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【失敗】廃棄小説投下スレッド【放棄】

1名無しさん:2004/11/27(土) 03:12
コソーリ書いてはみたものの、様々な理由により途中放棄された小説を投下するスレ。

ストーリーなどが矛盾してしまった・話が途切れ途切れで繋がらない・
気づけば文が危ない方向へ・もうとにかく続きが書けない…等。
捨ててしまうのはもったいない気がする。しかし本スレに投下するのはチョト気が引ける。
そんな人のためのスレッドです。

・もしかしたら続きを書くかも、修正してうpするかもという人はその旨を
・使いたい!または使えそう!なネタが捨ててあったら交渉してみよう。
・人によって嫌悪感を起こさせるようなものは前もって警告すること。

624名無しさん:2009/07/06(月) 18:03:19
「では今から、僕の声のカッター…『声カッター』で、この風船を割りたいと思います」


世界のナベアツこと渡辺鐘は、ある番組でネタを披露していた。
風船に向かって、甲高い奇声を上げる。もちろん、風船は割れない。そういうネタなのだ。
彼自身このネタはかなり気に入っているのだが、メディアでは「3の倍数」云々のほうがウケるのが、少々複雑だった。
「…失敗したけど、オモロー!!」
その後も、何度も奇声を上げたが、風船は一度も割れずに、ネタは終わった。


(まあ、実際は割れんねんけどなー)
渡辺は、そのような事をぼんやりと考えていた。
最近、芸人の間で流行っている石。渡辺も、だいぶ前に石を手にしていた。
彼の石の能力は、声を刃のように固めて飛ばす――「声カッター」そのものであった。
無論、ネタを披露するときは、石は置いてきている。不用心のようだが、彼には石を奪われる心配が無かった。


「…もしもし、ネタ終わったんで、今から石取りに行きます
……ああ、はい。あ、いつも石預かってくれててありがとうございます」


彼は、信頼できる人物に、自分の石を預けていたのだった。

625 ◆wftYYG5GqE:2009/07/06(月) 18:06:24
すみません、トリップが抜けてましたorz
>>624も私です。

一応ここまでです。ナベアツが白黒中立のどれかは、特に考えていません。
それでは、失礼致しました。

626 ◆1En86u0G2k:2009/07/07(火) 23:53:49
こんばんは プロローグ的な物語がいくつも投下されてwktkしつつ
オードリーを主軸にした話を考えてみたのですが
・長いくせに盛り上がらない
・登場人物の方針・能力について独断でやや拡大的な解釈を行っている
上記の理由から再度こちらに投下させていただきます
時系列は>>608「ずぶぬれスーパースター」後 日常的に戦うはめになってからの色々です

627 春風はレベル30 ◆1En86u0G2k:2009/07/07(火) 23:58:00


自分と違うところばかりの友人を相方に選んで約10年、
沈んでた時期の方が長いのに振り返って余裕ぶるなんてのはいかがなもんかと思うけど、
ほとんどつまづき続けの日々、向かい風警報出っぱなしの中、どうにか空中分解を免れたのは、芯の部分に貴重な共通項を通していたからではないかと思うのだ。
つまりはどれほど痛い目に遭おうとも、取捨選択は己で決めるという不格好な意地の張り方である。


*********


2月の終わりを迎えた某局の楽屋だった。
桜前線はすでに沖縄でスタートを切ったという。日本中がピンク色に染まる季節がやってくる。
自分たちの生活は先取りした春一番めいた激しさを保ったまま、相変わらずありがたいことに気が抜けない。
ついでに言わせてもらうと、ありがたくない方面でもまったく気が抜けない。
(昔はそこらへんの桜見に行って 1日中ボケーっとしてたっけ…)
思い出にひたるつもりで鼻をすすり、ふとその記憶がほんの数年前でしかないことに気付いて我に返る。
「別に昔ってわけでもねえなあ」
拍子抜けした声が漏れた。2個目の弁当に取りかかっていた春日が顔を上げる。
「なにかね」
「いや?」
ひとりごとです。重ねて呟くと春日は首を傾げ、大きな独り言ねえと笑うだけで特に追求はしてこなかった。
「おれこの後用あっからさ、おまえ帰るんなら車乗ってっちゃっていいから」
「はいはい」
完全に唐揚げの方に集中した生返事。馴染みの無関心を今は心底好都合だと思いながら、若林は深呼吸を繰り返す。
仕事と異なる方面からくる緊張は、決して気取られたくなかったのだ。

628 春風はレベル30 ◆1En86u0G2k:2009/07/07(火) 23:58:54

芸人の間ではひそかに有名になった不思議な石が、例に漏れず2人の元にやってきてひと月ほど。
くだらねえと呟いたところで結局襲撃は止まなかったし、関心がないと主張しつづけても情報は勝手に飛び込んできた。
白とか黒とか、味方になったとか裏切ったとか。オセロみたいな勢力争いの、板上に乗ること自体を拒否して逃げ回る日々。
悪の帝王めいた噂すら流れるその人から直々に連絡が入ったのは3日前のことだ。
電話番号わかんなくってさあ、の笑い声を耳に、反射的に身構えてしまった自分へ沸々と苛立ちを募らせながら、若林は平たい声で問うた。
「それは僕だけでもいいですか」
なぜあの時はそんなことを聞いたのだろう。少なくとも置いておけば盾にできたろうに、電話を切ったあとでこっそり後悔したのはここだけの話だ。
ともあれあっさり承諾されたのは意外だった。正念場かもしれない対面を春日抜きで切り抜けねばならなくなる。
もっとも、いつものような直接的なドタバタは起きないだろうとも予測していた。帝王の手口は柔らかいのだそうだ。
『肩の力抜くといいよ』
電話の向こうはバナナマンの設楽、やけに楽しげな声が不穏な気配を漂わせていた。

629 春風はレベル30 ◆1En86u0G2k:2009/07/08(水) 00:00:55

考えてみれば中心層からのコンタクトは初めてなのだ。
逃げちゃダメだを早口で3回、繰り返すこと数セット。
おれ追い込まれてるわあと苦笑しながら向かったのは、テレビ局からそう遠くないビルの1階、有名チェーン系列の喫茶店。
テーブルとカウンターを越えて半階分の段差を降りた先、壁際一番奥のソファー席で帝王が眉を下げて笑った。
「ごめんねー忙しいのに」
「いえ、大丈夫です、ぜんぜん」
劇的な変化を遂げたここ数ヶ月は若林の中に、今もって新鮮な驚きと感動を供給し続けていた。
死ぬほど焦がれていたテレビの中、散々憧れていた先輩たちと一緒に番組をつくるという嘘みたいな毎日。
設楽と初めて共演したのは例外的に何年か前になるけれど、今以上に試行錯誤を繰り返す往来で、最初で最後かもしれないと覚悟の緊張の塊を胸に抱えていた。
そのいつかと同じように笑いながら、先日の出演を迎え入れてくれたのだ。面白いんだよ!という褒め言葉付きで。
場を盛り上げるための甘い評価かもしれないが、それでもやはり嬉しかった。
面白い、という単純明快な形容が、どれだけ自分たちの足場を支えてくれるか。
何度となく活躍を目と耳にしてきた先輩からの言葉ならなおのこと、帰路の途中で小さくガッツポーズが出るくらいには。
いっそ前情報がないままならよかったのだ。
そうしたら純粋に感謝していられただろう、例えばいま持ち帰り分の食料を物色しているはずの春日みたいに。
少なくとも“こちらの警戒心を薄めるつもりだったのかもしれない”なんてくだらない詮索を、向けなくても済んだ。
「…どした?」
「や、」
申し訳なさと苛立ちと自嘲。入り乱れた感情が表情に思い切り出ていたらしい。
我ながら呆れるくらい下手な取り繕いに設楽は吹き出し、すっげえ警戒してるね、と言った。

「じゃあ大体わかっちゃってんだ、俺の言いたいこと」
「…予想外れてほしいなーと思ってますけど。切に」
「でもあれでしょ、若林ってそういう勘鋭い方じゃない?」
「嫌な予感ばっかりよく当たります」

次第に本題に近付きつつある場の空気に細心の注意を払ったまま、右手にぎゅっと力を込める。
手の中にこっそり握り込んだ小さな銀色の塊が、じわりと熱を帯びるのを感じながら。

630 春風はレベル30 ◆1En86u0G2k:2009/07/08(水) 00:02:39

設楽の印象ははじめて見たコントの役柄そのものに近い。
自分の主張を、たとえ多少の無茶があろうと飄々とした態度と語り口でゆるゆると押し進め、日村を納得させてしまうキャラクター。
(弁の立つ人だってのを、そんなに感じさせないふうにしてるっぽいのが余計怖いっつうか…)
あれは多少、素が入ってんだろうな、などと感心しつつ、警戒レベルを“高”に固定して耳を傾ける。
とはいえ、彼の言い分はある種真っ当で、非常にわかりやすいものだった。
「利害が一致するんじゃないかなあって」
極力注目されないように行動してきたつもりだったが、おそらくは筒抜けきっているのだろう。
希望するポジションは圏外と同意義の中立。春日がどう考えているかはさておき、若林の第一目標はとにかく厄介事から距離を取ることだ。
襲ってくるのは大概“黒”のほう、降り掛かる火の粉のみを払い続けるから根本的な解決は不可能で、かと言って離脱できない奥底まで立ち入ってしまっては本末転倒になる。
そちら側に協力するというスタンスを示せば、確かに日々の些末な面倒からはおおむね解放されるのかもしれない。悪くない話だと思うけど、設楽はそう言って笑った。
反論する余地をどう切り開こうか思案しながら、間をつなぐためにコーヒーを啜る。

「あの、そうすると逆に、白のみなさんに追っかけられるんじゃないですか」
「んー、まあいい顔はしないかなあ。でも基本的にあの人たちは動きが派手なとこを抑えにくるくらいだから、目立たなきゃ問題ないでしょ」
「目立たないっていうのは」
「ガンガン前に出てかなくていいよってこと」

詳しくは商談成立後にお話しします。芝居がかった口調で情報開示を遮断され、そこまで親切なわけもないかと勝手に納得する。
確かに白の責任感も黒の罪悪感も(正直なところ)さほど抱えていないし、今後抱える予定もない。そこまでご存知なのかは知らないが、把握したから行動に移していると判断する方が自然だった。
カップの中の黒い水面を見詰めたまま若林は黙っていた。
自分にとっては好機と呼んでもいい誘いにさっさと乗らないでいるのには3つほど理由がある。
ひとつ、長年の境遇と生まれついた性格の賜物か、“渡りに船”に対しては厳戒態勢を敷いていること。
ふたつ、右手の白金がチリチリと覚えのある痺れをずっと発していること。
みっつ、若林はどうすべきか悩んでいて、そういう時どちらを選びたがる人間だったか、ということ。
他にもいくつか正なり負なりの感情が交代で浮いては沈みを繰り返したが、最終的に自分ではない声の叱責が朗々と脳に響いた。
『グダグダ考えてんじゃないよ馬鹿馬鹿しい』
聞き覚えのある根拠レスな強さを蹴り出そうとしてやめる。
タイミング的には間違っていないので今だけ同意して指標にする。

「ありがたい話ですけど、お断りします」

結果はどうあれ笑いながら少数派に飛び込む男でありたい、ひとりそう誓ったのはこんな厄介ごとに巻き込まれるよりもっとずっと昔の話だった。

631 春風はレベル30 ◆1En86u0G2k:2009/07/08(水) 00:05:02

さて。
決裂の意を示してからが本番だった。わざわざ声を掛けられている時点で、わかった残念だなーで済まされるとは思えない。
「たぶん、設楽さんの言うこと、正しいと思うんですよ」
思うんですけども、言葉を返される前に言葉を重ねる。語頭が裏返ったのには無視を決め込む。
間を空ける怖さより主導権を簡単に渡してはいけないという焦燥が先に立った。なにしろ2ターン目は永遠に来ない可能性もある。
「でもおれ、そういうの好きじゃないんです」
断る理由はもうひとつ。目線を上げて一息に言い切る。
「ざっくり言うとムカついちゃうので」
「ははっ」
その選択を選びたくなる状況に追い込んでからの条件提示。攻勢としては大正解だが、だからこそ下手な(一応そういう自覚はあるのだ)意地を張りたくもなる。
白黒どうこうを抜いても失礼だったはずの若林の物言いを、設楽は特に気にしてはいないようだった。
ムカついちゃうかあ、笑いながらコーヒーをひとくち、そういうとこ頑固そうだもんね、と呟いてから。

「いんだ別に、ムカついたまんまでも、全然」
「………!」
「“とりあえず言うこと聞いてもらえればなんでもいいから”さ」

―――来た。

ふたつめの懸念、プラチナが微弱な反応を繰り返していたのはなぜか。
若林の石は持ち主の性質に呼応しているのか、味方より敵の石の発動に対して敏感な反応を示す。
設楽が持つソーダなんとかという名の石の効力は『説得力の爆発的な向上』らしい。物理的な物騒さとは無縁のまま畏れられる存在になり得たのなら、きっとそれを最大限に活用してきたのだろう。
元を正せば電話を受けたときから白金は熱を帯びていた。携帯電話の振動Cに似た断続的な痺れは、自身に対して能力が向けられている知らせ。
足した意味は言わずもがな、その熱量と痺れが、設楽の声をきっかけにガツンと膨れ上がった。
(…やば、っ…!)
咄嗟に右手の拳を固く握る。オレンジ色の六角形を重ねて中空に張るイメージを脳内で展開する。
14歳ではないから可視のフィールドは現れないが、こちらの石も似たような効力だ。問答無用の屈服という、まあ、若干乱暴な仕様ではあるけれども。
相手の心の膝を折らせるための力が衝突し、テーブルの上で軋んだ音を立てた、気がした。
拮抗するかと思えたのはたった数秒。
背中を嫌な汗が伝い、設楽が片眉を上げる。

632 春風はレベル30 ◆1En86u0G2k:2009/07/08(水) 00:07:57

「やっぱり若林もこっち系なんだ」
「…みたいですね…」
「うん、だから声かけたんだけどね。“あんまり抵抗しない方がいい”よ?疲れるでしょ」
「……っ、や、だから、お断りします、って、言ったじゃないす、か」
「“頼むってば”。ね?」
「………ぅあ…っ」

慢性的に抱えている偏頭痛を数倍刺々しくしたような痛みだった。熱膨張を起こした右脳、焼けていると錯覚しそうな右手の石。
偏った痛覚につられ、右目だけをきつく閉じて喘ぎに近い呼吸を繰り返す。
攻めるための能力を無理やり防御用に転換しているわけで、しかも自身の能力をほぼ完全に使いこなしている者が相手ともなれば、
(そりゃあ、押されるのは無理もねえ、んだけどっ)
納得はすれど諦めるのは癪だった。目に涙を滲ませながらも必死で見上げれば、設楽は「すっげえつらそうじゃん」などと顔を覗き込んでくる。
この人Sだって話はガチだわ。
内心深く頷いてから、テーブルの上に置かれた手に左手を伸ばそうと試みるも、「あぶねっ」咄嗟に身体を引かれる。
「触られちゃまずいんだったよね?」
大袈裟な首の傾げ方、浮かべた笑みがいつかオンエアで見た春日を追い込む自分と重なる。
―――訂正しよう。この人、ドSだ。
それから設楽はいつもの若干間延びした喋り方で、こちらの気が変わるように色々と優しく働きかけてくれた。もちろん石の力を絡めているので、拒否の意を示すだけでも面白いほど疲弊する。
体感時間にして5時間に及ぶ拷問。実際のところは30分にも満たない会話。
2ストライクから美しくもないスイングでチップし続ける執念に、ピッチャーは仕切り直しの必要有りと判断したらしい。
「そろそろ出よっか」
うつむいて咳き込む若林のつむじを眺めてため息をひとつ。予定より長居しちゃったねえと言いながら設楽が席を立つ。
軽い足取りに倣う。これは屈したせいではない、といいな、ぼんやり思いながら後を追った。

