ……もう怖いことはもうやめるお……」
(゚A゚* )「ニダやんはどうか知らんけど、ウチは本気で弟さんのこと潰す気やった。
さかい、ウチが殺されるのは当然。せやけど、ニダやんだけは……」
助けたかったから。
少女は言外にそう言うと、弟者に向かって微笑む。
<#ヽ`∀´>「のーちゃん、そいつからとっとと離れるニダ!」
(^A^* )「きっと、アニさんとウチは似とるんよ。
アニさんの弟さんが、ニダやんみたいなお人好しやったみたいにね」
(´<_` )「……お前の言う弟が誰のことだか、本気でわからないな」
<#ヽ`Д´>「のーちゃん!」
男の声に、少女は「やかまし!」と怒鳴り返す。
二人の姿に背を向けながら、弟者は声を上げた。
.
268
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 00:42:38 ID:c1EC81wI0
(´<_` )「俺達の姿が見えなくなったら、そいつの縄をほどいてやれ。あとは知らん」
弟者の声に、少女はどんな表情を浮かべたのか。
それを弟者は知らない。しかし、きっと悪いものではなかったのだろう。
( ω )「よかったおね!」
( A * )「……おおきに」
弟者はそのまま自分のラクダ――中嶋の元へと向かう。
武器も取り上げたし、水も分けた。これ以上ここにいてもやることはない。
( ´_ゝ`)b「流石だな、弟者」
(´<_` )「いいから、行くぞ」
('A`)「だってよ、兄者」
(;´_ゝ`)「なんと! せっかく流石だなと言ったのに、ノリが悪いな弟者」
⊂二( ;^ω^)二⊃「アニジャもオトジャもドクオも置いてかないでおー!!」
最後に聞こえたブーンの声を背にしながら、弟者はラクダの背へとまたがった。
.
269
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 00:44:38 ID:c1EC81wI0
男と少女の二人組を背にして、ラクダは進みだす。
荒巻と中嶋の足が砂を踏む、その瞬間に兄者は大きく振り返った。
( ´_ゝ`)ノ「聞き忘れてたー! お嬢ちゃんはなんて名前なんだー?」
目いっぱいに張り上げた兄者の声に、少女はにっこりと笑う。
それは、花がさくような笑みだった。
(゚A゚* )「ウチはのー! それからこっちが、ニダやん!」
その声を聞いて、兄者の顔に笑顔が浮かぶ。
背後を振り返った不安定な体勢のままに、兄者はその手をブンブンと大きく振る。
(*´_ゝ`)ノ「のー者もニダやん者も元気でな!」
⊂二( ^ω^)二⊃「元気でーだおー!」
(´<_`; ).。oO(よりにもよって、元気でな、はないだろう)
(;'A`)「いくらなんでもそこで、元気でな、はないだろう……」
?('A`) (´<_`#)
.
270
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 00:46:13 ID:c1EC81wI0
そして、“流石”の街の一行は旅立っていく。
向かう先は、砂丘の山の向こう。その姿をのぞかせるソーサク遺跡。
<#ヽ`∀´>「ウリはニダやん者じゃなくて、ニダーニダ!!!
艱難辛苦、臥薪嘗胆耐えに耐えいつか、いつかぁぁぁぁぁ!!!」
( *゚A゚)ノシ「ほんまにおおきに! それと、かんにんなぁぁぁ!!!
どこまでも続いていく砂丘。
走り去っていった一行に向けて、響く二人組の声。
(゚A゚* )「じゃあ、もうちょっとしたらウチらも行こか」
<;ヽ`∀´>「のーちゃん、その前にこの縄ほどいてほしいニダ」
盗賊と少女。
ちぐはぐだけれども、きっちりと噛み合った二人組。
(^A^* )「ニダやんが、ちゃんと反省したらな」
<;ヽ`Д´>て アイゴー
彼ら二人がこれからどうなっていくのか、――それはまた別の話である。
.
271
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 00:47:13 ID:c1EC81wI0
そのよん。 人生とは戦いの連続である
おしまい
.
272
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 00:49:00 ID:c1EC81wI0
投下ここまで
思いの外時間がかかったので、オマケは明日あたりに投下します
そのご。は何事もなければ4月中に投下の予定です
273
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 00:49:20 ID:JFBHVXk.0
乙!
274
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 06:15:25 ID:HNK9gmxs0
おつおつん
275
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 23:35:49 ID:c1EC81wI0
オマケ6レス投下ー
276
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 23:37:22 ID:c1EC81wI0
∧三)ヘ
<∬´_ゝ`)>
∬ =><= Vつ
(/〈;゚・*・゚;)_/
./_/.〉ニニ〈 〃'´⌒`ヽ
〈,_,)/`‐--‐!! 〈((リノ)))i iヽ
! !.| l从・∀・ノ!∩ヽ
| !.| と)二二(/ヽ)
| !.| 〈_l_) ((
ノハヘハヘハ.ゝ U U
おまけ劇場 l从・∀・ノ!リ人 でざーと×しすたーのようです
.
277
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 23:39:30 ID:c1EC81wI0
∬´_ゝ`)「お姉様のお帰りよ―!! 愚弟ども早く出迎えなさーい」
∬#´_ゝ`)∩「兄者ぁぁー! 弟者ぁぁぁー!! 水持って来なさい、水!」
シーン
_,
∬´_ゝ`)「返事がないわね。まったく、弟どもはこれだから……」
∬´_ゝ`)∩「兄者ー、弟者ー。出て来なさい。
今なら、東方式謝罪儀式で許してあげるわよー。殴らないから」
……シーン
∬#゚_ゝ゚)カッ「ぶっ潰すぞゴルァ!!!」
.
278
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 23:41:28 ID:c1EC81wI0
シーン
∬´_ゝ`)「これでも返事はなし……ということは、本当にいないわね。
あー、せっかくご飯でも作ってもらおうと思ったのに。クソ弟者め」
∬´_ゝ-) んー
∬∩´_ゝ`)∩「妹者ー。妹者はいるー?
兄者達とどっかに行ったなら、そう返事をしなさい。
いるなら、お姉ちゃんのところにおいでー」
・・・
∬;´_ゝ`)「こんなに暑いのに、まさか出かけた?
我が家の弟妹はそろいもそろって……いやいや、あの兄者が外出とか」
∬´_ゝ`)「あ、女絡みか。それならあるわ。
どうせフラれるのにこりないわねぇ……」
.
279
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 23:44:21 ID:c1EC81wI0
∬;´_ゝ`)「……お腹すいた」
∬´_ゝ`)oグッ 「仕方ない……自分で何とかするか。
あー、母者も使用人やとってくれればいいのに。ケイビダケトカ」
ガサゴソ ゴッ
∬;´_ゝ`)「あ、」
三(´く_` ∬ キョロキョロ
∬´_ゝ`)「……まあ、食えりゃいいいのよ。食えりゃ」
ゴォッ
バキョッ きゃぁぁぁぁぁ
ガガガ
l从-〜-;ノ!リ人「うー」
.
280
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 23:46:56 ID:c1EC81wI0
パチリ l从・∀・ノ!リ人
ガタッ
ゴトゴト
l从・д・;ノ!リ人「なんの音なのじゃー?」
Σl从・Δ・;ノ!リ人「まさかドロボウさんなのじゃー?!」
.
281
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 23:49:03 ID:c1EC81wI0
・
・
・
ソロー ┃ol从・∀・;ノ!リ人「ドロボウさん。ドロボウさん。いるならでてこないでください。
いないならいないでいてください」
┃oll从-∀-;ノ!リ人 ギュッ
ガチャッ
∬;´_ゝ`) 「「あ」」 l从・∀・;ノ!リ人
.
282
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 23:51:17 ID:c1EC81wI0
l从・〜・ノ!リ人モグモグ
∬´。ゝ`) ムシャムシャ
l从・〜・*ノ!リ人「ちょっとコゲてるのじゃー」
∬#´_ゝ`)「これは私じゃなくて、火が悪いの。
もしくは、この最高のお姉さまを放置して、どっかいっちゃうごはん係が悪いのよ」
l从・∀・ノ!リ人「ごはん係?」
∬´_ゝ`)「ううん、なんでもない。ごめんねー、不味くて」
l从・∀・*ノ!リ人「妹者はこの味好きなのじゃー
とってもとっても、おいしいのじゃー!!!」
∬*´_ゝ`)「よしっ! 流石よね私。まさに天才って感じ」
l从>∀<*ノ!リ人「姉者は流石なのじゃー」
∬*´_ゝ`)b「流石よね、私たち」 ノジャーdl从>∀・*ノ!リ人
特にオチはない でざーと×しすたー おしまい
.
283
:
名も無きAAのようです
:2013/03/18(月) 23:53:56 ID:c1EC81wI0
投下ここまで! 6レスじゃなくて7レスだった……
支援と乙くれた方々本当にありがとうございました
284
:
名も無きAAのようです
:2013/03/19(火) 00:12:57 ID:1.fCHpkM0
おつ 和む
285
:
名も無きAAのようです
:2013/03/19(火) 10:51:09 ID:Bn/8MFDMO
ニダー可愛かった
オマケも可愛い
乙です
286
:
名も無きAAのようです
:2013/03/21(木) 07:23:34 ID:OUvlTcPQ0
おつおつ
287
:
名も無きAAのようです
:2013/04/14(日) 22:14:52 ID:x5/2sQRQ0
4月の20日か21日に投下するよ
本編65レス前後。オマケ7レス前後の予定
288
:
名も無きAAのようです
:2013/04/16(火) 09:34:06 ID:bRS65HRI0
フォーウッ!
全裸マントで待ってる
289
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 19:45:35 ID:M.Sc.APo0
企画とかとかぶっちゃったけど、投下いくよ!
290
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 19:46:32 ID:M.Sc.APo0
(;´_ゝ`)「……」(´<_`;)
ひび割れた大地を超え。広がるのは一面の砂。
吹き抜ける風に、砂が舞い上げられる。
舞い上げられた砂は辺りを舞い、地表の形を少しずつ変えていく。
( ;_ゝ;)「……茶が……めっちゃしみるんだが」
((´<_` ;)「……耐えろ」
口にした香草の清涼感が、殴り合いでできた傷に痛みをもたらす。
それは兄者も弟者も同様のようで、両者の眉根にはしっかりと皺がよっている。
口に広がる痛みに涙しながら、兄者は茶をごくりと飲み込んだ。
(´<_` )「……やっぱり減らすか、香草」
(;´_ゝ`)「いや、でも入ってないと物足りなくないか?」
(;'A`)「二人揃って何やってるんだか」
(*^ω^)「とっても楽しそうだお!」
広がる砂丘の只中にいるよく似た二人の男と、白と紫の二匹の精霊。
――彼らは今、のんびりと休憩中だった。
.
291
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 19:47:46 ID:M.Sc.APo0
( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )
.
292
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 19:48:36 ID:M.Sc.APo0
そのご。 ようこそ、ソーサク遺跡へ
.
293
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 19:50:02 ID:M.Sc.APo0
(;´_ゝ`)「いやー、さすがに暑くていろいろと無理ー」
(´<_` )「もう正午だかららな。しばらくは暑いぞ、兄者」
ニダーとのーの盗賊二人組から別れて幾ばくか。
一同はラクダに乗ってひた進み、兄者の体力が限界を迎えはじめた頃、休憩を取ることになった。
( ^ω^)「おっおー、ブーンは平気だおー」
('A`)「影なめんな」
ヾ(;´_ゝ`)ノ「この裏切りものどもめ!!」
騒ぐ兄者他二匹から目をそらして、弟者は周囲を見回す。
風は相変わらず吹いている。しかし、この程度ならば視界が利かなくなるなくなることはないだろう。
兄者の天候予測でも風、気温ともに良好と出ているし、この先天候だけは心配しなくてもいいらしい。
(´<_` )「しばらく休むとするか」
熱砂の中を吹く風は、体から水分と体力を奪い去ろうかとするように容赦なく体を焼いていく。
しかし、この程度の暑さならばこの季節においては当たり前のことだ。
弟者は手にした茶を一口飲み、やはり傷に染みたのかその表情を再びしかめた。
.
294
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 19:52:26 ID:M.Sc.APo0
( ^ω^)「オトジャー、何してるんだお?」
(´<_` )「……」
弟者はブーンの見ている横で、荷袋から鍋を取り出す。
そしてその中に、同じく袋に用意されていた食材を適当に切って放り込む。
その間、弟者はブーンに視線を向けず、言葉も発しようとはしなかった。
( ´ω`)「また無視されたおー」
('A`)「お前もメゲないよな」
ヨシヨシ( ´_ゝ`)ノ(´ω` )オー
(´<_`#)
オトジャ タン コワイ( ;´_ゝ`)ノ(^ω^ ;)ヤメテー
('A`)「……お前ら、本当に楽しそうだよな」
.
295
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 19:54:18 ID:M.Sc.APo0
( ´_ゝ`)「ところで、弟者さんは何してるんですか?」
(´<_` )「腹減ったから飯」
弟者はそう答えながらも、動かす手を止めない。
茶の入っているポットをどかして、食材を適度に炒めはじめる。
鍋が熱せられれるのにしたがって、じゅぅぅと音が上がり周囲には香ばしい匂いが立ち上る。
(;´_ゝ`)「えー、市場でいろいろと食っただろ」
(´<_` )「さんざん動き回ったから、腹が減った件について。
やはり砂丘は疾走するものではないな……あれは疲れた」
(*^ω^)「おー、またご飯だおー。おいしいんだおー」
(;'A`)「また、食うとな」
そう答えながらも弟者の目は、鍋と食材を真剣に見つめ続けている。
野菜に火が通ったことを確認してから、水とともに香草を鍋の中へと入れた。
( ´_ゝ`)「まあ、わからんでもないがな。俺も腹減ったし」
.
296
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 19:56:33 ID:M.Sc.APo0
(´<_` )「兄者よ。暇ならさっき奪った武器でも処分しておけ。
使えない武器があっても危険なだけだ」
(;'A`)「これじゃどっちが盗賊かわかったもんじゃねーな」
(´<_`#)「……」
ドクオの声に、弟者の視線が鍋からドクオへと移る。
その視線の鋭さに、ドクオは手を上下に動かすと顔を蒼く染める。
(;゚A゚)「ごめんなさい、弟様!
むしらないで、投げないで、刀突きつけないでぇぇぇ!!!」
( ^ω^)「ドクオ。まだ、オトジャは何もしてないお」
( ´_ゝ`)「えーと、武器武器っと」
しかし、一日のうちに同じような出来事が何度か繰り返されると人とは慣れるものである。
この程度なら大丈夫だろうと言わんばかりに兄者は荷物を探り、ブーンは慌てた様子もなくのんびりと声を上げる。
('A`)「うん。お前ら冷たい」
そんな二人の様子に、ドクオは少しだけ泣きたくなった。
理由はわからない。しかし、彼にとって泣きたくなるなんてことは随分と久しぶりで、それが少しだけ嬉しかった。
.
297
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 19:59:02 ID:4XQ0N49sO
来てるー!支援!
298
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 19:59:48 ID:M.Sc.APo0
( ´_ゝ`)つ┏━「おとじゃぁぁぁ、お前、銃使えるぅぅぅ?」
(´<_`;)「使えないこともないが、手入れはできんぞ。
それに粗悪な銃の場合、下手に触ると暴発するぞ」
(;´_ゝ`) ヒィィ ('A`;)
( ^ω^)?
のーとニダーから取り上げた武器の入った袋。その中にある武器たちを掲げて兄者は声を上げる。
弟者は鍋の上に蒸し器を置きながら、その問いに答えていく。
( ´_ゝ`)ノ◯「じゃあ、この何だかわからない輪っかは?」
(´<_` )「使えるわけ無いだろこの阿呆。指切るぞ、指」
(*´_ゝ`)「えーと、じゃあなぁ」
( ^ω^)ノ┃ ♭ヽ('A`)
袋の中の大半は、のーが隠し持っていた使用方法すらもわからない武器の数々だ。
兄者はそれらを一つ一つ取り出しながら、「これはどうする?」といちいち弟者に確認していく。
.
299
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 20:00:42 ID:M.Sc.APo0
(´<_` )「袋に詰めてたやつはまとめてそのへんに埋めとけ。
仕込み武器や暗器なんぞがあっても、使いこなせない件」
( ´_ゝ`)「やっぱ、弟者でも無理か」
弟者は蒸し器に小麦粉の練り物を入れながら、火の具合を見る。
どこからか集めてきた枯れ草を火の中に足し、随分と調理に熱中している。
( ´_ゝ`)「あ、そうだ。俺の持ってるナイフと弟者の持ってるセイリュートーは?」
(*^ω^)「セイリュートーってなんかかっこいい響きだお!」
(;'A`)「危うくオレに刺さるとこだった、あのナイフ……」
が、兄者の声が聞こえると同時に弟者は腰に下げた青竜刀をスラリと抜いた。
あいも変わらず弟者の表情は変化に乏しいが、その瞳はいきいきと輝いている。
+(´<_` )「これはいい刀だ、俺がもらう。
機能と威力しか追求していないにもかかわらず、洗練された見た目。
そして何より、あの男の馬鹿力にも耐えうるその丈夫さ。きっと名のある職人が鍛えたに違いない。
それにしてもあの盗賊、刀の手入れだけは欠かさなかったらしいな。随分と、美しい刀身をしている」
(;´_ゝ`)「い、いきいきとしてますね弟者くん……」
(´<_` )「そうか? ナイフは兄者の好きにしていいぞ」
.
300
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 20:02:35 ID:M.Sc.APo0
( ´_ゝ`) ざっくざくー
( ^ω^) ざっくざくー
('A`) ざっくざくー
ヾ('A`)ノ 武器入り袋ダバァー
( ´_ゝ`) ダバァー
(*^ω^) ダバァーだおー
( ^ω^) 砂ドシャー
(*´_ゝ`) ドシャー
('A`)ゝ どしゃー
( ´_ゝ`)b「よし終了! さーて、弟者ぁぁぁぁ」
.
301
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 20:04:21 ID:M.Sc.APo0
(´<_`*)「……」
( ^ω^)「おー、すごいおー」
弟者が先程まで見ていた鍋は煮込みの段階に入ったのか、火にかけられたままになっている。
かわりに弟者が手にしているのは大きめの皿。
その中には白い粉と水が注がれ、弟者はそこにおもむろに手を突っ込んだところだった。
(;´_ゝ`)て「弟者さん、おもむろにパンをこねようとするのやめて!」
(´<_` )「ああ、兄者か。結局、ナイフはどうしたんだ?」
兄者の声に答えながらも、弟者の動きは止まらない。
小麦粉を混ぜ、その形がまとまり出したところで、力を入れてこね続ける。
(;´_ゝ`)「せっかくだし貰うことにしたけど……って、もう本格的に生地作り出してるし」
(´<_` )「腹が減ったんだから仕方がないだろう」
( ´_ゝ`)「いや、今日中に帰る予定だよな? ジカン カカルゾ」
d(´<_` )「先のことより、目先の飯のほうが大切ですが何か」
(;'A`)「コイツ言い切りやがった」
(;'A`)ゴメン (´<_`#)
.
302
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 20:06:44 ID:M.Sc.APo0
・
・
・
細かな小麦の練り物の上にかけられた、香辛料のきいた野菜のスープ。
その隣には、つい先程焼きあがったばかりのできたてのパン。
( ´_ゝ`)「……流石だな、弟者。
これには正直、お兄ちゃんびっくりだわ」
(´<_` ) モグモグ
(;´_ゝ`)「返事もしないし」
( ^ω^)「アニジャも無視されたのかお?」
( ´_ゝ`)「ブーン、お前……」
ムシサレ(*^ω^)人(´く_` )ナカマー
(´<_`#)つ スッ
(;'A`)「おい、やめろ。刀とか出そうな勢いだから、ほんとやめて」
.
303
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 20:08:51 ID:M.Sc.APo0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
(*´_ゝ`)「あー、満腹満腹。いやぁ、美味かった、うん」
⊂二( ^ω^)二⊃「アニジャたちばっかりごはん食べてずるいおー」
( ´_ゝ`)「どうだー、いいだろー」
食事を済ませ食後のお茶を飲み終わった兄弟は、再びラクダへと乗っていた。
荒巻には兄者とドクオ、中嶋の上には弟者。そして、二頭のラクダのそばをブーンが飛ぶ。
そんな馴染みになりつつある隊列で彼らは進んでいく。
('A`)「弟者って飯作るんだな」
( ´_ゝ`)「俺もだけど、あいつは食うのが好きだからな。腹が減るたびによく何か作ってる件
姉者はごはん係とか言っていたな」
袋に放り込まれていた食材を、適当にぶった切って煮ただけ。
兄者にはそう見えたのだが、これがなかなかどうして美味かった。
蕃茄の酸っぱい味に干し肉から出た旨味と舌を刺す辛味。少々傷口には染みるがたまらない味だった。
家に戻ったらまた作ってもらいたいものだと、兄者は一人頷く。
.
304
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 20:10:21 ID:M.Sc.APo0
風の音と、ラクダが砂を踏む音だけが響く。
周りに見えるのは、黄色に輝き連なり続ける砂の丘たち。
兄者の被り布の下では汗がふきだし、流れることのないまま蒸発し消えていく。
(;´_ゝ`)「お前は涼しそうでいいよなぁ……」
('A`)「そうか?」
( ´_ゝ`)「同じ景色ばっかで流石に飽きたわー」
⊂二( ^ω^)二⊃「おっおー、でもブーンは楽しいお」
周囲に見える光景は、ほとんど変化がない。
その中を進み続けると、時間の感覚までもが失せていく。
歩き続けるラクダの振動と、時折交わされる会話。それ以外には何もない、空白の時間がただ流れていく。
( ´_ゝ`)ノシ「弟者ぁー、あとどのくらいで到着だ?」
(´<_` )「ここまで来れば、あと少しだ」
(;´_ゝ`)「そのあと少しがどれくらいか、聞きたいんだが……」
遠くに見えていた遺跡の姿はかなり近くなっているが、未だその道のりは遠い。
満たされた腹に、ラクダの規則的な振動が重なり、兄者の瞼が少しずつ落ちていく。
.
305
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 20:12:15 ID:M.Sc.APo0
('A`)「兄者ー、寝たら荒巻から落ちるぞー」
(*-_ゝ-)「んー、わかってるわかって……」
荒巻の頭の上からドクオが声をかけるが、兄者の首はガクリと下がるだけ。
ラクダから落ちても死にはしないだろうが、それでも兄者は人間だから万が一ということもある。
(;'A`)「おい、おいっ!」
( -_ゝ-).。oO
あわてて荒巻の頭から兄者の首へとドクオは飛び移るが、兄者の意識はほとんど夢へと落ちかけている。
ドクオは小さな体で、兄者の首を何度も叩くが目を覚ます様子はかけらも見えない。
(#'A`)「起きろ、このっ!」
.
306
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 20:14:18 ID:M.Sc.APo0
⊂二( ;゚ω゚)二⊃「あああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
( ; ゚_ゝ゚)パチッ
ドクオが張り上げた声は、それよりも大きなブーンの声でかき消された。
荒巻がブーンの声に不満そうな声をあげ、体を大きく動かす。
その衝撃に兄者の目が開き、驚きの表情を浮かべる。
( ;´_ゝ`)「え、何、ど、どうした?!」
('A`)「何ってそりゃあ、ブーンのやつが……」
(*^ω^)「アニジャ、オトジャ見るお!!!」
ブーンが兄者とドクオの周囲をさかんに飛び回り、ある方向を指差す。
指が示す方向は巨大な砂丘。兄者とドクオはその方向をじっと眺める。
はじめは訝しげにしかめられていた二人の表情が驚きに変わるまでに、それほどの時間はかからなかった。
(*´_ゝ`)「なんと!!!」
(;'A`)「すっげーな、なんだあれ」
.
307
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 20:16:09 ID:M.Sc.APo0
(*´_ゝ`)σ「おい、弟者も見てみろ!」
兄者は喜びの表情を浮かべ、中嶋に乗る弟者へと声をかける。
弟者はそんな兄者の様子に鬱陶しそうに顔をしかめながらも、兄者が指差す先に視線を向ける。
(´<_` )「……」
目に入るのは、なだらかな曲線を描く大きな砂丘。
はじめはそう見えた。しかし、それが間違いだということに弟者は気づく。
――砂丘が動いている。
いや、動いているのは砂ではない。
砂と同じ色をした巨大な何か。それが砂をかきわけながら進んでいく。
(´<_`;)「――あれ、は?」
長い体、丸い頭には首がない。
胴らしき部分から飛び出した腕は短く、薄い板の様だ。
後ろ足はなく、かわりに巨大な尾が体を支えている。
.
308
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 20:18:31 ID:M.Sc.APo0
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――そのカタチを例えるならば、それは魚に似ていた。
.
309
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 20:20:34 ID:M.Sc.APo0
しかし、それが魚であるはずがない。
魚は砂を泳がないし、その形もかなり異なっている。
そして、何より大きさが違った。
(´<_`;)「……あれは、何だ?」
これまで見た何よりも巨大な生物。
人の世の法則を越えたとてつもなく大きな何か。
精霊や人、動物なんてくくりが馬鹿らしくなるほどにそれは大きかった。
(*´_ゝ`)「すごいよな! びっくりするよな、あれ」
(;'A`)「……オレも初めて見たぞ」
それは異様な光景だった。
その生き物は砂の中を尾をくねらせて泳いでいる。
(*^ω^)「砂クジラだお! 100年に一度くらいしか見られないんだお」
('A`)「何だそれ」
( ^ω^)「んー、ブーンも見るのは500年ぶりくらいだから、実は全然わかんねーですお」
.
310
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 20:22:14 ID:M.Sc.APo0
( ´_ゝ`)「すっごいなー、弟者。
世界にはこんな見たことのないようなものが、いっぱいあるんだな」
驚きのあまりに思考が完全に止まっていた弟者は、その言葉によって意識を引き戻された。
視線を向けると、兄者が子供のように笑っている。
(*´_ゝ`)「なあ、弟者。もっと近くまで見に行かないか?」
(´<_` )「……」
好奇心に輝いた、瞳。
あれがどんなものかわからないのに、兄者は子供のようにはしゃいでいる。
それを見た弟者の心に、自身ではどうしようもない苛立ちがはしる。
( <_ )「……兄者はいつもそうだ」
( ´_ゝ`)「?」
(´<_` )「そうやって妙なものを見るたびに、ヘラヘラと笑って近づいて。
――自分がそれで、どれだけ危ない目に合ったか、わかってないのか?!」
まるで子供のようだと、弟者は思う。
――兄者ではなくて、自分自身が。
子供のようにわけもなく苛立って、その文句を兄にぶつけている。
.
311
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 20:24:14 ID:M.Sc.APo0
( ´_ゝ`)「……弟者」
兄弟の間に沈黙が落ちる。
弟者の顔には、何の表情も浮かんでいない。
……兄者は弟へむけて話しかけようと口を開きかけ、
(;^ω^)「んー、でも行くのはやめたほうがいいと思うお」
ブーンにしては珍しく歯切れの悪い言葉に、その動きを止めた。
ブーンはその場にふわりと浮かび上がったまま、少しだけ眉を寄せている。
(;´_ゝ`)「どうした、ブーン。お前にしては随分と珍しいな」
(;^ω^)「砂クジラに近づいて死んじゃったやつ、ブーンはいっぱい知ってるお」
( ;゚_ゝ゚)「なん……だと……」
聞き流せない発言に、兄者の意識は弟者からブーンへと完全に移る。
ブーンは砂クジラのことを百年に一度くらいしか見ることが出来ないと言っていた。
だというのに、死んだやつをいっぱい知っているとはどういうことなのだろうか。
(;'A`)「そ、それって人間のことだよな。精霊は大丈夫だよな?」
( ´ω`)「ブーンは、精霊とか幻獣とか魔物がいっぱいやられたって聞いてますお」
.
312
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 20:26:38 ID:M.Sc.APo0
(;゚A゚)「ホントか? そもそも、オレらってそんなに簡単に死ぬもんなの」
( ´ω`)「そりゃあ、ブーンたちだってちゃんと生き物ですから」
└('A`)┐「今すぐ逃げよう。うん。そうしよう、オレ。
羽をむしられるとか、投げられるとか、刀とかナイフとか突きつけられる程度じゃ絶対すまない」
ドクオとブーンが言い合うのを横目に眺めながら、兄者は砂クジラの巨体を眺める。
上へ下へとうごめく尾。砂と同じ色の体。目や口は一体どこにあるのだろうか、ここからではよく見えない。
その姿は、とてもじゃないけれど危険な生物には見えない。
( ´_ゝ`)「……危ないかもしれないけど、もうちょっと近くで」
( ´_>`)「兄者「アニジャ」(^ω^; )
( ; ゚ω゚)「人間はブーンたちとちがってすぐ死んじゃうから、とっても危ないお!!」
(#´_>`)「どうして自分から危険に向かって全力疾走しようとするんだ、この馬鹿兄者、死ねっ!!!!」
ブーンとドクオが騒いでいる今のうちと言わんばかりに荒巻の足を進めようとした兄者を、弟者とブーンが止める。
二人は先ほどの続きと言わんばかりに口を開くと、兄者に向かって一気にまくし立てた。
これまで会話が一切なかったとは思えないほどぴったりと合った二人の声に、兄者は「うへぇ」と小さな声を上げた。
.
313
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 20:28:10 ID:M.Sc.APo0
(;´_ゝ`)σ「でも、せっかくだし」
(#´_>`)「兄者「アニジャ!!!!」(゚ω゚ ; )
(;´_ゝ`)「ふ、二人同時に怒られた件について」
弟者とブーンの勢いに、兄者は思わず首をすくめる。
そんな兄者の首を、先程からずっと首元にいたドクオがポンポンと軽く叩く。
慰めてくれるのかと、兄者はドクオへと視線を向け……
('A`)「そりゃそうだろ」
ヾ(#´_ゝ`)ノシ「ドクオの裏切り者ーっ!!」
……その思いは見事に、裏切られた。
兄者はその場で小さな子供のようにバタバタと両手を振って、不満を丸出しにする。
ヾ( ;_ゝ;)ノシ「ひどいや、ひどいや! ちょっと近づいてみたいって思っただけじゃないか!」
(´<_` )「泣いたふりをしても無駄……」
――そんな弟者の声を遮るようにして、唸るような低い、低い音がした。
.
314
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 20:30:32 ID:M.Sc.APo0
(;'A`)「何だ?!」
音が聞こえたのは、砂クジラの方向。
一体何が起こったのかと、あわてて視線を向け、彼らは見た。
(*^ω^)「おおおおお!!」
とてつもなく広い、砂クジラの背。
そこから、天に向けて砂が吹き上がる。
砂は空の一角を黄に染めて舞い上がり、地に落ちていく。
砂が消えた空に残ったのは、赤に青に黄色に色を変える虹のような光。
(*´_ゝ`)「弟者っ、弟者見えるかあれっ!!!」
(´<_`;)「あれは……」
低いうなりは音を変えながら、低く、低く響いていく。
それは、まるで歌のような音の連なり。
兄者と弟者の肌と毛並みがざわりと粟立つ。
(´<_`;)「魔力、なのか?」
.
315
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 20:33:10 ID:M.Sc.APo0
砂クジラは歌い、砂と光と魔力を吹き上げる。
空に揺らめく光は、色を変えながら美しく広がっていく。
(*´_ゝ`)「すごいなぁ」
(;'A`)「本当にあれは生き物なのか?」
その光景を見守る一同の姿など気にもとめないで、砂クジラは悠然と泳ぐ。
砂を飲み込みその背から砂と、魔力をまき散らして進んでいく。
( ^ω^)「ブーンにもあれが本当は何なのかわかんないんだお」
(´<_` )「……」
(*^ω^)「でも、ブーンはやっぱりすごいと思うんだお」
100年に一度の神秘。
砂を泳ぐ巨大な生物は、北へ向かって泳いでいく。
(´<_` )「……すごいな、本当に」
弟者の小さな声は、誰にも届かないままに消える。
遠ざかっていく巨大な生物の姿を、一同はただ立ち尽くしたままで見送っていた。
.
316
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 20:34:42 ID:M.Sc.APo0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
荒巻の足が、ざりりと土を踏む。
その背がひときわ大きく揺れ、砂地から大地へと乗り上げたことに兄者は気づいた。
視線をあげると、人の手によって作られた柵がすぐ近くに立ち並んでいるのが見える。
(*´_ゝ`)「ついに着いたぞ、弟者」
(´<_` )「長かったな、兄者」
砂よけに作られた柵の向こうに広がるのは、草と背の低い木々と、白い柱の群れ。
そして、そのさらに奥にそびえるのは白いひときわ大きな建物の姿だった。
ソーサク遺跡。
魔王が支配したといわれる暗黒の時代の遺産。
白い柱の群れと白い石造りの建物が残るこの場所は、かつてはあまたの者を飲み込んだ死地だったと言われている。
人が消えればまずこの地を捜索しろ。それが常識になっていた時代があるほどに、ここは危険な地であった。
草が生い茂り、背が低いながらも木々は生え、ここからは見えないが水も出る。
それだけ豊かな土地でもかかわらず、人が暮らす様子がないのはひとえにこの土地が恐れられているからだ。
.
317
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 20:37:29 ID:M.Sc.APo0
('A`)「ここが目的地なのか?」
( ^ω^)「そうみたいだお」
兄者の飾り布の下から、顔を出しながらドクオが言う。
大きく揺れ動く荒巻の頭よりも兄者の肩回りの方が快適だったらしく、ドクオは兄者の肩の辺りから動く気配がない。
それに気づいたらしい弟者が険しい顔を向けるが、ドクオは意地でも動くつもりはないようだった。
( ´_ゝ`)「いやぁ〜」
( ^ω^)「どうしたお、アニジャ?」
ドクオと弟者の水面下の攻防には気もくれず、兄者は荒巻の背の上で大きく伸びをする。
その動きにドクオは抗議の声を上げるが、兄者は特に気にした様子を見せなかった。
( ´_ゝ`)「あの後は、見事に何も起きないままに到着したな。
さっきのニダやん者の一族郎党とか属国とかなんやかんやが、仕返しにくるのかと思ったが」
(;'A`)「それはないわー。っていうか、落ちるから急に動くのやめて」
(;^ω^)「……す、砂クジラはすごかったと思うお」
.
318
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 20:38:24 ID:M.Sc.APo0
∩( ´_ゝ`)∩「いや、それだけじゃなくてだな。バインバイーンでボインボイーンな謎の美女とか。
巨大な怪鳥とか、ランプの巨人とか、空飛ぶ木馬や絨毯とか、首を切ろうとするおっかない王様とか。
砂漠で道に迷ったり、水がつきたところでこの俺が真の力を発揮してとか、そういう胸おどる感じの冒険をだなぁ」
(´<_`#)「……」
兄者は自身の描く理想の冒険について、腕を振りながら力説する。
が、傍らを進む弟がドクオではなく自分に怒りの表情を向けていることに気づくと、慌てて黙りこむ。
しばらく黙りこんでも、弟者の表情が戻る様子はない。兄者はそれを見て取ると、恐る恐る口を開いた。
(;´_ゝ`)「ええと、……怪鳥とかランプの精とかにはもう会ったことがあるからもういいかな、なんて」
(;'A`)て「会ったことあるのかよ!」
(´<_`#)「……」
(;´_ゝ`)ゴメンナサイ
弟の表情に、とうとう兄者が謝罪の言葉を口にする。
弟者が怒りだした理由はなんとなくは予想はつくものの、少々理不尽ではないかと兄者は思った。
('A`)「お前さんの頭の中が最高に幸せなことだけわかったわ」
( ^ω^)「幸せって楽しいことだお? だったら、それでいいと思うんだお!」
時刻は、太陽が空の中心をとうに過ぎた昼過ぎ。一同は相も変わらず平和であった。
.
319
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 20:40:25 ID:M.Sc.APo0
・
・
・
草の生える大地では、大きく揺れるラクダの背より、歩くほうがはるかに快適だ。
そういうわけで、荒巻と中嶋の手綱を引きながら兄弟は歩いていた。
何のためにあるのかわからない柱を見上げ、足元に時折転がる石畳の跡らしき石に足を取られながら兄弟は進む。
(´<_` )「到着したわけだが、これからどうするんだ?」
( ´_ゝ`)ゝ「とりあえずは、ギコ者に挨拶をしてだな……」
( ^ω^)「ギコジャってだれだお?」
ブーンの言葉に兄者は大きく頷くと、ふっふっふっと見るからに怪しい笑い声を上げる。
そして、指を大きくつき出すと天を指さした。
<( ´_ゝ`)/「ギコ者とはこの世に混沌をもたらす悪の権化にして最強の刺客!」
(´<_` )「おい、やめろ」
\( ´_ゝ`)>「じゃあ、世界を救う勇者にしとくか? かっこいいぞ?」
(´<_`; )「だから、やめろって」
.
320
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 20:42:42 ID:M.Sc.APo0
( ;^ω^)「ギコジャは悪の権化で刺客なのに、世界を救っちゃうのかお?」
('A`)「どうみても嘘だろ、あれ」
彼らが探す知り合い――ギコは、彼ら兄弟の姉である姉者=流石の古くからの知り合いである。
兄弟にとってはギコは、姉者の知り合いという以上に気のおけない兄貴分のような存在でもあった。
ギコは今、“流石”の街からソーサク遺跡へと派遣された調査隊の一員として、この地で調査をしながら暮らしている。
<(;´_ゝ`)/「確かに嘘だけど、もうちょっと素敵な反応を返してくれたって……」
(´<_` )「本人に見つかって殴られても知らんぞ」
( ´_ゝ`)チェー
他愛もないやり取りを繰り広げながら、一同は進む。
何本目かの柱のそばを通り過ぎ、かつては何かに使われていたらしい石が積まれた場所を覗く。
しかし、ギコの姿どころか、人影一つ見えない。
\( ´_ゝ`)/「おーい、誰かいませんかぁ!!! いたら俺が喜びまーす!!!」
\( ^ω^)/「ブーンも楽しいですおー!!」
.
321
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 20:45:12 ID:M.Sc.APo0
(´<_` )「叫んだからといって、誰がが見つかるとは限ら……」
呆れたような弟者の言葉が、途中で止まった。
もともと細い目つきを更に鋭く細めて、弟者は薄緑の両耳をぴくりと動かす。
弟者の手が曲刀の柄をつかむ。が、彼はそれを抜こうとはしなかった。
(´<_` )「誰かいるのか?」
(#゚;;-゚)「……見学の……方?」
弟者の呼びかけに答えるようにして、石の壁の向こうから人が姿を表す。
紙束を抱えたまだ若い娘。彼女の顔や手足の至る所に古い傷跡が見え、頭部に生える獣の耳は片方が失われている。
それでも、彼女の姿は美しかった。
(´<_` )「ああ、そうだ。貴女は調査隊の?」
(#゚;;-゚)「うん。……そういうあなたたちは……母者様の……息子さんたち……?」
青い糸で刺繍が施された白いドレスがふわりと風に揺れる。
弟者は曲刀から手を離すと、彼女に向けて言葉を返そうと口を開く。
しかし、それを邪魔したのは、機嫌良さそうに腕を振った兄者だった。
.
322
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 20:46:39 ID:M.Sc.APo0
(*´_ゝ`)ノシ「おお、可愛らしいお嬢さん!
もしよろしければ今度、食事にでも」
( ^ω^)「ごはん! ごはん食べるのかお? ブーンも食べたいお」
(;'A`)「だから、オレらはものを食えないと何度言わせれば」
兄者は娘に嬉々とした表情で話しかける。
どうみても若い女性を逢引に連れだそうとする不審な男なのだが、精霊二人の興味は食事の方にあるらしい。
「さっきのパンが」、とか「スープがおいしそうだった」などとブーンはうれしそうに話をしている。
(#;゚;;-゚)「……かわいらしい? ……え、……食」
L(*´_ゝ`)」「そうですとも、お嬢さんかわいい! 美人! お近づきになりたい!」
(#;゚;;-゚)「そ、……困……」
(´<_` )「そこまでだ、兄者。どう見ても困っているだろうが。
そういうのは時と場所と相手を選んで、俺のいない時にやってくれ」
(#゚;;-゚)ホッ
( ^ω^)ソウイウノ? ┐('A`)┌サア?
.
323
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 20:48:20 ID:M.Sc.APo0
(´<_` )「兄者がとんだ失礼をした。俺からわびよう」
(;´_ゝ`)「わびられてしまった件について。
ちぇー、わりと本気だったのに。弟者さんのケチー」
(´<_` )「はいはい。どうせ俺はケチですよ、と」
兄者と弟者が改めて名乗ると、娘はソーサク遺跡の調査隊に加わっている一員だと名乗った。
でぃというらしい彼女は、兄者と弟者の名前だけは知っていたらしい。
しかし、実際に顔を見るのは始めてだったようで、二人の顔を見比べると驚いたような表情を浮かべた。
(#゚;;-゚)「……本当に、……同じ顔なんだ」
( ´_ゝ`)ノシ「まあ、兄弟だからな。ちなみに俺のほうがお兄ちゃんですので、よろしく!」
(´<_` )「今日だけで何度、弟に間違えられたことやら」
∩(#´_ゝ`)∩「ムキー! まだ二人だから、全然大丈夫だし!」
兄者は知らないことだが、「兄者は弟である」と間違えた相手は今日少なくとも三人いた。
石板売りの店主と、のーと、ニダー。通行人を加えればもっと増えるのだが、知らぬが花とはこのことである。
でぃは彼ら兄弟のやりとりに微かに口元を和らげながら、問いかけた。
(#゚;;-゚)「……兄者さんと弟者さんは、……どうしてここに?」
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324
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 20:50:11 ID:M.Sc.APo0
(*´_ゝ`)/「それはですね。遺跡見物と、ギコ者に会いにと、ちょっとあれやこれやで来たのですよ」
(;'A`)「あれやこれやって何だよ、オイ」
( ´_ゝ`)b「あれやこれやって言えば、あれやこれやに決まってるじゃないか!」
('A`)エー アレヤ コレヤー(^ω^ )
精霊が見えないらしいでぃは、兄者とドクオのやりとりに小首をかしげる。
が、そのことについては深く追求しようとはせずに、口を開いた。
(#゚;;-゚)「……案内……しようか?」
(´<_` )「それは助かる。誰も見当たらなくて困っていたところだ」
(#゚;;-゚)「今日はもっと西の辺りに……みんな行ってるから……」
弟者は西へと視線を動かす。しかし、背の低い木や白い柱は目にはいるものの人の姿は見えない。
ここからでも見えないということは、かなり遠くにいるのだろう。
弟者はこれだけ広いと調査するのも一苦労だろうなと思うと同時に、でぃに出会えた幸運に感謝した。
.
325
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 20:52:11 ID:M.Sc.APo0
(´<_` )「ギコさんも西に?」
(#゚;;-゚)「ううん。……ギコさんと、お姉ちゃんはこの時間……本部にいるから……」
そう言うとでぃは、北の方角を指さす。
街からもよく見えた、一際大きな白い建物のある方向とは少しそれた地点。
どうやらそこが、調査隊の本拠地となるらしい。
∩(*´_ゝ`)∩「でぃ者にはお姉さまがいらっしゃるので?」
(´<_` )「おい、兄者」
(*´、ゝ`)「ちょっとくらいいいじゃないか、弟者のケチー」
L('A`)」「やーい、ケチー」
ゴメンナサイ(;'A`)⊂(´<_`#)ギリギリ
(;^ω^)ドクオー!! モウヤメテー('(´く_` ;∩
_,
(#゚;;-゚) ?
.
326
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 20:54:47 ID:M.Sc.APo0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
でぃの後に続いて、歩くことしばし。
白い石造りの建物の近くを通り過ぎてさらに進むと、水場が見えはじめる。
そこをさらに通り越して進むと、黒い布によって作られた人工物と、畑らしきものが姿を表した。
( ´_ゝ`)ゝ「ふむ。ここにギコ者がいるのか、それにしても随分と広い」
( ^ω^)「すごいおー」
(#゚;;-゚)「……私たちの……住居もかねてるから……」
黒いで作られた人工物――それはここよりも北に住まう遊牧の民が使う、住居に似ていた。
山羊の毛を織って作った布を張り巡らせた、テントというにはかなり広い天幕。
小さな建物ならばすっぽりと入ってしまいそうなこの場所こそが、ここソーサク遺跡の調査隊の本拠地であった。
(´<_` )「外に作ってあるのは、畑か?」
(#゚;;-゚)「母者様が……遺跡調査の援助の条件にって……
……指定された植物の……生育状況も報告してる……」
.
327
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 20:56:22 ID:M.Sc.APo0
魔王が滅び去った後も長らく無人の地であった、ソーサク遺跡。
その調査や発掘をしようものならば、短期では済まないし、相当の資金がかかる。
……彼ら兄弟の母親は、金の使い道には妥協しない。
それにもかかわらず援助しているということは、母者=流石はそれだけの価値をソーサク遺跡に見出しているということだ。
(´<_`;)「母者はここをどうしたいんだ」
( ´_ゝ`)ゝ「んー、遊ばせとくにはもったいない土地だとは言ってたな、確か」
(#゚;;-゚)「……ここに人が住めるか……知りたいみたい……」
なるほどそういうことかと、弟者は納得する。
魔王時代の遺産ともいえるこの遺跡は、完全に手付かずの土地だ。
水と緑。そして、ひょっとしたら作物が順調に育つかもしれない土壌。それだけの条件が揃っている土地はそうない。
魔王時代にここソーサクを死地としていた脅威さえ残っていなければ、あとはやりたい放題というわけだ。
(;´_ゝ`)「母者は怖いが、決して魔神や悪鬼ではない。
でぃ者。危険だと思ったら、さっさとみんなで安全に気をつけて街へ帰るのだぞ」
(;'A`)「なんでカーチャンについての話で、魔神や悪鬼が出てくるんだよ」
∩(;´_ゝ`)∩「お前は母者や姉者の怖さを知らない」
( ^ω^)「カーチャンって、怖いのかお?」
( ´_ゝ`)b+「当然だ」
.
328
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 20:58:44 ID:M.Sc.APo0
(´<_`;)「……母者も姉者も、末恐ろしい」
弟者は魔王が支配していた頃を知らない。
もちろん知識としては持っているが、それはあくまでも書物や人から話を聞いたという程度である。
しかし、彼らの母親の世代は違う。実際に魔王の支配を受け、その恐怖に怯えながら生きていたはずだ。
それなのにこの土地に人を住まわせようとするのだから、自分の母親のことながら恐ろしいばかりである。
(#゚;;-゚)「……それでも、私たちは……知りたいと思ったから……きたの……」
(´<_` )「母者と姉者の強制ではない、と?」
(#*゚;;-゚)「そう。私もお姉ちゃんも……ギコさんや他のみんなも……自分で選んだの」
ソーサク遺跡では未だに人が住もうとしない。
弟者や兄者は“流石”の街とその周辺諸国程度しか知らないが、世界には魔王の傷跡が癒えぬ地も多いという。
魔王が倒れ数十年がたった今でも、その恐怖は拭いきれてはいないのだ。
それでも、彼らは自ら志願して調査に出た。下手をしたら、命を落とす可能性さえあったのに。
(´<_` )「強いな」
(#゚;;-゚)「……そうでもないよ。……でも、ここはキレイで平和……みんなが怖がりすぎてるだけ……
……だから……安心して、見学していいよ……」
弟者は、振り返る。
これまで歩いてきたソーサク遺跡は、強い日差しを浴びてもなお穏やかだった。
.
329
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 21:00:42 ID:M.Sc.APo0
(´<_` )「……怖がりすぎてるだけ、か」
弟者はでぃの言葉を繰り返す。
その言葉が何か別の特別な意味があるかのように弟者は繰り返し呟くと、天を仰ぐ。
( ^ω^)「オトジャ、どうしたお?」
(´<_` )「……いや、別に」
かけられた言葉に返事を返した所で、弟者はその相手がブーンであることに気づく。
そうと気づいた瞬間にはもう、弟者の眉はひそめられ、表情は渋いものに変わっている。
そして、その後は無言。さきほどうっかり漏らした言葉が嘘のように、弟者は言葉を話そうとはしない。
_,
(´<_` )「……」
(*^ω^)「お?」
( ´_ゝ`)ノシ「おーい、弟者ぁー、ブーンどうしたー?」
(;'A`)「なんだ? また、ブーンが無視されたのか?」
⊂二(*^ω^)二⊃「おっおー、ドクオにはナイショだおー」
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330
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 21:01:13 ID:pET3fjD20
きてたー!!支援!
331
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 21:02:17 ID:M.Sc.APo0
(#゚;;-゚)σ「……ここから入って……ギコさんと、お姉ちゃんが……いるから」
でぃは一行の様子が落ち着くのを確認すると、その歩みを留めた。
杭と丈夫な縄で支えられた黒い天幕の一角を指さすと、「行って」と一同を促す。
( ´_ゝ`)「でぃ者は行かないのか?」
(#゚;;-゚)「……私は、……二人のラクダさんを……つないでおくから……」
( ´ω`)「荒巻と中嶋とは、お別れなのかお?」
(;'A`)「どうがんばってもあの建物?にラクダは入らないだろうが。 ラクダ デカスギル…」
草や作物を食わないように、ラクダやヤギなどの家畜はまとめて飼育しているのだと、でぃは途切れ途切れの声で説明する。
「だから、安心して」というでぃの親切に甘えることにして、兄弟は荒巻と中嶋――二頭のラクダを彼女に預けることにした。
(´<_` )「いろいろと、すまないな。感謝する」
(#*゚;;-゚)「気にしないで……私も……楽しかった」
.
332
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 21:05:11 ID:M.Sc.APo0
(*´_ゝ`)ノ「でぃ者、よければ今度本当にご飯食べようなー」
(´<_` )「……兄者」
(;´_ゝ`)「……もちろん弟者やギコ者や、お姉さんともご一緒で」
(;'A`)て「こいつ弟者の無言の圧力に負けやがった!」
でぃは荒巻と中嶋の手綱を手に取ると、二頭のラクダを器用に操る。
荒巻も、中嶋も不満そうな声を上げること無く、おとなしくでぃに従う。
( ´ω`)ノシ「荒巻、中嶋も元気でだお」
ブーンの声に中嶋が声を上げて、垂れ下げていた尾を上げる。
それに合わせてか荒巻も、のんびりとしているがどこか機嫌がよさそうな声を上げた。
(#*゚;;-゚)ノシ「……兄者さんも、弟者さんも……楽しんできてね……」
(*´_ゝ`)ノシ「ありがとうなー、でぃ者ー」
('A`)ノシ「またなー」
荒巻と中嶋を連れて去っていくでぃの姿に、弟者もまた小さく手を降った。
.
333
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 21:06:11 ID:M.Sc.APo0
・
・
・
黒い布をくぐって中に入ると、そこには下手な家よりずっと広い空間が広がっていた。
内部は布によって仕切られ、仕事場と生活の場が分けているようだ。
入り口をくぐってすぐの空間には敷物がひかれ、机と棚が並べられている。
至る所に紙の束や、本が積み上げられ。その傍らには木箱が並べられていた。
(,, Д )「――誰だ? でぃ……じゃないな」
そして、木箱の上にだらしなく座る男が一人。
細く長い尾をくねらせながら、青い毛並みをした猫のような男が声を上げる。
ピンと立った獣の耳だけを出して、ターバンを巻いた頭。ゆったりとした長衣を纏い、その上から外衣を着込んだ姿。
しかし、何よりも目を引くのは、彼の手に携えられた見るからに重そうな槍斧――ハルバードだった。
(*´_ゝ`)ノシ「おお、ギコ者! 久しいな」
(,,゚Д゚)「誰かと思えば、流石んとこの坊主共じゃねーか!」
兄者は見るからに物騒な男に怯む様子なく話しかけ、弟者は小さく片手を上げた。
青い猫のような立ち姿の男。彼こそが兄弟が探し求めていた相手、ギコ=ハニャーンだった。
( ^ω^)「あれが、ギコ者かお?」
('A`)「みたいだな」
.
334
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 21:08:28 ID:M.Sc.APo0
(* ー )「声が聞こえるけど、誰か来てるの?」
挨拶を交わす一同の元に、鈴のなるような声が響く。
その声に、兄者と弟者は聞き覚えが合った。
これはよく姉者のもとに遊びに来ている優しいお姉さん――しぃの声ではないかと兄者は見当をつける。
(,,゚Д゚)「しぃもこっちに来い、流石の坊主どもが来てるんだ」
(*゚ー゚)o│「姉者の弟さんたち?」
そして、仕切りの布の向こうから姿を表したのは、兄者の推測通りしぃだった。
赤の刺繍で美しく飾られた、肌の露出のほとんどない黒のドレス。
薄桃色に色づく猫の耳だけを出して黒の被り布を身につけ、それを赤い帯で留めている。
(´<_` )「そうか、調査隊の代表はしぃさんだったか」
(*´_ゝ`)「なんと! ということは、しぃ者がでぃ者のお姉さんか!」
でぃは本部にギコとお姉ちゃんがいると言っていた。
よく注意してみればしぃの顔立ちは、先ほど道案内をしてくれたでぃと似ていた。
(*゚ー゚)「二人とも久しぶりね。確かに、でぃは私の妹だけど知り合いだったかし……」
.
335
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 21:10:50 ID:M.Sc.APo0
(;゚ー゚)て「――って、どうしたの、二人ともずいぶんひどい顔をしてるわ」
兄弟の顔に目を留めると同時に、穏やかだったしぃの表情が変わる。
慌てて兄者と弟者のそばに駆け寄り、しぃは兄弟の顔と様子をじっと見つめる。
( ´_ゝ`)て「なんと、しぃ者にひどい顔といわれるとは!」
('A`)「やーい、ひどい顔ー」
∩( `_ゝ´)∩ ムキー ∩(^ω^ )∩ブーン モ マネスルオー
(´<_` )「落ち着け、兄者。これではしぃさんが、『兄者は不細工だ』と暴言をはいたようではないか」
(,,#-Д-)「しぃはそんなこと言う女じゃない」
(;゚ー゚)「こんなに腫れちゃって……。痣とか傷もあちこちにあるし、どうしたの?」
(;´_ゝ`)「……ゴメンナサイ」
(;゚ぺ)「えっと、それはいいから……一体どうしたの」
しぃの問いかけに兄弟は顔を見合わせる。
ふむ。どうする? と互いに言葉を交わした後、弟者が口を開いた。
.
336
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 21:12:07 ID:M.Sc.APo0
(´<_` )「いろいろあってな」
(;´_ゝ`)「待て、弟者。流石にそれじゃわからん。
ええと、お茶飲んでたら盗賊に襲われたりして……」
(,,#゚Д゚)「何だと、俺が成敗してやる。何処でやられた、相手は何人だ!!」
兄者の言葉に、ギコは手にした槍斧を握り立ち上がる。
このまま何処かに殴りこみに行こうとでもする勢い。しかし、兄者の方は平然とした様子で言葉を続ける。
( ´_ゝ`)「盗賊はどうにかなったんだけど、その後全力で弟者と殴り合いまして」
('A`)「その結果がこれだな」
(;^ω^)「あうあう」
(,,;゚Д‐)「あー、ケンカか? 随分と派手にやりあったもんだ」
(;゚ー゚)「さすがは姉者の弟さん……ケンカはほどほどにね」
やる気を削がれた表情で再び座り込むギコとは対照的に、しぃは胸元から小さな袋を取り出す。
そして、その中からさらに奇妙な形の小さな入れ物を取り出すと、その蓋をあけた。
しぃが入れ物を傾けると、その中からは二つの丸薬が転がり出した。
.
337
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 21:14:49 ID:M.Sc.APo0
( ´_ゝ`)+「しぃ者、それは?」
(*゚ー゚)「仙丹っていうお薬よ。大都にいる知り合いのツテで手に入れたんだけど、よく効くから飲んで」
(´<_` )「ふむ、大都というと……」
大都とは東方にある大国の名前である。
彼らが住まう砂漠の地や、西方とは違った独特の文化によって支えられた大都は、東方随一の大国として栄えている。
(´<_`;)「東の……」
しかし、弟者の脳裏に浮かんだのは華やかな大国ではなくて、別のこと。
<ヽ`∀´> (゚A゚* )
独特の訛で話す男と、少女の二人連れ――ニダーとのーの姿だ。
彼ら二人は東方特有の服を着て、このあたりではほとんど見ない武器を持っていた。
東方――と聞いて、弟者が先ほどまで戦っていた相手のことを思い浮かべたのは仕方のないことだろう。
(´<_` )「東方といえば得体のしれない物が多いと聞く、申し訳ないがそれは断らせて」
.
338
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 21:16:27 ID:M.Sc.APo0
(;´_ゝ`)∩「だがしかし、しぃ者が出してくれたものと言ったら飲まないわけには」
Σ(´<_`;)「ちょっと待て、人の話を聞いていたのか! 露骨に怪しいだろそれ」
兄者は仙丹とかいう怪しげな丸薬を手に目をつぶる。
それには、さすがの弟者もぎょっとした表情を浮かべる。
(;>_ゝ<)∩「弟者がいらんというなら、俺が飲む!」
(´<_`;)「おいやめろ、兄者が飲むくらいなら俺が……」
⊂(#´_ゝ`)∩「とか言って、飲まないつもりだろ。お前のやりそうなことは、こっちとらわかってるんだ!」
コノー∩(#´_ゝ`)⊃∩(´<_`#)アマイッ! (^ω^;)ヤメテ!
(;'A`) ……
(*^ー^)「ちゃんと二人分あるから、しっかり飲んでね」
ゴゴゴ:::::::(,,# Д ):::::::「ちゃんと飲めよ」
(;´_ゝ`)「……ハイ」(´<_`; )
.
339
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 21:18:55 ID:M.Sc.APo0
・
・
・
\(*´_ゝ`)/「すごいぞ弟者、体が軽いしどこも痛くない」
_,
(´<_` )「本当に大丈夫なのか、これは?」
結論から言うと、その薬はよく効いた。よく効き過ぎたとも言える。
なにしろ飲み薬だというのに痛みだけではなく、痣や、切り傷や擦り傷といった外傷までもが綺麗に治っている。
まるで魔法ではないかと、弟者は眉をしかめる。
(*^ー^)「ギコくんもよく使ってるから、大丈夫よ」
(,,*゚Д゚)b グッ
(*´_ゝ`)b「なら、安心だな!」
(*^ω^)b「安心って何かわからないけど、安心だお!」
d('A`)「じゃあ、せっかくだしオレも安心と言っておこう」
_,
(´<_`; ).。oO(不安なことこの上ない)
何が安心なのだと弟者は思うが、しぃやギコの手前口にするのだけは我慢した。
.
340
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 21:21:39 ID:M.Sc.APo0
(*´_ゝ`)ノシ「ギコ者もしぃ者も久しぶりー!」
ひとしきり体を見回しどこも痛くないのを確認した跡に、兄者は改めてギコとしぃに挨拶をはじめた。
弟者もそれに合わせるようにして、軽く手を挙げる。
が、それを見た兄者は腕で弟の体を軽くつついた。
( ´_ゝ`)「弟者も挨拶」
(´<_` )「した」
( ´_ゝ`)∩「してないだろ。はい弟者ー、面倒臭がってないで、ちゃんとこんにちはーして。久しぶりでもいいぞー」
(´<_` )「……コンニチハー」
(*´_ゝ`)b「よし、偉いぞ弟者!」
('A`)「これはひどい」
(,,゚Д゚)「恐ろしいまでに、感情のこもってない挨拶だったな」
(;゚ー゚)「うーん、まぁいいんじゃないかしら? って、あら?」
(*゚ー゚) ('A`)(^ω^*)
(*゚ー゚)「あなたたちさっきからいるみたいだけど、精霊ね」
.
341
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 21:22:45 ID:M.Sc.APo0
. .
(*゚ー゚)「精霊を連れているなんて、あの弟者君にしては珍しいじゃない」
(´<_` )「ほしいならやるから、こいつらを二度と俺や兄者の目につかないところに持って行ってくれ」
(*゚ー゚)「あらダメよ」
立ち話もなんだからと、お茶を用意しながらしぃは弟者に話しかける。
兄弟よりも年が上の余裕なのか。それとも、単に弟者の態度に慣れているだけなのか。
彼女は出来上がったばかりのお茶を兄弟に差し出すと、ドクオやブーンに向けて笑いかけた。
(*^ー^)「ね?」
(*'A`)ポッ
(*'A`)「……何だこの感情は……」
( ^ω^)+「これはきっと変ってやつだお」
(*'A`)「そうか、これが変か……」
( ´_ゝ`)「……変、なのか?」
(*'A`)「変……」
(´<_`; ).。oO(恋だ。この阿呆ども)
.
342
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 21:24:44 ID:M.Sc.APo0
_,
(,,;゚Д゚)「よりにもよって弟者が精霊ねぇ……とうとう、趣旨替えでもしたのか?」
しぃが笑いかける方角を見て首をひねりながら、ギコは言う。
どうやら彼は精霊が見えない質らしく、半信半疑といった表情を浮かべて弟者の顔を見やった。
弟者が魔法や、精霊や幻獣といったわけのわからない生物を毛嫌いしているのは、兄弟と親しい人ならだれでも知っている。
だから、なおさらギコには弟者が精霊を連れているということが信じられないようだった。
(´<_`#)「……」
(,,゚Д‐)「怒るのはいいが刀は抜くなよ。こっちも武器は振り回したくない」
ギコの手には未だ長柄の槍斧が握られている。
相も変わらず木箱の上に座り込んではいるが、いつでも動けるような姿勢が取られている。
弟者はギコの顔を無言で睨みつけると、大きくため息を付いた。
ε=(‐<_‐ )「趣旨替えなんてとんでもない。こいつらのせいで今日は散々だ」
(;´_ゝ`)「えー、でもちゃんといいこともあっただろー、弟者」
(´<_` )「どこがだ。市に行けば兄者が迷子、砂漠に出れば盗賊に出くわす。散々じゃないか」
お茶をずずっと飲みながら、兄者は「そうかー?」と、声を上げる。
しぃの入れたお茶は香草と砂糖だけで作ったさっぱりとした味だ。
うん。こいうのも美味いなと思いながら、兄者はさらに言葉を続けた。
.
343
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 21:26:15 ID:M.Sc.APo0
(*´_ゝ`)ノ「でもいいこともあっただろ。空飛ぶ魚とか、砂クジラとか、火トカゲとかも見れた件について」
(;゚Д゚)「なんだそれ。……砂、クジラ?」
∩(´<_`#)「精霊、竜、飛ぶ透明魚に、火トカゲ、砂クジラ……
……たった一日でどれだけ得体のしれない生物に近づけば気が済むんだ! 兄者はアホか? 今度こそ死ぬのか!」
∩;´_ゝ`)∩三「お、弟者、怒るのは良くない。それに、殴るのはもっと良くない!」
ツネルノモ ダメェェ ('( ; ゚_ゝ゚>а(´<_`#)ムギュー
('A`)アキラメロン
(;^ω^)「あばばばば」
а(´<_`#)「兄者には反省の色というものはない様だな」
('( ; ゚_ゝ゚>「……い、いやでも。ブーンもドクオもピンクたんもダイオードもシャーミンもいい奴だぞ!
差別イクナイ! 嫌がるのダメゼッタイ! 怖がるの反対! っていうか、地味に痛い! ヤメテ!」
なんとか弟者の頬をつねり返そうと、兄者は奮戦する。
が、その動きはわかりやすすぎるめたか、弟者に軽くかわされるだけだ。
.
344
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 21:28:29 ID:M.Sc.APo0
(,,゚Д゚)「あー、ケンカなら外でやれよー」
(*゚−゚)「……百年周期で砂漠を回遊する、生ける神秘。
幻想種なのか、はたまたそのように進化した生き物なのか。それは神のみぞ知る」
今にもケンカを始めそうな兄弟を止めようかどうしようか悩んでいたギコのすぐ傍らから、しぃの硬い声が上がる。
彼女は部屋に転がっていた本の1ページを開いていた。
(,,;゚Д゚)「なんだそれ」
(;゚ー゚)「……砂クジラ。マルタスニム卿の『幻想生物研究録』の記述よ」
(,,゚Д゚)「まさか、本当にいるのかそれ」
ギコはしぃの手にした本のページを覗きこむ。
そこに記された砂クジラの大きさに一瞬眉をしかめ、それからため息を付いた。
(;-Д-)「迷子に、盗賊。それに怪しげな生物がごまんと。トドメは百年周期のバケモンときた。
あー、やっぱり双子だからかねぇ。そんなに厄介事ばっかり合うっていうのは」
(#゚ー゚)「ギコくん!」
ギコが漏らした言葉に、しぃの叱責の声が飛ぶ。
その声に暴れまわっていた兄弟の動きがピタリと止まる。
.
345
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 21:30:14 ID:M.Sc.APo0
――双子は災いを呼ぶ。
それは様々な土地で伝わる伝承の一つである。
本来は一人で生まれるはずなのに、何らかの原因で分かたれて生まれた彼らは常に恐れられている。
人とヒトでないものの混じり物。死に近い存在。自ら命を絶った罪人の生まれ変わり。
双子についての伝説はいくつもあるが、彼ら兄弟の住まう砂漠の地ではこう言われている。
同じ胎から同時に複数生まれた子は、人間の出来損ないである。
その中でも同じ顔と性別の双子は、一つの魂が不完全にわかれた特に危険な存在。
それ故に、――速やかに殺せ、と。
双子が生まれたのならば、殺されるか、引き離して育てられるのが普通だ。
人々は双子の存在を忌避する。
だから、同じ顔の彼ら兄弟が市を歩けばそれだけで目立つ。
石板売りの店主や盗賊二人が、兄者と弟者をまるで年の離れた兄弟であるかのように話したのも当然のこと。
この地で暮らす彼らには――双子の兄弟が行動を共にしているという発想がそもそもない。
兄者も弟者も特別な事情がない限り、自らを双子だとは言わない。
そして、それは彼らの家族も同じである。
だから、兄者=流石と、弟者=流石が双子の兄弟であると知っている人間はほんの僅かしかいない。
.
346
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 21:32:56 ID:M.Sc.APo0
(´<_` )「……」
( ^ω^)「?」
('A`)「双子が? なんでだ?」
(;´_ゝ`)「……」
ドクオの問いかけに、兄者が珍しくも沈黙する。
苦い表情を浮かべたその顔は、弟者ではないかと錯覚するくらいによく似ていた。
兄者は答えない。ギコとしぃも硬い表情のまま声を上げない。その場には沈黙が流れ……、
(´<_` )「双子っていうのは不吉なんだ」
そう声を上げたのは、これまで頑としてドクオやブーンと話をしようとはしなかった弟者だった。
弟者はまるでそれが誇らしいことであるかのように、言葉を放つ。
普段よりもやや上ずったその声は、兄者のものと完全に変わらなかった。
(;'A`)「……よく意味がわからないんだが」
( ^ω^)「そうなのかお、アニジャ?」
(;´_ゝ`)「うぇー、俺その話好きじゃないんだよなー」
.
347
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 21:34:27 ID:MAd.mtak0
まじか
348
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 21:34:35 ID:M.Sc.APo0
(´<_` )「だが、真実だ」
とりあえず話はしたものの、兄者の口調は珍しく歯切れが悪い。
そんな兄者に向けて、弟者はいつもどおりの淡々とした口調で言う。
(´<_` )「――そうだろう、俺?」
( _ゝ )「……」
('∀`)「――っは、何だそれw」
弟者の視線は兄者の顔をまっすぐ見据えている。
ドクオの茶々を入れる調子の声にも、怒りの表情すら見せない。
兄者そんな弟者の様子に声を詰まらせたが、すぐにへらぁと笑いを浮かべた。
ヾ( ; * `、ゝ´)ノシ「いーや、俺はお前じゃないぞ。
それに不吉を呼ぶも何も、ただの迷信ではないか!」
(´<_` )「そうじゃないのは、兄者が一番知っているだろう」
(;゚ー゚)「ちょっと、ギコくん。ギコくんが余計なこと言うから」
(,,;‐Д‐)「……すまねぇ」
.
349
:
誤字修正
:2013/04/21(日) 21:36:35 ID:M.Sc.APo0
(´<_` )「だが、真実だ」
とりあえず話はしたものの、兄者の口調は珍しく歯切れが悪い。
そんな兄者に向けて、弟者はいつもどおりの淡々とした口調で言う。
(´<_` )「――そうだろう、俺?」
( _ゝ )「……」
('∀`)「――っは、何だそれw」
弟者の視線は兄者の顔をまっすぐ見据えている。
ドクオの茶々を入れる調子の声にも、怒りの表情すら見せない。
兄者はそんな弟者の様子に声を詰まらせたが、すぐにへらぁと笑いを浮かべた。
ヾ( ; * `、ゝ´)ノシ「いーや、俺はお前じゃないぞ。
それに不吉を呼ぶも何も、ただの迷信ではないか!」
(´<_` )「そうじゃないのは、兄者が一番知っているだろう」
(;゚ー゚)「ちょっと、ギコくん。ギコくんが余計なこと言うから」
(,,;‐Д‐)「……すまねぇ」
.
350
:
誤字修正
:2013/04/21(日) 21:38:06 ID:M.Sc.APo0
(´<_` )「同じ胎から同時に生まれた人の出来損ない。それが双子だ。
そんなものが存在すれば、災いが起きるといわれるのは当然だろう?」
ヾ(#`_ゝ´)ノシ「いーや、そんなもんはウサンクサイ伝説だね。
性別が違ったり、顔が違えば大丈夫なんてテキトーにもほどがあるだろ!」
(´<_` )「……兄者」
本来ならばいるはずのない、双子の兄弟。
彼らの間に流れる空気は今や、ギコやしぃが入り込めないほどに重い。
そんな彼らのやり取りの中、話に乗り遅れたブーンとドクオの声がぽつりと響いた。
( ^ω^)「さっきから言ってるそれって、二人がおんなじなのと関係あるのかお?」
('A`)「はぁ、なんだよそれ?」
ギコとしぃには聞こえないブーンの声。それは、先程から兄弟が交わす言い争いの核心をついていた。
ブーンはドクオの問いかけに、「えーと」と、わずかに口ごもった後に、今日たびたび思ってきたことを口にした。
(;^ω^)「えっと、なんだよっていわれると困っちゃうけど。
二人は同じなんだお。顔とか、声とか、精霊を見る目と耳とか、魔力とか、それに――魂も」
(;'A`)「え? そんなはずないだろ。だって魂だぞ魂」
.
351
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 21:40:24 ID:M.Sc.APo0
ブーンの声に、ドクオの動きが止まる。
細い目を何度も瞬かせ、それから兄者と弟者の姿を見比べる。
( ^ω^)「んー、ブーンはドクオより精霊として長いからなんとなくわかっちゃうんだお。
魂ってのは、人を構成する上で最も大切な要素だお。だから、魂が同じっていうのは絶対に有り得ないお」
だけど、とブーンは言う。
いつもと同じ、やわらかい笑顔のままでブーンははっきりと口にした。
( ^ω^)「だけど、二人の魂は同じなんだお。同じっていうより、一つの魂?」
(;'A`)「いやいや、それこそありえない! 絶対、お前の思い違いだ。
そりゃあ似てるとこもあるだろうが、弟者のほうが背もデカイし、毛色だって違うし、性格だって全然違う。
そんだけ違うなら、完全に別人だろうが!!」
( ´_ゝ`)「やっぱそう思うよな、な!
みんな気にしすぎなんだよ、ほんと!」
ドクオの勢いに、兄者がここぞとばかりにまくし立てる。
それに反論しようとして、弟者の口が何かを言いたげに開く。
しかし、彼が言葉を発するよりも早く、ブーンが心なしか落ち込んだ声で呟いた。
( ´ω`)「そうかお。……でも、ブーンは二人はおんなじだって思うんだお」
.
352
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 21:42:27 ID:M.Sc.APo0
(´<_` )「……」
( ´ω`)「おー、どうしたおオトジャ」
弟者の手がブーンに伸びる。
兄者やドクオと同じように殴られるのではないかとブーンはその目をおもいっきり閉じる。
しかし、いつまでたっても痛みは訪れない。かわりに、柔らかい手の感触がブーンの頭に伝わる。
( ^ω−)「お」
(;゚A゚)て !
