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持ち帰ったキャラで雑談 その二

477※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/03/08(日) 22:58:03

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『言葉が……通じる?』
 かち、という小さな音を立て、十六夜が腰に差した武器を抜く。
 相手が驚愕を満面に浮かべているのに対し、彼女は極めて冷静だった。
『意味が理解できたなら通じてるんでしょ』
 すでに己にかけた「外人想」は解けているので、会話する分には問題がない。
 構えるというほどの大仰さはなく、十六夜は握る「それ」の感触を弄ぶ。
『正直に言う。私も、まさか再びこの言葉を使う時が来るとは思ってなかった』
『それじゃあ、お前も……?』
『まあ、そういう事になる。
ちなみに、ルイーダの酒場にも登録済みよ――もはや、意味がないけど』
 肩を竦める。
 相手は、動きやすい軽装の鎧に青いマントを羽織っていた。
 そして腰には、「ここ」には似合わない一振りの長剣。
 その様相だけでも、彼がかつての十六夜と同じ場所にいたのだろうと推測できる。
 かつての彼女も――そうだった。
『さて、悪いけど私にはあんたとのんびり昔話に浸る時間はないの。
 大人しく私の前から消えてくれる?』
『それは……できない』
 だろうな、と十六夜は胸中で自嘲。
 あの目つき、言動、立ち居振る舞い。
 そんな状況証拠を並べ連ねても、しょせんは妄想の域を出ることはなかったが。

 それでも、何故だか十六夜には確信めいたものがあった。
 この男は、今の自分にとっての難敵だと。

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478宇宙の彼方の幻想郷:2009/03/08(日) 23:19:02
「不思議よね」
何が、とあえて言わなかったのだろう八雲紫に紫は肯定ともそうでないとも取れるように肩をすくめた。
昼下がりだった。
街のとあるカフェテラスで散り始めた梅を横目に優雅な一時を過ごしていた。
「あの皇帝さん」
皇帝、の一言に紫はようやくああと頷いた。
「確かに、あれは相当な変わり者だ」
苺のショートケーキから苺を摘み上げ、くるりと回す。
「宇宙をこれに喩えたら、あれが欲しがってるのはこいつのへただもんなぁ」
口の中へと苺を放り込み、程良い甘味と酸味を楽しむ。
「あら、また面白い考えですわね」
ティラミスを一掬いし、実に優雅な動作で口へと運ぶ。

「あー、食後の一杯はやっぱりいいなぁ」
「本当にたべるの好きよねぇ」
そう言った脳裏に一瞬友人の姿が横切った。
「あ、そういえば、彼の居るところも幻想がうんぬんって話だったよね?」
紅茶のおかわり(既に6杯目)を注ぎながら、村上紫。
おかわり自由で無料なのは良いが、ここまで飲まれたら店側も流石に焦り出すのではないか。
「いいの。値段分は元を取るからさ。
それより、さっきの続き」
「えぇ、そうだったわね。
…厳密には違うけれど、彼の居るところもまた幻想郷に近しいといえるわ」
発展に発展を重ねた宇宙。
既に魔法と殆んど区別がなくなった科学に不思議な力を持った多様な種族。
そんな人と彼らの生きるあの場所は魔法と妖の生きるこの世界とが僅かにだぶった。

479宇宙の彼方の幻想郷:2009/03/08(日) 23:32:09
「まあ向こうじゃ地球って星すら幻想みたいな物だしね」
「いずれはこの星自体が幻想の境界へ隠れるかもしれないわね」
人々が挙って宇宙を目指し、誰しもが宇宙へ行けるようになる頃にはもしかするとそうなるかもしれない。
「自分は空も良いけど、地上の方がいいなぁ…」
「あら、そういえば高いところが苦手だったわね。
飛ぶのは好きなのにおかしな人」
「飛ぶのはいいんだよ。
落ちる時のヒューッて無重力感が嫌いなの」
「宇宙飛行士は無理そうね」
「確かにね」


二人はそうして暫く歩き続けた。
既に日は傾き、空では夜と昼が混ざり合っていた。
人間がその空を見上げ、振り返る。
幻想の向こう側で微笑む妖怪に彼女もまた笑い返し、再び歩き出す。


今宵も妖怪の時

480※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/03/11(水) 21:57:04

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 結局のところ――
 突き詰めてしまえば、それはただの喧嘩に過ぎなかった。
 意志も、意欲も、意味も、価値も、それ自体にはない。
 あるのは殴られれば痛いという事実と、殴りきれば勝ちという幻想だけだ。
 どんな思想を持ちだしたところで、それは決して変わらない――
 自嘲する。
 言い訳地味たサーキットを流れるのは、まあ理解しているからなのだろう。
 図り合う相手との位置関係を算じながら、手の中の「武器」で固いコンクリートの
床をノックする。無論、返事はなかったが。
「武器」の返す感触は、金属の震わす響きには程遠い――反響すらない。
 あるのは重苦しい反作用だけ。
 仕方がない。
 そもそもそれは金属ではなく、無機物ですらない。
 ただの棒だった。
 相手の手に握られた刃渡り1メートル以上ある真正の刃物に比べれば、
「武器」と呼称するのさえおこがましいというものだろう。
 それでも、十六夜が持てばそこには意味が生まれる。
 その長さ1メートルの棒が、例えば両の先端から引くと半ばから引き抜かれ、
有名な刀鍛冶に鍛えられた鉄をも切り裂く名刀が姿を現す――などということもない、
正真正銘ただの檜製の棒だったとしても、やはりそこには意味があるのだ。

 ――生まれた意味が大きければ、それだけ望む結果を手繰り寄せることができる。
 ――そんな夢想を抱けるほどの価値はなかったとしても。

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481※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/03/11(水) 22:20:28

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 実のところ、逃げるという選択肢は最初からなかった。
 これは何も増長から来るものばかりではない。まあ増長も含まれてはいるのだが。
 ここで逃げ出したところで、同じことが繰り返されるだけだ。
『――勇者』
 つぶやく。無自覚に揶揄の響きがこもるのは、それだけその単語の持つ意味に
辟易していることの表れだった。勇者。
『どうして来たの?』
 その問いが無意味であることは、誰よりも彼女が理解していた。
 来る。その言葉に前提として含まれている「己の意思」を、さて一体どのようにすれば持ちうることができたのか。
『……お世話になった人から聞いた』
 だが、答えは予想外に返ってきた。
『いや、正確には伝わったのだけれど。言葉が通じないから』
 もっとも、十六夜が本来尋ねた意味とはまったく異なる形で、ではあったが。
『――この街には人の財産を根こそぎ「略奪」していく悪魔がいる、と』
 悪魔。
 くだらない表現だと十六夜は思う。
 そんな、今時聖書(おとぎばなし)にしか出てこないような単語を使うのは、
それこそお子様に御伽噺(ゆめものがたり)を語って聞かせる時くらいだろう。
 つまりは、それだけ現実味を帯びていない。否、帯びさせない。
 この街の――この世界の住人は、誰もがそうだった。
 誰一人として、現実を見ている者はいない。

 ――まるで、ここには現実など存在しないのだとでも言うように。

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482※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/03/15(日) 23:10:46

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 スッ、と十六夜が右手を払う。
 生まれたのは風だった。
『勇者』が警戒も露わに剣を掲げたが、そんなものに意味はない。
 大気のうねりは黒灰を媒介に視認され、二人を中心に渦を成す。
 そして、疾った。
『――――!』
 それは十六夜がここに踏み込んだ瞬間に起こったことの再現だった。
 風を操り、人間ごと大気を蹴散らし、吹き飛ばす。
 台風が直撃したような轟音に混じり聞こえてくるのは、圧縮された大気によって
刻まれる建物の悲鳴と、それすらあげられずに転がる人間達の激突音。
 その光景に、ふと何故か十六夜は虚しさを覚えた。
『……さて』
 薙ぎ払われた世界に取り残された二人は、綺麗に「掃除」された空間で改めて対峙した。
『これで少しはやりやすくなったでしょう』
『お前は……まさか』
 そこから先に続く言葉は予想がついた。
 かつての自分ならばそれを肯定していただろうか、などと考えながら、
『ええ。ご想像通り、神職に就いていたこともあるわ。記憶すら朧な過去の話だけれど』
 今の十六夜はそれを否定する。
 聖者を騙っていた自分は、生に縋りついた時に死んでしまった。
 今ここにいるのは――
『始めようか。夜明け前には帰りたいからね』
 その言葉に、『勇者』のまなざしが変わる。
 覚悟を――ようやくといったところだが――決めたらしい。
 彼の全身が俄かに発光する。コンセントに電極を指した時のような炸裂音と共に、
電光がその姿を覆った。その力は左手に集約されている。
 勇者のみが使うことの出来ると言われる、紫電の魔法。
『それに、私も興味がないわけじゃない』
 それを視界に留めながら、十六夜は微笑する。

『――私の「異端」は、かつての世界(じぶん)を超えることができたのか』

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483虫ピン:2009/03/17(火) 23:22:22
うごうごと必死にもがく虫をフランドールはじっと見つめていた。
それは虫ピンで壁に縫い付けられ、哀れなその姿を晒していた。
暫くはその動きを物珍しそうに見つめていたフランドールではあったが、
飽きてしまったのか、床に手の中に残った虫ピンを一本、手にした。
真鋳製のそれを腹へ一刺し。
もう一本手に取り、最初の虫ピンの横へ二刺し。
三刺し。
四刺し。
五刺し。

虫が動きを止めようと、フランドールは虫ピンを何本も何本も突き立てた。
執拗に、楽しむように。
そうして、虫の姿が虫ピンで見えなくなった頃、フランドールはようやく満足げにベッドに腰掛けた。


暫くして、姉お気に入りのメイドが紅茶を携え、やってきた。
そうして、壁の虫ピンに目をやり、首を傾げた。
―妹様、あれはどうしたのですか?
そんなメイドの様子がおかしかったのか、フランドールはくすくすと笑って見せる。
―部屋に入ってきたから、壁に飾ってみたの。
でも飾ってみたらあんまり綺麗じゃなかったんだ。
左様ですかとメイドが言い、壁の虫を見つめる。
後で片付けられるだろうそれの話を今度誰かにしてみようか。
そんな風に思いながら、フランドールは紅い紅茶に口をつけた。


ピンから覗く虫の足は人の形をしているものだった。

484辺境の星の空:2009/03/19(木) 05:59:04
こんな空はあんまり好きじゃない。
雲一つとしてない、何処までも突き抜ける様な青空をヤラは睨みつける様に見上げていた。
とある辺境の星に、彼女は居た。
見聞を広めるためにという名目で義父の治める帝国から遠く離れた星を点々と渡り歩き、
その星土着の民と交流する事もあれば、暇潰しに傭兵の真似事もしてみた。
今しているのは…どちらかと言えば、後者だった。
外から来た侵略者―その星に住む者にとっての―からの略奪を阻止したせいか、
その腕を買われ、客将として手厚くもてなされていた。
そろそろ次の星へ向かいたい所だったが、熱心な侵略者達がそれを許さない。
いっそ中央部にその悪逆ぶりをチクってやろうかしら。五割増し凶悪に。
等と考えながら、溜め息をつく。

もう一度、空を見上げる。
空の果てから降りてくる点のように見える何かに口の端がつり上がる。
「さぁて、仕事と行きますか」
傍らの大鎌を肩にかけ、彼女はゆっくりと歩き出した。

485無責任:2009/03/24(火) 00:27:37
テレビを見つめる彼女の姿を蒼星石はちらりと横目で見た。暗く沈んだ瞳に画面の点滅を写し、彼女は無表情にそこに座っていた。
『…男は死刑になりたくてと話しており―』
「………だったのかね、彼も」
ニュースキャスターの言葉に重ねるように、かすれた彼女の声に蒼星石はとうとうそちらに振り向いた。
先程と変わりない様に見える彼女の瞳が僅かにうるんでいる…様な気がした。
「一体いつから人間はこんなに冷たくなったんだろうね…」
どういう意味か、問い掛けようとした蒼星石の横を彼女が通り過ぎる。
その横顔に深い何かを見た気がした。

「ああ多分それはこう言ったんじゃない?」
相変わらずゴチャゴチャとした部屋の中で彼女の妹が肩をすくめる。
「その男も独りになっちゃったんだろうってね」
「…つまり?」
いまいち理解出来ない様子の蒼星石に相手は苦笑しながら、ベッドに腰掛ける。
「誰かに助けを求められず、でも、差しのべられた手に気付くことも出来ない。
…ううん、もしかすると助けを求めて、気付いてもらえなかった、って事かも」
天井を見上げながら、彼女が溜め息をつく。
「周りは励ましたつもりでも本人には責められる様にしか聞こえない事もあるからさ。
頑張れ、とか逃げるな、って思ってみれば物凄く無責任な言葉だよ。
耐えて耐えて誰かにもう頑張らなくていいって言って欲しくて…でもこれは人によるかな」
自身の手を握っては開く彼女は長く息を吐き出し、困った様に笑った。

「あいつららしいな」
服にアイロンをかける男の背中に寄りかかりながら、蒼星石は深く息を吐いた。
「まぁ、ね。でもなんであんな事言ったんだろうってさ」
男は暫し考える様に小さくうめくとアイロンを傍らに置いた。
「あいつらもその男と同じ場所に居るからだろうな」
「…?」
「つまり、だ」
男が蒼星石を抱き上げ、膝へと招く。
「あいつらも自分の中の闇に飲まれたんだろう、とな」

486信頼:2009/03/28(土) 12:44:57
「…という訳なんだけど、分かった?そもそも起きてる?」
机に突っ伏したままの紫と船を漕ぐ面子にコピーエックス―コピックの愛称で呼ばれるは思わず頭を抱えた。
彼の背後のホワイトボードには『電子空間視覚化スコープ』と巨大な文字とそれを囲むように様々な数式が散りばめられていた。
村上家の地下居住スペースの一角に設けられた会議室で新たな装備についての発表がされていたのだが…。
「ちょっと説明があれだったらしいね」
いまだに頭を抱えるコピックに茶を取りに戻っていた蒼星石が苦笑しながら、声をかける。
「分かりやすくしたつもりだったんだけどなぁ」
「でもほとんど数式とか理論とかみたいだし、疲れてる皆には子守り歌になっちゃったんだよ」
差し出されたE缶―いつも何処から調達しているのか、コピックには不思議でたまらなかった―を受け取り、諦め気味に息をつく。
「まぁそれもそうだけどさ、こっちだってエンジニアじゃないんだし結構大変だったんだよ?
試作作ればもっと軽くだの、でかいからコンパクトにしろだの…」
文句を言いながら、E缶をあおる彼に蒼星石も肩をすくめる。
「それだけ君は皆に信用されてるって事だよ」
「…素直に喜んでいいのかな、それ」
「多分ね」
不機嫌そうな、ただどこか満更でもなさそうなコピックの視線の先で
紫が椅子からころ下落ちていった。

48710ABY. アクシリアの戦い:2009/04/04(土) 09:59:34
―――アクシリア軌道上

既に両軍のレーダーがお互いの艦隊を認識していた。両軍のハンガーでは第二波の航空隊の
発進の為に整備員が駆け回り、両軍の砲撃手達は敵の最新の位置を入力し続け、
両軍の司令官達はいかにして優勢に持ち込むかを思案していた。

―――TIEハンター レインボー1

エグゼキューターに配置されているレインボー中隊は最新鋭のTIEハンターを授かるという名誉に
いち早く与ったエリート部隊である。そのようなエリート部隊の仕事とは前線の露払いである。
レインボー中隊を率いるヘブスリィ大尉は部下達を引き連れて、帝国軍の最前列に居た。

「レインボー1より中隊各機へ、ようやく俺達の出番だ」
「早くコイツを実戦で試したくてウズウズしていました!」

ヘブスリィが言い終わるか終わらないかの内に若い声が返ってきた。ハンターと一緒に配属された
グレシャム少尉である。アカデミーを優秀な成績で卒業したものの、まだ実戦を経験していない彼は
新鋭機で初陣を飾れるのが嬉しくてたまらないのだ。

「レインボー16、お前は俺の後ろにつけ。さもないとヒヨコがターキーにされてしまうぞ」

そう言って、中隊のほぼ全員の笑いを取ることに成功したのはクリストファー副隊長である。
歴戦の勇士の彼はユーモアの中に警告と心遣いを含ませたのである。しかし、この楽しい空気は
すぐに吹き飛んだ。両軍がミサイルの有効レンジに入ったのである。

すぐさまミサイルとレーザーが飛び交い、一瞬にして何十機もの戦闘機が宇宙の塵となる。
しかし、それを生き延びる者はもっと多い。生き延びた者同士でドッグファイトが始まるのだ。
幸いにもレインボー中隊は全員が最初の洗礼を抜け、本戦への出場権を手に入れた。

「レインボー6、レインボー7、俺の両翼を固めろ!あのAウィングのグループを潰しておく!」
「「了解!」」

3機のTIEハンターが乱戦の中で目標を真っ直ぐに捉え、一斉射撃を浴びせて落としていく。
数と連携に優れ、防御力に劣る帝国らしいやり方である。本戦に出場したことで安心していた
Aウィングのパイロットは何が起きたのか分かる間もなく、退場させられたのであった。

488※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/04/04(土) 23:34:01

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 初撃は、『勇者』の方が速かった。
 見舞った瞬間に完了するのは、光の速さで疾駆する呪文特有の利点だろう。
 その必殺性故に、勇者以外は扱うことすら許されない禁忌の力。
『勇者』を中心にして全方位に放射される稲光をかわす手段などはなく。
 十六夜は考えられうるあらゆる最悪の事態をすべて臓腑に飲み込み踏み込んだ。
 世界が鮮烈な白で包まれる。
 痛い、という感覚はない。
 痛覚さえ麻痺させるショックが全身を駆け巡った。
『…………なっ!?』
 それにも関わらず、驚愕の表情を浮かべたのは『勇者』の方だった。
 床に倒れこむ。長時間正座した後のように足が痺れ立ち上がることが出来ない。
 先程の風で黒灰は吹き散らされたため汚れることはなかったことに安堵する――
今置かれた状況そのものよりも、そちらの方が遥かに重要だとでも言うように。
『……ひさびしゃに効いたわ』
 全身が小刻みに痙攣するため、呂律さえも満足に回らない。
 全力で舌打ちして、小さく呪文を唱える――ホイミ。
『つくづく厄介ね、「魔法」ってのは』
 立ち上がる。激しい嘔吐感は残っていたが、活動に支障はきたさない。
 むしろそれを心配すべきは『勇者』の方だろう。
『こんなのを1対1の戦いに持ち込む私達は、人の道から外れた卑怯者だとは思わない?』
『これは……一体……』
 わずかに混濁していたらしい意識が戻り、苦瓜でも噛み砕いたような渋面を浮かべる。

『勇者』の雷撃は光の速さで十六夜を貫いた。
 同じ時間に、十六夜の掌底は『勇者』の顎を撃ち抜いた。
 意識が混濁したのは軽い脳震盪を起こしたせいだろう。

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489※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/04/05(日) 10:50:14

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 それを戦いと呼べるほど上等なものだと十六夜は思うことが出来なかった。
 故に、やはりこれはただの喧嘩だろうと思う。
 鞘に納められたまま振り下ろされた『勇者』の一撃を檜の棒で弾く。
 向こうも予想していたらしく、あらぬ方向に走る剣閃の向きを素早く変え、
返す一撃で十六夜の左脇を狙ってくる。慣性を無視した強引な燕返しだったが
それなりの速度があり、十六夜は一歩身を引いてそれをかわす。
 そこに『勇者』の放ったギラが飛んできた。
 不意をついて追撃する形となったその一撃。予想の範疇外にあったそれを、
十六夜は舌打ちと共に棒を持たない左手で叩き落とす。
 おぞましい虫の這いずりのように伝う火傷の痛みの暴走をかろうじて理性で圧し殺し、
『勇者』の畳みかけを防ぐ目的でバギマを放つ。
 あわよくば傷の一つでもと思ったが、イオラの爆発にかき消されダメージには至らない。
 再び間合いを開きあった二人は、回復呪文でそれまでの傷を癒す。

