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【失敗】廃棄小説投下スレッド【放棄】

685 ◆1En86u0G2k:2011/02/10(木) 14:22:16

ドアの向こうからお待たせしました、と出番を知らせる声が届く。
「よっしゃ、行こか」
「はい」
切り替えるように明るい声をあげて立ち上がる。
と、背後の伊達が動きを止める気配がした。
「へ?」
振り返れば予想外の至近距離に、見開いた双眸。
先ほどから黙々と別世界を築いていた鳥居が、今度は伊達の顔を正面からまじまじと凝視している。
メイク分を引いても強烈すぎる眼力に、思わず亮は半歩ほど距離を取った。

「うわびっくりした…、やめろよ怖えよ」
当の本人は言葉と裏腹にいたって落ち着いた対応である。
「……、……………、………。」
「…なに?どしたん?」
様子がおかしい――ある意味いつも通りとも言えるのだが――とにかく鳥居の意図が読めず首をかしげた亮は、
半拍ののちどうやら彼女が今『音が出せない体』であるらしいことを理解した。
「なんで声出ねえんだよ」
伊達も律儀に小さくツッコミを入れ、けれど唐突な展開を流すわけでなく、素直に口の形に注目してやっている。
遠く離れた相手に届けるがごとく、大きく一言ずつ、ゆっくりと並べられる聞こえない音。
解読が進むにしたがって、寄せていた眉と怪訝な表情が少しずつ穏やかに緩んでいく。


「……、……………、………、」
「おお、うん」
「……、……………、………!」
「そっか」
「うん」
「声出るんじゃねえか」
「あ!」
「気付いてなかったのかよ」


気が済んだらしい鳥居は奇声と嬌声の中間点みたいな声をあげながら、さっさとふたりを置いて駆け出していく。
不思議と息の合った掛け合いを後に、慎重に言語の再構成を試みていた亮がぱっと顔を輝かせた。
「なあ伊達ちゃん、今のって」
「…多分そうなんでしょうね、」
迂回して届けられたのはあまりに真っ当な台詞、だからこそ妙な仕様で釣り合いをとったのかもしれなかった。
やれやれと肩をすくめて笑いながら、さっそくスタッフに急襲を仕掛けている聡明なトリックスターに向けて。
「気にすんなってことでいいのな?」

呼びかけた声にやはり明快な同意は返らない、けれども。


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