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決闘バトルロイヤル part4

100Judge End ─BLADE CHORD─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:38:51 ID:/fKPqQI.0
「これ、は……」

神はまだ、彼女を見捨ててはいなかったらしい。

見た瞬間に確信を抱いた。
コレは神の手が加わっている、神の加護が授けられている。
同封された説明書に目を通す必要は無い。
そんな手間を掛けなくても、神の存在を確かに感じ取れるのだから。

「そうか…神よ、あなたのご意思を一瞬でも疑った私をお許しください…」

膝を付き、己が信ずる絶対神へ首を垂れる。
穢れた日本人の軍人の手を離れ、己が元へと渡った。
果たしてこれは偶然か?否、神のお導きに他ならない。
天からの恵みを受け取り試練を果たしてみよという、神託以外の何だと言うのか。

のび太が神器を持っていたのも、断じて自分の死を望んでいるのに非ず。
不当に奪われた神の所有物を振るう愚者を滅せよという、己への使命だったのだ。
なのに自分は愚かにも神に見捨てられただのと悲観し、ご加護と祝福へ疑念を抱く始末。
穴があったら入りたいどころじゃない、数分前の自分の首を撥ねてやりたい。

しかしまだ死ぬ訳にはいかない。
罰は全てが終わった後で幾らでも受けよう。
今はただ、神のご意思に従い己が使命を果たさねば。

神の恵みと信じて疑わない、白い外套を身に纏う。
するとどうした事か、翼を得たように体が宙へ浮いたではないか。
奇跡染みた現象も神のお力を以てすれば不思議は無く、有難き力と感謝し辺りを見回す。

そこで目にしたのは、市街地と思しき場所で起きた爆発。
周囲の民家の倍の大きさがある建造物だからだろう、ここからでも異変は捉えた。

闘争の気配が漂う場へ行かない選択肢は無い。
同胞には救いを、日本人と異端者には死を。

聖戦と信じてやまない大虐殺を繰り広げる聖女が、新たな火種となり混乱を加速させる。

101Judge End ─救世主-SAVIOR-─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:40:35 ID:/fKPqQI.0



太陽の昇らぬ時間帯にて、その女は輝いていた。
聖女、或いは神の遣い、或いは物語の英雄。
銀の甲冑を身に纏い天より見下ろす、威風堂々たる姿。
気高き騎士としか思えぬ美しさが、外見だけのハリボテに過ぎないと遊戯は知っている。
いるかも分からない神を盲信し、憎悪に身を焦がす虐殺者。
ホーリーフレイム総長、ジャンヌの登場に場へ緊張が走る。

正体不明の女剣士は目を凝らせば首輪が装着されていない。
ジャックや遊馬が操るのと同じ、カードのモンスターの類だろう。

「そこな剣士を従える者。そいつが傍にいると言う事は、あの時浄化の邪魔をしたのはお前だな」
「どうかな。生憎俺が邪魔してやったのは浄化なんて聞こえの良いものじゃなく、殺しっていう卑劣な真似だぜ」
「フ…ならば貴様も粛清の対象と見なす。あの異端者達の姿は見えないが…まぁいい」

皮肉交じりの返答へ冷たく微笑み、他の者達へ今一度問う。
己の保護すべき同胞か、この手で滅ぼすべき邪悪か。
沈黙は許さぬと圧が籠められ、漂う空気の重苦しさが一段階上がる。

「そんな恐い顔しないで、一旦剣を下ろして落ち着かない?外国人を守りたいって気持ちは俺も応援したいしさ」

柔和な笑みと軽い言葉を用い、相手の警戒をどうにか解こうとする。
外見の特徴や言動から察するに、イリヤ達が言っていた女騎士で間違いなさそうだ。
零としてはどんな恨みがあろうと日本人虐殺は当然認められないが、ジャンヌが最初イリヤのことだけは保護しようとしたとは聞いている。
外国人限定との大前提付きとはいえ、守る為に剣を振るう姿勢は否定しない。
何より嘗て復讐に走った零だからこそ、無関係の人間を手に掛ける暴挙はジャンヌ自身の為にも見過ごせなかった。

「日本って国は知らないけど、あなたの言ってることは論外。殺し合いに乗ったのと同じにしか見えない」

バッサリと切り捨て辛辣に答えるのはロゼ。
復讐自体は間違ってると言わないし、ジャンヌの抱える憎悪を忘れろと言う気も無い。
自分は日本人のカテゴリから外れる為、向こうにとっては仲間に認定されるのだろう。
しかチノや零と言った仲間を殺害対象にする相手の庇護下に入るなど、許容できる筈が無い。
特定の個人ではなく人種全体を復讐相手と見るのは、幾ら何でも度が過ぎてる。

102Judge End ─救世主-SAVIOR-─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:41:52 ID:/fKPqQI.0
態度に違いはあれど、両名共にこちらと相容れない存在と分かった。
残る二人の方をチラと見やる。

「…何だかややこしくなって来たけど、日本人を殺すっていうなら最初からこっちに聞く意味ないでしょ」
「そんな恰好してるからどこの国の人間か分かんなかったんじゃないか?」
「あーそういう…じゃあ誤魔化せば良かった?ってもう遅いか」

黒い鎧に身を包み、顔もバイザーで覆っていれば一目見ただけでは日本人かどうか判別が付かない。
協力者から指摘されるも既に遅い、ジャンヌの敵意が膨れ上がる。
尤もジャンヌは九十九遊馬や明石など、日本人的な名前と容姿だが日本人では無い参加者と既に会った。
なので誤魔化しようは幾らでもあったのだが、士郎も風もジャンヌについて何も知らない為仮定の話でしかない。

「つまり、貴様たち全員生かす理由の無い罪人という訳だな」

遊戯は最初から除外するとして、後の4人も殺すべき日本人と異端者。
またしても日本人の戯言に惑わされ堕落した同胞を見るのは、全く持って嘆かわしい。
魂を腐らせた者に与える救いは死以外にない。

「生かす理由が無いのは私達だって同じ!」

横から出て来ていきなり上から目線で言って来たと思えば、勝手に納得。
クールな自分に酔うのは結構だが、ノコノコ顔を出したからには無事で済むとは思わないで欲しい。
最終目的は別でも、相手の死を望んでるのは風も同じなのだから。

先手必勝で斬り掛かる風は無鉄砲に見えて、その実自分から意識が逸れた瞬間を見極め攻撃に移った。
自分達よりも前に交戦したらしい遊戯を先に殺すつもりのようで、実に好都合。
最も良いのは一撃で終わりだけど、対処されても今の自分ならば仕切り直せる。

103Judge End ─救世主-SAVIOR-─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:42:29 ID:/fKPqQI.0
「愚かな…」

呟きは聞き取れず、ジャンヌの腕がブレたかと思えば胸部へ衝撃と痛みが襲い。
自信を木っ端微塵に打ち砕かれた。

「い――――!?」

斬り掛かった直後に吹き飛ばされ風の名を、最後まで言い切る余裕は無い。
士郎の眼前にジャンヌが現れた。
今の今まで宙に浮いていたのに、一体いつ降りて自分の元まで来たのか。
脳内を埋め尽くすクエスチョンマークを残らず捨て、思考を敵の殺害に切り替える。
でなければ言葉一つ、いや一文字口にする事も出来ずに即死だ。

目で追うだけでは無い、肌を撫でる感覚を頼りに双剣を操る。
聞き慣れた剣戟の音が絶え間なく聞こえ、鼓膜に響く痛みは無視。

(こいつの動き、は――っ!)

剣と剣をぶつけ合っているのは間違いないのに、敵の得物の刀身が全く見えない。
現れた時持っていたのは見間違えようも無い、聖杯戦争で対峙した究極の聖剣。
怨霊染みた執念の、エインズワース先代当主が使ったサーヴァントカードと同じ。

(違う…こいつの持ってる剣は【本物】だ…!)

カードにより再現されたのではない。
この強さ、この輝き、心を揺さぶる感動と戦慄。
よもやサーヴァントカードではなく、宝具をそのまま参加者に支給したと言うのか。
どうかしていると主催者に呆れを抱くも即座に捻じ伏せ、眼前の敵以外の雑念を排除。

刀身が見えないのはザッカリー・エインズワースの時と同じ、ではない。
単純に剣を振るうスピードが速過ぎて、目でハッキリと捉えらないのだ。
空気の振動で刃の位置を読み取り、一撃も喰らわないように防ぐ。
喉の奥まで渇く緊張感に身を苛まれながら、決して集中力を切らさない。

104Judge End ─救世主-SAVIOR-─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:43:15 ID:/fKPqQI.0
「がっ!?」

僅かに右足が後退し、構えがブレる。
悪寒が背を駆ける、この程度の隙と呼べるか怪しい瞬間さえ致命的。
双剣を交差し防御の構えを取ったのと、鉄塊を叩きつけられたような衝撃が来たのはほぼ同時。
暴風を宿す化け物染みた腕力で、尋常ならざる速さを乗せて聖剣を振るえば。
男一人を紙吹雪よりも軽く飛ばすのは容易い。

直撃しなかっただけマシなのか。
これでもまだ壊れずに、身を守ってくれたシンケンマルに感謝すべきか。
どっちを考えるべきか士郎には分からない。
背中から屋敷に叩きつけられ、目から火花が散る感覚を味合わされる。

自分達と渡り合った二人組が、呆気なく返り討ちに遭った。
驚愕の光景に何を思う暇も無く、聖剣が猛威を振るう。
来る、そう構えた時にはもう手遅れだ。

「エア――っ!?」

守護者(ガーディアン)に指示を出すのをむざむざ待つ必要は無い。
凌牙やジャックの時と同じだ、モンスターを無視し当人を直に叩いた方が手っ取り早い。
デュエルで追い詰められた時とは別種の危機感が遊戯を襲う。
相棒の声が聞こえるも、大丈夫の一言すら返せない。

「させ――」
「――るかってのぉっ!!」

ジャンヌがどれだけ遊戯の死を望もうと、彼の仲間は断固として否を唱える。
軍服をはためかせロゼが割って入った。
真紅の剣が聖剣を阻み、別方向からは目を焼き潰す銀の輝きが疾走。
駆け出しながら頭上に円を描き、白銀の鎧を纏った零である。

105Judge End ─救世主-SAVIOR-─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:43:51 ID:/fKPqQI.0
悠長に突っ立って鎧召喚をやっていれば、その間に仲間が命を落とす。
慌ただしい工程を挟んで、銀牙騎士絶狼が降臨。
聖剣の輝きにも引けを取らぬ、人類の希望の光にジャンヌも目を細める。

「その輝き……穢れた血の分際で烏滸がましいな」

魔戒騎士の存在には何か感じるものがあったのか、しかし頭を振って否定。
どれだけ眩くとも纏う本人が穢れていては、錆び付くだけの鉄屑に過ぎない。

ジャンヌの目的は対話に非ず殲滅。
言葉を引っ込め聖剣が浄化を全うすべく駆け、対峙する剣士達も己が得物で以て応える。
真正面の二方向より三つの刃が、背後からは守護者の剣がぞれぞれ迫る。
こちらは聖剣一本。
問題無い、数を増やせば勝てるという思い違いを正してやる。

「散れ!邪悪どもよ!」

剣を横薙ぎに振るう、たったそれだけで三人が吹き飛ばされる。
エアトスから離れた位置の遊戯にまで影響は及び、ワイヤーを引っ掻けたように後方へと吸い込まれた。
巻き起こった暴風に紙風船のように飛ばされる中、耐え凌いだのは零。
絶狼の鎧は見せかけのハリボテではないのだ。
叩きつける風へ真っ向から挑み、リーチと威力を増した双剣を振るう。
重厚な鎧を纏っているとは思えない速さだ、敵の剣を叩き落とすのは難しくない。

聖剣に触れる直前で狙いが外れた。
違う、ジャンヌの姿が消え零の背に痛みが襲う。
誰がやったと考える必要は無い、振り返り様に剣を振るうも遅い。
敵は再び零の死角へ回り込み攻撃、今度は防御が間に合ったが仕掛ける前に気配は別の方へ移った。
反撃される前に移動を繰り返し、致命傷は無くとも鎧越しから体力を削り取る。

(幾ら何でも速過ぎるだろ…!?)

回避どころか反応一つもままならない、悪夢のようなスピード。
鎧を纏っていなければとっくに急所を斬られ殺されている。
これ程の強敵を相手にイリヤは一人で耐え凌いだのか。

106Judge End ─救世主-SAVIOR-─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:44:35 ID:/fKPqQI.0
ジャンヌの速さの秘密は尾形から奪った支給品にあった。
神の恵みと感謝し身に着けたソレの名は、白鳥礼装(スヴァンフヴィート)。
大神オーディンが戦乙女、ワルキューレに達に与えた白鳥の衣。
纏った者は飛行能力を有し、機動力の大幅な強化を可能とする。
更にジャンヌはこれまでの戦闘同様、主霊石の力を引き出し自身の強化に充てていた。
平時でさえ各地の勢力の中でも抜きんでた力を持ち、此度は主霊石と神の加護が施された衣も加わる。
爆発的な加速は他者の追随を許さずに蹂躙を可能とした。

「この、程度で…!」

吹き飛んだ先で木に叩き付けられそうになったが、蹴り付け強引に立て直し完了。
片足の鈍い痛みを黙殺しロゼが接近、零が攻撃を受けた一瞬を狙う。
切っ先はジャンヌの腹部に吸い込まれていき、甲冑を貫き赤く染める筈。
だが予想と違い現実にはジャンヌに傷一つ付いていない。
剣は腹部に当たったが、突き刺さるには至らず弾かれたのだ。

これもまた白鳥礼装の効果。
オーディンの加護は飛行能力のみならず、物理・魔術両面への耐性を使用者に授ける。
数多の敵を葬った刀剣型デバイスも、戦乙女の防御を打ち破る力は無い。

「嘆かわしいな、日本人に惑わされていなければお前にも神のご加護があったかもしれぬと言うのに」
「そんな胡散臭いものこっちからお断り。私は私が信じたいものを信じる」
「神を愚弄するか。それ程までの堕落、最早語る言葉も見付からん」

冷徹な表情は変わらないが殺意が一層膨れ上がり、攻撃されずとも肌に痛みを感じる。
これは確実にマズい、少なくとも同じ場所に突っ立って剣を受け止めるだとかは論外。
跳び退く為に片足へ力を籠めた直後、暴風が自我を宿し急接近。
咄嗟に剣を防御に回せたお陰で、聖剣の狙いを幾分逸らすのに成功。
なれど完璧に防ぐには速さが余りにも足りない。

「っ゛!」

左肩が熱い、熱した鉄を押し当てられてるようだ。
軍服の下の柔肌を裂き、刃が血管を引き千切る。
痛みに慣れているとはいっても、何も感じない程痛覚か鈍いのでは無く。
噛み殺して剣の間合いから離れるが、敵が追い付くのに1秒も掛からなかった。

107Judge End ─救世主-SAVIOR-─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:45:23 ID:/fKPqQI.0
「俺とのデートをすっぽかされるのは、流石に傷付くぜ…!」

背後より斬り掛かるのは正々堂々と言い難く、なれど仲間の命が懸かった状況でスポーツマンシップを持ち出す馬鹿になったつもりはない。
銀の双剣を染める赤は流れず、虚しく風を切り裂くに終わるもロゼへの攻撃は中断。
代わりに狙いは再び零へ移り、四方八方からの猛攻を感覚頼りに防ぐ。
目で捉えるのが難しかろうと対応する手はあり、絶狼の鎧の防御力は簡単に突破不可能。

(そろそろ時間が…!)

が、魔戒騎士の鎧は永続的な絶対防御を許す物に非ず。
99.9秒、定められた時間を過ぎれば待ち受けるのは理性無き獣の末路。
心滅獣身、黄金騎士牙狼でさえ逃れること叶わず堕ちた瞬間を忘れてはいない。
焦りが募る零の危機に、打倒主催者を誓い合った閃刀姫が動かぬのは有り得なかった。

「零…!」

服の袖を破り肩に強く巻き付け、応急の止血は済んだ。
本格的な処置など生き延びれば後で幾らでも出来る。
踊るように割って入り、聖剣の猛攻を自らの刃で阻止。
一撃が重く傷に響くも泣き言は言ってられない。

「ロゼちゃんサンキュ…!」

仲間が命懸けで生み出してくれたチャンスをふいにはしない。
下がり鎧を解除、生身に戻り再び双剣を掲げる。
ジャンヌ相手は鎧の再召喚が必須、ロゼが限界を迎える前に急いで纏わねば。

「無意味だ、何をしようとな」

しかしジャンヌは余計な抵抗を一つとして認めない。
望むのは日本人と異端者の浄化、いらぬ手間を掛けさせることが既に神への冒涜に他ならない。
これまでの戦闘を通じ主霊石の力の引き出し方は理解出来た。
より強大な力を操り穢れた血を消し去るのも、自分ならば不可能でないと教えてやろう。

108Judge End ─救世主-SAVIOR-─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:46:28 ID:/fKPqQI.0
主霊石の輝きが増し、ロゼと零の足元が光り出す。
緑の美しさに心奪われる二人ではない、むしろ嫌な予感しかしない。
予想的中とでも言わんばかりに光の柱が降り注いだ。

「く、ううううう…!!」

地面が焼かれた時にはもう回避に動いた後。
殺せなくともジャンヌの内面は波一つ立たず、冷静に敵を見据える。
今の自分でも手を焼く鎧の召喚は妨害し、割って入る娘もすぐには動けない。
となれば、次の展開は馬鹿でも予想が付く。

「がっ……」

剣を翳す反応を見せたのは流石の魔戒騎士だろうが、そこが限界だ。
聖剣は零の肉体を容赦なく斬り、真っ赤な花を咲かせる。
黒いコートは濡れて色の濃さを増し、剥き出しの手や顔も赤く彩られた。
ゴフリと吐き出した塊がまた、緑の地面を赤色に汚す。

「ふむ、即死は避けたか」

致命傷を与えた手応えはあったが、一撃で命を刈り取るには至らなかったらしい。
あの僅か過ぎる猶予の間に辛うじて命を繋ぐとは、相当な腕前。
だができたのはそこが限界、地に伏せた零は最早死を待つだけの身。
手を下すまでも無いが念には念を入れるべきか。

「っ!?零…!!」

ああしかし、それにはまず異端者を片付けねばなるまい。
悲鳴交じりに仲間を名を呼ぶ少女を、ジャンヌが見る目はどこまでも冷たかった。

109Judge End ─救世主-SAVIOR-─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:47:15 ID:/fKPqQI.0
「無駄だ。お前もそこの日本人も、すぐに浄化され同じ場所へ導かれる」
「五月蠅いっ…!」

額に汗を滲ませながらも鉄面皮だったが、今や血相を変え剣を叩きつけている。
怒りと焦りを宿し振るわれた剣はジャンヌを斬れない、仲間の下へ行く道を作れない。
激情を乗せれば勢いは苛烈さを増すだろうが精細さには欠ける。
心を乱した拙い剣で倒せるほど、ジャンヌは甘く無かった。

横薙ぎの刃をするりと躱し背後を取る。
見えない位置から迫る死が多少は頭を冷やしたのか、両断される前に回避。
逃れた先で地面に横たわる零が視界に映り、ロゼの冷静な部分が告げる。
淡々と、機械染みた声色で、あれはもう無理だと。

(そんなの……!)

否定したいけれど、幾つもの死を間近で見て来たロゼには分かってしまう。
列強国の兵士として戦場に駆り出されていた頃なら、簡単に割り切れたかもしれない。
でも今は動揺が抑えられない、仲間の死を受け入れたくない。
レイに助け出され、普通の女の子らしい生活を二人で送った影響か。
列強国にいた時程感情を押し殺せないでいた。

「虫の息の日本人共々、終わらせてやろう」

レイの内心に最初から興味は無い。
あと一歩の所で死を遠ざけるのなら、逃げ場など無いと思い知らせてやる。

主霊石が力を解き放つ。
光の柱の比では無い、見る者全員に戦慄を抱かせる輝きだ。
暴風を起こす、機動力を高める、それも使い方としては間違っていない。
だが主霊石の真価には程遠い、領将達がその程度の力しか持たない凡夫なら。
彼らは最初から時代の王候補には選ばれなかった。

「我が怒りは神の怒りと知れ。貴様らの穢れし血、一滴も残さず消し飛ばしてくれる」

空が叫ぶ。
ジャンヌの言葉通り、神々が地上の蟻へ憤怒を抱き神罰を下す。
主霊石が風を操り力を束ね、悪しき魂を飲み込む竜巻を引き起こした。
一つだけでも脅威となるソレが、よりにもよって四つ。
悪夢と、他の言葉が見付からない光景が広がる。

「……っ!」

自我など持たない筈の竜巻がどうしてか、とぐろを巻いた大蛇に見えた。
聖女を気取った虐殺者に従い、自分達を喰い殺す化け物に。

「ふざけないで…!」

これで終わりなのか。
仲間が倒れるのを見ることしか出来ず、暴虐を振り撒く女に一矢報いることも出来ず、最愛の彼女とはこんな形で別れる。
納得なんて出来ない、死んでなどやらない。
心はどれだけ否定しても、現実は自分達へ死を突き付けて来る。
あの女の信じる神なんぞに命を捧げる、こんなものがエンディングか。

110Judge End ─救世主-SAVIOR-─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:47:59 ID:/fKPqQI.0
「私はまだ――!」

「諦めたくないよな…俺もだ……!」

少女の切な願いを引き継ぎ、魔戒騎士が咆える。
ロゼが目を見開き、立ち上がる大きな背中を見た。
ジャンヌが目を細め、不愉快極まりない死に損ないを睨んだ。

「女の子だけ残して勝手にダウンなんざ、カッコ悪いにも程があるでしょうよ…!」

夥しい血で汚れた黒衣は、白銀の鎧に隠された。
助からない?もうすぐ死ぬ?
言われなくとも分かっている、その上でだから何だと言ってのける。
終わりじゃない、剣を握れる内は終わりだなんて他の誰がほざこうと認めてやるものか。

「しぶとさは一級品か。だが、一体何ができる?」

満身創痍で戦う意思を見せ、それが何だと言うのか。
零の姿も言動も、全てがジャンヌの心には響かず見下す。
自分に届かせられなかった剣が、半分以上死へ浸かった肉体で今度こそ届くとでも思ってるのなら。
正常な思考もままならない、死を受け入れられず現実逃避に走った愚物以外の何だと言う。

「決まってんだろ…おっかないお嬢ちゃんに、ちょっぴりキツいお仕置きをするんだよ…!」

なれど、零は不敵に笑う。
気が触れたのでも無ければ、断じて自棄を起こしてもいない。
今こそ見せてやろう、余裕を崩してやろう、度肝を抜いてやろう。

銀牙騎士絶狼の最後の舞台を派手に飾ってやろう!

111Judge End ─救世主-SAVIOR-─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:48:42 ID:/fKPqQI.0
「え……?」

その音を最初に聞いたのは騎士の仲間の少女。
竜巻に庭が破壊され屋敷も蹂躙される最中だというのに、ハッキリと音を拾った。
大地を駆け、嵐に襲われようとも決して止まらない。
音は徐々に大きくなり、正体不明のナニカがとうとう姿を現す。

極限まで研ぎ澄ませた刃の如き煌めきをソレは放つ。
立ち塞がる邪悪を貫き、我が道を突き進む為の角を揺らし、己が友を見下ろす。
白銀に身を包んだ騎士の声に応え、共に立ち向かう希望。

名を魔導馬・銀牙。
試練を突破した魔戒騎士だけが召喚を許される魔戒獣である。

「来てくれてありがとよ…最後まで付き合ってもらうぜ…!」

喉奥からせり上がる血を飲み込み言う零に、銀牙はけたたましい声で応と返す。
友の終焉が近いとはもう分かっている。
しかし悲しみは必要無い、友が自分の力を必要としてるなら。
彼が命を燃やし尽くすその時まで、自分はただ走るだけだ。

騎士を背に魔導馬が駆ける。
竜巻が齎す破壊の騒音を掻き消すように、蹄の音が戦場中に響き渡った。
ジャンヌの瞳は依然変わらず冷徹、宙へと舞い穢れた愚者達を見下ろす。
来れるものなら来ればいい、その前に蹂躙され塵と化すのは目に見えている。
四つの竜巻が破壊の痕を刻みながら零を飲み込む。
聖女には指一本触れさせぬと引き裂く様は、ジャンヌに従うホーリーフレイムの騎士達のよう。

112Judge End ─救世主-SAVIOR-─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:49:25 ID:/fKPqQI.0
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」
「なっ!?」

故にこそ、鉄壁の防御にして無敵の矛が破られた光景は。
闘争が始まってから初の驚愕を、ジャンヌであっても抱かざるを得ない。

魔導馬が蹄音を鳴らせば鳴らす程、魔戒騎士は通常時を上回る力を発揮する。
柄同士を繋げた二双の刃は巨大化し、零や銀牙の体躯すらも超えた巨人の武器と化す。
身の丈の数倍を誇る剣を豪快に振り回し、主霊石で生み出された竜巻を霧散。
標的への道を阻む邪魔な風は残り一つ。

「舐めるな…!!」

小癪な日本人への怒りすらも燃料に迎え撃つ。
竜巻を破った程度が何だ、主霊石を掲げ星霊力を流し込む。
神の怒りを嘲笑い、あまつさえ未だ歯向かう身の程知らずに思い知らせてやる。
竜巻が更に巨大化し、魔戒剣が突き進む。
光を放つのは同じでも、輝きに籠められた想いは正反対。
コンディションの差が影響し、優勢を保つ聖女に届かず無念の死を遂げてもおかしくはない。

「魔法カード、結束 UNITYを発動!」

バッドエンドを覆す仲間がいなければ、そうなっただろう。

吹き飛ばされ壁に叩きつけられた衝撃で、頭部から血を流すも知ったことではない。
仲間が戦っているなら、寝ている場合なものか。
自分のデッキはおろか、エアトスの力を活かせるラフェールのデッキすら持っていなくても。
遊戯は最後まで抗う道を選ぶ。

自分フィールドのモンスターの守備力強化のカードを発動。
殺し合いでは参加者にも効果が及ぶ点を利用し、零の防御力をアップ。
胸中で礼を伝え一歩、また一歩と前に進む。
どこまでも小賢しい真似をされジャンヌの顔が歪んだ。

113Judge End ─救世主-SAVIOR-─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:51:09 ID:/fKPqQI.0
ならば、最大威力の技を使い葬るまでのこと。
宝具の所有者である英霊本人以外に真名解放は不可能だが、主催者の調整によりその問題はクリア。
莫大な消耗と引き換えにこの場の全員を一掃する輝きを放とうとし、

「…っ」

竜巻の制御で、左手に主霊石を持ったままなのに気付く。
宝具使用の為には両手で剣を振るわねば危険。
片手で放つには威力の高さ故、自分自身にも甚大な被害が返って来る。
主霊石を落とすか、だがそれでは聖剣を放つより先に銀狼が自分を切り裂く。

一瞬の躊躇が、勝負の分かれ目となった。

「なにっ…!?」

罪人達の悪足掻きはまだ続く。
左手が揺さぶられ、主霊石が地面へと落ちる。
目だけを動かし原因を探ればすぐに分かった。
シンケンブルーの専用武器の、青い弓を構えた赤銅色の少年だ。

「犬吠埼!」
「分かってる!取っておくつもりだったのに!」

少年に急かされ、ヤケクソ気味にカードを発動。
対象に選ばれたのは零、竜巻を斬る力が一段と増した。
守備力分を攻撃力に加算する効果は、遊戯のカードの後なのもあってか最適の支援となる。

ジャンヌから見れば等しく浄化の対象、だが零にとっては相容れぬ敵の二人。
目指す場所は違えど、士郎と風も今はジャンヌの排除を優先すべきと判断を下し援護を決行。

114Judge End ─救世主-SAVIOR-─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:51:51 ID:/fKPqQI.0
「零…!」

最後の一手を掛ける閃刀姫が、大剣の柄を掴み前進。
彼一人だけに押し付けたくはない、抗うのならば自分も共に行く。
余力全てを注ぎ、立ちはだかる聖女を打ち砕かんと突き進む。

本来ならば修練を積んだ魔戒騎士以外には持つ事も出来ない魔戒剣。
それをロゼが掴み、零に力を添えられたのは何故か。
主催者による調整、魔戒騎士にも劣らぬ精神力がソウルメタルをある程度扱えるようになったから。
理由は複数考えられるが今は重要ではない。

「行こう!一緒に…!」
「ああ…!アンタの陰我、ここで断ち切ってやるよ…!!」

隣で戦う仲間がいてくれる、自分に手を貸してくれる皆がいる。
その事実が零を突き動かし、守りし者としての使命を燃え上がらせる。

「馬鹿な…!?」

魔導馬が友の為に授けた力を乗せ、この瞬間オーディンの加護を凌駕。
魔力が掻き消される、暴風が打ち破れる。
信じられぬと目を逸らそうとも無駄、白銀の狼が憎悪で曇らせた眼を焼き突進。
聖剣の迎撃すら許されず、ついに魔を断つ刃が聖女を切り裂いた。

「があっ…!!!」

内側より火柱が上がったように熱い。
激痛は容赦なくジャンヌの意識を奪いに来て、視界が急激に薄れ出す。
散々異端者を火炙りにして来た自分が、それに劣らぬ熱で苦痛に悶え死ぬのか。
全く笑えない、冗談にもならない最期を誰が受け入れるものか。

「死なん…!死なんぞ…!私の終わりはここではない…!」

こんな場所で倒れるのが神の望みな筈ないだろう。
穢れを撒き散らす日本人の浄化を投げ出すなど許されない。
志を共にし、自分の帰還を待つ同胞達の為にもまだ死ねない。
己が意思一つで死へ引き摺り込む痛みを捻じ伏せ、剣を叩き付け牽制。
出血に苛まれながらも主霊石を拾い上げ、自身を覆い隠すように竜巻が発生。
全員が咄嗟に身を守るべく構え、しかし自分達には危害が無いと気付く。

暴風はそよ風に、そよ風も消え無風に。
風が止んだ時、既にそこには聖女の姿は影も形も見当たらなかった。

115Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:53:37 ID:/fKPqQI.0



名前は名乗らない、目的も口にしない。
放つ気配は敵意に満ち、向ける瞳は黒に染まり切り。
こうも分かり易くされてはイリヤとて理解せざるを得ない。
言葉でどうこうできる段階にはいない、戦って切り抜ける以外にどうしようもないと。

片手に魔力を収束し敵へ発射。
単純極まりない攻撃と侮るなかれ。
呼吸を行い、指先を動かし、一歩歩く。
健常な人間ならば苦も無く行える日常の動作と同じ感覚で、ルナは魔法を行使するのだ。
だらんと下げた片手を一体いつ跳ね上げたのか、優れた動体視力の持ち主であろうと視認不可能な速さ。
魔力に頭部を食い千切られる呆気ない末路を、魔法少女も力づくで跳ね除ける。
進んで戦いたがる性質ではなく、誰彼構わず喧嘩を売るなど以ての外。
しかし避けられぬ戦いを前に尻込みする一般人の感性とは、とうの昔に別れを告げている。

「砲射(フォイア)!」

魔力弾には魔力弾だ。
ステッキを振るいルナの攻撃へぶつけ相殺。
互いに傷を与えられぬまま塵と化し、宙へ溶けて消えた塊には目もくれない。
視線を固定するべき対象を間違えず、第二撃はイリヤが先に動く。

「散弾(ショット)!」

先と違い数十の弾を一振りでばら撒く。
一発一発の威力は劣る分、数に物を言わせた攻撃にルナは動じない。
片手に魔力を集め薙ぎ払うように振るえば、イリヤと同じ数だけ発射。
違うのは一発に籠められた密度は、ルナの方が上。
敵の散弾を食い破って尚勢いは衰えず、イリヤへと殺到。

116Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:54:15 ID:/fKPqQI.0
回避か防御、選択は二つに一つ。
選ぶのに時間を掛ければ掛ける程、不利になるのは自分の方だ。
故に即決、回避を選択。
弾の数は多いが避けられない訳では無く、防御にリソースを割くよりは魔力の節約にも繋がる。
地を這うように姿勢を低くし疾走、背後で吹き飛ぶ地面は無視。
脳内で組み立てた次の動きを実行するのに、雑念を取り入れる余裕は無い。

「速射(シュート)!」

足は止めず、自動小銃のように魔力弾を連射。
威力は散弾同様低いが、続けて放てる長所を持つ。
元は美遊が得意とする攻撃方法も、実戦を積んだ今ならイリヤにも再現可能だった。

「私相手に魔法の撃ち合いをしようってわけ?笑えるわね」

的にされたルナが浮かべる表情は焦りでは無く笑い。
魔力の操作に多少は慣れているようだが、自分から見ればお遊戯も同然。
人差し指を向け、息をするように容易く力を集める。
そっちが連射で来るなら自分も同じ土俵に乗ってやろう。
但し何もかもが同じだとは思わないことだ。
機関砲を思わせる轟音を立てて撃てば、たちまちイリヤの弾幕は掻き消される。
威力は当然、発射速度もイリヤの倍だ。

「斬撃(シュナイデン)!」

ならば放つは威力と速度の両方に優れ、尚且つ範囲も兼ね備えた攻撃。
魔力を刃状に変え弾幕を切り裂く。
弾を消し去っただけでは終わらせない、ルナを直接叩くべく飛来。
だが甘い、脅威どころか足止めにすらならない。
斬撃を避ける素振りは見せず、真正面から突っ込む。
目の前を綿埃が飛んでいるのと何ら変わらない、手刀で切り裂き呆気なく消滅。
次の魔法を撃たせるのを誰が待ってやるものか。
数十歩分の距離を5秒と掛らずに詰め、拳を叩き込む。
可愛らしい顔を元の容姿が判別不可能に変える、魔女の鉄拳の到達まで残り僅か。

117Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:54:47 ID:/fKPqQI.0
「ルビー!」
『物理保護全開!』

ステッキを両手持ちに変え防御態勢を取る。
衝撃が襲い来るも痛みは最小限に抑え、歯を食い縛って耐えた。
とはいえルナの拳は超人類とも渡り合うだけの威力を秘めた、少女のものとは思えない凶器。
バゼットを思い起こさせる鉄拳に、剥き出しの背中を冷汗が伝う。
殴り飛ばされ距離こそ離れたが、ルナの移動速度なら追い付くのは簡単。
自身の体を弾丸に変え、イリヤ目掛けて再度拳を放つ。

「せやあああああっ!」

白い少女への魔手を阻むは水色の風。
視界の端に映り込んだ煌めきは、自身を刈り取る死神の鎌か。
或いは少女の決意の証、守護者の剣か。

この場で戦える者はイリヤ一人だけではない。
多少遅れる形となったが、チノも専用ソード片手に参戦。
纏う衣装は彼女の魅力を引き立てる可愛さだけが全てでは無い。
人を超えた者達とも戦える力を授けてくれる。

気合を乗せ振り下ろした剣を鼻で笑い、数歩身を引き躱す。
速さはそこそこだが動きは素人、恐れる理由が何処にある。
とはいえ自ら戦場にしゃしゃり出たのなら、手心を加える必要も無いだろう。

「精々必死こいて防いでみなさい!」

両手を魔力で覆いコーティング。
肩に突き出された剣を素手で弾き、反対に殴り掛かる。
急ぎ得物を引き戻して防御、刀身が震え手が痺れる感覚に顔を歪ませながらも頭を働かせる。
丸眼鏡の男と戦った時を思い出せ。
ロゼと零は、自分よりもずっと戦い慣れている二人はどう動いていた。

118Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:55:21 ID:/fKPqQI.0
(お二人ならこういう時…!)

警戒するのは片手のみに非ず。
打撃を与える四肢の全てが敵にとっての武器、こちらを殺せる威力を秘めている。
防いだばかりの右拳一つに意識を割くな、残る三つにも注意を払え。
強く言い聞かせ瞬きなど忘れたように目を剥き、次の攻撃に備える。

(来た…!右足…!)

膝を持ち上げ靴底が顔面へと接近。
顔を叩き潰されるのは御免だ、上半身を捻って躱す。
少し大袈裟に動き過ぎたとの反省をする間も無く、左拳が腹部を叩く。
防御は間に合った、拳は刀身を振るわせるに終わりチノは無傷。
前回の戦闘で一発もらった時の二の舞にはさせない。
三度目はまたも右の拳、剣で防ぐが最初の時よりも重く両腕が痛む。
小柄な体が宙に浮き、踏ん張れずに後方へと吹き飛ぶ。

「収束放射(フォイア)!」

覚束ない足取りで着地したチノを追い掛けようとし、別方向からの砲撃を察知。
仲間が稼いだ時間を活用し魔力を充填、より強力な一撃に繋げたイリヤだ。
少女一人を飲み込む光を冷静に見据えて、つまらなそうに片手を翳す。
隙を見つけて行うのが『この程度』の威力とは、何という貧弱さか。

「邪魔よ!」

魔力を集めた片手で薙ぎ払い、ついでに斬撃に変えて飛ばす。
回避が僅かに遅れ白い肩が赤く染まった。
問題無しだ、この程度なら戦闘に支障はでない。

119Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:55:54 ID:/fKPqQI.0
『イリヤさん、ここはクラスカードを…!』
「うん!」

撃ち合いでは向こうが圧倒的に上。
魔力の操作面はルナに分があり、このまま砲撃を続けたとて無駄に消耗するだけ。
キャスターのクラスカードならともかく、素のイリヤでは勝ち目は薄い。
故に別の手を使って打開に出る。

「夢幻召喚(インストール)!」

ルビー以外に支給された使い慣れた力。
セイバーのクラスカードを使用。
民の理想を一身に背負い戦った王の力を宿し、聖剣片手に斬り込む。
駆けるスピードを引き上げ、今度はイリヤが攻める番だ。

「ちょっとはマシになったみたいだけど、甘いのよ!」

多少力を増して、だからどうしたという話だ。
魔力を拳に上乗せ、我が身を裂き兼ねない憎悪を宿す。
刃と拳、ぶつかり合い負けるのは常識で考えれば後者。
しかし元々の驚異的な身体能力に加え、膨大な魔力を味方に付ければ話は別。
二つの得物は弾かれ合い、間髪入れずに揃って腕を振るう。
素手を刃に叩きつけているとは思えない金属音が鳴り響く。

「やああああああっ!!」

気合を叫び、剣を振るう動きを引き上げる。
カレイドライナーでは不得意な白兵戦を補う、アーサー王の力が殴打の嵐と渡り合う。
時折至近距離で魔力を暴発させるも、対魔力スキルが機能し耐える。
正規の英霊召喚されたセイバーに比べれば劣るとはいえ、イリヤには有難い力だ。

120Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:57:02 ID:/fKPqQI.0
だが倒せない、刃は一つ残らず防がれ決定打を与えられない。
デュエルモンスターズの上級モンスターを下し、超人類とも互角の戦闘に持ち込める。
おたすけを信条とする青年相手には動揺を引き摺り出されたが、当然あれが実力の全てな訳が無い。
オーバーロードや鬼の始祖など、各エリアで猛威を振るう怪物達にも引けを取らぬ魔女。
それがルナなのだから。

「っ、ああああっ!」

打ち漏らした拳が腹部を抉り、痛みと同時に吐き気が込み上げるも耐える。
一瞬でも無防備を晒せばたちまち袋叩きは確実。
鈍痛を誤魔化すように声を張り上げ攻め立てるが、ルナ相手には数歩届かない。
剣の腹を裏拳が弾き、がら空きの部分へ手刀を捻じ込む。

「私もまだ戦えますよ…!」

割って入った剣が腕を叩けば、両断はされなくても狙いは逸れる。
鬱陶し気に睨み蹴りを放つもイリヤが防御し、もう一人が斬り掛かった。
全く目障りだ、両腕を振り回し纏めて吹き飛ばす。

「チノさん!」
「大丈夫です…!私にもお手伝いさせてください!」

構え直す少女達へ、ルナもまた拳へ更に魔力を掻き集める。
何人来ようと結果は同じ、憎悪を以て人間どもは殺してやろう。

「イリヤ…!香風さん…!」

三人の少女の激突を離れた位置から司は見ていた。
いや、見ているしかできないと言った方が正しい。
イリヤやルナのように魔力を操れるでもなく、チノのような別世界の専用武器も持っていない。
運動神経が良いだけの、只の女子中学生では介入不可能
誰に言われずとも、司自身が理解している。

121Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:57:34 ID:/fKPqQI.0
「クソッ…!」

分かっている、自分があの場にしゃしゃり出ても足手纏いになるだけだ。
むしろ自分が余計な真似をしたせいで、イリヤ達が追い詰められるかもしれない。
頭では分かっているけど、見ているだけで何も出来ないのが恨めしい。
いきなり現れこっちの話を聞こうともせず、襲い掛かったあの少女に怒りを覚える。

弱いから、役に立たないから何もするな。
他の誰でも無い、司自身の声が正論を嘯き鎖となって絡み付く。
正しいか間違っているかで言えば間違いなく前者。

「だからって…納得できるかよ…!」

必死に戦っているのを、傷付いているのを、指を咥えて眺めるだけ。
何もしないで、取り返しの付かない事態になるまでオロオロ戸惑う。
そんな自分が堪らなく嫌だ、受け入れたくなんかない。

あの時だってそうだ。
みかげと撫子が言い争うのを自分は強く止められず、その内撫子が叩かれて。
どうにか窘めようとしたが手遅れで、三人組はバラバラになってしまった。

見ているだけで何も出来ないのはもうウンザリだ。
縛り付ける正論という名の鎖を振り払うように一歩前に踏み出し、

122Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:58:06 ID:/fKPqQI.0
司は、一つの資格を得た。

「トンボ……?」

どこからか現れたのか、目の前を飛び回る一匹の昆虫。
青い腹部と尾を持ち、カメラのレンズに似た両目。
但し自然界に生息するのとは違う、機械のボディを持つトンボ。
それが鳴き声らしき音を発し羽を震わせる。

「もしかして……」

はっと気付きデイパックを漁る。
説明書によれば自分でも戦えるらしいけど、それには資格がいるとのこと。
一体全体どんな条件を満たせば良いのか分からなかったが、今がそうだとしたら。
イリヤ達を助けられる一抹の可能性に賭けて、目当ての物を取り出した。

「これで良いんだよな…?頼む、私に力を貸して欲しいんだ!」

資格者となった少女の頼みを断る理由は無い。
自由を愛する元の持ち主のように、正論による雁字搦めの束縛を抜け出したからか。
或いは花に譬える程の女性好きの資格者に義理を果たそうと、司への協力を決めたのか。
真意を確かめる術は無く、確かなのは司が『ドレイクゼクター』に選ばれた一点。

123Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:58:46 ID:/fKPqQI.0
『HENSHIN』

トンボが木に止まるように、差し出されたグリップへ装着。
尾の部分をロックし安定、グリップを起点に変身システムが起動。
淡いスカイブルーの装甲はZECT製の戦士の例に漏れず、超金属ヒヒイロカネ。
トンボモチーフのマスクを被り、高濃度酸素を行き渡らせるチューブが各部に行き渡る。

仮面ライダードレイク・マスクドフォーム。
マスクドライダーシステムの3号にして、遠距離戦と水中戦を得意とする姿。

「うわ…うわぁ〜…マジかぁ……」

放送で銀色の武者になった人や、喧しいベルトを付けていた自称神。
彼らのような「変身」を自分がしたと弟が知ったら、どんな顔をされるのだろうか。
そういえば変身と口にしていなかったが、そこは今重要じゃない。

「うっし、やるぞ…!」

遊びでも無ければ喧嘩でも無い。
命の懸かった本物の戦いに身を投じるべく、あえて声にして気合を入れ直す。
銃身がトンボという奇妙な形だが立派な武器だ、ルナの腕へ向けて引き金を引く。

「っ、また邪魔が…!」

二対一にも関わらず剣を捌き、カウンターで拳を叩き込み優勢を保つ。
そのまま殴り殺そうとするも光を弾に邪魔をされ、仕方なく攻撃を中断。
魔力を帯びた腕は矛にも盾にもなる、光弾を的確に叩き落とす。

124Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:59:56 ID:/fKPqQI.0
当然ながら司に銃を撃った経験はゼロ、しかしドレイクの機能が補う。
照準を安定させ、使用者の挙動に最適な弾速や反動を実現。
シューティングゲームでハイスコアを叩き出す撫子のような余裕はないけど、初めてにしては上手く狙えてる気がする。
引き金に何度も力を籠め、イリヤ達へ攻撃させないよう連射し続ける。

「司さんも変身が出来たんですか!?」
「わ、私も初めて見たけど、それより今は…!」

援護に出てくれた司に内心感謝を告げ、少女達が再び剣を振るう。
横目で睨み舌打ちを一つ零し、片手で双剣に対処。
もう片方はドレイクの援護射撃を防御し、これで一撃も自らへ当てさせない。
手甲のように練り上げ纏わせた魔力ならば、素手でも武器持ちの相手が可能な防御力を発揮可能だ。

だが片腕ずつでは先程よりも手数で劣り、攻撃よりも防御へ意識を割きがちになる。
腹部を狙った刃を弾き、肩に迫るもう一本は身を捩り躱す。
その間ドレイクの銃撃も一向に止む気配は無く、腕のみならず脚を狙って次々光弾が殺到。
機動力を奪う気か命を奪いたくないからか、どっちにしても非常に目障り。

片腕だけで足りないなら足を使うまでだ。
右脚にも魔力を流し込んで強化、光弾を蹴り掃う。
とはいえ両手と片足をほぼ同時に動かし続けるのは、ルナと言えども流石に少々キツい。
この状態でも軸となる左足へ攻撃が来るのだから、鬱陶しいことこの上ない。
であれば律儀に格闘戦を継続してやらず、纏めて引き離すまで。

『強いのが来ます!』

急激な魔力の収束を感知しマスターに警戒を促せば、イリヤも即座に回避へ移行。
対魔力スキルを持つ自分だけならまだしも、もう一人はそうもいかない。
短い断りと共にチノの腕を引いて跳び退き、直後ルナの全身から放たれる魔力の爆発。
初戦の相手にもやったセルフバーストを使い、至近距離から吹き飛ばす目論見は外れたが構わない。

距離が開けたのなら、埒が明かない殴り合いに興じる必要は無くなった。
まずはチマチマ豆鉄砲を撃つ人間からだ。
左手を翳し機関銃もかくやの勢いで魔力弾を発射、見た目通りの鈍重な鎧では回避もままならないだろう。

125Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:00:38 ID:/fKPqQI.0
「何ですって?」

予想に反して司は新たな手に出ていた。
ドレイクグリップ後部のスロットを引き、各部の装甲が着脱準備に入る。
事前に読んでいた説明書の内容をちゃんと覚えているのは、司自身にも驚きだ。
これも特撮好きだった名残だろうか。

「これ言わなきゃ駄目なのか…?キャストオフ…!」

『CAST OFF』

『CHANGE DRAGONFLY』

青い電気が駆け巡り、浮かび上がった装甲が弾け飛ぶ。
ヒヒイロカネ製のアーマーは敵への攻撃に変わり、ルナ目掛け飛来。
数十発の魔力弾を受けて尚も止まらない鉄の塊へ跳んで避け、その間にも司の方は第二の変身を終えた。
トンボをモチーフにしながらもマスクドフォームとは異なる仮面。
羽状の胸部装甲が特徴的なライダーフォームだ。

「さっきより動きやすい…ってか今の危ないだろ!?あんな脱げ方するなんて書いて無かったぞ!?」

耐久性とパワーこそ低下するが、代わりに瞬発力に長ける形態。
加えてボディースーツにニューロン細胞が組み込まれており、装甲を纏うマスクドフォームよりも自分の体のように動かせるのが特徴である。

ライダーフォームのドレイクが銃を向け、イリヤとチノが構え直す。
三対一の不利な状況にもルナが慌てふためく様子は無い。
現れた時と同じ憎悪を宿し睨み付ける魔女へ、司から率直な疑問が飛ぶ。

「…何で私達を襲うんだよ。アンタと会ったのは今が初めてだろ。なのに何で、そんな風に怒った目で見て来るんだ?」

自分とイリヤは勿論、チノだってこのような少女に会った覚えはない。
なのに相手の雰囲気からは明確な怒りを感じ、不可解でならなかった。
恨みを買う真似をしたつもりはない。
つい失言や態度で相手を怒らせてしまった経験は司にだってあるけど、幾ら何でも初対面の少女にまで憎まれる謂れは無い筈。
それに理由を知らないまま暴力に晒されるなんて、どうしても納得がいかなかった。

126Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:01:13 ID:/fKPqQI.0
「会ったかどうかなんて関係ないわ。人間は全員同罪よ」

吐き捨てた返答は、司のみならず全員に取って頷けないもの。
さっき会ったばかり、しかし人間だから殺す。
特定の個人では無く人間という種全体への憎悪を言い放つ。
ルナの抱える事情が如何に根深いか、これだけで察しが付く。

「何だよそれ…そんなの滅茶苦茶過ぎるだろ!」

だからと言って、はいそうですか殺されてあげますとはならない。
自分達が何かした訳でなく、ただ人間だからという理由で恨み殺す。
そんなの、最初に襲って来た女騎士と同じ自分勝手なだけじゃあないか。
ルナの過去が自分の思う以上に壮絶で、絶対に許せない程の憎しみを燃やしたとしても。
無関係の人達まで巻き込むなんて、司には認められない。

「アンタの痛みは否定しないよ。でも、それを他人にまで押し付けるな!自分が痛かったから関係無い人達まで痛くしようとすんなよ!」
「うるさい!」

お前は間違っているとキッパリ言われ、思わず言葉が口を突いて出る。
自分だって好きでこんな境遇になったんじゃない。
殺すのが、暴れるのが好きだから殺し合いに乗ったのでは断じて違う。

「全部…全部アンタ達人間のせいでしょ…!アンタ達が私をこうした癖に!私だって、本当はコローソと……」

争いたくなんてなかった。
恐いことや辛いことなんて一つも知らず、無邪気に草原を駆けた頃のように。
ずっと只の子供のままでいたかったのを壊したのは、村を焼いた人間共ではないか。
でなければ自分が復讐に走ることは無かった、コローソだって敵に回ったりは…。

127Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:02:08 ID:/fKPqQI.0
「どいつもこいつも…本当に気に入らないわね…!」

自分の心を揺さぶった男のように、何故誰も彼もコローソと同じ言葉をぶつけるのか。
憎い、許せない、気に入らない、揃いも揃って心を踏み荒らす卑しいクズども。
そんなに死にたいか、殺されて二度と口を聞けなくして欲しいか。
いいだろう、いいだろう、いいだろう!

「全員死ねば、もう何も言えなくなるわよね…!!」

地獄がお望みならば見せてやる。
神を騙る外道から寄越されたのは腹立たしいが、この際知ったことか。
右手に握るソレは更なる力を自分に齎す物。

「黒い、板…?」
『っ!!いけません!アレを使わせてはマズいことが起きちゃいます!』

ソレの秘める力の大きさへ唯一気付けたルビーが叫ぶも、時既に遅し。
言葉の通り、黒い板と表現できるソレをルナは自身の胸に押し当てる。
すると板は胸に突き刺さった、否、肉体に吸収されたではないか。
目を見開くイリヤ達の前で、魔女は歓喜に身を震わせた。

「ふふ…ふふふふふふはははははははは!!感じる…感じるわ…人間を一人残らず滅ぼす為の力を…!!!」

外見上の変化は見られないが、ルナの言葉が妄言の類でないとはイリヤ達にも分かる。
心臓を鷲掴みにされているに等しい恐怖、呼吸一つで喉が異様に乾くプレッシャー。
ルビーの言う通りだ、マズいことが起きてしまった。

128Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:03:00 ID:/fKPqQI.0
開戦の合図は言葉では無く拳に乗せる。
イリヤの目の前で魔女が嗤っていた、足を動かす瞬間を見ていない。
なのにどうしてと答えを導き出す前に、何を置いてもやらねばならいのは攻撃への対処。
跳ね上げた両腕があらぬ方へとズレる、剣を弾かれた、そして敵の拳を弾いた証拠。

「どこ見てるの?」
「っ!?」

目と鼻の先にあった笑い顔が消え、聞こえた声は頭上から。
顔をそちらに向ける手間すら惜しく、感じる気配を頼りに剣を突き刺す。
貫いた手応えは無くとも、先程同様拳とぶつかる感触はあり。
上を取られたなら引き摺り落とすまで、跳躍し斬り掛かる。

だが遅い、剣の間合いをルナはとうに脱していた。
飛行魔法で距離を取り、魔力を掻き集めた球体を複数生成。
パチンと指を鳴らし、光線が一斉に放たれる。
地を這う蟲を根こそぎ焼き払う熱線へ、三人の少女もその場に棒立ちではいられない。
強化済みの身体能力を駆使し、上空からの脅威から逃げ出した。

「きゃああああああ!」
「ぐぁぁ…!」

直撃こそ避けても、籠められた魔力の密度は薄くない。
余波だけでチノはおろか、ドレイクに変身中の司すら地面から引き離す。
風に弄ばれる木の葉のように遥か彼方へ吹き飛ぶ仲間へ、駆け付ける事すらイリヤには許されない。

「っ!?」

瞬く間に距離を詰めるや否や、視界全てを埋め尽くす拳。
気が付けば目の前にいたのと違い動きは見えたが、速さはこれまで以上に上がっている。
移動のみならず攻撃も当たり前のように速度強化され、数十本の腕が襲って来たかの異様な光景。
地面をしっかりと踏みしめ負けじと剣を振り回す。
クラスカードの中でも最も安定した能力を誇るセイバーだからこそ、対処が可能となった。

129Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:03:33 ID:/fKPqQI.0
「遅い遅い遅い!遅過ぎんのよ!」
「くっ…まだ…まだ…!!」

決死の抵抗を鼻で笑い、ルナがギアを一段階上げる。
勢いを増す殴打の嵐にイリヤもまた歯を食いしばり弾き返す。
脅威となるのは速さだけではない、威力も上がり一撃が非常に重い。
痺れが両腕を襲い、剣を握る感覚が徐々に鈍くなり始めた。

「がふっ!?」

一撃が腹部へ入り、内臓をプレス機に掛けられたと錯覚。
立て直せ、呻いてる場合じゃ無いと言い聞かせるも手遅れ。
たかが一撃されど一撃。
複数個所へほぼ同時に鉄拳が叩き込まれ、小さな騎士は為す術なく吹き飛ぶ。
地面か壁に激突を待たず魔女は追撃に出る。

殴り飛ばされた先でイリヤを待っていたのは民家の壁ではなく、構えを取ったルナだ。
いつそこへ移動したのかを教えてやらない、くれてやるのは憎悪を籠めた暴力のみ。
雪のように輝く銀髪を靡かせた頭部へ狙いを定める。
騎士に似た姿になり随分打たれ強くなったが、そこを潰されて尚も無事でいられるか見物である。
純白は赤に汚れ、後に残るのは見るに堪えない人間の死体一つ。

「く…ああああっ!」

しかし、イリヤとて敗北と死の危機を幾度も乗り越えて来た少女。
強者を前に身を竦ませ、終わりを待つだけの段階はとっくに乗り越えた。
筋肉の激痛を意思一つで黙らせ、拳目掛け聖剣を叩きつける。
無茶な体勢もあってか力は向こうが上、これでいい。
直撃を防ぎ尚且つ反動を利用して、反対方向に着地。
立ち上がろうとするもダメージの大きさで膝を付き、荒い呼吸を繰り返す。

130Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:04:18 ID:/fKPqQI.0
「まだ…終わってない…!」

なれど倒れはしない、選ぶのは諦めに非ず戦闘続行。
剣を杖代わりにして支え、己の足で草花の抉れた地面を踏みしめる。
腕は動く、足も動く、体のどこも失われていない。

「まだ…あの女の子を……救えてない……!」

何よりも、負けられない理由が一つ増えたから。

イリヤはルナの過去に何があったかを知らない。
何が好きで何が嫌いで、どんな風に生きて来たかも知らない。
そもそも名前すら聞いていない。
分からないこと尽くしで、それでも知る事が出来た。

司へ言い返した時の彼女に怒りを見た。
自分がこうなったのはお前達が悪いと、責めているようだった。
何もかも全部お前達のせいだと、憎んでいるようだった。

でもそれだけじゃない。
どうしてこんな風になってしまったんだろうというやるせなさ。
好きで手を汚しているんじゃないのにという悔しさ。
コローソという名前を出した時の、愛憎入り交じった一言で言い表せない顔。

131Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:05:27 ID:/fKPqQI.0
どんな理由があれ、殺し合いに乗った選択は許されない。
だけど、他者を傷付ける当人ですら心の奥底で藻掻き苦しんでいるのならば。

イリヤを戦いへと駆り立てるのに十分な理由となる。
何度罵倒され、否定されようと曲げられない我儘(ねがい)を貫く。

あの時と同じだ。
記憶を代償に戦い続け、想いすらも雷に変えた『彼女』。
痛かろうが関係無い、苦しかろうが構ってられるか。
大切な全てを取り零してしまう前に、この手を届かせる。

『退くな』『止まるな』『突き進め』

その言葉が、決意をより強靭なものへと変え――





――『ったく、筋金入りにも程があんだろ。ここまでいくと逆に感心するわ、ムカつくけど』

――『でもまぁ…あたしに勝った癖に、どっかのクソチビに負けそうになってるのが一番ムカつくんだよ』





声が聞こえた。
親友を攫って、記憶喪失の変わった人を痛め付けて、圧倒的な強さに一度は敗けて。
恋心を喪って、もう一度同じ人を好きになった『彼女』の声。

それが果たして幻聴だったのか、そうでないのかイリヤには分からない。
ゲームマスターにより設定されたシステムが、イリヤの場合はこういった形で反映されただけの話かもしれない。

『イリヤさんこれは……』
「うん……」

けど今は、小難しい理屈など必要ない。
戦う為の力がここにある。

「夢幻召喚――」

自分を支えてくれるモノが、手の中にあるのなら。

「バーサーカー!!」

何度だって立ち上がってみせる。

132Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:06:08 ID:/fKPqQI.0



光が晴れた時、そこに騎士王の姿は無かった。
甲冑を脱ぎ大胆に素肌を晒した上半身には、毛皮の衣を新たに纏う。
輝く聖剣を今の彼女は必要としない。
代わりの得物は既に持っている、或いは宿ったと言うべきか。
手甲と帯で覆い隠した右腕は肥大化し、小柄な体躯とは酷くアンバランス。
だが不思議とそこに気味の悪さは無い、これが正しき姿と思わせるナニカがある。
女児の胴より太い五指が掴むは、人の身では振るうことの叶わない鉄塊。
無骨ながらも神聖さを兼ね備えた大槌を手に、神話の再現は成った。

クラスカード・バーサーカー、真名【マグニ】。
北欧神話の雷神トールの息子にして、怪力無双の半神半巨人。
エインズワース陣営の人形、ベアトリス・フラワーチャイルドが使用し幾度となく追い詰められた神域の力。
異なる世界線のイリヤと絆を結んだ狂戦士ではない、正史においては使わなかったカードだ。

「あれ?もしかして…」
『そのまさかみたいです。トールの神核が破壊されていません。まぁだからルビーちゃんもこれ使うのに同意した訳ですが』

嘗ての戦いでバゼットのフラガラックが撃ち抜いた神核。
それがどういう訳か元に戻っている。
まるで最初から、破壊されたという事実など無かったかのように。
そもそもこのカード自体、支給品でもないのに突然現れたりと不可解なのだが。

色々と説明の付かない点が見受けられるものの、イリヤには好都合。
少なくともこの状態なら自我を保って戦える。
同じ狂戦士のカードでも、ギリシャの大英雄とは幾分勝手が違う。
正真正銘、マグニを使う初の実戦だ。

133Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:06:48 ID:/fKPqQI.0
「……そう、まだ足掻くのね」

イリヤの変化を目の当たりにしながらも、ルナは動じない。
先程以上に力を増したと理解して尚焦りを顔に出さず、代わりに憤怒で染まる。
救う、救うと言ったのか。
村を焼き家族を奪った連中の同族が、自分を復讐鬼に変えた元凶である人間が。
一体どの口で救うとほざいた。

「誰が誰を救うですって?眠たいこと…言ってんじゃないわよ!!」

怒りを燃料に変え魔法を発動。
両手に収束させた光球から熱線を放ち、二度とふざけた口を聞けないよう消し炭にしてやる。

「本気だよ…本気であなたを、救いたいって思ってる!」

対するイリヤは避けない、正面突破あるのみ。
バーサーカーのカードは絶大な力の代償として、使用者の理性を徐々に奪う。
加えてヘラクレスと違い、これにはアンジェリカが施してくれた強制排出のコードも無い。
故に狙うは早期決着、チマチマ回避に動いてはいられない。

巨大化した右腕は見掛け倒しに非ず。
人知を超え神域に君臨する腕を振るい、真っ向から熱線を薙ぎ払う。
被害は帯に多少の焦げ目を付けるに留まり、腕自体には火傷一つ見当たらない。
熱を霧散させた勢いを殺さずに叩きつける。
空気の震えのみで地面が捲れ上がる威力だ。

間近に迫る神腕へルナもまた己の腕をぶつけ相殺。
コレを相手に生半可な強化は無意味と察し、魔力を何重にも練り上げた拳だ。
支給品を使い地力を引き上げた影響もあってか、イリヤ相手に一歩も引かない。
拮抗が続けば続く程、互いの踏み込む力が増していき地面が絶叫を上げる。

134Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:07:29 ID:/fKPqQI.0
「ぜ…りゃああああああああああっ!!!」

腹の底から怒号を上げイリヤが一歩前に進む。
押し負けたルナが吹き飛び、次の行動に出る前に大槌を投擲。
大型トラックすらもスクラップへ変える鉄塊の直撃は御免だ。
黒い板を取り込んでから使えるようになり、既に二回ほど見せた転移を使用。
扱うには少々コツがいる為連続ではまだ使えないが、大槌の範囲内からイリヤの背後へと瞬時に跳ぶ。
がら空きの背中へ拳を突き出し、寸前でイリヤもまた跳躍。

「ぐぎっ!?」

更には避けた筈の大槌がブーメランのように戻って来た為、盛大に殴り飛ばされる羽目になる。
咄嗟の防御は間に合ったが、それでも強烈な痛みが襲う。
地面へ叩きつけられる前に拳を振り下ろし、強引に着地。
顔を上げる前から急接近する気配を察知、魔力を両腕だけでなく両脚にも付与。

顔面スレスレで神腕を躱し懐へと潜り込む。
強化中の蹴りがイリヤの腹部に捻じ込まれ、嘔吐感がせり上がるも知ったことかと無視。
退いてはやらない、逃げ回る暇などない。
こうも近付いて来たなら好都合、至近距離のルナの額へ自分の頭部を叩きつける。
頭突きという原始的な戦法によろけ、視界が数秒不安定と化す。
隙を逃す手は無い、大砲を思わせる勢いの拳がルナを殴り付けた。
両腕を交差し防御したにも関わらず、骨の髄まで痺れが駆け巡る。

「やああああああああああああああああっ!!!」
「舐めるなあああああああああああああっ!!!」

魔力を操作し両腕の強化を数段階引き上げる。
神腕の二撃目へ左拳をぶつけて弾き、顔面狙いで右拳のストレートが炸裂。
頭を下げ回避、目の前の敵からは僅かたりとも視線を逸らさない。
アッパーカットをルナが避けるも、余波で皮膚が切り裂かれた。
首と顎を伝う赤い線に構わず、イリヤを殴り殺すことのみに集中。

135Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:08:31 ID:/fKPqQI.0
地面が右脚で抉られ、草花や土が舞いイリヤの視界を覆い隠す。
長続きはしないが一瞬でも隙は作れた、唸る左脚が脇腹を叩く。
軋みを立て痛みを訴えられるが捨て置き、足首を掴んで引き寄せる。
神腕が振り下ろされるがルナもタダではやられず、イリヤへと拳を突き上げた。

「…っ!!ま…だ…まだ…!!」
「こい、つ…!」

悲鳴すらも噛み砕き、両足を一歩も後ろには下がらせない。
大槌を引き寄せ豪快に振り回されては、ルナも堪ったものじゃあない。
痛む体に鞭を打って地面を転がり、範囲内から脱した所で立ち上がる。
尤も、相手が逃がしてくれる筈が無く瞬く間に距離を詰められた。
大槌と四肢で殴り合う最中も、余りのしつこさに苛立ちが募る。
何度殴っても倒れない、怯まない、正気を疑うタフさだ。

殴打の嵐を掻い潜り、時には痛みが襲っても止まらない。
マグニは時間経過だけでなく、もう一つの条件を満たしても狂化が加速する。
戦闘中に9歩の後退、トールの死の再現により一段と正気を失う。

『退くな』『止まるな』『突き進め』。
ベアトリスと同じく、イリヤにもトールの神核が放つ言葉が聞こえた。
上等だ。救うべき相手が目の前にいる、守るべき仲間が後ろにいる。
退く理由も止まる理由もない、突き進む以外に何をしろと言うのだ。

「いい加減……しつこいのよアンタは!!!」

イリヤとは反対に大きく後退させられたルナの苛立ちが頂点に達する。
何度殴っても止まらないなら、一撃で髪の毛一本残さず消し飛ばせば良い。
頭上へ両手を掲げ、魔力を最大限に掻き集める。
光などまるで見えない、暗黒に染まった太陽の如き塊が徐々に形成。

対するイリヤも大槌を掲げ、雷雲を発生。
雷を落とすもルナ目掛けてではない、自分が持つ得物を帯電させる為だ。
空の見えるフィールドのみで使用可能な招雷スキルである。
破壊力は倍となったが、ルナの最大魔法を破れるかはまだ怪しい。
対抗手段が無い訳では無い、しかし

『宝具を使えば代償を払うことになります。ですがそれは……』
「っ……」

大槌…ミョルニルを宝具として振るえばどうなるかを、イリヤも知っている。
真名解放の度に使用者の記憶を消費するのだ。
誰に関する記憶を失うのかは分からない。
家族か、学友か、仲間達か、もういない姉か、神に囚われた親友か。
一つとして忘れたくない大事な記憶が抜け落ち、頭の中が虫食いになる。
一瞬の躊躇、だが自分がやらねばと唇を噛み締め、

136Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:09:11 ID:/fKPqQI.0
「イリヤ……!」

その選択を止める仲間の声が届いた。

「これ…!もしかしたら力になるかもしんない…!」

司が投げ渡したのは金色に輝く石。
ルナの魔法で遠くまで吹き飛ばされるもドレイクに変身中なのもあってか、どうにか無事。
痛む体を引き摺り戻る最中、デイパック内から異変を感じ開けてみると支給品の一つが光光を放ち熱を帯びていたのだ。

同エリア内にて風の力を引き出した聖女が原因だとは知らず、石はイリヤへと託された。

「!!司さんありがとう…!」

受け取ったイリヤも石が何なのか詳細は知らない。
けれど分かる、夢幻召喚を行った今なら頭では無く心で理解できる。
この石と『父の神器』があれば、絶対に負けはしないと。

「天光満つる処に我は在り」

暗黒の太陽はより巨大となり、逆らう愚物達を見下ろす。
死以外に何も与えない。

「黄泉の門開く処に汝在り」

怯え、届く筈の無い命乞いに出るか。
自らに訪れる終焉から目を逸らし、夢現の世界に迷い込んだと逃避に走るか。
人間達に出来ることなんて、それしかない。

137Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:09:56 ID:/fKPqQI.0
「出でよ神の雷――」

なのにどうして

「インディグネイション!!!」

彼女は諦めないのか。

太陽が全てを飲み込まんとし、闇を切り裂く雷が咆える。
光の主霊石(マスターコア)により引き起こされる星霊術すらも、ミョルニルへ落とし帯電の工程を挟んで放つ。
宝具の真名解放時にも劣らない絶大な威力、だがルナの魔法もまた生半可な力では無い。
願いと憎悪、抱く信念は異なれど折れぬ強さは両者共通。

『RIDER SHOOTING』

「いっけえぇぇぇっ!」

であるのなら、勝敗を分けるのはイリヤにあってルナには無いもの。
即ち、共に戦う仲間の存在。

ドレイクゼクターの羽を畳みエネルギーを銃口に収束。
成体ワームを仕留める威力の光弾も、今のルナを倒すには至らない。
それでも、ほんの少しでも気を逸らしイリヤの力になれるなら構わない。

ルナの妨害に出たのは司のみならず、水色の剣士もだ。
遠く吹き飛ばされ戻って来るのが遅れたが、チノだって戦いを放り出す気は無い。
とっておきの技を使い氷の剣山を生成、超人類を一度は怯ませた力が此度も仲間の為に使われた。

「ありがとう二人とも…!」

仲間の支援はイリヤの心を熱くさせ、黒い太陽を押し返す。
光が暗黒を消し、徐々にルナの視界も輝きに染まる。
人間にとっては希望溢れる光景も、ルナから見れば受け入れ難い悪夢に他ならない。

138Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:10:32 ID:/fKPqQI.0
負けるのか、憎悪を燃やした自分の力は届かなかったのか。
悪い魔女は正義の魔法使いと仲間達に倒され、ハッピーエンドを迎える。
如何にも人間達が好みそうな結末が、復讐の果てだというのか。

「ふ……ざけるなぁああああああああああああああああああああっ!!!」

村を焼かれた絶望は、正義の踏み台にあるんじゃない。
家族を奪われた怒りは、陳腐な脚本を彩る為の悲劇なんかじゃあない。

全てを奪われたあの日と同じ、或いはそれ以上の憎悪が宿る。
殺す、こいつらは殺す、人間どもは一人残らず殺す。
優勝の為の礎だけではない、憎悪を以て殺してやる。
己が身さえも滅ぼし兼ねない炎を心に灯し、ふと浮かんだのは一人の男。
コローソではない、殺し合いの地で唯一共感を抱いた復讐鬼。

そして、ルナもまた限界を超えた。
心意システムは微笑む相手を選ばない。
条件さえ満たせば善悪関係なしに、一つ上の段階へと押し上げ不可能を可能にする。

「波ぁああああああああああああ!!」

急上昇した魔力、若しくは異なる力が雷と激突。
勝敗が傾きかけた筈が再び拮抗を見せた後、少女達は二つの力に覆い隠された。

139Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:11:06 ID:/fKPqQI.0



何が起きたのかを即座に理解するのに視界は朧気で、頭もちゃんと働かない。
瞼をこじ開けるのはこんなにも難しかっただろうか。
平日に早起きするよりも重たい、なんて呑気なことを少し思いつつイリヤは目を開けた。

「……っ。わた、し……」
『動かないで下さいイリヤさん!全速力で治療を行ってますので!』
「ルビー……?」

普段のおちゃらけた口調ではない、焦燥感の宿る声はフヨフヨ浮かぶ相棒から。
億劫ながら顔を動かすと、そこかしこに焼ける痛みが走った。
短く悲鳴を出しつつ見れたのは、転身が解除された自分の体。
セイバーとバーサーカーのクラスカードは強力な分、魔力の燃費もすこぶる悪い。
二枚連続で使えばこうなって当然だ。

諫めてくれたルビーには申し訳ないが、戦いの結果を知らなくては。
顔を真横に向けると、ほんの数センチ先に黒い板が落ちている。
確かあの子が体に突き刺した正体不明の道具。
これが外に出ているということは、彼女の体内から排出されたと見て良いのだろうか。
肝心の本人は、そして仲間達はどうなったのだろう。
喉を震わせるだけでも痛むが少しずつマシになり、ルビーへ直接聞こうとし、

140Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:11:51 ID:/fKPqQI.0
「まさか、コローソ以外でここまで私を追い詰める奴がいるなんてね」

自身の敗北を伝える声が聞こえた。

引き千切られるような激痛が駆け巡る体を無理やり動かし、彼女を見る。
体中に傷を付け、元からあった火傷の範囲をさらに広げ。
栗色の髪を揺らす魔女が、勝ち誇ったように立っていた。

顔も髪の色もついさっきまでと同じ、だが変化は確実に見て取れる。
少女らしい華奢な体付きから一変、四肢と胴体を覆う分厚い筋肉。
ボディービルダー程では無いが、齢とは不釣り合いの屈強さ。
何よりも全身から放たれる金色のオーラこそ、別次元の存在になった証。
殺し合いの参加者の中で唯一、敵意や苛立ち以外の感情を向けた者。
自分と同じく友に裏切られた復讐鬼、野比のび太を思わせる姿だった。

土壇場で心意システムの恩恵を受け、爆発的に能力を上昇。
直撃を受ける筈だった雷を押し返すも、敵の攻撃も容易く破れる代物ではなく。
結果相討ちの形でダメージを受け、衝撃で黒い板も排出されたが無問題。
まだ戦える自分と違い、相手は地に伏せ悪足掻きすらも不可能なのだから。

右手に魔力を集中、これまで何度も行った強化。
今回は刃状に形成し貫通力を上昇。
散々梃子摺らされたが結局は自分の勝ち、この様でよくも救うなどと抜かせたものだ。
薄い胸を貫き、二度と声を発せられない肉人形に変えてやる。

「まだ…私は……!」
『イリヤさんには指一本触れさせませんよ!このゴリマッチョガール!』

何を言おうともう遅い。
一人と一本、纏めて壊してあの世で負け惜しみでも言ってれば良い。

「さよなら、少しは歯応えのあった人間」

今更何の躊躇も抱かずに突き刺す。





『CLOCK OVER』





そして、一つの命が散った。

141Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:12:42 ID:/fKPqQI.0
○○○


全部をハッキリ覚えてるわけじゃない。
イリヤに光る石を渡して、そしたら魔法とか全然分かんない私にも分かるくらい凄いことになって。
でも他にも何かやれることがあるんじゃないかって思って、銃を撃った。
ちゃんと思い出せるのはそこまで、後はもうあやふやだ。

イリヤと相手の女の子が光ったと思ったら、気が付くと私はまた倒れてた。
吹き飛ばされた時も、いつ叩きつけられたのかもよく分かってない。
ただこの仮面ライダーとかなんとかいうのになってなかったら、2〜3回はとっくに死んでたろ。
そう思いフラフラになって立ったら、イリヤが殺されそうになってるのが見えた。

そっからは無我夢中だ。
説明書に載ってた小難しい説明はピンと来ないけど、早く動けるらしい力を使って猛ダッシュ。
サッカーの試合やってても、こんだけ速く走れたこと無かったぞ。

イリヤのとこへ辿り着いた丁度そのタイミングで元に戻って、私は咄嗟に前に出たんだ。
痛い、っていうか熱い。
訳分かんねー内にぶっ倒れて、目だけ動かしてすぐに見なきゃ良かったって後悔する羽目になった。
お腹からいっぱい、出ちゃ駄目なモンが出ちゃってる。
ああこれ駄目なやつだとか、ヒーローのスーツもあんまり当てにならないなとか、
そういうのも思ったけど、でもイリヤは助かったんだっなて分かったら安心した。

142Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:13:37 ID:/fKPqQI.0
だけどさ、すぐに良くねえだろって思い直した。
イリヤが泣いてる、グズグズの声で私の名前を呼んでる。
私が勝手に飛び出して、助かろうとしないせいでイリヤを悲しませてる、傷付けてる。
そんなの全然良くないだろ、自分だけ達成感得た気になってイリヤを泣かせてたら良い訳ないんだよ。

それに、ああそうだ、そうだよな。
琴岡の奴にちゃんと謝れてないし、アイツと鷲尾を仲直りさせてない。
どんな事情があったにしても、お前の言葉で傷付いた人はいるんだぞって教えられてない。

昴だって私が死んだら泣くかな、まぁ泣くよな。
あいつが背中を押してくれたから、琴岡に会いに行けたんだ。
ちゃんと仲直りさせて、それでもう一回「お前のお陰だよ」ってお礼を言いたい。
じゃあ余計に、死んでなんかいられないじゃん。

なのに、体は全然動いてくれない。
小さい体でずっと頑張ってくれた女の子を、傷付けたくない。
私のせいで三人組が、ずっと離れ離れなんて嫌だ。
鷲尾の…一番好きになった人の顔を二度と見れないのも辛いのに。

あーくそ、こんな時に鷲尾のこと考えるから、泣きたくなってきたじゃねえかよ

くそっ…頼むよ…動いてくれよ…

なあ…頼むからさ……

143Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:14:12 ID:/fKPqQI.0



「司さん…!何で…何で……!」

どれだけ揺さぶっても、光を失った瞳は二度と何も映さない。
血を垂らした口から言葉は紡がれない。
大事な友だちも参加してると言ったのに、二度と会えなくなってしまった。

マスクドフォームですら防げるか怪しいルナの刃を、耐久性の劣るライダーフォームで受けたのだ。
ヒヒイロカネ製の装甲も、決して万能ではない

「余計な…まあいいか。殺す順番が入れ替わっただけだし」

自分を苛立たせた一人ではあったが、殺してしまえば感慨が起きる筈も無い。
縋り付いて涙を流すイリヤを今度こそ仕留めるまで。

そのつもりだったが、邪魔する者はまだいるらしい。

「と、止まってください!」

怯えを隠せない声を出し、イリヤを背に庇う水色の剣士。
チノが武器を構え、行かせまいと立ち塞がった。
グロテスクな司の姿に恐怖を感じ、自分がもっと早く駆け付けられればと後悔する。
一緒にいた時間は短いけど、殺し合いを良しとしない仲間だった。
マヤの死を見ているしか出来なかった自分と違い、大事な友達に再会できる筈だったのに。
その機会は彼女の命と共に失われた。

144Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:14:43 ID:/fKPqQI.0
「イリヤさんは逃げてください…!ここは、私が何とかしますから…」
「ビビってるのが丸分かりね。全然カッコ付かないわ」
「うるさいですね…!何と言われようと、イリヤさんには手出しさせません…!」

本当は恐い、魔女の言う通り恐くて仕方ない。
自分よりもずっと強いイリヤでも勝てない相手に、ロゼや零の助けも借りられず立ち向かう。
ココア達に会えず死ぬかもしれないと思うと、逃げ出したくなる。
でも、イリヤには自分や司と同じ苦しみを味合わせたくない。
親友と二度と会えなくなるという、心を打ち砕かれる痛みを知っているから。
だからチノは恐怖を必死に押し殺してでも、立ち向かう道を選んだ。

「あっそ。じゃあアンタから死んでよ」

美しき友情と嘲る気にもならず魔女が手を伸ばす。
剣士の勇気も、やめてと叫ぶ魔法少女の声も。
等しく塵と化す憎悪が溢れ――










『お〜っと、はしゃぐのはその辺にしてもらわないとなァ?』










最後の役者の到着を以て、物語は佳境を迎える。

145Judge End ─見えない明日は来なくていい─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:16:23 ID:/fKPqQI.0



全ては偶然が重なった結果だ。
操り人形達を引き連れた皇帝と別れてすぐ、NPCのモンスターに遭遇。
ワンパターンな展開に呆れつつ手早く片付けようとし、ふと使い道が浮かんだ。
ネビュラガスを噴射しほんの数秒でスマッシュへと変化。
元が翼を持つモンスターだった為か、飛行能力を有するフライングスマッシュになった。
200cmを超える巨体なら背に一人を乗せて運ぶくらいは訳無い。
徒歩で引き返すよりもずっといい、体力と時間の節約にもなる。
念の為ブラッドスタークに変身してから、スマッシュの背に足を乗せ浮上。

地上を見下ろす位置で、優れた視覚センサーを持っていたが故だろう。
オーエド町とは反対のエリアで一瞬、何かの光と黒い点らしきものが見えたのは。

ここからでも確認出来る程の、激しい戦闘が行われている。
察するのに時間は掛からなかった。
気にならない訳ではないが一応警戒しておく程度。
今は共闘関係を結んだヒーローの下へ戻る方を優先すべき。

『…………マジかよ』

自分の知る力の存在を感じなければ、きっとそうしていた。

146Judge End ─見えない明日は来なくていい─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:16:59 ID:/fKPqQI.0
間違えはしない。
アレは嘗て自分が取り込んだ、地球で手に入れた兵器のエネルギー。
記憶にあるのよりも弱くなっているが。
というよりも、まさかアレすらゲームのアイテム扱いで支給されている方が驚きだ。
複製品とはいえエボルドライバーも存在しており、他にも新世界から持ち出されているのか。

アレの存在を知った以上、戦闘地点への関心は多少気になるどころではない。
現在位置とは距離が開いており、フライングスマッシュを全速力で飛ばしてもまず間に合わない。
しかし移動距離を大幅に縮められる方法ならば、自分は既に持っていた。
トランスチームガンは変身・攻撃・スマッシュの生成以外にも、煙幕を張りワープする機能が搭載済み。
嘗ては自身もこの機能を使って逃げ仰せ、時にはネビュラスチームガンの同機能で逃走を許した事もある。
今回は逃げる為ではない、こちらから出向く為に使う。

引き金に指を掛け、ふとオーエド町で待たせている者達の顔が浮かぶ。
真っ直ぐ帰ると言っておきながら、とんだ寄り道だ。
口約束に過ぎないとはいえ、重症の少女へ回復の道具を届けるのも遅れてしまう。

『ま、戦兎なら俺に期待しないでモニカのお嬢ちゃんの手当てくらいしてるだろ』

天秤は即座に己を優先する方に傾き、移動先は決定。
ついでにやちよとの合流場所への大遅刻も、ほぼ確定されたようなもの。
関わった者達を振り回してると自覚しつつ、悪びれずに煙幕を噴射。
1エリア分の距離を短縮し、後は目的地までフライングスマッシュを全速力で飛ばした。

147Judge End ─見えない明日は来なくていい─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:17:42 ID:/fKPqQI.0
『もうすぐ夜明けだってのにどんちゃん騒ぎしてるのが見えてな、顔を出してみりゃ不良娘達が元気に殺し合ってると来た。パパとママが知ったら泣いちまうぜ?おい』

そして今、魔女が憎悪を撒き散らす舞台に乱入を果たす。

「…なんなのアンタ」

いきなり現れた装甲服の怪人に訝し気な目を向けるのは、ルナだけではない。
イリヤとチノもまた、予想だにしない乱入者へ困惑を隠せなかった。

チノを殺す正にその瞬間、聞き覚えの無い声と気配に咄嗟に腕を引っ込め後退。
睨み付けると見た事の無い血濡れの怪人物が、イリヤの傍らに立っているではないか。
もしやイリヤ達の仲間かと疑うも、相手の様子から違うと判断。
乱入者に向ける表情は頼もしい友への信頼に非ず、正体不明の存在への警戒。
敵対し合う両者にとってのイレギュラーとなる。

『そうおっかない顔するなって。“女の子同士の時間は男性厳禁です”ってやつか?そいつは悪かったよ。詫びとしてコーヒーでもご馳走したいところだが、そいつはまた次の機会にな』
「あの、そういう話じゃないと思うんですけど…」

状況が見えていないのか場違いな発言に、思わずチノが口を挟む。
顔は見えないが長身と渋みのある声から大人の男性らしい。
自分達に危害を加える様子は現状見られない。
だが正義感の強い参加者が助けに来たかと言うと、どうも違う気がする。
何と言えば良いのか、言動は気さくなのに友好的な感情を読み取れない。

「一応味方なのかな、ルビー…ルビー?」
『…イリヤさんご注意を。こちらの真っ赤な不審者、人の反応を一切感じません』
「っ!」

心なしか声の硬い相棒に息を呑む。
思わず身を強張らせるイリヤを見下ろす怪人から、薄く笑う気配があった。
ご名答とでも言っているつもりか、遅れて気付いた事への呆れか。

148Judge End ─見えない明日は来なくていい─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:18:58 ID:/fKPqQI.0
『ネタバラシありがとよ、と言いたい所だが警戒心剥き出しってのは頂けねぇな。こんなイカした声の悪者がいる訳ねぇだろ?』
『生憎、イケおじボイスのロクでもない殿方には心当たりがごまんとあるんですよねー』

『心外だねぇ』と肩を揺らし手を伸ばす。
イリヤにではなく、傍らに落ちたルナの体内から出た物体に。
拾い上げた黒い板は、怪人の記憶の中の物とほぼ同じ。

『…流石にいきなり全部は揃ってないか。ゲームマスター殿も気を利かせて欲しいもんだ』

ゲームを仕組んだ神へ愚痴りつつ、板の表面部分に欠片(ピース)を填め込む。
自身を血濡れの怪人へ変えたボトルは瞬く間に変化。
紫のクリアパーツから一転、黒に変色し大蛇の装飾は金に輝く。
顔色を変える少女達を尻目に悠々と歩き、チノの隣へ並ぶ。
目的が読めず言葉に詰まる剣士には視線を寄越さず、エメラルドグリーンのバイザー越しに魔女を見据える。

『お前さんと、あっちで寝てるイリヤだったか?コイツを取り返してくれてありがとよ。パクられたままだと俺も堪ったもんじゃないんでね』

ナイフのような爪の伸びた手で、水色の頭部を軽く撫でられた。
予想外の行動にビクリと体が跳ね上がる。
いきなり触られたけではない。
赤い怪人から信頼出来るものを何も感じないのに、どうしてだろうか。
力加減に覚えがあるのは。
タカヒロが…父が幼い頃の自分にやってくれた時を一瞬重ねてしまったのは。

『だから礼として、だ』

チノの様子に気付いているのかいないのか。
仮に気付いたとしても、彼にとっては特別意味のあった行動じゃない。
ただ何となくそうしただけ、10年間も父親の真似事を続けたから撫でる力加減も染み付いた。
意味も何も無い、既に頭の中からは些事以下として消失。
むしろ今は、久しぶりの力を使う方へ意識を向けるのが自然だ。
黒い板を胸部装甲に押し当てると、ルナの時同様の現象が起きる。
まるでコブラの意匠が丸飲みにしたかのように、板は体内へと侵入。

149Judge End ─見えない明日は来なくていい─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:19:29 ID:/fKPqQI.0
『遊び相手を代わってやるよ』

そして、怪物が目を覚ます。
瞳を焼き潰し兼ねない赤い光が放たれる。
装甲よりも尚濃い、鮮血色が少女達を包み込む。
短い悲鳴を上げ手で顔を庇い、何秒経った頃か。

「――っ!!」
「ひっ…!」

困惑と警戒を吹き飛ばし、戦慄で塗り潰す存在がいた。
奇怪な突起物を生やした毒々しい赤。
蛇を思わせる三角形の頭部と、複数の光を放つ眼。
存在するだけで怖気を隠せないプレッシャー。

「ふん、やっぱり魔物だったのね」
『人間的には地球外生命体って言った方が正しいがなァ』

唯一ルナは怯えも動揺も無く、代わりに警戒度を引き上げる。
纏う気配で人じゃないのは察していたが、軽く蹴散らせる類ではないらしい。
冥王とか何とか呼ばれてた魔物と違う種族なのか。
少し気になったがすぐにどうでもいいと思い直す。
こいつの内心はともかく、イリヤ達の味方になるのなら自分の敵だ。

「いいわ、どの道優勝するには全員殺さなきゃいけないんだもの。人間じゃないからって、見逃してなんかあげないから!」
『威勢が良くて何よりだよ。今のコイツがどの程度使い物になるか、練習台がすぐに壊れちゃ話にならないだろ?』
「見下してんじゃないわよ!!」

魔女が咆え、星狩りが嗤う。
ルナが殺すか、エボルトが喰らうか。

今宵最後の闘争。
怪物同士の正義無きステージが幕を開ける。

150Judge End ─見えない明日は来なくていい─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:20:03 ID:/fKPqQI.0



対話はお互い求めていない。
理由は異なるが相手に望むのは両者共通。
自分の為に死ね、妥協は一切宿らない剥き出しの殺意を叩きつける。
先に動いたのはどちらか、蹴り付けた大地が砂の城のように消し飛ぶ。
開いた距離など問題にもならない、真正面を見つめ拳を突き出す。

殴る、敵も殴る、もう一度殴る、敵もまた殴る。
左右の拳を交互に操れば、相手も同じく打撃で応戦。
肉が弾け骨が粉と化す一撃を、互いに己の体へは掠めさせもしない。
拳同士を叩きつけ合い、到底生身の体の衝突とは思えない音が響く。

一発に秘められた威力が如何程かを詳細に説明する必要は無い。
10秒経つか経たないかの間に、放った数は100を超えた。
飾り気のない両者の拳がぶつかり空気が震えれば、周囲の民家は壁を削り取られる。
たった一発でさえそれ程の威力が連続して放たれるのなら、最早殴り合いとは言えない。
同じタイミングで蹴りを繰り出し、片足同士が拮抗。
どちらからともなく後退した後、腰を捻り一際強烈な一撃を放った。
靴底と拳が激突、揃って吹き飛び敵からあっという間に離れて行く。
民家数軒の壁をぶち破り、衝撃が強過ぎたのか幾つかは完全に倒壊。

『ランドセルでも背負ってそうなガキにしちゃ、大したもんだねぇ』

邪魔な瓦礫の山を片手で退かし、エボルトが民家だったものを背に悠々と生還。
軽口への返答は死に至らしめる攻撃で、だ。
魔力の放出により瓦礫を吹き飛ばすや否や、ロケットを思わせる勢いで突撃。
胴体をぶち抜き血と臓物の雨を降らせるだろう脅威に、しかし焦りは見せずくつくつと笑う。
両手を広げ、愛しい恋人を抱擁するかのポーズ。
とことん舐めた態度を取る相手への苛立ちも燃料に変え、真紅の肉体を噛み千切らんとする。

151Judge End ─見えない明日は来なくていい─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:20:40 ID:/fKPqQI.0
が、真下からの攻撃を察知し急遽防御へ変更。
顔面をミンチに変える蹴り上げを、両腕の交差により防ぐ。
爪先がルナに当たり遥か上空へ飛ばされた。

わざわざ頭上に移動させてくれたのは好都合。
以前までは飛行に箒を必要としたが、最早身一つで可能となった。
五指に魔力を集中し、銃口のように地上へと照準をセット。
轟音を鳴らし魔力弾を発射、一発二発では済まず機関銃の掃射に等しい。

『殴り合いはもう飽きたのか?なら、こっちも付き合ってやるぜっと!』

――RIFLE MODE――

殺意の籠った豪雨を見上げ、エボルトの右腕が跳ね上がる。
仮面ライダーエボルへの変身時と同様、ブラッドスタークの装備は変わらず使用可能。
拳銃と短剣を手早く組み立て、長銃に変形完了。
軽快な音を立ててトランスチームライフルが火を吹く。

吐き出すのは三点バーストの高熱硬化弾ではない、エボルト自身の力を付与したエネルギー弾だ。
威力も連射速度もブラッドスタークの時を遥かに超える。
精密射撃を捨てた弾幕を張り、魔力弾を片っ端から撃ち落とす。
時折撃ち漏らした光弾が襲い来るも、軽く腕を振るうだけで霧散した。

「人間の玩具如きで、いつまでも防げるとは思わないことね…!」

銃という人間の醜悪さを象徴するような武器。
殺し合いの前に戦車部隊を焼き払った時のように、見ているだけでドス黒いものが心にへばり付く。
そんな物で自分の魔法を延々と耐え凌げるものか。
掃射を中止し両手を掲げ、魔力で巨大な球体を生成。
計5つの球体が威圧するかのように震え、憎たらしい蟲を焼き払うべく熱線を発射。

152Judge End ─見えない明日は来なくていい─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:21:17 ID:/fKPqQI.0
『器用なもんだ。努力を重ねて身に着けたかと思うと、感動で涙が出そうだよ』

見て分かるが威力も範囲も魔力弾を遥かに超える。
となればこっちも銃を振り回すだけでは足りない。
ルナのように魔法は使えないが、対処可能な力なら持っている。

両腕に纏わり付く真紅のオーラは、ブラッド族のエネルギー。
石動の体に憑依していた頃から、度々戦兎や万丈達を苦しめて来た。
怪人態で、尚且つ強化を済ませた今ならより高威力で放てる。
掌からエネルギー波を放射し熱線を飲み込む。

球体諸共熱線を打ち消し、三つ目を片付けた所でこちらの勢いが低下。
技が強力なのはエボルトだけではない、ルナの魔法とてブラッド族のエネルギーにいつまでもデカい顔をさせない。
四つ目が消えると同時に鮮血色の力も消滅、しかしルナには後一つ残っている。
無難に躱して対処しようと動き掛け、ふと射線上のちっぽけな気配に気付く。

『だったらこいつの出番だ、キリキリ働いてくれよ?』

黄金の刀身へ、返って来ないと分かり切った軽口を叩く。
機械仕掛けの大剣、パーフェクトゼクターにエネルギーを纏わせる。
平時でさえ上級ワームにも効果的なダメージを与える武器が、強度と切れ味を数段階強化されたのだ。
一振りで薙ぎ払い、今度こそ熱線全てを打ち消した。

続けて撃たせはしない、跳躍し一気にルナの下へ到達。
心臓を狙い突き出された切っ先を避け、エボルトの頭部へ脚を振るう。
少女の細い足と侮れば、たちまち頭蓋を砕かれ代償を支払う羽目になる。
剣を持つのとは反対の腕で防御、押し返し斬り掛かった。

153Judge End ─見えない明日は来なくていい─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:21:54 ID:/fKPqQI.0
『よりにもよって俺が人助けの真似事に出るなんざ、レベルの低い冗談にしか思えないよなァ!そういうのは戦兎の役目だってのによ!』
「知らないわよアンタの事情なんて!」
『おいおいお喋りは嫌いか!?そんな態度じゃ、片思い中のガキに愛想尽かされても知らねぇぞ!』
「一々…うるさいつってんでしょうが!」

5本目の熱線を避けてはイリヤとチノに命中する。
子供が死のうと怒りも悲しみも全くないが、現在交戦中の魔女と渡り合っただろう連中だ。
利用価値があるかもしれないのに、ここで死なすのは惜しい。
善意が無くとも助けたのは事実、それだけでルナにとっての殺す理由が一つ増えた。

大剣を振るう速度は達人の域を優に超え、赤と金色の輪郭が霞んでは金属音が木霊する。
全身各部へ一斉に刀身が突き立てられるかの猛攻を、ルナは四肢を駆使し応戦。
拳が剣の腹を叩く、爪先が切っ先を押し返す、斬撃と打撃が暴風となり互いを襲う。
一撃だけだろうと油断ならない威力を、あえて受けてやる理由を持ち合わせてはいない。
左拳を防ぐのではなく、刀身をなぞらせ受け流す。
よろけた瞬間を狙うも敵の復帰も尋常ならざる速さ、得物を用いた応酬が再開。

「な、何々ですかあの人達……」

魔女と怪物が殺意を振り撒く遥か後方で、チノは顔を青褪めさせる。
人じゃない者同士、それも善意が入り込む余地のない殺し合い。
仲間達と共に強敵と戦ったのとはまるで違う、狂気と悪意を煮詰めた地獄のような光景。
これは本当に現実なのかと疑い掛けるも、自分の手を優しく握る感触にハッと正気を取り戻す。

「イリヤさん…ご、ごめんなさい…!私がしっかりしなきゃいけないのに…」
「ううん、チノさんが謝ることなんてないよ。今も私を守ってくれてるんだから」

恐怖しつつも剣は落とさず、イリヤを背に庇い退こうとしない。
聞けば元々は争いと無縁なのに、必死に守ろうとしてくれるのだ。
感謝と、負担を強いてしまっている現状を申し訳なく思う。

154Judge End ─見えない明日は来なくていい─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:22:37 ID:/fKPqQI.0
「ルビー、あとどれくらい掛かりそう…?」
『急ピッチで治療してますが何分普段よりも効きが悪いんですよねー…あのドヤ顔しまくりの神!いらんことしやがりましたね!』

治癒に専念しているにも関わらず回復がやけに遅い。
十中八九檀黎斗が細工を施したせいだろう。
本人的にはゲームバランスの調整だとか言うつもりかもしれないが、ルビーの言う通り余計な真似をされた。
少しずつ癒えている感覚はあっても、戦線復帰にはまだ時間が必要。

イリヤの焦燥を余所に怪物達の死闘は加速。
パーフェクトゼクターが蹴り上げられ、右腕がエボルト本人の意思と関係無く跳ね上がった。
がら空きの胴体が完成したなら、何をするかは決まったも同然。
手刀に魔力を纏い、ブレード状に変え突き出す。

ヒヒイロカネ製のアーマーすら貫いた刃だ、ブラッド族の強固な皮膚だろうと危険。
とは言ったものの、エボルトの余裕は崩れ去らず即座に対処へ移行。
右腕を振り下ろすのは間に合わない、しかし剣を蹴られた時点で左手は新たな武器を装備済み。
体内から飛び出た黒い容器が、トランスチームライフルに自動で装填。
仮面ライダーエボルが赤いオーラで物体を操るのと同じ要領だ。

――CD!STEAM SHOT!CD!――

銃口が光輪状のエネルギー弾は吐き、手刀と激突。
弾け空気中に溶けだすも終わりでは無い、耳元で鑢を削るような音が発生。
鼓膜が猛烈に痛む攻撃は今までと違うもの。
堪らず顔を顰めたルナを蹴り飛ばし、距離を開ける。
防御し無傷なルナが仕掛けるのを待たずに容器を体内へ投げ入れ、入れ替わりに新しく装填。

155Judge End ─見えない明日は来なくていい─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:23:29 ID:/fKPqQI.0
――HAMMER!STEAM SHOT!HAMMER!――

――COBRA!STEAM SHOT!COBRA!――

回転しながら迫るハンマーを殴って掻き消すが、爆発により再度後退。
間髪入れずに大蛇が大口を開けて襲来。
牙を突き立て喰らい殺す気だろうがそうはいくか、魔力弾をありったけ撃って蹴散らす。
煌びやかな魔力とエネルギーの残骸が散らばる中を突っ切り、エボルトが急接近。
望む所とルナも拳を叩き込み、しかし僅かに速いのは敵の方。
頬に走る衝撃と遅れてやって来る痛みに、殴り飛ばされながらも怒りが更に上昇。

強さは互いに引けを取らないが、コンディションの差が現れ出す。
予選中に起きたのび太との激突に始まり、先のジャック達との戦闘での消耗もルナは完全に癒えていない。
対してエボルトは早朝の時間帯までは精々がNPCとの小競り合い、紺色の剣士とも戦い終えたばかりだが体力的にはルナより余裕がある。
このまま長引かせれば不利はより明確となるのが確実。
一人は殺し新たな力も手に入れた、合理的に考えるなら撤退も視野に入れるべき。

「ちまちま撃ち合うのは終わりよ!これで本当に殺してやる!」

だがルナを突き動かす憎悪が、冷静な判断を奪い去り勝負へと駆り立てる。
心意システムのトリガーとなった感情、それが逆に足を引っ張るとは皮肉だろう。
超人類と化した途端に、傲慢さと残虐性が剥き出しになったのび太をどこか思わせるとはこの場の誰も知らず。
決着を付ける為の技を解放する。

腰を落とし、両手首を合わせた独自の構え。
本来ルナが使う魔法の中に、このいったポーズが必要な攻撃は無い。
殺し合いに拉致され、最初に出会った復讐鬼が使ったのと同じ。
親友を裏切り超人類計画に利用した、22世紀のロボットへの憎しみが与えた力だ。

156Judge End ─見えない明日は来なくていい─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:24:13 ID:/fKPqQI.0
『もうちょい遊んでやっても良いが、こっちも予定が立て込んでるからなァ。そろそろお開きといくか!』

『DRAKE POWER』

どこまで本気か分からない言葉を並べ立て、エボルトも迎え撃つ態勢に入った。
パーフェクトゼクターに搭載された4つのスイッチ、内の青を押す。
ゼクターの強制召喚機能が作動し、メタリックボディのトンボが刀身に装着。
資格者を失おうと関係無い、少なくとも現状ドレイクゼクターは逆らう事すら不可能。

『虫一匹の力じゃ物足りないだろ?特別サービスだ、遠慮なく受け取れ!』

黄金の刀身とドレイクゼクターにタキオン粒子が流し込まれる。
本来、ハイパーフォームのカブトならばこの状態で攻撃するのだろうが此度の所持者はエボルト。
取り込んだ黒い板により出力の上がったエネルギーを纏わせる。
タキオン粒子とブラッド族の力が混ざり合い、毒々しい色のエネルギー刃が完成。

「かめはめ波!!!」

『HYPER AX』

これまでに放ったどの魔法をも凌駕するエネルギーの放射は、魔女の内面を映したかのどす黒さ。
星狩りが振り下ろす刃もまた、破壊を目的とする禍々しさだ。
刃を粉砕し熱の中に閉じ込めるか、熱線を突き付け憎悪諸共魔女を叩き割るか。
結末はどちらか一方のみ、望む展開を勝ち取るのは自分だとルナが確信を抱く。

157Judge End ─見えない明日は来なくていい─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:24:58 ID:/fKPqQI.0
「消え……失せろォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

自分の復讐が、こんなところで終わって良い筈が無い。
自分の憎悪が、こんな連中に負けるなど許されない。
奪われた絶望、裏切られた苦痛、その両方を知り尽くした自分の、あの男の力が。

「勝てないなんてこと…ある訳ないのよ!!!」

怒りは力に、感情の高まりは勝利へ届く道を造る。
刃を押し返す、胸を焦がすこの憎しみを斬れる剣など存在しない。
刃に亀裂が走る、復讐の道を阻む壁など壊せない筈がない。
刃が砕け散った、私の前から永遠に消え失せろ。

「これで…私の……!!」





『ああ、俺の勝ちだな』





喉元にナイフを添えられた気分だった。
口の中に銃を突っ込まれたのに似た不快感があった。
死が、こんなにも近くに感じてしまう。

聞こえた声は真後ろから。
どうしてこんなに早くと考え、答えはすぐに判明。
ああそうだ、黒い板には転移能力もあるんじゃないか。
なんでそんな大事な事すら、気付けないんだ。

自分を幾ら罵っても手遅れ。
黒い板による転移は敵の方が使い慣れてると、知る機会も訪れない。
振り向くのも、守るのも、避けるのも、撃ち落とすのも。

何もかも、全てが遅過ぎた。



『HYPER SHOOTING』

――CASTLE!STEAM SHOT!CASTLE!――



「――――――――――!!!!!!!!!!!」



熱を帯びた二つの銃口が、終焉を告げる
敗北を認められない、現実を受け入れたくない魔女の叫びをも喰い散らし、決着は付いた。

158Judge End ─すべての罪が眩しく消えた─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:26:39 ID:/fKPqQI.0



「ふぅ……」

エーデルフェルトの屋敷から遠く離れた施設内にて。
ベッドに腰掛け、ジャンヌは息を整えていた。

支給品に救われたと言うべきだろう。
主霊石で竜巻を起こし敵対者達の足を止め、白鳥礼装の飛行能力を使い離脱。
見付けた施設に侵入し、尾形から奪ったもう一つの道具を使って傷を治療。
完治まではいかず重症なのに変わりは無いが、少なくとも死は免れたので良しとする。

「まさか私がこれに頼るとはな…」

傷を癒したのはデュエルモンスターズのカードだ。
これまで度々手を焼かされた力に助けられるのは、複雑な心境と言う他ない。
しかもカード名に「神」が入っており、偶然にしては出来過ぎな気がしないでもなかった。
あくまで適当な名前を当て嵌めただけだろうが。

先程の戦闘で殺せたのは、恐らく銀狼の鎧を纏った一人だけ。
神のご加護を得ておきながらこの体たらく、我ながら不甲斐ない。
すぐにでも行動再開といきたいが、蓄積された疲労もいい加減無視できなくなって来ている。
傷は治せても消耗は減らないらしい。

もどかしいが今は身を潜め、体力の回復に専念すべきだろう。
それに殺し合いが始まりもうじき6時間が経つ。
ルールにあった定時放送も近いなら、どの道ここで待つのが最善だ。

幸いと言って良いのか、今いるのは病院。
やけに古臭い時代遅れの内装だが、置かれた医療物資は真新しい物ばかり。
傷の処置に必要な道具は揃っていた。

逸る心を落ち着かせ、ゆっくりと息を吐く。
ここにはいない偽の神を睨み付ける瞳には、最早迷いなどどこにもなかった。


【C-3 明治時代の病院/一日目/早朝】

【ジャンヌ@大番長 -Big Bang Age-】
[状態]:ダメージ(極大)、疲労(極大)、魔力消費(大)(魔力回復中)、
[装備]:約束された勝利の剣@Fate/Grand Order、白鳥礼装@Fate/Grand Order、賢者の石@仮面ライダーウィザード、風の主霊石@テイルズオブアライズ
[道具]:基本支給品一式×2、治療の神ディアン・ケト@遊戯王OCG(6時間使用不可)
[思考・状況]基本方針:檀黎斗と言う日本人を浄化しハ・デスを名乗る悪魔を打ち取る。
1:穢れた日本人は浄化する。主催も当然だ。最早迷いなどあるものか。
2:同胞(自分たちと同じ外国人)は率先して保護の方針。
3:先の金髪の女(エアトス)もデュエルモンスターズとやらで呼び出されたらしいな
4:あの男(蛇王院)、何故生きていたのか。もう一度殺すだけだが。
5:デュエルか。使うのはともかく理解しておく必要はあるやもしれぬ。
6:今は傷の処置を行い体力の回復に努める。
7:次から次へと、何故穢れた者を守りたがる。
[備考]
※参戦時期は久那妓ルート、スカルサーペント壊滅後。
※風の主霊石で風属性の力を獲得しています。
 風の攻撃は消耗も賢者の石で賄ってるので見た目よりは消耗しません。
 またこの攻撃はデュエルモンスターズを相手するのであれば、
 魔法・罠を破壊することができるようになってます。

159Judge End ─すべての罪が眩しく消えた─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:27:46 ID:/fKPqQI.0
◆◆◆


「それで…どうするんだお二人さん……?」

ジャンヌという一番の脅威が去り、これで一安心とはいかない。
なし崩し的に共闘したが、元々士郎達は敵。
彼らの襲撃こそが一連の騒動の発端であり、水に流すつもりは無い。
問い掛ける零の隣ではロゼが、いつでも斬り掛かれるよう構える。
遊戯もまたエアトスを再召喚し、戦える準備は完了済みだ。

「まだこっちを殺そうって気なら、俺も加減なんかしてられねぇな…」
「今にも死にそうな癖に強がったって、こけおどしにもならないんだけど」
「なら…試してみるかい……?」

白銀の狼がニヒルに笑い、風との間で緊張が高まる。
鎧で隠した所で満身創痍なのは丸分かりだ、強がりと捉えられても当然。
しかし相手はジャンヌに一太刀浴びせた強者。
殺すのは難しくない筈が、嫌な予感のする相手でもあった。
手負いの獣は恐ろしい、そんな言葉を脳裏に浮かべつつ風もどう動くか悩み、

「いや、俺達もこの辺で退かせてもらう」

協力者が先に答えを決めた。

「ちょ、衛宮さん…!」
「ここで無理してまで殺して、それで終わりじゃない。むしろまだ始まったばっかりなんだ。なら意地を張る必要も無いだろ?」

冷静に言われて押し黙る。
風の目的が優勝し願いを叶える事なら、ゴールはまだずっと先。
殺し合いはまだ序盤、仮に零達を死闘の末に倒しても残りは後何人いるのやら。

「それに気付いた筈だ。向こうの方で派手にやってる奴らが、こっちに来るかもしれない」

屋敷からでも見えた赤や黒のエネルギーの衝突。
離れているだろう位置にも関わらず視認出来るとは、相応の力を持つ参加者が戦闘を行っているのだろう。
零程では無いが自分達も消耗しており、仮に正体不明の何者かが屋敷へ来た場合確実に勝てる保障は無い。

160Judge End ─すべての罪が眩しく消えた─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:29:02 ID:/fKPqQI.0
「…分かった」

全部納得してはいないが、頷ける部分も少なくない。
取り敢えず一人はほぼ確実に死ぬ。
望んだ最高の結果とは言い難いが、欲張って全部おじゃんになるよりはマシだ。

風の返答を聞き士郎も即行動に移る。
既にシンケンマルを新たな武器、ヘブンファンに変え撤退の準備は終えていた。
振り抜けば暴風が発生。
ジャンヌがやったのと同じ方法で足止めし、その隙に姿を晦ませる。

「…悪かった。勝手にこっちで全部決めて」
「…いや、もう良いって。正直ちょっと助かったとこもあるし」

風自身の選択だったがカードの効果で零は強化を施された。
おまけにあのカードにはもう一つ、強化された対象以外の味方側の者は攻撃が不可能というデメリットも存在する。
自分達と零は元々敵同士だが、ジャンヌ相手には一応共闘した為味方扱いされていると考えても不思議は無く。
長続きするものではないとはいえ、効果が切れるまで自分達が圧倒的に不利なのは避けられない。
それらを考えれば撤退は責められたものでもないし、律儀に謝られては逆に反応に困る。

ともかく考えるべきは終わった戦いより、これからの動きだろう。
願いを叶えるたった一度のチャンスを失う訳にはいかない。
自分が巻き込んでしまった友奈と東郷、そして樹。
声を失った妹に、根拠も無く必ず治るなどと言った苦々しい後悔は忘れていない。

願いを叶えるモノの正体を知るか否かの違いはあれど、最愛の家族を救う意思を同じくし二人は駆ける。

自分達が襲った者の中に、妹の親友がいたとは終ぞ士郎が気付く事無く。
無理も無いだろう。
士郎からすればイリヤは顔も名前も知らない、声を聞いただけの少女なのだから。


【D-3とC-2の境界/一日目/早朝】

【衛宮士郎@Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ3rei!!】
[状態]:疲労(中)、背中にダメージ(中)、英霊エミヤが侵食
[装備]:シンケンマル+双ディスク+共通ディスク@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:基本支給品、モウギュウバズーカ+最終奥義ディスク@侍戦隊シンケンジャー
[思考・状況]基本方針:妹を救う。その為に優勝を狙う奴は皆殺しにする。
1:一旦退き、それからどう動くかを考える
2:強そうな参加者をある程度排除するまで、しばらくは二人で一緒に行動する。
3:もし可能なら、風の妹も救いたかった。
[備考]
※参戦時期はイリヤたちがエインズワースの工房に潜入した後です。

【犬吠埼風@結城友奈は勇者である】
[状態]:疲労(中)、胸部にダメージ(中)、左眼の視力が散華、夢幻召喚による変身中
[装備]:サーヴァントカード セイバー@Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ3rei!!
[道具]:基本支給品、コンセントレイト@遊戯王OCG(3時間使用不可)、スケスケ望遠鏡@ドラえもん
[思考・状況]基本方針:妹や仲間の未来を取り戻す為に優勝する。
1:今は退く。
2:強そうな参加者をある程度倒すまで、しばらくは二人で一緒に行動する。
3:私は絶対に……
[備考]
※参戦時期は諸々の真相を知って自棄になっていた時期です。
※英霊召喚やカードそのものの制限に関しては、後の書き手様にお任せします。

161Judge End ─すべての罪が眩しく消えた─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:29:58 ID:/fKPqQI.0
◆◆◆


襲撃者たちが全員去り、零にもとうとう限界が訪れた。
白銀の鎧は消え失せ、魔導馬も帰って行く。
最後まで付き合ってくれた彼らに内心で感謝を伝える。
ホラーとの戦いは勿論、悪趣味なゲームでも力を貸してくれたのだから。

「さっきはカッコ付けたこと言ったけど……正直ヘトヘトだったんだよな……」
「零……」

終わりを自覚し、かといって湿っぽく振舞うのは自分らしくない。
いつもと変わらぬ軽口の零を、仲間達は顔を歪めて見つめる。
例え共に過ごした時間が短くても、ロゼにとって零は打倒主催者を誓い合った信頼出来る騎士。
最愛の閃刀姫との生活で人間らしさを得たからだろう、喪失に胸が酷く痛む。

遊戯もまた悔し気に俯き、己の無力さを恨む。
本田が目の前で殺され、今度は零の命も尽きようとしている。
もっと自分に出来る事があったんじゃないのか、そうすれば零は死なずに済んだのでは。
デッキを持たなければ決闘王の称号も無意味、仲間一人助けられないじゃないか。

「そんな顔するなって…ロゼちゃんは笑ってた方が可愛いし…きっと、チノちゃんもそういうロゼちゃんのが好きだろうからさ……」
「……うん」
「遊戯も…男がんな辛気臭い顔してたら…皆不安になっちまうだろ…?」
「ああ……」

言葉を紡ぐ度に、視界はどんどん狭くなる。
言いたい事は山ほどあるけど、肝心の時間は残り僅か。
だから最後に伝える、彼らの力になってくれる男についてを。
衝突の果てに友(ザルバ)となった、黄金騎士へ後を託す為に。

「鋼牙ならきっと、ロゼちゃんやチノちゃん達の力になる…あいつ、いっつも顰めっ面で全然愛想ないけど…悪い奴じゃないから……」
「…分かった。その人と一緒に絶対殺し合いを止めて、チノ達と生きて帰る」

温度を急速に失う手へ重ねられた少女の温かさ。
安心して後を任せられる者達に微笑み、ゆっくりと瞼が閉じられる。

道寺、静香。
喪ってしまった彼らと同じ場所へ、自分も行けるのだろうか。

鋼牙、カオル、ゴンザ、翼、邪美、烈花、レオ。
戦いの中で出会ったかけがえのない友。

幾つもの顔が浮かび上がり、最後に思ったのは



(シルヴァ……ごめんな……)



家族同然の相棒に、別れを告げられないことだった。

162Judge End ─すべての罪が眩しく消えた─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:30:50 ID:/fKPqQI.0



動かなくなった仲間…友を前に唇を強く噛む。
肩の傷以上に胸が痛い。
大事なモノを抜き取られてしまったように空洞が生まれ、ジクジクと血が溢れ出す。
戦場にいた頃から、死を身近に感じていた。
自軍の兵士が命を落とすのを何度も見た時には、こんな風に感じなかった筈。

(きっとこれも……)

レイと同じ時間を共有した影響。
閃刀姫ではない、人間らしく悲しむ。
涙は流れずとも痛みは本物だ、それが少しだけ良かったと思える。
友の死に心を揺さぶられない自分にならずに済んだのだから。

「…行こう。チノ達を探さないと」

殺し合いはまだ何も終わっていない。
仲間の安否はいまだ不明、急ぎ探しに行かねば。
本当だったら零を野晒しにしたくないけど、今は生きている仲間を優先するべき。
内心で謝りつつ彼の荷物を回収し、合流へと急ぐ。
チノに零の死を伝えねばならないのは、気が重かった。

(さっきの女…アイツは確かに……)

ロゼの隣では遊戯も考える。
自分達を襲った二人組の内、女の方が去り際に男の名前を呼んでいた。
「衛宮さん」、その名に聞き覚えがある。
イリヤが言っていた衛宮士郎、それがあの男なのか。
だとしたらイリヤの探している相手は、殺し合いに乗っている。
動機は何なのか、イリヤの参加を知って尚も優勝を目指してるのか。
分かる事はほとんどない。

163Judge End ─すべての罪が眩しく消えた─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:31:23 ID:/fKPqQI.0
(イリヤは……)

衛宮士郎が殺し合いに乗っていると伝えた時、彼女が何を思うのか。
親友が人質にされ、元々の仲間はゲームを肯定。
幼い少女の精神に更なる負担が圧し掛かるのは避けられず、決闘者は顔を曇らせるしか無かった。


【D-3 エーデルフェルト邸/一日目/早朝】

【武藤遊戯@遊戯王デュエルモンスターズ(アニメ版)】
[状態]:疲労(中)、額から出血、無力感
[装備]:千年パズル@遊戯王デュエルモンスターズ、ガーディアン・エアトス@遊戯王OCG
[道具]:基本支給品一式、結束 UNITY@遊戯王OCG(3時間使用不可)
[思考]
基本:ハ・デスを倒し、殺し合いを止める
1:イリヤ達と合流に急ぐ。
2:仲間達との合流と、デッキも取り戻したい。
3:衛宮士郎は殺し合いに乗っているのか…?
4:ロゼはデュエルモンスターズが存在しない平行世界の人間なのかもしれない。
5:相棒の言うように、神(ゲームマスター)も完璧じゃない。そこに攻略法があるかもしれないぜ。
6:このカード…何で相棒や城之内くん達が描かれてるんだ?
[備考]
※参戦時期は最低でもドーマ編終了後。

【閃刀姫-ロゼ@遊戯王OCG】
[状態]:疲労(大)、左肩に斬傷(応急処置済み)、悲しみ
[装備]:閃刀姫-ロゼの剣@遊戯王OCG、
[道具]:基本支給品×2、涼邑零の魔戒剣@牙狼-GARO-、チームみかづき荘のロケット@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)ランダム支給品×0〜3(零の分含む)
[思考・状況]
基本方針:檀黎斗やハ・デスを斬り、大切な人(レイ)の待つ平和な日常に帰る
1:零……。
2:チノ達との合流に急ぐ。
3:レイを見つけて守る。
4:私やレイがカードに?どういうこと?
[備考]
※遊戯王カードについての知識はありません。

164Judge End ─すべての罪が眩しく消えた─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:32:35 ID:/fKPqQI.0
◆◆◆


気が付いた時、ルナは体の感覚が極端に薄いと分かった。
痛みと熱さが同時に襲い掛かり、どう表現すべきか分からないモノが全身を駆け巡ったのは数十秒前。
今ではほとんど何も感じず、これは本当に自分の体なのか疑問に思う程。
辛うじて動く両目で状態を確認し、見なきゃ良かったと後悔を抱く。

(よく生きてるわね、私)

全身の半分以上が消し飛んでいる。
着ていた服も筋骨隆々の肉体も見る影が無い。
人間ならば即死は免れない、強靭な魔物とて耐えられるか非常に怪しい。
こんな有様でまだ息があるのがルナ自身にも不思議でならなかった。

(まぁ…だから何が出来るって訳でもないけど)

生きてはいる、即死だけは回避した。
そこが限界だ。
指一本動かせないどころか、動かす指が存在しない。
立って逃げれもしないし、魔法を放つ手は消し炭となって風がどこかへ運んだ後。
やれる事と言えば知りたくなかった自身の惨状を確かめ、命が尽きる瞬間を味わう。
それ以外に何もやれはしない。

(……ああ、まだあったわ)

訂正、もう一つだけ残っている。
傍らに屈む白い少女を瞳が映す。
吹けば一瞬で消えそうな火しかないのに、視界だけはいやにハッキリだ。
自分を見下ろす少女の、悔し気な顔もちゃんと見える。

「良かったじゃない…あの人間を殺した私は…もう助からない……気分が良いでしょ……」

皮肉を籠めて言ったら、更に表情を歪めた。
怒りか、それとも少女自身の手で殺せなかった悔しさか。
どちらにせよ自分は彼女の仲間を奪い、彼女は仲間の仇も取れない。
勝ち逃げに近い形で死ぬ自分へ、恨み節の一つや二つはぶつけるのだろうと笑い、

165Judge End ─すべての罪が眩しく消えた─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:33:09 ID:/fKPqQI.0
「あなたのことは…怒ってるよ…司さんを殺したあなたには、すごく怒ってる……だけど…!あなたを救いたいって気持ちは、今だって変わらない…!」
「――――」

目尻に涙を浮かべた少女は、自分から目を逸らさずに言ってのけた。
こんなにも近くで顔を覗かれれば、強がりの類で無いと嫌でも分かる。
本心からの言葉だと分かってしまったから、ルナも呆気に取られるしかなかった。

「そう……」

苛立ちは不思議と湧かず、呆れと他によく分からない感情がチラホラ。
もうすぐ死ぬから、今更怒る気になれないのかもしれないし、違うのかもしれない。
どこか冷静に考えている自分が可笑しくて、薄っすらと笑みを作る。
こんな風に笑うのなんて、久し振りな気がした。

「あなた……名前は……?」
「イリヤ…だよ……」

人間への憎しみは消えていない。
村を焼き家族を奪った連中を、今でも殺したいと思ってる。
全てを水に流すなんて真っ平御免だ。
今すぐにでも復活可能なら、きっと復讐の為に優勝を目指す。

だけど、もしもっと早く。
この度が過ぎるお人好しで、馬鹿みたいな少女と会えていれば。

「良い名前ね…イリヤ……」

ほんの少しでも、何かが変わったのだろうかと。
そんなつまらないことを、考えてしまった。

復讐は果たせない。
人間共は残したまま、ここで自分は死ぬ。
何もやり遂げられない最期に、僅かな慰めがあるとすれば。

(コローソ、あなたを――)

殺さずに済み良かったと、本心からそう思えた。

166Judge End ─すべての罪が眩しく消えた─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:33:48 ID:/fKPqQI.0



魔女の命は尽きた。
仲間を守れず、救ってみせるという言葉を実現出来ず。
取り零してばかりの自分が恨めしくて、魔法少女は頬を濡らす。
水色の剣士も愉快型魔術礼装も、今だけは何も言えない。
乾いた二つの死が沈黙を広げ、

『よっと』

振り下ろされた黄金の刃が、完璧にぶち壊した。

ほとんど炭と化しているルナの首を斬り落とす。
少女を解体し弄ぶのはエボルトの嗜好とはかけ離れており、残虐趣味に走ったのではない。
目的はゲームのプレイヤー達を縛る枷。
解析用のサンプルとなるだろう首輪入手の為だ。

(やっとこさ一個手に入ったな)

マサツグ様の首輪は、カイザーインサイトの方で使い道があるらしいので見送って。
戦兎やマコトと呼ばれた青年を言い包め、ニノンの首を手に入れるのが当初の考えだった。
が、今ここで都合良く死体が出来上がったとなれば確保しない選択は無し。
キノコカン以外にもう一つ、戦兎への手土産ができた。
後はさっさと戻れば良いだけだが、少々後ろ髪を引かれる状況である。

167Judge End ─すべての罪が眩しく消えた─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:34:29 ID:/fKPqQI.0
「あなたは……!」
『行動理由は理解出来ますが、流石に空気読めてなさ過ぎじゃないですかね…』
『おいおい、そりゃ酷ぇ言い草だな。話が終わるまで待ってやったんだぜ?それに、そっちのお嬢ちゃんの首輪には手を付けないでいるんだ。優しさに溢れてると思わねぇか?』

ぬけぬけと言うエボルトへ、イリヤは勿論チノも怯えと非難の混じった目で睨む。
猛威を振るった怪人態から再びブラッドスタークに戻り、仮面越しにヘラヘラと笑う。

旧世界で戦兎達を翻弄し続けた態度の裏で考えるのは、今しがた首を斬った魔女についてではない。
ルナに支給されたであろう黒い板、まさか本当にコレがあるとは思わなかった。
何せ新世界では形を変えて、戦兎達の所に保管されている筈。

黒い板の正体をエボルトは知っている、何せコレはエボルトが生み出したのだから。
破滅を巻き起こす箱と、滅亡の引き金となる装置。
星狩りの兵器二つを掛け合わせた板、ラストパンドラパネルブラック。
嘗てブラックホールフォームのエボルを強化し、惑星間のワープ能力を与えたのが何を隠そうルナの支給品の一つ。
戦兎がジーニアスボトルとの組み合わせで創った白いパンドラパネルと融合し、新世界創造のトリガーになったのはエボルトも知っている。
殺し合いでは再び二枚に分裂し、内の片方は巡り巡ってエボルトの手に戻って来た。

とはいえ、何もかもが旧世界の時と同じではない。
パネルを完成させるのに必要なフルボトルは計10本。
なのに予め装填されているのは5本のみ、先程填め込んだコブラロストボトルを入れても残り4本が足りない。
能力の強化や狭い範囲での転移はこの状態でも可能だが、本領発揮には程遠い。
苦労してボトルの生成と回収を行ったのに、また集め直さねばならないとは。
尤もパネルを完成させたところで、エボルドライバーとエボルトリガーが手元に無ければ旧世界と同じ力は発揮不可能。
そもそもパワーバランスが崩壊し兼ねない姿を、ゲームマスターが許可するとは思えなかった。
弱体化の細工が施されていると考える方が自然。

168Judge End ─すべての罪が眩しく消えた─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:36:15 ID:/fKPqQI.0
(或いは、必要なもんが全部揃っても大した問題にはならない連中がいるのか?)

複製品や未完成であっても、星狩りの兵器を支給品に選んだ。
エボルトの手に渡る可能性を考えて尚そうしたのは、そうなっても殺し合いは成り立つが故か。
力を取り戻したエボルトであっても苦戦は免れない存在が、今もこの地で猛威を振るっているのか。
自らを神と称し君臨するあの男の力は、星狩りだろうと手の届かない領域にあるとでも言うのか。

(…ま、思った以上に骨のある連中が参加してるのは間違いなさそうだがな)

バイザー越しのレンズに真紅の瞳を射抜かれ、イリヤが身を強張らせる。
自分が来るまでにルナを相手取り、パネルを引き剥がすまでに至った少女。
大したものだと皮肉や煽り抜きに思う。
直接戦ったから分かるがルナの力も相当であり、少なくともブラッドスタークではまず勝てる相手では無かった。
そんな相手に持ち堪え、あまつさえ軽くない傷を与えるとは末恐ろしい。
二度の敗北で人間の強さを認めたつもりだったが、まだまだ認識が甘いらしい。
つくづくこちらの予想を超える連中だと、仮面の下で呆れ笑いを作る。

いい加減戦兎達の所へ戻るべきか、だがその前にイリヤ達から情報を引き出したくもある。
或いはオーエド町かやちよとの合流場所だけ教えて、詳しい話は後程とするか。
どうしたものやらと考える間にも、刻一刻と放送の時間は迫っていた。


【D-3/一日目/早朝】

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/Kaleid Liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(極大・治療促進により回復中)、悲しみと悔しさ
[装備]:マジカルルビー@Fate/Kaleid Liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード『セイバー』@Fate/Kaleid Liner プリズマ☆イリヤ(2時間使用不可)、クラスカード『バーサーカー(マグニ)』@Fate/Kaleid Liner プリズマ☆イリヤ(2時間使用不可)、光の主霊石@テイルズオブアライズ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×1
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。元の世界に帰ってやることがある
1:司さんもあの子(ルナ)も、私は……。
2:美遊を必ず助けに行く。
3:この赤い男の人(エボルト)を警戒。何がしたいの…?
4:お兄ちゃんかシロウさん、一体どっちが参加してるんだろう…?
5:襲ってきた女の人(ジャンヌ)を警戒。
[備考]
※参戦時期はドライ!!66話、6千年前に向かった直後
※心意システムによりバーサーカー(マグニ)のクラスカードを創造しました。

【香風智乃@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、悲しみと決意
[装備]: チノ(せんし)の剣@きららファンタジア
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]
基本方針:ハ・デスや檀黎斗達を倒して平和な日常に――ココアさんのいる場所に帰りたいです
1:司さん……
2:ロゼさんや零さんに協力します。
3:ココアさんやみんなを探したいです
4:ティッピーはここにはいないんでしょうか……?
5:マヤさん……
6:平行世界のココアさん…私の知ってるココアさんとは違うんですか?
7:赤い不審者(エボルト)を警戒。何なんですかこの人……。
[備考]

169Judge End ─すべての罪が眩しく消えた─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:36:56 ID:/fKPqQI.0
【エボルト@仮面ライダービルド】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、ブラッドスタークに変身中
[装備]:トランスチームガン(ワープ機能6時間使用不可)+ブラックコブラロストフルボトル@仮面ライダービルド、ラストパンドラパネルブラック+ブラックロストフルボトル×6@仮面ライダービルド、パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト
[道具]:基本支給品一式、じわじわキノコカン@スーパーペーパーマリオ、ブレイクスルー・スキル@遊戯王OCG((1)の効果6時間使用不可能)、ルナの首輪
[思考・状況]
基本方針:生存優先。あわよくば未知の技術や檀黎斗の持つ力を手に入れる。
1:戦兎達の元へ戻る…つもりだったがどうするかね。
2:戦兎と共闘しつつどこまで足掻くのか楽しむ。仲良くやろうぜ?
3:エボルドライバーを取り戻す。元は内海の?知らねぇなァ。
4:ロストボトルを回収しパンドラパネルを完成させる。手間を掛けさせないで欲しいんだがな。
4:正攻法じゃあ檀黎斗を倒すのは難しいか。
5:カイザーインサイトを利用。2回目の放送後に桜ノ館中学校で合流。戦兎には何て言おうかねぇ。
6:やちよの声はどうにも苦手。まぁ次に会えたら仲良くしてやるさ。
[備考]
※参戦時期は『ビルド NEW WORLD 仮面ライダークローズ』で地球を去った後。
※環いろはの姿を写真で確認した為、いろはに擬態可能となりました。
※トランスチームガンのワープ機能は一度の使用後、6時間経過しなければ再使用不可能になっています。





無念があった。
希望があった。
救いがあった。

生き残った者達に影を落とし、一つの幕は閉じる。
しかし戦いはまだ始まったばかり。
悪い神様ですら知り得ない結末を手にれる為に、誰もが抗い続ける。



【白鳥司@ななしのアステリズム 死亡】
【涼邑零@牙狼-GARO-シリーズ 死亡】
【ルナ@コローソの唄 死亡】


※エーデルフェルト邸@@Fate/Kaleid Liner プリズマ☆イリヤが半壊しています。
※司の死体の傍にドレイクグリップ@仮面ライダーカブト、デイパック(基本支給品一式、ランダム支給品×0〜1)が落ちています。
※ルナの死体の傍にデイパック(基本支給品一式、呪い移し(現在使用不可)@遊戯王デュエルモンスターズ、ランダム支給品×0〜1)が落ちています。

170Judge End ─すべての罪が眩しく消えた─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:37:44 ID:/fKPqQI.0
【白鳥礼装@Fate/Grand Order】
ランサーのサーヴァント、ワルキューレの宝具。
大神オーディンから授かった白鳥の衣であり、纏う事で飛行能力を有し高速機動が可能となる。
オーディンの加護により精神に影響を与える魔術をシャットアウト、肉体はBランク以下の物理攻撃を弾く。

【治療の神ディアン・ケト@遊戯王OCG】
通常魔法
(1):自分は1000LP回復する。
本ロワでは一度の使用で6時間使用不可。
また傷は治すが疲労はそのままとなる。

【スケスケ望遠鏡@ドラえもん】
22世紀のひみつ道具の一つ。
ダイヤルを回すと覗く先がどんどん透けていく。
しずかちゃんの入浴を覗くのに使用された。

【モウギュウバズーカ+最終奥義ディスク@侍戦隊シンケンジャー】
牛折神の特性を基に製作された牛折神の力を秘めたバズーカ砲。
榊原家によって作られた物で、主にスーパーシンケンレッドが使用する。
名称こそバズーカだが、実際の形状は大筒に類似している。
最終奥義ディスクとのセットで支給。装填して威力を高められる。

【コンセントレイト@遊戯王OCG】
速攻魔法
(1):自分フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターの攻撃力はターン終了時までその守備力分アップする。
このカードを発動するターン、対象のモンスター以外の自分のモンスターは攻撃できない。
本ロワでは一度の使用で3時間使用不可。

【結束 UNITY@遊戯王OCG】
速攻魔法
(1):自分フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターの守備力はターン終了時まで、
自分フィールドの全ての表側表示モンスターの元々の守備力を合計した数値になる。
本ロワでは一度の使用で3時間使用不可。

171Judge End ─すべての罪が眩しく消えた─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:38:37 ID:/fKPqQI.0
【ドレイクグリップ@仮面ライダーカブト】
ドレイクゼクターを装着することで機能する変身アイテム。
上部先端のコグニッションアンテナにより、3000キロメートル圏内であればドレイクゼクターを召喚できる。
マスクドライダーシステム共通として、ゼクターに資格者と認められなければ変身はできない。

【光の主霊石@テイルズオブアライズ】
主霊石と書いてマスターコアと読む。
領将の証となる霊石で、元々はガナベルトが持っていたもの。
ダナ人の奴隷の霊石を通じて集霊器に集められた星霊力が貯蓄されており、
戦闘の際には主霊石から星霊力を引き出し、同じ属性術を行使することもできる。
本来は領将にしか使えないが、本ロワでは誰が使っても力を行使することは可能。

【クラスカード『バーサーカー(マグニ)』@Fate/Kaleid Liner プリズマ☆イリヤ】
エインズワース陣営のベアトリスが所持していたクラスカード。
夢幻召喚により北欧神話の半神半巨人マグニの能力を得る。
本ロワにおいてはフラガラックでトールの神核を破壊される前の状態で、イリヤが創造した。
宝具の性質は変わらず、真名解放の度に記憶を消費する。

【ラストパンドラパネルブラック@仮面ライダービルド】
エボルトがパンドラボックスの中にエボルトリガーを入れたことで精製された黒いパネル。
ワームホールの形成機能を持ち、惑星間の瞬間移動を可能にした。
本ロワでは主催者に細工されており、ブラッド族でなくとも体内に取り込み強化できる。
また短距離間での転移も可能となるが、使いこなせるかどうかは使用者次第。
全てのブラックロストフルボトルを集め完成させても、ゲームを破綻させる程の強化は不可能に制限されている。

【ブラックロストフルボトル@仮面ライダービルド】
上述したラストパンドラパネルブラックに付属する形で支給。
元は実験で偶然生まれたロストフルボトルが、パンドラパネルに装填され変化した物。
フクロウ、キャッスル、クワガタ、ハンマー、CD、スパナの6本が予め装填済の状態で支給された。
トランスチームガンや各種ベストマッチウェポンに装填し、成分を付与した攻撃を繰り出せる。
主催者の調整により、これら6本を使ったロストスマッシュへの変身は不可能となっている。

『施設紹介』

【エーデルフェルト邸@Fate/Kaleid Liner プリズマ☆イリヤ】
ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトの日本での仮住まい。
イリヤの家の向かいに建てられている。
一度バゼットの襲撃で倒壊したが、後に建て直された。
原作では地下に緊急避難路や、ルヴィアが持ち込んだ宝石と研究資料などがあるが本ロワでは不明。

【明治時代の病院@ゴールデンカムイ】
二階堂浩平が入院した病院。
もしかしたら誰なのおじさんこと病院に現れた謎の人物がNPCで出るかもしれないし、出ないかもしれない。

172 ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:39:10 ID:/fKPqQI.0
投下終了です

173名無しさん:2024/09/16(月) 17:04:20 ID:tZPTUM5w0
ゲリラ投下します

174懺恨のJudgment ◆4Bl62HIpdE:2024/09/16(月) 17:06:07 ID:tZPTUM5w0
僕は、百雲龍之介。

突然、殺し合いに巻き込まれて…モンスターに襲われそうになっていた所を、大我さんに助けてもらって。

それからリゼさんと橘さん、海馬さんに出会って僕を鍛えてもらって。


そうして、――僕は助けてもらってばっかりで、それでもせめて、皆の役に立てるようになりたくて。




それで









なんで、こうなったんだろう。


「―――っ」「……おい、大丈夫か」僕は途切れかけた意識の中で目を覚ました。

気付いたら、僕は大我さんの腕の中にいるようだった。

……そうだった。僕は海馬さんと二戦目のデュエルをしようとした所に―――

『百雲ッ!!』『レベルアップ!バンバンシューティング!!』
…突然、化け物のような触手が襲ってきて、大我さんが庇ってくれたんだった。




はっ、と僕は意識を取り戻して、言った。「大我さんは……!」「……無事だ。変身は、解除されちまったがな」
よかった、と思うより前に、僕は分断されたカフェテリアの向こう側を見る。
触手の向こう側には、ギャレンに変身した橘さんと、それに庇われたリゼさん、そして――海馬さんがいた。

…NPC以外の、初めての、殺意を持った敵との戦いだった。僕は、……僕は。

目の前の触手を操る男の殺気が、恐くて、気持ち悪くて、仕方なかった。




「融合召喚!!現れよ、ネオ・ブルーアイズ・アルティメットドラゴン!!」
先手を切ったのは、海馬であった。

三つ首の巨大竜が、目の前の触手群――鬼舞辻無惨を襲わんと砲撃を畳み掛ける。

だが――速さが違う。砲撃は躱され、逆に触手の塊がブルーアイズに襲い来る。
「罠カード発動!<<身代わりの闇!!>>デッキからモンスターカードを墓地に送る!」

カードから闇が噴き出し、無惨の攻撃は無効となる。――そして。



一瞬の勝機に賭ける。この攻撃が効かなければ、――ギャレンでは、打つ手がない。

「DROP」「FIRE」「GEMINI」

「BURNING DIVIDE」

その間に、リゼを後方に下がらせたギャレンが駆ける。
闇の中、ブルーアイズに触手を集中させた無惨の脇から、焼けるような分身のキックが、飛来した。

爪先がぶつかり、爆炎が舞う。

――しかし、それすらも無惨は何の関心も持たずに冷ややかに摘み取る。

「……」「ぐ、ぁぁっ……!」

……火力が、足りない。
ギャレンの蹴りは無惨を爆裂へと至らず、肉に焼け付いた炎ごと蹴りはその態勢のまま受け止められた。

175懺恨のJudgment ◆4Bl62HIpdE:2024/09/16(月) 17:07:38 ID:tZPTUM5w0

脆い。それが無惨の抱いた感想だった。このまま脚ごと潰せばいい話だ。
無惨の触手が、力を籠める。「う、ぐぁぁぁっ!!」
「…ブルーアイズ!」ブルーアイズが砲撃でアシストを行う。だが……無惨は予期していたかのように跳躍し、持ち上げているギャレンごと攻撃を躱した。
舞台は空中に移る。このまま肉、骨ごとギャレンの脚部はプレス機のように潰されるのも時間の問題だった――


「RIDER CRITICAL STRIKE」



だが、何者かが飛来した。そして、迎撃せんとする触手ごと、無惨は蹴り飛ばされた。


「……チッ……!!」

「……うぐっ」

ギャレンが落ちる中、…何奴も此奴も、何故ここまで邪魔をするのか。態勢を整えた無惨は一瞥した先を見た。
間一髪の所を救ったのは、最後の支給品、市販品の仮面ライダークロニクルガシャットで変身した仮面ライダークロノス…大我だった。

「……おい、お前」…所詮変貌したとて、食料は食料。依然として無視する。だが、そんな中目の前の男は続けた。「……いいモン持ってんじゃねぇか」

そこにあったのは、無惨のデイバッグ。大我……クロノスはガシャットを抜き、デイバッグの中にあったそれを腰に充てた。

バグルドライバーⅡ。そして……手に持つのは、クロニクルガシャットと……ハイパームテキガシャット。

「………」無惨から見れば、隙でしかないその動作。だが……目に映るのは、幾度となく見てきた鬼狩りのそれと同じ闘志。
尚もふらつきかける大我を、触手が襲い来る。「……食い止めろ、ブルーアイズ!!」

だが、そこに相対するのは三つ首の竜。「……罠カード発動、<<<強化反撃>>>!!」
強化反撃。自分が受けるダメージを0にし、バトルフェイズ終了時までモンスターの攻撃力をアップする。
所詮は人間の傀儡。…されど、無惨の苛立ちが募る。

「……大我さんっ………!」次いで、戦場の中にデッキを携えて百雲が追ってくる。…そして、百雲は変身が解除された大我の貌を見て、絶望した。
「……もぐも。それを持ってろ。こいつはゲームクリアに必要な物だ」大我は、クロノスの変身の後遺症で吐血していた。…そして、ハイパームテキガシャットを投げ渡される。

「…お前は…俺が絶対に護る。――変身…!」

「バグルアップ!!天を掴めライダー!刻めクロニクル!今こそ時は極まれり!!」

その刹那、強化反撃の砲射すら躱し切り、攻撃力4500のネオ・ブルーアイズすら八つ裂きにして仕留めた無惨の触手が襲い来る。が―――






「PAUSE」


瞬間、無惨の、周囲の時が止まる。

176懺恨のJudgment ◆4Bl62HIpdE:2024/09/16(月) 17:08:53 ID:tZPTUM5w0


「ぐふっ………う"う"っ」

ゲーマドライバーの時とは比にならないほどの、全身を蝕む激痛とウイルス。――これで仕留める。

クロノスは、ドライバーのボタンを押した。
「KIMEWAZA……CRITICAL CREWS-AID」

時間を司る雷撃の蹴りが、無惨に放たれる。

直後、花家大我の体力は、限界を迎えた。


「RE-START」

「ぐ、はっ」

「ぐ、あぁぁっ……!!」
時間停止が強制的に解除され、変身が解除された大我と雷撃を喰らった無惨は倒れる。

理解出来ない。突如奴を喰らおうとした触手が一瞬で躱され―――


一瞬。…こいつは。


「…ドロー……!」…また傀儡を召喚されてはたまらない。無惨は海馬に触手を飛ばし、海馬は反射的にカードのドローを止め触手の届く範囲外まで避ける。

「チッ……!!」何とか傷を負わずには済んだ。…だがまずい。海馬は避ける事には成功したものの、直後、最悪の思考に追いやられる。
…今モンスターを召喚しても間に合わない。海馬は、次に無惨がやろうとしている事を見ている事しかできずにいた。

それは、百雲も同じだった。…ドローする動作をすれば、確実に喰われる。

だけど、ドローしなければ殺されるのは……大我さんだ。
動いて、動け、僕の体……


…僕は海馬さんみたいには、できない。
思念とは裏腹に、百雲は戦意を喪失していた。…この化け物と戦おうとすら、深層の意識では思えなかった。


腕から脇部に掛けて、歪に開かれる巨大な牙と口腔。無惨は、大我を喰らおうとしていた。


「……や、め………ろ……」大我には、もはや抵抗する力など残ってはいない。

やがて、無惨が大我に接近し、そして――









「キメワザ!!バンバンクリティカルフィニッシュ!!」
無惨は大我を喰らう直前で、ビーム砲に弾き飛ばされた。

「ぎ、ぁああああああああ!!!!」撃たれた無惨は怒りとともに、戦闘態勢を整え、射撃を放った主に触手を食らわせようとする。


射撃を行った―――リゼに。


「……リゼ、さん……何を」
百雲は、ようやく近づけた大我に寄り添いながら、リゼのその姿を見て……絶句した。

――そのガシャットの、解説書は読んだ。後は、私が出来ることをやるだけだ。
リゼの腰には、大我のゲーマドライバーが充てられていたからだ。

「海馬さん、……もぐも。……大我さんと、橘さんを頼む。」「リゼさ、ん」


『"いや、俺は一流なんかじゃない。こんな情けない俺のせいで愛する人を失ったんだ。
 ……だがリゼを特訓して、君の友達を守るくらいはしたいと思ってる"』

177懺恨のJudgment ◆4Bl62HIpdE:2024/09/16(月) 17:09:27 ID:tZPTUM5w0


「………やめろ、よせ……!」薄れゆく意識の中で、大我が叫び。
「……やめてくれ、それだけは……。」変身が解除された最中で、橘が願うことしかできずにいた。

――やめてくれ。俺は君にそんなことをさせる為に……。


…ごめん。ココア、チノ、メグ――マヤ。私は、皆に、会えないみたい。

――私は、ここまでみたいだ。

リゼが手にしたのは、大我のゲーマドライバーと……挿入してあるのは、バンバンシューティングガシャット、そして……ハイパームテキガシャット。

「……。」無惨は、見る。…何故人間共は、ここまで生き汚いのだろう。
最早厭りだと言わんばかりに、無惨は尚も数十の触手で裂死させようとした。

「変身」しかし、触手群が襲い来ると同時に――ゲーマドライバーが開く。


「ガッチャーン!ムテキレベルアップ!バンバンシューティング!…アガッチャ!」

直後、無惨の数十の触手が金色の光群とともに弾かれ、千切られる。
「何…?」無惨が驚愕する中、ムテキとなった仮面ライダースナイプ……リゼは、触手を振り払うように跳躍し…ハイパームテキガシャットをキメワザホルダーに入れた。

「いっけええええええ!!!!!!」
『キメワザ!!ハイパークリティカルストライク!!!』


黄金に輝くスナイプから放たれる、渾身のキック。無惨を弾き飛ばすように、――そして、大我達から数mからでも引きはがすように、行われる高速移動の連撃。

「ぬ、ぐう……!!」…おかしい。此方の触手が効かない。
流石の無惨でも、今迄の蓄積されたダメージ、そして幾重にも重ねた触手群を物ともしないリゼの猛攻に、F-2のエリアから引き剝がされつつあった。


先刻の攻撃で心臓も脳も、四、五以上潰されている、不味い。このままでは――

「オォォ……!!」



リゼは、もう輝色の蹴りから止まる気はなかった。もぐもが、海馬が、大我が、――橘さんが無事に逃げれるように、少しでもこいつに痛手を負わせる。
ごめん、橘さん。一人にさせてしまって。


だから、みんなを―――絶対に…………
















「タイムアップ」

178懺恨のJudgment ◆4Bl62HIpdE:2024/09/16(月) 17:11:13 ID:tZPTUM5w0













何だったんだ、あの力は。

F-3。
少女を文字通り、頭部から砕きその脳漿で濯いだ無惨は思い出す。
あの白髪の混じった男が使っていた能力―――「時を止める力」を。
……この女の抵抗に遭い、随分と引き剥がされた。北に逃げていくのは視えた。――もう直、朝が来る。

一か八か、か、――再び追わねば。

戦いはまだ、終わっていない。






【F-3 川辺付近/一日目/早朝(日の出まで数十分)】

【鬼舞辻無惨@鬼滅の刃】
[状態]:ダメージ(中、理世を喰らった事により多少回復中)、疲労(大)、主催者への不快感(極大)、恐怖と焦燥感(大)
[装備]:
[道具]:ゲーマドライバー&バンバンシューティングガシャット@仮面ライダーエグゼイド、ハイパームテキガシャット@仮面ライダーエグゼイド
[思考・状況]基本方針:誰であろうと殺す。
1:金髪の男(DIO、名前は知らない)を喰い殺すか白髪の男(大我)の力を手に入れ、時を止める力を手に入れる。
2:1が完了するまで耳飾りの剣士(縁壱)との接触は絶対に避ける。何時まで私に付き纏う気だ貴様は。
3:…直に朝だ。この女の身に着けていた装備が使えるか?
4:全てが終わったら檀黎斗を殺す。二度と私の前に姿を見せるな異常者が。
5:黒死牟は放って置いても私との合流を目指すだろう。奴の首輪が必要かもしれん。
[備考]
※無限城決戦終盤からの参戦(寿命残り数日)。分裂不可。再生能力は今のところ健在。
※配下の鬼への呪いは無効化されています。






E-2。

「……目覚めたか。」
…俺は意識が醒め、何者かに担がれている感覚を感じ取った。
そこに居たのは、ギャレンと、同じく担がれている大我。――そして、曇り切った眼で海馬に付いていき、この状況が受け入れられずにいるような百雲。
……何が起こったんだ。リゼが変身して、それから……


「リゼ、リゼは……!」「……残念だが」目の前の、ギャレン…海馬は首を横に振った。

あの時、リゼが変身した直後――海馬はギャレンに変身し、大我と橘の二人を背負いF-2から離脱していた。
…リゼの犠牲に、そして二人を背負って撤退の判断を下した海馬は悔やむと同時に、思い返す。…ギャレンのまま無惨に立ち向かう事も出来た事を。
…海馬は死ぬ事を、この殺し合いを恐れていなかった。だが……今ここで自分が死ねば、確実にここにいる全員が死ぬ。…死を恐れていないのではなく、海馬は生きて檀黎斗の下へたどり着く為に撤退する道を選んだ。

「ぁ、ああ……!!」意識が覚醒していき、今此処には居ない、…そして永遠にいなくなってしまった彼女の顔がフラッシュバックする。
橘は、その意味を知る。残されたのは、負傷した脚。



『橘さん。私もみんなを――友達を守りたいんだ。……だからもし良ければ、私を特訓してくれないか?』


『橘さん。今すぐ私を鍛えてくれ!!』


『橘さん―――


思い出すのは 自身を頼ってくれたリゼの顔。

「ぁぁああああああああああああああああああぁああああああ―――!!!!」

橘の慟哭が、空しく響くのみだった。






【天々座理世@ご注文はうさぎですか? 死亡】

179懺恨のJudgment ◆4Bl62HIpdE:2024/09/16(月) 17:13:55 ID:tZPTUM5w0

【E-2/一日目/早朝(日の出まで数十分)】

【海馬瀬人@遊☆戯☆王】
[状態]:心身の疲労(中)、リゼを見捨てた後悔、ギャレンに変身中
[装備]:海馬瀬人のデッキ&新型デュエルディスク@遊☆戯☆王THE DARK SIDE OF DIMENSIONS、ギャレンバックル@仮面ライダー剣
[道具]:基本支給品、無惨の支給品
[思考・状況]基本方針:この決闘を粉砕したのち、アテムと決着をつける
1:檀黎斗と、あの異形(無惨)と闘うための方法を模索する。あの自称神はこのオレが粉砕してくれるわ!
2:首輪を解除したい
3:アテム及び共に存在しているであろう遊戯を探す。
  そうそう死ぬとも思えないが、お友達が死んで心に隙が生まれれば万が一があるかもしれない。
  器の遊戯の実力にも興味がある。当然凡骨は放置だ
4:残酷にも殺された少女(条河麻耶)のように闘う意志も牙も持たぬ参加者と遭遇した場合、保護も検討してやろう。
5:百雲を鍛えてやる。貴様を焚きつけて死なせるのは俺の沽券に関わる。
[備考]
※参戦時期は本編終了後から映画本編開始前のどこか。


【橘朔也@仮面ライダー剣】
[状態]:心身の疲労(大)、脚を負傷、リゼを護れなかった後悔
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]基本方針:剣崎の分まで人々を助ける。ゲームマスターも倒す
1:リゼ……。
[備考]
※参戦時期は最終回後。
※遊戯王OCGのルールを多少把握しました
※脚の負傷具合については後続の書き手にお任せします

【百雲龍之介@不可解なぼくのすべてを】
[状態]:心身の疲労(極大)、ストレス(極大)、自身の無力に対する後悔
[装備]:リゼ専用スピアー@きららファンタジア、デュエルディスクとデッキ(ウィッチクラフト)@遊戯王OCG
[道具]:基本支給品、リゼの支給品
[思考・状況]基本方針:……。
1:…何にも、できなかった。ぼくは……
2:リゼ、さん………
3:大我さん……

[備考]
※参戦時期は少なくとも十四話以降かつ二十三話までのどこか
※遊戯王OCGのルールとウィッチクラフトの回し方をだいたい把握しました。
 海馬とのデュエルで、さらに成長するかもしれません。
※先行ドローをしてませんが、別にドローしてもいいことに気付いてません。
 (ZEXALまでなので先行ドローがOK)
 多分直に気付きます。

【花家大我@仮面ライダーエグゼイド】
[状態]:ダメージ(中)、気絶中、バグスターウイルスの後遺症、心身の疲労(大)
[装備]: バグルドライバーⅡ&仮面ライダークロニクルガシャット(市販品)@仮面ライダーエグゼイド
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:このゲームは俺がクリアする
1:……。(気絶中)
[備考]
※参戦時期は仮面ライダーエグゼイド トリロジー アナザー・エンディング終了後
※遊戯王OCGのルールを多少把握しました

180 ◆4Bl62HIpdE:2024/09/16(月) 17:14:22 ID:tZPTUM5w0
投下を終了します

181死者からの手向け ◆EPyDv9DKJs:2024/09/29(日) 11:06:06 ID:MxLPb58g0
投下します

182死者からの手向け ◆EPyDv9DKJs:2024/09/29(日) 11:06:54 ID:MxLPb58g0
「これで多少ましになるだろ。」

 D-4の孤島。
 孤島にしてはよくできた家があり、
 美食殿と呼ばれる場所で凌牙と蛇王院は一時的な休息をとっていた。
 そこを物色したところ包帯は確保できたことで止血は何とか済ませることに成功。
 軽く体を動かすが、流石に傷が浅いとは言えず動きのキレは普段よりよくはない。
 だが贅沢は言ってられない。ジャンヌを相手に応急処置できる程度の傷で生存。
 それだけでも僥倖と言うものだろう。

「よし、さっさとお前のサメを使ってエリア移動するぞ。」

 美食殿につくころには出血のせいか気絶しており、
 休息に時間を使ってしまったことで既に時間は明朝。
 できることなら早急に明石と合流しておきたくもあった。
 明石自身は戦闘経験になれていると言えども、不安は拭えない。
 遊星同様に殺し合いの根幹の一つである首輪を何とかできる可能性を持った一人。
 殺し合いそのものを打破するという意味においても失うわけにはいかない。

「だがどの方角かも分からねえんじゃ探しようがねえぞ。」

 美食殿が位置するD-4は三方に水路が別れている。
 流石にジャンヌと戦った以上北の上流を目指すことはないにせよ、
 左右どちらのルートへ行ったのかわからず、どちらもさらに水路が分岐している。
 そも、ジャンヌが追うのを見越して陸路の可能性だってあるので事実上選択肢は無限だ。

「じゃあとりあえず西へ目指してみるか。」

「何か理由があるのか?」

「D-2にも孤島がある。俺が明石のように水上を自在に動けるなら、
 そこを休憩にするか、自分以外を寄せ付けない意味でもありうる。
 まあ空を飛ぶ連中なんてのを俺は見ちまってるからいないとも思ってるが。」

 基本的なことは部下である美潮が参謀として勤めているが、
 だからと言って蛇王院が総長として劣ってるかと言われれば別だ。
 頭がいいかどうかで言えばよくないが、無能と言うわけではない。
 水上を移動できる人物はいないとも限らないのは既に過去の戦いで経験済み。
 空中要塞グランメサイヤに、空を飛ぶ仲間を連れてやってくる狼牙軍団がいたわけだ。
 その判断は理にかなっており、移動する理由としては十分な説得力がある。

「なら一先ずそっちだな……乗りやすい鮫モンスターはどれになるんだか。」

「鮫しかいねーのかよ。」

「俺のデッキは魚で構築されてるが大半はシャークモンスターだからな。」

「じゃあこのアーマード・シャークって奴でいいだろ。
 ビック・ジョーズと違ってヒレが刃じゃなくて捕まりやすそうだ。」

「あとはこれでいいか……来い! アビス・シャーク、アーマード・シャーク!」

 蛇王院の前に召喚されたのは赤と黄色の装甲を纏った鮫が、
 凌牙の前に召喚されたのは紺色の身体に金のヒレが目立つ鮫が召喚される。
 召喚した後二人はそれに乗って、水路を颯爽と駆け抜けていく。

「にしてもデュエルモンスターズってのは随分便利だな。
 移動、索敵、戦闘、人海戦術……自由自在に扱える。
 もし技術が盗めるようなら、スカルサーペントにもほしいところだ。」

 スカルサーペントは常に人員不足の組織だ。
 守っている人たちからは誹られ、ほかの争いから逃げてきた学徒を仲間に引き入れて、
 ようやくホーリーフレイムと何とか渡り合えているレジスタンスのような組織になる。
 総員合わせても約3000名。異国人のみで構成されたホーリーフレイムよりも少ない。
 だからそれらをすべて帳消しにできるようなデュエルモンスターズの技術に興味が沸く。

「どうだかな。命がけのデュエルをしてるのは俺達ぐらいだ。
 普通ならどこにでもある遊ぶためのカードゲームにすぎねえよ。」

「バトルジャイロみたいなものか?」

「それが何かは知らねえが……まあ遊びの程度だ。
 ま、俺たちはその遊びや普通から外れてたけどな。」

 バリアン世界の為人間界へ侵攻したあの時を思い返す。
 あれはデュエルを用いた戦争に等しい行為でもあった。
 あれを思えば、戦争の道具になるかどうか言えばなるだろう。
 遊馬はそれを否定するのは目に見えてるが。

「おい、誰か倒れてるぞ。」

 注意深く周囲を警戒してたことで蛇王院が人の姿に気づく。
 言われてアビス・シャークを止めて先に降りた蛇王院についていくが、

「……は?」

 倒れていた相手の姿に、思わず間抜けな声が出た。
 確かに思った。殺し合いに向いている性格ではないと。
 だからと言って、もう既に死んでいて今こうして死体として邂逅する。
 そんなもの予想できない。ここにあるのは九十九遊馬の死体。
 いや、予想したくなかったというべきだろう。
 長い付き合いを経たライバルのような存在が、
 こんなところで死んでいるなんて。

183死者からの手向け ◆EPyDv9DKJs:2024/09/29(日) 11:07:47 ID:MxLPb58g0
「おい、何寝ていやがるんだ。」

 どんな逆境でも人を信じると力と諦めない心、
 かっとビングで希望を手に、数々の道を切り開いてきた。
 カイトを、トロン兄弟を、フェイカーを、バリアンを、ドン・サウザンドを倒した。
 しかし目を覚ますことはない。あの騒がしく、かっとビングだと叫ぶ少年は二度と目覚めない。

「何寝ていやがるんだ!! いい加減目を覚ませよ、遊馬ッ!!」

 この現実を受け入れるには、付き合いが長すぎた。
 鉄男のデッキを取り戻す、あの頃から遊馬は幾度とデュエルをしてきた相手だ。
 それを死にました、はいそうですか。そんなもので納得できるわけがない。

「落ち着け凌牙。」

 遊馬の胸ぐらを掴む凌牙の肩を蛇王院が掴む。
 肩にかけられた圧は強く、夢や幻ではないことを現す。
 九十九遊馬は確かに死んでいる。どうしようもない事実を突きつけられる。

「……悪い。」

 冷静さを失っていた。
 誰が見ても明らかなことであり、
 謝罪と共にゆっくりと降ろし、数歩歩いた先で近くの地面を叩きつける。
 怒りでどうにかなりそうな感情を、一先ず痛みで沈めてるようなものだ。
 その間に蛇王院が検死のように軽く様子をうかがう。

「頭部の傷と血痕から高所から落ちてきたのは確実だが、
 銃創もあれば、服の橋が焦げてたりで情報が多すぎる。
 他には……ん? 凌牙。これこいつのカードか?」

 死体を軽く動かした際に何か音がして、音の発端となるケースを開く。
 深淵の冥王が遊馬の支給品は大体回収したが、唯一回収できなかったカード、
 閃刀姫ーカガリのカードが出てきて、凌牙にそれを見せる。

「いや、遊馬のカードじゃねえ。それにリンクモンスター?
 青いカードと言ったら儀式モンスターのはず……確かアプリに説明があったな。」

 見知らぬモンスターに戸惑いつつも、
 冷静に導入されたアプリでルールを確認する凌牙。
 遊馬の死に動揺や憤りはあるかどうかで言えばあるだろう。
 だが復讐心にかられるつもりはない。

『憎しみで!! 復讐で!! デュエルしてお前、楽しいのかよ!!』

 後に多くの復讐者を止めてきた遊馬の言葉だ。
 もしも復讐心にかられて行動を起こせばこの先、
 デュエルを殺しの道具としか見れなくなるのだろうと。
 それはあいつが望むことじゃない。だからその心に吞まれるな。
 吞まれてしまえばトロンにいいように利用されたときと何も変わらない。
 思いのほか冷静に行動している凌牙を見て。どこか安心した顔で蛇王院が一瞥する。

 デュエリストでなくても戦いにおいては冷静さが必要不可欠だ。
 特に素人目からみてもデュエルモンスターズは複雑なもののはず。
 なおのこと冷静さを保てなければ、些細なプレイングミスで首が飛ぶ。
 故に少々心配していたのだが、杞憂に終わったことに安心を覚えていた。

「召喚できねえな。召喚条件を満たす必要があるのか?」

「いや、単発のカードとしても使えるみてーだな。
 使ったらしばらく使用できなくなるらしいな、どうやら。
 だがもっとやべーものをこいつは持っちまってたみてーだな。」

 基本支給品も残っていたので、
 デイバックを漁ればその説明書が残されている。
 故にどういう使われ方をしたのかはおおよそ理解したが、
 問題なのは村雨の説明書を読み終えると二人はともに眉をひそめる。

「斬られればそれだけで死ぬ、か。
 マジに物騒なものを持っていたようだな。」

「あいつのことだから騙されて誰かに渡してそうだな……」

 デイバックが奪われてないことから、
 遊馬が何らかの理由で放置されていたのは分かる。
 だから殺されてから奪われた、と言う線はまずないだろう。
 騙されて渡したとかの方が、よほどあり得るのが遊馬らしくある。

「信用できる奴に渡ってればいいけどな。で、どうする? こいつの形見だが。」

 生身でモンスター以上のスペックを発揮する蛇王院にとって、
 カガリを使ったところで戦力がプラスになるとは思えなかった。
 それならば遊馬の遺品となることもあり、凌牙に持たせる方がいい。

184死者からの手向け ◆EPyDv9DKJs:2024/09/29(日) 11:08:16 ID:MxLPb58g0
「ああ、悪いな気を遣わせちまって。」

 今は召喚できないし、よしんば召喚しても1500。
 戦力としては心もとないが、あいつの忘れ形見なのは変わらない。
 もしかしたら、誰かの窮地を救ってくれるカードかもしれない。
 事実、リンクモンスターを調べた際にレイとロゼの名前も見た。
 参加者である二人のどちらかへ渡せば、何かしらの力になるだろう。
 遊馬の遺志はわかり切ってる。かっとビングまでは受け継ぐかは別だが、
 殺し合いを止めるという遺志はもとよりそのつもりではあったものの、
 改めてその意志を強めることにする。

「……向こうの方でどうやらドンパチやってるみてえだな。」

 川を挟んだ向かいの北のエリアでは何やら騒がしい。
 もしかしたら遊馬を殺した人物がいるかもしれないが、
 一方であのジャンヌがそこにいる可能性だって否定できない。
 凌牙の実力は蛇王院からすれば不明だ。デュエルモンスターズを理解しておらず、
 彼がどの程度の強さを持ったデュエリストかも知らないのだから当然と言える。
 だから今の戦力でジャンヌへと挑むというのは少々心もとない部分はあるが、
 同じく味方になりうる人物がいるというのであれば救援、ないし合流はしたくもある。

「凌牙。お前はどうする? 向かうつもりなら俺は止めねえし同行する。
 さっきのを見る限りじゃ、デュエリストは前衛なしでは厳しそうだしな。」

 ジャンヌから逃げるしかなかったのは、
 モンスターを用意して攻めに入る暇がなかった、
 と言うのも理由の一つではある(一番は蛇王院の傷だが)。
 攻撃をかわせるだけのフィジカルがあれば別だろうが、
 いくらデュエリストだからと言って超人を超える身体能力はない。
 そのまま挑めばまずジャンヌに首を刎ねられる未来が目に見えてしまう。

「確かにな。蛇王院は来る気があるか?」

「明石には悪いが、放っておくのは性に合わねえ。」

 明石も聡明な艦娘だ。
 うまいこと敵をやり過ごしたり、
 友好的な参加者と出会ってる可能性は高い。
 となれば今は急いで向かわねばならない北だろう。

「よし行くぜ凌牙! 俺が抱えて走る方が速いはずだ!」

 そう言うと返事も聞かず右腕で凌牙を抱え、川を飛び越えて走り出す。
 孤高の鮫は友の遺志を受け継ぎ、北へと向かう。

【一日目/明朝/D-3 水上】

【蛇王院空也@大番長 -Big Bang Age-】
[状態]:胸に真一文字の傷(割と重傷、応急処置済み)、疲労(大)
[装備]:ティアドロップ@Caligula2、
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(薄緑ほど使えないかつ回復系ではない)
[思考・状況]基本方針:普段どれだけキレても殺しはしないが、てめらは別だ。
1:うちの傘下や同じ考えの奴がいるならなるべく優先する。
2:九時間後に指定されたエリアの一つに向かい、再度作戦会議。
3:明石、いい女なんだが残念だな。
4:ジャンヌとは必ず決着をつけてやる。
5:今はこいつ(神代凌牙)と一緒に動く。明石が無事だといいんだがな。
6:北へ向かう。
7:村雨を持った奴を警戒
[備考]
※参戦時期は扇奈ルート、狼牙に敗北後。
※異形の腕はそのままです。そのためゲーム上の攻撃で使ってる砲撃も可能です。
 細い触手を切られてもダメージはありません。
※遊星、明石と情報交換しました。

【神代凌牙@遊☆戯☆王ZEXAL】
[状態]:動揺、怒り
[装備]:デュエルディスクとデッキ(神代凌牙)@遊☆戯☆王ZEXAL、閃刀姫-カガリ(現在召喚不可能)@遊戯王OCG
[道具]:基本支給品×2(自分、遊馬)、
[思考・状況]基本方針:遊馬の導いた希望の未来のために主催者を倒す
1:遊馬……
2:カイトは協力を頼んでおく。ベクターは……会ってから判断。
3:魔法を破壊出来る上にあの攻撃力……あの女(ジャンヌ)厄介だな。
4:こいつ(蛇王院)の怪我を何とかしないとやばい。
5:遊馬を殺した奴は気になるが、復讐心にはかられるな
6:村雨を持った奴を警戒
7:北へ向かう。

[備考]
※参戦時期は最終回後。

185死者からの手向け ◆EPyDv9DKJs:2024/09/29(日) 11:08:46 ID:MxLPb58g0
以上で投下終了です

186◆2fTKbH9/12:2024/10/01(火) 23:45:34 ID:???0
前に投下した二人だけは二人信じてるの一部の内容を修正します。
マヤのプレイングの考察と見落としていた今ロワのエクストラモンスターゾーンの扱いの補足です。

【修正前】
「奴らに関しては関係のある人物と接触すれば、後々、分かるだろ。ところでデュエルを確認し直す」

主催の話を切り上げ、空は再度デュエルのルールブックを確認した。
黎斗によるルール改変が起きたが故、説明書に追加した箇所が記載されていないか念入りにチェックしていた。
カードゲーム方式では死なずに済むのは癪だが、ありがたいけど、逆にリアルファイト方式では今まで通り、命の危険性があるのは変わらない。
ついでにシンクロとエクシーズの試運転をし、あっさり使いこなした。
デュエルといえばキリトは殺された小学生くらいの少女に関するある疑問を思い出した。

「あの少女は何故、デッキの使い方を理解していなかったんだ?」
「説明書を記載していないのは考えにくいし、紙束デッキもあり得ないしな」

これについては主催が説明書を配布ミスや紙束デッキをわざと支給したとも思えなかった。
空自身に説明書も配られたお陰で直ぐにルールを把握し、肉おじゃ戦で完璧に使いこなしている。
空が持っている轟惑魔のデッキだって、徹底的に組み込まれている。
黎斗の放送でデッキは『強力なアイテム』と伝え、デュエルディスクとデッキ以外没収され、平等なのが分かるので後者の線も薄い。
となると単純な答えしかない。

「恐らく、本当にルールを理解していないであろう」
「それか使い方を確認する前に金髪の男に襲われた可能性もある」

そうでなければ、考えもなしにモンスターを出さないだろう。
ルールを把握していたら、最善策は正面から戦わずに魔法・罠カードを使って、時間を稼いで逃げるが勝ちだ。
この理由も仮定の一つで真相は永遠に開示しないだろう。
だが、最大の不運は同行者と巡り遭えなかったことだった。
キリトと空があの場にいれば死なずに済んでいたであろう。
デュエルのルールを空から教えを乞う未来があったかもしれない。

187◆2fTKbH9/12:2024/10/01(火) 23:47:15 ID:???0
【修正後】

「奴らに関しては関係のある人物と接触すれば、後々、分かるだろ。ところでデュエルを確認し直す」

主催の話を切り上げ、空は再度デュエルのルールブックを確認する。
黎斗によるルール改変が起きたが故、説明書に追加した箇所が記載されていないか念入りにチェックしていた。
カードゲーム方式では死なずに済むのは癪だが、ありがたいけど、逆にリアルタイム方式では今まで通り、命の危険性があるのは変わらない。
ついでにリンクとエクシーズを試運転して、あっさり使いこなし、シンクロ、ペンデュラムのやり方も完全に理解し、熟知もする。
キリトはあることを気にしていた。

「それより、檀黎斗はあれに触れてない」
「キリト、あれは最初に言っておく。この殺し合いに呼ばれたデュエルの経験者は全員エクストラモンスターゾーンを知らない。それを知る奴は経験者ではないごく僅かだ」
「そのために公表しなかったのか」
「それもある。根拠として俺に三つ目の説明書も配布された。」

空は蟲惑魔のデッキとその解説と遊戯王OCGのルールの説明書があるが、実は四つセットで配布された。
最後の一つがエクストラモンスターゾーン付きのフィールドに関する詳細な説明書だ。
キリトには最初の情報交換でエクストラモンスターゾーンの説明も済んでいる。
黎斗の放送が始まるまではそこまで気にしてなかったが、流石のキリトも気になり、エクストラモンスターゾーンに関する説明だけタブレットにも載っておらず曖昧さが残った。
だが、空は放送後、直ぐにエクストラモンスターゾーンとついでにペンデュラム召喚、リンク召喚の存在を知らない別世界の経験者ばかり集められた解答を導いた。
蟲惑魔はリンク召喚が必要で自分に別のフィールドの丁寧な説明書を配られたのもそれ故の特別な処置だろう。

「なら、エクストラモンスターゾーンがないのはバグが起こってるのか?」
「リンクモンスターを召喚する条件が整ったら自動的に出ると支給された説明書に書いてある。どんな仕組みか今は分からねぇが」
「書いてあったんかい」

空は最初に二つの説明書にそれぞれ異なるフィールドが載っており、統一されてなかった。
最後の説明書には自動的にエクストラモンスターゾーンが出現と書かれていても違和感を抱いていた。
肉おじゃとの戦闘でカードをリンク召喚するフィールドにエクストラモンスターゾーンがなく、フィールドは遊戯王OCGの説明書に載っていたフィールドそのもの。
当初はシステムがバグと考えかけたが黎斗が初歩的なミスを犯すとは微塵も思わない。

「次の放送辺りで、フィールドが新設してエクストラモンスターゾーンは自動的に出てくることなく次から設置される」
「さっきの放送で檀黎斗はフィールドを新設しなかったんだ?」
「それを知らない経験者のお情けだろうな。けど、本番はここからだな。檀黎斗が言っていた『真の決闘者なら適応』しろと」
「テストプレイみたいな延長戦が続いているというのか?」
「一番はそうだろうな。目的はそれだけとは限らない」

肉おじゃの襲撃後、経験者への配慮と推測している。
訳の分からない自動的な仕組みなどお役御免だと確信している。
何にせよ一回目の放送後にフィールドが変わり、経験者は困惑や戸惑いが多くなるだろうが、通常通り、メインモンスターゾーンというのに召喚すれば大した問題ではない。
黎斗の狙いは何であれ、経験者にだけこれ以上の贔屓を許すはずもない。

余談だが、実を言うと御伽龍児にもエクストラモンスターゾーン付きのフィールドの説明書が付いていた。
黎斗によって空同様、特別に配布された。
御伽はエクストラモンスターゾーンが必要不可欠なデッキが支給され、彼のいる世界にはエクストラモンスターゾーンは疎かペンデュラム、リンクも存在せず、未知すぎて困惑した。
慣れるのに時間が掛かっても説明書を読んで重要な要素と用語を覚えようとしたが、野獣先輩の襲撃で全てを理解する暇もなく、拳銃で挑む羽目になり、馴染みのデッキを支給しなかったのが死の遠因となってしまった。

「これは俺の見解。檀黎斗は何がしたかったのか現時点では知らん」

188◆2fTKbH9/12:2024/10/01(火) 23:49:09 ID:???0
本当かどうか今は定かではない。
キリトは空の解答に納得して腑に落ちた。
しかし、デュエルの考察をしていたら次の疑問が生まれた。

「あの少女は何故、デッキの使い方を理解していなかったんだ?」

キリトは殺された小学生くらいの少女(マヤ)のプレイを思い出していた。
デュエルの知識を多少は覚えて来ている。
空のプレイングが完璧な分、少女は全く使いこなせてなかった。

「説明書を記載しないのは考えにくいし、紙束デッキもまずない」

これについては主催が説明書を配布ミスや紙束デッキわざと支給したとも思えなかった。
空自身に説明書も配られたお陰で直ぐにルールを把握し、肉おじゃ戦で完璧に使いこなしている。
空が持っている蟲惑魔デッキだって、徹底的に組み込まれている。
黎斗の放送でデッキは『強力なアイテム』と伝え、デュエルディスクとデッキ以外没収され、平等なのが分かるので後者の線も薄い。
黎斗はそれを見越した上でデュエルのテストプレイをしただろう。

「恐らく、ルールを覚える前に襲われたんだろう」
「それは違う。簡単な話だ。檀黎斗は『彼女のようになりたくなければ』と言っていた。つまり、ルールを覚えられず適応出来なかったのが真相だ」

空は少女のプレイングが最悪でルールも1mも理解せずに戦っていたのをまるわかりだ。
そうでなければ、考えもなしにモンスターを出さないだろう。
ルールを把握していたら、最善策は正面から戦わずに魔法・罠カードを使って、時間を稼いで逃げるが勝ちだ。

「とは言え、キリトがいなかったら俺はあのおっさんに殺されてた」
「いや、空がいなかったらどうなってたか」

キリトはデュエルのルールを複雑すぎるが故に全部把握していない。
少女(マヤ)が理解しきれてないのも仕方ないと思う。
キリトと空があの場にいれば死なずに済んでいただろう。
少女の最大の不幸は同行者と巡り遭えなかったことだ。
キリトも空も一人だったら少女のような末路を辿ってしまったかもしれない。
空からデュエルのルールの教えを乞いたり、一緒に特訓する未来があった。
経験者を除けば空のような頭脳派でなければ全てを理解するのは至難の業だ。そうでない人もいるかもしれないが。
空がデュエルのルールと本質を全て理解出来たのは彼が凄腕の天才ゲーマーだ。
先の戦いで彼の戦略はその一端をお披露目した。
本人曰く妹の白のほうが天才に相応しく彼女不在の現状、制約はあると聞いている。
キリトからしてみれば空の頭脳も天才に相応しい称号だと思っている。

「それはお互い様ってことで。改めてやって行こうな」
「勿論だ」

二人は互いに握手をする。


※現時点では、黎斗によってペンデュラム召喚、リンク召喚の発動条件が整ったらエクストラモンスターゾーンが自動に出てくるようになります。
※第一回放送以降、マスタールール(11期)のデュエルフィールドが黎斗の手で新設されます。



修正は以上です。これまでのリレーに支障はありません。

189◆2fTKbH9/12:2024/10/01(火) 23:52:27 ID:???0
ついでにキリト、空を予約します。

190◆2fTKbH9/12:2024/10/02(水) 21:02:23 ID:???0
投下します。

191◆2fTKbH9/12:2024/10/02(水) 21:04:19 ID:???0
エルキア大図書館を一時、発った後、少しして二人(+一人)は周囲を警戒しながらも他愛のない雑談をしていた。
現在リリスはシャミ子について話していた。

「シャミ子はかなり純粋で真面目だ。唯一、余を馬鹿にせず尊敬しておる」
「シャミ子と言う人は分かった。いい子なんだな」

キリトと空はシャミ子の人物像をリリスから聞かされた。
お人好しすぎるのが傷だが、彼女の芯の強さが色々な事件を解決して来たらしい。
先日は陽夏木ミカンの呪いを解き、貢献し、更にウガルルという新たなる命を誕生させたとか。

「俺も彼女に会ってみたいぜ」
「空、気になるのか」
「俄然、興味が沸いた。定番の角と尻尾のまぞく。会えるのが楽しみだ」

そんな中、空はシャミ子の話しを聞き興味をそそられていた。
まぞくといってもリリスからほぼ普通の人間のようだと二人は認識した。
勿論、異形のまぞくもおり、狐耳もいると一言漏らした途端、興奮したのは言うまでもない。

「東部連合の巫女さんと被っている気がするが、まあいいか。対面は出来ないのは残念だ」
「あんたは変態か!」
(あやつも大概じゃな。小倉ではあるまいし)

リリスは小倉を思い浮かべていた。
それでも空のほうが真っ当な性格で小倉は論理観がぶっ飛びすぎて比べるまでもなかった。
それを空に煽ろうとしたが、煽り返されるのが目に見えるので胸の内に仕舞っておこう。
空の意外な一面を知ったキリトは思わず突っ込んだ。
キリトは質問を切り出した。

「ミカンって子の呪いの話しで、あんたも活躍したんだったな」
「そうだ。余のアドバイスのお陰でウガルルの召喚に成功したのだ」
「シャミ子の頑張りもそうだが、リリスは本当に魔法、魔術の知識が広いな」
「余の専門分野だからな」
「ただ、この場では一旦、リセットだ。何が起きても不思議じゃない」
「もう目に焼き付けておる。実験も検証済みだ」

空はリリスの制限を振り返っていた。
エルキア大図書館を発見する前、リリスは自身の能力を話してくれた。
その一つは肉体を他者と入れ替えるらしく、キリトが名を上げて検証したが、何も変化はない。
リリスは動揺したが、当たり前の処置だ。
黎斗の殺し合いに身体の交換を断固求めていない。
逸脱した能力を黎斗が許す訳もなく、制限対象も納得である。

二つ目は夢見の能力で他者の夢に入り込めるが、リリス本人から封印中の身でシャミ子以外は介入・侵入は不可らしい。
そうでなくてもシャミ子を含めて夢に出入りは禁止なのも当然の結果だ。
上記の二つをリリスに伝えた。

最後に能力に入れるか微妙だが、よりしろを要して、単独で動けるらしい。
本人曰く大量のよりしろがあれば空黒の助力が可能ということ。
空の推測では、肉体の交換と違って自由行動は容認されるだろう。
よりしろもごせん像同様に他の参加者に支給されている希望があるかもしれない。
ただし、それの制限も加える可能性がある。
黎斗によって行動出来る時間が限られているだろう。
具体的に活動時間は何時までかは不明で、少なくとも短時間だろう。
リリスの為にもよりしろを見つけるのに越したことはない。
それが見つかっても大きくする道具が必須である。
本人曰く手のひらサイズらしく戦略次第で小さい利点を活かせないまでもないが、それだけでは限界だ。
加えてリリスが扱える支給品も探さないといけなくなる。
それらも探すとなれば相当骨が折れる。

192◆2fTKbH9/12:2024/10/02(水) 21:05:52 ID:???0
空が考察し終わった直後、リリスは要望を出す。

「よりしろを見つけたら余だけ島の外に行く」

空黒の二人が外の調査を行っている間、この時のリリスは存在に気づかれずに爆睡していた。
地図外の調査報告は空から全て聞かされた。
リリスは直接地図の外の様子を見た訳ではなく、空ですら見抜けない複雑すぎる仕掛けが組まれている可能性もある。
もし、魔術関連ならこの目で確認する必要があった。
空黒には首輪があるから、二人のスタート地点がD-8の狐島でいくつかのボートがあるらしいので、リリスが乗れるようなボートに一人で行くつもりだ。

「何を言ってるんだ!!そんなの出来る訳ないだろ!!」
「あの時は寝てた余の自己責任だ。もし、余にしか気づけない仕組みがあるなら・・・」
「俺達があんな危険地帯に送り出さないだろ!」
「余は首輪を付けてない。それを利用して調査するのは・・・」
「落ち着けリリス。過ぎたことは仕方ない。失敗は誰だってある。何れ別の用事が入る場合もあるし、今から挽回すればいい」

空の言葉にリリスは心を落ち着かせる。
心の奥では焦っていて、よりしろがないと動けない自身の情けなさに。
よりしろが見つかるまで空黒とシャミ子達の助力不可で、待たないといけない現状。
何より、初手で殺し合いという異常事態に巻き込まれたにも関わらずに呑気に爆睡する大ポカをしてしまった。
責任として、よりしろ経由にて一人で地図の外に行く予定のはずだった。

「すまぬ。キリト、空。それは無茶すぎた」
「いいよ。元はリリスを認識出来なかった俺にも非がある。御相子さ」
「リリスあんたにはあんたなりの役割がある。いざという時は空黒がフォローする。家族と知り合いを探し出し、よりしろも必ず見つける」

魔法、魔術の知識の幅が広く、充分有能だ。
他世界から様々な参加者がいるが故に油断ならないのを忘れない。
魔法、魔術関連で相手にする場合は彼女が鍵になる日が来る。
よりしろ探しの頼みも完全に承諾したし。

(お主らこんな余の為に有難い。でも・・・・・)

自分の為に叱ったり、心配してくれる二人には感謝する。
しかし、一点だけ後ろめたさがある。

(シャミ子らは今頃、何しているのかな。)

自分の家族と知り合いの魔法少女だ。
リリス自身は雑談する程、平和で皆がそうでないと限らない。
あくまで、自分が知る限りの話しで、爆睡中に彼らは筋肉質のパンツ一丁の男に襲われたが、返り討ちにしたと聞いた。
特に吉田一家は空黒の様な頼れる人に保護しないと危険度が増す。

桃とミカンの捜索は後回しへと段々と傾いて来た。
無論、心配する気持ちもあるが、二人は最低限の自衛は出来るし、簡単にくたばらない。
ミカンは呪いがなくなって、吹っ切れるくらい人助けをしているだろうし。
桃もシャミ子達の捜索を優先しつつ、ミカン同様、言わずもがな。
偶然、合流したら、ミカンには挨拶をしておこう。一応、桃にも。

193◆2fTKbH9/12:2024/10/02(水) 21:07:07 ID:???0
小倉の優先順位は低くない。
保護対象もあるが、オカルト系に詳しい彼女なら、等身大のよりしろを作って貰える。
小倉に会えば、空黒によりしろ探しの負担を減らせる。
自分の容姿の再現はこの場ではとっくに諦めている。

吉田一家が如何しても気掛かりだ。
エルキア大図書館を離れた直後に大事な三人の家族に胸騒ぎがした。
気のせいと思いたい。ぬるま湯に浸っている間に信頼出来る人に会えずに危険な目に遭っているのではと考えてしまう。

(もし、シャミ子らが怖い目に会ったなら場合によっては、余が命と引き換えに・・・)

悪人によって人質にされるなどの事態が起きたら、覚悟を決める時が迫られる。
特にシャミ子は自分を敬ってくれており、彼女にこんな形で恩返しする羽目になっても。
最悪、ごせん像を破壊し、現世に留まれなくても。
二人に隠していたのは、万が一起こってしまった家族問題に巻き込まない思いがあった。
桃とミカンに頼み込むつもりだ。

「リリスまだ言いたいことがある。家族に何があっても命を引き換えにする行為は空黒が絶対に許さないからな」
「シャミ子の家族も空黒が責任を持つ。例え、極悪人だろうと酷い目に会うなら、そいつを倒して保護し、守ってやる」
「忘れたとは言わせねぇぞ。フォローするって。家族の無事を信じなくてどうする。危険な目に会った証拠もない。ただな、あんたに何かあったら皆心配するし、悲しむ。俺達もな。あんま背負い込みすぎるなよ」
「本当にすまぬ。空には勝てんわ」

車を発見する前にごせん像に関して空黒に話していた。
封印された原因は本人すら不明で、何故こうなったか謎らしい。
封印空間という場所は正常で制限はない。
ごせん像が破壊すれば自由の身になるが、同時に魂だけの存在となって消えてしまう。
ただし、やむを得ない現状に陥る最後の手段は伏せていた。

しかし、二人はリリスが最悪を想定して自己犠牲する気だと分かりきっていた。
ごせん像が二人の手元にある限り、防止も当然で最初は黙っているつもりだった。
エルキア大図書館から離れてから様子が可笑しいのに空は感づくが、その後はキリトの提案で何事も無く談笑した。
リリスも楽しそうに話していた。
家族のことで無茶をする気だと察した要因は、先程の会話の『家族』のワードを出した後にリリスが一瞬で後ろめたい表情を晒したのを一秒も見逃さなかった。
至急、諭さないと駄目と判断した。
キリトは気づけなかったが、空の一言で全てを理解した。

(余も年長者としてしっかりせんとな)

空の説得で、リリスは思い直した。
どうあがいても空には見透かされる。完敗だ。
確かに自分が逝ってしまったらシャミ子達が悲しむ姿が浮かんでくる。
特に自分を慕ってくれるシャミ子に至っては号泣するだろう。

地図の外を見逃し、家族の胸騒ぎといい、自分はかなり気負いすぎた。
胸騒ぎに踊らされたら、それこそ檀黎斗の思う壺だ。
今は家族の無事を祈り、この先何があっても突き進もう。

「色々心配かけたが、もう大丈夫だ。と言う訳で余、復活!」

態度は相変わらずだけど、元気になったのに二人は安心した。
同時に空はやはり先に今後の予定を話した方が早いと判断を下す。
今の件を受けて、たかがこれくらいことで隠すのはどうかと思い始めて来た。

194◆2fTKbH9/12:2024/10/02(水) 21:08:04 ID:???0
「キリト、リリス今から今後の予定について伝える」

空は今後の予定を手短に話した。
ある程度、人数が集まったら分かれて行動することやエルキア大図書館を調べ終わった後は、空黒はD-6の狐島に向かう予定であることと残りは情報の遅れを防ぐ為に北か西辺りで参加者の捜索をして貰うのも全て伝えた。

「あくまで仮定で増えすぎたらの話しだ。リリスはその時まで考えればいい」
「空とキリトについていく。さっきの借りを返さないままは主義に反する」
「そうか。てか、空、何故また狐島?」
「調査の一環だ。それにゲーマーとしての勘だが、あそこに行けば手掛かりが分かるかもしれねぇしな」

空としてはD-6の島の調査も進めたいと思っている。
あの島はゲーマーにとって重要な何かがある気がする。
これから自分達に進むべき道を示したように感じた。

「調査は兎も角。徒労に終わるのではないか」
「かもな。だが、手掛かりがある場所なら、俺達にとって朗報だ」
「空の言う通りだ。その島にまだ誰かいるなら尚更」
「しょうがない。お主らがそう言うなら」

リリスは正論と根負けした。
空だけでなく、キリトすら同じゲーマーだからか共鳴を感じていた。
彼ら目に胆力が伝わって来た。仕方ないので、二人の意思を汲み取ることにした。
二人はまだ若いし年上として、今はアドバイスしかないが、手助けしてやろう。

雑談で言われていたが、空とキリトはゲーマーであると聞いた。
それぞれジャンルが異なるらしいが、リアルのファンタジー系は経験済みだそうだ。
共通の話題で盛り上がる姿は微笑ましい。
気が合い、お互いが信頼し合っている。
おまけに気持ち悪いくらい、声も一緒。
空黒なるコンビ名を結成したくらいだ。
何れ、シャミ子と桃はシャミ桃とコンビ名を付ける日が来てしまうか?例え話しだけど。

リリスは一つ気になることを切り出した。

「キリトと空。少し名簿に引っ掛かっている部分がある」
「確かに変な名前もあるし、気にならなかったな」
「ゲーマーではよくあることだ。一々気にすんな」

空黒はゲーマーであるが故に肉体派おじゃる丸、虐待おじさんなどはプレイヤーネームやハンドルネームでの参加は有り得る話しだ。
ふざけた名前があってもツッコむ気はなかった。

「それではない。余が言いたいのは、名簿に二つ同じ名前が載っている」
「海馬瀬人と保登心愛だな」

リリスは名簿を見せて貰った際、家族や知り合い以外に目を引いた名前があった
それが海馬瀬人と保登心愛の二人だ。
名前が二つ載っているのは、誤植か同姓同名だと考えた。
しかし、二人分同姓同名は無理があるし、主催が記入ミスするとは思えなかった。

「本当だ!」

キリトは再度、名簿を開き、海馬瀬人と保登心愛の名が二つあるのを確認した。
あの時は仲間が誰一人いないのに安心しきっていたのとPoHが来ていたのを驚愕して、それ所ではなかった。
逆に空はあの様子だと最初から認識していたようだ。

195◆2fTKbH9/12:2024/10/02(水) 21:08:54 ID:???0
「まさかと思うが、同じ人物がもう一人いると言うことか」
「その通りだ。この謎の答えはそれぞれ別の並行世界の住人だ」
「なるほどな。これなら、矛盾が生まれないのも納得」

リリスは空の問いにこの疑問は腑に落ちた。
黎斗なら同じ人物を別の世界から連れてきても可笑しくない。
難しいようで簡単な答えだ。

「同じ名前が二人も二つある時点であからさますぎる」

空は最初に名簿を確認した際、特に目を引いたのは同じ名前が二つもあるのを発見した。
誤植と引っ掛からずに最初からそれぞれ別の並行世界の住人だと結論が出た。
二つ載っているのが一人だけだったら同姓同名の線も捨てられなかった。

「この二組の動向は本人達に会えばはっきりするしな」
「それはそれで、ややこしくなりそう」

海馬瀬人と保登心愛に関して情報不足で今は頭の片隅に置いておく。
理想は両方共、殺し合いに否定的なことだ。
片方が善人でも、もう一方が殺し合いに乗る様な悪人だったら、最悪な事態になる。
もし、片方が肯定的な場合も想定しておく。
そうならないよう祈りつつ、歩みを続ける。





それから少し歩いた先に死体を発見した。
容姿はバンダナを巻いた少年だ。

「ごめん。間に合わなくて」
「酷えな」

キリトはバンダナの少年を既に手遅れになったのを謝罪する。
あの狐島からスタートしていなかったら、助けられたのではと思う程。
空は初めて遺体を見て、嫌悪感を抱いた。
ディス・ボードは単純にゲームで決まる世界に成り立っている。
それは現在の話。ディス・ボードの6000年前は他種族同士で過激な争い殺し合っていたらしい。
空はそれと今の状況を連想し、痛感した。

「下手人は素人ではないのは確かだ」
「空は遺体を見るのは初めてじゃないの?」
「初めてだ。ちゃんと観察すれば予測はできなくはない」

空は某アウトローの探偵と違って、検死は当然、ドが付く素人だ。
高い洞察力と観察眼だけである程度は見抜くのは不可能ではない。
本来ならこういう事は白の領分。

「この血の固まりじゃ、推定時間は檀黎斗の放送前か直ぐ後」
「確かにこの時間帯だと辻褄が合う」
「死因は斬殺。凶器は刀剣だろうが、断定できねぇ」

空の解答に全員が納得する。
普通なら刃物類と言いたいが、この場所も魔法、魔術、別の異能による斬殺も有り得るので、勝手に決めつけは良くない。
バンダナの少年には悪いが、自分達に取っては避けては通れない道だ。

196◆2fTKbH9/12:2024/10/02(水) 21:10:08 ID:???0
「キリト悪いが、首輪を回収する。辛い役目を任せてしまうが」
「それくらい俺も割り切っている」

空の判断は的確だ。
首輪を解除するには、いくつか首輪を集めるのは必須。
キリトはバンダナの少年との関わりが皆無で、まだ耐えられる。
カゲミツG4で首を落とそうとする・・・・・・


その時だった。

「何か来た!」

突然、飛行する小型の奇妙な生き物が現れたのは。





俺、キバットバット三世はこれまでの経緯を話そう。
心の中で話して、直接、口で話さないかって?
話したくても、デイパックから出た時には、言葉を奪われてしまった。
こんな事を仕出かした奴はハ・デスの仕業だ。あの野郎覚えてやがれ。
幸い、長年の相棒、渡が理解してくれて助かったぜ。

その渡はこの世にはいない。
あの檀黎斗と言う真の黒幕の存在のせいで歯車は狂い始めやがった。

突如、渡の首輪が鳴り響き始め、俺は狼狽えていた。
首輪が爆発せずに、渡は助かるんじゃねぇかと希望を抱くが、違和感もあったな。
悪い予感が的中しちまって、檀黎斗が用意した奴と戦えだって。ふざけんな。
挙句に恐喝までされて、後に引きけなくなっちまった。

現れたそいつは侍の風貌だが、圧倒的強者のオーラが強すぎて、今直ぐにでも撤退したかった。
渡が助かる為に戦いの一択しかない。
案の定、侍野郎が強すぎて、渡達は手も足も出ねぇ。
ビショップの策略で復活した先代キングが数十倍も可愛いもんだぜ。

常に渡を集中攻撃続けやがったせいでいつ死んでもおかしくなくなっちまった。
だが、奇跡が起きた。何故かタツロットがいなくてもエンペラーフォームに変身しやがった。
俺はおったまげるが、渡は士と言う兄ちゃんとレイと言う金髪の姉ちゃんを直ぐに逃がし、戦いはしたが、最後は力の差を見せられて、渡は殺された。

これは渡が逝ってしまった事の経緯。
俺はどうやって生存出来たかというと、渡が亡くなった直後に素早く、死んだ振り作戦を決行した。
作戦が功を奏し、侍野郎は俺に気付く事なく、去っちまった。或いは知ってて眼中にないかもしれねぇが。

起き上がり、これからどうしよう。
普通なら、渡の遺志を継いだあの二人を追って、合流するべきなんだが、何処に行ったか検討つかん。
闇雲に探し回っても、時間が浪費するだけだ。
この近辺に侍野郎がうろついている場合も考慮し、接触を避けて、海を渡るルートに決めた。
士とレイの合流が遠のくが、一旦、諦める他ない。
渡の仇を討ちたい気持ちはある。今の俺じゃ、侍野郎に勝てない。
一番許せねぇのは檀黎斗だ。そもそも、運試しなんて馬鹿げたルールがなかったら、渡は死なずに済んだんだ。
殺し合いに乗っていない仲間を捜し、島から脱出する為に力を合わせる。
仇討ちを優先する程、本来の目的を見失わない。

197◆2fTKbH9/12:2024/10/02(水) 21:11:03 ID:???0
結局、渡に別れの言葉を言う時間はおろか長年の感謝すら喋るのもままならなかった。
せめて生き残って、太牙や名護達に渡の死と生き様を伝えてやる。
彼らが来ていないのはさっき調べが付いた。
デイパックの中身も確認した。口を使って中を開く動作は結構、苦労したぜ。
侍野郎がデイパックを回収しなくてよかった。
普通なら放置せず、持っていきたいが、俺では持てそうにない。
殺し合いに乗る奴に渡らねぇよう、祈るか。

さて、そうと決まれば、仲間捜しの旅に出発進行。
飛んでから誰も会えない。さっきの出来事が嘘のように静寂すぎる。
すると陸地と海面の境界に来た。
暫くは陸地とはお別れか。
次の陸地に向かい、海面の上に飛ぶ。

夜の海は不気味で色も黒く感じさせられちまった。
道は何事もなく真っ直ぐ進み続けた。
かなり小さい島も存在するが、俺は素通りした、途端に遥か上空にギリギリで遠目に赤い何かが飛んでいっちまった。
あれには関わるなと本能が告げていて、追いかけずに無視を貫いた。
飛べる利点を活かしたお陰で時間を短縮出来ていた。
そう思っていたら、陸地が見えた。

全速力で飛行し、北東の陸地に到着した俺はこの辺を捜し始めた。
一個心配な点がある。
友好的だと信じて貰えるか。
言語能力を封じられた俺を初対面で理解する奴がいるかだなぁ。
あの時は渡と士がフォローを入れたから、レイは分かってくれた。
今度も簡単にいけると思ってない。
誰かと会えたら、どうやって納得するかな。
言葉がないと不便だろ。

その途中に死体が転がっていた。
それを見た瞬間に嫌悪感を抱いた。
下半身を脱がされた挙句、男の大事な所が切り取られていた。
殺った奴は相当狂ってやがる。
急いでその場を離れた。

少し、進んだ先に離れた距離に黒服の男と黄色のシャツの男の姿が見えた。
人と会えた矢先、段々と近づくとバンダナの男が死んでいるのも見えた。
この状況は一体?
黒服の男が死体の首に剣を向けたのもあって、二人は殺し合いに乗っているかもしれねぇし、偶然居合わせた場合も有り得るので、見極めようじゃねーか。
俺は二人に面を向かうことになった。本当は話したい、喋れねーけど。





「あれがお主らの言っていたここのモンスターか?」
「そうだけど。モンスターにしては小さすぎる」

突然、現れた蝙蝠のモンスターにキリトとリリスは警戒する。
同時にこんなに小さい存在まで用意していたのを困惑もした。

198◆2fTKbH9/12:2024/10/02(水) 21:12:01 ID:???0
(勢いよく飛び出したが、どうすればいいんだ?)

キバットは面と向かったのはいいが、自分は対話が不可。
故に黒の剣士と黄色のシャツの男のスタンスの確認が取れずにいる。
ついでに間抜けな銅像みたいなの喋っているけど、首輪を付けてない所を見るに自分と同じ穴の貉か。
そいつを連れている様子で否定派ではと思いつつ、黒の剣士のあの動作を見たのもあって、半信半疑で警戒している。

(何で、襲って来ないんだ?)

キリトは違和感を抱いていた。
蝙蝠は直ぐに襲い掛かって来ることなく、様子を見ていた。
勿論、こちらの油断を誘っているかもだが、こういう手口は空が簡単に対処する。
キリトは片手に持っているリリスをついチラッと見た。
彼女を見て、その瞬間、パズルのピースが大体埋まった。
そして、それを解決する人物が前に出た。

「待て、ここは任せろ。誤解を解く必要がある」
「そうだな」
「どういうことだ?」

キリトは直前まで大体理解しているが、逆にリリスは置いてけぼりだ。
空は答え合わせをする、その前に。

「先に名を言っておく。俺は空、こっちがキリトで、この銅像がリリスだ」

黄色のシャツの男が全員の名前を紹介した。
キバットは急な展開に呆然していた。

「まず、あんたは自我を明確に持っている。そうだろ」
(この兄ちゃん、気づいてたのかよ)

黄色のシャツの男は如何やら頭が切れるらしい。
頭脳労働が主な役目の人は彼に限らず、これくらい直ぐに見抜けるだろう。

「蝙蝠はただのモンスターでもない。リリスと同じで道具扱いで殺し合いに巻き込まれた」
「やはりな」
「あの蝙蝠、余と一緒なのか!」

キリトはごせん像がヒントを与える形となり、後から予想し、的中した。
リリスの例もあって、彼だってデイパックに出て来た可能性は低くない。
空は最初から正解に辿りついていたが。
逆にリリスは驚愕で、ここで誤解の件を含めて、完全に理解した。

「そもそも、ここのモンスターは檀黎斗に掌握されている。余程の事がない限りは襲って来る」

基本的にモンスターは黎斗の管理下で置かれ、好き勝手暴れている。
キリトもSAOの経験から後から蝙蝠も被害者側なのに気づいた。
仮にモンスターやNPCがいても流石に此処まで小さい存在はいないだろう。

「前置きはここまでとして、本題に入るぞ。俺らはバンダナ男の下手人だと警戒されている」
「それは誤解だ。俺達が着いた時には、もう・・・。首輪の回収をするだけなんだ」
「お主はキリトの行動を誤解してたみたいだな」
「血だまりを見ろ。俺らはさっき来たばかりで血は既に固まっているし、犯人はこんな場所に何時までも居残るとは考えにくい」
(この兄ちゃんの言う通りだな)

199◆2fTKbH9/12:2024/10/02(水) 21:12:50 ID:???0
黄色のシャツの男の言い分は最もだ。
血の固まりを見て、かなり時間が経過したのが伺える。
二人は犠牲が出てしまったのを悔やんだのは嘘もなく、キバットは彼らを信用することにした。
首輪の回収も仕方ない面もある。
渡の様な犠牲を出さない為に首輪のサンプルは必要になる。
見誤ってしまったのをキバットは反省する。

「分かってくれたみたいだな」
「誤解も解けたし、宜しくな」
(宜しくな。兄ちゃん達)

誤解が解け、キバットは新たな仲間の存在に安堵した。
渡が死に、士とレイと逸れて喋りもままならない状態で単独行動。
勘違いで彼らを疑ってしまったけど、真意が伝わった後は自分を受け入れてくれた。

「ところであんたは悩みはないか」
「どういうことだ、空?」
(空、まさか・・・!?)

当然、言語能力が封じられて、困っている。
空はこの短時間で悟っているのか?
キバット自身はキリト達のことまだ何も知らない。

「あんたは喋りたくても言葉を封印されている。そうだろ」
(観察だけで、分かんのかよ!?)

キバットは下を向き、頷くような動作をする。
出会って間もないにも関わらず、見事に言い当てた。
いや、最初から一目で察していたかもしれない。

「そこまで察するとは凄いな」
「あの蝙蝠にした仕打ちはあやつしかおらん」
「檀黎斗の仕業だ」

キバットの尊厳まで奪う行為に三人は不快を露わにした。
リリスは下手したら、キバット同様、こうなってしまう可能性もあった。
そう考えると身震いした。

「にしても、蝙蝠と呼ぶのはどうかと思う」
「せめて名前を知る方法があればな」

いい加減、蝙蝠呼びは失礼だと思い始めた。
蝙蝠の名前さえ、知るすべがない。
本人の文字書きは不可能だろう。

「あやつの仲間に出会えればな」
「仕方ねえ。その仲間と合流するまで適当に付けるか」
(それは困るけど・・・)

キバット本人は多少、抵抗があるが、この場合は割り切る他ない。
自分も渡も知らなかったとはいえ、嘗て記憶喪失のルークに大ちゃんと名付けたことがあった。
相違は記憶を失ったか否かで、それのほぼ焼き直しだろう。

200◆2fTKbH9/12:2024/10/02(水) 21:13:58 ID:???0
「名を付けるのは俺でいいか?」
「いいぜ、キリト」
「暫くはあんたの名前はキバット」
(おいおい、これは偶然か!)
「嬉しそうな反応は、如何やら本当の名前だな」

適当な名を付けられる覚悟を決めたはずだった。
キリトは当てずっぽうで偶然自分の名前を付けた。
キバットにとって嬉しい誤算だ。
空はキバットの驚愕の仕草をし、喜ぶ姿に彼自身の名だと解せた。

「話しの続きだ。キバットの仲間の情報が欲しい」

空は名簿を出し、キバットに見せた。
空から元の世界の住人関連でいるか否かを問われ、翼で紅渡のみを指した。
危険人物か否かも問われ、後者に下を向いた。
しかし、渡はもういない事実を伝える事が出来ずにいた。

キリトはキバットの同行者の不在が気になっていた。
デイパックに入っていたなら、その人物と同行するはずだ。
誰かと一緒に行動していたら、こんな苦労をしなくて済んだ。
嫌な予感しかなく、直ぐに予想が当たることになる。

「キバット。紅渡は殺されたと見ていいんだな?」
(空、凄すぎだろ!?)

空はキバットが暗い顔をした時点で紅渡はどうなったのか理解した。
ついでにキバットを支給された持ち主は紅渡で確定だ。
キバットは頷く形で下を向いた。

「キバット......」

キリトもキバットが単独行動をした様子から悪い予感はした。
渡の話になる途端、明るさの鳴りを潜めることから渡とは深い絆で結ばれているのが伝わる。
リリスは掛ける言葉が見付からなかった。

「悪い。辛い事思い出してしまって」
(いや、いいさ。)

空は謝罪するが、キバットの目は死んでいない。
南東の地で誓ったばかりだ。渡の覚悟と願いを無駄にしないと。
それに空達に渡を殺したのは侍の男だと自分なりに絶対に伝える。

キバットの心が屈しないのを空は気づいた。
悲痛な気持ちはあれど彼なりに先へ進もうとしている。
心配する必要はないみたいだ。
次の質問に移行しても良さそうだ。

「渡を殺害した下手人は誰だ?名前を知らないなら、しょうがないが」
(畜生.....)

再び名簿をキバットに見せたものの下手人の名前を知るすべがない。
実を言うと黎斗の放送を聞いていれば分かる話だが、渡の件でそれ所でなかった故に仕方ない面もある。
そのことを知らないキバットは肩を落とした。

201◆2fTKbH9/12:2024/10/02(水) 21:15:04 ID:???0
「あの感じは、無理そうだが、まだ方法はあるだろ」
「全危険人物の外見を話す」
「そっか。これなら、手掛かりを得られるかもしれないな」

空は次の案を出した。
自分達が特徴を掴めればキバットも分かり易い。
臆測であるが、仕方ない。

キリト達はパンツ一丁のおっさん(肉おじゃ)、PoH、金髪の男(ポセイドン)の特徴を共有したが、キバットはどれも否に下を向いた。
全て検討外れで残るは継国縁壱のみ。

「最後は皆、知っていると思うが、継国縁壱。おさらいだ。特徴は顔に痣があり、侍の恰好をした男だ」
(そいつだ。渡を殺したのは!)

キバットは渡の仇はそいつだと必死にアピールした。
願ったり叶ったりだ。侍男の名も知る事になるとは思わなかった。
何故、三人は侍の名前を認識しているのか?
『皆、知っている』とは心当たりがなく、意味不明だ。

「この反応、渡を殺害した犯人はあの侍で間違いない」
「空の忠告が本当なら・・・」

空の推測で金髪の男と同等の強さを持つかもしれない男。
事実ならキバットはどうやってやり過ごしたのか不明。

「何で俺らが侍の名前が分かるか。キバット」
(分からん)
「放送で主催が用意したジョーカー枠としてモニターに紹介されたんだ」
(何だと!?)