『久々ね――いや、このスタイルをとってからは初めてか』
 独白のつもりだったが、その言葉に『勇者』がいぶかしむ顔をした。
 答える義理などなかったが、何とはなしに言葉が口をついた。
『私がこの戦い方を覚えたのはこっちに来てからなの』
 僧侶は一人では戦えない。
 それは数年前までの十六夜にとっての常識であり、今の十六夜にとっての汚点だった。
 一人で戦うことを強要される状況になって初めて気づいたのだ。
 それまでの常識など、蜂蜜のように甘ったるく粘質の海に浸かっていた己の抱く願望に過ぎなかったのだと。
『ここは私達みたいな「魔法使い」は少数派だから。
 ――魔法を使われるのがこんなに厄介だとは思わなかった』
『……お前の悪行なんて知ったことじゃない』
 硬質化したままの『勇者』の言葉に。
 十六夜はかすかに眉根を上げた。興味深そうに――あるいは、腹立たしげに。
『悪行。悪行――ね。面白い、少し興味がわいてきた。
 夜明けまでにはまだ時間がある、ちょっとお姉さんと話をしようか――「勇者様」?』

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490※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/04/05(日) 18:38:41

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 つと、もはやただの穴と化した窓の方を見遣る。
 そこには最初の雷撃に巻き込まれて目を回しているこいしがいたりしたのだが、
十六夜は気づいた様子もなく――あるいは気づいた上で無視して、視線を戻す。
『自己紹介が遅れたわね。私が貴方の探していた張本人、「拷盗」その人よ』
 軽く腕を持ち上げ、芝居がかった口調でそう告げる。
『「拷盗」と呼ばれる所以はもう知ってるのよね?
「略奪」だけを目的とした愉快犯。その対象は金品に留まらず、時には人の身体と
心さえも奪うことで知られ、行方不明や記憶喪失に陥った者は数知れず。
 あまりに残虐な手口に、今では半ば都市伝説と化してさえいる――とか、そんなところかしら』
 他人事のように語ったのが癇に障ったのか、『勇者』のまなじりが下がる。
『どうしてそんな事をするんだ』
『どうして。そんな疑問が湧く時点で滑稽ね』
 図るように『勇者』の全身を睨めつける。
『あなたは自分が何故呼吸するか、いちいち疑問に思ったりするの?』
『自分さえ良ければいいのか。その為なら、誰を傷つけてもいいと』
『誰でもいいとは言わない。私が「略奪」するのは、私の得になる奴だけよ』
『自分さえ良ければいいのか!』
『大事なことでもないのに2回も言う必要はないわ』
『勇者』が強く拳を握り締める。
『お前みたいな悪党が蔓延るせいで、夜も眠れずにやつれてる人々がいる。
 そういう人達のことを少しでも顧みようという気持ちに、どうしてなれない?』
『そう、それよ』
 面白がるように口の端を上げ、『勇者』を指さす。
『悪党――って、何?』

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491※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/04/05(日) 19:17:31

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『ねえ、勇者様。あんたは正義って看板背負って生きる運命にあるんだと思う。
 故にあんたが例え正義の味方を自負したところで、否定する気はないわ』
 けど、
『あんたは、どうして私を悪と呼ぶことが出来るの?』
 悪とは何か。
 幸福すぎたかつての自分は、いつもそれを考えていた。
『お前が、罪のない人達を傷つけるからだ』
『なら罪って何?』
『言葉遊びをするつもりはない!』
『勇者』の言葉を無視して、再び窓の外を見遣る。
 先程から視界の端々に映る紫色の髪が目障りで仕様がなかった。
 あの読心女も、この会話を聞いている。
 しかもこちらの真意をすべて読み取った上で。
『言葉遊び? 私は私を悪と貶める根拠を聞いてるだけでしょう?』
『そうやって言い逃れて自分のしてきた事を正当化するつもりか!』
『正当化するつもりなんてない。正当化するまでもなく、私は常に正しい』
『お前はそれを傷つけた人達の前でも言えるのか!』
『言える』
 きっぱりと。
 あらゆるものを断ち切る迷いのない一言に、『勇者』が絶句する。
『私は正しい。正義という言葉がお好みなら言い換えてもいい――私は正義よ』

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492※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/04/06(月) 23:06:47

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『勇者』の瞳に怒りとは異なる色が混ざり出したことに十六夜は気づいていた。
 それは困惑。そして――
『お前……それでも僧侶だったのか!? 何でそんな卑劣なことが言える!?』
『卑劣? 私は自分の正しさを貫くだけよ。あんたと何が違うの?』
 ようやく十六夜の言葉の意味がわかりだしたのだろう。
 これまでのように刹那的な感情を撒き散らすのをやめ、『勇者』は落ち着いた口調で語りだした。
『……僕は罪のない人達を傷つけたりはしない』
『…………』
『あるいは、無意識に傷つけてしまうことはあるかもしれない。
 だがそれは罪だ。だからそれに気づけば、僕は必ず償おうとするだろう。
 けどお前のやってることは違う。
 自覚を持って他人を傷つけ、自分の利だけを最優先し、弱者を貶める。
 それが罪だ。それが――悪だ』
『そう。それが聞きたかった』
 かつての自分と同じ結論を聞けたことに満足する。
 聖職者だった十六夜も、この『勇者』と同じように「悪」を定義した。
 そして――絶望したのだ。

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493※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/04/06(月) 23:35:15

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『あるところに、とても悪いことをした罪深い人がいました』
 急に語り口調で話しだす十六夜。
『…………?』
 意図が読めず、『勇者』が怪訝な顔つきを浮かべる。
『罪人はたくさんの人を悲しませた罪で極刑になることが決まりました。
 とてもとてもたくさんの人を傷つけた罪です。それはそれは思い罰でした。
 罰。それは悲しみを被った人達の手で、その悲しみが癒えるまで罰を受け続けることでした』
 十六夜の声音はかつてないほどに平坦だった。
 まるでともすれば吹き荒れる激情を気取られぬよう、無理に押し殺しているかのように。
『罰を受け続けるという罰。
 それは死とイコールではありません。
 魔法という力は、罪人から死という逃避さえも奪います。

 ――目を13回抉り出されたところで、罪人は許しを乞い始めました。
 ――腸を35回引き千切られたところで、絶叫と共に神様に死を願い始めました。
 ――性器を44回嬲られたところで、罪人はついに自我が壊れ発狂しました。

 罪人が死ぬ事を許された時。
 そこにはもとは脳漿だったか臓器だったか、それさえも判別できないほど
ミキシングされた人間のなれの果てが、ほんの数百グラムほど転がっていたそうです』

 かしん
 かすかに響いたその音は、しかし静まり返った空間に異様なほど響き渡り、
巻き付けられた糸がふいに切られたように、ビクリと『勇者』が肩を震わせる。
 十六夜は同じ動作で、二度、三度と檜の棒で床を叩く。
『……だから、正義なんてありはしないと言いたいのか?』
『信じたの? ただの御伽話よ。お・と・ぎ・ば・な・し、子供が大好きな、ね?』
 底冷えするような声で、十六夜。
「ただの御伽話」を憎悪のまなざしで語る十六夜は、
『そうね、楽しい御伽噺にこんな終わりを付け加えてみましょうか』
 かしん

『罪人は理性がクラッシュする少し前、とある聖職者にこう尋ねました』

 ――ワタシノツミハ、ナニ?

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

494死を望む者:2009/04/09(木) 09:08:42
「無駄な事してるわね」
手近なスクラップに腰掛け、疲れたようにヤラが息をつく。
『無駄な事…なのでしょうか?』
彼女の呟いた言葉に男の声が答える。
だが、彼女の周りには乱雑に積み上げられたスクラップや未練がましく動く残骸しか存在しない。
「えぇ、私から見たら十分無駄な事よ」
濁った空の向こうから僅かに降り注ぐ光に照らされて、薄い影がそこかしこで揺らめく。
「何が起こったのかも分からない一瞬の内に葬ってやるなんて慈悲深いにも程があるとは思わない?」
『は、はぁ…』
煮えきらない返答に僅かに苛立ちを覚えるも、すぐさまそれを塗り潰すような感情を抱く。
『……っ、相変わらずいきなりなんですね。こちらまで引っ張られそうですよ』
「あら、ごめんなさい」
そう答えながらも、ヤラは自分の中で沸き上がる感情を押さえようとはしなかった。
普段の武器とは別の、切れ味が格段に劣るナイフを逆手に哀れな獲物へと近付く。
「はろー、まだ生きてるかしら?」
体中を棘で地面に縫いつけられ、無惨に地面に転がされた残骸は彼女を濁った瞳で見つめた。
「こ………殺せ………」
血混じりの懇願とも取れる訴えに、しかしヤラは笑顔で答えた。
「嫌よ。
ねぇさっきも言ったわよね?死は貴方達にとっての最高の名誉なら
私は貴方達に死を絶対与えないって」
止血した傷口を開くようにナイフを突き立てる。
残骸からは苦悶の声が漏れ、手足のない体をよじる。
「あら駄目よ、まだ死んだら」
ナイフを傷口から外し、癒しの力を注ぎ込む。
塞がっていく傷口を絶望するように目を見開く相手にヤラは暗い笑みを向けた。
「闇に飲まれるまで一緒にいましょう」

495桜月:2009/04/13(月) 21:46:15
鼻先に舞い落ちた花びらを手に取り、コピーエックスは頭上の木を見上げた。
ソメイヨシノと呼ばれるこの木は彼が居た世界では遥か昔に絶えて久しかったが、
その時よりも過去であろうこの時代の日本エリアはそこかしこで見る事が出来た。
視線を下へと戻す。
四季の情緒を愛するこの国の人々が満開の木の元へ集い、あちこちから陽気な歌声が上がっていた。
ここいう日はハレの日だと教えてくれたのは、これまた彼が居た時代には姿を消した異形の者―土着神と呼ばれた者だった。
「あーした、ハレの日ぃ…」
口ずさむのは誰かの歌っていた歌。
幼さが残る声は人々の喧騒に紛れ、桜の花と共に風にかすれて―


「おやまぁ」
桜に誘われ、ふらりと公園に足を運んだ紅は桜の根本に座り込んだ青年に目を丸くした。
目を閉じて眠る青年を起こさぬ様に隣へ腰掛け、鞄から缶入りのアルコール飲料を取り出す。
「月にむら雲、華に風って奴かねぇ」
しみじみと呟く彼女の頭上で桜吹雪が月と踊っていた。

496戦場の亡霊:2009/04/17(金) 14:45:20
各地を歩けば、それだけ色々な人物と出会う機会が多くなる。
アンドロイド。闇商人。暗殺者。
だが―この相手ほど奇怪な相手は果たして居ただろうか。
ヤラは普段の大鎌を地面に突き立て、真紅のセイバーを構えながら、相手を注意深く見つめた。
「シスか……」
喘息を思わせる咳払いをし、相手はそれぞれの手に青と緑のセイバーを構える。
ジェダイを殺して奪った物か、元々本人の物かは定かではないが、
ただそこから感じられる気迫にヤラはいつでも飛び退ける様にしている自分がいる事に気付いた。
(強敵ね…)
相手の挙動を見逃さぬ様にしながら、彼女はここに来る事となった経緯を思い出していた。

497戦場の亡霊:2009/04/17(金) 15:30:53
「…所属不明のアンドロイドの大群?」
敬礼をし、報告してきたトルーパーにヤラは眉をしかめた。
宇宙船の補給をしに―という名目で降り立った星の駐留基地でヤラを出迎えたのは、慌ただしく行き交うトルーパー達だった。
この基地を預かる壮年の長官は彼女の言葉に表面上は冷静に、言葉の所々に悔しさをにじませながら答える。
「先日、この星に置いて中規模の地震が発生し、それに伴い、基地下層に巨大な空洞が出現したのですが…」
調査に向かった中隊からの連絡はなく、不審に思った彼は自ら精鋭を率いて、空洞へと赴いた。
だが、そこで彼らを待ち受けていたのは、無数とも思えるドロイドと物言わぬ戦友の姿だった。
「調査には多くの犠牲を払う事となりましたが、敵が何であるかは判明いたしました。
…こちらをご覧ください」
そう言いながら、オペレーターがスクリーンにそのドロイドの姿を映し出す。

「…マグナ・ガードじゃない。
かつてIGシリーズのプロトタイプとして、一時期少数のみ市場に出回っていたとは聞いていたけど…」
ヤラの言葉に長官が首を頷く。
「はい。ですが、何者かがその後密かにこの地下で製造を行っていたようでして…」
オペレーターの言葉にヤラの表情が曇る。
(まさに灯台もと暗し、ね)
知らず知らずに自分達の足下深くでドロイドの製造が行われていたとは夢にも思わなかっただろう。
それが地震により外部へ露見した事が果たして幸か不幸だったかはさておき、ヤラがすべき事が決まった。

何者であろうと、自分の縄張りを荒らす不届き者にはそれなりの代価を支払わせてやろう。

498戦場の亡霊:2009/04/17(金) 19:04:32
24時間しても連絡がなければ、中央へ連絡する様言い残し、引き止めるトルーパー達を振り払いながら、ヤラは地下へ足を踏み入れた。
入ってみれば、予想以上に内部は入り組み、下へ下へと伸びていた。
途中まではバトルドロイドに出会うこともなく、些か拍子抜けだと思いながら、
そこへ足を踏み入れた瞬間だった。
出迎えたのは通路をうろつくドロイド達の熱烈な歓迎だった。
(数が多いとは聞いてたけど…)
振り向き様に背後の敵を切り捨て、一息つく間もなく奥から沸いてくるドロイドにいい加減辟易しながら、壁に身を隠す。
「一体どれだけ居るのよ」
雨の如く降り注ぐブラスターを受け、次第に頼りなくなりつつある壁の後ろで愚痴を呟き、安全ピンを抜いた手榴弾を投げ込む。
「おまけにほいっ、と」
続け様に同じ様にいくつか投げ込み―爆音と衝撃波が脆くなった壁とドロイド達を吹き飛ばす。
地上でも今の揺れは感じられただろうが、この際知った事ではない。
体の上から瓦礫を退け、砂埃の収まらぬ奥へ視覚を飛ばす。
倒れているドロイド5体の内、機能しているものは2体。その内の1体は両腕と片足が潰れている。
(相手は実質1体…一々相手をするのも面倒ね)
闇へ紛れる様に人の形を崩しながら、音もなく天井まで浮かび上がる。
(今の姿なら奴らのセンサーにも引っ掛からない筈だけど…)
目標を見失い、辺りを見回すドロイドの頭上を漂い―
(…!?)
一瞬ドロイドがこちらを向き、ブラスターを向ける。
が、何事もなかったの様に首を傾げるような仕草をし、空洞の奥へと引き返していく。
(流石にびっくりしたわね……)
後をつけるように距離を置きながら、胸中で息をつく。

499戦場の亡霊:2009/04/17(金) 19:28:23
「…何者だ」
そう言われた瞬間、ヤラはまさか自分の事だとは思いもしなかった。
「ドロイド共を欺き、ここまで来れた事は称賛しよう」
ドロイドの残骸に囲まれたそれはそう言いながら、傍らのスピアを手に―
「………っ」
天井から床へ降りると同時に先程まで居た場所へスピアが突き刺さる。
「…いつから気付いていたのかしら?」
ヤラの言葉に相手は驚いた様子で答える。
「先程の揺れと帰還した部下の様子でかなりの者だとは思っていたが…よもや女とはな」
咳払いをする相手に人の姿を取ったヤラが忌々しそうに吐き捨てる。
「あら、女だからって油断しない方が良いわよ?」
それを示すかの様に鎌をドロイドへと袈裟掛けに切りつける。
その様に満足したようで相手はヤラへ背を向け、奥へと来るように促した。
「どういうつもりかしら?」
罠だと警戒する彼女に相手は軽く咳をし、肩越しに振り向く。
「ここは狭い…戦うならば広い方が良いだろう?」
…どうやら、相手は意外に正々堂々とした勝負を好むらしい。
それでも罠である可能性を頭に起きながら、彼女は相手の後に続いた。

500戦場の亡霊:2009/04/17(金) 20:01:50
「来ないならば、こちらから行くぞ」
その声にヤラは顔を上げ、セイバーを踏み込んできた相手へ突き出した。
相手はそれをヤラの横へ回り込む事で避け、上段と横からセイバーをヤラへと振り下ろす。
横へも後ろにも避けられない彼女はあえて相手の懐へ飛び込み、股下をくぐり抜け、足へ切りかかる。
相手もそれを読んでいたのか、前へ跳躍してヤラへと向き直る。
「流石だな」
「貴方もね、ついでに名前でも聞こうかしら。
墓、作ってあげなくもないわよ?」
距離を取り、セイバーを構え直しながら吐いた言葉に相手の様子が変わる。
セイバーを握る手は震え、怒りをにじませた瞳がヤラを射抜く。
「名乗る名など…とうに無くした!」
ダンッ!と床を踏み抜かんばかりの跳躍から放たれた突きにヤラのセイバーが宙へと舞う。
舌打ちをし、拳を固める彼女の右肩をもう一方のセイバーが貫き、後ろの壁へと叩き付ける。
「がっ……!」
肩を瞬間に焼ききられる痛みに歯を食い縛りながら、続け様に貫かれた左肩の痛みに耐える。
「終わりだ」
肩からセイバーを引き抜き、逆手に持ち変えた相手を見上げながら、ヤラは口を歪めて笑った。
「えぇ、その様ね。でも最期にひとつ」
その言葉に相手は怪訝そうな様子を見せて…次の瞬間、まるで信じられない目つきで自身の胸を見下ろした。
「シスもフォース使える事を、お忘れなく」

501戦場の亡霊:2009/04/17(金) 20:27:09
「テレキネシス、か…」
背中から貫いた鎌を見下ろしながら、相手が息苦しそうに呟く。
「肉を切らせて、骨を絶つ…ま、あんまり好きな戦い方じゃないけどね。
それより…あなた、何者?どこに頼まれてあのドロイド達を作った?」
「…作ったのではない。我々は以前から、ここに、居た」
「なんですって?」
咳込みながら、言葉を続ける相手にヤラは一言も聞き逃さぬよう、耳を傾けた。
「戦いに破れ…地下へ打ち捨てられ、そのまま死ぬ筈であった。
だが、死ぬ瞬間、心の中である感情が芽生えた」
体を軋ませながら、なおも立ち上がろうとする相手に思わず後ずさる。
「まだ、戦い足りない。まだ、ジェダイ共をこの手で滅ぼし足りない!
特に奴を、手傷を負わせた奴ヲ!」
覆っていた金属が体からはがれ落ち、床へ散らばっていく。
「あなた…まさか…」
「奴ハ何処だ!奴ヲ出セ!ヤツヲヤツヲヤツヲ!」
…体を覆っていた金属の下から現れたのは、見慣れた漆黒の体。
「…だが、地上への道は閉ざされたまま、我々はなす術なくここで時を待った」
「そして地震が起きて、地上への道が開けた…」
相手から抜け落ちた鎌を手元へ引き寄せ、構える。
「執念もここまで来ると恐ろしいわね。
ま、私も同じ様なものなんだけどね」
「邪魔ヲ…する気か」
顔を覆う金属の仮面のみとなった相手が再びセイバーを構える。
「えぇ、そうよ」
唇を歪め、暗く歪んだ笑みを向けながら、皮肉っぽく言い放つ。
「さようなら、未練がましい亡霊さん」