633 春風はレベル30 ◆1En86u0G2k:2009/07/08(水) 00:09:50

夜半はまだ真冬を思い起こす寒さである。春先特有の強い風に煽られて足元がふらつく。
元凶は去らないし抵抗も止めていないので、頭痛は酷くなるばかりだった。
設楽は眉間に深い皺を刻んで横を歩く若林を見やり、頭痛くなんだね、と興味深そうに言った。
「こういうふうに抵抗してくる人っていままであんまりいなかったからさあ」
勉強になります、そううそぶく先輩に、いやおれ経験値積ませに来たわけじゃないんでと相槌を打つ余裕もない。
外に出たからと言って何が好転するでもなかった。がっちり組み合った、いや組まされたまま、じりじりと自陣へ押し込まれている状況。
間を隔てるものがなくなった分相手に触れやすくはなったが、防衛以外の出力をあげれば一気に崩壊しかねない瀬戸際だ。淡々と足場が削られていくのを、先延ばしにするのが精一杯だった。
その果てがどうなるのを極力考えないよう務めて耐える若林に、容赦なく次の一手が打ち込まれる。

「…じゃあさ、春日にもこの話させてくれる?」
「っ!」

今一番聞きたくない名前だった。思わず目を見開いて硬直する若林に、設楽はやっぱりなあと笑みを深くする。
「僕だけでいいっ…て、言っ、」
「んー、あの時はね?でも協力してくれる人が多けりゃ助かるしさ、それに、」
春日連れてこなかったのって、あいつを庇う為でしょ?
指摘されて絶句する。―――庇う?あのポンコツをわざわざ?
てめえは毎回リセットされてんのかってくらい度々ドッキリに引っかかる単純な頭、物事をそのままドーンと受け止めすぎる無駄に広い度量、素直よりバカって表現がふさわしい性格。
(そりゃ確かに設楽さんから石使ってこんな風に声かけられたら、諸々込みであっさりお世話になります!なんつって頭下げちゃいそうだけどさ)
申し出の理由にようやく思い当たり、ぶつけようのない怒りと天井知らずの頭痛に叫びだしそうになる。
ああ、抵抗にこれほどの痛覚が伴うと、わずかでも覚悟できていたら。

「ぃ…ッあ、」
「あーあーあー、ほらもう限界じゃんお前も」

ひときわ鋭い痛みが突き抜ける。たまらずしゃがみこんだ頭上から、別にひどい目に遭わせるつもりじゃないんだって、呆れと困惑を合わせた声が降ってくる。
ちくしょう、仮に百歩譲ってあいつを庇うためにこんな目に遭ってるとしてもだ、そこ読まれてたらなんの意味もねえじゃねえか!
「とりあえず、電話しようよ。春日に」
そっから先はまだわかんないでしょ、電話くらいいいじゃん。ね?
一歩妥協した条件を提示するのは、要求を呑ませるための最後の仕上げ。
その流れを十分すぎるほど理解していながら、若林の手はとうとう勝手に、携帯電話を突っ込んだポケットへ伸びはじめていた。

634 春風はレベル30 ◆1En86u0G2k:2009/07/08(水) 00:11:43

(…くそ、)
(とんだ思い上がりだ)
(なんでちょっとでも、どうにかなるって思ったんだ?)

リダイヤルを辿り、促されるままボタンを押し込む。
活動限界寸前の頭の中、淡々と無機質な呼び出し音が繰り返される。
いっそ留守電に切り替わればいいという願いもむなしく、きっちり3コール目で持ち主が応じてしまった。

『はいはい』
「…………」
『どうした?』
「…………ッ」

どうしたもこうしたも大ピンチです。電話出てどうすんだばかやろう、こっちは頭が割れそうなんだよ。ああ、もう、ほんとに、意味ねえ、全っ然庇えてねえ。
世界の全方位へ向けた腹立たしさと無力感に押さえ込まれて今度は言葉が出ない。若林氏?と繰り返す怪訝な声がふと遠ざかった。設楽が代わりに電話を握ったのだ。
「もしもし春日? あー、俺、設楽です」
『え、 …ああ、はい!お疲れさまです!』
唐突な先輩の登場に、なぜか春日は少しテンションを上げたらしかった。
どうしたんすか?なんて元気よく言っちゃってバカかお前は。おれは一体なんのためにこんな、
「いま若林といっしょなんだけどさぁ、ちょっと春日とも話したいなーっつって、」
『そうなんですか!』
でかい声出すなようるせえな、選択肢なんかねえんだぞ、わかってんのか。わかるわけないか、そういや何にも言ってねえもんな。
食いしばった奥歯にそのまま砕けるのではなかろうかというほどの力を込めた時、春日が不思議なことを口走った。

『すっごいタイミングですね、俺びっくりして』

―――は?
偶然見合わせることになったふたつの表情は、おそらく互いにどういう意味?の疑問符で満ちていただろう。
ぽかんと空いた隙を図らずも突いた恰好になった春日は、ちょうど今話してたんですよ、ほら、とその場にいるらしい誰かに呼びかけている。
バタバタとにぎやかな音が漏れたあと、やがて春日とは別の声が電話から聞こえてきた。

『…おう、設楽?』

聞き覚えのあるその声は確か、まちがいでなければ設楽の相方、バナナマン日村であるはずだった。

635 春風はレベル30 ◆1En86u0G2k:2009/07/08(水) 00:12:56

若林にとってはへえ日村さんと一緒にいたんだ、という、単純な驚きでしかない。
白黒の勢力配置を事細かに覚えているわけではなかったから、もしかして俺たち同時にセッション仕掛けられてたんかい、なんて勘違いが加わるくらいで。
しかし、もうひとりにとっては、そんなフワっとした感想で片付くイレギュラーではなかったらしい。
設楽は日村さん?と戸惑った声で問いかけ、肯定を返されたのだろう、小さく呟いた。
「うそぉ」
その音が若干クリアに耳へ届いて、若林は反射的に顔を上げる。
余裕のある態度は崩れていなかったし、顔色ひとつ変えていなかったけれど、自分の痛覚がなによりの指標だった。見えない鎖で締め付けられるような圧力が、確かに緩んでいる。
それはつまり、不沈たる彼の領域がついに揺らいだという証だ。奇しくも春日の予想外の働きによって。
状況を掌握するには不十分なヒントしか与えられていなかったが、このタイミングがおそらく最初で最後のチャンスなことだけは理解できた。

「…びっくりするでしょ、」
「あ」

意を決して腕を伸ばす。肩を掴む。振り返った設楽がやべ、と、初めて明確に焦りの色を浮かべる。
静電気めいた拒絶反応が指先に走り、それでもそのまま出せるだけの力を込めた。携帯電話が地面に衝突して硬い音をたてる。
ここぞって時にとんでもないことやっちゃうんですよね、フラッシュバックするのはいつか誰かに説明した自分の声や、見当違いに胸を張る相方の姿。

「それがあいつのこわいとこなんです」

慣れない防御から急速反転、残弾をすべて攻撃に充てる。無茶な立ち回りに視界がとうとう白く瞬きだした。
あの気弱な少年ならきっと切羽詰まった顔で叫ぶだろう。
(“フィールド全開ッ”、つって、)
あとはもう、どうにでもなれだ。

636 春風はレベル30 ◆1En86u0G2k:2009/07/08(水) 00:14:23

強烈な光も派手な音もなく、インナー限定の攻防は静かに終わりを迎えた。
拾い上げた電話はすでに切れている。妙な展開でびっくりしたろうな、春日は無視して日村に申し訳なく思う。
「それさあ、若林のって、あんまり光んないんだね」
ガードレールにもたれて座り込んだ設楽が言った。俺のもそんなに光んねえの。地味だよね、お互い、全体的に。
苦笑いを返そうとした世界が歪む。ほとんど崩れ落ちるようにして、彼の隣にしゃがみこむ。
「…大丈夫?」
「…はあ、なんとか」
何度か咳き込み、それから急いで距離を置こうとする若林に、今度は設楽が苦笑した。

「もう弾切れだよ」
「え、」
「お互い様だと思うけど。今んとこ、普通にお話ししかできません」

降参の仕草で両手を上げる彼から、独特の気配は確かに消えていた。もっとも、感知する余力もすでになかった。残っているのは火傷に近い痛みを伴った右手の熱さだけだ。
相打ち、か。判定だったら3ー0で完敗だろうな、投げられたタオルを想像して深めにため息をつく。

「そうでもないかも」
「へ?」
「俺、ちょっとくらいお前の言うこと聞いちゃうと思う」

意味を掴みかねて寄せた眉の裏側を、『屈服:相手の強さ・勢いに負けて従うこと』の辞書的な説明が流れていく。
(…負けたふうには全然見えないんですけどもね)
半信半疑ながら、自分の踏み止まりが少しは報われてもいいなとは思った。言うだけタダだし、駄目でもともとだ。
車が3台通り過ぎるくらいの間をたっぷり空けたあと、じゃあ、と出した声は掠れていた。

「5月になるまで、おれらのことは放っといてもらえますか」
「期限付きでいいの?」
「…永久にって条件、出せりゃ出してますもん」
「………まあねえ」

事実、若林も陥落寸前だったのだ。金輪際関わりたくないです級の担荷を切るには、設楽の能力の影響を受けすぎていた。
つまり石を巡るごたごたの末端に留まることを若林は“説得”され、代わりにささやかな命令を下す権利を得たというわけである。
設楽はしばらく目をつぶって何か思案しているようだったが、やがて「いいよー」と拍子抜けするほど軽い声で応じた。
そこでやっと本当に、強張っていた身体の力が解けた。

637 春風はレベル30 ◆1En86u0G2k:2009/07/08(水) 00:16:11

「でもなんで5月なの」
「ネタ考えて、覚えて、詰めて。あと春日に叩き込んで…ってなると、最低限今くらいから本腰入れないとやばくて」
「…ネタ?」
「単独ライブが」
「ああ、」

年の瀬に果たしたある種誰よりもドラマチックな活躍を決定打に、暴風めいたスケジュールに翻弄されてきた若林と春日。
激動のただ中で待ち受けるのは、3年ぶりに立つふたつの独壇場。
全力を投じても足りないかもしれない時間を、芸事以外で潰す余裕はない。
いいライブにしたいんです。噛みしめるように呟く若林に、設楽は厳粛に頷きながら5月ね、と繰り返した。

「5月までは約束守るよ。少なくとも俺の権限が通るとこに関しては、そっちに迷惑かけないから」
「…設楽さんが全権握ってるんじゃないんですか?」
「はは、さすがにそこまではねぇ」

段々制御きかなくなってきてんだ。愚痴るような声はやかましいエンジン音を鳴らすバイクに重なり、誰の耳にも届かなかった。
それでも黒側の大部分を統制しているらしい彼が言うなら、ずいぶんと平穏な毎日にはなるのだろう。
「じゃあ お願いします」
レールに手をついて若林はふらふらと立ち上がった。
立ちくらみをやり過ごしているのか眉間に皺を寄せ、深呼吸を繰り返してから設楽を見下ろして。

638 春風はレベル30 ◆1En86u0G2k:2009/07/08(水) 00:16:57

「あとひとつ、聞いてもいいですか」
「守秘義務どうこうじゃない範囲なら」
「………こないだ、番組出させてもらった時、僕らのこと面白いっつってくれたじゃないですか、」

あれは。
それきり言いにくそうに視線を彷徨わせた後輩に、設楽はゆっくりと首を振る。
「そういうのはやんない、俺。ほんとに面白えなあと思ってさ、」
だから嘘じゃないよ。
相変わらず人を食ったような笑みを浮かべているから真意を計るのは難しい。
けれども信じようと思った。訝しむばかりでは身が持たない。ノーガードで聞く言葉としても、そもそもそうあるのが普通だったのだ。
ごめんね、の心なしかばつが悪そうなリアクションを、自分自身の判断で全面的に信用する。
それから、
「…もし、設楽さんが、それ使わないで説得してくれたら、」
素直に言うこと聞けたかもわかんないです。
俯いたまま若林はありがとうございましたとすいませんと失礼しますを重ねて、深々と頭を下げた。

639 春風はレベル30 ◆1En86u0G2k:2009/07/08(水) 00:18:38


 「なんだったんだろ」

 はじめに首を傾げたのは、テレビ局の廊下に立つ日村だった。
 若林から設楽に変わった電話は、春日から受け取った途端に切れてしまった。
 それぞれの番組終わりに偶然遭遇した面々。飲みにでもいこうという話になって、せっかくならこの場にいない相方にも声をかけようとしていた、まさに絶好のタイミングだったのに。
 「春日もどっか行っちゃうしさあ」
 のんびりしたはじめの応対はどこへやら、通話が切れた途端に血相を変えて走り出したピンク(既に私服に着替えていたからピンクではなかったが)もすでにこの場にいない。
 「設楽さんは電話出ないの?」
 問うたのは偶然の一員、おぎやはぎの矢作である。
 「あいつ電源切れちゃってんのかな、ずっと留守電なんだよね」
 「そっかあ」
 「じゃあとりあえずいる分で行っちゃおうよ」
 続けたのは相方の小木だ。腹減っちゃったもん、いかにも彼らしい切り替えの早さに笑ってから、設楽が捕まったら合流すればいいか、そう気を取り直す。
 「何食う?俺らの食いたいもんでいいよね、早いもの勝ちってことでさ」
 「いんじゃない、どうしよっか」
 先を歩く日村は気付かなかった。
 路上の設楽が若林と静かな争いの末、ある取り決めを成立させていたことも、小木と矢作が目線を交わし、小さく頷きあっていたことも。
 彼が本格的に石を巡る渦へと巻き込まれる日の訪れは、幾人かの芸人の思惑でもって、また少し先延ばしにされた恰好だった。

640 春風はレベル30 ◆1En86u0G2k:2009/07/08(水) 00:20:07


 「今回は間に合わなかったねえ」

 続いて街灯の下、どこか残念そうに呟いたのは春日だった。
 突然の誘いと電話。重なる偶然に驚きながら日村へと繋ぎ、急な断絶に嫌な予感がして駆け出したものの、さてどこへ向かえばいいかわからんぞと途方に暮れたところで再び鳴った着信音。
 2度目の若林は憔悴しきった声で現在地と目印を告げ、10分で来い、来なけりゃおれは路上でくたばっちゃってるからな、と脅しだか懇願だか判別しかねることを言って一方的に電話を切った。
 そこそこ全力疾走でなければ間に合わない距離をどうにか走り抜け、荒い息で辿りついた駐車場の看板のそば、宣言通りぐったりと座り込んでいる相方の姿。
 とりあえずケータリングから頂戴した水を与え、落ち着くのを待った。すでに何事か起きたあとなのは間違いなさそうだった。
 冒頭の台詞に若林は人の気も知らねえで悠長なこといってんじゃねえ、と薄水色のボトルキャップを投げつけてきたが、こちらの額を狙ういつもの精度がまるでない。
 車道に向けて転がったそれを捕まえて戻ってくれば、夜目にもわかる青白い顔で、ぼそりと呟く。
 「毎回毎回おいしいとこもってけるなんて思うなよ」
 「別においしいとも思ってないがね」
 「…ま、いいや…とにかく単独終わるまでは、芸人に専念できっから…」
 「はて。どういう意味かしら」
 「おれ死ぬ気でネタ作るわ。お前も死ぬ気で覚えろや」
 「おお?」
 「つかお前も作ってみろよ。そろそろ本気出してもいい頃だろ」
 「ぉおお?」
 若林は一体ひとりで何に立ち向かったのだろう。その果てに何を手にしたのだろう。事の顛末も気になったが、今はまずキラーパスをキャラ通り正面から受け止めるかどうかの判断が先だ。
 春日はふむ、と顎に手を当て、しばし思案した。

