こうしてガスの単価が変わる傍らで、すでに2013年9月からウクライナの代金支払いが一部滞り始め、2014年の4月分までの未払い累積は34.92億ドルへと膨らんでしまった。それだけではない。ガスプロムの計算によれば、2013年だけでも契約に規定される Take or pay 条項に従ってウクライナが支払わねばならない(そして支払われていない)罰金総額は約114億ドル、それ以前からの分も加えれば185億ドルにも達する。
資金に事欠くウクライナに対して、IMF理事会は4月30日に2年間で170億ドルのスタンドバイ融資を承認し、その一部の35億ドルがすでに供与された。そしてIMFはその中から3月までのガス代金未払い分を支払って、この問題に片をつけろ(つまり4月以降の未払いはあり得ない、Take or pay 問題は当事者間で何とか解決する、との前提)と指示した。
だが、カネというものは受け取ってしまえばこちらのものである。ウクライナのアルセニ・ヤツェニュク暫定首相は、ロシアが第1四半期の価格・268.5ドルを一気に485ドルへ引き上げたことを認めず、価格を268.5ドルへ戻さない限り、未払い分も含めて支払いは行わないと主張し始める。そして、この価格と Take or pay 条項が不当であるとして、契約に従ったストックホルム仲裁裁判所への提訴に動きだす。
その疑問を残しつつ、法的安定性を損なうリスクを冒しながらも、仲裁裁判で Take or pay 条項がもはや時代に合わないとして否定される可能性は、それなりに高いのかもしれない。
さらに、ガスプロムが要求する100億ドルを超える支払いを認めてしまったら、すでにウクライナ政府に貸し込んでいる同じロシアや他の債権者の融資条件(ウクライナ政府の対外負債を一定の水準以下に抑えること)に抵触し、その前提条件が満たされなくなったことを理由に一気に資金引き揚げが起こるかもしれない。そうなるとウクライナ側としては、一度は合意した契約条件ではあっても、Take or pay 条項はもはや不当、で押し捲(まく)っていくしかなくなる。