502クロネコ:2009/04/20(月) 19:08:42
彼女を例えるならば何であろう?
いつもの様に仲間とくだらない話をしていた時にふとそんな話が出た。
数ヶ月ぶりにここ、インペリアル=パレスに放浪癖のある第二皇女が帰ってきた。
相変わらず訳が分からないもの―妙な装飾がされたドロイドのパーツやら不思議な色合いの鉱物やらを持ち帰っては、部屋に飾っているだの
辺境の地を荒らし回る海賊共を一人で絞め上げただの、
何かしら(皇族にしては)噂話に事欠かない人物ではあるがそれもあいまってか、彼女には一部から人気がある。
風に流れる艶やかな黒髪が素敵だ、いやいや敵を射抜くあの視線だ、
しなやかな身のこなしだ、等々。
日頃彼女の暴言(に近い台詞)を聞いている彼は
同僚達の言葉にただ苦笑するしかなかった。
「××はどうなんだ?」
同僚の一人がこちらに話題を振る。
「あー…そうだな」
言われて少し考え込む素振りを見せる。
「ネコ、だな」
「ネコだぁ?」
彼の言葉にどっと笑いが起きる。
またまた、やっぱり××はジョークが上手い、とはやしたてる同僚達に彼が肩をすくめると同時に休憩終了を告げるベルが鳴り響いた。


上司は気まぐれなクロネコ

503評価:2009/04/26(日) 22:15:06
訴えようとも訴えることができない。これほどつらいことはない。
言いたいことも言えないのだ。ひとえにそれは自らの性格にある。
前に他人に人間関係は『外交』じゃない、と言ったが、
実はそう捉えているのはそれを言った本人なのだ。
卑屈になることしかできない自分に腹が立つ。
己の中では己を貫きとおしてはいるが、外に出るとすぐに曲げてしまう。
きっと、あと数年もこんな感じなのだろう。

結局、まだ言いたいことが言えずにいる。
そして、自分の欲望を曲げて出すことしかできない最低の人間へとなり下がっていくのだ。
そこにいる意味を見失ったら、他人との比較でしかそこにいる意味を見つけられないのだ。

恐らく、これからも言いたいことを自分は黙りとおしていくのだろう、永遠に。

504潜む者:2009/04/28(火) 11:32:44
いつもと変わらない夜だった。
同僚たちと仕事明けの一杯へ赴いた彼は、街のざわめきを聞きながら、いつものように空を見上げた。
「!!!」
遠くの空が赤く染まり、何かが焦げる臭いと煙に人々は何事かと足を止めて、彼と同じように空を
見上げていた。
なんだどっかで火事か?向こうはインペリアルパレスの方じゃないか?
ざわめく人々を尻目に本部と連絡を取っていた同僚の一人が吐き捨てる。
「くそったれ!妨害されてる!」
本部との連絡が取れない以上、武器が必要になるであろう状況なのは疑いない。
足早に詰め所に戻っていく同僚たちの後を追うように振り返り―

「おーい、この資料を取ってきてくれないか?」
「はい!ただいま!」
彼女は渡されたメモを片手に資料庫にいくつかの荷物を抱えて廊下を歩いていた。
IDカードを扉に差し込み、相変わらず乱雑に置かれた荷物の山を崩さないようにゆっくりと奥へと
進み・・・
{緊急事態発生!緊急事態発生!社内の職員は速やかに所定の場所への退避をお願いします!
繰り返します!社内の・・・}
避難訓練は果たして今日であったのだろうか?
そんな風に首を傾げて、一番近くの窓から外を見―

「お母さん・・・」
不安げに見上げてくるわが子を抱きしめる娘に老婆は優しく笑いかけ、孫の頭を優しく撫でた。
「おばあちゃん?」
もう少し、この子供たちの側にいた方がいいのかもしれない。
だが、それでは敵を通すまいとする子供の夫、父が命を落とすやもしれない。
「・・・お母さん?」
「大丈夫」
不安げな娘の目元から涙をぬぐい、入口へ歩いていく。
「おかあさ・・・」
閉まる扉の向こう側で娘の声を背に聞きながら、老婆は空を仰ぎ―


あるものは大切なものを守るためといった。
別のものは戦う意味など持たないといった。


しかし、自らが根を下ろしたその場所を守るため
その夜、人の中へ身を潜めていた数多の暗闇が
黒い三日月の呼ぶ声に集まり
深く暗い夜となり、仇なす者達へ
その牙をむいた

505産まれることのできない命:2009/04/29(水) 15:39:41
ここはどこか遠い、でも技術の最先端を行く惑星での、小さな小さな物語。
とある一人の女性―外見年齢は18歳ぐらいか―が、自らの体を透明にすると、
自分の部屋を飛び出し、こことは違う遠いどこかへ向かっていた。

そしていくつかの宙域を生身のまま抜け、そして、数時間の『航行』ののち
ついた先は未開惑星―とは言っても、彼女には古戦場でもあった惑星―だった。
彼女は自らの体を可視状態にすると誰もいない、酸素もない惑星をただ一人歩き始めた。
だが彼女は酸素がないこの惑星を、生身のままで宙域を抜けた私には、
何も案ずることは無しと言わんがばかりに白いドーム状の建物へとてくてくと歩いて行く。
まるで、『我が故郷』と言わんばかりに、だ。

彼女はその建物に入ると、人造物でありながら、
人の気配を感じることができないその建物の電気をつけ、
水槽の中に入った、まだ喋ったことも、考えたことも、
自ら動いたこともない自分の姉妹たちに挨拶をした。
「…まだOS見つからないの、もう少しだからね、待っててね」
いつも彼女の恋人に毒を吐いてるその口で、彼女は動かない自分の姉妹たちに、
優しく、だけど、力強く話しかけていた。

そして彼女は、その施設を後にした。彼女の眼には、うっすらとだが、涙が浮かんでいた。
だが、彼女がもといた惑星に戻る頃には、いつもの毒舌を彼女の恋人に向かって吐いていたという。

506:2009/05/05(火) 14:25:14
湿った空気を感じながら、ドロシーはぷかりと煙を吐き出した。
暇である。
妙に厄介な依頼も今のところ入ってはおらず、かと言って何かしたい事がある訳でもない。
出掛けようにも今の時期ではどこも人だらけだろう。
いつもなら煩い年少組も今日は紅魔館だ守矢神社だと出掛けていて、居ない。
唯一家に居る鉄屑は定期メンテナンス中でからかうことすら出来ない。
珍しく静かなのはよろしいが、暇でたまらない。
いつの間にかフィルターのみとなった煙草を灰皿に捨て、新たな煙草を取り出そうとし―
「…………ない」
くしゃりと空になった箱を握り潰し、仕方ないとばかりに重い腰を上げる。
日用品のついでに買いに行くか。
財布をジーンズのポケットへねじこみ、椅子にかけたままの上着に袖を通す。
玄関で靴を履き、扉へ手をかけ―
「……あー」
くるりと後ろを振り返り、一言。
「行ってきます」

507※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/05/05(火) 22:27:01

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

『罪なんて――悪なんて、他人が決めていいものではないのよ』
 嘲るように――その対象が『勇者』なのか、あるいはかつての自分だったのか――
十六夜は言い放つ。
『だから何をしても罪にはならないと? それこそただの言い逃れだ』
『罪になるかどうかは私自身が決める。そして私以外の誰にも決めさせない』
「勇者」が歯ぎしりする。
『悪党の理屈だ!』
『なら聞こう。あんたは悪を定義して、何を成す?』
 その問いに対して、「勇者」は迷わなかった。
 間髪入れずに答えを返す。わかりきったことを聞くなと、言外に怒りを込めて。
『罪を犯す者を止める。止めてみせる』
 そしてその答えをも予想していた十六夜は立て続けに言葉を投げる。
『どうやって? あんたの言う罪は、あんたにとっての罪でしかない。
 それを押し付けることの是非を問うても堂々巡りだから置いておくとしても、
 あんたが悪と定義した相手は、自分が正しいと主張するでしょうね。
 自分だけの「正義の味方」を、あんたは如何なる手段でもって止めると言うの?』
『それは……』
 言葉を濁す。
 答えを持たないわけではない。そんなはずはない。
 彼はすでに具体的な行動でもって十六夜にそれを提示しているのだから。
『とっくにわかってるんでしょう? 
 物理的暴力にせよ、司法的権力にせよ、力づくで止めるしかないのよ。
 口で言って聞かない奴は、殴って言い聞かせるしかない。
 それはまったくもって正しい。そしてそれ故にあんたは間違ってる』
 十六夜は言い放つ。
 眼前の、現実を知ろうともしない御伽噺の中の勇者へと。
 そして、現実を見もせずに人を諭していたかつての僧侶(じぶん)へと。

『自覚を持って相手を傷つけ、己の利を最優先するために力で相手をねじ伏せる「正義」。
 ――それこそ、あんたが定義する「悪」そのものだ!』

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

508※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/05/05(火) 23:19:50

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

 語り合うまでもなく、結論など最初からわかりきっていた。
 究極的な「正義」などない。
 そんなものはどこにもありはしない。
 魔王にとっての正義が人間にとっての悪でしかないように。
 主張を異にする限り、正義の裏側に必ず悪が存在する。
 それはどちらが正しくて、どちらが間違っているなどということはない。
 そんなものは立ち位置の違いを示しているにすぎないのだから。

 それに気づいた時、十六夜は聖職者としての地位を捨てた。
 正義を信じられない者が、神を信じることなど出来るはずもなかった。

『僕、は……』
 拠り所を失った世界の救世主は、くず折れるように己の剣に体重を預ける。
 その姿に、懐かしさと、わずかの苛立ちを覚えながら、
『認めなさい。あんたは「正義」であると同時に「悪」だ。私と何も変わらない。
 守るべきものが私とあんたでは異なるという、ただそれだけの違いに過ぎないのよ』
『……信じたいんだな』
 ぴくりと、十六夜の眉が上がる。
『そう信じないと、そしてそう僕に信じさせないと、お前は僕を斃せないんだな』
 十六夜は無言。そこには先程までの憤りも消え失せたいつもの無表情だけがある。
『ようやくわかったよ。何故、お前がこんな禅問答を語り出したのか。
 さっきのお前の言を借りるなら、今の僕はかつてのお前そのものなんだろう。
 正義を信じることを諦めたお前は、正義を信じる僕には勝てない。
 だから語りを入れたんだろう? 僕を、お前と同じところへ堕とすために』
 かしん
『そうだ、理屈なんかじゃない。僕には守りたい、守るべき人達がいる。
 その人達を守り通すことが誰かにとって「悪」となるなら、それでもいいさ。
 僕は、僕を信じてくれるみんなにとっての「正義の味方」で在り続けよう』
 そうして、「勇者」は目を眇めた。
 心の底から憐れみを込めたまなざしで、

『――お前は、信じられる人を失った僕なんだな』

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

509※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/05/05(火) 23:23:48

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

「………………ッ!」
 胸を締め付けられるような痛みに、十六夜の体が震えた。
 ――僕を信じてくれるみんなにとっての「正義の味方」
「かっ……は……」
 喉に詰まったしこりを取り出すかのように、激しく嘔く。
 唾液が溢れ、涙が伝う。
 ――お前は、信じられる人を失った僕なんだな
 発作のようなしゃっくりを繰り返す度に、意識が逆行する。
 思い出してはいけない。
 理性が強硬に想起を拒んでいる。
 だが、すべては手遅れだ。
 己の頭の中を弄ってまで封印していた箱は、一度開いたら最後あらゆる負の感情を吐き出すまで収まることはない。

 最後の友達を失った夜。
 傷つき、嬲られ、蹂躙される様を、見ていることしか出来なかった地獄の夜。

 最初の家族に出会った夜。
 何もかもが終わりきり、ゴミのように打ち捨てられた「それ」を抱きしめることしか出来なかった悪夢の夜。

 思い、出しては、





 ――そーなの、よかったねー





「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

510母の日:2009/05/08(金) 20:01:38
花屋を埋め尽さんばかりの赤い花とそれを一生懸命に選ぼうと見つめる少女とをエックスは黙って見ていた。
「そういえば」
一見同じ様な二輪を両手に少女がエックスへと振り返る。
「コピックは見なくていいの?」
少女の問いかけに短くこたえると彼女は少し考えるような仕草をし―やがて、申し訳なさそうな顔を自分へ向けた。
「…ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ」
落ち込む彼女に花の会計を済ます様に促しながら、エックスはぼんやりと思った。

―自分を作った人を母とするなら、
―その人は自分を捨てた


「別に、今更なんともないよ」
花屋からの帰り道に謝ろうと口を開きかけたフヨウの言葉を青年が遮る。
居心地の悪い空気に先を歩く彼の姿を見る。
「どうした?」
不思議そうに眉根を寄せる青年の顔を間近にし、フヨウは驚いたように後ろへ飛び退いた。
「…君ってば本当にぼんやりしすぎだよ、ほら」
差し出された手は人間のそれと変わりなかった。

511※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/05/10(日) 21:21:57

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

「こいしっ!」
 総毛立つ感触に、さとりは思わず叫んでいた。
「ん、お姉ちゃん?」
 初めてその存在に気付いたというような声をあげるこいし。
 事実、こいしは声をかけられるその時までさとりを失念していた。
 声をかけようにもこいしを知覚できなかったさとりとは対照的とも言える。
「どうしたの?」
 危機感の欠落したその声に、さとりはまた別の理由で慄然する。
 それはさとりだけが抱いている危惧なのだろうか?
 さとりには十六夜の心が読める。
 それ故に、さとりの全感情が訴えるのだ。
「逃げるわよ」
 ――逃げろ、と。
「逃げる? 何から?」
 だが、こいしにはそれが伝わらない。
「この前のことを忘れたの?」
「この前? あぁ、ひょっとして十六夜に初めましての挨拶をした時?」
「あの時と同じことが起こるわ」
「そうなんだ。でも、その方が面白いよね」
「こいしっ!」
「んー、お姉ちゃんが何でそんなにビクビクしてるのか私にはわかんないよ」
 何故、伝わらないのか。
 それが普通なのだろうか。
 さとりにはわからない。
 心の読めるさとりに、心の読めないこいしのことは――
「……違う」
 そうではない。そんなことは関係ないはずだ。
「お願い、こいし。私の言うことを聞いて」
「……お姉ちゃん?」
「お願いだから……」
 こいしに理解させることができなくても。
 さとりの思いをそのまま伝えることが出来れば。
「あなたが傷つく姿を、私に見せないで」

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

512※名前欄が空白です。匿名で投稿されます:2009/05/10(日) 22:12:54

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

 灰が降り積もる。
 雪とは異なり結晶構造を成さないそれに吸音効果があるとは到底思えないのだが、
あたりは不気味なほど静まり返っていた。
 かすかな光に照らされたその場所は、よく見れば思いの外広かった。
 ただのコンクリートだと思っていた床は実は一部に過ぎず、その大部分は学校の
廊下のようなリノリウム張りとなっていた。建設途中に破棄されたというよりは、
破棄された後に風化ないし破壊されたのだろう。先程十六夜の風によって吹き飛ばされた
家具らしきものはよく見れば長机で、どうやらここは予備校だったらしい。
放棄されてかなりの年月が経っているのか、あちこち壁の塗装が剥がれた様はさながら
腐乱死体のようで、廃墟特有の押し潰されそうな空気が忸々と立ち込めている。
 常人なら間違っても留まりたいとは思わないその場所を塒(ねぐら)としていた
とある「普通」の強盗犯達は、十六夜の強襲から意識を回復させた直後に一目散で
遁走している。追いかけなかったのは、彼らが戦利品を置いていくのを確認していたからだ。
 故に、ここに残っているのは二人だけ。

 夜の中に混じる朱。
 その光を吸収し、黒灰がちらちらと彼らのもとに降り注ぐ。
「――いい夜だったわね」
 告げる十六夜の相貌には、笑みがあった。
 凍結したような瞳は敵を見据えてまばたきもせず、口元だけが異様に吊り上がった
その表情を、笑みと評していいのかはわからないが。

 ビルの建物の一室。
 そこに『降り積もる』雪。

 10階より上層が跡形もなく消し飛ばされたビルで、彼らは最後の対峙を迎えた。

// この投稿は匿名によるものです--------------------------------

513小ネタ:2009/05/15(金) 23:19:50
1 魔がさした
居間で何時ものようにフヨウが何かの物真似を披露し、
酔っ払った周囲が囃したてるのをコピーエックスは若干冷めた目で見ていた。
「なんだい、青いののノリが悪いよぉ?」
絡んでくる酔っ払いを避けるように洗面所へ逃げ込み、息をつく。
…ふと、鏡台の横に置いてあったブラシが目に入り、それを手に―
「………キラッ☆」
なんとなくポーズを取ってみる。
「……………」
「……………」
風呂に入りにきた紅と鏡の中で目があった。

2 三十七歳
アサヒにはどうしても一息に物を言う癖があった。
「お、紫さんだ」
珍しく縁側に現れた八雲紫にアサヒは常々疑問に思っていた事を聞いてみた。
「紫さん十七歳って本当なのか?」
アサヒが最期に見たのは、視界を埋める弾幕だった。

514ここにいる:2009/05/27(水) 18:43:32
「結局さぁ、何があったんよ?」
壁に顔面からめり込んだ…本性である姿な為、色々と酷い事になっているドロシーから距離を取るようにしていたコピーエックスにふと翳る。
「そりゃあさぁ、あんたの百式をシルバーカラーにしたり、専用ザクの角折って普通のザクにしたのは悪いとは思うよ、但し反省はしてない。
あ、うそうそ。反省はしてるからバスターこっち向けんな。
おーけー落ち着け鉄屑話し合おう」
うごうごと混ざった絵の具の様な体表を揺らして、焦る彼女にエックスはほんの少し笑みを溢し―肩を落として、壁にもたれるように座り込んだ。
その様子を察したのか、ドロシーはコピーエックスの動きに注意を払うように…あるいは彼の言葉を聞き逃すまいと体を揺らすのを止めた。
床に視線を投げ掛けるコピーエックスは何かを言うわけでもなく、ただ黙ったままにその場へ身を縮めるように蹲っていた。
水音に視線を動かせば、人の姿へと化けた化性が一人、裸を晒したまま、彼を見下ろしていた。
「話して、くれる?」
いつもよりかすれたドロシーの声にコピーエックスはぽつりぽつりと言葉を吐き出し始めた。

515ここにいる:2009/05/27(水) 19:02:59
「夢で、あいつに会ったんだ」
「うん」
「僕の事を見て、あいつはこう言ったんだ」
肩を抱くようにしていた手に力がこもり、瞳に激しい怒りと憎悪が宿る。
「僕は、あいつがなりたくなったあいつなんだって」
「…うん」
「ふざけるなよ!勝手に居なくなっておいて、いきなり帰ってくるなり僕が、僕が出来損ないみたいに言いやがって!」
その顔は怒りに歪んでいたが、ドロシーの目にはそれが今にも泣き出しそうな顔にうつった。
だからだろうか、そうしなければ彼が何処かへ、かつてドロシー達が、この家に流れついた者達が居た冷たいあの場所へ行ってしまいそうで―
『英雄』という名の呪いに縛られた彼を胸に抱き締めていた。
突然の事にエックスはドロシーの胸に顔を埋めたまま、目を丸くしていた。
「エックス、あんたは強い子だ」
わしゃわしゃと彼の人工毛髪を撫でながら、彼女はエックスを強く抱き締め続けた。
「だけど、ここでまで強くある必要はないよ。
だって、私達は
家族でしょ?」

516昼下がりの1コマ:2009/06/16(火) 13:27:42 ID:Ps7ymsCw0
グランド・モフ…元々は複数の宙域の統括を命じられた総督のことであり、銀河史に永久に残るであろう、
オルデラン破壊を行ったターキンも最初のグランド・モフの1人だった。
帝国の設立から半世紀が経とうとしている今日ではグランド・モフは宙界を丸ごと1つ支配する権力者と
なっていた。この地位を「ばかげたもの」と評したのはダース=ヴェイダーが最初で最後だろう。
彼らの権力は皇帝を除けば、銀河史上かつてないものにまで強くなっているのである。

現皇帝の故郷の惑星として知られるアクシリアにもアウター=リムを統括するグランド・モフの総督府が
存在する。そしてその最上階のオフィスに初老の男の姿があった。

彼の名はグランド・モフ・アーダス=ケイン。姿こそ初老だが、彼はすでに100標準年を越える年月を
生きており、その内の半分を総督、モフ、グランド・モフとして過ごしてきた。顔が映るほどぴかぴかに
磨き上げられたブーツ、皺一つ無いカーキ色の軍服、アカデミーを卒業したばかりの少尉のように
ぴんと伸びた背筋、いかめしい顔つき、短くカットされた頭髪…外見の特徴のどれをとっても彼の
隙の無い性格が表れていた。

