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あの作品のキャラがルイズに召喚されましたin避難所 4スレ目

1 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/08/14(月) 13:53:15 ID:tnRMCI/M
もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?そんなifを語るスレ。

(前スレ)
避難所用SS投下スレ11冊目
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/9616/1392658909/

まとめwiki
ttp://www35.atwiki.jp/anozero/
避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/

     _             ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■
    〃 ` ヽ  .   ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ!
    l lf小从} l /    ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから!
   ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,.   ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね!
  ((/} )犬({つ'     ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね!
   / '"/_jl〉` j,    ・ 投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね!
   ヽ_/ィヘ_)〜′    ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない!
             ・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!

     _
     〃  ^ヽ      ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
    J{  ハ从{_,    ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも
    ノルノー゚ノjし     内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね?
   /く{ {丈} }つ    ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。
   l く/_jlム! |     ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。
   レ-ヘじフ〜l      ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。

.   ,ィ =个=、      ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。
   〈_/´ ̄ `ヽ      ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。
    { {_jイ」/j」j〉     ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。
    ヽl| ゚ヮ゚ノj|      ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
   ⊂j{不}lつ      ・次スレは>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
   く7 {_}ハ>      ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。
    ‘ーrtァー’     ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。
               姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。
              ・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
              SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。
              レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。

2 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/08/14(月) 13:55:59 ID:tnRMCI/M
こんにちは、焼き鮭です。今回の投下を行います。
開始は13:58からで。

3 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/08/14(月) 13:58:14 ID:tnRMCI/M
ウルトラマンゼロの使い魔
第百五十三話「悪魔の脅迫」
超古代怪獣ゴルザ
超古代竜メルバ
炎魔人キリエル人 登場

 教皇の即位三周年記念式典は、ロマリアから北北東に三百リーグほど離れた、ガリアとの
国境付近の街アクイレイアで行われる。二週間にも及ぶ、大きなお祭りだ。
 そのアクイレイアへの出発の時が迫っているのだが、オンディーヌはアンリエッタと共に
乗艦する御召艦への乗り込みを遅らせていた。才人が未だ姿を見せないのだ。
「一体、サイトはどうしたんだろうなぁ……」
 大聖堂の本塔にバルコニーのように張り出した桟橋で、マリコルヌが心配そうにつぶやいた。
「まさか、怖じ気づいたんじゃないだろうな?」
「けど、サイトはどんな戦闘にもどんな大怪獣相手にも、果敢に飛び込んでいった奴だぜ。
いくらガリアとはいえ、今更尻尾を巻いて逃げ出すなんて考え難いよ」
「そういえばルイズもまだみたいだな。また二人で痴話喧嘩でもしてるんじゃないか?」
「それだったらそろそろ来る頃だろう」
 などとオンディーヌが相談し合っていると、噂をすれば影というように、ルイズが一人の
男を連れながら彼らの前にやってきた。ギーシュたちはルイズの格好に目を丸くする。
「うわぁ! 尼さんの格好じゃないか!」
 ルイズは白い神官服に身を包んでいた。どうやらルイズは、巫女として式典に参加するようだ。
 しかしすぐにギーシュたちの注意は、ルイズからその背後に連れ立っている男の方へ移った。
いつもなら才人がいる立ち位置に、今まで見たこともない男がいる。
「ルイズ……そちらの方はどなただい?」
 ギーシュが代表して質問すると、ルイズではなくその当人が答えた。
「俺はラン。これからは、俺が才人の代わりをすることになった」
 今の言葉に、オンディーヌは声にならないほど仰天した。
「は? い、いや、きみ、何を言ってるんだい? サイトの代わり? そのサイトは一体
どこへ行ったんだ?」
 ギーシュが改めて尋ねると、今度はルイズが、深呼吸した後に答えた。
「サイトは……里帰りよ」
 オンディーヌは再び言葉を失った。
「里帰り!? この状況で!? 訳が分からない! 説明してくれ!」
 混乱するギーシュはルイズの肩を掴んでゆすった。ルイズはゆっくりとその手を振り払った。
「……サイトの故郷から、お母さんの手紙が届いたの。帰ってきてくれって」
「それで帰したってのかい?」
 ルイズがうなずくと、マリコルヌが頭を押さえてうめいた。
「だからって、こんな時に帰さなくたっていいじゃないか! よりにもよってこんな大変な時に……」
 ルイズは厳しい顔つきになる。
「何を言ってるのよ! こんな時だからこそ、帰したんでしょ! 今までどれだけサイトが
わたしたちのために戦ってきてくれたと思ってるのよ。あなたたち貴族でしょ! 己にかかる
火の粉は己で払うべきよ。……とにかくこれ以上、わたしたちの戦いにサイトを巻きこむ訳には
いかないわ」
「だ、だからって、そんないきなり出てきた人を代わりだなんて……」
 なおも言い返そうとするマリコルヌをさえぎって、ギーシュが言った。
「もう一個質問だ。いいかい?」
「いいわ」
「それはその、サイトの意思なのかい? サイトが自分で帰るって言ったのかい?」
 ルイズは首を振った。
「わたしの判断よ」
 その途端、オンディーヌから次々と非難の言葉が沸き上がった。

4 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/08/14(月) 14:01:27 ID:tnRMCI/M
「とんでもない! とんでもないよ! いくらサイトがきみの使い魔だからって、自分勝手
すぎるじゃないか!」
「勝手じゃないわ! ちゃんと考えたもの!」
「そうは思えないけどな。サイトはもしかしたら、ぼくたちと一緒に戦いたかったかもしれない
じゃないか。というか、彼ならそう思うはずだ」
 うなずき合うマリコルヌたちにルイズは何か言おうとしたが、それはこの場に現れた
アンリエッタにさえぎられた。
「あなた方は何をしているのですか。わたくしに恥をかかせるつもりなのですか?」
 周囲からは、ロマリアの神官や役人の奇異の目が集まっている。少年たちは我に返って
顔を赤らめた。
「騎士の一人が欠けたのは問題ですが、それで慌てふためく騎士隊も問題です。わたくしは、
勇敢な騎士を隊士に選んだつもりですが……」
 女王自ら注意されては、オンディーヌは畏まる以外になかった。アンリエッタはルイズと
ランを促して、フネへの桟橋を渡らせる。
 そして船室に二人を招き入れたところで、ランに向かって尋ねかけた。
「あなたは、ウルトラマンゼロなのですね? 昨日までは、サイト殿と共にあったはずの……」
 ランの左腕には、それまでは才人が嵌めていたウルティメイトブレスレットが袖からかすかに
覗いていた。そう、このランという男こそが、ゼロが人間に擬態した姿だ。名前と姿のモデルは、
アナザースペースで命を助けた青年である。
「ああ……。あのままくっついてたら、才人を帰してやれねぇからな」
「……詳しいいきさつを聞きたいところですが、今は時間がありません。後ほど、ゆっくりと
伺います」
 アンリエッタはそれを最後に退室し、アニエスとともにまずはオンディーヌの居室に向かった。
この件で動揺することのないよう訓示するのだ。
 彼女がいなくなってから、ルイズはポツリとゼロに問いかけた。
「ゼロ……わたしの判断は、間違ってなんかないわよね」
 ゼロはおもむろにうなずく。
「ああ。今度こそ、才人は家族のところに帰るべきだ。突然息子が消えちまった親を、安心
させなくちゃならねぇ」
 しかし、次にこんなことを言う。
「だが、その後であいつがそれでもハルケギニアに戻ることを選んだのなら、俺は連れて
戻ってくる。たとえそれが俺の故郷の奴らに非難されることになってもだ」
 今の発言に、ルイズはすごい勢いで振り返った。
「何を言ってるの!? サイトはもうこんな危険なところに戻るべきじゃないわ! ずっと
故郷に留まるべきよ!」
 ゼロは、それには賛同しなかった。
「ルイズ……何度も言うが、才人は立派な戦士になった。戦士にとって、守りたい人を守れない
ことこそが最大の不幸なんだ」
「でも……!」
「それに……お前のことも心配なんだよ」
 ゼロの指摘に、ルイズはかすかに目を見開く。
「わたしが……?」
「お前、すげぇ無理してるのが丸分かりだぜ。才人よりも、お前の方が今にも押し潰されて
しまいそうだ。……お前のことだって、俺は死なせたくなんかねぇんだ」
 ゼロの言い分は全く正しいことであったが、それでもルイズは虚勢を保った。
「そんなことはないわ……。わたしは、サイトがもう隣にいないことも受け入れて、あいつの
分までハルケギニアの平和を守る覚悟でいるわよ」
 その言葉も間違いではない。ルイズがあれだけ反対していたヴィットーリオの提案に乗り、
巫女の衣装を纏ったのも、才人に代わってガリアの陰謀と戦う決意を固めたからだ。

5 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/08/14(月) 14:04:18 ID:tnRMCI/M
 才人ともう二度と会えない……その事実が、ルイズにとって最も苦しいところであったが、
ルイズはそれも受け入れる所存であった。いっそのことティファニアにこの記憶と気持ちを
消してもらいたくもあったが、その選択はしない。今日までの道のりは、そして才人から
もらったたくさんのものは、かけがえのない宝物……才人だけではなく、仲間たちとの絆でも
ある。それを「なかったこと」にはしたくない。
 だから、自分がこの世界を守り抜くんだ……。ルイズは己に強く言い聞かせていた。

 その頃――と言っていいのかは分からない。何せ六千年の隔たりがあるのだから――才人は、
思い切り混乱していた。湖面に映る姿が、いきなりウルトラマンティガのものになったらそれも
当然だ。
『ど、どうなってんだ? 何でゼロじゃなくてティガに……。いや、ここは六千年前だから
そもそもゼロはいないのか。でも、だからって……』
 一度の人生で、二人目のウルトラマンと融合する。そんなことがあり得るのだろうか、
と悶々としていたら、肩にゴルザとメルバの光線を食らってしまった。
「グガアアアア!」
「キィィィィッ!」
『あ痛でぇッ!? くッ、考えるのは後にするか!』
 ブリミルとサーシャのことも助けなければならない。才人は、ともかく怪獣と戦える姿に
なったのはこれ以上ない幸運だ、と考えを改めて、超古代の二大怪獣の間に一気呵成に
切り込んでいく。
「タァーッ!」
 メルバをキックで押しのけ、ゴルザの首筋にチョップをお見舞いした後に押さえ込もうとする。
二対一という不利な状況下だが、ウルトラ戦士としての戦いはこれまで散々ゼロの中で経験して
いるので、ある程度はこなすことが出来る。
「キィィィィッ!」
「グガアアアア!」
「ウワァッ!」
 だが翼を広げて滑空したメルバのカマ状の腕に背後から斬りかかられた上に、ゴルザに
投げ飛ばされて転倒。光線の追撃を、転がってギリギリで回避する。
『くッ、身体が思うように動かせねぇ……!』
 体勢を立て直した才人がうめいた。いくら経験はあっても、ティガは当然ながらゼロとは別人。
その身体能力にも違いがあるので、いきなり変身した才人が十二分に戦うことが出来ないのは
むしろ自然なことだろう。
『もう少し腕に力を込められれば、力負けはしないのに……』
 苦悶していると……才人の脳裏に、あるイメージが湧き上がった。
『! こ、このイメージは……! よしッ!』
 才人は本能的に、そのイメージの通りに身体を動かした。額のクリスタルの前で腕を交差し、
勢いよく振り抜く。
「ンンンンン……ハァッ!」
 それと同時に赤と紫の体色が、赤一色に変化した! 同時に肉体に力がみなぎる。
『そうか! ティガにも二段変身能力があるのか!』
 理解する才人。ウルトラ戦士の中には、肉体を変化させて能力を特化させる力を持つ者がいる。
ゼロや、その力を授けたダイナ、コスモスのように、ティガもそのようなタイプチェンジ能力を
持つウルトラマンだったのだ!
『よしッ、これなら!』
 赤い姿、パワータイプのティガとなった才人は改めて怪獣たちに突撃していく。ゴルザと
メルバは光線を放って迎撃してくるが、才人は高まったパワーを活かして手の平で光線を
押し返していった。
「タァッ!」
「キィィィィッ!」
「グガアアアア!」
 距離を詰めるとメルバの顔面に正拳を入れて吹っ飛ばし、ゴルザは首を掴んで一本背負い! 
逆さまに地面に激突したゴルザを狙い、才人は伸ばした両腕を腰から頭上へと持ち上げて
いきながら真っ赤なエネルギーを凝縮して光球を作り上げた。
「タァァーッ!」
 そして投球のフォームで、光球からエネルギーを照射! パワータイプの必殺技、デラシウム光流だ!

6 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/08/14(月) 14:08:27 ID:tnRMCI/M
「グガアアアア!!」
 その一撃でゴルザを粉砕! しかし直後に背後からメルバが滑空しながら迫ってくる。
「キィィィィッ!」
 察知した才人は回し蹴りで迎え撃つも、メルバは上昇して攻撃をかわした。
『この姿だと、余計に身体が重い……!』
 才人はパワータイプの欠点に気づいた。パワータイプはその名の通りに破壊力に優れるが、
代わりに敏捷性が低下するのだ。そのためメルバのように身軽で飛行能力を持つ相手には
対応できない。
 しかし才人の脳裏に再びイメージが浮かび上がる!
『身体が赤く染まるんだったら、その逆も……! よぉしッ!』
 先ほどと同様の動作で、再び体色を変化させる。今度は紫一色の姿だ。
『身体が軽くなった! これならいけるぜッ!』
 紫色の姿は、パワータイプと正反対の特色のスカイタイプだ! 才人は高々と跳躍して、
上空のメルバへと急接近する!
「ヂャッ!」
 天空を舞うスカイキックがメルバに炸裂し、地上へと叩き落とす!
「キィィィィッ!」
『こいつでフィニッシュを決めるぜ!』
 ヨロヨロと起き上がろうとしているメルバへと、左右に開いた腕を頭上で重ね合わせることで
充填したエネルギーを左の脇腹に構え、手裏剣を放つように発射する!
「タッ!」
 スカイタイプの必殺技、ランバルト光弾! これが突き刺さったメルバは、瞬時にバラバラに
弾け飛んで消滅した。
『やったぜ……! けど、まさかこんなことになるなんてな……』
 怪獣を撃破してブリミルたちを救えたのはよかったが、よもや六千年もの過去の世界に
来て、その世界に怪獣が出て、しかも自分がウルトラマンティガと一体化するとは。冷静に
なって振り返れば、訳の分からないことだらけだ。
 しかしそろそろ変身の時間切れも近い。才人はひとまず元の姿に戻って、ブリミルたちと
詳しい話をすることに決めたのだった。

