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決闘バトルロイヤル part4
1
:
◆QUsdteUiKY
:2024/07/30(火) 04:00:15 ID:G/9ouSvI0
※前スレ
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1655738773/
2
:
◆ytUSxp038U
:2024/08/12(月) 23:36:14 ID:Y.8uq/v60
スレ立てお疲れ様です
直見真嗣、クウカ、コッコロ、奈津恵、フグ田タラオ、肉体派おじゃる丸、キャスター・リンボ、吉田良子、最上啓示、吉田優子を予約し延長もしておきます
3
:
とびっきりの最強対最強
◆EPyDv9DKJs
:2024/08/15(木) 22:35:03 ID:Usy0eEEk0
投下します
4
:
とびっきりの最強対最強
◆EPyDv9DKJs
:2024/08/15(木) 22:36:45 ID:Usy0eEEk0
すみません間違えました
5
:
◆QUsdteUiKY
:2024/08/16(金) 04:56:14 ID:r9isbZWk0
尊、ユキでゲリラ投下します
6
:
託されし意志
◆QUsdteUiKY
:2024/08/16(金) 04:57:08 ID:r9isbZWk0
「はぁ!」
パンチホッパーに変身した尊が拳を振るうと、NPCとして現れたワームの群衆のうち一匹がなぎ倒された。
尊は元から鍛えている。朝霧海斗や元の持ち主である影山ほどではないが、それでもパンチホッパーを使いこなすまでそう時間はかからなかった。
「これが影山が僕に託した力か。大体わかったぞ」
『CLOCK UP』
電子音が鳴り響き、超高速で蛹ワームの群れを一蹴する。
尊にもユキにも傷一つない、完璧な勝利だった。
あの世の影山も多少は報われたことだろう。
もっともこれはユキのサポートあってのことでもあるが。
「うん、上々だね♪」
「ああ、当然だ。だが俺達が倒したのは所詮NPCだ。本物の参加者はきっともっと強いだろう」
尊は決して油断していない。
所詮、先程の相手はNPC。あまり強い設定はされていないと推測する
「そうだね、油断は出来ない。でもきっとボクとタカノリくんならなんとかなるよ」
ユキのその言葉は楽観的なようで、そうじゃない。
優れた前衛と美しい後衛ならばどんな参加者にも勝てると思っている。
否。
アユミのために、勝たねばなるまい。
「大した自信だな。だが影山のためにも、この託された力で勝たなければいけないことは間違いない。あんなやつでも、俺達の仲間だ」
「うん、そうだね♪仲間といえば他にも誰かほしいよね」
「ああ。最終的にはあの檀黎斗を倒すんだ。二人ではまだ足りない可能性は高い」
尊は自尊心こそ高いが、この状況が呑み込めないほど馬鹿じゃない。それはユキも同じだ。
NPCでウォーミングアップし、戦い方を知った二人の次なる目標は仲間探しだ。
早々にその場を立ち去り、仲間を探すことを決める。
なおわざわざ蛹ワームの大群が押し寄せたのは檀黎斗が面白半分で行ったものだが、二人は気づいていない。
兎にも角にも次は仲間探しだ。
「首輪の解除方法も知りたいな」
「うん。流石のボクでもこの首輪は取れないよ」
首筋からヒンヤリと冷たさが伝わる、この首輪。
たったこれだけに自分達は命を握られている。
檀黎斗を倒すなら、これを外す必要があるだろう。
影山を失ったのも、これが原因なのだから。
自分に付けられた首輪を尊は忌々しく思う。
大好きな麗華からただの首輪をつけられたなら、まだ我慢出来たが今の状況には怒り心頭だ。
影山が首輪で爆死したこともある。
自分達の命を握っている、不気味で忌々しい首輪だ。
「タカノリくん、顔が怖くなってるよ。ほら、ボクの美貌を見て機嫌を取り直した」
「誰が不機嫌だ、誰が……!」
影山なんて出会ったばかりの人物じゃないか。
『……どうせ俺はここで死ぬ。だから尊徳――ホッパーゼクターはお前に託してやる』
だがあの言葉が忘れられない。
自らに力を託した影山に対して好感を持つのは、当然のことだ。たとえ尊が表面上否定しても、態度に出ている。
「それに貴様より可憐な御方を僕は知っている。調子に乗るなよ、ユキ」
「ボクより美しいなんてそれは大した自信だね。殺し合いから脱出したら会わせてよ」
「ふん。いいだろう」
友から力を託さされたボディーガードとナルシストでありながら優しい面を持ち、大切な仲間を失った男の娘は次なる仲間を探して歩き出す
「しかし……海斗はいないか。こういうところに居そうなのにな」
「モニカ、ニノン、クウカ……ボクの仲間はみんな参加してるね。早く合流しなくちゃ」
腐れ縁の海斗が酸化していないことに安堵する尊。だが彼ならなんとかしてくれるかもしれないという希望も同時に打ち砕かれた。俄然、やる気が出る
一方のユキは仲間が勢揃いしていた。彼女達が何も酷い目に遭わないことを、口には出さずとも心から願う。だが皆、奇人変人だが頼れる仲間たちだ。そう簡単には死なないだろう、とも思うのであった
【一日目/黎明/C-8】
【宮川尊徳@暁の護衛 トリニティ】
[状態]:健康
[装備]: ホッパーゼクター&ZECTバックル@仮面ライダーカブト
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜5
[思考・状況]基本方針:僕たちがゲームマスターを倒す!
1:ユキと一緒に影山とアユミの仇を取る
2:影山……お前の意志は僕が引き継ぐ
[備考]
※パンチホッパーとしての戦い方がわかりました
【ユキ@プリンセスコネクトRe:Dive】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]基本方針:ボクの美しさをクロトやハ・デスにも知らしめてあげる
1:タカノリくんはボクが応援してあげるよ ♪
2:みんなは大丈夫だよね
3:アユミ……
[備考]
7
:
◆QUsdteUiKY
:2024/08/16(金) 04:57:58 ID:r9isbZWk0
投下終了します
8
:
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:23:58 ID:ewdI.nn60
投下お疲れ様です。こちらも投下します
9
:
Break&Peace
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:25:41 ID:ewdI.nn60
「あ、あの、マサツグさん。ちょっと良いですか?」
決意新たにメグ捜索へ動き出した真嗣とクウカ。
道中は他の参加者との遭遇もなければ、NPCに襲われる展開も無く。
良く言えば平和、悪く言えば収穫の無い道行となった。
互いに殺し合いの場であると忘れてはおらず、緊張感も抜け落ちていない。
まして仲間の一人が何処かへ連れ去られたとあっては、呑気に雑談へ花を咲かせる程無神経でもない。
当然クウカも承知してはいるが、一つ疑問を抱けば時間と共に膨らみ続けるというもの。
意を決し前方を歩く彼に声を掛ければ、立ち止まらずに振り向いた。
「じ、実はクウカ、気になることがあって…。あ、で、でも若しかしたら気にし過ぎなだけかもしれないんですけど…や、やっぱり聞かなくても…」
「一人で勝手に解決するくらいなら、最初から口にするな。話してみろ、でなきゃ俺にも判断が付かん」
「そ、そうですね、ごめんなさい……」
目をあっちこっちに泳がせ謝る少女へ少々呆れつつ、しかし苛立ちをぶつける真似はしない。
性癖は特殊なれど対人スキルはお世辞にも良いとは言えない、だが先程自分へ真っ向から言葉を返した姿を見れば芯の強さを疑う気も無かった。
大っぴらに信頼だ何だのと言うつもりは無くとも、既に仲間と認めた間柄だ。
この状況で些事に時間を割く少女ではないと分かっているから、黙って続きを待つ。
「マ、マサツグさん。どうしてあの緑色の人は、メグちゃんをわざわざ攫って行ったんでしょうか?」
「…確かにな」
言わんとする具体的な内容はすぐに分かった。
放送の直後、マヤの死亡が原因で引き起こされたメグの暴走。
目まぐるしく変わる展開に少しばかり混乱したものの、落ち着いて考えればクウカの疑問は最もである。
何故緑の装甲を纏った怪人は、メグをすぐに殺さず攫って行ったのか。
10
:
Break&Peace
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:26:40 ID:ewdI.nn60
あの時見せた異様な速さなら、奇襲と同時に一人くらいは容易く殺せる筈。
常人の数倍打たれ強いクウカとて、急所を不意打ちされれば無事では済まない。
真嗣も同じだ、「守る」スキルは自分自身を対象に使われるが真価を発揮するのは他者を守りたいと想った時。
自分を守るという想いだけでは緑の怪人の動きへ対処が間に合わず、何が起きたか知りもせずに殺されたかもしれない。
だが実際に緑の怪人の標的となったのはメグ。
しかも戦意喪失しディープスペクターの変身が解かれ、殺すにはまたとないチャンスだったにも関わらずあえて拉致だ。
「少なくとも俺に妨害される前から、メグを無理やり連れて行こうとしていた」
「最初からメグちゃんを攫う気だったなら、こ、殺すつもりは無いんでしょうか…も、もも、もしかして、ドSさんみたいな鬼畜趣味をお持ちの方…!?で、でしたら、クウカがいつでも代わりますのに…!」
「その脳内ショッキングピンクはどうにかならんのかお前」
涎を垂らし恍惚の表情で悶える仲間を尻目に、メグが攫われた理由を考える。
緑の怪人の迷いが無い行動から、ターゲットは最初からメグに絞られていたと見て良いだろう。
ではメグが選ばれたのは何故か。
自分とクウカ、そしてメグで違うもの。
性別等ではなく、恐らくは殺し合いに対するスタンス。
仮面ライダー鎧武程の率直な正義感を叫ぶ気は無いが、真嗣は当然殺し合いに乗る気は皆無。
クウカもまたアユミの死にショックこそ受けてはいるものの、他者を手に掛け生き残る気は無し。
しかしメグは違う。
出会った時の頃はともかく、放送直後はマヤが殺された現実を受け入れられず優勝を目指そうと牙を剥いた。
説得を受け取り敢えずは落ち着いたと思いきや、緑の怪人による連れ去りだ。
(……メグを利用して少しでもゲームを楽にクリアする、そういう理由か?)
優勝に迷いを見せたメグを言い包めて、緑の怪人自身が勝ち残るための駒に変える。
これならば分からんでもない。
やってる事は下衆の行いな上に、それはそれで新たな問題が生まれるが。
メグが殺し合いに乗るのを強く拒否すれば、利用価値無しと判断され今度こそ殺されるかもしれない。
或いは提案を受け入れ、やはりマヤを生き返らせようと優勝に動く可能性も低くは無い。
どっちにしても結果は最悪、急ぎメグを見付ける必要性が一段と増す。
「全く…手間のかかる奴だ」
ため息と同時に移動速度を上げ、クウカも慌てて後を追う。
煙玉のせいで逃げた正確な方向は不明。
ただ常時高速移動が可能という訳でもないらしく、恐らくは然程遠くには行っていない筈。
間に合うかどうかは、自分達が如何に早く見付けられるかに掛かっている。
内心の焦りに急かされるまま駆け出す。
11
:
Break&Peace
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:27:31 ID:ewdI.nn60
結果から言うと、再会は叶った。
但し、望んだ展開とは大きく異なると付け加えた上で。
市街地を進みどれくらい経った頃か。
走る二人の目の前に、民家の物陰からスッと現れた小柄な体躯。
驚き足を止めた真嗣達の目にハッキリ映る、探し人と一致する特徴の数々。
ツインテールに結んだ赤毛も、可愛らしい純白と桃色の衣装も、片手に持った杖も。
最初に会った時と何一つ変わらないメグが、目の前にいる。
「メ、メグちゃん…!?」
「うん、メグだよー。マサツグさんとクウカさんも久し振りー」
困惑を隠せないクウカと反対に、メグの態度から動揺の類は見られない。
喧嘩の仲裁目的で白シャツの中年との戦闘に割り込んだ時と同じ、いっそ能天気と言って良い程。
まるで自分が連れ去られた事も、親友が殺される光景をむざむざ見せられた事も頭から抜け落ちたかのよう。
「やれやれ…久し振りも何も別れて数時間程度だろう」
だからこそ真嗣は呆れを口にしながらも、警戒を強める。
今のメグは何かがおかしい。
攫われた筈がどうして自由に動いている?
自力で脱出した線も無くはない、専用の杖や仮面ライダーとやらのベルトを持っていれば抵抗は可能だ。
しかし自分達が最後に見た時と今とでは、メグの様子が違い過ぎる。
ゲームマスターの甘言に乗る程追い詰められたというのに、こうも短時間で完全に吹っ切れるものなのか。
当たって欲しくない嫌な予想を意識せざるを得ず、強張る真嗣を嘲笑うようにメグが口を開いた。
12
:
Break&Peace
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:28:05 ID:ewdI.nn60
「心配かけてごめんなさい、二人とも…。でも、私はもう大丈夫だよ。いっぱい悩んだけど、チマメ隊としてやらなきゃいけないことも分かったから!」
「目標が出来て何よりと褒めてやっても良いが…具体的に何をする気だ?」
杖を握り締める手に力を籠め、迷いが吹っ切れたと言わんばかりの瞳。
言葉だけ聞けば悪いものでは無い筈なのに、どうしてだろうか。
メグの瞳から、希望というポジティブな色が全く見えないのは。
「うん!実はね、マサツグさんとクウカさんにも手伝ってもらえたら嬉しいなって思って…」
「少し会わない間に厚かましくなったか?内容を聞かない事には何も言えんぞ」
「じゃあズバリ言うよー!私が優勝するお手伝いを、お願い出来るかな?」
半ば予想できた答えが返って来た。
こんなもの外れてしまえと内心吐き捨てる真嗣の隣で、案の定クウカは絶句。
自分と真嗣の言葉を受けて、殺し合いに乗るのは思い直したんじゃなかったのか。
言葉らしい言葉が出ないクウカをどう思ったのか、平然と続ける。
「私が優勝したら、死んじゃったプレイヤーさん皆をちゃんと生き返らせるの。それだけじゃなくて、恐い記憶も全部消してもらうから!」
「こ、恐い記憶、ですか…?」
「そう!殺し合いをさせられた事を皆が忘れちゃえば、誰も苦しいな思いしなくて済むもん」
蘇生させるだけでは駄目だ、マヤが生き返っても決して喜ばない。
むしろ悲しませ、苦しめてしまう。
だったら殺し合いが起きた事実を頭から綺麗さっぱり消してしまえば、その心配も不要。
殺し合いなんて最初から起きていない、ゲームマスター達の存在自体誰も知らない。
今までと同じ平和な日常を過ごせる。
13
:
Break&Peace
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:28:45 ID:ewdI.nn60
「論外だ。お前は人の話を聞いていなかったのか?」
メグが掴んだ希望への片道切符を真嗣は躊躇せず破り捨てる。
辛い記憶を消してしまいたい、その考えだけなら分からんでもない。
真嗣自身、両親やミヤモト達など異世界に来る前の生活で忘れたい記憶は少なくない。
が、それとこれとは話が全く別。
自信満々に記憶を消してもらうだとか言っているが、その為の大前提をメグは忘れてはいないか。
悪趣味極まるゲームに大勢を巻き込んだ、自称神の檀黎斗が素直に願いを叶えてくれる保障が一体どこにあるという。
むしろ優勝後もあれこれ理由を付けて約束を反故にし、新しい殺し合いに強制参加させる方が納得がいく。
「ク、クウカもメグちゃんのお手伝いは、できません…。さ、最後に忘れるからって、それはやっちゃ駄目だと思います…」
当然クウカもメグの提案には賛同できない。
黎斗を信用していないのは勿論、何よりメグの行為は自分から大切な絆を捨てるに等しい。
仮にメグの望んだ通りの結果になったとて、その過程で無関係の参加者を殺して良い理由は一つも無い。
自分達の絆を取り戻す為に、他者の絆を踏み躙る。
そんなもの、メグ自身がチマメ隊の友情に泥を塗っているのと同じではないか。
一番最初に助けてくれた優しさをメグが捨ててしまうなど、悲しい真似はさせたくなかった。
「マサツグさんとクウカさんは…私を手伝ってくれないってことかな……?」
快活な笑みに影が差し、寂しげな色が表れる。
自信満々に言ったけど向こうからの反応は芳しくない。
当たり前だろと返す少年、申し訳そうにしつつも首を横に振る少女。
態度は違えど答えは同じ。
メグの願いを彼らは決して認めない、叶える気は無い。
14
:
Break&Peace
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:29:47 ID:ewdI.nn60
「……そっか。じゃあ、仕方ない、のかな」
もうちょっと説得を頑張ろうかと思ったけど、二人の顔を見たら途端にその気も消え失せる。
これは絶対に頷いてくれないだろうなと察してしまったから。
真嗣とクウカのことは嫌いじゃない。
片方は捻くれててもう片方はちょっと変わってる、でもどっちも良い人だから。
最後にはマヤと同じように生き返るとはいえ、本当なら殺そうなんて思わない二人だから。
偶然真嗣達を見付けた時、説得させて欲しいと『同行者』に頼んだ。
自分の願いに納得してくれたら嬉しいなと思い、結果はご覧の通り。
「うん…しょうがない、よね」
「お前と言いクウカと言い、一人で勝手に納得するのをやめろ。メグ、お前は――」
「もう出て来ていいよ、コッコロちゃん」
質問を遮られた真嗣だが鼻白む事は無く、むしろ手間が省けたと言える。
メグが姿を見せた物陰のずっと奥より現れる、更に小柄な少女。
ピンと尖った両耳に透き通るような白い肌、幼いながらに整った顔立ち。
ここがコンクリートジャングルではなく緑に囲まれた森ならば、妖精と思われても不思議は無い。
生憎と真嗣は幼い異性を愛でる趣味を持ち合わせてはおらず、ましてこの状況で警戒以外に向けるものは皆無。
腰に差した日輪刀を意識し、コッコロと呼ばれた少女から目を離さない。
「メグさま、そのご様子ではお話の方は余り上手くいかなかったのですね」
「えへへ…うん…やっぱり反対されちゃった」
「そうですか……では仕方ありません。ここからは事前に話し合った通りに」
彼女達の間で話が纏まったのか、揃って真嗣達の方へと向き直る。
視線に含まれるのはとてもじゃないが友好的とは言えない。
コッコロは元より、メグもまた今の今までにこやかに接していたのが嘘のよう。
戦いは避けられないと誰の目にも明らかな、一触即発の空気がたちまち充満。
ルビーを填め込んだように輝く瞳に射抜かれ、クウカはビクリと全身を震わせた。
15
:
Break&Peace
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:30:27 ID:ewdI.nn60
「そちらの方……初対面ではありますが何でしょう、この全くの他人とも思えない感覚は。…もしや、ランドソルの方では?」
「へっ?えっ、えっとぉ…そうですけど、でも…ク、クウカはあなたと会うのは初めてですし…あの…」
「ふむ…ということは主さまともお知り合い…?主さまの事ですから、その可能性の方が高いですね。むぅ、主さまは何人の女の子とお友達になれば気が済むのでしょうか」
何か気に障る事でも思い出したのか、不機嫌な顔色に早変わり。
ここにはいない誰かへ文句を言うコッコロに少しばかり空気が緩み、真嗣も思わず呆れる。
聞いた限りではクウカと同じ国、或いは並行世界の出身。
件の主さまが誰かは知らないし興味も無いが、長々と不満をぶつける気は無いらしい。
横のメグからの生暖かい視線を感じ、コホンと咳払いを一つ。
取り出した機械を腹部に押し付ければ、途端に場は引き締まる。
「恨みも怒りもありません。こうなってしまい申し訳なく思います。ですが私達の為に、どうか暫くお眠り頂くようお願いします」
『バナナ!』
「変身、でございます」
『ロックオン!ソイヤッ!バナナアームズ!ナイト・オブ・スピアー!』
ファンファーレのような音を響かせるのも束の間、コッコロの頭上にジッパーが開く。
クラックと呼ばれる次元を繋ぐ出入り口より、巨大バナナが落下。
民族衣装からインナースーツへを纏った胸部で展開。
黒いボディに明るい黄色の目立つ騎士へと変身完了。
アーマードライダーブラックバロン・バナナアームズ。
楽園の王から奪った装備は、コッコロが得意とする得物を操るライダーだ。
果実の特徴を持った槍、バナスピアーを構える。
16
:
Break&Peace
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:31:46 ID:ewdI.nn60
「ふう、まあ薄々分かっていたが結局こうなるか」
メグが連れ去った犯人と協力関係になっていた場合、戦闘はまず避けられない。
覚悟が出来てなかったと言えば嘘になる、しかしいざ現実のものになれば愚痴の一つや二つは自然と零れる。