「ブラクサント・セクターの月例経済報告はできあがっているかね?」
「はい、閣下。2時間前に送られてきました」
「大変結構だ、バスティオンの官僚達は極めて優秀だね」

補佐官の大佐が厳重に梱包されたホロ・ディスクを渡すと、彼は自分のデータパッドにそれを取り込み、
目を通す。数字は全てが好調なことを知らせており、彼の機嫌を損ねることは無かった。

「これで主要セクターの月例経済報告は集まった。3日で皇帝陛下への報告書を製作してくれたまえ、
一週間後に委員会があるから、その時に陛下に報告する」
「仰せのままに、閣下」

大佐が踵を鳴らして敬礼し、オフィスを後にする。報告を読み、それに意見を付け加えて部下に渡すまでに
1時間が過ぎていた。昼食を摂るには良い頃だろう。

「今日のメニューは『ブルアルキのワイン煮込み』か…ふむ!」

彼は微妙な表情をした。といっても彼は献立に不満があるわけではない、むしろ彼の好物なのだ。
問題はブルアルキが非常に高カロリーであることと、自分がそれを不安を抱かずに食べるには
歳をとりすぎているという点だった。結局、数切れを残せば問題は無いという結論に達し彼は
補佐官に食事を持ってくるように伝えた。

「皇帝が羨ましい、あれだけ暴飲暴食をしてよく体が持つものだ…」

そう独り言を呟くと、読みかけの『シーリン詩集 悲劇編』をめくり始めた。
料理が運ばれるまでに10分は待たなければならない。数ページ読み進めることはできるだろう。

517記憶:2009/06/16(火) 18:53:34 ID:bjIIsJPQO
嫌だ。
喉を掻き斬ってなおも収まらない嫌悪感にヤラは鎌を男の頭へ振り下ろした。
骨と肉を裂く感触が手に伝わり―だが、次の瞬間にはじわりと胸の中で嫌な物が広がった。
嫌だ、嫌だ。
悲鳴を上げて逃げ惑っていた者、銃を手に応戦してきた者。
それを一人残らず肉塊へと変え、彼女は最後の男の腕を跳ねた。
「ま、待ってくれ!たかが一人だろう!?
み、身寄りもねぇ、能力だってそんなに高くもねぇ。
そんな奴を実験台にして何g」
ズダン、と石突きで男の足を貫く。
「ぎっ…」
「黙れ」
無表情のまま、手をかざすと闇が男の口を塞ぐ。
恐怖に染まったその顔に石突きを突き立てる。
「黙れ、黙れ、黙れ、黙れ!」
悲鳴を上げることも出来ず、他の者同様に肉塊へ男が姿を変えても、
ヤラはいいようのない嫌悪感と怒りに手を止める事すら出来ずにいた。


血を吸い、すっかり重たくなった黒いローブを脱ぎ捨て、ヤラは鎖に繋がれたままの子供を見つめた。
実験台とは良く言ったものだ。体に残された痕跡は子供が何をされたのかを物語っていた。
鎖を斬り離しても子供は動こうとせず、床にただ転がるだけだった。
ああ、とヤラは息をついた。
もうこの子は壊されてしまっている。
光を失ったその瞳を伏せてやり、すっと背筋を伸ばし―




…………

518記憶:2009/06/16(火) 19:01:11 ID:bjIIsJPQO
アラーム音に目を開ける。
アナウンスは港についた旨を話し、ヤラはそれに面倒そうに体を起こした。
夢、というより父や仲間から受け継いだ記憶を見ていた。
誰のかは定かではないが、仲間の誰かしらのものだろう。
(しかしまたなんでこんな夢を見たんだか)
欠伸を噛み締めながら、簡素なベッドから降り、他の乗客に混じって港に降りていく。
「おかえりなさい、よく無事に帰ってきたわ」
「お父さん!おかえりなさい!」
港で家族を迎える者の姿に混じって聞こえるのは誰かが誕生日を祝う歌。
「ああ、そういえば」
思い出したように足を止め、外を見つめる。
「群れの皆が私を拾った日だったっけ」
インペリアルセンターを染める夕日を横に浴びながら、ヤラは久しぶりの我が家へと急いだ。

519存在の意味:2009/06/16(火) 23:07:36 ID:g1SrzQBM0
ベランダから夕方を見つめる一体のアンドロイド。
時折吹く強い風が彼女の紫色のポニーテールをなびかせていた。
だが、彼女、アルファがこうしているときは何かしら悩んでいるときだった。
その悩みというのが存在だった。
もはや、彼女には存在などどうでもよくなっていた。
自分の存在する意味を失っていたからだ。
ここ最近、彼女が本気で稼動することは全くない。
彼女はアンドロイドで、戦うことで今まで生きてきた。
それが今、その彼女の力は必要とされなくなってきていた。
無論、その方が平和でいいのだが、彼女には何かが物足りないような気がしていた。
相方は相変わらず元気にやっていた。何が原動力なのかたまにわからなくなる。
ベランダに近づいてくる相方の元気な声をよそに、一人憂鬱な雰囲気にかられていた。
相方のほうはその金髪をなびかせながら遠くを見つめている。彼女の顔には笑みが浮かんでいる。
そして、アルファはやってきた相方、シャーリィに一言つぶやいた。
「私みたいな兵器には今の平和な時代に生きていく資格はないのでしょうか」
それを聞いた相方は、紫色の髪をつかんでわしゃわしゃとかきまわし、こういった。
「あのなぁ、おまえはおまえなんだよ、気にせず生きてきゃいいんだよ
  細けぇこと気にしてると老けちまうぞ?…お前、アンドロイドだから老けないのか
  全く…それにしても羨ましくてエロい体してやがるぜ」
そう言うとシャーリィはアルファの隣に腰をおろした。
「お前がいなくなっていい理由はどこにもないさ そうだろ?」
シャーリィの笑顔は、まるで今、沈んでいる最中の真っ赤な夕日の様だった。
そしてアルファは決意した。
『私が必要とされていなくても、壊れるその日まで生きつづけよう』、と。

以降、ベランダにアルファが来ることはなくなったという

520暗い場所で:2009/06/26(金) 00:41:14 ID:f0IKFGZgO
「あら、あら、まけてしまったわ」
ジジ…と火花を散らし倒れたロボットを見下ろしながら、少女はさもおかしそうに―何の感情も篭っていない声で笑った。
「ゆかい、ゆかい、全くたのしい人々ですわ」
背後に仮面の男を従えて、少女は壊された機械の間を踊るように進んでいく。
その度に白いリボンがふわりふわりと場違いに山を撫でていく。
「てかげん、てかげん、でも本気?そうだとしたら素晴らしい!」
言葉の羅列を繰り返し、少女がくすくすと笑う。
男はただ無言でそれに従う。
「さんぽ、さんぽ、また外まで行きましょう。
沢山、大勢、おもちゃはいっぱい!嗚呼、世界はなんてすてきなの!」
外、の一言に少女の後ろに従っていた男が体を覆う鎧に手をかけ――

521名無しさん:2009/06/27(土) 20:52:37 ID:j1Olu0.MO
洗面所の鏡に走る亀裂を見て、ドロシアは溜め息混じりに手帳を開いた。


・洗面所×
・風呂場×
・二階洗面所×
・地下 
・倉庫内の鏡×?(確か割れてた)
  なんだこれオワタ』
…一番下のは先程二階を調べた義妹が書いたのだろう。
余計な事はあまり書かない様釘を差した筈だが、いつもの様に聞いていなかったのだろう。

(それにしても…)

一夜の内に家中の―まだ全部を見て回った訳ではないが多分―鏡に
ヒビが入っているのは、いくらなんでも異常な事である。

…一瞬酔った挙げ句に窓ガラスという窓ガラスを全てぶち破ったという黒い歴史が頭を横切ったが、
頭を振ってそれらを記憶の彼方へ追いやり、鏡に背を向け―

くすくす…

「?!」

背後から聞こえた…気がした声の主に手帳を反射的に投げつける。

ガシャン!

金具の部分が当たったのか、鏡はとうとう壊滅的な迄に砕け散り、陶器の洗面台へとこぼれ落ちた。


「……ー?何か凄い音したけど大丈夫ー?
…シア姉ー?」

使い魔を展開したまま、ドロシアは壁づたいに床へ座り込んだ。

522それでも朝はやってくる:2009/07/06(月) 08:44:13 ID:45.52UcY0
最初はただもう少し早く走ってみたくなっただけだった。
アクセルを握る手に力を入れ、前へ前へと進んでいく。

風が耳元を掠めて鳴り響き、景色が前から後ろへ流れていく。

メーターが乱暴にぶれるのも気に留めず、ただ走り続けた。

気づけば、訳のわからない涙が風に流され、頬を伝っていた。

「はぁ、ぜぇ、はっ」

嗚咽交じりの吐息を吐き出しながら、涙の滲んだ世界を振り払うように。
ここから逃げ出すように。

真っ赤なテールランプを闇夜に残して、遠くへもっと遠くへと囁く声に
急かされる様にスピードを上げて―

気づいたときには、ガードレールはすぐ目の前に迫り―


「―あ」

飛び散るバイクのパーツの向こうに見えた空はぼんやりとした星と
空を紅へ染めていく朝日が浮かんでいた。


「え?大丈夫かって?・・・あたしの丈夫さはわかって・・・はぁ?バイクのほう?
ありゃもう駄目ね、思いっきりぶつけたし。
・・・わかってるわよ、ちゃんと帰れるって・・・子供じゃないんだから」

もはや鉄屑と化したバイクの傍らでタバコに火をつけ、煙を吸い込み
昇り来る朝日へにたりと笑う。

「こんなくそったれな夜にも朝日は来る・・・ってか」

523廃アパート:2009/07/10(金) 18:12:36 ID:bZCAwxzEO
学校にほど近い場所に噂の廃アパートはあった。
昭和の中程に立てられ、いつからかうち捨てられたそこには曰く「呪い」がかかっている、らしい。
強引な地上げ屋に殺された老婆のものだとか一家心中を図った一家が憑り付いている等…

オカルト倶楽部が不定期に発行する「ザ・怪奇新聞」を流し読みしながら、アサヒは
各地の美術館でのイベントを告げるポスターを張り替えていた。
「美化委員ってフツーこんな事までするか?」
古いポスターを床にまとめているフヨウが首を傾げる。
「さあ?」
「さあ…ってお前、美化委員じゃねぇかよ」
アサヒの言葉にフヨウはいつものようにうーとうめきながら、腕を組む。
「アーちゃん帰宅部なんだから暇だよね?」
「うるせぇ、こう見えてもオレは色々やりたい事あんだよ。
サーティワンで新作食おうかと思ってたのに…くそぅ」
「帰り道では買い食いは良くないよ?」
「…お前は小学生のがきんちょか」
律儀で天然な彼女を尻目にアサヒは最後の画鋲を掲示板に突き刺した。

524廃アパート:2009/07/10(金) 18:22:51 ID:bZCAwxzEO
「あれ?」
「ん?なんだ、忘れもんか」
突然立ち止まったフヨウにアサヒはアイス(手伝い賃としてフヨウに買わせた)を手に振り向いた。
彼女の視線の先を辿れば、ボロいアパートにともった灯り。
「あー、どーせホームレスかなんかが上がり込んで住んでんだろ。
いいじゃねぇか、誰も住んじゃいねぇんだし」
出来ることなら早く帰りたいアサヒの心境を知ってか知らずか、フヨウはじっと窓を凝視していた。
「ほら、あんまり見てるとその内ゴミ投げられっぞ。早いとこ…」
「アーちゃん」
「帰ろうぜ…って何だよ、まだ何かあんのかよ?」
すっと窓を指差し、一言。

「中の人、天井からぶら下がってるよ」

525盈月明夜:2009/07/12(日) 22:12:19 ID:OVB69jK60
 轟、と。
 無を焼き尽くす炎が、夜の帳を引き裂いた。
「もう、邪魔しないで、よ!」
 少女が素早くスペルカードを構える。

 ――核熱「ニュークリアフュージョン」

 炎と炎がぶつかり、互いを食い合うようにして渦を描き、そして消滅する。
 急激な気流の変化に風が吹き荒れる。すでにあたりは台風に近しい暴風域となっていた。
 その風に髪をなびかせる者は、二人。
 ――いや、果たしてそれらを二人と表現するのは正しいのか。 
 紅蓮と漆黒。それぞれの翼をはためかせ、中空にて対峙。
 その時点で、およそ常人とはかけ離れた世界に存在していることがわかるだろう。
 漆黒の翼を宿した少女が、その背の力をばさりと一度大きく打つ。
 本来の翼あるモノならば、吹き荒れるその風に弄ばれ地上に叩きつけられるものだが、
少女の翼は風などものともせずにゆったりと上下している。
 それは降臨する天使を思わせる雄大な動きではあったが、
「しょ〜めつ〜、あははははッ!」
 右手の制御棒を振り回して笑う姿に、およそ威厳と評する部分は見当たらない。
「まったく、いっつも私の邪魔する貴方は何者?」 
 自由な左手でかきあげる、膝まで伸びた長い黒髪。
 その、夜に吸い込まれそうな深い色は、しかし上品さを醸し出す濡羽色というよりも、
百獣の王の鬣のような粗野と荒々しさを生み出している。
「八咫の神様の力を借りた私と同じ炎を作れるなんて、ね」
 その表情も人間のそれと酷似しているものの、やはりどこか異なる。
 あえてその差異を挙げるとすれば、「目」だろう。
 少女の相貌をしたその目は、しかし少女のものではありえなかった。
 獰猛。
 それ以外に言語化の出来ない輝きは、食いつき、食い破り、食い荒らさんばかりの
プレッシャーを漲らせている。
 それこそ、無限の焔で世界を焼き焦がす、あの中天の光のように。
「――さてね」
 応えるのは、対照的な白い輝き。
 銀色の髪を夜闇にたなびかせるその顔には、あたかも感情を目の前の少女に奪われた
かのように暗欝な無表情が浮かんでいる。
 しかし、その背に生えた紅蓮の翼は揺るがない。
 留まることなく、抑まることなく、絶えることのない不尽の炎は、彼女の内面の力強さを
象徴するかのごとく光熱を発していた。
「季節の巡りに背く熱を」
 そっけなくつぶやくその手には、すでにもう一枚のスペルカード。

 ――貴人「サンジェルマンの忠告」
 ――爆符「メガフレア」

526皿洗い:2009/07/20(月) 23:18:50 ID:Vh6IChyc0
今日の夕飯が終わった。食器が次々と台所に運ばれていく。
その食器を洗うのは今日はアルファの番だった。
いつもならイツ花が一人でやるのだが、
生憎今夜は町内会へ用事へ出ていて帰ってきそうにない。
そこで夕食前、ジャンケンをして決めることになった。
そして、最後まで負け続けたのがアルファだった。

積まれていく皿をいとも気にせずただ洗い続けるアルファ。
だが、そこに広がっていたのは一種の異様な光景だった。
洗剤も付けず、ただスポンジでごしごしと洗い続けるアルファ。
このままではいつまで経っても終わりそうにない。
心配になってきたので、声をかけることにした。
「アルファ、大丈夫かい?手伝おうか?っていうか、洗剤付けようよ」
ロボットにも荒れ性があるのだろうか、でもそれだって手袋をつけてやればいいだけの話だ。

するとアルファは一言言った。
「洗剤は戦車に使うものではないのですか?」
そうだ、アルファは戦車全盛期、しかもオイルショックどころではない時代だ。
恐らく洗剤を使うのは戦車にのみ、だったのだろう。
だが今は時代が違う、世界が違う。すかさず突っ込みを入れる。
「あのね、皿洗い用の洗剤があるのね?それを使えばてっとり早く綺麗になるから、使っていいよ」
それを聞いたアルファは目を丸くする。ぽかーん、というか、驚きというか、そんな感じだ。

「マスター、皿を洗う為の洗剤なんて贅沢じゃありませんか?」
彼女にとっては当たり前だろうが…。
「それに、イツ花も使っていませんでしたよ?」
「いや、イツ花は使わないでも洗えるからいいの」
イツ花は平安の生まれだ。洗剤なんて知っても使わないだろう。
…いや、実のところ塩を洗剤代わりとして使っているのだが。
ちなみに平安の時代では塩は高級品のはずである。あれをああも簡単に使うとは。さすが神。
それは置いておいて、問題のアルファだが、プライドを傷つけられたらしく、頬をふくらましている。
「マスター、私にだって洗剤がなくても皿は洗えます」

そう言うと、またもくもくと皿を洗い始めた。
少なくとも、見た目的には綺麗ではあるが…塩さえもつけないのは…。
すると、アルファが一言。
「まだ細菌がついています…く…これはピロリ菌…」
「いや、だから洗剤使えよ!ってかよく見えるな!!」

結局、アルファの皿洗いはすべて終わる前に、イツ花に引き継がれた。
あんな真剣なくせに遅いの見てたら夜が明けてしまう。
そして、イツ花は引き継ぐついでに殺菌のテクニックも教えていた。
「いいですか?殺菌はですねぇ、お湯にバーンとォ!入れて熱湯消毒しちゃうんです」
「なるほど…確かにそっちのほうが効率がいいですね」
「…熱湯消毒でいいって君らアバウトだな いや、確かにそうかもしれんが」

こうして、乃木家の台所は今日も優しさに包まれていた。
…そして、明日も…?