運試しのせいで渡がターゲットにされ、キバットも士もレイも放送に耳を傾ける状況ではなかった。
故にその後の内容が不明のままだ。
まさか、侍の男こと継国縁壱の公開があったとは。
後で空達に他に自分が知らない情報を教えて貰いたい。

「まさか、途中で継国縁壱に襲われたと言うのか」
「それしかないだろうな」

キリトとリリスは後になってキバットが放送の内容を半分聞き逃した事実と真実を察した。
危険人物に襲撃されてしまったのなら、止むを得ない。

「継国縁壱は金髪の男と対等な強さで間違いないな」

キバットは下を向いた。
あの男の強さはキバット自身も嫌という程、体にも覚えている。
空とキリト、それにリリスに共有出来て良かった。

(多分も恐らくもなくなった)

空の推測が的確に当たった。
キバットの証言で縁壱は金髪の男と同等或いは下手すればその男より、格上かもしれない。
キリトは改めて、気を引き締めた。
空黒から金髪の男の実力を又聞きで得たリリスも三人が深刻な表情を察し、警戒度を上げた。

202◆2fTKbH9/12:2024/10/02(水) 21:16:42 ID:???0
「そして、あんたは相棒の仇を取りたいが、渡の遺志を背負って皆の力になる。後者の目的忘れてねえな」
(分かってんじゃねえか)

空は此処までのやり取りでキバットの心理を見抜いた。
渡の仇討ちは空黒も否定しない。
もしも、アスナや白が参加させられ、誰かの手に掛かったら、キバットのことを言える立場ではなくなる。
復讐を優先せずに自分を見失っていないのに安心した。
キバットはもう空に見通されるのにもう驚かなくなり、慣れつつある。

「紅渡と一緒に同行していた者はいるか?」

これで三度名簿を見せ、キバットは渡と同様、門矢士と閃刀姫-レイの名前を翼で指した。
士とレイと言う人物も縁壱と戦い、空の『今も生存か?』の問いにキバットは下を向いた。
つまり二人は渡のお陰で生きているということだ。

「誤解も解けて、情報も共有出来たし、万々歳だな」
「空はキバットが言葉を話せるのも含めて全部気付いたのか」
「人語も最初からな」

キリトはリリスの存在が半分感づいていた。
キバットは明確な意思を持ち、NPCやモンスターではないデイパックに放り込まれたリリスと同じ被害者。
自分の動作のせいで誤解を生んだ事も悟った。
流石に言語能力が備わっていたのは察せなかったが。

「最初に会った時から口ごもる素振りが見えた」

空は口をもごもごした僅かな挙動から見落とさずに言語に窮する事情を知るに至った。
本当は無理をしてでも喋りたかったのだろう。
元々は人語を話せる生き物と明確にした。
言葉を檀黎斗に封じられたと悟るのにも時間がかからなかった。
これでは、対話したくても大抵の人は難しい。
しかし、空はコールドリーディングで用いる事でキバットを理解した。
発声出来なくても、表情、仕草、動作、癖などで見分ければ苦はない。

「俺らを襲わないのも、様子見を徹底し、リリスがいて迷ってただろう」
「俺もリリスが決め手だったんだ」

キバットはリリスが喋る瞬間を目撃した際、若干、迷いを見せた。
キバットに警戒される中で直ぐに襲撃しないのもあるが、一番はリリスの存在だ。
自分が否定派なら、若しかするとリリスも同じ方針と考えたのだろう。
彼女の存在が結果的に後からキリトがキバットをNPCモンスターと誤認する事はなく、早急に気づけた。

実は空は一秒だけNPCと思ってしまい、警戒もした。
だが、上記の通り、リリスの存在と彼自身小さすぎるし、彼の違和感を抱く行動でNPCやモンスターとは違う感じがして、一足先にキバットの真実に辿り着いた。

「余が決め手?」
「リリスがいなかったら、更にややこしくなってた。」
「複雑な気はするな!」

リリスは推理の時間では何もしてない。
キバットの真理に近づけたのは空だ。
でも、自分が立ち会う事で間接的に誤解を解く切っ掛けの一つになった。
小さな切っ掛けでもリリスは何とも言えない気持ちだ。

203◆2fTKbH9/12:2024/10/02(水) 21:17:58 ID:???0
「継国縁壱を周知していないのも、分かった」

縁壱の名を上げた際、キバットは首をひねた様子が見えた。
縁壱の情報は全参加者に報知を受け取ったはずだが、空はそういうことだと気づいた。
『おさらい』は脅威の再確認を兼ねて一番はキバットに共有する為。
まさか、縁壱こそが渡の仇と知れた事実はただの偶然だが。

キバットはその後、空達から黎斗の放送で聞き逃したであろう後半の内容を伝えられた。
知らないのは、継国縁壱の公開と檀黎斗によって美遊という少女が人質にされたくらい。
後者は空から美遊の関係者が殺し合いに乗っているかもしれない懸念すべき事態も想定しておく事も忠告済み。
彼らはキバットと出会うまでの経緯も共有した。
何と彼らは会場の外を調査済みらしく、初期位置がD-7とD-8の島に配置が大きく、用意されたモーターボートで行けたそうだ。
調査報告で首輪を付けている限り、脱出は不可らしい。
キバットは仲間捜しを優先し、外へ行く考えがなかった。
首輪がない自分が代わりに行こうと必死にアピールするも空黒の二人から『絶対に許可しない』と同時に言われ、冷静に考えたら首輪の有無関係なく、あの世行きだと思いとどまった。

(空はできるぞ)

空は士同様、殺し合いを潰せる重要な人物だ。
実際、自分は人語を奪われたにも関わらず思考や感情をほぼ当てていた。
自分は運が良かっただけで彼と出会っていなかったら、一歩間違えて、詰みに近かった。
心理に関わる分野には強いらしく、恐らく、空よりそれを上回る参加者はほとんどいないと見立てておこう。
白という妹の不在で制約があると聞かされたが、キバットとしては頭脳面も優秀なブレインで底が知れないと思った。

キバットは疑問に残る点がある。
縁壱との戦闘でタツロットがあの場にいないのにエンペラーフォームに変身出来た事態だ。
正直、奇跡で強化変身が起きたと思っていない。
勘だが、檀黎斗が謎の仕掛けが用意されていると考える他ない。
本来なら、この出来事を空黒とリリスに知らせるべきだが、今の自分の現状では叶わない。

(渡の件。きな臭いな)

空は渡の殺害に関して、引っ掛かりがある。
渡達は放送を聞く最中に襲撃に会ったらしい。
襲撃者がただの考えなしの脳筋なら未だしも、その人物は縁壱なのが問題だ。
キバットが放送の後半を知らないヒントで、運試しの真っ只中だと推測した。
縁壱が関わっている事で故意に攻撃を仕掛けたと間違いない。
一連の出来事が偶々で片付けていない。
絶妙すぎるタイミングも不自然に感じていた。
すると最悪の解答に辿り着いてしまった。

(まさか、渡を利用して、何か実験をしやがったのか)

運試しゲームはあくまで表向きの余興。
どさくさに紛れて、縁壱が選ばれてしまった渡を殺す為の練習台にしたとしか言いようがない。
一方的な暴力で捻じ伏せるだけでいい。
だが、それだけとは、考え難い。

もしかしたら、裏の目的は渡と縁壱に何らかのテストを行ったのだろう。
テストも言うまでもなく、不明。
渡がそれの為だけに強制的に選定された可能性も念頭に置こう。
あの場にいたキバットが言葉を喋れば重要な手掛かりがなり得た。
彼がまだ伝えたい情報があるのは見抜いていたが、此ればかりは止む無し。
当初からリリスは普通に話せて、キバットは言葉を奪われたか不可解だった。
まるでキバットが秘密を喋らせないように見えず、裏の目的があると踏んでいた最大の要因。
渡の件を考察する内に分かる事がある。
そのテストは士とレイは理解不可能で、キバットは理解している或いは感知しても可笑しくないという事か。
黎斗は選ばれるのを考慮し、言語を封印したと見るべきだ。
テストは仄めかしても構わないが、最序盤で公表したら不都合があるのか?
詳しくは士とレイと接触して、キバットが伝えるはずだった事柄を聞き出すしかない。
心当たりがなくとも断片的なヒントが繋がる事もある。

渡の件に関しては長くなるので、エルキア大図書館に戻り次第、キリト達と共有する。
話しても足掛かりは依然としてつかめないだろうが、何時か意味があると信じたい。
戻ったら考える事とやる事が多くなりそうだ。

204◆2fTKbH9/12:2024/10/02(水) 21:18:59 ID:???0
(レイって女はお察しくださいってか)

それにキバットの仲間の情報から出て来た閃光姫―レイ。
入念に確認したデュエルのタブレットのカード画面を開いたら、閃光姫のカードデッキが載っている。
名簿にレイとロゼの名に閃光姫という異名が特徴的で目を通した。
そこに見知らぬ二人がカード化して一驚した。
驚きはしたが、空は困惑せずに解答を出していた。
彼女達が実在した世界と彼女達がカードゲーム化して沢山の人々に遊んで貰える世界が存在しても過言ではない。
レイは殺し合いに否定的らしいが、ロゼと言う女もそうとは限らないかもしれないので、接触してから見極める。

二人の海馬瀬人と保登心愛といい、閃光姫の二人が存在するなど黎斗は混乱を招く悪趣味な参加者の選考に見えてしまう。
単純に面白がるだけか、其れとも別の思惑を働かせたかは不明だ。

(全然、人手が足りねえ。少ししか進展がない)

キリトを除けば、放送後に遭遇出来たのはリリスとキバットと言ったマスコット的キャラだけ。
情報面にほんの少しだけ遅れを取っているように見えないのは非参加者のリリスらの存在がデカい。
キバットは喋れないのに、自分達がフォローしつつ縁壱の脅威を伝えてくれた。
実際は黎斗の放送以降、此処まで参加者と出会うのを未だに叶わない。
此れまでの自分達の動向は島の外の調査とエルキア大図書館を発見したのみ。
あの車との接触が間に合わなかったのは痛手だったが、その代わりに一人行動中のキバットと出会えたので、悪い事ばかりでない。
車に乗車していた人物は不明なので兎も角、士とレイはキバットの情報源から信じられる。

「それより、そろそろ首輪を回収する」
「話しを脇道にそれたが、中断したままだった」
(すまねえ)

バンダナの男から首輪を回収しようとキバットが現れて制止される形になった。
キバットは言葉のやり取りができずとも下を向く動作で謝罪した。

キリトは首を斬り落とし、首輪を回収した。
首輪は空が管理する事になり、空に預けた。
これは首輪解除に明るい人物に渡そう。

(空達にあの遺体を見せたくねえが、首輪を手に入れる為だ)

また尊厳を奪われた死体を見るのも、空達に見せるのも抵抗がある。
特にリリスは女性だ。空黒と比べて尊大な嫌悪感を露わにするだろう。
何もかも覚悟を決めて、三人にその場所に連れて行くしかない。
あの死体はそう遠くない距離だ。
キバットは空中を舞い、翼で方角を指した。

205◆2fTKbH9/12:2024/10/02(水) 21:20:22 ID:???0
「キバットどうした?」
「翼を指した方向になんかあるみたいだ」
(そうだ)
「付いて来いの合図だ」

キバットは忌まわしい死体に案内する。
三人はキバットに導くように一緒に付いていく。

空達は到着した途端に衝撃的な光景を目の当たりにする。
細身の男の遺体を見た瞬間、空黒はしかめっ面を晒した。
リリスに至っては案の定、尊大な嫌悪感を支配し、吐き気は皆無だが、気分は良くない。
何故なら、異性で細身の男性の大事な部分が斬り取られ、グロテスクすぎる。
地面に白濁液まで染み込んでいて、気持ち悪かった。

「リリス大丈夫か?」
「少し、仰向けになれば直ぐに良くなる」

キリトは素早くリリスを介抱する。
ごせん像を仰向けにした。
5000年も生きていれば死体も見慣れたつもりのはずが、流石に尊厳を踏みにじられた惨憺たる状態は初めてだ。
上空を眺めて大分、落ち着いていた。

「バンダナの男を殺害した奴とは同一犯じゃねえのは確かだ。このやり口を見ればな」
「妥当だな」

バンダナの男の殺され方は二度も斬られた故に損傷が酷いが、仕留めれば良い感じで原型を留めている。
逆に細身の男の方は惨い有り様で凌辱と拷問を行ったのだと断定する。
別の下手人がした行いは相手の苦痛と悲鳴を味合わせる後味が悪い行為だ。
更に男性器をコレクションに入れているかもしれないので、非常に質が悪い。

「一つ分かるのは、その下手人は名も知らない気狂いの変態だ。碌でもないのが、見て取れる」
「そんな奴がまだいるのか!!」
「こんな事を仕出かしたのが人なら許せねえな。人類ナメすぎ!!」

下手人は人間の場合、精神が狂っていて、話し合う余地すらない人の皮を被った化け物だ。
まだバンダナの男を殺した下手人の方がマシに見える。
もし、女性にも凌辱的な行為をし、犠牲になったと聞いたら激昂しただろう。
二人は気狂いの変態のこの手口に憤り、見つけ次第、当然ながらお仕置きだけで絶対に済ませたりしない。
性的な尊厳を破壊する行いは人として恥ずかしい。

「気狂いの変態にも警戒対象だ。分かったな、リリス、キバット」
「当たり前だ」
(了解)

キバットは下を向く頷きをし、リリスも承諾する。
リリスはその体勢で気分が良くなり、元気になった。
今回でこれの耐久性は身に付き、もう二度と醜態は晒さない。
徹底的に惨たらしく、人を犯した様は醜悪を表現されているように見えた。
長い時間を生きて、此処までの酷さは初めてかもしれない。

「キバット。あんたがこの場に連れて来た理由は首輪の回収だろ」
「そうだったんだ」
(悪い。役に立つつもりが不快にさせちまった)
「あんたの判断は正しい。それと頑張ったな」

206◆2fTKbH9/12:2024/10/02(水) 21:21:24 ID:???0
キバットが首輪の回収の為に遺体の元に案内する意図を空は理解した。
何故か躊躇する様子を空は気になっていたが、いざあの場に来ると惨憺な遺体を拝見させたくない気持ちは分かる。
リリスは刺激が大きすぎたし。
キバットは責任を感じている様だが、寧ろ合理的で彼の判断は間違っていないのを三人は解せる。
空は今までの働きを労った。
特定不明な気狂いの変態の存在も認知した。

その後、キリトはまた首輪を回収し、空に渡した。
仰向けになったリリスも回収する。

「それと遺体を何度も見て、結論が出てしまった。犠牲者のペースが早すぎる。三割軽く上回るかもな」
「三割以上!?そんな.......」

空はキバットから渡の死を伝えられ、犠牲となった遺体が二人も発見し、配信で殺された者達も含めて、重く受け止めている。
嫌と言う程、これらの判断材料が揃ってしまい、この調子で行くと次の放送まで死者は三十人以上超え、最悪の場合、四割になるだろう。
事態はより深刻と悟るのに時間を要さなかった。

キリト達は空の出す残酷な事実に眉を顰めた。
犠牲が0で終わる事はないと分かり切っており、甘い考えを持っていない。
しかし、現実は想像を遥かに超えている。
今も知らない場所で犠牲が増えてしまうだろう。

今の話題を通して、キリトと空はアイコンタクトを交わした。
お互い考えている事はなるべく空黒の目に届く範囲内では犠牲を防ぐ。
できるか難しいが、やれるだけのことはやると決心する。
友好的な人物と接触しないと話にならないが。

「気を取り直して、この付近の人捜しの続きだ」

空黒が何か考えを決めた事をリリスとキバットは感じていた。
まだいるかもしれない参加者の捜索とついでに周辺の探索を再会し、北東の端っこに向かう。

207◆2fTKbH9/12:2024/10/02(水) 21:23:01 ID:???0
【C-7 東/一日目/早朝】

【キリト@ソードアート・オンライン(アニメ版) 】
[状態]:疲労(小)
[装備]:カゲミツG4@ソードアート・オンライン、ごせん像@まちカドまぞく
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1(確認済み)
[思考・状況]基本方針:ハ・デスと檀黎斗を倒す
1:空と共闘する
2:北東で参加者を捜す。
3:2の後、エルキア大図書館に寄り、調べる。その次にD-6の島を調査する
4:リリスのよりしろ探しを手伝う
5:変なおっさん(肉おじゃ)、PoH、謎の気狂いの変態、念のため美遊の関係者を警戒
6:金髪の男(ポセイドン)、継国縁壱を最大限に警戒
[備考]
※参戦時期はソードアート・オンライン
アリシゼーション War of Underworld終了後
※遊戯王OCGのルールをだいたい把握しました
※アバターはSAO時代の黒の剣士。
GGOアバターに変身することも出来ます。GGOアバターでは《着弾予測円(バレット・サークル) 》及び《弾道予測線(バレット・ライン) 》が視認可能。
その他のアバターに変身するためには、そのアバターに縁の深い武器が必要です。SAOのアバターのみキリトを象徴するものであるためエリュシデータやダークリバルサー無しでも使用出来ます。SAOアバター時以外は二刀流スキルを発揮出来ません。これらのことはキリトに説明書に記されており、本人も把握済みです。
※主催陣営はSAO事件を参考にしたと推測しています。
※空と空黒というコンビ名を結成しました。

【空@ノーゲーム・ノーライフ(アニメ版) 】
[状態]:健康
[装備]:デュエルディスクとデッキ(蟲惑魔)@遊戯王OCG、キバットバット三世@仮面ライダーキバ
[道具]:基本支給品、高級木材のモーターボート@現実、首輪×2(御伽、遠野)
[思考・状況]基本:ハ・デスと檀黎斗を倒す。あまり人類ナメるんじゃねぇ
1:キリトと共闘する
2:北東で参加者を捜す
3:2の後、エルキア大図書館に寄り、調べる。二手に別れるかは人数と戦力状況による。その次にD-6の島を調査する
4:主催者と関係ある人物と接触する
5:リリスのよりしろ探しを手伝う。それに大きくする道具はあるか?
6:渡の殺害の件がきな臭い。士とレイに接触し、当時の状況の詳細を聞き出す
7:変なおっさん(肉おじゃ)、PoH、謎の気狂いの変態、念のため美遊の関係者を警戒
8:金髪の男(ポセイドン)、継国縁壱を最大限に警戒
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後
※遊戯王OCGのルール及び蟲惑魔デッキの回し方を把握しました
※主催陣営はSAO事件を参考にしたと推測しています。
※キリトと空黒というコンビ名を結成しました。

【リリス@まちカドまぞく】
[状態]:正常
[思考・状況]基本:全員で生きて脱出
1:空とキリトと行動を共にする
2:吉田一家を優先に捜す
3:小倉を見つけたら、等身大のよりしろを作って貰いたい
4:桃とミカンの合流は後回し。合流したら挨拶はする
5:よりしろを見つけ出す
[備考]
※参戦時期は4巻(アニメ2期)終了後
※他者との肉体を入れ替える能力と他人の夢に入る能力は制限対象で黎斗によって不可にされています。
※黎斗によってよりしろで活動出来る時間は10分に制限されていて、二時間経過しないと活動出来ません。等身大よりしろも同様です。
※よりしろ状態でも並行世界――きららファンタジアで手にした力を引き出すことは可能とします。ただし、少なくともキリトの支給品にきらファンでのリリスの専用武器はありません。


※御伽龍児と遠野の両名の死体はC-7に放置されています。
※キバットバット三世の参戦時期は最終回後です。

208◆2fTKbH9/12:2024/10/02(水) 21:25:00 ID:???0
投下終了します。
タイトルはゲーマーコンビは不思議な生物と出会うようです

209名無しさん:2024/10/03(木) 07:55:48 ID:lLojb/YY0
4Bl62HIpdE様、大変申し訳ないのですが、一つ質問があります。

貴方の執筆した『懺恨のJudgment』についてです。

というのも、鬼舞辻無惨は『鬼械戦線』を見る限り、時を止める男、DIOを追跡する為に東の方へ向かっていたはずです。

ですが何故かこの話では全く違う方向である北西の大我達がいるF-2方面へ向かっています、これは筋が通らないのではないでしょうか?北西の方へ向かいたいと無惨が考えた理由と筋書きを文章に付け加えなければいけないと思います。

この小説を管理しているQUsdteUiKY様はどのようにお考えでしょうか?

では失礼致します。

210名無しさん:2024/10/03(木) 15:21:23 ID:GCCeQGdE0
>>209
◆4Bl62HIpdE氏とは別人ですが、自分の方から幾つか意見を

決闘ロワの無惨はDIOの追跡を最優先に動いてはいますが、DIOがどの道を通りどこのエリアに向かったかを正確に把握している描写はどの登場回にもありません
『鬼械戦線』で最初東の方へ向かっていたのもDIOが東に行ったと確信を抱いたからではなく、近い場所から虱潰しに捜索を行った為と解釈できます
明確に「DIOが東側に向かった」と無惨が把握している描写がない以上、北西エリアに行き先を変えたとしても偶々近かったからと考えれば大きな違和感は感じません
繰り返しますが、無惨はDIOの正確な現在位置やどの方角へ向かったかを把握している描写が存在しませんので

疑問を感じそれを尋ねることを悪いとは言いません
しかし投下から間もない頃ならともかく、『懺恨のJudgment』が投下され既に2週間以上が経過しwikiにも収録されています
その間他書き手や読み手の方が指摘を行わなかったことからも、件の話は問題無しと判断されたと少なくとも私は考えています
あくまで私が個人的に感じたことですので無視しても結構ですが、>>209氏の筋が通らないという指摘は少々的外れなのではないかと思い意見を書かせて頂きました

211◆2fTKbH9/12:2024/10/03(木) 18:47:35 ID:???0
ゲーマーコンビは不思議な生物と出会うようですの補足です。
地図の北東からD-6の島にいける橋があります。
黒線で見にくいが、しっかりと地図に橋があります。
存じてない方もおられかねないのに気付き、後続のリレーに矛盾が生じてしまいます。
補足で以下の内容を修正します。

【修正前】

「キリト、リリス今から今後の予定について伝える」

空は今後の予定を手短に話した。
ある程度、人数が集まったら分かれて行動することやエルキア大図書館を調べ終わった後は、空黒はD-6の狐島に向かう予定であることと残りは情報の遅れを防ぐ為に北か西辺りで参加者の捜索をして貰うのも全て伝えた。

「あくまで仮定で増えすぎたらの話しだ。リリスはその時まで考えればいい」
「空とキリトについていく。さっきの借りを返さないままは主義に反する」
「そうか。てか、空、何故また狐島?」
「調査の一環だ。それにゲーマーとしての勘だが、あそこに行けば手掛かりが分かるかもしれねぇしな」

空としてはD-6の島の調査も進めたいと思っている。
あの島はゲーマーにとって重要な何かがある気がする。
これから自分達に進むべき道を示したように感じた。

【修正後】

「キリト、リリス今から今後の予定について伝える」

空は今後の予定を手短に話した。
ある程度、人数が集まったら分かれて行動することやエルキア大図書館を調べ終わった後は、空黒はD-6の狐島に向かう予定であることと残りは情報の遅れを防ぐ為に北か西辺りで参加者の捜索をして貰うのも全て伝えた。

「あくまで仮定で増えすぎたらの話しだ。リリスはその時まで考えればいい」
「空とキリトについていく。さっきの借りを返さないままは主義に反する」
「そうか。てか、空、何故また狐島?」
「調査の一環だ。それにゲーマーとしての勘だが、あそこに行けば手掛かりが分かるかもしれねぇしな。橋を渡って直ぐだしな」
「黒線で見えにくいが、ちゃんと北東から橋が設置されてるしな」

空としては比較的近いD-6の島の調査も進めたいと思っている。
北東から狐島に橋があるし、設置されなかった場合はモーターボートで最大四人まで乗せて狐島に行けなくはないが。
黒線のせいで見落とされがちだが、きちんと北東から狐島に行ける橋は地図に記載してある。
多くの参加者は気づいてないかもしれない。
それはともかく、あの島はゲーマーにとって重要な何かがある気がする。
これから自分達に進むべき道を示したように感じた。

212名無しさん:2024/10/03(木) 21:05:16 ID:XZWgmLsg0
>>209
そこまで気にすることですかね?
ちょっと気になったので夜に駆ける〜鬼械戦線まで読み直してみましたが、無惨が具体的にその場所を目指そうとする描写、およびDIOの移動した方向を特定している描写は無いので、次の話でそこまで遠くに行ってもいない限り、修正するほどの物かと思います
>>210 と似たようなことを申し上げますが、投下から2週間経過した今、少なくとも企画主や他書き手は気にしている様子は無かったので、態々ここに書くほどのことでも無いでしょう

213 ◆4Bl62HIpdE:2024/10/03(木) 21:26:12 ID:0aO7Gn9U0
>>209
お世話になっております。◆4Bl62HIpdEです。
この件に関してですが、>>210氏の仰られる通り鬼械戦線の「道の先に存在する全てが目障りとでも言わんばかりに、片っ端から薙ぎ払って進む。」 と、男が通り過ぎたと思しき道を駆け、の地の文から「無惨はDIOが何処に逃げたか把握しておらず、手当たり次第に捜索をしている」という解釈で書きました。
しかしこの文は捉えようによっては「方向が分かっており最優先で捕らえる為に障害物を蹴散らしている」とも捉えることが出来ます。
ここで争点となるのが「無惨はDIOの逃げた方角が分かっていて追跡していたのか」ですが、私は分かっていないと判断しました。
その上で、「懺恨のJudgement」(スペルミスです)の文章を以下修正します。




何だったんだ、あの力は。

F-3。 ….再びここへ戻って来た。
少女を文字通り、頭部から砕きその脳漿で濯いだ無惨は思い出す。
あの白髪の混じった男が使っていた能力―――「時を止める力」を。
G-3、無惨は金髪の男が通ったと思わしき痕跡を追跡していた。….標準体型の男性が通った跡を。
….だが、見当違いだと気付いたのは再びその足跡がF-2に向かっている事実を認識した時だった。

正確にはその痕はDIOでは無く、海馬の物だったのだが….

見失った。苛立ちを募らせ、ならばせめてカーン、という音がした建物内にいる愚図共を糧としようと襲った。
だが、…..僥倖、というべきか。あの力は….
……この女の抵抗に遭い、随分と引き剥がされた。北に逃げていくのは視えた。――もう直、朝が来る。

一か八か、か、――再び追わねば。

戦いはまだ、終わっていない。

214 ◆4Bl62HIpdE:2024/10/03(木) 21:30:03 ID:0aO7Gn9U0
修正は以上となります。
ご指摘があれば又ご連絡頂ければと思います。
加えて此方の落ち度に伴いお騒がせ致しました。

215名無しさん:2024/10/03(木) 21:43:15 ID:pk/8w.WA0
209のコメントをした者です。
4Bl62HIpdE様、余計な事を言ってしまい、本当にすみませんでした、冷静によく文を見て読み取ればしっかり筋は通っていたと考える事が出来ていたかもしれないと今更ですが思いました。
210氏と212氏のコメントを見て、目が覚めました。本当にすみませんでした。
そして分かりやすくなる修正文もありがとうございました。物分かりが悪いのに余計な事を言ってしまい、改めてお詫び申し上げます。

216 ◆QUsdteUiKY:2024/10/04(金) 17:07:52 ID:t8LQgsL20
>>209
◆4Bl62HIpdEさんへの質問だったのでまず自分は様子見だったのですが、解決して良かったです
個人的には>>210に同感していました

また、このようなケースを避けるために致命的な矛盾などがない限り、今後の指摘は基本的に1週間以内とさせていただきます。
ただし30レス以上の作品のみ、読むのにも時間が掛かると思うので2週間以内ならば指摘しても大丈夫です

また書き手自身が修正したくて修正する場合は、この限りではありません

とりあえず今回は『通し』とさせていただきます

217 ◆ytUSxp038U:2024/10/05(土) 00:27:05 ID:IIuqBWuM0
天城カイト、陽夏木ミカン、クレヨン、万丈龍我、飛電或人、DIOを予約します

218◆2fTKbH9/12:2024/10/05(土) 13:04:49 ID:???0
二人だけは二人信じるのwikiにて、>>187に修正後に加えた備考が編集されていません。
分かりにくかったのなら、申し訳ございません。
二つの備考は状態表から行を少し空けてからでお願いします。

219 ◆QUsdteUiKY:2024/10/05(土) 23:36:00 ID:rLASUyTo0
>>218
遅れてしまい申し訳ありません、備考を編集しました

220 ◆ytUSxp038U:2024/10/10(木) 22:56:10 ID:m81FVtx.0
投下します

221ソレが正しい選択か? ◆ytUSxp038U:2024/10/10(木) 22:57:42 ID:m81FVtx.0
状況は芳しくない。
数秒、数分、1時間と経つにつれてミカンの焦りも加速していく。
海馬と別れて以降、自分達に起きた出来事と言えばNPCの群れとの遭遇だけ。
集団で襲い掛かられたと言っても、所詮は低級モンスター。
魔法少女としての場数を踏んだミカンの相手にはならず、ましてカイトの援護も加われば殲滅は容易い。
数体が小賢しくもクレヨンへ牙を剥いたが、傷を付ける前に撃ち落としてやった。
数だけ増やした所で敵ではない。

ミカンを悩ませるのは、NPCに襲われた以外何も収穫が無いこと。
DIOのような危険な参加者とぶつからなかったと言えば、運が良いと言えるのだろう。
しかし殺し合いに乗っていない者との接触の機会にも恵まれていない。
何より、カイトの毒とクレヨンの破損すら解決策が見つからずにいるのが現状だ。
ポツポツと建つ民家で休憩を挟みつつ探してみたものの、都合良く便利な道具が転がっている筈もなく。
無駄な努力と嘲笑うように、タイムリミットは着実に近付いている。

(どうしよう……)

海馬から渡されたカードで僅かに体力回復し、布を巻き付け応急の処置はした。
が、解毒を行わなければ根本的な解決にはならない。
本人の気力でどうにか保っているだけで、普通の人間ならとっくに死んで当然。
何も解決策が見付からなければ、数時間か或いは数十分後にはその普通の人間同様の末路を辿る。
こうなった原因が誰かと問われれば、DIOと誰もが口を揃えて言うだろう。
実際、カイトから責められる言葉は一つもぶつけられていない。
敵が時を止める能力を持っていると、初見で理解しろと言うのも酷だ。
だがミカン本人がそれで納得するかは別。
故意に狙ったので無くとも、ミカンの放った矢がカイトを射抜いたのは事実。
自分のせいで人が死ぬ、DIOとの戦闘で抱いた恐怖と罪悪感が勢いを増して蝕む。

会場中を駆けずり回って虱潰しに探すか?
この中で唯一無傷の自分なら無茶も利く、カイトとクレヨンにはその間どこかに隠れていてもらうか?
いいや駄目だ、負傷が無いということはつまりマトモに戦えるのが自分しかいない。
両腕の損傷が激しいクレヨンはもとより、カイトだっていつ限界が来ても不思議は無い。
二人を置いて、自分が不在の間にDIOのような者の襲撃を受けたら。
起こり得る最悪の結果を、現実の光景にする訳にはいかなかった。

222ソレが正しい選択か? ◆ytUSxp038U:2024/10/10(木) 22:58:47 ID:m81FVtx.0
「……っ」

噛み締めた唇の痛みも、湧き上がる自身への怒りの前には気にならない。
呪いで無くとも結局自分のせいで人が傷付く。
カイトの命を奪い、彼が遊馬なる友と再会する機会を消し去る。
クレヨンの腕を奪い、曲芸用HANOIとして致命的な亀裂を生んだ。
あの時別の判断を下せていたらと後悔しても、時が戻る奇跡は起きない。
もしもこのままカイトが助からなければ、呪いの再発と共にどれ程の災厄が引き起こされるのだろうか。
巻き込んでしまう前にクレヨンを引き離すのが正解なのか。
無理だ、戦闘行為が不可能に等しい彼女を放り投げて、運良く善良な者に保護されるとは限らない。
かといってこのままではどっちにしても危険。
考えれば考える程深みに嵌る意識を引き戻したのは、今正に頭を悩ませる道化師だった。

『だれかくる!』

HANOIの動体センサーがこちらへ接近する影を捉えた。
片腕が使えずとも全ての機能がお釈迦になったのではない。
書き殴った文字にそれぞれ警戒を強め、近付く存在へと視線をぶつける。
クロスボウを構えるミカンの隣には、ドローしたフォトン・デルタ・ウィングが並ぶ。
召喚に成功した時、同名カードを特殊召喚可能な使い勝手の良いモンスターだ。
加えてもう一体存在する場合、相手の攻撃宣言を封じることが出来る。
正式なデュエルでない以上、どこまで効果があるかは不明だが。
敵か味方か、願うは後者で相手の出方を待ち、

「おーい!さっきの馬鹿デカい竜は…うおっと!?」

姿を見せたのは茶髪の青年。
近付いたは良いが、武器を持った少女と眩しい飛行物体が敵意を向けて来た。
驚き足を止める姿は先程の海馬とは違う意味で、悪意を持った参加者には見えない。

「そこで止まれ。先にこちらの質問に答えてもらう」

とはいえアッサリと警戒を解く真似をカイトはしない。
第一遭遇者がDIOだったのが後を引き、一見問題無いように見えても慎重に事を運ぶ。
残された時間が少ない身なれど、焦り過ぎれば被害は自分一人に留まらないのだから。
青年の方も状況が状況だけにカイト達の警戒は理解しているようで、少しばかりの不満気な表情となりつつも指示に従う。

「殺し合いに乗っていない、そう捉えて良いのか?」
「当たり前だろ。俺はプロテインの貴公子、万・丈・龍・我だからな」

どこか自慢するように名乗られ、カイトの目が冷ややかになる。

『プロテイン?きこーし?
 きんにく もりもりの おかねいっぱいのひと?』
「…ああ、うん。何となくシャミ子と気が合いそうな人だって分かるわ」

不思議そうに首を傾げるクレヨンを背に庇いつつ、思い浮かべるのは友人であるまぞくの少女。
とりゃーっと微笑ましい雄叫びのまぞくと目の前の青年が重なる。
相手の詳細な情報はまだ不明だが、ネーミングセンスはシャミ子とどっこいどっこいと見て良さそうだ。
ついでにタンパク質が主成分の栄養補助剤を異名のように言う辺り、桃と意気投合しそうである。

緊張感の薄れる緩い空気が流れ出すも、却って互いに警戒心を下げるのへ繋がった。

223ソレが正しい選択か? ◆ytUSxp038U:2024/10/10(木) 22:59:46 ID:m81FVtx.0



双方ゲームに乗っていないと理解し、情報交換はスムーズに行われた。
万丈から聞いたのは自分達と会うまでの経緯と、名簿上で知る参加者。
仲間である三人の仮面ライダーはともかく、因縁深い地球外生命体には注意が必要だ。
遊馬やシャミ子達とは会っていないようだが、得られた情報は決して無駄ではない。

『せんとってひと クレヨン なおすできる?』
「偶に無駄に偉そうにもするけどよ、戦兎になら任せて大丈夫だ」

本人がいたら「一言余計だ」と呆れそうな補足を入れつつ、クレヨンを安心させるように言う。
曰く仲間の一人、桐生戦兎ならクレヨンの腕を直せるかもしれないとのこと。
聞けば戦兎は仮面ライダーの変身ツールや専用装備を開発する程の、高い技術力の持ち主。
当然修理に必要な道具や設備が求められるだろうが、そこも一応のアテがある。
nascitaという旧世界で戦兎や万丈が居候していた喫茶店。
G-4のエリアで見付けた施設の地下に嘗てのnascita同様、戦兎専用の研究所が再現されているなら。
クレヨンの修理を行うのには持って来いの場所だ。
中を詳しく調べていない為、本当に地下研究所が設置されてるかはまだ分からないが。

ともかく解決への道が開いたのは朗報だ。
加えて機械に強い戦兎にならば、首輪の解除を任せられる筈。
カイト自身、弱冠12歳でオービタル7を作り上げる程の頭脳を待つが残り数時間を生き延びられるかも怪しい身。
助からなかった場合は戦兎に後を託すしかあるまい。
尤も、毒についても解決策が無い訳ではない。

「クローズドラゴン…だったか?解毒機能があるらしいが」
「でも今は龍我さんじゃなく、或人さんって人が持ってるのよね…」

仮面ライダークローズの変身に必須の自律稼働型ユニットは、現在万丈の手を離れている。
先に出会った青年、飛電或人の支えになればと譲渡したからだ。
自分の判断を間違いだったと言う気は無い。
けれどまさか手放してから時間を置かず、クローズドラゴンが必要な場面に出くわすのは予想外。
カイトの毒を無効化出来ると言っても、手元に無ければ何の意味も無かった。
さしもの万丈も頭を抱えるが、そんな時間も惜しいと切り替える。
ああすればこうすればと考える間にも、死がカイトへ着実に迫っているのだから。

224ソレが正しい選択か? ◆ytUSxp038U:2024/10/10(木) 23:00:39 ID:m81FVtx.0
「急いで或人のとこに戻るしかねぇ。モタモタしてたら、本当に手遅れになっちまう」

会ったばかりの相手でも、殺し合いに乗っていない者の死を受け入れる気は無い。
自分が手を伸ばさなかったせいで、助けられたのに命を落とす。
キルバスの襲来時に突き付けられた旧世界での罪は記憶に新しい。
確実に間に合う保障が無かろうと、何もしない理由にはならない。

「ってことだからよ。そっちが行く筈だった場所から引き返すけど、大丈夫か?」
「構わない。どの道ここで間に合わなければ、もう他に打つ手は無いだろうからな」

一度死んでいるが故に二度目の終わりを恐れてはいない。
が、助かる道を選ばない程投げやりになったつもりもなかった。
ベクターやナッシュ、DIOと言った強敵の対処を遊馬に押し付けて一足先に退場など本当なら御免だ。

『カイト たすかる さんせい!』
「そうね。龍我さん、案内をお願いできるかしら?」
「おう!まだそこまで遠くには行ってねぇ筈だ」

クレヨンに頷き返し、ミカンもカイトを助けるのに賛成する。
このまま無意味に時間が過ぎるのを待つだけという、最悪の展開も頭をよぎったが本当にそうなるとはまだ決まってない。
自分のせいで皆を振り回すのを申し訳なく感じ、せめて道中の露払いはと気を引き締めた。

全員で走るよりも速く動ける足ならある。
フォトン・デルタ・ウィングを召喚したままなのは都合が良い、効果を使いもう一体を特殊召喚。
それぞれに二人ずつ乗り、万丈のナビに従い出発。
別れた時に或人がどの方角へ向かったかは覚えており、とにかく1秒でも早く追い付かねばと空を駆けた。

225ソレが正しい選択か? ◆ytUSxp038U:2024/10/10(木) 23:01:32 ID:m81FVtx.0
◆◆◆


「ほう、中々面白い話をしている。私にも聞かせてくれないか?」

聞こえた声が思考を断ち切り、振り向いた或人を黄金が迎えた。
彫像の如き屈強な肉体と、息を呑む妖艶さを兼ね添えた男である。
憎きヒューマギアの情報を得る為に信頼を踏み躙るか否か。
今の今まで或人を悩ませた選択が一瞬吹き飛ぶ程に、異様なまでの存在感が放たれていた。

「アンタは……」
「立ち聞きをするつもりはなかったのだが、どうもそこの虫は私に襲い掛かった鉄屑とは違うらしい。参加者に害では無く益を齎す存在、そう見て良いんだな?」
「へぇ。こっちの旦那にも説明しましたが、あたしは只の商人ですんで」

呆気に取られる或人を尻目に、魔導雑貨商人は乱入者へ先程と同じ説明を行う。
特定の参加者に肩入れはせず、出会った者のスタンスに関係無く取引を持ち掛ける。
そうプログラムされたモンスターの為、男に対する態度は或人と変わらなかった。

「ふぅむ…では試しに利用させてもらおう。こちらが渡すのは参加者共通の道具でもいいのか?」
「勿論それでも取引には応じやす。まあ物が物なので、あんまり高価な物は差し出せませんが」

説明を聞き終えた男は暫し考え込む素振りを見せ、デイパックから複数の物品を差し出す。
水と食料、ルールブックと筆記用具といった全ての参加者に配られた品である。
普通の人間が行う栄養補給を男は必要としておらず、一日分全てを渡しても問題無し。
ルールブックに関しても内容は全て把握済み、筆記用具が後で必要になってもそこいらの施設や民家で安易に手に入るだろう。
手っ取り早く他の参加者から奪うことだって難しくはない。

「はい確かに。今お渡しできるのは…これの内のどれかですね」
「ならこれで構わん」

カタログを眺め、一点を指差せば売買が成立。
複数の物資が消失し、反対に男の手には新たな道具が出現。
魔導雑貨商人が語った内容に嘘は無く、主催者が持つ転送技術で取引が行われるのは確かなようだ。
ということは差し出す物の価値によっては、滅の詳細な現在位置を本当に手に入れられるかもしれない。
彼らのやり取りに口を挟めず眺めていた或人も、ここでようやく我に返った。
その様子に気付いたのか若しくは見越してか、男の目が再び或人を射抜く。

226ソレが正しい選択か? ◆ytUSxp038U:2024/10/10(木) 23:02:15 ID:m81FVtx.0
「待たせてしまい済まなかったね。売買は本当に可能だと分かり君も使いたいのは山々だろうが、その前に私と話をしよう」
「え、あ……」
「まずはお互い名乗ろうじゃないか。友人関係構築の第一歩は、相手の名前を知る所にあるだろう?」

心地の良い声だった。
オルゴールを流しリラックスしているかのように、体から力が抜けていく。
警戒心という名の鎧を一枚一枚剥がされていると分かっても、慌てて纏い直す気になれない。
言われるがまま頷き名を告げると、男も微笑み口を開いた。
DIO、男を表す三文字が或人の脳に刻み込まれる。

自己紹介が済めば次は当然の如く、互いの友好関係を伝え合う。
空条承太郎、ゲームに参加している中でDIOが唯一元の世界から知っている男。
それが嘘か真実かは判断できないまま、反対に或人が話す番へ移った。
いっそ気味が悪い程自分の心が安らいでいると感じ、戸惑いながらも伝える。
滅、明確に敵と呼べる存在であり己が倒すべき男。
DIOの不可思議な魅力と言えども復讐心を鎮静化させるのは難しかったらしく、気付けば憎々し気に説明を続けていた。

「成程…察するに君は滅の情報を得る為に、何を差し出すかで悩んでいたんじゃあないかい?」
「…っ、それは……」
「別に責めているのではないんだ。ただ、案山子のように突っ立っているだけでは時間を無駄にするだけだろう?
 君自身の為にも、もっと賢い選択をするべきとは思わないか?」

ポン、と肩に手を置かれた。
幼き頃に喪ったヒューマギアの父を思わせる、そんな手が。
大きく硬い男の手は、それだだけで不安を削ぎ落とす役目を果たす。

「私と友達になろう。滅の件も含めて、君の不安を取り除く手助けをさせて欲しい」

置かれた手が位置を変え、自分の額へ動くのをどこか他人事みたいに見つめる。
そんなことよりもっとDIOの声を聞いていたい。
寝る前に母が子守唄を歌ってくれる子供とは、皆こういう気持ちなんだろうか。
DIOと友になり親密な関係を作れれば、抱く心地よさも更に大きくなるのだろうか。

甘美な誘惑に身を委ね――

227ソレが正しい選択か? ◆ytUSxp038U:2024/10/10(木) 23:02:49 ID:m81FVtx.0
「……っ!!」

指へ走った鋭い痛みで正気に戻った。

取引を持ち掛けられ、万丈から託された道具を渡すか否かで迷った時。
無意識の内にデイパックの口を僅かに開けたのが影響したのだろう。
奥底から機械仕掛けの小さな友、クローズドラゴンが飛び出し指先に噛み付いた。
無理やり押し込んだ或人への抗議か、様子のおかしい或人を不審に思ってか。
どちらの意図かはともかく、我に返り慌ててDIOから距離を取る。

「ごめん、助かった…!」

後ろめたさから仕舞っていたが、今はクローズドラゴンの行動に助けられた。
先程までの自分はどう考えてもまともじゃない。
会ったばかりでロクに素性も知らない男へ、ああも強い信頼を抱くなど不自然だろうに。
そんな当たり前のことにすら気付けなかったのだ。

「その玩具が君の支給品の一つかい?はしゃがせるのはもう少し後にしてくれないか?」
「悪いけど、アンタとこれ以上話をする気は無い」

DIOの言葉で奇妙な安心を感じるのは変わらない。
しかし一度我に返れば安堵よりも警戒心が勝り、自力で誘惑を跳ね除ける。
何よりこういった言葉を毒に変え芯を溶かす存在を、或人は既に知っているのだから。
自分にアークの力を与えた悪意の伝道師を名乗る女。
復讐を肯定し善意を否定した辺獄を名乗る陰陽師。
姿形は違えど根底は善から程遠い彼らと同じ側に属するだろうDIOの話に、これ以上耳を貸す気は無かった。

思えば知っている参加者の中で滅以外の名を出さなかったのも、意識せずDIOへの警戒心が働いたのかもしれない。
今では気まずさがあるとはいえ、善意で動く者であり状況が違えばもっと心強い仲間となれた万丈。
ヒューマギアに対する異常なまでの敵愾心で対立し簡単に許せはしないが、殺し合いには乗っていないだろう天津。
彼らの情報まで馬鹿正直に伝えなくて良かったと、内心安堵する。

228ソレが正しい選択か? ◆ytUSxp038U:2024/10/10(木) 23:04:25 ID:m81FVtx.0
「俺から言うことはもう無いし、滅の情報だって自分で何とかする。それでも邪魔するって言うなら…」
「…やれやれ、何故東洋人は誰もが揃って言葉より暴力を用いたがるのか。野蛮で敵わんな」

装着したビルドドライバーを意識し言う或人へ、大袈裟なため息をつく。
ゲーム開始直後に暴れ回った男、数時間前に一戦交えた決闘者と小娘。
そして此度の或人と、どうにも上手くいかない。
肉の芽を使えるかのテストも兼ねて或人を懐柔し、必要な道具の確保を行うつもりだった。
嘗てのポルナレフや祖父を殺されプッツンした承太郎同様、復讐などとちっぽけな感情に囚われた人間。
支配下に置くのは容易いと思った、がまさか機械如きに邪魔をされるとは。

「まあいい、駄犬を躾ける方法はいつの時代も変わらん」

抜群の存在感はそのままに、DIOからの敵意が膨れ上がる。
友好的に接していたのは、やはり見せかけに過ぎなかったらしい。
周囲に蔓延する空気がガラリと変われば、或人も意識を即座に切り替える。
滅以外で体力と時間を使うのは控えたかったが、そうも言ってられない。
DIOを相手にしたせいで、自身の望まない展開になるんじゃないかという懸念に一旦蓋を被せた。
どの道向こうが襲って来る以上、こっちも抵抗する他ない。

ハザードトリガーとボトルを叩き込むように装填。
ゼロワンとは全く異なる変身方法も、三度目となればスムーズに行える。
掴んだレバーの回転数を速め、巨大なプレス機を前後に展開。

『Are Yoy Ready?』

「変身…!」

『UNCONTROLLED SWITCH!BLACK HAZARD ON!』

『ヤベーイ!』

装甲全てが黒く染まり、唯一淡い光を放つ複眼が敵を捉えた。
旧世界での憎悪が新世界で芽吹いた姿、仮面ライダーメタルビルド。
変身者こそ違えど復讐を糧に動く戦士を前に、DIOはほんのちょっぴり目を細める。
形状こそ違えどベルトを使って姿を変える者。
小癪にも神を名乗るゲームマスターと同じ、仮面ライダーという奴か。
未知の力と対峙し、されどDIOは自身が敗北するとは全く考えない。
ふざけた小細工を受け本領発揮できずにいるが、己が扱う力は他の有象無象を凌駕するのだから。

229ソレが正しい選択か? ◆ytUSxp038U:2024/10/10(木) 23:05:09 ID:m81FVtx.0
「世界(ザ・ワールド)」

帝王の意思に従い現れる黄金の拳闘士。
その名の通り、世界を支配する者にのみ許されたスタンド。
こちらに楯突く身の程知らずへ、絶対的な力の差を骨の髄まで教えてやるまで。

「無駄ァ!」

突如出現した人型物体への驚愕を抱く余裕は無い。
先手は譲らないとばかりにスタンドを操作、拳の射程内へ敵を閉じ込める。
放つ拳はプロボクサーの一撃を鼻で笑う程に速く、それでいて重い。
常人ならばノックアウトを通り越し、即死しても不思議は無かった。

叩いた感触は当然ながら生身の人間を殴るのとは別。
幾重にも重ねた鉄板の如き硬さだ。
両腕を交差し防ぐ姿が見え、所詮は無駄な抵抗に過ぎないと失笑を漏らす。
ほんの一発凌ぎ何だという、ではこれならばどうだ。

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!」

左右の拳を交互に突き出す攻撃も、スピードが桁違い故複数本の腕が一斉に襲ったと錯覚を抱く。
数に物を言わせた単純な、それでいて尋常ならざる勢い。
強固な鎧を着込んでいようとも紙切れ同然、砕かれ丸裸となるのは避けられない。

だが予想に反してメタルビルドは防御態勢のまま、DIOの猛攻に耐えている。
纏った装甲も破壊どころか小さな亀裂一つ見当たらない。
ラッシュの速度は緩めず、スタンド越しに伝わる感触へ眉を顰めた。
思った以上に硬い、数時間前にスクラップへ変えてやったガトリングバギーとは段違いだ。

NPCのスマッシュと戦った承太郎も感じた事だが、スタンド使いを相手にする時とはまるで違う。
特殊な力を持とうとも肉体的にはあくまで普通の人間、だから拳を叩き込めば再起不能へ追い込めた。
しかし仮面ライダーにはスタンドバトルでのセオリーが通じない。
ましてメタルビルドはハザードスマッシュ三体の同時攻撃や、仮面ライダーグリスの技を無傷で耐える非常に高い防御性能を誇る。
数十発の拳を放ったとて破壊は現実的ではない。

230ソレが正しい選択か? ◆ytUSxp038U:2024/10/10(木) 23:05:48 ID:m81FVtx.0
「こいつ…!」

尤も現状は決して或人の有利を意味しない。
耐えてはいるものの、ザ・ワールドは近接タイプのスタンドの中でも随一の性能を誇る。
時間停止こそ封じられていても、基本的な性能に変化は無い。
ましてDIOは殺し合いに巻き込まれる直前、ジョセフ・ジョースターの血を糧にしているのだ。
普段以上にスタンドのキレが増しており、相手がメタルビルドでなければとっくにミンチと化していた。

そのメタルビルドとてこのまま耐え続けられるかと言えば否。
一方的に殴打を受ければ体力は削られ、ダメージも蓄積する。
装甲越しへ強烈な痛みが襲うのも時間の問題。

加えて、変身中の姿がゼロワンではないのも或人を有利から遠ざける一因だ。
メタルビルドは専用の武器を持たず、徒手空拳で攻撃を受け流しカウンターを叩き込むのが主な戦法。
対して或人が元々変身するゼロワンは蹴り技を主体にしており、メタルビルドとは使い勝手が異なる。
前々から変身しているならまだしも、たった数時間で完璧に使いこなせというのも無茶だろう。
その為出来ることと言えば防御を崩されないよう、歯を食い縛る程度。
いずれ限界が来るのは確実だが、そうなる前に反撃の切っ掛けを作る者がいた。

「チッ…!」

ザ・ワールドの頭部へ炎が襲い、本体であるDIOの顔にも煩わしい熱が走る。
片足で蹴り上げるも華麗に避けられ、頭上を飛び回る小さな龍。
クローズドラゴンの妨害で僅かな隙が生まれた、動くならここしかない。

デイパックに手を突っ込むメタルビルドを前に、DIOが何もしないつもりは無く。
再度スタンドを操作し殴り付けるも、敵は怯まず望みの得物を取り出す。
強化剤により基礎耐久力が底上げされたのがメタルビルドの装甲。
或人自身の打たれ強さも相俟って、モロに拳を受けようと多少の無茶は通せる。
右手が勢い良く振り上げられる前兆を察し、ザ・ワールドが身を引く。
一手遅れて顔を出したのは機械仕掛けの大剣、フルボトルバスターだ。

231ソレが正しい選択か? ◆ytUSxp038U:2024/10/10(木) 23:06:45 ID:m81FVtx.0
「せやあああああっ!!」

両手持ちに変えるや否や跳躍、落下の勢いを乗せ斬り掛かる。
殴り返してへし折ろうと考えるも、じわりと嫌な予感がDIOを蝕む。
根拠のない他人の戯言ならともかく、自分自身の勘を信じない理由は無い。
再度ザ・ワールドを下がらせ、黄色い刀身が地面を削り取った。

三都に配備されたガーディアンの合体形態をも、チーズのように切り刻む刃だ。
真っ向から殴ろうものなら反対に拳をスライスされる。
回避に動き正解だったと、一息つかせる余裕をくれてやる気は皆無。
ボディスーツが肉体のリミッターを解除、数十歩の距離すら即座に詰め剣を振るう。
大剣とは思えぬ速さで迫るも、DIOが焦りを感じるまでには至らない。

「ノロいノロい、わざわざこのDIOが避けられるようにサービスしてくれたのか?」

嘲りが強がりで無いと、レンズが捉えた光景が伝えて来る。
刃部分を殴れば却って自分の方が傷を負うのは確実。
とはいえ他にやりようは幾らでもある、剣の腹を手刀が叩き狙いをズラす。
あらぬ方向へと弾かれた武器を手元に戻すまでの猶予は極僅か。
DIOが大人しく待ってやる甘さを見せる筈も無く、がら空きの胴へ拳が殺到。
5秒も経たない内に十数発が叩き込まれ、メタルビルドは倒れ地面を転がった。

やはりスピードはザ・ワールドが勝る。
疑いようのない事実を噛み締め、ならばと次なる手に打って出た。
フルボトルバスターは単に撃った斬ったが性能の全てではない。
更なる力の引き出し方は既に把握済だ、万丈との戦闘がここに来て活きる。
ドライバーからボトルを外し、大剣中央部のスロットへ装填。

『TANK!』

『FULL BOTTLE BREAK!』

ボトルの成分を読み込み攻撃の強化を実行。
剣の間合いに敵はいないが問題無い、フルボトルバスターを振り下ろし鉛色の刃を飛ばす。
これをDIO、スタンドを一旦解除し本体は身を捩る。
背後をチラと見やれば斬撃が当たった箇所が刃と同じに変色、溶けてあっという間に固まった。
先の一撃以上に直撃は避けるべきと判断を下す。

232ソレが正しい選択か? ◆ytUSxp038U:2024/10/10(木) 23:07:35 ID:m81FVtx.0
ボトルの成分を付与した攻撃は今の一撃で終わりじゃあない。
二度三度と振るえばその度に刃が飛び、地面や遮蔽物を破壊。
近付かなければ当たらないという考えは即座に捨て去らねば、あっという間に剣の餌食だ。
鞭のように刀身を伸ばし、地面を叩きつけ土埃が舞う。
つまらなそうに鼻を鳴らし跳躍、空中へ逃げたDIO目掛けまたもや刃が飛来。
脅威ではあるが命中すればの話だ、軽く上体を捻って躱し華麗に着地。

『TANK!』『TANKK!』

『ジャストマッチでーす!』

避けるのまで織り込み済みだ。
モード切り替えスイッチを押しながら、グリップ部分を動かす。
遠距離形態に変えたフルボトルバスターへ、すかさずボトルを読み込ませる。
二本へ増やした事で付与される成分の量が増加、技の威力も大幅に強化された。
補助グリップを掴み照準を合わせると、反動の抑制と共に命中率を引き上げる。

『JUST MATCH BREAK!』

着地地点に照準を合わせ、引き金を引くまでの一連の動作に無駄は無い。
フルボトル二本分の成分を籠めた弾が銃口から飛び出る瞬間を、今か今かと待ち侘びている。
斬撃以上に真っ向から受け止めるのは危険な威力だ。
如何にザ・ワールドだろうと、拳で打ち消そうものなら焼き潰されるに違いない。

「フム……」

本来のザ・ワールドならば時を止め対処すれば良いだけだが、それが不可能なのはDIOとて理解している。
吸血鬼の生命力なら直ぐには死なないだろう、なれど余計な傷を負いたいとも思わない。

233ソレが正しい選択か? ◆ytUSxp038U:2024/10/10(木) 23:08:28 ID:m81FVtx.0
ならばスタンド以外の手札を切るまで。

取るべき手を選んでからの動きは迅速。
エネルギー弾の発射まで残り僅か、躊躇を抱く必要も無い。
自分を差し置いて神を名乗り、あまつさえ時の止まった世界へずけずけと入り込む。
全く持って許し難き主催者からの施しを受けるようで気に食わないが、かといって使える道具を腐らせておくのは愚の骨頂。
利用出来るものはとことんまで利用し尽くす、人間時代からの変わらぬ精神性が敗北という結末を退ける。

『VMOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!』

解放されるや否や、骨まで揺さぶる雄叫びを響かせた。
野生動物か、NPCのモンスターか。
どちらも違う、現れたのはそのような狭い範疇に収めて良い存在に非ず。
黒々とした体毛と、戦槍の如く伸びた角が目を引く二頭の牛だ。
真紅の布を纏う猛牛が引く戦車に飛び乗り、帝王が小賢しくも楯突く人間を見据える。
叫び一つで有象無象を慄かせるも、伊達に滅亡迅雷.netやアークとの死闘を生き延びてはいない。
驚愕を抑え付けトリガーを引き、戦車諸共消し飛ばすべく砲撃を放った。

「無駄な足掻きと、直接体に教えてやろう」

対するDIOに焦りの二文字は毛先程も見当たらない。
優雅に足を組んで座り、リラックスする余裕を見せ付けながら発進。
蹄が地面を叩く度に雷が迸り、稲妻で舗装された道を駆け抜けているかのよう。
神秘的ながら決して美しさのみではない、獣が引いているにも関わらずスポーツカー顔負けの速度を発揮。
エネルギー弾など最早枯れ葉が横切った程度に過ぎず、二頭の突進により呆気なく掻き消された。

攻撃が無駄に終わったと理解したなら、即座に次の手に出ねばなるまい。
別の方法で迎え撃つか、回避や防御に専念するか。
そう頭では分かっていても、実際に体を動かすまでにほんのちょっぴりの間が生まれる。
メタルビルドの元へ戦車が到達するには、十分過ぎる程の隙だ。
アークワンやゼロツーの演算能力を用いれば避けられたろうが、言った所で無い物ねだりでしかない。

234ソレが正しい選択か? ◆ytUSxp038U:2024/10/10(木) 23:09:12 ID:m81FVtx.0
大型トラックと正面衝突しても、メタルビルドには傷一つ付かず体勢を崩すことすら不可能。
但し何事にも例外がある。
マケドニアにて名を馳せた稀代の戦略家、征服王イスカンダルが所有する宝具こそDIOの支給品の一つ。
神獣が牽引した後には屍すらも残らない。
支給品に落とし込んだ影響で多少の制限こそあっても脅威だ。

「っ――」

どれ程の勢いを乗せたのか、メタルビルドの両足が地から離れる。
装甲がダメージを最小限に抑えるも、全てを完璧に殺し切るには至らず。
ほんの一瞬視界が黒に染まり、口から出るのは言葉にならない苦悶の声。
飛びかけた意識を無理やりにでも手繰り寄せ、気絶を防いだのは痛みに慣れているが故だろう。
尤も、他にやれる事は何も無いが。

遥か彼方へ吹き飛び、いつ終わるかも定かじゃない激突を繰り返す。
などという展開にはならない。
背を向け宙を泳ぐ先にはもう、黄金の拳闘士が待ち構えていた。

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!!」

近接タイプでありながら射程距離は他のスタンドよりも長い。
だからこうして、ザ・ワールドを使い挟み撃ちも可能だった。
今度は最初のような防御を取らせてやりはしない、無防備な背中を襲うラッシュ。
装甲がダメージ軽減を働きかけるも数が数。
百に及ぶ拳が蓄積したなら軽く見れる傷にはならない。

「がっ…!」

一際強烈な一撃で殴り飛ばし、トドメとばかりに反対側から猛牛が頭突きを繰り出す。
絶えず襲う衝撃にとうとう限界が訪れ、地面を転がり漆黒の鎧は消え失せた。
うつ伏せに倒れる或人が手を伸ばすより早く、ヒョイとビルドドライバーを回収。
目的の一つであった太陽を遮断する道具は手に入れた。
残るは無様に敗北した人間の処遇のみ。

235ソレが正しい選択か? ◆ytUSxp038U:2024/10/10(木) 23:10:15 ID:m81FVtx.0
「さて…このDIOに歯向かうのが如何に愚かしいかを、身を以て知ってもらえた所でだ。何と言ったか…ああ確か滅、だったな」
「…っ!?」

何故このタイミングで再び滅の名を出すのか。
殴打を受け苦痛に苛まれながらも、DIOの言葉に意識が引き寄せられる。

「さっきの態度を見て分かったよ。或人、君は滅を強く憎んでいるのだろう?情報を欲したのも、復讐を果たす為だ」
「だったら…何だって言うんだ…!?」
「勘違いしないで欲しいが、私は何も君の復讐を否定するつもりはないんだ。ただ…今の自分の姿をよく考えてみるといい。
 力の差を理解出来ずに噛み付き、挙句私に敗れた君が滅に挑んだとしても…おっと、この先を言うのは酷だったかな?」
「っ!!」

言わんとすることが分からない訳も無く。
憎々し気に歯を食いしばる様を見下ろし、弾むように続ける。

「この戦車を見てくれ。乗り心地だけでなく、君を撥ね飛ばした時の威力もすっかり気に入ったよ。人間を撥ねた感想など特に抱かないと思っていたが…分からんものだな。
 まあそれよりもだ、聞けば滅は随分危険な男らしいじゃあないか。そんな者にこの戦車のような支給品が与えられていたら、果たして君の手に負えるのかな?」

痛い所を咄嗟の反論も口を突いて出てくれない。
アークドライバーワンの代わりにビルドドライバーを支給された自分同様、滅も本来とは別の変身ツールを与えられているかもしれない。
フォースライザーを超えるライダーシステムを手に入れた可能性だってある。
アークワンどころかゼロワンにもなれず、未だ使いこなせないメタルビルドで復讐を果たせるのか。
出来ると自信満々言おうにも、現実に自分は万丈にもDIOにも負けているじゃあないか。
前者は精神的な影響も少なからず存在するが、敗北は事実だ。

「フフ…なぁ或人。復讐したい気持ちは分かったが、今の君はハッキリ言って中途半端にしか見えんぞ?力が欲しいなら、もっと餓えるべきとは思わないか?」

動揺を見逃さず、DIOの言葉は復讐者の精神を絡め取る。
見下ろし近付ける手を振り払うのが正しい選択の筈と、分かっているのに動けない。
傷の痛みだけが理由じゃない、真に受けるなと言い聞かせても胸の奥深くまで流れ込んでしまった。
キーキーと必死に叫ぶ小龍が邪魔そうに払い除けられても、まだ動けずにいる。
良くない何かが起こる、しかし自分の望みが本当に叶うのなら――

236ソレが正しい選択か? ◆ytUSxp038U:2024/10/10(木) 23:11:18 ID:m81FVtx.0





『SWORD VENT』

「うおらあああああああああああっ!!!」





誘惑に抗えず堕ちるのを認めぬと、銀の刃が振り下ろされる。
伸ばした手を引っ込めDIOが後退、悉く邪魔が入り内心の苛立ちが上昇。
余計な真似に出た者を睨めば、炎を思わせる真紅の騎士がいた。
白銀の鎧に青龍刀、頭部に龍の意匠を施した姿に見覚えは無い。
だが似たような存在を目にしてるだけに、正体への察しはすぐに着く。

「また仮面ライダーというやつか」

つまらなそうに呟くDIOを睨みつつ、赤い騎士は或人を背に庇う。
便所のゴキブリの糞にも劣る正義感に突き動かされ、乱入して来た。
と、それだけが理由ではないらしい。
剣を構えながらも背後の青年へ声を掛ける。

「大丈夫か或人!?」
「万丈、さん…何でここに……」
「助けがいる奴と会って、お前のとこに戻んなきゃならなくなったんだよ。あいつ…DIOだかってむちゃくちゃヤベェ奴なんだろ?」

初対面の相手から自分の名が飛び出て、ピクリとDIOのこめかみが動く。
誰から聞いた、この島で名を知っているのは限られてくる。
ジョースターの小僧ともう一人、自分だけに許された世界への入門を封じた決闘者。

「こうも早くにまた会うとはな…」
『りゅうが きゅうにおちて ビックリ!』
「ええ本当にね…心臓に悪いわよもう!」

誰から聞いたと問い質すまでもなく、降り立った者達が騎士に並ぶ。

237ソレが正しい選択か? ◆ytUSxp038U:2024/10/10(木) 23:12:17 ID:m81FVtx.0
「天城カイト!死にぞこないが、まだこのDIOの邪魔をするか…!」
「分かり切ったことを聞くな。死が避けられないなら、お前相手に残りの命を使うまでだ」

或人が向かっただろう方角へ引き返したカイト一行である。
空中からの捜索中、倒れ伏す探し人とカイト達を襲った危険な参加者を発見。
悠長に着地するのも惜しいと、フォトン・デルタ・ウィングの光刃部分へデッキを翳し龍騎に変身。
飛び降りた万丈に続く形で降下し今に至る。

圧倒的に有利だった状況に暗雲が立ち込め、小さく舌打ちを漏らす。
多対一だろうと負ける気は無い、だが決闘者の厄介さは身に染みている。
腕を負傷し非戦闘要員同然のクレヨンを抜きにしても、ミカンと万丈がカイトを守るだろう。
時間停止を封じたあのドラゴンが再び牙を剥くのは大いにあり得る。

『ZERO ONE…』

追い打ちを掛けるように、戦闘へ加わる者がもう一体。
肩で息をしながらも立ち上がり、メタルビルドとは別の変身を果たす。
低い電子音声が告げるのは或人が元々変身する仮面ライダー、しかし姿は全く異なる。
蛍光イエローのボディこそ同じでも、装甲では無く生物的な肉体へ変化。
おぞましい顔面と肩から突き出た羽は、ライダーというより昆虫の怪人を思わせた。

アナザーゼロワン。
タイムジャッカーの手で歴史改変を受けた世界で、とあるヒューマギアが変身したアナザーライダー。
或人とも死闘を繰り広げた怪人だが、当人にその記憶はない。
元の歴史に戻った以上、全てを覚えているのは常磐ソウゴら魔王一行のみなのだから。

或人の戦線復帰にDIOは潮時と判断を下す。
納得のいかない部分はあるが時間停止が不可能な以上、無駄に体力を消費する必要もあるまい。
幸い日光を防ぐ手段は手に入った、ならば長居は無用。

238ソレが正しい選択か? ◆ytUSxp038U:2024/10/10(木) 23:12:59 ID:m81FVtx.0
「全く忌々しい……!」

それはそれとして、二度も撤退を選ぶのはやはりストレスが溜まる。
逃がしはしないと万丈が斬り掛かるも、付き合ってやる気は無い。
先程物々交換で手に入れたアイテムを地面に叩きつけた瞬間、閃光と轟音が万丈と背後のカイト達を襲った。
かんしゃく紙という22世紀のひみつ道具だ。
千切って投げる本来の使い方をせず、一枚丸々投擲し万丈達を怯ませる。
仮面ライダーに変身中の者もいるのだ、効果は大き過ぎて困らない。

「〜〜〜〜〜っ!!おい待ちやがれ!」

耳鳴りが激しい中で、僅かに猛牛の雄叫びが聞こえた。
視界が戻った時にはもうDIOの姿は見当たらず、どこへ逃げたかも定かではない。
悔し紛れに叫んでも、嘲り一つ返って来なかった。


【H-6/一日目/早朝】

【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(小)、苛立ち(大)、精神的動揺、時間停止不可、搭乗中
[装備]:特殊名簿@オリジナル、神威の車輪@Fate/Grand Order
[道具]:基本支給品(食料・水・ルールブック・筆記用具無し)、ビルドドライバー+メタルタンクタンクフルボトル+ハザードトリガー@仮面ライダービルド、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]基本方針:「神」を追い落とし、すべてを手に入れる「王」となる。
1:東洋人(鬼舞辻無惨、名前は知らない)の弱点を見つけ出し、ボディを奪う。
2:次から次へとこのDIOの静止時間に入り込むか。同じ能力を持つものは必ず仕留める。
3:ザ・ワールドの効果を戻さなければならぬ。
4:肉の芽を植え付けられればいいのだが。
5:仮面ライダーとやらの道具は手に入れた。日光を防げるだろう。
6:承太郎はあえて味方と言い張る。取るに足らぬ人間は混乱させておく。
[備考]
※承太郎との最終決戦最終盤からの参戦。
※時間停止の時間は少なくとも5秒未満です。
 具体的な時間は後続にお任せします。
※銀河眼の時空竜の効果で効果を無効にされ時止めができません。
 何かしらの手段で無効効果がなくなるか、遅くとも第一放送後に戻ります。
 肉の芽も無効かは不明です。

※どこへ向かったかは後続の書き手に任せます。

239ソレが正しい選択か? ◆ytUSxp038U:2024/10/10(木) 23:14:00 ID:m81FVtx.0
◆◆◆


「クソッ!またこうなるのかよ…」

殺し合いに乗った者をみすみす逃してしまった。
パラダイスキングに続き二度目のミスだ、自分への怒りが募る。
だが今は失敗に悪態を付くより、仲間を優先するべき。
振り返ると各々呻いたり頭部を振って視界が危うい者もいるが、長続きはしない。
DIOがやったのはあくまで音と光を使った足止め、命を奪う傷は負わされなかった。

「万丈さん……」

消沈した声に顔を動かせば、俯く或人の姿を捉えた。
変身中で素顔も怪人になっているのに、落ち込んだ顔なのが良く分かる。
纏う空気の重苦しさに相応しい、非常に暗い声色で言葉を紡いだ。

「ごめん…後で返すって約束したのに……」

元は万丈の仲間の所有物であるビルドドライバー。
いずれ返してもらうと預けられたが、よりにもよってDIOに奪われる大失態を犯した。
聞けば戦兎は今の自分よりも仮面ライダーの名が相応しいヒーロー。
そんな人のベルトが今後はDIOに使われてしまう、自分がしくじったせいで。
申し訳なさと悔しさで、まともに目を合わせられない。

「お前だって必死に戦ったんだろ?ならしょうがねぇよ。俺が取り返せば戦兎の奴も文句は言わねぇだろうし、そんなに落ち込むなって」

あっけらかんとした態度は内心の怒りを抑える為ではなく、本心から気にしていないと伝える。
ビルドドライバーが奪われたのは確かに由々しき事態であるも、或人の責任を追及する気は皆無。
事前にカイト達からDIOがどれだけ危険かは聞いており、そのような相手に一人で持ち堪えた或人をどうして責められようか。

240ソレが正しい選択か? ◆ytUSxp038U:2024/10/10(木) 23:14:41 ID:m81FVtx.0
お前は悪くないと言われても或人は気落ちしたまま。
次に万丈が何かを言う前に、無言で両手を突き出す。
握られているのはフルボトルバスター、ビルドドライバー共々いずれ返却を約束した武器だ。
何故急にこれをと困惑する万丈へ、有無を言わせず無理やり持たせる。

「やっぱりこれは、万丈さんが持ってた方が良いと思う。またヘマやらかして、奪われる訳にもいかないし」
「だから俺は気にしてねぇって……」
「あのベルトは俺がどうにかして取り戻す。本当に、迷惑かけてごめん」

武器を手放し背を向けた或人に、嫌な予感を感じた。
ビルドドライバーの件で責任を感じているだけではない。
自分達の方に視線を寄越さない姿は、まるでこちらを拒絶してるかのよう。
素顔を見せずとも、安易に近付くのを憚れるこの雰囲気には覚えがあった。
同じだ、最初に会った時の或人と。
復讐を優先する余り嘗ての決意を裏切り、間違った道を進もうとしている。

「おい或人…っ!?」

伸ばした手を拒む壁が出現。
羽音を立てて無数のバッタが万丈達を取り囲み、足を止めざるを得ない。
追い払おうにも数が多く、前後左右どこを見てもあるのは虫虫虫。
農作物を食い荒らすのではない、人間を餌とする害虫の群れだ。
尤も或人に万丈達を傷付ける意図はない。
その証拠にバッタの群れは妨害にこそ動いても、攻撃はして来なかった。

やがて何かをするまでもなく、害虫は一斉に離れ徐々に姿を消す。
足止めという役目は終わりだ。
先のDIO同様、視界を塞いだ間に或人も何処かへ去って行った。

241ソレが正しい選択か? ◆ytUSxp038U:2024/10/10(木) 23:15:49 ID:m81FVtx.0



偽りの歴史で生まれたゼロワンには、仮面ライダーとしてのゼロワンには無い能力が複数存在する。
内の一つ、飛行機能を使い万丈達の元から飛び去った。
気にしてないとは言ってくれたが、はいそうですかと簡単には切り替えられない。
DIOに負けなければ、或いはもっとDIOを警戒して慎重に動くべきだった。
後悔だけなら幾らでも出来るがやって何の意味があるのか。
自分の尻拭いを万丈にさせるつもりはない、責任の取り方は分かっている。

「どこに行った…?」

DIOを見付けてビルドドライバーを取り返す。
すぐには頷いてくれないだろうとは分かった、だから強引な形で飛び立ったのだ。
ドライバーに続きフルボトルバスターまで奪われては、流石に顔向け出来ない。
故にあの場で返し、アナザーウォッチのみを手にDIOの追跡に出た。





――本当にそれだけか?





問い掛ける声が聞こえた。
周囲には誰もいない。
DIOには追い付いていないし、万丈が追いかけて来る姿も見当たらない。
他の誰でもない、或人自身の声でもう一度問う。
本当に、万丈の元を去った理由はそれだけなのかと。

ビルドドライバーを取り戻したい気持ちに嘘はない。
だがそれならそれで、もっと他にやりようがあるだろうに。
先の場には万丈以外にも三人の参加者がいた。
様子から察するに殺し合いには否定的、であれば彼らとの情報共有をしっかり行うべきじゃあないのか。
特にカイトと呼ばれた青年はDIOと因縁があるように見えた。
となると、DIOに関する話を詳しく聞き再戦への備えを行う方が利口。
若しくは万丈と共にDIOを追い掛けたとて問題無い。
ビルドの力を好き勝手に使わせたくない想いは自分以上、人間性についても信頼が置ける万丈が同行する方が或人一人よりも戦力面での不安を取り除ける。
なのに何故、ロクに話しもせず単独行動を選んだ。

242ソレが正しい選択か? ◆ytUSxp038U:2024/10/10(木) 23:17:21 ID:m81FVtx.0
DIOを追い掛けるにしても、それはビルドドライバーを取り戻す為なのか?
そもそも自分が万丈達から離れたのは、DIOを追い掛ける為だとハッキリ言えるのか?

気付いてはいけない理由に、胸の奥が軋み出す。
先程の戦闘で自分は敗北した。
もし万丈が現れなかったら、一体DIOに何をされたのか分からない。
嫌と言う程に力の無さを思い知り、ふと思い出した。
アナザーゼロワンウォッチに隠された特殊な機能を。

善意に溢れる状態で使えば、強大な力を持った仮面ライダーゼロワンへの変身が可能となる。
しかし反対に、悪意に支配された状態で使えばより凶悪なアナザーゼロワンに変身する。
夢を追いかけていた頃ならともかく、今の自分に善意の力を引き出せるとは口が裂けても言えない。
では後者なら?
アークワンと同じ、悪意を糧とする怪物になるのを不可能とは言えないのでは?


――『滅への復讐、それ以外は捨てなされ』

――『どっちつかずなままじゃ、全部無駄になちゃうよ?』

――『力が欲しいなら、もっと餓えるべきとは思わないか?』


この地で出会った三人の言葉が、耳元で繰り返し囁かれる。
決して善人とは言い難い、けれど間違いを言っていると否定も出来ない。

善意を捨て去れば、復讐以外いらないと決断すれば、滅を破壊する力を寄越せと貪欲に欲すれば。
アナザーウォッチは或人の悪意に応え、イズの仇を取れるだけの強大な力が手に入る。
だから、その為に『邪魔な』万丈達から逃げるように去った。
それが真実なんじゃあないか。

「……っ!」

違うと言い聞かせても、己への疑問は消えない。
自分を惑わす戯言を振り切るように、或いは受け入れ難い現実から逃げるように。
飛行速度を一段上げ、振り返らずに進む。

夜明けは近い、なのに或人の前には光なんて微塵も見えなかった。


【飛電或人@仮面ライダーゼロワン】
[状態]:迷い(極大)、疲労(中)、ダメージ(大)、アナザーゼロワンに変身中
[装備]:アナザーゼロワンライドウォッチ@仮面ライダージオウ×ゼロワン 令和・ザ・ファーストジェネレーション
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本方針:とりあえず滅をはか…倒す…
1:DIOを追ってビルドドライバーを取り戻す。…………そのつもり、だ。
2:滅がここにいるなら必ず倒す…つもりだ。でももし他の参加者に倒されたら……?
3:垓さんか…まぁ頑張ってくれてるといいな
4:とりあえずあった人からは話を聞いていこうかな
5:万丈の仲間に会えたら礼と情報交換をしなくちゃな
6:エボルトに警戒
7:主催の人達は許さない、けど滅よりは優先度は…まだ低いな
8:他の人達を助けて、それで間に合わなくなるなら……
[備考]
※参戦時期は43話開始直後。

※どこへ向かったかは後続の書き手に任せます。
 DIOの正確な位置を把握していない為、DIOと同じ方角へ向かったとは限りません。

243ソレが正しい選択か? ◆ytUSxp038U:2024/10/10(木) 23:18:30 ID:m81FVtx.0
◆◆◆


「悪いカイト、俺も急いで行かなきゃなんねぇ」

デイパックの口を閉じそう告げた万丈に、カイトからの驚きは無い。
短いやり取りの中で、或人を気に掛けているのは良く分かった。
であれば何を思って出発を急ぐかも、理由に察しが付かない訳がない。

「飛電或人を追うのか?」
「ああ。…今のアイツを一人にしたら絶対ヤバいことになっちまう」

そうだろうなと口には出さず同意する。
やり取りを見ていただけの者達にも、或人が危うい状態だとは察せられた。
一人でDIOの元に突っ込み返り討ちに遭うのが関の山。
下手をすれば、もっと悪い事態に発展しないとも言い切れない。

「そっちは大丈夫なんだよな?コイツが失敗した、なんてことは…」
「問題無い。流石に体力までは戻らんが、解毒は成功だ」
「お、おう、そうか。ずっとムスッとしてっから分かりにくくてよ…」

一言余計だと思いつつも、一難去ったのは事実なので素直に感謝しておく。
DIOに殴り飛ばされ痛がる素振りを見せていたが、クローズドラゴンは耐衝撃・耐熱性にも優れている。
ちょっとやそっとじゃ破壊されず、カイトに噛み付き毒を完全に除去。
ブラッドスタークの崩壊毒をも打ち消す治癒効果を以てすれば、モウドクフキヤガエルの毒も無効化が叶った。
疲労はそのままであり体力的に余裕があるとは言えないが、毒で死ぬ末路を回避出来ただけでも十分だ。

『カイト げんきなって クレヨンもうれしい!』
「ええ、本当に良かった…」

満面の笑みを浮かべるクレヨンに同意し、ミカンも安堵で胸を撫で下ろす。
使い魔から抽出した毒を魔法抜きで解毒可能なのか不安だったが、杞憂で済んだらしい。
どうあっても助からない事態も考えただけに、解毒が上手くいって心底ホッとした。

カイトの治療という当初の目的を果たし、本当ならば万丈も彼らに同行する筈だった。
なれど前述の通り或人を放って置けず、追いかけ無茶をしでかす前に止めねばならない。

244ソレが正しい選択か? ◆ytUSxp038U:2024/10/10(木) 23:19:40 ID:m81FVtx.0
「待って龍我さん。あの人を追い掛けるなら、これを持って行って」

呼び止めたミカンがデイパックから出したのは、小さな支給品とは不釣り合いな物体。
赤いボディが目を引く金属の塊、バイクである。
と言っても普通の二輪車にない特徴が複数個所見られるが。
移動手段としては便利だがデュエルモンスターズのモンスターを召喚できるカイトがいる為、使う場面は無く仕舞ったままで数時間。
ようやく出番が回って来たのだろう。

「かなり助かるけど良いのかよ?」
「ああ、初見のデュエルシステムが搭載されていたのは気になるが……今はお前が使う方が良いだろう」

毒を治せる支給品がないかと確認した時、このマシンをミカンのデイパックから見付けた。
ざっと見ただけでも、カイトをして見事と言わざるを得ない性能。
説明書に記載された名称から、Dホイールなるマシンの持ち主兼開発者も参加していると発覚。
状況が違えばその者とも話をしてみたかったが。

高性能な足が手に入り、これで本当に出発の準備は整った。
カイト達は予定通り島の中央を目指し、万丈も或人をどうにかしたらそっちへ一旦合流。
平行して互いの仲間の捜索も行う。
同じグループのHANOIや監察官が不参加のクレヨン以外は、それぞれ信頼出来る者も巻き込まれている。
彼らの名前と特徴は既に交換し合ったので問題なし。

「戦兎を見付けたらクレヨンの腕のことも言っとく!絶対に死ぬんじゃねぇぞ!」

運転に少々クセのあるDホイールをどうにか動かし、カイト達の元を去って行く。
これで残ったのは最初に出会った三人だけ。
同行こそ出来なかったが、打倒主催者の方針が同じ参加者との縁は作れた。

「…クレヨン?大丈夫?」
『うい だいじょぶ』

ふと横を見ると、笑顔を絶やさない彼女の瞳が悲し気に揺れた気がする。
尋ねてみても次の瞬間には笑顔を向けられ、書き込んだ文字もこちらを心配させまいとするもの。

245ソレが正しい選択か? ◆ytUSxp038U:2024/10/10(木) 23:20:56 ID:m81FVtx.0
但し内心まで明るいかと言うと違う。

(あると、ずっとおこってないてた……)

一度も言葉を交わしていない。
万丈と話すのを見ただけの相手で、素顔だって晒さなかった。
だけど、彼が抱えているモノには覚えがある。

憤怒、憎悪、嫌悪、絶望。
心に亀裂を生み、悪しき方へと堕ちる感情。
それは何も人間だけが持ち合わせる訳ではない。

愛玩人形として弄ばれ、嫌悪を押し殺した者がいた。
命ある存在とは思えない扱いをされた者がいた。
悪霊を生み出す人の悪意を見て来た者がいた。
料理に愛情を注ぐキッチンを醜悪な争いの場に変えられた者がいた。

現実で多大なストレスを抱え、TOWERに集められたHANOI達。
彼らと同じモノに或人も苛まれ続けている。

(ひとりはかなしくて、いたいよ……)

HANOI達と決定的に違うのは、痛みを和らげてくれる存在の有無。
TOWER内でストレス発散をするだけではない。
根本的な部分で心を癒す誰かが必要なのだ。

HANOIが何に強く苦しんでいるかを理解しようとして。
失言をすれば心から謝罪し、対等の関係を築こうとする。
監察官のような者が傍にいてあげたら、或人を苦しめる痛みも治るのだろうか。

「あのー、そろそろ良いですかい?」
「っ!」

背に声をぶつけられ、弾かれたように振り向く。
身構える彼らが見つめる先には、人の特徴を一つも持ち合わせない生物がいた。
赤い履物の巨大な虫、魔導雑貨商人である。
或人とDIOの戦闘に巻き込まれないように隠れ、もう出ても良い頃だろうと姿を見せたのだ。

「さっきの旦那方はもう行っちまったみたいですが、とりあえず何か買いやすか?」

カタログを開き言う特殊なNPCに、三人は思わず顔を見合わせた。

246ソレが正しい選択か? ◆ytUSxp038U:2024/10/10(木) 23:21:38 ID:m81FVtx.0
【天城カイト@遊☆戯☆王ZEXAL】
[状態]:ダメージ(特大・非常食で少し回復)、肩に傷(応急処置済み)
[装備]:デュエルディスクとデッキ(天城カイト)@遊☆戯☆王ZEXAL、NO.107 銀河眼の時空竜@遊☆戯☆王ZEXAL
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:首輪を外しこの戦いを終わらせる。
1:何だこいつは?
2:首輪を外すための方法を探る。そのためにサンプルとして二人(渡とマヤ)の遺体を探す。
3:ナッシュ警戒、ベクターとあの男(DIO)は要警戒。
4:遊馬ではできないだろう敵の排除。ベクターを優先とする。
5:空条承太郎、安易に信用するべき相手ではなさそうだな。
6:遊馬、お前は無事か?
7:E-4辺りで参加者を探す。
8:不動遊星、あのDホイールとやらを作った男か……
[備考]
※参戦時期は死亡後。
※既存のエクストラデッキの銀河眼エクシーズモンスターは全てありません。
※クローズドラゴンの治癒機能で解毒を行いました。
※時の止まった世界を認識できます。
 但し殆ど動けません。何度も時間停止が起きれば動けるかも?
※ミカン、クレヨン、海馬(アニメ版)、万丈と情報交換してます。

【陽夏木ミカン@まちカドまぞく】
[状態]:精神疲労(大)、精神的動揺、魔法少女モード、呪い&ミカエルの毒無効
[装備]:クロスボウ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2(解毒系のものはなし)
[思考・状況]基本方針:誰も殺さず、元の世界に帰る
1:今度は何!?
2:もしかしてこの決闘企画も、私の呪いのせいで始まったのかしら。
3:彼(カイト)の毒、治って良かった……
4:名簿は……まだ見れないわ。
5:クレヨンと一緒に行動する。腕もどうにかしてあげたい
6:ひょっとして、此処は仮想世界?
7:呪いがないのはいいことだけど……
8:E-4を中心に人を探す。
[備考]
※参戦時期は、原作49話(アニメでは2丁目11話)で呪いが発動し、
 シャミ子・桃と別れた後、かつ再会する前からです。
※名簿は見ていません。
※クレヨンとの会話からこの舞台が仮想世界TOWERの可能性を考えています。
※銀河眼の時空竜の効果でウガルルの呪いが無効になってます。
 何かしらの手段で無効効果がなくなった瞬間、或いは第一放送時に戻ります。
※カイト、クレヨン、海馬(アニメ版)、万丈と情報交換してます。
 DIOの時を止める能力も把握してます。

【クレヨン@TOWER of HANOI】
[状態]:左腕粉砕(修復は困難)、右腕損壊(使用自体可能)、ダメージ(大)、MP消費(小)
[装備]:
[道具]:基本支給品(紙とピンク色のクレヨン含む)、ランダム支給品×1〜3(解毒系のものはなし)、壊れた左腕の残骸
[思考・状況]基本方針:ミカンを ニコニコ えがおに したい!
1:おっきいむしさん!
2:けっとう?イヤ!
3:ここ タワー?
4:せんとってひと うで なおせる?
5:おはなし むずかしい!
[備考]
※参戦時期は後続書き手さんにお任せします。
※コーラルとの親密度はB以下です。
※戦闘補正があるため戦闘能力はTOWER世界と同等です。
 ナイフ等のTOWERでの技で使う武器や道具を任意で生成できます。
 ただし出せる技の範疇の武器のみで、生成する際にMPを消費します。
 作成できるナイフの種類はクレヨンが所持しているナイフに変更されます。
 ない場合は原作の『ペーパーナイフ』がデフォルトになります(攻撃力微増)
※銀河眼の時空竜の効果でティアドロップ、ラッキーカードが使えません。
 何かしらの手段で無効効果がなくなった瞬間、或いは六時間後に戻ります。
※カイト、ミカン、海馬(アニメ版)、万丈と情報交換してます。
 DIOの時を止める能力も把握してます。

247ソレが正しい選択か? ◆ytUSxp038U:2024/10/10(木) 23:23:04 ID:m81FVtx.0
【万丈龍我@仮面ライダービルド】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、運転中
[装備]:龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎、遊星のDホイール@遊戯王5D's
[道具]:基本支給品一式、フルボトルバスター@仮面ライダービルド、クローズドラゴン@仮面ライダービルド、火炎剣烈火&聖剣ソードライバー@仮面ライダーセイバー、ガトリングフルボトル@仮面ライダービルド
[思考・状況]
基本方針:主催の奴ら全員倒して殺し合いを潰す。
1:或人を追い掛ける。急いで見付けねえとヤバいだろ
2:遊戯って奴が心配。
3:檀黎斗はもう絶対に許さねぇ
4:戦兎ならクレヨンの腕も直せる筈だ
5:戦兎、玄さん、カズミン、絶対生きてろよ、永夢もな
6:エボルト、滅、DIOを警戒、特にエボルトは一度共闘したからって信用出来るわけねぇ
7:爆発頭野郎(パラダイスキング)は次に会ったら絶対に倒す。
8:他にも仮面ライダーがいるのか知りてぇな
9:俺のフルボトル(ドラゴンフルボトル)はどこいったんだ?出来たら知りてぇな
[備考]
※参戦時期は『ビルド NEW WORLD 仮面ライダークローズ』以降。

※万丈がどの方角へ向かったかは後続の書き手に任せます。
また或人やDIOの正確な位置を把握していない為、同じ方へ向かったとは限りません。

【かんしゃく紙@ドラえもん】
22世紀のひみつ道具の一つ。
ちぎって丸めてぶつけたり、紙そのものに衝撃を与えるとかんしゃく玉のように破裂して驚かす。

【神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)@Fate/Grand Order】
ライダーのサーヴァント、イスカンダルが所有する二匹の神獣『飛蹄雷牛(ゴッド・ブル)』が牽引する戦車型宝具。
地面だけでなく、空までも自らの領域として駆け抜けることが可能。
神牛の踏みしめた跡にはどこであれ雷が迸る。
イスカンダルはキュプリオトの剣を振るい自在に召喚するが、今回剣は支給されなかった。

【遊星のDホイール@遊戯王5D's】
デュエルディスクの発展系であるオートバイ型のデュエルマシン。
本体の他にバイザーに場のモンスターのステータスが表示されるヘルメットと、デッキホルダー及び手札ホルダーを備え左腕に装備するデバイスで構成される。
デュエルが開始されると自動操縦(オートパイロット)に切り替わるが、手動操縦(マニュアルモード)のままにすることも可能。
不動遊星はサテライトに捨てられたジャンクパーツを使い、仲間と共に自作した。
名称は遊星号。

248 ◆ytUSxp038U:2024/10/10(木) 23:23:26 ID:m81FVtx.0
投下終了です

249 ◆QUsdteUiKY:2024/10/21(月) 00:39:05 ID:rR.sf6O60
投下します

250凛と咲く花のように強く美しいナルシスト ◆QUsdteUiKY:2024/10/21(月) 00:40:57 ID:rR.sf6O60
尊とユキは、新たな仲間を探すために探索していた。
 なかなか参加者と遭遇出来ないが、その分だけNPCを打ち倒し、尊はパンチホッパーとしての力を着実に身に着けていた。

「それにしてもこのアイテム、どうして表裏で色が違うんだ?」

 尊は影山がそうしていたように、灰色の側を表にしてパンチホッパーに変身している。
 じゃあどうして、もう片方は緑色なのか。
 まあそういう道具だと片付けでも良いのだが、何かが引っ掛かる。NPCの蛹ワームを倒した尊は、変身解除して緑色の側を見る。

「それは、何か特殊なギミックがあるアイテムなんじゃないか?」

 蛹ワームの大群を倒したいて気配に気付かなかったが……いつの間にか居た黒の剣士が声を掛ける。
 他に居たのはI♡人類とかいう悪ふざけみたいな黄色の服を着た男と――

「これが新しい仲間か?空よ」

「ばんなそかな!?」

 何故か日本語を喋るよくわからない物体に、しかもNPCのような蝙蝠のモンスターまでいる。

「安心してくれ、こいつらはNPCじゃない」

 空はリリスとキバットがNPCじゃないと口にした。
 ユキはこの手の類のモンスターには慣れてるから何も思わなかったが、尊は少し考える。
 本当にNPCじゃないとしたらこの理由のわからない生き物達はなんなのか、と。
 しかし攻撃してくる様子はない。いきなり喋りだしたことは驚いたが……

「……ハ・デスが言っていたな。この世には無数の世界があるって……事実、この道具や仮面ライダーという言葉を僕は知らない。そいつらも僕とは違う世界の住人ということか」
 
「ボクとタカノリくんも全然違う世界だもんね。ボクの世界にはこういう魔物も普通にいるよ♪」

「そういうことだ。しかもこいつらは支給品として渡された。参加者でも、NPCでもない特殊な存在だ」

空の言葉に尊は驚くが、影山が託したホッパーゼクターも意思のようなものがある。
 そういう支給品も、存在することを認めざるを得ない。

「とりあえず自己紹介から始めないか?俺はキリト。……過去にデスゲームに巻き込まれて、クリアした経験がある」

「何!?過去にもこんなことが起こっていたのか!?」

251凛と咲く花のように強く美しいナルシスト ◆QUsdteUiKY:2024/10/21(月) 00:43:01 ID:rR.sf6O60
「ああ。あの時は仮想世界だったけどな。……まあ今回はリアルっぱいのに俺が何故かリアルじゃなくてアバターで巻き込まれてるから、以前以上にイレギュラーだ」

「ちなみにボクは初めてだよ」

「僕もだ。海斗ならともかく、僕はこんな殺し合いに巻き込まれることをした覚えはない」

「俺も初めてだな。というか、キリト以外は全員初めてだ。……ところでその海斗って奴はどういう奴なんだ?」

「忌々しい問題児で、僕たちボディーガードの恥だ。……まあたまに頼りになることもあるがな」

 その話を聞いて、空は海斗と尊の大まかな関係性を把握した。
 口では悪態ついてるし、実際に犬猿の仲なのだろうがその実力は認めているといった感じか

「その海斗は駆紋戒斗か?天城カイトか?」
「朝霧海斗だ。この殺し合いの名簿には載ってない。あいつのことだから、巻き込まれてると思ったんだけどな。ちなみに僕の知り合いは名簿に一切書かれてない」

「ボクはヴァイスフリューゲルの仲間……モニカ、ニノン、クウカが巻き込まれてるよ。あとは……見せしめに殺されたアユミだね……」

 ユキの声は、少し寂しそうだった。
 大切な仲間を失ったのだ。当然だろう。
それに続いて影山まで失い……気丈に振る舞っているが、ユキの精神的なダメージは少なくない。
 それでも今もこうして平静を保てているのは、尊が何かと面白い存在ということや、アユミや影山の意志を継ぐためだ。
 こんなところで、泣いていられない。今でもきっとみんな、必死に抗ってるはずだ。今、目の前にいる尊がそうであるように。

「そうか……。それは辛かったな……」

 キリトが同情気味に口にする。
 サチとユージオ。
 自分にもっと力があれば助けられた大切な人を二度も失ってるキリトには、ユキの気持ちがよくわかる。

 仲間が居ると言えば聞こえは良いし頼もしく感じることもあるが……こういうこともある。
 アンダーワールドを救えたのは、ユージオのおかげだ。それは間違いない。
 だからといって、ユージオを失ったことを悔いてないといえば、嘘になる。

 きっとこの少女にも、これから色々と辛い出来事が起きるのだろうと思う。……実際は男だが、まだキリトは気付いてないゆえに少女だと誤認している。
 もしかしたら――アスナ達が巻き込まれなかったのは、運が良かったかもしれない。
 アスナ達が居ればそれほど頼もしいことはないが、彼女達を殺されたくはないから。

 (そんなふうに考える俺は、自己中なのかもな……)

 大切な仲間が巻き込まれてる少女を見て、まだ自分は運が良い方だと思った。
 ……同時に、そんなことを考えてしまう自分が最低だとも。

 もしかしたら――こうしている間にも、少女の仲間が誰かに襲われてるかもしれない。殺されてるかもしれない。
 そんな少女になんて声を掛ければ良いかわからなくて――

「顔色が悪いぞ、キリト」

 そんなキリトに空が声を掛ける。
 ユキの声色から、彼女(実際は男だがそこまで流石の空でも見破れなかった)が悲しみを滲ませてるのはわかる。
 そしてキリトは二度目のデスゲームに巻き込まれた――謂わばリピーターだ。
 一度目のデスゲームで、様々な仲間の命を散らしてきたことは簡単に想像出来る。
 キリトはその背中に、とてつもなく重いものを背負っているのだ。

252凛と咲く花のように強く美しいナルシスト ◆QUsdteUiKY:2024/10/21(月) 00:43:46 ID:rR.sf6O60
それは空にはどうしようもない出来事で。
 でも空黒になり、相棒になったからこそ――放ってはおけない。空はなんだかんだ、優しい人間だ。
 だが、この状況をどうしたら打開出来る――

「自己紹介の途中だったよね。ボクの名前はユキ。よろしくね♪」

 ユキは、どこまでも気丈に振る舞っていた。
 その姿があまりにも辛くて尊も、キリトも、空も――皆がユキを心配している。

 だが――ユキとそれなりに付き合いが長い――といっても数時間だが、そんな尊だからわかることがある。
 ユキが気丈に振る舞ってるのだ。きっと悲しいに違いないのに。自分だって麗華や彩、それに薫や侑祈を失えば悲しい。……そこには海斗すら含まれている。

 それでもユキは気丈に振る舞ってる。普段通りの振る舞いで――それはまるで気高く咲く可憐な花だ。
 ならば尊がすることはもう決まっている。

「僕は宮川尊徳だ。このナルシストとは数時間前にあった」

「タカノリくんの方がナルシストだよ。ボクはほら……鏡を見ればそこには美少女が写ってるよ♪」

「そういう奴をナルシストというんだ。だいたい僕はエリートだぞ」

「証拠はあるの?♪」

「僕の世界のエリートだからな。証拠はない。だが僕は優秀なボディーガードとして暮らしてきたぞ」

 ――そんなふうに軽口を叩きあって、ユキの気持ちを癒してやる。
 ただただ悲しんだり、無理して気丈に振る舞わせるよりは気が晴れると思ったから。
 その軽口の応酬は、まるで海斗と話しているようで自然と尊の心も落ち着く。……こんな場面であの男を思い出すのは、少し癪だが。

 そして気が付けば自然とユキは本来の調子を取り戻していた。

「仲が良さそうで、なによりだな」

 二人の掛け合いを見て、微笑むキリト。
 空すらも打開出来ない状況を――ユキの笑顔を尊は守った。そういう意味では、たしかに尊はボディーガードとして優秀なのかもしれない。精神的な意味で。

「誰がこんなナルシストと仲が良いものか」

 もっとも尊がこういう漫才染みた掛け合いが出来るようになったのは、海斗のおかげなのだが。

「とりあえずこれからもボクのボディーガードを頼むよ、タカノリくん♪」

「僕はこんなナルシストのボディーガードなんて嫌なんだけどな……」

 なんていうのも嘘で。

「でもなんだかんだ守ってくれるじゃん♪」

「それは、影山に託されたからだ。まあ僕はエリートだから貴様のようなナルシストを守ることくい、造作もないがな」
 
 ユキは麗華ほどじゃないが美しいのは事実。
 それに影山に託されたのだ。守らないわけには、いかないだろう。

「そっか♪ヴァイスフリューゲルのみんなに会ったら、タカノリくんやキリトくん、ソラくんのことも紹介しないとね♪」

 ユキは本調子を取り戻しつつある。
 しかし彼は知らない。既にヴァイスフリューゲルの一人、ニノンが戦死したことを。

 (ギルドメンバーに紹介する、か……)

 キリトは思う。
 きっとユキはヴァイスフリューゲルのメンバーを心から信用しているのだろう、と。
 だがそんな心強い仲間でも、死ぬ時は死ぬ。それはユージオが死んだ時、嫌というほど思い知った

 だからユキにはそんな思いはさせたくないけど――デスゲームはそう甘くない。
 それをキリトは重々理解しているし、空もキリトの顔色を見て察した

「よし。じゃあまずはそのヴァイスフリューゲルのメンバーを優先的に探そうぜ。俺も、キリトも、尊徳も仲良いやつがいないならユキの仲間探しだ。それにヴァイスフリューゲルは戦力にもなるんだろ?ユキ」

 この状況でも生きてる可能性がある――それはある程度の戦力があるからだろうと空は予想する。

253凛と咲く花のように強く美しいナルシスト ◆QUsdteUiKY:2024/10/21(月) 00:44:17 ID:rR.sf6O60

「うん、みんな強いよ♪」

 予想的中
 ユキのメンタルのためにも、戦力探しにもヴァイスフリューゲルを探すのが優先される。
 それにユキのこの信用からして、きっと悪人じゃないはずだ。殺し合いに積極的じゃない――思いたい。

 兎にも角にも会ってみなきゃわからないことだが。
 とりあえず話し合いがひとまず終わる。
 影山と呼ばれていた男のことも聞きたいが、いきなり質問攻めされるのは相手が困るだろうし尊やユキのメンタルにも関わる。
 おそらく影山という人物は死んでいて、尊に託したからだ。
 影山に託されたと話した時に、尊の語気が僅かに弱まっていたのを空は見逃さない。

 とりあえずユキと尊のメンタル回復も、多少は必要だろう。特にユキは二人も死んでるし、更にヴァイスフリューゲルから死人が出てる可能性もある。

 さぁ――と風がユキの髪を揺らす。

「……だがそのヴァイスフリューゲルから死人が出でてなければ良いがな……」

「大丈夫だよ、タカノリくん。ヴァイスフリューゲルの人たちはみんな強いから」

 尊もユキも――キリトや空すらも知らない。
 ヴァイスフリューゲルの天真爛漫な少女、ニノンが死んだことを。

 しかしこの後、いずれか否が応でも知ることになるだろう――。

「そういえば、空。ホッパーゼクターのギミックってなんだ?」

「俺もあまり知らないけど……ちょっと変身してくれないか」

 緑色の側を表にして変身させると、尊はキックホッパーに変身していた。

「まあ性能の差は俺にもわからないけどな」

「そうか。まあ良い、影山は灰色の方を表にして変身してたんだ。僕も出来る限りそうする」

 ――それは尊なりの影山に対する敬意を評してのことだった。
 その言葉に誰も反対することなく、尊はこれからも影山の意志を継ぎパンチホッパーとして戦い続ける。

254凛と咲く花のように強く美しいナルシスト ◆QUsdteUiKY:2024/10/21(月) 00:44:28 ID:rR.sf6O60
【一日目/早朝/C-8】
【宮川尊徳@暁の護衛 トリニティ】
[状態]:健康
[装備]: ホッパーゼクター&ZECTバックル@仮面ライダーカブト
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜5
[思考・状況]基本方針:僕たちがゲームマスターを倒す!
1:ユキと一緒に影山とアユミの仇を取る
2:影山……お前の意志は僕が引き継ぐ
3:ヴァイスフリューゲルのメンバーを優先的に探す
[備考]
※パンチホッパーとしての戦い方がわかりました

【ユキ@プリンセスコネクトRe:Dive】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]基本方針:ボクの美しさをクロトやハ・デスにも知らしめてあげる
1:タカノリくんはボクが応援してあげるよ ♪
2:みんなは大丈夫だよね
3:アユミ……
4:ヴァイスフリューゲルのメンバーを優先的に探す
[備考]

【キリト@ソードアート・オンライン(アニメ版) 】
[状態]:疲労(小)
[装備]:カゲミツG4@ソードアート・オンライン、ごせん像@まちカドまぞく
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1(確認済み)
[思考・状況]基本方針:ハ・デスと檀黎斗を倒す
1:空と共闘する
2:北東で参加者を捜す。
3:2の後、エルキア大図書館に寄り、調べる。その次にD-6の島を調査する
4:リリスのよりしろ探しを手伝う
5:変なおっさん(肉おじゃ)、PoH、謎の気狂いの変態、念のため美遊の関係者を警戒
6:金髪の男(ポセイドン)、継国縁壱を最大限に警戒
7:ヴァイスフリューゲルのメンバーを優先的に探す
[備考] 
※参戦時期はソードアート・オンライン
アリシゼーション War of Underworld終了後
※遊戯王OCGのルールをだいたい把握しました
※アバターはSAO時代の黒の剣士。
GGOアバターに変身することも出来ます。GGOアバターでは《着弾予測円(バレット・サークル) 》及び《弾道予測線(バレット・ライン) 》が視認可能。
その他のアバターに変身するためには、そのアバターに縁の深い武器が必要です。SAOのアバターのみキリトを象徴するものであるためエリュシデータやダークリバルサー無しでも使用出来ます。SAOアバター時以外は二刀流スキルを発揮出来ません。これらのことはキリトに説明書に記されており、本人も把握済みです。
※主催陣営はSAO事件を参考にしたと推測しています。
※空と空黒というコンビ名を結成しました。

【空@ノーゲーム・ノーライフ(アニメ版) 】
[状態]:健康
[装備]:デュエルディスクとデッキ(蟲惑魔)@遊戯王OCG、キバットバット三世@仮面ライダーキバ
[道具]:基本支給品、高級木材のモーターボート@現実、首輪×2(御伽、遠野)
[思考・状況]基本:ハ・デスと檀黎斗を倒す。あまり人類ナメるんじゃねぇ
1:キリトと共闘する
2:北東で参加者を捜す
3:2の後、エルキア大図書館に寄り、調べる。二手に別れるかは人数と戦力状況による。その次にD-6の島を調査する
4:主催者と関係ある人物と接触する
5:リリスのよりしろ探しを手伝う。それに大きくする道具はあるか?
6:渡の殺害の件がきな臭い。士とレイに接触し、当時の状況の詳細を聞き出す
7:変なおっさん(肉おじゃ)、PoH、謎の気狂いの変態、念のため美遊の関係者を警戒
8:金髪の男(ポセイドン)、継国縁壱を最大限に警戒
9:ヴァイスフリューゲルのメンバーを優先的に探す
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後
※遊戯王OCGのルール及び蟲惑魔デッキの回し方を把握しました
※主催陣営はSAO事件を参考にしたと推測しています。
※キリトと空黒というコンビ名を結成しました。

【リリス@まちカドまぞく】
[状態]:正常
[思考・状況]基本:全員で生きて脱出
1:空とキリトと行動を共にする
2:吉田一家を優先に捜す
3:小倉を見つけたら、等身大のよりしろを作って貰いたい
4:桃とミカンの合流は後回し。合流したら挨拶はする
5:よりしろを見つけ出す
6:ヴァイスフリューゲルのメンバーを優先的に探す
[備考]
※参戦時期は4巻(アニメ2期)終了後
※他者との肉体を入れ替える能力と他人の夢に入る能力は制限対象で黎斗によって不可にされています。
※黎斗によってよりしろで活動出来る時間は10分に制限されていて、二時間経過しないと活動出来ません。等身大よりしろも同様です。
※よりしろ状態でも並行世界――きららファンタジアで手にした力を引き出すことは可能とします。ただし、少なくともキリトの支給品にきらファンでのリリスの専用武器はありません

255 ◆QUsdteUiKY:2024/10/21(月) 00:45:16 ID:rR.sf6O60
投下終了です

256輝望道 ◆EPyDv9DKJs:2024/11/05(火) 21:48:50 ID:YHkTpgY.0
投下します

257輝望道 ◆EPyDv9DKJs:2024/11/05(火) 21:50:30 ID:YHkTpgY.0
 西か南か。
 どちらが正解の道なのか。
 確率は二分の一。選んだ結論としては、

「俺は南がいいと思うぜ?
 寒さと雪で足元掬われちまう場所を、
 殺し合いに乗ってない奴が優先するとは思えねえ。」

 ベクターが最初に提案し、その方角は南だ。
 逃げるならやはり平地。体力も消耗しやすい雪原で、
 長居するような参加者はあまりいないだろう。
 無論、その裏をかいてあえて居座る参加者や、
 スタート地点がそこだから居座る可能性もなきにしも非ずだが。

「ええ、真月さんの言う通りです。
 我々は敵味方どちらと出会っても構わない状況にあるのが一番の強みですから。」

 オーバーロード、仮面ライダー、デュエルモンスターズ。
 他の勢力がどの程度かは知らないが、このチームは少なからず力がある方だ。
 このまま勢力を拡大させるにしても、殺し合いを加速させる敵に出会っても、
 どちらであったとしても困ることではない面子というのは大きな強みでもある。

「それともう一つ理由が。」

「何だ?」

「月君が南にいるかもしれない、と言うことです。」

「根拠はあるんだろうな。」

「私が北にいるからです。」

 デスノートの時にも話したことだが、
 名前と名簿がわかるようなものを持った参加者と、
 本物のデスノートを持った参加者を近くに配置するとは思えない。
 月とLも同じと仮定し、南の方角の方に彼がいる可能性がある。
 月がLをどのような人物として吹聴するかは定かではないが、
 月の息がかかった勢力とLの息がかかった勢力のぶつかり合い。
 確率は低いにしてもそういうことはありえるかもしれないことだ。
 それに月も自分たち同様中央のエリアを目指す可能性は十分にある。
 そういう意味も含めて、南へと直進していくのがいいと判断していた。

「根拠に欠けるが、まあ勢力同士のぶつかり合いってのは、
 ゲームを重んじてる主催者の連中からしたら一つのイベントかもな。」

 名探偵と殺人鬼の勢力同士のぶつかり合い。
 話し合いで終わるかもしれないがイベントとしては盛り上がる要因だろう。
 北のL陣営と南の月陣営。ある種のSLGの類のようにも思える。

「では移動先も決めたことですし、
 真月さん、首輪の回収をしておきましょう。
 幸か不幸か、此処にはサンプルが大量にありますから。」

「ホープでやれってか? あんまり気乗りしねえんだがな……」

 曲がりなりにもこれは遊馬のカード。
 言うなれば不殺の象徴ともいえるカードだろう。
 それで首を斬り落とすというのは少々憚られるが、
 今すぐ切れ味のいいモンスターを探せと言われて探すには、
 時間がかかるということも相まってやむを得ずホープを召喚する。

「ところでなんで今になってサンプル確保なんだ? さっきの二人は回収しなかったじゃねえか。」

 さっきの二人と言うのは、麻耶と牛尾のことだ。
 先の二人も別に首輪の回収をすればよかったのに、
 今になって首輪を回収することにベクターは疑問を持つ。

「死体を見つける為ローラー作戦をやってかなり目立ちましたからね。
 槍の男が近くにいる可能性を考慮して早めに切り上げたかったんですよ。
 あの男を相手に今の戦力で挑むのは少々不安が拭えないのは事実ですから。」

 こうして歩いて今まで出会ってないということは、
 周辺に件の相手はいないということが伺える。
 ただ、流石に死体が四人もいては流石に予想外な出来事だったが。

「探偵様の考えることは違うねぇ。
 まあ態々映像で流されるぐらいの奴だ。
 一筋縄じゃあいかねえってのは予想がつく。」

 着物の男(縁壱)と同じように、
 いわゆるボスキャラクターのポジションのはずだ。
 あれらを相手するのに、万全の状態で挑むのがベストなのは理解できる。

「で、お前は何をしている?」

 ホープが丁寧に首を切断してる最中、
 ベクターは二つのデッキのカードを交互に見合う。
 その中からカードを抜いたり入れたりとしている。

「見りゃ分かんだろ。デッキ改造だ。
 俺に遊星のデッキは扱えねえからな。
 牛尾のデッキに使えそうなのを混ぜ込んでんだよ。」

258輝望道 ◆EPyDv9DKJs:2024/11/05(火) 21:51:20 ID:YHkTpgY.0
 牛尾のデッキはエースカードの一枚となるゴヨウ・ガーディアンを使用する場合は、
 レベル4+レベル2のチューナーを用いて召喚するパターンが多いデッキでもある。
 レベル4モンスター自体は遊星の方が多いもののホープを使用するのであれば、
 こちらを使用していく方が安定性が取れると判断して勝手ながら改造している。
 シンクロ召喚に慣れてないベクターにとってはコンボ性よりも安定性を重視していく。

「シンクロモンスター専用のカードはなるべく避けて……」

「ああ、そういえば真月さん。これを渡しておきます。」

 作業の合間にLは一枚のカードを渡す。
 裏面がデュエルモンスターズなのは分かる。
 しかしそれをめくった後ベクターの表情は真顔となった。

「……マジか。」

 予想だにしてないカードを渡されたのもあるが、
 使うことができないわけではないのと、シンクロより性に合うカードだ。
 そのカードの強み自体は知ってはいるので、ありがたくデッキに入れることにした。

 そうやってベクターがデッキの試行錯誤してる間に首輪は回収。
 一見するとどう見ても普通の機械の首輪にしか見えないが、
 少なくとも人の首を分離できる程度の威力はあるらしい。
 いや、厳密には参加者に平等に同じ威力とも限らないとLは考える。
 ロード・バロンの力はすさまじい。あくまで耐久の確認のためにと、
 変身して戒斗に切りかかったが傷などろくにつけられないままに終わった。
 当然、人間の首を破壊する程度の威力の爆弾ではすまされないのは分かっている。
 ザックが仕掛けたときのように人間状態なら確かに分からないでもないことではあるが、
 とてもこれだけで殺せるとはいいがたい要素ともいえるだろう。
 オーバーロードのデェムシュだってそうだ。最初に倒されたとはいえ、
 イコール弱かったというわけではない。数々のアーマードライダーを前にしても、
 圧倒するその頑強さを考えると人によって首輪の爆破、或いは殺し方は違う可能性は高い。

「ま、こういっちゃなんだがその辺は俺でも予想できるな。」

「でしょうね。人間とオーバーロードとバリアン。
 人種の違いの時点でこれぐらいは誰でも思いつくかと。
 ですが言い換えればこれもまた武器になりえるということです。」

 人の首を斬り落として拝借して、
 それを武器にするとは常人には発想できないことだろう。
 それがこの中で唯一の人間であるLが発言したことで、
 中々の悍ましい発言にベクターは僅かに顔を顰める。
 確かに仮にオーバーロードを殺せる首輪をぶつければ、
 大概の参加者を殺すことは可能なのかもしれない。

「まあ、対象が死亡したら爆発しないと言う可能性もあるので過信はできませんが。」

「貴重なサンプルだ。本当に最終手段として使うべきものだ。」

「分かってます。首輪の回収も終わりました。
 あとはこの手の知識に詳しい参加者を探すだけですね。」

 首の切除、首輪の回収、デッキの改造も一通り終わりとなり、南へと歩を進める三人。
 これまで死者としか出会えていなかったので、いい加減生者と出会いたいと望むが、

「全員構えろ!!」

 戒斗の叫びが全員の脳に警鐘を響かせる。
 Lはロックシードをドライバーにはめ、ベクターはデッキからカードを引く。
 普段静かな彼が急に叫ぶほどの相手となれば。それは一人しかいない。
 眼前に捉えるのは深紅の鎧の怪物。聞き及んでいたオーバーロード、デェムシュだと。

「貴様はいツカの猿だっタな。」

 先ほどドラゴンフルーツエナジーロックシードを食べることになった原因。
 それと間もなく相対することになることは、デェムシュも予想はしていなかった。
 結芽がつけた傷が目立っており少なからずダメージを受けてるように見受けられるが、
 雰囲気は嘗ての時とは違う。何かしらの力を得て強くなっているのだと戒斗は察する。

「猿、か。だがこれを見ても貴様はそう言えるのか。」

 両手を広げて人の姿からロード・バロンへと変身する戒斗。
 彼がオーバーロードになれることを知らないのもあり、多少の関心を抱く。
 地球人など下等な猿としか思ってない彼からすれば大躍進した存在ともいえる。

「貴様もオーバーロードに至っタカ。
 ダガいくらオーバーロードにナロうと地球人、猿であるコとには変わらん!」

 だからと言って地球人に敬意など持つはずがない。
 最も強く、最も愚かであるフェムシンムの生き残り。それがデェムシュだ。
 故に同胞だとか身内だとかと喜ぶ気などなく、寧ろ憤りすら感じている。
 自分達の領域に地球人如きが踏み入ることなど、あってはならないと。
 それはある意味、戦極凌馬のプライドに近しいものがあった。
 戒斗からすればつまらんプライドに過ぎないが。
 憤りながらデェムシュはシェイムを手に肉薄する。

「何!?」

259輝望道 ◆EPyDv9DKJs:2024/11/05(火) 21:52:51 ID:YHkTpgY.0
「げ、俺かよ!?」

 しかし狙いは戒斗ではなく、ベクターだった。
 怒りの矛先から戒斗を狙うものだと思ってたのもあり、
 支給品の中から漆黒の剣を取り出したが標的は別で一歩遅れを取る。
 ベクターもドローしたばかりで壁モンスターすら出すことができない。
 首を刈り取られる前にモンスターを召喚しようとするも間に合わず、、
 Lが変身したバロンの得物であるバナスピアーがかろうじて防ぐ。

「グッ……!」

 とは言え相手はダメージが大きく消耗していてもオーバーロード、
 しかも強化されている状態なので並のアーマードライダーでは耐えきれない。
 受け止めても衝撃で吹き飛ばされ、後方にいたベクターを巻き添えにしながら大地を転がっていく。
 一手遅れた戒斗がデイバックから引き抜いた漆黒の剣、夜空の剣をを背後から斬りつける。
 それを勢いをつけるように体を捻り、鍔迫り合いへと持ち込む。

「貴様、俺と戦うのではなかったのか!」

「ソの前に邪魔な猿を蹴散らスだけダ。特にあの猿はナ!」

 戒斗の一撃を押しのけると、今度は主霊石を使い無数の氷柱が地面から隆起。
 そのまま二人へと襲い掛かるが、双方何とか横へ転がる形でかろうじて回避する。

「おい! こいつはカードのことを知ってやがる! 距離をとれ!」

 露骨にベクターばかりを狙っている行動。
 明らかにデュエルモンスターズが何かを理解している。
 同時にそれがどれほどの利便性かもわかってるとみていい。
 こうなってはベクター達が足枷にしかならなくなってしまう。
 ベクターへ集中させないように夜空の剣を振るい剣戟へと持ち込む。
 ギガスシダーを素材に作られた剣はすさまじい硬度を持っており、
 シェイムとの剣戟にも十分耐えられる代物となっている。

「大丈夫ですか?」

「これぐらいなら何とかな……で、
 距離をとれつってもあっちに倒れてる奴を助けねえとやべえぞ。」

「オトーサン……オトーサン……」

 デェムシュが連れていた参加者と思しき人物。
 左耳を失っており、少なくとも無事であるとはいいがたい。
 早急に手当てぐらいはしておくべきだとベクターが向かおうとするが、
 遮るように氷柱を飛び越えて彼を足止めするようにLが立つ。

「おいおい、何の真似だよ?」

「理由は簡単に二つ。一つは台詞が棒読みで演技臭いこと。
 もう一つはデェムシュでしたか。彼がなぜ人間を生かして連れているかです。」

 デェムシュは好戦的な正確なことは知っている。
 だったら参加者を生かしておく理由などどこにもない。
 では人質の為……そうLも最初は考えたがすぐに否定された。
 当のデェムシュが人質としての利用価値を見出していないからだ。
 今や氷柱を隔てた向こうで戒斗と人間離れした剣戟で周囲を荒らす威力を放っている。
 とても人質として扱ってる様子はなく、この状況に違和感しかなかった。

「少しだけ落ち着きましょう。真月さんならモンスターでも救出可能なはずです。」

「……どっかのかっとビングにあてられ過ぎたな。」

 あいつだったらあれが敵だとしても放っておかなかっただろう。
 けれど自分は良かれと思ってと場をかき乱す真月ではなくベクターだ。
 回りくどいレベルの入念に計画してことに出る。そういう男だろうと。
 言われればそうだ。なぜ相手は生きたままこうしてここにいるのかが謎だ。
 一方で人間を見下してるはずのオーバーロードが人間を利用しているのは、
 聊か戒斗から伝えられた人柄と違って違和感を持たざるを得ないのだが。
 念のためモンスターを適当にセットしながら様子をうかがっていると、

「う、うわあああああ!!」

 流れる血のせいか、向けられているデェムシュの圧のせいか。
 痛み、恐怖、死といったものからへの逃避するためのありふれた生存本能。

『シャバドゥビタッチヘンシーン』

『チェンジ ナウ』

260輝望道 ◆EPyDv9DKJs:2024/11/05(火) 21:53:46 ID:YHkTpgY.0
 それがMNRを突き動かし、しびれを切らした彼は襲い掛かるように置き上がり変身。
 仮面ライダーワイズマンへと変身しながらハーメルケインを振るい、二人へ襲い掛かる。
 被害者の振りをするようにデェムシュには言われたものの、時間と我慢の限界だった。
 同じオーバーロードでも狡猾なレディエであればよりよい利用できたのかもしれないが、
 怒り心頭であったデェムシュではこれぐらいの策を考えるのが限界でもあった。
 遮るようにバナスピアーで防ぐものの、こちらもまた重い一撃で後ずさりをするL。
 元々ワイズマンはウィザードの最終フォームとも呼べるインフェニティースタイルにも太刀打ちできる。
 マンゴーアームズもゲネシスドライバーもない。ただのバロンでは分が悪くても仕方のないことだ。

「悪いがそのまま時間を稼げよ! ジャンク・シンクロンを召喚!」

 何とか時間を稼いでる間にリコイルスターターを背中につけた、
 オレンジ色の小柄なモンスターが召喚されて。更に横にはジュッテ・ナイトも反転召喚される。

(ジャンク・スピーダーってやつは強いのは分かっている! これで手数を増やして援護を……)

 遊星のデッキは複雑で扱いづらくはあるが、
 パワーカードであるカードにはいくつか目をつけている。
 その中でもジャンク・スピーダーは攻守どちらにおいても役立つ、
 召喚するだけでデッキから大量のモンスターを呼び寄せることができる。
 召喚制限はかけられるが、少なくともシンクロ召喚に疎いベクターでも強いと認識できるカード。
 故に改造したデッキにもカードは入れてデッキに入れており、

「レベル3、ジャンク・シンクロンにレベル2、ジュッテ・ナイトをチューニング!」

『ERROR』

「……は?」

 出てきた答えはまさかの召喚できないに変な声が飛び出す。
 シンクロ召喚という概念は彼のいた世界には存在しなかったので、
 疎い以上知らない基本的なルールが存在していることも理解してない。

「真月さん、チューナー同士では基本的にですがシンクロ召喚できません!」

「な、まじかよおい!?」

 何とか躱すなど凌いでいるLが、困惑するベクターへと回答を促す。
 あらかじめデュエルのアプリで細かく理解していたのもあり、
 シンクロ召喚という概念に対しては彼の方が造詣が深かった。
 一部の例外を除き、シンクロ召喚はチューナーとチューナー『以外』のモンスターを使う。
 今フィールド上に存在しているのはどちらもチューナーモンスター。
 この条件で出すことのできるシンクロモンスターは今のデッキには存在しない。

 プレイングミスの間も時間は過ぎていく。
 立ち回りも何もあったものではないハーメルケインの連撃だが、
 初めて仮面ライダーになったLなのも相まって押されている。

「なら反撃の時間稼ぎだ。ジュッテ・ナイトの効果発動! 白い仮面ライダーを守備表示に変更する!」

 しょうもないことでミスしやがったなと、反省しつつも援護をしていく。
 強制的に攻撃を中断させられるように動作が停止させられ、
 バナスピアーの一突きで軽く突き飛ばされるMNR。
 一撃は通ったものの、スペック差は埋めようがないこと。
 ダメージも耳を失ったことと比べればずっと軽微なダメージだ。

「ついでにカードをセットして、ワンショット・ブースターを特殊召喚!」

 続けざまに展開される頭部にシグナルをつけた黄色の機械が姿を現す。
 通常召喚に成功したターンに手札から特殊召喚することが可能なモンスターで、
 今度はチューナーではないことを確認してから行動に移す。

「シンクロ召喚ってのはつまりこういうことだな!
 レベル3のジャンク・シンクロンにレベル1のワンショット・ブースターをチューニング!」

 起き上がろうとするMNRを踏みつけて動きを封じるつもりだったが、
 横へ転がる形で回避されてしまいバナスピアーで続けて攻撃を狙う。
 身体能力は決して低くはないLではあるものの、本気の殺し合いの経験は浅い。
 MNRにも言えることではあるが、先の照や桃との交戦で経験値がないわけではないし、ま、多少はね?
 だから仮面ライダーのスペックもあるが、L以上に人を殺すことに対してのブレーキがないのだ。、
 この舞台に来る以前からブレーキなどないのだから、それも差を少なからず埋められないものにしていた。

「チッ、使えン猿め。」

 まだ一人も仕留めきれてないとは、
 はなから人間程度の存在に期待などしていなかったが、
 あの程度の痛みでは役に立たないということ分かった以上、
 もう片方の耳でも引きちぎってやろうかと考える……暇などなく。

261輝望道 ◆EPyDv9DKJs:2024/11/05(火) 21:54:27 ID:YHkTpgY.0
「よそ見する暇があるのか!」

 植物の蔦が鞭のようにしなやかに襲い掛かる。
 迫りくる蔦を、軒並み水の主霊石で凍らせ動きを止めていく。
 様々な宇宙を巡ってる都合本来なら弱いであろう氷にも耐性はあるが、
 ロックシードを食べたことで強化された氷の力の前では武器として機能しない。
 ついでにその勢いで戒斗の下半身をも凍らせるほどの威力を発揮させる。

「散レ!!」

 連続して放たれる炎の玉。
 それを斬る、打ち消す、あるいは反射能力で次々と返していく。
 しかしドラゴンフルーツのロックシードを得たことで弾速、威力共に上がっており、
 攻撃速度に戒斗追い付かず被弾し、氷を砕きながら吹き飛ばされる。

(やはり反射は都合よく使えないか……!)

 被弾は確かにデェムシュが強化されたのもあるが、
 攻撃を反射する能力に制限がかけられてることに今気づいたのもある。
 考えれば破格の防御能力だ。バランスを考慮されていてもおかしくはない。
 どの程度の制限が科せられてるのか定かではないが、多用は禁物だと自戒する。

「以前よりも強くはなっているようだな……だが!」

 立ち上がり手をかざすと。大地を抉りながら赤い竜巻状のエネルギーを放つ。
 対抗するように水の主霊石を翳し氷塊を飛ばし攻撃を相殺。
 氷は砕きながら周囲へと散弾のように散っていき、ベクター達を襲う。
 ベクターは咄嗟に近くの岩陰へ隠れて難を逃れるものの、
 ほかの二人は仮面ライダーの装甲で被弾こそすれども怯む程度にとどまる。

「クソッ、向こうが派手過ぎてこっちにまで被害出て……」

 岩陰へと隠れたベクターだったが、
 氷塊が被弾して転がってきたMNRと目が合う。
 ワイズマンの顔には目と思しき場所が判断つかないのだが、
 視線が合ったことだけは分かり、ぞわりと悪寒が走った。
 即座にジュッテ・ナイトを壁にしながら岩の上へ立つようにジャンプすると、
 ジュッテ・ナイトごと岩を破壊し、ベクターは足場が崩れる前に近くの大地へと転がる。

「ったく俺のターンぐらいよこせ! アームズ・エイドをシンクロ召喚!」

 ドローする暇すら与えられない激戦区の中、
 やっと赤い爪の腕のような機械を召喚に成功する。
 しかし攻撃力は1800。低くはないが下級モンスター並だ。
 今のMNRを相手するのには力不足であると言わざるを得ない。

「出せるから出してみたが悪くねえな! アームズ・エイドの効果発動!」

 しかしこのカードの本領はそのモンスター効果にある。
 アームズ・エイドにはモンスターに装備カードとして装備することができる効果を持つ。
 装備するモンスターが不在では効果は発動できない。だが此処ではそうはならない。

「ほら、名探偵様にくれてやるよ!」

 MNRの背後よりバナスピアーを振るうLへ、ハーメルケインで弾く。
 隙をさらしたところに続けざまの攻撃を妨害するように飛び交い。攻撃を妨害する。
 そのままLの左腕に装備され、仮面ライダーバロンは新たなステージへと進んでいく。
 仮面ライダーバロンアームズ・エイドと言ったところだろうか。

「鬱陶しいなぁ!」

 MNRもデュエルモンスターズの厄介さを理解した。
 指輪をパームオーサーへ翳し、ベクターの両腕を縛り付けるように鎖が彼を縛り付ける。
 当人を縛るように即座に召喚されるのもあり、回避不可能な理不尽さがバインドリングの強みだ。
 突然縛り付けられたこともあり、身動きがうまく取れずに転倒する。

「少シはやルようダな猿!」

 今こそ好機。
 相殺した攻撃の後剣戟を続けていたデェムシュは、
 攻撃の片手間に主霊石で氷塊をベクターの頭上へと出現させる。

「消え失せろぉ!!」

「げ、しま……」

 逃げようにも腕が縛られてうまく立ち上がれず、逃げに送れるベクター。
 舌打ち交じりに戒斗が剣戟をやめ、飛び蹴りで氷塊を蹴り飛ばしで砕いて破片程度にすませる。
 一命をとりとめることができたものの脅威はまだ続く。そのままデェムシュが肉薄してきたからだ。
 迫るフェイムをアームズ・エイドを装備したLが咄嗟に盾にする形で防ぐが、同時にアームズ・エイドが破壊。
 せっかく装備させてもオーバーロード相手では微々たるものであるということが伺える光景を見ながら、
 その一瞬で稼いだ隙に夜空の剣がバインドのチェーンを断つ。
 仲間を助ける。生前からすれば戒斗らしからぬ行動ではあるが、
 手を組んだ以上見捨てるような真似をするつもりはない、彼なりのプライドだ。

『エクスプロージョン ナウ』

262輝望道 ◆EPyDv9DKJs:2024/11/05(火) 21:55:53 ID:YHkTpgY.0
 だがそのプライドが仇となった瞬間だ。
 三人が集っているところこそ狙い目であり、
 エクスプロージョンリングによる爆発が三者を襲う。
 グレムリンやビーストを一撃で戦闘不能に追い込む魔法だ。
 生身であるベクターが受ければまず死ぬこともあり、Lが突き飛ばす。
 加減したとはいえ仮面ライダーの力で大きく突き飛ばされたベクターは、
 連鎖する爆発に巻き込まれる二人を見て苦虫を嚙み潰したような顔になる。

「クソッ、俺が役に立たねえのがムカついてきやがる……!」

 戒斗一人で戦ってれば多少苦戦はすれども十分に戦えただろう。
 Lがそこに加勢すればMNRの方は苦戦すれどもデェムシュを相手に余裕をもって戦えたはず。
 この中で一番戦力外どころか、足手まといになっているのが自分であることが歯がゆく思う。
 爆発にのまれた二人は吹き飛ばされ、追撃をかけるように水の主霊石の氷柱が弾丸のように倒れる二人へ襲い掛かる。

「させん!」

 再び竜巻状のエネルギーを飛ばし、
 氷柱を吹き飛ばしながらそのまま反撃に出る。
 デェムシュは霧状になって攻撃を回避し、肉薄しつつ元に戻りながらシェイムを振るう。
 夜空の剣の対応は間に合わず、ゲネシスドライバーのアーマードライダーでも傷つかなかった外骨格へ傷をつけ火花を散らす。
 通常だったら叶わなかっただろうが、ロックシードを摂取し強化されたこでダメージが通るようになっていた。

「くそ、奇跡の残照を発動してアームズ・エイド復活だ!」

 二人が作ったこの隙を逃すほどベクターも愚かではない。
 このターン戦闘で破壊され自分の墓地へ送られたモンスター1体を復活させるカード。
 ワイズマンに破壊されたアームズ・エイドを復活させるが、装備はさせず目的は別にある。

「ドロー! ジャンク・サーバントを通常召喚!
 レベル4のジャンク・サーバントとアームズ・エイドでオーバーレイ!」

 ジャンクの名前が付いた通り、
 ガラクタをつぎはぎしたような人型のモンスターが召喚されるが、
 すぐに目的のための素材として光の球となって消滅する。

「猿!」

「わ、分かってるよ……!」

 デェムシュは戒斗との剣戟によって手が出せない。
 相手が何かをしようとしているのはMNRも理解しており、
 威圧的な声にうわずった声と共にエクスプロージョンリングを行使しようとするが、
 遠くにいたLが刀身であるバナキールからバナナ型の発光エネルギーを飛ばし、妨害する。
 自分に近接攻撃しか手段を持ち合わせてないと思わせるためにとっておいた一撃は、この局面で発揮していく。
 予期せぬ攻撃を直撃したのもあって、Lとベクターへの対応が遅れてしまう。

「二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚!
 現れろNo.39! さあ、白き翼に望みを託すとするぜ! 光の使者、希望皇ホープ!」

 光の爆発から姿を現す、塔のような形状の物体。
 そこから変形し、現れるのは風祭小鳩の時に召喚したあのモンスター。
 九十九遊馬が信じ続け、数々の道を切り開いてきたエースモンスターの登場である。
 先のホープと違うところがあるとすれば、正規の方法で召喚したから周囲には光の球体、
 オーバーレイ・ユニットがホープを中心に宙を漂っている状態だ。

「いい加減デュエリストも戦力になるって、
 証明しねえといけねえんでな! ホープ剣・スラッシュ!」

 未知の存在の一撃。単なる斬撃なのかそれも定かではないのと、
 何よりロード・バロンやデェムシュといった巨漢の三倍近くの体躯の差。
 受けるという選択肢は皆無であり、横へ飛ぶ形で攻撃を回避。
 地面に塹壕でも作るかのような爪痕を大地へと刻む。

『エクスプロージョン ナウ』

 化け物(オーバーロード)にも通用した攻撃だ。
 十分な攻撃力を備えているのは分かっており、再び爆撃の嵐。
 無防備なホープへすべてが直撃し、無残な残骸となるだろう。
 しかし。

「ナンバーズはナンバーズ以外と戦闘では破壊されねえんだよ!」

 超過ダメージこそ受けて疲労感はあるものの、
 ホープを出したからか、テンションが上がっているベクター。
 疲労感などお構いなしに次なるホープ剣・スラッシュを叩き込む。
 爆風の中から飛び出してきたホープの斬撃は間に合わず、火花を散らしながら倒される。

「やだ……やだよ……」

 ダメージとしては仮面ライダーともあって軽微なものだが、
 痛みに対する耐性がデェムシュによって失った左耳を、虐待した父を思い出す。 
 虐待の記憶、耳障りな女(照)、デェムシュによって喪った左耳。
 あらゆる不快なものが想起していき、MNRは叫ぶ。

「いやだあああああッ!!」

263輝望道 ◆EPyDv9DKJs:2024/11/05(火) 21:56:34 ID:YHkTpgY.0
 遠野から奪った支給品の中にあった黒いカード。
 相手も使っているのだからこのカードだって強いはず。
 デイバックから強引に引き抜いて召喚されたカードに、真月は慄く。
 巨大な爪を持った翼を広げた、二足歩行の恐竜のような赤黒いモンスター。
 だが問題はそこではない。左胸にある61にも見える数字が問題だったのだ。
 あれはホープと同じ、ナンバーズのカード───No.61 ヴォルカザウルス。

「駆紋! あれはやべえ!」

 ヴォルカザウルスの効果は判断がつかないがナンバーズである以上は危険な効果だと判断する。
 モンスターを破壊し、その攻撃力分ダメージを与える、極めて攻撃的な性能を誇るモンスターだ。
 だがオーバーレイ・ユニットがなければ効果を発動することができないのがエクシーズモンスター。
 ではあるが、このヴォルカザウルスはゴールドシリーズ。一度の使用で十全な効果を発揮できる黄金のカード。
 故にオーバーレイ・ユニットはホープ同様に二つ漂っており、効果を使用することができることを証明している。

「効果、効果!」

 効果の宣言というよりテキストの確認のような物言いだが、
 本人は死に物狂いで効果を発動しようとしているためか効果が発動。
 オーバーレイ・ユニットをヴォルカザウルスが喰らい、顔の横の爪から炎が放出。
 ホープには攻撃を守る効果があるが、あくまで攻撃。モンスター効果は防ぐことはできない。
 その上破壊されれば後続のモンスターが手持ちにないベクターは本当の戦力外になる。

「な……」

 ホープに向かって炎、マグマックスが目掛けて飛んでくる寸前。
 Lがかばうように飛び出してその炎を一心に浴びる。
 苦悶する声すら飲み込むような炎の一撃は爆発を起こし、
 煙を吹き出しながら吹き飛んだLは変身が強制的に解除される。

「何やってんだてめえ!?」

 火傷こそ致命的ではないようだが、
 変身が解除されててもドライバーは壊れてない。
 意識もあるようなので生きてはいるが、ダメージは決して軽くはないだろう。

「そのモンスターを失うことの方が危険だと……判断したまでです……」

 何とか立ち上がろうとするLではあったが、
 ダメージが大きく満足に立つことができないでいた。
 このままだとLがデェムシュの餌食になりかねない。
 早急に対策を考えなければならなかった。

(ホープとあのナンバーズは攻撃力が同じ!
 ナンバーズはナンバーズで倒すことはできるが、
 此処で相打ちになったら俺には壁となるモンスターが消える。
 そうなったら俺は生身であの仮面ライダーと戦わなきゃならねえ!)

 時間がない中必死に考える。
 この場でできる一番の対処法を。

(そうか、あるじゃねえかよ。)

 手札に残されたカードのうち二枚。
 その中の一枚がこの戦況を大きく変えてくれる。
 ただし、その行為には多大な危険を伴う。

「だったらやってやろうじゃねえか……あえて言わせてもらうとするか。」

 大地を蹴る。
 その一歩は希望と破滅、表裏一体の一歩だ。
 駆ける。大地を踏みしめベクターは駆ける。

「かっとビングだ、俺ーッ!!」

「何!?」

 ベクターが踏み出したのは、なんとデェムシュの方だった。
 ヴォルカザウルスでも、ワイズマンとなったMNRでもありえないが、
 よりにもよってこの中で最も強いであろうデェムシュに突っ込む行為。

「狂ったか猿!」

 それはデェムシュから見ても愚かとしか言えない行為だった。
 シェイムで戒斗を押しのけると、水の主霊石による氷柱が隆起し、ベクターを襲う。
 串刺しは確実。誰もがそう思った瞬間、氷の勢いが急激に止まり、攻撃が中断される。

「速攻のかかし、効果発動だ。」

 相手が直接攻撃をしてきたときに、
 手札から捨てることでバトルフェイズを強制終了させるカード。
 モンスター同士の攻撃では発動できない、つまりホープとヴォルカザウルスの戦闘ではだめだ。
 だからあえて自分から突っ込んで強引に相手にダイレクトアタックを強要させるように仕向けた。
 やることを終えると即座にバックステップで距離を取りながらカードを自分のターンとしてカードを引く。

「……ドロー!」

264輝望道 ◆EPyDv9DKJs:2024/11/05(火) 21:57:08 ID:YHkTpgY.0
 目的はドローフェイズのドローカードのためだ。
 この二人とモンスターを一気に打開できるカード。
 手札のカードはフォース。残念ながら迷宮兄弟が使ったフォースとは違い、
 相手のライフを半分にして攻撃力に換算するようなパワーカードの効果ではない。
 相手の攻撃力を半分吸収し、その攻撃力分エンドフェイズまでアップさせるカード。
 これではヴォルカザウルスは突破できてもMNRやデェムシュを突破することはできない。
 だから欲した。自分にとってあのカードが引けることこそが最良なのだと。

「……最強デュエリストは全てが必然ってか?
 RUM(ランクアップマジック)-リミテッド・バリアンズ・フォース発動!」

 望んだカードは届いた。
 かつて遊馬に己の計画のために託したカード。
 それがここぞというタイミングにおいて、やってきてくれた。
 ホープが光の球となって、中空の渦へと吸い込まれていく。
 Lの支給品に混ざっていて渡されるとは思いもしなかったが、
 これで進化態となるホープレイVを召喚することで逆転───










「だめだよ、それは。」

 しなかった。
 先ほどまで叫んだり憔悴してた声色だったMNRの声が、急に冷静になった。
 痛みに慣れたからなのか、恐怖を通り越したのか、どこか機械的な声色でそう呟き、
 武器であるハーメルケインを笛のように奏でると、中空に浮かんでいた渦が消滅する。

「……は?」

 何が起きたか理解できなかった。
 無理もないことだ。ハーメルケインのみにならず、
 仮面ライダーワイズマンは魔法の強さからその効果を忘れがちだが、
 ハーメルケインには『魔法を打ち消す』という特殊な力が宿っている。
 仮面ライダービーストのハイパーセイバーストライクですら無力化できるのだ。
 リミテッド・バリアンズ・フォースは『魔法』カードなのだから、
 当然無効にすることは可能だった。

 消失した状況に一瞬唖然としてしまうベクター。
 すぐに我に返りながら苦肉の策のフォースを使う。

「ならフォース発動だ! てめえのモンスターの攻撃力を……」

「はぁ〜〜〜〜〜(クソデカため息)。」

 無駄だと言わんばかりのため息とともに、
 再びハーメルケインを奏でるとフォースの効果も打ち消される。
 フォースもまた魔法カード。無効化できる対象なのは当然の帰結だ。

「嘘だろ、おい……」

 これで彼の手札は0。場にはホープだけ。Lは戦闘不能。戒斗はデェムシュと未だ交戦中。
 できることなど何もなかった。後は武器たるショット・オブ・スターで撃つことぐらいだ。
 だが相手は仮面ライダーだ。そんなものが通用するとはとても思えなかった。
 つまり───詰みであると。





「だからって、諦めきれるかよぉ!!」

 困難に立ち向かう諦めない心。それがかっとビングだ。
 ベクターらしからぬ発言は、きっと遊馬の影響なのだろう。
 あの男はどんな困難にあろうとも諦めようとはしなかった。
 手札が0? だからなんだというのだ。遊馬とデュエルした彼だからわかる。
 遊馬は手札どころかデッキも一枚だけ、しかも仕組まれたカードであったのに、
 とんでもない方法で活路を見出して自分に逆転した男だ。この程度であきらめる男じゃない。
 故にか。そんな諦めない精神に応えるようにエクストラデッキからカードが光る。
 何が起きたかわからないが、それが一抹の希望だと言うことはすぐに理解した。
 隠されたシステム、心意システムが知らず知らずのうちに発動していたのだ。

「───そうか。まだ戦えるってことか……俺は!
 俺は、希望皇ホープでオーバーレイ・ネットワークを再構築!」

 再び中空に浮かぶ渦。
 リミテッド・バリアンズ・フォースの時と同じだ。

「無駄だって。早く諦め……」

 どうしようもない奴だな、
 諦念気味にハーメルケインの笛を吹くものの、
 渦は消えることなくホープは光の球となって中へと入っていく。

「え?」

「無駄だ! こいつは魔法カードを介さず重ねてエクシーズ召喚を行う!
 さあ来な、一粒の希望よ! 今、電光石火の雷となって闇から飛び立て!!」

 渦が爆発し、中から登場するのは姿形を変えたホープ。
 翼は羽というよりは剣のようになり、全体的に細身の体となっている。
 稲妻を轟かせながら荘厳な立ち居振る舞いと共に姿を現す。

「現れろ、S(シャイニング)No.39 希望皇ホープ・ザ・ライトニング!!」

265輝望道 ◆EPyDv9DKJs:2024/11/05(火) 21:58:58 ID:YHkTpgY.0
 彼らが知る世界線。
 それとは異なる世界にて覚醒したホープの先。
 そのモンスターが心意システムによって呼び寄せた。
 この舞台におけるジャック・アトラスと同じ結果を彼は招くことに成功したのだ。

「行くぜ! ホープ・ザ・ライトニングの攻撃! ホープ剣ライトニング・スラッシュ!」

「させないよ。」

『エクスプロージョン ナウ』

 Lは倒れていて戒斗は防御に参加できない。
 この状況でベクターはホープを盾にするしかない。
 エクスプロージョンリングを翳してとどめを刺そうとするも、
 エクスプロージョンが発動することはなかった。

「無駄だ! ホープ・ザ・ライトニングが攻撃するとき、
 相手は全てのカードを発動することができなくなるんだよぉ!」

「え……」

「何ダト!?」

 そのせいで、水の主霊石も機能しなくなった。
 咄嗟に出なくなったことで隙を突かれ、夜空の剣が炸裂し火花を散らす。

「グオッ! この猿がぁ!!」

 とは言えデェムシュはもともと剣技に優れるオーバーロード。
 はなから主霊石を頼らずとも十分な戦いができるので、
 こちらはさしたる問題ではなかった。

「でも攻撃力は同じ2500……」

 相打ちになる。
 その後エクスプロージョンを見舞えば勝てる。
 大丈夫。大丈夫。自分に言い聞かせるようにしていると、

「そうはいかねえ! ホープ・ザ・ライトニングの効果発動!
 オーバーレイ・ユニットを二つ取り除くことで攻撃力を二倍の5000にする!」

 宙に漂う素材を二つ消失し、
 ホープは翼の剣を手に稲妻の如く飛ぶ。
 ヴォルカザウルスを翼の片割れを使い一刀で切り裂き、
 モンスターが爆発することで爆風が周囲を襲う。

「うわあああああ!!」

 使役していたMNRには更にダメージが上乗せされ、
 吹き飛ばされながら変身が解除され、元の姿に戻る。
 元々デェムシュ達と戦ってダメージが大きかったところに更に大ダメージだ。
 変身が解けるのは無理もないことだった。

「こっちは片が付いた、あとはそっちが戦いやすいよう離脱するだけだ!」

 ホープ・ザ・ライトニングでLを抱えて離脱。
 それが理想の形ではあったのだが、

「コの使えン猿め!!」

 デェムシュは予想だにしない行動に出る。
 戒斗から距離を取り、倒れているMNRのドライバーを踏み砕く。
 オーバーロードの踏みつけを受け、血反吐をぶちまけながら苦悶の表情になるMNR。

「な、味方を攻撃しやがった!?」

「いえ、違います……あれはベルトを破壊したのかと。」

 このままMNRが奴らに倒されれば、
 そのままワイズマンの力が猿に渡ってしまう。
 ワイズマンになる気もないデェムシュは此処が潮時と判断し、
 MNRのドライバーを粉砕する行動に出たというわけだ。

「屈辱だ……貴様等如き猿に逃げることになるなど!!」

 ついでにMNRのデイバックをシェイムで切って強引に奪い、
 そのまま逃げるように霧状になって北の方へと離脱する。

【C-5/一日目/早朝】

【デェムシュ@仮面ライダー鎧武】
[状態]:疲労(絶大)、怒りと屈辱(多少緩和)、高揚感
[装備]:両手剣シュイム@仮面ライダー鎧武、水の主霊石@テイルズオブアライズ
[道具]:基本支給品一式、基本支給品一式×2、ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]
基本方針:ハ・デスも参加者も皆殺し。
1:今は体力の回復に努める。
2:自分をコケにした猿ども(承太郎、一海、城之内、結芽、いろは、黒死牟、戒斗)は必ず殺す。
3:逃げた小娘(やちよ、桃)もいずれ殺す。が、3の連中より優先度は低い。
4:猿共に負けるぐらいならば主霊石を使っていく。
5:あの猿(MNR)は道具として使えなかった。
6:使える猿を探す。

266輝望道 ◆EPyDv9DKJs:2024/11/05(火) 22:00:38 ID:YHkTpgY.0
[備考]
※参戦時期は進化体になって以降〜死亡前。
※水の主霊石を手にしたため水、氷の攻撃が可能になりました。 
 制御はうまくできてない為自分が巻き添えになる可能性はあります。
 代わりに制御と言うブレーキがないため、強めの力を放つことができます。
 なお、彼が凍ってもダメージはありません。
※ドラゴンフルーツエナジーロックシードを食べ進化した為、オーバーロードの能力が強化されました。





「追うか?」

「追える状態じゃないな。」

 元の姿に戻りながら戒斗はベクターの提案を断った。
 一人であれば追跡できただろうが、ダメージの大きいLがいる状態だ。
 このまま挑めば最悪この殺し合いにおけるブレインを失うことになりかねない。
 そうなれば場合によってはあのキラである夜神月に頼る可能性だってあるのだ。
 信用できるかどうかで考えるならば、Lであることの方が望ましかった。

「すみません……足を引っ張ってしまって。」

「いや、おめえのおかげで何とかなった。助かったぜ名探偵様よ。」

 ヴォルカザウルスの一撃はすさまじいもので、
 受ければホープ・ザ・ライトニングも出すことはできなかった。
 結果論ではあるが、彼がいなければ確実に敗北していたのは確かだ。

「で、こいつどうする?」

「痛い、痛いよ……」

 腹を抑えながら蹲るMNRは、
 傍から見れば無力な参加者に見える。
 デェムシュに付き添ってたのは脅された、
 そういう風にも受け取れる後継でもある。

「もう無力な一般人みてーだし助けるか?」

「一般人ですか……それは無理かと。」

 どういうことだ、
 と思ってLが刺した方向を見やる。
 そこには人にあるべきものが大地に転がっており、
 デェムシュが乱暴に回収した際にデイバックから落ちたのだろう。

「うげ……」

 誰のものかはわからない。
 殺し合いに乗った参加者かもしれない。
 けれど、どちらであっても猟奇的行動をとるような男だ。
 デェムシュに猟奇的趣味はない。よって、誰がやったかは明白である。

「こいつはもとから猟奇殺人鬼ってわけだな。」

「いやだ……助けて、オトーサン……!!」

 痛みに耐えながら、必死に這いずって逃げるMNR。
 しかしその程度の動きはナメクジとそう変わることはない。
 全力で走ることすらかなわない状態ではどうにもならなかった。

「で、どうする? 名探偵様やオーバーロードはこいつを生かす理由は?」

「この様子だと情報を吐けそうになければ、味方にもできないでしょうね。
 彼はすでに自分の目的のために少なくとも二人は殺しているでしょうし。」

「戦極凌馬の奴が見れば興味深いと言いそうだが、俺にとってはどうでもいい奴だ。好きにしろ。」

「んじゃ、そういうことで。悪いな。」

 先の首輪回収で抵抗が薄れているのか、
 ホープ・ザ・ライトニングをMNRへ向ける。

「嫌だ、やめてよオトーサン……」

 錯乱していて最早誰を見ても父を想起する。
 そんな絶望の中、希望の名を関した閃光の刃が彼の首を刈り取った。

「首輪五つ目か……にしてもあいつの支給品、
 別の意味で奪われて正解だった気がしてくるぞ。」

 男性器や女性器が入っていた支給品を持ち合わせるなど、
 ほかの参加者からあらぬ誤解を招く可能性だってあり得るわけだ。
 そういう意味で、というわけではあるが回収されてよかったとすら思える。

「いいとは言えないだろうがな。奴に支給品を奪われたのは痛い。」

「分かってるよ。で、僅か一戦で壊滅状態だしどっかで休憩するか?」

「休憩先に奴が殺した遺体がなければいいがな。」

「想像させるのやめろ。」

267輝望道 ◆EPyDv9DKJs:2024/11/05(火) 22:01:09 ID:YHkTpgY.0
 三者は無事誰も欠けることなく生存した。
 これからもこれぐらいの激戦が待ってるとなると、
 溜息が出そうになるベクターだった。



【MNR@真夏の夜の淫夢 死亡】



【駆紋戒斗@仮面ライダー鎧武】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:夜空の剣@ソードアート・オンライン
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(確認済み)
[思考・状況]基本方針:殺し合いを力で叩き潰す。
1:殺し合いに乗っている参加者は潰す。
2:首輪を外せる参加者を見つける。
3:L、ベクターと共に行動する。
4:槍の男、デェムシュは要警戒。
5:大我、遊星、ジャック、遊戯、海馬かその知人、或いは会った参加者と接触。必要なら知り合いを装う。

[備考]
※参戦時期は死亡後です。
※クラックを開き、インベスを呼び出すことは禁止されています。
※Lの考察については半信半疑です。
※攻撃の消滅、反射に制限がかかってます
 どの程度の制限かは後続にお任せします

【L@DEATH NOTE】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(中)
[装備]:量産型戦極ドライバー@仮面ライダー鎧武、バナナロックシード@仮面ライダー鎧武、真中あおの杖@きららファンタジア
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1(確認済み、武器の類はなし)
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める
1:駆紋戒斗、ベクターと共に行動する。
2:他の参加者を探し、情報交換をする。
3:無暗に犠牲を強いるつもりはないが、綺麗な手段だけで終わらせられるとも思ってない。
4:槍の男。デェムシュには要警戒。
5:大我、遊星、ジャック、遊戯、海馬かその知人、或いは会った参加者と接触。必要なら知り合いを装う。
[備考]
※参戦時期は死亡後です
※この殺し合いにドン・サウザンドが関係してる説を考えてます。
 (関係してるだけで関与してない可能性も高く、現時点では推測程度)
※永夢と大我、遊星と牛尾とジャック、遊戯と海馬(両方)と城之内と御伽が知己であると考えてます
 遊星達と遊戯達が同一の世界かどうかまでは確定できていません。

【真月零(ベクター)@遊戯王ZEXAL】
[状態]:ちょっとセンチな気分、疲労(中)、ダメージ(中)、
[装備]:ショット・オブ・ザ・スター@グランブルーファンタジー、九十九遊馬のデュエルディスク@遊戯王ZEXAL、No.39希望皇ホープ@遊戯王ZEXAL、牛尾デュエルディスクとデッキ@遊戯王5D’s、不動遊星のデュエルディスクとデッキ@遊戯王5D’s
[道具]:基本支給品一式×3(牛尾、麻耶、自分)
[思考・状況]基本方針:主催にとって良からぬことを始めようじゃねえか。
1:遊馬にデュエルディスクを返すが、デッキはどこだよ。
2:ナッシュや遊馬がいることだし少しだけ協力は考えてやる。ナッシュは……いややっぱやめとくか?
3:帰宅部ねぇ。ま、いたら声はかけるか。
4:Lに駆紋、アウトローで構成されてるねぇ。ま、俺らしく外道な手段でやってやるさ。
5:ドン・サウザンドの復活ねぇ……どうだか。
6:槍の男には要警戒。
7:大我、遊星、ジャック、遊戯、海馬かその知人、或いは会った参加者と接触。必要なら知り合いを装う。
8:エクシーズ召喚できるデッキをくれ。と言うかなんだよシンクロって。
9:ホープ・ザ・ライトニングねぇ……まさか俺が新しいホープを手にするとはな。
[備考]
※参戦時期はドン・サウザンドに吸収による消滅後。
※ドン・サウザンドの力、及びバリアン態等の行使は現状できません。
 力が残っていて、バリアンスフィアキューブがあれば別かも。
※Lの考察については半信半疑です。

【夜空の剣@ソードアート・オンライン】
戒斗に支給。ギガスシダーと呼ばれる巨木を長い時間と貴重な砥石を消費した末に、
完成してアンダーワールドにおけるキリトの剣となった武器。命名はユージオ。
ソルスの恵み(太陽光)をシステム的には空間リソースを300年もの長期に渡って浴び続けた結果、
とてつもない硬度を獲得している。

【No.61 ヴォルカザウルス(ゴールドシリーズ@遊戯王OCG】
遠野に支給。ゴールドシリーズについては他参照。
ゴールドシリーズのためエクシーズ素材が最初から二つ備わっている。
ゴールドシリーズであるため、アニメにおけるナンバーズの耐性などはない。
テキストは以下の通り
エクシーズ・効果モンスター
ランク5/炎属性/恐竜族/ATK2500/DEF1000
レベル5モンスター×2
①:1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。
その相手モンスターを破壊し、そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。
この効果を発動するターン、このカードは直接攻撃できない。

268輝望道 ◆EPyDv9DKJs:2024/11/05(火) 22:01:36 ID:YHkTpgY.0

【RUM-リミテッド・バリアンズ・フォース@遊戯王OCG】
Lに支給。テキストは以下の通り
通常魔法
自分フィールド上のランク4のエクシーズモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターよりランクが1つ高い「CNo.」と名のついたモンスター1体を、
選択した自分のモンスターの上に重ねてエクシーズ召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

【SNo.39 希望皇ホープ・ザ・ライトニング】
ベクターが心意システムで得たカード。
テキストは以下の通り
エクシーズ・効果モンスター
ランク5/光属性/戦士族/攻2500/守2000
光属性レベル5モンスター×3
このカードは自分フィールドのランク4の「希望皇ホープ」モンスターの上に重ねてX召喚する事もできる。
このカードはX召喚の素材にできない。
①:このカードが戦闘を行う場合、相手はダメージステップ終了時までカードの効果を発動できない。
②:このカードが「希望皇ホープ」モンスターをX素材としている場合、
このカードが相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算時に1度、
このカードのX素材を2つ取り除いて発動できる。
このカードの攻撃力はそのダメージ計算時のみ5000になる。

269輝望道 ◆EPyDv9DKJs:2024/11/05(火) 22:01:58 ID:YHkTpgY.0
投下終了です

270 ◆EPyDv9DKJs:2024/11/06(水) 00:11:42 ID:jDc137/s0
すいません表記忘れてました

※C-5に
 壊れた白い魔法使い(ワイズ)ドライバー
 ハーメルケイン
 エクスプロージョンウィザードリング
 仮面ライダーウィザード
 バインドウィザードリング
 テレポートウィザードリング
 アテムが用意したナイフ
 があります

271◆2fTKbH9/12:2024/12/25(水) 17:17:33 ID:???0
今更ですが、私が投下したゲーマーコンビは不思議な生物と出会うようです の>>211の修正箇所をwikiに編集されていないです。
◆4Bl62HIpdE氏が投下して下さった懺恨のJudgmentの>>213の修正箇所も同様に編集されていないです。
修正した場面の編集をお願いします。

夜神月、ラヴリカ(NPC)を予約します。

272 ◆QUsdteUiKY:2024/12/26(木) 21:49:26 ID:xGGWmlGA0
ご予約、ご指摘ありがとうございます
自分では編集したつもりになっていましたが、ご指摘のおかげでまだしていないことに気付きました。申し訳ありません
というわけで該当箇所を編集しました

273◆2fTKbH9/12:2024/12/28(土) 14:55:13 ID:???0
投下します。

274◆2fTKbH9/12:2024/12/28(土) 14:56:43 ID:???0
暫しの休息を取った月は狐島から脱出し、本島に上陸した。
否、戻って来た。

(こんな場所を選んだのは失敗だ!!)

態々、南西の狐島を安全地帯と思い込んだのは浅はかだった。
よく考えれば殺し合いに安全な場所は何処にもない。
普通に狐島に行かずに本島で参加者を捜した方が早かった。
殺し合いを良しとしない面子と接触出来ていれば黒ポンチョの男(PoH)をそいつらに押し付けた。
あの男が何を言われても戯言と言いくるめて、誤魔化せばいい。

軽率な行為はこれだけに限った話ではない。
一番の自殺行為は怒りを露わにし、大声で叫んでしまった。
今思えばこんな事をしたら危険人物を呼び寄せかねないくらい想像出来たはずだ。
馬鹿な真似をして、周囲を警戒せずPoHに聞かれたのに気づかなかった。
殺されかけるもキリトに伝言を任される口実を向こうが作ってくれたお陰で危機を乗り切った。
Lでなくてもこんな奇行はしない。
こんな所で黎斗達の元に辿り着けずむざむざと死んでたまるか。

最も月は首席で大学を合格するくらい優秀だが、感情的になる欠点がある。
それが原因でLにキラの居場所を絞り込まれている。
その悪癖が正史の未来にて最後の最後で墓穴を掘った要因の一つなのは月も預かり知らぬ先の話だ。

兎にも角にも開始早々に反省すべき点はいくつもあった。
判断を間違えまくるなど、いつもの自分らしくない。
最初から狐島に行かずに協力的な参加者と接触し、集団に紛れ込めば早かった。
Lなら即普通の判断を下しただろう。

(時間を使いすぎた。行動に移らないと)

PoHとの戦闘で仮面ライダーメイジの使い方は把握した。
あの後、無理をしないように体力を回復するべく念を入れての休憩を取った。
しかし、気が付けば時間を費やしてしまっていた。
体力を大体回復した後、月はようやく動き出し、急いで狐島から脱出した。

そして、現在に至る。
今までの失態は仕方なく、月は過ぎた事だと次に切り替える。

(周辺を捜すのが無難か)

月の現在地は南西のG-2
かなり時間を食ったのもあって既に誰もいない可能性もある。
其れでも捜索しないと始まらない。

此れまでの考えは狐島にいる際に休憩中に色々とまとめてある。
まだ南西にいるか不明だが、黒ポンチョの男を深追いはしない。
何れ屈辱を晴らしたいけど、再戦しても悔しいが自分の実力では勝ち目はない。
あの男だけではなく、他のゲームに乗った参加者にも言える。
ホーリーリングは強力だが、それだけでは足りない。
なら、協力者の存在は必要不可欠。
月の戦闘面での実力が劣っても経験が豊富な人材がわんさかいる。
心当たりがあるのはPoHが言っていたキリトのみ。
個人的には前衛を張れて安心出来る強者が良い。

275◆2fTKbH9/12:2024/12/28(土) 14:57:59 ID:???0
(Lの始末は保留だな)

最初からLの悪評を流す気はない。
今頃、接触した参加者に絶大な信用を勝ち取っている。
悪評を撒けば撒くほど自分の信用が地に落ちかねない。
仮に始末するとしても丁度いい頃合いを待つ。
今も疑いを持たれているが、まだキラだとバレてない分、様子を見たほうが賢明だ。
デスゲームの真っ只中でデスノートを取り戻す目的を知られないよう立ち回る。

その自分がキラの正体を絶対に露呈は避けたい。
此の事が公になったら今度こそ信用が地に落ちてしまうだろう。
このデスゲームでやらかさなくともこの点はマイナス要素だ。
キラだとバレない限り、基本的に手を貸すが誰かが正体を知ったその時は障害になると判断したら消す。

(さて、遅れを取り戻すぞ)

ゲーム開始から数時間が経過した。
月には協力的な人物は不在でLとは大分後手に回っているだろう。
自分も集団に混ざらないと負ける気がする。
先ずは南西で人探しだ。
時間が時間なだけに南西で人と会えるか定かではない。
せめてPoHみたいな危険人物ではなく、友好的な人物が好ましい。

そう思いながら月は行動を開始する。





少し歩くと二つの足跡を発見した。
一つは古く、もう一つはつい最近新しく出来た物のようだ。

「賭ける価値はありそうだ」

前者は兎も角、後者は追いつけば間に合うかもしれない。
月は希望を抱き、走りながら真っ直ぐ続いている足跡を辿った。
足跡はF-2まで伸びていた。
近づく度に嫌でも大きな音が聞こえる。

(また面倒な事態か!!)

この音は戦闘音と予想が付く。
後者の足跡は危険人物だと確信を得た。
まだ南西に黒ポンチョの男がいるかもしれない。
そいつがいるとしたら厄介で、自身の本性も知られてしまった。
先に自分が友好的な参加者と接触が早ければ話は別だったが、後なら本当の事実を吹き込まれて警戒されるであろう。
月は内心イラつきながらも様子見を決める。
黒ポンチョの男が原因でなくても其れは変わらない。

月は目的の場所に付き、すぐさまオープンカフェの物陰に潜んだ。
戦っているのはカードを使う男、仮面ライダーに変身した二人、ピンクの髪の女、紫髪の女の5人組と襲っている相手は触手の男で後者がゲームに乗っている事は一目瞭然。
触手の男は殺すべき悪と断定する。
PoHがいないのは不幸中の幸いだ。

276◆2fTKbH9/12:2024/12/28(土) 14:59:46 ID:???0
(あの男、滅茶苦茶強くないか!)

黎斗がデュエルを推している理由を理解した。
カードでモンスターを実体化して戦う光景を見せられたら納得するしかない。
後衛の存在はいなくてはならない存在で戦いの鍵になる。

其れはさておき、触手の男はPoHよりかなり強くて隙など無い。
貴重なデュエルによる後衛も意味をなさい戦況。
自分よりも戦闘経験が上の筈な肝心の仮面ライダーも両方とも蹂躙出来る強さだ。
此れでは自分の加勢も無駄で終わるだろう。
彼らには悪いが逃走したほうが早いと揺らぎ出す。

すると白衣の男が変身した黒くて黄緑色のライダーが善戦する。
何と触手の男だけ時間を止めた。
月から見ても強力な変身道具だと認識する。
相手に渾身の蹴りを食らわせ、月は思わず右手でガッツポーズをした。
しかし、喜びは束の間で急に変身が解除し、苦しみ出して倒れてしまった。
如何やら、あの変身道具は何かしらデメリットがあると推測する。
それだけリスクを負ってでも使わざるを得ない切羽詰まった状況だ。

(もう、こいつらは駄目だな。使えない)

月は遂に役に立たないと判断し、5人組と接触せずに見捨てる事を選ぶ。
白コートの男が抗うのはまだ良い、だが、主力の二人が脚の負傷、デメリットのせいで気絶寸前、それらなら未だしもピンク髪の少女の戦意喪失が決定打を打った要因だ。
ピンク髪の女もデュエルを装備しているのを見るに後衛で動けば多少の時間稼ぎくらいは出来ただろう。
あの女の有様を見れば戦いの本当の厳しさと怖さをまるで分かっていない。
足を引っ張る事実を同行者が何も言わなかったであろう時点で考えが甘いと月は呆れ果てた。
どうせ誰か一人くらいは気を遣って、意味がない特訓に付き合っただろうが、その必要性は全くないことを。

(悪く思うなよ)

同行者の殆どが心身ボロボロになり、月はこの集団に紛れても此の先メリットはないと見切りを付け、デスノートも彼らは所持してないのは確認した。
仮に誰かが囮になって逃がしても支給品次第で触手の男が追いかけて来る危険性が高まる。
善人の彼らを見捨てるのは罪悪感が無いわけではないが、こんな所で新世界の神に返り咲く目的を絶たれる訳にはいかない。
月は誰にも気づかれずにオープンカフェから距離を離していった。





「仕方ない、仕方なかったんだ」

人知れずF-2から離脱した月は走ってE-2の東寄りに来ていた。
やむを得ないとはいえ、彼らを見捨てた後悔はないはず。
しょうがなかったのだ。生き延びるにはこの選択しかない。
今になってPoHの苛め抜かれた言葉が頭の中で再生されかけるも。

「違う!!僕は正義だ!!」

月は振り払うように口に出した。
何故このタイミングでリピートし出しかけた?
脳裏に過ったのは五人組を見捨てたのが付き纏っているというのか。
こんな事はもう忘れたい。

277◆2fTKbH9/12:2024/12/28(土) 15:00:45 ID:???0
月は目的の為なら手段を選ばない傾向がある。
実際、キラの正体を疑い嗅ぎまわっていたレイ・ペンバーを始めとするFBIの捜査官全員を殺害し、Lに協力する者、挙句の果てには最悪の場合家族を殺す選択も入れている。
保身で海馬達の助力をせずに逃げたのが悪い方向に作用してしまった。
PoHからも同類と言われた本質に本人は自覚する事はない。

(Lと接触する前に最低限、集団を作りたい)

冷静になった月は一から協力的な参加者を捜し直すのを決める。
自分は不利でLより出遅れてしまった現状を容易に推測出来る。

(あいつは地図の中心に行くはずだ。なら、僕は裏をかこう)

敢えて北上する方針を取る。
恐らく、Lの初期位置は北と予想する。
他者の接触を多くするべく中心部へと動いているだろう。
協力者が不在でLと会う訳には行かない。
それなら、自分は見知らぬ場所に向かい、勢力を作るのが良い。
集団に混ざって、自分の信用を最大限にしてからでも挽回は出来なくはない。

(待ってろL。僕は追い越してやる)

負けず嫌いな月はしぶとく生きているだろうLに対抗心を燃やし、北へ直行する。



【E-2 東/一日目/早朝】

【夜神月@DEATH NOTE(漫画版) 】
[状態]:ダメージ(中)、怒り(特大)、手に傷(止血済み)
[装備]:メイジのベルト&メイジウィザードリング(緑)@仮面ライダーウィザード、テレポートリング@仮面ライダーウィザード、ホーリーリング@仮面ライダーウィザード
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本:必ずやハ・デスと檀黎斗に神罰を与え、新世界の神に返り咲く







































「は?な、んで...........」

278◆2fTKbH9/12:2024/12/28(土) 15:01:41 ID:???0
突如、月は急に足を止め、困惑と驚愕の混ざった表情をする。
何故ならば、今度こそ魂すら消す死神が瞬間移動して来たかのように目の前に現れたのだから。





先程の戦闘を終えたポセイドンは此処から離れた場所に移動すると決断した。
理由としては気晴らしに一旦、状況をリセットする。ただ、それだけだ。
逃げた雑魚(カス)共は何れかち合えばつけ上がらせずに殺す。
特に自分を洗脳した汚物(野獣先輩)は神の裁きを持って償い、報復しないと気が済まない。
ただ、執着しない。そいつもかち合い、汚物(野獣先輩)がまたのぼせ上っても殺す。

移動の方法は転移結晶と言う道具だ。
やり方は地面の下へ叩き付けるだけでランダムに転移する。
ポセイドンにとって利用出来る価値のある物。

早速、転移結晶を地面に向けてぶつける。
するとポセイドンは一瞬の内に瞬間移動した。
新たな地に空間転移した矢先に目の前に参加者がいた。
手間が省けて良い、直ぐに雑魚(カス)を片付けられる。

(嘘だろ!?最悪だ!!)

月は想定外の事態に対処出来ないでいる。
これからというタイミングで突然、瞬間移動したかのように目先に出現したそいつは黎斗の放送でアプリに写っていた槍の男本人。
一目拝見しただけでも人外で桁違いの威圧感に押されかけた。
触手の男なんかよりも比べものにならない程強いと分かる。
よりにもよって圧倒的な強さを誇る相手に突如、対峙させられて、苛立ちを隠せずにいた。
唐突な邂逅の原因は瞬間移動で道具の機能による物と推測を立てた。
危険人物ばかり遭遇し、更に目先に参加者の中で最強クラスの強者の悪と邂逅してしまう始末。
PoHの時は自分の過失で呼び寄せてしまったのは反省点であるが。

(どうする?)

279◆2fTKbH9/12:2024/12/28(土) 15:02:47 ID:???0
あの時はPoHから口実を与えたお陰で助かった。
槍の男は違う。話しをしようにもあの様子だとその余地すらない。
絶対に逃がさない気迫も伝わって来る。
今からでも襲い掛かる雰囲気だ。

(あいつを殺すしか道はない)

残された選択肢は戦って目先の悪を葬る。
逃げようにも檻に閉じ込められた感じで逃げ場すら与えられない。
月に協力者は周りにいない。
此処に来て、五人組を見限らずにあの場に残って行動を共にするべきではと後悔の念が渦巻く。
彼らがいれば月の頭脳が発揮し、この場を切り抜ける策も浮かんだだろう。
しかし、現実は月一人だけ。
支給品もメイジの変身道具一式のみ。
テレポートリングも長距離は転移不可で短距離では時間稼ぎにもならない。
彼らを見捨てた罰が当たったのだろうか?
今更、悔いても始まらない。
何が何でも新世界の神に君臨するまでは絶対に死ねない。

腹を括った月はベルトを腰に巻き、メイジウィザードリングを中指に付ける。

『ドライバー・オン!』

『シャバドゥビタッチヘンシーン!シャバドゥビタッチヘンシーン!』

「変身!」

月は掛け声を上げると同時に緑のメイジウィザードリングをハンドオーサーに翳す。

『チェンジ!ナウ!』

変身時の呪文詠唱が音楽の様に流れながら、仮面ライダーメイジへの変身を完了した。
カラーリングは緑で腰回りにはスカートのような形状が特徴。

メイジには橙と青のカラーリングも存在する。
月の所持するメイジは只の量産型ではない。
白い魔法使いと似たベルトを使用し、ウィザードと変わらない魔法の発動が可能。
本人の戦略と熟練度次第で幹部級のファントムと互角に渡り合える。

本来なら魔法使いにしか使用は不可能だが、黎斗によってメイジは魔法使いでもない者でも変身が可能になった。
魔法に無縁の月でも扱えるようになった。

(こいつは正攻法からの近距離は通用しない)

ポセイドンからのプレッシャーに圧倒されかけるも月は奮い立つ。
この相手には間合いを詰めて真正面からの接近戦は無意味。
馬鹿正直に突っ込んだら死が待っている。
PoHとの戦闘で使用しなかった武器で遠距離攻撃を行う。

その名はウィザーソードガン。
ウィザードと同じ装備品だが、違う箇所は銃のみの使用で剣は搭載していない点だ。
元々の変身者山本昌宏はこの装備を使用していないが、メイジの共通の武器で所持している。
射撃は初めてであるが、慣れればそれ程でもない。

280◆2fTKbH9/12:2024/12/28(土) 15:03:48 ID:???0
月はウィザーソードガンを数十発ポセイドンに撃ち放った。
人体の急所になる部分を確実に狙う為だ。
まず、囮に正面から十発程、弾を撃ち込んだ。
アプリで得た情報では一撃でモンスターを沈めさせた。
無暗に撃ってもあっさり防がれるだけ。
囮の弾を利用し、弱点になりそうな顔面、額、顎、金的、肩口、脇の下、膝、足等を標準にして、月は速く弾を発射する。
いくら化け物に当て嵌まる悪だろうが、急所に当たったらダメージを受ける。

数十発の弾丸がポセイドンに定められるも一歩も動く気配はない。
するとトライデントを持っている利き手を動かし、常人では視認不可の超高速で真ん中から弾丸を突き、相殺していく。
急所に的を絞っていた銃弾もそうは行かないと言わんばかりに片付けていく。
銃弾を収拾したものの自分に向かってきた攻撃が止んだ矢先に目先の雑魚(カス)がいない。

(此処から本番だ)

月はポセイドンの真上の後ろにいた。

実は月は二段構えの戦略を考えていた。
一段目は急所の箇所を狙い撃ちにし、仕留める作戦。
と言ってもあくまでこの戦略は建前に過ぎない。
はなから射撃で急所に当てられるとは微塵も思っていない。
絶大な力を持つ男が此れくらいで殺せるとは甘くない。

考え付いた結果が二段構えによる寸法だ。
まず、もう一つの策略を悟られぬよう表向きの作戦を決行する。
上記の通りの計略で本気でウィザーソードガンを素早く撃ちながら人体における急所を狙いつつ、真の狙いがバレないようする。
金髪の男が銃弾を処理しているその一瞬の間にテレポートリングで空間転移する。
因みにテレポートリングを翳し、『テレポート!ナウ!』と発音で勘付かれる危惧で焦りかけた。
何事もなく後ろを回れた。

真の戦法はポセイドンの首輪の爆発が目的。
参加者全員に付けられた共通の枷。
月は最初から首輪狙いを集中していた。
デスゲームのルールを利用して、首輪の効力で如何に桁違いに強い参加者も命は潰える。

だが、この戦法には一つ欠点がある。
首輪を破壊すればその余波で自分も巻き込みかねない諸刃の剣。
メイジの変身中は衝撃を和らいでくれると願いたい。
目的を達成出来なくなるより、この手段を取ったほうがまだ良い。

此の戦略の参考はPoHとの戦闘だ。
よくよく考えれば自分の戦い方はほぼ脳筋に近かった。
その反省を活かして月らしい頭脳特化のスタイルに変更した。
メイジに慣れつつあって、知恵を武器に弱者らしいやり方で貫く。
ただし、この二段階の策略はPoH戦の一部の焼き直しであるのは否定出来ない。
それ以外は見直して、改良した。

(最後に仕上げだ)

首輪を破壊して終わらせる。
相手の背中は隙が生まれていた。
左腕にスクラッチネイル、右手にウィザーソードガンを構え、準備は整った。
万が一を考え、両手で多種多様の武器で首輪に向けて攻撃を加える。

281◆2fTKbH9/12:2024/12/28(土) 15:04:46 ID:???0
(貰った!)

地面の下に落下する中、これが最初で最後のチャンスだ。
スクラッチネイルを振り上げ、ウィザーソードガンの引き金を引く寸前。
月は勝利を確信し、仮面の下で口角を上げる。
息を潜めて動作をしようとした。




並の相手なら月の戦略は成功したであろう。
ところが現実は非情だ。
ポセイドンは咄嗟に後ろを振り向いてトライデントを物凄い勢いで突きを繰り出す。
月は瞬時に身体を右に傾ける。
直撃は免れたが、しかし、月自身の視界に左腕が串刺しにされ、左脇腹も鎧ごと食い込まれた。

「そ、んな」
「気配でバレバレだ。雑魚が」

一言吐き捨て、トライデントを振り上げて、月は投げ飛ばされるように声にならない悲鳴と共に地面にキスした。

(此れ程までとは.........。舐められてたまるか!!)

理解はしていた。
余りにも力の差が歴然で二段構えが全然通用出来なかった。
左手は激痛になり、動けなくなっても可笑しくないくらいボロボロで左脇腹は少なくない血が流れている。

其れにプライドも大いに傷つけられた。
ポセイドンにはPoHを超える屈辱を味わわされており、侮られている。
あの男は自分に全く目を合わせようとしないのが証拠だ。
未だに本気を出さず眼中にないのが何より、悔しかった。
月はまだ残っていた悪足掻きを決行する。

ポセイドンは止め刺すべく死刑宣告をするかのように一歩、また一歩と近づく。

「まだ.....だ」

月は無事な右手を支えて左脇腹から少ない血が垂れるもゆっくりと立ち上がる。
相手が規格外でも諦める気は毛頭ない。
今度こそ本当の敗者で終わるのは御免被りたい。
生への執着も人一倍ある。

「僕はキラだ!何れ新世界の神になる男だ!貴様みたいな奴に僕の理想を阻まれてたまるかーーーーーー!!!」

感情を曝け出し、言葉も叫びとなって吐いた。
言い終わった後、僅かに動く右手にホーリーリングを左手の中指につけ、ハンドオーサーに翳す。

『ホーリー!ナウ!』

現在の所有する月の最大武器を発動させる。
聖なる光波を光線の如く直線上から物凄い速さでポセイドンに向かって放った。
そもそもホーリーリングは姉の仇討ちを願う少女に白い魔法使いの甘言により授けられた強力な魔法。
PoHとの戦闘では魔法カードを使われたせいで空ぶって終わる羽目になった。
余程の事がない限りは重症を負うのが普通だ。

282◆2fTKbH9/12:2024/12/28(土) 15:05:50 ID:???0
対するポセイドンは棒立ちのまま横に避けない。
否、する必要性もこれっぽちもなくトライデントで光波を受け止めている。
ホーリーとトライデントがぶつかり合い、互いに粘るもポセイドンが少しずつ押し返そうとする。
拮抗し合っていたのはほんの数秒だけだった。
こんな大技を破ろうとする姿に月は絶望視しかける。

(なんなんだこいつは!?こんな切り札まで。だけど、僕は終われないんだ!!)

月は目先の悪を殺し、キラの使命と何が何でも脱出する原動力になっていた。
これらの執念が光波の出力を緩めない。
ポセイドンの疲労も重なって再び拮抗になり、若干の余裕を取り戻し、流れが月に向くと思われた。

「図に乗るな。雑魚(クソ)が!!」

またしても数秒だけで今度は押し返す所か光波を捩じ込もうとしている。
ポセイドンは前進しようとする直前だ。

「貴様如きに神を名乗るなど驕りが過ぎる!!」

月は一切、気を緩めず踏ん張り続けた。
だが、圧倒的な差を埋めらずに如何しようもない。
キラとして暗躍しているが、本当の戦争とは無縁の世界の出身。
何より、神と自称した事でポセイドンの癪に触れてしまった。
その結果、月を敗北に追いやろうとする。

トライデントが遂に光波を捩じ込んだ。
一気に間合いを詰めるべく捩じ込まれた部分を貫いていく。
光波を真っ二つに割る様にし、前に道を空ける感覚でポセイドンは着々と進撃する。

(クソっ!クソっ!)

月の敗北が・・・いや、死が目前に迫っている。
最後の悪足掻きも無下にされ、最早、無意味に足掻く。
こんな化け物のせいで生が終了する現実に頑なに認めなかった。
無意識に絶望的な表情を作った事実を月自身は気付かない。

瞬く間に光波を完璧に打ち破られた。
間合いに入ったポセイドンは攻撃の元になっているホーリーリングの破壊を月の右腕ごと突きで木っ端微塵にした。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

PoHのエリュシデータに右手を斬られた以上の右腕を失う尊大な苦痛が襲った。
人生で今までにない悲鳴を上げるもポセイドンは何時の間にかゼロ距離に辿り着いていた。
トライデントを思いっきり振り上げ、月の腰に強烈な一撃を食らわせた。
メイジのベルトも粉々に砕かれ、月は上半身と下半身が分断されてしまった。

(ぼ.........くは.......こん..な....と.....ころ.......で.......)

月はまだ残っている意識の中であるのは後悔しかない。
PoHやポセイドンと言った悪を殺せず、Lとの決着を白黒付ける事もなく、デスノートを取り戻せず、主催共に裁きを与えて新世界の神に返り咲く目的も遂げられない。
脱出してから犯罪のない世の中の実現は不可能になった。
今度こそ敗者として何も成し得なかった。
彼らを見限らなければ違う結末はあったのだろうか?
己の無念を抱え、神への再起も不能のまま月は本物の神に殺された事実を知らずに意識は途切れた。

283◆2fTKbH9/12:2024/12/28(土) 15:07:24 ID:???0
月の敗因は言うまでなく仲間の不在だろう。
五人組もとい海馬達の接触する絶好の機会があったのだが、触手の男=無惨との戦闘で心身共に傷を負ったのは無理もない。
彼らの再起の可能性を信じ切れずに切り捨ててしまった。
ツケが回ったのか運悪くポセイドンと遭遇してしまい、自身の破滅の結末を生んでしまった。
もしも、彼らの可能性を感じ取り、一緒に同行し、単独でポセイドンとの邂逅は避けられた運命もあっただろう。
あくまで例えばの話だ。進んでしまった分岐の変更は当然ながら、不可能だ。



【夜神月@DEATH NOTE(漫画版)  死亡】



ポセイドンは月との戦闘後、既に動き出していた。
あの戦いの最中に何者かが近づいていた気配を察知した。
直ぐに離れて行ったが、一応、逃げた方角は記憶してある。
逃げ果せた可能性もあるので周辺を捜索する程度。
見付からなかったら、どうでもいいだろう。

周辺の捜索が終了次第、もう一度北へ前進する。
自分の現在地がE-2だと把握した。
北への行く道はD-2とE-2境界線にある橋。
理由としては気晴らしも済んだし、転移する前に殺し損ねた雑魚(カス)共とかち合う可能性を高める為だ。
そうでなくてもやる事は変わらない。

先程の殺した男は勝手に神を名乗る愚か者がまだいた。
主催もそうだが、参加者にも神の名を振り翳す人間がまだ存在していたとは。
あの雑魚(カス)相手に本気を出すまでもなく、比較的楽に殺せたが、変身中に攻撃しなかったのも何時でも片付けられたから。
最後の光波の攻撃も避け様と思えば簡単に出来るが、躱さなかったのは、神を騙り、調子に乗っている愚か者に身の程を知らせる為に過ぎない。

しかし、あの男も此れまでの参加者同様、のぼせ上がっていた。
自分に勝利すると思い込み、牙を剥き、諦めるの『あ』の文字すらない。
どいつもこいつも自分に神に道を譲る気はないようだ。
全員歯向かう輩は死を以って償うだけだ。

其れから辺りを捜索し、かなり遠い位置に黒い鎧や異形などをギリギリ発見した。
ポセイドンは気が変わり、標的を変えて、あの四人を殺し、次に再度、北へ北上する。
先程の何者かは放っておいてもどうせ問題はない。
視界は豆粒みたいな位置だが、追いつけばどうとでもなる。

ポセイドンはまた動く。
神に休息が訪れる日は来るのだろうか。



【E-2/一日目/早朝】

284◆2fTKbH9/12:2024/12/28(土) 15:09:07 ID:???0
【ポセイドン@終末のワルキューレ】
[状態]:内臓にダメージ、疲労(絶大)、打撲(超軽微)、胴体に裂傷(中)、全身に切り傷(超軽微)
[装備]:トライデント@終末のワルキューレ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]基本方針:偽りの神共とのぼせ上がった人間共を殺す。
1:遠い位置にいる四人の雑魚(カス(ジャック組) )を殺し、その後は再び北へ前進する。
2:一刻も早く雑魚(カス(参加者) )共を殺し、殺し合いに優勝して雑魚(ハ・デスと黎斗)の元へたどり着く。
3:あの不敬極まる汚物(野獣先輩)は必ず殺す。
[備考]
※参戦時期は本編登場前。
※通常の兵器でもポセイドンにダメージは与えられます。
※野獣先輩によって<<洗脳ーブレインコントロール>>を使用されましたが、自力で解除されました。





「迂闊に乱入しなくて良かった」

そう呟いた人物は小太りで白色のスーツを着用した男、天ヶ崎恋。
それは人間態の話で、もといラヴリカバグスターである。
嘗て表向きは一時消滅した黎斗の代わりに幻夢コーポレーションの三代目社長を務めていた。

彼は小鳩にモーニングスターで夜空の彼方へ飛ばされて敗北した。
地面に落ちた先は橋が見える位置だった。
ラヴリカの現在位置はD-2の橋の近辺だが、本人はNPC扱いであるが故に地図を所持していない。
傷心を癒す休養を充分に済ませた後、NPCの役目を真っ当するべく行動に移す。

行き先は適当に橋を渡るのを決めた。
移動して、橋を渡る目前で人間......いや、エルフ耳の少女の死体が転がっている。
彼女が殺害されたついては自分なりに保護出来ずに残念な結末にがっかりつつもあっさり後にした。

橋を渡り、E-2に舞台が変わる。
その時、銃声が鳴り響いていた。
誰かいると確信し、少し近づいたら、金髪のイケメンと自分の知らない仮面ライダーとの戦闘ではないか。
スカート状のライダーの中身は不明でテレポートで後ろを取り、寝首を搔こうとした。
たが、金髪のイケメンはあっさり対応し、捻じ伏せて見せた。
此の光景を見たラヴリカは危機感を感じて、一目散に逃げた。
NPCとして参加させられても金髪のキザ男とは関わりたくない。
物理攻撃の無効が強みでもあんな規格外に勝つ見込みがない。
タイミング悪く突撃してしまったら、あのライダーは分が悪いと押し付けられて、自分は葬られただろう。
幸い、あのライダーの変身者が声の主が男性と確信し、興味を失くしたのもあった。

かなり距離を取り、今に至る。

「もう少し、離れて・・・・・・あれは!?」

そう遠くない距離にマッシュルームヘアーの男とピンク髪の女性の姿が映った。
前者が担いでいる二人の内の一人はラヴリカが見知った人物だ。
まさかの偶然による再会で驚愕する。

「彼もこのゲームに招かれるとはね」

気絶している男が白衣に白が混じった髪を忘れる訳がない。
ブレイブこと花家大我本人だ。
ラヴリカは何れも大我に二度も敗北を喫している。
二度目はそうではないが、大我の決死の抵抗により、スナイブこと鏡飛彩に敗北する原因を作っている。

もしかしたら、大我がいるのなら、飛彩と宝生永夢も来ている可能性を失念していた。
そもそも、殺し合いの運営を仕切る黎斗が彼らを招待しないはずがない。
せめて名簿が手元にあれば早く知れたものを。

285◆2fTKbH9/12:2024/12/28(土) 15:10:15 ID:???0
ラヴリカは目的を一つ増やす。
この場で大我との三度目の再戦を挑もう。
二度の苦い敗北した分の清算をして貰おう。
飛彩と永夢のリベンジの優先は低く、来ているか不明。
特にエグゼイドの因縁は薄くて、どうでもよかった。

けど、唯一の難点がある。
NPCの役割であるが故に参加者を殺せないようそれすらもプログラミングで調整されてしまっている。
此ればかりは如何しても不満だ。
制限が無ければ小鳩だって始末する一択のみの選択。
同じNPCでも継国縁壱みたいに命を奪えるように許可して欲しいものだ。
文句を垂らしても仕方ない。

「彼らはあっちだな」

彼らを的確に追跡し、大我にリベンジを達成させ、他の男二人も再起不能だけで終わろう。
黎斗が余計な細工をしなければ再起不能では済ませないが。
ピンク髪の女子を自分なりのやり方で保護しよう。
ラヴリカは走って行った四人組を追って行った。

しかし、ラヴリカは一つだけ勘違いしていた。
保護する予定のピンクの髪の女子こと百雲龍之介は男性である事を。
見た目からして見抜くのも無理難題な話。
其のことを知った時、何を思うのか。

図らずも大我とラヴリカの第三ラウンドが始まるかもしれない。
一度目は西馬ニコの罵倒を浴びて弱体化し、そこを狙われて敗北。
二度目は黎斗の手で復活するも、彼によって百瀬小姫の洗脳が解除され、飛彩に引導を渡される要因になった。
大我が目を覚ませば三度目の戦いのゴングが鳴り響くだろう。


本物の神とNPCのバグスターは標的を発見した。
同じエリアでも二カ所の地で距離がある。
間もなく放送が始まろうとする。
終われば、離れた場所で其々の死闘が幕を開くであろう。



※ラヴリカはトリロジーアナザー・エンディングで消滅後までの記憶を持っています。
※エリンの死体はD-2の橋の前に置かれています。
※メイジのベルト&メイジウィザードリング(緑)@仮面ライダーウィザード、テレポートリング@仮面ライダーウィザード、ホーリーリング@仮面ライダーウィザードは全て破壊されました。修繕は当然ながら不可能です。



【転移結晶@ソードアート・オンライン】
ポセイドンに支給
旧SAOにてドロップで手に入れられるアイテム。
使用回数は一回で結晶を地面に叩き付ける事で自分が指定した場所に行ける。
本ロワではランダムに転移する。

286◆2fTKbH9/12:2024/12/28(土) 15:11:50 ID:???0
投下を終了します。
タイトルは偽りの神 です。

287 ◆ytUSxp038U:2025/03/04(火) 14:20:02 ID:cS9VIg6I0
皆様投下お疲れ様です
生存中のキャラが全員早朝の時間帯に登場したので、◆QUsdteUiKY氏が宜しければ私の方で第一回放送の予約をしたいと考えていますがいかがでしょうか?

288 ◆QUsdteUiKY:2025/03/06(木) 03:01:04 ID:K5AJs0qk0
>>287
ありがとうございます。ぜひお願いします。皆様とてもクオリティが高く、自分なんかがこの企画の放送を書いて良いのか悩んでいたのでとても助かります
アニメ版の海馬のみ黎明ですが1名くらいなら問題ないと考え、企画の進行を優先させていただきます

289 ◆ytUSxp038U:2025/03/06(木) 23:06:48 ID:QzmKpfRM0
>>288
こちらこそありがとうございます。では投下します

290第一回放送 ◆ytUSxp038U:2025/03/06(木) 23:07:50 ID:QzmKpfRM0
「予想以上、だな」

誰に向けるでもなく呟かれた声色には、尊大な神らしからぬ驚きが含まれていた。
会場全域を映し出す無数のモニター。
プレイヤー達の奮戦、そして最期を己が居城で見させてもらった。
参加者の数だけ喜劇が、悲劇が、闘争が、絶望が、ドラマがある。
やはり自分の目に狂いはなかった、彼らは究極のゲームを彩るに相応しい者達だと。
そう思いつつも、脱落者への驚きは隠せない。

「まさか、君がこんなにも早くゲームオーバーになるとは……」

自分に強烈な嫉妬心を植え付ける程の、想像力の持ち主。
最高のモルモットにして、最強のゲーマー。
因縁深い小児科医の最期も、画面越しにしかとこの目で見た。

こうなる結果を微塵も考えていなかった、とは言わない。
ガシャットの大半を没収され、エグゼイド以上の力を持つ参加者もいる環境だ。
あの男とて、生き延びられる保障は全くない。
ただそれでも、彼を知る一人として期待を抱いていなかったと言うと嘘になる。
決闘と称した新たなゲームで、一体どのようなエンディングに辿り着くのか。
如何なる方法で攻略し神の元へ辿り着くかを、心のどこかで待ち望んでいたのかもしれない。

「だが、残念ながら君はもうプレイヤーの資格を失った。コンティニューは認められない!」

僅かに感傷らしきモノがよぎるも、即座に不敵な笑みで捻じ伏せる。
ああ確かに、あの男の脱落に思う所がないとは言えない。
だが、だからこそ面白い。
天才ゲーマーMですら呆気なく死ぬ。
善が勝利を収めるお決まりの展開を大きく外れた、己がゲームの出来栄えに笑いが零れる。

誰が予想出来たのか。
宝生永夢が、ハイパームテキが手元にないのを加味しても、あんな最期を迎えるなんて。
面白半分で参加させた、ネットの情報の集合体なんていう存在自体が嘲笑の的のような存在に、惨めに殺されるなど。
まさに予測不可能、凡人どもには決して真似できない神の作ったゲームならではだろう。

永夢だけではない。
司波達也は最愛の妹の元に帰れず、異界の地で朽ち果てた。
九十九遊馬はかっとビングを見失い、ヤケクソの末に一人寂しく息絶えた。
夜神月は愚かにも自身が偽りの神に過ぎないと突き付けられ、何一つ為せずに死んだ。

それぞれの世界で中心となった者達でさえ、神のゲームでは主人公になれなかったのだ。

彼らを失ったプレイヤー達がこの先どうなるのか。
特に期待を寄せる参加者達はまだ残っている、こちらで用意した敵キャラクターも健在。
正にゲームはまだ始まったばかり。

「さあ、君達の足掻きを私に見せてくれ。私のゲームの完成度を高める為に、存分に励むが良い!」

291第一回放送 ◆ytUSxp038U:2025/03/06(木) 23:09:01 ID:QzmKpfRM0



太陽が顔を出し、新たな一日の始まりを告げる。
仕事や学業への憂鬱さを抱く者、休日なのを良い事に二度寝を決め込む者、若しくは新生活のスタートを切り一歩踏み出す者。
そういった日常を謳歌する人々は、ただの一人も存在しない。
神から見れば光栄な、彼らにとっては不運な、殺し合いのプレイヤー達。
全員の意識を引き付けるように現れる、天空の巨大モニター。
6時間前と同じ現象に誰もが空を見やり、耳を傾ける。
これより起こるのが忌まわしいものであろうと、自分達の今後を左右するのは事実なのだから。

『御機嫌ようプレイヤー諸君。まずはおめでとうと言わせてもらおう。
 この放送を見ている君は予選のみならず、本選最初の6時間をも生き抜いた優秀な参加者だ!誇るが良い!自らの武力、知力、幸運!それらを駆使しよくぞここまで残った!
 反対に生き延びられなかった敗者どもォ!残念だが貴様らに復活権は与えられん!精々優勝者が生き返らせてくれることをあの世で祈っていろ!』

『ここからはルールに載っているように、伝達事項を話しておく。まずは禁止エリアからだ。
 既に把握してる者が大半だろうが、念の為に私からも話しておいてやろう。
 6時間毎に三つずつ、こちらで指定したエリアを立ち入り禁止とする。侵入が確認された場合、諸君らの首輪が爆発しジ・エンドだァ…。
 一応警告を発し多少の猶予はくれてやるがな。
 そして首輪が爆発すればどんなプレイヤーだろうと死は免れない。君達の中にもいるだろう?本来なら首輪の爆発程度じゃ死なない存在が!
 つまりこれはチャンスという訳だ!力で叶わなくとも、工夫すれば格上相手に勝利を狙える!戦い方次第で誰しもが勝者になれることを、努々忘れるなァ!

『では禁止エリアを伝えよう。

【B-7】
 【D-1】
【F-3】

 以上だ。これら三つは2時間後に禁止エリアとして機能する。用があるなら早目に済ませるのを薦めよう。
 それと君達の地図にも禁止エリアに印が付いている筈だ。うっかり聞き逃す馬鹿はいないと思うが、もしいるなら神からの慈悲を有難く思え!』

『続いては君達が最も気になるだろう情報…そう、脱落者達の発表だァ!
まずは神である私が最初に行った放送すら聞けず、ゲームオーバーとなった負け犬ども!こいつらから教えてやろう。
 
 ボーちゃん
 桜田ネネ
 御伽龍児
 遠野
 条河麻耶
 ひで
 小倉しおん
 吉田清子
 星合翔李
 エリン

 以上10名。たった1時間かそこらも生き延びられないとは…この雑魚どもめェ!
 次はこの6時間でゲームオーバーとなった者達だ。

292第一回放送 ◆ytUSxp038U:2025/03/06(木) 23:11:18 ID:QzmKpfRM0
 アユミ
 影山瞬
 紅渡
 鹿目まどか
 片桐章馬
 深月フェリシア
 牛尾哲
 猿渡一海
 宝生…永夢ゥ!
 百式照
 大尉
 司波達也
 城之内克也
 うさぎ
 野比のび太
 尾形百之助
 虐待おじさん
 梓みふゆ
 桜ノ宮苺香
 櫻井戒
 パラダイスキング
 ニノン・ジュベール
 九十九遊馬
 フグ田タラオ
 白鳥司
 涼邑零
 ルナ
 天々座理世
 MNR
 夜神月

 以上30名。ン素晴らしいッ!!君達は私の予想を超えて、実にゲームを盛り上げてくれたッ!
 アア…だが聞こえるぞ……喪失を嘆く者どもの声が…!
 そんなに悔しいかァ?

 CRの戦友が!
 みかづき荘の魔法少女が!
 決闘(デュエル)で繋がった友(ライバル)が!
 新世界へ渡った筈の命が!
 ヴァイスフリューゲルのメンバーが!
 ザルバ(友)である魔戒騎士が!
 ラビットハウスで共に過ごした友人が!

 彼ら彼女らの死が!受け入れらないのなら方法は一つ!最後の一人に勝ち残れ!
 優勝者への褒美を、死をも覆す権利を、ゲームマスターにして神の私が約束しよう』

『さて、生き残った諸君には幾つか耳寄りな情報がある。
 一つは会場に解き放たれたNPC。既に遭遇した者もいるだろうが、中には少々特殊な個体も存在する。
 首輪や所持した支給品と引き換えに、アイテムや情報の売買を行うNPCだ。
 もし首輪が装着されたままの死体を見付けたら、積極的に集めるといい。戦力強化や情報集めのチャンスになる、是非活用したまえ』

『二つ目。実は放置され回収されていない支給品が幾つかあってなァ。今回は君達の奮闘を評価し、特別に場所を教えよう。
 F-7とE-5だ。誰が手に入れるかは早い者勝ち。勿論、先に入手した者から奪っても問題はない』

『それと、だ。君達の中には既に奇妙な現象に遭遇した者もいることだろう。
 本来なら使えない力やアイテムを、死闘を経験し手に入れた者達が、だ。
 不安がる必要はない!それらも私が設定した、ゲームを盛り上げる要素の一つ!
 たとえ格上とぶつかっても腐るな!一発逆転のチャンスは平等に転がっているゥ!』

『では今回の放送はここまでだ。今後も君達の活躍に期待しているぞ。
 そして忘れるな!優勝か、私を倒すか、ゲームクリアまでの過程に決まった手順は存在しない!君達一人一人が自由に攻略ルートを組み立てたまえ!』

『さらばだ諸君!6時間後にまた会おう!無事に生き延びられたらの話だがな!ヴァーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!』

293第一回放送 ◆ytUSxp038U:2025/03/06(木) 23:12:24 ID:QzmKpfRM0



「無駄が多いな」

定時放送を終えた黎斗に掛けられたのは、労りとは正反対の言葉。
辛辣な評価をぶつけた本人はニコリともせず、瞳が神を射抜き続ける。

「必要な情報を伝えるだけなら、磯野にでもやらせておけば良いだろう。わざわざお前が出張って余計な挑発を繰り返し、何の意味がある」
「挑発とは心外だな。ここまで生き残ったプレイヤー達へ、神が直々に言葉を授けてやったのだァ」

腕を組みあからさまに見下す態度の黎斗へ、相手はやはり無表情。
ここにハ・デスがいれば、神への不遜な態度を咎めただろう。
尤も、仮にそうなったとて素直に聞き入れる者ではない。

重厚な鎧を纏い、神の眼前に立つのは男。
否、兜から覗く顔はまだ少年と言っても良い年頃だ。
だが見よ、絶望を見て来た人間にしか宿らない、深い闇が渦巻く瞳を。
常人では同じ空間にいるだけで震えの走る、強大なプレッシャーを。

戦士か?違う。
勇者か?違う。
では悪魔なのか?違う。

覇王。
その二文字こそが最も相応しい男もまた、バトルロワイアルを運営する側の一人。
といっても磯野やハ・デスと違い、黎斗に従っている訳ではない。
他者を支配下に置きこそすれど、自らが首を垂れ傀儡となるのは覇王の振る舞いに非ず。
利用し合っているのが神と覇王の関係に当て嵌まる。

「会場の様子は君も見ただろう?ならば、思う所はあるんじゃあないか?」

含みを持たせた言い方が、誰を指しての事かは察しが付く。
初代決闘王(キング・オブ・デュエリスト)。
ネオ童実野シティの英雄。
『本来の』彼がデュエルを通じ、絆を結んだ男達。
デッキを奪われて尚も戦い、仲間達と共に勝利を掴んだ二人へ――

「何もない。最後まで生き残り、俺の前に立つなら相手をしてやるだけだ。仮に志半ばで力尽きたとしても、所詮その程度の弱者だったに過ぎない」

声を震わせることなく、淡々と返す。
それ以上何も話す事はないとばかりに背を向ける覇王を、神は楽し気に見送る。

「そうか。ならば私も君が、武藤遊戯や不動遊星達と相見える瞬間に期待するとしよう。遊戯十代、嘗てそう呼ばれた決闘者よ」


追加主催

【覇王十代@遊戯王デュエルモンスターズGX】

294 ◆ytUSxp038U:2025/03/06(木) 23:14:34 ID:QzmKpfRM0
投下終了です
問題が無ければこのまま

環いろは、黒死牟、空条承太郎、天津垓、不動遊星、燕結芽、キャル、ポッピーピポパポ(NPC)、滅、野獣先輩、デェムシュ、継国縁壱を予約し延長もしておきます

295 ◆QUsdteUiKY:2025/03/07(金) 04:04:34 ID:.H46VtW.0
投下乙です
GXから誰も出せずに居たことや遊戯王キャラから主催者を出せなかったことを後悔していたので覇王十代が追加主催に居てとても嬉しかったです
この放送に特に問題はなく、本採用としていただきます。ありがとうございました

296 ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:00:54 ID:LPbpj4TY0
感想&本採用ありがとうございます
投下します

297刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:02:51 ID:LPbpj4TY0
「カンノミホ……(寝言)」

民家の一室。
本来ならば夫婦が愛を営むダブルベッドの上に、意味不明の言葉を呟くクッソ汚いホモが一人。
一生ネットの宝物、僕らのアイドル男優、四章の眠らせてくる奴、ホモビに出ただけでバトルロワイアルに参加する男。
野獣先輩が非常に腹立たしい顔で眠りに就いていた。

まるでどっかの悶絶少年のような、見ているだけで苛立ちを覚える表情である。
怒れる海神からの逃走に成功し、溜まりに溜まった疲れへ苛まれたのが少し前。
いい加減休むべきと判断を下すのに時間は掛からなかった。
無人なのを確認し民家へ我が物顔で居座り、睡眠という手っ取り早い回復手段を取り今に至る。

『御機嫌ようプレイヤー諸君』

「ファッ!?」

唐突に響いたクソデカ音声に飛び起き、慌てて身構えるも室内に人の姿は見当たらない。
訪れた時と同じく、民家にいるのは自分だけ。
ではどこからと、難しく考えるまでもなく窓の外に原因を見付けた。

「なんだあれは…たまげたなぁ」

一人勝手にたまげる野獣先輩の視線の先では、天空に浮かび上がった巨大モニター。
そこに映る尊大な態度の男を全ての参加者が知っている。
いつの間にやら6時間が経ち、ゲームマスターによる定時放送が始まったらしい。
所々で参加者を煽る発言に苛立ちながらも、有用な情報な故聞き逃さず耳を傾けた。

298刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:05:17 ID:LPbpj4TY0
「ウン……」

やがてモニターは消え、野獣先輩のいる民家も静寂を取り戻す。
普段からクッソ陽気で五月蠅いこの男にしては珍しく、神妙な顔で顎を擦る。

(やっぱり、優勝するしかないってことっスね……)

放送で呼ばれた退場者の中には、当然の如く愛しの後輩もいた。
何も不思議な事ではない、死体を己が目で見たのだから。
むしろ呼ばれない方が遥かにおかしいだろう。
他の参加者と協力して、檀黎斗達を倒すつもりは微塵もない。
改めて、優勝し遠野を生き返らせる方針を固める。

今更ながら、ここに迫真空手部の大先輩や後輩、師範がいなくて良かったと思う。
幾ら私欲の為に参加者皆殺しを目論む人間の屑であっても、親しい者まで手に掛けるのに抵抗が無い訳ではない。

虐待おじさんやひでと言った名前に多少既視感を覚えたものの、強い動揺を抱く程ではなかった。
やることは放送前と同じ、最後の一人に勝ち残って願いを叶える。
中途半端な時間だが睡眠を取った甲斐も有ってか、戦闘が可能な程度には疲れも取れた。
参加者を見付け、パパパって殺って終わりっとするべく民家を出発。

「ん?」

それからすぐの事だ、怒れる異形を見付けたのは。

299刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:06:16 ID:LPbpj4TY0



「思い上がっタ猿如きガ、俺を見下すナど許サン……!」

屈強な真紅の肉体を震わせ、デェムシュは黎斗への怒りを吐き捨てる。
見下し、嘲笑い、弄ぶ。
それらは全て、フェムシンムである自分達のみの特権。
だというのにあの人間は愚かにも神を自称し、あまつさえ己を遊戯盤の駒として扱う。
許せない、今更何をされようと絶対に許すつもりはない。
今すぐにでも引き摺り下ろし八つ裂きにしてやりたいが、出来るのならとっくにそうしている。
本当だったらあのような憎たらしい猿の言葉など切って捨てたい所であるも、聞き逃せば自分の首を絞めると分からない訳ではなく。
尋常ではないストレスを抱きつつ、情報はしっかりと噛み砕き頭に入れた。

とはいえ、禁止エリアはともかく死者に関してデェムシュが感じるものはほとんどない。
精々、自分が殺したいと思ってる連中が勝手に死んでいなければいい。
フェムシンムの同胞もいない以上、そう思った程度。
近隣エリアも禁止区域に指定されておらず、慌てて移動せずとも問題なし。

となれば真っ先に行うべきは、体力の回復だろうか。
最初に出会った人間達との戦闘に始まり、放送前は連戦の嵐。
ただの一人も殺せず、むしろ手痛い反撃を受け続けた。
忌々しい猿どもを早急に殺してやりたいのは山々だが、流石に疲労は無視できないレベルに蓄積中。
先程の戦闘から撤退したのも、それが理由の一つ。
加えて向こうには猿の分際でオーバーロードの力を得た戒斗や、奇怪な搦手を用いるベクターもいた。
自分と違い向こうは一人重傷を負ったが、残る二人はノーダメージ。
万全に近い状態の敵と戦闘を続け、不意を取らないとも言い切れない。
だから不服であれど自ら退き、命は繋がったままだが余計に鬱憤が溜まる結果となったのである。

(コの俺がいつまデも猿ニ不覚を取ルトは……)

選ばれし強者、フェムシンムとは思えぬ戦績。
素直に敵の力を認め考え方を変える、といった反省は起きない。
それが出来ないからこそ、彼らの文明は滅びを迎えたのだから。

300刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:07:07 ID:LPbpj4TY0
そうして休む場所を探すべく進んだ先で、デェムシュの瞳が一人の参加者を捉えた。
汚い、他の猿どもと比べても非常に汚らわしい男。
ガッシリと筋肉質ながら、見ているだけで不快感を感じざるを得ない。
しかも妙に臭い。
ただでさえ人間を猿と蔑むデェムシュからすれば、友好的に接しろと言う方が無理難題。
むしろ余計に苛立ちを刺激され、意識せずとも得物を握る力が強まる。

「薄汚レた猿メ、吐き気ガすル…!」
「辛辣過ぎィ!」

会っていきなりボロクソに貶され、ショックを受ける汚い猿。
ついさっき民家を出た野獣先輩はいきなりの暴言に心を痛める。傷付きやすいのは女の子の特徴、ハッキリ分かんだね。

一方で殺気立った相手の様子に、殺し合いに乗った者と察した。
目指す場所が自分と同じ優勝なら、たった一つの椅子を譲ってやる道理はなし。
このまま戦闘に発展しても負けはしない、遠野蘇生の礎にするまで。

(そうですねぇ……)

だが他に賢いやり方があるのではと、内心考え込む。
自分が参加者の中で弱い方だとは思いたくないが、放送前の戦いで痛い目を見たのはノーカンに出来ない。
特に金髪の偉丈夫とは真正面からぶつかった場合、自分と言えども無傷で勝てる確率は低い。
ならば、信頼関係など無くとも一時的に手を組む相手を作るのも悪い手ではない筈。
何よりどうしてか、目の前の赤い異形からは他人の気がしない。
強いていうなら、声から親しさに似たモノを感じないでもなかった。(大人気声優のSGTTMKZ兄貴は無関係だろいい加減にしろ!)