641 春風はレベル30 ◆1En86u0G2k:2009/07/08(水) 00:21:15


 「やられたなあ」

 最後にひとり、夜道を歩きながら笑ったのは設楽だった。
 途中まではほぼ完璧に計画通り。相方を関わらせないという希望を受けておいて、最終的にそれを取引の題材にさせてもらうのはすでに試したことのあるパターンのひとつだ。
 こちらの能力に近い石を発動させて真正面から抗ってくる展開は初めてだったけれど、自惚れを差し引いても自分と自分の石の相性は相当にいい。
 多分あのままいけば引き込むことができただろう。彼の希望通り春日を登場させなければ、日村がひょっこり出てきて不意を突かれることもなかった。
 シナリオ上はどうするのが正解だったっけな。思い出そうと見上げた先に反射鏡が立っていた。映った自分の顔をしげしげと覗き込み、ひとつ息を吐く。
 「別にすげえ人相悪くなってるってこともない、か」
 随分と暗躍を重ねていた。白だ黒だの争いから意図的に遠ざかろうとする若林にすらあれだけの警戒心を持たれたのだ、さぞかし悪名は広く轟いているのだろう。
 誰に何を言われようと押し通すことを決めた誓いと、時々自分に向けられる日村の物言いたげな眼差しが秤に乗せられてゆらゆらと揺れる。
 「石使わなきゃ言うこと聞いたっつって、…んだよ、普通に行ったってぜったい構えるじゃん、」
 まるで好き好んで言うこと聞かせて回ってるみたいな言い方するよな。腹を立ててみても、俯瞰的に観れば「ですよねー」の大合唱があちこちから聞こえそうで首をすくめる。
 ともかく、彼らの件についてはしばらくの間、凍結を余儀なくされたというわけだ。
 本当は気力が戻れば若林に対する“屈服”も、はねのけてしまえるかもしれないけれど。
 単独ライブを成功させたいという芸人として当たり前の意地を見せられてなお、契約を破棄する気にはなれなかった。
 (そこまでやっちゃうとしたら、…たぶん、ほんとに最後の最後のとこなんだろうな)
 その線を踏み越えてしまった時、自分はまだ芸人と呼べる生き方をしているだろうか。
 ポケットに突っ込んだままの携帯電話が日村からの誘いを録音していることには気付かないまま、設楽はゆっくりと歩みを進めてゆく。

642 春風はレベル30 ◆1En86u0G2k:2009/07/08(水) 00:22:57


3月になった。楽屋で眺めるテレビ、九州からの中継が桜色に染まった並木道を報じている。
春だなあ、の独り言にそうですなあ、の相槌。ふぬけた会話につかの間の穏やかな日々を実感する。
桜前線が北日本まで届くのはゴールデンウィーク頃だと聞く。やるべきこととやれること、いつか成し遂げてやりたいこと。花が咲いているうちがチャンスだ、全体重をもって格闘しようと思う。
約束された平和を裏返せば設楽の影響力の強さに直結するが、そのあたりの現実を直視するのは目の前の山を乗り越えたあとだ。
若林は確認するように小さく頷き、そうだ、と2つめの弁当の蓋を開けた男に声をかける。

「ネタ作りの方はどうなってますか春日さん」
「ふふふ」
「何笑ってんの気持ちわるい」
「聞けば腰を抜かすぞ!」
「まだ全然できてねえからってんじゃないだろうな」
「………」
「図星かよ!」

どついた拍子に割り箸が飛んだ。ああんもう、なんて気色悪い声をあげて慌てる春日を睨む。
窓から覗く景色を強い風が揺らしていた。

あの時独断で掴んだ権利は正解だったのか、それとも悪手だったのか。
単なる先延ばしと言われればそれまでだし、他にやりようがなかったろとも言いたくなる。
けれど次からは一応断りをいれておこう。頼りになるかは度外視で、状況によっては会議もしよう。先回りして先導するつもりのキャパシティは、簡単に容量オーバーすることが身をもって証明されたばかりだ。
上手くまとまらないままもちゃもちゃと自分の考えを説明し、お前はどう思ってるわけ、と尋ねると、彼はまたしても不思議な返答をよこしてきた。

「だからそこんとこは同意見だよって言ったでしょうが」
「はあ?お前とこのへんの話はしてねえだろ」
「したでしょうよ」
「いつ」
「こないだの。設楽さんとなんやかんやあった日。覚えてないの」
「えー………」

明確に思い出せるのはあさっての方向に飛んだペットボトルの蓋と、ネタ作りを承諾させたくだりまで。正直、どうやって自宅まで辿りついたかも曖昧である。
記憶が引き出せないことを察したらしい春日が箸を置いた。こちらへ向き直る。

643 春風はレベル30 ◆1En86u0G2k:2009/07/08(水) 00:24:30

「てめえで選べねえ状況の何が自由だっつってあんた随分と怒ってたから。
 その場凌ぎ上等だよ、どうしようもなくなるとこまで逃げ切ってやるっつって。
 お前は好きにしろっつうからじゃあお供しましょうかねっつって。 
 覚えてらっしゃらない?」

全く記憶にございません。よくもまあ、気恥ずかしいことをべらべらと…

「…そうだっけ」
「そうですとも」
「……間違ってますかね、ぼく?」
「間違ってるとか間違ってないとか、んなこたどうでもいいじゃないの」
「………」
「俺らがどうしたいか、どうするかっていう、それだけの話なんだから」

既に着込んだいつものベストの鮮やかな色。
ピンクが過剰なんだよ春だってのに。つけかけたくだらない言い掛かりは取りやめて、代わりに鼻で笑うふりをする。
「よくわかってんじゃねえか」
ええわかってますとも。キャラ半分に堂々と答えるその顔がやはり癇には障ったので、
「太るぞー」
再び割り箸を手に取る背中にはしっかりと釘を刺しておくのだ。



*********



もろもろ真逆で正反対の友人が共闘を承諾して約10年、
行く道は長く険しく果てしないのに総括して余裕ぶるなんて狂気の沙汰だぜと思いつつ、
まだまだつまづき続けの日々、追い風と向かい風に挟まれて、むちゃくちゃなフォームでこの先もきっと走ってゆくのである。
なぜならどれほど痛い目に遭おうとも、芯の部分は愚鈍なまでに似た者同士であるのだからして。

644 ◆1En86u0G2k:2009/07/08(水) 00:25:34

以上です
散々流れて現状維持とはなんというクールポコ状態
ありがとうございました

645名無しさん:2009/07/09(木) 01:23:33
乙でした!
すごく面白かったです
クールポコ状態とは言わず、本スレ投下してもいいのでは

646名無しさん:2009/07/09(木) 23:35:09
おもしろかったです!!
ありがとうございました
こっそり続編を希望しております…

647名無しさん:2009/07/10(金) 12:32:58
面白かったです!
個人的に春日の「つって」がツボでした
ぜひまた書いていただけるとすごくうれしいです

648名無しさん:2010/01/11(月) 16:43:52
乙です。
意外な形で春日が活躍したのも予想外で面白かったです。

649boobeetime:2010/01/14(木) 05:47:45
お久しぶりです。トリップは変わっておりますが、
カンニング編などを書いた元◆8Y〜です。
久しぶりに何か書こうということで、>>529のお話を若干(といっても数箇所ですけど)
改変して第1話とし、ボキャブラ組の日常小話をいくつか書いてみようと思い立ちました。
ということで、挫折防止の為に意思表示でもしておこうということで、投下予定だけですが書かせてもらいます。

○投下予定(サブタイトルのみ。ちなみにサブタイトルは内容とはほとんど関係ありません)
・芸人にとって一番の問題は、自分のネタで笑い転げられないこと(>>529の改訂版)。
・いくら縁起が良くたって、長い名前は色々と困る。
・海の神様だって、時には三叉の銛片手に魚を追っ掛けるんです。
・それは、役者自身も知らない撮り直し。
・働き者がお人よしだったら、能天気なお馬鹿にも食べ物をあげるのに。
・人生は逆戻り禁止、だから難しい。

一応ここまではアイデアを練っているところです。
また本スレの方も活性化してくれるといいのですが……

650 ◆4Jhozrj2us:2010/01/14(木) 06:23:56
あ、間違って別の文字列入れてしまいましたorz
こっちが本当の新しいトリップです。

651 ◆mnuukYXz.2:2010/02/21(日) 00:51:27
◆sKF1GqjZp2さんの話からもやもやと考えたことを書いてみました。
さすがにお粗末すぎるのでこちらに投下します。
このスレにまた活気が戻ることを祈って。

652『石』についての一考察  ◆mnuukYXz.2:2010/02/21(日) 00:52:57
痛っ。
あんま乱暴に扱わないでよ。もうおじさんなんだから。
あ、聞いてないね……。

で、要求はなんなの?
そろそろレッドシアターの打ち合わせ始まるから、早く解放して欲しいんだけど。
そう怖い顔しなくても、お金ぐらいならちゃんと用意するからさ。

……石をよこせ?
結婚指輪しか持ってないけど……。
あ、ごめんごめん。怒らないで。ただの冗談。

不思議な能力を持った『石』のことでしょ?
そんなもん持ってないよ。持ってないって。
嘘じゃないよ。なんなら調べてもらってもいい。
なーんも持ってないよ。

俺襲ったって収穫はないよ。
もしそれが目当てならもうちょっと下の世代の奴らを狙わないと。
……なんで、って?
いたた、だから乱暴に扱わないでって言ってるじゃん。
もう40過ぎてるのに……。

ま、信じようが信じまいが、ないものはないんだけどね。
きっと今からする話も信じてもらえないんだろうなー。
それでも勝手にするけどさ。まだ死にたくないし。娘も生まれたばかりだし――

653『石』についての一考察  ◆mnuukYXz.2:2010/02/21(日) 00:53:38
お笑いブームで、若手芸人が次々売れていった頃の話だよ。
俺らは若手から抜け出して、中堅って呼ばれるようになっていた。
いつもみたいに収録が終わって着替えてたら、若手芸人の私服のポケットに何かが入ってた。
綺麗な、まるで宝石みたいな石だった。
珍しいこともあるもんだな、って二人で話してたんだけどさ。
数日経って、別の収録の時に今度はまた別の若手が石を拾ったんだ。
それからがすごかった。周りの芸人もどんどん石を見つけるんだ。
拾ったり、譲ってもらったり、バッグの中に入っていたり、方法は様々だけど、どれも綺麗な石なんだ。
スタッフの中に宝石商がいて売れない石でもばらまいてるのか、なんていう噂も立ったよ。

しばらくは何にもなかったよ。
でも、そのうち変な話を聞くようになった。
「若手芸人たちが不思議な力を使って戦っていた」
「不思議な力を使うとき、まるで石が光っているように見えた」
「不思議な力で戦って、もし負けてしまったら石を奪われる」
「石を奪われた芸人は全員この世界を辞めていく」

俺、なんだか怖くなっちゃってさ。
最初に石を見つけた若手とロケで一緒になったとき言ったんだよ。
気をつけろ、って。
ロケが終わった後、あいつと俺は三人組に襲われたんだ。
二人ともぐるぐる巻きにされて脅されたんだ。
「石をよこせ。俺たちは売れたいんだ」って。

もちろん俺は石なんか持ってないからただびくびくしてたんだけどさ、
若手は不思議な力で縄をほどいて、三人組に殴りかかったんだ。
あいつ、よく見たらブレスレットにあの石を組み込んでた。
もう火花は散るわ血が飛ぶわで、とうとう若手は石付きのブレスレットを奪われた。
スタッフが俺たちのことを見つけてくれなかったら俺もどうにかなってたかもな。

その何ヶ月か後、その若手は芸人を辞めた。
俺宛に「ごめんなさい」と他の若手から言伝を聞いた。
それから俺は、この戦いには関わらないと決めた。
……。

654『石』についての一考察  ◆mnuukYXz.2:2010/02/21(日) 00:54:24
俺は思うんだ。
『石』は芸人の生存競争のために生まれたんじゃないか、
うじゃうじゃ芸人がいるこの世界で生き残るために生み出された力なんじゃないか、って。

確かに石を持っているのは売れてる芸人ばっかりだよ。
最近出てきた若手の中にも『石』を持ってる奴はいる。
石を奪えば売れるかもしれない。そう思うのも分かるよ。

でもさ、そうやって石を奪って、他の奴らを蹴り落として、そうすることが芸人の仕事か?
コントなり漫才なり、自分の芸を磨いた奴らが、
本当に面白い奴らが売れるんじゃないのか?
ちっぽけな石なんか持ってなくても、さ。

だからさ、お前もこんなことやめろよ。
ネタ作って舞台立った方が何倍もいいよ。
お前だって立派な『芸人』だろ?









「内村さん!大丈夫ですか!」
「……狩野か」
「そんながっかりしなくても……。みんな心配して探してたんですよ!」
「そうか」
「まさか『石』使いに狙われたんじゃないでしょうね?」
「大丈夫。若手芸人に説教してやっただけだから」
「説教?」

「なあ狩野」
「なんですか?」
「これからも頑張れよ。『芸人』として」
「? ……はあ」

655 ◆mnuukYXz.2:2010/02/21(日) 00:55:14
投下終わりです。
失礼しました。

656名無しさん:2010/03/13(土) 20:17:53
感想スレ408です。こっそり投下させて頂きます。


〜元メンバーの話〜


仕事の合間を縫って、劇場近くの公園を訪れた鈴木つかさは、ベンチに座り、煙草をふかしていた。
鈴木は、かつて起こった事件の数々を思い出していた。


切欠は…鈴木が河原で拾った石。
それに呼応するかのように、ザ・プラン9の他のメンバーも、次々と不思議な石を持つようになった。
それからというもの、恐ろしい力を持った謎の黒い石を巡っての戦いが始まった。

初めは浅越が黒い石の力に翻弄され、他のメンバーとの必死の戦いにより、正気を取り戻すことができた。
その後、浅越はロザンの二人に(無意識ながら)黒い石を渡してしまった。彼らは黒い石の力に魅入られ、全てを支配しようとした。
久馬の元相方である後藤秀樹も、黒い石に操られた被害者であった。そして…ロザンの二人自身も。


ロザンの二人を倒し、彼らが所持している黒い石を破壊すれば、全てが解決すると思っていた。
しかし、石を巡る事態は想像以上に複雑だった。余りにも多くの芸人が、不思議な力を持った石を所持していたのだった。
さらに、白と黒…二つの『ユニット』と呼ばれる存在が、日々戦いを繰り広げていたのだった。
黒のユニットは他の芸人の石を奪おうとしたり、黒い欠片というもので、芸人を操ったりしていた。
ロザンの二人が黒のユニットに関わりがあったか、黒い石が黒い欠片と関係あったかは、今となっては分からない。


以前久馬に、白のユニット入ろうかと相談したことがあった。そのときの彼の答えは、
「今だって5人もおるのに、これ以上メンバー増やしてどうすんねん」という、彼なりのボケが入ったものだった。
結局プラン9はどちらのユニットにも付かず、独自に戦いを続けていた。

657名無しさん:2010/03/13(土) 20:19:57
正直、プラン9のメンバーの石は、戦いには不向きであった。
なだぎの火力を強める石と、ギブソンの硬化の石が、一応相手を攻撃できるものである。
久馬の石がなだぎの石を強化し、浅越の石が怪我を治す。
鈴木の石は、味方を集めサポートするものだった。

最初の頃鈴木は、自分自身は全く戦えないため、非常にもどかしい思いをした。
しかし、何度も戦っていくうちに、自分の役割を正確にこなすという爽快感を覚えていた。
時にはぶつかり合うことがあっても、5人が揃えば本当の力が発揮できる……そんな風に感じたのだった。


いつしか、方向性の違いにより、鈴木はプラン9を去ることを選んだ。プラン9のメンバーとはもう大分会っていない。
しかし、石は相変わらず自分の手元にあるので、一応芸人という括りに入っているらしい。


(…なあ石。お前は…俺が勝手にメンバー抜けて、戦う場所も変えてもうて…恨んでるか? それに…プランの皆も…)
鈴木はチョーカーに埋め込まれている緑色の石に尋ねた。
(…我はただ王に付き従うだけです。そして、差し出がましいようで申し訳ありませんが…。
王の昔のお仲間は、きっと王の進む道を応援しているのだと思います。だから…ご自身を信じて下さい)
(そっか…。悪い、変なこと聞いて)
(お気になさらないで下さい)


鈴木はふと空を見上げた。事件など起こりそうも無い、穏やかな青い空。
今日もこの空の下のどこかで、石を巡る戦いが行われているのだろうか。
そしてその中には、かつての相方たちも含まれているのだろうか…。

(久さんもなだぎさんも、ギブソンもゴエも頑張ってんやろな…。俺も頑張らんとあかんな!)
鈴木は小さく頷き、決意を固めたかのように表情を改めた。

658名無しさん:2010/03/13(土) 20:20:23
以上です。プラン9編やロザン編、後藤秀樹編の設定を拝借しました。
一応、黒い石の戦いは終わったものの、黒ユニットとの戦いは続いている、という設定です。
黒い石やユニットのことなど、自己設定が入りまくりで申し訳ありません…。

659 ◆1IvI9EgBf.:2010/06/05(土) 20:32:14


お見苦しい点も多々あると思いますが投下します





この物語は終盤へ向かっているのか、それとも依然としてプロローグをさまよっているのか。

小林に訪ねると困ったように笑みを浮かべた。

「それは可笑しな質問ですね。この物語に終わりはありませんから」

言葉の意味を問おうとする間もなく、彼は右手のペンを走らせていた。
こうなっては此方の声は届かない。
白と黒の戦いに終わりがないと言ってしまえば確かに否定は出来ないが、終わらせる為の戦いじゃないのか?
石の存在そのものに対してを物語と称して終わりがないと言う意味なのか?

