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YOU、恥ずかしがってないで小説投下しちゃいなYO!
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どんどんこーい。
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前を向き、改めて自分の心情を顧みる。
転校生を前に、今まで通りの自分でいる気か? それとも素の自分をさらけ出すのか?
そのことを巡り、頭が混乱を始めた。
『もうずっとこのままだと思っていたのに』
四年間自分を偽り続けてきたからこそ、今更元に戻せやしないと思っていた。
でも、出来ることなら素の自分でありたいとも願っていた。
そして今、俺を知らない人がこの壁の向こうにいる。
――だから焦ってるのか。
閉鎖されたこの場所だからこそ、急激な変化が恐ろしいのだ。
このクラスも俺も、代わり映えのない日常に転機を迎えようとしていて、転校生がどんな行
動を取るか、転校生をどう扱うかで今後の生活が変わるかもしれないから。
たった一人の転校生が大きな波を生むほど、このクラスは人見知りになりすぎたから。
「入って良いわよ。あたしが空気暖めといてあげたから」
「はい」
先生の言葉に呼応し、教室の外で小さな声が聴こえた。
それは芯のある、自信で満ち溢れているような、そんな懐かしい雰囲気をともなった声――。
扉が開く。転校生が姿を見せる。教室中がいつしか固唾を呑んでその最初の言葉を待つ。
「――はじめまして」
各々が抱く、未知への期待。それは果たしてどのようなモノだったのか。
期待のベクトルが違う俺にはわかるはずもない。だってそこにいたのは、
「この度、このクラスに転入して参りました美崎 星<みさき あかり>です」
「あ…かり……?」
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一目見てわかった。俺は、どんな表情で、どんな声でその一声をかけたのだろう。
今再び、アイツを目の前にして、どっと沸き起こるこの感情を抑え切れなくて、それでも
『美崎 星』と名乗る少女は、
「星と書いてあかりと読ませるというのは、やはり変わっていますよね。
でも私は大好きなんです、この名前」
可憐な少女のようでいて既視感ある懐かしい微笑みを浮かべた。
「先日海外から帰って来たばかりなので何分この地の事情に疎く、ときにご迷惑を皆さんにお
かけすることがあるかもしれません――」
「迷惑なんてないない、むしろもっとかけてくれーッ!」
迷惑という言葉に男子達が反応する。そこから挨拶の内容は覚えていない。
――まず面影があった。アイツが成長すればそのまま彼女の姿になるような、そんな力強い
イメージさえ植えつけた。事実、目の前に立つ彼女を見て、容易にアイツと繋がった。
でも、信じたくなかった。知りたくなかった。
なぜこんなにも、理解出来ない感情が溢れているのか。
挨拶を終えた少女は、俺の列の一番後ろの席に座る。すれ違いざまに視線を交わすことはな
かったが、しばらくすると美崎星は何か思うことがあったのか立ち上がって、
「あの、先生。私視力が悪いので一番前の席に移ってもよろしいでしょうか」
「!」
「あら、配慮が足りなかったわね。真ん中の席にくる?」
「いえ……この列の、一番前の席が良いです」
あぁ。なんで、コイツは。
「美崎はこういってるけど、宮元……あんたは問題ない?」
「別に、ないですけど」
席の移動が始まる。俺が前から二番目に、美崎星が一番前になった。
俺のすぐ目の前には、彼女の背中が見える。依然として収拾が付かない教室では、主に俺に
向けての野次が飛び交うがその意味を気にするほどの余裕は無かった。
「美崎さんといきなりお近づきになれるなんてうらやましー」
「あぁ……お前はホモじゃなかったんだな」
「違うから。憧れとかあるけどそれだけだからっ……」
栄との会話で少し気が和む。心臓は相変わらずフル稼働中で、冷や汗たらたらだけど。
それからというもの、知恵熱でも出たのかってほど身体が異常に熱くなり、朦朧となった意
識が明晰さを取り戻す頃には、既にホームルームが終わっていて目の前には転校生よろしく、
周囲を取り囲まれている美崎星がいた。
その様子を傍観している俺を見て、伊藤が物珍しそうに話しかけてくる。
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「お前は参加しないの?」
「参加しろったって……」
「へぇ、お前ともあろう者が珍しいこともあるもんだあね」
「俺だってナイーブになるときぐらいあるわ!」
「しっかし、可愛い子が転校してきたな。やばいよ俺、恋したかも」
「お前、彼女いなかった?」
「あいつとは、別れる」
思わず、その彼女さんを見てしまう。
――せいぜい刺されないように祈ってるよ。
そんな様相もあり話しかけることも出来ず、常に傍観者の立場を取る俺と栄。
本来なら俺がいの一番にあの連中の一人にならなければならないのに、事態が事態なだけに
当然話しかけることも出来ない。
……どうやって話しかけろってんだよ、アイツに。
「うわ、こっち見た」
栄が無駄に反応し、そして美崎星と目が合う。合った。今。
俺の思惑を察したのか、彼女は近づいてくるや否や、唐突に俺の手を引いた。
「ちょっと、良い?」
「え――」「ええ……っ!?」
あまりの成り行きぶりに素っ頓狂な声を上げてしまう。俺は俺で、栄は展開についていけず
あわあわしてる。どうにも焦っているようにも見えたが、把握はしかねた。
だって、この状況だぜ?
「ちょっ……何を!?」
「私と、来てください」
思う間もなく星に手を引かれる。なすすべなく人並みを掻き分けさせられて、教室を出るこ
ろには小走りになり、彼女は人気がなくなるまでだらけきった俺の身体を力強く牽引した。
――あぁ、本当にアイツなんだと確信に至る瞬間だった。
その状況が、過去全てを想起させたのだ。
よく、アイツに苛められたことを。
よく、アイツに振り回されたことを。
よく、アイツに手を引かれたことを。
懐かしい後姿と手のひらの柔い感触に感情は高ぶる一方、どんな状況にあれど今だ変わらな
い立ち位置を知り、そして最後にあの手紙を思い出した。
今それが出来るんじゃないのか? と思った。なのにまた、流されてしまうのか?
それだけは、男として、見過ごせない……ッ!
俺は持ち前の瞬発力で星を追い抜いて、彼女の手を引いてひた走り校舎の外に飛び出した。
無論、上履きのままでだ。今星と二人きりになれるのなら、その他諸々の事情なんて関係なかった。
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「今度こそ、お前が話しかけてくれるものと踏んでたんだ」
第一声がそれすか。つーか言葉遣い戻ってんぞ。
「……まぁ、お前らしいけどな」
「“お前”……?」
星はピキンと目を鋭くさせる。
「うぐっ……星ちゃんらしい――……って! この歳になってちゃん付けはないだろ!」
「まぁ、それもそうだが」
星の前でツッコミを入れるのがこれほど恥ずかしいとは……。
ボケの当事者はあまり気にすることなく、乱れきった髪を梳いてみせる。
ぐぅぅ、そんな女っぽい仕草が異様に癇に障る……!
「そこは、“見ほれる”の間違いではないでしょうか?」
「――――っ!?」
こいつ、確信犯だ……! 絶対確信犯だ!
ここに確信犯がいますよー! 警察さん現行犯逮捕してください!
「やれやれ……混乱すると、わけがわからなくなる癖は相変わらずだな」
「もう、ほっといてくれ……」
「嫌だな」
「はあ?」
「期待してたんだぞ。なのに、私から話しかけるというのはどういう了見だ?」
どうしても話しかけられなかったんだよ……。
「……そういやもう『美崎』って言わないのか」
「あぁ、たまに言ってしまうこともあるが……これは私なりのけじめなんだ。“あっち”の方
の性格にしても、どちらが本当の自分なのかたまにわからなくなるときがあって困る」
「え……?」
どこがで聞いたような話だった。
「しかしアレだな。
あらかじめ聞かされていたことだが、皆が皆予想以上の反応をするものだから驚いたぞ」
「あのクラス、変化に飢えてんだ……」
「そんなに私は可愛いのか?」
澄ました顔をして言うことじゃなかった。
当然、恥ずかしさ等の関係で肯定出来るわけもない。
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「「はぁ、はぁ、はぁ……」」
その間会話を挟むことなく人気のない場所を探し、校内にある高台へとやってきていた俺は
切らせた息が落ち着きを取り戻すまで待ち続けた。
「見てみろ……もう俺の方が、絶対早い…だろ…」
星はそんなこと関係ないと言わんばかりの態度を示す。
「私は女だぞ」
「それは、見りゃわかる」
「一応改めて言っておくべきことだと思ってな」
「感染者自体は珍しくない世の中だしな……女体化したのって最近なのか?」
「違う。私は元々女だ」
「へ? あ? 女?」
WHY? なぜ? 俺にはコイツが男だった頃の記憶があるんだが。
この記憶が植えつけられたものだとおっしゃりたいのかかやつは?
「何を根拠に私を男だと決め付けてたんだ?」
「いやだって、お前男だったじゃん」
「馬鹿、お前私の裸を見たことなんてないだろ」
「だけど男……」
事実、俺の中でコイツは男としてインプットされているわけだし。
小学校でも男子だったし、一緒にチンコ晒して立ちションした思い出も――……アレ?
してなくね? 何気に俺コイツの裸見たことなくね?
「いや、その……彰二は私の……を見たことなんてないだろう」
「え? なに?聴こえなかった?」
「だから私の……を見たことないだろ」
ごにょごにょと何を言っているのか決して聴こえはしなかった。
「……本当は聴こえてるだろ」
「聴こえない! 全身全霊を賭して聴こえない……っ!」
「……………………」
「だからぁ、聴こえなかったってぇ。もう一回言って?」
「……うるさい」
ブチという音が聞こえた気がする(実際は幻聴)
「あ?」
「うるさいうるさいー! 実際、美崎のチンコなんて見たことないだろお前ーっ!」
「あ……はい……」
勢いに気圧されて、つい固まってしまう。
驚いた。いや、本来驚くべきところを驚けない状況というのがこれほど驚くものだったとは。
-
「とにかくっ、私は男じゃなかったんだ」
「そう、なのか」
「そうなんだっ。女だと知らずに男として過ごしてきた、ただそれだけの……よくある話だ。
話すと長くなるから日を追って、暇なときにでも気が向いたら話してやらないこともないか
もしれないが……いや、ある」
「どんだけ後ろ向きだよ。言葉尻に不安なら一言で済むよね」
「まぁ、とにかく」「――お前が、自分を変えようと必死だったのはよくわかったよ」
絶句した。
あぁ、なんで。コイツは。
――俺の世界をこうも簡単に変えてしまうのだろう。
「随分、無理をしたようだな」
「そう……だな」
あのクラスでの俺の役割は、調子に乗っては毎度痛い目に合うトラブルメーカーだった。
例えそれが本当の自分ではないと理解していても、おちゃらけた自分を演じなければなけれ
ばならない。それがいつしか苦痛に変わったときでさえ、彼らは本当の俺を知らないから。
だから、戻れなかった。素の自分を見せるのが怖かった。
あの日から弱い自分を変えたくて、いつか本当に強くなれるように精一杯に自分を欺き演じ
続けてきた結果、俺は、弱くなったんだ。
「強くなったよ、彰二は」
「俺なんかのどこが強くなったってんだ……っ!」
「――私の手を引いたじゃないか」
「…………――――。」
「お前は、私を追い抜いてここまで来たじゃないか」
今、正直、俺は星の顔が見れない。太陽が眩しいと言うのもあるのだろう、逆光に立つ星が
眩しくて、つい言ってしまいそうだったから。何より、知ってしまった。
五年前のあの言葉が、お節介などでなく俺の願望であったことに。
星はいつまで経っても星のまんまだ。
素直で、強くて、優しくて。誰よりも一番に先手を切って。だから、
そんな星の手をいつか引けたらって、思ってたんだ。
「ただいま……彰二」
「――うん」
http://www6.uploader.jp/user/1516vip/images/1516vip_uljp00213.jpg
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うう・・・投下ミスった・・・・
>>380-381の間にこの文章が入ります。
「「はぁ、はぁ、はぁ……」」
その間会話を挟むことなく人気のない場所を探し、校内にある高台へとやってきていた俺は
切らせた息が落ち着きを取り戻すまで待ち続けた。
「見てみろ……もう俺の方が、絶対早い…だろ…」
星はそんなこと関係ないと言わんばかりの態度を示す。
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終わり。
ゲーム用に書いてたんでちょい日常シーンが長いですけど、
完結してないのに放置したままにするのもアレなので区切りをつける意味で投下しました。
ちなみに続きます……。
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(・∀・)凄くイイッ!!
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【徒然なる女人日記-本スレに投下するほどでもない編-】
☆月℡日
体育祭とか面倒臭い。
とか思ってたけど、よくよく考えてみたら一日中女子の体操服姿や、チアリーダー姿を拝める絶好の視姦デイじゃないか!
外? ピーカン照りですよ。おんなじオチなんか使いませんよ。
で、俺の参加種目は100メートル走。
奇遇なことに委員長と同じレースとは……!
これはね、もうね、真横で委員長の控えめなオパーイの揺れを見よっ!っていう神の啓示としか思えないだろ!
運命のクラウチング。となりの委員長が一言。
「負けないからねっ!」
ふっ、甘いな委員長よ、俺の勝利はカタいんだぜ? レースなんざハナからアウトオブ眼中さ!
号砲。
速えっ!!? 委員長速ぇっ!!!
全力で走ってるはずなのに追い越せる気がしないってどういうこっちゃ!?
くそっ、元男の意地と性欲で何とかデッドヒートに持ち込めてるもののオパーイなんぞ拝める気がしねぇっ!!
ま、負けねーっ!!
…………。
ゴールテープの感触。
僅差、ホントにギリギリだった。ほんの数センチ。他の女子なんか遥か後ろをまだ走ってるのに……。委員長、ホントに君は強敵だった……。
こんな爽やかな気持ちは久方振りだ。俺は委員長を称えようと握手を求めた。
「強かったぜ、委員長……」
「そんなに私に見せつけたいの……っ!? 最っ低!!!」
何故か委員長に泣かれた。走り去られた。何故だろう。訳も分からず俺も1位の旗を握りながら泣いた。
結局、同じオチでした。
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>>385>>387
Gj
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寝る前にえーもん読ませてもろたわ(*´Д`*)
二人ともGJ!
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〜青色通知3〜の続き(>>363から)
ウチの学校の裏門ってのは、俺ら1年の校舎からかなり遠い場所にある。どれくらい遠いかっつーと……だ。
―――階段を駆け下り、
1年の校舎である西棟から実習室と職員室のある中央棟へ抜けて、
昇降口にたどり着く。
まずここまでで半分だ。
更に、靴を履き替え、
運動部用の多目的球技コートを横切り、
更に放課後は陸上部しか使わない200メートルトラックのグラウンドを突っ切り、
その先にある古びた傾斜のキツい階段を37段ほど駆け下りる。
……要約、すっと、かなり、めんど、くせぇ、位置に、ある、わけだ……。
はぁ、はぁっ、心臓、いてぇ……。
「―――おそいっ!!」
初紀との待ち合わせ場所には、ビシッ! という効果音が付きそうな勢いで、俺に人差し指を突きつける女子が待っていた。
―――って、あれ?