(;゚ー゚)「……え?」
(,,゚Д゚)「?」
ぽんぽんと弟者の手が、優しくブーンの頭をなでる。
その行動に、ドクオとしぃはぎょっとした表情を浮かべ、
_,
( ´_ゝ`)
兄者は一人眉根を寄せた。
.
353
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 21:44:25 ID:M.Sc.APo0
(,,-Д-)「……」
_,
( ´_ゝ`)「……」
(,,゚Д゚)「……おい」
一同がそれぞれの反応を浮かべる中で、ただ一人ギコだけが状況を理解できていなかった。
ブーンとドクオの姿を見ることの出来ない彼にとっては、険悪だった兄弟が言葉を切り黙り込んだようにしか見えない。
(,,#゚Д゚)「ああ、もうこの話はやめだやめ!!
大体、あの母者様が双子がどうのこうのなんて与太話なんぞ信じるわけがないだろうがゴルァ!!」
(;´_ゝ`)て ビクッ Σ(゚A゚)
その場の空気に耐えられなくなったのか、ギコは立ち上がると不満をぶちまけるように声を上げた。
が、周囲の者たちの驚いた表情に気づくと、頭をかきながらバツの悪そうな声を上げた。
Б(,,;-Д-)「うっかり話を出しちまったオレもオレだが、そろいもそろって辛気くせぇ」
v(;´_ゝ`)>「そ、そうだよな、ギコ者。はっはっはー、いやぁー、まいったまいった」
(*゚−゚)「もー。ギコくんが悪いんだから、ちゃんと反省してよ」
.
354
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 21:47:03 ID:M.Sc.APo0
(´<_` )「……」
(;^ω^)「大丈夫かおー、オトジャー」
兄者としぃが場をとりなすように明るい声を上げるが、弟者は沈黙を保ったままだ。
その様子を見て取ったブーンが声を上げるが、弟者は何も答えない。
まるで先ほどの行動などなかったかのように弟者は振舞っている。
(,,゚Д゚)「で、坊主どもは一体何しに来たんだ?
まさか母者様や、あのクソ女のお使いって柄でもないだろ?」
(*゚−゚)「もう、ギコくん。いくら知り合いだからって、そんなふうに言うのはよくないわ」
('A`)「誰のことだ?」
(;^ω^)「ブーンにはわからんですお」
ドクオとブーンの視線が兄者に向かうが、彼は沈黙している。
兄者は薄水色の耳をしょげたように垂れさせた後、取り繕うかのように声を上げた。
(;´_ゝ`)「まあ恐ろしいことになりそうな気配の話は横に置いといてだ。
……ギコ者。この前、街に戻ってきた時に遺跡の話をしていただろう?」
(,,゚Д゚)「ああ、そういやぁしたな」
.
355
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 21:48:48 ID:M.Sc.APo0
( ´_ゝ`)ノ「その話の中で出たとあるものだが。機会があれば持って行くといいと言っていただろ?」
_,
(,,゚Д゚)「そんな話したか?」
( ´_ゝ`)「確かにしていたぞ! ギコ者、ほら」
そう言いながら、兄者はギコの耳元に小声で話しかける。
眉をひそめたギコの表情が次第に柔らかなものになり、兄者の言葉が終わると同時に両手を打ち付けた。
(,,*゚Д゚)「やけにもったいぶった言い方をするから、何かと思えば。
いいぞ、案内してやるからじゃんじゃん持っていってくれ」
(;゚ー゚)「ちょっと、あまり勝手なことをするのは……」
ボソボソ(,,゚Д゚k(*゚ー゚)!
(*^ー^)「あら、そういうことだったのね。
いいわ、私の方からも神殿の探索許可を出すから行ってきてちょうだい」
ギコが耳打ちで伝えてきた言葉に、しぃは小さな笑い声を上げた。
本当はいちいち許可なんていらないんだけどね、といたずらっぽく笑いながらしぃは責任者らしく許可をだした。
( ´_ゝ`)o彡゜「流石はしぃ者、話がわかる」
.
356
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 21:50:36 ID:M.Sc.APo0
(*^ワ^)「ちゃんと見つかるといいわね」
( ´_ゝ`)b「任せておけ!」
兄者が親指を立てて、しぃに笑いかける。
そのやりとりをずっと無言で眺めていた弟者は、会話が終わりと見るとようやく声を上げた。
(´<_` )「……よくわからないが、どうやら話がまとまったようだな」
( ^ω^)b「そうみたいだお」
('A`*)「しぃさんの笑顔……すばらしぃ」
ギコは槍斧の柄を肩で支えると、そのまま出入り口へ向かい歩き出す。
「もう行くの?」というしぃの問いかけに、「ああ」と短く答えると、ギコは敷物の上で座り込んでいる兄弟を見やった。
ギコの動きに兄者は慌てて残っていた茶を飲み干し、弟者は出されていた茶菓子の残りをたくしへと放り込む。
(,,゚Д゚)∩「よし、行くぞ坊主ども……と、精霊だったか?」
( ^ω^)∩「そうだお! ブーンは精霊だお!」
('A`)「こうやって数に入れてもらえるのはいいもんだな……」
(,,^Д^)「とっておきの場所に案内してやる!」
.
357
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 21:52:45 ID:M.Sc.APo0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
(;´_ゝ`)「とっておきとは聞いてはいたが……」
(´<_`;)「まさか、この中だと言うのではないだろうな」
(,,゚Д゚)「いいや、これがそのとっておきの場所だ。
しぃも言っていただろ、神殿の探索許可を出すってな」
しぃと別れ、ギコの後について進んだ先。
目の前にそびえ立つ白い建物の姿に、兄弟たちは言葉を失った。
“流石”の街からも見ることのできるそれは、ソーサク遺跡においてもっとも大きく、象徴的な建物であった。
(*^ω^)「あ、さっき近くを通ったとこだお!」
('A`)「一体なんなんだろうなぁ、これは……」
太陽の日差しをうけてまばゆく輝く白い外壁は、“流石”の街を取り囲む城壁よりもはるかに高い。
東方とも西方とも、もちろん“流石”の街で見かけるどの建物とも違う独特の造り。
建物の正面と思しき場所からは、大階段がまっすぐ地上へ向けて伸びている。
.
358
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 21:54:26 ID:M.Sc.APo0
(,,゚Д゚)「ソーサク遺跡郡、第一史跡。オレたちは単純に神殿と呼んでいる」
ギコはその大階段を慣れた調子で上がっていく。
古く見えるもののしっかりとした造りらしく、ギコの体重がかかっても、びくともしない。
ギコの後ろをドクオを肩にのせた兄者と、ブーンが続く。
(´<_` )「ここが神殿?」
(,,゚Д‐)「そう呼んでるってだけで、実際のところはわからねぇ。
しぃが言うには魔王時代よりもずっと前の宗教施設か何かじゃないかって話だが、詳しいことはまだこれからだな」
( ´_ゝ`)「ふむ。魔王時代よりも前となぁ……」
白い石造りの建物は古くはあるものの、兄者の目にはそれほど昔の建物に見えない。
柱も階段も壁面も、崩れ落ちているところは殆ど無い。
目を凝らしてみると、白いばかりに見えた壁には蔦と動物の浮き彫りが施されているのが見えた。
( ^ω^)「その頃ならたぶん、ブーンはいたお……」
('A`)「魔王時代って魔王のやつがいた時代か?
……それより前だと、オレはまだ存在もしないぜ」
(;´_ゝ`)「おお、ブーン者。お前はなんと長生きなのだ……」
.
359
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 21:55:50 ID:M.Sc.APo0
(,,-Д-)「何だか話し中のようだが、言い忘れてたから改めていうぜ」
階段を登り切った先。
柱と柱にはさまれた入り口らしき空間で、一足先を進んでいたギコが振り返る。
( ´_ゝ`)「ん、どうしたギコ者?」
(´<_` )「何か問題でも?」
(,,゚Д‐)「いいや、別にそう大したことじゃねぇから安心しろ」
強い日差しと石材の作り出す影に阻まれて、その内部は上手く見通せない。
しかし、その内部には彼らが見たことのない光景が広がっているのだろう。
それは兄者にとって。いや、弟者やブーンたちにとっても心躍らせるものに間違いなかった。
(,,゚Д゚)「――ようこそ、ソーサク遺跡へ」
青い尻尾を器用に動かしながら、白い歯を見せてギコは笑う。
兄弟はそれに一瞬、顔を見合わせると大きく吹き出した。
(´<_` )「ああ、それを言い忘れていては大変だ」
(*´_ゝ`)b「改めて頼むぞ、ギコ者」
旅に出ようと兄者が言い出してから、二刻と半分ほど。
――ついに彼らはソーサク遺跡の中心部へと足を踏み入れたのだった。
.
360
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 21:56:49 ID:M.Sc.APo0
そのご。 ようこそ、ソーサク遺跡へ
おしまい
.
361
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 21:59:31 ID:M.Sc.APo0
今日の投下ここまで!
あと、オマケは明日に延期しますスマン
362
:
名も無きAAのようです
:2013/04/22(月) 03:33:55 ID:9AighLFs0
投下乙ですー!
ついうっかり、にやにやしながら
読んじゃったじゃないか!もう!!
オマケも楽しみにしてますね!!
363
:
名も無きAAのようです
:2013/04/22(月) 16:16:15 ID:SZAsvJmkO
おつおつ!
兄者無邪気だなあ
364
:
名も無きAAのようです
:2013/04/22(月) 16:16:47 ID:zjkA5JFk0
おつ面白い
365
:
名も無きAAのようです
:2013/04/22(月) 18:29:24 ID:JZoTeZAU0
乙ですん
兄者は好奇心に殺されそうな
366
:
名も無きAAのようです
:2013/04/22(月) 21:19:02 ID:PZ9eifmM0
オマケ投下するよー
367
:
名も無きAAのようです
:2013/04/22(月) 21:19:55 ID:PZ9eifmM0
.⊆二二⊇
/ \
。 * 。  ̄| ̄ ̄ ̄| ̄
:: /⌒ヽ * | 从 |
:: ( ^ω^) :: * | (.ィ, ).|
*゚ :: ⊂二 二⊃ ::。 [ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄]
゚ :: /,| |、\, ::: } ・ ・{
::゚ |/:Lノ^Lノ \| ::: * [_____]
おまけ劇場 l从・∀・ノ!リ人 でざーと×しすたーのようです
.
368
:
名も無きAAのようです
:2013/04/22(月) 21:21:04 ID:PZ9eifmM0
l从・∀・*ノ!リ人「お腹いっぱいなのじゃー」
∬*´_ゝ`)「うん。たまには作るのもいいかもね」
l从-∀-ノ!リ人 うとっ
∬´_ゝ`)「そういえば、妹者。愚弟どもはどうしたの?
兄者はいつも休みみたいなもんだけど、今日は弟者も休みのはずでしょ」
ハッ Σl从・∀-;ノ!リ人
l从・∀・;ノ!リ人「え、えーと」
l从-∀-;ノ!リ人.。oO(えっと、おっきい兄者たちは……)
.
369
:
名も無きAAのようです
:2013/04/22(月) 21:23:17 ID:PZ9eifmM0
;'⌒ヽ、_ノ⌒ヽ、_ノ⌒ヽ、_ノ⌒ 、_ノ⌒ 、_ノ⌒ 、_ノ⌒ 、_ノ⌒ 、_ノ⌒ 、_
/ )
( (;´_ゝ`)「よーし、妹者。俺たちが中庭の花を踏んだことは内緒だぞ」 (
) )
( (´<_` )「おい待て、兄者。俺や妹者は中庭に入ってな」 (
) )
( (;´_ゝ`)「このままじゃ母者や父者に怒られてしまう。頼んだぞ、妹者」 (
) )
( l从・∀・ノ!リ人「ないしょ? 姉者には話していいのじゃ?」 (
) )
( ::/( ;_ゝ;)\::「内緒でおねがいしますぅぅぅ」 (
) )
( (´<_`;).。oO(どうせすぐにバレるだろうに) (
) )
( dl从・∀・*ノ!リ人「わかったのじゃ! 妹者やくそくするのじゃ! (
) やくそくはぜったいに守るのじゃ!」 )
ヽ、_ノ⌒ヽ、_ノ⌒ヽ_ノ⌒ヽ、_ノ⌒~、_ノ⌒ヽ、_ノ⌒ヽ、_ノ⌒ヽ、_ノ⌒~ヽ_ノ~
O
O
l从-∀-;ノ!リ人 .。o
! l从・∀・ノ!リ人.。oO(お花のことじゃなきゃ、言ってもだいじょーぶなのじゃ!)
l从・∀・*ノ!リ人「おっきい兄者たちは旅にでたのじゃー!」
∬;゚_ゝ゚)「なん……です……って?」
.
370
:
名も無きAAのようです
:2013/04/22(月) 21:25:23 ID:PZ9eifmM0
∬;´_ゝ`)「ちょ、ちょっと待って妹者。
旅?! このクソ忙しい中に旅?! 正気、馬鹿なの何言ってるの?!」
∩l从・〜・ノ!リ人∩「妹者ウソはついてないのじゃー。
おっきい兄者が空をとんで、せいれーさんとちっちゃい兄者がケンカして、ピンクたんが来たのじゃー。
でも、おっきい兄者たちはピンクたんじゃなくて、歩いてお外にいったのじゃー」
∬´_ゝ`).。oO(どうしよう。妹が何を言っているのかわからない)
∬;´_ゝ`)∂「……時に、妹者。
兄者たちはどこに行くって言ったの?」
l从-∀-;ノ!リ人.。oO(えっと、これはこたえてもだいじょーぶ……)
l从・∀・ノ!リ人「ソーサクいせき?に行くっていってたのじゃ!」
∬´_ゝ`)「ふむ。ソーサク遺跡……ね。あそこならせいぜい日帰りか
……それにしても随分と急ねぇ。一体、何があったのかしら」
l从・∀・;ノ!リ人.。oO(バレてないかハラハラするのじゃ…)
∬´_ゝ`)b+「よしっ。考えてても仕方ないし、問い詰めてみるか」
.
371
:
名も無きAAのようです
:2013/04/22(月) 21:27:36 ID:PZ9eifmM0
ドサッ
l从・∀・ノ!リ人「これはなんなのじゃー?」
∬´_ゝ`)「ちょっとした魔道具ってやつね。
妹者、ちょっと中庭に水を汲みに行ってくるから、ここでこれ見てて」
Σl从・∀・´;ノ!リ人.。oO(中庭!? ダメなのじゃっ!)
l从・∀・;ノ!リ人「な、なんでなのじゃー」
∬´_ゝ`)「そりゃぁ、弟者が万が一にでも途中で帰ってこないか見張るのよ。
あいつに見つかったら、こんな魔道具なんて一発で壊されるわ」
? l从・∀・ノ!リ人「ちっちゃい兄者が? なんでなのじゃ?」
∬´_ゝ`)「だって、これ鏡だし」
l从・∀・;ノ!リ人「かがみ? お皿じゃないのじゃ?」
∬´_ゝ`)「これはお皿じゃなくて特殊な魔法のかかった、水鏡……」
_,
l从・〜・ノ!リ人「?」
∬;´_ゝ`)「……難しかった? さっきから、様子が変だし」
_,
l从・∀・ノ!リ人「えっと、みずかがみってなんなのじゃ?」
.
372
:
名も無きAAのようです
:2013/04/22(月) 21:29:18 ID:PZ9eifmM0
∬;´_ゝ`)「あー」
l从・〜・ノ!リ人「妹者はかがみさんも、みずかがみさんもよく見たことないから、よくわかんないのじゃー
なんで、かがみだとダメなのじゃ?」
∬;∩_ゝ)「……そういえばそうよね、鏡なんてうちにはないわよね。
そもそもあのクソ弟、鏡と見るとすぐ叩き壊すんだから……」
l从・ o ・ノ!リ人「どうしたのじゃ、姉者?」
∬;∩_ゝ)「ちょっと弟の教育方針について頭を悩ませてるとこ。
……兄者に任せっぱなしにした私がアホだった」
∬;∩_ゝ)「……」l从・∀・ノ!リ人
l从・〜・ノ!リ人「んー、なんかよくわかんないけど、お水は妹者がくんできていいのじゃ?」
∬;´_ゝ`)「……あ、任せた。水はちゃんと中庭ので頼むわよー。
父者には私が庭に入っていいって言ったって伝えとくわ」
l从・∀・*ノ!リ人 ハーイ
l从・∀・ノ!リ人 タッタッタッ
l从>∀<*ノ!リ人.。oO(よくわかんないけど、妹者やったのじゃ!
お花バレなかったのじゃー。兄者たちにほめてもらえるのじゃ!)
.
373
:
名も無きAAのようです
:2013/04/22(月) 21:31:13 ID:PZ9eifmM0
l从・∀・ノ!リ人「お水くむのじゃー」
l从・−・´ノ!リ人.。oO(妹者はお花ふまないように気をつけるのじゃ)
+ l从・∀・ノ!リ人 ヨシッ
┏━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃ 妹者 は お水 を 手に入れた ! ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━┛
l从・〜・ノ!リ人.。oO(でも、姉者はお水さんでなにするのじゃ?)
l从・∀・*ノ!リ人 マア イッカ
でざーと×しすたー つぎのおはなしにつづく
.
374
:
名も無きAAのようです
:2013/04/22(月) 21:34:19 ID:PZ9eifmM0
今月の投下ここまで。乙とかコメントとかありがとうございました
何事もなければ、次の話は5月の中旬〜下旬あたりに投下予定
そろそろ後半〜終盤戦に突入です
375
:
名も無きAAのようです
:2013/04/22(月) 22:58:04 ID:qVYr3M1w0
妹者かわいい
376
:
名も無きAAのようです
:2013/04/23(火) 00:22:20 ID:/bf5fl/wO
双子の話といい弟者不穏だなぁ
次の投下も楽しみにしてますっ
377
:
名も無きAAのようです
:2013/05/14(火) 22:38:52 ID:NbWBYs7c0
5月19日の夕〜夜から投下するかも
本編90レス前後+おまけ8レスの長丁場になるので途中で日を改めるかもしれないです
378
:
名も無きAAのようです
:2013/05/15(水) 14:18:41 ID:DkaHUxFk0
うひょー
379
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 20:02:51 ID:2tZd1sd.0
足を踏み入れた瞬間、兄者と弟者は同時にその目を細めた。
目を焼くばかりに強い外の日差しとは、真逆の影の世界。
しかし、そう見えたのはほんの一瞬で、二人の目はすぐに暗闇に慣れる。
外観と同じく白い柱と、白い壁に覆われた内装。
同じ材質で作られたであろう天井は強い日差しを遮り、屋内に闇をもたらしている。
外から吹き込んだのであろう砂が、ところどころに山を作っていた。
(,,゚Д゚)「よし。じゃあ、ちゃんとオレについてこいよ」
( ´_ゝ`)b「任せろ、ギコ者」
('A`)「あー、はあく」
(*^ω^)「わかったおー」
ギコの言葉に兄者は笑みをみせ、一方の弟者は片手を軽く上げるだけの返事を返す。
そんな兄弟たちの反応を見ると、ギコは一番奥に有る扉へと手をかけた。
金属でできた両開きの扉は、壁や天井とは対照的な黒。
ギコは扉を開けようと力を込め――、
(#゚;;-゚)「……ギコさん……戻って下さい」
背後から投げかけられた、か細い声にその動きを止めた。
.
380
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 20:03:33 ID:2tZd1sd.0
( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )
.
381
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 20:04:44 ID:2tZd1sd.0
そのろく。 俺らの冒険は始まったばかりだ。
.
382
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 20:05:25 ID:2tZd1sd.0
(#゚;;-゚)「……ギコさん」
(*´_ゝ`)ノシ「でぃ者じゃないか! さっきは、荒巻と中嶋をありがとう!」
声をかけてきたのは、でぃだった。
神殿の入口に手をかけた彼女は、兄者の言葉に頷いた後に、ギコの姿を見やる。
差し込む強い日差しと、空の眩さで、その表情は見えない。しかし、彼女のドレスの白い色だけはやけに鮮やかだった。
(#゚;;-゚)「……水鏡で連絡が入って」
(,,゚Д゚)「あー。わざわざ来てくれたのはありがてぇが、また後で連絡しなおす。
これから弟連中のお目付け役をしなきゃならねぇからな」
(#゚;;-゚)「その……どうしても、絶対、今すぐにギコ=ハニャーンを出せ……って言われて」
(,,-Д-)「あー。なら、お前かしぃで用件を聞いといてくれ」
(#;゚;;-゚)「相手は、姉者様なんです……けど……」
でぃの言葉に、その場の空気が一瞬固まった。
しばらくの沈黙が流れた後、ギコの尻尾は大きく膨らみ、二人の会話を見守っていた兄者と弟者は体を震わせ始めた。
(,,;゚Д゚)て「げぇぇぇ、姉者だと!」
.
383
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 20:07:10 ID:2tZd1sd.0
(´<_`;)「……なんと」
( ;゚_ゝ゚)「姉者だと……」
('A`)「姉者って行ったらアレか? 確かお前ら兄弟の……」
( ^ω^)「お姉さんかお?」
ドクオとブーンは、兄弟やギコの反応がよくわからず首をひねっていた。
姉者という名前は何度か聞いたことがあるが、実際には目にしたことがない。
(´<_`;)「兄者」
(;´_ゝ`)「弟者」
その一方で、そっくり同じ表情を浮かべた双子の脳裏に浮かぶのは、姉の姿。
彼ら兄弟と面差しのよく似た、波打つ豊かな髪と豊満な体の持ち主。
頭も悪くなければ、それなりに腕も立つ。そして、何より肝が座っている。
姉者=流石。彼ら双子と妹者の姉にして、流石の街を取り仕切る母者の後継者。
( ´_ゝ`)「行こう。これから先は俺らだけで大丈夫だから、今すぐ行ってきてくれ」(´<_` )
――その性格は一言で言えば、暴君である。
.
384
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 20:09:17 ID:2tZd1sd.0
(,,;゚Д゚)「この裏切り者めっ! お前らアレの弟だろ、とっとと行ってやられてこい!!」
(;´_ゝ`)「俺らだって、ゴメンだ」(´<_`;)
兄者=流石と、弟者=流石にとって姉は、理不尽な恐怖の対象である。
そして、姉者と馴染みであるギコにとっても、彼女は因縁深い相手であるようだった。
(,,;゚Д゚)「こんな時だけ息を合わせるんじゃねぇ! 行ってこい弟ども!!」
(#;゚;;-゚)「その……姉者様は……、ギコさんが出ないと、引っこ抜く……と」
(,,;゚Д゚)て「何をだ!!!」
(# ;;- )「ええと……あのことお姉ちゃんにバラして……調査に回す資金を打ち切るかも……って」
(,,#゚Д゚)「あの糞アマぁぁぁぁ!!! 今度という今度こそは決着つけてやる!!!」
長柄の槍斧を振り回してひとしきり叫ぶと、ギコは兄弟の姿を見やる。
耳と髭を垂れバツの悪そうな顔をしてみせると、すまねぇと声を上げた。
(,,゚Д゚)「俺はあの女と決着つけてくるから、お前さんたちは勝手に見て回ってくれや。
ひとしきり調査は済んでるが、下手なもんには触れるなよ」
(;´_ゝ`)「ギコ者、死ぬなよ」
(´<_`;)「辛いだろうが、耐えてくれ」
.
385
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 20:11:57 ID:2tZd1sd.0
(;'A`)「どんだけ怖いんだよ、お前らの姉ちゃんは」
( ^ω^)「今度、会いに行くかお?」
(;´_ゝ`)「やめて」('A`;)
ブーンの言葉に兄者とその肩に乗ったドクオが、悲痛な声を上げる。
ブーンやドクオの声が聴こえないギコは、突然の兄者の声に一瞬眉をひそめるが、何事もなかったように心構えを語っていく。
(,,゚Д-)「まだオレたちが見つけられてない、仕掛けやカラクリがあるかもしれん。
まぁ、心配はいらんと思うが、気をつけろよ」
(´<_` )「了解した」
(,,-Д-)「あとは神殿にあるものは、壊すなよー。なんて言ったって貴重な遺跡だからな!」
( ´_ゝ`)b「任せておけ!」
(,,゚Д゚)「それと、兄者。お前さんの目的のブツは一番奥の間だ。
ちいとばかりわかりにくいところにあるが、お前さんなら大丈夫だろう」
ギコはそう言うと扉から離れ、でぃの元へと歩いて行く。
その表情がしかめられているのは、姉者と連絡を取るのが嫌だからだろう。
ギコは神殿から立ち去ろうとし、最後にふと振り返ると、ニヤリと笑った。
(,,゚Д^)b「扉の向こうはすごいぞ。驚くからな」
.
386
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 20:13:30 ID:2tZd1sd.0
(#゚;;-゚)「じゃあ……楽しんできてね……」
(,,゚Д゚)ノシ「見終わったら本部に顔を出せよー。しぃが寂しがるからな」
(#゚;;-゚)「アラマキさんと、ナカジマさんは……責任持って……預かるから」
(*´_ゝ`)ノシ「ありがとなー、ギコ者ー、でぃ者ー!」
ヾ( ^ω^)ノシ「ありがとだおー」
別れを惜しむ一同の姿をひとしきり眺めてから、弟者は扉に手をかけた。
金属のひやりとした感触が手に伝わるが、それもすぐに体温と同じ暖かさへと変わる。
両手に力を加えて押すと、黒の扉は鈍い音を立てながら開いていく。
(´<_`;)「……なんと」
('A`)「へぇ。中はたいぶ様子が違うんだな」
(#´_ゝ`)「ああああー、弟者! なんで俺を無視して扉開け……」
兄者の言葉が、途中で止まる。
弟者が開いた扉の先、そこに見えるのはまっすぐと伸びる廊下だ。
.
387
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 20:15:21 ID:2tZd1sd.0
(;´_ゝ`)「……なんと」
(*^ω^)「おお、なんかすっごいおー」
精巧な細工が施された浮き彫りと、彩色された絵が続く、両側の壁。
床には、幾何学的な模様がタイルで描かれている。
そして、黒い石で作られた天井には……本物と見紛うばかりの星空が配置されている。
(,,^Д^)「ギコハハ。じゃ、せいぜい楽しんでこいよ」
(#゚;;-゚)「……ギコさん……姉者様が待ってる……」
(,,;-Д-)「へーい」
「じゃあ、ごゆっくり」と告げると、ギコとでぃはその場から立ち去っていく。
兄者はその言葉にはっとし、慌てて「じゃあなー」と手を振り答えた。
ギコの姿が見えなくなるのを見送ってから、よしと兄者は小さく声を上げると言った。
( ´_ゝ`)「さて、俺らも行くか」
(*^ω^)「行くおー。きっと楽しいお!」
(´<_` )「把握した」
('A`)「……しぃさんに会いたい」
.
388
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 20:17:44 ID:2tZd1sd.0
足を踏み入れると、内部はひんやりとした空気が漂っていた。
兄者は体を一瞬震わせると、すぐに笑顔を浮かべる。
( *´_ゝ`)「おお、これはこれは」
( ^ω^)「なんか変わった建物だおねー」
ブーンはあちらこちらを飛びながら、キョロキョロと辺りを見回す。
高く飛び上がっては天井を眺め、壁を触り、床の細工を眺め、首らしき箇所をひねった。
( ^ω^)「ドクオはどう思うおー?」
('A`)「あー、外から見たのと同じじゃね?」
(;^ω^)「せっかく連れてきてもらったんだから、ドクオももっと楽しそうにするおー」
(;'A`)「楽しそうって言っても、お前なぁ……」
兄者の肩に止まったままの状態で、ドクオは気のない返事を返す。
(´<_` )「……」
そして、最後の一人である弟者は先行し周囲を見回していた。
.
389
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 20:19:17 ID:2tZd1sd.0
壁面に施されている浮き彫りは、黒い翼を生やした四足の獣や、豪華なマントを纏った男の姿。
東方のものにも西方のものにも見える浮き彫りは、途切れること無く続いている。
窓らしきものはどこにも見えない。
が、弟者の歩みに合わせるようにして、足元と壁面に備え付けられた明かりが音もなく灯る。
(∩!!゚_ゝ゚)∩て「うひゃぁぁぁ!!」
('A`)「あー、明かりだ」
(´<_` )「……どういう仕組なんだこれは」
弟者は照明を睨みつける。
白い艶やかな石材で作られた外枠に、透明な鉱石が設えられている。
火らしきものはおろか、光を生み出すための術式らしきものも見えない。
(´<_` )「人の動きに応じて、光るのか?」
( ^ω^)「うーん。不思議だお。
魔力は感じなかったから、何か別の力で動いてるのかもしれんおね」
(∩;´_ゝ`)∩「……なんでお前らそんなに冷静なん?」
.
390
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 20:21:14 ID:2tZd1sd.0
ひんやりとした屋内に、兄者と弟者のブーツの音だけが響く。
兄者は体を少し震わせながら、先を進む弟者とあちらこちらを飛び回るブーンの後ろをついていく。
ドクオはといえば、相も変わらず兄者の肩の上。自力で動くという気はもはやない様だった。
(*´_ゝ`)σ「見ろ、弟者! 通り過ぎたところの明かりは消えるみたいだぞ」
(´<_`;)「何を言いだす――」
兄者の言葉を聞いて、弟者の表情が固まる。
振り向いて見た少し先の照明は消え、その先は闇に沈んでいる。
開け放ったままの出入り口から、外の光がかろうじて見えるのだけが救いだった。
(´<_` )「兄者。この遺跡、露骨に怪しいのだが……」
( ´_ゝ`)v「まあ、落ち着け弟者よ。ギコ者がいいと言うからには、それなりに安全だと思われ」
_,
(´<_` )「だがしかし、」
弟者の眉が寄り、不満の表情を浮かべる。
しかし、まぁこの程度ならばまだ弟者の機嫌がいいものと判断し、兄者は笑う。
ヽ(*´_ゝ`)ノ「大丈夫、大丈夫。我らが恐ろしき姉上と一戦終えたら、ギコ者も帰ってくるさ。
好き勝手探索できるのも今のうちだけだし、とっとと行こうぜ!」
ヽ( ^ω^)ノ「ブーンも行きたいおー。もっと先が見たいおっお!」
.
391
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 20:23:17 ID:2tZd1sd.0
渋る弟者をどうにかなだめ、一同は先に進む。
彩色された浮き彫りに「こういうの父者が好きそうだよなぁ」とか、天井を見上げ「妹者に見せたい」などと言いながら兄者は歩く。
弟者も兄者に言葉を返しながら、明かりに照らされた廊下の終わりへと足を踏み入れる。
( <_ )「――っ」
光の強さの違いに、弟者の目は一瞬眩む。
が、彼が手元の刀に手をかけるまでもなくすぐに視界は回復する。
( ^ω^)「おお。ひろいおーこの部屋ー」
('A`)「影が少ないな、この部屋」
(;^ω^)「……そんなこといったら、風だってほとんどないお。
空気の流れはちゃんとあるから、いいんだけど」
(;´_ゝ`)「そんなことより、ドクオよ。人の被り布の下に潜るのは止めて欲しいのだが」
('∀`)b「オレ、影とかがないと生きてけないんで」
廊下を抜けた先は、広い部屋だった。
照明らしき器具も、明かり取りの窓もないにもかかわらず部屋は橙の光で満たされている。
つややかに光る白い壁面と、浮き彫りの施された天井。
向かって正面と左右の壁それぞれに、次の部屋へと続く出入り口が設けられていた。
.
392
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 20:25:13 ID:2tZd1sd.0
(´<_` )「ふむ。分かれ道だな」
3つの方向にある出入り口を眺めながら、弟者は困ったように声を上げた。
出入り口の向こう側は暗く、何も見通せない。
ギコの言った通り一番奥の間を目指すというのならば、向かって正面の道へと進むのが一番良いのだろうが……。
弟者がそこまで考えた所で、頭に被った飾り布を振ってドクオと遊んでいた兄者が声を上げる。
(*´_ゝ`)「弟者、弟者ー、どうせなら右から行こうぜ!」
(´<_` )「して、その心は?」
弟者の返答に、兄者は一瞬沈黙する。
その様子に、兄者の飾り布にしがみついていたドクオが声を上げる。
('A`)「なんとなくって言うな……多分」
(*´_ゝ`)b「なんとなくだ!」
(*^ω^)「おお、ドクオスゴイお! どうしてわかったんだお!」
( ´_ゝ`)て「読まれていた……だと……」
相変わらずのやり取りに弟者は、小さくため息をつく。
「まったく」と、小さく呟くと、右手にある入口へ視線を向ける。
.
393
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 20:27:44 ID:2tZd1sd.0
(´<_` )「まあ、悩んでいても仕方がない。行くか」
ヽ(*^ω^)ノ「おっおー、行くおー!!」
(;´_ゝ`)て「あ、お前ら俺を置いて行くなし!」
右手の入り口を、弟者はくぐる。
暗い通路に弟者が足を踏み入れた瞬間。先程まで暗かったのが嘘のように、瞬く間に照明がついた。
明かりにともされた廊下は、先程までの廊下とほぼ同じ作りをしている。
( ´_ゝ`)「あ、星の並びが違う。さっきは夏だったのに、今は春の並びだわ」
('A`)「そんなもん、普通気づかねぇよ……」
(*^ω^)「あー、みんなみるおー! 壁の模様もちがうお」
天井を見上げて言葉を交わす兄者とドクオの会話を聞き流し、ブーンの言葉に反応しないように心がけながら弟者は壁を盗み見る。
彩色がされた浮き彫りが連なる左右の壁。
そこに描かれているのは、角や、羽が生えた魚の群れと。やはり、豪奢な衣装を纏った男の姿。
どうやら海をイメージしているらしく、ところどころ波らしき図案も見える。
(´<_` )「……ふむ」
美術品の価値は分からないが、このような細工を見るのは嫌いではない。
よくわからない仕組みの明かりだけは気に食わないが、こういうのも悪くない――と、弟者は頷いた。
.
394
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 20:29:42 ID:2tZd1sd.0
・
・
・
( ^ω^)「お、行き止まりじゃないかお?」
('A`)「残念だったな」
それから更に進んだ、通路のはて。
そこにあるのは行き止まりだった。
壁画も装飾もない白の壁面には大きな古い鏡だけが、意味ありげに飾られている。
( <_ )「……」
( ´_ゝ`)「時にブーンにドクオよ、待て。
あの曲がり角からここまで、他に道も部屋もなかった。と、いうことはだな」
('A`)「と、いうことは?」
.
395
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 20:31:12 ID:2tZd1sd.0
兄者は行き止まりへと向かう。
そして、壁へと手をやりコンコンと叩き、顎に手をやり首をひねる。
( ´_ゝ`)「ふむ。壁には何もなし」
兄者の視線が壁から、鏡へと移る。
しばし、鏡を見つめ。それからふむと頷く。
( ´_ゝ`)「ということは鏡、か?」
そうつぶやき、兄者は鏡へと手を伸ばし……
.
396
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 20:33:51 ID:2tZd1sd.0
――――――‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
‐‐‐‐‐‐‐‐‐
「なあ、おれ。探検にいかないか」
「それはよくない。母者におこられる」
「でも、気になるだろう。おれはそうじゃないのか?」
「……」
「なあ、おれ。おれはどうなんだ?」
「……そうだな、おれ。おれもそうだ」
‐‐‐‐‐‐‐‐‐
――――――‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
397
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 20:35:27 ID:2tZd1sd.0
( ´_ゝ`)「ん?」
……兄者は鏡の中に、曲刀を抜き放った弟の姿を見た。
鏡に写った弟者は、刀をまっすぐ突き出さんとする姿。
タイルを踏む高らかな音は背後からか、それとも鏡の中からか。
――とまどったのは、ほんの少し。
しかし、兄者はすぐさま弟者の意図を察する。
(; ゚_ゝ゚)「弟者らめぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
( ^ω^)て「え」
(´<_` )つ==|ニニニ二フ
そう声をあげ兄者が振り向いた瞬間には、弟者は兄者を追い抜いていた。
そして、そのまま手にした曲刀を、なぎ払った。
――標的は、今まさに兄者が手を伸ばそうとしていた鏡。
.
398
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 20:37:05 ID:2tZd1sd.0
悲鳴をあげるような高い音とともに、鏡面が砕け散る。
支えを失った欠片たちが一つ、また一つと床に落ち、砕けて割れた。
(; ゚_ゝ゚)「……おとじゃ」
兄者は引きつった表情のまま、再び壁へと視線を戻す。
そこにあるのは、もはや用をなさなくなった鏡と――
( <_ )「……」
――弟の姿。
(;'A`)「あー、あはははは。び、びっくりした。
……それにしても、弟者の野郎。やっちまったな」
( ^ω^)「やっちまったんだぜ!」
('A`)オマエ オ ハ? ナントナク ダオ(^ω^ )
.
399
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 20:39:01 ID:2tZd1sd.0
何一つ浮かばない顔で、弟者は鏡の欠片を眺めている。
その手がかすかに震えているのを見て取って、兄者は顔を歪め、それから「あーあ」とつぶやいた。
( ´_ゝ`)「……これはしぃ者に怒られるな」
(*'A`)「しぃさんっ!
そうだぞ弟v(´く_` )>「残念だが、お兄ちゃんこのへんで話を止めちゃうぞ☆彡」
('A`)エー エーッ テイッテモ ダメ(´く_` )
('A`)「なんだよ、ケチ」
ヽ( ´_ゝ`)ノ「ケチで結構!」
何事もなかったかのような調子で、兄者はドクオと話しはじめる。
しかし、弟の様子が気になるのか話しながらも時折、兄者はその視線を弟者に向ける。
( ´_ゝ`)「……」
( <_ )「……」
(#'A`)「おい、兄者。聞いてるのか?!」
(;´_ゝ`)「あー、はいはい。いくら言われても、しぃ者のことは話さんぞ」
.
400
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 20:41:14 ID:2tZd1sd.0
その一方で、ブーンは黙り込んだままの弟者の姿を見ていた。
ブーンは「んー」と小首をかしげていたが、意を決したように声を上げた。
( ^ω^)「オトジャ、大丈夫かお?」
(´<_`; )「……ああ」
ブーンの声に弟者は顔を上げ、それからしまったと言うように顔をしかめた。
一方のブーンは、弟者が言葉を返してくれたことに。そして、それ以上に、その顔に感情らしきものを浮かべたことにほっとしていた。
これはなんだろう、とブーンは心のなかで首を捻り、それが『嬉しい』という感情であることに思い至る。
(´<_` )「お前ら羽虫に感情なんてないくせに」
(*^ω^)「それはブーンが忘れてるだけで、本当はあるんだって思うお」
(´<_` )「知るか」
(*^ω^)「オトジャがお話してくれたおー。
なかよくなれたみたいで、楽しいおー」
素っ気ない辛辣な言葉だけを残して、弟者は再び沈黙する。
しかし、それにもかかわらずブーンは笑顔を浮かべたままだった。
弟者が普通に返事をしてくれて、それにお話してくれた。
たったそれだけなのに、ブーンの胸はほわっとしてとても暖かくなった。
.
401
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 20:43:13 ID:2tZd1sd.0
( ´_ゝ`)ゝ「まあ、鏡の件はあとで全力で謝るとして、今はとりあえず戻るか!」
('A`)「……いいのか、それで」
(*´_ゝ`)「流石だよな、俺」
(;'A`)「どこがだ!!!」
ブーンと弟者が話している傍らで、兄者とドクオの話は一応の決着を迎えたようだった。
兄者は振り返ると、弟者とブーンに向かって大きく手を振る。
( ´_ゝ`)ノシ「というわけで、弟者もブーンも行くぞ」
(*^ω^)「おー!」
( ´_ゝ`)「弟者。まあ……言いたいことはあると思うが、行こう」
(´<_` )「……」
( ´_ゝ`)「……正直、不注意だったからな。何も言わんさ」
兄者のらしくない言葉に、弟者の口が何かを言いたげに動く。
が、そこからは何の言葉も発せられなかった。
兄者もそんな弟者の様子に気づいたようだったが、それ以上は何も言おうとしなかった。
.
402
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 20:45:03 ID:2tZd1sd.0
……その後は誰も口を開かないまま、彼らは分かれ道があった広間に帰り着いた。
橙の光に照らされた、白い広間。
その柔らかな色の光に照らされた瞬間、緊張が緩んだのか兄者とブーンに笑顔が浮かぶ。
(*´_ゝ`)「というわけで、分かれ道だ!」
(*^ω^)b「分かれ道だお!」
一同が広間の中心につくと同時に、兄者とブーンは楽しそうに声を上げた。
最初に入ってきた入り口を覗きこみ、それからまだ進んでいない二つの出入り口を見てから、兄者は考えこむ素振りを見せる。
(*´_ゝ`)σ「よし、じゃあ今度はこっちの道に……」
( <_ )「待て」
( ´_ゝ`)「どうした弟者ぁー」
(;^ω^)「お?」
兄者は向かって正面――最初にこの広間に入ったときは、左側にあった通路を指さす。
そして、そのまま正面の出入り口へと進もうとする兄者に、弟者の制止がかかった。
(´<_` )「もう帰るぞ、兄者」
.
403
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 20:47:04 ID:2tZd1sd.0
(;´_ゝ`)て「――え?! 何で何で?
まだ来たばっかりだぞ。それに目的のブツだって……」
(´<_`#)「いいから!!!」
弟者の顔に、はっきりと怒りの表情が浮かぶ。
その手は固く握りしめられ。恐れではなく怒りに震えていた。
(;'A`)「おいおい、弟者……」
(;゚ω゚)「あうあう」
(´<_`#)「もう充分だろう。こんな何があるかわからないような場所なんかにいられるか」
(;´_ゝ`)「あー、時にもちつけ弟者」
('A`)「……もち?」
(;´_ゝ`)「あ、落ち着けだったわ。スマン」
そう言うと、兄者は小さく咳払いをする。
兄者はしばし唸り声をあげたあとに、弟者の顔を見据えて言った。
.
404
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 20:49:20 ID:2tZd1sd.0
( ´_ゝ`)「弟者よ。ここまで来て、目的を放り投げるというのはどうかと思うぞ。
母者も言っているではないか、『人間、信頼というものが大事だ』と」
(´<_` )「母者はこうも言っている。『退く勇気も、時に大切だ』と」
(;´_ゝ`)て「お兄ちゃんせっかくカッコイイこと言ったのに、即否定とかひどいっ!」
弟の答えに、兄者は再び、無意味な声を上げる。
そのまましばし、考え込んだ後に兄者は再び口を開いた。
(;´_ゝ-)σ「えーと、弟者っ! 弟者たん、こういうのはどうだろうか?
弟者が先に行って様子を見る。で、俺がここで待機する――どうだ、今度こそ完璧だろ!」
('A`)「必 死 だ な 兄 者」
∩(;´_ゝ`)∩「そりゃあ、ここで帰ったりなんかした日には、これからの予定が全部ダメになるからな」
∩(;^ω^)∩「たいへんだおー」
(´<_`#)「……」
∩(;´_ゝ`)∩「お兄ちゃん譲歩とかしませんからっ!
睨んでも俺は泣かないからな! 涙目とか言うなよホント」
(-<_-#)「……今回だけだぞ」
弟者はしばしの沈黙の後に、やっとそれだけを口にした。
.
405
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 20:51:17 ID:2tZd1sd.0
(´<_` )「じゃあ行ってくるが……兄者、くれぐれも勝手に動き回るなよ」
(*´_ゝ`)>「把握した。俺に任せろ弟よ!」
(;'A`)て「うわっ。これぜってー、信用できねぇ」
( ^ω^)「え? 何でだお、ドクオ?」
( ´_ゝ`)「……ブーンよ。お前はほんとぉーにいいやつだよな。
俺は今、もーれつに感動している!!!」
(´<_` )「……」
(;´_ゝ`)「ごめんなちゃい、弟者」
兄者の言葉に、弟者は不機嫌そのものといった表情となる。
それを見てとった兄者はただちに謝罪するが、それに弟者は何も返さなかった。
(´<_` )ノ「じゃあ、行ってくる」
その言葉とともに、弟者は部屋の外の暗がりへと出て行く。
暗かった廊下には明かりが灯り、壁の浮き彫りが照らし出される。
しかし、それもほんの僅かな時間のことで、すぐにまた暗闇へと戻った。
.
406
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 20:53:24 ID:2tZd1sd.0
⊂二(*^ω^)二⊃「ブーンもオトジャと一緒に行くおー」
(*´_ゝ`)∩「……じゃあ、俺も」
('A`)「やめれ」
( ´、ゝ`) チェー
ブーンが硝子のような羽をきらめかせながら、弟者の消えた暗がりへと向かう。
それを羨ましそうに見つめながら、兄者は口元を曲げる。
そして、そのまま口を開き、
(#´_ゝ`)「弟者ばっかりずるいぞー」
そう口にした瞬間。弟者からの大声が響いた。
( <_ )「兄者っ!」
( ;゚_ゝ゚)「はぃぃぃ。俺、行こうとなんてしてないから。してないデスヨー」
ヽ('A`)「オレはちゃんと止めたからな」
o( ;`_ゝ´)o「この裏切り者ー」
.
407
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 20:55:20 ID:2tZd1sd.0
( <_ )「兄者、どうした?」
あわてて弁解を図った兄者だが、そもそも彼の声は弟者には届いていなかったらしい。
弟者の声は相変わらず大きいものの、困惑が浮かんでいた。
兄者は両手を口元へと持って行くと、できる限りの大きな声で返事をする。
(∩´_ゝ`)∩「弟者こそどうした?
まだ、全然時間がたってないのだが……」
( <_ )「こっちはハズレだ。何もないぞ」
(∩;´_ゝ`)∩て「え? ちょ、そっち行くから時に待て、弟者よ」
( ω )ノ「はいはーい。ブーンがお迎えにいくお!」
弟者の回答に、兄者は慌てて駆け出す。
その肩にしがみついたドクオが、「急に走るな」と抗議の声を上げるが、兄者は足を止めなかった。
('A`;)「おい、兄者。何もないなら行く必要なくね?」
( ´_ゝ`)b「いいや、ハズレでも俺は行くぞ!
何しろせっかくの遺跡観光だからな」
足音を鳴らしながら浮き彫りの間を、兄者は進む。
それほど進まないうちに廊下は終わり、部屋らしき場所へと到達する。
.
408
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 20:57:26 ID:2tZd1sd.0
白の石材で作られた天井と壁には、装飾らしきものは見えなかった。
閑散とした部屋には、半ば崩れかかった机と椅子が並べられている。
かろうじて残っている棚には本らしきものがいくつか残され、壁の近くには武器置き場だったらしい形跡が見える。
( ´_ゝ`)「なんと」
( ´ω`)「お出迎えより、アニジャのほうが早かったお」
('A`)ドンマイ
照明もないのに、白い光で照らされた部屋。
部屋自体は年月の経過を感じられないのに、そこに置かれたものは古びている。
時間がずれているような、妙な印象を感じる部屋だった。
(´<_` )「石板らしきものは何もなし。
ざっと見て回して触ってみたが、罠らしきものもなしだ。
これはハズレだな……」
(;´_ゝ`)「いや、いろいろと気になることはあるのだが……
うむ。やたらとチグハグではあるが、とりあえずは普通の部屋のようだな」
弟者はその部屋の中で、本らしきものをめくっていた。
しかし、そこに書かれている文字は弟者には読み取れないものばかりだ。
古い時代の文字なのか。それとも、魔王たちが使った文字なのか。
しぃやギコならわかっただろうが、彼らは今ここにはいない。
.
409
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 20:59:22 ID:2tZd1sd.0
( ´_ゝ`)>「あー、怪しいのに何もないな」
( ^ω^)「んー、不思議だおー」
部屋をひと通り見て回った兄者は、肩を落とした。
その動作に、肩にいたドクオはずり落ちそうになりあわてて兄者の肩に指をかけた。
ヽ(#'A`)ノ「ちょ、ま、やめろ! 急に動くなって!!」
( ´_ゝ`)「お、スマンな」
(#´_ゝ`)「――って、お前は自分で飛べよ」
(#'A`)「いーやーでーすぅー」
ヾ(#`_ゝ´)ノシムキー (^ω^; )アウアウ
.
410
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 21:01:07 ID:2tZd1sd.0
( ´_ゝ`)「仕方ない。弟者、引き返すぞー」
( ^ω^)ノシ「ひきかえすおー」
(´<_` ).。oO(本にも魔力は感じられない。
魔導書のたぐいでも、魔物が憑いていることもなさそうだな)
ひとしきりはしゃぎ終えた後、兄者は本を読みふけったままの弟者に声をかけた。
騒ぎの原因となったドクオはといえば、兄者の肩に未だに居座り続けている。
変わったことといえば、兄者の反対の肩にブーンが笑顔で座っていることくらいか。
(´<_`; )「あ――ああ、把握した。」
( ´_ゝ`)「どうした、弟者ー。さては、その本おもしろいのか?」
(´<_` )「……いや。何が書いてあるかは、さっぱりわからん」
考えに気を取られ返事が遅れた弟者に、兄者は不思議そうな顔を見せる。
弟者はといえば、そんな兄者の様子にしまったという表情を浮かべる。
しかし、すぐに表情をとりつくろうと、手にとった本を兄者へと開いてみせた。
差し出された本を覗きこんだ兄者は、「ふむ」と興味深そうな表情を浮かべたが、すぐにその眉根を寄せた。
_,
( ´_ゝ`)「たしかに、さっぱりわからんな」
.
411
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 21:03:03 ID:2tZd1sd.0
( ^ω^)「ブーンもさっぱりだお」
('A`)「人間ってやたらと作ったり、書いたりするの好きだよな。何が楽しいやら」
兄者の肩から、ブーンとドクオが声を上げる。
どうやら二人にも本の内容は読めなかったらしく、すぐに会話は別の話題に移る。
('A`)「あー。やっぱ、何かに乗るのは楽だ。
おまえもそうだろ、ブーン」
_,
( ^ω^)「アニジャの肩に乗るのも楽しいけど、ブーンはやっぱり飛ぶほうが好きだおー」
(´<_`#).。oO(こいつら、いつか叩き切ろう。特に紫の方)
( ;´_ゝ`)「弟者。ドクオやブーンをすんごい表情で睨みつけるのはいい加減やめて」
弟者は何も答えない。
これは何を言っても無駄だなぁと思うと、兄者は小さくため息を付いた。
( ´_ゝ`)σ「まあ、いいや。ここは引き返して、さっさと進もう。
俺らの冒険は始まったばかりだ。まだまだ、先があるぞ」
(´<_` )「……ふむ。そうだな」
.
412
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 21:05:10 ID:2tZd1sd.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
(;´_ゝ`)「……」
('A`)「どうした、兄者?」
( ;-_ゝ-)「また俺だけ置いてけぼりになっている件について」
橙の光が落ちる、白い広間。
四方へ続く分かれ道となっているその広場に、兄者は再び取り残されていた。
広間に残っているのは兄者と、彼の肩に座り込んだままのドクオだけ。
⊂二(*^ω^)二⊃「ブーンは、オトジャについてくおー」
ブーンは弟者とともに先に進んでおり、この場所からは姿が見えない。
ドクオは「絶対に羽を毟られたりするからやめろ」と主張したのだが、ブーン本人はいかにも楽しそうな様子であった。
弟者と一緒に行っても無視されるだけだろうに、一体何が楽しいのだろうか――と、ドクオは納得できないでいた。
('A`)「弟者が先に様子を見に行って、自分は待機する――って、自分で言い出したんだろうが」
(;´_ゝ`)「いやぁ、だってああでも言わないと弟者たん絶対に引き下がらなかったんだもん。
あいつ一度決めたことは絶対に譲らないからな」
.
413
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 21:07:06 ID:2tZd1sd.0
弟者もブーンも、戻って来ない。
彼らが部屋を出てからそれなりの時間が立ったはずだが、帰ってくる様子もない。
('A`)「……なぁ、兄者」
( ´_ゝ`)「ん、どうした?」
('A`)「……お前さ、本当は弟者と仲が悪いのか?」
そんな手持ち無沙汰な時間の中、ドクオがふと口にした言葉に兄者の動きが止まる。
しばしの沈黙が流れた後に、兄者は何度か口を開いては閉じ、それからようやく声を上げた。
……その時にはもう、兄者の顔にはいつも通りのやや大げさな表情が浮かんでいた。
ヽ(#´_ゝ`)ノ「何を言う、俺と弟者たんはどっからどうみても仲良しさんだろ!」
(;'A-)「そういう意味で言ってるんじゃない。
あれ、オレ今、人間とは違う考え方で話しているのか? えっと、オレが言いたいのはな」
ヽ( ´_ゝ`)ノ「どうせ弟者と仲良しな俺が、なんだかんだ言って羨ましいんだろ」
('A`)「話を聞け。……俺が言いたいのは、ええと、……お前ら兄弟の関係はおかしいんじゃないか、ってことだ」
( ´_ゝ`)「……はへ?」
( -A-)「お前らさ――根っこの所で致命的に食い違っている気がする」
.
.
414
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 21:09:19 ID:2tZd1sd.0
白い部屋には、兄者とドクオの声以外に響くものはない。
少し前までは弟者の足音がかすかに届いていたが、それももう聞こえない。
(;´_ゝ`)「ええ、そうか〜?」
('A`)「……兄者。お前さ、いつも何を隠してんの?」
その言葉に、兄者はすぐには答えなかった。
弟者が去っていった通路の先をじっと見やり、そしてようやく声を上げた。
<(;´_ゝ`)v「え、えろい絵巻とか……」
('A`)「そうじゃなくて、さ。お前……言葉を選んでるっていうか、わりと本当のこと言ってないんじゃないか?」
(;´、ゝ`)「うむむ。わりと本気で、ドクオの言ってることがわからんぞ。
この兄者たん、顔を合わせる人ほとんどに、お前考えてること丸わかりって言われる件について」
('A`)「……オレさ。ブーンと違って、楽しいって感情はそれほどよくわからないんだ」
ドクオは兄者の肩から降りると、その羽を動かしはじめる。
その動きは危なっかしいものだったが、それでも落ちることはなかった。
ドクオは兄者の顔がよく見える位置でとどまると、その顔をじっと見つめた。
.
415
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 21:11:53 ID:2tZd1sd.0
('A`)「でも、俺はさ、影から生まれたせいか人の後ろ暗いところとか、後ろ向きの感情ってやつには敏感なんだ。
相手の嫌がっている部分ってのに触れるのがとにかく、上手いらしい」
(;´_ゝ`)「流石な俺でも、ひくわー」
(#'A`)「じゃあかしい!」
ドクオは紫の顔を赤に染めるが、すぐにその表情を元に戻した。
小さな顔の中心にある細い目が、兄者をじっと見据える。
('A`)「……とまあ、今みたいな感じでさ、お前いろいろと話をそらしたり、誤魔化してるよな。
一体、何を隠してるんだ? お前さんたちの仲がこじれてるのもそれが原因なんじゃないのか?」
(;∩_ゝ`)「うへぇ。お前さんの中では俺達の間に何かがあるのは確定なわけね。
俺は別に何を隠しているというわけではないのだが……」
('A`)「嘘だな」
兄者は、ドクオの言葉に何も言葉を返そうとしない。
かわりに目元に置いた手に力がこもるのを、ドクオは見て取った。
.
416
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 21:13:18 ID:2tZd1sd.0
('A- )「弟者は魔法も、オレやブーンみたいな精霊も嫌いな、とんだ根性悪だ」
::(;∩_ゝ`)∩::「……ドクオ。お前さんは本当に怖いものなしだな」
d('∀`)「まあ、今は本人がいないからな。
また羽を毟られるなんて失敗は犯さないぜ!」
そう言って、ドクオは気持ちの悪い笑みを引っ込めると目を細めた。
その視線の先は兄者。
口には出さないが、ドクオの表情は「下手なごまかしはきかないぞ」と雄弁に語っている。
('A`)「あの弟が不機嫌になるのは、オレみたいな“こちら側”の生き物か、魔法が絡んだときだ。
羽をむしられ、投げられ、刀をつきつけられたオレにはわかる!」
( ´_ゝ`)「――ふむ。散々ひどい目にあったドクオが言うと説得力が違うな。
でも、ドクオは俺が今日めっちゃ殴られたのを忘れている件」
┐('A`)┌「それは兄者が馬鹿やったからだろ」
┌(;´_ゝ`)┐「なんと」
∩('A`)∩ ヘンナ ポーズ ヤメロヨー
( ´_ゝ`)σ オマエ モナー
.
417
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 21:15:16 ID:2tZd1sd.0
ドクオはわざとらしく咳払いをすると、上げていた両手を下ろす。
そして、「話がそれた」と呟くと、表情をひきしめた。
('A`)「……と、まあ、弟者のやつは乱暴なようでいて、怒るのにはそれなりの理由がある」
( ´_ゝ`)b「ふむ。流石だな、ドクオ者。
知ってる奴も多少はいるが、お前さんが気づくとは思わなかった件」
(‐A‐)「俺を見くびるなよ、兄者。
と、言いたいところだけど、本題はまだそこじゃない」
ドクオは、「弟者が怒るのには、はっきりとした基準がある」と断言すると、兄者の顔を見据えた。
一方の兄者はドクオと視線を合わさないようにするためか、視線を横に向ける。
それを見たドクオは、兄者がそらした視線のちょうど先へと飛んだ。
('A`)「だけどな、兄者。
その基準にはあわないのに、弟者の様子がおかしくなった時があったよな」
( ´_ゝ`)「気のせいじゃないか?」
('A`)「……二回だ」
その言葉に、兄者は返事をしなかった。
言葉の続きを待っているのか、それとも沈黙でもって肯定したのか……。
ドクオはしばし沈黙すると、再び口を開いた。
.
418
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 21:17:09 ID:2tZd1sd.0
('A`)「しぃさんと一緒にいた男が、双子の話を出したよな。
あれが一度目。弟者がブーンの頭を撫でるなんて正気の沙汰とは思えん」
(;´_ゝ`)「全力で把握した。
仲良き事は美しき哉だが、さすがのお兄ちゃんもあれにはびっくりしたわ〜」
('A`)「……お前も、びっくりしたって反応じゃなかったけどな」
兄者は小さく笑い声を立てる。
しかし、ドクオの言葉をそれ以上追求する気配はなかった。
('A`)「それから二回目は……言わなくてもわかるよな」
┐( ´_ゝ`)┌「……さてな、俺にはさっぱりわからんちんだ」
('A`)「最初の行き止まり。そこであいつ鏡割っただろ。
それも、いきなり駆け出して問答無用」
( ´_ゝ`)「弟者たんは心配症だからな。罠だと思ったんじゃないのか?」
('A`)「罠かどうかの確認もせずに?
しぃさんと一緒にいた男――ギコに遺跡にあるものは壊すなと、念押しされたのにか?」
( ∩_ゝ`)「……」
.
419
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 21:19:42 ID:2tZd1sd.0
兄者の沈黙を好機と取ったのか、それとも今を逃すと永久に機会は訪れないと踏んだのか。ドクオは追及の手を緩めなかった。
相手の嫌がっている部分に踏み込むのが上手い――というドクオ自身の発言は、あながち嘘ではないらしい。
('A`)「それに。兄者、あの時はお前も変だった」
( ´_ゝ`)「……なんと。毎度毎度、変とよばれる俺がついに普通の人に!」
('A`)「兄者、お前さ。弟者が何かやらかそうすると、大体止めて、なんのかんの言うだろ。
弟者が俺の羽をむしった時とか、魔法石板売りやのーちゃんの時みたいに」
( ´、ゝ`)「むー、そうだったか?
弟者に、美人のおねーさんとしゃべっててズルいぞって、言った記憶ならあるんだが」
沈黙から脱した兄者の言葉にも、ドクオの追求の言葉は止まらない。
今のドクオは事件が起こったあの場で、「しぃさん!」と嬉しそうに叫んでいた精霊と同じだとはとても思えない。
(-A-)「そんなに長い付き合いじゃないが、それでもオレはお前さんとはそれなりにやってきたと思う」
ヾ(;´_ゝ`)ノ「うむむ、情で訴える気か! お兄ちゃんにはきかないんだからねっ!
俺は弟者さんとは違うんだから、プンプンっ」
.
420
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 21:21:13 ID:2tZd1sd.0
('A`)「なあ、答えろ兄者。
お前……いや、お前たちの間には何があるんだ?」
ふざけたところなど一欠片もない表情で、ドクオが告げる。
その言葉に振り回されていた兄者の腕が、降ろされる。
( -_ゝ-)「……」
(;´_ゝ`)「……ドクオはしつこいなぁ。
俺はどうやら、こういうのが嫌いだったみたいだ。驚くことに」
('A`;)「正直、オレもここまで食い下がるとは思ってなかった。
……あー、なんでなんだろうなぁ。面倒くさいことだけは絶対しなかったはずなのに」
(*´_ゝ`)ρ「そりゃあ、間違いなくブーンの影響だ」
(*'∀`)「ああ、なるほど」
( ´_ゝ`)「ブーンは自分で言うほど、感情がないわけじゃない。
……いいやつだよ。俺なんかよりも、よほどな」
兄者は天井を見上げると、再び瞳を閉じた。
沈黙し言葉を切った兄者の姿は、表情が少ないのも相まって、ほんの少し幼い弟者そのものだった。
( -_ゝ-)「……頑張ったドクオ者には、特別に手がかりをやろうかな」
.
421
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 21:23:04 ID:2tZd1sd.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
幾何学模様の床と、星を模した天井。
そして、亀のような巨大な生物や貝や海辺の生き物と、豪奢な服装の男を模した浮き彫りの壁。
装飾がほどこされた廊下を長いこと歩き続けた末、弟者は足を止めた。
⊂二(;^ω^)二⊃「オトジャー、待つおー」
その後を少し、遅れてブーンが追いかける。
ブーンの羽は光の粒をまき散らしながら輝き、ほんの少しだけあたりに風を巻き起こした。
⊂二(*^ω^)二⊃「ひょっとして、ブーンを待ってくれたのかお?
おっおっ、なんだかとっても楽しい感じだおー」
(´<_`;)「……」
弟者のちょうど傍らまで飛ぶと、ブーンは動きを止めて声をかける。
そのまま弟者の答えを待つが、彼は相変わらずブーンには何も口にしなかった。
弟者はブーンを無視したまま、廊下の先をじっと見据えている。
( ^ω^)「オトジャ?」
.
422
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 21:26:00 ID:2tZd1sd.0
(´<_`;)「……これを一つずつ見て回るのは、骨が折れそうだ」
弟者の視線の先には、脇へと入る出入り口。それが6つ、廊下の左右に並んでいる。
正面に続く廊下と脇道、計7つの分かれ道が弟者とブーン目の前に広がっていた。
(-<_-; )「仕方がない。しらみつぶしにするか……」
( ^ω^)「おー、大変そうだお」
弟者はそう呟くと、一番近い入り口をくぐる。
そこに広がるのは、小部屋だった。
広さは先程、兄者たちと入った本棚がある部屋よりも狭いくらい。
その部屋や、分かれ道のあった広間と同じように、壁や天井は白い石材で作られている。
窓の一つもない空間は薄暗い闇が横たわっている。が、それでも文字が読める程度の明るさは保たれていた。
(´<_` )「……何もない、か」
部屋に置かれているのは、古びた机だけ。
魔力の気配は感じないし、他にこれといったものも置かれていない。
弟者はため息を一つつくと、廊下へと引き返した。
.
423
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 21:27:05 ID:2tZd1sd.0
(*^ω^)ノ「じゃあ、今度はこっちへ行くおー」
(´<_` )「……」
弟者が廊下に出ると、ブーンは先程までいた部屋の向かいを指さし、にこりと笑った。
弟者は指さされた方向を無言のまま見やると、ブーンの指さした入り口をくぐる。
(*^ω^*)「お? ……おおおおお」
(´<_` )「……」
それをみたブーンの頬が、興奮で赤く染まる。
しかし、弟者は相変わらず無言のままだった。
( ´ω`)ヘンジ ナイオー
(´<_` )「……」
.
424
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 21:29:23 ID:2tZd1sd.0
・
・
・
(;^ω^)「何もないおー」
向かいの部屋は、広さも作りも先ほどの小部屋とさほど差がなかった。
白い部屋は薄暗く、先ほどの部屋の机の代わりに、茶色く退色した絨毯が敷かれている。
しかし、それ以外には何もない部屋だった。
(´<_` )「……ここもハズレか」
( ^ω^)「だおねー」
危険そうなものや、兄者が探す魔法石板の姿はどこにも見えない。
小部屋から引き返して、少し先の小部屋に入ってみるが、それも部屋もこれまでの二部屋と大差なかった。
(;^ω^)「なんか、さっきと同じ部屋みたいだおー」
.
425
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 21:31:06 ID:2tZd1sd.0
(´<_` )「……」
( ^ω^)「このあたりは、こういう部屋ばっかりみたいだおね」
(´<_` )「……」
( ^ω^)「昔は何があったのかおねー?
ブーンはここには来たことないから、わからんですおー」
(´<_` )「……」
( ^ω^)「それにしても、ここはすっごく広いお」
(´<_` )「……」
(;^ω^)「オトジャー、やっぱり返事してくれないのかおー?」
(´<_` )「……」
( ´ω`)ショブーン
(´<_`;)「……」
弟者は一瞬表情を崩すが、それでも無言のまま、隣の小部屋に入る。
それから、さらに隣とその向かいの部屋にも足を踏み入れるが、そのどれもが同じような作りの小部屋だった。
.
426
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 21:33:26 ID:2tZd1sd.0
( ^ω^)「……いっぱい部屋があったけど、何もなかったおね」
(´<_` )「……」
(;^ω^)「あうあうー、オトジャは楽しくなかったお?
ブーンは結構楽しかったけど、どうかお?」
(-<_- )「……」
元気をとりもどしたらしいブーンと、弟者は再び廊下へと舞い戻る。
廊下の左右から伸びていた6つの脇道は、全て同じような小部屋があるのみ。
罠や魔力の気配も、兄者の探す魔法石板の影も見えない。
( ^ω^)ノ「んー、オトジャは先に進むのかお? だったら、ブーンもついていくおー」
(´<_` )「……」
弟者は相変わらず、ブーンの言葉に返事も反応も示さない。
その代わりに、自身の前や後ろを飛び回るブーンに暴力を振るうことも、追い払うこともしなかった。
(*^ω^)「早く見て回って、アニジャたちのところにもどるおー」
(´<_` )「……」
.
427
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 21:35:16 ID:2tZd1sd.0
(*^ω^)「おっおー、楽しみだおー」
_,
(´<_` )「……」
( ^ω^)「んー? どうしたお、オトジャー」
_,
(´<_` )「……」
ブーンの言葉に、弟者は答えない。
――ただ、この時だけは少し違った。
弟者の眉がわずかに寄り、ブーンの顔をじっと見据える。
(;^ω^)「……大丈夫なのかお? 不安なのかお?」
_,
(´<_` )「お前は……」
(;^ω^)「はい」
_,
(´<_` )「何で俺に話しかけるんだ?
話したければ、兄者と一緒にいればいいだろう。不愉快なことだが、兄者ならいくらでも話すぞ」
弟者は表情を歪めたまま、ブーンへと問いかける。
それは弟者が、自分の意志ではじめてブーンに向けて放った言葉だった。
.
428
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 21:37:16 ID:2tZd1sd.0
(*^ω^)「お?」
(´<_`#)「何故だ? 答えろ。返答によっては、今ここで叩き切る」
弟者の手が、腰の刀にかかる。
柄をしっかりと握りいつでも鞘から抜ける状態にしたままで、ブーンの姿を睨みつける。
弟者は実力行使をいとわない。
制止役である兄者がいないこの状態では、ブーンはいつ切られてもおかしくはない。
……それでも、ブーンの顔はいつもと同じ笑みを浮かべていた。
(*^ω^)「それはオトジャが好きだからだおー
アニジャも好きだけど、ブーンはオトジャともお話したいからだお」
(´<_`#)「俺はだまされない。
お前らみたいな“あちら側”の連中は、人間のことなんかなんとも思っていない」
(;^ω^)「おー、ブーンもドクオもニンゲンが好きだお」
( <_ #)「それでも、俺は……俺が……」
刀にかかった、弟者の手が大きく震える。
眉は寄り、目は鋭く細められ、奥歯をぎりりと噛み締められた。
.
429
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 21:39:18 ID:2tZd1sd.0
――しかし、それでも弟者は刀を抜かなかった。
(;^ω^)「オトジャ……」
( <_ )「――これ以上話しかけるな」
弟者はそうとだけ告げると、完全に黙り込んだ。
それっきり視線すらブーンへと向けない。
( ^ω^)「……ブーンは、悪いことしちゃったのかお?」
( <_ )「……」
( ´ω`)「……ごめんなさいだお」
弟者は残された道である、廊下をまっすぐと進んでいく。
ひとりでにつく明かりにも、本物と見紛うごとく精巧な星空の細工にも目も止めない。
ただひたすら、前へ前へと進んでいく。
(´<_` )「……俺は……」
そしてたどり着いた、廊下の果て。
遺跡の入り口にあったのとよく似た黒の両開きの扉を、弟者は開いた。
.
430
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 21:41:39 ID:2tZd1sd.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
(;'A`)「はへ?」
兄者の言葉に、ドクオの動きは完全に止まった。
これまでさんざん話を逸らし続けた兄者の言葉とは、とても思えない。
ドクオの戸惑いを感じたのか、兄者は目を開くと指をぴんと立てて、薄水色の耳を大きく上下に動かした。
( ´_ゝ`)σ「そこまで言うならドクオさんには特別に手がかりをやろうかなと、俺は言ったわけだ」
(;゚A゚)「いいのか、それ」
_,
( ´_ゝ`)「散々聞いておきながら、ひどい反応な件」
兄者は顔をしかめていうが、次の瞬間にはその表情をあっさりと変えた。
そこに浮かぶのはどこか飄々とした顔。
そして、「まあいいや」と呟くと、兄者は再び口を開いた。
( ´_ゝ`)「たとえ、人間でもさ。引きずり込まれれば、鏡に落ちるんだよ」
.
431
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 21:43:05 ID:2tZd1sd.0
――それは、この状況になんら関係のない言葉だった。
しかし、兄者は飄々とした表情のまま、言葉を紡いでいく。
( ´_ゝ`)「精霊はどうかはわからんが、人間にとってそれは、――死ぬってこととそう変わらない件」
(;゚A゚)「――は? だって、お前」
ドクオは息を呑む。
('A`)「なあ、そこの。鏡に落ちた人間がいるって噂、知ってるか?」
羽が奇妙に震え上手く飛べない。
( ´_ゝ`)「……ほう。精霊が話しかけてくるとは珍しいな」
何を言っているのか、理解できない。
('A`)「人間なら知ってるだろ。鏡に落ちた人間なんて、本当にいるのか?」
だって、兄者は……
( ´_ゝ`)「ああ、それは俺だ」
その昔、なんでもないことのように。
(;'A`)「……は?」
言ったのではなかったか?
.
432
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 21:45:21 ID:2tZd1sd.0
( ´_ゝ`)「――俺は昔、鏡に落ちたんだよ」
――と、
.
433
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 21:47:51 ID:2tZd1sd.0
( ´_ゝ`)「まあ、そういうことだ」
(;゚A゚)「……」
(*´_ゝ`)「いやぁ〜、運が良かった。流石だよな、俺!」
何も言えれなくなったドクオに向けて、兄者は笑いかける。
そこに浮かぶのはいつもとまったく同じ調子の、ヘラヘラとした顔だ。
(゚A゚)「……」
人間にとって死とは、かならず訪れる終焉である。
だから、人は死に怯え忌避するのだと――ドクオはかつて、聞いたことがある。
(*'∀`)「鏡に落ちやんのぉぉお!!!
ほんとに人かよぉwwwwwwwww」
ドクオの脳裏に、今朝、自分が口にした言葉が浮かぶ。
――思えば、弟者が激怒したのはその直後だった。
.