嗚呼、打ち合わせまで後1時間。

煙草に火を点け肺へ煙を送り込む。深く其れを吐き出しているのにこんなにも気持ちが落ち着かないのは焦りか、別の何かか。

「例え話を一つしましょうか」

いつの間にか顔を上げ此方に視線を向けた小林の顔は笑っているのに笑っていない。

例え話?

「例えば…黒を抜け白のユニットに入ると言い出したらどうしますか?」

お前が、か?

「白のユニットは上田さんがトップと言うことになっていますが実質、芸歴上の問題で特に取り仕切っているとも言い難い」

小林が静かに歩み寄ってくる。

「片桐を連れ、白へ移り上に立つのも面白い。そうは思いませんか?」

黒を裏切るのか?
それとも、そうすることで白を乗っ取るのか?

「貴方と知恵比べをしたい、知的欲求を満たしたいだけですが…全ての石を統べるのも面白くはありませんか?」

何を言ってるのか意味が理解できない。
話は見えてこない。

「つまらないんですよ。このままじゃ」

660 ◆1IvI9EgBf.:2010/06/05(土) 20:49:55



そうかも知れないな。

「今の貴方じゃ簡単に黒も白も潰せてしまえる」

小林が目の前で立ち止まる。
顔から笑みは消え、ペンを握り直し大きく右腕を振り上げた。

「物語は終わりませんよ」

そのまま右手のペンを俺の首もとに振り下ろした。

「…始まっても、いませんから」



声が遠くなっていく。

今の俺は…つまらない、か。



「っ!!…設楽っ!!」

目の前に気持ち悪…日村の顔がある。

「気持ち悪い顔…」

「やかましいわっ!起きないから焦ったんだぞ…」

「あぁ、わりぃ」

何処だ、此処。
ロケバス…?移動中か。

タバコをポケットから取り出すと一本も入っていなかった。
買い忘れ。しくじった。

「あと10分くらいで着く…って、その首どうしたんだよ?」

日村の顔が青ざめている。

手渡された鏡で首を見ると赤黒い痣があった。

「ぶつけたのか?痛そうだけど」

「…日村さん、俺おもしろくなるよ」

「はぁ!?頭もぶつけたか!?設楽さんは充分おもしろいよ!」

「そっかぁ」

笑って返すと相方はさらに慌てた。
良い天気だからロケも上手く行くだろう。


物語は終わりませんよ…
始まってもいませんから。



声が、聞こえた気がした。





*

以上です。

夢オチで申し訳ない。

661名無しさん:2010/06/23(水) 19:17:09
>>649
ものすごく今更ですが、サブタイトルでどの芸人が出るか分かり、ニヤリとしました
投下楽しみにしてます

662チラリズム:2010/07/06(火) 23:35:09
途中まで出来たのでこっそりgdgdだけど投下する





今、隣でアホみたいな顔して寝とるそいつが、ちょっと前までは舞台でドン滑りしてたのかと思うと時間はめっちゃ早い。
今やったら舞台で台詞忘れへんし…あ、違うわ、たまに忘れるか。ほんでめっちゃ噛むし。
こいつと一緒でよかったな、とたまーにやで?たまに思う。
メシ作ってくれるし、朝起こしてくれる。

その頃は、
石とか、不思議な力とか、そんなん全く興味は無いし、そもそも知らんかった。
相方がどうやったかは、知らない。

ただ俺は、

何でそんな訳の分からへん石で死ななアカンねん。
芸人が命懸けで戦ってええのは舞台だけやろー言うて。

俺は少なくとも、そう、思っていた。

663チラリズム:2010/07/06(火) 23:36:16
かっこつけてみたところで、俺らはまだ若手やった。
個人の芸歴はお互いに長かったけど、コンビ歴ではまだまだ日は浅い。
前に休みたい言うたら、マジでー?っちゅう顔したマネージャーがドン引きしてた。
まだまだそんなとこ。

ラッキーな方やった。
…のかもしれへん。

お母さんは「今までの相方が悪かったんやって」と言うている。
相変わらず息子に甘すぎやねん。
かく言う俺も、そうやろなーなんてどっかで思ってて。

そう考えたらもしかしたら、ラッキーやったのかもしれへん。

一番最初はアカンかった。
それでもライブやったりオーディションやったりしてて、
次第にネタ番組に呼ばれるようになって、ファンや言うてくれはる方が増えて、
特番のメンバーになって、メンバー変わらずレギュラー放送になって、
それがすごい早さでゴールデンになって。

前では考えられへんかった事やった。

お笑いブームとか言う波に乗ったんやろな、とか人事みたいに考える。

こんな波に俺らみたいなのが乗ってええんやろか?
フルポンとか柳原可奈子とか…売れっ子ばっかりやん!

何故そこにロッチなん!?

664チラリズム:2010/07/06(火) 23:37:14
我が家はまだ分かる。
人気あるし売れてたしおもろいし。
でも俺らは何も無かった。
華も無かった。
金も無かった。
人気も知名度も無かった。
観客席からの歓声も全く無かった。
むしろ相方はちょっと嫌われてるんちゃうか位。

それを、俺らを、選んでくれはった。

それが、きっかけ。

665チラリズム:2010/07/06(火) 23:37:44
肌寒い季節の事。
夜深い時間やったけど、ネタ作りに決まって使うファミレスに、作家さんと俺と相方でおった。

相方は相変わらずアホみたいな顔して、眼鏡と帽子を机に置いて突っ伏しとって。
しかもこうなる前に勝手な事を30分、えらい勢いでだらだら喋ってから疲れて勝手に寝はじめる。
…俺やなかったらとっくに解散ですよ自分。

一方の俺は作家さんと会話と言う名の打ち合わせ。
俺がおしゃべりが好きやから、まず喋る。そこから色々出て来た案や構成をメモって組み立てる。
あとは軽ーく台詞を文字に起こして、それをこのアホな顔して寝てる相方に伝える。納得してくれない部分は説明、と。

そんな感じで作家さんとの打ち合わせが終わって、どうせ帰ってもおんなじ家に住んでる相方を起こそうとして、
不意にイヤーな感じがした。

…何て言うたらええんやろ。
ゾッ、とした。

666チラリズム:2010/07/06(火) 23:38:31
作家さんが大丈夫?と言う声が耳に入った。
体が硬直していたらしい。
手を相方の肩に乗せかけて空中に止まった。
ファミレスの中は暖房が入ってるはずやのに、俺の体感温度だけめっちゃ冷たい。
まるでここだけが水風呂みたいやった。

…我に返る。

ガヤガヤしたいつものファミレス。
静かに幸せの睡眠を貪る相方は鳩よりも平和の象徴みたいやった。
結局俺がネタ作ってる間ずっと寝とった。もう慣れたけど。
とりあえずたたき起こす。
相方は寝ぼけながらも、あっけんちゃんネタ出来た?と、一言あっけらかんと聞く。
そのアホさがツボなのか俺はつい笑てまう。
ああ、平和やなぁ。
だから、…だからさっきのは気のせいや。
言い聞かせる。

まだ体感温度が上がり切ってへんのが、厭やった。

667チラリズム:2010/07/06(火) 23:40:25
何故だかその場におるのが怖くて、少し慌てて会計を済ませ、3人でファミレスを出た。
俺と相方は一緒やけど、作家さんとは家の方向がちゃうので、現地解散。
…と言うのは建前。
本音は作家さんを何かに巻き込んでしまう気がしたから。

モヤモヤ、してた。

はっきりとはせぇへんのにヤバい気がする。
何がヤバいかも分からへん。
空気に殺されそうな、そんな―――

(……………こつ、)

2つしかなかったはずの足音が増えた。
相方とお互い、後ろ向くのが怖くて向けへん。

(………こつ、こつ、こつ)

付いて来とる?
…いやいやいや。
誰が?何のために?
俺らの後なんか着いて来てどうすんねん。

(………こつこつこつこつ)

足を止めた。

(…こつこつこつ)

それを見た相方には不意打ちやったかぴくっ、と眉を吊り上げ慌てて止まる。
言いたい事は見ればわかる、何で止まんねん?やろう。
俺もそう思う。何で止まったんやろ。

きっと、好奇心が恐怖心を上回った瞬間があったんや。

(…こつ、)

でもそれが間違いやった。

668名無しさん:2010/07/10(土) 07:55:50
ロッチキター!
続き気になります

669名無しさん:2010/07/24(土) 14:15:24
おお、ロッチだ!
期待して待ってます

670チラリズム:2010/07/30(金) 01:59:31
gdgdつづき
ちなみに時系列的には08年12月〜09年1月位のイメージです






ゆっくりした動きで振り返ろうとして、いきなり背中を強い力で押された。

「――おわっ」

体が前につんのめる。
横目に映ったのは、隣におったはずの、狼狽する相方が遠ざかってった姿。

…ああ、ちゃうか。
俺が相方から離れてるんや。

妙に冷静やった。
視線から相方がフェードアウトする中で、後から後から疑問が着いてきた。

一体、どうやって俺を突き飛ばしたのか。
その前に、どうして俺らの居場所が分かったのか。
それ以前に、まずこいつはどこの誰なのか。

ゴツン。

疑問が頭に辿り着いた頃には地面にコニチハしていた。
今更現実に戻ってきて、じん、と鈍く額が痛む。
受け身取ろうとして、結局コンクリートに頭から突っ込んでしまいました。
あー。
だっさー。

(ほんまやなぁ、お前めっちゃださいわ)

うっさいわ。お前に言われるのだけはイヤやってん。

…ん?

ハッとする。
今のは中岡…やない。
さっきの男でも、多分…ないやろ。
誰かが話したのならすぐ分かるはずやのに。

今のは…誰や?

ただ、

俺はこの声を、
知っている。

671チラリズム:2010/07/30(金) 02:01:28
戸惑う中で相方がひ弱に、けんちゃんけんちゃんと慌てて叫んだのがようやく耳に届いた。

お前なぁ…。
アホっぷりがたまに腹立つ。
特にこう言う時は。

まず後ろ見ろや!
何なん?お前何なん?

と言いたかった。


それは、

背後のそいつが話し出したせいで言われへんかった。


「見つけた、危険分子。」

酷く冷たい声がした。
何やろ…、パソコンで読み上げさせましたーみたいな生気の無さ。
さっきの水風呂のような空気が周りに漂う。

キンと氷のごとく張り詰めた緊迫のせいで、地面に追突したまま俺は動けなくなっていた。
俺だけやなく、今度は相方もその空気に飲まれたらしい。
さっきのアホみたいな叫びがぷつりと消えた。
隣で、震えてる?


ん?
何か忘れてるような…

あ!

…いやいやいやいやいや!
待って待って待って!

さっき危険分子って言うてなかった?

…え?ええ?
えええ?!

危険分子ぃ!?

俺がぁ!?

えぇぇーーー!?

672チラリズム:2010/07/30(金) 02:04:30
驚きが先行して動きが遅れていた。

頭ん中、ぐちゃぐちゃ。
危険分子って何?
何が起きてん?!

けれど誰かが冷たく放った。

(うっさいねん早う立てや)

「分かっとるわ!」

こっちの事も考えてや!
珍しくイラついて声を張り上げる。
普段よりもだいぶでかい声出してもうて、自分の鼓膜がじんっと震えた。
(普段もデカイけどな)
篭った声がどこまで届いたか分からへんけれど。


ゆっくり立ち上がる。


「……ん?」
「…何を言っている?」
俺以外の両方がハテナを浮かべていた。
やっぱり声を出してたのは、こいつらちゃう。


『木を見るな、森を見ろ』
10代の頃の俺の持論やったらしい。
すっかりその事は忘れてたけれど、俯瞰でモノを見なアカンと言うのは大事やと思ってた。

昔から思ってた。


異質な空間で鋭く周りを見た。俺ら以外に人はいてない。

ふたりに固着したせいで周りが見えてへんだけ、というわけでもなさそうで。

ぼけんとした相方の傍らにようやく立ち直って振り返る。
フードを深く被った男が目の前にいてた。
隣の相方はと言うと、僕と男とを繰り返して見比べ空気を探っている。

何で震えてんねん。
女子か。

673チラリズム:2010/07/30(金) 02:06:20
「危険分子、今のうちに我々の元に来い」

男は感情無い声でさっきと似たような事を繰り返した。
相変わらず冷たっ。
そんで危険分子って何?

(『石』使える人の事ちゃうかな?)

「…いしぃ?」
するりと頭ん中に声が入って来る。
何が何だかサッパリや。
その単語は自分の中で意外やったせいか、ついとぼけた声を出してしまった。

「あ?」
「え?今の創一ちゃうの?」
「何が?」

相方もとぼけている。
けれどよく見れば分かる。
メガネの奥の目ぇがほんまに困っていた。
ああ、ウソはついてへんな。


そしたら今のは誰やねん。

(いやいや、俺やって)

だからお前誰やねん!

(…俺は…)

ん?
…何か…
聞き覚えある声やな。
どっかで会うた?


(…俺は、)




『お前や』




頭に響いていた、聞き覚えがある声。

独特のイントネーション、
やたらでかい音量、
普通の舌の長さやのにやけに悪い滑舌、
そんで篭った声質。

…そうや。
間違いなく『俺』の声や。

次の瞬間、ポケットが今までにないくらいめっちゃ光り出した。
周りは照らされて、まるで昼間みたいで。
しばらくして、それはゆっくりと光量を下げ、最後にはまた夜らしい暗さに戻った。

…一体何が起きてんねん!?

674チラリズム:2010/07/30(金) 02:09:33
「チッ、『石』が目覚めたか」
男が舌打ちする。
ジャラ、と何かを取り出して右手に握り込んだ。

「お前らが『向こう』に付かれては困る」

男の手が光る。…光る?
って言うか、目覚めた…って言うた?


そこで俺は小さく、あっ、と息を漏らしていた。

何故今までそう気づかなかったのか、そう結論が出なかったのだろう。

まさか、と思った。
俺らには関係ないと。
そんなもの、俺らのところには来ないだろうと。
こんな戦い関係あらへんと。

正直高を括っていた。

これが…い、『石』?

噂レベルでしか知らなかった異常な状況が目の前に。
何か、ぴかーっと光るとか言うとったような違うような…。


思い返す。

そういえばあの男は俺の背後にいてただけで、俺らとは距離があった。
自力で突き飛ばすなら当然、近寄る必要があるやろ。
けれど近寄ったなら足音か、でなければ気配で分かる。

ならどうやって?