「まずうちさぁ、殺し合い乗ってんだけど、手ぇ組まない?」
「ナニ…?」

そうと決まれば早速共闘を提案。
後輩を屋上へ日焼けに誘った時のような気軽さで話しかければ、デェムシュは案の定訝し気な反応。
困惑は即座に怒りへ変わり、煮え滾る殺気を叩き付ける。
猿如きが馴れ馴れしい態度で、自分に手を組もうとほざいた。
百歩譲って、道具らしく跪き隷属を望むなら考えてやってもいい。
何を勘違いしたのか、眼前の猿はフェムシンムを旧来の友に思い込んでるとでも抜かすつもりか。

301刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:08:33 ID:LPbpj4TY0
「思い上がリも甚だシイぞ猿メ!」

湧き上がる衝動へ逆らわず、のぼせ上った猿へ剣を振り被る。
最早相手の言葉は一文字も聞き入れる価値なし。
憎たらしい顔面を叩き割り、地面を汚す腐肉の塊に変えるまで。

「まま、そう焦んないでよ」
「ヌゥッ!?」

だが一手早く、野獣先輩が懐に潜り込む。
絶対唯一神GOの語録を使うという、正に神をも恐れぬ所業と共にデェムシュの顔部分へ手にした道具を押し当てる。
もしデェムシュが万全の状態ならば、こうもアッサリ接近を許しはしなかった。
ロクに休まなかったツケで、野獣先輩の望む光景を生み出す。
棒の先端にバツ印が付いた道具を当てられ、暫し沈黙。
ややあって離せば、真紅の瞳で相手を見下ろしつまらなそうに吐き捨てる。

「…………フン、いイだロウ。貴様ヲ新しイ道具トシテ使ッてヤロう」
「いいねぇ〜!Foo〜↑」

快くとはいかなくとも、共闘は受け入れられた。
相手を道具扱いは野獣先輩とて最初からそのつもりだ、変に仲良くしたいとも思っていない。
丁度良い駒も手に入り、放送後の再スタートとしては申し分ない。
後は軽く2〜3人くらい軽く始末してやれば尚良い。

「あっそうだ(唐突)。俺早速行きたいとこあるんスよ」
「貴様ノ望ミなどドウデもイイ。黙っテ俺に――」
「そう言わずに聞いてくれよな〜頼むよ〜(懇願)」

お願いしつつも再び棒をデェムシュに当てる。
すると先程と同じく、不服そうにしつつも聞く姿勢を取った。
満足気に頷きつつ行きたい場所を言えば、損はないと理解。
問題は自分達の現在位置から数エリアは離れてる点だが、解決する手なら持っている。

302刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:10:25 ID:LPbpj4TY0
「見とけよ見とけよ〜」

大先輩のイチモツを押し当てられるクッソ哀れな後輩を煽るように、クッソ腹立たしい口調で道具を取り出す。
デイパックには到底入り切らないだろうサイズの、ピンク色のドア。
この奇妙な物体の名はどこでもドア、複数人の参加者にも支給された22世紀のひみつ道具の一つ。
行きたい場所を告げて開けると、ドアの先が目的地へ繋がるという破格の移動手段だ。
殺し合いでは幾つかの制限こそ設けられているも、移動時間の大幅な短縮には持って来いである。

ドアを開けると予め指定した場所へ通じ、文字通り一瞬で到着。
見慣れぬ街並みが広がっており、異物とも取れるモノが転がっている。
既に乾いた血だまりに伏し、ピクリとも動ない青年。
命を賭し仲間達を逃がした櫻井戒の骸と、傍らへ落ちた幾つかの道具。
放送であった放置されたままの支給品を回収すべく、E-5へやって来た。

流石に放送から間もないだけあって、他の参加者は見当たらない。
自分達が一番に着き、支給品は全て頂く。
上機嫌で手を伸ばすと、横からヌッと赤い腕が現れ掻っ攫った。

「ホウ……猿に持たセルニは勿体ナい剣だナ」
「クゥーン…(子犬)」

勝手に取られ子犬みたいに嘆く小汚いホモを無視し、デェムシュは感心したように手元の剣を見やる。
戒の支給品であったザンバットソードは、ファンガイアの王の為に生み出された魔剣。
デェムシュからしても見事と言わざるを得ない力が宿っており、自分が振るうもう一つの得物として申し分ない。
現代のキングや戒が決して望まない使い方をする気だが、死人から文句は飛ばない。
仮にあっても聞く耳持たずだったろうが。

ついでにデイパックを開け中身を確認、今正に必要とする道具を見付けた。
説明書を読み終えるやカエルのイラストが描かれたシールを、迷わず自分に貼り付ける。
するとあれだけ圧し掛かっていた疲労が、あっという間に消えたではないか。
見た目はただの玩具に見えるも、これもまた22世紀のひみつ道具。
ケロンパスと言い、貼った者の疲れをシールに移し替える効果を持つ。

303刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:11:00 ID:LPbpj4TY0
上等な剣の入手と、疲労回復。
両方が叶い幾分機嫌も良くなり、ザンバットソードで戒の首を斬り落とす。
胴体から離れた顔に見上げられるも、感じるものは皆無。
同じように転がった金属製の首輪へ切っ先を向け、同行者の人間の屑に言う。

「猿、貴様にハこれデ十分ダロう」
「……しょうがねぇなぁ(GKU)」

武器も道具も総取りしておきながら、上から目線極まる態度。
さしもの野獣先輩もカチンと来たが、怒り散らして折角の協力関係が台無しになるのも勿体ない。
特殊個体のNPCに渡せば道具と交換出来るらしいし、首輪の手に入れるのは不満でもない。
よって寛大な心で妥協してやった。これはどう見ても人間の鑑じゃないか、たまげたなぁ。

必要な物は全て手に入れ、もうこのエリアは用済み。
では次は何処へ向かうかだが、既にデェムシュが決めてある。
放送前は中へ入らず終いだった、白く巨大な建造物。
少なくともあの施設の前で一戦交えた二人組は、高確率で立ち寄った筈。
まだいる可能性も低くなく、ならば行かない選択肢はない。
六眼の剣士と桜色の小娘、二人揃って今度こそ仕留める時だ。

「付いテ来イ猿!奴ラに地獄を見せル時ダ!」
「ウン、おかのした。ほら行くどー」

事情は知らないが参加者を殺せる場に赴くなら、野獣先輩も異論はない。
片や隠さぬ憤怒を撒き散らし、片やクッソ気の抜ける語録を発し足早に次なる目的地を目指す。

その姿を、見られているとは気付かずに。

304刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:11:40 ID:LPbpj4TY0
◆◆◆


怒りがあった。
聞かざるを得ない情報と、聞きたくもない挑発染みた神の言葉。
それら全てを映像越しに耳に入れ、病室へ静寂が戻った後。
キャルの中にはどうしようもない程の、怒りが生まれた。

ふざけているとしか思えない殺し合いに巻き込み、とことん参加者を舐め腐った檀黎斗への。
ユウキと絆を結んだヴァイスフリューゲルの少女を殺した、顔も知らないどこぞの悪党への。

何より、すぐ隣で仲間の死を知らされた少女がいるにも関わらず、コッコロ達の名が呼ばれず安堵してしまった自分自身への。

簡単に死ぬような奴でないとは分かっている。
美食殿のメンバーでは最年少なれど、あの年頃らしからぬ落ち着きがコッコロにはある。
幾つもの依頼や、ランドソルを襲った大事件をも生き延びたのだ。
だから大丈夫だとは思っていたが、それでも生存を確認出来れば感じ入るものが無いとは到底言えまい。
良かったと、ホッと胸を撫で下ろした。

同時にもう一人、陛下と呼ぶあの人もだ。
殺し合いに抗う者達の事を考えれば、カイザーインサイトが生存中なのは悪い話だろう。
高確率で殺し合いに乗っているか、仮に乗っていなくとも何らかの被害が出た可能性は低くない。
けど、自分とあの人の関係は昔の主人だとかそんな言葉で片付けられない。
向こうにとっては道具に過ぎなくとも、既に敵対してるのであっても。
カイザーインサイトは、嘗て間違いなく己の救いとなった人なのだから。

(最悪……)

別に悪い事ではない。
死んで欲しくない者の無事を知り、喜ぶのは罪にならない。
分かっていても、そう簡単に受け入れられるかは別。
脱落者の名前が発表された時、隣で凍り付く気配は確かに感じた。
明らかに動揺してると、ハッキリ分かったのに自分が第一に思ったのは「コロ助達が生きてて良かった」だ。
自分自身への嫌悪が苦みとなって口いっぱいに広がり、

305刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:12:33 ID:LPbpj4TY0
「キャルちゃん?大丈夫…?」

掛けられた声に思わず隣を見やる。
眉を八の字に下げ、心配気に自分を覗き込む顔。
表情を歪めた自分が気になり、放っては置けなかったのだろう。
いろはと視線が合い、黎斗達への怒りとは異なる苛立ちが湧く。

(何であんたの方が気を遣うのよ)

お人好しな少女だとは放送前の様子から察しは付く。
でなければ、常時抜き身の刃染みた空気を纏う男を何かと気に掛けようとはしない。
そういった性格を悪いと言う気はないし、嫌いだとも思わない。

でも、今やってるソレは違うだろう。
顔色を悪くし、僅かに手が震えているのを見れば分からない馬鹿はいない。
告げられた脱落者の名へ、浅くない傷を負っている。
なのにいろはは喪失に打ちのめされるよりも、キャルへの心配を優先した。

「そうじゃないでしょうが馬鹿」
「痛いっ!?キャルちゃん!痛いよ!」
「うっさいバーカ」

それがどうにもムカつたので、いろはの頬を抓ってやる。
痛みに悲鳴が飛ぶもお構いなしだ。
暫くは餅のように柔らかい頬を引っ張り、頃合いを見て解放。
ヒリヒリ痛む箇所を擦るいろはに顔を近付け、無愛想に言う。

306刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:13:31 ID:LPbpj4TY0
「あんたが超が付く程のお人好しなのは、別に良いわよ。けど、こんな時でも他人を優先しなきゃならない程なの?」
「え…?」
「仲間が、呼ばれたんでしょ。あんな自分を神様だとか言ってるキモい奴の言う事なんて、信じたくないけど」

嘘だったら良かったと、大半の参加者は言うだろう。
同時にただの現実逃避に過ぎない、神が告げた者達は本当に死んでしまったと、誰もが理解している。

「なのに我慢なんかしてんじゃないっての。溜め込んだって自分がぶっ壊れるだけよ、そんなの」
「……っ」

痛い所を突かれた自覚はあったのか、唇を噛み俯く。
正面からいろはを見続けるキャルはため息を一つ零し、そっと手を伸ばす。
自分の方が年下だというのに、全く世話が焼ける。
案外自分もお人好しな友人達に影響を受けたのかもしれない。
なんて小さく呆れ笑いを浮かべ、いろはの顔を自分の胸に押し当てた。

「わっ…」
「こうしてれば、あんたがどんな顔してるかも見えないわよ。それに、空気読まず部屋に入って来る奴がいたら蹴っ飛ばしてやるわ」

天井を見上げながら言うと、ビクリと震えるのが分かった。
自分自身の為に感情を吐き出すのが下手くそなのを見かねて、キャルなりに何とかしようとしてくれる。
どこか不器用だけど、決して冷たくない優しさを感じポツポツと言葉を紡ぐ。

「……まどかちゃんは一緒にいた時間は長くないけど、でも強い女の子なの。大事な先輩を助ける為に戦って、それでちゃんと助けられて…」
「うん」

キレーションランドでの戦いの後は別れたけど、もしかしたらまたいつか会えるかもしれなかった。
今度はお互いの事をもっと知って、友達になれるかもしれなかった。
そんな機会はもう二度とない。

307刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:14:07 ID:LPbpj4TY0
「みふゆさんはやちよさんの親友で、わたしの知らないやちよさんの事を沢山知ってて……会えたらきっと、やちよさんも喜ぶ筈で……」
「…うん」

やちよがみふゆをずっと、マギウスから取り戻したかったのを知っている。
ドッペルの暴走を止める為に力尽きたけど、でももう一度やちよに会えるかもしれなかった。
元の世界に帰れれば、鶴乃や天羽姉妹だって喜んだろう。
そんな未来は実現しない。

「フェリシアちゃんは……みかづき荘の大事な仲間で、わたしの作るご飯をよく薄いって言うけど、でも美味しそうに食べてくれて……」
「うん」
「鶴乃ちゃんとも仲が良くて、それで、それ、で……っ」

思い出すのは、フェリシアと会ってからの数々の記憶。
魔女への復讐心を抑えられなかった頃や、みかづき荘で共に過ごした日々。
助けられなかった絶望へ沈んだ自分を、やちよ達と共に引き上げてくれた瞬間。
けれど記憶にない新しい彼女の姿はもう二度と見れない。
無事に神浜へ帰れたとしても、そこにフェリシアはいない。

妹達を喪った時と同じ、引き裂かれるような痛みに涙が零れる。
押し当てたキャルの服が濡れてしまうと分かっても、止められなかった。
何度味わっても、喪失の苦痛だけは慣れない。
殺し合いを止める決意は揺るがないけど、今は少しだけ悲しみに身を委ねたかった。

308刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:15:28 ID:LPbpj4TY0
◆◆◆


大体が予想通りの内容だった。
脱落者の中に一海の名があったのは、直接自分達の目で死を見た故驚くに値しない。
飛電或人や滅が生存中なのも、DIOが未だ死んでいないのも。
信頼と敵対という異なる関係であれど、実力の高さを知っていれば何ら不思議ではなく。
最初の放送前の脱落者も含め、計40名が死んだ事実に多少の驚きこそあれど、出会った敵対者の強さを思えば有り得ない話でもない。
悪趣味極まる内容への怒りが無いとは言わないが、承太郎も天津も分かり易く感情を面には出さない。
あくまで内に留め、表面上は冷静さを保つ。

何より、『彼女』の様子を見れば自分達の怒りを優先したいとは思えなかった。

『嘘だよ……こんなの……エム……!なんで……!』

画面越しからでも伝わる悲痛な叫び。
喪失に流す涙は彼女が人ならざる存在であっても、人間と同じ感情の持ち主なのを伝えて来る。

定時放送が近いのを時計で確認し、一旦地上へ戻った時だ。
タイミングを合わせるように浮かび上がった巨大モニターを、病院内の窓越しに見たのは。
聞き終えた天津達は再び地下のCRへ戻り、筐体の中で待つ彼女へ伝えた。
宝生永夢もこの6時間で死亡したことを。

「……」

泣き腫らした顔で永夢の名を呼ぶポッピーを、天津は決して不快には思わない。
以前までの、ヒューマギアへ強い敵愾心を向けていた頃なら。
きっとバグスターであるポッピーにも、悪感情を抱いただろう。
今はもう違う、出会って数時間の関係だとて彼女も殺し合いに抗う仲間だ。
永夢の死を知った時の表情が強く頭に焼き付いている。
『嘘だよね…?』と震える声で聞き返す姿へ、真実を伝えるのが楽な役目だとは口が裂けても言えなかった。

309刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:16:30 ID:LPbpj4TY0
『エム……』

何度名前を呼んでも、自分の知る彼は現れてくれない。
小児科医になってからも昔と同じ、人懐っこい笑みを見せてはくれない。
ポッピーだってCRの一員として、医療に携わる者だ。
患者の死に立ち会う機会はゼロでなく、時には手の施しようの無い時があるとも理解してる。
でもこんな、大切な仲間が自分の見ていない場所で殺されたなんて到底受け入れられない。
全部黎斗のデタラメだと言い切れたら、どれ程良かったか。
檀黎斗を知るからこそ分かる、分かってしまう。
あの男は自分の作るゲームには妥協せず、本気で向き合っている。
だから放送に偽りは混ぜていない点だけは、黎斗を信じられるのだ。

永夢はもういない。
他の仲間に向けるのとは違う感情の意味を知る前に、彼は死んでしまった。
会場のどこかで放送を聞いた大我はどう思うだろうか、元の世界で帰りを待つ飛彩達に何て言えば良いのか。
分からないし、今は何も考えたくない。
耳を塞ぎ続けてれば傷は癒えずとも、それ以上痛みを味わいもしない。

(でも、それじゃあダメなんだよね…エム……)

悲しみを逃げ道に使うのは、ポッピー自身も望まない。
バグスターであれどCRの一因であり、看護師という顔を持つからこそ命の重さは理解している。
全てが手遅れだと言い切るには早過ぎる、助けられる命はゼロじゃあない。
だったら、戦うしかないのだ。
時に己の無力さを痛感して尚、患者と向き合い救いの手を差し伸べ続けるドクター達のように。

『二人共ごめんね。大丈夫…って簡単には言えないけど、でもずっと落ち込んでもいられないよね』
「もし時間が必要なら……」
『エムはきっと、誰かを助ける為に最後まで戦った筈だよ。だから私も、自分に出来ることをやりたいの」

気遣いは有難いが、強がりじゃなく本心からの言葉を返す。
永夢がどんな最期だったにしろ、命を守る為に戦ったのだと確信を持って言える。
それなら自分も仲間が守ろうとした者を守り、意志と命を繋いでいく。
きっともういない彼も、それを望んでるだろうから。

310刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:17:20 ID:LPbpj4TY0
『う〜…でもここから出られないのはやっぱり困るよ〜…ガシャットも取られちゃってるし……』
「ガシャット……というのはひょっとしてこれのことか?」
『へっ?あー!それ!』

悩む様子のポッピーへ、何かを思い出したように天津が支給品を見せる。
サウザーのドライバーやプログライズキーとは別に、見慣れぬ変身ツールらしき物がデイパックにあった。
使い慣れたライダーの力がある以上、特に取り出す場面もなかったが。
指を差しオーバーなリアクションを取るポッピーの様子から、彼女にとっては馴染み深い物らしい。

『それだよそれ!私のガシャット!』

天津が見せたのは、他でもないポッピーが元々所持していたアイテム。
バグルドライバーⅡと、ときめきクライシスガシャット。
仮面ライダーへの変身に必要な二つが揃っている。
まさか参加者、しかも天津の元に渡っていたのは予想外。
だがこうして再び自分の所へ戻って来たのは喜ばしい、となるにはいかない事情がある。

「ソイツが元々お前の物なのは分かるが、出て来れないならどうしようもないんじゃねぇのか?」
『うぐっ、そうなんだよねぇ……』

冷静に現実を突き付ける承太郎へ、ガックリと肩を落とす。
自分もライダーになって天津達と共に戦う。
といった光景が実現するにはまず、筐体から外に出なくては始まらない。
正式な参加者でない自分が自由に動き回るのを、黎斗は認めていない。
ドレミファビートの筐体という狭い空間が、唯一許された場所。
大きく制限された現状を嘆くも、打開策は見当たらず――

311刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:18:46 ID:LPbpj4TY0
『あ、もしかして……』

ふと、頭の中で閃きが生まれた。
外を好き放題歩き回れる、とはならないだろうけど。
しかし筐体から出て行くだけなら、どうにかなるかもしれない。

『ねえガイ、ちょっと試して欲しいことがあるの』

いきなりの頼みへ首を傾げつつ、断る理由は見当たらない。
ポッピーに言われるがまま、バグルドライバーⅡを向け操作。
何が起こるのか疑問に感じるのも束の間、すぐに変化は起きた。

『よっと!やった!成功!』
「これは…ポッピー?まさか君がこの中に?」
『そ!前にクロトにやったのと同じのが、できないかなーって思って!』
「檀黎斗も昔はこうやって閉じ込められてた、ってことか?」

男二人が見つめるのは、バグルドライバーⅡ中央のモニター部分。
装備中のガシャットに応じたグラフィック等を表示する画面に映るのは、今の今まで筐体に囚われていたポッピーの姿。
以前バグスターとなり復活した黎斗が目に余る行動に出た時、度々こうやって閉じ込めた。
ポッピー自身もバグスターであるのを利用し、今回は一つの脱出方法に使ったが無事成功。
後は天津の方で操作してもらえれば良いだけだが。

「フム…何度押しても反応は無い。やはりポッピーが自分で動くのは禁止されているか」
「まあ、病院の外に連れ出せるってだけでも収穫だろ」
『うん!これならガイ達と一緒に動けられるよ!……あれ?なんだろこれ、何か細工されてる?』

バグルドライバーⅡの中に入って違和感を覚えたのか、画面上であっちこっち動き回る。
外から見ていても何の事か分からないがともかく。
ポッピーの件は一先ず良しとして、今後の方針を改めて確認する必要がある。
行き先を決めているキャルや、仲間と合流するつもりの遊星も含め出発前に話しておきたい。

特に放送で黎斗が言った、『本来使えない力やアイテムを手に入れた者』に若き決闘者は恐らく該当。
もう一度詳しく話を聞いて損はない。
「殺し合いに抗う者だけが使える」と自称神の言葉にないのから察するに、優勝を狙う者もそういった強化の恩恵は受けられるのだろう。
出来れば発生条件などを正確に知り、対策なりを立てたい。

とにかく全員また集まってからだ。
地上へ向かうエレベーターに乗り込み、CRには人っ子一人いなくなった。

312刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:19:36 ID:LPbpj4TY0
◆◆◆


破壊の傷痕が深く刻まれた一階ロビー。
待合室も兼ねた拾い空間を見て、ここが病院だとすぐに受け入れられる者が果たして何人いるのやら。
腰を下ろす為の長椅子や、退屈を凌ぐテレビは破片となってそこかしこに散乱。
治療を訴える人間も、適切な診療科へ案内するスタッフも、清潔感を保つべく業務に勤しむ清掃員ですら不在。
変わりに佇むのは命を繋ぎ元の暮らしへ送り出す、ドクター達の戦場には到底相応しくない存在。
爆撃でも受けたような空間を無感動に見つめる顔には、人では有り得ない六つの眼。
大正時代にて朽ち果てた鬼からすれば、現代の技術が用いられた空間は神の国と言われても不思議は無いだろう。
なれど黒死牟は一切の関心を抱かず、冥府より迷い出た幽鬼の如き様でじっと立ち尽くす。

「……」

放送の内容は把握した。
天空へ己が身を出現させる奇怪な術への疑問も無く、ただ喧しく齎された情報を自身の内へ溶け込ませる。
生存の叶わなかった40人へ、感じ入るものは一つもなし。
病院内にいる者達の仲間が呼ばれたとて、特にどうとも思わない。
慰めるだとかそういった類は、傍らに付く連中がやる事であり己には無関係。

更に付け加えるなら、呼ばれなかった者達にも然して驚きは抱かない。
主も弟も、持ち得る力は自分以上。
生存への執着がこの世のどの生物よりも強い無惨ならば、四半日程度やり過ごすくらいやってのけるだろう。
縁壱に至っては、死ぬのを予想しろと言う方が難しい。
全盛期の体を取り戻した弟が、有象無象の者達に後れを取るか否か。
何とも下らない問いだ、どうやったら後者以外の答えを出せる。
軍服の男や真紅の騎士といった、先の数時間の間に戦った男達。
強いとは分かる、上弦の鬼にも匹敵する実力の怪物だと認めざるを得ない。
しかしあの者達でさえ、縁壱には及ばないのだ。
人でありながら化け物を超える力を持つ、神々の寵愛としか形容できぬ天賦の才を与えられた弟には。

そんな弟が、よりにもよって無辜の民相手に剣を振るっている。
鬼から人を守る為の刃が、神の愉悦を満たす人形の刃へと腐り落ちた。
荒唐無稽で脈絡のない悪夢染みた現実は、何を思おうと否定出来ない。
もし今の縁壱と出会った時、自分が何をすれば良いかも分からないまま、気付けばここまで生き延びてしまった。
仮に縁壱が元の人格から変わらず、鬼を滅ぼす剣を振るっていたならば。
自分も生前と何一つ変わらない、狂おしいまでの嫉妬と憎悪に身を焦がしたのだろうか。
或いは、こう考える時点で自分は既に何かがおかしくなっているのか。

313刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:20:38 ID:LPbpj4TY0
「あっ、黒死牟さん!」

今の自分自身と同じくらいに理解出来ない、春の訪れを思わせる声が鼓膜へ届く。
怨嗟と絶望に彩られた鬼狩りの叫びとは全く異なるソレに、小さくため息を零す。
相も変わらず自分への警戒心などまるで感じられない、飼い主を見付けた子犬のよう。
桜色の髪を揺らし駆け寄るいろはの頬には、薄っすらと涙の痕が見て取れる。
この娘と言えども、放送であった仲間の死は堪えたらしい。
しかしこちらを見つめる瞳に澱みは宿っておらず、悲しみこそすれど戦意をへし折るには至らなかった。

「……」

一瞬、口を開き掛けすぐに閉じる。
何を言うべきか見付からず、そもそも自分が言う意味がどこにあるのか。
大方隣へ並んだ獣の特徴を持つ娘が、あれこれ話しかけたと察しが付く。

「男ならもうちょっと、気の利いた言葉くらい言ってやりなさいよ」

その当人は猫耳を揺らしながら、呆れたとばかりにジト目を向けて来た。
数時間前は事ある毎に怯えていたにも関わらず、随分態度が変わったものである。

「馴れ合いなど……お前達だけでやれば良いだろう……私に無意味な期待をするな……」
「あーはいはい、そう言うんじゃないかとは思ったけどね」
「キャルちゃん?何だかさっきより黒死牟さんと仲良くなってるような…?」
「どこがよ、これで仲良いなら大半の奴が大親友になるっての。何て言うかアレよ、あんたに世話焼かれてるって分かったらビビるのも馬鹿らしくなったって感じ。顔恐いとは思うけど」

余計な一言を付け加えるキャルをジロリと睨めば、サッと顔を背けた。
いろはが勝手にやっている事であって、頼んだ覚えは微塵もない。
困ったように笑う娘の影響なのか、やけに馴れ馴れしく接する者が他にも増えるとは。

314刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:21:42 ID:LPbpj4TY0
「あっれー?お話し中だった?」

何かを言うより早く、更にロビーが姦しくなる。
動きに合わせて藤色の長髪を揺らし、トコトコと寄って来る少女。
後ろからは肩部プロテクター付の上着に、奇抜な髪型が特徴の青年が続く。
食堂にてデッキの構築を終えた遊星と、護衛を請け負った結芽。
二人も放送を確認し話を纏め、病院内にいる者達との合流に動いたのだった。

「皆で次は何処へ斬り込むかの相談?だったら結芽も混ぜてよー」
「そんな物騒な話で盛り上がれないわよ。…あんた達は大丈夫なの?」

何がとは聞き返さなくとも分かる。
放送で呼ばれた名前には、大尉相手に共闘した少年達もいた。
加えてもう一人、遊星の仲間も6時間を生き延びられなかったのが判明。
事実、CRで一旦解散となった時よりも表情に翳りが見えた。

「ああ、悲しくないと言ったら嘘になるが……」

牛尾の死を知り、動揺しなかった訳ではない。
ジャックや遊戯共々、仲間達なら大丈夫だと心のどこかで油断があったのかもしれない。
軍服の男のような桁外れな力の持ち主とぶつかれば、歴戦の決闘者だとて危険だというのに。

最悪のファーストコンタクトをした男だった。
あの頃の牛尾はサテライトの住人を露骨に見下していて、自分も権力を振りかざす奴は心底嫌っていて。
デュエルで白黒付けても、向こうを決闘者(デュエリスト)と認めたくなかった。
しかしダークシグナーを巡る事件の際、セキュリティの仕事に誇りを持つ男だと知った。
孤児院でマーサの尻に敷かれたりと意外な一面も見て。
向こうもサテライトの住人への偏見を正し、気付けば互いに信頼関係を結ぶに至ったのだ。

けどもう、牛尾の顔を見ることは二度と出来ない。
ブルーノの時と違い、どんな最期だったかも分からないまま脱落を告げられた。
たとえネオ富実野シティに帰れても、あの街で最も信頼出来るセキュリティの男はいない。
クロウ達に伝えねばならない時を思うと、今から気が重くなる。

315刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:22:35 ID:LPbpj4TY0
(だが牛尾…アンタはきっと、最後まで誰かを守ろうとしたんだろう?)

仲間だったからこそ、確信を持って言える。
牛尾哲という男は、きっとセキュリティの誇りを貫いて死んだのだろうと。
ここがネオ富実野シティでなくとも関係ない。
自分の命が脅かされる状況であっても守る為に立ち向かい、命を散らした。
そういう男だと分かっているから、喪失に胸を痛めても戦意までは失くさない。
悲しみを言い訳に戦いを投げ出せば、それこそあの世から牛尾に怒鳴られたっておかしくない。
命懸けで戦った城之内と達也にだって、合わせる顔がないだろう。

「皆が戦っているのに、俺一人だけ逃げるつもりはない」
「あの黎斗っておじさんに好き勝手言われたままなのも、ムカつくもんねー」

軽い調子で同意する結芽だが、これでも相応に不快感は抱いてる。
城之内や達也の名が呼ばれ、動揺があった訳ではない。
二人の最期は自分の目で見た、実は生きているだとか都合の良い期待は最初から考えてない。
御伽にしたって話でしか知らないのもあり、多少驚いた程度。
ただ黎斗が死んだ彼らの事を言いたい放題に貶したのは、率直に言ってムカついた。
死を深く嘆く程、長い付き合いだったとは言えない。
人目も憚らず涙を流せるような関係でもなかった。
けれど、肩を並べて戦った仲間なのは、結芽自身も認めている。
頼んだ覚えは無くとも、命を助けてもらったのだって本当。
その相手を悉くコケにされては、流石にカチンと来るというもの。

(いーよ、そうやって偉そうにしてれば。絶対そこまで上って行ってやるんだから)

ふんぞり返って今も自分達を嘲笑う自称神に向け、胸中で宣戦布告。
死者を蘇生させられるだろう技術を手に入れる前に、一発痛い目を見せてやる。
でないと自分の気は晴れない。
城之内と達也、後は本田の文も含めて計四発はキツいのを食らわせてやろう。

316刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:24:27 ID:LPbpj4TY0
(…何か不思議な感じ)

死んだ者達へ引き摺られてるとまではいかないけど、色々と考えてしまう。
一度死んで、二度目の生で誰かの死に立ち会ったから。
余裕のなかった生前とは違う、親しい者に置いて行かれる側になったから。
前は想像も出来なかった心境の変化に、戸惑いこそあれど不快には思わなかった。

内面を言葉には出さず、何と無しに吹き抜けとなった出入り口を見つめ、





殺意を振り撒く真紅が映り込んだ。





「――――っ」

敵襲と、脳が情報を受け取るのを待たず体が動く。
自身の愛刀とは違う御刀を引き抜き、写シを発動。
幾分か休めたお陰で戦闘に支障はなく、いつでも斬り合いに臨める状態。
相手の方からやって来たのであれば、望む所と言うやつだ。

が、結芽より数手早く抜刀するのは黒死牟。
視界に捉えるまで待つ必要もなし。
上弦の鬼にも引けを取らぬ血の臭いを風が運び、肌を突き刺す憤怒と共に接近を知らせる。
抜き放つは己が体内で作りし妖刀、真っ向より迫る真紅へ食らい付く。
獲物を噛み砕く感触はなく、なれど刃がかち合う感覚も未知に非ず。
襲撃者の正体も記憶したのと細部に違いはあるも、知らぬ者ではなかった。

317刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:25:01 ID:LPbpj4TY0
「やはり……生きていたか……」
「当たリ前ダ!猿如きノ剣で俺を殺セルト思ウなっ!!」

得物を挟み怒声をぶつける真紅の騎士、デェムシュ。
四肢は異様に太く、胴は更に頑強へと変貌を遂げてある。
頸を落とさぬ内は死んだと思えなかったが、何が起きたか力を増しているようだ。

警戒を強める黒死牟とは反対に、デェムシュは怒りと歓喜に打ち震える。
予想通り、自分に屈辱を味合わせた連中がいた。
こうなったらやる事は一つを置いて他にない、全員に借りを返す。
連中の血で猿共の建造物を赤く汚してやるまで。

まずは自分を斬り飛ばした男からと両腕に力を漲らせる。
が、顔面へ奔る煌めきに急遽標的を変更。
鍔競り合いを中断し、別方向からの剣を防御。
他に比べ脆い顔面部分を狙われようと、猿の剣では重症に程遠い。
ただ素直に受け止めるのも癪なので、得物を用いて阻む。

「わっ、と!」

そのまま押し返して吹き飛ばし、壁の染みに変えるつもりだったが失敗。
純粋な膂力では敵が上と理解しており、結芽はすかさず後退。
宙で一回転し黒死牟の隣へ着地、風船のように頬を膨らませる。

「このおにーさん、面倒であんまり戦いたくないんだけどなぁ」

尋常ならざる耐久力と、氷を操る異能。
城之内と共に戦った時は確実に倒す手段もなく、やる気を削がれたのもあり撤退したのは覚えてる。
今はより破壊力に優れたモンスターを操る遊星達もいるので、同じ結果にはならないだろうけど。

318刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:25:50 ID:LPbpj4TY0
「小賢しイ札使いノ猿はイナイか…フン!俺の手ニ掛カル前に野垂レ死ンだカ!」
「んー……前言撤回!やっぱりムカついたから、相手してあげる!」

気分次第で戦う気力が左右するが、今の一言で俄然やる気になった。
仮にやる気を出さずとも、デェムシュの知った事ではなく皆殺しに動いたろうが。

「結芽達が戦った赤い騎士はこいつのことか…!」
「は、はい!でもあの時よりもっと強くなってるみたい…」
「どっちにしたって敵なのは同じでしょ!」

剣士達に多少遅れる形で、残る三人も各々反応を見せる。
放送前の交戦時以上に手強くなっているようだが、キャルの言う通り。
敵であるのに変わりない以上、戦って切り抜ける他ない。
各々戦闘準備に入り、

「モタモタするナ猿!そコノ札使いヲ仕留めロ!」
「人使い荒過ぎィ!」

怒声を浴びせられたクッソ汚い男が妨害に出た。
事前に何の一言も無く病院へ飛び込んだデェムシュを追い、後からやって来た野獣先輩だ。
追い付いたと思えば強い口調で命令。
ホモビ制作会社がマシに思える程の扱いにボヤきながらも、参加者を殺すのに異論はなし。
迫真空手で鍛え上げた拳が狙うのは、デッキからカードを引こうと動きを見せた青年。
デュエルモンスターズの厄介さは身に染みているが故、デェムシュは遊星を優先的に殺すよう指示。
屈辱を与えた猿ではない為、自分以外の手で殺させても問題ない。

「死んで、どうぞ(無慈悲)」
「っ!」

優れたフィジカルを持つ決闘者とて、超人レベルの敵相手には分が悪い。
カードを使われるより先に殺し、遠野蘇生の生贄に加えてやる。
非常にあくどい笑みと共に突き出した拳は、遊星の心臓をも貫くだろう威力。

319刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:26:50 ID:LPbpj4TY0
「スタープラチナ!」

どこまでも汚い一撃を、青き拳闘士の鉄拳が弾く。
仕留める筈が邪魔をされた挙句、間髪入れずに殴打の嵐が放たれた。
モロに受けては敵わぬと慌てて後退、クッソ情けない野獣先輩と入れ替わりに黄金の戦士達が参戦。
仮面ライダーグリスと仮面ライダーサウザーにそれぞれ変身し、承太郎と天津が襲撃者達を睨む。

「承太郎?済まない、助かった」
「礼は良い。妙に騒がしいんで来てみりゃ、見覚えのある野郎がいやがるな」
「君と一海君が一戦交えた異形、か。放送が終わって間もないのに、血の気盛んな連中だ」

CRから地上に戻り仲間達を呼びに向かったは良いものの、激しい物音へ嫌な予感がし急行。
念の為先に変身を済ませ正解だった。
体中が強張る程の殺意を垂れ流す真紅の騎士を見れば、戦闘は確実と理解。

「調子こいてんじゃねぇぞオォン!?」

ついでに攻撃を妨害されたステハゲもご立腹。
そっちがライダーの力を使うなら、こっちも相応しい力で殺してやる。
四度目の戦闘だけあって、変身にもすっかり慣れた。
ブレイバックルを素早く装着、ハンドル部分を操作しカテゴリーAの力を解放。

「変身!(迫真)」

『TURN UP』

ヘラクレスオオカブトが浮かび上がった、カード状のエネルギーへ疾走。
潜り抜け白銀の装甲を纏えば、仮面ライダーブレイドへの変身が完了。
しかし此度はまだ続きがある、手に入れた新たな力を試す良い機会だ。
これまで野獣先輩が変身したブレイドには無かった、左腕の黒い装置。
引き抜いたカードをスロット部分へ読み込ませ、アンデットの力を更に解放。

320刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:27:59 ID:LPbpj4TY0
『Absorb Qeen』

『Evolution King』

内より湧き出る力へ逆らわず、全身へ行き渡らせる。
高揚感を裏付けるように、ブレイドの姿が一変。
纏う鎧は白銀から黄金へと大きく変わり、より重厚かつ絢爛なフォルムへ。
頭部の剣も鋭さを増し、まるで王冠を思わせる形状。
全身各部の意匠はスペードのラウズカードに封印された、13体の不死生物をあしらったもの。
アンデットの力をただ行使するだけではない、変身者と融合を果たした姿。
仮面ライダーブレイド・キングフォーム。
戦えない全ての人々に代わって戦う剣崎一真の決意を踏み躙る、最悪の形で降臨。

「Foo〜↑気持ちいい〜(力に溺れる屑)」
「輝いてるのは外見だけで、中身は醜悪な俗物に過ぎないようだな」

黄金で覆い隠しても、腐り切った性根は誤魔化せない。
それでいてライダーの力自体は油断出来ず、自分達を襲う威圧感が強くなったのを嫌でも察する。
容易く勝てる敵ではないと、戦う前から理解せざるを得なかった。

そして事態は更に混迷を極める。
ロビーの壁が吹き飛び、否が応でも全員注目。
太陽を背に瓦礫を踏み付け、堂々と侵入して来たのは真紅と金色の装甲を纏った戦士。
額に星座盤を填め込み、頭部から突き出たスキャンセンサーが悪魔の如き風貌を作る。
ブラッド族が用いる惑星破壊の兵器、仮面ライダーエボル。
なれど変身者は星狩りに非ず、滅亡迅雷.netのヒューマギア、滅。

冴島邸での戦闘から撤退後、ダメージを修復する施設を滅は探し歩いた。
苦労の甲斐あってか、見付けたのは自身の記憶にあるのと寸分違わぬ場所。
飛電製作所。一時期飛電インテリジェンス社長の座を追われた或人が、再出発の為に作り上げた新会社。
アークの襲撃で破壊させられたが、殺し合いでは無事だった頃の製作所を再現され設置。
施設内部には多数の機械用品のみならず、ヒューマギアを修理する設備もあった。
よりにもよって飛電に頼るのは抵抗があったが、ダメージは大きく意地を張ってられる状態でもない。
怒りを無理やりに飲み込み、修復へ利用したのだった。

直後に起こった放送に、思う所は特になし。
或人も、ついでに天津もまだ生き残ってるなら構わない。
人類滅亡、アークと同じ結論は依然として揺るがず参加者の捜索を再開。
近隣エリアを見て回る最中、偶然目に付いたのは赤い異形と遠目にも汚いと分かる人間。
こちらへ気付かず目的だろう場所へ向かう彼らを密かに追跡し、ここ聖都大学付属病院へ辿り着いたのだった。

321刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:28:37 ID:LPbpj4TY0
ゼロワンはいないが、知っているライダーはいた。
サウザーということは天津か、若しくは中身は違う者か。
本来の変身ツールを奪われた自分の例があるだけに、別人がサウザーの可能性もないとは言い切れなかった。
どちらにせよ殺すのに変わりはないが。

「まーたヤバそうな奴が来たわね……」

マナーの「マ」の字も知らないやり方で、病院に現れたライダー。
普通に入って来いと言いたいが、ひしひしと素肌を痛め付けるプレッシャーに常識を解いても無駄と早々に諦める。
カイザーインサイトが参加してる以上、他の参加者も一筋縄でいかないとは理解したつもりだ。
けどこうやって実際に現れると、うんざりする気持ちを抑えられない。

デェムシュは黒死牟達が、野獣先輩は承太郎達が相手取る。
となると、乱入者をどうするかは決まったも同然。
貧乏くじを引かされたと一瞬思うも、どれと戦っても大して違いはない。
危険なライダーを叩きのめし、コッコロ達の安全確保へ繋がると思えばやる気も出て来る。

「んじゃ、さっさと片付けるわよ!」

吹き抜けとなった場所を駆け、屋外へと移動。
逃げるのではない、戦う為の準備はこっちの方が良い。
何せ屋外で姿を変えようものなら、確実に周りを巻き込む。
エボルの視線が自分の方をチラと見た。
それで良い、どうせ今から相手をしてやるのだから。

322刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:29:17 ID:LPbpj4TY0
『Golza.』

『Mleba.』

『Super C.O.V.』

ブレードを扇状に展開し、スロット部分へ三枚のメダルを装着。
闇の支配者の尖兵たる超古代怪獣の二体と、根源的破滅招来体に送り込まれた怪獣兵器。
ウルトラマンティガとウルトラマンガイアに撃破された怪獣たちのデータを、此度はキャルの力として纏う。
バラバラに扱うのではない、一つの融合しより強大な存在へと昇華。

「借りるわよアンタ達の力!チェンジ!テリブルモンスターフォーム!」

『Try-King!』

光に包まれ、少女のフォルムが巨大な異形へ変貌。
溶岩を彷彿とさせる硬質的な皮膚と、恐竜に酷似した頭部。
額を覆うように怪鳥の顔が存在し、背には赤茶色の巨大な翼。
腹部にも上記二つとは異なる顔が浮かび、鮮血色と金色の混ざり合った太い両脚がアスファルトに亀裂を生む。
名をトライキング。
寄生生物セレブロが、ウルトラマンZとの戦闘で変身した合体怪獣である。
本来よりも大幅にサイズダウンしてるとはいえ、掌に人間二人を乗せて運べる巨体だ。
ロビーで動き回ったら敵味方問わず巻き込んでしまう。

『この赤い奴はあたしがブチのめしてあげるから、そいつらは任せた!』
「チッ…!」

言いながら叩き付けた拳を、赤いオーラを纏いエボルが回避。
病院から離れるように移動するのは好都合、こっちも周りを気にせず力を振るえる。

定時放送が終わり、神のゲームは新たなステージへ進んだ。
聖都大学付属病院での死闘が、第二幕の合図となる。

323刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:30:50 ID:LPbpj4TY0



当然の話であるが、ウルトラゼットライザーには制限が加えられている。
最たる例はウルトラマン・怪獣共に変身後の大幅なサイズダウン。
本来のトライキングに比べればパワーもタフネスも、縮小に伴い低下は免れない。
では恐れるに足りない雑魚かと言うと、それもまた否。
あくまで元々に比べれば小さいだけで、三階建ての建造物を余裕で追い越す程度には巨大。
等身大サイズの参加者からすれば、十分な脅威に映るだろう。

トライキングが取った戦法は極めてシンプル。
拳を握って眼下の敵目掛け振り下ろす。
特別な異能も何もない、純粋なまでの暴力。
フォームだって格闘経験を学んだソレとは程遠い、力任せの一撃に過ぎない。
しかし単純な殴打も放つ存在が十代の少女ではなく、『怪獣』ならば脅威の度合いは何十倍にも引き上げられる。
ましてトライキングの両腕のパーツは古代怪獣ゴルザ。
マッシブな見た目は飾りに非ず、地底を高速で掘り進むのに適した剛腕。
そのような腕力を乗せたパンチを受け止めようものなら、地面の染みになる末路以外有り得ない。

だがエボルは哀れな犠牲者の枠に入らない、真っ向より迎え撃てるライダー。
片手に超硬合金製の斧を握り、頭上より飛来する拳を睨む。
避ける素振りは見せない、見せる必要も無い。
自身の体躯を超える拳へ得物を叩き付け、力任せに弾いた。

強化ボディスーツが運動能力を最大以上に高め、ヒューマギアの限界を超えたパワーを発揮。
更に物体を意のままに操る、赤いオーラを纏わせる。
接触した対象を押し返し、圧殺されるのを防いだ。
ドライバーこそ複製品でも、オリジナルのエボルに見劣りしないハイスペックである。

324刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:31:26 ID:LPbpj4TY0
まさか避けるのではなく、弾かれるとはキャルにも予想外。
とはいえ驚きは長続きせず、即座に気を引き締め直す。
忘れるなかれ、自分達が巻き込まれた殺し合いはカイザーインサイトでさえ参加者側にいる魔境。
怪獣相手に真正面から戦える者がいても、何ら不思議はない。

一撃防がれたからといって、勝負がお開きにはならない。
どちらか片方が力尽きねば終わらず、そちら側になるのは真っ平御免。
再度拳を振り下ろせば、エボルも得物を用いて対抗。
衛星ゼアが生成した武器は切れ味のみならず、強度も破壊困難な程。
対するゴルザの拳もまた、ウルトラマンティガと肉弾戦を繰り広げた凶器。
互いに僅かな亀裂すら生まれず、ならば次だと三撃目に移行。

『こんの…!』

殴る、殴る、殴る、殴り続ける。
地上へ降り注ぐ無慈悲な拳の雨を、甘んじて受け入れる趣味はない。
右拳を押し返し、左拳へ斧を叩き付け、次の攻撃も同様。
十を超えても双方受けたダメージはゼロ。

変化の見られない戦況維持をキャルは望まない。
殴るだけが能でない所を、そろそろ見せてやる頃合いか。
両腕の動きは止めず、額へエネルギーを収束。
紫に輝く超音波光線が、エボルを飲み込まんと迫り来る。

地球外の物質を利用した装甲は、並大抵の攻撃では傷一つ付かない。
しかし敵の巨大さに相応しい熱量の光線を、あえて浴びる意味もあるまい。
腕に纏わせたオーラを今度は脚部に流し込み、走力を大きく引き上げる。
残像を残し回避、光線はアスファルトを破壊し煙が立ち込めた。

先手は取られたが、今度は自分が仕掛ける番だ。
走力を落とさずにエボルが再接近、跳躍し顔面部分へ狙いを付ける。
肩部の装甲ユニット内で強化剤が生成され、瞬間的に能力が上昇。
ただの斬撃でありながら、必殺の威力を叩き出す。
自分以上の大きさがあろうと無事では済まない。

325刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:32:19 ID:LPbpj4TY0
『甘いのよ!』
「チィッ……!」

敵が今日初めて戦闘を行った、巨体を利用し暴れ回るだけの素人なら。
今の斬撃に何らかの反応が出来たかは怪しい。
なれどキャルは殺し合いより以前を、気楽に遊んで過ごした訳ではない。
美食殿の一員として魔物退治をこなし、ランドソルでの決戦といった修羅場も潜り抜けた。
今更この程度で慌てる少女じゃあない。

翼を思わせる形状の被膜を振るい、暴風を巻き起こす。
最大速度マッハ6の飛行を可能にする、メルバのパーツを動かしたのだ。
吹き飛ばされ壁に叩き付けられる寸前で、全身に赤いオーラを流しどうにか宙で安定。
地へ降り立つのと同じタイミングで再び超音波光線が放たれ、忌々し気に回避。

もう一度接近し斬り付けるか、より高威力の技を放つか。
それとも武器を遠距離形態に変え、移動しながら体力を削るか。
或いはボトルを変え、パワーを引き上げた上で接近戦を挑む手もある。
フェーズ1のエボルでも真正面からの打ち合いは可能、故に格闘戦特化のフェーズ2ならダメージに期待出来る。

(いや、ここは……)

敵の巨体は厄介と認めるが、小回りの利く動きは自分が勝る。
そこを活かさぬ手はなく、丁度良い道具が手元にはあった。
正確に言うなら、奪い取ってやったのだが。

326刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:33:02 ID:LPbpj4TY0
『RABBIT!RIDER SYSTEM!EVOLUTION!』

『Are You Ready?』

「変身」

『RABBIT…RABBIT…EVOL RABBIT!』

『フッハッハッハッハッハッ!』

邪悪な高笑いが響き、エボルの姿にも変化が起こる。
肩部装甲は鋭利な形状から、丸みを帯びシンプルなものへ。
頭部パーツも大きく変わり、レンズ部分には兎の耳を模したブレード。
桐生戦兎が変身するヒーロー、仮面ライダービルドと瓜二つな仮面を被る。

仮面ライダーエボル・ラビットフォーム。
加速ユニットを追加し高速戦闘へ特化したフェーズ3。
フェリシアの支給品から見付けたラビットエボルボトルを使い、更なる進化をここに果たす。

『変わった!?…って、そんな驚く程でもないわね!』

自分が怪獣メダルを使ってるのもあって、外見の変化に大きな驚きは見せない。
問題は新しい姿になった敵が、どんな能力を持ってるかだ。
警戒を強め、迂闊に近付くよりはと超音波光線を発射。
餌を吊り下げられた獣の如く迫る光へ、エボルは焦らず頭部パーツを指でなぞる。
飲み込まれる正にその時、真紅の装甲が消え去った。

『痛っ!?』

後頭部へ鈍い痛みが走り、何だと振り返るもそこに人影は見当たらず。
と、肩に異物のような感触を覚え見やる。
ほんの数秒前まで地上にいたエボルが立ち、片脚を振り被っていた。
頬を鈍痛が襲い、巨体が僅かに怯む。
片手を伸ばし振り落とそうとするも、既にエボルはいない。

327刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:33:40 ID:LPbpj4TY0
『ウロチョロすんなっての…!』

視線を落とし、見付けた先を踏み付ける。
潰れた蟻同然の末路を歓迎する気はない、軽やかに跳び回避。
ついでにオーソライズバスターを撃ち、胴体へ火花を散らす。
致命傷にはならないが痛みが無いとも言えず、連続で当たれば少しずつだが体力も削られる。
図体のデカい的扱いは御免被る、もう一度吹き飛ばすべく両の被膜を操作。
だが暴風に閉じ込められる前に背後を取り、無防備な背を斬り付けた。

『こいつ…!』

敵の狙いに嫌でも気付かされ、視線は険しさを増す。
サイズ差と高速移動を利用し、こっちの反応を待たず体力を削り取る気か。
セコい奴だと悪態を吐き捨てるも、実際有効なのが余計に腹立たしい。

ラビットフォームのエボルはパワーこそドラゴンフォームに劣るものの、敏捷性は上。
加えてカメラアイから伸びたパーツは飾りでなく、聴覚強化装置。
ほんの僅かな身動ぎすら正確に捉え、敵の動きを予測し常に先手を取る事が可能。
巨体故細かい動作の利かない今のキャルには、非常に相性の悪い力だった。

(デカい技で一気に勝負を着けてやれば良いんだろうけど……)

病院内で戦闘中の者達まで巻き込みやしないかと、危惧を抱き大技に躊躇が生じる。
しかも敵も察してるのか、時折病院を背に動きこっちの攻撃を牽制するのだから本当に腹が立つ。
内心で文句を言っても戦況に変化は齎さず、両刃の斧が命を刈り取らんと迫りつつあった。

328刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:34:32 ID:LPbpj4TY0



黄金の戦士が駆け出し、狙う標的もまた黄金を纏った男。
仲間を襲撃し、言動や態度からも善とは程遠い人間性と察した。
これでまだ対話を行い戦闘回避を望む程、天津も承太郎もお人好しではない。
訪れた危機を退ける方法はたった一つ、戦ってどうにかするのみ。
判断を間違えればツケを払うのは自分だけでは済まされない、仲間にも危害が及ぶ。
であれば攻撃に迷いは微塵も抱かず、揃って敵を自らの間合いに閉じ込める。
グリスの鉄拳が叩くか、サウザーの槍が貫くか。

「オォン!」

どちらでもない、耳が腐る喘ぎ声を発し振るった剣が阻む。
最初の一撃で即決着になるとは、この場の誰も思っていない。
予想出来た結果に一切の動揺を持ち込まず、男達は示し合わせたように次撃へ出る。

「24歳、学生です(自己紹介)」

殺す前の挨拶を礼儀とでも思い込んでるのか、単なる挑発のつもりか。
若しくは淫夢語録しかロクに喋れない、ホモガキの玩具故のクッソ哀れな習性か。
正確な理由をグリスは知らないし知る気も皆無。
敵を倒す、必要な考えは50日に及ぶ旅での戦いの頃から変わらない。
耐衝撃ボディスーツが腕力と運動能力を劇的に強化、喧嘩自慢の高校生を超人の領域まで引き上げる。
伸ばした腕にはツインブレイカーと呼ばれる、専用の可変型武器を装備。
杭型の打撃装置が回転数を速め、強固な装甲をも砕き貫通する威力をグリスへ付与。
自らが操るスタンドにも引けを取らないパワーに、敵の取る手は同じく打撃。
グローブに覆われただけの無手で以て迎え撃つ。
己の手を進んで使い物にならなくさせるとしか思えない、愚行の極み。
大多数がそう嗤うだろう光景は現実にならず、グリスの拳と打ち合った。

「オラァッ!」

敵の拳を砕いた感触は無く、自身も同様にダメージゼロ。
突き出した拳を一旦引き、もう片方で殴り掛かる。
ツインブレイカーは両腕に装着済みだ、威力の低下は起きない。
攻め立てるのはグリス単独ではない、サウザーもまた己が得物を操り勝利を狙う。
サウザンドジャッカーはZAIAの技術を結集させ作っただけあり、飛電の装備にも引けを取らない高性能。
金に輝く穂先に掛かれば、1000mmの特殊合金すら障子紙同然。
だが装甲は勿論、敵が翳す大剣には軋み一つ与えられない。
拳と得物を通じサウザー達の強さを感じ取ったのか、仮面の下でゲスい笑みを作る。

329刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:35:18 ID:LPbpj4TY0
「いきますよーイクイク(攻撃宣言)」

次いで響くは拳と刃が絶えず激突を繰り替えし、闘争が生み出す音色。
グリスが両拳で放つ殴打の嵐を、片腕のみで対処。
サウザーとも剣戟を展開し、己が身には一撃たりとも掠めさせない。
生半可な防御や回避は呆気なく崩す猛攻が、此度は二つ揃った。
にも関わらず敵は余裕の態度で凌ぎ、たった一人で相手取るのは悪い夢のよう。

サウザーとグリスの性能の高さは今更言うまでもない。
しかし野獣先輩が変身中の仮面ライダーブレイド・キングフォームもまた、引けを取らない強さを持つ。
単純なスペックだけなら上記二つが上であるも、最大の特徴は13体のアンデットの力をラウズカードのリード抜きで自在に操れる点。
パンチ力の加速と破壊力の強化を行い、更には高速移動能力も付与。
平時でさえ高周波振動による切れ味を誇る専用装備、キングラウザーも同様に斬撃の威力を引き上げた。
加えて言うなら変身者の野獣先輩は無限に等しいBB素材により、型に囚われない攻撃が可能。
グリス達を相手に一人で渡り合っても、何ら難しい話ではない。

「ジャンク・フォアードを手札から特殊召喚!」

モンスターが封じられたカードを使うのは、ブレイドの専売特許ではない。
仲間だけに戦闘を押し付けるつもりは最初からなく、遊星もデュエルモンスターズを駆使し参戦。
達也が遺した支給品を使い念の為ウィザードに変身したが、やはり本領発揮はカードを使ってこそ。

ホカクカードを使い手に入れたモンスター、ジャンク・フォアード。
自分の場にモンスターが存在しない時、手札から特殊召喚が可能になる。
参加者もモンスターとして扱われる為どうなるかは半ば賭けだったが、ある程度は都合都合で解釈出来るらしく成功。
アタッカーを任せるには攻守ともに頼りないが構わない。

330刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:36:19 ID:LPbpj4TY0
「更に俺は、レベル3のジャンク・フォアードにレベル2のシャドウ・ファイターをチューニング!」

通常召喚したレベル2のモンスターは、城之内のデッキから借りた一体だ。
新たに現れるのは白銀の装甲と包帯、名前の通り全身に傷痕を刻んだ戦士。
レベル5のスカー・ウォリアーに睨み付けられ、ブレイドは弾かれたように突撃。
大剣を振り下ろし一刀両断で終わらせる気だろうが、黙ってやられる自殺志願者じゃあない。
包帯に隠された刃を突き出し、キングラウザーと打ち合う。
トライアルシリーズですら薙ぎ払う斬撃を前に、スカー・ウォリアーは破壊されず拮抗。
仕留められなかったブレイドには苛立ちよりも、困惑の方が大きかった。

「これもう分かんねぇな…お前どう?」

日焼けに誘った後輩に対してのような気安さで問うも、遊星からの返事はない。
種明かしをするなら、スカー・ウォリアーは1ターンに一度だけ戦闘では破壊されない効果を持つ。
更に場に存在し続ける限り、相手は他の戦士族モンスターを攻撃対象に選べない。
仮面ライダーに変身している為か、グリス達は戦士族扱いされたようである。

スカー・ウォリアーしか攻撃出来ず、しかも今だけ破壊不可能。
となったらどう動くかは決まったも同然。

『スクラップフィニッシュ!』

『Progrise key comfirmed. Ready to break.』

ドライバーを操作し、グリスの腕部アーマーから黒い液体が噴射。
エネルギー源たるヴァリアブルゼリーを使い急加速し、勢いを乗せた拳を叩き込む。
サウザーも同様に得物へプログライズキーを装填、高威力の技を発動。
巨大な蠍の尾が出現、毒針の強烈な一突きが頭上より襲来。

331刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:37:02 ID:LPbpj4TY0
「これでもう勝った気とか甘過ぎィ!笑っちゃうぜ!ウッソだろお前!(ガンダム主人公)」

直撃を受ければタダで済まないと理解しつつ、余裕たっぷりに嘲笑うブレイド。
アンデットの力を引き出し磁力操作、スカー・ウォリアーを盾として翳す。
戦闘耐性が継続中なのが影響し、ブレイドへ一切の攻撃を寄せ付けない。
無傷で凌ぎ、結果的に万能の盾を手に入れた。
こうなれば何度攻撃を加えようとスカー・ウォリアーで防がれる為、ターンを終了する他ない。

「冷えてるか〜?」

大先輩の語録を無断で使うという人間の屑っぷりを見せ付けながら、効果の切れたモンスターを破壊。
スカー・ウォリアーを仕留めた大剣を遊星に向け、切っ先へ帯電。
アンデットの力を使えば斬るのみならず、電撃を浴びせ焼き殺す事だって可能だ。
変身中とはいえ直撃は危険、ましてデュエルディスクの故障やカードが焼かれるのも有り得る。

「スタープラチナ・ザ・ワールド」

故にグリスは迷わず己が力を行使。
一海から託された仮面ライダーの力ではない、承太郎が本来持つ異能。
宿敵である帝王との決戦にて開花した、時間停止。
時を支配下に置き、聖都大学付属病院一帯は完全なる静寂に包まれる。
唯一動けるのはグリスのみ、とはいえ永遠の静止は不可能。
僅かに得た猶予を無駄にせず、スタンドと本体の両方が拳を放つ。
ライダーの装甲相手には同じライダーのパワーで対抗していたが、時間停止中の無防備な状態なら有効打を与えられる筈。
強敵たる人狼相手にも大ダメージを食らわせたラッシュで以て、仲間の危機を遠ざけるのだ。
黄金の戦士と青き拳闘士、両者の拳がブレイドを――

「なっ…!?」

打ち抜く寸前で阻まれた。
ブレイドの前に突如出現し、自分達同様に拳を放った存在。
その姿をグリスは知っている。
知っているからこそ、有り得ない光景に目を見開く。

332刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:38:07 ID:LPbpj4TY0
青いボディを持つ拳闘士、スタープラチナ。
他でもない、承太郎のスタンドがもう一体現れたのだ。

「どういうことだ…何故テメーが俺のスタンドを…!?」

スタープラチナとザ・ワールドのように同じタイプのスタンドこそあれど、姿形や能力全てが同一は存在しない。
だというのにスタンド使いのルールを根底から覆す存在が、確かにいる。
相手のスタンドをコピーする能力だとか、そういった類なのか。

何故スタープラチナがもう一体現れたのか。
答えを明かすにはまず、野獣先輩とは如何なる存在なのかを説明せねばなるまい。
知っての通り、殺し合いに参加しているこの男は厳密には人間ではない。
24歳の学生や後輩をレイプした人間の屑を演じたホモビ男優が、ネットの世界で数多の逸話や冒険譚、喜劇に悲劇を付け足され生まれた情報集合体。
だからこそTDNホモビ男優が本来持ち得ない戦闘能力を発揮出来た。

殺し合いにおける野獣先輩の強さの元は大きく分けて二つ。
一つはBB素材。
俗にBB先輩シリーズとも言われる、ホモビ本編を切り抜き動画の素材に加工する正気の沙汰とは思えないホモガキのクッソ寒いお遊戯。

そしてもう一つ、野獣先輩を象徴する力こそスタンドを使えた理由。
ある意味BB先輩シリーズ以上に強力な為、殺し合い直後は睡眠薬入りアイスティーを飲まされた水泳部の後輩のように眠ったままだった。
しかし魔戒騎士や仮面ライダー、神との闘争を経て本能的に力の使い方を理解したのだろう(適当)。

333刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:38:44 ID:LPbpj4TY0
野獣先輩新説シリーズ。
国内のみならず国外にまで痴態を晒されて尚、一切の目撃証言や過去の経歴が明かされない。
今日に至るまで野獣先輩の正体は不明=不明ということはどんな存在も根拠さえあれば野獣先輩になるんじゃないか。
小学生でも考えないようなガバガバ理論により生まれたのが、この力の根源である。

此度の戦闘でも新説シリーズの力を引き出し、承太郎の時間停止を打ち破った。
名は野獣先輩空条承太郎説。
野獣先輩の正体はジョジョの奇妙な冒険の大人気キャラクター、空条承太郎であると提唱する説だ。
多くのジョジョラーからも、「んなわけねェだろこのタンカスがッ!」と好評を得ている。

「俺だけの世界に勝手に入って来ないでくれよな〜頼むよ〜」

野獣先輩でありながら承太郎でもある、だからスタープラチナを使える。
馬鹿げた理由を知る由もなく、ただ現実として敵は自分と同じスタンドを操ると理解。
素直に答えを返してくれるとは期待しておらず、野獣先輩もまた種明かしをする気は皆無。
時が再び動き出すまで残り僅か、仮面越しに互いの視線が交差し火花が散る。

「いくぜオイ!」
「良いよ!来いよ!」

同じ力を持っていようと関係無い。
仲間を襲いクソッタレなゲームに乗った悪党を、愛する後輩の蘇生を阻む邪魔者を。
彼らが認めるのは断じて有り得ないのだから。

334刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:40:02 ID:LPbpj4TY0
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!!」
「もっとスタンドパワー使って!使ってホラ!ホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラァッ!!!」

殴り合いと言うには苛烈極まる光景が繰り広げられる。
近接最強のスタンド、スタープラチナ同士の一歩も譲らぬ激戦。
宿す想いは正反対、黄金の精神と狂い落ちた歪愛。
相容れぬ両者共に勝利を奪い取る気概は十分、なれば勝負を決めるのはなにか。
スタンドの性能は全く同じ、幾度拳を叩き付けても砕けず、砕かれず、届かず、届かせない。
共通しているのは時間停止に課せられた制限もだ。
2秒を超える支配は現状不可能、凍てついた世界は熱を取り戻し一先ずの終わりが――

「ぐっ!?」
「がぁ…っ!?」

訪れた筈が、予期せぬ痛みに呻き声が上がる。
スタンドへ殴打を受け、本体のグリスにもフィードバックが襲う。
更には遊星も背後から斬られ、少なくない火花が散った。
唯一無傷のサウザーは困惑するも、仲間が攻撃されたのは瞬時に察知。
得物を振るいブレイドを引き離した。

「野郎……」

この程度の痛みなら押し殺せるが、問題なのはブレイドが何をやったか。
間違いない、間髪入れずに時間をもう一度止めた。

「気持ち良いか〜KMR〜?]

予選で人間の鑑っぷりを見せ脱落となった後輩の名を口にし、ここぞとばかりに煽る人間の屑。
グリスの考えた通り、今やったのは時間停止。
但しスタープラチナではなく、スカラベアンデットの力を使ってだ。
停止中は敵への攻撃も無効化されるが死角へ移動し、解除と同時に痛め付けた。
スタンドと同様に連続使用が不可能な制限こそあるも、時を止める手段を二つ持つのは大きな強みだろう。

「…っ、俺は手札から速攻魔法、ハイパーフレッシュを発動していた……!」

だが転んでもタダでは起きないのが決闘者。
ブレイドが自身に電撃を浴びせる予兆を見せた時、遊星は咄嗟に魔法カードを使用。
自分のライフポイントを予め倍にし、被害をなるべく最小限に抑えた。
何よりダメージを受けたからこそ、効果を発揮するカードが手札にがある。

「手札のBKベイルの効果発動!戦闘によるダメージを受けた時、このカードを特殊召喚しライフを回復する!」

あくまで今負った分のダメージのみ回復な為、放送前からの傷は変わらずとも幾分痛みが和らぐ。
大尉との戦闘時にも使ったモンスターを召喚、これで場ががら空きになるのは防げた。
ウィザードに変身中の恩恵もあるだろう、大尉に蹴り飛ばされ時と比べればスムーズな召喚だ。
そう簡単に倒されてはやらない、仲間と共に勝利を掴むべく戦意を滾らせる。

335刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:41:27 ID:LPbpj4TY0



対照的な剣を振るうは二体の化け物。
真紅の騎士、デェムシュが己が魔剣に宿すは憤怒。
1日にも満たない間に受けた数々の屈辱が、自身を闘争へ突き動かす燃料へ変える。
選ばれし種族、フェムシンムをコケにした猿を殺す。
自分達に跪き、慄き、ただ殺されるのを待つだけの弱者に過ぎないと教えてやらねばならない。

対するは十二鬼月・上弦の壱、黒死牟。
妖刀へ乗せる感情はデェムシュと正反対に、酷く冷め切ったもの。
強者との斬り合いへ高揚は抱かず、貪欲なまでに勝利を求めず、まして人間達のように他者を守りたいなど以ての外。
襲われた、だから殺す。
他に大きな理由を見付けられないまま、しかし大人しく死を受け入れる程殊勝にもなれない。

戦闘へ臨む心構えで言うなら、圧倒的にデェムシュが上。
人も鬼も、命を燃やさずして掴める勝利は存在しない。
と言い切るのは容易いが、黒死牟は精神の差を大きく埋められるだけの実力を持つ男。
顔面を叩き割らんと襲い来る大剣を見据え、言葉なく刀を振り上げる。
岩をも砕く刃を弾き、あっさりと死を跳ね除けた。

猿の分際で煩わしい抵抗に出た事実へ、デェムシュの苛立ちが上昇。
尤も、敵が全くの雑魚でないとは理解している。
一撃防ぐ事すら不可能なら、最初に会った時点でとっくにあの世行きだ。
大人しく死ぬ気がないのであれば、力尽きるまで得物を叩き付けるのみ。

336刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:42:08 ID:LPbpj4TY0
頭部目掛け大剣が振り下ろされる。
愛剣シュイムの強度と切れ味が如何程かは、長々と説明するまでもない。
アーマードライダーの装備と打ち合って尚も刃毀れ一つせず、装甲を削り取った。
そこへ劇的な強化が起きたパワーを乗せた以上、剣でありながら木っ端微塵に打ち砕く威力と化す。

されど黒死牟纏う空気に、僅かな乱れも生じない。
闘争への熱を抱けないだけが理由に非ず、身を震わせる程の脅威でないが故。
果実の如く脳漿と肉が散らばる光景は実現しない、両手で握った得物が大剣と激突。
刀身越しに伝わる力は、成程日の出前の戦闘時以上に重い。
嘗てこの身を滅ぼした岩柱をも超えていると、極めて冷静に判断を下す。

だが忘れるなかれ、膂力に優れるのは黒死牟も同様。
執念で研磨を重ねた肉体が、人の限界から解き放った鬼種の血が、火炎の如き痣の恩恵が、食らい続けた数多の鬼狩りの肉が。
オーバーロードとの斬り合いを可能にし、再び刃を弾き返す。
次に剣が迫るのを待ちはしない、こっちから仕掛け早々に終わらせる。
人も異形も頸を落とせば死ぬ、眼球の張り付いた刀身が頭部と胴を繋ぐ部位へ疾走。
死を運ぶ妖刀へ、デェムシュは首筋に冷たさを覚えた。
猿如きの剣で斬首されるなど断じて受け入れない、シュイムを翳し防御。
押し返し体勢を崩しに行くも、一手早く敵が得物を大剣から離し死角へ移動。
瞬間移動と見紛う速度と共に行う斬り付け、この動作だけで数十の隊士を纏めて葬れる。

「甘イわ!」

が、オーバーロードを仕留めるには至らない。
目で追わずとも、外皮を貫く殺気で居場所を察知。
巨体とは裏腹の俊敏な動きで迎撃、シュイムで薙ぎ払いを繰り出す。
互いの刃がかち合い重い金属音が響く中、次の手にはデェムシュの方が早く出た。
もう片方の得物をがら空きの脇腹へ突き立てる。

337刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:42:48 ID:LPbpj4TY0
「チッ!」

その寸前で狙いを急遽変更、背後からの斬撃を防ぐ。
瞳を動かせば案の定、憎たらしい笑みを浮かべた小娘が映り込む。
力任せに押し潰そうと力を籠めるも、膂力で叶わないとは向こうも理解してるのだろう。
打ち合いは避けパッと飛び退き、タイミングを同じくして桜色の矢が次々突き刺さった。

「小賢シいゾ脆弱なサルどモガァっ!!」

左手を豪快に振り回し、殺到する矢を吹き飛ばす。
一方で右腕は絶えず黒死牟との打ち合いを続け、切っ先が撫でるのも許さない。
とはいえ、僅かながら意識が外れたのを見逃さない。
呼吸により全身の血が煮え滾り、鬼の身体能力を更に引き上げる。

――月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月

振るう刀は一本、なれど放たれる斬撃は三つ。
前方へ巨大な三日月が現れ、同じく大量の刃がデェムシュを取り囲む。
不可視の刃で作り上げた檻は、迂闊に動こうものなら最後。
待ち受ける末路は生物の原型を留めぬ、肉片の山。

「コノ程度がどうシたッ!」

惨たらしい最期を覆すべく、デェムシュもまた得物を振り回す。
シュイムともう一本、新たに得た魔剣が竜巻の如き斬撃を発生。
回避などに出る必要はなし、小手先の技は力で打ち破るに限るのだから。
次は刃を放った本人の番と言わんばかりに、黒死牟を襲う二振りの剣。
左右から挟み込むように襲い来る刀身を、跳躍し躱した上で頭上からの一撃を見舞う。

338刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:43:33 ID:LPbpj4TY0
――月の呼吸 参ノ型 厭忌月・鞘

横薙ぎの刀から放つ三日月状の刃が、鋸を思わせる回転で飛来。
連続で放ち位置を変え、回避を更に困難なものへ変える。
尤も、デェムシュの対処法は同じく得物を用いた迎撃。
叩き付けるかのように振り下ろされ、刃は全て剣が食い潰す。

着地の瞬間を見極め襲い来る双剣を、黒死牟は刀一本で防ぐ。
癇癪を起こし暴れる童子さながらの動きに見えて、その実狙いは恐ろしいまでに正確。
自らを怒りに捕えながらも、編み上げた剣技の低下は引き起こさない。
むしろ怒れば怒る程、技のキレが増す気さえあった。
感情を剥き出しにし、尚且つ振り回されず糧にするとは実に厄介極まる。

「そっちから喧嘩売っといて、無視は酷くない?」

不満を垂れる口調は年相応の微笑ましさがあれど、我が身を矢に変えた速度は到底少女のソレではない。
頬を膨らませながら結芽が接近、迅移を使い加速の勢いを乗せた刺突を放つ。
加えて得物は破壊困難な御刀、鉄板を重ねても貫通は確実だろう。
尤も人間の常識を鼻で笑う耐久性のデェムシュには届かず、そもそも刃を体に当てさせてももらえない。
シュイムで黒死牟を相手取りつつ、二本目の得物を結芽へ突き出す。
切っ先同士の衝突が起こり、押し負け後方へとよろめく。

「かったい…!」

八幡力で筋力を強化したと言うのに、尚も力は敵が上。
既に分かり切ってるが、マトモな打ち合いでは自分が圧倒的に不利。
それならそれで戦い方はある、再度迅移を発動し疾走。
別方向から狙うも、オーバーロードは動体視力にも優れた存在。
のこのこ近付く姿をハッキリと捉え、反対に串刺しにせんと突きを放つ。

339刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:44:21 ID:LPbpj4TY0
そこへ動くのは三人目、桜色の矢を射る魔法少女。
装填の手間を必要とせず、意思一つで連射可能なクロスボウ。
固有装備でデェムシュを狙い撃ついろはが、仲間へ攻撃を当てさせない。
倒せるとは思っていない、少しでも気を逸らせれば良い。
現に背へ突き刺さり、鬱陶しい痛みにデェムシュがこちらを睨み付けた。

ナイスと言いながら剣を紙一重で躱し、真紅の胴体を斬り付ける。
これが人なら重症は確実、しかしデェムシュには痒いと感じたかも怪しい。
ただでさえ強固な体がロックシードの摂取の影響を受け、更に頑強な装甲と化したのだから。

厄介な敵がもっと厄介になって自分達の前に現れた。
直視せざるを得ない現実に、文句を付ける暇は存在しない。
上体を大きく反らし避け、結芽は次に斬るべき箇所を定める。

直後、傍らで膨れ上がった威圧感に幼い肢体が引き締まった。

「――っ!あはっ…やっば♪」

自身へ敵意を向けられたのではないが、急ぎ離れねば危険。
汗を垂らしつつも楽し気な笑みを浮かべ、黒死牟から距離を取る。
誤解から始まった戦闘時にも感じた技の予兆。
違うのは一点、本気で殺す為に放つ気だ。

――月の呼吸 玖ノ型 降り月・連面

背中へ回した刀を前方に振り、頭上より複数の斬撃波が降り注ぐ。
流星群の如き勢いと、床を砕き地下深くまで削り取る威力。
鬼殺隊を苦しめた悪夢同然の光景が、此度は黒死牟と同じ人外を屠る為に放たれた。

「オノレ…!」

広範囲尚且つ、不規則な軌道故に読み辛い。
よってこの戦闘で初めて双剣の防御を選択肢から外し、回避を選ぶ。
全身を赤い霧に変えロビー内を飛行、斬撃波が当たろうともダメージにはならない。
首輪に衝撃が与えられる可能性は無視出来ない為、気は張っているが。

340刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:45:41 ID:LPbpj4TY0
「当たって!」

気体化を解除した瞬間を狙い、いろはがクロスボウを連射。
デェムシュにとっては微々たる違いだろうが、以前の交戦に比べ矢の威力も上がっている。
装備者の攻撃の貫通力を強化するアクセサリー、ストライクマークもいろはの支給品の一つ。
大型の魔女にも効果的なダメージを与えるだろうけれど、今回は相手が悪い。

しかしデェムシュの肉体を貫けないのは百も承知。
狙うのは左手に握る得物の刀身部分。
一点集中で命中させ、剣を持つ力が弱まった所へ動くのは結芽だ。
彼女もデェムシュの能力は初戦時にある程度把握しており、実体化のタイミングを見逃さない。

「あんなキラキラした剣、おにーさんに似合ってないよっ!」
「減らず口ヲ叩クな猿ガ!」

小馬鹿にするようにけらけらと笑う結芽へ、何度目になるかも分からない苛立ちを覚える。
挑発こそしないが、この機を逃さぬと黒死牟も接近。
離れた位置ではいろはもクロスボウの狙いを付け、反撃に打って出る気なのは明らか。

「貴様ラの勝利なド万に一ツも有リ得エん!」

剣一本を手放した程度が何だと言う、愛剣は未だ手元に存在する。
加えて両手が塞がっていた先程と違い、左手が開いたから使用可能な力があるのだ。
猿の道具を使う抵抗感などとっくに消え失せており、何の躊躇もない。
数度の使用で使い慣れた力を、此度は更に上位の術として引き出す。

「……」

表面上の変化が確認出来ない程小さく眉を顰め、黒死牟が脚を速める。
いろはと結芽も足元で力の収束が発生し、慌てて飛び退く。
水の主霊石を使った攻撃は、対象の凍結や氷柱の射出だけじゃない。
地面から次々氷が噴出し、天井へ届き兼ねない程の高さとなった。
直撃すれば人体など鑢にかけられたように、骨まで削り取られるに違いない。
足を止めず回避しながら距離を詰めた黒死牟は、斬り殺し強制的に術を止めんと動く。

接近に気付かないデェムシュではない、自前の能力である火球を生成し連射。
強化の恩恵を受け弾幕を張るも、面攻撃は敵の得意分野。
刀が生み出す無数の三日月に掻き消され、直に頸を落とすべく踏み込む。

341刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:46:28 ID:LPbpj4TY0
「……っ!」

だが直前で真横へ跳び、結果デェムシュから遠ざかる。
そうせざるを得ない理由は、破壊され見るも無残な床を照らす光。
氷の柱か火球の連射か、どちらが原因かはこの際重要ではない。
不死に等しい生命力の鬼が唯一恐れる、太陽の光がロビーを照らしていた。

「…ハハハハハハッ!ソうか!やはリ貴様は我ラに遥カに劣ル、下ラン猿に過ぎン!!」

悪い事にデェムシュも弱点を察したらしく、嘲笑と共に火球を放つ。
狙いは天井や壁、日の光を遮る物体を破壊するつもりなのは明白。
当然阻止に動き刀を振るうも、不意に自分を包む影に頭上からの脅威を見た。
火球を放つ間も主霊石を操作し、巨大な氷塊を生成。
参ノ型『厭忌月・鞘』で砕くが狙いは別にあった。
天井と自身の間に氷塊で壁を作り、一時的に視界を塞ぐ為だ。

「がっ……!?」

氷塊の破壊へ意識を割いた一瞬の内に、黒死牟の真上部分の天井を破壊。
細かに散った氷の欠片をも溶かす、太陽の光が降り注ぐ。
人間達には祝福の光も、鬼にとっては地獄の責め苦に等しい。
網の上で炙られるように皮膚が焼け爛れ、力を急激に削ぎ落す。

「黒死牟さん…!」

鬼の死。
大正の世にて僅か数体の例外を除き、人々が望んだソレをこの場においては認めない者がいた。
火球や氷柱が群れを為し襲う中、歯を食い縛りいろはは駆ける。
時折掠め純白のフードに赤色が滲むも、構っている場合じゃない。
奇跡的に無事な箇所の床を蹴り、黒死牟の元へ身を投げ出す。
渾身の力で飛び掛かった甲斐もあり、自分諸共日陰まで放り出された。

「ヌウエエエエエエエエエエエエイッ!!!」

巨大な竜巻に身を変えたデェムシュが、二人を纏めて吹き飛ばしたのは直後のこと。
運が良いのか、病院内の壁を突き破り奥へ奥へと転がる。
落ちて来た瓦礫がロビーへの道を塞いだ。

342刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:48:40 ID:LPbpj4TY0



「……」

何をしているのだろうかと、改めて無様な自分へ辟易する。
稚雑な策に翻弄され、地に背を付け倒れ伏す有様。
これでもまだ屈辱感を戦意に変える気さえ起きず、ため息を吐くのも億劫だ。
極め付けは、そう、

「黒死牟さん!大丈夫、ですか…?」

間近で自分の顔を覗き込む娘の存在が、余計に己を惨めにする。

突き飛ばした状態から然程変わらず吹き飛び転がった為、傍から見れば相手を押し倒す体勢。
自身の現状を気にする余裕もなく、いろはは心配気に尋ねる。
鬼が太陽に嫌われてると、黒死牟から直接聞いた。
最初から疑う気は微塵も無かったが、先の光景が嘘ではないとの証明。
業火へ包まれたように全身が焼け爛れ、骨も残らない消滅は時間の問題だった。

「見て理解出来ない程の……愚鈍ではないだろう……」

苛立ちを籠め、投げやり気味に吐き捨てる。
日の光から逃れたなら、鬼の生命力も即座に機能し再生。
惨たらしい火傷は消え失せ、傷一つない肉体がいろはの視線の先にあった。
ホッとしたのも束の間、ようやく自分の体勢に気付き慌てて退く。

「ご、ごめんなさい…でも、黒死牟さんが助かって良かったです」
「……」

恥ずかし気に頬を赤らめ、かと思えば心からの安堵で笑みを見せる。
これが鬼狩りなら「大人しく死ねば良いものを」と、憎悪を滾らせ言うだろうに。
今に始まったものではなくとも、やはりこの娘はどうかしている。
理解の到底及ばない狂人だと言う他ない。

343刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:49:27 ID:LPbpj4TY0
だというのに、未だそう言い切らない自分もまたおかしくてならない。
思考を割く意味も価値も無しと断じれば、簡単に済む話だろうに。
何故、何故と馬鹿の一つ覚えで声に出さず問い続ける。
いろはも、自分自身も理解出来ないのは、二度目の生を受け間もない頃から変わらない。
ただ唯一、己を太陽から遠ざけたように。
この娘が「そういった行動へ躊躇せず出れる人間」とだけ、数時間の付き合いで分かった。
だから何だと言うものであり、本人へ伝える気は小指の先程もないが。

のっそりと体を起こし、ロビーと違って原型を保った床を踏みしめる。
と、自分達以外に転がる物へ気付き手を伸ばす。
暴風に巻き込まれ偶然ここまで飛ばされたのか、運が良いのか悪いのかよく分からない。
拾い上げたソレはただの人間には重く、だが鬼の膂力には軽い。

「それって……」

黒死牟が手にした物を、いろはも少々驚きつつ見つめる。
つい先程までデェムシュが振るい、結芽が弾き落とした剣だ。
前に戦った時には使ってなかったが、支給品で所持してたのか。
持ち主の手を離れ黒死牟の元へ渡った以上、わざわざ返す理由もあるまい。

眩い刀身と、黄金の蝙蝠の形の鍔。
特徴的な剣がただ豪奢な見た目だけではないと、二人共分かる。
魔法少女に変身中のいろはは、そこにあるだけで溢れる力をより深く感じ取った。

「もしかしたら……あの赤い人?に勝てるかもしれません」

剣を見つめたと思えば、考え込む仕草を取ること十数秒。
閃いたように顔を上げたいろはへ、訝し気な瞳を返す。
この剣が妖刀、否、魔剣の類だとは察しが付くも振り回せば勝てると言う気か。
疑問を視線に宿しぶつければ、逸らさず受け止め口を開いた。

344刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:50:55 ID:LPbpj4TY0



「弱い!弱過ギるぞ猿!所詮ハ滅び行クダケの脆き下等種族カ!」
「一々煽んないでよ!ほんっとに性格悪い!」

状況は悪化の一途を辿っている。
正面切って剣戟を展開可能な黒死牟、ベストタイミングでの援護を行ういろは。
両名が一時的に戦線離脱し、結芽単独でデェムシュを相手取る羽目になった。
どれ程分が悪いかを懇切丁寧に行うまでもなく、回避へ専念するので手一杯。
時折刀が胴を叩くも、ダメージらしいダメージは一切なし。
だったら胸部へ浮かぶ、恐らく自分や黒死牟が放送前に付けた傷痕を狙うも効果はイマイチ。
率直に言って、破壊力が大きく足りない。

「蒼炎の剣士の効果を発動!」

遊星の宣言通り、自身の攻撃力低下を代償に結目を強化。
600ポイントアップは少なくないが多くもない、しかし微量だろうと力を上げねば勝てない。
細い腰へ迫る大剣を防ぎ、歯を食い縛って押し返す。
体勢も崩せれば隙が生まれるのだが、巨体をグラつかせるには腕力が不足。
反対に太い足で蹴りが放たれ、全身を大きく反らしながら後退。

(マズいな……)

結芽一人でデェムシュと戦うのは無茶と、天津達もすぐに察したのだろう。
ブレイドを押さえ、遊星を援護に向かわせた。
なれど状況は芳しくない。
引いたカードによって戦況が左右されるとはいえ、今のままでは壁モンスターをチマチマ並べるのが精一杯だ。
少しでも結芽への脅威を肩代わりすべく、スケープゴートを発動したが気付けば既に一体のみの有様である。

345刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:52:15 ID:LPbpj4TY0
「猿ノ小細工ニモ期待できンか!ナらバ揃って死ヌがイイ!」
「勝手に終わりにしないで欲しいんだけど!」

城之内の時程のトリッキーな戦法は無く、デェムシュの中で決闘者への警戒度も多少低下。
見下し敗北を突き付けるが、そんなつまらない最期を共に戦う少女が否定する。

「こんな奴に好き勝手言われたままじゃ、おにーさんだってムカつくでしょ!」

刀身越しに走る痺れで得物を落としそうになるも、決して放すまいと握り締め背後へ叫ぶ。
最初はカードで戦うなんてピンと来なかったし、一緒に戦うのだって群れてるみたいで良い気分じゃなかった。
しかし一度はデェムシュへ食らい付かせてくれた城之内を、片腕が使い物にならなくなって尚大尉に勝利を収めた遊星を。
最後の最後まで降参(サレンダー)を跳ね除け、戦い抜いた決闘者(デュエリスト)達を見て来た結芽だから言える。
きっと此度も、強敵へ一泡吹かせられると。

「…ああ!ここからが、本当の勝負だ!」

仲間からこう言われ、彼女なりの信頼を向けられたなら応えない訳にはいかない。
戦意が燃え上がる、絆を信じる心が新たな可能性を引き寄せる。
覚えのある感覚に逆らわず、勝利への鍵(ピース)を掴み取るべく手を翳す。
これは自分一人の戦いではない。
結芽と、力を貸してくれるカード達と、デッキを遺していった戦友。
たとえ城之内自身はもうこの世にいなくても、決闘者にとって最大の相棒とも言えるデッキがあるならば。
己が魂の叫びに、必ずや応えてくれる。

346刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:54:22 ID:LPbpj4TY0
「――っ!?これは……」

そうして心意は、再び遊星へ微笑む。
無から生み出した、或いは引き寄せた可能性を実体に変えた。
現れたカードはホカクカードでもなければ、城之内のデッキにも存在しなかった一枚。
戦況を変えられるかもしれないが、デュエルモンスターズの宿命と言うべきか。
サテライト・ウォリアー同様、手札から出して即発動とはいかない。
必要なキーカードを揃える必要があり、現状ではただの紙同然。

「俺のターン!ドロー!」

だったら引き当てるまで。
絶体絶命の状況で、一度のドローに全てが懸かった場面は初めてじゃない。
これまでと同じ、デッキを信じるだけ。

「よし…!手札から運命の宝札を発動する!」

サイコロを振り出た目の数ドローを行い、その後同じ枚数をデッキから墓地へ送る。
運次第だが手札補充と墓地の環境調整を同時に行う、起死回生の一手。
出目は3、新たに手札を増やし――勝機を掴んだ。
黒き竜が遊星の元へ渡ったのだ。

「儀式魔法、レッドアイズ・トランスマイグレーションを発動!蒼炎の剣士と手札の真紅眼の黒竜をリリースして、ロード・オブ・ザ・レッドを召喚!結芽!受け取ってくれ!」
「うん!って、なにこれ!?」

先んじて結芽を強化したモンスターと、手札の黒竜を捧げ降臨させる。
但しフィールドにそのまま出すのではなく、仲間への装備としてだ。
結芽が驚くのも当然の反応だろう、てっきり剣を寄越すのかと思ったらまるで違う。
幼い肢体を覆い隠す、黒く輝く竜の装甲。
背には剣のように鋭利な翼を生やし、臀部からは太くうねる尾が出現。
加えて頭部は黒竜を模した兜を装着、両手と顔面以外は全て鋼鉄を纏った。
S装備とも大きく異なる鎧姿の結芽は、困惑を露わに全身を見回す。

別の世界線の城之内が、ドーマの三銃士の一人ヴァロンとのデュエルで召喚した儀式モンスター。
城之内自身がパワードスーツのように装備し、相手プレイヤーとの壮絶な死闘を繰り広げた。
デュエルでありながら、リアルファイトでもある特異性は殺し合いでも健在。
結芽に装備させる形で召喚を果たしたのだった。

347刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:55:09 ID:LPbpj4TY0
「もう!着させるなら先に言ってよね!でも、何かいけそうかも!」
「ガラクタを纏っタ所デ何だトイうのダ!」

予想してなかった為少々抗議を入れるも、切り替えデェムシュへ斬り掛かる。
黒い手袋と違い、仲間との協力があって齎された力だ。
なら抵抗感なしで戦える。
見た目が多少変わった程度で動じないデェムシュの大剣と、御刀が真っ向から激突。

先程までなら力負けし吹き飛んだろうが、もうそうはいなかない。
2400の攻撃力を結芽の元々の強さに上乗せし、大幅な強化が叶ったのだ。
押し負けず拮抗、刀身がギリギリと擦れ火花が散る。
互いに弾かれ、秒と掛けずに再度激突。
デェムシュの薙ぎ払いを劣らぬ膂力で叩き落とし、床を踏み砕きながら突きを繰り出す。

「猿ノ小娘がァッ!!」

切っ先が僅かに触れるのすら許さない、打ち払い反対に首目掛け大剣が駆ける。
甲冑を纏っていようと無関係、隠れた細い首共々粉砕するまで。
2000を超える守備力があっても、デェムシュ相手に慢心は抱けまい。

「猿猿猿って、同じことしか言えないおにーさんの方がお猿さんだと思うなっ♪」

ロード・オブ・ザ・レッドを装備しても、迫り来る死には背に冷たいモノが落ちる。
だが馬鹿正直に緊張を面に出し相手を調子付かせるのは、癪なのでお断り。
小生意気に笑い飛ばし跳躍、シュイムの刀身へと着地。
写シを使用中なのもあるが、鎧を纏っているのに身軽に動ける。
耐久性を犠牲に機動力が低下、といったデメリットは皆無らしい。
生身の時と謙遜ない戦闘が可能ならこっちのもの、刀身から更に跳び上がり頭上を確保。
落下の勢いを利用し刀を振り下ろせば、向こうも咄嗟に得物を翳して防ぐ。

348刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:56:03 ID:LPbpj4TY0
「ヌグ……!」

しかし容易く受け止めた数分前と同じと思ったら大間違い。
斬られはしないが衝撃が伝わり、堪らず後方へよろける。
チャンス到来に畳みかけるべく懐へ潜り込むが、後方へデェムシュが大きく跳び距離を離す。
逃げる為でないのは、周囲に発生した熱と冷気からも明白。
火球と氷柱を同時に連射、ドラゴンフルーツエナジーロックシードの強化を経て数も倍増。
火達磨か串刺しか、どちらであっても惨たらしい最期なのは同じ。

「今更そんなので止まらないよ!」

初戦の時なら厄介と感じたろう光景も、結芽を怯ませる効果は期待できない。
耐久性を過信する気はないけれど、仲間の支援に背中を押されれば後退は選ばない。
火炎と氷結の渦を突っ切れるだけの力がある。
それでも足りない分は結芽自身の技量で補えば良い話だ。

縦横無尽に戦場を駆け、二つの弾幕を斬り落とす。
時折多少の着弾を許すも、ダメージとしては致命傷に程遠く写シも剥がれない。
恐れるに足りないと距離を詰め、自らの刃の間合いへ到達。
いい加減強烈な一刀をお見舞いしてやりたいと、不満が高まっていた所なのだから。

「猿がドれだけ力を付けよウト無駄だ!己が身デ愚カサを知ルガイい!」

氷柱の射出だけが主霊石の全てでない事を、再び体へ教えてやる。
憤怒と共に念じ力を引き出す、先の氷の柱をも超える術が発動。
冷気が彼らの頭上高くへ収束し、絶望の具現化を果たす。
ただひたすらに巨大で無骨な、触れる全ての命を凍てつかせる大剣が出現。

「あそこまでの大きさを…!?」
「ちょっとやり過ぎじゃないのアレ!?」

これまで見せた主霊石の力を遥かに上回る秘奥義。
広範囲の地面凍結も面倒だったが、厄介度で言えば落ちて来る大剣が勝った。
軽く引きつつ文句を言う結芽を尻目に、遊星も目を見開き焦燥感を抱く。

余裕が剥がれ落ちる人間達をオーバーロードが嘲笑い、

349刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:57:15 ID:LPbpj4TY0
「あれって…!」
「ふむ……規模だけなら……童磨にも匹敵か……超えるやもしれん……」
「感心してる場合じゃないですよ!?」

魔法少女と鬼が、敗北の幕引きを打ち砕く。

瓦礫の山を細切れにした黒死牟に並び、いろはもまた一刻の猶予も無いと分かった。
ほんの少し戦場から離れた間に、何やらとんでもない事態になった様子。
単体でここまでの力を引き出す強敵へ身震いするも、慄く為に戻って来たんじゃあない。
気を引き締め、勝負に出るべく手を伸ばす。
自分と彼、凍てつく世界を共に消し去れる筈。

やる気に満ち溢れるいろはと反対に、黒死牟は喧騒をどこか遠くに感じつつ考える。
横に立つ娘からの提案を馬鹿正直に受け入れるのが、本当に己の在り方なのか。
人間と協力するなど、それが確実な勝利に繋がると本気で思っているのか。
もっと自分らしいやり方があるだろう。

食えば良い、肉を喰らって糧にし強くなれば良い。
始祖の血を受け入れ、激痛に悶え苦しんだ末に順応し早数百年。
鬼狩りを斬っては食らい、斬っては食らいの繰り返しで力を付けた。
今までと同じ方法で、人間共を己が勝利の為の礎にする事こそが正しい。
そう嘯く声は自分自身のにも、或いは主の声にも聞こえる。
逆らう理由はない、鬼とはそのような存在だと――

「お願いします!黒死牟さん!」
「……………」

沈んだ思考は、煩わしくも無視出来ない声で引き上げられた。
浮かべた鬼としての在り方は、視界へ映り込む桜色に取り払われた。
六眼を射抜く瞳は出会って間もない時と、自分を助けるとのたまった瞬間から何一つ変わっていない。
こちらが今正に食らおうかと考えていたなんて、微塵も思い付かないだろう。
打算も疑いもなく共に戦えば必ず勝てる、そう一切の澱みが宿らぬ顔で伝えて来る娘に。
己が内で傾き掛けた天秤の重しは崩れ、砂の城ように消える。
本当にこいつは一体何なのだろうか、数えるのも馬鹿らしくなったため息を零し、

350刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:58:17 ID:LPbpj4TY0
翳したいろはの掌に、自分のを重ねた。

コネクト、本来はソウルジェムが核となる魔法少女同士の術技。
一方の魔力をもう片方へ付与し、異なる属性を合わせ高位の力に変える。
インキュベーターとの契約を行った魔法少女、という条件がコネクトの大前提。
しかし檀黎斗のゲームでは、神浜市での前提が大きく覆る。
例を上げれば七海やちよと千代田桃。
冴島邸前で起きた戦闘で、彼女達は魔法体系が全く異なるにも関わらずコネクトを発動させた。
魔力か類する力があるなら、インキュベーターと契約した魔法少女でなくともコネクトは可能。
黎斗がそのように調整を行った証拠である。

いろはが黒死牟とのコネクトが可能となった要因は、主に二つ。
黒死牟に限らず無惨配下の鬼は、血鬼術と呼ばれる異能力を使う。
体内を流れる鬼の血、若しくは目に見えぬ形で溜め込まれたエネルギープールか。
いずれにしろ術の発動に必要不可欠な力の源が、魔力の代用となった。

もう一つはデェムシュの手から離れ、先程回収した武器。
ザンバットソード、ファンガイアの王の為に作られた『キバの世界』にただ一つの魔皇剣。
その刀身は魔皇石の結晶から削り出された為、剣自体が強大な魔皇力が宿っている。
異なる魔力を組み合わせれば暴走の危険性も無視出来ないが、鍔のように噛み付く巨大蝙蝠が問題をクリア。
幻影怪物ザンバットバットは元々、魔力のコントロールを目的に生まれた存在。
所持者が紅渡でなくとも役目を果たし、コネクトを成功させたのだった。

熱を帯びた魔力が流れ込む。
全集中の呼吸による、血液が沸騰する感覚とはまた違う。
自身を狂わせた弟の、魂までもを焼き尽くす日輪の熱さでもない。
暖かさと言った方が正しい熱は、人間ならばきっと心地よさを覚えるのだろう。
鬼である黒死牟にとっては相容れぬ、纏わり付くようで鬱陶しさがあった。

351刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:59:03 ID:LPbpj4TY0
されど、力を齎したのも事実。
地上の猿に終焉の刻を与える大剣を見上げ、魔皇剣が半月を描く。

桜が舞った。
死を運ぶ三日月は現れず、無数の花弁が氷の剣を覆う。
永遠に凍り付く世界を否定し、暖かき季節の到来を思わせる光景。
幻想的なれど、真紅の騎士には猿の三文芝居以外のなにものでもない。
そんなもので何が出来る、自分を笑わせるのが目的かと嘲る。

「ナん…だト……!?」

凍り付いたのは憎たらしい猿達ではなく、醜悪なデェムシュの笑い。
地上への到達を待たずして氷の大剣が砕け散る。
降り注ぐ凶器にすらなれず、破片も残さず切り刻まれた。
何が起きた、あれは何だと混乱が湧き上がるも長続きしない。

「ぬグオ!?」

桜吹雪はデェムシュにも殺到し、真紅の肉体を余す事無く隠す。
胴を、四肢を、首を、頭部を、得物を撫でられ嫌でも気付かされる。
花弁一枚一枚が、全て凶器なのだ。
三日月状の極小の刃を桜色の魔力が多い、舞い散る花弁を模った。
全身を絶えず斬撃が襲い、無数の細かな剣が外殻を削り取る。
シュイムを振るい叩き落としても終わりが見えない、氷の大剣と同じになるまで続くと言うのか。

「舐めルナ猿メェッ!!!」

気体化し回転、全身を赤い竜巻に変え花弁を吹き飛ばす。
範囲に優れる力が使えるのはこちらも同じ、対処出来ない道理はない。
桜吹雪が儚く消え去り、残ったのは無数の細かな傷こそ負ったが五体満足のデェムシュ。

352刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:59:43 ID:LPbpj4TY0
「下ラん!猿ノ茶番で俺を――っ!?」

言葉が途切れ膝を付く。
プライドの高いデェムシュらしからぬ醜態へ出る程の異変が、体内で起きている。
数百枚に及ぶ花弁を消し去ったが全てじゃない。
ロックシードを食らい進化しても消えなかった傷痕から入り込み、十数枚の刃が内側で暴れ狂っていた。

「う、ゴ、オぉオオオオオオオオオオオッ!?」

如何に進化体のデェムシュと言えども、体内の強度は変えられない。
鬼の刃が刻み、魔皇力が蝕み、魔法少女の魔力が焼く。
それぞれ異なる世界の力が合わさり、オーバーロードを勝利から引き摺り落とす。
胸部の傷痕は範囲を広げ続け、内側から深い裂け目を生み出した。

「こ…ノ……程度がどウした……!!」

人の体でなくとも重傷なのは、誰の目にも明らか。
だがデェムシュは激痛をも怒りで塗り替え、戦闘続行を選択。
フェムシンムである自分がこの島に来てから、未だ只の一人も殺せていない。
放送を超えても猿へ屈辱を味合わされ、沢芽市を襲った時以上の激情が湧き上がる。

だから撤退は選ばない、選べない。
戦士としての合理的判断を捻じ伏せ、殺意の二文字が脳内を支配。
殺す、今度こそ憎き猿共を一人残らず殺す。

「死ヌのハ貴様ラだ猿!!」

怒声を放ち向かって来る異形を前に、黒死牟は構えない。
妖刀と魔剣、己が手にある得物はどちらも下げたまま。
直に殺意を浴びせられたなら、同様に殺意で以て応えねば不作法。
だというのに刀を抜かない理由は、無限城の最期が後を引き未だ戦意を取り戻せないから。
或いは、自分以外の者が決着を付けると理解した為か。

353刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:00:31 ID:LPbpj4TY0
「だーかーらー、二回も言わせないでよ」

異形の前に躍り出たのは、黒竜の甲冑を纏いし刀使。
頬を膨らませ不満を露わにしつつも、発する空気は抜き身の刃の如き鋭さ。
細めた瞳は赤い強敵をしかと捉え、一挙一動を決して見逃さない。

「そっちから喧嘩売っといて、無視するのはマナー違反だよね?」
「知ルか猿がァっ!!!」

元より猿との会話は求めない。
多少順番が入れ替わっただけで、黒死牟も結芽も殺したい相手なのに変わりはない。
主霊石を砕けん程に握り締め、氷柱の剣山を足元に生成。

「さっきも言ったでしょ!今更この程度じゃ止まらないって!」

翼を広げ猛加速、立ち塞がる剣山を豪快に斬り砕く。
チマチマ小細工で勝って嬉しいのかと、そう言わんばかりに不敵な笑みを見せる。
舐められたと、デェムシュの怒りを引き摺り出す効果は抜群。
猿の驕り共々打ち砕く刃を振り下ろし幕引きだ。

(思い出せ――)

病ではなく怪物の手による死が迫るも、焦燥は抱かずじっと見据える。
脳裏へ浮かぶのは数時間前の、上弦の壱との斬り合い。
ほんの一瞬だけ到達した世界へ、今再び踏み込まんと臨む。
闘争への歓喜が灼熱となる心はそのままで、脳は波立たぬ水面のように。
五感全てを、目で見える以外の情報を余さずに受け入れる。

354刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:01:06 ID:LPbpj4TY0
剣が迫る、動かない。
剣が迫る、恐怖や焦りを排除。
剣が迫る、だけど心の火は絶対に絶やさない。
剣が迫る、

(――――――見えた)

1秒にも満たない、瞬きしたら終わってしまうくらいに短い。
六眼の侍の領域にはまだまだ遠く及ばないけど、でも。

「――――――ッ!!!!!!!???!!」

シュイムが食い破る筈の娘は、僅か数歩で位置を変え回避。
霞を払ったとしか思えぬ手応えの無さに、空振りの理解すら叶わない。
魔法少女と鬼が作り上げた裂け目へ、深く深く刃が捻じ込まれ。
逃れられない終わりを、確かに届けた。

「オ……オ…ォ…オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

死ぬ。
底抜けの器から水が溢れるように、デェムシュを生かす力が抜け落ちる。
ヘルヘイムの侵食に適応出来なかった弱き種族と同じ、死という結末が足音を立てやって来る。
認めない、何度突き付けられても認めはしない。
朽ち果てるのを待つ身のどこにまだ、抗えるだけの力が残っていたのか。
狂ったように火球をばら撒く。

壁や天井を片っ端から壊し、日の光で照らし尽くす気か。
許し難い鬼だけでも殺すつもりだろうが、望んだ展開にはさせない。
幾度も斬り合い、散々暴れ回ったのが原因でデェムシュのデイパックに切れ目があった。
そこから落ちて床に転がった支給品を、遊星が駆け出し掴む。
ウィザードに変身中なのもあって、生身以上の走力を発揮。
火球の巻き添えになる前に確保に成功、どんなアイテムかもシーブロックと呼ばれる視覚機能で遠目に確認済だ。

355刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:02:18 ID:LPbpj4TY0
「フィールド魔法、闇を発動!」

宣言と同時に病院を含めた付近一帯が闇に覆い尽くされる。
名前の通り、フィールドに闇を展開するデュエルモンスターズのカード。
特定種族へ微々たるものだが強化を行う、という効果以上の恩恵がこの状況。
ドームのように広まった闇は太陽光を遮断し、鬼の天敵を寄せ付けない。

「アンタが持ってた方が良い筈だ」

投げ渡されたカードを咄嗟に掴み、目を細め手元に視線を落とす。
こういった道具を主は強く欲するだろうに、よもや自分の方が先に手に入れるとは。
何とも言えぬ思いがよぎるのも束の間、黒死牟の意識を騎士の声が引き戻す。
消滅の時へ必死の抵抗を続け、未だ生へしがみ続けている。
頸を落とされ抗った末の崩壊を想起させ、苦々しさに頭蓋が軋んだ。

「死なン…!猿如キに俺が殺さレルもノか……!」

火球を放ち牽制しつつ、全身へ伸びる冥府からの手を振り解く。
人間達の足を止めた隙に、赤い霧へ変化し天高く飛び上がる。
今しがた開けたばかりの穴から脱出、脇目も振らずに遠ざかって行った。
眼下で起こる喧騒には最早、気を割く余裕がない。

「ふざけんな!(迫真) 一人だけ勝手に逃げるとか頭に来ますよ!」

協力相手の逃走は野獣先輩にも見え、勝手な行動へ憤りを隠せない。
しかも一人も殺せておらず、とんだ役立たずだと届かぬと分かっていながらも罵声を放った。
その間、戦闘の手は休めず二人のライダーと鎬を削る。
キングフォームの能力とスタープラチナを駆使し渡り合う、だが結芽達が加勢に来れば流石にこちらが不利。
自身も撤退を視野に入れつつ、ただせめて一人くらいは仕留めておきたい。

356刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:03:05 ID:LPbpj4TY0
「「スタープラチナ・ザ・ワールド」」

重なる声が合図となり、時は二人の男以外の侵入を阻む。
スタンド同士がラッシュを繰り広げる一方で、本体も得物を用いて激突。
打撃の嵐を黄金の大剣が捌き、至近距離で放った電撃をツインブレイカーが強引に薙ぎ払う。
2秒を超える時の支配は共に不可能、再び動き出した世界で野獣先輩が一手早く動き出し、

「ロード・オブ・ザ・レッドの効果発動!」
「りょーかいっ!」

決闘者の宣言が好き勝手に歯止めを掛けた。

自分以外のモンスター効果・魔法・罠の発動があった時、そのカードかフィールド上のモンスター一体を破壊する。
1ターンに一度という制約こそあれど、シンプルながら強力な効果だ。
スタープラチナの時間停止を遊星は正確に把握してないとはいえ、度々奇怪な現象を見れば凡その察しは付く。
今回は野獣先輩を対象に発動、ロード・オブ・ザ・レッドを纏った結芽が飛翔。
全身に火炎を纏い急降下、汚らしい身を包んだ黄金を叩っ斬る。

「アツゥイ!」

どこぞの日本ペイント社員のように、ゲスく汚い悲鳴を上げる。
重厚な鎧を着込んで尚も殺せぬダメージに悶えるも、ホモ特有のしぶとさで反撃に出る。
ただでさえ放送前からメスガキに余計な邪魔をされ、今もまた別のメスガキの妨害を受けた。
怒り向けるすメスガキの片方が、いろはの探す柊ねむだとは知る由もなく。
仮面の下で修羅の形相を作り、キングラウザーにラウズカードを装填。

357刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:04:15 ID:LPbpj4TY0
『SPADE 10』

『JACK』

『QUEEN』

『KING』

連続でスロットに読み込まれ、封印されたアンデットの力が刃に宿る。
トライアルシリーズを一刀の元に下した、必殺の剣を放つ時だ。
剣崎と同様の適合率を得た野獣先輩が振るえば、本来のブレイドにも並ぶ威力を叩き出す。
小賢しいメスガキを骨まで焼き尽くす光景を想像し、あくどいしたり顔が浮かんだ。
残り一枚の装填で以て、ロイヤルストレートフラッシュは完成。

『JACK RISE』

「ファッ!?」

しかし最後のエースを読み込む寸前、槍がカードに突き刺さり阻止。
決めの一手を装填出来なければ、必殺の光刃も生まれない。

「やられっ放しは性に合わないものでしてね。一泡吹かさせてあげましょう」

してやったりの笑みを仮面越しに浮かべ、ラウズカードのデータを抽出。
変身時にもカードを使った事から、プログライズキーのような力の核となる物だと天津は察知。
半分以上は賭けに近い形であれども、結果は成功だろう。
単なる紙ではなく、BOARD製のシステムに読み込ませる為のデータが組み込まれている。
であれば、データ抽出の機能を持つサウザンドジャッカーの出番という訳だ。

『JACKING BREAK』

奪ったデータを早速使い、青いエネルギーを武器に付与。
ヘラクレスオオカブトの顎を思わせる光剣に変え、ブレイドへ振り下ろす。
自身の力の源を利用した攻撃に怯み、機を逃さず承太郎が仕掛ける。
追撃はさせじとスタープラチナを出現、反対に殴り飛ばしてやろうと拳を放った。

358刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:05:11 ID:LPbpj4TY0
「オラァッ!」

が、ダメージに怯んだ為一手遅く相手の打撃を許してしまった。
スタンドの頬へ当たる、同じスタンドの拳。
本体へダメージが走り小さく呻くも、たった一発で勘弁してやるつもりはない。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!!」
「ンアッー!」

同性能のスタンドだろうと反撃もままならないなら、ほんのちょっぴり頑丈なサンドバッグに過ぎない。
敵スタンド使いを再起不能へ追いやったラッシュが打ち抜き、偽りの星を砕く。
派手に吹き飛び柱へ激突、バックルが外れ元のうんこの擬人化のような身を晒した。

「アーイキソキソ……」

ホモセックスの絶頂を訴えるように、痛みへ喘ぐ。
漏れ出す声は汚いが、暫くは動けまい。
これで残るは病院の外で戦闘中のライダーのみ。
全員でキャルの加勢に行けば、数の差で一気に終わらせられると考え、





空気が一変した。





傷一つ付けられていない、触れられてすらいない。
だというのにこれは何だ、何が起きている。
全身の皮を剥ぎ、健を断ち、骨を刻まれたに等しい痛みが。
ただそこにいるだけで死を予感させる怪物が、姿を現した。

「は…………?」

呆けた声を誰が発したのかを、探る様子は見られない。
脳の処理が追い付かない光景を受け入れるまで、待つ余裕すら与えない。

命を繋ぐ医師の戦場へ足を踏み入れ、継国縁壱は静かに見やる。
血を分けた、嘗ては己と同じ顔の兄を、その瞳は鮮明に映し出した。

359刃骸魔境(後編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:07:06 ID:LPbpj4TY0



想定外の事態に陥れば凍り付くのは、人間も化け物も同じらしい。
思考の片隅へ浮かんだ雑念を、自分の考えながら他人事のように感じる。
闇が覆う空間でただ一人、生命を等しく焼き焦がす熱を放つ男。
ただ現れただけで戦場を支配下に置いたその者を、黒死牟が見間違える筈がない。

「縁壱……」

喉を震わせ、絞り出した声に宿るモノの正体が分からない。
自分が今、どんな顔を浮かべているのかも気付けない。
人を捨てた証である六つの眼が、瞬きを忘れたように男を捉える。
額と顎の、火炎の如き痣。
日の出を模した耳飾りも、己を真っ直ぐに射抜く瞳の色も。
何もかも全てが、記憶に焼き付く姿と変わっていない。
両親、妻子、仕えた部下や嘗ての同胞、糧に変えた鬼狩り達。
顔を削ぎ落とされた亡者が蠢く中で唯一、百年を超えても鮮明に映し出される弟が。
目の前に、いる。

四百年前、赤い月の下で果たした再会とは違う。
突けばへし折れる枯木のような老爺は、影も形も存在しない。
ただの人間だった頃、妻子との穏やかな生活で心を誤魔化した己を再び狂わせた時と同じ。
若く生命力に満ち溢れた肉体で、縁壱は現れた。
現実を生きるならば有り得ぬ再会、獄卒共が仕組んだ幻影の類。
そう断じる事が可能であればまだ慰めになったろう。
自分も弟も生きている、生きて神の作りし遊戯盤に招かれた。
荒唐無稽な夢現ではないと、どうしようもない程に理解している。
しているからこそ、受け入れるには多大な苦痛が伴った。

僅かに視線を逸らせば、血の滲んだ着物が映る。
ドクリと、心臓が鬱陶しい程に大きく跳ねた。
縁壱自身の血というなら、俄かには信じ難い。
たとえ異界の地に鬼とも違う魑魅魍魎が跋扈するとて、縁壱へ並ぶ存在など有り得ないだろう。
他者の血であれば、それもまた容易く受け入れられる類に非ず。

360刃骸魔境(後編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:07:48 ID:LPbpj4TY0
「兄上」

たった二文字を口にし、その声もまた記憶の中の弟と変わらないと分かり。
やはり今、自分の前に立つのは縁壱なのだと突き付けられた気分だった。
周囲から息を呑む気配が複数感じるも、気を割くのは不可能。
同じ女に産み落とされた男以外に、何一つとして見れない。

自身を呼ぶ声と僅かに揺れる瞳に宿す、憐れみと嘆き。
嘗ての再会時にも味わったソレが、もう一度黒死牟へ届けられる。
弟からの憐憫など、本当なら憎悪を燃やす薪に等しい。
けれど、怒りを抱けないのもまたあの夜と同じだった。
涙こそ流れていないが、薄気味悪く思っていた弟が人間らしい感情を面に出す。
赤き月が見下ろす夜の再現とも言える光景へ、訳の分からない動揺に心が波打つ。

だが忘れるなかれ、再会を仕組んだのは慈悲深き神仏に非ず。
兄弟を中心に戦場は徐々に熱を取り戻し、周囲の者達も我に返る。
病院へ顔を出した男と黒死牟の関係は今の今まで知らずとも、明確な情報が一つ。
縁壱と呼ばれた剣士は間違っても手を取り合う為に来たのではない、神の傀儡に他ならない。

「――――――」

意識が切り替わった時にはもう遅い。
音もなく眼前へ立つ男へ、いろはが何かを思う暇も与えない。
フッと、体が軽くなった感覚を覚える。
同時に複数の物体が赤を撒き散らし宙へ舞い上がり、それが自分の両腕の成れの果てと気付き、

「あ……」

痛みすらも置き去りに、細く白い首へ刃が食い込む――

361刃骸魔境(後編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:08:33 ID:LPbpj4TY0
「っ!!!」

正にその寸前、日輪刀が弾かれた。
余りにも馬鹿げた、鬼殺隊の者が見たら愕然とする他ない光景だろう。
鬼を滅ぼす刀が少女の命を刈り取らんとし、人を殺す鬼の刀が少女の命を繋いだ。
人間と鬼の在り方を根底から入れ替えた兄弟は、先程よりも距離を詰め互いを見やる。
僅かに目を見開くも、錯覚と抱き兼ねない速さで縁壱は元の表情を取り戻す。
生前幾度となく見た、鬼狩りに臨むのと寸分違わぬ殺意。
これぞ弟が檀黎斗の手に堕ちた確たる証であり、黒死牟の魂へ亀裂を生む。

「…っ!いろは!」

ウィザードの動体視力があっても、状況把握に遅れが生じた。
自分への叱咤も後回しにし、遊星は仲間の元へ急ぎ駆け寄る。
結芽もまた倒れたいろはへ急行し、彼女には珍しく焦った表情で覗き込む
肩から先を失い、流れ続ける血が純白のフードを赤く染める。
断たれてこそいないが首からも出血し、容赦なく体力を奪う。
誰がどう見ても、失血死は免れない有様だった。

「結芽、俺を治した道具は……」
「もう無いよ!あれ一個しか入ってなかったし……」

右腕を再び使えるようにしたアイテムは、生憎遊星に使った分のみ。
治療手段が手元にない、このまま仲間が力尽きるの見る以外に何も出来ない。
喪った戦友たちの顔が次々浮かび、彼らと同じ場所へ旅立つのは時間の問題。
かといって、はいそうですかと諦めるのはお断り。
ドローすると狙ったように、体力増強剤スーパーZを引き当てた。
本来の使用方法とは大きく異なり焼け石に水だが、使わない選択肢はない。
何より、無意味でもなかった。

362刃骸魔境(後編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:09:08 ID:LPbpj4TY0
「ありがとう……ございます……」
「おねーさん大丈夫なの…!?」

驚く結芽へ弱々しく微笑みむも、嘘を告げてはいない。
意識が急激に薄れたが遊星のお陰で、どうにか持ち直せた。
後はいろは自身が死を跳ね除ける為に、己の持つ力を行使。
固有魔法で負傷箇所を治療し、元の形を取り戻さんとする。
本来は手を翳し発動していたが、両腕共に欠損中の為相応に集中力が要求された。
決して楽ではないが腕を取り戻さなくては、出来る事も大きく減る。

固有魔法の恩恵もあり、どうにか死は免れた。
尤も、ソウルジェムさえ無事なら魔法少女は死に至らないが。

但し状況は好転せず、むしろ更に悪化し始める。
縁壱の参戦やいろはの負傷へ天津達の気が逸れた瞬間、野獣先輩が痛みを押し殺し立ち上がったのだ。
如何なる時もホモセックスのタイミングを冷静に見極める、淫夢の住人らしい観察力と言えるだろう。

「待て貴様…!」
「おう、やだよ」

ブレイバックルを回収するも再変身はしない。
キングフォームは時間制限を設けられており、連続使用は不可能。
ではもう一度スタープラチナを使うのかと言うと違う。

野獣先輩新説シリーズの恐ろしさは、スタンド使いになれるだけではない。

363刃骸魔境(後編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:09:50 ID:LPbpj4TY0
「いきますよー、いきますよーイクイク…ヌッ!(覚醒)」

自らに眠るより巨大な力を引き出し、ホモのクッソ汚い肉体をより高位の存在へ変える時だ。
放つ光はさながらGOを思わせ、まるで神にでもなるかのよう。
否、野獣先輩は本当に神になろうとしている。

「なっ…!?全員逃げろ…!」

急激に増すプレッシャーと膨れ上がる体躯へ、マズい事が起きると嫌でも分かった。
お互いのみへ意識を割き斬り合う継国兄弟は、とっくに場を屋外へ移している。
残る者達へ退避を促せば、全員天津同様に悪い予感を感じ取ったのか言う通りに行動。
自身の回復で動けないいろはを結芽が運び、急ぎ屋外へ出る。

「お ま た せ」

直後、ロビーを破壊しながら現れた影が天高くへ上昇。
最早そこに人らしい形は微塵も存在しなかった。
赤い胴体は大木よりも太く、神話の蛇の如き長大。
しかし人類史に刻まれた姿と違い、前脚と巨大な翼を兼ね備えた竜にも見える特徴。
頭部もまた西洋の竜や東洋の龍のどちらとも違う、上下二つの顎を持つ。
伝説上の凶悪なモンスター、と呼ぶには些か語弊がある。
モンスターではなく、神と言うのが相応しい。

野獣先輩オシリスの天空竜説。
その名の通り、野獣先輩の正体は三幻神の一体オシリスではないかと提唱する説。
ウルヴァリン説やメタモン説、情報生命体説と並ぶ最有力説だ。

決闘都市(バトルシティ)で遊戯の手に渡った神が、戦慄を抱き見上げる者達を嗤う。
一人残らず願いの為の生贄と見定め、咆哮が響き渡った。

364刃骸魔境(後編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:10:50 ID:LPbpj4TY0
「いったいわねぇ…!あーもう!何かまたヤバいのが出て来てるし!」
「キャルおねーさん?もしかして苦戦中?」
「もしかしなくてもそうよ!あいつがちょこまかウザったいせいでね!」

オシリスの出現へ呆気に取られる最中、結芽達の傍へ少女が痛がる素振りを見せつつ後退。
どうにか滅を病院から引き離し戦っていたキャルだ。
巨体と頑強な皮膚で持ち堪えたものの、ラビットフォームのエボル相手に翻弄。
おまけに自分とは違う巨大生物が出て来た為、何事かと振り返った所へキツい一撃を貰った。
等身大サイズなら重症か死は確実だったろうが、トライキングの打たれ強さもあり致命傷にはなっていない。
変身解除で済んだとはいえ、痛いのは本当なのでこれっきりにしたい。

「あん馬鹿デカいのと戦える奴って言ったら、一人しかいないじゃないのよぉ……」

病院に集まった者達が弱いとは思わないけど、オシリスと戦うのに誰が適してるかは考えるまでもなかった。
うんざりしつつも、他の連中に押し付けて逃げる気にはなれない。
昔の自分ならそうしたろうけど、美食殿の仲間達に何だかんだ影響を受けた今は別。
見ればいろはは徐々に回復中であるも、両腕を失っていた。
結芽達も大なり小なり疲弊が確認でき、残る六眼の侍は斬り合いの真っ最中。
というか放送で紹介された敵キャラクターまでおり、何故こうなったのかを問い質したい。

「ま、生きてりゃ後で幾らでも文句言えるか」

ウルトラゼットライザーにメダル三枚をセット。
トライキングへの変身ならこれで問題ないが、今回は更に二枚を追加。

365刃骸魔境(後編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:11:22 ID:LPbpj4TY0
『Gan-Q.』

『Reicubas.』

「全員あたしに力を貸してもらうわよ!」

『Five king.』

光が包み、獣人の少女は見上げる程の巨体へ変化。
トライキングの時と同じ特徴を持ち、尚且つ新たな力が発現。
右腕には巨大なハサミを、左腕には血走った眼球をそれぞれ融合。

三体の怪獣の融合体へ加わるは、嘗てウルトラ戦士を苦しめた力。
戦国時代の呪術師の成れの果て、ガンQ。
南極の海水温度上昇による地球水没工作を行った、レイキュバス。
上気二体を取り込んだ超合体怪獣、ファイブキングが天を睨み上げる。
ウルトラマンZを追い詰めた時とは変身者が違う、故に仲間を守る為の死闘に臨むのだ。

「悪いけど、そっちはお願いね!」

瞳は神に向けたまま言い放ち、被膜を広げ飛翔。
本来よりサイズダンしていても、巨体同士の激突に地上へ衝撃が走る。
と言っても揺れる大地へ慌てる場合じゃあない。
キャルが言った通り、天津達が戦うべき敵はまだ健在。
両刃の斧を振り被ったライダーが狙うはサウザー。
仮面諸共叩き割る勢いの斬撃へ、サウザンドジャッカーを翳し防ぐ。

366刃骸魔境(後編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:12:12 ID:LPbpj4TY0
「やはり貴様か、天津垓。丁度良い。新たなアークを生み出し兼ねない人間は、優先的に消すに限る」
「……滅。悪意の監視者である君は一体いつから、こうも乱暴なやり方になった?」
「何の話をしている?そもそも、貴様が俺のやり方をどうこう言えたクチじゃないだろう」

得物を挟んでの問い掛けに、返答は実ににべもない。
惚けてる様子も見られず、どうやら本当に天津の質問の意図を理解し兼ねている。
この滅は天津が知るよりも過去、まだ或人と和解する前の時間軸から連れて来られたと察しが付く。
当たって欲しくなかった予想が現実になり、原因を作った神の高笑いがありありと浮かぶ。
怒りをぶつけるのは直接対峙した時にだ、まずは現状をどうにかしなくては。

天津の言葉に疑問を抱くも、些事と切り捨て蹴りを叩き込む。
脇腹への衝撃に怯んだ所へ斬り込むが、させじともう一体の黄金のライダーが妨害。
回転数を速めた杭の一撃が斧を押し返し、互いに距離を取って仕切り直しだ。

「アンタの話じゃ、滅ってのは信用できる奴じゃあなかったか?」
「少なくとも、彼が死後に参加させられたならそう言えたよ。残念ながら、過去に色々あった時の彼らしい」
「ならブチのめして、動けなくするしかねぇんだな?」
「…もし私の知る限り最悪の時期の彼なら、言葉では止まらないだろうからね」

声色に含まれた敵意の鋭さには覚えがあった。
仮に最も憎悪に満ち溢れた、迅を或人に破壊された時の滅だとしたら。
迅の復活が可能だと伝えても、止まるかどうか自信は正直ない。
説得が不可能である時は、力づくで大人しくさせる野蛮な方法に出る他なかった。

憂鬱気ながらも構える天津に並び、承太郎もスタンドを傍らに出現。
自分の場合で言うなら、肉の芽を植え付けられた頃の花京院やポルナレフと再び戦うようなものか。
いずれにしろ、殺し合いに乗ってるなら天津の仲間だろうと容赦は出来ない。
人類滅亡を掲げる憎悪を、砕けぬ精神で迎え撃つ。

367Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:14:10 ID:LPbpj4TY0



男達が斬り合っていると視認できる者が、果たして何人いるのやら。
得物を握って振るう、単純な動作なれど極めれば只人が捉える事は不可能。
肘から先が消え、金属をぶつけたのに似た音が繰り返される。
与えられた時間全てを鍛錬に費やした達人でさえ、そう言うのが精一杯。
人でいられなかった鬼と、生まれながらに鬼を超えた人が刃を交わす。
兄弟共に、剣以外に語らう術を知らぬとばかりに。

得物を抜いた瞬間より、黒死牟は攻勢を保っていた。
一呼吸の間すら腕を休めず、ただひたすら何もさせじと振るい続ける。
斬撃一つの度に細かく狙いを調整し、一定方向からは刀を走らせない。
常に軌道が変化し四方八方から迫る刃は、複数人を相手取っているかのよう。
正面を凌げば既に次の剣が三つ四つ纏めて襲い来る。
躱す、防ぐ、受け流す以外に何一つ許しはしない猛攻であった。

縁壱は防戦一方で手も足も出ない。
と、楽観的に言う者がいれば黒死牟は心底の侮蔑を籠め、「節穴」と返す。
これだけの剣を振るっても届かない、未だ着物の端すら裂けない。
並の隊士であればとうに千を超え殺された刃の嵐も、吹けば消える霧雨に等しい。
その証拠に見るがいい、受けに徹した縁壱が動きに出る瞬間を。

するりと、僅かな裂け目を抜け一歩踏み込む。
眼球の浮かぶ鬼の刀は、熱に浮かされた宙を空しく斬って終わる。
手元へ引き寄せるまでの数秒にも満たなない中、六眼が捉えるは輝く刃。
灼熱を纏いし日輪刀が、死を運び己が頸へと疾走。

368Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:14:49 ID:LPbpj4TY0
――壱ノ型 円舞

両手持ちに変えた日輪刀で円を描き振り下ろす。
文字にすれば単純な技なれど、恐るべきは速さ。
たった一振りで爆発的な加速が発生、描いた円が太陽同然の高熱を帯び襲い来る。
頸を刀身が撫でたが最後、積み上げられた鬼の屍に実の兄も加わるだろう。

――月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮

瞬き一つ終えた直後に訪れる末路を、狂月が噛み砕き否と唱える。
月の呼吸の基本となる型にして、瞬間的な速度では随一。
居合斬りを異次元の速度で放つ事で、技の完成度を脅威となるまでに昇華した。
霞柱の片腕をも奪った剣を此度は弟へ放つ。

日と月が互いへ牙を突き立て、示し合わせたように揃って得物が弾かれた。
瞬き一つを終えるよりも早く、縁壱が片腕を引き戻す。
瞳に映らずとも周囲へ生み出された、三日月の大群。
鬼殺隊の呼吸法とは違う、血鬼術と組み合わせ発生させる刃の檻。
初見での回避は柱でさえ難関であるが、日輪にとっては宙を舞う葉も同然。
兄から視線を逸らさず、得物一振りで難なく打ち払う。

――月の呼吸 参ノ型 厭忌月・鞘

技を打ち破られたとて、身を強張らせる無駄な動きには出ない。
大量の三日月を引き連れた半月が二つ、回転しながら襲う。
片方への対処に意識を割けば、もう片方が臓物の雨を降らす。
名も顔も忘れた鬼狩り達同様の決着は、当然の如く訪れない。

369Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:15:46 ID:LPbpj4TY0
――弐の型 碧羅の天

どちらか一方のみへ意識を割くのが危険であるなら、両方纏めて消し去るだけ。
見えているかのように浮かぶ刃群を避け、刀が再び日を生み出した。
空へ描いた円は、月を飲み込む冥府への入り口と化す。
夜を終わらせる為の剣は勢いを落とさず、鬼の頸元へ死を運ぶ。

――肆ノ型 灼骨炎陽

渦を巻き走る火炎と見紛う斬撃が、前方広範囲へ放たれた。
退けば即座に追い付かれ、無謀にも挑めば自ら身を焼き焦がす自害行為に他ならない。
どちらにせよ待つのは地獄、しかし鬼に後ろへ下がる選択肢はない。

――月の呼吸 拾ノ型 穿面斬・蘿月

半月が複数重なり合い、参の型を超える巨大な刃を造る。
アスファルトで舗装された地面が、豆腐を崩すのにも等しく粉砕。
眼前より迫り肥大化する太陽を削り取らんとし、相手もまた叩き砕くべく前進。
打ち勝ち我が道を突き進むは日輪、阻む全てを薙ぎ払う勢いで黒死牟に接近。

飛び退き背を向けるか?いいや、しかと見えた。
こちらの技を捻じ伏せた太陽の勢いが、僅かであるも衰えたのを。

管が裂けんばかりに得物を握り、針の穴にも満たない一転狙いで振り被る。
鬼の膂力を十全に乗せ、尚且つ音を置き去りにする速さ。
太陽を真っ向から崩し、猶予は与えられず幾度目かの剣戟が再開。

自身の頸へ刃が添えられ、いつ骨まで断たれてもおかしくない緊張感。
付き纏う死の気配に蝕まれながらも、黒死牟の剣には揺らぎが一度も生じない。
意識全てを弟との闘争に割き、五感と直感から得られる情報を余さず拾い戦術を構築。
鬼殺隊指折りの柱ですら、無茶と言わざるを得ない動きで実行に移し続けた。

370Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:16:30 ID:LPbpj4TY0
縁壱相手に食らい付き、戦闘を展開出来ている。
産み落とされた瞬間から神の領域へ座す男相手に、未だ無傷で持ち堪える。
仮に数時間前の黒死牟が聞けば、戯言と一蹴するだろう。
幼き頃より日と月の差は絶望的なまでに開き、永遠の時を経たとて埋まらない。

しかし黒死牟が一太刀で全てに決着が付く程の塵芥かと言うと、それも否である。
四百年間、屈辱に身悶えしながら胡坐を掻き続けたのではない。
死に物狂いで鍛え抜いた、技を更に高位へと磨いた、多くの鬼狩りを斬った、柱を捻じ伏せ肉を喰らった。
勝利への執着が強さの獲得を一度たりとも忘れさせず、殺した何もかもを己の糧に変えた。
枯れ細った弟の剣を浴びた頃以上の強さを、今の黒死牟は確かに手に入れている。

だが最も大きな理由は肉体的な強さや技の手数ではなく、精神に由来するもの。
理由の分からぬままいろはを助けた一件を除き、常に受け身の姿勢だった。
襲われたから戦う、例えるなら決まった反応以外不可能な人形。
戦意を大きく欠いたままでは、勝てる戦闘も本来なら敗北以外ない。
上弦の壱として並の枠に収まらない力があったから、どうにか生き残って来ただけだ。

6時間が経っても暫くは変わらない状態が続いたが、弟の再会が遂に戦意へ火をつけた。
敵へ踏み込み、剣を振るい、時には最小限の動きで躱す。
動作全てが油を差し込んだようにキレを増し、これまでとは別人と疑い兼ねない力を発揮。
練り上げた呼吸の精度は、生前最後の無限城での決戦すら超える勢い。

では黒死牟をそうまで動かすモノとは、一体何なのか。
勝ち逃げ同然に先立たれた弟との、再戦の機会が巡った事への歓喜?
嫉妬に狂わせた元凶へ必ずや剣を届かせる、醜く膨れ上がった憎悪?
それとも、魔法少女に手を掛けられた怒りという、遥か過去へ捨てた人間らしい使命感?

どれも違う。
黒死牟を突き動かし、生前を超える力を齎す正体とは――

371Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:17:46 ID:LPbpj4TY0
(何故私は……こうも焦りを覚えている……?)

彼自身にすら理解不可能な、焦燥感。
戦闘の為に無駄を一切合切削ぎ落とした思考とは裏腹に、心は指でかき混ぜられたように荒れ狂う。
余裕の二文字など、縁壱の姿を見た瞬間に崩れ去った。

あの時、いろはが両腕を細切れに変えられたあの瞬間。
六眼が捉えた現実の光景に、猛烈なまでの拒否感を覚えた。
言動も行動もまるで理解出来ない娘だが、善性の強い人間だとは自分でも分かる。
本来なら、縁壱が剣を向けるなど天地がひっくり返っても有り得ない。
むしろ率先し守るような人間であり、鬼の自分と行動を共にする方が不自然。
そのいろはを斬り、殺す寸前までいった時の目が忘れられない。
人を喰らう鬼に向けた、存在してはならない者へ向ける目。

神の傀儡へ堕ちた以上、十分予想出来た展開だ。
自分や主のみならず、屠り合いの参加者全員が縁壱にとっては滅ぼすべき鬼。
分かっていても、受け入れられるかは全く別の話。
縁壱がいろはを、病院に集まった同じ善側の人間を殺す。
すぐにでも訪れるだろう未来に、己の内が軋み絶叫を上げた。
気付けば思考は焦燥に駆られ命令を下した、それだけは認めらないと。

(何故……)

答えに辿り着けないまま、頸へ駆ける刃を弾く。
縁壱の変わらぬ強さへの、五臓六腑が捩じ切れる憎悪は不思議と薄い。
縁壱が人間を殺す事への、激しい動揺が黒死牟を闘争へ駆り立てる。

372Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:18:21 ID:LPbpj4TY0
「……っ」

内心のざわめきを無視し、戦況に変化が現れた。
無論、黒死牟にとって悪い方のだ。
縁壱の剣捌きが目に見えて数段階速度を上げ、こちらの刃を悉く受け流す。
何が起きたかを察せられない訳がない。
振るう刀の一つ一つを正確に見極め、慣れた動きとして対処を更に安易に変えた。
数百年の足掻きをものの数分で埋められ、忌々しく歯を噛み絞めたい怒りも捨て置く。

刃から伝わる感触は、まるで幽体を斬ったかの薄さ。
速度を落とした覚えはない、単に縁壱が自分以上の速さで避けただけ。
次なる手を出させはせぬと日輪刀が走り、頸へ食らい付く。

「結芽もいーれーてっ!」

横から伸びた剣が無ければ、そうなっただろう。

黒死牟から日輪刀が離れ、別方向からの襲撃に対処。
刀を弾くや即座の二撃目を放ち、抵抗の隙を与えない。
黒い甲冑を着込んだ少女の「鬼」を討つ刃を、もう一体の鬼が阻む。
汗を流しつつも笑って少女は後退、黒死牟も一度距離を取って仕切り直す。

「あっぶな…写シがあるって分かってもヒヤヒヤしちゃった」
「退け……自分の手に負える者だけを……相手取るがいい……」
「うわっ、今のカッチーンって来ちゃうなー。あ、いろはおねーさんなら無事だよ。腕も治ってたし、大丈夫って本人も言ってたもん。おにーさんも一安心でしょ?」
「……」

聞いてもいない事をベラベラ喋る結芽を横目で睨むも、視線はすぐ弟へ戻す。
下らない雑談に興じる気もなければ、一々お守りをする余裕だって皆無。
縁壱を相手にしながら、他へ意識を回すなど頸を差し出すのも同義。
死んでも自業自得だと切り捨てたい。
なのに縁壱がこの小生意気な人間の娘を殺す光景を思い描くと、喉奥を掻き出されるような吐き気に襲われるのだ。

373Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:19:03 ID:LPbpj4TY0
(あははー…正面から見ると本当にヤバいなぁ……)

黒死牟へ軽口を叩く裏で、結芽も内心動揺を抑えられない。
強そうだとかじゃなく、心の底から恐いと思ったのは滅多にない経験だ。
放送でわざわざ紹介されたのだし、相応の力があると分かってはいた。
けれど実物をこの目で見てしまえば、全身の震えが止まらない。
天才的な剣の腕の刀使だからこそ理解出来る。
縁壱は人の身では有り得ない程に完成されている、いや完成され過ぎてると言った方が正しい。
殺し合いで戦った者達と違い、人を止めずにここまでの強さを持つのは乾いた笑いしか出なかった。

(でも、やっぱりじっとしてなんかいられないや)

恐怖を感じたのは誤魔化せないけど、戦ってみたいと思ったのも本当。
向こうが圧倒的に格上なのは疑いようもないが、見てるだけではこの衝動を止められない。
きっとここに可奈美がいても、同じことを思う筈。
生きて帰れたらこんなに凄い剣士と戦ったと、自慢してみるのも良いかもしれない。

(それに、黒死牟おにーさんにもちょっとムカついてるし!)

縁壱との斬り合いを見れば分からない筈がない。
放送前に自分と戦った時とは動きが全然違う、明らかに手を抜かれていた。
殺し合いに抗う者を手に掛けない為だとはいえ、ここまで露骨では流石に不満を抱く。
鬱憤晴らしと純粋に楽しみたいから、そんな理由二つも気分屋な結芽が戦うには十分である。

「ほらほら、あのおにーさんがもう来そうだよ?ってか弟なんだね、あの人」

黙っていろと今一度睨む暇もなく、迫り来る濃密な死の予感へ得物を振り被った。

374Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:19:59 ID:LPbpj4TY0



「オラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!」

パワーとスピード、両方が数あるスタンドの中でもトップクラス。
一度その身に拳を受けたら最後、再起不能は間違いなし。
だがしかし、DIOに匹敵する脅威が少なくない数揃えられてるのが神の遊戯盤。
最強のスタンドは異界の地において最強に非ず。
現在相対中の敵も、スタープラチナを真っ向から相手取る怪物也。

センサーモジュールが拳の来る位置を完璧に把握、合わせて蹴りを放つ。
高速戦闘特化のラビットエボルボトルが成分を多大に付与、文字通りの目にも止まらぬ連撃。
ラッシュにはラッシュを、数百本の手足が生えたとしか思えぬ勢いで互いを攻め立てる。
手数も威力も双方引けを取らないが、グリスはスタンドを操作しながら本体も攻撃可能な利点を活かす。

『おばけ!』『パーカー!』

『ツインフィニッシュ!』

ゲル状に構成されたパーカーゴーストを射出。
スタープラチナ相手に割かれた意識が弾かれたように反応を見せ、片手の得物で振り払った。
両刃の斧が二体のゴースト切り裂き、すかさずガンモードへ変形。
脚を止めないまま銃口を向けるも、攻撃に打って出たのはグリスだけじゃない。

『Progrise key comfirmed. Ready to break.』

タイヤが装着されたと思わせる勢いで回転し、サウザーが斬り付ける。
引き金を引く間に刃が装甲を撫でるだろう速さへ、銃撃は中断。
銃身を盾に防ぎ、武器を挟んで言葉を交わす。

375Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:20:46 ID:LPbpj4TY0
「聞け滅!君の怒りの理由が迅を破壊された事なら、手遅れではない!以前の記憶を保持したまま修復が可能だ!」
「何を……!?」
「私が口にすべきでないのは承知で言わせてもらおう!憎しみに囚われれば、人間のみならずヒューマギアを滅ぼすアークになるのは君の方じゃないのか!?」
「…っ!黙れ…!貴様の言葉が仮に真実でも、人類滅亡の結論は変わらん!」

一瞬口籠るも直ぐに憎悪を吐き捨て、力任せに銃身で薙ぎ払う。
よろけたサウザーへ至近距離で追撃のエネルギー弾を撃ち、盛大な火花を咲かせた。
今の衝撃でホルダーから落ちたプログライズキーを奪い、得物へ装填。

『Progrise key comfirmed. Ready to buster.』

「これは返してもらう」

自身のプログライズキー、スティングスコーピオンのデータを付与。
蠍の尾をエネルギー刃に変え振り回し、装甲越しにサウザーを痛め付け吹き飛ばす。
力尽きるまで叩き付けるのを、グリスが殴り掛かって妨害に動いた。

『ピプペポパニック〜〜〜〜〜〜〜!?』

エボルに斬られた時の衝撃で、サウザーのデイパックから支給品が飛び出た。
バグルドライバーⅡに収納されたポッピーは、突然の衝撃に目を回す。
直接的なダメージはなくとも振動が襲うらしく、地震に見舞われた気分だ。
頭部を鐘のように揺らされた感覚からどうにか復帰。
画面越しに様子を見ると、驚きドライバーを拾い上げる少女が一名。
固有魔法での回復を終えて、両腕を取り戻したいろはであった。

376Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:21:38 ID:LPbpj4TY0
『あれ?イロハちゃん?ガイは…っていうか何か凄いことになってない!?』
「は、はい。その、色々あって……」

CRから地上へ戻る際にデイパックへ入れられ、ようやっと出てみれば戦闘の真っ最中。
しかも敵らしき者達は全員、非常に手強いのが見て取れた。
どういった経緯で混戦に発展したかを説明する時間はない。
腕が治り再び戦えるようになった以上、仲間の加勢に向かわなくては。

『あ、でももしかすると今のドライバーなら……』
「どうかしたんですか?」

表示ディスプレイに映るポッピーが何やら呟いており、問い掛けると僅かに迷う素振りを見せ口を開く。
聞かされたのは現状に打って付けの、仲間への支えになる内容。
いろはからすれば迷う必要はなく、即座に実行に移すべきと答えた。

『良いの?いや何度も確認したから大丈夫だけど!でも、ホントはCRの関係者じゃない女の子にやらせちゃNGだし……』
「けど皆を助けられるなら、わたしはやります。だから……」

一度区切って画面の向こうのバグスターと視線を合わせる。
こんなに近くにいるのに、外には干渉できない彼女。
共に戦えない歯痒さを汲み取り、触れられない手を包むように告げた。

「わたしと一緒に戦ってください!お願いします!」
『うぅ〜〜〜……ちょっとでも変だと思ったら、すぐに中止してね!』

そんな言い方で真摯に頼まれては、やっぱり無しとも言えない。
後は黎斗が本当に確認した通りの仕様に細工を施してるのを、実際に試す他ない。
もし異変を感じればいろはに被害が及ぶ前に、自分がドライバー内部で阻止するまで。

『じゃあまず、私の言う手順通りにやってみて!』
「はい!」

ドライバーを装着し、傍らに転がるもう一つのアイテムを回収。
イラストの描かれた持ち手部分のトリガーを引き、開始の合図となる。

377Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:22:33 ID:LPbpj4TY0
『ときめきクライシス!』

ガシャットが己のゲームタイトルを響かせ起動。
いろはの背後に巨大なグラフィックが出現。
ピンクの髪の攻略キャラが目を惹くスタート画面が映り、複数の物体が飛び出す。
CRのメンバーやバグスターには珍しくもない、エナジーアイテムが配置完了。

『こっからが大事だよ!可愛らしいポーズで決めてね!』
「え?…わ、分かりました!変身!」

『ガシャット♪』

『BUGL UP!』

ポーズが本当に必要なのかと一瞬思うも、指示には素直に従う。
フードを靡かせターンを決めて、ガシャットを挿入。
電子音声が装填確認を伝え、続けてボタンを操作。
変身プログラムが作動し、いろはを魔法少女から新たな姿へ変える。

『ドリーミングガール♪恋のシュミレーション♪乙女はいつもときめきクライシス♪』

純白のフードは黒のボディスーツと、黄色のミニスカートへ早変わり。
編み上げ状のサイハイブーツから、ガードパーツを組み込んだニーソックスへ。
素顔を覆う仮面にはパッチリとした青の複眼。
ピンクの頭髪モチーフの色は濃い目であり、いろはではなく本来の変身者に近い。
仮面ライダーポッピー、名前が示す通りポッピーピポパポのライダーとしての姿である。

『やった!ちゃんと変身出来た!イロハちゃん体大丈夫!?痛い所ない!?』
「は、はい。何だか不思議な感じだけど、苦しくはないです」

まじまじと自身の体を見回し、やや戸惑い気味に言う。
仮面ライダーと言うからには天津達のと似たような外見と思ったが、色んな意味で違う。
所謂女の子らしさを前面に押し出しており、少々驚きだ。

378Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:23:44 ID:LPbpj4TY0
本来なら、バグルドライバーⅡをいろはに使わせる気は絶対になかった。
何せこれはゲーマドライバーと違い、バグスターの使用が大前提の変身ツール。
仮に人間が使用してしまったら、即座にバグスターウイルスに感染。
十年以上の時間を掛けて完全な抗体を得た檀正宗ならばともかく、そうでなければ即座に消滅は免れない。
たとえ肉体から魂を切り離した魔法少女であっても、非常に危険。

しかし神主催のゲームでは仕様も異なる。
ネビュラガスを投与される人体実験を受けておらずとも、承太郎がスクラッシュドライバーを使えたように。
仮面ライダーや類する存在への変身は、ある程度敷居を下げられている。
バグルドライバーⅡも同様であり、バグスターや抗体を持つ者以外でも変身可能に調整済。
CRで筐体から出た時ポッピーもそこへ気付き、だからこそいろはに許可を出した。

主催者に恩恵を受けたと思うと複雑だが、一々気にするのは後回し。
ドライバーを通じポッピーが変身後の機能を素早くチェック、頷きいろはへ指示を出す。

『いけるよイロハちゃん!後は皆のことを強く想って!』
「はい!やってみます!」

戦い続ける仲間達の力になりたい。
強く願い感情の力が、現実に皆の元へ届けられる。
恋愛ゲームのときめきクライシスガシャットで変身を行った為、好感度や感情の強弱が固有能力に深く関係するのが仮面ライダーポッピー。
ハートをあしらった肩部装甲の強化装置が起動。
ライダーを、スタンド使いを、決闘者を、獣人の少女を、刀使を。
そして鬼を、仲間達全員の能力を引き上げた。

この装置も元々は、ガシャットで変身したライダーにのみ作用する。
とはいえ仮面ライダークロニクルのように参加者全員がガシャットを持つゲームでない為、死蔵機能とならないよう調整。
細かい点にも神の手が伸びてると知らぬまま、仲間の助けになる。

379Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:24:38 ID:LPbpj4TY0
『へぇ、良い感じに動きやすくなったじゃない!そう言う訳だから、アンタはとっとと落っこちなさいっての!』
「黙れや猿ゥ!」

巨体を操る感覚が一段と精細さを増し、キャルは神へ殴打を叩き込む。
レイキュバスの顎はコンクリートも易々と切り裂くが、神に目立ったダメージは見られない。
尾を振り回し、時には自らの巨体をぶつけ相殺。
一歩も譲らぬ殴り合いは、強化を受けた事でキャルに天秤が傾く。
尾を挟んで引き寄せ、抜け出す前にガンQの頭部が顎へヒット。
視界がグラつく所へ二撃目が迫るも、神はその程度の児戯で倒れない。

「調子こいてんじゃねぇぞこの野郎(棒)!レズのくせによォオン!?(アニコネ限定)」

人間以外の姿になるなど、BB先輩シリーズでは最早お馴染み。
神の巨体だろうと呼吸と同じくらい簡単に動かせる。
回避と同時に全身を巻き付け、キャルの動きを封じた。
ファイブキングのパワーを駆使すれば拘束を脱するのは容易いが、オシリスは並の域に収まる存在に非ず。
体中の骨が砕けるまで決して放さないだろう。

「キャル…!」

地上からでもピンチがハッキリ見え、遊星はカードをドロー。
生半可な攻撃ではビクともしないと、言われるまでもなく分かってる。
それでも出来る事はある筈と手札を確認。

「このカードは……」

引いたのは城之内のデッキの中でも、特に強力な一枚。
通常のデュエルならば心強いと思えるが、果たして神にどれ程の効果が与えられるか。

(いや待て…)

険しい表情から一転、何かを思い付いたようにもう一度神を見上げる。
決闘者で知らぬ者はいない、デュエルモンスターズ界の伝説。
三幻神の一体、今自分の頭上に存在するアレはどういった存在か。
殺し合いという環境ではデュエルの解釈もある程度広がり、突ける隙も少なくない。
とにもかくにも試さない事には始まらない。

380Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:25:36 ID:LPbpj4TY0
「リバースカードオープン!クイズを発動!」

自分の墓地の一番下のモンスター名を相手に問い、正解か否かで異なる効果を齎す。
嘗てはマリク相手に使った、城之内らしいギャンブルカードの一種だ。
今回問い掛ける相手は一人しかいない。

「答えろ!俺の墓地の一番下にあるモンスターは何だ!?」
「え、何それは…(困惑)。多分変態だと思うんですけど(迷推理)」

いきなり問い掛けられ、案の定野獣先輩は困惑。
正規のデュエルならともかく、一々相手が何のモンスターを召喚したかなど覚えていない。
苦し紛れに淫夢語録で答えるも、これが正解な訳ないだろいい加減にしろ。

「不正解だ!シャドウ・ファイターを墓地から召喚!」

相手が外れた場合、対象のモンスターを特殊召喚する。
更に墓地からの召喚という条件を満たし、続けて効果を発動。

「墓地のモンスターが場に出た事で、手札からサテライト・シンクロンを特殊召喚する!」

人工衛星に手足が生えたようなモンスターが現れる。
既にフィールドに存在するスケープゴート一体と合わせ、計三体が場に揃った。

「フィールドのモンスター三体をリリースし、ギルフォード・ザ・ライトニングを召喚!」

筋骨隆々の肉体を白銀の鎧で覆い、大剣を背負った剣士。
城之内が操る中でも強力な戦士族モンスターだ。
だが場にモンスターが召喚された以上、オシリスの裁きからは逃れられない。
天から降り注ぐ雷が攻撃力を大きく削ぎ、余波が遊星にも襲い掛かる。

381Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:26:20 ID:LPbpj4TY0
「くっ…!だがギルフォード・ザ・ライトニングの効果発動!このカードがアドバンス召喚に成功した時、相手モンスターを全て破壊する!」

ウィザードに変身し、更にいろはの強化を受けたお陰で十分耐えられる。
遊星の宣言に従い、稲妻の剣士が得物を振り下ろす。
戦場へ迸る光刃は敵対者達を容赦なく狙った。
背後を見ぬまま縁壱が避けた一方で、エボルも高機能センサーを駆使しどうにか回避。
残る一体、野獣先輩は神の自分に雑魚モンスターの効果が効くはずないと嘲笑う。

「逝きすぎィ!?」

余裕の態度は即座に崩れ、神の長大な肉体を稲妻が焼く。
同時に拘束も弱まり、顔面をレイキュバスで思い切り叩き追い打ちを掛ける。
神とは思えないクッソ情けない悲鳴を上げ、野獣先輩は痛みに悶えるばかり。

もしこれがマリク・イシュタールの召喚した、正真正銘のオシリスであったら。
強力な除去効果とて、神のカードには無意味だったろう。
しかしここに存在するのは、ネットの玩具のホモビ男優が姿を変えた偽りの神。
見た目や能力が同じであっても、核となるのは神とは程遠い汚さの塊。
オシリスであり野獣先輩でもある二面性を孕むが故に、本物の神程の耐性は無かったのである。

「あ、そっか、あったま来た…(憤怒)」

自身に痛みを与えた決闘者への怒りを燃やし、口内へエネルギーを充填。
小癪な雑魚モンスター共々焼き払う、超電動波を発射。
稲妻の剣士はもとより、幾ら変身中の遊星であっても無事では済まない。

382Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:27:26 ID:LPbpj4TY0
命中すれば、という前提が付くが。

『あーあ、アンタ下手踏んじゃったわね?』
「ファッ!?ファッ!?ファッ!?(ビーストドライバー)」

不敵な笑みは強がりでないと、目の前の光景が証明する。
オシリスの放った光がファイブキングの左手に吸収され、遊星にはまるで届かない。
ウルトラ戦士達の光線技を悉く破ったガンQの能力は、神相手にも通用。
そっちが最大威力を放ったのは好都合、倍にして返してやろう。

「逝キスギィ!逝く逝く…ンアーッ! (≧Д≦)」

反射された超電動波だけじゃない、各怪獣パーツから一斉に光線や火炎を放射。
いろはが強化したのもあって、通常時のファイブキング以上の威力を叩き出す。
ラーのゴッドフェニックスがマシに思える程の大火力へ、野獣先輩は為す術なく集中砲火の的と化す。

やがて熱線が消えた時、そこに赤い巨体はなく地で悶える汚い男がいるのみだった。
神特有の耐久力とホモ特有の生命力で死は避けたが、ダメージは軽くない。
今の内に捕えておこうと、遊星はバインドのウィザードリングを使用。
水魔法により拘束され、一先ずこの男との戦闘は終わった筈。

なれど野獣先輩の目は未だ死んでいない。
日焼けに誘った後輩の体へ狙いを定めるが如く、野獣の眼光を浮かべていた。

383Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:28:03 ID:LPbpj4TY0



『Progrise key comfirmed. Ready to break.』

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!」

火炎を纏った突きと、青い拳闘士の拳。
両方が絶え間なく襲い掛かり、エボルは持ち前の速さを活かし対処。
これまでと何ら変わりない戦況に見え、その実徐々に追い詰められている。
速さが、一撃一撃の重さが、明らかに数段階引き上げられた。
数発が自身の防御をすり抜け、胴を叩き四肢を切り裂く。
地球外の未知の物質製の装甲とて、連続でダメージを受ければ徐々に蓄積し捨て置けない。

とうとうサウザーの渾身の一突きでたたらを踏み、間髪入れずにグリスが鉄拳を放つ。
オーソライズバスターで防ぐも、柔な一撃なんかじゃあない。
更によろけ隙が生まれれば、ロケット二つがエボル目掛け射出。
斬り落とし防ぎ、原因を作った人間を視覚センサーが捉える。
自分の知るライダーらしからぬ見た目でも油断は出来ない、先に潰すべきだ。

『Progrise key comfirmed. Ready to buster.』

プログライズキーを装填し、毒針状の巨大針を連射。
弾幕を張りサウザー達が足を止めた所を見逃さず、ピンク頭のライダーの元へ急接近。
元々高い走力を持つが、ラビットフォームの恩恵でフェーズ1以上の速さを得た。
ハート型の装飾諸共叩き壊す勢いで、頭部目掛け斧を振り下ろす。

『腕に付けてイロハちゃん!武器になるから!』

魔法少女とバグスター共に死を望む気持ちは微塵もない。
指示を受け即座に実行、バグルドライバーⅡからバックル部分を分離し装着。
左サイドのパーツが高速回転し、チェーンソータイプの武器として機能。
バグルドライバーⅡ改めガシャコンバグヴァイザーⅡで、重厚な斧を防いだ。
刀身が伸び、回転刃が敵の得物を削り取るべく火花を散らす。

384Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:28:57 ID:LPbpj4TY0
「いろは……そうか、お前がか」

レンズ越しに火花を浴びつつ、対峙中の少女をじっと見やる。
まさかこうも立て続けに、聞き覚えのある名の者に遭遇するとは。

「わたしがどうかしたんですか…?」

少しばかりの驚きを含んだ呟きは、いろはにも聞き取れた。
当然ながらこのような男と知り合った覚えは、記憶の何処を探しても見付からない。
得物を挟んだ殺伐とした状況ながら、戸惑いを隠さずに問う。

「放送前に殺した子供が、お前を守ると言っていた。それだけだ」
「っ!?」

予想外の返答に目を見開き、ヒュッと喉が鳴る。
激しい動揺を抱いてると、仮面の上からでもハッキリ分かった。
定時放送の前に死に、いろはを守ると口にするだろう者
該当する少女はたった一人、みかづき荘の大切なメンバー。
もう二度と会えない、あの子しか思い浮かばない。

「あなたが……フェリシアちゃんを……?」

声を震わせた問い掛けに、相手は何も答えない。
答えるまでもないと、沈黙が嫌と言う程に伝えて来る。
動悸が急激に激しくなり、体中が寒くないのに震え出す。
画面越しに必死に自分を呼ぶバグスターの声すら、どこか遠くに感じた。
斧を防ぐ力が弱まってると、気付く余裕も流れ落ち消える。

385Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:29:35 ID:LPbpj4TY0
「きゃあっ!?」

防御を突破されたと理解した時にはもう遅い。
胸部プロテクターを刃が叩き、痛みと共に地面を転がる。
ダメージを半減し全身に分散する効果で、致命傷にはならずソウルジェムも無事。
なら確実に死ぬまで攻撃を続けると、再び斧が振り被られた。

『Progrise key comfirmed. Ready to break.』

いろはの仲間が健在な以上、エボルの思い通りにはならない。
電撃を纏った槍が突き、得物越しに腕へ痺れが襲う。
舌打ち交じりに後退しつつ、退いた先で待ち構えるはもう一体の黄金のライダー。
ツインブレイカーの猛攻を速さを武器に捌く。

「滅…彼女の仲間を手に掛けたのは本当なのか…?」
「だったらどうした。殺さない理由がどこにある」
「……そうか。では断言しよう。君は1000%、以前の私と同じく自分が悪意を振り撒いてると気付かない、最も度し難い存在になった…!」
「ほざくな!そもそもの元凶はお前だろう!」

怒声と得物で打ち合う男達から数十歩下がり、いろはは膝を付き動けない。
フェリシアが死んだのは放送で聞いたが、でも誰が殺したかは今初めて知った。
記憶の中で、八重歯を覗かせ無邪気に笑う姿がリピートされる。
魔女への復讐に燃えて、でも我慢する努力を続けて。
自分ややちよを悪く言った魔法少女へ怒り、喧嘩沙汰を起こした事もあった。
欠けて欲しくなんかない大切な友達を、殺した男がすぐ近くにいる。
殺し合いでも、自分を守ると言ってくれたらしいフェリシアを――

386Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:30:20 ID:LPbpj4TY0
「クッ…!?」

グリスと拳を叩きつけ合うも、背後からの脅威をセンサーが察知。
一手回避が遅れ肩部装甲に被弾、だが動きを止める程のダメージじゃない。
大きく跳びエネルギー弾を撃った相手を睨み付ければ、向こうも視線を返す。
ガシャコンバグヴァイザーⅡを遠距離形態に変え、銃口と共に瞳を逸らさない少女。
大方、仲間を殺され憎悪を燃やしてるのだろう。

「わたしは……凄く怒ってます!」

発した声には言葉通りの怒りが宿り、だけど憎しみは感じられない。
予想と違い、エボルは僅かに眉を顰める。

「フェリシアちゃんのことで、あなたに怒ってる……だけど…!」

どうして殺したんだと、問い詰めたい気持ちは当然ある。
仕方ないよねで済ませられる程、小さなことなんかじゃない。
けれど、恨みに身を任せて戦い、結果相手を殺すことが。
フェリシアが守りたいと言ってくれた、環いろはな筈がない。
自分が絶望に陥り掛けた時、希望を届けてくれた彼女を裏切りたくないから。

「だからわたしは……フェリシアちゃんが守りたいって思ってくれたわたしのままで、あなたを止めます」

――『そうやって繋いでいった先にあるのは破滅なんかじゃない、希望って言うんだよ』

苛立ちに顔が歪むのが、自分でも分かる。
マゼンタ色のライダーが目の前の娘に重なり、内部パーツの損傷とはまた違う掻き毟られる感触を味わう。
戯言と受け流せば良いのに出来ず、突き動かす衝動へ逆らわずドライバーを操作。
レバーの回転数を一気に速め、エボルボトルの成分を大量に引き出す。

387Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:31:35 ID:LPbpj4TY0
『Ready Go!』

『EVOLTEC FINISH!』

片脚にエネルギーを最大まで流し込み跳躍。
バネが付いていると疑う程の脚力で勢いを付け、破壊力を更に増幅。
ライダーの装甲を纏っていようと、当たれば無傷で済む保障はない。
この地で殺した少女と同じ場所へ送る時だ。

『キメワザ…』

こちらも高威力の技の出し所だ。
ボタン操作で低い電子音声が鳴り、二つの銃口へエネルギーが充填。
発射のタイミングを見極めトリガーを引く。

『CRITICAL CREWS-AID!』

武器内部で形状を変え、音符型のレーザーを発射。
真正面から撃ち落とさんとする光を、エボルも退く素振りを見せず突っ切る。
バグスターを焼き払う威力だろうと関係無い、消し去り蹴り砕く。

『大丈夫だよイロハちゃん!勝ちたいって想いが強ければ、それは本当になるんだから!』
「はい…!絶対に、負けません…!」

仲間の声は、勝ちを譲らぬ己の心は決して無意味なんかじゃあない。
仮面ライダーポッピーが好感度で強化するのは、味方だけに非ず。
自分自身の力をも引き上げ、レーザーが更に巨大化。
突っ切る筈だったエボルはそれ以上進めず、空中へ固定されやがて押し返された。

388Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:32:15 ID:LPbpj4TY0
「この程度がどうした…!」

『DRAGON…DRAGON…EVOL DRAGON!』

『フッハッハッハッハッハッ!』

地面へ投げ出されるも受け身を取り、ダメージを無視し別のエボルボトルを取り出す。
兎の耳を思わせるモジュールは消え、龍を模った意匠を装着。
格闘戦特化のドラゴンフォームへ変身し、すかさずドライバーを操作。

「スタープラチナ・ザ・ワールド」

だが寸前で時が止まる。
いろはが自分の意志を明確に告げ戦う気なら、男達も見物に徹してはいられない。

「テメーが何を思って殺し合いに乗ったのかは、知ったこっちゃねぇ」

天津からの説明だけでは理解しきれない、滅なりのどうしても譲れないものがあったのか。
いろはの仲間を殺すのも厭わない程に、人類滅亡とやらはさぞ大事に抱えたいものなのか。
何を言い訳されても、変えられない現実を迷わず見据える。
殺し合いを肯定し、この島で出会った仲間達に牙を剥いた。
故に自分がやるのは一つだけ、全力でブチのめす。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!!」

彫像の如く静止したエボルへ叩き込まれるラッシュ。
時が動き出す前に、グリス本体もドライバーへ手を伸ばす。
簡単に倒されない敵と分かっているなら、手札は惜しまず切るに限る。

389Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:32:45 ID:LPbpj4TY0
『ディスチャージクラッシュ!潰れな〜い!』

2秒が経過し、殴り飛ばされるエボルをすかさず捕える無数の鎖。
拘束は簡単に抜け出すだろうが、僅かなりとも隙が生まれるのは避けられない。
仲間が作ったチャンスを無視する者はおらず、サウザーが決着を付けに動く。

『THOUSAND DESTRUCTION!』

「滅…!申し訳ないが、力づくで君を止める!」

両足にエネルギーを収束させ、蹴りを叩き込む。
言葉で止まらないなら、こうする以外に方法はない。
善良な参加者をこれ以上手に掛けるのを、滅亡迅雷.netの同胞達だってきっと望まないのだから。

「天津垓…!貴様…!!」

散々ヒューマギア排他を目論んだ男が、今更ゼアの側に立つとでも言うのか。
ふざけるなと叫び鎖を壊すも、一手遅い。
悪意を砕き、囚われた心を引き上げる蹴りが――



届こうとした瞬間、世界は再び凍り付いた。

390Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:33:35 ID:LPbpj4TY0



首の皮一枚繋がった。
魔法少女が齎す恩恵は刀使と鬼にも届き、能力の強化に成功。
膂力、走力、耐久性、反射神経、思考速度等々。
一つでも上がれば戦闘を格段に有利に出来る要素が、複数纏めて上昇した。
そうまでしても、日輪相手には雀の涙程度かも怪しい慰めに過ぎない。

「あははは…!これもう笑うしかないよね……!」

楽しさの中に呆れとヤケクソを混ぜた、小娘の声が鼓膜を掠める。
彼女にしては珍しい反応も、黒死牟には構う理由も余裕もなし。
五十を超える半月の群れを得物一本で捌く弟へ、ひたすらに手札を切り続ける。

――月の呼吸 漆ノ型 厄鏡・月映え

虚哭神去を一閃、斬撃波が五つ纏めて襲来。
海中を泳ぐ鮫の背びれを思わせる様で迫り、着物を刻むのすら果たせず霧散。
合間を埋めるべく発生させた三日月をも、綿埃同然に散らされる。
驚きはない、既に一度見せた技で縁壱を阻める道理はないのだから。

剣を振るう先に標的はおらず、空しく空気を噛み切るのみ。
技の悉くを潰され、一度出せば次はもう見飽きた児戯にまで落ちぶれる。
数百年掛けた歩みは小指一本分あるかないかでしかなく、如何に無駄な努力だったかを思い知らされた。
だが分かっていた筈だ、骨の髄まで思い知らされて来ただろうに。
これこそが継国縁壱。
千年万年の時を費やしたとて、追い越すどころか並び立つ事すら不可能。
どこまでいっても月では日に手を届かせられない、幾年経とうと変えられない現実がそこにあった。

391Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:34:15 ID:LPbpj4TY0
――月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月

だとしても、剣を下ろす理由にはならない。
弟が善良な人間を殺す、鬼を斬るのと同じ目で命を刈り取る。
その光景が生み出されるのだけは、どうあっても受け入れられない。
未だ理由すら分からぬまま、されど剣筋は微塵も衰えず抗う。

「そこっ…!」

感化されてはいないが、結芽もまた実力差を知って尚果敢に挑む。
退いたって、誰からも文句は飛ばない。
むしろこれ程の強者相手に、よくここまで持ち堪えたと労わられるだろう。
でも、はいそうですかと引き下がるのはお断りだ。
デェムシュの時みたいに、決め手に欠けるから一旦退くのではない。
純粋な力量差で及ばないから諦めるのは、非常に腹立たしい。
子供らしい理由なれど、結芽を動かすには十分だった。

黒死牟が繰り出した三日月の群れを、突っ切りながら御刀を突き出す。
向こうは自分に配慮なんかしてないし、して欲しいとも思ってない。
だから感覚を総動員し、足りない分は黒竜の鎧で防ぎ同士討ちは避けられているも、
といっても遊星の援護が無かったら、写シを張り直す間もなく細切れになったと言えるくらいには苛烈だ。

鬼の技も刀使の剣も、大抵の相手なら逃れられない必中の刃。
但し縁壱は「大抵」の枠に括れない、別格の怪物。
気は一切緩めず、さりとて対処不可能に非ずと断定。

――漆の型 斜陽転身

沈み掛けた太陽が再び天へ昇るが様で跳躍。
宙返りし頭部は下に、恐れ多くも神々のおわす天空へ足を向ける。
不安定な体勢ながらも回避は完璧。
全てが見えているかのように斬撃の間を抜け、刀を水平に薙ぐ。
灼熱の刀身が迫っていると分かった時既に、結芽は餌食と化していた。

392Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:34:47 ID:LPbpj4TY0
「うあああっ!?」

一振りで鎧は砕け散り、写シすらも解除。
死の肩代わりが出来ない、年相応の生身を日輪の前に晒す。
疲労は軽くないが、再び身を霊体に変えねば屍へなるのは確実。
だが遅い、再使用までの片手で数えられる間すら致命的な隙。
死ぬと脳が現実を直視する、よりも早く襟首をむんずと掴まれた。

「ひゃっ!?」

後方へ大きく放り投げた娘の声は無視し、己が妖刀を走らせる。
死が口を開き迫りつつあるのは、黒死牟も同じだ。
老爺に首を断たれる寸前だったあの夜よりも、無限城で鬼狩りどもに刃を突き立てられた時よりも。
濃密な終わりの気配に蝕まれながら、刀を振るう事はだけは止めない。

「――――っ」

が、物理的な問題がここで立ち塞がる。
虚哭神去が打ち合いの果てに断たれ、眼球の浮かぶ刀身は見る影もない。
黒死牟自身の血肉や骨から作った妖刀は、岩柱に折られても即座の修復が可能。
しかし縁壱が振るう刀は他の日輪刀とは別物。
不死に近い生命力を持つ無惨にすら、百年以上消えない傷痕を残した赫刀。
今この瞬間、黒死牟の得物は再生不可で使い物にならなくなった。

再生成し構え直す時間は無い。
数秒と掛らず終える作業も、縁壱が相手では自殺行為以外の何ものでもない。
刀を再び手にするまでの猶予を与える、奇特な性質にも非ず。
鬼は斬る、たとえ実の兄であっても。
一切の迷いを捨てた殺意を前に取る手は――

393Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:35:32 ID:LPbpj4TY0
「……っ!」

残されている。
赫刀を防ぎ死を遠ざけるは、偶然手に入れた得物。
魔界最大勢力、ファンガイア族の王のみ所持を許された魔剣。
オーバーロードをも敗走へ追いやった力を手に、思考は焼き切れんばかりに働く。

どう足掻いても縁壱には届かない、それはもう自分でも嫌と言う程分かっている。
得物を変えた所でどうにか出来る相手ではあるまい。
既存の力では何も変えられないのなら、方法は一つ。
荒唐無稽で馬鹿げた発想、それを実行する己への呆れも今は頭から追い出す。

思考を重ねる間にも戦闘は続き、日輪刀は鬼の命へ狙いを澄ます。
四百年前には実現しなかった兄殺しが、神の遊戯盤にて果たされる。
そんな幕引きを横合いからの一閃が妨害、横目で見やり弾き続く刀で胴を真っ二つに。

「…っと!分かってたけど、届かないのってムカついちゃうなぁ!」

迅移を用いた突きも無意味と化し、張り直した写シも一瞬で解除。
結芽自身察していたが、やはりこの程度は何ら脅威になり得ない。
吹き飛ばされた先で大いに不満を吐き出す。

しかし意味はあった。
ほんの僅かに逸れた意識を兄へ戻した時、予想外の姿に瞳が揺らぐ。

394Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:36:09 ID:LPbpj4TY0
「ぐ……ガアアアアアア……!」

苦悶の声を上げる理由は、赫刀の餌食となったからじゃあない。
自らの手で魔剣を突き刺し、心臓を貫いたが為。
目的は至って単純、魔剣が秘める膨大な力を強引に引き出し己が内へ流し込むこと。

詳細を黒死牟は知らないが、ザンバットソードは使い手のライフエナジーへ過剰反応し自ら喰らう性質を持つ。
一方で刀身の素材や散りばめた意匠が高純度の魔皇石なのもあり、剣自体が強大な魔皇力の塊でもある。
つまり剣から強引に魔皇力を引き出すのは、絶対に不可能とも言い切れない。

とはいえ、だ。
魔皇力は元々ファンガイアのような魔族が扱う力。
人間にとっては猛毒に等しく、使用を試みれば自ら命を縮めるも同義。
闇のキバの鎧を纏った紅音也のように、消耗死は免れない。
加えてザンバットソードもまた、所持者の精神を蝕み見境なしの獣へ変える程のじゃじゃ馬。
力を強引に引き出すなど、消滅か暴走の二択以外有り得ない。

普通ならばそう。
しかし此度は前提が大きく違って来る。

上級クラスのファンガイアにも引けを取らない、十二鬼月最強の肉体を持つこと。
無惨の血を混入させられ鬼に変貌する激痛を、過去に乗り越え耐性があること。
いろはとのコネクトを経て、異なる力同士を纏め上げる感覚は得たこと。
刀身に噛み付くザンバットバットが、抑制を働きかけていること。
暴走を促す剣の誘惑を跳ね除ける程に、縁壱への形容し難き感情が強いこと。

複数の理由が重なり、しかし一瞬でも気を抜けば食らい尽くされるだろう力の濁流に見舞われる。
歯が砕けん程に噛み締め、ふいに内側で渦巻く苦痛が和らいだ。
自分の中で僅かに残留していた娘の力が、溶けるように消えていく。
この期に及んでも桜色の少女の顔を思い浮かべてしまう自分へ、忌々し気に思うのも束の間。
カッと六眼を見開き魔剣を引き抜いた。

395Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:36:52 ID:LPbpj4TY0
闘気が嵐を巻き起こす。
上弦の参がここにいれば、短時間での劇的な変化へ眩暈を覚えただろう。
再び弟を見据える黒死牟の頬に、痣とは異なる模様が浮かび上がる。
ステンドグラス状のソレは、ファンガイアの王族が鎧を纏う際と似た現象。
生命の核である心臓へ直に流し込んだ影響で、鬼は新たな力を我が身に宿す。
キバット族の力を借りずとも、意思一つで魔皇力を活性化。
ザンバットソード本体と、深く刻まれた歴代の王達の魔皇力が血のように全身を流れる。
これまで以上に濃厚となった異形の気配へ、縁壱も静かに構え直す。
多少の驚きはあれど、何をするかは分かっていた。

――陸ノ型 日暈の龍・頭舞い

描いた光輪が幾つも繋がり、やがて龍を象る斬撃へ変化。
牙を突き立てるべく駆け巡り、灼熱で以て頸を落とす。
回避、防御、迎撃のいずれも不可能に等しい、鬼にとっての悪夢。

「やはりお前は……」

これ程に技が冴えながら、魂は神の操るがまま。
受け入れざるを得ない事実へ何を抱いたか、黒死牟自身も分からぬままに疾走。
正しい使い方を理解したと言わんばかりに、ザンバットバットで刀身を研ぐ。
魔皇力を高め、宙へ描いた巨大な蝙蝠が龍と激突。
ファンガイアの紋章に酷似してると知ってか知らずか、弾かれ合い数歩後退。

――肆ノ型 灼骨炎陽

選ぶは戦闘続行。
鬼が生きている、頸を落とすまで刀は納められない。
渦巻く火炎を思わせる斬撃が放たれる。
地獄という相応しき場所へ、鬼を引き摺り降ろす魔の手が伸ばされた。

396Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:37:45 ID:LPbpj4TY0
否と唱えるは魔剣に非ず、鬼が体内より作りし妖刀。
再生成を終えた虚哭神去が長大化し、真紅に染め上げられる。
鬼の生命を否定する灼熱ではない、魔界の王が支配下に置く鮮血だ。
本来の得物に魔皇力を流し込み、赤い二振りの刀が喰らい合う。

――月の呼吸 捌ノ型 月龍輪尾

龍の尾に等しい極大の刃で薙ぎ払う。
火炎が月を焼く、龍が日を砕く。
日輪が龍を炙る、月が火炎を消す。
魔を討つ刃の暴風雨を、魔に浸した刀を振るい突き進む。
宿す力が駆ける速度をも急速に引き上げ、届かぬ筈の太陽へと送り届けた。

「縁壱……!」

赫刀と妖刀が、狙ったように同時に振るわれる。
傷は――浅い。
肩へ小さく触れた程度では、赤子だろうと人間は死なない。
頸を微かに裂いた程度など、再生が亀の歩みになったとてすぐに治る。
互いに剣を繰り出すも、振るった直後大きなブレが生じたのが原因。
縁壱は兄の声を聞き、黒死牟は弟の顔を見た。
だから決着への僅か数歩の距離へ、踏み込めなかった。

(何だ……その顔は……)

己を見つめる縁壱に、どうしてなのだろうか。
憐れみで構ってやった自分へ付いて来る、幼き日を重ねるのは。
目の前にいる弟は人形染みた真顔だというのに。
不安そうに自分を見上げる、まるで悪戯を咎められたような子供に見えたのは。

(何故……そんな目で私を……)

兄弟共に、時が止まった世界へ閉じ込められたかのよう。
動けないまま、言葉一つ出せずにお互いを見る。
ほんの数秒が永遠の静寂にも感じられる中、

397Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:38:46 ID:LPbpj4TY0
「っ!」

示し合わせたかのタイミングで、揃って飛び退き距離を取る。
お互いへの殺意を取り戻したのではなく、肌を尋常ならざる冷気が撫でたからだ。
地面に目を落とせば、立っていた箇所へ氷が張っているではないか。
病院へ集まった者の中に、このような術を持つ人間は皆無の筈。
唯一該当する異形はとっくに逃げ去っただろうに。
横槍を入れた輩をすぐさま探り当て、黒死牟は信じられぬ物を見た。

「ビール!ビール!冷えてるか〜?」

風呂上がりの飲酒を図々しく要求する、ステハゲこと野獣先輩。
姿は赤い巨体でも黄金の鎧でもなく、かといって元の服装とも違う。
大きめの帽子を被り、チリチリの黒髪は虹色の輝きを発す。
両手には鋭利な鉄扇が存在し、パタパタと扇ぐ真っ最中。
何より注目すべきは背後、二体の氷の巫女像が冷気を吐き出していた。

その外見に、その得物に、その術に、何より両の瞳に浮かんだ『弐』『上弦』の文字を知らない筈がない。

「馬鹿な……!何故貴様が童磨の血鬼術を……!?」

野獣先輩童磨説。
大人気漫画、鬼滅の刃に登場する上弦の弐・童磨こそ野獣先輩の正体の可能性が微レ存とする説だ。
多くのファンからも、「二人纏めてとっとと地獄に落ちろ」とお墨付きを頂いてる。

困惑を抱きつつ更に視線を張り巡らさせれば、凍結の被害に遭い身動きを封じられた者がチラホラ。
バインドの魔法で遊星にあえて捕まり、ほんのちょっぴり気が緩んだ隙を突いたのだろう。
怪獣の巨体故効果が薄いキャルが殴り掛かるも、童磨の血鬼術のみならず身体能力も手に入れ野獣先輩は身軽だ。
蝶のようにひらひらと避け、デイパックから取り出した物体を投擲。
ずんぐりとした脚部へ張り付くも痛みは皆無。
ファイブキングの肉体に生半可な攻撃は意味を為さない、その筈だった。

398Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:39:32 ID:LPbpj4TY0
「っ!?なによ…これ…この茶色野郎…!何したの…!?」
「大分溜まってんじゃんアゼルバイジャン」

怒り交じりの問い掛けには答えず、したり顔を浮かべ語録を吐き出す。
唐突に体中が重くなり、荒い呼吸を繰り返すキャルには何が何やらさっぱり。
野獣先輩が投げ付けたのは、病院を襲う前にデェムシュが使ったケロンパス。
疲れを抜き取れるのは一度だけでも、再度貼り付ければ疲労を別の者へ押し付ける事も可能。
放送前の連戦の多大な消耗を、全てキャルが背負う羽目になったのである。

「くっ…これは一体…!?」

凍結の被害に遭った者はまだいる。
滅と戦闘中のライダー達も体が凍り、身動きが取れない。
唯一、スタンドを操作できる承太郎がスタープラチナを出現させ脱出を試みる。
だが元の動きを取り戻したのは、滅の方が早い。
ドラゴンフォームは蒼炎を発生させる装置を搭載済、加えて感情の高まりによって出力は高まる。
融解寸前まで高温を発し、すかさずドライバーを操作。

『Ready Go!』

『EVOLTEC FINISH!』

「ぐぅ…!?」
「がっ…!」

叩き込んだ拳から蒼炎の龍が生み出され、サウザーのみならずグリスをも飲み込む。
盛大に殴り飛ばされた二人から視線を外し、続けてプログライズキーを得物に装填。
標的へ選ばれたのは残るもう一体のライダーだ。

399Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:40:36 ID:LPbpj4TY0
『Progrise key comfirmed. Ready to buster.』

「きゃああああああっ!?」
『イロハちゃ――ひょえええ!?』

片腕にオーラを纏わせ、いろはを拘束。
凍結を受けだされる前にこっちでも動きを封じ、確実に攻撃を当てる。
スティングスコーピオンのデータが刃を生成、斬り上げサウザー達同様に吹き飛ばす。
おまけにドライバーも外れ変身解除。
生身の魔法少女衣装を晒し、アスファルトの上で痛みに呻く。

「そうですねぇ……」

各々の状況を視界に捉えつつ、野獣先輩は冷静に次の行動を模索。
大半の者が消耗しており、かく言う自身も新説シリーズの連続使用で体力的な余裕はない。
負傷こそ童磨になり鬼の再生能力で回付中だが、疲労はどうにもならなかった。
氷の吐息に包まれるのを躱した剣士達もおり、見れば結芽とか呼ばれてたメスガキも凍結は避けた様子。

「やっぱり僕は…王道を往くブラックホールですか(エボルフェーズ4)」

このまま戦闘を続けても、生き残れるかは怪しい。
となったら長居は無用、貴重な手札を失うのは惜しいが使わずに死ぬよりはマシ。
公園の死体達から回収した支給品を掲げ、発動を宣言。
聖都大学附属病院を見下ろす位置に、巨大な黒い穴が生まれた。
デュエルモンスターズのゴールドシリーズ、ブラック・ホール。
フィールド上のモンスター全てを破壊する、強力無比な全体除去魔法カード。
殺し合いで吸い込まれた参加者を、ランダムに別エリアへ転移させる効果を持つ。

「じゃあ俺、ギャラもらって帰るから…」

言葉とは裏腹に得た物は一つもなく、野獣先輩はブラックホールへ飲まれた。
ホモ特有の大胆な逃走に文句を付けられる状況ではない。

400Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:41:06 ID:LPbpj4TY0
「マズい……!」

ウィザードに変身し重量がある状態ですら、踏ん張るのも困難な吸引力。
凍結から抜け出たのも一瞬、すぐに遊星は上空へ吸い上げられた。

「おにーさん!?」

遊星を追い掛けるように結芽も急上昇。
守ってあげると言った手前、一人放置させるのは少々バツが悪い。
単独で放り出されては危険度も高まるのもあり、どうにか腕を掴み分断を防ぐ。
揃って別エリアに飛ばされ、残る者達にも同様の被害が降り掛かる。

「だめ……もう……!きゃっ!?」

咄嗟に病院の壁にしがみ付くも、直前に受けたダメージもあり無駄な抵抗に終わった。
見えない手に摘ままれ引っ張られるように、いろはも地上から離れて行く。
純白の衣装と編んだ桜色の髪が激しく揺れる様は、鬼の六眼にも見えた。
刀を地面に突き刺しどうにか留まろうとした筈が、気付けば地を蹴り自ら空へ。
こちらへ気付いた娘が驚きの顔を浮かべるも、信じられないのは黒死牟自身も同じだ。

(私は……何をしている……)

黒い穴が何処へ通じてるのかは不明。
日の当たる場所が待ち構えている可能性とて低くはない。
自ら死にに向かうに等しいだろうに、何をしているのか。

「黒死牟さ――」

己自身へ愕然としたまま、いろはの腕を掴む。
共に姿が何処とも知れぬ場所へ飛ばされ、声は誰にも届かない。

401Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:41:38 ID:LPbpj4TY0
「おのれぇ…!」

怨嗟の声を吐きながら、滅は人間達から遠ざかる。
まただ、また一人も殺せず自分の内面を掻き乱される結果に終わった。
不甲斐ない己を恨んでも事態は変えられず、己の意志とは無関係に病院を去る。
因縁深いZAIAの人間を最後まで睨み付けたまま。

「く…ああああああ…!流石にヤバいかも……」

巨体で天津達に覆い被さり、吸い込まれるのを防ぐ。
しかしケロンパスの効果で押し付けられた疲労が枷となり、耐えるのにも限界だ。
本当に余計な事をしでかした薄汚い男へ怒りを燃やし、とうとうその時が来る。

「あんの茶色野郎…!次会ったらタダじゃ済まないわよ…!!」

怒声諸共吸収し、ファイブキングも消え去った。
残る天津達にも魔の手が迫り、フッと嘘のようにブラックホールは消失。
運が良いのか悪いのか、効果時間が切れたらしい。

「君達は無事か…?」
「どうにか、と言いてえ所だが…」
『皆いなくなっちゃったね……』

吸収を免れたのは天津と承太郎、それにドライバーの回収が間に合ったポッピー。
あれだけ他にいた参加者は、仲間も敵も全員消失。
悪い夢と思いたいが、破壊された周辺が無情にも現実を突き付けて来る。

放送から間もなく起こった襲撃に端を発した乱戦の、幕引きがこうなるとは予想外。
苦い結果に三人とも暫し言葉が出なかった。

402progressive -漸進- ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:43:45 ID:LPbpj4TY0
◆◆◆


自分の背より高い目線も、両手足が浮く感覚も、密着した体勢も。
全部この島に連れて来られてから、覚えのあるもの。
唯一違うのは、見上げた先にある顔。
数時間の間に幾度も見た六眼はなく、代わりに青い大きなレンズの仮面。
視線を動かしてみると、自分の知る彼のとは全く異なる外見と気付く。
着物は見当たらず、黒のボディスーツに真っ白な鎧。
胸元に填め込まれた宝石が淡く輝き、触れていないのに熱を感じた。

「黒死牟さん?」
「ああ……」

低い声で短く肯定され、ホッとする。
彼が腕を掴んだ感触はハッキリ記憶してるけど、その後が少々曖昧。
シェイクされたみたいに頭がグラ付き、気付けばこの体勢。
自分が吸い込まれたせいで彼の手を患らわせたらしく、眉を八の字にして言う。

「ごめんなさい…もし太陽に当たっちゃったら、黒死牟さんは危ないのに……」
「不要な気遣いをする暇があるなら……自分と身内の事へ……頭を回せば良かろう……」
「皆のことは勿論心配してます。でも黒死牟さんのことだって、助けたいって思うのは変わらないですよ?縁壱さん…弟さんのことも、含めて」
「……」

困ったような、それでいて迷いなく言い切られ口を噤む。
数秒の沈黙を経て、礼を言いいろはが地に足を着ける。
今更ながら黒死牟も天津達のような、変身する道具を持ってたのに少々驚く。
日を避けるのに全身を装甲で覆うのは、理に適っている。
不思議なのは先の戦闘の際、日光がロビーへ入り込んでも使わなかった理由について。

403progressive -漸進- ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:44:23 ID:LPbpj4TY0
「これまで私が触れても……一切反応はなかった……使えぬ物と放置していたが……」
「じゃあ、今急に使えるようになったんですか?」

思わず腹部のベルトらしきパーツへ視線を落とす。
青いプレートに描かれた、自身の尾を飲み込む蛇。
不思議そうに見つめるいろはに反応してか、一瞬光を帯びた気がした。

黒死牟が姿を変えた際の名は、仮面ライダーサガ。
ファンガイアの王を守る為に作られたメカ生命体、サガークが我が身をベルト状に変え鎧を纏わせた戦士。
キバット族のようにベルト自体が意思を持つ都合上、所有者と認められなければ本来変身は不可能。
サガークの存在は黒死牟も早期に把握したが、お眼鏡に適わず無反応を貫かれた。
しかしいろはと共に別エリアへ飛ぶ寸前、独りでにデイパックから飛び出し腰へ装着。
激しい戦闘の影響もあってデイパックの口が半分ほど開いていたと、そう気付く暇もなく。
詳しく考えるより先に変身を実行、鎧を纏い太陽を遮断し今に至る。

ファンガイアの王の為の剣、ザンバットソードを振るったからか。
強引な方法なれど、魔皇力を我が物とし操れるようになったが故か。
或いは、登大我に仕えた過去から兄である黒死牟に思う所があった為か。
サガークにしか分からない理由が何にしろ、先の闘争が切っ掛けとなりサガの鎧の資格者に選ばれた。

そういった事情は知る由もなく、ただ日を避ける術が手に入ったと受け入れる。
次に考えるべきは、ここからどう動くか。
聖都大学附属病院からは強制的に離され、他の者もどこに転移させられたかは不明。
殺し合いに抗う者だけでない、乗った者達もだ。
当然その中には縁壱もおり、現在位置が分かる筈もない。

傍らの娘へふと視線をやる。
「たぶれっと」なる絡繰仕掛けの板を取り出し、地図を見ようと奮闘の最中。
取り敢えず自分達の居場所の確認から始め、向かう先を決める気か。

「お前は……」

太陽を遮る道具がある自分を置いて、本来の仲間の捜索を優先すれば良いだろうと。
そう口にしかけ、放って置けないと返すのが安易に想像でき口を閉じる。

「どうかしましたか?」

不思議そうに小首を傾げるいろはへ、何でもないと言うように視線を外した。

404progressive -漸進- ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:45:06 ID:LPbpj4TY0
【?????/一日目/朝】

【環いろは@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、魔力消費(中)、悲しみと怒り
[装備]:ストライクマーク@テイルズオブアライズ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。
0:皆は大丈夫かな……。
1:黒死牟さんを放って置けない、助けになりたい。
2:やちよさん達を探す。
3:もし灯花ちゃんとねむちゃんがまた間違いを起こすのなら、絶対に止める。
4:フェリシアちゃんを殺した男の人(滅)には怒ってる。でも、我を忘れたりはしない。
5:真紅の騎士(デェムシュ)を警戒。
6:どうしてドッペルが使えたんだろう?
7:縁壱さんは、黒死牟さんの弟さん……。
8:キャルちゃんに渡したメダル、本当に良かったのかな…?
[備考]
※参戦時期はファイナルシーズン終了後。
※ドッペルは使用可能なようです。

【黒死牟@鬼滅の刃】
[状態]:魔皇力継承、首へ斬傷(微小・再生中)、精神的疲労、縁壱への形容し難い感情(大)、黎斗への怒り、いろはへの…?、サガに変身中
[装備]:虚哭神去@鬼滅の刃、木彫りの笛@鬼滅の刃、ザンバットソード@仮面ライダーキバ、サガーク&ジャコーダー@仮面ライダーキバ
[道具]:基本支給品一式、闇(3時間使用不可)@遊戯王OCG、ランダム支給品×0〜1
【思考・状況】
基本方針:分からない。
1:この娘は本当に何なのだろうか……。
2:縁壱……お前は…………。
3:無惨様もおられるようだが……。
4:日を避ける道具は手に入ったか……。
[備考]
※参戦時期は死亡後。
※無惨の呪いが切れていると考えています。
※魔皇力が使用可能になりました。キバット族のサポート無しで活性化出来るようです。
※サガークの資格者に認められました。

405progressive -漸進- ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:46:02 ID:LPbpj4TY0


【不動遊星@遊戯王5D's】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(大・処置済み)、右腕に痛み(処置済み・動かす分には問題無し)
[装備]:ホカクカード×30枚@スーパーペーパーマリオ、何かしらのモンスターカード×40(メイン37、エクストラ3)@遊戯王OCG、オベリスク・フォースのデュエルディスク@遊戯王ARC-V、サテライト・ウォリアー@遊戯王OCG、レッドアイズ・トランスマイグレーション+ロード・オブ・ザ・レッド@遊戯王OCG、ウィザードライバー+ドライバーオンウィザードリング+ウォーターウィザードリング+キックストライクウィザードリング+ディフェンドウィザードリング@仮面ライダーウィザード
[道具]:基本支給品、城之内のデッキとデュエルディスク(ヘルモスの爪入り)@遊☆戯☆王、クリボー@遊戯王デュエルモンスターズ(アニメ版)、ナイトサイファー@グランブルーファンタジー
[思考・状況]基本方針:ハ・デスと檀黎斗の野望を止める、俺達の手で。
0:?????
1:結芽と行動する。
2:蛇王院と協力する。第一放送終了後指定の場所(有事に備えて三か所のどれか)に集まる。
3:ジャック、遊戯さんを探す。
4:デッキを作る。カードは今拾った。平行して自身のデッキも探す
5:海馬コーポレーション……どういうことだ?
6:主催者は一枚岩ではないかもしれない……?
7:司波……城之内……牛尾……。
8:カードが生成されるシステムを知っておきたい。
9:俺だけでなく遊戯さんもデッキを支給されていないのか?
[備考]
※参戦時期はジャック戦(4戦目)終了後(原作で言う最終回)。
※何のモンスターをホカクカードによってカード化したかは後続にお任せしますが、
 モンスターカード、或いは罠モンスター等効果でモンスターカード扱いになれるカードのみが対象です。
 現時点で判明してるのはセイクリッド・アクベス、BKベイル、星見獣ガリス、ジェット・シンクロン、シグナル・ウォリアー、スター・ボーイ、レッド・ミラー、ファイヤークラッカー、工作列車シグナルレッド、ジェット・ウォリアー、レボリューション・シンクロン、燃える藻、タスケルトン、波動竜フォノン・ドラゴン、ジャンク・フォアード、スカー・ウォリアー、サテライト・シンクロンのメイン13、エクストラ4(サテライト・ウォリアー込みで5)です。
 サテライト・ウォリアーは心意によって作成されてるので除外されます。
 また城之内のデッキからもカードを投入しているようです。
※デッキの代わりにホカクカードが割り当てられています。
※蛇王院、明石、達也、病院にいる参加者と情報交換しました。

【燕結芽@刀使ノ巫女(漫画版)】
[状態]:疲労(大)、結構楽しい、自分でもよく分からない喪失感
[装備]:九字兼定@刀使ノ巫女
[道具]:基本支給品、フレックの手袋@終末のワルキューレ、大尉の首輪
[思考・状況]基本方針:生きて帰る。
0:?????
1:遊星おにーさんに付き合う。多分これで良いんだよね?
2:カードで人は戦えるんだ。不思議。
3:強い人とは戦いたいけど、面倒なのはやだ。
4:群れるのは嫌いだけど、今はちょっとだけ別かも。楽しい。
5:あの面倒な奴(デェムシュ)、もっと面倒くさくなってない?
6:紫様の流派、楽しい! 見様見真似だけど!
7:カイトって人とおにーさんの知り合いを探す。
8:あの人(ポセイドン)も強いのかな。
9:黒死牟おにーさんが使ってた力、頑張れば結芽も使えるかな?
10:にっかり青江を見付けないと厳しいかなぁ…。
11:黒い手袋はズルみたいでいや、使いたくない。
12:主催者を倒せばおにーさんを生き返らせられる…?
13:黒死牟おにーさんの弟の人(縁壱)、ヤバ過ぎて笑うしかないんだけど!
[備考]
※参戦時期は死亡後です。
※九字兼定でも写シなどは使えますが、能力は本来の御刀より劣化します
※万病薬@ドラえもん の効果で病気が治りました。また飲んだ分は没収されてません。
 荒魂がどうなっているかは現時点では不明。後続にお任せします。
※強者との戦い、一人で戦うことの執着が少し薄れています。
※遊戯王の世界の情報を得てます。
※透き通る世界に一瞬だけ至りました。より感覚に慣れていけば習得まで到達するかもしれません。

406progressive -漸進- ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:47:45 ID:LPbpj4TY0


【キャル@プリンセスコネクト!Re:DIVE】
[状態]:疲労(絶大)、ダメージ(中)
[装備]:ウルトラゼットライザー+ウルトラアクセスカード@ウルトラマンZ、怪獣メダル(ゴルザ、メルバ、超コッヴ、ガンQ、レイキュバス)@ウルトラマンZ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1、詳細地図アプリ@ロワオリジナル、ウルトラマンベリアルメダル@ウルトラマンZ、NPCモンスターの残骸×??
[思考・状況]
基本方針:クロトや覇瞳皇帝からコッコロたちを守るために更なる力を求める。
0:?????
1:予定通りメダルガッシャ―を目指す。
2:途中誰かに出会ったら、覇瞳皇帝に関して警告し、コロ助への伝言を頼む。
3:エボルト、里見灯花、柊ねむ、カイザーインサイトを警戒。
4:こんな力、強さじゃないってわかってる。けどこれで守れるものがあるなら……。
5:ヤバいってのは十分承知。でもあたしに力を貸しなさい、ベリアル。
6:あの茶色野郎(野獣先輩)ふざけんじゃないわよ、次会ったらタダじゃおかないわ…。
[備考]
※ウルトラゼットライザーは、アクセスカード、
 ファイブキングを構成する怪獣のメダル5枚で一個の支給品扱いです。
※ウルトラアクセスカードは、一番最初に支給された参加者の物のみ支給されています。
※ウルトラゼットライザーは変身の際に、
 インナースペース(安全圏)にいる時間が短くなる様に、
 怪獣の力が本来のスケールで出せない調整されています。
 恐らく、ウルトラマンに変身する際も、同様であると考えられます。
※回収したNPCの残骸の詳細は、後の書き手様にお任せします。


【滅@仮面ライダーゼロワン】
[状態]:ダメージ(中)、激しい怒り
[装備]:エボルドライバー(複製)+エボルボトル(コブラ、ドラゴン、ラビットライダーシステム)@仮面ライダービルド、オーソライズバスター@仮面ライダーゼロワン、スティングスコーピオンプログライズキー@仮面ライダーゼロワン
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本方針:人類滅亡。迷いは無い。
0:?????
1:飛電或人は自分が殺す。
2:天津垓を含めた参加者の殲滅。
3:絶滅ドライバーとアズから与えられたプログライズキーを取り戻す。
4:マゼンタ色の仮面ライダー(士)と環いろはに苛立ち。
5:触手を操る男(無惨)は次に会えば殺す。
6:天津の言動に違和感。
[備考]
※参戦時期は43話終了後。


【野獣先輩@真夏の夜の淫夢】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大)
[装備]:ブレイバックル+ラウズアブゾーバー@仮面ライダーブレイド(キングフォームに2時間変身不可)
[道具]:基本支給品一式×5、デュエルディスク+デッキ@???、ホームランバット@大乱闘スマッシュブラザーズシリーズ、緑へものスタンガン@おちこぼれフルーツタルト、風間大介のギターケース@仮面ライダーカブト、どこでもドア(6時間使用不可)@ドラえもん、まあまあ棒@ドラえもん、戒の首輪、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本方針:勝ち残り遠野を生き返らせる。
0:?????
1:殺りますねぇ!(尚も衰えぬ殺意)
2:白コートの剣士(鋼牙)や厄介そうな参加者は悪評を流して同士討ちを狙う。
3:仮面ライダーブレイドの名を利用する。
4:後でデッキの力も試しておきたい。
5:遠野を殺した奴は絶対に許さない。
[備考]
※バトル淫夢みたいな戦闘力があります。
※野獣先輩新説シリーズで対象キャラへの変身や能力・技能の獲得が可能になりますが、新説シリーズを使う度に体力が消費されるようです。
 参戦作品以外のキャラクターの説は使用不可能に制限されています。
 他にも天体説@現実など、殺し合いを破綻させるような説の使用も制限により禁止されています。

[全体備考]
※いろは&黒死牟、遊星&結芽、キャル、滅、野獣先輩はブラック・ホール@遊戯王OCGの効果で禁止エリア以外の異なるエリアにそれぞれ転移しました。場所は後続の書き手に任せます。

407progressive -漸進- ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:48:52 ID:LPbpj4TY0
◆◆◆


『これからどうれば良いのかな…?』

不安そうに尋ねるポッピーへ、天津もすぐには答えられない。
ブラックホールに飲み込まれた仲間の捜索は、勿論行うつもりだ。
しかし肝心の居場所の手掛かりはゼロ、虱潰しに探してすぐ見つかる程会場は狭くない。
となると、彼らが元々目指していた場所へ行けば合流出来る可能性はゼロじゃない。

「環達はともかく、不動は蛇王院と明石って連中と合流場所を決めてたんだろ?」
「ああ。加えてキャルくんもG-6に設置された施設へ行くつもりだったらしい」

もしブラックホールの先が、それらに近いエリアだった場合。
わざわざ病院へ戻るより、本来の移動先を優先するんじゃないか。
ブラックホールを出現させた薄汚い男が、魔法カードを逃走手段として用いたなら。
恐らく全員揃って同じ場所へ転移、とはなっていない筈。
それぞれ異なるエリアに飛ばされたと、考えて良いだろう。

「ともかく、我々も一旦腰を下ろして考えよう」

戦闘での疲労回復も兼ね、CRに戻り一度落ち着いた方が良い。
屋外で立ち話を続けるよりも、危険回避に繋がる。
天津の提案に異論はなく、破壊痕が真新しいロビーから離れる。
正面の出入り口がこの状態では、非常口か何かを通る他ないだろう。
ポッピーに案内を頼み歩き始め、

408progressive -漸進- ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:49:59 ID:LPbpj4TY0










「……っ!?スタープラチ――」










心臓を鷲掴みにされる錯覚を覚え、本能が警鐘を鳴らす。
脅威に備えろ、でなければ全員死ぬだけだ。
姿も見ぬまま自らの直感に従い、スタンドが時を止める。

「がっ……」

されど遅い。
世界がほんの一時鼓動を止め、時が凍り付く瞬間はやって来ない。
代わりに承太郎を襲ったのは、火炎を身に受けたかの熱さ。
スタープラチへ深く刃が食い込み、斜めに一文字を刻む。
視界を塞ぐ赤が全て己の血だと、察した時には意識が急激に奪われる。

「変身……っ!!」

目の前で起きた光景へ、数秒掛けてようやっと理解が追い付く。
遅過ぎる己への罵倒は後回し、サウザンドジャッカーを激しく振り回し牽制。
襲撃者は木の葉が舞うように跳び、あっさりと回避。
パープルのカメラレンズが標的を捉え、緊張に全身が強張った。

409progressive -漸進- ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:50:45 ID:LPbpj4TY0
「馬鹿な…!?お前もブラックホールに吸い込まれた筈だ……!?」

驚愕を露わに問い質す天津へ、敵は沈黙を返すのみ。
構えた日輪刀が答えの全てと言わんばかりに、縁壱は眼前の『鬼』を睨み付けた。

いろは達と同じく、縁壱も魔法カードの効果を受け別エリアへ飛ばされた。
天津自身が確かに見ており、実は近くへ潜んでいたのは有り得ない。
だというのに、現実にこの男は目の前に現れ承太郎を斬った。
他エリアから戻って来たのだとしても、流石に早過ぎる。

別のエリアに飛んだのは間違いないが、直前で縁壱はある物を使っていた。
回廊結晶、元はソードアート・オンライン内に存在したアイテム。
予め任意の地点を記録させ、瞬時にその場所への移動を可能とする。
日輪刀以外に主催者が持たせた支給品であり、これで転移先から即座に戻って来れたのだ。

そういった説明を行う気はなく、殺意を露わに剣を向ける。
兄を含めた他の鬼は見当たらないが、見逃す理由にはならない。
最悪の展開へ天津も焦燥感を抱き、どっと冷や汗が流れた。
戦う以外に切り抜けられない、かといって勝てる確率はゼロに等しい。

腹を括るしかないのかと思い掛けた時、デイパックが放られる。
誰がやったと訝しむまでもない。
夥しい血を流し続ける仲間が背を向け言い放つ。

「そいつはアンタが持って行け。この侍野郎に拾われでもしたら、一海に顔向けできねぇんでな」
「承太郎君…?まさか君は…!?駄目だ!認められる訳ないだろう!」
「俺からすれば、ここで全滅する方がよっぽど気に食わねぇ。一番マシな方法を取っただけだ」
「だからといって…!残るなら君ではなく私が……!」
「天津」

言いたいことは分かる、助かる確率の低い者が残るのは合理的だ。
嘗ての自分なら迷わず頷いたろうが、今はもう違う。
絶対に受け入れられず食い下がるも。静かに名前を呼ばれる。

410progressive -漸進- ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:51:36 ID:LPbpj4TY0
「後は、頼んだぜ」
「――――――――――――――」

一度も振り返らず、短くもハッキリと伝わる言葉をぶつけられ。
そこへ彼なりの信頼が籠めらていると、気付かない訳がない。
長ったらしい遺言なんかじゃあない。
後を任されたとあってはもう、頷く以外に何が出来るという。

「……必ず、檀黎斗を倒し殺し合いを終わらせると誓おう。君と一海君の信頼を、裏切る真似はしない」

そう言うとサウザンドジャッカーにプログライズキーを装填。
エネルギー体のバッタを生み出し、我が身を隠す。
一時的に敵の視界から消え、バッタが霧散するとそこに黄金のライダーは影も形も見当たらなかった。

天津の撤退を気配で確認、承太郎も残る最後の仕事をやり遂げる。
ポケットに手を突っ込み、瀕死の身ながら普段通りの構えを取った。
立っているだけでも抜け落ちる力を、気力のみで支える。

侍が迫る。結局母の待つ家には帰れなかったと苦笑いを浮かべる。
侍が迫る。思った以上に早く花京院やアヴドゥル、イギーとの再会が叶うらしい。
侍が迫る。自分らしからぬセンチな想いはここまでだ。

侍が迫る。拳を解き放つ。

411progressive -漸進- ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:52:17 ID:LPbpj4TY0
――壱の型 円舞

「オォォォォォラァァァァァーーーーーーーーーーッ!!!!!」

決着は一瞬、赫刀に手応えはあり。
動かなくなった相手を静かに見やり、薄く裂けた頬から一筋の血を垂らす。
死して尚も、逃げた仲間の元へは行かせまいと、立ったまま力尽きた『鬼』を。
滅ぼさねばならなかった強き『鬼』を。

「……」

この地で斬ったどの鬼も、同胞を逃がす為に命を散らして行った。
兄もまた、自分へ他の鬼を殺させまいと立ち塞がった。
人を止めても仲間を守らんとする姿は、自身が尊敬を抱く継国巌勝と何ら変わりない。
家族を守れず、始祖を逃した己なぞよりもずっと立派だ。

「兄上、あなたは……」

しかしそれでも鬼なのだ。
悲しみを生み、憎しみを誘発し、命を壊す。
存在してはならない生物である以上、滅ぼす以外に道はなし。

412progressive -漸進- ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:53:07 ID:LPbpj4TY0
「……?」

ふと、奇妙なことに気付く。
鬼は太陽に嫌われており、日の光を浴び消滅を免れるのは有り得ない。
そうでなければ日中から大手を振って、人々を食っているだろう。
だが今、天を見上げれば眩しい太陽がこちらを見下ろしていた。
闇が覆っていた先程ならまだしも、日光が降り注いでいながらどうしてあの鬼達は無事なのか。