文句を言って解決するなら幾らでも続けるが、今必要なのは口では無く剣。
もう一度メグを説得するにしろ、コッコロ共々大人しくさせねば始まらない。
それに、戦う理由ならば新たに一つ生まれた。
コッコロの腰に巻かれた機械、戦極ドライバーは葛葉絋汰が鎧武の変身に使ったのと同じ。
時を支配する神に抗ったヒーローの力を悪用する気ならば、止める以外に無いだろう。
絋汰とは赤の他人であれど、後を託された一人として知らん振りもできない。
「全く、面倒ごとばかり押し付けてくれるな」
呆れ笑いもそこそこに日輪刀を引き抜く。
コッコロだけではない、守ると決めた少女もこちらを殺す気満々だ。
「ごめんね、マサツグさん…クウカさん…チマメ隊の為に、ちょっとだけ我慢してね」
謝罪とは裏腹の殺意が爆発し、本来ならば手を取り合えた者達の闘争が幕を開けた。
眠ってくれ、我慢して欲しい。
直接的な言葉を避けてはいても、結局のところ少女達が求めるのは一つ。
真嗣とクウカの死、優勝の為の礎。
無論お断りだ、こんな所で死ぬ気も無ければメグの手を汚させるつもりだって無し。
殺さずに無力化が最善であるが、そう簡単に終わらせられるかは別。
華奢な肉体を装甲で覆い隠し、ブラックバロンが得物を構えて突撃。
狙われたのは真嗣。
クウカよりも幾分冷静であり、優先的に殺すべきと判断したが故。
17
:
Break&Peace
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:32:28 ID:ewdI.nn60
急所を一突きにすべく穂先が迫る中、真嗣も日輪刀で迎え撃つ。
真嗣であって真嗣ではないミーム汚染の怪物程で無くとも、「守る」スキルは自分自身を対象にも発動可能だ。
まずは己の命を守らなければ、仲間の守護など夢のまた夢。
身体能力が強化されたのを感じ取り、槍を力任せに弾く。
穂先は左胸より位置をズラされ明後日の方向を突いた。
再度真嗣に狙いを合わせ突き刺すには、一度腕を引き再び伸ばす工程が必要不可欠。
二撃目を律儀に待ってはやらず、日輪刀が風を斬り接近。
手早く気絶ないし無力化に持ち込み決着を付けたいところだが、ブラックバロンは自身の敗北を跳ね退ける。
隙が生まれる瞬間くらい十分理解している、慌てることなく刃を回避し反対に腕を振るった。
「むっ…!」
今度はバナスピアーのシャフト部分が襲い来る。
アームズウェポンの例に漏れず強度は非常に高い。
ましてブラックバロンの腕力が加わり、直撃を受ければ一撃殴殺も有り得る威力。
甘んじて受け入れる選択は真っ先に外し、ここは回避へ移行。
リーチが日輪刀よりも長い分、少し離れ過ぎているくらいが丁度良い。
後方へ跳び退き今の今まで立っていた位置を槍が通過、殴られた空気の悲鳴に耳を貸さず集中。
真嗣の方から仕掛ける必要は無い、地を蹴り飛ばしブラックバロンが距離を詰める。
狙われたのはまたもや急所、死が迫る薄ら寒い気配にスキルが発動。
自分の腕とは思えない強さと速さを乗せ、真一文字を書く刀。
防御成功を喜ぶ暇も無く、痺れる指先へ真嗣は顔を顰めた。
(やはり仮面ライダーというのは面倒だな…)
果実を被る奇抜な変身方法には開発者のセンスを疑うが、発揮する力は油断ならない。
小学生程の年齢のコッコロが変身しているからだろう、ブラックバロンの身長は真嗣よりも低い。
だからといって身体機能までひ弱な少女かと言えば、残念ながら違う。
刀身から伝わる衝撃は重く、気を抜けば日輪刀がへし折られ兼ねない。
動きの一つ一つにも無駄が見られず、装甲を着てるとは思えない身軽さ。
ディープスペクターとも小競り合いを行ったが、メグの時より危険度は上。
スペック差がどうこう以上に、コッコロの動きは明らかに戦い慣れている。
18
:
Break&Peace
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:33:09 ID:ewdI.nn60
(随分物騒なちびっ子だ。異世界出身、というのなら珍しくは無いのだろうが…)
コッコロがどういった生き方をしてきたかはともかく、楽に勝てる敵では無いのだろう。
何せブラックバロンだけでない、恐らくコッコロには別のライダーの力がある。
メグを連れ去った緑色の怪人、アレの正体もコッコロなら今一度気を引き締めなばならない。
「守る」スキルが無ければ、奇怪な速さには反応も許されなかったのだから。
幸い、現状は自身を対象に発動中のスキルだけで対抗出来ている。
決して落とさぬよう柄を両手で握り、バナスピアーと斬り結ぶ。
シャフト部分を刀身が何度叩いても、折れず曲がらず砕けない。
刀鍛冶の里の職人の腕も勿論あるとはいえ、スキルの影響で日輪刀の強度も上昇したらしい。
でなければ真嗣本人を「守る」のは不可能。
しかし攻めに移れない、現状はブラックバロンの槍を真嗣が防ぐ構図が延々と続く。
体躯の違いもあってかコッコロではパラダイスキングのアクロバティックな戦法も、シュラのような力で押す戦い方も難しい。
だが彼らと違い槍の扱い方はコッコロの方が心得ている。
普段使っている武器とは勝手が違い重量も上、その問題はアーマードライダーの機能で大部分解決済み。
となれば武器に振り回される危惧も解消、、自分の手の如く巧みに操り真嗣を攻め立てる。
(ふむ、まだ少々慣れないですが問題ありません。基本はこちらの姿を使うべきですね)
もう一つのライダーも強力な能力を有すが、使い易さならば槍を持つブラックバロンが勝る。
パラダイスキングにはトドメを刺すのみで終わった力を、本格的に試す良い機会だ。
まだまだ先は長い、優勝への道のりは険しい。
一人殺した程度で満足するようでは、己の望む結末は絶対に手に入らないだろう。
19
:
Break&Peace
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:34:02 ID:ewdI.nn60
冒険者と従者が鎬を削る一方で、残る二人の少女も戦闘を行っていた。
杖から放たれるは魔力を籠めた光弾。
ファンタジーとも争いとも無縁の世界に生きたメグに力を授ける、別世界の彼女の専用武器。
『練習台』相手に撃った甲斐もあり、光弾の発射に手間取る様子は見られない。
先端に埋め込んだ宝石が輝き、桃色の殺意が放たれた。
「メ、メグちゃん…!こんなことやめましょう…!」
既に何度も戦闘中止を訴えてはいるが、一向に聞き入れてはもらえない。
これが答えだと言わんばかりに光弾に襲われては避け、時には防ぐ。
説得を簡単に諦めはせずとも、無抵抗のままでは本当に殺される。
普段ならば魔物の攻撃は大歓迎、思う存分辱めて欲しい。
が、本気で自分を殺しに来ているのを馬鹿正直に受け止める気は流石に皆無。
まして万が一メグの攻撃が原因で死んだら、彼女を人殺しにしてしまう。
自分も真嗣も、きっとメグ自身だって本当は望んでいない筈だ。
「で、ですので、クウカは絶対に攻撃を受けたりしません…!今だけドMは封印します…!」
真嗣が聞いたら確実に呆れるだろうが本人は大真面目。
宣言通り回避と防御に集中し、間違ってもメグが手を汚す事態にはさせない。
運が良いのか支給されたのは短剣、クウカの使い慣れた武器。
おまけに短剣を持っていると、心なしか体が軽くなったような気がする。
当りの支給品を逆手に持ち、光弾を斬り落とす。
「うぅ〜全然当たらないよー…。練習が足りなかったのかな…?」
数十発は撃っているのにクウカにはまるで命中せず。
パラダイスキングで練習したとはいえ、ほとんど動かない的と俊敏に動く人間では当たる難易度も別物。
加えてクウカはヴァイスフリューゲルの一員として、それなりに荒事も経験済み。
ギルド結成前は戦闘のド素人だったが最早過去の話だ。
オーエド町の騒動は勿論、カイザーインサイトによるランドソル襲撃でも魔物討伐に参加し事件解決に貢献。
元々一般人のメグよりも戦闘には慣れている。
20
:
Break&Peace
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:34:47 ID:ewdI.nn60
仮にコッコロとの二人掛かりなら苦戦は免れなかったろうが、仲間がいるのはクウカも同じ。
そちらは真嗣が引き受けており、メグの相手に集中できる。
どうにかメグを無力化させれば自分も真嗣の支援に迎えるだろう。
手荒な真似はお断り、何とか傷付けずにメグを捕えるしかあるまい。
「ま、まさかクウカが縛る側になるなんて…ドSさんに知られたら、『調子の乗るなよ、一から躾け直してやる』なんて言われそうです…フヒッ、フヒヒヒヒヒ…!」
「えっと、どうしてクウカさんは笑ってるのかな…?」
涎を垂らし悶え始める姿に困惑を隠せない。
その間も杖から光弾を撃ち続けるが案の定外れ、短剣に斬られる。
チマメ隊の絆を守る為に優勝すると決意したというのに、現実は厳しい。
もどかしさを感じるメグへ少しずつ距離を詰め、クウカが拘束するのは時間の問題。
二人の様子はブラックバロンにも見えていた。
メグには杖以外にも戦う力がある、だが捕われ支給品を没収されでもすれば無意味。
自分が助けに行こうにも真嗣が見逃してはくれない。
「ふむ、ではこちらもあの方を使うとしましょう」
使える戦力が他に無い訳じゃない。
むしろこういう時の為に潜ませておいて正解だったと言える。
後方へと跳び一旦距離を取る、警戒してか真嗣は直ぐには接近せず。
好都合だ、バナスピアーを掲げた後にクウカへ穂先を向けた。
21
:
Break&Peace
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:35:25 ID:ewdI.nn60
攻撃の合図は“三人目”にしかと伝わり、指示通りに動く。
『ブドウスパーキング!』
威勢の良い声は人間が発したものに非ず。
コッコロの腰に巻かれたのと同じ、戦極ドライバーの電子音声。
「伏兵か…!?」
察しが付くのに時間は掛からない、しかし手遅れ。
何故他にも仲間が隠れている可能性を考え、周囲にもっと警戒しておかなかったのか。
悔やんだってどうにもならない、攻撃は既に放たれた。
光が一点に収束したかと思えば銃声が鳴り、殺意が形となって現実に姿を見せる。
眩い輝きを発する龍がクウカに牙を剥く。
開いた大口に飲み込まれ、骨まで焼き潰す最期を迎えること間違い無し。
「ヒィッ!?さ、流石にクウカも、これは本当に死んじゃいますぅ〜〜〜!?」
辱めを受けるのは大歓迎でもこれは無理だ。
快感へと変換できないレベルの激痛だろうし、何より冗談抜きに死ぬ。
頑丈さが取り柄のクウカとて耐えられない、急ぎ避けようにも龍の方が速かった。
短剣一本で防御は無謀と分かっているが、何もしないで死ぬよりはマシ。
涙目で短剣を翳し来る衝撃と熱さに思わず目を瞑る。
ヴァイスフリューゲルの仲間も、ドSさんと呼び他の異性とは違う感情を向ける少年もいない。
彼女を救うギルドメンバーは現れず、仲間になれた筈の少女の手で命を奪われる。
数秒と経たずにアユミと同じ場所へ旅立ち、白翼が無残にもむしり取られる末路。
22
:
Break&Peace
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:36:23 ID:ewdI.nn60
「クウカ…!!」
神の遊戯に相応しい展開へ、断固として否を唱える者が一人。
紫水晶の如く輝く龍がクウカを喰らい殺す。
ほんの少し先の未来に訪れるだろう光景を、真嗣は決して認めない。
暑苦しく友情だのと言う気はない、面と向かってどこぞの少年漫画のような台詞を叫ぶなど真っ平御免。
素直になれない捻くれ気質なのは自分でも分かっていて、そう簡単には変えられない。
だけど、真嗣はクウカを仲間だと本心から思っている。
ヴァイスフリューゲルという居場所を守りたいと決意し、自分を支える為に真正面から言葉をぶつけた。
そんなクウカが、仲間が危機を迎えているのなら冷めた態度など取れるものか。
死なせたくない、守りたい。
自分では無く他者への想いが強まった時こそ、真嗣のスキルは本領を発揮するのだ。
孤児達を守った時と同じ感覚に身を任せ、日輪刀を龍目掛けて振るう。
仲間に牙を剥く悪しき力を消し去り、大元に刃が届いた。
「ひぎゃんっ!?」
まさか攻撃が破れるとは思いもせず、しかも自分まで斬られるとは予想外。
内心の驚愕をも上回る痛みに悲鳴を上げ、戦場へと己が姿を晒す羽目となる。
姑息な手に出たのはブラックバロンと同じく、戦極ドライバーを用いた戦士。
但しコッコロよりも更に小柄なアーマードライダーであった。
「また子供か……」
一体どんな奴かと思えばまたもや子供、しかも背の低さや声の高さからコッコロよりも年下。
小学生のコスプレをしたクッソ気色悪い男に始まり、本物の幼児まで現れるとは。
躊躇なく攻撃に出たということは、もしやこの子供も異世界出身なのだろうか。
警戒は解かずに内心首を傾げる真嗣へ、立ち上がった子供が怒りをぶつける。
23
:
Break&Peace
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:38:01 ID:ewdI.nn60
「どいつもこいつも…!ここにいるのは僕の価値が分からないおバカさんばっかりなんですかぁ〜!?」
アーマードライダー龍玄ことタラオは血走った目で、仮面越しに許し難き少年を睨む。
デスノートとかいうふざけた道具で生与殺奪の権を握られ、嫌々ながらもコッコロ達に同行。
真嗣達を見付けた際には合図をしたら攻撃、それまでは隠れて待機の指示を受けた。
パラダイスキングがやったのと同じだ、最初から全員で戦うよりは伏兵を忍ばせておく方が良い。
この隙に逃げようとも思ったがデスノートの効果が本物だった場合、離れて行っても名前を書かれてゲームオーバー。
仕方なく合図を待ち撃ったは良いものの、命中どころか打ち消された挙句自分の方が攻撃される羽目に遭った。
殺し合いで傷付けられるのは今に始まった事で無いとはいえ、腹立たしいのは変わらない。
何故誰も彼もが世界の、いや地球の宝であるフグ田タラオに手を出すのか。
全自動卵割り機とかいうタマの餌にも劣るガラクタを買って来た波平のように、真に価値ある物の判断も出来ないのか。
「僕の価値を理解出来ないクソゴミ共はこの世から消えてく〜ださ〜い!地獄で僕に詫び続けるですよ〜!」
「やれやれ…異世界でもここまで性悪な子供はいない気がするな」
お前は一体年幾つなんだよと言ってやりたい、とても幼児とは思えない暴言。
さしもの真嗣も引き気味になりつつ、殺到するエネルギー弾に対処。
クウカを守った時程の爆発的な効果は無いが、防げない訳でも無い。
(…何だ?あっちのバナナほど手強くはないのか?)
エネルギー弾を斬り落とし直ぐに気付く、同じアーマードライダーでもブラックバロン程の手強さは感じないと。
武器が違うのでそう比べるものでも無いのだが、バナスピアーの猛攻よりはやり易い。
というか龍玄の狙いが拙く、弾の数に反し外れているのも少なくなかった。
言動こそ子供らしからぬ邪悪さであっても、戦闘は素人なのだろうか。
24
:
Break&Peace
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:39:02 ID:ewdI.nn60
「ウギィイイイイイイイイ!避けないで当たりやがれですぅ〜!」
サザエ相手に駄々を捏ねる時のように癇癪を起こすも、命中率は上がらない。
むしろこれまでの戦闘時よりも低下しており、タラオ自身もそれは認めざるを得なかった。
現在戦場にいる参加者の中で、最も疲弊が激しいのがタラオだ。
冴島邸での戦闘からそう間を置かずに此度の闘争が始まったせいで、ロクに体力も回復できていない。
如何に幼児らしからぬ下衆な性根の持ち主とて、肉体的には普通の3歳児と同じ。
体にはやちよや小鳩に攻撃を受けた際のダメージも蓄積し、更にはコッコロに踏み付けられ小指を骨折。
痛みは集中力を奪い、ただでさえ小さな手の内の指一本が使い物にならなくなり、銃を構えるのにも一苦労。
先程のような範囲の広い大技ならまだしも、龍玄本来の射撃精度は低下を免れない。
「困りましたね…タラオさまは思った以上に、戦力としてはご期待できない方であられましたか」
「もぅ、ダメだよ〜タラちゃん。一緒に頑張るって約束したんだから、えいやーっ!って本気を出さないと」
辛辣な評価は敵だけでなく、一応の味方からも容赦なく下される。
見付けた時に変身していた為、戦極ドライバーとブドウロックシードのみは返却。
アーマードライダーの力で役に立ってもらう気であったのに、蓋を開ければこの始末。
少々落胆気味に言うコッコロとメグへ、タラオのストレスは留まる所を知らない。
(舐めてんじゃねえですよメスブタども!こうなったのはそもそも、僕の指を折ったお前のせいじゃないですかぁ!好き勝手言ってないで、さっさと手を貸すですよ〜!でないとお前らの骨全部砕いた後磨り潰して、お魚さんの餌にしてやるです〜!)
舐め腐った真似をしでかしたやちよ、自分の可愛い口調をこき下ろした挙句殴り飛ばした小鳩、そして内心で徹底的にこき下ろす最中のコッコロとメグ。
宇宙の神秘にして唯一無二の宝であるフグ田タラオを悉く苛付かせる連中へ、怒りが燃え上がる。
おまけに自分の支給品を勝手に取った挙句、龍玄の変身に必要な道具しか返さないのも納得がいかない。
磯野家の食卓に図々しく上がり込むノリスケのような、薄汚いハイエナどもだ。
きっと将来はあの男のようにろくでもない大人になるのだろうと、仮にも親戚をボロクソに貶す。
25
:
Break&Peace
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:39:58 ID:ewdI.nn60
「相手はマサツグさんだけじゃないですよ…!ど、どうせ撃つならクウカに撃ってください…こんな小さな子に辱められるなんて…フヒヒッ…!」
「お…おねえちゃん変なおクスリでもやってるんですか?」
間一髪真嗣に助けられたクウカも戦線復帰し、自ら龍玄の的になる。
敵は一人では無い、もっと優先せねばならない相手は未だ健在。
龍玄のみに意識を割いている場合ではない、故にクウカが相手を引き受けた。
狙いは拙く、しかしエネルギー弾の威力は決して馬鹿にできない。
クウカもその点は勿論理解しており、メグの時同様回避と防御に重点を置き動き出す。
持ち前の頑丈さと魔物退治で培った経験を活かし、エネルギー弾の嵐を耐え凌ぐ。
真嗣に続きまたしてもしぶとい敵へタラオの苛立ちが募る。
仲間が近くで戦っているのなら真嗣も自分のすべきことをやり遂げるまで。
ブラックバロンへと疾走、馬鹿正直に突っ込んで来る敵へ向ける慈悲は無い。
急所を一突きにすべく腕を伸ばし、読んでいたとばかりに真嗣が跳躍。
やや危ういタイミングながらシャフト部分に足を乗せ更に跳ぶ。
ブラックバロンの頭上を跳び越え、着地するや否や再度駆け出す。
「っ!メグさま!」
向こうは焦り振り返るも誰が止まってやるか。
慌てて杖を振り被るメグをしかと瞳が捉えた。
余計な抵抗に出るよりも自分の方が速い、今度こそ馬鹿な考えを止める。
メグの「心を守る」為にも、間違った決意は砕かせてもらう。
「メグ――――!」
「っ!!」
見開いた両目に真嗣の姿が映る。
自分へと手を伸ばす彼を、傷付ける為でなく守る為の手を伸ばし――
26
:
Break&Peace
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:40:49 ID:ewdI.nn60
「あっ、そういうのいいっすから」
メグに触れる直前で、何者かに殴り飛ばされた。
「ぐっ!?」
咄嗟に刀を翳した、というよりは「守る」スキルが発動し真嗣が頭で考えるより先に剣を持つ手が跳ね上がった。
刀身越しより腕へ伝わる痺れ、身体能力が強化中であるにも関わらず殺し切れない威力。
よろけた体をどうにか立て直し襲撃者を睨む。
横槍を入れたのはブラックバロンでも龍玄でもない、闘争の空気に誘われた乱入者だ。
視界に閉じ込めた相手はおよそ常識からかけ離れた人間だった。
分厚く張った筋肉を惜しげも無く晒し、身に着けているのは豹柄のブリーフのみ。
夜明け前の寒空の下には不釣り合いな露出狂の類に、真嗣もこれには面食らう。
小学生のコスプレ男とそいつを甚振っていた細身の中年、トドメに逞しい体のほぼ全裸男。
子供は揃って血の気盛ん、大人はどいつもこいつも変質者。
一体全体マトモな参加者はどこに行ってしまったのだろうか。
「あなたは…」
「細かい自己紹介は後回しっすね。隠れて様子見てたけど、アンタらは殺し合いに乗ってるんでしょ?なら、ここらで恩を売って置こうと思ったまでっすよ」
乱入者へ困惑をぶつけるのは真嗣以外の面々も同じ。
警戒交じりに尋ねるコッコロへあっけらかんと返す男…肉体派おじゃる丸が戦闘に加わった理由は、たった今口にした通り。
虐待おじさんとの淫夢ファミリー同士による死闘で勝利を収め、暫しの休憩を挟んで移動すること数十分。
ホモ特有の鋭敏な感覚が参加者の気配を察知、好みの少年を見付けた悶絶少年専属調教師の如くねっとり接近。