527洗濯:2009/07/21(火) 13:59:58 ID:omLhYaF60
夏の晴れた日、洗濯日和と告げる太陽が空で威張ってる。
今日は雲ひとつない快晴である。こういう日こそ海の日にするべきだろう。
いや、休日を増やせと言っているのではない。ただ単に、言っただけだ。
決して休みがほしいわけではない、ないのだ。

洗濯はいつも通りイツ花の担当…のはずだった。
今日も町内会の用事でいない。回覧板を回すだけなのに、あれは絶対しゃべってる。
しかも本気で、ああ、いつになったら帰ってくるのだろう。
するとアルファが昨夜のリベンジとばかりに洗濯ものを持ってくる。
イツ花愛用の洗濯用桶と洗濯板、そして、これまたイツ花愛用の洗濯石鹸を持ってきた。
何というアナログな方法だろうか…。
アルファは洗濯物を洗濯板の上でごしごしとやり始めた。
時々石鹸をつけて、桶の中の水で洗って、まだごしごしと。
手慣れているイツ花はともかく、それ以外は皆洗濯機に持っていくのに、
先ほども言ったが昨日のリベンジなのか、アルファはごしごしと洗濯ものを洗っている。
彼女だって洗濯機のほうが効率がいいことぐらい知っているのに。
…もう見ていられない、洗濯機で洗うように促そう。

「おい、アルファ 洗濯機で洗ったほうがいいんじゃないのか?」
するとアルファは顔を真っ赤にして答える。これは照れではない、怒りだ。
「マスター、あなたにはピョンヤンというものがないのですか?!」
「ソウルと言いたいのか?!ピョンヤンは北朝鮮だよアルファ!」
「すいません、迎春のことを考えていたら…」
「青春じゃないの?まあ、とにかくそれはいいとして、なんで洗濯機で洗わないの?
  そっちのほうが効率もいいし、少なくとも洗濯板よりかはずっと綺麗になる。」
「だからマスターにはペキンが足りないんです!」
「いや、だからね、ソウルが足りないのはわかったから」
「何の影響受けたかは知らんけど、いつものアルファでいいの」
頭をぐしゃりと撫でる。「ふみゅ」、と聞こえたような感じがした。

「…わざわざ失敗する方法でせんでも」
「うるさいです、マスター それに失敗は…あ」
「あー、破れて…ってこれ自分のシャツ!?」

追記
この日は実は東京はしとしと雨でした じめじめ

528盈月明夜:2009/07/27(月) 21:56:29 ID:ZqlKNNqM0
 音すら消し飛ぶ大爆発。
 その爆心地にあって、妹紅は涼風でも浴びるかのように佇む。猛然とたなびく
髪の束が天を突くように怒髪しているが、表情は相変わらず暗欝なままだ。
 喜怒哀楽を殺しているわけではなく、単に気分が晴れないだけだった。
 それを「仕事」と呼ぶのだろうと妹紅は思う。
 仕事――己の意思が望まぬことを、しかし己の利益のために成す。
 無論、これが初めての労働ではない。
 生きるために必要なものが余りにも少ない身であるとは言え、それでも対価を得るために
労働力を行使したことくらいは経験があった。
 だが、今している「仕事」は明らかにそれとは異なる。
 対価として得られるものは、今の彼女にはゴミ同然の代物だ。
「まったく……被害ばかり増やす」
 つぶやく。込められた感情は忌避の念。
 周囲になるべく被害を与えない場所を選んだつもりだった。建物としては巨大だが、
損壊が激しくホームレスでさえ住めそうにない廃墟の頭上。またその傍らには
楕円形の白いラインが引かれた空白地帯が広がり、戦場にはうってつけだった。
これまでの経験上、場所を選ばないと被害の規模を推し量ることすら出来なくなる。
一度、人の通りが疎らにある商店街の遥か上方で相対した時は、あの翼人――否、
人面烏の恒星落とし(メテオスマッシュ)で街が蒸発しかけた。文字通り死力で止めたが。
 しかし、人がいなければ何をしてもいいと言うものでもないだろう。
 空白地帯には隕石でも落下したようなクレーターがいくつも出来上がっている
――いや、「ような」も何も文字通りのことが起きているのだが。
 埋められた対人地雷を根こそぎ爆破させても、ここまでにはなるまい。
 今でこそ誰も住んでいない廃墟だが、使われていた当時というものが必ずあったはずで、
それを考えると無価値にして無遠慮な破壊の爪跡に、言い知れぬ不快がこみ上げてくる。
 これで終わりに出来ればと、何度思ったことか。
 そして、それは未だに叶ってはいない。人面烏の言う通り、これで何度目の対峙になるか
数えるのも億劫になるほど相見えてきた。
 そう――その異質極まる炎でさえも見飽きてしまうほどに。

529盈月明夜:2009/07/27(月) 22:32:03 ID:ZqlKNNqM0
「貴方も私と同じでしょ?」
 どこか嬉しそうに話しかけてくる烏。
 思えば、彼女はいつもそうだった。初めて対峙した時でさえも。
 躁の卦でもあるのかもしれない。そういうことにしておこう。感情のゲージが暗欝あたりを
ふらついているから理性を保てているのだ。わざわざメーター振り切って怒りモードに
突入させることもない。
 故に、妹紅は応える。
「一緒にするな、馬鹿烏」
 暗欝に。
 興味など微塵も感じさせない表情で。
「私は馬鹿じゃないわ。だって神様が選んでくれるくらいだもの」
 何やら胸を反り返して胸部を強調しているが、異性なら見惚れるのかも知れない
プロポーションも同性の彼女には鬱陶しいだけだった。
「深い深い地下の奥底。そんなところで燻ぶる炎に、私はもううんざりなの。
 私の力の源は太陽。太陽は地上に降り注ぐ光そのものよ。
 地中深くに埋めてしまうのはもったいないと思わない?」
「偃鼠(えんそ)河に飲めども腹を満たすに過ぎず――分をわきまえろよ」
「うにゅ? えんそ? ……あ、わけわかんないこと言ってごまかす気ね!」
「この、鳥頭め」
「世にも珍しい不死の鳥。私と同じ炎の鳥。せっかく友達になれると思ったのに」
「その台詞はもう何度となく聞いた。そしてその度に同じ言葉を返してる」
 おそらく忘れてしまっているのだろう。鳥頭というのは決して比喩表現ではない。
「それでも言おう。何度でも」
 妹紅の背で炎が猛る。
「お前は無何有へ回帰し、私は無何有から蘇生する。
 ――互いに食い合う以外に、道などあるものか」

530夏空の下:2009/08/03(月) 21:30:40 ID:ZlCGHFbEO
故郷とは何を基準にそう呼ぶのだろう。
花を備えられた墓を見つめながら、アサヒはぼぅとそんな事を考えていた。

ほとんど訪れる者も居ないのか、苔の生えたそれを母達が綺麗にしたのがすこし前、
こうして、墓を見つめたのが今さっき。

アサヒはあまり線香の匂いが好きではなかったが、この匂いがする度に母は何処か遠くを見つめて、言うのだった。
―ああ懐かしい香りがする。

ジジ、と蝉の鳴く声に顔を上げると心配そうな母の顔が目に入る。

―あんまり無理しないで、向こうで休んでおいで。

母の言葉にアサヒは黙って頷き、おぼつかない足取りでその場を後にした。

蝉の大合唱を何処か遠くに聞きながら、うだるような暑さに煮える墓を振り返った。

揺らめく陽炎の向こうに居る母達が幻の様に消えてしまいそうな気がして、アサヒは慌てて駆け戻っていった。

531帝王の怒り:2009/08/23(日) 18:50:44 ID:t3qmZQM6O
レミリアは激怒していた。
それを手に入れるこの日をどんなに待ちわびただろうか。
そう思い、上機嫌であった彼女の機嫌は一瞬で変わってしまった。
他人には些細であるかもしれないが、今の彼女にとっては最も重要な、最も欲していた物がないのだ。
「……っ!」
その怒気を含んだ空気に妖精メイドは逃げ出し、魔道書は棚の中で激しく音を立てていた。
そのプレッシャーを感じながらも怒れる夜の帝王に近付く者がいた。
「レミィ」
この図書館を自らの領域とした七曜の魔女、パチュリー・ノーレッジである。
「パチェ…これはどういうことだ…」
レミリアの殺気を帯びた視線に後退りかけ、それでも努めて冷静に応える。
「落ち着いて、レミィ。
予定が多少狂ってしまっているの、後ほんの少しの辛抱よ」
その言葉にレミリアはしばらくパチュリーを睨みつけていたが、
やがてそうしていても仕方がないと理解したのか、忌々しげにパチュリーの横を通りすぎていった。
「…よほど、ご立腹みたいね」
全身から吹き出した嫌な汗と震えを感じながら、パチュリーは先程レミリアの居た本棚を見つめた。


そこには『夏の大特集!少年&少女漫画コーナー!』と場違いな文字が掲げられていた。

532河童と機械人形と管理人形と。:2009/08/25(火) 09:22:30 ID:rSlZtcS.O
夏。
太陽は地を照らし熱気を高めて陽気な天気で気温のボルテージを高めていく。
アブラ蝉とミンミン蝉は五月蝿い交響曲を奏で、人間はさぞかし迷惑がっているだろう。
 
そんな、小さな生命が新たな命を育む夏。
焼けるような日差しの中、鉄塊と向き合う一匹の妖怪がいた。
―河城 にとり
一言で言えばカッパである。三言で言うなら人間恐怖症の河童。
多言するなら幻想世界の機械(耐水一級)技師の河童の女の子(ただし人間恐怖症)で、いいのではないだろうか。
…そんな彼女は。
微かに緑色のお手製のスパナ(のような物)を手に持ってボルトとネジとよくわからない機械が芸術的に絡み合う…「それ」を見つめていた。
彼女は一人、呟く。
 
「花のミサイルって、どんなものなんだろう…」
 
要はこうである。
夜。ここの主人に作ってもらった小川―みたいな所でぼんやり星空を眺めていたら―
―突如、空に光る花が咲いて…空から鉄の欠片―花びらが落ちてきた。と

533河童と機械人形と管理人形と。:2009/08/25(火) 10:12:10 ID:rSlZtcS.O
―「私」の部屋に来た彼女は、作りたての緑色扇風機のプラグをコンセントに挿して話をしに来た。
「羽」の取り付けが逆で、慌てて直していたりしたが―中々涼しいものだ。
そして、彼女の話というのが―
「ミサイルかロケットの作り方教えて!」
―――――

「…突拍子もない事言うから、把握するのに時間かかったじゃないかー…」
普通、ミサイルやロケットの作り方なんて知る由もないだろう。
―にとりの考えはこうである(と思う)。
ミサイルとかロケットが、遙か高くの星空で爆発すれば光る花が咲く…とかなんとか。
…にしても、どこかで聞いたことのある話ではある。
 
「ああもう、なんで博麗の巫女と空飛ぶ赤い悪魔のアレを見逃したんだろう」
スペースデブリになりかけたあの話―月へのロケットの事だろうか。
ちなみに空飛ぶ赤い悪魔は○馬さんの事ではない。念のため。
「はぁ…」
ふかふかの茣蓙(ござ)ベットに寝転んでため息を吐くにとりを、椅子に座る私はパソコンを横目に眺めている。
 
「ロケットの資料くらいなら…言ってくれれば簡単に探せるのに」

534河童と機械人形と管理人形と。:2009/08/25(火) 19:15:22 ID:PJoXEMgEC
月に行ったらしい「あの話」は、確か資料を集めて「だいたいあってる」ロケットを作ったはずだ。
ミサイルならその話は別なのだが…
と、私が検索エンジンに文字を打ち込もうとした時―
「…ダメ!」
「ふえっ…!?」
がばっと起き上がったにとりが、突如発した大声に私は驚いた。
そして、にとりは続けて言い放つ。
「資料を見たら独創的じゃないと思うんだ。独創的じゃないと高く空を飛ばないと思うし飛んで爆発しても綺麗にならないと思うし。だから自力で頑張る」
…少し情報が間違っている節もある気がするのだけれど。
というかその言い方は、あのロケットを見なくても別に関係ないって言い方じゃないかい?
とか言うと、こう返事をしてきた。
 
「あのロケットは参考にするだけだよ!」
さいですか。

535河童と機械人形と管理人形と。:2009/08/26(水) 10:30:18 ID:w9sMxr/2O
―あの後、初流にペプシキューカンバーを奢ってもらってから一時間くらい過ぎただろうか。
太陽はゆっくりと傾き始めていた。
でも、暑さは相変わらずで
「あづいー…」
なんとなく眺めに来たらしい初流もうだっていた。私もかさかさになりそうである。
ああ、川で寝たいなぁ…誰かに見られたら川流れに見られそうだけど…なんて考えていたら―
 
肌寒い感触が首筋にぴとりと
「ひゅい!?」
思わずスパナを手離すと、部品が鈍い音をいくつか弾いて私のスパナは地面に転がる。
「あら…すみません。暑いと思って冷たいお茶を淹れてきたのですが…」
落としたスパナを拾って、振り向いた私に渡してきた。
「…クノンさんかぁ。びっくりした…」
クノンさんが手に持っていたトレーを蹴らないとこに置いて、少し笑った顔をする。
「人間でしたら、逃げたのかしら」
「に、逃げないよ…みんな、不意に現れるんだもん」
「人は幽霊や亡霊じゃありませんよ?」
…初流がもっともな顔してにやけてる。
せめて笑ってくれたほうが、私はいいんだけれども。

536河童と機械人形と管理人形と。:2009/09/09(水) 06:31:18 ID:dq8.oEvoO
ちびちびとお茶を飲んではきゅうりをつまむ。ぽりぽり。うむ、美味しい。
塩浅漬けのきゅうりと味噌をつけた生きゅうり。それと、ぬか漬けにしたきゅうりの漬け物をおいしくいただいている。
お茶請けとしては…そこそこのものではあるが、夏である。汗で塩分を放出する体は喜んで塩気の濃いきゅうりを吸収する。ぽりぽり。
それにしてもクノンさんにこんな趣があったとは意外である。ぽりぽり
「よいしょ…っ、と」
にとりはきゅうり味噌にかぶりついてすぐ作業に戻った。…食べる時が地味にいやらしくておいしそうだった。ぽりぽり。
「…初流さん。メイド服、暑くないですか?」
「あ、大丈夫です。はい」微笑してみたりして。
クノンさんは日陰で体が熱くならないようにしていた。やはり機械だからだろうか…
私は…薬を飲んで、好きで女の子になっている。で、メイド服を着ている。物好きですし。
本音は解毒剤と女体化薬の副作用が強いからで、30分は身悶えてしまう…こんな話はいいか。ぽりぽり
「うーん…」
などと考えていたら、にとりが悩み始めた。
どうしたの?とか聞こうと思ったが、自ら口にした。
「…推進力、どうしようかな」
 
…それは今更ではないか?ぽりぽり。

537秋ですよー:2009/09/18(金) 01:07:01 ID:et3NCDH.O
秋である。
天高く馬肥ゆるとは良く言ったものであり、この時期は色々美味なる味覚が多かったりする訳で。
と、現実から目をそらしてはいられなくなり、早苗は視線を下に落とした。
昔ながらの体重計の針は右へと動いていた。

梨と林檎のどちらが好きかと問われれば、フヨウは迷わず梨を選んだ。
林檎にはない歯触りの良さや水分を多く含んだ所が最高だ。
但し冬に作ってもらえる焼き林檎もまた格別であるから、正直なところ林檎も梨も好きなのである。
「ほころで、早苗は食べはいの?」
丸ごと豪快にかぶりつく紫が曖昧な表情の早苗と梨を見る。食べるか喋るか、どちらかにしろというのは野暮な事だ。
「食べたいのは山々なんだけど…」
深く溜め息をつく早苗。フヨウは相変わらず我関せずと切り分けられた梨を頬張っている。
「…この時期は正月並にヤバいよね、栗とか葡萄とか」
ふっと綺麗になった芯を片手に紫の目が遠くなる。
「そして、誘惑に負けてしまうのが自分や」
現実とは非情である。
「焼きたてのサンマの香りとかおろした大根おろしとかなんか焦臭い様な……って、こげくさい?」
外を見る。落ち葉を燃料に燃え盛る炎が芋とそれをくべる神様を炭化させんと頑張っていた。

538錦彩る:2009/09/21(月) 19:33:37 ID:9vR4j2KQO
守矢神社へと続く石段の一つに腰を下ろし、アサヒはぼんやりと僅かに色付き始めた山々を眺めていた。
参拝をするつもりではあった。が、石段を少し登った所でその気持ちが急に萎えてしまい、ここにこうして腰を下ろしているのだ。
そもそも、なんで参拝しようと思ったのか。ら頭を捻ろうと理由は出てこない。
それでも無理に理由をつけるならば、なんとなく。
なんとなく、参拝をしようと思ったのかも知れない。
そんなんでいいもんか、と小さく息をつく。

そろそろ風が冷えてきたのか、ぶるりと体を震わせ、仕方なしに立ち上がり―
「あ――」
視界を埋める赤や黄色の艶やかな錦が山を染めている。
あれほど青々していた山が一瞬の間に上質な着物の様な色鮮やかさに変わった様をアサヒは呆然と眺めていた。
不意に風が紅葉や楓の樹木を鳴らしながら、アサヒへと吹き付ける。
思わず両腕で顔をかばい、再び顔をあげた時には山は先程と同じ緑のままだった。

539ジャズの音色は止まらない:2009/09/29(火) 09:08:44 ID:fv3sa4qcO
普通の人々が賑わう表から少し路地を奥へ入れば、そこはもはや別世界だった。
表を歩けない様なスリやコソドロ、いかつい男達があちこちでいざこざを起こし、魅惑的な娼婦が客を店へと引き入れる。
そんな喧嘩と煙草に溢れた路地を進み、ヤラが足を踏み入れたのは看板が斜める酒場だった。
やっているのか、そもそも店なのかすら判断の難しいそこの扉を開け放つ。
「いらっしゃい」
予想に反して、店内には客が居た。
このゴミ溜りの様なこことは不釣り合いな、上品そうな初老の女性はヤラの姿に深く会釈をした。
対するヤラは手を振って応え、いつもの席に腰を下ろした。
「いつもの、ロックで」
バーテンダーはまるで最初から用意していたように、ヤラの言葉が終わるか否かに琥珀色の液体が入ったグラスを目の前に差し出した。
「それにしても、あんた、良くこんな裏まで来れたわね」
グラスに口をつけながら、女性を見る。
「ここに来れば、お会いできるとお伺いいたしましたので」
クスクスと笑う女性に興味なさそうに酒をあおる。体の中で広がる熱に心地良さを覚えながら、長く息を吐く。
「…べっつにかしこまらなくていいんだけどねぇ。
上位とは言え、自分は離反した群れ出身なんだし」
空になったグラスに新たに酒が注がれる。
あちらのお方ですと言われて見た方向には長い白髪を背中に流した男が居た。

540ジャズの音色は止まらない:2009/09/29(火) 09:21:56 ID:fv3sa4qcO
「おや、まぁまぁ!誰かと思えば、我等が王ではありませんか」
わざと芝居がかった口ぶりのヤラに男は何を言うわけでもなく、手にしたグラスを空ける。
「相変わらず暴れている様だな」
「誰かさんと違って若いんでね」
注がれた酒には手を付けず、新たに酒を頼むヤラに女性が顔を曇らせる。
「気にするな、そいつはそういう奴だ」
男の言葉に女性は困った様に、だがそうしていても仕方ないとばかりにワイングラスを傾ける。
「そういえば、何か用があったみたいだけど、何?」
「え、えぇ…今度皇帝陛下主催の晩餐会が」
「あーごめん、興味ないわ」
きょとんとする女性を尻目に新しく注がれた酒をあおる。
「晩餐会という柄ではないからな、お前」
「はっ!そんなつまらないもの出るくらいなら、怪物と殺し合ってた方がましさ」
そう笑いながら、タンッとカウンターにグラスを叩き付け、次を催促するのだった。

541呟く声は闇に溶け:2009/10/03(土) 21:59:22 ID:eatO2REcO
出てくるであろう言葉を待つ。
それでも相手の口から出たのは、アルコール混じりの呼気だけだった。
溜め息の様なそれは意味を成さず、何かの意味を含みながら、ゆるりと空気に溶けた。
くいと手で顔を上げさせれば、普段の懐疑的な視線は緩み、ぼんやりとした雰囲気がそこにあった。
抵抗を見せないことに思わずその唇へ貪りつく。
舌を絡ませ、唾液が口の端から流れ落ちるのも気にせず、何度も深く深く口付ける。


もしかすると酔っていたのかもしれない。
体の下で荒く息を吐く相手についばむような口付けを交わしながら、ふとそんな事を思う。
「ゼロツ」
不意に相手が上気した頬を緩ませながら、再び口を開く。

「―――――」

溜め息の様なそれは、意味を成さず、ただ相手はふにゃりと笑った。

「お前は卑怯だ」

ゆっくりと再開した動きに喘ぎ声があがる。

「卑怯だ」

意味を理解しながらも、そう囁く。

「だからこそ、私も―」


愛してる

542叫び声は届かない:2009/10/11(日) 21:41:12 ID:HOUYye9oO
最初が何であったか、もはや誰にも分からないだろう。
頼りないランプの明かりに照らされた坑道は暗く、底へ降りていく者にまるで奈落に落とす様な心地を誘う。

時折襲いかかる幻覚と幻聴にルドルフの精神は既に限界に達していた。
いかなる状況、尋問にも耐えうる様、訓練を受けた、その彼がだ。
ここに来て、時間の感覚はとうに狂い、暗闇で散々になった仲間との連絡も途絶えて等しい。
「隊長、大丈夫ですか?」
唯一の望みは一緒に行動している部下の青年だった。
暗闇に物怖じせず、通信機越しではあるが会話の出来る相手に、彼はギリギリの所で踏みとどまっていた。

…そういえば、この青年はあの皇女のお気に入りであったな。
よく、あちこち連れ回されているようだな。

ギチリ、と音が聞こえたのは、その時だった。

「…隊長、お下がりを」
青年が前に出、ルドルフをかばう様にブラスターを構える。

―ああ、ちくしょうまただ。あの化け物共だ。

胸中で毒づくも、脈は速まり、息が独りでに上がっていく。
そして―

543叫び声は届かない:2009/10/11(日) 22:00:33 ID:HOUYye9oO
ぐちゃり、と地面に崩れ落ちたそれの頭を力の限り踏み砕く。
それでもなお、体を蠢かせるそれに吐き気を催しながら、前を見る。
白い装甲を赤に濡らしながら、青年が体に覆い被さったそれを横に退けている。