「はぁっ、はぁっ……お前……初紀?」
そこに居た女子は、……初紀だった。まぁ、消去法で考えたらコイツ以外考えられないのだが……。
「……へへっ、どーだ?」
どこか楽しげに、クルッと一回転して見せる初紀。
その格好は昨日のものと、かなり違っていて初紀を普通の女の子と見間違えた原因がそれだ。
短く纏められたポニーテールに、薄手のパーカー、そして今まで気付かなかったキレイな脚が誇張されたスカートと黒いハイソックス。
なんつーか、その、……好みのタイプだ。
……くそっ、走ってきたせいか顔が熱い。
なんかこのまんまじゃ俺が照れてるみたいじゃねぇかっ!?
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―――って、何動揺してんだ……?
フツーにしてりゃいいじゃねーか。
いくら可愛いっつったって相手はあの初紀だぞ? なんで動揺しなきゃならねーんだよ……いい加減落ち着け心臓。
「はぁ。……んだよ、失恋でもしたのか―――うぉっと!?」
目の前を、まるで疾風のごとく掠めるローファの靴底。
その先に、自慢(かどうか知らんが)の美脚を高く上げる初紀の姿。
……縞……じゃなくてっ!!
コイツ、今マジで俺の横っ面を蹴り倒すつもりだったぞっ!?
女になったとはいえ空手有段者の蹴りは凶器だろ、キョーキ!!
「あ、あ、あ、あっぶねえじゃねーかっ!!?」
「―――減点」
憮然とした初紀の声。
「……は?」
「減点だ減点! いいか、陸。女の子の心ってのはお前が想像してる以上に傷つきやすいんだぞっ?! デリカシーが無いっ!」
……つい数週間前まで思う存分に男としての人生を謳歌してた奴が、女心を語ってる事にツッコミを入れたい。
それに、その減点法にもだ。
が、アイツの蹴りを二度かわす自信は正直無いので黙っておこう。
代わりに、当然の疑問符で返してみる。
「じゃあ、こういう場合は何て言えば良いんだよ?」
「そりゃ……その、うん……」
……何でそこで口ごもんだよ。
「〜〜〜っ! それくらい自分で考えろっ! 減点2っ!!」
蹴りこそ飛んでこなかったものの、返ってきたのは、よくわからない感情の高ぶりを伴った初紀の八つ当たりだった。
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多分次からは初紀視点になると思います。思うだけでなーんも構想なんぞ浮かんでません。行き当たりばったりでごめんなさい。
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wktk
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〜青色通知3.1(初紀の場合)〜
初めに言い訳をさせてくれ。
喧嘩に明け暮れて、異性との交遊を蔑ろにしてたコイツだから、ある程度は予想出来てたんだ。だからこその『予行』だし。
―――でもそれは、あくまで"ある程度"の話であって。
「はぁ……減点18点目」
「またか!? 何がダメなんだよっ!!?」
「女の子と食事するのにカウンター席しか無い牛丼屋を迷わず入ろうとするか普通っ!?
……はぁ」
……どうしよう。今日、陸と待ち合わせてから溜め息ばっかりだ、俺。
女になっちまった俺より、言い方を選べば"硬派な"、身も蓋もなく言えば"異性交遊の経験値が少ない"不良崩れにデリカシーを求めるのは、そりゃ……酷ってもんだけどさ。
けど、この喧嘩バカのセンスのなさとニブさと言ったら……。はぁ、……泣きたい。
―――好きな子とのデートの臨場感を出すために、わざわざ髪を切ったり、クラスの子達に頭下げて、女の子らしい流行りの服を借りたり、恥を忍んでスカートの丈を少しあげたり……。
なのに、このバカ、開口一番が言うに事欠いて『失恋したか?』だぞ?
もっと何か言うことあるだろ?! ……はぁ……。
……"予行デートしよう"って突拍子もないことを持ち掛けたのは、確かに俺だし、隣で"?"マークを無数に浮かべてるコイツの鈍感さは、今に始まったことじゃないけどさ……。
でも、この現状になーんかモヤモヤしてる俺がいる。なんでかは、わかんないけどさ……。
「んじゃ、あそこじゃダメか?」
「えっ? あぁ……うん」
俺が思い悩んでいる間に、陸は陸で無い知恵を絞って考えていたのだろう。
コイツが指差した先には、チェーン経営の喫茶店の看板。……まぁ、及第点ってトコかな。
普通の人の及第点だから、コイツにとっては、かなりの進歩と受け取るべきかも。だから、皮肉を込めて精一杯に笑って言ってやる。
「"ひーちゃん"にしては、頑張った方じゃん?」
「っ! ひーちゃん言うなっ!! 小学生かよ!?」
お、赤くなった、赤くなった。
「〜〜〜っ! ほら行くぞっ!!」
照れ隠しなのか、顔を背けたまま陸は俺の左手を掴んできた。
「あ………」
―――少し前まで軽く去なしてた喧嘩友達のゴツゴツした右手の感触に、何故か少し顔が熱くなってた。
……なんでかは、わかんないけどさ。
-
「二名様ですね、こちらへどうぞ」
とりあえず二人とも制服ってコトで有無を言わさず禁煙席に通された。
別に俺も陸も煙草なんて吸わないから構わないんだけどさ……。
……なんて言うか、店員さんの陸を見る目が気に入らなかった。
如何にも"コイツは煙草を吸うだろう"っていう……眉をしかめた態度が。
我慢できずに、俺は立ち去りかけたその店員さんの背中に言葉を投げかけようとした。
「ちょっと―――!」
「―――やめろバカ」
店員さんに文句の一つでも言ってやりたかったのに、それを遮ったのは他の誰でもない、陸だった。
「なんでだよっ!?」
"そういう目"で見られてるのは自分だってのに、どうしてそんな落ち着いていられるんだよ?!
「他人が俺をどう見ようが別にどうでもいいじゃねーか」
「よくないっ!」
陸がそういうふざけた奴じゃないってことは、俺がよく知ってる!
素直じゃないし、鈍感だし、口は悪いし、その口よりも手が先に出るけど……真正面から悩みとぶつかって、逃げずに考えてる。
不器用だけど、根っこは真っ直ぐな奴だって俺は知ってる!
だから―――
「―――しつけーんだよ……バカ」
「えっ……?」
いきなりの罵倒に目を白黒させてたであろう俺を見ながら陸は言葉を続ける。
「……そりゃ、少しは俺もムカついたけどよ」
「じゃ、どうして―――?」
普段なら、そんな状況に出くわせば文句だけじゃ済まさない陸が、俺よりも先に、簡単に引き下がるなんて。
不思議でしょうがなかった。その理由が知りたくてしょうがなかった。
「………」
でも、陸はなかなか口を開こうとしない。……なんだか俺一人でヒートアップしてたことを陸にバカにされてる気さえしてくる―――そんな失礼なことを俺が本気で考えかけた、その時だった。
「……なんつーか……その……。
俺をわかってくれてる奴が居てくれんなら、それでいいかって……」
「え……?」
「―――だからっ!! 俺のために怒ろうとしてくれる奴が居てくれんなら、それでいいかって思ったんだよっ!
悪りぃかよっ!?」
そう言って、バツが悪そうにそっぽを向く陸。
「……うぅん。そんなわけあるか」
―――俺、多分ニヤけてたと思う。その陸の不器用だけど真っ直ぐな言葉がなんだか無性に嬉しくて。……その頬が赤く染まった横顔が、男だった俺から見ても見惚れそうなくらいに、カッコ良くて。
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「〜〜何笑ってんだよっ!?」
バカにされてるって思ったんだろうか、陸は拳を構えながら俺を精一杯睨みつけていた。……ったく、陸はそれさえなければなぁ。顔だって悪くないし、女の子だって寄ってくるのに。
「悪い悪い、だからその握り拳はヤメナサイ。物騒だから」
「……ったく」
とりあえず俺が頭を下げて、この場を諌める。うん、これがいつもの感じだ。
………ん?
でも、それはいつもの俺と陸の関係であって、女の子とデートする時にこれはマズいんじゃないか?
「……なぁ、陸。デートする時もこんな感じじゃ十中八九嫌われるぞ?
もーちょっとこう、ソフトな感じに接することは出来ないのかよ?」
「んな事言ってもよ……」
鼻頭を掻きながら、言葉を濁す陸。
なんだなんだ。これは"予行"な訳だから、本腰入れないと困るのは自分だぞ?
そりゃ……元男とじゃ不満かもしれないけどさ。
「……やっぱ俺じゃ不満か?」
「そういう訳じゃっ……ねぇけどよ」
意外だった。口の悪い陸のことだ。てっきり"当たり前だボケ"くらいの罵声が返ってくると思ったんだが。
「じゃあ、なんだよ?」
「……言葉」
陸から返ってきたのは、日常の喧騒の中では消え入りそうなくらい小さな声。
「は? 単語だけじゃ意味が全く分からんぞ。どういうこっちゃ?」
「……お前の言葉遣いが男のまんまだから、どう接して良いかわかんねーんだよっ」
……悩んだ末の決死の告白。とでも表現すればいいのかコレ? それくらいに陸は大真面目なのだが、内容が伴っていなくて俺はキョトンとしてしまう。
「……細かいなーお前。予行なんだから俺だったとしても女の子として扱わなきゃ意味ないだろ―――」
「―――そうじゃねぇんだよっ、予行だけの話じゃなくてっ!」
まだ、かなりシリアスな空気が陸の周りに漂っている。というか、俺もシリアスになるべきなのか?
とりあえず、ここは陸の言葉を待った方がいいかもしれないな。
「……お前、女になってから何も気にしてねぇみたいに振る舞ってっけどさ。
そんな筈ねぇだろーが……」
「っ」
……いきなり、だな。随分と。
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とりあえずここまで。寝起きの頭で書いてるから構成おかしいかもです。もともとがおかしいかもです。
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普段のアイツから想像もつかない程に思い詰めた陸の表情。……大多数の他人から発せられる喋り声が沈黙を埋めていく。
気付くと俺は口を噤んでた。
……もしかして、陸は何を考えてるかって―――全部知った上で俺に質問を投げかけてるのか?
「な、なんだよ。似合わない顔して、俺の何を知ってるって言うんだよ―――」
「―――知ってんだよ」
せき止められた言葉に、跳ね上がる心音。
「……それくらい分かるんだよ。俺にだって」
バカ言うなっ! いつも、いつまでも、どこまでも鈍感な陸に、俺の気持ちが分かってたまるかっ!
「お前、さ―――」
―――やめろっ!! 言うなっ!!!
口は動くし、声も出る。なのに俺のカラダはそれを拒絶する。
………本当はわかってる。
陸の言葉を遮らないのは、他の誰でもない、俺自身なんだって。
だから、こうして怯えた振りで淡い機体を隠してるんだって。
……それを自覚して、理性がそれを止めようとした時には―――。
―――もう、陸が言葉を放った後だった。
「―――まだ、決めかねてるんだろ?」
「…………。へ?」
重々しく放たれた言葉と、間抜けに上擦った裏声。
「俺だって、"青色通知"を受けた身だ。それくらい想像出来んだよ。
……けどお前は俺と違う。
何の前触れもなく女になっちまった。
だからって、"ハイそうですか"なんて自分の生き方を急に変えられる器用な奴なんかそうそう居ねぇ。
だから、お前は……そんなに宙ぶらりんな状態なんだろ?」
……やっぱ、陸は陸だった。何もわかっちゃいない、いつもの鈍感な奴だった。
……はぁ。なんなんだろ。
ホッとしたような……肩透かしを喰らったような……。
でも、あながち間違ってはいないな。
俺が"どうすればいいのか決めかねてる"っていうのは本当のことだし。
……ま、陸にしては良い推論だったよ、うん。
……俺は力無く首を縦に振ることにした。
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「……そうだよ。ごめんな? なんか陸のこと……戸惑わせちまったみたいで」
半ば、芝居をしている気分にさせられた。
演じる相手は一人だけど、多分、主演女優賞くらい貰ってもバチは当たらないと思う。……それくらいのリアリティがある名演技だ。
「……しょうがねぇよ」
どこか、誇らしげに笑う陸。
……くそっ、蹴り倒したい衝動に駆られたけど、ガマン、ガマンだぞ、俺……!
―――ひとしきり笑ってから、陸は憔悴したような表情を浮かべた。
「―――だからさ、ぶっちゃけた話……俺、お前に恨まれてるんじゃねーかって思ってる」
「……はいっ?」
再びの重々しく放たれた言葉と、間抜けに上擦った裏声。
……ちょっと待て、なんでそんな話になるんだ?
何が"だから"なんだよ?!
確かに俺達、男同士だった時は殴り合いの喧嘩ばっかしてたけど。俺は陸のことを恨んだ試しなんか一度も無いぞ……?
……いや、考えても仕方ないのかも。
目の前でしょんぼりしてる―――鈍感で天然な不良崩れと、今やクラスメイトに可憐な美少女と持て囃される―――俺とは、決定的に思考回路が違っているみたいだし……。
「……ま、なんでそんなバカな考えに至ったのか聞こうか、陸くん?」
「んだよ?! バカって!!?」
―――自分の胸に聞いて欲しいな、おねーさんとしては。
……とは口が裂けても言えないわけで。
「まぁまぁ。とりあえず先に言っておくと、陸を恨むなんて思いつきもしなかったよ。
……で? どうして恨まれてるなんて被害妄想に発展したんだ?」
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恨んでないと俺が言ったものの、陸は言葉に出すことを躊躇してるようだった。
……これを口にすれば、もしかしたら寝た子を起こす結果になるかもしれないとか、多分、そんなとこを考えてるんだろうな。
……何だか笑ってしまう。
バカだなぁ、相変わらずって。
たまに喧嘩はするけどさ……たとえどんな理由であれ、俺がお前を嫌いになんかなってやるもんか。
……でも、アイツはまだ不毛な一人相撲を続けてる。その男のくせに煮え切らない態度にちょっとだけイラッてしたから―――
「言わないと逆に恨むぞ?」
―――って少し首を傾げながら女の子っぽく言ってやる。
それで漸く覚悟を決めたらしい。おずおずと、陸は口を開いた。
「……さっきも言ったけどよ。お前は何の前触れもなく女になっちまったじゃねーか」
首肯。
どうやら俺のような例は稀だとか。
こういう突発的な発症例のパーセンテージは、コンマを下回る程度らしい。
でもまぁ、日本の人口に換算すれば宝くじでも4等くらいしか当たらない、それくらいの確率だしな。
たまたまそれに俺が該当しちまったってだけで。
「でも、俺はこうして国から"青色通知"が来て……変な意地を張らなきゃ、なんの心配もなく―――男でいられる」
「………」
「……だから! 単なるワガママで"権利"を蹴ってる俺を……恨んでんじゃねーかって、そう、……思ったんだよ」
段々と尻すぼみになってく陸の言葉。
「……そっか」
「……これでも恨んでねぇって言えるのかよ……っ?!」
「ばーかっ」
俺は心の底から出た本音を親友にぶつけてやる。
「んなっ!? バカはねぇだろっ!! 人が本気で悩んでたのに―――」
「―――ばーかばーかっ」
「てめ……っ! 人をおちょくるのもいい加減に―――!!」
「―――おちょくってんのどっちだよ?」
今度は、こっちが陸の言葉を遮ってやる番だ。どうやら、陸も俺の雰囲気の違いに気付いたらしく、口を噤む。
「あのな、陸。もしお前が、何の考えもなしに国から派遣された女の子を抱いたり、自棄になって女になったりしたら……俺はお前を軽蔑した。
でも、違うだろ? お前は、お前の状況を鑑みて、真剣に悩んで、考え抜いた挙げ句に決めたんだろ?