身を潜め真嗣達の争う様子を見ながら考えた。
殺し合いに抗う者と優勝を目指す者、複数人が入り交じるこの状況は好都合ではないかと。
27
:
Break&Peace
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:42:24 ID:ewdI.nn60
憎き一軍の淫夢キャラを殺せたと言っても綱渡りの結果だ、この先同じように幸運が続くとは限らない。
むしろ一人殺すのに手間取るようなら、「人間の屑」「タドちゃん」「イキスギウス810世」「人類悪」「ホモビに出ただけでバトルロワイアルに参加する男」等々数多くの異名を持つ淫夢王、野獣先輩に勝つのは不可能に近い。
故に必要なのは協力者、自分だけでは足りない戦力を補える者。
最終的に殺し合う関係であっても、ある程度参加者が脱落するまでなら問題無い。
その点で言うとコッコロ達は正に都合の良い人材だ。
殺し合いに乗っている子供など、どうぞ悪い大人に利用されてくださいと言っているのと同じ。
ノンケのメスガキとレズっぽいメスガキ、ついでに性悪そうなガキ。
忌々しい淫夢厨のホモガキとはまた別の意味でクセの強い面々、なれど問題は無い。
これでも二軍の中ではBB先輩劇場への出演回数が多いのだ、アクの強い者の扱い方くらいは心得ている。
BB先輩シリーズといいホモガキのクッソ寒いお遊びが己の役に立っているのは不快だが、優勝するまでの我慢だと内心言い聞かせる。
「つまり…わたくし達に手を貸してくださると仰るのですか?」
「だからそう言ってるでしょ。(俺が協力すればあいつらにも勝てる可能性が)濃いすか?」
名前も知らないパンツ一丁の不審者による共闘の提案、それ自体はコッコロ達にとっても別段悪い内容でもなかった。
真嗣達には少々梃子摺っていたが数で有利に立ち、一気に追い詰められる。
その後で協力を続けるかは状況次第。
こちらはまだキックホッパーを隠しており、最悪クロックアップを使いメグとついでにタラオを連れて逃走も不可能じゃあない。
仮にこのパンツ一丁の不審者が真嗣達に殺されても、参加者が一人減るのだから自分達に大きな損は無い筈。
「…分かりました。では取り敢えず、あちらのお二人にお眠り頂く事への協力を承諾致します」
「クキキキキ…(喜)」
作戦成功を悪役染みた笑いで喜ぶ。
そうと決まれば優男と痴女のような格好のメスにはさっさと死んでもらう。
先の一撃は防がれたが無問題、得物は同じでも虐待おじさん程の尋常ならざる剣術は敵に無し。
いつまで自分の拳を凌げるか見物であると、右腕に力を籠める。
28
:
Break&Peace
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:43:14 ID:ewdI.nn60
「叩き潰してやるっすよ!」
筋肉が一層盛り上がったばかりか、肥大化し鉄塊の如き形状へ変形。
格闘派おじゃる丸BBというスターターパックに収録済の一つ、『右利きだから右の方が若干大きいおじゃる丸』だ。
数少ないバトル淫夢系のBBの力を付与し、真嗣へと剛腕を叩きつける。
「問答無用かこの露出男は…!」
「守る」スキルの恩恵で反射神経と日輪刀の強度、両方を強化し迎え撃つ。
熱した岩を固めたようにも見える腕は見掛け倒しに非ず、一撃が非常に重い。
日輪刀と言えどもマトモに打ち合っていては、破壊も時間の問題となっただろう。
真嗣だけに許されたスキルのお陰で、武器の損失を免れているが。
「メグさま、こちらはわたくし達に任せてください。あなた様はタラオさまの方へ…」
「う、うん。タラちゃんさっきから外してばっかりだし、お手伝いして来るね!」
肉体派おじゃる丸との共闘が始まり状況に置いて行かれたものの、メグも再び戦闘へ参加。
コッコロのように真嗣と渡り合っているなら、自分はこれまでと同じくクウカを担当すべき。
言われた通りコッコロ達に任せて、癇癪を起こしエネルギー弾をばら撒く悪童の元へ走る。
メグの杖も龍玄のブドウ龍砲も捌いたクウカへ、二人掛かりで光弾を見舞う。
元々両名共に争いとは無縁、しかし数で勝れば敵も余裕が徐々に剥がれ落ちて行く。
「あわわわ…こ、これはちょっぴりマズい気も……」
狙いが拙いと言っても、光弾の数が多ければ自然と動ける範囲も狭まる。
短剣で斬り身を捩るが四肢を掠める回数が増え出す。
簡単にダウンはせずとも弾幕を張られ、対処が追い付かなくなる。
数発耐えたとて更に数十発、今度は数百発と当たればどうなるかは考えるまでもない。
29
:
Break&Peace
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:44:04 ID:ewdI.nn60
「これならいけるかも…!タラちゃん!もう一息だよー!」
「了解したですぅ!(命令してんじゃねぇですよ、ノーテンキラキラのアホ女が)」
悪態は直接口に出さず引き金を引き、メグもまた光弾を連射し勝負を決めに掛かる。
クウカは良い人だし本当は傷付けたくないけど、優勝する為には仕方ない。
全部終われば痛いことも忘れて、仲間の所へ変えれるのだから少しだけ我慢してもらおう。
心の闇に囚われた思考は殺人への躊躇を薄れさせ、手を汚せと甘く囁く。
「悪ふざけじゃ済まなくなってきたぞ…!」
忘れるなかれ、仲間のピンチは真嗣のスキルが最大限に活用されるトリガー。
クウカを死なせない、メグの手を汚させない。
二人の少女への想いの強さはそのまま「守る」スキルの効果へ直結。
横薙ぎに振るった刀から広範囲への衝撃波を放ち、敵対者達を吹き飛ばす。
幾らか距離があったメグ達にも届いたのだ、至近距離で殴り掛かっていた肉体派おじゃる丸も地面を転がる。
即座に立ち上がるが剣聖に付けられた傷に響き、鋭い痛みが怒りへ油を注ぐ。
「(舐めた真似されて)笑っちゃうんすよね」
変態面接官に自慢の肉体を見せ付けた時を思わせる笑い顔。
なれど額に浮かぶ青筋が苛立ちの証拠。
怒れるホモからの殺気を受け流し、真嗣はクウカの横に並ぶ。
掠めた箇所に多少血が滲んでいるも、死に至る程の負傷は見当たらない。
シーがいれば「女の子のお肌は大切にしてあげないとダメよっマーくん!」と、小言を言われたに違いない。
30
:
Break&Peace
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:44:55 ID:ewdI.nn60
「あ、ありがとうございますマサツグさぁん…!」
「礼は後で聞く。それより警戒しておけ、また妙なのが増えたぞ」
「は、はい…。どうしてあんな恰好してるんでしょう?ま、まさか…クウカまですっぽんぽんにされちゃうんじゃ…!」
「そんな誰得な絵面を妄想してる場合か?」
緊縛した状況でもブレない姿へ呆れとある種の安堵を抱くのも束の間、おふざけが延々と許される場ではない。
日輪刀を構え直す真嗣に倣い、クウカも身を強張らせ短剣を強く握る。
敵は4人、メグを連れ戻す筈が事態はどんどん悪化するばかり。
だからといって諦め逃げるつもりは毛頭ない
「ふむ、中々に手強いですがこちらも負けてはいられません。皆さま、準備は宜しいでしょうか?」
戦意を失っていないのはコッコロ達とて同様。
奇妙な力を使う真嗣は厄介だが数の有利を活かせば、勝てない戦いでは無い。
槍を敵へ突き付ける騎士の言葉に、言われるまでも無いと各々得物を向ける。
空気は再び張り詰め、破裂寸前の如く互いに緊張感が高まる。
爪で軽く突くだけで割れ兼ねない、ほんのちょっぴりの動きだけで戦闘再開は確実。
開戦の合図は刃か、銃弾か、拳か。
或いは敵意と信念、目に見えぬそれらの衝突こそが開始を告げるのか。
最初に動くのは誰か、己が先行の手札を切るべきかを見極め――
「ンンンンン…お待ちください皆々様。宴の音頭はどうかどうか、拙僧にお任せ頂きたい」
全てを木端微塵に壊し、黒一色に塗り替え、台無しにする最悪の到着を以て。
今宵第二の幕が上がる。
31
:
地獄絵巻・序
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:46:37 ID:ewdI.nn60
◆
空気が一変したと、闘争へ臨まんとする全員が肌で感じ取った。
昂る心に冷水を浴びせた、という陳腐な喩えは当て嵌まらない。
毒だ。
戦意を鎮火するのみでは飽き足らず、蝕み骨の欠片一つ残さず腐らせる猛毒。
言葉一つで部隊の主導権を我が物へ変えた存在を、誰もが無視できない。
男、である。
およそ日本人離れした長躯に相応しい顔付き。
猫のように細めた瞳で見下ろし、唇が弧を描く様は妖艶の二文字に尽きる。
開けた胸元から覗く肉体もまた、男の魅力を引き立てる役割を持つ。
ボディビルダー等の観賞用の筋肉ではない、鍛え上げ尚且つ余分な脂肪を削ぎ落とし完成させた言わば『実戦向き』の体。
獣を思わせるしなやかさは俗に美形と評される顔付きと相俟って、いつの世でも女達が放っては置かない。
誰もが注目せざるを得ない男の登場に、6人が抱いたのは何か。
天に二物どころかそれ以上の物を与えられた嫉妬か。
同性としての格の違いに敗北感を覚えたか。
異性の放つ妖しくも心揺さぶる魅力に胸の高まりを感じたか。
どれも違う。
全員が共通し男へ抱いたものとは、これまでの人生でただの一度も感じた事のないおぞましさ。
見てはならない、なのに目を逸らすなかれと視界を掌握される。
声を聴いてはならない、なのに耳を塞ぐなかれと抵抗を封じられる。
何一つ考えてはならない、なのに無駄な足掻きと魂の奥底までへばり付き離れなかった。
32
:
地獄絵巻・序
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:47:33 ID:ewdI.nn60
やけに喉が渇く。
またしても厄介な者が顔を出し、本当なら悪態の一つでも言ってやるところ。
しかし口を開くのはおろか、呼吸一つするだけでも吐き気が込み上げ眩暈がする。
人の形を取った形容し難き怪物に、真嗣は冷や汗を抑えられない。
「申し訳ありませぬ。無粋と承知の上で顔を出させて頂きました。ですが此度の舞台は悪鬼羅刹も手を叩いて踊り狂う、神仏無き殺戮遊戯。
故に多少の茶々入れはどうか広き心でお許し願いまする」
己が恐怖の対象に見られているとは理解の上で、気にもしていない素振りの一礼。
やけに様になった優雅な仕草でも、怖気の走る存在感は隠し切れなかった。
「死合い、蹂躙、乱痴気騒ぎ。大いに結構!しかし折角の宴には少々華が足りないご様子。故に、僭越ながら拙僧らが一つ場を盛り上げて差し上げようと思った次第。
準備は宜しいですかな?良子殿」
長ったらしい言葉の終わりを待っていたのか、見上げる体躯の背後よりピョコリと顔を出す者が一人。
男の腰にも届かない小柄な少女であった。
四肢も胴も細く、ランドセルを背負う齢特有の肉付きの薄い体。
好奇心旺盛さを感じさせる、パッチリと開いた両の瞳。
故にこそ、右手に下げた抜き身の刀が異様さを放っている。
「いつでもいけるよ。っていうより、リンボさんの前振り長過ぎじゃない?」
「これは失敬、拙僧一度話すとどうにも止まらぬ性分ですので。…ンン、骸の操作も支障ないようで」
「とりあえず一人だけならそんなに難しくないかな。後は刀にもっと慣れて、お姉をしっかり守れるようにならなきゃね!」
「ええ、ええ!良子殿がそうおっしゃるなら、このリンボめも助力は惜しみませぬ」
異次元の光景が広がっている。
病に侵され死の淵を彷徨った時に迷い込む、荒唐無稽な悪夢の世界のよう。
美しくもおぞましき男と、可憐な少女が旧来の友のように会話を弾ませ微笑み合う。
何の冗談かと目を疑う談笑を傍らで見守るは、伽藍洞の瞳を浮かべた肉袋。
左胸部分を彩る赤はとうに渇き変色、失った手首より滴り落ちるモノは最早彼女の中に残っていない。
33
:
地獄絵巻・序
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:48:31 ID:ewdI.nn60
桜ノ宮苺香という名の屍を控えさせ、吉田良子が内より殺意を垂れ流す。
最愛の姉は自分達の手元に確保済みとはいえ、これで全てが万事解決とはいかない。
姉の命を脅かす脅威は未だ健在、守る為にはもっと力を使いこなし強くなる必要がある。
狩り場は姉と同じくらい信頼を向ける術師が整えてくれた。
「さてそれでは、拙僧は向こうで踊りますので良子殿も存分に」
「うん!お姉みたいな強くてかっこいいまぞくにはまだなれないけど、頑張らなきゃ!」
ぎゅっと刀を握り締め決意を直接言葉に出し、それを合図に男が動く。
キャスター・リンボ、或いはアルターエゴ・リンボ。
辺獄を名乗る陰陽師が肉食獣の如き獰猛な笑みと共に接近、瞬く間に子羊共の群れへ到達。
目の前に敵が来たと頭が理解するまでが遅い。
走る為に一歩踏み出した瞬間を誰も目で捉えられない、人の枠を鼻で笑う領域の速さだった。
「ひんっ!?」
「ぎゃひぃっ!?」
リンボの急接近に気付かないなら、次に我が身へ起きたのもまた理解が及ばず。
何が何やら分からぬ内へ胴体へ衝撃と痛みが遅い、足が地を離れ宙を全身を投げ出していた。
蹴り飛ばされたと脳が状況を把握するより暇も無く、地面へ転がるクウカと龍玄へ迫る影。
見上げた先の刃へ思考を追い抜き体が反応、跳ね上がった右手の短剣と弾き合う。
「こ、今度は何なんですか〜!?」
涙交じりの抗議に聞く耳貸さず、再び刀が振り下ろす。
悲鳴を上げて横へ転がり回避、起き上がったクウカに休む暇無く良子が斬り掛かった。
近くでは骸人形と化した苺香が放つ光弾を、これまた悲鳴と共に避ける龍玄の姿。
幼児の悲鳴に揺さぶられる心はとうに消え去り、残ったのは帝具で操られるだけの屍なのだから。
34
:
地獄絵巻・序
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:49:24 ID:ewdI.nn60
「ではでは、そろそろ拙僧らも始め――おっと」
『練習台』二人相手に張り切る良子を眺めつつ、自身の遊び相手へ振り返る。
直後、視界に広がるは肥大化させた鉄塊の如き拳。
リンボ同様人であって厳密には人でない参加者だからか、いち早く我に返った肉体派おじゃる丸だ。
突然現れた乱入者達の正体が何であれ、害にしかならないのは気配で分かる。
憎き一軍のホモ達とはまた別の理由で生かしてはおけない、放置するには余りに危険。
警鐘を鳴らす本能に逆らわず、いらない行動に出る前に仕留めに掛かった。
「ふぅむ?貴殿は…ああ成程」
だが当たらない。
鉄拳が顔面を打ち抜き、見るも無残に変えるまで1秒も要しない筈なのに。
動揺を一つも表情には出さず、漂う綿毛を避けるかの仕草で避ける。
大振りな動作はいらない、ほんの少し位置をズラすだけで掠らせもしない。
一発外れたなら当たるまで殴り続けるのみと、連続し拳を放つ。
BB先輩シリーズが力を付与、片手打ちのラッシュが炸裂。
「ごがぁっ!?」
悲鳴はリンボではない、拳を放った肉体派おじゃる丸からだ。
野獣先輩程の勢いはなくとも手数と速さは超人の域に入る殴打の嵐も、リンボにしてみれば遅過ぎる。
拳の合間を欠伸交じりにすり抜け、肉体派の名に相応しい胸筋を叩く。
それで終わりだ、血を吐き呆気なく吹き飛ばされた。
筋肉達磨から視線を外し、背後へ向けて腕を振るう。
爪が弾くは果実を模した槍、バナスピアー。
肉体派おじゃる丸に遅れてブラックバロンも戦意を取り戻し、リンボを仕留めに出た。
別方向より迫るは炎型の鍔が特徴的な刀、真嗣が振るう日輪刀の一閃。
35
:
地獄絵巻・序
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:50:01 ID:ewdI.nn60
基本的に面倒事は避ける真嗣、心の闇に侵されてはいても本来不要な争いは好まないコッコロ。
そんな二人でさえリンボへの強い警戒心は一致。
コレを危険、ここで倒さねばマズい事態にしかならない。
早急な排除を訴える脳に急かされ得物を振るうも、簡単に死ぬ相手ならこうも焦りを覚えてはいない。
二人掛かりに加え、アーマードライダーの機能と「守る」スキルによる強化。
以上が揃ってもリンボは涼しい顔で捌き、躱す。
インベスを貫く槍と鬼の頸を落とす刀が、爪に弾かれ砕き割る事も出来なかった。
『ギロットミロー!ギロットミロー!』
「へ、変身…!」
『ゲンカイガン!ディープスペクター!ゲットゴー!覚悟!ギ・ザ・ギ・ザ!ゴースト!』
ようやっと凍り付く全身を無理やり動かし、メグも戦闘へ参加を果たす。
乱入者達、特にリンボの放つプレッシャーを受けて尚も戦いを投げ出さない。
オレイカルコスの結界により増幅した心の闇が、皮肉にもメグの精神を幾分安定させたのだろう。
ベルトを取り出し眼魂を起動、軽快な音楽を響かせパーカーゴーストを纏った。
銀色のボディに各部へ備わった火の玉モチーフの装飾。
仮面ライダーディープスペクターの変身完了を終え、ブラックバロン達の支援を開始。
「や、やああああっ!」
制限されてか本来の武器、ディープスラッシャーの召喚は叶わず。
だが通常形態のスペクターを上回るスペックに頼れば、得物を持たずとも問題無し。
ガンマイザーをも怯ませた打撃で沈めるべく、リンボへと拳を突き出した。
「あぐっ!?」
指一本すらリンボに触れられず、反対に顔面を掴まれた。
容易く破壊はされない筈なのに軋みを上げ、仮面の下で苦悶に顔を歪める。
熟れた果実を握り潰すのと同じく、自分の顔も惨たらしい末路を迎えるのか。
36
:
地獄絵巻・序
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:51:01 ID:ewdI.nn60
無論、真嗣達がメグの死を跳ね退けるまで。
「守る」スキルが一段階上の力を齎すのを感じ、掌を翳す。
横ではブラックバロンがドライバーを操作、カッティングブレードが果実を切る。
『バナナスカッシュ!』
バナスピアーにエネルギーを充填、バナナ型の光刃を纏う。
このまま斬り付けてはメグまで巻き添えを食らう、解決するのはもう一人の力。
真嗣の手から衝撃波が放たれリンボを吹き飛ばす。
尻餅を付くディープスペクターの横を通り抜け、地面への激突を待たず槍を豪快に振るう。
仕留めた、そう確信を抱き、
「おや、その絡繰りは見覚えがありますな。確か…鎧武なる若造と同じもの」
「っ!?」
ヌッと至近距離で覗き込まれた。
「とはいえ鎧武程の力は感じませぬ。精々が童の玩具、このように容易く止められ当然でありましょうや」
光刃は確かにリンボを捉えたが、殺すにはまるで至らない。
バナスピアーの直撃が迫る最中、取り乱さずに五芒星を描き簡易の障壁を展開。
指先を起点に僅かな範囲だけのちっぽけなソレが、光刃を防ぎ血の一滴も流させない。
小賢しい抵抗などすぐに破れると両腕に力を籠めても、それ以上進まなかった。
戦極ドライバーの観察を終えるまでの猶予は過ぎ、再びリンボのターンへ。
ブラックバロンを蹴り飛ばし悠々と近付く。
37
:
地獄絵巻・序
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:51:41 ID:ewdI.nn60
「コッコロちゃん!」
「おい待てメグ!考え無しに飛び出すな…!」
背に届く声を無視してディープスペクターが駆け出す。
余裕たっぷりのリンボを標的に、ギラリと光る両腕の刃。
クァンタムレイザーと呼ばれる箇所は飾りに非ず、眼魔の肉体も切り裂く立派な武器。
奇怪な力を持っていようとリンボは生身、斬られれば血が出るし殺せる。
協力者を助けて参加者を一人減らす、一石二鳥だ。
「忠告には耳を傾けるべきでしたなァ」
聞こえた声は真正面ではなく背後から。
ブラックバロン以上の走力で距離を詰めた筈、なのに何故だ。
疑問の答えを出す余裕は無い、急ぎ動かねばとは分かるが動揺が枷となり反応を遅らせる。
襲い来る痛みへの覚悟もままならない状況へ、しかし装甲には衝撃がやって来ない。
スキルの効果で日輪刀が突風を放ち、リンボを妨害。
敵対中とはいえ守ると決めた少女の死を遠ざけた。
尤も有効打を与えた形跡は見当たらず、依然として自分達だけが無駄に体力を減らされている。
唯一の救いと言って良いのか、リンボの方から目立った攻撃はされていない。
こちらが刃を向ければ対処するだけで、向こうから牙を剥く様子は無かった。
悪趣味に付き合うのは御免だ、クウカの方にも駆け付けたいが許してはくれないだろう。
38
:
地獄絵巻・序
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:52:22 ID:ewdI.nn60
「ひぃ〜!お、落ち着いてください〜…!」
怯えを声色に乗せて懇願するも、肝心の相手は問答無用で刀を振るう。
モニカのように小さく可愛らしい(年齢はあっちが上だが)女の子なのに、容赦というものをまるで知らない。
快活な笑みの似合うだろう顔は恐ろしいまでに無表情。
作業感覚で殺しに来ているようで、それがまたクウカに戦慄を抱かせた。
短剣と刀が奏でる無骨な演奏を終わらせる方法は二つに一つ。
クウカが死ぬか良子が無力化されるかだ。
(ど、どうしましょう…これじゃあメグちゃんを止めるどころじゃありません…!)