前時代の産物であろう、化け物達は人とかまきりの合成物であるような姿であった。
きっと、ここで働いていた坑夫達がこの化け物共を起こしたのだろう。
いっそ、地下深く眠り続けていればよかったものを。

じわりとまた闇の中で何かが動いた、様に見えた。
「だいぢょゔぅぅぅ」
通信機から不気味な声が響く。
―やめろ、お前達はもう死んだんだ。土のしたで大人しく眠っていてくれ。
「わ゙れわ゙れを見捨てるづもりでずがぁぁぁ」
(隊長?どうしましたか?隊長?)
視界を沢山の土と血に濡れた手が覆う。
作戦中に死んだ者から殺した者達の怨嗟と嗚咽と憎悪が一斉にルドルフの精神を覆い―

「ひっ―――――」

手にしたブラスターを顎に当て、

「っ!隊長!!」

引き金を―――

544叫び声は届かない:2009/10/11(日) 22:15:59 ID:HOUYye9oO
全面に柔らかな素材を敷き詰めた病室にルドルフは居た。
壁に頭を打ち続けながら、ブツブツと呟くその姿を画面越しに見つめながら、ヤラは鼻を鳴らした。
「幻覚に幻聴、それに暗闇と化け物…全くとんでもない物を残したわよね」
投げ掛けられた言葉に青年は溜め息でこたえる。
「地下で人を狂わす周波数の電波が出ていたとはいえ、こんな事になるなんて…」
「あら、私は予想してたわよ?ついでに帰ってこられるのはあんただけだと思ってたわ」
それも外れたけどね、と特に興味も無さそうにヤラが呟く。

結局帰ってこられたのは人ではない青年と壊れてしまった男だけだった。
坑道と化け物はその地域一帯ごと灰になり、そこで行われていたであろう
おぞましい実験の跡を僅かに残すだけであった。

「結局あの場所はなんだったのでしょうか…?」
「さあね、調査団すら危うい場所だったからろくに調べられなかったろうけど」
ぎしり、と長椅子に身を預けながら、ポツリと呟いた。
「あそこに行った人間は生きては戻れなかったってことさ」

モニターの向こうでは男が口を開いていた。

彼の叫び声は、どこにも届かない

545ワルツとタンゴは果てしなく:2009/10/12(月) 08:21:47 ID:Y.Un2SS60
黄金に輝くインペリアル・プライムが帝都を覆う摩天楼の西端に沈む頃、皇帝の居城はライトアップによって
昼間とは違った美しさを帝都市民達に提供する。そして中では贅沢な饗宴が銀河系の選ばれた人々に供されていた。

「皇帝陛下、この度はお招きに与り光栄の極みに存じます」
「これはレイトン卿。こちらこそ古く由緒正しい家柄と最高裁長官という帝国の重責を負われるあなたをお招きできて
大変名誉なことです。御令嬢は美しさと実績を重ねておられるようでなにより」
「陛下のお眼鏡に適うとはこれまた光栄と申しましょうか……」

白地に金モールや肩章、勲章で装飾された詰襟の礼装に身を包む皇帝に対してタキシードに蝶ネクタイといった
伝統的なパーティ用の礼装に身を包んだ公爵が挨拶を述べている。儀仗兵の「皇帝陛下御入場」の声と賓客達の
拍手に迎えられて早一時間、彼のような大貴族や大臣、グランド・モフ、元帥といった帝国の実力者達から
代わる代わる挨拶の辞を述べられ、それに返事と彼らに関する話題をいくつか振ることを繰り返していた。

「ふぅ、やっと終わった」
「相変わらず御苦労なことだな」

公爵との挨拶を終えて自分のテーブルに戻ると、同じく他のゲストへ挨拶をしていた皇后も戻っていた。
こちらも白金のティアラを着け、パールホワイトのドレスとドレスグローヴ、肩章といった礼装のいでたちであり、
普段の軍装とは違った女性的な魅力といつもと変わらぬ威厳を醸し出している。

「私は呑まないから食べないと持たないのよね……ああ、おいしい」
「下戸ではないのだから、こういう席でくらい呑めばよかろう?」
「酒は罪だよ、皇后陛下?」

ホーク=バットの香草焼きを切り分けて咀嚼した後に漠然とした返答を返す。ホーク=バットは数ある鳥類の中で
もっとも美味であるとされており、パルパティーン皇帝の時代からパレス内には専用の飼育場が設けられ、
よりおいしく飼育と調理が為されており、晩餐会では皇族と側近のみに振舞われるというものである。
美食家で知られる現皇帝もこの肉を愛しており、「これが食べたくて皇帝なった」とジョークの種にされる程である。

「嗜む程度には悪くあるまい」
「私はリスクを低減する志向があるからねぇ、用心深くないと権力者にはなれないのさ」

暗に酔った時の失態への懸念を示す皇帝。酒の上での失態は社会的に抹殺される。すなわちこれまで積み上げてきた
栄光が全て崩れ去るのである。別の銀河のとある島国ではそれは大して問題にならない文化があるようだが、
ここは銀河帝国である。エリートに絶大な権限と尊敬が寄せられる代わりに目も厳しいのだ。

「まあ……お前が失態をしでかさなかったおかげで今日の冨貴の暮らしがあるのは否定できんな」
「だろう? おお、グランド・モフ・ニーベルンク!ノエリア様」
「久しいな皇帝、そして皇后も」
「ごきげんよう、ノエリア殿。楽しんでいるかな?」

あわてて自分の皿に載っていたホーク=バットの最後の一切れを押し込んで飲み込むと、美しい蒼い髪を靡かせる
ドロイドのグランド・モフに妻と共に挨拶を述べる皇帝。
この華やかな社交場で皇后はふと想う。「あの子も着飾れば他の子達に劣らず美しいだろうに」と。
その脳裏に1人の養女の顔とそれぞれ軍装や礼装で出席している皇子や皇女達を重ねながら。

546ほんのすこし:2009/10/21(水) 11:16:21 ID:KUPs.7CMO
ほんのすこし、咲夜から血の匂いがした。
服のポケットに入ったハーブの匂いに混じったそれに咲夜がどこか怪我をしたんじゃないかと思った。
でも、お姉様はそれに気付かない振りをしてるし、パチュリーもその事には触れない様にしているみたいだった。

へんなの。

袖を捲って窓をピカピカにしていた黒いのの肩の上でわたしは頬を膨らませていた。
黒いのの肩の上から窓の外で洗濯物を干す咲夜が見えた。

怪我してるなら、無理しなくていいのに。

そう思いながら、黒いのの髪の毛をぐいぐい引っ張る。
視線をガラス越しに向ける黒いのを見つめがら、お姉様達と同じ質問を投げ掛ける。

咲夜から血の匂いがするの。

わたしの言葉に黒いのはそうかと答え、女は難儀だなと呟いた。
難儀?と首を傾げるわたしに黒いのは難儀だと返した。
怪我じゃないの?と聞けば、怪我じゃないと返ってくる。
男の俺には分からない難儀だと黒いのは肩に乗ったわたしを床に下ろすと、バケツを持って行ってしまった。


難儀なんだねと屋上から戻ってきた咲夜に言ったら、咲夜は一瞬変な顔をしてから、困った様に笑った。
そんな咲夜からはやっぱりほんのすこし、血の匂いがした。

547Driver-潜入!カーチェイス大作戦-:2009/11/21(土) 13:43:20 ID:iA8AymxU0
ここはニューヨーク警察本部。
署長に呼び出され一人の女が署長室へと入り、署長からの話を聞いていた。
その女の名前はシャーリィ。今回彼女が呼び出されたのはとある事件についてだった。

「君は、ロジーナ・ファミリーを知っているかね、ロシアン・マフィアだ
 その幹部の一人、エリ・カサモトがマイアミへ来るらしい。
 君はエリと接触し、ロジーナ・ファミリーへ潜入してほしい
 無論、警察は君が潜入したことは知らない 潜入任務だからな」
ロジーナ・ファミリー、それは最近殺人事件や違法賭博等で頭角を表してきたファミリーだった。
ロシアン・ファミリーであるにも関わらず、アメリカにもその魔の手を伸ばしていた。
ニューヨーク警察はこれを打破しようとシャーリィを送り込もうとしていたのだ。

その話をしながら署長はシャーリィのためにコーヒーを注ぎ、
シャーリィは署長が角砂糖を入れようとしたのを止め、
ブラックのままそれの香りも楽しまずにつまらなそうに飲んでいた。

「何か質問はあるかね?」
署長の問いにシャーリィは不満げな顔で警察バッジを置いていくと、
すぐさまロジーナ・ファミリーの一幹部、エリ・カサモトが待つ
マイアミの駐車場へと車を走らせた…。

548Driver-潜入!カーチェイス大作戦-:2009/11/23(月) 09:46:46 ID:VZBAu6o.0
ロシアン・マフィア唯一の東洋人幹部であるエリは、
すでに駐車場にいてシャーリィが来るのを待っていた。
この駐車場は今は使われていない地下にある駐車場だった。
ロジーナファミリーはたびたびこう言った目的(新しいドライバーの雇用)や、
隠れ家代わり(一時的にだが)などの用途でこういう駐車場を使っていた。

シャーリィはその地下駐車場に入ると、シャーリィよりも濃い金の髪を持った女性が近づいてくる。エリだ。
エリは何のためらいもなく助手席に乗り込んできて言った。
「さっそく腕を試させてもらうよ」
「おう、アタシはシャーリィ アンタはエリだな?それと部下は?」
「エリだ 部下?人間は皆独りぼっちだぞ? さあ、腕を見せてくれ」
そういうとエリはメモを渡した。それにはやるべきことが書いてあった。

やるべきこと
アクセル全開急発進
サイドブレーキを使って急停止
180度ターンと360度ターン
バックから180度ターンしてそこから前進
駐車場の支柱をスラローム走行で一周
駐車場を一周

だがシャーリィはこれを見るなりアクセルを勢いよく踏み、壁の前で急停止し、
そのままバックしながらの180度ターンをして、そのまま前進、
さらにそこから360度ターン180度ターンを相次いで決め、
駐車場を支柱に当たらないよう、でも全速力でスラローム走行で走っていき、
さらにそれを終えると全速力で一周走り、ドリフトしつつ車を止めた。
これらはたった5分の間に全て行われた。エリは驚いていた。
そしてシャーリィに、
「明日から仕事を渡す、それまでここのモーテルで待機しているように」
とひとこと言い残して助手席から降り、そのままどこかへ立ち去ってしまった。
なにはともあれシャーリィはロジーナ・ファミリーの一員となることができたのだ。

        アンダーカバー
だがしかし、まだ潜入任務は始まったばかりである…。

549西日:2009/12/21(月) 12:18:38 ID:It2c2L7cO
何気無しに読んでいたホラー小説の内容にアサヒはなんだとつまらなそうに口を尖らせた。
ある男が古井戸に死体を投げ込むと死体は消え失せ、男は喜んだが
最期に投げ入れた母親の死体はいつまでも消えず、実は母親が密かに処理していたという
話はまるきり何処からか囁かれる都市伝説そのものだった。
(いつから何人殺したって細かい所は違うけど…)
様々な作家の小説を集めた本の締めがこれでは、と本を棚へと戻しに席を立つ。
斜陽の射し込む図書室は古びた本のカビ臭さと程良い暖気に満たされ、静かに古時計の音を響かせていた。

そろそろここが閉める時間か。

時計が示す針を一瞥し、小説コーナーと銘打たれた棚の中へ本を潜り込ませる。
順序良く並べられた背表紙を指で緩やかになぞり、くるりと背を向ける。
明日はあの本にしようか、それとも違うものにしようか。
暖気に負けて、すっかり夢の中の友人を叩き起こしながら、アサヒはふとそう思うのだった。

550浪漫:2010/02/02(火) 15:05:15 ID:kAnVgp3EO
「……は外せないよね」
「それだったら………」
女子が二人、紙に何やら書き連ねながら、ひそひそと声を潜めながら、密談を交している。
「となると………蛙」
「烏も……………」
そんな二人を眺めながら、神奈子ははて何の話かと首を傾げた。
年頃の二人の少女の会話は化粧や異性と相場が決まっているが、先程の会話の端々に出てくる単語はそれとは無縁なものだ。
「ドリルだよ!」
「いいえ!超電磁砲です!」
だんと机を叩くとんがり帽子に早苗も負けじと声を上げ、神奈子はいよいよ意味が分からなくなった。

「たっだいまー」

そこに響く呑気な祟り神の声に二人がざわりと殺気だち、ガタンと立ち上がる。

「諏訪子様ぁ!ヒソウテンソクにはドリルつけましょう!ドリル!」
「駄目です!巨大合体ロボといったら、超電磁砲です!乙女の浪漫砲ですよ、電磁砲!」
「だから!ドリルだってそれと、いや、それ以上の浪漫が詰まってるのになんで分からない!?」
「ドリルは所詮工具!電磁砲の浪漫には負けるわ!」
「表出ろぉ!早苗ぇ!」
「紫の、わからずやぁ!」

ぎゃーぎゃーどったんばったんぴちゅーん

境内で何がなんだか分からない内に被弾した諏訪子を尻目に、空には乙女の浪漫をかけた弾幕ごっこが繰り広げられていた。

「…もう、付き合えん」

今なお何か叫ぶ二人と倒れた諏訪子に背を向け、神奈子は奥へと引っ込んでいった。

551世にも奇妙な?銀行:2010/04/03(土) 21:50:12 ID:1jrkyVH20
私がこの銀行の頭取です、初めまして―。
我が銀行では返す見込みのない者や意にそぐわぬ者に対し融資を行いません。

絶対に、絶対に、絶対に。

一度でも、一円でも見逃して御覧なさい。二度と私達は融資しないでしょう。
ただし、例外はありますが―、それももうすぐなくなることでしょう。

ある種の信頼、とでも言いましょうか。
まッ、遠い昔にこの銀行の名誉と地位は地に落ちたも同然、無論信頼でさえも。
そこに借りに来るあなたはこの銀行に始めてきた者か、盟友か、はたまた―

滅多に、または全く融資をしてもらえないそこのあなた、入口で回れ右なさい。
最も、融資を断られた時点で二度と来ないお客様もいるでしょうが…ね
借りる用のない者も、回れ右なさい。あなた方がここに来る必要はないのですから…
もし、必要ならこちらからお伺いします、ええ。



―さあ、融資の額はいかほどで?―

552ニューアース戦線異状あり:2010/04/04(日) 18:59:04 ID:yCCO/INw0
惑星ニューアース…新たな第二の地球。
メタリオン星系内で見つかったこの新たな惑星は、
このニューアースを一番最初に見つけたグラディウスの領地となる。
そののち銀河帝国が同惑星の監視目的を理由としていろんな場所に基地を建造した。
これによりニューアースでの治安は格段にあがり、賊が現れることもなくなった。

そんな折、オーストラリアのグラディウス軍キャンベラ基地からの連絡が突如途絶える。
近くのシドニー基地からキャンベラ基地へ向かった偵察部隊はキャンベラ基地にたどり着いた。
そこで彼らが見たものはマルセル・ブリュノー基地司令官が同胞に同胞を殺すことを命じている場面だった。
そしてただちにシドニー基地司令官、ジャック・ブールジェに対し連絡を入れた。
『ブリュノー基地指令、謀反の疑いあり』、と―。

553悪夢と空:2010/04/23(金) 15:10:50 ID:9xAUmk0wO
鉄の臭いを孕んだ熱い風が髪を揺らす。
燃える音に首をそちらに巡らせれば、黒く焼かれていくモノと目があった。
ああこれは夢なんだと、動かない体を何とか動かしながら、立ち上がる。
動くものは、もうなかった。



相も変わらず、嫌な夢だ。
机から上半身を引き剥がしながら、後ろへと伸びる。
午後の睡魔に負け、そのまま机に突っ伏したせいか、体があちこち痛んだ。
それでも夢が見せた光景が胸のなかでドロリとした嫌なモノへ変わるよりは幾分マシだった。
戦争に行った兵士が何度も見ると言われる戦場の悪夢も丁度こんな感じなのかもしれない。
そんな考えに被りを振ると鞄の中へ手早くノートをしまい、席を立つ。
ふと窓から見上げた空は、アサヒの心のようにどんよりとした色をしていた。

554はいたいロジーナさん:2010/05/04(火) 10:29:33 ID:CZlxNRik0
とあるひょんなことで沖縄にしばらく滞在することになったロジーナさん
最初は嫌がっていたが暖かい気候と泡盛のおかげでそんな憂鬱気分もどこかへ消えていた。
そこへエリが仕事がてらロジーナのとこへやってきた…

エリ「はいたい!よおロジーナ 近所で噂になってたぜ
    お前昨日近所の人と飲み比べやって勝ったんだってな
    でさ、中身が残ってる三合瓶が欲しいんだが…」
ロジーナ「あらあらエリ、どうしたの 私が三合瓶程度の残してると思う?
      私のことは結構知ってるでしょエリ?」
エリ「じゃあさ!三合瓶はいらんよ 一升瓶をくれ」

エリは怒ったロジーナに追い出され、また次の日にやってくることにした。

エリ「はいたい!やあロジーナ!昨日は悪かったな
    さっきロジーナを嫁にもらいたいと思ってる人が歩いていたぞ」
ロジーナ「あらあらエリ、どうしたの 私がそれを受けると思う?
      しかもその人知ってるし…子供のくせにませてるわねぇ」
エリ「じゃあ二十歳三十路すぎて白髪になってきたらいいのか?」

エリは『私は百合よ!』と怒ったロジーナに追い出され、
そしてそのまま沖縄を後にした…

555五年の月日:2010/05/07(金) 05:31:33 ID:UMut5za.0
深夜、誰も居ないはずの台所
夜の誰もかもが寝静まった時間に似つかわしくない音が響いていた
湯の沸く音、焜炉の火の音、何かを切る音…
そしてそれらは少しの時間の後、ぴたりと止まった

「今日の夜食はもうこれでいいや」
手元に簡単ながらも食欲をそそられそうなペペロンチーノを手にしているのはこの家の主、如月ダーク
…尤も、今の彼はダークという呼び名を変えたいと思っているのだが…
どうやら小腹が空いたのか、夜食を作っていたようだ。
(夜食にペペロンチーノを自作するとか言うのもちょっとあれかもだが自分にとってはいつものことであるby中の人)
そして冷蔵庫の中から瓶を一本取り出し、静まりかえった食卓に座る
夜遅くに、一人で、静かに食べる
これは彼のささやかな楽しみである

自作のパスタを味わいながら、冷蔵庫の中から取ってきた瓶を見る
・・・どうして、この家にはこういうものが多いんだろう
そう思いながら瓶の蓋を開け、中の液体をグラスにわずかに注ぐ
グラスの4分の1ほど注ぎ、一呼吸おいてから一気に飲み干す
…口の中にツン、とくる何か
昔ほどではないが、どうしても好きにはなれない感覚

「えっ」
ふと声がした方を向くと、そこにはエリアの姿が
「ちょ、だーく?」
普段から顔を合わせ、親しくしているはずの彼女が物珍しげな顔でこちらを見ている
「えっと、それって・・・」
まぁ、驚くのも無理はない
だって、今ちょうど口にしているのは…
「お酒、だよね?」
そう、酒だからだ。

「まぁ、そろそろ自分もあれだしな。 最低でも嗜む程度には飲んでおこうと思って。」
口直しに水を飲みつつ、酒に関しての言い訳をする
まぁ、酒飲んで言い訳するというのはこの二人にとってはとても珍しい光景ではあるが…
「あれって?」
「…もうすぐ、自分の誕生日だよな?」
ダークの誕生日は5月8日、最早明日が誕生日である(これを書いている時点で)
「うん、でもそれが・・・、あっ」
「5年って、早いな」
5年、それはダークとエリアが出会ってからのおおよその年月である
実際にはヶ月単位での誤差はあるがそこは気にしないでおくことにする
「うん、そだね。 もう・・・そんなに経つんだね」
少しの間沈黙が続く。
「ねぇ、ダーク」
「・・・何?」
「これからも、好きで居てくれる?」