……違うか?」
……陸は静かに首を横に振る。
-
「お前の決心を、俺は知ってる。だからこうして協力してるんだろ? じゃなかったら、俺は……………とっくに愛想を尽かしてるっての!」
一瞬言葉に詰まった。……危ない危ない、変なこと口走りそうになった。
―――お前のことを……だぁぁあっ! 考えるのヤメだヤメっ!!
「……とにかくっ! 俺はお前をそんな理由で逆恨みしないし、愛想を尽かしたりもしないってことだよ。
……見損なうなよ、陸」
唯一、俺が陸に対して腹が立ったのは、俺をそういう風に見てたこと。それさえわかって貰えれば、何も言うことはない。
「……あぁ。お前を疑ったりして……ホント悪かったっ」
「よし!」
……ん?
短い文字数の言葉を言い切ってから、ふと、ある疑問が浮かんだ。
「……なぁ、そういえば陸ってさ、俺が女になってから、俺を名前呼ばなくなったよな?
もしかして……気を遣ってくれてたのか?
……俺が、"答え"を出すまでって」
陸の中で、俺は"自分がどうあるべきか決めかねてる"状態だと思われていた。
「あ……その、……悪りぃ」
だから、不器用な陸は、俺を名が変わる前の"はつのり"とも、名が変わった後の"はつき"とも呼べなかった。
だから、不器用な陸は、ずーっと俺を"お前"っていう二人称で呼び続けたのだろう。
だから、不器用な陸は、どう接して良いかわからなくなった。
……でも、それは俺の狡っこい考えが招いた結果だ。
―――陸が、なんて呼んでくれるかで生き方を決めようって、狡いことを考えるから。
決して、陸が謝るような事じゃない。
「……なぁ、"お前"は…?どっちでもいいって言ってたけどさ。
俺……"お前"のこと、なんて呼べばいいんだ?」
陸だって、考えて、悩んで決心したんだ。
……じゃあ俺だって。
……ううん、違う。
「"私"のことは"はつき"って呼んで欲しい。
"御堂 初紀(みどう はつき)"」
―――案の定、目を丸くした陸の姿に思わず吹き出してしまった。
〜青色通知3〜
完
-
書いてる最中に何度死にたくなったかわからない所で青色通知3はおしまいです。
次くらいから陸の好きな人が出てきます。……多分。
-
乙
罪な男だねえ
-
>>403
陸も初紀もオイラからしたら大罪人です。
-
続きwktk
-
〜青色通知4(初紀の場合)〜
陸は、胸のつかえが取れたのか晴れやかな顔でショコラ・ラテとレアチーズケーキ(恐ろしく食べ合わせが悪い気がするのは気のせいか?)をものの数十秒で平らげ、
"仕事に行く"と新札の二千円をテーブルに置き、晴れやか顔で出て行った。
その去り際に―――
「じゃあな、"初紀"」
―――だってさ。
勿論、男だった時の名前じゃなくて。
……どうやら、"私"の変化もキチンと受け入れてくれたみたいで嬉しくて。もう一度、喧騒の中で、小さく自分の名前を口にしてみる。
「みどう……はつき」
今まで、こんなに自分の名前が愛おしく感じたことなんて一度もなかったけど……こうして、ゆっくりと口に出してみると照れくさい中に……確かに嬉しさが混じっていることを再認識した。
……あ、ちなみに陸が言ってる"仕事"っていうのはガソリンスタンドのアルバイトのこと。
話だけでしか聞いたことないけど、"バイト"と言わないのは陸のポリシーらしい。
責任感を軽くするみたいな言葉で逃げたくないってことか?
まぁ何にせよ、悪ぶってはいるものの、陸は生真面目な良い奴だ。うん。
そんな奴と親友で居られるなんて、私は幸せ者だ。
……それ以上は望まないことにしよう。
アイツは"俺"から"私"になった"初紀"を受け入れてくれたんだから。
今はただ、アイツが最も幸せな形で男で居られることを祈ろう。
……それ以上は、考えちゃダメなんだ。
-
せっかく好きになれそうな私と私の名前を、嫌いになってしまいそうだから。
「……ぐすっ」
……花粉症か? 最近はやたら鼻の奥がツンとしたり、目が赤くなることが多くて困る。別に泣いてるわけでもないのに。
……泣いてないっての。
「……ふぅ」
とりあえず、ラ・フランスのタルトとカプチーノを美味しく頂戴してから、千円札と小銭で会計を済ませ外に出る。
……しばらくアイツの置いていった2千円は財布の中に取っておこう。
「さて、と」
外の空気を吸いながら大きく伸びを一つ。
帰るかな。
ここら辺は歓楽街だから、ゲーセンやカラオケといった娯楽施設から大人なお店や宿泊施設まで何でもござれだけど、一人じゃ何もすることないし。
…………あ。
今更気付いたけど、陸とプリクラくらい撮れば良かったかな。
予行とは言えさ、ほら、その……デートなんだしさ?
………ま、陸のあの鈍感っぷりじゃなぁ。
私の査定が、減点20の大台に乗る危険もあったわけだし。……だからって何かしらのデメリットがあるわけじゃないけど。
……ま、いっか。帰ろ帰ろ。
―――さて。
ここからウチに帰るとなると、大人な宿泊施設の通りを突っ切った方が近いんだけど……なんかヤなんだよなぁ。
まぁ、女になったとは言え、これでも空手有段者だから身の危険は感じないけど、そうだとしても気が引ける。
……以前のこと思い出すから。
うぅん、過去のことを引き摺っててどうするんだオ……じゃなかった私!
さぁ、とっとと真っ直ぐ帰ろう!
-
「………………ぇ?」
踵を返した、その刹那に私は思わず声を漏らしていた。
―――虫の報せってホントにあるもんなんだ……。
ヤな予感っていうか……なんか、こう、……そういう口じゃ表現出来ないような、ぞわぞわした感覚。
多分、数分前の私が感じていたであろうそれは、現実のものとなって目の前に具現化した。
―――もし髪を結うとしたら、今の私と同じ―――短めのポニーテールが凄く似合いそうな……可愛らしい女の子。
そして、その後をおずおずとついていく、冴えない外見の若い男。
制服は着てなかったけど、恐らく間違いない。
……坂城 るい。
陸が、想いを寄せる同学年、他クラスの女の子だ。
道の途中ですれ違う程度ならば、ぞわぞわなんてしなかった。
けど、そうじゃない。
坂城さんと若い男は……派手な外装の宿泊施設、要は……ラブホに姿を消した。
―――気がつくと、私は電柱の影に隠れて息を殺していた。
……見た、見ちゃった、見てしまった!
思わず電柱に寄りかかりながら、その場にへたり込む。情けないことに足腰が立たなくってた。
……あの純粋そうな坂城さんが、誰とも分からない男と……ラブホに入っていく瞬間を、はっきりくっきりと!!
……髪は下ろしてたけど、間違いない。あんなに可愛い娘はそんじょそこらでお目に掛かれるようなものじゃないし……右目の目尻に、坂城の特徴である涙黒子があったのも見えてしまったっ!
―――ど、どどど、とうしよう……。
-
「はぁ……はっ、っはぁ……っ!」
心臓が、バクバクと私の中で騒音を掻き鳴らす。
陸の前で高鳴った時と、同じ場所が鳴らしているとは思えない―――無粋で乱暴な音。
そのダイレクトな振動が、嫌で、気持ち悪くて、必死で呼吸を整える……。
「ふー……っ、っふぅ……」
漸く、心音が大人しくなったと思ったら、今度はじんわりと汗がまとわりついてた。
ったくもぉ……帰ったら風呂に直行だな、これは。
……って、そんなことより!
―――あれは、確かに坂城さんだった。
髪型は確かに違ってたけど、双子の姉妹が居るとかなんて聞いたことないし……。だとしたら、あの子は……やっぱり―――?
私の中で上手く思考がまとまらない。
もし、本当に坂城さんなら、どうしてあんな所に入っていったのだろう……?
恋人だから? うぅん、多分それは違うと思う。
なんて言うか、あの二人にそういう感情が見えてこなかった。
じゃあ、何のために……?
勿論、高校生ともなれば、あーいう所で……その、……どんなコトするかなんて、みんな暗黙の了解で知っている。
まさか、あんな所で優雅にティータイムってことはまずないだろうし……。
もしかしたら、他人の空似ってのかもしれない。でも、もし、万が一……本当に坂城さんだったとしたら……?
……ふと、陸の顔がチラつく。
―――よし、帰りは遅くなるけど、少し張り込もう……っ!!
そうと決まったらコンビニに直行だ!
え……何でかって?
アンパンと牛乳は、張り込みの基本じゃなかったっけ?
……あれ、違うの?
-
今んとこ書いたのここまでです。
毎回、この投下後の"やっちまった感"との戦いが一番ツラいです。
-
最後和んだw
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〜青色通知4.1(陸の場合)〜
「―――じゃ、お疲れッス」
「おう、お疲れぃ。気ぃつけて帰れよ〜?」
ガソリンの匂いが染み付いた店員の制服をハンガーに掛けて、先輩形に挨拶して仕事場を後にする。
すっかり暗くなった国道沿いの歩道を歩きながら、ふと思う。
そうだ、そういや初紀との――……"予行"で忘れてたけど、今日って発売日じゃん、まじめの一歩の、単行本の。
カモン、俺の財務省。
………………はぁ。
……ここ最近の外交経費が嵩んだせいか財政難だってよ。
ゆうちょの口座から幾らか降ろそうかとも思ったが、そーいうことしてたら際限がなくなりそうだしなぁ。
……立ち読みだな、こりゃ。
適当に入ったコンビニの文庫本コーナーを物色する。
……ない。
くそっ、売り切れかよっ!?
……ん?
『一通の青い封書が語る、女体化症候群を取り巻く実態が今明らかになる!』
代わりに、そのコーナーに大量に積まれた文庫本の帯の文字が目に入った。その下に小さなフォントで―――
『この国が生み出した歪み。次の被害者は、あなたかもしれない。』
―――とか何とか書かれていた。
なんだ、この煽りの文章は。仕事先に置いてある東スポとか週刊誌かよ?
……普段なら気にも留めないが、今の現状が現状のせいか……その本に手が伸びる。
えーとタイトルは……
『――の――』
読めない。唯一読めたのは平仮名だけ。
……悪かったな、ゆとりで。
誰ともつかず毒づきながら本を開く。目次を指でなぞりながら各章のタイトルを追っていく。
・第一章 【女体化症候群について】P4
・第二章 【性別選択権】P11
・第三章 【青色通知】P25
・第四章 【性別選択権に於けるあれこれ】P36
・第五章 【通知受取人と選択権給付】P51
―――通知受取人? 選択権給付?
どっちも初めて見る言葉だな。
最近、女体化症候群についてあれこれ調べていたつもりだったけど、こんな言葉は微塵も聞いたことがない。
P51、P51……と、あったあった。
-
『前章で紹介した通り、女体化のボーダーラインである"15〜6歳の性交渉未経験の男子"には、希望すれば性交渉を行う"相手"を国から用意してもらえる。
これがいわゆる、"通知受取人"というものである。』
―――"通知受取人"っていう凄ぇお役所仕事的な名前が付いてんのに、やってることは……ヤることかよ。
……そう思いながらページを捲る。
『この"通知受取人"という名称の由来は、その性別選択権のシステムそのものにある。
性別選択権該当者が、選択権を行使する際―――つまり"性交渉後"、証拠として性別選択権該当者の通知の一部を受け取るというもの。
その通知の一部を役所に持っていくと、通知受取人に"選択権給付"として一定の金額が手渡しされる算段だ。』
要は風俗と同じじゃねぇか……ま、タダで見ず知らずの野郎とヤるなんて誰だって嫌だろうからな。
……俺なら金積まれても願い下げだが。
更にページを捲る。
『この一連のシステムはここ数年で確実な成果を挙げており、世論も黙認し始めたのだが、未だに幾つかの問題がある。
1点目、通知受取人は"18歳以上、健康状態に問題がない女性"に限られるが、年齢に関しての事実確認はほぼ行われていないこと。
これは"性交渉"というデリケートな問題が絡む故の、社会的信用を考慮した結果である(但し、匿名での定期的な健康・性病診断は義務付けられているので、感染についての問題は無いとされている)。
2点目、"通知受取人"を騙った性別選択権行使者に対する詐欺、若しくは仲介業者を騙った女性への詐欺が横行していること。
まだまだ世の中に定着しきっていないこのシステムの穴を突いた卑劣な詐欺の被害が後を絶たないのが現状だ――――』
………何か気分が悪くなってきた。
本を閉じてコンビニを後にする。
―――ま、俺には関係ないことだしな………男で居られよう居られまいと。
―――陸の誕生日まで、あと5日。
〜青色通知4〜
完
-
〜青色通知5(陸の場合)〜
翌日。
初紀は、学校を欠席していた。や、欠席っていうのは正確な言い方じゃねぇけどよ。
アイツのクラスの奴を問い詰めたら、学校に来てない、連絡も寄越さないっつー話だし……釈然としなかった。
元々、(主に俺との)喧嘩に明け暮れていたから……先公から見れば、素行が良い生徒とは言えなかっただろうけど。
でも、理由なくズル休みするようなヤツじゃないって事は先公達よりはわかっているつもりだ。
だから、釈然としない。
―――くそっ、会ったら、昨日読んだ暴露本のこととか話したり、作戦の次の段取りを決めようとか思ってたのに。
……ふと、ここで考えが止まる。
「何で俺、……初紀のことばっか考えてんだ」
理由が口から漏れ出してた。昼休みの屋上で。
鍵は掛けてるので聞き耳を立てるヤツなんざ誰も居ない。居たらぶっ飛ばすだけだ。
なのに周囲を気にするってのは、俺は要するにかなりのビビりだったっつーことか。ははははは………
………はぁ。
………情けね。
-
俺は、坂城が好きだった。いや、今でもその気持ちに嘘はねぇ筈だ。
でも、いつもならこの屋上から遠まきに眺めていた坂城の姿を……今は探す努力すらしてない。
女々しく真横に視線を落とし、溜め息ばかりつく。
……この堕落した俺は一体誰なんだ?!