 元の姿に戻った才人を、ブリミルは興奮し切った調子で迎えた。「きみが光の巨人だったの
かい!? 一体どんな力を使って変身したんだ!? きみは何者なんだね! 是非教えて
くれたまえ!」とものすごい勢いで詰め寄って才人を参らせた彼は、サーシャにどつかれて
黙らされた。一行はとりあえずブリミルたちの住居に移動し、腰を落ち着かせて話をする
ことになった。
「……つまり、きみは自分がどうしてここにいるのか分からない、ということでいいのかい?」
「そういうことです。ウルトラマン……光の巨人も、俺と同一の存在って訳でもありません。
彼らには、別の生き物と同化する力があります。それで俺を助けてくれたんです」
 ブリミルに聞き返された才人が答えながら、手に握った、翼型の意匠を持ったスティック状の
物体に目を落とした。スパークレンス……ウルトラゼロアイのような、ティガに変身するための
アイテムだ。気がつけば、これが懐にあった。
 ブリミルたちの住居は、草原の上に建てられた移動式のテントを密集して作った小さな
村だった。現在のハルケギニアでは見られない風景であり、ルイズたちの始祖と呼ばれる
人物が今と全く違う様式の暮らしをしていることに才人は内心驚いていた。
「そうか……。しかし、きみの主人に会えないというのは残念だ。ぼく以外の『変わった
系統』の持ち主に会えるものと期待していたんだがね」
 肩をすくめるブリミルは、“虚無”のことを『変わった系統』と遠回しに表現する。しかし、
それも当たり前かもしれない。ブリミルが始祖ならば、“虚無”というのはこれから彼がつける
名前だ。サーシャがハルケギニアを知らないのも、きっとこれから名づけられるからだ。
「ところでブリミルさんは、怪獣をヴァリヤーグなんて呼んでましたけど……」

7 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/08/14(月) 14:10:39 ID:tnRMCI/M
「きみのところでは怪獣と呼んでるのかい? 怪しい獣……言い得て妙だね。ヴァリヤーグとは
ぼくの命名だ。元々は、ぼくたちの氏族を追い立てた者たちの名前なんだけどね。あの巨大生物
どもは、同じようにぼくたちを、いやこの大陸中の生きとし生けるものを苦しめるんだ」
 才人はブリミルとサーシャから、彼らを取り巻く状況について様々な話を伺った。
 ブリミルはマギ族という名前の部族の一員であり、ある日ヴァリヤーグという別の部族の
人間たちに元々の住処を追われる羽目になってしまった。マギ族の中で他に例を見ない特殊な
魔法、今で言う“虚無”魔法を扱うブリミルはどうにかしようと自身の魔法を研究する中で
サーシャを使い魔として呼び出し、彼女たちエルフの住んでいる土地のある大陸へとゲートを
開いて移動することに成功した。しかし安心したのもつかの間、移動先の大陸に突如異常な
巨大生物の群れ……怪獣が出現し、マギ族、エルフ関係なく襲い始めたという。
「怪獣は元々、この大陸にはいなかったんですか?」
「そうよ。あんな天を突くような生き物の話なんて、一度たりとも聞いたことがないもの。
あいつら、一体どこから湧いてきたのかしら……」
 と証言するサーシャ。ハルケギニアは元から怪獣が存在する星ではなかったのは分かったが、
六千年前の時点で出没していたのは意外だ。怪獣もウルトラマンも、ブリミルの時代に既に
いたのなら、どうしてそれが現在のハルケギニアに伝わっていないのだろうか?
 また、マギ族、つまり人間とエルフが敵対関係にないのも意外であった。むしろ怪獣を
相手に共闘している関係と言ってもいい。それが何故、現代ではいがみ争っているのだ?
「しかしヴァリヤーグは非常に大きく強い上に、わんさかいる。ぼくたちに勝ちの目は全く
ないと一時はあきらめもしたが、そこに現れたのが光の巨人、きみが言うウルトラマンだ! 
彼らはどうしてなのかは分からないが、ぼくたちを助けヴァリヤーグを退治してくれる。
ぼくとサーシャはこれから、ウルトラマンに助力しながらヴァリヤーグ出現の真相を突き止め、
これを根絶してこの大陸を救う旅に出るつもりなんだよ」
「肝心のこいつがいまいち頼りないのが全く困りものなんだけどね」
 張り切るブリミルにサーシャは毒を吐いた。
 ブリミルたちの状況を大体理解した才人だが、するとやはり別の疑問が浮かんでくる。
おおまかに聞いただけだが、教えられたハルケギニアの歴史とまるで内容が異なる。今の
自分は、夢でも見ているのだろうか? しかしこの現実感はとても夢とは思えない。となると、
六千年の時の間に伝承が歪曲し、怪獣やウルトラマンの存在が忘れられてしまったのか?
 才人がそんな風に考えを巡らせていると、この場にテントの扉を破って若い男が飛び込んできた。
「族長! 大変です!」
「ヴァリヤーグか!?」
 ガタン、とブリミルは立ち上がったが、男は首を振った。
「いえ、ですがそれ以上にまずい事態です。例の『アレ』が、再び脅迫に現れたんです!」

8 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/08/14(月) 14:12:15 ID:tnRMCI/M
「また来たのか……。しつこいな……!」
 それまで温厚な雰囲気だったブリミルが、非常に険しい顔つきとなった。才人は目を丸くして
サーシャに囁きかける。
「あの、『アレ』って何ですか? 怪獣とは違うんですか?」
 サーシャは答える。
「違うわ。言葉を話すし、一応は人間みたいなんだけど……ぼんやりとしていて幽霊みたいな
奴なの。それが、ブリミルたちに信仰を捨てて自分の下僕となるように一方的に命令して
きてるのよ。どこの誰だか知らないけど、何様のつもりなのかしら」
 サーシャもブリミル同様顔をしかめて、つぶやいた。
「何て名前だったかしら。キリエ何とかっていうらしいけど」
「キリエ!?」
 思わず席を立った才人に、サーシャは吃驚させられた。
「どうしたの? もしかして、心当たりでも?」
「ああ、いや、まぁそんなところで……」
「とにかく行こう! また乱暴を働いてくるかもしれない! ぼくの魔法で追い払えれば
いいんだが……」
 杖を手に真っ先に飛び出していくブリミルの後に、サーシャと才人はテントに立てかけて
あった槍を得物にして続いていく。外は話し込んでいる内に夜の帳に覆われていた。
 篝火と月明かりの照明の下、村の上空におぼろげな人型の怪しい何かが浮遊している。
村の女子供は慌ててテントの中に隠れていき、若い男たちはブリミルとともに杖を握って
人魂を厳しくにらみつけている。
 才人はその人魂をひと目見て、間違いではないことを把握した。あの人魂は……ロマリアの
大聖堂で目の前に現れたものと、寸分違わず同じなのだ。
 そして人魂が、ブリミルたちを見下すように言い放った。
『愚かな人間どもよ……救われたくば、偽りの信仰を捨てて我々に恭順の意を示せ。我々こそが
真なる神、キリエル人である!』

9 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/08/14(月) 14:13:10 ID:tnRMCI/M
今回はここまで。
ヴァリヤーグって結局何者だったんでしょうね。

10 ウルトラ5番目の使い魔 ◆213pT8BiCc :2017/08/30(水) 13:05:53 ID:feAcNe2A
ウルゼロの人、投下とスレ立て乙です。
こちらも。ウルトラ5番目の使い魔、63話ができました。
投稿を開始しますので、よろしくお願いします。

11 ウルトラ5番目の使い魔 63話 (1/13) ◆213pT8BiCc :2017/08/30(水) 13:06:51 ID:feAcNe2A
 第63話
 魅惑の妖精亭は今日も繁盛Ⅱ
 
 知略宇宙人 ミジー星人
 三面ロボ頭獣 ガラオン
 宇宙三面魔像 ジャシュライン
 デハドー星人のアンドロイド 登場!
 
 
 見つめあう目と目。その視線の先には、それぞれみっつの顔が並んでいる。
 
「じー……」
 
 横に、怒り、泣き、笑いのでかい顔が並んでいる三面ロボ頭獣ガラオン。
 縦に、怒り、笑い、無表情の顔が胴体についている宇宙三面魔像ジャシュライン。
 ガラオンを見つめるジャシュライン。ジャシュラインを見つめるガラオン。
 トリスタニアの街のド真ん中で、こんな変な顔同士のにらめっこが起こるなどと誰が想像しえたであろうか? トリスタニアの市民は唖然とし、ウルトラマンダイナに変身しようとしていたアスカも、思わず変身を忘れて呆然としていた。
「なんだアイツら、親戚か……?」
 んなわけないが、初見ではそう思ってしまってもしょうがないだろう。ともかく、一体でもヘンな奴が二体も現れたのだ。
 どうなるの? これからどうなるの? 誰にもまったくわからない。
 見つめあう、見つめあう、見つめあーう。
 まるでお見合いの席で初対面した初心な男女のように、両者は熱い視線をかわしあい続ける。
 しかし、お見合いはハッとしたジャシュラインの次男が止めさせた。
「あ、兄者! いつまでボーッとしてるんでシュラ。見とれてないで、さっさとやっちまうでシュラ!」
「あ、おう、そうだったジャジャ! 俺様たちは、こんなことをしてる場合じゃなかったジャジャ」
「そうだイン! どこの誰かは知らないけど、ワシたちの邪魔をする気なら、お前から先に始末してやるイン!」
「いくぞジャジャ!」
 正気を取り戻したジャシュライン三兄弟。ジャシュラインはひとつの体に三人の兄弟の人格が同居しており、それぞれ得意技が違う。まずは長男が主導権をとって腕につけている円形の盾を外すと、それが羽をあしらったブーメランに変わり、豪快なフォームから投げつけてきた。
 だがガラオンも黙ってはいない。ミジー星人たちも遅ればせながら正気に戻り、カマチェンコとウドチェンコがコクピットの天井から垂れ下がった吊り輪を引っ張ると、ガラオンはその不格好な巨体からは想像できないほど俊敏にブーメランを避けてみせたのだ。
「なにぃジャジャ!?」
 これに驚いたのはジャシュラインだ。必中だと思ったブーメランをやすやすとかわされたことで、彼らの宇宙ストリートファイターの血が騒いでくる。

12 ウルトラ5番目の使い魔 63話 (2/13) ◆213pT8BiCc :2017/08/30(水) 13:07:26 ID:feAcNe2A
「やるなシュラ。では今度はボクちんが相手になってやるでシュラ!」
 格闘戦に優れた次男とチェンジして、ジャシュラインは直接ガラオンに襲い掛かってくる。
 むろん、ミジー星人たちも負けてはいない。
「危っぶないわねえアイツ。なによ急に凶器出してきちゃって」
「ううん、やはりあれは大悪党の顔だったな。しかも顔が三つなんて、我々のガラオンをパクりやがって。どうする? どうする?」
「決まっているわ! 真の大悪党は我々ミジー星人であることを、あのニセモノに思い知らせてやるのだ。いくぞ!」
「ラジャー!」
 こっちはこっちで目的をきれいさっぱり忘れ、組み付いてくるジャシュラインをガラオンの体当たりで押し返す。
 トリスタニアのド真ん中で早朝から起こった怪獣同士の大バトル。その衝撃に、トリスタニアの市民たちもようやく我に返って逃げまどい始めた。
「うわぁ離れろぉ! つぶされるぞぉぉーっ!」
 ガラオンとジャシュラインは当たり前のことながら、足元の民家に配慮などしない。当然人間もモタモタしていたら気づかれずにぺっしゃんこにされてしまうというわけだ。
 まずい、このまま二体が暴れ続けたらトリスタニアは瓦礫の山になってしまう。アスカは二体に向かって駆け出し、リーフラッシャーを空に掲げる。
「あいつら! これ以上好きにさせられっかよ!」
 平和を自分たちの都合で乱す奴らを許してはおけない。ウルトラマンダイナの出番が来たようだ。
 だが、アスカがリーフラッシャーのスイッチをポチッとしようとした、まさにその瞬間だった。アスカの鼓膜はおろか、町全体に響き渡る音量で魅惑の妖精亭から声が轟いたのだ。
「コラーッ! ドルちゃんウドちゃんカマちゃん! 何よそ様に迷惑かけてるの! 暴れるなら広いとこでやりなさい!」
「はいぃぃぃ!」
 突然の怒声に、ガラオンは反射的に「気を付け」の姿勢をとり、アスカは変身を忘れて固まってしまった。
 そのままガラオンは、またも唖然としているトリスタニアの人々と「??」というジャシュラインの見ている前で、そそくさと民家を避けながら、前にアボラスとバニラが暴れた「怪獣を暴れさせるため用の広場」へと駆け足で走っていった。
「お、おーいでシュラ?」
 さっぱり訳のわからないまま、ジャシュラインも広場で手招きしてくるガラオンのところに駆けていく。
 そして、はっとしたミジー星人たちは、なぜこんなことをしてしまったのかと冷や汗をかいていた。
「ま、まさか……我々は毎日の雑用の日々の末に……潜在意識レベルでジェシカちゃんに服従するようになってしまったのでは!」
 ウドチェンコのつぶやいた言葉に、ドルチェンコとカマチェンコも「ま、まさか……」と青ざめるが、体が勝手に動いてしまったものはしょうがなかった。

13 ウルトラ5番目の使い魔 63話 (3/13) ◆213pT8BiCc :2017/08/30(水) 13:07:56 ID:feAcNe2A
 そのガラオンを、またも唖然と見守るトリスタニアの人々やアスカ。とはいえジャシュラインはバカにされたみたいで腹を立てている。
「なにをボーッとしてるんでシュラか!」
 棒立ちのガラオンにジャシュラインの蹴りが炸裂した。
 たまらずにミジー星人たちの悲鳴ごと、泣き顔を上にしてすっころぷガラオン。ガラオンのコックピットは座席もなくて立ちっぱなしで操縦するので、ミジー星人たちも洗濯機の中のシャツみたいにくしゃくしゃだ。
 だが、そのショックでガラオンの中に残っていた”もうひとつのコクピット”の中で、再起動した者がいた。
「ワタシは……消去サレタはずでは?」
 ミジー星人たちは何も気づいてはいない。いや、それよりも目の前の敵を相手にするだけで手いっぱいなのだ。
「畜生、反撃だぁ!」
 ドルチェンコの叫びで、起き上がったガラオンは目から破壊光線を放ってジャシュラインを狙い撃った。
 けっこう威力のある光線を浴びて、ジャシュラインの体がぐらりと揺れる。
「なかなかやるでシュラ!」
「では今度はワシの出番だイン!」
 ジャシュラインの縦に三つついている顔の一番下、無表情の顔の三男のランプが点灯して体の主導権が移ったようだ。
 もちろん、得意技もこれまでとは違う。ジャシュラインはガラオンが再度光線で攻撃を仕掛けてくると、手のひらを向けて気合を入れた。
「ハアッ!」
 するとなんと、ガラオンの光線が空中でピタッと止まってしまったではないか。
「そら、お返しするでイン!」
 さらに三男が気合を入れると、光線はUターンしてガラオンへと直撃してしまった。
 ジャシュラインの三男は、強力な念動力の使い手だったのだ。ガラオンは怒りの顔から火花をあげてよろめく。
 だが、そのときなぜか悲鳴をあげたのはミジー星人たちのほうではなかった。
「ああっジャジャ!」
「ん! ちょっと兄者、急にどうしたんでシュラ?」
「い、いや、なんでもないジャジャ」
 突然叫び声をあげた長男に次男が驚くが、長男はごまかした。
 気を取り直して、隙だらけになったガラオンに対して、また次男が主導権をとって殴りかかっていく。
「さっきのお返しをしてやるでシュラ!」
 痛い目にあわされた恨みで、怒り顔のガラオンに突撃していく次男のジャシュライン。