434
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 21:49:06 ID:2tZd1sd.0
殺してやると弟者は言った。
怒りと憎悪を隠そうともせずに、弟者はドクオから羽を引きちぎった。
あの時、制止の声がなかったら……ドクオの存在は、きっと消滅していた。
(;'A`)「……ぁ、」
そして、同じように殺気立った弟者の姿を、ドクオは今日何度も見ている。
石板売りの店主……盗賊の少女のー。そして、つい先ほどの鏡。
その時の弟者の姿と、彼が嫌うものが脳裏で結びつき――ドクオは、自分が嫌われている理由に思い至った。
( <_ )「……兄者はいつもそうだ」
……人間の些細な感情の動きなんてわからなくてもわかるくらいに、その答えは単純だった。
('A`)「――そういうことか」
弟者が魔法や精霊のような生き物が嫌いな理由。その原因。
ドクオは行き着いた回答に二三度頷き……それから、ふと眉根を寄せた。
.
435
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 21:51:15 ID:2tZd1sd.0
('A`)「……でも、それは変だ」
兄者は鏡に落ちて、死にそうになった。
だから、その身内である弟者は魔法や、精霊なような生き物や、鏡を嫌がっている。
――ドクオにもわかる、馬鹿みたいに単純な理由。
('A`)「……逆なんだよ。
鏡に落ちたのは兄者、お前だ。弟者じゃない」
( ´_ゝ`)「そうだな」
だが、それにしては――弟者の反応は行き過ぎている。
死に直面したのは兄者ではなく、弟者の方だと言ったほうが、むしろ納得できるくらいなのだ。
('A`)「……でも、今のお前らは、逆だ。
鏡に落ちたのは弟者で、兄者はそうじゃないみたいだ」
死という絶対的な恐怖に直面したから。
その原因である、人間ではない精霊のような生き物を憎悪する。
人間の領域ではない魔法を拒絶し、原因となった鏡を見れば破壊する。
( ´_ゝ`)「……ああ、たしかにそうだな。でも、」
.
436
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 21:53:26 ID:2tZd1sd.0
( ´_ゝ`)「同じだよ。弟者にとっては、な」
ドクオの考えを止めるように、兄者はぽつりと言った。
出入り口の方へと向けられていた視線が、ドクオへと向けて合わせられる。
( ´_ゝ`)「鏡に落ちたのがどっちでも、弟者にとっては同じなんだよ。
――ああ、これが手がかりな」
(;'A`)「はへ?」
( ´_ゝ`)「お前さんが聞きたいのは、俺と弟者の間に何があるのかだろ」
ドクオを再び混乱させる言葉を投げかけながら、兄者はまたへらりと笑った。
わかっているよと言いたいのか、それともわからないなと言いたいのか。ドクオにはわからない。
σ( ´_ゝ`)「あー、ドクオには言っておくが、俺と弟者は別に仲が悪いわけじゃないんだぞ。
でも、まぁ ……食い違ってるよな、やっぱ。イタイトコロ ヲ ツキオッテ カラ ニ」
そう言って、兄者は再び笑ってみせる。
眉を寄せたその表情は、困っているようにも見えた。
( ´_ゝ`)「距離を測りかねているだけなんだよ、俺も弟者も。なにせ双子だから」
.
437
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 21:55:35 ID:2tZd1sd.0
,_
('A`)「双子……ねぇ……」
やはり、そこに行き着くのか。
ドクオは眉をしかめて、兄者に向かって再び問いを投げかけようとする。
( ^ω^)「おっおー、ドクオー! アニジャー!!!」
が、ドクオと兄者のもとに、おっとりとした声が割り込んだ。
兄者が顔を見あげれば、硝子のような羽を輝かせたブーンの姿がそこにあった。
( ´_ゝ`)「よーし、内緒話はここまでだな。ドクオー、さっきまでの話は秘密だぞー。
お兄ちゃんとは、弟にあまり心配をかけてはいけないものだからな」
(;'A`)「どの口がそれを言うか」
続きを追求したい気持ちはあるが、ドクオはそれ以上は問いかけなかった。
どのみち兄者は、もうこれ以上は話さないだろう。
ドクオには、その確信があった。
( `ω´)「あー! ドクオばっかりアニジャとないしょの話をしてズルいおー!
ブーンだってまざりたいおー」
.
438
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 21:57:11 ID:2tZd1sd.0
( ´_ゝ`)b「よしよし。ブーンには今度、世界のメシの話をしてやろう」
(*^ω^)「ほんとうかお。わーい! 楽しいおー!」
兄者の軽口に、ブーンが楽しそうに応じている。
それを聞き流しながら、ドクオは視線を周囲に向ける。
(´<_` )「……」
('A`)「弟のお帰りか」
部屋へと入ってくる弟者の姿が、ドクオの視界に入ったのはちょうどその時。
先程まで話題の中心だった弟者は、口を真一文字に結んで、兄者とブーンの方を睨みつけている。
よく見れば、弟者はその手に見慣れない何かを掴んでいた。
(´<_` )「兄者」
( ´_ゝ`)ノシ「お疲れさん、弟者。
じゃあさっそく、進もうじゃないか――」
,_
('A`).。oO(あれは……)
.
439
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 21:59:26 ID:2tZd1sd.0
一体、何なのかとドクオが思った瞬間。
弟者が手にした黒いナニカを、兄者の顔に向かっておもいっきり投げつけた。
(;゚A゚)「ちょ、ま!!!!」
三[])´_ゝ`)<あべし
( ;゚ω゚)「アニジャ―――!!!」
……弟者が投げつけたのは、黒い光沢のある石だった。
四角い皿ほどの大きさの薄い石板。
兄者はその石板をしげしげと眺めるが、そこには刻印らしきものも術式らしきものも刻まれていない。
ヒリヒリ(:::)´_ゝ`)つ[]「ふむ。弟者、これは?」
(´<_` )「これなら魔法石板に使えるだろ。
拾ってきてやったから、帰るぞ、兄者」
( ´_ゝ`)つ[]
(#`_ゝ´)「弟者ァァァ!!! お前というやつは何もわかってない!!!!」
.
440
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 22:01:38 ID:2tZd1sd.0
石板を真顔で眺めた末に、兄者はやだやだーと騒ぎ始める。
腕をバタバタと振り回す兄者の顔は、先程まで真剣な話をしていた人物と同じだとはとても思えない。
o(#`_ゝ´)o「俺達は大冒険に来てるんだぞ!
それが、いきなりアイテム渡されて終了って――あんまりじゃないか、我が弟よ!」
(´<_` )「あー、はいはい。わかったから帰るぞ、兄者」
o( ;*`、ゝ´)o「帰るぞって――これじゃあ、俺ここでドクオと話してただけじゃないか!!!」
(;'A`)て「その顔キメェな、おい」
そして、対する弟者の顔は段々と険しくなっていく。
眉は寄り、それほど饒舌じゃない口はどんどんと達者になっていく。
_,
(´<_` )「大市に行った、ラクダに乗った、盗賊に会った、ギコさんたちに会ったし、遺跡にも入った。
もう十分だろ。まだまだ帰りもあるんだから、さっさとここから出て帰ろう。
明日は妹者と遊ぶんだろうが」
( ^ω^)「おー、いろいろいっぱいあったおねー」
(#´_ゝ`)σ「異議あり! メインダンジョンの攻略なくして、何が冒険か!!
楽して重要アイテムゲットとは、俺の方針に大きく反する!」
( ;*`、ゝ´)「っていうか、弟者ばっかり遺跡探索してズルいやズルいや!!!」
(;'A`)て「だから、その顔やめろっての!!!」
.
441
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 22:03:31 ID:2tZd1sd.0
(#´_ゝ`)σ「そもそもこれは約束違反じゃないかね、弟者くん」
(´<_` )「さて、何のことやら」
τ( ´_ゝ`)η「弟者くんは先に様子を見に行った。それで、俺がここで待機した。
――うん。ここまではいい。だって、そういう約束だからな」
_,
(´<_` )「なら、問題無いだろう? 帰るぞ」
η(#´_ゝ`)η「違うっての! 弟者が先行したのは、安全を確認するためだろうが!
みつけました。はい、帰りましょうじゃ。意味ないっつーの!」
兄者と、弟者の表情はどんどん険しくなっていく。
これはまた殴り合いが始まるんじゃないかと、ドクオは内心危惧を抱く。
(;^ω^)「アニジャ、オトジャ……」
,
(-<_- #)「もう話しかけるなと言っただろう! この羽虫!」
η(#´_ゝ`)η「大体、目的のブツはこれじゃな」
( ;´_ゝ`)「……あ」(´<_`; )
激しく言葉を放っていた兄者と弟者は、同時にそっくり同じ表情をして間の抜けた声を上げた。
二人の顔に浮かぶのは、しまったという表情。
.
442
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 22:05:52 ID:2tZd1sd.0
(*^ω^)「お?」
(;'A`)「たった今、兄と弟から、ものすごく気になる発言が飛び出したような……」
( ;´_ゝ`)「……」(´<_`; )
( ;´_ゝ`)「……もう話しかけるなと『言った』? ブーンに?」
(´<_`;)「……これじゃな……いのか?」
兄者と、弟者は同じ表情を浮かべたまま沈黙する。
お互いの言葉は気になるものの、追求すれば自分も不利になる――そう思っているのだろうと、ドクオは推測する。
(;´_ゝ`)「……行きませんか、弟者さん」
(´<_`;)「ああ、これじゃないのなら仕方がないな……」
('A`)ノ[]「おい、お前らこれはどうするんだ?」
ぎこちなく話し始めた二人に向けて、ドクオは先程投げられた石板を指さしてみせる。
が、二人は心ここにあらずといった表情のままで、ぎくしゃくと会話を交わす。
.
443
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 22:07:24 ID:2tZd1sd.0
(;´_ゝ`)「……あ、弟者さん持っていってください」
(´<_`;)「……あ、ああ。今のところただの石だしな」
('A`)「……二人揃って、不自然なことこの上ないな」
互いに深入りしないやりとりに、ドクオは小さくため息をつく。
そして、兄弟から目を離すと、今度はブーンが両手を振り回しながら飛び回っているのが目に入った。
(*^ω^) ニコニコ
('A`)「……お前も、やけに嬉しそうだな」
(*^ω^)「そうかお? ブーンは今、うれしいのかお?」
(;'A`) シルカ
(*^ω^)「おっおっ。うれしいっていいものだおー」
( ´_ゝ`)ノシ「おーい、お前ら行くぞー」
(-<_- ;)「……」
呼びかける声にドクオが振り向くと、既に兄者と弟者は最期の出入り口へと向かっている。
ドクオとブーンは互いに顔を見合わせると、兄弟たちの元へと向かってあわてて羽を動かしはじめた。
.
444
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 22:09:44 ID:2tZd1sd.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
出入り口から廊下に出た瞬間、兄者はほぅと息をついた。
( ´_ゝ`)「冬の星だ」
これまで通ったのと、ほぼ同じつくりの廊下。
その星空を模した天井をじっと見上げて、兄者は言う。
( ^ω^)「わかるのかお?」
( ´_ゝ`)ゝ「これだけは得意だからな。
作り物にしては本当によくできている……ほらあれが、天上輝星」
(*^ω^)「おー」
(´<_` )「さっさと行くぞ」
( ´_ゝ`)ノ ハーイ (^ω^ )ノ
.
445
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 22:11:22 ID:2tZd1sd.0
廊下の中を、兄者と弟者のたてる足音だけが響く。
ドクオは延々と続く、壁の浮き彫りを眺めながら大きく息をはいた。
(;'A`)「この廊下長くないか?」
( ^ω^)「もっと、ずぅーっと続いてるおー」
(;'A`)「……つかれた」
プンプン∩(#`_ゝ´)∩「人の肩に座って楽をしているくせに、何を言うか」
どこまでも続く似たような見た目の廊下は、そこを通る者を知らず知らずのうちに疲れされる。
変化のない光景は、それだけで人間の気力を消費させるものだ。
どれだけ進んだのか。時間の感覚すらも無くなりそうな廊下を、兄者達一行は進んでいく。
(´<_` )「もうしばらく進めば、小部屋への分かれ道にたどりつく」
(*゚_ゝ゚)+
(;^ω^)「でも、中はそんなに楽しくなかったお……」
( ´・_ゝ・`)ショボーン
('A`).。oO(兄者が百面相してる)
.
446
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 22:13:17 ID:2tZd1sd.0
それからも歩き続け、兄者が再び不満の声をあげようとした頃。
ようやく弟者が口にした分かれ道へとたどり着いた。
(*´_ゝ`)「おお、すごいではないか」
(´<_` )「しかし、俺らはまっすぐに進むからな」
゜ミo(#`_ゝ´)o彡゜「なんで、そんなこと言うし!
俺は一人でも行くからな!!!」
(´<_` ;)「時に待て、兄者よ」
兄者は肩に乗ったドクオともども、廊下に作られた出入り口の一つへと入っていく。
が、それから幾ばくもしないうちに、すぐに戻ってくる。
_,
(;´_ゝ`)「あるぇー、おっかしいなぁー」
(´<_` )「……」
そう言いながらも、兄者はその隣に並んだ出入り口へと入っていく。
が、やはりそれほどたたないうちに、兄者は再び廊下へと帰ってくる。
(;´_ゝ`)「……なにもないな」
(´<_` )「そう言っただろう。まったく、兄者は人の話をきかない大王様だな」
.
447
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 22:15:21 ID:2tZd1sd.0
('A`)「うん、ただの部屋だったわ」
(;^ω^)「ブーンとオトジャは、ここにある部屋ぜんぶ見たお。
でも、他もみんなそんな感じだったお」
τ(;´_ゝ`)「うーん、全部こんな感じだったのなら、弟者たんは一体どこから石板を拾ってきたのだ?」
兄者は頭をかきながら、首をひねる。
その動きにドクオは、「オレの方に頭を傾けんな!」と不満の声を上げるが、誰も取り合おうとはしなかった。
(´<_` )「もっと先だ。ちなみにだが、他の部屋も見ていくか?」
('A`)「オレは遠慮するぜ」
(;´_ゝ`)「……正直、弟者の話を聞いておけばよかったと思っている」
⊂二(*^ω^)二⊃「じゃあ、張り切って進むお!」
廊下の左右に広がる出入り口を無視して、一同は進んでいく。
兄者が振り返ると、これまで歩いてきた道は照明が消え闇に沈んでいた。
( ´_ゝ`)「おお、こわいこわい」
('A`)「……まあ、大丈夫だろ」
.
448
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 22:17:34 ID:2tZd1sd.0
(´<_` )「どうした、兄者?」
γ( ´_ゝ`)>「俺のかっこよさにおにゃのこが殺到して、大乱闘になる気がしてな」
_,
(´<_`; )「そんなの一生無いから安心しろ」
(;'A`).。oO(それで、納得するのか弟!)
そんなやり取りを交わしながら、一同は進んでいく。
廊下の装飾も明かりも、これまでとほぼ変わらない。聞こえるものといえば、足音のみ。
さきほどのような脇道もないから、まっすぐと進む廊下をひとしきり歩くだけとなる。
⊂二(* ω )二⊃「アニジャー、オトジャー、ドクオーあとちょっとだおー」
(*´_ゝ`)「なんと! やったな、ドクオ者!」
(*'A`)「ついに、くるのか」
(´<_` )「……」
そして、ブーンの言葉通りしばらく進んだ先。
そこに黒い両開きの扉があった。
装飾の殆ど無いその扉は、弟者が先行していた時に開いたのと同じものだった。
.
449
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 22:19:24 ID:2tZd1sd.0
(*´_ゝ`)「弟者ぁ、俺が開いてもいいか!」
(´<_` )「大丈夫だ、問題ない」
兄者は、扉へと手を掛ける。
ひんやりとした廊下の空気と同様に、扉から伝わる熱はしんと冷えている。
それに心地よさと、ほんの少しの恐れを抱きながら兄者は、扉を押した。
ギッ
蝶番が、鈍い音を立てる。
はじめは重く、徐々に軽くなめらかにと扉は動き始める。
そして、それとともに差しこむのは強烈な日差し。
(#>_ゝ<)「まぶしっ」
(´<_-; )「……っ」
(*^ω^)「ついたおー!」
日差しは扉の動きと共に強くなり、辺りを白へと染めていく。
思わず閉じた目を、兄者がふたたび開く頃には周囲の光景は完全に別物と化していた。
.
450
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 22:21:12 ID:2tZd1sd.0
理路整然と続いていた床の幾何学模様は、崩れかけた石畳と、石が転がる硬い大地に。
星空を模した天井は、白くけぶりながらも青い空に。
そして、浮き彫りを施された壁は一気に開け、広場のような空間が広がっていた。
(;´_ゝ`)「これは……」
(´<_-; )「おそらく庭園だろうな。
俺達は奥へと向かって進んだ結果、外へと出てしまったというわけだ」
弟者の言うとおり扉の向こうに広がっていたのは、庭園だった。
正確には、かつて庭園だったというべきであろうか。
大地にはかつての名残とみられる、巨木の跡や、背の低い木々や草たちがまばらに生えている。
(;'∀`)「……なんというかここは、ボロボロだな」
( ^ω^)「そうかお? 木とかいっぱいだお!」
ブーンは否定したが、ドクオの主張する通り、ここは荒れ果てていた。
外観や内部が今でも使えそうなほど整っていたのとは、まるで正反対。
壁の至る所にヒビが入り、場所によっては崩れている所すらある。
∩( ´_ゝ`)∩「お兄ちゃん、これにはちょっと驚きましたわ」
('A`)「オレは拍子抜けだ」
.
451
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 22:24:02 ID:2tZd1sd.0
(´<_` )「まあ、ざっとこんな感じだ」
白かったはずの外壁の色は鈍くかすみ、弟者が触れたとたん表面がパラパラと剥がれ落ちた。
それをぎょっとした表情で見つめた後、兄者は再び周囲へと目を巡らせる。
遺跡の暗闇に慣れた目には外のまぶしさは、まだつらい。
(;´_ゝ`)「……しかし、一気に熱くなったな」
(´<_`; )「仕方がない。外だからな」
被り布を深くかぶり直しながら、兄者は目を凝らす。
まぶしさと目への刺激は少しずつ引いていき、次第に周囲の様子がはっきりと目につくようになる。
兄者はそれを見て取ると、かつての庭園へと一歩踏み出した。
( ´_ゝ`)「――ここはそんなに砂がつもってないのな」
(´<_` )「木があるからじゃないか。
荒れてはいるが、まだ水は枯れていないようだ」
そのまま、兄者たちは足を進めていく。
そして、木に紛れて据えられている、かつては噴水か美術品だったものの前にたどり着いた。
今はもはや原型をとどめていないそれは、崩れかけた黒い石や岩の固まりと化している。
.
452
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 22:25:30 ID:2tZd1sd.0
(*^ω^)「石板さんはオトジャがここから見つけたんだお!」
ヽ(*´_ゝ`)ノ「ほう。なるほど、でかしたじゃないか弟者!」
ブーンの言葉を聞いて、兄者は目の前の黒い石や岩達に目を凝らす。
よく見てみれば、その黒い石はつややかで厚みも薄いものがほとんどだ。
確かにこれなら魔力の通りも悪くなさそうだし、しかるべき所で売ればそれなりの金額になるように見えた。
(´<_` )「まあ。先ほどの件を考えると、見つける必要はなかったんだがな。
そもそも、兄者の目的とは何だったのだ?」
( ;´_ゝ`)「そういう、弟者たんこそ。
俺とドクオがいない間に、ブーンとなんか話でもしてたのか?」
( ;´_ゝ`)「……」(´<_`; )
兄者と弟者が、同じ表情を浮かべたまま同時に沈黙する。
そのまましばらく顔を合わせた後、二人はようやく声を上げた。
(;´_ゝ`)「……探索、続けるか」
(´<_`;)「……把握した」
('A`).。oO(こいつら、腹を割って話せんのか)
.
453
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 22:27:14 ID:2tZd1sd.0
黒い石や岩の固まりを越え、兄者は辺りを歩いてみるが他にはめぼしいものは何も見えない。
木と草と石と崩れかけた壁が、彼の視界に入る全てだ。
(´<_` )「俺が見た限りでは、ここが終点だ。
兄者の目的が何かはわからないが、そろそろ満足したか?」
(;´_ゝ`)「いや、まだ目的のものが見つからない。
ギコ者も言っていたし、そんなことはないはずなんだが……うーむ」
兄者は辺りを見回しながら、手を顎に置き考え込み始める。
ギコは目的のブツは一番奥の間だと言っていた。それにわかりにくいとも。
では一体どこなんだと、兄者は考えこむ。
( ´_ゝ`)「ギコ者たちがわざわざ神殿って呼んでいるからには、祀られている何かがあると思うわけで……」
('A`)「は?」
( ´_ゝ`)b +「……つまり、もっと奥があるに違いない!」
兄者がぶつぶつとつぶやいた言葉に、ドクオと弟者は眉をひそめる。
ただ、ブーンだけが兄者の言葉を聞き顔をぱっと輝かせた。
.
454
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 22:29:15 ID:2tZd1sd.0
d(^ω^ )「さすがだお、アニジャ!」
(*´_ゝ`)b「おお、流石だよなブーン者!
お前もとうとう『流石だよな』の精神を習得したか!」
∩(^ω^ )∩「おっお! やったおー!」
兄者はそう言いながら、再び歩き始める。
行く手を阻むように立つ背の低い木々に近づき、どうにか通る場所はないかと目を凝らす。
( ´_ゝ`)「お、ここか?」
(´<_`;)「まだ、先があると……」
木々のとある一角に、かき分けられたかのように枝が不自然に折れた形跡がある。
弟者の野郎、めんどくさくなって調べるのサボりやがったな。
――そう考えながら、兄者はそこに向けてぐいと体を滑り込ませる。
(;^ω^)「アニジャっ!」
(*´_ゝ`)ノ「大丈夫だ。こっからまだ先へと、進めるようだ」
Σ(´<_` )「なんと! 兄者、今すぐそちらに行くから時に待て!!」
.
455
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 22:31:07 ID:2tZd1sd.0
木々のそのまた向こうには、石造りのアーチがあった。
よく見れば、その先は再び建物らしき影へとつながっている。
ギコが言っていたわかりにくいとはこのことだろうと、兄者は一人納得する。
('A`)「これはまた……」
(*´_ゝ`)o彡゜「よし、行くか!」
(;'A`)「お前、弟者をまた怒らすつもりか」
ドクオの声に「いいのいいの」と返すと、兄者はアーチを越え屋内へと入っていく。
廊下と思われる場所はこれまでと違い、星空を模した天井や浮き彫りの細工がない。
床と壁は古ぼけた白い石材を積み上げてつくられている。
入り口から差し込む光と、壁の上方に取り付けられた明かり取りの小窓から差し込む光だけが、中をかろうじて照らしていた。
(´<_`#)「兄者っ!」
(;´_ゝ`)て「うおっ、弟者っ。ゴメンナチャイ!」
('A`)「だから、怒られるとあれほど」
( ;ω;)「おいてくなんてひどいおー」
追いかけてきた弟者とブーンの声に、兄者は慌てて足を止めた。
弟者は怒りの表情を浮べ体を震わせ、ブーンはというとその目に涙を溜めている。
兄者にとって弟の反応は予想通りだったが、ブーンの泣き顔にはさすがにその良心が痛んだ。
.
456
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 22:33:11 ID:2tZd1sd.0
(;´_ゝ`)>「えーと、スマン。
でも、時に皆。すぐ目の前を見てもらいたい」
彼らが足を止めたすぐ目の前。兄者が顎を向けたその先は……廊下の果て。
その突き当りに、両開きの扉があった。
( ´ω`)「なんかここは、さっきまでとは違うおね。
昔の空気が残ってるような感じがするおー」
涙を止めたブーンが周囲を見回す傍らで、兄者は扉を見上げる。
石造りの壁に据えられた扉の周囲の壁は、花や植物で細かい浮き彫りがされている。
扉そのものは重厚な金属で造られており、ほどこされた花や鳥の装飾は緑青の錆にくすんでいた。
(´<_` )「随分と立派な扉だな。これまでで一番でかいんじゃないか?」
(;'A`)「……もしかして、この向こうが最奥か?」
( ´_ゝ`)「せっかくここまで来たんだ、弟者。お前も見ていくだろ、この先」
弟者が止めるまもなく、兄者が扉へ手を掛ける。
そのまま力を込めて押すが、扉はなかなか動こうとはしない。
(´<_`#)「罠があるかもしれないのに、不用意に触るな」
.
457
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 22:35:40 ID:2tZd1sd.0
(;´_ゝ`)b「ギコ者だって入ってるだろうし、大丈夫だいじょーぶ。
……てか、重い。弟者よ、早く助けてくれ」
(´<_` ;)「は? ……鍵がかかってるんじゃないのか?」
扉を押す兄者の顔は、今や真っ赤に染まっている。
が、兄者の力が弱いのか。それとも扉がよほど重いのか、まったく開く気配がなかった。
(;^ω^)「開かないのかお?」
(;´_ゝ`)「おとじゃー、はやくー。
早くしないと、非常に不本意だが緊急手段を使うぞ!!」
(-<_- ;)「あー、把握した。……こんなところで日干しにされたらかなわんからな」
('A`)「……日干し?」
ドクオには意味のわかならない謎の言葉を残して、弟者は扉へと手を掛ける。
彼が力を込めた途端、ギ……と金属の軋む耳障りな音を立てて、扉が少し動く。
(´<_`;)「む、これは重いな」
(;>_ゝ<)「力仕事は任せた、弟者!」
.
458
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 22:37:04 ID:2tZd1sd.0
(´<_`#)「兄者は、もう少し根性をみせようか」
(;´_ゝ`)σ「根性を見せろって言われてもな……お前さんが加減さえしてくれれば、俺ももうちょっと」
(´<_` )「ふむ。そういえばそうだったな」
(;'A`)「お前らは何の話をしてるんだよ、一体……」
そんな会話を交わしながらも、弟者は徐々に力を込める。
兄者一人では無理だった扉は、二人がかりでようやく開きはじめる。
重い音を立てながら、その向こう側が少しずつ見え……
(;^ω^)「あと、もうちょっとだおー」
(*´_ゝ`)「弟者がんばれー」
(´<_` )「はいはい」
扉の向こうからは光が差し込み、徐々に明るさを増していく。
弟者が更に力を込めると、ようやくその全貌が見えた。
(;'A`)「なんじゃこりゃ」
(*^ω^)「すっごいおー」
.
459
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 22:39:15 ID:2tZd1sd.0
一同の目に最初に入ったのは、崩れ落ちた天井と、その向こうに広がる青い空。
砂漠の眩すぎて影のようにも見える強烈な青ではなく、高く穏やかな色。
その空の下をそよぐ草の色は、流石邸の中庭でもなかなか見ることの出来ない薄緑――弟者の毛並みの色だ。
扉の向こうに広がる世界――、それは別天地のようだった。
(´<_`;)「なんだ……これは……」
(*´_ゝ`)「すごいな弟者!! ここが最奥だ!!!」
庭園跡の暑さや眩しさが嘘のように、穏やかな光景。
兄者の被り布が風に翻り、そこに取り付けられた金具が涼やかな音を立てた。
マントのフードを外して、弟者は辺りを見回すが。直接日光を浴びてもいつものように目が眩まない。
(;'A`)「季節が……いや、場所自体がズレてるのか?」
(*^ω^)つ「ドクオ見るお、あっちに何か変なものがあるお」
(*´_ゝ`)「……これが神殿か」
そよぐ草のそのまっただ中に、白い石材で造られた祭壇があった。
高さは兄弟の腰位だろうか。これまで見かけたどの石材よりも白い岩には、幾つもの浮き彫りが施されている。
その装飾も、これまで遺跡で見たどの細工よりも繊細で美しい。
しかし、燭台や壺らしきものに囲まれた、祭壇の上には何も祀られてはいなかった。
.
460
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 22:42:13 ID:2tZd1sd.0
( ´_ゝ`)「なんだろうなぁ、あの祭壇っぽいやつは」
( ^ω^)「なんだろうだおー」
(´<_` )「兄者は待っていろ。様子を見てくる」
弟者の回答に、兄者はわかってるよとばかりにため息を付いた。
祭壇の方角を名残惜しげに見つめると、それからさらに奥を眺めた。
(;´_ゝ`)「はいはい、わかりましたよ。
俺はおとなしく、あっちのほうで草でも見てるよ」
(´<_`;)「……よりにもよってなぜ、草なのだ」
ε三┌(*´_ゝ`)┘「いいのいいの」
(´<_`;)「――おい、あまり先行するな!」
兄者はその肩にドクオを乗せたまま、奥のより草の茂っている方へと走っていく。
部屋の一番奥には白い壁が、行く手を阻むようにそびえ立っている。
兄者が向かう先の壁だけではない、この最奥の部屋の四方を取り囲む壁は一枚岩で作られたかのようにつややかだ。
扉や祭壇とは違い、浮き彫りなどの細工が一切見えない。
(´<_` )「……廊下もだったが、かなり雰囲気が違うのだな」
.
461
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 22:43:45 ID:2tZd1sd.0
弟者は祭壇へと向けて歩き始める。
この部屋は何から何まで様子がおかしいが、その中でも一番怪しいのがこの祭壇だ。
祭壇へと向かう弟者を、穏やかな日差しと優しくそよぐ風が包む。
彼らが生まれてはじめて感じる、厳しさを感じない日差しと、風。そして、なによりもこの草原。
(´<_` )「……父者や妹者が見れば喜んだのだろうな」
流石邸の中庭にあるどの植物とも違う、やわらかな草の色。
風に草同士がこすれあい、聞いたことのない楽器のような音を立てる。
この光景を持って帰ったのならば、妹者におくる最高の贈り物になったのにな、と柄にも無いことを弟者は考えた。
( ^ω^)「お父さんと妹さんは、こういうのが好きなのかお?」
(´<_` )「……」
(*^ω^)「ここの風は気持ちいいおね。ブーンにとってはとっても心地いいお」
相も変わらず語りかけてくるブーンを無視し、弟者は祭壇へと向かう。
特定の信仰を持たない弟者には、その祭壇が何のためにあるものかわからない。
かろうじてこういう場所には神の像なり、信仰の象徴となる器物が置かれるという知識が有るだけだ。
(´<_` )「……しかし、何もないな」
つぶやき、祭壇に手をかけようとした所で、
草の音に紛れて響く――奇妙な音の存在に気づいた。
.
462
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 22:45:09 ID:2tZd1sd.0
___―===―_― ==  ̄ ̄ ̄ ――_―― ̄ ̄―‐―― ___
―――― ==  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ―― __――_━ ̄ ̄ ――_―― ̄___ ̄―=
低く、唸るような音。
注意深く耳をそばだてて、ようやく聞き取れるくらいの低い音が弟者の耳朶を震わせる。
_,
( ^ω^)「……お?」
ブーンが怪訝そうに声を上げる。
弟者はざっと視線を巡らせるが、音の源はどこかわからない。
_,
( ^ω^)「なんだお、すっごくうるさいお」
(´<_`; )「――っ」
そして、ブーンが再び呟いた声に。弟者は凍りついた。
いつの間にか喉がからからに乾き、心臓がいやに早く動きだしている。
動き出す鼓動の音がうるさすぎて、弟者の腕は知らず知らずのうちに握りしめられていた。
(´<_`;)「今、何て言った」
_,
( ;^ω^)「うるさくてあんまりよく聞こえないお! どうしたんだお、オトジャ?!」
.
463
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 22:47:19 ID:2tZd1sd.0
低い音が、聞こえる。
ほんのかすかな、弟者が集中してようやく聞こえる音。
(´<_`; )「――兄者っ!!! 耳をふさげぇぇっ!!!」
_,
(; A )「……弟者?」
(´<_`; )「耳をふさげっ! ここから出るぞ!!!!」
嫌な予感が止まらない。
さっきから、心臓の動きが止まらない。
兄者はどうしている。どうして、俺は兄者と一緒にいなかった?
――弟者は力いっぱいに叫ぶと、兄者を探して視線を巡らせる。
( <_ ; )「兄者っ、答えろっ!! 返事をいや、耳をふさげっ!!!」
_,
(; A )「おい、兄者っ。弟が何か……」
ドクオの声は聞こえる。
あの精霊は兄者の肩に乗っていたはず。だから、あいつの声が聞こえるなら兄者はそこにいる。
だけど、いつもならすぐに返ってくるはずの返事がない。
_,
( ^ω^)「なんだお? どうしちゃったんだお?!」
.
464
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 22:49:21 ID:2tZd1sd.0
祭壇から兄者の向かった方角へと、弟者は駆ける。
その後を、ブーンがふらつきながらも飛ぶが、弟者はそれに目もくれない。
(´<_`; )「兄者っ!!」
( _ゝ )
そして、駆け出した弟者はようやく兄の姿を見つける。
ゆったりとした服。被り布と腰帯は風にひらめき、腰に幾重にも巻かれた飾り帯がシャラシャラと音を立てる。
薄水色の体の色だけを除けば、――それは二年前の自分そのままの姿だ。
( _ゝ )「……そうか……そうだな」
(;'A`)「おい、兄者。何を言ってるんだ?!」
そして、立ち尽くす兄者の瞳には何の表情も浮かんではいなかった。
兄者の焦点を失った瞳が、弟者ではなくてどこか遠くを見据える。
( _ゝ )「……そこに、」
(゚<_゚ ; )「――ドクオォォォ、兄者をとめろぉぉぉ!!!!」
.
465
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 22:51:19 ID:2tZd1sd.0
兄者が視線を向けた先、――そこには何もない。
しかし、兄者の目は確かに、何かを捉えていた。
兄者の視線が上へ下へ、右へ左へと動き、弟者には見えない何かをたどる。
_,
(;'A`)「聞こえない! 兄者、弟者! これは一体何だ?!」
(´<_`#)「――兄者っ、ブーンっ!!」
_,
(;^ω^)「よ、呼んだのかお?」
まるで、星を読むかのようなその動き。
でも、そこには星なんて、無い。
( _ゝ )「 …… ……」
兄者の口が、何かをつぶやくのが見えた。
しかし、弟者の位置からでは何を言っているか聞くことが出来ない。
視線は遠くにむけられたまま、その足が壁へと向かう。
――なにかに操られている。
あの音が原因に違いないと、弟者はもはや確信していた。
_,
(;'A`)「おい、兄者止まれっ! そっちには何もない!!」
( _ゝ )「…… 、 ……」
.
466
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 22:53:04 ID:2tZd1sd.0
――――――‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
‐‐‐‐‐‐‐‐‐
――それは、いつかの焼き直しのようだ。
忘れられない記憶が、断片のように浮かぶ。
「なあ、おれ。誰かに、呼ばれてないか」
あの日も、そうだった。
あの日も、兄者は俺にはよく聞こえない“何か”の声を聞いたのだ。
そして、鏡の表面に触れた手が、水面に 溶けて――。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐
――――――‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
467
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 22:55:02 ID:2tZd1sd.0
( _ゝ )「 ……」
白い壁に、兄者の指が伸ばされる――。
(´<_`#)「ブーン、兄者を止めろぉ!!!!」
その瞬間、弟者はさらに速度を上げて駆けだしていた。
腰から青竜刀を外すと、獣の速さで兄の元へと駆ける。
_,
(;^ω^)「はえ? でも、ブーンには頼らないんじゃ」
(´<_`#)「いいから!
お前が一番早い! 死んでも止めろ!!」
しかし、それでも兄者の元へたどり着くには遠い。
ブーンの耳に響く音に負けぬように、弟者は声を張り上げブーンを怒鳴りつける。
(;゚ω゚)「はぃいいいい!!!」
耳を震わせる大音量に顔をしかめながらも、ブーンは弟者に言葉を返す。
ブーンの体が周囲の風を巻き込みながら、一直線に飛ぶ。
.
468
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 22:57:47 ID:2tZd1sd.0
兄者の口が、再び何かをつぶやくように動く。
しかし、その口から出たのは言葉ではなく――
( _ゝ ) 《
⊂二(^ω^#)二二⊃「やめるおぉおおおおおお!!!!」
(;'A`)「ブーンっ!!」
弟者の薄緑の毛並みが一斉に逆立つ。
肌が粟立ち、耳が言葉ともつかない音をとらえる。
弟者は知っている――この肌の感触は、耳を打つ音は兄者の魔力そのものだ。
(´<_`#)「――間に合えっ!!!」
白い壁の兄者の手が触れた部分を中心に、光が広がる。
上へ下へ、右へ左へ――先ほどまで見えなかった何かをたどるように、光は走る。
光の一筋は円を描き。
その円の内側には三つの円が。
その中心を貫くかのようにして多角形がいくつも組合わされていく。
外周にあたる円の外や内には、弟者には読み取れない文字や記号がいくつも浮かび上がる。
(#'A`)「兄者っ、しっかりしろっ!!」
.
469
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 22:59:08 ID:2tZd1sd.0
光によって描かれた何かは、魔法陣に似ていた。
兄者の魔力を使って描かれた、兄者だって知らないであろう術式。
――音で絡めとった獲物の魔力を使って放つ、罠。
あれが発動したらおそらく、ろくなことにはならない。
(#^ω^)「やめるお、アニジャ!」
(; _ゝ )「 …っ」
(#'A`)「口塞ぐぞ、ブーン!」
ブーンとドクオが兄者の顔に殺到し、その動きを何とか止めようと動く。
彼ら精霊は何が起こっているのかわからないなりに、必死だ。
二人の懸命の努力により、兄者の体の動きが少しだけ鈍り、その口も動きを止める。
(゚<_゚ ♯)「こんのぉ、クソ兄者ぁっ!!!」
それだけの間があれば、弟者には充分だった。
盗賊から取り上げた青竜刀が鞘に入ったまま唸り、兄者の腹へと打ちこまれる。
兄者はその動きを全く避けようとはせず、その打撃をもろに食らった。
(;^ω^)「オトジャっ!」
(;゚A゚)「ちょ、ま、え?」
.
470
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 23:01:02 ID:2tZd1sd.0
予想だにしていなかった弟者の動きに、ドクオとブーンが動きを止める。
その、ほんの一瞬。
( _ゝ )《 》
Σ(´<_`; )「――しまっ」
一際大きな魔力の奔流が、周囲を蹂躙する。
それは魔法陣を震わせて、金属質の鐘のような音を周囲に響かせる。
(;^ω^)「アニジャっ、大丈夫かお!」
( ;-_ゝ-)「――っ、ぅ」
鐘のような音と、強い光を放って魔法陣は輝き続ける。
兄者の体が力を失って、崩れ落ちる。
それを慌ててブーンとドクオが支えようと動く。
(;´_ゝ`)「――俺、は……」
(;'A`)「しっかりしろ、今は無理してしゃべらなくていい」
――そして、鞘から青竜刀を抜き放った弟者が壁へと走る。
.
471
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 23:03:09 ID:2tZd1sd.0
その標的は、光を放つ魔法陣そのもの。
抜き身の剣は鈍く輝き、新たな主の命を果たそうと動く。
しかし、そんな弟者をあざ笑うかのように……
(゚<_゚ ♯)「――止まれぇぇぇぇっ!!!」
(#゚A゚)「弟者退けぇぇっぇ!! 危ないっ!!」
魔法陣は一際強く輝くと、飛びかかった弟者の姿を弾き飛ばす。
見えない風のような魔力の奔流に打ち据えられ、飛ばされながらも弟者は体勢を強引に整える。
そして、そのまま猫のように着地すると、再び走りだそうと足に力を込める。
(;^ω^)「オトジャっ!」
(;´_ゝ`)「――ぅ、」
兄者は正気に返ったようだが、まだまともに動ける様子ではない。
自分でやったことではあるが、手負いの兄者を連れて出口まで走ることは不可能。
ならば、魔法陣が本格的に発動する前に止めるしか手段はない。
だが、
そうやって頭を巡らせる弟者の前で。
無常にも魔法陣は一際大きな音を立て――ついに、発動した。
.
472
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 23:03:55 ID:2tZd1sd.0
そのろく。 俺らの冒険は始まったばかりだ。
おしまい
.
473
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 23:05:27 ID:C4jNBwmI0
おつ!
すごく気になるところでおわったな…
474
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 23:08:08 ID:3Ian1DMs0
乙
475
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 23:35:40 ID:2tZd1sd.0
ここからはオマケ劇場 全8レス
476
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 23:37:50 ID:2tZd1sd.0
__ ('A`)ノシ_
,r''" ∠ノ( ヘヘゝ ゙`'丶、
r'´ ` 、
.i 'ー──―‐' !
`=ー-、....,,,,,_____,... --‐=''´
``" '' 'ー──―‐' ''' "´
おまけ劇場 l从・∀・ノ!リ人 でざーと×しすたーのようです
.
477
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 23:40:43 ID:2tZd1sd.0
ドバドバ∬´_ゝ`)つ∪「見るからに胡散臭い魔道具。ここに妹者がもってきてくれた水を注ぎます」
フムフム l从・∀・ノ!リ人
∬´_ゝ`)「でもって水底に刻まれた文字を指でなぞります。
すると――あら、不思議!」
l从・∀・ノ!リ人「?」
(#゚;;-゚)『……こちらソーサク遺跡先遣調査部隊』
Σl从・∀・;ノ!リ人
∬*´_ゝ`)「あら、でぃちゃんじゃない! 元気だった? 大丈夫? 困ってない?
しぃは元気? 馬鹿ギコの野郎が貴女やしぃを困らせてない?」
(#;゚;;-゚)『……あねじゃ……さま……』
.
478
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 23:43:39 ID:2tZd1sd.0
l从・д・;ノ!リ人「お水に人がいてお話しててお水とお皿が」
アババババ ゜ミol从・д・;ノ!リ人o彡゜
∬´_ゝ`)「普通は魔道具だって言えば大抵納得するものだけど、流石よね妹者」
l从-д・;ノ!リ人「……こわくないのじゃ、これ?」
∬*´_ゝ`)「怖くないわ、使い方さえ間違えなきゃね」
チラッ l从・〜・;ノ!リ人
(#;゚;;-゚)『……はじめ……まして?』
l从>д<;ノ!リ人「しゃしゃしゃ、しゃべったのじゃー!!」
∬;´_ゝ`)「ええ、しゃべるわよ。そのための道具だもの」
(#゚;;-゚).。oO(……どうしよう)
∬´_ゝ`)「馬鹿ギコいる? 嫌だって言っても、無理やり連れてきて」
(#;゚;;-゚)「でも、ギコさんは今……」
.
479
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 23:46:18 ID:2tZd1sd.0
∬*´_ゝ`)「いいー? 私一回しか言わないわよ。
どうしても 、 絶対 、 今すぐに ギコ=ハニャーンを出せ」
::(# ;;- ):: ビクッ Σl从・∀・;ノ!リ人
∬´_ゝ`)「嫌だって言ったらそうね……うん。クソギコが出ないなら、引っこ抜くわよ。
それに、ギコが隠しているあのことを、しぃにバラして……
調査隊に回す資金を、打ち切っちゃおうかしら?」
(#; ;;- )『……だめ……お姉ちゃんが……困る』
∬*´_ゝ`)「じゃあ、早くギコを連れてきてくれるかしら?」
(#; ;;- ) コクコク
l从・−・;ノ!リ人.。oO(姉者がものすごくこわいのじゃぁぁぁ!!!)
∬´_ゝ`)「あ、妹者。そろそろ、勉強の時間じゃない? 先生来るわよ」
Σl从・Д・;ノ!リ人「のじゃ?!」
.
480
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 23:49:28 ID:2tZd1sd.0
スッ|゚ノ ^∀l从・Д・;ノ!リ人て ビクッ
|゚ノ ^∀^)「あらあら、妹者様ー。今日も、ご機嫌麗しゅう。
それでは、先生と一緒にお勉強しましょうねー」
l从>д<;ノ!リ人「妹者は、姉者といっしょにいるのじゃー
姉者がこれから何をやるのか見るのじゃぁぁぁ! 勉強しないのじゃ!」
ガシッ |゚ノ ^∀^)つl从;∀;ノ!リ人「さあ、お勉強しましょう! レモナ先生張り切っちゃう!」
グイグイ |゚ノ ^∀^)つl从;∀;ノ!リ人 三 イヤ ナノジャー
;ノ!リ人 三 ノジャー
∬*´_ゝ`)ノシ「愚弟どもの様子はちゃんと聞いておくから、安心しなさい」
イヤナノジャー!! アラアラ イモジャサマッタラー
∬´_ゝ`)「……さてと」
.
481
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 23:52:40 ID:2tZd1sd.0
(,,゚Д゚)『――何の用だ、クソアマ。死ね』
∬´_ゝ`)「愚弟たちがちゃんとそっちについているか気になってね、クソギコ死ね」
(,,;゚Д゚)て『そんだけの理由で、でぃを困らせたのか?! あいつが人見知り君なの、お前も知ってるだろ。
本当、魔神並にタチ悪いな!! 』
∬*´_ゝ`)「ほら、私だってかわいい弟のことは心配なのよ。
妹者だってすごーく心配しているみたいだったし、久しぶりにアンタの顔も見たかったしね」
(,,-Д゚)『よくもまあ、いけしゃあしゃあと嘘を並び立てたものだ。
坊主どもがどうしてるか知りたいなら、直接本人たちを呼び出して聞けばいいだろうが?」
∬´_ゝ`)「そうしたいのは、やまやまなんだけどね。
ちゃんと着いてるかわからないし、魔道具と鏡の取り合わせじゃ弟者は絶対出ないでしょ」
(,,;゚Д゚)『確かにあいつら逃げてったが、ありゃあお前が怖』
(,, ゚Д) ……
(,,-Д-)『……怖いだけじゃないか。
わざわざオレを呼び出したのは、それでか』
.
482
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 23:54:01 ID:2tZd1sd.0
∬´_ゝ`)「そ。こんな話、アンタくらいにしかできないからね。
他のやつに知られるのはマズイし、しぃだと心配かけちゃうもの」
(,,゚Д゚)『……弟者の奴は、まだダメなんだな。
今日ちょっと話しただけでも、そんな感じだった』
∬-_ゝ-)「甘ったれな弟で本当に困ったもんだわ。
頼りの兄者も年々ちゃらんぽらんになっていくし……どうしてこうなった」
(,,゚Д゚)『いいじゃねえか。オレは好きだぜ、今の兄者』
(,,-Д-)『……まあ、』
(,,-Д゚)『……お前のそういうまっとうな姉ちゃんっぽいところは、ちゃんと弟どもにも見せてやれ』
∬´_ゝ`)「嫌よ。私、そんな柄じゃないもの」
(,,゚Д゚)『まあとにかく、兄者も弟者も元気だ。
今はのんびり遺跡探索にくり出してるよ』
(,,-Д-).。oO(盗賊に襲われた件については黙っておこう)
∬´_ゝ`)「あの子たち二人で?」
(,,゚Д゚)『いや、精霊と一緒らしいぞ』
_,
∬;´_ゝ`)て !?
.
483
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 23:56:12 ID:2tZd1sd.0
・
・
・
・
|゚ノ;^∀^)「妹者さまー、ちゃんとお勉強してぇー!!!」
ムニャム l从-∀-ノ!リ人.。oO
l从-〜-ノ!リ人「……おっきい兄者 ……ちっちゃい兄者……」
l从-∀-ノ!リ人.。oO エヘヘー
|゚ノ#^∀^)「妹者様っ!!!」
つぎのはなしに つづく
484
:
名も無きAAのようです
:2013/05/19(日) 23:58:17 ID:2tZd1sd.0
今日の投下ここまで
乙くれた方々ありがとうございました
今回投下分で書き溜めストックが切れたので、次回の投下はいつになるのか未定です
書けたら6月の中旬〜下旬に投下予定。無理だとしても、報告にはきます
485
:
名も無きAAのようです
:2013/05/20(月) 00:00:59 ID:ckcwxeYI0
おつ
山場がきてるな
486
:
名も無きAAのようです
:2013/05/20(月) 00:01:03 ID:FNWH6xZY0
おつ
ゆっくりでいいよ生存報告だけでもうれしいからさ
逃亡しないのが大事なんだ
487
:
名も無きAAのようです
:2013/05/20(月) 11:57:12 ID:BCwgwJGkO
ふうっ、読み終えたさすがに文字数多くて100レス超えは読みがいがあるな
.
488
:
名も無きAAのようです
:2013/05/20(月) 18:54:59 ID:VAFHrtKoO
盛り上がってきたなあ
続き楽しみにしてる!
489
:
名も無きAAのようです
:2013/06/22(土) 00:30:16 ID:n.w7RJKg0
なんとか完成したのでこの土日のうちに投下します
490
:
名も無きAAのようです
:2013/06/22(土) 00:45:26 ID:n.w7RJKg0
訂正:投下は後日になるかも
491
:
名も無きAAのようです
:2013/06/22(土) 12:22:01 ID:hZVRUeQQ0
どちらにしろ舞ってる
492
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:00:44 ID:OeiHTfo.0
高らかに鳴る鐘のような音と共に、魔法陣は強くまばゆい白い光を放つ。
――そして、その光が引いた時。
..
祭壇の傍らに、突如としてそれは現れた。
岩と石で作られた。人と馬車の荷台の中間のような形をした、巨大な何か。
足があるべき場所には、音を上げる無限軌道。
手に当たる部分は、男一人ほどの大きさはあろうかという複雑な形をした岩の固まり。
それを支える腕はその体躯に比べ、心細くなるほどに細い。
人や獣ならば顔に当たるべき場所には、細長い穴が数筋平行にあけられている。
――まるで、できそこないの仮面だと思ったのは兄者か弟者か。
(;'A`)「ゴーレム! 何であんなもんがここに」
(; _ゝ )「――ゴーレム……あれが?」
“流石”の街の兄弟よりも、ラクダよりも、竜よりもなお大きな巨体。
身の丈は砂クジラや、天井には届かないが、それは何の救いにもならない。
重要なのは、それが動き出せば彼ら兄弟の命などたやすく奪い取ってしまいそうだという、その一点のみ。
――そして、それは言葉の代わりに、空気を勢いよく噴き上げた。
493
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:01:35 ID:OeiHTfo.0
( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )
.
494
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:02:16 ID:OeiHTfo.0
そのなな。 戦え、その命尽きようとも
.
495
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:03:48 ID:OeiHTfo.0
辺りに響いていた音は止み、魔法陣は光を失い消えていく。
しかし、祭壇の傍らに現れた巨体が消える気配は、微塵もなかった。
( ;´_ゝ`)「何やらゴーレムさんというらしき御仁がそびえ立っているが……俺、何かやらかした?
っていうか、めっちゃ腹が痛いんですけど……これなんで?」
巨体を呆然と眺めながら、腹を抑えた兄者がポツリと声をあげた。
彼の目は先程までの虚ろな様子から一転し、普段通りのお気楽な調子を取り戻している。
その声は、武器を手に壁へと駆け出そうとしていた弟者へと向けられていた。
(´<_` )「……荒療治を少々。
まあ、我にかえれただけ上等な方だ。兄者にしてはな」
( ;´_ゝ`)「ぅぇー。今日は楽しい遠出ーくらいのつもりだったんだけどなー」
(´<_` )「よかったじゃないか、兄者。念願の大冒険ってやつだ」
(;'A`)て「大冒険って、何のん気なこと言って」
ドクオの言葉が終わるよりも早く、弟者の体は走り出していた。
その標的は突如現れた、巨体。弟者は岩の巨人の背後に潜り込むと、引きぬいた曲刀でその背を切りつけた。
(;'A`)「ちょ、いきなり攻撃するとか!!」
.
496
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:05:29 ID:OeiHTfo.0
耳障りな、金属音。
曲刀と岩の接触面から、一際鮮やかな火花があがる。
(´<_` )「見た目通り、固いか」
(;^ω^)「お、お、オトジャ、あんまり荒っぽいのは……」
その硬さは、昼に出会った盗賊の比ではない。
切り込んだ時の感触からして、既にあの男とは違う。
それもそうだ。目の前の巨人の体は岩。よほど鍛えられた金属でもない限り、刃は通らない。
(´<_` ;)「――これは、厄介な」
弟者はゴーレムというらしき巨体を見上げる。
岩で出来た巨人は空気を噴き上げながら何事もなかったかのようにそびえ立ち、
/◎ ) =| ) gi
ギリリと上半身だけを動かし、
弟者を、
見た――。
.
497
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:07:07 ID:OeiHTfo.0
ゴーレムに目などない。あるのは顔に当たる部分にあけられた穴だけ。
しかし、弟者は確かに見られたと感じた。
(;^ω^)「動いたお!」
(;´_ゝ`)「なんと、と言いたいところだがやっぱりか」
耳障りな音を上げながら、ゴーレムの腕が動く。
腕を持ち上げ地に叩きつける、それだけの動き。
しかし、それが当たればどうなるかは、考えるまでもなかった。
(#'A`)「馬鹿弟者! 余計なことするから敵と思われたぞ!!」
(´<_`; )「――っ、本気か」
弟者は地を蹴り、その場から離脱を図る。
ゴーレムの腕が唸りを上げて振り降ろされたのは、それと同時。
轟音を立てて地が大きく震え、巨大な腕が地面にめり込んだ。
(´<_`; )「……デカブツめ」
( ;゚ω゚)「オトジャーっ!!」
ざっと、足を踏みしだき弟者は着地する。
.
498
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:09:07 ID:OeiHTfo.0
巨人の腕が振り下ろされたのは、ちょうど先程まで弟者がいた場所。
回避に出るのが遅ければ、ひとたまりもなかった――と、弟者は内心で冷や汗をかく。
( ;´_ゝ`)「弟者、ここは逃げるぞ!」
(´<_` )「しかし、兄者は……」
まだ動けないだろうと言いかけ、弟者は止めた。考えを変えたからではない。
青竜刀を握った弟者の肩を、ブーンの小さな手が叩いていたからだ。
弟者はブーンの姿を見やり、そのおっとりとした顔がはっきりとした意志をたたえていることに息を呑む。
( ^ω^)「ブーンが、アイツの目をひきつけるお」
(´<_` )「……ブーン」
(;^ω^)「アイツはオトジャだけじゃなくて、ブーンのことも見てたお
だから、ブーンならきっとオトリになれると思うんだお」
ブーンの声は小さく震えている。
しかし、真剣な光を湛える瞳は、その言葉は嘘ではないと、はっきりと伝えていた。
楽しいか楽しくないかしか感情がわからない――かつての言葉とは別人のようなブーンの姿に弟者の胸がかすかに痛む。
(´<_` )「……いいのか」
.
499
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:11:03 ID:OeiHTfo.0
( ^ω^)b「ニンゲンは長生きしているやつの言うとおりにするんだお?
だったら、ブーンの言う言葉はゼッタイってやつなんだお。きっと」
最後の言葉だけを震えずに言い切ると、ブーンは弟者の返事を待たずゴーレムへむけて飛び立っていく。
弟者は呆然とそれを見送ると、輝くブーンの羽の軌跡から目を外し、扉へと視線を走らせた。
(´<_`#)「扉へと向かう! 兄者も根性で走れっ!!!」
(;´_ゝ`)「……把握」
('A`)「兄者は任せろ!」
体勢を整え弟者は駆ける。向かうのは、扉。
今は一刻の時間も無駄にするわけにはいかなかった。
ゴーレムの姿は見ない。もし、そうすれば今の自分は動けなくなるだろうと、弟者はどこか冷静に悟っていた。
( <_ )「すまない、ブーン」
振り返ることなく、小さく呟く。
その歩みごとに足元に生えた草が潰れ、嗅ぎ慣れない青臭いにおいが周囲に立ち込める。
本当にここはソーサク遺跡の中なのかという雑念を振り払って、弟者はようやく扉の前へとたどり着く。
花や鳥の装飾が施された、緑青の金属の扉。
この部屋と、外とをつなぐ唯一の接点。
.
500
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:13:13 ID:OeiHTfo.0
(´<_` )「兄者は……」
扉の前で軽く息を整えると、弟者は背後を振り返る。
見ればゴーレムやブーンとは離れた位置。そこにドクオに被り布を引っ張られた兄者が、泣き言を言いながら腹をおさえ走っていた。
(; _ゝ )「むり、おにいちゃんこれ以上走れない」
(#'A`)「根性出せこの馬鹿野郎!」
(´<_` ).。oO(こちらは大丈夫そうだな)
弟者は扉に手をかける。
一瞬、手にぴりりとした刺激が走るが、その感触は気づいた時にはもう既に消えていた。
_,
(´<_` ).。oO(今のは、なんだ?)
魔法というにはかすかな感触。
魔力に似ていたが、あまりにも一瞬だったので本当にそうだったのか判断がつかない。
しかし、悩んだ所で退路はこの扉一つしかない。
弟者は息を吐くと、扉にかける手に力を込めた。
(´<_`#)「――くっ」
.
501
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:15:21 ID:OeiHTfo.0
力を込めるが、扉が開く気配はない。
そういえば最初に開けた時も二人がかりだったなと思いながら、弟者は腰を落とし本格的に力を込め始める。
手には骨と血管が浮かび上がるが、それでも扉はびくともしない。
('A`)「弟者っ、兄者連れてきたぞ!!」
(;; _ゝ )「これは、死ぬる……」
(´<_` )「兄者、早速だが加勢してくれ」
(; ゚_ゝ゚)「……なんと」
兄者も状況の危険さには気づいているのだろう、口では「人使いが荒い」と言いながらも扉へ手を掛ける。
薄水色の毛が一瞬逆立ち、怪訝そうな表情を浮かべるが、すぐに力を込め始めた。
(#`_ゝ´)「ぐぎぎぎぎ」
(´<_`#)「……」
(ノ#゚A゚)ノ「うぉぉぉおお!!!」
二人がかり。いや、二人と一匹がかりで扉を押し続けるが扉が開く気配はない。
もしかしたら、引かなれけば開かないのか。と、試してみるが、やはり扉は動こうとはしなかった。
.
502
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:17:11 ID:OeiHTfo.0
(;'A`)「……なあ、これおかしくないか?」
(;´_ゝ`)「偶然だな。俺も同じ事を考えていた」
扉を見上げ、ドクオと兄者が声を上げる。
もともと二人がかりでやっと開くような重さではあったが、それでも開かないということはなかった。
弟者は扉を慌てて観察するが、鍵らしきものがかかっている気配はない。
(;'A`)「外側からしか開かない扉とか?」
( ;-_ゝ-)「だったらギコ者から警告があったはずだ」
(´<_`; )σ「まさか……あいつを倒さないと出られない……とか」
一同は顔を見合わせる。二人と一匹の顔に浮かぶのはどれも似たり寄ったりの、焦りの表情だ。
念の為にもう一度力を込めて押してみるが、扉はびくともしない。
( ;´_ゝ`)「いや、待て。まだそうだと決まったわけでは……」
(´<_` )「他に脱出の方法があるというのか?」
( ;´_ゝ`)「それは……」
弟者の言葉に、兄者もドクオも沈黙する。
.
503
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:19:11 ID:OeiHTfo.0
/◎ ) =| ) gi gi gi
――その瞬間、兄者達の沈黙を切り裂くようにして甲高い音が響き渡る。
それから少し遅れて、空気を噴きあげるような轟音。
(;´_ゝ`)「な……な……やばくないかこれ」
(´<_`; )「――っ」
見ればゴーレムがその二本の腕を振り回し、何かを打ち払おうとしている。
その標的は兄者や弟者の位置からは見えないが、キラキラと光の粒が舞っている姿が見えた。
(;'A`)「おい、弟者っ!」
(´<_` )「兄者を任せた」
(;゚A゚)「任せたってお前……」
弟者の表情が変わる。
焦りを浮かべた表情のまま扉から離れ、ゴーレムの方へと向き直る。
目をつぶり息を呑むと、すぐにその目を開いた。
弟者の顔からは、先程まで浮かんでいた焦りの表情は消えている。
代わりに浮かぶのは、決意の色。
――弟者は扉に背を向けると、自らの意志で駆けはじめた。
.
504
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:21:10 ID:OeiHTfo.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
精霊にとって、時間というのはさして重要なものではない。
光や風や水といった、どこにでもあって消えることがほとんどない存在の精霊では、その傾向はより顕著となる。
( ^ω^)「生まれて……もう何年になるかおね?」
動物や人のように定められた寿命がない。
食事も。睡眠も。生殖の必要もない。
永遠のように続く時間を享受し。ただ、そこにあるだけの存在。
( ^ω^)「やっぱりもうわかんないお」
いつの間にか発生し、そして何らかの要因で消滅するか、本体となった存在が滅びるまで続く命。
そんなものだから、時間の感覚や感情なんてものはいつのまにか摩耗し、消え去っていく。
( ^ω^)「でも……」
( ^ω^)「そのたくさんよりも、今日のほうがずっと楽しかったお」
.
505
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:23:43 ID:OeiHTfo.0
楽しいと、つまらない。それから、寂しいがほんの少しだけ。
そのくらいしか残っていなかったブーンの中に、たった一日で沢山のものが転がり込んできた。
うれしい。
しあわせ。
イラつく。腹が立つ。
危ない。大変。どうしよう。
不安。寂しい。心配。大丈夫。
怖いとか悲しいとか、そういうのもあった。
( ^ω^)「だから、ブーンは……」
――どうしてこんなにもたくさんのことを、忘れてきたのだろうとブーンは思う。
ここにいる誰よりも長く生きてきたはずなのに、みんなが当たり前のように知っていることを知らなかった。
( `ω´)「みんなを守るんだお!!」
/◎ ) =| )
ゴーレムの顔面をかすめるようにして、ブーンは飛ぶ。
巨体の上半身が、ブーンの動きを辿るようにして動く。
顔に当たる部分にあけられた穴は、まるで目のようにブーンを見つめる。
.
506
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:25:11 ID:OeiHTfo.0
(#^ω^)「ブーンはここだお! かかってくるお!!」
ブーンの声が、目の前の巨体に届いているのかはわからない。
しかし、ゴーレムはブーンの動きを執拗に追いかけ続けている。
そのことにブーンは少しだけほっとする。
( <_ )
(;´_ゝ`)ゝ‐('A`#)、
走る弟者。兄者と、彼の体をひっぱって飛ぼうとするドクオ。
三人が逃げる時間を、稼がなければいけない。
そのためにはブーンは何としてでも、ゴーレムの目を引き続ける必要がある。
ごくりと、息を呑む。
背中から羽にかけてがぞわぞわとする感触に、ブーンは自分が怖がっているのだとはじめて気づいた。
:::(#^ω^)::「……それが、どうしたお!」
それでも、ブーンはゴーレムから目を離さない。
.
507
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:27:06 ID:OeiHTfo.0
/◎ ) =| ) g
ゴーレムの視線が、不意にブーンからそらされる。
軋むような音を立てながら、顔にあけられた空白が向いた方向は扉。
( ;^ω^)「こっちを見るお!」
空を蹴り敵の眼前へ浮かび上がるが、もはやゴーレムはブーンなど気に留めてはいなかった。
ぎちりと音を立てて、下半身の無限軌道が。そこに埋め込まれた動力が動きはじめる。
その巨体が扉へ向かって進もうとするのを見た瞬間、ブーンは叫んでいた。
(#^ω^)≪吹けお!!≫
その言葉と同時に、周囲に吹く風が勢いを増してゴーレムへと向かう。
地面に生えた草が激しくなびき、ゴーレムの巨体に風が吹きつけられる。
が、岩と土で形作られた巨体は少しも揺らがない。
/◎ ) =| )
(#^ω^)≪鋭く!≫
動きを止めようと、ゴーレムの巨体に向かい再度ブーンの言葉がとぶ。
息を吸う様に魔力を吐き出し、ブーンは風を操る。
.
508
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:29:18 ID:OeiHTfo.0
風が唸りを上げ、甲高い音を立てる。
ブーンの声に応じるように、鋭く激しくなった空気の流れが周囲を駆け巡る。
(#゚ω゚)≪なぎ払うお!≫
その号令とともに、一筋の風が、巨体を打つ。
触れれば物を切り裂く勢いを持った風は、ゴーレムの体を打つと同時にその体を揺らす。
/◎ ) =| ) gi gi gi
ゴーレムの体には傷ひとつない。
しかし、足に当たる無限軌道の動きが止まると、上半身から伸びる腕がぎちりと揺れ……
轟音とともに、その全身から蒸気が噴きあがる。
それと共に、振るわれる腕。
細い腕の先に取り付けられた、岩の塊がブーンに迫り来る。
人ほどの大きさのあるそれ。しかし、その勢いはそう早くない。
避けるのは、小回りのきくブーンにはたやすい。
( ;゚ω゚)「お、おおお?!」
.
509
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:31:11 ID:OeiHTfo.0
だが、避けたと思った瞬間。ブーンの体が大きく煽られる。
動く岩が巻き起こした風。それが引き起こした衝撃だけで、ブーンの体は吹き飛び、落ちそうになる。
(#^ω^)「負けないお!」
叫びながらブーンは、自身と飛ばそうとする風を操り、その場に留まる。
そして、体の中を血のようにめぐる魔力を纏め上げると、魔法として放つ。
放つのは風の刃。先ほどかすかながらに反応があった、鋭く研ぎ澄まされた風だ。
(#^ω^)≪早く、強く、鋭く!≫
目の前の巨体の目を引き付けるために、魔力を組み上げ続ける。
一陣、二陣、三陣。
吹き荒れる風はゴーレムの体に傷をつけることこそは叶わないが、揺さぶる程度のことならできる。
( #゚ω゚)≪吹きすさぶお!!≫
魔力を放つブーンへ向けて、ゴーレムの腕が振るわれる。
しかし、体の大きさと重さが害をなして、その動きは重い。
ブーンは羽を羽ばたかせ腕をかわすと、再び風を巻き起こそうとして。
――すぐそばまで迫った、腕に言葉を失った。
.
510
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:33:24 ID:OeiHTfo.0
腕は避けた。
確かに避けたはずだった。
しかし、避けたはずの腕がブーンのすぐ傍らまでに迫っている。
( ;゚ω゚)「な、」
――動いたのは腕ではなく、ゴーレムの上体そのもの。
伸ばされた腕と下半身はそのままに、ゴーレムの上半身だけがぐるりとその場を回る。
一回転。生き物には決して出来ない動きに、ブーンの思考は完全に止まる。
そんな無防備になったブーンの体が、掴まれる。
( ;゚ω゚)「……!!」
そして、そのまま下へと向かって、引きずり降ろされる。
ブーンの視界が真っ暗になり、胸に強烈な不快感が浮かぶ。
それなのに頭はぼんやりとして、やけにはっきりと音を拾う。
ブーンは自分がおかしくなってしまったのではないかと目をつむり。
( <_ )「この阿呆が」
この一日で、随分と馴染みになった声を聞いた。
.
511
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:35:58 ID:OeiHTfo.0
( ;^ω-)「オト、ジャ?」
そっと目を開く。
そこには、弧を描く刀を抜き放ちゴーレムへと対峙する弟者の姿がある。
刀を持たないもう片方の手は、ブーンの体をしっかりと掴んでいた。
(´<_`#)「誰が特攻をしろと言った!
いくらお前が人間でなくとも、ただじゃすまないぞ」
(;^ω^)「助けてくれたのかお?」
_,
(´<_` )「……借りを返しただけだ」
弟者は眉をひそめながら、そう告げるとその手を離す。
ブーンは開放された羽で飛びながら、弟者が自分の言葉を否定していないことに気づいた。
それどころか、つい先ほどの怒鳴り声は……ブーンのことを心配しているようにさえ思えた。
(*^ω^)「ありがとうだお」
_,
(´<_`; )「……礼を言っても何も出んぞ」
そういいながら、弟者は新たに振るわれたゴーレムの腕を避ける。
轟音とともに地面へとめり込む腕に舌打ちをすると、弟者はブーンへと視線を向ける。
.
512
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:37:55 ID:OeiHTfo.0
(´<_` )「お前の風の魔法は、どれだけの大きさのものなら動かせる?」
その言葉は、ブーンにとって予想だにしないものだった。
弟者は魔法が嫌いじゃないのかという言葉を喉の奥に押し込んで、ブーンは恐る恐る声を上げる。
( ;^ω^)「……あんまり重いものはムリだお。
だから、ブーンじゃあのデッカイのをどこかに飛ばすなんてできないお」
(´<_` )「人間は?」
( ^ω^)「お?」
(´<_` )「お前の力で、兄者をあの天井の穴から脱出させることはできるか?」
視界の端でゴーレムの動きを睨みつけながら、弟者はそう聞いた。
弟者の顔に浮かぶのは真剣な表情だ。
ブーンは弟者に負けぬ様に、真剣に考え込むとこくりと頷いた。
( ^ω^)「ブーンの力じゃ、一度に一人しかムリだお」
……扉は開かなかったのだろうと、ブーンは理解する。
魔法や自分が嫌いな弟者が協力を求めてくるということは、そういうことなのだろう。
嫌っていた自分に、魔法を使えと持ちかける。弟者はいまどんな気持ちなのだろうと、ブーンは思った。
.
513
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:39:18 ID:OeiHTfo.0
(´<_` )「それで十分だ」
( ^ω^)「アニジャを脱出させたら、オトジャの番だお。
そうじゃないと、ブーンは手伝わないお」
(´<_` )「……」
(#^ω^)「オトジャっ」
言葉を返さない弟者に向けて、ブーンは知らず知らずの間に大きな声を出していた。
胸のあたりがぞわぞわとして、何か言わなきゃという思考がブーンを突き動かす。
一方の、弟者はブーンの声に、一瞬だけ目をきょとんと見開いた。
(´<_` )「……お前、わりと言うんだな」
(;^ω^)「はひ?」
弟者の顔に笑みが浮かぶ。
ブーンはその表情が意味することがわからずに、言葉に詰まる。
(´<_` )「――把握した」
ブーンが再び何かを告げようとした頃には、弟者はブーンに背を向けていた。
.
514
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:42:00 ID:OeiHTfo.0
(<_` )つ==|ニニニ二フ
弟者の足が地面を蹴り、曲刀を持った手はゴーレムへと向けて翻る。
動きの速さにまかせた、叩きつけるだけの単純な動き。
弟者が曲刀をふるうたびに、銀の軌跡が走り火花が飛ぶ。
疲れを感じていないかの勢いで、弟者の曲刀は速く、ひたすら速く翻る。
/◎ ) =| ) g
素早さを生かした速攻と、息もつかせぬ連撃。
それが弟者の強みだ。
そして、彼の攻撃は一つ一つが重い。
――しかし、言葉を変えればその攻撃さえ通らないのであれば、彼の力は役に立たないということになる。
( ^ω^)「……空」
ブーンは天井へと向けて、目を走らせる。
弟者は、天井から脱出できるか?と言った。ならば、その言葉にブーンは応えなければいけない。
すぐ傍らにある巨体の視線は、既にブーンから弟者へと移っている。
行くならば今しかない。ブーンは一直線に天井へと向け、羽ばたいた。
.
515
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:43:19 ID:OeiHTfo.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
('A`)「――そうか天井か!」
未だ扉を押し続ける兄者の傍らで、ドクオははっと声を上げた。
崩落した天井の向こう側には、青い雲ひとつない空が広がっている。
これなら脱出することができると、ドクオは早速空へと向けて飛び始める。
(;´_ゝ`)「時に待て、ドクオ者!
この部屋は変だ、そもそもソーサク遺跡かどうなのかわからん!」
('∀`)「大丈夫、仮にここがソーサク遺跡じゃなくても外に出れればこっちのも」
(×A×)「――あだっ!?」
一直線に天井へと向かっていた、ドクオの言葉が奇声へと変わる。
兄者がぎょっと目を見開いた瞬間には、ドクオの体は床へと向けて落下をはじめていた。
ドクオの体は一直線へ地に落ち、地面へと激突するスレスレの所でようやく背の羽が動き始める。
.