…………。
………。
……。
…いや。俺、か。
「んだよ、らしくねーなぁ陸!」
不意に、辿々しくて甲高い声がした。
その声の主の名前を呼ぼうとして振り向いて―――
「初―――」
―――"き"の口形で、俺の声は止まった。
初紀によく似た髪型。けど、初紀じゃない。
「あれ、似てなかった?」
一瞬本当に間違えそうなほどに背格好は似ていた。
口調が、そんなに辿々しくなければ。
それがなけりゃ、遠目から別人だって気付かなかっただろうな……。
短く纏め上げられたポニーテールと、少しだけ裾上げされたスカートが、常に雲の流れに沿って吹く風に靡いていて、いつスカートが捲れてもおかしくない。
それが目的で凝視していると思われたくなくて思わず背を向ける。
……"そいつ"の名前を呼びながら。
「―――坂城……だったっけか?」
我ながらすげぇ白々しい。
多分、赤の他人の中では最も知っている自信があるってのに。
……何かストーカーみたいで凹む。
「ありゃ。私のこと知ってた?」
知ってるも何もねぇだろ。とは口が裂けても言えるわけもなく。
「人相覚えは得意なんだよ」
とか何とか適当にあしらってコンビニで売ってる安い1Lパックの緑茶をストローで、ずずーっ、と啜る。
「へぇ〜……刑事さん向きだねっ、将来はエリート官僚?」
ぶーーっ!!
濁点付きの霧散音が屋上に響き渡る。
-
「うわわっ、虹が出たっ!?」
「けほ、げほっ、たまたま茶ぁ吹き出しただけだっての!」
「もっかいもっかいっ! 虹出してにじっ!」
「できねえよ!! つーか人相覚えってバリバリ現場向けの仕事じゃねーかよ、あぁっ!!?」
……あ、やべぇ。
つい初紀とのノリで喋ってた。普通の女の子じゃビビっちまうじゃねぇか俺のバカッ!
悪い坂城、怖がらせるつもりは―――。
「とりあえず前田くん! わんもあ!」
―――全く怖がってなかった。
つーか俺は大道芸人か悪役レスラーかっつの!?
………って、今何つって――?
「坂城、……俺の名前、知ってんのか?」
淡い期待―――
「ううん。さっきまで、知らなかった。興味なかったし」
―――は、あっさり根こそぎ打ち砕かれた。
「……あ、そ…。」
さっきまで虹だ何だってはしゃいでた癖に、キョトンとした顔で、グサリと来るコト言いますね……アンタ。
……そんな俺の心境を知ってか知らずか、坂城は思い出すように人差し指を唇にちょこんと当てながら、口を開く。
「えとね、御堂さんがね、"前田くんって不良さんとお話ししてきてもらえないかな"って」
「はつの―――初紀がか?!」
あいつ、いつの間にか学校に来てやがったのか!?
「へぇ、下の名前は"はつき"ちゃんかぁ。可愛い名前だねっ」
……そんなこたぁ今はどうでもいい。
「アイツ、今何処に行るんだ?」
「……さぁ。なんか気分悪そうにしてたから早退したんじゃないのかなぁ?」
再び人差し指で触れながらの返答。
―――初紀……無茶しやがって。
……そんでもって。
―――俺にも無茶させやがって。
-
今、坂城から豆電球の点灯音が聞こえた。訳知りのニコニコ顔でこちらを見ている。
「ひょっとしてさ……前田くん」
開口一番の坂城の浮かれた声……マズい、本人に感づかれたか?
「な、なんだよ」
と、とにかく茶でもって啜って一端落ち着け俺。茶にはポリフェノールとかいうのがあるらしいからなっ。
ずずーっ、と残り少ない緑茶を一気に啜る。
「"はつき"ちゃんと、デキてるでしょ?」
ぶーーっ!!
濁点付きの霧散音、再び。
「わわっ、また前田くんから虹がっ!」
「けほっ、げほっ! どこをどう見たらそんな結論が出るんだよ?!!」
「今度からレインボー前田くんって呼ぼうかなぁ」
「人の話を聞けぇいッ!!」
「聞いてるって、ちゃんとレインボー前田くんって呼ぶからさっ」
「論点そこじゃねーよっ!!」
「そうだねっ、ちょっと名前長いよね。じゃあ【虹 前田】くんって呼ぶからねっ」
「だから論点そこじゃねーっつのっ! つーかなんだよっ、その続けて言ったら、ちょっと小腹が減る時間帯みたいなネーミングは!!?」
「ん〜。わかりにくいし、おもしろくなぁい」
「レインボー前田のがよっぽど面白くねーよっ!!! つーか何なんだよ、その無ッ茶苦茶弱そうなレスラーのリングネームみたいなのはっ!!!?」
「あ、そっちのが面白いかもっ!」
……ダメだ、会話になる気がしねぇ。でも、何故か苛立ちはなかった。
はぁ、これも惚れた弱みってことなんかなぁ……。
-
「ま、冗談はさておき。デキちゃってるわけですねっ、結論としては」
……そして、惚れた相手は俺と初紀の関係性について壮大な勘違いをしてるらしい。頭が痛くなってきた。
「……そもそも、何で初紀と俺がそんなカンケーだと思うんだよ?」
「え……だって前田くんと"はつき"ちゃんってさ、最近いっつも一緒に居るじゃない、ここで」
それは、初紀が"元男"だと知っていて言っているのだろうか? いや、知らないからこそそんな勘違いが出来るのかもしれないな……。
「……違うの?」
「っ」
……不安げに坂城が俺の顔を覗き込んできた。反射的に顔を背けることしか出来ない自分のヘタレ具合に嫌気が差す。
「……違う、の……?」
同じ質問が投げかけられる。
……そりゃあ、事実を話して憶測を否定することは簡単なことだ。でも、それは初紀のコトを洗いざらいブチまけることになる。
……でもそれって、許されることなのか?
ダチの隠しておきたい事実を、てめー本位の勝手な理由で、本人の知らないところで暴露して、それがマジで許されることなのか?
いや、んなコト……たとえ初紀が許しても、俺が俺を許せねぇ。
「初紀とは、その……男と女の関係じゃねぇよ。腐れ縁みてーなもんだ」
「ふぅん、じゃあ片想いだねっ」
「………はぁ? 俺がか?」
「ん〜6割方、"はつき"ちゃんかな」
残りの4割は俺だって言いたいのか。ほぼ両想いじゃねぇかそれ。つーか俺にはそんな気はねぇぞ? ……多分。
「どーしても俺と初紀をカップルに仕立て上げてぇのか?」
「客観的事実を率直に述べてるだけのつもりだけどなぁ」
「ありえないね、冗談も大概にしやがれってんだ」
……やれやれ、どんな色眼鏡でモノを見ればそんな客観的事実に行き着けるんだが。
-
「―――そんなんじゃ、逃がした魚の大きさを後悔する羽目になるよ、きっと」
これまでの脳天気な坂城の声のトーンが急に下がって、俺は目を丸くしながら彼女を見た。
その顔は、まるで、自分の過去の汚点を振り返りでもするような、苦々しいもので―――それまで俺が遠目から見ていた時には、決して見つけることが出来なかった顔だった。
……触れてしまうだけで、粉々になっちまいそうな、そんな坂城の沈んだ顔が凄い印象的で。
「坂城……?」
「―――っ、あ、ごめんごめん! なんかボーッとしちゃってたっ、……で、なんだっけ? あはっ、あははは……」
また、坂城の表情はいつもの明るいものに戻ってた。
いや、戻ってたってのとは違う。作り直したっつった方が的確かもしれない。
まるで、その明るい表情が自分を守る盾だと言わんばかりに。
「坂城……」
「な、なぁに、前田くんっ、そんなカオして……」
「―――何か悩んでんなら、いつでも相談に乗るからな」
「ふぇ……っ?」
多分、坂城は予想もしてなかったのだろう。鳩が豆鉄砲を喰らったように目を白黒とさせている。
「なんつーか、俺……口下手だから愚痴を聞くくらいしか出来ねぇけどさ。
でも、一人で悩むよりは、ちったぁマシじゃねぇかって……勝手にそう思っただけだ」
らしくねぇコト言ってるのは俺でもわかる。けど、悩んでんなら力になってやりたかった。それが惚れた相手だって言うんなら尚更だ。
……自己満足にしか過ぎないのかもしんねぇけどな。
でも、坂城は―――
「……ありがと」
―――そんな俺をバカにすることなく、優しく笑いかけてくれた。
……それだけで、歯の浮くようなセリフを口にした甲斐があったってもんだ。
「……おう」
「じゃ、これからは友達だねっ、私達」
「お、おう」
友達か……。何か進展してるような、してねぇような……。
「――――――も、わからなくもないかな」
不意に吹く突風が坂城の言葉を遮って、後半部分しか聞き取れなかった。
「……なんか言ったか?」
「なんでもなぁい」
-
坂城は、完全にもとの明るい表情を浮かべていた。
何を言ってたかは気になったが、それ以上に坂城が元気を取り戻してくれたことに安堵する。
「そっか」
「―――前田くん」
「んぁ?」
「前田くんの下の名前ってなに?」
「ん、あぁ。"陸"って書いて"ひとし"だ」
「そっか、じゃあ"まっちゃん"て呼ぶことにしよっかな」
「それ下の名前聞いた意味ねぇだろっ?!」
「いや、フルネームが何となくお笑い芸人っぽいから、ね?」
「頼むから同意を求めるな……」
「わがままだなぁ、じゃあなんて呼べばいい? 友達なのに"前田くん"なんて他人行儀みたいでヤだよ?」
「……んじゃ、お笑い芸人やレスラーを連想させなきゃ何でもいいよ」
「ん〜……じゃ"ひーちゃん"」
「……なんで"ちゃん"なんだ?」
―――そして何で初紀と同じセンスなんだ?
「可愛いでしょ、小鳥っぽくて」
「それ、確実に半濁点が抜けてるよな……はぁ、まぁいいか。好きに呼んでくれ」
「うんっ。私のコトは"るい"でいいから。坂城って名字は……なんかゲームに出てくる悪の秘密結社の親玉みたいだし」
「確実にジムリーダーも兼任してそうだもんな」
「あはは、じめんタイプだねっ。じゃあ、今日はもう帰るね。色々話せて楽しかった。
また明日ね、"ひーちゃん"!」
「……あぁ、じゃな。"るい"」
坂城……"るい"は、明るく何度か手を振って屋上を後にした。
なんとなく、今日1日で進展したような気がしないでもない。そういう意味では、今日は顔を見せなかった初紀に……感謝するべきなのかもしれねぇな。
ただ、初紀の奴、体調が悪いとかなら多分ケータイにメールくらいはする筈なんだけどなぁ……。
―――結局、その日はメールにも電話にも初紀は反応を見せなかった。当然、初紀自身とも会えずじまいだった。
何故か、妙な不安感だけが胸に残ってた。
-
とりあえずここまで。間隔空いて申し訳ないです。
-
乙
パー速のスレが病んでるからそっちに投下してあげたほうがいいかも
-
>>422
見てきた。確かに病んでた。
つーかあの状況を打破出来る力がオイラにあるんかどーか不安です
-
〜青色通知5.1(初紀の場合)〜
―――夢、……そう、これは悪い夢だ。目が覚めたら、なんて気色の悪い夢を見たんだろうって、ストンと平らかな胸を見下ろして。
……なんつー夢を見たんだろう、って自己嫌悪と寒気を覚えて。
喧嘩友達に対する邪な想いは消えていて。
制服にゆるゆると袖を通しながら、"あぁ、またどうせアイツのことだから、まぁた殴り合いか"って思って。
一方的にあしらうだけだから殴り合いと呼んでいいもんかどうかなぁ、とかなんとか一人で笑って。
……日常が始まる。何でもない、でも、どっかが幸せな日常が。
………そう信じながら、目を覚ますんだ。
………私が、張り込みを続けてからどれくらい経っただろう。
時間を掛けて頬張ったあんパンも牛乳も全て平らげてしまって、電柱に寄りかかるだけの私は、どう見ても不審者だった。
通り過ぎる―――もしくは宿泊施設に入っていくカップルはみんな不思議そうにこっちを見て、目が合うとみんな夜の帳に姿を消していく。
そんなことを繰り返して数時間が経過した時だった。
「あれぇ、こんなとこで女の子一人ぃ?」
「ひょっとして欲求フマンで俺らに声掛けられんの待ってたとかぁ?」
下卑た笑い声が複数。……どう見ても陸とは違う部類の不良グループ。
っていうか、コイツらは……昔、成り行きで陸と一緒に潰したことのあるグループだ。
二度とこの界隈に顔出すなって言ったのに、なんでこんなトコに居るんだ?
「……御堂さんとの約束、破るつもりなの?」
あくまで御堂 初紀という男を知る一女子高生のフリをしてグループを問い詰める。
一瞬、奴らは動揺したような素振りは見せたけど、また下卑た笑いをこちらに向けた。
-
「あン? 御堂? お前、アイツの知り合いかよ?」
「別にアイツにビビっていつまでもヒッキーしてる俺達じゃねぇし」
「つーか最近アイツ姿見せねぇらしいじゃん?」
「なんか女になっちまったとかって噂もあるしなぁ」
「あーあ、だっせぇ奴だよなぁ〜今時、女体化症候群の発症なんてよぉ〜」
―――っ!
「別に苦労しなくたって国が男を保証してくれンし、それなりにいい女ともヤれんのに、フェミニスト気取りで女になってりゃダセェだけだっての!」
……私のことなんかどうでも良かった。
ただ、その"男"としての御堂初紀に向けられている言葉は、間接的に私の親友を酷く侮辱しているように聞こえた。
―――お前らに……何がわかる!? 一生懸命に悩んで、苦しんで、それでも自分を貫こうとしてる私の親友を……何の権利があってそこまで侮辱するんだよッ!!!