メグを何とかして落ち着かせる最初の目的を忘れてはいない。
彼女の協力者は勿論、次から次へと乱入者が現れ場の混乱は治まるどころか悪化の一途を辿っている。
これではメグを止める以前に自分と真嗣が命を落とす、なんて展開にならないとも限らない。
さしものクウカも普段の被虐趣味は鳴りを潜め、危機感の方が勝った。
焦りを隠せないのは龍玄に変身中のタラオとて変わらない。
趣味の悪い柄のパンツを履いた変質者がこちらに協力し、多少の余裕を取り戻すのも束の間。
別の怪し気な連中に襲われ戦闘を強いられている。
「何で僕ばっかりこんな目に遭うですか〜!?」
自らに降りかかる理不尽を嘆いた所で、殺到する光弾の勢いは低下せず。
根は腐り切った外道なれど3歳児のタラオの泣き声を聞けば、善人なら多少は罪悪感が生まれるかもしれない。
生憎と光弾を撃つのは単なる死体、帝具に操られているだけで苺香本人の意識はとうに消滅。
極めて機械的に攻撃を加えていた。
39
:
地獄絵巻・序
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:53:42 ID:ewdI.nn60
「い…いい加減にするですよメスブタどもォ!お前らアバズレは、甚六さんみたいな童貞相手にケツでも振ってりゃそれで良いんですよぉ!」
疲労が限界へと達し回避行動にも遅れが生じ、被弾する回数が増加。
一方で骸人形に疲れなどある筈もなく、文字通り壊れるまで戦える。
度重なるダメージへ遂にタラオの中で何かがキレた。
低能の女どもは自分を精一杯愛でるのが義務だろうに、あろうことか痛め付けるなんて言語道断許すまじ。
最早、多少の被弾は無視してでも殺さなくては気が済まない。
『ブドウスカッシュ!』
ロックシードから力を引き出し、紫色の粒状のエネルギーを放出。
右脚へ収束させ跳躍、散々自分を甚振った女目掛け急降下。
龍玄が技を放つ姿は良子にも確認出来た。
ここで骸人形を失うつもりはない、後退させ龍玄の足底は地面を砕くに終わる。
が、これで問題無い。
「…っ。どこに…」
砕けたアスファルトが煙と共に宙を舞い、一時的に視界を塞がれた。
疑似的な英霊剣豪化で強化された感覚が敵の急接近を察知、咄嗟に刀を翳しすぐ衝撃が襲う。
敵は自分より小さくとも、アーマードライダーの腕力は侮れない。
殴り飛ばされ、偶然骸人形の傍へ転がる。
短い悲鳴が横で聞こえ、目をやれば今の今まで殺そうとしていたクウカが倒れているではないか。
自分同様に殴られ吹き飛んだらしい。
『ブドウスパーキング!』
カッティングブレードを操作し再度エネルギーを充填。
粒状の光が今度は右脚ではなく銃口へ集まり、光弾の威力を最大まで引き上げる。
インベスを焼き払った弾を人間相手に撃てばどうなるか、考えるまでもない。
「三人纏めて仲良く死んでく〜ださ〜い!」
善人どころか聖人にさえドス黒い殺意を抱かせ兼ねない、非常に腹立たしい口調が死を告げる。
フグ田タラオという金輪際現れない一番星よりも尊い命を脅かす蛆虫共へ、裁きの鉄槌を下す時だ。
幼児とは思えぬ程に歪めた形相でトリガーを引き絞り、
腹部へ猛烈な熱さを感じた。
40
:
地獄絵巻・序
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:54:41 ID:ewdI.nn60
◆◆◆
「ん……あれ……?」
寝惚け眼を擦り、ゆっくりと体を起こす。
億劫気に周囲を見回すと徐々に思考は本来の調子を取り戻し、当然の疑問をシャミ子に与えた。
ここは一体どこなのか、住み慣れた多魔市では無い。
一つ疑問が浮かべば二つ三つと増え、残留中の眠気はどんどん小さくなる。
「私どうしてここに…それに苺香さん達は……っ」
眠りに落ちる前に何があったか、この目で見た光景が鮮明さを増してリピートされた。
そうだ、たしかばんだ荘に集まった所を侍っぽい人に襲われたんだったか。
皆で一緒に戦って、でも侍は強くて戒一人に任せきりになってしまって。
それから、それから――
「…っ!苺香さんは…良、が……」
殺した。
背後から心臓を刀で差して、もこもこの衣装を真っ赤に染めて。
ちょっと、本当にちょっとだけ恐い目をして自分以上にまぞくっぽかったけど、絶対に悪い人なんかじゃないのに。
妹が彼女を殺してしまった。
悪夢であって欲しかった。
ご先祖が出て来て夢魔の力に不調が出たからとか何とか、解説を始めて欲しい。
現実には誰も死んでないし、殺されてないと言って欲しい。
だけど、望んだ展開はまるで起きる気配がない。
41
:
地獄絵巻・序
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:55:24 ID:ewdI.nn60
「随分遅いお目覚めだな」
代わりに現れたのは、これが現実であると告げる霊能者。
ばっと振り向くと、人形染みた無表情の少女が見えた。
名前は知らないが顔は覚えている、あの場に遅れて現れ良子と言葉を交わしていた者。
ああつまり、やはり苺香が殺されたのは夢なんかじゃないらしい。
「あ、あなたは…皆は…良はどこですか…?良に何をしたんですか…!?」
疑問は何一つとして解消されていない。
自分が意識を失い、それから一体どうなったのか。
戒は、ココアは、小鳩は、仲間達は無事なのか。
何故妹は苺香を手に掛けたのか、目の前の少女ともう一人いた怪し気な男が原因だというのか。
聞きたい事、知らなければならない事が山ほどある。
焦燥を露わに質問をぶつけるシャミ子へ、少女の反応はやけに冷めたもの。
「妹なら向こうにいるだろう」
「えっ……」
言われてようやく気付いた。
さっきからやけに騒がしいのに、どうしてそっちを気にしなかったのだろう。
指差した方へ従い視線を移動、少女の言葉に嘘は無いとすぐに判明。
42
:
地獄絵巻・序
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:56:12 ID:ewdI.nn60
妹と苺香が戦っている。
いや、これを果たして戦いと言って良いものなのか。
悲鳴を上げて必死に戦闘停止を求める相手へ、一切の言葉を返さずに斬り掛かる良子。
転げ回りぴーぴー泣く相手へ、機械のように淡々と光弾を放つ苺香。
目を凝らすと苺香には右手が無い、光のなんとかというカードを使おうとし斬り落とされたまま。
死んだ筈の彼女が動き回ってる理由にも見当が付かず、困惑は一層深まるばかり。
戦場へ変化は即座に表れた。
最も小さな装甲服の者が地面を蹴り付け、全員の視界を封じる。
隙を逃さず殴り飛ばし、一ヶ所に固まった所を纏めて葬る気だ。
「助けに行かなくて良いのか?」
「っ!」
少女に告げられ困惑に支配された頭が引き締まる。
疑問は多々あり未だ納得のいかない部分だらけ。
だがしかし、それで良子達や殺されそうになってる人の危機に何もしないなんてのは有り得ない。
良子が苺香を殺したのが覆せない事実であっても、シャミ子にとってはこの世でたった一人の妹なのだから。
「やっ、やめてくださーい!」
巨大フォークを構え突撃、よいやさーっと殺害を阻止に出る。
悪意も殺意も無い、善意と妹を想う姉としての行動。
それがどんな結果を生むか、シャミ子は知らなかった。
43
:
地獄絵巻・序
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:57:51 ID:ewdI.nn60
○
改めて、哀れな娘だと最上は冷め切った瞳で見送る。
妹を助けたいが為に飛び出し、それから何が起こるのか。
全て自身の協力者、呪いが人の形を取った陰陽師の思惑通りに進むのだろう。
シャミ子が目を覚ますまでにリンボが何もしなかった訳が無い。
ロクでもない事を思い付き顔を綻ばせ、嬉々として仕込みを行ったのは記憶に新しい。
と言っても然程大掛かりな術ではないが。
娘の背に貼られた紙切れを視界に収め、小さく鼻を鳴らす。
リンボお得意の呪符の効果は、範囲内の気配の隠蔽。
下総国でアサシン・パライソに渡した物のインスタント版。
清姫暗殺に向かった彼女の侵入を、カルデアのマスターや新免武蔵に直前まで気取らせなかった程。
但し今回は即席の為、以前のような効果は期待出来ないが問題無い。
一度だけシャミ子の妨害を成功させれれば良いのだから。
もう一つの仕込みはシャミ子が持つ魔王のぶき。
巨大フォークの見た目に変化は無い。
しかし魔術に心得のある者が見れば、皆一様に顔色を変えるに違いない。
やったのは単純明快、自身の魔力を魔王のぶきに付与した。
ゲーム用語で言うエンチャント、これだけ聞けば別段問題には思えないだろう。
但し、魔力を流し込んだのがリンボであれば話は大きく変わって来る。
人間時代よりハイレベルな術式を得意にし、更に三体の悪神を喰らい得た膨大な呪力。
最早単なる強化では済まない、呪いを掛けられたと言った方が正しい。
そのような力を手にすればどうなるか。
結末の分かり切った劇を眺めるかの如く、最上の乾いた瞳が全てを映し出す。
44
:
地獄絵巻・序
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 21:59:07 ID:ewdI.nn60
「ぐげっ…いぎゃ…あァああああ…!なん、でずがごれぇ…!」
「え……」
何一つ理解出来ない。
自分が見ているもの、聞いているもの、魔王のぶきから伝わる手応え。
全て現実に起きているのに、酷く現実味が薄い。
多魔市の騒動でただの一度も見なかった地獄が実現されている。
魔王のぶきは腹部に当たり、ロックシード諸共戦極ドライバーを破壊。
それだけなら良い、強制的に変身解除してしまえば良子達の殺害阻止は上手くいったも同然。
フォークの先端がドライバーの破壊に留まらず、ライドウェアをも突き破り、タラオの小さな体を串刺しにしていなければ。
リンボの魔力が、魔王のぶきの性能をこれ程に引き上げていなければ。
変身アイテムを失ったで済んだ話だった。
「なん…え?あ、なん、で…わた、し……」
自分がやったことなのに理解が追い付かず、されど現実逃避は許されない。
思わず後退ればフォークも引き抜かれ、あっという間に血の池を作る。
獣の鳴き声に似た絶叫がシャミ子の頭を掴み、眼前の惨劇へと目を合わさせた。
しっかり見ろ、これはお前がやった事だと聞こえない筈の声が耳元で囁く。
「ひっ…!あ、だ、だめです…!今治しますから…!」
最初から殺す気なんて無かった。
ただ武器を叩き落とそうとかそれくらいで、良子達を助けられれば良かった。
どうしてこんな結果になってしまったのか分からず、確かなのは自分のせいで子供が一人死にかけている。
妹を殺そうとした相手とはいえ、死んで欲しいとまでは生来の優しからどうしても思えない。
重傷の小鳩にやったのと同じ、回復魔法を使用。
すぐに血が止まる、傷が治る筈なんだと焦燥感に突き動かされた光がタラオを包み込む。
45
:
地獄絵巻・序
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 22:00:13 ID:ewdI.nn60
気付けと言うのも酷な話だが、大前提として今の魔王のぶきにはリンボの魔力が流し込まれている。
インド異聞帯で、医神が身を以て思い知ったのと同じだ。
強過ぎる力は薬にならず、猛毒と変わらない。
「おぶげええええええええええ!?」
此度は術を行使したシャミ子と、対象に選ばれたタラオの身に降りかかった。
傷口を包む光は出血を止め、失われた肉を元へ戻す。
それだけで終わらない、悪しき術者の呪いが終わらせはしない。
傷口を塞いで尚も効果が切れず、タラオの全身が膨れ上がった。
ボコボコと肉が浮き立ち、まるで体の内側をナニカが這いずり暴れ回っているかのよう。
肉玉の集合体とも呼ぶべき醜悪な姿に、磯野家で寵愛を受けた幼児の面影は微塵も無い。
「ど…じで…ぼきゅ、が…ごんなめ、にっ」
自分の体が全く別の形に変わる激痛。
これに比べたら今までのダメージなど比べものにならない。
瞼の肥大化で視界も徐々に狭まる中、唯一見えたのは青褪める少女の顔。
「お…まえ……」
こいつだ、こいつが自分を醜い化け物に変えた。
この女が自分を、可愛らしさの欠片も無い姿へ変えたのだ。
許さない、絶対に許さない。
こいつのせいで世界はフグ田タラオという至高の人材を失った。
こいつのせいで死ぬことなどあってはならない、フグ田タラオという唯一無二の宝が命を落とす。
全部全部、この女のせいだ。
最早どこに顔があったのかも分からない肉の塊が、ありったけの恨みを籠めて最後の言葉を紡ぐ。
「おまえ…の……せい……です……」
バチュンと、汚らしい音がお終いの合図。
真っ赤に塗りたくった肉片と、どこの部位か分からないモノが一面に散らばって。
唯一形を残す首輪が、乾いた音を立てて転がった。
【フグ田タラオ@サザエさん二次創作 死亡】
46
:
地獄絵巻・序
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 22:01:14 ID:ewdI.nn60
◆
「……あ、や、ひっ……」
瞬きを繰り返しても、地面を彩る赤とピンクとその他諸々の花は消えない。
自分がどんな顔なのか、何を言おうとしたのかまぞくの少女には分からない。
目を覆いたくなる惨たらしい光景には、真嗣達でさえ思わず凍り付く。
ヒューヒューと呼吸の音が全員の耳へ届けられる中、
「ンン……」
笑う
「ンンンン……!」
嗤う。
「ンンンンンンンンン〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!くくくくくくクククククククハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!
お見事!お見事に御座りまする優子殿!血を分けた妹を助ける為に、我が身を汚すことも厭わぬ姿勢!何と美しき姉妹愛でございましょうや!
このリンボ、実に…実に実に実にィ感服いたしましたぞ!いやはやこれ程の覚悟を見せられて…ンンン!笑いが止まりませぬなァ!」
ただ一人、全てを引き起こした男だけが腹を抱えて呵う。
敬意も感動もそこにない、あるのは人の世を遊戯盤と見なし思いのままに弄ぶ悪意。
耳の奥へ流れ込む汚泥に誰しも嫌悪と戦慄を抱く、優勝を目指すコッコロとメグですら吐き気が止まらない。
「そっか…そっかぁ…!お姉、良のこと助けてくれたんだね」
唯一歓喜に身を震わせるのは、正気を失った良子。
大好きな姉が自分を守る為に駆け付け、悪童を華麗に成敗してくれたのだ。
喜ぶなと言う方が無理だ。
満面の笑みで抱きつき頬擦りする妹を、撫でるも抱き返しもできずシャミ子は震えるばかり。
47
:
地獄絵巻・序
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 22:02:15 ID:ewdI.nn60
「かくも美しきかな姉妹の愛。貴殿もそうは思いませぬか?」
「気持ち悪いっすね…!あんたもあのガキも…!
にこやかにリンボが話しかけた相手は、息も絶え絶えで吐き捨てる。
真っ先にダウンし状況へ置いてけぼりになりつつあった巨漢、肉体派おじゃる丸が片手を掲げる。
剣聖に付けられた傷へ追い打ちを掛けられ痛む、だが苦痛すらも燃料に変え我が身を動かす。
奪った支給品から使えそうな物を選択、手に馴染みつつあるカードの効果を発動。
「(あんたもすぐにあのガキの後を追う可能性が)濃いすか?」
デュエルモンスターズのカードがTDN玩具でないのは実証済み。
描かれたイラストは現実の存在と化し、人間複数人を飲み込むサイズの火の玉が出現。
発動者の肉体派おじゃる丸ですら顔を顰める高熱の塊が、一瞬でリンボを閉じ込めた。
「クキキキキ…!キ…?」
余裕は一瞬で崩れた。
何故だ、自分が出した火の玉であの憎たらしいニヤけ面はあっという間に消し炭となる筈。
蝋燭責めを受けるホモのように、クッソ汚い喘ぎ声を出すしかできない。
なのにどうして、あいつは火傷どころか、服の焦げ目すら無いんだ。
猛烈な悪寒が駆け巡る中、一つの言葉が脳裏に浮かぶ。
『喧嘩を売る相手を間違えた』、と。
「火遊びがご所望であられますか。結構結構、では期待に応えると致しましょう」
五芒星を描いた指先に火の玉が吸い寄せられ、リンボの術へと組み込まれる。
腕を振るい現れるは炎の大蛇。
カード効果で自身に迫ったものよりも巨大な怪物が、相対中の4人へと牙を剥く。
毒で長々と溶かしはしない、灰も残さず焼き殺す。
48
:
地獄絵巻・序
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 22:03:41 ID:ewdI.nn60
「くっ…!」
自分と、何よりメグも狙われているとあっては真嗣も無視できない。
「守る」スキルの恩恵を受け日輪刀を振るう。
斬撃の渦が大蛇を掻き消し、スキルの名に恥じぬ守護を果たす。
「ぐううっ!?」
「きゃあああああ!?」
「アツゥイ!」
思い描いた光景を裏切り、熱が真嗣達を襲う。
「守る」スキルは機能し大蛇の勢いを削いだ、しかし完全に打ち消すには至らない。
制限の影響でスキルが弱体化しているから、それも理由の一つ。
だが何よりも、リンボの術が強過ぎるのである。
異星の神との接続は断たれ、術全般の出力も低下。
特異点や異聞帯で暗躍を続け、カルデアを相手取った時より程の自由は効かない。
それでも尚、リンボは間違いなく参加者の中でも上位の力を持つハイ・サーヴァント。
容易く打ち破れると高を括るのは大間違いだ。
「うぅ…まだ、まだぁ…!」
変身してるにも関わらず、体中が熱くて堪らない。
これが戦い、真嗣を襲った時は彼がどれだけ加減してくれたのか今更思い知る。
でもマヤの為にも負けられない、負けてしまったら夢で見たようにマヤが皆から忘れ去られてしまう。
高めた戦意がディープスペクターの力を増加。
頭部のアンテナブレードへエネルギーが迸り、放つタイミングを今か今かと待つ。
「痺れちゃえー!」
リンボ目掛けてプラズマを放射。
破壊力はオメガドライブにも引けを取らず、ガンマイザーにも有効なダメージを与えた程だ。
これで倒せる、一撃で倒せなくても怯ませるくらいは可能。
49
:
地獄絵巻・序
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 22:04:52 ID:ewdI.nn60
尤も、リンボ相手には甘過ぎると言っても過言に非ず。
呪符を二枚取り出し上空へ投げ放つ。
羽も、胴体も、嘴も、全てが紙で構成された鳥が二匹。
リンボお得意の式神召喚により、白鷲が主を守護すべく我が身を盾に変える。
プラズマに焼かれ黒く焦げた紙へ逆戻り、とはならない。
呪力をたっぷりと溜め込んだ二羽が怪鳥の如き叫びを上げ、プラズマを吸収。
自身の糧へと変換、揃って上空を飛び回る。
「そ、そんな…!?」
「倍にしてお返ししますぞ、遠慮なく受け取りくだされ!」
天より降り注ぐ黒き雷は、地上の傲慢を許さぬ神の怒りか。
或いは猿の足掻きを鼻で笑う悪神の戯れか。
別エリアで世界の破壊者達へ落とした以上の規模と威力で、光が降り注ぐ。
慌てふためき逃げた所で回避不可能、ならば掻き消すしかあるまい。
「次から次へと…!」
スキル効果を受け自身の力の高まりを実感。
日輪刀の輝きが黒雷を打ち消す、だが勢いを削げたのは半分まで。
残りは地上の蟻を焼き払う役目を果たし、全員等しく痛みに襲われる。
「中々に興味深い力をお持ちのようで」
「っ!!」
飛び掛けた真嗣の意識を急速に引き戻す声。
近い、リンボの接近をここまで許してしまった。
危機感が次の動きを急かし、自身を対象にスキル発動。
瞬間的に速さを増し日輪刀を振るい、
50
:
地獄絵巻・序
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 22:05:57 ID:ewdI.nn60
グチュリと、嫌な音が聞こえた。
「がっ、あああああああああああああっ!!??!」
自分の内側に、本来ある筈の無い部位が入っている。
異物感への不快は一瞬で激痛へと変貌。
左目に突っ込まれた指を動かされれば、脳を直接掻き毟られるに等しい痛みとなった。
「しかし、貴殿が持つには不釣り合いなようですな。この程度も避けられぬとはたかが知れる。風魔の小童の方がまだマシな動きが出来た事でしょう」
好き勝手言われても皮肉一つ返せない。
異世界で荒事には慣れたが、これ程の痛みは今が初めて。
抵抗しなくては、どうにかしないと死ぬ。
そう頭では分かっているのに、激痛が集中力をあっさり奪い去って行く。
「マサツグさんから離れてください…!」
となると危機に駆け付けるのは絆を結んだ少女。
血相を変え近付く少女へチラとも視線をやらず、呪符を一枚投擲。
魔力を乗せた紙は妖刀同然の切れ味を発揮、少女の柔肌を切り裂き臓物の雨を降らすだろう。
「こ、これくらい…耐えてみせます!」
しかしクウカとて無策で突っ込んだつもりはない。
展開されたシールドに呪符が命中。
半端な力の結界程度は障子紙よりも簡単に突破加納だが、これはただの盾ではない。
敵の魔法を吸収する効果を持ち、呪符の力を著しく弱体化。
単なる紙切れと化した札には目もくれず、シールドを展開したままリンボへ突撃。
51
:
地獄絵巻・序
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 22:06:42 ID:ewdI.nn60
「おっといけません。拙僧、足柄の鬼子と違い猪や熊と戯れる趣味はありませぬ故」
軽口を叩く余裕を存分に見せ付け、木の葉のようにひらりと躱す。
別に当たらなくても良い、目的はリンボへの攻撃ではなく真嗣の救出。
潰された目と繰り返す荒い呼吸に息を吞むも、怯んでいる場合じゃない。
彼を助けられるのは自分だけだ、デイパックに手を突っ込み目当ての物を取り出す。
武器としては使いこなせないと思っていたが、もう一つの用途がコレにはあった。
(メグちゃん……)
身の丈程もあるバズーカ砲へ跨り、発射準備完了。
振り落とされないように、後ろから真嗣を抱きしめる体勢で固定。
後は飛び立つだけだが、本当にこのまま行って良いのかと自分自身の心が問い掛けた。
メグのことも連れて逃げるべきじゃないのか。
しかし今から抵抗するだろうメグをどうにか引っ張り、バズーカ砲に乗せるのは現実的じゃない。
リンボにあっさり阻止され、今度こそ全員殺されるんじゃないのか。
だから、選ぶしかない。
メグを放置し真嗣と共に急ぎこの場を去る事を。
「……っ」
自分がやらねば真嗣を助けられない。
後ろ髪を引かれる思いを必死に振り払い、火を噴き飛び立つ。
制御に集中しないと激突し、地面へ真っ逆様だ。
分かっているがメグを置いて行った罪悪感の重さは、きっと自分一人なら耐えられなかった。
けど今は、傷を負った仲間の存在が泣き言を許さない。
52
:
地獄絵巻・序
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 22:07:23 ID:ewdI.nn60
「クウカ……」
背後から悔しさがひしひしと伝わるも、何を言うべきかが分からない。
メグを助けられないばかりか、クウカの精神に負担を強いてしまった。
不甲斐ない自分を嘲笑おうにも、痛みに思考がままならない。
片目を失った事へ何かを思う頭はぼんやりしたまま。
仲間も自分自身も守れず、逆に守ってもらう自分へ苛立つ事すら、今の真嗣には許されなかった。
【D-4 上空/一日目/早朝】
【直見真嗣@異世界で孤児院を開いたけど、なぜか誰一人巣立とうとしない件(漫画版)】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、左目失明、無力感、飛行中
[装備]:竈門炭治郎の日輪刀@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]基本方針:ラスボスを倒す。殺し合いを脱出するには、これしか手段がないようだな
1:エリン、クウカ、メグとその友人を守る。
2:メグを取り戻す、つもりだったんだが…。
3:もう失うことは御免だな。
[備考]
※「守る」スキルは想いの力で変動しますが、制限によりバランスブレイカーになるような化け物染みた力は発揮出来ません
※参戦時期はリュシア達が里親に行ってから。アルノンとも面識があります
【クウカ@プリンセスコネクトRe:Dive】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(大)、魔力消費(中)、罪悪感と後ろめたさ、飛行中
[装備]:ガーディアン・エルマの短剣@遊戯王OCG、フライングランチャー@遊☆戯☆王ZEXAL
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:こ、困ってる人を助けます……
1:マサツグさんを連れて逃げます…でも、メグちゃんは……。
2:モニカさん達と合流したいです
3:クウカ、マサツグさんのことが気になりますが……今はそれどころじゃないですね
[備考]
※頑丈です。各種スキルも使えますが魔力を消費します。魔力は時間経過で回復していきます
53
:
地獄絵巻・序
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 22:08:01 ID:ewdI.nn60
◆◆◆
(これはいけません…!)
真嗣達が離脱し、残るリンボの得物は自分とメグ。
ついでにパンツ一丁の不審者。
大して役に立たなかったがタラオが死にこちらの戦力は減少、一方リンボの力は未だ未知数。
おまけに良子達も加勢するとなれば、自分達の勝ち目はゼロ。
絶体絶命の状況に、コッコロも撤退を選択。
あっさり見逃してくれるとは思ってない、何とか隙を作る他なかった。
タラオからデイパックを奪っておいて正解だ。
馬鹿正直に持たせたままでは、今頃良子に確保されていたろうから。
望みの道具を一つ取り出し、指で一回転させ起動。
『マンゴー!』
「変身…!」
『ロックオン!ソイヤッ!マンゴーアームズ!ファイト・オブ・ハンマー!』
バナナロックシードを取り外し、変身が解かれる前に素早く交換。
頭上のクラックが開き、落下したのは巨大なマンゴー。
展開し山吹色の甲冑を纏い、同色のマントを靡かせた騎士へと変身を遂げる。
アーマードライダーブラックバロン・マンゴーアームズ。
安定性を重視するバナナアームズと違い、パワーと防御力を特化させた形態。
ライドウェアが黒一色なこと以外は、駆紋戒斗のバロンと同じだった。
強固な外骨格のインベスならば撃破可能だが、リンボ相手にこれではまだまだ足りない。
アーマードライダーで倒すのなら、鎧武同様に黄金の果実の力を味方に付けねば勝機は薄い。
コッコロもこれだけで勝てるとは思っていない、逃げの一手を取るまで。
54
:
地獄絵巻・序
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 22:08:44 ID:ewdI.nn60
『マンゴースカッシュ!』
「う…中々の重さ…!」
重量級メイス、マンゴパニッシャーにロックシードのエネルギーを纏わせる。
バナスピアー以上の破壊力を誇る分、重さも倍。
少々苦戦しつつも持ち上げ、地面に叩きつけた。
本来は敵に直接ぶつける技だがこれで良い、破壊された地面とブロック状のエネルギーが周囲に拡散。
虫の大群の如く殺到する山吹色と灰色がリンボの視界を塞ぐ。
ほんの少しでも足止めが叶ったのであれば、すぐに次へ移らねば。
ブラックバロンの変身を解き、別のベルトを装着。
どこからかやって来たバッタを掴みバックル中央にセット、瞬時に全身が超金属ヒヒイロカネで覆われる。
「変身、でございます…!」
『HENSIN』
『CHANGE KICK HOPPER』
バッタモチーフのマスクドライダーシステムにして、メグを攫った姿。
キックホッパーに変身し、ベルト横のスイッチへ手を置く。
『CLOCK UP』
タキオン粒子が余すところなく全身へ流れ、加速の世界へ侵入。
マスクドライダーシステムの資格者やワーム、時を支配下に置く者がいない場においてコッコロを止められない。
得られた猶予は僅か、本来のクロックアップより短く設定された制限が恨めしい。
動作一つ分も無駄には出来ず、メグと肉体派おじゃる丸の腕を掴み疾走。
時間切れとなるまでに少しでも距離を稼ぎ、ある程度離れた場所で肉体派おじゃる丸を宙に放り投げた。
55
:
地獄絵巻・序
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 22:09:16 ID:ewdI.nn60
『CLOCK OVER』
加速の世界から弾き出されるも、気を抜く事は許されない。
タンポポロックシードを起動しエアバイクにメグ共々乗り込んだ。
急浮上させ、混乱中の肉体派おじゃる丸を掴む。
生憎座席は小柄な少女二人で満席である。
「あ、あれ?コッコロちゃん?私いつの間に…」
「申し訳ありませんメグさま、少々強引に運ばせて頂きました。それから大変心苦しく思いますが、あなたは振り落とされないようしがみついてくださいませんでしょうか」
「(扱いが雑過ぎて)笑っちゃうんすよね」
軽くない傷を負ったのにこの扱いには、流石に肉体派おじゃる丸も苦笑いを返す。
とはいえ一応まだ自分と敵対する気は無いらしく、逃走へ手を貸すのだから文句も言えない。
乱入者達に好き勝手され、挙句の果てに逃げるで精一杯。
良い結果とは口が裂けても言えないが、命があるだけ今は良しとする。
今後もこのメスガキ二人と協力するか否か、まずは無事に逃げ延びてから考えよう。
夜明け間近の上空、太陽が顔を出し輝き照らされるにも関わらず。
未だ心の闇に囚われた彼女達の進む先には、光なんて微塵も見当たらなかった。
【D-4 上空(真嗣達とは別方向)/一日目/早朝】
【奈津恵@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、オレイカルコスの結界による心の闇の増幅、搭乗中
[装備]:メグ専用ロッド@きららファンタジア、ゴーストドライバー&ディープスペクターゴースト眼魂@仮面ライダーゴースト
[道具]:基本支給品×2、巨大化(数十分使用不可)@遊戯王OCG、ランダム支給品0〜2(ボーちゃんの分)
[思考・状況]基本方針:優勝しゲームに関する記憶を全部消した上でマヤちゃん達を生き返らせる。
1:チマメ隊の絆は永遠、だから私が取り戻すよ〜!