14 ウルトラ5番目の使い魔 63話 (3/13) ◆213pT8BiCc :2017/08/30(水) 13:08:30 ID:feAcNe2A
 しかし、それはガラオンにとって思うつぼだった。コクピットのウドチェンコがレバーを引くと、ガラオンはくるりと笑い顔のほうを向けて、口からガスを噴射して浴びせかけたのだ。
「なんだこれは! 毒ガスか! いや、あひゃひゃ! どうたんでシュラ、あひゃひゃひゃ!」
「どうだ、ガラオンの笑気ガスは。強烈だろう」
 腹をかかえて笑い転げるジャシュラインを見て、ミジー星人たちも高笑いした。
 実際このガスの威力は強烈で、かつてはウルトラマンダイナも笑い転げて戦闘不能にされている。もっとも、このときミジー星人たちは気づいていないが副次的な効果を生んでいた。ガスが風で流れて、今度こそ変身しようとしていたアスカが笑い転げて変身不能になっていたのだ。
 笑い転げているジャシュラインの姿に、攻撃態勢に入ろうかとしていたトリステイン軍の竜騎士たちもあっけにとられてしまった。あいつらは戦っているのかふざけているのか。
 逃げようとしていたトリスタニアの市民たちも、ジャシュラインの笑い声に足を止めて振り返ってくる。そして、笑い声を聞いてにわかに騒ぎだした者たちがいた。
「いいぞーっ! 景気がいいじゃねえか、もっとやれーっ!」
 それは、魅惑の妖精亭の前から大勢の声となって響き渡っていた。
 見ると、顔を酒精で赤く染めた大勢の男たちが歓声をあげている。彼らは、魅惑の妖精亭の店じまいギリギリまで飲んでいた筋金入りのうわばみどもだ。閉店時間で追い出されかけていたところで、外で思いもよらない騒ぎが起きたので、喜び勇んで自分たちも騒ぎ出したというわけだ。
 もちろん、正気の者たちは、あいつらは一体なにをやってるんだ! と、怒りと困惑を抱く。しかし、この光景を見てミジー星人たちは大いに勘違いした。
「おお! 我々に向かって手を振っているぞ。あれは我々を応援してるのに違いない」
「きっと我々の恐ろしさを見て、無条件降伏しようとしているんですよ。やりましたねとうとう、感動だなあ」
「そうかしら? なーんか違う感じがするんだけど」
 カマチェンコがこう言ったものの、サービス精神旺盛に手を振って返すガラオンの姿に、関係ない人々も唖然としてしまう。
 だが、その間にジャシュラインは笑気ガスを浴びた次男から三男へとパトンチェンジして反撃を仕掛けてきた。
「いつまで調子に乗っているでイン!」
 念動力で動きを封じられ、手を振っていたガラオンがぴたりと止まる。
「どうだ、動けまいでイン。このままじわじわと痛めつけてやるでイン」
 ジャシュラインの念動力は強烈で、ガラオンの巨体が静止映像のように止められてしまっている。
 しかし、ミジー星人たちはやる気十倍で叫んだ。
「んんんんん! ファンが応援してくれているのに負けられるか。パワー全開ぃぃぃ!」
「ラジャー! エンジンフルパワー」
 なぜかガソリン車みたいな排気音を響かせ、ガラオンがじわじわと動き出す。これにはジャシュラインの三男も驚いたが、彼も自分の力に自信を持っていた。

15 ウルトラ5番目の使い魔 63話 (4/13) ◆213pT8BiCc :2017/08/30(水) 13:09:05 ID:feAcNe2A
「おのれ、可憐な見た目に反して力持ちでインね。でも、その場で足踏みするくらいで精一杯だろイン!」
「なんの、我々ミジー星人の威力を見せてやる。作戦Aだ!」
 すると、その場で足踏みするくらいしかできないガラオンが、足踏みしながらグルグルと回転しだしたではないか。これには三男もあっけにとられて、さらにガラオンは三つの顔が見えなくなるほど回転を速めると、回転しながら光線を撃ってきた。
「わあーっ!?」
 回転しながら前触れなく撃たれたので、ジャシュラインは対応しきれずにもろに食らってしまった。
「見たか! これぞ必殺、回ればなんとかなる、だ! わはははは」
 そして拘束から解放されたガラオンは、ジャシュラインに突進していく。
 迎え撃つジャシュライン。奇想天外な能力を持つ二体の怪獣の戦いは、どうなるか先の読めない大スペクタクルともなってきた。
 と、なると。これを利用しようと考えるのが人の常だ。これを肴にすればめっちゃ酒が進むだろうと、スカロンとジェシカは外にテーブルを運び出して宣言した。
「さあさあ皆さん! 世にも珍しい三面vs三面の、合わせて六面の大決闘! これを見逃せばタニアっ子の名折れ! さあさあさあ、ご見物はこちらから。特別営業開放セールで、お飲み物をお安くしておきますよーっ!」
「おお、わかってるじゃねえか! じゃんじゃん持ってこーい!」
 たちまち酒盛りが始まった。これを見ていた人たちは「なにやってんだこいつら!」と再び思うが、そこはスカロン抜け目はない。
 ジェシカが店内に戻っていったかと思うと、再び戻ってきたときには、体のラインをはっきりと浮き上がらせる黒いビスチェを身に着けていた。そしてジェシカは用意されたお立ち台に上がると、よく通る声で話し出したのだ。
「さあ、そこ行くあなた、ちょっとこっちを見てください。難攻不落のトリスタニア、そんなに慌ててどこへ行く? ちょっとその前、一息ついて、喉をうるおしていってください。お酒以外も取りそろえ、あなたの街の魅惑の妖精亭です!」
 ジェシカの呼びかけに、道行く人々が足を止めて振り返り始めた。そして、ジェシカの情熱的なプロポーションを見て、フラフラと店に寄って行ってしまう。
 もちろんこれにはタネがある。ジェシカの身に着けているのは魅惑の妖精のビスチェといい、その名の通り『魅惑』の魔法がかかっている。要するに見た人間をアレにしてしまう効果があるのだが、それを店で一番の美少女であるジェシカが着ているのだから効果は倍増となる。
 もちろん魔法といえども完璧ではなく、見た人間にそれなりの心構えがあれば振り切られる。しかし、ジェシカは父譲りで巧妙だった。酒以外にもソフトドリンクの提供もするよと付け足したおかげで、通行人も「酒じゃないならいいか」と、気を緩めてくれたのだ。
 通行人たちが魅惑の妖精亭に集まっていく。さて、こうなると避難しようとしていた同業者も黙ってはいなくなる。たちまちトリスタニアのあちこちで大怪獣バトル見物の飲み会が始まった。
「さっすがトリスタニアの人たちは肝が据わってるわねえ。うんうん、これで店の立て直しの赤字も消し飛ぶわ」
「でもミ・マドモアゼル、怪獣が暴れてるのに街の人を引き留めるなんてマネして本当によかったんですか?」
「いいのよ、どうせドルちゃんたちがそんな大事をできるわけないし、ほんとに暴れだしたらミ・マドモアゼルとジェシカちゃんが止めるから、あなたたちは安心してお客さんからチップをいただいてきなさい」
 三人組のことを知り尽くしているスカロンは余裕しゃくしゃくであった。なおトリステイン軍は攻撃を仕掛けようとしたときに「邪魔だ」とばかりに、こんなときだけ仲良く放たれた念動力と笑気ガスで追い払われてしまった。
 そして、スカロンのこの予言は、この後すぐに現実のものになるのである。
 
 さて、自分たちが見世物にされているとは気づかずに、ガラオンとジャシュラインの戦いはなおもヒートアップしていた。
 それぞれが顔の使い分けによって多彩な能力を使用可能なガラオンとジャシュラインの戦いは、空を飛びかうブーメランや、色とりどりのビームは見る目にも楽しく、それでいてどちらも短気でコミカルな動きをするので見物人は飽きなかった。
 しかし、戦いが続くと人々は妙な違和感に気づいた。ジャシュラインが長男に代わったときに投げるブーメランがまったく命中しないのだ。

16 ウルトラ5番目の使い魔 63話 (4/13) ◆213pT8BiCc :2017/08/30(水) 13:10:21 ID:feAcNe2A
 もちろん、それには次男と三男も気が付く。一回や二回なら避けられたとかもわかるが、何度投げても当たらないのはわざと外してるとしか思えない。次男と三男はついに堪忍袋の緒を切らして長男に詰め寄った。
「兄者、さっきからいったいどうしたんでシュラ? ブーメランの名手の兄者らしくない、もっと真剣にやってくれシュラ!」
「あ、いやそのジャジャ」
「さっきから思ってたけど、おかしいでイン。わざと手を抜いてるんでイン? そうでないなら、アレができるはずでイン?」
 腹を立てた次男と三男は、まだ早いと思いつつも切り札の使用を強要した。
 ジャシュラインの三つの顔のランプが一気に点灯し、頭についているトーテムポールの大きな羽飾りが金色に輝く。
 これはジャシュラインの切り札、必殺光線ゴールジャシュラーだ。金色の粒子を敵に浴びせ、ヒッポリト星人のヒッポリトタールと同様に敵を黄金像に変えてしまう。ジャシュラインはこれで黄金像に変えた敵をコレクションして宇宙に悪名をとどろかせていたのだ。
 しかし、ゴールジャシュラーは発動したものの、ピカッと光っただけで光線が発射されることはなかった。当然ガラオンはなんともなく、腹の立つ顔を見せ続けている。
 不発。なぜならゴールジャシュラーは三兄弟が力を合わせなければ撃てないからだ。次男と三男はそのつもりだったから、当然やる気がなかったのは長男ということになる。
 もう疑いない。次男と三男は声を荒げて長男に詰め寄る。すると、長男は頭を抱えて叫びながらうずくまってしまった。
「う、うおぉぉぉぉ! だってしょうがないだろジャジャ! あんな可憐な美女を傷つけるなんて、俺様にはできないジャジャーッ!」
 
 
 なんと、ジャシュラインの美的感覚では、ガラオンが絶世の美女に見えていたのだ!
 
 
「えええええええぇぇぇぇぇぇーーーっ!?」
 度肝を抜かれて開いた口がふさがらなくなるトリスタニアの市民たち。世間にはいろんな好みの人がいる、だがまさかこんな好みがあったとは……いや、才人やギーシュに惚れる女がいるくらいなのだからこれも正常なのかもしれない。
 怒り顔をしているジャシュラインの長男は、ガラオンの怒り顔にすっかり一目惚れしてしまって攻撃することができなくなっていた。
「うおおお、あの情熱的な瞳に見つめられると、俺様の胸は張り裂けそうジャジャ。あんな美しい人には出会ったことがないジャジャーッ!」
「落ち着くでシュラ。あれは敵でシュラ、ぼくちんたちには大事な目的があるのを忘れたでシュラか!」
「そうでイン。ワシたちは、ウルトラマンを倒して、かつての雪辱を晴らさなきゃいけないんだイン! あんなヤツに手こずってる場合じゃないでイン」
 次男と三男が説得しようとしている。しかし長男は熱く叫んだ。
「うるさいジャジャ! お前たちこそ、あんな美しい人に二度と出会うことができると思ってるんジャジャか!」
「うっ、確かにそれはでシュラ。ああ、ダメでシュラ! そんな優しい笑みでぼくちんを見ないでくれでシュラ!」
「お前までどうしたんでイン! でもワシも、その憂え気な横顔を見ると胸が熱くなってくるでイン。こんなの初めてなんだイン!」

17 ウルトラ5番目の使い魔 63話 (7/13) ◆213pT8BiCc :2017/08/30(水) 13:12:12 ID:feAcNe2A
 次男と三男も実はまんざらではなかった。まさかの恋煩いによる戦意喪失、何度も怪獣との戦いや戦争を乗り越えて、神経の太さを鍛えてきたトリスタニアの民たちも、これはさすがに意外すぎたようであっけにとられている。
 しかし、ここで空気を読まないのがミジー星人だ。ドルチェンコが、顔をそむけてうずくまってしまっているジャシュラインを指さして叫んだ。
「わははは、なんだか知らんが今がチャンスだぞ。それ、必殺光線だぁーっ!」
 だが、うんともすんとも言わず、ガラオンから光線が放たれることはなかった。
「どうした? それ、必殺光線だぁーっ!」
 繰り返すドルチェンコ。しかしやっぱり光線は発射されない。
 そのとき、モニターを凝視するドルチェンコの肩がチョンチョンと叩かれた。
「なんだ? 今忙しいんだ。必殺光線だぁーっ!」
 しかしやっぱり光線は放たれず、代わりにドルチェンコの肩が叩かれる。
 いったいどうしたというんだ? ドルチェンコが怒ってウドとカマを怒鳴りつけようと振り返ると、そこにはいつの間にかボッコボコにされて伸びている二人と、サングラスをかけた冷たい雰囲気の美女が立っていた。
「えーっと……ど、どちら様でしょうか?」
「……よくも私のワンゼットをこんな姿にしてくれたな。下等生物め、報いを受けさせてやろう!」
「ぎゃーっ!」
 こうしてドルチェンコもボコボコにされてしまった。しかし、いくらミジー星人たちが弱いとはいっても人間ばなれした強さだ。
 それもそのはず、この女は人間ではない。ワンゼットを作ったデハドー星人が、自身に代わって地球侵略を遂行するために作ったアンドロイドなのだ。かつて、ワンゼットを指揮するために内部に乗り込んで操縦していたが、ミジー星人がワンゼットの内部にぽちガラオンを潜り込ませて暴れさせたため、コントロールがめちゃくちゃになって消滅してしまっていた。しかし、ワンゼットがガラオンに再構成されたついでに復活したのだった。
 ミジー星人の三人をギッタギタにしたアンドロイドはガラオンのコントロール権を取り戻した。ずいぶん原始的な操縦方法だが特に問題はない。
 アンドロイドは、内臓レーダーによって付近にウルトラマンダイナの反応があることを察知した。自分の任務は失敗だが、ウルトラマンダイナの打倒はデハドー星のためになるだろう。アンドロイドは、自分の最後の存在意義を果たすために動き出した。
 操縦装置を握り、攻撃対象を地上にいるアスカに向けようとするアンドロイド。しかしそのとき、モニターにこちらを向いてきたジャシュラインの姿が映った。
「はっ……!」
 その瞬間、アンドロイドの電子頭脳にスパークが走った。
「な、なに、あのお方は……ああっ、メイン動力炉が異常発熱している。なんだ! 私に原因不明の異常をもたらす、あの美しい男性は!」
 
 胸を押さえてもだえるアンドロイド。
 なんと、デハドー星人の美的感覚ではジャシュラインが最高のイケメン男子に見えたのだ!
 