「あー、何? その面?」
「ひょっとして君、御堂に惚れてたとか? 残念だったなぁ。俺らがそこらへんで慰めてやるから元気出せって」
「元気なンのは基本俺らだけどなぁ?」
下卑た嘲笑。今すぐにでもこの下衆共を殴りかかりたい衝動に駆られた。けど―――。
『女になったテメェなんぞ相手にならねぇんだよ』
それを、陸の言葉が制した。あれは挑発でも何でもなく……事実だった。
試してもみた。真っ向からの力勝負じゃ陸相手に敵わなかったことを思い出す。
-
悔しかった。
女って、こんなに無力だったんだって。弱かったんだって。今更になって……それを実感する。
「んじゃ行こうか?」
「俺、口ね」
「あ、ずりぃぞ!!」
「俺ケツだ!」
私を連れ込んで輪姦する手筈を笑いながら話すコイツらは、元男の私から見ても十二分に汚らわしかった。
その、汚らわしい複数の野獣の手が私の身体に触れようとしている。……それだけで我慢出来なかった。
「〜〜〜触るなっ!!」
身体に伸ばされた手を振り払い、その中の一人の顎に上段蹴りを浴びせる!
「……ってぇーっ!!」
以前のコイツらなら、一発で失神するほどの威力だった筈なのに、今は顔を歪めるだけ。コイツらが鍛えたのか、或いは……私の蹴りの威力が落ちたのか。
恐らくは後者だろう。コイツらは群れて強さをアピールするタイプだから、鍛錬なんて面倒なことはしないはずだ。
……ショックだった。
「ナメやがって!!」
不意に、首筋に生暖かくて気持ち悪い手の感触。
次いで、襲い来る息苦しさと……地の感触を失う足。
「あ………ぅっ……」
苦し……い……。
いくら手足をバタつかせても、何の抵抗にもなりはしなかった。
…ぼやける視界。
……次第に遠のく意識。
………怖かった。助けて欲しかった。
だから、何度も名前を叫んでみる。たとえ口に出せなくても……。
(……陸………陸……ッ!)
視界が歪む、意識が………霞む。
-
「はーい、お兄さん方、そこまで〜」
―――不意に耳に飛び込んできたのは……陸の声じゃなかった。というよりは……そもそも男の声じゃない。
女の人だ。下手をしたら私と同い年くらいの子かもしれない。
「あぁ? アンタも仲間に入れて欲しいのかよ?」
「アンタも可愛いから喜んで混ぜてやんよ?」
威圧感を漂わせる下卑た笑い。
―――……ダメだよ、私でも敵わないんだ、普通の女の子じゃ……危ないよ……!
「残念だね、私、"仕事"以外じゃ結構奥手なんだ。それにお兄さん達、タイプじゃないし。
ていうか、鏡、ちゃんと見えてる?」
「んだとぉ!!?」
「ナメやがってぇっ!!」
「ぶっ殺してやるぁぁっ!!」
「その前にじっくり楽しませてくれよなぁ!? あぁっ!!?」
女の子の挑発にグループは予想通り激昂した。このままじゃ、本当に危ない……っ!!
「どうでも良いけどさ。
私、"通知受取人"なんだよね」
……ピタリと、男達の手足が固まり、そのおかげで私は漸く長い苦しみから脱出することが出来た。
「けほっ、けほっ!」
けれど、極度の酸欠のせいか、視界がボヤけたままだ。
って言うか、女の子は今なんて言ったんだろう……?
「わっかるかなぁ? 私に手を出したら、そこで見張ってる警官さん達が黙ってないんだよ? 公務執行妨害もついちゃうよぉ?」
……やけに浮かれた女の子の声。まるで、この状況を無邪気に楽しむかのような。
「んなハッタリ……通用すっかよ!?」
「……試してみる?」
何のことだかイマイチ分からないけど、耳から入ってくるグループの男達の声は明らかに動揺の色をはらんでいて。
比べて、女の子の声はとても冷静で、むしろ余裕すら感じられた。
-
―――そして、複数の遠ざかっていく足音。
……どうやら、助かった……みたい。
「……ふぅっ、まったくもぉ。警察も融通効かないっていうか。目の前で女の子がピンチなら助けなさいってのっ」
私ではない誰かに聞かせるような非難の声。それは、さっき言ってた"通知受取人"というものと関係してるのだろうか?
直ぐにでも問い質したかった。でも、今は何だか悔しさと安堵の方が勝っていて……。
「……っく、ひっく……ぐすっ」
私は情けないくらいにしゃくりを上げていた……。元男の威厳も何もあったもんじゃないな……ホントに。
「やわわっ!? 大丈夫だよぉ、おねーさんは二刀流でも逆刃刀でもないよぉ」
私を助けてくれた女の子は何を勘違いしたのか、お門違いな言動で私を宥める。それが、何だか可笑しくて。
「ぐすっ……ひっ、……くすくす……ひっく」
「……なんか今明らかに泣くとは違う何かが混ざってたよね?」
「ごっ、ごめん……なさい、なんだかっ、可笑しくなっちゃって……ふふっ」
「……救急車呼ぼうかっ、頭が大変になってますって」
「す、すみませんすみませんっ! ………あっ」
ホントに救急車を呼ばれかねないので、本気で謝ろうと顔を上げた時に、漸く視界が開けてきて。
私のことを助けてくれた女の子の顔も視認出来るまでになった。
……そこで私は思わず声を上げた。
「坂城……さん」
……私が真似て結った短めのポニーテールではないけれど、その可愛らしい姿と、目元の黒子。
その可愛らしい顔が一瞬で曇るのが、まだ霞がかった視界でも認識出来た。
-
「―――その制服だもんね、やっぱ気付いちゃうよね、うんっ」
坂城さんは、困ったような苦笑いを浮かべて。
……それすらも可愛らしく見えた。なのに、それを素直に羨めないのは何故だろう。
「ごめんなさい、助けてくれたのに」
「うぅん、私が勝手にしたことだし」
"勝手にしたこと"。
そう言って困ったように微笑む坂城さん。……この人は自分のしたことを"善意"と認めたくないのか……?
笑っていたのに、まるで、自分が他人のためにすることは全部偽善だって言いたげな、そんなことすら感じさせる寂しい目をしてた。
「えと、さ。立てる、かな。……このままじゃ、えと……君が恥ずかしいかも」
「え?」
顔を赤らめて気まずそうな坂城さんの言葉。その意味が分からず、私は首を傾げてしまう。
「その……見えてるし、さ。薄水色の……が」
不意に下に落とされる坂城さんの視点。そこには、気付かずに三角座りになってた私のスカートの………――――っ!!?
「わわっ、ごめんなさいっ!!」
慌てて立ち上がる。あぁ、なんつーはしたない……。
「あはは……か、可愛いの着けてるんだねぇ、う、うん、似合ってるよ」
なんかよく分からないフォローをされた。
女の子としての反応がよくわからないし、凄い恥ずかしいから……とりあえず俯いて黙るしかなかった。……とほほ。
自分のセンスで買ったわけじゃないから尚更恥ずかしい……。
-
「……あのさ。同い年だよね、きっと」
不意に核心を突く坂城さんの言葉に、心臓が高鳴る。私のコト、気付かれてた……?
「え……?」
「校章の色、赤だし。1年生だよね」
「あっ、う、うん……」
良かった。少なくとも陸のコトまでは気付かれてな―――。
「ん〜と、多分だけど、いっつも屋上で男の子と話してる子だよね」
―――くなかった。
「う、ん……」
「ふぅ〜〜ん?」
浮ついた返答。あー、どうしよう、きっと坂城さん、なんか勘違いしてるっ!
「彼氏?」
「違いますっ!!!」
「ふぅ〜〜〜ん?」
脊髄反射にも似た即答に、坂城さんは更に顔を綻ばせてる。
……前言撤回、絶対坂城さんなんか勘違いしてるっ!!
「だから、違うんですってばっ!!」
「私、何にも言ってないけどっ?」
「〜〜〜〜〜〜!」
……ダメだ、何を言っても墓穴を深めることになりそうな気がしてきた……。
「ウブだねぇ、君って」
「……御堂です、君って名前じゃないです」
「ん〜。御堂さんは私を知ってるみたいだけど……自己紹介はお茶でもしながら聞こうかなっ」
そう言って坂城さんは歓楽街の外れにある喫茶店を指しながらニコリと笑いかけてくれた。その喫茶店には見覚えがあった。
……さっき陸が連れてってくれた所だった。
-
「―――じゃ、御堂さんの片想い?」
場所が変わっても結局坂城さんのペースは変わらない。
簡単な自己紹介の後はやっぱり私が質問攻めに遭う羽目になってた。
―――聞かなきゃいけないことは山ほどあるのに。
「どっちも違いますっ! 少しはこっちの話も聞いて下さいっ!!」
「御堂さんがホントのコト、話してくれたらね?」
「そんな……私は、ホントのコト―――!」
「―――言ってないよね?」
私は語気を強めた筈なのに、坂城さんは全く物怖じする気配すらなく言葉を遮る。
……まるで警察か何かの誘導尋問みたいな、強制力を感じさせる静かな微笑み。
「好きなんだよね。その男の子のコト」
無為に従うことなんて今まで一度もなかった。これからもそのつもりでいた。でも、坂城さんの言葉は……そんな薄弱なものでは曲げられないくらい強い何かをもっていて逆らうことが出来ない。
どうしてだろう。
……なんで私は首を縦に振ることしか出来ないんだろう。
ずっとずっと他の誰にも悟られたくなかった感情を、どうして坂城さんは簡単に引きずり出せてしまうのだろう。
―――自覚はしていた。けれど、認めなくなかった想いを目の前に突きつけられて、景色が水滴に歪む。
でも、今は前を向け。
……事実を告げるためだけに。
「……はい。でも、わた……俺は……アイツの傍らには居られません」
「………ぁ」
敢えて、私は決別した自称で自らを示す。それが、全てだった。
「……アイツの想い人は―――坂城さん、あなたなんですから」
-
「……御堂さん」
坂城さんが同情めいた物悲しい声をあげた刹那、私の左目からは涙が一筋だけ流れた。
頬を伝って、握りしめた手の甲に落ちたそれは、熱を失っていて……ただ、ただ冷たいモノだった。
もう、大丈夫。私には訊かなきゃいけないことがある。
「……もう十分に答えましたよね。今度は私の番です」
二の句を探していた坂城さんの目が、諦観の色に染まっていくのが分かる。
……でも、それは長くは続かなかった。
「―――多分、御堂さんは"通知受取人"のことを訊きたいんだよね」
―――違うっ、そんな小難しい話じゃないっ! 私が訊きたいのは―――そう口を開こうとした、その時だった。
「あははははっ、多分、御堂さんは勘違いしてるなぁ」
「どういうコト……ですか?」
「見てたよね。……多分、一部始終を」
「っ!?」
……気付かれてた!? 今目の前にいる坂城さんと、見知らぬ男性がホテルに入っていくところを、そして私が見張っていたことまで―――全部。
「―――だからだよね、あんな連中に絡まれたのって。
ダメだよー? あんなとこで女の子一人で突っ立ってるなんて。タダでさえ御堂さんは可愛いんだから。
……たとえ、キミが御堂くん"だった"としても……そんなの素性知らない奴らからしたらカンケーないんだし」
「………すみません。注意が足りませんでした」
…………それ以外に、返す言葉もなかった。実際に坂城さんが割って入らなかったら……考えただけで寒気と吐き気が同時に襲ってくる。
-
それだけ私はキケンなことをしていたんだ……自分の浅はかさに嫌気が差す。
「ま、過ぎたことを必要以上にとやかく言うつもりはないよっ」
そう前置きをして、彼女は視線をテーブルのコップに落とした。……言うのに決心が要ることなんだろう。私は彼女の言葉を待った。
遂に、コトの真相が聞ける……!
「……多分ね、御堂さんの思ってる通りだと思うよっ」
「えっ」
坂城さんは明るく努めるように、笑って言った。でも、その声は消え入りそうなほど、小さくて、低かった。
それが何を意味するかくらい、わかるつもりだ。恋愛感情の有無は分からないけど、間違いなく、彼女はあの男性と………その、"した"んだ。
「あのヒトの素性は"ここ一ヶ月以内に誕生日が来る15〜6歳のヒト"って以外……何にも知らないっ、……知りたくもないしね」
切り張りしたような坂城さんの可愛い笑顔が向けられる。
自分が、どういう顔をしたらいいのか分からない、そんな悩むような、困ったような……哀しい顔。
そして、その笑顔から発せられる言葉は、全てを物語っていた。
キーワードは全部出揃っていたのだから、発想は―――容易だった。
「―――まさか!?」
……続きを口に出すのが怖かった。
確かにそういうヒトが居るのは保健の授業知識程度として知っている……。
でも、それはヒトゴトだ。
どっかの知らない大人の女性が、どっかの知らない役人と、どっかの知らない政治家達とで、勝手に決めてるだけのヒトゴトでしかない!
……その筈だったのに。
それが、足元から崩れていくような感覚が、たまらなく怖かった。
-
「……そっ。私は、女体化症候群を食い止めるために国から雇われて、女の子に縁の無い男の子の為に派遣される―――子作りごっこの"相手役"の一人」
事も無げに"事実"を話す同い年の女の子が、こんな近くに居るなんて……信じたくない。
「ウソ……ウソ、ですよね。こんな……」
「ん〜……せっかくだから、教えてあげよっか。"御堂くん"」
坂城さんが、皮肉めいた笑みを浮かべる。
彼女の"正体"を知ったのに、これ以上何が起こるっていうのだろう。
―――そう思った刹那、彼女は肩から襷掛けに下げていた小さなバッグから、封書を取り出していた。
「読んでごらん?」
つい最近どこかで見たことがある薄青の封書。そこの中央に印字された、文字……そこに妙な違和感。
―――え? だって、この通知は……いや、そんな筈ない、え? だって、……なんで……?
多分、それは"彼女"の名前。でも少し違う。
例えるなら、……そう、私の名前。
私は女になった時に名を変えた。同じ文字の"読み方"を変えて"はつのり"から"はつき"になった。
それと、多分同じコトなんだろう。
『"坂城 塁"様』
……まさか。
「キミと同じだよ、"御堂くん"」
さっきまでの甲高い声が嘘のような落ち着き払った、冷たい声。そして、余裕に満ちた表情。
それは……まるで、イタズラがバレた子供のような照れた笑い。
それは……まさしく"男の子"の顔。
「せっかくだからさ、ちょっと昔話に付き合ってよっ」
それは……また女の子に戻っていた。
-
読み返しらなっげぇです。斜め読みしててくださいな
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イイヨイイヨー
-
〜青色通知5.2(るいの場合)〜
出会ったばかり他人に私は何を話そうとしてるんだろう。同じ境遇だから? この子を助けた時とおんなじ……気まぐれ? 同情を引きたい? ただ、目を丸くするこの子のリアクションが面白いから?