おかしいと言えば、自分がここへ戻って来られた道具もそう。
あんな血鬼術にも等しい奇怪な結晶を、いつ己は手に入れた。
微塵も不可解に思わず使ったのかが、我が事ながら不思議でならない。

「……行くか」

抱いた疑問は膨らむ前に、空気の抜けた風船のように萎む。
神に弄られた影響は如実に表れ、明らかな矛盾を些事以下と認識。
そんなものより一刻も早く鬼を斬らねばと、白亜の宮殿へ背を向ける。

自分自身が幸せを壊す悪に成り果てたと、気付きもせず。



【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 死亡】



【D-6(島・聖都大学付属病院前)/一日目/朝】

【継国縁壱@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(中)、胸部に裂傷(中)、肩に切り傷(微小)、頬に傷(微小)
[装備]:継国縁壱の日輪刀@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:鬼狩り
1:鬼である(と縁壱には見えている)紅渡(名前未把握)が死ぬ寸前、柔らかな笑みを浮かべたことに違和感
2:兄上、あなたは鬼となって尚も……
[備考]
※首輪による制限が行われていません
※思考が矛盾を感じた場合、それを疑問に思わなくなるようプログラムを受けています。

413progressive -漸進- ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:54:01 ID:LPbpj4TY0
◆◆◆


『ねえガイ!待ってよ!』

画面越しに何度叫んでも、聞き入れる様子はない。
前方に視線を固定し駆ける天津は、病院を離れてから一度もポッピーの方を見なかった。
聞こえてない訳がないだろうに。

『あのままだとジョータローは……ガイは本当にそれで良いの!?』
「良い訳がないだろう…!」

立ち止まり堪らず叫び返した。
思わずビクリと震えるポッピーへ、視線を寄越さないまま。
俯く顔は仮面で隠れてるけど、どんな表情かは察せられる。

「良い訳が……ないんだ……」

ああするしかなかったと、分からないとは言わない。
誰が見たって、最善の選択だ。
承太郎が言うように、意固地になって残って全滅に陥るよりはずっとマシ。
だからといって、納得なんて到底不可能。
自分の過去を知っても仲間と受け入れてくれた承太郎を、見殺しにしたのと何が違う。
未来ある若者の命をこんな形で終わらせてしまい、後悔してないなんて有り得なかった。

『ガイ……』

項垂れる天津へ何を言って良いか分からず、痛い沈黙が流れる。
黎斗は自分をお助けキャラと言ったけど、この様で何を助けると言うのだろう。
こんなにも近くにいるのに、何一つで出来ない己が恨めしい。
蝕み続ける無力感という名の病の治療法は、ポッピーにも分からなかった。


【D-6/一日目/朝】

【天津垓@仮面ライダーゼロワン】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大・処置済み)、無力感(大)
[装備]:ザイアサウザンドライバー&アウェイキングアルシノゼツメライズキー&アメイジングコーカサスプログライズキー@仮面ライダーゼロワン、バグルドライバーⅡ&ときめきクライシスガシャット@仮面ライダーエグゼイド
[道具]:基本支給品×2、滅亡迅雷フォースライザー&プログライズキーホルダー×7@仮面ライダーゼロワン、ゲネシスドライバー(破損)+チェリーエナジーロックシード@仮面ライダー鎧武、みーたんの抱き枕(破損)@仮面ライダービルド、パンドラパネル@仮面ライダービルド、スクラッシュドライバー+ロボットスクラッシュゼリー@仮面ライダービルド、オレンジロックシード@仮面ライダー鎧武、一海の首輪
[思考・状況]基本方針:檀黎斗とその部下を倒し、罪を償う
0:承太郎君……すまない……。
1:何処かへ飛ばされた仲間達を探す。彼らの元々の目的地へ向かうのも手か?
2:CRの関係者らしい花家大我とも合流しておきたい。
3:ポッピーから聞いたガシャットを見付ける。本当にあれば良いのだがな…。
4:出来る限り多くの人を病院に連れて来て治療したい。が、今戻るのは危険か
5:飛電或人と合流したい。もしアークに囚われていた時にこの場に来ていたのならば必ず止める。
6:滅は次に会えば必ず止める。たとえ力づくでも。
7:これ等のプログライズキーに映っている仮面ライダー達は誰なんだ?知っている人に会えたらいいが…
8:猿渡一海の仲間達を探し彼の最期を伝える。氷室幻徳とは随分離れているか…。
[備考]
※参戦時期は仮面ライダーゲンムズ スマートブレインと1000%のクライシス終了後
※ハイパームテキガシャットなど主催者撃破・会場からの脱出を安易にする強力なガシャットは、ゲームに乗っており尚且つ上位の力を持つ参加者の支給品にあると考えています。(現在の有力候補はポセイドンと縁壱)
※殺し合いの会場が仮想現実の可能性を考えています。
※現在バグルドライバーⅡにはポッピーピポパポが閉じ込められています。

414progressive -漸進- ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:54:51 ID:LPbpj4TY0
◆◆◆


「おノれ…猿どもメェ……!」

支給品に救われたと言うべきだろうか。
逃げた先の民家へ乱暴に押し入り、中を荒らしながらデイパックに手を伸ばした。
MNRから奪った支給品にあった、複数セットの回復アイテムをがぶ飲み。
どうにか死なない程度には治った為、家具を壊し八つ当たりする程度には元気だ。

尤も、刻まれた傷は決して浅くない。
残った分も使い回復に充てようと考えたが、治療手段は貴重。
寸での所で合理的に今後を見据え、温存を選択。
戦闘に支障はないので、取り敢えずはこのままで良しとする。

「ふザケルナ猿どモ!何度俺をコケにスれバ気が済ム…!!」

傷の痛みすら、受けた屈辱への怒りで塗り潰される。
札使いの小僧や黄金のアーマードライダーらしき者はいなかったので、どこかで野垂れ死んだのだろう。
だが他の連中は未だ健在。
特に胸部の傷をより深く抉った六眼の剣士と、小憎たらしい小娘。
加えて連中に力を齎した桜色の髪のガキに、甲殻類のような髪の札使い。

何より、見ているだけで虫唾の走る薄汚い汚物同然の猿。
奴らは絶対に生かしておけない。
必ずやこの手で殺さねば、怒りで気が狂いそうだ。

野獣先輩はデェムシュの怒りを鎮め、協力関係を築いたと思ってるが大間違い。
複数回使い戦闘を回避した道具の名はまあまあ棒。
対象の口に当てればどれだけ激怒していても落ち着かせられる、と野獣先輩は勘違いしていた。
実際には無理やり我慢させてるに過ぎず、怒りを消し去った訳ではない。

フェムシンムの自分をこき使った男への殺意も上乗せし、改めて猿への怒りを燃やす。
未だ誰も殺せていない鬱憤を、一刻も早く晴らしたいと願いながら。

415progressive -漸進- ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:55:57 ID:LPbpj4TY0
【D-5 民家内/一日目/朝】

【デェムシュ@仮面ライダー鎧武】
[状態]:疲労(中)、胸に刀傷(大)、全身に細かい斬傷、怒りと屈辱(極大)、高揚感
[装備]:両手剣シュイム@仮面ライダー鎧武、水の主霊石@テイルズオブアライズ
[道具]:基本支給品一式、基本支給品一式×3、回復ポーション×2@ソードアート・オンライン、ランダム支給品×1
[思考・状況]
基本方針:ハ・デスも参加者も皆殺し。
1:今は体力の回復に努める。
2:自分をコケにした猿ども(承太郎、遊星、結芽、いろは、黒死牟、戒斗、野獣先輩)は必ず殺す。
3:逃げた小娘(やちよ、桃)もいずれ殺す。が、2の連中より優先度は低い。
4:猿共に負けるぐらいならば主霊石を使っていく。
5:使える猿を探す。
[備考]
※参戦時期は進化体になって以降〜死亡前。
※水の主霊石を手にしたため水、氷の攻撃が可能になりました。 
 制御はうまくできてない為自分が巻き添えになる可能性はあります。
 代わりに制御と言うブレーキがないため、強めの力を放つことができます。
 なお、彼が凍ってもダメージはありません。
※ドラゴンフルーツエナジーロックシードを食べ進化した為、オーバーロードの能力が強化されました。

『支給品解説』

【ストライクマーク@テイルズオブアライズ】
尖鋭鉱と1500ガルドの費用で入手可能なアクセサリ。
装備すると貫通力が30%上昇。

【サガーク@仮面ライダーキバ】
ファンガイア族に伝わる「命宿すゴーレム」の生成法に則って作られた人工生命体。
ファンガイアの王を守護するという使命に従い、2008年では登太牙に仕えている。
古代ファンガイア語で話す為、ファンガイア以外との意思疎通は困難。
サガークに認められた資格者はサガの鎧を纏った、仮面ライダーサガへの変身が可能となる。

【ジャコーダー@仮面ライダーキバ】
上記のサガークとセットで支給。
縦笛型武器。サガークの側面にあるジャコーダースロットに差し込むことで、サガへの変身の意思を伝えるキーとしても機能する。
サガの意思に呼応して剣状のジャコーダーロッドと、鞭状のジャコーダービュートの2通りに変形可能。
ウェイクアップフエッスルも付属。

【闇@遊戯王OCG】
フィールド魔法
フィールド上に表側表示で存在する悪魔族・魔法使い族モンスターの攻撃力・守備力は200ポイントアップする。
フィールド上に表側表示で存在する天使族モンスターの攻撃力・守備力は200ポイントダウンする。
使用すると周囲一帯を太陽が見えなくなる程の闇で覆い隠す。
一度使うと3時間使用不可。

【レッドアイズ・トランスマイグレーション@遊戯王OCG】
儀式魔法
「ロード・オブ・ザ・レッド」の降臨に必要。
(1):自分の手札・フィールドから
レベルの合計が8以上になるようにモンスターをリリース、
またはリリースの代わりに自分の墓地の「レッドアイズ」モンスターを除外し、
手札から「ロード・オブ・ザ・レッド」を儀式召喚する。
遊星が心意システムで創造したカード。

【ロード・オブ・ザ・レッド@遊戯王OCG】
儀式・効果モンスター
星8/炎属性/ドラゴン族/攻2400/守2100
「レッドアイズ・トランスマイグレーション」により降臨。
(1):1ターンに1度、自分または相手が
「ロード・オブ・ザ・レッド」以外の魔法・罠・モンスターの効果を発動した時、
フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを破壊する。
(2):1ターンに1度、自分または相手が
「ロード・オブ・ザ・レッド」以外の魔法・罠・モンスターの効果を発動した時、
フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。
そのカードを破壊する。
遊星がレッドアイズ・トランスマイグレーションと共に心意システムで創造したカード。
アニメ版よろしく、プレイヤーか仲間に装備させる形での召喚が可能な模様。

416progressive -漸進- ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:56:39 ID:LPbpj4TY0
【ラビットエボルボトル@仮面ライダービルド】
エボルトが桐生戦兎に憑依した際に使ったエボルボトル。
エボルドライバーに装填する事でフェーズ3の、仮面ライダーエボル・ラビットフォームに変身が可能

【どこでもドア@ドラえもん】
22世紀のひみつ道具の一つ。片開き戸を模している。
目的地を音声や思念などで入力した上で扉を開くと、その先が目的地になる。
本ロワでは一度使うと6時間使用不可。

【まあまあ棒@ドラえもん】
22世紀のひみつ道具の一つ。先端に×形の板が付いた棒。
人(ロボットや動物含む)がどんなに怒っていても、×形の部分で口をおさえて「まあまあ」と言えば怒りを鎮められる。
仕組みとしては×形を相手の口に塞いで怒りを腹の中へ飲み込ませ強引に我慢させる。
その為同じ相手に何度も使用して我慢させすぎると、積もりに積もった怒りエネルギーが火山のように大爆発する。

【ケロンパス@ドラえもん】
22世紀のひみつ道具の一つ。
これを体に貼ると全身の疲れをとることができ、それを他人に貼るとその疲れを移すことができる。

【ブラック・ホール(ゴールドシリーズ)@遊戯王OCG】
通常魔法
(1):フィールドのモンスターを全て破壊する。
本ロワではブラック・ホールを出現させ、吸い込まれた者をそれぞれ禁止エリア以外のエリアへランダムに転移させる。

417progressive -漸進- ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:57:10 ID:LPbpj4TY0
【バグルドライバーⅡ仮面ライダーエグゼイド】
ガシャコンバグヴァイザーⅡとバグスターバックルⅡを合体させる事で完成する変身ベルト。
ライダーガシャットとの併用で装着者を仮面ライダーに変身させる。
檀黎斗がバグスター用に設計したものであり、普通の人間が使用すると大量のバグスターウイルスに感染して消滅する。
本ロワでは上記の制約は取り払われており、バグスターではない全参加者が使用可能。
また神檀黎斗同様にバグスターを封じ込める機能も搭載されている。

【ときめきクライシスガシャット@仮面ライダーエグゼイド】
上記のバグルドライバーⅡとセットで支給。
ライダーガシャットの一つであり、ラブリカ曰く「自分を魅力的にアピールし、異性からの好感度を上げてハートを射止めるゲーム」。
バグルドライバーⅡと組み合わせれば仮面ライダーポッピーに変身可能。

【回廊結晶(コリドークリスタル)@ソードアート・オンライン】
濃紺色のクリスタル。
『任意の地点』を記録させ、そこを出口にすることが出来る。

【回復ポーション@ソードアート・オンライン】
ポピュラーな回復アイテムで、レモン味(のような)不思議な味がする液体が詰まった小瓶。
初期のプレイヤーではこれ一個で全快する。
5個セットで支給。


『施設解説』

【飛電製作所@仮面ライダーゼロワン】
D-5に設置。
お仕事5番勝負に敗北し、飛電インテリジェンスを自主退職した飛電或人を代表取締役社長として新たに立ち上げた株式会社。
社屋は普通の町工場となっており、本編第40話でアークによって破壊されてしまった。
ヒューマギアの修理・再起動を請け負っているだけあって、内部の設備は充実している。

418 ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:57:48 ID:LPbpj4TY0
投下終了です

419Successor Soul ◆EPyDv9DKJs:2025/03/18(火) 13:54:02 ID:IgssC/qU0
投下します

420Successor Soul ◆EPyDv9DKJs:2025/03/18(火) 13:54:51 ID:IgssC/qU0
 デェムシュ達との戦いのあと、
 Lのダメージが割と深刻なのもあり、
 一度休憩を挟まなければ今後の彼の身に問題が起きてしまう。
 幸い、ヴォルカザウルスの効果を諸に受けて肉体的な損壊がないのは、
 流石アーマードライダー、もとい仮面ライダーと言ったところだろうか。
 それでも肉体的なダメージは決して無視できるものではなく、近くの民家に身を休める。
 休むのは休息も兼ねているが、別の理由もあった。

『御機嫌ようプレイヤー諸君。』

 休息から程なくすると空のモニターから顔を見せる檀黎斗。
 Lは重い身体を上げ、戒斗は鋭い眼差しを向け、ベクターはおーおーと額に手を当て眺める。
 派手な主催の登場。しかしモニター越しでは決して彼に関与しきることはできないだろう。
 各々が見届ける中、告げられていく禁止エリアや死者の名前を聞き、静かに時間が過ぎていく。

『さらばだ諸君!6時間後にまた会おう!無事に生き延びられたらの話だがな!ヴァーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!』

 尋常じゃないやかましい発言と共に放送は終わる。
 静かになった空を一瞥し、本当に何もなくなるとLがソファに寝転がる。
 だらんとした腕が床をコツンと叩く程度に彼の疲労は大きいものになっていた。

「お二人とも。寝てる間も時間を、無駄にしたくありません。
 今できる情報をまとめますが……二人とも大丈夫ですか?」

 肩で息をしながら軽く上半身を起こし、背もたれに身体を預けるL。
 手段は善良ではないにせよ、その志は間違いなく正しい白の中の人間だ。
 だからこんな状態になろうとも、自分のするべきことをやめることはしない。
 死人だから、と言う自棄は僅かに含まれているかもしれないと言えば嘘になるが、
 だからと言って、考えなしに無為に死ぬようなつもりは毛頭なかった。

「死人が出ておいて吉報と言うのはおかしな話ですが、月君が……キラが死亡しました。」

 別に不思議とは思わなかった。
 Lとて戒斗やベクターと出会わなければ、
 デェムシュ達とはとても戦えるものではなかった。
 だから彼が仮に頭脳で立ち回り続けたものだとしても、
 此処ではそれ以上に理不尽な暴力と言うものがいくらでも待ってるのだろう。
 先のオーバーロードなんてものもそれだ。あれを知略で攻略しろ、
 そんなもの土台無理な話である。

「彼は私の悪評をばらまくことはないでしょうから、
 後顧の憂いは絶てたと言えます……非常に残念ですがね。」

 キラを殺すつもりなどなく、
 あくまでキラを逮捕するつもりで活動していた。
 だから彼とは生きて邂逅を目指していたつもりだったが、
 それすら叶わず、どこの誰かも分からない相手に殺されてしまったようだ。
 宿敵でありつつも似た者同士。どこか奇妙な友情を持っていたような気もするので、
 ひょっとしたら、そういうところが僅かながらにあったのかもしれないとも推理しておく。
 良くも悪くも、この場で最も生きる意味を失っていると言うことに繋がってしまうものの、
 別にそれで不貞腐れたりどうでもよくなったりはしない。事態の解決には尽力を尽くすつもりだ。

「それと死者ですが、やはり予想通りの人数でしたね。」

 およそ、二、三割を想定していたが事実その通りになった。
 やはりあまり悠長にことを構えていられる余裕はないだろう。
 最悪、デスノートと言う極悪支給品がまだ眠っている可能性もある。
 早急に処分、最悪利用することも視野に入れておかなかければならない。

「……それで、現状一番の問題ですが。真月さん。大丈夫ですか?」

 現状一番精神的な影響は、間違いなくベクターにある。
 一番敵対し、同時に複雑な感情を抱いていた少年も何処かへと消えた。

「ハッ、そうかよ。」

 はっきり言うと『知ってた』の一言に尽きる。
 その一言が出てくる程度には予想されていたことだ。
 分かりきったことだ。あいつが此処で長生きできるはずがない。
 かっとビング? そんな甘いものが此処でどれだけの力が作用するのか。
 いや、作用はした。困難へと突き進み、最終的に稲妻の勝利を勝ち取った自分がその証左だ。
 そうやって、かっとビングとは伝播していくもの。ある意味では既に意味を成しておる。
 けれども。そのかっとビングの始祖はもういない。何処とも知れず、死んでいった。

 ガン、と家屋の壁をベクターは強く叩いていた。
 無意識だ。彼はそんなセンチな心は持ち合わせてはいない。
 ああ、そう。それだけで済ませられそうなことが済ませられなかった。
 かっとビングをしたからか、希望を手にしてるからかは定かではない。

「……何死んでんだよ、てめえは。」

421Successor Soul ◆EPyDv9DKJs:2025/03/18(火) 13:55:23 ID:IgssC/qU0
 だが、そうごちることをせずにはいられなかった。
 この人の心がない奴を伸ばす手はいったい何処へ行った。
 どいつもこいつも、味方につけていくその真っすぐさは何処に消えた。
 底抜けのお人よしの笑顔は、もう決して今後二度と見ることがないのだろう。

 返答とは呼べない返答と共に、後頭部を掻くベクター。
 三勇士で最も仲間を先導し、勝利へと導いた男はもういない。
 だったらどうする? 生き返らせるか? まあ、やろうと思えばやれる。
 ヌメロン・コード。万物の事象を書き換えるそれに手を出せば、誰でも生き返る。
 もっとも、それが主催の言う願いを叶える力を行使する際に持っていたなら別だが。

「名探偵様よ……私怨はありか?」

 どうせなら殺したやつを拝んでおきたい。
 そいつが死んでいた場合でも構わなかった。
 あいつのことだから殺したやつにも手を伸ばしてそうだ。
 だから気になる。殺した相手がどんな奴だったのかを。

「……構いませんが、程ほどに。我々の目的は変わりません。」

 推奨はしない。しかし否定をするつもりもない。
 やむなく殺してしまった、とかそういう可能性もありうる。
 その場合であればLは善側として全力で止めに入るつもりだ。
 そうでないならば、敵である可能性が高いので止めるつもりはなかった。

「ああそうかい。そりゃどうも。」

 まあどこの誰かも分からないし、
 さっき考えた通り既に死んでる可能性もある。
 そう簡単に探せるものではないし、あくまで目的の一つ程度だ。

「……で、お前も大概怒りを隠しきれてねえな。」

 無言を貫きながら壁を背に立つ駆紋戒斗。
 そこにあるのは純粋な怒りの表情だ。

「当たり前だ。戦った戦士に敬意も払えん神だ。」

 すべての死者がそうとは限らないだろう。
 しかし、己の矜持を以って戦い抜いた者達は必ずいるはずだ。
 それを一緒くたに侮辱するような発言をし、楽しんでいるその様。
 度し難いし、許し難い存在となるのは性格上無理からぬことではある。
 もしこの家のテレビから彼が映っていれば、殴り壊していただろう。

「さーてと、名探偵様。瀕死の状態でありますがいかほどに?」

 見下すように、
 しかしそれは急かすかのような表情だ。
 彼としては仇討ち、ないし仇を何としても拝みたいのだろう。
 今までダウナー気味であった彼が、行動的になってるのがその証左だ。

「首輪の回収(麻耶と牛尾)を放置したのは痛いが、
 今更戻る気にもならねえし、E-5へ向かってみるかぁ?」

 此処はC-5。南下すれば程なく主催の言う目的地だ。
 ただし、あくまで何事もなければの話である。
 敵だって向かってくる可能性の高い場所に、瀕死の名探偵を連れて向かう。
 中々リスクのある行動だ。この勢力がそれなりの水準に達してるのは、
 強化されたオーバーロードと参加者を前に勝利を勝ち取ったので十分だ。
 しかし、やはりLの体力の消耗が激しい。変身はできても戦闘は満足にできないだろう。

「いいえ、向かいましょう。」

 ヒョイ、と身体を大きく動かして一気に立ち上がりだす。

「本気か?」

「時間がありませんので。最悪、
 その中の支給品で傷を治す方がいいでしょうし、
 それが敵に渡ったとなればまず我々が不利になるだけです。」

 ごもっともな話である。
 少なくとも支給品に興味がないであろう、
 NPCの侍(縁壱)と槍の男(ポセイドン)はないとしてもだ。
 善悪問わず他の参加者がこぞって狙いに行く可能性は決して否定できない。
 ならば立ち止まってる暇などなく、歩く程度には復帰できるようになる。

「ですがその前に。我々の捜索対象が増えました。」

「あ? 今の死人だろ? いたか?」

「いえ、厳密には増えたと言うよりは、重要度が増しました。
 花家大我です。名簿には宝条永夢と戒斗さんの間にいるのは説明してますよね。」

「それは分かる。だが何が理由だ。」

「明らかに彼は宝条永夢に対する呼び方だけが違いました。
 恐らくですが、彼のことを期待か、彼のことを知ってるのではないでしょうか。」

422Successor Soul ◆EPyDv9DKJs:2025/03/18(火) 13:56:04 ID:IgssC/qU0
 名簿が知り合い云々は確定であり、
 戒斗の手前にあるが彼は大我のことを知らない。
 となれば、彼が永夢の関係者である可能性は十分にある。
 そのことは死体漁りでも説明はしたが、重要度は別になっていた。

「だが味方と言う保障はなくねえか?」

「ええ。ですが、檀黎斗の情報は持っているかと。」

 攻略の糸口を見つけるには、
 彼がいかような人物かを知る必要がある。
 既に彼の人柄と言うものは大分見えてはいるのだが、
 何気ない情報をかき集めることが地道な推理に繋がるのだから、
 出会って損はないだろう。少なくとも生存してる時点である程度の実力は保障されている。
 敵であった場合は、無論容赦するつもりはなく最悪拷問する気でいるが。

「なるほどね……しっかし、ふらふらの奴が無理しちゃってまあ。」

 立ち上がったはいいがLの足はおぼつかない。
 仕方がねえな、とでも言わんばかりにデュエルディスクにカードを置く。
 希望の戦士が外にて召喚され、形を変えてモンスターの姿へと変えていく。

「てめえが歩くより断然速い、違うか?」

「……そうですね、感謝します。
 ですが、振り落とされる可能性もあるのでほどほどに。」

 常に平静を装うような無表情のLではあるが、
 足の震え【D-5/一日目/朝】

【駆紋戒斗@仮面ライダー鎧武】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:夜空の剣@ソードアート・オンライン
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(確認済み)
[思考・状況]基本方針:殺し合いを力で叩き潰す。
1:殺し合いに乗っている参加者は潰す。
2:首輪を外せる参加者を見つける。
3:L、ベクターと共に行動する。
4:槍の男、デェムシュは要警戒。
5:大我、遊星、ジャック、遊戯、海馬かその知人、或いは会った参加者と接触。必要なら知り合いを装う。

[備考]
※参戦時期は死亡後です。
※クラックを開き、インベスを呼び出すことは禁止されています。
※Lの考察については半信半疑です。
※攻撃の消滅、反射に制限がかかってます
 どの程度の制限かは後続にお任せします

【L@DEATH NOTE】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(中)
[装備]:量産型戦極ドライバー@仮面ライダー鎧武、バナナロックシード@仮面ライダー鎧武、真中あおの杖@きららファンタジア
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1(確認済み、武器の類はなし)
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める
1:駆紋戒斗、ベクターと共に行動する。
2:他の参加者を探し、情報交換をする。
3:無暗に犠牲を強いるつもりはないが、綺麗な手段だけで終わらせられるとも思ってない。
4:槍の男。デェムシュには要警戒。
5:大我、遊星、ジャック、遊戯、海馬かその知人、或いは会った参加者と接触。必要なら知り合いを装う。
[備考]
※参戦時期は死亡後です
※この殺し合いにドン・サウザンドが関係してる説を考えてます。
 (関係してるだけで関与してない可能性も高く、現時点では推測程度)
※永夢と大我、遊星と牛尾とジャック、遊戯と海馬(両方)と城之内と御伽が知己であると考えてます
 遊星達と遊戯達が同一の世界かどうかまでは確定できていません。

423Successor Soul ◆EPyDv9DKJs:2025/03/18(火) 13:56:15 ID:IgssC/qU0

【真月零(ベクター)@遊戯王ZEXAL】
[状態]:大分センチな気分、疲労(中)、ダメージ(中)、
[装備]:ショット・オブ・ザ・スター@グランブルーファンタジー、九十九遊馬のデュエルディスク@遊戯王ZEXAL、No.39希望皇ホープ@遊戯王ZEXAL、牛尾デュエルディスクとデッキ@遊戯王5D’s、不動遊星のデュエルディスクとデッキ@遊戯王5D’s
[道具]:基本支給品一式×3(牛尾、麻耶、自分)
[思考・状況]基本方針:主催にとって良からぬことを始めようじゃねえか。
1:……まったく、とんだお人よしだったぜ。てめえはよ。
2:ナッシュがいることだし少しだけ協力は考えて……いややっぱやめとくか?
3:帰宅部ねぇ。ま、いたら声はかけるか。
4:Lに駆紋、アウトローで構成されてるねぇ。ま、俺らしく外道な手段でやってやるさ。
5:ドン・サウザンドの復活ねぇ……どうだか。
6:槍の男には要警戒。
7:大我、遊星、ジャック、遊戯、海馬かその知人、或いは会った参加者と接触。必要なら知り合いを装う。
8:エクシーズ召喚できるデッキをくれ。と言うかなんだよシンクロって。
9:ホープ・ザ・ライトニングねぇ……まさか俺が新しいホープを手にするとはな。
[備考]
※参戦時期はドン・サウザンドに吸収による消滅後。
※ドン・サウザンドの力、及びバリアン態等の行使は現状できません。
 力が残っていて、バリアンスフィアキューブがあれば別かも。
※Lの考察については半信半疑です。からやはりまだ体力が本調子ではないのが分かる。
 これでは世界一の名探偵ではなく、世界一の安楽椅子探偵になりかねない。
 もう少し甘いものを控え、運動をするべきだったかと頭の片隅に追いやりながらホープへと乗る。
 ベクターと戒斗も乗り、水平に移動するようにホープは空中を駆けだして突き進んでいく。
 既に希望の担い手はいない。されど希望と、かっとビングを受け継いだ男はここにいる。
 それは彼が望んだ形か、望まなかった形か、或いはそうあれかしと願った形なのかは、
 少なくとも誰にも分からないだろう。

424Successor Soul ◆EPyDv9DKJs:2025/03/18(火) 13:56:35 ID:IgssC/qU0
以上で投下終了です

425 ◆7PJBZrstcc:2025/03/18(火) 23:29:54 ID:xjLroEPA0
エボルト、イリヤ、チノ、遊戯、ロゼ、凌牙、空也 予約します

426Successor Soul ◆EPyDv9DKJs:2025/03/18(火) 23:50:02 ID:IgssC/qU0
拙作ですが途切れてた部分があったので修正しておきます

> 常に平静を装うような無表情のLではあるが、
 足の震え【D-5/一日目/朝】

修正後
 足の震えからやはりまだ体力が本調子ではないのが分かる。
 これでは世界一の名探偵ではなく、世界一の安楽椅子探偵になりかねない。
 もう少し甘いものを控え、運動をするべきだったかと頭の片隅に追いやりながらホープへと乗る。
 ベクターと戒斗も乗り、水平に移動するようにホープは空中を駆けだして突き進んでいく。
 既に希望の担い手はいない。されど希望と、かっとビングを受け継いだ男はここにいる。
 それは彼が望んだ形か、望まなかった形か、或いはそうあれかしと願った形なのかは、
 少なくとも誰にも分からないだろう。

427 ◆QUsdteUiKY:2025/03/19(水) 03:42:52 ID:wVv/QNyE0
直見真嗣、クウカを予約します

428スカイ・ハンター ◆EPyDv9DKJs:2025/03/23(日) 01:45:36 ID:h5j6.Tts0
投下します

429スカイ・ハンター ◆EPyDv9DKJs:2025/03/23(日) 01:46:30 ID:h5j6.Tts0
 空域。
 生身の人間では決して到達しうることのできない領域。
 もし飛べるとするならば、そこは安全圏と多くの者が思うだろう。
 あくまで、空中と言う領域が何かを知らぬ者からすればの意見だが。

「ABC-ドラゴン・バスターで攻撃!」

「チィ!」

「XYZ-ドラゴン・キャノンで攻撃!」

「フン!」

「XYZ-ハイパー・ドラゴン・キャノンで攻撃!」

「おのれぇ!!」

「ABCードラゴン・バスターの効果発動!
 手札を一枚コストに、貴様の戦車を除外する!」

「させんぞぉ!!」

 それはもう戦いと言っていいのだろうか。
 牛車、基神威の車輪に乗ったDIOが死に物狂いで避けていた。
 砲撃、ビームを筆頭とした圧倒的なまでの弾幕は一個人には過剰すぎる火力だ
 まさに殺意の塊。一撃でも受ければDIOでなくても大概の参加者は昇天が確定する。
 何故、このような展開になっていると言うと時は少々遡る。





 空中を飛び交う赤き機竜、Y-ドラゴン・ヘッド。
 口から雷光を放ち、空を飛び交うモンスターを撃墜していく。
 難なくしのいでいる海馬ではあるものの、空も安全圏ではないのが分かる。
 もっとも、この程度は予想済みだ。ゲームと称しているのであれば、一方的なゲームバランスは避ける。
 無論、最初に憤った通りお世辞にもバランスがいいとは言えないのがこの舞台の特徴でもあるのだが。

(空を飛ぶのは余りあてにするべきではないな。)

 カイトの時のように大型モンスターや、
 何かしらのアクションがあればそこを目指しやすい。
 だが空高くではいかに参加者が大人数だとしてもフィールドの広大さでは余りにも小さい。
 もう少し高度を下げていれば、近くのエリアに里見灯花の姿も確認できたかもしれないが結果論である。
 どうにもほかの参加者との接触がないまま時間がただ流れていく中、事態は急変していく。

「!」

 ドラゴン、鳥獣、機械、いずれの飛行型のモンスターにあらず。
 迫るは獣族と言うべき牛。雷光を轟かせて迫るそれは並のモンスターとは別格。
 迎撃など考えず、旋回しながら上空よりその牛の引く戦車を海馬は見やる。
 傲岸不遜な態度で座る、漆黒のスーツと鎧に包まれた人物。何者か知る由もない。
 だが言葉は不要。海馬にとって蹴散らすべき敵。その認識だけで十分だ。

 DIOは予めメタルビルドへと変身していた。
 元より太陽の遮断が目的だったわけだ。地上全体に太陽が行き届く前に、
 空中は諸に太陽光を浴びるのだからあらかじめ変身しておくのが当然ではある。

「無駄だと分かっているが貴様、何者だ?」

 スーツ越しでは相手の容姿は一切分からない。
 太陽の光を浴びる漆黒の鎧は、地上の黒点のような存在感を放つ。

「突然の無法な行動に挨拶はすまないな。
 何分牛車……いや戦車の扱いには不慣れなものでな。
 私はDIO。今は仮面ライダーの姿をしていることについては、
 太陽光アレルギーなものでね……顔を見せられないことは理解してもらおう。」

「……海馬瀬人だ。二人いるが、名簿上のどちらが俺を指してるかは知らん。」

 機械竜と戦車。
 二つの存在が並走しながら空中で語らう姿は、
 いささかシュールと言わざるを得ない光景だった。
 語らうと言っても簡潔な情報交換……と言いたいところだが、
 海馬が出会ったのはもう一人の自分以外はカイト達だけなので情報は乏しく、
 そしてDIOはその三人とも出会ってるため殆どDIOからの提供ばかりになる。

「誰も彼も殺し合いには懐疑的な存在だった。
 ただ或人は少し気を付けた方がいいだろうな。
 奴は滅と言う男への復讐を望んでいる……ああ、
 言っておくが善悪の概念で言えば滅の方が悪らしい。
 私にとって復讐の議論などするつもりは毛頭ないのだが、
 彼の場合は復讐のためであれば手段を選ぶか怪しくはあるからな。」

 カイトの時と同様に、人物情報について『だけは』真実を語っていく。
 とは言え、今回の相手についてはこの策は余り役に立ちそうにないと思っていた。
 或人やミカンのように精神が不安定な人物ならば、危険人物である自身からの情報を、
 簡単に信じることはなく承太郎が安全な人物と言う言葉にも疑念を持つだろう。
 しかし目の前の男は余りにも冷静だ。成功率が低い手術を前にしても冷静に、正確にメスを入れる。
 嘗てホル・ホースに撃たれそうになったが、あの時の彼以上だ。一歩間違えれば即死間違いなしで、
 命綱も手綱もなく空の世界でモンスターの上で仁王立ちしている彼は、極めて強靭な精神力を持っていることが伺える。
 悪意の種を蒔いたところで、果たして本当に芽吹くかどうかについては懐疑的な部分があることは否めない。

「復讐か。誰が何をしようが、勝手ではあるがな。」

430スカイ・ハンター ◆EPyDv9DKJs:2025/03/23(日) 01:47:20 ID:h5j6.Tts0
 此方の海馬はバーチャル世界で海馬剛三郎による復讐にあった。
 もっとも、剛三郎が自殺した世界のの海馬と違ってこちらの海馬は、
 株の争奪戦によって失脚と言う形で勝利を収めている海馬にとって、
 海馬剛三郎と言う存在については余り大きな存在ではないのだが。
 言葉通り、心底どうでもいい。最後の戦いを見届けなかったことで、
 アテムに執着するもう一人の海馬と同様、好き勝手やってくれればいい話で終わる。

「それでDIO。貴様は……」

 互いに移動手段があるわけだ。
 こうして並走するのは効率、時間共に無駄になる。
 承太郎とやらに合流するのかと尋ねようとしたが、海馬は咄嗟に飛びのく。
 弾丸の如く迫るザ・ワールドの右ストレートを無傷で躱すにはそれしかなく、
 空中をそのまま落下と言う選択肢を取らざるを得なかった。

 海馬と会話しても、取り込むことはまず不可能だろうとDIOは判断した。
 そして悪意の種も同様。ザ・ワールドを前に飛び降りるを躊躇せず選択している。
 では何故先程万丈や承太郎を善良な参加者と、あえて真実を吹聴する無駄をするのか。
 それは、この舞台においてイレギュラーが多すぎることによる慎重さがある。
 ジョナサンを超える素晴らしいボディ。ジョースターの血筋でもない連中による時の静止時間への入門。
 ザ・ワールドの時間停止の封印。不死身・不老不死・スタンドパワーを兼ね備えても危険視せざるをえないドラゴン。
 更には時間停止ができないことも含め、人間どもから撤退を余儀なくされた先の出来事と多くの出来事が舞い込んでいる。
 今ここで海馬を突き落としたことには成功した。しかし海馬は地面にそのまま落ちてくれるとは到底思えない。
 DIOにとってデュエルディスク、ひいてはデュエルモンスターズは何があるのか全くの未知数の存在である。
 デュエリストに恐怖しているのではない。デュエリストはジョースターの血統同様に侮ってはならぬと言うこと。

「来い! 漆黒の闘龍(ドラゴン)!」

 DIOの予見通り、海馬は漆黒の龍を空中で召喚し、
 身を翻しながらドラゴンに着地、上空のDIOの戦車を見据える。
 此処は地上より遥か上空。バトルシティの決勝戦の対戦を決める戦いや、
 ダーツとの最終決戦の時のようにモンスターが空中に浮いてくれるかどうか。
 部の悪い賭けなど城之内のやることであり、Y-ドラゴン・ヘッドと共に退却するように逃げる。
 無論、逃がすつもりなどない。追走するように戦車が迫りくるも、二体のモンスターは更に上空へと旋回していく。

 そうして始まることとなった、海馬VSDIOのデュエル。
 しかし海馬はもう一人の海馬と違ってブルーアイズこそを切り札にしてるが、
 どちらかと言えばXYZのユニオンモンスターを筆頭としたものを駆使していく。
 そして、その展開力はでたらめなものだ。空中でのカーチェイスは決して優劣はないが、
 移動しながら海馬は短いターンでユニオンモンスターを次々と展開しそれらを融合、
 もとい合体させて強力なモンスターを召喚すると言うのが海馬のデッキのセオリーの一つ。
 砲台を背負ったモンスターを上部に、赤い機械龍を腹に、黄色いキャタピラーを脚部にしたモンスターである、
 XYZ-ドラゴン・キャノン、更にそれ酷似したモンスターであるXYZ-ドラゴン・ハイパー・キャノン、
 紫と緑の双頭の機械竜、ABC-ドラゴン・バスターと一切の呵責も良心もないモンスターを展開し続け今に至った。
 だがこれでも仕留めきれないのは流石DIO、もといイスカンダルの宝具とでも言うべきだろう。
 一発の被弾すらすれば撃墜し、そのまま総攻撃で死に直結するのは間違いないのだから、
 これをなんとか回避に至れている戦車もだがDIOの精神力も相当なものになる。

(チィ!! カイトと違って物量なのが腹立たしい!!)

431 ◆4Bl62HIpdE:2025/03/23(日) 01:47:56 ID:AE2/TlsI0
閃刀姫-レイ、門矢士、七海やちよ、千代田桃、保登心愛、風祭小鳩、桐生戦兎、深海マコト、土部學、モニカ、肉体派おじゃる丸、コッコロ、奈津恵、デェムシュで予約します。
延長申請もしておきます。

432スカイ・ハンター ◆EPyDv9DKJs:2025/03/23(日) 01:48:08 ID:h5j6.Tts0
 先の戦いでは銀河眼の時空竜には少しばかりだが手を焼かされてはいた。
 しかしあれは一体だけだ。だから一体を注視していればそれほど脅威ではない。
 ……時間を止める能力を無効にする、などと言う無法の効果があったのは想定外の出来事だが。
 しかし海馬はデュエリストの弱点を理解している。だから逃げと言う道を躊躇せず選んだ。
 逃げるなど海馬らしくないように見えるが、無謀な行為をするようなどこぞの凡骨とは考えが違う。
 此方はモンスターと言う壁がなければ銃やナイフと言ったものですら致命傷になりえるものだ。
 海馬は銃を相手にもカードで叩き伏せたりしているが、それが此処でうまくいくとは限らない。
 だから慎重に、漆黒の闘龍に乗りながら着実に勝利への布石を準備してモンスターを揃えていた。
 お陰で攻撃力2800のXYZ、3000のABCとXYZの三体を短時間で揃えることに成功する。
 カイトのタクティクスは決して低いものではない。アストラルつきの遊馬に勝利するだけの実力を持つ。
 しかし、精神的なコンディションや状況も相まって僅かばかりにタクティクスは劣っていたことは否めない上に、
 何より海馬と言う男はあの武藤遊戯に数少ない食らいつくことのできる、文字通り指折りのデュエリストの一人だ。
 そんな彼が冷静に物事を見据えてデュエルを行えば、カイトとの差が開いてしまうと言うのも無理からぬことである。
 しかもDIOには遠距離攻撃の手段がザ・ワールドのみと言うのも手痛いところだった。
 この弾幕の嵐の中、フィードバックするスタンドを向かわせるなど自殺行為に等しい。

(戦車を落としたいが中々うまくいかんな。)

 戦況は圧倒的なまでに海馬が有利だ。
 DIOはメタルビルドに変身して宝具もあるものの、
 肝心の飛び道具を持ち合わせていないと言うのが大きい。
 いや、持ち合わせているのかもしれないがこの弾幕の嵐だ。
 とても支給品を漁るような暇がない、とでも言うべきだろう。
 しかし海馬は油断しない。さっきから足を奪おうとしているのに、
 未だ戦車にはかすり傷すら与えられずにいるというこの状況がその証左である。
 加えて余り攻撃を過剰にすれば地上に砲撃が、もとい余計な被害が出てしまう。
 だから全弾発射と言うわけではない弾幕がDIOを生かしてる部分はあるか。

「X・Y・Zハイパーキャノンの効果でY-ドラゴン・ヘッドを戻しドロー。」

 海馬のデッキは基本的に攻撃的なデッキになる。
 ウイルスによるデッキ破壊、ブルーアイズによるパワーカードの制圧。
 だが小技も十分にあり、発動している罠の効果で手札を増強していく。

「俺のターン、ドロー。」

 一斉掃射ではなく継続的に攻撃をすることで反撃の暇を与えさせない。
 その間に手札を補充して、この勝負を早期に決着をつけることを考える。

「光線と言った方法で除去効果を行うABCやXYZでは、
 必然的に攻撃を回避される可能性があるか。テキスト通りの効果は発揮できない。
 ならば、これならばどうだ。手札を一枚捨てることでブラック・コアを発動する!」

「!?」

 目の前に現れるブラックホールのような黒い球体。
 ブラック・コア。手札を犠牲にすることでカードを除外できる魔法カード。
 言ってしまえばABCの除去効果と同じ。寧ろブラック・コアの消費の分も合わせればマイナスだ。
 しかもABCの除去が当たらないのだ。ブラック・コアも当てられるものだとは思っていなかった。
 なので、デュエルと言う基本概念を海馬は捨てた。

(回避すれば間に合う! だが確実に、
 その方角に攻撃が狙うように砲口が狙っている!
 この男……デュエルを殺し合いとして理解している!!)

 カイトの時の戦いでは全体的にモンスター効果を使ったり、
 カードの効果の範疇に収まった、いわば型にはまった戦いをしていた。
 しかしこれは別だ。避ければ攻撃が待っている。普通の戦いと同じ形式だ。
 数メートル先に点在するブラック・コアは確実に戦車を飲み込む、除外するだろう。
 そうなればDIOの敗北は確実。仮に回避できても軽く数十メートルの落下だ。
 間違いなく落下の隙を狙ってくるのは目に見えている。だからDIOのとった判断は───蹴った。
 戦車を思いきり蹴り飛ばし、強引に軌道を変えてブラック・コアに飲み込まれるのを回避したのだ。
 無論それだけではとどまらない。仮面ライダーの力で跳躍した勢いで豪速でABCへと迫る様に蹴りを、

433スカイ・ハンター ◆EPyDv9DKJs:2025/03/23(日) 01:49:06 ID:h5j6.Tts0
「ABCの効果は発動! このカードリリースし、
 除外されてるアサルト・コア、バスター・ドレイク、クラッシュ・ワイバーンに分解する!」

 叩き込めず、合体していたモンスターがそれぞれの形へと戻り完全に空振りに終わる。
 このままでは完全な隙だらけだ。XYZの二体の攻撃を避けれる状態ではなかった。

「ザ・ワールド!!」

 だから、殴った。
 ザ・ワールドを顕現させたDIOは、
 何と自分のスタンドで自分自身を殴りぬけたのだ。
 パワーAのスタンドは、迫りくる自動車ですら一撃で鎮める。
 いかに仮面ライダーで防護してると言えども胃液が逆流しそうな威力に顔をしかめざるを得ない。
 だがそうするしかなかった。確かに承太郎との戦いではスタンドもなしに飛行していた気がするが、
 少なくともこの舞台ではそのようなことが容易にできるわけではないことは今ここに明記しておく。
 ザ・ワールドに殴り飛ばされたDIOは承太郎に殴り飛ばされたときのように勢いよく飛んでいき、
 海馬が登場していた漆黒の闘龍に乗り込むことに成功し、そのままスタンドの拳を叩き込む。
 既にその手は見ているので飛び降りると同時に、A-アサルトコアへと着地し仁王立ちする。

「デュエルモンスターズ……此処まで面倒なものだとはな。」

 言うなれば無数のスタンド、スタンド能力を内包してるようなものだ。
 何が飛んでくるか分かったものではないのは、スタンドバトルにおけるセオリーでもある。
 だが一個人にそこまでの思考を割くと言うのはまずない。チェスやトランプの比ではない。
 主催が主軸に捉え、制限するというのは十分に納得できるものだと言うことがハイな思考でもよくわかる。

「このままでは千日手だ。いい加減終わりにする。」

「ほう。未だこのDIOを仕留めきれずにいる貴様がいったい何をする?」

「ABC、再度合体するがいい!!」

 海馬がXYZ-ハイパー・ドラゴン・キャノンへ飛び移り、
 ばらばらになったアサルト・コア達がドラゴン・バスターの姿へと戻っていく。

「更に、ABCドラゴン・バスターとXYZードラゴン・キャノンを除外!」

「何!?」

 少なくとも数の利は圧倒的だ。
 デュエルモンスターズに浅いDIOでも理解できる。
 それを捨ててまで出すモンスターに警戒しつつ、
 漆黒の闘龍を殴り倒し、戻ってきた戦車に飛び乗りながら様子をうかがう。

「合体せよ! これぞユニオンモンスターの頂点! AtoZドラゴン・バスター・キャノン!」

 元々が三体で構成されていたモンスターが分離していき、
 Zーメタル・キャタピラーを中心に姿形を変形させていく。
 三つ首の龍のように突き出た顔、何者も逃がさないであろう無数の砲。
 もはや決戦兵器。そう例えるしかないような超巨大兵器が空中に漂う。
 ユニオンモンスター三体を二種類融合させ、更にその二体を融合させると言う、
 圧倒的な高難易度の召喚条件を以って出されたモンスター。当然DIOは警戒するが、
 今までと同じか、それ以上の迫る弾幕を避ける以外に全く対抗策と言うものが取れない。

(下手に近づけば残ってるXYZとやらが邪魔をしてくる! このDIOにできるのは……)

 先ほど漆黒の闘龍に乗ったり降りたりした際に支給品をぎりぎり確認を終えた。
 これならば対処できる。デュエルモンスターズに二度も辛酸をなめさせられている。
 いい加減、カードの重要性も覚えると言うものであり、

「魔法カード『サンダー・ボルト』発動!!」

 緑のカードを翳し、歯をぎらつかせながらDIOは宣言する。
 サンダー・ボルト。相手フィールドの全てのモンスターを破壊する、
 余りにも単純にして強力なカード。素人でもその強みは十分理解できるものだ。
 これならばAtoZだけではない。海馬の足場となるモンスターも消し去ることが可能。
 海馬は攻撃を常に避け続けていた。落下に耐えられるような体はしてないことは伺える。
 全てのモンスターを破壊すれば、海馬はただ死ぬだけの存在となる。確実な勝利を掴める。
 ───はずだった。

「……甘いわぁ!! AtoZのモンスター効果発動!
 相手がカード効果を発動したとき手札を一枚捨てることでその効果を無効にし破壊する!」

「何ィ!?」

 だがDIOは敵を知らない。勉強不足だ。
 いや、一万種類を超えるデュエルモンスターズを把握しろ、
 などいかに名探偵でデュエルの知識も蓄えたLであっても把握はまず不可能だろう。
 逆転の一手となる雷光は、AtoZが跳ねのけて消し飛ばす。

「それが貴様の逆転の一手か……フゥン。なるほど、
 バトルシティで禁止カードに指定したカードならば逆転は可能か。
 だがカードプールは増えた。今となっては完全な脅威とはなりえん。」

434スカイ・ハンター ◆EPyDv9DKJs:2025/03/23(日) 01:49:56 ID:h5j6.Tts0
『御機嫌ようプレイヤー諸君。』

 檀黎斗の放送が始まる。
 だがそんな暇などどこにもない。
 ABCが消失したことで数自体は減っている。
 しかしAtoZの攻撃力はABCを超え、オベリスクに匹敵する力だ。
 迫りくる弾幕を死に物狂いで戦車を走らせることで躱していくが、
 弾幕の量は尋常じゃなく、いずれ被弾するのは時間の問題だった。

(おのれ、おのれおのれぇ!! このDIOが、
 たかが札遊びの、小僧如きにこのDIOが負けるだと?)

 次々と苛立つことばかりが続く。
 優れたボディ、次々と時の世界に入門する矮小な人間ども、
 百年前に不老不死を手に入れ、四年前にスタンドを手に入れ、
 これだけの力を以てして、人間に負けるなどあってたまるか。
 人間を超越した存在が、このDIOが敗北するなどあってたまるか。
 そう苛立つものの現実は覆ることはない。

(畜生、あの太陽が最後に見るものなんて、おのれぇ海馬ぁーーーーーー!!)

 百年ぶりに見ることのできる太陽。
 それに大した感慨はない。あくまで草稿をまとってごまかしてるだけだ。
 ダイバースーツを着て深海へ潜っても『まあそういうものだろう』となるのと同じである。
 できて当然、その程度のことだ。故に感動も感涙も、何も感情は湧くことなどない。
 しかし、しかしだ。百年前の死を悟ったあの時のように。死の間際に見るのがあの太陽。
 自身を焼き滅ぼす太陽を眺めながら死にゆくなど、納得できるわけがなかった。










「……何?」

 静寂。
 何が起きたか、一瞬だけ戸惑った。
 すべてがスロウ───否。止まって見えるのだと。
 いや、見えるのではない───時が止まっている。
 まるで、かつてスタンドを試すためにヌケサクにショットガンを撃たせたときのような。
 あの、静寂の中を静かに動き、弾丸を摘まんだ時のような、新しい感覚を。

 時空竜のモンスター効果の無効。
 それが、放送を迎えたことでタイミングよく切れた。
 効果時間があったのか、或いは強く願った結果なのか。
 DIOにとってはそれは定かではないが、行動は迅速だった。
 短い時間だ。八秒にまで伸びたはずの時間は僅か五秒にまで縮んでいる。
 だがDIOにとって短い時間を駆け抜けることは、余りにも慣れた行為だ。
 戦車を蹴り、AtoZの上に仁王立ちで構える海馬へと拳を叩き込む。
 メタルビルドとなったことでその動きは更に素早いものになっており、
 頭部を殴りぬける。花京院の時とは違うが、破壊力Aの右ストレートを受けた。
 頭蓋が砕けて、まず死ぬだろう。即座に戦車へと戻り、静かに呟く。

「時は動き出す。」

「!?」

 衝撃により頭部から血を噴き出し、宙を舞う海馬。
 当然理解できるはずがない。時間を止める、
 それを知る者などこの世界には余りにも少ないのだから。

「ようやく、ザ・ワールドの力を取り戻したか。」

 放送を軽く聞き流しながら、墜落していく海馬を見届ける。
 理解できない、そんな風な顔をしておりこれで勝利したと確信を持てた。
 いくらデュエルモンスターズが何でもありなものだったとしてもだ。
 頭蓋を砕きまともな思考ができない中、それができるとは到底思えない。
 何にせよ時を止める力を取り戻せた。これでいい。これでこそDIOだと。
 後は時を支配する主催を倒し、時の支配者は一人だけになればいい。

「まったく、デュエルモンスターズにはちと手を焼かされたが───」










「X・Y・Zハイパー・ドラゴン・キャノンの、効果、発動……」

435スカイ・ハンター ◆EPyDv9DKJs:2025/03/23(日) 01:50:11 ID:h5j6.Tts0
 だが、海馬は普通のデュエリストではなかった。
 尋常じゃない精神力を持つ。もう一人の海馬の方ではあるが、
 攻撃力が精神力に左右される超次元領域のフィールドにおいても、
 一切攻撃力を下げることなく高い攻撃力を維持できるだけの精神力を持つ。
 ならば、もう一人の海馬とてそれができない道理はないだろう。
 いや、海馬ならば自分には負けられないと躍起になるはずだ。
 手札をコストに、相手のカードを一枚破壊するのが新たなXYZの効果。
 最後の手札を消費し、XYZが輝き一斉掃射を放った。

「こいつ! まだこんな力を───!!」

 回避に徹するが間に合わない。
 掃射の何発かが戦車の牛を突き貫く。
 空中を走る能力を失ったことで、DIOも海馬と同様に墜落する。

(今の能力は、あの男と同じ……か。
 原理は分からんが、瞬間移動のようなものを使ってきた。
 グッ……思考が纏まらん。完全に頭をやられているか……!)

 頭蓋を砕かれ、地上と言う名の死に場所が待っている中。
 海馬は何が起こったのかを薄れる意識の中で考え込むも満足に働かない。
 寧ろ、そんなになってもなお意識を保ててることの方が奇跡とも呼べるだろう。

(凡骨め、逝ったか……まさか、貴様の後を追うことにあるとはな。)

 落下しながら聞き届ける、死者の名前。
 その中で聞き覚えがあるのはミカンやカイトから聞いた人物もいるが、
 彼にとってはいつも見下していた、城之内ぐらいしかいなかった。
 御伽も知った名前だが、ほぼほぼ縁がないので想起することはない。
 デュエリストとしては認めたが、どうやらここではダメだったようだ。
 まあ、凡骨なら仕方あるまいとも思ってる節があるといえばあるのだが。

(腹立たしいが……このゲーム終わらせるのは、俺ではなかったらしいな。)

 こんな形で中途脱落することになるとは。
 乃亜の時のように、結果的に遊戯に託すことになるとは。
 やはり、頼れる……と言うよりは信頼できるのはドーマの時に肩を並べ、
 三千年前から続く、自分が認めるライバルの遊戯だけである。

「……すまんな、モクバ。」

 最期に思うは弟のモクバ。
 しっかりした弟ではあるから問題ないが、
 こんな兄を慕い続けてきた弟を一人残すのは心残りだ。

 それは、奇しくも家族を思い出した城之内と同じ、最後の胸中だった。

【海馬瀬人@遊☆戯☆王デュエルモンスターズ 死亡】










「ザ・ワールド!!」

 エンパイアステートビル、
 とまではいかずとも高所からの落下。
 いくらDIOが不死身の吸血鬼でも。
 いくら仮面ライダーに変身していようとも。
 余りの高所からの落下では最悪足を砕くことになる。
 戦いの場において足を喪うのは余りにも致命的であり、
 ザ・ワールドの拳のラッシュを地面にたたきつけることで、
 落下のダメージを大幅に軽減することで五体満足……とまではいかず、
 ザ・ワールドに添えていた右腕がスーツの中でつぶれ、血飛沫を上げている。

「おのれデュエリストめぇ……!!
 このDIOに何度も辛酸を舐めさせよって!!」

 いずれ再生はするだろうが、
 此処までデュエリストにこけにされるとは。
 いかに反省をしないことに定評のあるDIOでも、
 今回ばかりは認めざるをえない。デュエリストは厄介だと。
 運よくか運悪くか、戦車が消滅するだけで済んだのが救いだと。

「……しかし、此処はどこだ?」

 激しい空中戦の末に、DIOは自分の位置が分からない。
 とりあえずと、現在位置を照らし合わせるように地図を確認した。

436スカイ・ハンター ◆EPyDv9DKJs:2025/03/23(日) 01:51:19 ID:h5j6.Tts0
※F-6を中心として9エリアのどこかに海馬瀬人(アニメ版)の死体があります
 落ちてるものは基本支給品、海馬瀬人のデッキ&デュエルディスク@遊☆戯☆王デュエルモンスターズです
※神威の車輪の死体と残骸がどこかに墜落しました。

【?????/一日目/朝】

【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(小)、苛立ち(大)、精神的動揺、時間停止不可、搭乗中
[装備]:特殊名簿@オリジナル、
[道具]:基本支給品(食料・水・ルールブック・筆記用具無し)、ビルドドライバー+メタルタンクタンクフルボトル+ハザードトリガー@仮面ライダービルド、右手が潰れている、デュエリストに対する苛立ち、腹部に痛み
[思考・状況]基本方針:「神」を追い落とし、すべてを手に入れる「王」となる。
1:東洋人(鬼舞辻無惨、名前は知らない)の弱点を見つけ出し、ボディを奪う。
2:次から次へとこのDIOの静止時間に入り込むか。同じ能力を持つものは必ず仕留める。
3:ザ・ワールドの効果を戻さなければならぬ。
4:肉の芽を植え付けられればいいのだが。
5:仮面ライダーとやらの道具は手に入れた。日光を防げるだろう。
6:承太郎はあえて味方と言い張る。取るに足らぬ人間は混乱させておく。
7:おのれデュエリストめぇ……!!
[備考]
※承太郎との最終決戦最終盤からの参戦。
※時間停止の時間は少なくとも5秒未満です。
 具体的な時間は後続にお任せします。
※銀河眼の時空竜の効果で効果を無効にされ時止めができません。
 何かしらの手段で無効効果がなくなるか、遅くとも第一放送後に戻ります。
 肉の芽も無効かは不明です。

【サンダー・ボルト(ゴールドシリーズ)@遊戯王OCG】
DIOに支給。ゴールドシリーズは他参照
テキストは以下の通り。本当にこれだけ。
通常魔法
①:相手フィールドのモンスターを全て破壊する。

437スカイ・ハンター ◆EPyDv9DKJs:2025/03/23(日) 01:51:43 ID:h5j6.Tts0
以上で投下終了です

438 ◆4Bl62HIpdE:2025/03/23(日) 01:54:06 ID:AE2/TlsI0
投下乙です。改めて
閃刀姫-レイ、門矢士、七海やちよ、千代田桃、保登心愛、風祭小鳩、桐生戦兎、深海マコト、土部學、モニカ、肉体派おじゃる丸、コッコロ、奈津恵、デェムシュで予約します。
延長申請もしておきます。

439スカイ・ハンター ◆EPyDv9DKJs:2025/03/23(日) 02:07:08 ID:h5j6.Tts0
すいません、DIOの状態表ミスってました

【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(小)、苛立ち(大)、精神的動揺、時間停止不可、搭乗中
[装備]:特殊名簿@オリジナル、
[道具]:基本支給品(食料・水・ルールブック・筆記用具無し)、ビルドドライバー+メタルタンクタンクフルボトル+ハザードトリガー@仮面ライダービルド、右手が潰れている、デュエリストに対する苛立ち、腹部に痛み
[思考・状況]基本方針:「神」を追い落とし、すべてを手に入れる「王」となる。
1:東洋人(鬼舞辻無惨、名前は知らない)の弱点を見つけ出し、ボディを奪う。
2:次から次へとこのDIOの静止時間に入り込むか。同じ能力を持つものは必ず仕留める。
3:ザ・ワールドの効果を戻さなければならぬ。
4:肉の芽を植え付けられればいいのだが。
5:仮面ライダーとやらの道具は手に入れた。日光を防げるだろう。
6:承太郎はあえて味方と言い張る。取るに足らぬ人間は混乱させておく。
7:おのれデュエリストめぇ……!!
[備考]
※承太郎との最終決戦最終盤からの参戦。
※時間停止の時間は少なくとも5秒未満です。
 具体的な時間は後続にお任せします。

440醒めない悪夢 ◆EPyDv9DKJs:2025/03/23(日) 13:48:45 ID:h5j6.Tts0
短いですが投下します

441醒めない悪夢 ◆EPyDv9DKJs:2025/03/23(日) 13:49:36 ID:h5j6.Tts0
 惨状とも言うべき戦場。
 数多の参加者が集い、戦い、そして散った。
 いかにそういった惨劇に見慣れた者達であろうとも、
 人が消え、死臭のする場にいつまでも居座る気などなかった。
 気がないだけであり、不快感などを特別感じることもないのだが。

 リンボの先導の下、四人は軽く移動を続けている。
 最後尾は無論、優子と良子と苺香の三名が横並びだ。
 いや、優子はふらついており、それを甲斐甲斐しく良子が支えながら、
 なんとかではあるものの、二人のゆっくりとした行進についてきていた。

「お姉、大丈夫? 私がついてるよ?」

「……お願いですから目を覚ましてください、良!」

 支える妹に対し、正気に戻るように願う姉。
 しかしその訴えは届くことなく、無理矢理押されて連れていかれるだけ。
 逃げることは可能だ。良子の力は特別強化されているわけではない。
 けれど。妹を捨てて逃げてどうなる。と言うより、逃がしてくれるわけがないのだ。
 だから受け入れるしかない。必死に訴えながら、しかしそれが徒労に終わるとしても、必死に。
 腕を失った少女、その少女を殺めて傀儡にした妹、そしてその妹を守るべく、人を殺めてしまった姉の姿。
 この中で唯一正気なのは優子であり、当然疲弊しているのも優子だ。何故、こんなことになっているのか。
 理解したいようで理解したくなかった。理解すれば、妹の殺人を、自分の殺人も認めることになってしまう。
 悪いことをしたら素直に謝れる。それが優子ではあるが、その謝る対象は恨みつらみと共に弾けて死んだ。
 呪詛のように顔と声が脳裏に焼き付いており、まともな精神状態でいられない中、イベントは待ってくれることはない。

「よぉ。」

 最初だけは桃のような、
 窮地を脱してくれるヒーローを期待した。
 バフォメットと遭遇した時に登場した小鳩のように。
 けれど、とてもではないが、それは堅気の人間の顔つきではない。
 人は見かけで判断するなかれ。バクの店長のような、そんな期待もした。
 無論、そんな希望は容易く打ち砕かれてしまうのだが。

「これはこれは。御客人殿、お待ちしておりましたぞ。
 拙僧、今はキャスター・リンボと言う名で通っておりますれば。
 此方は最上啓示殿、吉田良子殿と優子殿。彼女は……まあ、動く死体なのでお気になさらず。」

「本来なら揃いも揃って猿共、なんて思うところだが……やっぱ、
 こうして面と向かうとテメエが人間じゃねえのがよく分かるぜ。」

 月と同様。自分の目的のために他者を蹴落とす。
 しかも月と違い彼の場合は、先の様子を見るに悦楽のためだ。
 凡そまっとうな存在ではないのは分かっていたが対峙すると中々に違う。
 陰陽師の癖に露出した筋肉は常人を超えた、鍛え抜かれたものであり、
 東洋人でありながらその身長はPohをも超えるほどの高身長を誇る。
 一目見れば異質な存在だと分かるが、改めて確認しても異質さが伺えた。
 『ああ、こいつぁ選択肢を間違えれば危ういな』、内心でPohは少しだけ厄介に思う。
 仮面ライダーになれるのは別にいい。しかし、果たしてこの男は決裂した際に暇をくれるか。
 ノーだ。シフトチェンジを用いれば誰かを犠牲に一瞬逃れることはできるだろうが、
 果たしてその後もうまくいくか。さすがの彼も少しばかりこの状況は賭けに出ていた。

「まあ何だ。折角放送もちけえところだしな。
 茶でも飲みながら、話し合いにでもしようじゃねえか。」

「……とのことですが?」

「構わん。身体の都合食事はいるからな。」

「作戦のためには空腹は天敵だよ。お姉は?」

「私、は……」

 声は届くことなく、しかし日常会話のように接してくる。
 心神喪失。その一歩手前に近しい彼女の返事は曖昧になりつつあった。
 特に反対意見もなければ、良子が手を引いても抵抗はなかったため、
 近くの家屋へと我がPohが蹴りでドアを蹴破るように入り込み、苺香以外の全員が席に着く。
 情報交換をしていると、第一回放送も流れていき、さらに情報は集まっていく。

「ろくな情報がないな。」

「ま、否定はしねえけどな。つまんねえ男だったぜ、あれは。」

442醒めない悪夢 ◆EPyDv9DKJs:2025/03/23(日) 13:50:29 ID:h5j6.Tts0
 Pohからの提供された情報は何とも乏しいものだ。
 知り合いであるキリト、それとついでにどっかの誰か(月)だけ。
 今も生きてるか死んでるかも分からない。と言うより、興味がない。
 同じ殺人者でありながらそれを認めない、哀れな猿。その程度の認識だ。
 つまるところ、キリトしか満足に得られるものがなく、不快そうな顔で窓際を見やる。

「いいではありませぬか。アインクラッド、ソードアート・オンライン!
 世界を形作り、我々をでーた化したと言う可能性、或いはそれらを現実へ落とし込む技術力!
 ンンン、愉快愉快。カルデアにあるシュミレーターと言えども、此処までの再現は困難でありましょう。
 我々がいかに掌で踊らされているかが伺えましょうぞ。」

 一方、リンボは大変な状況でありながらも楽しそうにしていた。
 短い付き合いで最上はこの男の人となりは理解している。
 だからこの程度の反応に一々気にするような感情は持ち合わせてない。
 所詮は互いに互いを利用するだけのビジネスパートナー。その程度なのだから。

「嘘、です……」

 この中で最も今の状況に強く反応していたのは、優子だ。
 彼女の精神は既にぐちゃぐちゃだ。妹が人を殺し、自分が人を殺し、
 そこに追い打ちをかけるように学友である小倉しおんと母の死を告げられる。
 他にもこの殺し合いでかかわった人物の死も、淡々と告げられていく。
 桃が、ミカンが生きている。それに歓喜する余裕などどこにも存在しなかった。
 家族は崩壊した。母は死に、姉妹は共に人殺しの業を一生背負わなければならない。
 いかに魔法少女と共に町を守ると言う途方もなく、しかし諦めない精神力を持つ彼女でも。
 基本的にはのんびりとした生活の最中にいた彼女にとって今の状況を前にしては、
 余りにも凄惨な状況を前に耐えきれるはずもなかった。

「ウグッ、オエ……ッ!!」

 こみ上げる吐き気。
 台所へ向かおうと席を立つも、
 覚束ない足では躓いて、逆流したい液を床へとぶちまける。
 それを見た者達の反応はさまざまであり、良子は姉を心配するべく駆け寄り、
 最上はどうでもよさそうに、リンボは愉快そうにクツクツと笑い、Pohは憐みの目で見る。
 可哀そうに、とかの意味合いではない。こんなの生かして本当に役立つかと言う意味合いのものだ。
 話には聞いている。こいつを堕落させ、文字通りの魔族へと仕立て上げると言う話にはPohは瞳を輝かせる。
 彼と言う男は言ってしまえば対立煽り大好き人間である。善良な参加者であったのならばキリトはどうするか。
 斬れるのか、斬れないのか。或いは人知らず斬らせてみてからその正体を教え、同じ人殺しに墜としていく。
 どれであっても彼にとっては最高の玩具ではないかと。

「で、そのやり方は?」

「無論、これを使いまする。」

443醒めない悪夢 ◆EPyDv9DKJs:2025/03/23(日) 13:50:42 ID:h5j6.Tts0
 提示された札。
 陰陽師が使うような札ではない、カードゲームのカード。
 RUM-バリアンズ・フォース。ギラグ、もといバリアンの御用達のカード。
 そして、吉田良子を最も狂わせてしまっている最大の要因ともなる存在。
 ある意味、これを所持していたことでまぞく達は狂い始めたと言っても過言ではない。

「だがそれは一人につき一人しか洗脳できない制約がかけられてたはずだが?」

「ま、これ以上の利用価値はねえってわけだな。」

 友の死、母の死、となれば次は妹の死だ。
 ただでさえ今、現実を受け入れられない程に彼女は疲弊しきっている。
 そこに妹の首でも差し出してしまえば、完全に彼女は壊れてしまうだろう。
 彼女に守れるものなど何もない。誰一人その手からこぼれて落ちて消えていく。
 皆が仲良くなれますように、などという切なる願いすら遥か遠き泡沫の理想。
 そんな絶望を糧として、バリアンの力で墜とせば、完全な魔族の出来上がりである。
 そうなったとき、何が起こるのか。まったく予想がつかない。だから楽しみで仕方がない。
 英霊剣豪達のような一切塵殺を目指すか、或いはアルジュナ・オルタのような変質を遂げるのか。
 リンボにすら予想がつかない。デュエルモンスターズ、まぞく。理知的な彼と言えども、
 あまりに知らない要素が多いからだ。それ以上のとてつもないものが視れるかもしれない。

「じゃ、用済みってことならいいよな?」

 さっきは面白みのない男だったから斬る価値もなかったが、
 キリトの剣で斬る相手が、善良な存在であるならば別だろう。
 ようやくキリトの刃を、誰かの死によって染め上げることができる。
 こっちは六時間も待たされた。ようやくその機会が来ると思い笑みを浮かべるのだが、

「ンンン、残念ながらそれはもう少し先か、お預けになってしまいますな。」

「なんで……あ?」

 窓際から見えた、低空飛行するモンスター。
 何人かは確認し損ねたが、まず参加者とみていいだろう。
 ベクターが召喚して移動に使われたホープの姿を、三人の視界が捉える。

「低速とは言え移動速度はそれなりですな。
 じゅうたんがあれば問題はありませぬが……流石に、
 魔族の誕生を先延ばしにするような理由もありますまい。」

 是非とも誕生の瞬間を見届けてみたかった。
 妹の死に慟哭する姉の姿を見届けてみたかった。
 それらは真実ではあるものの、あの移動の方角を考えるに、
 放送で言っていたエリアに向かっている可能性は高くある。
 自分の術に自信はある。しかし、万が一と言うのもあり得るだろう。
 少なからずここには英霊だけには留まらない、様々な要素が絡むのだから。

「で、俺は? その様子だとついて来いってか?」

「ええ。此処は最上殿御一人いれば十分。
 となれば、ぷー殿には拙僧と同伴していただきたく。
 是非ともらふぃん・こふぃんで培った殺人術とやらを披露してもらえればと。」

「また先延ばしってーのは癪だが……まあ、いいか。」

 どんな奴かは知らないが、今度こそ戦いが楽しめる。
 見えた人数は少なくとも二人はいた。シフトチェンジも使用可能ならば、
 味方同士の斬り合いが発生する。先の男のようなつまらない結果はごめんだ。
 今回のようなお預けも限界に近い。いい加減、キリトの剣で誰かを斬らせてほしい。
 そんな欲望を抱きながら、Pohはリンボと共に外へと出ていく。



「……本当に、いかれた連中だな。」

 人のことはたいてい言えないが。
 そんな風にごちりながら席を立つ最上。
 やることは決まっている。リンボから渡されたカードと良子の首。
 それらを貢物として、吉田優子を魔族として堕落させる。それだけだ。
 未だにせき込む優子と、背中をさする良子。それに接近する最上。
 二人の運命のカウントダウンは、すぐそこまで迫っていた。

444醒めない悪夢 ◆EPyDv9DKJs:2025/03/23(日) 13:55:46 ID:h5j6.Tts0
【D-5/一日目/朝】

【PoH@ソードアート・オンライン】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:エリュシデータ@ソードアート・オンライン、カブティックゼクター(コーカサス)+ライダーブレス@仮面ライダーカブト、シフトチェンジ(現在使用不可)@遊戯王OCG
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本:この決闘を楽しむ。

1:陰陽師一味に接触して、一時休戦&手を組むのを交渉する。
2:あのアジア人(月)は今後どうなるやら。楽しみだ。
3:この剣でキリトだけなくその相棒或いは同行者も殺す。
4:アジア人は優先的に殺すか扇動していく。
5:手を組めた場合はメスガキ(良子)の姉(シャミ子)をレッドプレイヤー側にさせるのも悪くない考えだ。
6:主催も皆殺しにするのも視野に入れる。
7:猿共と手を組むのは癪だが、こいつらは化け物連中で悪くねえな。
8:謎のモンスター(ホープ)に乗ってた参加者を狙う。
[備考]
※参戦時期はラフィン・コフィン討伐戦より後です。
※コーカサスの資格者に選ばれました。
※アニメ版で披露した扇動の心意は問題なく作用します。

【キャスター・リンボ@Fate/Grand order】
[状態]:疲労(小)、魔力消費(中)、上機嫌
[装備]:
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品0〜3(シャミ子の分含む)、RUM-バリアンズ・フォース@遊戯王ZEXALシリーズ、光の護封剣(ゴールドシリーズ)@遊戯王OCG、空飛ぶじゅうたん@ドラえもん、小倉しおんの首輪、フグ田タラオの首輪
[思考]
基本:ただ、己の衝動と欲望の赴くままに
1:最上啓示、悪霊の集合体であろうかの御方の行く末、見届けて差し上げましょう。
2:吉田良子、どう利用してやりましょうか……ンンンンン。
3:里見灯花、まあそちらは式神の方に任せておきましょう。
4:吉田優子、こちらで目覚めを促してやるのもまた一興。
5:件の生物に乗った参加者に接触、或いは戦闘。
[備考]
※参戦時期は地獄界曼荼羅、退場後

【吉田良子@まちカドまぞく】
[状態]:疑似英霊剣豪化?、疲労(中)、疑念
[装備]:死者行軍八房@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品一式、スパイセット@ドラえもん、ランダム支給品0〜1
[思考]
基本:姉とこのひと(リンボ)のためにみんなころす
1:お姉は見つかった。桃さん、ミカンさんも探したい。その後は――?
2:灯花ちゃん、ちゃんとねむちゃんやいろはちゃんと会えるといいね。
3:お母さん……あれ? 何で悲しくないんだろう?
[備考]
※リンボの術式とバリアンズ・フォースの影響で、擬似的な英霊剣豪の様なものとなっております。
 英霊剣豪特有の不死性は存在しませんが、バリアンズ・フォースの影響もあって身体能力その他が強化されております。もしかしたら魔術等を使用できるかも知れません。

【最上啓示@モブサイコ100】
[状態]:疲労(小)
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:世界の『世直し』を為す。
1:リンボはいい具合に手綱を握って利用する。裏切るなら殺す。
2:あの娘(良子)は哀れであるが、別にどうでもいい。
3:里見灯花、同じくあの女も哀れだ。
4:吉田優子に利用価値があるなら、リンボの案に乗るのも手か?
5:さて、吉田良子を殺すか。
[備考]
※参戦時期はモブ達と出会う前。
※ボディは浅桐美乃莉のものです。ボディの入れ替えは不可能となっております。

【吉田優子@まちカドまぞく】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(極大)、タラオを殺した事への激しいショック
[装備]:魔王のぶき(リンボの魔力で汚染)@きららファンタジア
[道具]:
[思考・状況]
基本方針:みんなが仲良くなりますように
1:良が苺香さんを…どうして……
2:私人を殺して……
3:桃やミカンさんだけじゃなくて、なんでお母さんと良まで……
4:なんか強くなりました!まぞくは進化した!
5:小鳩さんの知り合いと皆を捜します!
[備考]
※参戦時期は夏休み(アニメ2期7話、原作43丁目)以降です。
※魔王シャドウミストレスに変身していますが、特殊な出来事が無い限り精神に異常をきたすことはありません。

【桜ノ宮苺香@ブレンド・S】
[状態]:骸人形、、右手首欠損、空飛ぶじゅうたんで移動中
[装備]:桜ノ宮苺香専用ㅤクリスタル@きららファンタジア
[道具]:基本支給品一式、ハーブティー@かぐや様は告らせたいㅤ天才たちの恋愛頭脳戦
[思考・状況]
基本方針:……
[備考]
※良子に八房で刺殺された為、骸人形になりました。

445醒めない悪夢 ◆EPyDv9DKJs:2025/03/23(日) 13:56:06 ID:h5j6.Tts0
以上で投下終了です

446◆2fTKbH9/12:2025/03/23(日) 16:13:55 ID:???0
野獣先輩を予約と延長をします。

447 ◆7PJBZrstcc:2025/03/23(日) 19:58:20 ID:TjkXfF1U0
申し訳ありませんが>>425の予約を延長します

448醒めない悪夢 ◆EPyDv9DKJs:2025/03/23(日) 23:26:30 ID:h5j6.Tts0
あ、すみません
状態表でバリアンズ・フォースがリンボが所持したままになってました
正確には最上です

449 ◆QUsdteUiKY:2025/03/26(水) 02:10:52 ID:D5SjCnKw0
投下します

450kaleidoscope ◆QUsdteUiKY:2025/03/26(水) 02:14:43 ID:D5SjCnKw0
「クウカ――すまない」

 クウカ達が上空に飛んでいる時――マサツグさんはそうクウカに謝ってきました。
 その声は今までのマサツグさんからは想像が付かないくらい弱くて、儚くて、今にも消えてしまいそうで――すごく……心が痛みます。
 でも……そんなマサツグさんになんて言葉を掛ければいいのか、クウカにはなかなかわからなくて。

 それでも――クウカはマサツグさんを失いたくないのです。

 だから必然的にマサツグさんを抱き締める力が、ギュッと強くなって……

「クウカ……お前は、こんな俺でも見捨てないんだな……」

 マサツグさんがどうしてそんな言葉を呟いたのか……クウカにはわかりません。
 もしかしたらマサツグさんは……過去に誰かに見捨てられたのかもしれませんが、クウカには何もわかりません。

 でも。
 それでも――

 クウカは、マサツグさんのことが――。

「クウカは、マサツグさんを見捨てないですぅ。だってマサツグさんはクウカにとって――」

 まだ一緒に過ごした時間は短いですが。
 マサツグさんはクウカやメグちゃんを、本気で守ってくれようとしてくれました。
 そんなマサツグさんの姿を見て。

 クウカは――。
 
 クウカは――。

「鬼畜なドSさんですから……。ぐふふ……」

451kaleidoscope ◆QUsdteUiKY:2025/03/26(水) 02:16:34 ID:D5SjCnKw0
 本音を口に出すのが恥ずかしくて――つい誤魔化してしまいました。

 マサツグさんは、クウカにとって大切な仲間で――
 たった数時間しかまだ行動してないですが、クウカはマサツグさんのことが――大切な存在になっていました。

 だから……なんとかしてマサツグさんを元気付けたくて。
 でも……その方法が思い浮かばなくて。
 それにメグちゃんを見捨てるようなことをしたクウカの心は、実は罪悪感でいっぱいで……。

 ――どうして私は、こんな大事な時に役に立てないのでしょう……

「鬼畜なドS……か……」

 マサツグさんは空虚な声でそう呟いた後――

「そういえば、お前と出会ったばかりの頃もそう呼ばれてたな」

 そんな言葉を、発しました。

「た、たしかにクウカはマサツグさんを最初は鬼畜なドSさんと呼びましたね」

 そんな恥ずかしいことを思い出して、思わず苦笑してしまいます。
 いつもなら勝手に「ぐふふ……」という声も出ちゃいそうですが……そうならなかったのは、きっとマサツグさんが哀しい表情(かお)をしているのが簡単に想像出来る状況だからです……。

 ――マサツグさんの気持ちを考えるだけで……クウカの心はズキズキしてしまうのです。

「……懐かしいな」

 マサツグさんが、ポツリと呟きます。
 その声は本当に小さかったですが……クウカはしっかりと聞きました。

「そうですね……。あの時はまだ、メグちゃんがあんなことになるなんて思わなかったですぅ……」

「そうだな……。俺は結局、メグの心を守れなかった――」

 悔しさと哀しさが込められたマサツグさんの声。
 そんな声を聞いて、咄嗟にクウカは口を開きます。

「それは……マサツグさんだけの責任じゃないです……。あそこから逃げたのは、クウカですぅ……」

「……それは俺を助けるためだろう。クウカ、お前は何も悪くない。悪いのは――弱い俺自身だ」

「そ、そんなことありません!マサツグさんは鬼畜なドSさんみたいな態度ですが本当は優しくて、モニカさんみたいな心の強さもあって……」

「ふっ……。誰も守れなければ、そんなものに意味はない」

 自分自身を嘲笑うようなマサツグさんの言葉。
 た、たしかに……メグちゃんは守れませんでした。実力は……相手の方が上でした……。
 あの後、メグちゃんがどうなったのか……わかりません。

 でも――

「そ、そんなこと言わないでほしいです。マサツグさんの優しさは無駄なんかじゃありせん」

「クウカ……お前は相変わらず、お人好しだな……」

「クウカは別にお人好しじゃないです。……マサツグさんを助けるためにああするしかなかったですが……それでもメグちゃんを見捨てるようなことをしてしまいましたから……」

452kaleidoscope ◆QUsdteUiKY:2025/03/26(水) 02:17:07 ID:D5SjCnKw0

「メグを見捨てたのは、俺の責任だろう……」

 クウカの言葉が、マサツグさんを責めてしまったみたいです……。声がさっきまでより更に弱々しくなっていて。
 
 だから、クウカは――

「ち……違いますっ!」

「……何が違うんだ?俺が強ければお前もメグも守れたはずだ」

「マサツグさん。……一人で、背負い込まないでください。あの場にはクウカも居ました。クウカだってヴァイスフリューゲルの一員で……色々と戦ってきたつもりです」

 だから――

「だから――クウカだって戦えます!マサツグさんだけで背負い込まないで、クウカのことも頼ってくださいっ!」

「ふ……。そうか。クウカ、お前はそうやって俺の心まで守ってくれようとしてるんだな」

 マサツグさんの声が……少しだけ、さっきより調子を取り戻したような気がしました。
 それがクウカには嬉しいです。メグちゃんを救えなかった罪悪感が……少しだけ洗い流された気もします。

――しかしながら、メグちゃんを見捨てた罪悪感は完全には消えません。
 メグちゃんも私達の仲間ですから。

 でも今は――
  
「はい。クウカにとってマサツグさんも、メグちゃんも大切ですから……」

「大切、か……。それならメグも……助けなくてはな。今はあいつが無事で居ることを願うしか出来ないが――」

「はい!私達で助けましょう、メグちゃんを――」

 メグちゃんはきっとまだ生きてると信じて、クウカが精一杯返事をするとマサツグ様は「フッ……」と微笑んで。
 そのままクウカを……抱き寄せました。

「ま、マサツグさん!?そんな大胆なことをされれるとクウカは、クウカは――」

「落ち着け、馬鹿。もうすぐ、地面だ」

「――えっ!?」

 こんな空高くから落下したら――クウカ、切羽詰まってなにも考えていませんでした!

「――このまま落下したら、お互いに死ぬだろうな。だから俺が〝守る〟それだけのことだ……」

 そして――地面に激突する瞬間、ふわりと下から風が吹いて何の衝撃もなく地面に立てました。

「……やれやれ。クウカも、メグも、エリンも――俺が守るしかなさそうだな」

 いつもの調子でそんなことを呟くマサツグさんに――クウカは少しだけホッとしたのでした

453kaleidoscope ◆QUsdteUiKY:2025/03/26(水) 02:18:13 ID:D5SjCnKw0

 ○

 俺が地面に着地した後、クウカは支給品の応急処置セットを使って俺の左目を眼帯で覆い隠した。
 それ以外にも、俺が怪我した箇所へ丁寧に包帯を巻いたり、ガーゼを貼ったりしてくる。そうしてるうちに包帯は無くなって、クウカも怪我をしてるというのにクウカの分はなくなった。

「今は、これくらいしか出来ませんけど……」
「……お前も怪我をしてるというのに、何をしてるんだ?」
 
「……クウカよりマサツグさんの方が酷い怪我ですし、クウカは頑丈ですから。これくらい大丈夫です。それにクウカはドMですから、ぐふふ……」

 ……やれやれ。クウカは気丈に振る舞ってるが、これは明らかに強がりだ。まったく、本当にお人好しなバカだ。
 だがクウカが包帯を巻いた結果、左目や全身の痛みは多少マシになった。……そこは感謝してやらんこともない。

 だが――

「まったく……お前は本当にド変態だな」

 きっとクウカは、こいつが強がってることを見抜かれるのを嫌う。こんなお人好しな奴だ、当然だろう。
 だから俺は……あえてこいつの強がりを言及しない。

 ……本当ならばあんな化け物と遭遇して怯えても仕方ないのに。
 メグを見捨てるような行為の罪悪感に押し潰されても仕方ないのに。
 こいつは――どうしてここまでお人好しなんだ?

 善意は受け取っておく。拒絶はしない。
 それに何故か正直――俺はクウカを守りたいという気持ちが、さっきよりも強くなっていた。
 こいつが命懸けで俺を助けてくれた命の恩人だから――というのもあるだろう。俺はただの孤児院長だ、正義感なんてものは微塵もない。

 だがまあ――こいつがあまりにもお人好し過ぎて、メンタルまでケアしようとする姿勢も大きいのかもしれない。
 俺は守ると言ったメグも、クウカも守れず情けない醜態を晒したというのに――こいつは何も嫌な顔をせず、むしろ心配してくる。
 やれやれ……。コイツは本当にお人好しなバカだ。大馬鹿だ。
 だがそんなコイツだから、さっきよりも強く〝守ってやる〟という気持ちが強くなったのかもしれない。

『マサツグさん。……一人で、背負い込まないでください。あの場にはクウカも居ました。クウカだってヴァイスフリューゲルの一員で……色々と戦ってきたつもりです。
だから――クウカだって戦えます!マサツグさんだけで背負い込まないで、クウカのことも頼ってくださいっ!』

 ……この一言を聞いた時、何故か重い肩の荷が降りた気がした。
 俺は正直、クウカはあまり戦力として期待してない。頑丈さはたしかにすごいが、それくらいの奴だ。
 だがこいつは自分のことも頼れと言ってきた。まったく……まともな戦力になるか怪しいのに、口だけは達者だ――と言いたいところだが、コイツの命懸けの行動が無ければ俺は死んでた。
 そんな奴が頼れ――と言ってきたんだ。不本意だが、多少は頼ってやってもいいかもしれん。

 ――本当にそれが俺の本心か?

「フッ……」

 まあ――本心じゃないことは正直、自覚してる。
 本当は、嬉しいだとか――そんな俺らしからぬ感情もあるんだろうな。女に頼るなんて不甲斐ないが――思えば俺はリュシア、エリン、シーと共闘したことがある。
 その時も不思議と――嫌な気はしなかった。
 俺が守るべき孤児たちなのに。
 アイツらと共にルーナ孤児院ファミリーとして戦うことに、心地良さすら感じていた。

 だからあの時、俺は――あんな途轍もない力を発揮出来たのかもしれん。我ながら迷走した考えだけどな……。

 ――そして今の俺は、あの時と同じ心境だ。
『ルーナフリューゲル』として、クウカやメグ、エリンとこのふざけた殺し合いを潰してやりたい。
 ……こんなところで死ぬなんてお断りする。クウカやメグやエリンを失うのも……嫌だと感じている。
 だからこそ、俺はラスボスを倒してこの殺し合いを脱出するんだ。クウカやメグやエリンと共に、な。
 まあエリンと再会した時――どんなふうに声を掛けるか迷うが……。
 ……フッ。やはりなんだかんだエリンのやつに多少は悔いがあるんだろうな。リュシアや、シーもだ。
 俺なんかより里親の元に向かう方があいつらのためだろうから、ただの俺のワガママだがな。まったく――あいつらに会う前は。異世界に召喚されて孤児院長になるまでは、こんな感情なかったというのに。

 とりあえずエリンに再会したら――必ず無事に脱出させてやる。あいつがこんな悪趣味な殺し合いで死ぬなんて、気が済まん。

 しかしクウカやメグは流れで偶然、出会っただけなのに――ここまで入れ込むとはな。俺らしくもない。

454kaleidoscope ◆QUsdteUiKY:2025/03/26(水) 02:19:07 ID:D5SjCnKw0

『そんなことないですよ。ご主人様は、お優しいですから』

 ――そんなリュシアの声が聞こえた気がした。
 ……やれやれ。俺が優しいだと?そんなわけがないだろう。
 俺は涙を流して懇願するお前を――……。

『御機嫌ようプレイヤー諸君――』

 俺のくだらない感傷を遮るように、やけに不快な声が聞こえてきた。

「マサツグさん、この声は……」
「黎斗とかいう自称神の、ふんぞり返ってる奴の声だな……」

 やれやれ。本当に他人を煽るのが好きな自称神だ。こいつの声を聞くだけでもイラつくが……この放送は貴重な情報源だ。聞き逃すわけにもいかない。
 とりあえず禁止エリアを発表すると聞いて、タブレットのメモ帳アプリを開き――自称神が発表していく禁止エリアをメモする。ここに入ったら問答無用で死亡だ。万が一のためにメモするしかないだろう。

 ――が、結局地図に印が付いてるからただの徒労だった。
 ふん。神からの慈悲だとか喚いてるが、本当に慈悲があるなら最初からこんなクソゲーを開くな……!それかさっさと脱出させろ。シー以上に身勝手な自称神だな。

『続いては君達が最も気になるだろう情報…そう、脱落者達の発表だァ!
まずは神である私が最初に行った放送すら聞けず、ゲームオーバーとなった負け犬ども!こいつらから教えてやろう。』

 いちいち煽らなければ気が済まないのか、こいつは。
 そもそもボーちゃんってなんだ?名前からしてふざけてるが、これも誰かを煽るためか?
 一応、名簿を改めて確認してみたが――

(なん……だと……!?)

 たしかにボーちゃんという名前があった。ボー、ならともかく〝ちゃん〟まで名前に含めるってどんな親だ。まあ……親は俺も大概だから、あまり他人のことも言えないが。

455kaleidoscope ◆QUsdteUiKY:2025/03/26(水) 02:20:04 ID:D5SjCnKw0
 他にも苗字だけの〝遠野〟やら名前だけの〝ひで〟やらよくわからん異物が混ざる。よくわからん。
 いや……ひでは異世界人ならばあり得なくないか。ひで、ではなくヒデなら――

『エリン』

 ――――!?
 待て。こいつ、今なんて言った?

「マサツグさん……」

 クウカが俺を憐れむように見てくる。……こいつとメグとは出会った時の自己紹介で軽くエリン達のことも教えてたな。
 つまり今の言葉は聞き間違いじゃない……ということか……?

「クウカ。あの自称神は、さっきなんて言ったんだ?」

 聞き間違いかもしれない。
 ……そうであれば、良いが。

「エリンちゃんの名前を……呼びました……」


「――――」

 言葉が出てこなかった。
 死んだ?エリンが?
 あのやかましいガキが……死んだと言ったのか?

 だが――妙な納得はあった。

「やはり、な……」

 エリンは正直、そこまで強くない。この過酷な殺し合いで生き抜くのが厳しいなど――わかっていた。わかっていた、はずだが……。
 それなのに心の何処かで、エリンなら大丈夫だと考えていた。……甘い考えだ。

「俺などでは……守れなかったか……」

 胸がチクチクと、妙に痛い。
 身体から一気に力が抜けたような虚脱感。
 ルーナ孤児院ファミリーはこの瞬間――本当に終わってしまった。

 もう連れ戻せない。
 もう家族として一緒に生活出来ない。
 もうあいつの笑顔を――――。

「クウカ……。俺は一番守りたい参加者を……エリンを失った。ならば俺は、これから――」

『 そんなに悔しいかァ?

 CRの戦友が!
 みかづき荘の魔法少女が!
 決闘(デュエル)で繋がった友(ライバル)が!
 新世界へ渡った筈の命が!
 ヴァイスフリューゲルのメンバーが!
 ザルバ(友)である魔戒騎士が!
 ラビットハウスで共に過ごした友人が!

 彼ら彼女らの死が!』

 
 ――――。
 聞きたくもないノイズが俺の耳を劈く。
 ヴァイスフリューゲル。
 クウカの友人も――更に死んだということか。
 たしかニノンという名前を、自己紹介の時に聞いた気がするが……。

 クウカの顔を見たら、今にも泣きそうな情けない顔になっている。
 ――まあ、きっと俺もみっともない表情になってるのだろうな。
 
 やれやれ。
 やれやれ……。

 エリンとはもう会えなくなるとはな。
 孤児院を終了すると。
 あいつらに里親が出来た時点で、会えなくても良いとは……仕方ないとは思っていた。

 だがそれは――俺なんかより里親の元で暮らした方があいつらのためだと思ったからだ。
 それなのに……神を自称するこの忌々しい男はエリンを殺し合いに巻き込んだ。結果的に、エリンは死んだ……。
 クウカの友人も――更に死んだ。

 守るはずだったものが――崩れ去っていく。
 クウカを守る気持ちが高まっていたのが、嘘のように。

 神を自称する悪魔は、ほんの少しの時間で――俺達を地獄に叩き落とした。

456kaleidoscope ◆QUsdteUiKY:2025/03/26(水) 02:24:24 ID:D5SjCnKw0
「マサツグさん。クウカも大切な仲間のニノンさんを、殺されてしまいました……」

 クウカの瞳が、大きく揺れる。
 今にも泣きそうな目で、クウカは続けた。

「でも……クウカは屈しません。きっとニノンさんは、ニノンさんらしく平和のために命を散らしたので……」

「……正義感の強いやつだな、お前は」

「それは……ちょっと違います。クウカはヴァイスフリューゲルの一員なので……アユミさんやニノンさんの死を無駄にしたくないだけですぅ……」

 「死を無駄にしない、か――。
 ふん。そんなものはただの綺麗事だろう。これから何をしても、もうエリンは……帰ってこないからな……」

 死を無駄にしない。
 そんなのは、世迷言や綺麗事だ。
 生憎と俺はそんな綺麗事を吐いて、現実逃避する気はしない。

 ――エリンは、死んだ。
 それだけが、真実だからな……。

「たしかに綺麗事かもしれません。エリンちゃんもクウカの仲間も……みんなもう、帰ってきません。でも……ここでクウカがへし折れたら、それこそみんな〝無駄死〟になってしまいますから……」

「……そうだな。エリンはたしかに無駄死したのかもしれんな……」

「……マサツグさんは、それでいいんですか……?」

「俺はエリンを救えなかった。現実は変わらない。もう、どうしようもないだろう」

「たしかにエリンちゃんはそうだったかもしれません。……でも、マサツグさんには他にも待ってる子がいるんじゃないですか?」

『お願いです。リュシアを捨てないでください……』

 リュシアの泣き顔が――脳裏を過る。
 エリンは死んだが……俺にはまだリュシアとシーがいる。
 ……あいつらは里親の元で、幸せに暮らせてるだろうか?

「そうだな……。だがあいつらと再会出来たとして、俺にはエリンの死をなんて伝えれば良いのかわからない……」 

「エリンちゃんが死んだのは……不幸なことです。でもマサツグさんは悪くないと、クウカは――」

「そうか……」

 クウカが必死に立ち直らせようとしてるのは、わかる。こいつは本当にお人好しの馬鹿だ。
 たしかに俺は悪くない。それはわかってる。
 だがエリンを救えなかったことが……無性に虚しい……。

「マサツグさん。お願いです。クウカやメグちゃんのために――生きるのを諦めないでください」

 生きるのを諦める、か……。
 俺は別に自殺志願まではしてないのだが……そう見えるくらい今の俺は虚脱感に襲われてるのかもしれんな……。

「安心しろ、クウカ。別に俺は生きることを諦めてない」

 ……俺にはまだリュシア達がいる。クウカやメグもいる。……ただ虚しいだけで、死ぬ気はない。

「マサツグさん……。クウカはとりあえず、メグちゃんを助けたいです……」

「メグを助ける、か――」

 あれだけ強力な敵に遭遇しながら……仲間を更に失いながら……それでもクウカは前を向いている。
 またあんな化け物に襲われたら次こそ命はないだろうが、それでもこいつは――。

「クウカはメグちゃんを一度見捨ててしまいました……。しかしながら、メグちゃんの名前は放送で呼ばれてません」

「そうだな。たしかにメグは、まだ生きてる」

「はい。だからクウカはメグちゃんに謝って……そしてまた優しいメグちゃんに戻せるように頑張りたいですぅ……」

 やれやれ。こいつは本当に……。
 だが……こんな奴と一緒に居るから、俺はまだ……こいつを守りたいと思ってるのかもしれんな。
 エリンは死んでしまったが……今の俺を見たら、あいつは腑抜けた俺に不機嫌になるとは思う。

「やれやれ……」

 クウカは、まったくバカな女だ。
 が、だからこそ俺の感情を多少は和らげる。……理由は謎だがな。

「わかった。今度こそメグを救って――あの自称神を倒すぞ、クウカ」

「……!はい、マサツグさん!」

「それにしても――メグの居場所はわからない。俺達のように何らかの手段で逃げたとは思うが……虱潰しに探すしかないようだな」

 そんなことを口にした俺を、クウカは何故か嬉しそうに眺めてくる。
 このお人好しのバカ女め。……が、悪い気は不思議としなかった

『しかし、貴殿が持つには不釣り合いなようですな。この程度も避けられぬとはたかが知れる。風魔の小童の方がまだマシな動きが出来た事でしょう』

 化け物染みた男の言葉が脳裏を過る。
 俺達はあれだけ大人数居たのに、敗北した。
 ――だが、もう二度と不釣り合いとは言わせない。俺がリュシアやエリン、シーやクウカと紡いだこの想いを――もう二度と、あんな薄気味悪い化け物に否定させはしない。

「マサツグさん……ありがとうございます」
 
「別に礼を言われる筋合いなどない。俺は……俺のやりたいようにやるだけだ。ただ俺が守りたいからお前達を守るんだ」

457kaleidoscope ◆QUsdteUiKY:2025/03/26(水) 02:24:47 ID:D5SjCnKw0
 
 ○


 マサツグは見上げた朝焼けの空に、一つのことを誓う。
 紡いだこの絆は、もう離さないと。
 涙も、笑顔も――すべてを守る強さで。
 今、二人なら回りだす――新しい未来


【C-7/一日目/朝】
【直見真嗣@異世界で孤児院を開いたけど、なぜか誰一人巣立とうとしない件(漫画版)】
[状態]:ダメージ(大、包帯、ガーゼなどにより処置済み)、疲労(大)、左目失明(眼帯により処置済み)、クウカを守りたいという想い
[装備]:竈門炭治郎の日輪刀@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]基本方針:ラスボスを倒す。殺し合いを脱出するには、これしか手段がないようだな
1:クウカ、メグとその友人を守る。
2:もう一度メグを探して取り戻す
3:もう失うことは御免だな。
4:エリン……
[備考]
※「守る」スキルは想いの力で変動しますが、制限によりバランスブレイカーになるような化け物染みた力は発揮出来ません
※参戦時期はリュシア達が里親に行ってから。アルノンとも面識があります

【クウカ@プリンセスコネクトRe:Dive】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(大)、魔力消費(中)
[装備]:ガーディアン・エルマの短剣@遊戯王OCG、フライングランチャー@遊☆戯☆王ZEXAL
[道具]:基本支給品、応急処置セット@現実
[思考・状況]基本方針:こ、困ってる人を助けます……
1:メグちゃんに謝った後、連れ戻します
2:モニカさん達と合流したいです
3:クウカ、マサツグさんのことが気になりますが……今はそれどころじゃないですね
4:マサツグさんの心の支えになりたいです
[備考]
※頑丈です。各種スキルも使えますが魔力を消費します。魔力は時間経過で回復していきます
※応急処置セットの包帯は使い切りました

『支給品解説』

【応急処置セット@現実】
クウカに支給。包帯、眼帯、ガーゼ、軟膏、熱ピタ、ピンセット、ハサミ、痛み止め、湿布など応急処置に必要なものが色々と入ってる。

458 ◆QUsdteUiKY:2025/03/26(水) 02:25:10 ID:D5SjCnKw0
投下終了です

459◆2fTKbH9/12:2025/03/27(木) 22:00:51 ID:???0
投下します。

460◆2fTKbH9/12:2025/03/27(木) 22:02:19 ID:???0
「ふあー疲れたどおおん」

アプリを閲覧しながら野獣先輩は寝転がっていた。
何故、彼は雪がある中でこういう姿勢を取ったのか、時は遡る。


彼はD-6にて狐島での大乱戦を得て、何とか離脱出来た後、ワープした場所は正面を除いて辺りが真っ白な景色に覆われている。
その正面も水面に写る綺麗な湖が目印だ。
地図を確認するとB-3という雪原で遠い地点に飛ばされたようだ。
正直、こんな寒い場所はお断りだが、戦況が劣勢に傾けられた事情から強引に撤退するしか道はなく、文句も言えない。
戦闘ばかりでそろそろ休息が必要なのも、いいタイミングでもある。
湖も最適で悪くはないし、人が寄ってこない場所は好都合。
それにいい加減にある道具の試運転もしなければいけない。
此の道具を使いこなすには、丁度いい場所である。

そろそろあの道具の効果が本物か試さなくてはならなくなる。
宝の持ち腐れにして、此のままにしておくのは勿体ない。

其の道具の名はデュエルディスクで所持するデッキはマジェスペクター。
元は御伽に支給されたデッキ。
だが、本人のデッキでないが故に御伽が知らない要素と単語が多すぎたのだ。
時間がないのもあって、手に余っていたのが真相。
野獣先輩はこの事実を知る由もないが。

「手数を増やすからね。しょうがないね」

デュエルのルールや活用する方法を覚えていくのは率直に言ってしんどい。
説明書とアプリでルールブックも拝見して見たが、素人が理解するには複雑な構成だ。
繁雑すぎて、今の今まで後回しにしていた。
此れまでは真正面や漁夫の利で戦闘を行って来た。
しかし、一時的にブレイバックルを奪われて、日本刀が折れる事態が起きてしまい、最強クラスのフォームチェンジのはずのキングフォームでも誰一人殺せなかった。
止めを刺すかのように狐島で初めてカードを使用する者との戦闘で決定的になった転機が訪れる。
カードの力で翻弄された挙句、答えられない質問に対処出来ず馬鹿にされた気分。
屈辱を晴らすべく遂にデュエルの使用に舵を切ったのだ。
複雑な手札でも、使いこなせば有能な武器に変わる。
デュエルは黎斗が余程、推しているので、優勝する道のりの鍵になり得るかもしれないからだ。
脳筋なやり口ではまた同じ失敗を繰り返すだけ。
少しばかりデュエルで頭を使った作戦を練ろう。

早速、先ずはデュエルのルールと基礎的なやり方を自分のものにしようとする。
デイパックからアプリと長らく放置したデュエルディスク&デッキを取り出す。
おまけでOCGのルールブック、ペンデュラム召喚&ペンデュラムゾーンの専用説明書、このデッキ専用の説明書、エクストラモンスターゾーンの資料がセット付きもあった。
アプリにもルールブック等が記されているが、セットで配布していない物もあると知った。
言ってみれば四つの資料を見なくても全部アプリの方が手っ取り早い。

改めて、自分が所持するデッキはマジェスペクターらしい。
ペンデュラムが何やかんやで素人の野獣先輩はさっぱり理解できない。
面倒臭いが一から知識を深めないと話にならない。

「やるんだ?(やりますやります)ふーん...」

461◆2fTKbH9/12:2025/03/27(木) 22:03:42 ID:???0
先ずは、初級レベルでデュエルの基礎知識を理解しておく。
アプリを起動し、最初になくてはならない三つのカードの種類の理解は必須。
野獣先輩はモンスターカード、魔法カード、罠(トラップ)カードの其々の役割があるのを知る。
前者は通常モンスターと効果モンスターの違いは効果を持つのと持たないのに分かれているそうだ。
後者二つの魔法と罠は使い方が異なり、本人のプレイング次第で戦略を大きく左右するので、注意するべし。

次にデュエルフィールドに関して。
旧型と新型があるらしいが、アプリの最後尾の資料によるとペンリュダム召喚とリンク召喚するデッキに一枚以上所有する人は救済処置として、新型のデュエルフィールドで戦闘が可能になるらしい。
そうでない者は旧型のフィールドのままらしい。
旧型と新型のフィールドが両方ある矛盾に野獣先輩は困惑するが、一々考えてもキリがないからだ。
マジェスペクターがある限り、後者さえ覚えておけば言う事ないだろう。

さて、此処からが本題。
其々決められた位置に置かないといけない大事な要素だから。
メインモンスターゾーンと魔法&罠ゾーンは基本中の基本だ。
前者は出せるモンスターの数と後者は魔法と罠カードを置ける数が五枚までと限られている。
マジェスペクターの使用に重要なペンデュラムゾーンの詳細はかなり後だ。
墓地は倒されたモンスターと使い切った魔法と罠を置かれ、デッキゾーンは自分のメインデッキを置き、其処から引いて自身の手札に加える。
フィールドゾーンはフィールド魔法と言うカードを置くのを許されている場所。
その代わりに魔法&罠ゾーンへの設置は不可らしい。

肝心なモンスターカードの召喚はいくつか種類がある。
通常召喚、セット、反転召喚、特殊召喚とただ単純に出せばいい話ではなかった。
野獣先輩はこれ等を覚えるのに苦戦してしまった。
特に特殊召喚はこのデッキに取っては欠かすことが出来ないからだ。

其のメインデッキの組まれる枚数は四十〜六十枚、因みにエクストラデッキは十五枚が規定を定めている。
エクストラデッキの詳細はペンデュラムゾーン同様に以下同文とする。

「じゃけん次のステップに行きましょうね」

今まではデュエルに大事な基本的な要素は修得した。
次の段階からはより複雑に覚える事が沢山あるだろう。
面倒だが、腹は括った。

続いて、モンスター効果の知識の習得に取り掛かるも素人には少し手こずらせた。
何せ起動効果、永続効果、誘発効果、誘発即時効果(効果モンスター)、そして、四つの種類に分類しない効果と実質五つも学習せねばならないのだ。
四つの効果が其々異なり、メインモンスターゾーンにある限り継続し、効果が自分のメインフェイズに発動したり、カードの召喚に成功したら発動出来るし、更に相手のターンでも任意に発動が可能など色々な種類があり、しっかりと頭に中に記憶する。
四つの種類にない特別な効果のモンスターは何通りも分類するらしい。
マジェスペクターにも特別な効果のモンスターが存在するかもしれない。
あるのなら、後で回し方を習得しつつ確認する。

「いきますよ〜、いきますよ〜イクイク」

其の次はマジェスペクターの主役と言っていいペンデュラム関連。
デッキの中心であるペンデュラムモンスターを出すにはペンデュラム召喚が必要だ。
ペンデュラム召喚を行うには魔法&罠ゾーンに一番左右の両端にペンデュラムゾーンが存在し、其々一枚ずつ配置する。
ペンデュラムモンスターは魔法カードとして置くことが出来るのだ。
発動条件を満たすには、ペンデュラムスケールと言い、書かれている数字次第でより強いモンスターの召喚が不可能ではない。
1ターンに一度だけは玉に瑕だが、その分、大量のモンスターの召喚が可能なのだ。
おまけにペンデュラム効果或いはスケールとしての使用も出来る。

462◆2fTKbH9/12:2025/03/27(木) 22:04:44 ID:???0
「何であんなんきついんすかね〜も〜」

ただし、ペンデュダムの情報量の多さと複雑に入り組んでちんぷんかんぷんになりかける。
此のデッキのメインはペンデュラムだというのに最大の難関になってしまった。
悪戦苦闘するも何とか覚え切ったのだ。

気を直して、次にエクストラ関連の事だ。
マジェスペクターの真価を発揮するらしい必要不可欠な要素。
先ず、エクストラデッキとはメインデッキとは別の特殊な方法で召喚して、枚数上限は上記の通り。
様々な種類の召喚方法があり、融合、シンクロ、エクシーズ、リンクといった色々なモンスターの存在に野獣先輩は頭を悩ませかけるも此のデッキは最低限後者二つさえ、覚えればそれでいい。
前者二つはどうでもいいだろう。

余談であるが、野獣先輩に取っては初めて戦ったカード使いの遊星こそがシンクロ召喚の使用者。
ところが野獣先輩はそこまで意識を向ける余裕はなかったが故に見落としてしまった。
きちんと聞き取っていたら、念入りに覚えていただろう。

其の前に後回しにしたエクストラデッキゾーンに関してだ。
メインのモンスターとは別にエクストラデッキを置く場所として決められている。
其れにペンデュラムモンスターは破壊しても墓地に送られずにエクストラデッキゾーンに表に置かれるらしい。
しかし、まだ残っているペンデュラムの複雑さに頭を抱えたくなった。

比較的に知識も吸収し易いエクシーズから。
エクシーズモンスターはカードが黒色で、一部を除くモンスターのカードテキストにレベルを表しているが、エクシーズの場合は代わりにランクを示してある。
此の召喚方法は同じレベルのメインモンスターを最低二体の素材が必要になる。
メインモンスターゾーンに揃ったら、宣言を忘れずに重ねる。
条件によっては三体以上の場合も追記しておく。
野獣先輩でも割とまだ理解し易い。

次は複雑だろうリンク。
リンクモンスターはペンデュラム程でないにしろ、大概だ。
その上、エクストラモンスターゾーンでリンク召喚が必須条件になる。

エクストラモンスターゾーンとは、エクストラカードを特殊な方法で召喚可能な時に置くことを許された場所。
ただし、両方の配置は禁じられていて、片方のみである。
でも、エクシーズは設置しなくても問題ないが、ペンデュラム、リンクは別になる。
実はペンデュラムもある二点だけはエクストラモンスターゾーンに置く制約があるらしい。
便利な反面、ペンデュラムのややこしさに野獣先輩はまたしても頭を抱えた。

話を戻して、本題のリンク召喚に入ろう。
リンクモンスターはレベルや守備力は疎か、エクシーズのみ存在するランクも持たない。
召喚方法はエクシーズ同様にモンスターの素材を条件次第で何体か提示する。
リンクとの相異な点はテキストにLINKいうリンクマーカーの数値に合わせて素材のモンスターの数での召喚が可能。
また、リンクモンスターを素材にする事も不可能ではない。
当然、テキストの無視と見誤りはプレイングミスと捉えるので注意する。

リンクは面白い要素が詰まっているが、少々複雑だった。
ペンリュラムよりはマシなのは事実。
エクストラモンスターの必要な知識を頭に叩き込んだ。

最後にチェーンとスペルスピートに際して。
チェーンはカードの発動や効果に合わせて別のカードを発動させる行為で、スペルスピードはカードの効果や発動にはスピードが設けられているらしい。
チェーンには発動する順序があり、其の順番ごとに積み重ねるのだ。
その為には、上記にスピードが設定されて、スペルスピードには1〜3まであり、規定に則って対応できるカード以上のスピードがないと如何しようもない。
テキストをきちんと見分ければ戦況を自分の方へと傾けられるのだ。
見落としてしまったら、折角の好機を不意になりかねない。
大事な時にプレイングミスをしてしまわないよう留意する。

463◆2fTKbH9/12:2025/03/27(木) 22:06:02 ID:???0
「大丈夫でしょ」

いよいよ、応用の時間がやって来た。
アプリでマジェスペクターの回し方を身につける。
最初にデュエルの知識を頭に叩き込まないとデッキの力が発揮しないからだ。
故に説明書を確認した際は、意味不明でしかなかった。
素人の野獣先輩でも、マジェスペクターは有力なデッキと今では分かる。
ペンデュラムの重要な要素を手こずりながらも諦めずに無理矢理でも頭に入れる事が出来た。

マジェスペクター。
日本及び東洋の妖怪と幻獣をテーマとしたデッキ。
いずれも全て動物型をモデルとしている。
属するモンスターは魔法使い族、風属性のペンデュラムモンスターで統一されている。
御伽はペンデュラムの知識量の多さとエクシーズ、リンクを含む三種のモンスターの召喚方法を本人は覚えるのもきつく、扱い切れずに拳銃で戦う羽目になってしまった最大の原因。

今はマジェスペクターのデッキを最低でも八割くらいは引き出せるようにしたい。
デッキの試運転用のアプリを開き、デュエルの模擬実習を始めた。
デュエルの知識を蓄えても実習形式とは言え、当初こそ慣れない部分も少なくない。
散々苦戦したペンデュラムは時間を掛けてまでコツを掴んでマスターした。
他は複雑でも慣れたら其処までではなかったのだ。
立ち回りや回し方は無事修得した。
此れでスキルを学ぶ試運転を終了する。


「ふあー疲れたどおおん」

現在に至るのだった。
真剣にデュエルの座学と模擬実習を成し遂げた野獣先輩は大の字になる。
地面が雪で覆われて、背中が冷たい感触がしたので起き上がる。
従って、彼はある意味お疲れであるのだ。

「朝腹減んないすか?」

あれだけ集中していたので、お腹が空いたサインに気付かなかった。
朝食を取るのも丁度いい時間帯だ。
終始頭を使った。なので、今は糖分を摂取したい。

「もっと美味しそうに食べるよ」

デイパックの中から現したのは、一枚の白い丸い皿に収めている大量のドーナツ。
ザっと見て、二十五個くらいだろう。
野獣先輩は一つを手に取り、食す。
見た目は何処にでもあるピンク色のドーナツで、味も甘く美味しかった。
湖の景色を眺めながらの食事も悪くない。
その後も十二個程頬張り、残りの半分は取っておく。
流石に食べ過ぎたけど、この後も殺戮しに行き、其のついでに運動エネルギーで燃焼すれば心配ない。

464◆2fTKbH9/12:2025/03/27(木) 22:07:00 ID:???0
食事を終えた野獣先輩はある武器を再度確認するべくデイパックの中身に手を突っ込む。
中身から得物を取り出した。

「お ま た せ」

その正体は青白い透明な刀身と鍔に青い薔薇が特徴的な刀剣。
名は青薔薇の剣。アンダーワールドに存在する高級の名剣。
野獣先輩から見てもあんな折れた日本刀なんかより、此の剣のほうが上位互換だ。
加えて、武装完全支配術と記憶完全術というおまけ付きの能力が備わっている。
日本刀の替えになる剣が改めて早々に発見して良かったと汚い顔を晒す。

同時にデェムシュには迂闊でもこの剣を出さない判断を下して良かった。
青薔薇の剣の価値を知られたら強奪されかねない。
その結果、病院前での戦闘では使用することはなかった。
ブレイドの力がある分、今後は使用する機会があるかは不明でデイパックに仕舞った。

「FOOっ〜↓」

だけど、良い事ばかりは都合良く起きない。
ブレイドをパワーアップするのに必須なラウズアブゾーバーという道具。
当初こそ有頂天になったが、説明書を読んだ途端、時間制限を掛けられていたのを知って、落胆した。
二段階分の強化変身は喜ばしいが、ジャックフォームは十分、キングフォームに至っては僅か五分経過すれば変身が強制解除されるらしい。
はっきり言って、ポセイドンが反則級の強さなら時間制限は不平等だ。
只でさえ、キングフォームを以てしても誰一人殺せなかった。
野獣先輩は不満一杯で仕方なかった。

白いコートの男は疎かあのポセイドンを出し抜く対抗手段は其れしかないし、他に当てがない。
ジャックフォームは使えないまでもないけど、欠点は恐らく、キングフォームより性能は格段に劣る。
勝ち残るには、地道に手数を増やし、頭を使うのも視野に入れている。

「逃げんなよ!ほらほら」

一回目の放送までの行動を思い返してみるとあのメスガキ(ねむ)とはエンカウント率が高すぎた。
一度目は逃走を許してしまい、二度目と三度目は次々と邪魔が入り、何れも決着が長引いている。
四度目の対峙の際は、さしでケリを付ける状況を作れないかと思いつつ、邪魔だてするお約束のワンパターンを都合良くメタれないものか。
だが、黎斗の放送で心当たりが一つある。

『首輪や所持した支給品を引き換えに、アイテムや情報の売買を行うNPCだ』

自称神様はお得すぎる情報を開示した。
つまり、首輪を接触的に集めればお約束のパターンを対処するアイテムの存在を手に入れられるということになる。
ただし、例のNPCは何処にいるか不明なのが残念な点ではある。
ねむとまたかち合いが起きれば決着の時だろう。
五度目の機会を訪れさせたりはしない。向こうも同じ考えのはずだ。

そういえば、ねむは妙な能力を隠していた。
三度の戦闘で見ていたが、本から無数の異形を呼び出している。
彼女はもう一人のメスガキ(みふゆ)と魔法少女?に分類していいだろう。

同時に矛盾が生じる。
そんな力を持っているくせに一、二度の戦闘で使用しなかった?
その答えは思考を巡らせると誰でも導き出す真実。

465◆2fTKbH9/12:2025/03/27(木) 22:08:05 ID:???0
要するにあのメスガキは他者を使い捨てるクズ女と確信する。
一度の戦闘で力を活用せずに最初に殺した男を見捨てたのが確たる証拠。
野獣先輩でも余程の見落としがなければ素人でも簡単に辿り着く。
メスガキは別の能力をひた隠しにした可能性が高いだろう。
直接、決着を叶えるにはこういうことにも警戒を強めるべき。
執着はしない。勝手にくたばれば労力が減ると嬉しいが。

「行きましょうよ」

デュエルのルールやデッキの回し方は確認したし、雪原に何時までも残る気はない。
準備を整い、野獣先輩は立つ。
しかし、何かが近づいて来た。

周囲に総勢二十体程の初級インベスのNPCが現れる。
今か今かと襲いかかろうとする。
対する野獣先輩はニヤニヤと笑っていた。
彼は相手が大量のNPCだろうと関係なく格好の獲物になる。

「いいすかぁ?はぁい」

手に取るのはブレイバックルではない。
代わりにデュエルディスクを腕に装着する。
こんな雑魚退治はブレイドであれば片付けるのも容易い。
だけど、マジェスペクターの力を引き出す絶好のタイミングだ。
デュエルの卒業試験と言う名の命のやり取り。
初級インベスを当て馬にデュエルモンスターズを試す。
野獣先輩はデュエルディスクを起動し、デッキから五枚引き、戦闘を開始する。

「マジェスペクター・ラクーンを通常召喚!マジェスペクター・ラクーンの効果発動!
マジェスペクター・ラクーンの召喚に成功した時、デッキからマジェスペクターモンスターを一枚サーチして手札に加える!」

野獣先輩は狸の容貌をしたマジェスペクター・ラクーンを召喚し、デッキからマジェスペクター・ポーキュパインをサーチする。

「手札からサーチしたマジェスペクター・ポーキュパインを特殊召喚!その瞬間、召喚条件は効果モンスター2体以上!マジェスペクター・ラクーンとマジェスペクター・ポーキュパインの2体をリンクマーカ―にセット!エクストラモンスターゾーンにリンク2 マジェスペクター・オルトをリンク召喚!」

ヤマアラシをモチーフとしたモンスター、マジェスペクター・ボーキュパインを召喚したと同時に二体のモンスターをリンク召喚の素材となる。
オルトのリンクマーカ―が2でオルトの矢印の向きに合っており、ラクーンとボーキュパインが召喚しているので条件を満たす。
代わりに最前線に鵺のようなモンスター、マジェスペクター・オルトがリンク召喚を果たす。

「続いて、エクストラデッキからマジェスペクターモンスター二体を回収して手札に加える!更に回収したスケール2のマジェスペクター・ラクーンとスケール5のマジェスペクター・ポーキュパインをペンデュラムスケールでセッティング!」

条件が揃い、ペンデュラムスケールを発動させる。
だが、まだ準備は終わりではない。

「これによりレベル3と4のモンスターの召喚が可能!マジェスペクター・フォックスとマジェスペクター・クロウをペンデュラム召喚!」

早速、ペンデュラム召喚を発動させて、二体のマジェスペクターモンスターを一気に召喚する。
これで準備は整い、野獣先輩はニヤリと汚い口角を上げた。

466◆2fTKbH9/12:2025/03/27(木) 22:09:20 ID:???0
「マジェスペクター・オルトは7体の雑魚モンスターを攻撃!」

オルトは攻撃を仕掛け、初級インベスを7体蹴散らす。
攻撃力は1500でもNPCを纏めて倒す力はある。

「続いてマジェスペクター・フォックスは同じく8体の雑魚モンスターを攻撃!」

狐みたいな風貌のモンスター、マジェスペクター・フォックスは初級インベスを片付ける。
フォックスは下級モンスターの中でも攻撃力が高い方なのだ。

「最後にマジェスペクター・クロウは5体の雑魚モンスターを攻撃でフィニッシュ!」

三本足の烏、マジェスペクター・クロウが止めとばかりに残りの初級インベスを纏めて葬り、全滅させた。
これにて、卒業試験版デュエルのやり方とマジェスペクターの立ち回りと試運転を終了する。





「ま、多少はね」

実はマジェスペクターモンスターのポーキュパインとフォックス、クロウにはまだまだ戦術がある。
使おうと思えば何時でも出来たが、今回だけはあくまで数の暴力での肩慣らし。
本来のデュエルは魔法カード、罠カードなどを使用し、ちゃんと考えながら勝負を制さなければならない。
先程の幼稚園じみた脳筋なやり口では青い髪のメスガキ(マヤ)のような二の舞の末路を辿るのは御免葬る。
これからはこのデッキの特性を生かしつつ本当のやり方に戻す。

マジェスペクターの強みは『モンスターゾーンに存在する限り、相手の効果対象にならず、相手の効果では破壊されない。』らしい。
相手に取っては初見殺しのデッキで耐性を持ち、対処してもサーチ効果が必ず付く便利なカードだ。
攻守共に安定感があると言える。
通常なら、ペンデュラム召喚したマジェスペクターのポーキュパインとフォックス、クロウは当然、サーチ効果はあるのだが、今回だけNPC相手にマジェスペクターの力試しの確認のみ行っただけで、野獣先輩もこの事は理解している。
ただし、このデッキも無敵ではなく、弱点の存在も把握済みで魔法カード、罠カードで補って行けばいい。

(その為には、また手を組みたいなぁ〜)

病院での戦闘を見ていた限りでは、後衛だとデュエルの真価を問われているように見えた。
勿論、誰とも組まずに使用は可能。
カニ頭との対峙を見たら、前衛の存在が力を何倍も出せるだろう。

再び殺し合いに乗っている参加者と組むのを思考する。
もう二度とデェムシュみたいな暴れ馬に近い者や戦況が悪ければ自分勝手に逃走する者とは組みたくない。
きちんと利害関係を了承した上で、まともな者と同盟を結ぶ。
仲良しこよしする気など毛頭ないが、抵抗する連中が多く、いずれ自分だけでは始末に負えなくなる。
潰し合うのは後回しにすればいいが、自分が見限られる事態に直面しないようにするのも忘れない。

デッキを使用する際は、手を組むのを前提で自分が必ず後衛に回る。
カードを使う者と再び相見えればデュエルはデュエルで対抗する。
いずれにせよ、状況次第で組み込むが、マジェスペクターの力を使用するのは最後の手段も考慮しておく。
後はデッキの力を完全に十割引き出すだけだ。

「そーですね・・・」

467◆2fTKbH9/12:2025/03/27(木) 22:10:15 ID:???0
束の間の休息にデュエルのルールとやり方、このデッキの力も把握した。
準備は万全で、次の行き先を決める。
川を沿って行くのは確定事項だが、どの方向に歩き出そうか?
少し考えて、その川沿いの向きを決定する。



【B-3 湖前/一日目/朝】

【野獣先輩@真夏の夜の淫夢】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)
[装備]:ブレイバックル+ラウズアブゾーバー(キングフォームに2時間変身不可)
[道具]:基本支給品一式×5、デュエルディスク+デッキ(マジェスペクター)@遊戯王OCG、ホームランバット@大乱闘スマッシュブラザーズ、風間大介のギターケース@仮面ライダーカブト、どこでもドア(6時間使用不可)@ドラえもん、まあまあ棒@ドラえもん、青薔薇の剣@ソードアート・オンライン(アニメ版)、ステフの手作りドーナツ×12@ノーゲーム・ノーライフ(アニメ版)
[思考・状況]
基本方針:勝ち残り遠野を生き返らせる。
0:川を沿って、左右どちらに行こうか?
1:殺りますねぇ!(尚も衰えぬ殺意)
2:あのメスガキ(ねむ)はかち合えばもう”五度目”はない。
3:白コートの剣士(鋼牙)や厄介そうな参加者は悪評を流して同士討ちを狙う。
4:仮面ライダーブレイドの名を利用する。
5:デッキの力は状況によるが、同じデッキを持つ奴或いは最後の手段として使う。
6:遠野を殺した奴は許さない。
【備考】
※バトル淫夢みたいな戦闘力があります。
※野獣先輩新説シリーズで対象キャラへの変身や能力・技能の獲得が可能になりますが、新設シリーズを使う度に体力が消費されるようです。
 参戦作品以外のキャラクターの説は使用不可能に制限されています。
 他にも天体説@現実など、殺し合いを破綻させるような説の使用も制限により禁止されています。
※遊戯王OCGのルールとマジェスペクターの回し方を大分把握しました。
更に経験を積めばデッキを十割程、使いこなして、成長するでしょう。



『支給品解説』

【デュエルディスク+デッキ(マジェスペクター)@遊戯王OCG】
元は御伽龍児に支給。
マジェスペクターを中心としたデッキ。
殆どのモンスターがペンデュラムで構成され、魔法使い族・風属性で統一している。
最近、制限解除されたばかりのエースモンスターのマジェスペクター・ユニコーンも付いている。

【ステフの手作りドーナツ@ノーゲーム・ノーライフ(アニメ版)】
元は吉田清子に支給。
ステファニー・ドーラが自作で作ったドーナツ。
見た目はピンク色で味は保証されるくらい美味しい。
25個セットで支給。

【青薔薇の剣@ソードアート・オンライン(アニメ版)】
元は吉田清子に支給。
アンダーワールドに存在する高級の名剣。
元は北の守護竜に認められた者に与えられる専用武器。
本ロワでは魔力がない者でも武装完全支配術と記憶完全術の使用が可能。

468◆2fTKbH9/12:2025/03/27(木) 22:11:23 ID:???0
時刻は第一回放送直後に遡る。
覇王十代との対談を終えた黎斗はその後、ハ・デスに呼ばれたらしい。
ハ・デスによると疑問を残した点があるので二人で話す場を授けて貰っている。

「何の要件かね。私は忙しいから早くしたまえ」

今から参加者の監視或いは様子を見に行こうとする最中にハ・デスに呼び止められたのだ。
一回目の放送後はより一層盛り上がる要素があり、楽しみで仕方ない。
持ち場に行こうという時にハ・デスに呼び出しを受けた。
ハ・デスが疑問をぶつける心当たりは一つしかないと分かっているからだ。

「黎斗様は先程の放送で何故、ペンデュラム召喚とリンク召喚専用のフィールドを公表しなかった?」

本来なら、放送用の本番で書かれた原稿では事実上の第0.5回放送で話していなかった2つの召喚方法を救済するべく、ペンデュラムとリンクの新設フィールドが一回目の放送後には、通達するはずだった。
ところが、黎斗はアドリブを入れて、デュエルの新情報は一切、開示せずに勝手に一回目の放送を終了した。
突然の勝手な行動を起こした事でハ・デスは疑問を抱いた。
ハ・デスはどうしても、腑に落ちなかった。
すると黎斗は口を開く。

「ペンデュラムとリンクのカードを持つ一部の参加者の救済措置として、予定通り、開示しようと思ったのだがな・・・」
「もしかすると気が変わられたのでは?」
「そうだ。急に矛盾が生まれてな。わざわざ一部の者の為だけに伝えるのは不公平だからだ」

現時点で、いくら、ペンデュラムとリンクを大半が知らないとはいえ、一々放送で開示するのは首を傾げる。
最終的に連絡しない事にしたが、代わりに後付けの仕掛けを施した。

「ただし、完全に救済しない訳ではない。ペンデュラムとリンクのカードを一枚以上、デッキに所持する者のみ新型のデュエルフィールドになるが、それ以外は旧型とする」
「それが正しい判断だな」
「一応、アプリに新型のフィールドの仕掛けの資料を載せている。ただし、最後尾にな」
「それでは参加者はアプリを開かないでだろうし。気づかないのでは?」
「そんなの彼らの自己責任と自業自得だ。この程度で気付かなければ神である私に挑む権利すらない!」

黎斗は人知れず設置作業を取り掛かっており、第一回放送前のシステムとは新たに改良したシステムで、新型デュエルフィールドを出す事に成功し、放送後は改良システムに採用となった。
前のシステムでペンデュラムゾーンやエクストラモンスターゾーンを突如、出現する事もない。
余談だが、前の仕掛けと今の仕掛けに関して今はまだ機密事項だ。
もう一度アプリの確認を怠らなければ追加要素を認識するが、放送での情報がなく、ノーヒントであるが故に全て理解した気になっている大半の参加者は確実に落とし穴に嵌るだろう。
おまけにアプリにその事に関する資料も一番ケツの方に載せる意地悪で簡単なからくり。
ハ・デスは腑に落ちたと並行して、黎斗のこの行為に相変わらずの人だと思ったのだった。

(とはいえ、先に把握するのはあの二人だな)

既に別世界の其々の特殊召喚を認識した武藤遊戯と決闘者ではないが、ルールは疎か全ての特殊召喚を把握、熟知した天才ゲーマーの空くらいだろう。
野獣先輩?彼は旧型と新型のデュエルフィールドの資料を拝見しても疑問に思う訳がなく、除外する。
前者は運が良ければこのシステムの資料を発見するかもしれないし、後者はリンクカードを所有しているため、逆に違和感を覚えて、このシステムの資料を必ず見つけ出す。
遊戯と空、それ以外の者でもこれくらい気付けないようでは神に辿り着く資格はない。

「要件がそれだけなら、とっとと君の仕事に戻りたまえ。私は暇ではない」
「そうだな」

話を終えた二人は解散し、各自の持ち場に戻って行った。

【新型のデュエルフィールド(マスタールール11期)について】

※第一回放送後はペンデュラムとリンクのカードを片方だけでも一枚以上、デッキに所持する者は新型デュエルフィールド(マスタールール11期)が出現する。
※ペンデュラムとリンクを一枚もデッキに所持しない者は今まで通り、旧型デュエルフィールド(ZEAELまで)とする。
※第一回放送後には、アプリに追加要素として、上記の資料を載せてあります。
※上記の以上の事は黎斗の独断で全参加者に一切、伝えていません。

469◆2fTKbH9/12:2025/03/27(木) 22:13:08 ID:???0
投下を終了します。
タイトルは教えろ!野獣先輩が学ぶデュエル教室 です。

470融合準備 ◆EPyDv9DKJs:2025/03/28(金) 23:24:17 ID:o/DhURPE0
投下します

471融合準備 ◆EPyDv9DKJs:2025/03/28(金) 23:25:25 ID:o/DhURPE0
 デュエルと称した舞台を駆け抜ける、赤きバイク。
 遊星号と名付けられたDホイールはバイクのように快速に進む。
 殺し合いの場で安全運転を心がけると言うのも変な話ではあるが、
 仮にもDホイールと言う未知なる存在を運転しているわけでもあり、
 本来ならばもっと速度を出してもいいところではあるが多少緩やかに走らせていた。
 もっとも、快速に走らせたとしても飛電或人個人を探し続けてるのだから、
 人を探すのにスピードを出しては探せない可能性もあるので当然なのだが。

「だーくそ!! 見つかんねえ!」

 走りながら頭を掻きむしろうとするが、
 ヘルメットが邪魔をしてそれに至らない。
 分かってはいた。或人ともDIOともあれから時間が経ってたし、
 何処へ行ったかもわからない。しかもこちらはDホイール、向こうは仮面ライダーの足。
 移動ルートが必ずしも同じとは限らないし、岩山を飛んで行った可能性だってあるのだ。
 道なりに進まざるを得ないDホイールで人を探すと言うのは、どうしても難しくなってしまう。

「けどどっちか見つけねえとやべえ……」

 或人もだが、DIOもただものではない。
 時を止める力。カイトからその情報は伝わっている。
 脳みそが筋肉でできてるようなバカの万丈でも意味は理解できる。
 要するにこっちに一切認識されることなく、一方的に攻撃されると言うことだ。
 ボクシングで言えば自分が問答無用でサンドバッグ確定と考えればわかりやすい。
 普通に無茶苦茶な能力だ。しかもそれを、檀黎斗も持ち合わせているという状況だ。
 或人は危険、DIOは面倒、檀黎斗はそれ以上に厄介と問題が山積みである。

「ま、考えるのは俺よりアイツだがな。」

 勝利の方程式を決めるのはいつも戦兎の役割だ。
 自分は愚直に、その力で誰かを助けていけば戦兎の力になれる。
 だから見捨てない。嘗ての自分のように重なる彼を、絶対に。
 しかし時間は待たない。当然、あの男も待つ気などどこにも。

『御機嫌ようプレイヤー諸君。まずはおめでとうと言わせてもらおう。』

 憎たらしく、賞賛と言うよりは嘲笑の入り混じった声。
 流石に聞きながら運転をしてやらかしました、では笑えない。
 放送の隙をついて参加者を狙う人物やNPCにも警戒しつつ、放送を聞き届ける。
 淡々と、何処で死んだかもわからないような人物を次々と羅列していき、やがて放送は終わっていく。
 十秒ほどだろうか。警戒こそしているが、何もせずに無為に時間を過ごしているのは。
 それをやめたのは、Dホイールに再び乗り始めるところから始まった。

「……実感、湧かねえもんだな。」

 宝条永夢に猿渡一海。
 後は遊馬と言った、カイト達からのまた聞きの仲間達。
 また聞きなので、やはり印象的になるのはその二人になるだろう。
 どちらも立派な仮面ライダーだ。此処で支給されたかどうかは定かではないが、
 こんなふざけた殺し合いに抗おうとする、強い意志は間違いなくあったはずだ。
 けれど、それでも死ぬ。特に一海の場合は二度目だ。しかも、同じように又聞きの形で。
 その目で見ることなく、ただ告げられる形で消える。今度はふざけた大馬鹿野郎の存在により。
 だから美空から告げられた時のように叫ぶことはせず、どこか実感が沸かなかった。
 ただ心では分かっている。放送が真実でなければ殺し合いが成り立たないのだから。
 思うところがないわけではないが、すぐにDホイールを走らせ、或人の捜索を優先する。
 最初の時もそうだ。あの後エボルトがやってきての実質的なクライマックスの突入だ。
 悲しみにくれている暇などどこにもなかった。此処でも同じだ。この一分一秒の間に、
 あいつが共に戦った仲間や守ろうとしたものが失われようとしているのかもしれない。
 この件に一海は関係ないが、或人も何とかしたい相手の一人だ。
 猶更暮れているわけにはいかず、遊星号を走らせて突き進む。
 ……のだが。

「うおおおおお!?」

 車道に突如現れるのはブラックホールのような球体。
 彼からすれば嫌でも思い出させる。エボルトのブラックホールだ。
 咄嗟にハンドルを切って直撃は回避したものの、流石に無理な曲がり方にDホイールが点灯する。
 派手にとまではいかずとも、Dホイールから転倒して数度アスファルトの上を転がっていく。
 速度はDホイール故の警戒とヘルメットも相まって大した怪我には至ってはいない。
 しかし即座に起き上がり変身の準備は怠らない。相手はエボルトならばこれぐらいは当然。
 そう思っていたのだが、

472融合準備 ◆EPyDv9DKJs:2025/03/28(金) 23:26:06 ID:o/DhURPE0
「イタタタ……此処何処よ!?」

 ブラックホールはブラックホールでも、
 野獣先輩のブラック・ホールに巻き添えにされたキャルであった。
 クッソ汚いホモ……なんて表現の仕方は当然キャルが思うはずもないので、
 薄汚れた茶色のおっさんに色々面倒なことをさせられて怒り心頭と言った状態だ。
 あの状況だ。誰がどうなったかなんてものは分からないし、
 場所を見るに南東よりだ。いくら怪獣に変身したところで、
 こうして自分がどこかへ飛ばされた以上、他の仲間も飛ばされただろう。
 運良く残っていたとしてももう病院にいる理由がないので移動も始めてる。
 要するに、行くだけ無駄な状況と言うことになってしまっている。

「と言うか何なのよ!? いきなり竜になったり、
 ブラックホール作ったり! 七冠以上に無法じゃない!!」

 わけがわからない。
 あの男は一体何なのだ。
 神が面白半分で作り上げたミームの化身など、
 誰がどうやったって理解できるはずがないので普通の反応である。

「……ってあんた大丈夫!?」

 そしてようやく万丈の姿に気づき、
 転倒してるDホイールも相まって状況を察する。

「いやお前が出てきたからこけたんだけどな!?
 交通事故とか俺に冤罪増やすのマジでやめろよ!?」

 冤罪で刑務所に入れられた見だ。
 こんなところでも誤って人を轢く、
 なんて洒落にならないことはしたくない。
 まあ、幸いなことにお互い大事にはならなかったのだが。

「ってか、ひょっとしてだけどゲントクが言ってたバンジョウ?」

「! 誰かに会ったのか!?」

 本戦が始まって間もないころ。
 怪獣となって暴れていた時にみふゆと出会い、
 それと一海とも交流があったらしい承太郎達との情報を交換する。
 或人一人に執着して竜郷どうしても情報が乏しくなっていたところだったが、
 ここにきてどっと押し寄せてくる情報は朗報、

「悪い、頭整理させてくれ。」

 なわけがなかった。
 万丈はお世辞にも頭がいいとは言えない。
 だから鬼だ魔法少女だデュエリストだの謎の男だの、
 情報過多になれば当然この男ではパンクを起こすに決まっている。

「……でもまあ、あいつらしいか。」

 一海の最期。
 承太郎からの又聞きの、キャルからの又聞き。
 だから具体的な情報が与えられているわけではないものの、
 あいつらしく真っすぐに戦って散っていったのは、納得がいった。
 それでも、できることなら会いたかったと言うのが本音ではあるが。

「このDホイールの持ち主もいたのか……合流できりゃよかったんだがな。」

 別の乗り物で代用してはいるようだが、
 やはり馴染んだ乗り物の方が快適に乗れるだろう。
 そういう意味でも合流を果たしたかったが今となっては栓なきこと。
 今から病院に向かっても、もういないと見た方がいいのだろうと。

「で、此処どの辺?」

「地図的にみりゃ多分G-7だ。」

「幸か不幸か、近づいたってわけね……」

 メダルガッシャーの場所はG-6。
 隣のエリアにいけば当初の目的地に辿り着ける。

「あたしG-6の研究所に行かなきゃなんないけど、そっちはどうするわけ?」

「ゲ、逆走か……けどあいつがいねえとも限らねえし、行ってみるのもありか?」

 研究所で有用なものや、
 滅を探すために時間をかけてる可能性もある。
 それならば逆走と言う形になってしまっても探すメリットはあるかもしれない。
 少し苦い顔をしていたものの、キャルを乗せる……とは言うがおぶる状態になり、
 より安全な運転で目的地へと向かう。





「なんつーか、いかにも悪党の秘密基地って感じだな。」

「怪獣のメダルが作れるってこと考えたら、そんなもんじゃないの?」

 薄暗い、緑の光が不気味さを漂わせる地下施設と言ったところだろうか。
 スマッシャーの研究施設とか、そんな風に言われても一切の違和感がない場所だ。

「で、何しにきたんだ?」

「いや話聞いてなかったの? 此処で変身用のメダルを作る為よ。」

473融合準備 ◆EPyDv9DKJs:2025/03/28(金) 23:26:21 ID:o/DhURPE0
 意思疎通はできるのだが、微妙に物覚えが悪い。
 説明したはずよねと逆にキャルが疑問を持ってしまう。
 漫才のようなやりとりを交わしながら歩いていると、見つかるのは一つの釜だ。
 手回しハンドルがついてたり現代よりではあるが、此処が目的地の最終地点だと確信を持つ。

「えーっと材料入れてこのハンドル回すんだったわよね。」

 『本当にこんなんで怪獣になれんのか?』と興味深そうに釜を眺める万丈。
 子供かアンタはと突っ込みたくなるような行動にツッコミを入れる気すら失せながら、
 回収したモンスターの材料を釜へと放り込み、近くにあった液体の便の中身を流し込む。
 丁寧に手順があったので操作に手間取ることはなく、手回しハンドルを回転させると
 カランと、パイプのを伝ってメダルが出てくる。

 何とも奇妙だ。
 ファンタジーの錬金術とかそういう類の行為から、
 出てくるのは現代的なメダルと言うこの謎の光景は。
 物珍しそうにメダルを万丈が拾い上げると、それをキャルが取り上げる。
 後は同じことの繰り返しだ。メダルを生成を間違えないよう丁寧にやっていく。
 結構素材は集めたつもりだったが、サイズが小さすぎたか何かしらの制限か、
 できたメダルは十五枚、組み合わせしだいでもあるが基本は五種類だろう。

「じゃ、試すから……念のため大分離れておきなさいよ。でかいから。」

「でけえのか!」

 念のためそれなりに距離を取りつつ
 最初の時のように変身の準備を行う。

『モモチ・アクセスグラッテド!』

「グリムフュージョン!」

『ギアソルジャー! ワイバーン! ギアボックス!』

 新たなに作ったメダル。
 機械的な兵士や竜、箱をベースとしたモンスターをメダルにセット。

スロットをスライドさせメダルを読み込み、最後に天高く掲げる!

「チェンジ・モンスターフォーム!」

『アンティーク・ギア・メガトン・ゴーレム!!』

「でっけぇ……」

 仮面ライダーは基本的には人とガーディアンと、
 全体的には人か、一回り大きい敵と戦うのが殆どだ。
 ガーディアンが合体させて巨大化したりといったことはあるが、
 生身の人間(ケモ耳はあるが)がいきなり巨大な怪物に変身できる。
 特別驚きはしないものの、すげーと感嘆の声を上げるのは万丈らしくもあった。

「後の奴も試しておこうかしら……」

 いくら新しい力を得ても、
 肝心な時に使い方が分からないでは困る。
 だから他の変身も試しておくことにした。
 因みにギガトン・ゴーレムは外見の巨体さとは裏腹に、
 承太郎のスター・プラチナにも劣らぬ連続攻撃ができた。
 加えて魔法・罠を封じることで安全な攻撃を通せる手段になりうる。

 二体目はキャル以上に獣人になった、獣戦士の剣士。
 月光舞獅子姫。こちらも二回攻撃できるのは魅力的だが、、
 それ以上に強みなのはカードへの耐性、及び戦闘を行えば、
 モンスターを一掃できる。NPCや支給品の一層にもつながる手段

 三体目は人型によった、白を基調としたモンスター。
 E・HERO  Core(エレメンタルヒーロー コア)。
 このカードは全体的に守備向けで、攻撃的なものより悪くはない。

 他の二体も試して、
 ひとまず最低限のことは覚えておく。
 結果としては大正解だ。十分に戦える。
 これでもカイザーインサイトと言った上位に位置する、
 危険人物に対抗できるのかは怪しくあるのが恐ろしいところだが。

「終わったのか?」

「ええ、ひとまずね……って、アンタなんでいるのよ。人探ししてるんでしょうが。」

「いや変身途中に妨害されたらあぶねえだろうが。」

「……それもそっか。そこは礼をいっとかないとね。」

 キャルの変身はメダルを三枚セットする工程だ。
 どうしても変身に長引くし、危険な敵がそれを待つ暇を与えないだろう。
 転がりながら変身、も最悪メダルを落としてしまう可能性もあるので納得だった。

「でもまあ、大丈夫なら俺は行くぜ。
 或人にあったら、無理は言わないが止めてくれると助かる。」

「ええ、分かったわ。」

 移動手段は怪獣やモンスターになれる。
 それならば、移動は困らないだろう。
 研究所から出てDホイールに跨ると、快速で走りだす。
 キャルもCoreへと変身して、警戒に壁を上っていく。

【G-5/一日目/午前】

474融合準備 ◆EPyDv9DKJs:2025/03/28(金) 23:26:41 ID:o/DhURPE0
【万丈龍我@仮面ライダービルド】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、運転中
[装備]:龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎、遊星のDホイール@遊戯王5D's
[道具]:基本支給品一式、フルボトルバスター@仮面ライダービルド、クローズドラゴン@仮面ライダービルド、火炎剣烈火&聖剣ソードライバー@仮面ライダーセイバー、ガトリングフルボトル@仮面ライダービルド
[思考・状況]
基本方針:主催の奴ら全員倒して殺し合いを潰す。
1:或人を追い掛ける。急いで見付けねえとヤバいだろ
2:遊戯って奴が心配。
3:檀黎斗はもう絶対に許さねぇ
4:戦兎ならクレヨンの腕も直せる筈だ
5:戦兎、玄さん、絶対生きてろよ
6:エボルト、滅、DIOを警戒、特にエボルトは一度共闘したからって信用出来るわけねぇ
7:爆発頭野郎(パラダイスキング)は次に会ったら絶対に倒す。
8:他にも仮面ライダーがいるのか知りてぇな
9:俺のフルボトル(ドラゴンフルボトル)はどこいったんだ?出来たら知りてぇな
[備考]
※参戦時期は『ビルド NEW WORLD 仮面ライダークローズ』以降。
※キャルと情報交換しました。
※万丈がどの方角へ向かったかは後続の書き手に任せます。
 また或人やDIOの正確な位置を把握していない為、同じ方へ向かったとは限りません。

【キャル@プリンセスコネクト!Re:DIVE】
[状態]:疲労(絶大)、ダメージ(中)
[装備]:ウルトラゼットライザー+ウルトラアクセスカード@ウルトラマンZ、怪獣メダル(ゴルザ、メルバ、超コッヴ、ガンQ、レイキュバス)@ウルトラマンZ」、E・HEROCoreに変身中
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1、詳細地図アプリ@ロワオリジナル、ウルトラマンベリアルメダル@ウルトラマンZ、メダル(古代の機械兵士、古代の機械飛竜、古代の機械箱、月光???、月光???、月光???、E・HERO??? E・HERO??? E・HERO??? ???×6)
[思考・状況]
基本方針:クロトや覇瞳皇帝からコッコロたちを守るために更なる力を求める。
0:とにかく移動して皆を探す。
1:メダルは手に入った。あとはやるだけよ。
2:途中誰かに出会ったら、覇瞳皇帝に関して警告し、コロ助への伝言を頼む。
3:エボルト、里見灯花、柊ねむ、カイザーインサイトを警戒。
4:こんな力、強さじゃないってわかってる。けどこれで守れるものがあるなら……。
5:ヤバいってのは十分承知。でもあたしに力を貸しなさい、ベリアル。
6:あの茶色野郎(野獣先輩)ふざけんじゃないわよ、次会ったらタダじゃおかないわ…。
[備考]
※ウルトラゼットライザーは、アクセスカード、
 ファイブキングを構成する怪獣のメダル5枚で一個の支給品扱いです。
※ウルトラアクセスカードは、一番最初に支給された参加者の物のみ支給されています。
※ウルトラゼットライザーは変身の際に、
 インナースペース(安全圏)にいる時間が短くなる様に、
 怪獣の力が本来のスケールで出せない調整されています。
 恐らく、ウルトラマンに変身する際も、同様であると考えられます。
※回収したNPCの残骸の詳細は、後の書き手様にお任せします。
※万丈と情報交換しました。
※キャルの他の変身できるモンスター、怪人が何かは後続の書き手にお任せします

475融合準備 ◆EPyDv9DKJs:2025/03/28(金) 23:27:04 ID:o/DhURPE0
投下終了

476融合準備 ◆EPyDv9DKJs:2025/03/28(金) 23:27:17 ID:o/DhURPE0
です

477融合準備 ◆EPyDv9DKJs:2025/03/28(金) 23:29:10 ID:o/DhURPE0
すいません場所間違えました
【G-6/一日目/午前】

478 ◆7PJBZrstcc:2025/03/29(土) 13:32:19 ID:aeZHeRXk0
投下します

479スタンバイフェイズ ◆7PJBZrstcc:2025/03/29(土) 13:32:46 ID:aeZHeRXk0
『仮面ライダービルドこと桐生戦兎の相棒である俺、エボルトは単独行動から戦兎の元へ戻ろうとしたとき、わるーい魔女に襲われている可憐な少女たちと遭遇した。
 俺は咄嗟にその少女たちを庇って魔女と戦い、華麗に撃破。
 おいおいこれってひょっとしたら、女っ気のない戦兎と違って俺はいわゆるハーレムルートって奴に入ったか?』
『多分ですけどあなたハーレムとか別に欲しくないですよね』
『しかし少女たちに俺は刺激が強かったのか、どうにも避けられているようで。つれないねえ。
 とはいえ仲良しこよしはともかく情報交換くらいはしたいもんだ』
『どう考えてもあなたのムーヴの問題なんですよね……』
『さてどうなる第88話』
『ずっと無視ですか!?  このルビーちゃんを!?』





 戦いは終わった。
 復讐の魔女と希望の魔法少女の戦いは、途中から現れた地球外生命体の手によって終わりを迎えた。
 そこに横たわるは首から上が切り離された魔女の肉体。
 首輪を取るために、エボルトによって斬られたルナの遺体だ。

 エボルト―この場にいるイリヤとチノは未だその名前を知らないが―の振る舞いに文句をつけることはできない。
 ルナ―これまたイリヤ、チノ、エボルトが名前を知ることは永遠にないだろう―は理由がどうであれ殺し合いを是として動き、イリヤ達に殺意と攻撃を向けていた。
 ならばこれも因果。この決闘で氷室幻徳が持つスカルメモリの、本来の所持者の言葉を借りるなら「撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけ」ということだろう。

 だからと言って救いの手を伸ばしてはならないということではない。
 イリヤはルナを、名前も知らない少女を救いたかった。
 されどその望みはもう叶わない。
 それをエボルトのせいだと責めることもできない。
 そうしなければ己の命はもとより、隣にいるチノの命も危うかっただろう。
 イリヤは、救いの手をと叫ぶほど身勝手にはなれなかった。
 
 そして首輪を手に入れる為に首を切り落としたことも、殺し合いの打破を考えるなら仕方のないことだ。
 文句をつけるのは、少々無作法というものだろう。

「……」

 それらを差し引いてなおイリヤは、いや彼女のみならずチノもルビーも、目の前の地球外生命体に対し警戒心を解けなかった。

『オイオイ。いくらなんでもそりゃないだろ。俺は命の恩人だぜ?
 どっかのてんっさい物理学者みたいに正義のヒーロー、仮面ライダー扱いしろとは言わねえけど、カワイ子ちゃんにはもうちょっと愛想よく接して欲しいなあ?』

 エボルトはそんな二人の対応に対し軽口を叩くが、当の二人は何も返さない。
 彼の言葉にこちらを安心させようとか、宥めようという意図はないのが伝わってくる。
 彼は言葉とは裏腹に何一つ気にも留めていない。
 あるのはただ、まるでこちらを見定めるかのような不躾な感覚だけだ。
 するとそこに――

「大丈夫か二人とも!?」

 遊戯とロゼが飛び込んできた。
 零という犠牲を出しつつもジャンヌを退けた彼らは、悲しみに暮れる間もなく仲間であるイリヤとチノの援護にやってきたのだ。
 しかし目の前の光景は想像と少々違っていた。

 熾烈な争いが行われた形跡はある。
 しかしそこにいるのは二人の仲間と、得体のしれない人型の怪物としか言いようない何か。
 そして最後に、見覚えのない服を着た、首が切り離された少女の死体。

「どういうこと……?」

 情景だけでは今一つ把握できない現状に、思わず戸惑いの声を漏らすロゼ。
 それに答えたのはルビーだった。

『平たく言うなら、こちらで亡くなっている方が最初にイリヤさん達を襲ってきて、それをそこの得体のしれない地球外生命体に助けられた、という感じですね』
『そう思ってるならもっと感謝してもバチはあたらねえぜ?』

 ルビーの棘のある物言いに軽く苦言を呈すエボルト。
 本来ならエボルトの言い分の方が通りそうだが、誰も反論をしない。
 しかしいつまでも無言でいる訳にも行かず、代表して遊戯が口を開く。

「仲間を助けてくれたこと、一応礼は言っておくぜ!
 だから忠告だ。そのあからさまに人を自分に都合がいいかどうかでしか判断してない態度をやめないと、痛い目を見ることになるぜ!!」
『はいはい。忠告どうも。武藤遊戯くん』

 名乗っていない自分の名前を呼ばれ、一瞬虚を突かれる遊戯。
 しかし最初の場で自分の名前が呼ばれているのは、おそらくほぼすべての参加者が見ているはず。
 それと名簿を合わせれば名前を特定するくらいは難しくない、と遊戯は結論を出す。

 一方、遊戯の忠告を軽くいなしたエボルトは、諦めたように息を吐く。
 そもそもエボルトは遊戯の言う『痛い目』を、既に一度見ている。
 しかしなお変わらずこうなのだから、彼は微塵も変わるつもりはない。
 それをいっそ言ってやろうかと考えた所で――

480スタンバイフェイズ ◆7PJBZrstcc:2025/03/29(土) 13:33:06 ID:aeZHeRXk0

『御機嫌ようプレイヤー諸君。まずはおめでとうと言わせてもらおう』

 その前に、檀黎斗の放送が空気を裂く。
 ここから始まるのは神を語る男の、無慈悲かつ苛立ちを感じさせる情報の羅列。
 聞くに堪えない嘲笑が誰の耳にも聞こえるが、誰もが聞き逃すことを許さない。

『続いては君達が最も気になるだろう情報…そう、脱落者達の発表だァ!』

 禁止エリアの発表もそこそこに、腹立たしくも正しい分析をする檀黎斗の発表を、エボルトすら黙って聞いていた。

『御伽龍児』
『城之内克也』
「……っ!!」

 遊戯が反応したのはこの二人。
 最初こそいがみ合ったものの中を深めた御伽と、決闘者として、友として絆を深めた城之内の死に、遊戯は思わず動揺を隠せない。

『猿渡一海』
「おっ」

 エボルトは己が知る仮面ライダーの死に反応するも、何を思っているのかは外から読み取れない。
 ただ強いていうなら、面倒そうな顔を浮かべたようにその場にいた面々には見えた。

『白鳥司』
『涼邑零』
「「「「……」」」」

 仲間である二人の名前が聞こえ、遊戯、イリヤ、チノ、ロゼの四人は神妙な顔を見せる。
 遊戯とロゼは司が、イリヤとチノは零がなぜこの場に顔を見せていなかったのか、薄々察していたとはいえここで確定してしまうのは、やはり辛い。

『天々座理世』
「リゼさん……」

 そしてチノは追い打ちの様に、ラビットハウスで共に過ごした友人ともう会えないことを知った。

『以上30名。ン素晴らしいッ!!君達は私の予想を超えて、実にゲームを盛り上げてくれたッ!』
「何で、そんなこと言えるの……!!」

 檀黎斗のプレイヤーに対する言動について、命をなんだと思っているのかとイリヤは怒りを燃やす。
 この世の全てが自分のゲームの為にあるとでも思っているのか。
 そんなことを本気で考えているから、こんなことが出来て、そんなことが言えるのか。
 しかし放送は彼女の怒りなど聞き届ける筈もなく、無慈悲に続く。

『優勝者への褒美を、死をも覆す権利を、ゲームマスターにして神の私が約束しよう』
「随分豪華賞品じゃねえか。どっから調達してきたんだか」

 エボルトは檀黎斗の語る内容に思わず零す。
 死者の蘇生などそう簡単なものではない。なにせ自身の蘇生ですら不完全もいい所なのだから。
 それも万丈に自分の遺伝子があるからであり、他者となればするしないは別として、できるかどうか不明である。
 にも拘わらず檀黎斗はすると宣言している。
 本当である保証はどこにもないが、仮に本当ならどうやって実現するのか疑問は尽きない。

 なので、その答えに辿り着くべく少しでも情報が欲しいので、エボルトは目の前の集団から情報を引き出したいのだが――

(無理だなこりゃ)

 エボルトは、それを無理と考えた。
 理由は、さっきの放送にある。
 放送で呼ばれた人数は40人。参加者が112人なので実に三分の一近く。
 それだけいれば、知人の一人や二人呼ばれていても不思議ではない。
 事実、この場で元の世界の知人が呼ばれているのはエボルト含めて三人いる。
 そしてエボルトはともかく、残りの二人はその事実に動揺する類のお人よしだ。

 その二人が落ち着くまで宥めるなり待つなりして話をするという手もあるが、そこまで待つ気にはなれないし、戦兎の印象が待たせ杉で最悪になる。
 元々最悪ではあるが、行動を縛り無駄にとどめるせいで決定的な仲たがいをするのはエボルトとしても不本意だ。
 ここは首輪一つにラストパンドラパネルブラックと六つのブラックロストフルボトルを戦果として一度撤退し、情報交換は後に回すとしよう。

481スタンバイフェイズ ◆7PJBZrstcc:2025/03/29(土) 13:33:29 ID:aeZHeRXk0

『んじゃ、俺帰るわ』
「えっ?」
『おや、あなたはイリヤさんを何やら舐めるように見つめていたと思ったのですが』
『俺にそんな趣味ねえよ』
『えっ……じゃあまさか、私を?』
『構造的な意味なら興味はあるなあ。解剖していいか?』
『ダメに決まってるでしょう! ルビーちゃんはお触りNGです! 握手会出禁にしますよ!!』
『手どこだよ』

 ルビーの軽口をエボルトは切って捨て、疑問符を浮かべたイリヤに対し軽く意図を説明し始める。

『本音としちゃ情報交換したいんだが、今のお前らには少々時間が必要そうだからな。
 俺はオーエド町に戻るから後でもう一度会おうぜ。
 いや、時間がかかるようならこっちに来てくれてもいいぜ。首輪解除の当てもあるしな』

 そう言ってエボルトは地図を広げ、ある場所を指差す。
 そこはやちよと合流を約束した場所である。
 エボルトはどちらの場所を教えるか考え、結局両方教えるのだった。
 首輪解除のあてがあると聞けば無視はできないだろうし、また会えるのなら今はそれでいい。

「……驚いた」
『何がだよ、剣持った嬢ちゃん』

 するとロゼが言葉を零す。
 それは本当に思わず出てきた言葉だったが、彼女は構わず続けた。

「あなた、気遣いとかできるんだ」
『心外だねえ』

 ロゼの言葉にエボルトは肩をすくめるも、即座に背を向けてこの場を去っていこうとする。
 しかし、すぐに足を止めると彼はこういった。

『おっと、名前を言っていなかったな。
 俺の名前はエボルトって言うんだ。よろしくな。
 せっかくだしお前らの名前も教えてくれよ。あ、武藤遊戯くんは別にいいぜ』

 エボルトの唐突な自己紹介と、名乗りの要求に少し戸惑う一同。
 しかし要求に従わず黙っているのにも危険があるように感じたので、遊戯以外は結局名乗ることにした。

「イリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」
「私はロゼ」
「香風、智乃です……」
『オッケー覚えたぜ。
 じゃ、また会おうぜ武藤遊戯と嬢ちゃんたち。チャオ♪』

 それだけ言ってエボルトは今度こそ去っていく。
 その姿に、その場にいる誰も声を掛けることはなかった。


【D-3/一日目/朝】

【エボルト@仮面ライダービルド】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、ブラッドスタークに変身中
[装備]:トランスチームガン(ワープ機能6時間使用不可)+ブラックコブラロストフルボトル@仮面ライダービルド、ラストパンドラパネルブラック+ブラックロストフルボトル×6@仮面ライダービルド、パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト
[道具]:基本支給品一式、じわじわキノコカン@スーパーペーパーマリオ、ブレイクスルー・スキル@遊戯王OCG((1)の効果6時間使用不可能)、ルナの首輪
[思考・状況]
基本方針:生存優先。あわよくば未知の技術や檀黎斗の持つ力を手に入れる。
1:戦兎達の元へ戻る。ここでこいつらから情報聞き出してたら、いくらなんでも時間をかけすぎでキレられそうだ。
2:戦兎と共闘しつつどこまで足掻くのか楽しむ。仲良くやろうぜ?
3:エボルドライバーを取り戻す。元は内海の?知らねぇなァ。
4:ロストボトルを回収しパンドラパネルを完成させる。手間を掛けさせないで欲しいんだがな。
4:正攻法じゃあ檀黎斗を倒すのは難しいか。
5:カイザーインサイトを利用。2回目の放送後に桜ノ館中学校で合流。戦兎には何て言おうかねぇ。
6:やちよの声はどうにも苦手。まぁ次に会えたら仲良くしてやるさ。
7:また会おうぜ、武藤遊戯に嬢ちゃんたち。
8:猿渡死んじまったか。戦兎の奴どうなるかな。
[備考]
※参戦時期は『ビルド NEW WORLD 仮面ライダークローズ』で地球を去った後。
※環いろはの姿を写真で確認した為、いろはに擬態可能となりました。
※トランスチームガンのワープ機能は一度の使用後、6時間経過しなければ再使用不可能になっています。

482スタンバイフェイズ ◆7PJBZrstcc:2025/03/29(土) 13:34:01 ID:aeZHeRXk0





『エボルトさん、アバンであらすじしてた割にあっさりいなくなりましたね』
「ルビーは何の話をしてるの……?」

 エボルトとの邂逅を終えた遊戯達は、一度エーデルフェルト亭のまだ壊れていない部分に移動した。
 心の整理をするにしても、外に居たままではNPCしかり他の参加者に襲われる可能性が高くなる。
 なのでとりあえず適当な一室に移動し、たどり着いて最初の発言がルビーのとぼけた言動とイリヤのツッコミだった。
 しかし内容に反して二人の声色に元気はない。
 当座の脅威が消えて、この場にいる一同が感じるのは仲間、友人を失った悲しみ。
 もし幸いなことがあるとしたら、今この場であるD-3を禁止エリアに選ばれなかったので、そそくさと移動する必要がないことくらいだろうか。

「なんで……」

 静寂が漂うエーデルフェルト邸にて、チノのささやくような声が響く。
 マヤの死を見た時に流れた、一度拭われた涙がもう一度溢れる。
 その涙と共に堰を切って溢れるのは、血を吐くような叫びだった。

「なんで私達がこんな目に遭わなきゃいけないんですか……!
 マヤさんが、リゼさんが、零さんが、司さんが……何か悪いことをしたんですか……!!
 私達が一体、あの檀黎斗って人に何をしたっていうんですか……!!」
「チノ……」

 感情のまま泣き叫ぶチノに対し、ロゼは前の放送の時の様にまた抱きしめて頭を撫でる。
 チノの問いに対し答えを出せないロゼができるのは、これくらいしかない。

 答えが出せないのはイリヤも遊戯も同じだ。
 とはいえ、その答えは今ここで出せるものではない。
 ならばやるべきは次どうするかの行動を決めることだろう。
 そう考えたイリヤは遊戯の方を見る。

「すまない皆。少しだけ、俺を一人にしてくれ……」

 だが遊戯の口から出た言葉は、憔悴したものであった。
 しかしそれも無理はないとイリヤはすぐに思い直す。
 何せ、遊戯から聞いていた友達が二人も放送で呼ばれているのだ。
 本当は、チノと同じ様に泣きたくてもおかしくないはずだ。
 なのでイリヤが何かを言おうとするも――

『遊戯さん、行っちゃいましたね』

 それより先に遊戯は部屋を出て行ってしまった。

「待ってよっか。ルビー」
『その間、少し考えることもありますしね』

 こうなればイリヤとルビーにできるのは待つことのみ。
 とはいえ考えるくらいはできるだろうと、二人は思索を始めるのだった。

483スタンバイフェイズ ◆7PJBZrstcc:2025/03/29(土) 13:34:34 ID:aeZHeRXk0





 部屋を出て行った遊戯がいるのは、部屋から少し離れた場所の廊下だ。
 仮に部屋で何か大きな物音がすれば即座に戻れるような位置に彼は立つ。
 そして――

 ガン!

「檀、黎斗……!」

 遊戯は近くの壁を殴りつけた。
 彼が浮かべるものは怒り、憎しみ。
 友の、いや友を含む四十という多数の人間の死をエンターテイメントの様に扱う檀黎斗への、猛烈な怒り。

『もう一人の僕……』

 そんな遊戯を、精神の内側でもう一人の彼、表の遊戯が見つめている。
 表の彼が浮かべるのは悲しみであると同時に、闇遊戯への心配だ。

「分かってるぜ相棒。檀黎斗は許せない。
 だけど憎しみや怒りに囚われたまま進んだりはしないさ」

 そんな表遊戯を安心させるべく、闇の遊戯は声に出す。
 檀黎斗に対して怒りはある。憎くないかと言われれば嘘になる。
 だがそれでは駄目だ。

『憎しみ、怒り、そんなもの束にしたって俺には勝てないぜ!』
『憎しみを重ねてもそれは……脆い!!』
『憎しみと怒り、そんなもので勝利の重圧を受け止められるか!』

 バトルシティ準決勝第二戦においてライバル、海馬瀬人に己が語った言葉が蘇る。

『相棒! 相棒おおおおおおおおお!!』
『速攻魔法発動! バーサーカーソウル!!』
『相棒……! やめてくれ!!』

 憎しみに囚われた結果、どうなったかも己の経験が語っている。

「あの時は相棒や周りのみんながいたから何とかなった。
 だけど同じ間違いを二度も繰り返したりはしないぜ」
『うん! 信じてるよもう一人の僕!!』

 二人の遊戯は対話を経て、決意を新たに固め直す。

(見ていてくれ城之内君、本田君、御伽君。それから牛尾さん。
 俺は真の決闘者として戦い、必ず殺し合いを止めて檀黎斗を倒してみせるぜ!)

 ザッ

「出遅れちまったようだな」
「だけど誰かいるぞ……って、あいつはもしかしたら……」

 するとどこからか聞き覚えのない二人の声が聞こえた。
 二人は警戒することなく遊戯の元へ近づき、声をかける
 声を聴いた遊戯が心持ち警戒するが、次の言葉を聞いて警戒を解く。

「あんたが武藤遊戯か。話は不動遊星から聞いてるぜ」
「遊星くんに会ったのか!?」

 現れた二人のうち、海賊のような服装をした異形の右腕を持つ男、蛇王院空也の言葉は、遊戯から警戒を消すに足るものだった。
 空也はそんな遊戯に対し話を続ける。

484スタンバイフェイズ ◆7PJBZrstcc:2025/03/29(土) 13:35:03 ID:aeZHeRXk0

「ま、今は別行動中だがな。とはいえ随分あんたを買ってたのは間違いねえさ。
 それにさっきの態度を見てたら信用できるのも納得はいくってなもんだ」
「そうか。遊星君が世話になったようだな。
 それで、そっちの君も仲間なのか? 決闘者なのはすぐに分かったが」
「神代凌牙、決闘者だ。空也とはさっき会って共闘したってだけで、その遊星って奴とは別に会ってねえよ。
 それはそうと、てめえが相当やる決闘者ってのは見れば分かるが、デッキはどうした? 支給されてねえのか?」

 凌牙の質問は酷く当然だ。
 遊戯がどれほどの決闘者なのか、凌牙レベルの実力者ならある程度の察しは付く。

「つくのか?」
「決闘者には特有の殺気があるからな。凌牙もそれを感じたんだろうぜ」
「そんなところだ」
「そんなところなのか?」

 カードゲーマー特有の殺気ってなんだよ、と空也はツッコミを入れようかと思ったが、迷っている間に二人の話は進んでいた。

「話を戻すが、そうだ。俺のデッキは支給されてない」
「俺には支給されてるんだがな……いや、遊馬にも支給されてなかったな」
「そういや遊星もそんなこと言ってたぜ。代わりにかなり使いにくそうな代物だったけどな」

 そう言って空也は遊星に支給されていたホカクカードとデュエルディスクについて説明をした。
 すると説明を受けた二人は思わず顔をしかめる。

「確かにこの決闘なら多少は何とかなるだろうが……デュエルモンスターズはモンスターだけじゃない。
 魔法や罠とのバランスが大事なんだ。そんなデッキじゃいくら遊星君でも満足に戦えないぜ!」
「全くだ。フルモンデッキって構築もあるにはあるが、あれは練りに練ってやるもんだ。
 この決闘に出てくるNPCでくみ上げるにしてもかなりキツイだろうな」

 単にデッキを支給しないだけならまだしも、そんな特殊な代物を代わりに寄越し、挙句下手をすればそれ以外の支給品を奪われているかもしれない。
 最早恨みでもあるのかと言いたくなる采配である。

「どうにも自分で実装した決闘を持て余してるようだし、その弊害が出たってところか」
「なんだそりゃ。大した神様もいたもんだぜ」

 遊星の処遇について遊戯が推察すると、それに対し空也が軽口を叩く。
 自分で実装した要素に振り回された挙句プレイヤーに不利益を押し付けるなど、ゲームマスターとしては三流もいい所だろう。
 もっとも、そもそも始めたゲームからしていささか一流とは言えないと遊戯は付け加えるだろうが。

 一方二人の話に対し、凌牙は神妙な顔で口を挟む。

「神様なんて大したもんじゃねえよ。真の決闘者三人がかりなら倒せる程度のもんさ」
「そうだな。真の決闘者にとって力なんてまやかしにすぎない」

 凌牙の言葉に同意する遊戯。
 とはいえ凌牙にとっての神はドン・サウザンドであり、世界の支配すら間近だった存在である。
 たいして遊戯の語る神は三幻神。資格こそ必要なものの、決闘の中で従える存在だ。
 この決闘の中では支給品として扱われたり、ネットの情報の集合体である参加者が変身したりしている程度のものである。

 そんな認識の隔たりが二人の間にあるが、それが埋まるかどうかは現状分からない。
 別に埋まらなくてもそこまで支障はない。

「なあ、ゲーマー二人。仲いいのも結構だけどよ、そろそろ話し進めていいか?」
「……ああ悪ぃ。なあ遊戯、こうして話をしてると分かんねえかもしれないけど、こいつ結構怪我やばいんだよ。
 何か治療できそうなカードか何か持ってないか?」
「あいにく俺の手持ちにそういった物はないが、仲間が持っているかもしれないな。
 ついてきな! 案内するぜ!!」

 遊戯はそれだけ言って二人に背を向け歩き始める。
 その背を二人は追うが、一人空也はある疑問を覚えていた。

(どう見ても遊戯より遊星の方が年上だよな。
 なのになんでどっちも遊戯が目上ってノリで話してんだ?)

485メインフェイズ ◆7PJBZrstcc:2025/03/29(土) 13:35:34 ID:aeZHeRXk0





「おかえりなさい遊戯さ……」

 チノ、ロゼ、イリヤの三人の元へ戻って来た遊戯を最初に迎えたのは、イリヤの途中で途切れたおかえりだった。
 しかもそれも無理はない。
 何せ遊戯と共に知らない男が二人もやってきたのだから。
 しかも一人はどこかタコを思わせる奇天烈な髪形をしており、もう一人はいかにも海賊と言わんばかりの恰好をしている上に右腕は異形の物と化している。
 正直戸惑いを超えて警戒心すら湧く二人組だった。

『フック船長にでも憧れてるんですか?』
「誰が好きで腕をこんなにするんだよ」

 そんな相手に対しルビーはいつも通りのノリで絡むも、空也は呆れたようにツッコミを入れるのだった。
 ちなみに彼は杖が喋ることに驚いてはいない。
 元の世界がまんぼうや埴輪が内政をするような魔境であることと、異世界を早々と認識しているのでそういうこともあるんだろくらいで流していた。

 一方、そんなやりとりを見ていたチノたちは、見た目に反して少なくとも悪い人ではないのだろうと少し警戒を解く。
 その頃合いを見計らって遊戯は話しかけた。

「皆、ちょっといいか?」

 ここで遊戯は空也の傷を説明し、回復できる支給品がないか確認を求める。
 とはいえ傷だらけ、ダメージを負っているのは皆も同じ。
 なので時間もあることだし、一度アイテムを検めることにした。
 とはいえ空也も凌牙も回復アイテムの持ち合わせがないことは確認済み。
 必然、調べるのは遊戯達四人となる。

「こんなのあったんだ……」

 最初に支給品を取り出したのはイリヤ。
 彼女の手にあるのは、さながらRPGの回復アイテムのようなビンに入った液体。
 否、これは事実ゲームの回復アイテムだ。
 彼女が持つアイテムはハイポーション。ソードアート・オンラインにて高い効果を誇る回復アイテムである。

 早速見つかった回復アイテムだが、いくらなんでも自身より重症としか思えないイリヤから譲ってもらう気など空也には無い。
 これは支給されたイリヤ自身が使用した。おかげでダメージはかなり回復し、疲労も少しだけマシになる。

「これならイケますね。私は魔法カード、ご隠居の猛毒薬を発動します!」

 次に支給品を取り出したのはチノ。
 彼女の手にあるのはデュエルモンスターズのカードであり、彼女は効果を見るや否や即座に発動した。

 すると、いきなり虚空から老婆が現れた。
 老婆は無言で試験管に入った二つの薬を取り出す。
 片方は緑色で、もう片方が濃い紫色の薬だ。

「あ、あの……回復させる薬をください」

 チノが老婆に頼むと、老婆は緑色の薬を手渡しそのまま姿を消す。

「……どうぞ」
「いや、お前が飲んだ方がいいだろ。お前結構ボロボロだぞ」

 貰った薬を即座に渡そうとするチノに対し、空也はやんわりとそれを止める。
 事実、チノはなれない戦闘で体も心もボロボロだ。
 しかし彼女としても、イリヤほど傷ついているならまだしも目の前で大怪我している相手を無視して自分を選ぶ気持ちにはなれない。

「なら私がこれをあげる」

 するとロゼが空也に向けて支給品を投げる。
 それは一見するとただのシリアルのチョコバーだが、その実回復アイテムである。
 これはリドゥという仮想空間にて、二代目帰宅部と名乗る集団が回復に使っていたもの、名をプレミアムクランチという。

486メインフェイズ ◆7PJBZrstcc:2025/03/29(土) 13:35:55 ID:aeZHeRXk0

「いいのか?」
「いい。私にはこれがある」

 そう言ってロゼは手にあるカードを見せる。
 それはモウヤンのカレーというカードで、効果は僅かながらライフを回復させるものだ。
 なので安心しろと言わんばかりの態度に、空也は少々思うところがあるもののここは大人しく厚意に甘えることにした。

 モグモグ

「……おお!?」

 空也がプレミアムクランチをあっさり食べ終えると、なんと胸に真一文字の傷が塞がった。
 痛々しい傷跡こそ残るものの、命の危機は脱したと言っても過言ではないだろう。

 その様子を傍目で見ながらロゼは考える。
 あのシリアルは零の支給品だ。
 もしアレを彼が死ぬ前に食べることができたら、彼は助かったのではないか、と。
 しかしそれはもう叶わない。
 食べたとて助からなかったのかもしれない、あるいは回復するとは思ってなかったのかもしれない。
 事実が何であれ、死という事実は変わらないのだから。

「モウヤンのカレー発動」

 思考を止め、ロゼは手にあるカードを発動させる。
 モウヤンのカレーは自分、相手のどちらかのライフを200回復させるカードだが、この決闘では本来自分を回復させるカードでも他者を回復させることができる。
 ならこのカードの特別性は何かというと、まず複数人を同時に回復させることができる。
 具体的には使用者と、それ以外の参加者を一人回復させることができる。

 なので彼女は自身と遊戯を回復させた。
 これにより疲労こそ取れていないものの、二人の傷と出血を止めるのだった。





『では、情報交換とこれからの行動方針について話し合いましょうか』
「お前が音頭とんのかよ」

 各々傷を回復させたところでルビーがこれからの話し合いを始めようとするも、そこに凌牙がツッコミを入れた。
 なんで杖が音頭を取っているのかという意味で。
 とはいえそれはそれとして、情報交換が始まった。

 まずは空也と凌牙から、これまで出会った相手と知っている参加者について話す。
 とはいえ空也の語る遊星についてはジャックや遊戯から聞いており、明石は参加者に面識のある者はいないのでそこまで大きなリアクションはない。
 ただ話が元の世界で因縁のあるジャンヌになると話は別だ。

「その女なら俺達は戦ってるぜ」
「私は最初に遭っただけだけど、遊戯さんは二回も戦ってたんですね……」
「マジかよ。あいつ俺らともやり合ってんだぞ。どんなスパンで戦ってんだ」

 イリヤと遊戯、ロゼはジャンヌと一戦交えているので、必然話はそれに移る。
 彼女の余りに頻度の多い戦いっぷりに、決闘が始まってから一度しか戦っていない空也が驚く。
 実の所、ジャンヌはこれらに加えて、イリヤと遊戯が面識のあるジャックや遊馬とも戦っているので更に増えるのだが、それを知る術を今の彼らは持たない。

「次は俺か。
 俺が知ってる中で生きてるのは、天城カイトとベクターだな」
「そのカイトっていうのは、初めて檀黎斗が出てきた放送に出てた、あの葛葉紘汰って仮面ライダーが言ってた人?」
「いや、生憎だが仮面ライダーなんて聞いたことねえよ。
 だからあの男が言ってたカイトってのは、おそらく名簿の俺らより少し下の所にあるこの駆紋戒斗だろうな」

 途中、ロゼが疑問を挟むも凌牙は即座に答える。
 情報交換するとなった時にこんな質問が飛んでくることは、ある程度予想できたことだからだ。
 なので彼はよどみなく答え、そのままの流れで次はロゼが話す。

487メインフェイズ ◆7PJBZrstcc:2025/03/29(土) 13:36:19 ID:aeZHeRXk0

「私が元々知っているのは閃刀姫-レイだけ。名簿の横にある深淵の冥王については何も知らない」
「その冥王さんなら私達が会いました。向こうもロゼさんやレイさんのことは特に何も言って無かったです」

 途中、イリヤが口を挟んだ話は決闘で出会った相手に移る。
 決闘の始めにチノ、次に零と出会い、その次には殺し合いの乗った筋骨隆々の男、おそらく名前は野比のび太。
 もっとも、野比のび太は死亡しているので確かめる術はない。

 そしてイリヤ、遊戯、司、ジャンヌ。
 そして犬吠埼と呼ばれた金髪の少女と――

「……衛宮さんと呼ばれてた少年が、殺し合いに乗っていた」
「シロウさん、が……」
『美遊さんの為、ですよねえ』

 ロゼの話を聞いたイリヤはショックを受け、縋るような目で遊戯を見る一方、ルビーはどこか達観したような言葉を口にする。
 一瞬自分の兄の方かとも考えたが、殺し合いに乗る筈もないし、そもそも戦闘能力もないので除外してもいいだろう。

「遊戯さん、それ、本当ですか……?」
「ああ。もしかしたら支給品か何かで、誰かがその衛宮という男の姿に変わっている可能性もあるが……」

 イリヤの問いかけに推測を口にするも、すぐに噤んでしまう遊戯。
 確かにないとは言えない可能性だが、あまりにも希望的観測すぎた。
 そこに今度は凌牙が口を出す。

「話をぶった切って悪いがロゼ、こいつに見覚えはあるか?」

 そう言って凌牙は閃刀姫-カガリのカードをロゼに見せる。
 すると彼女は驚愕の表情を露わにした。

「この娘は確か、レイの……」

 驚きを隠せないロゼだが、カガリについて彼女が知ることは少ない。
 その昔、ロゼがレイと剣を交えている間に他の相手と戦っていた、レイのかつての仲間と言うことくらいの知識しかない。

「仲間か?」
「私にとっては仲間じゃない。けど……」

 レイは、戦場から逃げた今でも仲間と思っているかもしれない。
 向こうがどんな感情をいだいていてもおかしくないとしても。

「なんだかよく分からねえが、思うところがあるなら渡しとくぜ。そいつは好きにしろよ」

 凌牙の言葉にロゼは大いに逡巡するも、結局受け取ることにした。
 実力のほどは知っているし、もし自分と敵対するとしても一般人を見捨てるようなことはしないだろうから。
 もっとも、このカードのカガリが自分と同じ世界のカガリである可能性はそれほど高くないだろうが。

「最後は俺達か」

 トリを飾るのは遊戯。とは言っても話すことはそう多くない。
 今までの会話で情報が出ている部分も多いので、話すことと言ったら遊星の仲間であるジャック、彼のライバルであるこの決闘には二人いる海馬瀬人。
 後は――

「衛宮士郎と美遊って奴のことを教えてくれ」
「えっと……」

 凌牙に促され、イリヤは話す。
 まずは美遊について。
 自身の友達で、自分と同じ魔法少女であること。
 生まれた時から完全な聖杯で、願いを叶える能力がある代わりに行使すると魂が削れ、いずれ死に至ってしまうこと。

 そしておそらくこの決闘に参加している衛宮士郎は彼女の兄であること。
 妹を守るために世界を見捨て、ただ一人の為に戦う人間であること。
 なのでおそらく、この殺し合いの商品である願いを叶えるというは美遊を行使して行うことであり、士郎はそれを防ぐために殺し合いに乗ったのではないか、と。

488メインフェイズ ◆7PJBZrstcc:2025/03/29(土) 13:36:50 ID:aeZHeRXk0

「成程な。自分が優勝すりゃ他の奴らには絶対手を出せないってことかよ。
 もしくはダチのイリヤに託すって選択肢もあるか」

 イリヤの説明に納得する空也。
 そこにルビーが補足を入れる。 

『自分の事を最低の悪とか言っておきながら、自分の事は割とどうでもいいタイプなんですよね〜。
 多分ヒーローの方が向いてますよ』
「どうだかな。本物なら大切な奴も世界も両方救うって叫ぶだろうぜ」
『確かにそれはそうでしょうけど、そういう人は稀ですよ。世に何人いるやら』

 イリヤさんみたいに、と凌牙と話していたルビーは付け加える。
 凌牙はそんな奴が二人もいたのかこの殺し合いは、と少々驚愕した。
 別の世界とは言え、遊馬みたいな奴がいるという事実に。

「……ところで皆、放送で言ってた本来なら使えない力やアイテムを、死闘を経験し手に入れるってことあった?」

 一方、これまでの話し合いの中で出なかった話で、類似する現象に遭遇していないことについてイリヤが思わず問う。
 内容は彼女が経験した、バーサーカー(マグニ)のクラスカードの創造。
 おそらく檀黎斗が放送で語ったもの。

 しかしこの面々でそれを経験しているのはイリヤだけである。
 とはいえ、同一かどうかは分からないが似たようなものを凌牙は知っている。

「よくわからねえが、シャイニングドローやバリアンズカオスドローみたいなもんか?」
「それは?」
「ああ、俺や遊馬はドローカードをデッキの好きなカードにしたり創造できるんだが」
『おおよそカードゲームで言っちゃいけないこと言ってません?』
「俺もデッキに入れていないカードをドローならしたことはあるが、流石に作り出したことはないぜ」
「それはそれで大概じゃねえか?」
「それに俺のバリアンズカオスドローもいざという時にしか使わねえし、今使えるかもわからねえよ」
「そういう問題ならじゃないような……」
「でも、創造って意味なら近いのかも……」

 シャイニングドローについて各々言いたいことを言うなか、一人思いをはせるイリヤ。
 そもそもこれが何か分からない以上、どうやっても推測しかできないのだ。
 今はここでこの話は終いにして、次の話題に移ることにした。

「仮面ライダーを探すべきだぜ」

 その口火を切ったのは遊戯だ。
 ここまでで心意と同じく話題に出なかった、しかし殺し合いにおいては決して小さくない意味を持つであろう仮面ライダー。
 それを探し見つけることは、きっと大きな意味を持つだろう。

『なら、さっき話したエボルトさんに会うべきでしょうね』
「うっ……」
「どうして?」

 エボルトの名前を聞き思わず顔をしかめるチノと、純粋な疑問を浮かべるロゼ。
 彼女の中では仮面ライダーとエボルトが結びつかないのだが、それも無理はない。

『遊戯さん達が来る前にエボルトさんがごく自然に仮面ライダーってワードを出してたんですよ。
 だからおそらくあの人……もとい地球外生命体には馴染みのある物なんでしょうきっと』
「となると、名簿でエボルトの横にある名前の奴らが仮面ライダーってこと?」
『おそらく』

 ルビーの言葉にロゼが返す。
 桐生戦兎、万丈龍我、猿渡一海、氷室幻徳、このうち猿渡はさっき放送で呼ばれていたのでこれで三人。

「そういや、放送で一人だけ妙な呼ばれ方してる奴いたな。
 確か、宝生永夢だったか」
「仮面ライダーを知ってそうな檀黎斗と何かしら因縁があるのかもな。
 だったら、横にある花家大我も仮面ライダーに関わりがありそうだぜ」

 空也と遊戯の会話で更に一人加わり四人。
 更にさっきの会話で出てた駆紋戒斗を含めれば五人。
 もしかしたらまだ仮面ライダーかその関係者もいるだろうが、現段階の情報で推測することはできない。
 なのでここはこの五人を追加で探すことにして、次はこれを決めねばならない。

489メインフェイズ ◆7PJBZrstcc:2025/03/29(土) 13:37:25 ID:aeZHeRXk0

「で、誰がそのエボルトとかいう改心する前のベクターみたいな奴に会いに行くんだ?
 ちなみに俺は行ってもいいぜ。そういう奴にはまあまあ慣れてんだ」

 凌牙が代表して口を出す。
 四人なら全員で行くのだろうが、六人である。一塊で動くには少々重荷を感じる人数だ。
 ならリスクはあるがここは二組で分かれるべきだろう。

「そのエボルトって奴はこっから西にあるオーエド町に行くんだろ。
 元々俺は西に行くつもりだったんだよ。だったらそのついででエボルトに会ってもいいぜ」
「なら俺も行くぜ! 空也は遊星君と合流するつもりなら、俺もついて行かせてもらおうか」

 こうして希望を出した男性陣が西、女性陣がそれ以外の場所に向かうことになる。
 かと思いきや――

「なんかバランス悪くない……?」
『男女別なのはいい感じですけどねぇ』

 この面子だと、女性陣の構成が剣士二人と後衛一人ということになる。
 魔法少女のイリヤが万全ならそれでもいいだろうが、彼女はまだ疲労もダメージも残っている。

「そう考えるなら俺とイリヤが入れ替わった方がいいか」
『まあイリヤさんはともかく、エボルトさんと会おうと言った私がいないのもなんですしね』
「それだと私巻き添え!!」

 こうして凌牙とイリヤが入れ替わり、最終的にエボルトと会いに行くのは遊戯、イリヤ、空也の三人。
 イリヤと空也はそれぞれジャンヌと士郎がどこに行ったのか気にはなっているが、探すにしても当てがないので今は目的地をシンプルに目指す。
 別の方向に行くのはロゼ、チノ、凌牙の三人となった。

 決めるべきを決めた六人は各々移動するための準備を始める。
 彼らは檀黎斗の打倒の決意を固め、迷いなく進もうとしていた。


 唯一人を除いて。

『優勝者への褒美を、死をも覆す権利を、ゲームマスターにして神の私が約束しよう』
(死んだ人が生き返る……マヤさんもリゼさんも……)

 チノだけは、蘇生の可能性に縋りつきかけていた。
 放送だけなら信じなかった。
 だがイリヤの話を聞いた時、現実味の帯びた話だと思えてしまった。
 皮肉にもここまでの積み重ねが、チノのイリヤへの信頼が、彼女を蘇生の可能性に縋りたくさせていた。

 しかしそれを誰が責められる。
 決闘が始まった直後の遊星みたいに、願いを叶えるという言葉を現実のものと捉えながら、取り戻したいものがあるのに突っぱねられるのか。
 あるいは、この決闘の参加者は誰も知らない別の世界の衛宮士郎みたく、過去を変えられるやもしれぬ聖杯を間近にして「死者は蘇らない。起きた事は戻せない。そんなおかしな望みなんて、持てない」と言えるのか。
 そんなことを、つい六時間前まで日常を過ごしてきた少女に求めるのか。

 結束の中に生まれた小さな綻び。
 それはやがて大きな解れとなって結束を砕くのか。
 はたまた綻びは気付かぬ間に直るのか。


 今それを推察できるものは、神であろうと居やしない。


【D-3 エーデルフェルト邸/一日目/朝】

【武藤遊戯@遊戯王デュエルモンスターズ(アニメ版)】
[状態]:疲労(中)、無力感、主催者への怒り
[装備]:千年パズル@遊戯王デュエルモンスターズ、ガーディアン・エアトス@遊戯王OCG
[道具]:基本支給品一式、結束 UNITY@遊戯王OCG(3時間使用不可)
[思考]
基本:ハ・デスを倒し、殺し合いを止める
1:仮面ライダーらしき参加者(駆紋戒斗、花家大我、桐生戦兎、万丈龍我、氷室幻徳)とチノ、凌牙の仲間を探す
2:仲間達との合流と、デッキも取り戻したい。
3:衛宮士郎は殺し合いに乗っているのか…?
4:ロゼはデュエルモンスターズが存在しない平行世界の人間なのかもしれない。
5:相棒の言うように、神(ゲームマスター)も完璧じゃない。そこに攻略法があるかもしれないぜ。
6:このカード…何で相棒や城之内くん達が描かれてるんだ?
[備考]
※参戦時期は最低でもドーマ編終了後。

490メインフェイズ ◆7PJBZrstcc:2025/03/29(土) 13:37:56 ID:aeZHeRXk0

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/Kaleid Liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中・治療促進により回復中)、悲しみと悔しさ
[装備]:マジカルルビー@Fate/Kaleid Liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード『セイバー』@Fate/Kaleid Liner プリズマ☆イリヤ(2時間使用不可)、クラスカード『バーサーカー(マグニ)』@Fate/Kaleid Liner プリズマ☆イリヤ(2時間使用不可)、光の主霊石@テイルズオブアライズ
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。元の世界に帰ってやることがある
1:司さんもあの子(ルナ)も、私は……。
2:仮面ライダーらしき参加者(駆紋戒斗、花家大我、桐生戦兎、万丈龍我、氷室幻徳)とチノ、遊戯、凌牙の仲間を探す
3:美遊を必ず助けに行く。
4:エボルトを警戒。何がしたいの…?
5:シロウさん殺し合いに…?
6:ジャンヌを警戒。
[備考]
※参戦時期はドライ!!66話、6千年前に向かった直後
※心意システムによりバーサーカー(マグニ)のクラスカードを創造しました。

【蛇王院空也@大番長 -Big Bang Age-】
[状態]:胸に真一文字の傷(治療済み)、疲労(大)
[装備]:ティアドロップ@Caligula2、
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(薄緑ほど使えないかつ回復系ではない)
[思考・状況]基本方針:普段どれだけキレても殺しはしないが、てめえらは別だ。
1:うちの傘下や同じ考えの奴がいるならなるべく優先する。
2:九時間後に指定されたエリアの一つに向かい、再度作戦会議。
3:仮面ライダーらしき参加者(駆紋戒斗、花家大我、桐生戦兎、万丈龍我、氷室幻徳)とチノ、遊戯、凌牙の仲間を探す
4:明石、いい女なんだが残念だな。
5:ジャンヌとは必ず決着をつけてやる。
6:今はこいつら(イリヤ、遊戯)と一緒に動く。明石が無事だといいんだがな。
7:西へ向かい明石と合流する。エボルトについては俺もいたほうがいいか?
7:村雨を持った奴を警戒
[備考]
※参戦時期は扇奈ルート、狼牙に敗北後。
※異形の腕はそのままです。そのためゲーム上の攻撃で使ってる砲撃も可能です。
 細い触手を切られてもダメージはありません。
※遊星、明石と情報交換しました。

【閃刀姫-ロゼ@遊戯王OCG】
[状態]:疲労(大)、左肩に斬傷(治癒済み)、悲しみ
[装備]:閃刀姫-ロゼの剣@遊戯王OCG、
[道具]:基本支給品×2、涼邑零の魔戒剣@牙狼-GARO-、チームみかづき荘のロケット@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)
     モウヤンのカレー@遊戯王OCG(2時間発動不可)、閃刀姫-カガリ(現在召喚不可能)@遊戯王OCG、、ランダム支給品×0〜2(零の分含む。)
[思考・状況]
基本方針:檀黎斗やハ・デスを斬り、大切な人(レイ)の待つ平和な日常に帰る
1:零……司……。
2:仮面ライダーらしき参加者(駆紋戒斗、花家大我、桐生戦兎、万丈龍我、氷室幻徳)とチノ、遊戯、凌牙の仲間を探す
3:レイを見つけて守る。
4:私やレイがカードに?どういうこと? それに彼女(カガリ)ってレイの……
[備考]
※遊戯王カードについての知識はありません。
※どの方角に向かったかは次の書き手氏にお任せします

【香風智乃@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(小)、悲しみと決意……?
[装備]: チノ(せんし)の剣@きららファンタジア
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1、ご隠居の猛毒薬@遊戯王OCG(6時間発動不可)
[思考・状況]
基本方針:ハ・デスや檀黎斗達を倒して平和な日常に――ココアさんのいる場所に帰りたいです
1:仮面ライダーらしき参加者(駆紋戒斗、花家大我、桐生戦兎、万丈龍我、氷室幻徳)と遊戯さん、凌牙さんの友人を探したいです
2:ロゼさんや凌牙さんに協力します。
3:ココアさんやみんなを探したいです
4:ティッピーはここにはいないんでしょうか……?
5:マヤさん……リゼさん……
6:平行世界のココアさん…私の知ってるココアさんとは違うんですか?
7:エボルトを警戒。何なんですかこの人……。
8:本当に死んだ人が生き返るとしたら……?
[備考]
※どの方角に向かったかは次の書き手氏にお任せします

491メインフェイズ ◆7PJBZrstcc:2025/03/29(土) 13:38:13 ID:aeZHeRXk0

【神代凌牙@遊☆戯☆王ZEXAL】
[状態]:動揺、怒り
[装備]:デュエルディスクとデッキ(神代凌牙)@遊☆戯☆王ZEXAL
[道具]:基本支給品×2(自分、遊馬)、
[思考・状況]基本方針:遊馬の導いた希望の未来のために主催者を倒す
1:カイトは協力を頼んでおく。ベクターは……会ってから判断
2:不動遊星、仮面ライダーらしき参加者(駆紋戒斗、花家大我、桐生戦兎、万丈龍我、氷室幻徳)と遊戯、チノの友人を探す。
3:魔法を破壊出来る上にあの攻撃力……あの女(ジャンヌ)厄介だな。
4:こいつ(蛇王院)の怪我はもう大丈夫か
5:遊馬を殺した奴は気になるが、復讐心にはかられるな
6:村雨を持った奴を警戒
[備考]
※参戦時期は最終回後。
※どの方角に向かったかは次の書き手氏にお任せします


【ハイポーション@ソードアート・オンライン】
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに支給。
主街区の店で売っているポピュラーな回復アイテム。効果はかなり高い。
本ロワでも飲むと回復するアイテムだが、効果は多少制限されている。

【プレミアムクランチ@Caligula2】
涼邑零に支給。
ちょっと贅沢な大人のためのクランチチョコ。香ばしいアーモンドと奥深いビターな味わいが高級感を演出する。
ひと口噛むと心地よい食感と共に本格的な香りが口いっぱいに広がる。(アイテム詳細より)
使用するとHPが1500回復するアイテム。

本ロワでも食べると回復するアイテム。

【ご隠居の猛毒薬@遊戯王OCG】
香風智乃に支給。
①:以下の効果から1つを選択して発動できる。
●自分は1200LP回復する。
●相手に800ダメージを与える。
(遊戯王デュエルモンスターズOCG カードデータベースより引用)

本ロワでは発動するとイラストに描かれたご隠居が出現し、上記の効果を持つ薬のどちらか選択した方を渡してくれる。
薬は飲むことで効果を発揮する。
片方を渡すと姿を消すのでもう片方も欲しいならもう一回発動しよう。

なお、ダメージを与える薬も飲ませないと効果を発揮しないので、攻撃したいときは飲ませ方を各自で考えよう。
このカードは一度発動させるとどちらの薬を選んでも六時間使用不可となる。

【モウヤンのカレー@遊戯王OCG】
閃刀姫-ロゼに支給。
ライフポイントを200ポイント回復する。
(遊戯王デュエルモンスターズOCG カードデータベースより引用)

このカードはライフ回復カードだが、使用した際自身か相手のライフかを選ぶことができる。
本ロワでは発動すると自分と自分以外の選択した参加者を回復させることができる。どちらか片方だけでも可能。
ただし回復効果を自分または相手に重複させることは不可。
一度発動させると二時間使用不可となる。

492 ◆7PJBZrstcc:2025/03/29(土) 13:38:28 ID:aeZHeRXk0
投下終了です

493 ◆QUsdteUiKY:2025/04/04(金) 10:08:10 ID:cMBXxcTE0
キリト、空、尊、ユキで予約します

494 ◆QUsdteUiKY:2025/04/05(土) 02:01:05 ID:5/YixKfI0
投下します

495fortissimo-the WeiβFlügel crisis- side:YUKI ◆QUsdteUiKY:2025/04/05(土) 02:02:57 ID:5/YixKfI0
何気ない日々 交わした言葉
 その裏側など探ることもなく
 心の奥の絆を信じて、誰もが幸せを願い続けていた――


 ○


 尊徳とユキは、しばらくコントみたいなやりとりをした。
 それを俺――桐ヶ谷和人と空は見守る。
 デスゲームのクリアは急ぎたいけど、仲間が全員呼ばれたユキのメンタルも不安だ。それに尊徳も影山っていうこのデスゲームで知り合った相手を殺されて、後を託されてる。表向きは仲良くコントしてるけど、正直に言うと心配だ。
 空もそこら辺は察してるらしくて、二人のやり取りに口出しせずカードゲームのルールを再確認していた。

「その麗華って人は本当にボクより美しいの?このボクより♪」

「当たり前だ。麗華様ほど可憐で美しい方はなかなかいない」

 こんな感じに、仲良くやり取りしてる二人を見ていると少し微笑ましい。
 これがデスゲームっていうのを忘れそうなくらい――

『御機嫌ようプレイヤー諸君。まずはおめでとうと言わせてもらおう』

 ――その声が聞こえた瞬間、俺は気を引き締めた。これは間違いなくデスゲームだって――現実に戻されたみたいだ。

 まるで死者を冒涜するような言い方に、怒りが湧く。こいつはヒースクリフ――茅場よりも最悪な性格のゲームマスターだ。

「何様だ、こいつは……!」

 尊徳が怒りの声をあげる。
 影山を理不尽に殺されて、こんなふうに煽られたんだ。誰だって怒りたくなるだろう。

 ユキは、悔しそうな表情で顔を俯かせていた。アユミと影山のことを思い出したんだろうな……。

 そして空は嫌悪感を出しながらも、冷静を保つ。俺もあくまで冷静に放送を聞いていた。
 この放送は貴重な情報源だ。聞き逃すわけにはいかない。

496fortissimo-the WeiβFlügel crisis- side:YUKI ◆QUsdteUiKY:2025/04/05(土) 02:06:08 ID:5/YixKfI0

『ニノン・ジュベール』

「……え?」

 ユキは不意を突かれたように……そう口にした。

「嘘、だよね……?」

 ニノン。ユキが言ってた仲間の一人だ。
 そんな存在が、俺達の――ユキすらも知らないうちに死んだ。

「ニノンさんが死ぬわけないよね?」

 信じられない――とばかりに周囲を見渡すユキ。
 きっとユキは、パニック状態に陥ってる可能性がある。だから「生きてるかもしれない」なんて優しい嘘をつく奴がいても、俺は批判出来ない。
 でもデスゲームを生き抜いた俺だからわかる。デスゲームで、人の命は簡単に失われることを。取り戻せないことを。そして――きっとこのゲームマスターが嘘をついてないことを。
 だから俺は、残酷な真実をユキに突き付けなきゃいけない。
 
「いや……たぶん本当にニノンは死んだよ」

「どうして?ニノンさんが死んだ証拠はあるの?」

「それはないけど……あのゲームマスターは嘘をつかない気がするんだ」

「そんなの、キリトくんの勝手な思い込みじゃ――」

「いや、キリトの言うことが正しいだろうな」

「ソラくんまでそんなこと言うの!?証拠は!?」
 
「……放送で死んでもない奴の名前をあげても、そいつやそいつの同行者にはすぐ嘘ってバレる。そんな嘘をつくような奴に思うか?」

「……空の言う通りだ。ユキ、キミが信じたくない気持ちはわかるけど――ニノンは死んだんだよ」

「そんな……。ニノンさんは強いよ?タカノリくんなら嘘って信じてくれるよね?」

「――――ッ!」

 尊徳は悔しそうに歯噛みして、苦虫を噛み潰したような表情をした。……きっと、尊徳も察してるんだろうな。

497fortissimo-the WeiβFlügel crisis- side:YUKI ◆QUsdteUiKY:2025/04/05(土) 02:07:46 ID:5/YixKfI0

「……ユキ。よく聞いてくれ。キリトや空が言う通り、ニノンは死んだ可能性が高い」

「――! そ、んな――」

 ユキの瞳から、涙がどんどんと溢れ出る。今まで嘘だと思い込んで我慢してたのが、解放されたみたいに。
 でも俺はそんなユキに、なんて言葉を掛ければいいのかわからない。……まだ知り合ったばかりだし、デスゲームで大切な人を失う辛さを知ってるからこそ、安易に優しい言葉を掛ける気にならなかった。
 流石の空もカードゲームのルールを確認する作業を一度やめてユキの方を見るけど……何も口は開かなかった。
 
 「ユキ、しっかりしろ!」

 涙を流しながら崩れ落ちるユキに声を掛けたのは、尊徳だった。

「お前は麗華様ほどじゃないが、美しいんだろう。そんな体勢をしていたら自慢の美貌が汚れるぞ」

「タカノリくんは、優しいね……♪
 たしかにこんなボクは可愛くないかもしれない……。でも……今だけは、美しくないボクを許してくれないかな……」

「……やれやれ。仕方ないな」

 そして尊徳の胸でたくさん泣きじゃくるユキを――俺と空は黙って見ていることしか出来なかった。
 作戦会議とか、情報整理とか。そういうことも今はする気になれなかった。
 デスゲームは無情に命を奪っていく。俺達の事情なんて知ったことかってくらい、次々と命が刈られていく。

498fortissimo-the WeiβFlügel crisis- side:YUKI ◆QUsdteUiKY:2025/04/05(土) 02:08:48 ID:5/YixKfI0

「最初はみんなバラバラだったけど……ボクはヴァイスフリューゲルを気に入ってたんだ。まずモニカさんがボクとクウカさんとニノンさんを勧誘して、それからニノンさんがアユミを誘って――ねぇ、どうしてこんなことになっちゃったのかな?」

「そうか……。全てはあの悪趣味な自称神のせいだろうな。そしてニノンを見つけられなかった僕の責任でもあるかもしれない」

 ――――ッ!