「えええええええええぇぇぇぇぇーっ!?」
 今度はミジー星人たちがおったまげる番だった。
 まさか、こんなことが。どうやら高度にプログラミングされたアンドロイドの頭脳が、作ったデハドー星人の嗜好をも再現してしまったようだ。なんという奇跡か。

18 ウルトラ5番目の使い魔 63話 (8/13) ◆213pT8BiCc :2017/08/30(水) 13:13:10 ID:feAcNe2A
 アンドロイドは身もだえし、ガラオンの操縦どころではない。ドルチェンコは、この隙にガラオンを取り戻そうとしたが、そこへカマチェンコが割り込んで押しのけて、アンドロイドに熱く語りかけた。
「あなた、それは恋よ」
「コイ? 恋とはなんだ?」
「宇宙のあらゆる生命が繁栄するために、一番必要な尊いものなのよ。すごいわあなた、こんなところで新しい恋の誕生に出会えるなんて、私感動しちゃったわ」
 カマチェンコの熱い呼びかけに、アンドロイドもうなづいた。
「恋? アンドロイドの私が、恋だと」
「関係ないわ。恋は宇宙のあらゆる法則を超える最強の原理なのよ。あなたは今、アンドロイドを超えた存在になったのよ!」
「なんと、オオ……同志よ!」
 感動の涙を流しあうふたり。人は、男か女かのどちらかの心を持って生まれる。しかし、オカマは男と女の心を併せ持つことにより、通常の二倍。さらに魅惑の妖精亭での経験がさらにプラスされたことにより、さらに倍の四倍の説得力となった魂のパワーはアンドロイドの心をも溶かしたのだ。
 
 そして、愛の伝道師はひとりだけではなかった。
 初恋の衝撃を受け止めきれず、動揺し続けるジャシュライン。宇宙ストリートファイトで連勝街道を突き進んできた彼らも、恋という内なる敵を相手にはなすすべがなかった。
「俺様たちはいったいどうすればいいんジャジャ」
「もうぼくちんは戦えないでシュラ。あの子の笑顔を見ると、体から力が抜けるでシュラ」
「ワシたちはもうダメかもしれないでイン。忘れようと思っても忘れられないでイン! こんなのなら、死んだままでいたほうがよかったでイン!」
 街中に響くほどの声で弱音を叫ぶジャシュラインの姿は、けっこう滑稽なものであった。トリステイン軍は、さすがにこれに攻撃するのはどうかとためらっているし、アスカもここで変身したら自分のほうが悪者なんじゃないかと思ってためらっていた。
 しかし、恋煩いほどこじらせたらヤバいものはない。
「うぉぉぉ! こんな苦しいなら、もう生きてたくなんてないでシュラ!」
「こうなったら、この星の地殻を刺激して、なにもかもまとめて消し飛ばしてやるでイン!」
 そう叫ぶと、ジャシュラインは柱のように直立して高速回転をはじめた。そのまま土煙をあげながら地中に潜り始める。
 まずい、あいつパニック起こしてこの星ごと無理心中をはかる気だ。アスカはそれを止めるべく、ウルトラマンダイナへ変身しようとリーフラッシャーを掲げた。
 だがその瞬間、鋭く厳しい声がジャシュラインを叩いた。
「待ちなさい! 逃げようとしてるんじゃないわよ、この臆病者!」
 その針のように鋭く響く声に、ジャシュラインの動きがぴたりと止まった。
 誰だ? 相手を探すジャシュラインの目に、家の屋根の上に立ってきっと自分を見据えてくるジェシカの小さな姿が映った。
「お前かジャジャ? この俺様に向かって臆病者とはどういう意味だジャジャ!」
 いつの間にかジャシュラインのすぐ前にまでやってきていたジェシカを、ジャシュラインの巨体が見下ろしながら指さしている。

19 ウルトラ5番目の使い魔 63話 (9/13) ◆213pT8BiCc :2017/08/30(水) 13:13:52 ID:feAcNe2A
 なにをしているんだ! 危ない! アスカや街の人々は口々に叫ぶが、ジェシカは毅然として叫び返した。
「ええ臆病者よ。自分の気持ちが整理できずに逃げ出そうしている奴を臆病者と呼んでなにが悪いの? そんなのじゃ、女房の愚痴をきくだけの酔っ払いのほうがマシよ。それでも男なの!」
 うぐっ! と、ジャシュラインが気圧されるほどジェシカの指摘は鋭かった。
 さすがは魅惑の妖精亭の看板娘。肝の太さが並ではない。人々が息をのんで見守る中で、ジェシカはジャシュラインを指さして言った。
「あなたみたいに、ケンカは強いけど肝心なときに勇気の出せない男っているものよ。あなた、これまで女の子とまともに話したこともないんでしょ。違う?」
「うっ、確かにぼくちんたちは宇宙ストリートファイトに明け暮れる毎日で、女の子と会う機会なんかなかったでシュラ」
「でしょうね。だから、いざ理想のタイプに巡り合えたらどうしていいかわからなくなったのね。けど、それは恥じることじゃないわ。男も女もね、それは誰でも一生に一度は勝負に出なくちゃいけない場所なのよ。それがどんな戦場より勇気が必要な瞬間だったって言う人を、私は何人も見てきたわ。あなたは今、人生で最大の戦場に立っているのよ、それはむしろ光栄に思うことなんだわ」
「これが、人生で最大の戦いだっていうんでイン? ワシにはわからんでイン。こんな戦い、想像したこともなかったでイン」
「大丈夫、恋の戦いは誰にでもできるわ。その戦い方を、私が教えてあげる。それはとても、楽しいことでもあるんだかね」
 しだいに声色を優しく変えながら諭すジェシカの話に、ジャシュラインは自然に聞き入っていっていた。
 ただの少女が、見上げるばかりの巨大怪獣を諭している。魅惑の妖精亭のほかの少女たちは、どうしてジェシカが店の不動のナンバーワンなのかを改めて理解し、街の人々も。
「女神だ、女神様がいる……」
 と、あがめるようにジェシカを見つめ、そのうちの幾割かは近いうちに魅惑の妖精亭に行こうと決意していた。なお、ここまでジェシカが計算していたかはさだかではない。
 ジェシカの教えで、ジャシュラインはこれまで知らなかった未知の世界への扉を開いていった。
「俺様はこれまで生きてきて、こんな気持ちがあるなんて知らなかったジャジャ」
「宇宙ストリートファイトで名を売ることだけを喜んできたでシュラが、世の中は広いものでシュラ。なんかもう、メビウスへの復讐とかどうでもよくなってきたシュラ」
「それで、ワシらはどうすればこのくるおしい気分から逃れることができるんでイン?」
「そんなの決まってるわ、告白するのよ」
「こっ」
 
「告白ジャジャ!?」
「告白でシュラか!?」
「告白だとイン!?」
 
 三兄弟が同時にうろたえた声をあげた。しかし、ジェシカは畳みかけるように告げる。
「告白よ! あなたの思いをまっすぐに相手に伝えるの。そうしないと、あなたたちは永遠に後悔したまま生きることになるわ。そしてそれは、あなたたちに本当の勇気があれば必ずできるのよ」
 ジェシカは魅惑の妖精亭で、何人ものさえない男が未来の女房を捕まえるために背を押したように、力強く、太陽のような笑みで告げたのだった。

20 ウルトラ5番目の使い魔 63話 (10/13) ◆213pT8BiCc :2017/08/30(水) 13:14:26 ID:feAcNe2A
「で、でもワシらみたいなのが、あんな美人に気に入ってもらえるなんて思えないんでイン」
 ちらりとガラオンのほうを振り向いて三男が弱音を吐いた。しかしジェシカは自信たっぷりに言う。
「大丈夫よ、あなたたちだっていい男なんだから、きっとうまくいくわ。この私が保証してあげる。さあ、男になるのは今よ!」
 ジェシカの励ましに、ジャシュラインは勇気を奮い立たせた。
 何者からも逃げない宇宙ストリートファイターのプライド。いや、男だろと言われて、ここで引き下がったらもう二度と自分は誇りを持てなくなってしまうに違いない。
 恐る恐る立ち上がろうとするジャシュライン。だがその前に、スカロンがやってきてジャシュラインに花束を差し出した。
「これを持っていきなさい。女の子のハートを射止めるのに、花は無敵のアイテムなのよ。このミ・マドモアゼルもそうしてお嫁さんをゲットしたの。頑張ってね、チュッ」
「かたじけないでシュラ。お前みたいなハンサムに言われると、少し勇気が出てくるでシュラ」
 あのミ・マドモアゼルがハンサム? やはり宇宙人の美的感覚は人間には理解しづらそうだ。
 人間の標準では大きな花束もジャシュラインのサイズでは指先で摘まめる程度しかない。しかし、それでもジャシュラインは勇気を振り絞ってガラオンへと一歩一歩歩いていった。
 
 そしてガラオンのほうでも、アンドロイドが近づいてくるジャシュラインを見て困惑していた。
「あ、あわわわ、あのお方がやってくる。わ、私はどうすれば」
「落ち着いて、逃げちゃダメ。こういうとき、女は落ち着いてどっしりと待っていなくちゃいけないの」
 カマチェンコがアンドロイドをはげまし、後ずさりしかけたガラオンは止まった。
 ドルチェンコとウドチェンコは完全に蚊帳の外で、事の成り行きを見守るしかできないでいる。
 
 全トリスタニアの人々が見守る中で、ジャシュラインとガラオンの距離が一歩ずつ近づいていく。
 しかし、もう少しというところでジャシュラインの足が鈍った。やはり、最後の最後でためらってしまったようだ。体の主導権を示すランプが点いたり消えたりを繰り返しているところを見ると「お前行けジャジャ」「お前行けシュラ」「いやいやお前がいけでイン」と、体の押し付け合いをしているのかもしれない。
 だがそこで、スカロンを先頭に街中から声があがりはじめた。
「がんばれーっ」
「がんばれーっ!」
 応援する声はどんどんトリスタニアの全体へと拡散していき、ついには王宮を含めたトリスタニア全体から響き渡っていた。
「がんばれーっ、がんばれーっ!」
 いまや声の主は数万にもなるだろう。ノリのいい市民たちであった。

21 ウルトラ5番目の使い魔 63話 (11/13) ◆213pT8BiCc :2017/08/30(水) 13:15:06 ID:feAcNe2A
 数えきれないほどの声に応援されて、ジャシュラインはついに決意した。ここで逃げたらもう二度と自分は男を名乗れない。兄弟三人で三つのランプを点灯させ、ガラオンの前に立ったジャシュラインは花束を差し出して深々と頭を下げた。
 
「お願いだ!」
「俺様と」
「ぼくちんと」
「ワシと」
 
「付き合ってくれジャジャ・シュラ・イン!」
 
 一瞬の静寂。そしてガラオンから、アンドロイドの声で感極まったような返事が響いた。
 
「喜んで。私なんかでよろしければ」
 
 そして、声にならない歓喜の叫びがジャシュラインから放たれ、トリスタニア中に響き渡った。
 次いで贈られる、街中からの祝福の声。始祖ブリミルよ、見ていてくださいますか、今ここに新しいカップルが誕生いたしました。
 愛を確かめ合い、抱きしめあうジャシュラインとガラオン。
「こんな嬉しい日は初めてジャジャ。絶対にお前を離さないジャジャ」
「なんて幸せ。私が、こんな感情を持つときが来るなんて。これもあなたのおかげです」
 アンドロイドは、かつてのワンゼットのときと同じように機体と同化を始めていた。もうすぐ彼女はガラオンと一体となることだろう。
 カマチェンコは、もう私たちは邪魔ものね。と、ウドチェンコと、未練がましいドルチェンコを連れてガラオンを降りていった。
 もはやジャシュラインには悪意はない。守るべきものを手に入れた彼らは、温かく祝福する人々に見送られてガラオンとともに宇宙へと去っていった。
 
「この星のみんなーっ、ありがとうでシュラ。この恩は一生忘れないでシュラ」
「ワシたちはこれからは愛に生きるでイン! さらばでイーン!」
 
 青い空に消えていくふたつの影。「ジャジャ」「シュラ」「イン」という幸せそうな声が、最後に人々の耳を通り過ぎていった。
 アスカの手元には、結局最後まで使えなかったリーフラッシャーが寂しく残っている。けれど、これでよかったのかもしれない。「まっ、いいか」と気持ちを切り替えたアスカは、朝飯を食いに踵を返すのだった。
 
 一方、ミジー星人たちはどうしたのだろう?
 ガラオンを失い、お尋ね者の彼らが街中に現れたとき、彼らは当然とっ捕まった。

22 ウルトラ5番目の使い魔 63話 (12/13) ◆213pT8BiCc :2017/08/30(水) 13:16:00 ID:feAcNe2A
「ああああ、もうダメだ、お終いだ。このまま死刑になってしまうんだ」
「儚い人生だったなあ……」
「しかたないわね、もうこうなったら覚悟決めましょ」
 それぞれ縄でグルグル巻きにされる中で連行されていくが、それを救ったのはまたしてもジェシカだった。
「やあ、ドルちゃん、ウドちゃん、カマちゃん、ご苦労様。いい仕事だったわよ」
「へ? なにが」
「そりゃ、作戦成功ってね。ジャシュラインちゃんが現れるのを予感して、あの秘密兵器を取りに行ってたんでしょ。敵をあざむくにはまず味方からってね。そういうことだから衛士さん、こいつらを離してあげてもらえるかしら」
 と、いうふうに片づけてしまったのだ。
 少し考えれば、すぐ何か変だなということには気づくだろうが、このときはまだ衛士も興奮が残っていて判断力が鈍く、ジェシカはそこを勢いで切り抜けてしまった。それに、仮に多少は疑問を抱いたとしても、今や街中から女神のようにあがめられているジェシカの言葉にやすやすと逆らえるわけもない。
 こうして三人組は簡単に無罪放免ということになり、むしろなかば英雄扱いにさえなってしまった。
「俺、ウルトラマンよりジェシカちゃんのほうが怖く思えてきた」
「そうよねえ。あの子だけは敵に回しちゃいけない気がするわ」
 ウドとカマは、底知れない恐ろしさをジェシカに感じて体を震わせるのだった。
 もっとも、ジェシカは過ぎたことは気にも止めてはいない。いつもどおりの陽気さで、三人組に向けて言い放った。
「さあ、今日はとんでもなく忙しくなるわよ。三人とも、お客さんは待ってくれないんだからね!」
「ラジャー!」
 雇い主と従業員に分かれ、こうして彼らは元の生活へと戻っていった。
 その日、魅惑の妖精亭がかつてない繁盛を見せたのは言うまでもない。

23 ウルトラ5番目の使い魔 63話 (13/13) ◆213pT8BiCc :2017/08/30(水) 13:16:37 ID:feAcNe2A
 ついでに、三人組の処遇についてアスカはその後、なんやかんやで「しょうがねえな」と、あきらめたらしい。
 
 
 こうして、騒動は終わった。平和は戻り、事件は人々の記憶の中に刻み込まれて過去に去っていく。
 そして、あの黒幕の宇宙人もまた、やれやれと息をついていた。
 
 
「さて、いかがでしたか皆さん。お楽しみいただけましたか? 私はどっと疲れましたよ」
 
「いやはや、私もそれなりに生きてきたつもりですが、宇宙は広いですねえ……そして愛。私には理解しがたいものですが、生物の感情が生み出す力、なんとすさまじいものでしょうか」
 