516
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:45:18 ID:OeiHTfo.0
( ;゚_ゝ゚)「ドクオ!」
('A`;)「ブーン、天井はダメだ――!!!」
紫の光を放ちながら、羽がドクオの体を宙へと引き上げる。
ドクオはかろうじて飛び上がりながら、兄者ではなく、ブーンへ向けて声を上げた。
ブーンにその声が届いたのかはわからない。しかし、羽ばたきながらもドクオは周囲に視線を走らせる。
('A`)「……天井はダメ、扉もダメ。だったら」
呟くと同時に、ドクオの姿は掻き消える。
飛び去ったわけでも、地に落ちたわけでもない突然の消失に、兄者は周囲を見まわす。
それでも、ドクオの姿はどこにも見えない。兄者はしばし呆然として、そしてようやく事実に気づいた。
( ´_ゝ`)て「ドクオがまた逃げた――!!」
(#゚A゚)「逃げとらんわー!!!」
(∩;´_ゝ`)∩て「なんと!」
ゆらりと何もない空間が揺れ、そこからドクオの姿が蜃気楼のように歪み現れる。
兄者が両手を上げ声をあげる頃には、そこにはふらふらと飛ぶいつもどおりのドクオの姿があった。
.
517
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:47:28 ID:OeiHTfo.0
('A`)「……兄者、聞け。マズいことになった」
(∩´_ゝ`)∩「これ以上にまだ、マズいことがあると?」
ドクオは兄者の肩へと座り込む。
兄者は「早く話せ」と促すと、自分の肩のドクオへ視線を向ける。
('A`)「完全に閉じ込められた」
( ´_ゝ`)「それは、今の突然の消失と関係あるのか?」
('A`)「ああ。今、影を通って扉の向こうに出ようとした……が、何かに邪魔された」
( ´_ゝ`)「……影とな」
(#'A`)「畜生。こっちは影の精霊だぞ、どんな障壁組んでやがるんだ」
ドクオの言葉に、兄者は息を呑む。
そして、彼の脳裏にようやく浮かんだ結論は「これはいよいよマズイかもしれない」だった。
(∩´_ゝ`)「確認する。空から出ようとしたときと、影の中で邪魔されたとき、どんな感じだった。違いはあったか?」
('A-)「どっちも、壁にぶち当たった感じだった」
.
518
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:49:34 ID:OeiHTfo.0
ドクオの返事を聞くと、兄者は扉へと手を掛ける。
しかし、先ほどまでとは違い開こうとはせずに、ただ手を扉へと触れるだけだ。
そのまま真剣な目で扉を見上げると、兄者は瞳を閉じる。
(;'A`)「……どうした兄者」
(#-_ゝ-)「そういうことか、この糞ったれめ」
(#'A`)「おい、自分だけ納得してないで答えろ」
(; -_ゝ-)「ここじゃない。何処かにあるはずだ。
外から閉ざされているのでないならば、どこかに取っ掛かりがあるはずなんだ」
ドクオの言葉に兄者は答えない。
瞳を閉じたままドクオにはまだ意味のわからない言葉を、並び立てるだけだ。
しかし、兄者はひとしきりつぶやき続け。やがて、ドクオの顔を真剣な瞳で見据えた。
( ´_ゝ`)「ドクオ。俺の意識が無い間に、あったことを話せ。
なんでもいい。あの時なにがあった、どうしてこうなったのだ?」
('A`)「……弟者が祭壇を調べている時に、すごくうるさい音が聞こえた。
そうしたら弟者のやつが何か叫んで、気づいたらお前が変だった」
(∩´_ゝ`)「……祭壇、音。それから?」
.
519
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:51:28 ID:OeiHTfo.0
('A`)「お前さんは何か呟きながら、一番奥の壁に歩いて行って……覚えてないのか?」
(∩;-_ゝ-)∩「残念ながら。気づいたら、腹がすごく痛かった」
兄者の言葉に、ドクオは頷く。
あの時の兄者の様子はおかしかった、意識がなくてもおかしくはないのだろう。
('A`)「それから、壁に手をやってそう。何か見てたのか……な。
その頃には弟者が血相変えて、オレやブーンに兄者を止めろと言っていたな」
( ´_ゝ`)「……弟者やお前らの動き以外では、何があった?
あんなデカブツが、何の前兆もなく出てくることはないだろ?」
(;'A`)「そこも覚えてないのか?!」
ドクオは「ああもう、なんてやつだ」と呟くと兄者の顔を見る。
兄者は自分の疑問を投げかけるだけで、こちらの質問に答えようとする意図はないらしい。
ドクオは兄者の態度に、言葉を荒げながら答えを返す。
(#'A`)「お前は、壁に向かって魔力を放った。何をしたのかはわからん。
弟者がお前さんの腹を殴りつけて止めたが、間に合わなかった」
( _ゝ )「俺が、魔力を……」
(#'A`)「全く、お前が魔力を使えるなんて知らなかったぞ」
.
520
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:53:16 ID:OeiHTfo.0
( _ゝ )「……それで、」
('A`)「ああ、そこから先はお前さんの記憶にあるとおりだ。
壁に魔法陣ががぁぁっと現れて、光ったりうるさい音がして、気づいたらあのゴーレムがいたと」
(∩ _ゝ )「……」
(;'A`)「……おい、兄者?」
兄者は無言のまま答えようとしない。
ただ、顔に置かれた手の隙間からかすかに見える瞳が、険しい色を湛えていた。
……まるで、兄者ではなくて弟者と話しているようだ。ドクオは脳裏に浮かんだ言葉を慌てて打ち消した。
( ´_ゝ`)「……状況は最悪かもしれんな」
('A`)「自分ばっかり納得してないで、とっとと話せ」
( ´_ゝ`)「外に出られないように結界が張られている」
(; _ゝ )「……俺達は生かしてここから出してもらえそうにないということだな」
(;'A`)「……ウヘァ。つまり」
(;´_ゝ`)b「戦え、その命尽きようとも――ということだ」
兄者の言葉に、今度はドクオが沈黙する番だった。
.
521
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:55:58 ID:OeiHTfo.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
('A`;)「ブーン、天井はダメだ――!!!」
ゴーレムの腕をかいくぐりながら空へ、空へと飛んでいたブーンは、聞こえた声に動きを止めた。
浮かび上がった体はそのままに天井へ、その向こうの空へと向けてそっと手を伸ばす。
( ^ω^)∩「……」
伸ばした手が、何かに触れる。
硬い感触はまるで、壁にでも触れたかのようだった。
空への道を遮るものは何も見えない。しかし、ブーンの手は確かに何かに触れている。
(;^ω^)「オトジャ、ダメだお!!」
(´<_` )「……!」
ブーンには一体どうなっているのか、わからない。
しかし、空中にあるこの“何か”をどうにかしないと、脱出することが出来ないということだけは理解できた。
.
522
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:57:08 ID:OeiHTfo.0
(´<_` )「扉も、天井も無理ときたか……」
/◎ ) =| )
呟きながら、弟者は曲刀を振るう。
ブーンのダメだという言葉に失望しなかったかといえば、嘘になる。
しかし、今は思い悩んでいる場合ではないと、弟者は考えを切り替える。
(´<_` )「……」
扉と天井。目に付く二つの出口は、使えそうにない。
これだけでも厄介なのに、目の前には弟者やブーンを狙って動くゴーレムの姿がある。
――どうすればいい? 弟者が逡巡したのはほんのわずかな間だけ。
(´<_` )「ブーン、お前は兄者を」
(;^ω^)「オトジャ! どうする気だお!」
次の瞬間には弟者は刀を翻し、再びゴーレムへと挑みかかっていた。
狙うは巨体を支える足元、複雑な機構が絡みあう無限軌道だ。
.
523
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:59:12 ID:OeiHTfo.0
弟者が腕を振るうたびに、手に握られた曲刀から火花が散る。
戦況は一見、弟者の優勢。
ゴーレムが振るう腕は弟者の手によって避けられ、あるいは刀によって受け流される。
その一方で、弟者の振るう刀はすべてゴーレムに打撃をあたえていく。
――が、結局のところそれまでだ。
(´<_` )「――っ!」
弟者の攻撃は先程までと同様に、有効な一撃を与えることができない。
そして、今はまだ涼しい顔をしているが、弟者の体には限界がある。
攻撃を避け続ければ体力は失われていくし、一撃を放つたびに手にかかる反動も大きい。
だから、長い目で見れば追い込まれているのは弟者の方だった。
(´<_` )「……」
現に、弟者の体はじりじりと壁へと向けて後退している。
(;^ω^)「オトジャっ!」
(´<_` )「余計な手出しはするな」
.
524
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:01:33 ID:OeiHTfo.0
横薙ぎに振るわれた岩の腕を、弟者は後ろへと飛ぶことで回避する。
巨人の体が、足にあたる無限軌道がギチリと音を立て、弟者を壁へと追い詰めていく。
(´<_` )「……」
弟者の背が、壁へと触れる。
これ以上後退することは、もう出来ない。
そして、そんな弟者の退路をさらに断つようにして、ゴーレムが腕を振り上げ弟者の正面に迫り来る。
/◎ ) =| )//
背後は壁。正面にはゴーレムの姿。
挟まれてしまったこの状態では、左右へと逃れることも難しい。
そして、空気を噴き上げる音と共に巨大な腕が、弟者に向かって振り下ろされる。
( <_ )「……」
唸りを立てて落ちてくる、岩の腕。
風を起こしながら迫り来るその一撃は、地面をえぐるほどに重い。
当たればきっと、ただではすまない。
振り下ろされる腕をギリギリまで視認してから、――弟者は駆け出した。
.
525
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:03:23 ID:OeiHTfo.0
(´<_`#)「お前は――」
目指すのは右でも、左でもない。
目指すはひたすら真っすぐ、ゴーレムへと向けて。
/◎ ) =| )// g
ゴーレムは振り下ろす腕を止めることが出来ない。
重さで勢いのついた腕は、標的のいなくなった壁へと向けて放たれる。
それを確認することもないまま、弟者はまっすぐに走り、そのまま巨人の足――無限軌道へと駆け上がる。
(´<_`#)「――壁でも攻撃していろ!!」
身のこなしは、しなやかな猫の如く。
体重などないように弟者の足は軽々と巨体を登り超えて、あっという間にその背後へと降り立つ。
それと同時に、
聴覚を根こそぎ奪い去るような、轟音と震動が響いて、
巨人の腕は弟者ではなく壁へと叩きつけられていた。
.
526
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:05:26 ID:OeiHTfo.0
((( ;゚ω゚)))「あばばばば」
(´<_` )「――どうだ?」
弟者は背後を振り返る。
ゴーレムに有効打を加えられたかどうかはわからない。
しかし、先ほどの攻撃で壁が崩れでもしてくれれば、万々歳だ。
/◎ ) =| )
しかし、振り返ったその先。
そこに見えるのは、傷一つないゴーレムと壁の姿だった。
先ほどの轟音や衝撃などなかったかのように、壁もゴーレムも先ほどと変わらない姿をしている。
( <_ ;)「――っ、これでも無理か」
(;^ω^)「おかしいお、なんかヘンだお!」
ブーンの言葉に声を返す余裕は、弟者にはなかった。
逃した獲物を今度こそ倒そうと、ゴーレムの上半身が回転をはじめる。
壁と腕が擦れあい大きな火花と、耳をつく高い異音があたりに響く。
(´<_`#)「バケモノめ」
.
527
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:07:08 ID:OeiHTfo.0
足に力を込め弟者は、ゴーレムを睨みつける。
相手から遠く距離をとるか、懐に飛び込んでやり過ごすか。
半端な距離では攻撃を食らうし、近づき過ぎるとその巨体に踏み潰される可能性がある。
(´<_` )「……」
ためらいの末に弟者が選んだのは、前者だった。
ゴーレムから距離をとるように地を蹴り、走る。それで、威力はあるが大振りな攻撃は回避できる。
はずだった。
ここまで来ればいいだろうと、弟者が足を止めかけた時、ブーンの声が響いた。
(#^ω^)「危ないお!」
(゚<_゚ ; )「――っ!」
火花をまき散らしながら振るわれるゴーレムの腕が、一際大きな音を立てる。
空気の固まりを噴き上げるようなその音とともに、岩で作られたゴーレムの腕が――伸びた。
はじめから伸縮が可能なつくりになっていたのか、それとも状況に応じて形を作り替えたのか。
――どちらにしても、まともな生物ではない。
.
528
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:09:20 ID:OeiHTfo.0
今更、後退は出来ない。
今できることは足を前へと進めることだけだ。
/◎ ) =| ) gi
大地を踏み足を速めるが、弟者にはわかっていた。
このままでは――あと、一歩足りない。
(´<_`#)「……糞っ」
避けきれない。
飛び上がって回避をするか? 果たして、自分にそれが可能なのか。
――それでもやるしかない。
弟者は、視線をゴーレムの腕へと向ける。勝負は一瞬、それで全てが決まる。
(#^ω^)「オトジャー!!」
決意を固めた弟者の背に、強い力がかかる。
背筋がぞわりと粟立ち、足は地面の感触を失う。
.
529
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:11:29 ID:OeiHTfo.0
( <_ ).。oO(やられたか)
岩の巨人のたてる音でおかしくなりかけた耳が、妙な音を拾う。
これは一体と、弟者は思って――、そして気づいた。
覚えのあるこの感覚は、魔力だ。
そして、この場でこんなことができるのは……
(#^ω^)《全力で飛ぶお!!》
(´<_` )「――ブーン」
魔力を帯びた強烈な風が、弟者の背を押し体を宙へと舞い上げていく。
巨体の腕の高さを超え、弟者が半身を起こそうとしたところで、上へと持ち上げられる力は徐々に弱くなっていく。
(´<_`;)「すまない」
( ^ω^)「こういう時ニンゲンは、『困ったときはお互い様』って言うんだお?
ブーンは知ってるお!」
(´<_` )「……」
こんな時に、こいつは何て呑気なことを言い出すのか――弟者の脳裏をよぎったのはそんな言葉。
しかし、弟者は不思議と悪い気持ちではなかった。
.
530
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:13:54 ID:OeiHTfo.0
(´<_` )「――そうか」
(*^ω^)「そうだお!」
ああ、こいつは精霊の癖にとんでもない阿呆なのか――と、宙を飛びながら、弟者はようやく理解した。
話しかけるなと言っても、笑顔で話しかけてくるしつこい精霊。
すぐに兄者の言葉に騙されるくせに、本質だけはしっかり見ぬくその目。
人の言葉は聞かないし、すぐ騙されるし、感情もわからないし、何より人間ではない。だけど――、
どれだけ冷たくしても暴言を吐いても心配してついてくるこいつのことが。
俺は、結局嫌いにはなりきれなかったらしい。
……本当に、悔しいことにだが。
精霊だとしても……こいつのことだけは、信じていいのかもしれない。
(´<_` )「……すまなかった、いろいろと」
(*^ω^)「大丈夫だお!」
万感の思いを込めてつぶやかれた弟者の言葉は、ブーンには届かなかった。
しかし、それでいいと、弟者は手にした刀を強く握る。
(´<_` )「まだいけるか」
( `ω´)「まだまだいけるお、オトジャ!」
.
531
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:15:17 ID:OeiHTfo.0
弟者を捉え損なったゴーレムの腕は、そのまま振り切られ、再び壁へと激突していた。
相も変わらず、白い一枚岩の壁の方には何の変化も見られない。
しかし、ゴーレムの側にはかすかに変化があった。
三度に渡る衝撃のためか、腕が鈍い音を上げ黒く変色している。
,
(´<_` )「壁からの脱出は諦める。ここからはあのデカブツ狙いだ」
……ブーン、援護を頼めるか?」
(*^ω^)「まかせるお!」
ブーンの巻き起こした風が消えると同時に、弟者は着地の体勢を整える。
ブーンが上手く支えているのか、大した負荷もないままに弟者は地へと降り立つ。
(´<_` )つ==|ニニニ二フ
そして、弟者は再び曲刀を構える。
目指すは目の前で音を立てる、岩でできたバケモノ。
(#^ω^)《風よ、オトジャを守れお!》
――全身に魔力を感じながら、弟者は一直線に駆け出した。
.
532
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:17:47 ID:OeiHTfo.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
(;゚A゚)「――っ!!!」
轟く轟音に、ドクオの意識は引き戻された。
音のした方を見れば今まさに、岩の巨人の腕が壁へと向けて放たれたところ。
それが止んだかと思えば、再び耳障りな音を上げながら巨人の腕が地へと突き刺さるところだった。
(;゚A゚)「ブーン! 弟者っ!」
(;´_ゝ`)「――弟者は大丈夫だ」
(#'A`)「なんで、言い切れるんだよ! 弟者はニンゲンなんだぞ、心配じゃないのか!?」
兄者の声が、一瞬止まる。
ゴーレムの腕が振り下ろされた先は、土煙が上がり視界がきかない。
ブーンと弟者がどうなったのか、ここからでははっきりとしない。
( ´_ゝ`)「弟者のことならわかる。それよりも、ブーンだ」
('A`)「……」
.
533
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:20:10 ID:OeiHTfo.0
土煙が消え、視界がきくようになる。
ゴーレムの腕が振り回された箇所には、倒れているものは誰もいない。
代わりに――
(;´_ゝ`)「弟者。ブーンも一緒か……」
(;'A`)「驚かせやがって」
ブーンの魔法か。宙に浮かぶ弟者と傍らを飛ぶブーンの姿に、兄者とドクオは安堵の息をつく。
二人はとりあえずは、窮地を脱したらしい。
しかし、この状況をどうにかしない限り、いつかは弟者やブーンに危害が及ぶ。
(∩;-_ゝ-)∩「……どうする。どうすればいい」
兄者は頭を抱え、呟き続ける。
自分は兄だ。弟者が戦っているのならば、自分も最善を尽くさねばならない。
考えろ。何でもいいからこの状況を打破するために行動しろ。
(#´_ゝ`)「――ゴーレム止まれっ! 召喚者は俺だ!!」
(;゚A゚)て「おま!!」
.
534
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:21:07 ID:OeiHTfo.0
(; ´_ゝ`)「ドクオはちょっと黙っていてくれ」
衝動的に漏らしたドクオの言葉に、兄者は焦ったような声で答える。
何が黙っていてくれなのか。それに、ついさっきの正気とは思えない言葉はなんだったのだ。
――ドクオはそう問いかけようとするが、それよりも早く兄者はゴーレムへと向けて声を振り上げていた。
( ´_ゝ`)「召喚者が命じる。動きを止めろ!」
(´<_`#)「兄者、何をしている!」
(;^ω^)「お、オトジャ、よそ見しちゃ危ないお!!」
兄者の声は、弟者やブーンの元へも届いたらしい。
振り向いて声を上げた弟者を、ブーンが飛び回りながら慌てて止めている。
ゴーレムは弟者とブーンのすぐ傍らで、耳障りな音を上げながら上半身を動かしていた。
(;'A`)「お前……今のは……」
( ´_ゝ`)「黙れと言っただろうに。集中が切れる」
ドクオの問いかけに、兄者は視線をゴーレムへと向けたまま言葉を返す。
その表情は真剣で、本人は別にふざけているわけではない様だった。
.
535
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:23:17 ID:OeiHTfo.0
( _ゝ )「暗示ってのは結局のところ言葉だ。
言葉に力さえこもっていれば、魔力なんて無くとも効果はある」
(;'A`)「……しかし、ゴーレムはだなぁ」
( ´_ゝ`)「やってみなければわからん」
兄者は力を込めて、巨人を睨みつける。
息を吸い、険しい表情で再度、ゴーレムへと向けて言葉を投げかける。
(#´_ゝ`)「――止まれっ!!!」
/◎ ) =| )
岩の巨人の上半身が動き、兄者を見据える。
しばしの沈黙。それとともに、ゴーレムの動きが止まり、
(*´_ゝ`)「……よしっ」
――甲高い音とともに蒸気を噴き上げると、上半身と腕が同時に回転を始めた。
(;゚A゚)「だから、無理だって言っただろーっ!!!」
.
536
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:25:29 ID:OeiHTfo.0
⊂二(; ゚ω゚)二⊃「あば、あばばばばば」
(´<_`#)「馬鹿、余計なことはするな!」
ドクオの声と合わせるように、遠くからブーンと弟者の声が上がる。
ブーンは飛び上がり、弟者は大きく下がりゴーレムの攻撃から辛うじて逃れている。
攻撃を受けた形跡はないことに、兄者はほっと息をつく。が、
ベチン (;゚A゚)ノシ);´_ゝ`)アダッ
(#゚A゚)「この状況下で、何をアホなことやってるんだ!」
(;´_ゝ`)「いや、俺は本気だったぞ。説得や暗示は試してなかったからいけるかと思ってだな。ムリ ダッタ ケド」
ドクオは兄者のその言葉に、紫の顔を赤に染めた。
そのまま兄者の顔のすぐ傍らを飛ぶと、薄水色の耳を引っ張りながら怒鳴りつけた。
(゚A゚)「ゴーレムに魂なんざないんだよ!
できるなら、俺だってとっくにやっとるわゴルァ!!」
(; ゚_ゝ゚)「なんとぉ――!!!」
.
537
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:27:35 ID:OeiHTfo.0
(#'A`)「あいつらの弱点は核だ! 核さえ壊せば止まる!!」
( ´_ゝ`)「……弱点」
ドクオは勢いに任せて怒鳴り付ける。しかし、その声に兄者の動きがぴたりと止まった。
一瞬の沈黙。しかし、すぐに兄者は細い目を見開くと、ドクオの体を思いっきり掴んだ。
(♯゚_ゝ゚)「なぜそれを、もっと早く言わない!!」
('A`)「え? そんなの知ってるだろ、普通?」
ギリギリ(♯ _ゝ )つ(゚A゚;)て
(;゚A゚)「ごめん。ごめんなさいぃぃ!!!」
(;´_ゝ`) ハッ
謝罪の声に、兄者はドクオの体を締め付けていた手の力をあわてて抜く。
すまなかったと謝る兄者には、つい先ほどの怒りの表情は消えている。
まだ体を掴まれてはいるものの、とりあえずは開放されたことにドクオはほっと息をついた。
(;'A`).。oO(やべぇ。一瞬、兄者が弟に見えた)
.
538
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:29:57 ID:OeiHTfo.0
( ´_ゝ`)「アイツの核はどこにあるのだ?」
(;'A`)「そんなもの知るか!」
…ギリ(♯ _ゝ )つ(゚A゚;)て
ドクオが考え事をしている間に、再び兄者から質問の声が飛ぶ。
それにドクオは適当に返し、兄者によって再び握りつぶされそうになった。
――が、途中から兄者も我に返ったらしく、すぐに手から力がひく。
(;'A`)「助かった……おい、兄者っ!」
ドクオは緩んだ兄者の手を何とかこじ開けると、慌てて脱出する。
兄者はすぐに力を緩めたので、飛ぶことには支障はない。
羽を動かして飛び上がると、文句を言おうとドクオは浮かび上がり、息を呑んだ。
( _ゝ )「……俺らしくない」
('A`)「兄者?」
( _ゝ )「これは俺のやり方じゃない。俺は、弟者とは違うんだから」
そう自分に言い聞かせるように呟き、兄者はしばしの沈黙の後にようやく顔を上げる。
そこにいるのはもう、脳天気が服を着て歩いているようないつもの兄者の顔だった。
.
539
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:31:24 ID:OeiHTfo.0
( ´_ゝ`)「悩むの終了。弟者は戦ってるんだから、俺もできることをする」
(;'A`)「……そ、そうか。で、何をするんだ?」
ドクオの言葉に、兄者は瞳を閉じる。
つい先程、扉に手を触れていたのと同様の沈黙。
じっと目を閉じた兄者は、沈黙の末にふと目を開く。
星を見るときのように、兄者の瞳が動く。
視線を彷徨わせる兄者の表情は薄く、感情に乏しい。
が、操られていた時とは違い、その瞳にははっきりと意志の光があった。
( ´_ゝ`)「……頭」
('A`)「今、何て?」
(#´_ゝ`)「頭だ! 頭の装甲を狙え、その下にあいつの核がある!!」
兄者の怒号が響く。
普段よりも低く鋭い声は、はっきりと弟者に届いた。
(´<_` )「把握した!」
そして、――返ってきた声は、兄者とそっくり同じだった。
.
540
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:33:12 ID:OeiHTfo.0
( ´_ゝ`)「こっちも行くぞ、ドクオ」
('A`)「行くって……おいっ!」
弟者が言葉を返すやいなや、兄者が駆け出す。
目指す先は部屋の中央――。
大市の市場ほどの広さのある、最奥の間。
一番奥にそびえるのは魔法陣の浮かび上がった壁。部屋の中央には白い石造りの祭壇。
祭壇から一番近い右手の壁には岩の巨人と弟者。そして、ブーンの姿。
草のそよぐ地面。崩れた天井からは青い空が覗いている。
(;'A`)「やめろって。そっちにはデカブツが」
( ´_ゝ`)「もし何かあったら、俺は無視して祭壇を壊せ。
……それでどうにかなるはずだ」
兄者の細い目は祭壇を探るように見つめている。
その薄水色の毛並み逆立っているのを見て取って、ドクオはごくりと息を呑んだ。
(;'A`)「これから一体、何をするつもりなんだ」
( ´_ゝ`)b「決まっているだろう。
――結界を崩す。そうすりゃこんな所おさらばだ」
.
541
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:35:10 ID:OeiHTfo.0
じゃりという土を踏む音が周囲に響く。
扉から祭壇へと向けて、岩の巨人からなるべく距離を取りながら兄者は走っていく。
注目を浴びないようにするためか、それとも弟者に殴りつけられた腹がまだ痛むのか、それとも単に体力がないのか。
走っているにもかかわらず、兄者の動きは遅かった。
それでも、兄者はどうにか祭壇の正面へとたどり着く。
( ´_ゝ`)「ドクオ。俺が言った言葉を覚えているか」
('A`)「何かあったらってやつか?」
(*´_ゝ`)ノ「じゃあ、お前さんはしばらく待機頼んだ」
(;'A`)「ちょ」
兄者が、腰に下げたナイフを抜く。
ドクオが覚えている限り兄者は、これまで武器を手にしたことがない。
息を呑むドクオの横で、兄者は瞳を閉じ小さく息を吸うと、「よしっ」と、声を上げた。
その足が、一歩前へと進む。
それと同時にドクオの頭に響く、音。
___―===―_― ==  ̄ ̄ ̄ ――_―― ̄ ̄―‐―― ___
―――― ==  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ―― __――_━ ̄ ̄ ――_―― ̄___ ̄―=
.
542
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:37:42 ID:OeiHTfo.0
頭を揺さぶるそれは、いつだか聞いた音だった。
兄者の様子がおかしくなった元凶。
弟者が血相を変え、ゴーレムなんてものが出て来る羽目になった全ての原因。
人を惑わす、異質な音。
(; _ゝ )「 !」
(;゚A゚)「おい兄者っ!!!」
兄者の足は止まらない。
早くもない足を必死で進ませて、一直線に祭壇へと向かう。
(#´_ゝ`)「 」
兄者の瞳には、意志の光。
利き足が大きく踏み込まれ、片足が大きく後ろへと流れる。
そのまま勢いがつけられ、兄者のニンゲンにしては長い足が前へと振り抜かれる。
放たれた兄者の足が向かうのは、祭壇の周囲に飾られた壺の一つ。
.
543
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:39:25 ID:OeiHTfo.0
鈍い音がした。
ドクオの耳には確かに、その音が聞こえた。頭を揺さぶるような異音ではなく、もっと小さな鈍い音。
それは兄者のブーツが壺に当たった音だった。
兄者の放った蹴りは見事に命中し、壺が倒れて割れる。
甲高い音と共に破片が飛び散る。
しかし、兄者は壺にはもう目もくれず、膝をつくと手にしたナイフを突き立てた。
(#´_ゝ`)「そう何度も同じ手にかかって、たまるかっての!」
ナイフが突き立てられたのは、先程まで壺が置かれていたちょうどその場所。
祭壇から続く、白い石材。
兄者は無言で力を込めると、ナイフを少しずつ動かす。
かすかな音とともに、祭壇と同じ材質の石材が傷つき醜い傷が刻まれていく。
(;'A`)「兄者っ!」
ドクオは兄者の元へと、飛ぶ。
待機しろと言われたような気がするが、そんなものは知らない。
それよりも大切なのは、何が起こったのかだ。
.
544
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:41:15 ID:OeiHTfo.0
(; ´、ゝ`)「む。待っていろと言っただろうが」
('A`)「今のはなんだ、説明しろ」
ドクオは兄者の手元を覗きこむ。
祭壇と同じ白い石材。そこには赤黒い塗料で何かの図案が描かれている。
円と多角形で描かれたそれを見た瞬間、ドクオの紫の体はぞわぞわと得体のしれない感覚を覚える。
しかし、その感覚も一瞬ですぐに消え失せた。
('A`)「なんだ、これ」
ヽ(#`_ゝ´)ノ「諸悪の根源っぽい何か。詳しくはわからん」
(;'A`)「わからんって、おい」
( ´_ゝ`)「この部屋の中で、ここが一番いやな感じがした。
だから、仕掛けがあるならここだと思った。音がやんだところを見ると、これが正解だな」
へらりと笑って、兄者は言う。
その言葉が意味することをドクオはしばらく考えて、兄者がとんでもない博打を打っていたことにようやく気づく。
何もわかっていないのも同然なのに、目の前の男は何を考えているのか。
ドクオは兄者に怒鳴りつけたい気持ちにかられ、――弟者が兄者によく怒鳴りつけてばかりいるのも仕方がないなと納得した。
.
545
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:43:46 ID:OeiHTfo.0
(;´_ゝ`)「妙な音と聞いていたが、ありゃ音じゃなくて一種の暴力だな。ミミ ガ チギレル
一瞬で意識を持ってかれたのも、超納得だわ」
(;'A`)「……お前、馬鹿だろ」
(*´_ゝ`)「褒めても何も出ないぞ」
そう言葉を返しながら、兄者は祭壇の周りに立っている壺や燭台を蹴り倒していく。
時折、瞳を閉じて集中するそぶりを見せると。倒れた壺のなかの数個を砕き、床にナイフを突き立てていく。
('A`)「それは一体、なんなんだ?」
(;´_ゝ`)「んー、多分。魔力に反応して発動する術式とか罠とかそんなものだと思われ。
調査隊には魔法使いがいないからなぁ、いたら大惨事だったと」
('A`)「なるほどな。……ん、魔法使い?」
ドクオの声には耳を止めないまま、兄者はナイフを滑らせていく。
いくつか目の図案を傷つけ削った所で、「よし」とつぶやく。
(*´_ゝ`)「多分これでよし。嫌な気配はもうない」
('A`)「お、おう」
.
546
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:45:47 ID:OeiHTfo.0
( ´_ゝ`)「残るは結界なのだが……ふむ」
(;'A`)「その前に、一つ聞いていいか?」
(;´_ゝ`)「どうした、こんな時に?」
兄者の表情が怪訝そうにひそめられる。
ドクオはそんな兄者に向けて、先程引っ掛かりを覚えた言葉を放つ。
('A`)「兄者、お前さんは魔法使いなのか?」
( ´_ゝ`)「……」
兄者は一瞬きょとんと目を見開いた後に、小さく舌打ちをした。
自分が失言をしたことに気づいたように表情を歪める兄者に、ドクオは更に追い打ちをかける。
('A`)「さっきの妙な音、お前さんが一番効いていたみたいだし。
例の魔法陣を起動したのも、操られていたお前さんの魔力だ。
それから結界やら、ゴーレムの核やら、祭壇の罠やら……」
( ´_ゝ`)「俺は魔法使いじゃない。
弟者と違って師匠について学んだことだってないし、さっきのだって全部勘の我流だ」
(;゚A゚)「……は? 弟者、が?」
.
547
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:47:23 ID:OeiHTfo.0
魔法がこの上なく嫌いな弟者と、魔法。
この二つが、とてもじゃないが結びつかない。
ドクオは目を白黒させて兄者を見やるが、兄者はこれ以上その話題に触れようとはしなかった。
( ´_ゝ`)「それより今は、結界を崩すのが優先だ」
(;゚A゚)「……はひ」
兄者は立ち上がって、祭壇を睨みつける。
自身の手によって破壊された壺や燭台には目もくれず、兄者は白い台座に触れると目を閉じる。
大きな風が吹いたわけでもないのに、兄者の毛並みが逆立ち飾り帯が小さく音を上げた。
( ´_ゝ`)「……扉や天井と同じ魔力だ。
この祭壇を壊せば結界は壊せる。たぶん、だが」
(;'A`)「え? あ、そう?」
衝撃が大きすぎて話についていけないドクオの横で、兄者はナイフを持ったもう片方の手に力を込める。
白い台座を長め、それから台座横手の装飾を注意深く眺め、
台座を飾る装飾の一角に向けて、ナイフを振り上げた。
( ´_ゝ`)「……」
.
548
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:49:28 ID:OeiHTfo.0
( ´_ゝ`)「……気づいてしまったのだが」
振り下ろされるはずだった、兄者の腕が止まる。
その目はしっかりと標的となる装飾を睨みつけているのに、兄者はこれ以上動きを見せようとしない。
兄者の薄水色の毛並みがどこか青ざめているような気がして、ドクオは声を上げる。
(;'A`)「……ひょっとして、無理なのか」
(;´_ゝ`)「いや、きっとどうにかなる。だがしかし」
兄者の声はいやに歯切れが悪い。
それにようやくショックから立ち直ったドクオが話せと促すと、兄者は渋々と声を上げた。
(;´_ゝ`)「ここで結界を壊したら、あのデカブツはどうなるのだ?」
('A`)「……」
ドクオは沈黙する。
しかし、それもほんの少しの間だけのこと。ドクオは表情を引き締めるとすぐに兄者に詰め寄った。
('A`)「そんなこと、どうとでもなる。
だから、今はとにかく結界を解いてさっさと脱出を」
.
549
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:51:21 ID:OeiHTfo.0
(; _ゝ )「……できない」
しかし、兄者の言葉は否定だった。
これまで脱出に意欲的だったのが嘘のように、兄者は言葉を濁し黙り込んでいる。
ドクオは弱気になった兄者の態度に、とうとう怒鳴り声をあげた。
(# A )「どうして!」
(; _ゝ )「結界を解けば、あいつが外に出てくる。
だが、外には……しぃ者やでぃ者がいるんだぞ!」
(;'A`)「しぃ……さん……」
その名前にドクオの言葉も止まる。
黒いドレスに赤い飾り帯が似合う、優しそうな女性。
笑顔がとても綺麗で。あんなにきれいなニンゲンがいるのかと、ドクオは見とれたものだった。
しぃと、その妹のおとなしそうな娘。二人の姿がドクオの脳裏に浮かんで、消える。
( _ゝ )「あの二人は戦えない」
(#'A`)「……でも、このままじゃお前らが。
それに、外ならちゃんと戦えそうな奴がいるだろ!」
(#´_ゝ`)「ギコ者だって同じだ。
あのデカブツに普通の攻撃は通らん。いくらギコ者の力がすごくとも無理だ」
.
550
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:53:23 ID:OeiHTfo.0
感情的に言い切った後、兄者はすぐにその表情を消す。
何を考えているのかわからない無表情のまま兄者は、普段よりも低く声を上げる。
( _ゝ )「俺たちが死ぬか。ギコ者や他の皆を犠牲にするか。
……これはそういう問題だ」
(# A )「じゃあ、どうするんだよ!」
( _ゝ )「だから今、こうして考えているところだろ!」
兄者らしくない、過激な――ある種、突き放すような冷たい言葉。
それに怒鳴り返しながらも、ドクオは気づいていた。
ちゃらんぽらんに見える兄者でも、まっとうに追い詰められることがあるのだと。
( ´_ゝ`)「……魔法陣」
(;'A`)「は?」
ドクオの思考を邪魔するように、兄者が小さく声をあげる。
ぽつりと呟いた兄者の口元が、じわじわと上がっていく。
その瞳はいきいきと輝きだし、ついには笑顔になった。
(*´_ゝ`)「ドクオ、今すぐ魔法陣があったところまで案内しろ。
これは勝つるかもしれんぞ」
.
551
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:55:36 ID:OeiHTfo.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
(´<_` )「弱点が判明したのはいいのだが」
弟者は攻撃を避けながら、目の前の巨人の姿を見上げる。
目指すべき巨人の頭部は、長身の弟者の背よりもさらに高い位置にある。
軽く跳躍する程度では届きそうにない距離に、弟者は一瞬頭を抱えたい気持ちにかられる。
(´<_` )「頭の装甲を狙えと言ってもな。無理をすればいけなくもないが」
(;^ω^)「大変なのかお?」
(´<_` )「どうにかなるさ」
しかし内心の悩みなどなかったように、弟者は岩の巨人に向かって駆ける。
威力は高いが動きの鈍い巨人の腕をかいくぐり、最初の跳躍で無限軌道の上に着地を遂げる。
巨人の体を支えるその機構が動き出さないうちに、曲刀を持つ手を翻し一撃を放つ。
硬い音とともに、火花が散る。
刀が捉えたのは、頭部よりもやや下。人間で言うのならば、胸か首に当たる部分。
それに弟者が舌打ちをすると同時に、足元の無限軌道が音をたてて動き始め、弟者は慌ててその場から離脱をする。
.
552
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:57:36 ID:OeiHTfo.0
(;^ω^)「ええと、風じゃなくてあばばば」
跳躍、そして着地。
振り払われる腕は、姿勢を低くして回避。
追撃はせずに、そのまま後退。
(´<_` )「落ち着け。こちらが危なくなったら、手助けしてくれれば十分だ」
(*^ω^) !
(´<_` )「打ち込んだ感じでは、高さが足りない。
もう少し高さを稼ぐ必要があるな」
(*^ω^)「だったら、ブーンがなんとかするお!
ブーンがオトジャを風で飛ばすから、それでズバンと攻撃を」
ブーンの元まで後退した弟者と、ブーンが言葉をかわす。
作戦会議めいたその言葉の応酬に、ブーンの顔が心なしか輝く。
それに何を笑っているのだと弟者は言い放ち、再びゴーレムへとむけて駆け出そうとして、
(´<_` )「……兄者?」
動きを止めた。
弟者は視線をさまよわせ、兄の姿を探す。
.
553
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:59:51 ID:OeiHTfo.0
(;^ω^)「アニジャがどうかしたお?」
(´<_` )「今、一瞬あの音が……」
弟者の視線が、祭壇で止まる。
そこに何やら話し込む兄者と、ドクオの姿が見える。
祭壇の周りは壊れた壺や、倒れた燭台が散乱しており……
(#^ω^)「オトジャ、前っ!!」
(´<_` ;)「――っ、把握した」
ブーンの警告ではじめて弟者は、ゴーレムが接近してくることに気づいた。
足にあたる無限軌道で、弟者とブーンをひき殺そうと巨体が迫る。
魔力じかけの機関から鈍い音をあげて迫るゴーレムを、弟者は危なげもなく回避する。
ゴーレムの体を避けながら、すれ違いざまに足の機関に一撃を加える。
刀と岩がぶつかって甲高い音が上がるが、ゴーレムにダメージを与えられた様子がない。
それどころか重い反動がかかる腕を軽く振るうと、弟者は小さく舌打ちをした。
(´<_` )「バケモノめ」
/◎ ) =| )
.
554
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:01:41 ID:OeiHTfo.0
ゴーレムからの反撃はない。
大きな体は細やかな方向転換には不向きだ。だから初撃さえ避けてしまえば、どうということはない。
(´<_` )「ブーン、高さを稼ぎたい。いけそうか」
(*^ω^)b「まかせるお!」
(´<_` )「じゃあ、こちらが合図をしたら……」
弟者の動きがピタリと止まる。
言葉の続きも話すわけでも、攻撃をするでもなく、弟者は立ち尽くす。
かわりに出たのは、先ほどの言葉とはまったく関係ない乾いたつぶやき。
(´<_` ;)「――まさか、」
顔を上げた弟者に浮かんでいるのは、驚きの表情。
なぜ、どうして、信じられない――そう表情で語る弟者には、すでにゴーレムの姿は見えてはいない。
弟者の毛並みが逆立ち、顔色が徐々に青くなっていく。
(;^ω^)「オトジャ、どうしたお?」
(´<_` )「あの馬鹿」
.
555
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:03:17 ID:OeiHTfo.0
弟者の視線が祭壇へと向く。しかし、そこには誰もいない。
弟者の視線は動き、部屋の一番奥で止まる。
白い壁。そして、その前に立つ兄者と、その周りを飛ぶドクオの姿。
( ´_ゝ`)「 」
(;'A`)「 ?」
二人の声は、弟者の位置からは聞こえない。
しかし、弟者は直感でこれから何が起ころうとしているのか、はっきりと理解した。
弟者は粟立つ肌を強く押さえつけ、手にした刀を鞘へと収めると、動きの邪魔になる鞄を遠くに投げ捨てる。
(´<_`#)「どうして兄者はいつもいつも!!」
(;^ω^)「オトジャ!?」
( <_ #)「……」
ブーンの問いかけに、返答はない。
武器を収め荷物を手放して身軽になった弟者は、ゴーレムから背を向け走り始めた。
弟者の姿は、どんどんと遠ざかっていく。
しかし、それでもブーンは弟者を追おうとはせずに、目の前の岩の巨人へと向き直った。
(;`ω´)「えっと……ブーンが相手だおっ!!」
何が何だかわからないなりに、ブーンは戦うことを選んだ。
.
556
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:05:44 ID:OeiHTfo.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
('A`)ノ「魔法陣が出たのは、ちょうどここだ」
(; ´_ゝ`)「つかれたもうダメ」
二人の目の前には、そびえ立つ白い壁。
もうこれ以上は進めないというところで、兄者はへなへなと座り込む。
荒く息をつき、あがった息を何とか整えると、兄者は大きく息をついた。
┐('A`)┌ 「本当にお前さんの体力は残念だな」
ヽ(#´_ゝ`)ノ「俺の体力が残念なのは、俺のせいじゃないやい! 弟者が悪いんだもん!」
('A`)「兄者……もんって言うのはやめようぜ。気持ち悪い」
(;´_ゝ`)て「しんらつ!」
緊張感のないやり取りを終えた末、兄者は壁を眺める。
白いつややかな壁には繋ぎ目など、見えない。
兄者の見たところ、この壁は巨大な一枚の岩。一体どうやってこんなものを見つけて持ってきたのか、まったく検討もつかない。
.
557
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:07:41 ID:OeiHTfo.0
――兄者は、壁に触れる。
ひやりとした感触をかえすその壁は、何の変哲もない一枚岩に思えた。
が、今の兄者ならそうではないことを知っている。
('A`;)「お、おい、危ないぞ!」
( ´_ゝ`)「俺よりも弟者やブーンの方が、そもそもからして危ない件」
(;'A`)「じゃなくてその壁はさっき、魔法陣が!!」
( ´_ゝ`)「だからだよ」
壁に触れた手には、何の変化もない。
壁の方も同様で、先程までとなんら変わりない。
( ´_ゝ`)「召喚の魔法というのは、大抵もう一つ――送還の魔法と対になっている。
そりゃあそうだ。呼び出すだけ呼び出して、帰さないってのはマズイからな」
('A`)「もっと、わかりやすく言え」
( ´_ゝ`)σ「この魔方陣を使って、あのデカブツを送還する」
('A`)「できるのか!? っていうか、わかるのか!?」
ドクオは信じられないという顔で、兄者を見やる。
兄者といえばもう息は整ったのか、平然とした顔をしている。
.
558
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:09:21 ID:OeiHTfo.0
( >_ゝ<)b +「少なくともツン者のところで、こっそりと読んだ魔法書ではそうだった。
後は魔力の流れを見ながら、勘!」
(;'A`)て「結局のところ勘かよ! 考えなしなのも、いい加減にしておけ!!」
( ´_ゝ`)「こういうのは勘が一番モノを言うのだよ、ドクオ君。
それに、……後悔するよりは試してみるべきだと、俺は思う」
最後の言葉だけを真剣な声で言ってのけると、兄者は壁を睨みつける。
星を読むように視線を動かし、やがて「ここだ」と小さく呟いた。
それから、視線をドクオに移すと兄者は小さく笑った。
( ´_ゝ`)「弟者は怒るけどな。でも、やらないよりはずっといい」
('A`)「……」
兄者の真剣な言葉にドクオは言葉を失う。
それを見て取ったのか、兄者はこれ以上何も言わず瞳を閉じる。
瞳を閉じていたのは、ほんの少しの間だけ。兄者はすぐに目を開くと、壁へと向き直る。
( ´_ゝ`)「……」
兄者は壁を見据えたまま、意識を自身の下へと落としていく。
自分の内面。自分の中心を、井戸の底を見るように深く、深く覗きこむ。
.
559
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:11:27 ID:OeiHTfo.0
意識の底。その中に横たわる、ざわりとした感触。
その感触をはっきりと意識できるところまで、手をかけ引っ張り上げる。
――兄者の場合は、そんなイメージだった。
魔力を扱う感覚。
彼にとってはかれこれ十年ほどぶりとなる、意識しての魔力行使。
しかし、その空白期間などなかったかのように、呼吸するかのように自然と兄者は魔力を自身の中から組み上げ形にする。
( ´_ゝ`)「さてと、行きますか」
(;'A`)「本気でやるのか?」
意識できるところまで引っ張ってきた魔力を、両手へと走らせる。
壁と接した手から、魔力が流れだしていく。
そして、その感覚とともに壁面に浮かび上がるものがある。
光の軌跡が円と多角形を描き上げ、今では失われた文字が刻まれていく。
それは――先程まで壁に浮かんでいたのと寸分の違いのない魔法陣だ。
(; _ゝ )「……っ」
(;'A`)「おい、大丈夫か?!」
(;´_ゝ`)「……まったく、弟者といいドクオ者といいそんなにこのお兄ちゃんが心配ですか、っと」
.
560
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:14:38 ID:OeiHTfo.0
ドクオの声にそう答えて、兄者は細い目を更に険しくする。
口調だけは軽いもののその表情は真剣そのものである。
(;´_ゝ`)「よーし、このまま言うこと聞いてくれよ」
兄者は慎重に、魔力を込めていく。
少しずつそして徐々に勢いを強く。魔法陣を見据え、こちらの意志に沿うように力を強めそしてその方向性を変えていく。
一人分の魔力で足らなければ、もう一人分の魔力を。
力が逸れそうならば、少しずつ調節を。
もともと、星を読むのは得意だ。
些細な術式と魔力の流れを、星の微かな動きを見るのと同じように読み取る。
血のように流れる魔力を操り、調整していく。
(; _ゝ )「逆に、狭く、強く――そうじゃない」
(;'A`)ハラハラ
( ´_ゝ`)「帰れ、返れ、変えれ、かえれ――還れ」
兄者の言葉が意味するところはドクオには読み取れない。
しかし、兄者はつぶやきに応じて、流れる魔力の大きさが、方向が微妙に変化していくのが見て取れた。
.
561
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:15:27 ID:OeiHTfo.0
魔法陣を描く光が白から黄。そして、緑から青と色を変えていく。
それと時を同じくして低い音が――、そしてそれを打ち消すように甲高い音が鳴り響く。
高く低くを繰り返す音達は狂った調子に鳴り響き、とてつもなく耳障りだ。
それでも、兄者は動かない。
かわりにその顔は発熱で赤く染まり、汗が一筋、二筋と地面へと吸い込まれていく。
( _ゝ )「還れ、還れ、還れ」
('A`)「……」
魔法陣の光は幾筋にも残像を増やし、そこに流れ込む魔力はどんどんと増えていく。
魔力混じりの風が兄者の足元から吹き上がり、ドクオの体は流されそうになる。
聞こえる音はドクオが耳を塞ぎたくなるほどに大きい。
兄者の体がぐらりと、大きくゆらいだ。
慌てて足を踏みしめ体を支えるが、兄者の顔色は今や紙のように白い。
壁に添えられた手は小さく震え、それでも流れだす汗は止まらない。
(;'A`)「……兄者、もういいやめろ!!」
( _ゝ )「……おもしろい冗談ですな、と」
楽ではないのだろう。兄者の顔からは表情がごっそりと抜け落ちている。
分が悪いのは明白だった。
それでも兄者は壁を睨みつけ、魔力を止めようとはしなかった。
.
562
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:17:13 ID:OeiHTfo.0
(; _ゝ )「――還れ!」
色を変えていく魔法陣が強く、弱く明滅を始めた。
その光と対応するように、ゴーレムの体に一筋、二筋と光の筋が絡み始める。
高く低く鳴る音は、暴風のように部屋中に響きわたっている。
(#'A`)「ああもう、無茶しやがって!!」
魔力の奔流は渦を巻き、大きく火花を散らし始めていた。
その魔力の流れに、吹き飛ばされそうになりながらドクオは兄者へとその手を伸ばす。
風にはためく被り布を掴み、兄者の顔へとようやく手を伸ばす。
(#'A`)「やめろ! これ以上はヤバイ!」
ようやく届いた兄者の体は、冷えきっている。
手だけではなくて、全身が震えている。
そんな状態なのに、魔力だけは際限なく兄者の体から壁へと流れだしていく。
(#'A`)「おい、やめろ」
ドクオの力では。体の大きさでは兄者を止め切れない。
その間にも、周囲に響く耳障りな音は大きくなっていく――。
.
563
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:19:16 ID:OeiHTfo.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
弟者は走る。
その歩みは弟者自身が思うよりもはるかに遅く、胸を掻き毟りたくなるような焦燥感に叫びたくなる。
まだか。
まだなのか。――弟者は自問自答を繰り返し、そして気づく。
走っても間に合いそうにないのならば、取れる手段が他にあるではないか、と。
(´<_` )「……緊急手段」
扉の前で、兄者が冗談めかして言っていたそれ。
双子だから。できそこないの産まれぞこないだからこそ取れる、唯一の方法。
(´<_` )「手段は選んでいられない、か」
弟者は走りながら、意識を下へと落としていく。
魔力を取扱うときのイメージ。もう何年も忘れていた、その感覚。
弟者=流石という名のイレモノを超えたさらに、下。
肉体という垣根を超えて、“自分”という存在そのものの中へと意識を向けていく。
.
564
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:21:19 ID:OeiHTfo.0
( <_ )「あの馬鹿」
そして、弟者ははっきりと悟る。
流れだしていく魔力の量が、とてつもなく多い。 ・ ・ ・
兄者=流石というイレモノの持つ量を超えて、弟者=流石というイレモノが預けていた魔力までもが流れだしていく。
魔力が向かう先は――再度出現した、魔法陣。
黄色から緑。そして、青へと色を変え、渦を巻き火花を散らす魔力の奔流。
( <_ #)「やめろぉぉぉ!!!」
弟者は“自分”の内へと手を延ばす。
実際に手を伸ばすわけではなく、魔力を扱う時と同じ、自分の内部へと手を延ばす感覚。
流れだしていく魔力を意識の中でつかみとり、それを強引に断ち切る。
意識の一角がひっかかり抵抗された気がしたが、弟者はそれすらも押し切る。
( <_ ;)「――くっ」
断ち切った魔力が、逆流する。
魔法陣のものらしき異質な流れと、魔力が弟者の中を暴れて焼く。
自分の内側を焼きつくそうとする激しい痛みに弟者は呻くが、それもすぐに止む。
どこにも損傷はない。先ほどの魔力は魔法のたぐいではなかった。
――だから、これは痛みを受けたという錯覚だ。
.
565
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:23:19 ID:OeiHTfo.0
ほんの一瞬。
魔力がほんの一瞬、逆流しただけであの痛み。
あんなふうに滅茶苦茶に魔力を扱えば、その負担は軽くは済まない。
……兄者本人の負担は、この程度で済むはずがない。
(´<_` )「くそ兄者が」
弟者は走る。
魔力を取り返そうという抵抗を押さえつけて、祭壇のその向こうの壁を目指す。
広がる魔法陣は、魔力を絶ったというのにまだ消える気配がない。
大丈夫。
まだ大丈夫。まだ、決定的な破滅が訪れたわけではない。
だから、走れ。
今は――あの時とはもう違うのだから。
(´<_` )「――俺は、決めたんだ」
内心の葛藤を振り払い、弟者は走り続ける。
その頭からは、ゴーレムや脱出という言葉は消えている。
今、彼の内心を占めているのはどうにかして、兄者を止めなければという一点のみ。
草を踏み散らし、石を蹴り飛ばして進む。
――そして、伸ばした腕はようやく、届いた。
.
566
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:25:31 ID:OeiHTfo.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
(# _ゝ )「――馬鹿弟者っ!!」
壁へと魔力を向けていた兄者が、不意に怒鳴り声を上げた。
いくら顔をひっぱたいても、たいして反応をしなかった兄者の突然の変化にドクオはたじろぐ。
(;'A`)「は、あ、え?」
(#´_ゝ`)「あいつ魔力全部持って行きやがった、こっちはまだいけるっていうのに。
戦ってるんじゃないのかよ、畜生」
ドクオには兄者の言葉の意味が分からない。
ただ兄者の荒れ様を見て、ただごとではない何かが起こったと察するだけだ。
ドクオは兄者の顔を見上げて、それから視線を壁へと移して、異変を悟る。
魔法陣に流れる、魔力が激減している。
いや、魔力そのものが止まったといったほうが正しい。
兄者は怒りを隠そうとしないままに、壁を見据えそれから瞳を閉じる。
(#-_ゝ-)「まだ取り返しがつく。ドクオお前――魔力は」
.
567
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:27:32 ID:OeiHTfo.0
瞳を閉じ意識を集中しようとする兄者の肩を、背後から伸びた手がぐいと引く。
突然のことに体勢を崩す兄者の手を、後ろから伸びたもう片方の手が掴みさらに引く。
(;´_ゝ`)て「うっひゃぁお!!」
体勢を立て直せずに、兄者は派手に尻餅をつく。
受け身などまともに取れなかったものだから、体重と落下の勢いに兄者の臀部が激しく痛む。
一体何が……と、兄者は視線を上げる。
そして、息を荒げ血相を変えた弟者の姿が兄者の目にはいる。
(´<_`#)「この馬鹿」
(;´_ゝ`)「お前、何でこっちに!!」
(´<_`#)「何ではこちらの台詞だ。
兄者は自分がどれだけギリギリだったかわかっているのか!」
(#´_ゝ`)「これが一番平和な解決方法だったのだ! ここで動かずにして何とする!」
兄者はふらつきながらも立ち上がる。
その顔色は変わらず白いままだったが、それでも体の震えはどうやら止まったようだった。
(´<_`#)「だからといって無茶をする馬鹿がどこにいる!」
.
568
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:29:48 ID:OeiHTfo.0
(#´_ゝ`)「そういうお前こそ、ブーンとゴーレムは」
弟者に向けて声を上げる兄者の背後で、ひときわ大きな金属質の音が響いた。
それが一度、二度。
兄者が慌てて音のした方向をみやると、そこには黒にそまった魔法陣。
先程まで色を変え輝いていたはずの魔法陣。その記号や円が炎をあげて、白い壁を焼いていく。
( ;゚_ゝ゚)「――って、あぁあああああああ!!!!!」
(;゚A゚)「げぇぇぇぇぇ!!」
崩壊は止まらない。
魔法陣の円が焼き切れ、浮かび上がっていた文字が消えていく。
それとともに魔法陣の術式がちぎれ崩れていくのを、兄者は瞬間的に理解した。
(; ゚_ゝ゚)「魔法陣ちゃんがぁぁぁぁぁ!!!」
(;'A`)「ゴーレムは……」
ドクオは壁からゴーレムへと目を向ける。
――そびえ立つ岩の巨人はいまだ健在で、消える気配すらない。
飛び回るブーンの目の前、ゴーレムの体に魔法陣の名残の光が一筋強く輝いてすぐに消えた。
(ノ'A`)ノ「いやぁぁぁ、とっても元気でいらっしゃるぅぅぅ!!!」
.
569
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:31:58 ID:OeiHTfo.0
(; ゚_ゝ゚)「魔法陣……魔法陣ちゃぁぁぁぁん!!!
だめだ。もう反応しないぃぃぃ!!!!!」
(;゚A゚)「あばばばばば、どうするんだよ、おい!!」
(;´_ゝ`)「この状況を打破できるとっておきの手段だったのに。
ああ、もう次だ次っ! 別の手段を考えるぞ」
そう言いながらも兄者は、取れる手段がもうほとんど残っていないことに気づいていた。
結界を崩して脱出するか。それとも、ゴーレムを倒すか。
ゴーレムを倒すのは絶望的。それは弟者とブーンの奮闘で既にわかっている。
迷っている時間はない。そんなことをしていたら、ゴーレムを引きつけているブーンが危険だ。
(´<_` )「兄者よ。真面目に考えているところでなんだが。
――要はアレを倒してしまえばいいのだろう?」
……そんな中、弟者だけがいつもと同じ口調でなんでもない事のように言った。
.
570
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:33:20 ID:OeiHTfo.0
(# _ゝ )「お前はアホか! 馬鹿か! 死ぬのか!」
(´<_`;)「えー、あー。」
兄者の剣幕に弟者は一瞬だけ、言葉に詰まる。
それでもその動揺は一瞬だけで、すぐにその表情は感情の薄いいつもの表情に戻る。
・ ・ ・ ・
(#´_ゝ`)「お前が強いのは知ってる。なにせ二人ぶんだからな。
だけど、それだけでどうにかなる相手じゃないだろうが!」
(;'A`)「おい、兄者落ち着け。それより脱出を」
(´<_` )「でもな、俺だけでもなんとかなると思う」
兄者の怒りの声にも、弟者の表情は変わらない。
怒っているのか、焦っているのか、単に余裕なだけなのか、まったく見えない表情。
.
571
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:35:41 ID:OeiHTfo.0
(´<_` )「だって、な」
弟者はどこか遠くを見るように目を細めると、小さく呟く。
その表情にはやはり、何の感情も浮かんでいなかった。
( <_ )「――俺はそういうのが嫌いなんだから」
そして、その言葉と同時に――兄者の体は崩れ落ちた。
.
572
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:36:23 ID:OeiHTfo.0
そのなな。 戦え、その命尽きようとも
おしまい
.
573
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:37:09 ID:OeiHTfo.0
投下ここまで! しばらく休憩したらオマケ8レス投下します
574
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 23:00:14 ID:OeiHTfo.0
ゴソリ
彡⌒ミ
.( ´_ゝ`) 「ああ、良く寝た。母者さんとの交代の時間までは、と」
彡⌒ミ
(*´_ゝ`)フッフッフッ
彡⌒ミ
∩(*´_ゝ`)∩「さーて、儂の愛する植物ちゃんたちは……」
彡⌒ミ
( ; _ゝ )「……オワタどうしたんだ?! ゆうたろう、それにブームくんまで!!」
彡⌒ミ
( ; _ゝ )「フッジサーン!!」
彡⌒ミ
( ;_ゝ;)「そんな、せっかくオワタに花が咲いたというのに! 誰がこんなひどいことを!」
.
575
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 23:02:15 ID:OeiHTfo.0
,――――――ヽ
,――――、 / \ /\
_/ \ / ヽ/ \
/ ,V ━━━━━━━━┥ ◯_.\
| -'''''''''ヽ ━━━━━━━━┥ //(_冫 ⌒ヽ、
| / .−‐ 1 `\ │// | | |
| l ヽ.___ノ ,' l │/ | | ( ) |
| 、._.../ ,' │ .| | |
| /⌒ヽ く ━━━━━━━━┥ .| | 〃
! `ー‐' / ! ━━━━━━━━┥ .| | ノ
\\ / /| | .| | /
\\ / /_| / .| | /
r-― \\ / // \.| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
/ \\ ,/ / | r―――― () () () | ( )'''''''''''''''''''''''( ) |
/ \ V /―| // ̄ ̄ ̄ ̄() () () | | || |
│ ....--\/――(('_`_`_'() () () | ( )'''''''''''''''''''''''( ) |
釗 / ,..-‐‐‐l\ ヽー―――() () ()  ̄"ン ̄ ̄ ̄ ̄~.) ̄ ̄~)
ヽ、 1釗 l│ /ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ │礀 1 │
゙ヽ ゙''\:二ニ-‐ ノ_ノ ノ ノ ノ ノ | ゝ ノ 丿
ヽ―――ヽ―――――――――――――――――――――‐''’――
マルタスニム卿/著『幻想生物研究録』よりゴーレムの図
おまけ劇場 l从・∀・ノ!リ人 でざーと×しすたーのようです
.
576
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 23:04:34 ID:OeiHTfo.0
彡⌒ミ
(つ;_ゝ;)つ「我が娘よぉぉぉ!!!!」
ガバッ
∬;´_ゝ`)て「ちょっ、父者どうしたの?
暑苦しいからさっさと離れて、気持ち悪い」
彡⌒ミ
.(;´_ゝ`)「姉者よ大変なんだ、儂の可愛いオワタが!ゆうたろうが、ブームくんが!!
それにフッジサーンまでもが大変なことに!!」
∬´_ゝ`)「……誰それ?」
彡⌒ミ
∩(;´_ゝ`)∩「オワタたちだよ。ほら儂が中庭で大事にしている!」
_,
∬´_ゝ`)「……父者。植物に変な名前をつけるなって、母者に怒られてなかった?」
彡⌒ミ
(*´_ゝ`)「ああ、それについては、ちゃんと母者さんと和解したから大丈夫だよ」
.
577
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 23:06:41 ID:OeiHTfo.0
彡⌒ミ
.(;´_ゝ`)「それよりも大変なのだ、姉者。
父さんの大切なオワタたちが無残にも踏み潰されてるんだ!」
∬´_ゝ`)「へー」
彡⌒ミ
( ;_ゝ;)「ああなんてかわいそうな、オワタ……ゆうたろう、ブーム、フッジサーン」
∬´_ゝ`)「そー」
彡⌒ミ
.( ´_ゝ`)「種の時から大切に守って育ててきたのに。
悲しい思いをして泣く泣く剪定もして、ようやくその苦しみが実を結んだというのに」
∬´_ゝ`)「へー」
彡⌒ミ
( ;_ゝ;)「オワタァァァァ!!! ゆうたろうぅぅぅ!!! ブームくぅぅぅん!! フッジサーン!!」
∬´_ゝ`)「そー」
彡⌒ミ
( ∩_ゝ∩)「姉者は優しいなぁ。流石は、儂の娘。
父さんの苦しみをわかってくれるのは、母者さんと姉者くらいだよ」
∬´_ゝ`).。oO(やばい。聞いてなかった)
.
578
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 23:08:06 ID:OeiHTfo.0
∬´_ゝ`)「それで父者はどうするの?」
彡⌒ミ
.(;´_ゝ`)て「そうだ! オワタたちをひどい目に合わせた賊が、我が家に侵入したみたいなんだよ、姉者!
母者さんが出かけているこの時に、ああどうしよう?!」
∬´_ゝ`)「時に落ち着くといいわ、父者。
賊の気配なんて無いし、警備からは何の報告も入ってないわ」
彡⌒ミ
.(;´_ゝ`)「あ、そうなんだ。よかったぁ〜。
じゃあ、賊たちは儂のオワタちゃんたちだけが目的だったのかな」
∬;´_ゝ`)「……父者聞いてた? 賊は無いって言ったんだけど」
彡⌒ミ
(|||´_ゝ`)「……まさか、魔物?!
どうしよう、儂の力で娘たちを守れるか」
∬;-_ゝ-)「そんなの出てたら今頃大騒ぎでしょうが……」
彡⌒ミ
(*´_ゝ`)「あ。そうなんだ、よかったぁ〜」
.
579
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 23:10:19 ID:OeiHTfo.0
∬´_ゝ`)σ +「いい、父者? こういう場合は内部犯を疑うのが鉄則よ」
彡⌒ミ
.(;´_ゝ`)「……そんな。我が家にいるのは、みんないい子だよ!
疑うなんて、父さんは嫌だよ」
∬´_ゝ`).。oO(この人、こんなんでよく人生渡ってこれたな)
彡⌒ミ
( ;_ゝ;)「オワタたちのことは心配だし悲しいけど、みんなを疑うなんてとても儂には…
いやしかし、悪いことをしたら謝ることは大切だし。
ああ、儂はどうしたら……。母者さん、儂はどうしたらいいんだろう?!」
∬#´_ゝ`) イライラ
彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「なにか動物が侵入したのかもしれないし、何か不思議な現象が起こったということも。
いやいやそもそも、これははじめから事故だったんじゃないのかな?
もしそうだったとしたら疑うのはとても悪いこと……」
∬#´_ゝ`)「ああ、もう! 私がどうにかするから!!
父者は引っ込んでて!! 犯人見つけて、母者に引き渡せばいいんでしょ!」
.
580
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 23:12:13 ID:OeiHTfo.0
・
・
・
・
|゚ノ ^∀^)「はい。今日の授業はここまでですよー」
⊂l从-∀-;ノ!リ人「つかれたのじゃー。
いつもより、いっぱいお勉強させられたのじゃ……」
|゚ノ#^∀^)「途中で寝たりするからですよぅ、もう!」
l从・〜・;ノ!リ人「……ごめんなさいなのじゃ」
|゚ノ ^∀^)「でも、途中からは頑張ってたから、先生ほめちゃおっかな〜」
l从>∀<*ノ!リ人「せんせい、大好きなのじゃー!」
|゚ノ*^∀^)「あらあら。妹者様ったら」
|゚ノ*^∀^)つol从・∀・*ノ!リ人エヘヘー
.
581
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 23:14:07 ID:OeiHTfo.0
∬ _ゝ )「……和んでいるところ悪いんだけど、ちょっといい?」
|゚ノ ^∀^)「あら、姉者様。何の御用でしょうか?
このレモナで役立てることでしたら、いくらでも」
∬´_ゝ`)「ごめんね。私が用があるのは妹者なの」
l从・∀・ノ!リ人 ?
|゚ノ ^∀^)「それはそれは、失礼致しました。
さあ、妹者様。姉者様がお呼びですよ」
;;;;∬*´_ゝ`);;;;「妹者ちゃん、お姉ちゃんとちょっとお話しようか?」
Σl从・∀・;ノ!リ人 ビクッ
l从・∀・;ノ!リ人:::. ……
つぎのはなしに つづく
.
582
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 23:15:29 ID:OeiHTfo.0
今日の投下ここまで
例によって書きため分がないので、次回の投下は未定です
完成したら来月中旬。無理でも生存報告には来ます
583
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 23:51:23 ID:zXLEe4ag0
乙!
584
:
名も無きAAのようです
:2013/06/24(月) 02:26:39 ID:h923mA/Y0
おつ
バトルかっけぇなー
楽しみに待ってるぞ
585
:
名も無きAAのようです
:2013/06/24(月) 03:22:35 ID:.9JK1Uc6O
おつ!
だいぶ佳境になってきたなあ
読むのが毎回楽しみすぎる
586
:
名も無きAAのようです
:2013/06/24(月) 03:24:38 ID:6AKer0lU0
待ってるよ!
587
:
名も無きAAのようです
:2013/07/06(土) 20:36:32 ID:TSDGt/8U0
一気に読んだわ。面白いなー。うまい
588
:
名も無きAAのようです
:2013/07/18(木) 10:27:45 ID:NKICDSnc0
おひさしぶりです
現在書きためは、そのはち。本編が116レス(タイトル等も含む)で仮完成、オマケは作成中です
この話は、その次に投下となる、そのきゅう。と、後日談で完結の予定です。
なので、最後まで書きためを完了させてから、間を開けずに少しずつ投下する形にしようと思います
間に百物語があるので、書き上がるには時間がかかると思いますが、気長にお待ちいただけたら幸いです
589
:
名も無きAAのようです
:2013/07/18(木) 20:13:41 ID:aGpjsXN.0
待つぜー!
590
:
名も無きAAのようです
:2013/08/20(火) 21:38:26 ID:GSrsGdds0
こっそり生存報告
書きため状況は
>>588
から変化なしです
百物語のために中断していましたが、ぼちぼちこちらの書きためも再開しようと思います
完成してても、してなくても9月の中旬にはまた生存報告にくるので、気長にお待ちを
591
:
名も無きAAのようです
:2013/08/25(日) 04:23:22 ID:PjSo4plkO
生存報告ありがたい
待ってるぜー
592
:
名も無きAAのようです
:2013/09/19(木) 13:50:56 ID:rp85/IssO
│д゚)チラリ
593
:
名も無きAAのようです
:2013/09/19(木) 13:52:52 ID:IgGcJTyI0
おや、生存報告かい?
594
:
名も無きAAのようです
:2013/09/19(木) 20:10:28 ID:qxOQxKPA0
あがっていたので生存報告をば
百物語での燃え尽きが思いの外ひどくて、ちょっと難航中です
現在書きためは、そのはち。本編が122レス、オマケが10レスで完成(本編が少し伸びました)
そのきゅう。は、現在12レスまで作成中(仕上がってない部分も含めると合計40KBくらい)です
次の生存報告は、10月中旬の予定。それまでには書き上げたいですが、予定は未定です
595
:
名も無きAAのようです
:2013/09/19(木) 23:05:55 ID:N9fvjisY0
量が増えるのはウェルカム
遅くなってもいいぜ待ってる
596
:
名も無きAAのようです
:2013/09/20(金) 09:11:36 ID:1D497UkU0
報告乙
完結まで付き合うよ
597
:
名も無きAAのようです
:2013/09/21(土) 03:41:21 ID:ZEHxh6Vc0
おつおつ、生存報告ほんとに安心するから嬉しいよ。
俺もそれまで、今までの話を読み返したりしながら待ってる!
598
:
名も無きAAのようです
:2013/10/18(金) 11:40:44 ID:Kix5NC0.0
影|A`)マダキテナイ…シエンスルナライマノウチ…
影|A`)つ
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1303.jpg
完結楽しみにしてるよー
支援
599
:
名も無きAAのようです
:2013/10/18(金) 20:00:32 ID:xI3Xq1FcO
>>598
ありがとうございます!!
ものすごい力作で、すっごくうれしい。キャラもだけど、背景とか小物の書き込みも素敵
それと、せっかくなので生存報告をば
そのはち。本編が122レス、オマケが10レスで完成
そのきゅう。本編が96レス、オマケが20レスで仮完成(見直しはこれから)
現在、後日談を作成中です。これが出来たら、見直しをして投下予定です
11月は生存報告ではなくて投下ができるといいとは思いますが、例によって予定は未定です
600
:
名も無きAAのようです
:2013/10/18(金) 21:01:40 ID:b5pT.gBY0
楽しみにしてるよん
601
:
名も無きAAのようです
:2013/10/18(金) 23:21:46 ID:3LUClPpU0
すごい書きため量……楽しみー!
602
:
名も無きAAのようです
:2013/10/18(金) 23:51:39 ID:Hdx31PwgO
生存報告乙!
いつまでだって待つから納得のいくのを書いてくれ。
こまめな生存報告と進捗を教えてくれるのほんとに安心するわ。
603
:
名も無きAAのようです
:2013/10/19(土) 00:23:10 ID:cvPVITB60
おお、楽しみに待っとく!
604
:
名も無きAAのようです
:2013/11/20(水) 00:47:59 ID:mUNaYCps0
こっそりと生存報告。某イベントに浮気してましたゴメンナサイ
書き溜めの方は、
そのはち。本編が122レス、オマケが10レスで完成
そのきゅう。本編が96レス、オマケが20レスで仮完成(見直しはこれから)
後日談が、71レス相当で仮完成の状態です
レス数がレス数なため、見直しにかなり時間がかかりそうです
年内に投下を目指したいですが、例によって予定は未になります
605
:
名も無きAAのようです
:2013/11/20(水) 19:36:41 ID:03SKVqzU0
報告乙!
凄く楽しみにしてる
いつまでも待つよ
606
:
名も無きAAのようです
:2013/11/21(木) 01:09:57 ID:LlNxGI4AO
報告きてた!乙乙!!
じわじわと確実に書き溜め増えてるなあ…楽しみにしてるよー
607
:
名も無きAAのようです
:2013/12/04(水) 21:36:02 ID:rZZdxbms0
長いことお待たせしました、12月6日(金)の夜8時頃から投下します
608
:
名も無きAAのようです
:2013/12/05(木) 06:32:16 ID:mVnClryc0
時は来た
609
:
名も無きAAのようです
:2013/12/05(木) 08:08:09 ID:8WmKYcdMO
イヤッッホォォォオオォオウ!