疑問は噂を思い出させた。


噂に寄れば、芸人ひとりにひとつ…もしくは複数、石が手元に来る。
拾ったり、ファンからもらったり、ある日いきなり誰かに渡されたり。
出会い方は様々やけど、必ず石は来る。
その石は、持てば人間では考えられへんような事が出来るようになる。
その石には不思議なチカラが宿っとる。
チカラは人それぞれ違う。傷付けたり治したり、光ったり何か出したり色々な種類がある。
今、芸人は密かに様々な派閥に分かれて、石を奪い合いやったか何かしている。

にわかには信じがたい話やったけどそれでしか状況を理解出来へん。
そうでなければ、この距離で突き飛ばすのは不可能やろ。
そうでなければ、頭の中に入って来る声が説明つかへん。

俺は無意識に理解した。

これが、噂で聞いた『石』の世界なんや、と。

675名無しさん:2011/01/06(木) 20:19:31
某毒舌芸人の話を投下させて頂きます
元の書き手さんに無許可で申し訳ないです


今日も、売れてない若手芸人から石を奪ってくる仕事をやってきた。
正直めんどくさいけど…まあ黒には色々世話になってるから仕方ない。
あいつら、俺が黒だって言ったら妙に納得したような顔しやがって…覚えてろ。


猿岩石でやってたときは…どんな感じだったっけな。
電波少年ブームが去ってからは、とんでもない地獄を見た。
このまま死ぬんじゃないかって思ったときもあったが、先輩たちに助けられてどうにかなった。
昔は、こうして一人でやっていけるなんて思ってもいなかった。…いや、思ってたのか?…分かんねえ。
そういや、石の争いのほうでも地獄を見た気がするが…そっちはどうしても思い出せない。


今じゃ、黒にいることにすっかり馴染んでしまってる。
白側の芸人から言わせると、俺らは悪いヤツだそうだが、そんなんこっちの勝手じゃねーか。
そこそこテレビに出て、黒としての仕事もやって…。こんな感じの日常がずっと続くといいんだけどな。
もしこの先、石の争いで地獄を見るようなことがあっても…また這い上がるだけだ。
石を持った芸人全てが消えるようなことがあっても、しぶとく生き残ってやるよ。

676 ◆1En86u0G2k:2011/02/10(木) 14:11:53

潜在異色周辺のごちゃごちゃした話を投下させてください
例によってあまり目立った動きはありません

なお、本編未登場の芸人さんについて独断で状況設定を行っております
基本的に本編やしたらばの投下文・レスを参考にしていますが
細かい部分に独自の解釈・表現が加わっている点を
あらかじめご了承いただければ幸いです

(2009年の末→翌年の春にかけてを想定した色々です)

677 ◆1En86u0G2k:2011/02/10(木) 14:13:14

colors:1 『A.』



揚げ足を取らせたらそうとう右端のほうに並ぶ自信はあるわけだった。

「いやだからさ、時期には個人差があるから、やっぱりその時ハネてたネタが鍵になることが多いわけじゃない」

居酒屋の片隅で笑い混じりに自論を展開する赤い眼鏡の男。
相手がむぐむぐと玉子焼きを頬張りながら頷くのを視界の端で確認し、饒舌に言葉を重ねる。

「何て言うのかな、言っちゃ悪いけど旬のネタって変わってくこともあるわけでしょ。
 それに合わせて融通利けばいいけどそううまくいかないだろうし。
 だからなんだろ、はたから見るとすいません面白さ優勢です、みたいな空気?」

本業に近い勢いの淀みない喋り口、原因は不安と高揚と速いペースの酒。
それにしたって、と南海キャンディーズ・山里はかすかに自省する。
(俺こんな話してていいんだっけ?)


*****


大切に大切に育ててきた企画に新展開が拓けた。
小さな会場を舞台に、どちらかと言えばネガティブな鬱屈を原動力として始まったそのライブは、
着実に規模を広げ、共演者を増やし、ついにテレビという媒体の上で勝負することになる。
根幹から関わってきた者として思い入れも感慨も人一倍どころか三倍は固いはずの山里はしかし、
気合いも新たに迎えたその日の会合を自らの手で大幅に脱線させつつあった。


きっかけはそもそも乾杯の直後、いまや慣習になりつつある身辺の報告会から。
例の石をめぐる小競り合いが、あるネタ中のフレーズ――数年前に全盛期を迎えたもので、
当人が本業で使用する姿をここしばらく見かけていない――を口火に始まったという噂。
奇妙な環境も数年を跨げば恒常化するのだろうか、危機感に負けず劣らずの強さで茶々を入れたい欲が膨らみ、
ツッコミはご法度と思われるポイントに「あえて言わせてもらうと」で切り込んだ結果がこれだ。
目の前の男は適切な相槌とよく通る笑い声のほかには熱心に飲み食いをするばかりで、
いいかげん真面目に話しましょうと制止に回る気配がまるでないから、
酔いとテンションとミートの甘い論舌が好き放題に加速する。

「春日くんだって人事じゃないよ、」
「ワタクシですか」

逸れすぎた会話の編集点代わり、唐突に水を向けてみれば相槌上手は箸を持ったまま目を丸くしている。
軽快なトークの唯一の客であるこのオードリーの春日こそ、
いわゆる『芸人の決まり文句』を発動のキーワードに据えた男だった。
オーケーそれじゃあ想像してみて、グラスの中身を飲み干してから恐怖のもしもを提示する。

678 ◆1En86u0G2k:2011/02/10(木) 14:14:04

「言っても流行語候補まで上ったわけでしょ、ある意味時代の象徴じゃない。
 どうする、向こう十年こんな調子でさ、仕事上はそんなこと言ってた時期もありましたねえみたいな状況になってて、
 それでも不本意なタイミングでトゥースって叫ばなきゃいけなかったら」

考えただけで本来の、芸人的な意味で震えたくなるアウェー感。
春日は頬に手をやり素直にシミュレーションを展開していたようだったが、やがてその目はなにやら楽しげに細められた。

「向こうさんは求めてないんですよね」
「そりゃあもう、」
「状況の深刻さ抜きで今更それ?って空気になるわけですよね」
「そうそうそう」
「最高じゃないですか」
「ええー?」


下ろした前髪と黒縁の眼鏡、ベストを脱いだ胸を張るどころか猫背ぎみに丸め、
おなじみのキャラクターに関する要素の一切抜けた――よく見ればもみあげはやはりないのだが――
今は地味な青年にしか見えない春日の、不遜な笑みだけが舞台で披露するそれと重なっていた。
「生粋かつ深刻なドMじゃない」
どうやらその表情がキャラではなく性癖に起因することを把握した山里が呆れと尊敬を混合して呟けば、
ウフフ、とこれまた図体に似合わない笑みが返ってくる。

「なんだろう、春日くんの真髄を垣間見た思い」
「果てしないでしょ」
「俗に言う突き抜けた変態ね。こういうのを器の大きさだって誤解されて若林くんが怒るわけだ」

烈火のごとく憤る春日の相方を思い浮かべながら、ふと気付かされる。
俯瞰した一連の騒動が、やはり滑稽でしかないということに。
芸人のキャラやお決まりの台詞は観客を笑わせるために生まれ、磨かれるのであって、石を呼び起こすためのものではない。
運動不足の身体に鞭を打ち、必死で尊厳を削り合い、そうして掴めたものは驚くほど少なかった。
やってられねえぜのポーズを維持するだけで一苦労の現状はまるで毒の沼地。
先を争うように疲弊して、足元を掬われた順にいちばん大事なものを取りこぼしていく。
例えば舞台に穴を開けるとか、貴重なテレビ出演で全力を尽くせないとか、――唯一無二のパートナーを傷付けるとか。

679 ◆1En86u0G2k:2011/02/10(木) 14:15:04

押し込めた苦い記憶が蘇り、山里は反射的に右目を閉じて顔をしかめる。
身の凍るような過ちを、溺れるほど深い後悔を、もう二度と繰り返すわけにはいかない。
同じ轍を踏んだあかつきにはいよいよ舌を噛んで死ぬべきだろうし、万が一命が惜しくなり躊躇すれば、
本格的なトレーニングを経て数倍の重さとなった誰かの拳が、正確に自分の顎を打ち抜いてくれるだろうと思う。

たとえこの先、大きな波に飲まれ、息を吸うために若干長いものに巻かれることを許したとしても。
本分そっちのけで繰り広げられる不毛な争いを自分ごと小馬鹿にしてみせる、
アイデンティティに似た意地の悪い客観性だけは決して失うまいと誓っていた。


山里の決意を知ってか知らずか、相変わらず春日は何かを見下ろすように笑っている。
「やっぱり笑われてなんぼだと思うんで」
「まあねえ」
腐っても芸人だもんね、短い言葉に凝縮されているかもしれない真理を噛み締め、おや、と思う。
もしかして自分はそこを確認したくてこの男を誘ったのだろうか?
(…さすがにそれは、)
「考えすぎかな」
ひとりごちた山里を春日は愉快そうに眺め、倣うように。

「こんなの、全部、くだらねえんだし」

まるで若林が吐き捨てそうな台詞を、実におだやかに言ってのけた。

680 ◆1En86u0G2k:2011/02/10(木) 14:17:18

colors:2 『パステル・カラーと王子様の憂鬱』



真っ当に生きているつもりがどうしていつもこうなるのだろう。
楽屋の片隅で孤独な戦いを続けながら細長い男は途方に暮れていた。

「でも俺タナちゃんで間違いないと思うよ」
「おれもー」

どいつもこいつも自身を過大に、相手を過小に評価しているとしか思えない。
そもそも事前の危機感すら、指摘されてはじめて気付くありさまだというのに。

「だから理由を!理由をちゃんと言ってって言ってるでしょー!」

たまりかねて叫んだはずのアンガールズ・田中の抗議は、やはりなぜか小さな笑いをその場に広げた。


*****


もちろん田中とて己を最強だなどと自負したいわけではない。
むしろその逆、常に襲撃を危惧するぐらいがちょうどよいと思っている。
ただそれは周囲にも――例えば相方である山根にも、こうして集まっている面々にも――該当する危機感だと考えていて、
言ってしまえば(田中の判断基準で)弱い部類に属する芸人が揃っているのだから、
いっそう団結して立ち向かい、なるべくなら先だって回避し、
痛い目に遭わないよう注意していこう、そう呼びかけたいだけだったのだ。
それがどういうわけか『このメンバーの中で誰がいちばん頼りないか』という話から、
『ぶっちゃけ誰が一番弱いか』というテーマへ論点がスライドし、
大変失礼なことにこの場にいる全員が揃って田中を一番弱い、と断じてきたのである。


「だってタナちゃんの石ってまあまあって言うだけでしょ?」
ややポイントのずれた指摘をするのはドランクドラゴンの鈴木で、そちらの石こそ決定力に欠けると言い返してはみたものの、
「最終的に腕でも首でもキメちゃえば大丈夫だもん」と恐ろしい開き直りを見せられてうっかり怯んでしまった。
「それに結構失敗して、反動で落ち込んだりしてるみたいだし…」
見られたくないところをいつのまにかきっちり目撃しているロバートの山本はある程度力押しが効く能力であるし、
本人もボクシングのライセンス持ちときているのでこれまた反論しづらい。
そもそも、上記のふたりより強いと言い張る(別に弱いと主張する気もないのだが)つもりは元々ないのだ。
まだ石の能力が安定していない者も含めて自分が最弱だと定義されることにかなりの抵抗はあったけれど、
とにかく総合力で勝っていても隙を突かれるケースは多々あるわけで、そこを警戒していこうと――


「ていうか一番気持ち悪いのがタナちゃんなんだから、それで決定っちゃ決定でしょ」

やや遠いところから不意に聞こえたデリカシーの欠片もない声。
田中がキッ、と効果音が出そうな勢いで出先を睨めば、
距離を取って三人の論争を眺めていたインパルスの板倉がなんとも意地の悪い顔で笑っている。

「ほらもう気持ち悪ぃもん」
「だからどーしてそーいう人を傷つけるようなこと平気で言うわけ!?」
「だって事実だし」
血相を変えて詰め寄る田中から大袈裟に身体を逸らしてみせながら板倉は飄々と応じる。
「事実じゃなーい!じゃあどこが気持ち悪いかちゃんと言ってみてよ、」
「その何か変な地団駄みたいの踏むとこ、手をやたら振り回すとこ、でっけえ唾飛ばすとこ、それから――」
「あーもうやーめーてー!!」

681 ◆1En86u0G2k:2011/02/10(木) 14:18:09

指摘された動作をフル活用して失礼な物言いを強引に止める。
見下ろす板倉はすげえ悲壮感、となにやら意図ありげに呟いていて、
「ほんとだメンバー揃ってる」「えっ何?あっ、」
背後のふたりがなにやら感心しているが反応するゆとりはすでにない。
とにかく一刻も早く一矢報いたい、その一心で田中は捨て鉢にこう言い放った。
「ていうか板さんだってそんなに強いと思えないんですけど!」


虚を付かれたような板倉の表情は、しかしすぐによからぬ企みを思いついた笑みへと変わる。
同時に、やや平静を取り戻した田中の顔色がさっと青ざめた。
以前(悔しいことに)追っ手を振り切れずにいたとき、手を貸してもらったことを思い出したのだ。
記憶に間違いがなければ、随分と乱暴な手を。


「…あ、そう?俺のやつって、タナちゃん見たことなかったっけ」
「…ううん、けっこう前に見てる、」
「それで怒ってたんだ。なーんだ、言ってくれりゃよかったのに」
「あるよお!あるからいいってば!」
「まあまあ、タダにしといてあげるから見てってよ」
「タダなのは当たり前でしょー!!」

身を預けていたソファーから立ち上がると、板倉はさっそく石を握り込んで力を込める。
その独特な圧力に呑まれて硬直する田中の背後、鈴木と山本がとばっちりを喰らわぬようそっと距離を取りはじめた。
卑怯だ、別に卑怯じゃないでしょ、助けてくれたっていいじゃん、痛いの嫌だもん、俺もやだ、この薄情者!云々。
顔だけをなんとか傍観者たちのほうへ向け言い合っていた田中は、
なにやら不穏な気配が満ちるのを感じ、おそるおそる視線を前方へ戻した。
指先で蒼い火花を遊ばせている板倉が軽い調子でそうだ、と呟く。


「今日はあれだ、乾燥注意報出てたよね」
「そ、そうなの?」
そういえばエレベーターのボタンにも楽屋のドアにも、バチリと指をやられたけれども――
「だからさ、」
次第に火花の色が明るく澄んだものに変わっていく。
きれいな色だなあ、現実逃避に走った田中の頭がのんきな感想をドロップした、次の一瞬。
「よく走ると思うよ」

そこらじゅうの静電気をありったけかき集めて叩きつけたような、すさまじい音で楽屋が震えた。

682 ◆1En86u0G2k:2011/02/10(木) 14:19:21

「――なんですか今の!大丈夫ですか!?」

炸裂音を聞きつけたらしいスタッフが、慌てた様子でドアを叩いている。
いちばん近くに立っていた板倉がわずかにドアを開け、すいません大丈夫です、ちょっと打ち合わせで、と応じた。
「打ち合わせって言ったって――」
そんな派手な鳴り物使うんですか、若いADは心配そうに楽屋の中を見回し、やがてある一点に視線を止める。
――沈黙。
正確には噴き出しかけるのを寸前で堪えたので、ゴフ、と妙な息遣いが漏れた。
「大丈夫すから」
念を押すように板倉が言い、鈴木や山本が援護の同意をし、やっと異常なしを承認してもらう。
それとも何か別の意図が含まれていたのか、ADはもうすぐ本番ですんでよろしくお願いします、苦しそうに早口で言うが速いか、
一礼してバタバタと走っていってしまった。
残されるのは安堵の息をつく三人と、楽屋の中央で棒立ちの田中。
その頭はみごと、大先輩による往年の雲上コントを思わせる勢いでチリチリに丸まっていた。