 悔しい。
 もしもニノンと合流出来たら――まだ死なずに済んだかもしれないのに。
 それかレッドプレイヤーを減らせば、犠牲は減るのに。
 俺はこの6時間、何をしてたんだ……!
 自分の不甲斐なさに思わず怒りが湧いてくる。

 同時にアスナ達がまたソードアート・オンラインみたいな危険なデスゲームに巻き込まれなかったことに少し安心して、その考えに虫酸が走る。
 目の前に仲間を失った娘がいるのに、俺はなんてことを考えてるんだ……!
 これじゃもうアスナに――みんなに合わせる顔がない。ごめんな、ユージオ。やっぱり俺は、英雄なんかじゃないんだ……。泣いてる娘一人、救えやしない。

「……ねぇ、タカノリくん」
 
「……ん?なんだ?」

「さっきの放送で、優勝者には死をも覆す権利を与えるって言ってたけど……それって死んだ人達を生き返らせることも出来ると思う?」

「貴様……まさかそんな内容を真に受けたのか?こんな悪趣味な殺し合いを開いたことの言うことだぞ?」

「でもキリトくんやソラくんやタカノリくんは、ニノンさんが死んだ可能性が高いって言ってたよね。放送で嘘をつくはずがないって……」

「それはそうだが……それとこれは別だろう!?」

「タカノリくん。もし本当に死んだ人を生き返らせれるなら……アユミも、ニノンさんも、カゲヤマさんも……みんな生き返るのかな?」

「そんなわけないだろう!死んでしまった相手は……もうどうにも出来ないんだ」

 尊徳は現実を受け止めて、ユキを説得する。

「そうだ。死んだ人はもう帰ってこない……」

 サチ、ユウキ、ユージオ――
 今まで何人も失ってきた。
 でもみんなは絶対に生き返らない。そんな都合のいい話、あるわけないんだ。
 だから俺は尊徳の言葉に同調した。ユキを少しでも落ち着かせるために……。


「でもボク達、いつの間にかこんな場所に連れてこられてたし……こんな大規模な殺し合いを開ける技術があるなら、もしかしたらみんなを本当に生き返らせることも出来ないかもしれないよ」

「だが……!」

499fortissimo-the WeiβFlügel crisis- side:YUKI ◆QUsdteUiKY:2025/04/05(土) 02:11:48 ID:5/YixKfI0

「ねぇ、タカノリくん」

「……なんだ?」

「もしボクが優勝を目指すって言ったら、共犯者になってくれるかい?」

「ふざけるな!誰がなるものか!目を覚ませ、ユキ!」

 尊徳が怒号と一緒に、ユキの頬を叩いた。
 ユキから出てきたのは、最悪の言葉だった。
 尊徳はそれを真っ向から否定したけど……万が一に備えて俺は臨戦態勢に入る。空もいつでもカードがドロー出来るようにデッキに手を添えていた。

「……やっぱりそうだよね。じゃあボクが優勝を目指したら、どうする?」

「今、ここで止める。俺に後を託した影山のためにもな」

「殺さないと止まらないかもしれないよ♪」

「殺さなくても止められる方法を探すだけだ」

「エリートだから?」

「わかってるじゃないか。……それに貴様が誰かを殺すのも気に食わん」

「……なるほど。タカノリくんって意外と優しくて仲間思いなんだね」

「ふん。誰が仲間だ、ナルシストが」

500fortissimo-the WeiβFlügel crisis- side:YUKI ◆QUsdteUiKY:2025/04/05(土) 02:12:47 ID:5/YixKfI0
「ボクに対して口は悪いけど、実はなんだかんだ優しいよね。……そんなタカノリくんだから、殺しづらくなっちゃう……。後で生き返らせるにしてもだよ。それにモニカさんやクウカさんを殺すのも嫌だしさ」

「麗華様や彩お嬢様ならともかく、貴様のようなナルシストに優しくする気はないぞ」

 ひとまず険しい空気が落ち着いて、ユキと尊徳の表情が多少は穏やかになる。

「ユキ。僕達は託された身だ。自暴自棄になるより、やるべきことがあるだろう」

「そうだね……。アユミやニノンさんやカゲヤマさんが死んだのは悲しいけど……そうだよね」

「……俺の言いたかったことを言ってくれてありがとう、尊徳。そしてユキも……苦しい中、納得してくれてありがとう。俺も色々と仲間が死んだことがあるけど……残されたやつに出来ることは、そいつらの意志を継ぐことだけなんだ」

 ――そうだろ、ユージオ。

「うん。だからボクはアユミと、ニノンさんと、カゲヤマさんの意志を継ぐよ。キリトくん、ソラくん、そしてタカノリくん――これからもよろしくね♪」

「よく立ち直ったな、ユキ。とりあえずふんぞり返ってる神を一泡吹かせてやろうぜ。人類をナメるんじゃねぇってな」

 空は不敵な笑みを浮かべる。本当に頼りになる相棒だな、こいつは。

「……そういえばリリスが終始無言だけど、どうしたんだ?」

 リリスが急に黙り込んでいたことが不自然で、思わず疑問が出る。

「たぶん、放送と同時にキバットと同じで口封じされたんだろうな。1回目の放送まで喋れたのは、神を自称するような奴のことだからあえて野放しにしてたんだろ。そしてある程度実力者が絞られた放送後からは口封じ――って可能性があるな」

 空の言葉にリリスの依り代――ごせん像が頷いた。どうやら本当に喋れないらしい

 ○

「黎斗様……どうしてリリスを口封じしたのですか?」

 ハデスが、檀黎斗に尋ねる
 その質問に対して檀黎斗は大袈裟な動作で声を張り上げた

「第一回放送までリリスが話せたのは神の恵みだァ!
 だがあまりプレイヤー以外がいつまでもペラペラと情報を話すのはフェアじゃない。あくまでゲームの主役はプレイヤーだ。まあ第一回放送までの情報源を元に、色々と考えるがいい!」

「なるほど……。ゲームの主役がプレイヤーというのは、一理ありますね」

501fortissimo-the WeiβFlügel crisis- side:YUKI ◆QUsdteUiKY:2025/04/05(土) 02:13:57 ID:5/YixKfI0

  
「ユキ。もしまた何か気の迷いが起こったら貴様は必ず止める」

「わかってるから大丈夫だよ、タカノリくん♪ボクはもう迷わないから――死んでいったみんなの分までがんばるよ♪」

「それでいい。貴様はナルシストだが、そうして前を向く姿は麗華様や彩お嬢様ほどじゃないが――」

「なになに?」

「……なんでもない。このナルシストを一瞬でも見直した僕がバカだった」

「素直にボクの美しさを認めたらいいのに♪」

「ユキ、貴様は美しいというよりナルシスト成分が強すぎる」

「美しや可愛さ成分は?♪」

「僕が知るか」

「ほんとはボクの可愛さに魅了されたんでしょ?恥ずかしがらなくていいよ。可愛いものに惹かれるのは当然のことなんだから!」

「……その自信はどこから湧いてくるんだ」

 相変わらず軽口を叩き合う尊徳とユキ。
 なんだかんだ、この二人は相性が良いのかもしれない。正直、ユキを踏みとどませてくれたのも尊徳のおかげだからな。

「タカノリくん。これからも美しいボクを間近で見て、もっと目に焼き付けてほしいな!」

「本当にナルシストだな、貴様は。だが僕も影山から託された身だ。守ってやるくらいはしてやろう」

 ニッコリと微笑むユキに対して、尊徳の口角は少し上がっていた。
 尊徳が、ユキの心を救ってくれたんだ……。
 俺もパーティーメンバーを守れるように、がんばらなきゃな。

502fortissimo-the WeiβFlügel crisis- side:YUKI ◆QUsdteUiKY:2025/04/05(土) 02:14:35 ID:5/YixKfI0

 ○

 最初は、ただの偶然だった。
 いきなり殺し合いに巻き込まれて……流石に可愛いボクでも困惑はした。
 でもそんな時にタカノリくんとカゲヤマさんに出会って、自分らしさを取り戻せた。鏡で美しいボクを堪能出来たのもあるけどね♪
 タカノリくんやカゲヤマさんと協力して魔獣を倒した時は、意外と大した事ないって思ったよ。

 でもアユミが見るも無惨に……何の美しさすら感じない、むしろ醜い殺され方をして、ボクはショックを受けたし、この殺し合いについて考えを改めた。
……その時は少し動揺して可愛さのカケラもない叫び声をあげちゃったけど……それだけボクはヴァイスフリューゲルやアユミを気に入ってたのさ……。
 でもその時はなんとか、立ち直れた。
 立て続けにカゲヤマさんも理不尽に殺されたけど……ボクはボクらしく、美しく振る舞い続けた。
 ……もしそこで挫けたら他のヴァイスフリューゲルのメンバーに会えない気がしたから。なんとなくの精神論だけどね。

 その後、ヴァイスフリューゲルのメンバーが全員参加してると知って、がんばらなきゃと思った。泥臭いことは美しいボクに似合わないし、可愛くないけど――みんなを失う方が嫌だからね!
 でも正直……ヴァイスフリューゲルのみんななら、大丈夫だと思った。みんなで帰れるっていう気持ちが、心のどこかにあったよ。

そしてキリトくんとソラくんに出会って……情報交換の時にアユミとカゲヤマさんの死に様を思い出した。
 ……思い出したくもないものを、思い出しちゃったんだ。

 でも挫けるわけにはいかないから……ボクは美しく振る舞った。……やせ我慢が可愛いかどうか、わからないけどね。
 そんなボクをキリトくんやソラくんが心配したように見てきた時は……逆にこっちも辛かった。
 でもタカノリくんはボクを元気付けるように普段と変わらない態度で接してくれて、嬉しかったよ♪

 そして――放送でニノンさんが死んだことまで知った。
 今までなんとか美しくて可愛く振る舞ってきたけど――流石にメンタル的に限界がきた。
 だからボクはボクらしくもない、美しさが微塵もない取り乱し方をして――動揺した。

 信じたくなかった。
 ニノンさんが死ぬなんて。
 これ以上、ヴァイスフリューゲルのみんなが死ぬなんて……。

 でもキリトくんやソラくんの言う通り、ニノンさんがほんとに死んだことは薄々わかってた。
 わかってたけど、納得が出来なかった……!

 だからボクはみんなを生き返らせるために優勝も視野に入れた。
 きっとみんな怒ると思うけど、それよりも失ったままの方が嫌だったんだ。

 でも――そんなボクをタカノリくんは止めてくれた。
 ボクの美貌を叩いて、気の迷いを断ち切ってくれた。
 それはきっと……タカノリくんの優しさだと思う。だからボクはタカノリくんを更に気に入ったし、嬉しかった。……タカノリくんが止めてなければ、ボクは自分がどうなってたかわからないからね。

 今でもタカノリくんに叩かれたほっぺたが痛い。
でも不思議と嫌な痛みじゃない。タカノリくんとなら、ボクはもっと可愛く美しくなれる気がする!
 タカノリくんにほっぺたを叩かれたボクもきっと可愛いからね♪少なくとも積極的に殺し合いをするより、断然美しいよ。

 だからタカノリくん……ありがとうね。

「そんな嬉しそうな顔をしてどうしたんだ?」 

 タカノリくんが不思議そうな表情(かお)で聞いてくる。

「タカノリくんとならもっとボクは可愛くなれると思っただけだよ♪」

「……何を言ってるんだ、このナルシストは」

 タカノリくんの呆れるような声。
 でも、それでいいとボクは思う。
 それがタカノリくんで、そんなタカノリくんをボクは気に入ったからね♪


 ○


 彷徨い出す、微かな希望を必死に抱きしめるのは。
 失えない理由があるから――
 ボクを支える温まり……

503fortissimo-the WeiβFlügel crisis- side:YUKI ◆QUsdteUiKY:2025/04/05(土) 02:16:36 ID:5/YixKfI0
【一日目/朝/C-8】
【宮川尊徳@暁の護衛 トリニティ】
[状態]:健康
[装備]: ホッパーゼクター&ZECTバックル@仮面ライダーカブト
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜5
[思考・状況]基本方針:僕たちがゲームマスターを倒す!
1:ユキ、キリト、空と一緒に影山とアユミやニノン、影山の仇を取る
2:影山……お前の意志は僕が引き継ぐ
3:ヴァイスフリューゲルのメンバーを優先的に探す
4:ユキのように誰かを生き返らせるのが目的になって優勝狙いになろうとする参加者が増えなければいいが……
[備考]
※パンチホッパーとしての戦い方がわかりました

【ユキ@プリンセスコネクトRe:Dive】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]基本方針:ボクの美しさをクロトやハ・デスにも知らしめてあげる
1:タカノリくんはボクが応援してあげるよ ♪
2:モニカさん、クウカさん……無事でいてね
3:アユミ、ニノンさん、カゲヤマさん……
4:ヴァイスフリューゲルのメンバーを優先的に探す
5:ありがとうね、タカノリくん。タカノリくんのこと、気に入ったよ
[備考]

【キリト@ソードアート・オンライン(アニメ版) 】
[状態]:疲労(小)
[装備]:カゲミツG4@ソードアート・オンライン、ごせん像@まちカドまぞく
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1(確認済み)
[思考・状況]基本方針:ハ・デスと檀黎斗を倒す
1:空、尊徳、ユキと共闘する
2:空ならあの放送を聞いて何か考えてそうだから、それを聞きたい
3:2の後、エルキア大図書館に寄り、調べる。その次にD-6の島を調査する
4:リリスのよりしろ探しを手伝う
5:変なおっさん(肉おじゃ)、PoH、謎の気狂いの変態、念のため美遊の関係者を警戒
6:金髪の男(ポセイドン)、継国縁壱を最大限に警戒
7:ヴァイスフリューゲルのメンバーを優先的に探す
8:俺が探索してるうちに40人も死んだのか……
[備考] 
※参戦時期はソードアート・オンライン
アリシゼーション War of Underworld終了後
※遊戯王OCGのルールをだいたい把握しました
※アバターはSAO時代の黒の剣士。
GGOアバターに変身することも出来ます。GGOアバターでは《着弾予測円(バレット・サークル) 》及び《弾道予測線(バレット・ライン) 》が視認可能。
その他のアバターに変身するためには、そのアバターに縁の深い武器が必要です。SAOのアバターのみキリトを象徴するものであるためエリュシデータやダークリバルサー無しでも使用出来ます。SAOアバター時以外は二刀流スキルを発揮出来ません。これらのことはキリトに説明書に記されており、本人も把握済みです。
※主催陣営はSAO事件を参考にしたと推測しています。
※空と空黒というコンビ名を結成しました。

504fortissimo-the WeiβFlügel crisis- side:YUKI ◆QUsdteUiKY:2025/04/05(土) 02:16:55 ID:5/YixKfI0
【空@ノーゲーム・ノーライフ(アニメ版) 】
[状態]:健康
[装備]:デュエルディスクとデッキ(蟲惑魔)@遊戯王OCG、キバットバット三世@仮面ライダーキバ
[道具]:基本支給品、高級木材のモーターボート@現実、首輪×2(御伽、遠野)
[思考・状況]基本:ハ・デスと檀黎斗を倒す。あまり人類ナメるんじゃねぇ
1:キリト、尊徳、ユキと共闘する
2:ユキが落ち着いたから、とりあえず情報と自分の考えををみんなに伝えたい。取り乱して放送を聞き逃してそうなユキには特に。でも今はもう少しユキのメンタルケアをするべきか?
3:2の後、エルキア大図書館に寄り、調べる。二手に別れるかは人数と戦力状況による。その次にD-6の島を調査する
4:主催者と関係ある人物と接触する
5:リリスのよりしろ探しを手伝う。それに大きくする道具はあるか?
6:渡の殺害の件がきな臭い。士とレイに接触し、当時の状況の詳細を聞き出す
7:変なおっさん(肉おじゃ)、PoH、謎の気狂いの変態、念のため美遊の関係者を警戒
8:金髪の男(ポセイドン)、継国縁壱を最大限に警戒
9:ヴァイスフリューゲルのメンバーを優先的に探す
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後
※遊戯王OCGのルール及び蟲惑魔デッキの回し方を把握しました
※主催陣営はSAO事件を参考にしたと推測しています。
※キリトと空黒というコンビ名を結成しました。

【リリス@まちカドまぞく】
[状態]:正常
[思考・状況]基本:全員で生きて脱出
1:空、キリト、尊徳、ユキと行動を共にする
2:吉田一家を優先に捜す
3:清子、小倉……
4:桃とミカンの合流は後回し。合流したら挨拶はしたかったが……
5:よりしろを見つけ出す
6:ヴァイスフリューゲルのメンバーを優先的に探す
[備考]
※参戦時期は4巻(アニメ2期)終了後
※他者との肉体を入れ替える能力と他人の夢に入る能力は制限対象で黎斗によって不可にされています。
※黎斗によってよりしろで活動出来る時間は10分に制限されていて、二時間経過しないと活動出来ません。等身大よりしろも同様です。
※よりしろ状態でも並行世界――きららファンタジアで手にした力を引き出すことは可能とします。ただし、少なくともキリトの支給品にきらファンでのリリスの専用武器はありません
※主催により口封じをされました。今後は何かキッカケがない限り話せません。きらファンで手にした力も主催により剥奪されています

505 ◆QUsdteUiKY:2025/04/05(土) 02:17:29 ID:5/YixKfI0
投下終了です

506 ◆4Bl62HIpdE:2025/04/06(日) 18:55:15 ID:hT7dYR7U0
恐れ入りますが予約を破棄します。キャラの拘束申し訳ございません。
中途で執筆していたssは予約がなければ後日投下します。

507 ◆ytUSxp038U:2025/04/06(日) 22:47:48 ID:FT1s1/7Q0
カイザーインサイト、保登心愛(きらファン)、琴岡みかげ、マサツグ様、衛宮士郎、犬吠埼風、環いろは、黒死牟、エボルトを予約し延長もしておきます

508 ◆4Bl62HIpdE:2025/04/12(土) 10:54:58 ID:QDDTrW1k0
投下します

509発進!進むべき道とマコトの願い ◆4Bl62HIpdE:2025/04/12(土) 10:56:10 ID:QDDTrW1k0
大天空寺。一旦合流を諦め…ここに戻って来た。
地下室に入り戦兎は、うずくまって重症を負い、苦しんでいるモニカと、モニカほどではないが同じく治療を受け眠っている學を見つめる。


救急箱や布類で、受けた傷の処置は済んだ。
しかし、容態は安定しないままだ。

戻って来た理由は二つ。モニカ達の治療と……

「……お前なら、何か知ってるんじゃないか?」

「……あぁ」

戦兎は、この施設を十分に知っていると思い、地下室にマコトを招いた。…やちよの合流場所とは真逆の位置に流れ着いたが、重症の怪我人もいるのでそこは仕方ない。

「…何をしてるんだ?」
出現したゴーストドライバーを装着するマコトに、戦兎は訝しむ。
「…多分、もう意味はないと思うが」
アイコンドライバーG。それは15人の眼魂も内部に入っている。

しかし、マコトの知るグレートアイはもう元の世界にはいなかったので、おそらく無駄だろう。そう思っていたが……。


次の瞬間、戦兎が驚愕した。
「な……!?」


モノリスから目の紋章が現れ、魔法陣のような陣が展開したからだ。




「………グレートアイ……!?」

驚きつつも、意を決したようにマコトは光の中へ入る。

510発進!進むべき道とマコトの願い ◆4Bl62HIpdE:2025/04/12(土) 10:57:26 ID:QDDTrW1k0




「望みを述べよ」


「グレートアイなのか……?」



「望みを述べよ」

マコトがグレートアイと呼んだその者は、それしか喋らない。


…マコトは、思い悩む。

グレートアイは眼魂とゴーストドライバーを持つ者には、どんな願いも叶える。
…ここで「檀黎斗を倒してくれ」と願えば、このゲームは終了するのだろうか。

浮かぶのは、かつて救われた友の姿。
「………俺の望みは」




戦兎はモノリスの反応と連動するノートPCを再び操作しながら、思索する。

……この反応についての説明も書かれていた。つまりこれは黎斗を倒しうる策にはなり得ない。

やがて、光の中から出てきたのはマコトと……


「……モニカ」
「……これでいいんだ」

傷が完治し、眠っているモニカだった。
マコトは、「モニカを治してくれ」と願ったのだった。

「……済まない。あの男を倒すような事を願っていれば……」
「……気にすんなって。それより、もうすぐ放送だぞ」

…真実を知っていた戦兎は、それでもマコトに微笑んだ。

『御機嫌ようプレイヤー諸君。まずはおめでとうと言わせてもらおう――――





「――エグゼイド………一海が……死んだ……?」
放送を聞き終え、戦兎は顔を歪める。
仲間である仮面ライダー達の死。……悲しみと、それ以上に絶望が強い。

一海が死ぬという事は、まさしく制限が解除されたエボルト以上の敵で無い限り在り得ない。
…そんな強敵がこの殺し合いにはいるという事になる。自分にもビルドドライバーが支給されていた以上、一海にもスクラッシュドライバーが支給されていた可能性は高い。……ビルドスパークリングでは、自分も確実に後を追う事になる。

そして、宝生永夢――エグゼイド。
エグゼイドはその力を知る者にとっては黎斗に対抗する術を持つ、謂わば「希望」だったからだ。


ムテキゲーマー。かつて葛城巧のファイルにあったそれは、どんなダメージも無効化し、ポーズさえも打破できる力を持つ。


それに変身する事のできるエグゼイドは、謂わば檀黎斗に唯一対抗できる希望だった。だが、彼が死んだ以上、エグゼイドの変身アイテムすらどこにあるのか分からない。


「――永夢」マコトも、動揺せずにはいられなかった。
宝生永夢。それは、友である天空寺タケルの命を救った英雄の名だった。
その名を嘲笑うように口にした黎斗に煮えたぎるような怒りを覚えながら、マコトは尚も抑えようと唇を嚙み締める。

「……禁止エリアはD-1か。…あのまま居たらやばかったな」悔恨を噛み締めながら、戦兎達は地図を確かめこれからの方針を練る。

「どうする?モニカと、學が目覚めるまで待つか?」「……いや。これから合流場所へ向かう」


…どうやって、とマコトが言おうとした矢先、戦兎はノートPCを操作した。

すると役目を終え、消失したモノリスを中心に……大天空寺の地下室が変形する。
「行くぞ。……お前のバイクをここまで持ってきてくれ」

511発進!進むべき道とマコトの願い ◆4Bl62HIpdE:2025/04/12(土) 10:58:32 ID:QDDTrW1k0
【E-1 大天空寺/一日目/早朝〜朝】

【桐生戦兎@仮面ライダービルド】
[状態]:ダメージ(中、処置済み)、疲労(小)
[装備]:ビルドドライバー+フルボトル(ラビット、タンク)+ラビットタンクスパークリング@仮面ライダービルド、ドリルクラッシャー@仮面ライダービルド
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜1(確認済み、フルボトルは無い)、月村アカリのノートPC@仮面ライダーゴースト、リボルギャリー@仮面ライダーW
[思考・状況]
基本方針:檀黎斗を倒し殺し合いを終わらせる。
1:このままE-4に向かう。……エボルトの奴もいるのか?
2:監視も兼ねてエボルトと共闘する。信用した訳じゃねぇからな。
3:首輪解除のための研究器具は持ち込んだ、問題ない。後はサンプルも必要だが…。
4:万丈と幻徳を探す。
5:環いろはをこっちでも探してみる。
6:デュエリストにも接触しておきたい。
7:――エグゼイド……一海……。
[備考]
※参戦時期は『ビルド NEW WORLD 仮面ライダークローズ』以降。
※再度探索した月村アカリのノートPCから、リボルギャリーの操作に関するファイルを見つけました

【深海マコト@仮面ライダーゴースト】
[状態]:ダメージ(中、処置済み)、疲労(中)
[装備]:ゴーストドライバー&スペクターゴースト眼魂&フーディーニゴースト眼魂@仮面ライダーゴースト、アイコンドライバーG@仮面ライダーゴースト
[道具]:基本支給品、マシンフーディー@仮面ライダーゴースト、リベンジシューター(7/8)@大乱闘スマッシュブラザーズシリーズ、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]基本方針:ゲームマスター達は俺が倒す!!
1:タケル、俺の選択は……。
2:ニノン…お前の生き様は忘れない……。
3:あの男(マサツグ様)は仮面ライダーなのか……?
4:永夢……俺はタケルに何て言えば……。
[備考]
※参戦時期はゴースト RE:BIRTH 仮面ライダースペクター終了後
※シンスペクターゴーストアイコンを自分の意思で出すことは制限により不可能です。他の参加者に個別に支給されているか、何らかの条件によって出すことが可能になるかもしれません
※心意システム及び眼魂の特性により、友情ゴースト眼魂がアイコンドライバーGに変化しました。

【土部學@女装男子のつくりかたシリーズ】
[状態]:ダメージ(中、処置済み) 、疲労(極大)、精神的疲労(大)、緋々色金による擬似的なエイヴィヒカイト覚醒、気絶
[装備]:緋々色金@Dies irae
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]基本方針:モニカちゃんに一人で背負い込ませたくない。怖いけど一緒に戦う
0:……
1:ゆきさんは本名で参加させられた可能性もある……?
2:モニカちゃんの背負ってるもの、僕も少しだけ持ってあげますよ
[備考]
※参戦時期は女装男子のまなびかた終了後
※ 緋々色金に仕組まれた細工により、心意をトリガーに擬似的なエイヴィヒカイトに覚醒しました。身体能力が格段に上がり、素人の彼でも仮面ライダーと生身で戦えるくらいになりました。ただし効果はそれくらいです

【モニカ@プリンセスコネクト!Re:Dive】
[状態]:健康、みんなを照らしたいという渇望(極大)、悲しみ(大)、眠っている
[装備]:戦雷の聖剣@Dies irae
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]基本方針:決闘を終わらせる
0:……
1:ニノン……。
2:私はもう誰も失いたくない…… 。だから私が、皆を照らすのだ!
3:アユミ……私たちの勇姿、見ていてくれ……
[備考]
※参戦時期は少なくともイベントストーリー『ショーグン道中記 白翼のサムライ』以降。



【支給品紹介】

リボルギャリー@仮面ライダーW
ハードボイルダーシステムの高速移送装甲車。原作ではスタッグフォンで操作されていたが、この殺し合いにおいては月村アカリのノートPCで操縦できる。
(制限によりハードボイルダーは搭載されていない。)





深海マコトには知る由にもなかったが、グレートアイは檀黎斗が用意したNPC。
謂わばゴーストドライバーを持っていたら発生するイベントキャラ。勿論、主催を殺害させる・会場内から脱出するような願いは叶えられないように制限されていた。

それを知ることなく大天空寺を後にしたのは、幸か不幸か……あるいは、未来においてマコトを後悔させる記憶になるかは、誰にも分からない。




【NPC紹介】
グレートアイ@仮面ライダーゴースト
15個の眼魂とゴーストドライバーを持った者に対して発生するイベントNPC。
ドライバー所有者の願いを叶えるが、殺し合いの打破・会場内の脱出は出来ない。
※モノリス@仮面ライダーゴーストは消失しました。

512発進!進むべき道とマコトの願い ◆4Bl62HIpdE:2025/04/12(土) 10:58:47 ID:QDDTrW1k0
投下を終了します

513 ◆QUsdteUiKY:2025/04/13(日) 08:16:43 ID:Ja9rkDrU0
ゲリラ投下します

514魁!!野獣塾 ◆QUsdteUiKY:2025/04/13(日) 08:18:40 ID:Ja9rkDrU0
「はぁー……。どうして俺がこんな悪役みたいなことをしなきゃいけないんですかね」

 野獣先輩は一通りデュエルを終えた後、ため息をつく。
 それもそのはずだ。野獣先輩は後輩が好きなだけの先輩であり本来ならば殺し合いに乗らない人物。
 もしも自分や遠野が巻き込まれてなければ。
 遠野が殺されてなければ――殺戮者には成り下がらなかった。

 野獣先輩は此度の殺し合い――つまり決闘でゲスなことやクズなことばかりしているが、根底にあるのは愛する後輩である遠野を救いたい。ただそれだけの純粋な願いがある。

 その過程で、何故かスタンドを出したりオシリスの天空竜になったり――普通の人間では有り得ないことが起こった。
 殺し合いで優位に働くのは間違いないが、自分の肉体がもはや人間とは思えない変化を遂げていることに多少の恐怖はある。

 何故なら当然だが彼自身、ミームから生み出された存在だと理解していない。
 自分を普通の人間だと思っている。

 しかし、考えれば考えるほどに謎は深まる。
 自分の名前は鈴木か田所だったはずだが、その2つが名簿にない。愛する後輩である遠野の本名も思い出せない。

 更に言うならば、名簿の順番だ。
 遠野の近くにはMNRや苗字のない〝ひで〟や虐待おじさん。挙句の果てにはNHKに喧嘩を売ってるのか、肉体派おじゃる丸なんて名前もある。おじゃる丸が実在するわけないし肉体派でもなんでもないだろ、いい加減にしろ!
 そして愛する遠野の隣にある、野獣先輩という名前。

 (まさか主催者は一部の参加者にニックネームを付けてて、この野獣先輩が俺なんですかね?)

 野獣先輩は遠野を愛している。
 であるならば当然、彼の隣に名前があると野獣先輩はガバガバ考察をした。恋する女の子は盲目だから、多少はね?は?野獣先輩は女の子じゃない?野獣先輩は女の子だろ、いい加減にしろ!
 まあ実際、今の野獣先輩はなろうと思えば(王者の風格)女の子になることも出来るので野獣先輩女の子説はあながち間違ってないのである。

「いやー……それにしても俺の横にいる奴ら大半がわけわかんなくないですか?何かの実験にされてるんですかね」

 いきなり我が身に起こり得ぬ非現実が起こってしまった。
 それはマーダーとしてはクッソ有能な能力だが、野獣先輩からしたらわけがわからないし実験道具にされてるとも思う。特にこの肉体派おじゃる丸とかいうのは、筋肉ムキムキのおじゃる丸みたいな肉体に改造されたのだろう。そう考えると流石の野獣先輩も同情する。もちろん出会えばパパッと殺って、終わり!なのだが自分が凄まじい力を得たこともあり、ニックネームみたいな名前の参加者は何か強い力を秘めている可能性を考慮する。それなのに死んだボーちゃんや虐待おじさんはよっぽど間抜けだったのだろう。

 それにしても今までは殺意ばかり漲らせてきたが、良く考えたら恐ろしいことばかりだ。
 だが、そんな恐ろしい技術を持つ主催者だからこそ本当に死者蘇生出来る方法があると確信出来る。
 もっともこんな人間でないような能力を得た自分を遠野が愛してくれるかと、一瞬迷うが――

「遠野なら愛してくれるってはっきりわかんだね」

 それは野獣先輩を遠野を心から信用してるから出てくる言葉だった。
 彼は無から生まれた存在。所詮はネットミームが姿を得たものだ。

515魁!!野獣塾 ◆QUsdteUiKY:2025/04/13(日) 08:19:11 ID:Ja9rkDrU0
 彼だけじゃない。肉体派おじゃる丸以外の巻き込まれた淫夢キャラは大半がそうだ。
 しかし彼らには彼らの日常があると、自分達は思い込んでいる。まさかその日常が虚構などとは知らない。彼らを虚構と知るのは参加者だと肉体派おじゃる丸くらい。
 肉体派おじゃる丸は紛れもない被害者だが、いきなり無から生み出されて偽りの記憶を植え付けられた野獣先輩達も立派な被害者である。クッソ汚くて傍迷惑な桐生戦兎だなぁ。

 とりあえずここで得た野獣先輩新説シリーズはとにかく強いが、なにぶん体力を消耗するのがネックだ。
 キングフォームやジャックフォームも強いが、制限がキツい。もっともこれは野獣先輩が野獣先輩新説シリーズに覚醒するのを期待して、意図的に野獣先輩だけに付けられた制限なのだが。事実、仮面ライダーというカテゴリでは同類のクロスセイバーにマサツグ様は制限なしに変身している。駆紋戒斗の事実上の最強形態といえるロード・バロンに時間式の制限はないのにキングフォームやジャックフォームだけ時間式の制限があるというのもおかしな話だ。バランス崩壊にも程がある。

 簡単な話、バランス調節である。野獣先輩新説シリーズはとにかく多彩で、強い。それに加えて仮面ライダーの強化フォームまで時間制限なく使えたら強すぎるので、野獣先輩だけは強化フォームに対して時間式の制限がある。

「自分の体が変わるのは怖いけど……優勝するにはこれとデュエルと仮面ライダーが大事ですね、間違いない」

 野獣先輩としては野獣先輩新説シリーズに対する恐怖もある。もし戻れなくなったらとか、もしよくわからない存在になったらとか、もし淫夢くんになったらとか。
 だがこれは便利な能力だ。上手く使えば暗殺にも使えるかもしれない。愛する遠野のためなら……やるしかないだろう

「こんなことならAKYS師範からもっと真面目に空手を学べば良かったな」

 そんな言葉を零す野獣先輩だが、彼は実はフィジカルも強い。何故なら迫真空手を習ってるからだ。
 それなのにこんな言葉が出てきたのは、それだけAKYSが強いからである。AKYSなら仮面ライダーと殴り合えたかも……なんて妄想する

「まあこんな妄想しても仕方ないんですけどね」

 妄想は所詮、妄想だ。現実じゃない。
 まあAKYSやMURという実力者が参加していたら彼らの性格的に真っ当な対主催になってただろうからまだマシだと考える。

「それにしてもこのデッキ、攻撃力と守備力はそこまで高くないなぁ……」

 デッキを手に入れたのは嬉しい。使い方もわかった。
 だがモンスターが全体的に貧弱すぎる。そんなんじゃ一般人くらいしか倒せないよ。
 まあマジェスペクター・ソニックを使えばその弱点は克服出来るが、今度はダメージが半減されてしまう。弱点がなければ最強カードだったのに残念だ。まあデメリット無しなら強すぎだから、多少はね?デメリットありでも割と強いし、使い所が重要だ
 次に目をつけたのがマジェスペクター・ストーム。デッキに戻す効果的にワープ効果があるかもしれない。メスガキ(ねむ)が誰かに同行してたら使うのもありか。
 破壊は出来ないだろうが、能力を無効化出来るマジェスペクター・テンペストも中々良い。無効化は永続じゃないだろうが、それでも強い。
 そしてマジェスペクター・トルネード。除外効果ということは、対象を一時的に異次元に放逐するということだろうか。だとしたらすごく使い勝手がいい。強い参加者を除外するのにも、メスガキと再戦する時にメスガキを守る参加者が居たときにも使える。あのメスガキは、今度こそ確実に仕留めたい。そう考えると、マジェスペクターはメスガキ(ねむ)を殺すにはとても有用に思えてくる。他者を使い捨てるクズ女を殺すにはちょうどいいデッキだ。

「この青薔薇の剣ってのも侮れないスね。仮面ライダーは強い状態だと時間制限があるし、体を変えるのは疲れるし、デッキのモンスターは貧弱。でもこの青薔薇の剣はそういう面倒なの気にせず使えそうですねぇ!」

 もっとも魔力なしに武装完全支配術と記憶完全術は相応に体力を消耗するのだが。
 それでも野獣先輩新説シリーズの強いのに比べたらマシかもしれないから、多少はね?

516魁!!野獣塾 ◆QUsdteUiKY:2025/04/13(日) 08:19:48 ID:Ja9rkDrU0
【B-3 湖前/一日目/朝】

【野獣先輩@真夏の夜の淫夢】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、野獣先輩新説シリーズに対する若干の恐怖と使い続ける決意
[装備]:ブレイバックル+ラウズアブゾーバー(キングフォームに2時間変身不可)
[道具]:基本支給品一式×5、デュエルディスク+デッキ(マジェスペクター)@遊戯王OCG、ホームランバット@大乱闘スマッシュブラザーズ、風間大介のギターケース@仮面ライダーカブト、どこでもドア(6時間使用不可)@ドラえもん、まあまあ棒@ドラえもん、青薔薇の剣@ソードアート・オンライン(アニメ版)、ステフの手作りドーナツ×12@ノーゲーム・ノーライフ(アニメ版)
[思考・状況]
基本方針:勝ち残り遠野を生き返らせる。
0:川を沿って、左右どちらに行こうか?
1:殺りますねぇ!(尚も衰えぬ殺意)
2:あのメスガキ(ねむ)はかち合えばもう”五度目”はない。マジェスペクターで孤立させて、殺す
3:白コートの剣士(鋼牙)や厄介そうな参加者は悪評を流して同士討ちを狙う。
4:仮面ライダーブレイドの名を利用する。
5:デッキの力は状況によるが、同じデッキを持つ奴或いは最後の手段として使う。
6:遠野を殺した奴は許さない。
7:姿を変える(野獣先輩新説シリーズ)のは怖いけど、優勝するためには惜しまない
8:変な名前の奴らは実験体のニックネームですかね?
【備考】
※バトル淫夢みたいな戦闘力があります。
※野獣先輩新説シリーズで対象キャラへの変身や能力・技能の獲得が可能になりますが、新設シリーズを使う度に体力が消費されるようです。
 参戦作品以外のキャラクターの説は使用不可能に制限されています。
 他にも天体説@現実など、殺し合いを破綻させるような説の使用も制限により禁止されています。
※遊戯王OCGのルールとマジェスペクターの回し方を大分把握しました。
更に経験を積めばデッキを十割程、使いこなして、成長するでしょう。
※仮面ライダーの強化フォームに変身する時に時間制限があります
※青薔薇の剣

517魁!!野獣塾 ◆QUsdteUiKY:2025/04/13(日) 08:21:47 ID:Ja9rkDrU0
>>516
途中送信してしまいました

※青薔薇の剣の武装完全支配術と記憶完全術は相応に体力を消耗しますが野獣先輩は気付いてません

518 ◆QUsdteUiKY:2025/04/13(日) 08:22:20 ID:Ja9rkDrU0
投下終了です

519 ◆QUsdteUiKY:2025/04/14(月) 07:19:38 ID:lWhjTvow0
投下します

520切なさも、胸の痛みも全て秘めた勇気に変え ◆QUsdteUiKY:2025/04/14(月) 07:20:50 ID:lWhjTvow0
リムジンで移動する前、士はカブトの能力をココアに軽く説明していた。キャストオフ、プットオン、そしてクロックアップといった基本的なまものだ。
 カブトはただ変身するだけでは十全に能力を発揮出来ないので当然である。
 そしてカブトの変身者のことも話した。

「もしかしたらそいつ(カブトゼクター)がお前を選んだのは必然だったかもな」

「そんな人が元々、カブトに変身してたんだね。まるで戒さんみたい……!私も負けないようにがんばらなくちゃ!」

「まあココア専用ソードとかいう支給品も専用なんてついてる辺り何かあるんだろ。説明書によると仮面ライダーじゃないが変身出来るんだってな。ま、上手く使い分けていけよ」

 士さんがそうアドバイスをくれる。

 ――戒さんは、たぶん死んじゃった。
 あんな強い人達を相手に生き残れると思えないし……戒さんの最期の言葉がそんな雰囲気を帯びてたから。
 だから私はあの時、戒さんを必死に引き止めようとして「酷いよ」なんて言葉も出てきちゃった。
 でも私は戒さんに本当はそんなこと思ってなくて……つい出てしまった言葉があんなもので、すごく後悔してる。
 戒さんの妹さんを見たかった。戒さんにチノちゃんを紹介したかった。私の自慢の妹だって、見せたかった。

 でもそんな願いは二度と叶わない。
 叶わなく、なっちゃた……。
 それはすごく悲しいけど……だけど、戒さんやあんこの命懸けの行動が私の命を繋いで……背中を押してくれた。
 
 マヤちゃんは殺された。あんなに元気で優しい笑顔を、私やチマメ隊のみんなはもう見れない。
 苺香ちゃんも殺された。知り合ったばかりだったけど……死んでいいはずがないと思った。
 あんこや戒さん以外も……みんなみんな、取りこぼしたくなかった。

 それでも――私は前を見なきゃいけないと思った。
 だから――私は諦めない。カブトゼクターが私を選んでくれたのも、そんな決意に反応してくれたからだと思うんだ。

『こいつは自分にとって大切な連中を失った。周りが思う以上に心へ傷を負った筈だ。
 そのまま戦えなくなったって責められやしない。
 だがな、それでもこいつは戦うことを選んだ。殺されてもおかしくないってのに、歯を食い縛ってお前に立ち向かった。
 だからレイも無事でいられたんだ』

『俺達は皆誰かに託されてる。自分が助からないと分かっても、諦めなかった奴らからだ。
 ある男がこいつを助けたように、今度はこいつが俺達の助けになった。
 そうやって繋いでいった先にあるのは破滅なんかじゃない、希望って言うんだよ』

 士さんがあの時話した言葉は、今でも強く胸に残ってる。
 だから私達は希望を繋いでいくんだよ。そうだよね?チノちゃん、リゼちゃん、メグちゃん。
 そして希望を紡いでくれてありがとうね、戒さん。あんこ。

521切なさも、胸の痛みも全て秘めた勇気に変え ◆QUsdteUiKY:2025/04/14(月) 07:22:01 ID:lWhjTvow0

「あまり気負わないでくださいね、ココア。あなたは元々ただの一般人なんですからね」

「ありがとね、レイちゃん。でも私はもう大丈夫だよ!もう誰も失いたくないし――私はチノちゃんのお姉ちゃんだからね!」

「それならいいのですが……」

「それよりレイちゃんも自分の心配をしなきゃダメだよ。見た感じまだ私と同じくらいの歳の女の子でしょ?」

「まあ……年齢はそうかもしれませんが、私は閃刀姫だからいいんですよ!それに私にもロゼっていう守りたい子がいますから!」

「えへへ。それじゃあ、私と一緒だね!」

 ぴょんぴょん。

「あっ、ちょ……いきなり飛びついてこないでください!ペースが乱れます、ペースが乱れますから!」

「お前ら、仲良くなるのが早いな。ほら、さっさと次の場所へ行くぞ」

 こんなやり取りの後、私は車に。
 レイちゃんは士さんのバイクに乗って移動した。

「シャミ子……シャミ子……」

 桃ちゃんは、車でひたすらシャミ子ちゃんの名前を呼んでた。
 その姿がマヤちゃんやあんこ、そして戒さんを失った私みたいで……すごく胸がチクチクする。

 少しでも元気付けてあげたい。
 でも今の私達ではシャミ子ちゃんを救えるかわからなくて……。
 それでもジッと見ていられないから……。

「大丈夫だよ、桃ちゃん。シャミ子ちゃんは私達が助けるから!お姉ちゃんに任せなさい!」

 そんなことを言ってみる。
 まあ年齢は近そうだけど、細かいところはおいといて……。
 とりあえずシャミ子ちゃんを助けてあげるって元気付けてあげたかった。
 でも、桃ちゃんは一向に顔色が悪いままで……顔が青ざめてる。

「シャミ子……ごめん。ごめん。力になれなくて……今すぐ助けに行けなくて……ごめん」

 女の子にしては大きな身長で、顔付きも凛々しそうに見える桃ちゃんが……体を縮こまらせてただひたすら謝っていた。

「……気持ちは私もわかるよ。私も、大切な人達を失ってきたから」

「……ごめん。私は大丈夫」

「大丈夫に見えないよ!大丈夫ならどうして――」

 そこまで言い掛けて、言葉に詰まる。
 答えは1つしかないのに。わかっているはずなのに。
 
「シャミ子を……助けたいから」

「そんなこと知ってたはずなのに……ごめんね、桃ちゃん」

「気にしないで。私は今まで……ひたすら筋トレを繰り返してきた。……魔法少女としては弱い方だけど片手でダンプを止めれるくらいの力もあった。でも、筋肉ではシャミ子を救えない……」

「桃ちゃんにとって、シャミ子ちゃんはすごく大切な人だったんだね」

「うん。ココアにとってチノちゃんに近いのかな……。妹じゃないけど、放っておけなくて……。すごく頭が残念な子なんだけど……」

 それから桃ちゃんはシャミ子ちゃんについて語り出した。
 その話を聞いて、桃ちゃんが焦る気持ちも余計にわかっちゃうけど……今の私達じゃ勝てないのもわかってる。

 でもシャミ子ちゃんの話をしてる間に、桃ちゃんの心が落ち着いてきたみたいで……良かったのかな?

「シャミ子は500円を返すだけでも泣くような貧乏な家庭で……」

 それはちょっとまずくないかな!?

「ただフードコートで食べるだけで嬉しそうにして」

「ふ、複雑な環境なんだね!」

「うん。でも私はそんなシャミ子を気に入ってる」

「なるほど、二人は仲良しなんだね!」

「うん。……まあいい子だよ」

 桃ちゃんの口数は少ないけど、そこからもシャミ子ちゃんを大切にしてることがよく伝わってくる。
 だから私もシャミ子ちゃんを救うんだ!桃ちゃんと一緒に!

「一緒にシャミ子ちゃんを助けようね、桃ちゃん!」

「……zzz」

 気合を入れた私の声を、桃ちゃんは聞いてなかった。……ていうか寝てた。
 まあすごく傷を負ってるし安心したら気が抜けて気絶しちゃったのかな。
 でもスヤスヤと眠る桃ちゃんの顔は、安心感に満ちたすごくいい顔だったよ!

522切なさも、胸の痛みも全て秘めた勇気に変え ◆QUsdteUiKY:2025/04/14(月) 07:22:50 ID:lWhjTvow0
「安らかに寝てるわね」

 そんな桃ちゃんを眺めて、やちよさんが柔和な表情をする。

「ココア。あなたとはまだ出会って間もないけど、優しいわね。……少しだけ、私の守りたい子を思い出すわ」

「ありがとね、やちよさん。ちなみにその子はどんな子なの?」

「環いろは。この殺し合いにも巻き込まれてる子よ。歳はあなたより少し幼いくらい。優しくて、温かくて……仲間のフェリシアが死んでもまだ私が折れないなによりの理由よ」

「じゃあいろはちゃんとも合流しなきゃね!」

「ええ、そうね。いろはは必ず、探し出すわ」

「オレは知り合いはいないけど、必ず生き抜くぜ。そして主人公に返り咲いて、飽きるまで青春を楽しむ」

 小鳩さんはそんなふうに笑ってみせた。
 殺し合いの最中だということを忘れるくらい、明るい雰囲気だった。

523切なさも、胸の痛みも全て秘めた勇気に変え ◆QUsdteUiKY:2025/04/14(月) 07:23:40 ID:lWhjTvow0

 ――でも、そんな雰囲気も唐突に崩れる

「変身、でございます」

『バナナアームズ!ナイト・オブ・スピアー!』

 いきなり車の目の前に女の子が飛び出して、仮面ライダーに変身して――

「――避けろ、お前ら!」
「くっ……!まさか新手が待ち受けていたとは」

 士さんが叫んで、レイちゃんが悔しそうに呟いたのが聞こえた。
 車は急いで右に曲がろうとするけど――
 
『バナナオーレ!』

 巨大なバナナが、車を真っ二つに斬った……!



「作成成功でございますか」

「(あっさりハマって)笑っちゃうんすよね。(バトロワの最中だと忘れてた可能性)濃いすか?」
「これもみんなのためだからね!」

 ブラックバロンに変身したコッコロが車を叩き斬ってから、近くで待機してた肉体派おじゃる丸とメグが姿を現す。
 なにやら車とバイクが呑気に走ってたのを発見したから、不意打ちしてやろうと画策していたのだ。

 車内からドロリ、と血が溢れ出す
 マシンディケイダーに乗っていた士とレイはバイク特有の小回りの良さから避けていたが、車は見事に真っ二つにされて炎上していた。

「けほっ、けほっ……みんな、大丈夫?」

「ええ、なんとか命に別状はないわ」

 小鳩が咄嗟に突き飛ばしたココアとやちよがら返事をする。

「オレもなんとか無事だ。今からこいつら、ぶっ潰してやる!……って、まだこんな小さな女の子かよ!?」

 そんなふうに口に出す小鳩だが、左足半分が欠損していた。咄嗟に庇った際に切り取られたのだ。

524切なさも、胸の痛みも全て秘めた勇気に変え ◆QUsdteUiKY:2025/04/14(月) 07:25:39 ID:lWhjTvow0

「そうはさせないよ!えーい!」 
 
 そしてそんな小鳩に容赦なく光弾を放つメグ。
 しかしその光弾をレイが対処。光弾に刀をぶつけたレイに、更にココアが専用ソードをぶつけ重ねることで完全に防ぐ。

「酷いよ、ココアちゃん。せっかくみんなが生き返れるチャンスなのに」

「そんなチャンス本当にあると思ってるの!?」

「思ってるよ〜。優勝したら願いを叶えれるからね」

「あんな奴の言うことを聞くなんてバカか、お前は。――変身」

  そして士がディケイドに変身する

「いいの?あの人を守らなくて?」

 メグは血塗れの桃に容赦なく光弾を放つ。
 この中で一番の手負いは桃だ。気絶していたせいでなにも対応が出来なかった。小鳩が庇ってなければ即死してたろう。
 そして小鳩が庇っても回避行動が取れなかったせいで技がある程度当たり、右足と左足が千切れてる。

「ほら、ほら、ほら〜」

 メグが何度も桃を狙う。
 ディケイドがライドブッカーでそれらをひたすら撃ち落とす。
 これではディケイドは戦えない。しかも相手がまだ幼い良くも悪くも無垢少女ということで、皆がなかなか攻められずにいる。――約1名を除いては。

「メグちゃん、そんなことしちゃダメ〜!」

 ココアが専用ソードで杖を折ろうとする
 が――

「なまっちょろすぎて笑っちゃうんすよね」

 肉体派おじゃる丸が邪魔をして、自慢の拳で軽くココアの腹を殴る。挑発の意味も込めて。

「けほっ!」

 思わず咳き込み、地面に蹲るココア。
 しかし彼女は諦めない。剣を支えに立ち上がり、構える。
 諦められない理由(わけ)があって、あの大きな大きな――戒の背中が見えたから。

「まだ、だよ!」
 
 そんなココアの勇姿を見たやちよが。レイが並び立つ。

「遅れたわね。私も戦うわ」
「ココアだけにいいカッコさせませんからね!」

 (こんなに女の子が頑張ってるのに……オレはモブでいたくねぇ!)

 小鳩も立ち上がろうとするが、左足がないゆえに上手く立ち上がれない。
 苛立ちに青筋が浮かび上がる。
 大地に仰向けになりながらも、怒り気味にカタルシスエフェクトのモーニングスターを肉体派おじゃる丸にぶつけるがまるで効かない。

「(さっきからロクな目にあってなくて)笑っちゃうんすよね。ここらでストレス発散してないとやってらんないんすよね」

 負の感情によって起こった心意。それが肉体派おじゃる丸のシンプルな強化に繋がる。苛立てば苛立つほど、強くなるのだ。

「ここらで死んで、どうぞ」

 体躯に見合わぬ素早い動きで小鳩の近くまで行き、顔面に拳を振り下ろし、彼の元を去る。

 ぐしゃ!

 何かが砕ける音が、無情にも鳴り響いた。
 これはだめだ。間違いなく即死だ。本来ならば、だが。
 そしてコッコロはこの肉体派おじゃる丸を正式に仲間として迎え入れ、更なる地獄を齎すためにホッパーゼクター&ZECTバックルを渡した。

「クソがぁああああ!」

 小鳩が叫び、モーニングスターを乱雑に振り回す。
 しかし狙いが定まっていないのか、本当に乱雑で肉体派おじゃる丸は「笑っちゃうんすよね」と嘲笑した。
 だがそんなモーニングスターがいきなり方角を変えて、ホッパーゼクターを打ち砕いた。神が微笑むのは、マーダーだけでないということだ。

 しかし、小鳩は死んだ。
 頭蓋骨が砕かれたのだから、当然だ。
 最後の奇跡は心意によるものに他ならない。
 一度鳴り響いた黒の宣告は、止まらない。
 ココアがただの腹パンで済んだのはせんしの力を引き出していたのと、肉体派おじゃる丸の気まぐれだ。ムカついてたから、目の前な少女を甚振りたいというノンケのような思想である。

「クキキキキ…」

525切なさも、胸の痛みも全て秘めた勇気に変え ◆QUsdteUiKY:2025/04/14(月) 07:26:18 ID:lWhjTvow0
 最後の悪足掻きに苛立ちを見せる肉体派おじゃる丸。

「メグちゃん、止まって!変身!」

『HENSHN』
 
 そしてココアはカブトに変身して、まずは力付くの格闘戦で止めることにした

「変身なら私も出来――」

 対するメグも変身しようとするが――

「クロックアップ!」

 それより先にココアがクロックアップでメグの腹を軽く殴り、気絶させていた。
 手段は問わない。この子は必ず元に戻すという確固たる信念と共に。

『クロックオーバー』

 そして一瞬の加速は終わり、今度は肉体派おじゃる丸とコッコロがココアを危険視する。特にコッコロはクロックアップの強さをよく理解している。制限されていれど、強い能力だ。

 ゆえに肉体派おじゃる丸とブラックバロンが同時に襲い来る。
 
「クロックアップ!――あれ?連続で使えない!?」

 短時間に連続で使えたら強すぎるので制限されている
 しかしブラックバロンのバナスピアーをやちよが槍で対抗し、肉体派おじゃる丸の拳をレイが剣でいなし――

「はぁああああ!」

 自由になったディケイドのファイナルアタックライドが肉体派おじゃる丸に命中した。
 満身創痍になりながらも、それでも怒りと憎しみで体を動かす肉体派おじゃる丸。彼は1枚のカード――ゴッド・ハンド・クラッシャーを発動する。

 肉体派おじゃる丸の剛腕は更なる高みに、巨躯は更に大きくなる。
 今から放たれれるのは、神の一撃だ

「あんたら全滅の可能性、濃いすか?」

 神の前に人間は抗えない。
 肉体派おじゃる丸は嘲笑うように彼らに声をかけた

526切なさも、胸の痛みも全て秘めた勇気に変え ◆QUsdteUiKY:2025/04/14(月) 07:27:09 ID:lWhjTvow0
「これは……?ひっ、私の足が……」

 圧倒的な空気に、気絶していた桃まで起こされる。
 しかしそれが逆に良かった。やちよは身勝手を承知で桃に頼み込む

「コネクトをお願い!」

 幸いにも桃にはまだ両手がある。
 起死回生の策は、それしかない。

「シャミ子ちゃんを助けたいなら、早く――!」

「そうだった。私はシャミ子を……」

 やちよの声が届き、コネクトに成功する。
 それも今回はただのコネクトじゃない。

 (サイズがあの時より大きい……!?それでいて軽い。これなら……!)

 巨大なピンクの槍を手にしたやちよは、これならばいけると確信した
 桃の心意とコネクトの合わせ技だ。

 コッコロが妨害しようとするが――

「ここから先は、行かせないよ!桃ちゃんとやちよさんの決意は誰にも邪魔させない!!」
「まあそういうことだな」
「閃刀姫在る限り、敗北は有り得ません」

 専用ソードで変身したココアと、ディケイドと、レイがブラックバロンに立ち塞がる。

「くっ……!」

『バナナスパーキング』

 コッコロが必殺のバナナスパーキングでバナナ型のエネルギーを無数に地面から出すが――

「もう誰も傷つけさせないよ!」

 ココアが剣を左右に振り回すと、風を帯びて飛行。その際にレイと士を抱え、更にコッコロに剣を向けた急降下で大ダメージを与えることに成功する。

(一か八かだったけど、なんとかなった!)
 
 これがココア専用ソードの〝とっておき〟だ。
 何故だかココアには今、このタイミングで使い方がわかった。
 多大なダメージによりコッコロは強制的に変身解除されてしまう。

そしてぶつかる、桜色の巨大槍と神の剛腕。
 それは時空が揺れるほど途轍も無い、まるで神話の一節のようだったが――刹那の攻防の末、やちよの槍が肉体派おじゃる丸の拳を貫いた
 オベリスクは海馬瀬人が主に使う神であり、悪しき神ではない。こんな誇りもクソもないプライドなき使われ方をしても、オベリスクの力は十全に発揮出来なかったのかもしれない。

「わけわかんない威力で、笑っちゃうんすよね……」

 そう口にする肉体派おじゃる丸の顔は、怒りに満ちている。
 流石の肉体派おじゃる丸も負けを悟った――がまだ死ぬわけにはいかない
 ゆえにカードを掲げる

「即効魔法!異次元からの埋葬!」

527切なさも、胸の痛みも全て秘めた勇気に変え ◆QUsdteUiKY:2025/04/14(月) 07:27:59 ID:lWhjTvow0

 ○

「なんとか逃げ切れたっすね」
「でも、なんで棺桶の中なの?」
「埋葬だからじゃないすか?まあギャンブルでしたが成功して笑っちゃうんすよね」
「……成果は得られましたが、一網打尽には出来ませんでしたね」

 こうして肉体派おじゃる丸、コッコロ、メグは3人同じ場所にワープした

「ココアちゃん、どうしてあんなに怒ってたんだろう?私達、正しいことをしてるよね?」

「はい。そのはずなのですが……理解出来ない人もいるのでしょう」

 (このメスガキ達やっぱ頭がおかしいっすね。まあおかげで簡単に組めたから良かったけど、優勝する目的がキチガイ過ぎて笑っちゃうんすよね)
 
 ○

「小鳩さん!小鳩さん!」

 小鳩さんが、いきなり殺された。
 その事実は変わらないけど、思わず私は小鳩さんを揺さぶっていた。
 もしかしたら、奇跡的に生きてるかもしれないから!

「ココア……」

 そんな私に届いたのは、桃ちゃんの声。

「私はこの状態だと、流石に戦えない……。コネクトという技術でやちよさんをサポート出来るけど……。だから私を守ろうとか考えず、シャミ子を探すのをみんなには優先してほしい。シャミ子が死んだら、私は――――」

「そんな……桃ちゃんがシャミ子ちゃんのこと好きなのはわかるけど、そんなこと……!」

「わかりました、桃。このレイが閃刀姫としてシャミ子の身の安全を保証しましょう」

「それなら……良かった……」

 それだけ言って、桃ちゃんはまた気絶した。

「ココア。あなたが桃の立場でも、自分よりチノを優先していたでしょう。もちろん私もロゼを優先します。託された側はままならないですが――そういうもんなんですよ」

 この時、私にはレイちゃんがすごく年上に思えた。

「まあともかく、足の止血はしないとな。何かいい方法はあるか?」

 そう口にする士さんの瞳は揺れていた。
 平気なフリをしてるだけで、きっと今の状況が苦しいんだと思う……。

 こうして私達は小鳩さんを失って、桃ちゃんまで大変なことになっちゃった……

その後、最悪な放送が流れて……

「リゼちゃん……戒さん……」

 私はすごく嫌な気持ちになった。
 戒さんは察してたけど、リゼちゃんも死んじゃったなんて……。

 ねえ、戒さん。
 私はどうチノちゃんに顔を合わせればいいのかな……
 リゼちゃんが死んだことはチノちゃんも知ってるはず。私はチノちゃんにどう接したらいいのかな……

 そしてリゼちゃん。守れなくて、ごめんね。

 でも私は出来る限り……前を向くから。もう俯かないし、メグちゃんも元に戻してみせる
 色々な人を殺してみんな復活させるなんて、どうかしてるよ。

 だから――天国で見守ってね、みんな。
 戒さんみたいになれるかわからないけど……私、がんばるから!
 リゼちゃんが居なくても、チノちゃんは。ラビットハウスは立派に守り切ってみせるから。

 私がこんなに強くいられるのは……正しさを守り抜くと戒さんやチノちゃんに誓ってるからだと思ったのでした。
 だからどんな切なさも胸の痛みも――勇気に変えるよ!

528切なさも、胸の痛みも全て秘めた勇気に変え ◆QUsdteUiKY:2025/04/14(月) 07:32:42 ID:lWhjTvow0
【風祭小鳩@Caligula2 死亡】

【E-4/一日目/早朝〜朝】


【閃刀姫-レイ@遊戯王OCG】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(極大)
[装備]:閃刀姫-レイの剣@遊戯王OCG
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:士に協力してこの世界を破壊しちゃいますか
1:桐生戦兎達との合流場所に向かう
2:士と旅をする
3:渡の意志は引き継ぎました。人々の音楽は私が守ります
4:ロゼに会いたい。たとえ自分の知るロゼじゃなくても、守ってみせます
5:大男(リンボ)の一団を警戒、あの少女(最上)は一体…
6:何で小鳩は私の名前を知っていたんですか?
[備考]
※参戦時期は閃刀起動-リンケージ(ロゼ死亡)以降。
※遊戯王カードについての知識はありません。
※カガリやシズクなどにフォームチェンジするには遊戯王OCGのカードが必要です。閃刀姫デッキとして支給されたカードではフォームチェンジ出来ません。

【門矢士@平成仮面ライダーシリーズ】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(極大)
[装備]:ネオディケイドライバー&ライドブッカー&各種カード(ディケイド、カブト、キバ)@平成仮面ライダーシリーズ、マシンディケイダー@平成仮面ライダーシリーズ
[道具]:基本支給品、団結の力@遊戯王OCG(6時間使用不可)
[思考・状況]基本方針:この世界を破壊する
1:ビルド達との合流場所に向かう
2:レイ達と旅をする
3:檀黎斗を倒して渡の世界も俺が守ってやる
4:ユウスケ達がここにいないのは……
5:悪役面(リンボ)を警戒。
[備考]
※参戦時期はRIDER TIME 仮面ライダージオウVSディケイドで死亡後。
※各世界の主役仮面ライダーかその関係者と心を通わせることで、その世界の主人公の仮面ライダーのカードを創造してカメンライド(変身)できるようになります。又変身者が他作品出典の場合でも可能なようです。

【七海やちよ@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大)、魔力消費(大)、精神疲労(中)
[装備]:環いろはの写真@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)、カルデア戦闘服@Fate/Grand Order、冴島家のリムジン@牙狼-GARO-
[道具]:基本支給品一式、グリーフシード×1@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)、アーカードの棺桶@HELLSING
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。
1:フェリシア……
2:桐生さん達との合流地点に行く。
3:いろはに会いたい。
4:マギウスの魔法少女達を警戒。
5:さっきの二人組(パラダイスキング、タラオ)にも警戒しておく。
6:桐生さんはともかくエボルトは信用できない。
7:ドッペルの使用は控えた方が良いとは思うけど…。
[備考]
※参戦時期はセカンドシーズン2話で黒江と遭遇する前。

【千代田桃@まちカドまぞく】
[状態]:疲労(大)、精神疲労(極大)、全身にダメージ(大)、左手に裂傷(処置済み)、内臓損傷(大)、額と腹に幾つか殴られた痕、右腕と左脚に深い刺し傷、まどかを守れなかった・永夢を見殺しにした悔しさ、ポセイドンやデェムシュへの強いトラウマ、戦うことへの恐怖、スタミナジュースの効果でじわじわと回復中、両足欠損、恐怖感、焦燥感、無力感、魔力消費(大)
[装備]:ハートフルピーチモーフィングステッキ@まちカドまぞく、
[道具]:基本支給品x2、ゲーマドライバー(破損)+マイティアクションXガシャット+マキシマムマイティXガシャット@仮面ライダーエグゼイド、ガシャコンブレイカー@仮面ライダーエグゼイド
[思考・状況]基本方針:私が守りたい街角の人達を最優先で探す。その後……
1:シャミ子を助けたいのに…どうして私は……。
2:まどかちゃん、永夢さん……。
3:良ちゃんが人を殺した……?
4:私には無理だよ、永夢さん……
5:シャミ子は、みんなに任せるしかない……?
[備考]
※参戦時期は2度目の闇堕ち(アニメ2期8話、原作45丁目)以降です
※ゲーマドライバーは片桐によって基盤が出て大きな傷が付いているぐらいに傷つけられており、修復しない限りドライバーを使っての変身はできません。

529切なさも、胸の痛みも全て秘めた勇気に変え ◆QUsdteUiKY:2025/04/14(月) 07:34:16 ID:lWhjTvow0

【保登心愛@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:疲労(極大)、腹部に打撲、深い悲しみ、リンボ達への恐怖(大)、強い決意
[装備]:ココア専用ソード@きららファンタジア、カブトゼクター&ライダーベルト@仮面ライダーカブト
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:チノちゃんや皆と一緒にバトルロワイヤルを終わらせるよ!
1:戒さん、私頑張ってみる…!
2:シャミ子ちゃん大丈夫かな…
3:チノちゃん達はどこにいるんだろう?
4:もう迷わない。私は私――ココアだよ!
5:リゼちゃん……
6:桃ちゃんには、辛い目にあわせちゃったね……
7:メグちゃんを止めて、元に戻したいなぁ
[備考]
※名簿を確認しました。もう一人『保登心愛』がいることを確認しました。
※カブトの資格者に選ばれました。


【E-4/一日目/早朝〜朝】
【奈津恵@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、オレイカルコスの結界による心の闇の増幅
[装備]:メグ専用ロッド@きららファンタジア、ゴーストドライバー&ディープスペクターゴースト眼魂@仮面ライダーゴースト
[道具]:基本支給品×2、巨大化(数十分使用不可)@遊戯王OCG、ランダム支給品0〜2(ボーちゃんの分)
[思考・状況]基本方針:優勝しゲームに関する記憶を全部消した上でマヤちゃん達を生き返らせる。
1:チマメ隊の絆は永遠、だから私が取り戻すよ〜!
2:コッコロちゃんと協力して頑張る。
3:タラちゃん死んじゃったんだね…でも最後に生き返らせてあげる。
4:マサツグさんとクウカさんも、最後に生き返らせてあげるね!だから次はちゃんと殺さなきゃ
[備考]
※ディープスペクターの武器であるディープスラッシャーについては、変身しても出現しません。他の参加者に武器として支給されている可能性があります。
※ディープスペクターへの変身は他の仮面ライダーと同じく魔力を消耗しません。
※オレイカルコスの結界の効果には気付いていません。

【コッコロ@プリンセスコネクトRe:Dive】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大)、オレイカルコスの結界による心の闇の増幅 、キャルへの罪悪感(大)
[装備]:量産型戦極ドライバー+バナナロックシード(ナンバー無し)+マンゴーロックシード@仮面ライダー鎧武、タンポポロックシード@仮面ライダー鎧武
[道具]:基本支給品一式×2、オレイカルコスの結界@遊戯王デュエルモンスターズ(アニメ版)、盗人の煙玉@遊戯王OCG(1時間使用不可)、スイカロックシード@仮面ライダー鎧武(2時間使用不可)、デスノート(複製品)@DEATH NOTE
[思考]
基本:主さまたちの所へ戻る、たとえどんな手段を使ってでも
1:逃走に集中、こちらの方(肉体派おじゃる丸)に関しては逃げてから考えましょう
1:コッコロは、悪い子になってしまいました
2:キャルさま……それでもわたくしは…………
3:メグさまと協力。ですがいずれは…
4:タラオさまはお亡くなりになられましたか…
5:カイザーインサイトを要警戒
[備考]
※参戦時期は『絆、つないで。こころ、結んで』前編3話、騎士くんに別れを告げて出ていった後

【肉体派おじゃる丸@真夏の夜の淫夢】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大)、右胸から左脇腹までの切創、淫夢ファミリーへの憎悪(極大)、虐待おじさんを殺せた喜び、ダンデライナーにしがみ付いてる、右拳に槍の刺し傷
[装備]:
[道具]:基本支給品(タブレット破壊)、ゴッド・ハンド・クラッシャー@遊戯王OCG(発動不可)、攻撃誘導アーマー@遊戯王OCG(発動不可)、デス・メテオ@遊☆戯☆王(発動不可)、虐待おじさんのデイパック(基本支給品、ランダム支給品0〜1)、ZECTバックル@仮面ライダーカブト
[思考・状況]基本方針:優勝して淫夢の歴史から自分の存在を抹消する
1:今は振り落とされないようにする
2:淫夢ファミリーだけは絶対にこの手で殺す。特に野獣先輩、野獣死すべし
3:黒の剣士とI♥人類の男は次に出会ったら絶対殺してやるっすからね……
4:遊戯王カードはこの決闘で大事すね……
5:できれば他の優勝狙いの参加者と組みたいすね。とりあえずこのメスガキどもとは組むっすね
[備考]
※遊戯王カードの存在を知っていますが決闘者じゃないのでルールなどは詳しくありません
※本来の名前を思い出せません

【異次元からの埋葬@遊戯王OCG】
速攻魔法
(1):除外されている自分及び相手のモンスターの中から
合計3体まで対象として発動できる。
そのモンスターを墓地に戻す。

本ロワでは3名まで選び同じエリアにワープするアイテムになっている。またその際、棺桶に入れられる

530 ◆QUsdteUiKY:2025/04/14(月) 07:34:41 ID:lWhjTvow0
投下終了です

531 ◆QUsdteUiKY:2025/04/14(月) 07:59:21 ID:lWhjTvow0
>>522の小鳩のセリフを

「オレは知り合いはいないけど、必ず生き抜くぜ。そして主人公に返り咲いて、飽きるまで青春を楽しむ」から↓

「オレは知り合いはいないけど、必ず生き抜くぜ。そして主人公に返り咲いて、嫌だけどクソみてぇな現実に戻るぜ!」

に修正します

532 ◆QUsdteUiKY:2025/04/14(月) 08:10:10 ID:lWhjTvow0
間違いに気付いたので>>529のメグ達の場所を【???/一日目/早朝〜朝】に変更します

533 ◆ytUSxp038U:2025/04/15(火) 23:43:46 ID:EeVgOa2w0
皆様投下お疲れ様です。自分も投下します

534どうにもならないからよ ◆ytUSxp038U:2025/04/15(火) 23:44:55 ID:EeVgOa2w0
概ね予想通りの内容だった。
ひたすらに上から目線で喧しく放送が行われ、不快感を抱くこと数分。
苛立ちはあるものの、直接ぶつける機会は当分訪れないとも分かっている。
なので今は不機嫌さを内に留め、得られた情報を吟味。

(おおよそ全体の三割、ってところかしらね)

最初の放送前に死んだ者達と、ゲームが本格始動して以降に死んだ者達。
計40名の死亡に然したる驚きはなく、むしろカイザーインサイトには納得さえあった。
100人以上を閉鎖空間、それもアストライア大陸とは比べ物にならない小島に集めたのだ。
積極的に他者を襲う気質のプレイヤーを相応数用意し、円滑な進行を可にするのは何も不自然じゃない。

序盤はハイペースで篩にかけて参加者を選定、黎斗の思惑通りにゲームは進んでいる。
向こうにとっては満足だろうが、脱落ペースを考えると余り悠長に事を構えるのは宜しくない。
死亡者の中にキャルとコッコロは含まれなかった。
後者はともかく前者の生存を知れたのは朗報だろう、使える駒を一つ失わずに済んだのだから。
尤も正確な現在位置は不明、キャルと合流するまでは現状動かせる駒でどうにかする他ない。

チラと見やれば、人形染みた真顔の少年少女が映り込む。
開始早々暗示を受けたココアと、名簿上でマサツグ様と表記された使い捨ての道具。
知己の者だろう名が呼ばれ、ほんの僅かにココアの瞳が揺らいだがそれだけだ。
支配下を脱する気配は微塵も表れず、都合の良い傀儡のまま。
マサツグ様に至ってはそもそも意識がなく、放送を聞けてもいない。
仮に起きていたとしても、脱落者に心を痛める人間ではないが。

535どうにもならないからよ ◆ytUSxp038U:2025/04/15(火) 23:45:43 ID:EeVgOa2w0
「なに、それ……」

となれば問題は残る一人だろう。

白鳥司の名前が呼ばれる可能性を、みかげは考えていなかった。
或いは、考えないようにしていたのか。
陛下と呼ぶ同行者に任せておけば大丈夫、何も問題無い筈。
暗示の影響込みとはいえ、根拠もなしにそう結論付けて。
結果、司はみかげの関わらない所で命を落とした。

有り得ぬ話、とは言い切れない。
司本人に死ぬ気がなくとも、ゲームに乗った参加者は容赦なく死を突き付けて来る。
自分と違い、保護してくれる者とは会えなかった。
若しくは会ったけど、その人共々殺された。
過程の想像は幾らでも出来るが、結果は既に放送で伝えられた通り。
まして司は自分と同じ、本来争いとは一切無縁の女子中学生。
運動神経に優れてるからといって、常人以上の力を持った相手に襲われればどうしようもない。

実は脱落者の情報は嘘で、司はまだ生きている。
都合の良い展開に期待しようにも、そんな訳がないとみかげ自身の内で声が囁く。
呼ばれた名前の中には一番初めに会った少女、ニノンもいた。
定時放送が始まるより先に死を知らされ、証拠と言わんばかりに脱落者へ名を連ねたのだ。
ニノンの死は本当なのに司の死は嘘、と断じるのは流石に不自然。
納得なんてしたくないのに、放送内容が嘘と思い込める強い根拠がどうしても見付からなかった。

「死ぬわけないじゃん…だって……」

だって、その先の言葉が思い付かない。
自分と撫子を置いて、勝手に死ぬ奴じゃないから?
会えたら何て言うかも決められてないのに、死ぬなんておかしい?
どれもがその通りであり、同時に違う気もする。

考えが纏まらず、こめかみがズキズキと痛む。
自分が立っている場所が地面にも関わらず、不安定な足場のようにグラつく錯覚があった。
喧しい自称神様が言った白鳥司の三文字だけが、嫌になるくらい木霊して消えない。

536どうにもならないからよ ◆ytUSxp038U:2025/04/15(火) 23:46:23 ID:EeVgOa2w0
「まだ取り戻すチャンスならあるんじゃないかしら」

耳障りなゲームマスターの声がフッと消える。
蝋燭の火を吹き消すみたいに、一瞬で無くなった。
か細く声を漏らし振り返った先には、同性の自分でさえ息を呑む美貌の『彼女』。
浮かべた笑みは優し気で、こっちの抱える事情に理解を示してくれた時と同じ。
帰り道を見失った迷子の手を引くように、此度もみかげの憂いを取り除かんと口を開く。

「あなたの大好きなお友達を取り戻すチャンスなら、まだゼロじゃないわ」
「陛下……?それってどういう……」

自分の力になろうとしてくれるのは分かる、けど具体的に何を言いたいのか不明。
困惑を隠さずに問うと、機嫌を悪くした風もなく答えが返って来る。

「自称神様も言ってたじゃない、死をも覆す権利を与えるって」
「え……いや、ちょ、待って……!い、言ったけど、でもそれは……」

真実かどうかは一旦置いて、そのように言ったのは本当。
願いを叶える、死者の蘇生だって不可能じゃない。
但し、ゲームに優勝したらという大前提が付く。
ルールの制定されたスポーツなんかじゃない、正真正銘の殺し合いに勝ち残る意味での優勝だ。
暗示の影響下にあるがココア同様の完全な操り人形でない為、至極当然の倫理観で拒否を示す。
あからさまに狼狽するみかげをどう思ったのか、笑みを崩さずに続ける。

「落ち着きなさいな。誰も優勝しろ、何て言ってないわよ?」
「えっ?だ、だって……」
「願いを叶える力は檀黎斗の手元に存在する。なら、別に優勝しなくてもあの男を倒した後で奪えば良いと思わない?」

何を言われたのか分からない。
予想してたのと全く異なる答えが返って来て、暫し年頃の少女らしからぬ間の抜けた顔を作る。

537どうにもならないからよ ◆ytUSxp038U:2025/04/15(火) 23:47:03 ID:EeVgOa2w0
「ゲームのクリア条件は優勝か檀黎斗の撃破。でも願いを叶える報酬は優勝の場合のみ。どうしてなのかしらね」
「どうしてって……」

どうしてだろう。
いきなり殺し合いに巻き込まれ、司まで参加してるのを知り深く考える余裕なんてなかった。
でも今になって自分よりも遥かに冷静な大人から問われれば、確かに疑問に感じる。
参加者を殺さず、あくまで主催者だけを倒す。
黎斗直々に提示されたのもあり、優勝以外のゲームクリア方法も禁止ではない。
けど願いを叶えるのは優勝者が出た時だけ。
漠然と「そういうもの」と思っていたが、言われてみると妙な話だ。

「…………殺し合うのをやめる人が大勢出るかもしれない、から?」
「極端に沢山って程じゃないにしろ、そうなるのを防ぎたいのはあるでしょうね」

最初から自分以外の命に一切の価値を見出していない者や、協調性皆無の者。
若しくは殺戮に喜びを感じる者、そういった連中は抜かすにしてもだ。
譲れない願いの為に血を吐く思いで殺し合いに乗った者がいるとして、別に優勝を目指さなくても願いは叶うと聞かされればどうなるか。
本当はやりたくもない殺人で手を汚さず、巨悪を倒す方法で良いのならそっちを選ぶ可能性は低くない。
自身との直接対決も望む所と豪語する黎斗だが、ゲームの根本的なルールは参加者同士の殺し合い。
故に一番の報酬である願いを叶える権利を、優勝以外で渡す気は無いのだろう。

しかしだ、その願いを叶えるナニカを黎斗が確保してるなら。
わざわざ言いなりになって皆殺しせずとも、奪い取るのが不可能とも限らない。
カイザーインサイトの言いたい内容を理解し、尚もみかげの顔色は曇ったまま。
願いを叶える力を奪うにしろ、本当にそんな力は黎斗は持っているのか。

「力の正体は分からないけど、これだけの規模の殺し合いを始めたんだもの。こっちの想像を超える力を持っている可能性は、低くないんじゃないかしら」
「そりゃ、そう………かもだけど……」

コミックの世界とかアニメの設定とか、非現実的な事が殺し合いでは起きている。
みかげとしてもそこは受け入れざるを得ない。
死者が生き返るのが有り得ないと言い切るには、己の常識を壊す存在に遭遇し過ぎた。
完全に信じてるとまでは言えずとも、若しかしたらという思いはみかげの中にも芽吹きつつある。

538どうにもならないからよ ◆ytUSxp038U:2025/04/15(火) 23:47:46 ID:EeVgOa2w0
「すぐに全部を信じろとは言わないわ。ただ、後悔させないって事だけは約束させて。……生きてる内に、あなたの友達を助けられなかった贖罪も籠めて、ね?」
「陛下……」

申し訳なさそうに告げられれば、みかげとしても何も言えない。
何とかすると言ったのにと責めたら、多少は心が楽になるのだろう。
けどみかげにとって、相手は初めて自身の苦悩に共感し味方してくれた大人。
傷付けたくないし、傷付けるような言葉をぶつけ失望されたくもない。

「取り敢えず、みかげは少し休んでなさい。ここの探索は私とココアでやるから、あなたには落ち着く時間が必要よ」
「うん……」

私なら大丈夫と返すには、精神的な疲れが大きい。
気を遣ってもらってるのへ素直に感謝し頷く。
一言も発さず様子を見守る少女を引き連れ、カイザーインサイトは部屋を後にした。
だだっ広い空間に残ったのは傷心中の少女と、念の為に護衛で置いていった少年。

放送前、移動した先のエリアで見付けたのが今いる場所。
白い外壁の巨大な施設は外見のみならず、内部も豪奢な装飾に彩られてあった。
だが真新しさはなく、所々年季の入った箇所から察するにさぞ歴史ある建造物らしい。
外から見た以上に広大に感じる施設を探索中に放送が流れ、今に至る。

古いけど座り心地は悪くない長ソファーに寝そべり、じっと天井を見つめる。
もう一人の少年は何も言わず、傍らであらぬ方を向くばかり。
正直、ニノンを殺した相手との二人きりで不安が無いと言うと嘘になる。
ただこちらへ敵意を剥く様子はなく、カイザーインサイトだってあくまでみかげの安全を考え置いて行った。
不満を口に出さずにいると、話し相手もいなくなったからか。
司がどこかで死んだ事実が毒のように内側を蝕み、目尻に涙が溜まる。

539どうにもならないからよ ◆ytUSxp038U:2025/04/15(火) 23:48:10 ID:EeVgOa2w0
「……っ」

制服が濡れるのも構わず、腕を強引に瞳へ押し付けた。
ストレートに喪失へ泣き叫んでしまったら、司の死を心から受け入れてしまってるような気がして。
直接この目で見た訳でもない、胡散臭い男の悪趣味な放送一つで伝えられ納得なんて出来ない。
『三人組』が喧嘩とかじゃなく、死に別れる形で完全に壊れてしまう。
現実として簡単に飲み込むには余りにも苦い。

「なんでよ……」

叶わぬ恋だと自覚はあったし、叶わなくて良いと思ってた。
小学校時代と同じ結末を迎えるくらいなら、友達のままで良い。
『普通』の関係のままで、三人ずっと一緒にいられればそれだけで十分だった。
でも、こんな風に永遠に会えなくなるのは望んでない。

陛下を信じていない訳ではない。
けどもし司の蘇生が不可能となって、自分だけが元いた場所に戻ったら。
撫子になんて言えば良い。
司の弟にだってどう伝えてやるのが正解なのか。
分からない、何も分からない。
『普通』を望んで、その結果が『普通』とはかけ離れた友達との別れだなんて。
とてもじゃないが現実とは思いたくない。

どうしてこうなっちゃうんだろう。
零れた嘆きに応えてくれる者は、誰もいなかった。

540どうにもならないからよ ◆ytUSxp038U:2025/04/15(火) 23:48:58 ID:EeVgOa2w0
◆◆◆


「どうなるかしらね、あの娘」

階段を降り地下深くを歩く最中、ポツリと呟く。
傍らに控えさせた少女から返答はないし、求めてもいない。
先程みかげを気遣ったのとは似ても似つかない、冷めた表情でカイザーインサイトは歩を進める。

自身が仕掛けた暗示解除の兆しはなかった。
もし素のみかげならもっと取り乱したろうけど、今は術中に囚われている。
だから司の死を知り動揺こそ抱いても、会話もままならない程の錯乱や八つ当たりには出ていない。
後は適当に彼女を落ち着かせる言葉を選び、尚且つこちらを頼らざるを得ないよう働きかける。
一般的な10代の悩みとは少々違う背景があろうと、所詮は平和な世界を生きて来た子供。
手玉に取るのは実に難しくない。

完全にへし折れて使い物にならなくなる前に、希望をチラ付かせてやった。
なので利用価値ゼロと断じるにはまだ早い。
最終的に使い潰す駒なのは変わらないが、生憎ランドソルにいた頃よりも諸々の制限を受けた身。
普段なら見向きもしない小娘だろうと、ここでは貴重な道具の一つ。
無意味に手札を失うのはなるべく避けたい。

その為に使えるカードは多く集めて損はない。
現在いる施設へ立ち寄ったのも、自分の役に立つ物があるかを確かめたかったから。
C-1エリア、桜ノ館中学校から北西に向かった先。
最も目を惹く白い建造物、名をホテル・フェントホープという。
元はマギウスの翼の本拠地である巨大な廃ホテルも、ゲームにおいては精巧に再現された施設に過ぎない。
羽の魔法少女とすれ違う、なんてこともなく主不在の寂れた城同然だ。

地上の音が届かない程の深い場所を臆さずに進む。
ただの廃ホテルにしては余りに妙な作りだ。
人目から隠しておきたい、簡単に手出しが出来ない所へ隠したい。
そういった理由で地下空間が作られたと仮定するならば、多少は期待して良いのかもしれなかった。

541どうにもならないからよ ◆ytUSxp038U:2025/04/15(火) 23:49:41 ID:EeVgOa2w0
「へぇ……当たりを引いたって所かしら?」

進み続け見付けたモノに、思わず薄く笑みが零れる。
里見灯花や柊ねむがこの場にいたら、わざわざ再現したのかと呆れただろう。
透明な球体へ閉じ込められた、何十体もの異形。
どれもが人の大きさを遥かに超え、身動ぎせずに捕らえられていた。
一つへ近付きそっと掌を当てる。
人間の生命とは別物、なれどまだ生きてるのが分かった。
動きを封じられてるだけで死んではいないらしい。

希望を抱き願いを叶えた少女達の成れの果て。
魔法少女がいずれ行き着く絶望の末路。
マギウスの翼によって飼育され、やがて大いなる救済の贄となる存在。
魔女を閉じ込めた檻が、カイザーインサイトの目の前にあった。

エンブリオ・イヴの成長を早める餌として飼われた魔女達だ。
秘めた力も相応に高められ、イヴの栄養源に相応しく育てられている。
発見したのがマトモな感性の持ち主だったら、触らぬ神に祟りなしと放置を選んだかもしれない。
カイザーインサイトにそういった弱腰の姿勢はなし。
警戒は払うも、利用せずに立ち去るのは馬鹿のやること。
唇に人差し指を当て、暫し考え込む仕草を取る。

(解放すれば勝手にこっちの言う事を聞く、なんて都合良くはいかないわよね……)

ケージ越しに魔力を感知し、魔女の気性をある程度察知。
解き放った者に従順な忠犬とは、残念ながらいかないだろうと分かる。
とはいえそこはカイザーインサイト、御するのが不可能かと言われれば否。
多少は「じゃれつく」だろうが、相手が未知の魔物であっても恐れる必要はない。
人間程融通は利かなくとも、手駒を纏めて増やすのは悪くない。
場合によってはプリンセスナイトの力を持つココアに、数体貸し出す手もある。

(ま、キャル程の働きが出来るかは微妙だけど)

魔物の使役能力の精度で言ったら、与えた力の量の差も影響しキャルの方が上。
今頃どこをほっつき歩いてるのかと、呆れたようにため息を吐く。

よもや自分が敗北した未来の時間軸からキャルが参加してるとは、夢にも思わず。

542どうにもならないからよ ◆ytUSxp038U:2025/04/15(火) 23:50:37 ID:EeVgOa2w0
◆◆◆


「ん……」

小さく身動ぎし、やけに重い瞼をこじ開ける。
精神的な疲れもあったのか、何時の間にか眠ってしまったらしい。
彼氏でもない男子がすぐ傍にいるのに、無防備を晒すとは自分らしくもない。
来る者拒まずと豪語するみかげといえども、流石に相応の警戒心は持つ。
陰湿な性根の見え隠れする相手であれば猶更だ。
自我を奪われ操り人形状態だからといって、気を抜き過ぎたか。
のっそりと上体を起こし、寝惚け眼を擦る。

「おはようさん。快適な睡眠が出来たようで何よりだよ」
「……うわっ!?」

友人のような気楽な口調で話しかけられ、思考が数秒フリーズ。
起きた筈だがまだ夢の中かと思い、徐々に精細さを取り戻す五感に現実と理解。
予想外の、ここにいる筈のない者がテーブルを挟んだソファーに腰掛けリラックスしていた。
四十は超えてるだろうに引き締まった体付きに加え、やけに脚の長いモデル体型。
整った顔立ちも相俟って、みかげの母くらいの年の女性達から黄色い歓声を浴びそうな男。
但し、間違っても心を許して良い相手ではない。
気さくな態度を取ってるが、男の持つ本当の『顔』をみかげは知っていた。

「な、何でいるのよ!?陛下との合流はまだ先の筈じゃ……」
「俺だってこんなに早く再会するとは思ってなかったんだぜ?それもこれも、どっかの神様が余計な事してくれちゃったせいでなァ」

肩を竦め、大袈裟に嘆くリアクションを取る。
放送前に協力を取り付け別行動となった参加者、エボルトが何故かフェントホープ内に現れた。

理由を説明するには少し前、エーデルフェルト邸を発った時まで遡らねばなるまい。
イリヤ達との情報交換を先延ばしにし、戦兎の元へ戻るのを優先。
となったまでは良かったが、オーエド町に近付いたタイミングでふと現在時刻を確認。
これは無理だと理解するのに時間は掛からなかった。

指定された禁止エリアにはオーエド町が設置済の、D-1も含まれている。
エーデルフェルト邸のあるD-3から戻るには、どうやったって1エリア分余計に移動しなくてはならない。
トランスチームガンのワープ機能は未だ使えず、来た時と同じ大幅ショートカットは不可能。
しかもこういう時に限ってNPCは影も形も見せない。
フライングスマッシュを作って移動時間短縮という手も、肝心のスマッシュの素材がなければ無理。
結局早足で移動したものの、戦兎達が呑気に待ってるとは言い難い時刻へなってしまった。
幾ら何でも、禁止エリアが機能するギリギリまで戦兎が待つとは考え辛い。
同行者には重症を負ったモニカもおり、いざ禁止エリアを離れるタイミングで移動に遅れが生じ揃って死亡。
といった展開を避ける為に、もうとっくに戦兎達はオーエド町を去ったと考える方が自然である。

543どうにもならないからよ ◆ytUSxp038U:2025/04/15(火) 23:51:28 ID:EeVgOa2w0
「で、どうせ大遅刻確定ならもうちょっと寄り道して、手土産を増やしてからでも良いかと思ったんだよ。丁度馬鹿デカい施設も目に付いたしな」
「いやそれ、あんたの自業自得じゃない……」

参ったもんだぜと頭を抱える仕草を見せ、説明を終えるエボルト。
事のあらましを聞いたみかげからすれば、呆れ交じりに返す以外ない。
自分達と別れた後、真っ直ぐオーエド町に戻っていれば良かっただけの話ではないか。
D-1が禁止エリアになるのが予想外だったのは分からんでもないが、帰還を遅らせなければ避けられた事態だろうに。

「耳が痛ぇが、俺がいなけりゃ殺されてた連中がいたんだ。人助けと思って大目に見て欲しいもんだね」

目的はパンドラパネルとボトルの回収であり、イリヤ達を助けたのはほとんどついでだが。
詳細を聞かされなくとも、純粋な人命救助目的で寄り道したんじゃないとはみかげにも察しが付く。
飄々とした言動の裏に隠された、地球外生命体の本性を見ただけに余計そう思う。

「そんで中を適当に見て回ってたら眠れるお姫様と、番犬坊主を見付けたって訳だ」
「この人、あんたを見ても何もしなかったの?」
「ああ、指一本触れられてねぇさ。お前さんに手出ししない限り、特別アクションも起こさないんだろうよ」

こうなると本当にただの人形と変わらない。
軽薄な笑みをエボルトに向けられて尚も、少年は無表情で佇むだけ。
ニノンを殺した相手だけにどう思えば良いのか分からず、何よりニノンへの感情も整理が付かない内に彼女は退場。
言葉に出せぬ複雑な思いがよぎる。

というか、何で自分はこんな得体の知れない怪物と雑談をしてるのだろうか。
カイザーインサイトと手を組んだ以上、自分へ危害を加えるつもりは無い筈。
だからといって仲良くしたい男でもなく、今更になって居心地の悪さを覚える。

544どうにもならないからよ ◆ytUSxp038U:2025/04/15(火) 23:51:59 ID:EeVgOa2w0
「そういや、お前の尊敬する陛下殿は――」

気安い態度で問い掛けた内容を中断、エボルトの顔が一瞬で引き締まった。
突然の変化の理由はみかげには何が何やら不明。
片腕にブラッド族のエネルギーを纏わせ、振り向きながら放射。
同じタイミングで壁を破壊し、光輪が猛加速し侵入。
放って置けば室内の全員を焼き殺すだろう熱量を、むざむざ受け入れ得る自殺志願者はいない。

「訪問のノックにしちゃ乱暴過ぎじゃねぇか?いつから地球の常識は変わっちまったんだ?」

皮肉を乗せながらエネルギー波の出力を上昇。
エボルドライバーが無くとも、石動の体に憑依していた頃より能力全般が上だ。
徐々に光輪の威力は低下し、鮮血の渦に飲み込まれ消滅。
唐突過ぎる事態に目を白黒させていたみかげだが、ようやっと自分達が襲われたと気付く。
途端に全身が強張る少女へ見向きもせず、もう一人の男も動きに出た。
番犬の役目を担わされた少年のやる事は一つ、己の命を度外視してでもカイザーインサイトの駒を守る。

『ヨモツヘグリ!』

エボルトを押し退けるように前へ出て、右手の錠前を起動。
鳴り響く音声が果実の名を告げる。
同時に肉体を激痛が走り、多大な負荷を掛けた。
正気であれば苦悶の声を上げたろう現象にも、一切の反応を示さない。
標的排除、そこに少年の意志が介入するのを覇瞳皇帝は望まなかったのだから。

『ロックオン!ハイーッ!ヨモツヘグリアームズ!』

『冥・界!ヨミ・ヨミ・黄泉…!』

頭上に出現した暗雲から果実が落下し、鎧状へと展開。
ライドウェアの上に纏う装甲は、通常のアーマードライダーであれば身を守る役目を持つ。
しかし、この戦士だけは違う。
腐り切った果実の如く紅黒いカラーリング、所々の特徴は殺し合いでフグ田タラオが変身したのと同じ。
なれど性能はおろか、変身者へのリスクも決定的に異なる。
禍々しいオーラを漂わせる姿に、安堵を覚える者は存在しない。

アーマードライダー龍玄・黄泉。
戦極凌馬の手で生み出された、文字通りの禁断の果実。
利用される形で呉島光実が変身を実行し、果てに自らの手で絆を砕いた苦い過去の証。
聖剣も己を守護するスキルも奪われ、唯一少年に与えられた力。

「代わりに戦ってくれるのか?なら、俺は安心して見物出来るみたいだな」

ヘラヘラと笑うエボルトは無視、襲撃者への対処に動く。
自我無き龍玄の右手にはアームズウェポン、ブドウ龍砲が出現。
名前通りブドウ状の銃口からエネルギー弾を吐き出し、壁に開いた穴から外を狙う。
闇雲に撃ってるのではない、龍玄の視覚センサーは標的の位置を正確に捉えた。
但し敵も簡単には当てさせてくれない。
得物を翳しながら飛び退く影を追い、龍玄は追跡を開始。
赤銅色の髪の少年と、バイザーで表情を隠す鎧の少女をレンズが映す。

敵を見付けた以上は容赦や加減が入る余地なし。
相手も迎撃を選んだのだろう、それぞれの刃が龍玄を襲った。

545どうにもならないからよ ◆ytUSxp038U:2025/04/15(火) 23:52:42 ID:EeVgOa2w0



定時放送によって揺さぶられる者がいる一方で、何ら影響を受けない者も存在する。
目的の為に手を組んだ二人、士郎と風もそう。
勇者部の面々は勿論、最愛の妹である樹も不参加。
優勝の為に助けたい者達を殺す、という矛盾は立ち塞がらない。
故に風が今になって考えを変える展開は起きなかった。

士郎も同様に、元から参加者の中に知り合いは皆無。
唯一知っている美遊は今も主催者に囚われたまま。
仮にほんの少しだけ未来の士郎なら、妹の親友も参加者だと気付けただろう。
そんな事実を知る由もなく、引き続き協力相手に真意を隠し兄としての戦いを続ける。

檀黎斗の放送は神経を逆撫でされる内容ではあったが、二人の方針を揺るがす効果は無かった。
エーデルフェルト邸を離れ幾分かの休憩を挟んだ後、次の標的を探し移動を再開。
辿り着いたのがマギウスの翼の拠点、フェントホープだった。
そこからは放送前の襲撃と同じ、風が支給品を使って内部の参加者を確認。
流石にエーデルフェルト邸を超える大きさな為時間は掛かったが、広い一室に三人の姿を見付けた。
砲撃で先手を打った、までは良いが結果は失敗。
三人の内の一人と対峙し、直接戦闘を強いられている。

「ねえ、連続でミスってるし次はやり方変えない?」
「それを話し合うのは、切り抜けてからのが良さそうだぞ。向こうは逃がす気ゼロみたいだ」

敵が手練れなのを加味しても、またもや誰も仕留められてないのは思う所がある。
唇を尖らせ愚痴る風に苦笑いを返しつつ、士郎も意識を戦闘に集中。
放送前に戦った銀狼とは違うが、全身を鎧で覆い素顔は見えない。
説得を試みる手合いでないらしく、これが答えとばかりにトリガーを引いた。

546どうにもならないからよ ◆ytUSxp038U:2025/04/15(火) 23:53:28 ID:EeVgOa2w0
「あっぶな…!」

剣を用いた斬り合いは経験済だが、銃で撃たれるのは初めて。
火力は東郷に劣るからといって、軽くは見れなかった。
焦る口調と裏腹に、回避行動へ出るまでに時間は掛けない。
夢幻召喚の効果は依然変わらず風を強化し、常人を遥かに超える動きを可能とする。
飛び退きエネルギー弾を避け、地面に降り立つや即座に疾走。
棒立ちになって、的と化すつもりがないのは士郎も同様だ。
英霊への置換により得た身体能力を以てすれば、銃撃の対処も不可能に非ず。

地を駆けエネルギー弾を躱しながら、得物を手に距離を詰める。
日本刀と西洋剣の間合いへ閉じ込めるまで残り僅か。
しかしむざむざ接近を許す程、容易く打ち破れる相手ではない。

『ヨモツヘグリスカッシュ!』

ドライバーを操作しロックシードからエネルギーを更に引き出す。
通常形態の龍玄と違い、チャージという手間を挟まずに高威力の弾を発射。
連射性能を大幅に上げた弾幕を張られ、近付く足にもストップが掛かる。
再び回避へ動く士郎と反対に、風が選んだのは突進。
剣を風が覆い刀身が消失、間髪入れずに大きく振り被った。

「逃げてるだけじゃ埒が明かないでしょ!」

風王鉄槌(ストライク・エア)。
剣を不可視へ変えた風の鞘を解き放つ、サーヴァントカードを使用中だからこそ使える攻撃方法。
暴風の砲丸にも等しい威力で、エネルギー弾を纏めて薙ぎ払う。
装甲からも火花を散らし怯んだ今がチャンス、脳天から叩き割らんと振り下ろす。

しかし龍玄、ここで得物を即座にチェンジ。
銃を投げ捨て両手に出現させたのは、円盤状の刃。
アームズウェポンの一種、キウイ撃輪で聖剣を防ぐ。

だったら武器共々粉砕すればいいと、篭手で覆った両手に力が籠る。
バーテックスとの戦いを通じ、剣の扱いにも慣れた。
勇者に変身時にも引けを取らない、ともすれば超えるやもしれぬ身体機能も味方し苛烈極まる猛攻を実現。
されど龍玄という壁は、呆気なく突破可能な紙切れではない。
変身者の生命力を代償に膂力を強化、キウイ撃輪を振るう速度が急激に上昇。
聖剣を寄せ付けず防ぎ切る。

547どうにもならないからよ ◆ytUSxp038U:2025/04/15(火) 23:54:18 ID:EeVgOa2w0
どちらかが痺れを切らすのを待たずに動くは、勇者の協力者たる少年。
シンケンマルのディスクを交換し回転、日本刀から全く異なる形状へ変える。
聖女相手にも使ったシンケンブルーの固有武器、ウォーターアローを新たに装備。
投影により出現させた弓と若干使い勝手は違うも、精度を低下させる程じゃあない。
弦を引き絞り狙いを定め、水の矢を解き放つ。
この一発で敵の装甲を破れるとは思ってない、貫く対象は別の所だ。

キウイ撃輪の刃と中央の安定板を繋ぐ接続部が破壊。
得物の片方が使い物にならなくなり、更に射抜かれた衝撃で体勢が崩れた。

「衛宮さんナイス!」

的確な援護へ感謝を返すも、視線は真正面の標的へ固定。
振り上げた剣がもう片方の円盤を叩き落とし、すかさず胸部へ突きを繰り出す。
少女の細腕ながら弾丸もかくやの勢いだ、呻き声一つ出さずに後退。

追撃へ一歩踏み込む風を近付けさせまいと、次なる武器を出現。
先端に果実をぶら下げた長槍、ダウを豪快に振り回し接近を阻む。
元々はフェムシンムののレデュエが使う得物なのを、この場の誰も知る筈はなく。
ロングレンジを活かし突き出された穂先が、的確に急所を狙う。
素の状態に比べ打たれ強さも上がったとはいえ、あえて受ける理由はない。
聖剣の強度はそのまま防御にも利用出来る、ダウを弾き一撃たりとも食らってはやらない。
ならば確実に力尽きるまで繰り返すだけ、喉元目掛け殺意を籠めた槍が迫り、

「ああ、やっぱりそう来るんだ」

予想通りの攻撃にするりと回避、懐へ潜り込み剣を叩き付けた。

キウイ撃輪を振り回した時も、今のダウの猛攻の時も。
防御を繰り返す内に風が抱いたのは違和感。
敵の力は侮れない、かといって放送前の戦闘時程の脅威を感じ取れない。
疑問への答えはすぐに見付かった。
龍玄の動きは激しくはあるも、ワンパターンなのだ。

意識を奪われ支給品の効果で操られるだけの変身者では、閃刀姫やホーリーフレイム総長のような戦闘技術は発揮不可能。
龍玄・黄泉のスペックでカバーしたものの、やはり限界は訪れる。
戦闘の不得意な相手ならともかく、勇者としての戦闘経験を積んだ風にとっては十分突ける隙。
血飛沫代わりの火花を散らす龍玄の手から得物が落ち、ダメージに堪らず怯む。

意識は無くとも命令には逆らえない、再びドライバーに手を伸ばす。
得物を細かく変えるより、高威力の技で一気に仕留めるつもりか。

548どうにもならないからよ ◆ytUSxp038U:2025/04/15(火) 23:55:01 ID:EeVgOa2w0
尤も、むざむざ敵が許すかは別。

腹部の機械を操作し、特殊な技を繰り出す。
既に一度見せた工程故に、生まれる僅かな隙を見逃さない。
鍔状のディスクを回転させ、士郎はシンケンマルを再度変化。
シンケンレッド専用の大剣、烈火大斬刀を両手で振り被り急接近。
士郎もまた龍玄の動きを見て察したのだ。
戦闘技術の面において、黒衣の魔戒騎士程の手強さはない。
手数と速さを捨て威力重視の武器に変え、決着を早めても問題ないと。

「悪い、こっちも容赦なんかしてやれないんだ」

無意味と分かった上で謝罪を入れ、火炎を纏った大剣を振るう。
血も涙もない外道衆を幾度も葬った刃が、黄泉の遣いを切り裂く。
咄嗟の防御すら間に合わせず、斬り飛ばされた龍玄からは悲鳴も上がらない。
意図したつもりはないが砲撃で開いた穴へ見事に吸い込まれ、屋内へ逆戻り。
所々に亀裂の走った床へ、盛大に叩き付けられた。

「な、なに…!?」
「どうやら、こいつにゃ番犬の仕事は重荷だったみてぇだな」

出て行ったと思ったら時間を掛けずダイナミックな帰還。
ビクリと震えるみかげの横で、エボルトは大袈裟にため息を吐く。
これを見て襲撃者を華麗に撃退、などと口が裂けても言えまい。
十中八九返り討ちに遭ったのだろう、ボディーガードとしては合格点を与えてやれない。

別に期待はしてなかったがとの呟きに反応してか、勢い良く龍玄が立ち上がる。
ライダーに変身中なのもあってか中々にタフらしい。

だが次の行動はエボルトの予想と大きく異なった。

「え、なんでこっち来て……!?」

もう一度襲撃者を相手取ると思いきや、龍玄はみかげの元へ突き進む。
困惑し距離を取ろうとするも、突然の動きへ頭は半ばパニック状態。
呆気なく接近を許し、次に何か言うより早くデイパックを引っ手繰られた。

「……あ!それ私の……!」

何をされたのか理解が追い付き、至極当然の抗議を口に出すも効果なし。
デイパックを奪うと背を向け、あっという間に走り去って行く。
声は届いてるだろうに、振り向く気配すらなかった。

549どうにもならないからよ ◆ytUSxp038U:2025/04/15(火) 23:55:47 ID:EeVgOa2w0
◆◆◆


取り出した菓子パンに無我夢中で齧りつく。
食べる、というよりは貪ると言った表現が当て嵌まるだろう。
数日は食料に有り付けなかった乞食もかくやの、鬼気迫る食べっぷりだった。
但し食事中の当人は空腹を満たすのが目的じゃあない。
もっと別の、自身を苛む苦痛を和らげる為だ。

「ハァ…ハァ……クソッ!あの蛆虫どもが……!」

デイパックに入っていたコロッケパン三つを平らげるが、そこに満足の二文字は無い。
食べれば体力を回復させるとの、説明書の記載内容に偽りはない。
全快には至らずとも、痛みが遥かにマシになった。
しかし傷の癒えた喜び以上に、胸中を占めるのは圧倒的な憎悪。
自分を散々痛め付け、あまつさえ道具のように使った連中への耐え難い怒り。
悪鬼同然に歪んだ顔は自我無き人形ではない、マサツグ様が正気を取り戻した証拠だろう。

マサツグ様が支配を解かれた原因は、つい先程の襲撃者達との戦闘にあった。
まず第一にマサツグ様は士郎達を迎え撃つ際、アーマードライダーへの変身を実行。
元は並行世界のココアに支給され、カイザーインサイト経由で装備させられたヨモツヘグリロックシード。
使用者の生命力を代償に能力を強化する危険な代物だ。
嘗ての呉島光実同様、マサツグ様の肉体もロックシードの影響で負担が圧し掛かった。
ただ此度は度重なるダメージの蓄積が、封じ込められた意識の強引な覚醒を促したのである。
加えて士郎と風の攻撃はマサツグ様のみならず、彼を操った不可視の支給品にも衝撃を与えた。
意図したつもりはなくとも、結果的に人間あやつり機の機能に障害が発生。
正気に戻ったマサツグ様はみかげの支給品を奪い逃走、フェントホープ内の別室に身を隠し今に至る。

「なにが『私の』だ。ハイエナのように他人の物を盗むゴミめ…お前のような猿以下の奴に物を与えても、無意味なだけだろうが。俺の手に渡った事を感謝しろ」

みかげのデイパックを奪ったのに罪悪感は微塵もない。
姑息にも支給品を取り上げた女の仲間だ、傷の回復を優先していなければ道具のみならず命も奪ってやった。
何よりマサツグ様にとって自分以外の参加者は、優勝を阻む屑の集まり。
仮に支給品を取られていなくても、一切躊躇せず殺したのは想像に難くない。

550どうにもならないからよ ◆ytUSxp038U:2025/04/15(火) 23:56:21 ID:EeVgOa2w0
ともかく回復が済んだなら次は武器だ。
一番良いのは自分の支給品の聖剣だが、忌々しい事にみかげとは別の女の手元にある。
あのような物の価値も分からず、我こそに相応しいと抜かす勘違い女に奪われたままなのは非常に腹立たしい。
直ぐにでも殺して取り返したい衝動に駆られつつ、指先がナニカに触れた。
引っ張り出すも聖剣どころか武器ですらない。
顰めっ面で一応説明書に目を通し、顔色を変え即座に使用を決めた。

「やれやれ、代用品とはいえ戻って来たか。全く、ゴミは人様の手を煩わせるのだけは天才的だな」

満足気に見つめる手元には、紺色に輝く一振りの聖剣。
腰にはバックル型の鞘と、神獣の物語を記した本。
クロスセイバーの変身に必要な装備一式が、一つも欠けずマサツグ様の元へ返って来た。

カイザーインサイトから取り返し、再び装備したのではない。
みかげの支給品にあった、タイムコピーというひみつ道具の効果だ。
名前の通り、過去の映像に映った物を立体コピーする機能を持つ。
時間をずらしながら細かく操作を続け、目当ての人物を発見。
地下へ降りる前のカイザーインサイトの持つ、聖剣一式を対象にコピー開始。
複製品と侮るなかれ、性能はオリジナルと変わらない。
念の為に変身してみれば、問題無くクロスセイバーになれた。

いずれカイザーインサイトを殺し本物を取り戻すのは確定事項だが、まずは試運転がてら奴の腰巾着を軽く仕留める。
ついでに自分を痛め付けた少年と少女、奴らも生かす気はない。
己の油断がオーエド町での敗北に繋がったと、反省の二文字がある筈もなく。
鬱屈とした本性を傲慢さで隠し、来た道を戻って行った。

551どうにもならないからよ ◆ytUSxp038U:2025/04/15(火) 23:57:29 ID:EeVgOa2w0
◆◆◆


支給品を勝手に持っていかれたみかげは、怒りと困惑で頭がどうにかなりそうだ。
陛下はあのような命令を下してないだろうに。

「結局俺が働くしかないってか。短い休憩時間で涙が出そうだよ」

苛立ちを声に出し掛けるも、うんざりしたエボルトの言葉で中断。
面倒そうに見つめる先に誰がいるのか、みかげだって分からない筈はない。
嫌な予感で背筋が寒くなるがお構いなしだ、状況は待ってくれない。

黒い鎧の少女と赤毛の少年。
龍玄を追って襲撃者達も屋内へ現れ、視界に映る二人を見据える。
紅黒い装甲の者が変身を解いた、にしてはダメージを受けた様子がない。
何処へ行ったという疑問は、軽い足取りで前に出た地球外生命体から答えがあった。

「お前達とはしゃいでた奴なら、こっちのお嬢ちゃんの支給品を奪って逃げて行ったよ。今頃は一人反省会でもしてるかもな?」
「……女子の持ち物取って一人だけ逃げるとか、普通にドン引きなんだけど」
「そう思うんだったらこっちは無視して、アイツを追い掛けちゃあくれないかねぇ?」
「悪いけど無理な相談だ」

冗談交じりの提案はバッサリ切り捨てられた。
別に本気で言った訳じゃない、予想通りの答えである。

真っ先に自分達へ向かって来た相手が、まさか我先に逃げ出すのは士郎達にも驚きだ。
しかも仲間の支給品まで奪うとは、少々思っていた人間性と違う。
かといって残された二人を見逃す気はない。
向こうもそれが分かってるのだろう、怯えを露わに少女が後退る。

「ちょっと…!どうすんのよ…!?」
「まぁそう慌てなさんな。俺じゃ愛しの陛下程の安心感は無いってか?泣かせてくれるよ」

この期に及んで緊張感の欠片もないエボルトへ、敵対中の士郎達も思わず呆気に取られた。
青褪めながらも他に頼れる相手のいないみかげは、苛立ちと恐怖でいっぱいいっぱい。
流石に同情を抱かないでもないが、優勝の為に蹴落とさねばならない相手。
切り替えた風が殺意を発し、

552どうにもならないからよ ◆ytUSxp038U:2025/04/15(火) 23:58:09 ID:EeVgOa2w0
「ま、協力者のよしみで一働きしてやるよ」

口調は軽いままで、エボルトが長ソファーを蹴り飛ばす。
幾ら成人男性とはいえ、容易く片足で動かせる重量じゃない。
驚きつつ聖剣を振るって両断、綿や部品が床へ散らばる。

拙い目晦ましだがこれで十分だ。
みかげの腕を掴んで大きく後退、傍らで悲鳴が上がるのも無視。
降り立った先で懐から得物を取り出し、反対の手でボトルを活性化。
ファウストを隠れ蓑に使っていた時からの慣れた動作で、スロット部分へ叩き込む。

「蒸血」

――MIST MATCH――

――COBRA…C・COBRA…FIRE――

有毒色のスモッグが全身を覆い、擬態中の肉体を血濡れの装甲で隠す。
各部から蒸気が噴出、背後で盛大に花火が散る。

「ほらよ」
「熱っ……え、ちょっ…!?」

ブラッドスタークに変身すると、デイパックから引き上げた道具をみかげに放った。
火花が手に当たり熱がっていた所へ渡され、慌ててキャッチ。
突然の譲渡へ意図を掴めずにいるのも気に留めず、ブラッドスタークは自身の得物を操作。

――RIFLE MODE――

『特別にくれてやるよ。こっちでカバーが追い付かない分は自力で何とかしとけ』
「はぁ!?」

気安く告げられ堪らず聞き返すも、会話を続ける気はないらしい。
薙ぎ払うようにトランスチームライフルを撃ち牽制、床一面に火花が散る。
先手を切り相手の動きを止めるやすかさず接近、ブレード部分で斬り掛かった。

553どうにもならないからよ ◆ytUSxp038U:2025/04/15(火) 23:59:10 ID:EeVgOa2w0
武器内部のスチームヒーターで加熱された刃は、敵を溶かしながら切断する。
仮面ライダー相手にも有効な斬撃を、生身で受ければ結果は言うまでもない。
大剣を元の形状に戻し、士郎は双剣を重ね防御。
ただの刀では溶解は免れないが、対外道衆を想定した侍戦隊の装備なら別。
高熱ブレードを防ぎ、押し返さんと両腕の筋肉が盛り上がる。
士郎の望み通りにむざむざ怯んでやる理由はない、自ら得物を引き蹴りを放った。

靴底が胴体を叩くより先に、床を転がり回避。
英霊との置換により打たれ強さも常人以上であるも、余計なダメージは負わないに限る。
入れ替わりで攻撃に出たのは風だ、跳躍しブラッドスタークの頭上を確保。
落下の勢いを乗せ聖剣の威力を引き上げ、フルフェイスの頭部を砕き斬るべく迫る。

『おっかないねぇ。最近のお嬢ちゃんはお淑やかって言葉を知らないのか?』

高度な視覚センサーと変身者自身の戦闘経験が、頭上からの奇襲にも焦りを生じさせない。
軽やかにステップを踏み回避、聖剣の餌食となった床は憐れ木っ端微塵。
力を籠めた強力な攻撃程、空振りが発生時の隙は大きい。
シューズに搭載済の機能が足音を消し、一瞬で死角へ移動。
猛烈な悪寒が風を襲った時にはもう遅い、後頭部へ銃口が突き付けられた。
三点バーストの高熱硬化弾が頭蓋骨を食い破り、脳漿で部屋を汚すまで残り僅か。
名前も知らない少女の命を終わらせたとて、ブラッドスタークに一切の罪悪感はなし。

故に風の死を阻むは仮初の協力者。
生まれた隙に我が身を躍らせるのは、何もブラッドスタークのみに限った話ではない。
獣の牙の如く双剣が長銃を弾き、得物を操る本人をも仕留めんと走る。

『おっとォ、優秀な騎士様の参戦か』

軽口を叩きつつも双剣を捌き、時には間を縫って打撃を放つ。
首を狙った手刀を躱し、反対に士郎が切っ先で腹部を突く。
喉元はパイプが巻かれ胸部には分厚い装甲がある以上、脆いだろう箇所はそこだ。

ブラッドスタークが纏う鮮血色のスーツは変身者の強化のみならず、耐衝撃の盾としても機能する。
しかし既存の生物を超える生命力の外道衆を幾度も斬り、地獄へ送り返したのがシンケンマル。
士郎自身の身体能力と相俟って、直撃を受ければ相応のダメージが襲うのは確実。
トランスチームシステムを過信せず、迫る刀身を蹴り上げ退ける。
爪先で得物を叩かれ、士郎の意志とは無関係に腕が跳ね上がればがら空きの胴体が完成だ。

554どうにもならないからよ ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:00:08 ID:Kv0u2Bhg0
が、そう何度もブラッドスタークの読み通りにはしてやらない。
ただ闇雲に得物を振るうだけでは聖杯戦争に勝ち残れなかった、油断を持ち込まず一挙一動へ常に気を払う。
脚部の僅かな動きを捉えた瞬間、自らシンケンマルを手放していた。
宙を回転し舞う刀には目もくれず、装填済のディスクを回転。
新たにシンケンマルを複製し懐へ潜り込み、今度こそ両の刃が赤い蛇を切り裂く。
なれど標的の動作を冷静に見極められるのは、ブラッドスタークもまた同じ。
斬られる寸前で全身を影状に変化、地面を這い士郎の背後を取る。
うなじがヒリヒリと痛む感覚へ逆らわず、振り返り様に双剣を振るって対処。

『悪くねぇ反応だな。どっかのお坊ちゃんよりも、よっぽど腕が良い』
「誰と比べてるか知らないが、俺だってあんた相手に余裕がある訳じゃないぞ」
『そう腐りなさんな。年長者からの誉め言葉には素直に喜んどくもんだぜ?』

どこまで本気か分からない称賛への反応もそこそこに、武器を動かす手は互いに止めない。
双剣の乱舞を銃剣一本で捌き、時に至近距離で高熱硬化弾を放つ。
顔面スレスレを横切る銃弾に冷汗を掻く暇すら惜しい。
全身装甲姿はついさっきの果実を被った者と同じでも、強さは明らかに目の前の男が上。
剣のみに限って言えば黒衣の剣士に及ばないが、培っただろう戦闘技術は引けを取っていなかった。

「おじさんの癖に動き良すぎでしょ……」

士郎と鎬を削るブラッドスタークに、風も呆れ交じりで呟く。
あの赤い装甲がそこまで高性能なのか、男自身が相応に場数を踏んで来たのか。
いずれにしろ面倒な手合いということは分かった、士郎との二人掛かりで片付けようとし、

「あっ」

視界の端に後退る少女を捉えた。
突如始まった戦闘へ慄き動けずにいたみかげだが、我に返って真っ先に思い付いたのは逃走。
エボルトから道具を渡されたからといって、はい分かりましたと即座に戦える訳がない。
真っ赤な装甲姿よりも更にヤバい、怪物の力を発揮すれば2対1でも問題ないだろう。
むしろ自分は足手纏い、早く陛下を呼びに行った方が良い。
己を納得させる言葉を繰り返し逃走を試みたタイミングで、運悪く見付かった。
バイザーがこちらへ向けられてると気付き、ぶわっと冷や汗が流れ出す。
弱者には興味の無い武人肌、なんて都合の良い展開は当然やって来ない。

555どうにもならないからよ ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:00:43 ID:Kv0u2Bhg0
風が目指すのは優勝による願いを叶える権利の獲得。
一時的に手を組んだ士郎を含め、全参加者が殺すべき対象。
戦えるかどうかは関係無く、殺し合いのプレイヤーに選ばれた時点で例外はない。
ここでみかげを見逃す理由は欠片も存在しなかった。

「……ごめん」

それでも、何一つ感じないと言えば嘘になる。
様子を見れば元々争いとは無縁の、巻き込まれただけの一般人だと察しは付く。
勇者とバーテックスの戦いを知らず、日常を謳歌して来た者達と変わらない。
人の為になることをする、勇者部の部長にあるまじき暴挙。
自分の行いが誰にとっても許されない自覚はあり、風本人にしか聞こえない声量でその三文字が零れた。

だけど今更後戻りするつもりもなく、聖剣の柄を痛いくらいに握り締める。
せめて余計に苦しませないよう一撃で、相手にとっては何の嬉しさもない心持で突進。
斬られたと理解させずに首を落とし、今度こそ本当に手を汚す。

「――――っ!」

風と目が合った瞬間から、みかげは己の死を強く予感した。
蛇に睨まれた蛙という諺がここまで合う状況は、平凡な学生生活でまず訪れない。
『普通』を求めた末に、『普通』じゃない相手の手で『普通』からかけ離れた終わりを迎える。
納得なんて出来ない、大人しく受け入れる気が起きるなど有り得ない。

(いや……私まだ……だって……)

自分が何をやれば良いのか答えは見付からない、でも死にたいとだけは思えない。
死にたくない、声には出さずとも心からの叫びを聖剣が終わらせる。

556どうにもならないからよ ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:01:23 ID:Kv0u2Bhg0
『黄雷抜刀!』

「なっ…!?」

逃れられない結末へ否と答え、雷がみかげを守る盾と化す。
聖剣によって引き起こされる死を阻むのは、同じ聖剣以外にない。

光がみかげを包み込み、現れるは甲冑を着込んだ新たな剣士。
左肩には黄金のランプを思わせる装甲。
垂らしたローブも同色で高貴さが漂う一方で、頭部からは鋭利な刃が突き出る。
稲妻を象ったエンブレムを填め、聖剣の使い手がここに降臨。
仮面ライダーエスパーダ。
予選では破滅の未来に囚われた青年が、本来振るった力の名。

「た、助かった……」

手にした雷鳴剣黄雷を見つめ、震える声が喉を引き絞り溢れる。
元々黄雷を含めたエスパーダに変身する為の装備一式は、ルナの支給品だった。
ライダーにならずとも十分な強さを持つ魔女には無用の代物として、生きてる間は使われず死蔵。
だが放送前に脱落し、残った黄雷はデイパック諸共エボルトがちゃっかり回収。
ついでに司の支給品もドレイクグリップを含め、自分の手元に確保。
エーデルフェルト邸に集まった面々が定時放送で大なり小なり動揺があった為、エボルトの抜け目ない行動に口を挟む余裕も無かったのである。
とはいえ自前の戦闘手段を有するエボルトも聖剣は必要としていない。
未知のライダーシステムへ多少の興味こそ抱くも、譲渡は問題無しとみかげへくれてやった。

(ってかこれ、陛下が使ったのと同じっぽい?)

みかげが咄嗟の変身を実行に移せたのは、事前にクロスセイバーの存在を知れたから。
スペックこそ大きく差が開くが、バックルから聖剣を引き抜く工程は同じ。
死への恐怖から無我夢中で黄雷を抜き、こうして死なずに済んだ。

「あんまり余計な抵抗しないで欲しいんだけど!」
「っ、するに決まってんでしょ…!何なのよいきなり襲って来て!頭おかしいんじゃないの!?」

安堵するにはまだ早い、一撃防いでも襲った相手が健在では根本的な解決にはならない。
理不尽な要望へ苛立ちを露わに返し、次いで起こるは聖剣同士の激突。
黒を纏いし刃が変わらず死を望み、稲妻を帯びたが死を否と叫ぶ。

557どうにもならないからよ ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:02:07 ID:Kv0u2Bhg0
「ぜやああああああっ!!!」
「痛っ……!」

気合の入った構えからの豪快な振り下ろし。
得物は勇者だった時の大剣よりサイズダウンしてるが、強度も切れ味も上。
得意の戦法で敵の剣共々破壊に出る。
しかし世界は違えど聖剣は容易く砕けはしない、翳した黄雷がみかげへの被害を防ぐ。
尤も夢幻召喚を経た斬撃だ、両腕を襲う重圧に短く悲鳴が漏れた。

「この……離れなさいよ…!」

みかげの意志に聖剣が応え、刀身から稲妻が更に迸る。
鍔迫り合いの体勢を崩さず電撃を流し、全身の痺れに風の力が幾分弱まった。
戦闘の素人と言えども今がチャンスだとは分かる。
引き上げられた膂力で力任せに振り払い、敵を押し返すのに成功。
また斬り掛かられるのは御免だ、刀身から電撃を放射。
マトモに食らえば危険な黄雷の能力も、一度我が身で味わえば二度目は許さない。
夢幻召喚で風が得たのは、少女にあるまじき怪力のみに非ず。
床を踏み砕き疾走、泳ぐように電撃を避け再び接近。
横薙ぎに振るわれた聖剣をみかげが防ぎ、続けて二撃三撃と刀身が叩き付けられた。

「そらそらどうしたっ!敵わないって分かったら大人しくしてな!一撃で終わらせてあげるからさ!」
「勝手な事ばっかり言うな!くぅ…っ!ゴリラみたいな力して……!」
「はぁ〜〜〜!?こんな美人相手に何言ってくれちゃってんのかしら…!女子力の高さが剣の強さにも出ただけでしょ!」
「剣振るうのに女子力は関係ないでしょうが…!」

向こうが言えばすかさず言い返してを繰り返し、口と腕が休まる所を知らない。
相手に勝ちを譲るつもりは互いに無くとも、押されているのはみかげの方。
エスパーダの機能でどうにか動けてるだけで、元々ただの女子中学生では勇者として戦って来た風には届かない。
細腕に圧し掛かる重みへ戦慄を抱き、防御を崩さずに口を開く。

558どうにもならないからよ ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:03:17 ID:Kv0u2Bhg0
「ほんっとに…なんなのよ……!あんな自分を神様とか言う痛い奴の言い成りになって、何がしたいの――」
「あんな奴に縋り付くしか、どうにもならないからよ」

己の抗議を遮って紡がれた言葉に、思わず息を呑んだ。
バイザーの奥に隠した瞳が、見えないのに悲痛な色を浮かべた気がしてならない。

冥界の王はもとより、神を名乗るゲームマスターに悪感情が湧かない訳ない。
よりにもよって、『神様』なんかに頼らざるを得ない自分に嫌気が差す。
けど他に方法があるのか。
供物と称して奪った妹の声を、何も悪いことなんてしてない勇者部の皆の体を返してくれる、奇跡が起きると言うのか。
起きないから、蜘蛛の糸に等しい可能性に縋り付いている。
結局どの世界でも変わらない、捻くれて意地の悪い『神様』の言い成りになった。

「うぁ…っ!?」

詳しい事情が語られずとも理解出来る、言葉の重みへみかげが何も言えずにいる中。
話はこれで終わりとばかりに、風の剣が一層激しさを増す。
防いだ体勢のままに吹き飛ばされ、床を転がるも敵の手加減には期待するだけ無駄。
心なしかプレッシャーまで上がった風に恐怖しつつ、バックルへ手を伸ばす。

『ランブドアランジーナ!』

ワンダーライドブックの力を引き出し、聖剣から三日月状の斬撃を放つ。
メギドを怯ませる威力も風を止めるには頼りない、苦し紛れの抵抗に過ぎない。
一振りで霧散した刃には目もくれず、優勝へ一歩近付く為に斬り殺さんと踏み込む。





「ごがあああああっ!?」





だというのに、またしても手を止めるしかなかった。
聞こえた声は風もみかげでも、同じ空間で戦闘中の男二人とも違う。
今度は何事かと視線を彷徨わせる必要もなく、声の主が壁を突き破って彼の前に転がる。
全員暫し戦いを中断し乱入者へ意識を向ける中、

「いた…!こっちの部屋まで飛ん、で…?」
「……」

続けて現れる新たな顔ぶれへの、高まった混乱故の視線を浴びせられ。
桜色の髪を靡かせた少女も、異形の貌を貼り付ける侍も、発するべき言葉を直ぐには見付けられなかった。

559ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:04:53 ID:Kv0u2Bhg0



正直に言って驚いた。
病院が設置されたエリアとは正反対の西側へ転移したのも。
移動を始めた矢先、見覚えのあり過ぎる建造物を見付けたのも。

「ここってマギウスの翼の……」

聳え立つ廃ホテルは物言わずいろはを見下ろす。
本物のフェントホープではなく、精巧な再現に過ぎないとは察せられる。
しかし見知った施設が実際に目の前にあれば、一切驚くなというのは難しい。
イヴの孵化と共に崩壊し、二度と訪れる機会はない筈だった。
本物でないとはいえ、よもやこういった形で再び目にするとは。

呆然と見上げるのも束の間、直ぐに顔を引き締める。
傍らに立つ黒死牟もいろはの変化に気付き、短く問う。

「行くのか……」
「はい、やちよさん達がいるかもしれないですし。それにもし結芽ちゃん達が近くに飛ばされてたら、ここに来ててもおかしくないです」

やちよもマギウスの二人も、フェントホープを見付けたらまず間違いなく調べるだろう。
加えてこれだけ目立つ施設だ、転移した仲間や他の参加者だって無視は出来ない。
いろはと違って特別行きたい場所も無い黒死牟には、強く反対する理由もない。
好きにしろと無愛想に告げると、承諾を得られた礼が返って来た。

黒江の手引きで潜入した時と違い、備え付けの扉を開く一般的な方法で内部へ足を踏み入れる。
拠点として使っていた魔法少女達は当然おらず、人の気配の薄さが自然と肌寒さに変化。
思わず制服越しに二の腕を擦るいろはを尻目に、黒死牟はサガの鎧を解除。
日に炙られないなら窮屈な思いをしてまで、装着を続ける意味も無し。
引き剥がした腹部の絡繰を支給品袋に放ろうとし、勝手に掌を離れた。

『&&&%$&%+##』

解読不能の言語らしきものを発し飛び回る、円盤状の生命体。
サガークと呼ばれる存在が何を言ってるのか、黒死牟にもいろはにも不明。
旧ファンガイア語しか話せない都合上キバットバット三世同様の制限は免れた。
ファンガイアの言葉を理解出来る者が限られている為、必然的にコミュニケーションは困難。
新しい資格者へ伝えたい事でもあるのか、だとしても黒死牟からすれば然して興味もない。
鬱陶し気に目を細める横では、いろはがそっと手を伸ばす。

560ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:06:17 ID:Kv0u2Bhg0
「あなたが、黒死牟さんを太陽に当たらないようにしてくれたんだね。ありがとう」
『&#$%+#@@&』
「わっ、ご、ごめんね?撫でられるの嫌だった?」

純粋な感謝で撫でたつもりだったが、怒ったように全身を震わせ跳ね除けられた。
紅渡以上にファンガイアの血が濃い、登大我に仕えていたからか。
プライドは高く、愛玩動物のように扱われるのは不服だったらしい。
傍目には微笑ましいやり取りも、黒死牟の興味は一切引かない。
サガークを掴んで今度こそデイパックに放り、何も無かったように移動を再開。

慌てて追いかけて来る気配を感じつつ、病院での弟との斬り合いに思考は沈む。
姿形、声、技の冴え、己を見つめる瞳。
何もかも全てが、百年以上が経とうと色褪せぬ記憶のまま。
悪劣な幻覚でなければ、日輪を騙る愚物にも非ず。
正真正銘、本物の継国縁壱だった。

縁壱本人が自分と同じ屠り合いの場にいるのを、今更疑う余地はない。
主への忠義すら削ぎ落とされ、人間の小娘一人に雑念を募らせる有様に堕ちた身なれど。
長きに渡り己を憎悪と嫉妬で掻き毟った男を、見間違える程耄碌してはいない。
だからこそ、受け入れざるを得ないと理解しても脳が現実を拒む。
縁壱が振るう剣の先へ、人に仇為す悪鬼はおらず。
本来ならば人格者たる弟が率先し守らんとするだろう、善良な人々が鬼滅の刃の餌食と化す。

そんな馬鹿なと、有り得ぬ妄想と吐き捨てられるのならそうしたい。
しかし他ならぬ自身の六眼が捉えてしまった。
滅ぼすべき鬼へ向ける筈の殺意を、よりにもよって人間にぶつけた姿を。
己へ付いて回る理解の及ばぬ、だが善性の強さは間違いのない少女の腕を斬り刻んだ暴挙を。

561ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:07:20 ID:Kv0u2Bhg0
悪夢同然の光景に訳も分からず脳が軋む痛みを覚え、気付けば無我夢中で得物を振るった。
いろはの命を再度拾い、小生意気な娘と共に弟と斬り合い、新たな力を得て。
結果、何か大きく変わったのかと言うなら首を横に振る他ない。
縁壱は自身から離れ、今もどこかで血の河を生み出しているのだろう。
一方自分は未だ何がしたいのか、縁壱をどうしたいのかの答えを出せずにいる。

仮に、最早何の意味も無い仮定の話ではあるが。
他者の介入がない、紛れもない縁壱自身の意志で以て眼前に立ったのなら。
枯れ細った老爺ではなく、生命力に満ち溢れた全盛期の姿で。
憎らしくも認めざるを得ない、最強の剣士として刃を向けるのであれば。
四百年前から続く屈辱にやり直しの機会が訪れたと、そう考える自分がともすればいたのかもしれない。

なれど、今の縁壱は神が戯れに二度目の命を吹き込んだ玩具。
鬼狩りとは名ばかりの殺戮に身を委ね、あまつさえ本人は己の在り方に一切の疑問を持たない。
そのような弟と対面し、やれ再戦だ何だのと思える筈がない。
ギチリと口内から発する音にも気付かず、奥歯を忌々し気に噛み締める。
改めて胸を焦がす、神への猛烈な怒り。
私が、俺が憎み焦がれた男はあんな――

「縁壱さんのことを、考えてるんですか……?」

茹で上がる頭を冷やし、意識を現実に引き戻す声。
いつの間にやら表情へ考えが出ていた鬼を覗き込む、少女と視線が合う。
途端に沸き立つ怒りは沈静、打って変わって不機嫌そうに口元が歪む。
余計な事へ思考を割き過ぎたせいで、見せたいとも思わない隙を晒した。
己自身に苛立つ黒死牟をどう思ったか、僅かな間を開けていろはがもう一度口を開く。

「大事な家族だから…っ」

最後まで言い切らず、中途半端な所で途切れた。
口を噤んだ理由は、自分を見る男の視線が険しさを増したから。

562ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:08:06 ID:Kv0u2Bhg0
「お前が……奴と私との……何を知る……」

よくもまあ、そんな戯言をほざけるものだ。
血の繋がった弟ではある、同じ女がこの世に産み落とした兄弟ではある、人間だった頃は瓜二つの容姿を持った双生児であった。
だがしかし、縁壱を家族として愛したことなど只の一度もない。

何度、目障りと思ったか。
何度、死んでくれと願ったか。
何度、何故お前だけがと妬んだか。
何度、どうして私はお前のようになれないと憎んだか。

何度、届かぬ背を焼き付かせた弟へ心を引き裂かれたか。

「言うに事欠き……奴が……大事など……」

負の衝動に背を押され吐き捨てた言葉に、いろはは無言。
揺れ動く瞳が、歪めた鬼の顔を映し出す。
制服の袖を強く握り、失敗の自分を責める。
彼が安易に触れて欲しくはない、心の一番柔らかい部分。
悪意はなくとも、無遠慮に指先で突いてしまった。

「ごめんなさい…また、最初の時と同じことをして……」

頭を下げ、素直に謝罪を口にする。
言い訳はしない、だけどまだ言わねばならい、伝えねばならない事があった。
でも、と続け顔を上げ、もう一度ちゃんと彼の視線を受け止める。

563ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:09:25 ID:Kv0u2Bhg0
「ありがとうございます。黒死牟さんが縁壱さんをどう思ってるのかを、教えてくれて」

多くは語らなくても、声に籠められた感情から察するのは不可能じゃない。
黒死牟が弟へ向ける想いを、悲しく思わなかったかと言えば嘘になる。
家族であっても、自分と妹とは異なる関係も珍しくはない。
理解は出来るがあっさり割り切れもしない。けど、

「縁壱さんのことを良く思ってなくても、でもどうでもいい人なんかじゃないから…」

嫌うということは、それだけ弟の存在が大きいこと。
負の感情を抱くのは、決して弟に無感情じゃない事実に他ならない。
もし弟をどうでもいい存在としか思ってないのなら、あれ程に動揺は見せなかった。
いろはが縁壱の名を口にした時、あんな風に怒りをぶつけなかった。
本当に嫌いなだけだったら、こんなにも強く迷ってはいない。

世に溢れる真っ当な兄弟の在り方とは断じて言えない。
それでも黒死牟…継国巌勝は縁壱の兄だった。
兄に生まれ、弟を見て来た。
憎悪と嫉妬に苛まれる責め苦の如き生であったのは否定せずとも、縁壱への関心を失った時間だけは無かった。

「だから黒死牟さんが縁壱さんのことで、どうすればいいか迷ってるなら――」

今でも思い出す。
助けられなかったあの娘達を。
助ける筈の手で絶望に堕としてしまった、ヨダカの魔法少女を。
どうしてこうなってしまったんだろうと、深く後悔を抱いたのは本当だ。
今になって過去を無かったことには出来ない。

「心から『こうしたい』って答えが出せるように、支えたいって思うんです」

だけど、最初から後悔する為に行動したんじゃない。
助けたくて動いた自分の選択を、間違いとは思っていない。
後悔したくないから手を伸ばし続けるのは、魔法少女になった時から変わらない。

564ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:10:09 ID:Kv0u2Bhg0
「………………」

黒死牟は沈黙以外に何も返せない。
理解の及ばぬ奇人の言動を繰り返すのは、これが初に非ず。
出会って間もない頃から一切変わらぬ、鬼を鬼と思わず手を差し伸べる姿。
口先だけの救済を嘯き己に酔う、善と無知を履き違えた愚か者。
そう断言出来たなら、どれ程楽だったろうか。
紡ぐ言葉は微塵の偽りも宿らず、いざ現実に我が身を動かす行動力を持つ。
一日にも満たない付き合いを経て、疑いの悉く削ぎ落とされた。

環いろはという少女は、本気で自分を助けるとのたまっている。
幾度目になるか数える気にもならないが、改めて突き付けられた。
ああ本当に、この娘は何なのだと愕然とする一方で。
そう言うだろうなと納得を抱く己も片隅に存在し、それがまた黒死牟の混乱を深めるのだ。

加えて、ほとんど衝動的にだが縁壱への嫌悪を口にした。
余計なものを口走らず一睨みで黙らせれば済んだだろうに、一体何をやっているのか。
釈然としない自分への不快感と、未だこちらを見つめる桜色の少女。
両方から瞳を逸らし、広い廊下の奥を睨み付ける。

「談話で無駄に時間を貪るのが……望みではないだろう……」
「は、はい!」

愛想の欠片もない、移動を促す言葉。
共にいるのを拒絶されなかった、その一つだけでいろはには十分だ。
横並びで歩き、ふと目に付いた部屋に入る。
フェントホープへ潜入の経験があるとはいえ、隅から隅まで詳しく調べてはいない。
当然いろはにとっては初めて訪れる場所も、一つや二つではなかった。

室内をざっと見回すと、家具の類はほとんど置かれていない。
積み上がったダンボールの上に、埃の被った布が掛けられている。
羽の魔法少女達の私室ではなく物置に使っていたのだろう。
薄暗い中を進んで行き、何と無しに見やった半開きの箱に驚き近付く。
蓋を全開にすれば案の定、見覚えのある物を手に取った。

565ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:10:47 ID:Kv0u2Bhg0
「こんな場所にあるなんて……」

掌に収まったのは魔法少女なら、誰しも欲するだろう物。
グリーフシード、魔女を倒した証であり魔法少女の生命線。
命の核の穢れを取り除き、やがて訪れる末路を先延ばしにするソレが、無造作に箱詰めされてるとは予想外。
少なくとも本物のフェントホープだったら、もっと保管場所を考えただろうに。
どういった経緯で生まれるかを知ってるだけに、グリーフシードが見付かっても上機嫌とはならない。

自分達魔法少女への救済措置のつもりで、幾つかは会場にばら撒いたのだろうか。
内心複雑だがドッペルを使った時の違和感を思い出せば、グリーフシードが手元にあって損はない。
あったのは大量とは言えず、片手で数えられる分のみ。
後からやちよ達が見付ける可能性も考え、全部は持って行かず一つだけ手に取る。
ごめんなさい、持って行きますと生来の真面目さから断りを入れて。

轟音がいろは達の鼓膜へ届いたのは、正にそのタイミングだった。

「今のって……」
「……」

弾かれたように振り向くいろはより早く、黒死牟は音の発生源だろう方向を見やる。
物理的な広さ故先客がいたとしても、互いに気付かないのは不思議じゃない。
自分達と会わぬ内に相反する目的の者同士がかち合い、戦闘が始まったか。
いずれにしろこちらへ気付いての行動でないのなら、存在を気取られる前に退散も可能。
尤も、実際にその選択を取るかどうかは別である。

行くのかと声に出し問う必要も無い。
娘が何を考え、どう動くのを望んでるかは安易に察しが付く。
であれば、いらぬ会話に時間を割くのは無駄の一言に尽きる。

腰に差した二振りの得物をカチリと鳴らせば、すかさずいろはは魔法少女の衣装を纏う。
何が起きているにしろ、聞かなかった事にする気は皆無。
始まる闘争の予感に気を引き締め直し、急ぎ現場へと身を走らせ――

566ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:11:47 ID:Kv0u2Bhg0
「っ!?」

到着を待たず、頸を断ち切る煌めきが襲い掛かった。

いきなり何事かと、目を白黒させる余裕は皆無。
青く、星々の照らす夜空が剣に形を変え疾走。
目を奪われる輝きなれど、生憎いろはが抱くのは感動とは程遠い戦慄。
切断一歩手前まで追い込まれた痛みが、治った筈なのに首元で疼く。
鬼を滅ぼす灼熱の刀ではない、しかし自分の命を刈り取るのは同じ。
咄嗟の判断で左腕を翳すも、無意味の三文字以外にない儚い抵抗で終わる。

「……」
「チッ…!」

訪れるのを覚悟した痛みは来ない。
代わりに聞こえる小さな吐息と、知らない誰かが舌を打つ音。
瞳が映すは彼が纏った着物の背中。
またしても守られたと理解し、口を突いて出る礼の言葉。
ありがとうございます、そう背に告げ意識は戦闘へ切り替わる。
困惑から脱せず足手纏いになるつもりはない、自分に出来る戦いをするまで。

「ふん、相変わらず無駄に生き汚い害虫だな。あの偽善者どもから寄生先を変えたのか?」
「え?あの、何を言ってるんですか……?」
「口調まで変えるとは、お前の気持ち悪さは底なしか?今度は男に媚びるアバズレでも演じてるらしいな」
「アバズ…!?」

初対面の相手にいきなり殺されかけたのもだが、長々と罵声を浴びせられ困惑を隠せない。
襲って来た人物を見れば、紺色の鎧で全身が覆われている。
天津や承太郎達のような仮面ライダーとは分かるが、声に聞き覚えは全くない。
相手の様子から察するに、自分に何らかの悪感情を抱いてるようだ。
かといって心当たりが無いいろはには、何のことやらさっぱり。
理由を聞きたいが肝心の相手が会話に応じる気配はゼロ。

まさか自分の姿を勝手に擬態され、知らぬ内に恨みを買ったとは露知らず。
一方マサツグ様もまた、目の前にいるのは正真正銘初めて会う少女と気付けない。
みかげ達の所へ戻る最中、放送前に散々舐め腐った真似に出た小娘を偶然発見。
黒々と燃え盛る負の衝動に急かされるまま、標的を急遽変更。
全くの冤罪だと知る由もなく、いろはに襲い掛かったのだ。

567ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:12:43 ID:Kv0u2Bhg0
いろはを恨む理由も黒死牟の知った事ではなく、問い質す気も起きない。
現われた剣士は敵である、その一点さえ確かなら十分。
虚哭神去を抜刀し聖剣を防いだ体勢を、長々と維持しても戦況に変化は無し。
襲って来た、故に返り討ちにし斬り捨てるまで。
人外の肺活量にて行われる呼吸が大気に悲鳴を上げさせ、瞬く間に血液が沸騰。
己が技を繰り出すのに躊躇は不要。

――月の呼吸 伍ノ型 月魄災渦

「チッ…!」

聖剣を防ぐ構えを崩さず、目の前の剣士を渦に閉じ込める。
刀を振るうという必要不可欠な動作を無視し放つ予想外の技に、クロスセイバーも反応が追い付かない。
甲冑の恩恵でダメージは抑えられるが、不快な痛みはゼロじゃない。
刃が胴を引き裂き、数歩の後退で距離を離す。
むざむざ逃がしはせぬとすかさず踏み込み、鬼は追撃に牙を剥く。

「気安く俺に近付くな!醜い生ゴミが!」

耐久性の高さもあって致命傷には至らずとも、ストレスは増加。
怒声で尻込みする黒死牟ではないが、予期せぬ方向からの飛来物を視界の端に捉えたなら別。
クロスセイバーから対象を変え刀を振るい、斬り落とした物の正体は燭台。
まるで意志を得たように、高級ホテルを過去に彩った調度品の一つが黒死牟を狙ったのだ。

不可思議な現象に首を傾げる場合ではない。
燭台を斬るのとタイミングをほぼ同じくし、いろはがクロスボウを連射。
いろは自身も一度は仮面ライダーになったから分かるが、易々と貫ける強度の装甲じゃあない。
一発二発をチマチマ撃っても無意味、よってこれまで通り連射。
煌びやかな桜色とは裏腹に、魔女やウワサを葬って来た魔法少女の射撃だ。
生半可な防御では的同然だがクロスセイバーには無問題。
青い残像を生みながら急接近、小癪な抵抗を一刀の元に終わらせる。

「くっ…!」

敵が自分の矢を突破するくらい、十分予想の範囲内。
全身の筋肉をしならせて跳躍、後方へと一気に飛び退く。
魔法少女に変身し純粋な力も、十代の少女が出せる限界を優に超える。
背後の扉を蹴破りダイナミックに入室、妙にだだっ広い部屋へ転がり込む。

568ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:14:09 ID:Kv0u2Bhg0
自暴自棄になった梓みふゆが飲酒に逃げた場所、とは勿論知らない。
視界が映す夜空色の装甲へ矢を射る。
装填やトリガーを引く手間は不要、意思一つで発射可能。
しかし寸前で背後の空気を切り裂く音を拾い、嫌な予感に再び回避。

「きゃっ…!」

直撃は凌ぐも完全に回避とはならず、背に衝撃が走る。
魔法少女の打たれ強さなら、床へ叩き付けられても死にはしない。
かといって痛みを受け入れる趣味はなく、どうにか受け身を取った。
何かが壁にぶつかり、視線をやればソファーが落下しバネが突き出るのが見える。

「立ち上がろうとするなよゴキブリめ。害虫は害虫らしく這い蹲ってろ!」
「っ!」

罵声と共に頭上から靴底が振り下ろされた。
憎たらしい少女の顔諸共踏み潰し、靴の汚れに変えるのへ罪悪感はない。
むしろ殺したいと思っていた相手の無様な最期が拝めるのであれば、やらない方が不自然。

忘れるなかれ、此度の闘争もまた魔法少女一人の足掻きに非ず。
悪しき剣士の望む光景を阻む刃が、喉元へ食らい付かんと疾走。
クロスセイバーへ仇為す存在を察知し、色褪せた絵画が回転刃の如く迫る。
まるで剣士を「守る」かの現象も、黒死牟を止めるには至らなかった。

――月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮

人の限界しか知らぬ者には悪夢同然の速度で放つ、魔の領域へ座する居合斬り。
両断された挙句、半月状の力場に食い荒らされた絵画には見向きもしない。
己が刃を輝く剣で防ぎ、得物を挟んで睨み合う敵以外へ何を見ろと言う。

腕に力を漲らせ、聖剣共々薙ぎ払う。
鬼の膂力へ呼吸による身体強化を加えたのだ、100kgに近い重量の装甲とて真っ直ぐに立ってはいられない。
後方に足を縺れさせたクロスセイバーへ、立て直しを許さず刀が駆ける。

刀身が胴を撫でる瞬間に、紺色の剣士への守護が発動。
不可視の力により引き剥がされた扉が飛来、人間が直撃を許せば骨の数本はへし折れるだろう勢いだ。
視線を剣士から離さず得物を背後へ振るい、扉の残骸が足元へ散らばる。
改めて標的を切り刻まんとするが狙いが逸れたのは事実、反対に振り下ろされた聖剣を最小限の動作で躱す。

569ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:15:09 ID:Kv0u2Bhg0
次の剣の到達を待たず斬り掛かり、鬼の斬撃が受け流された。
あらぬ方へと伸びる得物を引き戻すも、間髪入れずに聖剣が突きを見舞う。
刀身を弾き返し、逆に斬り込むがあっさりと回避。
躱した体勢から宙へと身を躍らせ回転、円を描いた刃が襲い来る。
防御に出た所で得物共々砕き兼ねない威力に対し、黒死牟が選ぶは迎撃。
そちらから近付いた事を後悔させるべく、得物を振り上げる。

――月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月

切っ先で床を引っ掻きながら斬り上げ、三つの月を生み出す。
自ら鬼の狩場へ首を突っ込む哀れな獲物、なんて末路は訪れない。
足場のない不安定な宙にいながら繰り出す、澱みのない剣捌き。
刃を打ち消し華麗に着地、一呼吸終える間もなく剣士は鬼と刃を叩きつけ合う。

膂力、速度、技の完成度。
それら全てで柱や弐以下の上弦を寄せ付けぬ強さの鬼を相手に、クロスセイバーは難なく渡り合っていた。
時に防ぎ、時に受け流し、時に猛攻を与える。
黒死牟がどこから攻めに出ようと、一太刀も浴びず五体満足を保つ。

「おい化け物、そんな醜い顔で一丁前に侍気取りなんて人間様に申し訳ないと思わないのか?俺なら恥ずかしくて自殺してるぞ」

神々しい甲冑姿からは想像も付かない、下衆な内容が飛び出す。
鬼狩りから挑発や憤怒をぶつけられた経験は多々あれど、こうも性根の悪さを漂わすのは滅多にない。
顔を顰めつつ胸部目掛け真一文字を描く。
骨まで断たれ肉塊二つが地に転がるだろう一撃も、クロスセイバーは焦らずに対処。

「やれやれ、必死こいて振るった剣がこの程度とは。ゴミに同情を抱く気なんて無かったが、流石に憐れに思えて来るな」

口を動かしつつ攻撃の手も決して止めない。
流水の如く軽やかであり、激流の如き苛烈な威力で怒涛の攻めを繰り出す。
腕一本で行う動きとは思えない刃の群れが殺到、下手に防ごうものならたちまち肉片の山と化す。
なれど黒死牟に対処不可能と言った覚えはなし。
一つ一つを正確に捉え、無駄を完全に削ぎ落とした剣技で以て捌く。
力と技の両方を兼ね備えた鬼をどう思ったか、声色に少しばかりの苛立ちを含ませ剣士がまたもや挑発を並べる。

570ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:15:59 ID:Kv0u2Bhg0
「ふう、ゴミに時間を割かれるこっちの身にもなって欲しいもんだ。こんなショボい剣で何を為す気でいるのやら。雑魚は雑魚らしく、やる事全てが無駄と理解し――」

「無駄なんかじゃありません!」

スラスラと飛び出す罵倒は、少女の声に掻き消された。
不機嫌を露わに睨み付けると、自身へクロスボウを向ける姿が見える。
ゴミがと吐き捨て己を守る力が発動、長テーブルが少女目掛け飛びこちらへの攻撃を阻む。
とはいえ少女にとっても既に見知った現象だ、予めそうなると分かっていれば二度も同じ手は受けない。
魔力の矢を連射し長テーブルを破壊、連射を止めずに続けてクロスセイバーを狙う。
頭部から突き出たブレード部分に命中。
ストライクマークの効果で貫通力の上がった矢だ、砕けずとも振動で視界を大きく揺さぶられる。
絶叫マシンを降りた直後に似た眩暈を覚え、生まれた隙へ鬼が刃を差し込む。

「生ゴミが…!」

『闇月・宵の宮』が至近距離で放たれ、剣を翳しながらクロスセイバーは後退。
安定しない視界でありながら、咄嗟の対処は見事の言葉以外に見当たらない。
本人に称賛を投げ掛けた所で喜びはなく、不愉快になるだけだろう。
頭を振って射殺さんばかりの視線を叩き付けるが、敵は共に動じた様子なし。
無駄な足掻きを続ける鬼も、自身を悉く不快にさせる少女もだ。

「黒死牟さんが戦って来たことは、絶対に無駄なんかじゃない。否定なんてさせません」

殺意を籠めた瞳に貫かれて尚、いろはは怯まず毅然と反論をぶつける。
殺し合いに参加する前の彼を知らずとも、殺し合いでの彼を近くで見て来たから言えるのだ。
彼が剣を振るったから、失われなかった命がある。
彼が戦ったから助かった者がいて、繋がった命がある。
他ならぬいろは自身が黒死牟に助けられたから、彼を否定する嘲りには黙っていられない。

571ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:17:15 ID:Kv0u2Bhg0
「……本当に気色悪いなお前。こんな蛆虫、いや最早蛆虫にすら失礼か。お前のようなカスをさっさと片付けなかった自分が恨めしくなってきたぞ」

心底の侮蔑を籠めて、いろはを徹底的にこき下ろす。
そもそもマサツグ様にとっていろはは偽善者のヒーロー(笑)連中と一緒にいた、煽り気質の小娘という認識。
放送前とは口調も変えて、化け物の男に媚びを売っている。
全くの人違いとは未だ気付かず、ころころ都合の良い女を演じては自分に楯突く様が非常に気に入らない。

十聖刃は手元に戻った、「守る」スキルも時間経過で罠カードの効果が切れ問題無く機能。
だけど心を蝕む感情は未だに燻り続け、奥底の恨みを激しく燃え上がらせる。
何より苛立つのは、敵が『二人』で自分と戦っていること。
群れなければ何も出来ない、力が無い故の雑魚らしい無様さ。
そう己へ何度言い聞かせても、内心は酷くささくれ立つばかり。
あのような醜悪な容姿の化け物さえ、形はどうあれ共に戦う存在がいる。
口では仲間や友情を見下す一方で、自分では手に入らなかったソレを羨む。

そんなナオミ・マサツグの負の側面を肥大化させた存在にとっては、見ているだけで許し難い光景。
劣等感の刺激で感情が揺れ動き、ニノン達を相手取った時同様に「聖剣の担い手」スキルが効果を発した。
黒死牟とも渡り合ったスキルの恩恵は、感情が高まれば高まる程にマサツグ様へ力を齎す。
自分に余計な痛みを与え、化け物と屑の分際で協力し、痛々しいお仲間ごっこを見せ付ける。
今しがたのいろはの言葉で不快感を煽られたのも影響を受け、マサツグ様の剣技は更に上昇。
放って置けばいずれ黒死牟を完全に凌駕するだろう
全身に力が漲る感覚を覚え、やはり自分にこそ天は微笑むのだと口の端を吊り上げた。

「お前らのような低能に、言葉で懇切丁寧に教えてやっても時間が勿体ない。力が無ければ何も出来ない現実を、体に叩き込んで――」
「貴様は……」

歌うように口から飛び出る挑発はまたもや中断されて、多少マシになった機嫌が急下降。
人の話を最後まで聞けないのかと軽蔑を視線に乗せ、

「一体何を……そこまで妬む……?」

閉ざした心の奥深くを、容赦なく抉られた。

572ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:18:38 ID:Kv0u2Bhg0



歪な少年だと、一目見た時から思った。
口を開けば罵詈雑言しか飛び出さず、褒めらられた人間性でないだけではない。
真っ先に疑問を感じたのは、少年の持つ強さの理由。

月の呼吸を以てしても斬り刻めないのは、今に始まったものでなく。
頑強極まる外殻のデェムシュの例がある以上、耐久性が異様に優れた存在は最早珍しくない。
不可視の斬撃波を飛ばし、軌道へ複数の力場を発生。
数や位置、出現のタイミングが常に変化する悪辣な刃の檻。
鬼狩りを屠った己が血鬼術も、異界の屠り合いにおいては殺傷力を大きく削がれる憂き目に多々あっている。
此度の剣士もそういった装備を手に入れたと分かる以上、一々愕然とする必要は皆無。

分からないのは相手の急激な技の精度の上昇について。
鎧に隠れた生身の更に奥を、透き通る世界は確かに見た。
痣者に非ず、自身と同じ世界を視てもおらず、何より剣士のソレとは程遠い肉体。
男女問わず剣を振るう為に鍛えた者は、筋肉の付き方にも特有のクセが生まれる。
だが紺色の鎧を纏った少年の体に、剣士として鍛えた痕跡はまるで存在しない。
幼い結芽でさえ刀を得物とする以上、肉体に証拠が刻まれたというのに。
既に歴代の柱の何人かを超えた剣術を持ちながら、強さに説明が付かない矛盾。
あえて喩えるならば、後付けで絶技だけを手に入れたと言うべきか。

もう一つ、強さとは別に不可解なのが少年の言葉や態度の端々に見え隠れする感情。
並べ立てられた挑発の数々は、生前なら青筋の一つや二つは浮かべたと思えるくらいには痛い所を突く内容。
こちらの事情を知らぬ者であるというのに、腹立たしい所を的確に掻き回してくれる。
醜悪さを突き付ける末路を自らの手で引き寄せ、挑発で心を軋ませるのはデェムシュとの戦闘で味わった。
加えて現在は劣等感以上に、傀儡と化した弟への形容し難いナニカの方が強い。
それらが重なり不快だとは思えど激昂には至らず、故に少年が挑発の裏に何を隠してるかに気付けた。
ソレは黒死牟にも酷く覚えのある感情であり、なればこそ余計に分からない。
何を考えてソレを自分や、いろはに抱くのかが。
解答には届かず余りに不可解な為か、気付けばポツリと問いが零れ出たのだった。

仮に少年が縁壱と遭遇し強運によってどうにか逃げ延びた後、自分達に会ったと言うのであれば。
嫉妬の向かう先が神々の寵愛を受けた、縁壱の才と言うのだったら十分理解出来る。
縁壱への嫉妬に身を焦がし八つ当たり気味に襲ったとしても、傍迷惑だがまだ納得の範囲内。
しかし小年はどういう訳か、自分といろはに妬みを抱いている。

分からない、分かる筈もない。
黒死牟の内心がどうであれ、共に戦う存在を得ているからなど。
そんなものが嫉妬の理由だなんて思いつく訳がなく、直接ぶつけた問いはどんな剣よりも深く少年を刺し貫く。
煽りや挑発の意図は皆無、ただ本当に意味が分からないから思わず声に出た。
たったそれだけに過ぎずとも、少年の嫉妬心を更に掻き乱すには十分な効果を持ち、

573ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:19:20 ID:Kv0u2Bhg0
「―――――――――あ゛?」

膨れ上がった怒気が肌を引っ掻き、相手の琴線に触れたと理解せざるを得なかった。

「空気を読む能力もないゴミクズが…!余計なことをほざいてないで、とっとと死んでいろ…!!」

人間ですらない化け物の分際で、自分の内心へズケズケと入り込んだ。
隠した部分を強引に引っ張り出し、挙句本人はすっとぼけたように意味不明と表情で伝える。
これで怒りを覚えるなとは流石に無理な話。
最初から殺す気だったがもう容赦はしない、誰を怒らせたかを徹底的に後悔させて消し去ってやる。

『刃王必殺リード!既読六聖剣!』

『刃王剣必殺読破!星烈斬!』

鍔部分のエンブレムを押しながら、刀身部分をスライド。
十本の聖剣の力を一つに束ね生まれたのが十聖刃だ。
元となった他の聖剣の力も自在に引き出し、全知全能の書を巡る戦いで活用されて来た。

但し今回は世界を守る意志など介入の余地がない、私的な怒りで能力を行使。
烈火、流水、黄雷、激土、翠風、錫音。
固く結ばれた剣士達の絆を踏み躙る、六本の力を付与した斬撃の嵐を見舞う。
炎竜の餌食と化すか、激流に骨まで洗い流されるか、神罰の如き雷に焼かれるか。
岩石の群れに叩き潰されるか、暴風の刃で細切れか、音撃に肉片すら残さず消し飛ぶか。

――月の呼吸 陸ノ型 常世弧月・無間

どれも御免被る。
斬撃の嵐を巻き起こすなら、こちらも相応の技で掻き消すだけのこと。
虚哭神去の一振りが奏でるは、無数の半月による乱れ撃ち。
さながら地獄へ引き摺り込む亡者の大群の如く、死への誘うべく手を伸ばす。
間合い外への離脱は決して認めぬ斬撃同士が喰らい合い、余波が空間へ破壊を生む。

『烈火!既読!』

阻止された時にはもう、クロスセイバーは再びエンブレムをスライド操作。
火炎剣烈火を複数本生み出し回転。
渦を巻く炎が敵の視界を一時的に塞ぎ、すかさず十聖刃をバックルに納刀。
勝負を諦めたのではない、最大威力の技の発動に必要不可欠な工程だ。
トリガーを引き抜刀、必殺と呼ぶに相応しい力を纏わせる。

574ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:20:12 ID:Kv0u2Bhg0
『刃王!必殺読破!』

『聖刃抜刀!刃王一冊斬り!』

エンブレムの刻まれた刀身が真紅に輝き、部屋中を眩く照らす。
星雲に覆われた聖剣は創造ではない、純粋な破壊を齎す凶器。
悪しき物語を書き換える善の使い手はここにおらず、どこまでも身勝手な殺意によって幕を引く。

「喜べ生ゴミども。お前ら如きの為にもう一度この技を使ってやるんだ、精々感謝してあの偽善者と同じ地獄へ落ちろ!」

憎たらしい忍者の少女のように、満足気な最期など誰が与えてやるものか。
聖剣の輝きとは裏腹の、ドス黒く淀んだ殺意を剥き出し構える。
化け物の脆弱な剣やカスの脆い矢で、止められると思ったら大間違いだ。

「……」

六眼を焼き、異形の貌を照らす星雲を黒死牟は言葉無く見据える。
異界の剣士が放たんとする一撃の脅威が如何程か、分からぬ訳がない。
未だ振るわれずとも、骨の髄まで軋ませる威圧感。
一度放たれれば小手先の剣など綿毛の壁に等しい、二度目の滅びを迎えるのは確実。

それでも、警戒こそあっても戦慄は抱かない。
アレは危険、そこへ異論を挟む余地はなく。
なれど自身を掻き乱す、幾年の時が過ぎようと忘れられない熱は皆無。
己が脳を焼いた日輪の熱さを、眼前の剣士からは全く感じ取れなかった。

ああそうだ。
無様と言う言葉ですら足りない終焉で、一度は現世を去っても。
神を騙る人間の傀儡と化した弟に、正体の掴めない動揺を抱いても。
未だ己がここにいる意味を、見出せなくても。
憎み、妬み、狂おしいまでの羨望があったあの太陽は色褪せることなく、我が身の奥底へ根付いているのだ。

魔剣を引き抜き、黄金の蝙蝠で刀身を研ぐ。
妖刀を構え直し、鮮血色に染め上げる。
鬼とは異なる魔導に属する力が、意思一つで活性化。
寿命の前借りで限界を超えさせた痣とは違う、奇怪な模様が頬に発現。

自分が現世に舞い戻った意味は、何一つ分からない。
この地で何を為すべきかなど、こっちが知りたい。
主への忠義を果たす気力すら、未だ微塵も湧かず。
弟をどうしたいかの答えも、結局出せないまま。

575ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:21:28 ID:Kv0u2Bhg0


だけど


――『兄上』

――『心から『こうしたい』って答えが出せるように、支えたいって思うんです』

もう一度縁壱の前に立つ事が叶わず、力尽きるのは。
縁壱に劣る者に自身の命をくれてやるのは。
方針など到底呼べない、下らない意地に過ぎなくとも。
紛れもない本心で、無性に気に食わなかった。

いずれまた、自分は今度こそ地獄へ落ちるのだろう。
屠り合いの果ての結末が避けられないのだとしても、

「貴様の手にかかるなど……笑止……」

錆びた刃が輝きを取り戻すように。
飛ぶことを諦めた鳥が、再び空を目指すように。
凍てつき朽ち果てるだけの魂へ火が灯る。

戦場の空気が塗り替えられていく。
粘ついた嫉妬心と憎悪が燃えて溶け落ち、濁った星雲が解れて崩れる。

「……っ」

鬼の放つ闘気を直に中てられ、クロスセイバーの喉が引き攣った音を立てた。
数百年の時を闘争の渦中に置いた剣鬼が、明確な意思で以て応える戦意。
気弱な者は忽ち心臓の鼓動を止め、戦い慣れた者であっても冷や汗を抑えられないプレッシャー。

もしここにいるのが直見真嗣や、神山飛羽真だったら。
絆や物語という、守るべきものを背負った彼らなら。
戦慄し恐怖に蝕まれようと、退くことだけはしなかっただろう。
しかし己を動かす原動力があくまで妬みと恨みであり、守るべきは自分以外に持てない彼は違う。
戦友の生き様に恥じぬ戦いを見せた、忌々しいヒーロー。
雷鳴の剣士と、青鬼と、天才物理学者と、どれだけ憎んでも憎み足りない忍者。
連中から痛みと共に植え付けられた、忘れ得ぬ死の予感がまたもや顔を出す。
絶対守護の力を得てからは無縁だった感覚が、クロスセイバーを怯ませた。

576ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:22:38 ID:Kv0u2Bhg0
たった数歩の後退が針の穴より小さく、されど確実な隙を生み勝敗を決定付けた。
意識全てを紺色の剣士に割き、内より膨大な熱が湧き出る。
尋常ならざる肺活量の呼吸が空気に絶叫を上げさせ、人外の身体機能を極限まで上昇。
生命の核を起点に、活性化した魔皇力が全身へ行き渡った。
火炎に似た痣とステンドグラスを思わせる模様、二つを浮かび上がらせた鬼が打ち倒すべき存在を捉え逃さない。

「――――――ッ!!!」

そして疾走。
研がれた二振りの牙が、獲物を食らうべく迫る。
纏わり付く剣士の妬みを引き裂き、鬱屈とした魂をも叩き潰さんと駆け出す。

「だから何だゴミめ!雑魚がイキってカッコ付けた所で、寒いだけなんだよ…!」

僅かでも怯んだ事実を誤魔化すように、仮面の下で相手をこき下ろす。
武器を一つ増やしたからどうだというのか。
馬鹿正直に突っ込んで来たのが大間違いと、思い知らせてやらねば。
自身の害となる虫けらを近付けさせない為に、「守る」スキルが発動。
複製された三本の烈火が浮遊し、鬼を狙い射出。
僅かなりとも妨害出来ればこっちのもの、己が振るった剣の餌食となるのは確実。

だがクロスセイバーの予想に反し、黒死牟は足を止めずに突き進む。
回避はおろか、得物で烈火を弾き落とす素振りさえ確認できない。
そんな必要がないと、分かっているからだ。

「ストラーダ・フトゥーロ!」

鬼の後方より放たれる、束ねられた無数の矢。
桜色の輝きが黒死牟を照らすのも一瞬、烈火を狙い撃ち爆散。
魔力を高めた魔法少女の大技(マギア)が、勝利を阻む壁を薙ぎ払う。

鬼狩りや病院で会った人間達のように、絆だの信頼だのと抜かす気はない。
なれど曲がりなりにも、この数時間で共に闘争へ身を委ねた身。
いろはが奮戦する様を傍らで見て来たのは、否定出来ない。
暑苦しい仲間意識などに非ず、ただ一つの事実として受け入れただけ。
今更になって、肝心な場面で下手を踏む真似はしないだろう。
敵の小賢しい妨害に、打つ手を見出せぬ非力な娘ではないと。

577ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:23:44 ID:Kv0u2Bhg0
「なんで……お前も…お前らも……!」

黒死牟の内心が実際の所どうあれ、その光景は受け入れ難く許せない。
群れる以外に能の無い虫けらと嘲笑っても、心を誤魔化せない。
どこまで行っても孤独を拭えない自分にはないものを、間近で見せ付けられた。

力なら手に入れた。
虐げて来た連中を逆に虐げ、見下せるだけの力を。
常に自分を肯定し続け、逆らうものを徹底的に否定する者達を。
だけど本当に欲しかったモノは零れ落ち、自分よりずっと弱い連中ばかりが当たり前のように手に入れる。
どうして、どうして、

「どうしてお前らだけが――」

自分が今どんな顔を浮かべてるのかも気付けない。
「どうして」の四文字だけが壊れたラジオのように繰り返され、こんなに近くにあるのに自分では手に入れられないモノへ手を伸ばす。
恨みか焦燥か自分でも分からず、聖剣を振るうが最早遅い。
一度揺らぎの生じた精神など最早、黒死牟を相手取った剣術の上昇に自ら枷を付けたも同然。

嘗て己を切り裂いた暴風よりも苛烈で。
嘗て己を打ち砕いた鉄球よりも重く。
黒竜の衣を纏った麒麟児の爪よりも鋭い。

下らないと執拗に吐き捨てながら、その実妬み羨む以外に残されていない執着諸共。
鮮血の如く紅き鬼の牙が、噛み砕いた。

「がぁっ…っ……!?」

胴に刀身が触れたと認識し、即座に襲い来る衝撃。
回転し安定しない視界なぞ意識を割く余裕もない。
叩き付けられた床に亀裂が生まれるのを、果たして気付いたかも怪しい。
突き立てた牙が猛烈な痛みを発生させ、クロスセイバーから冷静さを削り落とす。
変身は解除されておらず、紺色の鎧にも破損は見られない。
本来の変身者でなく制限の対象下なれど、仮面ライダーセイバーの最終形態は非常に高性能だ。
魔皇力やザンバットソードを重ねた黒死牟の剣技であっても、容易く壊せる装甲じゃあない。

578ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:24:41 ID:Kv0u2Bhg0
逆に言うと、クロスセイバーに変身して尚もこれ程のダメージに襲われた。
ハオウソードローブと呼ばれる選ばれし者の甲冑でさえ、完全には殺し切れない。
被害を最小限に抑えつつも、捨て置けない痛みが蝕む。
研ぎ澄まされた双剣の斬撃のみではない、斬られた以外の激痛が甲冑の下で荒れ狂う。
弟の邂逅を切っ掛けに得た力、魔皇力が原因だと知るのは黒死牟ただ一人。

発想の元となったのは、病院での真紅の騎士との再戦。
いろはとのコネクトで発動した、桜吹雪を思わせる斬撃の嵐。
頑強なデェムシュの外骨格を砕くには至らずとも、肉体の内側からの破壊で膝を付かせた。
外から斬れぬなら、脆いままの中を斬る。
単純極まるも効果的な戦法を可能にしたのが魔皇力。
黒死牟は知らぬ事だが、仮面ライダーキバこと紅渡も同じ方法で敵を葬って来た。
蹴りを叩き込み、足底から流し込んだ魔皇力でファンガイアの肉体に多大なダメージを与えたのである。

(改良の余地は……まだあるか……)

クロスセイバーへ剣を届かせても、当の本人は完成に程遠いと冷静に評価を下す。
紺色の甲冑が破壊困難な強度であるのを加味し、しかし粉砕する気で振るっただけに満足など出来よう筈もなく。
そもそも二刀で技を繰り出すこと自体が初なのに加え、形状が全く異なる得物同士では剣筋にも差異が生じる。
今のまま振るい続けたとて、未完成ではそう遠くない内に限界がやって来る。
呑気に鍛錬を重ねる時間がない以上、実戦の中で改善していく以外にない。

と、我が事ながら思考の変化に気付き暫し硬直。
数刻前まで伽藍洞の人形同然だった筈が、戦闘へ幾分かの気概を取り戻している。
生前から焦がれ狂わせた弟の再会に、火を付けるものがあったのか。
或いは、理解が及ばぬながらも自分へ付いて回った――

「無能で醜い……気持ちの悪いカスがァァ……!!」

余計なものを考える前に、怨嗟の籠った苦悶の声が意識を引き戻す。
痛みは大きいがクロスセイバーの耐久力と、ミームの集合体という特異な出自故の生命力。
何よりどうやったって消えない昏い想いを原動力に変え、紺色の剣士は戦闘続行を選ぶ。
激痛を噛み殺し、聖剣の柄を砕けんばかりに掴む。

「黒死牟さん!」

剣士の反撃による敗北を跳ね除けるべく、魔法少女が手を伸ばした。
何を意図した行動か、真紅の騎士との戦闘を思い返せば察するのは容易い。
尤も、今回は少しばかり予想と違ったが。

579ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:26:04 ID:Kv0u2Bhg0
「わたしにお願いします!」
「……」

迷いの入り込む余地が無い瞳で告げて来る。
人に仇為す鬼へ、己に力を貸してくれとほざく。
言っている意味を本気で理解してるのかと、呆れとも苛立ちとも区別の付かないナニかを感じ、

「…………」

だが、こいつはそういう娘だと。
納得か諦めかすら分からないモノも同じように浮かび、最早ため息すら億劫となるも。
この局面でしくじる程に、脆弱でないとも分かるから。
主に許可を得て血を与えるのとは異なる、勝利の為に力の一端を与える慣れぬ感覚へ眉間に皺を寄せ。
いろはの掌に、自分のを重ねた。

斬り刻み、蝕む為ではない。
害する意図を宿らせぬ力が流れ込み、いろは自身の魔力と共に編み上げる。

『刃王必殺読破!』

『刃王一冊撃!セイバー!』

一方のクロスセイバーも必要な工程を終え、技を繰り出す。
バックルへ十聖刃を納め、トリガーを二回引く。
星雲を纏った斬撃ではない、エネルギーを付与する対象は右脚の装甲部分。
仮面ライダーの代名詞とも言える蹴り技で、怒りを直接体に叩き込む。
足蹴にし殺されると言う屈辱的な最期を味合わせねば、到底気は晴れそうもない。

「踏み潰されて死ねゴキブリども!」

跳躍し足を突き出すクロスセイバーへ、いろはも照準を合わせる。
コネクトの影響を受け固有武器は巨大化。
クロスボウから固定台座突きのバリスタに変わり、魔力で生成した矢を装填。
発射の直前に四方八方から、調度品が獲物を見付けた鷹の勢いで襲来。
「守る」スキルの妨害は如何なる場面でも起き、名前通りスキル保持者を危機から遠ざける。

580ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:26:49 ID:Kv0u2Bhg0
が、脅威を退けるのは「守る」スキルだけの特権に非ず。
飛来する調度品の群れは餌に食らい付く害鳥ではない、自ら狩り場へ突っ込んだ獲物に過ぎない。
攻めに動くのが魔法少女の仕事なら、守りに動くのは鬼の役目。
人間の娘の支援という釈然としない立ち回りだが、敵を調子付かせたいかと言えばそれも否。
虚哭神去とザンバットソード、怪物の手で生み出された双剣が斬撃の結界を生成。
襲って来た悉くを細切れにし、矢の発射に支障を生じさせない。
手を貸してくれた鬼へ内心で感謝しつつ、直接言葉で伝えるのは終わった後。
煌めく青を発し剣士が蹴りを放つのと、タイミングを同じくして桜色の魔矢を発射。
メギドと魔女、本来は人間へ仇為す異形を葬る為の光が激突。

拮抗するも時間を置かずに砕けたのは、いろはの放った矢。
何とも呆気ない終わりへ、クロスセイバーは勝利を確信し嘲笑う。

「結局雑魚は雑魚なんっ!?」

勝ち誇った笑みが凍り付き、仮面越しの視界を桜色が覆い隠す。
蹴りで砕いたんじゃあない、矢が勝手に砕け散ったのだ。
コネクトの失敗による結果でない事は、クロスセイバーを包むモノを見れば明らか。
砕けた矢の破片一つ一つが極小の半月であり、紺色の甲冑に纏わり付き離れない。

もしもマサツグ様が万全の状態だったら、突破も不可能ではなかったろう。
しかしオーエド町での傷も完治しないまま、黒死牟に新たな傷を刻まれた状態では。
クロスセイバーの力を行使しようと、敗北を遠ざけるには足りない。

「――――っ!!!??!!」

魔力で構成された三日月が斬り刻んだ末、一斉に弾ける。
スモールサイズと言えども大量数が纏めて爆発すれば、クロスセイバーを襲う衝撃は軽くない。
悲鳴すら出せずに吹き飛び、幾枚もの壁を突き破って尚も止まらなかった。

581確かにそこに存在して何もかもを歪ませる ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:28:44 ID:Kv0u2Bhg0



何だか良く分からないが面倒な事になって来た。
士郎、風、みかげ三人共通の認識である。
予期せぬ乱入者達が原因で戦闘は一時中断、仕切り直しを余儀なくなれた。
誰が来ようと獲物が増えただけ、構わず殺す。
脳筋気味に勇むのは簡単でも、警戒を強めねばならない存在が二人程いる。

「ひっ……」

怯えを声に出し後退るみかげを、やれ軟弱だとは言えまい。
偶然にも視線が合ったのは二人組の片割れ、六眼を浮かべた人ならざる男。
超常的な存在と縁のない日常を送って来た少女からすれば、おぞましき容貌の侍は恐怖の対象だ。
相手はみかげの様子に気付いても、欠片の興味も向けないが。

「……もしかして、また日本人だけ殺したがるタイプ?なら私はイギリス人ですって言ってみようかしら」
「あの女みたいなのが他にもいるのは、流石に勘弁して欲しいんだけどな……」
「私だって嫌よ、一人いるだけでもうんざりだし」

軽口を叩く士郎と風も声色は硬い。
漂う血の臭いと纏う死の気配が、異様なまでに男は濃密。
バーテックスと違い等身大にも関わらず、対峙した際に抱く戦慄は圧倒的に上だった。
未だ剣を振るわれずとも分かる、これは相当骨の折れる相手だと。

『まさか、こんなタイミングで会えるとはなァ。また一つ戦兎達への手土産が出来て喜ぶべきかね?』

士郎達が侍へ警戒を抱く一方で、エボルトの意識は桜色の髪の少女に向かう。
直接会うのは今が初めてだが、名前も顔も放送前から知っている。
今頃血眼になって探し回ってるだろう、苦手な声の女はどう思うやら。

気さくに話しかけても良いがまずは邪魔な連中の対処が先決。
戦闘中の士郎達はもとより、憤怒のオーラを撒き散らす紺色の剣士も同様だ。
床に背を付け、痛い目に遭ったとは誰の目にも明らか。
こんな状態でも油断ならない存在感を発しており、侍同様の強敵に士郎達は身を強張らせる。

582確かにそこに存在して何もかもを歪ませる ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:29:38 ID:Kv0u2Bhg0
「な、なんであんたが陛下の剣を持ってるのよ!?陛下はどこに……」
「寝言を吐き散らすなアホ女…!やはり品性の無いコソ泥の仲間だな、恥という言葉すら知らないらしい。大体お前みたいな頭空っぽの能無しに説明してやった所で、理解出来る筈がないだろう」
「んなっ……!?」

見覚えのある姿と聞き覚えのある呻き声に、みかげも仮面越しに目を見開き問い質す。
すると予め台本を渡されたようにスラスラと罵詈雑言を捲し立てられ、怒りで顔に朱が宿る。
だがみかげ以上に怒りを覚えているのが紺色の剣士、クロスセイバーに変身中のマサツグ様だ。
雑魚と見下す二人組、いろはと黒死牟に反撃を受け無様に転がる羽目となった。
おまけに吹き飛ばされた先では、自分を苛立たせた連中が勢揃い。
中でも特に許し難い真紅の装甲へ歯を剥き、あらん限りの恨みをぶつける。

「ふざけた小細工で騙すとは、やる事がセコいんだよ害虫。そこのピンク頭共々、雑魚の分際で誰に歯向かったかを理解させなきゃならないようだな」

いろはとは別にブラッドスタークがいて、しかも仕草や態度はオーエド町で自分をコケにした時と同じ。
こうなればマサツグ様と言えど、流石に察しは付く。
大方いろはの姿だけを模倣し、自身の正体発覚を防いだといったところか。
何とも浅い三流以下の猿知恵だと内心でこき下ろす。

『おいおい、初対面で随分な口の利き方するじゃねぇか。どこかで恨みでも買っちまったか?生憎覚えが無くてなァ』
「害虫の中でも特に不快だなお前は…!」
『怒るなって。本当に俺はお前さんと会うのは初めてなんだぜ?』

小馬鹿にするようにわざとらしく惚け、マサツグ様の額に青筋が浮かんでもお構いなし。
のらりくらりと怒気を躱し、しょうがねぇなとボヤきトランスチームガンを操作。
攻撃の為ではない、纏った装甲が真紅の光を発し消失。
変身解除しマサツグ様のみならず全員に姿を晒すが、みかが達の知る長身の男はそこにいない。

583確かにそこに存在して何もかもを歪ませる ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:30:26 ID:Kv0u2Bhg0
ブラッドスタークの腰まであるかも微妙な、子供特有の低身長。
肉付きの薄い肢体を覆う黒のドレスは、真っ白い肌と相俟って幼いながらに妖艶さを醸し出す。
艶のある黒髪を揺らし、可愛らしさと美しさの両方を兼ね備えた容姿が笑みを浮かべた。
人を人とも思わない、滑稽な玩具のピエロを見つめる嫌な笑みを。

「な?直接会うのは初めてだろ?お前の記憶力がイカレてなけりゃ、俺の冤罪も晴れると思うがね」

散々翻弄した少年にいけしゃあしゃあと言ってのけ、美遊・エーデルフェルトの姿でエボルトはけらけらと笑った。
写真で見ただけのいろはへ擬態可能だったように、映像で見た人質の少女の擬態も容易い。
この姿を選んだ深い理由はなく、何と無しに思い出しただけ。

戦兎や万丈達ならともかく、フェントホープに集まった参加者がブラッド族の擬態能力を見るのはこれが初。
思いもよらない姿に目を見開く者、驚きはあれど変身能力自体は知っている為あっさりと受け入れる者。
そして、

「うん?」

自身に集まる視線の中で、意外な感情を察知しそちらを見やる。
ついさきまでは警戒くらいだった筈が、この姿になった途端に膨れ上がる新たな気配。
その理由を考えようとするも、別の機会へ回す他ないらしい。
これまで蚊帳の外だった役者二名の参戦を、ブラッド族の鋭敏な感覚がしかと捉えた。

「揃いも揃って随分はしゃいでるわね。ここはいつから動物園になったのかしら」

大声でない、だというのにその冷笑はいやにハッキリと鼓膜へ届いた。
次から次へ現れる参加者へ意識を払うより早く、風は自身へ迫る気配を察知。
飛び退き、一手遅れて立っていた場所に巨大な爪が突き立てられる。
獰猛な魔物を従えた少女が、みかげを庇うように一歩前へ出た。

「あ、ありがと……」
「礼は不要です。私は陛下の命令通りに動いただけなので」
「……あっそ」

愛想の欠片もないココアに眉を顰めるも、心には安堵が広まりつつある。
参加者の中で唯一、自分が信頼を置ける大人。
ホテル内の探索に出ていた『彼女』が戻って来たのだから。

584確かにそこに存在して何もかもを歪ませる ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:31:10 ID:Kv0u2Bhg0
「ちょっと目を離した間にどんちゃん騒ぎだなんて、マナーの三文字が頭から抜け落ちてるの?」
「再会早々酷ぇ言い草だな。先に仕掛けて来たのはこいつらで、俺はむしろ巻き込まれた被害者なんだがねぇ」

おどけた仕草で答えたエボルトを、彼の協力者のカイザーインサイトは冷めた目で見つめる。
地下の探索を一旦打ち切り、みかげの待つ部屋に戻って来た。
ところがみかげ以外に複数人見ない顔がおり、しかも一人は2回目の放送後に合流を決めた地球外生命体。
何故か人質として紹介を受けた少女の見た目になっているも、手にした銃は真紅の装甲服姿の時と同じ装備。
加えて一度は刃と殺意をぶつけ合った関係だ、独自の気配とでも言うべき部分でエボルトだと気付けた。
既に相手が人間じゃないのを知った為、他者の外見を偽るくらいでは驚かない。

何故、放送を待たずエボルトが顔を見せたのか気になるが後回し。
番犬の役目一つ果たせない、糸を断ち切った元操り人形の対処が先。
どういう訳か自分が奪った筈の聖剣を持ち、夜空色の甲冑を纏ってるではないか。

「ふん、ノコノコ顔を出して来たかコソ泥め。親玉を気取ろうとゴミはゴミなんだよ。人の物を盗むなと幼稚園で教わらなかったのか?おっと、お前みたいなのを受け入れる施設なんてある訳なかったか」
「頭の悪い男程、無駄に話を長引かせるのよねぇ」

聖剣を奪った憎い相手をここぞとばかりに罵り煽るも、返って来たのは欠伸交じりの退屈さを隠そうともしない態度。
相も変らぬ舐め腐ったカイザーインサイトへ、マサツグ様の不快感が一気に上昇。
ストレスの元を痛め付け消し去るべく、十聖刃のエンブレムをスライド操作。
三本の聖剣の力を引き出す工程を終えるのを見届けず、カイザーインサイトもバックルから十聖刃を引き抜く。
オリジナルと複製品の違いはあれど、スペックに差はないクロスセイバー二人が睨み合う。

「嘆かわしいな、お前のようなコソ泥に使われては剣も泣いてるだろ。ふう、力の差を直々に叩き込んでやらねばならんとは」

変身してももう遅い、聖剣の力はとっくに発動された。
火炎剣烈火のエネルギー体がマサツグ様の意志に応じ振るわれ、炎を纏った斬撃を放つ。
自分から奪った十聖刃で調子に乗るゴミが、焼かれて悶える様を想像し口の端を吊り上げる。
しかし陰惨な光景は現実にならず、火炎の刃はカイザーインサイトの一閃で霧散。

585確かにそこに存在して何もかもを歪ませる ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:31:45 ID:Kv0u2Bhg0
「なっ!?」

驚くのはここからだ、儚く消える筈だった火の粉が再び集まり竜を形作った。
牙を剥き威圧する対象はマサツグ様、飲み込み骨まで溶かそうと大口を開け突進。
自分が放った烈火の斬撃以上に脅威を感じ、「守る」スキルが発動。
突如暴風が吹き、炎の竜を掻き消す。
なればと続けて流水を出現、炎とは打って変わって激流がカイザーインサイトを襲う。

だが届かない、水滴一つカイザーインサイトは浴びない。
激流が凍結し騎士を思わせる氷像三体に変化、槍を構えマサツグ様に突き刺す。
予想だにしない光景が二度続き、訳が分からぬままに十聖刃を振り回し迎撃。
砕け散った氷の破片が散らばるも、三本目の聖剣が発す音に掻き消された。
天上高くから雷が降り注ぎ、神罰と見紛う地獄を創り出す。

「学習能力がないの?」

オーエド町での戦闘で、戦士達を慄かせた光景も覇瞳皇帝には茶番以下。
頭上からの輝きは複数の頭部を持つ大蛇に生まれ変わり、標的をカイザーインサイトから変更。
意味が分からないという内心を隠さず、頭上を見上げるマサツグ様に食らい付く。
「守る」スキルの恩恵を受け不可視の結界が出現、雷の牙は掠りもしない。
と僅かに気を抜いた瞬間、大蛇は己が身を矢に変え射出。

「ぐうううう…!?」

脅威の度合いを下げ油断した為か、「守る」スキルは発動せず。
ただでさえ軽くないダメージの残る体を、猛烈な痺れが走った。
生身であったら、元の容姿が判別不可能な黒焦げ死体へ早変わりだ。

「何だこれは…どんなインチキを使った…!?腐り切った性根の虫けらが……っ!」
「はぁ?急に何を言って……ああ、そういうこと」

同じクロスセイバーであるのに、カイザーインサイトが使ったのはマサツグ様にとって未知の能力。
自分から奪った後で勝手に細工でも加えたのか。
卑劣な手を疑い憤る少年へ、相手は訝し気に見やるもすぐに納得。
呆れと侮蔑、ついでにほんの少しの憐憫を視線に宿す。
同じ仮面を被ってはいても片や激怒が吹き荒れ、片や至って冷静と正反対だった。

586確かにそこに存在して何もかもを歪ませる ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:32:23 ID:Kv0u2Bhg0
前提の話として、マサツグ様と十聖刃の相性は良いとは言えない。
「聖剣の担い手」スキルによる剣術の上昇と、クロスセイバーの高機能は確かに脅威だ。
されどクロスセイバーの本質とも言える、創造力の強さを活かした力はロクに使えていない。
反対にカイザーインサイト…千里真那がどうかと言うなら、今しがたマサツグ様を痛め付けた光景が答え。
VRゲーム「レジェンド・オブ・アストルム」を開発した天才達、七冠(セブンクラウンズ)の一人。
神山飛羽真とは相容れぬ在り方なれど、物語を紡ぐ創造力では引けを取らない。
世界規模の能力こそ厳重な制限を受けたが、参加者同士の戦闘における小規模な改変や再創造なら問題無しと主催者も設定。
相手の放った攻撃を、自らの望む形に変える。
創造力の高さがそういった戦法を可能にするなら、飛羽真以外にカイザーインサイトが使えたとて不思議は無かった。

「だから言ったじゃないの。豚に真珠だって」
「お、前ぇぇ……!!」

わざとらしいくらいに大きくため息を吐かれ、マサツグ様の怒りに更なる油を注ぐ。
自身の精神性が原因でクロスセイバーの本領発揮が不可能とは気付けず、敵が卑怯な手を使ったと決めつけ激昂。
叩き込む勢いで十聖刃を納刀、トリガーを操作し引き抜く。
マサツグ様の動きに何をするのか分かり、カイザーインサイトも同様に剣を納め抜刀。

『刃王!必殺読破!』

『聖刃抜刀!刃王一冊斬り!』

真紅に染め上げた刀身へ星雲を纏わせ斬る大技。
上弦の壱相手には不発に終わり、忌々しい傷を受ける羽目になったが今回は違う。
メーターを振り切れて尚も止まらない憎悪の上昇が、剣術の冴えを一層の脅威へ変える。
度重なる屈辱をここで断ち切るべく、獣の如き絶叫を上げ刃を放つ。
許し難い虫けらを完全に消し去る斬撃波が、常人はおろか名のある剣士ですら視認不可能な速さで振るわれ、

「は?」

十聖刃に纏わせた星雲が、引き千切った綿あめのように飛び散る。
必殺の剣が急激に威力を削がれ、マサツグ様は間の抜けた声を一つ漏らす。
星雲は眩い星空から一転、妖しく輝く紅い空となり十聖刃を覆う。
但し、マサツグ様のではなくカイザーインサイトが持つ本物の、だ。
模造品の十聖刃のエネルギーを、自分が操る力として再創造。
星雲と紅雲を纏め上げ、本来の斬撃技を凌駕する威力を叩き出す。

「わざわざ私を有利にしてくれてありがとう、お馬鹿さん」

自分が最後まで踊らされたと、理解出来たのかどうか。
カイザーインサイトは興味を抱かず、己へ逆らった愚者へ裁きを下す。
フェントホープの一室は、この世の終わりに等しい絶望的な輝きに包まれた。

587確かにそこに存在して何もかもを歪ませる ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:33:13 ID:Kv0u2Bhg0



「あれ…?」

何が起こったかを理解するのに、少しの時間を要した。
いろはの記憶が正しければ、フェントホープ内で紺色の剣士同士の戦闘が勃発。
二人の内の一人、獣の耳を生やした女性が剣を振るった直後の記憶が曖昧だ。
コネクトでも滅多に見ない、膨大な魔力を秘めた技の予兆へ肌が粟立ち。
このまま放たれては非常にマズいと思った瞬間、衝撃と轟音に襲われ軽く意識が飛び。

気が付けば何故か、地上を離れ空にいたのである。

「わたしどうして…。っ!黒死牟さんは……!」
「一々狼狽えるな……」
「ひゃうっ!?」

間近で聞こえた低い声に驚き顔を動かし、見知った顔があった。
と言っても六眼ではなく、青いレンズに王冠状の頭部パーツ。
更に視線を移すとステンドグラスに似た胸部や、白い装甲が映り込む。
ファンガイアの王を守る鎧、といった事情には興味を持たず使用目的は日除けの道具。
サガの鎧を纏った黒死牟がそこにおり、無事が分かりホッと胸を撫で下ろす。

幾分落ち着き今どうなってるかを目で確認し、間を置かずに二度目の驚愕。
鳥でもないのにどうして空を移動出来るか、長大な胴をうねらせ自分達を運ぶ存在がその答え。
コブラに似た外見を持ちながらも、自然界に生息する蛇では有り得ない巨体。
六枚の翼を揺らし飛行を繰り返す様は、アステカ神話の神ケツアルカトルを彷彿とさせる。
この大蛇、名をククルカンと言い仮面ライダーサガの眷属として召喚可能なモンスターだ。
キャッスルドラゴン程の大きさは無いが、参加者数人を運ぶくらいは造作もない。

カイザーインサイトの光剣が齎した破壊により、日を遮る壁や天井も消し飛んだ。
余波だけで焼失し兼ねない中、いろはを引っ掴んで退避に急いだ時。
デイパックを飛び出しサガークが自ら装着、即座に意図を読み取り黒死牟は鎧を装着。
日の光を遮断し、すかさず現れたククルカンに飛び乗りフェントホープを離脱。
資格者の脱落を防ぐようインプットされたのか、或いは紛れもない自分の意志か。
サガークがククルカンを呼び出した理由が何であれ、鬼も魔法少女も生きて今に至る。
本来ククルカンが仕えるのはサガーク同様、登大我以外にいない。
だがゲームにおいてはサガの変身者に従うよう細工を受け、ファンガイアと無関係の者にも反抗的な様子は見られなかった。

588確かにそこに存在して何もかもを歪ませる ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:34:09 ID:Kv0u2Bhg0
「おーいお二人さん、そろそろ俺を無視するのは終わりにしてくれねぇか?」
「えっ?あ、あなたは……」

振り落とされないよう、黒死牟に掴まれたままなのへいろはが気付いた直後。
後方から聞こえた声にギョッと振り向くと、予想してなかった者が手をヒラヒラ振るのが見えた。
だらしなく胡坐をかきククルカンの背に腰を下ろす、黒いドレスに黒髪という黒尽くしの少女。
今現在も檀黎斗に囚われている筈であり、会場で呑気に参加者と話すのは有り得ない。
それもその筈、ここにいるのは美遊本人に非ず。
聖杯の少女の姿を真似た星狩り、エボルトも黒死牟達の脱出に相乗りしていた。

「仲が良いのは結構だが、俺を除け者にするなんざ寂しいじゃねぇかよ。心は硝子みたいに繊細なんだ、もうちっと優しく頼むぜ?」
「えっと……ごめんなさい…?」
「……」

何を言ってるんだろうかと思いつつ、つい素直に謝ってしまうのはお人好しな性格故か。
少々ズレた反応のいろはを尻目に、黒死牟は無言を貫く。
鎧越しの背中が「鬱陶しい」と告げ、エボルトの無駄口を完全に拒否。
図々しく乗り込んだ挙句馴れ馴れしいこの者を、突き落としてやろうかと思わないでもない。
いろはに反対され余計面倒になるのは目に見えてるが。
神経を逆撫でる以外に効果の無い軽口を無視し、淡々と同乗者達へ告げる。

「降りるぞ……的になり兼ねん……」

ククルカンは移動速度にも優れており、地上から狙い撃たれても回避は難しくない。
とはいえ火球や氷柱を大量に連射するデェムシュの例を考えると、絶対大丈夫とも言い難い。
万が一身動きの取れない宙で鎧を剥ぎ取られては、黒死牟はほぼ確実に詰みだ。
仮に日が沈んだ時間帯であれば十全の対処が可能だったが、現在時刻は昼にも到達していない。
サガでどこまでの戦闘が可能か未だ把握できてないのもあって、頃合いを見て飛行の中断を決めた。

いろは達からも反対は飛ばず、ククルカンへ指示を出す。
降りろと簡潔な三文字にも逆らう意思はなく、言われた通り行き先を変更。
大正時代ではお目に掛かれない、だが現代ではありふれた学び舎の前で大蛇のタクシーは終了。
地へ足を着けるのを見届け、何処かへ去って行った。

589確かにそこに存在して何もかもを歪ませる ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:34:48 ID:Kv0u2Bhg0
結局フェントホープでやちよ達とは会えなかった。
複数人の参加者はいたけど、大半が言葉を交わす事無く離れ離れ。
自分達はこうして助かったが、あの場に集まった他の者達はどうなったのだろうか。

「あそこにいた人達は……」
「少なくとも、陛下殿に従ってる二人は無事だろうよ。あれでも、お嬢ちゃん達には当たらないようしてたしなァ」

顔色を曇らせ呟くいろはと対照的に、エボルトはあっけらかんと答える。
加減の「か」の字も知らないカイザーインサイトだったが、流石にまだ利用価値のある駒を巻き込む真似はしなかった。
その割に一応協力者の自分へは気遣いが見当たらず、高火力の斬撃に巻き込まれた可能性もあったが。
エボルトの力の一端を知り、あれくらいなら凌げると確信を持っていた故かもしれない。

(ま、実際その通りだから良いけどな)

ブラッド族としての本来の姿やパンドラパネルを使えば、ノーダメージで生き延びるのも容易い。
ただ今回はいろは達を見付けたから、ククルカンを使った脱出へ便乗。
やちよの探し人の情報を得たとあっては、戦兎も大遅刻への怒りを多少は引っ込めるだろう。

(にしてもあの赤毛の坊主、人質のお姫様を前から知ってるのか?)

白く細い、折れてしまいそうな自身の腕を見つめ思い出す。
美遊に擬態した時、部屋に集まった連中の中で士郎だけは他と違う感情を自分に向けた。
驚きは分かるとして、明確な怒りまでもを視線に宿し矢のように射抜いたのだ。
マサツグ様の昏い恨みとは違う純粋且つ苛烈な怒りは、エボルトにも覚えがないとは言わない。
旧世界で戦争を引き起こし、三都を翻弄し、人間どもの命を駄菓子のように噛み砕いてやった時。
地球の仮面ライダー達がぶつけて来たのと似ているが、士郎の怒りはもっと限定される。
大層大事に想う個人に手を出された時の憤怒に近い。

一度気付けば答えに辿り着くのは難しくない。
恐らく美遊と士郎は前々からの関係者、それも相当に親しい。
そのような相手の姿をおふざけで擬態されては、怒りを覚えて当然だ。

590確かにそこに存在して何もかもを歪ませる ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:35:16 ID:Kv0u2Bhg0
(あの坊主をゲームに乗らせる為の人質、って言われてもな……)

自分で考えて何だが、どうもしっくり来ない。
士郎を実際に相手取った感触としては、弱いと言う気は無い。
だが人質をチラ付かせてまで、殺し合いのやる気を引き出す価値のある強さかと言うと首を捻るのが正直なところ。
手の内全てを見せてはいないだろうとはいえ、わざわざ美遊を捕えてまで優勝を促す程なのだろうか。

(それか人質扱いはあくまでおまけで、お姫様には別の役割があるってか?)