* + 巛\
〒| +
+ 。||
* + / /
∧_∧ / /
(´∀`/ / +
/~ |
/ュヘ |*
+ (_〕) |
/ | +
ガタン / /ヽ |
||| / / | ||||
―――――――――――
610
:
品質は
:2013/12/05(木) 11:41:05 ID:B0XG./Ug0
買います!
http://u.ttj.cc/2J
http://u.ttj.cc/2K
http://u.ttj.cc/2M
611
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:04:59 ID:ttGVJWA.0
俺と兄者は、二人になりそこねた一人だ。
.
612
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:06:06 ID:ttGVJWA.0
まともに産まれなかった、人間のできそこないと、言い換えてもいい。
俺ともう一人の俺――兄者は、つながったまま産まれてきた。
感覚や力を共有しているとでも言えばいいのだろうか。
肉体というイレモノこそ二つあるけれども、俺たち二人は根っこのところでは一つだった。
(´<_` )「なあ、おれ」
片方が怪我をすれば、どれだけ遠くにいたとしてもわかったし、その痛みを引き受けることだってできた。
力が足りないのならば借りればよかったし、貸すことだってたやすくできた。
足りないのならば二人ぶんの力を使い、負担はそれぞれ分けあう。
そうやって俺らはずっと過ごしてきた。
( ´_ゝ`)「どうした、おれ?」
俺たちにとってはそれが普通。
だから、感覚や力を分け合う“もう一人”がいない他の人間がいつも不思議だった。
それは、今だって変わらない。
.
613
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:08:27 ID:ttGVJWA.0
俺は兄者で。兄者は俺。
俺の考えることが兄者の考えることであり、兄者の考えることが俺の考えることだった。
十年前……少なくとも、あの日が来るまでは。
(´<_` )「なあ、おれ。探検にいかないか」
今でも、思い出す。
どうやっても、忘れ去ることが出来ない。
――その言葉が、すべての始まりだった。
( ´_ゝ`)「それはよくない。母者におこられる」
+(´<_` )「でも、気になるだろう。おれはそうじゃないのか?」
(;´_ゝ`)「……」
(´<_` )「なあ、おれ。おれはどうなんだ?」
( ´_ゝ`)「……そうだな、おれ。おれもそうだ」
俺は少し考えて、それから小さく頷いた。
.
614
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:10:27 ID:ttGVJWA.0
打ち明け話を一つするならば。
――元々、鏡なんてものは大嫌いだったのだ。
誰も彼もが、鏡に写るのは現実とそっくり同じ風景だと言う。
だけど、そんなものは嘘っぱちだ。
物心ついたときからずっと、鏡に写る全ての光景はニセモノだった。
そうでなければ、俺ともう一人の俺がこんなに違って見えるはずがない。
薄水色と、若草色。
青と、緑。空の色と、草の色。
似ているけれど、全く違う毛並みの色。
鏡は、俺と俺が違うものだと突きつけてくる。
兄者と弟者という名前と同じだ。俺は、俺ともう一人が違うものだと突きつけるもの全てが大嫌いだった。
だから、かもしれない。
屋敷の一角。
使われなくなったものをしまうための、一室。
そこにある鏡に、当時の俺は惹きつけられた。
.
615
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:12:28 ID:ttGVJWA.0
_ _
,、,j `´ !.,、
_ __r' \.Y./`ヽ__ _
,、/ `´ヽヽ .|. ,´,´ `´ \
,、_ノヽゝ (`´ヽヽ ..|.. //`´) ノノゝ_,、
〉-===−-ニニヽl | lニニ-−===-〈
/_ヽ_r−-、__--、_,ノl..|..l!.、_,--__,-−、_/_\
__/ /=/ `ー´  ̄ ̄ `ー´ \=!.\__
,-" 〉/= / ヽ=\〈゙-、
`)゙( ( (= i i= ) ))"(
( `Yミ=}_ _{彡Y´ )
<=--ヽ=、`、 ,´ ,=/ --=>
〈彡´ ̄ )) ) ( ((  ̄`ミ〉
//ミ≡/ \≡彡\\
\\\/ ヽ///
(ミ、.Y Y.,彡)
l≡ l l ≡l
l圭ヽ / 圭l
`l圭 ! ! 圭l´
(三=`, 、´=三)
lミミ i_ / _i彡彡l
`lミミ l / .l彡彡l´
lミミ l / / .l彡彡l
(ヽヽ } / / { / / )
/__ノ .ヽ / / / ゝ__ヽ
\三≡、\ / / /,≡三/
 ̄\彡ヽ / /ミ / ̄
\彡ヽ r−-' 二二`-−ヽ /ミ /
ゝ圭⌒ヽヽ ノ...|...ヽ //⌒圭ノ
〈彡´`ヽ_/..|..\_/´`ミ 〉
\三三//l\\三三/
 ̄ ̄ ̄
.
616
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:14:16 ID:ttGVJWA.0
ありとあらゆる装飾で飾り立てられた、古い鏡。
金属で作られた蔦や鳥の姿。
金剛石や紅玉、青玉などの高価な石たち。
湧き出る泉をそのまま形にしたような、透き通る鏡面。
その鏡に映る、俺と俺の姿は――まるっきり同じ真っ白な毛並みをしていた。
本当の俺。
緑色なんかじゃなくて、本物の俺の色。
それは物心ついてからずっと抱えていた違和感を打ち消す、魔法の鏡だった。
――まだガキだった俺が、その鏡に夢中になるのにさほど時間はかからなかった。
(´<_` )「なあ、おれ。おれはどうなんだ?」
( ´_ゝ`)「……そうだな、おれ。おれもそうだ」
探検という名目で俺は兄者を連れ出し、暇さえあればその鏡を見に行った。
.
617
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:16:12 ID:ttGVJWA.0
――馬鹿だったのだ。
俺は屋敷の中に、危ないことがあるなんて思っていなかった。
怪しいものに近づくとどうなるのか、わかっていなかったのだ。
だから、罰を受けたのだ。
.
618
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:18:36 ID:ttGVJWA.0
それはいつもと同じ、何でもない一日だった。
あの日も、俺たちは部屋に忍び込んで、鏡を見ていた。
( ´_ゝ`)「なあ、おれ。誰かに、呼ばれてないか」
(´<_` )「……?」
そして、兄者は『何か』の声を聞いたのだ。
兄者に聞こえる声は、他の奴らには聞こえなくても、俺にだけは聞こえる。
――でも、あの日のあの時だけは違っていた。
(´<_` )「……聞こえない。聞こえないぞ、おれ」
( ´_ゝ`)「じゃあ、気のせいか……」
そう言って、兄者が何気なく触れた鏡の表面が、水面のように揺れた。
水に触れたように、その手が鏡に溶けていた。
不思議に思ったのは、ほんの一瞬。
(;゚_ゝ゚)「逃げろ、おれ」
次の瞬間には、俺は兄者のもう片方の手によって突き飛ばされていた。
何が何だかわからないまま兄者へ視線を向けると、そこには――真っ黒な腕がいた。
.
619
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:20:47 ID:ttGVJWA.0
そう、腕だ。
鏡の中、水の様に揺れる鏡面から、黒い腕が伸びている。
鋭くとがった爪。
それはまだ子供だった俺たちの胴をあっさりと捕まえられるくらいに大きかった。
(´<_`;)::「……何?」
肌がざわざわと粟立っている。
魔力を感じた時と同じ感じ、それなのに「これは嫌だ」という言葉が頭を駆け巡る。
とても寒かった。
あの黒い腕以外、部屋の中は何も変わらないはずなのに体が震えて止まらない。
赤や青の光がぐるぐると回り、視界を邪魔する。
(♯ _ゝ )「いいから早く、逃げろ!」
――なんなのだ。なんなのだこれは。
もう一人の俺はそう呼びかけるだけで、自分は逃げようとはしない。
(´<_`;)「おれ! おれもいっしょに」
.
620
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:23:00 ID:ttGVJWA.0
そして、俺はようやく気づく。
兄者の手は鏡の水面に飲み込まれたままだ。
その鏡面は水のように揺れているのに、兄者がどれだけもがいても腕を引きぬくことが出来ない。
連れ戻さなければと思った瞬間には、俺の体はさらに遠くに突き飛ばされていた。
他ならない、兄者自身の手によって。
俺は、俺から拒絶された。
(;<_; )「おれ!」
(*´_ゝ`)「おれはほんとに、泣き虫だよな。
男だし直さなきゃはずかしいよなぁ、やっぱり」
俺は、こんな状況だというのに笑っていた。
俺がこんなにも泣いているというのに、笑っていたのだ。
わけがわからなくて。
それでも、俺はもう一人を連れだそうとして立ちあがった。
――今でも、その瞬間を覚えている。
.
621
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:24:10 ID:ttGVJWA.0
( ´_ゝ`) 《止まれ》
俺の口がはっきりとそう動き、言葉じゃない言葉がその音を響かせた。
魔法。
先生に教わったわけじゃないのに、もう一人のおれは魔法がとても巧かった。
(;<_; )「――っ」
動かそうとした足が、その動きを止める。
抵抗しようとする動きは全て、魔法によって抑えられてしまう。
止まれ
短くて強い、制止の魔法。
その短い言葉が、魔力がどうしても振り払えない。
黒い腕が、動けない兄者の体をがっちりと掴む。
もう一人の俺はどうにかして腕を外そうと、体を動かしていた。
だけど、鏡面と黒い腕の力はそれよりもずっと強かった。
(;´_ゝ`) 《 》
そして、最後の抵抗にとおれが放った魔法は――黒い腕には届かず、
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622
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:26:28 ID:ttGVJWA.0
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八.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;/  ̄  ̄
ヽ_.;.;.;.;_.;.;.;_.;.;.;.;/
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623
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名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:28:13 ID:ttGVJWA.0
オ レ
兄者は、俺の目の前で――鏡の中から出た手に引きずられて
鏡の
なかへ
落ち――
……ぽちゃん
.
624
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:30:06 ID:ttGVJWA.0
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625
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:32:42 ID:ttGVJWA.0
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「弟者っ、どうしたんだい弟者っ!!」
( <_ )「――おれがいない!」
@@@
@# 、_@
( ノ ) 「しっかりしなっ、弟者っ!! ちゃんとそこにいるだろう!!」
( <_ )「ちがう、おれがいない!
おれはここにいるのに、おれがいないんだ!!!」
(;<_; )「おれはいるのに、どこにもいない
おれ……返事をしてくれ、おれ!」
彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「ああ、しっかりしろ弟者。兄者はお前じゃない。
兄者のことはちゃんと父さんたちが探すから、弟者はしっかりと気を持ちなさい」
∬´_ゝ`)「……馬鹿みたい」
彡⌒ミ
(#´_ゝ`)「姉者っ!」
(;<_; )「おれ……おれはどこ?
おれがいなきゃ、おれはここにはいないのに……」
.
626
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:34:32 ID:ttGVJWA.0
……そこからのことは、思い出したくもない。
誰も信じてくれなかった。
兄者は、鏡の中に落ちたのだと。あの黒い手に引きずり込まれたのだと。
どれだけ言葉を尽くして訴えても、無視された。
誰も、鏡のことなんて調べようとはしなかった。
ξ゚ -゚)ξ「元気出して」
(´<_` )「……」
ξ゚ -゚)ξ「いっしょにさがそ、兄者」
俺の言葉は、誰にも届かない。
母者の周りのヤツラの言葉を借りれば、俺はおかしくなってしまったのだそうだ。
なんでも一緒にしたがるくらい懐いていた兄が失踪し、正気を失ってしまったかわいそうな弟。
――どうでもよかった。
俺にとって大切なのは、どうやったら俺が見つかるのかというその一点だけ。
だけど、俺は見つからなかった。
誰もが見当違いの場所を探した。俺を探して出て行ったヤツラは、誰も俺を見つけられなかった。
(´<_` )「……おれが探さないと」
.
627
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:37:58 ID:ttGVJWA.0
兄者は死んだのだというヤツもいた。
――そんなはずがない。
兄者が死ぬときは、俺が死ぬ時だ。
そのくらい俺と、俺の半分はつながっている。
二人のなりそこない。できそこないの一人。
人間として不完全な俺は、片割れなしでは自分の肉体どころか精神さえも保つことさえできない。
(´<_` )「おれが、おれを見つけないと」
ξ;゚ -゚)ξ「どこ行くの、弟者!?」
誰もわかっていない。
わかっているのは、俺と俺だけだ。
( ´ー`)「どうしたかな、坊ちゃん?」
(´<_` )「おれが、おれを探さないと。おれじゃないと、おれを探せない」
俺だけが、俺が生きていることを知っている。
俺だけが、俺のいる先を知っている。だから――、
(´<_`#)「おれに、魔法を教えてください!」
.
628
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:38:54 ID:ttGVJWA.0
俺が頼ったのは母者と長い付き合いのある魔法使いだった。
大導師とも呼ばれていた彼――先生は、戸惑いながらも魔法を教えてくれた。
今にして思えば、ツンと先生だけは俺の話を聞いてくれたように思う。
しかし、その時の俺は、俺のことだけで頭がいっぱいだった。
( ; ー )「……魔神に呼ばれたか。これは厄介ダーヨ」
( <_ )「魔神」
――そして、俺は。
俺から俺を奪い取ったのが、人ではないと知った。
魔神
――魔力を振るい好き放題をする、神に等しい存在。
そんなものの気まぐれで、俺は俺を失ったのだ。
( ´―`)「……これは、生半可なことではいかないダーヨ」
(´<_`#)「それでもいい! おれは、おれがもどるなら何でもする」
.
629
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:40:40 ID:ttGVJWA.0
それから、二年の月日が過ぎた。
その間に俺の身長は伸び、体重も増えた。
先生について簡単な魔法なら扱えるようになったし、力だってつけたはずだ。
しかし、そんな俺をあざ笑うように、鏡は何を試しても俺を返すどころか何の反応も示さなかった。
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「いいから、呪術師でもなんでも連れてきな!!」
.彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「すいませんが、協力をお願いします」
母者や父者も何をしなかったわけではなかった。
その頃になると、ようやく俺の言葉を信じ始めた母者たちは試せる手段はなんでも取るようになった。
旅回りの魔術師や、魔道具を使いなんとか俺を取り戻そうと手を打った。
しかし、その甲斐なく日々は過ぎ――その日。
(´<_` )「……ぁ」
何がきっかけだったのかはわからない。
それこそ、単なる魔神の気まぐれだったのかもしれない。
ただひとつ確かなことはその日、鏡と外との間に道が出来たということだ。
.
630
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:43:18 ID:ttGVJWA.0
ほとんど使われない、ガラクタだらけの部屋。
微動だにしなかった鏡面が揺らいだ。
銀色に波打つ水面が、かすかに光を放つ。
そう思った瞬間、鏡の中からあの青や赤に光るとても嫌な魔力がして。
そして、
目が開けられなくなって、
( ´_ゝ`)
土埃が舞うその部屋。
そっと目を見開いた先に、二年前と同じ姿の俺が立っていた。
あの日からまったく成長しない姿で、俺の顔を見上げた俺はぽつりと呟いた。
・ ・
――おれじゃなくて、弟者と。
( ´_ゝ`)「お……弟者、なのか?」
( <_ )「……おれ」
あの時のままの俺と、成長した俺。
――俺と兄者の間では、今でも二年の時がずれたままだ。
.
631
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:44:45 ID:ttGVJWA.0
(;´_ゝ`)「ああ、泣くなってば弟者。
ほれ、俺はここにいる。そんな顔するなってば、おい」
( <_ )「……」
俺は――、いや兄者は少しだけ、困った顔をした。
返事ができないでいる俺の顔を見て、少しの間黙りこみ。
そして、あの馬鹿は言ったのだ。
(*´_ゝ`)「……鏡の中ってさ、すっげぇ楽しかったよ」
こっちは泣きそうだったのに。……いや、泣いていたのかもしれない。
それなのに、兄者はへらりと楽しそうに笑って、言ったのだ。
(<_`#)「……」
(;´_ゝ`)>⊂(<_`#)
( ;゚_ゝ゚)「いだいいだいぃぃ!!!! 耳! 耳引っ張るのやめてぇぇぇ!!!」
.
632
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:46:53 ID:ttGVJWA.0
なんてことはない。
頭がおかしくなりそうな二年間を過ごした俺とは違い、兄者はどこまでも気楽だった。
そうでなければ、こんなにも陽気に笑えるはずがない。
・ ・
( <_ )「……兄者」
だから、俺は決めた。
(´<_` )「俺が、弟者というなら。俺は、弟者でいい。
だけど、……もう二度と魔法とか、変なものに近づくな」
( ´_ゝ`)「……」
( <_ )「頼む……兄者」
こんな鏡は、いらない。
人ではない生き物はみんな、敵だ。
――魔法だっていらない。使わせたりだって、しない。
嫌いだ。死んでしまえばいい。壊れてしまえばいい。消えてしまえばいい。
俺を、俺から引き離そうとするものは全部全部なくなればいい。
そうすれば、俺は俺でいられる。
できそこないの一人ではなくて、普通の一人のようにしていられる。
.
633
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:48:45 ID:ttGVJWA.0
そう。
あの日から俺は――もう二度と”そちら側”に兄者を近づけないと決めたのだ。
.
634
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:49:26 ID:ttGVJWA.0
( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )
.
635
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:50:07 ID:ttGVJWA.0
そのはち。 できそこないの一人
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636
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:53:15 ID:ttGVJWA.0
(゚A゚)「兄者、どうした?!
やっぱさっきので、無理がっ!!!」
(; _ゝ )「……」
糸が切れた人形のように、兄者は動かなくなった。
何の前振りもなく崩れ落ちたきり、兄者の体は決して動こうとはしない。
いや、動かそうとはしているのだろう。
兄者は地面に倒れ伏しそうになる体をかろうじて支えながら、かなりの時間をかけて顔だけをかすかに上げた。
(´<_` )
表情を歪めた兄者が睨みつける先は、弟者。
弟者は動かなくなった兄の姿に、少しも表情を変えようとはしない。
まるで、そうなるとわかっていた様だった。
(#´_ゝ`)「弟者ぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」
兄者が、吼える。
637
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:54:11 ID:ttGVJWA.0
直接、危害を与えられたわけではない。
魔法が発動したような形跡もなかった。
(#´_ゝ`)「やめろ、いいから今すぐに返せ!!」
(´<_` )「――俺が、それを許すとでも?」
しかし、兄者ははっきりとした確信を持って弟者を睨みつけている。
怒りと焦りを隠そうとしない瞳。
それに答える弟者の言葉も、自らが元凶であると認めているかのようだった。
(#´_ゝ)「馬鹿野郎。死ぬつもりかっ!!」
(´<_` )「……死ぬ気はない。俺が死んだら意味が無いからな」
弟者の視線が兄者から外れる。
その瞳が向くのは、岩で作られた人と荷馬車の中間のようなイキモノ。
ゴーレム。魂を持たない、機械のようなまがいものの生命。
(<_` )「……」
弟者が背を向ける。
兄者は弟を止めようと手を伸ばし――その手が動かないことに舌打ちをする。
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638
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:56:18 ID:ttGVJWA.0
(#´_ゝ`)「ドクオ、弟者を止めろっ」
( )「その時は、ドクオを殺す」
(;'A`)「……」
弟者の低い声に、伸ばしかけたドクオの手が止まる。
弟者の表情は見えない。しかし、その声にはっきりとした殺意を感じてドクオはたじろぐ。
(#´_ゝ`)「どうしても行くっていうなら、力づくで止める」
(<_` )「兄者はおとなしく、ここで寝ていろ」
(; _ゝ )「――っ」
その言葉と同時に、兄者の頭がガクリと落ちた。
その表情が苦しげに歪み、荒げられた言葉は途中で止まる。
(; _ゝ )「――ばかやろう」
それでも兄者が辛うじて上げた声は、とても小さかった。
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639
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名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:58:04 ID:ttGVJWA.0
弟者は兄者の姿を見ようとはしない。
その視線が向かう先は、相も変わらず岩の巨人の姿だ。
( )「知ってる」
自分に言い聞かせるように呟くと――、弟者の足は地を蹴った。
弟者が向かうのは、ゴーレムのいる先。
そこではブーンが魔法を放ち、奮闘を続けている。
(;'A`)「弟者っ!」
今度こそ弟者を制止しようとドクオが動く――が、その手は宙を切った。
弟者の姿はドクオが予想したよりも、はるかに先にある。
弟者の足は早い。ドクオもそれを知っていて、羽を動かし手を伸ばした。
間に合った、と思った。
それなのに――間に合わなかった。
('A`)「……あいつ、あんなに足速かったか?」
伸ばした手を引っ込め。ドクオはごくりと息を呑む。
弟者の動きは――、ドクオが今日一日で見た中で群を抜いて速かった。
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640
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:00:59 ID:ttGVJWA.0
弟者はゴーレムを相手にしてから、ここまで疾走した。
それからろくに休んでいないのに、あの速さ。弟者の動きは落ちるどころかむしろ明らかに上がっている。
――兄者が動けなくなったのとは、ちょうど逆だ。
(-A-)「……」
ドクオは瞳を閉じて考える。
同じような光景を見たことがある、……ような気がする。
……たしか昼、二人組の盗賊に襲われた時だ。
盗賊の男を縛り付け、兄者を人質にした少女を拘束した弟者。
魔法使いである彼女を弟者は殺そうとして――、
ありえないほどに、弟者の動きが鈍った瞬間があった。
(´<_`; )「――な、」
弟者は信じられないという顔をしていた。
弟者の顔に張り付いて妨害していたドクオは、その姿をはっきりと見ている。
(*´_ゝ`)b「ちょっと、持って行かせてもらった」
動きの落ちた弟者。それとは対照的に、魔力封じを持った兄者の動きは別人のように速かった。
まるで、弟者のように。兄者と弟者が、そっくり入れ替わったように。
それこそあの時の動きは、――弟者の素早さが兄者へと『持って行かれた』ようだった。
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641
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:04:10 ID:ttGVJWA.0
思えば、ずっと前から妙だなと感じることはあったのだ。
ニンゲンにしては恐ろしく素早い弟者と、並以下の兄者。
軽々と曲刀を振り回す弟と、弱い兄。
魔力に反応する罠の中で平然としていた弟と、意識を失い操られた兄。
単なる資質や鍛錬による成果だと思っていたそれらの違いが、違うことに起因しているのだとすれば。
弟者の速さや、並外れ体力は――何の上に成り立っていたのか。
「……仕方ないだろう。運動と名のつく能力の大半は弟者が持ってるんだから」
「ちょっと、持って行かせてもらった」
「根性を見せろって言われてもな……お前さんが加減さえしてくれれば、俺ももうちょっと」
「俺の体力が残念なのは、俺のせいじゃないやい! 弟者が悪いんだもん!」
「お前が強いのは知ってる。なにせ二人ぶんだからな。
だけど、それだけでどうにかなる相手じゃないだろうが!」
その答えを、ドクオはとうに知っていたのかもしれない。
兄者はずっと言っていた。それでも、ドクオはありえないのだと、その可能性をずっと却下してきた。
.
642
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:04:54 ID:ttGVJWA.0
――二人は同じだと、ブーンは言った。
人を構成する上で最も重要な要素。決して同じであるはずのない魂が、同じなのだと。
「同じだよ。弟者にとっては、な」
「――そうだろう、俺?」
双子。
人のできそこない。
二つの肉体がありながらも、魂を同じくするこの兄弟は――、その腕力を、脚力を、体力を、魔力を、
('A`)「――共有、しているのか」
(; _ゝ )「……そんなに、御大層なものじゃない」
('A`;)「兄者!?」
兄者は俯いたまま、苦しそうに声を上げる。
そこにいつも浮かべている陽気な笑顔の、面影はない。
(; _ゝ )「……考えてることがはっきりわかるわけでもない……性格だって全然違う……」
それでも、歯を食いしばるようにして兄者は声を上げた。
.
643
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名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:06:29 ID:ttGVJWA.0
( ´_ゝ`)「……俺と弟者は、別人だ」
動かない体を抱えて、それでもきっぱりと。
自分と弟者は違う生き物なのだと、兄者は告げた。
まるでそれだけは譲れないと言うように、兄者の言葉は強かった。
(#´_ゝ`)「そもそも……あの馬鹿、自分が死にかねんってわかってない!」
(;'A`)「おい、兄者。大丈夫なのか」
( ´_ゝ`)「もうだいじょ――っ、ぅ」
兄者の声の一旦明るくなるが――すぐに、うめき声に変わる。
ドクオは慌てて兄者の傍らに舞い戻り、「無茶するからだ」と、その肩を叩く。
(; _ゝ )「……あんにゃろ、容赦なく持ってきやがって」
(;'A`)「持って行って――って、やっぱりお前」
額から流れる冷や汗を、兄者は拭う様子すら見せない。
兄者は俯いたまま、苦しそうに顔を歪めて言う。
.
644
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:08:23 ID:ttGVJWA.0
(; _ゝ )「……問題ない。認めたくはないが、……概ねドクオの考えている通りだ」
兄者は笑い声を上げるが、それもどこか空々しかった。
体は動かさないまま、瞳を閉じ。兄者は、ぽつりぽつりと語っていく。
(; -_ゝ-)「俺とあいつは、双子だからな。……悔しいけど、こういうのだけは融通が利くんだよ」
('A`)「それじゃあ、」
(;´_ゝ`)「……弟者が言っていただろう、人間のできそこない。
イレモノは二つあるのに、魂は一つ。そのイレモノだって完全に別れているとは言えない欠陥品」
どうしてなんだろうな――と、兄者は呟いたのかもしれない。
しかし、その声は小さくて、本当に聞こえたのか、それとも気のせいだったのかドクオには判断ができなかった。
ドクオは少し考え込んだ末に今、一番確認したいことを尋ねることにした。
('A`)「単刀直入に聞く。
お前が動けないのは、弟者がお前の力を奪ったからなのか?」
(; ´_ゝ`)「……そう言うと、なんかエグいな。
せめて持って行ってるとか、借りてるとかもっとこうさ……」
兄者が少しずつ力を込めて、なんとか座る体勢まで体を引き起こす。
しかし、それで限界だったのか。兄者の口からは言葉が消え、動きも止まる。
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645
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:10:22 ID:ttGVJWA.0
かなり長いこと沈黙した末に、兄者はようやく明るい調子の声を上げた。
(;´_ゝ`)「一つの体でふたりぶん動けるからな。使いようによっては便利なんだー。
できそこない様々。大いに万歳、だ」
(#'A`)「それで片方動けなくなってたら、ざまあねえだろ!」
(; _ゝ )「……まあな」
兄者は、ため息をつく。
反論の言葉が少ないのは、辛いからなのだろう。
どうしてそんな状態で、ペラペラしゃべろうとするかね。と、ドクオは怒りを通り越してもはや呆れにも似た気分になる。
兄者の言葉は、これまでの意見とぜんぜん違う。軽口を叩こうとするなら、せめて意見くらい統一しやがれというのに。
('A`)「さっきの、できそこない万歳っての。本気じゃないだろ」
( ´_ゝ`)「……おまえさんは、人の嫌がってるとこばかりに食いつくな」
('A`;)「うるせー」
兄者は、弟者の走り去った方向と視線を向ける。
弟者は既にゴーレムへと接触し、手にした武器を振るっている。
火花が上がり、風と魔力が渦巻く感覚が部屋には満ちている。
.
646
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:12:42 ID:ttGVJWA.0
( ´_ゝ`)「……弟者を頼む」
岩と床が起こす鈍い音。剣戟、魔法、草、風――あらゆる音が部屋中に響く。
その中で、兄者の小さな声はドクオにはっきりと届いた。
( ´_ゝ`)「虫のいい頼みだとはわかっている。
それでもあいつは、――俺にとっては弟なんだ」
('A`)「オレはブーンと違って、戦う力なんてないぞ」
ゴーレムが引き起こしたのか、床が震動する。弟者たちと岩の巨人の戦闘の影響はここまできている。
それでも兄者の表情だけは、とても静かだった。
( ´_ゝ`)「何かあったら、大声を上げるだけでいい」
._,
('A`)「それだけなら、」
(; _ゝ )「……少しだけ、休む…そ…間、……任せ……」
そのやりとりで、限界だったのだろう。ドクオの返答に小さく笑みを浮かべると、兄者は瞳を閉じた。
気絶したのか。それとも、眠りに落ちたのか。彼はそれ以上は喋ろうとはしない。
兄者の様子をひとしきり見てから、ドクオは顔をあげる。
視線を向けるその先は――、空気を噴き上げるゴーレムと弟者。そして、ブーンの姿だ。
.
647
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:14:15 ID:ttGVJWA.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
耳元で風が鳴る。
駆ける足は軽く、体から重さというものが消失したようだった。
軽すぎてかえってふわつく体を、腹に力をいれて支えながら、弟者はまっすぐ前を目指した。
一歩、もう一歩と走りながら、腰からシャムシールを引き抜く。
いつもならばずしりと手にかかる重みも、今の自分にとっては鳥の羽のようだ。
(*^ω^)「――オト、」
d(´<_` )「……」
ブーンの声に、弟者は静かにしろと身振りで告げる。
ゴーレムは背後を向いている。
駆け寄る弟者に気づく気配は、ない。
/◎ ) =| )
見上げるような巨体に向けて、弟者は利き足に力を込めた。
.
648
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:16:36 ID:ttGVJWA.0
弟者の足が、地から離れる。
腕を振り大きく勢いをつけて、ゴーレムの体を支える足――、無限軌道へ。
そして、そこからさらに跳躍し、巨人の細い腕を支える部品の一つへと着地する。
(´<_` )「……」
左手で体を支え肩へとよじ登ると、弟者は頭頂部へと駆け上る。
足に岩の硬い感触が伝わり、視界が一気に開けた。
風が、薄紫のフードを揺らす。
慣れ親しんだ、土埃混じりのぼんやりとした世界ではない。
そよぐ草、穏やかな日差し、空気は透き通り、吸った息に砂の味はない。
――ああ。
弟者は目の前に広がる光景に一瞬、言葉を失った。
白い壁に囲まれた、楽園のような箱庭。
心臓が、ひときわ大きな音を立てて動く。
高みから見下ろす世界は、未知であふれていた。
外にはこんな光景があるのか――。
胸に浮かんだ、動揺は一瞬。
憧憬にも似た思いは、足元から伝わるゴーレムの震動によって打ち切られる。
.
649
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:18:52 ID:ttGVJWA.0
(´<_` )「行けっ!」
弟者の腕がひらめき、シャムシールが巨人の頭へと突き立てられる。
勢いよく振り下ろされた刀は、それでも岩の肌を貫くことはできなかった。
鋭い音とともに、火花が飛び散る。
ただ、それだけ。
/◎ ) =| ) i...i...gi gi
――しかし、ゴーレムは音を上げ、その体を大きく揺らした。
(´<_` )「――きいた!?」
ゴーレムの腕が頭上の弟者を捉えようと、激しく動き始める。
しかし、弟者がどこにいるのかはっきりとわからないのか、伸びた腕が弟者に届くことはなかった。
一度、二度と、腕は執拗に振るわれる。
効いている。
そう、弟者は確信した。
兄者の言うとおり、頭部が弱点なのだ。
はっきりとした手応えこそ感じられなかったが、確かにゴーレムは頭への攻撃を嫌がっている。
.
650
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:20:41 ID:ttGVJWA.0
(´<_`#)「存分に、喰らえ!」
弟者は腰に下げたもう一振りの刀を抜き、その頭へと叩きつけた。
大きな衝撃と共に、弟者の腕を攻撃の反動が駆け上る。
まるで自身が攻撃を受けたかのような痛み。しかし、弟者はそれでも手にした刀に力を込め続けた。
刀はやはり、岩の表面に傷をつけることすらかなわない。
それでもゴーレムは体を震わせると、弟者を追い立てるようにその体を右へ左へと大きく傾けた。
/◎ ) =| )
――ぎちり、ぎちりという音とともに、ゴーレムの上半身が回りはじめる。
次第に速度を増し始めた動きに、弟者は膝をつき足に力を込める。
(´<_` ;)「くそっ」
宙へと弾き飛ばされそうになる体を、弟者はかろうじて支える。
しかし、その背後から音を上げて巨人の腕が迫り来る。
弟者は立ち上がり退避をはじめようとするが、その動きは一歩遅かった。
ゴーレムの体の動きと震動に、弟者の体が大きく傾ぐ。
体勢をなんとか整えようと踏み出した足は、何もない宙を踏む。
.
651
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:23:09 ID:ttGVJWA.0
( <_ ;)「――あ、」
そのまま、弟者の体は落下をはじめる。
体勢を整えることも出来ない。
胃がせり上がるような不快感と、全身の毛が逆立つ感触。
落ちる。
それでも、弟者は目をしっかりと見開き――、
/◎ ) =| )
(´<_` )つ==|ニニニ二フ
視線が交差する。
その瞬間、弟者の左手が動いた。
無骨な刀が驚くほど正確な動きで、ゴーレムの顔面を捉える。
/◎ ) =| ) ――a a a A a AAAA ! ! !
橙の光をあげ、火花が散る。
背を下にした、不恰好な姿勢で振るわれた刀。
力なんてろくにこもってないはずの一撃は、岩の巨人にこれまでとは比べ物にならないほどの衝撃を与えた。
.
652
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:24:56 ID:ttGVJWA.0
攻撃の勢いを利用して、弟者は上半身を、そして下半身をひねる。
そして、どうにか体勢を整えると、獣のように地に着地した。
ざっと地を踏む音とともに弟者の両足が、そして刀を握ったままの両手が地につく。
それと同時に風が止む。
その時、弟者ははじめてブーンが力を貸してくれていたのだと気づく。
(#^ω^)「――オトジャ、いくらなんでもムチャだお!」
(´<_` )「すまん」
必死過ぎてわからなかったが、あの無謀な着地が成功したのもブーンのおかげか。
弟者は心のなかで、感謝を告げる。
(´<_` )「行くぞ」
立ち上がり、動きに支障がないのを確認すると、弟者は再び地を蹴る。
それと同時に、振り下ろされたゴーレムの腕が弟者のいた場所へとめり込む。
(;^ω^)「おおおお、おうだお!」
ゴーレムの目――頭部の装甲に穿たれた溝がじっと弟者の姿を追いかける。
それを見やり、弟者は小さく笑みを浮かべた。
.
653
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:26:29 ID:ttGVJWA.0
/◎ ) =| ) i i a A
弟者が、再びゴーレムへと接近する。
右手がひるがえり、次いで左手に持った青竜刀が唸りをあげる。
シャムシールも青竜刀も本来、片手で振るうための武器だ。
しかし、それを一本ずつ両手に持つとなると話は別だ。
(´<_` )つ==|ニニニ二フ
重みのある刀身を力で強引に振るいながら、弟者はゴーレムを睨みつける。
ギチリと音を立てる無限軌道に、二度シャムシールで刺突を繰り出す。
間髪入れずに、青龍刀の横薙ぎ。
ゴーレムの腕を三歩下がり回避すると同時に、軸足をめいっぱい踏み込み跳躍する。
(´<_` )「……」
高く飛び上がった体は、巨体の腕へと落下する。
着地もそこそこに、弟者はゴーレムの岩の腕を駆け上がると、再度踏み切り二度目の跳躍を遂げる。
勢いを上げて吹く風が、弟者の耳元でうなりをあげる。
しかし、恐れることはない。
今の弟者にとって、風は弟者を守る盾であり、武器だ。
.
654
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:28:47 ID:ttGVJWA.0
そして、二度の跳躍をはたした弟者の眼前にゴーレムの“顔”が迫る。
先ほどの攻撃で一番効果があった、顔の装甲。
後ろに流された弟者の右手が流れるように弧を描いて、シャムシールの刀身をゴーレムへと叩きつける。
一際上がる、大きな火花。
焦げ臭い匂いが鼻をつくと同時に、体勢が崩れ弟者の体は落下を――
(#^ω^)《足場になるお!》
風が、弟者の背と足元を抱きとめるように渦巻く。
柔らかい寝台を踏むかのようなおぼつかない感覚。しかし、体を支えるにはそれで充分だった。
(´<_`#)「いけぇっ!!!」
足を踏み出す。
目に見えない風の足場に、弟者がためらうことはなかった。
左手に携えた青竜刀を、顔面へと突き出す。
銀の刀身は光をあげ、顔にあけられた溝へと吸い込まれていく。
.
655
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:31:03 ID:ttGVJWA.0
手にかかる鈍い衝撃と、刀身が何かを傷つけた感触。
その瞬間、確かに手応えがあった。
弟者は手にした刀を更に深く、押し込んでいく。
/◎ ) =| ) Ga gi ga GA
ゴーレムが、悲鳴じみた音――声を、上げる。
一際、大きなその声とともに、巨人は体を捻るように動きはじめた。
弟者は右手のシャムシールによる突きを繰り出そうとして、ゴーレムの二本の腕が臨戦態勢となっていることに気づいた。
(´<_`#)「ちっ」
舌打ちとともに、背後へと跳躍する。
ブーンが上手く支えているのか妙な具合に足元が揺れるが、弟者の体が落下することはない。
宙へと逃げた弟者の体をかすめるようにして、岩の腕が振り回される。
そして、巨人の二本の腕はそのまま顔をかばうように、構えられた。
(; ^ω^)「ずるいお! あいつ弱点をかくす気だお!!」
(´<_` ).。oO(……どうする?)
.
656
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:32:20 ID:ttGVJWA.0
あの岩の体で守りの体勢に入られてしまえば、弟者が取れる攻撃手段が無くなる。
頭部の装甲以外の攻撃は、ほとんど効果がない。
それに対してゴーレムは、人間など容易に轢き殺せる足――無限軌道がある。
このままでは、圧倒的に不利だ。
(´<_` ;).。oO(どうすれば……)
(#^ω^)「オトジャ、横っ!」
思い悩む弟者に、ブーンから警告がとぶ。
弟者がはっと顔をあげると、その横を黒い何かが通りすぎて行くところだった。
( _ :::)
弟者は慌てて、通り過ぎたそれを視線で追いかける。
同じくらいの背丈の、男。
――宙を飛ぶ弟者とすれ違った、何かはそう見えた。
しかし、それはおかしい。
人間はそもそも空を飛ばない。
魔法や道具、ブーンたち精霊や竜などといった存在の手助けなしでは不可能だ。
弟者だってブーンの魔法によって、宙に踏みとどまっている。
それにこの最奥の間の唯一の出入り口は封鎖され、誰かが出入りできる状況ではないはずだ。
.
657
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:34:21 ID:ttGVJWA.0
(´<_` ;)「……」
弟者は目をこらすが、その男の顔や服装は判然としない。
猫のようにぴんと立った耳。そして、武器とマントらしきもの――かろうじて、それだけが弟者の目に留まる。
/◎ ) =| )
男らしき姿は、一直線に宙を飛ぶとゴーレムと対峙する。
敵……というわけではない、らしい。
ゴーレムに立ちふさがる男の姿は、ギコではない。しかし、それでも誰かに似ているような気がする。
弟者は呆然と視線を漂わせて、
(:::: _ )
新たに現れたのは、その男一人ではないことに気づいた。
猫のような耳を持った男の姿。その顔はやはり、暗く陰りよく見えない。
そんな男の姿が一人、二人……。
(; ゚ω゚)「人がこっちにもいるお……」
(´<_` ;)「これは……一体、」
.
658
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:36:22 ID:ttGVJWA.0
突如現れた人の姿は、五人。
その誰もが、確かにそこにいるはずなのにはっきりとは見えない。
――人なのか、もっと別の何かなのか。
弟者の額から、汗がつと落ちる。
( _ :::)つ==|ニニニ二フ
五人の男が一斉にゴーレムへと向かう。
音をたてない滑るような動きは、やはり人にできるものではなかった。
(#'A`)「弟者ぁぁぁぁっ、つっこめ攻撃しろぉぉぉっ!!!」
(´<_` )「……ドクオ?」
弟者やブーンの戸惑いを切り裂くように、上がったのはドクオの声だった。
いつの間にか、弟者の間近にあらわれていたドクオは凄まじい勢いで怒鳴りつける。
(#゚A゚)「いいから早くっ!! そのデカブツをぶっ飛ばせ!!」
その声の剣幕に押されて、弟者は駆け出す。
右手にはシャムシール、左手には青龍刀。
二振りの刀を構えた弟者が向かう先は、ゴーレムの顔面。
二本の岩の腕で守られた、巨人の唯一の弱点。
.
659
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:38:11 ID:ttGVJWA.0
/◎ ) =| )// g
(:::: _ )
突如現れた五人の男の姿に、ゴーレムが弾かれたように腕を振り回し始める。
――そして、その瞬間。弱点である顔面が、はっきりと晒される。
(´<_`#)「くらえっっ!!!」
弟者が繰り出したシャムシールは、巨人の腕をかいくぐり、その顔面を鮮やかに貫いていた。
力を込めその刀身を深く押し込むと、弟者は左手に力を込める。
(´<_` )「もう一撃っ!」
青龍刀が、ゴーレムの“目”を深く突き刺さす。
突き刺さった刀を引き抜き、もう一撃。
弟者の放ったそれは寸分たがわず、同じ場所へと突き刺さった。
/◎ ) =| )// A A AAAA A!!
弟者がゴーレムの顔面を捉えるたび、巨人は声を上げて激しく腕を振るう。
その一振りに、ゴーレムへと向かった黒い男の姿が無残にも千切れ飛ぶ。
.
660
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:40:14 ID:ttGVJWA.0
( _ :::)つ==|ニニニ二フ
しかし、すぐ後ろに現れた別の影が巨人へと向かう。
腕をふるって対抗するゴーレムへ向かって、飛びかかったのは――
(:::: _ )
つい先程、ゴーレムの腕の一振りによってちぎれ飛んだはずの男の姿だった。
男は攻撃を食らったなど嘘のように、再び突撃を始める。
( ^ω^)「……アレは、何なんだお?」
(;'A`)「オレの作った“影”だ」
_,
( ^ω^)「カゲ?」
.
661
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:42:32 ID:ttGVJWA.0
五人の男たちはどれも似たり寄ったりの体つきをしている。
よく見ればそれは、――兄者や、弟者そっくりの体つきだ。
はっきりと顔の見えないその姿は薄っぺらで、自由に動き回ること以外は影と言われれば、なるほど納得できる姿だ。
('A`)「オレの力じゃ、目眩まし程度にしかならない。
弟者……がんばってくれよ」
影は手にした武器――青龍刀のような影を振るう。
が、その攻撃はゴーレムに命中した気配はない。
軌道は確かに合っている。避けられた形跡もない。
影の刀は、ゴーレムの体へと影を落とすだけ。
目眩ましという言葉の通り、ドクオの作り出した影たちは攻撃を加えることは出来ないのだろう。
(:::: _ )
五体の影は動き――、あるいは走り、ゴーレムの注意を逸らし続けている。
ゴーレムの腕に霧散し、それでも再び出現する。
影は痛みを感じないような動きで、ひたすら飛び、ゴーレムに接近してまわる。
その間を縫うようにして、弟者の持つ刀の銀の閃きが巨人の顔へと振るわれる。
.
662
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:44:25 ID:ttGVJWA.0
(´<_` )「行ける」
弟者は刀を振るい続けながらも、手応えを感じていた。
弟者の振るう刀は、大きな打撃を加える事はできない。
しかし、それでも今の弟者はゴーレムへ着実にダメージを与えていた。
巨人の顔面。この部分の装甲は他よりも柔らかいのだろう。
突き出され、薙ぎ払われる二振りの刀は、巨人の“目”周辺に無数の小さな傷をつけ始めていた。
(´<_` )つ==|ニニニ二フ
ブーンの巻き起こす魔力の風は、弟者の動きに応じてその方向を自在に変える。
上と言えばその体を上空に持ち上げ、下と言えばその体を下降させることだってできる。
突如として現れた五つの影に気を取られ、動きの鈍くなった巨人の腕を上へ下へとかいくぐりながら、弟者は腕を振るい続けていた。
(´<_`#)「――死ね」
/◎ ) =| )//
弟者と、ゴーレムの視線が交錯する。
両者は、再びにらみ合う。
.
663
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:46:53 ID:ttGVJWA.0
かちりという――、音がなる。
何だ、と弟者が思ったのはほんの一瞬。
(゚<_゚ ; )「!?」
(; ゚ω゚)「オトジャぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
次の瞬間、ゴーレムは体から莫大な量の蒸気を噴き上げた。
とっさに顔はかばったが、熱と一面の白はオトジャから一気に視界を奪い去った。
目を開けるもの苦しい熱、べたりと体にまとわりつくした不快な湿気――。
(´<_` ;)「――ぅ」
(゚A゚)「……影、が」
白い熱をもった霧に阻まれて、ドクオの作り出した影が一つ。また一つと消えていく。
そして、残ったのはゴーレムの眼前。
ブーンの作り出した風によって支えられた、弟者本人の姿。
(゚<_゚ ♯)「――っ!」
迫り来る岩の腕を、弟者は下方に逃れて回避する。
そして、白くけぶる視界の向こうから迫り来るもう一方の腕を回避しようとして、弟者は息を止める。
.
664
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:49:44 ID:ttGVJWA.0
――ゴーレムの腕は、これまで見てきた姿とはまったく違う形をしていた。
腕の先に取り付けられた、岩の塊。
それが蠢き、細長く伸び――幾つもの針がついた拷問器具のような形へと姿を変えていく。
( <_ ;)「――くっ」
弟者は白い霧によって利かない視界と体を襲う熱に息を呑みながらも、致命的な一撃だけは回避した。
でも、それだけだ。
(;'∀`)「よしっ、避けた!」
(; ゚ω゚)「大丈夫かお!!」
ドクオも、ブーンもまだ気づいてはいない。
腕は二本。
視界を隠す灼熱の霧の向こうから、唸りを上げてもう一方の、岩の塊が迫り来る。
/◎ ) =| )
(´<_` ;).。oO(くっ)
.
665
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:50:27 ID:ttGVJWA.0
射程が読めない。
――どう避ければいいか、判断できない。
つ==|ニニニ二フ
とっさに盾にしたシャムシールに、迫り来る巨石がぶつかる。
痛いとか、重いという余計な感覚は浮かばなかった。
火花が上がり、支えようとする腕ごと引きちぎるかの衝撃が弟者の右腕にかかる。
(´<_`;)「――くっ」
(゚A゚)「なっ」
衝撃に抗いきれず、曲刀を握る手が緩む。
それで、最後。
支えを失ったシャムシールが手から離れ――飛んでいく。
行方はわからない。
それでも、このままではいけない、と弟者は左手の青竜刀をとっさに眼前へと差し出した。
.
666
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:52:20 ID:ttGVJWA.0
――後退する、余裕もなかった。
(゚<_゚ ♯)「チッ」
空中という不安定な足場は、いまいち踏ん張りが利かない。
受け流しきれず、刀が鋭い音を上げる。
手の感覚に違和感を覚えたのはほんの数秒。
一瞬、銀の光が落ちるのが見え、手のなかが一気に軽くなる。
( <_ ;)「――っ」
どうやら、青龍刀はダメになってしまったらしい。
曲がったか折れたか、それを確認している余裕は弟者にはない。
退避も出来ない不安定な体勢。頼りの武器も使いものにならず、敵との距離が近すぎる。
(ii ゚ω゚)「 !!!」
全身を覆っていた、風の魔力が止まる。
落下によってなんとか回避させようということなのだろう。だけど、それも遅い。
巨人の腕は、のっぴきならないところまで迫っている。
.
667
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:54:37 ID:ttGVJWA.0
助からない
時間が、いやに長く感じた。
これだけあれば、離脱することだってできるだろうというくらい長い感覚。
しかし、体はピクリとも動かない。
死を待つための、永遠とも思える時間が続き――、
(ii ゚ω゚)「オトジャぁっ!!!」
(#゚A゚)「兄者ぁぁぁぁぁ!!!! 聞けっ!! 起きろぉおおおおおおお!!!」
ブーンとドクオの大声が聞こえる。
だが、その声も遥かに、遠い。
( <_ ;)「 」
くそったれと――叫んだのかもしれない。
何と言ったのか自分でも自覚することのないまま、弟者の意識は
――それっきり、途絶えた。
.
668
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:56:46 ID:ttGVJWA.0
からんと何かが転がる音をしたのは、その直後。
転がったのは無骨な銀の刃。
弟者が手にしていた青龍刀の一部だった。
頑丈だった刀身は今や真っ二つに折れ、武器としてはもう使えない。
(ii ω )「オトジャ」
しかし、そんなものの姿はブーンの目には入らない。
ブーンが凝視する先は、ゴーレムの腕が振るわれた先。
岩の腕は弟者の体をとらえ、そのまま遠くへと吹き飛ばした。
弟者の体はろくな受け身も取れないまま、弾き飛ばされる。
そして、壁へと叩きつけられその動きが止まる。
鈍い嫌な音とともに、はっきりと赤の色が見えた気がして、ブーンはとっさに瞳を閉じた。
( <_ ;)「――ぐ、あ、」
そして、ブーンの耳は小さな声を拾う。
苦痛にまみれたうめき声。
それでも、声が聞こえたということは弟者は生きているということだ。
.
669
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:58:42 ID:ttGVJWA.0
シュゥという音は、ゴーレムのものか。
ゴーレムの攻撃を再び食らえば、弟者の微かな声は今度こそ完全に止る。
それはダメだ。
(#゚ω゚)《守るお! 全力で吹くお!!》
ブーンの声とともに魔力が吹き上がる。
弟者の体を守ろうと、風が大きく吹き荒れ……
(#゚A゚)「ブーン!!!!」
/◎ ) =| )
(iii ゚ω゚)「――あ」
弟者に気を取られたブーンの視界に入る、岩の腕。
いつの間にと思うよりも早く、腕の巻き起こす猛烈な勢いの風がブーンの体を叩く。
腕が触れたというのはブーンの錯覚なのか、それとも事実か。
ブーンの体は飛ばされ、地面に叩きつけられた。
弟者の体を守るように、吹く風が止まる。
――そして、ブーンの声は途絶えたまま、ドクオから見えなくなった。
.
670
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:01:16 ID:ttGVJWA.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
弟者は動かない。
ブーンにいたってはどうなってしまったのか、姿さえも見えない。
(;゚A゚)「おい、弟! しっかりしろ弟!」
気配を消し、ドクオは弟者の元へと駆け寄る。
いつもはふらついてしっかり飛べない羽も、この時ばかりはドクオの思うまましっかりと動いた。
( <_ ;)「――ぐ」
(;'∀`)「よかった、息はある」
弟者の息は、止まってはいなかった。
ドクオは弟者の顔を覗き込みながら、ほっと息を呑む。
予想よりもはるかに軽い怪我だ。これなら、安静にさせておけば、すぐにでも動けるようになりそうだ。
('A`)「……俺の力でできるのは、せいぜい目眩ましだけ。だったら、……」
.
671
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:03:40 ID:ttGVJWA.0
ドクオは、魔力を込めて言葉を放つ。
ゴーレムの目をそらす。それだけの効果しかない、目眩ましの結界。
弟者は激怒するだろうが、死ぬよりはマシだろうとドクオは覚悟を決める。
兄者の言葉じゃないが、羽の一枚の犠牲で、どうにかなるなら万々歳というやつだ。
('A`)「これで……、持ってくれよ……」
弟者から伸びる影に、ドクオは潜り込む。
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三三三三三三三三三三三三三三三三ニニ====ニニ三三三三三三三三三三三三三三三
('A`)「……ここは静かだな」
影という領域に属するものだけが入り込むことのできる暗い世界に、ドクオは降り立つ。
暗い影の世界は、ドクオの領域であり我が家だ。
その温かい安寧の世界の中で、ドクオは小さく息をつく。
.
672
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:04:21 ID:ttGVJWA.0
――ブーンについていかなければよかった。
盗賊なんて怖いもんは襲ってくるし、挙げ句の果てにはゴーレムなんてデカブツだ。
こんなことなら、いつもみたいにこの暗い影の中でまどろんでいればよかった。
影の中は暗いけれど、静かで――何も起きない。
安心安全安泰な我が家。オレが生まれた源にして、本体。
何もなくたっていいじゃないか。寝ていれば10年や20年なんてすぐに過ぎていく。
なのに。
どうしてオレはこんな事に付き合わされているのだろう。
羽は引きちぎられる。
投げ飛ばされる。
絞め殺されそうになる。
……ほら、ろくなことなんてないじゃないか。
こんなところは嫌だ。
でっかいバケモノと戦うなんてオレには無理だし、消滅したって嫌だ。
立ち向かっていく弟者やブーンの気が知れない。
オレには無理だ。
体が震えるし、痛いのは嫌だ。怖すぎる。
さっきまでのことは忘れて、とっとと寝てしまいたい。
――だけど、
.
673
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:06:32 ID:ttGVJWA.0
(#'A`)「ほっとけるかよ、クソッ。ブーンのせいだぞ!!」
ドクオは影の世界から、兄者の影へと移る。
躊躇うように何度か息を呑んだが、それでもドクオは外の世界へと飛び出していった。
('A`)「――おい、兄者!! 弟者のやつが!!!」
そう言って、ドクオは兄者の肩に手をやる。
寝ている様なら叩き起こそうと、ドクオは兄者の顔を覗き見て、その表情が凍りつく。
わけがわからない。理解できないという動揺に体を震わせながら、ドクオは声を上げる。
(;゚A゚)「……お前」
( _ゝ )「……」
兄者の口から血が一筋、首筋へと伝った。
兄者の薄水色の毛並みは血で赤黒く変色し、今やほとんど動かすことのできない手は、腹を強く押さえている。
(;゚A゚)「ずっとここにいたはずだよな
……弟者の武器だって、こっちには飛んでないはずだ……」
.
674
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:09:04 ID:ttGVJWA.0
兄者は動けなかった。
だから、ゴーレムに接近できたはずもないし、そもそも攻撃を食らう余地なんてなかった。
だけど、現に兄者は今にも死にそうな姿で――。
(;゚A゚)「……どういうことだ?」
( <_ ;)「――ぐ」
呟くドクオの脳裏に、弟者の姿が浮かぶ。
弟者の怪我はゴーレムの攻撃を食らったにしては、軽かった。
いや、軽すぎたのだ。あのバケモノの攻撃を食らって、ただで済むはずがなかったのだ。
(#゚A゚)「まさか、弟者のやつ」
(; _ゝ )「……ちが……う……」
兄者から根こそぎ力を奪ったように、受けたダメージを兄者に押し付けようとしているのか?
そう、口にしようとしたドクオの声を兄者が遮る。
兄者の顔からは血の気が失せ、その息も絶え絶えだ。
兄者が言葉を呟く度に、その口からは血がこぼれ落ちる。
.
675
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:11:50 ID:ttGVJWA.0
(#'A`)「何が違うだ。現にこうして」
( ´_ゝ`)「……弟者に……は……悟らせるな……」
そこから先は言葉にならなかった。
目を閉じ強く呻くと、大きく息を吐いた。
その言葉で、ドクオは理解した。
――さっきの逆だ。こいつは自分の意志で、弟者の受けた負担を肩代わりしている。
(; _ゝ )「俺たちは二人になりそこねた、できそこないの一人だ。
忌々しいことだが、俺がどれだけ否定した所でその事実は変えられない」
これが兄者の本音なのだろう。
兄者の顔は蒼白で、それでも開いた瞳はまっすぐだった。
( ´_ゝ`)「だけど、そんな産まれぞこないだからこそできることがある」
(#'A`)「それで無茶か。倒れたら、お前が死んだら意味ないだろう」
( ´_ゝ`)「……俺は死なないよ。
俺が死んだら、つながってる弟者が危ないからな」
.
676
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:13:18 ID:ttGVJWA.0
そして、兄者はゆっくりと動き始めた。
兄者の腕が時間をかけて、腰へと動く。
そこからさらに時間をかけて取り出されたのは、ナイフだった。
(; _ゝ )「――く」
(;A;)「おい、兄者もうやめろ。これ以上無理をするな」
(;´_ゝ`)「やなこったい」
兄者は手にしたナイフをゆっくりとした動きで振りかぶる。
その拍子に傷口が開いたのか額から血が流れ、顔を濡らしていく。
( ´_ゝ`)「俺は、――お兄ちゃんだからな」
これまでの動きが嘘のように、兄者の腕はなめらかに動いた。
振りかぶられたナイフが、岩の巨人へと向かって放たれる。
その速度は決して早いものではない。しかし、巨人へと向かってまっすぐに飛んでいく。
(;'A`)「お前、今何を……」
ニンゲンのように涙を流していたドクオは、兄者の動きにはっと息を止めた。
兄者は、今何をした? なぜ、身を守る唯一の武器を投げたのだ。
.
677
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:15:31 ID:ttGVJWA.0
(iii´_ゝ`)「……」
(#'A`)「兄者、こたえろ!!!」
兄者の力を振り絞った程度では、ナイフは早く飛ばない。
それどころか、それほど飛ばないうちに落下して地面に落ちる。
カランと高い音が響き、地に落ちる。
ただ、それだけ。
/◎ ) =| ) ……g
しかし、巨人の意識を逸らすにはそれだけで十分だった。
魂を持たない巨人は、武器を投げつけた生き物をはっきり敵として判断する。
ぎちりと無限軌道が動き、その体が兄者に向けて動き始める。
最奥の壁。その近くに座り込んだ標的。
動こうとはしない獲物へと向けて、巨人の体は動き始める。
( _ゝ )「……ドクオ、俺が言ったこと覚えてるか?」
(#'A`)「なんかあったら、大声を出せってやつだろ」
( ´_ゝ`)「……そっちじゃない。もっと前の方だ」
.
678
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:17:51 ID:ttGVJWA.0
いろいろありすぎて、覚えていない。
いや、今はそんなことを言っている場合じゃないだろう――と、ドクオは叫びかける。
そんなドクオの表情から言いたいことを読み取ったのだろう、兄者の口元が小さく緩む。
( ´_ゝ`)「もし何かあったら、俺は無視して祭壇を壊せ……それでどうにかなるはずだ」
(#゚A゚)「大馬鹿野郎!!! お前まさか」
( ´_ゝ`)「大馬鹿野郎か。よく弟者にも言われるな」
兄者の顔に浮かぶのは飄々とした、表情だ。
さっきまでの、真剣な表情は何処にも見られない。
この、嘘吐き野郎。――ドクオは、そう叫ぼうとして、ぎちりという異音を聞いた。
ぎちり
ぎちり、ぎりぎり、ぎちり
耳障りなそれは、この部屋で幾度となく聞いた音だ。
ゴーレム。岩で作られた、魂をもたないバケモノ。
/◎ ) =| )
その顔面に穿たれた溝は、はっきりと兄者の姿を見据えていた――。
.
679
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:20:18 ID:ttGVJWA.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
( <_ ;)「――ぅ」
体が崩れ落ちる衝撃で、弟者は目を覚ます。
……意識を失っていたらしい。頭がはっきりと働かない。
ゴーレムの気配は間近にはない。しかし、奴がどこにいるのか、ぼんやりと霞む視界ではわからない。
全身が鈍く痛む。頭の中を支配するのは、痛いという言葉だけだ。
( <_ ;)「てき、……は?」
痛みをこらえながら、弟者は目を開く。
霞んではっきりとは見えない視界の中に、ゴーレムの姿は見えない。
助かったと弟者は思い――次の瞬間、頭から血の気が一気に引く。
痛む頭を振り、震える足を無理に支え立ち上がる。
その瞬間、体を覆う魔力が霧散した感触を覚える。
ドクオの結界が消失したためだったが、目覚めたばかりの弟者にはわからなかった。
……ブーンの風だろうか? そう思いながら、弟者は足を踏み出す。
(´<_`; )「……あにじゃ、……ブーン」
.
680
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:21:33 ID:ttGVJWA.0
体の至るところが痛みを訴えてくる。
しかし、動けないかと思った体は――意外なほどに自由に動いた。
歪む視界は何度か瞬きをすれば、ようやくまともに像を結んだ。
( ´_ゝ`) (゚A゚#)
最奥の壁に座り込む兄者とドクオの姿が見える。
そして――、そのすぐそばには、間近に迫った岩の巨人の姿。
/◎ ) =| )
熱をはらんだ空気を排出しながら、巨人の腕が大きく動く。
胴体を中心として、円を描くように振るわれた腕が狙う標的は――、
(;´_ゝ`)「――やっぱ、来るか」
兄者。
身体能力の大半を持っていかれた今の兄者は、満足に動くことも出来ないはずだ。
弟者の顔から血の気が引く。しかし、ゴーレムの動きは止まらない。
ぶしゅぅと間の抜けた空気の音が響くと、巨人の腕が縦に向かって振り下ろす動きへ切り替わる。
.
681
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:28:44 ID:ttGVJWA.0
兄者は動けない。
そして、弟者も体勢をたてなおすだけで精一杯。
オ レ
( <_ )「――――兄者っ!!!」
巨人は岩と砂でつくられた巨体を震わせて、その腕を兄者に向けて振り下ろし、
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682
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名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:29:31 ID:ttGVJWA.0
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683
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:31:24 ID:ttGVJWA.0
瞬間。
床から黒い何かがゆらりと立ちあがった
黒いうすっぺらな、水のようなそれは、動けない兄者を飲み込みながら天井に向かって伸びる。
(゚<_゚ )「――――兄者っ、兄者兄者ぁっ!!!」
身を裂かんばかりの声を上げ、弟者は黒いそれにむけて突進する。
しかし、遅い。
弟者の動きでは、黒い影にも、巨人の腕にも間に合わない。
そして、弟者の向かうその先。
黒い何かに飲み込まれた兄者の頭上――下に向けて振り下ろされようとしていた巨人の腕が
ぴたりと
止まった。
( A ;)「――どうにか間に合った」
(; _ゝ )「弟者っ、ブーン! 俺は無事だっ!」
黒い影の向こうから声が上がるのを、弟者は聞いた。
その声は反響し、どこから聞こえてくるかわからない。
しかし、それは間違いなく兄者とドクオの声だった。
.
684
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:33:34 ID:ttGVJWA.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
( A )「目眩ましの結界を張った、こっちはこれでしばらく持つ」
(; _ゝ )「ちょっ、これ目眩ましだけなのか」
急に暗くなった空間のなかで、兄者は目を見開いた。
兄者とドクオの体は、先ほどの場所から移動していない。
ただ、その周囲は黒く陰り暗い影に覆われている。
少しだけひやりと涼しいが、それ以外は何も変わったことはない。
息苦しくもないし、空気の肌触りも変わらない――、ただ日差しが遮られて暗いだけ。
この黒い影がドクオの言う“目眩ましの結界”というものだろう。
兄者はふむと小さく息をついた。
兄者の位置からはゴーレムや弟者の姿が先ほどまでと変わらず、はっきりと見える。
しかし、不思議なことに弟者やゴーレムからは、兄者とドクオの姿が見えないらしかった。
('A`)「悪いか。どうせオレ程度じゃこれ一つが限界だよ」
(;´_ゝ`)「いや助かった」
.
685
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:35:06 ID:ttGVJWA.0
首を動かすのも辛いのか、兄者はこの状況だというのに微動だにしなかった。
ただ正面を向いたまま、口と表情だけを微かに動かす。
(#'A`)「そう思っているなら、自分で勝手に納得して先走るのはやめやがれ!
お前がナイフ投げて注意を向けんでも、弟者にはちゃんとこれと同じ結界が張ってあったんだよ!!」
( ; ゚_ゝ゚)「……なんと、な」
ヽ(#'A`)ノ「こっちを守ったせいで、弟者の方の結界はダメになったし、ったく!」
ドクオは声を振り上げながら、ゴーレムの姿を見やる。
巨人は兄者やドクオの姿が見えなくなったことに動揺でもしたのか、上半身を回転させて周囲に目を走らせている。
ゴーレムは目でしか、標的の位置を判断出来ないのだろう。目の前の兄者やドクオに気づく様子はなかった。
('A`)「はぁぁっ、上手くいった。
あとは、ブーンと弟さえどうにかできれば」
( ´_ゝ`)「……」
('A`)「この部屋の結界を解こう。もう、オレたちだけじゃどうにもならん」
この状況を突破するための手段は、もうこれしか残されていない。
兄者だって何かあったら、結界を壊せといったのだ。同じ意見だろう。
ドクオはそう思って、動き出そうとするが――、兄者は首を縦に動かそうとはしなかった。
.
686
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:37:46 ID:ttGVJWA.0
(; _ゝ )「……ドクオ。その前に、一つだけ頼めるか?」
('A`)「なんだ。いまさら、結界は解けないなんてワガママはもう聞かないぞ」
兄者はドクオの声には答えず、視線を横に向けた。
その視線が向かう先は、ゴーレムではなくその向こうの草むら。
( ´_ゝ`)「……アレを取ってきてくれ」
('A`)「あれ?」
踏み荒らされた緑の草の中。そこに、投げ捨てられたものがある。
細かな模様や金具によって装飾が施された、大振りの袋。
見覚えのあるそれは、弟者が出かける時からずっと手にしていた鞄だ。
(;'A`)「何をいきなり」
( ´_ゝ`)「……この状況だからな、出来る限りのことはするべきだと思われ。
説明は後でするから、頼む」
そう言い切った兄者の顔に、諦めの色は見えなかった。
頭から血を流した姿のまま、兄者は口元に笑みを浮かべるとそう言い切った。
.
687
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:40:08 ID:ttGVJWA.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
(´<_`#)「――ぁあああ!!!」
弟者は駆けた。
体の痛みはもはやどうでもいいものへと変わっていた。
それよりも、アイツだ。岩でできたバケモノ、あいつは俺――兄者を殺そうとした。
許せない。
アイツだけは、壊さなければ気がすまない。
――弟者の頭を支配するのは、もはや怒りだけだ。
折れた刀を振り、弟者がゴーレムの足へと迫る。
そのまま一閃。
青龍刀の残された短い刀身部分はそれでも、主の命を果たそうと火花を上げる。
戦略だとか弱点をつこうといった考えは、その動きからは欠片もみられない。
弟者の動きは相手に攻撃を加える。それだけしか考えていない動きだ。
(゚<_゚ ♯)「ぁぁああああああ!!!」
.
688
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:42:12 ID:ttGVJWA.0
弟者の口から上がるのは、獣のような叫びだけ。
壊れた武器をただひたすらゴーレムに振るい続ける。
一撃、二撃。
折れた刀が悲鳴を上げ、わずかに残された刀身が醜く歪む。
しかし、弟者の動きは止まらない。
( <_ ♯)「――っああああああ!!!!」
攻撃を避けざま、突きを放つ。
短くなった青龍刀は、それでもゴーレムへと届いた。
手首を捻り刀の軌道を、切りつける動きへと変える。
右手に走りこみ、位置を変えてもう一撃。
/◎ ) =| )
( <_ ♯)「ちぃっ!」
ブーンの援護はない。
武器も、壊れた異国の刀が一本だけ。
刀を振るう腕は重く、打ち込むたびに硬い岩の衝撃に腕を持って行かれそうになる。
攻撃の効果は見えず、武器を振るえば振るうほど体力が失われていく。
.
689
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:44:23 ID:ttGVJWA.0
――元より、弟者に勝ち目などはない。
それでも戦うのは、完全に意地であった。
弟者は、折れた武器を振るいながら、ゴーレムを睨みつける。
(´<_`#)「俺は――、もう二度と俺を」
失わないと決めたのだ。
そうなるくらいならば、自分が先に死んだほうがマシだ。
それで、結果。兄者が死ぬ形になるとしても、何もしないよりはるかにいい。
と(´<_`#)
ゴーレムの腕に、片手を掛ける。
腕の力で這い上がり、顔面の装甲へと跳躍しようと腰を落とす。
体が揺れる。それでも、ゴーレムの頭に一撃を加えようとしたところに、巨人のもう片方の腕が迫り……
回避は間に合わない。
もとより、回避をできるような場所にはいない。
それでも、避けようと力を込めた足がずるりと滑り――
弟者は、何もない空へと放り出された。
.
690
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:46:34 ID:ttGVJWA.0
体を捻り、弟者は辛うじて受身の姿勢を取る。
そして、そのまま弟者は地面にたたきつけられた。
( <_ ;)「――くっ」
落下の衝撃に息が詰まるが、動けないほどではない。
痛みがあるが、骨は折れていない。手にも青竜刀の柄が残っている。
まだ、戦える。
(´<_`#)「動け」
弟者は立ち上がろうとして――、その動きを止めた。
見上げた視線の先に、兄者とともにいるはずのドクオの姿がある。
ブーンを助けに来たのかと弟者は思い、すぐにその考えを打ち消した。
弟者の顔を、嫌な汗が伝う。
ドクオの気配を、感じなかった。
この状況だからこそ普段以上に、気を張っているにもかかわらず弟者は気づけなかった。
ドクオは気配を隠していたのだろう。そこまでして、ドクオが向かった先にあるのは――何だ?
(´<_` ;)「何、を……」
.
691
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:49:19 ID:ttGVJWA.0
弟者は視線をドクオへと向ける。
ドクオが向かう先、そこにあるのは弟者が投げ捨てた鞄だ。ドクオの細くて小さな腕が、鞄へと届く。
(゚<_゚ ; )「……まさか、」
あの鞄には、魔法石板が入っている。
ブーンやドクオたち精霊は、魔法を使うのに石板を必要としない。
魔道具や石板を使って魔法を使うのは、人間だけだ。
――この状況で、石板を必要とする人間は一人しかいない。
(´<_`#)「やめろ、ドクオ!!」
( _ゝ )
兄者だ。
兄者が、魔法を使おうとしている。あの時のように、兄者が――
.
692
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:51:13 ID:ttGVJWA.0
――今でも、思い出す。
物置代わりの、ガラクタが押し込められた小部屋。
《止まれ》
魔力を込めた、絶対の制止の言葉。
振り払えなかった忌まわしい力。
魔法さえなければ――あの時動けてさえいれば、その後の展開は変わっていたはずだ。
兄者だけが、鏡に落ちることもなかった。
俺が、俺で無くなることだってなかったはずだ。
使わせてなるものか。
それだけは、絶対に避けなければならない。
.
693
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:53:49 ID:ttGVJWA.0
(゚<_゚ ♯)「……ドクオぉぉぉ!!!」
弟者の足が土を踏み、その身を立ち上がらせる。
ふらつく体を押さえつけ、ドクオの元へ向かおうと力を込める。
('A`)「……スマン、弟者。兄者の頼みだ」
殺気を込めた弟者の視線が、ドクオを貫く。
弟者はこれまでドクオに対して、攻撃をためらったことはない。
ドクオのもとにたどり着けば、弟者は手にした武器を振るうことだろう。
――しかし、ドクオの表情は静かだった。
('A`)「オレは薄情だが、意地が悪いわけじゃない。だから、お前の命令は聞けない。
このままだと死ぬってわかってる奴を、放っておけるかよ」
弟者に向かって言い放つと、ドクオは背後へ向かって叫んだ。
('A`)/「ブーン!!! こいつを兄者のところに!!!」
.
694
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:55:44 ID:ttGVJWA.0
ドクオの近く、草むらの中から魔力が湧き上がるのと、弟者が駆け出すのは同時だった。
弟者の位置からでは、魔力の持ち主の姿は見えない。
しかし、ドクオの声がなくとも間違えることなんてヘマはしない。
これは、ブーンだ。
無事だったのかという安堵の気持ちと、ドクオなんかの味方をするのかという思いに、弟者の足が一瞬鈍る。
(#^ω^) 《兄者に飛ぶお!》
(´<_`; )「――くっ」
弟者の戸惑いをつくようにして、ブーンの魔法が放たれた。
一陣の風が、大振りのバックを載せて暗いうすっぺらな影へと飛び去っていく。
(#'A`)「兄者ぁぁぁっ、後は任せたぁぁぁっ!!!」
(;'A`)と( <_ #)
弟者の腕がドクオの首を捕らえる。
しかし、その頃にはもう全てが遅かった。
.