「ウフフ、俄然やる気が湧いてきましたよ。今回は失敗でしたが、次は本当の意味でのスペクタクルをお送りすることをお約束しましょう。おや? また失敗しろですって? いやいや、それはないですよ」
 
「では、ごきげんよう。次のパーティの上映にも必ずお招きしますのでお楽しみに。フフ、ご心配なく。私はこれでも約束はちゃーんと守るタイプですから」
 
 こうして宇宙人は、新たな企みを進めるために去っていった。
 ただし忘れてはいけない。愉快な姿を見せることがあっても、この宇宙人の本質は悪辣で卑劣であることを。
 また遠からず、奴はなにかの悪だくみを抱えて現れるだろう。
 しかし、平和で満ち足りた時間。それは、確かに今ここにあった。
  
 
 続く

24 ウルトラ5番目の使い魔 あとがき ◆213pT8BiCc :2017/08/30(水) 13:17:28 ID:feAcNe2A
以上です。ゼロの使い魔はラブコメ。

25 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/08/31(木) 00:28:13 ID:05VGcVdc
5番目の人、乙です。私の方の投下を始めさせてもらいます。
開始は0:32からで。

26 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/08/31(木) 00:32:23 ID:05VGcVdc
ウルトラマンゼロの使い魔
第百五十四話「闇が来る」
炎魔人キリエル人
炎魔戦士キリエロイド
超古代尖兵怪獣ゾイガー 登場

 ブリミルたちの村の上空に浮かび、その不気味さで村の人々を脅かしているキリエル人の
ゆらめく姿を、才人は奥歯を噛み締めながらにらみつけた。
「やっぱり……あいつか……!」
 この時代からしたら遠い未来だが、才人にとってはほんの二日、三日前の出来事。ロマリアで
いきなり襲いかかってきた怪人そのものである。まさか六千年前の時点で既にハルケギニアにいて、
こうしてブリミルたちを脅かしていたとは。
 キリエル人はおびえている村の人間全員に向けて、高圧的に言い放ち続ける。
『この世界はもうじき闇によって滅びる。貴様ら愚かで無力な人間を救うことが出来るのは、
我々キリエル人だけである! 今すぐに我々にひざまずいてしもべにあることを誓うのだ! 
さすれば救いの道は開かれる!』
 その言い分に、外にいる村の住人は皆一様に困惑する。
「そんな勝手なことをいきなり言われても……」
「俺たちはあんたのことを何も知らないんだぞ! それでしもべになれだなんて無茶な……!」
 尻込みしている人間たちに、キリエル人は苛立ったように怒鳴り散らした。
『黙れ! 貴様ら下等な人間に選択の余地はない。貴様らに与えられた道は、キリエル人を
崇め忠実なる下僕となることだけだ!』
 一方的に言いつけるキリエル人に強く反論する者たちが現れる。誰であろう、ブリミルと
サーシャだ。
「そんな勝手な要求は呑めない! ぼくたちにはぼくたちの信仰があり、生活がある。いきなり
出てきたあなたの言いなりになるなんてことは御免だ!」
「わたしはこの村の者じゃないけど、一つだけ言ってやることがあるわ。あんた何様なのよ! 
礼儀ってものの意味を調べてから出直してきなさい!」
 二人の発言に、キリエル人はますます不興を募らせているようであった。
『愚か者どもが! 己らの矜持の方が、命より大事だとでも言うのか! キリエル人の救いを
受けなければ、お前たちはこの世界とともに滅亡するのだ!』
 その言葉にもブリミルが言い返す。
「ぼくたちはその滅びとかいうのを阻止するために頑張ってるんだ! それに光の戦士たちも
力を貸してくれている。世界を滅ぼさせたりはしないぞ!」
 光の戦士、という単語に、キリエル人の怒りのボルテージはマックスになったようだった。
『よりによってウルトラマンを頼りにしようなどとは……愚行の極致! あまりに罪深い! 
もはやその罪は、我が聖なる炎でないと清められぬぞぉッ!』
 喚きながら、キリエル人は火炎を飛ばして村のテントを焼き始めた!
「きゃあああああああッ!?」
 一気に巻き起こる悲鳴。メイジたちは慌てて水の魔法で消火に掛かるが、火災の勢いは
凄まじく、またキリエル人が次々に火を放つので手が足りない。
「やめろ! 暴力に訴えるんだったらこっちも……!」
 キリエル人へ杖を向けるブリミルだが、すぐに小さくうめく。
「くッ、呪文詠唱が間に合うか……!」
「あの高さじゃさすがに剣が届かないわ! 誰か、弓持ってない!?」
 サーシャが弓を求めるが、それが届けられる前にブリミルたちの先頭に立つ者があった。
「いい加減にしろよ! このエセ救世主、いや救世主気取りの大馬鹿野郎!」
 もちろん才人だ。
『何だと……!?』
 正面から罵倒されたキリエル人はすぐに顔色が変わる。
「お、おいきみ! 危ないぞ!?」
「いや待った! 彼なら恐らくは……!」
 メイジの一人が泡を食って才人を止めようとしたが、ブリミルが神妙な面持ちで制止した。

27 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/08/31(木) 00:35:11 ID:05VGcVdc
「守る相手に暴力を振るって言うことを聞かすなんて馬鹿もいいところだ! お前の本性は
神でも何でもない、ただの底抜けのわがまま野郎じゃねぇか! 自分の振る舞いが物語ってるぜ!」
 才人の遠慮のない非難の言葉に、キリエル人は怒りの矛先を全て彼に向けた。
『おのれ、キリエル人に向かって何たる口の利き方……地獄の炎で焼かれて己の罪を思い知れッ!』
 才人へと灼熱の火炎を猛然と放ってくるキリエル人!
 だが才人はスパークレンスを掲げて、その光で火炎を打ち払った!
『その光はッ!? そういうことか……!』
 一瞬驚愕したキリエル人だが、すぐに察してこれまで以上の怒気を纏う。
『ウルトラマン! 全ては貴様らのせいだ……! 貴様らの存在が愚かな人間どもを惑わせるのだ! 
おこがましいと思わんのか!』
「ほざけ! お前がどう思おうが知ったことじゃねぇ! 俺がすることはただ一つ……お前の
暴力からこの人たちを守ることだけだッ!」
 言い切って、才人はスパークレンスを高々とかざした。すると先端の翼型の意匠が左右に開き、
まばゆい閃光が発せられる!
「ヂャッ!」
 光とともに、才人の身体はたちまち巨躯なるウルトラマンティガへと変身する。
「おおッ!?」
「あれはまさしく、光の戦士……! あの少年がッ!」
 メイジたちの間でどよめきが起こった。一方のキリエル人は、ティガになった才人を激しく
ねめつける。
『よかろう。見せてやろう、キリエル人の力を! キリエル人の怒りの姿をッ!』
 キリエル人の足元の地面が突如ひび割れ、マグマの噴出のように火炎が噴き上がると、
それとともにキリエル人の姿が変化。ティガと同等の体格の怪巨人へと変化した!
「キリィッ!」
 現代のハルケギニアで戦ったのと同じキリエロイド。しかし顔はあの時の笑い顔とは違い、
泣き顔のように見える。
「タァーッ!」
「キリッ!」
 すぐにティガとキリエロイドの決闘が開始される。ティガの先制の拳をキリエロイドが
腕を差し込んで止め、ボディにパンチを入れる。
「ウッ!」
「キリッ! キリィッ!」
 ひるんだティガにキリエロイドの猛攻が仕掛けられる。スピーディーな回し蹴りの連発からの
側転キックという、流れるような連続攻撃にティガは身を守るので手一杯になる。
 キリエロイドの軽やかな身のこなしから来る絶え間ない攻めには反撃の余地がない。しかし
才人も既にキリエロイドと戦って、その動きが分かっているはずだ。それに目の前の相手からは、
以前ほどの力は感じられない。
 では何故苦戦しているのか。
『くッ……やっぱり身体を思うように動かせねぇ……!』
 それはもちろん、ティガの肉体に慣れていないからである。もう長いことゼロとして戦って
来たので、その身体能力に慣れ切った分、違うウルトラマンのスペックに逆に対応できていないのだ。
「キリィーッ!」
「ウワァァァッ!」
 キリエロイドの火炎弾が直撃し、大きく吹っ飛ばされるティガ。このまま押し切られてしまうのか?
『くッ、くそぉッ……!』
 よろめきながら身を起こすティガ。その時に、その耳にブリミルたちの応援の声が届く。
「がんばれ! 立ち上がってくれサイトくん!」
「しゃんとしなさい! 光の戦士はその程度じゃへこたれないはずよ! わたしたち何度も
見てるもの!」

28 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/08/31(木) 00:37:45 ID:05VGcVdc
『ブリミルさんたち……!』
 わぁわぁと声を張り上げて応援してくれるブリミルたちに、ティガは目を向ける。
「ぼくは信じてるよ! 光の戦士は何も言わないが……とても優しく、勇敢な人たちだとね! 
きみたちこそが、この世界を救ってくれる勇者だ! ぼくたちも戦う、だから負けないでくれ!」
『……!』
 ブリミルの激励の言葉に、才人の心が沸き上がる。
「キリィィィッ!」
 一方でキリエロイドは苛立ちを募らせたかのように、ブリミルたちへと火炎を飛ばして攻撃する!
「うわぁぁぁッ!」
 ブリミルたちの窮地! ……しかし、火炎は途中でさえぎられて、彼らには届かなかった。
「ハッ!」
 瞬時にスカイタイプに変身したティガが超スピードで回り込んで、その身で火炎を打ち払ったからだ!
「おぉッ! 光の戦士が、守ってくれた!」
「サイトくん……!」
「やるじゃないの」
 ブリミルたちが歓喜し、サーシャはティガの背中に苦笑を向ける。
「タァーッ!」
 今度はティガの反撃の番だった。スカイタイプのスピードを活かしたラッシュを仕掛け、
キリエロイドを押していく。キリエロイドも迎え撃つものの、徐々にティガの動きのキレが
増していき、少しずつ防御が追いつかなくなっていく。
「キッ、キリィ!?」
 ティガの動きがどんどん良くなっていくことにキリエロイドは困惑していた。
 才人はブリミルたちの応援によって心が震え、かつ戦いながらティガの身体能力に順応
しているのだ。戦いながら成長している! こうなったからには、最早完全にティガの流れである。
「タァッ!」
「キリィッ!」
 ティガのハイキックがキリエロイドを蹴り飛ばす。そして距離を開けたところで、カラー
タイマーに添えた腕を伸ばして青い光線をキリエロイドの頭上に放った。
「ハッ!」
 光線が弾け、白い煙のようなものがキリエロイドの全身に降りかかる。するとキリエロイドが
たちまちにして頭の天辺から足のつま先に至るまで凍りついていく!
「キリ……!?」
 ウルトラ戦士には珍しい冷却攻撃、ティガフリーザーだ! キリエロイドは全身氷漬けに
なってしまい、一歩も身動きが取れなくなった。
「フッ!」
 今こそが絶好のチャンス。マルチタイプに戻ったティガは胸の前で交差した両腕を左右に
大きく開いて、同時にエネルギーを最大にチャージ。そして腕をL字に組んで必殺の攻撃を
繰り出す!
「タァッ!」
 ティガの最大の必殺技、ゼペリオン光線が炸裂! キリエロイドは一瞬にして粉々に砕け
散って消滅したのだった。
「おおおおおおおッ! 勝ったぁッ!」
「やったぞぉーッ!」
 ティガの逆転勝利に村の人々は一斉に歓声を発した。ブリミルとサーシャも満足げにうなずく。
 ……しかしキリエロイドが砕け散っても、キリエル人が完全に消滅した訳ではなかった。
ほとんどのエネルギーが飛び散りながらもどうにか生き長らえ、生命の保存のために人知れず
異次元に逃れていく。
『おのれ……よくもやってくれたな……! この恨みは決して忘れん……。たとえ何千年
経とうとも、再び相まみえたその時には、より強めた怒りの姿によって復讐をしてくれる……!!』

29 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/08/31(木) 00:40:13 ID:05VGcVdc
 恨み節を残して、キリエル人はこの世界から退散していった。
「フッ……」
 そんなことは知らずに、ティガは変身を解いて才人に戻ろうとしたのだが……不意に嫌な
気配を感じ取って後ろに振り返った。
「フッ?」
 そして驚愕する。視線を向けた先の背景が……徐々に真っ黒い闇に塗り潰されていくのだ! 
決して夜の闇ではない。もっと恐ろしい……生存本能が非常に危険なものだとの警告をガンガン
鳴らす。
「な、何だあれは!?」
 ブリミルたちも闇に気がつき、恐れおののく。彼らもまた、迫る闇が大変危険なものだと
いうことを直感で理解していた。
「ハッ!?」
 ティガ=才人は、キリエル人の「闇によって滅びる」という発言を思い返した。
『まさか……もう来るってのか!?』

 ――現代のハルケギニア。教皇の即位記念式典が行われるアクイレイアはガリアとロマリアの
国境付近に存在する。アクイレイアからわずか北方十リーグのところには、火竜山脈を南北に
突き破る街道があり、そこに国境線が敷かれている。
 その名も虎街道(ティグレス・グランド・ルート)。直線で十数リーグもの長さになる、
ロマリア東部からガリアへ通ずる唯一の街道だ。左右を切り立った崖に挟まれていて昼でも
薄暗い土地であるため、昔は人食い虎や山賊などの被害が相次いだ記録が残っている。
それ故の物々しい通称だが、整備が進んで安全が確保された今では常に商人や旅人が行き交う、
ハルケギニアの主街道の一つに数えられている。
 だが、そんな虎街道のガリア側の関所では、ある揉め事が発生していた。
「通れねぇ? お役人さん、どういう了見だい?」
 ロマリアの祝祭ももう目前だというのに、関所の門が固く閉ざされ、誰一人としてロマリアへと
通行できないでいるのである。式典に参加するためここまで旅をしてきた者たちは当然ながら困惑し、
一様に関所を管理する役人に説明を求める。
 だが、役人からの回答はたった一つだけ。
「通れぬものは通れぬのだ。追って沙汰があるまで、待っておれ」
 当然そんな答えにならない答えでは納得がいかない。商人の一人は殺気立ちながら詰め寄った。
「おい、待ってくれよ! 明日の晩までにこの荷をロマリアまで運ばないと、大損こいちまう! 
それともなんだ、あんたが代わりに荷の代金を払ってくれるとでもいうのか?」
「バカを申すな!」
 一喝する役人だが、街道の利用者たちからは次々に不満の声が噴出した。
「教皇聖下の即位三周年記念式典が終わってしまうだよ! この日をわたしがどれだけ楽しみに
していたのか、あんたたちに分かるもんかえ!」
「サルディーニャに嫁いだ娘が病気なんだよ」
 役人はそれを抑えつけようととうとう杖を構えた。
「わたしだって知らん! お上からは、街道の通行を禁止せよ、との命令以外、何も受けて
おらんのだ! いつになったらこの封鎖が解かれるのか、わたしの方が知りたいくらいだ!」
 全く以て要領を得ない役人の言葉に、集まった人々が顔を見合わせる。
 その時、一人の騎士が役人の元に駆け込んできた。
「急報! 急報!」
「どうなされた?」
「リュティスより未確認の……!」
 馬から降りるのももどかしく、手綱を放り投げたままでの息せき切った報告であったのだが……
それよりも早く、その未確認の「何か」は、空の彼方より虎街道上空を横切っていった。

