したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。

【失敗】廃棄小説投下スレッド【放棄】

630 春風はレベル30 ◆1En86u0G2k:2009/07/08(水) 00:02:39

設楽の印象ははじめて見たコントの役柄そのものに近い。
自分の主張を、たとえ多少の無茶があろうと飄々とした態度と語り口でゆるゆると押し進め、日村を納得させてしまうキャラクター。
(弁の立つ人だってのを、そんなに感じさせないふうにしてるっぽいのが余計怖いっつうか…)
あれは多少、素が入ってんだろうな、などと感心しつつ、警戒レベルを“高”に固定して耳を傾ける。
とはいえ、彼の言い分はある種真っ当で、非常にわかりやすいものだった。
「利害が一致するんじゃないかなあって」
極力注目されないように行動してきたつもりだったが、おそらくは筒抜けきっているのだろう。
希望するポジションは圏外と同意義の中立。春日がどう考えているかはさておき、若林の第一目標はとにかく厄介事から距離を取ることだ。
襲ってくるのは大概“黒”のほう、降り掛かる火の粉のみを払い続けるから根本的な解決は不可能で、かと言って離脱できない奥底まで立ち入ってしまっては本末転倒になる。
そちら側に協力するというスタンスを示せば、確かに日々の些末な面倒からはおおむね解放されるのかもしれない。悪くない話だと思うけど、設楽はそう言って笑った。
反論する余地をどう切り開こうか思案しながら、間をつなぐためにコーヒーを啜る。

「あの、そうすると逆に、白のみなさんに追っかけられるんじゃないですか」
「んー、まあいい顔はしないかなあ。でも基本的にあの人たちは動きが派手なとこを抑えにくるくらいだから、目立たなきゃ問題ないでしょ」
「目立たないっていうのは」
「ガンガン前に出てかなくていいよってこと」

詳しくは商談成立後にお話しします。芝居がかった口調で情報開示を遮断され、そこまで親切なわけもないかと勝手に納得する。
確かに白の責任感も黒の罪悪感も(正直なところ)さほど抱えていないし、今後抱える予定もない。そこまでご存知なのかは知らないが、把握したから行動に移していると判断する方が自然だった。
カップの中の黒い水面を見詰めたまま若林は黙っていた。
自分にとっては好機と呼んでもいい誘いにさっさと乗らないでいるのには3つほど理由がある。
ひとつ、長年の境遇と生まれついた性格の賜物か、“渡りに船”に対しては厳戒態勢を敷いていること。
ふたつ、右手の白金がチリチリと覚えのある痺れをずっと発していること。
みっつ、若林はどうすべきか悩んでいて、そういう時どちらを選びたがる人間だったか、ということ。
他にもいくつか正なり負なりの感情が交代で浮いては沈みを繰り返したが、最終的に自分ではない声の叱責が朗々と脳に響いた。
『グダグダ考えてんじゃないよ馬鹿馬鹿しい』
聞き覚えのある根拠レスな強さを蹴り出そうとしてやめる。
タイミング的には間違っていないので今だけ同意して指標にする。

「ありがたい話ですけど、お断りします」

結果はどうあれ笑いながら少数派に飛び込む男でありたい、ひとりそう誓ったのはこんな厄介ごとに巻き込まれるよりもっとずっと昔の話だった。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板