まぁ、偶には思い出話に花を咲かせるのも悪くないかな。
―――"ボク"はね、両親から将来を切望された野球少年だった。父はプロ野球選手、母は元アナウンサーっていう、いかにもな家庭で育ってさ。
ボクが物心つく頃には父さんはもう引退……というかクビだね。
知ってる? 坂城 亮。持ち前の俊足と守備の巧さで大学からドラフト2位で入団した地味ぃな選手。
あははははっ、そうだよね。注目されたのは入団から最初の2、3年だけ。その間にアナウンサーと運良く結婚したからボクが生まれた。御堂さんが知らないのも無理ないよ。
順風満帆に見えたらしいよ? そこまでは。
―――うん? そう、そこまで。
勝負の世界に生きていたら、淘汰されるヒトなんて山ほど居るからね。その中のヒトの一人だったんだよ、ボクの父さんは。
情けない話だよねぇ、二軍の試合中、フライの捕球で選手同士がぶつかって左足を骨折。リハビリを含めて完治まで一年掛かったってさ。
―――故障した二軍の守備要員なんて、復帰してから球団に居場所なんかありはしなかったよ。……だからかな、ボクが物心ついた時に覚えてる父さんは荒れてた。
……でも。ううん、だからかな、両親はボクに夢を託した。
託したなんていうと聞こえが良すぎるなぁ……うん、自分たちの夢をボクに押し付けたんだ。
あははは、今からすると笑っちゃうけど、当時はいい子チャンだったボクは、野球クラブに入り、それに懸命に応えたんだ。
-
来る日も来る日もバッドを握って、ボールを投げて、今じゃ分かんないけど手も肉刺だらけで凄いゴツゴツしててさ。苦しかったけど、楽しかった。
昨日出来なかったことが今日出来るようになって、周りは評価してくれて、結果に繋がって。
なんていうか、こういうのが"幸せ"なんじゃないかって真面目にそんなクサイこと思ってたりしてた。まだ子供のくせにそんな達観までしてた。
でもさ、そういうのって長く続かないよね、何でか知らないけどさ。
そんなボクに青色通知が届いたのは12歳の頃だった。キッカケは些細なコトだったよ。
昔から母さんにそっくりだと言われてた僕の顔は、とうとう女の子と見分けがつかなくなってさ。
なんでだろう? って調べた結果に行き着いた先が、その異例の若さの青色通知だよ。
女体化症候群の特異例で、超若年性のものだったんだって。
しかもこの病状ではポピュラーな突発性のものじゃなくて二次性徴に比例して徐々に徐々に女の子になっていく。
その発症確率は宝くじ一等が前後賞含め3年連続で当たる確率だってさ。前例は日本ではゼロ。天体的数値と言わざるを得ない確率。笑っちゃうよねぇ。
"なんでボクなんだ"
"なんでお前なんだ"
ボクを含めた皆がやり場のない怒りをボクに向けた。それだけ期待しててくれたのだから、みんなに怒りは湧いてこなかった。
解決法は只一つ。男性器が女性器に変異を終えるまでに、異性と交わること。期日は女になるまで。
迷わず青色通知に従えば道は拓ける。答えは簡単なことだった。
でもさ、それが思春期に入りたての子供にとってどれだけ苦痛だったか分かる?
女になっても、男のままでも、奇異の目に晒されて、笑われて。何も悪くない筈のボクがっ!!
-
……ボクは逃げるように一人練習を続けた。
縋るものがそれしかなかったから。
でも、因果なもので日に日に抜けていく力、落ちていく体力、膨らむ胸。それらを実感する羽目になったよ。
その無力感に苛まれながら、がむしゃらにバットを振り、ボールを投げて、帰るのは両親が寝静まる頃。
……そんな生活を繰り返してたある日、ボクはいつものように練習を終えて帰路に着いた。
その日は土砂降りの雨が降ってた。
ホント馬鹿だよね、そんな中で何時間も雨に打たれながらバットを振ってたら、体調だって崩すよ。
そう、案の定、ボクは家路の途中で気を失ったんだ。
……次に気付いた時、真白い天井が真っ先に目に入った。
そして、その横の見舞い客用の席には、どこかで見た女の人が眠っていたよ。青いリボンで髪を結った人だった。
―――そして、そこでボクは気付いてしまった。
着せられたピンクの病院着が全てを象徴してた。
手も脚も。まるでスポーツなんてしたことのないような真白いものキレイなものに変わってた。
体は丸みを帯びて、力はまるで入らない。
最後の希望とばかりに内腿を締めても、あるべき感触は綺麗に無くなってて。
―――こんな日が来るのは前々から分かってた筈なのに……。
……あぁ、ボクはとうとう女の子になってしまったんだって。
泣くつもりはなかったけど嗚咽だけは止められなかったよ。
その僅かなしゃくりが、どこかで見た女性の目を覚まさせたみたいだった。
その開口一番、彼女は困ったような笑顔を浮かべながら言ったよ。
「―――逃がした魚は……やっぱり大きかったかな?」
……って。
-
―――人の気持ちも考えないで何を勝手なことを……!!
そう言おうとした。でも言えなかったよ。
……急に泣き出すんだもん。思わずこっちの怒りが引っ込んじゃうくらいにさ。
―――"ごめんね、ごめんなさい"って何度も、………何度も。
それで思い出したんだ。
彼女は、ボクの通知受取人……になる予定のヒトだったんだよ。
両親が一応面談だけは受けとけって。
……うん? あ、そっか。御堂さんは知らないよね。
一応ね、通知受取人との間に間違いが起こるのを防ぐために面談が行われるんだよ。
まぁ、性別選択権を行使するかどうは別としてね。
……で、その面談相手が、彼女だったってワケ。
―――話、続けるよ?
……と、その前に。
すみませーん!
カフェオレのホット下さいっ。……御堂さんも何か頼む? 奢るよ?
……そっか、わかった。じゃ、それだけでお願いしますっ。
……どこまで話したっけ?
あぁ、そうそう、彼女の話だっけ……。
-
――――――
―――――
――――
「……なんで、あなたが泣くんですか」
怒りや悲しみを通り越して笑えてさえくる。
彼女なりに同情してくれてるのかもしれないけど、ボクからしたら余計なお世話だ。他人に涙を流されるいわれなんて無いんだから。
彼女も少しは空気が読めたのだろう。俯いたまま黙っている。
「……助けてくれたことに関しては礼を言いますけど……これ以上ボクに関わらないで下さ―――」
言い終える前に、柔らかな女の子の感触がボクの口を噤ませた。……何度となく優しく撫でられる後頭部。
……長い間、忘れていたような暖かみ。
「……っ、な、なに……して……」
……ともすれば、身を委ねて泣きじゃくってしまいそうな暖かみ。それに甘んじてしまうのが、どうしようもなく怖かった。
……頭ではわかってたつもりだった。
ボクは完全に女の子になってしまった。もう、父さんや母さんの背負うことも赦されないカラダになってしまった!
……その容赦のない現実を突きつけられても尚、ボクは諦めきれていなかったんだ。
泣いてしまえば、ボクがそれを受けいれてしまうことと……おんなじだから。
だから、泣けなかったのに。
「…………」
彼女は黙ったまま、ずっと、ずぅっとボクの頭を撫で続けた。顔は見えなかったけど、肩が微かに震えてる。
まるで、ボクの言葉を待つみたいに。
「っ、ズルいよ、……ハルさん―――ッ!」
彼女の名前を口にした瞬間、抑えつけていた感情が堰を切ったように溢れ出した。
涙と一緒に、理不尽な現実に対する恨み言も自分への後悔も止まらなくなって……それでも、彼女はボクを抱き締めてくれてた。
一緒に、子供みたいに泣きじゃくりながら……。
-
……頭を撫でる手のひらが、抱き締めてくれる腕や胸の暖かさが、どうしようもなく心地よかった。
……ボクは、漸く受け入れることが出来た、救われた。
彼女―――ハルさんのおかげで。
だからボクは……一生を掛けてでも、彼女に恩返しをするんだ。
それが―――次の目標になった。
―――思えば、それはボクが今まで見向きもしなかった、男の子としての最初で最後の恋だったのかもしれない。
―――それからは、目まぐるしく日々は過ぎていった。やるべきことは沢山あったし、いつまでも過去に囚われていたら、きっとハルさんも苦しむから。
今は、前だけを向いていようとココロに決めて。
名を変えた。
"坂城 るい"と。
他の漢字をあてがうことも考えたけれど、それはボクを名付けてくれた両親への裏切りみたいで嫌だったから、平仮名にして。
ハルさんとはその後も連絡を取り合ってた。彼女と会う度に彼女を知っていくことが純粋に嬉しかった。
歳は実は5つしか違わないとか、甘いものが苦手だとか、笑うと口元を押さえる癖とか―――数えたらキリがないくらいに。
彼女の部屋に行って女の子としての特訓もした。
他人から見たら元男だと絶対気づかれないくらい徹底的に。
でも、ハルさんが相手だと時々ボロが出る。
異性としてなのか、同性としてなのか……それは分からないけど、大好きな人だから。安心できる人だから。
いつか、ハルさんが通知受取人の仕事をしなくても良いように、自分が頑張るんだって、勝手なことを思い描いたりもしてた。
その事をハルさんに話すと、彼女は困ったような笑みを浮かべながら―――『期待しないで待ってるね』―――とだけ言ってくれた。
-
―――全てが順風満帆とまではいかないけれど、少しずつ日々が充実し始め、彼女と出会ってから季節が一周しようとしてたある日。
いつものように、ボ……私は女の子としての特訓をしようとハルさんの部屋に向かう。
確か今日は"仕事"がない筈だし、ケータイにメールはしておいたから、多分ハルさんはアパートに居る筈。
二週間ぶりにハルさんに逢える。おろしたて制服姿を真っ先に見せたくて、逸る気持ちを抑えきれなくて、ついつい早足になる。
「……あれ?」
アパートの入り口に辿り着いた私を待ち受けていたのは、思わず口から漏れだしてしまうような妙な違和感だった。
彼女用である一番右上に設置された郵便受けには、雨風に曝されて色褪せた広告や郵便物が詰まっていた。
マメな人だったから、そういうのを放っておくのを一番嫌う筈なのに。
仕様が無いなぁ、と独り言を呟きながら溜まった郵便物を抜き取ってハルさんの部屋に急ぐ。
呼び鈴を鳴らす。でも返事はなかった。
二度、三度、四度。結果は同じ。
……どうしたんだろう。エイプリルフールにはまだ早いし、他人が傷付くような真似は絶対にしない人だ。
一応、ドアノブに手を掛けてみる。
――――ガチャ
「開いてるし、不用心だなぁ……。
…………えっ?」
乾いた音を立てながら、私の手から溜まった郵便物が滑り落ちる。
目の前の光景が理解できなかった。部屋番号を間違えたと思った。
だって―――つい二週間前まで、そこにはこじんまりとした家具が所狭しと並んでいて。
パステルカラーのクッションとか、洋楽のCDばっかりのラックとか、ちっちゃくて可愛らしい化粧台とか……見慣れたものはみんなみんな消えて無くなっていた。
-
まるで、初めからハルさんという人なんて居なかったかのような。がらんどうの部屋。
……なんだよ、これ。一体何の冗談だよ……!!
「ハルさんっ!?」
まるで隠れん坊の鬼でもしてる気分だった。
「ハルさんっ!!?」
何もない風呂場も、便座カバーすらなくなってたトイレも、空っぽの押し入れも、みんな調べた。
「ハルさぁんッ!!!?」
喉を痛めるくらいに声を張り上げた。返事は……あるはず無かった。
……頭ではわかってたつもりだった。
ここには、ハルさんはもう居ないんだって。泣き出したかった。でも泣けなかった。
泣いてしまえば、私がそれを受けいれてしまうことと……おんなじだから。
だから、泣けなかった。
その哀しみを抱き止めて、分かち合ってくれる優しい人も、居ない。
だから、泣けなかった。
「っく、……ぅく、ハル……さん……」
―――ガタッ
「っ、ハルさんっ!?」
玄関から物音がして、脊髄反射で振り返る。でも、そこに居たのはハルさんじゃなくて……見覚えのある恰幅のよいお婆さん。
……思い出した、このアパートの管理人さんだ。
「あなた、"るい"ちゃん……だったかしら?」
ゆっくりとした口調の質問に私は首肯で答える。そして続け様に……私は一番聞きたくて、一番聞きたくないことを訊いた。
「あのっ、ハルさんは……ここに住んでた、女の人は……っ!!?」
「――――――」
………………え?
今なんて言ったんだろう。意味が……わからない。
え?
なんで、そんな物騒な嘘吐くの? エイプリルフールには、まだ、早い……よ?
……ワケが分からない。
-
―――ピリリリリリッ!
不意に私のケータイが鳴り響いた。ポケットから取り出したケータイのサブディスプレイに表示されたのは……"ハルさん"の文字。メールの返信だった。
あはっ、あははは……そうだよね、今のは管理人さんのタチの悪い冗談なんだよねっ。
……ていうか、バカだなぁ私。さっさとケータイに掛ければ良かったのに。
「……あ、ちょっとすいません」
タチの悪い冗談にこれ以上付き合うつもりは無かったから、早々にケータイを開き、ハルさんのメールを確認する。
壁紙には、私と一緒にポーズを取るハルさんの笑顔。
"あなたは、娘の携帯に写っている子ですか?"
…………何、これ?
"あなたには、知らせが滞っていたようなので、勝手ながら娘の携帯から連絡させて頂きました。"
"番号が入っていない為、メールでしかお伝え出来ないのが心苦しいです。"
……だからさ、何の冗談? ……ねぇ、何の冗談っ!?
"3月17日、娘は亡くなりました。"
………みんなさ。気が早いよ、みんなして、こんないたいけな女の子騙すなんてさ。
"小さな子供を庇っての交通事故でした。その際、たまたま娘が携帯電話を忘れていた為、こうしてあなたに連絡をとることが出来ました。
もし、あなたが娘のアパートを訪れることがあれば、娘からの手紙をアパートの管理人さんに渡してありますので、受け取ってください。
生前、娘はあなたのことをとても大切に想っていたようなので、是非とも、お願い致します。"
「………」
「もう、いいかしら?」
ケータイを閉じた瞬間に、管理人さんが、青いリボンと、真白い封筒を差し出した。封筒の表書きには"to 坂城 るいさま"と可愛らしい字で書かれている。
間違いなく、ハルさんの字だった。
-
"るいちゃんへ。
こうして手紙を書くなんて何年もしてなかったから、なんだか気恥ずかしい気持ちでいっぱいです。
初めてキミと逢ったのはちょうど1年前でしたね。その時のキミは、今から考えられないくらいに落ち込んでいました。
泣くことも、笑うこともなく、たった一人で理不尽な現実と戦っていたるいちゃんは、見ていてとても辛かったです。
まるで、昔、私が付き合っていた男の子みたいでした。
その男の子は、私を大切にするあまり、るいちゃんと同じく女の子になり……そして自ら命を断ちました。
ずっと、ずっと言えなかったけれど、それが私が通知受取人というお仕事を選んだ理由でした。
るいちゃんには理解できないかもしれないけど、私はこの仕事を誇りに思っています。確かに他の人から見たら汚らわしいだけかもしれません。
でも、るいちゃんはそんな私を差別することなく一生懸命に見てくれました。
時には喧嘩もしたけど、るいちゃんは私にとって大切な人です。
こんな私だけど、これからも、ずっとずっと私の大切な人で居てくれたら嬉しいな。
立ち止まることなく、一緒に歩いていけたら、って……ワガママなこと言っちゃってるなぁ、私。
でも、もし……るいちゃんが良かったら、そうしてくれると、もれなく私が大喜びします。
口に出すと何だか恥ずかしいから手紙にしてみたけど、書いてて顔が熱くなってきちゃったから、最後にこれだけは書かせてね。
卒業、そして入学おめでとう。
ハルより。
P.S、るいちゃんの制服姿、早く見てみたいな。きっと似合うんだろうなぁ。"
-
……ハルさん……。
……ハルさん……!