30 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/08/31(木) 00:42:21 ID:05VGcVdc
「ピアァ――――ッ!」
 それは、巨大な鳥だったのか? それとも竜だったのか? あまりに速すぎて街道の人間の
目では全く見えなかった。分かったのは二つだけ。フネなどでは断じてないこと、そして……
何体も街道上空を通過して、ロマリア方面へと飛んでいったことだ。
「な、何だ? 今のは……」
「リュティスから来たって? あんなものすごい速さの、何かが……」
 事態がまるで呑み込めずに、利用者たちは先ほどまでの喧騒が一転して呆然としていた。
 だが……彼らの背筋を、急にひどく寒いものが駆け抜ける。
「な、何だ……? この感じは……」
「何か、すごく嫌な感じが……」
 唖然と空を見上げたままの人間たちの目に飛び込んできたのは……飛行物体の進行ルート上を
たどるように、ロマリアへと移動する――と言うべきなのだろうか――「暗闇」としか言いようの
ないものであった。
「ひやあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?」
 この場にいた人間は全員、恐怖の絶叫を発して腰を抜かしたり、その場にうずくまって
がたがた震えたり、必死に物陰に身を潜めるようにして息を殺したりと恐怖に駆られた
反応を示した。――彼らの本能が、あの「闇」が、人食い虎などとは比べものにならないほど
危険で恐ろしい、おぞましいものだと感じ取ったのだ。
 その「闇」は、関所の人間にはまるで無関心かのようにそのまま通り過ぎていった。「闇」が
完全に去って、人間たちの恐怖心はようやく消えたのである。
 役人は未だ冷や汗まみれの顔でつぶやいた。
「一体、何が始まるというんだ……」
 そのひと言が発せられたのと――ロマリア領空を警護するロマリア艦隊が、先に超高速で
飛んでいった飛行物体の集団――超古代の怪獣ゾイガーの群れに壊滅させられたのはほぼ同時であった。
 そしてゾイガーの露払いが済んだのを見計らうように、「暗闇」は確実にアクイレイアへと
近づいていったのである……。
「プオオォォォォ――――――――!!」

31 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/08/31(木) 01:08:44 ID:05VGcVdc
以上です。(終了宣言出来てなかった…)
ある種のタイムパラドックス。

32 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/08/31(木) 21:30:46 ID:uPUZJleA
ウルトラマンゼロの人、投稿お疲れ様です。
さて、皆さん今晩は。無重力巫女さんの人です。もう夏も終わりですね。

特に変な事が無ければ、21時33分から八十六話の投稿を始めたいと思います。

33 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/08/31(木) 21:33:09 ID:uPUZJleA
 ハルケギニアの主要都市の水道設備は、思いの外しっかりしているという事を知ってる人間は少ない。
 場所にもよるが井戸から汲んだ水を直接飲める場所は多く、良質な水が飲める事を売りにしている土地もある。
 およそ五百年前までは水まわりの環境は酷く、伝染病の類が発生したらそこから調べろとまで言われていた程だ。
 そうした病気を防ぐため当時の王族は貴族たちに命じて研究させたところで、ようやく今の状態にまで漕ぎ着けたのである。
 今では主な都市部には大規模な下水道が造られ、生活排水などはそこを通ってマジック・アイテムを使った処理施設へと辿りつくようになっている。
 マジック・アイテムの力で浄化された生活排水は比較的綺麗な水となって地下の川から海の方へと流れていく。
 最も最初に書いたように、それを知っているという人間は恐らく義務教育を受ける貴族ぐらいなものだろう。
 その貴族でさえも、下水道はともかく各都市に必ず存在する処理施設の場所を知っている者は殆どいないに違いない。
 都市部で生まれ育った平民ともなれば、水は綺麗なモノだと当たり前に考えている者さえいる。

 彼らはかつて水そのものが病気の塊と呼ばれ、怖れられていた時代の人間ではないのである。
 既に生まれた時から井戸の水は冷たくて美味しく、トイレは水洗式で清潔という幸せな時代の人間として生きているのだから。
 彼らにとって、水はもう自分たち人間の友達で怖くないという概念が当たり前になってしまっている。
 それは決して不幸な事ではないし、むしろあの世にいる先祖たちは良い時代になったと感心している者もいるだろう。

 だからこそ惹かれるのだろうか、近年肝試しと称して若い貴族や平民たちが下水道へ踏み込むという事件が増えている。
 大抵の者たちは自分たちの勇気を示すために、下水道へと足を踏み入れるというパターンだ。
 基本的に下水道へは町の道路にあるマンホールか、街中の川を伝った先にある暗渠を通れば入る事はできる。
 しかし、出入り口の明りがまだ見えている状態はともかく一時間も歩けばそこは地下迷宮へと早変わりする。
 時に狭く、時には広くなったりと道の大きさは変動し、更には処理されていない生活排水に腰まで浸かる場所まであるのだ。
 そうして当てもなく下水道を彷徨った挙句に方角を見失ない、気づいた時には闇の中。
 
 若い貴族達…それも゙風゙系統が得意な者がいれば何とか風の流れを呼んで無事に出られる事もあるし、
 平民の場合でも何とか地上のマンホールへと続く梯子を見つけて、命からがら脱出できた例もある。
 しかし殆どの者たちは混乱して下水道を走り回り、結果として更に奥深くへと迷いこんでしまう。
 更に錯乱して奥深く、奥深くへと潜り込んでしまい…そうして人知れず行方不明になった者たちが大勢いると噂されている。
 その噂が更に尾ひれを付けて人々の間を泳ぎ回り、いつしか幾つもの都市伝説が生まれ始めた。
 下水道に迷い込んだ若者を喰らう白い海竜や、地下に逃げ込んで頭が可笑しくなった殺人鬼が徘徊している…等々。
 噂話が好きな若者たちの間でそんな話が語られ、そこから更なる話が創作されて他の人々へと伝わっていく。
 そんな話を仲間たちと和気藹々と話す彼らはふと想像してしまうのだ、地下の下水道にいるであろう怪異の数々を。
 いもしない怪物たちの存在を否定しつつも、もしかして…という淡い期待を抱いてしまう。 

 だが彼らは知らないだろう。人口といえども明りひとつ無い暗闇という存在が、単一の恐怖だという事を。
 作り話と理解しつつも「もしかして…」という淡い期待を大勢の人々が抱く内に、その恐怖の中で゙架空゙が゙本物゙となり得るのだ。
 そしてもしも…その様な場所で何かしら凄惨な事件でも起これば―――゙本物゙は人々の前へと姿を現すだろう。


 その日のトリスタニアは、昼頃から不穏さを感じさせる黒雲が西の空から近づいてきていた。
 人々の中にはその雲を見て予定していた外出をやめたり、雨具を取りに自宅へ戻ったりしている。
 中には単に通り過ぎるだけと思い込む者たちもいたが、彼らの願いは惜しくも叶う事はなかった。

34 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/08/31(木) 21:35:10 ID:uPUZJleA
 夕方になるとその黒雲から一筋の閃光が地面へと落ち、少し遅れて聞こえてくる雷鳴の音が人々の耳の奥にまで響き渡る。
 そして陽が落ちる頃には王都の上空をも覆い尽くした黒雲から雨が降り始め、やがてそれは大雨となった。
 雨具を持って来ていた者たちは落ち着いてそれを用意し、持っていない者たちは雨宿りのできる場所へと急いで非難する。
 
 街中にある小さな坂や階段はたちまちの内に小さな川となり、慌ててそこを通ろうとする者たちは足を滑らせ転倒してしまう。
 結果、急いで適当な店の中へ避難する人々の中にはより一層ずぶ濡れになっている者たちがいる。
 トリスタニアのあちこちに作られた人口の川は大雨で流れが激しくなり、茶色く濁った水となって下水道へと流れていく。
 もしも誤って川に転落しようものならば…少なくとも命は保証できない事は間違いないだろう。 

 日中の熱気が籠る王都を突然の大雨が冷やしていく様は、さながら始祖ブリミルの御恵みとでも言うべきか。
 なにはともあれ人々の多くはこの天からの恵みに感謝の気持ちを覚えつつ、自分の体を濡らさぬよう屋根の下に避難していた。

 夕方からの大雨で人々が慌てる中、一人の老貴族がお供も連れずにひっそりとチクトンネ街の通りを歩いていた。
 顔からして年齢はおよそ六十代前半といった所だろうか、白くなり始めている髭が彼の顔に渋みというスパイスを加えている。
 昼ごろの雲行きを見て大雨になると察していた為、持ってきていた黒い雨合羽のおかげで濡れる心配はない。
 時間帯と空模様に黒い合羽のおかげで通りを歩く他の人たちの注目を集める事無く、彼はある場所を目指して歩いていた。
 何人かはその貴族が気になったのか一瞬だけ見遣るものの、すぐに視線を前へ戻してスッと通り過ぎていく。
 どうせチクトンネ街を一人で歩く老貴族なんて、この街に幾つかある如何わしい店が目的なのだろうと考えているのかもしれない。
 
 老貴族としてはそんな゙勘違い゙をしてくれた方が、個人的に有難いとは思っていた。
 何せこれから自分がするのは、少なくともトリステイン人――ひいては貴族達からしてみれば到底許されない行為なのだから。
 だから時折すれ違う若い貴族たちが自分を気にも留めずに通り過ぎていく時には、内心ホッと安堵していた。
 そして…自宅を出て一時間ぐらい経った頃だろうか、ようやく老貴族はこの大雨の中目指していた目的地へと辿り着く事が出来た。

 そこはかつて、家具工房として開かれていた大きな工房であった。
 しかじかつでという過去形で呼ぶ通り、今ではチクトンネ街の一角にある廃墟となっている。
 十数年前に売上不振からくる借金を理由に経営者の貴族が首を吊り、そこから先はトントン拍子で倒産していった。
 今は看板すら取り払われて敷地に雑草が生い茂り、野良の犬猫たちが多数屯する無人の建造物と化している。
 何処かの誰かがこの土地を買ったという話も聞かない辺り、いずれは国が買い取って更地になる運命なのであろう。
 今ではホームレスたちの住宅街と化している旧市街地と比べれば、更地にしやすいのは明白である。
「さて、と…いつまでもここにいても仕方ない。…入るとするか」
 老貴族は一人呟くと入口に散らばったガラス片を踏み鳴らしながら、廃工房の中へと足を踏み入れる。
 …そして、彼は気づいていなかった。ゆっくりと入口をくぐる自分を見つめる人影の存在を。

 入り口から中へと入った老貴族は、まず工房内部が思いの外暗かったことに足を止めてしまう。
 別段暗いのは苦手ではないがここは廃墟だ、万が一何かに躓いて怪我でもしてしまえば厄介な病気に掛かるかもしれない。
「やれやれ…大切な用事の為とはいえ、わざわざこんな所にまで来る羽目になるとはねぇ」
 一人面倒くさそうに言うと、老貴族は腰に差していた杖を手に持つとブツブツと小さな呪文を唱え、ソレを振った。
 するとたちまちの内に小ぶりな杖の先端に小さくも強い明りが灯り、彼の周囲を照らしていく。

35 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/08/31(木) 21:37:17 ID:uPUZJleA
 工房の内部は老貴族が想像していたよりも、人がいた頃の名残を遺していた。
 あちこちに置かれていたであろう道具や、工房から出荷する筈だった家具は当然持ち出されていたが、
 中は比較的綺麗であり、一目見ただけでは数十年モノの廃墟とは思えない程である。
 しかし、やはり廃墟と言うだけあってか荒廃している場所もあり、屋根の一部分が倒壊してそこから雨風が侵入している。
 老貴族は脱ごうと思っていた雨合羽をそのままに工房の中を歩き始めると、この廃墟の先住者たちとも遭遇した。
 雨が降っているせいか、この辺りに縄張りを持っている野良犬や野良猫といった動物たちが雨宿りの為集まって来ているのだ。

 猫の場合は元々人に飼われていたペットか、犬ならば山に棲んでいたのが餌を求めて山から下りて来たのか…
 その真相自体は今の貴族にとってはどうでもよかったが、こうまで数が多いと流石に気になってしまうものである。
 今歩いている長い廊下の端で寝そべっているのだけを数えても、犬猫合わせて十匹以上はいるような気がするのだ。
 こちらに見向きもせずに湿気た廊下に寝そべる犬を見てそんな事を思っていた彼は、ふとある扉の前で足を止める。
 今にも腐り落ちそうな木製のそれに取り付けられた錆びたプレートには『洗濯場』と書かれており、半分ほどドアが開いていた。
「……洗濯室。よし、ここだな」
 老貴族は一人呟くと律儀にもドアノブを握ってから、そっとドアを開けた。
 プレートと同じく、長い事風雨に晒されて錆びてしまっているソレの感触に鳥肌を立たせつつ洗濯室の中へと入る。
 
 そこはかつて工房で働く職人たちの服を洗っていた場所なのだろう。
 あちこちに外で使う為の物干し竿や洗濯物を入れる籠が乱雑に放置されて床に散らばり、
 室内に設置されたポンプから流れてくる水を受け止めていたであろう大きな桶は蜘蛛の巣で覆われている。
 窓ガラスは割れてこそいなかったものの酷いひび割れが出来ており、いずれは周囲に散らばってしまう運命なのだろう。
 しかし廊下とは違って犬猫はおらず、それを考えると微かではあるが大分マシな環境とも言えるに違いない。湿気さえ我慢できればの話だが。
「ふ〜ん……お、これか?」
 洗濯室へと入った老貴族は明りを灯す杖を振って部屋を見回すと、隅っこの床に取り付けられだソレ゙を見つける事が出来た。
 ゙ソレ゙の正体……――――それは大人一人分なら楽々と両手で開けて入れるほどの大きさを持つ鉄扉である。
 床に取り付けられた扉は正しくこの工房の下―――つまりこの街の地下へと直結している隠し扉なのだ。
 どうしてこんな工房の跡地に、そんな鉄扉が取り付けられているのかについては彼自身良くは知らない。
 自殺した経営者が地下に用事があったのか、元々地下へと続く道が大昔に作られていたのか…真相は誰にも分からない。
 とはいえ、彼にはそんな真相など゙この扉の先で済ます用事゙に比べれば実に些細な事である。
 その鉄扉こそ老貴族がここへ来た理由の一つであり、 その理由を完遂させるためには扉を開けて先に進む必要があった。

