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【失敗】廃棄小説投下スレッド【放棄】

688 ◆1En86u0G2k:2011/02/10(木) 14:26:23

影との同化――自らを平面に変えられるその能力はしかし、他者を伴う場合にはある条件をクリアする必要がある。
それは対象が有野の完全な同意者であること。
『同意』がどこまでの範囲を指すのか正確には測りかねたが、この騒動に対する意識や指針はおそらく最も重要なポイントだろう。
有野は穏やかな顔のまま、ひとりごとのように言う。


「やっぱり違うねんな」
「え?」
「俺は全部逃げたらええと思ってるから」
少なくとも濱口くんがわかりやすくピンチになってない時は。
丁寧に前置きを付け足して、ひたりとこちらを見据える。
「でも、若林は、そうやないんやな」


呼び起こすのは数分前、正体不明の誰かに向かって足を進めたときの感情。
有野を守る、という心理こそいくらか含まれてはいたものの、
石を握った右手は間違いなくやってやろうじゃねえか、の意志によって強く握られていた。
どうにも自分は追い詰められるとスマートに身をかわすのでなく、体当たりで道をこじ開ける手段を選んでしまう。
そしてそれは、逃げを望む者が選択する適切な作戦とは言いがたかった。
(もしかしたら本当は――)
続きを明文化しないでくれたのはまさに先輩の配慮というべきほかなく、若林は短い逡巡ののち、
わずかにトーンを変化させてまた謝罪の言葉を口にした。
埃をはたく音がしばらく淡々と廊下に響く。


「ともあれ」
気が済んだのか手を止めた有野はひとつ息を吐き、気を取り直すような調子で続けた。

「これからまたなんかでご一緒するかもわからんし」
「あっ、はい」
「まあ全然ないかもしれへんけど」
「はは、」
「ほんまはそのへんも関わってんのよ」
「そのへん?」

もうちょっとお話できるようになってもええかなと思って。
平坦にならした口ぶり、微妙に逸れた視線の中になにやら身に覚えのある空気が見え隠れしている。
もしかして彼も『人見知り枠』に入るタイプだろうか、察して浮かべた質問はそっと飲み込む。
願わくばそのへんをお互い気楽に話せる日が、この試行錯誤の道中に通じていますように。
あてのない望みを真摯に願いながら、若林は少しだけ笑った。
「そうすね、ちょっとずつ」


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