……ハルさん……!!
「―――――っ!!!」
私は、いつの間にか一人で泣けるようになっていた。それは、彼女がくれた強さと、弱さだったのかもしれない。
涙が涸れるまで泣けば楽になるはずなのに、一向に止むことのない涙。
手紙をくしゃくしゃになるまで抱いたまま、私は独りぼっちで泣き続けた……。
――――ハルさん。
手紙の答えだけどさ、私も一緒に歩くよ。
ハルさんが歩いていた道を、私も。
私はその日、髪を切った。ちょうどハルさんと同じくらいに。
そして、生前、ハルさんがよくしていた髪型にした。彼女の形見である、青いリボンで整えた、短めのポニーテールに。
―――そして、更に季節が一巡りした彼女の命日に……私は、通知受取人の資格を取得した。
記録には残らないにしろ、恐らくは日本で史上最年少の通知受取人が誕生した日だった。
〜青色通知5〜
終
-
相変わらず内容と文の長さが合ってません。
あーあ、エロシーン書きたい
-
乙!!!!!!!!!!111!!!!
-
※これから投下される文章には一部18歳未満には大変そぐわない内容が含まれます。
不快に感じましたら読み飛ばしてください。
何故そんな内容になったかは>>448にて。
-
〜青色通知6(陸の場合)〜
結局、初紀はその日学校に姿を見せなかった。
坂城………るいにもうちょい詳しく事情も聞きたかったが、放課後になると、アイツの姿はどこにも無かった。
まぁ、良かったのかもな。
冷静に考えると、るいの奴に初紀のコトを根ほり葉ほり訊いたりしたら十中八九誤解されるのがオチだろうし。
溜め息一つ。
一人で屋上でゴロ寝してても時間の流れは淀んだまんまで、陽が傾くまで結構な間が空いている。
仕事も今日は無ぇし、暇だ。
―――そう、暇……なんだよな。
…………。
「なぁんで来ちまったのかなぁ……」
いや、分かってる。俺の意志でしかない。……しかないのだが思わず、溜め息混じりの愚痴が零れる。
こんなことしてる状況じゃねぇことは重々承知だ。
それに単なる暇潰しなら学校から、ここまでの間にある歓楽街のゲーセンにでも寄れば良かった。
なのにわざわざ自分が苦手な場所に来るなんて。
……多分、俺はかなり偏屈な人間なんだろう、そう結論付けた。
見るもの全てを威圧するような厳かな門構え。そこの立て札には『御堂空手道場』の文字。
……言うまでもなく初紀の実家だ。
『初心者大歓迎』とデカデカと達筆で書かれた半紙が、看板下に貼られている。
……あからさまに文字が初心者を拒絶してる感が否めないのは、気のせいなのだろうか。
……まぁ、あのオヤジさんらしいっちゃ……らしいんだが。
とりあえず、『初心者大歓迎』の半紙の横でこぢんまりとしてる呼び鈴を押す。
-
―――チリン。
前々から気になっていたのだが、見た目は明らかに電子式の呼び鈴なのに、鳴り響く音が明らかにアナログな鈴なのは何故だろう。オヤジさんの趣味ってのは理解できるのだが、その呼び鈴の構造だけは不可解だ。
―――とか何とか考えている内に厳かな門が、それはそれは厳か過ぎるくらいの重苦しい音を奏でながらゆっくりと開いていく。
そこから現れたのは、熊……ではなく、それくらいの身の丈と立派なヒゲをを誇るナイスミドル。
学校の集会で整列した場合、俺は後ろから数えた方が早い位置に属するんだが。そんな俺でも、彼の顔を拝むためには首を上に向けなきゃならない……相変わらずデカいな……初紀のオヤジさん。
「………何故、此処に居る。……童」
熊をも気絶させそうな重々しい声―――から出てくる全く意味不明な一言。
……つーかオヤジさん、まだ俺の名前覚えてねぇのな。
"21世紀"って言葉も既に死語になりつつあるこのご時世で、ワッパはねぇだろワッパは。時代錯誤も良いとこだが、それにツッコんだとしても時間の無駄でしかない。
「……いや、"なにゆえ"って言われても。単に初紀の様子見に来ただけっス。学校、無断欠席したみてぇだし」
「其れは我が子が女人に成ったからと云う不埒な目的からか」
鋭利な刃物にも似た眼光。
「……とりあえず。なんで、そんな考えに至ったか。そのワケを教えてくれませんかね」
ここでオヤジさんの威圧感に気圧されてしまったら、多分、四半世紀経ったとしても話は平行線のまんまだろう。
文字に記す分には、俺は平然としてるように見えるかもしれないが、さっきから胃がすげぇ痛いことを補足しておく。
-
「童は模範的な学生ではないと、むす………めから聞き及んでおる。そんな怠惰なお主が、邪な思いなしで他人の学生々活を綻びを指摘するなど有り得ぬと申しておるのだ」
なるほど。不良が純真な心で他人のサボりを心配なんぞ甚だ可笑しいっつーことか。一理あるな。
「そりゃ、そうッスね」
んで、オヤジさんの中で"非模範的生徒である俺がわざわざ他人のサボりに口を挟んだ理由は、最近息子から娘に変わった我が子に気があるんじゃないか"ていう結論に至ったワケか。
……なるほどな。
「……そうですよ。無断欠席なんて俺の知ったこっちゃない。それを説教するつもりもないッス」
「―――ほう、では認めるのだな? 童は我が娘を、性欲の対象として見てることを」
「一つだけ言わせて下さい」
「何だ、童――――」
「―――っざけんなッ!!!」
鈍い音が、オヤジさんの返答を遮る。
―――右拳から俺の全身に木霊する、衝撃の余韻。
俺は、オヤジさんの頬に一発、拳を見舞っていたのだ。
「アンタだって分かってんだろッ!?
アンタの子は……初紀は有無を言わさず女になっちまってよ……今が一番大事な時期だって言ってんだよッ!!
そんな時に、いつだって自分より筋通すことを優先するようなヤツが、急に連絡もナシに姿見せなくなったんだぞッ!?
そんなダチを心配すんのは当たり前だろーがッ!!」
……自分でも、何でこんなにも激昂してるのか分からなかった。
唯、オヤジさんが投げかけた言葉を、どうしても否定したかったんだ。
……俺は、初紀を女として見る約束を交わした。アイツがそれを望んだから。
けど、それはオヤジさんの言うようなそーいうヤらしい意味なんかじゃねぇんだ。
-
今はそーいうことを考えちゃいけねぇんだ! 俺には好きな奴が他にいて、それでもアイツをそーいう対象で見んのは……アイツを裏切るのとおんなじじゃねぇか。
「言いたいことはそれだけか、陸」
「――――え?」
オヤジさん、俺の名前―――
そう思った刹那に、風切り音。そして、それまで山の如く動かなかったオヤジさんの姿が、視界から消える。
―――直後、まるで軽トラがぶつかって来たかの衝撃が俺の腹部を襲った。
そして、呻く間もなく、後背部を襲う鈍い痛み。
「……はっ、はぁ……っ、ぅ……」
体中が悲鳴を上げた。酸素を求めて意志とは無関係に肩が上下に激しく動く。
こんな苦しみ、そして痛みは、男だった時の初紀に挑み、そして何度となく敗れた時でさえ覚えのない……全く別の次元の苦痛だ。
「……はぁっ…は……っはぁ……」
……たった一発の正拳突きで俺は体ごと吹っ飛ばされて、そして道場の門に叩きつけられたことを漸く俺は悟った。
朦朧とする視界に映る、うずくまった俺にとっては更にデカく見えるオヤジさんの姿。
「そんな迷いだらけの拳では、蚊の一匹も仕留められぬわ」
……そのオヤジさんの言葉を境に、俺の意識は閉じていく。
立ち上がることも、オヤジさんの言った言葉を否定することも出来ないまま、無力の闇に俺は沈んでいった……。
-
ごめん、なんか投下出来そうにないのでエロシーンはまた後ほど
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+(0゜・∀・)+wktk 正座してまってる
-
―――ここは、何処だ?
気がつくと乳白色の濃い霧の中で俺は立ち尽くしていた。
前も、後ろも、右も、左も、霧、霧、霧。地面があるのかどうかさえ危ういように思える。
いくら辺りを見回しても誰も居ない。
なんだ、コレ……夢なのか?
『りく』
不意に複数の声に呼び止められた。正確には誰かを呼んでいたのだろう、でも、それは俺の名前じゃない。
確かに俺の名前は"陸"と書くけど、読み方は"ひとし"だ。なのに、その声は俺を呼んでいたように思えて振り返る、と。
……そこには初紀、そして、るいの姿があった。正確に言うならば、短く纏められたポニーテール、そして呼び止めた声で判断したに過ぎない。それもこの妙な白い霧のせいだ。
二人して俺の名前を間違えるなんてあるわけないのだが。
「……何の冗談だよ?」
………え?
言い終えてから気付く。
―――俺の声が、妙に高いことを。
『コレ、無駄になっちゃったね』
哀しそうな笑いを浮かべながら初紀らしき声の主が、封書を差し出した。
―――俺の青色通知。
初紀からそれを受け取ると、そこに印字されていた文字の一部が霧に溶けて隠されていく。
妙な不安感に駆られ。慌てて、その霧を振り払う。その青色通知に浮かび上がった文字を見て……俺は目を見開いた。
"前田 りく様"
……初紀がそうであったように、俺にも"その時"が訪れたという完全なる告知だと言わんばかりに突きつけられる、現実。
「うそ……だろ……なぁ、嘘だって言ってくれよ、なぁっ!!?」
そう主張した声も高い。男が出せる高さの範疇を越えたソプラノの声。
『ねぇ、初紀ちゃん』
『……うん』
二人はパニクってる俺を無視して頷き合う。そして……ゆっくりと近付いてくる。
-
なんだ、なんなんだよ!? この雰囲気はっ!!?
そう口にする間もなかった。だって、その口を―――塞がれていたから。
「ん……ぅぅ……ッ!?」
頭を両手で押さえられ、間髪を入れずに俺の口に侵入してくる柔らかくて生温かい何か。
思わず鼻から漏れ出た声の甘ったるさに俺自身が驚いた。
慌てて身を翻そうとしたが、もう一人が俺の身体を背後から押さえつけていて身動きが取れない。……それだけが理由かと言われたら……違うのかもしれないが。
それに、この濃い霧のせいで、どちらが俺の口を塞いでいるのか、そしてどちらが俺を羽交い締めにしてるのかわからない。
この真白い空間の中で、俺の抵抗と嬌声が入り混じった声と、粘り気を帯びた水音だけが生々しく響き渡る。
―――……何してんだろ、俺……。
気が付けば、相手がどちらかも分からないキスに夢中になってる俺がいた。
口腔に入ってくる柔らかな舌を拒むことなく、それに応えるように絡めては離し、また求めて。
何度も何度も、その繰り返しが続く。
「ん……ぅ、ふぅ……っ…んぅっ―――!?」
そんな人生初の、やらしくて深いキスをどれくらいした時だろうか。
……その瞬間、キスの甘い快楽を打ち消す、電流のような感覚に俺は目を見開いた。
右の胸が小さな手によって鷲掴みにされ、円を描くように、弄ばれ……
そして、"そこ"は俺のあるべきモノがある筈の場所。
いつの間にか侵入を赦してしまった"そこ"に触れる指が、俺に……"入って"く、る……!
「ん、……んんぅ……ッ!!」
口を塞がれているのに、死にたくなるくらいに恥ずかしい声が、ナカを弄ばれる度に無尽蔵に溢れ出た。
自覚するしかなかった。
ココロはどうあれ、身体は女になっちまったみたいだ。
-
……そんなことにショックを受ける間もなく、襲い来る快感が足腰の力を奪っていく……。
『あ、やっぱり寂しかったんだね。
ココ、私の指を凄い締め付けてくる……』
背後からする、るいの幼さを残した声。
……ということは。
先程まで俺を羽交い締めにして、今、俺の秘部を弄んでいるのは……るい。
そして、今もなお俺と舌を絡め続けているのは……初紀。
「…はぁっ、……っはぁ……ぁはっ……」
漸く、初紀に犯され続けていた上の口が解放される。
名残を惜しむかのように、俺と初紀の舌先から伸びる唾液の線が艶めかしく光る。
「はぁっ……はぁっ……なんの、つもりだ…よ!? ……ぁう…ッ、ふっ……んぅぅっ!!!」
漸く口に出来た抗議の言葉は呆気なく高い嬌声に変わり果てた。
……小康状態だった下半身を、るいの細い指が執拗に俺の弱いところを探り当て、また責め始めたからだ。
『女のコになっちゃったからには、前向きに生きないと、ね?』
『りく、気持ちいい……?』
「ンなわけ……んんッ! あ、ある……あ、はぁ……んっ……あるか……ッ!!」
初紀に訊かれて、精一杯に否定しようとしても……間に快感が割り込んできて言葉にならない。
俺、どうかしちまったのか……?!
……こんなの、絶対ぇ間違ってる筈だ! ……筈なのに、この理不尽な快楽の波に身を委ねたくなる。
『気持ちいいんだよね? ほらぁ、ココなんでしょ?』
「―――ッ!!」
サディズムの気を帯びてきたるいの細い指が、恐らくは俺の触れてはならないであろう、その場所を一瞬で探り当ててしまう。
-
「んぁあぁあぁっ!! や……だ、はぁ……んッ!! や、だぁ……っ!!! ぁは……っ、やぁああぁあっ!!!!」
これでも懸命に抑えてたつもりだったけど、もう限界だった。快感が、理性の枷が完全に外してしまって…。
あぁ、そうだよ、気持ちイイんだよ!