当然のごとく収録の開始は遅れ、田中の頭上に起きた惨事を目にした者はもれなく身体を折り曲げて爆笑した。
説明が面倒だと結論付けたらしい鈴木や山本がフォローを放棄したのにはもちろん、
元凶である板倉までがすっかり他人のふりを決め込んでニヤニヤするばかりなのも腹立たしかったが、
気付けばカメラを持ち込んでいるスタッフが、もしかしたらDVD用の特典映像にするかもしれません、などと言い出したので、
いよいよ怒りの矛先は割れに割れて収拾がつかなくなった。

人知れず両の拳を固く握って田中は誓う。
(一刻もはやく俺の尊厳を取り戻さなきゃ)
可及的すみやかに。
――できれば、予定のワンクール分をすべて録り終える前に。

683 ◆1En86u0G2k:2011/02/10(木) 14:20:17

colors:3 『P.P.G』



「亮さんは、一番最初のきっかけみたいなのって覚えてます?」

静かな部屋にぽつりと響いた声。
取材待ちをしていたロンドンブーツ1号2号の亮は、手元の携帯電話から顔をあげて視線を回した。
こちらをじっと見つめているのは、先ほどまで新聞に目を落としていたサンドウィッチマンの伊達だ。
「きっかけ、…?」
範囲の広い質問にとまどい、鸚鵡返しぎみに繰り返したところに補足が加わる。
「石のことです、例の」
ああ、亮は納得したように大きく頷き、すぐに難しい顔になって記憶を辿りはじめた。


*****


「どんなんやったっけ…追われてて、行き止まりなって、ほんで追い詰められて…
 めっちゃ焦ったのは覚えてるんやけど」
あんまり役に立つことは思い出せんなあ、申し訳なさそうに眉を下げた亮に、
いえこちらこそ変なこと聞いちゃって、伊達は追うように頭を下げる。
それからふと反対側に向け、別の相手に問いを投げた。

「お前のはどうだったっけ」
「???」
「あー、いいわやっぱ答えなくて」


楽屋の隅で大きな目を瞬かせた鳥居みゆきはそれこそ鳥のように大きく左右を見回したかと思うと妙なタイミングで破顔し、
ふたたび謎の一人遊び(に模したコントらしい)に没頭する。
見届けた二人の顔に思わず似通った苦笑が浮かんだ。

「…あっ、鳥居ちゃんも持ってんねや」
「らしいですよ。どんなもんなのか全然教えてくれませんけど」

石の形状や能力、自分の取る立ち位置と思考。
何を聞いても、毎度異なった擬音と問答にしてはハイレベルすぎる反応が返ってくるという。
あいつがどっかに入って何かやるってこともないだろうから放っておいてます、の声に亮は曖昧に頷き、
代わりに左手のブレスレットにそっと意識を集中した。
間を置かず伝わってきたごく小さな波長を返事代わりにして納得する。

「無茶せんかったらええねんけどな」
「まああんまり手は出しにくい奴だとは思うんで。何されるかわかんないっぽいし」

突き放すような物言いの中に心配と気遣いが多分に含まれていた。
しばらく鳥居の動きを眺めていた伊達は、やがて小さくため息をつく。

684 ◆1En86u0G2k:2011/02/10(木) 14:21:11

「別にこんなもんいらねえやって、…今も一応そう思ってるんですけどね。
 こう物騒な話ばっかり続くと、さすがにちょっと」
困ったように呟いて、首元からなにかを引っぱり出す。
武骨な鎖の先で揺れているのは、確かに例の『石』に見えた。
ただ先ほど鳥居に感じ取ったもの――石同士が共鳴したときに生じる独特の気配が伝わってこない。
覗き込みながら亮が尋ねる。

「いつから持ってんの?」
「大分経ちますよ、去年とか一昨年とかそれくらいは。
 でも全然、うんともすんとも言わないんで。来るとこ間違ってんじゃねえかって思うくらい」

石が目覚めるタイミングはそれこそ千差万別――持った瞬間の場合もあれば、数日後、数週間後になることもあると聞く。
けれど年単位でというのはかなり珍しい話だった。
直接打ち明けてくれたのはいつだったろうか、内緒ですよバレたら俺らヤバいんで、そう早口に重ねた伊達は笑っていたが、
とても真剣な目だったのを覚えている。
手ひどく巻き込まれたという話はなかったはずだから、近しい芸人のアシストがあるのか敏感に察知して切り抜けているのか、
とにかく大変な日々であったろうことは容易に想像できた。


「俺のじゃないのかもしれないすねえ…」
石を挟んだ向こう側の曇り笑いを打ち消そうと亮は急いで首を振った。
「なんやろ、でもそれはちゃんと伊達ちゃんのやと思うよ。なんでかってのは、うまく言えへんけど…」
名前が書かれているわけでもこちらが呼んだわけでもない異物は、それでもきちんと持ち主となる芸人のもとへやってくる。
こうして伊達の懐に辿り着き、おとなしく鎖に繋がれているのなら、
きっと『いざという時』に備えてじっと息を潜めているに違いない。
石が目覚めるほどの『いざ』が果たして訪れるべきかといえば難しいところなのだけれど、
それでも、似た色の髪をした男の憂いが、少しでも晴れてほしいと思う。
「そのうち必要になったらちゃんとやってくれる思うよ、な」
沈黙を守る石にも向けた励ましに伊達は、だといいですね、と、
やはり苦く――けれども幾分救われたような表情を浮かべた。

685 ◆1En86u0G2k:2011/02/10(木) 14:22:16

ドアの向こうからお待たせしました、と出番を知らせる声が届く。
「よっしゃ、行こか」
「はい」
切り替えるように明るい声をあげて立ち上がる。
と、背後の伊達が動きを止める気配がした。
「へ?」
振り返れば予想外の至近距離に、見開いた双眸。
先ほどから黙々と別世界を築いていた鳥居が、今度は伊達の顔を正面からまじまじと凝視している。
メイク分を引いても強烈すぎる眼力に、思わず亮は半歩ほど距離を取った。

「うわびっくりした…、やめろよ怖えよ」
当の本人は言葉と裏腹にいたって落ち着いた対応である。
「……、……………、………。」
「…なに?どしたん?」
様子がおかしい――ある意味いつも通りとも言えるのだが――とにかく鳥居の意図が読めず首をかしげた亮は、
半拍ののちどうやら彼女が今『音が出せない体』であるらしいことを理解した。
「なんで声出ねえんだよ」
伊達も律儀に小さくツッコミを入れ、けれど唐突な展開を流すわけでなく、素直に口の形に注目してやっている。
遠く離れた相手に届けるがごとく、大きく一言ずつ、ゆっくりと並べられる聞こえない音。
解読が進むにしたがって、寄せていた眉と怪訝な表情が少しずつ穏やかに緩んでいく。


「……、……………、………、」
「おお、うん」
「……、……………、………!」
「そっか」
「うん」
「声出るんじゃねえか」
「あ!」
「気付いてなかったのかよ」


気が済んだらしい鳥居は奇声と嬌声の中間点みたいな声をあげながら、さっさとふたりを置いて駆け出していく。
不思議と息の合った掛け合いを後に、慎重に言語の再構成を試みていた亮がぱっと顔を輝かせた。
「なあ伊達ちゃん、今のって」
「…多分そうなんでしょうね、」
迂回して届けられたのはあまりに真っ当な台詞、だからこそ妙な仕様で釣り合いをとったのかもしれなかった。
やれやれと肩をすくめて笑いながら、さっそくスタッフに急襲を仕掛けている聡明なトリックスターに向けて。
「気にすんなってことでいいのな?」

呼びかけた声にやはり明快な同意は返らない、けれども。

686 ◆1En86u0G2k:2011/02/10(木) 14:23:04

colors:4 『もちよりブルー・プリント』



「おつかれさまです、」

昼夜を問わず慌しいテレビ局にも人通りの少ないポイントはいくつか存在する。
できるだけ同業者に遭遇しないように、切実な一念が高じて裏道的な場所にすっかり詳しくなってしまった。
「物品庫」だの「基盤室」だの滅多に開きそうもないドアに囲まれた離れの廊下は上下階の喧騒が嘘のように静かで、
そのまま外に抜けられる道であれば申し分ないのに、今でも少し残念に思えるほど。
惜しくも脱出経路とはならなかったその廊下の突き当たりは、しかし別の目的に役立っていた。
ほどなくやってきたのは上背の待ち人。
見上げて挨拶を交わしてから、オードリー・若林は簡潔に要件を伝えていく。
「えっと、こっちはほぼいつも通りです。山崎さんがポロっとまた俺襲われちゃってえ、って言ってましたけど
 あのトーンならたぶん大丈夫で…」


*****


「いっつもそんなトーンやんザキヤマくん」
「それもそうでした」
「こっちもおおむね異常なしやな。ちょっと西の方でなんか起きかけてる、て聞いたけど
 東京はたぶん、しばらく落ち着いてると思う」


逃げという名の徹底抗戦を選択した若林にとって、最も欲したものが情報だった。
情勢は流動的だから必ずしもアドバンテージを得られるとは限らないが、初めの一歩をできるだけ速く大きく踏むには、
とにかく可能な限り周辺の意志を知っておくべきだというのが、かつて攻めの要を務めた彼の結論。
そうして、似た体勢で情報を欲する芸人と、ひそかに手持ちのカードを交換しあってきた。
いま目の前に立つ男――よゐこの有野とも同様に、しかも有野からの申し出がきっかけとなってやりとりが始まっている。


立ち位置は中立、姿勢は引き寄り、広い情報網を有する先輩。
願ってもない誘いを二つ返事で承諾しかけ、踏みとどまってひとつ尋ねた。
「どうしてぼくに声かけてくれたんですか」
有野は一度きょとんとしてみせたあと、ある番組の名を挙げた。
彼の相方がピンで出演するバラエティ。その新レギュラーとして、自分たちの加入が決定してまもなくのできごとだった。
「そっち方面で濱口くんに何かあったら、感付いてくれるかなと思って」
「なるほどー…」
向けられたのが曖昧な正義感の類でないことにある種深く安堵した若林は、こちらこそお願いします、改めて頭を下げたのだ。

687 ◆1En86u0G2k:2011/02/10(木) 14:24:04

「関西方面…」
「もうちょい詳しく聞くつもりやけど。詳細要る?」
「迷惑じゃなければ」
「ええよ」

じゃあ後々ファックスで、いや向こうから手紙で。いっそ鳩にする?すいません僕生き物はちょっと。
抑えた声量のボケ合いに混じった第三者の気配、察したのはほぼ同時だった。
すぐそばで誰かの靴音。こちらへ近づいているのか、次第にはっきりと聞こえてくる。
袋小路めいたつくりの廊下、従って足音の主とすれ違わずには逃げられない。
すばやく視線を交わし、互いの出方を確認する。

「どうしよか」
「じゃあ僕でます」
「ええの」

頷くと同時に前方へ踏み出す。瞬く石の気配を背に、ポケットの中で拳を握り込んだまま足を速める。
コーナーに差し掛かってすぐ、視界に飛び込んできた人物と正面衝突しかける身体を急速反転。
ごめんなさい危なかった、実情と同義の慌てかたで、どうやらうまく取り繕えたようだった。
「こっちだめみたいっすよ。ぼくも適当に歩いてたら行き止まっちゃって…」
いかにもエンカウントを避けて迷いこんでしまった不幸な人見知りを演じながらさりげなく相手を誘導する。
素直に来た道を引き返してくれる背中を安堵の思いで見送り、踵を返すと、
ちょうどドアと床の隙間から物品庫へ逃れたらしい有野が元の形状を取り戻しているところだった。

「大丈夫でした」
「ありがとう、」
「…大丈夫ですか?」
「すんごい埃っぽかった」

ついでにゴミとか吸ってもうてないかなあ、しかめっ面で上着の裾を払う有野が身を隠す寸前、
自分の足元へ影を重ねたことに若林は気付いていた。
「すいません」
波風を立てず回避するベストの選択肢の中へ自分を招こうとしてくれたこと、それにうまく乗れなかったことを詫びれば、
「多分無理やとは思ったけど」
予想の範疇だったのだろう、埃と格闘を続けながら有野が薄い影へ目線を落とす。

688 ◆1En86u0G2k:2011/02/10(木) 14:26:23

影との同化――自らを平面に変えられるその能力はしかし、他者を伴う場合にはある条件をクリアする必要がある。
それは対象が有野の完全な同意者であること。
『同意』がどこまでの範囲を指すのか正確には測りかねたが、この騒動に対する意識や指針はおそらく最も重要なポイントだろう。
有野は穏やかな顔のまま、ひとりごとのように言う。


「やっぱり違うねんな」
「え?」
「俺は全部逃げたらええと思ってるから」
少なくとも濱口くんがわかりやすくピンチになってない時は。
丁寧に前置きを付け足して、ひたりとこちらを見据える。
「でも、若林は、そうやないんやな」


呼び起こすのは数分前、正体不明の誰かに向かって足を進めたときの感情。
有野を守る、という心理こそいくらか含まれてはいたものの、
石を握った右手は間違いなくやってやろうじゃねえか、の意志によって強く握られていた。
どうにも自分は追い詰められるとスマートに身をかわすのでなく、体当たりで道をこじ開ける手段を選んでしまう。
そしてそれは、逃げを望む者が選択する適切な作戦とは言いがたかった。
(もしかしたら本当は――)
続きを明文化しないでくれたのはまさに先輩の配慮というべきほかなく、若林は短い逡巡ののち、
わずかにトーンを変化させてまた謝罪の言葉を口にした。
埃をはたく音がしばらく淡々と廊下に響く。


「ともあれ」
気が済んだのか手を止めた有野はひとつ息を吐き、気を取り直すような調子で続けた。

「これからまたなんかでご一緒するかもわからんし」
「あっ、はい」
「まあ全然ないかもしれへんけど」
「はは、」
「ほんまはそのへんも関わってんのよ」
「そのへん?」

もうちょっとお話できるようになってもええかなと思って。
平坦にならした口ぶり、微妙に逸れた視線の中になにやら身に覚えのある空気が見え隠れしている。
もしかして彼も『人見知り枠』に入るタイプだろうか、察して浮かべた質問はそっと飲み込む。
願わくばそのへんをお互い気楽に話せる日が、この試行錯誤の道中に通じていますように。
あてのない望みを真摯に願いながら、若林は少しだけ笑った。
「そうすね、ちょっとずつ」

689 ◆1En86u0G2k:2011/02/10(木) 14:30:11

colors:another『灰と()ダイヤモンド』


種明かしに近い告白に、望みどおりの驚きが返ってきたのでとりあえずは満足した。
声をひそめるのは数日前に似た廊下、その突き当たりになぜか置かれた長椅子に腰掛ける芸人がふたり。
長身のほうであるところの有野はもう一度、なんや、と繰り返し、まじまじと隣の小柄な男を見つめて言った。

「あれ升野くんやったん」

ほんなら慌てる必要なかったなあ、拍子抜けた様子の有野に淡々と、でも若林くんが、と重ねる声。
「なんかすごく一生懸命、僕を追いやろうとしたんで、気の毒になっちゃって」
素直に帰っちゃいました、覗いてやるつもりだったのに。
微弱な石の気配を悟り、明確な意志をもってあの廊下を訪れたと明かしたその男の名は升野英知。
またの名をバカリズム、かつてコンビとして掲げた五文字を引き続き擁するピン芸人だった。


*****


予定を逸らされた不満は滑稽に近い懸命さに触れてある種の共感へと転化していた。
(ぼくも適当に歩いてたら迷っちゃって――)
リアルタイムの迷子を目撃された割には照れたそぶりがなかったし、なにより表情が違った。
同じ枠に括られても易々とセキュリティを外せるわけでないのはお互い様であるとして、
けれどもあの目は偶然を驚くものでなく、確固たる意志を持って他者に対峙するときのそれだ。
判りやすい無表情ってのも変な表現だな、盾のように突き出された顔と声の固さを改めて思い出していると、
有野がふふ、と含み笑いを漏らした。