2:コッコロちゃんと協力して頑張る。
3:タラちゃん死んじゃったんだね…でも最後に生き返らせてあげる。
4:マサツグさんとクウカさんも、最後に生き返らせてあげるね!だから次はちゃんと殺さなきゃ
[備考]
※ディープスペクターの武器であるディープスラッシャーについては、変身しても出現しません。他の参加者に武器として支給されている可能性があります。
※ディープスペクターへの変身は他の仮面ライダーと同じく魔力を消耗しません。
※オレイカルコスの結界の効果には気付いていません。
56
:
地獄絵巻・序
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 22:09:51 ID:ewdI.nn60
【コッコロ@プリンセスコネクトRe:Dive】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、オレイカルコスの結界による心の闇の増幅 、キャルへの罪悪感(大)、運転中
[装備]:ホッパーゼクター&ZECTバックル@仮面ライダーカブト、量産型戦極ドライバー+バナナロックシード(ナンバー無し)+マンゴーロックシード@仮面ライダー鎧武、タンポポロックシード@仮面ライダー鎧武
[道具]:基本支給品一式×2、オレイカルコスの結界@遊戯王デュエルモンスターズ(アニメ版)、盗人の煙玉@遊戯王OCG(1時間使用不可)、スイカロックシード@仮面ライダー鎧武(2時間使用不可)、デスノート(複製品)@DEATH NOTE
[思考]
基本:主さまたちの所へ戻る、たとえどんな手段を使ってでも
1:逃走に集中、こちらの方(肉体派おじゃる丸)に関しては逃げてから考えましょう
1:コッコロは、悪い子になってしまいました
2:キャルさま……それでもわたくしは…………
3:メグさまと協力。ですがいずれは…
4:タラオさまはお亡くなりになられましたか…
5:カイザーインサイトを要警戒
[備考]
※参戦時期は『絆、つないで。こころ、結んで』前編3話、騎士くんに別れを告げて出ていった後
【肉体派おじゃる丸@真夏の夜の淫夢】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大)、右胸から左脇腹までの切創、淫夢ファミリーへの憎悪(極大)、虐待おじさんを殺せた喜び、ダンデライナーにしがみ付いてる
[装備]:
[道具]:基本支給品(タブレット破壊)、ゴッド・ハンド・クラッシャー@遊戯王OCG(発動不可)、攻撃誘導アーマー@遊戯王OCG(発動不可)、デス・メテオ@遊☆戯☆王(発動不可)、虐待おじさんのデイパック(基本支給品、ランダム支給品0〜2)
[思考・状況]基本方針:優勝して淫夢の歴史から自分の存在を抹消する
1:今は振り落とされないようにする
2:淫夢ファミリーだけは絶対にこの手で殺す。特に野獣先輩、野獣死すべし
3:黒の剣士とI♥人類の男は次に出会ったら絶対殺してやるっすからね……
4:遊戯王カードはこの決闘で大事すね……
5:できれば他の優勝狙いの参加者と組みたいすね。このメスガキどもと組めるすか?
[備考]
※遊戯王カードの存在を知っていますが決闘者じゃないのでルールなどは詳しくありません
※本来の名前を思い出せません
57
:
地獄絵巻・序
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 22:10:44 ID:ewdI.nn60
◆◆◆
「とんだ茶番だったな」
自分の協力者と、哀れな少女達だけが残った戦場跡。
誰に向けるでもなく、呆れを籠めた呟きが寒風に溶けて消える。
何度思い返しても時間の無駄だと、最上は辟易したように顔を顰めた。
そもそもだ、リンボがその気になれば先程の6人を全滅に追いやるのは容易い。
良子の練習台が欲しいなら、一人を除いて殺せば良い。
骸人形のストックがいるのなら、目当ての人物を拘束し良子の前に引き摺り出すだけで良かった。
リンボの能力自体は最上も評価しているだけに、先の結果は無駄としか言いようがない。
体力、魔力、時間。
それらを削って得られたのはガキ一人の脱落と、そいつの首輪のみ。
支給品は既に同行者に取られていたらしく、殺害も八房によるものでない為骸人形にも変えられない。
本当に何の意味があったのやら。
リンボがどんな悪趣味に走ろうと構わないが、遊びも度が過ぎればこちらの害となり兼ねない。
釘を刺しておくべきかと口を開きかけ、
「逸りなさるな最上殿。此度の優子殿の件は、最上殿にも益のある話ですので」
「何…?お前のくだらん趣味じゃないのか?」
「まあそれもありますが」
あっけらかんと肯定され、頭を抱えたくなった。
案の定個人的な露悪趣味のようだが、こほんと咳払いを一つ返される。
適当に煙に巻くのでないとすれば、優子に手を汚させたのには意味があるらしい。
黙って続きを促す。
58
:
地獄絵巻・序
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 22:12:44 ID:ewdI.nn60
リンボ曰く、シャミ子もまた妹と同じく魔族の血筋の者。
より深く観察し分かったが、シャミ子はどうやら夢魔に類する一族の血を引いている。
良子よりは素質があれど、持ち得る力を十全に使いこなしてるとは言い難い。
本人の魔力の低さ、何よりシャミ子自身の強い善性がストッパーの役割を果たしてるせいで、魔族の力を中途半端どころか最低値程度しか発揮出来ていない。
シャミ子自身の意思で魔族の能力を最大限に開花するのは難しい。
ならばどうするか。
「難しく考える必要もありますまい。拙僧らの方で水を与え養分を与えてやれば宜しい。優子殿が善性により己が種を腐らせるなら、ソレを取り除いた時こそ――」
「大きく化けるかもしれない、か?」
然り、そう頷くリンボから視線を件のまぞくの少女へ移す。
妹に抱きつかれている彼女は、自分のやった事を未だ受け入れられてない様子。
「どうしたのお姉?あっ、もしかして疲れちゃったのかな?それじゃあリンボさんにお願いして、休ませてもらおっか」
「良…ほんとに、どうしちゃったんですか…?わっ、わたし、あの子を、こ、ころ…!」
不思議そうに小首を傾げる良子に対し、錯乱状態のシャミ子。
温度差の激しい姉妹を見つめ、最上は考える。
今のままでは単なるリンボの被害者だが、こちらの動き次第では利用価値の高い道具へ変えられる。
無論リスクはあるだろう、しかし成功した場合のリターンも無視できない。
本当に上手くいくかは今後慎重に見極めるとして、世直しに利用出来るカードが手に入るのならば。
リンボの策に一枚噛むのも、選択肢として考えておく。
「あの娘に関しては一応納得してやる。逃げた連中は追わなくて良いのか?」
「構いませぬ。娘二人とあの被造物がどう転ぶか…ンンン!明るい未来は無いでしょう」
言わんとする内容は最上にも分かった。
殺し合いに乗っているらしい少女達、アレは間違いなく呪われている。
本人達は正気のつもりだろうが、リンボと最上の目は誤魔化せない。
何者かに術を掛けられたか、若しくは良子に使ったのと同じようなカード効果によるものか。
どちらにしても、一度呪いを受けた者の末路は決まっている。
祓わなければ破滅あるのみ、しかし祓ってやる義理も無い。
精々他の面倒な参加者とぶつかり、果てに身を滅ぼせばこちらにとっては好都合。
もう一組の男女、特に少年の持つ奇怪な力を持つ。
とはいえ戦闘を見る限りではリンボに遊ばれており、少なくとも継国縁壱程の要警戒対象とは思えなかった。
油断はしないがそこまで強く気に掛ける必要も無いだろう。
59
:
地獄絵巻・序
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 22:13:45 ID:ewdI.nn60
「それと、どうせ気付いているんだろうが聞いておく。追跡して来る奴はどうする?」
「無論、こちらとの接触を望むのなら応じてやりましょう。そろそろ追い付いても良い頃合いです」
魔法のじゅうたんで移動中、自分達を追いかける気配には気付いていた。
降りて待ち構えるか振り切るかを最上が思考する傍で、此度の戦闘をリンボが発見。
反対意見を言う暇もなくあれよあれよと乱入し後回しとなったが、結局会うつもりらしい。
使える者か、害になる者か。
灯花の時のように式神を使って様子を見るのが最善、しかし召喚可能なのは一体のみとのこと。
であれば自分達が直接会わねばなるまい。
追跡者の事は気になるがもうそろそろゲーム開始から6時間が経つ。
ルールブックにも載っていた放送が始まるまで、残り僅か。
「良子殿。姉妹水入らずへ邪魔をするのは不本意ですが、そろそろ宜しいですかな?今後の事で話したい事があります故」
「…っ!あ、あなた…あなたなんですか…!?あなたが良に……苺香さんも…!」
「これはこれは…おかしなことを仰りまするなァ。そこな娘を手に掛けたのは良子殿ですぞ?そして優子殿も、あの小童を死へ誘った。
姉妹共に互いを守護すべく手を汚すとは、かくも美しき姉妹愛には胸を打たれるばかり!」
「うん、そうだよね。良とお姉、どっちも大好きだから殺したんだよね。えへへ…お揃いだ」
「…っ。良……なんで……」
打ちひしがれるまぞくに憐れみこそ抱くも、手を差し伸べはしない。
放送後はまた大きくゲームの盤面が動き、自分もより直接的に動く必要が出るかもしれない。
だがどのような過程を経たとしても、辿り着く結末は一つ。
世直し実現、変わらぬ決意を宿し天を睨んだ。
60
:
地獄絵巻・序
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 22:14:29 ID:ewdI.nn60
【D-4/一日目/早朝】
【キャスター・リンボ@Fate/Grand order】
[状態]:疲労(小)、魔力消費(中)、上機嫌
[装備]:
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品0〜3(シャミ子の分含む)、RUM-バリアンズ・フォース@遊戯王ZEXALシリーズ、光の護封剣(ゴールドシリーズ)@遊戯王OCG、空飛ぶじゅうたん@ドラえもん、小倉しおんの首輪、フグ田タラオの首輪
[思考]
基本:ただ、己の衝動と欲望の赴くままに
1:最上啓示、悪霊の集合体であろうかの御方の行く末、見届けて差し上げましょう
2:吉田良子、どう利用してやりましょうか……ンンンンン
3:里見灯花、まあそちらは式神の方に任せておきましょう
4:吉田優子、こちらで目覚めを促してやるのもまた一興
[備考]
※参戦時期は地獄界曼荼羅、退場後
【吉田良子@まちカドまぞく】
[状態]:疑似英霊剣豪化?、疲労(中)
[装備]:死者行軍八房@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品一式、スパイセット@ドラえもん、ランダム支給品0〜1
[思考]
基本:姉とこのひと(リンボ)のためにみんなころす
1:お姉は見つかった。お母さんや桃さん、ミカンさんも探したい。その後は――?
2:灯花ちゃん、ちゃんとねむちゃんやいろはちゃんと会えるといいね
[備考]
※リンボの術式とバリアンズ・フォースの影響で、擬似的な英霊剣豪の様なものとなっております。
英霊剣豪特有の不死性は存在しませんが、バリアンズ・フォースの影響もあって身体能力その他が強化されております。もしかしたら魔術等を使用できるかも知れません。
【最上啓示@モブサイコ100】
[状態]:疲労(小)
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:世界の『世直し』を為す。
1:リンボはいい具合に手綱を握って利用する。裏切るなら殺す。
2:あの娘(良子)は哀れであるが、別にどうでもいい。
3:里見灯花、同じくあの女も哀れだ。
4:吉田優子に利用価値があるなら、リンボの案に乗るのも手か?
[備考]
※参戦時期はモブ達と出会う前。
※ボディは浅桐美乃莉のものです。ボディの入れ替えは不可能となっております。
61
:
地獄絵巻・序
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 22:15:01 ID:ewdI.nn60
【吉田優子@まちカドまぞく】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(極大)、タラオを殺した事への激しいショック
[装備]:魔王のぶき(リンボの魔力で汚染)@きららファンタジア
[道具]:
[思考・状況]
基本方針:みんなが仲良くなりますように
1:良が苺香さんを…どうして……
2:私人を殺して……
3:桃やミカンさんだけじゃなくて、なんでお母さんと良まで……
4:なんか強くなりました!まぞくは進化した!
5:小鳩さんの知り合いと皆を捜します!
[備考]
※参戦時期は夏休み(アニメ2期7話、原作43丁目)以降です。
※魔王シャドウミストレスに変身していますが、特殊な出来事が無い限り精神に異常をきたすことはありません。
【桜ノ宮苺香@ブレンド・S】
[状態]:骸人形、、右手首欠損、空飛ぶじゅうたんで移動中
[装備]:桜ノ宮苺香専用ㅤクリスタル@きららファンタジア
[道具]:基本支給品一式、ハーブティー@かぐや様は告らせたいㅤ天才たちの恋愛頭脳戦
[思考・状況]
基本方針:……
[備考]
※良子に八房で刺殺された為、骸人形になりました。
【ガーディアン・エルマの短剣@遊戯王OCG】
ガーディアン・エルマが装備している短剣。
装備カード『蝶の短剣―エルマ』と同様の効果を持ち、装備した者の攻撃力をアップする。
【フライングランチャー@遊☆戯☆王ZEXAL】
神月アンナが持ち歩いている巨大なバズーカ砲。
人に向けて撃つ以外に、空を飛ぶ事も可能。
【マンゴーロックシード@仮面ライダー鎧武】
ロックシードの一種でランクA。
戦極ドライバーに装填すると対応したアーマードライダーのマンゴーアームズに変身する。
【デス・メテオ@遊☆戯☆王】
マリクに洗脳された城之内がデッキに投入した魔法カード。
相手プレイヤーに直接1000ダメージを与える。
原作版の為LP3000以下の相手には使えない効果は無し。
一度使うと6時間使用不可能。
62
:
◆ytUSxp038U
:2024/08/20(火) 22:15:23 ID:ewdI.nn60
投下終了です
63
:
◆ytUSxp038U
:2024/08/29(木) 00:29:01 ID:laN16Wac0
ゲリラ投下します
64
:
物々交換録アルト
◆ytUSxp038U
:2024/08/29(木) 00:29:41 ID:laN16Wac0
歩く速度を上げても、脳裏へ刻まれた言葉は消えない。
歯を痛いくらいに噛み締めても、暗い誘惑を完全に振り払えない。
何度黙れと胸中で叫んだとて、効果が無いのは自分が一番理解している。
虫の鳴き声一つしない静寂の中を進んでいるのに、心は何時まで経っても喧しいまま。
情報交換を挟み再び移動を再開しどれくらい経ったか。
怪僧とこましゃくれた少女との出会い以降、遭遇した人数はゼロ。
参加者は勿論、NPCすら影も形も見当たらない。
良いことなのか悪いことなのか、或人には即座に答えが出せなかった。
未だに滅を発見出来ておらず、手掛かりもロクに掴めない。
そう考えると手放しにラッキーとは言えないが。
余計なトラブルに巻き込まれず滅の捜索へ時間を割けた。
見方を少し変えれば、悪い事でもないと言えるだろう。
例えば、襲われている参加者を助け時間のロスに繋がった。
体力と時間ばかりを消費している間に、滅が自分以外の者の手で討たれた。
人助けに精を出したのが原因で、復讐の機会は永遠に失われる。
そういった事態にならないとは限らない。
65
:
物々交換録アルト
◆ytUSxp038U
:2024/08/29(木) 00:30:16 ID:laN16Wac0
「……っ」
自分の中で何かが軋む感覚があった。
身勝手な思考を重ねた己への苦い嫌悪。
起こり得る展開への焦り。
誰かが殺されそうになるのを見捨てたい筈が無い。
けど滅を自分の手で破壊出来なくなるのも、受け入れられない。
前者は万丈との拳を用いた語らいで改めて自覚し、後者はリンボに毒を流され気付いてしまった。
どちらもゲームで会った者が影響している、しかし紛れも無い或人の本心。
復讐の為なら他の人の命などどうなったって構わない。
耳を塞ぎ目を逸らし、知ったことかと立ち去ればいい。
間違っていると否定を突き付けようにも、いざ声を挙げようとすれば躊躇が生まれる。
何が正解なのかが分からない。
灯花にも言われた、どっちつかずでは全部無駄になると。
復讐も叶わず命も取り零す、最悪の結末は非現実的に非ず。
理解している、だからこそ余計に迷いは強くなる一方だった。
「ちょいと宜しいですかい?」
「うわっ!?」
脳内に渦を巻きながら進み続ける最中、不意に声を掛けられた。
脚は止めずとも意識はリンボ達の言葉に大半が割かれており、接近する気配にも気付かず。
こうして向こうから呼び止められ、ようやっと相手の存在を認識。
油断し過ぎだ、悪意ある者なら攻撃を加えられただろうに。
情けない自分へ苛立ちつつ、声の主を見やる。
66
:
物々交換録アルト
◆ytUSxp038U
:2024/08/29(木) 00:31:38 ID:laN16Wac0
「うぇっ!?あ、あんた何!?」
数秒と経たずに二度目の驚愕。
無理も無い、すぐ傍に突っ立っているのはどう見ても人間では無い生物なのだから。
黒光りし横幅の広い体に、人間よりも多い手足。
頭部らしき箇所から伸びた触覚。
人の特徴が一つも無い、言うなれば巨大な昆虫。
そんな虫が何故か赤いパンツを履き、荷袋を背負い或人の目の前にいた。
レイダーやマギアの類かと身構えるも、レイドライザーやゼツメライズキーは見当たらない。
「そう警戒しないでくだせぇ。アタシャただの商人なもんで」
「いや、怪しむに決まってるって……」
困惑を隠せない或人とは対照的に、巨大昆虫は敵意を見せずに説明する。
一通りの話を聞き分かったのは、虫の名は魔導雑貨商人。
決闘者(デュエリスト)達には聞き覚えのあるだろう、デュエルモンスターズの昆虫族モンスター。
ゲームにおいてはNPCとして用意されたが、数時間前に或人が蹴散らしたガスマスクの集団とは役割が異なる。
曰く、ゲームを円滑に進める為の取引が可能。
他参加者から回収した首輪、若しくは現在所持中の支給品との物々交換で別の道具を提供するのだという。
これが提供できる道具の一覧と渡されたカタログを開けば、名前と写真に簡易な説明文がズラリ。
「と言っても価値が釣り合ってなきゃ交換はしませんぜ。ちり紙と引き換えに旦那が巻いてるようなベルトを寄越せと言われても、フェアじゃないんでね」
「じゃあ首輪と交換って言うのは…」
「強力な道具が欲しいならこっちに寄越す首輪の数も増えまさぁ。一応言っときますけど、アタシを殺しても道具は一切手に入りやせん」
魔導雑貨商人が提供する道具は参加者を会場へ送ったのと同じ、転送装置で手元に送られる。
つまりここで殺しても残るのはカタログだけで、肝心の道具は手に入らない。
67
:
物々交換録アルト
◆ytUSxp038U
:2024/08/29(木) 00:32:16 ID:laN16Wac0
「…やっぱり、殺し合いをゲームとしか見てないんだな」
「さぁ。アタシはただ物を交換するようプログラムされてるだけですんで」
テレビ画面の向こうのゲームであれば、こういったアイテムを売る商人は当然の存在。
しかし命が掛かった本物の殺し合いでは、悪趣味としか言いようが無い。
檀黎斗は冗談や比喩でなく、本気でゲームとして殺し合いを始めた。
今は滅への憎悪が勝るとはいえ、神を名乗る男に良い感情など抱ける筈も無い。
表情に険しさの増す或人だが、目の前のNPCはただ与えられた役割通りに動くだけ。
それこそ初見のプレイヤーへするかのように説明を行う。
「ああそうだ、道具以外に情報も売ってますぜ。例えば他の参加者がどこにいるかとか」
「えっ」
心臓が強く跳ねた。
黎斗への悪感情が一瞬で鳴りを潜める程度には、聞き逃せない言葉。
「本当に…教えてくれるのか……?」
「交換する物のレートによりますね。良いもんや首輪が多い程具体的な現在位置を教えますが、質が低けりゃ期待はしないでくだせぇや。数時間前の位置しか教えられないってこともあります」
当然タダで知る事は不可能、但し渡せる物によっては詳細な情報が手に入る。
ということは、滅が今どのエリアにいるかが分かるかもしれない。
その為には情報に見合うだけの物を渡さねばならず、チラとデイパックへ視線が移動。
首輪は持っていない、必然的に渡せるのは支給品。
食料やタブレットといった全参加者共通の物を渡した所で、旨みが少ないのは明白。
かといってビルドドライバーを始め変身ツール一式は無理だ。
アークワンに変身出来無い以上、今の自分が使える貴重な戦力。
もし滅と会っても破壊可能な力が無くては、何の意味も無い。
同様の理由でフルボトルバスターも渡せない。
メタルビルドと相性の良い武器なのは、先の戦闘で確認済みである。
68
:
物々交換録アルト
◆ytUSxp038U
:2024/08/29(木) 00:33:00 ID:laN16Wac0
となれば残るは二つ。
(でもそれは……)
クローズドラゴンもアナザーウォッチも、万丈が自分に託してくれた。
だというのに滅の情報欲しさに売り渡すのは、信頼を踏み躙る行為に他ならない。
何よりビルドドライバー等の変身ツールだって、聞けば元は万丈の仲間の戦兎の物。
次に会う時には再び仮面ライダーゼロワンになっていると信じ、纏めて返してもらうと言われた。
だから自分も自信はないけど、そうなるよう努力すると返したのは嘘じゃない。
交換可能な物は持ってないと言うのが正しい。
復讐だけに固執してしまった自分に喝を入れた男の信頼を、こんな形で裏切ってはいけない。
分かっている、誰に言われずとも分かっている。
だけど、必ずや己が手での破壊を望むヒューマギアの情報が手に入る。
降って湧いた思わぬ機会を、縁が無かったで終わらせるのには抵抗があった。
「あのさ、次にどのエリアに行けばあんたに会えるとかってのは…」
「そいつぁ教えられないよう設定されてます。次に旦那と会えるかどうかは…まぁ運次第ってことで」
ここで別れてもまたすぐ会える、と都合良くはいかない。
恐らく今自分の元へ現れたのも偶然に過ぎないのだろう。
「俺は……」
復讐か信頼か。
どちらを取ってもしこりの残る選択へ、或人は答えを出せずにいた。
69
:
物々交換録アルト
◆ytUSxp038U
:2024/08/29(木) 00:33:53 ID:laN16Wac0
【H-6/一日目/早朝】
【飛電或人@仮面ライダーゼロワン】
[状態]:迷い(大)、ダメージ(小)
[装備]:ビルドドライバー+メタルタンクタンクフルボトル+ハザードトリガー@仮面ライダービルド
[道具]:基本支給品一式、アナザーゼロワンライドウォッチ@仮面ライダージオウ×ゼロワン、令和・ザ・ファーストジェネレーション、フルボトルバスター@仮面ライダービルド、クローズドラゴン@仮面ライダービルド
[思考・状況]
基本方針:とりあえず滅をはか…倒す…
1:滅の情報を得る為に…………
2:滅がここにいるなら必ず倒す…つもりだ。でももし他の参加者に倒されたら……?