自分の身体が、宙に浮いたようにフワフワしてるくせに、下半身はそれでも執拗な快感の波を受け止め続けていて!
自分がぶっ壊れちまうんじゃねぇかって不安と、どうしようない快感が一緒に襲ってきて!!
……どうしようもなく、怖いんだ。
『りく、大丈夫……怖くないよ……』
「はつ……き、はつき…ぃ……っ!」
言葉を掛けられると安心出来た。
名前を呼ぶと安心出来た。
……俺は手を伸ばして初紀を求めた。初紀はそれに呼応するように、空いた左の胸を右手でおずおずと愛撫しながら、左手で俺を抱きしめ……そして、再び舌を絡める深い、深いキス。
『はぁい、じゃ、りくちゃんもノッて来たみたいだし……ラストスパート、イっくよぉっ!!!』
るいの、何だか間の抜けた掛け声。
「んぅ、ぁぁあぁあっ――――ッ!!」
それとは裏腹な緻密で激しい指の動きに……俺は身体が溶けていく錯覚に陥る。
この真白い空間に溶けていきそうで、怖かった。
だから、俺はまた叫んだ。
「初紀――――ッ!!!」
――――ゴンッ!
妙な音が、額から響き渡った。
「「っつぅぅ〜〜〜っ!!」」
外部の頭痛に思わず悲鳴が漏れた。
でもそれは、俺の低い声だけじゃなく―――。
「……初、紀?」
〜青色通知6.0(陸の場合)〜
-
まさかの酉忘れ………。
エロは書いてる時はそうでもないのに投下後に恥ずかしくて死にたくなります。
描写が微妙です。
特に複数人だとしっちゃかめっちゃかです。
-
( ^ω^)お疲れ様でーす♪ GJ!
-
こんな夢見たら女の子になる決心しちゃう
-
〜青色通知6.1(るいの場合)〜
―――前田 陸くん、か。
結い上げた髪を下ろしたコンパクトの中の、未だに慣れない自分の姿を眺めながら、そう呟いた。
……確かに初紀ちゃんの言うこともわかる。
表情は無愛想で、デリカシーには欠けているし、言葉は粗野で乱暴。
だけど、芯はしっかりとした男の子。顔も悪くないし。
だからこそ、初紀ちゃんにお似合いだと、心底思った。
……なのに、どうして私なんだろう。
―――何も知らないくせに。
―――私が元々は男だってことも。
―――合法的に認められた仕事とはいえ、私の躯はとうの昔に汚れていることも。
―――私には、忘れられないヒトがいるってことも。
あの不良は、何にも知らない。知らないからこそ私を好きになれた。
それが、許せなかった。
なのに、初紀ちゃんは私と陸をくっつけようと躍起になってる。
理解不能、としか言い様がない。どうしてこんなにも他人を思いやるのだろう。
……自分の想いを押し込めてまで。
……自分の躯を、犠牲にしてまで。
思い出されるのは、やっぱり此処での―――喫茶店での一幕だった。
-
―――思い出を話し終えた私の喉は、喫茶店の空調と相俟って乾燥しきっていた。
沈黙に耐えきれず私は冷めきったカフェオレを流し込む。
気付けば周りの客も疎らだった。……一体何時間話してたんだろう?
あまりに彼女―――御堂さんが必死な目で聞き入るものだから、つい話が長くなってしまったのかな。
「……私はね、好き好んでこの"お仕事"をしてるんだ。……だから、御堂さんのお願いは聞き入れられない」
これで御堂さんも、私を好いてくれている男の子も諦めがつくだろう。
既に両手両足じゃ数え切れない程の貞操を奪っていて、尚且つ、それをこれからも続ける女を……誰が好きになると思う?
あっ……私、か。
自覚のない自問自答してしまって思わず苦笑する。
「……坂城さん?」
泣き出しそうな表情を抑えながら、私の顔を覗き込む御堂さん。
……うん、女の子目から見ても凄い可愛い。
男の子目から見たら……うん、"萌え"とカテゴライズされる、中毒性の強い可愛さに該当する。
と、いけないいけない。このままじゃ私、ヘンなヒトだ。
「ねっ、わかってもらえたよね?」
「わかりません……っ」
即答だった。
あの、御堂さん……私の話、聞いてたよね?
私はなるべく分かりやすく、且つ優しく、私の置かれている立場を説明したつもりなんだけどな……。
「坂城さんの話は……その、私も理解出来ました。でも納得がいきませんっ!」
……柔らかい物腰と違って強情っ張りなんだなぁ、御堂さんって。
「納得いかないって、どういうことかな?」
「だって……だって、陸に……アイツに会いもしないで、話もしないで……決めないでくださいっ!」
決めるのは、結局は私なんだけどなぁ。
「じゃ、会えば納得してくれるの?」
-
「……ダメです」
注文の多い喫茶店だなぁ。そんな本を昔読んだような気がするよ。
「ちゃんと考えてください、考えて、決めてください」
御堂さんが、そこで"付き合うこと"は強制しないのは、自分にも少しは希望を持たせたいのか、はたまた余っっ程に生真面目なのか。
多分、後者かな。そこまでズル賢いなら、まず私に接触なんかしないだろうし。
―――でも、私はそこまで純粋にはなれないんだよ?
「……わかった。会ってみる。
会ってみるし、考えもする」
「気休め言わないで下さい、会うつもりも考えるつもりもないのなら」
―――う、なかなかに鋭い……。
御堂さんは、嘘を見抜く力に長けているようで、一筋縄ではいかないみたいだ。
「……御堂さんには敵わないなぁ。うん、本当に会うし、考えてみる。
初紀ちゃんが言うには悪い奴じゃなさそうだし。
……けどさ、一個だけ"条件"があるんだよね」
「……"条件"、ですか?」
「うん、"条件"」
身を乗り出しそうな程に顔を近付けてくる御堂さん。
イタズラでキスしちゃおうかとも思ったけど……さっき路上で暴漢相手に放っていた御堂さんの蹴りの威力に、私自身が耐えられるかどうか不安なのでヤメておく。
御堂さんはそんなことしそうにないけど、念の為。
―――考えてみれば、こんなに生真面目なコなんだ。浅はかだったかもしれない。
……こんな"条件"を出すのは。
-
「………はぁ」
溜め息を一つ。
店内に掛かった時計を見やると、もうそろそろ"彼女"がやって来る時間になっていた。
頼んだホットのカフェオレの粗熱は既に冷めきっていて、ヌルい甘味だけが口に残った。
"ひーちゃん"……前田 陸くん。確かに悪い子じゃなかった。
寧ろいい子だった。
不器用で無愛想で、それでも素直で真っ直ぐで。私が純粋な女の子だったら靡いてしまうかもしれないくらいの男の子。
正直に言うと、女の子としての私は嫌いじゃない……と思う。
でも、男としてのボクはハルさんで頭が一杯で。
まるで、"自分"が二人いるみたいだ。
このまま"私"という女の子の意識に"ボク"が飲み込まれたら、"お仕事"を投げ出して、彼と……ひーちゃんと女の子としての幸せを見つけることが出来るのかもしれない。
でも、それはひーちゃんが私を知らないという前提を基に成り立った事実、知られたら嫌われるのが関の山。
―――ひーちゃんが私が知らないからこそ、許せない部分もある。
勿論、ひーちゃんに落ち度があるわけじゃないけど……。
それに………。
「―――坂城さん」
私と同じ短めのポニーテールを揺らしながら、店員に案内された可愛らしい女の子が私に声を掛ける。
「あっ、"るい"でいいよ、私も"初紀ちゃん"って呼ぶから」
「あれ……名前……」
あ、そっか。前まで"御堂さん"って呼んでたもんね。
「あ、うん、ひーちゃんから聞いた」
「"ひーちゃん"って……陸が……?」
一瞬、初紀ちゃんの顔が明るくなる。けど、それは一瞬で陰りを見せた。
……そりゃ、複雑だよね。
好きな人が自分とは違う異性と、自分の話をしてるなんて。しかも好きな人の名前を親しげに呼ぶくらいに仲が進展しているのなら、なおさら。
-
「……そう、ですか」
「あー、うん……あとさ」
「はい……?」
「敬語、禁止。同い年でしょ」
「……それって、"条件"でしたっけ?」
「むぅ、融通利かないなぁ」
「……ちょっとだけ、からかってみた。……ダメ、かな? "るい"ちゃん……」
「あ、はは……うん、OKじゃないかな。"初紀"ちゃん……」
なんていうか会話が……ぎこちなさ過ぎて、居心地が頗る悪い。
まるで、嵐の前の静けさを体現したかの不気味な沈黙が続く。
―――私は、どうするべきなんだろう。
先に頼んでいたカフェオレに視線を落としながら、私は自問する。
初めは、ただ初紀ちゃんを思い留まらせる為の"条件"だった。
でも、それに初紀ちゃんは散々に迷った挙げ句に、頷いてしまった。
……その気になれば"条件"を反故にすることだって、嘘の答えを言うことだって出来る。
でも、あまりに真摯に私と向き合う初紀ちゃんに対してそれは余りに失礼だし……彼女は、そういう嘘が通用するような人種ではないと思う。昨日、それを身を以て知った筈だ。
「……陸と会ったのなら聞かせて下さい」
恐れも、不安も微塵に感じさせない初紀ちゃんの……すべてを見据えているような視線が、真っ直ぐと私を捉えて離さない。
逃げ場はどこにもない。
言うしかない、よね。
ホントのコトを正直に。
「わからなくなった」
「……えっ?」
肩透かしを食らったのように、初紀ちゃんの目はまん丸になる。
初紀ちゃんが、心の何処かで期待していた答えでも、受け止めようとしていた絶望に満ちた答えでもない、宙ぶらりんな私の回答で、互いの言葉が途切れそうになる。
-
「……隠し事してるよね?
私と、ひーちゃんに……一つずつ」
それが無自覚に抑え込んでいたものなのか、意図的なものなのか、その答えはハッキリしている。
ただ、それは推測の域を出ないし、その真意も分からない。
初紀ちゃんはスカートの裾を握り締めたまま黙りこくっている。どうやら、自覚はあるらしい。
「どうして、私が"通知受取人"だってことをひーちゃんに黙ってたのかな?
……どうして、ひーちゃんが青色通知を受けた女体化の予備群者だってことを私に黙ってたのかな?」
改めて、私は問い質す。
その言葉の端々に感情が漏れ出さないように、平淡な口調で。
それでも初紀ちゃんは、答えなかった。なんとなく、分かる気はするけど。
「はぁーあ。潔癖症だよね、初紀ちゃんって」
「え……っ?」
「表向きに言えば、初紀ちゃんが黙ってた理由は
"自分が余計なことを言って仲をこじれさせたくない"
―――ってことなんだろうけどさ。
……その裏側の汚い感情に気付いてて、それを認めたくないから、そんな風にいつまでも黙ってるんだよね」
「っ!」
図星を突かれたのか、初紀ちゃんの頬が一気に紅潮していく。
―――仕方無いか。初紀ちゃんとは良い友達になれそうな気がしてたけど……。
「だから今日、学校に来なかったんでしょ? ひーちゃんはまだしも、私には見抜かれてしまうかもしれないから」
「………や、め―――」
「―――やめないし、許さないよ。
好きな人に振り向いてもらう努力もしないで、なんでも他人任せにする臆病者だよ。初紀ちゃんは」
「―――っ!!」
-
初紀ちゃんは泣き出しそうになっていた。
女体化して間もない初紀ちゃんにとって無理もないことは百も承知。
それでも私は彼女にとって辛辣な言葉をぶつける。
「意中の相手の女体化がイヤ。
でも自分は今の関係に甘んじていたい。だから今は、ヒト任せ。
時が経てば自分にもチャンスが巡ってくるかもしれない。
それって、ムシが良過ぎると思わないのかな。
そんなの、私がひーちゃんに気があろうとなかろうと、願い下げ。
まぁ、その努力をした上だったら………協力しなくもないけどさ」
「………〜〜〜〜〜っ!!」
ここまで他人に事実を貶められたら、もはや丸裸を他人に見られたも同じの恥辱だろう。
……その恥辱に耐えきれず、初紀ちゃんは目頭を押さえながら逃げるように喫茶店を後にした。
「……はぁ。これじゃどっちが悪者なんだか」
周囲の奇異と興味の視線が私に注がれる。……私はそれを意に介することもなく冷めきったカフェオレを飲み干す。
……冷たくて、甘いはずなのに、裏側に隠れた苦味だけが気になった。
〜青色通知6.1(るいの場合)〜
-
とりあえずここまでです。
女心ってワカラナイ。
-
GJ!
-
(´・ω・`)
-
今さっきふら〜っといつもと違うまとめ見に行ったらオイラの作品があってしこたまビッグリした。
遅くなったけど、まとめてくれた人ありがとうッ!
ちゃんと完結させるんで生暖かく見守ってやって下され
-
いつもと違うまとめってどこだ?
-
>>475
更新されてない方を見ていたらしいです。
-
〜青色通知6.2(初紀の場合)〜
風を切るように、走る。走る。走る。
その冷たい風が、体の熱を冷ましてくれるのを期待して。
でも目頭だけは熱い。
こんなんじゃ、ダメだ。もっと、もっと早く走らなきゃ。
考えちゃダメだ。考えたら逃げどころの感情に捕まってしまう気がした。
風も追い越すくらいに、走れ、走れ、走れ。
―――あぁ、もどかしい!
ストライドが小さくなった身体が。
少し走っただけで息の上がる―――胸での呼吸が。
ちょっと揺さぶられるだけ乱れてしまう、この感情が。
走っても、走っても、ついて回る目頭の熱さが。
「……はぁっ、はっ、……っはぁ…」
心臓がイタいくらいに高鳴っていて、気持ち悪い。まるで心が物理的に揺さぶられているみたいだ。
結局、悲鳴を上げる身体に引っ張られるように、私はブティックのウィンドウケースの硝子に手を付いてうなだれるしかなかった。
………情けなかった。
自分で"女"を選んでおきながら、結局……私の目に留まるのは"女"としてのイヤな部分ばっかりで。
脳裏を掠めるのは、男だった頃の楽しい思い出ばっかりで。
抱え込んだ数多くの矛盾の捌けどころを見つけることすら出来なくて。
「ひどい顔……」
その結果がコレだ。
硝子に映ったボロボロの泣き顔と、ネガティブに真似た短めのポニーテール。
大きらいな自分を守るための、臆病者の抜け殻が力無く私を睨み付けてくる。
―――アンタのせいだよ。
そう、言われている気がした。
他の誰でもない私のせいなのに、今度は自分同士で責任のなすり合い?
……ホントにバカだ、私。
―――ピリリリリッ!
「っ!?」
無愛想な携帯の着信音が、私の涙をせき止める。
……なんだ、メールか。
……珍しい父さんからだ。
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