美遊の明確な立ち位置は、プレイヤーを焚き付ける囚われの姫。
と言うにはやはり疑問を抱かざるを得ない。
人質などいなくても、戦兎達なら必ずや黎斗を倒そうとする。
優勝狙いの参加者を増やしたいなら、最初から乗り気な奴を大勢集めれば良い。

人質というフィルターを外し、主催者が美遊を何故確保したのか考えてみる。
自分達の元へ捕えているのは何故か、殺し合いの運営に必要不可欠だから。
ではどういった理由で必要にしてるのか、殺し合いに無くてはならないものとはなにか。
会場、支給品、首輪、強過ぎる力の制限。
確かに必要だが違う、もっと大きな役割があるだろう。

仮説だが、美遊・エーデルフェルトとはつまり――

「ま、それは追々考えるとしてだ」

思考の沼に沈んだ意識を引き上げ、あっさりと切り替える。
美遊については一旦置いて、まずは目先の問題から話を進めよう。
急に黙りこくって髪を弄り始めた自分を、訝しく見やる二人組。
魔法少女と鬼を相手に、楽しいお喋りといこうじゃないか。

「呑気に男とデートなんざ、思ったよりも余裕そうだなァ?環いろは。やちよに知られた時の言い訳を、今から一緒に考えてみるか?」

591確かにそこに存在して何もかもを歪ませる ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:36:05 ID:Kv0u2Bhg0
【D-2 桜ノ館中学校前/一日目/午前】

【環いろは@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、魔力消費(大)、悲しみと怒り
[装備]:ストライクマーク@テイルズオブアライズ
[道具]:基本支給品一式、グリーフシード@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。
0:何でやちよさんのことを…!?
1:黒死牟さんを放って置けない、助けになりたい。
2:やちよさん達と病院で会った皆を探す。
3:もし灯花ちゃんとねむちゃんがまた間違いを起こすのなら、絶対に止める。
4:フェリシアちゃんを殺した男の人(滅)には怒ってる。でも、我を忘れたりはしない。
5:真紅の騎士(デェムシュ)を警戒。
6:どうしてドッペルが使えたんだろう?
7:縁壱さんは、黒死牟さんの弟さん……。
8:キャルちゃんに渡したメダル、本当に良かったのかな…?
[備考]
※参戦時期はファイナルシーズン終了後。
※ドッペルは使用可能なようです。

【黒死牟@鬼滅の刃】
[状態]:魔皇力継承、精神的疲労、縁壱への形容し難い感情(大)、黎斗への怒り、いろはへの…?、サガに変身中
[装備]:虚哭神去@鬼滅の刃、木彫りの笛@鬼滅の刃、ザンバットソード@仮面ライダーキバ、サガーク&ジャコーダー@仮面ライダーキバ
[道具]:基本支給品一式、闇(2時間使用不可)@遊戯王OCG、ランダム支給品×0〜1
【思考・状況】
基本方針:分からない。……が、少なくとも縁壱以外の者に殺される気は失せた。
0:小娘の皮を被った者(エボルト)へ対応。
1:この娘は本当に何なのだろうか……。
2:縁壱……お前は…………。
3:無惨様もおられるようだが……。
4:日を避ける道具は手に入ったか……。
[備考]
※参戦時期は死亡後。
※無惨の呪いが切れていると考えています。
※魔皇力が使用可能になりました。キバット族のサポート無しで活性化出来るようです。
※サガークの資格者に認められました。ククルカンの召喚も可能なようです。

【エボルト@仮面ライダービルド】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(小)、美遊に擬態中
[装備]:トランスチームガン(ワープ機能4時間使用不可)+ブラックコブラロストフルボトル@仮面ライダービルド、ラストパンドラパネルブラック+ブラックロストフルボトル×6@仮面ライダービルド、パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト
[道具]:基本支給品一式×3、じわじわキノコカン@スーパーペーパーマリオ、ブレイクスルー・スキル@遊戯王OCG((1)の効果4時間使用不可能)、ドレイクグリップ@仮面ライダーカブト、呪い移し(現在使用不可)@遊戯王デュエルモンスターズ、ルナの首輪、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:生存優先。あわよくば未知の技術や檀黎斗の持つ力を手に入れる。
0:取り敢えず、こいつらとのお喋りと洒落込みますかね。
1:戦兎達の元へ戻る。遅刻確定ならもうちょい寄り道して手土産を増やすか。
2:戦兎と共闘しつつどこまで足掻くのか楽しむ。仲良くやろうぜ?
3:エボルドライバーを取り戻す。元は内海の?知らねぇなァ。
4:ロストボトルを回収しパンドラパネルを完成させる。手間を掛けさせないで欲しいんだがな。
5:正攻法じゃあ檀黎斗を倒すのは難しいか。
6:カイザーインサイトを利用。2回目の放送後に桜ノ館中学校で合流。戦兎には何て言おうかねぇ。
7:やちよの声はどうにも苦手。まぁ次に会えたら仲良くしてやるさ。
8:猿渡死んじまったか。戦兎の奴どうなるかな。
9:美遊、ねぇ。
[備考]
※参戦時期は『ビルド NEW WORLD 仮面ライダークローズ』で地球を去った後。
※環いろはの姿を写真で確認した為、いろはに擬態可能となりました。
※トランスチームガンのワープ機能は一度の使用後、6時間経過しなければ再使用不可能になっています。

592確かにそこに存在して何もかもを歪ませる ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:36:54 ID:Kv0u2Bhg0
◆◆◆


(優勝賞品、願いを叶える生きた装置ってことかしらね……)

破壊の痕跡が真新しいフェントホープにて、カイザーインサイトは星狩りと同じ答えに辿り着いた。
ラスボスに囚われた少女を救う演出目的で手元に置くのも、理由に入ってはあるのだろう。
しかし人質という前提を取り外した場合、美遊が黎斗の元にいるのは違った形に見えて来る。

(でも今のままじゃ単なる仮説でしかないのよねぇ)

優勝者の願いを叶えるナニカの正体は黎斗自身の異能や特殊な道具ではなく、少女の形をした願望器。
とはいえ確証を得られたのではない。
あくまで仮説に過ぎず、まるっきり違う可能性も有り得る。
念の為に美遊を前々から知る参加者と、接触を図るのも思考の片隅に留めておくか。
わざわざ名前と姿を大々的に知らせたのだ、関係者に向けた情報発信と考えた方が自然である。

「……」

今後の方針に頭を働かせるカイザーインサイトの後ろで、口を噤み佇む少女が二人。
余計な会話を行わないココアはともかく、みかげもまた声に出さず悩み続ける。
襲撃やら何やらが重なり自分も危機に陥ったが、無事生き延びられた。
それ自体は良い、ただこの先どうするべきかまるで分からない。
本当に司を生き返らせるなんて可能なのか、完全には信じられていない。
かといって司が死んだ事実を受け入れ自分だけ生きて帰るのも、簡単には頷けない。
仮に司の蘇生に成功したって、向こうは一体どう思うんだろうか。
生き返って喜ぶ?みかげに苦労を強いて悲しむ?檀黎斗の持つ力なんかを使った事に怒る?
頭の中でころころ司が表情を変えて、そのどれもが虚しい妄想の産物として消え失せ、

593確かにそこに存在して何もかもを歪ませる ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:37:22 ID:Kv0u2Bhg0
(…………ちょっと待って)

ふと、ある可能性に思い至った。
願いを叶える力が本当だという、大前提を踏まえての話だが。
死んだ人間の蘇生すら夢物語じゃないと言うのであれば、他にもみかげの望み通りになるんじゃあないか。
例えば、最悪の展開を迎えた雨の日の出来事。
自分達三人の間に決定的な亀裂が生まれた、公園での大喧嘩。
殺し合いに巻き込まれても薄れない傷となったあの瞬間を、無かった事にだって出来るのでは。

(それ、は……)

1年の時に付き合った男子が、まだ自分を好きなんて事実は消える。
結果、他校の生徒から公園で相談を持ち掛けられることも無くなる。
お泊り会での司の寝相や寝言に愚痴を言いながら、ドーナツ屋へ寄り道して他愛のないお喋りで笑い合う。
起こり得なかった普段通りの、自分と司と撫子の日常が本当になるかもしれない。
叶って欲しいか否かと問われたら当然前者。
三人仲良く『普通』のまま、楽しい時間が続いてくれる。
みかげの望みが叶わぬ妄想なんかじゃない、現実のものとなるのだ。

なのにどうしてか、他ならぬ自分自身が完全に納得し切れない。
本当に良いのかと問い掛けてしまう。
襲って来た少女のように、願いを叶える覚悟を決めた言葉は到底言えそうもなかった。


【C-1 ホテルフェントホープ/一日目/午前】

【カイザーインサイト@プリンセスコネクトRe:Dive!】
[状態]:疲労(小)
[装備]:聖剣ソードライバー&刃王剣十聖刃&ブレイブドラゴンワンダーライドブック@仮面ライダーセイバー
[道具]:基本支給品一式×2、シュークリームケーキ(少量消費)@ななしのアステリズム、キノコカンセット(キノコカン、スーパー、ウルトラ)@スーパーペーパーマリオ、ランダム支給品×0〜3
[思考]
基本:あの神を名乗る男は気に入らない、出し抜く手段を考える
1:壊れたこの子(保登心愛)は使い物にならなくなるまで利用する。
2:みかげも駒として利用。どこまで使い物になるかしらね。
3:なるべく使える駒を集める。
4:あの子(キャル)も連れ戻すべきか。
5:この忌々しい首輪もなんとかしたい。エボルトの同行者には期待し過ぎず、こっちでも解除方法を調べる。
6:エボルトを利用。2回目の放送後に桜ノ館中学校で合流。
7:美遊・エーデルフェルトを知る参加者を探してみるか否か。
8:フェントホープの地下にあったモノの使い道も考えておく。
[備考]
※参戦時期は第一部第13章第三話以降
※覇瞳天星に関する制限は後続の書き手にお任せします

594確かにそこに存在して何もかもを歪ませる ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:37:58 ID:Kv0u2Bhg0
【保登心愛@きららファンタジア】
[状態]:操り人形、忠誠(カイザーインサイト)、プリンセスナイト(カイザーインサイト)
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜1、ラーの翼神竜@遊戯王デュエルモンスターズ
[思考]
基本:陛下に従う
1:―――
[備考]
※参戦時期は第二部五章第20節から
※カイザーインサイトによりプリンセスナイトとなりました。魔物の操作能力も使用可能です。

【琴岡みかげ@ななしのアステリズム】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(大・暗示の効果である程度緩和)、焦燥、暗示の効果継続中、ニノンの死へ動揺
[装備]:聖剣ソードライバー&雷鳴剣黄雷&ランブドアランジーナワンダーライドブック@仮面ライダーセイバー
[道具]:
[思考]
基本:早く帰りたかったけど、でも……
1:司を生き返らせる……?。
2:陛下を手伝う。陛下に付いて行けば大丈夫、だよね…?
3:ニノン、本当に死んじゃったんだ……
[備考]
※参戦時期は第五巻、鷲尾と喧嘩別れした後

595確かにそこに存在して何もかもを歪ませる ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:39:26 ID:Kv0u2Bhg0
◆◆◆


「衛宮さん無事……?」
「ああ…生きた心地がしなかったけどな……」

心底疲れ切った顔で力無く返すも、文句を口に出せるなら無事の範囲内だろう。
苦笑いする士郎をジト目で見やりつつ、かく言う風自身も中々にスリルを味わった。

カイザーインサイトが十聖刃を振り下ろす寸前、士郎達も巻き添えを食らう前に撤退を選択。
死に物狂いで突っ走っても到底間に合わないのは確実な状況で、風がやったのは風王結界の応用。
聖剣を不可視に変え真名発覚を防ぐ以外にも、この宝具の使い道は多い。
可能な限り大量の風を自身に纏わせ、士郎の腕を掴みながら一気に解放。
ジェット噴射もかくやの急加速で、自身を天高くへ打ち上げフェントホープから遠く離れた。

「文句言わないでよ、次はもっと上手く運んであげるから」
「二回目は無い方が良いと思うんだが…」

撤退に成功したは良いものの、永遠に空中へ留まれはしない。
遠く吹き飛ばされた先のエリアで、重力に従い落下。
パラシュートも何も無い状態の人間が、地面に赤い花を咲かせるには十分過ぎる高さだ。
尤も助かる望み無しと諦める二人じゃあない。
激突までの猶予で士郎が共通ディスクを回転、シンケンマルを桃色の鉄扇にチェンジ。
シンケンピンク専用武器を振るい風を巻き起こし、落下の勢いを弱め着地。
スプラッターな死体にはならず、こうして軽口を叩き合っていた。

(上手くいかないわね……)

生き延びた安堵もそこそこに、これまでの戦績へ不満気な顔を浮かべる。
放送を聞くに脱落者は順調に出ていて、優勝を目指す自分にとって悪い状況ではない。
かといってエーデルフェルト邸の時から、風自身は誰一人殺せていない。
好き好んで他者を殺したいと言うつもりは無くとも、こんな様で願いを叶える権利へ手が届くのかとつい考えてしまう。

モヤモヤとしたものを抱え、デイパックへ手を突っ込む。
左手で掴んだ金属の輪は、参加者全員の命を縛る枷。
フェントホープを見付ける少し前、地面へ転がる少女だったモノに装着された首輪だ。
屍の名前がエリンだとは二人共知らず、知る気も皆無。
衣服を汚す血はとっくに乾き赤黒く変色、支給品も持ち去られていた。
だが首輪は手付かずで填められており、回収しない手はない。
放送で伝えられた特殊個体のNPCに渡せば、使える道具や情報と交換出来る。

596確かにそこに存在して何もかもを歪ませる ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:40:07 ID:Kv0u2Bhg0
(人を斬る感触、か……)

物言わぬ少女の細い首に刃を振り下ろし、一撃で終わらせた。
妹と二人で暮らすようになってから勉強した、料理で食材を切るのとは違う。
まして、バーテックスの巨体を滅多切りにする感覚とも異なる。
数時間前まで生きていた、風と同じように歩き、言葉を話す者の体を壊した。
そしてこれから先は死体だけではない、生きてる者を斬るのだ。

もしも、フェントホープで斬り合った少女を手に掛けていたら。
さっきまで命だったモノじゃない、今も存在する命をこの手で消し去ったら。
本当の意味で後戻りできなくなれば、罪悪感や躊躇も全部消えてなくなるのだろうか。

「衛宮さんは……」

人を殺したことってある?
そう続けようとして、結局肝心の質問は出ず宙ぶらりんになった。

「やっぱなんでもない」
「急にどうした?答えられる範囲でなら答えるぞ?」
「だから何でもないって。乙女にしつこく食い下がるの、男子としてはマイナスよそれ。はい減点ね、残りポイントはあと僅か!」
「何のポイントで、そもそも何点からスタートなんだ……」


【?????/一日目/午前】

【衛宮士郎@Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ3rei!!】
[状態]:疲労(中)、背中にダメージ(中)、英霊エミヤが侵食
[装備]:シンケンマル+双ディスク+共通ディスク@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:基本支給品、モウギュウバズーカ+最終奥義ディスク@侍戦隊シンケンジャー
[思考・状況]基本方針:妹を救う。その為に優勝を狙う奴は皆殺しにする。
1:どう動くか、まずは現在位置を確認。
2:強そうな参加者をある程度排除するまで、しばらくは二人で一緒に行動する。
3:もし可能なら、風の妹も救いたかった。
4:美遊の姿を偽ったあの男(エボルト)は……
[備考]
※参戦時期はイリヤたちがエインズワースの工房に潜入した後です。

【犬吠埼風@結城友奈は勇者である】
[状態]:疲労(中)、胸部にダメージ(中)、左眼の視力が散華、夢幻召喚による変身中
[装備]:サーヴァントカード セイバー@Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ3rei!!
[道具]:基本支給品、コンセントレイト@遊戯王OCG(1時間使用不可)、スケスケ望遠鏡@ドラえもん、エリンの首輪
[思考・状況]基本方針:妹や仲間の未来を取り戻す為に優勝する。
1:吹っ飛んで来たけど、ここどこよ?
2:強そうな参加者をある程度倒すまで、しばらくは二人で一緒に行動する。
3:私は絶対に……
[備考]
※参戦時期は諸々の真相を知って自棄になっていた時期です。
※英霊召喚やカードそのものの制限に関しては、後の書き手様にお任せします。

※二人がどこまで移動したかは後続の書き手に任せます。

597確かにそこに存在して何もかもを歪ませる ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:40:48 ID:Kv0u2Bhg0
◆◆◆


吹雪く冷たさが負った傷や節々の痛みに響き、容赦なく体力を削り取る。
折角支給品でダメージが癒えたというのに、逆戻りしてしまった。
森林地帯やオーエド町と違い、雪で覆われたエリアは当然気温も低い。
多大な消耗が圧し掛かる身には毒も同然、吐く息の白さで寒さの程が嫌でも分かる。
尤もマサツグ様には体より、精神のダメージの方がある意味深刻だろう。

「ク…ソ……!ふざけるな……あのゴミ虫ども…!ゴキブリども…!!このっ…ゴミクズがァァ……!!」

息も絶え絶えに罵るが、聞き届ける者は周囲に誰一人いない。
本物の十聖刃に焼き潰される正にその時、襲い来る死の気配へマサツグ様も我を取り戻した。
自分自身の危機を認識した瞬間、「守る」スキルが発動。
マサツグ様の身体機能に僅かな間ながら、爆発的な強化が起こったのである。

本来「守る」スキルは名前の通り、スキル保持者をあらゆる方法で守る力。
で害を為す物へ、周囲の物体をオートでぶつけるだけではない。
マサツグ様本人の反射神経や肉体の強度を引き上げる効果も、転移後の異世界では度々起こった。
此度もそういった過去の現象と同じような力を齎したのだ。

思考速度や剣を振るう動きが引き上げられたのを感じ取り、すかさず十聖刃のエンブレムを操作。
後出しにも関わらず「守る」スキルの恩恵で、この場を切り抜ける術を繰り出せた。
刀身をリードし解放された聖剣の力は、煙叡剣狼煙。
自分の体を煙に変え脇目も振らずに逃走、壁をもすり抜けカイザーインサイトから急ぎ離れて行った。
一度も振り返らず、狼煙の力で得た高速移動能力が活きどうにか逃げ延るのに成功。

「気持ちの悪い連中め…卑劣な恥知らずども……よくも俺を……」

だがマサツグ様に生き延びられた喜びはない。
使い捨ての駒として無理やり戦わされた。
十聖刃や「守る」スキルを取り戻したというのに、見下した連中へ返り討ちに遭った。
極めつけはカイザーインサイトへ弄ばれた挙句、よりにもよって逃走を選んだ自分自身。
「守る」スキルの強化を受けたなら、反撃に移り逆に一太刀浴びせる事も可能だったろうに。
現実には必死こいて逃げ続ける、天が微笑むどころか指を差して馬鹿笑いしそうな有様だ。

598確かにそこに存在して何もかもを歪ませる ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:41:22 ID:Kv0u2Bhg0
「ふざけるな…!あいつが、あのコソ泥女が卑怯な手を使ったからだ…!そうまでして勝ちたいのか?つくづく見下げ果てた、蛆虫以下のカスだな……!」

度重なる傷の痛みと、カイザーインサイトが見せた神々しくも禍々しい輝き。
それらはマサツグ様にも「死」を予感させ、恐怖心を炙り出す効果をこの上なく発揮。
とにかく逃げなければと恐怖に突き動かされたのが、逃走の理由である。
しかしマサツグ様は断じて認めない、認められない。
ミヤモト達から執拗ないじめを受けていた弱者は最早過去、今や虐げ見下す絶対的な強者になった。
なのに怯えて背を向けるなど、それこそ散々他者を煽る際に言った「雑魚」同然ではないか。
到底受け入れられる現実ではなく、故に自分を納得させる為の言い訳を重ねる。
全てはカイザーインサイトが卑怯な手に出たからだと。

「何で…何でこうなった……」

敗北を認めず言い訳に逃げる今の自分が、よりにもよってミヤモトと同じだと自覚せず怒りを募らせる。
どこから上手くいかなくなったのか、根本的な原因は主催者達だが他にもある筈。
フェントホープでの騒動よりも前、オーエド町で偽善者どもに反撃を受ける前。

「そうだ…あの気色悪い、ツンデレ気取りのエリンもどきと会った時の……」

マサツグ様の知るエリンは敬語で接し常に自分を肯定し称賛する、謂わば都合の良いハーレム要因。
間違っても呼び捨てで馴れ馴れしくはしない。
真嗣なら捻くれた態度を見せつつも、家族と言っただろうがマサツグ様には違う。
以前トリタが連れていた自称娼館No.1の女のように、不快感しか抱けない。
気持ちの悪いエリンを殺してすぐ、更に嫌悪を抱く存在に思い当たった。

直見真嗣、名簿にはそう記載された並行世界のマサツグ様自身。
思い返せば並行世界の自分がいるかもしれないと考え、実際に参加してるのを知ったあの時からだ。
心にずっと気持ち悪さを抱え続けた。
激しい怒りを感じさせたのはオーエド町で戦った偽善者達や、フェントホープにいた虫けらども。
しかし最初に自分の心へ影を生ませたのは、並行世界のエリンと直見真嗣。

マサツグ様はパラレルワールドの自分が、具体的にどんな人物かを知らない。
ただもしも、殺し合いで出会った憎たらしい連中のように。
平和だ友だと綺麗ごと口にする、虫唾の走るような奴なら。
気持ちの悪いエリンとも気安い態度で接し合う、心を許し合ったような仲なら
自分が手に入らなかった、ウザったいと見下しながらも羨む心を捨て切れない、絆を手に入れてるとしたら――

599確かにそこに存在して何もかもを歪ませる ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:42:13 ID:Kv0u2Bhg0
「…………反吐が出るんだよ」

吐き捨てた理由が生理的嫌悪か、或いは別のナニカが宿っているのか。
一つ確かなことがあるとするなら。
自分の心に素直になれないだけで、孤児院の少女達を大事に想った直見真嗣とも。
邪神端末体と化したミヤモトとの戦いで、リシュア達を家族と言い切ったナオミ・マサツグとも。
この少年は違うのだと、一人ぼっちの背中が虚しい現実を告げていた。


【C-2/一日目/午前】

【マサツグ様@コピペ】
[状態]:ダメージ(極大)、疲労(極大)、全身に痺れと火傷(ある程度回復)、憎悪と嫉妬(極大)、死への恐怖(中・意識しないよう努めてる)
[装備]:聖剣ソードライバー&刃王剣十聖刃&ブレイブドラゴンワンダーライドブック(全て複製)@仮面ライダーセイバー
[道具]:基本支給品一式、タイムコピー(残り使用回数1)@ドラえもん、量産型戦極ドライバー+ヨモツヘグリロックシード@仮面ライダー鎧武、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]基本方針:他の参加者を殺して優勝する
1:並行世界の自分は必ず殺す。もし、お仲間だ絆だと抜かす奴なら…
2:何で俺がこんな目に遭わなきゃならない…どいつもこいつも許せない……
[備考]
※ミヤモトやトリタ戦など主にコピペになっている部分が元となって生み出された歪な存在です。
※「守る」スキルは制限により弱体化しています
※聖剣を手にしている時、感情次第では剣の技術が強化されます。
※タイムコピーを使いクロスセイバーの変身ツール一式を複製しました。機能はオリジナルと変わりありません。


『支給品解説』

【コロッケパン@Caligura2】
コッペパンにコロッケを挟んだ昔ながらのパン。
対象のHPを500回復する。三個セットで支給。

【雷鳴剣黄雷@仮面ライダーセイバー】
聖なる雷を生み出して、生命に活力を与え、闇に潜む悪を射抜く雷属性の聖剣。
攻撃力を稲妻の力で増幅させ、激しい高圧電流を瞬間的に発することが可能で、刀身に纏わせることで強力な突きとともに大ダメージを敵に与える。
聖剣ソードライバー、ランブドアランジーナワンダーライドブックとのセットで支給。
上記二つと組み合わせる事で、仮面ラウダーエスパーダに変身する。

【タイムコピー@ドラえもん】
タイムテレビと立体コピーを組み合わせた機械。指定した時間や位置にあった物をコピーできる。
本ロワでは使用回数の上限が2回に細工されている。


『施設紹介』

【ホテルフェントホープ@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)】
マギウスの翼の本拠地である巨大な廃ホテル。
アニメ版では常に移動する拠点であり、マギウスの翼の案内無しでは入れなかった。
内部には少なくとも魔女の飼育槽は再現され、複数体の魔女が保管されている模様。
またグリーフシードも少量ながら置かれてある。

600 ◆ytUSxp038U:2025/04/16(水) 00:42:53 ID:Kv0u2Bhg0
投下終了です

601 ◆QUsdteUiKY:2025/04/17(木) 08:17:31 ID:JWN.iqcw0
メグ、コッコロ、肉体派おじゃる丸で予約します

602 ◆QUsdteUiKY:2025/04/18(金) 05:46:28 ID:/WtLLkwA0
予約に数人追加して投下します

603LAST TRAIN -新しい朝- ◆QUsdteUiKY:2025/04/18(金) 05:48:06 ID:/WtLLkwA0
大半の参加者にとって今回の放送は悲しいものだし、檀黎斗の態度には苛立ちを覚える者も多いだろう。
 事実としてメグは友人のリゼが死んだことに悲しみ、涙を流していた。
 親しいと言えど、優勝するためにいずれ殺さなきゃならない相手。
 だがやはりそうわかっていても、リゼの死は無性に悲しい。
 優勝して生き返らせれば済む話なのに。
 そう思っているのに。
 何故だか、溢れ出す涙が止まらない。

 その姿は先ほどメグ達が襲った桃達が見ればギャップに驚くかもしれない。……本来のメグは優しいと知るココア以外は。

 あんなに外道な戦法をした。
 マサツグやクウカ、挙句の果てにココアまで殺そうとした。
 それなのに。
 殺さなきゃいけない対象だったのに。
 涙という名の雨は降って止まない。

 ……メグはまだ中学生だ。
 友達を殺す覚悟をしたつもりでも、根っこの部分は変わっていなかった。
 たとえ後で生き返ると思っていても、友人の死は悲しい。

604LAST TRAIN -新しい朝- ◆QUsdteUiKY:2025/04/18(金) 05:50:01 ID:/WtLLkwA0
 (あれ?どうして私……ないてるんだろ……?)

 メグは涙を拭いながら、そんなことを考える。
 今まで友達を生き返らせるために、この場で仲良くなったマサツグやクウカに刃を向けてきた。その矛先は、友達であるココアにすら向かった。
 そして親しい者を全員生き返らせるために友達すらも襲うという矛盾染みた行為に疑問すら抱かなかった。
 ココアの仲間の見知らぬ男――小鳩を肉体派おじゃる丸が殺した時も。
 タラヲやパラダイスキングに酷いことをしてきた時も。
 なんとも思わなかった。
 後で生き返らせるからそれでいいと思っていた。
 良心など微塵も傷まない。その狂気染みた思想は、常人には理解出来ない――まるでサイコパスなもの。

 しかしメグとは元来、優しい少女なのだ。
 決して誰かを嬉々として襲わないような……木組みの街で愉快な日常を謳歌する中学生だったのだ。

 そんな少女が殺し合いに乗るようになったキッカケは、皮肉にもチマメ隊の一人――親しかった少女の死だった。
 大切な友達を失う原因を作ったのは檀黎斗。
 だがあろうことかメグは檀黎斗という憎むべき相手の甘言に縋ってしまった。どんな願いも叶うという言葉に……頼る道を選んでしまった。

 ゆえに彼女は修羅の道を邁進した。
 一歩、また一歩と歩く度に本来の彼女とはかけ離れた悪魔のような存在になっていった。
 最初はあった善意すらもどこへやら……マサツグやクウカ、ココアを襲う始末。
 それでも日常を取り戻すためなら、迷いなど生まれなかった。
 マヤが死んだのに優勝を狙わないココアに対して冷たいとすら思った。どうして彼女はマヤを殺されて、優勝を目指す自分に怒ってるのかわからなかった。

 自分達は正しいことをしているはずなのに、何故かココアが立ち塞がる。
 だからメグは『正しいことしてるよね?』なんて聞いてしまった。
 コッコロの言葉に少し安堵して、やっぱり自分達は正しいと考えた。

 だからこれからもどんどんゲームの参加者を殺していこう、と。
 それがみんなの幸せや日常に帰るための最善策だと意気込んでいた。

 だというのにその少し後に流れた放送でリゼの死を知り――それだけでメグの心を哀しみが支配した。

605LAST TRAIN -新しい朝- ◆QUsdteUiKY:2025/04/18(金) 05:51:00 ID:/WtLLkwA0
 その理由は、メグ自身にもわからない。
 つい先程までココアを殺す気だったのに――。
 ココアの仲間の小鳩を殺す手伝いをしたのに――。

 (この反応、メスガキの仲間が死んだんスね。でもそれだけで取り乱すなんて、キチガイ染みた優勝目的の癖に中身はガキ丸出しで笑っちゃうんすよね。もしかして知り合いを殺さずに優勝出来ると思ってた可能性、濃いすか?)

 メグを狂人のキチガイだと思っていた肉体派おじゃる丸は彼女の年相応の態度。そして人間臭さが垣間見えて内心でほくそ笑む。
 優勝狙いだというのにこんな放送で泣くなど、たかが知れる。もしこのメスガキが最終盤まで生き残っても、この覚悟の無さなら余裕で殺せるだろう。

 (普通、優勝狙いなら40人も減ったことに喜ぶべきっすね)

 主催者の放送によれば、この短時間で40人も死んでいる。
 優勝とは当然、最後の一人になることを指すのでこれだけガッツリ死んだなら喜ぶべきだと肉体派おじゃる丸は考える。
 この時点で肉体派おじゃる丸のメグに対する評価はキチガイから覚悟が決まらないTDNメスガキに一気に落ちた。

「メグさま、涙が出てますが……何かあったのでしょうか?」

「うん。そうだよ、コッコロちゃん。私の友達のリゼさんが……死んじゃった……」

「?」

 コッコロはキョトンと首を傾げる。
 先程まで戦っていた集団の一人は明らかにメグを知っていた。それなのにメグは迷いなく戦っていた。殺そうとしていた。
 ゆえにメグは知人友人だろうが殺すのを厭わない覚悟を決めているとコッコロは判断していた。
 そもそもマサツグやクウカのことも殺そうとしていたし、その時点でコッコロがメグを信用するのは当然のことだ。
 それに今回の放送で40人の死が発覚した。優勝に近付いたのだ。なのに何故、泣く必要がある?

「メグさま。願いを思い出してください。わたくしはメグさまが優勝したら、参加者全員を生き返らせて、この殺し合いの記憶も消すと存じています」

 (こっちのメスガキは冷静にキチガイ染みたことを言うっすね……)

 あくまで冷静に、落ち着かせるようにメグに声を掛けるコッコロを肉体派おじゃる丸は内心、侮蔑する。そして同時にメグと違い厄介そうだとも考えた。

 (組む相手としては使えるっすけど、最終盤で優勝を争うために敵対関係になったらこんなサイコは相手にしたくないっすね)

 放送で泣くような甘ちゃんならば、余裕で屠る自信がある。肉体派おじゃる丸というあだ名を付けられてる通り、彼の肉体は非常に鍛え上げられたものだし怒りや憎しみに燃えるほど心意で強化もされる。だがコッコロは仮面ライダーに変身出来る上に放送を聞いても態度を一貫させてるキチガイのメスガキだ。
 なんというかこう、生理的な嫌悪感すらわいてくる。

 (正直、このメスガキより人生経験豊富なはずの俺でも淫夢キャラ以外を殺した時は多少、嫌な気分がしたっすからね。それでも優勝して憎き淫夢を消すために、それと戦場だから臆せば逆に殺られると思ってゴッド・ハンド・クラッシャーを発動したっすけど……淫夢キャラ以外の他人を殺したことは予想以上に精神的にキツいっす)

 淫夢キャラである虐待おじさんを殺した時は、憎い相手なので嬉しかった。
 だが何も憎んでない小鳩を殺したのは、あまり気分が良くない。肉体派おじゃる丸はサイコパスでもなんでもないので当たり前だ。
 小鳩の頭蓋骨を砕いた感触は、今でも鮮明に思い出せる。……これから先もあんなことを繰り返さなきゃならないと思うだけでウンザリだ。

 そしてコッコロもまた命こそ奪っていないが、見知らぬ少女の両足を欠損させている。
 普通ならそれに対して何か思うことがあったり、泣いてるメスガキみたいに放送を聞いて年相応の何らかのリアクションをするのが当たり前だが、コッコロは何ら悪びれることもなく感情が揺さぶられることもない。まだ幼いメスガキだというのに至って冷静。
 だから肉体派おじゃる丸は彼女をサイコなキチガイだと侮蔑したのだ。

606LAST TRAIN -新しい朝- ◆QUsdteUiKY:2025/04/18(金) 05:52:09 ID:/WtLLkwA0

「たしかに私が優勝したらみんな生き返らせるけど……リゼさんが、リゼさんが……」

「……メグさま。優勝を目指すならどの道、そのリゼさまという人も死ぬ必要がありました」

「そんなのわかってるよ!でも、でも……」

 メグはコッコロの言葉を理解するが、心では納得出来なかった。
 マヤが死んだ時もすごく悲しかった。
 だから全員生き返らせると決めた。親友のマヤのためにも。
 だからココアだって殺そうとした。後で生き返らせれば良いと思って。

 でもいざ、友達のリゼが死んだと知ると――マヤの死を知った時のようにとめどなく哀しみが溢れ出す。
 こればかりは理屈じゃない。感情の問題だ。

 メグは狂っていたが、根底は普通に幸せな日常を送っていた幼い少女でしかないのだ。
 だから友達のココアを殺そうとしたのに、友達のリゼが死んだら悲しみ涙を流すという矛盾を引き起こした。


「メグさま。……優勝を狙うというのは、こういうことです」

 コッコロもキャルが巻き込まれてるので、メグの反応は他人事じゃない。
 だがコッコロは優勝を狙うという行為の意味をメグよりも深く理解している。
 無論、キャルと出会えば殺すつもりだ。そうしなければ優勝出来ないのだから。

「それはそうだけど……っ!リゼさんが死んじゃったんだよ!?」

607LAST TRAIN -新しい朝- ◆QUsdteUiKY:2025/04/18(金) 05:52:44 ID:/WtLLkwA0

「メグさまはさっきの戦いで知り合いの人が居ても襲ってましたが……」

「――――」

 メグが目を見開く。
 そうだ。メグは、ココアを襲った。
 友達なのに、殺そうとした。

その事実を思い返して、顔が青褪める。

「……そのご様子では、メグさまは優勝を狙うのが難しそうですね」

 これ以上の会話は不要だ。
 メグは友人が死ぬだけで落ち込むとわかったのだから。
 良いコンビが組めたと思っていたコッコロだが……考えを改める。
 メグには彼女を止めようとする者が何人もいる。
 この精神的に摩耗した状態のメグが彼らに出会えば――最悪、裏切りかねない。

 幸い今はメグ以外にも筋骨隆々の男――肉体派おじゃる丸が居る。メグを始末しても単独にはならない。


 ならばコッコロがやるべきことはただ1つ。

「メグさまには悪いですが……」

「え?なに?」

「変身、でございます」

『バナナアームズ!ナイト・オブ・スピアー!』

 コッコロがブラックバロンに変身した。

 (役立たずになったら容赦なく始末っすか。やっぱりこのメスガキ、キチガイっすね)

 コッコロがブラックバロンに変身した意味を察した肉体派おじゃる丸には、彼女が殺人鬼か何かに見えた。

608LAST TRAIN -新しい朝- ◆QUsdteUiKY:2025/04/18(金) 05:53:33 ID:/WtLLkwA0

「コッコロちゃん?なにを――」

「わたくしは、優勝するしか道がないのです!」

 仲間だと思ってるコッコロがいきなり変身した。
 周りには誰も敵がいないのに。
 リゼが死亡してショックを受けてるメグにはその意味がわからなくて、困惑。

 しかしコッコロはそんなメグに向かって容赦なくバナスピアーを振り抜く!

 その行動が、メグにはスローモーションに見えていた。
 これが死を迎える寸前の――

『メグ。メグも来なよ!』
『マヤの言う通りだぞ、メグ。まさかお前だけ逃げられると思ったのか?』

 マヤとリゼの幻覚が見えて、囁いてきた。
 因果応報。そんな言葉がメグの脳裏を過る。
 今まで他者に危害を加えてきた。マサツグやクウカ、ココアすらも殺そうとしてきた

 だからこれは罪なのだ
 バナスピアーはさながら、罪人を裁くギロチンの如く。

「マサツグさん、クウカさん、ココアちゃん……。ごめんね……」

609LAST TRAIN -新しい朝- ◆QUsdteUiKY:2025/04/18(金) 05:53:58 ID:/WtLLkwA0

 そしてバナスピアーの一閃が――

「……やれやれ。ようやく目が覚めたか、馬鹿者が」

 無愛想な表情をした少年の手にする日輪刀によって、弾かれた。

「……え?」

「いきなり乱入してくるとか笑っちゃうんすよね!」

「――さ、させません!」

 少年に目掛けて肉体派おじゃる丸が拳を振りかぶると、桃色髪の少女が走って少年と肉体派おじゃる丸の間に挟まり――代わりに攻撃を食らう。
 少女の腹へ剛腕が放たれるが――少女は無事だった。

 「マサツグさん!?メグさん!?」

目の前の光景が信じられず、メグが目を見開く。
 瞬間――マサツグの「守る」 スキルでメグに対するオレイカルコスの結界の効果が消え失せた。
 
「メグ。――今度こそお前を守りに来た」

 ガラにもなく、ハッキリとした言葉でマサツグはメグに声を掛けた。

「またあんたっすか。わざわざ殺されに来るとか、笑っちゃうんすよね」

 肉体派おじゃる丸は小鳩を殺して、淫夢キャラ以外を殺人することに対して多少なりとも感情は揺れたが、優勝するという確固たる覚悟は変わらない。全ては憎き淫夢を根絶するために。もう肉体派おじゃる丸なんて嘲笑されないために。
――負けるわけにはいかない
 
「ふん。またお前か、露出男」

 マサツグもまた、敗北するわけにはいかない。
 もう何も失いために。今度こそメグを守るために。
 日輪刀を構え、普段のひねくれた態度で肉体派おじゃる丸に皮肉を飛ばす。

「……それで、メグ。今のお前はどっちの味方なんだ」

「マサツグさん。私は……ずっと酷いことしてきたんだよ」

「知るか。俺が守りたいから守る、それだけだ。……お前の泣き言は後で聞いてやる」

「……ありがとう、マサツグ。それなら私は……マサツグさん達の味方をするよ!」

 ――瞬間、メグ専用ロッドが光り輝きメグが〝そうりょ〟に変身。そして魔法を使うとマサツグの傷が大きく回復する

「ふっ……。ルーナフリューゲル出撃だ」
「ルーナフリューゲル……?」
「メグちゃんがいない間に決めたチーム名ですぅ」
「そうなんだね……!じゃあルーナフリューゲル、いくよ〜!」

 ――マヤちゃん、リゼさん。……もう生き返らせれないけど、ごめんね。でもきっと二人もさっきのココアちゃんみたいに――この殺し合いに反対するよね。だから――天国で見ててね。
 ココアちゃん。ココアちゃんが私に怒ってくれた意味――やっとわかったよ。

 クウカさん。
 そして、マサツグさん――私を正気に戻してくれてありがとう。
 こんな私を。いっぱい酷いことしてきた私を見捨てずに救ってくれて――ありがとうね。

 コッコロちゃん。
 裏切る形になってごめんね。
 でも、やっぱり――私達がしようとしてたことは間違ってると思うんだ。

 だから私は――戦うよ

610LAST TRAIN -新しい朝- ◆QUsdteUiKY:2025/04/18(金) 05:54:38 ID:/WtLLkwA0
【C-7/一日目/朝】
【直見真嗣@異世界で孤児院を開いたけど、なぜか誰一人巣立とうとしない件(漫画版)】
[状態]:ダメージ(小、包帯、ガーゼなどにより処置済み)、疲労(大)、左目失明(眼帯により処置済み)、メグとクウカを守りたいという想い
[装備]:竈門炭治郎の日輪刀@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]基本方針:ラスボスを倒す。殺し合いを脱出するには、これしか手段がないようだな
1:クウカ、メグとその友人を守る。
2:やれやれ。ようやくメグを取り戻せたか
3:もう失うことは御免だな。
4:エリン……
5:露出野郎達に対処する。ルーナフリューゲル、出撃だ
[備考]
※「守る」スキルは想いの力で変動しますが、制限によりバランスブレイカーになるような化け物染みた力は発揮出来ません
※参戦時期はリュシア達が里親に行ってから。アルノンとも面識があります

【クウカ@プリンセスコネクトRe:Dive】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(大)、魔力消費(中)
[装備]:ガーディアン・エルマの短剣@遊戯王OCG、フライングランチャー@遊☆戯☆王ZEXAL
[道具]:基本支給品、応急処置セット@現実
[思考・状況]基本方針:こ、困ってる人を助けます……
1:マサツグさんやメグちゃんと一緒に戦いますぅ!
2:モニカさん達と合流したいです
3:クウカ、マサツグさんのことが気になりますが……今はそれどころじゃないですね
4:マサツグさんの心の支えになりたいです
[備考]
※頑丈です。各種スキルも使えますが魔力を消費します。魔力は時間経過で回復していきます
※応急処置セットの包帯は使い切りました

【奈津恵@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、罪悪感、覚悟
[装備]:メグ専用ロッド@きららファンタジア、ゴーストドライバー&ディープスペクターゴースト眼魂@仮面ライダーゴースト
[道具]:基本支給品×2、巨大化@遊戯王OCG、ランダム支給品0〜2(ボーちゃんの分)
[思考・状況]基本方針:マサツグさん達と一緒に抗うよ!
1:チマメ隊の絆は永遠……だけど優勝して生き返らせてもマヤちゃんが喜ばないよね
2:マサツグさん、クウカさん、ありがとうね。ルーナフリューゲル、いくよ〜!
3:今まで酷いことしたみんな……ごめんね
4:マヤちゃん、リゼさん……天国で見守っててね!
[備考]
※ディープスペクターの武器であるディープスラッシャーについては、変身しても出現しません。他の参加者に武器として支給されている可能性があります。
※ディープスペクターへの変身は他の仮面ライダーと同じく魔力を消耗しません。

611LAST TRAIN -新しい朝- ◆QUsdteUiKY:2025/04/18(金) 05:54:53 ID:/WtLLkwA0

【コッコロ@プリンセスコネクトRe:Dive】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大)、オレイカルコスの結界による心の闇の増幅 、キャルへの罪悪感(大)、ブラックバロンに変身中
[装備]:量産型戦極ドライバー+バナナロックシード(ナンバー無し)+マンゴーロックシード@仮面ライダー鎧武、タンポポロックシード@仮面ライダー鎧武
[道具]:基本支給品一式×2、オレイカルコスの結界@遊戯王デュエルモンスターズ(アニメ版)、盗人の煙玉@遊戯王OCG(1時間使用不可)、スイカロックシード@仮面ライダー鎧武(2時間使用不可)、デスノート(複製品)@DEATH NOTE
[思考]
基本:主さまたちの所へ戻る、たとえどんな手段を使ってでも
1:メグさまと他の御二人を殺します
2:コッコロは、悪い子になってしまいました
3:キャルさま……それでもわたくしは…………
4:メグさまとはもう協力出来ないようですね……。代わりにこの男性(肉体派おじゃる丸)と協力します
5:タラオさまはお亡くなりになられましたか…
6:カイザーインサイトを要警戒
[備考]
※参戦時期は『絆、つないで。こころ、結んで』前編3話、騎士くんに別れを告げて出ていった後

【肉体派おじゃる丸@真夏の夜の淫夢】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大)、右胸から左脇腹までの切創、淫夢ファミリーへの憎悪(極大)、虐待おじさんを殺せた喜び、ダンデライナーにしがみ付いてる、右拳に槍の刺し傷
[装備]:
[道具]:基本支給品(タブレット破壊)、ゴッド・ハンド・クラッシャー@遊戯王OCG(発動不可)、攻撃誘導アーマー@遊戯王OCG(発動不可)、デス・メテオ@遊☆戯☆王(発動不可)、虐待おじさんのデイパック(基本支給品、ランダム支給品0〜1)、ZECTバックル@仮面ライダーカブト
[思考・状況]基本方針:優勝して淫夢の歴史から自分の存在を抹消する
1:またこいつらっすか。今度こそ殺してやるっすらね
2:淫夢ファミリーだけは絶対にこの手で殺す。特に野獣先輩、野獣死すべし
3:黒の剣士とI♥人類の男は次に出会ったら絶対殺してやるっすからね……
4:遊戯王カードはこの決闘で大事すね……
5:できれば他の優勝狙いの参加者と組みたいすね。とりあえずこのメスガキとは組むっすね
[備考]
※遊戯王カードの存在を知っていますが決闘者じゃないのでルールなどは詳しくありません
※本来の名前を思い出せません

612 ◆QUsdteUiKY:2025/04/18(金) 05:55:18 ID:/WtLLkwA0
投下終了です

613 ◆ytUSxp038U:2025/04/25(金) 00:24:08 ID:pEU1ZHvU0
投下お疲れ様です

飛電或人、滅、天津垓、万丈龍我、里見灯花、キャスター・リンボ(式神)を予約します

614 ◆ytUSxp038U:2025/05/01(木) 23:05:03 ID:2IS8qDhc0
延長します

615 ◆QUsdteUiKY:2025/05/02(金) 14:09:49 ID:XGwHFAk60
コッコロ、肉体派おじゃる丸、直見真嗣、メグ、クウカで予約します
念のために延長もしておきます

616 ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:34:32 ID:zp3bKBv.0
投下します

617Lost Princess ―絆と憎悪の果てしないバトル― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:37:12 ID:zp3bKBv.0
まっさらな世界
何を君は描く――?

 

 ◯
 


 「状況はあまりよろしくないですね。ですが私にはこれがあります!」

 仮面ライダーの声から聞こえたのは、意外にも女の声だった。それも冷静沈着で〝状況があまりよろしくない〟なんて言葉にもあまり焦りは感じられない。
 仮面ライダーが一度変身解除すると――そこにはメグと同い年くらいの少女がいた。

「――光のご加護を!オーロラ!」
 
 俺とクウカとメグは相手の行動に警戒するような体勢を取るが――そんなこと知らんとばかりに相手の傷が癒えていく。
 
「なんだかいきなり力が沸いてきて、笑っちゃうんすよね。どうして今まで使ってこなかったんすか?」

「このスキル――ユニオンバーストは魔力を消耗してしまうので、ここぞという時に使おうと思いまして……」

 露出男が、気軽に白髪の少女に話し掛けている。
 変身解除した瞬間に察していたが――やはりこの少女が仮面ライダーとやらの変身者か。

「ふん。戦闘中に雑談とは余裕の態度だな」

「今の俺にはあんたの攻撃すら――」

 ニヤリ、と口角をあげて俺の刀に拳を当てる露出男。気でも狂ったのか……?

「弱いんスよね!!」

 本来ならば裂けるはずの拳。
 その骨格部分が刀に命中して、鍔迫り合いのような状態になる。

 あの白髪はスキルとか言ってたが、まさかその効果か?
 さっきの一撃より、少しだが重い……!

「まだまだまだまだまだァ!」

 露出男が両手を使って何度も殴ろうとしてくる。
 俺は刀でそれを防ぐが、このままではどうしようもない。
 この中でまともな攻撃手段を持つのは俺一人。一応、メグも仮面ライダーに変身出来るが明らかに動きがスペックに追い付いていない。

「マサツグさん!私もいくよ〜!へんし――」

「来るな、メグ。お前にこの露出男は危険だ」

「メグさまにはそういう人がまだ居ていいですね」

「コッコロちゃんにも……きっと手を伸ばしてくれる人はいるよ。……ううん、私が手を伸ばす」

「その甘さが、メグさま達の命取りです。――変身、でございます」

 ――瞬間、白髮のエルフは仮面ライダーに変身した。
 戦況は最悪。だからといってメグに戦わせるわけにはいかない。

「大丈夫です、マサツグさん。仮面ライダーはクウカが引き受けますぅ」

 そう言って仮面ライダーと俺の間に割って入るクウカだが、仮面ライダーの槍を俺は刀で受け止めた。

「いや……生身であの槍を受けたら危険だ。クウカは露出男からメグを守ってくれ」

「わかりました!クウカ、がんばりますぅ」

 「――そういうことで選手交代だ、白髮エルフ」

「あなたはたしかに強そうですが……弱点はわかってます」

『バナナスパーキング』

 電子音と共に地面から複数突き出すバナナ。……これは触れたらダメなものだろうな。
 俺は刀を横に振るって、それらに対処した。どことなく「守る」スキルが少しずつ調子を取り戻してる気がする
 やれやれ……。それにしても今の方向……

「なるほど。メグが俺の弱点というわけか」

「はい。メグさまが弱点になると思いました。でもあなたにはこの仮面ライダーに変身してもあまり意味がないようですね」

 仮面ライダーが変身解除して、再び白髮エルフの姿になった。
 刀を握る手に僅かに冷や汗が流れる。
 目の前のエルフはこれだけ力の差を見せても余裕を崩さない態度で、冷静沈着だった。
 その瞳は濁りきっている。――メグやリュシア達と年齢が近そうなのに、あまりにも雰囲気が違う。

「物量が無意味なら、手数で勝負します。スピードアップでございます」

「――――ぁうッ!?」

 その声は俺の近距離――クウカの居たところから聞こえた。
 どうやら腹にかなり強烈な一撃を受けたのか、クウカにしては珍しく悲鳴を出している……。

「こんな便利なスキルの数々を使わなかったなんて、笑っちゃうんすよね。この女はこのまま嬲り殺していい可能性濃いすか?」

618Lost Princess ―絆と憎悪の果てしないバトル― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:38:06 ID:zp3bKBv.0

「させ――」
「させないよ〜!変身!」

 ディープスペクターに変身したメグが露出男に突撃する。
 それの意味することは――

 (しまった……!クウカかメグが殺される……!)

 クウカを助けに行かなければクウカが。
 メグを止めなければメグが殺されると俺は直感した。
 それらを同時にこなすのは困難だ。
 いや……俺が二人を助けに行けば済む話だが、無防備になった背後を銀髪エルフに狙われかねない

 
『だから――クウカだって戦えます!マサツグさんだけで背負い込まないで、クウカのことも頼ってくださいっ!』

 ふっ……。やれやれ、俺も焼きが回ったのか。
 まだ出会って数時間の女を本気で〝守りたい〟と思うのは。
 クウカはとんでもないドMの変態だ。その異常性だけなら水の女神の癖に自称姉のシーにも近い。
 メグはまあ、色々とあったが根は悪人ではない。でなければ、俺達の方に戻ってこなかっただろう。……ある意味、このふざけた殺し合いの被害者か。なにやら色々と酷いことをしてきたようだが、その話はこの戦いが終わった後に聞こう。

 そして俺は――

「淫夢ファミリー以外を殺すのは気が進まないっすけど、これも優勝のためっすからね!」

 露出男が自慢の拳を振り被り――

「――淫夢ファミリーだかなんだか知らんが、家族を殺すことに躊躇がないのはその髪型のように頭がおかしいな、露出男」

 メグが辿り着くよりも速く、刀で拳を弾いた。
 どうやら俺の「守る」スキルは徐々に力を取り戻してるらしい。
 ルーナ孤児院ファミリーならともかく、まだ出会ってそれほど経ってない二人を本気で守りたいと思うのは我ながら謎なんだが……クウカがいなければ俺がへし折れていた可能性は否定出来ない。
 メグがいなければ、俺の身体の傷が治らなかったことも確かだ。

 ……やれやれ。俺はこの二人を守るつもりで、同時に心と身体を守られていたのか。

 それにしてもこの露出男は本当にわけのわからない存在だ。
 淫夢ファミリー以外を殺すのは気が進まないということは、淫夢ファミリーとやらを殺すことに躊躇がないということでもある。
 ……こんなことを言うのもなんだが、俺はルーナ孤児院ファミリーの奴らを殺したくない。あの喧しくも馬鹿げた孤児院の生活が嫌いじゃなかったといえば、嘘になる。

 もっとも――異世界に召喚される前の実際の肉親には色々と複雑な思いはあるが。……生憎と肉親には恵まれなかったのでな。
 だが流石に殺したいとまでは思わん。……それにしても親に見捨てられた俺が孤児院長をするなど、なかなか皮肉が効いてるな。

 まあもしかしたら俺もリュシア達ルーナ孤児院ファミリーの奴らと出会ってなければ、今頃どうなっていたかわからんが。

「よく事情も知らずにそんなこと言えるっすね。俺は淫夢ファミリーなんてコンテンツがなければこのお気に入りのヘアスタイルをおじゃる丸と馬鹿にされることなく、この自慢の筋肉を侮辱されて〝肉体派おじゃる丸〟なんてネットで侮辱されることはなかったのに……!そもそもあんたもこのヘアスタイルを馬鹿にしたっすね!?」

 「ふっ……。淫夢ファミリーとやらがよくわからんが、お前の見た目が面白可笑しいのは事実だと思うぞ。それに同じ〝ファミリー〟でも俺はルーナ孤児院ファミリーの奴らを殺さん」

 露出男――肉体派おじゃる丸の乱打を刀で弾きながら、互いの心境をぶつけ合う。
 それにしてもこいつ、奇妙な見た目をしてると思っていたがこれが名簿に載っていた〝肉体派おじゃる丸〟か。……本人の言葉から察するに周囲から〝肉体派おじゃる丸〟と呼ばれてるだけらしいが。しかしラスボスはなんでこんなあだ名を名簿に記載したんだ……?よくわからんやつだ。
 
 そして俺の元いた世界のネットには肉体派おじゃる丸なんて居なかった。俺が異世界召喚された後に流行ったのか、それとも異世界が他にも存在してそこで肉体派おじゃる丸というあだ名が流行ったのか……。
 名簿にはマサツグ様なんて名前もあった。それにこの世には無数の世界があるとラスボスの一人が言っていた。そういう世界もあると考えるのが妥当だな。

どうして本名じゃなくてあだ名で名簿に記載されたか謎だが〝マサツグ様〟も大概だし、あんなふざけた性格のラスボスだ。悪ふざけであだ名を名簿に記載しても納得はいくが……。

619Lost Princess ―絆と憎悪の果てしないバトル― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:40:00 ID:zp3bKBv.0

 なによりこの露出男――肉体派おじゃる丸はその名で呼ばれるのを嫌ってるようだ。〝淫夢ファミリー〟とやらに対する憎悪がすごいことはこの短いやり取りでもわかる。
 こいつの憎悪を滾らせるためにこんなあだ名で参加させた可能性も――あのラスボスなら十分に有り得る。あいつは明らかに俺達プレイヤーを見下しているから、それくらいするだろう。

 だがそれとは別に一つ気になることがある

「そんなに肉体派おじゃる丸と呼ばれるのが嫌ならその奇抜な姿をどうにかしたらどうだ?そもそも服くらい着ろ、何を考えてるんだお前は」

「服を着ろっていうのは正論だと思うっすけど、殺し合いに巻き込まれた時点でこの服装にされてて笑っちゃうんすよね。普段はしっかりと服を着てるっすよ」

「ならばそのわけのわからんユニークな髪型をどうにかしろ。そんな髪型をしていたらネタの標的にされても仕方ないだろ……」

「は?このヘアスタイルは俺のお気に入りなんスよ。それを馬鹿にしてくるとか、死にたいんっすか?」

 乱打の威力が僅かに上がる――がまだ対処出来る範囲内だ。
 とりあえずこいつのヘイトは俺が集める。そして――

「はぁっ!」
 
「単調な動きだな。お前が背後を狙うことは読めていた」

 背後から迫るバナナのような槍を、上空にジャンプすることで避け、クウカとメグの近くに着地する。
 必然的にかち合う、肉体派おじゃる丸の拳と仮面ライダーの槍。
 だが白髮エルフが変身前に魔法を使っていた影響か、肉体派おじゃる丸の拳にはカスリ傷程度しか出来ない。

 別に相打ちを狙ったわけじゃないが、あの大きな槍でも大してダメージを受けない拳は厄介だ。

「はぁ、はぁ……。マサツグさんのおかげで助かりました」
 
「人並みより頑丈で良かったな、クウカ。あの拳の威力と硬度は明らかに異常だ」

「で、でもクウカも戦いますぅ」

「私も戦うよ、マサツグさん!」

「ふっ……。そうか。だがタンクと戦闘の素人に何が出来るというんだ?」

「クウカはマサツグさんの攻撃を代わりに受け止められますぅ」

「私も仮面ライダーになれるし、回復も出来るよ」

「……やれやれ、お人好しな奴らだな」

 ここは戦場だ。命を落とすリスクがある。
 それに俺の「守る」スキルは徐々に力を取り戻してるとはいえ、完全じゃない。
 どう考えても危険なのだが……こいつらに何を言っても無駄なのだろうな。
 それに孤児院を守る時はリュシア達――ルーナ孤児院ファミリーで守り抜いた。あいつらは大した力にならないのに、だ。
 そしてあいつらがいたから俺は随分とスキルの力を発揮出来たことは否定出来ん。

620Lost Princess ―絆と憎悪の果てしないバトル― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:42:50 ID:zp3bKBv.0
 だからクウカやメグも決して無力なわけではないだろう。
 まさか出会って1日も経たない奴らにこんなことを考えるとは思わなかったが――。

「3人まとめて殺されたいんスか?」

 肉体派おじゃる丸はそんなことを言いながら、乱打を繰り出す。
 披露が溜まっているのか、明らかに大きな負傷をしているのが原因か知らないが――徐々に動きが鈍くなっている。

 そんな肉体派おじゃる丸に対応するのは――クウカだった。

「マサツグさんやメグちゃんには手出しさせません!狙うならクウカを!」

 そう言いながら、肉体派おじゃる丸の攻撃をクウカは一身に集める。
 クウカは短剣を逆手に持ち、拳を時には回避し、時には短剣で受け止める――が、腕力の差からクウカが吹っ飛ばされる

「クウカさん!」
「クウカ!」

「口ほどにもないっすね。死んだ可能性、濃いすか?」

「わ……私は大丈夫です。人一倍、頑丈なので……」

 意外にもクウカはそこまでダメージを受けてなかった。

「しつこいっすね。じゃあこれで死んで、どうぞ」

 肉体派おじゃる丸が凄まじい速度で走る。
 ふざけたあだ名をしているが、フィジカルはその名の通りということか……!

 俺は背を向けて走り出したいところだが――

    ガキンッ!

「ふっ……。やはりそう簡単に行かせてくれないか」

 背後から迫る仮面ライダーの槍を、刀で防いだ。

「あなた達は、わたくしが優勝するためにここで死んでくださいまし」

「お断りだ」

「そうですか。ですがわたくしは既に一人殺してます。メグさまみたいに、甘くありませんよ」

「ふん。子供の皮を被った殺人鬼エルフということか」

「どう思われてもかまいません。わたくしは、優勝しなければならないのです!」

    ブンッ!

       ガキン!

 ――殺人鬼エルフが槍を繰り出し、俺が刀で弾く。
 その度に金属音が鳴り響き、妙にやかましい。
 とにかく相手が殺人鬼なら問答無用だ。加減をしたら俺達が殺されるし、同情の余地もない。

「コッコロちゃん!こんなやり方、間違ってるよ〜!」

「……メグさまにはわたくしの苦しみがわからないでしょう。恵まれた環境のメグさまには」

 『バナナオーレ』

 仮面ライダーの槍になにやらオーラが纏わりついた。
 ベルトがわざわざ音声を発したということは、技か?
 とにかく生身のメグが受けたら危険なのは確実だ!

 たっ
    たっ
       たっ

         ――ガキィィィン!

 ――鳴り響く、激突音。

621Lost Princess ―絆と憎悪の果てしないバトル― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:46:43 ID:zp3bKBv.0

「くっ……!」

 俺は仮面ライダーの技を刀で弾こうとするが、凄まじい威力だ。
 最初の技はそこまで苦労しなかったというのに……この一撃は重い。
 しかしここで死ぬわけにはいかない。
 俺には――

「ま、マサツグさん!」

 肉体派おじゃる丸を引き付けながも必死に叫ぶクウカかいる。

「マサツグさん、がんばって!」

 ようやく取り戻せたメグがいる。
 もしもここで俺が死ねば、きっと全滅だ。

 ――そんな腐り切ったバッドエンドは御免だな。
 だから俺は守る。俺自身と、こいつらを!

 ――瞬間、体の奥底から力がわいてくる。
 そうだ。これこそが「守る」スキルだ。


     ガシャァァアアン!


 ――仮面ライダーの武器に競り勝ち、その槍は弧を描くようにして宙を舞う。
 これで仮面ライダーは武器がなくなった。なにやらマンゴーのマークがある小物を咄嗟に取り出したが、ソレを容赦なく刀で切り裂き、破壊する。
 そして更に刀を振り回し、猛攻を加える。
 相手が武器を失った今が好機(チャンス)だ。今のうちに一気にケリをつける。

「ごめんね、コッコロちゃん……」

 メグの悲しそうな声が聞こえた。
 ……こんな危険人物とメグはどんな関係性だったんだ?

 ――だが、攻撃の手は緩めない。
 とりあえずこのベルトを破壊さえしたら、変身が解除されて完全に無力化に成功すると俺は考えてる。

 メグの反応から察するに何かワケアリなのか、それともメグがお人好し過ぎるだけか……。
 理由はわからんが、ひたすらにベルトを狙うことにした。

「あっ、ぐっ……!主さま……!」

 ベルトを狙うとはいえ、たまに外れて仮面ライダーの肉体を攻撃してしまう。
 その度にエルフが苦悶の声をあげ、それでもこいつは降参しようともしない。
 ……そもそも主様ってなんだ?もしかしてこいつもリュシアのように――。

 そう考える思わず攻撃の手を緩めてしまう。
 もしもこいつがリュシアのような境遇なら、などと考えてしまう自分の甘さに嫌気が差す。
 だがもしリュシアが参加していたら、俺を生き残らせるために他人を――……。

622Lost Princess ―絆と憎悪の果てしないバトル― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:48:08 ID:zp3bKBv.0

 いや、それは有り得ん。リュシアはそんな奴じゃない。当然、このくだらない殺し合いに巻き込まれて死んだエリンもだ。

「はぁ、はぁ、はぁ……。わたくし、は……」

 地を這ってでも槍を取りに行こうとする仮面ライダー。
 その姿は哀れにも見えるが、ここで気を抜けば死ぬのは俺達だ。

 俺は容赦なく槍を蹴飛ばして、右脚を刀で貫く。

「ぐ、ぅううっ――!あ、主さま――!」

エルフの叫び声が響くが、容赦するつもりはない。
 俺は仮面ライダーを背負投げして仰向けにさせると、再び何度もベルトを攻撃。
 やがてベルトは破壊され、仮面ライダーは涙でぐちゃぐちゃになったエルフの姿に戻った。

「こ、コッコロちゃん!大丈夫!?」

 コッコロと呼ばれたエルフに接近しようとするメグだが、俺はそれを左手で制する

「落ち着け、メグ。相手はこの殺し合いで犠牲者を出した殺人者だ」

「そ、それはそうだけど……私もマサツグさんとクウカさんが来なければ……」

「お前は涙を流していた。どうせ放送が原因だろう。だからメグは結局、根はお人好しな馬鹿だ。だがこいつはそんなお前を冷静に処分しようとした、危険人物だからな。迂闊に近付けばどうなるかわからん」

「主さま……。これは……わたくしが悪い子になった罰でしょうか……」

 コッコロが詳しそうに、悲しそうに涙を流しながらそんなことを口にする。
 きっとそれは本心だ。
 絶体絶命になってようやく化けの皮が剥がれたのか……?

「コッコロ。お前はどうしてこんな――」

「――また改心するような展開になったら、流石に笑えないっすね」


    ガキン!

 全速力で駆け抜けてきた肉体派おじゃる丸の拳と刀がぶつかり合い、鍔迫り合いになる。

「俺にはまだ左拳(こっち)もあるんすよね!」

「しまっ――」

「マサツグさん、危ない!」


      ズザァァアアア

 気付けば俺の身体はメグに突き飛ばされていた。

623Lost Princess ―絆と憎悪の果てしないバトル― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:49:05 ID:zp3bKBv.0

「間に合っで良かったぁ……」

 俺の身体の上に乗っているメグは嬉しそうに微笑むが、その背後には肉体派おじゃる丸。

「これで終わりっすね!」

「――言ったはずだぞ、肉体派おじゃる丸。メグは俺が守る」

 メグへ迫る肉体派おじゃる丸の右拳に、俺も右拳をぶつける。

 
     ぐしゃり!


 「ぐ、ぁあああ!」

「ぐ、ぅ……!俺にフィジカルで挑もうとするなんて、笑っちゃうんすよね。まあ少しは痛かったっすけど、あんたの右手はもっと深刻なダメージを受けてた可能性濃いすか?」

「ふっ……。だが俺は一人じゃない」

俺にはあって、肉体派おじゃる丸にはないもの。
 それは――――
 
「この期に及んで何を――がっ!?」

 肉体派おじゃる丸が、急に倒れる。
 その巨体に押し潰されないように、俺はメグを抱えながら真横に転がった。

「や、やりましたぁ……!」

 肉体派おじゃる丸を背後から短剣で刺したクウカが、歓声をあげる。
 クウカは他人を殺して喜ぶ人種じゃないだろうが、危険人物は殺さなければ止まらない輩もいると理解していたようだ。
 クウカの身体には幾つか痣があったが、意外にも平気そうだった。まったく、どれだけ頑丈なんだこいつは。

「肉体派おじゃる丸。お前はクウカを侮った。それが敗因だ」

 俺は近くに転がり落ちた刀を拾い上げる。

「ぐっ……!」

 肉体派おじゃる丸の与えた傷の影響か、握るだけで痛みが走る。

「マサツグさん。それくらいの傷なら、簡単に治せるよ」

 メグが魔法を使うと、右手の傷が癒えていく。またこいつに助けられてしまったな

「ぐ、おおおおお――!」

 ――絶叫が耳を劈くる

「これで俺を殺したと思ったら、笑っちゃうんすよね!」

 そこには鬼の形相で立ち上がる肉体派おじゃる丸がいた――。

「コッコロさん、あんたこんなところで優勝を諦めていいんスか?優勝はあんたの夢っすよね?まさかメグの二の舞になるんスか?」

「筋肉ムキムキのおじさん、余計なこと言わないで!」

「余計なことじゃないっすよ。少なくとも裏切り者のあんたよりはマシだと思うっすけどね」

「そ、それは……たしかに私は裏切り者だけど……でも!」

「何が〝でも〟っすか?あんたも散々、悪事に加担しといて虫が良くないっす――」

「お前は少し黙れ、肉体派おじゃる丸」


     ガキン!


 俺が肉体派おじゃる丸に斬りかかると、肉体派おじゃる丸は右拳でその攻撃を弾いた。

624Lost Princess ―絆と憎悪の果てしないバトル― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:49:44 ID:zp3bKBv.0

「あんたみたいな事情も知らない正義のヒーローや英雄気取りこそ黙ってほしいっすね」

 正義のヒーロー?英雄?
 違うな――。

「俺は正義のヒーローや英雄などじゃない、ただの孤児院長だ。だから危険なお前らを殺すことにも躊躇はしない」

「ハッ!じゃあなんでそんな薄汚いメスガキを守ろうとしてるんスか?」

「クウカとメグは守る。俺自身がそう決めたから守るだけだ。そこに正義感は微塵もない」

「あんた、こんなメスガキまで守りたいとかキチガイっすね。斜に構えた態度でカッコつけて楽しいっすか?」

「……やれやれ。俺はこれが自然体で、カッコつけた覚えはないのだがな」

「他人を襲うのに加担したメスガキを守るのが自然体なんスか?」

「マサツグさん……」

 不安そうに眺めてくるメグの視線を感じる。
 どうやらこいつは相当、罪悪感があるようだな。
 ――だが逆に言えば、罪悪感があるということは自分が悪いことをしてきたと心の底から思ってるということだ。それに本当に闇堕ちでもしてたら、放送で悲しまない。涙を流さないはずだ。

「メグのしてきた〝罪〟については後で聞いてやる。だがその前にまずはお前を倒すことが最優先だ、肉体派おじゃる丸」

「あんた、俺が肉体派おじゃる丸って呼ばれてるのを知った途端に肉体派おじゃる丸、肉体派おじゃる丸って――性格悪過ぎて笑っちゃうんすよね。そのいけ好かない態度も、性格の悪さも、イライラするんすよ!」

「それなら力付くで止めることだな」

「言われなくても!」

    ブン!
 
      ガキン――!
 
 肉体派おじゃる丸の右ストレートを、刀で弾く。次いでやってくる左ストレートも、読めていた。当然、刀で弾く。
そしてがら空きになった胴体に袈裟斬りをお見舞いしてやる。
 だが肉体派おじゃる丸の無駄に鍛え上げた筋肉が鎧のような効果を齎したのか、殺し切ることは出来なかった。

625Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:51:05 ID:zp3bKBv.0

「はぁ、はぁ……。コッコロさん、あんた本当にこれでいいんスか?優勝出来なければ願いは叶わないっすよ!」

「優勝……。願い……。このまま主さま達の所帰れないなんて――そんなの嫌でございます!」

 瞬間――コッコロを中心に闇のようなオーラが集まる。なんなんだ、これは……。
 それは一瞬の出来事だが、この場にいる誰もが。肉体派おじゃる丸すらもがコッコロを見ていた。
 そして闇はコッコロの手に収束して――穂先が真っ黒なクリスタルのような槍に。
 白髮が黒髪に変化して、真紅の瞳を闇が漆黒に染め上げた――!

「優勝するのは、わたくしです!メグさま達のような偽善者はここで脱落してくださいまし。
 ――闇のご加護を……!ダーク・オーロラブルーミング!」

 ――瞬間、瞬く間にコッコロの傷が軽傷程度まで回復し、肉体派おじゃる丸の傷もコッコロ程じゃないが癒えていく。いきなり武器が出てきたり、見た目の色が変わったかと思えば……どうなってるんだ……!?

 ――『それと、だ。君達の中には既に奇妙な現象に遭遇した者もいることだろう。
 本来なら使えない力やアイテムを、死闘を経験し手に入れた者達が、だ。
 不安がる必要はない!それらも私が設定した、ゲームを盛り上げる要素の一つ!
 たとえ格上とぶつかっても腐るな!一発逆転のチャンスは平等に転がっているゥ!』

 放送で自称神のラスボスが言っていたことが脳裏を過る。
 この現象こそがあいつの言ってたシステムというわけか――。

「おお、いいっすねコレ。傷が癒えた上に更に力が漲ってくるっす!」

   ブォォオオン!

         ガキィィィン!

「くっ……!この脳筋め。だからお前は肉体派おじゃる丸なんて言われるんだ」

626Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:51:47 ID:zp3bKBv.0
 肉体派おじゃる丸の右ストレートをなんとか刀で受け止めるが、なかなか弾け返せない……!さっきまでより明らかに重みが増している……!

「こ、これはまずいですぅ……!」

 肉体派おじゃる丸にはまだ左手が残ってる。
 こいつは憎たらしく笑い、左手を握り締めて振り被った!

「……っ!ク、クウカも一緒に戦いますぅ!」

 クウカが短剣でなんとか受け止めて、間一髪で助かった。
 だがこの場にはもう一人――

「まずはあなたに死んでもらいます。ダーク・トライスラッシュ」

瞬間、俺の胴体を目掛けてコッコロは槍を横に振るった
 
「わ、私も戦わなきゃ!」

『ギロットミロー!ギロットミロー!』
  
「へ、変身!」

『ゲンカイガン! ディープスペクター! ゲットゴー!覚悟!ギ・ザ・ギ・ザ!ゴースト!』

「これ以上、誰も殺させない!これが私の〝覚悟〟だよ!」

 槍が俺の胴体を真っ二つにする前に、仮面ライダーに変身したメグがコッコロの頬を殴った。
 予想外の一撃だったのか、見事に命中してコッコロが吹っ飛ぶ。

 ……やれやれ。こいつらを守ると決めたのに、守られてばかりだな。
 だがメグの覚悟を無駄にする気はない

「ン?んんん!?あんたなんで、また急に強くなってるんスか!?」

「さぁな。クウカとメグを守ると決めた、ただの偽善者だからじゃないか?」

 ようやく肉体派おじゃる丸の一撃を弾いて、思いっきり袈裟に斬りつける。
 肉体派おじゃる丸は激痛のあまり地面をのたうち始めた。

「クウカはここでこいつを見張ってくれ。お前のタフさなら何かあっても大丈夫だろう」

「マサツグさんは……」

「俺はメグに加勢する。あいつは素人だ。偶然の一発が決まっても勝ち目はかなり低い」

「……やっぱりそれがマサツグさんですよね。わかりました、ここはクウカにお任せを!」

 ◯

 メグが吹っ飛ばしたコッコロは、ケロリとした様子ですぐに立ち上がった

 (まさかあの状況でよりにもよって裏切り者のメグさまから攻撃を受けるとは……)

 メグから殴られた右頬が未だに痛む。
 生身の人間が仮面ライダーの、しかも強化フォームであるディープスペクターの一撃を受けたのだから当然だ。
 それでも頬が痛い程度で済んでるのは、コッコロが負の心意に到達して全体的に強化されたことが大きい。
 ユニオンバーストで味方に対するバフ効果は大きくなり、味方を中回復する効果も付随された。各種スキルも強化された。
 もしも先程のダーク・トライスラッシュを槍の棒の部分を押さえるという方法で止めようとしていたら、いくらディープスペクターに変身しているとはいえ素人のメグでは危うかったかもしれない。
 思いっきり頬を殴るという方法だからこそ、阻止出来たのだ。

 (メグさまは、どうして裏切ったのでしょうか?とてもではないですが、許せません)

 そんなことを考えながらコッコロはダーク・スピードアップですぐにメグのいる場所に辿り着く。

627Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:52:27 ID:zp3bKBv.0
「メグさまは、どうして裏切ったのですか?」

「それは、こんな方法でみんなを生き返らせるなんて――人を殺して日常を取り戻すなんて間違ってると思ったからだよ」

「ですがメグさまはご友人やあなたを助けようとした人たちすら襲ったはずです」

「それは……そうだけど。でもリゼさんが死んだら悲しくて……」

「それはあまりにも甘い考えでございます」

「うん。……私も色々と悪いことしてきたよ。でもマサツグさんとクウカさんが許してくれて――」

「そこです。そこが甘いのです。あなたは環境に恵まれてるのでそんな甘い考えになったようですが、わたくし達のしてきたことは到底許されないことです」

 コッコロは本来、優しい性格の持ち主だ。
 だからわかる。わかってしまう。自分達の犯した〝罪〟を。

「それ、は……」

「マサツグさまやメグさま、それにご友人。メグさまには手を差し伸べる方がたくさんいました。だからわたくしとは違って、引き返せたのです」

「こ、コッコロちゃんだってそういう人……」

「数時間前にも言ったように、以前は居ました。でも、この殺し合いにはキャルさま以外は居ません。……厳密には優勝しなければ居場所に戻れません。だから皆様の元に帰るために優勝すると決めたのです」

「そんなの悲しすぎるよ……。それにキャルさんっていう人がいるなら、一緒に協力しようよ!」

「優勝したら願いが叶うので、悲しさはもうありません。もちろんメグさまみたいに殺し合いに抗う方々と馴れ合う気もありません。わたくしは、優勝するのです」

 
     ヒュンッ!

 
 漆黒の槍がメグを襲う。
 しかしメグはディープスペクターに変身していることもあり、前倒しに転がってギリギリで回避する。

「そんなのダメだよ、コッコロちゃん!そんな方法で主さまっていう人の場所に戻っても悲しむよ……!?」

 コッコロへ気持ちを伝えるように再び頬を殴るが、今度は吹っ飛ばすらしない。
 相手が近寄ってくるのはわかってたから両足を踏ん張れたし――なにより心の闇がどんどん増幅することで身体能力も強化されていた。

「そうならないように、優勝するのです!」

 今度は容赦なく槍による刺突を繰り返す。
 生身なら即死していたであろう攻撃だが、ディープスペクターに変身していたおかげで致命傷にはなっていない。
 しかしそのダメージは大きく、強制的に変身解除されとしまう。

628Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:53:58 ID:zp3bKBv.0

「これで終わりでございます」

 そんなメグに、コッコロは刺突を繰り出した。
 結局、マサツグが助けたところで寿命が延びただけで死は回避出来なかった。

「――残念だったな。まだ終わらせるつもりはない」

 漆黒の槍を弾いたのは、太陽に照らされし銀に輝く日輪刀。
 
 ――ナオミ・マサツグここに見参。

「ま、マサツグさん!」
 
「またマサツグさまでございますか。しつこいですね」

「ふん。まあこいつらを守ると誓ったからな」

「誓った……?誰にですか?」
 
「俺の――心にだ」

「そうですか。ではその心臓ごと、突き刺してさしあげます」

「ふっ……。やれるものなら、やってみろ」

「――ダーク・ネレイドスピア」

    ひゅんっ!


 凄まじい勢いで漆黒の槍がマサツグの胸に迫る。

「ぐっ……!まだまだこの程度じゃ俺はくたばらんぞ」

 間一髪、槍の穂先以外の持ち手を受け止めてなんとか即死を免れる。
 だが僅かに穂先が当たり、マサツグの服に血が滲み出す。

「マサツグさん!」

「何を喚いてる、メグ。この程度、大したことない」

「で、でも……」

「ふむ。この程度の小技はマサツグさまには効きませんか」

コッコロはあくまで冷静に状況を判断する。
 メグはおそらく暫く戦えず、戦えたとしても弱い。
 クウカな肉体派おじゃる丸が相手をしているし、彼は殺人に躊躇がない男だとコッコロは思っている。クウカが死体になるのも、時間の問題だろう。

 やはり一番厄介なのはマサツグだ。
 三人組で最も強く、あんな線の細い肉体なのに時として底知れない力を持つ。
 その根源が〝守りたいと想う心〟や〝絆〟だと知らないコッコロにはあまりにも不気味な存在。
 
(マサツグさまを放置したら、わたくしのように新たな力に目覚める可能性があります。……それとも、既に目覚めてるのでしょうか)

 今のコッコロにはマサツグが理解出来ない。
 もしも理解出来たとしても、羨み、妬み、憎悪を爆発させて心の闇が加速度的に深くなるだけだろう。

629Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:54:26 ID:zp3bKBv.0

 昔の心優しきコッコロはもういないのだから。
 それはオレイカルコスが支給品だったことも要因だが、運悪く最悪の時期から連れて来られたことも関係しているし――なによりパラダイスキングというマーダーとはいえ、一方的に殺害している。
 もっともパラダイスキングを甚振ったのはメグも同じなのだが……彼女はそのことを深く反省している。
 一方、コッコロは反省するどころか手を組んだメグすら、使い物にならなくなったと判断した途端に冷静沈着に処分しようとした。
 あの悍ましい瞳を、メグか゚忘れることはないだろう。

 (それでも――)

 それでも――、と魔法の言葉を唱えてメグは口を開く。

「こんなことは間違ってるよ、コッコロちゃん!コッコロちゃんの悲しみは私にはわからないけど……みんなで協力して主さまっていう人のいる場所に行こうよ!」

「悲しみ?メグさまは何か誤解していらっしゃるようですね。私の心を支配するもの――それは闇でございます」

 漆黒の瞳をメグに向け、彼女の言葉を否定する。

「ふん。中二病か」

 そんな皮肉を飛ばしながらも、マサツグは冷や汗を流す。
 コッコロの心が闇に支配されているのは理解していた。
 マサツグもリュシア達ルーナ孤児院ファミリーのおかげで変われただけで、過去は心に闇があった。
 親に見捨てられたことは今でも鮮明に思い出せるが――そんな痛みを知るマサツグだから、今のマサツグが在る。

 しかしコッコロの闇は殺し合いという過酷な状況のせいか、もっとドス黒いものだ。
 それは彼女の雰囲気と――なにより見た目すら変わったことがよく表してる。

 ゆえに彼女は殺さなければ、止まらないだろう。
 いや――その気でいかなければマサツグ達が逆に殺される。

630Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:55:17 ID:zp3bKBv.0

「マサツグさま。あなたはここで死んでくださいまし。――闇疾風」

凄まじい勢いでコッコロが駆け抜け、マサツグへ槍を振り翳す。

「ぐっ……!残念だが心臓は狙えなかったようだな」

 コッコロの刺突は、脇腹に刺さった。
 日輪刀で弾くのが間に合わないと判断したマサツグはギリギリのタイミングで、体勢をズラしたのだ。

「減らず口を……!」


    ヒュンッ

        ヒュンッ

            ヒュンッ


 幾多もの風切り音と共に刺突による猛攻がマサツグを襲う!
 しかしマサツグは日輪刀で頭や心臓などへの攻撃を弾き、なんとか即死は免れたが負傷は酷く、激痛が走る――!

「――ッ!」
 
「これだけ突き刺せば、流石のマサツグさまでも時間の問題でしょう……」

「それはどうだろうな……」

「まだ減らず口を叩く気力はありましたか。それならこれで、終わりでございます」

 コッコロが槍を構える。
 穂先は当然、マサツグの心臓だ。
 そして必殺の一撃が――

「さ、させないよ……!」

「ふっ……」


        ガキィィィン!
 
 
 ――マサツグの日輪刀が、コッコロの槍を弾く。

「なっ……!?」

 想定外の展開に、コッコロが動揺して目を見開く。
 マサツグには日輪刀を振るう力などもう残されていなかったはず。
 それに負傷まで回復している。

631Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:58:14 ID:zp3bKBv.0
「よくやった、メグ」

「メグさまが――!私たちを裏切り、あまつさえ都合良く殺し合いに反対する派閥に加担して……本当に恥知らずですね!」

 コッコロが槍を構えると同時にメグは〝そうりょ〟に変身してマサツグを回復させたのだ。
 その事実に気付いた時、コッコロは普段の彼女らしくもない言葉で苛烈に罵倒した。

 この場で一番強い敵はマサツグだ。厄介なのもマサツグだと認識していたが、どうやら認識を改めなければならない。

 この中で最も厄介で憎いのは、メグだ――!

632Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:59:22 ID:zp3bKBv.0

「ハザードオーロラ――ダークネス!」

 槍を上空に向けて、技名を唱える。
 ――瞬間、天の一部が闇のオーラに覆われ、マサツグとメグに重量が襲い掛かる。

「くっ……!なんだこの重圧感は……!」

 唐突な重圧感に苦悶するマサツグだが「守る」スキルで軽減されてるだけまだマシだ。

「ぅぁ……っ!なにこれ、身体が重いよ……!」

 重圧感に押し潰され、メグは片膝をつく。片膝だけでも立ち上がろうとしているのは、半ば意地だ。

「優先順位が変わりました。メグさま、あなたから殺します」

「コッコロちゃん……。女の子が殺す、殺すなんて言っちゃ……ダメだよ」

「他人を殺そうとしていたのはメグさまも同じ。つまりこれは、因果応報でございます」

633Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 08:00:18 ID:zp3bKBv.0

「それはそうだけど……コッコロちゃんもやりなお――」

「そんなことは出来ません!わたくしは優勝しなければならないのです!」

「そんな……」

 自分の説得が微塵も通じず、思わずメグの気が沈む。
 そんなメグにコツ、コツ、と――一歩ずつコッコロが迫る。マサツグの血で染め上げた、赤黒い槍を片手に。

「コッコロちゃん――」

「さようなら、メグさま」

「私を救ってくれたマサツグさんやクウカさん、そしてコッコロちゃんのためにも――私は死なないよ!」

 メグが叫ぶと同時に、コッコロは容赦なく槍を突き出した。
 しかし妙に硬い感触。何故だか槍でメグを貫けないどころか、あまり深く突き刺せない

 (これは、なにが――)

「効かない、よ……」

 メグはコッコロから攻撃を受ける前にクラススキル〝体が勝手に〜!〟を使っていたのだ。
 これによりメグの魔法防御力と物理的な防御力が格段に上がったのだ。
 それでも僅かに突き刺さったのだが、コッコロが槍を引き抜くと徐々に傷が塞がっていく。〝体が勝手に〜!〟はリカバリー効果――つまり自動回復も付与するからだ。

「ぐっ……!メグ、今から行くから持ち堪えろ……!」

 マサツグがゆっくり、ゆっくりと歩き始める。
 いくら重圧感があろうとも、メグの逆境に「守る」スキルは強化されていた。

634Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 08:01:27 ID:zp3bKBv.0

「大丈夫だよ、マサツグさん。私はコッコロちゃんとお話がしたいから……マサツグさんはクウカさんを助けてあげてほしいな」

「こんな奴と話だと?本気で言ってるのか!?」

「うん。――私は本気だよ」

 メグの真っ直ぐな瞳に射抜かれて、マサツグは「やれやれ……」と観念した。

「……わかった。そいつはメグに任せるが、何かあったら躊躇せずそいつを斬るからな」

「ありがとうね、マサツグさん」

 メグの笑顔に背中を押され、マサツグは肉体派おじゃる丸とクウカの戦場へ向かう。

「……それで、お話とはなんでしょうか?メグさま。また組むというのなら――」

「ううん、違うよ。私はコッコロちゃんを止めたいだけなんだ〜」

「説得、ですか。今の私にはそんなもの、意味を成さないですよ」

「コッコロちゃんも日常を取り戻したいんだよね。その気持ちはわかるよ。私もマヤちゃんとリゼさんが死んで悲しかったから。
 きっとこの殺し合いが終わっても、マヤちゃんとリゼさんは居ないんだなって……」

「それなら、何故――」

「私はマヤちゃんとリゼさんを生き返らせたいけど、二人とも優しいから私が他の人を殺して優勝を狙っても止めると思うんだよ。……ココアちゃんみたいにね」

「それはメグさまのエゴです。本当は生き返りたいと思ってれかもしれませんよ」

 メグの言葉に、自然とコッコロの声音も強くなっていく。

「そうだね。でもコッコロちゃんが優勝を狙う理由もエゴだよ」

 その言葉に、コッコロは――

「……メグさまに、何がわかるんですか!色々な人の記憶から忘れ去られ、居場所である皆様にも危害を加えたくないから一人ぼっちになって……でも寂しくて……!」

 怒気が込められた口調で、槍を握る手に力を入れる。

635Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 08:02:20 ID:zp3bKBv.0

「ただの平和な日常を送ってたメグさまに、何がわかるのですか!」

 漆黒の槍が一閃する

「それは……わからない、よっ!」

 コッコロの槍をメグ専用ロッドでなんとか受け止める。
 凄まじい威力で、一瞬でも気を抜けば確実にメグは吹っ飛ぶだろう。

「言ったよね……私にコッコロちゃんの悲しみはわからないって。でも友達が二人も死んだ私の悲しさだって、コッコロちゃんにはわからないはずだよ!」

 ギリ、ギリ――。
 必死にロッドに力を込め、鍔迫り合いする。

「それなら……。そんなにも悲しいなら、優勝を狙えばいいじゃないですか!メグさまの、わからず屋……!」

「悲しいよ。すごく悲しいよ。でも私が優勝を狙って他の人達を殺し続けたら――二人を悲しませることになるかもしれない。それこそ死んだ二人への、侮辱だよっ!」

「そんなことは綺麗事でございます!私はキャルさまを殺してでも優勝します!」

「そんなことしてると、キャルさんが悲しむよ!」

「メグさまに……。あなたに何がわかるというのですか!!」

 ――激怒。
 怒りに任せて力を込めた槍は、ロッドを弾きメグを軽く突き刺した。

636Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 08:03:11 ID:zp3bKBv.0

「――ッ!コッコロちゃんの、わからず屋!」

「メグさまこそ、わからず屋です!」

 怒り任せに槍を構えたコッコロには――漆黒の翼が生えた。

 そして罪を背負い、それでも生き抜く決意をしたメグには右に白い翼が。左に黒い翼が生えた。

 それ即ち、心意の発露なり。

 コッコロは既に心意を発露していたが、更なる怒りでこの境地に至り。
 メグはここに来て初めて心意が発露した。
 
 コッコロの翼は、闇に呑まれた彼女らしく漆黒で。
 メグの翼はこれまでに犯した〝罪〟を象徴するかの如き黒と、彼女本来の優しさを秘めたる純白が混在している。メグの真実(トゥルース)を象徴するかのような翼。

 コッコロが槍を構えたように、メグもロッドを構える。

「メグさま、今度こそここで死んでくださいまし!」

「みんなの想いと私の生き様を乗せた翼で――コッコロちゃんを止めてみせるよ!」

 両者、空高く舞い上がり――ある程度距離のある場所から助走をつけて激突する――!

 
      ガキィィィン!


 ぶつかり合う、槍とロッド。

 
     ガキッ――

          ガキィッ!

            ガキィィィン
 
 互いに譲れないものを胸に振り回し、熾烈な攻防を繰り返す。

637Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 08:04:10 ID:zp3bKBv.0

 コッコロが槍を振るえばメグがロッドでそれを弾き、お返しとばかりにロッドを横に薙ぐ。
 しかしそこは手練のコッコロ。自分に向けられたロッドを槍の持ち手でスッと伝わせるように躱し、がら空きになったメグの腹に回し蹴りを見舞う。

 だがメグは意地とその高い耐久力を利用して左手で足を受け止め――

「やぁあああ――!」

 ロッドを手にしている右手で、その棒でコッコロの腹を突いた

「ごふっ……。まだ、まだです!」

 腹部にダメージを負ったコッコロだが、彼女とて譲れないものがある。

 漆黒の翼で体勢を立て直し――

「これならどうでしょうか!」

 凄まじい速度で刺突を繰り返す。

「や、ぁああああ――!!」

 メグは必死に弾こうと対応するが、全てを対処するなんて無理だ。
 ゆえに急所だけを防ぎ、徐々に近付く。スキルで耐久力が高まっているからこそ出来る荒業だ。


「これなら、どうだぁあああ――!」


 メグは頭を思いっ切り振り被り――コッコロのデコに激突させた。

 その衝撃で脳が揺さぶられ、メグとコッコロは緩やかに落下していく。翼がなければ、共に即死だっただろう

 落下する中、コッコロは口を開いた

「……メグさまは、どうしてそこまでしてわたくしを止めようとしたのですか?」

「コッコロちゃんは、仲間だったからだよ。目的やしてきたことは酷いけど……私はコッコロちゃんを仲間だと思ってたんだ〜」

「……仲間、ですか。わたくしに処分されそうになったのに、よくそんなことが言えますね」

「うん。……マサツグさんやクウカさんも、私を許してくれたから」

 メグはニッコリと満面な笑みを浮かべた

「ふむ……。やっぱりメグさま達のことは、よくわかりませんね……」

「コッコロちゃんがもう罪を重ねないなら――みんなでコッコロちゃんを守るから大丈夫だよ。だから行こうよ、ハッピーエンドでこのゲームをおわらせて――その先へ」

 コッコロをそっと抱き締める。
 その暖かさに、ペコリーヌの温もりを連想して思わずコッコロは涙を流してしまい――。

「ハッピーエンドのその先でございますか……」

638Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 08:06:02 ID:zp3bKBv.0

  ◯

 俺はクウカと肉体派おじゃる丸が居る場所まで、走っていた。
 メグやコッコロと距離が開いたら、重圧感もなくなってきた。範囲限定、ということか……。

 そして俺の視界に、肉体派おじゃる丸に嬲られてるクウカが入る。
 肉体派おじゃる丸にはかなりのダメージが入ったはずなのに、何故だ!?

「ふへへ。ま、マサツグさ――ゴハァッ!」

 俺を見てだらしなく笑うクウカの腹を肉体派おじゃる丸は容赦なく殴った。
 だが痣が出来る程度で、大した傷にはなっていない。頑丈だからこそ、ということか……。

「マサツグが来た瞬間にニヤけて笑っちゃうんすよね。あんたは無駄に耐久性があるから、ストレス解消に丁度良いっすね」

「肉体派おじゃる丸。――お前、何をしている?」

「見ての通り、あんたの女を嬲ってるんスよ」

俺の女?
 こいつ、何か勘違いしてないか?

「やれやれ……。そこの変態ドM女は俺の彼女じゃないぞ」

「そんなこと、どうでもいいんスよね。あんたはこいつを守ると言った。その態度が、いけ好かないんスよ」

「そうか――」

 俺は刀を構え――肉体派おじゃる丸へ走り出す。
 対する肉体派おじゃる丸は右拳で対抗。
 凄まじい金属音が鳴り響くが――お互い大したダメージはなし。

639Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 08:07:12 ID:zp3bKBv.0

「……俺はお前にダメージを与えたはずだが、随分と元気だな」

「地面に蹲ってたらイライラして――気が付けば痛みなんて消えたっす」

「ふん。この脳筋が」

 とりあえず俺に注意を向けさせて、クウカを守ることには成功した。
 それにしてもイライラで痛みが消えただと?アドレナリンか?

「本当は男を嬲る趣味なんてないっすけど、これも優勝のためっすね。死んで、どうぞ」

「死ぬのはお前だろう」

 肉体派おじゃる丸はクウカを蹴り飛ばすと、乱打を仕掛けてきた。
 さっきより速さが増している――が、対応出来ないわけじゃない。
 俺は刀で乱打を弾き、肉体派おじゃる丸に袈裟斬りする――が妙に硬い。

「……貴様、また筋トレでもしたのか?」

「さあ?ムカついてたら、こうなってたんスよ」

 肉体派おじゃる丸へ僅かに傷痕を付けることには成功したが、どういうわけか傷が塞がっていく。なんだ、この現象は……!

「こんなもんじゃ誰も守れないっすよ」

 瞬間――凄まじい速度で飛び掛かってくる肉体派おじゃる丸。
 俺は躱すことが出来ず、顔を何度も嬲られる。

「はははは――!やっぱり雑魚を甚振るのって楽しいっすね」

「……随分と悪趣味だな。この脳筋、肉体派おじゃる丸が」

「うるさいっすね!」

 皮肉を飛ばして――右の拳を固める。
 そして肉体派おじゃる丸の顔面を殴るが――まるで効いてない。

「リュシア、シー、クウカ、メグ。俺はお前達を――」


「違うよ、おじさん!マサツグさんだから、私達を守れる。救ってくれたんだよ!」

 白と黒の翼を背に生やしたメグが、ロッドを肉体派おじゃる丸の顔面に炸裂させる。

「わたくしにはマサツグさま達のことがよくわかりませんが……メグさまを信じてみます。ハッピーエンドのその先へ羽ばたくために!」

 メグと同じく、白と黒の翼を背に生やし、見た目も戻ったコッコロが――穂先が透き通った色になった槍で、肉体派おじゃる丸の胴体を突き刺す。

 ほぼ同時にダメージを受けた肉体派おじゃる丸の身体がバランスを崩して僅かに隙が出来た。

「ふっ……。よくわからんが――勝機は俺にあるらしい」

 咄嗟に刀を握り――力を込めて肉体派おじゃる丸へ横に薙ぐ。

 肉体派おじゃる丸の肉体から出血し――苦悶の表情を浮かべる。

「クキキキキ……。この人数差はまずいっすね」

 そして肉体派おじゃる丸が地面を殴ると、砂埃が舞い――そのうたに肉体派おじゃる丸は逃げた

「マサツグ……!次こそは必ず殺してやるっすからね」

「……追わなくて良いのですか?」

「俺の目的は殺すより、守ることだ。その過程で危険人物を殺すことはあるかもしれんが――」

 まずは、だ。

「とりあえずクウカの治療をしたいし、コッコロ……お前がどうして心変わりしたのか教えろ」
 
「わかりました」

640Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 08:07:40 ID:zp3bKBv.0

 ◯
  メグが頭突きをした瞬間――心意によりコッコロのオレイカルコスの結界は破れた。
 それは二人の心が繋がった瞬間だった。

 君と出逢い、君と往く。
 ハッピーエンドのその先で。
 ありきたりで、けれど愛しい――日々を過ごしたいよ

641Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 08:08:28 ID:zp3bKBv.0
【C-7/一日目/午前】
【直見真嗣@異世界で孤児院を開いたけど、なぜか誰一人巣立とうとしない件(漫画版)】
[状態]:ダメージ(小、包帯、ガーゼなどにより処置済み)、疲労(大)、左目失明(眼帯により処置済み)、メグとクウカを守りたいという想い
[装備]:竈門炭治郎の日輪刀@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]基本方針:ラスボスを倒す。殺し合いを脱出するには、これしか手段がないようだな
1:クウカ、メグとその友人を守る。
2:やれやれ。ようやくメグを取り戻せたか
3:もう失うことは御免だな。
4:エリン……
5:コッコロがどうして心変わりしたのか、事情を聞くか
[備考]
※「守る」スキルは想いの力で変動しますが、制限によりバランスブレイカーになるような化け物染みた力は発揮出来ません
※参戦時期はリュシア達が里親に行ってから。アルノンとも面識があります

【クウカ@プリンセスコネクトRe:Dive】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)、魔力消費(中)
[装備]:ガーディアン・エルマの短剣@遊戯王OCG、フライングランチャー@遊☆戯☆王ZEXAL
[道具]:基本支給品、応急処置セット@現実
[思考・状況]基本方針:こ、困ってる人を助けます……
1:マサツグさんやメグちゃんと一緒に戦いますぅ!
2:モニカさん達と合流したいです
3:クウカ、マサツグさんのことが気になりますが……今はそれどころじゃないですね
4:マサツグさんの心の支えになりたいです
[備考]
※頑丈です。各種スキルも使えますが魔力を消費します。魔力は時間経過で回復していきます
※応急処置セットの包帯は使い切りました

【奈津恵@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(中)、魔力消費(中)
[装備]:メグ専用ロッド@きららファンタジア、ゴーストドライバー&ディープスペクターゴースト眼魂@仮面ライダーゴースト
[道具]:基本支給品×2、巨大化@遊戯王OCG、ランダム支給品0〜2(ボーちゃんの分)
[思考・状況]基本方針:マサツグさん達と一緒に抗うよ!
1:チマメ隊の絆は永遠……だけど優勝して生き返らせてもマヤちゃんが喜ばないよね
2:マサツグさん、クウカさん、ありがとうね。ルーナフリューゲル、いくよ〜!
3:今まで酷いことしたみんな……ごめんね
4:マヤちゃん、リゼさん……天国で見守っててね!
5:またよろしくね、コッコロちゃん
[備考]
※ディープスペクターの武器であるディープスラッシャーについては、変身しても出現しません。他の参加者に武器として支給されている可能性があります。
※ディープスペクターへの変身は他の仮面ライダーと同じく魔力を消耗しません。
※魔力は時間経過で回復します
※心意により右が白、左が黒い翼が生やせます。この際、身体能力が一気に上昇します

【コッコロ@プリンセスコネクトRe:Dive】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(中)、
[装備]:量産型戦極ドライバー+バナナロックシード(ナンバー無し)+マンゴーロックシード(全て破損)@仮面ライダー鎧武、タンポポロックシード@仮面ライダー鎧武
[道具]:基本支給品一式×2、破れて効果を失ったオレイカルコスの結界@遊戯王デュエルモンスターズ(アニメ版)、盗人の煙玉@遊戯王OCG、スイカロックシード@仮面ライダー鎧武(2時間使用不可)、デスノート(複製品)@DEATH NOTE
[思考]
基本:メグさまとこの殺し合いを終わらせて、ハッピーエンドのその先を目指します
1:メグさま、ありがとうございます……
2:マサツグさまに、事情を説明しなくては……
3:今まで襲った方々……ごめんなさい……
4:カイザーインサイトを要警戒
[備考]
※参戦時期は『絆、つないで。こころ、結んで』前編3話、騎士くんに別れを告げて出ていった後
※心意により右が黒、左が白い翼が生やせます。この際、身体能力が一気に上昇します

642Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 08:08:39 ID:zp3bKBv.0
【C-7(マサツグ達から距離は離れてる)/一日目/午前】
【肉体派おじゃる丸@真夏の夜の淫夢】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大)、胴体に刺し傷、右胸から左脇腹までの切創、胴体に真横の浅い切創、淫夢ファミリーへの憎悪(極大)、虐待おじさんを殺せた喜び、ダンデライナーにしがみ付いてる、右拳に槍の刺し傷
[装備]:
[道具]:基本支給品(タブレット破壊)、ゴッド・ハンド・クラッシャー@遊戯王OCG(発動不可)、攻撃誘導アーマー@遊戯王OCG(発動不可)、デス・メテオ@遊☆戯☆王(発動不可)、虐待おじさんのデイパック(基本支給品、ランダム支給品0〜1)、ZECTバックル@仮面ライダーカブト
[思考・状況]基本方針:優勝して淫夢の歴史から自分の存在を抹消する
1:とりあえず今は逃げるっすね
2:淫夢ファミリーだけは絶対にこの手で殺す。特に野獣先輩、野獣死すべし
3:黒の剣士とI♥人類の男は次に出会ったら絶対殺してやるっすからね……
4:遊戯王カードはこの決闘で大事すね……
5:できれば他の優勝狙いの参加者と組みたいすね
6:かなり疲れたから休憩もしたいっすね
7:マサツグも、あのメスガキ共(メグ、コッコロ)も許さないっすからね
[備考]
※遊戯王カードの存在を知っていますが決闘者じゃないのでルールなどは詳しくありません
※本来の名前を思い出せません
※心意により憎しみなどの負の感情で身体能力と肉体硬度が上がり、その間は自動的に徐々に回復します

643 ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 08:09:07 ID:zp3bKBv.0
投下終了です

644激瀧神 『ポセイドン・スプラッシュ』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 14:42:13 ID:TY0Xnnho0
投下します

645激瀧神 『ポセイドン・スプラッシュ』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 14:44:12 ID:TY0Xnnho0
 身を翻しながらジャックは明石へとデュエルディスクを構える。
 先ほどルナが結局説得できなかったのもあり、。初対面の敵に身構えてしまう。

「貴様、何者だ! 俺の名を知るに、
 遊星か牛尾の仲間と判断したいが……遊星達から情報を抜き取った可能性もある!」

 相手はマイク一本。こんな場所でただのマイクなどあるはずもないのは分かってる。
 間違いなく武器であることなのは確かであり、警戒心は最大限に強めていく。
 しんのすけが変身したまま前に出て、後方でジャックと冥王がカードを引いて臨戦態勢に入る。

「……答えは前者になります。私は工作艦明石、
 此処では知人が誰もいないので伝わりませんが、
 艦娘と言う、人類を深海棲艦から制海権から奪還するために戦う存在です。
 遊星さんには助けられて、今プランドロールと言うチームを作って、
 仲間を募ってるところです。それでも疑うと言うのであれば、武器も捨てましょう。」

 自分が何をするべきかは変わらない。
 蛇王院には生きろと命じられた。死ぬことは許されない。
 いかようなことがあろうとも轟沈だけは許されないので、
 だから武器を捨てるとは言ってるがまだ不安は拭いきれず、
 不安も相まってガイアプレッシャーを逆にゆっくりと握りしめる。

「あのお姉さんは嘘はついてないと思う。」

「根拠はあるんだろうな? あの小娘みたいなのと同じなら地獄を見るぞ。」

「あんなに震えてる敵はいないと思う。」

 しんのすけが指摘するように、明石の足は小刻みに震えている。
 ルナのような凶悪な人間ならそうはならないだろうし、
 深淵の冥王の見解としてはそれでも最初の頃の自分の立ち回りのように、
 誰かを隠れ蓑に従ってる奴もいるだろうにと思っていたのだが、

「あ、それは足をジャンヌって人に斬られたからで別に……」

「ジャンヌだと!?」

「え、ええ。まさか、戦ったんですか!?」

 別にそんな深読みをする必要はなかった。
 ただ単に怪我が原因でこうなってるだけであり、
 ジャンヌの名前が出てくれば、話は変わってくる。
 もっとも、ジャックは別に彼女をさほど疑ってなかったのだが。
 遊星や牛尾に出会い、ルールの調整もされたデュエリスト相手に声をかける。
 もし敵ならばデッキが二つもある参加者を不意打ちできる好機を捨てる理由はない。
 確かに仮面ライダーであるしんのすけがいる以上、不意打ちに成功しても奪えるかは賭けだ。
 しかし、明石の背後は道がない水辺だ。道らしいものがないのにどこからやってきたのか。
 恐らくだが空を飛ぶと言った、逃げの手段を持ち合わせているのだろう(正確には水上を走れるのだが)。
 逃げの手段もあり不意打ちもしない。ならば、敵である可能性は限りなく低いのだと。

「なるほど……蛇王院と言ったか。随分豪快な男だな。」

 気質的にはジャックと似ているようだ。
 色を好むところは大分別ではあるようだが、
 豪胆な性格で他者を振り回す側に近しいものの、
 仲間想いであり、敵でなければ決して見捨てない熱い男だと。
 (ジャックの場合は、どちらかと言えば女は寄ってくるものなのだが)

「でもその後ジャックさん達が戦ってるのを見るに、蛇王院さんは逃げ切ったか、或いは……」

「悲観的だな、小娘よ。」

「……そういう世界で生きてましたから。
 勿論、生きてると願いたいところですが。」

 深海棲艦との戦いによる轟沈と言う名の艦娘における死。
 工作艦と言う立場は主戦場は鎮守府、或いは連合艦隊旗艦であることの多い彼女には、
 他者の死と言うものは戦場にいるがゆえに、人以上に身近に存在しているものになる。
 だからどうしてもプラス思考ではいられない。生きてることを願うことはすれども。
 今まで沈んでいった艦娘だってそうだ。沈んだと言っても、ひょっこり帰ってくるのでは。
 そんな風に毎日思いながらも、日々武器の開発に改修、艦娘の修理に務めている。

「信じる者は救われる、とまでは言わんが仲間ならせめて信じておけ。
 俺の仲間はどんな逆境でも諦めなかったぞ。こんな小さな子供でもな。」

 そういいながらジャックは手を下の方へ下ろし、件の人物の身長を示す。
 龍亞も龍可も、アポリアとの戦いで必死に戦っていた。一度は諦めかけた龍亞も、
 再起して勝利の道筋を見出すことができた勇気のある少年だったことは間違いない。

「……そうですね。ジャックさんの言う通りです。」

646激瀧神 『ポセイドン・スプラッシュ』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 14:47:21 ID:TY0Xnnho0
 艦娘にも駆逐艦や潜水艦を筆頭に小学生ぐらいの艦娘は沢山いる。
 電(いなづま)のような優しい子もいれば、潮のような臆病な子だっているが、
 だからと言って深海棲艦を前に諦めたり、心が折れたりせず抗い続けていた。
 特に直すことが工作艦の仕事だ。仲間の生還を信じて治療を続けるのも役割の一つ。
 ジャックに言われたからだけというわけではないが、改めて前を見据えることができた。

「それにしても、ジャンヌって人はそこまで日本人が嫌いなんですね……」

 日本人嫌いな理由は蛇王院から聞かされてはいたが、
 よもや戦闘を終えて程なくしてジャック達と戦って、
 乱入者を倒した後も殺しに来るという、徹底とした差別主義者。
 いくらなんでも過激すぎる行動力に、ジャンヌにつけられた足のケガが僅かに疼く。

「俺も差別されてた側だから理解はできるな。共感はせんが。」

「此処に未だに復讐を理解できぬ愚か者もいるがな。」

「それは個人の見解も含まれてるだろうが。」

「復讐したことがない貴様にも分かるまい。」

「恨まれることは慣れてたがな。」

「キングだからか?」

「キングだから……と言いたいが、鬼柳の件もあるからな。俺個人にもある。」

 じろりとしんのすけの方を、
 ジャックと小言を交わしつつも冥王が見やる。
 復讐と言うものは言うなれば己が先に進むためのもの。
 だからハ・デスと戦い続けた。死闘を繰り広げ続けてきた。
 故にルナの言うことは理解するし共感もする。受け入れはしないが。
 けれどやはり、しんのすけにはジャンヌのような差別もルナのような復讐も受け入れられない。
 格差社会についてはよく知っている。金有電気と春日部市の貧富の格差は分かりやすいものだ。
 でも殺すまではしなかった。復讐も同じだ。相手を殺してまで止めなければならないものなのかと。
 だが、その甘さがルナによって齎された結果が、遊馬の死と言うのは覆りようのない事実でもある。
 いつまでもうじうじと悩むのは自分らしくない。それでも。彼女を殺せるのかと問われると言い淀む。

「! この音は……Dホイールか?」

 キィーン、と言う余りに聞きなれた駆動音。
 忘れるわけがない。忘れていいはずがない。
 唯一Dホイールを知るジャックだけがその音が何か反応できる。
 まさか自分のと思ったが、あれだけ乗ってきたDホイールの音だ。
 今更別の乗り物だと聞き間違えることは決してない。

 岩陰から出てくるように正体を現すDホイール。
 出てきたのは緑を基調としたDホイールだが、普段使いのものとは違う。
 サイドカー付きだ。基本的にライディングデュエルはシングルデュエルだが、
 中にはタッグデュエルのもあり、恐らく本来の持ち主はタッグデュエルをしてたのだろう。
 そしてそれに乗る男と、背後から迫るように白き龍が追走してきており、
 一見敵に追われてるのかとカードに手を付けるジャックではあったが、
 Dホイールが四人を発見すると一時停止し、龍の方もすぐに消滅して横並びに立つ。
 いや、半数は肩を借りている状態で並んでるので、並ぶと呼ぶには少々違うだろうか。

 敗走。四人の様子を見ればそれは明らかなことだった。
 疲弊しきった男性陣、絶望とした表情をする少女(厳密には違うが)、
 足を痛めてるが気絶してる相方が肩を借りて動いていると言う、今しがた敗北したと言える姿だ。

「海馬瀬人か。こんな形で出会うとは思わなかったな。」

「俺を知っている……遊戯にでもあったか?」

「会ったのは事実だ。しかし俺の世界にも海馬コーポレーションは存在している。
 今のお前の姿を察するに、俺は貴様にとっての未来人と言ったところになるだろうな。」

「過去の男を追い求める俺が、未来人と邂逅とはな。
 だが悠長に話している暇はないぞ。貴様らに忠告だ。逃げる準備をしておけ。」

 バッティングセンターでの出来事を、まだ話せる状況にある海馬と橘が説明していく。
 名の知らぬ怪物である無惨の乱入、仮面ライダー二名とデュエリスト一名でも倒しきれず、
 一人の少女が犠牲となってこうして逃げおおせることができたと言う、敗北の顛末を。
 語れば語るほど海馬の眉間には皴が寄っていく。腹立たしいと言う感情は無惨とある意味同じだ。
 だが腹が立つのは自身についてた。ネオブルーアイズの攻撃力はオベリスクを超えた4500。
 それを蹴散らされてしまい、あまつさえ彼からすれば保護対象に近いリゼを死なせたと言う事実。
 自分の不甲斐なさに腹が立っており、その怒気は明石やしんのすけすらも感じるほどだ。

「事情は分かったが、俺様達は八人だ。この人数で迎え撃つ、というのは無謀なのか?」

647激瀧神 『ポセイドン・スプラッシュ』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 14:49:18 ID:TY0Xnnho0
「何だこの雑魚モンスターは……そういえば参加者にいたな。」

「な、なんだとぉ!?」

 一人異形の姿ともあって気になった海馬だが、
 一瞥すると同時に侮蔑の眼差しを向けられて憤る冥王。
 初対面の相手にいきなり雑魚モンスターと呼ばれる筋合いはないと思っていると、
 アプリを操作し、深淵の冥王のカードステータスを見せられてあんぐりとした顔になる。

「え、俺様の攻撃力低すぎ……ハ・デスが二倍以上差があるんだが。」

 わなわなと自分が降格処分で落ちぶれたステータスを見て震える冥王。
 別に海馬は役に立たないやつとは思ってない。デュエルディスクと此処まで生きている。
 それらを鑑みるに、デュエリストの腕は多少なりともあるようではあることは伺える。
 ただ彼は今苛ついており、話の邪魔になりそうな奴を黙らせるようにしただけに過ぎない。

「そうはいかねえ事情があんだよ……ハイパームテキガシャットがやべえ。」

 一番まずい状況だと知っている大我が意識を取り戻し、説明に入る。
 ハイパームテキガシャット。名前の通り、時間制限つきではあるのは分かったが、
 あらゆる攻撃を受け付けない、まさに無敵の防御力を誇る仮面ライダーになれてしまう。

「攻撃、効果を受け付けない上に仮面ライダーエグゼイドの最上位形態だと!?」

 カードの効果をほぼ受け付けない三極神を超える、正真正銘の無敵の存在。
 ただでさえジャンヌ、のび太、ルナと三連戦でレッド・デーモンズはやられている。
 生身の時点でネオブルーアイズを叩き伏せたならば、レッド・デーモンズではまるで歯が立たない。
 (因みにネオブルーアイズについてジャックは知らなかったのでアプリで確認した)
 その上で無敵状態。無茶苦茶にもほどがある。ゲームバランスの調整だと言っていたが、
 そんな支給品もではあるが、生身で4500の攻撃力すら超える怪物を用意など、
 虐殺されろと言われてるようなものではないかとジャックは驚嘆と共に憤りを隠せない。
 仮面ライダーについてはまだしんのすけが変身できる程度しか知らないので詳しくないが、
 最上位形態、要するにスカーレッド・ノヴァのような存在と思えばいいのだと判断している。
 そんなものが今追跡してきてる可能性があると言う事実。現状では対処のしようがないではないか。
 いつからバトルロワイアルは捕まったら死ぬ鬼ごっこが始まったのかと、疑念を持たざるを得ない。
 なんの偶然か、鬼の首魁なので言い得て妙であるが、そんなこと誰も思うものはいないのだが。

「このまま東か北に向かって逃げる。今は逃げて橘の足……つーか精神的にもやべえからな。」

「グッ……」

 リゼを守れず、ただ敗走するしかなかった。
 相手の力量が今までのアンデットをはるかに上回っていただとか、
 仕方なかった理由などいくらでも挙げられるが、理由など関係ない。
 また守れなかった。小夜子の時と同じように、またしても誰かを喪ってしまった。
 何よりもきついとするならば、誰もそれを責めてこないこの状況にあるだろうか。
 罵り言葉の一つや二つ浴びせられれば、返す言葉もないと言うことができるだろう。
 けれどあの場では戦えなかった百雲を除いて、リゼ含めて全力で戦った結果のものだ。
 彼を責める言葉などあるはずがなく、あるとするなら全員自分の不甲斐なさ、弱さに憤る。
 百雲は自分の無力さを、海馬や大我は自分の不甲斐なさについて責めるか憤っていく。
 それがよりきつく感じた。リゼを一番見ていた人間が、一番無力だったと言うこの事実が。

「あ、あの橘さん! 私の支給品で良ければ使ってください!」

 右足を痛めている橘の様子を見て、明石は支給品の中から赤い瓶を取り出す。
 エリクシールハーフと呼ばれるもので、ハーフである以上完全なエリクシールほどではないが、
 足の傷ぐらいならば十分に治せるはずだ。自分の傷も決して甘く見れるものではないものの、
 元より擬装なしの艦娘。戦闘力など頑丈さやら砲撃の反動に耐えるだけのパワーはあると言っても、
 余り期待できるものではない以上、戦闘に大きな支障が出るほどでもないので残して置いていたものだ。
 というより、ジャンヌやら遠巻きでもルナとかの戦闘を見た手前、自分の役割は戦闘ではなく、
 工作艦らしくこういった補助でサポートする、いつも通りの役割の方が自分らしくもある。

648激瀧神 『ポセイドン・スプラッシュ』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 14:50:34 ID:TY0Xnnho0
「だが君も足を怪我して……」

「私のは致命的ではありません。それに、仮面ライダーは身体が資本なのは、
 最初に葛葉ってあの仮面ライダーが教えてくれましたから。だから、これが必要なのは貴方です。」

 明石自身が仮面ライダーになる。そういう手段もあるだろうが、
 あくまで艦娘は耐久やパワーが常人より強いだけであり、戦いの基本は砲雷撃戦。
 徒手空拳に特別強いわけではない彼女がなっても、宝の持ち腐れになりかねない。
 だからそういう意味でも、彼に使わせる方が有意義なのだと判断している。
 これでも提督の資源確保のための店を開いてた身だ。その辺の判断は十分に培っている。

「……すまない。」

 明石からエリクシールハーフを受け取り、それを即座に飲み干す。
 無惨にやられた右足はみるみる痛みが引いていき、一人でも問題なく立つことができる。
 少なくとも、戦うと言う観点において支障を持つことがない程度には回復できた。
 精神的に立ち直れたとはいいがたいが、肉体的に回復したおかげで少しはましになっただろう。

「……」

 しかし一番の問題は百雲だろう。
 生きてはいる。呼吸もちゃんとしている。
 しかしその瞳からは光と言うものを喪っており、
 リゼの死がどれだけ彼にとっての絶望に繋がってるかは伺える。
 せめて戦えていればこうはならなかった。けれど海馬と違い何一つできなかった。
 足手まといにならなかっただけましだが、そんなもの何の慰めにもならないことだ。
 ウィッチクラフトの戦い方次第なら、ヴェールで怪物の妨害をできたかもしれないし、
 バイストリートとモンスターを並べることで、壁モンスターを用意することで時間を稼げた。
 海馬からも言われた。見るのは信頼したデッキの手札ではなく、戦うべき相手なのだと。
 しかし相手は速すぎた。柱が複数相手してようやく倒せる上限の壱、それを更に超えた鬼の首魁。
 海馬も責めはしない。自身ですらドローすることすら危険だったりしたあの状況下において、
 まだデュエル初心者の百雲に最適解な行動を求めろ、なんてことを言えるような立場でもない。
 行く手を遮る神をもなぎ倒していけ、そんな風に遊戯にいつか発破をかけたことはあるものの、
 神でもない化け物を薙ぎ払えなかった海馬はより自分自身に憤りが隠せないでいた。
 ジャックの言った、遊戯と会ったことを後回しに考えてしまうぐらいに。

「奴が迫ってる可能性が高い。情報交換は移動しながら行おう。」

 ハイパームテキは仮面ライダーのスペックでも異常なものだ。
 無論単純なスペックだけで物差しは測れないが、変身する相手が相手だ。
 とても悠長に立ち止まって会話などできないので、大我がDホイールをしまって、
 冥王が召喚した、騎士が列車を牽引するように駆けるモンスター、
 爆走軌道フライング・ペガサスを召喚し、全員が列車内に乗り込んで移動する。
 大人数で移動するのが容易で、道すらすべて無視できる。列車カードの特性の強みだろう。

『御機嫌ようプレイヤー諸君。まずはおめでとうと言わせてもらおう。』

 車内で情報を交換していると、
 嘲笑も混ざったような賞賛の声とともに、
 空に巨大なモニターが映り、参加者にとっては打倒すべき男が映る。
 多くのものは睨むように、そのモニターを見届けていた。

 禁止エリアについては移動のルートにはさして影響はない。
 あの怪物が跋扈していた寺については調べておきたくもあったが。
 禁止エリアとなっては最早行くことも叶わないものの、とりああえずは語っておく。
 ひょっとしたら、その禁止エリアには何か都合の悪いものでもあった可能性はある。
 もし首輪が解除できるようであるならば、目指す場所としての価値はあるだろう。

『ボーちゃん』
『桜田ネネ』

 檀黎斗よる放送が始まり、真っ先に反応をするのはしんのすけだ。
 過去のボーちゃんとネネちゃんだったのか、自分における現代の二人だったのか。
 どちらかは分からない。別にネネのことを軽視したりするつもりは一切ないのだが、
 発明家である未来のボーちゃんの助力は欲しかったものの、それは叶わなくなった。
 どちらの時代の彼/彼女かは定かではないにせよ、死亡してしまったのは心苦しいことだ。
 もし生還しても二人はいないか、タイムパラドックスで最初から存在しなかったことになるのか。
 昔からの繋がりのあった友人だが、悲しんでる暇はなく、今だけは泣くことはしないでおく。

 御伽龍児の名前は海馬にとっては遊戯にとっての友人程度であり、大した反応はしない。
 もっとも、その後も無力な参加者である人もいただろうに雑魚と嘲る彼に、
 精神的疲労を起こしてる百雲以外の全員が睨むようにモニターを見つめた。

649激瀧神 『ポセイドン・スプラッシュ』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 14:51:12 ID:TY0Xnnho0
『牛尾哲』

「……そうか。」

 ジャックが静かに呟く。
 セキュリティに務めていた男だ。
 最初こそ遊星、というよりサテライトの差別意識はあったようだが、
 いつしか差別意識をなくして、まっとうなセキュリティを務めていた男だ。
 此処でも推測でしかないが、誰かのために戦って死んでいったのだろう。
 思うところはあるにはあるが、死亡してしまったことには残念に思う。

『宝生…永夢ゥ!』

「……何だと?」

 席を立つことはなかったが、強く反応する大我。
 あいつが死ぬことになる。流石に想定していなかった。
 あの男をぶっ倒すのであれば、やはり彼と言うイメージがあったからだ。
 リゼがまだ呼ばれてないのを見るに、先に死んだ者が挙げられてるのだろう。
 ということは、相当早い段階で死んでいる。仮面ライダーに変身できなかったのか、
 自分達のように変身しても叶わなかったように、相手が強すぎたのか。
 どちらにせよ、あの男に対して因縁があるのは自分だけになってしまっている。
 自分の存在が別の意味でより重要になっており、慎重に立ち回らなければならなかった。
 (天津垓と言う存在を知らないので、そういうことになるのは仕方ないのだが)

『城之内克也』

「凡骨め、逝ったか。」

 此方も御伽同様さして……とは言うものの、
 一応闇マリクとの戦いでデュエリストとしては認めてはいた男だ。
 故に少しぐらいは悼んでおいてやろう、そんな風に彼は思う。
 自分の死が間近であったこと以外は奇しくも、もう一人の海馬と同じ反応でもある。

『うさぎ』

「グヌヌ……」

 のび太との戦いで、庇って散っていった謎のうさぎ。
 ジャックは何かを分かっていたようだが、冥王には終始奴が何を言っていたか分からなかった。
 だが圧倒的な力量差を前に勝利のためにのび太へと立ち向かい続けて、
 最終的に彼’(彼女?)の存在がジャックの逆転の一手を担ったのは事実。
 冥王としての威厳を、尊厳を取り戻した矢先に王が庇われて死なれては、
 何も文句が言えなくなってしまう。これは後に呼ばれるだろう遊馬も同じこと。
 王だと言うのに次々と勝手に味方が庇っていっては死んでいく。王として考えれば。
 臣下や部下と思えば分からなくはないが、彼らはただ此処でつるんでいるだけの間柄。
 そんな奴らに助けられ続けてる自分は、果たして冥王と呼べるのかと唸り続ける。
 特に、先ほど海馬に見せられた冥王のステータスの低さのショックも大きい。

『野比のび太』
『尾形百之助』

 尾形との間にあったことから、恐らくあの少年の名前なのだろうと察する。
 二人の王者は、今でもあの少年は最強の一角だと思えてならなかった。
 あれだけの策や強化が起きても、最終的には尾形と言う運があってこそだ。
 実に恐ろしい存在だった。早めに出会えて、倒せたのは行幸だったと思える。
 ただ一つの後悔があるとするならば、うさぎや尾形と言った犠牲者がでたことだが。
 ……尾形が単なる犠牲者ではないことに、欠片も気づくことはなく。

『天々座理世』

 四人の身体がピクリと反応する。
 最後まで無惨に抗い続け、皆が逃げる時間を残してくれた少女。
 海馬や大我にとっては守るべき対象に近しい少女であり、
 百雲にとっては同じく強くなろうとしていた友達であり、
 橘にとっては最初に出会って、一番短くない時間を過ごした弟子だ。
 そしてまたしても喪失したこの胸の痛み。忘れることはないだろう。
 放送の中にはしんのすけが気にかけたルナもいたものの、
 彼らは名前を知らないのでそれに気づくことはなかった。

 放送が終わり、どんよりとした空気が列車内に流れる。
 明石としては蛇王院も遊星も生きていることは喜ばしいが、
 此処にいるのは何人も仲間を喪って、今を生き延びてきた者達だ。
 言うなれば葬式、ないし通夜みたいな会場で『よかった』の一言でも呟いてしまえば、
 人ではない冥王ですら『空気が読めんのかこいつは』となっていたのは間違いない。
 だから表情には出さずに『よかった』と思うだけにとどめておく。

「四十人か……あの野郎。」

 大我が露骨に舌打ちしながら窓の景色を見やる。
 彼は曲がりなりにも医者だ。人の死の重さを人並み以上の理解はある。
 人同士(人かどうか怪しい化け物もそこにいるが)の争いで死んでいくのを、
 ただのゲームのように、娯楽のように愉しんでいるあの男はいくら殴ろうと許せないだろう。
 ……なお、すぐそばにDEATHーTと言う命懸けのゲームを実行した海馬がいたりするのだが、
 それを知ることはよほどのことがない限りないはず。あった場合はろくなことにならないだろう。

「あの、これ行先ってどこなんですか……?」

650激瀧神 『ポセイドン・スプラッシュ』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 14:51:40 ID:TY0Xnnho0
 気持ちの整理は未だついていないし、自責の念も酷いままだ。
 それでも、何かしなきゃと言う強迫観念が百雲を何とか行動に移してくれる。
 医者である大我からすれば、無理をしていていい傾向ではないと言うのは分かっているが、
 今は少しでも一人で身動き取れるように見守るのが、一番だと判断して何も言わないでおく。

「遊星さんと蛇王院さんが待ってる北東のD-4ですよ。
 九時ごろに湖に置かれた船で合流する予定で、その方角が良いかと。」

「……なるほど。明石の言う二人は名前を呼ばれなかった。
 となれば彼らの状態にもよるがかなりの参加者が集うはず。
 そうなれば首輪についても、目的についても話し合えると言うことか。」

 情報交換で得た内容から橘がその意図を口にする。
 ジャンヌが徘徊する可能性が高い移動ルートになるが、
 橘達が立ち向かった相手が陸路での移動となるなら、
 D-4にはD-2の橋を使わなければ大幅に距離が取れる。
 遊星達と合流できれば、倒せる算段も付く可能性は十分にあった。

「はい、そうなります。ジャックさんもご存じですが、
 遊星さんもメカに強いです。もう一人いれば……あ。」

「どうした小娘。」

「……首輪、持ってませんでした。」

 肝心なことを忘れてがくりと項垂れる明石。
 ジャックも尾形を埋葬、遊馬は行方不明の状態。
 のび太の首輪は残っていたのかどうかも分からない。
 リゼのは当然回収する暇なし。此処には誰も持ち合わせいない。
 遊星や蛇王院が持っていればいいのだがと願っているのだが、
 悲しいことに現時点で首輪を持っている参加者は全参加者含めほとんどいなかった。
 遊星は首輪を得る機会こそあったものの、共に戦ってきた仲間の首を刈り取る行為は、
 流石に抵抗はあるし、同行者となる結芽も城之内の首を、同じ親衛隊の御刀で斬るなんて行為、
 したいとは思わないし、だからといって達也の方だけを切り落とすのは贔屓が過ぎることだ。
 仲間と言うものが何かを知った彼女だからこそできないのもあり、首輪は未回収のままである。
 尾形も、遊馬の前で首を切り落とすなんてことできたものではないのだから仕方がないことだ。
 せっかく集まると言うのに、感情によって首輪なしとはどうかと思う明石ではあるものの、
 皆状況が状況だったのもある。ジャンヌ達の襲撃、ルナの襲撃、無惨の襲撃、
 いずれも首輪なんて回収する余力のないことばかりであったのだから。

「今は合流し、作戦を立てる。それが一番だろう。
 首輪は最悪、敵が放送により死体漁りで集めたのが狙い時だ。
 焦って自分の首輪が材料にされないよう気を付けるんだな。」

「あ、はい……その辺は分かってるつもりです。」

 冷酷ながらも至極まっとうな意見に明石は苦笑を浮かべつつ、
 それを即答で言ってのける海馬の言動に対して大我は目くじらを立てる。
 言ってることは正しい。どのみち首を切り落とさなければ首輪は手に入らない。
 ゲーム病みたいに肉体が消滅するとかでもなければ、首切りなしではまず不可能だ。
 それはそれとして、死者の冒涜ともいえる行為をにべもなく言ってのけたこの男に、
 少しばかりではあるが不快感や不信感と言ったものを感じてしまう。

「百雲。慰めるつもりなどないが、あれはどうしようもなかったと言っておこう。
 俺ですらてこずる相手だ。何もできなかったとしても、貴様を責めるものなどおるまい。」

 それって慰めなのでは……明石はそう思うも黙っておく。
 確かに事実だ。腕が圧倒的に上の海馬でもまるで役に立たなかった。
 殆ど仮面ライダーの二人やリゼが尽力を尽くしていたと言ってもいい。
 だからこそ海馬は怒りの形相が未だ崩れないのだが。

「……分かってはいます。でも……」

 人の命が喪われた状況において、はいそうです、そう言えるわけがなかった。
 気分転換と言えるほどでもないが、席を立って後方の列車へと向かいとぼとぼと歩き出す。
 他のメンバーも席を立っては窓を眺めたり黄昏たり、自身の体調を確認するなどで時間を過ごす。
 このままいけば少し早いが、何ら問題なく到着できるだろうが、冥王やジャックは油断しない。
 既に死亡したことを知らないが、ルナと言う空を飛べて、平然とモンスターを殴り倒す子供がいた。
 だから空中から来るであろう存在には特に警戒をしていたところ、

「み、皆さん!!」

651激瀧神 『ポセイドン・スプラッシュ』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 14:52:22 ID:TY0Xnnho0
 血相を変えて後方の列車から百雲が戻ってくる。
 今まで反応が薄かった相手がいきなり声を荒げており、
 全員が敵襲だと判断するのに時間がかからなかった。
 奴(無惨)が来たのかと全員戦闘の準備に入るが、

「あ、あの、最初に映った槍の人が、凄い速度で追ってきてます!!」

 それを聞いた瞬間、全員が戦慄した。
 縁壱と並んで、最初の放送で存在を知らしめた槍の男、ポセイドン。
 無惨と違って放送されたのは、さながら注意喚起のように呼ばれた存在だ。
 それが追ってきている。全員が落ち着いた状態で反応できるわけがなかった。
 まだ無惨が追ってきてると言ってくれた方がましだったと言いたくなるぐらいだ。

「全員聞け! 俺達は奴を此処で迎え撃つぞ!」

 ジャックが音頭を取るように立ち上がりながら叫ぶ。
 本来ならば海馬も此処で迎え撃つと言うつもりではあったが、
 自分の不甲斐なさに苛立ちを隠せないでいたため、一瞬ではあるが遅れて立ち上がる。

「何を言っているのだおぬしは! 相手は主催の刺客の一人、
 それに匹敵する扱いの奴だぞ! 逃げるのが常套手段ではないのか!!」

 いくら威厳を取り戻した冥王と言えども、あれは別だと思っている。
 あれに挑むにはまだ足りない。この人数、この戦力ですら挑むのは無謀だと。
 あと数人は確実に必須、特にデュエリストではなく仮面ライダーなど近接タイプが。
 いや、近接タイプがいたところでどうにかなるのか? という疑問すら湧いている。

「このまま逃げても追いつかれるだけだ。
 更に此処には首輪を何とかできる可能性のある明石、海馬がいる!
 ついでに向かう先には遊星も待っている! これだけのメンバーがいて、
 全滅すれば最悪俺達は仮に奴に勝てたとしても、檀黎斗に辿り着くなど不可能だ!」

 ただでさえ首輪解除に貢献できるメンバーが揃っているのだ。
 此処、或いは合流先で一網打尽にされれば最悪首輪が外せず詰みに入る。
 それだけは避けなければならない。此処で食い止める、いや倒さなければならない。
 あの男を放置すれば殺戮が広がる。そういう意味でも阻止しなければならないのは、
 仮面ライダーの力を持つ者達も、艦娘も、海馬も、冥王も仕方ないが理解していることだ。
 一瞬だけ躊躇いがあったのはしんのすけだが、彼はもう止めようがない存在である。
 できることなら殺したくないのが信条ではあるが、その結果が遊馬の死を招いた。
 きっと彼もまた止まらない。開始早々人を平然と無機質に殺しているあの冷たい顔。
 今まで出会ってきたどんな巨悪よりも強大だ。殺す以外の選択肢は出てこない。
 しんのすけも覚悟を決めるように両手で頬を叩き、二人は一斉に声を上げる。

≪変身!!≫

 変身の負担が大きい大我だけは変身するタイミングを考えて一時待機し、
 橘としんのすけは共に揃って違った変身方法でギャレンとオルタナティブ・ゼロに変身。
 天井を突き破り(冥王はこの列車が破壊されるか冷や冷やしたが)、そこから海馬、ジャックも出る。

「ええいこうなれば腹をくくるしかあるまい……!!」

 こんな場所で終わってたまるか。
 のび太の時は決め損ねたがジャガーノートとリミッター解除。
 あれが合わされば本来ならば最強の一角にすら手が届きうる存在だ。
 今の手札ではできないだろうが、それができれば十分逆転はあり得ると願いたい。

「貴様らも出るか着地に備えろ! フライング・ペガサスは、
 最悪俺様がエクシーズ素材に使うから逃げるなら明石に頼れ!」

 近くには水辺がある。
 最悪、百雲を抱えることで明石だけ離脱は可能だ。
 水辺であれば移動ルートのかく乱もしやすいので、
 最悪追跡を免れることは可能になるだろう。
 冥王は別に二人を気遣ってはいない。邪魔になる可能性の高い百雲と、
 ハ・デスに到達するためには首輪の解除要員は欲しい人材だからだ。
 冥王も出ていき、明石も席を立って百雲へと手を差し伸べる。

「百雲さん。どうしますか?」

「どうします、って……? ま、まさか戦えって……?」

「別に、無理強いはしません。
 冥王さんの言う通り、私と逃げる選択肢もあります。
 逃げたい、というのであれば私はそれを尊重し、百雲さんを連れて逃げます。
 私は逃げることについて否定しません。百雲さんはデュエリストみたいですが、
 だからと言って必ず戦わなければならない、責任を背負う必要はないんですよ。」

652激瀧神 『ポセイドン・スプラッシュ』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 14:52:41 ID:TY0Xnnho0
 明石はこの殺し合いにおいて生きなければならない。
 ジャックの言うように、首輪を何とかできる可能性のある一人だ。
 同じくメカに強い遊星が生きてるとしても、それが五体満足かは別になる。
 辛うじて一命をとりとめているが、腕が欠損してしまっている可能性もある。
 或いは乗った人物に捕虜や人質として捕えられている可能性も否定しきれない。
 冥王の言う通り悲観的だが、彼女は鎮守府に唯一無二となる工作艦の艦娘だ。
 悪い言い方だと自覚はしているが、元の世界に自分の替わりを務められるものがいない。
 装備改修、ショップの店員……ブラック労働めいてるが、彼女なくして成り立たないことが多い。
 だから自分は五体満足で生きなくてはならない。それだけは何よりも優先することになる。
 噂では轟沈してもいつかまた会えるみたいな話も聞くが、眉唾物で命を軽視できるわけもなく。
 此処でジャック達が負けるとは思いたくないが、最悪一人でも逃げる考えはあるつもりだ。
 だからと言って冷酷や冷徹と言うわけではない。明るく、フレンドリーなのが明石である。
 百雲が逃げたいと言うなら、世界は違えど人類を守るため、戦う彼女は手を差し伸べる。

『この程度で折れるような奴が本番で戦えると励ますつもりか貴様はッ!!』

 海馬はそう言っていた。そしてほんの少し前にそれを経験し、
 本番となる戦いにおいて召喚の一つすらこなすことができなかった。
 相手は無惨、鬼の首魁だ。海馬ならまだしも殺伐な世界にいない百雲では、
 何もできなかったとしても仕方ないことだ。だから海馬も何も言ってこなかった。
 もっとも、海馬の場合は自分の不甲斐なさの方が重要であったと言われてしまうと、
 否定できないのが彼と言う男ではあるのだが。

「僕は……」

653激瀧神 『デュアル・ランサー』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 14:56:20 ID:TY0Xnnho0
「遊星は武藤遊戯と肩を並べて戦ったようだが、
 まさか、俺はあの海馬瀬人と並んで戦うことになるとはな。
 此処が殺し合いの舞台でなければ遊戯同様、デュエルを申し込んでいたところだ。」

「貴様が何者かは知らんが、並のデュエリストではないのは理解できる。
 俺のブルーアイズに匹敵するモンスターを、そうも容易く並べるとはな。」

 双方のフィールドに存在するのはレッド・デーモンズ・ドラゴンと青眼の亜白龍。
 互いにエース級となるモンスターを並べて人間離れした速度で追走するポセイドンを見やる。
 彼にとって人間は等しく雑魚だ。だからどうでもいいものだと思っており、今も変わらない。
 しかし地縛神と戦ったシグナ―のドラゴン、三千年前のエジプトの神官の龍の亜種となれば話は別。
 特にレッド・デーモンズは冥界の王にまつわる存在。冥界(ヘルヘイム)の王であるハデスとは、
 世界は異なれど何かを感じ取ったのもあり、警戒などはしないが僅かばかりの関心はあった。
 なお、もう一人の世界線の海馬もまた光のピラミッドによって冥界の王に会ってたりするが、
 もう一方の彼は既に亡くなった身であり、この海馬ではないので栓なきことである。

「行けレッド・デーモンズ! 灼熱のクリムゾン・ヘル・フレア!!」

「行けブルーアイズ! 滅びのバーンストリーム!!」

 二体のドラゴンがブレスを放つ。
 ともに攻撃力3000だが、ジャックも海馬も油断は当然として慢心もしない。
 聖騎士や少女がレッド・デーモンズと渡り合い、鬼の首魁がネオブルーアイズを葬った。
 そしてその考えは現実のものとなり、双方の龍が螺旋の如く互いの攻撃を混ざり合い、
 襲い掛かるそれを、ポセイドンは三叉槍を構え突撃するだけで、モーゼが海を割ったように、
 或いは兄の掠るだけで即死と謳われる刺突を模したかのように二対の龍の一撃を両断しながら迫る。
 狙うはレッド・デーモンズの使用者のジャック。先も述べたがシグナーのドラゴンだからという、
 そんな理由で警戒に値するなど欠片もない。神とは原初の時点で完璧な存在と言う考えがある彼に、
 惑うことなど一切ない。ただ道が右か左かに分かれている道を、気まぐれで左を選んだだけだ。
 彼が連続して遊星、牛尾のデュエルディスクで類似したものを見かけてきたから……という、
 もしもなんとかして理由付けをするのなら、本当にそんな程度のものでしかない。
 食らえばまず即死。ジャックのデッキはライディングデュエルが主流なせいもあり、
 魔法カードの採用は乏しく、スタンティングデュエルも罠による駆け引きの方が多い傾向がある。
 海馬のデッキもパワータイプのデッキであり、この場で彼を守るカードを引けてはいない。
 冥王も後方で何やら準備をしているようだが、この状況での支援は望めないだろう。
 仮面ライダーの二人でもわかる。あんなの防御に回った時点で装甲ごと貫かれる。
 また、攻撃を割いて突き進んでいるせいで横槍を入れる行為ができないのも痛い。
 今ジャックにできることがあるならば、超過ダメージでどれだけ意識を保てるか、
 あるいは神がかったタイミングでライダーである二人が攻撃を決めるぐらいだ。
 そんなシビアなものに頼れるほど、ポセイドンと言う存在は甘いものではない。

「ヴェール、守って!!」

 此処に、もう一人のデュエリストが参戦しなければの話である。
 結晶をバリアのように展開し、ポセイドンの一撃をその場で留める青髪の少女。
 このモンスターと声はまさかと、海馬が先に振り返って後方を見やる。
 そこにはデュエルディスクを構え続ける百雲の姿があった。





「僕は……」

 逃げるべきか、戦うべきか。
 逃げたい。殺し合いからも、何もかも逃げ出してしまいたい。

「戦い、たいです。」

654激瀧神 『デュアル・ランサー』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 14:57:20 ID:TY0Xnnho0
 彼自身何を言ってるか分かってるのかと問いたくなる言葉だ。
 あの時何もできなかった自分に、今度はボロボロの姿ではあるけれど、
 だからと言って全員が警戒を最大限に引き上げるレベルの存在を相手にする。
 それがどれだけの無謀か、蛮勇か、無茶か。それは百雲は百も承知のことだ。
 でも、逃げて、逃げて、逃げて。その果ては何処に行き着くのか分からない。
 仮に生還したとしよう。逃げ続けた自分の下には一体いくつの死体が置かれている?
 リゼ、橘、大我、海馬、ジャック、冥王、明石、他にももっと多くの存在の上に成り立つ。
 逃げ続けて得た平和に、まっとうな生き方なんてできるわけがない。きっと一生後悔し続ける。
 一生見捨てたことを、逃げ続けたことを後悔する。自分が男であることから逃げ続けた時以上に。

『フン! 戦う理由や信念ならどんな弱小な奴にも存在する!
 此処であればそこの二人にも、当然貴様ら二人にもある話だ。
 重要なのはあるかどうかではない。それに押し潰されるか、守り抜けるかだけだ。
 貴様らにはそれがあるのか、今一度、貴様ら自身に問いかけてみることだな。』

 海馬からの激励を思い出す。
 戦う理由や信念を守り抜いて戦うか、ただ押し潰されて逃げるのか。
 あの時決めたことだ。デッキを信じて必死に海馬に食らいつこうとした。
 後悔したくない。もう、リゼのような犠牲者を出したくない。その心に嘘はつきたくはなかった。

「……分かりました。百雲さんは私が守ります! だから思いっきり───皆を守りましょう!」

 それが、百雲が選んだ答えである。
 同時に、明石が選んだ答えでもあった。
 明石が壁モンスターのようにガイアプレッシャーを構え、
 その後方には百雲がデュエルディスクを構えた状態で立つ。
 足は震えている。もし海馬が経験するはずだった次元領域デュエルであれば、
 精神力で攻撃力が下がるためあっという間にモンスターの攻撃力が下がるだろう。
 それでも立ち向かう。知らないが神と言う途方もない存在に、彼も戦う覚悟を決めた。
 デュエルファンタジーで培った素早い立ち回りは、デュエルモンスターズでも発揮される。
 海馬たちがモンスターを召喚している中、バイストリート、ヴェールの布陣を即座に用意。
 これでヴェールは戦闘で破壊されないし、ダメージも受けることなく済む───

「百雲! ヴェールの効果で守備力を……」

「え───グッ、アアアアアッ!?」

 海馬からの指示を受けるも間に合わない。
 最初は一体何が? 百雲が思った瞬間、全身に激痛が走りだし悲鳴を上げる。
 何故こんな激痛を受けてるか。百雲は理解することができず困惑していた。

「そうか! 槍ならば……貫通ダメージを受けたのか!」

 海馬が先に気づいたことに、ジャックも行き着く。
 ジャックとの情報交換の際、ジャンヌは風霊石の力でスカーレッド・コクーンを破壊した。
 それを見てから『特定の攻撃方法や手段は特定のカード効果を反映される』可能性があると。
 だから海馬は先に気づいた。M&Wにおいてかなりオーソドックスな効果『貫通効果』に。
 デュエルモンスターズ及びM&Wは守備表示なら、基本戦闘でダメージを受けないが、貫通効果は別。
 そしてそれらのカードの多くは、角、槍、隕石のモンスターや魔法カードに関係することが多い。
 デュアル・ランサー、ランサー・ドラゴニュート、スピア・ドラゴン……槍だけでもキリがない。
 特に海馬の場合、スピア・ドラゴンを使用していたのもあり、ジャック以上に気づくのが早かった。

「おい大丈夫か!!」

 唯一戦闘への参加するタイミングを見極める都合、
 後方で様子を伺っていた大我と側にいた明石が様子を見る。
 肉体的な損傷は見受けられないものの、ジャックが口にしたダメージを受けたことは明白だ。
 息はしてるし、意識もまだ保っている。ポセイドンがダメージを蓄積し、対照的に百雲は無傷。
 それとヴェールの守備力は2800と高水準な方と言ったりと、様々な要因があったおかげで、
 一般人であるはずの百雲は意識を辛うじて保てているが、次またダメージを受ければ、
 確実に意識が飛ぶか、最悪激痛によってショック死しかねない。

655激瀧神 『デュアル・ランサー』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 14:58:13 ID:TY0Xnnho0
(檀黎斗め、デュエルモンスターズをこうまで戦いに再現するとは。
 その手腕だけは認めざるを得ないのが忌々しい……!)

 風の力は罠を破壊する
 銃の力は手札を撃ち落とす。
 槍の力は貫通効果を付与する。
 その者が使う異能や特殊能力はモンスター効果扱い。
 故に無効にされれば消滅するか、使用不可能になる。
 海馬も知らぬところでも起きている、カード効果の再現。
 よくカードのことを理解してるか、カードのことを理解する誰かが主催にいるのか。
 何方にせよそれを現実に持ち込んでいる。ゲームを現実世界に落とし込んだりと、
 大我から聞いた通りその手腕は認めざるを得ないと言うところが、
 一ゲームクリエイターとしてはより腹が立つ要素でもあったりする。
 ヴェールによって防がれた即死の一撃、デュエリストも仮面ライダーも無駄にはしない。
 ジャック達デュエリストは各々のカードの発動の為罠のセットを、

『FINAL VENT』

 我先にと攻撃を仕掛けるのはオルタナティブ・ゼロに変身したしんのすけの攻撃。
 ジャンヌやルナとの戦いはついぞカードを使って戦うことはほぼしなかったので、
 今回が事実上の仮面ライダー(厳密には疑似ライダーだが)としての初戦闘になる。
 サイコローグが変形しバイクになり、それに搭乗しながらフライング・ペガサスの上を駆け抜け、
 道中で旋回し、独楽のように高速回転しながら攻撃するデッドエンドを以ってポセイドンへと迫る。
 ファイナルベント、つまるところ大技を使うことで一気に勝負を決めに行く。
 というより、アレを相手に生半可な攻撃は一切通じないのは分かっている。
 金有増三が作った家電ロボXも、ボーちゃんが作ったボーちゃん28号も、
 彼からすればまず五十歩百歩のようなガラクタにすぎないのだろうと思える。
 事実、ポセイドンは一瞥することすらなくその三叉槍を薙ぎ払うように振るえば、
 荒波にでも飲み込まれたかのように速度が一気に落ちて格好の的になってしまう。
 隙を埋めるように橘がジャンプと同時にポセイドンへ醒銃ギャレンラウザーからエネルギー弾を放つ。
 此方も一瞥することすらせずに全てを槍で弾かれる。

「全員着地に備えろ!」

 冥王からの宣告。
 つまりフライング・ペガサスが消えると言うこと。
 生身の人間とその状態のままである二人は明石が抱え、
 後のメンバーは各々が一足先に列車から飛び降りて地面に着地していく。
 それとほぼ同時に、上空に渦が巻き起こりそこにフライング・ペガサスと、
 別のモンスターが光の珠となって吸い込まれていく。

「自身の効果でレベル10となった爆走軌道フライング・ペガサスと、
 弾丸特急バレット・ライナーでオーバーレイ! エクシーズ召喚!
 これが貴様を屠る一撃よ! 超弩級砲塔列車グスタフ・マックスの降臨だ!!」

 冥王が使用していたモンスター同様に、
 自動的にレールをその場に生成しながら彼方より現れる機械と言う名のモンスター。
 変形を重ね、文字通り超弩級の砲塔を伸ばしていき、ブルーアイズとレッドデーモンズ、
 十分に巨大であるドラゴンが二体並んでいても、その存在感は失われてない程の壮観な姿だ。

           ・・
「さあ食らうがいいこの冥王の一撃を!! グスタフ・マックスの効果発動!
 オーバーレイ・ユニットを一つ使い、貴様に2000のダメージを与えてくれるわぁ!!」

 砲塔に光が収束しビームとも言える砲撃、ビッグ・キャノンが放たれる。
 仲間と違いポセイドンは着地に備えておらず、空中から不意の着地をさせられた。
 直撃はあの強さから難しい。しかし爆風だけでも十分なダメージが期待できるはずだ。
 ポセイドンは永夢により多大な体力の消耗をしている。いくら牛尾達、鋼牙達、月と、
 彼からすれば雑魚に過ぎない存在でもほぼぶっ続けで戦い続けている以上は疲労はしていく。

656激瀧神 『デュアル・ランサー』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 14:58:54 ID:TY0Xnnho0
 それを冥王たちが知ることはないものの、受ければまず無事では済まされないだろう一撃。




















 そんな単純な戦術、通用していれば誰も苦労はしないのだ。
 三叉槍を高速で連続突きを放つ、怒れる波濤(アムピトリテ)を放ちながらの前進。
 ただの前進ではない。文字通りの波濤の勢いでビッグキャノンを蹴散らしながらの前進だ。
 先の刺突の比にならない速度で突っ切り、グスタフ・マックスの効果を一切その身に受けることなく、
 そのままグスタフ・マックスへと到達。無数の刺突によ5い砲塔に亀裂が一気に広がっていき、
 爆発する。

「グオオオオオオオオオオッ!!」

 超過ダメージと爆風。双方合わせたダメージを受け、
 吹き飛びながら激痛を味わっていたところを即座に止められた。
 ポセイドンにその腹を潰さんと言わんばかりの凄まじい足踏みにより、
 冥王は地面に釘付けにされた状態と共に骨がベキベキとへし折れる嫌な音が耳に届く。

「ガ、ハッ……!!」

 超過ダメージも合わされば、生身の人間だったらまず意識を失っていただろう。
 それに耐えれたのはモンスターであり、冥王としての威厳があったからこそのガッツかもしれない。

「貴様も兄上を騙るか……雑魚(ボウフラ)が。」

 本来あるべき戦いにおいても、ポセイドンは佐々木小次郎と戦いが始まっても動かなかった。
 警戒や後の先を狙ったものではない。『何故神自ら人間如きに歩まねばならぬのか』だからだ。
 そんな彼が何故雑魚相手に此処まで執拗な攻撃をしているのか。アレス達神々が観戦していれば、
 さぞ驚くであろうその行動の理由は一つだけ。冥界(ヘルヘイム)の王はただ一人、兄のハデスのみ。
 断じて主催の一人のハ・デスでもなく、ましてやこのような醜悪なものを冥王など名乗らせるなど。
 最恐神と神々にも恐れられるほど他者に無関心な彼が、数少ない敬愛を抱いているのがハデスである。
 どれ程の敬愛かと言えば、愚劣な兄であるアダマスを殺そうと思えば塵も残さず完全に殺せたのを、
 あんな奴でも兄上が哀しむからという理由一つで、ベルゼブブの手で復活できる程度には手加減した。
 彼にとってハデスとは、ある意味神のあるべき姿を、嘗てのギガントマキアで体現したと言ってもいい。
 神は群れず、神は謀らず、神は頼らず。冥界から脱獄したティターン達を一人で食い止めたのだから。
 こんな醜悪な、神々どころかそれらの配下や従者はおろか、ティターンにも劣るような存在を、
 冥界の王などと騙らせることは、ハ・デスが主催だった時と同様で、ヘイトが凄まじく高かった。

「兄上、だと? 貴様何の話をして……」

『SLASH VENT』

『FIRE UPPER』

 背後からギャレンの炎を纏った拳のファイアーアッパーと、
 オルタナティブ・ゼロのサイコローグの腕を模した剣、スラッシュダガーの斬撃。
 どちらであっても深海の神には到達しない。冥王を睨んだまま三叉槍でどちらも容易に防ぐ。

「罠発動、デモンズ・ゴーレム!!」

 このままでは十中八九、三人が一瞬で殺される。
 即座に判断したジャックはのび太の戦いのとき同様に、
 一時しのぎとしてポセイドンを一旦除外する形で難を逃れる。
 そしてのび太の時同様に時間に猶予ができたので冥王と百雲を明石が運びつつ、
 一度ポセイドンがいた場所から距離を取るようにして状況をリセットしておく。

「あの、知ったところで多分意味ないと思いますが!
 あの人、多分ポセイドンって名前なんじゃないかなって思います!」

 明石はそこまで歴史、
 とりわけ神話に詳しくはないし、なんとなく文献で齧った程度だ。
 ただ艦隊の勝利を願って神頼みとして海の神に祈ったことは何度もある。
 日本の艦娘ならばまず海神(わたつみ)ではと思われるところもあるが、
 艦娘のいる世界では嘗ての戦争とは違い一つの鎮守府に各国の艦娘が集っている
 ドイツのビスマルク、ロシアのガングート、アメリカのアイオワ等様々だ。
 だから色んな国における海の神でもなんでもいいので神頼みすることだってあった。
 まあ、と言ってもせめて神に頼むなら名前ぐらいは知っておいてもいいんじゃないか、
 言うなればその程度であり、ギリシャの神に冥界の王を兄を持つ者がいたとふと思い出した。

「ポセイドン、か……納得ができてしまうな。」

657激瀧神 『デュアル・ランサー』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 14:59:28 ID:TY0Xnnho0
「本物の神を参加者にして自分を神と名乗るあいつに箔がつくってことかよ……あの野郎!」

 名簿で見た時は野獣先輩等のような名前じゃない参加者を筆頭に、
 ハンドルネームやコードネームのような類が多く、ポセイドンもそうだと思った。
 しかし、波濤のような勢いの攻撃やトライデント、強さが本物の神ならば合点がいくとも感じ取れた。
 名前を借りた存在ではない。槍一本でも人数差やモンスターを気にせず放送されたり扱いが違うのは、
 あれが神だと言われてしまえば納得してしまう。神のカードを持っていた海馬は特に深く理解する。
 たかだか300ポイントしか強化しない装備魔法のポセイドンの力とは次元が違いすぎる存在だ。

「と、とりあえず私が百雲さんのデッキを借りて……」

 百雲はがんばった方ではある。
 しかし今の状態で下手にヘイトを買えば、
 最悪死ぬ可能性だってありうる状況でもある。
 怪我が軽傷である明石がデッキを引き継ごうとするが、海馬がその手を掴む。

「ウィッチクラフトはデュエル初心者の貴様に扱える代物ではない。
 別のカードゲームで手慣れた百雲ですらテキストを勘違いするほどだ。
 それに明石、貴様はジャックが言ったように首輪解除に必要な人材になる。
 貴様は最悪逃げることを想定して動くのが定石だ。」

「それを言うならテメエもだろうが。
 デュエルディスクの開発者なら機械も大概強いだろうが。」

「俺は死ぬつもりなど毛頭ないからな。」

「どこから来るんですか、その余裕……」

「神など何度も目撃している。今更本物の神に怖気づく程でもない。」

 オベリスク、ラー、オシリス。
 これでもかと言うぐらい神の力を知っている。
 コピーカードを使った場合もろくなことにならないし、
 バトルシティの中継である液晶が破壊されるほど外部への影響力を持つ。
 映像越しですらその影響力だ。神の力の強さを一時は所持者であった海馬にとって、
 別に今更神だからあーだーこーだと喚くような事柄でもなかった。

「そんなことはどうでもいい。百雲と冥王、そして大我は戦える状況か?」

「どっちもきついだろうな。
 百雲は貫通ダメージだったか。死にはしてないが立つこともままならねえ。
 腕も折れてるわけじゃあないが、カードを握ってるだけで限界に近いみたいだ。
 冥王の方は確実に骨は数本は折れてるな……あんまり期待はしない方がいいぜこれは。
 俺は変身できるが、リスクが大きい。タイミングを見誤ったら無駄死にになりかねねえ。」

「喋ることができれば、
 カーリーのように二人三脚の形でデュエルできるが……仕方がない。
 百雲はデュエルも戦争も何もない平和な世界の住人だ。無理強いはできまい。」

「槍をなんとか破壊できないんですか?」

「破壊、と言っても仮面ライダー二人であの結果だったぞ。」

 神の用いる武器なのだろう。
 並の仮面ライダーとは言え攻撃を同時に受けても、
 傷跡一つすらつかないのであれば尋常じゃない業物なのだろう。
 神の加護とか、そういうので守られてると言ってもいいかもしれない。

「カード効果で。破壊できるか試すか……エクシーズ・リボーン発動……」

「冥王、貴様動けるのか!?」

 ヨロヨロと、覚束ない状態で立ち上がる冥王を全員が見やる。
 口の端からは血が流れ、息も荒く、冥王と呼ぶには不格好な状態だ。
 それでもなんとか手を動かし、墓地のエクシーズモンスターを復活させ、
 そのままエクシーズ・リボーンをオーバーレイ・ユニットにするカードを使う。

658激瀧神 『デュアル・ランサー』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 15:00:12 ID:TY0Xnnho0
「俺様の罠には……永続罠である掃射特攻、
 オーバーレイ・ユニットを使って、その数だけカードを破壊できる罠がある。」

 グスタフ・マックスのダメージは今のままでは期待できない。
 となれば別の使い道を見出すのが定石ではあるのだが。

「その程度で活路が見いだせるならば誰も苦労はせんぞ。所詮は下級モンスターの浅知恵か。」

「浅知恵か……所詮は俺様のは囮よ。派手にぶっぱなして、
 その隙を狙って何かしらをすればいい。ジャックよ……まだ、あるのだろう?
 たかだか二枚のカードを生み出した程度で、王者の進化はその程度で満足か?」

 百雲は戦闘不能に近く、まともにカードが引ける状態ではない。
 海馬の手札は正直あるカードが引けなければほぼ事故に等しい状態。
 冥王の手札もほぼ使い切っていて後は防衛ぐらいの状態だ。
 デモンズ・チェーンはあれどあくまでモンスター効果を無効にするだけだ。
 のび太同様ただのフィジカルで突破される可能性の高いものであるし、
 何より槍の耐性そのものには影響がない。他の伏せている罠もロストスター・ディセント。
 現状では突破はまず不可能だろう。だったらどうするべきか。

「まだみぬ可能性を見つけろということだな……やってやろうではないか。
 『満足』できないなどと言うのは久しいものだな……俺のターン!!」

 ジャックが高らかに叫びながらカードを引く。
 百雲以外の者達もカードを引き、このエンドフェイズ時に、
 デモンズ・ゴーレムの効果で戻ってくるポセイドンへと備えに入る。

「見せてやろう冥王。貴様が不屈の闘志を見せているように、
 このジャック・アトラスも、さらなる可能性を見出してくれるわ!」





 刻限が過ぎ、ポセイドンは再び舞台へと戻る。
 敵の盤面はさほど変わっているものではなかった。
 立ちはだかるのは仮面ライダー二名、デュエリスト三名。
 基本構成は変わってないが、唯一変わってるものがあった。
 レッド・デーモンズ・ドラゴンは禍々しい赤黒い姿へと変わり、
 両腕には斧のような刃が露出しており、断頭の処刑人を髣髴とさせる。
 琰魔竜レッド・デーモン・アビス。ジャックがレッド・デーモンズを媒介とし、
 心意システムのお陰でさらなるレッド・デーモンズの系譜を呼び寄せることに成功した。
 しかし攻撃力は3200。/バスターよりも低いモンスターではポセイドン相手には役者不足。
 ポセイドンからすれば五十歩百歩、雑魚以外の何者でもなく、迷うことなく冥王へと向かう。
 これ以上兄と同じ肩書きを騙る雑魚を野放しにすることなど、感化できるわけがなかった。

「永続罠、発動……掃射特攻!
 機械族エクシーズモンスターのオーバーレイ・ユニットを使い、
 その数だけカードを破壊する……貴様の槍を粉々に粉砕してくれるわぁ!!」

 先のビームとは違う、グスタフ・マックスによる文字通りの砲撃。
 轟音を轟かせ、放たれた一撃はポセイドン、と言うよりは三叉槍にめがけて飛来する。
 それを避けることも逃げることもせず、刺突一本で立ち向かう姿は無謀だろうが、
 相手が神であれば、この程度で驚かされることはなく、槍と砲撃が直撃し爆発を超す。
 あんなものを食らえば普通にミンチになってそうなものではあるが、再び怒れる波濤を繰り出し、
 爆風をも弾くような波の如き攻撃を、槍一本で成し遂げてしまう。

「やはりカード効果で言えば破壊耐性があるとみていいな……ならばジャック!」

「分かっている! 俺はレッド・デーモン・アビスの効果発動!
 ポセイドン! 貴様の槍を対象にして発動する!」

 レッド・デーモン・アビスから放たれる黒炎のブレス。
 続けざまの波状攻撃、なんてことを彼は考えることはない。
 所詮は人間の浅知恵だ。考える必要性などなく、ただ防ぐのみ。
 しかし、その違和感に気づいたのは、その攻撃を槍で受け止めた時だ。
 此処で初めて、この場においてポセイドンの表情が変わったように見えた。
 黒ずんでいる。深海のように青と黒で構成された色合いは、真っ黒に染まっている。
 今までの戦いでこのような事態はなかった。ギガントマキアでも、この舞台においても。
 そう。彼は人間に興味がなさすぎる。最初から完璧な存在である神と言う存在を疑わない故に、
 人間を侮っているがゆえに知る興味すらない、当然、デュエルモンスターズの理解など皆無だ。

「速攻魔法究極融合発動!
 手札のブルーアイズ、そしてフィールドのブルーアイズ扱いのオルタナティブを融合!
 融合召喚! ブルーアイズよ! 未知なる壁を突き進め! 降臨するがいい、融合召喚!
 青眼の究極亜竜 (ブルーアイズ・オルタナティブ・アルティメット・ドラゴン)!!」

659激瀧神 『デュアル・ランサー』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 15:00:43 ID:TY0Xnnho0
 究極の名の通り、ブルーアイズにとっての一つの到達点となるモンスター。
 三つ首のブルーアイズだが、百雲の時と違い鱗や刺々しさが目立ち、ドラゴンではあるものの、
 怪獣や怪物と言っても差し支えないようなおどろおどろしさを感じさせるモンスターが降臨する。
 だが海馬がこのモンスターを出すことにはさほど意味はない。重要なのは別の部分にある。

「究極融合のさらなる効果! この効果でフィールドの青眼の白龍を素材にした数だけ、
 相手フィールドのカードを破壊する! 亜白龍はフィールド・墓地において青眼の白龍として扱う!
 当然この効果は適用される! よって、この対象は貴様の持つ槍を粉砕してくれる!」

 三つ首となったブルーアイズの一体の口から放たれる光線。
 馬鹿の一つ覚え。人間の浅知恵程度で神など倒せるはずもない。
 トールやゼウスに立ち向かった呂布も、アダムも等しく同じだ。
 奮闘したとか侮れないとか、そんな感情は一切出てくることはない。





 その油断が。
 その慢心が。
 それこそがポセイドンの最大の弱点である。

 パキリ、と耳障りな音が響いた。
 珍しく、ポセイドンの表情が再び変わった。
 ありえない。神器や神器錬成であるならばまだしも、
 たかだか龍程度の攻撃で損壊するような得物ではないはず。
 その考えとは裏腹に、三叉槍は折れた。先端が今宙を舞っている。
 神器がたかだか雑魚に従っている魔物や生物程度に破壊されるわけがない。
 だというのに破壊されている。ろくに感情も表情も波紋なき水面の如く揺れない神が、
 一番揺れ動いたのはこの瞬間だろうか。

 何故、三叉槍を破壊することができたのか。
 レッド・デーモン・アビスの効果はカードを一枚対象にし、
 そのカードの効果をエンドフェイズまで無効にすることができる。
 ポセイドンの槍をまっとうに破壊することができないことは全員予想済みだ。
 その確認のために冥王の掃射特攻で破壊を試みたが、全くの無傷に終わった。
 融合武器ムラサメブレードを遥かに超える強固な耐性を保持していることが伺える。
 行動がカード効果のように影響するのであれば、その逆、物理現象に対してカードも影響を起こす。
 その考えに行き着いたジャック達はアビスで槍にあると感じた耐性を無力化させることで、
 槍が折れるかどうかの賭けに出たが、その効果は現実のものとなり、ついに神の得物を破壊する。

 無論、この程度で終わるようならばポセイドンは最恐神と恐れられることはないだろう。
 折れて宙を舞う槍の穂先をまだ辛うじて持てる部分を掴もうと柄を捨て手を伸ばす。
 だがそれも橘が走りながらギャレンラウザーの光弾がポセイドンの次の一手を妨害し、
 得物となる槍の穂先を弾いて、ポセイドンからかなり離れた後方へと穂先が地面へと突き刺さった。
 取りに行くことができる距離と言えば距離であるものの、その間完全に無防備な状態となる。
 既に動いていたしんのすけが再びファイナルベントで肉薄しながら攻勢に出て一気に決めに行く。



 此処までの連携を短時間で組み立てるのは苦労を要した。
 何せ心意システムで突然生み出したカードの効果を使うことで、
 ようやく作戦が成立する状況へと持ち込んだのだから当然である。
 最初の計画では掃射特攻や究極融合の追加効果で槍を手放すように仕向ける、
 そんな程度の計画だったのを破壊するに至らせたのはカード効果の無効。
 現実に対してカード効果の適用と言う、遊星が大尉の支給品を破壊したように、
 カード効果で現実のものに対して、影響を与える形での突破口を見出すことができた。

 しかし。
 相手はポセイドンであった。

「……」

 折れた槍を見て、ポセイドンは憤る。
 雑魚如きに自分の槍が破壊されてしまったこと。
 ポセイドンからすればドラゴンやら魔法やらなど関係ないことだ。
 ただの人間如きに、自分の槍が破壊され『アレ』を使うことになると言うこと。
 すべての憤りはそこだ。あの男は、檀黎斗とハ・デスは何処までも神を侮辱するのだろうか。
 神である自分だけでなく、ギリシャ兄弟の長兄である、ハデスの尊厳すらも侮辱してくる。
 いや、誰かの手に渡っていればそれ以上の怒りだっただけに、あるだけまだましと言えるか。
 などと思う精神の余裕はない。焦りとか不安ではなく、純粋な怒りだけがそこにあった。
 ポセイドンは槍が折れたと同時に取り出す。支給された最後の支給品である『一叉の槍』を。

660激瀧神 『王者の調和』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 15:02:29 ID:TY0Xnnho0
 そしてその槍が、しんのすけの腹部を高速で貫いた。
 まさに神の御業。デッドエンドで回転するしんのすけの攻撃を、
 ピンポイントに避けながら的確に攻撃を決めるなど普通は不可能だ。
 だから海馬もカードの発動が間に合わない程の動きとなっている。
 サイコローグが変形したバイクは運転手を失いあらぬ方向へと転がっていき、
 槍に腹部を突き刺され宙ぶらりんになったしんのすけが全員の絶望を誘う。
 仮面越しに吐血するしんのすけ。決して無傷ではいられないダメージだ。

「小童!?」

「もう一本槍を持っていやがったのか……!
 しかも、さっきと同格の業物と見た方がいい!」

 それは、神が最も信頼する神。
 同時に、冥界の王として畏怖される神。
 ポセイドンに支給されたのは───ハデスの一又槍(バイデント)。
 ギリシャ神界のゼウス、ポセイドン、アダマスの兄であり、長兄として敬愛したハデスの槍を、
 殺し合いの一道具として、自分に支給してくるその所業は最早アダマスを殺すレベルでは済まさない。
 復活すらできぬように塵一つとして残さず殺す。神を騙る連中も、兄を騙る雑魚も、何もかもだ。
 本来ならば、この槍を使おうとは思わなかった。神である自分が兄の槍を頼る行為は、
 神は頼らぬという彼の信条に反するがゆえに、使おうとは欠片すら考えなかった。
 しかし得物は失った。それで人間に負けることこそ神にはあってはならないことだと。
 此処で雑魚に負け、兄上の槍を人間の手に渡す? それこそポセイドンが許さないだろう。

『PAUSE』

 咄嗟に駆けだしながらクロノスに変身し、
 時を止めてこのまま脇腹がえぐり取られるであろうしんのすけを救助。
 申し訳程度の蹴りを叩き込んで、その反動を利用して距離を取る。
 時間停止が解除され、鈍痛と共に距離を取らされるポセイドンだったが、
 秒速で状況を理解して最も近くにいる大我としんのすけへと迫る。

「させんぞ! 強制脱出装置を発動!」

 冥王の伏せていた罠カードを起動させ、空へと舞う。
 その隙に変身が解除される前にと距離を取る大我だったが、
 上空から雷雨の如く降り注ぐ連続突きが二人へと襲い掛かろうとしていた。
 荒海に振る神雷(キオネ・テュロ・デーメテール)。海の神であるポセイドンだが、
 空中であろうともその荒まく海を揺らす雷雨の如き突きを繰り出すことは不可能ではない。

「速攻魔法ガードオブガード発動!」

 上空から降り注ぐは一撃必殺の雷雨。
 それをドームのように防ぐ、光のような壁。
 手札を一枚をコストに、モンスターの破壊とダメージを0にするカード。
 槍の得物である以上貫通ダメージもありえたので、ダメージも防ぐこのカードは窮地を救うものとなる。

「グッ、まさか強制脱出装置が裏目に出たか……ゴホッ!」

 胸を掴みながら蹲ると同時に、血反吐をまき散らす冥王。
 元々ライフを大幅に削られ、その上で骨を数本へし折られてる状態だ。
 万全とは程遠い状態で立ってデュエルできてるだけでも相当なものである。

「冥王! 貴様は負傷している以上無茶をするな! 俺のターン!
 意味は薄いとは思うが、レッド・デーモン・アビスの効果を発動! あの槍を対象に発動する!」

 再び放たれるアビスのブレスだが、
 槍が黒ずんで脆くなった元凶があれだと言うことは分かっている。
 即座に右へ飛びながら回避し、今度はジャックの方へとめがけて走り出す。
 神の武器を破壊された要因の筆頭だ。今更死にかけのしんのすけになど興味などない。

「やはり当たるわけがない、か……!
 かなり部の悪い賭けだが、俺の使うしかないな。
 罠発動! プライドの咆哮! このカードは……グッ、ウオオオオオオオオオオッ!!」

 アビスの腕の刃とポセイドンの槍がぶつかり合い、
 火花を散らす中、ダメージを受けたかのように叫ぶジャック。
 プライドの咆哮。このカードはモンスター同士がバトルする際に、
 その差分のライフを払うことで必ず攻撃力を300上回る。つまり必ずバトルに勝てるカード。
 攻撃力の差は不明だが、少なくとも1000や2000の差分ではないだろう。
 そしてこのライフを払う量は任意で決められない。つまり勝てる数値までライフが削られる。
 自分の体力が、命が燃え尽きそうな程に襲いかかる疲労感、激痛が全身に駆け巡ってくる。
 普段使い慣れた三叉槍ではなく兄上の一叉槍、此処までの連戦と永夢のダメージの疲労。
 それらを差し引いたとしても攻撃力は歴然の差であり、瞬く間にライフが削れていく。

661激瀧神 『王者の調和』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 15:03:57 ID:TY0Xnnho0
「ジャックさん!?」

「心配するな……これはコストにすぎん……!!
 アビスよ! 咆哮を糧とし、海の神を薙ぎ払えッ!!
 深淵の怒却拳(アビス・レイジ・バスター)!!」

 攻撃力を上回ったのか、拮抗勝負に持ち込んでいた攻撃が打ち勝つ。
 しかし差分は300ポイント。ポセイドンの腹部に裂傷を刻み血が噴き出るも掠り傷にすぎない。
 それでも今のままでは押し切れないと判断し、ポセイドンが距離を取るように下がる。

「アビスのもう一つの効果! 相手に戦闘ダメージを与えた時、
 墓地からチューナーを復活させる! 甦れ、ダーク・リゾネーター!」

 最初のレッド・デーモンズのシンクロ素材とした、
 音叉を持った黒い悪魔が墓地より復活し、更にジャックの反撃は続く。

「罠発動ロストスター・ディセント!
 レッド・デーモンズをレベルを1つ下げ、効果を無効、攻守を0にして復活させる!
 まだだ、俺の可能性はこの程度で終わらん!! さらなる俺の道を突き進み続けて見せる!!
 レベル7となったレッド・デーモンズに、レベル3のダーク・リゾネーターをチューニング!!
 泰山鳴動! 山を裂き地の炎と共にその身を曝せ! シンクロ召喚!
 現れよ、琰魔竜 レッド・デーモン・ベリアル!」

 赤黒いアビスの隣に現出するのは、
 レッド・デーモン・アビスに近い姿を持ちながらも、
 黒紫色を基調とし、龍と呼ぶにはどちらかと言えば人型に近い姿となる。
 心意システムで連続して得たカード、レッド・デーモンベリアルだ。

(二連続で無からカードを作り出した!?
 確かそういうルールがあるって言ってたけど、
 この短時間で二連続でできるものなの!?)

 心意システムはイマジネーションが影響を及ぼす。
 レッド・デーモンズ・ドラゴンを必ず経由する必要がある故に、
 多少緩くなってるとは言え、ジャックはその想像力は限界を知らない。
 だから明石は彼の意志の強さに、ただただ圧倒されるばかりだった。

「俺はレッド・デーモン・ベリアルの効果を発動!
 アビスをリリースすることで、レッド・デーモンズを蘇らせる!」

「何を、している小童!?」

 レッド・デーモンズの効果はこの状況では最早不要の効果。
 しかもアビスよりも攻撃力は200とは言え低い。無意味な行動にしか見えず、
 痛みを堪えながら立ち上がると、冥王はその愚鈍としか見えない行動に異を唱える。
 新手のモンスターが出てこようと関係なく、攻撃を仕掛けようとするも、

「貴様のその槍、どれほど頑強か試しくれる!
 ブルーアイズの効果! このカードの攻撃宣言を放棄する代わりに、
 相手のカードを一枚破壊する……だが! このカードの融合素材に亜白龍を使用した場合、
 三枚まで指定することができる! 神よ、貴様はこのブルーアイズの効果に耐えきれるか!」

 三つ首の龍のそれぞれから放たれる光の光線。
 どれもが並の参加者なら受けるだけで必殺の一撃。
 それを怒れる波濤で防ぐか躱すも、辛うじて時間を稼ぐことができた。

「俺は手札からチェーン・リゾネーターを召喚!
 このカードはシンクロモンスターが存在するときに通常召喚に成功した場合、
 デッキからリゾネーターモンスター、クリエイト・リゾネーターを特殊召喚する!」

 鎖を持ったダーク・リゾネーターに類似したモンスターが呼び寄せるのは、
 これまたダーク・リゾネーターに酷似した、扇風機を頭部につけたモンスターだ。

「俺には赤き龍の痣はもうない! だが、だがしかし!
 俺は可能性を、道を切り開いてくれるッ!!! レベル8、
 レッド・デーモンズにレベル3のクリエイトとレベル1のチェーンを、ダブル・チューニング!!」

《ダブル・チューニング!?》

 その場でまともに意識のあったものは全員驚嘆する。
 シンクロ召喚にはチューナーが必要。それはルールで理解した。
 最低限の常識であるためこのことは情報交換時に説明はしておいたが、
 二体を使ったチューニングなんてものは、一切の説明を受けてない。

「孤高の絶対破壊神よ!! 神域より舞い降り、終焉をもたらせ!!
 シンクロ召喚! これが、俺の見出した可能性! 未来への極致だ!!
 現れろ、琰魔竜王 レッド・デーモン・カラミティッ!!!」

 それは、災厄と呼ぶべきだろう。
 それは、魔王と呼ぶべきだろう。
 それは、琰魔竜王と呼ぶにふさわしい。
 これが異なる世界でジャックが至った境地。
 決闘竜のさらなる先へと突き進んだ、琰魔竜の先へ。
 黒銀と赤き姿へと至った四腕の絶対破壊神は、今ジャックの頭上に顕現する。

662激瀧神 『王者の調和』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 15:06:20 ID:TY0Xnnho0
「三連続で、出しちゃった……これが、ジャックさんの実力……!!」

「レッド・デーモン・カラミティの効果発動!
 シンクロ召喚成功時、相手は全ての効果をエンドフェイズまで発動できない!
 どの程度の効果を齎すかは知らんが、貴様の荒波の如き槍は使えぬと思え!
 行け! レッド・デーモン・カラミティ! 海の神を破壊神が滅ぼしてくれるわ!!
 真紅の絶対破壊(クリムゾン・アブソリュート・ブレイク)!!」

 上腕の両手が組まれ、プロレスのダブル・スレッジ・ハンマーの如くポセイドンへ襲い掛かる。
 あの雑魚(牛尾)の時のように思い上がった雑魚もいい加減目触りだと感じていた彼だったが、
 何故か怒れる波濤が使えない。カラミティの効果が使えないは、技にまで影響を及ぼしていた。
 ただの刺突しかできず、それだけでハンマーの如く振り下ろされた両手を受け止める。
 ズウウウン、と大きな地鳴りと共に大きなクレーターが広がるほどの凄まじい威力だ。

「まだ、届かんと言うのか……!!」

 カラミティの攻撃力は4000。
 十分すぎるほどの攻撃力でもなお届かない。
 いや、届いてるのかもしれない。今は拮抗状態だ。
 その拮抗さえ破れれば、確実な勝利となりえるだろう。

「使えるか怪しいが……デモンズ・チェーン発動!!」

 ポセイドンの周囲から鎖が飛び出し、彼を縛り上げる。
 しかし状況は好転しない。確かにデモンズ・チェーンは効果を無効にし、
 攻撃を封じる。しかし、バトルそのものを行うことができることは変わらない。
 だから守勢に入ってるポセイドンにはなんら意味もないことは分かっていた。

「……え?」

 最初にソレに気づいたのは、間抜けな声が出た明石だった。
 巨大な影。カラミティも相当に巨大で首が痛くなるほどのサイズなのに、
 それを上回る影の存在に気づき、とんでもないものを見てしまったような顔になる。
 他の全員もそれに気づいた。巨大で、荘厳な、青い巨大なるモンスターを。
 いや───神を、彼らは目の当たりにした。

 海馬はジャックの三連続の心意を見て思った。
 何故奴にできてこの俺にできないのかと。
 いや、できる。檀黎斗は誰にでもその権利はあるのだと。
 ならばイメージできるはずだ。自分が最も引くべきカードを。
 神を倒すそのイメージ。ならば、あのカード以外には存在しないと。

「強欲な壺を発動! 二枚を───ドロォー!!」

 そのドローの瞬間、一枚のカードが輝いたような気がした。
 いや、輝いた。間違いなく自分が求めていたカードであると確信を持つほどに。
 このままジャックだけの独壇場など、プライドの高い海馬が認めるはずもなし。

「貴様らのモンスターを借りるぞ! 俺は百雲のウィッチクラフト・ヴェール!
 冥王のグスタフ・マックス、そして俺のブルーアイズ『三体』を生贄に捧げる!!」

 懐かしい召喚方法だと思った。
 アンティルールで遊戯に渡して以来使うことのなかった召喚方法。
 そう、これは。





 神の降臨だ。

 鉱石を工芸せし少女。超弩級の列車。
 そして、愛用するブルーアイズの一つの究極進化形態。
 三体の貢ぎ物を捧ぐことで、このモンスターは初めて降臨する。

「いでよ! オベリスクの巨神兵ッ!!」

 大地を裂き、裂けた地面から出てくるのは青い腕。
 腕が上半身を起こし、今までのどんなモンスターよりも巨大で、
 壮大で、荘厳で、神々しいとも言うべき姿を前に、ポセイドンも表情を変えざるを得ない。
 あれは、神だ。今までの雑魚などではない。見知らぬが、間違いなく神の存在なのだと。
 神を降臨させることは成功した。しかし、海馬には二つの懸念点のせいで攻撃ができなかった。
 一つはポセイドンがカラミティのせいで小さすぎる。互いに攻撃力は4000。
 下手をすれば互いのモンスターが相打ちになってポセイドンだけが得をする展開。
 だから攻撃はできない。となれば残された手は一つ。ソウルエナジーMAXだ。
 二体のモンスターを生贄に。攻撃力を∞にして殴り倒す。これ以外に存在しない。

663激瀧神 『王者の調和』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 15:07:57 ID:TY0Xnnho0
「オベリスクの効果を使えば奴を倒せるかもしれん。
 だがその為にはオベリスク以外の生贄が二体必要……どうする。」

 一体はジャックがいま手持無沙汰であるアビスを使えばいい。
 だが足りない。海馬のデッキはユニオンモンスターで生贄を揃える、
 そういうデッキだったが今はどちらかと言えばブルーアイズに寄せた構築。
 オベリスクを出すだけでも多大な消耗を強いられていたので海馬には今すぐ生贄が用意できない。
 強欲な壺で引いたカードは攻撃の無力化。ジャックに使えば∞の攻撃の巻き添えは回避できる。
 (原作、アニメともに攻撃の無力化は魔法カードであるのでそのまま発動することができる)
 残り一体。後生贄がいなければならない。カラミティを生贄にすればきっと発動できるだろうが、
 ソウルエナジー・MAXは少々タメが存在する。その間に誰が死ぬか分かったものではない。
 今の海馬はリゼを喪った後悔もあり、躊躇なく誰かを斬り捨てるという選択肢はすぐには取れなかった。

「……小童。自軍のモンスターであれば生贄に捧げればいい。そういったな。」

「喚くな低級モンスター。今その手段を……! 貴様、まさか。」

 策を講じてるから黙ってろ。
 そう言おうとしたが、自分で言った言葉で察する。
 こいつは参加者であり『モンスター』なのだと。

「俺様は『自軍のモンスター』扱いなんだな?」

「おい待て! テメエその意味が分かってんのか!!」

 しんのすけを背負いながら、変身を解除した大我が冥王の胸ぐらをつかむ。
 生贄、もといリリースのルール程度は把握している。だから何を言ってるのか。
 その意味はまともに喋れない状態である百雲も、しんのすけも理解していることだ。

「……悔しいが、俺様は、もうドローもできん
 足手まといのまま死にゆくことこそ冥王の恥だ。
 ついでに言えば、俺様は死ぬことに手慣れている。」

「死に慣れてる……君は何なんだ?」

「知ってるだろう? 冥王様だ。」

 一度どこぞの魔人から爆弾を借りてヘイト・バスターで死に、
 強化蘇生で復活して、ハ・デスも復活して、何度もやり合い続けた。
 今更死を恐れるなど、この殺し合いの時の初期のヘタレを演じてた時ぐらいのものだろう。

「俺様は神をも超えてやる!! 最後のカードだ、受け取れぇ!
 ダメ押しに装備魔法メテオ・ストライクをオベリスクにくれてやる!」

 痛みの中やっと引けたカードは装備魔法。
 ポセイドンの槍同様貫通効果を付与することができるが、
 装備できるモンスターが生贄にされた今いない現状では意味のなさないものだ。
 神への魔法効果は1ターン受け付けるが、攻撃力∞の貫通など誰が見ても即死級だろう。

「……いいだろう。」

「おい海馬! テメエ……」

「カラミティの効果はエンドフェイズまでだ。
 ポセイドンは技を使わずして拮抗している。
 使えるようになれば最悪形勢逆転すらありうる。
 カラミティとアビスを生贄にする手段もあるが、
 効果の発動までに時間がかかる間誰が奴を足止めできる?
 貴様もあの男に届くために必要な人材だ。血反吐を吐かれては叶わん。」

「グッ……」

「それとも瀕死の野原を生贄に───」

「それ以上言うな。テメエをぶん殴るぞ。」

 大我もそれ以上は返す言葉がなかった。
 あれを足止めできる存在などこの八人の誰にもいない。
 しんのすけは瀕死、冥王も瀕死、百雲は意識を保っているが負傷が酷い、
 明石はほぼ戦力外、ジャックは既にライフが限界、大我も少なくないダメージがある。
 たとえモンスターであっても命を消費するなど、檀黎斗とやってることは変わらない。
 しかし、どうにもならないのも事実。此処で生贄を確保しなければ壊滅は確実だ。
 苦虫を嚙み潰したような顔になりながら、海馬の掴んでいた胸ぐらから手を放す。

664激瀧神 『王者の調和』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 15:08:54 ID:TY0Xnnho0
「ジャック! 受け取れぇ!」

 引いた攻撃の無力化を、ジャックへと投げ渡す。
 拮抗してる状態で見届けるしかなかったジャックはそれ受け取る。
 何故か魔法カードである攻撃の無力化に違和感はあったものの、
 これを使わなければならない状況が来ることだけはオベリスクを一瞥し察した。

「冥王よ、覚悟はいいな?」

「最初から決まっておるわ!」

「ならばオベリスクの効果発動!
 ジャックのレッド・デーモン・アビスと、
 深淵の冥王自身を生贄に捧げ、神の力を行使する! ソウルエナジーMAX!!」

 オベリスクがアビスと冥王をその巨腕で掴み、エネルギーを吸収するように腕に稲光が集約していく。

「見るがいいハ・デス! 俺様の最後のあがきを!
 神の供物? 否! 神の生贄? 否! 神の力? 否!
 否! 否! 否! この俺様によって神は真の力を発揮することができる!
 貴様に見せてくれよう!! 魔王や自称神などの貴様らではない、本物の神を殺すその力を!!」

 誰もが見届けるしかなかった。
 冥王が薄れて消えてゆくその姿を。
 完全に消滅するまでの間、重傷だというのに虚空へ語り続ける。
 すべては檀黎斗と言う神を名乗る人間と、ハ・デスと言う因縁のライバルへと向けた言葉だ。

「ハ・デス! 貴様とはいずれまた冥界にて再び死合おうぞ!
 だが! 俺様は神を殺す存在だ! 貴様と最早格が違うぞッ! フハハハハハ───!!」

「充填完了!! オベリスクよ! その無限の力を解き放つがいい!! ゴッドハンド・クラッシャー!!」

 メテオ・ストライクを装備した影響なのだろうか。
 オベリスクの拳がポセイドンへと隕石の如く炎を纏いながら迫る。

「速攻魔法攻撃の無力化! バトルフェイズを終了させる……が、
 三幻神に通用したところで時間稼ぎにしかならん、戻れカラミティ!!」

 攻撃の無力化は海馬がオシリスの妨害に使ったコマンドサイレンサーと違って、
 モンスターを対象にして使うものだ。オベリスクにそんなものは通用するわけもなく、
 次元の渦を一秒と絶たず突き破るが、その一瞬でカラミティは攻撃の射程外へと出る。
 一瞬。その一瞬がポセイドンの逃げる瞬間。ポセイドンと言えど避けねばまずいと悟る。
 デモンズ・チェーンを紐のようにちぎれば、後は後方なり跳躍なりで逃げるだけでいい。
 ───だが。その隙を埋めるように、バイクが突っ込んで一瞬だけ怯まされた。

「ホイール、ベント……使い道、あったんだな。」

 しんのすけの攻撃だった。
 ファイナルベントでサイコローグをバイクにする都合上、
 ほぼ使う機会がないであろうホイールベントのカード。
 ポセイドンにとってはほぼ無傷に等しい衝突事故。だが、
 その余りにも短い一瞬は大きな隙となって、ついにオベリスクの攻撃が到達。
 攻撃力∞の威力は、周囲どころかそのエリア全域を揺るがしかねない程の威力を放つ。
 暴風が吹きすさび、湖は大波を立て、木々は大地を離れ、建物は菓子細工の如く崩れていく。
 このままでは全員が吹き飛びかねなかったのだが、カラミティが防御するように庇い難を逃れる。
 神の一撃は暫く続き、全員が状況を確認することができないほどだった。










 オベリスクの攻撃の余波がようやく収まってみれば、
 周囲は荒れ放題。まさに神の一撃を受けた痕だけが残されていた。
 此処が同じエリアなのか、そう疑えてしまうほどの光景であり、
 これが神のカードの力かと、ジャックだけが関心を持つと同時に目を閉じ悼む。

(最後まで王者の格を貫いたか……奴らしいな。)

 冥王は逝った。
 最初はなんてことのないヘタレだったのが、
 王者の風格を取り戻し、自分へと発破をかけ、
 ジャンヌや少女(ルナ)にも怯えることなく立ち向かった。
 間違いなく王者としての格はあった。願わくば共に同じキングとして、
 高め合いたかったところではあるが、状況が状況だったのだ。仕方がないだろう。

「……む。これは?」

 岩陰に落ちていたおかげか、
 オベリスクの攻撃の余波でも吹き飛んでなかったカードを拾い上げる。
 何かの落とし物かと思ったが、それはのび太との戦いで使った冥王の技、
 冥王結界波の魔法カードが落ちており、そのイラストも相まってジャックは目を見開く。
 それは生贄になり際の際、偶然発現した冥王の心意で誕生したカード。
 まだ共に戦えるのか。そう思いながら、ジャックはそれをデッキの中に入れる。

「あの、ポセイドンはどうなったんですか……?」

「知るか! それより誰か治療できる支給品はねえか!」

665激瀧神 『王者の調和』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 15:10:04 ID:TY0Xnnho0
 大我が診ているのは仰向けに倒れるしんのすけだ。
 元々神の槍で貫かれて重傷だったのを仕方なかったとはいえ放置しすぎた。
 このままでは本当に死にかねない状況であり、周囲へと状況を確認するも、
 周りにはデッキやデッキを持っていた参加者が合計で四人。明石の支給品も、
 橘に使ったエリクシールハーフで使い切ってもう何もない。橘のは回復できないもなのは確認済み。
 しんのすけの支給品も確認はした。しかし、治療に繋がるものはなく、大我は歯を食いしばる。
 四人のデッキは全てが回復に不得手だ。目の前に患者がいるというのに、どうすることもできない。
 野原しんのすけは、此処で死ぬ。それだけは確定事項と化していた。

「最期に、何かできただけ、よしってことにするさ……悪い、タミコ……帰れそうにないや……」

 もし、海馬がしんのすけを優先的に生贄にしていたのなら。
 もしかしたらポセイドンへの攻撃は避けられていた可能性はあった。
 だから、足を引っ張ってばかりだった自分が何かできたことは喜ばしくもあった。
 やはり、リーダーシップを取れてたあの頃のようにはうまく行かないなぁ。
 帰りを待ってるであろう嫁と、過去の自分のことを思いながらしんのすけは目を閉じる。
 明石は涙を流し、大我や橘は自分達の無力さに苛立ちや精神的ダメージを受けていた最中。










 ザシュッ

 そんな中、肉を裂く音が聞こえた。

「……!?」

 何が起きたか分からなかった。
 ジャックが真っ先に気づいた。
 彼の身体に、一叉の槍の穂先が腹部から見えていたから。
 貫かれた。誰に? 言うまでもない───ポセイドンに、だ。

「雑魚(カス)共が……」

 ポセイドンは確かに攻撃を受けていたのは事実だ。
 左腕は肩までちぎれ飛び、右腕はぐちゃぐちゃに骨折し、
 右足もあり得ない方向へと曲がっており、全身が血だらけだ。
 誰が見たって死んだっていい状態だ。生きていられたのは、
 咄嗟に一叉槍を盾代わりに構えて必殺を本当にぎりぎりのレベルの瀕死にまで抑えたからだ。
 一叉槍も半分に折れており、残った半分を口に咥えて、残ってる体力でジャックへ突き刺し、今に至る。
 片足だけであろうとも、十分に動くことができる。彼は人でもモンスターでもない。神なのだから。
 はっきり言おう。ポセイドンは時期に死ぬ。それでも彼はその歩みを止めようとはしなかった。
 全ては兄上を、神を騙る愚物共に神の天誅を下すがためだ。それ以外に理由など必要ない。


「───ああああああああああッ!!」

 もっともジャックのそばにいた明石が真っ先に行動できた。
 ガイアプレッシャーを鼓膜を突き抜けるように、悲鳴のような叫び声を放つ。
 普段ならば大して届かないであろう一撃も、今の状態では十分すぎるダメージを持つ。
 骨が軋み、頭蓋の骨にもパキリと入った音がすると、ついにポセイドンは倒れる。
 倒れたふりかとも最初は疑った。しかし一向に起き上がる気配がなく、ついに倒せたと分かった。
 安堵などできない。ジャックの傷も無視できるものではない。早急に治療できる場所か、
 参加者を探さなければならない。海馬たちも休んでる暇はないと立ち上がるものの、

「いや……俺のライフは、尽きている……」

 プライドの咆哮で余りにもライフを払いすぎた。
 そのうえでこれほどの一撃だ。もう立ってることすらままならない。
 それでも。ジャックは、キングは立ち続けた。その威厳を損なわないように。

「遊星とも、武藤遊戯とも戦えないのは惜しいが……仕方があるまい。」

「何言ってるんですかジャックだん!
 遊星さんと再会できるんですよ! デュエルだったらその時にいくらでも……!!」

 気をしっかり持つよう励ます明石。
 しかし、ジャックの目には光はもうなかった。
 最後まで立ったまま、王者のように威風堂々と、そのまま立ち往生のまま死んでいた。

「ジャック、さん……」

 遊星から参加してそうな人物の話を聞いたこともあり、
 出会ってからと言うものずっと気にかけていた。だから近くにいた。
 だからこそ、遊星と再会できることをさせられなかったことを彼女は悔やむ。
 先ほど以上に涙を流す。轟沈なんて、死なんて見慣れたものだが未だ慣れない。
 泣きじゃくる彼女の肩を、優しくというよりは、気をしっかり持つよう強く掴む橘。

「全員、逃げる準備だ……あれだけ派手な音を出したんだ。
 このまま此処にいたらいずれさっきの男(無惨)が来るかもしれない。」

「確かにな。おい百雲。立て……」

 大我の背後にて倒れていたはずの百雲の姿がない。
 まさかもう奴が追い付いたのかと周囲を見渡してみると、

666激瀧神 『王者の調和』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 15:11:28 ID:TY0Xnnho0
「ハッハッハ! リベンジマッチだ! 彼女は人質として預からせてもらうよ!」

 遠くには、百雲を抱えたラヴリカが全速力で逃走していた。
 明石がガイアプレッシャーを使った瞬間を狙って彼は事を起こした。
 まだ意識がもうろうとしている百雲は抵抗することも声も上げられず、
 ただなすがままにラヴリカに連れていかれてしまっていた。

「あのバグスター、復活していやがったのか!!」

 しかもあの反応、百雲を女だと思っている。
 男だと気づいてないまま保護しようとしてると気づけば、
 十中八九ろくでもないことになるのが目に見えており、
 橘達のことを置いて彼はDホイールで走り出す。彼とは短くない付き合いの間柄だ。
 たとえバンバンシューティングでなくても、リスクある今の奴でも放っては置けない。

「此処で別行動はまずいが仕方がない……!!
 大我は百雲を追う。君達は冥王の列車のカードを使って逃げるんだ!」

「橘、貴様はどうするつもりだ?」

「……あの男(無惨)と戦う。」

「正気で言っているのか、貴様。」

 四対一で敗走だったあの有様だ。
 この状況で彼一人で戦えるわけがない。
 しかも無敵状態となればますます勝ち目がないだろう。

「攻略法はある。奴は大我が攻撃を決めた時、
 一瞬だが陽に当たりそうになるのを極端に避けていた。」

「……そんなところを見ていたのか。」

 こればかりは仕事が仮面ライダーである橘と、
 ゲームを筆頭としたクリエイターである海馬との差だろう。
 本当に一瞬だ。吹き飛んだ無惨は僅かだが陽に手が当たりかけた際、
 露骨に手を引っ込めたのを橘は見逃さなかった。

「恐らくだがあいつは太陽光が苦手の可能性が高い。
 或いは太陽光を避けなければならない何かがあるとみていい。
 ならば、最初からハイパームテキで追ってきてる可能性は高い。」

「ふぅん、なるほどな……仮面ライダーになっていれば、
 太陽をの光を浴びることはないというわけか。
 となれば当然、ハイパームテキの時間が切れてる可能性がある、か。
 だが大我のガシャットも奪われてる。そっちの可能性も否定はできないだろう。」

「だが言い換えれば奴は触手を出すことや装甲を破壊されることを嫌うはずだ。
 その立ち回りを利用して必ず倒す……いや、倒さなければならない。だから彼女を頼む。
 それと、百雲が置いていかざるを得なかった槍だが貰ってもいいか?」

「俺らには不要だからな、好きにしろ。明石と言ったな。
 冥王のデッキを使え。遺体も首輪を回収のためにやるぞ。」

「……はい、わかりました。」

 涙を流すのはこれで最後だ。
 そう言い聞かせながら涙を拭い、
 海馬に言われた通り冥王が残したデッキを腕にセットする。
 カードを五枚引いて、その中にあった同じフライング・ペガサスを召喚。
 ジャックとしんのすけの遺体を抱えながら入り込み、冥王が残した首輪を持って乗車。
 海馬も続けて乗ると、フライング・ペガサスは橘を置いて発進する。

「橘さん! 待ってますからね!」

「ああ。」

 明石の言葉に、静かに一言返しながら列車を一瞥し、再度ギャレンに変身する。
 遠からず来るであろう、鬼の首魁を前に、一人の男はリベンジを果たそうとしていた。

【橘朔也@仮面ライダー剣】
[状態]:心身の疲労(大)、脚を負傷、リゼを護れなかった後悔
[装備]:ギャレンバックル@仮面ライダー剣
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1、リゼ専用スピアー@きららファンタジア
[思考・状況]基本方針:剣崎の分まで人々を助ける。ゲームマスターも倒す
1:リゼ……。
2:あの男に立ち向かう
[備考]
※参戦時期は最終回後。
※遊戯王OCGのルールを多少把握しました
※脚の負傷具合については少なくとも完治してます

「橘さん、大丈夫でしょうか……」

「最悪、相打ちの覚悟だろうな。」

「海馬さん、遠慮がないですよね……野原さんの時といい。」

「俺は別に善良な人間ではないからな。」

667激瀧神 『王者の調和』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 15:12:41 ID:TY0Xnnho0
 マインドクラッシュされる前とは言え、
 DEATHーTやブルーアイズの奪取の件など、
 様々な悪事に手を染めていた過去のある海馬はドライだ。
 だからと言って橘に期待してないとか、見捨てるとか思うつもりもない。
 静かに、しかし目的地に向かう中、明石はジャックからデュエルディスクを外す。
 これは遊星に渡すべきものだ。彼のデッキはモンスターカードしかないと辛いのは、
 多彩な戦術を見せたジャックや海馬を見れば明らかなことであり、亡き友の忘れ形見。
 自分が使うわけにはいかず、合流できたら彼に渡そうと決意を固めた。

「明石。首輪だが、どうする? サンプルがいるなら首を切り落とす必要があるが……」

 首を切り落とすには幸いなことに村雨がある。
 村雨は冥王曰く呪いの刀らしいが、死者には意味をなさないとみてもいい。
 だからやろうと思えば切り落とせる。必要であるならば海馬はそうするつもりだ。
 あくまで彼の目的はアテム、並びにこの殺し合いを打破することだ。
 死者を悼んで首輪を放置などできるものではないだろう。

「……贔屓になってしまいますが、
 ジャックさんだけは待ってもらえますか。
 遊星さんに会ってから、確認だけは取っておきたいので……」

「フゥン、好きにしろ。」

【海馬瀬人@遊☆戯☆王】
[状態]:心身の疲労(中)、リゼを見捨てた後悔、ギャレンに変身中
[装備]:海馬瀬人のデッキ(オベリスク入り)&新型デュエルディスク@遊☆戯☆王THE DARK SIDE OF DIMENSIONS、
[道具]:基本支給品×2(自分、無惨)
[思考・状況]基本方針:この決闘を粉砕したのち、アテムと決着をつける
1:檀黎斗と、あの異形(無惨)と闘うための方法を模索する。あの自称神はこのオレが粉砕してくれるわ!
2:首輪を解除したい。
3:アテム及び共に存在しているであろう遊戯を探す。だが今は遊星とやらと合流だ。
  そうそう死ぬとも思えないが、凡骨共が死んで心に隙が生まれれば万が一があるかもしれない。
  器の遊戯の実力にも興味がある
4:残酷にも殺された少女(条河麻耶)のように闘う意志も牙も持たぬ参加者と遭遇した場合、保護も検討してやろう。
5:ジャック、冥王、貴様らを認めてやろう。貴様達も王だとな。
[備考]
※参戦時期は本編終了後から映画本編開始前のどこか。
※心意でオベリスクの巨☆神☆兵@遊☆戯☆王を手に入れました

【明石@艦隊これくしょん】
[状態]:ケッコンカッコカリによる強化(耐久や幸運以外意味なし)、両足に傷(走るのに少し苦労する程度に負傷)、疲労(大)、精神疲労(大)
[装備]:指輪@艦隊これくしょん、大地鳴動『ヘヴィプレッシャー』@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品×5(自分・ジャック・しんのすけ・ポセイドン・うさぎ)、一斬必殺村雨@アカメが斬る!、454カスールカスタムオートマチック@HELLSING、オルタナティブ・ゼロのデッキ(サイコローグは消滅のためブランク状態)@仮面ライダー龍騎、ランダム支給品×0〜1(確認済み、治療系の類ではない)、神月アンナのデュエルディスクとデッキ@遊戯王ZEXAL、ジャックのデュエルディスクとデッキ(心意カード+冥王結界波入り)@遊戯王5D’s
[思考・状況]基本方針:ハ・デスを倒して生きて提督の下(元の世界の方)へ帰る。
1:蛇王院さん……無事でしたけど、素直に喜んでいいのかなぁ。
2:九時間ほど散策して、指定の場所に遊星さんと合流。
3:帝具、ちょっと調べたくなってしまいますねー。
4:首輪を解除できるだけの装備を整えないと。首輪は確保できましたが。
5:特体生って艦娘余裕で超えてるじゃないですかやだー!
6:ジャンヌには最大限警戒。あれがゴロゴロいたら艦娘ですらかませなりますよ!
7:あの寺何怖いんだけど!?
8:ジャックさん、冥王さん、野原さん……

668激瀧神 『王者の調和』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 15:13:12 ID:TY0Xnnho0
[備考]
※改装後、ケッコンカッコカリ済み、所謂ジュウコンなし、轟沈経験ありの鎮守府の明石です。
※艤装はありませんが、水上スキーそのものは可能です。
 時間制限については特に設けてませんが長時間は無理かなと。
※指輪は没収されていませんが、偽装がないため耐久以外ほぼ意味がありません。
※蛇王院、遊星と情報交換しました。
※ジャックのデッキで心意システムで生成できるカードはレッド・デーモンズ(或いはレッド・デーモン)関係のみで、
 かつ必ずシンクロ素材にレッド・デーモンズ・ドラゴンを素材としたものでなければ発生しません。
 必要なものが指定されてる代わりに、心意の条件は他の参加者よりも緩い条件になってます。
 現在生成されたのは以下の通り
 レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント@遊戯王ARC-V
 琰魔竜 レッド・デーモン@遊戯王OCG
 琰魔竜 レッド・デーモン・アビス@遊戯王OCG
 琰魔竜 レッド・デーモン・ベリアル@遊戯王OCG
 琰魔竜王 レッド・デーモン・カラミティ@遊戯王OCG
※シグナーの痣がないため現時点では赤き竜の由来カード、
 スカーレッド・ノヴァとセイヴァー・デモンは出せません。
※サイコローグはオベリスクの攻撃で消滅したため、
 ブランク状態になっています





「いいぜ……絶版だけで足りないってんなら、また倒すだけだ!」

 ラヴリカが走った方角へと走りながら、ガシャットを握り締める大我。
 まさかあいつまで復活しているとは思っていなかったが。ある意味納得だった。
 だが女(だとおもってる)だから襲わずにいるのはどういうことなのかと疑問に持ちながらも、
 百雲を攫ったことに対して、怒りの形相でラヴリカをDホイールで追いかける大我。

【花家大我@仮面ライダーエグゼイド】
[状態]:ダメージ(中)、バグスターウイルスの後遺症、心身の疲労(大)
[装備]:バグルドライバーⅡ&仮面ライダークロニクルガシャット(市販品)@仮面ライダーエグゼイド、雑賀のDホイール@遊戯王5D’s
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:このゲームは俺がクリアする
1:あのバグスター(ラヴリカ)を追う。百雲は俺が助ける。
2:他の連中、無事に済めばいいんだがな。
[備考]
※参戦時期は仮面ライダーエグゼイド トリロジー アナザー・エンディング終了後
※遊戯王OCGのルールを多少把握しました

【百雲龍之介@不可解なぼくのすべてを】
[状態]:心身の疲労(極大)、ダメージ(特大)、ストレス(極大)、意識が朦朧としてる、ラヴリカに抱えられてる
[装備]:デュエルディスクとデッキ(ウィッチクラフト)@遊戯王OCG
[道具]:基本支給品、リゼの支給品
[思考・状況]基本方針:……。
1:…何か、できたかな……?
2:リゼ、さん………
3:大我さん……

[備考]
※参戦時期は少なくとも十四話以降かつ二十三話までのどこか
※遊戯王OCGのルールとウィッチクラフトの回し方をだいたい把握しました。
 海馬とのデュエルで、さらに成長しているかもしれません





※ラヴリカはトリロジーアナザー・エンディングで消滅後までの記憶を持っています。
※エリンの死体はD-2の橋の前に置かれています。
※野獣先輩の時のルール改定に合わせて今後先行ドローは廃止、ということになってます
※トライデント@終末のワルキューレは穂先が折れた状態で放置されてます
※バイデント@終末のワルキューレは二つに折れた状態で放置されてます





 神は死んだ。
 されどその神はどんな神よりも気高く。
 誰よりも真っすぐで───そして誰よりも、
 『王』の称号にふさわしい神であった。

【深淵の冥王@遊戯王OCG 生贄】
【野原しんのすけ(大人)@クレヨンしんちゃん 死亡】
【ジャック・アトラス@遊戯王5D’s 死亡】
【ポセイドン@終末のワルキューレ 死亡】

669激瀧神 『王者の調和』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 15:14:30 ID:TY0Xnnho0
【雑賀のDホイール@遊戯王5D’s】
橘の支給品。雑賀が使用していたDホイールだが、
相棒のユージとタッグデュエルで乗りこなしていた方のDホイール。
つまるところサイドカーつきのDホイール、と言ったところである。
特別な性能はないがサイドカーがあるため二人乗りが可能となっている。

【エリクシールハーフ@グランブルーファンタジー】
明石に支給。ゲーム上においてはAP(ゲームをプレイするのに必要な体力)を回復するアイテム。
本ロワでは上位アイテムのエリクシール(全回復)に倣い、傷を治す効力を持つものとして扱う。

【ハデスの一又槍(バイデント)@終末のワルキューレ】
ポセイドンに支給。ハデスの所持する槍ではあるが、
原作ではポセイドンのトライデントと融合させているので、
この槍自体の具体的な性能については殆ど不明となっている。
ハデスが使用した場合の性能解説になる為使用感は異なる……はず。

血が導きし曙光(イーコール・エーオース)などはハデスの血、
プルートイーコールが必要なためこのままでは使用不可能。

【冥王結界波@遊戯王OCG】
生贄になり際に発現した深淵の冥王の心意によって誕生したカード。
テキストは以下の通りで、このカードの発動に対してモンスターの効果は発動できない。
①:相手フィールドの全ての表側表示モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。
このカードの発動後、ターン終了時まで相手が受ける全てのダメージは0になる。

現在はジャックのデッキに入っています。

【オベリスクの巨神兵@遊☆戯☆王デュエルモンスターズ】
海馬の心意により生み出されたカード
OCG出典ではなくデュエルモンスターズ出典のため神のカード
テキストはOCGではないため以下の通りになっている
The Player shall sacrifice two bodies to God of Obelisk.
The opponent shall be damaged.
And the monsters on the field shall be destroyed.
攻撃力が∞になったり、4000ダメージを与えたり、結構テキストが曖昧


【琰魔竜 レッド・デーモン・アビス@遊戯王OCG】
ジャックの心意システムで誕生したカード
テキストはOCG版になっておりテキストは以下の通り
シンクロ・効果モンスター
星9/闇属性/ドラゴン族/攻3200/守2500
チューナー+チューナー以外のドラゴン族・闇属性Sモンスター1体
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分・相手ターンに、相手フィールドの表側表示カード1枚を対象として発動できる。
そのカードの効果をターン終了時まで無効にする。
②:このカードが相手に戦闘ダメージを与えた時、
自分の墓地のチューナー1体を対象として発動できる。
そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。

【琰魔竜 レッド・デーモン・ベリアル@遊戯王OCG】
ジャックの心意システムで誕生したカード
テキストはOCG版になっておりテキストは以下の通り
シンクロ・効果モンスター
星10/闇属性/ドラゴン族/攻3500/守3000
チューナー+チューナー以外のドラゴン族・闇属性Sモンスター1体
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドのモンスター1体をリリースし、
自分の墓地の「レッド・デーモン」モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを特殊召喚する。
②:このカードが相手に戦闘ダメージを与えた時に発動できる。
自分のデッキ及び墓地から1体ずつ、レベルが同じチューナーを守備表示で特殊召喚する。

【琰魔竜王 レッド・デーモン・カラミティ@遊戯王OCG】
ジャックの心意システムで誕生したカード。出すぎである
テキストはOCG版になっておりテキストは以下の通り
シンクロ・効果モンスター
星12/闇属性/ドラゴン族/攻4000/守3500
チューナー2体+チューナー以外のドラゴン族・闇属性Sモンスター1体
①:このカードがS召喚した時に発動できる
(この効果の発動に対して、相手はカードの効果を発動できない)。
このターン、相手はフィールドで発動する効果を発動できない。
②:このカードが戦闘でモンスターを破壊した場合に発動する。
そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。
③:このカードが相手によって破壊された場合、
自分の墓地のレベル8以下のドラゴン族・闇属性Sモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを特殊召喚する。

670激瀧神 『王者の調和』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 15:15:08 ID:TY0Xnnho0
以上で投下終了です
かなりやりたい放題にやったので問題ありましたらどうぞ

671激瀧神 『王者の調和』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 15:52:51 ID:TY0Xnnho0
状態表に思いっきりミスがあったので修正です

【海馬瀬人@遊☆戯☆王】
[状態]:心身の疲労(中)、リゼを見捨てた後悔、フライング・ペガサスに乗車中
[装備]:海馬瀬人のデッキ(オベリスク入り)&新型デュエルディスク@遊☆戯☆王THE DARK SIDE OF DIMENSIONS、
[道具]:基本支給品×2(自分、無惨)
[思考・状況]基本方針:この決闘を粉砕したのち、アテムと決着をつける
1:檀黎斗と、あの異形(無惨)と闘うための方法を模索する。あの自称神はこのオレが粉砕してくれるわ!
2:首輪を解除したい。遊星とやらはどれほどのものか。
3:アテム及び共に存在しているであろう遊戯を探す。だが今は遊星とやらと合流だ。
  そうそう死ぬとも思えないが、凡骨共が死んで心に隙が生まれれば万が一があるかもしれない。
  器の遊戯の実力にも興味がある
4:残酷にも殺された少女(条河麻耶)のように闘う意志も牙も持たぬ参加者と遭遇した場合、保護も検討してやろう。
5:ジャック、冥王、貴様らを認めてやろう。貴様達も王だとな。
[備考]
※参戦時期は本編終了後から映画本編開始前のどこか。
※心意でオベリスクの巨☆神☆兵@遊☆戯☆王を手に入れました

【明石@艦隊これくしょん】
[状態]:ケッコンカッコカリによる強化(耐久や幸運以外意味なし)、両足に傷(走るのに少し苦労する程度に負傷)、疲労(大)、精神疲労(大)、フライング・ペガサスに乗車中
[装備]:指輪@艦隊これくしょん、大地鳴動『ヘヴィプレッシャー』@アカメが斬る!、神月アンナのデュエルディスクとデッキ@遊☆戯☆王ZEXAL
[道具]:基本支給品×5(自分・ジャック・しんのすけ・ポセイドン・うさぎ)、一斬必殺村雨@アカメが斬る!、454カスールカスタムオートマチック@HELLSING、オルタナティブ・ゼロのデッキ(サイコローグは消滅のためブランク状態)@仮面ライダー龍騎、ランダム支給品×0〜1(確認済み、治療系の類ではない)、ジャックのデュエルディスクとデッキ(心意カード+冥王結界波入り)@遊☆戯☆王5D’s
[思考・状況]基本方針:ハ・デスを倒して生きて提督の下(元の世界の方)へ帰る。
1:蛇王院さん……無事でしたけど、素直に喜んでいいのかなぁ。
2:九時間ほど散策して、指定の場所に遊星さんと合流。
3:帝具、ちょっと調べたくなってしまいますねー。
4:首輪を解除できるだけの装備を整えないと。首輪は確保できましたが。
5:特体生って艦娘余裕で超えてるじゃないですかやだー!
6:ジャンヌには最大限警戒。あれがゴロゴロいたら艦娘ですらかませなりますよ!
7:あの寺何怖いんだけど!?
8:ジャックさん、冥王さん、野原さん……
9:フライング・ペガサスで真っすぐ向かいましょう

[備考]
※改装後、ケッコンカッコカリ済み、所謂ジュウコンなし、轟沈経験ありの鎮守府の明石です。
※艤装はありませんが、水上スキーそのものは可能です。
 時間制限については特に設けてませんが長時間は無理かなと。
※指輪は没収されていませんが、偽装がないため耐久以外ほぼ意味がありません。
※蛇王院、遊星と情報交換しました。
※ジャックのデッキで心意システムで生成できるカードはレッド・デーモンズ(或いはレッド・デーモン)関係のみで、
 かつ必ずシンクロ素材にレッド・デーモンズ・ドラゴンを素材としたものでなければ発生しません。
 必要なものが指定されてる代わりに、心意の条件は他の参加者よりも緩い条件になってます。
 現在生成されたのは以下の通り
 レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント@遊戯王ARC-V
 琰魔竜 レッド・デーモン@遊戯王OCG
 琰魔竜 レッド・デーモン・アビス@遊戯王OCG
 琰魔竜 レッド・デーモン・ベリアル@遊戯王OCG
 琰魔竜王 レッド・デーモン・カラミティ@遊戯王OCG
※シグナーの痣がないため現時点では赤き竜の由来カード、
 スカーレッド・ノヴァとセイヴァー・デモンは出せません。
※サイコローグはオベリスクの攻撃で消滅したため、
 ブランク状態になっています

672 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 17:35:35 ID:TY0Xnnho0
場所のこと忘れてました
【E-2/朝/一日目】

673 ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 00:59:59 ID:VQtoL8aQ0
皆様投下お疲れ様です。自分も投下します

674リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:01:54 ID:VQtoL8aQ0
決闘と称した殺し合いで、会場に解き放たれたのは参加者だけではない。
ソリッドビジョンとも異なるシステムで実体化した、デュエルモンスターズのクリーチャー。
あらゆるライダー世界の記憶を元に再現された、仮面ライダーの敵である怪人。
主にプレイヤーの妨害へ動く、自我無きNPC達の種類は千差万別。
人型もいれば獣や虫に近い個体や、果ては機械タイプのものまで様々。
当然の如く飛行能力を有するモンスターもおり、空中から参加者を付け狙うようプログラムを受けている。

内の一体であるハーピィ・レディが首を断たれ、呆気なく役目を終えた。
10体近く配置されたものの、5分と掛らず全滅。
生物としての体液は一滴も流れず、最初から存在しなかったように死体は消失。
遮る者のいなくなったルートを進むは、蛍光イエローのボディを持った異形の参加者。
歪められた歴史を己が身に宿し、悪の帝王を追跡中の飛電或人だった。

「何処に行った……?」

万丈の制止を振り切り飛び立ち、正確に数えていないがそれなりの時間は経ったように思える。
だというのに一向にDIOの姿は見えず、現れるのと言えばNPCのみ。
アナザーゼロワンの飛行能力を駆使しても、追い付く様子が見られない。
難しく考えるまでもなく、DIOが逃げたのとは別の方へ来てしまった可能性が非常に高い。
或人を含め先の場にいた全員、目晦ましの妨害に遭い具体的にどの方角へ向かったか分かっていないのだ。
追い掛けるつもりがその実、無意味に空を飛び回っていただけ。
何とも間の抜けた事態も起こり得ないとは言い切れず、実際にそうなってしまっている。

いや、本当にそれが真実か?
DIOを追い掛けビルドドライバーを取り戻すのは口実に過ぎず、実は一人になる事が目的だったんじゃあないのか。
煩わしく善意を説く者達から離れ、復讐相手の捜索に時間を掛けられる。
悪意へ吹っ切れ、復讐を為す力を手に入れる。
その為に万丈達が共にいるのは都合が悪く、だからそれらしい理由を付けて離れて――

「……っ」

問い掛ける自分自身の声は、耳を塞いでも遮断出来ない。
そんなことはない、あってはならないと言い返すように速度を上げる。
全身を撫でる風は変化中の肉体越しにも冷たく、動揺で火照った頭を幾分冷やす。
善意か利己的な復讐心か、どちらが己の本心かも分からないまま飛ぶ。

675リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:02:31 ID:VQtoL8aQ0
『ご機嫌ようプレイヤー諸君』

やがて収穫の得られない空の旅は、神の声が響き渡り中断を余儀なくされた。
突然映し出された姿に驚くものの、6時間前と同じ光景故困惑は長続きしない。
流石に定時放送は無視出来ず耳を傾ける。

「そんなに大勢が……」

非常に喧しく腹立たしい内容だったが、怒り以上に衝撃が大きい。
1日にも満たない時間で、40人もの参加者が命を落とした。
自分が迷いを抱えたままあっちこっちへ動き回ってる間に、これだけの人数が殺されたのだ。
驚きと、次いで後悔にも似た苦々しさが湧き上がる。
ゼロワンに変身出来ずとも、戦う為の力はあった。
助けられる力があったのに、一体自分はこの6時間で何をやっていたのか。

同時にこうも考えた。
滅はまだ生きており、自分の手で破壊する機会は失われていない。
復讐を果たすのが不可能になっていない事実へ、安堵を抱いてしまった。
我が事ながら身勝手で嫌悪が襲い、しかし滅の生存に「良かった」と内心呟いたのも否定出来ない。

自分以外の者の手で滅が破壊されるという、到底納得のいかない事態は防がれた。
かといってストレートに暗い喜びを口にするには、善意を捨て切れていない。
泥がへばり付くように重い心で、一旦地上へ降り立つ。
良くも悪くも、放送は一度頭を整理する機会を与えた。
脱落者の発表に意識が向かいがちだが、禁止エリアも軽くは見れない。
機能するまで猶予があるとはいえ、確認もせず動き回った結果手遅れは御免だ。

「……ってか今俺がいるとこじゃん!?」

地図アプリを起動したところ、現在位置はF-3と判明。
つい今しがた指定を受けた三つの内の一つ。
脇目も振らず飛んで来たが、まさかピンポイントで禁止エリアに入り込んだのは予想外。
機能するまでの2時間をのんびり使う気はない。
支給品の放置されているらしいエリアでもなく、好んで訪れる者はまずいないだろう。
早急に離れようと羽を広げ、

676リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:03:20 ID:VQtoL8aQ0
「え……」

視界の端へ映るソレに気付いた。

地面へ横たわり、ピクリとも動かない。
路上に放置された自転車だとか、風で飛ばされて来たゴミだとか。
そういった日常で目にするものとは違う、明らかな異物。
心臓が掴まれるような、嫌な予感を覚え近付く。
早朝の寒風に吹かれ、艶を失った金の長髪が寂し気に靡いている。
元々白かったろう肌は今や、血の気を完全に失って青白く変貌。
光が宿らない瞳が最後に何を見たのか、或人は知らない。

「この子は……」

殺し合いが始まり間もない頃に会った、名も知らぬ少女。
ロクな自己紹介もせずに別れ、それから何が起きたのか。
目の前のソレが答えだとばかりに、骸と化し或人と再会を果たした。

ここでようやく気付いたが、F-3は自分と少女が別れた場所からそこまで離れていない。
つまり彼女は檀黎斗による最初の放送が行われた後、早い段階で殺された可能性が高い。

「じゃあ俺が、この子と一緒にいたら……」

殺されずに済んだんじゃないか。
口に出したのは所詮たらればだ、もし本当に少女に同行しても死を防げたかは実際の所不明。
第一あの時は、滅への復讐以外に思考を割く余裕なんてなかった。
仮に少女の方から同行を申し出たとしても、首を縦には振らなかったろう。
だが己の行動が彼女の死に影響を及ぼしたかもしれないのを、むざむざと見せつけられては。
一切の動揺を抱かず、過ぎた事だと割り切るのは困難を極める。

と、瞳が一点を捉える。
細い首に填められた、年頃の少女のアクセサリーにしては倒錯的なリング。
参加者共通で檀黎斗が送った、命を支配下に置かれている証。
支給品こそ周囲に見当たらないが、首輪は手付かずのまま。
いずれ主催者と直接対決に臨む為にも、解除の為のサンプルを手に入れる。
そういった目的以外にもう一つ、首輪の持つ価値を放送前に知った。

「首輪があれば、滅がどこにるかも……」

自分の声ながらいやに遠くに感じ、意識せぬまま手が伸びる。
掴んだ首は細く、僅かに力を籠めれば魚の小骨よりも呆気なくへし折れそうだった。
体温を失ったが故の冷たさが、異形の指越しにも伝わり、

「――っ!」

ようやっと自分が何をしてるのか理解し、慌てて腕を引っ込める。
首輪の必要性を承知の上だとて、躊躇なく死体を破壊しようとするなんて。
自分自身が俄かに信じられず後退るも、首を放した際の衝撃が原因だろう。
ガクンと少女の頭部が動き、光の宿らぬ瞳と視線が合った。
死体は何も語らない、少女を少女たらしめる魂はこの世の何処にも存在しない。
なのに或人には、まるで自分を責めているようにしか見えなかった。

「…………ごめん」

そよ風にすら掻き消され兼ねない、か細い声の謝罪と共に背を向ける。
ただの一度も振り返らず、逃げるように飛び立って行く。
そうして残ったのは数時間前と同じ、語る術を奪われた魂無き器。
少女を殺したのが憎きヒューマギアだと、知る由もなかった。

677リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:04:05 ID:VQtoL8aQ0
◆◆◆


デュエルモンスターズの利点、と言っても一言に纏めるのは難しい。
ルールを理解し相応のデュエルタクティクスこそ要求されるが、使いこなした際に得られるメリットは大きい。
主催者直々にデッキ以外の支給品を没収したのも、納得のいく応用性。
戦う力を持たない者であろうと、戦闘をモンスターに肩代わりさせられる。
魔法カードを使えば傷の治療が行え、装備カードで武器の実体化も可能。
中には海馬瀬人や天城カイトのように、移動手段としてモンスターを召喚する手もある。

「ンンン!足柄の鬼子は熊を乗りこなしたとの逸話がありますが、よもや拙僧にもその機会が巡って来るとは!いやはや、この世は何が起きるかとんと分かりませぬなぁ」
「乗り心地は微妙だけどねー。こーんなボロい見た目だし、しょーがないかもだけどー」
「ではでは、不満を忘れる程に拙僧との二人旅に身を委ねなされ!子女一人喜ばせずして、男子(おのこ)は名乗れますまい」
「乗り心地以上に最悪なのは、あなたが同乗者ってことなんだけどにゃー」

軽口、というには些か毒の強い返答だった。
ピカピカのランドセルが似合う少女と、日本人離れした長身の男。
灯花とリンボが跨るのは巨体を誇る狼、と言うには余りに異様な見た目の存在。
青い体のそこかしこに縫い目が走り、四肢から飛び出す生物にあるまじき綿。
大半が目を剥くだろう、胴と前足を繋ぐハサミ。
当然ながら自然界にこのような狼がいた記録は、歴史上のどこにもない。

それもその筈。
この狼はデストーイ・シザー・ウルフと言い、灯花が支給品のデッキを使って召喚したモンスターの一体。
継ぎ接ぎだらけの不安定な外見と裏腹に、発揮される走力はそこらの自動車顔負けの速さだ。
徒歩でチマチマ参加者を探すよりも、よっぽど効率が良い。
加えて、今の灯花には少しでも早く辿り着きたい場所があった。

「おや、あれは……」

逸る心を嘲笑うかの如く、移動へストップを掛けるモノが出現。
リンボの声に反応するまでもない、突如天空へ巨大なモニターが浮かび上がったのだから。
映し出された尊大な口調の男へ、定時放送だと即座に察した。
急いでる最中とはいえ、聞き逃すのはそれこそ馬鹿のやること。
不満気に頬を膨らませつつもシーザー・ウルフを止め、聞く体勢を取る。
喧しさで言ったらリンボと良い勝負の自称神を冷めた目で見ながら、必要な情報を頭に入れていく。

678リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:04:44 ID:VQtoL8aQ0
「へぇー…みふゆと傭兵さん、死んじゃったんだ」

モニターが消え数秒の沈黙を挟んだ後、ポツリと呟く。
死者への嘆きも憤りも宿らせず、ほんの少し意外そうに。

壊滅した今となっては過去の話なれど、マギウスの翼の構成員は非常に多い。
中でも能力に秀でた魔法少女は白羽として、黒羽達を纏め上げる地位を与えられた。
みふゆもまた白羽の一人。
マギウスを抜かせば、教育係の神楽燦と並ぶ屈指の実力者だ。
魔力減退が起きようと踏んだ場数は随一、やちよ同様にベテランの魔法少女。

そんなみふゆでさえ、たった6時間を生き延びられなかった。
ドッペルの暴走を命懸けで阻止した、生前の死とは違う。
実力勝負でみふゆを上回る者が、殺し合いには参加している。
多少の驚きこそ抱くも、当然かとすぐに納得へ早変わり。
協力者の陰陽師や、映像越しに見た異形の剣士達。
そういった存在を思えば、何も不可思議ではない。

生きてる内に会えれば色々問い詰めたかったけど、死んでしまったならまあ良いかであっさり切り替える。
フェリシアに関しても同様だ、脱落を知っても深く考える事は無し。
或人と別れた後で殺されたのかもしれないが、特別興味も抱かない。
それよりも、いろはとねむの無事を知れた方が大きい。
姉と呼び慕うあの人は自分を余り大事にする少女じゃなく、親友だって万が一下手を踏まないとも限らない。
最悪の事態にはならず安堵の想いが込み上げる、とはいえ同行者の手前面には出さない。

(あーでも、ベテランさんもまだ生きてるんだっけ)

死んでた方が都合の良い、面倒な魔法少女の生存という嬉しくないおまけ付きだが。
実力の高さ故に納得はあり、一方でフェリシア共々脱落になってないのへ不満を感じざるを得ない。
ドッペルに関しての実験に使う対象が失われてない、と考えれば悪い話でもないが。
僅かに眉を顰めれば、目敏く気付いた同行者がここぞとばかりに顔を覗き込んで来た。

679リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:05:30 ID:VQtoL8aQ0
「おやぁ?如何いたしましたかな?今の放送で何か気に食わぬものでも?」
「自称神様の無駄が多い放送を見たら、誰だってウザいって思うでしょ」
「いえいえ、拙僧はむしろ感心しました。遊戯盤の主…かの者の言葉を借りれば『げえむますたあ』ですか。ああも焚き付け煽る演出を呼吸の如く容易く行えるのも、一種の才能かと」

参加者を嘲笑い死者を冒涜し、たった数分で尋常ならざるヘイトを自らに集める。
大半のプレイヤーからすれば怒りを引き出される内容も、リンボには却って歓迎すべきもの。
殺戮遊戯を謳う以上、こうでなくてはと笑みを浮かべた。

「はいはい、趣味が合う相手が見付かって良かったねー」

リンボが“こういう男”だと既に知っている為、灯花は雑に返し話を打ち切る。
今の放送に自身の方針を揺るがす程の情報は無かった。
未回収の支給品や特殊なNPC等、有益な内容も一旦片隅に留めておく。
シザー・ウルフに指示を出し移動を再開、定時放送の前から目的地と定めた場所へ急ぐ。

結論から言うと、妨害を受ける等のアクシデントに見舞われることなく到着はした。
が、灯花の望んだ光景はそこに無い。

「ほぅ、これはまた派手に楽しまれたようで」
「……」

声色にも楽しさを籠めるリンボと反対に、険しい表情で一帯を視界に収める。
畳を無理やりに剥がしたような有様の地面。
白亜の宮殿へ入る為の場所は破壊の限りを尽くされ、そこかしこに瓦礫が散乱。
負傷や病の治療目的で訪れた者も、これでは揃ってUターン確定だろう。
聖都大学附属病院は今や、暴動が起きたかの惨状でプレイヤー達を待ち構えていた。

目の前の施設付近で戦闘があったのは、灯花も知っている。
ただこれ程では無かった筈だ。
自分達が到着するまでの間に何が起きたのか。
答えを教える者は見当たらず、目に映るのは破壊の痕跡ともう一つ。
地に二本足を着け息絶えた、学ラン姿の少年。
見覚えの無い顔であり、どういった経緯で死んだかも不明。
魂の抜け落ちた死体にも関わらず、威風堂々の四文字がピッタリ当て嵌まる。
最後まで戦い抜いた戦士だと、称賛を投げかける気質とは来訪者のどちらも程遠い。
物言わぬ少年を見つめるのも束の間、リンボへ振り返り口を開く。

680リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:06:26 ID:VQtoL8aQ0
「タイムテレビ、だっけ。それ貸して」
「宜しいのですか?過去の鑑賞を楽しめるのは残りあと四回。使い所に熟考を重ねた上での決定と、そう捉えても?」
「同じこと言わせないで欲しいんだけど」

回数制限の決められた支給品なだけに、念の為確認を取った。
などと合理的な理由は一割あるかどうかも怪しく、単に灯花を揶揄っただけ。
向こうもそれが分かっているので、有無を言わさぬ口調をぶつける。
幼さとは不釣り合いの威圧感が籠められており、黒羽達がいれば震え上がったに違いない。
生憎リンボには子猫が精一杯の怒気を放ってる程度に過ぎず、脅しの効果はゼロ。
とはいえおちょくるのも程々にし、「これは失礼」の一言を添え支給品を貸し出す。

一度使っている為、操作方法を今更確認する必要もない。
ダイヤルの調整と同時にボタンを押すと、画面の砂嵐が徐々に消える。
自分達が来る少し前の光景が映し出された。
放送からそう間を置かずに起きた、襲撃者達と病院内に留まった参加者達との乱戦。
全てを滅する刃と化した日輪の参戦を経て、黄金の精神が葬られるまでの一部始終。

(成程成程……そうなりましたか)

長い指で顎を擦り、リンボは映像から得られた情報を己が頭に浸み込ませる。
上質な砂糖菓子をゆっくりと舐るように、今後の楽しみへの期待を寄せて。

薄々察しは付いていたが案の定、火炎の痣を浮かべた男達は兄弟らしい。
様子を見るに大方の予想通り、弟の方は認識を弄られているのだろう。
英霊剣豪にも並ぶか或いはと、映像越しにも肝を冷やす絶技の使い手。
本来であれば弱き子羊どもの盾となるだろう筈が、今や等しく滅びを与える天災も同然。
あろうことか、悪鬼へ堕ちた兄の方がまだ守護者と呼べる動きに出ていた。
当人達にとっては悲劇であり、リンボには喜劇である。

継国縁壱以外に興味を引かれたのは、変幻自在の肉体を持つ奇妙な男。
泥や土に仮初の命を吹き込む術は珍しくもないが、あの者は排泄物から生み出されたのではと思わざるを得ない。
映像越しであっても、見ているだけで異臭が漂う錯覚を覚えた。
しかし持ち得る力は油断ならない、無法の極み。
単純な他者の異能の模倣や変身能力の類、とは言い切れない異様さだ。

681リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:07:07 ID:VQtoL8aQ0
他にも或人が探す絡繰人形、『でゅえるもんすたあず』なる札遊びを使いこなす青年、我が身を巨大獣へ変えた少女等々。
混沌(カオス)と言う他ない面子が繰り広げた祭りは、スタンド使いの死で幕を閉じた。
労せずして情報を大量にに得られたのは良い。
一方で自分が一枚噛む前に騒ぎが終息を迎えたのは、少々惜しいと思わなくもない。

(まあそれは次に取っておくとしましょう。拙僧が手を加えるまでもなく、孵化は早まりつつあるようですからなぁ)

笑い声が漏れぬよう努め、傍らの少女を童女を見やる。
映像の切れた黒い画面に視線を固定し、リンボには見向きもしない。
だがどんな顔をしてるかなど、背後からでも分かった。

「…………」

人間、不快感も度が過ぎれば分かり易く表情には出ないらしい。
鏡代わりの画面に映る、目の据わった自分の顔と見つめ合いながらどうでもいい事をふと思う。
冷静になれと言い聞かせるも、黒々とした火炎が渦巻き鎮火の兆しは一向に見せない。
神経を逆撫でする笑みの術師が横にいなければ、タイムテレビを蹴飛ばすくらいはやったかもしれない。

放送直後の戦闘で、いろはがどうなったかは全部知った。
この地で出会った浅い関係の連中の為に、己が身を削って戦う。
あの人ならそうするだろうなと、納得があって。
無茶ばかりする人だから、自分もねむも気が気でなくて。
四人で過ごした病室の頃から優しさは変わっておらず、他の魔法少女なんかよりも強く救いたいと願う姿に改めて決意が固まって。

682リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:08:05 ID:VQtoL8aQ0
そんないろはの隣に、さも当然のように立つ異形の剣士が無性に苛立たしかった。

たかだか数時間程度の付き合いでしかないくせに、何故あんな男がいろはの信頼を得ているのか。
ベテランの魔法少女すら超えるやもしれぬ力を持ちながら、いろはをロクに守れていないではないか。
いろはが両腕を細切れにされ斬首の手前までいった時、悲鳴が漏れたのは自分でも分かった。
ソウルジェムさえ無事なら死にはしないと分かっていても、惨たらしく傷付く様に平静を保ってなどいられない。
だというのにあの男は、いろはが斬られてからようやく動く始末。

(役立たずのくせに、お姉さまに触れないでよ……)

忌々しく吐き捨てるも、現状は灯花の手の届かない所へ行ってしまった。
目が腐りそうなくらいに汚い男が余計な真似をしたせいで、いろはは異形の剣士共々消息不明。
映像を見る限り、今どこにいるかの手掛かりは残されていない。
学ランの少年を斬った侍も映像の最後で去って行き、病院に集まった者は散り散りだ。
運良く近くのエリアにいろはが飛ばされた、と都合の良い展開に期待し留まるか。
論外だ、それで現れなければ結局時間をゴミ箱に捨てるのと同じ。
まだ動き回って虱潰しに探すか、情報の売買を行う特殊NPCでも見付ける方がマシ。
病院での顛末を知った以上、もうこの場所に用は無い。
待機させていたシザー・ウルフに再び乗るその前に、一つ用を済ませておく。

「ねえ、そいつの首輪」
「承知しております」

長ったらしく指示を出さずとも、即座に望み通りの行動に出る。
毎回こうなら良いのにと内心で愚痴る間に、リンボは一作業を終えた。
呪符が首を綺麗に断ち、頭部は地面を転がる。
死して尚不動の耐性を保っていたのもここまでだ、時間を置いて全身がアスファルトへダイブ。
戦士の生き様を穢す所業、そう憤る者は残念ながら不在。
死体には目もくれず灯花は首輪を拾い、自身のデイパックへ放る。

これでもう病院へ留まる理由は無くなった。
シザー・ウルフに跨り、戦場跡から見る見る内に遠ざかって行く。
無人の半壊した病院など眼中にない、それよりいろはを探す方が優先だ。
あの侍と二人きりと考えただけで、頭を掻き毟りたい衝動が湧き出る。

あんな奴より、自分の方がずっといろはの事を知っている。
あんな奴より、自分の方がずっといろはの救済を考えている。
いろはの隣は、自分の以外誰にも――

683リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:09:08 ID:VQtoL8aQ0
(…………あれ?)

