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【失敗】廃棄小説投下スレッド【放棄】

689 ◆1En86u0G2k:2011/02/10(木) 14:30:11

colors:another『灰と()ダイヤモンド』


種明かしに近い告白に、望みどおりの驚きが返ってきたのでとりあえずは満足した。
声をひそめるのは数日前に似た廊下、その突き当たりになぜか置かれた長椅子に腰掛ける芸人がふたり。
長身のほうであるところの有野はもう一度、なんや、と繰り返し、まじまじと隣の小柄な男を見つめて言った。

「あれ升野くんやったん」

ほんなら慌てる必要なかったなあ、拍子抜けた様子の有野に淡々と、でも若林くんが、と重ねる声。
「なんかすごく一生懸命、僕を追いやろうとしたんで、気の毒になっちゃって」
素直に帰っちゃいました、覗いてやるつもりだったのに。
微弱な石の気配を悟り、明確な意志をもってあの廊下を訪れたと明かしたその男の名は升野英知。
またの名をバカリズム、かつてコンビとして掲げた五文字を引き続き擁するピン芸人だった。


*****


予定を逸らされた不満は滑稽に近い懸命さに触れてある種の共感へと転化していた。
(ぼくも適当に歩いてたら迷っちゃって――)
リアルタイムの迷子を目撃された割には照れたそぶりがなかったし、なにより表情が違った。
同じ枠に括られても易々とセキュリティを外せるわけでないのはお互い様であるとして、
けれどもあの目は偶然を驚くものでなく、確固たる意志を持って他者に対峙するときのそれだ。
判りやすい無表情ってのも変な表現だな、盾のように突き出された顔と声の固さを改めて思い出していると、
有野がふふ、と含み笑いを漏らした。

「なんですか」
「いや、楽しそうにしてるなあと思って」

楽しい、の表現が適切かどうかは測りかねたが、おおむね同義語として位置づけていいのかもしれなかった。
周囲で動くものは操られた無個性な駒であるより、目的と意思を抱えたプレイヤーである方が面白いに決まっている。
肯定とも否定ともつかない表情を浮かべた升野を有野は興味深そうに眺めていたが、やがて言った。
「なんで俺に協力してくれんの?」
「知りたいです?」
「言いたくないならええけど」
ちょっと意外やったから。
動機を気にかけてくる先輩に似たような感想を抱きながら、それでも升野は珍しく素直に応えてみる。

「やっぱり、無力なときの経験って根強いじゃないですか」


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