 いざ取っ手を掴んで開けようとした直前、老貴族はスッとその手を引っ込める。
 多少錆びてはいるものの、特に何の変哲もない取っ手なのだが何故彼は急にそれを掴むのを止めたのだろうか。
 その答えを知っている老貴族は思い出した様な表情を浮かべつつ、気を取り直すように咳払いをした。
「いかんいかん、すっかり忘れておったよ……え〜と、確か――」
 一人そんな事を呟きながら、一度は引っ込めた右手を床下の扉へ向けると、中指の甲で小さくノックし始める。
 コンコン…と短く二回、次にコン…コン…コン…と少し間隔を空けて三回、そして最後にコン…コンコン…コン!と四回。
 計九回も床下の扉から金属音を鳴らした老貴族はもう一度手を引っ込め、暫く無言になって扉を凝視する。
 ノックされた扉は当然の様に無言を貫いている…かと思われたが、
「………新金貨が六枚、エキュー金貨は?」
 突如としてその向こう側から、人――それも若い女性の声が聞こえてきたのである。

36 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/08/31(木) 21:39:13 ID:uPUZJleA
「エキュー金貨は四枚、それ以上も以下も無い」
 老貴族は女性の声で尋ねられた意味の分からない質問に、これまたワケの分からない答えでもって返す。
 そこからまた少しだけ時間を置くと、今度は声が聞こえてきた鉄扉がひとりでに開き始めたのである。
 ギギギギ…と錆びた音を洗濯室を通り抜けて廊下まで響かせて、地下へと続く秘密のドアが周囲の埃を舞い上げて開く。
 老貴族はその埃を避けるかのように後ろへ下がると、ヒョコッと何者かがドアの下にある穴から顔を出した。
 それは頭からすっぽりとフードを被った、一見すれば男か女かも分からぬ謎の人影であった
 しかし老貴族は何となく理解していた。このフードの人物こそ先ほどドアの向こう側にいた女の声の主であると。

 フードの人影は老貴族の考えを肯定するかのように、彼の方へ顔を向けるとその口を開いた。
「…アンタが先ほど合言葉を言った貴族か?」
 影で隠れている口から発せられた声は高く、どう聞いても男の声には聞こえない、女らしい声である。
 だが老貴族のイメージするような一般的な女性像とは違い、その声色には短刀の様な鋭ささえ感じ取れた。
 老貴族は相手が女であるが決して只者ではないという事に内心驚きつつ、フードを被る女性へと気さくにも話しかける。
「うむ、左様。…この先にいる人物に渡したい物がある故にここまで来させてもらったよ」
「そうか、じゃあこちらへ。その人物が待っている場所まで案内する」
 ひとまずお愛想程度の笑みを浮かべる老貴族に対し、女性はその硬い態度を崩そうとはしない。
 まるでここが戦場であるかのように身を固くし、自分が来るのを待っていたのだとしたら彼女は゛その道゙のプロなのであろう。
 彼女の素性はまるで知らないが、自分へここへ来るよう要求したあの男はまた随分と頼りになる用心棒を雇ったらしい。
 女性の手招きで地下へと続く階段へと足を伸ばしながら、老貴族はほんのちょっと羨ましいと思っていた。

 杖の明りをそのままに老貴族が地下へと続く階段を降りはじめると、背後から何かが閉まる音が聞こえる。
 何かと思って振り返ると、自分にここへ入るよう手招きしたフードの女が再び扉を閉めた所であった。
 扉が閉まった事で元々暗かった地下への階段は更に暗くなり、老貴族の杖だけが唯一の灯りとなってしまう。
 まぁそれでもいいかと思った矢先、魔法の灯りで照らされているフードの女が懐から自分の杖を取り出して見せる。
 そして先ほどの老貴族と同じ呪文を唱えると杖の先に灯りが付き、地下へと続く道がハッキリと見えるようになった。

「……貴族だったのか」
「正確に言えば元、だけどな。今は安い給料と酒だけが楽しみな平民だ」
 意外だと言いたげな老貴族に対し、フードの女はそう答えて彼の横を通り過ぎる。
 ゙元゙貴族のメイジ…という事は何らかの事情で家を追い出されたか、もしくは家を潰された没落貴族なのだろうか?
 そんな事を考えつつも、自分に代わって先頭になった女の「ついてこい」という言葉に老貴族は再び足を動かし始めた。

 体内時計が正しく動いているのであれば、おおよそ二〜三分くらい階段を降りたであろうか。
 長く暗い階段の先にあったのは地上よりも遥かに湿度が高く、そして仄かに悪臭が漂う地下の世界だった。
 レンガ造りの壁と床でできた通路はそれなりに広く、ブルドンネ街の大通りより少し小さい程度の道が左右に作られている。
 天井から吊り下げられている魔法のカンテラがちょうど階段へと通じる出入り口を照らしており、妙に眩しい。
 思わず視線を右に向けると五メイル先にも同じようなカンテラが吊り下げられ、それがかなりの距離まで続いている。
 何の問題も無く作動しているマジック・アイテムを見て、老貴族はここが上の廃工房とは違い゙生きている゛事に気が付く。
 次いで思い出す、ちょうどこの地下通路がある地上の近くには、トリスタニアの下水処理施設ずある事を

37 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/08/31(木) 21:41:13 ID:uPUZJleA
「ここは…処理施設で使われてる通路か」
「あぁ、処理施設の職員が問題発生時に下水道へ行く時に使うそうだ。右へ行けばそのまま施設まで行ける」
 老貴族の呟きに女は勝手に答えると杖を腰に差してから、左の方へと顔を向けて歩き始めた。
 足音を聞いて慌てて彼女の背中について行こうとした時、微かに水が激しく流れる音が聞こえてくるのに気が付く。
 鼓膜にまで響くその激しい濁流の音に恐怖でもしたのか、ふと足を止めて呟いてしまう。
「まさかとは言わんが、あの濁流の音が聞こえてくる場所まで行くのかね?」

 地上はあの大雨だ、水の流れは激しくなるだろうし音からして下水道は上より危険なのは間違いない。
 そんな心配を相手が抱くのを知ってか、女は振り向きもせずに彼へ言った。
「心配しなくても、下水道まで行く必要は無い。ここから少し先にもう一つの地上へ繋がってる階段の所が目的地だ」
「…ふぅ、そうかね」
「……怖いのか?あの濁流の音が」
 自分の言葉に思わず安堵のため息をついてしまう老貴族の姿を見て、彼女は無意識に口走ってしまう。
 言った後で流石に失礼だったかと思った女であったが、以外にも言われた本人は怒ってなどいなかった。
 むしろ怖いのか?と聞いてきた自分を不思議そうな目で見つめると、逆に聞き返してきたのである。
「じゃあ君は怖くないのかね?この脳の奥まで震えてきそうな濁流の音が」
「い、いや…確かに、この音が聞こえる場所までは行きたくはないが…」
 老貴族からの質問返しに思わず言葉を詰まらせつつもそう返すと、彼は「それで良い」と言った。

「本能で「恐い」と感じるモノを、自分のプライドが傷つくという理由だけで否定したら自分を裏切る事になる。
 キミ、それだけはしちゃあ駄目だぞ?そうやって自分を裏切ってたら本能が麻痺して、ここぞという時で命を落とすんだ」

 
 そこから更に十分程歩いだろうか、五メイル間隔の灯りを頼りに地下通路を進んでいると一人の男が壁にもたれ掛っていた。
 年は三十代くらいだろうか、明るい茶髪をまるで小さ過ぎるカツラの様に乗せているヘアースタイルは否応なしに目に入ってしまう。
 足元には小旅行などに適したバッグが置かれており、時折そちらの方へも視線を向けて動かぬ荷物の安否を気にしている。
 服装は街中の平民たちに扮しているつもりなのだろうが、周囲の様子に警戒している姿を見れば只者ではないと分かる。
 良く見れば腰元には杖を差している。子供でも扱いやすい様設計された、最新式の取り回しやすい指揮棒タイプだ。
 更に足を見てみれば木靴ではなく軍用のブーツを履いている。こんな場所では完全に扮する必要は無いという事なのだろう。
 男は老貴族と女の姿に気付くとスッと壁から離れ、右手を上げながら気さくな様子で女に話しかけた。
「よぅ、おつかいは無事果たせたようだな仔猫ちゃん」
「バカにするなよ三下。さっさと仕事に入れ、私がここまで連れてきてやったんだぞ」
「おいおーい、そんなにカリカリするなっての?…ったく、おたくらの゙ボズは厄介なヤツを紹介してくれたもんだねぇ」

 最初の方は女へ、そして最後は老貴族の方へ向けて男は軽い態度で二人に接してくる。
 女はそんな男へ怒りの眼差しを向けていたが、敬語を使っていなかった彼女にも涼しい表情を向けていた老貴族は相変わらず笑顔を浮かべていた。
 フードの中から睨まれている事に気が付いたのか、男は気を取り直すように咳払いをした後に足元のバッグを拾い上げた。
「ゴホン!さて、と…じゃあこんな辛気臭い所にいるのも何だし、さっさと本題に入っちまおうか」
 そう言って男はバッグを左腕に抱えると右手で取っ手を掴んでロックを外し、バッグの中身を二人の前に見せびらかす。
 まず最初に老貴族の目に入ったのは、大量のエキュー金貨が詰め込まれた五つのキャッシュケースであった。
 五列の内一列に金貨が十枚入っており計二百五十枚のエキュー金貨、下級貴族が家賃の事を心配せずに二年も暮らせる額だ。

38 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/08/31(木) 21:43:21 ID:uPUZJleA
 バッグの中を覗き込む老貴族を見て、男は「スゲェだろ?」と自慢げに聞いてみる。
 しかし年相応の身分を持つ彼の気には少ししか召さなかったのだろうか、やや不満げな表情を見せて男に聞き返す。
「君゙たぢが支払うモノは金貨だけかね?そうだと言うのなら少し考えさせてもらうが…」
「…へっ!そう言うと思ったよ、けど安心しな?アンタが持ってきてくれだ商品゙の対価に見合う品は他にもある」
 老貴族からの質問に男は得意気に答えるとバッグの中を漁り、金貨が詰まったケースの下から四つの小さな革袋を取り出した。
 最初はそれが何だか分からなかったが、袋を目の前まで持ってこられるとそこから漂ってくる雑草の匂いで中身が何のかを察する。
「それは――――…麻薬か?」
 老貴族の問いに男はニヤリ、と卑しい笑みで返すと袋の口を縛っていた袋を解き、中身を見せる。
 革袋の中に入っていたのは乾燥させた何かの植物―――俗に乾燥大麻と呼ばれる麻薬であった。

「サハラの辺境地で栽培されて、エウメネスのエルフたちが作った純正品さ。ここまで運んでくるのも一苦労の代物なんだぜ?」
 まるでセールスマンにでもなったのかように饒舌になる男に、老貴族は今度こそ顔を顰めてしまう。
 女は最初から知っていたのか、フードに隠れた目から嫌悪感をハッキリと滲ませて男を睨んでいる。
「王都やリュティスでも中々お目に掛かれねぇ高級品だ、売っても一袋で入ってる金貨の倍は稼げちまう」
「……私は麻薬などやらない。持ってくる品物を間違えたな」
「おいおい固い事言うなって!…何もアンタ自身が吸わなくても、吸いたいってヤツは今やハルケギニアにはいくらでもいるだろ?」
 老貴族の反応に男は肩をすくめてそう言う。
 確かに彼の言うとおり、今や乾燥大麻…もとい麻薬はハルケギニアでちょっとした問題となっている。
 昔から特定の薬草を乾燥したり、粉末化する事でできる特殊な薬の類は存在していた。
 吸えばたちまち幸せな気分になったり、まるで鳥になって大空を飛び回るかのような高揚感に浸れてしまう。
 しかしモノによっては副作用が強い物もあり、時として服用者の命すら奪うような代物さえ存在するのだ。
 近年に入ってそうした薬物は毒物と定義づけられ、今では危険な嗜好品として取り締まり対象にまでなっている。
 
 男が持ってきたサハラの乾燥大麻も当然麻薬の類であり、持っている事が知られればタダではすまない。
 所持している事自体が犯罪であるが、何より麻薬というものは文字通り大金を生み出す魔法の薬なのである。
 幾つか小分けにして人を雇い、繁華街にあるような非合法的な風俗店の経営者に店で売ってもらうよう頼み込めば、喜んで店の金で取引してくれる。
 そして今バッグの中に入っている一袋分を丸ごと売るとすれば…男の言うとおりバッグの中に入っている金貨よりも稼げてしまうだ。
 この様に使っても良し、売っても良しという麻薬は犯罪組織等の商品道具にもなる為、厳しい取締りが行われているのである。
 仮に老貴族が持っていたとしたら良くて地位剥奪、酷い時にはチェルノボーグへの収監といったところだろうか。
 そして自分で使わず、誰かに売ってしまうと…結果的に購入者の命を縮める行為に加担してしまうのである。

「悪いがそれを貰う気にはなれん。…だが、私もここまできた以上は手ぶらというワケにはいかんのでな」
 だからこそ老貴族は首を縦に振らなかったが、からといってこのまま踵を返して帰るつもりはないらしい。
 男が差し出してきた麻薬入りの革袋を丁重にお断りした後、彼は自分の腰元へと手を伸ばす。
 マントで隠れていたベルト周りが露わになり、老貴族の腰に差さっているのが杖だけではないという事に女と男は気が付く。
 老人が取り出したるもの…、それは硬めの紐でベルトと結んでいる小さめの筒であった。
 ちょうどお偉い様が書いた様な書類を丸めてから入れるあの筒型の入れ物を見て、何をするのかと男は訝しむ。
 そんな彼の前で老貴族は筒を両手に持ち、右手に掴んだ部分を捻ってみせると…ポン!という軽い音を立てて筒が開く。

39 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/08/31(木) 21:45:09 ID:uPUZJleA
 二人が見守る中で老貴族は口が開いた筒を二、三回揺らすと…中から丸めた数枚の羊皮紙が出てくる。
 かなり大きいサイズのそれを老貴族は男の目の前で開いて見せると、その紙に何が記されているのかがわかった。
「……!こいつは――」
「お前の゛ボズが喉から手が出るほど欲しがっていた空軍工廠の見取り図に、新造艦の設計図だ」
 驚く男に老貴族が続くようにして言うと、思わず女も男の持つ羊皮紙を肩越しに覗き見てしまう。
 たしかに老人の言うとおり、数枚の羊皮紙には建物の上から見下ろした様な図と軍艦の設計図が描かれている。
 本来ならばトリステイン軍部が厳重に管理し、持ち込み禁止にしている筈の超重要機密な代物だ。
 男とフードの女が軽く驚いく中、老貴族は肩を竦めながら話を続けていく。

「本来ならもっと欲しい所なのだが…私にこれを持っていくよう指示した男は絶対に渡す様言って来てな。
 だから…まぁ、その程度の金貨じゃあ不十分だが…乾燥大麻は抜いて金貨二百五十枚でそれと交換しようじゃないか。
 君たちぐらいの組織ならその見取り図と設計図さえあれば工廠に潜入して、艦の脆い部分に爆弾を仕込む事など造作ないだろう?…そう、」
 