冷風に顔を撫でられる最中、はてと首を傾げる。
今何か、妙な事を考えなかっただろうか。
魔法少女でもない男がいろはと共にいる不快感だけじゃない。
もっと別の、殺し合いでの方針に相反するものが頭に浮かばなかったか。

主催者の持つ力を奪って魔法少女の運命から、環いろはを救う。
たとえいろは本人に説得されようと、変えるつもりはない。
目的を果たした先で、自分の居場所がなくなるとしても構わない。
きっとねむも同じ想いで動いてる、だったら灯花だって必ずやいろはの救済を実現する。

(そうだよ、わたくしがお姉さまのお傍にいられなくなっても――)

いろはが救われてくれさえすれば問題無いと、そう決断した。
自分からいろはの隣という居場所を、捨てる覚悟だった。
なのにどうしてだろうか、胸が軋むような感覚を覚えるのは。
救われた未来のいろはの傍に、自分は存在しない。
それで良いと思っていた光景を思い浮かべると、揺るがぬ筈の決意へ途端に亀裂が生まれるのは。
いろはの隣に収まっている、自分ではない『誰か』が酷くに目障りなのは。

「灯花殿」

自分自身への言い知れぬ違和感が膨らむが、思考を沈ませるのは叶わない。
名前を呼ばれハッと振り向けば、リンボが進行方向とは異なる箇所を瞳で射抜く。
何か見付けたのか、ありきたりな質問をぶつける前に答えが返された。

「敵襲です」

四文字の内容を最後まで聞くまでもなく、灯花の動きは迅速だ。
「敵」と言われた時点で即、シザー・ウルフへ指示を飛ばし方向転換。
リンボもまた口以外に手も動かし、宙へ五芒星を描き結界を展開。
襲撃への備えを完了、タイミングをほぼ同じくして光弾が二人を狙い撃つ。

684リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:09:48 ID:VQtoL8aQ0
シザー・ウルフを回避へ動かした甲斐もあり直撃は避け、飛散する熱も結界が阻む。
無傷でやり過ごし、だが当然これだけで終わりじゃあない。
銃撃を行った張本人が、シザー・ウルフの前に飛び出て進路を妨害。
光弾の乱射を受け強制的に移動は中止、襲撃者と睨み合う構図が生まれた。

「これはこれは……最初に我らと会うのが貴殿ですか」
「どーせなら、社長さんのとこに飛ばされてれば良かったのにねー」

さも面白そうに言うリンボと正反対に、灯花は煩わしさを顔に出す。
真紅と黄金で彩られた装甲、星座盤を填め込んだ特徴的な頭部。
タイムテレビに映っていた者の一人であり、誰が変身者なのかも知っている。
或人が探し求める復讐相手、ヒューマギアの滅。
聖都大学附属病院からそう遠くないエリアに転移し、自分達を見付けたらしい。
何で会うのがこいつなのかと苛立ちながら、殺意に溢れる滅へ続けて言う。

「こんなところで油売ってないで、早く社長さんのとこに行ってあげたら?」
「なに…?お前達は飛電或人と会ったのか?」

自分を知っている口調に加え、「社長さん」の言い方で察しが付いたのだろう。
ただでさえ剣呑な声色を、更に鋭くし問い質す。
普通の子どもなら恐怖を感じるだろうプレッシャーを軽く受け流し、南東方面のエリアで会ったと伝える。
4時間以上も前の情報だが、急げば道中で見つかる可能性もゼロじゃない。
仮に或人を発見出来ず終いになっても、別にどうでもいいが。

「あなたたちのいざこざに興味なんてこれっぽちもないけどー、急がないと社長さんとは会えないんじゃないかにゃー?わたくしだって暇人じゃないんだから、早くそこ――」

どいて、そう言い切るのを遮り再度銃口が向けられた。
対マギアやライダーを想定した大口径は、小学生の体を焼き払うのに過剰な威力を持つ。
照準を合わせられ、いつ殺されても不思議は無い状況。
なれど灯花に慄く様子は見られず、睨み合う瞳が徐々に冷えていく。

685リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:10:37 ID:VQtoL8aQ0
「……わたくしのお話が理解出来なかったのかにゃー?もしかしてヒューマギアって、頭脳回路にじゅーだいな欠陥持ちなの?」
「飛電或人はお前に言われるまでもなく殺す。だが人類…特にお前達のような悪意を振り撒く者も排除対象だ」
「ンンンン!これは手厳しい。親切心で或人殿の情報を提供しましたのに、よもや恩を仇で返されるとは」

嘆く言葉と裏腹に、リンボは余裕の笑みを崩さない。
その態度に加え、機械生命体であっても強く警戒を抱かざるを得ない邪悪な気配。
強い悪意を持つ人間は多々あれど、こうも強烈に煮詰めた存在は滅多に見れない。
そんな男に平然と付き合う灯花共々、生かすべきでないと結論を下すのに時間は掛からなかった。

「あーもー、お馬鹿さんの相手ってほんといや!…ふーんだ、モタモタしてる社長さんが悪いんだもん。廃棄処分を手伝ってあげる」

手を煩わせる滅へうんざりしつつ、排除に動き出す。
瞳へ苛立ちのみならず、明確な敵意を宿しカードを引き抜く。
マギウスの翼を率いていた頃から、邪魔者を消すのに躊躇は抱かなかった少女だ。
何より、この男もいろはを殺そうとした参加者。
真紅の騎士や継国縁壱程の重傷を負わせたのでないにしろ、いろはを傷付けた一点で怒りを抱くのに十分な相手。

戦闘態勢に移った灯花が手札を切るのを、悠長に待ってはやらない。
ほんの少し引き金に力を籠めれば、少女の焼死体が完成。

「ンンンンン!いけませぬ!か弱い子女を付け狙う蛮行、このリンボの目が黒い内は許しませぬぞ!」

これ程に説得力を感じない言葉をペラペラ口走れるのも、一種の才能ではなかろうか。
呆れる灯花を尻目にリンボは呪符を投擲、光弾の矛先を自分へと変える。
紙切れを投げ付けられたとて、鎧越しでは痛くもかゆくもない。
だがリンボが放ったのは、生物を呪い殺すのに過剰な念を籠めた呪物。
一枚だけでも脅威のソレが、計四枚飛来。
心身の両方を侵し、苦悶に満ちた最期を与える凶器はヒューマギアにとっても油断ならない。

とはいえ、敵に届くかどうかはまた別の話。
滅が変身中のライダー、エボルが如何にハイスペックかは今更説明するまでもない。
真紅のオーラを片腕に纏わせ薙ぎ払い、呪符を四枚全て焼き潰す。
殺す順番が灯花からリンボへ変更、すかさず照準をセットしトリガーを引き絞る。
オーソライズバスターの銃撃が襲うも、ひらりと木の葉を思わせる軽やかさで回避。
次いで新たに呪符を数枚取り出し、再びエボルへと投げ放つ。

686リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:11:26 ID:VQtoL8aQ0
「踊れ踊れ、踊り狂いなされ」

先程と同じように、呪符を直接当てるだけでは芸がない。
自身の元から離れようと、一度リンボの手が加わった以上は遠隔で術式の発動も可。
符より墨汁めいた黒が溢れ出し、無数の毒虫へ変化。
蛇、蝦蟇、蜥蜴、蛞蝓、百足。
呪物生成において広く使われる、おぞましき群れが牙を剥く。
真っ当な感性の持ち主であれば鳥肌を抑えられぬ光景は、視覚的なダメージが全てじゃない。
一度噛み付かれれば最後、群がる毒虫らが腹を満たすまで食い潰されるだろう。

『Progrise key comfirmed. Ready to buster.』

怖気の走る光景にも一切の動揺を抱かず、流れる手付きでプログライズキーを装填。
毒針状のエネルギー弾を連射し、毒虫の大群を蹴散らす。
呪符の効果で生み出されたモノをどれだけ殺しても、術を放った本人はノーダメージ。
直接攻撃を当てるべく、得物を近距離形態に変え距離を詰める。

接近戦に身を興じるには、式神の身では力不足が否めない。
地を蹴り刃を躱しつつ、三度目となる呪符の投擲を実行。
エボルを痛め付けるより早く、腕の一振りで霧散するとは承知の上。
だからもう一手打つ。

「ン急急――如律令」

符に籠められた呪力が効果を増し、火炎が剛腕となって伸びる。
頭部を、四肢を、胴を掴み焼き殺す拘束具。
一度捕まれば最後、炭と化すまで決して逃しはしない。

『Progrise key comfirmed. Ready to buster.』

ならば五指が触れるよりも早く、掻き消せば良いだけのこと。
プログライズキーのデータがアビリティを付与、巨大な蠍の尾を生み出す。
更に反対の腕にはエボルの機能を使い、真紅のオーラを纏わせた。
両腕の動きに合わせて振るわれ、火炎の剛腕は呪符共々消滅。
当然これだけで終わりにはしない、勢いを殺さず術師を消し去らんと迫る。
間近で待ち構える死の気配を笑い飛ばし、人差し指が描くは五芒星。
毒針も鮮血色の光も結界の突破は叶わず弾け、なれど結界もまた相討ちの如く砕けた。

687リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:12:25 ID:VQtoL8aQ0
「目を見張る性能の腰巻きですなぁ。拙僧のような脆弱な者は、寸での所で死を躱すのが精一杯」

危機感を全く感じさせない口調だが、リンボとて相応に力の差は理解している。
本体ならまだしも式神、それも制限により大幅な弱体化を余儀なくされた身。
術の出力が削がれた状態でエボルを相手取るのは、流石に無謀と言う他ない。
それでも瞬殺を防ぎある程度食らい付けるのは偏に、支給品の恩恵があってこそ。
タイムテレビ以外に小倉しおんへ与えられた、複数本セットのアンプル。
ここに燕結芽がいたら、正体を察し露骨に顔を顰めただろう。

アンプルに入ったモノの名はノロ。
珠鋼の精製時に生み出される不純物であり、荒魂の正体。
折神家親衛隊がそうしたように、3本を自身へ投与し能力を引き上げた。
ノロの過剰投与は歴戦の刀使にとっても毒だが、リンボには無問題。
式神であるのに加え、負の神聖を母体にする呪術との相性も抜群だ。
尤も本体に匹敵する出力へは流石に届かず、数に限りがある以上無制限に打ち込めないが。
しかし足止めを行うには十分だ、本命は自分ではなくもう一人なのだから。

「灯花殿、そろそろ準備は整いましたかな?」
「今やってるんだから急かさないでよー!」

言い返しながらもカードを場に出す手は休めない。
エボルの力が如何程かは映像で確認済、率直に言ってデストーイ・シザー・ウルフで勝てる見込みは薄い。
灯花自身が魔法少女の力を振るい、大火力で一気に消し飛ばすのも一つの手。
但しドッペルに関して不可解な部分があり、グリーフシードも手持ちはゼロ。
そういった現状を考えれば魔力はなるべく温存し、代用可能なカードで切り抜けられるのに越したことはない。

「これ使ってー…はい、ちゃっちゃと出て来てねー」

デストーイ・シザー・ウルフ以上のモンスターを出すには、幾つかの工程が必要不可欠。
フィールドを整えねばならず、真っ先に使ったのは永続効果の魔法カード。
エッジ・ナイトメアは1ターンに一度、墓地のエッジインプモンスターを特殊召喚出来る。
滅との遭遇以前にシザー・ウルフを融合召喚した際、墓地へ素材となったカードが置かれたままなのが幸いした。

複数のハサミが連なったモンスター、エッジインプ・シザーが墓から蘇る。
自前で再生効果を持つが、手札をデッキトップに置かねばならずドローに制限が掛かるデメリットを持つ。
だから今回は永続魔法を使い召喚を行った。
無論この一枚に攻撃を任せる気はなく、素材の一つに過ぎない。

688リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:13:24 ID:VQtoL8aQ0
「それからこれと…あっ、効果も使っちゃおっと」

苺色のタコ焼きのような頭部のモンスターを通常召喚。
ファーニマル・オクトが場に出た事で、手札のカードの効果が発動可能となる。
綿あめに似てモコモコとした毛皮のモンスター、ファーニマル・シープを続けて場に出す。
場に自分以外のファーニマルモンスターがいる時、手札から特殊召喚が出来るのだ。

「この二枚を使ってしょーかんっ!出してあげたんだから、しっかり働いてよねー」

エッジインプ・シザーとファーニマル・シープ、そして手札の融合を使い融合召喚。
綿の飛び出た巨体に、鋭利な刃と化した背びれと尾びれ。
自然界に生息する個体とも、子供の喜ぶぬいぐるみとも違う不気味な鯱のモンスター。
デストーイ・クルーエル・ホエールの出現に、エボルも注意を引き付けられる。
カードを使ってモンスターを使役する参加者は、病院でも遠回しに見た。
それぞれ強さに差は有れど、放って置けば面倒になるに違いない。
光弾を撃ちリンボを牽制、動きが止まったのを見逃さずプログライズキーを叩き込む。
余計な真似に出る前に消し去るまで。

「だーめっ!おっきいシャチさんの効果をはっつどー!」
「なっ…!?」

引き金を引く寸前、オーソライズバスターが不可視の力で弾き飛ばされた。
手にあったグリップを握る感触が無くなり、エボルは困惑を隠せない。
異変はオーソライズバスターのみならず、灯花の近くにいたモンスターも一体消えたとは気付けなかった。

デストーイ・クルーエル・ホエールは召喚に成功した時、自分と相手の場のカードを一枚ずつ破壊する効果がある。
対象はファーニマル・オクトとオーソライズバスター。
放送前、遊星がサテライト・ウォリアーの効果で大尉のデイパックを破壊した時と同じだ。
カード効果の影響を与えられるのは、デュエルモンスターズのみではない。
衛星ゼア製が作り出す強化合金による耐久性故か、手から弾かれるに留まったが。

クルーエル・ホエールの効果を続けて発動。
エクストラデッキからデストーイモンスター一体を墓地へ送る。
単に墓地のカードを増やしただけで終わらない、先んじて召喚したシザー・ウルフの攻撃力を1000Pアップ。

攻撃力3000、かの青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)と同等の数値へ到達。
近年の環境では珍しくもないが、パワー勝負に出るならこれくらいは必須。
ハサミをカチカチと鳴らし疾走、エボルを噛み砕かんと大口を開ける。

689リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:14:11 ID:VQtoL8aQ0
『Ready Go!』

『EVOLTEC FINISH!』

だが獣一匹に討ち取られるようなら、殺し合いで多くの参加者を苦戦などさせていない。
レバーの回転数を速め、ボトル内部の成分を変身時以上に活性化。
地面に広がった星座盤が右脚へ収束し、必殺のエネルギーを纏う。
牙と回し蹴り、打ち勝ったのは後者だ。
布切れすら残らずに爆散、熱風が灯花の頬を撫で顔を顰める。
モンスターが破壊され、突然全身に鬱陶しい倦怠感が圧し掛かった。
ライフポイントを削られるとは、こういうことか。
念の為指輪状態のソウルジェムを見やるが、そっちは無傷なので問題無し。

「もー!使えないんだから!」

それはそれとして文句を言う間にも、エボルの攻撃は続く。
再びレバーを回し、エボルボトルのエネルギーを今度は腕に付与。
この地で魔法少女を屠った鉄拳で、フェリシアのみならず灯花にも滅びを齎す。

「なりませぬ!そのような非道はなりませぬぞ!」

微塵も心の籠っていない言葉を吐き、しかし灯花から死を遠ざける気でいるのは確か。
遊び甲斐のある玩具を、勝手に壊されては堪ったものじゃない。
善意が欠片も宿らない動機で呪符を複数枚展開、結界を生み出しエボルの一撃を防ぐ。

本体のリンボなら防御に成功しただろうが、悲しいかな式神故に結界の強度も低下。
突破され拳が突き進むも、ノロの強化を乗せた防御だけあって勢いは落ちた。
生じる僅かな隙で、クルーエル・ホエールに指示を飛ばし迎撃。
鎌のような尾びれと鉄拳が激突し、弾かれエボルが数歩後退。
勝った、と言い切れる結果でないのは悲鳴と共に爆散するクルーエル・ホエールを見れば明らかだ。
サイズ差があろうとエボルは並の枠に収まらないライダー、高レベルのモンスターと言えども打ち勝つのは難しい。
リンボの結界で勢いを落とされていなければ、クルーエル・ホエール共々灯花を拳が貫いた可能性とて低くはない。

「別に良いけどね、必要な手はもう打ってあるもーん」

年相応の普通の少女であったら、自身のモンスターが悉く破壊された事実に恐れ慄いただろう。
生憎と灯花はその普通の枠組みに属さない少女、けろりとした顔でドロー。
引いたカードのテキストをざっと確認、発動に何の躊躇も必要ない。

690リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:15:26 ID:VQtoL8aQ0
「ほーら、もう一回出番だよー」

ファーニマル・オクトの召喚時に効果を使って、墓地から回収済のモンスターを召喚。
天使の翼が生えたクマのぬいぐるみ、パッチワーク・ファーニマルがふよふよと浮かぶ。
モンスターゾーンに存在する限りデストーイとして扱われ、尚且つデストーイモンスターの融合素材の代用に使用可能。
場に他のモンスターがおらずとも問題なし、準備はとっくに終わっている。

「手札から魔法カード、魔玩具融合(デストーイ・フュージョン)を発動するにゃー」

フィールドと墓地に必要な素材が揃っている場合、それらを除外しデストーイモンスターの融合召喚を行う。
墓地の二体に加え場のパッチワーク・ファーニマルを代償に、より強大な僕を呼び出した。

「デストーイ・マッド・キマイラをしょうっかーん!」

歪と、それ以外にどう表すべきか。
綿やスプリングが飛び出し、最早ガラクタ同然の巨大なぬいぐるみ。
それら三つをアンバランスに繋ぎ合わせた姿は、名前通りのキマイラ(合成怪獣)。
可愛らしい肉球が付いただろう足先には、棘付きの土台。
トドメとばかりにミサイルまで搭載し、子供達の小さな友からは程遠い怪物に成り果てた。
本来のデッキ所持者、紫雲院素良が操る非情の玩具。
アカデミア所属の決闘者の本性を表し、黒咲隼相手に繰り出した切り札が降臨。

「これはこれは…ンン!悪くはありませぬが、ちと物足りない。このリンボめが戦化粧を施して差し上げまする」

上空に呪符を展開、エボルの頭上から雷を落とす。
容易く避けられたが目的はほんのちょっぴりの時間稼ぎ、少ない猶予でリンボの仕事は完了。
後方へ大きく跳び灯花の隣に降り立つや、マッド・キマイラの核たるカードへ祝福(呪い)を送り届けてやる。

やった事を説明するなら何も難しくない、自身の魔力を流し込んでの強化(バフ)。
但し強化を行ったのはリンボという大前提が付く。
本体のリンボが、吉田優子が持つまおうのぶきに施したのと同じだ。
足りない分の出力はノロで補い、マッド・キマイラをより禍々しい姿へと堕とす。

ぬいぐるの内側を突き破り、部品を散らして肉の突起物が複数生える。
蠢く眼球が張り付き、ギョロギョロと生ける者達を視界に閉じ込めた。
放たれるプレッシャーも膨れ上がり、外見のみならず持ち得る力も上昇。
テキストに記された攻守では計れない脅威へと生まれ変わった。

691リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:16:53 ID:VQtoL8aQ0
「そういえば、いろは殿のお傍におられる六眼の御仁。かの者の得物もこのような特徴をお持ちでしたな。何たる偶然!いえ偶然で片付けてよいものか!もしやいろは殿だけでなく、灯花殿ともあの御方は縁をお持ちで――」
「餌にされたいの?」
「ちょっとした拙僧の悪戯心ということで、どうかお見逃しを」

殺気立った瞳に睨まれ、にこやかに軽口を返す。
主にリンボのせいで微妙に緊張感が削がれるも、感じるプレッシャーは本物だ。
サイズこそ病院で戦った怪獣に劣るが、かといって油断を持ち込むのは大間違い。

『RABIT!RYDER SYSTEM!EVOLUTION!』

『Are You Ready?』

「変身」

『RABIT…RABIT…EVOL RABIT!』

『フッハッハッハッハッハッ!』

スピード特化のフェーズ3、ラビットフォームへ変身。
速攻で片付けるべく両脚にオーラを纏わせ疾走。
脚部装甲に備わった機能が走力を引き上げ、抵抗を許さず地獄へ叩き落とす。
マッド・キマイラを迎撃に動かすも遅い、巨体を引き裂く蹴りが飛び――

「な、に……?」

両脚のオーラが煙のように消え、急に走力が元へ戻った。
エボルドライバーに不調が出たんじゃあない、もしそうなら真っ先に気付く。
では何故という困惑から脱するまでに生まれた隙を、見逃してやる程敵は甘くない。

「灯花殿に倣い、拙僧もここに宣言しましょう。手札から魔法札を発動いたしまする!」

リンボが掲げた手には呪符ではなく、灯花が使うのと同じカードが一枚。
異変はすぐに起きた。
エボルドライバーが勝手に外れ、滅のデイパックへ突っ込んだのだ。
望まぬ変身解除に身が硬直するも、失態を悟った時には既に手遅れ。

692リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:17:42 ID:VQtoL8aQ0
「がぁっ!?」

巨体からは想像もつかない速さで、ぬいぐるみの一体が頭部を伸ばす。
スプリングの勢いを利用した強烈な打撃を受け、滅は地面から引き離される。
単なる頭突きならともかく、リンボの術の支配下にある一撃だ。
破壊こそ辛うじて免れたものの、掠り傷とは口が裂けても言えまい。

マッド・キマイラがバトルを行う時、相手は魔法・罠・効果をダメージステップ終了時まで使えない。
今回の場合、走力を上昇させたラビットエボルボトルの成分が効果と解釈されたのだろう。
更に付け加えるならリンボが使ったのは、小倉しおんの3つ目の支給品。
相手フィールドの魔法・罠を手札に戻すカード、ポルターガイスト。
エボルドライバーも謂わば装備魔法の一種と解釈を受けたらしく、デイパックへ自動で戻る形で効果が発揮された。

正規のデュエルでなく、灯花自身そういったデュエル時の流れに興味がない為効果の説明は行わない。
ついでに言うと、ベルトを再び使わせるのを許可だってしてやらない。
見逃したせいでいろはに何らかの害が及ぶ可能性を思えば、生かす理由がどこにあるという。
マッド・キマイラに破壊命令を下そうとし、協力者からストップが掛かった。

「お待ちくだされ灯花殿。始末はもっと相応しい者に任せるべきかと」
「もしかして、社長さんが見付かるまで放って置くって言いたいのー?」
「ご不満であられますかな?ですが、すぐにご納得頂ける筈です」

なにせ、その三文字で言葉を区切り一点を見つめる。
同じ方を見やり、確かに納得だと目を細めた。
魔法少女と式神、二人の視線が向かう先は滅の後方。
一体何を見ていると、問い質すまでもなく答えが向こうからやって来た。

693リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:18:23 ID:VQtoL8aQ0
「滅ィイイイイイイイイッ!!!」
「っ!?貴様は…!」

刺し貫くに等しい殺気と、忘れるなど有り得ない声。
目を見開き振り向けば、視界いっぱいに映り込むバッタを模した人型のナニカ。
人とヒューマギアを巡る死闘を生き延びて来た戦士に、近いようで明確に違う異形。
何故そんな姿になっているのか、疑問を声に出す余裕は消え失せる。
伸ばされた手が首を掴み、人工皮膚越しに内部パーツを軋ませたのだから。

「がはっ!?」

衝撃が走り、殴られたと分かった時には地面へ叩き付けられた後。
人間以上の頑強さを誇るヒューマギアとて、ライダーに匹敵する怪人の殴打をモロに受ければタダじゃ済まない。
文字通り火花を散らし、青い液体が地面を汚す。
完全破壊を免れたとはいえ、捨て置けるダメージではない。
立ち上がろうと腕に力を籠めるも、再び首を掴まれ無駄に終わる。

「飛電…或人……!」

憎々し気に名を呼べば、首に掛かる力が強まった。

少女の死体から逃げるように去り彷徨った末に、復讐の対象を見付けたのは何という偶然か。
記憶に焼き付くのと変わらない、許し難き姿を見た瞬間に頭の中は怒りで埋め尽くされた。
直前までに渦巻いていた、鬱屈とした迷いも最早些事。
自身を揺さぶった二人組の存在すら、まるで眼中にない。

「イズの仇だ…!お前だけはここで……!」
「仇、だと……」

ゼロワンになった時からずっと傍で支えてくれた、秘書型ヒューマギア。
彼女の名を出し憎悪をストレートに叩き付けると、向こうも眉を顰める。
表情が徐々に険しさを増し、或人に負けず劣らずの憤怒を浮かび上がらせた。
感情に振り回される人間そのものだと、思う余裕も無い或人を睨み返す。

694リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:19:32 ID:VQtoL8aQ0
「俺から迅を奪ったお前が…迅を破壊した貴様がそれをほざくか……!」
「は……?」

そっくりそのまま憎しみを突き返され、間の抜けた一言が零れ出た。
首をへし折り兼ねない程の力が、意識せずとも弱まる。
何を言われたのか、まるで意味が分からない。

「迅……?何言って……」

確かに以前、滅亡迅雷.netとの大規模な戦闘の際に迅を一度破壊したことはあった。
だがそれは過去の話、迅は復元されただろうに。
時にはイズの救出に手を貸し、人類滅亡以外の方法でヒューマギアを救おうとしている戦友のような男だ。
復讐心に囚われた今の或人でも、二度目の破壊に走る気は一切無い。

「惚ける気か貴様……!」

至極当然の困惑も滅から見れば、火に油を注ぐ行為に等しい。
答えらしい答えを返されず、何がどうなってるのか分からなかった。

埒が明かない空気は、意外な所からの助け舟で変化を齎す。

「その疑問には私から答えよう」

聞こえたのは或人でも滅でもないが、両者共に聞き覚えのある声。
いつの間にやら、自分達の方へ一人の参加者が歩み寄って来るのが見えた。
少なくない金を掛けたろうスーツの男を、今更見間違えはしない。

「天津さん……」
「また貴様か。迅の件といい、一体何を言っている?」

或人とは別ベクトルで因縁深い男の登場に、滅もまた訝しく問う。
聖都大学附属病院での戦闘時から、天津の言動には違和感が漂っていた。
もしや戯言で翻弄する気かと疑いを抱くのも、滅からすれば無理からぬこと。
口には出さないが或人もまた、天津が何を言う気なのか視線で問い掛ける。

復讐に燃える男達からの視線を一身に集め、なれど天津に怯む様子はない。
緊張感が張り詰めるのを感じながら、静かに口を開く。
悪意に打ち勝った先の未来を唯一知る人間として、伝えない選択肢は初めから無かった。

695リローデッド ─Are you ready to burst─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:21:03 ID:VQtoL8aQ0



『この音って……』

画面の向こうの彼女が言うまでもなく、天津も何者かの接近には気付いた。

心身共に軽くない傷を負い、仲間の犠牲を経ての逃走。
立ち止まり無力感に身を委ねたい衝動が、微塵もないとは言えない。
基本的に自信家の天津と言えど、信頼の置ける仲間を二度も失えば精神的に大きく響く。
一海も承太郎も、戻るべき居場所と帰りを待つ人々がいた筈。
もし自分がもっと上手く立ち回っていれば、力があれば彼らの死を防げたんじゃないか。
リオン・アークランドの策略を阻止できず、滅亡迅雷.netの全滅と不破諫の死という結末を招いた時と同じだ。
何故生きるべき者達が未来へ向けて歩めない、どうして大罪を犯した自分だけが死を免れる。
自死願望がある訳でなくとも、一度自責の念が浮かべば毒のように後悔が広まっていく。

残念ながらここは社長専用の私室ではなく、悪辣な殺し合いの会場。
天津が立ち直るまで、気を遣ってくれる程の優しさには期待出来ない。
こっちの事情を一切知らず、襲い掛かって来る輩も一人二人では済まないだろう。
病院から十分な距離を取り、何らかの支給品でも使われない限り耳飾りの侍と即座の再会は起こらない筈。

「全く……延々と自分を責める時間も寄越してはくれないか」

苦い表情でドライバーを装着し、慎重に近付く。
コンディションが良いとは言えず、場合によっては戦闘回避も視野に入れねばなるまい。

そう考えていたが、集まった面々を見た途端に隠れてやり過ごす選択は消滅。
モンスターを従える少女と、異様な風体の怪人物。
彼らも気になるが、それ以上に見知った二人の男を放っては置けない。
片方は異形の見た目と化しているものの、声から飛電或人と分かった。
おまけに言動から察するに、滅同様の悪い予感が当たったらしい。
放って置けば憎しみのままに争い合い、最後はどちらも命を落とす。
自分の知る過去とは異なる展開も、絶対に起こらないとは言い切れない。

ゲームを仕組んだ神ならば、これもまた一つの結末としたり顔で言うだろう。
生憎そのような三流以下の悲劇を、天津は断じて認めない。

696リローデッド ─Are you ready to burst─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:21:49 ID:VQtoL8aQ0
「俄かには信じ難い部分もあるかもしれないが、1000%真実だと誓おう。今から話すのは正真正銘、君達二人が本来辿る筈だった未来だ」

前置きもそこそこに、己の知る全てを話す。
イズと迅の破壊、その先に一体何が起きたのかを。

「何だよ、それ……」

聞き終えた或人はわなわなと震え、乾いた声をどうにか絞り出す。
信じられないし、信じたくない。
意図した事でないとはいえ、自分が迅を手に掛けた。
滅の憎悪は勘違いでも何でもなく、恨んで当然の動機に根付いたものだったなど。

何よりも、天津の語る未来において自分は滅を赦している。
復讐の連鎖を断ち切り、もう一度ゼロワンとして高く跳んだ。
実感が全く湧かず、馬鹿げた夢物語と言っても過言ではない。
けれどデタラメと切り捨てるには、語る最中の天津はこれまで見たどんな顔よりもずっと真剣味を帯びていた。
ヒューマギアに敵愾心をぶつけた頃とは正反対の、言動一つ一つに重みがあったと認めざるを得ない。

「……」

天津が話し終え沈黙を貫く滅にも、表情からは動揺が見て取れた。
皮肉にも或人と同じ想いだ、自分が悪意を振り切る未来がまるで予想できない。
おまけに話を聞くに、滅亡迅雷.netは自分を含め悪意の監視者としてのスタートを切った。
人類滅亡の結論を覆し、ヒューマギアのみならず人類をもある意味守る立場になったのだという。
雷や亡、そして迅ならともかく自分までそうなるなど予想できる筈がない。
いやそもそも、これだけ憎悪を向け合う或人と手を取り合うのが――

「君達二人なら悪意を乗り越えられる。迅の言葉だ」
「迅が……?」
「ああ。自分自身でさえ止められない悪意に苦しめられる君達を見て、それでも彼は信じ続けた」

或人にとっては戦友であり、滅にとっては息子同然のヒューマギア。
破壊された恨みでも、自分の仇を取るよう促すでもない。
復讐に駆られ、殺し合いでも変わらなかった二人は二の句が継げない。
互いに紡ぐべき言葉を見付けられない中、天津は畳み掛けるように続ける。
彼らが引き返せない程の悪意に堕ちる前に、何としてでも連れ戻す為だ。

697リローデッド ─Are you ready to burst─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:22:31 ID:VQtoL8aQ0
「滅、迅を破壊され君が抱いたのは本当に彼への憎しみだけなのか?」
「何が言いたい……?」

呻くような問い掛けは自覚がないからか、若しくは気付かない振りをしているのか。
どちらにせよ、天津が言葉を引っ込める気は無かった。

「迅を破壊され君は彼を恨んだ。同時に理解出来た筈だ、大切な存在を理不尽に奪われる痛みを」
「……っ」
「…私自身、偉そうに言える立場でないのは自覚している。だが今はあえて言わせてもらおう」

数多の悲劇の元凶となり、己が罪の重さを理解したからこそ伝えねばならない。

「イズを破壊した事が彼にとってどれ程の絶望か、本当は分かってるんじゃないのか?他ならぬ君自身が、許されざるアークになったと誰よりも理解してるんだろう?」
「馬鹿な……!何を言って……」
「いいや!こればかりは1000%の自信を持って言おう!君が彼に恨みを抱くのは、君にもイズや迅と同じ心が芽生えた証拠だ。
 どれだけ否定しても、他ならぬ君自身が証明している!未来を知る者としてここに断言しよう。
 君の心が生んだのは未知の感情への恐怖や、迅を奪われた憎しみだけじゃない。イズを破壊した事への罪悪感も、間違いなく存在している」

違う、そのたった二文字が喉の奥でつっかえ出て来ない。
否定したいのに考える、考えてしまう。
この地で一人の少女を殺してから、聞こえない筈の迅の声が度々聞こえたのは。
若しかすれば、己に宿る罪悪感がああいった形になったからなのではと。

「俺、は……」
「滅……」

目に見えて動揺する滅へ、或人も言葉に詰まりどうすべきか迷いが生まれた。
憎しみは消えていない、天津の言う未来を素直には受け取れない。
けれど、知ったことかと切り捨てられもしない。

自分の語った内容に各々思う所があるのは明らかと、少なくない手応えを天津は感じる。
すぐには納得出来なくとも、まずは互いに矛を収める展開へ持って行こうとし、

698リローデッド ─Are you ready to burst─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:23:54 ID:VQtoL8aQ0
「不公平、と言う以外に語る内容が見つかりませぬなぁ」

何もかもを台無しにする、悪意を煮詰めた声が場の支配権を奪い取った。

「……私の話はまだ終わっていないのですがね。会話を遮るのがビジネスの世界でどれ程の無礼に当たるか、理解していないのでは?」
「これは失敬。拙僧としてもこのまま見物に徹しても良かったのですが、何分細かいことが気になる性分でしてな。口を挟まずにはいられなかったと、こういう次第故に」

ジロリと睨み付けるが、のらりくらりと受け流しまるで堪えた様子がない。
警戒を払いながらも、今は或人達を優先し視線を外していた。
だが今になって急に会話へ強引に参加し始め、一体何を言うつもりなのか。

仮定の話に過ぎないが。
もしこの場にカルデアのマスターや、 二天一流の女剣士。
或いはインド異聞帯の担当だったクリプター、そして機械人形の女忍。
辺獄を名乗る術師の、アルターエゴ・リンボの悪辣さを知る彼らがいれば揃って言うだろう。

それでは駄目だ、この男に喋らせる前に攻撃すべきだったと。

「貴殿が真実を、ええ、虚偽の宿らぬ真を口にしたとその前提を踏まえて言わせてもらいましょう。――――蘇生の恩恵に与れたのは迅なる絡繰人形のみ。或人殿の言ういず殿は、違うのでしょう?」
「え……」

ドクリと、心臓が強く跳ねたのが自分でも分かった。
或人の様子に気付いてか、猫のように目を細める。

「そこな滅殿は愛しき息子を取り返し、民衆の守り人たる地位を得て、気の知れた仲間達に囲まれた未来が待っている。
 しかし、しかししかしィ……非常に残念でなりませぬがァ……ンンン、或人殿がいず殿を取り戻すことは叶わず終いと、そういう訳でありますか」
「待て、それは……!」

違うと言おうとするも、実際に言葉は出て来ない。
リンボが口にした内容に偽りがないのを、他ならぬ天津自身が分かっているからだ。
破壊される以前のデータを修復出来たのは迅だけ。
技術に秀でた刃唯阿をして、イズの復元はどうやっても不可能と断言せざるを得なかった。

699リローデッド ─Are you ready to burst─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:24:41 ID:VQtoL8aQ0
「先に己からいず殿を奪った滅殿は取り戻し、なのに自分は失ったまま。実に不公平且つ理不尽極まると、そうは思いませぬかな?或人殿?」
「え、あ……」

問い掛けられた或人は言葉らしい言葉を出せず、パクパクと口を動かすだけ。
リンボの語る内容へ耳を貸すのは危険だ。
一度毒を植え付けられ、激しく揺さぶられただけに同じ目に遭うのは避けるべき。

そう分かって尚、考えるのを止められない。
迅は戻って来る、でもイズは戻って来ない。
皮肉にも天津の話が嘘とは思えなかっただけに、残酷な事実を否定出来ない。

「何で、イズだけ……」

喪った絶望はどちらも味わった、だというのに何故片方だけしか戻って来ないのだろうか。
迅の修復を間違っていると言う気は無い。
でもイズだって、あんな風に破壊されて良い筈が無かった。
なのにイズを奪った滅は取り戻せて、自分だけがイズを奪われたまま。
それは、それは、

「妬ましくて堪らないのありましょう?ンンンンン!その衝動を拙僧は歓迎いたします!」

悪意を乗り越えるよりも前、迅を手に掛けていない、復讐に燃えていた時間軸の或人だから抱いてしまった嫉妬心。
微かに鎮静しかけた憎悪が再び顔を出し、後はリンボの望むがまま。
負の感情を煽りぶくぶくと肥やすのは、呪術に精通した陰陽師にはお手の物。
ノロによる強化の後押しを受け、渦巻く怒りが或人の自我すらも飲み込んでいく。

「俺は…オレは…!アァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」
「なんだと…!?」

天津や滅の驚愕を余所に、或人…アナザーゼロワンから放たれるプレッシャーが爆発的に上昇。
外見に変化は見られずとも、先程までとは段違いの脅威へ生まれ変わった。

700リローデッド ─Are you ready to burst─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:25:51 ID:VQtoL8aQ0
本来のアナザーゼロワンウォッチには存在しない特徴が、檀黎斗主催のゲームでは仕組まれている。
内の一つ、悪意に満ち溢れた者が使えば高位の力を得たアナザーライダーに変身が可能。
他者の介入が含まれるとはいえ、急激に憎悪を肥大化させた或人はこの条件を満たしてしまった。
加えて言うなら、現在の或人はリンボの術を受けほとんど暴走状態。
滅への憎しみは変わらずとも、見境なしで破壊を撒き散らす悪意の化身。
アナザーゼロワン・リアライジングホッパーが、最悪の形で誕生を果たしたのだ。

「ンンンンン!!!それで良い、良いのですよ或人殿。自らを解き放たなければ掴める者などありはしませぬ」
「貴様は…!何ということを……!!」

手を叩き復讐鬼の再誕を祝福するリンボを、射殺さんばかりに天津は睨む。
悪意に振り回されるまま、どちらかが力尽きるまで殺し合う。
そうならないよう説得を試みて、解決の兆しが見えて来た所が台無しだ。
ほんの数秒でも時間を戻せるなら、力づくでこの男の口を塞いでやりたい。

「そう憤りなさるな。拙僧はただ、復讐を望む或人殿の願いを叶えただけです。それに、貴殿は殺戮遊戯に否定的な立場。なれば滅殿がここで討たれた方が都合が宜しいと、そうではありませぬかな?」
「いきなりわたくしに振らないでよー」

男達のやり取りを黙って見ていた灯花だが、リンボの凶行を非難する様子は見られない。
むしろ、そうするだろうなという納得さえあった。
そして灯花自身、或人が滅を殺す事への反対は一切無い。
もし何らかの技能や知識、異能の類等々。
灯花が目的を果たすのに有益な力を持つと言うのであれば、怒りを一時的に引っ込めるくらいはした。
だが利用価値を全く見出せず、しかも一応敵対の意志は見せなかったリンボと違って誰彼構わず殺す方針の男を、
天津の説得を支援してまで生かそうと思える程、酔狂になった覚えはない。

何よりも、滅は既に一度いろはを殺そうとしたのだ。
元々抱く強い尊愛の情に加え、リンボから受けた『いろはを自分だけのものにしたい』という暗示の効果。
上気二つの影響もあり、滅を進んで生かしたいとは全く思えなかった。

「時にはリスクを背負うのも大事だけどー。背負い過ぎるのはお馬鹿さんのやることだし、スクラップが妥当ってとこじゃないかにゃー」
「ンンン!何やら拙僧が、そのリスクの内に入ってると言わんばかりの視線が気になりますが!まあそういう事ですので、或人殿が本懐を遂げる様を共に見守りましょうぞ」
「生憎だが、君達の悪趣味に付き合うつもりは1%もない!」

三流以下のバッドエンドに或人達を巻き込んだ怒りを露わにし、プログライズキーを装填。
黄金の装甲にブレード状の角を持つライダー、サウザーの変身を瞬時に終える。

701リローデッド ─Are you ready to burst─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:27:09 ID:VQtoL8aQ0
或人達の元へ駆け出そうとし、聴覚装置が頭上から迫り来る脅威を察知。
飛び退き躱した直後、巨大なぬいぐるみの頭部が地面を粉砕。
BIG5とのデュエル時のクリボー同様、モンスターが勝手になどとそんな訳がない。

「余計なことしないで大人しくしててよー、千パーセントのおじさん」
「子供とはいえ、悪戯の度が過ぎる。環くんの礼儀正しさを少しは見習って欲しいものだ」

おじさん呼ばわりされ、若干の苛立ちを含めながらサウザンドジャッカーを構える。
一刻を争う事態故、いきなり手札を切らせてもらう。
大尉との戦闘で使ったライダモデルの一斉開放、これにより複数体のライダーを味方に付けた。

「キザで痛いおじさんのくせに、お姉さまを語らないでよ!」
「なに…?君は……っ」

いろはの名へ予期せぬ反応があり、驚くのも束の間。
召喚者の苛立ちへ呼応し襲い来るマッド・キマイラへ、聞き返す暇は消え失せた。

「壊シテヤル…!滅……!!!」
「くっ……」

傍らの喧騒に一切意識を割かず、或人は憎きヒューマギアへ剥き出しの憎悪をぶつける。
夢をひたむきに追い掛けた面影は砕け散り、復讐こそが全てと言わんばかりの殺意を発す。
滅とて大人しく破壊を受け入れる気は無いが、意志に反して動きは緩慢だ。
マッド・キマイラとアナザーゼロワンの一撃を、生身で受けたダメージは大きい。
正史では起こり得なかった、復讐の達成が現実と化すのも時間の問題。

しかし偶然か、或いは天が意図して引き寄せたのか。
数秒後に描かれる筈の未来が、新たな乱入者によって破り捨てられる。
大地を引き裂き現れる、赤いボディのスーパーマシン。
ネオ富実野シティの英雄の愛機を駆るは、或人が見失った善意で戦う仮面の戦士。

702リローデッド ─Are you ready to burst─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:27:58 ID:VQtoL8aQ0
「或人!?どうなってんだよ…お前むちゃくちゃヤベェことになってんじゃねぇか!?」

馬鹿の二文字がマッチする語彙力だが、本心からの驚愕だ。
Dホイールを飛び降り、赤いスーツの戦士がアナザーゼロワンの前に立つ。
放送前に続き二度目の再会となる青年、万丈龍我が或人の復讐へ待ったを掛ける。

キャルと別れ、或人及びDIOの捜索にDホイールを走らせどれくらい経った頃か。
北上した先のエリアで喧騒を聞き取り、念の為にと龍騎に変身し来てみればこの状況だ。
アナザーゼロワンの姿は一度見ている為、すぐに或人と気付けた。
だが望んだ再会とは言い難く、安易に近寄る事を戸惑わせるプレッシャーが漂っている。
一体全体、自分の元を去ってから何が起きたのか。
近くにいる他の連中が関係あるのかと、質問を飛ばせる程呑気に構えてはいられない。

「滅ィ……!!」
「は?滅って……」

万丈の存在など視界に映っていないかの如く、瞳はヒューマギアに向けられたまま。
思わず振り返り或人と同じ方を見やれば、破損の激しい青年の姿。
この男がイズを破壊し或人を復讐へ走らせた元凶。
ということはつまり、今の状況は或人が望んだ展開に他ならない。

「……」

或人から話を聞いた時、万丈も滅は危険だと思った。
大切な人を理不尽に奪われた境遇を重ねたのを抜きにしても、人類滅亡の結論を受け入れるのは真っ平御免。
滅は倒した方が良いのと思ったのは、万丈なりに考えた末の答え。
であるならば、或人がこれからやる事に口を出すべきではないのかもしれない。

703リローデッド ─Are you ready to burst─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:28:38 ID:VQtoL8aQ0
「……やっぱ駄目だ。今やっちまったら、後で絶対後悔するとしか思えねぇ」

しかし万丈が選んだ答えは、或人を止めること。
これに驚いたのは様子を見ているしかなかった滅だ。
突然現れた男が何者か知らないが、或人と接触済なら自分の情報も得ている筈。
何故強く警戒するべき相手を、守る気になったのか。

「貴様は何を考えている……飛電或人から俺の事を聞いていないのか……?」
「全部聞いた。正直俺だって、お前を何発かぶん殴ってやりてぇくらいには頭に来たけどよ――」

もう一度或人を真正面から見る。
恋人を人体実験に掛けた連中への、全ての元凶だった星狩りへの。
許してはおけない連中への怒りに燃えた時の自分と似ている、けれど決定的に違う。

「俺にはこいつが、止めてくれって泣いてるようにしか見えないんだよ」

確たる根拠は何だと問われたら、万丈自身言葉では上手く説明出来ない。
それでも、今の或人は最初に会った時より尚酷い。
復讐の事しか頭にないのではなく、復讐以外を無理やり考えさせられなくなったようだ。
理由を聞かれても、強いて言うなら勘としか答えられない。
馬鹿だ筋肉馬鹿だと呆れられるのは承知の上、けれど自分自身が感じたものを信じなくてどうする。

もしこのまま或人が滅を破壊すれば、きっと心に良くないものを残す。
もう二度と、イズが信じた飛電或人には戻れなくなるかもしれない。
その理由一つで、万丈が戦うには十分だった。

「ドケェエエエエエエエエッ!!!」
「うおっ!」

尤も、どれだけ或人を思っての行動も届くとは限らない。
最優先は滅だが、復讐を阻む者も等しく自身の敵。
一度は喝を入れてくれた相手であろうと、攻撃には躊躇を抱かない。
たとえ殺してしまう結果になっても、祝福(のろい)を受けた魂には響かないだろう。

704リローデッド ─Are you ready to burst─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:29:33 ID:VQtoL8aQ0
絶叫を上げ蹴りを繰り出すアナザーゼロワンに対し、龍騎は咄嗟に防御の構えを取る。
両腕の交差で即席の盾を作れば、腕部装甲が攻撃を弾きダメージを最小限に抑えられる筈。

そんな予想を裏切り、殺し切れない衝撃に足が地面から離れた。

「がっ…!?」

吹き飛ばされたと、脳が状況を理解するのを待ってはくれない。
視界に一瞬黄色い光が映り、次の瞬間には背中に痛みが襲う。
龍騎の胸部及び背は特に強固なアーマーで覆われ、破壊は至難の業。
だというのに今受けたのは、装甲が意味を為したと思えない鈍痛。

「アアアアアアアアアアッ!!」

短く漏れた呻き声すら掻き消し、次から次へと龍騎の全身へ衝撃が走る。
何をされているのかを正確に理解出来ぬまま、辛うじて腹部に捻じ込まれる爪先を見た。
一瞬呼吸が止まる感覚を覚え、ゴミのように地面を転がる。

「クッソ……!遠慮も躊躇もなしかよ!期待してなかったけどな!」

『GUARD VENT』

サンドバッグのキツい洗礼を受けたが、ノックダウンには程遠い。
両肩に赤龍の腹部を模した盾、ドラグシールドを装備し防御力を強化。
猛攻へ備え距離を詰め、こちらから攻撃に出るもアナザーゼロワンを捉えらない。
蛍光イエローの脚部が消えたかと思えば、数十の蹴りが一斉に龍騎を叩いた。

「っ、何だこの速さ……!?」

常人を遥かに超える身体機能を以てしても、ロクな反応が許されない異常なスピード。
どうにか隙を見付けて反撃に移る、といった戦法がまるで取れず耐えるしか出来ない。
ドラグシールドを構えダメージを抑えるも、限界はすぐそこまで来ていた。
盾越しに伝わる衝撃で腕に痺れが襲い、僅かに力が弱まる。

705リローデッド ─Are you ready to burst─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:30:13 ID:VQtoL8aQ0
「ぐあああああああっ!?」

防御が崩れた途端に叩き込まれる、機関銃さながらの蹴りの嵐。
数十の打撃を纏めて受けたかの勢いに、紙風船のように軽々と吹き飛ぶ。
地面へ激突し、カードデッキもバックルから外れてしまった。
万丈に力を齎したスーツは、鏡が砕け散るかの儚さで消失。
生身で痛みに呻く青年に心を揺さぶられる事無く、アナザーゼロワンの意識は滅へ逆戻り。

全体的なスペックの大幅な上昇に加え、超出力による高速戦闘。
基本形態であるライジングホッパーの正統進化と言うべき、仮面ライダーゼロワンの最終形態。
そのリアライジングホッパーの能力を付与されたのが、現在のアナザーゼロワンだ。
加えてアナザーライダーであるも、ベースとなったのは或人が元々変身するライダー。
使いこなせなかったメタルビルドと違い、十全の戦闘を行える。
初戦時と違い持ち得る力に差が大きく開き、万丈は手も足も出ない。
かといってアッサリ諦める気は皆無、痛む体に鞭打って立ち上がり、

「っ!?マジかよ……!」

見覚えのあるモノが地面へ投げ捨てられてるのを発見し、驚きながらも拾い上げる。
横部分に備え付けられたレバーと、二つのボトルを填め込むスロット。
自意識過剰な正義のヒーローが使う物と同じ特徴を持つも、決定的に異なる毒々しいカラーリング。
滅が殴り飛ばされた際に、ボトル共々デイパックから落ちたエボルドライバーだ。
まさか自分のビルドドライバーより先に、宿敵だった男の変身ツールを見付けるとは。
厳密に言うと内海成彰が使っていた複製品だが、今それを知る由はない。

「よりにもよってエボルトのかよ……」

顔を顰め露骨に拒否感を表す。
当然と言えば当然だ、自分達の星を滅ぼそうとした男の使う兵器なのだから。
強い武器が手に入って万歳などと、能天気に考えるにはエボルトとの因縁は非常に根深い。
思わず拾ったとはいえ、早くもそこらに放り捨てたい衝動に駆られる。

同時に因縁の男の力だからこそ、この状況でどれだけ役立つかも理解出来てしまう。
使用へ躊躇が大きいか否かと言ったら後者。
だがしかし、ぶん殴ってでも助けてやりたい相手がすぐ近くにいるなら。
自分の中の意地や葛藤のせいで、取り返しの付かない事態になるかもしれないなら。

706リローデッド ─Are you ready to burst─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:30:55 ID:VQtoL8aQ0
「迷ってる場合じゃ、ねぇだろうが!!」

『EVOL DRIVER!』

腰へ巻きつけたドライバーが、腹立たしい男の声で起動を伝えた。
右手で複数のボトルの内の一本、龍を模したソレを強く握り締める。
嘗て自分の体を好き勝手に動かされた時、生み出されたドラゴンエボルボトルだ。
昂る戦意と、内に眠る力が引き出される感覚は覚えがある。
変身を不可能にされ、足掻き続けた果てに再び力を取り戻した時と同じ。

心意システムの影響も少なからず存在するだろう。
されど想いの力で可能性を切り開くのは、万丈にとってこれが初めてではない。
嘗ての己と同じく復讐に囚われ、自分自身ではどうにも出来ず苦しむ男を助けたい。
揺るがぬ意思を糧に、創造(ビルド)は今ここに現実のものとなる。

青いカラーリングから一転、ボトルが黄金に輝く。
グレートドラゴンエボルボトルを、もう一度己が手に掴み取った。
万丈の決意に呼応し、デイパックからクローズドラゴンが飛び出す。
小さな相棒もまた、馬鹿が付く程に真っ直ぐな青年と想いは同じだ。
言葉は無くとも通じ合い、クローズドラゴンへボトルを装填。
エボルボトル同様に進化を果たし、或人を閉じ込める悪意の檻を共に打ち砕く。

『覚醒!』

『グレートクローッzzzzzzzzuuuzuzuzuzzzzzz』

『CROSS-Z BLOOD!』

本来のドライバーでそうするように、星狩りの兵器と一体化させた。
豪快に叫ぶ電子音声にエラーが起こるも、次いで聞こえたのは万丈に聞き覚えの無い名前。
旧世界での死闘でも、新世界でのキルバスとの戦いでも存在しない。
正史においては有り得なかった力を、臆さずに受け入れる。

707リローデッド ─Are you ready to burst─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:31:45 ID:VQtoL8aQ0
『Are You Ready?(覚悟はいいか?)』

「んなもんとっくにできてんだよ!変身!」

『Wake up CROSS-Z!Get GREAT DRAGON!with BLOOD!』

『フッハッハッハッハッハッ!!!』

レバーの急速回転によりファクトリーが展開。
今更覚悟を問われたとて、答えは初めて仮面ライダーになった日から完了している。
断ち切れぬ因縁で繋がれた青年の足掻きへ、だから人間は面白いと言わんばかりの高笑いが響き渡った。

青い光が晴れた時、現れたのは仮面ライダーエボルとは異なる戦士。
黄金と真紅で彩られた装甲を纏い、風に靡くは漆黒のマント。
星狩りと似た特徴を持ちながらも、頭部には正しき心を持つ戦士の仮面を装着。
蒼炎と龍を象ったパーツが、変身者の戦意を表すかの如く輝きを放つ。

名付けるならば、仮面ライダークローズブラッド。
旧世界でビルド殲滅計画を実行した、仮面ライダーブラッドとの類似点があれど同じに非ず。
ハザードトリガーとロストボトルを使わない代わりに、エボルドライバーとエボルボトルでブラッド族としての高スペックを付与。
更に変身者が万丈なのもあって、ラブ&ピースの戦士として戦う。

「今の俺は…負ける気がしねぇっ!!!」

湧き上がる膨大な力を実感し、なれど強さに酔いしれ目的を見失う本物の馬鹿にはならない。
新たな戦士の誕生にもアナザーゼロワンは見向きせず、復讐以外に何も考えられない。
上等だ、嫌でも自分の方を向かざるを得なくするまで。
脚部装甲に蒼炎が迸り、踏みしめた地面が溶け出す。
必ずや止めてやると、昂り続ける戦意に押し出され疾走。

急接近する気配へようやっ振り返った直後、頬へ突き刺さる拳。
銃弾を数十発浴びても、痒いとすら思えない肉体強度をアナザーゼロワンは誇る。
だがクローズの拳はどんな兵器よりも重く、奥底へ沈んだ魂にまで響く一撃だ。
意識が飛び掛ける程の衝撃が襲い、脳が激しく揺さぶられる。

708リローデッド ─Are you ready to burst─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:32:50 ID:VQtoL8aQ0
「ガァッ…!?」
「うおらあああああああああああっ!!」

呻き体勢が崩れるも、クローズが止まる気配は欠片も見当たらない。
怯んだ隙へ拳の連打を叩き込むのは、ボクサー時代から変わらぬ戦法。
或人を縛る悪意という名の鎖を、一本残らず打ち砕くように。
決意の証たる蒼炎を纏わせ、アナザーゼロワンへ放ち続ける。

「邪魔ダ…!!」

無抵抗なサンドバッグになると言った覚えはない。
龍騎よりも力が増したからと言って、アナザーゼロワンが脅威でなくなった訳でもない。
数発目の拳が当たる寸前、残像を残しクローズの死角へ高速移動。
向こうの反応を律儀に待ってやらず、凶器と化した右脚を振るう。

「あっぶね…!」

頭部センサーにより強化した反応速度と、培った戦闘経験による危機察知能力。
それらを駆使し防御を間に合わせ、アナザーゼロワンの蹴りは腕部装甲を叩くに留めた。
尤も、この一発が攻撃の全てと言うなら大間違い。
つい数分前に龍騎を散々痛め付けた猛攻が、再度始まる。

「っ、やっぱ速ぇな……!」

一定方向のみからじゃない、全方位から一斉に襲い来るに等しい。
あらゆる抵抗を許されず、肉片に変えられるまで続く蹴りの嵐。
新たな姿になっても戦慄を抱かざるを得ない速さだが、諦める理由にはならない。
何より、先の光景の焼き直しを覆す力が今はある。
胸部を狙った蹴りに合わせ拳を放ち、互いに腕と脚が弾かれ合った。

「こんなもんじゃ俺は止まらねぇぞ!!」
「黙レ…!!」

悪夢の如き速度で迫る足底へ、クローズもまた拳速を急激に引き上げ迎え撃つ。
羽織ったローブは飾りに非ず、特殊推進ユニットの機能を発揮。
アナザーゼロワンにも引けを取らぬスピードを我が物とし、熱き鉄拳を幾度も叩き付けた。
頭部を狙った蹴りが防がれる、四肢を狙った蹴りが弾かれる、腹部を狙った蹴りが押し負ける。
悪意へ心を浸らせ手に入れた筈の圧倒的な強さに、徐々に追い付かんとしていた。

709リローデッド ─Are you ready to burst─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:33:36 ID:VQtoL8aQ0
「アアアアアアアアアアッ!!!」
「おらああああああああっ!!!」

防ぎ漏らした蹴りが、クローズへ届く回数も少なくない。
優れた耐久性の装甲や肉体であっても、連続で受ければ捨て置けぬ傷と化す。
それが分からない筈はなく、されど「だから何だ」の一言で捻じ伏せる。
痛みには慣れている、仮面ライダーになる前からキツい目にばかり遭って来たのだから。
苦痛へ泣き叫び、戦いから逃げたいと駄々を捏ねる段階は遥か昔に通り過ぎた。

「それによぉ…お前の方がもっと痛い想いしてんだろ…!」

数十発目の蹴りを振り払い、自身の額を相手へ力の限りぶつける。
原始的な戦法にたたらを踏んだ復讐者へ、逃がさぬとばかりに踏み込む。

「或人…お前やっぱり前の俺にすっげぇ似てるわ。大事な相手をふざけた理由で奪われて、手が届く距離にいるのに何もしてやれなくて……!」

言葉を遮るように右脚が振るわれるも、返答を期待して口を開いたんじゃない。
相手同様、クローズの脚部が唸りを上げアナザーゼロワンと激突。
蹴りと蹴りの拮抗は長続きせず、揃って弾かれ間髪入れずに次撃を放つ。
持ち前の走力を存分に活かし、クローズの反応を許さぬスピードで以て襲来。

「仇を討つ以外、ロクに考えられないよなそりゃ。余裕なんて、全っ然あるわけねぇ」

脅威の度合いは変わらずとも、そう来る事はクローズにも予想出来た。
裏拳がアナザーゼロワンの脚を叩き、自身へは到達させない。
攻撃失敗による隙は致命的だが、敵の速さなら文字通りの一瞬でその隙を埋められる。

「俺もそうだった。ファウストの連中が許せなくて、おまけにやってもいねぇ殺人の濡れ衣まで着せられたんだぜ?一々変装しないと散歩にも行けねぇよ」

であるならば、この瞬間にクローズはアナザーゼロワンを上回ったのだろう。
怪物を倒し悪しき夢を終わらせる、魔弾の如き拳が胴を貫く。
並外れたスピードでも回避が叶わない、肉体のみならず目に見えぬ心にまで届く一撃。
ギシリと聞こえた軋む音は、果たしてどこからだったのか。

「仮面ライダーになってもそれは変わんなかった。自分の事以外、あれこれ頭回してられなかった」

短く悲鳴を上げ殴り飛ばされ、空き缶のように地面を転がる。
体と、体以外の部分が痛くて仕方ない。
常人だったら瞬く間に戦意を失い兼ねないが、アナザーゼロワンはその枠に入らない。
絶えず湧き上がり、自分自身でも止める術を知らない憎悪が戦闘続行を瞬時に選択。
滅を破壊しろ、その為なら邪魔者を消し去っても構わない。
復讐鬼に堕ちても本来の或人が決して考えなかった、無慈悲な指令に迷わず従う。
羽音を響かせ現れた大量のバッタが、農作物を食い荒らす害虫さながらにクローズへ群がる。

710リローデッド ─Are you ready to burst─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:34:33 ID:VQtoL8aQ0
「けどなぁ……!口じゃ偉そうなことなばっか言うくせに、見てないとこで俺を助けようと…泣かせることしやがった奴がいてくれたんだよ!」

全身を食い荒らされた、哀れなヒーローの成れの果て。
惨たらしい予想を裏切り、バッタの大群が焼き払われる。
掴む得物は火炎と蒼炎の二つを纏いし聖剣、烈火。
物語の守り手とクローズ自身の異なる炎を一本に宿し、敗北を真っ向から否定。
助けねばならない男を放置して、勝手に死んでおさらばは御免だ。

「あいつのおかげで、俺は本当の意味で仮面ライダーになれた。取り返しのつかねぇことやって、香澄に顔向け出来ない馬鹿にならずに済んだんだよ。
 だからよ或人…今のお前が道踏み外して、二度と仮面ライダーに戻れなくなる前に絶対ぇ連れ戻してやる!お前がイズを、裏切っちまわない為にも!」
「黙レェエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!!」

妬みと憎しみで、滅への復讐以外どうでもいい筈なのに。
何故こんなにも、聞くだけで苦しくなるのか。
どうしようもない程に、泣きたくなってしまうのだろうか。

だったら壊せば、いいや殺して黙らせれば良い。
憎悪に突き動かされるまま、或いは逃避するかの結論へ辿り着く。
脚部へエネルギーを集中、眼前で聞くに堪えないモノを吐き出す男を仕留める。
マギアやレイダーに打ち勝ち、悲劇を食い止めて来たゼロワンの蹴り技。
此度は悪意を糧に標的を砕くという、自身のこれまでの戦いに泥を塗るに等しい。
たった今言われた通り、二度と仮面ライダーゼロワンに戻れなくなるだろう。

放たれんとしている力が如何に危険か、対峙中のクローズも勿論分かる。
何度言葉を投げかけても、悪意は深く根を張ったまま。
もし自分が殺されれば、きっと完全に手遅れになってしまう。

711リローデッド ─Are you ready to burst─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:35:11 ID:VQtoL8aQ0
「だったら俺も、本気でぶつけて止めてやるよ!」

『Ready Go!』

『GREAT DRAGONIC FINISH!』

過去の戦いで幾度もして来たように、レバーを高速回転。
ボトルの成分とクローズドラゴンの機能が、最大まで活性化。
パイプオルガンの演奏に似た音声が鼓膜を激しく刺激し、エボルドライバーから右脚へとエネルギーが流れ込む。

示し合わせたかのタイミングで共に跳躍、飛び蹴りを叩き込む。
足底同士がぶつかり、それ以上は進ませまいと両者宙で拮抗。
発せられる悪意の波動がクローズの体力を削り取り、敗北へ一歩また一歩と近付けさせる。

「これが……どうしたぁっ!!!」
「ッ!?」

助けると、己が抱いた想いは決して裏切らない。
負ける気がしないんじゃない、負けられない。
戦意の高まりは留まる所を知らず、限界を超えて尚も昇り続ける。
土壇場でハザードレベルが急上昇、逸る鼓動がクローズを巨大な蒼龍に変え突き進む。

「戻って来い…或人ォッ!!!」
「ぁ――」

先の見えない暗闇の中で、取り残された子供を救い出すように。
憎悪という名の檻を木っ端微塵に粉砕し、善意の心を引っ張り上げる。

712リローデッド ─Are you ready to burst─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:36:08 ID:VQtoL8aQ0
偽りの歴史を完全に砕くには、正しき歴史を歩んだ戦士の力が必要。
しかしアナザーウォッチの使用者の肉体が、限界以上のダメージを受ければ変身を保っていられない。
体内から弾き出されたウォッチは宙を泳いだ後、乾いた音を立てて地面に転がった。

「つっっっかれたぁ……!ってか、これ言うの二度目じゃねかよ……」

地面へ大の字に横たわり、疲労を思いっ切り声に出す。
一度目の或人との戦闘時と同じだが、消耗は確実に今回のが大きい。
打ち勝ったものの体力がどっと抜き取られ、堪らず変身解除。
慣れないドライバーを使った反動もあってか、額には汗がびっしょりと浮かんでいる。

「万丈さん……」

力無く呟かれた自身の名へ、顔を向ければ曇った表情でへたり込む青年が一人。
暴れ回ったアナザーゼロワンの面影はなく、正気に戻ったのは間違いない。
有言実行、或人を悪意から解放出来て安堵する。
万丈と違い、当の或人は喜べるような心境ではないが。

「暗い顔すんなって。俺は――」

重い体を起こし口を開き、視線の先で彼の表情が急に変わった。
どうしたと聞くのを待たず、立ち上がり駆け寄った或人が突き飛ばす。
背中から地面に倒れ、鈍痛が疲れた体に響く中、





「或人……?」






呼んだ名前に一言も返さず、夥しい血を吐き出す青年が見えた。

713リローデッド ―Duelistを攻略せよ!─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:38:09 ID:VQtoL8aQ0



「もー、無駄にしぶといおじさんだにゃー。中高年の体に負荷を掛けるのはオススメしないよー」

生意気極まる罵倒を耳で拾いながら、とんだ悪手だったと失敗に舌を打つ。
解放した戦士達のライダモデルに加え、天津自身がチューンナップを行ったサウザー。
これらが揃えば余程の敵、それこそ軍服の男や継国縁壱のような規格外でもない限り容易く敗れはしない。
早急な無力化は難しくないと、数分前の考えはものの見事に裏切られた。

「くっ、またか…!」

巨体を豪快に叩き付けるマッド・キマイラへ対抗すべく、得物にプログライズキーを装填。
アビリティを付与し技を発動する、慣れた動作が行えない。
何度トリガーを引いても、プログライズキーの認証が行われないのだ。
理由もなく故障は有り得ないが、現実にうんともすんとも言わない。
四苦八苦している間にも脅威は迫っており、迎撃を諦め回避へと移行。
この流れも今が初めてでなく、危ういながらもマッド・キマイラの体当たりを躱す。

但し敵はマッド・キマイラ一体のみじゃあない。
回避直後に呪符が飛来、サウザンドジャッカーを振るい数枚を斬り落とす。
それもまた予想通りと拳を突き出すのは、真紅の瞳を持つ戦士。
仮面ライダーアギトの放つ一撃を防ぎ、仮面の下で苦々しい表情を作る。

率直に言って、戦況はサウザーが圧倒的に不利だった。
ダメージステップ終了時まで相手の魔法・罠とモンスター効果を封じる。
マッド・キマイラの効果の一つはプログライズキーにも作用し、手数の大半を潰されたも同然。
更にマッド・キマイラ自体がリンボの強化を受け、時間を掛けずに出現させたライダー達をほぼ壊滅に追いやった。
気付けば残ったのはドライブのみ、しかも倒れたライダー達は全て敵に寝返る始末。
マッド・キマイラの二つ目の効果、破壊したモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。
力こそ減少しているも、数の差を完全に覆されたのだ。
トドメとばかりに、コントロールを奪った相手モンスター一体に付き自身の攻撃力を300Pアップ。
ライダモデルの一斉開放は、敵に塩を送るに等しい悪手だったのだ。

「データ再現されたに過ぎないとはいえ、良い気分ではないな……!」

自分の知らない仮面ライダー達が、灯花達の操り人形にされた。
意識は存在しないライダモデルと分かっても、嬉しい光景な訳がなく。
己の失態を恨みながら、地を駆けジオウの銃撃を躱す。
サウザンドジャッカーで斬り落としつつ、反対の手を向け光弾を発射。
タッチパネル型の可変武器、ガシャコンバグヴァイザーⅡはライダー・バグスターの両方に効果的なダメージを与える。
力を削がれたデータ体を消し去るのは難しくないが、妨害に出る者がいなければの話だ。

714リローデッド ―Duelistを攻略せよ!─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:38:44 ID:VQtoL8aQ0
「元は味方でも敵に回れば容赦なし、と。ですが拙僧もいることをお忘れなく」

五芒星の結界が光弾を寄せ付けず、タイミングを同じくしてキバとブレイドが襲い掛かった。
拳と剣を捌くが、ライダー達だけに意識は割いていられない。
マッド・キマイラがミサイルを発射、煙を噴射し迫り来る。
光弾の連射で着弾前に消し飛ばすも、爆風で吹き飛ばされどうにか受け身を取る。
余計な足止めを食らう現状へ歯噛みし、

『ガイ!あの赤いライダーってガイの言う通りに動くの!?』

突然の問いに、思わず視線を左腕のパネルへ落とす。
状況は彼女も把握しており、苦戦中なのは説明されずとも分かっている。

「ああ、仮面ライダーのデータを記録した特殊なプログライズキーだからかもしれないが…ある程度は私の指示通りに動かせる」
『そっか……なら、今から私の言う通りにして!それと、上手くいったら――』

内容に思わず、本気かと聞き返しそうになった。
無茶だと言いたいが、自暴自棄故の発想でないのは顔を見れば明らか。
彼女なりに勝算があるからだろう。

「議論を重ねる時間は無いか……ポッピー、君を信じよう」
『うん!信じてもらったからには、期待を裏切らないよ!』

会話を延々と続ける余裕はない。
短剣で幾度も斬り付けるカブトを、反対にサウザンドジャッカーで突き刺す。
言葉無くよろけた赤い戦士には構わず、傍らへ駆け寄って来たドライブへ一つのアイテムを投げ渡した。
どうなるかは不明だがやる他ない、指示を出しポッピーから伝えられた行動を行わせる。

仮面ライダーにとって第二の心臓と言っても過言ではない、ドライブドライバーを外す。
ライダモデル故変身解除はされないが、これでは自分から消滅を選んだも同然。
だからそうなる前に、渡されたばかりのバグルドライバーⅡを装着。
一瞬の硬直後、ピンク色のエネルギーがドライブの全身を駆け巡った。

715リローデッド ―Duelistを攻略せよ!─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:39:30 ID:VQtoL8aQ0
『ガシャット♪』

『BUGL UP!』

流れる動作でライダーガシャットを装填。
背後にセレクト画面が出現し、ドライブを全く別の戦士へと変える。

『ドリーミングガール♪恋のシミュレーション♪乙女はいつもときめきクライシス♪』

音声が鳴り止んだ時、ドライブシステムのライダーは最早そこに影も形も存在しない。
ボブカットのピンクヘアーや、ハートをあしらった装飾。
病院前での戦闘で環いろはも変身した、仮面ライダーポッピーがサウザーの隣へ立つ。

バグルドライバーⅡを通じてドライブのデータへ干渉し、自身が動かす仮の器に使用。
外見は本物の仮面ライダードライブと同じでも、あくまでライダモデル…自我を持たないデータの塊だから可能になった荒業。
生身の人間に相手には不可能であるし、出来たとしても倫理の面で拒否するだろう。

「よっし成功!じゃあガイ、あっちの相手は私に任せて!」
「分かった、だがくれぐれも無茶はしないでくれ」

会話もそこそこにサウザーはリンボへ得物を構え、ポッピーは見上げる程の巨体と対峙。
ゲムデウスを思い出させるサイズでも、臆さず真っ直ぐに見据える。
マッド・キマイラと、怪物を従える少女を。

「里見灯花ちゃん、だよね?」
「…ああ、お姉さまをそのヘンテコで美的センスが足りない恰好にさせたのは、あなただったもんねー。なら、わたくしのことも聞いてるか」
「酷っ!?何で!?この見た目可愛いじゃん!っていうか、何でイロハちゃんが変身したのを知って……」
「教えてあーげないっ」

ライダーのデザインを貶された上、至極当然の疑問には生意気な返答。
お転婆な子供の入院患者は慣れているが、ここまで大人を舐めたのは滅多にいない。
少々たじろぐも、すぐに真剣な顔を取り戻す。

716リローデッド ―Duelistを攻略せよ!─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:40:13 ID:VQtoL8aQ0
「イロハちゃんが言ってたよ。あなたと、柊ねむちゃんっていう女の子を凄く大事に想ってるって。…もし、誰かを傷付けようとしてるなら、自分が絶対に止めてみせるって」
「…………そう」

予想通りの内容に、何も感じなかったと言えば嘘になる。
変わらない愛を向けてくれる事も、自分達のやり方を否定するのも。
分かっていても胸の奥から込み上げてくる。
会いたいけど会いたくない。
会って抱きしめて欲しい、自分とねむと、ういが大好きなあの人の笑みを見たい。
会ったら抱いた決意に、迷いが生じないとも限らない。
自分の幸福を捨てでもいろはを救わなければならないのに、いろはの傍にいる未練へ縋り付いてしまうかもしれないから。
そう己に言い聞かせても、いろはが聖都大学附属病院にいると分かった時、じっとしてられなくて。

取り繕い平静であるとの仮面を被るが、動揺はポッピーにも伝わった。
CRの一員として多くの患者と向き合って来たのだ、様子の変化に気付かない訳がない。
灯花なりにいろはへ思う所が多々あるのは分かった、だから余計に彼女を放っては置けない。

「今のトーカちゃんをイロハちゃんが知ったら、絶対に悲しむよ。あんなに心配して、会いたがってるイロハちゃんを傷付けて、それでトーカちゃんは良いって思うの!?」
「あーもー、うるっさいなー。わたくし、そういう知ったかぶりのお説教ってきらーい。低俗な学園ドラマの見過ぎじゃないのー?」
「イロハちゃんが今のトーカちゃんを見て喜ぶ女の子じゃないのは、私にだって分かるよ!」
「それジョーク?面白いことを言うにゃー、このショッキングピンクさんは」

貼り付けた笑みと裏腹に、瞳には不快感が宿る。
ほんの一時共闘しただけの分際で、いろはの何を知ると言うのだ。
奇妙な装甲…仮面ライダーの力を貸しておきながら、いろはが傷付くのを防げなかったくせに。
揃いも揃って役に立たず、こちらのストレスを煽ってばかり。

燻る苛立ちへ呼応し、マッド・キマイラがミサイルを発射。
加減の一切無い攻撃へ、ポッピーも会話を一旦打ち切り動き出す。
先程サウザーがやったのと同じく、ガシャコンバグヴァイザーⅡを装備し銃口を向ける。
勿論爆風を浴びないよう駆けながら、光弾を連射し着弾前に破壊。
吹き飛ばされる呆気ない終わりは退けるも、すかさずマッド・キマイラが自身の巨体を叩き付けた。

「よっと…!」

一般人なら身を竦ませ兼ねない光景にも動じず、シューズに搭載された加速スラスターを起動。
ステップを踏み華麗な動作で回避し、マッド・キマイラの死角へ立つ。
そのまま攻撃を行う、のではなく背を向け走り出した。

717リローデッド ―Duelistを攻略せよ!─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:40:52 ID:VQtoL8aQ0
<高速化!>

戦闘放棄が目的に非ず、駆け寄った先に設置されたメダルを掴み取る。
振り返ったマッド・キマイラに叩き潰されるより早く、ポッピーの姿が消失。
正確に言うと、消えたとしか思えない速さで動いた。

<分身!>

マッド・キマイラには目もくれず別のメダルを入手。
響く電子音声が告げた通り、複数体の分身が生み出される。
巨体を取り囲んで飛び跳ね翻弄するポッピー達を、羽虫を叩き落とすように蹴散らす。
ノイズを走らせ消滅するが、それらは全てコピー体。
本物のポッピーは既に、マッド・キマイラから離れた場所へ駆け出していた。

<伸縮化!>

ゴムのように両腕を伸ばし、別の個所に設置されたメダルを二つ共引き寄せる。
と言っても自分の為に使うのではない。
片方は仲間である黄金のライダーへ、もう片方は対峙中の相手に投げ付ける。
マッド・キマイラ…ではなくモンスターを操る灯花自身にだ。

<混乱!>

「うにゃっ!?」

痛みは無いが、上手く言葉に表せない気持ち悪さが襲う。
何をされたか定かじゃなくとも、敵をこのまま調子付かせるのは避けたい。
マッド・キマイラへ攻撃の指示を出そうとし、

カードの表示形式を守備表示へと変えた。

「っ!?わたくしの体が……」

望んだのとは全く異なる行動を取ってしまった。
原因が何かを深々と考える必要はない。
たった今投げ付けられた、奇怪なメダルの影響なのは確実だ。

718リローデッド ―Duelistを攻略せよ!─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:41:49 ID:VQtoL8aQ0
ポッピーの変身と共に配置されたこのメダルの正体は、CRの関係者やバグスターなら知っていて当然の存在。
ライダーガシャットの起動時に現れステータス変化を齎す、エナジーアイテムである。
使い方次第で戦況を有利に動かせるが、マッド・キマイラが相手ではそうもいかない。
魔法や罠、或いはモンスター効果として処理され、使用不可能になった可能性は非常に高いからだ。
詳細な原因は知らないが、プログライズキーが度々起動しなくなるのはポッピーも画面越しに把握。
何らかの特殊な技だったり装備が使えなくなると、察するのに時間は掛からなかった。

マッド・キマイラと戦おうとするとそういった不調が現れるなら、そもそもマッド・キマイラとの戦闘を避ければ良い。
半ば賭けにもなったが、回避に徹しマッド・キマイラから敵意を外した結果。
エナジーアイテムは効果を発揮し、ステータス強化の恩恵に与った。
更に正規のデュエルでない以上、モンスターを無視しプレイヤーへのダイレクトアタックも反則ではない。
混乱のエナジーアイテムを灯花へ直接ぶつけ、本人の意図しない行動を取らせたのだった。

猛威を振るおうと存在の核がカードである故、デュエルモンスターズのルールには逆らえない。
身を縮こまらせて受け身の耐性を取り、守備表示へと変更。
こうなれば再び表示形式を変えない限りは、自ら攻撃は不可能だ。

<マッスル化!>

一方でサウザーもエナジーアイテムの恩恵を受け、反撃の兆しを見せる。
パワー面を大幅に強化され、アギトとキバを薙ぎ払う。
斬り掛かって来たブレイドを逆に斬り付け、すかさず穂先を突き刺した。

『JACK RISE』

「手荒で申し訳ないが、あなたのデータを頂きました」

敵に回ったライダモデルを、再び自身の力として使わせてもらう。
稲妻を帯びた光刃を振り回し、ライダー複数体を纏めて撃破。
煙が覆い隠す中を突っ切り、唯一残ったジオウも同様に得物で刺す。
データは貰った、であれば何をするかは決まったも同然。

『JACKING BREAK』

時計の針を象ったエネルギー刃が二本出現、切り刻まれジオウも消滅。
歯止めを掛けるべく投擲された呪符をも掻き消し、投げた本人へ斬撃が襲う。
力を大きく削がれた式神には堪える威力だ、ノロの力を上乗せし火炎で相殺。
雲行きが怪しくなって来たのを実感し、丁度目に映ったのは借りて来た猫のように大人しくなったマッド・キマイラ。

719リローデッド ―Duelistを攻略せよ!─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:42:30 ID:VQtoL8aQ0
「これは少々宜しくない流れと見ました!」

灯花目掛けて呪符を投げ放ち、念を籠める。
呪うのではなく祓う為にだ。
解呪の効果を受け、エナジーアイテムの混乱状態から脱する。

『CRITICAL CREWS-AID!』

『THOUSAND DESTRUCTION!』

しかし得られた最大のチャンスを前に、敵の立て直しをむざむざ許すお人好しはいない。
リンボの解呪を待たず、サウザーとポッピーがそれぞれドライバーを操作。
プログライズキーとガシャット、異なるキーアイテムからエネルギーが流し込まれる。
脚部へ纏わせた力を同時に叩き付け、決着とするべく共に跳躍。

「これで終わりとしましょう!」
「トーカちゃんにも、ここで止まってもらうから!」

非情の玩具は爆散し、次なる手を打たせず少女と術師を無力化。
思い描いた光景が現実に変わるまで、残り数秒もない。

「いーやっ。そんな要求は受け付けませーん」

即座に訪れるだろう敗北を、小馬鹿にするように笑って跳ね除ける。
この攻撃を受ければ、確かにマッド・キマイラも破壊は免れない。
だが一体いつ、こちらに打つ手が無いと言ったのか。
間一髪で混乱を脱し、デュエルディスクを操作。

「なんだと……!?」
「うえええ!?ピプペポパニック〜!?」

撃破の正に寸前、力を付与していたガシャットとプログライズキーが急に沈黙。
ライダー達が脚部に纏ったエネルギーが消え失せた。
異変はそれだけに留まらず、ドライバー部分へ衝撃が襲い反対に弾き飛ぶ。
変身ツールが外れ天津は生身へ逆戻りし、ポッピーの意識もバグルドライバーⅡへ再び閉じ込められる。
地面を転がり鈍い痛みに呻く天津の横には、不安定な状態と化した一体のライダモデル。
元はドライブのデータ体だったが、ポッピーの変身解除に伴い実態を上手く保てずにいた。

720リローデッド ―Duelistを攻略せよ!─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:43:09 ID:VQtoL8aQ0
マッド・キマイラが倒されるだろうタイミングで一手早く、灯花は伏せていた罠カードを使用。
デストーイ・マーチ。
自分フィールドのデストーイモンスターが相手カードの対象となった時、発動を無効にし破壊するカウンター罠。
ドライバー本体の耐久性故壊れはしなかったが、衝撃を与え弾き変身を解くのには成功した。
おまけにデストーイ・マーチの効果はまだ残っている。

「はいはいご苦労さまー。じゃ、次はあなたの出番だよー」

対象となったモンスターを墓地へ送り、新たにデストーイモンスター一体を召喚する。
マッド・キマイラと入れ替わりで現れるは、これまた巨体を誇る不気味な玩具。
血に染まった体に黒々とした翼を生やし、手には鋭利な三又槍。
ギョロリと飛び出た目が獲物を捉えて離さない、悪魔そのものなモンスター。
デストーイ・デアデビルが、召喚と同時に槍を振り被った。

「くっ……!」

問答無用の一撃を見舞われるとあっては、おちおち寝転がってもいられない。
体が上げる悲鳴を噛み殺し、転がる二つのドライバーを掴んで後退。
天津もポッピーにも被害は及ばず、哀れ餌食となったのはライダモデルのみ。
放って置いてもすぐ消えるだろうに、三又槍で一刀両断の憂き目に遭う。
運の悪い事に、これがトリガーとなって天津の全身へ激痛が駆け巡った。

「がああああああっ!!!??!」
『ガイ!?どうしたの!?ねえガイ!?』

手の中で必死に呼びかけるポッピーの声も遠ざかり、天津の意識は落とされる。
病院での消耗を抱えたまま戦闘を行い、軽くないダメージを受け遂に限界が来たのだ。
眠っている場合じゃないと言い聞かせても、無駄な抵抗に終わる。

デストーイ・デアデビルは相手モンスターを破壊した時、プレイヤーに1000Pのダメージを与える。
万全と程遠い天津を気絶へ追い込むには、十分過ぎる痛みだった。

「おや……」

倒れ伏す男と、自力では悪足掻き一つやれない女。
敗北者二名から視線を外し、見つめた先の光景にリンボは短い呟きを漏らす。
声色に含まれるのは上機嫌とは言い難い、落胆や期待外れと言ったもの。
見たいと思っていたのはどこにもなく、あるのはリンボの嗜好と正反対。

過度な期待をし過ぎたか、乱入者が思っていたより面倒な手合いだったか。
のんびり見物を行うつもりだったが、こうなっては仕方ない。
芝居へ茶々を入れる無粋な者には、舞台から降りてもらうに限る。
紙飛行機でも飛ばすような気安さで、呪符を投げ付けた。

721リローデッド ―コレがカレらの選ぶ道─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:46:02 ID:VQtoL8aQ0



或人がそれに気付いたのは偶然だった。
のっそりと体を起こした万丈の後方で、こちらをじっと見据える術師が視界に映った時。
猛烈な悪寒に急かされるまま、無我夢中で突き飛ばした。
自分のどこにまだこんな体力が残っていたのか、不思議でならない。
とはいえ、直に消え失せる些細な疑問に過ぎないだろう。

「がふ……げほっ……」

体の内側が燃え盛っているように熱い。
吐き出しても吐き出しても、血がせり上がるのが抑えられない。
ゼロワンとして戦い続け、時にはヒューマギア顔負けの打たれ強さで立ち上がって来た。
しかし或人はどこまでいっても、肉体的にはただの人間。
鬼やブラッド族、神ならば耐えられたろう呪符も命を刈り取るのに過剰な凶器。
内より腐らせ、溶かし、呪い殺される末路は避けられない。

「或人!おいしっかりしろ!」

大声で自分を呼ぶ青年を力無く見上げる。
朧気な視界の中でも、彼が焦燥を露わにしてるのが分かった。

「万丈、さん……」

悪い事をしたと、心から思う。
もしあのまま滅を破壊していたら。
きっと万丈が言うように、二度と仮面ライダーには戻れなかった。
イズを裏切り、本当の意味で取り返しが付かなくなっていた。
そうなる前に引き戻してくれたのに、こうも早く命を失ってしまうなんて。
万丈にも、自分と滅の争いを止めようとした天津にも、ただただ申し訳ない。

「ありがとう……俺を止めてくれて……」

伝えたい言葉を全部口にする時間も、もう残されていない。
だからせめて、感謝を告げたかった。
自分を二度もアークから引き戻した彼に。
決定的に道を踏み外すのを、止めてくれたヒーローに。

顔を動かし、呆然とこちらを見つめるヒューマギアと視線を合わす。
正直、完全に許す事は今も難しい。
けど天津が言った通り、自分の行いに後悔と罪悪感を抱いてるなら。
悪意から抜け出す方法が分からず、苦しんでいるなら。
彼の息子を未来で自分が奪ったなら、最後に放って置くのは出来ない。

「滅……お前の悪意を止められるのは……お前自身だけだ……」

復讐の連鎖は、悪意の支配は自分達で断ち切らねばならない。
どうか彼が恐怖した自身の心を受け入れ、間違った道をこれ以上行かないように。
強く願い、瞼が静かに閉じられる。

夢に向かってもう一度、高く跳んだ未来へ踏み出すことは叶わず。
己を蝕んだ悪意共々、異界の地で眠りに就いた。

722リローデッド ―コレがカレらの選ぶ道─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:46:53 ID:VQtoL8aQ0
「或人…?おい、或人……っ!」

命の熱さを失い、語る術を持たなくなったのが何を意味するか。
嫌という程覚えがあるから、万丈は強く悔やむ以外に出来ない。
悪意を振り切り、肩を並べて戦う仲間となれたかもしれない男を喪った。

「ンンン……これはちと予想外。或人殿にはまだ使い道を考えていたのですが…ま、過ぎた事を悔やんでも仕方ありますまい」
「ふざけんじゃねぇぞ……テメェ!!」
「まあまあ落ち着きなされ。やる気に溢れるのは結構ですが、随分とお疲れのご様子。折角拾った命を無駄にしては、或人殿も浮かばれないでしょうなぁ」
「うるせぇ!!テメェだけは、絶対に許さねぇ……!」

今殺した相手など、どうでもいいと言わんばかりの態度が逆鱗に触れる。
旧世界で人々の命を玩具同然に弄んだ、エボルトと同じ外道の類だ。
怒りに身を任せ再変身しようとするが、リンボの言うように体力的な余裕はない。
アナザーゼロワンから受けた傷が残る身体で戦うのは、無茶以外のなにものでもなかった。

『POISON』

「変…身……」

『FORCE RISE』

『STING SCORPION』

『BREAK DOWN』

負傷を無視し戦いを選ぶ万丈を諌めるように、暗く淀んだ電子音声が響く。
銀の体を持つサソリが現れ、尾の先端を滅に突き刺す。
広がるのは毒に非ず、対象を戦士に変えるエネルギーデータ。
バイオレットカラーのボディスーツで覆い隠し、拘束具状のアーマーを各部へ装着。
黄色く輝く瞳が術師を射抜き、豪快に左腕を振るう。

ひらりと跳び鋼鉄の鞭を躱すリンボから、まるで万丈を庇うかの姿で前へ出た。
天津のデイパックから転がり落ちたフォースライザーと、数時間前に戻って来たプログライズキー。
上気二つを使い変身した仮面ライダー滅は、振り返らずに自身の支給品を背後へ投げ渡す。

723リローデッド ―コレがカレらの選ぶ道─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:47:36 ID:VQtoL8aQ0
「天津垓を連れて去れ。足手纏いがいては満足に戦えん」
「は?お前何言って……」
「人類滅亡の結論を、間違いだったと言うつもりはない。だが、この場で真っ先に滅ぼさねばならないのは奴らだ」
「お前……」

何を言いたいのか、何をしようとしてるのか。
分かるからこそ反論を口に出しかけ、しかし口論を行える余裕がないと即座に察する。
気を失いピクリとも動かない男と、必死に呼びかける聞き覚えがあるような声。
まだ助けられる彼らを無視するのは、あの時と何が違う。
自分の事しか考えられなかった旧世界での過ちを繰り返し、馬渕由衣の前で言った全てを嘘に変える。
出来る筈がなく、故に不甲斐なさを押し殺してでも滅へ背を向けるしかなかった。

「……追い掛けて来いよ。或人が言ったこと、無意味にするんじゃねぇ」

無理だと分かっていても、そう言わずにいられない。
白スーツの男を背負い、奇妙な女が映っている機械を拾い上げDホイールに乗り込む。
気を失った相手を強引に後部へ乗せ、クローズドラゴンが小さな体を駆使し支える。
サイズに反しスマッシュを怯ませるパワーがあるだけに、振り落とされるのを防げる筈。

指を咥えて見ているリンボ達ではないが、滅が一歩も近付けさせない。
オーソライズバスターから毒針を乱射し牽制。
片や結界を展開し、もう一方はモンスターを盾に使いノーダメージで凌ぐ。
そうこうしてる内にDホイールが急発進。
ライディングデュエルでない以上、速度制限も掛からずあっという間に走り去って行った。

「なにそれ、一人で残ってヒーローごっこでもしたいの?それとも、データが完全におしゃかになっちゃった?」
「他者へ悪意を伝染させる大元の貴様らを、生かしてはおけん……!」

冷え切った目で問う灯花へ断言し、ドライバーに手を伸ばす。
トリガーを押し、高威力の技の待機状態へ入った。

724リローデッド ―コレがカレらの選ぶ道─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:48:22 ID:VQtoL8aQ0
『STING DYSTOPIA!』

プログライズキー内のデータを読み取り、エネルギーへと変換。
左腕の伸縮ユニットへ流し込み、先程と同じく鞭のように伸びる。
尤もそのまま攻撃に使うのではなく、右脚へ巻きつけた。
崩壊毒を蓄えた針を装着し高く跳ぶ。
標的を高く見下ろし蹴りを放てば、返り討ちにすべく悪魔の玩具が三又槍を振るう。

足底から伝わる衝撃は軽くない。
攻撃力3000のパワーに加え、滅自身もダメージが激しい。
押し返されスクラップに変えられる最期も、冗談では済ませらない。

「この程度がどうした……!」

力が足りないなら、強引に掻き集めてでも敵を滅ぼす。
制御ユニットの役割を持つ胸部パーツに指令を送り、パワー全てをこの一撃へ上乗せする。
安定性を捨て攻撃特化の代償が即座に襲い、各部が火花を散らす。
しかし滅が止まる理由にはならない。
三又槍を押し返すばかりか亀裂を生み、真っ向から砕いた。

「オオオオオオオオオオッ!!!」

足底がデストーイ・デアデビルの巨体を叩き、哀れ爆散。
召喚されて間を置かずに退場となったモンスターに、何の思いも浮かばない。
倒すべきはその先にまだ健在。
たとえ幼い人間だろうとここで滅ぼさねば、悪意が広まるのは間違いない。
奇怪な術を用いる男共々、自分が終わらせようと突き進み、

「……うっざ」

ボソリと、呟いたのを果たして滅が聞いたかどうか。
突如全身へ不可視の攻撃が襲い、血の雨の如く火花が散った。
止まる意志が無くとも、思わぬ衝撃へ強制的に勢いが落ちる。
それでも構うものかと蹴りを突き出し、滅は見た。
絶対零度の瞳で見上げる少女が、アークに勝るとも劣らないエネルギーを纏っているのを。

725リローデッド ―コレがカレらの選ぶ道─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:49:07 ID:VQtoL8aQ0
「バイバイ、ロボットさん」

吐き捨てた声は終わりの合図となって、滅へ終焉の刻が訪れる。
突き出した足から徐々に焼き潰され、胴体を熱が侵食。
頭部を飲み込み消し去るまで、一刻の猶予も無いだろう。
相手にとってではない、ここが自分にとっての果てだった。

(そうか……)

敗北を理解し、全く悔やんでないと言えば嘘になる。
己の足掻きは届かず、悪意を滅ぼせずに力尽きるのだから。
けれど不思議と、この結末に納得を抱く自分も存在した。
いいや何も不思議なんかじゃあない、至極当然の末路がようやく訪れたに過ぎない。

本当に滅ぶべきは或人でも天津でも、目の前の二人組でもない。
自分だ、他ならぬ滅自身が真っ先に滅びねばならなかった。
迅を奪った或人は許せない、だが根本的な原因を作ったのが誰かは言うまでもない。
奪われて初めて分かった。
いや若しかしたら目を背けて来ただけで、自分に心があると言われた時から分かっていたのかもしれない。
大切な存在を失う苦痛がどれ程か、或人に夢を捨てさせる程の絶望がどんなものかを。

或人と、それに、ああ、この地でも自分は奪ってしまった。
仲間を理不尽に奪われた環いろはと七海やちよへ、罪の重さを理解したと言っても今更だ。
届ける術はなく、仮に伝えられても全てが手遅れ。
あれだけ聞こえた迅の声も、いつまで待っても現れやしない。

己が心へ向き合うのが遅過ぎた、滅ぶべき悪が当然の如く消え去る。
抵抗の意志を示さず、自らの終わりを受け入れ、

(すまなかった……)

誰にも聞こえない懺悔を最後に、もう一つの悪意も眠りに就いた。

726リローデッド ―コレがカレらの選ぶ道─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:49:47 ID:VQtoL8aQ0



勝てた理由を説明するなら、何も難しいものはない。
デストーイ・デアデビルは戦闘で破壊された時、墓地のデストーイモンスターの数に応じて相手にダメージを与える。
効果を使って滅の勢いを削ぎ、後は灯花自身の力で消し飛ばした。
フリル付きのドレスを身に纏った、魔法少女としての姿。
これまで使わなかった力を解禁し、変換の固有魔法を使用。
周囲一帯の力を自身の魔力に変え固有武器の日傘へ収束、高威力の砲撃を先端から発射。
それで呆気なく片付いた。

「もー、あんまり無駄なことさせないでよねっ」

原型を留めていない、僅かに残った残骸へ愚痴をぶつける。
威力に反し低燃費なのが灯花の魔法だが、魔力を使わされたのは事実。
微量なれどソウルジェムに濁りを確認でき、全く最後までこちらの不快感を煽ってくれる。
ついでに首輪も砲撃に巻き込んだせいで、回収は不可能。
尤も、それは灯花の自業自得だが。

「ふぅ、一仕事した後に吹く風は心地良いものですな」

冷風を気持ち良さ気に浴びながら、いけしゃあしゃあと言ってのける。
逃げた連中が見たら、さぞ額に青筋を浮かべるだろうな。
そう内心で独り言ちる灯花の元へ、言葉通り仕事を終えたリンボが近付く。
放置されていた幾つかの支給品に加え、新たに首輪一つを入手。
リンボの後ろには、頭と胴体が別れた死体が転がっている。

倫理の面から抗議をぶつける気は一切ない。
役に立たないと判断すれば、桜田ネネのような幼稚園児でも殺す少女だ。
差し出された首輪を当然のように受け取り、デイパックへ放る。

殺し合いに乗った邪魔な輩の退場と、幾つかの支給品。
それに病院前で手に入れたのと合わせ、首輪が二つ。
収穫があったのは良いとして、ここからどう動くか。

727リローデッド ―コレがカレらの選ぶ道─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:50:23 ID:VQtoL8aQ0
「それにしても、いろは殿の現在位置は変わらず不明と。ですが運が良ければ、灯花殿のご友人であるねむ殿が先に見付けているやもしれませぬぞ」
「ふーん、ねむとお姉さまが……」

絶対ないとは言い切れない。
元々の知り合い同士である或人達が三人集まったように、他の者だってそういう事態は起こり得る。
きっとねむもいろはとの再会を望む気持ちと、同じく拒む気持ちの両方があるだろう。
いざ会えた時、コロッと考えを変え魔法少女救済を諦める。
そんな情けない事にはならない筈だ、ういとの間に誓ったいろはを救う約束を忘れるなんて有り得ないのだから

「ねむが、わたくしより先に……」

再会が叶ったら、いろはからはさぞ喜ばれるに違いない。
死に別れた相手ともう一度会える、夢や幻じゃなく現実で。
いろはがどれだけ自分達を想ってくれてるか分かるから、どう反応するかも予想は付く。
何もおかしくはない、いろはと自分達の関係を思えば当たり前の光景。

「……」

なのにどうしてだろうか。
涙を流し、もう二度と離すまいといろはに抱きしめられるねむを思い浮かべると。
こんなにも苦々しく感じるのは。
変わる事のないいろはからの愛が、自分より先にねむが受け取ると思うと。
どういう訳か胸が掻き乱されるのは。

理由は分からないけど、無性に気に食わなかった。





どこから道を間違えたのだろうか。

敵として出会い、時に理解し合い、肩を並べ共通の敵へ挑み、憎しみをぶつけ合って。

その果てに得たソレゾレの未来を、掴み取ることは終ぞ叶わず。

死という絶対の結末だけが、人とヒューマギアへ平等に与えられた。



善意と悪意の闘争に、終わりはない。



【飛電或人@仮面ライダーゼロワン 死亡】
【滅@仮面ライダーゼロワン 破壊】

728リローデッド ―コレがカレらの選ぶ道─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:51:13 ID:VQtoL8aQ0


【E-5/一日目/午前】

【里見灯花@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)】
[状態]:疲労(中)、あり得ない思考に対する動揺(小)、リンボ(式神)による暗示の影響(中)、嫉妬と不快感(中)
[装備]:デュエルディスク+素良のデッキ@遊戯王ARC-V
[道具]:基本支給品一式×2、桜田ネネのランダム支給品×1〜3、首輪(ネネ、承太郎、或人)
[思考・状況]
基本方針:ハ・デスの力を奪い、魔法少女の救済を果たす。
1:使える人材は生かしておく。
2:首輪を外す。取り敢えずどこかで調べたい。並行してドッペルに関しても調べる。
3:出来ることならねむと合流。もしねむがわたくしより先にお姉さまと会っていたら……?
4:七海やちよは邪魔をしてくるなら容赦しない。
5:私は、いろはお姉さま、を――?
6:この陰陽師(リンボ)、信用はできないは実力はあるから今のところは保留。
7:六眼の侍(黒死牟)が気に入らない。なんであんな奴がお姉さまのお傍に……。
[備考]
※参戦時期は死亡後。
※首輪が爆発した時、ソウルジェムも同時に破壊されると考えています。
※リンボによる暗示の影響で、リンボに危害を加えることは不可能となっております。

【キャスター・リンボ(式神)@Fate/Grand Order】
[状態]:健康(本体より弱体化)、魔力消費(中)
[装備]:
[道具]:小倉しおんの支給品袋及び支給品一式、タイムテレビ(残り使用回数3回)@ドラえもん、ノロの入ったアンプル×7@刀使ノ巫女(漫画版)、ポルターガイスト(6時間使用不可)@遊戯王OCG、オーソライズバスター@仮面ライダーゼロワン、アナザーゼロワンライドウォッチ@仮面ライダージオウ×ゼロワン 令和・ザ・ファーストジェネレーション
[思考]
基本:ただ、己の衝動と欲望の赴くままに
1:里見灯花に付き従う。何時彼女が爆発するか楽しみですぞ、ンンンンン―――。
2:あの侍達(黒死牟、縁壱)は……ンン。
3:飛電或人は少々期待外れでしたな。まあいいでしょう。
[備考]
『式神について』
※最大召喚数は1名
※他参加者から5メートル以上離れた場合自動的に消滅。
※性能は本体より著しく弱体化。
※自動消滅または撃破された場合、式神再召喚まで6時間のインターバルが必要。
※本体が撃破された場合、式神も同じく消滅する。
※式神が得た情報は本体に共有される。

※タイムテレビを使い黎明、朝の時間帯にD-6の病院前で起きた戦闘を見ました。

729リローデッド ―コレがカレらの選ぶ道─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:52:12 ID:VQtoL8aQ0


【万丈龍我@仮面ライダービルド】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、怒りと悔しさ、運転中
[装備]:エボルドライバー(複製)+エボルボトル(コブラ、ラビット、ライダーシステム)@仮面ライダービルド、グレートドラゴンエボルボトル+グレートクローズドラゴン@仮面ライダービルド、龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎、遊星のDホイール@遊戯王5D's
[道具]:基本支給品一式×3、フルボトルバスター@仮面ライダービルド、火炎剣烈火&聖剣ソードライバー@仮面ライダーセイバー、ガトリングフルボトル@仮面ライダービルド、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本方針:主催の奴ら全員倒して殺し合いを潰す。
0:或人……チクショウ……
1:今はこいつら(天津、ポッピー)を連れて逃げる。
2:遊戯って奴が心配。
3:檀黎斗はもう絶対に許さねぇ。
4:戦兎ならクレヨンの腕も直せる筈だ。
5:戦兎、玄さん、絶対生きてろよ。
6:エボルト、滅、DIOを警戒、特にエボルトは一度共闘したからって信用出来るわけねぇ
7:爆発頭野郎(パラダイスキング)は次に会ったら絶対に倒す。
8:他にも仮面ライダーがいるのか知りてぇな
9:俺のフルボトル(ドラゴンフルボトル)はどこいったんだ?出来たら知りてぇな
[備考]
※参戦時期は『ビルド NEW WORLD 仮面ライダークローズ』以降。
※キャルと情報交換しました。
※ドラゴンエボルボトルをグレートドラゴンエボルボトルに再創造しました。それに伴いクローズドラゴンも進化を果たしました。
※どの方角へ向かっているかは後続の書き手に任せます。

【天津垓@仮面ライダーゼロワン】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(極大)、無力感(大)、気絶中、同乗中
[装備]:ザイアサウザンドライバー&アウェイキングアルシノゼツメライズキー&アメイジングコーカサスプログライズキー@仮面ライダーゼロワン、バグルドライバーⅡ&ときめきクライシスガシャット@仮面ライダーエグゼイド
[道具]:基本支給品×2、プログライズキーホルダー×7@仮面ライダーゼロワン、ゲネシスドライバー(破損)+チェリーエナジーロックシード@仮面ライダー鎧武、みーたんの抱き枕(破損)@仮面ライダービルド、パンドラパネル@仮面ライダービルド、スクラッシュドライバー+ロボットスクラッシュゼリー@仮面ライダービルド、オレンジロックシード@仮面ライダー鎧武、一海の首輪
[思考・状況]基本方針:檀黎斗とその部下を倒し、罪を償う
0:……
1:何処かへ飛ばされた仲間達を探す。彼らの元々の目的地へ向かうのも手か?
2:CRの関係者らしい花家大我とも合流しておきたい。
3:ポッピーから聞いたガシャットを見付ける。本当にあれば良いのだがな…。
4:出来る限り多くの人を病院に連れて来て治療したい。が、今戻るのは危険か
5:飛電或人と合流したい。もしアークに囚われていた時にこの場に来ていたのならば必ず止める。
6:滅は次に会えば必ず止める。たとえ力づくでも。
7:これ等のプログライズキーに映っている仮面ライダー達は誰なんだ?知っている人に会えたらいいが…
8:猿渡一海の仲間達を探し彼の最期を伝える。氷室幻徳とは随分離れているか…。
[備考]
※参戦時期は仮面ライダーゲンムズ スマートブレインと1000%のクライシス終了後
※ハイパームテキガシャットなど主催者撃破・会場からの脱出を安易にする強力なガシャットは、ゲームに乗っており尚且つ上位の力を持つ参加者の支給品にあると考えています。(現在の有力候補はポセイドンと縁壱)
※殺し合いの会場が仮想現実の可能性を考えています。
※現在バグルドライバーⅡにはポッピーピポパポが閉じ込められています。

※滅亡迅雷フォースライザー@仮面ライダーゼロワン、スティングスコーピオンプログライズキー@仮面ライダーゼロワンは破壊されました。


『支給品解説』

【ノロの入ったアンプル@刀使ノ巫女(漫画版)】
珠鋼を精製する際に砂鉄から出る不純物が結合したモノが収められたアンプル。10本セットで支給。
主に折神家親衛隊が体内に投与し、身体能力の強化を行っていた。
但し余り大量に取り込むと制御が利かず、暴走を招く。

【ポルターガイスト@遊戯王OCG】
通常魔法
(1):相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。
その相手のカードを持ち主の手札に戻す。
このカードの発動と効果は無効化されない。
一度の使用後、6時間使用不可。


『NPC解説』

【ハーピィ・レディ@遊戯王OCG】
通常モンスター
星4/風属性/鳥獣族/攻1300/守1400
人に羽のはえたけもの。
美しく華麗に舞い、鋭く攻撃する。

730 ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:52:54 ID:VQtoL8aQ0
投下終了です

731 ◆ytUSxp038U:2025/05/11(日) 00:09:02 ID:p3hkfsYM0
環いろは、黒死牟、エボルト、武藤遊戯、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、蛇王院空也を予約します

732◆2fTKbH9/12:2025/05/11(日) 00:12:18 ID:???0
ゲリラ投下します。

733◆2fTKbH9/12:2025/05/11(日) 00:14:04 ID:???0
某空間にて、デュエルのペンデュラムとリンクの件を話し、リリスの処遇を施した後、少し、時刻が経過して、ハ・デスはある支給品の話題に触れる。

「では、そのような考えなら、マジカルルビーも口封じも決定したと」

ハ・デスはまたも疑問をぶつける。
キバットとリリスにこのような処置を取るなら、直ぐに実行せずに放置するのは可笑しいからだ。

「彼女もリリス同様に神の恵みを与えたに過ぎない。マジカルルビーも午前8時になった瞬間に言語は遮断する」
「二時間も何故猶予を?」
「本来、情けなど言語道断。だが、上げて落とすやり方も悪くないと考えたのだ。精々足掻くがいいイリヤスフィール・フォン・アインツベルン!」

リリスの件もそうだが、あくまでゲームの主役はプレイヤー。
リリスも大概であったが、ルビーも意思持ち支給品の分際であらすじを行うなど調子に乗り過ぎ。
あくまでルビーの言語を封印するだけでマジカルステッキの変身機能は当然ながら剥奪しない。
ルビーの情報とアドバイスなしのイリヤがどう藻掻くか見物だ。

「まだデイパックに入っている意思がある者達も全て口封じも実行済みだ」

最早、プレイヤーとNPC以外の第三者が口を挟むのを端っから黎斗は気に入らなかった。
最初は予選とあって一部の者は見逃していた。
それでも、自分の理想としたゲームではないのは確かだ。
言葉すら話せないクローズドラゴンは別だが。
ついでに他にも意思持ち支給品が存在するかは黎斗のみ知る秘密。
いてもとっくに黎斗によって誰も彼も言語能力を封印している。

「言葉を話すNPCは例外だ。彼らはゲームを盛り上がる存在だ」

意思持ち支給品と違い、NPCは面白い働きをしてくれる。
NPCなくてはこのゲームは語れない。
お助けキャラだったり、女性だけ守るキャラ、武器や情報など売り渡すキャラなど彼らの存在により、より一層テンションが高まるだろう。
グレートアイもNPCに組み込んだが、当然ながら、主催を倒す、殺し合いからの脱出等明らかにゲームにおけるルール違反を侵す願いは無効で対策済みだ。
NPCの存在がバトルロワイアルを興奮出来ると言っても過言ではない。

「それから、全体の調整の再チェックも行う」
「冥王が心意でカード化したのが、気に入らなかったと」
「当たり前だ。心意で現象が起きようが私は楽しませればそれで良い。だが、こんな事は私の望んだゲームではない。今回だけは神を興奮させたから見逃してやろう。遊びすぎたが、もう次はないと思え」

ハ・デスは冥王の結末にモヤモヤ感を残している。
冥王とは幾度もなく争い、互いに相容れぬ関係だ。
彼を参加者にすると提案し、支給品の没収の発案したのはハ・デス本人。
最初こそは保身第一だったはずなのに覚醒してからあそこまで活躍するとは思っても見なかった。
なら、彼が這い上がって来たら、決着を付けるつもりでいた。
カード化して、勝ち逃げ同然の結果に内心は苛立っている。

「全く少々、自由にしすぎたな。心意を含む参加者のカード化の防止をしておくか。君はもう部屋に戻れ」
「そうさせて貰う」

遊びさえなければこんな事にはとハ・デスは本心では愚痴を零しながらも再び某空間から出て行った。



【意思持ち支給品について】
以下の要因により、全ての意思持ち支給品の言語能力は封印or口封じするものとします。

※マジカルルビーの言語能力の封印は午前8時を過ぎれば起こるものとし、二度と話せません。
※今後は意思持ち支給品が登場しても言語能力は封印or口封じされるものとします。


【その他の事項】

※今後は心意を含めて正規の参加者である遊戯王OCG勢による深淵の冥王のようなカード化現象は二度と起こらないものとします。それでも、起こってしまう場合はその参加者は強制的に首輪を爆破するものとします。(対象は閃刀姫-レイ、閃刀姫-ロゼ)

734◆2fTKbH9/12:2025/05/11(日) 00:15:35 ID:???0
投下を終了します。
タイトルは閑話:神の整理PART2

735 ◆QUsdteUiKY:2025/05/11(日) 01:41:03 ID:pRhK714U0
ハデスについての解釈が完全に一致していたり、ルビーがあらすじを語っていたり面白い話の投下をありがとうございます

ですが◆2fTKbH9/1氏の閑話:神の整理PART2について質問があります。
閑話:神の整理PART2におけるルール変更について、どのような意図があるのでしょうか?
また檀黎斗のキャラ性を考えると、心意によるカード化現象という想定外の展開を楽しむことこそあれど、問題視する気はしないと思います

また今後、ルールなど全体に影響力がある話は一度、本スレで相談してください
またこの相談については、企画主以外の書き手も意見を書くことが可能とします

736◆2fTKbH9/12:2025/05/11(日) 02:33:44 ID:???0
>>735

先程の投下ですが、ルビーの口封じについてはリリスが口封じした回でゲームの主役はプレイヤーとハッキリと明言しています。
プレイヤー以外がいつまでも情報を話すのはフェアではないと断言までしています。
それならキバットとリリスが口封じしているのにルビーだけお咎めなしは不公平と思います。
今後も意思持ち支給品が出て来た場合も公平ではなくなってしまうのでこの処置を受けなければなりません。
確かに黎斗ならカード化現象は問題ないと考えますし、そこのくだりはカットして内容の一部を修正いたします。

737◆2fTKbH9/12:2025/05/11(日) 02:55:18 ID:???0
修正版を投下します。

738◆2fTKbH9/12:2025/05/11(日) 02:56:59 ID:???0
某空間にて、デュエルのペンデュラムとリンクの件を話し、リリスの処遇を施した後、少し、時刻が経過して、ハ・デスはある支給品の話題に触れる。

「では、そのような考えなら、マジカルルビーも口封じも決定したと」

ハ・デスはまたも疑問をぶつける。
キバットとリリスにこのような処置を取るなら、直ぐに実行せずに放置するのは可笑しいからだ。

「彼女もリリス同様に神の恵みを与えたに過ぎない。マジカルルビーも午前8時になった瞬間に言語は遮断する」
「二時間も何故猶予を?」
「本来、情けなど言語道断。だが、上げて落とすやり方も悪くないと考えたのだ。精々足掻くがいいイリヤスフィール・フォン・アインツベルン!」

リリスの件もそうだが、あくまでゲームの主役はプレイヤー。
リリスも大概であったが、ルビーも意思持ち支給品の分際であらすじを行うなど調子に乗り過ぎ。
あくまでルビーの言語を封印するだけでマジカルステッキの変身機能は当然ながら剥奪しない。
ルビーの情報とアドバイスなしのイリヤがどう藻掻くか見物だ。

「まだデイパックに入っている意思がある者達も全て口封じも実行済みだ」

最早、プレイヤーとNPC以外の第三者が口を挟むのを端っから黎斗は気に入らなかった。
最初は予選とあって一部の者は見逃していた。
それでも、自分の理想としたゲームではないのは確かだ。
言葉すら話せないクローズドラゴンは別だが。
ついでに他にも意思持ち支給品が存在するかは黎斗のみ知る秘密。
いてもとっくに黎斗によって誰も彼も言語能力を封印している。

「言葉を話すNPCは例外だ。彼らはゲームを盛り上がる存在だ」

意思持ち支給品と違い、NPCは面白い働きをしてくれる。
NPCなくてはこのゲームは語れない。
お助けキャラだったり、女性だけ守るキャラ、武器や情報など売り渡すキャラなど彼らの存在により、より一層テンションが高まるだろう。
グレートアイもNPCに組み込んだが、当然ながら、主催を倒す、殺し合いからの脱出等明らかにゲームにおけるルール違反を侵す願いは無効で対策済みだ。
NPCの存在がバトルロワイアルを興奮出来ると言っても過言ではない。

「折角、面白い物が見れたというのに面白くない顔をしてるな」
「何か。テンションが上がらない」

ハ・デスは冥王の結末にモヤモヤ感を残している。
冥王とは幾度もなく争い、互いに相容れぬ関係だ。
彼を参加者にすると提案し、支給品の没収の発案したのはハ・デス本人。
最初こそは保身第一だったはずなのに覚醒してからあそこまで活躍するとは思っても見なかった。
なら、彼が這い上がって来たら、決着を付けるつもりでいた。
カード化して、勝ち逃げ同然の結果に内心は苛立っている。

「君はもう、いい加減に部屋に戻れ」
「そうさせて貰う」

ハ・デスは本心では愚痴を零しながらも再び某空間から出て行った。



【意思持ち支給品について】
以下の要因により、全ての意思持ち支給品の言語能力は封印or口封じするものとします。

※マジカルルビーの言語能力の封印は午前8時を過ぎれば起こるものとし、二度と話せません。
※今後は意思持ち支給品が登場しても言語能力は封印or口封じされるものとします。

739◆2fTKbH9/12:2025/05/11(日) 02:59:10 ID:???0
投下を終了します。

反対意見や矛盾するルール変更がありましたら投下した話を破棄します。

740 ◆QUsdteUiKY:2025/05/11(日) 04:22:20 ID:pRhK714U0
ご修正ありがとうございます
ただ今後の展開にかなり関わってくるルール変更ではあるので、ひとまず保留にします
他の書き手さんの意見も気になるので、1週間ほどの期間、意見を募集したいと思います

741 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/11(日) 11:27:02 ID:eCpramF20
意見が募られてたので、
多少決闘ロワに書いてる書き手の意見を一つさせていただきますね
あ、因みに私はエグゼイドは一度全話見てますがキャラクターの解釈的に、
企画主様の方が説得力のある解釈がなされると思うので私はそこには言及しません
それと文章が滅茶苦茶長いのは私の悪癖ですので、すみませんがお付き合いください

いずれの制限も「そこまでやる必要性が余りにも薄い」と感じると言うのが個人的見解になります
意志持ち支給品は確かに主役ではありませんし、企画主様自身がリリスの言動を封じていたり、
リリスを書いた氏からすれば、納得できない扱いについては分からないわけではありません
特別問題はないはずなのに何故か封じられたわけですから

ただ、氏は自分で書いたキバットは意思疎通について殆ど封じられてる扱いでありながらも、
リリスは意思疎通ができたので、その不公平を自らが行ってしまってることにもなります
勿論これはまちカドまぞくは数人参戦、キバは見せしめポジションとしての退場ともあるため、
扱いの差が生まれるのは分かりますが、それって普通にロロワと言うところの特徴だと思います
全ての意志持ち支給品を均一に調整してまで得られるメリットが余りないというのもありますが、
一番個人的疑問として大きいのは「一書き手がルールに介入しすぎている」と言うのが少し気になります

特にルビーの場合は言動を封じられたら、解説は仕方ないにせよ戦闘時にも支障が出るレベルだと思います
(FGOで例えるならば、宝具ボイスでの疑似魔術回路変換の過程の確認ができないと同義なので)
そうなるとイリヤが一人であがくどころではなくなってしまい、かなり苦しい立場に置かれてしまいます
こういうイリヤが見たいか、と言われると個人的には漫才やってる方がよほど見たいという個人的理由もありますが
また、今後登場する可能性のある意志持ち支給品についても口出しできるほど、一書き手の権限ってそこまでないと思います
つかぶっちゃけ公平不公平なんていったら、マーダーに神器ばかり仕込む私の方がよほど不公平やってますがね(笑)

野獣先輩の話では確かにリンクモンスターの概念はおろか、エクストラモンスターゾーンについての言及は、
今まで何度もデュエルを書いていた癖に一切言及してなかった私の落ち度も結構あったりしますので、
そこについての調整の言及については特に何か言うことはないというか寧ろありがたいのですが、
(拙作のスカイ・ハンターで実はモンスターを合計で六体展開してた事実については、
 漆黒の闘龍はデュエルディスクに置かずに召喚してるつもりで書いてたので気にしないでください)
流石に今回のは一書き手がルールに介入するには踏み込みすぎた領域だと思っています
これを許諾、許容すると「〇〇も〇〇では?」が罷り通ってしまう可能性も出てくるので

また冥王を退場させた身としましては、
冥王に関係するカードの登場はあくまで心意による産物であり、
当人をカード化ではなく、当人の力をイメージした冥王結界波にしています
冥王自身のカード化は(性能の強弱は別として)それは違うものだと思ったからです
彼はあくまでカードとは無関係のモンスター。フィクションではなく生きた存在ですから
これはレイとロゼも同様で、個人の考えですが死亡、
或いは心意でもレイとロゼの当人をカード化はしないと思います
(今後の展開次第で何が起きるか分からないし、他の書き手がするかもしれないので断定はしません)

長々と話しましたが、以上が私の見解となります
あ、因みに私もハ・デスがもやもやしてるところについては、
「あんだけヘタレで個人の恨みで不利な状況に置いた癖に何か覚醒して、
 最終的に神殺しの一端を担ったのは、散々やりあった魔王としてはむかっ腹が立ってる」
と言うところに味が感じられてとてもいい解釈だと思ってるつもりです

742 ◆QUsdteUiKY:2025/05/11(日) 21:03:23 ID:pRhK714U0
橘朔也、鬼舞辻無惨で予約します

743 ◆ytUSxp038U:2025/05/11(日) 22:20:33 ID:p3hkfsYM0
投下&修正お疲れ様です
さらっとビルド風のあらすじを観測してる神に笑いました。本人らは大真面目で運営してるのに、どことなくシュールさが漂ってて面白い
ハ・デス、あんだけ嫌がらせした相手に勝ち逃げされたらそりゃね。イラッとする

意見を募集中とのことで自分も書かせて頂きますが、概ね◆EPyDv9DKJs氏と同意見です
私自身ポッピーや魔導雑貨商人をNPCで出した手前、どうこう言える立場でないのは重々承知しております
それを踏まえてもルビーを含めた意志持ち支給品の制限という、企画全体に影響を及ぼすルールを企画主以外の書き手が行うのは控えるべきじゃないかと思いました
事前に企画主である◆QUsdteUiKY氏に相談した上で書いたならともかく、独断でのルール変更は一書き手がやべるべきではないと考えています

氏が出したリリスに制限を掛けられ、不満を感じる気持ちは理解出来ます
ただそれならまず、ゲリラ投下を行う前に「何故リリスを制限したのかちゃんとした理由を直接聞かせて欲しい」と、◆QUsdteUiKY氏に質問をすべきだったのではと思いました
無論、氏の納得のいく返答が得られるかは分かりません
しかし俺ロワの企画の最終決定権が企画主にある以上、事前に◆QUsdteUiKY氏へ確認を取った方が良かったと言うのが私の意見となります

否定的な意見と思われたなら申し訳ありません
ですが同じ企画で書いてる書き手として、氏の作品も毎回楽しく読ませて頂いています
一緒に企画を盛り上げたいからこそ、こうした方が良いのではないかと思い意見させて頂きました

744 ◆QUsdteUiKY:2025/05/12(月) 10:52:49 ID:Zb77DTj.0
投下します

745 ◆QUsdteUiKY:2025/05/12(月) 10:53:40 ID:Zb77DTj.0
――橘朔也は皆で協力してポセイドンを討伐した後、リゼを殺した化け物を独り待ち構えていた。
 勝算はある。勝てる可能性は限りなく低いが、最悪でも相討ちには持ち込むつもりだ。

 (剣崎。――俺はお前のようになれないのかな)

 もしもあの場に居たのが橘ではなく、彼の後輩――剣崎一真だったなら。
 あのヒーローという存在を具現化したような男なら。
 誰よりも強く、誰よりも〝仮面ライダー〟に相応しい彼ならば。

 もしかしたらリゼの命を守れたかもしれない。
 リゼは死ななかったかもしれない。

 ふと、そんな弱気なことを橘は考えてしまった。
 しかしそれは同時に彼が剣崎をそれだけ信じる仲間だという証明でもある。

 (……剣崎の代わりに戦えない人々を守ると決めたのに情けないな、俺は)

 橘は殺し合いが始まってすぐ、剣崎の代わりに人々を守ると誓っていた。それが仮面ライダーだからだ。

「リゼ……」

 リゼ専用スピアーを眺めると、思わずリゼの名前が口から零れ出てしまう。
 ……なんとも情けなく、不甲斐ない声だ。

「リゼ……君には仮面ライダーは大切な人を守れないと言ったが……まさか君まで守れないとは思わなかった……!」

 小夜子、剣崎に続いてリゼまで失った。
 今まで仮面ライダーギャレンとして数々のアンデッドと戦ってきたが――それでもリゼを守れなかった。

 それにあの場には海馬や太我も居た。……だというのに、リゼという本来ならば戦う力を持たない少女に救われた。
 その事実があまりにも悔しくもあり、苦々しくもある。

「リゼ……君は本来なら平和な日常で過ごすべきだったんだ。それなのに神を自称する男のせいで殺し合いに、巻き込まれた。……そして君は勇気を振り絞って俺達を助けてくれたが、その結果……命を落とした」

 橘は檀黎斗と名前も知らない化け物――鬼舞辻無惨に怒りを抱いている。
 檀黎斗がいなければこんなふざけた殺し合いは開かれなかったし、鬼舞辻無惨が居なければリゼが死ぬことはなかった。
 ゆえにこの二人に対する怒りは凄まじい。
 だからこそ単独でも無惨に挑む道を選んだ。

746rebirth ―魂の日々を、魂の意志を― ◆QUsdteUiKY:2025/05/12(月) 10:54:49 ID:Zb77DTj.0
「とりあえずリゼの友人を殺した金髪の男――ポセイドンは倒したが……肝心のリゼを守れないなんて、俺は師匠失格だな……」

 もしもこの場にリゼや剣崎一真、上城睦月が居ればその言葉を否定していたかもしれない。
 だが今の橘は独りきり。ゆえにこの場に彼の言葉を否定する者は存在せず、怒りと悔しさ。哀しみと自責の念が波のように押し寄せてくる。

 橘朔也は仮面ライダーだ。
 仮面ライダーとは、ヒーローのようなものだ。
 剣崎一真がそうだったように。
 闇を振り払った上城睦月が最終的にそうなったように。
 橘とて立派な仮面ライダーだ。それは彼を知る誰もが認めることだろう。

 しかし今の橘の心境としては自分が剣崎達のような仮面ライダーだと胸を張って言える自信がない。
 そして自分は師匠としても不甲斐ないと考えてしまう。

 (弟子のリゼに命懸けで助けられて、何が師匠だ――)

 あの状況を乗り越えられたのは、間違いなくリゼの勇気のおかげだ。
 きっと死ぬのは怖かっただろう。共に殺し合いに巻き込まれた友達のことも心配だったろう。
 本当ならば――リゼがした役割は自分がするべきだった、と。橘は自分を責める。

 しかしそんなことをしても現実は変わらない。
 リゼが死んだという。化け物に殺されたという悲劇は何も変わらないのだ。

「リゼ……本当にすまない……」

 ――だから橘にはリゼに謝罪して、そしてリゼの仇を取ることしかもう出来ない。
 それしかもう、出来ないのだ。
 小夜子の時と同じように。

 リゼ専用スピアーを暫く眺めた後、仕舞う。
 相手はリゼの仇だ。せめてトドメはコレで刺したいが、どうしたものか。

 あの化け物は日光が弱点の可能性が非常に高い。
 そしてリゼは仮面ライダーに変身していた。……ということは日光を避けるためにリゼが変身していた仮面ライダーに変身してくる可能性が高い。
 そうなれば必然的に相手の攻撃手段は限られてくる。あの化け物染みた強さは発揮出来ないだろう。
 更に言えば日光が弱点ということは、バックルを破壊するか多大なダメージを与えて変身解除まで追い詰めれば勝機はある。

 リゼ専用スピアーは、槍だ。貫通力が高く、バックルを破壊するのに向いている。
 だから橘は師匠として弟子の形見もしっかりと使うつもりだ。……この槍は、リゼと自分が最初に邂逅した時のキッカケでもあり、何かと思い入れも深い。
 ……もっとも本来はリゼが使う予定だったのだが。

 そして――ギャレンの複眼は。
 橘朔也の目は、たしかに捉えた。

 こちらに向かってやってくる仮面ライダースナイプが。
 ゆえにギャレンは容赦なく仮面ライダースナイプに向けてギャレンラウザーで銃弾を連射する。
 仮面ライダースナイプは銃弾を被弾して、火花を散らしながらもギャレンに迫る!

747rebirth ―魂の日々を、魂の意志を― ◆QUsdteUiKY:2025/05/12(月) 10:56:34 ID:Zb77DTj.0

 運の良いことにスナイプもその名の通り、銃使いの仮面ライダーだ。ゆえに無惨もガシャコンマグナムを乱射するが――銃を使いこなすには当然、技術が必要だ。
 しかし無惨にそんな技術はなく、ゆえに走りながら雑に乱射するだけではなかなかギャレンに被弾しない。
 だが二人の距離は着実に近付いている。

 そしてスナイプとギャレンの距離が一定まで縮まった瞬間――橘はギャレンラウザーを連射して牽制しながら、拳を握り走り出した
 
「ウワアアァァアア――!」

『UPPER』 『FIRE』

――それは、魂の咆哮
 ギャレンの拳が燃え盛る
 
「ほう。この場にいるのはお前独りか」

 相手から距離を詰めてきたことは好都合。無惨は慣れないガシャコンマグナムで戦闘することをやめ、ギャレンに殴り掛かる。

 互いの腕が交差し、スナイプの拳がギャレンの仮面に。橘のファイアアッパーが無惨の腹に命中する。
 だがスナイプのみが、一方的に吹っ飛ぶ。

 何故、このような結果になっているのか。
 何故、鬼を統べる鬼舞辻無惨が。先程はギャレンなんて虫けら程度に思っていた無惨が不利な状況に立たされてるのか。

 その理由は至って単純。
 まず、仮面ライダーとして戦ってきた長さが違いすぎる。橘は元々仮面ライダーギャレンとしてアンデッドと戦ってきたが、無惨は鬼としては驚異的な強さを誇るものの仮面ライダーに変身したのは今回が初めてだ。ゆえにその技量の差は大きい。
 次に、橘の融合係数が非常に上昇していることがある。仮面ライダーギャレンは感情次第で融合係数が上下し、それによって強さが大きく変動する。そして――リゼの仇を前に、橘の融合係数は爆発的に上がっていた。
 この爆発力こそが橘の強みであり、何故か強化フォームであるジャックフォームよりも基本フォームで強敵を倒してきた原因もこれだ。

 次に、スナイプは普通のパンチだがギャレンはファイアアッパーという技を使ったこと。
 当然だが、ただ拳で殴るより技のほうが強い。

 そして無惨は仮面ライダーに変身していることもあり、本来の戦い方が出来ない。これがあまりにも大きすぎる。
 仮面ライダーに変身することで装甲を纏い、日光は克服出来たが鬼としての強みを失った。そんな無惨は大した脅威にならない。

 総じて言えることは、無惨はリゼを殺すことで日光の対策は出来たが、それが橘の逆鱗に触れてギャレンが先程よりも爆発的に強くなり。
 逆に無惨は仮面ライダーとしての戦い方を強いられることで大幅に弱体化したようなものだ。

「ぐっ……!何故、私がたかだか人間一匹に……!」

「人間を無礼(なめ)るな!リゼを殺した化け物――貴様はここで俺が倒す、生かしてはおけない!」

 言葉を互いに交わし、再び距離を詰めたギャレンは、今度はゲーマドライバーに向けて零距離で連射する。

748rebirth ―魂の日々を、魂の意志を― ◆QUsdteUiKY:2025/05/12(月) 10:58:22 ID:Zb77DTj.0

「お前はここで終わりだ!これ以上、リゼのような犠牲は出さない!きっとリゼもそれを望むはずだ!」

「グァァアアア!リゼリゼうるさいぞ、この異常者が!」

 ――異常者。
 無惨にとって橘はそれ以外のなんでもなかった。
 つい数時間前に数人掛かりで惨敗したというのに、今度は独りで挑もうとするなど狂っている。
 そしてそんな異常者に、鬼舞辻無惨は追い詰められている。しかも最悪なことに継国縁壱の時のように自身の細胞を分解して逃げ去ることも出来ない。変身を解除したら、死あるのみだ。

 そんな状況に無惨は苛立つ。

 (何故だ。何故、こんな異常者如きに私が殺されねばならん!!!)

 しかしどれだけ憤怒したところで、状況は変わらない。
 このままだとゲーマドライバーを破壊されて無惨の変身は解除されることだろう――。

 (!そういえばあの少女が、不思議な力を発揮していたな――)

 無惨が思い出したのは、ハイパームテキガシャットを使い自分に喰らいついてきたリゼの姿。
 あの時、何故か不思議と少女は一切の負傷を受けていなかった。
 ならば――

 無惨は零距離射撃を受けながらも、ハイパームテキガシャットを取り出し――ゲーマドライバーに挿入する。

『ガッチャーン!ムテキレベルアップ!バンバンシューティング!…アガッチャ!』

 そして――スナイプが黄金に輝き、無敵になる。

 (やはりこの道具が鍵だったか……)

 リゼが異様な強さを発揮していたことに納得しながら、ハイパームテキガシャットをキメワザホルダーに入れた。彼女がその効果を発揮していた時間もわかっている。非常に短時間だ。
 ゆえに無惨は慢心せず、安心して生き残れるように目の前の異常者をムテキの効果が切れる前に屠ることを迷わず選んだ。

『キメワザ!!ハイパークリティカルストライク!!!』

 黄金に光り輝くスナイプが渾身のキックを繰り出す。何度も、何度も、怒涛の嵐のように連撃を加える。

「ぐわぁあああああ――!」

 あまりもの激痛に橘が絶叫するが、それでも容赦なく連撃は続く。
 対抗する手段は残念ながら――ギャレンにはない。

 しかし地獄のような時間はほんの僅か。
 橘の体感時間では凄まじく感じたが、たったの10秒で終わった。

 そして無惨がギャレンを見ると――その仮面の半分が割れ、露出した顔から血を流し地に伏す橘が見えた。

 ――その光景はまるで、ギラファアンデッドと戦った時と同じ。
 強いて違いを上げるなら、橘が大地に伏していることか。

749rebirth ―魂の日々を、魂の意志を― ◆QUsdteUiKY:2025/05/12(月) 10:59:31 ID:Zb77DTj.0
「どうやらお前の悪足掻きもここまでのようだな」

(リゼ……。俺は――)

 スナイプは露出した橘の顔に向けて冷酷にもガシャコンマグナムの銃口を向けた。
 当然だが、装甲を纏っていない部分は生身同然だ。
 ゆえにこの一撃が決まれば橘は命を落とすだろう――

 (俺は――君のことが大切だった)

 不思議と橘に恐怖心はない。
 この絶体絶命の窮地で――されども橘はすぐに立ち上がり。

「ウワアアァァアアアアア!」

「何!?」

 左手でスナイプのガシャコンマグナムを叩き落とし、更に右手に握ったギャレンラウザーを無惨へゼロ距離で連射する。

「ぐぅぅうう!この異常者が!」

 スナイプからバチバチと火花が飛び散り、無惨に着実にダメージを与える。
 無惨は眼前の異常者(たちばな)に苛立ちを爆発させるが、このままではベルトが破壊されて日光を浴びてしまう。

 ゆえに無惨は痛みを堪えながらも橘に背を向け、逃走を図る。
 自分がピンチになればプライドも何もかなぐり捨て、逃走する。鬼舞辻無惨とはそういう男だ。
 しかしそれは橘にとってはあまりにも突然であり、対応が遅れる。
 ギラファアンデッド以上の化け物が逃げ出すなど、予想外過ぎる行動だった。

「待て!」

 僅かに遅れてリゼ専用スピアーをデイパックから取り出し、握り締めたギャレンがスナイプを追跡する。

 無惨は背後から迫る橘にガシャコンマグナムを乱射するが、その視線は前を向いたままなので素人であり、相手を見てもいない攻撃がまともに当たるはずもない。これはただの威嚇射撃だ。
 しかし下手な鉄砲も数打ちゃ当たるという諺通り、ギャレンに当たる可能性は十分にある。

 橘は弱点である露出した顔を片腕で隠しながら威嚇射撃を恐れることなく走る。無惨の銃撃がその腕に当たる。ギャレンの装甲がない生身の顔に命中していたら危険だっただろう。

750rebirth ―魂の日々を、魂の意志を― ◆QUsdteUiKY:2025/05/12(月) 10:59:58 ID:Zb77DTj.0
「しつこい異常者が……!」

「俺は貴様を倒す。リゼの仇は必ず取る!」

 ギャレンは走りながらもギャレンラウザーを連射し、正確にスナイプに当てる。
 スナイプの背中から火花が散り、無惨は痛みを受けるがそれでも止まらない。生に対する異様なまでの執着心が無惨の身体を突き動かしているのだ、痛みなど気にしている場合じゃない。

 (何故だ。何故、あれほど負傷してもこいつは戦える……!)

 橘はギャレンの仮面の半分が割れるほどの猛攻を受け、その負傷も大きいはずだ。
 なのに何故か彼は普通に動けている。鬼舞辻無惨という脅威に臆することなく、恐怖することなく追跡してくる。
 それは無惨からしたらあまりにも気が狂った異常者だ。

 (……虫唾が走るが。このままでは埒が明かんな。こいつはここで仕留める)

 このまま逃げ続けても、鬼ごっこのように橘は無惨を追い続けるだろう。
 そうしていると道中で他の人間と遭遇し、手を組む可能性がある。もしもそんな展開になったらあまりにも厄介だ。

 ゆえにこの異常者(たちばな)はここで潰す。
 幸いにも無惨と橘はそれなりに距離が開いている。
 無惨はガシャコンマグナムをライフルモードに変更。
 そしてくるりと橘の方を見て、ガシャコンマグナムを構える。

 (なんだ?急に逃げるのをやめた?)

 無惨の行動を不思議に思う橘だが、ガシャコンマグナムの銃撃程度ならばギャレンの装甲で負傷を軽く出来ることは実証済み。
 ゆえに走る足は止めず、無惨に接近する

 そして無惨は――ガシャコンマグナムにバンバンシューティングガシャットを挿入。

 『バンバンクリティカルフィニッシュ!』

 ――ガシャコンマグナムからエネルギーが一直線に放たれ、ギャレンのいる方向へ凄まじい速度で進む。

751rebirth ―魂の日々を、魂の意志を― ◆QUsdteUiKY:2025/05/12(月) 11:00:36 ID:Zb77DTj.0
 (……これでようやく死んだか?)

 攻撃の余波で砂埃が舞い、ギャレンの姿が見えないがこの一撃を受ければ流石に死ぬだろう。
 無惨は安心して再びギャレンに背を向ける、と――

「まだだ!そうだろ?橘さん」

 ――槍と盾を手にした紫髮の少女が、橘の前に立っていた。

「リゼ……。君はたしか――」

「ああ、私は死んだよ。でも橘さんの〝想い〟と私の槍が少しだけ私に時間をくれたんだ」

「そうか……。俺の想いが、君を……」

「とにかく急ごう、橘さん。あいつはかなり危険だ!」

 ――それは土壇場で橘とリゼに起きた奇跡。

 否。断じて、否。

 これは奇跡などじゃない。師匠と弟子の絆による、必然の結果。
 ――橘の想いがリゼ専用スピアーに反応し、心意を引き起こした。

 ちなみにリゼが盾でバンバンクリティカルフィニッシュを防げたのは、復活してすぐにスキル〝ここからが私の見せ場だな!〟を使っていたためだ。

「どうなっている!お前は私が喰ったはずだ!」

 コメカミに青筋を立て、怒り狂う無惨。
 なんなのだ、このわけのわからない展開は。死者が復活するなど有り得ない。

 (まさか――)

 無惨には一つだけ心当たりがあった。
 彼が思い返すのは、神を自称する異常者による放送だ。
 禁止エリアなど重要な情報を得るために無惨はこれをしっかり聞き、様々な情報を記憶していた。

『それと、だ。君達の中には既に奇妙な現象に遭遇した者もいることだろう。
 本来なら使えない力やアイテムを、死闘を経験し手に入れた者達が、だ。
 不安がる必要はない!それらも私が設定した、ゲームを盛り上げる要素の一つ!
 たとえ格上とぶつかっても腐るな!一発逆転のチャンスは平等に転がっているゥ!』

 (放送であの男が言っていた奇妙な現象とは、こういうことだったのか……!)

 無惨はリゼが蘇ったことに納得すると同時にあまりもの理不尽に苛立ちを募らせる。

 しかし無惨は、再び逃げ始めた。
 本来ならば苦も無く倒せる相手だというのに、今の状態では逃げるしかない。
 それが異様に腹正しいが、太陽さえ沈めば。夜になれば変身解除して、この異常者(たちばな)を瞬殺出来る自信がある。
 それに死者の蘇生なんて滅茶苦茶なことは、永続的じゃないだろう。そうでなければこの殺し合いは終わらないからだ。

「逃がすか!」

 リゼは自身のとっておきを使い、巨大な銃で仮面ライダースナイプこと無惨を撃ち抜く!
 無惨は光の奔流に飲み込まれ――かなりの負傷を負った。

「しつ、こいぞ……。この、異常者共が……」

 それでも無惨は一度倒れたものの、両手を地面に着けてゆっくりと立ち上がる。
 そしてなんとか身体を動かし、逃走を図った。

752rebirth ―魂の日々を、魂の意志を― ◆QUsdteUiKY:2025/05/12(月) 11:01:27 ID:Zb77DTj.0

「今だ、橘さん!」
 
「ああ。ありがとう、リゼ!」

『DROP』 『FIRE』『GEMINI』

『バーニングディバイド』

 電子音が鳴り響き――

「ウォォオオオオ!!」

 橘の雄叫びが木霊すると共に、逃げ出そうとゆっくり動く無惨の背後から、宙を舞う二人のギャレンによる炎を纏った蹴りが炸裂する!

「グ、ァアアアアアアア――!」

 立て続けに必殺技を受け、あまりもの激痛に無惨は絶叫する。
 そして無惨の近くに降り立った橘の元にリゼがやってきた。

「この異常者共が!どうして私がこんな仕打ちを受ける必要がある!!私はただ生きたいだけだ!!!」

「それは――貴様がリゼを殺したからだ!」

「生きたいだけ?それならどうして私達を襲ったんだ。異常者はお前だろ!」

 喚き散らす無惨に橘とリゼが一喝する。

「……それにしてもこいつかなりしぶといな、橘さん」
 
「ヤツの弱点はおそらく日光だ。アンデッドが封印しなければ不死身だったように、こいつも日光を浴びなければ不死身なのかもしれない」

「そのアンデッドっていうのはよくわからないけど、つまりベルトを壊せばいいのか?」
「そういうことだ」

「それなら――橘さん、私と一緒にこの槍を握ってくれ」
「……わかった」

 二人が会話している間にも無惨は逃げ出そうとするが、度重なる負傷でその速度はあまりにも鈍い。

「いくぞ、リゼ!」

「任せろ、橘さん!」

 そして二人は両手に槍を握ったまま走り出し――。

「橘さん、技名はダブルワイルドクラッシュなんてどうだ?」
「リゼと俺でダブルということか。いい技だな、リゼ」

 そして――

「くらえ、化け物!」
「リゼの仇、取らせてもらう!」

「「ダブルワイルドクラッシュ――!!」」
 
 二人で握り締めた槍を無惨の背後から腹を貫き、ベルトへ突き刺す。

「ガッ……!」

 無惨は腹を槍が貫通した痛みに、うめき声をあげて――やがて変身が解除される。

「ア……ア……ア……!アアアアアア!!」

 生身になった無惨は太陽に灼かれ、絶叫と共に無へと帰った。
 カラン、カラン――。

 無惨は肉体を失い、後に残った首輪の金属音と装着者を失ったベルトの音が鳴り響く。
 橘はその首輪とバンバンシューティングガシャット、ハイパームテキガシャットを拾う
 そして無惨のデイパックから基本支給品とボーちゃんの首輪を発見して、回収するのだった

753rebirth ―魂の日々を、魂の意志を― ◆QUsdteUiKY:2025/05/12(月) 11:02:00 ID:Zb77DTj.0

 ◯

「ふぅ……。終わったな、橘さん」

「ああ、そうだな……」

 戦闘が終わった後、リゼの身体が僅かに透き通る。

「リゼ……。君の身体に何か異常があるようだが、大丈夫か!?」

 「……ん?あぁ……そろそろお別れの時間なのかもな」

「……そうか。たしかにリゼは、少しだけ時間を与えられたと言ってたな……」

「そういうことだ。……私のためにがんばってくれてありがとな、橘さん」

「いや……感謝されるようなことはしない。むしろ俺を助けるためにリゼは命を落とした。俺は師匠として、君に何もやってあげられなかった……!」

「アレは私が選んだ道だ。橘さんやもぐもに死んでほしくなかったからな。それに橘さんは私の仇を取ろうと必死になってくれた」

 ――だから、さ。

「だから――橘さんは私にとって最高の師匠だったぞ!」

「ありがとう。……こんな俺にそんな言葉を掛けてくれるなんて優しいな、リゼは」

 ――橘さんは未だに暗い顔をしたままだった。まだ仮面ライダーに変身してるけど、マスクが割れてるから表情くらいわかるんだ。
 私は本心から橘さんを最高の師匠だと思ってる。マヤの仇を取ってくれたのも、あの世からしっかり見てたし――だから私にはあまり悔いがない……なんて言ったら嘘になるけどさ。

 ココアやチノやメグが心配だし、私が死んだらシャロや千夜も――みんな悲しむだろうし……。
 だけど橘さんやもぐもを助けられて良かったと思うし、橘さんにも言ったけどこれは私が選んだ道だ。

 だからそれで橘さんにこんな表情(かお)されたら――成仏してもしきれないじゃないか。

「別に優しさとかじゃないぞ。私は自分が選んだ道のせいで橘さんが落ち込むのが嫌なんだ――」

「……そうか。それは、すまない」

「だから、橘さんが謝る必要ないって。なんていうかさ――橘さんには笑顔でいてほしいんだよ。これが私の――弟子としての最期のお願いだ」

 そうじゃなきゃ、橘さんが心配で死んでも死に切れないからな。

「わかった。ありがとう、リゼ!君は俺の最初に出来た弟子と並んで――最高の弟子だ!」

 そんなことを言いながら、ぎこちなく笑う橘さん。
 まあいきなり気持ちの整理をして、心から笑えっていうのは無理があるよな。
 ……でもそんな表情(かお)になるくらい、私を大切にしてくれたかとは嬉しいとも思う。

 ――なんて考えたら、周りが光に包まれてきた。
 そろそろ本当にお別れ、か――。

「最高の弟子なんて嬉しい言葉をありがとな、橘さん。……そろそろ私にまたお迎えが来そうだ」

「……そうか。リゼは、また逝ってしまうのか……」

「ああ。でも私はいつまでも一緒だ、橘さん。最期に私の手を握ってくれ」

「……わかった」

 そうすると私は橘さんと握手をして――。

「短い間だったけど、楽しかったよ。本当に橘さんの弟子になれて良かったと思ってる」

「ああ、俺も楽しかった。リゼ……君に会えて本当に良かった」

 「……ありがとな」

 またあの世に行くのは悔しくて、涙が出そうになるけど――私は気合いでグッとそれを堪えて、笑顔で告げる。
 
「――じゃあな、橘さん」
「ああ……。さよなら、リゼ」

754rebirth ―魂の日々を、魂の意志を― ◆QUsdteUiKY:2025/05/12(月) 11:02:48 ID:Zb77DTj.0

 ◯

 橘はリゼが消滅するのを、見送った。
 その直後――ギャレンの変身を解除しようとする橘に変化が起きた。

「ぐ、ぅ……!?なんだこれは……!身体が……熱い!」

 唐突に全身を焦がすような熱が襲い、ギャレンを焔が包み込む。

「何が起こって――」

 そう口にして、変化に気付く。

「なんだこの声は?これは俺の声じゃない。まるでリゼの声だ!」

 そう、橘の声はリゼそっくりになっていた。
 そして焔から解き放たれると――そこで視線が低くなっていることに橘は気付いた。

「俺の身に何が起こっている……?」

 不思議な体験を果たした橘は、少し歩くと偶然にも民家があった。
 橘はそこへ入り、少し探索すると――目的のものはすぐに見つかった。鏡だ。
 そして橘は鏡の前に立ち、自分の姿を確認すると――

「なに!?俺がリゼになってるだと!?」

 そこには紫色のラビットハウスの制服を着用したツインテールの長身の美少女が映っていた。
 というより――その姿は誰がどう見ても、天々座理世そのものだった。
 橘は暫し困惑するが、元々研究者であった彼は意外と頭が良い。
 この現象に、1つ心当たりがあった――。

『それと、だ。君達の中には既に奇妙な現象に遭遇した者もいることだろう。
 本来なら使えない力やアイテムを、死闘を経験し手に入れた者達が、だ。
 不安がる必要はない!それらも私が設定した、ゲームを盛り上げる要素の一つ!
 たとえ格上とぶつかっても腐るな!一発逆転のチャンスは平等に転がっているゥ!』

 ――放送で神を名乗る男が話していたことを思い出す。
 リゼが一時的に生き返ったのも、自分がリゼと同じ姿になったのも彼の言っていた〝不思議な現象〟なのだと察する。

 つまり、これは橘の心意だ。
 リゼと再び出会い、別れを惜しみ――〝いつまでも一緒だ〟という言葉を掛けられた橘は、このような形でリゼと同じ姿になった。

 もっともこれはリゼが一時的に蘇った心意と同じく、橘だけでは発動しなかったであろう心意だ。
 リゼ専用スピアーとリゼに再び出会ったから起こった心意といえるだろう。

「……それにしても、見た目が変わってもギャレンラウザーとラウズカードはそのままなんだな」

 リゼの見た目になっても腰にホルダーがあり、そこにギャレンラウザーがある。ラウズカードも無事だった。
 どういうわけかギャレンバックルは失ったが、戦闘は可能だろう。

 なお橘は気付いていないがこの状態はギャレンの通常フォーム並のスペックを生身で誇り、融合係数によって強さが変動することも同じだ。

「俺がリゼになったということは……。試してみる価値はありそうだな」

 そして橘はリゼ専用スピアーを手に取り――

「変身!」

 ――その掛け声と共に〝ナイト〟のクラスへと変身し、服装が変わると共に槍だけでなく盾を手にする

「なるほど……。やはりこの武器で〝変身〟出来るようになったのか」

 確認を終えた橘は変身解除する。
 すると、服装もラビットハウスのものに変わっていた。

「リゼ……。君の意志は俺が引き継ぐ。リゼの友達を助け、戦えない人々を守りながら――この殺し合いを打破してみせる」

 その後、橘は民家を漁り包帯など治療に使えるものを発見。
 包帯を巻いたり、ガーゼで傷痕を止血すると余った分をデイパックに詰め込んだ

 【鬼舞辻無惨@鬼滅の刃 死亡】

【E-2(民家)/午前/一日目】
【橘朔也@仮面ライダー剣】
[状態]:ダメージ(大、包帯やガーゼにより止血済み)、疲労(大)、心意によりリゼの姿・声に変化
[装備]:ギャレンラウザー&ラウズカード@仮面ライダー剣、リゼ専用スピアー@きららファンタジア
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品×1、バンバンシューティングガシャット@仮面ライダーエグゼイド、ハイパームテキガシャット@仮面ライダーエグゼイド、首輪×2(ボーちゃん、鬼舞辻無惨)
[思考・状況]基本方針:剣崎とリゼの分まで人々やリゼの友達を助ける。ゲームマスターも倒す
1:ありがとう、リゼ。君は睦月と並んで最高の弟子だ
2:まさか俺自身がリゼになるとはな……
3:リゼの友達を探す。リゼの分まで俺が守る
[備考]
※参戦時期は最終回後。
※遊戯王OCGのルールを多少把握しました
※脚の負傷具合については少なくとも完治してます
※心意により見た目と声がリゼと同じになりました。生身でギャレンのスペックで、融合係数の変動で強さが変わるシステムを常に発揮しています。ギャレンラウザーを用いることでラウズカードやコンボ技も使えます
※リゼの姿になったことでリゼ専用スピアーで変身可能になりました

755 ◆QUsdteUiKY:2025/05/12(月) 11:03:38 ID:Zb77DTj.0
投下終了です

756 ◆QUsdteUiKY:2025/05/12(月) 13:06:06 ID:Zb77DTj.0
閑話:神の整理PART2の件についてご連絡です

まずは皆様、ご意見ありがとうございます
ふと思ったのですが、◆2fTKbH9/12氏がリリスが口封じされたことを不公平に思っているなら、リリスを口封じしない方向で『fortissimo-the WeiβFlügel crisis- side:YUKI』を修正しようと思っています
まだリリス達のグループはこれが最新話なので、まだ修正が出来ると判断し、それでこの提案に至りました

しかしキバットだけが口封じされている状況もまた歪なので、キバットの口封じも解禁する方向での修正になると思います
ご検討よろしくお願いします

757◆2fTKbH9/12:2025/05/12(月) 18:07:50 ID:???0
意見を頂いた皆さまにお手数をおかけしてすみません。

初めに誤解がないよう言います。決してリリスの扱いが不満で書いた訳ではありません。
今後がどうなろうが文句はないです。
ペンデュラムゾーンとエクストラモンスターゾーンのような放置して対応がいい加減にしない為です。
それらの戦闘シーンがないお陰でその場をしのいで来ましたが、手を打って無事に済みました。
また上記のように繰り返さないようまた管理が甘く曖昧さをなくすために全ての意思持ち支給品が口封じの方針で対応しようとしました。
報連相もしないで先走ってしまい皆さまに誤解を生んでしまい、本当に申し訳ございません。
今後のリリスとキバットの処遇は♦QUsdteUiKYさんの判断に委ねます。
一書き手が口出しする権利はないです。どのように下すかはお任せします。

758 ◆ytUSxp038U:2025/05/13(火) 00:35:02 ID:koWNE/hQ0
◆QUsdteUiKY氏投下お疲れ様です&◆2fTKbH9/12氏返答ありがとうございます

>>731の予約に橘朔也を追加します

759 ◆QUsdteUiKY:2025/05/14(水) 19:34:26 ID:IraaUs.c0
◆2fTKbH9/12氏、ご回答ありがとうございます。
とりあえず皆様の意見を見て、考えた結果として閑話:神の整理PART2は不採用ということにしておきます

またリリスとキバットの口封じですが、もしもリリスの扱いが不公平だと思ったのならば強引にでもなんとか修正するつもりでした。
しかしキバットだけが先に口封じされている理由付けを考えるのが困難であり、また◆2fTKbH9/12氏がリリスの扱いを不満に思っていないとのことで、ひとまず修正は無しということにします。

ですが◆2fTKbH9/12氏は様々な話を書いて、当企画に貢献していただけてる書き手さんなのでもしも〝本当は不満〟だと思っているならば、遠慮なく言ってくださいね。
その場合、なんとかキバットのみが口封じされていた理由付けを考えて修正致します

760 ◆ytUSxp038U:2025/05/17(土) 23:30:02 ID:9YHx6vdg0
延長します

761◆2fTKbH9/12:2025/05/18(日) 16:23:54 ID:???0
>>759

♦QUsdteUiKY氏のご決断をして頂き有難うございます。
こんなことでお手数をおかけして申し訳ありません。

教えろ!野獣先輩が学ぶデュエル教室 にて状態表の道具の欄に緑へものスタンガン@落ちこぼれフルーツタルト が書き忘れていたのでwikiで修正をお願います。

お詫びにキリト、空、宮川尊徳、ユキ、直見真嗣、クウカ、奈津恵、コッコロ、継国縁壱、肉体派おじゃる丸を予約と延長をします。

762 ◆QUsdteUiKY:2025/05/18(日) 18:31:17 ID:2lq4aURA0
>>761
ご予約ありがとうございます、該当箇所を修正致しました

763 ◆QUsdteUiKY:2025/05/19(月) 00:52:27 ID:W.NkZqAI0
投下します

764この残酷な世界の成り立ちを! ◆QUsdteUiKY:2025/05/19(月) 00:54:16 ID:W.NkZqAI0
――赤い装甲を身に着けた銀髪の男はジッとモニターを眺めていた。
 幾多ものモニターがある中、彼が特に注目しているのはキリトのグループと直見真嗣のグループ、そしてジャック・アトラスのグループだった。

「ジャック・アトラスが脱落したか……」

 ジャック・アトラス。
 このデスゲームの重要な要素――心意を誰よりも。現段階ではキリト以上に使いこなし、数多の激戦を繰り広げてきた男。
 そんな男の最期は、あまりにも呆気ないものだった。〝ボスクラスのレッドプレイヤー候補〟としてデスゲームに参加させたポセイドンを他の参加者と共に討ち取る姿には高揚したが――されどもジャック・アトラスは死んでしまった。彼の進化は、ここで止まってしまったのだ。

「これは、ゲームであっても遊びではない——。ジャック・アトラスの死亡は惜しいが、それを撤回することは出来ない……」

「その様子だと随分とジャック・アトラスを買っていたようようだなァ。ヒースクリフ。――いや、茅場晶彦ォ!」

「私は彼に期待していた。ラスボス戦まで辿り着くと確信すらしていたんだ。まさかの展開に動揺もするさ」

「だがジャック・アトラスは死んだァ。同じゲームクリエイターだからわかると思うが、このゲームでは基本的にコンテニューは出来ない!」

「そうだな。だが私にはまだ一戦を交えたいプレイヤーがいる」

「かつて君を一度倒したというキリトか?」

「ああ。それとあの時のキリト君と同じくシステムを上回る人間の意志を見せてくれる参加者――直見真嗣だな」

「直見真嗣か。彼には君と私が作り上げたMurder――〝マサツグ様〟もいるな。もっともマサツグ様の方はあまり上手くいってないようだが……」

「マサツグ様は単純に出会いが悪いのと、性格をあまりにも悪くし過ぎたようだ。だが彼は負の心意に目覚める可能性が高い。そういう意味では期待出来るさ」

「負の心意か。茅場晶彦、君が直見真嗣に注目しているのはオレイカルコスの結界に呑まれたプレイヤーをその呪縛から解き放ったからか?」

「そうだ。そういう意味ではコッコロ君やメグ君にも期待はしている。特にメグ君はコッコロ君の負の心意を振り払ったからな。それに罪と光を受け入れた彼女達がどういう行動をするかは、個人的に興味深い」

「……なるほど。やはり君は〝心意〟を重要視しているようだな」

765この残酷な世界の成り立ちを! ◆QUsdteUiKY:2025/05/19(月) 00:54:36 ID:W.NkZqAI0
「私はキリト君のシステムを上回る人間の意志――心意に敗北した。拘るのも当然だろう」

「茅場晶彦。まさか君はキリトやマサツグ達に負けるのを望んでいるのか?」

「そういうわけじゃない。どんな理不尽を前にしても、ゲームマスターを前にしても――屈服せずに立ち上がる。そんな彼らの姿が見たいだけだ」

「だがキリトは全く戦闘をしていない。それについては君の期待外れか?」

「いや――キリト君達もいずれ戦闘する時が来るだろう。このデスゲームはソードアート・オンラインとはまた違う。バトル・ロワイヤル形式の仮想現実だ。否が応でもキリト君は剣を握り、レッドプレイヤーと戦わなければならない時が来る。そのために彼と因縁が深い人物も招待した」

「PoHか。たしかに彼の心意や経歴はなかなか面白い。このバトルロワイヤルにはうってつけのものだァ!」

「そしてもう一人、気になるプレイヤーは居るが――」

 茅場はチラりと遊星が映されたモニターを眺める。

「――彼の相手は十代君に譲ろう。私より十代君が相手をする方が向いている」

「それは一理あるな。だから私は覇王の時代から遊城十代を連れてきたのだァ!だが茅場、君は武藤遊戯には興味がないのか?」

「今のところは武藤遊戯よりも心意で神のカードを再び手にした海馬瀬人に興味があるな。武藤遊戯にもこれから興味が湧くかもしれないが……現時点ではそれほど重要視していない」

 それだけ言うと、今度は茅場が質問する番だ。

「そして1つ質問だ。NPCにボスクラスのキャラが潜んでいることを私は聞いていない。天ヶ崎恋――ラヴリカバグスターは能力も経歴も明らかに私が想定しているNPCの範疇を超えている」

「そこについては問題ない。ラヴリカ本人は気付いていないようだが、大幅に弱体化している」

「……弱体化させてまでNPCとして召喚する意味があったのか?」

「彼はなかなか面白い性格をしている。今回は性能よりもそこを買った。まあ一種のギミックのようなものだ。今後はボスクラスのキャラがNPCとして出てくることもないから安心したまえ!」

「なるほど。そういうことなら、私も納得しよう」
  
 追加主催

【茅場晶彦(ヒースクリフ)@ソードアート・オンラインシリーズ(アニメ版)】

 ※この世界は茅場晶彦と檀黎斗が構築したものでした
 ※マーダー不足を懸念して、新たなマーダーがプレイヤーとして招かれる可能性があります。もしかしたらその関連人物も招かれる可能性もありますが、対主催とマーダーのバランスを考慮して茅場と檀黎斗が判断します
 ※茅場晶彦のアバターはヒースクリフです。キリト同様、ステータスなどもヒースクリフと同じです
 ※ルールに記載していなかったこちらの落ち度なのでラヴリカのみ特例ですが、今後は企画主以外は事前の相談なしにNPCでボスクラスのキャラが出ることを禁止します。ポッピーや魔導雑貨商人などのお助けNPCは大丈夫です
 ※ラヴリカバグスターは大幅に弱体化しています

766 ◆QUsdteUiKY:2025/05/19(月) 00:55:54 ID:W.NkZqAI0
投下終了です

767 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:46:31 ID:dyk1XPSI0
投下お疲れ様です。自分も投下します

768EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:48:27 ID:dyk1XPSI0
「強大なエネルギーを秘めたパンドラボックスを巡り…っていつの話だよこれ。台本チェンジだチェンジ」
『胡散臭さに手足が生えたような地球外生命体が去った後、わたしとイリヤさん達一行は仮面ライダー捜索の為に別行動を取りました。
 見てますか皆さん!何故か喋れなくなったような気がしましたけど、ご覧の通りいつものルビーちゃんですよー!』
「急に何の話をしてんだよ。一方俺ことエボルトは七海やちよのお気に入りの魔法少女、環いろはとの接触に成功。
 こいつを連れて行けば好感度アップも間違いなし。おいおいまさか、本当にハーレムルートに入っちまったか?」
『魔法少女に不埒な真似を目論む愚行、全ての可憐な女の子の味方であるこのわたしが許しませんよ!
 それにしても環いろはさん、あんなピッチリスケスケ衣装とはけしからんですねぇ。ウチのイリヤさんとの素敵なショット(意味深)を期待したいですねぇゲフフ(汚い笑い)』
「一行前と即座に矛盾してんぞ。さぁて、どうなりますやら」


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「しっかし分からねぇもんだな」

エーデルフェルト邸を後にし、徒歩で移動の最中。
暫し続いた無言を打ち破ったのは、蛇王院が発した一言だった。
前触れなく出たその言葉に、同行者二名と一本は視線で続きを促す。
分からないと急に言われても、一体何の事かがこっちはサッパリなのだから。

「遊戯や遊星は自分のデッキを取られてんのに、凌牙は本人のを渡されてんだぜ?それにイリヤだって、相棒と引き離されなかった。
 なんだってこうも支給品に差があるのか分からなくてよ」
「言われてみれば……そっか、わたしもルビーが一緒じゃなかったかもしれないんだ」

有り得た可能性を思い浮かべ、幼い肢体が微かに震える。
デイパックを開けたら真っ先に相棒のステッキが飛び出し、普段通りに戦えた。
しかし遊戯や遊星のみならず、イリヤもルビーの没収により戦闘手段を失う事態が起こらなかったとも限らない。
運が悪ければ、司共々斬り殺された末路があったかもしれないのだ。
平行世界への転移直後、ベアトリスから必死に逃げた時の事を嫌でも思い出す。
事情が重なり見逃され命拾いした、そういう幸運が二度も続くと楽観的には考えられない。

『うむむむ…むさ苦しくてあくどい男の手に渡った可能性もあるってことですねー……。何たる地獄!ルビーちゃんはイリヤさんに身も心も全て捧げ、染め上げられたと言うのに!』
「誤解を招くこと言わないでよ!?」
『えー事実じゃないですか。初めて会った晩、熱くてドロリとした液体をわたしに……』
「あ、あれは鼻血でしょ!」

半分事故、もう半分はこの面白ステッキが原因で義兄と入浴中バッタリになったのも今や懐かしい。
あの時見たモノが記憶から引っ張り出され、つい頬に朱が差す。

769EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:49:29 ID:dyk1XPSI0
「デッキを取られたのは確かに痛いが、コレが没収を免れたのは助かったぜ」

傍らの漫才染みたやり取りを尻目に、遊戯は首から下げた装飾品を見やる。
現代を生きる決闘者と名も無きファラオが人格交代を行うには、千年パズルが必要不可欠。
今こうして自分が表に出て話す事すら、現実に起こっていなかったのも有り得た。
主催者に感謝する気は微塵も無いが、没収を免れたのには安堵を抱く。
それはそれとして、デッキが他者の手に渡ったのはやはり頭の痛い問題だった。

「凌牙が最初から自分のデッキを持ってるってことは、別にデュエル自体を禁止してる訳じゃねぇんだろ?なら、遊戯達にだって支給しても問題ない筈なんだが」
「……若しかすれば、俺や遊星くんがデッキが無い状態でどう足掻くか見てみたい。なんてだけかもな」

険しい顔で立てた仮説はシンプルながら、絶対ないと否定も出来ない内容。
決闘都市準決勝の直前に巻き込まれた電脳空間での戦いが、一つの良い例になる。
首謀者の海馬乃亜はデュエルで勝てば肉体を与えると、BIG5をそそのかし遊戯達を襲わせた。
だが実際は最初から約束を守る気は無く、自身の娯楽に過ぎなかったのだ。
油断ならない強大な力の持ち主であっても、性根は傍迷惑な好奇心の悪童に等しい。
檀黎斗もそれに当て嵌まるなら、拍子抜けな動機であっても不思議はない。

『確かに、放送でのふんぞり返った態度を見ると逆に納得がいきますねー。ルビーちゃんに小細工までして、ふてぇ野郎ですよ!』
「あの人にとっては、本当に全部自分が楽しむ為なんだね……」

クラスカードの時間制限や治療魔術の効きの悪さなど、イリヤが不利になる為の細工を施された。
主催者にとってはバランス調整の一環であっても、こっちからすれば迷惑でしかない。
ふよふよ浮かぶ羽を拳に見立て振るい、魔術礼装なりに怒りを表す。

一方でイリヤは顔を曇らせ、怒りと悔しさを乗せ呟いた。
仲間である司と零、敵でも助けたい気持ちに嘘はなかった小さな魔女。
たった一つしかない命を失った彼らも、檀黎斗にはゲームを盛り上げたか否か以外に何も思わない。
ひょっとすれば自分達が知らないだけで、最初の想いは違ったのかもしれない。
ダリウスのように、長い年月の中で変わってしまったのが真実でないとも言い切れない。
だとしても、決闘と称し殺し合いを強要したのが許されるかは別。
司達の死を娯楽と扱い嘲笑ったのには怒りがあり、そのような男の元に親友が囚われているのは気が気でなかった。

770EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:50:03 ID:dyk1XPSI0
『おや、この反応は……皆さんどうやら追い付いたようです』

若干空気が重くなりかけたが、ルビーの声で切り替えを余儀なくされる。
移動中も常に網を張っていた為、他参加者の探知は正確だ。
言い方からして、自分達三人が追い掛けている者が見付かったらしい。
トラブルが起きず目的達成に近付いたのは良いが、イリヤの表情はどこか硬い。
件の相手の人を食ったような、根本的な部分で相容れない雰囲気を思えば当然だが。

「心配すんな。俺も話で聞いただけだが、ふざけた態度続けるようならガツンと言っとくからよ」
「ああ。イリヤだけに気負わせはしないから、頼ってくれて良いぜ」

緊張を察し、軽く頭を撫で蛇王院が不敵な笑みを見せる。
魔界孔の出現に端を発した、群雄割拠の日本で一勢力を纏め上げた男だ。
アクの強い連中相手と斬った張ったは珍しくなく、今更滅多な事で動じる弱腰にも非ず。
魔法少女とはいえまだ小学生のイリヤ一人に、負担を強いるつもりはない。
遊戯も同じだ、奇人悪人相手の舌戦はデュエルを通じて幾度となく経験済。
エーデルフェルト邸の時同様、毅然とした態度で臨むまで。

「…うん、二人共ありがとうございます」
『頼れる殿方で安心しちゃいました。ルビーちゃんも人間ならコロッと惚れちゃったかもしれませんよ』
「惚れんのは別に構わねぇがな。俺の女どもなら、杖相手でも仲良くやれんだろ」
『ま、まさかの公式ハーレム王!?一体どこのア○ススフトのキャラなんですか!?』
「は?何言ってんだ?」

心強い仲間の存在に、幾分緊張も解れる。
ルビーの案内に従い移動を続け、5分も経っていない頃。
付近の民家より大きく、一際目立つ建造物が目に映り込んだ。
外観からして学校、ただ三人の記憶にあるどれとも一致しない。
数時間前にイリヤを庇って力尽きた、白鳥司の通う中学校とは知る由もなく。
反応が近いとの言葉に気を引き締め直し、

「えっ」

この場にいる筈のない親友が視界に飛び込み、イリヤから平常心を奪い取った。

771EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:50:45 ID:dyk1XPSI0
◆◆◆


人の皮を被った蛇、と。
初対面の相手に対し大変失礼であり、うっかり口に出そうものなら怒りを買うこと確実である。
何かと突飛な神浜の魔法少女の中で常識人の部類に入るいろはが、分からない筈がなく。
理解した上で、そう思わずにはいられなかった。

少女、である。
年の頃は十を過ぎてまだ一年程度。
妹達と同年代で、ランドセルを背に登下校を繰り返すのが当たり前の日常を送っている筈。
同性のいろはをして、綺麗と言う他ないくらいには整った顔立ち。
黒い薄手のドレスで隠し切れない、剥き出しの素肌は透き通るような白さ。
病的な青白さとは違う、少女が本来持ち得る女としての魅力が体に表れていた。
その手の趣味嗜好の持ち主が見れば、己が欲棒を鎮めるのにさぞや苦労するだろう。

「まさか、やちよより先に俺が会っちまうとはねぇ。折角お空のデート中だったってのに、邪魔したのは恨まないでくれよ?」

異性同性問わず惹き付ける魅力を自らぶち壊す、軽薄な口調。
外見と中身がまるで一致していない、酷くアンバランスな態度である。
密かに片思い中の男子生徒が目撃したら、百年の恋も一瞬で冷めるだろう。
こんな状況で何だが、ふと水波レナを思い出す。
変身の固有魔法を持ち、他者の姿をしばしば無断で借りていた。
元の言葉遣いと変身中の姿とのギャップに面食らったのは、神浜に来て間もない頃だったか。
ここにいるのはレナではない、しかし他人の姿を偽る力の持ち主に違いない。
いろはのみならず、全プレイヤーが断言出来る。
何せ眼前の少女、美遊・エーデルフェルトは主催者に囚われの身。
会場で呑気に軽口を叩くのは有り得ない。

何故、美遊の姿を真似ているのか。
何を目的に動いているのか等、抱いて当然の疑問が泡のようにプカプカ浮かぶ。
しかし最も聞かずにいられないのは、先程から度々口にする名前。
神浜で最初に会った魔法少女であり、チームの纏め役であり、尊敬と信頼を向ける先輩であり、
一人にさせないと約束したあの人。

772EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:51:19 ID:dyk1XPSI0
「教えてください、やちよさんと会ったんですか?」
「でなきゃ、わざわざお前に付いて来たりはしてねぇさ」

別段誤魔化す意味も無い為、あっさり肯定。
次に気になるのは、どういった状況でやちよと会ったのか。
定時放送の前、それともフェントホープを訪れる直前。
行動を共にしていない理由をいろはが問うのを待たず、薄く色付いた唇が動く。

「折角顔を合わせたんだ。コーヒーでも飲みながら、ゆっくりお喋りといきたいんだがねぇ。生憎豆も機械も手元にないと来た。檀黎斗も神様を気取るなら気を利かせて欲しいもんだ、だろ?」
「え?えっと……」
「何だよ、女同士のトークは苦手だったか?やちよにもっとお前さんの好みなりを、聞いとけば良かったかもな」

返答に詰まるもお構いなしで、軽口が飛んで来る。
少なくともいろはの知る魔法少女達に、こういったタイプはいなかったように思う。
気さくな口調で心を開かせる、というのとも異なる。
冗談交じりの態度の裏にどことなく、値踏みするかの不躾な視線を宿らせている気がしてならない。
ちょっとした遊び心で揶揄う八雲みたまと違い、距離を感じる冷たいナニカがあった。

「痴れ事を垂れ流し……煙に巻く……それが貴様の目的か……?」

気圧され会話の主導権を奪われつつある中、鬼が蛇の独擅場へ待ったを掛ける。
魔族の王の鎧を纏い、素顔は仮面で隠れ見えない。
なれど発する威圧感は健在、サファイアブルーのレンズが小さき体を射抜く。
いろはを庇おうと前に出たつもりはない。
だが毒にも薬にもならない茶飲み話に耳を傾けてやる程、我が身を戦から完全に遠ざけた覚えも無し。
戯れに付き合う気は無いと、刃の如き視線を黒死牟が叩き付ける。

「おいおいそう凄むなって。今のご時世、いい大人がか弱いガキを脅しちゃ通報確定だろ?」
「戯けたことを……童の皮を被った化生が……何をほざく……」

神に囚われた少女の姿を模してるだけではない。
執念で辿り着いた武の境地、透き通る世界を取り繕った外見だけで欺くのは不可能。
小娘の形は見た目だけ、中身は人間どころか如何なる生物とも一致せず。
真紅の騎士や軍服の男と同じ、鬼とは別に人の理から外れた者。
或いは生まれながらに、人ならざる存在として産声を上げたか。

いずれにせよ、天津達のように持ち得る情報を開示するならともかく。
軽口でこちらを煙に巻く気であれば、律儀に相手をしてやる理由は皆無。
怪物同士の視線が交差し、魔法少女が場を宥めようと口を開き掛け、

773EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:52:03 ID:dyk1XPSI0
「美遊っ!」

駆け寄って来る白い少女へ、言葉を引っ込めざるを得なかった。

「あの子は……」
「思ったよりお早い再会になったな」

見知らぬ少女の登場にいろはが目を瞬かせる一方で、彼女を知っているような言葉を吐く。
後方へ視線を移せば、慌てて追いかける二人の参加者。
テンプレートな海賊スタイルの男はともかく、特徴的な髪型のもう一人は知っている。
プレイヤー全員が最初の場で慟哭する少年を目にし、自分は数時間前に直接会った。
白い少女共々、こうも早くにまた会うとは思わなかったが。

その白い少女ことイリヤは、一心不乱に親友の元へ走る。
ダリウスの救済に巻き込まれ、かと思えば神を名乗る狂人に囚われた親友。
どうして会場にいるのだという疑問はあれど、深く考え込むより先に体が動いた。
今だけは同行者達の声も、初対面の顔ぶれもイリヤを止めるには至らない。
目尻に涙を浮かべ堪らず手を伸ばす。

「おっと、ハグがお望みってんなら頼みを聞いてやっても良いが……俺相手で良いのか?本物のこいつに知られりゃ、浮気と思われるかもなァ?」
「っ!?」

触れる寸前で腕を跳ね除け、足に急ブレーキが掛かった。
姿形は自分の記憶にある美遊と、何一つ変わらない。
同じなのはそれだけだ。
美遊はこのような、人を小馬鹿にした話し方なんてしない。
嘲りを隠そうともしない笑みなど、絶対に浮かべない。
何より近付いてようやく分かった。
全身を蛇に巻き付かれ、舌先で首を舐められる捕食寸前に似たおぞましさ。
こんなものを感じさせる存在が、美遊であるなど有り得ない。

一体何者なのかの答えは、傍らの相棒が呆れと軽蔑を籠めた声で教えてくれた。

774EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:52:50 ID:dyk1XPSI0
『趣味は人それぞれと言いますが、限度があるでしょうに。無駄に敵を作るのがお好きなんですか?エボルトさん』
「そいつは心外ってやつだ。こいつの見た目になったのはお遊びだが、お前らの友達だってのは今初めて知ったからな」
「なっ……」

ルビーが言った名前を知らない筈がない。
エーデルフェルト邸での戦闘に介入し、魔女の頸を落とした地球外生命体。
一応自分達の恩人という立場であれど、信用出来る要素が一つもない男。
仮面ライダーに関する情報を聞く為追いかけたが、美遊の姿になってるのを誰が思い付けるという。
宇宙服に似た装甲とも、コブラのような頭部の異形でもない。
他者の姿を真似られる能力でも持っているからか。
混乱は長く続かず、すぐに怒りへ変わりキッと鋭い目をぶつける。
当の相手は怯む所かヘラヘラ笑い、美遊を馬鹿にされているようで我慢ならない。

「揶揄ったにしても笑えねぇな。胸糞悪いもん見せてくれたからには、相応の礼が返って来るのを知ってるか?」
「人を見下す態度をやめないなら、痛い目見るって忠告した筈だぜ!」

美遊とイリヤの関係を聞いた二人の男も、瞳を吊り上げ口々に言う。
片や冷静ながら不快さを隠さず、片や明確な怒りを露わにと違いはある。
しかし抱く思いは同じ。
これ以上イリヤの心を弄ぶなら、タダで済ませる気はない。

「分かった分かった、一旦落ち着けって。ったく、このお嬢ちゃんに関しちゃ冤罪なんだがねぇ」

美遊は士郎だけでなくイリヤの関係者。
初耳でありイリヤを惑わせる意図は無いのだが、言った所で納得しないだろう。
尤も、エボルトにとっては嬉しい誤算でもあった。
つい先程立てた仮説が真実か否か、答えを知ってるかもしれない者が向こうからやって来たのだ。
追々聞くとして、取り敢えず美遊の擬態を解かねば拳が飛ぶに違いない。
仕方ねぇなと呟き自身の細胞を変化、小さな体躯が一瞬で赤い粘液状に崩れる。
秒と掛けずに再構築、聖杯の少女は影も形も見当たらない。

「こいつなら文句は――」

瞬間、言葉を切り右腕を跳ね上げた。
電光石火と言うに相応しい、必要な動作を数段階すっ飛ばしたとしか思えぬ速さ。
右手に握るは短銃型の変身ツール、トランスチームガン。
単体でも武器として扱え、放つは対象を溶かし貫く高熱硬化弾。
西部劇のガンマン顔負けのクイックドローだがしかし、肝心の引き金を引く締めの動作は行わない。
銃口が睨む先には、イリヤが現れてから沈黙を保った白い鎧。
ステンドグラスを填め込んだ額へ、何故得物を突き付けているのか。
エボルトの首に添えられた、煌めく刀身が何よりの答え。

775EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:53:49 ID:dyk1XPSI0
「幾ら何でも気が短過ぎだろ。カルシウムが足りないなら、ミルクでも探してやろうか?」

美遊の擬態を解いた直後、間近で殺意の爆発が起きた。
肌を焼く激痛にも似た痛みへ、エボルトも無反応ではいられない。
数多の星を狩り培われた戦闘技術により、人外の速度で銃を引き抜いたのだ。
だが一手早く、黒死牟もまた得物へ手を掛けエボルトの頸へと走らせた。
指先すら触れず垂らしていた手を、一体いつ柄に置いたのか。
スタンド使いや仮面ライダーが有する時間停止ではない。
視認不可能と言っても過言でない速さで、魔剣を抜き放ったのである。

ザンバットソードと首の間の隙間は、紙切れ一枚が挟まるかも怪しい。
指の腹で蟻を潰す程度の、ほんのそれだけの力が加われば終わり。
限界寸前で斬首を留め、仮面越しに殺気立った瞳で睨み付ける。
黒死牟をこうも怒りで逸らせた理由は、誰の目にも明らか。

現代日本では滅多に見ない着物姿。
後ろで結び馬の尾のように垂らした黒の長髪。
両耳に付けた、日の出が描かれた耳飾り。
天界の寵愛を受けた人間(ばけもの)、この世でただ一人鬼の始祖を恐怖させた日輪。
神が掌で転がす操り人形、憎たらしくも断ち切れぬ血で結ばれた弟。
継国縁壱に擬態したエボルトの頸を、魔剣が今すぐ斬らせろと訴えていた。

「貴様が……童遊びにもならぬ戯れを……止める気が起きないなら……」

妬んだ。
憎んだ。
常に目障りだった。
幾度となく、死を願った。
心底嫌った。
負の念を両手足の指の数並べても、尚足りない。

なれど、忘れた事はただの一度もなく。
常に己が内を焼き続けた、永き時を経ても変わらぬ羨望の対象だからこそ。
指先が触れることすら叶わなくとも、背を追うのを止められなかった故に。

たとえ一時の悪巫山戯に過ぎなかろうと、弟を騙るその愚行に殺意が滾るのを抑えられない。

776EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:54:40 ID:dyk1XPSI0
「頸を落とし……黙らせれば良い……」

弟に姿を変えた化生を殺すのに、躊躇を抱く余地はない。
むしろ縁壱の顔で腐り切った軽口がほざかれるのを待たず、早々に死で以て終わらせたって構わない。
生前ならば、恐らくその通りにしただろう。
一刀で即座に黙らせた筈が、この場においては必要かも分からない警告を先に発した。
相手の口を割る前に殺すのが如何に愚策かを、僅かな理性が訴えているからか。
迷い全てを断ち切れぬ身なれど、自死を選ぶ気が無い以上情報の必要性は理解してるつもりだ。

或いはもう一つ。
自身と化生の発する殺気へ、息を呑む気配が周囲で複数。
今しがた現れた白い小娘の一団だろうが、知ったことではない。
だがそれとは別に、己の後方に立つソレは。
視界に収めずとも脳裏を掠め続ける桜色が、振り返った先にいる事実が。
花を編んで作った鎖となって、魔剣を握る手に絡み付く。
振り払えば散る脆き拘束に過ぎない、なのに引き千切れず捕らえられるがまま。
化生へ向ける殺意とは別に、例えようのない煩わしさで歯が音を立てた。

「エボルト、さん」

充満する剣鬼の怒りへ、喉に猛烈な痛みを感じる中。
怪物同士の睨み合いに割って入り、殺伐とした空気を鎮めんとする声があった。
喉を震わせ叫んだのではない、ただ一言名を読んだ。
横目で見やる星狩りから、いろはは目を逸らさない。

ああと、こうして近くでその顔を見たから思うのだ。
外見だけ真似た所で、やはりここにいるのは縁壱ではない。
彼について全てを知ってはいない。
怒気交じりに、ほんの少し教えてもらっただけ。
それでも、弟の事で兄が心を掻き毟る姿を見たから。

「もうやめてください。縁壱さんも美遊ちゃんも、あなたが誰かを傷付ける為にいるんじゃありません」

どれだけ手を伸ばしても届かない痛みを、いろはは知っている。
再会を強く願っても決して叶わない現実に、頬を濡らして来たから。
たとえ意図したものでなくても、心へ唾を吐きかける行為に黙ってはいられない。

777EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:56:07 ID:dyk1XPSI0
「……ま、おふざけも程々にしなきゃ困るのは俺の方か」
『自覚してるんなら、今からでも真面目になるのをオススメしますよー』
「性分なんでな。死んでも治らないもんだと思って、諦めてくれ」

人間の小娘の言葉に揺り動かされるなら、地球に潜伏した10年の間に心を入れ替えている。
お説教が利いたのでないが、おちょくるのも大概にせねばなるまい。
分かっていても皮肉や軽口が飛ぶのは、ルビーに言ったのが全て。
ともかく、詳しい関係は不明だが自分は黒死牟の地雷を踏んだらしい。
警告は最初で最後、いつ戦闘になってもおかしくない。
銃を下ろし、最も馴染み深い石動惣一に擬態。
桜ノ館中学前に集まった面々には、初めて見せる姿だ。

「これなら文句ねぇだろ?俺なりに多少は反省してるんだ、お前らの前じゃこいつの見た目のままでいるさ」
「……」

姿が変わろうと、神経を逆撫でする態度は健在。
いらぬ遊びでこちらを掻き回し、頭を沸騰させた化生をこのまま斬りたい気持ちが無いとは言わない。
されど向こうは縁壱ではない男の皮を新たに被り、得物を懐に納めた。
無駄な遊びを繰り返した挙句、膨れ上がった殺意をぶつける空気も削ぐとは。
まっこと不愉快極まる相手に低く唸り声を漏らし、ザンバットソードを首から離す。

「おっかないったらねぇな、まったく」

刀身が触れた箇所を擦りつつ、改めて集まった面々を見回す。
友好的なものが一つも存在しないのは、別に良い。
仲良しこよしで友情を築く気はない、だがいい加減真面目に話を進める頃合いか。

「さて、と。ちょっとしたアクシデントもあったが、お互いちゃんと話した方が良いだろ」
『なんか纏め役っぽいこと言ってますけど、そもそもあなたが原因ですからね?』
「それを言うなって。トラブルメーカー同士、少しは肩を持ってくれよ」
『失礼な!あなた程悪趣味じゃありません!一緒にナレーションやったくらいで心を許す軽い女と思ってるなら、そりゃ大間違いですよ!』
「冷たいねぇ。声の仕事が得意な仲だろ?」

話が拗れた10割の原因だと自覚しつつ、何でも無いようにあっさり切り替えた。
さしものルビーも呆れを隠せないが、当のエボルトはどこ吹く風。
彼らだけにしか伝わらない内容を話す両者へ、解けないパズルにぶち当たったような顔を作る。

778EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:57:14 ID:dyk1XPSI0
「二人共何のことを言ってるの……?」
「ルビーが素っ頓狂な事を言い出すのは珍しくないから、深く考えなくて良いと思います……」
「そ、そうなんだ」

どこか遠い目で言うイリヤに軽く困惑し、自己紹介もしないままつい言葉を交わした相手に向き合う。
インキュベーターとカレイドステッキ、異なる契約を結んだ魔法少女達。
妹と姉、半身をそれぞれ喪った両者だが現時点では互いの名前も知らない。
まずは基本的なことからと名乗り合う。

「嬢ちゃん同士打ち解けんのが早ぇな。俺らも倣って自己紹介くらいやっとくか?」
「……」

いろは達の様子を横目に、蛇王院が話しかけたのは白い鎧の参加者。
未だ素顔を見せぬ男は言葉無く、青いレンズを二人に向ける。
襲って来る気配は見られないが、相応に緊張感を抱く相手だ。
因縁深いホーリーフレイムとの抗争を始め、各勢力とぶつかり合った蛇王院。
ブルーアイズを巡る海馬とのデュエルに始まり、数多の強敵に打ち勝った遊戯。
戦いの舞台は異なるも歴戦の強者である彼らをして、今しがたの強烈な殺気に自然と身構えたのも無理からぬ反応。
とはいえそこはスカルサーペント総長と、初代決闘王。
及び腰の姿勢にはならず、堂々とした態度で相手との対話を望む。

男達の顔を仮面越しに見つめ、ややあって黒死牟は思い出す。
片方は一番最初の空間、磯野なる人間が屠り合いの宣言を行った場で発言を許された少年である。
頭を吹き飛ばされた別の少年が名を口にしており、自分のみならず全ての参加者の知るところ。
ついでに言うなら、本田以外の者からも遊戯の名は聞いている。

「不動が信を置く札使いとは……お前か……」
「遊星くんと会ったのか!?」
「こいつは流石に予想してなかったな……」

まさかその名が出るとは思わず、驚きを露わに聞き返す。
驚愕は蛇王院も同じだ、合流前に遊星の動向を知る者と接触が叶った。
行動を共にしていないのが気になるが、そこも含めて詳しく聞かねばなるまい。
とっつき辛い相手であるも、仲間と会ってる以上はキッチリ話してもらう。

「丁度良い場所の前に全員集まったんだ、お喋りの続きは中でやったの方が良いだろ」
「胡散臭いエイリアン野郎に同意するのは癪だが、ここで話し込んでも悪目立ちするだけだな」

正論だが余計なトラブルの元でもあるエボルトへ、蛇王院から辛辣な声が飛ぶ。
言われた当人はわざとらしく肩を竦め、全く懲りた様子がない。
ただ提案に反対する者はおらず、直ぐ近くの施設へ入って行く。
数時間前に覇瞳皇帝一行が訪れた桜ノ館中学は、新たな来訪者達を招き入れた。

779EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:58:56 ID:dyk1XPSI0
馬鹿正直に内履きを探し履き替える者はおらず、土足を咎める者も皆無。
生徒用の玄関を通り、廊下を進み数分。
見付けた図書室を情報開示の場に決め、先頭のエボルトが引き戸を開ける。
学校に置いてある本特有の、何とも言えぬ匂いが漂う。
殺し合いには何の意味も無い、こういった細部の再現まで拘ったらしい。
その情熱の向かう先がゲームと称する悪辣な殺戮では、素直に褒める者もいないが。

(懐かしい、な……)

自分の通っていた穂群原学園ではないが、図書室の空気はイリヤにも覚えがある。
特別な思い出じゃない、取るに足らない日常の一幕。
とっくに覚悟は決まっており、過去へ飛んだ選択に後悔はない。
僅かに漏れ出た心の雫を拭い、今やらなきゃならない戦いへ意識を戻す。

本棚の並ぶ空間へ足を踏み入れる中、振り向き一点を睨む者がいた。

「新手、か……」
「え、黒死牟さん?」

校内に参加者が訪れたと、即座に分かった。
竈門炭治郎や我妻善逸のような、先天性の優れた五感に非ず。
人間時代より戦の渦中に身を置き、数百年かけて研ぎ澄まされた感覚。
始祖の血が齎す、人の限界を容易く見下ろす五感機能。
此度はそれらに加え、サガの情報収集器官装置が稼働している。
一人分の足音が何処から響き、闘争を終えた証の血の臭いまでもを正確に捉えた。
尤も、サガの鎧を纏わずとも侵入を察するのは難しくない。

『むむ?』
「っと、タイミングが悪いな」

図書室前に集まった6人以外の者の気配に、他の数人も気付く。
幾つかの制限を課せられたが、ルビーの優れた探知機能は誤魔化せない。
特体生として超常の能力を持ち、尚且つ魔界孔出現後の日本で否応なしに危機察知能力が磨き上げられた蛇王院も同様。
中途半端に気配を隠したとて、気付かれないと思ったら大間違い。

「ルビー、誰か来たの?」
『みたいですねー。何やら変わった反応をお持ちのようですけど』
「ま、その辺の家よりは目立つからな。立ち寄ってもおかしくねぇか」

参加者の誰かに馴染みのある学校なのか。
そうでなくとも、保健室なりで物資調達をしに来る者がいても不思議はない。
問題は来訪者のスタンスが、自分達と相容れるか否か。

780EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:59:42 ID:dyk1XPSI0
さてどうするかと話し合う前に、黒死牟は一人踵を返す。

ファンガイアの王の鎧は相応の力と、日除けの加護を鬼に授ける。
しかし必要に迫られなければ、積極的に活用する気は無し。
慣れぬ着心地は、却って黒死牟を縛る拘束具にもなり兼ねない。
であれば、日の当たらぬ屋内での解除は至極当然。
資格者の意志に従い、サガークが離れ霞のように鎧は消え去った。

「っ!」

露わとなる、古風な着物を纏った侍。
人の形を保ちながらも、人では有り得ぬ三対六つの眼。
複数人の強張る気配を察するが、感じ入るものは毛先程もない。
背に声が掛けられるのを呑気に待たず、姿の見えぬ侵入者の元へ足早に向かって行く。

「行っちゃった…」
『まあパーティに一匹狼系の殿方が混じってるのも、ある意味お約束ですよ』
「それってフォローのつもりなの…?」

相棒の惚けた発言は置いておき、有無を言わさぬ口調にイリヤも何か言うタイミングを失った。
冥王やうさぎなど、人でない参加者とは既に顔を合わせている。
ルビーと(合意なしに)契約を結ぶ前ならまだしも、今更大概の事で動じる少女でもない。
とはいえやはり、抜き身の妖刀染みた威圧感には相応の緊張があるわけで。

「アイツに任せても良いが、あの口下手っぷりで誰彼構わずバッサリ!なんてならなきゃいいんだがなァ」
「黒死牟さんはそんなこと……」

冗談めかして言うエボルトに、いろはは思わずムッとして反論。
そんなことしないと言い切る筈が、ふと思い出す。
定時放送の前、病院で自分が寝ている間に何があったかを。
あっけらかんとする結芽と反対に、疲れたような姿のキャルを。
エボルトの言うような、見境なしに剣を向ける男ではない。
けれど万が一、あらぬ誤解を受けてしまうんじゃないかと言われたら――

「あ、あの!わたしも黒死牟さんを追い掛けます!」

大丈夫と信じたい反面、前例があるだけに一度浮かんだ心配はなくならず。
皆にそう言い、いろはもまた背を向け走り出した。

『めんどくさい年上に尽くすタイプな気がしますね、いろはさんって』
「急に何の話!?」

781EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:00:23 ID:dyk1XPSI0
◆◆◆


一人だった。
民家内の気配も、微かに耳を震わせる呼吸の音も。
自分自身以外に存在しない。
ゲーム開始直後以来二度目となる、一人きりの時間で橘朔也は身を休ませていた。

ガラスに映った姿をじっと見つめる。
つい昨日まで当たり前にあった己の体は、どこにも見当たらない。
アメジストの瞳と二つに結んだ長髪。
不死の生物との戦いを通じ鍛えられた体はなく、細身ながら少女特有の柔らかさも備えた肢体。
窓を挟んだ向こう側に立っているんじゃあない、正真正銘これが今の橘だ。

この世を去った少女をハッキリ見れるのに、本人はここにいない。
不思議な感覚へ、寂しさが全く無いと言えば嘘になる。
別れはとうに済ませた。
一度目は届かぬ手に嘆くしかなく、二度目は言えなかった「さよなら」を確かに伝えて。
天々座理世は橘の元を去ったが、想いは形として残り続ける。

「仇を討ったとしても……」

殺された人間が生き返る訳ではない。
恐怖心に惑い迷走の末に、小夜子を伊坂の手から守れなかった時と同じだ。
カテゴリージャックを封印しても、最愛の恋人が戻って来ないように。
リゼがひょっこり顔を出し、自分の名前をもう一度呼ぶ奇跡は起きない。

復讐を果たした後に訪れる虚しさは皆無に非ず、なれど思考放棄へ逃げるつもりは微塵もない。
他ならぬリゼ自身が言ったじゃあないか。
橘達を生かす為に命を散らす選択を、後悔してはいないと。
誰かに強要されのではない、自暴自棄でどうでもよくなったんじゃない。
あれで良かった、最高の師匠を守れた自身の選択で落ち込まないで欲しい。
慰めや誤魔化しとは違う弟子の本心を告げられて尚、後ろ向きで腐っている責任感を忘れた男にはなれなかった。

782EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:01:06 ID:dyk1XPSI0
(放送でリゼが言っていた友達は呼ばれなかったか……)

精神的な消耗に加え、間髪入れずに起こった海神との死闘。
目まぐるしく変化する戦場へ考える暇も無かったが、ようやっと落ち着き意識を回す余裕も生まれる。
何故か二つ名前が記載されたココアを含め、リゼの友人達は無事。
専用武器があるとはいえ元々一般人のリゼ同様、本来は戦う術を持たない少女達。
仮面ライダーの自分でさえ苦戦を免れない環境で、運良く6時間危機から逃れたとは考え辛い。
信頼出来る参加者と出会えたのだろうと、今更ながらにホッと胸を撫で下ろす。
可能ならば二回目の定時放送まで発見ないし、せめて何らかの情報が得られるのを願いたい。
手遅れとなり、リゼに誓った決意を嘘にする気はないのだから。

「…っ!あれは……」

考え込むのに俯いていた顔を上げ、何となしに窓の外へ目をやる。
丁度そのタイミングだ、奇妙な飛行物体が一瞬見えたのは。

心意システムの影響で橘に起きた変化は、リゼの姿になっただけではない。
外見こそ学生生活を謳歌する少女でも、秘め得る力は常人の枠には収まらない。
仮面ライダーギャレンと同等のスペックを、生身で発揮可能。
パワーや走力のみならず、五感もまた超人の領域へ押し上げられた。
元々橘はバッティングセンターのボールに書かれた数字を正確に見れる程、優れた動体視力の持ち主。
そこへ加えて、オーガンスコープと呼ばれる高機能な視覚センサーと同等の力を得ている。
通常肉眼では捉えられない存在も、微かだが見る事が出来たのだ。

「ドラゴン、か?海馬やジャックのカードにあったのとは違うようだが」

長い胴体で空中を泳ぐ、未知の巨大生物。
やれUMAだ軍の秘密兵器だとメディアが騒ぎ、白井虎太郎が見たら新作のネタとはしゃぐだろう。
残念ながらここは殺し合いの場であり、巨大な怪物も然して珍しくない。
おまけにハッキリと姿を確認出来てはいないが、巨大生物の背に人らしき者が乗っているようにも見えたのだ。

「まさか、さっきの俺達のように逃げているのか?」

触手を操る怪物の追跡を振り払う為に、列車型のモンスターに乗り込んだのは記憶に新しい。
そういった目的でドラゴン(仮)を駆る可能性も、絶対ないとは言い切れない。
ひょっとすればリゼの友人達が乗っているかもしれないのを、どうして否定出来ようか。

783EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:01:46 ID:dyk1XPSI0
再び橘は考え込む姿勢を取る。
腕組し難しい顔を作る姿はリゼそのものだと、見てそう思う彼女の友人達は民家におらず。
どう動くかに頭を悩ませた。
リゼの仇相手に最悪の場合は、相討ちに持ち込む覚悟だったが無事生き延びた。
但し流石に無傷とはいかず、コンディションを考えればもう少し体力回復に充てるのが正しい。
何が待ち受けているか分からないのに、考え無しに飛び込んで良いものか。

(だがこんな時剣崎なら、迷わず向かう筈だ)

合理的な考えを優先した結果、助けられた筈の手を掴めない。
そんな後悔をしない為に、後輩であり尊敬する仲間がどう動くかは分かり切ったものだ。
馬鹿になれと、一人の男が言い遺した言葉を思い出す。
考え無しに動き回る無鉄砲になる気はないが、ほんの少し無茶をやる馬鹿にはなって良いのかもしれない。

行き先を決めた以上、動くのに躊躇は必要無い。
頷き立ち上がると、民家を出てドラゴン(仮)が見えた方へ走る。
出発し数分、橘はすぐに自分の体が如何なる状態かを悟った。
リゼ専用の槍を使ってないにも関わらず、足が異様に速い。
試しに速度を数段上げてみれば、どう考えても普通の人間が出せないだろう速さを叩き出す。

(バックルが突然消えたのはこういう事だったのか…!)