3:垓さんか…まぁ頑張ってくれてるといいな
4:とりあえずあった人からは話を聞いていこうかな
5:万丈の仲間に会えたら礼と情報交換をしなくちゃな
6:エボルトに警戒
7:主催の人達は許さない、けど滅よりは優先度は…まだ低いな
8:他の人達を助けて、それで間に合わなくなるなら……
[備考]
※参戦時期は43話開始直後。
『NPC紹介』
【魔導雑貨商人@遊戯王OCG】
リバース・効果モンスター
星1/光属性/昆虫族/攻 200/守 700
(1):このカードがリバースした場合に発動する。
魔法・罠カードが出るまで自分のデッキの上からカードをめくり、その魔法・罠カードを手札に加える。
残りのめくったカードは全て墓地へ送る。
今ロワにおいては参加者と取引を行う、言わば生きた移動アイテム販売店。
以下、大まかな詳細。
・首輪か所持している支給品と引き換えに道具を提供。提供可能な道具の一覧は魔導雑貨商人が持つカタログに記載。
・参加者が渡した支給品は新しくカタログに加わり、別の参加者が手に入れる事も可。
・転送装置で主催本部から道具が送られてくる為、魔導雑貨商人を殺しても道具は手に入らない。
・他参加者の情報も交換可能。渡す道具や首輪の数によって情報の正確さは変わる。
・どのエリアに現れるかは完全にランダム。また今回登場した以外の個体が存在するかは後続の書き手に任せます。
70
:
◆ytUSxp038U
:2024/08/29(木) 00:34:19 ID:laN16Wac0
投下終了です
71
:
◆ytUSxp038U
:2024/09/03(火) 22:25:01 ID:0UQ8opj20
武藤遊戯、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、白鳥司、閃刀姫-ロゼ、涼邑零、香風智乃、衛宮士郎、犬吠埼風、ジャンヌ、ルナ、エボルトを予約し延長もしておきます
72
:
◆ytUSxp038U
:2024/09/12(木) 21:10:19 ID:/fKPqQI.0
投下します
73
:
Judge End ─アドバンス・カーニバル─
◆ytUSxp038U
:2024/09/12(木) 21:11:22 ID:/fKPqQI.0
空を見上げたらロケットが飛んでいた。
何を言ってるんだと思われるだろうが、イリヤからしてみれば言葉通りの光景が見えたのだから仕方ない。
ジャック達と別れ移動を開始、雪で彩られた道を進みどれくらい経った頃か。
どこからか唸るような音が聞こえ、不思議に思い頭上を見た。
視界へ飛び込んだのはロッケト…と正確に言って良いのかは分からない奇妙な物体。
いつだったか、ニュース映像で打ち上げがどうたらと流れた白い乗り物とは明らかに違う。
相当な速さで飛んで行き、確認出来たのは一瞬。
しかしあれだけの大きさが飛んでいれば、地上にいる参加者が気付かない筈も無く。
イリヤのみならず、同行者の遊戯と司も思わず呆気に取られていた。
「な、なに今の。ギルくんが乗ってるのにちょっと似てたような…?」
『それ帰っても本人には言わない方が良いですねー。見た目のトンチキ具合は今飛んでった方が上ですが』
マスターの少々ズレた発言に返しつつ、飛行物体の向かう方角を探知。
炎を吹かしてはいるが、あれの動力源は間違いなく魔力。
流石に英雄王の宝物庫から出した宝具と比べるのは酷であるも、速度の面だけで見れば優秀な移動手段だろう。
目立ち過ぎるというデメリットに目を瞑ればだが。
如何なる経緯でロケット(仮)が作られたかはさておき、重要なのは何故ロケット(仮)を使うに至ったか。
美的センスは置いておいて、会場をスピーディーに移動可能なら使わない手は無い。
が、今しがた言った通りあの飛行物体は相当目立つ。
目撃するのが友好的な参加者だけとは限らない、むしろゲームに乗った者からは格好の的となる。
もしロケット(仮)に乗っているのが司のような争いとは一切縁のない、「普通」の世界に生きる者だとしても。
悪目立ちする危険性に全く気付かないとは、幾ら何でも考え辛い。
74
:
Judge End ─アドバンス・カーニバル─
◆ytUSxp038U
:2024/09/12(木) 21:12:03 ID:/fKPqQI.0
『んー、あれですかねぇ。目撃されちゃうのは承知の上で、一刻も早く移動しなきゃいけない必要に迫られたと』
「それって…誰かに襲われて急いで逃げてるってこと?」
『若しくは「来るなら来やがれ!俺は逃げも隠れもしねぇ!」とかいう、一人か二人はコンペ中に投げられる脳筋キャラムーブかもしれませんよ』
「まーたこのステッキは意味の分かんないことを…」
意味深なようでいて別にそんな事は無いルビーの言葉は、今に始まったものじゃないので軽く流す。
今考えるべきはロケット(仮)を追いかけるか否か。
余程自分の力に自信があり襲われるのはむしろ望む所という、後者の場合ならともかく。
前者であれば一刻を争う事態かもしれない。
襲われた際に傷を負い、重症のまま逃げ続けている可能性だって否定出来ない。
『まあ実は罠で、好奇心に駆られてロケットを追って来た人達を一網打尽、ってことも有り得なくはないですけど』
「でも…そうじゃなくて本当に怪我をしてる可能性もあるんだよね」
この場で立ち止まっていても、やれるのはあれかこれかと仮説を並べるだけ。
何かしらのアクションを起こさなければ、事態が好転する機会はやって来ない。
イリヤとしてはロケットを追いかけたい。
「俺はそれで構わない。今の俺達には檀黎斗を倒す為の仲間も情報も足りない、行ってみるだけの価値はあると思うぜ」
「…うん、私も追いかけたいかな。もしかすると、琴岡がいるかもしれないし」
公園での一件以来ギクシャクしたままだが、友達だと思ってるのは変わらない。
ウザいと言われて拒絶され、どんな顔で会えば良いのか分からなかったけど。
殺し合うとかいう悪趣味なもので、みかげが命を落とす方がずっと嫌だ。
もしロケットで逃げたのがみかげなら、会いに行かない理由は無い。
75
:
Judge End ─アドバンス・カーニバル─
◆ytUSxp038U
:2024/09/12(木) 21:12:42 ID:/fKPqQI.0
(まあアレに琴岡が乗ってるってのは、別の意味でどんな顔すりゃ良いか分かんないけどさ…)
奇天烈な飛行物体に跨る親友を想像し、思わず引き攣り笑い。
シュールな絵面は頭から追い出して、ともかく三人共意見は一致。
ルビーのナビに従って移動開始。
何ともおかしな見た目のロケットだったな等の、軽い言葉を交わしつつ先へ進む。
海馬が操縦するブルーアイズのジェット機を知っているだけに、遊戯は二人に比べ平然と受け入れていたが。
雪道を踏みしめエリア間を跨ぎ、気が付けば地面の白さは消失。
イリヤにしてみればエインズワースの工房内以外では久方振りの、雪が見当たらない道。
元の世界ではない、血濡れた箱庭で懐かしさを感じ苦い思いが走る。
顰めた顔が後方の二人には見えてない事へ安堵し、ルビーもあえて指摘はせずに案内を続けてくれた。
道中ゲームに乗った参加者との戦闘は起きなかった代わりに、NPCが群れを成して襲って来た。
ここは自分がと引き受けようとしたイリヤを制し、遊戯がエアトスで迎撃。
治療促進を掛けているとはいえ、受けた傷は決して浅くない。
幸いエアトス一体でどうにかなり、足止めで時間のロスになったが負傷も無く切り抜け移動を再開。
一行が到着した場所に件のロケットは影も形も見えない。
代わりにあるのは周囲から明らかに浮いた建造物。
ドオオオンという擬音が今にも聞こえて来そうな佇まい。
大金を掛けつつも成金特有の下品さを感じさせない、そんな豪邸が目の前にあった。
「…っていうかここルヴィアさんの家だよね!?」
『いやールビーちゃんもビックリですよ。あの人が知ったら、金髪ドリルでギガブレイクするくらいに怒――いえ、あんまり気にしなさそうですね』
美遊が転入して来た初日に我が家の向かいに建てられ、代行者との戦闘で崩壊の憂き目に遭うもすぐに再建築。
平行世界に飛ばされてからは当たり前だがすっかり目にしていない屋敷。
ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトの日本での仮住まい。
何がどうして、よりにもよって殺し合いの会場に存在するのか。
ロケットと言い予想外の光景に頭が混乱するも、状況は落ち着くまで待ってくれない。
76
:
Judge End ─アドバンス・カーニバル─
◆ytUSxp038U
:2024/09/12(木) 21:13:22 ID:/fKPqQI.0
「騒がしいと思って来たけど、人ん家の前で五月蠅くしちゃ駄目だろ?」
「っ!?」
同行者達ではない、知らない声。
身構えるイリヤの横では司も顔を強張らせている。
声の主は目の前、正確に言うと少し見上げた先。
閉じた門の上にしゃがみ、軽薄な笑みでこちらを見下ろす男。
夜闇と同化しそうなコートを羽織った彼は、揶揄うような表情で一件無害そうにも見えないことはない。
(この人……)
だがイリヤとて、クラスカードの回収に始まり幾つもの死線を潜り抜けて来た少女。
今更上辺だけの情報に惑わされはしない。
男の目は全く笑っておらず、自分達の一挙一動を見極めている。
敵か否か、前者であれば攻撃に躊躇は抱かぬだろう刃の如き瞳だ。
「待ちな、俺達はここへ襲いに来た訳じゃない」
緊張感が漂う中で、真っ先に男との対話を試みたのは遊戯だ。
強敵達との、時には命をも賭けた決闘(デュエル)を経験して来たが故にこの程度では動じない。
ジャック達との遭遇時は向こうが遊星の仲間だったからスムーズに情報交換が行えたものの、毎回そうなるとは限らない。
警戒を抱かれるくらいは想定内。
「俺達はロケットを追ってここに来た。若しかしたらこっちの仲間が負傷してるかもしれないし、そうでなくてもお互い殺し合いに乗ってないなら協力できる筈だ」
伝えた内容に嘘偽りは含まれていない。
やましいものが何も無いのだから、余計な隠し立てはせず堂々と口にするまで。
次はそっちがどう出るかを視線に乗せるて尋ねる。
77
:
Judge End ─アドバンス・カーニバル─
◆ytUSxp038U
:2024/09/12(木) 21:14:06 ID:/fKPqQI.0
「ふぅん?女の子侍らせてるから恰好付けたい、って感じでも無いか」
視線を逸らさない遊戯の姿と、背後の少女達を見比べ思案顔。
信用して良いかどうかを考える時間は長く無く、すぐに答えは出た。
門から飛び降り華麗に着地。
整った顔立ちと相俟って、靡くコートが随分と似合う男だった。
「恐がらせちゃってごめんね?外は寒いし、中で休みながら話そっか。イカした髪のアンタもそれで良い?」
ヘラリと表情を崩し微笑み掛ければ、重い空気は一瞬で霧散。
一触即発は無事に回避し、ホッと司は胸を撫で下ろす。
別に大人の男性が苦手という訳じゃないけど、ジャックや冥王と名乗るおじさんとはまた毛色の異なる相手。
自分の方にも顔を向けて来たので、とりあえず会釈しておく。
さっきまでは迂闊に近寄れない雰囲気だったのに、今やクラスの男子みたいに気安く接して来る。
掴み所のない人だと思った。
「魔導具…とはちょっと違うか?おっ、意外と柔らかくて伸びる」
『あ〜♡ソフトッタチがこそばゆい♡ごめんなさいサファイアちゃん、お姉ちゃんはは一足先に大人の階段を昇っちゃいました…♡』
「すみません、このステッキの言うことは真に受けなくて大丈夫ですので…」
緩いやり取りもそこそこに、男に案内され一行は屋敷の中へ。
敷かれた絨毯の色も細かい調度品も全て、イリヤの記憶にあるのと同じ。
歩く途中でルビーから「多分精巧に作ったレプリカでしょう」と言われ、余計に気味の悪さが増す。
メイド服姿の美遊を見れて、凛とルヴィアの小競り合いが繰り広げられた場は実際にはここじゃない。
だというのに、懐かしさを偽物の屋敷に一瞬感じた自分が嫌だった。
イリヤの内心がどうであれ、男は案内役を放り投げず部屋の前に到着。
ノックし声をかけると、扉一枚隔てた先から応答があった。
入室の許可を貰えたなら遠慮はいらない、中に入ると三人も後に続く。
家主であるエーデルフェルト家の令嬢の私室へ、無関係の者が土足で踏み入れるのは言語道断。
と言ってもレプリカの屋敷に、そういった常識を当て嵌める必要は皆無。
遠坂凛が見たら眉間に皺を寄せるだろう、大金を掛けたベッド。
その上で上体だけを起こした水色の髪の少女と、傍らに佇む軍服の少女。
どちらもイリヤ達には見覚えの無い顔だった。
「よっチノちゃん。もう起きて大丈夫なのか?」
「あっはい、ロゼさんが手当てしてくださったので。ご心配をおかけしました」
「そんなに畏まらなくても、もっと砕けた話し方でも俺は気にしないよ?ま、それはともかく後ろにいる連中なんだけど…」
「問題ない。零が案内したということは、危険は無いと判断。私から見ても、今の所敵意は無い」
軍服の少女は真顔で、水色の少女は少し驚き訪問者達を見つめる。
強く警戒をぶつけないのは今言った通り。
ここまで案内した男が判断を間違える人間ではないと、信頼しているからか。
先んじて屋敷を訪れた三人と、後から来た三人。
互いに初対面、捜索中の仲間や友はいない。
けれど命を弄ぶゲームを強く否定する志は同じ、武力を用いる必要はどこにも無かった。
78
:
Judge End ─アドバンス・カーニバル─
◆ytUSxp038U
:2024/09/12(木) 21:14:38 ID:/fKPqQI.0
○
超人類、野比のび太との戦闘から撤退後。
ロケットを飛ばし十分な距離を取ったのを確認し、ロゼは急ぎ開けた場所へ着地。
緊急時の移動手段としてならまだしも、常時乗り続けるには大きさ故にリスクが高い。
稼働時間の10分まで数分の余裕こそあったが、目撃者を無駄に増やしては後々自分達の首を絞める。
二階建て住宅程のサイズがデイパックに収まり、そこからは徒歩で移動開始。
零が背負い、ロゼが襲撃に対応できるよう役割を分担。
幸いと言って良いのか、移動中に襲って来たのは数体のNPC。
一部のバグスター達のような自我を持たないモンスターに、空気を読むのを期待しても無駄だ。
手早く片付け、辿り着いたのが現在イリヤ達もいる屋敷。
傷薬やガーゼを見付け、ロゼが手当てをしてる間零は見張りを担当。
時間や状況に関係無く他の参加者も訪れるだろうし、傷の処置に服を脱がす場へ男が同席する訳にもいかない。
「で、お客さんが来ないか見張ってた所にイリヤちゃん達が来たってわけ」
「そうなのか…涼邑さん達も危ない奴に襲われたんだな…」
屋敷に来るまでの経緯を聞き終え、司は神妙な顔で頷く。
自分とイリヤもゲーム開始早々女騎士に襲われたが、そういった例は当然他にもある。
こちらはイリヤが必死に戦い、遊戯が助けに来てくれたおかげで命が繋がったまま。
聞いた話では零達が戦った相手も相当な強さで、チノの負傷もそいつが原因だと言う。
(琴岡のやつ、本当に大丈夫なのかよ……)
女騎士もチノ達を襲った丸眼鏡で筋肉質の男も、どこの漫画のキャラだと言いたくなるような滅茶苦茶な危険人物。
自分達の場合は戦い慣れている善人が一緒だから助かったけど、全ての参加者が運に恵まれるとは限らない。
みかげも自分と同じ、特別な力を持たないただの女子中学生だ。
もし一人でいる所を女騎士みたいな参加者に出くわせば、為す術無く殺されたって不思議はない。
チノ達もみかげには会ってないらしく、今どうなっているのか不明。
無事を祈るが最悪の可能性が頭をチラ付いてしまう。
せめて殺し合いに乗っていない、信頼できる者に保護してもらっていればと思い、
79
:
Judge End ─アドバンス・カーニバル─
◆ytUSxp038U
:2024/09/12(木) 21:15:15 ID:/fKPqQI.0
(……本当に大丈夫だよな?)
もしや、保護してもらったは良いがその人と口論になったりとかはしてないだろうか。
参加者として招かれる少し前、公園でのみかげと撫子の喧嘩が思い出される。
まさかここでも参加者と衝突が起きてはいまいか。
みかげが危険人物に襲われるのとは別の問題も有り得ないとは言い切れず、頭が痛くなった。
弟の言葉で決心が付き、もう一度三人で過ごす為にみかげの家を訪ねた筈が殺し合い。
どうしてこうも余計なタイミングで、ふざけたゲームに巻き込むのか。
今更ながら非常に腹が立って来る。
女騎士と丸眼鏡の男は要注意人物として、6人と1本共通の認識を抱く。
続く会話の内容は友好的な参加者について。
まず主催者打倒を掲げる者全員に関係する、首輪の解除が可能な人物。
「確かアトラス様も言ってたけど、遊星さんって人なら外せるかもしれないんだよね」
「ああ。それに遊星はこんな馬鹿げたゲームに乗るような奴じゃない」
ジャックの仲間であり、パラドックスとの決闘では遊戯も共闘した青年。
凄腕の決闘者なだけでなく、メカニックとしての才能も超が付く程優秀。
Dホイールやデュエルディスクを自作する遊星にならば、首輪解除を任せられる。
人間性に関しても遊戯とジャックの両方から殺し合いに乗らないと断言出来る、正しき心の持ち主だ。
遊星とは別に各々探したい参加者の事を話す。
冴島鋼牙や海馬瀬人など、合流出来れば心強くとも本人達の能力を考えれば最優先で無くとも大丈夫だろう者達。
司やチノの友人達のように、元々一般人の為早めに見付けておきたい者達。
また信頼はしているが無茶をしないかという危惧もあり、出来れば合流を急ぎたいレイや城之内克也等々。
80
:
Judge End ─アドバンス・カーニバル─
◆ytUSxp038U
:2024/09/12(木) 21:16:40 ID:/fKPqQI.0
仲間達の話題が出たタイミングで、名簿上での不可解な記載にも言及があった。
海馬とココア、彼らの名前が何故か二つ記載されている。
一人だけなら単なる印刷ミスと考えられなくも無いが、二人もあれば流石に不自然。
こちらの疑問は平行世界の存在を把握し、実際転移した経験を持つイリヤとルビーがいた為スムーズに解決された。
恐らく海馬とココアの両名は、別の世界からも参加している。
荒唐無稽な答えだが、それを言えば自分達が巻き込まれた殺し合いが既に何でもありのメチャクチャな場だ。
頭から煙を出しショートし掛けるも、そういうものだとチノも受け入れる。
「ココアさんが二人…ラビットハウスの中に台風が吹き荒れそうです……」
「チノはココアをどっちも独り占めしたいの?」
「えっ!?そ、そんなことありません。二人もいたら、私もリゼさんも今以上に振り回されてしまいますっ」
赤い顔で否定するチノを尻目に、イリヤは平行世界の人間について考え込む。
殺し合いに関わる人物で、彼女が知っている者は二人。
一人は人質として紹介された美遊・エーデルフェルト。
もう一人は参加者名簿に記載された青年。
「…ねえルビー。ずっと気になってたんだけど……」
『皆まで言わずとも、ルビーちゃんにはお見通しですよー。士郎さんのことですね?』
衛宮士郎、過去にイリヤの父が養子に迎えた義理の兄。
一つ屋根の下で暮らす彼もまた、殺し合いの会場に拉致されてしまった。
自身の生まれた世界でクラスカード回収を行っていた頃のイリヤなら、そう考えただろう。
しかし平行世界でエインズワースと戦い、『彼』の存在を知った今ならもう一つの可能性が思い浮かぶ。
『参加している士郎さんは美遊さんのお兄さんの方、その可能性は高いです。むしろ大々的に美遊さんの存在を公表した以上、あっちの世界の士郎さんの方が受ける衝撃は大きいでしょうね。
檀黎斗もそれが分かっているからこそ、ああいった行動に出たのだと思いますよ』
「…っ」
自分の兄が危険な目に遭うのも最悪だが、もう一つの可能性も言うに及ばず。
平行世界の士郎が美遊を助ける為にどれ程傷付き、苦難の果てに絶望へ打ち勝ったか。
衛宮邸で過去に起きた聖杯戦争の話を聞き、込み上げるものの大きさに涙を流した瞬間は忘れない。
なのにどうだ、兄妹は再び引き裂かれた。
士郎がどんな思いで美遊を平行世界に飛ばし、牢獄で自分と初めて会い感涙したのか。
それらを檀黎斗は、ゲームを盛り上げるスパイスの一環程度にしか見ていない。
やるせなさと黎斗への激しい怒りが胸を焦がし、同時に士郎への不安も高まる。
美遊を助け出した時点で、既に彼の体はボロボロだった。
そんな状態で美遊を黎斗の元から助ける為に無茶な戦い方を繰り返し、その果てに待ち受けるのは死か、或いは無銘の英雄(エミヤ)の完全侵食。
どちらだろうと、到底納得のいく結末では無い。
81
:
Judge End ─アドバンス・カーニバル─
◆ytUSxp038U
:2024/09/12(木) 21:17:35 ID:/fKPqQI.0
(…美遊さんと同じように確保し士郎さんも参加せた、本当にそれだけですか?イリヤさんや遊戯さんが参加している事からも、主催者が時間移動を把握してるのは確実。となると…殺し合いの点から見ても、士郎さんはイリヤさんと会うよりも前の……いえ、結論を出すにはまだ早い……)
「ルビー?どうしたの急に黙り込んで」
『あー、お気になさらず。どちらの世界の士郎さんがいるにせよ、早めに見付けるに越したことはないですねー。
イリヤさんが絶賛片思い中で、【小学生の私だけど6歳年上のお兄ちゃんとガチ♡恋しちゃってます〜衛宮家緊急家族会議待ったなし〜】の士郎さんがいるって可能性もゼロではないですので』
「ちょ!?絶対後半の変なタイトルっぽい件いらなかったでしょ!?」
「イリヤさんは、『妹』としてお兄さんに恋をしてらっしゃるんですか?」
「チノさんも何でそこに食い付いちゃうの!?」
「誰を好きになったって悪いことじゃない。イリヤはもっと堂々として良い」
「ロゼさんも親指立てなくて良いからね!?」
マスターをおちょくるという、相棒ながら舐め腐った趣味はここでも健在。
サラッと兄への想いを曝露された挙句、何故かチノが瞳を輝かせロゼもサムズアップをしてきた。
シリアスが長続きせず頭を抱える傍らで、遊戯も自身の相棒と言葉を交わす。
(ねぇもう一人の僕。参加してる海馬くんの内片方が平行世界の海馬くんなら、城之内くん達もその可能性があるんじゃないかな?)