「なんですか」
「いや、楽しそうにしてるなあと思って」

楽しい、の表現が適切かどうかは測りかねたが、おおむね同義語として位置づけていいのかもしれなかった。
周囲で動くものは操られた無個性な駒であるより、目的と意思を抱えたプレイヤーである方が面白いに決まっている。
肯定とも否定ともつかない表情を浮かべた升野を有野は興味深そうに眺めていたが、やがて言った。
「なんで俺に協力してくれんの?」
「知りたいです?」
「言いたくないならええけど」
ちょっと意外やったから。
動機を気にかけてくる先輩に似たような感想を抱きながら、それでも升野は珍しく素直に応えてみる。

「やっぱり、無力なときの経験って根強いじゃないですか」

690 ◆1En86u0G2k:2011/02/10(木) 14:31:00

コンビからピン芸人への転換。
芸人としての岐路は振り返れば空白とも呼ぶべき無防備を生み、その隙を狙われてしまうくらいには周囲に名が知れていた。
いよいよ窮地に陥った状況、追随して落ちる思考。そこを突破するきっかけのひとつが有野の介入だった。
「でもあれただの偶然やし、俺そんなに手ぇ貸してへんで」
ほとんど自分でなんとかしとったやん、当人は呆れたように首を振るけれども、重要なのは支援の加減ではない。
彼の言う偶然がなければ多分もっとみっともない有様を晒していただろうし、
松下が残したあの石を、この手に納めておくことも難しかったはずだ。
なにより、自らの意志で立ち位置を決めるという、升野にとっていちばん肝要な点を守れなかったかもしれない。
そういう意味で確かに彼は恩人であった。

「だからあの時助けてもらった人のことも、僕を襲おうとした奴らのことも、優先して考えるようにしてるんです」

自分の本懐を妨げない程度の恩返しと積極的な報復。
特に後者に関しては多少の遠回りも辞さない――まあ、それは余談として。


「変なとこで義理堅いんやなあ」
「そういうほうがおもしろくないですか?」
「おそろしいよ」
「それに有野さんは安心してなさそうだし」
「安心?」
「僕から情報もらって、これで絶対大丈夫だ、自分は安全だ――そんなふうに思ったことないでしょう」
「うん」
「だから狙ってもつまんないっていうか」
「そういう考え方すんねや」


すくめる肩へわざと満面の笑みを向けてから立ち上がる。
素早い撤収は周囲へも言い含めた鉄則だった。
神出鬼没のテロ集団、命名のセンスはさて置いて、そういうポジションは比較的理想に近い。
誰かの何かを――できれば足元など揺らぐはずがないと思っている相手の思惑を――
横っ面をひっぱたくように台無しにしてやるのが、
ひとつ余計に石を抱え込んだ升野の目指すところであった。

691 ◆1En86u0G2k:2011/02/10(木) 14:32:58

「次は?」
見上げてくる長身に標的が集うらしい場所を告げる。
「予定は今度の木曜だそうです」
有野はさほど表情を変えずにそしたらその日は隠れとくわ、まるで通り雨を避けるように言う。
「そうや、あれやって、あれ」
歩きはじめた背で受ける弾んだ声、返事の代わりに意識を集中すれば升野の輪郭がブレたように揺れ、
瞬きも挟まないうちに数秒先で踏むはずの床へと跳躍は完了している。

「やっぱりええなー、それ」

かっこええわあ。特撮ヒーローに向ける少年めいた無邪気な感嘆を耳に拾い、升野は無表情をわずかに弛める。
(そりゃ、かっこいいって言われて気分悪くするやつはいないでしょう)
窓の向こうの曇り空、階下のアスファルト、進む廊下、身にまとうパーカー。
濃淡の異なる灰色が、彼の世界を彩っていた。


*****


升野英知(バカリズム)
 石:アメジスト(紫水晶。霊的能力・直観力・芸術性を高める。タロットでは死神にあたる)
能力:時間を飛ばすことができる。何かの目的に達するまでの時間を省く。
  (例・ある地点まで行きたい→歩く時間を飛ばし、一瞬にしてその地点に行ける)
   飛ばせる時間は1回につき30秒程度。
条件:時間を飛ばせるのは、自分に関わる動作でのみ。
   自身が移動する・自分の動作によってものを動かす時間は省けるが、他者の動作には干渉不可能。
   また、「時間を掛ければ普通にできる」ことに限る。
  (例・ものを敵にぶつけたい→石など持てるものなら、投げる時間を飛ばして一瞬でぶつけられるが
   重くて持てないものをぶつけることはできない)
   トータルで飛ばすことができるのは1日3分程度。
   疲労に伴って思考力や瞬発力・判断力等が低下し、限度を超えると体が硬直し全く身動きが取れなくなる。


松下敏宏(元バカリズム)
 石:ハーキマーダイアモンド(霊的な目覚めを促す。平和な生活を保護)
能力:光を使い、刀(形状は日本刀に似る)を作り出す。また腕力・脚力など身体能力を若干強化する。
条件:自然光(日光・月光)がないと使えない。光の強さが刃の強度に比例する。
  (快晴時には真剣とほぼ同等の威力を発揮するが、曇っていると切れ味はペーパーナイフ程度になる)
   戦闘スキルは上がらないため、ある程度剣術の心得がないと使いこなすのは難しい。

692 ◆1En86u0G2k:2011/02/10(木) 14:35:05

※マスノさんの能力・元相方氏に関連する事項は
【提案】新しい石の能力を考えよう【添削】スレより
 379さんの案を引用・参考とさせていただきました


久々の投下に緊張してageてしまい申し訳ありません
少しずつスレが伸びていくのをこっそり楽しみにしています
どうもありがとうございました

693名無しさん:2011/02/12(土) 21:59:19
4話も乙です。
灰色勢の升野キター!

石スレはまだ終わってないんだなーと思いました
自分もごくまれに投下してますが…自分の表現力の無さが恨めしいorz

694名無しさん:2011/02/17(木) 22:23:54
職人さんキテター!!
オードリー編のときから密かに楽しみにしてました
今後の展開が気になります

695名無しさん:2012/07/01(日) 11:13:23
ちょっと華丸・大吉編投下してみます


「華丸さんに大吉さん、石をこちらに渡して下さい」


今では、中堅芸人でも石を持っているような時代。
博多華丸・大吉も例外ではなかった。
そして目の前の若手芸人は、二人の石を奪おうとしていた。


「どうすっと?」
大吉が華丸に話しかける。
「そりゃあ、渡す訳にはいかんばい」


そして華丸が石の力を発動させた。
「このまま石を奪わなくていいんですか?いいんです!」
「……」
するとその若手芸人は、背を向け帰って行った。


「でも今日、相当な数使ったんじゃなか?」
「ムムッ?」
「あ、川平さんになっとる…」
「白と黒……絶対に負けられない戦いが、そこにはある!」
「まあ、あながち間違いではないな」
大吉が苦笑しながら言った。



博多華丸
能力:「○○していいんですか?いいんです!」と言うことで、
相手や自分を、その状態にすることが出来る。
条件:川平慈英のモノマネをして言わなければならない。
また、複数の相手に使うほど効果が薄れる。
使いすぎると、川平慈英の口調が抜けなくなる。


以上です。
クオリティー低くてすみませんorz

696瞬きもできない小競り合い:2012/08/02(木) 22:17:35
ここの色々なスレを見て書きたくなったから書いてみた
色々無理がある話だけどそーっと投下してみる





事務所主催のお笑いライブ。
かなりの大舞台。失敗すればただでは済まない。
だからこそネタの最終チェックは念入りにと、集合時間よりもだいぶ早い時間に相方を呼びつけた。
――ついでに、非常に大事なライブだから、「あやめちゃん」は連れてこない、という約束もさせて。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
三拍子の高倉は、頭の中で今日行うネタの内容を反芻しながら、控え室である大部屋のドアを開けた。
流石に早い時間だから自分達の他には誰もいないだろう……と思っていたら、そうではなく。
そこには、多くの芸人が畏怖する――というと失礼になるだろうが――女芸人、鳥居みゆきが先に来ていた。
鳥居は入ってきた高倉をじっと見つめたかと思うと、すぐにあらぬ方向へ向き直り、今度は広い部屋を縦横無尽に闊歩する。
まるでここは自分の部屋だ、と言わんばかりに。
「……」
久保はまだ来ていなかったので、完全に鳥居と二人っきり。
別に何を話すでもない、というよりも、鳥居と何を話せば良いのか分からないので、高倉は何も言わずにテーブルにつき、ネタ帳を見ながら久保を待つことにした。

697瞬きもできない小競り合い:2012/08/02(木) 22:19:44
そのまま、しばらくして。

――コツン。
(……?)
不意に大部屋に響く、何か硬質な物が落ちたような音と、自分の足に何かが当たったような感覚。
何だろう。
高倉はネタ帳を捲る手を止め、テーブルの下を覗きこんだ。
「……!」
それを確認するなり、高倉の顔色が変わる。
(これって……)
そこにあったのは、白い床に同化してしまいそうなほど、綺麗な白い「石」。
明らかに異質なその石は、もちろん自分の物ではない。
と、すれば。
自分以外で、今ここにいる――

「……!!」
テーブル越しに鳥居と目が合い、高倉は少し怯んでしまった。
その間に白い石は鳥居の手中に収まり、そのポケットに入れられる。
「……」
鳥居は何事も無かったかのように自分の世界に戻っていくが、高倉は今しがた見た石のことが気になり、ネタどころではなくなってしまった。

698瞬きもできない小競り合い:2012/08/02(木) 22:22:33
(……やっぱり、持っていたんだ)
芸人の中で広がる、不思議な石の話。
彼女も芸人だから、石を手にしていてもまったく不思議ではない。
だが、高倉が気にしたのはそこではなく。
同じ事務所に居ると、あの先輩の石はあんなんだ、あの後輩がこうやって戦っているのを見てしまった、などという話が嫌でも入ってくる。
しかし鳥居に関しては、石を持っているらしい、という噂だけが独り歩きしていて、どんな石なのかとか、実際に能力を使っている所を見たという話を聞かない。
だから、石を持っているというのはただの噂で、本当は持っていないのだろう、という結論に至っていたのである。
しかし今、彼女の石の存在を確認した。
石はちゃんと持っているのに、能力の噂が伝わってこない。
それはつまり、まだ能力に目覚めていないか――あるいは、目覚めているのに、隠しているか。

おそらく後者だろう、と高倉は踏んだ。
能力が目覚めていなくとも、石の形状の話ぐらいは伝わってくるはずで。
それすらもまったく伝わってこないというのは、意図的に隠しているとしか思えない。
それに何しろ、彼女は相当な秘密主義。
私生活、素性、その他全て謎だらけ。
どこまでが演技で、どこからが素なのか。
――それとも、全て素だというのか。
(……まあ、それはともかくとしても)
そんな彼女だから、自分の能力だって隠すに決まっている。
(……気になるな……あの石の能力)
隠されると暴きたくなるのが人の性、とは言わないが。
(……聞いても素直に教えてくれる訳、ないだろうな)
自分の石の能力が人の秘密を聞き出すとかだったら良かったのに、と心の中で付け加えながら、高倉は溜め息をついた。

699瞬きもできない小競り合い:2012/08/02(木) 22:24:36
その瞬間。
(……?)
ポケットの中が、急激に熱くなった。
いや正確に言えば、ポケットの中の石が熱くなっているのだろう。

石が熱くなる。
それは大抵、石が何かを伝えたい時。
過去を見るだけの石が、今何を伝えようというのか。
石、過去、石――

(……あ)
思い浮かんだ、一つの考え。
凄く簡単な話。
なぜ早く気付かなかったのだろう。
あの石の過去を辿って、石を使う瞬間を見れば、能力なんて一発で分かる。
(……いや待て)
しかし、仮にも相手は女性の所有物。
勝手に過去を覗けば、とんでもないものが見えてしまう可能性もある。
いくら何でも、それは不味いような。
(でもな……)
だが、やっぱり気になる。
先ほど見た、驚くほど綺麗な白い石が、どんな能力を持っているのか。
しかし。だけど。でも。
高倉の頭の中で、天使と悪魔がせめぎあう。
そして。
――まあいいか。とんでもないものが見えそうになったら、自重すれば――

悪魔が勝ち、否、好奇心に負け、高倉は自分の石に意識を集中させ、遠くをうろつく鳥居の方を見やる。

700瞬きもできない小競り合い:2012/08/02(木) 22:27:09
――アナログ時計の針が、見たい時刻を刺している。
それ以外は、真っ暗。
いくら集中しても、それ以上は何も見えない。
本人が本気で隠したがっているからか。
あるいは、前みたいに石が邪魔しているのかもしれない。

……?
暗闇の奥から、非常に強い視線を感じる。
気を抜いたら殺されそうな……というのは大袈裟かもしれないが、それほどに強い。
過去の映像?いや、違う――

高倉の集中力は途切れ、意識は現実に戻される。
「……!!!」
目の前には、遠くにいたはずの鳥居の顔。
その両眼はしっかりと高倉を捕らえ、眉はつり上がり、口をわなわなと震わせている。
「……」
高倉は動揺する。

怒っている?まさか、過去を見ようとしていることに気付かれたのか。
今回は何も見えなかったが、とりあえず謝ったほうが良――

「……!?」
高倉の口から謝罪の言葉が出る前に、鳥居のポケットから白い光が溢れた。
普段あまり瞬きをしない高倉が反射的に目を閉じるほど、眩しい光。

彼が目を閉じていたのは、ほぼ一瞬。
しかし目を開けてみると、目の前に鳥居の姿はなく。
そのかわり、というには不釣り合いな「物」が目の前には立っていて。

701瞬きもできない小競り合い:2012/08/02(木) 22:28:56
大部屋の天井にも届きそうなほど巨大な――くまのぬいぐるみ。
その体には包帯が巻かれ、まったく整えられてない毛並みが痛々しい。
ああそうだ。確か彼の名前は多毛症――

高倉は頭を振る。
そんな悠長なことを考えている場合じゃない。
この状況を、どう対処する?
相手は非常に怒っている。
誰にも見せていなかった能力を、堂々と解放するほどに。
(……謝るしか、ない)
どう考えても、自分の力ではどうしようもできない。
何とか許してもらって、本人に能力を解いてもらうしか――

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「いやー、ごめん!あやめちゃんが駄々こねちゃって、さ……?」
待ち合わせた時刻にだいぶ遅れてきた久保は、大部屋に入るなり異様な光景を目にした。
高倉が、床の上に無造作に置かれた鳥居のくまのぬいぐるみに、謝っている。
鳥居が横からじーっと見ているが、それすらも目に入っていないように、ひたすら謝り続けている。
「……これ、一体どうしたの?」
あまりの異様さに、久保は唯一の傍観者である鳥居に疑問をぶつけるが、
「さあね?」
恐いぐらいの笑顔でそう返され、それ以上聞く気は失せてしまった。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
鳥居みゆき
石:アルバイト(視力の回復、精神面の調和などに効果がある。石言葉は冷静な思考)
能力:相手の目を見つめることで、その相手に幻覚を見せることが出来る
条件:相手に対して、マイナスな感情(怒り、憎しみなど)を持った上で、四秒以上見つめること。
見せられる幻覚の強さは、相手に対する感情の度合いやその時の体調などによって変わり、相手がどんな幻覚にかかったかは本人にも分からない。
しかしどんな幻覚だとしても、持続時間は長くて四分程度。
また、目薬があれば少しだけ効果が上がる。
見つめている間や、相手に幻覚がかかっている間にも力を消費。
見つめている間に力が切れた場合、相手には何も起こらず、自分に幻覚がかかる。
能力の使用後しばらくは冷静になり、マイナスの感情が起こらなくなるが、勿論その間は能力を使えない

702名無しさん:2012/08/02(木) 22:29:30
以上です。
話の内容は新登場芸人スレの262を参考に考えました。
新登場芸人スレの262さんがまだ見ているかは分かりませんが、面白いネタをありがとうございました。
鳥居さんの能力は能力案に出ていたものを使わせて頂きましたが、条件がかなりあやふやだったので、本人のイメージや石言葉から若干変更を加えています。
それでは失礼します