詳しい原理は不明だが、生身でギャレンと同じ力を発揮出来るらしい。
考えてみれば動体視力に自信があるからといって、遠く離れた位置のドラゴン(仮)を見れるのも普通は有り得ない。
リゼが聞いたら、「今気付くのか」と天然加減へ呆れ笑いを浮かべたろう。

橋を渡って北上、隣接したエリアに到着。
暫く進むと見えたのは、点在する民家よりも目を引く建造物。
独自の佇まいから学び舎と即座に分かり、ご丁寧に学校名の書かれた校門まである。
モンスターに乗った者が近辺へ降りたとすれば、最も目立つ施設を無視するだろうか。
仮に負傷していたら手当の為に、保健室へ向かう可能性は低くない。

(行って確かめなければ始まらないな)

銃と槍、二つの得物を意識しながら校舎内へ入る。
念の為に不意打ちを警戒し、可能な限り気配を殺して進む。
少年少女が青春を送る場の賑やかさはなく、まるでホラー映画さながらの不気味さが漂う。
場合によってはいつ襲われてもおかしくない状況に、自然と表情も険しさを増す。

784EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:02:24 ID:dyk1XPSI0
「――――っ!?」

静寂は前触れなく終わりを告げ、橘の警戒心が一気に引き上げられた。
音もなく、しかし無視出来ない存在感を伴い現れる異形。
光の差し込まない寒々とした廊下の奥より、凡そ学び舎には釣り合いな者が顔を見せる。
嫌悪と恐怖を共に植え付ける、剣鬼の眼が橘を射抜く。
愚かにも腹を空かせた怪物の素巣へ、自ら飛び込んだとの錯覚を抱いた。

「お前、は……」

喉奥から這い出るここ数時間で聞き慣れた、喪った二人目の弟子の声。
酷く乾いて聞こえるのは、それだけ自身の緊張が大きい証拠。
何も相手が人間でないからというだけで、ここまで極端に警戒を強めない。
アンデッドとの戦いを思えば、今になって人ならざる存在を強く恐れる弱者に非ず。
加えて先の冥王のように人間以外との共闘も経た以上、人じゃない参加者と必ずしも敵対するとは限らない。
理解して尚戦慄を隠せない理由はただ一つ、相手の纏う気配に近しい者を知っているから。

外見は全く違う。
記憶に根付くソレは色を無くした髪だった、瞳の数は人間同様に二つだけ。
文字と漢数字を浮かばせてもいなかった。
似ても似つかない、しかし無関係と言い切るには己の中で待ったが掛かる。
積み上げた文化を気まぐれで蹂躙し素知らぬ顔で去って行く、天災もかくやの化け物。
バッティングセンターでの平和な時間に、望まぬ形で幕を下ろした男。
リゼの仇であり、今さっき討った名も知らぬ怪物をどういう訳か想起させるのだ。

「……」

互いに無言で相手を見据える中、施設を訪れた時以上に得物を意識せざるを得ない。
研究職であった橘がギャレンの適正者に選ばれたのは、人選の適当な穴埋めなんかじゃあない。
上級アンデッドや仮面ライダーレンゲル相手に、スペックで差を開けられても勝利を奪える強さ。
類稀なバトルセンスの持ち主だからに他ならない。
変身後と同等のスペックを発揮可能な今、培った技術をフルに活かし先手を取れる筈。
相手が刀を引き抜く速さを追い越し、ギャレンラウザーで撃ち落とせる。

785EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:03:15 ID:dyk1XPSI0
(……いや、難しいか)

事がこちらの有利で進む光景を、橘自身が否定し打ち消す。
自分と相手には距離が開き、向こうの剣が届くには十数歩足りない。
だというのに多少の有利を一瞬で覆し、瞬きを終えた直後に喉元を切っ先が突き刺したとておかしくはない。
剣崎も認める一流の戦士だからこそ分かる、男の前に立った時点で間合いに閉じ込められたも同然だと。

恐怖心をとっくに克服し、アンデッドとの戦いを終えた橘なら会話での戦闘回避も冷静に考えられたろう。
だがリゼの命を奪った怪物の脅威を、身を以て味合わされたが為に。
相手の反応を待たずして警戒心が上がり続け、思考は剣呑な方向へと向かったまま。
気付かぬ内に、戦いが起きる前提に傾かせる橘をどう思ったか。
沈黙を保った異形の侍が初めて口を開き掛け、

「待ってください!」

後方より発せられた少女の声に、爆発寸前の空気が鎮静化の兆しを見せた。
橘が驚く一方で、侍は心なしか不機嫌そうに口を噤む。

黒死牟を追い掛けて来たいろはが見たのは、穏やかじゃない様子で睨み合う男と少女。
変身せずとも魔力を操作し、身体能力を上げたのが功を為し間に合った。
夜中に水名神社を調査した時、高く聳える正門を一跳びで追い越したのと同じ方法だ。
それはともかく、まず先に言わねばならない事がある。
背に向けられる視線に気付きつつも、少女へ向けて口を開く。

「わたし達に殺し合いをする気はないです。少しだけ驚かせちゃったかもしれないけど、でも、黒死牟さんも自分からあなたを傷付けることはしません」

警戒されてるとは承知の上でハッキリと告げた。
見境なしに剣を振るい、血の河を生み出す為にいるんじゃない。
憐れみで庇い立てするのでなく、そう信じて疑わない言葉に顔を顰める

またしても頼んだ覚えのない気遣いに出て、自身の不快感を煽る気か。
背後から感情の揺らぎを察したのか、振り返って視線を合わせる。
眉を八の字に下げた困り顔で、苛立ちを臆さずに受け止めた。

786EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:04:20 ID:dyk1XPSI0
「だって、黒死牟さんのことを誤解して欲しくなかったから……」
「……」

人ではない貌をして、安易に人を寄せ付けない態度を取っていて。
過去の行いを知らないけど、許されざる罪を繰り返したと察しは付く。
誰かにとっての悲しみを生み出す側だったのを察せない程、いろはは鈍くない。
けど今ここにいる彼は、それだけが全部じゃないから。
彼の抱える傷を見て、彼に幾度も命を救われた。
ほんの少しでも痛みを癒したいと思えた相手だから、彼に向かう敵意の前へ飛び出せる。

人を喰らう鬼に向けてとは思えない、されどとうに見慣れた態度。
他者からどれ程敵愾心を向けられても、今更知った事ではない。
しかしこの娘にとっては、黙っていられるものに非ず。
口走り掛けた吐き捨てる言も、喉をせり上がる前に消え失せる。
結局返すのは無言、向こうにとっても慣れた反応へ困ったような笑みを浮かべられた。

「女相手にだんまり貫くってのは、良いやり方とは言えねえな」

自身のとは異なる声に、発すべき内容を改めて練る必要が無くなる。
気安く肩に手を置かれ、僅かに振り向けばいろは程の付き合いは無いが見知った顔。
海賊帽の下で浮かべたシニカルな表情は、野性味溢れる顔立ちも相俟って異性を虜にするだろう。
色を好む軟派な男、そう軽蔑を籠めて断言は出来まい。
実戦を知らねば身に付かない屈強な体と、人の特徴から逸脱した異形の右腕。
いろはに少々遅れる形でやって来た蛇王院である。

「腕は立つようだが、堅物過ぎんのも考えもんだぜ?」

友人へ接するかのような軽口へ、鬱陶し気に手を振り払い応える。
必要以上に慣れ合う気が無いとの態度にも、激昂した様子はない。
気難しい奴だと呆れ笑いを一つ返された。
病院で会った小娘達といいこの男といい、馴れ馴れしくする者がいろは以外にもまだ現れるのか。

787EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:05:06 ID:dyk1XPSI0
「人じゃないって言ったら、俺の右手もどうこう言えるもんじゃないからな。殺り合う気がなけりゃ、理由も無いのに喧嘩は売らねぇよ」

蛇王院の住まう日本では人外の存在は珍しくもない。
第一蛇王院自身、学聖ボタンの影響でジャンヌに斬られた腕が異形と化した身だ。
人じゃないからといって排除を選ぶ、ホーリーフレイム同様の所業に走る気はゼロ。
異形の特徴を持つ元ホーリーフレイム聖歌隊のマリーシアを、差別意識を抱かず勢力へ迎え入れたように。
人間かそうでないかで態度を変える男じゃないからこそ、部下達からの厚い信頼を得て来た。

加えて意外に見えるかもしれないが、蛇王院はワイルドな外見と裏腹に他者へ積極的に戦闘を仕掛ける性質でもない。
スカルサーペントにとっての戦いは基本的に、自分達の身を守る為のもの。
全国統一を掲げ学生連合を襲撃したのも、神威との取引を受けたが故。
蛇王院を知る者に「らしくない」と疑問を持たれた好戦さは全て、自分を慕う部下を死なせない為の苦渋の決断があったから。

それは舞台が魔界孔出現後の日本ではなく、神が作り上げた遊戯盤に移っても同じ。
鬼の始祖に最も近い上弦の壱だろうと、他者を害する意図を見せなければこちらも手出しはしない。

「あんたといろはが仲良しだってのは分かったが、続きは一旦後回しにしとけ。初対面の女を放置は頂けないからよ」
「贋物の目玉でも填めているのか貴様……」
「あ、ご、ごめんなさい!」

辛辣に返す黒死牟を余所に、蛇王院に言われいろはは慌てて頭を下げる。
謝罪を受けた当の橘は、三人のやり取りに少々困惑気味。
ついさっきまで張り詰めていた空気は霧散し、気付けば思考も幾分かの冷静さを取り戻す。
相手の雰囲気につられたが、戦わずに済むならそれに越した事はない。

「済まない、少しばかり熱くなっていた。言うのが遅れたが、檀黎斗の言い成りになる気がないのはこちらも同じだ」
「なら話は早ぇ。ついて来な、女を立たせたままにはしないからよ」

敵意の無さを伝えれば向こうも頷き、顎で自分達が来た道をクイと示す。
ファーストコンタクトこそ殺伐としたが、殺し合いに乗っていない参加者との接触には無事成功。
蛇王院の提案を断る理由はない、ただ一つだけ訂正しておかねばなるまい。

「勘違いさせてしまったようだが…俺は元々男だぞ」
「は?」

サラリと言われた内容に思わず聞き返し、頬が引き攣るのが蛇王院自身にも分かった。

788EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL②』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:06:43 ID:dyk1XPSI0



「橘朔也だ。ここには来たばかりだが、宜しく頼む」

橘が姿を変えたリゼは、元々こういった話し方をしていたからか。
うら若き十代の少女にあるまじき男口調も、不思議と違和感がない。

先んじて桜ノ館中学にやって来た者達と、遅れて現れた一人。
計7人が図書室に集まり、それぞれ適当な位置に腰を下ろしていた。
方針に細かな違いは有れど、共通し黎斗のゲームには否定的。
であれば各々が持ち寄った情報を提供し、擦り合わせを行うのは自然な流れ。
その前に名前くらいは教えようと、橘が自身の状態を含め簡潔に話ておく。

「蛇王院達にはもう伝えたが、元々男だ。こうなった経緯については後で詳しく話す」
「言われてみると橘さん、見た目以上に年上って感じがするかも……」
『これはあれですか、蛇王院さん痛恨の勘違いをしちゃいましたか?』
「言うなよそれを…」

揶揄い口調のステッキへ、バツが悪そうに頬を掻く。
シャイラが聞いたら、酒の席での笑い話確定だろう。
勘違いされた橘本人は、大して気にした様子もないが。

雑談もそこそこに、早速本題に入る。
時間は有限、こうしてる間も他のエリアでは戦闘が勃発中に違いない。
座って体力の回復に努める間も、必要な情報をお互い頭に入れておくに限る。

「異論が無いなら俺が最初に話そうと思う。構わないか?」

鬼とブラッド族の人外二名を抜かせば最年長の橘が、一番手に名乗りを上げる。
特に反対も飛ばなかった為、遠慮の必要無しと口火を切った。

剣崎を始め元々の仲間が不参加の為、プロフィールは簡潔且つ説明不足にならないよう努めて話す。
仮面ライダーギャレン、不死の生物アンデッドとの戦い。
探していた仮面ライダーが早くも見つかり驚くイリヤ達と、自身の知るライダーとは異なる戦士へ僅かな関心を見せるエボルト。
反応は様々だが話は中断させず、続きを聞く態勢を取る。

789EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL②』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:07:31 ID:dyk1XPSI0
「海馬がそんなことを……」
「厳しい言い方だったが、彼なりに殺し合いを現実的に見ていた。俺はデュエルモンスターズを深い所まで知ってはいないが、もぐもにとって意味のある経験だったと思う」

意外な所でライバルの動向を知り、静かな呟きが遊戯の口から出た。
実戦に慣れる意味でも、デュエリストとしてもぐもこと百雲龍之介をみっちりしごいたとのこと。
下手な慰めやフォローは不要とし、海馬らしい喝の入れ方も含めて。
名簿に載っている内、どちらの海馬かは分からない。
だが自他共に厳しく我が道を往く好敵手なら、そうするだろうなと納得があった。
海馬とのデュエルが結果的に、一人の決闘者の成長へ繋がったのは遊戯としても喜ばしくある。

しかし橘達が平和な時間を過ごせたのは、そこが最後だった。
ある日突然、大災害により日常が崩壊するように。
鬼の始祖という、生きた天災が全てを壊していった。
歴戦の決闘者と二人の仮面ライダー達が揃って尚、結果は敗走。
それも本来な非戦闘要員である少女の犠牲を経て、だ。

「海馬がいても歯が立たなかったのか…!?」
「…なんて名前だ?そのふざけた野郎はよ」
「それは分からない。奴は一度も自分の名を口にしなかった」

海馬の実力を誰よりも知る遊戯だからこそ、橘の話には戦慄を覚える。
驚愕し思わず立ち上がる一方で、冷静な顔のまま尋ねるのは蛇王院だ。
理不尽な死を撒き散らす、ホーリーフレイムのような胸糞悪い男に怒りがない訳がない。
一方でここで怒鳴り散らしても無意味だと分かっており、激昂を面に出さず問う。
とはいえ蛇王院の望む答えは返せず、男の特徴だけを伝える。
触手を操り、異様な再生能力があったことを。

790EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL②』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:08:13 ID:dyk1XPSI0
「……」

ピクリと、僅かな反応を見せた男には気付かず橘の話は続く。

放送の直前に出会った、ジャック・アトラス達の一団。
列車型モンスターを使った移動の最中、突如起きた海神の襲来。
耳飾りの侍と同じく、全参加者に存在を知られたポセイドン相手に繰り広げた死闘。
全滅へ陥ってもおかしくない、絶望的な戦いの果てに勝利を掴んだ。
と、そこで話を区切ればハッピーエンドだが現実は違う。

「アトラス様達が……」

犠牲者の名前に、口元に手を当てイリヤは声を震わせる。
放送で呼ばれたうさぎに続き、二人の王もこの世を去った。
本選が始まり最初に出会った一団は、これで全滅が確定。
生きてもう一度彼らと顔を合わせる機会は、永遠にやって来ない。

「結局、ジャックとのデュエルは叶わなかったな……」

デッキを取り戻した遊戯と、全力でデュエルする事は不可能。
殺し合いなんかじゃなかったら、決闘者同士デュエルを通じてもっとお互いを知れたのだろうか。
せめてもの慰めなどと言うつもりはないが、ジャックも冥王も『キング』と呼ぶに相応しい最期だったらしい。
かといってそれを聞き喜べる筈がなく、しんのすけという青年共々死んで欲しくなかった。
ジャックの友である遊星が知る時を思うと、ただただ胸が痛い。

ポセイドンとの戦闘後、橘はリゼを殺した触手の化け物との一騎打ちに挑み、結果は今こうして生きてるのが答え。
楽に勝てた戦いとは口が裂けても言えず、何より自分一人で掴んだ勝利ではない。

「おいおい、よくお前一人で勝てたな。聞く限りじゃ、都合の良いパワーアップアイテムなんて物も無かったんだろ?」

呆れ交じりに言うエボルトへ、口には出さないが内心はそれぞれ同意見だ。
複数人掛かりで逃げるしかなかった強敵に、単独で挑むなど普通は自殺行為。

「だが勝算が全く無い訳じゃなかった。あの男は太陽に当たると消滅する体質らしくて、だからわざわざ大我のベルトを奪って行ったんだ」
「え……」

聞かされた男の特徴に、小さく零れた声が自分のものと気付けたかどうか。
太陽を浴びれば死ぬ、御伽噺の吸血鬼のような特徴。
それに当て嵌まる参加者を、いろはは知っている。
思わず隣を見れば、思い浮かんだ予感は正しかったと理解せざるを得なかった。
弟が関わらなければ滅多に表情を崩さない彼が、六眼を見開き凍り付いているのだから。

791EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL②』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:09:07 ID:dyk1XPSI0
「お前はその者を……どうした……」
「急になにを…?」
「答えろ……お前が仇として追った男は……どうなった……」

耳をつんざく怒声を発してはいない、胸倉を掴まれ恫喝されてもいない。
静かに、しかし臓腑にまで届くだろう低く重い声。
有無を言わせぬ問いに、橘のみならず他の者も困惑や訝しさを表情に宿す。
これまで然したる反応を見せなかったのが、今になってどうしたというのか。
ただ一人、事情を察したいろはが口を開くより先に橘が答えを返す。

「勿論、それについても隠すつもりはない。今の俺がリゼの姿になってるのも、あの男との戦いがあったからだ」

やましい内容は一つも無く、嘘を並べ立てる気も皆無。
怪物との戦いで何が起きたかは、最初から余さず言うつもりだった。

散々こちらを異常者呼ばわりした男に、相討ちすら覚悟して食らい付き。
師弟として結んだ絆がリゼと橘をもう一度巡り合わせ、二人で勝利を手にした。
無論、死者であるリゼがそれ以上の時間を共に過ごす事は不可能。
必然的に二度目の別れとなり、直後橘の体に異変が起き今の姿になっていた。

「………………、………………」

茫然自失という言葉は、正に今の黒死牟の為にこそある。
度が過ぎた驚愕を抱き二の句が継げず、案山子のように立ち尽くす以外何もできない。
傍目には何も考えず阿呆同然に一歩も動かない、指先を微かに曲げもしない。
よもや屠り合いで二度、上弦の鬼らしからぬ致命的な隙を晒すとは予想だにしていなかった。
一度目は弟が傀儡と化したのを知らされた時。
そして現在、二度目の衝撃が頭部を打ち砕く鉄塊となり黒死牟を襲う。
鬼の始祖、千年に渡り数多の悲劇を生んだ最初の悪鬼。
上弦以下全ての鬼の頂点に君臨する、絶対的存在。
鬼舞辻無惨が異界の地にて、人間の手で討たれた。
長きに渡る鬼狩りとの因縁は、彼奴ら鬼殺隊が一切関わらぬ内に幕を閉じた。

792EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL②』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:10:32 ID:dyk1XPSI0
妄言と言い切るのは容易い。
真実は橘が無惨を相手取ってなどおらず、全く無関係の要因で天々座理世の現身となった。
嘘八百を連ね、あたかも無惨討伐の結果と言い張っているに過ぎない。
忌まわしくも最強の二文字を永遠に我がものとする、日輪の刃が与えた滅びならともかく。
鬼狩りですらない人間一人の力が届くなら、鬼との争いの歴史は遥か過去に終わっている。

そも、何故鬼殺隊は幾百年の時を経ても無惨を滅ぼせなかったのか。
何故己を含めた配下の鬼は、只の一度も無惨へ反逆を企てなかったのか。
徹底して自身の痕跡を残さない慎重さ。
絶対の隷属を確約する呪い。
それらも含まれているが最たる理由はもっと単純、強さ故にだ。
十二鬼月全員を束ねても、痣者や透き通る世界に至った柱を集結させても。
踝すら拝めぬ高き壁となって、始祖は君臨する。
風の一吹きで屋敷が更地となるように、波一つで漁村が飲み込まれるように。
無惨という天災を滅ぼせる存在など、鬼以上に理不尽極まる日輪を置いて他にいない。

しかし俄かには信じ難い一方で、そうなるだろうと納得を抱く己も確かにいる。
無惨の持ち得る力は今更疑いようもない。
だが橘と無惨の間に起きた闘争は、鬼狩りとの争いとは前提が異なる。
慣れぬ鎧一枚で太陽を遮断し、肉体変化や血鬼術も使用不可能となり、常時日の当たる場所での戦闘を強いられた。
付け加えるなら相手は奇妙な腰巻き、「仮面らいだあ」の力を完璧に使いこなす戦士。
ここまでの悪条件が揃って尚、無惨の勝利が揺るがないと言うには流石に躊躇が生じる。
更に屠り合いには無惨ですら把握していない、未知の能力や技術が数多く存在。
予期せぬ反撃を受け敗北へ繋がったのを、強く否定は出来ない。

「そうか……あのお方が……滅びたと……」

零れ出た声色に憤怒がなければ、嘆きもない。
純然たる事実を受け止め、波立たせず淡々と言う。
自分の中にあって当然と背負い続けたモノが外れ、居心地の悪い身軽さだけが残った。

主の敗死を余所におめおめと生を拾い、またしても我が身へ恥を塗りたくる始末。
情けなし、不甲斐なしとは思うも自ら腹を掻っ捌く気は起きない。
仇を討ち蘇生に全力を尽くす、屠り合いに招かれた唯一の配下としての責務に身を捧ぐ気概もない。
無惨の参加を知り、死を聞かされた今に至るまで終ぞ忠節が己を突き動かす事はなかった。
地の底へ堕ちた主が知れば、閻魔ですら目を覆う程の怒りが吹き荒れたろう。
そう分かった所で、使命感に火が付く気配は一向に表れない。

793EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL②』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:11:23 ID:dyk1XPSI0
ついでに言うと、無惨が滅びたとて円満解決と決めつけるのは早計であった。

「あのお方…?まさかお前は、奴に従っていたのか?」
「だとしたら……如何とする……」

目に見えて表情の強張る橘に対し、やはり感情の揺らぎを出さずに問い返す。
直接手を下した仇に非ずとも、鬼である以上自分に敵意が向けられるのは自然な流れだ。
「その鬼はお前の親兄弟を殺した奴じゃない。だから見逃してやれ」、と。
論され素直に剣を納めるような鬼狩りは、少なくとも黒死牟の記憶に一人も存在しない。
同じ例が橘に当て嵌まったとて、十分納得出来る。
大人しく頸を差し出すかは全く別の話だが。

張り詰めた空気は、先程廊下で対面した際の焼き直し。
但し此度は数十分前と違い、黒死牟を明確にリゼの仇の関係者と認識している。
いつ銃弾が放たれ、或いは刀が振り抜かれてもおかしくない。
闘争の予感に周囲の緊張感も自然と高まりを見せ、

ポスリと、橘が再び座り直した事で衝突は回避された。

「どういうつもりだ……」
「お前が奴と同じく殺し合いに乗っているなら、容赦する気は無い。リゼの友達が覆われる前に、ここで倒すつもりだ」

リゼを殺した男に従っていた。
否定されなかった事実へ、思う所が一つもないと言えば嘘になる。

「だがこの学校で見た限り、お前が集まった皆を襲う様子はなかった。それに、いろはだって何の根拠もなく俺にああ言ったんじゃないだろう」

人じゃない怪物でも、敵対以外の関係になれた者を橘は知っている。
上城睦月を闇から引き上げる為に力を貸した、二体の上級アンデッド。
そして、世界を滅ぼす鬼札であるも、人間の親子を守ろうとした男。
栗原親子や剣崎一真が影響を与えた、相川始を知っているから。
剣崎が我が身を犠牲にしてでも救おうとした程の友情が、ジョーカーとの間に結ばれたのを近くで見たのが橘だ。
無論、始達と黒死牟では背景からして異なる。
それでも人を襲う気が無く、人から信頼されるナニカがあるというなら。

794EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL②』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:12:11 ID:dyk1XPSI0
「話を一つも聞かない内に、お前と事を構えるつもりはない。俺が復讐心だけに駆られるのを、リゼもきっと望まない筈だからな」
「私に情けを……掛けたつもりか……」
「そうじゃない。俺にもお前を信じさせてくれと言ってるんだ」

キッパリと言い切った橘へ渋面を向けるも、言いたい事を言い切って口を閉じる。
数時間前、病院の地下での時と嫌になる程似た状況だ。
誰も彼もが鬼を鬼として排除せず、歩み寄ろうとする。
言い知れぬ不可解さへ苛立ちが湧き、だが激昂し刀を抜く恥の上塗りへ出る気も到底起きず。
仏頂面で腰を下ろせば、理解出来ない最たる例の娘と目が合う。
安堵と嬉しさの両方が宿った、鬼に向ける類ではない笑み。
訳の分からぬ煩わしさでいろはから目を逸らすのも、腹立たしい事に今に始まったものじゃなかった。

「見てるこっちも冷や冷やしたぜ。荒事になったら、俺なんざ真っ先にお陀仏だろうからなァ」
『口から出る内容全部が嘘って逆に凄いですね』

悪い意味が9割を占めるエボルトの空気の読めなさも、今回ばかりは良い方へ作用。
図書室内に燻る剣呑さをリセットし、改めて話の続きに移る。
橘の話す内容も各々驚きを与えたがまだ一人目。
次は自分の番と名乗り出たのは、白い魔法少女と決闘王。

「チノさん…リゼさんの友達とわたし達は会ってるんです」
「それにもう聞いてるだろうが、ジャック達ともな」

ゲーム開始早々ジャンヌと一戦交え、司共々危機へ陥った所を遊戯に助けられた。
それから時間を置かずにジャック達と出会い、その時は情報交換だけして別行動を取ったのである。
彼らと話を出来たのも、あの時が最初で最後。
キングと、どこかヘタレ気味の冥王と、なんか小さくて修羅場を潜ってそうなやつ。
共有した時間が短くとも、もう会えないと思うと寂しさが胸をよぎった。

少々移動に時間を要した後、現在位置から東側のエリアでロゼ達と遭遇。
エーデルフェルト邸で治療を受けていたのが、橘も探すリゼの友人の一人だった。
丸眼鏡の巨漢との戦闘で負傷したらしく、特徴はジャック達が戦った男と一致する。
思わぬ所で繋がりが出て来たのに驚くも、件の男こと野比のび太は既に退場済。
深くは触れずに続きを促す。

795EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL②』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:13:05 ID:dyk1XPSI0
殺し合いに抗う者同士の平和な時間は、衛宮士郎と犬吠崎風の襲撃に端を発した混戦で終わりを告げた。
そこへ加え蛇王院と因縁を持つジャンヌ、イリヤ達の方には幼い魔女まで襲って来たのだ。
最終的に襲撃者達は退けたが、仲間の犠牲は避けられない苦い形で幕を閉じる。

「それで、殺されそうになった時に……」
「間一髪俺が来たって訳だ。戦兎を差し置いてヒーローの真似事に出ちまうたぁ、人生何が起こるか分からねぇな」
『正確には人生じゃなく、エイリアン生じゃないですかねー』
「おいおい、ネタバレならせめて自分の口から言わせてくれよ」

結果だけ見ればイリヤ達の危機を救ったエボルトだが、当然真っ当な感謝を向けられるような男ではない。
本人からしてもパンドラパネル回収のついでだったので、礼を言われたい訳でもなかった。
魔女と渡り合いトドメを刺し、首輪を手に入れ間もなく始まったのは定時放送。
エボルトとは一旦別れ、現在桜ノ館中学で数時間ぶりの再会を果たした。

「ってことは、次は俺が話した方がスムーズにいくだろ」

エーデルフェルト邸の出発時から。遊戯達と行動を共にする蛇王院が続く。
と言っても定時放送前の6時間は負傷による気絶もあった為、話せる内容も多くはないが。
プランドールシップヤードを結成及びジャンヌの襲撃は、既に聞いた内容だがその先は初耳の情報。
水属性のモンスターを操る決闘者、神代凌牙の参戦もあって危機を脱した。
移動先で応急手当てを受けた後、偶然にも凌牙の友の亡骸を見付けたのである。

「九十九遊馬……?確か、ジャック達が会った少年のことか?」
「知ってるのか?」

定時放送やポセイドンの襲撃が立て続けに起き、深く考え込む余裕も無かったが遊馬の名には橘も聞き覚えがあった。
丸眼鏡の巨漢との戦闘後に起きた、苦い結果となった一人の少年の死。
実際に立ち会ったジャック一行ではなく、橘からの又聞きという形で遊馬に何が起きたかを知ることになる。

「……胸糞悪ぃな」

開口一番に蛇王院が吐き捨てるのも、無理からぬ内容だ。
事故同然とはいえ仲間を手に掛け、ヤケクソ同然の立ち回りの末にジャック達から離れた場所で息絶えた。
冥王を助けたのが後にポセイドン相手に勝ったのに繋がった、そう考えるとまだ救いがある。
だとしても「良かった」などとは口が裂けても言えない。
凌牙と再会したら当然伝えるつもりだが、苦いものが残るのは避けられないだろう。
遊馬の死体を見付けた時の荒れようを思えば、どうにもやり切れない。

796EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL②』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:13:40 ID:dyk1XPSI0
「あの娘が凌牙さんの友達を……」

遊馬を手に掛けたのは特徴からして、エーデルフェルト邸を襲った魔女。
自分達と会う前の彼女が何をやったのか知り、イリヤは内心複雑だ。
憎悪に囚われ、コローソという名を苦し気に言った少女を救いたかったのは今も変わっていない。
けれど少女が凌牙の友を、自分にとっての美遊やクロのようなかけがえのない存在を奪ったのもまた事実。
もしもっと早くに彼女と会い、止めることが出来ていたらと。
意味が無いと分かっても、IFの可能性を考えてしまう。

「つまり俺は、意図せず遊馬って奴の仇を討ったって事になるのかねぇ」

イリヤの心境などなんのそので言うエボルトには、誰もがあえて何かを言いはしない。
咎めた所で苛立ちを引き出す皮肉や軽口が返って来るだけだ。
尤も本人は全く懲りていないが、話を中断させる気はないらしくそれ以上特に言葉は出なかった。
色んな意味で凌牙には会わせない方が良いと、密かに蛇王院は思う。

放送後については特別大きな戦いなどもなく、エーデルフェルト邸でイリヤ達と会い行動を共にするに至った。

「ならチノとは別行動中なのか…」
「ああ、だがロゼ達のことは信じて良いぜ。二人なら、チノにとっても心強い仲間だからな」

ありきたりな言葉で誤魔化したんじゃなく、遊戯なりに確信があっての発言だ。
決闘者同士感じ入るものがあったのか、実力と人格面両方で凌牙は信じられる少年。
ロゼについても共に戦い、彼女が仲間の死を悼む場面をすぐ傍で見た。
チノとは一番最初に出会ったらしく、お互いに向ける信頼の強さは疑うまでもない。

リゼが守りたがっていた友達の一人は、出会いに恵まれたらしい。
安堵と共に、チノの支えとなった剣士達へ内心で感謝を伝える。
叶うことなら零にも、彼が生きている内に会いたかったが。

「そんじゃあ次はお待ちかねの俺の番か。まあ、気楽に聞いてくれりゃ何よりだよ」
『色んな意味で気を抜ける要素ないですよ、あたなの場合』
「ルビーが珍しく正論言ってる……」
『酷いですよイリヤさん!わたしはいつでも大真面目じゃないですか!』

少女とステッキのやり取りもそこそこに、緩みかけた空気が再び引き締まる。
校内に入る前の騒動を知らない橘も、周りの様子で迂闊に気を許して良い相手でないのを察する他ない。
必然的に集まる警戒もどこ吹く風、一切の緊張を面に出さずエボルトが口を開いた。

797EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL③』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:15:10 ID:dyk1XPSI0



「最初は軽い自己紹介といきたいが…俺が話すより適任がいるか。だろ?いろは?」
「え、わ、わたしですか?」

唐突に話を振られ、分かり易いくらいに困惑の表情を作る。
どうして自分がという疑問へ、相も変わらぬ軽薄な笑みで答えを返す。

「さっき、そこのスッテキが俺の名前を言った時だ。随分驚いてただろ?一体誰から聞いた?どこぞのアイドルじゃあるまいし、有名になった覚えは……ああまあ、ありゃ前の世界での話か」
「それは……」
「縮こまるなって。別に責めようってんじゃないぜ?」

10年もの間地球に潜伏し、人間達を思うがままに掌で転がして来たのだ。
感情の微妙な変化を察するのは容易い。
ルビーが自分の名を言った時、いろはから感じたのは驚きと警戒の二つ。
まだ名乗っていないにも関わらずあの反応、理由を難しく考える必要はない。

「戦兎は違うとして、だ。一体誰から俺のことを聞いたのかねぇ。だんまり貫いても良いが、お前が聞きたがってるやちよの話も始められなくるかもな?」
「っ……」
「ま、何を聞かされたのか予想は付く。気にせずそのまま言えば良いさ。お隣の侍殿がおっかない目つきになってきたしなァ」

癪に障る軽口を延々と吐き出すのを、六眼の鬼は許さなかったらしい。
睨みを利かされた手前、エボルトは一旦黙り待ちの姿勢に入った。
口籠るも自分が言わねば話は進まず、皆にも迷惑が掛かってしまう。
ややあって緊張の面持ちで、病院で聞いた内容をいろはが言う。

「わたしが直接聞いたわけじゃないです。天津さん達…ここに来る前に会った人達が、一海さんっていう人から聞いた内容で…」
「成程ねぇ、グリスの奴が……そんで?」
「……一海さん達のいる地球を滅ぼそうとしたのが、エボルトさんだって。そう聞きました」
「予想通りの内容で、逆に安心しちまったよ」

間違ってないけどな、とあっけらかんとした態度で笑う。
平然とするエボルトと反対に、当たり前だが他の者は和やかな様子とは言い難い。
既に危険性を天津と承太郎経由で知ったいろは達はもとより、初めて聞いた面々も警戒を抱かざるを得ない。
地球を滅ぼすという悪役のテンプレな目的も、実際にしでかす者がいたとあれば笑い事じゃないかった。

798EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL③』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:15:50 ID:dyk1XPSI0
「滅ぼすって…どうしてそんなことしたの!?」
「何でって言われてもねぇ?俺が“そういう種族”だからとしか答えようがないな」

星一つの崩壊は、イリヤにとっても他人事ではない。
ダリウスに見限られた世界がどうなったかを、ハッキリと思い出せる。
泥に塗り潰され、生存競争に負けた光景をヴィマーナの上から見た。
一人の魔術師が犯した禁忌を目の当たりにしたからこそ、問わずにはいられない。
だが返って来たのは納得とは程遠い答え。
壮大な背景も野望もない、エボルト…ブラッド族とは星を狩る生命体だから。
根本的に人間とは在り方が相容れないのを理解せざるを得ず、イリヤの背を嫌な汗が滴り落ちる。

「ならお前は、殺し合いでも人間を滅ぼすつもりなのか?」
「落ち着けよ橘、今はリゼだったか?そんな恐い顔じゃあ、チノ達だって怯えて逃げちまうだろ?」

息をするように苛立たせる言葉を吐き、険しい視線も涼しい顔で受け流す。
過去に地球滅亡を目論んだのを偽る気はない、全て本当のこと。
しかし殺し合いでもそのように動くかと問われれば、首を振るのは縦じゃなく横だ。

「確かにこの星を滅ぼそうとしたが、生憎見事に失敗しちまったよ。ラブアンドピースなんてのを掲げる、仮面ライダーどもに随分痛い目遭わされたもんさ」
「仮面ライダーがお前を…?」
「憎たらしいことに、な。おかげであいつらの大勝利、俺は新しい世界の素材にされちまったって訳だ」

そう言って細めた目は、この場にいない誰かへ向けているかのようで。
忌々しさと呆れと、他にも複数が綯い交ぜとなった一言では言い表せない表情。
エボルトにしては珍しい複雑な内面が見え隠れし、

799EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL③』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:16:45 ID:dyk1XPSI0
「……えっ?あの、何の話をしてるんですか?」

数秒の沈黙を挟んだいろはが、疑問符を浮かべ思わず聞き返す。

「何のもかんのも、どうせグリスの奴が戦兎と万丈の活躍を教えたんだろ?あんまり他人様の傷口をほじくり返すのは、俺でもどうかと思うがね」
「えっと、天津さん達はあなたが負けたって話はしませんでしたよ…?」
「……グリスの奴、ちょいと説明不足じゃねぇのか?」

いろはの様子から察するに、その天津や承太郎なる者に新世界やキルバスとの戦いに関しては言ってないのか。
或いは言ったものの、単に天津達がその辺の説明を端折ったのか。
どこか違和感を抱かないでもないが、エボルトの情報で嘘は言っていない。
一海本人はとっくに脱落しており、直接会って確かめるのは不可能。
不自然さを感じながらも、脱線し掛けた話を戻す。

「グリスの事はともかくだ、心配しなくてもゲームマスター様の言い成りにはならねぇよ。勝手にゲームの駒扱いは、俺も納得してないんでな」

コツコツと首輪を叩きながら自身のスタンスを伝える。
案の定、誰一人として信用の眼差しを向けないが別に構わない。
友達作りをするつもりはなく、自分の生還に利用出来れば文句もない。
警戒と不信感は変わらずとも、話を打ち切り戦闘を行う気がなければ上等だ。
何せ本選が始まってからの動きを、まだ一つも口にしてないのだから。

開始早々危機に陥った因縁のヒーロー、桐生戦兎との共闘に始まる。
間もなくしてNPCに襲われている女を発見、その人物こそいろはが最も聞きたがってるだろう情報。
七海やちよなのだが、再度いろはから疑問が飛ぶ。

「本当に……やちよさんがそう言ったんですか?」

話を中断させて悪いとは思うが、幾ら何でも問い質さずにはいられない。
やちよがいろは以外の魔法少女を強く警戒しているのは、明らかにおかしい。
灯花とねむのみならず、フェリシアとみふゆまでもその括りに入れている。
確かに二人共マギウスの翼に所属した事もあったが、過去の話だ。
鶴乃からウワサを引き剥がす戦いを経て、みふゆとの蟠りも解消されただろうに。
それに、まどかの名前を一度も出さなかったのも不自然。
まるでチーム解散を告げた時のような焦りを、やちよが抱いてる気がしてならない。

「内心じゃお気に入りのお前以外どうでも良いと思って、適当に吹かしただけかもな?」
「っ!やちよさんはそんな人じゃありません!」
「冗談だよ。しっかしこいつは……」

やちよといろはの間で生じる矛盾。
どちらかの話が間違ってるのでないとすれば、さてどういうことか。

800EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL③』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:17:26 ID:dyk1XPSI0
「…まさか、そういうことなのか?」
『遊戯さんも気付きましたか。いやはやあの自称神様、やりたい放題にも程があるでしょうに』

堪えにいち早く気付けたのは遊戯とルビー。
当然自分達だけの秘密にはせず、一同にも伝えておく。
恐らくだが、檀黎斗は平行世界のみならず異なる時間を行き来する術も有している。
嘗て未来の時間軸の決闘者達と共闘した遊戯だからこそ、すぐその可能性に思い至った。
加えてルビーもまた、放送前から薄々考えてはいたのだ。

参加者の中にはそれぞれ違う時間から招かれた者もいる。
それならいろはとやちよの話が食い違うのも納得だ。
いろはから見てやちよは過去の時間、記憶ミュージアムの崩壊から間もない頃に殺し合いへ連れて来られた。

「成程ねぇ……」

エボルトもまた合点がいったとばかりに独り言ちる。
遊戯達の仮説通りだとするなら、一海は旧世界での時間から参加していたのだろう。
道理で新世界を創造するに至った経緯を、何一つ言わなかったわけだ。
そして一海に限らず、万丈や幻徳も旧世界の彼らが参加してるとも考えられる。
二人に関しての情報は未だ得られず、現状確かめられないが。

無事疑問が解消され、エボルトの話にまた戻る。
明石が警戒し探索を断念した寺が実は、首輪の解析作業に持って来いの設備が整っていた。
そう聞き考え込む仕草の橘を尻目に、オーエド町での闘争を説明。
仮面ライダースペクターこと深海マコトはともかく、猛威を振るった紺色の剣士には微妙な空気が流れる。
橘や戦兎、天津といった善側のライダーだけじゃない。
殺し合いに乗り気且つ、人間性についてもコメントへ窮する者もライダーの力を得ているとは。

「あの人がわたしに凄く怒ってたのは……」
「ま、作戦の内ってことで大目に見てくれよ?」

自分の姿を勝手に擬態された挙句、悪びれる様子が全くない。
可愛くもないウインクと両手を合わせ頼む仕草に、何とも言えない顔となる。
紺色の剣士が如何に手強いかは理解しており、勝つ為の作戦の一環と言うなら仕方ないのかもと自分を納得させた。
流石にこの先も、特にやちよ達の前で擬態するのは止めさせたいが。

801EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL③』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:18:26 ID:dyk1XPSI0
ニノンという犠牲こそ生まれたが、紺色の剣士の撃退には成功。
尤も話はそこで終わらず、これまた少なからず衝撃が走る内容が語られる。

「キャルちゃんが言ってたカイザーインサイトって、あの人だったんだ…」
「ちょっと待って…司さんの友達がその人の所にいるの!?」

複雑な背景はあれど、キャルにとっても強く警戒せざるを得ない覇瞳皇帝。
フェントホープで強大な力の一端を見せた女が、まさかその本人なのは驚きだ。
いろはが息を呑む一方で、イリヤは思わず椅子から立ち上がり声を荒げる。
自分を庇って命を落とした司が生前、複雑そうにしつつも大事な友達と言っていた少女。
琴岡みかげはよりにもよって危険人物に同行中。
一応殺し合いには乗ってないらしいが、紺色の剣士への仕打ちを聞くに善人とは言い難い。

「陛下殿がお前らと仲良くするのは難しいだろうが、みかげに関しちゃ当分は無事だろうよ」
「理由はなんだ?まさか、女を囲って愛でる趣味でも持ってるのか?」
「えっ」
『それだと別の意味でみかげさんが危ないですねー』
「えっ」

女の子は女の子同士で恋愛すべきとは、とある夏の日に友人が言ったものだったか。
思考が凍り付くイリヤだが、当然そんな理由じゃない。
エボルトが見るに、カイザーインサイトには人手が余り足りていない。
元々ただの一般人のみかげを殺し、首輪を手に入れるのは容易い。
にも関わらず、実際は自分の部下としての運用を選んだ。
ランドソルなる場所へいた頃と違い、自由に動かせる駒が大いに不足してる証拠だ。
だから本来特別な力もないみかげだろうと、ここでは貴重な部下の一人。
少なくとも、今すぐ殺す程後先考えない真似はしない筈。

「一応アイツも立場的には打倒神様なんだ。いきなり喧嘩売る真似はなしにしようぜ?」

難しい顔で黙り込むイリヤは、どう見ても納得したとは言い難い。
すぐにみかげをどうこうされる可能性は高くない、だが絶対そうならないとも言い切れない。
これから先捨て駒として扱われ、命を落とすのも有り得る。
純粋な善意で保護した訳でない以上、不安は尽きなかった。

802EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL③』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:19:06 ID:dyk1XPSI0
(こりゃ、もう一人の方は黙って正解だったかもなァ)

カイザーインサイト本人の話に嘘はないが、みかげ以外に引き連れている参加者は別。
「放送前にはおらず、多分放送後に仲間へ引き入れたろう参加者なので自分は知らない」、とイリヤ達には言った。
無論嘘だ、少女の名前が保登心愛だとはオーエド町での騒動後に聞いている。
かといって馬鹿正直に伝えるつもりはない。
都合良く利用されてるとはいえ、意識を明確に保っているみかげはまだ誤魔化しも効く。
が、みかげ以上に強く暗示の影響を受けたココアは無理だ。
まず間違いなく、リゼの友人を守ろうと張り切ってる橘の反感を強く買う。
下手すればココアを助けるべく、フェントホープへ殴り込んだって不思議はない。
悪辣な面を聞かされても顔色一つ変えない黒死牟はともかく、他の面々はココア奪還に賛成するだろう。

別に、カイザーインサイトの身を案じてはいない。
ただ利用価値がまだある相手を、切り捨てるにはまだ早い。
フォローに感謝してくれよと内心苦笑いし、表向きは何でもない風を装う。

カイザーインサイト達とは一旦別れた後、エーデルフェルト邸での件はイリヤ達の説明通り。
D-1が禁止エリアになった関係で、戦兎達との合流を先回しにして単独での探索を続行。
フェントホープでの騒動に繋がった。

「シロウさん……」
「お、やっぱりあの坊主を知ってたか。美遊の見た目になったら、今にも殺されそうなくらい睨まれちまってな」
『的確に地雷をぶち抜くのが上手過ぎて、ルビーちゃんも流石に引いてますよ…』

遊戯達だけでなくエボルトの話で、ゲームにおける士郎の方針は最早確定と言っていい。
改めて現実を突き付けられ、唇を強く噛み締める。
本音を言うなら勿論止めたいが、士郎達がど何処へ行ったのか分からないのがもどかしい。
カイザーインサイトが振るった聖剣の巻き添えを受け死亡、とはなっていないとのこと。
退避寸前の一瞬だけだが士郎が協力者らしき少女共々、天高くへ飛び上がるのを見た。
肝心のどこまで飛んで行ったかは、残念ながら不明。

「じゃあ最後はわたし達、ですね」

おずおずと片手を上げる少女へ視線が集まる。
最後に番が回って来たいろは達の話が、病院での情報開示の際と然して変わらない。
但し天津達から聞いた内容も含み、そこへ加えて放送後に起きた戦闘も伝えるのだ。
情報量は必然的に多くなった。

803EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL③』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:19:59 ID:dyk1XPSI0
(城之内くんらしいね……)
「(ああ……)」

千年パズルを通し、相棒と共に親友へ思いを馳せる。
少女を庇って命を落とす、自分の身を案じる前に迷わず動く。
知らされた城之内の最期は、どちらの遊戯にとっても驚く内容じゃあない。
自分達の知る彼なら、固く友情を結んだ城之内克也なら。
そうするだろうと納得があり、本田の死でショックを受けても変わらない城之内らしさに寂し気な笑みが零れる。
城之内の取った行動を間違いと言う気はない、ただ親友に生きて欲しかったのも本音だ。

良いか悪いかの判別は難しいが、遊戯にとって驚くべき話が他にある。

「いろは、それは本当のことなのか…?」
「は、はい。直接戦ったのはキャルちゃん達だけど、わたし達にも見えましたから」
(ねえもう一人の僕、まさか本当に……)
「間違いないぜ。その男が変身したのは、オシリスだ……!」

放送後に病院を襲った者の一人、曰くどことなく不潔そうな感じの男の人。
なるべくオブラートに包んだ言い方であり、淫夢動画で笑ってるホモガキもIRHちゃんを見習って、どうぞ。

それはさておき、その汚い男が姿を変えた巨大な竜を遊戯が知らない訳がない。
決闘都市でマリクが繰り出し、圧倒的な力に一度は勝利を諦めかけた神。
三幻神の一体、オシリスの天空竜以外に有り得なかった。

「単にそいつが支給品を使って、オシリスだかってのを呼び出したんじゃないのか?凌牙みたいなデッキを持ってなくても、カード一枚で呼べるんだろ?」
「いや、ただ召喚するだけじゃない。おかしいのは、男自身がオシリスに姿を変えたってことだぜ」

遊戯が持つエアトスや、遊馬に支給されたカガリ等。
デッキが無くとも召喚条件を無視し、呼び出せるカードは複数存在する。
だがロード・オブ・ザ・レッドのように身に纏うならまだしも、参加者自身がモンスターに変身するのは初耳だ。
マリクと同じくラーの翼神竜を使い、一体化を果たすなら分かる。
しかし何度思い返してもオシリスにそういった効果はなく、益々疑問は深まるばかり。

804EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL③』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:20:40 ID:dyk1XPSI0
正体不明の男が持つのは、オシリスへの変身能力だけではない。
遊戯以外にもう一人、引っ掛かりを覚える者がいた。

「その男が変身したライダーについて、もっと詳しく教えてくれ」
「ええっと…最初は確か銀色と青色で、頭に一本の角?みたいなのがあって…」
「…金色の武具を纏い……大剣と札を得物とした……そう記憶している……」

直接対峙した天津と承太郎ならまだしも、遠目に見ただけな上にデェムシュとの戦闘に意識を割いた為注視してはいない。
思い出すのに苦戦中のいろはを見兼ねたのか、埒が明かないと呆れたのか。
淡々と黒死牟から告げられた特徴で、橘も正体を察し愕然とする他ない。

「何てことだ……本当にブレイドなのか……!」
「その様子じゃ、お前の知ってるライダーシステムで間違いないみてぇだな?」
「ああ、認めたくはないが……」

剣崎が参加していなくとも、ブレイバックルは支給品で利用されている。
それだけでも許し難いが、変身者の話を聞き橘の怒りは一層の激しさを増す。
戦えない全ての人々の代わりに戦う、剣崎の覚悟の証をただの暴力にまで貶めた。
永遠の孤独という代償を支払い、友と世界の両方を救った仲間の戦いへ唾を吐くに等しい。

(剣崎、ブレイバックルは俺が必ず取り返す。ブレイドの力で、これ以上誰かを泣かせる真似はさせない)

ここにはいない仲間へ一つの誓いを立てる。
身勝手な願いを叶える為に、他者へ理不尽な犠牲を強いる男を。
剣崎の魂を汚す外道を、決して許す気はなかった。

「にしても話を聞いた感じ、遊星は集めたカードを使いこなしてるんじゃねぇか?」
「それだけ遊星くんの実力が高いってことだぜ」

現地捕獲のモンスターと他者のデッキ。
不利な状態で強敵達と渡り合えるのは、遊星が非常に優れたデュエルタクティクスの持ち主だからに他ならない。
一度は肩を並べて戦った戦友の話に、どこか誇らしさがあった。
同時に城之内のデッキを遊星が持っているのに安堵を抱く。
良からぬ目的を持った参加者ではなく、信頼出来る決闘者なら決して間違った使い方はしないだろう。

予期せぬ形で仲間達と引き離され、辿り着いたのがフェントホープ。
紺色の剣士との戦闘以外は、エボルトの話と相違ない内容だった。
話はこれで終わり、と言うにはまだ早い。

805EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL③』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:21:20 ID:dyk1XPSI0
「敵キャラクターだかって侍を、前々から知ってるんだろ?でなきゃ、俺にあそこまでキレた理由が思い付かねぇな」
「……」

予想通りの問い掛けに睨み返すも、向こうが引き下がる様子はない。
言葉に出さないだけで、いろは以外の全員が同様に聞きたがっている様子。
縁壱に擬態したエボルトへ見せた反応に、無関係だと考える方がどうかしてる。

「あ、あの!そのことは…」
「やめろ……」

咄嗟に割って入ったいろはを制し、重々しく口を開く。
人間との関係を断つ機会を悉く、自ら潰して来たツケと言うのか。
参加者達と不要に関わり続けていれば、いずれは縁壱が見ず知らずの他人でないのに気付かれるのが自然。
自分で蒔いた種と理解しており、尚の事己への苛立ちが湧き上がる。
とはいえ、既に病院で会った者達にはいろはを含めて知られた。
各地へ散らばった連中が触れ回ったとて、何らおかしくない。
今知るか後で知るか、結局その程度の違いでしかないのなら。
幼き頃より燻らせた内面は決して明かさず、簡潔に告げる。
弟だ、と。

案の定、大なり小なり驚きが広まった。
主催者直々に用意した鬼札と、血縁関係を持つ。
詳しく話を聞きたいのが各々本音だろうが、生憎と当人が発する威圧感が安易な質問を拒む。
そんな空気の中、一つ思い出したように六眼が橘へ向けられた。

「日が昇らぬ内に……あのお方の襲撃を受けたと言ったな……」
「あ、ああ。それがどうかしたのか?」
「…あのお方を……敗死寸前に追い詰めたのが……奴だ……」
「なっ……!?」

無惨を殺した男へ、何か思う所がまだあったのか。
情報開示の場にいる最低限の義理のつもりか。
深い理由はない気まぐれか。
黒死牟にも理由は釈然としないまま、釘を刺すとも恐れを煽るとも取れる言を吐き出す。
昏い衝動に突き動かされ、いろはに苛立ちを吐露したのと同じ轍を踏む気はなく。
話はそれで終わりとばかりに、今度こそ黙り込む。

一歩間違えればリゼ一人の犠牲では済まなかった強さの無惨すら、縁壱には及ばない。
そのような男が自分達の敵として立ち塞がるだろう光景に、図書室内は自然と重苦しい雰囲気となる。

806EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL③』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:22:22 ID:dyk1XPSI0
「ま、そこそこ強い程度で敵キャラクターは務まらないからなァ。手に負えない力があるのはむしろ当然だろうよ」

元気付ける意図はないが、黙り込んで話が進まないのは望んでいない。
エボルトにしては非常に珍しく、余計な軽口抜きでやや強引に話を纏めた。
兄弟関係で頭を抱える羽目になったのは、全く持って不愉快ながらエボルトも経験者だ。
うんざりする程の異常者(キルバス)を思い出す、それは精神衛生上宜しくない。
全員が桜ノ館中学に来る経緯は話し終えたのもあり、ここいらで別の話題を切り出す。

「決闘者の遊戯くんに是非意見を伺いたくてな、取り敢えずは聞いてくれ」

殺し合いでデュエルを推したのは黎斗以外の者ではないか。
戦兎と移動中に立てた仮説を否定せず、神妙な顔つきで遊戯は頷く。

「その可能性は俺も低くないと思うぜ。デッキ以外の支給品を後から没収して、奴自身に関係が深い仮面ライダーじゃなくあえてデュエルを主軸に据えている。
 ゲームマスターを名乗る割には、どうもちぐはぐだ」
「だろ?単に殺し合わせたいだけなら、ライダーに変身する道具でもばら撒いた方が手っ取り早い。
 なのに自称神様は、自分でも扱い切れてない節があるデュエルを取り入れた。あいつ自身はそもそもデュエルとは無縁だってのに、だぜ?」

橘が会った花家大我や、いろは達が会ったポッピーピポパポ。
殺し合い以前から黎斗を知る者達の話で、デュエルに関しては一度も触れられていない。
元々デュエルモンスターズを一切知らない黎斗が、調整の甘さが目立つ結果となって尚ゲームに取り入れたのは何故か。
主催側にいる別の何者かに吹き込まれ、急遽デュエルの導入を決めたからでは。
仮説が正しいとする場合、それは一体誰なのかという疑問が新たに浮かび上がる。

「磯野かハ・デスって線は?」
「いや、磯野はあくまで海馬コーポレーションの一社員だ。デュエルの知識があるだけで、檀黎斗に強く意見できる思えないぜ」
「冥王は自分がカードのモンスターになってる事を知らなかった。ハ・デスも同じだとしたら、デュエルに深い知識を持つとは限らないんじゃないか?」
『ふーむ、ということは……遊戯さん達と同じ決闘者が檀黎斗に協力してるんでしょうかね?』
「殺し合いを起こすような奴か…」

パッと思い付くのはマリクや乃亜、ダーツと言った過去に戦った強敵達。
黎斗が時間を操れると分かった以上、遊戯に敗れる前の彼らが主催側にいる可能性は否定できない。
或いは遊星や遊馬に因縁を持つ決闘者が、黎斗の協力者とも考えられる。

「ま、デュエリスト以外にも参加者と関係ある奴が、檀黎斗に協力してるってのも有り得ない話じゃないかもな」
『或いは、檀黎斗ですら黒幕的な存在に操られてるってことも、なくはないですねぇ』
「まさか神威の野郎が……いや、魔界孔をもう一度開くのと関係があるのか?」
「天王寺なら関わっていてもおかしくはないが…」
「もし本当にいるならアリナさん、かな……?」

磯野、ハ・デス、黎斗、黒い鎧の男。
判明している面々以外にもまだ、運営側に参加者と関係する者がいるのかもしれない。
そういった「主催に協力してそうな人物」には、それぞれ心当たりがない訳でもなかった。
現状は可能性止まりに過ぎないが。

807EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL③』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:23:13 ID:dyk1XPSI0
「餅は餅屋って地球の言葉に倣って、決闘者の相手は遊戯くんに任せるとしてだ。美遊ってお嬢ちゃんの話をしても良いか?」
「っ、美遊がなに……?」

親友の名を出され表情が強張るのは無理からぬこと。
エーデルフェルト邸で仲間達に話したのと同じ内容を、エボルトに伝える気はない。
いろは達だけならともかく、この男に美遊の正体を知られるのは危険だ。
遊戯と蛇王院も分かってるようで、厳しい顔付きになる。
露骨な警戒もエボルトを怯ませるには至らない、何より『答え』はとっくに自分で出してる。

「まどろっこしいの抜きで聞くが、優勝した奴の願いを叶える方法ってのがズバリ美遊なんだろ?」
「っ!?」
「おっとォ?その反応は大正解って訳だな。教えてくれてありがとよ」

絶対に話すまいと決めた真実を、向こうは何故か知っていた。
自分は教えていない、士郎だって言う筈がない。
予想外の言葉に全身が跳ね、喉がヒュッと音を立てこれ以上ないくらいの反応を見せてしまった。

「な、なんで……」
「小難しく考えた訳じゃねぇさ。ただ人質って前提を外した時、こう思ったんだよ。
 元々殺し合いに必要不可欠だから確保したんであって、囚われのお姫様扱いは後から思い付いたなんじゃないかってな」
『くっ、いらんところで脳細胞をトップギアにしやがりましたね!』
「…で、それを知ってお前はどうする気だ?」

最悪の相手に美遊の情報を知られ青褪めるイリヤに代わり、蛇王院が問い掛ける。
瞳に宿すは仲間に見せた豪気さとは違う、因縁深い聖女相手にぶつけるのに劣らない殺気。
魔界孔を再び開く為に自分を利用した神威同様、ロクでもない目的を果たすつもりでイリヤの親友を狙うなら。
返答次第ではタダで済ましてはやらない。

「別にィ?俺はただ黎斗を始末して、生きて帰れりゃ文句はねぇよ。お前さんらといきなり事を構える程、余裕があるとも言えないんでな」
「それを信じろってか?」
「イリヤ達の命の恩人の言葉を、信じてもらえないのは悲しいね」

殺意を向けられるのなど、数多の星を滅ぼして来て飽きる程経験した。
今になって動じる素振りも見せず、涼しい顔で受け流す。

「……いいよ。わたしとチノさんがあなたに助けられたのは本当だから、今は何もしない」
「そいつは有難いこって」
「だけど!美遊には指一本触れさせない」

幼いながらに修羅場を潜り、年齢とは不釣り合いな気迫で以て応える。
人類最古の英雄王へ、身一つで立ち向かったように。
親友を犠牲に大望を掲げる魔術師へ、己が我儘(願い)を返したように。
一歩も退かず睨み付けるイリヤに、重なるのは自身へ敗北を刻んだヒーロー。
誰にも気付かせない一瞬、愛憎入り交じった顔を浮かべ。
すぐに元の飄々とした態度を取り戻す。

「了解だお姫様。肝に銘じといてやるよ。人間じゃない俺に肝なんてないがなァ。あ、今のは笑うとこだぜ?」
『笑ってるのあなたしかいなんですがそれは……』

808誓いの螺旋と色褪せぬ想い ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:25:17 ID:dyk1XPSI0



一通りの話が終わり、張り詰めた空気からも解放。
ある程度の休憩を挟み頃合いを見計らい、最初に桜ノ館中学を出たのは蛇王院。
橘からの情報で、明石達とはD-2で別れたと聞いた。
であれば当初の予定通りD-4へ向かうだろうし、自分も元々そちらへ行くつもりだったのだ。
本当なら遊星もそこで合流する手筈だが、残念ながら現在位置は不明。
いろは達と同じく、会場の何処かへランダムに転移させられたのだろう。
運良くD-4に近いエリアにいる、とは流石に期待し過ぎか。

「一旦お別れだな。海馬ってのにも俺から言っとく、お前らも気を付けろよ」

首尾よく遊星と合流出来た時の為にと、橘から首輪を一つ譲渡された。
リゼを殺した男のとは別に、デイパックに入っていたらしい。
誰のかは知らないが、打倒ゲームマスターの為にも使わせてもらう。

明石は凄腕のデュエリストである海馬が同行中。
遊星の方にも結芽という、ちびっ子ながらに優れた剣術の使い手が付いている。
どちらかというと、単独行動を取った蛇王院自身の方が危険だろう。
大抵の相手に後れを取る程軟じゃないが、大抵以上の怪物がゴロゴロ参加してるのが殺し合いなのだから。

(あいつらも絶対に大丈夫って保障はないけどな……)

ジャンヌを始め、脅威と呼べる参加者は未だ複数健在。
明石達を信じていない訳ではないが、万が一が起きないとは言い切れない。

記憶に焼き付く、苦い喪失の光景がリピートされる。
キュウシュウの裏切りに遭って、ホーリーフレイムに作戦が筒抜けとなったあの時。
自分の右腕だけならまだ良い、だが仲間を失うのだけは耐えられない。
恐いのはいつだって己の死ではなく、スカルサーペントの者達が殺されることだ。
だから望まぬ全国統一にも身を投じ、狼牙との一騎打ちでは人質を取るという卑劣な真似にすら出た。
自分の在り方を曲げてでも、守りたい連中がいたから。

「死ぬんじゃねえぞ、お前ら……」

無事を祈る言葉を仲間に届けてくれる、お優しい神様はいない。
間に合わせるには自力でどうにかする他なく、気付けば早足になっていた。


【D-2/一日目/午前】

【蛇王院空也@大番長 -Big Bang Age-】
[状態]:胸に真一文字の傷(治療済み)、疲労(中)
[装備]:ティアドロップ@Caligula2、
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(薄緑ほど使えないかつ回復系ではない)、ボーちゃんの首輪
[思考・状況]基本方針:普段どれだけキレても殺しはしないが、てめえらは別だ。
1:うちの傘下や同じ考えの奴がいるならなるべく優先する。
2:九時間後に指定されたエリアの一つに向かい、再度作戦会議。
3:仮面ライダーの参加者(駆紋戒斗、深海マコト、花家大我、桐生戦兎、万丈龍我、氷室幻徳、天津垓)とチノ、遊戯、凌牙の仲間を探す
4:明石、いい女なんだが残念だな。
5:ジャンヌとは必ず決着をつけてやる。
6:明石の無事は分かったし合流に行く。
7:村雨を持った奴を警戒
8:遊馬に何が起こったかを、凌牙に言わない訳にはいかないよな…。
[備考]
※参戦時期は扇奈ルート、狼牙に敗北後。
※異形の腕はそのままです。そのためゲーム上の攻撃で使ってる砲撃も可能です。
 細い触手を切られてもダメージはありません。
※遊星、明石と情報交換しました。

809誓いの螺旋と色褪せぬ想い ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:26:21 ID:dyk1XPSI0
◆◆◆


『#&%$+#』
『何やら頭が高いですねぇ。登場話から出てるルビーちゃんが先輩だってのを、お忘れですか?』
『%$#&@@+#&』
『ひぎええええええ!?噛みやがりましたよこの円盤!』
「あっ、駄目だよそんなことしたら…!」

一人が抜けた後に起こったのは、正規参加者ではない支給品同士の小競り合い。
骨に齧りつく犬のように、サガークに牙を突き立てられルビーが悲鳴を上げる。
すかさずいろはが引き離し、両腕に閉じ込め事なきを得た。

「落ち着いて、ね?ルビーさんもごめんなさい、大丈夫ですか…?」
『どっかの元マスターのお陰で、バイオレンスには耐性がありますので』
「自慢気に言うことじゃないでしょ……」
「す、凄い人の所にいたんですね…」

人間であれば胸を張ってるだろう程に、堂々とした物言いである。
一体全体元マスターとやらは、どんな人だったんだろうか。
想像しか出来ないいろはの腕から、サガークが抜け出し現在の主の元へ飛ぶ。
旧ファンガイア語で語り掛ける人工生命体が、何を伝えたいのか黒死牟には分からない。
興味も抱かず、掴んでデイパックに放った。

「いろはさん達は、ここから南東の街に行くんだよね?」
「うん。やちよさんと、そこで会えるかもしれないから…」

思わぬ所で聞いた仲間の情報を、無視はできない。
恐らく、自分が記憶ミュージアムの崩壊に巻き込まれて間もない頃。
一人でマギウスの翼を追っていた時のやちよが、殺し合いに参加している。
そんな状態でフェリシア達の死を知ったら、更に心が追い詰められてしまう。
やちよを放って置く選択肢など、最初から存在しない。

「だから、黒死牟さん。わたしの我儘だけど、その、一緒に来て欲しいってお願いしても良いですか……?」
「……」

一刻も早く、やちよの元へ行きたいのに嘘はない。
しかし黒死牟を助けたい決意も、微塵も揺らいでいない。
彼を一人にしたくなくて、結果いろは自身の都合に付き合わせる形となり申し訳なさそうに頭を下げた。

言葉無く見下ろし、呆れと苛立ちのため息を小さく零す。
縁壱が何処へ転移させられたかは見当も付かず、無惨も既に永き生を終えた。
積極的に赴きたい場所は自分になく、いろはから離れ一人動き回ったとて何の問題もなし。
故に、お前だけで行けと返す事だって出来る。

810誓いの螺旋と色褪せぬ想い ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:27:00 ID:dyk1XPSI0
だけどこの娘はきっと、今別れても生きていれば自分を探し出してまた付いて回る。
一時別行動を取っただけで、鬼を助けるとの戯言を撤回しはしないと。
煩わしくも、そうだと分かってしまうから。
突き放し別れる選択ではなく、ソレを口にする己への不可解さで眉間に皺が寄った。

「勝手にしろと……言った筈だ……一々私の顔色を窺うな……」

吐き捨てた言葉へ、気遣いの類は欠片も宿っていない。
だというのに目の前の娘は、驚いた顔をした後すぐに表情を崩し。
微笑み礼を伝えて来る。

『めんどくさいですねー!めんどくさいが着物着て刀ぶら下げてるようなもんじゃないで――あっ冗談!ルビーちゃん流の小粋なジョークですので!』
「ちょっと!?言うだけ言って隠れないで…ひぃっ!?あ、あのウチのステッキがとんだ失礼を…!」
『現役JCのヒモみたいになってるとか、恥ずかしくないんですか♪(CV.エセ門○舞以)』
「ぎゃーっ!?違います!言ってません!言ったのわたしじゃありませんから!」
「お、落ち着いて二人とも。それにヒ……もう、黒死牟さんはそんなことしませんよ?わたしの方がずっと助けてもらって…」
「『えっ、自覚なし?』」

やいのやいの姦しく、絶妙に怒気を削ぐ連中に辟易し視線を外す。
硝子窓に映った自分の顔、人を捨てた日からとうに見慣れた異形の証。
瞳へ刻まれた十二鬼月の頂点も、主亡き今や何の意味があるという。

無惨の死とは即ち、人間達の完全勝利を意味する。
始祖が息絶えた瞬間に、血を与えられた配下も引き摺られ地獄へ落ちる。
最後の十二鬼月であった琵琶の弾き手は勿論、各地へ散らばった全員が消滅を免れない。
唯一の例外は自分だけ。
神の気まぐれで蘇生を受け、始祖の呪いを断たれた上弦の壱だけが生存を許された。

無惨が死んだとて、何かが大きく変わりはしない。
恥ずべき醜態と理解しつつ、黒死牟が終ぞ忠節の誓いを取り戻せなかったように。
縁壱もまた、操り人形の滅殺者として剣を振るうのだろう。
結局のところ、屠り合いの幕が開いた時とほとんど同じ。

それでも、他者へ命をくれてやることは。
生きながらに恥を晒す我が身を、弟に及ばぬ輩の手で滅ぼされるのは。
たとえ相手が神であっても、受け入れる気はなかった。


【D-2 桜ノ館中学校/一日目/午前】

【環いろは@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、魔力消費(大)、悲しみと怒り
[装備]:ストライクマーク@テイルズオブアライズ
[道具]:基本支給品一式、グリーフシード@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。
1:黒死牟さんを放って置けない、助けになりたい。
2:やちよさん達と病院で会った皆を探す。E-4へ行きやちよさんと合流する。
3:もし灯花ちゃんとねむちゃんがまた間違いを起こすのなら、絶対に止める。
4:フェリシアちゃんを殺した男の人(滅)には怒ってる。でも、我を忘れたりはしない。
5:真紅の騎士(デェムシュ)を警戒。
6:どうしてドッペルが使えたんだろう?
7:縁壱さんは、黒死牟さんの弟さん……。
8:キャルちゃんに渡したメダル、本当に良かったのかな…?
[備考]
※参戦時期はファイナルシーズン終了後。
※ドッペルは使用可能なようです。

【黒死牟@鬼滅の刃】
[状態]:魔皇力継承、精神的疲労、縁壱への形容し難い感情(大)、エボルトへの不快感(大)、黎斗への怒り、いろはへの…?
[装備]:虚哭神去@鬼滅の刃、木彫りの笛@鬼滅の刃、ザンバットソード@仮面ライダーキバ
[道具]:基本支給品一式、サガーク&ジャコーダー@仮面ライダーキバ、闇(1時間使用不可)@遊戯王OCG、ランダム支給品×0〜1
【思考・状況】
基本方針:分からない。……が、少なくとも縁壱以外の者に殺される気は失せた。
1:この娘は本当に何なのだろうか……。
2:縁壱……お前は…………。
3:無惨様が……そう、か…………。
4:日を避ける道具は手に入ったか……。
[備考]
※参戦時期は死亡後。
※無惨の呪いが切れていると考えています。
※魔皇力が使用可能になりました。キバット族のサポート無しで活性化出来るようです。
※サガークの資格者に認められました。ククルカンの召喚も可能なようです。

811誓いの螺旋と色褪せぬ想い ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:27:59 ID:dyk1XPSI0
◆◆◆


「良かったのか?蛇王院と一緒に行けば海馬と会える筈だが」
「デッキを持ってる海馬なら、そう簡単に倒れやしないさ。それに今は、他に気になることがあってな…」

明確に目的地を決めた者とは反対に、未だ決めあぐねる者もいた。
橘の言う通り、蛇王院に同行し明石達の元へ行くのも間違ってはいない。
海馬なら「デッキを持たない今の貴様など、凡骨にも劣るわ!」、と言いそうだが。
但し遊戯が海馬の元へすぐに行かなかったのは、怒声を浴びせられるのを嫌ったなんて理由じゃない。
好敵手(ライバル)へ一種の信頼を向けているが故、それも理由の一つ。
だが何より、先の情報交換で気にかかるものがあったから。

「司の友達を連れているカイザーインサイトを、放って置いて良いとは思えないぜ」

殺し合いに乗っていないとはいえ、真っ当な倫理観や善性を持ち合わせているとは言い難い。
エボルト同様、何の切っ掛けで牙を剥くか分からない危険人物。
そんなカイザーインサイトの所へ、このままみかげを預けて本当に大丈夫なのか。
遊戯とイリヤ共通の危惧であり、自分達の目で確かめに行くべきではと思い始めている。

しかし、カイザーインサイトが現在根城にしている場所はフェントホープ。
いろはの話では、魔法少女の巨大組織が拠点に使った廃ホテル。
オリジナルのフェントホープに近い形で機能を再現した場合、魔女やウワサ等が多数配置されてる可能性が高い。
こちらから出向くというのはつまり、敵の有利なフィールドへ飛び込むのに他ならない。
更にカイザーインサイト自身、相当な強さを発揮可能なライダーに変身出来る。
キャルから聞いた内容だけでも、強力な魔法の使い手らしい。
必ずしも戦闘に発展するとは言えないが、二人だけで行くにはリスクが低くない。

ただエボルト曰く、カイザーインサイトとは二回目の放送後に桜ノ館中学で合流を約束してるとのこと。
それならフェントホープには行かず、付近の探索を行った後時間を見計らいここへ戻って来るのも有りではないか。
運が良ければ近くのエリアで遊星達が見付かるかもしれない。
加えてもう一人、出来れば優先的に探したいのは天津垓だ。
仮面ライダーで尚且つ、檀黎斗を前々から知る参加者。
今現在天津と共にいるだろうポッピー共々、黎斗との因縁を持つ彼らとは接触を図っておきたい。
無論仮面ライダーの括りで言えば、万丈や戒斗達も捜索の対象だ。

「遊星くん達のようにどこかへ飛ばされたのか、それともいろは達がいた病院に残っているのか…」
「もし病院に残っていたとしても、仲間を探して出発した後じゃないか?」

天津達がどうなったかを知る前に、いろはも黒死牟もブラックホールに吸い込まれたのだ。
スタンド使いが命を落とし、日輪がまたしても罪を重ねたのを知る由もない。

812誓いの螺旋と色褪せぬ想い ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:28:40 ID:dyk1XPSI0
「橘さんこそどうするんだ?向こうにトラブルが起きてないなら、チノ達に追い付けるかもしれないぜ?」
「そうだな……」

どこへ行くかで悩むのは橘も同様である。
明石に待っていると言われた手前、直接会いに行って無事を知らせるのが正しい。
だというのに蛇王院へ同行しなかった訳は、選択肢が複数存在するが故。
単独でもぐも救出に向かった大我の加勢に行き、取り戻したガシャットを渡すのも手。
大我の実力を信じていない訳じゃないが、不安が全くないとも言い切れない。

もう一つ、遊戯達からチノの情報を得たのも橘を悩ませる。
今は亡き弟子へ誓ったように、リゼの友人達を守りたい。
リゼと交流し、彼女から託された者として、チノやココア達にもそれを伝えたい。
なので現在別行動中のチノを追う選択も、無視は出来なかった。

(さぁて、俺はどう動きますかねぇ)

人間達を眺めながらエボルトもまた考える。
イリヤ達がフェントホープに向かう気なら、同行の必要が出て来るかもしれない。
ココアの件も含めてある程度はフォローを入れ、利用出来る駒同士ぶつかり共倒れとなるのは回避したいところだ。
一方いい加減戦兎と合流すべく、いろは達と共にE-4へ行くべきではなかろうか。
流石にこれ以上の寄り道を繰り返せば、戦兎とて堪忍袋の緒が切れるに違いない。
一応いろはに伝言を頼み、今更過ぎるがモニカの回復用に手に入れた道具と、解析用の首輪を渡して自分はイリヤ達の方へ。
といった方法も取れないとは言わないが。

(美遊に関しても、面白いことになってきたからなァ)

推測は正しく、囚われのお姫様は生きた願望器。
自身の生還が最優先だとはいえ、あわよくば未知の力を手に入れたい方針も変わらない。
そこへ齎された美遊の真実に、一切手出ししませんと素直に引き下がるようなら地球滅亡など目論見はしなかった。
首輪解除も済んでいない状態では、当然何も出来ないが。

(それに、美遊の話で目の色を変える奴は必ず出て来るだろうよ)

人質の少女の正体に、驚きはあるだろう。
だが同じく願いを叶える力が本物と知れば、方針をガラリと変える者が現れても不思議じゃあない。
脱落になった者達を取り戻したがってるプレイヤーなど、正しくそれに該当する。

三都の戦争で幾度も見た人間の愚かさがきっと、神のゲームでも互いを蝕む。
そんな中でも、折れず曲がらず正しさを貫ける奴など――

「なんて、な」

嘗て自分が創造(ビルド)した人間(ヒーロー)くらいだろうと、そう余計なことまで考えてしまう前に。
皮肉気な、或いは自嘲するように誤魔化しを呟いた。

813誓いの螺旋と色褪せぬ想い ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:30:05 ID:dyk1XPSI0


【武藤遊戯@遊戯王デュエルモンスターズ(アニメ版)】
[状態]:疲労(小)、無力感、主催者への怒り
[装備]:千年パズル@遊戯王デュエルモンスターズ、ガーディアン・エアトス@遊戯王OCG
[道具]:基本支給品一式、結束 UNITY@遊戯王OCG
[思考]
基本:ハ・デスを倒し、殺し合いを止める
0:ここからどう動くか…
1:仮面ライダーの参加者(駆紋戒斗、深海マコト、花家大我、桐生戦兎、万丈龍我、氷室幻徳、天津垓)とチノ、凌牙の仲間を探す
2:仲間達との合流と、デッキも取り戻したい。
3:衛宮士郎は殺し合いに乗っているのか…?
4:ロゼはデュエルモンスターズが存在しない平行世界の人間なのかもしれない。
5:相棒の言うように、神(ゲームマスター)も完璧じゃない。そこに攻略法があるかもしれないぜ。
6:このカード…何で相棒や城之内くん達が描かれてるんだ?
[備考]
※参戦時期は最低でもドーマ編終了後。

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/Kaleid Liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中・治療促進により回復中)、悲しみと悔しさ、エボルトへの警戒心(大)
[装備]:マジカルルビー@Fate/Kaleid Liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード『セイバー』@Fate/Kaleid Liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード『バーサーカー(マグニ)』@Fate/Kaleid Liner プリズマ☆イリヤ、光の主霊石@テイルズオブアライズ
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。元の世界に帰ってやることがある
1:みかげさんのことが気掛かり。こっちから行くか、それともここで待つかどうしよう…。
2:仮面ライダーの参加者(駆紋戒斗、深海マコト、花家大我、桐生戦兎、万丈龍我、氷室幻徳、天津垓)とチノ、遊戯、凌牙の仲間を探す
3:美遊を必ず助けに行く。
4:エボルトを警戒。美遊に手を出す気なら許さない。
5:シロウさん殺し合いに…?
6:ジャンヌを警戒。
[備考]
※参戦時期はドライ!!66話、6千年前に向かった直後
※心意システムによりバーサーカー(マグニ)のクラスカードを創造しました。

814誓いの螺旋と色褪せぬ想い ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:31:02 ID:dyk1XPSI0
【橘朔也@仮面ライダー剣】
[状態]:ダメージ(大、包帯やガーゼにより止血済み)、疲労(中)、心意によりリゼの姿・声に変化
[装備]:ギャレンラウザー&ラウズカード@仮面ライダー剣、リゼ専用スピアー@きららファンタジア
[道具]:基本支給品×2、バンバンシューティングガシャット@仮面ライダーエグゼイド、ハイパームテキガシャット@仮面ライダーエグゼイド、ランダム支給品×1、無惨の首輪、包帯やガーゼなどの治療道具@現地調達
[思考・状況]基本方針:剣崎とリゼの分まで人々やリゼの友達を助ける。ゲームマスターも倒す
0:チノを追い掛けるか、それとも……
1:ありがとう、リゼ。君は睦月と並んで最高の弟子だ
2:まさか俺自身がリゼになるとはな……
3:リゼの友達を探す。リゼの分まで俺が守る
[備考]
※参戦時期は最終回後。
※遊戯王OCGのルールを多少把握しました
※脚の負傷具合については少なくとも完治してます
※心意により見た目と声がリゼと同じになりました。生身でギャレンのスペックで、融合係数の変動で強さが変わるシステムを常に発揮しています。ギャレンラウザーを用いることでラウズカードやコンボ技も使えます
※リゼの姿になったことでリゼ専用スピアーで変身可能になりました

【エボルト@仮面ライダービルド】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)、石動惣一に擬態中
[装備]:トランスチームガン(ワープ機能3時間使用不可)+ブラックコブラロストフルボトル@仮面ライダービルド、ラストパンドラパネルブラック+ブラックロストフルボトル×6@仮面ライダービルド、パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト
[道具]:基本支給品一式×3、じわじわキノコカン@スーパーペーパーマリオ、ブレイクスルー・スキル@遊戯王OCG((1)の効果3時間使用不可能)、ドレイクグリップ@仮面ライダーカブト、呪い移し(現在使用不可)@遊戯王デュエルモンスターズ、ルナの首輪、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:生存優先。あわよくば未知の技術や檀黎斗の持つ力を手に入れる。
0:どうすっかなぁ俺もなァ。
1:戦兎達の元へ戻る。流石にそろそろ我慢の限界かねぇ。
2:戦兎と共闘しつつどこまで足掻くのか楽しむ。仲良くやろうぜ?
3:エボルドライバーを取り戻す。元は内海の?知らねぇなァ。
4:ロストボトルを回収しパンドラパネルを完成させる。手間を掛けさせないで欲しいんだがな。
5:正攻法じゃあ檀黎斗を倒すのは難しいか。
6:カイザーインサイトを利用。2回目の放送後に桜ノ館中学校で合流。戦兎には何て言おうかねぇ。
7:やちよの声はどうにも苦手。手土産でいろはを連れてきゃ機嫌も良くなるだろ。
8:猿渡死んじまったか。戦兎の奴どうなるかな。
9:美遊、ねぇ…………。
[備考]
※参戦時期は『ビルド NEW WORLD 仮面ライダークローズ』で地球を去った後。
※環いろはの姿を写真で確認した為、いろはに擬態可能となりました。
※トランスチームガンのワープ機能は一度の使用後、6時間経過しなければ再使用不可能になっています。

『全体備考』
※遊戯、イリヤ、橘、エボルトがそれぞれどこへ行くかは後続の書き手に任せます。

815 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:31:30 ID:dyk1XPSI0
投下終了です

816 ◆ytUSxp038U:2025/05/26(月) 00:30:26 ID:0BfwVKfc0
冴島鋼牙、柊ねむ、氷室幻徳を予約します

817 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/26(月) 12:11:45 ID:oNudDAtg0
拙作「激瀧神 『王者の調和』」において凡ミスによる修正があったので報告しておきます
ポセイドンの遺体が幸いなことに後の作品で特に何も描写されてなかったので、
明石の乗るフライング・ペガサスに一緒に乗せたという感じで修正しています
(この描写には修正箇所が余りに少ないので修正内容は省いてます)
この件で問題がありましたら、再修正します

また、海馬の支給品に冥王の首輪が追加されてます
これは表記ミスなので前述の修正内容とは関係ありません

818 ◆QUsdteUiKY:2025/06/01(日) 16:38:34 ID:gMzOif3A0
>>761の予約から2週間が経ちましたので、破棄とさせていただきます
また破棄後にすぐ再予約を防ぐために◆2fTKbH9/12 氏の当該キャラの予約…つまりキリト、空、宮川尊徳、ユキ、直見真嗣、クウカ、奈津恵、コッコロ、継国縁壱、肉体派おじゃる丸の予約を1週間禁じさせていただきます

819◆2fTKbH9/12:2025/06/01(日) 16:51:32 ID:???0
♦QUsdteUiKY氏リアルが忙しくて自己申告が遅れてしまい、申し訳ありません。
もう少しで完成しますが、間に合わないので一旦、予約を破棄します。

820 ◆QUsdteUiKY:2025/06/01(日) 16:59:13 ID:gMzOif3A0
キャル、継国縁壱で予約します

821 ◆ytUSxp038U:2025/06/01(日) 19:25:53 ID:Z.O0shPU0
延長します

822コレが血を吐きながら続ける悲しいマラソン ◆QUsdteUiKY:2025/06/02(月) 01:28:32 ID:PsOMhbvg0
投下します

823コレが血を吐きながら続ける悲しいマラソン ◆QUsdteUiKY:2025/06/02(月) 01:28:49 ID:PsOMhbvg0
キャルが空中を飛行でき、破壊力もある怪獣ではなくE・HERO  Core(エレメンタルヒーロー コア)に変身したのには理由がある。
 単純に仲間を探すだけならば怪獣や飛行できるモンスターの方が簡単だが、この殺し合いの参加者はかなりの強豪がいることも熟知した。
 怪獣ならばその大きさも相俟って散り散りになった仲間たちが見つけてくれる可能性も高いが、あえてここは慎重に動くことに決めて守備向けの能力を持つCoreでひとまず活動することに決めた。

 この姿は散り散りになった仲間も知らない姿だから向こうから発見されて気付いてもらえる可能性は低いが、それでもやはりここは慎重にいきたい。正直、疲労も溜まってるし単独で誰かと戦うというのはかなりしんどいだろう。怪獣は大きいからこそ目に付きやすく、仲間からも発見されやすいが残念ながら危険人物に遭遇するリスクもある。
 新しい力を得たし、万全の状態ならば強敵が相手でもやり合えるとは思っているが今は妙に疲れている。身体が重い。
 ゆえにキャルは慎重な行動を取らざるを得ないのだ。

 (バンジョウに同行した方が良かったかしら……)

 当然のことながら、一人よりも二人で行動した方が良いに決まってる。
 万丈に同行しなかったことを若干惜しく思うが――

 (でもあの急ぎっぷりだと同行してもきっと足を引っ張るだけよね)

 万丈は飛電或人を探していた。
 もしも遭遇したら、止めるようにも言われている。
 ということは、相当焦っているだろうことは想像するに難しくない。

 (アルトに会ったら止めると言ったけど、この疲労なんとかならないかしら)

 誰かと戦い、止めるには体力は重要だ。
 この疲弊しきった肉体、それも単独で止めるというのは難しい可能性もある。
 万丈には〝分かったわ〟と言ったが正直、止められる自信があるかといえば微妙なところだ。

 しかし本当に身体が重い。
 Coreに変身して身体能力が上がってる。普通に走るよりは速く走れているが、万全の状態ならもっと速く走れるような気がする。

 そして当然、走るのを止めない限り疲労は減らない。本当は一休みしたいところだが、誰かと合流しなければ安心して休むことも出来ない。

 ゆえにキャルは止まらない。
 止まれない。

 本当は飛ぶ方が速いのだが、慎重に行動しなければいけないのはわかりきっている。

 だがその慎重に行動した結果が、裏目に出た。

 ――空気がズシリと、一変する。

 キャルが前方を眺めると、そこには見覚えがある剣士の姿。
 キャルは野獣先輩と戦っていたことで、彼とは戦っていないが――その威圧感は今でも忘れられない。

 キャルの足が恐怖で竦む。

 (どうしてよりによってあいつがいるのよ……!)

 手足が震え、あまりもの存在感に気圧されそうになる。
 しかし相手は大地に立っている。流石に飛ぶことは出来ないはずだ。
 ならばここは怪獣か他のモンスターに変身して――。
 キャルは咄嗟にメダルを取り出す。

――壱の型 円舞

 キャルが怪獣に変身するよりも速く、円を描くように振り下ろされた日輪刀がキャルを攻撃していた。

824コレが血を吐きながら続ける悲しいマラソン ◆QUsdteUiKY:2025/06/02(月) 01:29:27 ID:PsOMhbvg0
 「かかったわね!この瞬間、E・HERO  Coreの効果を発動するわ!」

E・HERO  Coreの (1)の効果。1ターンに1度、このカードが攻撃対象になった時に発動できる。
このカードの攻撃力はそのダメージステップ終了時まで倍になる。

 キャルはこの効果に期待して、あえて攻撃を誘っていたのだ。
 もっとも手足の震えはブラフではなく、本当に恐怖心に駆られていたのだが――。

「これで私の攻撃力は5400!これで――決めるわよ!エレクトロマグネティックインダクション!」

 Coreの拳と日輪刀がぶつかり合い――勢い良く縁壱がふっ飛ばされる。
 この攻撃力でも破壊されないのは、主催者の用意した駒であるゆえか。それとも只々、業物なのか。

 凄まじい勢いでぶっ飛ばされ、大地を二転三転した縁壱だが――勢いは止まらない。
眼前に居るのは鬼。それも途轍もない破壊力を持っている。
 それを逃すなど継国縁壱にとって有り得ないことで、どれだけ負傷しようとも狩らなければならない。

 しかしキャルとて相手がヤバいことは知っている。
 ゆえにキャルは咄嗟に変身解除。

<Momochi Access Granted!> 
 
 念のために用意していた3枚のメダルをセット。
 Coreの効果は強いが1ターンに一度というのがネック。ならばこれで倒せないならば、逃げるしか今は道がない。

 
<Golza. Melba. Super C.O.V!>

「チェンジ・テリブルモンスタ――がっ!?」

――壱の型 円舞
 
 ――刹那、キャルの首が跳ね飛ばされそうになる。
 咄嗟に重心を左にズラしたことで致命傷に留まったが、もしも直撃していたらあの世へ逝っていただろう。

 (危ないわね……っ!でも私はまだ死ぬわけにはいかないわ!そうよね、コロ助――!)

 瞬間――キャルの右手に何かの書物が現れる。それはケイオスグリモワール。
 キャルの力を万全に引き出すための専用装備だ。

「アーマーダウン!」

 ――次なる型を繰り出そうとする縁壱の動きが、僅かに止まる。
 専用装備を持てばアーマーダウンに麻痺効果が3秒間のみ、付与されるからだ。

「まだまだよ!サンダーボール!」

 縁壱は魔法というものを知らない。ゆえにこれを血鬼術だと認識するが、そう考えたところで策は思い浮かばない。
 ちなみにキャルの必殺技――ユニオンバーストは全体攻撃だが威力がサンダーボールより劣る。ゆえにキャルはサンダーボールを選んだ

(どうしていきなり出てきたのかわからないけど――このチャンスは逃さないわ!)

 サンダーボールを被弾して縁壱がダメージを受けてる今こそが好機。

「今度こそ――チェンジ・テリブルモンスターフォーム!」

 <Tri-King!>

 そしてトライキングに変身したキャルは翼をはためかせて――

 ――壱の型 円舞

 その翼の片方が縁壱の日輪刀によって豪快に切り裂かれ、バランスを失ったトライキングはその場に倒れてしまう。当然だが、片翼では飛べない。

 (ど……どうなってるのよ、この化け物!)

 化け物。
 今まで人々のために剣を振り続けた侍にはあまりにも似つかわしくない言葉だがキャルにとって縁壱は正真正銘の化け物だった。

 檀黎斗によって在り方を捻じ曲げられ、人を守るための日輪刀は殺戮を繰り返す剣に。
 なんとも皮肉なことだが、きっと檀黎斗はこの状況を楽しんでいることだろう。

 縁壱はもう何人もの善良な者を斬ってきた。
 その剣は純血に染まり、鬼から人間を救ってきた者の面影などない。

 されども縁壱は殺戮を続けるだろう。
 それが人々を鬼から守るためのものだと思い込んで。

「それなら……これはどう!?」

 トライキングが思い切り大地に拳を叩き付け、粉塵が舞う。
 この間、流石の縁壱でも相手の姿を視認出来ない。怪獣の身体の構造なんて透き通る世界でも理解出来ず、先読みも不可能。

 そしてキャルは変身を解除する。

825コレが血を吐きながら続ける悲しいマラソン ◆QUsdteUiKY:2025/06/02(月) 01:29:50 ID:PsOMhbvg0
『モモチ・アクセスグラッテド!』

「グリムフュージョン!」

『ギアソルジャー! ワイバーン! ギアボックス!』

「チェンジ・モンスターフォーム!」

『アンティーク・ギア・メガトン・ゴーレム!!』

 キャルは幾多もの腕を持つ巨大な機械族のモンスター――古代の機械超巨人(アンティーク・ギア・メガトン・ゴーレム)に変身した。

「あんたがどれだけ凄腕の剣士でも、これだけ腕があればなんとかなるはずよ!」

 古代の機械超巨人が幾多もの腕で縁壱を殴ろうとする。
 どれも変則的な動きで、軌道が読めない。モンスターゆえに透き通る世界も無意味。
 されども経験とその才能は素晴らしく、眼前に迫る剛腕を、難なく日輪刀で弾こうとする。
 しかし完全には弾き切れず、攻撃の余波で無様に吹っ飛び、ダメージも受ける。
 だが、この一撃で縁壱は完全に見切った。

 再び迫る剛腕に

 ――壱の型 円舞

 円を描くように日輪刀を振り下ろし、斬り裂く

「いぎゃああああ!」

 あまりもの激痛にキャルは絶叫するが、鬼がのたうち回ろうと縁壱からしたら自業自得。

 ――弐の型 碧羅の天

 そして縁壱は連撃で絡繰と化した鬼の頸にあたる部位を狙うが、古代の機械超巨人は全ての腕でその一撃を防ぐ――が大半の腕が千切れる

「きゃああああ――!」

 激痛に再び絶叫するキャルだが、まだ死ぬわけにはいかない。
 咄嗟に強靭な脚で縁壱を蹴ろうとするが、日輪刀で防がれた。だがその余波で縁壱が吹っ飛び、多少は距離を開けられた

 (――ッ!こんなやつ、どうしろっていうのよ!)

 相手はあまりにも強く、自分だけでは倒せそうにない。
 ならばキャルが取るべき行動は――。
 
 (アレを使うしかないっていうの……?)

 キャルは自分に支給されたカード――地縛神CcapacApuを脳裏に浮かべる。
 アレはどう見ても危険なカードだから使わないでいた。だがこの剣士を殺すためなら、大切なコッコロたち仲間を救うためなら――。

 (――ッ!なにをウジウジしてるのよ、私は!これ以上仲間の死体が増えるなら、悪魔に魂を売ったって構わないって決めたはずじゃない!)

 そうだ。
 この殺し合いには大切な仲間が――コロ助がいる。
 絶対に殺されたくない。こんな目にも遭わせたくない。だからコロ助を守るために――私がこいつを倒す!

 キャルが変身を解除して地縛神CcapacApuのカードを天に掲げる。
 どくん、どくん、どくん――。
 心臓のような歪な物体が現れるとこの地で散っていった者達の魂の一部を吸収して――地縛神CcapacApuが顕現した

「――ヒャハハハハ」

 ――瞬間、キャルの様子に変化が起こる。
 大切な仲間を守ろうとした少女は、巨人の地縛神の肩に乗って笑い狂っていた。
 この高さでは、流石の縁壱でも届かない。いや、それ以前に魂を吸い取られた者の悲痛の声が縁壱の心を大きく揺さぶる。

 この鬼だけは、必ず倒さねばならない――

 縁壱がそう決めると同時にCcapacApuはキャルを乗せてひとっ飛び。どこかへ姿を消した

「キャハハハ!私は強くなったわよ!さっきの男も、もっと強くなって殺してみせるわ!」

 今のままでは勝てない。そんなことはわかっている。
 だから更に強くなって、縁壱を殺すために逃げた。縁壱だけじゃない。野獣先輩も殺さなきよダメだ。

「――待ってなさい、コロ助。コロ助を危険な目に遭わせるような奴は全員、私が殺すわ!キャハハハ!」

 ――このゲームにおける地縛神の効果。
 それは召喚した者の負の感情と悪しき感情を増大させることだ。
 もしもキャルを危険人物だと思い込んで、対処しようとする者が現れたらキャルは容赦なく相手を殺そうとするだろう。それが不動遊星たち、散り散りになった仲間だとしてもだ。
 そして当然、コッコロに害を与えるような危険人物も殺す。

 地縛神の力に頼ったキャルは、もはや暴走状態に近かった。
 縁壱から受けた傷も大きいのに、彼女は止まるのをやめない

 キャルも、縁壱も。
 それはまるで血を吐きながら続ける悲しいマラソンのようで……彼らの道は、未だ続く。

826コレが血を吐きながら続ける悲しいマラソン ◆QUsdteUiKY:2025/06/02(月) 01:30:27 ID:PsOMhbvg0
【F-5/一日目/午前】

【キャル@プリンセスコネクト!Re:DIVE】
[状態]:疲労(絶大)、ダメージ(絶大)、首の左側に切り傷、地縛神CcapacApuの肩に乗っている、負の感情増幅中、悪しき感情増幅中、好戦的
[装備]:ウルトラゼットライザー+ウルトラアクセスカード@ウルトラマンZ、怪獣メダル(ゴルザ、メルバ、超コッヴ、ガンQ、レイキュバス)@ウルトラマンZ」、地縛神CcapacApu@遊戯王5D's、ケイオスグリモワール@プリンセスコネクト!Re:DIVE
[道具]:基本支給品、詳細地図アプリ@ロワオリジナル、ウルトラマンベリアルメダル@ウルトラマンZ、メダル(古代の機械兵士、古代の機械飛竜、古代の機械箱、月光???、月光???、月光???、E・HERO??? E・HERO??? E・HERO??? ???×6)
[思考・状況]
基本方針:クロトや覇瞳皇帝や縁壱からコッコロたちを守るために更なる力を求める。
0:キャハハハ!もっと強い力がほしいわ!
1:メダルは手に入った。あとはやるだけよ。でももっと強いメダルもあるかしら?
2:途中誰かに出会ったら、覇瞳皇帝に関して警告し、コロ助への伝言を頼む。
3:エボルト、里見灯花、柊ねむ、カイザーインサイトを警戒。場合によってはコロ助のためにぶっ殺すわよ
4:この力こそ強さよ!もっともっと強くなりたいわ!
5:あの茶色野郎(野獣先輩)ふざけんじゃないわよ、次会ったらぶっ殺すわ
6:強くなるために首輪を集める?
[備考]
※ウルトラゼットライザーは、アクセスカード、
 ファイブキングを構成する怪獣のメダル5枚で一個の支給品扱いです。
※ウルトラアクセスカードは、一番最初に支給された参加者の物のみ支給されています。
※ウルトラゼットライザーは変身の際に、
 インナースペース(安全圏)にいる時間が短くなる様に、
 怪獣の力が本来のスケールで出せない調整されています。
 恐らく、ウルトラマンに変身する際も、同様であると考えられます。
※回収したNPCの残骸の詳細は、後の書き手様にお任せします。
※万丈と情報交換しました。
※キャルの他の変身できるモンスター、怪人が何かは後続の書き手にお任せします
※地縛神を使ったことで負の感情や悪しき感情が増幅しています。地縛神を召喚してる時間が長いほど、更に増幅します
※心意で専用装備を獲得しました
※地縛神CcapacApuの大きさは原作より小さいです。詳細は後続の書き手さんにお任せします

【F-6/一日目/午前】

【継国縁壱@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(中)、胸部に裂傷(中)、肩に切り傷(微小)、頬に傷(微小)、ダメージ(小)
[装備]:継国縁壱の日輪刀@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:鬼狩り
1:鬼である(と縁壱には見えている)紅渡(名前未把握)が死ぬ寸前、柔らかな笑みを浮かべたことに違和感
2:兄上、あなたは鬼となって尚も……
3:死者すら苦しめる巨人を従える鬼(キャル)は絶対に許せない
[備考]
※首輪による制限が行われていません
※思考が矛盾を感じた場合、それを疑問に思わなくなるようプログラムを受けています。

『支給品紹介』
【地縛神CcapacApu@遊戯王5D's】
デュエルモンスターズのカード。

効果モンスター
星10/闇属性/悪魔族/攻3000/守2500
このカードがフィールド上に表側表示で存在する場合、
「地縛神」と名のつくカードを召喚・反転召喚・特殊召喚する事ができない。
フィールド上にフィールド魔法が表側表示で存在しない場合、
このカードの以下の効果は無効となり、このカードはエンドフェイズ時に破壊される。
●このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。
●相手モンスターはこのカードを攻撃対象にする事ができない。
●このカードは相手の魔法・罠カードの効果を受けない。
●このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

主催により細工を施され、フィールド魔法がなければ破壊される効果は無効になっている。
また召喚者は召喚してる限り負の感情や悪しき感情が増幅され、好戦的になる
●相手モンスターはこのカードを攻撃対象にする事ができない。効果は決闘者以外があまりにも不利になるので無効化されている
また元の世界(原作)のままだと巨大過ぎるのでサイズダウンしている

827 ◆QUsdteUiKY:2025/06/02(月) 01:31:03 ID:PsOMhbvg0
投下終了です

828インタールーダー ◆EPyDv9DKJs:2025/06/06(金) 02:52:31 ID:CDerigb60
投下します

829インタールーダー ◆EPyDv9DKJs:2025/06/06(金) 02:54:25 ID:CDerigb60
 空を駆け抜ける列車、フライング・ペガサス。
 それはまるで御伽噺や物語のような光景なのでしょう。
 海で戦う艦娘が、空を駆ける。駆逐艦の多くには羨ましがられるんだろうなぁ。
 なんて、此処が殺し合いである以上、そんな話をしても楽しくないのは間違いないけども。

 艦娘が海神を倒してしまうという、ある意味とんでもない罰当たりなことをした後、
 私こと、工作艦明石は海馬さんと共にフライング・ペガサスに乗車して現在移動中です。
 列車と言っても快速と言うわけではなく、速度が緩やかなのは、逃げを防ぐための速度制限なのでしょう。
 もっとも、それでも追いかけてくる少女(ルナ)やポセイドンがいたことを考えると、
 もうちょっと速度があってもいいんじゃあないかな、なんて思ってたりもしてます。
 ゆっくりな動きは殺し合いなんてものを忘れさせてくれる感じがしてしまい、
 安心感と同時に、殺し合いなんてないんじゃないかと思わせてくる不安感もあります。
 だから私はあえて見る。野原さんと、ジャックさん、そしてポセイドンの遺体を。
 これが殺し合いの中にいると、再認識するために。

「あの、差し支えなければでよろしいのですが。」

「何か用か。」

 相席ではなく向かいの席で周囲を見渡しながら哨戒する海馬さん。
 もし海馬さん達が戦った怪物(無惨)がこちらに来てる可能性もある以上、
 警戒するのは当然なことでしょうけど、視線を向けることがなかったり、
 どこか冷たい眼差し……なのは多分、彼だからなのでちょっと思い込みかも。
 そうは思いつつも、尋ねずにはいられませんでした。

「もしかして、私のこと避けられてます?」

 一瞬の沈黙。
 地雷を踏んでしまったのか、
 少しばかり不安になったものの、

「ただの偏見だ。俺は軍需産業には手を出さん主義だ。
 俺にとっての敵であった男の、忌まわしき遺物。それだけに過ぎん。」

 そういえば遊星さんが海馬コーポレーションは軍需産業には手を出してないとか、
 そういう話は先に聞いていたから納得はできた。人類を守る艦娘とは言え、
 軍事兵器と言われてしまえばそれを否定ができないから間違ってはないのかも。
 勿論、偏見だってことぐらいは分かっているようですし海馬さんは見たところ、
 随分棘と言うか癖のある人物のようなので、私も特に思うところはありませんでした。

「ジャックに冥王か……遊戯のことを、
 アテムのことを聞く機会を逃したのは痛いな。」

 リゼさんに対しての自責か、或いは敵に対して相当腹が立っていたのか、
 ポセイドンの戦いが終わって、ようやく知り合いの名を口にしました。
 一応最初の情報交換で話はある程度のことは伺ってこそいたものの、
 冥界に帰ってしまったアテムさんなる人を海馬さんは追いかけてるようです。
 死んだ人……と言うのとはちょっと違う複雑な事情を抱えてるみたいでして。

「遊戯さんのもう一人の人格、アテムさんに会ってどうするんですか?」

「決まっている。決着をつける。それだけだ。
 奴が帰還する前に俺とデュエルをさせればいいだけのことだ。
 たとえもう一つの世界の俺が認めたとしても、この俺は認めたわけではない。」

 複雑な事情を抱えているようですね。
 海馬さんは、どうしても再戦したいのでしょう。
 その為に元の世界では色々やっていたとのことですし。

「……さて、確認だけでもしておきましょうか。」

 此処は殺し合いの舞台。
 いつまでもこうやって雑談に興じているつもりはありません。
 一度目を閉じ、深呼吸をしてから私は席を立ち、死体と向き合います。
 今まで観察すらもできなかった首輪。偶然や、別れこそ色々あったものの、
 ついにこれを調べることができる状況にはなったのは紛れもない事実でしょう。

830インタールーダー ◆EPyDv9DKJs:2025/06/06(金) 02:55:49 ID:CDerigb60
 常に進化と言う前を向き続けたジャックさん、
 自分の死すら厭わず勝利のために貢献した冥王さん、
 死ぬと分かっていても全力で戦い抜いていった野原さん。
 誰よりも一般人でありながら一歩を踏み出した百雲さん、
 彼を助けようと一人で謎の存在を追いかけていった大我さん。
 神を降臨させるという偉業を成し遂げて勝利に導いた海馬さん。
 そして、一人怪物に立ち向かうのを決意して残った橘さん。
 あの場にいた皆は散り散りに、別れたり亡くなったりしましたが、
 誰もが絶望的な状況の中でも抗い続けた、鎮守府の皆と同じような存在。
 私も立ち止まってはいられない。制海権を奪還すると決めたあの時のように、
 前に進まないと、今まで亡くなってしまった方達にも示しがつかない。
 冥王さん曰く凄まじい妖刀(村雨)があるので、首を絶つことは大丈夫だと思い、
 支給品から取り出そうとすると、柄を握ると同時に、ぞわりと来る悪寒が全身に駆け巡る。

(これ、何? こういうのに詳しくない私でもこれはダメだって思える……!)

 妖刀から『握るな』とでも言わんばかりの不穏な感じに背筋が凍る。
 これが帝具と知らない以上、帝具による相性問題と私は気づくことはなかった。
 斬られるだけで死を確定させるとされるとんでもない妖刀だと言うことがよく分かる。
 これは……こういう時には使えるとしても、あんまり使いたくはないとなるものだ。
 なんて言えばいいのかな。握ってるだけで蝕まれてるとでも言うべきなのかな。
 とにかく、早急にこの刀から手を放したい。そんな気分に襲われていた。

「海馬さん。別室で待機をお願いできますか?
 血が飛び散るでしょうし、その、余り見られたくないので。」

 殺した相手ではあるし、神なのはあの戦いで確定している。
 それでも、やはり参加者の首を絶つ行為には抵抗はあるし、覚悟も必要だ。
 人に見られるというのも気分がいいものではないので席を立つように促し、

「俺は哨戒でもしておく。早急に終わらせろと急かすことはせん。」

 冷たいものの気遣ってるのかどうかわからない発言と共に、
 海馬さんは席を立って後ろの車両へと移動してくれました。
 うーん、難しい。あの人との接し方は何が最適解なのでしょうか。
 アテムさん、基遊戯さんならわかるのかもしれないことですけども。

「……よし。」

 覚悟はできた。後は実行に移すだけである。
 自分を斬らないように、ゆっくりと狙いを定め、首を絶つ。
 人の首ってうまくやらないと中々切断できないって言うけれど、
 この妖刀が凄まじい業物だからなのか、私でも簡単に断つことができた。
 軍刀を持つ木曾とかが此処にいたのなら、もっと驚いていたのかもしれませんね。
 ゴロン、とポセイドンの何も見ていないその冷たい瞳がこちらを見るように転がっていく。
 凄く嫌な気分だ。敵だとしてこの気持ちなら、仲間だった人達ならどんな気分なんだろう。
 死体だからか、それとも大量に血液を流し終えてしまった後だったからか、血はそれほど出なかった。
 元々片足を喪って腕もあり得ない方向にぐちゃぐちゃの、あの状態で動けてたのが奇跡な程の状態だ。
 多分、その辺が理由なんじゃあないかなと考えるものの、それは今考える必要のないことなので隅に置きましょうか。
 敵ではあったのは間違いないし、人間なんかの私に触られるのも許されないとは思いつつも、
 そのままというのも忍びないので、私は目を閉じさせてから、首輪を回収することに成功しました。
 これで冥王さんと合わせて自由になってる首輪は二つ。首を遺体のところへと置いた後、
 海馬さんがいる別室の方へと向かうことに。

「明石、確か貴様の支給品に余っていたのがあったな。
 それが工具か何か……があれば、直ぐに使っているか。」

831インタールーダー ◆EPyDv9DKJs:2025/06/06(金) 02:56:32 ID:CDerigb60
「はい。残念ながら工具とかそういう類ではありませんでした。」

 海馬さんもデュエルディスクを開発したりと、
 相当にメカニックとしての腕が立つようではあります。
 しかし、私達には肝心の解体して中身を確かめる手段がありません。
 最悪村雨とかで斬って中身を見てしまえばいいのかもしれませんが、
 サンプルがいくらジャックさんや野原さんのが余ってるとは言え貴重でしょう。
 放送では首輪をトレードできるNPCもいるとのことなので、無暗な破壊は厳禁だ。
 檀黎斗って人はゲームを、殺し合いをクリアすることも視野に入れてる発言が多かった。
 だから首輪の数は、この戦いで敵となる侍(縁壱)や倒したとはいえポセイドンのような、
 強力な敵と対抗できる武器になるかもしれない。だったら首輪の状態は間違いなく大事だ。

「んー……ん?」

 外れた首輪の内側とかを試しに調べてみる。
 裏側を凝視してみるけれど、出た答えは……普通の一言でした。
 サイズ的に考えて、爆薬が本田って人のを想定すれば人は殺せるでしょう。
 ……でも。これ───人しか殺せるだけの爆発が発生するとは思えなかった。
 これはただの爆弾付きの首輪。そうとしか言えないぐらい普通の出来でしかない。
 こんなもの作るつもりはないけど、作ろうと思えば私でも作れてしまうような代物だ。
 これで本当にポセイドンとか、それに比肩する参加者が殺せるのかと言う疑問は尽きなかった。

「海馬さん!」

 流石に気になったので、海馬さんにも伺います。
 冥王さんの首輪は彼が持ってるのでそれと比較したいと。
 止める理由もなかったのですぐに渡され、それを見比べてみます。
 首の大きさによるサイズ差はあれど、やはり構造はどちらでも同じに近い。
 同じく海馬さんに意見を伺おうと、逆にポセイドンの首輪を渡しておきます。

「……確かに、異様に簡素なつくりになっているな。何が入ってるか次第、だが。」

「そうですよね……神を殺すなら爆薬ではなく、もっと違う何かを使うと思いますし。」

「ヒュドラの毒でケイローンやヘラクレスが死ぬ神話もあるからな。
 仕込まれてるのが爆発だけでなく、毒とかであれば話は別なのだろう。」

「毒やウイルスですか……」

 少なくとも艦娘の世界、デュエルモンスターズの世界、仮面ライダーの世界。
 様々なものが混ざり合ったこの世界において未知の毒があるかどうかで言えば、あるはずだ。
 跡形も残らず消えてしまうような、特殊な毒素とかがあるとしても別におかしくはないはず。
 ……下手に壊そう、なんて発想に至らなくてよかったかも。私の世界だと毒とかあんまり縁がないから、
 海馬さんからの助言は中々に助かりました。

「となると、毒への耐性か毒に詳しい方……これだと、大我さんと別れたのは勿体ないですね。」

「同じ医者である宝生永夢が死んだ今、奴が現状把握できる唯一の医者だ。
 そういうのに詳しい奴が他にいない現状、奴の生存に賭けるしかあるまい。」

 百雲さんと大我さん、無事だといいんだけどなぁ。
 でもあのNPC、今まで見たのと雰囲気が違うっぽいし、
 なんだか大丈夫かなと不安にさせられてしまうところがある。

『悲観的だな、小娘よ。』

 ……もっと前向きにならないといけない。
 なんだか冥王さんにそういうつもりはなかったとしても、
 あの言葉は私にはそれなりに意味のある言葉だったと思ってます。
 後ろ向きでいるだけじゃだめだ。復讐とちょっと危ない目的だったけど、
 あの人(モンスター?)のようにもっと邁進するようにいかなくちゃ。

「当面必要なのは工具、それと中身が何かを知る手段ですね。
 参加者ごとに爆弾とも限りませんから、その辺も警戒しておかないと。」

「機械弄りができるモンスターがいれば安全策だろうが、
 そう簡単にいるわけもない、か。解析できる場所を探すのも視野に入れよう。」

 電車の中で二人きり。目的は次々と増えていきます。
 遊星さん達との合流、首輪の中身の解析、そして首輪の解除の手段。
 或いは、生きてる人にしか機能しないとかの可能性も視野に入れておきたいところかも。
 やることは本当に山積み……でも、慣れたものだ。鎮守府のショップに装備の改修に修理に、
 更に出撃も兼ねていたのがこの私、工作艦明石ですから。これぐらいのことは大丈夫ですよ。
 ですから、必ず戻りますので待っていてください───提督。

832インタールーダー ◆EPyDv9DKJs:2025/06/06(金) 02:59:14 ID:CDerigb60
【D-3/午前手前 爆走軌道フライング・ペガサス内/1日目】

【海馬瀬人@遊☆戯☆王】
[状態]:心身の疲労(中)、リゼを見捨てた後悔、フライング・ペガサスに乗車中
[装備]:海馬瀬人のデッキ(オベリスク入り)&新型デュエルディスク@遊☆戯☆王THE DARK SIDE OF DIMENSIONS
[道具]:基本支給品×2(自分、無惨)、深淵の冥王の首輪
[思考・状況]基本方針:この決闘を粉砕したのち、アテムと決着をつける
1:檀黎斗と、あの異形(無惨)と闘うための方法を模索する。あの自称神はこのオレが粉砕してくれるわ!
2:首輪を解除したい。遊星とやらはどれほどのものか。
3:アテム及び共に存在しているであろう遊戯を探す。だが今は遊星とやらと合流だ。
  そうそう死ぬとも思えないが、凡骨共が死んで心に隙が生まれれば万が一があるかもしれない。
  器の遊戯の実力にも興味がある
4:残酷にも殺された少女(条河麻耶)のように闘う意志も牙も持たぬ参加者と遭遇した場合、保護も検討してやろう。
5:ジャック、冥王、貴様らを認めてやろう。貴様達も王だとな。
6:首輪の解析ができそうな場所を探しておきたい
[備考]
※参戦時期は本編終了後から映画本編開始前のどこか。
※心意でオベリスクの巨神兵@遊☆戯☆王を手に入れました
※首輪に毒素か何かが参加者次第であると思っています

【明石@艦隊これくしょん】
[状態]:ケッコンカッコカリによる強化(耐久や幸運以外意味なし)、両足に傷(走るのに少し苦労する程度に負傷)、疲労(大)、精神疲労(大)、フライング・ペガサスに乗車中
[装備]:指輪@艦隊これくしょん、大地鳴動『ヘヴィプレッシャー』@アカメが斬る!、神月アンナのデュエルディスクとデッキ@遊☆戯☆王ZEXAL
[道具]:基本支給品×5(自分・ジャック・しんのすけ・ポセイドン・うさぎ)、一斬必殺村雨@アカメが斬る!、454カスールカスタムオートマチック@HELLSING、オルタナティブ・ゼロのデッキ(サイコローグは消滅のためブランク状態)@仮面ライダー龍騎、ランダム支給品×0〜1(確認済み、治療系の類ではない)、ジャックのデュエルディスクとデッキ(心意カード+冥王結界波入り)@遊☆戯☆王5D’s
[思考・状況]基本方針:ハ・デスを倒して生きて提督の下(元の世界の方)へ帰る。
1 :蛇王院さん……無事でしたけど、素直に喜んでいいのかなぁ。
2 :九時間ほど散策して、指定の場所に遊星さんと合流。
3 :帝具、ちょっと調べたくなってしまいますねー。
4 :首輪を解除できるだけの装備や環境を整えないと。首輪は確保できましたが。
5 :特体生って艦娘余裕で超えてるじゃないですかやだー!
6 :ジャンヌには最大限警戒。あれがゴロゴロいたら艦娘ですらかませなりますよ!
7 :あの寺何怖いんだけど!?
8 :ジャックさん、冥王さん、野原さん……
9 :フライング・ペガサスで真っすぐ向かいましょう

[備考]
※改装後、ケッコンカッコカリ済み、所謂ジュウコンなし、轟沈経験ありの鎮守府の明石です。
※艤装はありませんが、水上スキーそのものは可能です。
 時間制限については特に設けてませんが長時間は無理かなと。
※指輪は没収されていませんが、偽装がないため耐久以外ほぼ意味がありません。
※蛇王院、遊星と情報交換しました。
※ジャックのデッキで心意システムで生成できるカードはレッド・デーモンズ(或いはレッド・デーモン)関係のみで、
 かつ必ずシンクロ素材にレッド・デーモンズ・ドラゴンを素材としたものでなければ発生しません。
 必要なものが指定されてる代わりに、心意の条件は他の参加者よりも緩い条件になってます。
 現在生成されたのは以下の通り
 レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント@遊戯王ARC-V
 琰魔竜 レッド・デーモン@遊戯王OCG
 琰魔竜 レッド・デーモン・アビス@遊戯王OCG
 琰魔竜 レッド・デーモン・ベリアル@遊戯王OCG
 琰魔竜王 レッド・デーモン・カラミティ@遊戯王OCG
※シグナーの痣がないため現時点では赤き竜の由来カード、
 スカーレッド・ノヴァとセイヴァー・デモンは出せません。
※サイコローグはオベリスクの攻撃で消滅したため、
 ブランク状態になっています
※首輪に毒素か何かが参加者次第であると思っています

833インタールーダー ◆EPyDv9DKJs:2025/06/06(金) 02:59:29 ID:CDerigb60
投下終了です

834 ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:00:50 ID:zKXIPIHA0
皆様投下お疲れ様です。自分も投下します

835それから目を逸らすな ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:01:57 ID:zKXIPIHA0
敵に背を向け逃走に徹するのは、冴島鋼牙にとってあるまじき行動だった。
深追いを諫められたことはあれど、剣の届く距離に敵がいて尚戦闘の中断を選択。
しかも本来なら率先し盾となるべき己が、他者へその役目を押し付けたのだ。
魔戒騎士として恥ずべき失態と罵られても、当然である。
自らの不甲斐なさへ多大な怒りを燃やし、威圧感が狭い車内をたちまち満たす。

尤も、同乗者もまた鋼牙と似たり寄ったりの状態であった。
運転に集中する間、無力感と力への渇望に苛まれ気を抜けば爆発し兼ねない。
安易に話しかけるのを憚れる幻徳も鋼牙同様、無言を貫き早数十分。
重苦しい空気が一向に消えない中、静寂を木っ端微塵へ変える声が響き渡った。

「っ、あれは……!」

突如天空へ映し出された男へ、流石に猛スピードの運転を続けてはいられない。
定時放送を聞き逃せば後々困り果てるのは自分達だ。
急停車し聞く態勢を取らざるを得なかった。
相も変わらぬハイテンションぶりで参加者を苛立たせる神を、三者三様に見上げる。
怒りを籠めた瞳は前の席の二人から、眠た気で感情を読み取れないのは後部座席から。
必要不可欠な情報へ頼んでもいない挑発染みた言動をプラスし、傲慢さをこれでもかと表す高笑いで放送は終了。
今後も6時間毎にストレスを味合わされると思うと、非常に頭が痛むがともかく。

「そう、か…みふゆはやっぱり……」

明るい色の混じらない声が、意識しないままねむから零れ出る。
何もおかしくはない、むしろ呼ばれなければ不自然な名前だ。
異常と言う他ない金髪の偉丈夫の強さを考えれば、みふゆが助かる確率は1%あるかも怪しい。
最期を見ずとも、こうなると車内の全員が理解出来た。
運良く生き延び何食わぬ顔で合流、などと都合の良い展開が起きる筈もない。

836それから目を逸らすな ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:02:43 ID:zKXIPIHA0
そう分かっていて、みふゆが足止め役を引き受けたのに反対もしなかった。
自分の選択に後悔はない。
なのに改めて死を告げられ、「そうだろうな」と簡単に流せないでいる。
痛みと呼ぶには小さく、けれど無視するには何故か躊躇が生じる感覚。
ドッペルの暴走を止める為に命を賭した時とは違う。
自分に後を託し逝った彼女へ、何一つ感じられない程心を冷たくは出来ず。
みふゆの最後の頼みを受け入れらないと、あっさり切り捨てるのに後ろめたさを隠せない。
いろはと灯花以外の参加者は皆、利用可排除の二択と既に覚悟を決めた。
だから一番初めに会った御伽龍児だって、魔力温存を理由に助けなかったのに。
今更になって罪悪感でも感じたのかと、自身へ内心吐き捨てる。

(後は、彼女も生き延びられなかったようだね)

少なからず波打った胸中を誤魔化すように、知っているもう一人の脱落者へ意識を傾けた。
フェリシアの死亡に強く動揺は抱かない。
自分とは接点が薄く、まして元々敵対関係にあった魔法少女。
他参加者にマギウスの警戒を触れて回る者が、一人減った事実は歓迎すべき。
灯花も同じように思うに違いない。
ただ前々からフェリシアと仲間だったいろはは、きっと深く悲しむ
ういと自分達を失い、また新たに喪失の痛みを刻み付けられ頬を濡らしているだろう。
よりにもよって自分と灯花が、いろはが最も望まない形で魔法少女の救済に動いてると。
傍にいて欲しいという願いを裏切り、悲しませる側になったのにはあえて深く考えずにおく。

「あいつが……」

脱落者の発表で、ねむ以上に動揺を引き出されたのは幻徳だ。
猿渡一海。パンドラタワーでの決戦で消滅した仲間は、殺し合いで二度目の死を迎えた。
既に喪失を味わった相手だからと、軽々しくは扱えない。
再会し、他愛のない軽口を叩き合い、肩を並べてもう一度戦う。
思い描いた光景が実現する、そう心のどこかで根拠もなく信じていたのだろう。
自身の知らぬ所で一海が死んだ事実へ、涙こそ流れずとも殴られたような衝撃が走る。

自分も一海も本来なら死んだ身。
新世界創造は戦兎達に託しており、この地で力尽きても構わない。
ただそれでも、叶うのであれば仲間達には生きて欲しかった。
野心に憑りつかれ、引き返せない程の罪に手を汚した自分とは違う。
本当だったら戦争とは無縁の、仲間に慕われる農場の気さくな兄貴分の一海は。
戦いの中で死んで良い人間じゃあなかった。

837それから目を逸らすな ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:03:29 ID:zKXIPIHA0
「零……」

そして最後の一人、鋼牙にも喪失感は容赦なく襲い掛かる。
自身を仇として付け狙い、時に幾度も斬り結んだ銀牙騎士。
衝突の果てに無二の友情を結んだ涼邑零もまた、6時間を生き延びれられなかったらしい。
有り得ないと、親友の実力を知るが故の激しい否定は出来ない。
牙狼の鎧を纏って尚、勝ち目がまるで見えなかった存在と一戦交えているのだ。
魔戒騎士の命を奪う程の参加者が他に複数人いても、何らおかしくはない。

かといって、はいそうですかで簡単に割り切れはしない。
心からの信頼を置く友が、もうこの世にはいないと告げられた。
それも神を自称する狂人の口から、嘲笑うも同然にだ。
バラゴに父を侮蔑された時にも劣らない、猛烈な怒りが渦巻く。
同時に自身を形作る大切なものが一つ、零れ落ちて二度と戻らない喪失感が苛む。
広く大きな背を見続けた父、同じ釜の飯を食い強くなると誓い合った同胞(はらから)。
彼らと同じ場所へ零も旅立った。
決して慣れない痛みは、暗黒騎士や海神に斬られた以上に深く傷を残す。

檀黎斗に命じられるまま優勝を目指し、死者の蘇生に縋り付く気はない。
最期をこの目で見ずとも、共に戦った男達には分かる。
一海も零も、誰かを守る為に足掻き命を散らしたのだと。
守るべき者を理不尽に奪われた彼らが、自分達の蘇生の為に罪なき命が犠牲となるのを喜ぶ訳がない。
屍を積み上げた先の奇跡を望まないことを、幻徳と鋼牙は理解している。
なれば方針を変えるつもりもなし、必ずやゲームマスターを討つ。

尤も、それはそれとしてやはり仲間の死は精神的も堪える。
加えて十分予想が付いた事とはいえ、みふゆの死も放送で確定となった。
生き返った理由を見出せず悩み、もう少し頑張ろうと告げた彼女の顔を思い出す。
殺し合いから生きて帰り、失った筈の未来へやり直す機会があった筈。
彼女の犠牲により生かされた幻徳はただ、己の弱さを何度恨んでも恨み足りない。
もっと力さえあれば、強ければこうはならなかったんじゃないか。
そう悔やんだ所で後の祭り、失われた命が帰って来る奇跡は起きない。

838それから目を逸らすな ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:04:56 ID:zKXIPIHA0
「……取り敢えず、どこか休める場所に行った方が良い。僕はともかく、お兄さん達は座ってるだけでもつらいだろう?」

重々しい沈黙が長続きする前に、抑揚のない声で休息を提案された。
言われた途端、思い出したように体中が痛みを訴える。
逃走に集中し意識が外れていたが、自分達は重症の身だ。
特に鋼牙の傷は深い、魔戒騎士の並外れた体力と気力で持ち堪えているが放置すれば死は時間の問題。
これ程の傷、医療機関で処置を行う以外どうにもならないのではないか。

「僕の、いや、正確に言うとみふゆの支給品に治せる道具があった。それを使うといいよ」
「それは……」
「まあ、僕の言葉が信じられない気持ちは分かるけどね」

ねむ自身、信頼を容易く勝ち取れるなど微塵も思っていない。
みふゆから自分と灯花の悪評を聞かされ、警戒心を抱くのは当たり前のこと。
助ける振りをして、実は弱り切った所へトドメを刺す気じゃあるまいか。
なんて疑念を幻徳が抱いたとしても、当然だろうなとしか思わない。
尚も信じようとする人間は、それこそいろはくらいだろう。

「いや……俺は信じる……」

助手席からの苦し気な声に、眠た気な瞳が僅かに揺らぐ。
額に汗を浮かばせ、迫りつつある死へ必死に抗う表情は最初に会った時以上に険しい。
けれどねむを見つめる瞳に、怒りや責める意志は宿っていない。
治療に必要な道具欲しさで、機嫌を取るのとも異なる。

「身を隠せる場所に向かってくれ……ねむなら大丈夫だ……」
「……分かった。どの道ここで議論を続けても、時間を無駄にするだけだな」

鋼牙の言葉を受け、多少の戸惑いを残し車を再発進。
今言った通りだ、行動に移さねば何も変わらない。
みふゆに生かされた命が無意味に尽きるのは、幻徳だって望んでないのだから

839それから目を逸らすな ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:05:43 ID:zKXIPIHA0
雪がそこら中に積もった道を走らせ、やがて錆び付いたゲートの前に到着。
白井農場、塗装の剥がれた柵に貼り付けられた名前を三人は知らない。
耕作や牧畜目的の施設なれど、本来の用途で使われた痕跡は見当たらなかった。
一本道を進んだ先に一軒家がポツンと建ち、一先ずそこを休憩場所に決定。
玄関扉に手をかけ、開けた途端に冷えた空気が来訪者達を迎え入れる。

鋼牙に比べれば幾分消耗もマシな幻徳が先頭を行き、室内をざっと確認。
自分達以外の気配は感じられず、取り敢えずは多少警戒を緩めても問題無し。
一先ずの安全を確保し終えたなら、次にやるのは傷の治療。
ねむの言葉に嘘は無く、デイパックから件の道具を取り出した。

巨大な花の蕾、そうとしか表現できない奇妙な物体。
床に置くと花開き、上に乗るよう二人の男へ指示。
困惑を挟み言われた通りにしてみれば、すぐに効果が表れた。
一瞬で、とまではいかずとも傷が徐々に塞がり出す。
思考を鈍らせる痛みが引いていき、ふと疑問が声に出た。

「さっきの戦いでもしこれを使っていれば……」
「それは難しいと思うよ。この道具の上でじっとしてないと、傷も治らないからね」

回復が済むのを大人しく待ってくれる敵でなかったのは、三人全員理解している。
だからみふゆも、あの場で道具を呑気に使う選択を真っ先に外したのだろう。

やがて効果時間も切れ、展開した道具は跡形も無く消失。
完治まではいかずとも、重症からは復帰出来た。
後は残る負傷箇所へ処置を施し、休憩も兼ねて各々の持つ情報を改めて開示。
体力の回復を見計らって再度出発。

となる前に、ハッキリさせねばならない事がある。

840それから目を逸らすな ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:06:26 ID:zKXIPIHA0
「さてと、そのままでいいから聞いて欲しい。いや、どちらかと言うとお兄さんの方が僕に聞きたいことがあるのかな」

切り出した声色はこれまでと同じ、緊張の類が宿らぬもの。
しかし他愛のない雑談でないとは鋼牙にも分かる。
聞きたいことがあるか否か、答えは勿論前者。
先の戦闘でねむが見せた奇妙な力一体何なのか、何故自分に力を隠していたのか。
至極当然の問い掛けを口に出すより早く、ねむの瞳がもう一人へ向けられる。

「みふゆから聞いた話を、お兄さんにも伝えてあげてくれないかい?」
「……良いのか?」
「構わないよ。何を言われたかは想像が付くし、間違ってもいないだろうからね」

自身の立場が危うくなるだろうに、問題ないと言う。
これには幻徳の方が却って戸惑いを覚えるも、ややあって口を開く。
みふゆから聞いたマギウスの二人について、危険性と元居た世界で何をやったのかを。

「俺が梓から聞いたのはこれが全部だ。それで、お前は本当に……」
「そうだね、みふゆの話に嘘はないよ」

あっけらかんと肯定すれば案の定、黙って聞いていた鋼牙の顔も険しさが増す。
争いを知らない少女なら怯えるだろう表情にも怯まず、眼鏡越しに視線を合わせる。
分かり切っていた反応だ、警戒するなと言う方がおかしい。
殺すまではしなくても、拘束と無力化くらいはされても不思議はない。
傍から見れば自分の方が良からぬ真似をされてそうだと、どこか能天気に思う。

「二つ程聞いておきたい。檀黎斗に従って殺し合いに乗る気はないんだな?」
「無いよ。彼の持つ願いを叶える力に興味はあるけどね」

嘘は言ってない。
魔法少女…最優先でいろはの救済を目的にしてはいるが、優勝を目指す気は皆無。
黎斗が素直に願いを叶える保障はどこにも無く。
何より、いろはと灯花が参加している以上プレイヤーの皆殺しを選ぶ筈もない。
主催者の持つ力を奪い取って、自分達の望みを叶える。
その過程で犠牲が必要なら、躊躇なく切り捨てるが。

841それから目を逸らすな ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:08:00 ID:zKXIPIHA0
「それで、もう一つは何を聞きたいのかな?」
「環いろはを守って欲しいと言った事は、打算のない本心か?」
「…………」

今度はねむの方が言葉に詰まる番だった。
神に選ばれた駒の中で、最も心を掻き乱す存在。
己の幸福全てを投げ打ってでも、助けたいと心から望む魔法少女。
最愛の二文字が最も当て嵌まるいろはの話に、偽りを混ぜたのか。
尋問されている訳でなく、怒声を放たれてもいない。
だけど、この問いにだけは下手な誤魔化しを言う気になれなくて。

「……本当のことだよ。少なくともいろはお姉さんは、お兄さんに警戒されるような人じゃない。
 僕を敵と見なしても構わないけど、お姉さんだけは守ってあげて欲しい」

放送で名前が呼ばれなかった以上、先の6時間はいろはもどうにか生き延びたのだろう。
なれどこの先もずっと無事が保障される訳じゃない。
自分達や七海やちよよりも付き合いの浅い者を助けようと、無茶ばかりを繰り返してやいないか。
下手をすれば、自分と灯花が魔法少女の救済を果たす前に命を落とす可能性とてゼロに非ず。
鋼牙からすればムシの良い話と取られても、反論は出来ない。
それでも、いろはを守ってくれと伝えたのは嘘偽りない本心からだ。

「分かった。なら約束を違えるつもりはない。お前も、お前が大切に想う者も必ず守る」

だから迷わず返って来た言葉へ、訳も分からず動揺が走った。

「いろはお姉さんのことは感謝するけど、僕も、かい?」
「真実を隠していたとしても、それでお前を守らない理由にはならないだろう」
「都合良く利用されて、用が済んだら切り捨てられるかもしれないのに?」
「なら余計に、お前の手を汚させない為にも離れるつもりはない」

ねむが隠していた魔法少女の情報を知り、気を張っておくべきとは考えた。
だが彼女を見捨てる、或いは今後敵として扱うなど。
謂わばねむが予想したような行動に出るつもりはない。
たとえ打算込みの選択であっても、自分や幻徳達を助ける為に魔法少女の力を使ったのなら。
いろはを守って欲しいという願いに、偽りが宿らないなら。
それだけで鋼牙が戦う理由になる。
守りし者の使命を果たす事へ、一切の躊躇を必要としない。

842それから目を逸らすな ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:08:50 ID:zKXIPIHA0
「……、……そうか。じゃあ、好意として有難く受け取らせてもらうよ」

本気で言ってるのかとか、どうしてそうまで自分を信じられるのかとか。
寸での所で疑問を飲み込み、動揺を隠し淡々と返す。
監視の目が厳しくなるとはいえ、今後も戦力として期待出来るのだ。
なら別に問題ないだろう。
一体全体何をムキになって、言い返そうとしたのか。
睨み付けてはいなくとも、力強い眼差しの鋼牙から瞳を逸らす。
話さなくても良い事まで言ってしまいそうな、自分の間違いと真正面から向き合わされるような。
後ろめたさにも似た居心地の悪さがあった。

「君も、お兄さんと同じ考えなのかな」
「お前が誰かを傷付けないよう、近くで見張っておくなら俺も賛成だ」

問われた幻徳の答えは、鋼牙同様ねむへ危害を齎す気はないというもの。
この目で力の一端や、小学生らしからぬ落ち着きようを見ても。
エボルト並に危険な少女とは、未だ実感が湧かない。
かといってみふゆが嘘を吐いたとも思えず、警戒は払うつもりだ。
ただそれとは別に、言っておきたい事があった。

「もし過去にやって来た事や、梓の死に少しでも思う所があるなら……それから目を逸らすな。
 罪の意識すら感じなくなった時は、本当の意味で手遅れになる」

パンドラボックスのエネルギーを浴びたせいと、言い訳する気はない。
禁断の箱が齎す悪影響で野心に憑りつかれ、どれだけの罪に手を汚して来たのか。
何人を実験で使い潰した、幾つの悲劇を生み出した。
今更になって過去の行いを悔いても、失った命は戻って来ない。
「お前の罪は消えない」、元凶である星狩りの言葉は何も間違いじゃあないのだ。

罪の意識に苦しまない自分であったら。
腕の中で息絶えた父に、涙を流さない己であったら。
戦兎達と共に、ヒーローとして戦う光景は実現しなかった。
最後の最後まで救いようのない悪党(ローグ)として終わる、有り得たかもしれない末路を。
ねむが辿るのを、幻徳も望んではいない。

843それから目を逸らすな ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:09:47 ID:zKXIPIHA0
「……忠告は受け取っておくよ」

痛い所を突かれた自覚があるのか、僅かに言い淀んだ後。
結局返せたのは、そんな無難な一言だけだった。

鋼牙との決裂も覚悟していたが、そうならずに済んだ。
放送前よりも監視の目が強くなるとはいえ、荒事を押し付けられる人材としては今後も期待出来るだろう。

(悪くはない、筈なんだけどね……)

最悪の事態と悲観するにはまだ早過ぎる。
自分も灯花も、いろはも未だ生存中。
金髪の偉丈夫のような桁外れた参加者こそ存在すれど、立て直しは十分利く範疇内。
やることは変わらない、何を犠牲にしてでもいろはを救う。

だというのにどうしてか、心の何処が微かに軋むような錯覚を覚えた。


【B-2 白井農場/一日目/朝】

【冴島鋼牙@牙狼-GARO-シリーズ】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、自分への強い怒り
[装備]:冴島鋼牙の魔戒剣@牙狼-GARO-、魔導火のライター@牙狼-GARO-、
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜4、首輪(星合翔李)
[思考・状況]
基本方針:守りし者として人々を守る。この決闘も終わらせる。
1:ねむを守り、彼女の友人を探す。約束を違える気はない。
2:逃げた男(野獣先輩)から必ず仮面ライダーの力を取り戻す。
3:首輪の解析が出来そうな参加者を探し、この首輪を託す。
4:零……
5:葛葉紘汰、あの男の事は忘れない。
6:あの黒い騎士(葉霧)は何者だ…?
[備考]
※参戦時期は牙狼-GARO- 〜MAKAISENKI〜終了後

【柊ねむ@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)】
[状態]:健康、魔力消費(中)、いろはの存在へ動揺、黄金騎士への複雑な感情
[装備]:フリーザの小型ポッド@ドラゴンボール
[道具]:基本支給品一式×2、ガシャットギアデュアル@仮面ライダーエグゼイド、ランダム支給品×0〜3(みふゆの分含む)
[思考・状況]
基本方針:手段を問わずに主催者の力を奪って魔法少女を救済する。
1:これで良い、筈……。
2:鋼牙お兄さん達と行動。荒事に関しては彼らに任せよう。
3:魔法少女への変身はなるべく控える。つもりだったけど…。
4:灯花とも合流しておきたい。
5:七海やちよは邪魔になるなら排除。
6:もしいろはお姉さんと会ったら僕は……。
7:希望…馬鹿馬鹿しいよ……。
8:ドッペルが使えたのは何故だろう?
[備考]
※参戦時期は死亡後。

844それから目を逸らすな ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:10:38 ID:zKXIPIHA0
【氷室幻徳@仮面ライダービルド】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、無力感と力への渇望(大)
[装備]:ロストドライバー+スカルメモリ@仮面ライダーW、軍刀@ゴールデンカムイ
[道具]:黒塗りの高級車@真夏の夜の淫夢
[思考・状況]
基本方針:黎斗達を倒して殺し合いを止める。
1:冴島達と行動。柊に警戒しておくが、間違いを犯す気なら止めたい。
2:梓…すまない……。
3:エルフの少女(コッコロ)とユウキを知る者にキャルの伝言を伝える。
4:エボルト、里見灯花、カイザーインサイトを警戒。
5:俺にもっと力があればこうならなかったのか…?
[備考]
※参戦時期はTV版で死亡後。


『支給品解説』

【回復フィールド@大乱闘スマッシュブラザーズシリーズ】
『スマブラSP』に登場する回復アイテム。
最初はつぼみのような形をした投擲アイテムで、投げて地形に付けるとフィールドが展開され中に入っている間だけ回復できる。
自分(味方)だけでなく相手も回復させるが、相手の回復量は自分よりも少ない。
相手にぶつけた時は然程威力はないものの、低い角度でふっとばせる。


『施設解説』

【白井農場@仮面ライダー剣】
B-2に設置。
白井虎太郎の親代わりの叔父が、虎太郎に遺した物件である農場。
広い敷地内に虎太郎の自宅である古い2階建ての一軒家があり、玄関先には『白鳥号』と呼ばれるクラシックカーが駐車されている。
第1話でアパートを追い出された剣崎が、第2話からBOARDを失った栞がそれぞれ居候を始めアンデッド対策の拠点となった。

845それから目を逸らすな ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:11:20 ID:zKXIPIHA0
投下終了です

846 ◆EPyDv9DKJs:2025/06/06(金) 16:35:12 ID:CDerigb60
拙作「Successor Soul」ですが、
MNRの首輪を回収した描写が抜けていたので修正しました
同時に、Lの支給品にMNRの首輪があります

847 ◆QUsdteUiKY:2025/06/10(火) 01:33:22 ID:JcD8bctM0
ゲリラ投下します

848百四之巻 始まりの君へ ◆QUsdteUiKY:2025/06/10(火) 01:35:46 ID:JcD8bctM0
日常を謳歌していた二人の少女は、己が刃に想いを乗せる――
 
永遠の刹那。そんなありもしない幻想を懐くのは罪なのだろうか――?



 何かを考え込むように、チノの視線の様子がおかしい。
そう気付いた私だけど、なんて声を掛ければいいのかわからない。
 もしもここに零が居たら気さくに振る舞ったり、チノのメンタルケアをしてくれたかもしれないけど――零は死んだから。

 チノが何を考えてるのか、だいたい察しはついている。
 それはきっと檀黎斗が話していた〝願いを叶える権利〟について。
 マヤという友人に続いて、リゼという友人もチノは失っている。ここで僅かな時間とはいえ交流して、仲間になった零や司も殺されている。

『なんで私達がこんな目に遭わなきゃいけないんですか……!
 マヤさんが、リゼさんが、零さんが、司さんが……何か悪いことをしたんですか……!!
 私達が一体、あの檀黎斗って人に何をしたっていうんですか……!!』

 チノがあの時に叫んだ言葉は全くその通りで――だから私は何も答えられなかった。

 私は閃刀姫として戦い抜く過程で、たくさん殺したし喪った。それこそが、戦争だから。
 もしもレイに会う前にチノの問いを聞いていたら〝それが戦争〟なんてあまりにも残酷な真実を突き付けていたかもしれない。
 ……そう、これは戦争とほとんど変わらない。殺し合いだとか、デスゲームと言ってるけど――その残酷さや醜さは戦争と同じ。

 それはいつかチノにも自覚してもらう必要があるけど……二の足を踏んでしまうのは私がレイに出会って我ながら甘くなったから。レイはそんな私を〝好き〟と言ってくれるけど、この甘さはこういう時に困る……。本音を言えば、チノにこのデスゲームの過酷さを伝えたいけど――伝え切れない。

 それでもチノの薄暗くなった瞳はあまりにも哀しくて――私はチノを抱き寄せて、ぎこちなく彼女の頭を撫でる。

「ロゼ、さん……?急にどうしたんですか?」

 チノの少しダウナーな声。
 けれどもその声はいつもより暗くて、か細いように聞こえた。

「チノ。私はチノと――刃を交えたくない」

 だから私は単刀直入に言葉をハッキリと伝える。
 だってここでチノを手放したら、彼女は永遠に暗い道を歩むことになりそうで――それはまるで、過去の私みたいに。
 ……事情は違う。過去の私は列強国に騙されてた、ただの殺戮者で――チノはおそらく尊い願いのために闇が連なる道を歩もうとしている。

「……ロゼさんには、わかってたんですね」

 チノが申し訳なさそうな声音と表情で私を見る。
 そう。私はチノの迷いを、理解していた。出会ってまだ短いけど……チノとその友人。特にココアとの関係性はよく知っている。……チノがココアを特別、好きということも。
 そのココアの名前が放送で呼ばれなかったのは幸いだけど、チノはリゼを含めて多く取り零した。……司や零のことも考えられる優しい少女だから、余計にそう思う。
 
 「……お前が自称神の言葉で心が揺れてることくらい、俺にもわかるぜ」

 凌牙も私と同じで、チノの変化に気づいていたらしい。まだ子供なのに――随分と洞察力に長けてる。というか異常なくらい場数を踏んでるように見える。
 零みたいな明るい雰囲気じゃないけど、彼もまた頼りになる戦士。……あまり子供を戦場に巻き込むのは気が引けるけど、このデスゲームでは戦わなければ生き残れない。だから戦う手段を持つ凌牙は、そういう意味では有利。

 だけどその雰囲気は今、険しくて――チノを警戒してるのがわかる。
 ……きっと私と違って接近戦が得意じゃないから、余計に警戒してる。チノが剣を振るって、それが凌牙に当たれば凌牙が命を落とすか、致命傷を負うことになるから。

「私は……正直、わからないんです」

 必死に絞り出すような、チノの声。
 そこに込められた彼女の苦悶が、よく伝わる。

「それは優勝を狙うべきか、私達と抗うべきか?」

「はい。……優勝をしたら、死んだ人を生き返らせれると放送で言っていました。そしてきっと――そのために必要なのは、人質の美遊さんです」

「なるほど……。たしかにイリヤの話を聞く限り、そういうことになる」

「認めるのかよ。まあ俺も否定はしねぇけど――ロゼ、お前は敵か味方かどっちだ?」

「私は殺し合いに抗って、レイと再び日常を送る。……そこにはチノやここで出会った仲間も居ていいと思ってる」

「ロゼさんは……」

「?」

 チノが僅かに怒気を含んだ声で口を開く。

「ロゼさんはいいですよね!まだ帰るべき日常があって!レイさんが居て――!」

849百四之巻 始まりの君へ ◆QUsdteUiKY:2025/06/10(火) 01:39:27 ID:JcD8bctM0

「チ、ノッ!」

 ダッ!

 チノが剣を片手に私に斬りかかる。

「私の日常はもうグチャグチャです!マヤさんもいなくて、リゼさんもいなくて――喪ってばかりです!」

「それはそう……。チノはあまりにも失い過ぎた……」

 私はチノの言葉を否定出来ない。

「だから私が優勝して、みんなを生き返らせます!変身!」

 ――瞬間、チノの服装が変わった。
 軽い力で受け止めていた刀が、金属音を鳴り響かせて鍔迫り合いする!

「ッチ!こうなったら――」

「凌牙はそこで見ていて。これは私とチノの問題……!」

「随分と余裕ですね、ロゼさん。その余裕はまだレイさんが生きてるからですか!?」

「……たしかにレイが死んだらどうなるかわからないけど――それは違う。冷静に戦わないと、今のチノは止められない」

「止める?このグチャグチャになった私をですか!?」

 ――たしかにチノの表情(かお)はグチャグチャだった。
 色々な感情が混ざって、すごくグチャグチャ。

 そしてチノが鍔迫り合いの状態から剣を弾いて、再び斬りかかる。
 私もまた剣で受け止める。
 そんなことを、何回も繰り返した。

「チノは私が止める。誰も、殺させない」

「ごちゃごちゃ綺麗事をうるさいですね……!」

「たしかに綺麗事かもしれない。でも、チノにだってまだココアが居る!」

「ココアさんが居ても、マヤさんやリゼさんはいないです!」

「それはそうかもしれない!だけど優勝を目指すには、ココアを殺す必要がある!」

 お互い剣戟に交えて言葉を語り合う。
 そして私の言葉に――チノは大きく目を開いた。

「え?私がココアさんを――」

「ロゼの言う通りだぜ、チノ。優勝を狙うなら皆殺しにする必要がある。――その覚悟がお前にはあんのか?」

「……そう。だからチノが優勝するには、ココアも殺さなければいけない。もちろん、他の友も」

「そんな……それだと私が日常を壊してるみたいじゃないですか……」

「……優勝を目指すなら、そうなる」

 その可能性を考慮してなかったのか、チノが一瞬だけ膠着する。

「それなら……!それならどうしたら私の日常は取り戻せるんですか!」

 ――ヒュンッ!
 チノが勢い良く剣を振るう

 ――ガキィィン!
 凄まじい金属音が鳴り響き、私が剣で受け止める。

「残念だけど、一度喪ったものは取り戻せない……」

「取り戻せます!優勝してみんなを生き返らせるのはどうですか!?」

 チノが激情に駆られたように激しく剣を振るい、私は剣でそれらを弾く。
 エンゲージするまでもない。技術の差で身体能力の差は埋められるし――今はこのチノの激情を受け止めてあげたい。荒波のように押し寄せる、チノの怒りを。そして哀しみを。
 そしてチノと対話して、分かり合いたい。
   
「……その過程でココアを殺すとしても?」

「ココアさんはたしかに一度、死ぬかもしれません。でもまた生き返らせれば、ココアさんはきっとまた笑ってくれるはずです!」

「……本気でそう思ってる?」

「当たり前です。ココアさんなら、ココアさんならきっとわかってくれるはずです!」

 ……嘘だ。
 チノは嘘をついて、自分の本心を誤魔化そうとしてる。
 そして私はそんな嘘偽りで覆い隠した心を放置したくない。チノはそんな子じゃないと思うから――助けたい。

「チノ。もう一度言う。喪ったものを――命を軽んじるのは良くない」

850百四之巻 始まりの君へ ◆QUsdteUiKY:2025/06/10(火) 01:40:30 ID:JcD8bctM0
 チノの瞳を真っ直ぐと見て、そう言った。
 そう。命は軽いものじゃない。その重さは――皮肉にも、閃刀姫だからよく理解している。
 ――だから灰色(グリザイユ)の迷宮を彷徨うチノに容赦のない言葉を浴びせる。
 それは彼女を止めたいからでもあるし、しっかり本心と向き合ってほしいから。

 ――チノを殺すのも、制圧するのも。力で止めるのは難しくない。私には凌牙もいる。
 でもそれじゃダメ。そんなやり方は間違っている。
 力で勝つだけじゃ、何かが足りないから。
 時にはこうして剣を交えることも大事かもしれない。そうすることでチノの気持ちを受け止められるなら……。
 でもこれは殺し合いじゃない。私はチノを死なせる気がない。

『時には拳を、時には花を――ですよ、ロゼ』
 
 ――過去にレイが口にしていた言葉が脳裏に蘇る。

 『……よく、わからない』

 当時の私はそんなふうに返事をしていた。もしかしたら困惑気味の表情になっていたかもしれない。

 『いいですか?ロゼ。――闘いの場所は心の中なんですよ』

 ――レイは微笑みながらそう言っていた。
 そしてその言葉は――本当にその通りだと思う。私たちは――閃刀姫は殺戮兵器じゃないから。人間だから。
 殺して、制圧して、身動きを取れなくして――そうやって力で勝つだけだと、殺戮兵器と変わらない。
 だから自分にだけは決して負けない。それが私の誓い。

「……命を軽んじてなんて、ないですよ。むしろ重いです。マヤさんの分も、リゼさんの分も。すごく……重たいです。
 だから――」

「――それなら!」

 私が珍しく発する大きな声に、チノがビクリと怯える。
 でも私の目的はそれじゃない。
 私が言いたいのは――

「それなら、気軽に全員生き返らせるなんて言わない方がいい。それは死者への冒涜」

「……気軽に言ってなんか、ないですよ。ただ私はどうしたらいいのかわからなくて、またみんなで他愛もない話をして日常を過ごしたいだけです。そのために、覚悟を決めたんです!」

「それがココアやチノの友達や、私達ここで出来た仲間を殺すことになっても?」

851百四之巻 始まりの君へ ◆QUsdteUiKY:2025/06/10(火) 01:41:15 ID:JcD8bctM0

「はい。だからみんな生き返らせるんです……!」

「……チノ。自分の言ってる意味がわかってる?」

「わかってますよ!もう私は奇跡に縋るしかないんです……!」

「何もわかってない。マヤやリゼを〝奇跡〟で生き返らせても、きっと彼女達は良く思わない」

「……!」

 チノが一瞬だけ大きく目を見開き――首を左右に振る。

「それはわからないじゃないですか!どうしてマヤさんやリゼさんを大して知らないロゼさんがそんなことを断言出来るんですか!」

 必死に現実を否定するように、チノは怒号と共に剣を何度も振るう。
 私はそれらを自分の剣で弾きながら、口を開いた。

「――それは、チノを信じてるから」

「そんなことマヤさんやリゼさんには無関係じゃないですか!」

「そんなことない。チノを信じてるから――チノの友も優しい心の持ち主だと信じられる」

 それは嘘偽りない私の本音だった。
 レイと深く関わるようになってから本当に考え方が変わった――と我ながら思う。
 以前の私なら、危険要素を秘めたチノは迅速に殺していた。説得なんてしなかった。
 でも今の私は、違う。
 チノを殺戮者にしたくない。チノを殺したくない。私と同じ気持ち――と言っても恋愛感情まではないけど。
 ココアのことをまるで家族のように話すチノを同志と思ってるから……余計にどうしても、肩入れしてしまう。
 
「……っ!」

 チノが言葉を詰まらせる。
 それでも剣は振り続けていた。まるで現実を否定するような、ヤケクソ気味に我武者羅な太刀筋で。
 そんなチノの気持ちを剣で受け止めながら、私は続ける。

「今のチノをココアが見たら、きっと悲しむ。ココアすら一度殺して元通りなんて――世界はそんなにも甘くない。チノに殺されたココアの心は変わり果てるかもしれない」
 
「それ、は……!」

「チノがやろうとしてることは、みんなの命を奪うと同時に魂の殺人。――それはわかってる?」

「それは……たしかにそうかもしれません。でも、じゃあどうしたらいいんですか!」

「悔いが残らねぇ選択をすることだな。ただしチノ、テメェが皆殺しにする覚悟を決めたなら俺やロゼが全力で止める」

 凌牙がそんなことを言う。
 その口調は重くて、彼も何かを背負ってるように見えた。

「俺はダチの遊馬を殺された。だが他人を殺し回ってあいつを生き返らせるつもりもねぇ。そんなことしても――あいつは喜ばねぇし、悲しむって信じてるからだ。――チノ、お前のダチは違うのか?」

 レイがまだ生きてる私と違って友を失った――チノと同じ境遇の凌牙の言葉。
 それはもしかしたら私の言葉よりもチノの心に届いてるかもしれない。

「マヤさんやリゼさんも同じですよ!でも私は日常を取り戻したくて――だから、そのために!」

「――チノ。元通りの日常には戻れないかもしれない。でもココアやメグの名前はまだ放送で呼ばれてない。つまりまだ生きてる可能性が高い」

「……そうですね。ココアさんやメグさんはまだ生きてます。でもリゼさんのいないラビットハウスやマヤさんのいないチマメ隊なんて、そんなの嫌です……!」

「……気持ちはわかる。私もレイを失いたくないから。でもココアやメグまで殺したら、チノは本当に日常に帰れなくなる。たとえ死者蘇生させたとしても……きっとチノの心は壊れて、戻らない」

「じゃあ、私はどうしたら……!」

「まだ生き残っているココアとメグを大切にしたら良い。マヤとリゼは失ったかもしれないけど――この二人とならまだ日常に戻れる可能性がある」

852百四之巻 始まりの君へ ◆QUsdteUiKY:2025/06/10(火) 01:41:54 ID:JcD8bctM0
「……言ったじゃないですか。リゼさんがいないラビットハウス。マヤさんがいないチマメ隊なんて……嫌なんです。もうこうなったら自殺でもした方が――」

 ――パシンッ!
 私がチノをビンタした音が、鳴り響いた。

「な――何をするんですか!」

 チノが動揺気味になりながらも、声を荒げる。

「……チノ。言っていいことと、悪いことがある。チノが自殺なんてしたら、みんなが――私も、悲しむ。だから、やめてほしい」

「こんな地獄みたいな状況でまだ足掻けと、ロゼさんはそう言うんですか!?」

「そう。その代わり――チノやココアやメグは私が守る。約束する」

 そう言って、小指を差し出す。

 『いいですか?ロゼ。何かを約束する時はこうするんですよ。指切りげんまん……って!』

 過去にレイに教わった〝約束〟の方法。
 それを実行するために私は小指を差し出した。

「……わかりました」

 チノも剣を仕舞い、互いの小指と小指を組ませて――

「指切りげんまん。嘘をついたら針千本飲む」
「ありがとうございます。ロゼさん……」

 そうするとチノが瞳からまた雫を垂れ流したから――私は彼女を抱き締めて、ぎこちない手付きで撫でる。

「本当はココアにしてもらいたいだろうけど、今は私で我慢してほしい……」

「我慢なんて……そんなことありません。ロゼさんが優しい人で良かったです……」

 涙声になり、私に抱き締めながらチノはそんな言葉を口にした。

「私も……チノが強くて優しい子で良かった……」

 私や凌牙の言葉で誰かを殺す前に止まったチノは、強くて優しい子だと思った。
 もしもチノが止まらなかったら――本当にどうなっていたかわからない。
 平静を装ってたけど、本当は緊張していたし、不安だった。
 緊張から解放された身体が――思わずよろめきかけて。

「わわっ!大丈夫ですか!?ロゼさん」

「大丈夫。緊張感が抜けて、よろけただけ」

 よろけた私をチノが受け止めて、心配そうに声を掛けてくる。

「それなら良かったですが……ロゼさんも緊張してたんですね……」

「そう。少しだけ……」

「そうですか。本当にありがとうございます、ロゼさん」

 そんな私をチノは不器用な手付きで撫でてきた。
 よろけた態勢を受け止められた状態だったから私の頭はチノの手が届く範囲にもあって……チノのそのぎこちない撫でが、どことなく心地好い。

「でも……ロゼさん。私は、強くないですよ」

「いや……チノは強い。私と凌牙の言葉で止まったチノの心は……強い」

「……それは二人のおかげです。私一人では弱いです。……だからまた私に力を貸してくれないですか?私一人だと、ココアさんやメグさんを守ったりこの殺し合いから抜け出すのは難しいですから」

 チノの言葉に、私は微笑む。
 ……あまりこういう表情にはまだ自信がないから、上手く微笑めてるかはわからないけど。

「言われるまでもない。――さっき言った通り、チノとココアとメグは私が守る。そしてこの殺し合いは私が終わらせる」

「ッたく、しょうがねぇ奴らだな。俺もお前らに手を貸してやるよ。……遊馬でもそうするだろうからな」

 そう口にする凌牙は、言葉とは裏腹にそんなに嫌そうな表情や顰めっ面はしてない。

「ロゼさん、凌牙さん……ありがとうございます!」

 チノは涙を拭うと、私達に微笑んできた。
 そんな彼女を見て、ホッと胸を撫で下ろす。
 本当に強くて、優しい子だと思った。――だから私はチノの笑顔を守れたいと、改めて誓う。

 ◯

 やがて真上に太陽昇り、全てに影を作るように。
 君が不安を感じたとしても――1人きりじゃない。
 君の周りには想いが溢れ……。
 雨上がり虹、大空に青。
 君に自由な翼……。
 迷った時でも、常に前を見て。心届く声、こだまする木々。
 足音は響き……。――さぁ、始まりの君へ

853百四之巻 始まりの君へ ◆QUsdteUiKY:2025/06/10(火) 01:42:36 ID:JcD8bctM0
【D-3 エーデルフェルト邸/一日目/午前】
【閃刀姫-ロゼ@遊戯王OCG】
[状態]:疲労(大)、左肩に斬傷(治癒済み)
[装備]:閃刀姫-ロゼの剣@遊戯王OCG、
[道具]:基本支給品×2、涼邑零の魔戒剣@牙狼-GARO-、チームみかづき荘のロケット@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)
     モウヤンのカレー@遊戯王OCG、閃刀姫-カガリ(現在召喚不可能)@遊戯王OCG、ランダム支給品×0〜2(零の分含む。)
[思考・状況]
基本方針:檀黎斗やハ・デスを斬り、大切な人(レイ)の待つ平和な日常に帰る
1:零……司……。
2:仮面ライダーらしき参加者(駆紋戒斗、花家大我、桐生戦兎、万丈龍我、氷室幻徳)とチノ、遊戯、凌牙の仲間を探す
3:レイを見つけて守る。
4:私やレイがカードに?どういうこと? それに彼女(カガリ)ってレイの……
5:チノとその友(ココア、メグ)は私が守る
[備考]
※遊戯王カードについての知識はありません。
※どの方角に向かったかは次の書き手氏にお任せします

【香風智乃@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(小)
[装備]: チノ(せんし)の剣@きららファンタジア
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1、ご隠居の猛毒薬@遊戯王OCG(4時間発動不可)
[思考・状況]
基本方針:ハ・デスや檀黎斗達を倒して平和な日常に――ココアさんのいる場所に帰りたいです
1:仮面ライダーらしき参加者(駆紋戒斗、花家大我、桐生戦兎、万丈龍我、氷室幻徳)と遊戯さん、凌牙さんの友人を探したいです
2:ロゼさんや凌牙さんに協力します。
3:ココアさんやみんなを探したいです
4:ティッピーはここにはいないんでしょうか……?
5:マヤさん……リゼさん……
6:平行世界のココアさん…私の知ってるココアさんとは違うんですか?
7:エボルトを警戒。何なんですかこの人……。
8:私はもう迷いません。ロゼさんや凌牙さんと一緒にこの殺し合いに抗います
[備考]
※どの方角に向かったかは次の書き手氏にお任せします

【神代凌牙@遊☆戯☆王ZEXAL】
[状態]:健康
[装備]:デュエルディスクとデッキ(神代凌牙)@遊☆戯☆王ZEXAL
[道具]:基本支給品×2(自分、遊馬)
[思考・状況]基本方針:遊馬の導いた希望の未来のために主催者を倒す
1:カイトは協力を頼んでおく。ベクターは……会ってから判断
2:不動遊星、仮面ライダーらしき参加者(駆紋戒斗、花家大我、桐生戦兎、万丈龍我、氷室幻徳)と遊戯、チノの友人を探す。
3:魔法を破壊出来る上にあの攻撃力……あの女(ジャンヌ)厄介だな。
4:こいつ(蛇王院)の怪我はもう大丈夫か
5:遊馬を殺した奴は気になるが、復讐心にはかられるな
6:村雨を持った奴を警戒
7:どうやらチノの迷いは晴れたようだな
[備考]
※参戦時期は最終回後。
※どの方角に向かったかは次の書き手氏にお任せします

854 ◆QUsdteUiKY:2025/06/10(火) 01:42:59 ID:JcD8bctM0
投下終了です

855 ◆QUsdteUiKY:2025/06/10(火) 07:36:34 ID:JcD8bctM0
拙作「切なさも、胸の痛みも全て秘めた勇気に変え」以降の肉体派おじゃる丸ですが所持品から異次元からの埋葬@遊戯王OCGが抜けていたので修正しました
また異次元からの埋葬@遊戯王OCGの説明文を追記しました

856 ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 19:53:37 ID:RGAcntrk0
投下お疲れ様です。自分もゲリラ投下します

857SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 19:54:46 ID:RGAcntrk0
桜ノ館中学に思う所があるかと聞かれ、首を縦に振る者はここにいない。
白鳥司は施設の存在を知る事なく、定時放送前に脱落。
琴岡みかげは覇瞳皇帝に心を委ね、今は廃ホテルへ身を潜ませている。
鷲尾撫子に至っては、本選出場の権利自体を与えられなかった。

数時間前に集まった面々からすると、神が戯れに再現した学び舎の一つに過ぎない。
出発準備を終え、正面出入り口へ向かう二人にとってもそう。
もし再びエリアへ来る機会があったら、目印になるかといった程度。
名残惜しさは抱かず、いろはの意識はこれより向かう場所へ。
正確に言うと、そこで待ってるだろう者に大きく割かれる。

少しだけ過去の時間から来たやちよは、今どうなっているのだろうか。
6時間を生き延びたがしかし、安堵を長続きさせられる環境ではない。
他の魔法少女の追随を許さぬ強さとはいえ、殺し合いのプレイヤーは油断ならない強者ばかり。
まして放送で親しい存在が二人も呼ばれたのだ。
打ちのめされ、澄んだ心に澱みが生まれてもおかしくない。

悲しみのぶつけ先に迷い、自分自身を傷付けてしまうようなら。
会いに行き、受け止めてあげたい。
生きている自分の姿を見せ、交わした約束が偽りじゃないと伝えたい。
たった一人でも強くあろうとし、その実孤独を嫌う不器用な優しい人。
時間軸が違えどいろはにとっては、大切で時に憧れ以上の想いを向ける相手で――

「そんじゃあ宜しく頼むぜお二人さん。暫くは三人旅になるんだ、これを機にお互い友情を深るのも良いかもなァ?」

海の色をした、青く輝く三日月へ馳せる時間は強引に幕を下ろされる。
慈悲や配慮の真逆に位置するモノを籠めた、赤い蛇の軽口がいろはの意識を引き戻す。
自分達を追い越し前に出た男が、ヘラリと笑うのが見えた。
男性モデルと言われても通用する長身は、あくまで仮の姿でしかなく。
顔を変え、体を変え、性別を変え。
どれだけ変えても背筋が寒くなる本性だけは、常に付き纏う。

858SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 19:55:31 ID:RGAcntrk0
「は、はい。よろしくお願いします」
「……」

緊張感を隠せずとも、生来のお人好しさ故かいろはは律儀に頭を下げる。
反対に言葉を発さぬまま、貼り付けた貌から殊更に気色を削ぎ落とすのが黒死牟だった。
人の皮を被り、隙あらば癪に障る戯言を垂れ流す男へ何を思うか。
説明するまでもなく、それでもあえて言うのならば。
屠り合いの参加者に向けた中で、最も冷え切った視線が答えだろう。

「おっかない顔すんなって。いろはとの二人きりを邪魔されて、不機嫌になる気持ちは分かるけどよ。
 俺もいい加減道草食うのは終わりにしなきゃ、戦兎から雷落とされちまうんでな」

何が原因で怒りを買ったか、理由を分からない筈はなく。
分かった上で見当違いも甚だしい、妄言を嫌悪の理由に当て嵌める。
まっこと不快極まる物言いに、しかし殺意を刃へ宿す真似には出ない。
首に剣を添えられたとて、黙る男でないとは情報開示の場でうんざりする程理解出来た。
戯言へ馬鹿正直に付き合って得るものといえば、無駄に蓄積される不快感のみ。
まともに相手をする方が損だと、結論へ辿り着くのに時間は掛からなかった。

思い浮かべるは嘗ての同胞、始祖に仕えた上弦の弐。
滅多な事が起きねば百年以上顔を合わせないが、招集が掛かればその空白を埋めるが如く馴れ馴れしく接する。
序列が一つ下であった上弦の参には特に、傍目にもうんざりする程纏わり付いていたか。
今更になって憐憫だ何だのを抱く気はない。
ただ似たような事が降り掛かり、これは確かに鬱陶しいとの納得はあった。

「ま、お喋りはこれくらいにしてだ。のんびりし過ぎて待たせちゃ悪いんで、そろそろ行きますかね」

自分から余計な会話を始めたと自覚しつつ、エボルトは出発を促す。
いろは達かイリヤ達、どちらに付くか悩むこと数分と十数秒。
選んだのは前者、当初の予定通りやちよとの合流場所へ向かう。
D-1が禁止エリアに指定される予想外の自体を含めても、流石に戦兎と別行動を取り過ぎた。
元々信頼関係など皆無に等しい間柄とはいえ、エボルトからすれば万丈と並んで利用価値の高い人間。
道草食ったせいで決裂となっては、こちらとしても少々頭が痛い。
イリヤ達がカイザーインサイトの元へ行き、衝突が起きやしないかとの懸念はある。
だが天秤に掛けた時、前々から能力の高さを知る戦兎が勝った。

859SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 19:56:30 ID:RGAcntrk0
戦兎に顔を見せに戻るついでに、いろはをやちよの元へ送り届ける。
そう決めた以上、長々と桜ノ館中学に居座っていられない。

「で、遠足気分で歩いて行くのか?あの馬鹿デカい鰻を使えば、楽出来そうなんだけどな」
「うな……えっ、蛇じゃないんですか…?」
「貴様が的を一手に引き受けるならば……呼び出すのも吝かではない……」
「ナイスアイディアだが、今回は却下にしといてくれ」

フェントホープから三人をここまで運んだ大蛇、ククルカンの再召喚は可能。
優秀な飛行速度を誇るサガの眷属だったら、移動時間の大幅な短縮になる。
巨体故に目立ち過ぎる欠点へ、目を瞑ればという前提が付くが。
地上から狙い撃たれたとしても、対処不可能と断じるつもりはない。
しかし身動きの制限された宙で、鎧を剥がされるもしもの可能性を黒死牟は低く見れなかった。

「鰻のタクシーは別の機会に持ち越しってか。そりゃ残念だ」

何故この男はさも当たり前のように、こちらが使役する大蛇へ次も乗れると思えるのか。
ロクな答えが返って来ないのは確実な為、あえて聞きはしない。

「バイクはこの人数じゃ無理か。どっかに都合良く車でも転がってりゃ、軽く飛ばして行けるってのになァ」
「運転、出来るんですか?」
「これでも地球暮らしが長かったんでね。家族サービスのドライブは、残念ながら一度もやれなかったが」

旧世界を懐かしむエボルトが本心から言ってるかはともかく。
車を走らせるのが可能というのは大きい。
何せ運転技術を発揮するのにお誂え向きな足が、どこにあるのか知っている。
遠慮がちに横を向くと、彼の六眼と目が合う。
言いたい内容を察したのだろう、どことなく機嫌の悪さが見て取れた。

「……」

別に、黒死牟とていろはの考えが間違いだとは思わない。
使い道の生まれた道具を死蔵する方が、遥かに愚行。
散々不快感を煽った化生へ譲渡しなければならない、その一点が気に食わないだけだ。

とはいえ童さながらの駄々を捏ねてまで、拒否を示す程の恥知らずに非ず。
仏頂面で支給品袋に手を突っ込み、望みの物を引き上げる。
外へ飛び出たソレへ向けた蛇の笑いは、当然のように黙殺した。

860SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 19:57:05 ID:RGAcntrk0



振背後で桜ノ館中学が見えなくなり早数分。
舗装も何もされていない砂利道を抜け、灰色のアスファルトを発見。
信号や標識のない一本道を、エボルトが運転する車が駆けていた。

軽自動車と言うにはサイズが違う。
トラックと言うには形が異なる。
現代社会で見かける瞬間はあれど、一般人が乗り回す機会は普通なら永遠にない。
犯罪者の移送目的に使われる大型車両。
囚人護送車が、上弦の壱に宛がわれた最後の支給品であった。

車がなにかを、黒死牟が知識で知らない訳ではない。
大正時代の日本でも、自動車は徐々に普及が始まった。
人力車や馬車に大きく取って代わる程ではなく、本格的な生産はまだ先の話。
けれどそういった乗り物があるとは、黒死牟が生きた日本においても事実として存在する。
人とは異なる世界、異なる時間を生きる身なれど。
時代と共に変化していく社会と文化を知らぬまま、年号を跨いで来たつもりも無し。
元々は武家の長男に生まれ、教養があり、文字の読み書きを正しく学んだ男なのだ。
そういった生来の生真面目さが少なからず影響したか、定かでなくとも。
人間の世は知識となり蓄えられた。

尤も、知っているのと実際に運転可能かは別の話。
檀黎斗が蘇生させる際、都合良く現代の自動車を操れる技術も授けた。
などと都合の良い展開は起きず、折角の移動手段も宝の持ち腐れ。
仮に聖都大学附属病院に留まっていれば、天津あたりに譲渡したかもしれない。
襲撃で散り散りになった以上、起こらなかったIFの話だ。

「しっかし、運転出来ない奴に渡してどうしたかったのかねぇ?神様と馬鹿は何とやらってか?」

ゲームマスターへの嘲りを独り言ちるも、不敬と咎める者は付近に不在。
単なる面白半分かどうかは不明だが、正解が何であれ然して興味はない。
丁度良い足が手に入ったなら、エボルトには十分だ。
護送車の運転は初めてといっても、少し走らせれば慣れたも同然。
鼻歌交じりにハンドル操作し、チラと金網越しの後部を見やる。

861SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 19:58:06 ID:RGAcntrk0
被疑者用の座席に、向かい合って座る少女と男。
あくまで支給品だと分かってはいるが、いろはは妙な緊張感を覚えた。
真っ当に生きていれば、一生乗る機会の無い空間なら無理もない。

正面に腰を下ろす黒死牟は動揺もなく、黙したままルーフを見上げる。
透明度が最も低いスモークフィルムに加え、全ての窓部分にカーテンが常備。
外から被疑者の顔を隠す為の措置は都合良く、鬼の天敵を遮断する役目を果たす。
日を避けたまま最短での移動が可能なら、付ける文句も見当たらない。
確固たる方針は見付けられぬ身、だが闘争に臨む牙を腐らせる気も無し。
鉄の箱に座り込みながらも気を張り、襲撃への警戒は怠らなかった。

「……」

ふと、視線を屋根から正面に移す。
視界に閉じ込められた娘は気付いておらず、閉じた膝に目を落としている。
これより向かう先で待つのは、いろはが信頼を置く仲間。
しかもエボルトの話を聞く限り、並々ならぬ重さの感情をいろはに抱く者。
知己の友と再会するなら、願ったり叶ったりだろう。
但しそこに鬼という異物が混ざれば、果たして何が起こるやら。

「にしてもやちよの奴、お気に入りのいろはが男同伴で来て荒れなきゃ良いけどな」
「…やちよさんは、そんなことしません」

心を読んだかのタイミングで、運転席から戯言が飛び出す。
偶然に過ぎなくとも良い気分にはならず、僅かに目を細める。
ムッと反論したいろはも黒死牟の様子に気付き、困ったような表情を作った。

「ちょっとだけ驚くかもしれないけど、でも、話も聞かないで黒死牟さんを傷付ける人じゃありませんよ?厳しい所もあるけど、優しくて…繊細な人だから」
「……」

何を勘違いしてか、やちよのことを伝えて来るいろはへ返すのは沈黙。
恐怖や嫌悪が己に集まったとて、何一つ感じ入るものはない。
鬼とはそういう存在と分かり切った上で、始祖に魂を売り渡したのだ。
今更掌を返し、受け入れてくれと願う訳がないだろうに。
仮にエボルトの言った通りになっても、当たり前だとしか思わない。

ただ、いろはの表情が和らぐのを見て。
宿るのが紛れもない、七海やちよという女へ向けた信頼の証明と察し。
そのような者と自分を引き合わせるのに、何の抵抗もないのかと。
一抹の疑念が浮かぶも、問いが口を突いて出はしなかった。
聞いた所で、返される言葉は安易に予想が付く。

862SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 19:59:06 ID:RGAcntrk0
予想が付くくらいには、環いろはへ思考を割き続けて今に至る。
という雑念に顔を顰めるより早く、意識が闘争へ飛び込むソレへ切り替わった。

鼻を衝く戦のにおい、複数の敵意が肌を裂く痛みとなって駆け巡る。
獣の唸りに近いようで異なる、腸まで揺さぶる低い音。

「おっと?呼んでもいないお客さんが来ちまったか?」

同じ感覚を味わったエボルトも、サイドミラーで後部を確認。
先程から響いて止まない重低音の正体は、現代に生きるが故に即座に分かった。
排気ガスを吐き散らすバイクのマフラー音、それも一台ではなく複数。
護送車を追って現れた一団をしかと目に入れ、浮かべたのは呆れ笑い。
見覚えは無い、しかしどういった存在かエボルトも良く知っている。

「冗談にしちゃ、気が利き過ぎだぜ?ゲームマスター様」

呟きを掻き消すように、一段とエンジンを吹かしソレらが迫り来る。
黄金色(こがねいろ)のグローブにブーツ、胸部装甲は日を浴び一層輝く。
ライダースジャケットに似た強化服が全身を覆い、微かに地肌が見え隠れするのは首部分のみ。
スピードを上げる度に黄色のマフラーが靡くが、ダークグリーンの瞳は獲物を捉えて離さない。
どこか飛蝗に似た仮面のデザインと、風車を思わせるベルトに知る者は口を揃え言うだろう。
仮面ライダーと。

尤も、正確に言うとコレらは仮面ライダーの括りに入らない。
名をショッカーライダー。
秘密結社SHOCKERが、裏切り者の改造人間をベースに開発した上級戦闘員。
仮面ライダー1号、否、ホッパー1号と酷似した外見なのはそれが理由だ。
更に付け加えるなら、ショッカーライダー達は参加者ですらなかった。

「どいつもこいつも首輪は無し、と。解除方法を知ってるなら是非教えて欲しいね」
「戯けるな……自我無き人形の群れが……仕掛けて来たのだろう……」
「ルールにあったNPCが襲って来た、ってことですか…?」

参加者同士の戦闘だけを経験し、NPCに襲われたのは今が初。
しかしそういった存在が会場に解き放たれてると、いろはと黒死牟も把握済。
起こり得ない事態ではなく、動揺で慌てふためく醜態は晒さない。

863SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 20:00:30 ID:RGAcntrk0
「うおっ…とォ!」

単にバイクで追走するだけなら、振り切るのは困難じゃない。
生憎煽り運転程度で済ます程、お優しい行動はプログラムされていないらしかった。
ショッカーライダーの一体が護送車目掛けて、ダーツを投擲。
当たった所で大きな破損は起きないが、爆弾付きなら話は別だ。
ハンドルを操作しどうにか回避、爆風が車体を撫でるも走行不可能には至らない。

最初の放送で既に言われたが、NPCは積極的に参加者を殺さない。
あくまで参加者同士の殺し合いこそがメインであって、主軸は外れていない。
最強の敵キャラクターと謳う縁壱はともかく、有象無象のNPCがプレイヤーを殺すのは黎斗が望むゲームに非ず。

但し、積極的に『殺さない』だけで『襲わない』とは一言も言っていない。
つまり対処せずに放って置けば、いらぬ傷ばかりを増やされる。
最悪の場合、護送車の爆発に巻き込まれたっておかしくはない。
戦わない選択肢は真っ先に外し、

立ち上がり掛けたいろはを、黒死牟が片手で制した。

「えっ、黒死牟さん?」
「無意味に体力を削る暇があれば……脆い肉体を万全に近付けるよう努め……次に備えておけ……」

魔法少女は常人を遥かに超えた能力を持つ。
最大の特徴として、ソウルジェムが破壊されない限りは死なない。
とはいえ、何もかも全てが人の枠組みを超えたかと言うなら違う。
動けば動いた分消耗し、汗を掻き、腹は減り、喉が乾き、眠気に襲われる。
傷付けられれば痛みを感じて、当然の如く出血だって起こる。

一方鬼は太陽を浴びるか日輪刀で頸を断たれなければ、あらゆる負傷も無意味。
再生の度合いによっては体力の消費が起きるが、その点も現在の黒死牟には問題無し。
屠り合いで受けた傷は、縁壱に頸を薄く斬られた一つのみ。
既に完治しており、この程度で疲労など感じよう筈もなかった。

いろはが不要に体力と魔力を奪われるよりは、黒死牟が蹴散らす方が手っ取り早い。
合理的に考えた末の結論を、ニコリともせずに告げる。

「要は面倒事は自分に任せて、いろはには休んでろって言いたいんだろ?お侍殿はお優しいこって」
「貴様の頭は……言葉一つすら歪曲する程に……腐り切っているのか……?」
「お堅い言い方をソフト表現にしてやった、俺なりの優しさと思って欲しいね。とにかく相手すんなら任せるぜ!こっちは手が放せないんでな!」

一体全体自分の話のどこを聞いていたのかと、睨み付けるも効果無し。
運転を放り投げてまで戯言を叩く程、現状を見れていないのではない。
であれば一々青筋を浮かべ、食って掛かるのは無駄の二文字に他ならなかった。
背を向け、意志に応じて人工生命体がデイパックから飛び出す。
必要に駆られなければ頼る気も起きないが、日を防ぐ鎧無くして屋外での戦闘は不可能。
慣れぬ力でどこまで戦えるか、試運転の良い機会でもある。

『HEN-SHIN』

縦笛に似た得物をサガークへ装填し、白い鎧で我が身を覆い隠す。
後は生身を晒す無様を避けつつ、人形達を斬るのみ。
戦場を移すべくドアに手を掛け、

「あの!ありがとうございます!」

飛び出す寸前で、そんな声を拾った。

864SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 20:01:34 ID:RGAcntrk0



機動性強化を施したバイクが4台、内2台には二体ずつが乗車。
計6体のショッカーライダーが護送車を襲撃。
屋根へ軽やかに飛び乗った黒死牟を、前後から挟むように敵も跳躍。
走行中の狭いスペースが、今宵の闘争の舞台となる。

運転手を失い道路を転がるマシンには目もくれず、ショッカーライダーが仕掛ける。
得物の類は握られておらずとも、拳一発蹴り一撃が過剰なまでの凶器と化す。
ホッパー1号をベースに開発されただけあって、徒手空拳特化の性能だ。
無駄のない、鋭く重い鉄拳が放たれた。

顔面狙いの拳は仮面を砕き、顔面すら突き破り兼ねない勢い。
わざと攻撃を受け入れる被虐趣味を持ち合わせない以上、対処は至極当然。
銀の鎖を巻き付けた腕を添え、力の向かう先を逸らす。
立て直しまでの数秒を、むざむざ許さない。
逆に一撃食らわせんとするが、もう一体が妨害に動く。
背後からの蹴りが脇腹を叩こうと走り、感じた手応えは苦痛を与えたのとは別物。
ザンバットソードの眩い刀身を翳し、己が身へは掠らせもしない。
続けて黒死牟が斬り掛かるのを待たず、前方から再度拳が振るわれた。

時に躱し、時に受け流し、時に防ぎながら敵の力を冷静に見極める。
十数の殴打から分かったのは、敵が連携に慣れているということ。
互いに隙を埋め合い、且つ足を引っ張り合わない猛攻を実現していた。

(絡繰り仕掛けの人形故に……乱れぬ動きを物とするか……)

サガの仮面越しに、透き通る世界で人形兵達を奥まで捉える。
臓器や筋肉、骨以外に複数の異物を確認。
人体に無機物が組み合わさり、運動能力を大きく引き上げている。
改造人間、ふいにその四文字が浮かんだ。

ショッカーライダーはホッパー1号をベースに開発されたが、性能はオリジナルに劣る。
数年に渡って組織の追手と戦い続けた本郷猛と、スペックだけ同じ量産型の兵士。
大きく開けた経験値の差を埋めるのが、計6体の集団戦法。
原典の世界でのナノマシンロボ散布計画時には、数回に渡ってホッパー1号と渡り合った
あくまで精巧なコピーに過ぎないNPCであっても、連携の巧さは健在。
標的が動けなくなるまで、拳と蹴りが浴びせられるだろう。

865SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 20:02:11 ID:RGAcntrk0
敵の力の程を租借し、同時に黒死牟が思考を割くのは自身の状態。
仮面ライダーサガ。
時に運命の鎧とも称された姿が、果たして如何程使い物になるか。
何が出来て出来ないかを、この機会に把握せねばなるまい。

鎧を纏い、単なる移動ではなく実戦に身を投じるのはこれが初めて。
率直な感想としては、違和感を拭えない。

甲冑を身に着けた最も新しい記憶と言えば、鬼の存在を知った夜。
弟との再会で己が魂が再び狂い始めた、あの時が最後。
頑強な鎧も鬼の膂力や牙の前には、書道紙と何ら変わりない。
却って機動力を削がれる枷を、無意味と知りつつ着込む気にはならなかった。

数百年越しに鎧を纏っての戦闘だが、予想していた動きにくさはほとんどない。
まるで、前々から装着を続けたような着心地がある。

不可思議な感覚の正体は、サガの四肢へ絡み付く鎖によって齎される恩恵。
この装飾はデュミナスカテナと呼ばれ、拘束目的で備わったのではない。
変身者の意志を先読みし伸縮、挙動に合わせた最適な運動能力強化を行う。
黒死牟が動き一つに出る毎に、サポート装置が効果を発揮しているのだ。

だから全く思い通りの動きが出来ない、といった事態は防げる。
その事実を加味した上で、使い心地の悪さを拭い切れない。
慣れぬ筈の力が、最初から慣れた感覚として使用可能。
違和感が無い事こそ、逆に大きな違和感になっていた。

サガの機能とは別に、現状は黒死牟本来の戦法も取れなかった。
愛刀たる虚哭神去は自身の血肉から生み出しており、鬼の体と同等の性質を持つ。
即ち、陽光を浴びれば瞬く間に燃え盛り消失。
血鬼術と組み合わせた月の呼吸も、必須となる刀無くして発動出来ず。
屠り合いで手に入れた、鎧と魔剣を要に変え戦う他ない。

敵の力と自身の戦力。
双方を驕り抜きにしかと見極め、間髪入れず襲い来るは鉄拳の嵐。
人形兵が繰り出す怒涛の連撃を前に、枷を付けられた鬼は――

866SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 20:02:59 ID:RGAcntrk0
「もう十分だ……児戯に付き合う理由も失せた……」

拳の間をすり抜けた魔剣が、両腕を斬り落とした。

標的を砕く得物を両方失い、ショッカーライダーの動きが硬直。
自ら死を受け入れるに等しい隙と、理解出来たかどうか。
一刀両断、頭部から股まで二つに断たれ終わりだ。
地面へ落下し数回のバウンドを経て爆散、悲鳴一つ聞こえて来ない。

そもそもの話、黒死牟はショッカーライダーを最初から脅威とは思っていない。
牙を剥く拳の何たる脆いことか。
同じ主に仕えた拳鬼の、足元にも及ばぬ弱さではないか。
連携に慣れているから何だと言う。
この身を滅ぼした柱達と鬼食いの小僧、彼奴等のが遥かに上等だった。
本来の戦法が封じられたとはいえ、この程度の輩に後れを取る程我が刃を錆び付かせた覚えも無し。

破壊された分の穴を埋めるように、二人乗りのバイクから一体が屋根へ飛び乗る。
更にはマシンを駆る者達がダーツを投擲し援護。
拙雑な狙いに非ずとも、鬼を射抜くにはまるで足りない。
魔剣の一振りで斬り落とし、爆発が起きるもそれすら無駄。
膂力を十全に乗せ薙ぎ払えば、途端に暴風か発生。
たちまち熱風が掻き消され、すかさず背後の標的へと駆け出す。

迎撃で蹴りを繰り出す、そんな指令を脳が与える暇もやらない。
強化服諸共、袈裟斬りの餌食に遭い機能停止。
先んじて道路を転がる上半身を追って、下半身も地面へダイブ。
木っ端微塵の末路を見届けずに、残る一体の元へ跳躍。

走行中の屋根で足を離せば、普通は落下確実なれど黒死牟には関係無い。
標的から目を離さぬまま、投擲されたダーツを叩き落とす。
援護一つ取っても、所詮は自我無き人形の児戯。
己へ付き纏う、あの娘の光矢の方が余程――

867SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 20:03:50 ID:RGAcntrk0
「……」

余計な事へ思考を沈ませ掛けた、己への苛立ちも籠め魔剣を突き刺す。
喉を貫かれ、流れる夥しい血がマフラーを濁った赤に染める。
貫通したままの剣を持ち上げ、振り回せばショッカーライダーは枯れ葉のように舞い飛んで行った。
空中に焼け付く花を咲かせ、これで三体目も撃破。

血鬼術が封じられ、日中の屋外故に鬼の生命力も無に等しい。
しかし培った剣技と、数百年に渡り得た経験。
これら二つが失われなかった事こそ、無惨との最大の違いなのだろう。

鬼殺が完遂された今となっては、何を言っても空しいだけだが。
上弦全てを束ねても、到底敵わぬ高みへ無惨は君臨した。
あらゆる武の極致、あらゆる洗練された術。
そのどれもが無惨にとって、吹けば消える塵芥に等しい。
ただの一度も時を鍛錬へ費やさず、絶対的な力を我が物とする。
故にこそ始祖はいつの時代も、鬼舞辻無惨という完成された一個体として在り続けた。

ならば全く持って、皮肉と言う以外にない。
強さに裏打ちされた始祖の在り方こそが、屠り合いの末路の原因の一つになったのだから。
日の遮断と引き換えに、己の持つ生物としての強さを悉く削がれ。
武を知らぬ為、後れを取る結果へ繋がった。

一方で黒死牟もまた血鬼術こそ封じられたが、培った剣技と経験は健在。
無慈悲で理不尽な半月の檻を生み出す、月の呼吸を抜きにしても。
剣士としての腕だけ見た場合、黒死牟は非常に高い実力の持ち主だ。
仮に無惨と同じく、血鬼術や身体機能のみへ頼る鬼であったら。
遠くない内に主の後を追う最期が訪れたとて、不思議はない。
鬼に成り果てても侍である事は捨て切れず、修練を重ねて来た。
物心ついた時に学んだ剣術の基礎を、人を捨てた後も絶えず伸ばし続けた。
根付いた執着がよもや、こういった形で意味を為すとは――

868SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 20:05:16 ID:RGAcntrk0



――『兄上の夢はこの国で一番強い侍になることですか?』



「…………」

浮かんだ言葉を払うように頭を振る。
何の意味がある、今更思い出した所で何も変わらない。
侍とは程遠い末路を引き寄せたのが誰かなど、吐き気がする程に理解している。
軋む痛みが内より湧き出るも、続く雑音に似た声が苦痛を薄れさせた。

発生源は鎧を纏わせた、円盤状の生命体。
相も変らぬ理解不能の言語なれど、この時ばかりは過去から目を逸らすのに一役買った。
ついでに鎧を装着中だからか、伝えたい内容も何となく察せる。
元よりこの状態でどこまで戦えるかを、試す意図もあったのだ。
指図されてるようで良い気分とは言い難いが、無視を決め込む選択もない。
装着時以外で使わなかった縦笛から、真紅の刀身が生えたちまち剣へ早変わり。
すかさず腹部の機械へ、笛に似た道具を差し込む。

『Wake Up』

不安を掻き立てる、不気味な音楽が鳴り響く。
仮面ライダーキバがそうしたように、フエッスルを吹き魔皇力を上昇。
鮮血色の刃が輝きを増し、必殺の準備が整ったと理解。
道路を疾走中のショッカーライダーへ向け、得物を振り被る。

獲物へ飛び掛かる蛇のように、刀身が鞭へ変化。
巻き付くや大量の魔皇力を流し込み、内部機器と生身の肉体の両方を蹂躙。
火花を散らし痙攣、やがて動かなくなると同時に爆発が起きた。

4体目も難なく撃破し、手元へ戻した鞭を見つめる。
こういった使い道があると知れたが、やはり慣れない得物だ。
これならばまだ、真紅の光剣のままで振るう方が手に馴染む。

と、技を終えたにも関わらず輝きが発せられているのに気付く。
不審に思うも、すぐ自身の勘違いと分かった。
紅い輝きは握り締めた得物、ジャコーダーとは別の所。
現在走行中の護送車が、血よりも濃い色へ包まれていた。

869SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 20:05:58 ID:RGAcntrk0
「こ、これどうなってるんですか!?」
「そんな驚くようなもんじゃねぇさ。ちょいとばかし、俺好みにペイントしてやっただけだ」

明らかな異常事態へ、いろはも聞かずにはいられない。
混乱を多大に含んだ声もなんのその。
軽い調子で返された内容は、答えてるようで微妙に答えになってなかった。

エボルトが何をしたか、種明かしすれば実に単純極まる。
自身が持つブラッド族のエネルギーを、護送車に流し込んだ。
旧世界で戦兎達を相手取った時にも、度々やった戦法だ。
合体状態のガーディアンを支配下に置いた事もあり、トランスチームガンを強化しスクラッシュドライバーを破壊した事だってある。
時にはエボルト自身にエネルギーを流し、能力の上昇を図ったのも一度や二度じゃない。

だが現在のエボルトは、嘗て石動惣一の体を乗っ取った時よりも力が上。
未完成とはいえ取り込んだパンドラパネルの影響し、当然並の強化じゃ収まらない。

「しっかり捕まっとけ!少しだけ荒れるぞ!」

警告もそこそこにハンドルを操作。
車体が大回転し、タイヤが擦れる音がいろはの悲鳴と重なる。
鮮血のエネルギー波を放射しながら、装甲車がショッカーライダーへ激突。
バイク共々一瞬でスクラップに変わり、原型を留めぬ部品となって道路に散らばった。

進路を戻しつつ、運転席の窓を開ける。
すると間を置かず、強引に侵入しようとする者が出現。
辛うじて破壊を免れた、最後の一体のショッカーライダーだ。
下半身はひしゃげ使い物にならなくなったが、死に物狂いでしがみ付いたらしい。

「大した根性だねぇ。それを見込んでとびっきりのプレゼントだ。遠慮しなくていいぜ?」

尤も、儚い悪足掻きで終わるが。

片手でハンドルを動かし、もう片方の手を頭部へ向ける。
握り締めた得物、トランスチームガンが吐き出す高熱硬化弾が全弾命中。
マスクを突き抜け脳まで破壊、意識の接続も瞬く間に途切れた。

「CIA〜O♪」

力無く道路へ横たわった個体に、その声は届かない。
背後で起こる爆発を、クラシック音楽のような気分で聞きながら護送車を走らせる。
ちょっとした退屈凌ぎが済み、やがて車体を覆う真紅も消え失せた。

870SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 20:06:42 ID:RGAcntrk0



エボルトの運転のせいで振り落とされ、空き缶のように道路を転がる羽目になった。
なんて事態にはならず、扉を開け黒死牟は屋根から悠々と帰還。
鎧を解除し、先程と同じ座席に腰を下ろす。
数だけ揃えた所で、所詮は参加者ですらないNPC。
殲滅へ追いやるのは、赤子の手を捻るより容易い。

戦闘に勝利したからといって、戦利品は手に入らない。
支給品や首輪など、プレイヤーならあって然るべき物もNPCには無関係。
残ったのは爆発の被害で焦げた地面と、ブラッド族のエネルギー波で薙ぎ払われた周囲の地面のみ。
だが全く意味のない戦いだったと言い切るのは違う。

(凡そは把握した……やはり必要が無ければ……使う気が起きるものでもない……)

サガの鎧に思う所はこれまで同様、必要に迫られない限り積極的に纏う気はなかった。
しかし日が沈む前に、屋外での戦闘がこの先いつ起こるか分からないのだ。
遊星から譲渡された闇を発生させる札とて、制限が課せられた為使い所は考える必要がある。
となれば、サガの力を把握して正解だったと言えるだろう。
慣れぬ力と慌てふためき、右往左往する事態は避けられた筈。
縁壱相手に通用するとは到底思えないが。

見方を変えれば、無惨の最期を反面教師にしたとも捉えられる。
始祖が地獄で知ったら、大災害の如き憤怒が巻き起こるに違いない。
気付いているのかいないのか、最後の鬼は黙して目的地への到着を待つ。

正面の黒死牟の様子に、ホッと安堵がいろはの中に広まる。
彼の強さは知っているし、信じてなかった訳じゃない。
それでも一度は太陽に炙られ、苦悶の声を上げる場面を見たのもあってか。
惨たらしく肉の焼けた痕は無く、無傷で戻って来た姿に心から良かったと思えた。

今回は彼の言葉に頷いたけど、毎回自分だけ休んではいられない。
来るべき時に備え、言われた通り少しでも万全に近付けておく。
何だか前に、やちよから無茶を諫められた時のようだと思い、

871SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 20:07:31 ID:RGAcntrk0
(あっ……)

これからの為に休めと言われたのは。
この先起きるだろう戦いに、いろはが加わる事は黒死牟にとって自然な認識になっていて。
余計な真似をせず引っ込んでろじゃなく、次に備えろと言ったのは。

ああつまり、邪魔な奴とか足手纏いとかじゃない。
真紅の騎士を相手にした時と同じ、一緒に戦っても構わないと思う程度に。
自分を認めてくれているのなら。

(そうだったら、嬉しいな……)

都合の良い解釈かもしれないけど、じんわりと胸が温かくなる。

「……」
「…えっと……」

じっと見つめられ、流石に向こうも気付いたのだろう。
六眼へ訝しさを宿し、言いたい事でもあるのかと問われた。
暫し目を泳がせた末に口を開き、

「何でもない、です」

困ったように、気恥ずかしさを浮かべ。
だけどどこか、嬉しそうに微笑み告げる。

神の遊戯盤の一画で、闘争とも言えない小競り合いを挟んで起きた。
移動中の、他愛のない一幕だった。

872SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 20:08:08 ID:RGAcntrk0
「めんどくせぇ年上ばっかり引き寄せる超能力でも持ってるんじゃねぇのか、お前」
「急に何の話ですか!?」


【E-2 道路上/一日目/昼】

【環いろは@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、魔力消費(大)、悲しみと怒り、乗車中
[装備]:ストライクマーク@テイルズオブアライズ
[道具]:基本支給品一式、グリーフシード@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。
1:黒死牟さんを放って置けない、助けになりたい。
2:やちよさん達と病院で会った皆を探す。E-4へ行きやちよさんと合流する。
3:もし灯花ちゃんとねむちゃんがまた間違いを起こすのなら、絶対に止める。
4:フェリシアちゃんを殺した男の人(滅)には怒ってる。でも、我を忘れたりはしない。
5:真紅の騎士(デェムシュ)を警戒。
6:どうしてドッペルが使えたんだろう?
7:縁壱さんは、黒死牟さんの弟さん……。
8:キャルちゃんに渡したメダル、本当に良かったのかな…?
[備考]
※参戦時期はファイナルシーズン終了後。
※ドッペルは使用可能なようです。

【黒死牟@鬼滅の刃】
[状態]:魔皇力継承、精神的疲労、縁壱への形容し難い感情(大)、エボルトへの不快感(大)、黎斗への怒り、いろはへの…?、乗車中
[装備]:虚哭神去@鬼滅の刃、木彫りの笛@鬼滅の刃、ザンバットソード@仮面ライダーキバ
[道具]:基本支給品一式、サガーク&ジャコーダー@仮面ライダーキバ、闇@遊戯王OCG
【思考・状況】
基本方針:分からない。……が、少なくとも縁壱以外の者に殺される気は失せた。
1:この娘は本当に何なのだろうか……。
2:縁壱……お前は…………。
3:無惨様が……そう、か…………。
4:日を避ける道具は手に入ったか……。
[備考]
※参戦時期は死亡後。
※無惨の呪いが切れていると考えています。
※魔皇力が使用可能になりました。キバット族のサポート無しで活性化出来るようです。
※サガークの資格者に認められました。ククルカンの召喚も可能なようです。

873SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 20:09:15 ID:RGAcntrk0
【エボルト@仮面ライダービルド】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)、石動惣一に擬態中、運転中
[装備]:トランスチームガン(ワープ機能2時間使用不可)+ブラックコブラロストフルボトル@仮面ライダービルド、ラストパンドラパネルブラック+ブラックロストフルボトル×6@仮面ライダービルド、パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト、大型護送車@DEATH NOTE
[道具]:基本支給品一式×3、じわじわキノコカン@スーパーペーパーマリオ、ブレイクスルー・スキル@遊戯王OCG((1)の効果2時間使用不可能)、ドレイクグリップ@仮面ライダーカブト、呪い移し(現在使用不可)@遊戯王デュエルモンスターズ、ルナの首輪、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:生存優先。あわよくば未知の技術や檀黎斗の持つ力を手に入れる。
1:戦兎達の元へ戻る。流石にそろそろ我慢の限界かねぇ。
2:戦兎と共闘しつつどこまで足掻くのか楽しむ。仲良くやろうぜ?
3:エボルドライバーを取り戻す。元は内海の?知らねぇなァ。
4:ロストボトルを回収しパンドラパネルを完成させる。手間を掛けさせないで欲しいんだがな。
5:正攻法じゃあ檀黎斗を倒すのは難しいか。
6:カイザーインサイトを利用。2回目の放送後に桜ノ館中学校で合流。戦兎には何て言おうかねぇ。
7:やちよの声はどうにも苦手。手土産でいろはを連れてきゃ機嫌も良くなるだろ。
8:猿渡死んじまったか。戦兎の奴どうなるかな。
9:美遊、ねぇ…………。
[備考]
※参戦時期は『ビルド NEW WORLD 仮面ライダークローズ』で地球を去った後。
※環いろはの姿を写真で確認した為、いろはに擬態可能となりました。
※トランスチームガンのワープ機能は一度の使用後、6時間経過しなければ再使用不可能になっています。


『支給品解説』

【大型護送車@DEATH NOTE】
日本の警察が被疑者を警察署や地方検察庁・区検察庁・裁判所・拘置所へ移送する為の特殊車両。
作中内では第二のキラのビデオテープを回収する為、夜神総一郎がさくらTVへの突入に使用。


『NPC解説』

【ショッカーライダー@仮面ライダー THE NEXT】
全員がナノロボットで改造されたバッタ型の改造人間。
ホッパー2号とは色違いの特殊強化服とマスクを着用。
邪魔者の抹殺が使命で、どの戦闘にも常に6人1チームで登場。
戦力の劣っていた戦闘員に代わって他の改造人間の戦闘を補佐する上級戦闘員のような役割を果たし、1人1人ではなく6人1組による集団戦法を得意とする。
能力は一般戦闘員を大きく上回り、強力な爆薬を仕込んだダーツ型爆弾といったオリジナルのホッパーにはない武器も装備する。
しかしオリジナルとの戦闘経験量の違いや量産化仕様に伴う性能劣化など、単体の戦闘力では1・2号に及ばず見劣りする。

874 ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 20:09:46 ID:RGAcntrk0
投下終了です

875◆2fTKbH9/12:2025/06/13(金) 07:46:08 ID:???0
キリト、空、宮川尊徳、ユキ、肉体派おじゃる丸を予約と延長をします。

876 ◆EPyDv9DKJs:2025/06/13(金) 21:16:03 ID:xfKg7IJs0
道満、Poh、戒斗、L、ベクター、カイト、ミカン、クレヨン予約します


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