(海馬と違って名簿に載ってる名前は一つ。だが俺達と同じ世界の城之内くんや御伽とは限らない、そういうことか?相棒)
(うん、それにもしかしたら本田くんも……)
一番最初に集められた空間、磯野に食って掛かった直後に殺された親友の一人。
実は本田ももう一人の海馬と同じく、遊戯とは別の世界の人間なんじゃないか。
可能性が真実なら、あくまで平行世界の本田が死んだに過ぎず自分の世界の本田は生きている。
と、自分自身の考えに後悔と怒りが湧き上がった。
たとえ平行世界の本田だろうと、死んでいい筈が無い。
制止する自分を安心させようと微笑んだ彼は、紛れもない「武藤遊戯の大切な友の本田ヒロト」だ。
なのに自分は今、よりにもよって平行世界の本田なら自分の世界に影響無いなどと、彼の死を侮蔑するに等しい事を一瞬とはいえ考えてしまった。
(ごめん、もう一人の僕……僕最低だ……)
(相棒……)
悔やむ相棒に遊戯も言葉が見付からない。
殺し合いが始まって時間を置かずイリヤ達の危機に駆け付けたのもあってか、長々と悲しんでいる余裕は無かった。
しかし今、改めて本田の死が重く圧し掛かる。
意識が奥に引っ込んでいる相棒は当然、己にとっても本田は城之内や杏子と同じ親友の一人。
BIG5とのデュエルで体を奪われた時とは違う、本当の死を迎えた。
カードに幽閉された祖父の魂を救ったのと同じ展開にはならない、デュエルに勝っても本田の魂は返って来ない。
その事実が決闘王(デュエルキング)の心に影を落とす。
82
:
Judge End ─アドバンス・カーニバル─
◆ytUSxp038U
:2024/09/12(木) 21:18:32 ID:/fKPqQI.0
とにかく互いの持つ情報は粗方話し終えた。
それぞれ水を取り出し喉を潤すなど、一息つくムードが漂う。
「あっ、ちょっと待って。遊戯と二人で話したいから、付き合って欲しい」
「俺か?別に構わないが…」
「んじゃ、俺も話が終わるまで見張りやっとくよ。チノちゃん達も、もう少しガールズトークを楽しんでて」
「そんなに長くはかからないと思うけど、遊戯の答え次第」
ロゼからの誘いに困惑を抱くも承諾、遊戯達と揃って零も部屋を後にする。
残ったのは三人の少女と愉快な魔術礼装。
「ガールズトークって場合でもない気がするんだけどなぁ…」
「いえ、きっと私達が煮詰め過ぎないように零さんなりの気遣いだと思います」
軽薄な態度や言動の裏では、常に自分とロゼを気に掛ける優しさがある。
出会ってからの零を間近で見ているだけに、チノが信頼を置くまで時間は掛からなかった。
ココアへの素直になれない気持ちに耳を傾け、支えてくれたロゼも同じだ。
殺し合いに巻き込まれたのに言うのは変かもしれないけど、自分は本当に運が良いのだと思う。
優しくて強い彼らと出会い、仲間として受け入れてもらった。
先の丸眼鏡の男の言葉に揺らいだ時も、支えてくれる二人の存在がどれ程心強かったか。
ロゼと零に感謝する反面、自分のようにならなかった少女の存在が棘となって突き刺さる。
たった一人で抗い、その果てに命を奪われた友の最期はきっと永遠に忘れられない。
「香風さん?顔色悪いけど大丈夫か?」
「す、すみません。ちょっと、マヤさんのことを考えて……」
チノの口から出た名前に、心配気な顔を作る。
放送で金髪の男に殺された少女が、チノの親友の一人なのは先程聞いた。
友達が巻き込まれているだけでなく、死ぬ瞬間を見世物のように扱われる。
それがチノの心にどれ程の傷を刻んだのか、想像も出来ない。
イリヤだってもし美遊が人質にされるのみならず、マヤのようになったら果たして正気を保っていられるのか。
ダリウスが世界を終わらせた時とは条件が違い過ぎる、クロだけでなく美遊も失い心はまだ奮い立たせられるか。
「チノさん……」
「大丈夫です、ロゼさんの胸でいっぱい泣きましたから。それに、私にはまだ守りたい人達がいます」
打ちのめされて塞ぎ込むのは簡単だけど、逃げる選択をチノは払い除ける。
ココア達を自分の剣で守る、ロゼとの誓いを嘘にするなどお断り。
自分が死ぬのは勿論嫌だけど、大切な人達が殺されるのはもっと嫌だから。
(凄いな、二人とも…)
親しい人が殺され、悪辣な者達に囚われても。
自棄を起こさず戦おうとする姿は、司にとって眩しいくらいだ。
最初はイリヤと同じ小学生かと勘違いしたくらいに小柄なチノだけど、心は自分よりもずっと大きく見える。
イリヤに守られ、無茶をさせてしまった自分がどうにも情けない。
無意識の内にため息が零れ――
『ッ!?イリヤさん!障壁を――』
視界を光が覆い尽くした。
83
:
Judge End ─アドバンス・カーニバル─
◆ytUSxp038U
:2024/09/12(木) 21:19:11 ID:/fKPqQI.0
○
「ここならチノ達にも聞こえない。白状するなら今の内」
ルヴィアの私室を離れ、立ち止まり話を促すロゼに遊戯はまたもや困惑。
どうも杏子や舞、レベッカと言った自分の知る女性陣とは異なるタイプでやりにくい。
尤も、遊戯が困惑する理由は他にもあるのだが。
「ロゼちゃん、直球過ぎて伝わってないんじゃない?遊戯が何か言いた気にロゼちゃんのことチラ見してたのも、一緒に言わないと」
「そう、その通り。最初に私を見た時も驚いてたけど、どうして?」
「…気付かれてたのか」
悟られないように動揺は顔に出さなかったつもりだが、相手は歴戦の閃刀姫と魔戒騎士。
あっさり見抜かれており、つい感嘆の呟きが漏れる。
別に後ろめたい内容を隠していたのではない、ただ大っぴらに話すのも少々憚れる内容だった。
こうして相手の方から話せる場を提供されては、この期に及んでシラを切りはしない。
「なあロゼ、俺は屋敷に来る前にアンタやアンタの仲間のレイの事を知った」
「…どうして?さっきレイには会ってないって言ったのは嘘?」
「そうじゃない、理由に関してはこいつを見てくれ」
言って差し出されたのは参加者共通の支給品。
首を傾げタブレットの画面を見下ろし、驚愕で目を見開く。
「レイ……?」
「それにこっちは…ロゼちゃんだよな…?」
ディスプレイ上に映るカードらしき画像。
下部のテキストはともかく、イラストとカードの名称を知らない訳が無い。
閃刀姫、レイとロゼ。
まるで意味が分からないと言った二人へ、遊戯が一から説明を始める。
84
:
Judge End ─アドバンス・カーニバル─
◆ytUSxp038U
:2024/09/12(木) 21:19:50 ID:/fKPqQI.0
今開いているのは放送後に追加された、デュエルモンスターズのルール。
ジャック達と別れた後、自身のデッキは手元に無いが念の為にと遊戯もアプリを起動。
ページを捲り、ふと目に付いたのは召喚方法のやり方とカードを使った例。
シンクロ召喚は遊星がやったのを実際に見たが、どうやら特殊召喚は他にもあるらしく更に読み込む。
エクシーズ、ペンデュラム、リンク。
聞いた事も見た事も無い単語やカードが次々現れるものだから、あの時はさしもの遊戯も目を白黒させた。
そうして見付けたのがリンク召喚の項にて記載された、閃刀デッキ。
黒い軍服に身を包み、得物を構えた少女こそ遊戯が屋敷で出会ったロゼである。
ロゼからしてみれば意味が分からない。
何故自分とレイ、いや閃刀姫という存在がカードゲームに登場してるのか。
まさか自分達の知らない所で、戦争への投入以外にこういった形で閃刀姫を利用していたとでも?
馬鹿なと、自分で自分の予想を否定する。
あの列強国が兵器としてでなく、娯楽に閃刀姫を使うなど有り得ない。
「多分だが、イリヤ達が言ってた平行世界ってことだと思うぜ」
「それは……つまり…?」
遊戯が何を言いたいのかも、混乱の抜け切らない頭ではすぐには察しが付けられず聞き返す。
一方遊戯はロゼの様子から、デュエルモンスターズの精霊ではないと分かった。
ダーツとのデュエルで力を貸した伝説の3体の竜と違い、ロゼはデュエルモンスターズに関して一切知らない。
あくまで遊戯の推察になるが、恐らくロゼやレイは元々デュエルモンスターズが存在しない世界の住人。
閃刀姫というのもカードのテーマではない、現実に造り出された存在なのだろう。
と言った説明を行う時間は唐突に失われた。
「「――ッ!!」」
動揺から一変、引き抜いた剣の如き瞳を揃って同じ方向へと向ける。
事情を事細かに伝える時間は無い、遊戯の反応も今や後回し。
姿は見えずとも存在は、身を引き裂かんと迫る殺意は確かに感じ取れた。
ありとあらゆる場所から死が襲う戦場を駆け抜けてきた、列強国の閃刀姫。
陰我を餌に根を伸ばす魔界の住人との死闘へ身を投じた、歴代最強の魔戒騎士の一人。
到着まで一刻の猶予も無い、死から逃れるべく動き出し、
閃光と衝撃が三人を襲った。
85
:
Judge End ─アドバンス・カーニバル─
◆ytUSxp038U
:2024/09/12(木) 21:20:56 ID:/fKPqQI.0
◆◆◆
ロケットを追い掛けるか、発射地点へ向かうか。
暫し悩んだ末に風が選んだのは後者。
考え込む振りだけして実はこれといった理由も無しに適当に言った、ということではない。
自分達に限らずロケットの目撃者が口を揃えて言うだろうが、あのトンチキな飛行物体はかなり目立つ。
殺し合いで悪戯に注意を引くのが如何に危険か、理解してないとは考え辛い。
恐らくだが、目立つのを承知の上でロケットを使わねばならない事態に陥った。
となればロケットに乗っている者は、負傷している可能性が高い。
具体的にどれ程弱っているかは分からなくとも、万全でないなら自分達にとって好都合。
仕留めるには絶好のチャンス。
尤も断言出来る程の根拠も無く、勘頼りの部分があるのは否定できないが。
とはいえ士郎からは反対されずアッサリ承諾。
思い切りの良い人間は個人的に嫌いじゃ無いが、そんな即答で良いのか。
風の内心を知ってか知らずかロケットが飛んで行った方向へ進み出し、慌てて士郎の背を追い掛けた。
片や夢幻召喚を行った少女、片や未来の英霊に置換(侵食)される少年。
人の限界を優に超えた身体能力を持ち、当然移動速度も常人とは比べ物にならない。
飛行物体よりは流石に落ちるとしても、大きなトラブルにでも見舞われない限りは追い付けない訳ではなかった。
「っとに最悪…!ワラワラワラワラ湧いて虫かっての!」
残念ながら不運が降り掛かり、余計に時間を割かれる羽目になったのである。
ゲームにおける参加者以外の存在、主催者が会場に放ったNPCのモンスター。
数体程度ならともかく、10を超える数が一気に襲って来ては流石にのんびり構えてもいられない。
しかもOCGで言えばレベル5以上、攻守2500前後のモンスターも少なく無かった。
ホカクカードで戦力確保を行う不動遊星なら良い機会と思うだろうが、士郎達からすれば迷惑以外の何物でもなく。
結果、いらぬ労力を強いられ風の機嫌は急降下している。
86
:
Judge End ─アドバンス・カーニバル─
◆ytUSxp038U
:2024/09/12(木) 21:24:24 ID:/fKPqQI.0
「ぶった斬った傍から違うのが出て来るし…もしかして、衛宮さんがアイツらの好きな匂いとか出してる?」
「どんな匂いだよ。単に参加者なら誰でも餌に見えてるんじゃないか?」
「あーやだやだ、あんな連中にモテても嬉しくないわよ」
げんなりする風には士郎も苦笑いを返す他ない。
気持ちは分からんでもない、襲ってきた中には昆虫系のモンスターもおり中々にグロテスクだった。
思い出したのか余計に嫌そうな顔になる風だが、全てが無意味な戦闘かと言えば違う。
「まあお互い、持ってる武器には慣れたしそこは無駄じゃなかったと思うぞ」
「そうだけどさぁ…ってか余裕で私の一撃受け止めてた衛宮さんが言っても、嫌味にしか聞こえないんだけど」
バイザー越しにジト目を向けられ、曖昧に笑い誤魔化す。
実際風としても、勇者システムとは異なる力の練習台としてならNPCは丁度良い相手だったと思う。
互いに打ち明けてはいないし話すつもりも無いが、本来の彼らの力はおいそれとは使えない事情がある。
投影魔術の使用回数を重ねる毎に、肉体が英霊に蝕まれる士郎。
絶大な力を齎す満開を経て、神へ身体機能を捧げねばならない風。
目的の為には絶大なリスクも飲み込む覚悟だが、代用の力で乗り切れるなら利用しない手は無かった。
幸い、支給された武器はどちらにとっても当たりの類に入る。
得意とする刀剣類、しかもディスクを使えば双剣を装備可能なシンケンマル。
投影せずとも十分な強度と切れ味の得物を使えるのは、士郎にとって有難かった。
サーヴァントカードは勇者と別物だが、アーサー王の力とやらは風としても申し分ない。
スマホが支給されずとも、これなら問題無く戦える。
何より、心情的にも妹の声を奪った忌まわしいシステムよりはずっとマシなのだから。
(どう考えても「剣道やってます!」ってだけの動きじゃないっぽいかなぁ。夏凛みたいに戦闘訓練してたとか?)
(セイバーの新しい使い手なら疑問は無いけど、剣を振るうのに迷いが一切無い。殺し合いの前から荒事を経験してる、か)
加えて馬鹿正直に伝えはしないが、互いの戦う様子もしっかり観察している。
協力はあくまで一時的、いずれは道を違えるのが確定な関係だ。
遠くない内に必ず来る決別に備えて、戦力を把握しておくのは当然である。
87
:
Judge End ─アドバンス・カーニバル─
◆ytUSxp038U
:2024/09/12(木) 21:27:11 ID:/fKPqQI.0
時間は掛かったが白一色のエリアを抜け、住宅地へ足を踏み入れる。
ロケットの向かった方角は南、民家が立ち並ぶここに身を潜めたと考えるのが自然。
腰の刀を意識し進む士郎の隣で、風は支給品を使い注意深く家々を調べる。
一見何の変哲もない望遠鏡だが説明書によると、壁数枚隔てた先まで透視する機能があるのだという。
魔術礼装の一種かと思うも、そこは重要じゃないので深堀りしなかった。
「言っとくけど貸さないわよ。覗きにでも使われちゃ、私も女として黙ってられないから」
「犬吠埼の中で俺はどういう扱いなんだ…」
年上と言う事もあってか自分をさん付けで呼んではいても、随分砕けた態度で接して来る。
もういない後輩の少女とは違うタイプに、どうも反応に困った。
「…今衛宮さんが勝手に私を誰かと比べた気がする…」
「…いや誤解も良いところだろそれ」
「最初の沈黙がどうも怪し――見付けた」
軽口の応酬は終わり、共に同じ方向を睨み付ける。
周りに立つ家と比べて一際大きい屋敷だ。
士郎が住まう冬木には無い建造物を、望遠鏡で細かく調べる。
「3人…違う、6人いる。二ヶ所に別れてるみたい」
「どんな奴らかは見えるか?」
ダイヤルを調整し、屋敷内にいる人数・位置・容姿を確認。
名簿に勇者部の4人の名が無かったので当然、風の知る者は一人もいない。
士郎も同じく、『参加者』に知っている者は皆無。
だから屋敷内の参加者の外見を伝えられても、何らかの反応を見せる事は無かった。
向こうがこちらに気付いた様子はない、対して自分達は正確に位置を把握。
先手を打つには持って来いの状況を、利用しない馬鹿に非ず。
中には子供もいる、その事実に何も感じない冷徹な人間では無い。
だが今更躊躇を抱くような、中途半端な心構えでもないのだ。
88
:
Judge End ─アドバンス・カーニバル─
◆ytUSxp038U
:2024/09/12(木) 21:28:21 ID:/fKPqQI.0
弓を投影し狙い撃つのが嘗ての聖杯戦争でのセオリーなれど、可能な限り魔術は温存しておきたい。
肉体の侵食はもとより、今後を考えれば風の前で手の内を明かし過ぎるのも避けたかった。
ここは支給品を有効に活用させてもらう。
シンケンマルのディスクを回し、異なる形状の武器へ変化。
刀身へ刻まれた「火」の一文字は、侍戦隊を率いる殿専用装備の証。
重厚な刃を以て外道衆を斬った剣の名は烈火大斬刀。
志葉家の当主が豪快に振るい、世界の破壊者と結んだ絆の証は悪を為す兄の手に渡った。
外見に違わず敵を一刀両断可能だが、もう一つの使い道もある。
刀身部分を倒し、大筒モードとも呼ばれる遠距離形態へ変化。
ディスク装填が済んだ大筒を風に渡し、最後の支給品を取り出す。
「銃…じゃなくて牛?」
「モウギュウバズーカって名前らしいぞ」
「見たまんま過ぎでしょ…」
風の呆れはさておき、立派な武器であるのには変わり無し。
烈火大斬刀同様、こちらも元はシンケンレッドこと志葉丈瑠が使う装備だ。
牛折神の特性を備えた大筒は、人の世を脅かすアヤカシを葬るのが本来の役目。
残念ながらシンケンジャーと同じ志の戦士の手には渡らなかったが。
威力を最大に高める為のディスクを装填し、照準を合わせる。
士郎も風も銃火器は使い慣れた武器とは言い難いが、標的の位置が分かっていれば然程問題にはならない。
反動の大きさも今の身体機能なら耐えられる。
「準備は良いか?」
「いつでも」
それぞれ狙いを付け、胸中で燻る罪悪感を噛み殺す。
合図は一瞬、引き返す道を自ら壊し底へ底へと突き進む。
千の屍以上を築き上げようとも助けたい者の為に、引き金を引く。
外道を地獄へ送り返す光輪が発射、轟音を立てて屋敷の二ヶ所が吹き飛んだ。
(死んだかな……)
煙を上げる屋敷を見て、生き残るのは難しいだろうと風は思う。
大筒モードの烈火大斬刀は本来、シンケンジャー全員のディスクを装填し放ってこそ最大級の火力を発揮する。
一枚だけでは威力も低下、現にシンケンレッドが筋殻アクマロに撃った時はあっさり防がれた。
だがそれは、外道衆の中でも上位の実力者であるアクマロだから出来た芸当。
壁越しの人間三人を跡形も無く消し飛ばす程度、ディスク一枚でも十分可能だ。
烈火大斬刀を士郎に投げ渡し、これで本当に人を殺し戻れなくなったのを噛み締める。
89
:
Judge End ─アドバンス・カーニバル─
◆ytUSxp038U
:2024/09/12(木) 21:29:02 ID:/fKPqQI.0
「っ!まだ終わってない!」
と、感傷に浸るには気が早過ぎた。
協力者の怒声を最後まで聞かずに剣を翳し、間髪入れずに衝撃が刀身を襲う。
反応が間に合ったのは、バーテックス相手に切った張ったを繰り返した経験が活きた為か。
理由を詳しく探る等の無駄な思考は削ぎ落とし、バイザー越しに敵を睨む。
爆風の中を突っ切り、弾丸の如き勢いで斬り掛かった少女。
銀髪を靡かせた閃刀姫もまた、真紅の瞳で斬るべき相手を射抜く。
丸眼鏡の男と同じだ、会話の余地を許さずに攻撃を仕掛けたのなら容赦してやる理由も無い。
「こっちもか…!」
「訪問のチャイムにしては過激にも程があるでしょ、お宅ら」
爆風を飛び出し疾走した黒い影はロゼ一人じゃない。
脅威の急接近を視界のみならず肌で感じ取り、士郎も戦闘態勢へ移行。
赤き大剣を再び日本刀へ戻し、流れる動きで双剣に変化。
一撃の威力こそ強烈でも振るう速度はシンケンマルに劣る。
今から相手取る敵を前に、自ら速さを捨てるのは愚の骨頂。
交差させた刀が衝突するは、士郎同様に二振りの刃。
魔界の住人ホラーにとっての猛毒、魔戒剣を手に零が魔術使いと斬り結ぶ。
対アヤカシ用の大筒を撃ち込まれれば、只の人間に抗う術は無い。
なれど、此度の標的を容易く殺せると思ったら大間違いだ。
自らへ迫る殺意に何も出来ないようなら、とうの昔に戦場で力尽き、或いはホラーの餌となっただろう。
襲撃を察知し体は一切の無駄なく回避へ動き、大筒の直撃には至らなかった。
90
:
Judge End ─アドバンス・カーニバル─
◆ytUSxp038U
:2024/09/12(木) 21:29:54 ID:/fKPqQI.0
彼らに助けられた決闘者も、五体満足で生き延びている。
「おっと…!一人だけ行かせたりはしないよ!」
サーヴァントカードの恩恵で感覚も常人の数十倍に引き上げられたのだろう。
煙に紛れて離れようとする鼠を一匹目敏く発見。
コソコソ隠れても無駄だ、聖剣で力任せにロゼを押し退ける。
紅葉みたいなぶっ飛んだ髪型の少年が、何かする前に斬り殺す。
「うえっ!?まだ仲間がいたの!?」
騎士王の聖剣を決闘者に届かせまいと、女剣士が妨害。
屋敷の中にはいなかった筈の人物へ驚くのも束の間、背後よりロゼが斬り掛かる。
女剣士との鍔迫り合いは中断し真横に回避。
空を切った剣を見送らずに二人、いや三人の標的をしかと隻眼に焼き付けた。
「大丈夫?遊戯」
「エアトスを召喚しておいたからな。だが助かったぜ」
襲撃こそロゼ達の手を借りたが、そこから状況に置いて行かれたつもりはない。
急ぎエアトスを戦場に出し、次に何が起きても対処可能な準備は出来た。
見た所敵は二人、ロゼと零に加勢といきたいが被害に遭ったのは自分達3人だけじゃあない。
砲撃はイリヤ達がいた部屋にも行われたようで、煙が上がるのが見える。
向こうはどうなった、何とか凌げたのか、或いは最悪の事態に陥ってるのでは?