695
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:58:03 ID:ttGVJWA.0
(´<_`#)「――殺しておけばよかった」
('A`)「そりゃ、勘弁だな」
弟者の射殺すような目に言葉に、ドクオはそう答えた。
その言葉遣いは兄者のようだ。弟者はそう思い、そう思ったこと自体に舌打ちをする。
(;^ω^)「おおおオトジャ! こわいのはやめるお!」
(´<_`#)「……」
弟者はドクオを睨み続けている。
その手に力を込めることはない。そんなことをすれば、兄者を守る結界は消失してしまう。
弟者は力を込めそうになる手を、必死で押さえつけながら、ドクオに――
(# ゚ω゚) 《弟者、飛ぶお!!》
(´<_` ; )
ブーンの巻き起こした風が、ドクオごと弟者の体を押し流す。
そして、次の瞬間、弟者はブーンが起こしたのとは違う風と、震動を感じ取る。
.
696
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:59:27 ID:ttGVJWA.0
/◎ ) =| )//
高い位置から、振るわれた腕。
それはゴーレムの繰り出す、攻撃だった。
巨人の腕は、先ほどまで弟者がいた場所を寸分違わず押し潰した。
(;゚A゚)「あああ、アブね。死ぬぅ、死ぬからぁぁぁぁ!!!」
(´<_` ;)「――っ」
怒りに、完全に我を失っていた。
ブーンがいなければ、兄者を守るどころか自分の命さえなかった。
弟者の背を、冷たい汗が伝う。
ドクオを掴む手を放す。開放されたドクオは、小さく悪態をつくと羽ばたき始める。
弟者はドクオを睨みつけながらも、唯一残された武器――青竜刀の柄を握る手に力を込める。
(´<_` )「すまなかった」
(*^ω^)「大丈夫だお!!!」
弟者は顔を上げる。
今、向かうべきなのはドクオではなく、ゴーレム。
弟者は倒すべき敵へ向けて、折れた青竜刀を構えた。
.
697
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:01:24 ID:ttGVJWA.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
影の中を、一迅の風が吹き抜ける。
魔力を帯びたその風は、兄者の肌を粟立たせ、ドサリと何かを落とすと掻き消える。
兄者のすぐ正面、落ちたそれは――、兄者が求めていた弟者の鞄だ。
( ´_ゝ`)「……でかした、ブーン」
動かない右腕に力を込める。
だらりと力なく垂れた腕は、どれだけ力を込めても感覚がない。
まるで体に棒がぶら下がっているような、強烈な違和感。
それでも力を込めて動かし続けると、どうにか鞄に届いた。
(;´_ゝ`)「……あと、ちょい」
汗が頬に伝う。
動くたびに傷を刺激して、鋭い痛みが走る。
全身をじくじくと覆う鈍い痛みとは正反対の刺激に小さく呻きながらも、兄者は動きを止めない。
額から流れる血が汗と混ざって、兄者の服を汚していく。
.
698
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:03:16 ID:ttGVJWA.0
指をひっかけ、鞄を引き倒す。
ごとりと重い音がして出てきたのは、石板が三つ。
(;´_ゝ`)「……届いた」
黒いつややかな、石材。
大市で濃紺色のヴェールの女から買った魔法石板と、遺跡で拾ったただの石板。
文様とともに刻み込まれた魔法は――、今の兄者にとって最後の武器だ。
最後の力を込めて、石板の一つを引き寄せる。
黒の盤面、刻み込まれた魔力は火の色をしている。
( -_ゝ-)「……」
瞳を閉じて、意識を落とす。
自分の下、意識の底――“自分”の内側に手を伸ばして、魔力を汲み上げる。
ゴーレムとの戦闘やドクオに気を取られ、弟者の意識は乱れている。
今ならば――、弟者に持っていかれた魔力を奪い返すのは、それほど難しくないはずだ。
( ´_ゝ`)「……魔力の扱いは、俺のほうが得意なんだ。
長年、俺に魔力を預けたのが仇になったな、弟者よ!」
.
699
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:05:18 ID:ttGVJWA.0
弟者の抵抗をすり抜けて、魔力を取り戻す。
そして、炎の魔法が組み込まれた石板に、兄者は指を下ろした。
( ´_ゝ`)「……いくぞ」
青い指が、黒の盤面をなぞる。
右から左。
刻み込まれた凹凸を確かめるように。軽やかに、指は動く。
::( ´_ゝ`) ::「…」
体の内側を走る、魔力を指へと集中させる。
初めは弱く、それから徐々に強く。
石板に込められた魔力に、自分の魔力を上乗せし、増幅させていく。
( ´_ゝ`)「ひっさーつ!」
縦に横に。
指がたどる軌跡と、魔力は淡い光を放つ。
――それは、かつて描かれた言葉。ふきこまれた奇跡。
( *´_ゝ`)「なんかスゴイ炎っ!!!」
.
700
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:07:27 ID:ttGVJWA.0
兄者の指が最後の軌跡をたどると同時に、石板に刻み込まれた神秘は発動した。
――それは、初め弱々しい光をあげる小さな火だった。
それがイキモノのように動き勢いづくと、赤々と燃える蛇のように大きくなった。
ぐるりと炎が意志を持つように、動く。
(#´_ゝ`)「いけぇぇぇぇぇ!!!」
兄者の視線は、ゴーレムの顔だけを見つめている。
その視線に応えるように、赤へ白へと色を変えながら炎はゴーレムへと向けて走り始める。
駆け抜ける炎は、兄者の魔力と風を取り込みながらうねり、その大きさを増していく。
('A`)「なんだありゃ!!」
(;^ω^)「魔力だお!」
ドクオを越え、ブーンを越え炎は走る。
うねる炎の輝きは、青へと変わり――
(<_` #)「兄者っ」
ゴーレムの顔を、直撃した。
.
701
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:11:04 ID:ttGVJWA.0
/◎ ) =| ) G AAAAaaA G
炎が巨人の体を焼く。
鈍色の岩石には炎に焼かれても、大きな変化は見られない。
しかし、ゴーレムの上げる、悲鳴じみた音はこれまで以上に大きい。
巨人の腕が苦しむように、蠢く。
体をよじるように、上半身が右へ左へと振られる。
炎を纏ったままゴーレムはその身をよじり続け、その動きがある一点で止まる。
/◎ ) =| )
顔面にあけられた二筋の溝。
目のように穿たれた淵が向いたその先は――弟者の向こうに広がる、影の結界。
兄者のいるはずの、その空間。
結界に守られた兄者の姿は、弟者と同様にゴーレムからは見えないはずだ。
しかし、その目に当たる部分の空洞はじっと兄者のいる先を向いている。
――見えているのか。それとも見えていないのか。
わからない。
それでも、ゴーレムは兄者のいる方向から目をそらす気配はない。
.
702
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:13:23 ID:ttGVJWA.0
青かった炎は色を失い、巨人の腕の一振りを最後に掻き消えた。
そこにはもう炎の名残はない、辛うじて白く変色した一部の色だけが熱の激しさを伝えてくるだけだ。
ゴーレムの体が揺れ、ぎちりとその無限軌道が動き始める。
――向かう先は、不自然に漂う影の霧。
ドクオの影によって編まれた結界、その中。
/◎ ) =| ) gi t
巨人は、結界に守られた兄者を最大の脅威と捉えたらしい。
すぐ傍らにいる弟者のことなどもう、目に止めずにその足にあたる機関を動かし移動をはじめる。
(´<_`#)「やめろぉぉおおお!!!!」
弟者は大声を上げる。
しかし、敵は止まる気配をみせない。
まるで、あの時の再現のようだ。
現れたバケモノ、おそらくは俺を守ろうとして魔法を放った兄者。
そして、バケモノは兄者へと標的を変え……
――今でも、思い出す。
泣くことしか出来なかった幼い自分。最後に笑って、鏡へと引きずり込まれた兄者。
.
703
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:15:35 ID:ttGVJWA.0
違う。
自分には力があって、自由に動く手足がある。
腕はまだちぎれてはいない、足はまだ潰れてはいない。
そして、手にはまだ振るえる武器がある。
ならば、まだできるではないか――。
(´<_` )
弟者の目が、ゴーレムの顔を見据える。
そして、その足が地を踏む。
辛うじて手放さなかった、青龍刀の柄を握り締める。
武器は、もうこれしかない。
しかし、今は幼いあの時とは違う。
lニニ|==と(´<_`#)
それを、ゴーレムの脚部。
体を支える無限軌道の起動部へ、渾身の力を込めて突き立てた。
.
704
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:18:13 ID:ttGVJWA.0
/◎ ) =| ) g?
一際、耳障りな音とともに、ゴーレムの動きが止まる。
体を支える駆動部に突き立てられた柄が、足を動かすのに必要な要の機関の動きを止める。
ゴーレムが動こうとするたびに、折れた刃からは火花があがり。耳を潰さんとするほどの怪音が轟いた。
/◎ ) =| ) g u?
ほんの一瞬できた隙を、弟者は見逃さなかった。
走りだそうとする視界の中に、かすかに光るものを弟者は見つける。
――それは兄者がゴーレムの注意をそらそうとして投げた、ナイフ。
( <_ )「うぉぉおおおお!!!」
転がっているナイフを手に取る。
そして、そのまま動きを止めた巨体へと向けて突っ込んでいく。
大きく踏み込み、一度目の跳躍。
無限軌道を支える岩と砂と何かの材質で形作られた、帯状の機関の上に着地する。
さらに跳躍、向かう先は動かない体に動揺するその腕。
.
705
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:20:58 ID:ttGVJWA.0
/◎ ) =| ) g
弟者を振り払おうと、ゴーレムの腕が動く。
しかし、弟者の跳躍はそれよりも早かった。
踏み込んだ足が解き放たれ、弟者の体は宙を舞う。
(<_゚ ♯)「死ね!」
三度目の跳躍で弟者の体は、その頭部へと行き着いた。
顔に穿たれた隙間。
そこに向けて、弟者はためらいもなくナイフの刃をねじ込む。
/◎ ) =| ) aaaaaaaaaa
(<_゚ ♯)「死ね! 死んでしまぇぇぇ!!!」
片腕をゴーレムの顔面の隙間にかけ、落下を始めようとする体を押しとどめる。
炎の魔法で熱せられた岩が弟者の手を焼くが、弟者はそれでも怯もうとはしない。
もう片方の手に握った、ナイフをさらに押し込んでいく。
隙間の向こうにあるものを貫くようにして、ナイフは深く突き刺さっていく。
ゴーレムの体が大きく揺れる。
弟者は腕と足で不安定な体を支えながら、ナイフを持つ手に力を込める。
.
706
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:24:22 ID:ttGVJWA.0
このまま死ね。死んでしまえ。
弟者の口からあふれるのは、殺意をこめた呪詛の言葉だ。
(<_゚ ♯)
弟者の声に思いに反応するように、ナイフは突き刺さり。
そして、とうとう
――ピシッ
頭部に異変が起こる。
かすかな音が断続的に走ったと思うと同時に、薄い線がその装甲に浮かび上がる。
ナイフの突き刺さったすぐ近くの場所から始まったそれは、瞬く間に頭部を貫くひび割れとなる。
弟者はさらに装甲を割ろうと、ナイフに力を込める。
/◎ ) =| ) aaaaaaaaaa!!! ag! aaaaaaaalgia
その衝撃に弟者の手が、とうとうゴーレムの顔面から外れる。
支えを失った体は地面に向けて落下を始める。
(´<_`#)「――ちっ」
.
707
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:25:44 ID:ttGVJWA.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
ゴーレムの装甲に、致命的な一撃が与えられたのに兄者は気づいた。
はっきりと目で捉えたわけではない。
しかし、ゴーレムの悲鳴が、頭部のその傷から漏れだした魔力が、はっきりと伝えてくる。
――やつを倒すには、今しかないと。
弟者はきっちりと役割をこなした。
ならば、兄である自分もやらなければならない。
(; ´_ゝ`)つ「もういっちょう!」
力のこもらない腕を引き上げ、もうひとつの石板を引き寄せる。
刻まれているのは先程とは違う文様。それは、《水》を司る魔力を込めた文字だ。
魔力を込めながら、兄者はそこに刻み込まれた文字を指でたどっていく。
.
708
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:28:21 ID:ttGVJWA.0
兄者の魔力が石板に流し込まれるたびに、石板にこめられた魔法が。その力が強くなる。
( -_ゝ-)
石板は蒼く輝く。
指で辿られた部分が光をあげ、石板に込められた魔法を発動させる最後の鍵となる。
ぽたりと、しみだした水滴が地を濡らす。
石板から流れだした水は溢れ続け、勢いを増すとやがて水の柱となった。
そして、――
( ´_ゝ`)「お水さんお水さん、ヤツをやっつけろぉぉぉ!!!!」
兄者の言葉とともに、巨大な水の柱がゴーレムへと襲いかかる。
影の中でも透き通り勢いを失わない水の流れの向かう先は、巨人の頭部。
熱せられて変色し、ひびが走るその目に水の柱は直撃した。
/◎ ) `=,/、 ) AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
濁流のような水の流れに、体の至るところから蒸気が吹き上がる。
音を上げてひびは広がり、細かな破片が飛び散る。
.
709
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:29:02 ID:ttGVJWA.0
が、それまでだ。
水の流れはゴーレムの体を大きく揺らすも、装甲を完全に砕くことも、体を倒すことのできないまま消える。
打撃を与えることは出来た。
巨人は、確実にその体力を失っている。
しかし、その体が巨大すぎて倒すことまではできない。
(; ´_ゝ`)「――くっ、無駄に頑丈」
.
710
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:30:26 ID:ttGVJWA.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
(#^ω^) ≪受け止めるお!!≫
(´<_` )「――!」
――空に放り投げられた弟者の体が、地面に叩きつけられることはなかった。
ブーンが引き起こした風が弟者の体を受け止め、その体を無事に地面に下ろす。
そして、それと同時に水の柱がゴーレムの頭を捉えるのを、弟者は見た。
/◎ ) `=,/、 ) AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
.
711
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:32:46 ID:ttGVJWA.0
蒸気が、弟者の視界を埋め尽くしていく。
その向こうがどうなっているのかは、はっきりと見えない。
しかし、弟者は体勢を立て直すやいなや地を蹴った。
(´<_`#)「……」
その手には、もう武器はない。
シャムシールはどこかに飛び去り、青龍刀の柄はゴーレムの足を支える機関を貫いている。
唯一、手に入れたナイフも今はゴーレムの頭部へと突き刺さったまま。
弟者は地へと目を走らせる、そこに武器は見えない。
.
712
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:34:37 ID:ttGVJWA.0
(#'A`)「ナイフだ! あそこなら攻撃が通る」
(;^ω^)「でも、どうするんだお!」
ドクオの声に、弟者は視線をゴーレムの頭部へと向ける。
白い蒸気の向こうにそびえる巨体の姿は、はっきりとは見えない。
しかし、そこに武器はある。まだ、打つべき手はある。
(´<_`#)「そんなもの、後で考える」
ゴーレムの腕が向かってくる弟者を妨害しようと、無秩序に振るわれる。
それに対して、武器を持たない弟者の手が、もぞりと動いた。
その手が懐へと入り、何かをつかむ。
(´<_`#)「――クソが!」
紫のマントが翻り、中から取り出したそれを弟者は投げつける。
放たれたのは小さな何か。
それがいくつも、ゴーレムの腕に向かって飛来する。
/◎ ) `=,/、 ) !
.
713
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:38:41 ID:ttGVJWA.0
飛んできたそれから、身を守ろうとゴーレムの腕が一瞬止まる。
弟者は敵だという認識が取らせた、行動と判断。
それはゴーレムに、決定的な間を生んだ。
/◎ ) `=,/、 ) …
動きの止まったゴーレムの腕に、べたりとした何かが張り付き、あるいは跳ね返り飛んでいく。
投げつけられたそれは、武器でも、脅威でも、罠でもなかった。
しぃが調査隊本部で出した茶菓子。それから、硬貨がいくつか。
子供だまし以下の抵抗ともいえない抵抗。
しかし、それは目眩ましとしての役目を十分に果たした。
(#'A`)「そのままよじ登れぇぇぇ!!!」
止まった腕の間をすり抜けて、弟者は巨人の足元へと飛び上がる。
動きの止まった腕の上を走ると、その肩へとよじ登る。
そして、跳躍をはたすと、弟者はひび割れ変わり果てた巨人の頭部へと、たどり着く。
ナイフはゴーレムの動きにも、水の奔流にも負けずに巨人の“目”に突き立っていた。
(´<_`#)「死にさらせぇっ!!!」
.
714
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:40:07 ID:ttGVJWA.0
振り上げられた弟者の足が、小さなナイフをさらに押しこむように蹴りつける。
゛(´<_` )「――っ」
( ^ω^)「手伝うお!」
それと同時に、弟者の体を守るように吹いていた風がその流れを変えた。
ブーンの号令とともに、風が鎌鼬へと形を変え、ゴーレムの頭部へと襲いかかる。
物理的な衝動と、魔力による風。
/◎ ) `=,/、 )// W A A G A A
弟者とブーンの全力を込めた攻撃は、ナイフごとゴーレムの装甲の奥を貫いた。
その衝撃で、装甲の欠片がいくつか剥がれ落ちる。
しかし、そこまで。
装甲を破壊するには、まだ届かない。
(#'A`)「――まだ、ダメなのかよっ!?」
限界まで押し込まれたナイフは、それ以上は動かせない。
弟者の手に、もはや武器はない。
あと一歩というところまで迫りながら、弟者にはこれ以上は打つ手が無い。
.
715
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:42:17 ID:ttGVJWA.0
(´<_`#)「――ちっ」
( `ω´)「オトジャ、いったん下がるお!」
弟者の周囲に魔力混じりの風が吹き、その体を受け止める。
敵を捉えようと伸びたゴーレムの手を交わし、弟者の体は空中に逃れる。
(;'A`)「……どうする?」
このままでは、ゴーレムは倒せない。
兄者の魔法に期待するか、なんとかして結界を破壊し脱出するか。
どうする。どうすればいい――?
('A`)「何か手は……」
答えを出せないまま見回したドクオの視線が、銀色に光る何かを見つけた。
銀にひらめくそれは、折れた青龍刀の切っ先。間違いなく武器になり得るものだ。
これを弟者に手渡すことができれば――。
('∀`)「見つけたっ!!」
ドクオは青龍刀の欠片に、必死で手を伸ばした。
.
716
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:44:13 ID:ttGVJWA.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
ゴーレムの頭部を覆う装甲は、あと少しで壊れる。
しかし、完全に破壊しきるには、まだ足りない。
( ´_ゝ`) 《砕
とっさに、叫びかけた言葉を兄者は慌てて切る。
無意識のうちに巡らせていた魔力を根性でねじ伏せて、魔法の発動を力づくで止める。
出口を失った魔力が体じゅうを暴れまわるが、それもやがては沈静化する。
(;´_ゝ`)「……くっ」
無意識のうちに魔法を放ちかけていた自分に、兄者は舌打ちをする。
この十年間、決して魔法を使わないように気をつけてきたのに、一度魔力を使えばすぐにこのザマだ。
.
717
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:46:39 ID:ttGVJWA.0
魔法は使えない。少なくとも、弟者の前でだけは使いたくない。
(;´_ゝ`)「……どうする?」
弟者が魔法を受け入れられなくなった原因は自分だ。
10年前のあの日、とっさに放った《止まれ》という魔法が、今も弟者を縛っている。
魔法がなければ、俺に魔法を使わせなければ……弟者は今もそう思っているはずだ
( ´_ゝ`)「……」
今でもあの時の決断は、後悔していない。
しかし、今は違う。今はまだ取るべき選択の余地がある。
だから、俺はあいつが平気になるまでは、あの時のような魔法は使えない。
それがあいつの兄貴としての精一杯の矜持だ。
だから――、
.
718
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:48:07 ID:ttGVJWA.0
兄者の視界に、それが映る。
火と水の石板。そして、その横。鞄に収められていた、黒いつややかな傷一つない石板。
まだ何の魔法も込められていない、まっさらな板。
媒介や魔道具を使っているから大丈夫だというのは、詭弁だ。
言葉を使って発する魔法と、本質的に何ら変わりがないのはわかっている。
それでもこれが、今考えうる限りで最良の選択肢だ。
(;´_ゝ`)「……ええい、面倒なことはあとで考える」
振るえる指を動かして、石板に手を伸ばす。
思うように動かない腕と、体に走る痛みに舌打ちをしながらも、どうにか石板を引き寄せる。
兄者は口元から流れる血を指で拭う。
(; _ゝ )「――間に合えっ!」
そして、その指を漆黒の石の表面に乗せた。
そこには、辿られるべき文字の刻は刻まれていない。
代わりに指を濡らす血が、赤の線を残した。
自分の内側にある、魔力をあつめる。
井戸から水を汲み上げるイメージ。
汲み上げた魔力を全身へと巡らせ、組み上げていく。
.
719
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:50:42 ID:ttGVJWA.0
(; ´_ゝ`)「――上手くいってくれよ」
ありったけの魔力を込めて魔法を刻む。
要になる文字はわかる。――体をめぐる魔力が、感覚が告げている。
組み上げた魔力を纏めあげる。そして、火と水の石板にあった魔法を増幅させるための文句と共に、血で刻みこむ。
一度もてば十分なほど雑に作られた、石板。
それに向けて兄者は全身の魔力を流し込み、血で描き上げた文字をなぞりあげていく。
黒い石板に浮かぶ、血で書かれた文様の一つ一つが兄者の魔力を受け白に、青に輝く。
(♯゚_ゝ゚)「いけぇぇぇぇっっ!!!」
刻み込まれた魔法は、《凍結》。
そして、それは瞬時に発動した。
――熱せられた巨人の体に染み込んだ水が、周囲に漂う白い蒸気の霧が、石板に呼応するように一斉に凍り出す。
岩で作られた装甲の、至るところから氷柱が突き出していく。
/◎ ) `-i=,/、 )
装甲が大きな音を上げ、ひび割れていく。
今や巨人の頭部の装甲は、薄くひび割れ無事なところは何処にもない。
しかし、決定的なダメージには一歩及ばない。
.
720
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:52:24 ID:ttGVJWA.0
――攻撃しなければいけないのは、装甲ではなく、その向こうにある核。
そのためにはまず、邪魔な装甲を完全に崩さなければならない。
魔力をかき集め、練り上げる。
体の中を駆け巡り勢いをました魔力は、熱くて内側から体が焼かれるようだ。
それでも、まだアイツを倒すには足りない。
あのゴーレムを打ち砕くには、もっと魔力が必要だ。
――昔から、普通、人が見えなかったり使えなかったりするものの扱いだけは得意だった。
だから、今回もきっとどうにかなる。どうにかならなくても、してみせる。
(♯゚_ゝ゚)「――まだだっ!!」
(;'A`) !
そして、兄者は手を伸ばす。
伸ばすのは肉体そのものではなくて、イメージの手。魔力を操るその感覚の手を周囲に巡らせる。
兄者の回りを取り囲む影の結界。
それを支える魔力に手を伸ばす、結界を支える術をバラバラにして、魔力を飲み込む。
結界は霧散し、兄者の頭上には一気に青空が開ける。
(;゚A゚)「結界が……。まさか、兄者のやつ」
.
721
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:54:34 ID:ttGVJWA.0
(♯゚_ゝ゚)「まだ、足りないっっ!!!」
ドクオの戸惑いには気づかずに、兄者は声を張り上げる。
はっきりと見えるようになった視界。
宙に逃れた弟者と、ブーン。草陰の中でドクオが、信じられないものを見る表情を浮かべている。
……あいつらを守らなければならない。
そのためには魔力を。もっと集めなければ――。
兄者は大気に目を凝らし、その中にある魔力を感じ取る。
土の中にも、風の中にも、草にも魔力はある。
それをできうる限り引っ張って集め、取り込む。
(♯゚_ゝ゚)「――っ、く」
――全身が、炉になったようだ。
魔力を取り込み、回し、増幅させ、形を整える。
それだけの機関、それだけの機能。
そうして練り上げたありったけの魔力を、片っ端から石板に叩きこんでいく。
(♯ ゚_ゝ゚)「――っぁぁぁああああああ!!!」
兄者は吼える。ありったけの声と魔力をあげて吠え続ける。
そして、その声に応じるように、表中はより鋭く、大きく、力を増していく。
.
722
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:56:25 ID:ttGVJWA.0
/◎ ) `-i=,/、 ) gi
ピシリと音がする。
急激にその大きさを増していく氷の柱、広がる亀裂。
ピシ
そして、
ピシ
それがついに、
ゴーレムの体を、頭を貫いた。
.
723
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:58:13 ID:ttGVJWA.0
しかし、装甲はまだ崩れない。
兄者の息はつまり、目が霞むが、それでも兄者は魔力を操るのを止めない。
まだ、足りない――。
だから、
(♯゚_ゝ゚)「弟者ぁっ、全部借りていく!!!」
(´<_` )「いくらでも持っていけ!!!」
弟者の体から、ありったけの魔力をもっていく。
息を吸うよりも自然に、腕を伸ばすよりもはるかに簡単に、魔力は兄者の体へと流れる。
その魔力の感覚は、どこからかき集めた魔力よりも馴染む。
あたりまえだ。
これは、弟者の魔力であると同時に自分の魔力だ。
――できそこないの、一人。
不吉な存在、本来ならば殺されなければならなかった命。
不安定でいびつな命と引き換えに得た力が、まっすぐとゴーレムを貫き壊していく。
そして、
ありったけの魔力をこめた氷の柱が
.
724
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:00:29 ID:yZraviHw0
/ / \
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ヽにノ '´ [,-1 /|ヽ ,. '´ /‐'´ ,/
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く∠-┘ '‐ ' , / /`丶、 !
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l´\/ / ̄| _,.-'´
 ̄ / ! /
岩の巨人の装甲を粉々に打ち砕いた――。
.
725
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:02:28 ID:yZraviHw0
そして、崩れ落ちた装甲のその向こう。
――埋め込まれていた、核がついに姿を現す。
古びた粘土板。
いつのものかすらわからない、その板には――今では失われた言葉が刻まれている。
(;^ω^)「あそこだけなんか違うお!」
(#'A`)「それが、奴の本体だ!」
粘土板に刻まれたその言葉。
それこそが、巨人を動かす魔法そのものであった。
古の伝承曰く、ゴーレム。
はるかに魔法が発達した時代に作られた。石板を触媒とした魔法の祖にして頂点。
疲れることを知らず、痛みを知らず、命令のままに従う、岩の巨人を作り出す秘術。
創りだされた巨人に命はなく、核に記された文字がある限り――無限に再生する。
(#'A`)「あの核をぶち壊せ! そうでないと、いくらでも再生するぞ」
(;´_ゝ`)「……なん、とぉ」
先ほどの攻撃で全ての力を使い果たしたのか、兄者は力なくへたり込む。
その視線こそ装甲による守りを失ったゴーレムへと向けているが、兄者の口からはそれ以上の言葉は出てこなかった。
.
726
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:04:23 ID:yZraviHw0
兄者は、動けない。
弟者にはもう、攻撃の手段がない。
/◎ ) 、/、; )
(#^ω^)≪切り裂くお!!!≫
その硬直した状況を、ブーンの魔法が打ち砕いた。
魔力を帯びた鋭い風の刃が、粘土板を襲う。
(;^ω^)「なんで?!」
――が、その風は粘土板に直撃する前に霧散した。
まるで粘土板自体が、魔法の力を拒否したかのようだった。
(´<_` ;)「魔法が、きかないのか?!」
(;´_ゝ`)「……なん……だと」
兄者と、弟者が言葉を失う。
最後の最後まで追い詰めたと思った。――しかし、それもここまでというのか?
誰もが言葉を失いかけた、その時。
.
727
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:06:13 ID:yZraviHw0
(;'A`)「……」
ドクオはふと、手元に目を落とす。
……そこにあるのは、弟者に渡そうとしてそのままになっていた刃。
輝くそれは、最後に残った武器だ。
('A`)「――弟者っ、受け取れ!!」
そして、ドクオは声を上げる。
必死の力で刃を持ち上げると、弟者に向けて掲げてみせた。
兄者以上に非力なドクオが必死に持ち上げたそれは、――へし折れた青龍刀の切っ先。
弟者は宙から降りると、その刃をひったくるようにして奪い取った。
(´<_` )「恩に着る」
(*'A`)「お、おう!」
ドクオの返事を聞くよりも先に、弟者の体が弾丸のような速度で動きはじめる。
.
728
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:08:36 ID:yZraviHw0
(#´_ゝ`)「弟者っ、やれっ!!!」
(´<_` )「把握した」
兄者の声が響く。
オレ
――兄者がやれといったのだから、それは弟者にとって絶対だ。
二人分の力を込めた渾身の速度。
巨人の顔から落ちた瓦礫の山を駆け上がりながら、ゴーレムの核を目指す。
(´<_`#)「今度こそ終わりだ!!!」
.
729
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:10:09 ID:yZraviHw0
崩壊した体を抱えたゴーレムが、最後の抵抗といわんばかりに蒸気を噴き上げた。
周囲をすっぽりと覆う、熱く白い霧。
体の守りの大半を失いながら、それでも岩の巨人は腕を伸ばす。
( < ::)
そして、ゴーレムの腕は人影を見つける。
振るわれる腕は、その人影をはっきりと捉えなぎ払う。
ゴーレムは歓喜の音を上げ、
(#゚A゚)「オレの影をなめるなぁぁぁぁ!!!」
はじけ飛んだのは、ドクオの創りだした影だった。
ゴーレムの創りだした白い蒸気の幕に、黒い影がいくつも動く。
蠢く影の群れ。
その影の間を縫って、走り出たのは。
(´<_`#)「砕けろぉおおおお!!!!」
――弟者。
.
730
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:12:33 ID:yZraviHw0
折れた刃ごと、弟者の手が粘土板へ振るわれる。
しかし、握りのない刃では上手く力を込めることが出来ない。
弟者の手から血が流れ、粘土板を濡らしていく。
(´<_`#)「――くっ」
渾身の力を込めた一撃は、粘土板に浅い傷を作る。
しかし、そこまで。
粘土板は未だ健在で、砕かれるまでには至らない。
(;'A`)「くっ、あと少しなのにっ!」
(#゚ω゚)「まだだお!!!」
立ちあがった、ブーンの体から魔力が湧き起こる。
風がうなり、小石が舞い上がり、草が倒れ、千切れ飛んでいく。
その光景の中で、ブーンはとうとうそれを見つけた。
逆転のための最後の一手。
残された希望。
(#゚ω゚)「オトジャっ、手を伸ばすお!!!」
.
731
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:14:45 ID:yZraviHw0
(´<_` )つ
弟者は返事の代わりに、腕を伸ばす。
(#゚ω゚)≪飛ぶお!!!≫
ブーンの魔法が起こした強い風が、それを舞い上げる。
舞い上げられたそれが向かったのは弟者が伸ばした腕のその先。
(´<_` )つ==|ニニニ二フ
弟者の手がそれを掴む。
目で確認するまでもなく、握り慣れた感触がそれが何かを伝えてくる。
愛用の刀、シャムシール。
銀の軌跡が翻り、その手は一直線にひらめく。
.
732
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:18:10 ID:yZraviHw0
(´<_`#)「――トドメだぁぁぁぁぁっ!!!」
“獅子の尾”の名を持つ刀は、軽やかに翻り――主の命を完遂した。
.
733
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:19:09 ID:yZraviHw0
そのはち。 できそこないの一人
おしまい
.
734
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:21:26 ID:PA7Y3QRs0
乙!すげーボリュームだった
735
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:21:37 ID:nESRoQx20
おつうううううううう
736
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:23:43 ID:yZraviHw0
オマケ10レス行きます
737
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:24:44 ID:yZraviHw0
彡⌒ミ
.( ´_ゝ`)「姉者。父さんこれから母者さんと交代してくるけど、ひどいことはしないでね」
∬#´_ゝ`)「……はぁっ?」
彡⌒ミ て
.(;´_ゝ`) そ ビクッ
彡⌒ミ
.(;´_ゝ`)「えっと、えーっとー、オワタやブームくんたちは大切だけど。
儂はみんなのことも好きだから、疑うとか犯人探しとか怖いことは……」
∬#´_ゝ`)「父者は、私や母者に任せておけばいいの!!拒否権などない!!」
彡⌒ミ
.(;´_ゝ`).。oO(なんか、母者さんと話してるみたいだなぁ)
∬´_ゝ`)「わかったら、とっとと行く! 交代が遅れると母者、怒るわよ」
彡⌒ミ
.( ´_ゝ`) ハーイ
.
738
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:25:40 ID:yZraviHw0
グッ∬´_ゝ`)q「よしっ、父者は行ったと……」
.
739
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:26:23 ID:yZraviHw0
,--, __〃 ̄⊃
/ / (,, /
(,〜〜〜〜〜/
彡三 ミ 〉 ノ /
(´く_`*)´ /
/.|^,ミ彡,^|ヽ、三三´
(^o^) / i |、 y ,| i \ー´ (|^o^|)
ヽ|〃 (__.i_|`''―‐'''|_i__) ヽ|〃
\(^o^)/
ヽ|〃
愛する花に囲まれる 父者=流石氏
おまけ劇場 l从・∀・ノ!リ人 でざーと×しすたーのようです
.
740
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:27:14 ID:yZraviHw0
∬´_ゝ`)「妹者ちゃぁん」
l从・∀・;ノ!リ人.。oO(あの声は怒ってる声なのじゃ)
l从・−・;ノ!リ人「な、な、な、なんなのじゃー?」
∬´_ゝ`)「父者の花が踏み荒らされてるんだけど、何か知らないかしら?」
l从・∀・;ノ!リ人「はへ?」
l从・∀・ノ!リ人「お花? えっと、どのお花なのじゃ?」
∬´_ゝ`)「中庭」
Σ l从・д・ノ!リ人 ビクッ
.
741
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:27:56 ID:yZraviHw0
∬´_ゝ`)「中庭の花」
l从・д・;ノ!リ人
∬´_ゝ`)「知ってるわよね?」
::l从・Δ・;ノ!リ人:: アワワワ
ガシッ∬´_ゝ`)つl从・Д・;ノ!リ人 て
.
742
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:29:00 ID:yZraviHw0
∬´_ゝ`)「あんた。中庭の花、踏んだでしょ」
l从・∀・;ノ!リ人「……あ、うぅ、えーと」
∬^_ゝ^)「そうやって挙動不審になったりするのが何よりの証拠よ、妹者ちゃん」
l从・〜・ノ!リ人「……きょ、ど?」
. . .
∬*´_ゝ`)「正直に話して謝れば、父者は怒らないわよ。
ほーら、素直になりなさいなー」
l从・Δ・;ノ!リ人「い、い、妹者はやってないのじゃ!」
.
743
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:29:42 ID:yZraviHw0
::::∬*::::_ゝ::)::::「じゃあ、中庭の花はどうしてぐちゃぐちゃなのかしら?
お姉ちゃんに教えてほしいわぁ〜」
l从・д・;ノ!リ人「それは! ……それは……」
∬´_ゝ`)「それは?」
l从・∀・;ノ!リ人「……」
l从- 、-;ノ!リ人「……言えないのじゃ」
∬#´_ゝ`)つl从・−・;ノ!リ人 ビクッ
∬#´_ゝ`)「妹者ちゃんは、お姉ちゃんが身内に対しては気が短いのはしってるわよね。
お姉ちゃんこのままだと怒っちゃうわよ。いいのね?」
l从・−・;ノ!リ人「……」
.
744
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:30:38 ID:yZraviHw0
l从- -;ノ!リ人「……」
l从-∀-ノ!リ人.。oO(妹者は、やくそくしたのじゃ)
l从・д・ノ!リ人「妹者は、言わないのじゃ」
∬#-_ゝ-)「……そう」
スッ∬#-_ゝ-) l从・−・;ノ!リ人 …
∬´_ゝ`)「私からはもう何も言わないわ。
でも、母者には報告することになるけど、それでいいわね」
.
745
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:31:28 ID:yZraviHw0
ll从・∀・;ノ!リ人「……ははじゃ」
ズシン
∬´_ゝ`)「そ。母者は家長なんだから、何かあったら報告するのが当然の義務でしょ」
ドシン
ll从・∀・;ノ!リ人「……ううっ」
∬´_ゝ`)「今なら、お姉ちゃんが聞いてあげなくもないわよ」
ガッ
ll从・Д・;ノ!リ人「だめなのじゃ!!!」
.
746
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:32:15 ID:yZraviHw0
∬´_ゝ`)「話をすればほら、母者のお帰りだわ」
::l从・д・illノ!リ人:: ガタガタ
つぎのはなしに つづく
747
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:33:04 ID:PA7Y3QRs0
妹者かわいい
748
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:39:29 ID:rQ.Jnv2.0
ラスボス終わったと思ったらまたラスボスとな
乙
749
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:41:15 ID:mwwkQGYAO
超乙。
ここ来てから気に入った作品が逃亡ばっかで、ずっと待ってた現行にリアルタイム遭遇するの今回が初めてで、20時からずっとアホみたいにリロードしてた。
待ってた現行をリアルタイムで読めるってこんな嬉しいんだな。
作品の結末を知る事ができるのってこんなわくわくすんだな。
書いてくれてありがとう。
投下してくれてありがとう。
書きながら「俺キメェwww」と思ってるけどどうしても謝意を伝えたい。
完結も後日談もものすごく楽しみにしてる。
750
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:42:13 ID:yZraviHw0
以上で投下終了です
最終話になる「そのきゅう。」は明日の夜、後日談は月曜日の夜に投下できたらと思います
751
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:45:16 ID:yZraviHw0
長時間の投下にもかかわらず乙や感想くれて、本当にありがとう
長かったこの話もなんとか終われそうだ
752
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:52:28 ID:rFEOdAMo0
乙乙!
明日の夜も楽しみに待機してるわ
753
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:54:38 ID:wPZQZ7uw0
乙乙!
続きが読めてよかった、面白かった!
次も楽しみにしてる
754
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 01:11:34 ID:PA7Y3QRs0
いよいよ最終話か、寂しいぜ
でも楽しみにしてるからな!!!
755
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 02:25:11 ID:DJ1Z7hbk0
おつ!超ボリュームおつ!
熱い戦いだった!最終回も楽しみにしてるよ
756
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 12:17:56 ID:VPyeQ90g0
おつ!
757
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:01:42 ID:yZraviHw0
/◎ ) 、/、; ) gu gi gi
一刀のもとに切り伏せられ、粘土板が崩れ落ちた。
ゴーレムを動かしていた、失われた文字が薄れ消えていく。
核の崩壊。その瞬間、ゴーレムを構成していた魔法は完全に消滅した。
(´<_` )つ==|ニニニ二フ
(;^ω^)
ごとりと音がして、ゴーレムの腕が落ちた。
無限軌道が潰れ、岩の重みに耐え切れず体が大きく倒れ込む。
( ´_ゝ`)
(゚A゚)
倒れてきた岩の衝撃に、地面が大きく揺れる。
ゴーレムはもはや、単なる巨大な岩の塊と化していた。
.
758
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:04:29 ID:yZraviHw0
_.◎ ) 、/、; :::
岩の巨人は動かない。
崩れ落ちた体を再生しようとする気配もなかった。
(*´_ゝ`)「おお」
ヽ('∀`)ノ「やった、やったぞ兄者!」
ゴーレムを構成していた岩たちが、砕けはじめる。
音もなく崩壊は続き、最後には大量の砂と岩の欠片が残るだけとなる。
(*^ω^)「すっごいお、オトジャ!」
(´<_` )「……やった、のか?」
もはやそこにゴーレムの原型はない。
――そして、石の巨人は死に至り。その動きを永遠に止めた。
.
759
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:05:29 ID:yZraviHw0
( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )
.
760
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:06:21 ID:yZraviHw0
そのきゅう。 ――そして、旅の終わり
.
761
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:08:05 ID:yZraviHw0
ゴーレムが完全に動かなくなったのを見届けると兄者はその場に完全に倒れ込んだ。
もう自分の体を支えることも出来ないらしく、倒れこんだ姿のまま兄者は動かない。
ただ、その口だけを動かして、兄者は大きく息をついた。
(; _ゝ )「流石にこれは――」
( <_ ;)「――疲れたな」
弟者もそう返事を返すと、兄者の傍らに座り込む。そして、そのままその場に転がった。
さっきまで剥き身の刃を握っていたせいか、弟者の手からはまだ血が流れ続けている。
ともに満身創痍な状況。兄弟そろって、命があるのが不思議なくらいだった。
(; ^ω^)「大丈夫かお!」
そんな兄弟たちの傍らに、ブーンは飛び寄る。
ドクオはその場に浮いたままだったが、ブーンが動くのを見て慌てて飛びはじめた。
兄者も弟者も倒れこんだまま、ぴくりとも動こうとはしない。
(; _ゝ )「おい、弟者。いい加減に体力とか力とかその他もろもろを返せ。
もう口と指くらいしか動かんのだが……」
( <_ ;)「兄者が持っていったままの、疲労痛み傷その他もろもろを返せば考えてやろう」
.
762
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:10:25 ID:yZraviHw0
(;´_ゝ`)「ハハハー、何のことかなー」
(´<_`#)「ハハハー、もちろん兄者のことだ」
動こうとはせず、口だけを使って兄弟の応酬は続く。
視線だけを動かして睨み合うが、互いに限界なのか殴りあうような気配はない。
弟者は拗ねたように顔を尖らせ、兄者といえばそっと弟から視線をそらした。
(´<_`#)「いいから、早く返せ」
(;´_ゝ`)「ちょっ、やめ、おねがいやめ!」
視線を逸らした兄者の胸ぐらを、弟者が掴む。
力を使い果たしたように横になっていた弟者が、動くとは思っていなかったのだろう。
突然の弟者の動きに、兄者の顔が驚いたかのように歪む。
兄者は弟の腕になんとか抵抗しようと大声を上げ、その瞬間顔面を真っ青にした。
(; ゚_ゝ゚)「っう――!!」
(´<_`#)「さっさと返せと言っているだろう。この阿呆!」
(iii ´_ゝ`)「えー、大丈夫だってぇ。全然、大したこと無いし……」
.
763
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:12:17 ID:yZraviHw0
(´<_`#)「何度同じことを言わせる気だ、この馬鹿」
(#´_ゝ`)「いいや、決めましたー。ダメーですぅー」
兄者はそう言い切ると、弟者から全力で目をそらす。
弟者はそんな兄の姿を睨みつけるが、殴りかかるわけにもいかなかったのか手を放す。
(;´_ゝ`)「っう……」
( ;ω;)「あばばばば、やめるお。やめるおー」
(;'A`)「お前ら兄弟は、どうしてこう仲が悪いんだ……」
ドクオの声が聞こえたのか、弟者から開放された兄者の口元がわずかに歪む。
しかし、何も告げる気はないのだろう。兄者の口からは言葉は出てこなかった。
( ;ω;)「アニジャー、だいじょうぶかお? こういうときは、だいじょうぶでいいんだおね?」
( ´_ゝ`)「ふむ。この場合は、大丈夫であってるな」
( ;ω;)「ほんとかお? アニジャはだいじょうぶかお? だいじょうぶ?」
.
764
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:15:11 ID:yZraviHw0
兄者の口元の歪みが消え、変わりに笑みが浮かぶ。
(*´_ゝ`)「なんて言ったって俺は流石だからな。
この程度ならば、全然平気だし。ものすごーく、元気な件」
( <_ )「……」
('A`;)::「――っ」
かわりに弟者の顔から表情らしいものが根こそぎ消えたのを、ドクオだけが見た。
(´<_` )「兄者、聞かせてくれ。
俺に痛みを返さないのは、本当に大丈夫だからか?」
(;´_ゝ`)「う、え?」
風向きが変わったことを悟ったのだろう、兄者の表情に困惑が浮かぶ。
弟者の声は静かで、感情らしい感情が見えない。
……これはマズい傾向だ、という思いが、兄者の脳裏に小さく広がる。
(;´_ゝ`)「えっと、ちょっとくらいは痛い件?」
( ;゚_ゝ゚)と( <_ )
.
765
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:16:13 ID:yZraviHw0
とりあえずそう告げてみた兄者に向けて、弟者の腕が伸びる。
弟者は兄者の服の胸元を掴み、力任せにぐいと持ち上げた。
(iii ゚_ゝ゚)「――っ」
兄者の顔が一気に白くなり、呻き声とも呼吸とも付かない声が喉から漏れる。
(iii _ゝ )「ぐっ……っカ……ハッ」
と(´<_`#)「これでも大丈夫だというのか!?
本当はとっくに限界なんじゃないのか!?」
兄者の喉からは言葉にならない息が漏れるだけだ。
やめろと言いたいのか、何度か同じ形に口が動くが、それすらも声にならなかった。
(;゚A゚)「おい、兄者のやつ。やばいぞ!」
(#^ω^)「やめるお!!」
と(゚<_゚ ♯)「ろくに動けないんだろう? 話すことだって、つらいはずだ。
なのに、なんで兄者はそうやってヘラヘラと笑っていられるんだ!!!」
.
766
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:18:31 ID:yZraviHw0
ドクオとブーンが弟者の肩をひっぱり、彼を止めようとする。
しかし、一度激高した弟者は止まらない。
(iii _ゝ`)「……っぃ」
と(<_゚ #)「俺がいつもどんな思いでいたか、兄者はわかってるのか!!!」
(#^ω^)≪放すお!≫
なおも兄者を締め上げようとする弟者の動きを、魔力の流れが断ち切る。
ブーンの使った暗示の力により、弟者の手の力が緩み兄者から離れる。
(*'A`)」「よしっ、ブーンよくやった!」
(;^ω^)「オトジャだめだお! そういうのぜんぜん楽しくないお!」
( <_ #)「なんで……」
弟者の目が、魔法を放ったブーンを捉える。
その口が歪みブーンに向けて怒りの声を上げようとし――、響いた声がそれを止めた。
(iii _ゝ )「……わか……って……た」
.
767
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:20:48 ID:yZraviHw0
途切れ途切れに響いたその声の主は、兄者だった。
弟者の動きが止まる。
一方の兄者は浅い呼吸を何度か繰り返し、ようやく深く息をついた。
(iii ´_ゝ`)「……ほんと……容赦ないの……な」
(;'A`)「おい、兄者。本当に大丈夫か?」
(iii ´_ゝ`)「あー、骨が何本かいってるかな? 命には別状はないと思われ」
そのまま動かずに呼吸を繰り返すと、兄者の顔色はようやく落ち着いた。
「痛かったー」と呟く表情は、もういつもの兄者のものだ。
本気なのか、それとも表情を取り繕っているだけなのか。人間の感情に疎いドクオには理解できない。
(;^ω^)「……オトジャ」
( <_ )「……」
弟者の顔からは、怒りの色は引いていた。
代わりに浮かぶのは、途方に暮れ呆然とした表情だった。
(´<_` )「……わかっていたとは、どういうことだ?」
.
768
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:22:30 ID:yZraviHw0
辺りに沈黙が落ちる。
弟者の視線は今や、ブーンではなく兄者に向けられていた。
( ´_ゝ`)「……」
('A`)「おい、答えてやれよ兄者」
(;^ω^)「……」
ドクオが促すように、兄者の肩を叩く。
ブーンは黙りこくって、兄者の姿を見守っている。
沈黙は長いようにも短いようにも思えた。そして、兄者は黙り込んだ末に、ようやく口を開いた。
(;´_ゝ`)「……やっぱ、話さなきゃダメだよな」
こういうのは柄じゃないんだよな、と頬をかきながら兄者は言う。
「むむー」とか「ふむー」とか意味のない言葉を呟いた後で、兄者はようやく語り始めた。
(;´_ゝ`)「あー、お前が10年前の件で後悔してるのは知ってた。
魔法や神秘のたぐいに俺を近づけないようにしてたのもな。まあ、やたらと暴力的ではあったけど」
.
769
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:24:19 ID:yZraviHw0
(゚<_゚ ; )「気づいていたのか……」
弟者の瞳が、驚愕に見開かれた。
その声はかすかに震え、信じられないと呟いている。
そんな弟の態度に、失礼だなと言うように兄者は口元を歪ませた。
( ´_ゝ`)「だって、昔そう言ってたし。あれだけ露骨だと、流石の俺でも気づくわ。
というか、弟者は俺が気づいているって知らなかったことに驚きな件。
ブーンやドクオとかに対する態度とか、本当にもうひどかったし」
(;^ω^)て「そ、そうだったのかお!! オトジャはブーンがキライだったのかお?!」
('A`)「……ブーン。お前ってやつは、本当にいいやつだな」
心の底から驚いたような声を上げるブーンの姿に、ドクオはしみじみと言った。
ドクオとて弟者の行動原理を理解していたわけではない。しかし、嫌われているということくらいはわかっていた。
しかし、あれだけ無視され続けていたのに、嫌われていると思わなかったとは……。ブーンの脳天気さが、ドクオは少しだけ羨ましくなる。
(´<_` ;)「なら、どうして」
(;´_ゝ`)「いやぁー。俺もなぁー。
弟者が頑張ってるなら、その通りにしてもいいかな〜って思ったこともあったさ」
.
770
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:26:22 ID:yZraviHw0
( -_ゝ-)「でも」
ドクオの戸惑いなど気づかないように、兄弟の会話は続く。
兄者は瞳を閉じて沈黙した後、意を決したように言葉を告げる。
( ´_ゝ`)「世界はさ、俺らがまだ知らないものや、面白いもので満ちてるんだ。
それを見ないふりをするだなんて、俺にはできない。ブーンじゃないが、そういうのは楽しくない」
そうやって、告げられた言葉はなんとも脳天気なものだった。
深い考えがあるだけではないその言葉に、ドクオは思わず声を上げようとする。
しかし、その言葉が向けられているのはドクオではなくて弟者だ。ドクオは出かかった声を、なんとか抑えた。
(*´_ゝ`)「お前が嫌いな、魔法や神秘のたぐいだってさ。悪いことだらけじゃないよ」
(´<_`#)「だが!」
弟者の声が怒りの色を帯びる。
しかし、弟のその様子に兄者は気分を害した様でもなく平然としていた。
( ´_ゝ`)「ブーンは悪いやつだったか?
今日起こった出来事は、本当に散々なことばかりだったのか?」
.
771
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:28:19 ID:yZraviHw0
( <_ ;)「――っ!」
そして告げられた問いかけに、弟者はとうとう言葉を失った。
何度か口を開いて反論しようとした末に、弟者はブーンの顔を見た。
(;^ω^)「……あうあう」
(´<_`; )「……」
弟者の口からは言葉が出ない。
かわりにその眉がひそめられて、表情の薄い顔に困った様な色が浮かぶ。
兄者はそんな弟の表情を見て取ると、それ以上はたたみかけようとはせずに話題を変えた。
(*´_ゝ`)「それにだなー。お前が心配するからちゃんと、魔法は使わなかったんだぞー。
石板だけ……魔道具だけでなんとかしちゃったお兄ちゃんマジ偉い、マジ立派!」
(*^ω^)キャーカッコイイー シンデー('A`*)
(*´_ゝ`)「ほら、石板魔法ってもさー、魔力なしで誰でも使える便利アイテムだからさー。
技術の進歩って偉大だよねー。こんなに使えるんだって、わかったろ? だから今後も使用の許可をオネシャス」
ドゲシッ(#´_>`)つ)#)゚_ゝ゚)アイヤー
.
772
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:31:58 ID:yZraviHw0
(´<_`#)「こ の 大 嘘 つ き が !」
怒りが限界を超えたのだろう、弟者は兄の顔を殴りつけると、とうとう大声を上げた。
さっきまで「とっくに限界なのだろう」と問いかけていたのと同じ人間とは思えない殴りっぷりに、ドクオは言葉を失った。
(#);_ゝ;)「ひどいっ、弟者たんのおにちくっ! 悪魔の所業っ!」
(´<_`#)「マッチ程度の火しか出せないシロモノで、あんな大火力出しておいて何言ってやがる!
さんざん魔力を使い倒しておいて、何が便利アイテムだ! それに最後の攻撃、お前その場で魔法石板作っただろ!
”使う”と”作る”じゃ大違いだ、この阿呆!」
(;´_ゝ`))「ヤ、ヤダナーソンナコトシテナイデスヨー。
そ、それに仮についさっきというか今作ってたとしても、石板使ったことにはかわりないじゃないですかー」
(;'A`)「……お前ら、なんだかんだ言って本当は元気だろ」
殴られたと文句を言う兄に、怒り顔で詰め寄る弟。
その姿は兄者が動かないことさえ除けば、朝から見慣れた二人の姿そのものだ。
⊂(´<_`#)「俺に気を使ったつもりだろうが……全然気遣いになってないぞ。
わざわざ面倒くさい真似しやがって、このアホ兄貴! 馬鹿たれ!」
.
773
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:34:30 ID:yZraviHw0
( ´_ゝ`)「……だって、かっこつけたかったんだもん」
弟者に言われるがままになっていた兄者が、ぼそりと声を上げる。
その声は小さかったが、弟者はしっかりと聞いていた。
(´<_`#)「は?」
(#´_ゝ`)「俺だってお兄ちゃんだから、弟に対してかっこつけたくなるんですぅぅ!!!」
弟に聞きつけられて開き直ったのか、兄者は大きな声を上げる。
しかし、そう言い切ったことで満足したのか、兄者は怒りの表情を引っ込める。
( ´_ゝ`)「俺は、お前や妹者の兄貴だからな。こういう時くらいは、かっこつけさせてくれ」
そして、あげられた言葉は、先ほど上げた声とは対照的に落ち着いていた。
その真剣ともいえる言葉に、弟者の表情が固まる。
弟者の顔から興奮した様子が掻き消え、浮かんでいた表情が消える。
( <_ )「……」
一瞬、和らいだ空気が再び凍っていく。
兄者がしまったと思う頃には、もう遅かった――。
.
774
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:36:52 ID:yZraviHw0
(;^ω^)「お? どうしたんだお?」
弟者の表情の変化に、ブーンが声を上げた。
しかし、ブーンの声に言葉を返すものは誰もいない。
(´<_` )「……兄者は俺だ」
長い長い沈黙の末、弟者は口にする。
絞り出したようなその声は、とても小さかった。
(´<_` )「俺の考えることが兄者の考えることで、兄者の考えることが俺の考えることだろう?」
泣くのを我慢する、子供のような声だった。
それでも、弟者の顔には何の表情も浮かんではいかなった。
(´<_` )「だから、兄貴なんて言うのは止めろ……」
泣くわけでも、すがるでもないその姿に、兄者は黙り込んだ。
.
775
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:39:18 ID:yZraviHw0
( -_ゝ-)「……」
再び沈黙が流れた。
兄者は長い長い時間をかけて、弟者へ向ける言葉を探しているようだった。
沈黙は重く、どう反応していいのかわからないらしいブーンが辺りを飛び回りはじめる。
( ´_ゝ`)「弟者。お前も本当はわかっているんだろう?
こうしてつながってしまってはいるけど、俺とお前は別の存在だって」
そして、沈黙の末。
兄者はようやく答えを口にした。
(´<_` )「……兄者が何を言いたいのかわからない。俺は兄者で、兄者は俺だ」
('A`)「……」
それが、兄者と弟者の間にある決定的な考えの違いなのだろうと、ドクオは悟る。
遺跡の中でドクオが兄者に問いかけた、仲が悪いだろうという問いの答えはきっとこれなのだろう。
双子だから、魂を共有しているからこそ発生する、決定的な価値観の相違。
「仲が悪いわけじゃないんだ」という兄者の言葉の意味が、ドクオにはようやく理解できた気がした。
.
776
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:40:33 ID:yZraviHw0
(;´_ゝ`)「あー、違うって言っても通じないんだろうなぁ、お前さんには。
お前の言いたいこともわかるが、それは違うんだ。間違ってる」
兄者の言葉は、途切れ途切れではっきりとしなかった。
しかし、そこには紛れも無く真剣な響きがあった。
( ´_ゝ`)「俺とおまえは確かにつながっている。それは変えようのない事実だ。
だけど、さ。一度別れてしまったものは、もう取り戻すことなんて出来ないんだよ」
兄者の言葉に、弟者の眉がぴくりと動く。
弟者は顔をしかめ不愉快だという表情を隠しもしなかったが、兄の言葉をじっと聞いていた。
( ´_ゝ`)つ「お前の毛並みは若草の色だろう? 俺は、空の色だ。染めたってもう元には戻らない。
お前の背は俺よりずっと高いよな。誰も、俺がお前の兄貴だなんて思わない」
( ´_ゝ`)「お前は星が読めるか? 風は、空は読めるか? 無理だよな。
俺だってお前から力をぶんどったとしても弟者みたいに動けないし、料理だって作れない」
「ほら、違うだろう?」と兄者は言う。
そして、彼は真剣な表情のままさらに続きを口にする。
.
777
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:43:40 ID:yZraviHw0
オレ オレ
( ´_ゝ`)「兄者は弟者じゃない。
だって、そうじゃないと俺らが別の人間として生まれた意味がないだろう?」
――それは、弟者にとって致命的な一言だった。
兄者がそれに気づいているかどうかは、わからない。
しかし、その言葉は兄者がこれまでの思いを何とか言葉にしているようにも見えた。
(´<_` )「……俺は!」
オレ オレ
( ´_ゝ`)「それにさ、兄者は弟者であるよりも、お前や妹者の兄貴でいたい」
弟者の言葉を遮るようにして、兄者が最後の言葉を口にする。
言い切ると同時に、兄者の顔にようやく笑みが浮かんだ。
(´<_` )「……」
( ´_ゝ`)σ「まあ、お兄ちゃんとしては、弟者はちょっとばかし俺に甘えすぎではないのかと思うのだが。
俺にばっかりべったりしてないで、少しはお兄ちゃん離れしなさいってことだ」
そして、出た言葉はかなりふざけた口調だった。
これまでの真剣な様子を恥ずかしいとでも思ったのか、兄者の口調にはさっきまでの真面目さは欠片もない。
.
778
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:45:07 ID:yZraviHw0
( <_ ;)「そんな子供みたいなことはしていない」
( ´_ゝ`)「ええ? そうかぁ?」
(´<_`#)「だが、しかしっ!」
弟者の言葉は激しかった。
しかし、怒りの表情を浮かべながらも、弟者の口からそれ以上の言葉が出てこない。
ドクオは兄弟の姿をまじまじと眺め。そして、弟者に向けて助け舟をだすように、口を開いていた。
(;'A`)「……話し中のとこすまないが、兄者の話に説得力が皆無なんだが」
自分でも、どうしてそのようなことを言い出したのかドクオ自身もわからない。
ただ、一度話しだすとそれから先は意識しないでも、言葉はあふれだす。
(;´_ゝ`)て「なんと!」
.
779
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:48:11 ID:yZraviHw0
('A`)「あっさりと盗賊の人質になった姿をオレは忘れない」
(;´_ゝ`)「ぐ、ぐぬ?!」
('A`)「砂クジラにふらふら近づこうとした姿をオレは忘れない」
(;´_ゝ`)て「はひぃ?!」
ドクオの言葉に、兄者の言葉の調子が面白いほど変わる。
先程までの真剣な色は薄れ、ろくに意味を成さない声が兄者の口からあがる。
それに調子を良くして、ドクオは思うがままに語り始めた。
('A`)「弟者の思惑に気づいてたのに、そのまま放置。
思うところがあってもなかなか言えないで、その挙句に兄弟仲悪化!」
::::( ∩_ゝ∩)::「ごめんなさい、俺が悪かったです」
途中から兄者が涙目になるが、ドクオは止まらなかった。
影の精霊の性質なのだろう。ドクオは意識しないまま、兄者が言われたら嫌であろう言葉を投げつけていた。
('A`)σ「ぶっちゃけ、学習能力ないだろお前……」
(;^ω^)て「もうやめてあげてー!!!」
.
780
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:49:05 ID:yZraviHw0
('A`)⊂(´<_`#) ガシッ
そして、その瞬間。横から伸びてきた腕に、ドクオの体は掴まれた。
ぎりぎりと力を込めて、ドクオの細い体が握りつけられる。
ドクオを潰さんばかりに力を込めるその手は、弟者のものだ。弟者は、怒りの色を隠さないまま叫ぶ。
(´<_`#)「俺に何を言う、このクソ精霊!!」
(;´_ゝ`)「だから、俺はお前じゃなくて兄者でぇぇぇ!!!」
(´<_`#)「どっちも同じだろ、クソ兄者! どうせ半分は俺だ」
::(;゚A゚)::「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
(;^ω^)「あばばばば」
ピントのズレた弟者の言葉に、兄者の悲鳴にも似た声が重なる。
しかし、弟者は兄の声に、罵声にも似た言葉を投げ返した。
ただ一人、その場の会話の流れに置いて行かれたブーンは、どうすることも出来ずに言葉にもならない声を上げる。
.
781
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:51:36 ID:yZraviHw0
(;´_ゝ`)「だぁーかぁーらぁー!! もう大人なんだからやめなさいって!
お前がお兄ちゃんのことを俺というたびに、家庭内の空気がどんどんと悪く」
(´<_`*)「……誰も居ないところならいいのか、俺?」
兄者の言葉に、ずっと機嫌が悪そうにしていた弟者の表情が輝く。
その表情を見て、兄者はとうとう頭をガクリと落とした。
体の具合が良ければ頭を抱えたり、両手を振り上げていたであろう勢いで兄者は大きく嘆く。
(#´_ゝ`)「そういう問題じゃない! 嬉しそうにするのもやめ!
自分と他人はしっかりと区別しなさいというお話だ!」
_,
(´<_` )「む? よくわからんぞ、兄者。だって兄者は俺なんだろ?」
(;´_ゝ`)「ああ、もう! これだから嫌だったんだ俺は!
こんなもん子供のうちに、自然とわかる問題だぞ」
(;^ω^).。oO(なんだかわかんないけど、たいへんだおー)
兄弟の話の流れに置いて行かれた、ブーンは首をかしげながら思う。
そして、精霊のもう一人。弟者の手に握られているドクオは、ふと思った。
('A`).。oO(あ、これオレ助かったんじゃね?)
.
782
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:53:23 ID:yZraviHw0
(´<_` )「?」
( _ゝ )「もうやだ、お兄ちゃんやめたい。
なんで、本気でわからないとかそんな顔してるの?」
(´<_` )「……つまり、俺の方が兄をやればいいのか?
まあたしかに、肉体的には俺のほうが2年ほど年上になるが……」
(#´_ゝ`)「ダメー、お兄ちゃんの座はゆずりません!!」
(´<_` )「……? 違うのか?」
双子は互いにしかわからない話をずっと続けている。
ドクオは兄弟の言葉を、なんとなく聞きながら。彼ら兄弟がもめている根本的な原因に気づいた。
なるほどそういうことか、とドクオは弟者に握りつけられているのをすっかり忘れて、呟いた。
('A`)「つまりは、弟者が兄離れできない心配性だったのが全ての原因だと」
('A`)⊂(´<_`#)ギリギリギリ
その言葉と、弟者の腕に力がこもるのはほぼ同時だった。
弟者は兄者との言い争いに必死だったのを忘れて、腕に力を入れドクオの体を締め付けていく。
その力は、細いドクオの体を引きちぎろうとするほど強力だ。
.
783
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:55:37 ID:yZraviHw0
(;゚ω゚)て
(;´_ゝ`)「ちょ、弟者弟者! 顔が真顔! やめて!」
弟者の行動に、ブーンの表情が凍る。
突如黙り込んだ弟を不思議に思った兄者も、顔を上げて真っ青になった。
(;゚A゚)「イダイイダイ!! 羽もげちゃうぅぅ!!!」
(´<_` )「オレとしては死んでくれても問題はないのだが」
( ;ω;)「おーん! やめるおー!!!」
ドクオを握る弟者の手にさらに力がこもる。
締め付けられる力は一向に緩む気配はなく、やがてドクオの意識が遠のいていく。
.
784
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:57:26 ID:yZraviHw0
(#´_ゝ`)「やめろ!!」
兄者の声が聞えると、ドクオは思った。
――そう思うと同時に、弟者の手の力が急に弱くなる。
(*'A`)「勝つる!」
しめたと思いながら、ドクオは弟者の手の間から脱出すると、あわてて距離をとった。
(;'A`)「ふぅ。たすかったぁぁぁ……」
(´<_`#)「このっ!」
弟者が、逃げたドクオを再びつかもうと腕を伸ばす。
それを押さえ込んだのはブーンと、動けなくなっていたはずの兄者だった。
.
785
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:00:04 ID:yZraviHw0
(#´_ゝ`)つ「いい加減にしろ。これ以上やるなら、日干しにするぞ!」
兄者の一喝が、弟に向けて飛ぶ。
さっきまでちっとも動けなかったのが嘘のように、兄者の体はがっちりと弟を押さえ込んでいる。
(゚<_゚ ii)「――ぐっ」
一方、押さえつけられた弟者の顔は真っ青だ。
その唐突な弟者の変化に、ドクオは兄者が弟者の力を奪ったのかとようやく気づく。いや、痛みを戻したのかもしれない。
そうか、兄者にも出来たのかとドクオは弟者の姿を眺めながら思った。
(∩#´_ゝ`)∩「弟者っ、返事っ!」
(´<_` ii)「とてつもなく痛いのだが……」
( ´_ゝ`)「安心しろ、俺はもっと痛いから」
顔を青くした弟者は、先ほどまでとは一転してかすれた声で言う。
そんな弟に視線を向けながら、兄者はきっぱりと言い切った。
.
786
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:02:42 ID:yZraviHw0
(´<_` ii)「なんだと……よくもそれで、大丈夫だと言ったな」
(;^ω^)「いたいのはよくないお……」
(;´_ゝ`)「あー、正直すまんかった」
兄弟とブーンの会話に、ドクオは今度こそ本当に助かったらしいと悟る。
しかし、このままでいれば、また下手なことを呟いて弟者に握りつぶされかねない。
ドクオはなんとか弟の前から脱出できないかと、辺りを見回し――気づく。
('∀`)「結界が解けてるじゃねーか!!!」
ゴーレムの出現以後、部屋にかかっていた結界が消えている。
どういうわけで、結界が消えたのかはドクオにはわからない。
しかし、脱出を阻んでいた障害が消えたことに、ドクオは心の底から喜んだ。
(;´_ゝ`)「なんと!!」
(; ゚ω゚)「え? え? どうしたんだお?!」
('A`)>「というわけで、オレは助けを求めに行ってくるから!」
.
787
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:04:16 ID:yZraviHw0
兄者やブーンの驚きの声に言葉を返さないまま、ドクオの姿が掻き消えた。
どうやら影に潜り込んだらしい。と、兄者は少し遅れて理解する。
(;^ω^)「おーん、ドクオまつおー!!」
ブーンも少し遅れて理解したのか、ドクオの消えた先――、影へと飛び込もうとする。
が、ブーンの体は音を立てて、固い地面へと激突した。
ブーンは起き上がると、ドクオが潜り込んだ草むらの影ヘ向けて腕を伸ばす。
( ´ω`)ノ「入れないお……」
影を叩いてみるが、地面の硬い感触が返ってくるだけで何も反応がない。
ブーンは肩を落とすと、兄者や弟者の元へと舞い戻る。
(;´_ゝ`)σ「逃げたわけじゃないよな……さっき思いっきり、弟者に握りつぶされてたし」
(-<_- ii)「知らん。俺は兄者のいうことはもう聞かん」
(;´_ゝ`)「……弟者のやつまた、スネてるし」
ブーンが舞い戻った先では、双子の兄弟はまた言い争いをはじめた。
しかし、その空気は先程までと比べると幾分か柔らかい。
.
788
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:07:03 ID:yZraviHw0
(-<_- ii)「拗ねてない」
(;´_ゝ`)>「ちぇー、スネてると思うんだけどなぁ」
兄者は大きく溜息をつくと、ブーンに向けて苦笑いをしてみせる。
兄者はさてどうしようと辺りを見回し、草むらへと視線を向ける。
( ´_ゝ`)「弟者の尊い犠牲のお陰で動けるようになったし。今のうちに……」
( ^ω^)「アニジャ、どうしたんだお?」
( ´_ゝ`)「ちょっと忘れ物をだな」
兄者はブーンの言葉に応えると、壁へと向かって足を向ける。
顔を時折、引きつらせるのはまだ胸や体が痛むからなのだろう。
弟者が不機嫌そうに眉をひそめたが、兄を力づくで止めようとまではしなかった。
(*´_ゝ`)「よしっ――」
兄者は草をかき分けて進むと辺りを見回し、そしてその場に屈みこんだ。
何かを拾い上げているようだが、それが何かまでは弟者の場所からは見えない。
それは何だと弟者が問いかけるよりも早く、兄者は拾い上げたそれを懐へと仕舞いこんでいた。
.
789
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:08:39 ID:yZraviHw0
_,
(´<_` )「……」
( ^ω^)「うーん、何だおねー?」
(´<_` )「さてな」
( ゚ω゚) !
弟者の短い素っ気ない返事に、ブーンの瞳が大きく見開かれる。
なにかおかしな事でも言っただろうかと弟者は内心で首を傾け、ブーンに向けて短く問いかける。
(´<_` )「……どうした?」
(*^ω^)「オトジャがお話してくれたお! うれしいお!!」
話すだけならもっと前から話しているだろうと弟者は言いかけて、その言葉を飲み込む。
弟者がブーンにしっかりと話しだしたのは、ゴーレムが出現した時からだ。
ブーンからしてみれば、非常事態に対応するための一時的な手段と思っても不思議ではないだろう。
.
790
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:10:16 ID:yZraviHw0
喜ぶのはそれでか。
弟者は、ブーンの考えを推測すると小さく笑みを浮かべる。
(´<_` )「そんなことが嬉しいとは、ブーンは変なやつだな」
(#^ω^)「そんなことじゃないお! ブーンにとってはすっごく大事なんだお!」
ブーンの様子が真剣なものだから、弟者はつい笑ってしまう。
そして、笑ってから弟者は、あれだけ毛嫌いをしていた精霊相手に笑える自分に驚いた。
_,
( ^ω^)「むぅぅ、なんでオトジャは笑うんだお?」
(´<_` )「さてな」
(;^ω^)「オトジャがいじわるするおー」
不思議と嫌悪感は湧き上がってこなかった。
むしろ、こうなってしまえばもっと前から話せばよかったとすら思えるから不思議だ。
(´<_`*)「はいはい」
ブーンの言葉に弟者は笑って、空を見上げた。
脇腹をはじめとした体の至る部分が痛みを訴えてくるが、そう嫌な気持ちではなかった。
.
791
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:13:16 ID:yZraviHw0
・
・
・
ドクオが帰ってくる気配はなかった。
逃げてしまったのか、それとも本人の申告の通り助けを呼びに行ったのか。
確かめることが出来ない弟者にはわからない。
(´<_`; ).。oO(流石にいつまでもこのままというわけには、いかないな)
しかし、外に出る気力や体力は、尽き果ててしまっている。
痛みを訴える脇腹や、疲労にあえぐ全身が、もう寝てしまえと強烈に誘いかけてくる。
それでも、どうにかして外に出なければならない。
(´<_` )「兄者、いつまでそうしている。
動けるならばそろそろ助けを――」
意を決して声を上げた、その瞬間。
弟者の目の前に、薄水色の毛並みの手がつきつけられる。
驚いて視線をあげると、そこには辺りを歩いて満足したらしい兄者の姿があった。
.
792
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:14:59 ID:yZraviHw0
( ´_ゝ`)「ほい、忘れ物。これを忘れるなんてとんでもない」
(´<_`;)「あ……ああ」
兄者の手から差し出されたものを弟者は受け取る。
一体なんだろうと手を開いてみれば、そこにあるのは金貨や銀貨だった。
――そういえば、ゴーレムに向けて投げつけていたのだった。
弟者はそう思い、礼を言おうとして――扉の外が、急に騒がしくなっていることに気づいた。
( )「…い!……、 ! …か!?」
( )「 える? 、… !」
ドンドンと何かを叩きつける音、それから扉越しではっきりしないが呼びかける声も聞こえる。
(´<_` )「兄者、何か聞こえ……」
弟者がそう声を上げた瞬間、足元が揺らぐ。
一体、何事だと弟者はシャムシールの柄に手を掛ける。
敵か? だとしたら戦わなければならない――。
.