「…うん。」
「・・・ん、ありがと。」

たった、これだけのやり取り。
それだけでも、二人には十分だった。

「ん・・・っ」
突然、本当に突然、ダークはエリアを抱きしめた。
「え、ちょっと、ダーク?」
「えと、酔ったかも…」
「酔ってないくせに」
「ばれたか」
どちらから、というわけでもないが二人して笑い出す。
「もう、ダークったら嘘が下手すぎ!」
「ごめんごめん」
「もう・・・、今日だけよ?」
「いいの?」
「嘘、やっぱダメ」
「何だよそれ」
「あはは…っ」
「はは…っ」

長いようで短かった年月、だが彼らの終点はまだまだ遠い
これから二人がどうなるのかは、運命すら知らない…

556一線:2010/05/18(火) 20:02:56 ID:04/tEyAAO
長らく開かれなかった扉は、半ば開いた所で蝶番から外れるという形で自らの役目を放棄した。
溜め息を手に残った扉と共に乱暴に室内へと倒すと、黴と埃の臭いが舞い上がった。
典型的な古い空き家の臭いなのかもしれないと足を踏み出しかけ、つと床を見下ろす。
倒れた扉に不満を言うかのように、床がミシミシと声をあげていた。
失敗したと頭を振り、フワリと地面から浮き上がった。

昔、とある富豪の一家が召し使いを巻き込んで心中をしたらしい。
原因は本人達が居ない今となっては知る術もない。
ただ、一家と召し使いは今も家にとどまり続け、入り込む全ても喰い散らかした。
面白半分で入る者に家に残る物品を頂こうとする盗人、或いはどこぞの教会から送り込まれた神父。
ほとんどが翌朝には家の前で屍を晒し、命からがら逃げた者も無惨な最後をとげた。

依頼主は、そんな者達の遺族の一人だった。

557一線:2010/05/18(火) 20:30:38 ID:04/tEyAAO
フワフワと廊下を進み、かつての応接間とおぼしき部屋へと踏み込む。
盗人が持ち出そうとしたのか、値打ちのありそうな物がどす黒く変色した床に転がっていた。
黴が生え、書いてある内容すら判別出来ない本が並ぶ本棚を一瞥し―妙なものを見つける。
およそこの場所には不釣り合いの真新しい背表紙をした本が変色したそれらの間に収まっていた。
好奇心は猫を殺す。そんな言葉を思い浮かべながら、どのみち読んでも読まなくともここに住み着くモノは姿を見せるだろうからいっそ読んでしまおうかと足で本棚を横へ蹴った。
ぐらりと押し潰すように倒れてくる本棚を避けることなく、じっと見上げ―


真下に散らばった本の残骸と元本棚に溜め息を付き、面倒そうに本棚に隠れていた場所を見た。
人を壁際に立たせ、潰せばこうなると言わんばかりのものがそこにあった。
それらがうめき声をあげながら、壁から手を伸ばす様に冷ややかな視線を投げ、廊下へと戻る扉へと進んだ。


故人は家に憑いたものを祓う為に赴き、非業の最期をとげたらしい。
依頼内容はその故人の遺品を回収する事だった。

558一線:2010/05/21(金) 18:47:04 ID:TrGldRnwO
まただ。
廊下の向こう側からこちらを伺う気配に背を向け、気付いた素振りを見せずに辺りを見た。
後から侵入をした者か。それとも、この家に憑いたモノか。
いずれにしろ、こちらに好意的な存在ではないだろう。
無関心を装いながら、手近な扉へ手をかけた。


扉の向こうには年頃の少女が好みそうな家具で揃えられた一室だった。
タンスの上にはむくむくとしたぬいぐるみが、ベッドの枕元には小さなオルゴールが置かれていた。
妙な違和感を覚えながら、ふと板が打ち付けられた窓へ目が向く。
…おかしい。この家の窓は外側から封じられている。だが、この部屋は中から板が打ち付けられている。
嫌な予感を感じながら、不釣り合いなその窓の下で何かが光る。
いぶかしみながら、それに近付き、手を―
「―っ!」
ベッドの下から何かが足に絡み付き、バランスを崩した弾みに肩を強かにぶつけた。
手だ。暗がりへ引き込もうとする小さな手がそれに見合わない力で足を掴んでいた。
引き込まれればどうなるかは、想像はしなかった。

死んでやるつもりは、毛頭ない。

559一線:2010/05/27(木) 19:58:37 ID:0TdFPlesO
袖に仕込んでいたナイフを床に突き立て、空いた片手でポーチからまさぐり掴んだ物をベッドへ投げつけた。
球状のそれがベッドの下へとバウンドし…激しい閃光が辺りを照らし出す。
目を閉じてもなお目がくらむ程のそれに怯んだか、足を掴んでいた手が弛む。
そのチャンスを逃す訳もなく、動かせる片足で床を蹴り、跳ねる様に窓側へと飛ぶ。
背中を壁に押し付け、残っていたもう一本のナイフを構える。
「………」
光が収まる頃には室内の様子は他となんら変わらない、廃屋の一室へ変わっていた。
息を付き、床に突き立てたナイフを引き抜き、袖の中へと収める。
(そういえば、さっきの…)
何かを踏んでいる感触に足を上げると、鎖の千切れたロケットが転がっていた。
間違いない。これが依頼者の探していた遺品だろう。
ようやくそれを拾い上げ、後は帰るのみとなった時だった。

560一線:2010/05/27(木) 20:18:25 ID:0TdFPlesO
ペタリ…ペタリ…
廊下を何かがゆっくりと這ってくる様な物音が耳に届く。
閉じられた扉越しに聞こえる音は確実にこちらに近付いてきている様で、思わず扉からあとずさる。
このまま強行突破、は賢い選択ではない。ナイフ二本で抵抗するにしてもたかが知れている。
窓や壁を壊す事も恐らく不可能に近いだろう。
万事休すと天を仰いでみようか。
自虐的な笑みを浮かべながら、上を見上げると―


「と…と…うぅん、何か違うわな」
頭を掻きながらうめく彼女にゼロツーは興味も持った素振りを見せずにぼんやりとしていた。
「適当で良くはないのか?」
「とは言っても…なんというか、どうにかいい感じに終わらす事が出来ないのよ。
いや、さ、『任務は無事遂行されました』って書けばよかったんだろうけど」
今後の事例のためにも読み物的に残しときたいしぃ、と紙から目を動かさない彼女にゼロツーは大きく息をついた。
「…この話はフィクションだから不死かそれに近いモノ以外は真似はするなーでいいと思うがな」
一人うめく彼女を置いて、彼は目を閉じた。

561危機:2010/05/29(土) 11:23:36 ID:D.1NQMFg0
メタリオン星系に浮かぶ蒼い惑星グラディウス。
少し前に皇帝ラーズ72世が自ら退位し、その後継としてラーズ73世が即位したばかりだった。
ラーズ73世になってから退位したラーズ72世が国防省に移籍し、
ビックバイパーT-302B(Bomber)の製作、そして兵器擬人化勢の増強に力を入れることになる。

そして目覚ましい発展を遂げている新興国バクテリアン帝国―。
かつてはグラディウスの敵であったが今では和解したという歴史を持つ。
農業と工業、二つの顔を持つ惑星で建艦技術に関してはメタリオン一だとも言われている。
また兵器擬人化勢が国民の三割を占めているため、有事の際には強い国だともいわれている。
だが今までに製造されていた洗練されしきった宇宙戦艦は手を加える余裕がなく、
新しく新造されている艦はその全てが今まであった型のであった。

そんなある日、メタリオン星系外から全長15kmを超えるとてつもない大きさの宇宙戦艦がやってきた。
グラディウス軍はすぐに国中に警報を発令し、一般人には外出禁止令が出された。
同時に数千機ものビックバイパーがグラディウス中の飛行場から飛び立った。
そしてグラディウス空軍基地本部からその戦艦に対し警告が送られた。
―すぐさま引き返されたし、さもなくば攻撃を辞さん―と。
バクテリアンも同様のようで、何回もその謎の戦艦に警告を送っていた。
だが返事は無かった。反応もなかった。ただ進むだけだった。
そしてバクテリアン帝国大統領ブリュンヒルデによって、攻撃命令が下された。
―我等の地に無断で入ってきた者に制裁を加えよ―と。
ラーズ73世も攻撃命令を下し、巨大戦艦への攻撃を開始した。

だがいくら攻撃をしても反撃をする様子がない。
そこで擬人化勢に頼んでもらい『入口』を作ってもらったのだ。
そしてグラディウス、バクテリアン両国の合同調査団を乗せた輸送艦が
その『入口』の中に入ろうとしたその時、戦艦から赤いレーザーが全方位に向けて放たれる。
赤いレーザーは輸送艦やビックバイパー、コアを貫通し、破壊していく。
その時、初めて戦艦側から初めて通信が送られて来た。
―我らはヴォリスキー宇宙帝国、グラディウスとバクテリアンの民よ
  我等の支配下にはいるか、我等に焦土とされるか撰ぶがよい―と。

562頼もしきもの共:2010/07/03(土) 23:27:17 ID:B4wirlRUO
彼が入口をくぐった時には行き届いている筈の冷気は店内に集まった人々の熱気に押され、既に部屋の隅で縮こまっている様だった。
所々で響く乾杯の声とゴブレットの打ち鳴らされる音が陽気な男達が奏でる音楽と混ざり合う中へと分け入り、辺りを見回す。
それに気付いたのか、人だかりから手が生える。
人々に詫びを入れながら、そちらに向かえば、黒い長髪の女が並々とトランプを手ににんまりと笑っていた。
「フルハウス」
パサリとテーブルに役を晒し、男達が落胆の声を上げるなか、彼への挨拶のつもりか、ゴブレットを掲げる。
「意外に早かったわね」
「どなたかが早く来いと仰っていましたからね」
「おやまぁ」
笑いを堪える様に酒をあおる。
「酷い輩が居るものね」
一息に中身を干すと、女は意地悪そうな笑みを彼へと向けてきた。
「えぇ、えぇ、全くです。その方がもう少し自重してくだされば、私も楽になれますよ」
運ばれてきたギジュー・シチューに悶絶する同僚に心の中でエールを送りながら、言葉に多少の嫌味を込める。
それに女が顔を押さえて笑う。あのゲテモノを頼んだのは貴女ですか。
頭痛を覚えながら、手近な席に腰を下ろせば、酒の注がれたゴブレットを差し出される。
それを差し出す女は彼に受け取る様に顎を動かす。
断わりきれずにそれを受け取ると女は空になった自分のへと酒を満たし、声を上げる。
「私の愛すべきクソッタレ共!今夜は私の奢りだ!ぶっ倒れるまで付いてこい!」
ヤジやら口笛やら飛び交う中で呆れた様に息をつき、席から立ち上がる。
こうなればヤケだ。明日も非番だ、今夜はとことん飲んでやろうではないか。
「我等が帝国の繁栄に!」
『我等の麗しき黒い月に!』

『乾杯!』

女の音頭にゴブレットは打ち鳴らされ、場は最早どうしようもない程に崩れていく。
呆れながら、ノドへと流し込んだ酒はどこか心地良さを誘っていた。

563通話:2010/08/21(土) 00:18:12 ID:HCSgDpJIO
着信を告げる音が静まり返った木々の間に谺する。
モニターに写し出された名前を一瞥し、通話ボタンを押す。

『もしもし?今何処に居るのよ?』
「空の下の何処かよ」

『……、質問を変えるわ、日本国内なの?それとも海外?』
「世界の星空が綺麗な場所よ」

電話の主がつく溜め息を聞きながら、細長く煙を空へと吐き出す。
煙の向こう側では細かく砕けたガラスの様に淡い光が瞬いていた。

「ここはいいわよ、人間も居ない、車も居ない、なんてったって」
通話口に煙を吐きかけながら、にやりと笑う。
「存分に煙草が吸える」
匂いが届く訳でもないが―恐らく嫌味だ、電話の向こうで咳払いを一つして、相手が話し出す。
『たまには連絡するか、顔見せに帰ってきなさい』
「近々ね。じゃ、切るわ」
『ちょっとまだ話h』

―相変わらずの心配性。
今頃憤慨しているだろう電話の主を思い浮かべながら、新しい煙草に火を付け、空へと吐き出す。

どんなに遠くへ行こうと、胸の奥で燻るモノはいまだにヒトを許すなと囁き、再び暴れ回る事もあるだろう。
もしかすると、また正義の味方に追われる事になるかもしれない。

それでも、あの連中は戸口を開けて、帰りを待っていてくれるだろう。
家族という、奇妙な集まりのもとに。

(本当に、馬鹿でおめでたい連中よ)
煙に隠れたドロシーの横顔には、けれど、安堵した様な笑みが浮かんでいた。




帰りを待っててくれる場所があるって安心するよね

564ある酔った男の話:2010/09/11(土) 17:03:56 ID:KsLUGMwwO
―切り裂き公って知ってるか?…、まぁ有名だし、そりゃ知ってるよな
話ってのはその切り裂き公の話なんだ
…おいおい、別に危なくなんてないぞ?第一随分と昔の話だ
…ほら、ストリートギャングがここらへんでゴタゴタしてただろ?
丁度その頃に切り裂き公がこの街に来ててさ、その中の弱小グループに手を貸す事になった訳よ
…色々あったんだよ、とりあえずまずは話させろって
ところでお前、トリッキーリッパーって奴の噂、覚えてるか?
この街を縄張りとしてた連続殺人鬼で街を荒らす奴らには容赦しないって、ほら、あったじゃねぇか?
丁度グループ同士の衝突が激化した頃にそいつが現れたって話題になってさ、仲間の仇討ちだって血気盛んな連中が向かってたらしいんだけど
誰一人として倒せる奴なんか居なかったんだ
で、その内警察も本気で動こうって時にプッツリ噂聞かなくなったろ?
…実はな、殺ったのは切り裂き公なんだよ

ああそうさ、もう20年も経ったんだ
だからこいつを酒に酔った男の戯言だと思って聞き流してくれて構わない
ただ……、ただ俺はもうこいつを話さずにはいられないんだ
あの日、目に焼き付いたままの―

565名無しさん:2010/09/19(日) 22:45:10 ID:h70EqLmo0
 ふっと眩暈を覚えて早苗は眉をしかめた。
 軽くこめかみを抑えて頭を左右に振る。
 と。
「……………………」
 彼女をじっと見つめる少女の姿があった。
 年の頃は5歳ほど。腰のあたりまで伸びた長い黒髪を無造作に垂らしている。その大きな瞳はまばたきすることなく早苗を見据えていて、何故だろう、まったく表情を浮かべていないのに今にも泣きそうに見えた。
 その光景に、早苗は違和感を覚える。
 連続しているはずの時間が、ある時を境に断絶してしまったような。
 あたかも旧式のフィルムのある部分と部分を切って繋ぎ合せたような、そんな不連続感。
 ――だが、
「……あす、み?」
 早苗は、無意識に少女の名をつぶやいていた。
 そこでようやく彼女は気づいた。
 ――これは、夢なのだと。
「……………………」
 じっと早苗を見つめる少女の瞳。その無言の瞳に見つめられ、早苗は動くことが出来ない。
 何が出来るのか。
 あるいは、何がしたいのか。
 だが、その均衡はふいに崩れた。
「……だっこー」
 手を伸ばす。早苗の方へと。
 一瞬、その言葉の意味が理解できずに唖然とする。
 それを少女は拒絶と受け取ったようで、
「…………だっこ」
 同じ言葉を繰り返しながらも腕は下がり、肩を落としている。
 早苗は、ほとんど反射的に動いていた。
「大丈夫ですよ」
 抱きしめる。
「私が、あなたの傍にいますから」
 少女の顔は見えない。
 だが、目をまんまるくしている姿は容易に想像がつく。
 早苗の胸の中でもぞもぞと動いた少女は、
「……………………ん」
 小さく、そう鳴いた。

 それは新たな夢が始まる瞬間。

566切り裂き公、街に立つ:2011/04/22(金) 14:21:48 ID:VJLRBwS60
ガタン、と音を立てて停止した鉄の車が駅の中へ人々を吐いていく。
足早に流れていく人の中に彼女はいた。
若い女だった。腰まで伸びた黒髪を背中に流し、きれいに整った顔立ちの彼女は至極のんびりとした歩調で足を進めていた。
迷惑そうに彼女を避けていく他人の顔などどこ吹く風といった具合に。
彼らのうちで果たして知るものは居るのだろうか。彼女がこの星系を統べる皇帝の娘である事を。
辺境の地で切り裂き公と呼ばれ、恐れられるヤラ=ピエット、その人である事を。

白昼堂々と人を殺したにも関わらず、未だ身元も顔すらも割れていない殺人鬼が居る。
そんな話を耳にしたのはどこであっただろうか?
駐留する軍関係者であるとも、流れの暗殺者だとも囁かれるそれの話に妙な興味を覚えた彼女は準備もそこそこに
住み慣れた家をいつものように飛び出し―義母の小言を背に受けながら、遠く離れたこの地へ降り立った。

(しかし、ほんとに居るのかね、私以外にそんな奴)
人混みの中でさえ殺して見せたその腕前もさることながら、大勢の他人の目が合ったにも関わらず姿をくらませた芸当は賞賛に値する。
人間であるならば、だが。
…最も町に流れる噂など大体は余計な尾ひれが付いている。もしかしなくとも噂のいくつかは誇張でしかない事が多い。
けれどそれらを事実と照らし合わせてから初めてようやく事の真相にたどり着く…面倒な作業だが、楽しみのためなら多少の労力は惜しまない。
(まるで恋する乙女ね)
居るかも分からない相手に恋い焦がれ、その姿を求めて彷徨う自身の姿は彼女を知る者にはさぞかし奇妙だろう。
それでも―ヤラ自身が半信半疑であるにもかかわらず―妙な予感があった。
この街で必ず会える、と。

そうしてしばらく辺りを歩き回り、出口から差し込む夕日に目を細める。
人の往来が絶えない通りは見た限りでは抗争とは無縁の場所に思えたが、武装した警官らしき者達がそこかしこに立っており、
鋭い視線を辺りに投げかけていた。
およそ不釣り合いなその光景を横目に流しながら、鈍色の建物の間へと足を進める。

まずはどこかに宿を探そう。点り始めた煌びやかな広告の光に目を細めながら、夜の街を行く。
抗争が起きるまで、ひいては例の殺人鬼が現れるのを待つための拠点にお誂え向きな、人目に付かない場所に。
酒と煙草の匂いが辺りに濃くなり始めた頃、ようやく彼女の足が止まる。
「…おやまぁ」
道路を挟んだ向かい側で燃え上がる車から男が這い出していた。
息も絶え絶えといった具合の彼の周りを他の男達が取り囲み、手にした銃を彼の頭に突き付けた。
(おお、リボルバー。もうここらではとっくの昔に絶滅したと思ってたけど、いいね、まだ使ってるマニアが居たのね)
男の手の中に握られた古めかしい骨董品にヤラが若干の興奮を覚えていると、男達の視線が向けられる。
とても友好的とは言い難いそれに彼女の中で何かがざわめく。

―ああ、これは襲われる。この状況を見て大人しく帰される訳がない。だから、

男の一人が小型のブラスターを手に、ヤラの方へと歩みを進めてくる。
男は思いもよらないだろう。目の前の女が動けない理由が恐怖ではなく、獲物を待ち構えている為だということを。
男の仲間は知らないだろう。この後、自分達がどのような末路をたどるのかを。

―だから、これは

ヤラの眉間に銃口を向けた男の顔が僅かに歪む。

―正当防衛。

瞳を爛々と輝かせて笑う彼女に不信感を覚えていたであろう男が仲間の方へ振り返ろうとした。
…ふと、男の瞳が妙なものを映し出す。彼自身の、天地が逆さまになった体。
何故こんなものが、と言いたげな目を見開いたまま、鈍い音を立てて、首が道路をはねる。
その奇妙な音に男達が振り返り、変わり果てた仲間の姿に誰しもが動きを止める。
男の血を手にしたナイフから滴らせながら、呆然とする男達を吹き上がる赤い飛沫越しに見つめる。


さぁ、狩りの時間だ。

567すき:2011/05/15(日) 01:10:29 ID:LM8ZkY1I0
おねえちゃん、私の好きだった人
 今は違うの?
良く分かんなくなっちゃった
 ふぅん
そういう貴女は?居るの?
 うん
ふぅん
 誰か聞かないんだ
聞いてどうするの?
 公平感が出ます、素敵
うわぁい
 うわぁい
公平なんて存在しないのだよ明智君
 なんだと、おのれ謀ったなピエットめ
誰それ
 おかーさんの友達
ふぅん
 変な人なの、おかーさんとはまた違うとこが
貴女のおかーさんも変だね
 うん、変だよ、主に頭
目、開けたまま寝てるし
 おとーさんもすごいんだよ
そーなのかー
 貴女は食べられる人類?
いいえ、できそこないです
 わーい、仲間だー
貴女もできそこないなの?
 おういえす
自分でできそこないとか言っちゃだめだって言われなかった?
 おまえもなー
なにそれ
 突っ込みです、えっへん


「妹が貴女の娘と訳の分からない会話しているのですが…ああ、寝てらっしゃるのね、目を開けたままだなんて器用ですね」

568東風谷早苗の今日の絶対許早苗:2012/04/22(日) 22:54:14 ID:3risYo.M0
 今日は「天子とブロントさんのモンハン生活」という動画を見て一日を過ごしてしまいました。
 モンスターハンターおもしろそうですね。
 この動画を見て心からそう思いました。
 創作動画とは思えないくらい感動的なお話で、特に終盤の盛り上がりではセルフエコノミーで視界がぼやけるというアクシデントも発生です。
 ちなみに動画の中の私はスラックス最強説を唱えながら主人公の座を獲得しようとする2P扱いですが、ちょっとあんまりじゃないですかねこれ。
 それはともかく、涙を拭いながら最終回前半を見終えて、後半を開いたんですよ。
 そうしたら、

「やっと終わったのかよ。はいはい乙乙」

 感動的なお話の中に冷めたコメント混ぜられたら興醒めしちゃうでしょう!!
 台無しじゃないですか!!
 流れてた涙がひっこんじゃいましたよ!!
 