703名無しさん:2012/08/03(金) 05:17:19
新作乙です

704名無しさん:2012/08/08(水) 18:36:21
新作乙です
ありそうでなかった組み合わせ、面白かったです

705名無しさん:2012/08/28(火) 16:54:28
>>702
新登場芸人スレ262です。二人の対決面白かったです!
自分のレスを小説の設定として使っていただけるなんて思いませんでした。ありがとうございます。
くまのぬいぐるみに謝り続ける高倉想像して笑ってしまった。

706起こると怖い小沢さん:2012/10/10(水) 16:37:45
スピードワゴンの短編です
小沢さんて本気で怒るとたぶん泣きながら怒るんだろうな、と思いつつ書きました

ある春の日の事。
スピードワゴンの二人は、仕事の合間の息抜きにとある公園に散歩に来ていた。
「いやーいい天気だね小沢さん」
「そうだね」
そんな会話を交わしながら歩いていると、不意に犬の鳴き声と男の怒鳴り声とおぼしき声が
聞こえてきて、程なく前方からリードをつけたままの大きな犬−品種はゴールデンレトリーバー
だろうか−が走ってきた。
思わず一歩後ずさる小沢を気にする様子もなく犬は二人の間を抜けていった、と思いきや
振り返って二人の背後に隠れるような行動を取った。
その表情はどこか怯えていて、二人に助けを求めているようにも見える。
「小沢さん、この犬…」
「ひょっとして、どこかから逃げてきた?」
すると犬を追いかけてきたのか、一人の男がその場に走ってきた。
「おい、そこをどけ!」
小沢がその言葉に応じる。
「なんですかあなたは?この犬怯えてますよ?」
「いいからどけ!そいつは俺の犬だ!」
「あなた、この犬に何をしたんですか?犬が逃げたくなるような事をしたから、こいつはこうして逃げてきたんでしょう?」
「どけっつってんたせろ、オラ!」
そう言うなり男は強引に二人の間に割って入り、目の前の犬を思い切り蹴飛ばした。
「あっ!」
「キャイイン!」
さらに男は倒れた犬の頭を踏みつけ、足でグリグリと踏みにじり始めた。犬は男の足の下で悲痛な悲鳴を上げている。

707怒ると怖い小沢さん:2012/10/10(水) 16:38:39
「キャイン、キャイイイン!」
「飼い主から逃げようとはこの不届き者め!もっと痛い目に遭いたいか、こいつめこいつめ!」
「おいっ!」
見かねた井戸田が男を突き飛ばすようにして犬から引き離し、犬を庇うようにその前に立つ。
「なんて事すんだよ!かわいそうだろ!」
「かわいそうだぁ?こいつはな、何度も飼い主の俺に吠えついたり牙を剥いたり、隙あらば今みたい
 に逃げ出そうとするんだよ!だからこうしてお仕置きしてやってんだよ」
「お仕置きって…そうやって痛い思いさせるから、怖がってよけい言う事聞かなくなるんだろうが!」
そんな口論をしていると、足元から低くかすれた声がした。
「許さない…」
声のした方に目を向ける井戸田。そこには、その場にかがみ込んで犬を抱いている小沢の姿が
あった。俯いているので表情はわからないが、両肩が怒りに震えているのが見て取れる。
「小沢さん…?」
「よくもこんなひどい事を…」
そう言って顔を上げる小沢。その両目には今にも溢れんばかりのいっぱいの涙が湛えられている。
だがそれだけではない。涙をいっぱいに湛えたその両目には、同時にこれまでにないような
激しい怒りの色も湛えられていた。
小沢は犬から手を放し、いっぱいの涙と怒りを湛えた視線を男に向けたままおもむろに立ち上がる。
上背はそれなりにあるので、若干男を見下ろすような感じになる。
その様子に、井戸田はただならぬ雰囲気を感じ取っていた。
(うわー…小沢さん本気で怒ってるよこれ…)

708怒ると怖い小沢さん:2012/10/10(水) 16:39:35
「口のきけない動物をこんな目に遭わせるなんて…絶対許さない!」
激しい怒りの籠もった言葉を、男にぶつける。
「お、やる気か?かかってこいよ、ヒョロヒョロのモヤシ野郎!」
男の方は至って強気だ。「こんな相手に喧嘩で負けるはずがない」とでも思っているのだろう。
確かに小沢は根っからの文化系だし、見た目からして喧嘩が強そうには見えないから無理もないのだが。
小沢はおもむろに右手を男に向けてかざし、指さすような形にする。
「お?なんだ?」
男の方も若干戸惑っているようだ。そして一言−
「ミツバチが、君を花と間違えて集まってきちゃうだろ?」
いささかこの場にはそぐわないその一言と同時に男に向けた右手の指をパチンと鳴らすと、
どこからともなく1000匹は下らないであろうミツバチの大群が飛んできて、男に群がり始めた。
「うわっ !? な、なんだこりゃあ!うわ…うわ…うわ…た、助けてくれえええぇぇぇぇ!誰かあぁぁぁぁ!」
いくら払ってもしつこくまとわりついてくる大量のミツバチに男はすっかりパニックに陥り、右往左往
しつつしまいには助けを求めながらその場から走り去っていった。
そんな様子を冷ややかに眺める小沢と、呆気に取られている井戸田。
「はー…」
「たぶん刺されて痛い思いもするだろうけど…それでもこいつが受けた苦しみのかけらほどでも
 ないんだからな」
その時、足元からどこか不安げな鳴き声がした。

709怒ると怖い小沢さん:2012/10/10(水) 16:43:07
「クゥーン…」
それに応えるように小沢は再びその場にかがみ、片手を犬の首に回すともう片手で頭を撫でつつ、
先ほどとは打って変わって優しい視線と言葉を向ける。
「よしよし、もう大丈夫だからな」
それを見ていた井戸田が、不意に何かに気づいたように言葉を発した。
「あ!小沢さん…犬、嫌いなんじゃ…?」
犬の頭を撫でる手を止める事なく、小沢は答える。
「そうだよ。でもこんな時に好きも嫌いもないだろ?かわいそうな奴は助けてあげなきゃ」
優しく撫でられている犬の方も、安心したような表情になってきている。
そんな様子を半ば呆然と見ていた井戸田が小沢に問う。
「それで、そいつどうするの?」
「取りあえず動物病院に連れてこう。何か大きなケガしてるかも知れないし」

動物病院の診断では、何カ所かの打撲は見られるものの大きなケガはないとの事だった。
だが同時に古い擦り傷や打撲の跡がかなりの数確認され、この犬は以前から繰り返し
飼い主の暴行を受けていた可能性が高いという。その話に、小沢は顔を曇らせた。
「そうですか…かわいそうに…」
「動物愛護法違反の疑いがありますので、この犬は取りあえず当院で保護します。
 その上で警察に通報いたしますので」
「わかりました。じゃあ、お願いします」
最後に犬にも軽く挨拶を交わし、二人は動物病院を後にした。

710怒ると怖い小沢さん:2012/10/10(水) 16:45:19
「ちょっと時間食っちゃったし、こりゃ急がないと」
「うん」
若干早足で、今日の仕事があるテレビ局への道を進んでいく。
「それにしてもさ…もうずいぶん長いつき合いになるけど、小沢さんがあそこまで本気で
 怒ったのって、初めて見た気がするなー」
「そう?俺はいつだって本気だよ」
そう言う小沢の顔は、すっかりいつもよく見る、どこか飄々とした涼しげな顔になっていた。
一見どこまでが本気なのか読めない、若干人を食ったようにも見える表情。
(めったに怒らない奴ほど本気で怒ると怖いって言うけど…小沢さんもそういうタイプなのかな…?)
相方の涼しげな横顔を見ながら、井戸田はそんな事を考えていた。

711名無しさん:2012/10/10(水) 16:47:05
以上です
拙作ですが読んでいただければ幸いです

712名無しさん:2013/02/02(土) 19:29:58
>>165-169 (Ps/NPPJo)さんの続きであらすじが浮かんだので軽く
誰か清書してくれるとありがたいが…

井戸田、くりぃむの助けで小沢の捜索開始→
現場の倉庫に駆けつけるが、その時相手の衝撃波の影響で倉庫内の段ボールやベニヤ板が
崩れてきて、とっさに井戸田を庇った小沢が巻き込まれる→
井戸田、重傷を負ってしまった小沢を見て何かに導かれるように「あたし認めないよっ!」と
絶叫→力が発動して今の事故が「なかった事」になる

>>3の内容をちょっと参考にしたけど、こんな感じでまとまりつくかな?

713名無しさん:2013/02/16(土) 19:17:58
>>712
そこで
「よかった…潤が無事で…」
「よくねえよ、俺だけ無事でも意味ねーよっ!」
てな会話が入るといいな、個人的にはw
あと実質主人公格のスピードワゴンとかホワイトファントムの持ち主が
つぶやきシローだったりと、本編の重要なキャラって
なぜか最大手の吉本でなくホリプロ系が多いような…
これが何を意味するのかちょっと気になる今日この頃

714名無しさん:2013/02/19(火) 17:15:11
ペナの能力、ちょっと手を加えた方がよくないかなと思いまして
ヒデのはまとめサイトのに加えて>>54に出てた

能力:キック力が上がる。蹴った物が狙ったところに必ず当たる。(狙われた相手は
避けることもできるが、難しい)
条件:何回も蹴ると、パワー・命中率ともに落ちてくる。(狙われた相手にとっては避けやすくなる)
ドロップキックにも力は発揮されるが、消耗は激しい。

を追加で、ワッキーは「暴走した石を破壊or浄化する際は自分の持ちギャグを一つやる」ってのは
どうかなと

715名無しさん:2013/03/08(金) 21:54:44
時間・時期確認スレにあった緊急集会後の白ユニについてほんの短編…
この先何か書きたい人がいたら拝借してっても構わないです
-----------------------------------------------
スピードワゴンが本格的に白ユニットの一員として活動を始めてから、ユニットの雰囲気は
かなり様変わりした。人力舎襲撃事件の事もあって皆の意識が変わったせいもあるのだが、
これまでの白の中心格だった人力舎の面々とは毛色の違うホリプロの者が加わった事も、
大きな要因だったといえるだろう。
特にメンバーの能力の解析と能力を最大限に引き出せる連携や使い道・メンバーの
役割を考案するという、いわば作戦参謀の役割を自ら買って出た小沢の働きは目覚ましく、
多くのメンバーに「これなら充分黒に対抗していける」との自信を植えつけたのだった。
かつて「黒には頭のいい奴が多い」と述懐した上田も小沢の頭脳明晰ぶりはよく知っていたから、
「お前の頭脳なら黒の奴らにも対抗できる」とその申し出をすぐに聞き入れた訳で。
そんないきさつがあったから、ある時上田は思わず「有田や人力の奴らよりずっと役に立つ」と
口に出してしまい、それに人力舎の面々が憤慨してちょっとした揉め事になった事もあった。
いずれにしろ、あの人力舎襲撃事件が白ユニットに取って大きな転機であり反攻のきっかけと
なった事は確かであった。

そんな折、いつものように小林に電話を入れる設楽の姿があった。
「あ、シナリオライター?あいつらの事なんだが…最初はもうちょっと泳がせとくつもりだったが、
 どうやらそうも行かなくなってきたようだ。ちょっとばかり、あいつらの事を見くびってたかも知らんな」

716445:2013/03/19(火) 23:13:36
感想スレの445です。
ちょいと書いてみたヌメロン編です。


とあるテレビ局で。
「あ、おはようございまーす」
千原ジュニアこと千原浩史にそう話しかけたのは、バナナマンの設楽だった。


設楽が黒ユニットの幹部であり、多くの芸人を『説得』して勢力を付けているのは、余りに有名だった。
浩史と設楽は、あまり共演したことがない。
自分の攻撃系の石――チューライトでは、精神攻撃には太刀打ち出来ない。


「えーと…ジュニアさんは『どっち』なんですか?」
『どっち』というのは、白か黒か…というところだろう。
飄々としていたが、ある種の威圧感がこもっていた。
「…どっちでもない」
「そうですか…。
本当ならジュニアさんを『説得』したいところなんですがね…」
「……!」
「出来ないんですよ」
「…は?」
「日村さんがいるんで」
「……。黒って、訳ありの奴が多いんやな」
「まあ、そうですね」
「ところで、靖史は…」
「僕じゃないですよ。土田さん経由です」
「……」
「ま、頑張って下さいね。数字の駆け引きもそうですが…」
「…」
「ユニットとしての駆け引きも」
「…俺は、どっちにも付くつもりはない」
「そうですか…じゃあまた後で」
そして設楽は去って行った。


「………」
浩史は、かなりの疲労に襲われていた。
表面上は普通の会話だったが、これが設楽の力か。
「(予想以上にヤバいな…黒の連中は)」
浩史は楽屋で、椅子に座りながら考え込んでいた。

717445:2013/03/20(水) 09:49:35
ヌメロン編その2です。すみません、勝手に続けます。


浩史が考え込んでいると、楽屋に博多大吉がやって来た。
「あ、ジュニアさん、おはようございます」
「おう」


芸歴は1年程しか違わないが、浩史にとっては年上の後輩にあたる。
彼とは共演することは少ない。
そのため、白か黒かのどちらかも分からなかった。


するとそこへ、
「石を渡して下さい」
黒であろう若手がやって来た。


「また黒か…」
浩史が戦闘態勢に入ろうとしたが、
「ジュニアさん、ちょっと下がって下さい」
「え?」
そして大吉は、


「灰皿が空を飛んでもよかろうもん!」
と、石の力を発動させるためのフレーズを言った。


するとテーブルに置いてあった灰皿が浮かび上がった。
そしてそれを、黒の若手の額にぶつけたのだった。


「痛ええっ!」
額を抑えながら悶絶する黒の若手。
そしてそのまま逃げ去って行った。

718445:2013/03/20(水) 09:50:08
「…今の、完全に石の力やな。俺のより派手ちゃうん?」と浩史。
「俺の石、『何々してもよかろうもん!』って言うと、実際その通りになるんです」
「…ところで、華丸の能力は?」
「川平さんみたく『何々してもいいんですか? いいんです!』って言葉で、
自分やその人をその状態にできるみたいなんです。
あと、児玉さんみたく『アタックチャンス!』って言うと、味方の石の能力を上げれるみたいです」
「へー」
「ただ、使いすぎるとモノマネの口調のままになるんですよね」
「おもろい能力やな。ところで大吉は…白と黒、どっちなん?」
「どっちでもなかとです。どっちかって言うと、白を応援したくなるんですがね。ジュニアさんは…?」
「俺もどっちでもないけど…どっちにも興味は無いな」
「そうですか…」


そのような感じで、浩史と大吉は話を続けたのだった。


博多大吉
「〜てもよかろうもん!」と言う事で様々な事を起こす。
例:「犬が空を飛んでもよかろうもん!」で本当に犬が空を飛ぶなど
華丸の「相手や自分の行動」に対しこちらは「外的事象」が対象。
非現実的な事ほど力の消耗が多く、また大地震や大洪水など天災レベルはさすがに不可。

719445:2013/03/20(水) 20:31:18
ヌメロン編、石スレを完結させるためでなく完全に自己満足で書いてます
何か時系列も無視しちゃってすみませんorz

720名無しさん:2013/03/20(水) 22:18:23
>>719
元々「芸人たちの間にばら撒かれている石を中心にした話(@日常)」だから別に良いんじゃないかな
最近の話とかも読んでみたいし

721名無しさん:2013/03/21(木) 11:20:21
>>719-720
まあ本編に組み込みたいなら、時系列くらいはある程度特定した方が
いいかも知れませんね

722445:2013/03/21(木) 11:37:13
ヌメロン編ですが、完全に番外編として読んでください
ややこしくしてすみません

723名無しさん:2013/03/21(木) 12:36:41
この流れを見てちょっと思ったんだけどさ
「本編」と「番外編」の違いってなんぞ
核心に迫る話を本編としてそれ以外は全部番外編?
それとも完結時期が明確にあって、それ以降の話は全部番外編なのかな


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