793
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:16:16 ID:yZraviHw0
しかし、弟者の警戒は杞憂で終わった。
弟者の足元を一瞬だけ揺るがして登場したのは、ドクオだった。
(;'A`)「おい! 人を呼んできたぞ!」
おそらくは、影から出たのであろう。
ドクオは自らの言葉通り、ちゃんと仕事を果たしたらしい。
逃げたのではなかったのか、と弟者は反射的に言いかけて、精霊ではあるとはいえ流石に失礼かと思い直す。
(*´_ゝ`)「おお、本当に助けを呼んできたのか! てっきり逃げたのかと!」
<(;'A`)>「もう、それは忘れてくれ!」
一方の兄者は、ドクオに驚いたような表情を浮かべると、すぐにそう言い放った。
どうやら兄者は思慮という言葉をどこかに置き去りにしてきてしまったらしい。
( ^ω^)「ドクオ、呼んできたって誰をだお?」
(;'A`)「そうだ! そうだよ、聞いてくれよ!」
.
794
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:18:14 ID:yZraviHw0
ドクオは兄者の言葉に頭を抱えてのたうちまわった末、扉を指さした。
(;'A`)ノ「ちゃんと連れてきたぞ、麗しのしぃさんを!」
(,,#゚Д゚)「ゴルァーーっ!!!」
ドクオの声と、男の野太い声が聞こえるのはほぼ同時だった。
全身の毛を逆立てたギコが、扉をこじ開けその中へと入ってくる。
(,,#゚Д゚)「坊主ども、いるか!?」
( ;_ゝ;)「しぃ者、随分とゴツくなって!」
(;^ω^) !?
兄者たちのいる最奥の壁際と、入り口の扉は遠い。
だから、あまりにもひどいその言葉はギコには届かなかった。
(,,*゚Д゚)「よかった! そこにいやがったか!」
(;゚ー゚)「みんな、大丈夫?!」
.
795
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:20:13 ID:yZraviHw0
ギコの後に続くようにして、しぃの姿が現れる。
黒のドレスと赤の飾り紐が風に揺れ、しぃの桃色の毛並みが鮮やかに見えた。
広間の一番奥に兄者や弟者がいることに気づくと、しぃはドレスが汚れるのにも構わず駆け出した。
(;゚ー゚)「血まみれじゃない!? 大丈夫なの兄者くん」
しぃは長い距離を駆け抜け兄弟のすぐ傍らにたどりつくと、顔を青くした。
手当も何もしていない兄者の頭は、流れだした血で赤く染まっている。
( ´_ゝ`)「あー、これは俺じゃなくて弟者が」
(#゚ー゚)「兄者くんは、黙ってて!」
(;´_ゝ`)て「なんと理不尽な!?」
そう叫んだ瞬間に、口の中が切れたのか、兄者の口元から血が溢れ出る。
兄者はあわてて血を拭うが、その行動は遅かった。
しぃは真っ青な顔で兄者の怪我を見、弟者の様子を尋ねた。
(;゚−゚)「弟者くんは、大丈夫なの?」
(´<_`; )「俺は、兄者に比べればマ」
(#゚ー゚)「やっぱり、血が出てる。それに、全身ボロボロじゃない」
.
796
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:22:56 ID:yZraviHw0
(,;゚Д゚)「おい、本当に何かあったのか?」
最奥の間は、ギコが知るものとは異なっていた。
何か大きなものに滅茶苦茶にされた地面と、踏み荒らされた草。
部屋の奥には何処から出現したのかわからない、大きな岩の塊――ゴーレムの成れの果てがゴロゴロとしている。
祭壇の周りは割れたり倒れたりした壺や燭台が散乱している。
そして何より目を引いたのは、部屋の最も奥に位置する壁が焼け焦げたかのように黒く汚れていることだ。
( ´ω`)「すっごいいろいろあったんだお……たいへんなんだお……」
(,,;゚Д゚)「二人はボロボロだし、一体どうしたんだ」
武器を構え周囲を警戒し、何もないことを確認したところでギコはそう口にした。
しかし、ギコの疑問に答えるものはいない。
正確にはブーンが答えているのだが、ブーンの言葉では説明にはなっていないし、精霊を見ることの出来ないギコにはわからない。
(,,;゚Д゚)「おい、兄者」
(;゚ー゚)「ギコくん。今はそれより応急処置を」
(,,;-Д-)「……だな」
.
797
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:24:21 ID:yZraviHw0
ギコは背負っていた荷物から、何やら袋を取り出すとしぃに手渡した。
そこには包帯や塗り薬らしきものが入れられている。
(;゚ー゚)「怪我の具合はどうなの?」
(;´_ゝ`)「そう言われると、説明のしづらい……」
(*'A`)ノ「しぃさん、お手伝いしますぅ!」
しぃは袋の中から布を水筒と取り出すと、兄者の被り布を外し傷の観察をはじめる。
兄者はそれに、居心地悪そうに視線を外すと、言葉を濁す。
ドクオはといえばしぃと一緒にいるのが嬉しいのか、ニヤニヤと笑顔を浮かべしぃの周りをひたすら飛び回っている。
(*'∀`)「しぃさん! しぃさん!」
(;´_ゝ`)「お前はちょっと黙ったほうがいいと思う件」
(;゚ー゚)「ほら、兄者くん。おしゃべりしてないで、ちゃんと怪我を見せて」
(#'A`)「ずるいぞ! オレだってしぃさんに優しく手当てされたい!」
しぃは兄者の怪我の具合を見ると、困ったように息をついた。
(;゚ぺ)「どうしよう、仙丹で足りるかしら。あまり具合がひどいようなら、もっと他のお薬を……」
.
798
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:27:16 ID:yZraviHw0
(,,゚Д゚)「弟者は手を出せ。薬の前に怪我の方をどうにかする」
と(´<_` )「把握した」
( ^ω^)「いたいのいたいのとんでいけーだお!」
一方、弟者にはギコが慣れた手つきで治療の準備を始める。
弟者の手を眺め「無茶しやがって」と口にすると、鞄の中から布を引っ張り出した。
(´<_` )「それは何だ?」
( ^ω^)「オマジナイってやつらしいおー」
(,,;゚Д゚)「え? 止血用の普通の布だが……」
弟者の問いかけに、ブーンとギコが同時に言葉を返す。
両者の答えに弟者は「ふむ」と呟くだけだ。
弟者の様子にギコは「そんなに変なものに見えるか?」大きく首をかしげると、弟者の腕を縛り上げ止血をしていく。
(´<_`;)「また、あの胡散臭い薬を飲まされるのか……」
弟者はギコにされるがままになりながら、小さく呟いた。
.
799
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:28:58 ID:yZraviHw0
・
・
・
治療にはそれほどの時間はかからなかった。
弟者は「あんな胡散臭い薬は嫌だ」と抵抗していたが、それも虚しく終わった。
しぃの笑顔と、ブーンの「おクスリのまなきゃダメだおー」という言葉が効いたらしいが真相は定かではない。
ヾ(*´_ゝ`)ノ「見ろ、ブーン!! 俺、復活! 俺、ふっかーつ!!」
( ;ω;)「よかったおー」
兄者も弟者も受けたダメージが大きすぎたためか、仙丹を使っても完全回復というわけには行かなかった。
とはいえ、一時は完全に動けなくなっていた兄者にとってはそれでも嬉しいのだろう。大はしゃぎだった。
(;゚ー゚)「もう、あくまで応急処置なんだから無茶しないで」
(´<_`;)「……応急処置ってことは、まだあるのか?」
(,,;-Д-)「しぃは胡散臭い薬を集めるのが好きだからな。覚悟しとけ」
(*'A`)「しぃさん……なんて素敵な趣味なんだ」
.
800
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:30:36 ID:yZraviHw0
( ´_ゝ`)b「まぁ、何事も経験だ。諦めろ」
眉をひそめて嫌そうな表情を浮かべた弟に向けて、兄者は言い放つ。
弟者はその言葉に言葉を返そうとして、ギコが何かを言おうとしていることに気づいた。
弟者が顔を向けると、ギコはそれを会話終了の合図と見たのか、大きく口を開いた。
(,,゚Д゚)「――で、何があったんだ?」
(*゚−゚)「……」
猫の耳をピン立てて告げたギコの言葉に、兄者の顔がひきつり固まる。
兄者は助けを求めるように視線を右へ左へと泳がせたが、誰からも助けを出そうとはしない。
兄者は「ぐぬ」と奇声を発すると、答えを考えこむように黙った後ゆっくりと声を上げた。
(;´_ゝ`)「……いや、ちょっと大冒険みたいな?」
(´<_` )「ゴーレムが出た」
(,, Д ) ゚ ゚
.
801
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:32:47 ID:yZraviHw0
おそらくは話が穏便に済むようにと考えられた言葉は、弟者によって即座に打ち砕かれた。
その言葉に、ギコは絶句し、目玉が飛び出さんばかりに目を見開いた。
青い毛並みに覆われた顔が青ざめ、尻尾が一気に逆立つ。
(,,ii゚Д゚)「な、ななななな」
(;゚ 。゚)「そ、それってどういうこと?」
ゴーレムという言葉は、ギコにもしぃにも覚えがあった。
その昔に、猛威を振るったという人工の怪物。その名は老人の口や、お伽話によって聞かされている。
さらに言えば、しぃはソーサク遺跡の調査の責任者を務める学者だ。
ゴーレムが出現した時の恐ろしさは、彼女が誰よりもよくわかっていた。
_,
(´<_`#)「どういうことだもない。ここは安全なんじゃなかったのか?」
(,,ii゚Д゚)「何十回も調査してるんだぞ、何でよりにもよってそんなことに」
( - -)「ギコくん。もういいわ、これはこちらの落ち度よ。
本当にごめんなさい」
動揺を隠しきれないギコとは対照的に、しぃは冷静さを取り戻していた。
責任者らしくピンと背筋を伸ばして、彼女は謝罪の礼をとる。そこには先ほどまでの動揺は微塵も見られない。
代わりに、緊張をたたえたような硬い表情だけがそこにあった。
.
802
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:34:33 ID:yZraviHw0
(;´_ゝ`)「ギコ者やしぃ者が悪いわけじゃないんだから、時に落ち着け弟者!
しぃ者もそこまで深刻にならなくとも、俺らは平気だし。大事には……」
(*゚−゚)「ダメよ。責任はちゃんと取らなきゃいけないわ。
申し訳ないのだけれど、ここを出たらもっと詳しく話を聞かせて貰える?」
(;´_ゝ`)「……ぐ、ぬぅ」
しぃの言葉は正論だ。
それがわかってしまうから、兄者もそれ以上庇い立てするような言葉が出せない。
(,,;-Д-)「……」
(´<_`;)「……」
( ^ω^)「……お?」
しぃの言葉を否定するものは誰もいなかった。
弟者はしぃの言葉に毒気を抜かれたように黙り込み、ギコは悔しそうな表情を浮かべ小さく舌打ちをする。
ただ一人、状況をあまり理解できていないらしいブーンだけが、首を横にかしげて飛んでいた。
.
803
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:36:09 ID:yZraviHw0
( ゚−゚)「じゃあ、話は後ですることにして、とりあえずは外に出ましょう?
ここじゃあ、何かあっても対処できないわ」
(*'A`)「素晴らしいです、しぃさん!」
(*゚ー゚)「ギコくんも、ね?」
(,,-Д-)「……わかったよ」
誰からの答えがないのを、肯定の合図ととったのかしぃが話をまとめる。
彼女はなだめるようにギコの肩を叩くと、兄者と弟者を扉へ向かうように促す。
( ´_ゝ`)「うーむ。名残惜しいような気がするが、この場所とはお別れか」
(´<_`;)「名残惜しいなどとよく言えたものだな。俺はこんなところはもう御免だ」
( ´ω`)「もう出れないかと思ったお…」
そんな会話を繰り広げながら、兄弟は立ち上がる。
治療の甲斐もあって、二人の足取りは軽い。遺跡から出るのには何の支障も無いだろう。
先ほどまで大怪我をしていたとは思えない彼らの気楽な様子に、ギコは大きく溜息を付いた。
.
804
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:38:08 ID:yZraviHw0
(,,;゚Д゚)「まったく、お前ら二人は。
どうしてそう毎度、毎度、厄介事に巻き込まれるんだ?」
それは、ギコにとっては心の底から出た言葉だった。
信じられないという気持ちと、おそらく自分ならば耐えられないだろうという感服の気持ちを込めてギコは告げる。
(´<_`#)「そんなの俺が知りたいくらいだ」
(,,-Д-)「ほんとに、毎回命があるのが不思議なくらいだぞ」
(*´_ゝ`)「うむ。退屈な日常にはこれくらいのスパイスがないとな」
(´<_`#)「兄者はっ――、」
ギコと兄者の言葉に声を荒げながら、弟者の思考は一瞬止まった。
兄者は余裕な様子で、笑顔を浮かべている。
あれほどひどい目にあったのに、笑っていられる兄者が不思議で……。
自分はこんなにも苛ついているのというのに、どうして兄者はそうなんだと声を上げようとして、弟者はふと気づく。
(´<_` )「……」
.
805
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:40:20 ID:yZraviHw0
――俺と、兄者が違うというのはこういうことか。
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806
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:42:16 ID:yZraviHw0
考えてみれば当たり前なことだったが、それは弟者にとってはじめての感覚だった。
こんな簡単なことに、なぜこれまで気づかなかったのだろう。
そう不思議に思いかけたところで、弟者は先ほどの兄者の発言に聞き逃せない部分があったことにようやく気づく。
( ´_ゝ`)「ん? どうかしたか?」
(´<_`#)「こんなことがそう毎度毎度あってたまるか。
お前はアホか! 馬鹿か! 死ぬのか!」
('A`)「同じようなこと兄の方も言ってなかったか?」
( ^ω^)「んー、おそろいなのかお?」
(´<_`#)「こんなのと一緒にされてたまるか!!!」
気づけば、兄者はにやにやと笑顔を浮かべている。
何が面白いのかわからないが、兄者は笑いながら口を開いた。
( ´_ゝ`)「でも、ま。大丈夫だろうさ。
俺だけなら死ぬかもしれんが、俺にはよくできた弟がいるしな」
(´<_` )「……なんというか。兄者はたまに本気ですごいな」
.
807
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:44:23 ID:yZraviHw0
「俺」ではなくて、弟扱いされたのは癪だった。
けれども、いつもの笑顔でそう言い切れる兄者は、実はすごいやつなのではないか。
――気づけば弟者は、そう自然に思っていた。
\(*´_ゝ`)/「そうかそうか〜。お兄ちゃんは本当にすごいか〜
かっこよくてイッケメーン!で、道行くおにゃのこたちも惚れちゃう感じか」
(´<_` )「ああ、自分一人で必死だったのがアホらしくなった。
でも、イッケメーン!じゃないし、道行くおにゃのこたちは惚れないから安心しろ」
\( ;_ゝ;)/「ひどい」
「俺」というくくりを外して、兄者を別の人間としてみる。
兄者の言うことは今はまだ正直よくわからないが、少しずつ気づいて、慣れていけばいい。
いくらでも時間はあるのだから――。
弟者ははじめて、自分とは違う存在である兄へと向けて、言った。
(´<_`*)「流石だよ、兄者は」
弟者は笑顔を浮かべている。
それは人ではないブーンやドクオのような精霊ではなかなかできない、少年のような笑みだった。
.
808
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:46:38 ID:yZraviHw0
(,,゚Д゚)「おい、いつまで話してるんだ? さっさと行くぞ!」
(*゚−゚)「もしかして、まだ具合が悪い?」
ギコとしぃが、呼ぶ声が聞こえる。
いつの間にやらギコは、しぃとともに扉の間近へと進んでいた。
(*'∀`)「しぃさん待ってくださーい!!」
(;^ω^)「おいてかないで、だおー」
二人の呼びかけに、ドクオとブーンが飛んで行く。
そして、残された兄弟も笑い合うと、扉へと向けて走りだした。
ヾ(*´_ゝ`)ノシ「今行くぞー」
(´<_` )「急ぐのはいいが、転ぶなよ」
走りながらも、弟者は最後に一度だけ振り向いた。
崩れ落ちた巨大な岩の欠片、焼け焦げた壁、荒らされた祭壇と地面。
――戦闘の傷をいたるところに残しながらも、遺跡はひっそりと、静かに眠っている。
弟者は小さく頷くと、今度こそ振り返らずに走り始めた。
.
809
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:48:18 ID:yZraviHw0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
そこからは驚くほど何事も起こらなかった。
ゴーレムとの死闘が嘘だったように、遺跡はただ静かに横たわっていた。
荒れた庭を抜け、浮き彫りの施された廊下を通り、そして黒い鉄の扉を開く。
行きにはとても長いように感じられた道のりは、あっけないほど短かった。
(#*゚;;-゚)「……!」
そして、調査隊本部では、でぃが待ち構えていた。
一人で留守番をしていたらしい彼女は、半分泣きそうになりながらも一同を出迎えた。
(*´_ゝ`)ノシ !
(#;゚;;-゚)「……」
黒い大きな天幕で治療の続きを受け、休息をとる。
それから、しぃによる長い長い質問が終わった頃には、かなりの時間がたっていた。
.
810
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:50:23 ID:yZraviHw0
(;´_ゝ`)「時に弟者よ、日の高さがえらいことになっているのだが……」
(´<_`;)「なんと」
天幕の下から空を見上げた兄者の声は曇っていた。
弟者はその声に慌てて空を見上げて、日がかなり傾いていることに気づいた。
ソーサク遺跡に到着した時には太陽はまだ真上に近い所にいたはずだから、あれからかなりの時間が過ぎたことになる。
柔らかくなっている日差しが、夕暮れはもう近いことを告げている。
(*゚ー゚)「あら……もう、こんな時間?」
(#゚;;-゚)「……みんなが……帰ってくるね」
(,,゚Д゚)「寝床なら用意できるから泊まっていけ」
しぃとでぃの姉妹と、ギコが宿泊を薦めてくる。
しかし、兄者と弟者はその言葉に首を縦には振らなかった。
(; ´_ゝ`)「いや時に待てギコ者よ。俺らは今日中に帰らなければマズイのだ」
(´<_` )「そうだな。今からでも帰らないと差し障りがある」
.
811
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:52:59 ID:yZraviHw0
空に落ちかかる太陽を見上げて、弟者は眉根をよせる。
予定よりも遥かに時間がたってしまっている。このままだと、日暮れまでに流石の街にたどり着くことは出来ないだろう。
となると……、
(´<_` )「夜行で強行軍か。どれだけかかることやら……」
( ;゚_ゝ゚)「夜行だと……。そんなことしたら、お兄ちゃん死んじゃう!
もうちょっと早く帰れないの!? 明日は、妹者たんと遊ばなきゃいけないんだぞ!」
(´<_` ;)「そんなこと言ったって、荒巻や中嶋の足ではどうやったって時間がかかるぞ。
それにこのまま帰らないと、兄者が一番まずい件」
兄者と弟者のやりとりに、ブーンは首を傾げた。
街に帰らなければならないのはわかったけれども、それはどうして美味しくないことになるのか。
( ^ω^)「んー、何でだお?」
(´<_` )「何でって、……そりゃあ、兄者は母者お抱えの星読み師だからな。
大商隊の逗留の間は治安が不安定になるから、兄者が抜けるのはマズイ」
(*゚ー゚)゛
(i;゚ー゚).。oO(あの、弟者くんが精霊とお話してる……)
.
812
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:54:28 ID:yZraviHw0
(;'A`)「お前、実はすごかったのか?」
(*´_ゝ`)b「流石だろ、俺」
(´<_` )「タダ飯食らいなんだから、せめてそのくらいは働け」
(;´_ゝ`)て
しぃの内心の動揺に気づかないまま、兄弟たちの話は進む。
精霊などを嫌い、完全に目の敵にしていた弟者の豹変。
しぃの内心の動揺は相当なものだったが、彼女の心情に共感してくれるはずのギコやでぃは残念ながら精霊が見えない。
「どうしたの?」としぃは問いかけようとして、その言葉をそっと胸に押さえ込んだ。
せっかくの弟者の変化だ。このまま見守ってあげたいと思うのは、年長者としても、弟者の姉の友人としても間違っていはいない気がした。
(,,;゚Д゚)「おい、お前らまさか本気で帰るつもりじゃねぇだろうな」
(´<_` )「帰るつもりですが、何か」
(,,#゚Д゚)「駄目だ駄目だ。旅慣れてないお前らお坊ちゃんじゃ無理だ。
特に、兄者。あれだけの大怪我だ。いくら回復したといったって、限界があるわボケ」
(;゚ー゚)「うーん。星読みは水鏡で伝えるというのじゃ、ダメなのかしら?」
(;´_ゝ`)「だがしかしだな……」
.
813
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:56:26 ID:yZraviHw0
( ´_ゝ`) !
眉根を寄せて真剣に思い悩んでいた兄者の脳裏に、雷光のようなひらめきがよぎる。
兄者はその考えを手繰り寄せ、少しの間考え込む。
そして、思いついた考えが実現可能だと確信すると、兄者は笑顔を浮かべた。
(*´_ゝ`)「要するにだ、夜になるまでに帰れればいいのだろう?
流石だよな、俺。完璧じゃないか!」
(´<_` )「……兄者。それができるのならば、そもそも俺らはここまで思い悩んでいないのだが」
(,,-Д-)「弟者に賛成だ。ここからだと、どれだけ急いでも途中で日が暮れるぞ。危険だ」
弟者やギコの反対にあっても、兄者の表情は崩れない。
むしろ聞いてくれといわんばかりに弟者とギコの顔を交互に眺め、笑顔を浮かべる。
( ^ω^)「飛べばひとっ飛びだと思うんだけど、ちがうのかお?」
('A`)「ブーン。それは、お前しかできない」
(;^ω^)「そ、そうなのかお?」
('A`)「弟者が言ってただろう。人は、飛べないってな」
.
814
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:59:25 ID:yZraviHw0
(*´_ゝ`)「ふっふっふー」
兄者は笑顔を浮かべ、弟者やギコの反応を待ち続ける。
しかし、兄者のその期待はすぐに打ち砕かれた。
(*゚ー゚)「とりあえず水鏡で連絡してみたらどうかしら?」
( <_ )「水鏡……」
(*゚ー゚)「あくまでも一つの手段だけどね。無理にとは言わないわ。
使いたいということなら、弟者くんたちのかわりに私かギコくんが連絡を取るから安心して」
(,,゚Д゚)「まあ、お前らはここで休んでいればいいってことだ」
( <_ )「……」
誰も聞いていない。
それどころか、弟者は鏡という単語に意識を奪われ沈黙すらしている。
表情すら浮かべない完全なる真顔。弟者のことは心配ではあるが、今はそれよりも……
ヾ(;´_ゝ`)ノシ「俺って無視されてないか? なんで、なんで?」
( ;_ゝ;)ブワッ (^ω^;) ('A`)
.
815
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:00:30 ID:yZraviHw0
( ;_ゝ;)ヾ(^ω^ )ヨシヨシダオー ('A`;)
('A`;).。oO(兄者のヤツ、やっぱアホなんじゃないか?)
兄者はひとしきり大袈裟に泣いてみたが、ブーン以外誰にも相手をしてもらえない。
それを悟った兄者はブーンの頭を撫でると、そばにいた弟者のマントを引っ張り声を上げた。
( ´_ゝ`)「だーかーらー、そんな顔しなくても帰れるんだって! ちゃんと、夜までに!」
(´<_` ;)「え? あ……よかった、な?」
(#`_ゝ´)「ちゃんと聞けって! 弟者が協力さえしてくれればどうにかなる!」
_,
(´<_` )「……」
弟者は眉をひそめると、兄者の姿を見た。どうやら兄者がまたろくでもないことを考えている、と思ったようだ。
一方の兄者は大きく頷くと、弟者の顔をまっすぐに見据える。
兄者の表情はいつのまにか真剣で、自信のなさそうな様子は微塵も見られなかった。
.
816
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:02:41 ID:yZraviHw0
( ´_ゝ`)「弟者、何があっても協力してくれるな」
(´<_` )「……」
弟者はその問いに返事をしなかった。
先程までのふざけた態度とはまったく違う真剣な様子に、弟者の視線が小さく泳ぐ。
( ´_ゝ`)「……」
弟者は何も答えない。
兄者もまた、真剣な顔を崩さないまま、弟者の返事を待つ。
(;'A`)「一体、兄者のヤロウは何する気なんだ?」
( ^ω^)「ブーンにはわかんねーですお」
そして、長い沈黙の末、弟者は大きくため息をついた。
(´<_` )「兄者のことだから根負けして、冗談の一つでも言い出すのかと思ったのだがな」
( ´_ゝ`)b「お兄ちゃんだってやる時はやるのだ――とでも、言っておこう」
.
817
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:05:19 ID:yZraviHw0
兄者と弟者のやりとりに気づいた、ギコとしぃが顔を上げる。
しかし、2人の会話だけでは兄者が何を狙っているのかはわからない。
ギコとしぃは顔を見合わせると、ちいさく首をひねった。
(-<_− )「把握した。不安なことこの上ないが、ここは俺が折れよう」
(*´_ゝ`)「つまり、何が起きても文句はないと」
(´<_` )「……文句は言う。が。協力するといった以上はつきあおう」
弟者の言葉に兄者は、眉を寄せる。
しかし、ここが妥協点だと思ったのか、「ふむ」と頷く。
(*´_ゝ`)「よし、約束したからな。
絶対、ぜぇーーったい協力しろよな!」
(,,゚Д゚)「おいおい、危ないことはすんじゃねーぞ」
(;゚ー゚)「……」
ヾ(*´_ゝ`)ノ「ギコ者も、しぃ者大丈夫だって! このお兄ちゃんを信頼しなさいって!」
.
818
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:06:04 ID:VPyeQ90g0
あのシーンくるか
819
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:08:12 ID:yZraviHw0
兄者は天幕の中から出ると、空を見上げた。
そして、大きく息を吸うと口元に指を当てる。
兄者が息をはくと同時に、空に鋭い音が響く。
指笛だ。
その音は、砂煙にけぶる空へと溶けて消える。
ただ、それだけ。しばらくしてみてもそれっきり何も起こらない……ように見えた。
(*゚ー゚)「……?」
(,,;゚Д゚)「何も起きねえじゃねぇか」
ギコが青い尾をくねらせて、溜息をつく。
しかし、そうではないことをギコとしぃ以外の全員が知っていた。
⊂二(*^ω^)二⊃「きたお!」
('A`)>「こんな場所まで、よくもまあ」
それは、まるで朝の繰り返しだった。
ブーンとドクオの精霊二人が、空を見上げて呟く。
.
820
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:10:26 ID:yZraviHw0
砂で霞みながらも、それでも青い空に黒い影が浮かんでいた。
影はみるみるうちに大きさを増し、驚くほどの速さで近づいてくる。
それは、大振りな牛や馬ほどの大きさだった。
がっちりとしたその体は鱗に覆われ、背には薄い飛膜を持った巨大な翼が生えていた。
夕暮れの空のような、薄桃色の光がきらめく。
:::(,,;゚Д゚):::「ななな、な、なんじゃこりゃぁぁぁぁ!!!」
(*゚ワ゚)+「竜よ。飛竜だわ!! すごい、こんなに近くに!」
(#;゚;;-゚)「……っ!」
黄金の色を湛える瞳が揺れる。
その巨体には不釣り合いな、愛らしい顔つき。
夕暮れ色に輝くその体は、竜そのもの。生ける伝説とも讃えられる、空の王者がそこにいた。
(*´_ゝ`)ノシ「ピンクたーん!! こっち、こっちだ!!!」
(´<_`; )「……まさか」
兄者の顔が輝き、弟者の顔が引きつる。
対照的な表情を浮かべる兄弟に向けて、ピンクたんと可愛らしい呼び名で話しかけられた竜は唸るように声を上げる。
そして、翼を大きく羽ばたかせると、薄桃色の竜は兄者の正面へと着地した。
.
821
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:12:59 ID:yZraviHw0
(Σ Οw)
ずどんという音と共に、大地が揺れる。
しぃは大きく瞳を輝かせ、ギコは大きく口をあけて、でぃは無言で息を呑み、竜の姿を見つめている。
ヾ(*^ω^)ノシ「ピンクたんだおー」
(*´_ゝ`)ノシ「よしよーし、よくぞ来てくれたなピンクたん!」
兄者の声に、竜は子猫のように頭を兄者の体へとこすりつけた。
喉の奥でぐるぐると鳴る声は甘えた生き物そのもので、空の王者らしき威厳はない。
(*゚ー゚)+「ねえ、兄者くん。この子どうやって懐かせたの?
噛まれたり、暴れたりしない? やっぱり賢い? 何を食べるの? 生態は?」
(,,;゚Д゚)「しぃ、落ち着け! そんなホイホイと、近づくんじゃねぇ!」
(*^ー^)「あら、学問の探究って大事なことよ」
(∩;゚Д゚)∩「しぃ! 落ち着け、危ない! これだから学者ってヤツは…」
(#;゚;;-゚) ビクビク
.
822
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:14:15 ID:yZraviHw0
好奇心収まらぬしぃをギコがなだめ、立ち直ったしぃがでぃを落ち着かせる。
興奮の時間は過ぎ、辺りにはようやく落ち着きが訪れた。
( ´_ゝ`)「荒巻たちラクダがダメなら、竜のピンクたんにお願いすればいい」
(´<_`; )「まさか、ここでこいつを持ってくるとは……」
(*´_ゝ`)「どーだ、びっくりした?」
夏の出歩くことすらままならない季節も過ぎ去り、それでも暑さを失わない秋。
日は傾き、夕暮れの気配が漂い始めたその時刻。
兄者はよっと声を掛けると、竜の背に軽々とまたがった。
( ´_ゝ`)「まあ、いろいろあったが……」
砂漠の真っ只中。
オアシスの麓にひろがる故郷から離れたソーサク遺跡。旅の終着の地。
災難も終わったし、ここから先は帰るだけ。
(*´_ゝ`)つ 「さあ、行こう」
そして、兄者は双子の片割れに向かって、手を差し伸べた――。
.
823
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:16:58 ID:yZraviHw0
差し出されたその腕は、まるで朝の繰り返しだった。
(-<_- )
弟者は兄の背を眩しそうに見やって、その瞳を閉じる。
ためらいはほんの少し、もう言われるまでもなく返事は決まっていた。
(´<_` )「流石だよな、兄者は」
( ´_ゝ`)b「知らなかったのか? 俺は、流石なのだ」
(´<_` )「悔しいが、約束してしまったからな。こうなったら付き合ってやるさ」
ふてぶてしいまでの片割れの言葉に、弟者は笑みを浮かべる。
口元を上げるだけの小さな笑顔。でもそれは、弟者の本心からの表情だった。
弟者の足が、地を蹴る。
⊂(´<_` )
――差し出されたその腕を、弟者はとった。
.
824
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:19:02 ID:yZraviHw0
(*´_ゝ`)ノシ「じゃあなー、しぃ者もギコ者もでぃ者も元気でー!!」
( ^ω^)「アラマキとナカジマをおねがいだおー!」
(´<_` )「ラクダを頼むな」
(#*゚;;-゚)「……わかってる。……二人とも、元気で」
(,,゚Д゚)「達者でな―。こっちの調査が終わったら顔を出すから、その時は歓迎しろよ!」
(*゚ー゚)「みんな気をつけてね。危ないことだけはしちゃダメよ……」
<(*'A`)>「わかりました! わかりましたよ、しぃさん!!」
(;゚ー゚).。oO(どうしてあんなに嬉しそうなんだろう。あの子)
二頭のラクダをでぃたちに譲り、別れの言葉を交わす。
ラクダは砂漠の民たちにとっては財産に等しい。
だから、荒巻と中嶋は大切に扱ってもらえるだろう。
( ´_ゝ`)「よーし、懐かしき我が家へ出発だ!!」
.
825
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:21:41 ID:yZraviHw0
(´<_`;)「た、頼むな。ピンク……たん」
(Σ*Οw)
弟者が恐る恐る声を上げると、竜は喉を鳴らして返事をした。
案外いいやつなのかもしれない……と、弟者は一瞬思いかけてすぐに気を引き締める。
何しろ竜に乗って飛ぶのなんて初めてだ。これから何が起こるのか、わからない。
(´<_`;)「おい、兄者。気をつけろ」
(*´_ゝ`)「大丈夫だって! ピンクたん、飛べ!!」
(\(Σ*Οw)
^^
夕焼け色の竜の翼が広げられ、二度三度と上下に動かされる。
羽の動きは力強さを増していき、やがては完全な羽ばたきとなった。
(゚<_゚ ; )「時に待てぇ!!! 心の準備が」
弟者の叫びも虚しく、竜の足が地を離れる。
竜の翼は大きな風を起こし、その体躯を空へと浮かび上がらせる。
.
826
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:23:50 ID:yZraviHw0
(;゚A゚)「ちょ、オレを置いていくなぁぁぁ!!!」
兄弟をその背に乗せて、竜の背は高く高く舞い上がっていく。
地面は遠のき、飛び降りたら命がないような高度まで舞い上がる。
(*^ω^)ノシ「ブーンもいっしょにいくおー!!」
(\(Σ*Οw)
^^
そして、竜の体は街へと向けて飛び立つ。
風は兄者の頭の飾り布や、弟者のマントを飛ばさんとばかりに吹き荒れる。
(゚<_゚ ; )「と、と、と、飛んでる!!!」
(*´_ゝ`)「あったりまえだろ、ピンクたんは飛んでいるのだ!!」
兄者は竜の首にしがみついて笑い、弟者は表情を凍りつかせる。
ドクオはなんとか竜にしがみつき、ブーンは風を捉え気持よさそうに飛ぶ。
ttp://buntsundo.web.fc2.com/ranobe_2012/illust/11.jpg
.
827
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:25:56 ID:yZraviHw0
( ^ω^)「お? 雨のにおいがするお」
(´<_`;)「なん、だと……」
空を覆う雲は、暗く厚い。
確かに兄者も雨が降ると言っていたが、まさかそれが今とは……。
こいつは雨でも大丈夫なのだろうか?――と、弟者は竜の顔をそっと伺う。
(Σ;Οw)
弟者の視線を受けてか。それとも、本能的に天候の変化を感じたのか。
竜は小さく唸ると、背の翼を大きく羽ばたかせる。
いつの間にか、肌を撫でる風は、空気がじとりと水気を含んでいる。
(*'A`)「影が出てきた。これはオレにも勝機が」
( ´_ゝ`)「――きた!」
雲から滴り落ちた雨粒が、兄者や弟者の体へと落ちる。
しかし、その毛並みを湿らせる程度でそう勢いは強くない。
雨粒は細かく、視界を白にゆっくりと染めていく霧のような雨だった。
.
828
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:28:33 ID:yZraviHw0
弟者は何気なく視線を地面に向け、そして息を呑んだ。
その動きにつられたのかドクオも地上を――、一面に広がる砂の丘を眺め声を上げた。
(;'A`)「へっ?」
見下ろした地面は、雨に濡れていなかった。
降りしきる雨は、大地に届かずに消える。
熱を吸った大気があまりにも暑すぎて、雨は降るそばから乾き地面には届かない。
(´<_` )「……」
飛ぶことの出来ない弟者にとって、それははじめて見る光景だった。
伸ばした片手ははっきりと雨に濡れている。それなのに、砂丘はこの雨など知らないように横たわっている。
その不思議な光景を、弟者はただ見つめていた。
( ^ω^)「アニジャの天気よほーがあたったお! すごいお!」
d(*´_ゝ`)「晴天。砂嵐なし。風、気温ともに良好。夕暮れに雨が降るけど、霧雨。地面には届かず。
バッチリだろ! なんと言ったって、外したことはないからな!」
.
829
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:30:17 ID:yZraviHw0
やがて、しとしとと竜や兄者たちの体を濡らしていた雨も止む。
雲の間からは強い日差しが再び現れ、砂丘を明るく染める。
そして、弟者は見た。
(´<_` )「……っ!!」
空に、虹がかかっている。
赤や青に色づく光が、光の橋を地上へと向けて投げかけている
こんなものめったに見れないとか、すごいとか言いたいことはいくらでもあるはずなのに言葉にならない。
兄者は気づいていない。きっと、ブーンやドクオもだ。
早く伝えなければと思いながらも、弟者は虹から目を離すことが出来ない。
(´<_` )「……」
美しかった。
空の上を飛んでいるという怖さも、もしこの竜が暴れたらという不安も頭のなかから消え去っていた。
弟者の体から緊張が解け、体の震えも止まる。
.
830
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:32:27 ID:yZraviHw0
(;´_ゝ`)「おい、弟者大変だ! 見ろって!! にじ、虹だって!!!
あっ、消え――」
兄者が虹の存在に気づいた時には、その形は空に溶けて消えようとしていた。
それでも、なんとか弟にその存在を知らせようと手を伸ばして、虹を指し示す。
(;゚A゚)ノ「もう限界! 兄者、影かせ影っ!」
( ;`、ゝ´)「今は影より見るものがだなぁ!!」
しかし、それを邪魔するように、竜をしがみつくのも限界になったドクオが兄者に飛びかかる。
兄者はドクオを振り払いながらも、皆の視線を虹へと向けようとするが、その時にはもう遅かった。
虹は半ば以上薄れ、はっきりとした形を失っている。
( ;_ゝ;)「そ、そんな……」
(; A ) ツカレター
( ^ω^)「……オトジャ? オトジャはにじ見れたかお?」
落胆する兄者から目を話し、ブーンは弟者へ問いかける。
その質問に、弟者は大きく頷く。
瞬く間に薄れ、もう消え失せて見えない虹の残像を弟者はひたすら追い続けていた。
.
831
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:34:56 ID:yZraviHw0
・
・
・
嘘のように、空の旅は快適だった。
(´<_` )「……」
一度、風にのってしまえば大きく揺れることもなかったし、風に吹き飛ばされるようなこともなかった。
落ちればひとたまりもないだろうが、広くしっかりした背は安定感があり、よほど馬鹿なことをしない限りは落ちる心配もなさそうだ。
⊂二( ^ω^)⊃「おっおー、楽しいお」
気づけば、弟者の体から余計な緊張は解けていた。
そもそも、冷静になって考えてみたら、ここにはブーンがいるのだ。
風を操ることが出来るブーンの力があれば、万が一落ちたとしても命の心配はない。
(´<_` )「……そうか」
……そんな風に考えられるほどに、いつの間にかブーンを信用している自分に、弟者は小さく苦笑いをする。
精霊なんて見るのも嫌だった自分は、一体何処へ行ってしまったというのか。
怖がりすぎてるだけという言葉が、ふいに脳裏に浮かんだ。
それはいつか、でぃが言っていた言葉だった。今日の事なのに随分前の出来事に感じる。
怖がりすぎているだけ……か。と弟者は息をつく。
何事も踏み込んでみたら、意外と大したことではないのかもしれない。
.
832
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:36:40 ID:yZraviHw0
遺跡を見て回り、ゴーレムと戦い、竜に乗る。
今日はなんという一日なのだろう。朝、目覚めたときは、こんな未来が待っているなんて思ってもいなかった。
(´<_` )「とんでもない一日だったな」
視線を下向けると、どこまでも広がる砂地が見える。
これなら予想よりも早く帰れそうだと考えながら、弟者はふと思い出した。
――そうだ。今日が終わる前、帰る途中に寄ろうと思った場所があったのではなかったのか?
(´<_` )「……そうだった。途中で下ろしてもらいたい所があるのだが」
弟者は前に座る兄に向けて、声を上げる。
兄者は弟の言葉にビクリと体を大きく震わせると、声だけで返事を返した。
(;´_ゝ`)「ま、まさか気持ち悪くなったのか?! それとも大自然が呼んでる的な」
(´<_` )「違う」
( ^ω^)ダイシゼン?
('A`)ベンジョ ダ ベンジョ
( ^ω^)ニンゲンッポイオー
(´<_` )「違うといっているだろうが……」
.
833
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:39:20 ID:yZraviHw0
兄者や精霊たちの掛け合いに、弟者が気を悪くした様子はなかった。
竜の上で動くのを嫌がったのか、それとも単に精霊たちに慣れたのかはわからない。
弟者は視線を地上に投げかけたまま、淡々と声を上げる。
(<_` )「花が見たいんだ」
( ^ω^)「花だったら、オトジャの家にあるんじゃないかお?」
(´<_` )「そうじゃなくて、明日は妹者の……」
後ろから聞こえた弟者の声に、兄者は肩を震わせ始める。
気分が悪いのは兄者ではないかと、弟者が声を上げようとする。
が、兄者の震えはそのまま笑い声へと変化する。
(*´_ゝ`)「ふっふっふー」
(;'A`)「兄者、気持ち悪っ!」
( ;´_ゝ`)「流石に失礼だぞ、ドクオ者よ!」
兄者はドクオに言葉を返しながらも、懐を探る。
そして、そこから何かを取り出すと、それを弟者に向けて差し出した。
.
834
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:41:16 ID:yZraviHw0
(; ゚_ゝ゚)つ「うわぁぁぁっと」
(#゚ω゚)「あぶないお!」
その拍子に、兄者の体がぐらりと揺れる。
空の上にいるということをすっかり忘れたのだろう、兄者の体は大きく傾き、そのまま倒れ込みそうになり、
――その体を弟者の手がぐいと掴んだ。
弟者は慌てることなく、服の背を掴むと兄者の体をピンクたんの背へと引っ張り上げる。
(´<_`#)「兄者は学習というものをしないのか!」
(;´_ゝ`)「正直すまんかった。――って、今はそうじゃなくて!」
兄者は手にしたものを弟者に向けて差し出す。
弟者は目の前に差し出されたそれに、怒鳴るのを忘れて息をのむ。
.
835
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:43:05 ID:yZraviHw0
兄者の手にしたそれは、花に見えた。
六枚の花弁を持つ、決して派手ではないけれども可憐な形をした花。
しかし、それはただの花とは違っていた。
(´<_` )「……これ、は?」
兄者の手にしたその花は、淡く色づきながらも透き通っていた。
まるで繊細なガラス細工だ。
触れた感触はガラスのように硬質でありながら、淡く透き通るその色は水のように移り変わっていた。
( ´_ゝ`)「なんでも、西方に咲く花らしい。
こっちでも育てることは出来るらしいのだが、暑すぎてどうしても花が咲かないらしい」
(´<_` )「そんなものが、どうして……」
( ´_ゝ`)「ソーサク遺跡の最後の広間。あそこ、涼しかっただろ」
弟者はその言葉に、兄者が今日一日の間何を企んでいたのかようやく察した。
ソーサク遺跡の奥にこの花が咲くことを、兄者はギコから聞いていたのだろう。
そして、兄者はギコの言葉から思いついたに違いない。
( ´_ゝ`)b「ソーサク遺跡のあの場所はどういうわけか、西方に近い環境らしいんだ。
だからなのか、あの部屋ではこの花がよく咲くらしいのだよ!」
.
836
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:46:00 ID:yZraviHw0
明日は、妹者の誕生日だ。
大商隊を迎える準備のために、ひたすら空や星を読んで働かされていた兄者は、妹者への贈り物を用意できていなかったに違いない。
残り短い準備期間の中で、兄者は妹者へ何を贈ろうと考えただろうか。
l从・∀・ノ!リ人
まだ十にも満たない妹者に贈るのに、装飾品はまだ早すぎる。
自然と妹者に贈るものといえば、少女の好むかわいらしいものになる。
異国の鳥、猫。リボン。装飾の施された綺麗な布――候補になりそうなものはいくつかあるが、兄者はきっとこう思ったのだろう。
そうだ。花はどうだろうか。
(-<_- ).。oO(俺だけあって、考えることは同じなのだな)
ソーサク遺跡には、珍しい花がある。
父者の育てる中庭では見ることのできない、きれいな花だ。
これを贈り物にしよう。妹者はきれいなものが好きだから、きっと喜ぶ――そう、思ったのだろう。
.
837
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:48:04 ID:yZraviHw0
(*´_ゝ`)「旅に出るぞ!」
今日一日の兄者の唐突な言葉と行動の意味が、今ならわかる。
兄者は妹者の誕生日に間に合わせるために、今日中にソーサク遺跡に行って帰ってくる必要があったのだ。
(´<_`#)「兄者は、もう少し根性をみせようか」
(;´_ゝ`)σ「根性を見せろって言われてもな……お前さんが加減さえしてくれれば、俺ももうちょっと」
(´<_` )「ふむ。そういえばそうだったな」
日頃から弟者に力や体力を回している兄者一人では、この遺跡まで来ることが出来ない。
体力の問題もあるし、万が一のことを考えれば護衛だって必要になる。
それで兄者は、休みで家にいて、なおかつ護衛も出来て、自分と同じく妹者への贈り物を用意できていないであろう弟に目をつけた。
( ´_ゝ`)「弟者ぁあ、いるかぁぁぁぁあ!!!」
つまりはじめから、弟者は妹者への贈り物を手に入れるための相方として選ばれていたということだ。
.
838
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:50:16 ID:yZraviHw0
(´<_` )「ふむ、なるほど。それで、その遺跡には何をしに?」
(;´_ゝ`)「――えっ?」
(´<_`;)「――えっ?」
l从・∀・;ノ!リ人「――えっ?」
目的を問われた兄者がすぐに答えられなかったのも当然のこと。
あの時、兄者のすぐそばには妹者がいた。
大方兄者は、本人を目の前にして、これから誕生日の贈り物を取りに行くのだと言うのをためらったのだろう。
魔法石板用の石板を取りに行くというのは口からの出任せだ。
妹者がいなくなってからも、石板と言い続けたのはきっと引込みがつかなくなったからなのだろう。
だから、石板を拾ったから帰ると主張する弟者に対してボロを出した。
η(#´_ゝ`)η「大体、目的のブツはこれじゃな」
兄者の目的は、はじめからこの花だった。
だから、石板を拾ったあの段階では帰るわけには行かなかったのだ。
そして、兄者は花を探して最奥の間に辿り着き、ゴーレムに襲われ部屋に閉じ込められるはめになった。
それでも兄者は戦いの後のごたごたの間に、探していたのだろう。
.
839
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:52:44 ID:yZraviHw0
――そして、旅の終わり。
兄者は無事にこの珍しい花を手にしている。
要するに、今日一日の出来事は全て兄者の計画通りだったというわけだ。
(´<_`;)「……よくもまあ、ここまで俺を騙してくれたものだな」
(;^ω^)「だました? アニジャだましてたのかお?!」
やっと呟いた弟者の言葉に、兄者はにんまりと笑う。
顔を見なくても弟者にはその声の調子でわかる。今の兄者は絶対に調子にのっている。
(*´_ゝ`)「ふっふっふー。
ギコ者やしぃ者からこの花のことは聞いていてな。これが今日、遺跡へ行った真の目的だったのさ」
(´<_`; )「――今日、最大にやられた気分だ」
弟者は息をつく。
兄者のことだから何も考えていないと思っていたのに、実際のところは大違いだった。
それにまんまと乗せられていたのだから、弟者としてはもう苦笑いをするしか無い。
(*>_ゝ<)「ほめてもいいのだよ、弟者くん」
(´<_` )「あー、はいはい。流石流石」
.
840
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:54:43 ID:yZraviHw0
(*^ω^)「あー、みんな見るお!」
('A`)「えー」
そんな兄弟たちの会話を遮るように、ブーンは手を翼のように広げながら声をあげる。
その声にドクオが面倒そうに声を上げ、溜息をついていた弟者も顔を上げる。
(;´_ゝ`)「ねぇ、ちょっと俺への褒め方ゾンザイじゃない?」
(´<_` )「お前のような嘘吐き、知るか」
兄者の言葉に返事をしながら、弟者はブーンが言った先を眺める。
弟者は下を見下ろし。そして、息を呑んだ。
(´<_` )「――あ、」
砂の丘のまっただ中に見えるのは、湖の姿がくっきりと見える。
慣れ親しんだ、“流石”の街。
それを取り囲むように、どこまでも続いていく砂の丘が見える。黄金の大地は、風が作り出す模様に彩られていた。
日は大きく傾き、砂の地平に落ちかかる太陽は火のように赤い。
.
841
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:57:52 ID:yZraviHw0
('A`)「もうこんなとこまで来てたのか」
(*^ω^)「あとちょっとで、街だおねー」
世界が少しずつ、赤へと染まり、闇へと沈んでいく。
それは、決して恐ろしいものではなかった。
(*´_ゝ`)>「おお!!」
自分が生まれる前から、魔王の時代から、それよりもずっと前の時代から。
ずっと続いてきた一日の終り。夜へと続く、夕暮れのほんの一瞬。
落ちゆく空の色は、竜の鱗のきらめきと同じ色をしている。
それを見ながら、弟者は思う。
(´<_` )「……こういうのも、悪くないな」
空は橙に、赤に、紫に、青にかわり、やがて漆黒の夜が訪れようとしている。
星がその数を増し、柔らかい月の光が太陽に変わり空を明るく照らしはじめる。
そこにはもう、昼の名残はどこにもない。
.
842
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:59:48 ID:yZraviHw0
(;´_ゝ`)「うう、さぶぃー。
こりゃあ、早く帰らんと凍死しちまうわ」
(*^ω^)「お? これくらいで寒いんですかお?」
( ´_ゝ`)b「俺は人間の中でもそうとう貧弱な部類に入るぞ!」
太陽が落ちるのと同時に訪れる風の冷たさに、前に座る兄者の体が大きく震えた。
灼熱で満たされる昼が嘘のように、この地の夜は寒い。
そうか。今日も、もう終わるのか。
弟者は不思議と名残惜しい気持ちになり、ふと口を開く。
どうせ今日はとんでもない一日なのだ。
もうーつや二つくらい、普段ならば絶対にあり得ないことが増えたって、別に悪くはないだろう。
(´<_` )「……ドクオ」
そして、弟者はドクオに話しかけた。
今日一日を共に過ごしながらも、決して話そうとはしなかった相手。
それどころか、死んでいなくなればいいとさえ思っていた、憎い敵のような存在。
そのドクオに向けて、弟者は言葉を発した。
.
843
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:01:23 ID:yZraviHw0
(;'A`)「ん?」
ドクオは小さく声を上げた後に、その声の主が弟者であることにその表情を固くした。
兄者の姿を見て、それから辺りを見回す。が、声の主は弟者という事実に変わりはない。
( ;A;)「ごごごごごめんなさい」
(´<_` )「いや、今はまだ怒ってはいない」
(#'A`)ノ「まだって、やっぱ怒るんじゃねーかよこのおにちく!!」
ドクオの反応に、弟者はふむと息をつく。
実際に声をかけて話してみれば、ドクオとの会話もまた、それほど不快ではなかった。
ドクオの方も、弟者によって散々な目に合わされているというのに、その言葉はこれまでとそう変わりはない。
良くも悪くも、精霊という生き物は単純なのかもしれない。
――と、弟者は考えて、これも今日までは決して考えようとはしなかったことだな。と、小さく苦笑する。
(´<_` )「いろいろと悪かった」
(;゚A゚)「は? お前、ついに頭おかしくなったんじゃねーか?」
弟者が苦笑いを浮かべたまま、今日一日のあまりにも遅い謝罪をすると、ドクオは途端に妙な顔になった。
その顔があまりにも変なので、弟者はつい笑ってしまう。
――何が精霊は楽しいぐらいしか感情が残っていない、だ。人間と変わりはしないじゃないか。
.
844
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:03:10 ID:yZraviHw0
なんだか、何もかもが愉快でおかしかった。
今日一日は本当に散々だったが、最後にこんなにおかしいことが待っているとは思わなかった。
(´<_` )「そうかもな。長年の苦労がたった一日でダメになって、ヤケを起こしてるんだ」
(;´_ゝ`)「え? なんで、俺の頭を叩くの?
てか、なんでお前は爆笑してるの? そもそも、何で急にそんなに素直になっちゃってるのさ?!」
これまでの十年間が間違っていたとは思わない。
兄者は危なっかしいし、危険だという自覚もないまま、これからも妙な出来事に突進するだろう。
だから、これからも自分は兄者を止めたり、諌めたりしなければならないだろう。
(-<_- *)「さてな」
――けれども、それも必死になって抱え込む必要は無いかもしれない。
馬鹿でヘラヘラとしているけれども、俺の半分はそれなりにすごいやつだった。
だから、一人で背負い込まなくても、きっと二人ならなんとかなる。
それに自分が気付けていなかっただけで、助けてくれる奇特なやつもちゃんといる。
かつてのツンや、先生のように。
そして、今日のブーンや、ドクオのように。
――だから、俺はきっとこれからも大丈夫だ。
ちゃんと、弟者として。普通の一人のように、やっていくことが出来る。
.
845
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:05:55 ID:yZraviHw0
(;´_ゝ`)「ちょ、おま。このお兄ちゃんに嘘つくって言うのか?
考えてることがだだ漏れの、あの弟者くんは一体何処へっ!?」
(;'A`)「あれでだだ漏れだというのか、お前は!!!」
(´<_` )「人をなんだと思っているのだ、失礼な」
( ^ω^)「……」
(*^ω^)「ブーンもまざりたいおー!!」
弟者の口元が、自然とゆるむ。
たまには、こんなのも悪くはない。と、弟者は思う。
(\(Σ*Οw)
^^
竜の背から見る世界は、なんだかとっても広く見えた。
それこそ、
.
846
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:06:41 ID:yZraviHw0
――彼が、ずっと嫌っていた、魔法のように。
.
847
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:07:22 ID:yZraviHw0
( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )
おわり
.
848
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:18:35 ID:mwwkQGYAO
面白かったー!乙!!
伏線回収も心境変化もすごく綺麗にまとまってて、読んでて爽快だった!
風景や天候と心理の合わせ方がすごく上手い。情景がすんなり目に浮かんだ。
完結ありがとう、後日談も楽しみにしてる!おまけも!
849
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:22:16 ID:PA7Y3QRs0
ついに終わってしまったー・゚・(つД`)・゚・
楽しかった!面白かった!
850
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:32:27 ID:yZraviHw0
休憩おわり。オマケ投下します
851
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:33:06 ID:kbZ3Xh2M0
おわ、来てたか!
なんか勝手に明日夜=日曜夜と思ってて不意打ち食らった
これから読んでくる!!
852
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:33:23 ID:yZraviHw0
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「今、帰ったよ」
::l从・д・illノ!リ人:: ガタガタガタ
∬´_ゝ`)「おかえり、母者。時に母者に報告したいことがあるんだけど……」
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「ただいま。妹者、挨拶は?」
::l从・∀・illノ!リ人::「おおおおかえりなのじゃ!」
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「ただいま、妹者。
で、姉者。報告したいって言うのは何だい?」
.
853
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:34:47 ID:yZraviHw0
.@@@
@ _、_@
/(# ノ`)\
_/__〃` ^ 〈_ \
γ´⌒ |i、___/|ヽ⌒ヽ
/ ィ ┘ `i´ L ) `ヽ,
/〜〜〜ノ~~~~~~~~~~人〜〜〜
! ,,,ノ |\.=┬─┬=く ^ > )
( <_ .| | | | / /
ヽ_ \ | | | 〃 /
ヽ、__」 .| | 〈__ソ、
〈J .〉、| | |ヽ-´
/"" | | .|
/ | | ヽ
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/ | | ヽ
<_,、_,、_,、_,、_,.| |,、_,、_,、_,>
y `レl | | リ
/ ノ |__| |
l / l;; |
〉___〈 〉_|
/ヽ__ノ| (_ヽー\
(_^__ノ `ヽ__>
おまけ劇場 l从・∀・ノ!リ人 でざーと×しすたーのようです
.
854
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:36:58 ID:yZraviHw0
て
@@@ そ
@#_、_@
( ノ`) 「一体、どういう事なんだい!!!」
::l从 д illノ!リ人:: アワワワ
∬´_ゝ`)「どういう事なんだいも何も、話した通りよ。
他ならない父者本人がそう言ったんだし、私だって確認してる。母者も見てきたら?」
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「あの中庭をダーリンがどれだけ大事にしてたか」
∬ ゚_ゝ゚)゛「……ブッ」
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「どうしたんだい、姉者。風邪ならさっさと治しな」
∬;´_ゝ`)「いえ、何でもありません……」
.
855
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:38:15 ID:yZraviHw0
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「まぁ、いい。それで続きだけど」
∬´_ゝ`).。oO(今、ダーリンって呼んだ。ダーリンって……)
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「原因は何かわかっているのかい?」
∬´_ゝ`)「それがさっぱり、父者は侵入者を疑っていたけどその線は無いわね」
@@@
@ _、_@
(; ノ`) 「ダーリンかわいそうに……」
プルプル::.∬; _ゝ )::.。oO(だから、ダーリンって……)
l从・∀・;ノ!リ人 アワワ
.
856
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:40:17 ID:yZraviHw0
∬;´_ゝ`)q コホン
∬´_ゝ`)「――で、最後に中庭に入ったのは、妹者というわけなの。
中庭の立ち入りの件についてはさっき話した通りだから、怒らないであげて」
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「花を踏んだのは妹者かい?」
l从・∀・;ノ!リ人「ちがうのじゃ! ちゃんと気をつけてお水くんだのじゃ!」
∬#´_ゝ`)「妹者、嘘は」
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「姉者は黙ってな」
∬;´_ゝ`)「……、はい」
.
857
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:41:45 ID:yZraviHw0
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「妹者。花を踏んだのがアンタじゃないってことは、他に犯人なり原因なりがあるはずだ。
アンタは何か心当たりがあるかい? 気づいたことは?」
l从・−・;ノ!リ人「……」
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「妹者、返事は」
Σl从・ 0・;ノ!リ人 ビクッ
:: @@@ :::::
:::@#_、_@ ::::
::: ( ノ`) 「妹者?」
l从・−・;ノ!リ人「……」
.
858
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:42:32 ID:yZraviHw0
l从・〜・;ノ!リ人「それは……、のじゃ」
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「返事は大きな声で」
l从>д<;ノ!リ人「……し、し、知らないっ、の じゃっ!」
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「知らない? 本当に?」
l从・∀・;ノ!リ人「ほ、ほんとなのじゃ!! 妹者はなんにも知らない、のじゃ!」
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「今の言葉は、本当だね」
l从・−・iiiノ!リ人.。oO(ほんとじゃないのじゃ)
.
859
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:43:27 ID:yZraviHw0
l从・д・iiiノ!リ人.。oO(ウソっこはいけないのじゃ。母者はウソは怒るのじゃ)
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「妹者、ちゃんと返事をしな。
妹者が返事をしないのなら、こちらも妹者が犯人と思うよ」
l从・−・iiiノ!リ人「……」
l从- -;ノ!リ人「……ぃ」
@@@
@#_、_@
( ノ`)m グッ
l从・д・iiiノ!リ人「言わないのじゃっ!! ゲンコツしてもムダなのじゃ!!」
.
860
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:44:20 ID:yZraviHw0
@@@
@#_、_@
( ノ`)m 「分かった。そう言うならゲンコツだね」
l从;д;ノ!リ人 グスッ
l从>д<;ノ!リ人「いもじゃは、お花さんをふんだのはダレかなんて、
ぜったいのぜったいに、しらないのじゃ!!」
l从;∀;ノ!リ人「いもじゃはっ、やくそくしたからっ!
ぜったい、ぜったいに言わないのじゃ!!!」
@@@
@#_、_@
( ノ`)m 「……妹者っ!!!」
l从;∀∩ノ!リ人 グシッ
l从・−∩ノ!リ人「いもじゃは、ぼーりょくには、くっしないのじゃ!」
.
861
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:45:23 ID:yZraviHw0
∬;´_ゝ`)「……約束したって、それほとんど話したも同然じゃない」
l从・дqノ!リ人「……?」
∬´_ゝ`)「約束って自分で言ってる。
……妹者のことだから、そんなことだろうとは思ってたけど」
l从・д・;ノ!リ人「なななんで約束したって知ってるのじゃ!?」
∬;´_ゝ`)「何でって、ねぇ……」
@@@
@ 、_@
( ノ ) 「……」
∬´_ゝ`)「母者?」
.
862
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:47:01 ID:yZraviHw0
::l从・−・;ノ!リ人:: ビクッ
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「妹者、嘘っていうのは必ずしも悪いとは限らない。
生きているならどうしたって、嘘が必要になることだってある」
l从・∀・;ノ!リ人「……?」
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「だけど嘘っていうのはね、使うのがとても難しいもんだ」
l从・〜・;ノ!リ人「……よく、わかんないのじゃ」
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「今はそれでいいんだよ。アンタはまだ小さいからね。
でも、母さんはいつも言ってるはずだよ。嘘の重みがわかる大人になるまでは、絶対に嘘をつくなって」
l从・д・;ノ!リ人「う、うん」
.
863
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:47:58 ID:yZraviHw0
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「妹者、アンタは嘘をついたね。
約束したってことは、妹者はちゃんと知っているんだろ?」
l从・−・;ノ!リ人「……」
l从-д-;ノ!リ人「ごめんなさいなのじゃ」
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「妹者は嘘をついた。
アタシは妹者を叱らなければいけない。わかるね?」
(( l从・−・ノ!リ人 コクン
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「じゃあ、これがおしおきだ」
.
864
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:49:58 ID:yZraviHw0
@@@
@#_、_@ ペチン
( ノ`)σl从>д<;ノ!リ人 イタッ
ヒリヒリ
l从;∀;ノ!リ人「いたいのじゃー」
∬´_ゝ`)「このくらいで済んでよかったじゃない。
母者のことだから、鉄拳の1つや2つくらい来るかと」
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「姉者、アンタも一言多い!」
@@@
@#_、_@ ペチン
( ノ`)σ(´く_`;∬
( く_ ;∬「――痛っ」
.
865
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:51:00 ID:yZraviHw0
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「まぁ、こうして妹者を叱ったわけだけど」
∬;´_ゝ`).。oO(私は完全にとばっちりだったわ)
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「アタシがあれだけ怒ったのに、妹者は約束の内容を話さなかった。
何事にも信頼は大切だ。ちゃんと約束を守ったのは、褒めてやろう」
l从・∀・;ノ!リ人
@@@
@ _、_@
(* ノ`) 「よくやったよ、妹者。流石はアタシの娘!」
∬´_ゝ`)「確かに、あの状態の母者に立ち向かったのはすごい度胸よね」ワタシハムリ
l从・∀・*ノ!リ人 !
l从>∀<*ノ!リ人「ほめられたのじゃ!母者、だいすきなのじゃー!!」
.
866
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:51:42 ID:yZraviHw0
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「ただし、今度からは、していい約束なのかどうか、はじめにちゃんと考えるんだよ。
悪い約束は、はじめっからしない事。いいね」
(( l从・∀・*ノ!リ人「わかったのじゃ!!」
∬´_ゝ`)「よかったわね、妹者」
@@@
@# 、_@
( ノ ) 「……だけど、元凶には拳でちゃんとお話しないとねぇ」
l从・∀・*ノ!リ人「え?」
.
867
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:52:41 ID:yZraviHw0
「ついたぞぉぉぉ!!!」
ヤッタオー
「なんとか、帰れたな」
オレモカエル…
l从・∀・*ノ!リ人"「あ、兄者たちの声なのじゃ!!」
∬´_ゝ`)「さて、噂をすれば、お帰り見たいね」
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「そうだねぇ、二人にはちょっと話を聞かなきゃいけないね」
∬´_ゝ`)「遺跡とか、精霊がどうとか……すごく聞きたいことが、いっぱいあるのよね」
.
868
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:53:43 ID:yZraviHw0
@@@
@ _、_@
(; ノ`) 「そりゃどういうことだい?」
カクカク @@@
@ _、_@
∬ノ´_ゝ`)( ノ`) シカジカ
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「…事情は、よーくわかった。
あの馬鹿息子共は……!!!」
.
869
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:54:31 ID:yZraviHw0
l从・∀・;ノ!リ人「母者? 姉者もどうしたのじゃ?」
∬*´_ゝ`)「妹者ちゃんは、お部屋でちょっと遊んでようね。
お姉ちゃん、ちょっと兄者達にお話があるから」
l从・∀・;ノ!リ人「え? え?」
@@@
@# 、_@
( ノ ) ゴゴゴ
l从・∀・;ノ!リ人「な、な、なんかこわいのじゃぁ!!!」
∬*´_ゝ`)「ほら、部屋行くわよー」
∬*´_ゝ`)つl从・∀・;ノ!リ人 三 ズルズル
.
870
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:55:47 ID:yZraviHw0
タダイマーカエッタゾー イモジャターン!
アニジャ エラソウダゾ
エッ ハハジャ
ナニヲ
モンドウムヨウ アンタタチー
.
871
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:56:37 ID:yZraviHw0
ギャー
.
872
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:58:23 ID:yZraviHw0
l从・∀・ノ!リ人「兄者たちどうしたのじゃー?」
(ノ<_` )「別に」
(♯ノ_ゝ`)「ちょっとラスボス戦をな」
l从・∀・*ノ!リ人 ?
今日も、流石邸は平和です
でざーと×しすたー おしまい
.
873
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:59:21 ID:VPyeQ90g0
おつかれっした!
874
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:59:52 ID:yZraviHw0
本日の投下ここまで
後日談は、9日(月)に投下の予定
875
:
名も無きAAのようです
:2013/12/08(日) 00:01:02 ID:zeDgnt.AO
乙!
面白かった!!
876
:
名も無きAAのようです
:2013/12/08(日) 00:18:48 ID:raGJlf9k0
乙!月曜も楽しみだ
877
:
名も無きAAのようです
:2013/12/08(日) 09:11:53 ID:c1Wy3Osc0
乙乙!
ブーンがかわいかったな
878
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 01:21:24 ID:bgEwTgMU0
作者も4人も長旅乙!
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1421.jpg
後は後日談で終わりか…読みたいけど寂しいな
879
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 12:41:45 ID:nnePnEts0
>>878
ありがとうございます!!!
弟者の表情がすごくよくて、うれしい。書いててよかった
880
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:03:33 ID:nnePnEts0
兄者と弟者の旅は終わった。
――かといえば、そうではなかった。
大市へと赴き、砂漠を進み、盗賊と戦う。
100年に一度とも言われる神秘と出会ったかと思えば、遺跡を探索し、命をとしてゴーレムと戦いを繰り広げる。
そして、竜の背に乗り、屋敷へと帰りつく。
思えば長い一日だが、話はそれで終わらなかった。
家へと帰った彼らを待ち構えていたのは、母者と姉者による説教という名の暴力と、大商隊出立の知らせだった。
彼ら兄弟は“流石”の街の住民だ。
街を束ねる母者の息子としての、義務もある。
だから、街にとって大きな出来事があれば、どれだけ疲れていても動かなければならない。
大商隊は年に三度、東方から西方、西方から東方へと大陸を横断する。
商人や護衛の数はかなり多く。それに加えて、大量の荷物と荷馬車。それに、ラクダや、安全を求めて多くの旅人が同行する。
膨れ上がったその規模は、下手な集落よりずっと大きい。
そんな彼らの出立となれば、街中総出の大騒ぎとなる。
流石の兄弟が一日のうちに体験した出来事は、本人たちにとっては人生観を変えるほどの大事件だった。
しかし、母者をはじめとする街の人々にとってもそうだったかと問われれば、否である。
結局、彼ら兄弟は休む暇もないまま、仕事へと駆り出された。
.
881
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:04:56 ID:nnePnEts0
そして、慌ただしい夜は明ける。
――これはいわゆる、後日談。
砂漠へと向けて大商隊は旅立ち、そして、穏やかで何でもない一日が始まる。
.
882
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:05:48 ID:nnePnEts0
( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )
.
883
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:06:28 ID:nnePnEts0
おしまいのあと。 いわゆる、後日談
.
884
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:07:39 ID:nnePnEts0
市場のすぐ横にある大きな建物は、自警団の本部だ。
今そこには、黒い揃いの服を着た者達が勢ぞろいしていた。
晴れやかな顔をした者、床に倒れこみ惰眠をむさぼる者、疲れきった顔をした者などがあふれ、部屋は一種の混沌と化していた。
至るところから喜びの声や、雄叫びと、いびきの混じった音が響き渡る。
从*゚∀从「いやほぉぉ、飲むぜぇぇぇぇ!!!」
( ^Д^)「まだまだあるけど、とりあえずはこれで一段落ぅぅぅ!!!」
イェーイ!
ヾ从*゚∀从人(^Д^*)ノシ
大商隊を送り出した自警団員たちは、ひたすら浮かれ、舞い上がっていた。
お互いに肩を抱き、飛び回り、まだ昼前だというのに、机にはなみなみと注がれた酒や、沸かしたての茶がいたるところに並べられた。
普段は書類やら武器やらが並べられたその部屋は、今は飯屋や宿屋のような体をなしている。
(;´∀`)「おーい、まだ仕事は終わってないモナよー」
大商隊到来時における、治安の維持は彼ら自警団員にとって最大の仕事だ。
それに加えて、大商隊の到着時や、出立時の手伝い。役場や商人組合の手助けなど、普段はない仕事が押し寄せる。
彼ら自警団員は数日用意された休み以外は、ほとんど寝る間もなくこき使われていた。
.
885
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:09:20 ID:nnePnEts0
(;´∀`)「あー、こりゃあ誰も聞いてないモナ」
爪'ー`)「ここんとこ、ろくに休む暇もなかったからな」
休みの団員まで駆りだされた夜通しの作業がようやく終わりを迎えた頃には、倒れこむ団員と叫びだす団員で阿鼻叫喚の地獄と化していた。
まだ辛うじてやる気のある団員が、本部へ団員をなんとか押しこみ、そして今の惨状がここにある。
(;Д; )「長かった。忙しすぎて死ぬかと思った」
从 ;∀从「荷運びにも、盗っ人や酔っぱらいにも、人とか物の整理や、母者様にも姉者様にも、天候にも負けなかったもんな。
城門警備とか、ほんと一瞬の幻だったし。役場の連中とはケンカだし、酔っぱらいが盗賊化するし。
がんばったよ、今期も本当にがんばったよ!!」
(;Д; )「ハインさん。オレ、一生ハインさんについていきます!!」
从*;∀从「よせやい、照れるじゃねぇかよ」
先輩も後輩も、老いも若きも、男も数は少ないが女も、果ては普段は仲が悪いもの同志までもが、楽しそうにはしゃぎ合っていた。
寝ているものは不幸にも踏まれ、何処から持ってきたのか次々と料理が運び込まれる。
誰もかもがこんな状態なものだから、何か騒ぎが起こったらどうするつもりかというモナーの心配は誰にも届かなかった。
.
886
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:11:10 ID:nnePnEts0
( ; ゚¥゚)「あー、これは完全に、大仕事をやり終えておかしくなってますね。
どうせ見るなら、麗しい女性同士の戯れの方がよかったものです」
爪;'ー`)「お前さんも、そうとう趣味が悪いねぇ」
(-、-*川.。oO
乱痴気騒ぎに参加しない面々も、昨夜から続く夜通しの作業で力が尽き気味だ。
そんな彼らを誘惑するように、食べ物の匂いが辺りに漂う。
从*-∀从「弟者の野郎には逃げられたが、こっちはこっちで楽しくやろうぜ!」
(-Д- )「弟者さん、ひと仕事終えたら今日は用事があるからですもんねぇ。冷たいですよ」
从*゚∀从ノ「まあいい、今日は飲むぜぇェェェ!!!」
(*^Д^)9m「いよっ、ハインさぁぁぁん!!!」
はしゃぐ団員の姿を眺めながら、モナーが一つ大きな息をついた。
やれやれと言わんばかりの表情は、それでも不快そうではなかった。
.