 絶対に許しませんよ、絶対に!

569東風谷早苗の今日の絶対許早苗:2012/04/25(水) 00:17:55 ID:HxUkoyEY0
 今日も一日おつかれさまでした、「私は2Pじゃありません」早苗です。
 一時期は毎日のようにログインしていたネトゲも、今はまったくプレイしていません。
 というのも、私を誘ってくださった一番仲の良かった方がインしなくなってしまいまして。
 理由も言わずに突然音沙汰がなくなったので、最初の頃はひょっとして体を壊したのかな、それともネット環境が不調で繋げなくなったのかな、と思っていたのですが。
 それが1ヶ月も続けば、やっぱり飽きたのかな、という考えにも至りました。

 数日前、その方から久しぶりに連絡がありました。
 今はまったく別のネトゲを楽しくプレイしているそうです。
 
 …………

 ええ、わかってましたよ!! わかってましたとも!!
 けどそうならそうと、もっと早く言ってくださいよ!!
 1ヶ月も忠犬ハチ公みたいに待ち続けた私は、完全に可哀想な子じゃないですか!!
 怒り半分、呆れ半分でインしなくなった理由を聞いたら、「インする人が減ってつまらなくなったから」って、それは取り残された私の台詞ですよ!!

 絶対に許しませんよ、絶対に!

570心太:2012/04/30(月) 20:34:44 ID:Msuf7ve60
 ある日のことです。
 その日の夕食には、心太が添え物として並んでいました。
 いえ、某るろうに剣客の子供の頃の名前ではないです。『ところてん』です。
 つるつるっとしていて、三杯酢をかけて食べるとすごく美味しいあれのことです。
 とにかくあれを食べている時に、
「…………東風谷さん」
 ふいに西園さんがこちらを向いてぽつりと声をかけてきました。
 食事中に彼女が突然話しかけてくるなんてそうそうないので、私はちょっとびっくりしながら「どうかしました、西園さん?」と問いかけました。
 ちなみに彼女の左隣では地獄烏がゆでたまごを両手で掴んでがじがじと噛んでいます。すごく満ち足りた顔をしながら食べているのでおそらくご満悦なんだと思いますが、あれって共食いにはならないんでしょうか。
 ともかく、問いかけられた西園さんはしばらくじっとこちらを見つめてから、
「……心太を凍らせたことは、おありですか?」
 そう言いました。
 私は首を傾げました。質問の内容に、というより、このタイミングで何故それを質問してくるのかがわかりませんでした。
 ちなみに彼女の右隣では女僧侶が「らめええええ、こんな太いの入れたらこわれりゅうううう!!」と無表情で叫びながらバナナをくわえています。あ、顔を真っ赤にした天人に緋想の剣で殴られました。
「ありま、せんけど」
 私の答えに、またしばらく西園さんはじっとこちらを見たまま黙り込みました。
 ちなみに私の左隣では黒髪のちっちゃな女の子が手で心太を掴もうとして力を入れすぎて握りつぶしています。「おー」と言いながら目をまんまるにしていますが、心太もはやぐちゃぐちゃでほとんど原型を留めていません。
「心太って、ほとんど水分で出来ていますよね」
 またぽつりと、西園さんが語り始めます。
「ええ」
「だから、凍らせてしまうと心太を構成する水分も凍ってしまうんです」
「そう……でしょうね」
「水分が凍ると、どうなりますか?」
「……膨張しますね」
「そう、膨張するんです」
 つ、と冷や汗が流れました。あれ、なんだろうこの汗。
「膨張した水分は、心太の組織を破壊してしまいます。そのため、一度凍らせた後に解凍しても、心太はもう元には戻りません」
「………………」
「人間に例えると、内臓が一気に膨張して破裂したような感じでしょうか」
 かたんっ、とどこかで箸が落ちる音がしました。
 見ると、テーブルの一番端にいた機械好きの少女が顔を真っ青にして心太を凝視しています。
「解凍した後の心太はぺらぺらで、中の水分はすべて流れ落ち、わずかに残った組織の残骸が死に絶えたミミズのように……」
 そこまで言ってから、
「心太、美味しいですね」
 つるつる、と西園さんが心太を口に含みました。


 結局、その日の夕食では心太が大量に余ってしまいました。

571名無しさん:2012/06/13(水) 16:49:59 ID:5mna.40QO
(ああいけない、やってしまった)
猟奇殺人現場と化した路地を一望し、深く息を付く。
敵をなぶり殺すのは悪い癖だ。悪いことにここは人が居ない辺境の惑星ではない。
辺りに立ち込める血の臭いが表の通りに流れるのにはそう時間はかからないだろう。
凶器は鋭利な刃物、現場に残った靴のサイズは…と様々な分析が成されるも、犯人に結び付くものは発見出来ず、迷宮入り。
唯一の目撃者も消えてしまえば、彼女にとって不利な物はなくなる。理想的だ。

(それじゃあさっさとご退場願いましょうかね)

そう思い、振り返りかけたヤラの視界に鋭利な刃物が映る。
「 」
言葉を発する間もなく、目を抉ろうとするそれをなんとか弾き飛ばし、後ろへと距離を開ける。
舌打ちをしながら、自分の背後を取っていた人物を見つめる。
深くかぶった帽子に体のラインを隠すような大きめのコート、男とも女とも取れる曖昧な身長。
(よもや人間如きに背後を取られるとは!)
ぎりりと奥歯を噛みながら、怒りに顔を歪ませる。
相手はそんな彼女の様子を気にした様子もなく、コートの袖からナイフを覗かせている。
(次に近付いた時に武器を奪って殺してやる!)
次に来るであろう、攻撃に備えて身構えた、その時だった。

「か…は…!?」

口から空気の漏れる音と共に熱い物が上がってくる。背後の壁から自分を貫いた黒い槍を信じられない眼差しで見下ろし、相手に視線を向ける。
相手の口許に浮かんだ笑みに小さく毒づきながら、ヤラは意識を手放した。

572名無しさん:2012/08/21(火) 18:06:49 ID:Y8ST66t.0
背中に走った鈍い痛みにヤラは思わず呻き声を上げた。
サイレンや人々のざわめきが嫌に大きく聞こえる。辺りも驚くほど暗い。
「なんだ、生きてたのか半人前」
低い男の声に慌てて体を起こしかけて、体を突き抜ける痛みにうめき声を上げ、再び地面に倒れ伏した。
「こっぴどくやられたな」
まるでからかうかのような声色をヤラに投げかけながら、男は路地の方へと視線を戻した。
なんとか上半身を起こして視線を向けると、これでもかと集まった警官と鑑識とおぼしき者達が
せわしなく路地を行き来する様がそこにあった。
「お前が解体した死体は欠損が酷くない場所を繋げておいた。
相変わらず解体が好きなようだな、いっそ肉屋にでもなったらどうだ?」
どこか馬鹿にするような様子に余計な事をするなと鋭い視線を投げつけるも、男はくくっと笑うだけだった。
この男が脅しに怯む事も相手にする事もないのはヤラ自身が十分承知していた。
「…何も出来なかった」
相手に一太刀も浴びせる事がないまま、無残に負けた。
この男がこの場に現れなかったら、彼女は間違いなく命を落としていただろう。
「次は殺す」
怒りと苛立ちに顔を歪めるヤラに気付いたのか、男がつまらなさそうに鼻を鳴らした。
「諦めろ、お前には無理だ」
「必ず、殺してやる」
全く聞くそぶりを見せない彼女に男は呆れたように頭を振り、路地の闇へと姿を消していった。
「必ず、必ず…殺してやる」
路地の向こうでは、相変わらず大勢の野次馬で溢れかえっていた。


人混みに紛れながら、黄色いテープで仕切られた路地へ目をやる。
相変わらず大勢の警官―鑑識も居るだろうが、区別が付かなかった―達が犯人逮捕のために情報を探す姿が見えた。
(見つかる訳がない)
徒労に終わるであろう彼らの苦労を胸中で嘲る。
犯人はそもそも人ではない…もっとも彼らはそうだと知らない訳だが、
仮に何か証拠が挙がるとしてもそれらが彼らを犯人へと導く事はないだろう。
まるで遠い昔に狂気に駆られた人間が紡ぎ出したおとぎ話が現実となった様な、そんな気味の悪い事件として
人々の記憶から姿を消す事になるだろう。
(実際オカルト系団体が彼らの奉る神の仕業だとか騒いでいるらしいからね)
街頭で神による粛正が近いと語る男の横を通り過ぎながら、当てもなく歩みを進める。
「お前らが語る神なんて、いやしない」
ぽつりとこぼれ落ちた呟きは雑踏に紛れ、誰の耳にも届くことはなかった。

573ある兵士の話:2012/08/21(火) 19:18:53 ID:Y8ST66t.0
その時に俺さ、他のグループの連中に因縁付けられて、ぼこられてたんだわ。
…若気の至りって奴さ、あの頃は周りに不満だらけだったんだ。
で、そいつを俺たちが変えてやろうって思ってたんだけど、現実は甘くはなかったんだよな。
んで、そこで颯爽と来たのが我らが切り裂き公様って訳さ。
けど、あんときゃおっそろしく機嫌悪くて、「あ、話しかけたら首が飛ぶな」って具合にすげぇ顔してたんだよね。
ま、おかげであの時の俺はカツアゲされずに済んだし、何かよく分からないうちに力貸してくれる事になったんだわ。
今でも不思議に思うよ、あんときどうしてあの人があんなちんけなバーに来たのかさ

574雪中1:2012/09/18(火) 23:44:02 ID:pS0e5Gp20
季節外れの銀色の雪に覆われた大地はまるで生命の訪れを永遠に拒むようであった。

そんな場所とはまるで無縁であるような女性が一人、
そのやや硬い雪の中を足を取られぬように足跡を残しながら歩いて行く。
脚は膝ほどの深さまで沈み、歩くだけでも相当な重労働だ。
言うまでも無いが彼女は観光目的、避暑地目当てにここまで来たのではない。
過去の争いのけじめ(とはいっても彼女自身のけじめではないが)をつけに来たようなものである。
彼女の名前はフィオリーナ・ジェルミ。国連軍の特殊部隊の一員である。
当初はこんなに雪深いところまで来るつもりはなかったのだが、
反乱軍に誘われるようにして本来人の訪れるはずの無いここまで来てしまった。
引き返すにしても来る時につり橋を自らのミスで壊してしまい、自力で戻れなくなってしまったのである。

空は曇り、さらに雪が降り積もりそうな様相を呈している。
一歩一歩前に進むが周りの景色は雪一色、
目印になるようなものは何も無く全く進んでいる感じはしない。
その間にも着こんできた防寒着などまるで意味がないように体温を取られていく。
メガネは数分で曇り数歩歩くごとに吹かねば前がまともに見えない。
「全く、あれほど叫ばれていた温暖化とは一体何だったのか」、
フィオは出撃前まで見ていたドキュメンタリー番組の内容を思い出しながら一歩ずつ前へ進んでいく。
先ほど救難信号は出したのだが、ともすると吹雪さえ吹きかねない土地である。
救助は天候が回復するのは明日以降なのは確実、
最悪の場合この先吹雪が続き行方不明扱いにされてまう恐れさえあった。

しかしこれ以上歩いてもただ無駄に体力を消耗するだけ、
そう考えた彼女はもしもの時にと渡された携帯用スコップをリュックサックの中から取り出し、
日本人の女性軍曹、相川留美に教えてもらったかまくらという雪窟を作ることにした。
この地において雪窟を作るのはなんら難しいことではなかった。
入り口だけ階段状に深く掘り、あとはそこから中をかきだすようにして掘るだけ。
これで簡単に雪窟ができてしまうのだから。
雪窟の中は外にいるよりはまだいい程度の温度ではあったが、
フィオにはこれが今までの苦行よりははるかにマシに思え、天国に思えた。
リュックから固形燃料を取りだして使い、雪窟を溶かさぬ程度の弱い火で雪を溶かし温かいお湯を飲む。
体が温かくなったフィオは今までの過労からか、猛烈な睡魔に襲われる。
フィオは襲ってくる睡魔に逆らうことはせず、そのまま寝袋に入って明日まで寝てしまうことにした。

575汝は反逆者なりや?:2012/12/23(日) 12:00:40 ID:58bpE.IY0
「プレーシデンテ!早朝からすいません!いいニュースと悪いニュースが一つずつ!
まずは悪いニュースから、КГБとCIAから指導を受けた政権転覆を目論む反逆者があの小さな街の住人の中にいたことです!
そして昨日の夜にその反逆者がその町の人間を一人殺してしまったようです!これは非常にゆゆしき事態ですプレシデンテ!
そして次にいいニュースを!反逆者が逃げ込んだ街は小規模で見つけるのは一か月もあれば容易だということです!」
朝からひょうきんな男の秘書の声が島の中心に位置する総統府の中にこだまする。
軍服を着てひげをたっぷりと蓄えた、いかついサングラスをかけたプレシデンテはこう命令した。
「なら、炙り出してやろうじゃないか 秘密警察に命じてその街の住人が選んだ『他称反逆者』を一日一人ずつ殺すんだ そうすれば…」
プレシデンテの『粋な提案』に秘書は笑いながら「それはいいアイディアです!見世物にもなりますしね!早速実行いたしましょう!」
そうしてとてつもなく酷く、くだらない反逆者炙り出し作戦が始まるのであった。

街の住人は、数人のただの農家の人間を除けばとても独特で面白い職―というよりは、趣味?―に就いていた。
まずはこの街に反逆者がいると密告した秘密警察の人間―公衆電話からの連絡だったので誰かは知らないが―、
次に預言者気取り、医者気取りのまじない師―これも誰かは知らない―、
そしてマタギをやって暮らしている人間―無論、誰かは知らないし知っているわけがない―、
さらには自分を救世主だと信じて疑わない狂信者―だから誰が誰だかわからないんだってば!―、
最後に反逆者2人―わかったら苦労はしない―である。

派遣された秘密警察の男が集まった街の住人の前でこう言い放った。
「夕暮れまでに反逆者と思しき人物を一人ここまで連れてこい そいつを殺す」
こうして街の住人達も反逆者探しに躍起になるのだが…さあ、誰が反逆者かな?

576新任大使狂想曲:2013/08/02(金) 00:19:11 ID:dsbRSvqI0
グラディウス格納庫横の擬人化できるビックバイパー達の住まう擬人化寮は新たな任務とその人選により混乱に陥っていた。
そしてその彼女達を混乱に突き落とした任務と人選は以下のようなものであった。
『長らく空席になっていたグラディウスの駐バクテリアン大使であるが、新任大使の選定が決まったので以下を報告す
 エルミニア・バイパーを新任大使とし、ミルシェ・バイパー、ルジェナ・バイパーの両名を新任大使の補佐とする。』
外交に詳しくない彼女達でも今までの歴史や他の惑星の事象から大使が非常に大きな意味を持つことぐらいは知っていたのである。
ゆえに前皇帝ラーズ72世が暫くの大使代理となっていたときは皆安心していたのだが、
そのラーズ72世が現皇帝のラーズ73世と結託し新任大使を決めたのである。
これを聞いた時、政治を知らぬ彼女ら擬人化ビックバイパー達は恐れおののいた。
ラーズ72世は前任大使で現バクテリアン皇帝ファノリオスの皇后の一人となっているセイディー・バイパーを任命した時、
『今回から大使は擬人化ビックバイパーが歴任することになる』と明言してしまっていたからである。
つまり今回の新任大使もビックバイパーから選ばれるということはもはや確定であり、それがさらに彼女らを不安にさせていた。
新任大使の発表後は言わずもがなといった状態で、選ばれた3人はまさに絶望の淵に立たされているといった感じであった。
それに加えて今回選ばれたエルミニアらをさらに絶望の淵にたたき落としたのは謎の新要職の新設であった。
新設された要職は、まずは文字通り大使について外交の補佐を担当する外交補佐官。
これには外交経験も多く擬人化ビックバイパーの長として彼女らに気軽にアドバイスもできるビックバイパー現族長、
アストリッド・バイパーが着任し、これはバクテリアンへ派遣されるエルミニアらを喜ばせた。
次にビーコンMk.2の建造から始まったグラディウス、バクテリアン両国の技術交流と、
その技術発展のための懸け橋となるため、技術面での外交を担当する要職が設立された。
それが科学技術庁出張官であったが、これには彼女らをバクテリアン送りにした張本人ラーズ72世が着任。
これにはアストリッドの現地外交補佐官着任でぬか喜びしていた彼女らを不安にさせた。
さらにもう一つ別に新設された要職によって彼女らの心の中での今回の事態はより複雑を極めて行った。
それがグラディウスないしその友好国にあるバクテリアンが有事の際、外交の席に着く特別時軍事顧問の存在であった。
これには現バクテリアン皇帝であるファノリオス、フォイヴォス兄弟とも親戚として繋がりの深い、
現グラディウス陸軍元帥ブラン・ホルテンが兼任するという形で着任に至った。
これはただ、新たな親戚にあまり会えないブラン・ホルテン元帥のために作られた、いわば名誉職に近い物であった。
しかし表立って名誉職というわけにもいかず、またビックバイパー達にもその事実は隠されていたために、
エルミニアらが得意としている軍事にも政治的な対応しなければならなくなったということを嫌でも感じさせ
それがエルミニアらの心中を極めて複雑で難解なものにしていた。
かくしてエルミニアらは、バクテリアン行きのシャトルの中で大使就任の際の文言を考えながら、
これから始まるであろう艱難辛苦に一優するばかりであった。


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