仲間達への不安は加速し、すぐにでも駆け付けたいが敵は素通りさせてくれない。
敵の対処は自分達に任せて、遊戯はチノ達の元へ行くよう伝えようとするが、
「悪いけど、作戦会議を許してあげる程優しくないのよ!」
「む、空気の読めない奴」
ロゼとエアトスを襲い、隙あらば遊戯も狙う。
ここから離れるのを風が許可した覚えはない。
見れば零も士郎の相手で手が離せず、状況はこちらが悪い。
チノ達の無事を確かめたいというのに、叶わず強制的に足止めを食らう。
焦る内心を嘲るように、剣戟の音は激しさを増した。
91
:
Judge End ─アドバンス・カーニバル─
◆ytUSxp038U
:2024/09/12(木) 21:30:20 ID:/fKPqQI.0
◆◆◆
「――――っ!?みんな大丈夫!?」
ルビーの言葉を最後まで聞くより先に転身し障壁を展開。
11歳ながら既に幾度となく、命懸けの戦いに身を投じた経験に救われた。
クラスカードの回収、8枚目のカードから現れた黄金の少年、エインズワースとの死闘。
気を張り続けねば命は無い、欠伸を漏らした瞬間に何が起きたかも理解せず死ぬ。
魔術の世界は子供相手だろうと優しくなくて、だからこそこの瞬間の糧となる。
魔術障壁と物理保護の重ね掛け、両方にリソースを割き砲撃の威力を削いだ。
だがモウギュウバズーカは上位の力を持つアヤカシですら一撃で葬る、スーパーシンケンレッドの武装。
まして最終奥義ディスクを装填し放ったのだ、勢いを簡単には殺せない。
障壁を張ったまま、イリヤの背後にいた二人を巻き込み窓ガラスを突き破って吹き飛ばされた。
屋敷から引き離された先で落下したのである。
「大丈夫です…!イリヤさんが守ってくれましたし、司さんも私が…」
「あ、ああ…!二人とも助かった!ってか何が起きて……」
イリヤに遅れる形ではあるが、チノも専用ソードを使い変身。
身体能力強化の恩恵を受け、地面に叩きつけられても生きていられる打たれ強さを得た。
危険なのは二人と違って普通の人間の肉体の司。
高所から落ちれば骨が折れるし、当たり所が悪ければ即死も有り得る。
咄嗟にチノが引き寄せ守ったお陰で、大事にはならずに済んだ。
92
:
Judge End ─アドバンス・カーニバル─
◆ytUSxp038U
:2024/09/12(木) 21:31:07 ID:/fKPqQI.0
互いの無事に安堵するも、気を抜ける段階ではない。
屋敷が何者かに襲われた以上、きっと遊戯達にも危険が迫っている。
彼らを信じていない訳ではないが、かといってこのまま任せっ切りは御免だ。
仲間達の元から遠ざけられたのは痛い、一刻も早く戻らなくては。
『――待ってください皆さん!こちらへ急接近する反応があります!』
逸る心に身を任せるのは不可能。
警戒を呼び掛けるルビーの言葉に間違いは無く、三人の前に新たな脅威が姿を見せた。
「へえ、私以外にも魔法を使える奴が参加してたんだ」
故意か偶然か。
仲間達との合流を妨害する、最悪のタイミングで現れる魔女。
栗色の髪を揺らし、幼い風貌には不釣り合いな異様なプレッシャー。
天より見下ろす瞳は赫に染まり、少女達を決して逃しはしない。
「あなたは……」
「悪いけど自己紹介なんてしないから。あの男の時みたいに、余計なこと言われても腹立つし…」
ボソリと呟かれた苛立ちが、誰に向けてかをイリヤ達は知らない。
友好的なものが一つも含まれない視線を寄越す少女を知る者はこの場におらず。
数少ない情報から導き出されるのは一つ。
「私の為に、全員ここで死になさい」
戦いは決して避けられない。
93
:
Judge End ─BLADE CHORD─
◆ytUSxp038U
:2024/09/12(木) 21:32:23 ID:/fKPqQI.0
◆
零と士郎、二人の得物は奇しくも双剣。
片や陰我を断ち切る刃。
片や外道を葬る刃。
人の世を乱す悪しき魔を祓う力は今宵、敵同士として相俟みえる。
片手持ちに変え斬り込む零には、余分な動作というものが一つも無い。
狙いは的確、防御は最小限、付け入る隙を決して見せない。
大袈裟な動きに出れば出る程、自ら死ぬ確率を引き上げるのに繋がる。
戦闘に伊達や酔狂を持ち込む性質に非ず、まして今は仲間の安否を一刻も早く確かめねばならない状況。
敵の早急な無力化が求められるのなら、応えない理由は無かった。
右の剣が防がれても左がある。
左の剣が弾かれたも右がある。
片方の剣のみの操作に意識を割き、もう片方はお粗末な剣筋しか描けない。
といった素人丸出しの拙さとは程遠い、巧みな剣術で追い詰める。
肩へ迫る切っ先を弾き、ほぼ同時に反対のシンケンマルを脚部の防御に回す。
腕を貫かれれば刀を落とし、脚を斬られれば機動力が低下。
戦闘を不利にする傷を優先して対処。
時折掠め付けられる赤い一本線など、僅かに思考を割く価値すら無い。
魔戒剣の猛攻を前に、士郎もまた常人ならざる速さで双剣を振るう。
腕の鍛冶職人が魂を籠めた刀だろうと、ソウルメタル製の剣と打ち合うのは悪手。
度重なるホラーや暗黒騎士との死闘を経て尚も、僅かな亀裂も生まれない強度だ。
却って自分の武器をお釈迦にするだけだが、シンケンマルには未だ破壊の予兆は見られない。
アヤカシの強固な皮膚を切り裂き、血も涙もない外道共が苦悶の声を出さざるを得ない刃。
かの御大将、血祭ドウコクとも剣戟を演じた名刀なれば渡り合うのも不可能ではない。
94
:
Judge End ─BLADE CHORD─
◆ytUSxp038U
:2024/09/12(木) 21:33:15 ID:/fKPqQI.0
斬り掛かり弾き、斬り掛かり防ぐ。
変わり映えのしない攻防を繰り返した所で、体力の無駄遣いである。
動きを変えに出たのは士郎、攻撃の対処を防ぐから受け流すに変更。
魔戒剣の刀身へ反発するのではなく、逆らわずにシンケンマルを添えあらぬ方へと誘導。
己の意思とは無関係に空振りを作らされた零へ、ようやく生まれた隙を見逃さない。
針の穴一つ分すらあるかも妖しい箇所を強引にこじ開ける。
「やるねぇ!」
「くっ…!」
自身が敵へ攻撃の機会を作ってしまったと、零本人が気付かぬ筈がない。
相手がソコを突くと分かったのなら、後はどれだけ速くその穴を塞げるか。
何の問題にもならない、この程度を余裕でやってのけれないようでは絶狼の称号は返上確定。
逆手持ちの剣を振り下ろし、切っ先がシンケンマルを真上から突く。
手首の震える感覚に耐え切らねば、武器を落とし兼ねなかった。
刀は握ったまま、腕を走る衝撃に一瞬の硬直。
自由に攻撃してくださいと言わんばかりの士郎へ、許可を得るまでも無く蹴りが飛ぶ。
腹部を叩き意識を遠ざける一撃が迫る中、後退では無く前進を選択。
姿勢をより低くし蹴りを回避、頭上で空気が裂かれた男が聞こえた。
切っ先が地面をなぞりながらの斬り上げに、魔戒剣を交差させ防御。
攻撃の構えを再び取らせはしない、士郎が攻めに移る。
シンケンマルを振るう腕が休むことは無く、剣と剣の語らいが終わる気配は一向に訪れない。
馬鹿正直に急所を狙うだけで勝てる相手でないとは、とっくに理解した。
剣の位置を細かにズラし、あえて自ら隙を晒し敵を誘い込む。
待っていても勝機は見えず、己の手で作り出さねば敗北へまっしぐらだ。
強い男だと素直に思う、剣の腕には畏敬の念を抱かざるを得ない。
聖杯戦争で打ち破って来た人形達とは、根本的な強さからして違う。
確固たる意志を宿し、今日に至るまでに培ってきた技。
本人の才能と重ねた修練が足を引っ張る事無く互いを高め、脅威となり士郎を襲う。
サーヴァントカードを使った戦いとの違いを噛み締める。
95
:
Judge End ─BLADE CHORD─
◆ytUSxp038U
:2024/09/12(木) 21:34:01 ID:/fKPqQI.0
「不意打ちかました卑怯な奴の割りには、良い腕してるな」
「…どうも、って言うべきか?アンタに言われても、嫌味にしか聞こえないぞ」
「褒めてるのは本心からだよ。ま、女の子の扱いは最悪だけど」
嘘偽りを混ぜたつもりはない。
零から見た士郎に、おおよそ剣の才能というものはまるで感じられなかった。
だが一つの道を究めた技は無くとも、戦い方が巧い。
自身の武器と肉体のみならず、時には零の攻撃すらも利用し勝利へ繋げんとする貪欲さ。
魔戒騎士とは異なる形の強さを否定はしない。
だからこそ残念に思う。
「俺らよりもずっと年下の女の子が大事な人を守りたいって頑張ってる時にさ、別の女の子唆して殺し合いに乗るなんざダサいと思わないのかよ?」
言葉では無く剣を交わし分かる事実もある。
赤銅色の少年には、他者を甚振り殺す下衆な性根は無い。
己に取って譲れないものの為に、愚直なまでに突き進む。
融通の利かなさとも取れる部分は友を思わせ、個人的には嫌いじゃない。
チノ達すらも容赦なく殺すという、誤った決意さえなければ。
「そうだな、ロクでもない奴ってのは自覚してる」
辛辣な言葉を反論せず肯定。
誰に一々指摘されるまでもなく、己の行いが悪に分類されるとは十分理解している。
もし何かが違えば、殺し合いを止める為に奔走した可能性とてあったのだろう。
所詮はIFの話に過ぎない、たらればを口にした所で何も変わらないし救えない。
こんな時に、いつだったかあの神父に言われた言葉が蘇る。
自分はもう選択を終えているのだ。
振り返って考え込む段階はとうに昔に過ぎ、進む以外の道を望まない。
「けど悪いな、こればっかりはどうしても譲れないんだ」
言い切った姿を見てしまえば、零でなくとも分かる。
言葉で止まる相手では無い、どうしても邪魔をしたくば力以外に方法は無いのだろう。
これ以上の会話は最早不要と、口の代わりに剣を振るい訴える。
なれば守りし者として応えるまで。
その間違った決意が他の者に牙を剥く前に、ここで折らせてもらう。
96
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Judge End ─BLADE CHORD─
◆ytUSxp038U
:2024/09/12(木) 21:35:08 ID:/fKPqQI.0
○
豪快な一撃を真っ向から受け止める。
どちらの剣も破壊の予兆は一切無し、叩きつけ合った音が鼓膜を震わす。
耳鳴りを掻き消す威勢の良い声は、閃刀姫の背後から。
僕の名を呼び掛ける決闘王の名に従い、刃が夜明け前の戦場に煌めく。
閃刀姫との鍔迫り合いを続ければ、もう一本の剣を我が身に受ける他ない。
生憎とわざと傷を負って、苦痛に喜びを見出す性癖は持ち合わせてはいない。
篭手に覆われた両手が張り、閃刀姫を力任せに押し返した。
綿毛のように軽やかに宙へ浮く少女から、視線は間近に迫る別の脅威へ。
守護者(ガーディアン)の名を冠した女剣士が、主の危険を排除すべく剣を振り下ろす。
一撃で命を刈り取るつもりだろうがお断りだ、こちらも剣を駆使し対処。
「押し切れ!エアトス!」
「無駄な命令してんじゃないわよ!」
命令を拒否する素振りは見せず、言われた通り剣を押し込む。
が、行動に移ったからと言って思い通りの光景になるとは限らない。
得物に掛かる重さが多少は増したようだが、後退させるには力不足も良いところ。
たった数ミリ後退りもさせられない女剣士の儚い努力を、一刀の元に終わらせてやる。
長剣諸共叩っ斬ろうとし、させじともう一人が距離を詰めた。
血よりも濃い赤がバイザー奥の瞳を焼き、吸い込まれるように首へ一直線。
攻撃を諦め真横へ跳躍、喉を貫く筈だった切っ先から遠ざかる。
「じゃ、先にアンタを仕留めれば良いだけの話!」
着地と同時に地面を蹴り、一跳びで遊戯の元まで辿り着く。
片足にどれ程の力が籠められたのか、手入れの行き届いた庭は哀れ陥没。
草花の悲惨な末路には目もくれず、奇抜な髪を血と脳症で汚す剣を叩きつける。
女剣士は正規の参加者ではなく、この少年が操るNPCのようなもの。
命令を下す本人が死ねば手間が省けて一石二鳥だ。
97
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Judge End ─BLADE CHORD─
◆ytUSxp038U
:2024/09/12(木) 21:36:16 ID:/fKPqQI.0
「そうさせない為に私がいるのを忘れた?」
自身の突きが皮一枚すら裂けなかった時点で、既に閃刀姫は次の動きへ切り替えた。
敵の機動力は目を見張るものがある、けれどこちらを侮ってもらっては困る。
伊達に列強国の戦力として前線に立ち続けた訳ではない。
今となっては自慢に思うどころか、愛しいもう一人の閃刀姫との旅を邪魔する祖国に忌々しさを向けているが。
それはともかく、突風に背を押されたと見紛うスピードを発揮。
黒騎士が齎す死を己が剣で払い除け、背後を見ぬまま「離れて」と一言。
言われた通りに動く気配を感じつつ、数度目となる黒騎士との剣戟へ持ち込んだ。
咆哮一閃の刃に獰猛な竜を幻視しつつ、心は掻き乱されずに防御。
痺れる両手と後退を余儀なくされる衝撃、やはり力は向こうが上か。
分かった上で受け止めたのだ、よろけたロゼを食い千切らんと刃が唸る。
予想通り、わざと体勢を崩したのをチャンスと睨んだらしい。
黒い刀身に愛剣を添え受け流せば、反対に向こうへ隙が生まれた。
横薙ぎに振るった剣を危うい体勢から防御、身体能力に物を言わせれば無茶も通るか。
そうする事も読んでいる、向こうが力を籠めるより早く跳躍。
頭上からの襲来すら防ぐも、鎧越しの腕を蹴り着地。
黒剣が仕留めに来るも一手遅い、真紅が駆け抜け枷を填められた首に牙を突き立てた。
「ああもう!しつこく首狙い過ぎじゃない!?」
首輪の下にも寒気が走り、危機感に急かされ剣を翳す。
鎧に覆われた肌は未だ無傷、白さを保ったまま。
文句を言われようと襲って来た輩と会話を交わす気は無い、返答は殺意を十全に乗せた剣だ。
(何だろう、この変な感じ……)
斬り合いを通じロゼが敵から感じたのは、何とも奇妙な力量。
強いか弱いかで言えば間違いなく前者。
純粋な身体能力は確実に自分やエアトスを超える。
打ち合いを続け先に腕が使い物にならなくなるのは自分の方。
鎧を着込んでいるにも関わらず、敏捷性も油断ならない。
しかし勝ち目の無い相手でもない。
確かに敵は強いが、不意を突かれる場面も少なくない。
こちらの攻撃は全て防がれたとはいえ、危う気な場面もチラホラ見られた。
優れた動体視力が余裕の対処を可能にしたと言えば聞こえはいいものの、どこかアンバランス。
何と言うか、戦い自体には慣れているが同じ剣士相手には不慣れな面が多々見られる。
ロゼから見た黒騎士はそういう印象だった。
98
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Judge End ─BLADE CHORD─
◆ytUSxp038U
:2024/09/12(木) 21:37:01 ID:/fKPqQI.0
(やり辛いな…バーテックスの時とは全然違う……)
ロゼの考えは間違っていない。
風にとって戦いとは殺し合いが最初ではなく、元の世界の四国にいた頃から剣を振るって来た。
初の夢幻召喚で得物のサイズは違えど動きに支障は無く、NPCの群れも傷を負わずに蹴散らす程。
だが風がこれまで相手取ったのは人間以上のサイズを誇るバーテックス。
巨大な異形の相手は慣れているが、等身大の人間と戦うのは大赦襲撃を夏凛に止められた時くらいのもの。
士郎とも一撃を防がれたのみ、よって本格的な戦闘はロゼが初めてとなる。
忘れるなかれ、ロゼは外見こそ少女でも列強国の閃刀姫。
常に全方位を死に取り囲まれる戦場を、身一つで駆け生き延びて来た猛者。
今でこそ最愛のレイとも、出会えば殺し合う以外を許されなかった地獄に身を置き続けたのがロゼだ。
単純なパワーやタフネスだけ見れば、倒したNPCの中にロゼ以上のモンスターがいたかもしれない。
しかし培った戦闘技能と、戦場で極限まで磨かれた感覚はNPCと一線を画す強さの証。
バーテックスとの戦い以外はあくまで一般女子中学生の風では、埋められない差があった。
「だったら纏めて薙ぎ払ってやるわよ!」
尤も、その差を補うだけの力をサーヴァントカードは秘めている。
エインズワースの人形では無い、生きた人間が使えば脅威は当然増す。
横薙ぎに振り回すだけで空気は大きく震え、かまいたちとなって生身の肌を切り裂く。
「面倒な攻撃…!」
「防げエアトス!」
愛剣で弾こうにも腕へ負担を掛け過ぎれば、後々自分の首を絞めるだけだ。
ここは回避を選択、軍服の端を斬られ布が落ちる。
遊戯もまたエアトスに指示を出し防ぐ。
戦況は拮抗、襲撃者達は攻め切れず守護者達も一手足りない。
仲間の元へ駆け付ける為にも、これ以上時間を掛ける訳にもいかない。
流れを変えるべく、各々が次なる手札を切り――
「問おう。お前達は穢れた血の流れる日本人か?」
金色の悪夢が舞い降りた。
99
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Judge End ─BLADE CHORD─
◆ytUSxp038U
:2024/09/12(木) 21:38:16 ID:/fKPqQI.0
◆◆◆
森の中に身を隠しながらの逃走もここまでだ。
大木の影に背を預け暫し様子を窺うも、人の気配はおろかNPCすらやって来ない。
黒い乱入者、日本人を庇う愚かな子供、キングを名乗る決闘者、忌まわしき存在を思い起こさせる異形。
先の戦闘で見た顔は待てども一向に現れず、どうやら追跡には出なかったと判断。
大方あの軍人をどうにか治療しようと模索中だろうが、無駄な努力と言わざるを得ない。
「無駄、か……」
敵対者達への呆れが自分自身へ返って来る。
忘れたくとも、忘却は許さぬと脳裏へ刻み付けられた先の光景。
外国人を勝手な思い込みで虐げた許し難き連中同様、殺戮の渦を引き起こす魔人。
野比のび太はよりにもよって神の武器にまで手を伸ばした。
あれは見せかけだけのハリボテではない、正真正銘神の手が加わった神器に間違いない。
何故、あのような愚物の手に神器が渡ったのか。
のび太が神器を手に入れたのは檀黎斗などという偽物ではない、本物の神のご意思なのか。
もしそうなら、神は自分を見限り日本人に味方するのか。
ホーリーフレイムを率いてやって来たことは全て、無駄だったと言うのだろうか。
思考がマズい方へ向かっていると自分でも分かり、一度大きく深呼吸。
今は頭を落ち着かせ、今後の動きを考える方にシフトせねば。
日本人、日本人に味方する異端者、何より神を騙る大罪人。
死を以て浄化せねばならない者を放置し、負のスパイラルに陥る訳にはいかない。
何よりこの地でも日本人に虐げられた同胞が、自分の助けを待っているかもしれないのだ。
同胞に救いの手を差し伸べずして、何がホーリーフレイムの総長か。
いっそ完全に心が折れてしまった方が楽ではある。
しかしあと一歩の所で再起不能を許さないのは、決して消えぬ迫害の記憶と憎悪。
加えて彼女は盲信者であれど、同胞を想う気持ちは本物だ。
本来辿る筈だった未来における狼牙軍団との敗北後、ホーリーフレイム最後の生き残りとなった側近のジョドー。
彼は忠誠を誓った聖女以外の下に着く気は無いと、自ら命を絶った。
他者には歪に見えようとも、幹部達との間には断ち切れない彼女達なりの絆が存在する。
だからこそ折れない、折れる末路を彼女は受け入れない。
動揺を鎮めなければと奪ったデイパックを開き、支給品の確認を始める。
元々自分に支給された道具も強力だが、使える物は一つでも多い方が困らない。
受け入れたくない現実から目を逸らすように手を伸ばし、
100
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Judge End ─BLADE CHORD─
◆ytUSxp038U
:2024/09/12(木) 21:38:51 ID:/fKPqQI.0
「これ、は……」
神はまだ、彼女を見捨ててはいなかったらしい。
見た瞬間に確信を抱いた。
コレは神の手が加わっている、神の加護が授けられている。
同封された説明書に目を通す必要は無い。
そんな手間を掛けなくても、神の存在を確かに感じ取れるのだから。
「そうか…神よ、あなたのご意思を一瞬でも疑った私をお許しください…」
膝を付き、己が信ずる絶対神へ首を垂れる。
穢れた日本人の軍人の手を離れ、己が元へと渡った。
果たしてこれは偶然か?否、神のお導きに他ならない。
天からの恵みを受け取り試練を果たしてみよという、神託以外の何だと言うのか。
のび太が神器を持っていたのも、断じて自分の死を望んでいるのに非ず。
不当に奪われた神の所有物を振るう愚者を滅せよという、己への使命だったのだ。
なのに自分は愚かにも神に見捨てられただのと悲観し、ご加護と祝福へ疑念を抱く始末。
穴があったら入りたいどころじゃない、数分前の自分の首を撥ねてやりたい。
しかしまだ死ぬ訳にはいかない。
罰は全てが終わった後で幾らでも受けよう。
今はただ、神のご意思に従い己が使命を果たさねば。
神の恵みと信じて疑わない、白い外套を身に纏う。
するとどうした事か、翼を得たように体が宙へ浮いたではないか。
奇跡染みた現象も神のお力を以てすれば不思議は無く、有難き力と感謝し辺りを見回す。
そこで目にしたのは、市街地と思しき場所で起きた爆発。
周囲の民家の倍の大きさがある建造物だからだろう、ここからでも異変は捉えた。
闘争の気配が漂う場へ行かない選択肢は無い。
同胞には救いを、日本人と異端者には死を。
聖戦と信じてやまない大虐殺を繰り広げる聖女が、新たな火種となり混乱を加速させる。
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