887
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:13:22 ID:nnePnEts0
爪'ー`)「さてと、私も羽目を外してみようかね。
モナーの旦那。旦那も、たまには飲んでみるかい?」
( ´∀`)「モナは酒はやらないから……」
( ゚¥゚)「ああ、モナー氏は信仰の徒ですものね」
同僚の声にモナーは不敵な笑みを返すと、何やら大きなものの入った袋をひっぱりだす。
一体何かと年かさの男が見守れば、そこから出てきたのは水煙草のための器具だった。
爪*'ー`)「やるじゃないか、旦那も」
( ´∀`)「やっぱり、モナにはこれモナ」
爪'ー`)「ご相伴させてもらってもいいかな?」
(*´∀`)「いいモナよ。フォックスの旦那もイケる口モナ?」
( ゚¥゚)「さてと、私は向こうでつまみ食いでもしてきましょうかね」
年長の男たちは顔を見合わせると、いそいそと準備にとりかかる。
そこに浮かぶ表情は完全に少年のそれだ。
.
888
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:15:17 ID:nnePnEts0
( ´∀`)y‐~~ フゥ
爪'ー`)y‐「やはり、この瞬間こそが至高だな」
(*´∀`)y‐「モナモナ」
火を灯し、水で冷ました煙を吸う。
満足そうな顔で紫煙をくゆらせる二人の男のそばに、派手な足音を立てて人が押し寄せた。
何人かの顔が赤いのは、既に酒が回っているからだろう。
从*゚∀从「うぉ、いいな! ちぃとばかし、よこせよ!」
(*´∀`)「だめモナ。ハインは向こうで酒でも飲んでるモナ」
从*゚3从「ちぇー、しゃーねーな。
オラッ、起きろやペニサス!!!」
(-、q;川「なぁにぃー、少しくらい寝させてよ。
昨日は渡ちゃんと遊んでて、ぜんぜん寝てないのよー」
ヤーメーテー('、`;川⊂从*゚∀从 ヨッシャイクゾー
宴は続く。
――時は昼前。太陽は高く、酒宴はまだまだ始まったばかりだ。
.
889
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:18:05 ID:nnePnEts0
広場からは少し離れた、職人街。
建物が密集したその一角に、ある工房があった。
細工物を扱うその小さな工房は、独立したばかりの若き職人モララーのものだった。
その工房に、少年の大きな声が響いた。
(#゚∀゚)「いいかげんにしろよ、このバカ! アホ! マヌケ!」
( ・∀・)「あーあー、聞こえないんだからなー。
それ終わったら、井戸に水汲み行って来いよ!」
声を上げる少年の手には、拭き掃除に使ったらしいボロ布が一枚。
小さな工房の中は片付けられ、彼の間近にある机の上は綺麗に磨き上げられていた。
それは、少年が昨日から今日にかけて行った仕事の成果だった。
(#゚∀゚)「なんでお前のためなんかに働かなきゃなんないんだよ!」
∧_∧ ゴツン
( ・∀・)o彡゜ て
(;>∀<)> そ アデッ
( -∀・)「なんでって、僕の丹精込めた大切な商品を盗んだからに決まってるだろ。
あれを一つ作るまでに、僕が何日かけたのか知ってるのかい?」
.
890
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:20:18 ID:nnePnEts0
(;>д<)「だからって、コキ使いすぎだろ!」
(σ・∀・)「そんなに不満なら、今から懲罰に切り替えてもらう?
きっとムチ打ちか、死なない程度の日干しで済むと思うからな」
('(ii゚∀゚∩て「水くみだいすき!! ろーどーほーしサイコー!!!」
少年は壺を手に取ると、一目散へと出口に向けて走りだす。
この街にほとんど馴染みのない少年には、井戸の場所はわからない。
しかし、少年にとってはモララーの手から逃れることが最優先だった。
(*-∀-).。oO(くそう。水くみ行くふりして、逃げてやる。ばーか、ばーか!!)
( ・∀・)「坊主、それが終わったら。
ちょっと道具をさわってみるか?」
内心で考えを巡らせる少年に向けて投げかけられたのは、彼にとって予想もしなかった言葉だった。
水汲みにかこつけて逃げようとしていた少年の足が、ふと止まる。
その顔には信じられないという驚きの色が浮かんでいた。
(;゚∀゚)「え゛?」
.
891
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:22:27 ID:nnePnEts0
( ・∀・)「どうせ、商隊にくっついて来た宿なしだろう?
その商隊も行っちゃって住むところもない、と」
(#゚∀゚)「な、それはお前が!」
( -∀・)σ「捕まったお前が悪い。盗っ人なんて、殺されたって文句は言えないんだからな。
そもそも、この母者様のお膝元で盗みなんてしようとする方が馬鹿なんだよ」
モララーの言葉に、少年は悔しそうに顔を朱に染める。
そんな少年とは対照的に、モララーの表情は落ち着いていた。
( ・∀・)「まあ、細工でも何でもいいけど技さえ身につけりゃあ、少なくとも食うには困らないよ。
こそ泥なんかよりも、そっちの方がよっぽど飯の種になるんだからな」
真っ黒い瞳で少年を見つめながら、モララーは淡々と話す。
モララーの常に笑顔を浮かべた口元は、その心情を容易に他人に読み取らせない。
それは人の女に手を出すのが好きという彼の悪癖によるものだったが、それを知らない少年にとっては恐怖そのものだった。
(;゚∀゚)「そ、そんなこと言ったってだまされねーぞ!」
( -∀・)「泥棒は嫌いだけど、この僕の細工に目をつけたのだけは褒めてやる。
なんて言ったって僕の細工は、一流品だからな!」
.
892
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:25:33 ID:nnePnEts0
(#゚∀゚)「な、なんだよ変なやつ!」
少年は必死に反抗するが、それは怯えた犬が吠えているのとそう変わらなかった。
それでも少年はなんとかモララーよりも優位に立とうと必死で声を上げ、続くモララーの言葉に息を呑んだ。
( ・∀・)「この僕が何を言いたいかというと。
……働きによっては弟子にしてやってもいいってこと」
(;゚∀゚)「え?」
( ・∀・)「まぁ、どうするかは坊主の自由。
いっとくけど、僕は男には厳しいから、覚悟するといいからな!」
( ゚∀゚)「……」
モララーの真意は、少年にはわからなかった。
しかし、それは少年にとっては何年かぶりに人から向けられた、正真正銘の好意だった。
甘い言葉は、大抵ろくでもない結果にしかならない。そもそも、モララーは何を考えているのかわからない男だ。
それでも、彼の言葉は少年にとって純粋に嬉しかった。
.
893
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:27:12 ID:nnePnEts0
(*゚∀゚)
少年の顔が赤く染まり、その顔に笑顔が浮かぶ。
どこか刺のあった顔つきは緩み、年相応の子供らしい顔つきとなる。
騙されるならそれでもいいやという思いで、少年は声を上げた。
(*゚∀゚)「師匠」
( ・∀・)「え?」
シショー ナニスレバイイー
チョ、オマエキガハヤインダカラナ
オマエジャナクテ、ツーダゾ!
ハイハイ
――それはまさしく、一人の職人の誕生の瞬間だった。
.
894
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:29:10 ID:nnePnEts0
広場の一番奥にあるツン=デレ商会では、金の髪の娘が所在無さげにうろついていた。
彼女は同じ場所で行ったり来たりを繰り返し、苛立ったように両手をばたばたと動かした。
ξ#゚⊿゚)ξ「あー、もう気になる!!!」
ζ(゚ー゚;ζ「もー、お姉ちゃん少しは落ち着いてよ〜」
そう声を上げたのは、彼女と面差しがよく似た娘だ。
彼女――デレは、先程から所在無さ気にしている娘――ツンの妹である。
ξ#゚⊿゚)ξ「何であの二人は、連絡の一つも寄越さないのよ!」
ζ(゚、゚;ζ「荒れるなぁ、もぅ……」
ツンは昨夜からずっとこんな調子だった。
一応、仕事には出ているものの、ずっと上の空。
昨日、兄者と弟者を街から送り出した時はよかったのだが、それからいくらたっても帰宅の報がないと知ったとたん、ツンの様子はおかしくなってしまった。
兄弟とはそれほど縁のないデレからすれば、姉がどうしてこれだけ取り乱すのかわからない。
ξ;゚⊿゚)ξ「兄者も弟者も、大丈夫だったのかしら。
……ねぇ、デレ。食料は足りたかしら? 水はちゃんと多めにしたわよね!!」
ζ(´、`;ζ「落ち着こうよぉ、お姉ちゃんー」
.
895
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:31:31 ID:nnePnEts0
ツンはひとしきり声をあげると、眉根を寄せ不安そうな表情になった。
いつもは毅然とした声は震え、今にも泣き出さんばかりだ。
そんな態度も、やっぱり姉らしくなくて。デレはこっそりと息をつく。
ζ(゚、゚;ζ.。oO(お姉ちゃん、私がいない時もこんな感じなのかな。
……遅くなる時は、気をつけよう)
ξ;゚⊿゚)ξ「本当に大丈夫かしら……」
そんな妹の内心には気づかずに、ツンは所在なさげに声を上げ続けている。
お客に対してはいつも愛想よく、しっかりしている姉だけに、その姿はデレにとってなかなか新鮮だ。
ξ;゚ぺ)ξ「……あいつら昔からよく厄介事に巻き込まれてたし。まさか」
ξ;゚⊿゚)ξ「何か事故とか、バケモノとか出てたらたらどうしよう。怪我とかしてないわよね?
薬……薬を入れておけばよかった」
ξ; ⊿ )ξ オロオロ
.
896
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:33:18 ID:nnePnEts0
ツンは再び、その場をうろうろと歩き始める。
歩きながらも時折あげる「どうしよう」という声は、普段の彼女とは打って変わって弱気だ。
ζ(゚ー゚;ζ「お姉ちゃんって、意外と心配性だよねー。
大丈夫だって。兄者さんはアレだったけど、弟者さんしっかりしてたし」
ξ#゚⊿゚)ξ「あの二人だから、心配なの!!
兄者は気を抜くと変なものを追いかけてどこか行っちゃうし、弟者は昔っからすぐ泣くし」
ζ(゚、゚;ζ「……お姉ちゃんの考え過ぎじゃない?
兄者さんならともかく、弟者さんが泣くなんて、ありえないよー。冷静でかっこいいもん。
それに二人とも一応、大人の男の人だよね?」
ξ-⊿-)ξ「……」
デレのとりなしに、ツンは足を止めた。
見れば、顔に浮かんだ焦りの表情はいつの間にか消えている。
ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃん、少しは落ち着いた?」
ツンはデレの言葉にしばらく黙り込んだ後に、ようやく口を開いた。
しかし、ツンの眉はひそめられ、顔にはいぶかしむような表情が浮かんでいる。
.
897
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:35:23 ID:nnePnEts0
_,
ξ;゚⊿゚)ξ「……デレ、まさかあの二人に惚れた?」
Σζ(゚、゚;ζ「お、お、お、お姉ちゃんしっかり!!!」
ξ;-⊿-)ξ「まさか、デレが。私のかわいいデレが、あんなのに惚れるなんて。
でも、姉としては祝福しないわけには……。いやいやここは、止めるべきか」
ζ(゚、゚;ζ「お姉ちゃんがぜんぜん冷静じゃないってことはわかった。
しっかりしてよ、お姉ちゃんー」
ξ;゚⊿゚)ξ「も、ものすごく冷静だし!」
ζ(-、-;ζ「えぇー」
ツンは冷静どころか、まともに頭が回っていない。こんな様子ではとてもじゃないが、仕事なんて任せられない。
デレは至極冷静に姉の今の状態を悟った。
もうこうなったら姉の心配事を解決しないことには、今後の仕事すべてに支障が出る。
そう理解したデレは、何とかして姉を普段の状態に戻せないかと計算を始めた。
.
898
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:37:06 ID:nnePnEts0
ζ(゚、゚*ζ「……そんなに気になるなら、行ってみたら?」
――そして、計算の末に出されたのは、こんな言葉だった。
ξ;゚⊿゚)ξ「で、できるわけないじゃない。仕事中なのよ」
ζ(^ー^*ζ「ところがー、ここに流石邸へのお仕事があるんですー!
流石邸の妹者お嬢様に、特別製のお菓子を手配!です」
ξ゚⊿゚)ξ「……あ」
デレの言葉に、ツンは不意をつかれたように声を上げた。
彼女の表情に驚きの色が浮かぶ。しかし、それはすぐに喜びの表情へと変わる。
それを好機とみたデレは、ツンの背中を押すように言葉を続ける。
ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃんも、妹者お嬢様に何か用意してたよねー。
それに、妹者お嬢様なら、兄者さんや弟者さんについてきっと知ってるんじゃないかなー?」
ξ*゚⊿゚)ξ「そっか、そうよね!!」
そう言うが早いが、ツンは棚から伝票を取り出すと凄まじい速さでめくりはじめる。
そして、お目当ての項目をみつけると、店の奥へと向かって駆け込んでいく。
出かけるための準備をしているのだろう。デレはそんなツンに向けて、イタズラっぽい笑顔を浮かべた。
.
899
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:39:46 ID:nnePnEts0
ζ(゚ー゚*ζ「そうだ、お姉ちゃん!
行くなら兄者さんに、今度一緒にお食事でもって伝えておいて」
ξ;゚⊿゚)ξて「まさか、デレ。本当に、バカ兄者に惚れ」
ζ(^ー^*ζ「ちがうってー、私と兄者さんと、弟者さんと。それからお姉ちゃんで行くの。
うちのお姉ちゃんにこんなに心配かけたんだもの、兄者さんにはこれくらい奢ってもらわないと」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
ツンはデレの言葉に、考えこむように足を止めた。
デレの位置からはツンの表情は見えない。
だけど、ツンが笑顔を浮かべたということが、デレにはなんとなくわかった。
ξ*゚⊿゚)ξ「そうね」
ツンの頬が、赤く色づく。
この砂漠には珍しい白い肌と相まって、彼女は何よりも魅力的だった。
ζ(゚、゚*ζ.。oO(お姉ちゃんって、けっこう面倒な性格だよね。やれやれ)
ツン=デレ商会から荷台を抱えたツンが外へと飛び出していったのは、それからほんの少ししてからだった。
.
900
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:41:47 ID:nnePnEts0
_
( ゚∀゚)「よう、ツンちゃん。今日はこれから遊びに行くの?」
ξ゚⊿゚)ξ「仕事よ、仕事!」
知り合いへの挨拶もそこそこに、彼女は歩き始める。
ツンの歩みは、はじめはゆっくりと。しかし、その足は徐々に早まり、とうとう走り始める。
( `ハ´)「おじょーちゃん、ウチの香辛料買うよろし!」
( ゚∋゚)「ヤキトリ クエ」
J(*'ー`)し「カーチャン特製、手作りパンもあるからねー」
从;'ー'从「ふぇぇー」
朝最後の稼ぎどきとばかりに盛り上がる露天の数々を抜け。
職人街の脇を駆け抜け、湖のすぐそばを通り過ぎるが、彼女の足はその速さを緩めない。
ξ*゚⊿゚)ξ「今度あったら、とっちめてやるんだから」
――目指すは流石邸。
腐れ縁の兄弟と、その妹の元へと彼女は急ぐ。
.
901
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:43:37 ID:nnePnEts0
――――――――――――――――
“流石”の街から少し離れた、小さな町。
湖はない代わりに、大きな井戸がいくつかあるその町で一人の男が声を上げた。
<#ヽ`∀´>「アイゴー!!
何でウリがかくも艱難辛苦をぉぉ――!!!」
そこは、東方の料理を出す食堂だった。
男とその連れの少女は、路銀を稼ぐべく昨夜からここでお世話になっていた。
叫び声を上げる男――ニダーの手には、湯気を立てる竹製の蒸籠が握られている。
(゚A゚# )「ニダやんうっさい!!」
ΣΓ<`Д´*;>Γ 「アイヤー!!」
少女の頭につけられた、真新しい花の飾りがきらりと輝く。
よく似合っている、とニダーが思ったその瞬間。少女の体から、ニダーめがけて蹴りが放たれていた。
宙を浮いた彼女の体は、見事にニダーの尻に強烈な一撃を加える。
ttp://buntsundo.web.fc2.com/ranobe_2012/illust/30.png
.
902
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:45:33 ID:nnePnEts0
(゚A゚* )「そないしゃべらはったら、お客さんたちに迷惑やろ!」
<`Д´*;>「のののののーちゃん!!」
(゚A゚# )「ウチらはろくな荷物もお金もないんよ。ここクビになったら、どないしはる気?
大事なお金で、こないな花飾りなんて買うなんて、ニダやんはほんまにアホやなぁ」
昨日、襲いかかったはずの弟者に返り討ちにあった彼らは、この小さな町にたどり着いた。
大きな井戸のあるその町は小さかったが、それでもしっかりと施設がそろっている。
そこでニダーが真っ先にしたのは、髪飾りをのーへと買い与えることだった。
弟者によって壊されたのーの髪飾り。それによく似た花の飾りをニダーは選んだ。
<;ヽ`∀´>「アホってウリをそんな、無為無能、無芸無能の無知蒙昧みたいに」
(゚A゚* )「そんなむつかしいこと言わはっても、ウチはごまかされんよ」
それは、のーを守り切れなかったことに対する、彼なりの謝罪の気持ちだった。
のーも、それに気づいていたのかもしれない。
ニダーの無計画さを叱りながらも、贈り物の髪飾りを大切そうに身につけ続けている。
.
903
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:47:54 ID:nnePnEts0
(゚A゚# )「はよ、お客さんにこれ運ぶ!」
<ヽ`∀´>「ううっ……なんでウリがこんな薪水之労を……」
(゚A゚* )「ニダやんがアコギなことばっかしとるからや。
これにこりたら、まっとうな仕事をせんとあかんよ」
東方の民は同胞には、寛容だ。
しかし、いつまでろくに働こうとしない者をいつまでも養ってくれるほどは甘くない。
ここから先の生活は、自分たちの力で成り立たせなければならないのだ。
(゚A゚* )「……あれが外れたら、まだいいお金になったんやけど」
<ヽ`∀´>「のーちゃん……」
( A )「堪忍な、ニダやん」
少女の裾の下では、水晶がはめ込まれた腕輪が輝いている。
魔力を封じるこの銀の腕輪は、彼らが何を試しても外れなかった。
これがあるかぎり、のーは普通の少女と変わらない。魔法の使えない彼女は、単に口が達者なだけの足手まといだ。
<ヽ`―´>「……」
( A )「ウチがいなければ、ニダやんはもっと楽に」
.
904
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:50:07 ID:nnePnEts0
<ヽ`∀´>「……ウリを見くびるのはのーちゃんでも、許さんニダ。
ウリは才気煥発、全知全能の天才ニダ! ウリ一人でものーちゃんくらい、養えるニダ!!」
( A゚*)「……」
ニダーの手が、のーの頭に置かれる。
そのままぐりぐりと撫で回すと、あちちと声を上げながら蒸籠を抱え直す。
<ヽ`∀´>「ウリはウリのしたいことしかしないニダ!
のーちゃんがなんと言ったって、絶対についてきてもらうニダ!!」
(゚A゚* )「ニダやん……」
<*ヽ`∀´>∩「まず手始めに、伝説の料理人としてのし上がるニダ!
そうと決まったら、誠心誠意働くニダ!!」
のーが笑顔を浮かべるのを、ニダーは満足そうな顔で見た。
( ;曲;)「いい話じゃねぇか」
(;TДT)「……饅頭冷めてる」
小さな町の昼下がり。
元盗賊の男と、魔法使いだった少女の話は、まだまだ続きそうだ。
.
905
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:52:12 ID:nnePnEts0
――――――――――――――――
ソーサク遺跡の最奥部。
草がなびく草原に、幾人もの人影が集まっていた。
人影の中にはギコの他に、しぃやでぃの姉妹の姿もある。
(*゚ー゚)「ギコくん、こっちをお願い」
(,,゚Д゚)「わかった。ちょっと待ってろ!」
ギコは掛け声を上げると、岩を持ち上げる。
その岩の固まりは、ゴーレムの欠片だ。
見た目はただの岩と変わりないが、それが動き出したらどうなるかは考えるまでもなく明らかだ。
<_フ;゚ー゚)フ「重い」
(;=゚ω゚)ノ「しっかりだよぅ!」
('(;゚∀゚∩「……つかれたよ! たよ!」
ギコと同時に岩を持ち上げた男たちが、呻き声をあげる。
それを見て、しぃは少しだけ苦笑いを浮かべた。
(#゚;;-゚)「これが……動いた……の?」
(*゚−゚)「ええ、そうみたい」
.
906
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:54:53 ID:nnePnEts0
彼らは今、ソーサク遺跡にそびえ立つ神殿の再調査に来ていた。
ソーサク遺跡の中でも神殿と呼ばれる第一史跡は、真っ先に調査対象となった遺跡だ。
この最奥の間にもこれまで何度も調査の手が入り、大体調査し尽くしたと思われていた。
しかし、その考えは、昨日の兄者と弟者の一件で大きく崩れた。
(# ;;- )「……こんな、……こわいこと、……あったなんて」
(;=゚ω゚)ノ「で、でぃさんのせいじゃないよぅ」
('(;゚∀゚∩「でぃちゃん、元気だすよ! だすよ!」
そして、本日改めて調査した最奥の間は、かなり荒れ果てていた。
部屋の中にはゴーレムの欠片が散乱し、土や草は踏み荒らされ、血が染み込んでいる。
焼け焦げた最奥の壁、祭壇の周辺は割れた壺や燭台が散乱し、床に描かれた図式が刃物でめちゃめちゃにされている。
……神殿に据えられた鏡も壊されていたが、こちらについては弟者がやったと事前に聞いていたため、ギコもしぃも特に口にはしなかった。
<_フ;゚Д゚)フ「巻き込まれたの、母者様の息子だろ?
すげぇ。母者様だけじゃなくて、息子も腕が立つんだな」
(# ;;- )「……」
.
907
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:56:47 ID:nnePnEts0
<_プー゚)フ「大丈夫だって、でぃちゃん。
笑いながら帰ってったんだろう? しかも、竜に乗ってとか。大した野郎どもだぜ」
(# ;;- )「……でも、……私、……弟者さんにここは怖くない……って。
それに、……ギコさん連れて行ったの……私っ」
沈み込んだでぃをなぐさめるように、調査隊の仲間たちが声を上げる。
だけど、でぃの言葉は弱々しく今にも泣き出さんばかりだ。
(,,゚Д゚)「元気を出せよ、でぃ。あんなことが起こるなんてだれも予想できん。
大体悪いのはお前じゃなくて、どっちかって言うとあのクソ女の方で」
(*^ー^)「ギコくん?」
(,,;゚Д゚)「だってそうだろ? あの女のワガママさえなきゃ、俺だっていっしょに遺跡へ……」
(=゚ω゚)ノ「ギコはこーんな岩のかたまりと戦えるのかよぅ」
(,,; Д )「ぐ」
ギコはごにょごにょと言葉を返そうとしたが、思わぬ所から飛んできた声に声を失う。
悔しそうな表情を浮かべ、言葉を投げかけてきた相手――ぃょぅを睨むが、笑い声で返されてしまった。
.
908
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:59:04 ID:nnePnEts0
(,,;゚Д゚)「でもだな、オレがいるといないじゃ」
(*゚ー゚)「――ところで、ギコくん。
でぃから聞いたんだけど、姉者に言われた『例のこと』って何かしら?」
(,,;゚Д゚)「え、あ?」
なおも何かを言おうとしたギコの言葉は、しぃの声によって遮られた。
しぃは普段と同じ穏やかな表情で話しかけている。口調だって普段と変わらない。
しかし、その声だけは刺々しかった。
(*^ー^)「ギコくん。何か隠していることがあるなら、私に教えてほしいなぁ。
それとも、私たちには言えないことなのかしら?」
しぃは笑顔を浮かべた。
元から柔らかい印象のある彼女だが、笑みを浮かべると表情が幼くなり、柔らかい印象がさらに強くなる。
が、彼女がたった今浮かべている表情は、なぜかその柔らかさが見えない。
一体何故だろうと考え……、
(*^ワ^)「ねぇ、ギコくん」
ギコは悟る。……これは、怒っているときの顔だ。
しぃは確実に怒っている。そして、怒りだした女は大抵、手に負えない。
.
909
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:01:13 ID:nnePnEts0
(#;゚;;-゚)「……お姉……ちゃん……?」
姉の異変に気づいたのか、でぃは恐る恐る声を上げる。
しかし、しぃは妹に対して何の答えを返さなかった。
しぃの足元で、じゃりりと地面が音を立てる。
(,,;゚Д゚)「……」
(*^ワ^)「……」
('(゚∀゚∩「どうしたのかな? かな?」
<_フ;゚ー゚)フ「ちょ、なおるよは黙ってろって」
しぃとギコは無言で黙りこむ。
なぜだか知らないがしぃは怒っている。しかし、だからといって自分の秘密を暴露するほどギコは思い切りが良いわけではない。
そもそも話すにしても、これだけ人がいるとなると話せるものも話せない。
どうする、どうする俺!!――ギコはそう悩んだ末、
(,,;゚Д゚)「そ、そ、そういえばラクダの具合はどうだったかなー」
戦略的撤退を選択した。
.
910
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:03:13 ID:nnePnEts0
(#;゚;;-゚)「あ、……アラマキさんと、ナカジマさんなら……」
突然、ラクダと言い出したギコに、でぃは小さく声を上げる。
家畜の世話はみなで交代をしてやっているが、その中でも一番頻度が高いのが動物好きのでぃだった。
特に荒巻と、中嶋の二匹は昨日でぃが預かったばかりだ。彼らの様子ならば、でぃが一番詳しかった。
(,,;^Д^)「いやー、ちょっと様子でもみてこようかなぁ。
あのがめついクソ女のことだから、ウチのラクダ返せって言いかねんからゴルァなー」
('(゚∀゚∩「わざとらしいよ! らしいよ!」
<_フ;゚ー゚)フ「あんにゃろ、逃げる気だぞ!」
(;=゚ω゚)ノ「つかまえるんだょう!」
ギコは言うが早いが、岩を放り投げ走りだした。
しぃや、仲間の男たちがギコを止めようと声を上げるが、ギコはそれを振り切り扉へ向かって駆け出す。
彼の足元で草が揺れ、涼しい風がギコの青い毛並みを揺らしていく。
(*゚ 、゚)「もう。逃げても、また後で顔を合わせるのに……。
良くも悪くも正直なのよね、ギコくんって」
ギコの姿はもう扉の向こうへと消えていた。
ギコを追いかけて何人かが仕事を放り投げて出て行ったが、きっとギコには追いつけないだろう。
.
911
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:05:29 ID:nnePnEts0
(#;゚;;-゚)「……あのね、……お姉ちゃん」
(*゚ー゚)「ん? どうしたの、でぃ?」
扉に向けて軽く溜息をつくしぃに、でぃは恐る恐る声を上げた。
でぃにとって姉は、誰よりも綺麗で優しくて、そして引け目を感じる存在だ。
だから、でぃはしぃに話しかけようとすると、なかなか上手く声が出せない。
しぃだけではない。でぃはいつだって、人とうまく話すことが出来ないのだ。
(#゚;;-゚)「……ギコさん……ゆるしてあげて……」
(*゚ー゚)「どうして?」
(# ;;- )「……ギコさんは、……私を、……かばって……くれただけ……」
(*゚ー゚)「……そう?」
(#; ;;- )「そう。……それに、……お姉ちゃんも」
しぃはでぃの途切れ途切れの言葉を、聞いていた。
相槌をはさみながら、それでも急かすこと無く、彼女はただ妹の言葉が続くのを待った。
何度も言葉をつまらせながら、でぃは懸命にしぃへと訴えかける。
(#; ;;- )「……私が元気ないから……話、変えてくれた……ん、だよね…」
.
912
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:07:04 ID:nnePnEts0
でぃの言葉に、しぃは笑顔を浮かべる。
その表情はギコに向けていた時よりもずっと柔らかく、優しい瞳をしていた。
(*^ー^)「さあ、どうかしら?」
(#゚;;-゚)「……ありがとう、お姉ちゃん」
(*^ー^)ノ( ー;; #)
しぃは返事をする代わりに、妹の頭を撫でた。
でぃの口元がかすかに緩み、ぎこちない笑みを浮かべる。それを見て、しぃはさらに微笑んだ。
(#゚;;-゚)「あのね……私も、……アラマキさんのとこ、……行っていい?」
(;゚ー゚)「うーん。ギコくんも、エクストくんたちも行っちゃったから、しばらくは休憩のつもりだけど。
……でも、急にどうしたの?」
(#*゚;;-゚)「……みんなにね……庇われるだけじゃなくて……自分もがんばりたい、の。
それに……兄者さんと弟者さんに、……アラマキさんたち頼まれたの……私、だから」
たどたどしいけれど、真剣にでぃは告げる。
緊張と興奮で顔を赤らめた彼女は、姉によく似ていた。
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913
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:09:16 ID:nnePnEts0
・
・
・
神殿と呼ばれる建物から外に出た先。
調査隊が本部として利用する天幕から少し歩いた場所で、ラクダやロバは飼育されていた。
しぃの追求や、追いかけてきたエクストから見事に逃げ切ったギコは、一息つくとターバンを整えた。
( "ゞ)「よう、ギコ。どうした?」
(,,;゚Д゚)「どうしたもこうしたもあるか。いろいろ言われるから逃げてきた。交代だ交代!」
_,
( "ゞ)「サボりの片棒は勘弁なんだが」
調査隊の一員でもある男はギコに悪態を付きながらも、大して不機嫌そうな様子ではなかった。
それどころか上機嫌な様子で、「後は任せた」と声を上げると、ギコが来た神殿の方に歩き始めた。
(,,゚Д゚)「俺はどっからやればいい?」
( "ゞ)「餌やっといて」
(,,;-Д-)「わかった。お前があっさり、交代するはずだ」
ソーサク遺跡には家畜の数が多い。
調査隊の面々の移動手段や運搬役として連れてきたものもいるが、大半は遺跡を調査するための条件として飼育しているものだ。
本部のそばに植えている植物同様、環境調査の一環らしいが、その数は増えに増え世話も大変になってきている。
.
914
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:11:40 ID:nnePnEts0
( "ゞ)「あとは任せた」
(,,-Д-)「へいへーい」
男――デルタを送り出すと、ギコは並ぶラクダやロバの群れを眺めた。
威嚇しあったり、座り込んで眠っていたり、繋がれた紐から逃れようと動きまわったりと、家畜たちは思い思いの行動をとっている。
こいつら全部に餌をやるのかと、ギコは内心うんざりする。が、交代するといった以上は、サボるわけにも行かない。
(,,゚Д゚)「えっと、あらまきと、なかじま?……だったか?」
ここにいる家畜には識別表が付いている。
しかし、兄弟から預かった二頭のラクダにはそれが無いはずだ。
ギコはラクダたちに視線を走らせ、そして見つける。
荒巻と、中嶋。
二頭のラクダは、ラクダの中でも一際温厚そうな顔つきして、地べたに座り込んでいた。
そして、何をしているのかといえば、のんびりと眠りこけている。
(,,゚Д゚)「おーい、お前ら元気かー? 死んでないかー?」
/ ,' 3
ギコの声に、荒巻のほうが軽く目を開ける。
彼もしくは彼女は、しばらくギコの姿を眺めていたが、すぐに興味をなくしたかのように再び瞳を閉じる。
.
915
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:13:36 ID:nnePnEts0
(,,゚Д゚)「ま、死んではないみたいだな」
荒巻と中嶋は死んでないどころか、大いに暇を楽しんでいるようだ。
ざっと見た限りでは、おとなしい気性のようだし、他のラクダたちとも上手くやっていけるだろう。
(,,゚Д゚)「まぁ、気楽にやれや」
ギコはそう呟くと、空を見上げる。
最奥の間の柔らかい日差しと違って、外の日差しは暴力的なまで強い。
そんな日差しに焼かれながら、ギコはどうやってしぃをごまかそうと考え始める。
(,,;-Д-)「しぃのヤツ何が、『何か隠していることがあるなら、教えてほしいなぁ』だよ。
言えるわけねぇだろうが、……」
(,,* Д)「しぃが好きだなんて……」
ボソリと呟いた、ギコの顔は赤い。
他人から見れば大したことのないことだが、ギコにとっては一世一代の問題だった。
できればしぃと所帯を持ちたいギコにとって、彼女への愛の告白はその後の人生を左右するものだ。
.
916
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:15:32 ID:nnePnEts0
なのに、だ。
姉者はよりにもよって、ギコの一生の問題を、からかいのネタとして事あるごとに持ち出すのだ。
むしろ、この話をチラつかせれば、ギコが何でもいうことを聞くと思っているフシすらある。
それはギコにとって、どうしても我慢ならない事だった。
(,,;Д;)「畜生、俺のこの思いを散々弄びやがって」
姉者=流石。
あの女は悪魔だと、ギコは思う。
どれだけ乳がでかかろうが、腰は細いのに肉付きのいい尻と、むっちりとした太ももをしていようが、そんなのギコには関係ない。
そりゃあ、あの女の本性を知らないガキだった頃は、たしかに騙されかけたこともある。
しかし、そんなことは知ったことか。
( ,'3 )
荒巻が、そして中嶋が迷惑そうに鳴き声を上げたが、ギコの言葉は止まらない。
(,,#゚Д゚)「あのクソ女ぁぁぁぁぁっ!!!!!」
ソーサク遺跡の只中、砂埃によってくすみながらも、なお青い空にギコの声が響いた。
.
917
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:18:16 ID:nnePnEts0
――――――――――――――――
∬´_ゝ`)「――何か今、妙な声が聞こえたような気がする」
“流石”の街で一際目を引く建物、流石邸の一角で女は呟いた。
波打つ豊かな髪に豊満な体つきをした彼女は、街を切り開いた女傑・母者=流石の最初の子供である。
名は、姉者=流石。兄者と弟者。そして、妹者の姉である彼女は、兄弟によく似た面差しの顔を少しだけ曇らせた。
|゚ノ ^∀^)「どうかしましたか〜、姉者様?」
∬´_ゝ`)「なんでもない。どうせ大したことじゃないわ」
彼女に声をかけたのは、金の髪に赤い髪留めをした女性だった。
レモナという彼女は、兄弟の妹である妹者の家庭教師を勤めている。
明るい顔をした彼女の頭の上で、白い猫の耳がピクリと揺れる。そんな彼女に向けて、姉者は声を上げた。
∬´_ゝ`)「そうだ。今日の午後からの、家庭教師はお休みね」
|゚ノ ^∀^)「あら、そうですか。いかがいたしました?」
∬´_ゝ`)「ああ、別に何か起こったわけでも、貴女の仕事ぶりに不満があるわけではないの」
.
918
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:21:46 ID:nnePnEts0
姉者の刺のある口ぶりに、レモナの表情が心なしかこわばる。
ともすると鋭い言葉を放つのは、姉者の悪い癖だった。
その傾向は、彼女と親しくなればなるほど強くなっていっている気がする。
|゚ノ;^∀^)「……そうでしたら、よいのですが」
∬´_ゝ`)「あら、ごめんね。本当に他意はないの」
姉者の真意を読み取ろうと、レモナは表情を引き締める。
しかし、彼女の顔は平然とした表情のままで、何の感情も読み取れない。
|゚ノ;^へ^)「ほんとですか?」
∬´_ゝ`)「ええ、本当よ」
レモナが恐る恐る口にした言葉は、姉者にある変化をもたらした。
姉者の口元が緩み、その顔に柔らかな笑顔が浮かんだのだ。
その笑顔に、レモナは今度こそ本当に息を呑んだ。
……姉者は普段、母者の後継者としての勤めからなのか、あまり感情を表情に出そうとはしない。
しかし、その時の彼女は本当に嬉しそうに、無邪気な子供のように笑って告げた。
∬*´_ゝ`)「だって今日は、妹者の――」
.
919
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:23:22 ID:nnePnEts0
――――――――――――――――
“流石”の街を取り仕切る役場は、火でも出たかのような大騒ぎだった。
大商隊こそ出立したものの盗賊への警戒や、天候悪化の場合の対処は絶やせない。
商隊が持ち込んだ物資の流通や、周辺の町への分配、通常業務への切り替えと、考えなければならないことも多い。
仕事はいくらでもあった。
しかし、それ以上に忙しさに拍車をかけているのは、ひとえに母者側の事情によるものだった。
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「今日は誰がなんと言おうとも、さっさと帰るよ!」
母者はこともあろうに、この状況の中で帰ると言い放ったのだ。
普段ならば、この役場には流石夫妻か姉者のうち誰かが滞在するようになっている。
しかし、今日に限っては流石家の者は誰も役場には残さないと言い放ったのだ。
(;´・ω・`)「これを夜までに片付けろなんて無理ですよぉぉ!!!」
母者の言葉が嘘ではないと示すように、共に朝まで働いていた姉者はすでに流石邸へと戻ってしまっている。
その中でもなんとか役場は動いていたが、とうとう忙しさに精根尽き果てたように、青年が嘆きの声を上げた。
困ったように下がった眉をしたこの青年は、若くして母者の仕事を支える補佐官の一人である。
.
920
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:26:13 ID:nnePnEts0
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「いいから手を動かしな!! 何のために、昨日休みをくれてやったんだい!!」
(;´・ω・`)「わかってますけど、無理なものは無理です!!」
(`-ω-´)「諦めろショボン。そんなことで、母者様が止まるはずがないだろう。
儂らはおとなしく、街のために働くのみだ」
(;´-ω-`)「……父上」
なおも無理だと言い募る青年の肩を、よく似た面差しの年かさの男が叩く。
青年の父親でもある彼は、街の成立当初から母者を支える重鎮だった。
父親に諭されて、青年は半ば泣きながら仕事へと舞い戻っていく。
(;´-ω-`)「昨日はせっかく精霊様を見たっていうのに、ついてない」
(`・ω・´)「ショボン、次はこっちの書類だ!」
(´;ω;`)「はーい」
泣きながらも書類仕事をこなす青年や、他の役人たちの姿を見て、母者は大きく溜息をついた。
ここで働く者達は仕事ぶりは悪くはないのだが、根性のない者が多い。
これが文官のさがというものだろうかと考えてみるが、母者にはいまいち理解の及ばない領分だった。
.
921
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:28:45 ID:nnePnEts0
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「まったく。あたしらがいないと仕事の一つや二つ片付けられないっていうのかい」
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「母者さん、落ち着いて。
みんな疲れちゃってるだけなんだよ」
そう漏らした母者をなだめたのは、彼女の夫である父者だった。
母者はその声に、じっと父者を睨みつけはじめた。
母者はこの街を作り上げた立役者であり、並みの兵士じゃ太刀打ちできないほどの腕の持ち主だ。
父者もそれは身にしみている。だから、彼女に睨みつけられるとわけもなく緊張するのが、彼の長年の習性だった。
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「……」
.彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「ど、どうしたのかな。母者さん……」
夫を睨みつけたまま何も言おうとしない母者に向けて、父者は恐る恐る声を上げた。
父者の顔色は悪く、その声はみっともないまでに震えていたが、それを笑うような輩はこの場にはいなかった。
彼らにとっても母者は頼りになる主であると同時に、恐ろしい存在なのであった。
.
922
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:30:28 ID:nnePnEts0
@@@
@ _、_@
(* ノ`) 「ダーリン。あんたって人は、本当にやさしいね」
そして、母者は沈黙の末にそう言った。
彼女の声は甘く、瞳も熱く潤んでいる。どうやら彼女は夫を睨みつけていたのではなくて、単に見惚れていたようだ。
母者のその言葉に、懸命に仕事をこなしていた何人かが、ぎょっとしたように目をむいた。
.彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「母者さん。ダーリンっていうのは、せめて二人っきりの時くらいに…… ヒトガミテルシ」
(´゚ω゚`).。oO(ダーリン!? ダーリンって)
(;`-ω-´)「息子よ。何が言いたいかはわかるが、決して口にはするな」
ハハ;ロ -ロ)ハ「……父者様スゴイ方、思マス」
彼らの驚きは、母者の「ダーリン」という言葉を父者自身が否定しなかったことによって、頂点に達した。
もはや仕事の手はとうの昔に止まっている。
黙り込んだ一同の心に浮かぶのはみな同じような言葉だったが、幸いな事に母者は気づかなかった。
.
923
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:32:05 ID:nnePnEts0
@@@
@ _、_@
(* ノ`) 「やだよぅ、恥ずかしいじゃないかい!」
.彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「は、はは……」
父者は妻の言葉に乾いた笑いを上げるが、助け舟を出すものは誰もいない。
誰もが流石の街を支配する女傑の、意外な姿に言葉を失っている。
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「にしても、いつになったら一段落つくのかねぇ。
あたしゃさっさと帰りたいよ」
母者はひとしきり父者の背をバシバシと叩くと、ため息をついた。
もうそこには、少女のように顔を赤らめていた先ほどまでの面影はない。
母者は戦場に立つ武人のように毅然とした面持ちで、そこに立っている。
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「大丈夫。みんなで力を合わせれば絶対にできるよ、母者さん」
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「そうだといいんだがね」
.
924
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:34:10 ID:nnePnEts0
※44
母者は腕を組んで唸り声をあげる。
言葉だけ聞くと諦めているようにも見えるが、彼女の立ち姿は誰よりも自信に満ちていて、諦めなど微塵も感じられなかった。
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「まあ、無理だと言われたって帰るんだがな」
.彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「それはもうちょっと頑張ってからにしよう、母者さん」
父者が恐る恐る上げた声に、母者が「がはは」と笑い声をあげた。
ひとしきり笑うと、母者は「わかってるよ」と声を上げ、書類に印章を押した。
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「アタシが仕事放り投げたとあっちゃ、大騒ぎだからね。
こうなったら意地でも終わらせて、晩までには帰るよ」
彡⌒ミ
(*´_ゝ`)「そうだね、母者さん。だって、今日は――」
父者の嬉しそうな声が、部屋に響く。
その言葉は慌ただしい役場の中に一時の癒やしをもたらしたそうだが、真偽は明らかではない。
.
925
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:37:25 ID:nnePnEts0
――――――――――――――――
“流石”の街でも、盗賊だった男と魔法使いだった少女がいる町でもない、どこか。
そこに、女が一人立っていた。
川 ゚ -゚)「ふむ」
肌を覆い隠すゆったりとした濃紺色の服に、そろいのヴェール。
流れる黒髪は絹のように艷やかで、瞳は夜空を切り取ったような漆黒。
顔の半ばを隠しながらも、それは美しい女だった。
川 ゚ -゚)「大団円というやつだな。いささかつまらん結末だ」
“流石”の街よりも遥かに大きくて華やかな町並み。
人であふれる市の雑踏の中に立ちながらも、彼女の周りはひどく静かだった。
これだけ美しい女ならいくらでも人目をひきそうなのに、誰ひとりとして彼女に目を留めるものはいない。
川 - -)「せっかく魔力封じをくれてやったのに、あんなつまらん使い方をするとはな。
まったく、期待はずれもいいところだ」
女は全てを見ていたかの様に語る。否、彼女には全てが見えていた。
彼女の首元や手元を彩る銀の装飾品が揺れる。
その中の一つ。静かに光を放つのは、彼女が弟者に手渡し、盗賊の少女に嵌められた腕輪と瓜二つだ。
魔神の持ち物とも呼ばれる腕輪。
それが、彼女の腕の中でひっそりと輝いている。
.
926
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:39:16 ID:nnePnEts0
川 ゚ -゚)「魔力で動くゴーレムは、魔力封じを使えば瓦解する。
使いようによっては、魔力を食う砂クジラにも対抗できただろうに、あいつらは」
川 - )「まぁ。一番面白い使い道は……」
腕輪を撫でていた女の口元が釣り上がる。
くつくつと声を上げて笑うが、誰一人として彼女に目を留めるものはいなかった。
川 ー )「あの半分が片割れに使っていたら、だな。
アレの存在は不安定だ。外部から強い干渉を加えれば、どう崩壊したか」
女は笑いながら、露天に飾られた鏡へ触れる。
客が商品に触れたというのに、店主は素知らぬ顔であらぬ方向を見ている。
まるで、女の存在そのものが見えていないようだった。
川 ゚ -゚)「まあ、いいさ。退屈しのぎにはなった」
気づけば、女の姿は消えていた。
単に人混みに紛れたのか、それともどこかへ去っていったのか。
あとに残るのは市の賑やかな雑踏と、露天に飾られた鏡だけ。
飾られた鏡。
――その鏡面がちゃぽんと揺れたことに、気づいた者はいない。
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927
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:41:18 ID:nnePnEts0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
そして、流石邸の一角。
中庭を望む露台の上に、彼ら兄弟はいた。
.
928
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:43:58 ID:nnePnEts0
体の色と背格好以外は、全て一緒の双子の兄弟。
魂を共有する、できそこないの一人。
( ´_ゝ`)
片や、肉体的には二歳年下となる兄、兄者=流石。
寝間着同然の格好をした彼は、薄水色の毛並みを風になびかせながら長椅子に横になっていた。
(´<_` )
もう一人は、片割れを自分と解する弟、弟者=流石。
兄とは対照的に、豪奢な服をきっちりと着た彼は、背を伸ばして椅子に座っていた。
l从・∀・ノ!リ人
そして、そんな彼ら二人のそばを動きまわる青い髪の少女は、妹者=流石。
まだ十にも満たない彼女は、彼ら双子の最愛の妹であった。
.
929
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:45:34 ID:nnePnEts0
秋になったとはいえ、まだ鋭い日差しは、じりじりと体を焦がしていく。
それでも風の通る日陰にいれば、熱も少しずつ引いていく。
( -_ゝ-).。oO
昨夜から今朝にかけて、“流石”の街に住む男たちは総出で夜通し働いていた。
それは、兄者も弟者も例外ではない。
だから、横になっていた兄者の瞳が徐々に落ちはじめたのは、仕方の無いことだった。
l从・∀・#ノ!リ人「おきるのじゃー!!!」
といっても、この小さな妹にそれは通じなかった。
昨日、弟者と遊びそこねた妹者は、今日一日、大好きな兄たちと遊べるはずだった。
しかし、急遽決まった大商隊の出立という一大行事によって邪魔されてしまった。
結局、妹者が兄たちとちゃんと顔を合わせることが出来たのはようやく昼に差し掛かるというこの時間で、彼女はひどくご立腹だった。
l从・д・#ノ!リ人「おーきーるーのじゃー」
(く_゚(⊂(<_`#) ドゲシ
.
930
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:47:57 ID:nnePnEts0
弟者の拳が、もう半ば夢の国へと入りかけていた兄者を殴りつける。
その衝撃で、兄者は慌てて跳ね起きた。
(;´_ゝ`)>「え、え、何で殴られてるの俺?!」
ヾ(#`_ゝ´)ノ「もうちょっと寝かせてくれたっていいじゃないか、弟者のケチ!」
(´<_`#)「妹者の前でよく寝れたものだな」
l从・∀・#ノ!リ人「妹者はぷんぷんなのじゃー!!」
( ´_ゝ`)て
不満の声をあげようとしていた兄者の表情が、妹者の声に凍りつく。
兄者の耳はしょんぼりと下がり、顔の前に掲げた両手はぶるぶると震える。
その末に、なんとか妹に向けた声は情けないほどに震えていた。
(ノ;´_ゝ`)ノ「と、時にもちつけ妹者。話し合えば分かり合える」
(´<_` )「落ち着いてないのは、兄者の件について」
.
931
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:49:34 ID:nnePnEts0
(;´_ゝ`)「昨日はあれから母者と姉者相手にラスボス戦をやって、それから徹夜で星読みで寝てないんだぞ。
っていうか、アレだけ必死だったゴーレムちゃんの後に、まだラスボスがいるなんてこの世は地獄か」
兄者はまるで言い訳のように昨夜の出来事を話す。
竜――ピンクたんに乗って街まで帰って来れたのまではよかったが、そこから先が大変だった。
庭への立ち入りと、花を踏みつぶした件と、妹者への口止め。それから、無断で遠くまで外出したこと。
それに加えて、ギコやしぃに迷惑をかけ、遺跡をめちゃめちゃにしたことまでもがバレてしまい、兄弟は母と姉から折檻を受ける羽目になった。
兄者にとっては、夜通しの仕事よりも母者や姉者と対峙することの方が辛かったのだが、それを言い出すと家にいる姉者に聞きつけられかねない。
なので、兄者はぐっと堪えることにした。
l从・〜・ノ!リ人「妹者も母者たちに怒られたからいっしょなのじゃー」
(;´_ゝ`)「怒ら……そうか」
昨夜の地獄と姉者に思いを馳せていた兄者は、妹者の声にはっとする。
そうだ。この妹は、自分が軽い気持ちでした口止めを律儀に守って、母者に叱られたのだった。
( ´_ゝ`)「ごめんな、妹者。俺が余計なこと頼んだばっかりに、」
ヨシヨシ( ´_ゝ`)ノl从>〜<*ノ!リ人 キャーナノジャー
.
932
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:52:12 ID:nnePnEts0
l从・∀・*ノ!リ人「なでなでされたし、あやまってくれたから、ゆるすのじゃー
でも、次はないからカクゴするのじゃよ!」
(*´_ゝ`)「流石だよな、妹者。妹者たんマジかわいい」
(´<_` )「兄者は、本当に妹者に大甘だよな」
( ´_ゝ`)>「褒めても、何も出ないからな」
兄と妹の様子を黙って眺めていた、弟者がぽつりと言う。
妹者に甘いのは弟者自身も同じなのだが、幸か不幸かそのときの彼は気づかなかった。
一方の兄者は弟の言葉を深く追求せず、いつもと同じ表情で「えっへん」とわざわざ口に出して返事をした。
それに、弟者は「褒めてない」と言葉を返すと、大きく溜息をつく。
(´<_` )「そういえば、兄者よ。兄者は先程、寝てないと言ったな」
( ´_ゝ`)「そう。だから、お兄ちゃんは眠いというわけだ」
(´<_` )「俺は兄者が明け方、しっかり寝ていたと聞いているのだが」
<(;´_ゝ`)>「……な、なぜそれを」
兄者の言葉は、弟者の言葉を認めたも同然だった。
顔からは冷や汗が流れ、動揺しているのはどう見ても明らかだった。
.
933
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:54:25 ID:nnePnEts0
l从・∀・ノ!リ人「妹者なのじゃ。
妹者はちゃんと朝お勉強したのに、おっきい兄者はひどいのじゃよー」
(-<_- )「こっちは夜通し荷物運んで、酔っぱらいをぶん殴って、人を誘導して、労働に勤しんだというのに。
飲み会だのなんなので騒ぐ奴らを押しのけて帰るのが、どれだけ大変だったか」
(;´_ゝ`)「……」
妹と弟の言葉に、兄者はぐっと息を呑んだ。
二人の言葉はどこからどう見ても正論。兄者には返す言葉もない。
(´<_` )「時に兄者、言いたいことは?」
問い詰める側である弟者は、その表情を消した。
しかし、その顔は追い詰められた時の無表情とは違い、瞳がいたずらっぽく輝いている。
それを瞬時に見て取って、兄者はやれやれと笑った。
( ´_ゝ`)「弟者さんは、ずいぶんと楽しそうで」
(´<_` )「何のことだか」
.
934
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:56:21 ID:nnePnEts0
ol从・〜・ノ!リ人o「おっきい兄者に、ちっちゃい兄者ー、そろそろ妹者はあそびたいのじゃー」
妹の声に兄二人は会話を止め、全く同時に「ふむ」と頷いた。
兄者は妹者に笑顔を浮かべ、弟者の口元が少しだけ緩む。
( ´_ゝ`)「妹者よ、何をして遊びたいのだ?
今日はこのお兄ちゃんと、弟者ができる限り相手をしてやろう」
l从>∀<*ノ!リ人「砂山つぶしっこするのじゃー」
(´<_`; )「……砂山だと」
「砂山潰し」とは、砂漠もしくは砂地でやる遊びだ。
やるためには、妹者を流石邸から連れ出す必要がある。姉者や母者がそれを許すとは思えない。
そして、兄者も弟者も昨日、無断で街の外に遠征したことで散々怒られた身。昨日の今日で遠くに出る許可はおりないだろう。
(; ´_ゝ`)「そういうのは、母者か姉者のお許しのある時にしてくれ。オレ カ ゙コロサレル
おうちか、近場でできるものにしなさい。メッ!!」
l从・д・`ノ!リ人「えー、つまんないのじゃー」
(´<_` )「それならば、質問あてっこはどうだ? よく市場の子供がやっているぞ」
兄者を助けるように、弟者が言う。
「質問あてっこ」は、いくつか質問をして、相手の考えていることを当てる遊びだ。
この遊びならば今すぐできるし、面倒な許可も体力も必要ない。と、弟者は考えていた。
.
935
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:58:46 ID:nnePnEts0
l从・д・´ノ!リ人「おっきー兄者は妹者の知らないことばっか言ってイジワルするから、やんないのじゃー」
(´<_` )「……」
弟者が無言で、兄へと視線を向ける。
弟者は何も言わなかったが、兄者はその視線を受けて「ぐぬ」と奇声を発した。
( ´_ゝ`)「……時に弟者よ。視線がとても冷たい気がするのだが」
(´<_` )「気のせいだ、兄者。俺は大人げないなど思ってはいない」
(; ´_ゝ`)「思ってるんだな」
兄者の問いかけに、弟者は言葉を返さなかった。
かわりに妹者へと視線を向けると、兄者に対するのとは打って変わって優しい口調で言う。
(´<_` )「人形遊びはどうだ?」
l从・〜・ノ!リ人「人形あそびさんは一人でもできるのじゃー。
妹者は兄者たちといっしょじゃないと、できないことがいいのじゃー」
(´<_` )「そうか。ならば、点数をつけるような遊びにするか」
(;´_ゝ`)「……あれ、俺は無視?」
.
936
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:00:16 ID:nnePnEts0
l从・∀・*ノ!リ人「点数……だったら、ビーズとばしっこがいいのじゃー!」
(´<_` )「ビーズが必要になるが、妹者は持ってるか?」
ol从>∀<ノ!リ人o「妹者、いっぱいもってるのじゃー!!
持ってくるから、まっててなのじゃー!!!」
元気よく返事をすると、妹者は立ち上がる。
そのまま兄者や弟者が止めるまもなく、屋内へと走り寄っていく。
( ´_ゝ`)「流石だよな、弟者。今日の予定があっさり決まったぞ」
(´<_` )「流石に今日一日ビーズ遊びは御免こうむりたいが、とりあえずはだな」
( ´_ゝ`)b「……ところで、弟者。そろそろだと思うのだが」
妹者を見送っていた兄者が、ふいに声をひそめた。
その顔に浮かぶのは真面目な表情。それを見た弟者は、兄者が何を言いたいのか瞬時に悟る。
(´<_` )"
弟者が小さく頷くと、隣の部屋に用意していた大きな籠を露台の隅へと運ぶ。
「準備万端だな」と、それを見た兄者は呟いた。
.
937
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:02:33 ID:nnePnEts0
・
・
・
l从>∀<ノ!リ人「ビーズさんみっけたのじゃー!」
それから、しばらくして足音を立てながら妹者が現れた。
その手に抱えられた大きな袋には、ビーズが沢山入っているのだろう。
妹者は走りながらも何度も、袋を抱え直している。
(´<_` ;)「転ぶなよ、妹者」
l从・∀・ノ!リ人「だいじょーぶ、だいじょーぶなのじゃ!」
妹者は危なげなく、露台に出ると椅子に袋を置いた。
どさりという重い音がして、椅子が揺れる。
どうやら、妹者は相当張り切っているらしい。走ってあがった息を落ち着け、妹者はじっと二人の兄の顔を見た。
l从・∀・*ノ!リ人「あっそぶのじゃ、おっきい兄者にちっちゃい兄者!」
(*´_ゝ`)「おお、ご苦労だったな、妹者たん!
ところで、遊ぶ前に一つ俺と弟者から話があるのだが」
l从・∀・;ノ!リ人「……」
話があるという言葉に、妹者の笑顔が固まる。
妹者は兄者が話しの続きをするよりも前に、妹者は両手を耳にやって首を横にふった。
そのまま、絶対聞かないぞとばかりに両目を閉じる。
.
938
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:04:44 ID:nnePnEts0
ol从>へ<;ノ!リ人o「あそばないって話しなら聞かないのじゃ! 妹者はぜったい、あそぶのじゃ!」
(; ´_ゝ`)「いや、そうではないのだが」
l从・へ<;ノ!リ人「……だったら、聞くのじゃ」
片目だけをそろりと開け、妹者はそう口にする。
その言葉に、兄者は弟者はおかしくてたまらないと言った調子で、同時に顔を崩す。
そして、二人は言った――
( ´_ゝ`)「お誕生日おめでとう、妹者」(´<_` )
意識するまでもなく、その声はピッタリと重なっていた。
弟者が隅に置いた籠から、箱を取り出す。
そして、それをそっと妹者に手渡した。
l从・∀・ノ!リ人「これ……」
妹者はきょとんとした顔で箱を見ていたが、小さな手を動かしてそれを開く。
木で作られた小箱、その中には透き通る一輪の花が飾られていた。
ガラス細工のような花は、見つめていると色が少しずつ変わっていく。
.
939
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:06:13 ID:nnePnEts0
それは昨日、二人がソーサク遺跡で手に入れた花だった。
ゴーレムや、弟者たちが暴れても散らなかったその花は、今は妹者の手の中で可憐に咲き誇っている。
派手さはない、可愛らしい花。
その花はどんな金細工や宝石よりも、妹者に似合っていた。
l从・∀・*ノ!リ人
妹者の頬が赤く染まる。
じっと花を眺めて、空に透かして見せて、興奮したようになんども「おぉ」と声を上げる。
キラキラと輝く瞳が、彼女が何よりもこの贈り物を気に入ったことを示していた。
l从・∀・*ノ!リ人「ありがとうなのじゃ。すっごく、すっごく」
じっと花を見つめていた瞳が兄者を、そして弟者の姿を見た。
何度も「すっごくすっごくを」を繰り返して、妹者は二人の兄にむけて言葉を紡ぐ。
l从^∀^*ノ!リ人「うれしいのじゃ!!!!」
――そして浮かんだ笑顔は、兄者と弟者の疲れと苦労を吹き飛ばすような威力だった。
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940
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:08:24 ID:nnePnEts0
(*´_ゝ`)「時に弟者、我らが妹がものすごく可愛いのだが」
(´<_` )「何を言う、兄者」
(´<_`*)「言われなくても、そんなことは知っている」
兄者と弟者は顔を見合わせ、はしゃぎ合う。
その喜びようは、自分たちのほうが贈り物を受け取ったかのようだった。
そして、彼らは同時に声を上げ、お互いをたたえ合った。
( ´_ゝ`)「流石だよな、弟者」
(´<_` )「流石だよな、兄者」
( ´_ゝ`)b グッ d(´<_` )
l从・∀・;ノ!リ人「あー、妹者もやるー!! まぜるのじゃー!!!」
.
941
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:10:21 ID:nnePnEts0
グッ グッ
( ´_ゝ`)b dl从・∀・*ノ!リ人b d(´<_` )
三人で格好を付けると同時に、妹者が笑い声を上げる。
その笑い声に答えるように兄者も笑い、少し遅れて弟者も口元に笑みを浮かべる。
兄者は笑ったまま、「そうだ」と声を上げると、籠の方へと妹者を誘った。
( ´_ゝ`)「ちなみに、こっちが妹者が昨日見たがってた、魔法石板な」
l从・∀・*ノ!リ人「おおー、なのじゃ」
籠の中には二枚の魔法石板が入っていた。
兄者はそれを指さしながら、「これは水の魔法が刻まれててなぁ」などと妹者に説明する。
妹者は腕を伸ばして石板に触れようとするが、その手は兄者の手によって遮られた。
l从・∀・#ノ!リ人「なんでさわったらだめなのじゃー! つまんないのじゃ!」
(<_゚ )「……」
(;´_ゝ`)「……弟者が怒るから、見るだけなー。
ついでに、弟者さんがすっごぉぉぉく怖い目で見てるので、俺も触ることが出来ません」
(-<_- )) コクリ
.
942
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:12:40 ID:nnePnEts0
l从-へ-ノ!リ人「ちっちゃい兄者のけちー」
(´<_` )「ダメなものはダメだ」
妹者の声にも、弟者は折れようとはしない。
それでも、魔法に関するものをすぐに壊そうとしていた昨日に比べると、大きな進歩だ。
(;´_ゝ`)「……弟者よー。もうそろそろ、魔法嫌いを克服するいい機会なのでは?
魔法も、精霊も、不思議なものも怖くないぞ。うん」
(´<_`#)「兄者は、もう少し危機管理というものを覚えろ」
( ´_ゝ`)「へいへーい、わかってますよ」
ビクッ(;´_ゝ`)て と(´<_`#)
l从・∀・#ノ!リ人「おっきい兄者も、ちっちゃい兄者も、めーっなのじゃー!!!」
兄者と弟者。それから、妹者の話し声は尽きること無い。
籠をしまい、袋の中からビーズを選ぶ、それだけのことでも次々と言葉を交わしはしゃぎ合う。
.
943
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:15:00 ID:nnePnEts0
( ´_ゝ`)「じゃあ、遊びますか!」
l从・∀・*ノ!リ人「妹者が勝つまでやるのじゃー!!!」
∩(; ´_ゝ`)∩「なんと!」
太陽はまだ高く、寝るまで時間はたっぷりある。
父者と母者が帰宅すれば、そこからはじまるのは家族勢ぞろいでのお祝いだ。
(´<_` )「あきらめろ、兄者。今日は妹者が主役だ」
l从>∀<ノ!リ人「なのじゃー!」
(#´_ゝ`)つ「漢、兄者! ゲームといえど、手は抜かんからな!」
だけど、今は兄妹三人だけの時間。
ゲームをして、笑い合って、それからご飯とおやつを食べよう。
それからブーンや、ついでにドクオにも今日のことを話してやろう。
――これからのことを考える弟者の口元に浮かぶのは、柔らかな笑みだ。
今日も忙しい、一日になりそうだ。
(´<_` )「――ああ、平和だな」
空は高く、柔らかくふく風が、弟者の薄緑の毛並みを揺らしていく。
彼らの楽しそうな笑い声は、いつまでもいつまでも響いていた。
.
944
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:17:04 ID:nnePnEts0
――――――――――――――――
流石邸の屋根の上。
そこに兄妹たちの姿を見守る、二つの姿があった。
人よりも遥かに小さな体。背には透き通る羽。
( ^ω^)「おー、楽しそうだおー」
('A`)「だな」
それは、ブーンとドクオ。二人の精霊の姿だった。
( ´ω`)「ブーンもいっしょにあそびたいお……」
('A`)「弟者のヤロウは兄妹水入らずなんだから、ぜってー来るなとぬかしやがったが。
……それじゃあつまんねぇよな」
(;^ω^)「お?」
('A`)ノ「オレたちも、妹ちゃんを祝ってやろうぜ」
露台を見下ろしながら、ドクオはニヤリと笑う。
細い手を伸ばして、指さしたのは今まさに兄妹たちのいる場所。
(*'A`)「見てな」
.
945
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:19:06 ID:nnePnEts0
ドクオは伸ばした指を上下へ、それから左右へと動かす。
指の動きに従うように、露台に落ちていた影が淡く薄くなっていく。
(*^ω^)「おお!!」
(*'∀`)「ドクオ様の本気を見やがれってんだ!」
ドクオが再び指を動かすと、椅子の影だけが伸び色を濃くした。
薄い影の中に落ちる、濃い影。
それはドクオの指の動きにしたがって、山の形へと変わった。
(*'∀`)ノ「どうだ」
(*^ω^)「すっごい、すっごいお!」
それは、ドクオの意志によって自在に動く影絵だった。
影の中に作られた空に、雲が流れる。
蝶が飛び、影の草むらに花が咲き乱れていく。
――それに、最初に気づいたのは妹者だった。
l从・∀・ノ!リ人「……お花なのじゃ!」
.
946
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:21:05 ID:nnePnEts0
(´<_` )「花?」
(*´_ゝ`)「……ああ、これはドクオか」
次に兄者が気付き、それに遅れて弟者もようやく何が起きているのかが悟った様だった。
影が動き様々な景色を作り出す。
その姿に兄者は笑い、妹者は目を奪われ、見とれている。
神秘の類が嫌いな弟者もこの時ばかりは、何も口を出さなかった。
――そんな兄妹たちの姿を遠くから眺めて、ドクオは心底満足そうな笑みを浮かべた。
(*^ω^)「やったおドクオ! 楽しいみたいだお!」
(*'A`)b「物より思い出。最高な贈り物だろ!」
ドクオの言葉に嬉しそうにしていた、ブーンの表情が曇る。
ブーン自身は気づいていないようだったが、隣ではしゃいでいたドクオはブーンが何を考えているのかすぐに理解した。
(;^ω^)「むむむ、だお……」
(;'A`)「おいおい、無理はしなくてもいいんだぜ」
おそらくブーンは、自分も妹者に何かをしようと思っているのだろう。
しかし、相手は精霊を見ることも出来なければ、声を聞いたり、気配を感じることさえ出来ない。
どう考えても無茶だ。ドクオはそう思い、ブーンをどうやって慰めるべきか考え始める。
.
947
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:23:18 ID:nnePnEts0
( ^ω^) !
しかし、ブーンの顔はすぐに明るくなった。
何かを考えついたのか、ブーンの顔に赤みがさす。
(*^ω^)「じゃあ、ブーンもいくお!!」
('A`)「……行くって、どういうことだ?」
ブーンは息を吸うと、魔力を巡らせはじめる。
その目は兄者たちのいる露台ではなくて、中庭を見下ろしている。
精霊であるブーンの様子に呼応してか、風がざわざわと騒ぎ出すのにドクオは気づいた。
(;'A`)「おい、ブーン」
(*^ω^) 《吹き上がるお!》
ブーンが魔法を使うと同時に、一際大きな風が吹いた。
風は中庭の植物たちを揺らし、土を舞い上げ、中庭にある小さな泉まで到達した。
魔力を纏った風が、泉の水を吹き上げていく。
舞い上がった水は太陽の光を浴び、飛沫を散らしながら落ちてくる。
それはまるで、雨のようだった。
.
948
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:25:26 ID:nnePnEts0
l从・∀・*ノ!リ人「わぁぁぁぁ」
そして、その雨がやんだ後、空に浮かんだのは――虹だった。
l从・∀・*ノ!リ人「すっごいのじゃ、あれは何なのじゃ!!」
( ´_ゝ`)>「虹か!? 妹者、さっきの影といい、すっごいものをもらったな」
(´<_` )「あれはブーンか」
太陽の光を受けて、吹き上がった水の飛沫が七色に輝く虹を浮かびあがらせていた。
露台から見える範囲に掛けられた小さな虹。
それは、まぎれもなくブーンから妹者へと向けられた贈り物だった。
l从・∀・*ノ!リ人「にじ。あれが、にじ」
兄者は空を見上げる。
弟者もまた虹をじっと見上げる。その口元には、かすかな笑みが浮かんでいた。
l从・∀・*ノ!リ人「はじめて、みたのじゃ」
妹者は贈り物を、見上げる。
妹者の頬は真っ赤に染まり、その目は食い入るように虹を追う。
砂漠にかかる虹。
彼女は初めて見る不思議な光景を、じっと見つめ続けた。
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949
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:27:39 ID:nnePnEts0
(*'A`)b「やるじゃねーか。虹なんてよく思いついたな」
(*^ω^)「アニジャとオトジャは昨日、虹にすっごくよろこんでたお
だから、きっとよろこぶって思ったんだお!」
興奮したような妹者の声に、ドクオとブーンは満足そうに顔を見合わせた。
女の子が一人、喜んでいる。それだけなのに、ブーンの心は暖かくて、とてもうきうきした。
(*^ω^)「世界って、とっても楽しかったんだお」
('A`)「おいおい、いくらなんでも大袈裟じゃねぇか?」
今日は、昨日と違って冒険をしたわけでもない。
それでも、昨日と同じくらいにブーンの気持ちは晴れやかで、楽しかった。
l从>∀<*ノ!リ人「精霊さーんありがとうなのじゃぁぁぁー!!!!」
(*'∀`)(^ω^*)
露台から、まだ小さな女の子のお礼の声が響く。
自分たちの贈り物を受け取った女の子の顔は、嬉しそうな笑顔だ。
それだけで、ブーンは居ても立ってもいられなくなった。
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950
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:30:36 ID:nnePnEts0
(*^ω^)「ブーンもいっしょにあそぶおー!」
('A`)「おい待て、オレもまぜろ!!」
とうとう我慢しきれなくなったブーンが、屋根から飛び降りた。
それを見ていたドクオも、不格好ながらも羽を動かし追いかけはじめる。
光をまき散らしながら、精霊たちは飛ぶ。
目指すは双子の兄弟と、その小さな妹の所。
(*´_ゝ`)l从・∀・*ノ!リ人(´<_` )
露台に三人と二人の精霊の声が響く。
彼らの盛り上がりは、ブーンたちが混ざっても変わらない。
兄者やブーンが話し、精霊たちの声を弟者が伝える。妹者はそれに、「おお」と息を呑む。
彼らはいつまでも、楽しそうに話し続けた。
⊂二(*^ω^)二⊃(´<_` )
(*´_ゝ`)σ(;'A`)ノ l从・∀・*ノ!リ人
彼らの日々はこれから先もずっと続いていく。
たとえ今日という日が終わっても。日は昇り、何かが起こり、そして日常は続いていく。
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951
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:32:04 ID:nnePnEts0
季節は、秋。
まもなく砂漠にも、短い冬がやって来る――。
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952
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:33:05 ID:nnePnEts0
おしまい
.
953
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:35:44 ID:nnePnEts0
これで完結となります
お付き合いくださいました方々本当に、ありがとうございました!
,___
/∧_∧、 ∧_∧
ノ( ´_ゝ`)> (´<_` )
<γ@^ソ^@ >^>⇔<^_<
( <====,|ゝ ~|_i 〕\〔ヽ_ヽ
と/_∧_|_) と/i____|=(_ノ=|ニニニ二フ
< /=/ |=| ゝ /= /ヽ=ヽ┐
ヽ_)(_つ と__ノ `ー.J
オマケ:予告スレに放り込んだけど使いドコロがいまいちなかったAA
954
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 23:14:04 ID:w8JirO2U0
うおお乙ー!
月並みなことしか言えんが、すごく面白かった!
妹者と精霊たちがかわいい…
955
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 23:24:08 ID:wfZ2VIa.0
乙
とても楽しかった
ニダーとのーでイラストもう一枚使われてたのはにやっとしたよ
956
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 23:25:44 ID:kAu8Wro.0
乙!盛大に乙!
凄く面白かった!
妹者は可愛いなぁ
957
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 23:29:19 ID:54BottrUO
乙!!!
毎回投下が楽しみだった!
面白かったよー!!
958
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 23:41:43 ID:x8VtzC960
乙乙!
次回作とかは予定あるの?
959
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 23:48:38 ID:nnePnEts0
乙ありがとう
>>958
間に合ったら、祝福祭あたりにいるかもしれないです
960
:
名も無きAAのようです
:2013/12/10(火) 00:23:53 ID:KDtdyQRU0
おつ
面白かったー!
961
:
名も無きAAのようです
:2013/12/10(火) 00:47:48 ID:SONkfYfM0
楽しかったよー!
962
:
名も無きAAのようです
:2013/12/10(火) 02:12:47 ID:TLMRVcn20
色々、思うことはあるんだけど
うまく言えないので
乙
963
:
名も無きAAのようです
:2013/12/10(火) 16:30:01 ID:cx7rfOSQC
350レス一気に読んだ、今さらだけどこれラノベのやつだったのね
これが完結したのでラノベの未完は残り2作品となった
964
:
名も無きAAのようです
:2013/12/10(火) 21:53:24 ID:q9Nlb7eM0
感動的乙!
ほのぼのありガチバトルありで楽しすぎたよ!
965
:
名も無きAAのようです
:2013/12/18(水) 22:45:18 ID:K.LAUj7Y0
久々に見つけたら完結してただと……!
双子の話とかいろいろ伏線あって最終回まで楽しかった
精霊二匹とかでぃとか妹者とか可愛かった
最後のクーのところはゾクッとした
今まで乙!!
966
:
名も無きAAのようです
:2014/08/10(日) 00:53:30 ID:044qn3VI0
久々に来たら完結してた。乙
王道の冒険物で気持ちのいい終わり方だった
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