 ―――――…君たち、神聖アルビオン共和国の者ならばね。

 老貴族が最後に呟いた組織の名前に、男…もとい今のアルビオンに所属するメイジはニヤリと笑って見せる。
 確かにこのご老体の言うとおりだろう。これだけの情報があれば上は間近居なく破壊工作を行うよう命令を出すだろう。
 上手く行くかどうかはまだ分からないが、成功すればトリステイン空軍へ致命傷に近い大怪我を負わせる事など造作もない。
「……へへ、アンタがそんなのを持ってきてるって知ってたら…金塊でも入れてくるべきだったかねぇ」
 男は名残惜しそうに言うとバッグから麻薬入りの革袋だけを取り出し、金貨だけが残ったソレを老貴族へと差し出した。
「こんだけスゲェ情報をくれたんだ、まだ追加で金が欲しいってんならこの女を通してアンタに渡すが…いいのかい?」
「別に構わんさ。既に老後の資金を蓄えすぎている身、持ち過ぎれば色んな人間に狙われる」
「そうかい?金なんて多くもってりゃ損はしないと思うが…」
 流石に対価に見合わぬ物を手に入れてしまったと感じている男の言葉に、老貴族は首を横に振りながら受け取る。
 そしてお返しに手に持っていた見取り図と容器の筒を差し出し、逆に男はそれを貰い受けた。
 金に対しそれほど執着心が無い老人を訝しみつつ、数枚の羊皮紙を筒の中に戻しながら男は言う。

「まぁこんだけ危ない橋を渡ってくれたんだ、クロムウェル閣下にはアンタの名前を伝えておくよ。
 あのお方は寛大だからねぇ、この国とのケリが着いた暁にはあんたにさぞ素晴らしい席を用意してくれるだろうさ」

 麻薬の入った革袋四つと見取り図や設計図が入った筒を両手に持った彼がそう言うと、老貴族は「期待しているよ」とだけ返す。
 この地下通路で怪しい男と出会った老貴族の目的はこの言葉を境に、無事に済ます事が出来た。
 老貴族の目的―――それはかつてレコン・キスタと呼ばれ、今は神聖アルビオン共和国と名乗る国の内通者になる事である。
 目の前にいる男はスパイとして王都に潜り込んだ者たちの内の一人であり、こうして内通者となった貴族達から金と引き換えに機密情報を買っているのだ。
 今のトリステインでは現王家に不満を抱えている者は少なくはなく、喜んで内通者となる者が多い。
 スパイたちも大分前に――タルブでの戦闘が始まる前から王都へと潜入しており、これまで内通者候補の貴族を探して説得を続けていた。
 途中トラブルが発生して仲間の一人が捕まったものの、未だ組織として王都で活動できるほどの力は残っている。
 そして今正に、トリステインにとって最も知られたくないであろう情報がスパイである彼の手に渡ろうとしていた。

40 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/08/31(木) 21:47:09 ID:uPUZJleA
 それから少し時間を掛けて男は手に持った荷物に紐を使い、ベルトに括りつけていた。
 羊皮紙数枚が入った筒型容器はともかく、麻薬入りの革袋が意外に重くベルトがずり落ちかけているものの、
 とくに気にするこ素振りを見せないスパイの男は、両手が空いたことを確認してからジッと待機している女へと話しかけた。
「…それじゃあ、お互いここで別れるとしようか。…お前はこの内通者様を出口まで送ってやれ」
「分かった。……よし、戻るぞ。そのまま来た道を…」
 女は男の指示に頷いて、金貨入りのバッグを片手に持った老貴族と共に工房へ戻ろうとした直前―――。


「――――…動くなッ!!」
 突如、老貴族と女が通ってきた道の方から聞き慣れぬ男の鋭い声が三人の動きを止めた。

「…ッ!?な、なんだ…――ッ!」
 ベルトの方へ視線を向けていた男は突然の事に驚きつつ、慌てて顔を上げて前方を見遣る。
 老貴族と女も急いで後ろを振り向き、誰が自分たちへ声を掛けたのかその正体を探ろうとする。
 …声の主がいたのは五メイル後方…天井からの灯りに照らされたその姿は紛れもなくトリスタニアの平民衛士の姿をした男であった。
 常日頃王都の治安を守る者としての訓練を受け、昼夜問わず不逞な輩から街を守り続けている衛士隊。
 制服であり戦闘服でもある茶色の軍服に身を包み、その上から軽量かつ薄くて安価な青銅の胸当てを付けている。
 だからだろうか思った以上にその足取りは早く、あっという間に驚く三人との距離を縮めてきたのだ。
 男の年齢は四、五十代といった所だろうか、年の割にはまだまだ現役と言わんばかりの雰囲気をその体から放っている。
「衛士だと?一体どこから…―――――!」
「動くな!次に動けば右手の拳銃を撃つ、この距離なら杖を抜く前に当たるぞ!」
 老貴族が慌てて腰の杖を手に取ろうとしたのを見て、衛士は右手に持った拳銃の銃口をスッと向ける。
 火縄式の拳銃は引き金を引けばすぐに撃てる状態であり、それを見た老貴族は諦めて杖に近づけていた手を下ろす。
 そして改めて自分へ銃を向ける男を上から下まで見直してみると、衛士はかなりの武器を引っ提げて来ているようだ。
 衛士の男はその背中に年季の入った剣を背負っており、左手には右手のものと同じ拳銃が握られている。
 そして腰には杖の代わりと言いたいのか、左右に一丁ずつ予備の拳銃までぶら下げているではないか。
 これでは仮に銃撃を避けれたとしても、すぐに腰のソレを構えられて…バン!即あの世行きであろう。
 
 それに衛士の言うとおり、この距離では杖を抜いて呪文を詠唱するよりも先に拳銃を撃たれてしまう、
 良く他の貴族たちは拳銃を平民たちの玩具と嘲る事があるものの、実際はかなり厄介な代物だという事を知らない。
 剣や槍、同じ飛び道具の弓矢等と比べて撃ち方から装填までの訓練は比較的簡単なうえ子供であっても訓練さえすれば扱う事ができる。
 遠距離ならまだしも、数メイル程度の距離から撃たれてしまうとメイジは魔法を唱える暇もなく射殺されてしまうのだ。
 魔法衛士隊の様に口の中で素早く詠唱できる者ならまだしも、並みの貴族ならばその距離で撃たれてしまうとどうしようもない。

 過去、銃と言う武器を侮ったが故にその餌食となった貴族というのは何人もいる。
 それ故に、銃は平民達が持つ武器の中では断トツの危険性を持っているといっても過言ではない。

「んだぁこの平民?そんな拳銃いっちょまえにぶら下げて、魔法に勝てるとでも思ってんのかよ」
 老貴族はそれを知っているからこそ杖を手に取るのはやめたものの、もう一人の男は何も知らないらしい。
 背中を向けている為にどんな表情をしているかまでは分からないものの、その声色には明らかな侮蔑の色が混じっていた。

41 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/08/31(木) 21:49:12 ID:uPUZJleA

 男は笑いを堪えているかのように言うと何の躊躇いもなく杖を抜き取り、勢いよくその先で風を切ってみせる。
 ヒュン…ッ!と鋭い音は威嚇のつもりなのだろうが、生憎相手が悪すぎたというしか無いだろう。
 時折街中で酔って暴れる下級貴族を止めている衛士の男にとって、杖を向けられても平然とできるほどの度胸は育っていた。
 衛士は前へ進めようとした足を止めて、その場で左手の拳銃を男の方へと向ける。
 
 老貴族には見えなかったものの、杖と拳銃が向き合う姿は正に貴族と平民の対決を表現しているかのようだった。
 もしも彼が撃たれるのを覚悟して振り向いてしまっていたら、きっとそんな事を口走っていたに違いないだろう。
 暫し二人の間に沈黙が走った後、衛士の男が杖を向ける 

「この距離で呪文を唱えて魔法を放てる暇はあるのか?やってみるといい、足に銃弾が直撃した時の痛みを教えてやる」
 そう言って衛士が自分の顔面に向けていた銃口を足へと向けるのを見て、男はせせら笑う。
「……へっ、へへ!てめぇ周りが見えてないのか?今この場に居る貴族は俺とそこの爺さんだけじゃねぇんだぜ」
 なぁ、仔猫ちゃんよぉ?男の言葉に、それまで手を出さずに静観していた女が一歩前へ歩み出る。
 頭からすっぽりと被ったフードで顔も分からぬ女がその右手に杖を握っているのを見て、衛士の男は目を細める。
 それを見て男は形成逆転と見て更に笑おうとしたが、その前に自分たちの仲間である彼女の異変に気が付いてしまう。

 フードの女は杖の先を地面へ向けたままであり、呪文を唱えるどころか杖を衛士に向けてすらいなかった。
「お、おいおい!?何してんだよ、早くその平民を始末しろよ!それがお前の仕事だろ!?」
 戦意を感じられない女に男は焦燥感を露わにして叫ぶものの、肝心の女はそれを無視しているかのように動かない。
 まるで最初から自分には戦う意思が無いと証明しているかのようだが、一体どういう事なのか?
 杖を相手に向けない女にここまで連れてこられた老貴族も訝しもうとしたところで、とうとう男が痺れを切らしてしまう。
「クソ―――…ゥオッ!?」
 平民の衛士相手に銃を向けられていた事と、自分の味方である女が動かないという事に焦ってしまったのか、
 こうなれば自分の手で…と考えた男が杖を構え直した直後、通路内に銃声が響き渡ると共に足元の地面が小さく弾けた。
 頭の中まで揺さぶるかのような銃声に思わず老貴族はのけぞってしまい、足元を撃たれた男は情けなくもその場で腰を抜かしてしまう。
 地面に尻もちをついてしまうと同時に杖を手放してしまったのか、木製の杖が先程の銃声よりも優しい騒音を立てて転がっていく。
 
「あ…俺の杖―――…っ!」
「その場から動くな。動いたら、どうなるか分かるな」
 自分の傍を転がる杖を無意識に拾おうとした男を、衛士の鋭い声が制止させた。
 慌てて声のした方へ顔を向けると、撃ち終えた左手の拳銃を腰に差した予備と交換し終えた衛士がこちらを睨んでいる。
 こちらに向けられている銃口を見て男は悔しそうな表情を浮かべた後、小声で悪態をついてから小さく両手を上げた。
 先程の銃声と地面を跳ねた銃弾を見て恐れをなしたのだろう、きっとあれで銃の怖ろしさというものを始めて味わったに違いない。
 老貴族も抵抗すればどうなるか分かったのか、観念したと言いたげな表情で小さく両手を上げて降参の意を示して見せた。
 衛士は腰を抜かした男へ銃口へ向けつつ老貴族の傍へ寄ると腰に差した杖を抜き取り、そっと地面へと転がす。
 男はその様子を心底悔しそうに見つめながら、何もせずに傍観に徹していた女へとその矛先を向ける。

42 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/08/31(木) 21:51:06 ID:uPUZJleA

「てめぇ…!どういうつもりだよ、俺たちの仲間なんじゃ……ウッ!」
「…レコン・キスタの連中はもっと手練れの奴らを集めていたと思ってたが、お前みたいなチンピラだらけで正直助かったよ」
 両手を上げながら罵っていた男に近づいたフードの女は、彼を黙らせるかのように後頭部を押さえつけながら言う。
 杖を持っていない片手だけで大の男を黙らせる彼女を見て、衛士の男が彼女へ向かって初めて話しかけた。
「それにしても…こんな所で取引なんてするとはな?敵さんたちも中々良い場所を見つけてくれる」
「まぁ逆に人の多すぎる場所でやられるよりかはマシでしょう。こうして手荒な事をしても咎められませんしね」
 とても敵同士とは思えぬフランクな会話を耳にして、老貴族と押さえつけられた男は驚いてしまう。
 何せ自分たちの味方だと思っていた女が、会話から察するに平民衛士の味方だったのであるから。

「…な、何なんだお前?俺たちの味方じゃなくて…敵なのか?」
「そこは杖を俺に向けなかったところで気づくべきだったな。なぁミシェルよ」
「仰る通りです、隊長」
 呆然とする男に衛士がそう言うと、ミシェルと呼ばれた女は頭に被っていたフードを外す。
 フードの下に隠れていた顔は紛れも無く、トリスタニアの衛士隊で彼女が隊長と呼んだ衛士の部隊に所属するミシェル隊員であった。 



 王都トリスタニアのチクトンネ街にある,『魅惑の妖精』亭の一階。
 そここで朝食を摂っていた最中、霧雨魔理沙は外から聞こえてくる音に違和感があるのに気が付いた。 
 夜が明けて暫く経つチクトンネ街から聞こえる人々の会話や足音の中に、奇妙な金属音が混じっているのである。
 咀嚼していた薄切りベーコンを飲み込み、ふと窓の外へと視線を向けると、その金属音の正体が分かった。
 謎の金属音は日々王都の治安を守る衛士隊の隊員たちが着こんでいる、安っぽい鎧の音であった。
 しかも窓の外からチラリと見える彼らは妙に慌ただしく、そして何かに急かされているかのように走っている。
 
 いつもとは少し違う光景を目にした魔理沙は、この時何かが起こっているのだろうかと思っていた。
 具体的な事までは分からないが、それでも慌ててどこかへ向けて走っている彼らを見ればそう思ってしまうだろう。
 口の中に残るベーコンの塩気を水で流し込みつつ、魔理沙は自分と同じタイミングで食べ終えた霊夢の意見を聞こうと考えた。
「……なぁ、今日は朝っぱらから騒々しくないか?」
「ん?そうかしら?」
 突然そんな話を振られた霊夢は首を傾げつつ、魔理沙と同じように窓から外の様子を覗いて見せる。
 通りのゴミ拾いや清掃、玄関に水を撒く人たちに混じって確かに何処かへ駆けていく衛士達の姿が見えた。
「あら、本当ね。確かあれは…衛士隊だったっけ?一体あんなに慌ててどうしたのかしらねぇ〜」
「衛士隊…って、こんな朝っぱらから何かあったの?」
 霊夢の言葉に、魔理沙よりも前に食べ終わって一息ついていたルイズも窓の外へと視線を向ける。
 確かに二人の言うとおり、何人もの衛士達がパラパラと走っていく姿が遠くに見えている。
 けれど何があったのかまでは当然分かる筈もなく、先程の霊夢を真似するかのように首を傾げて見せた。

 暫し沈黙が続いた後、まず先に口を開いたのは最初に気が付いた魔理沙であった。
「……んぅー。分かってはいたが、ここからだと何が起こったのか全然分からんもんだな」
「でも一人二人ならともかく、結構な人数が走っていったんだし…何か事件でも起こったんじゃないのかしら」

43 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/08/31(木) 21:53:07 ID:uPUZJleA
 ―――朝っぱらだっていうのにね?最後にそう付け加えたルイズの言葉に、
「……!事件ですって?じゃあ、もしかして…」
 それまで静かにしていた霊夢がキッと両目を細め、ピクリと肩を揺らして反応する。
 そしてルイズと魔理沙がアッと言う間もなく席を立ちあがり、突然外へ出る準備をし始めたのだ。
 準備…とは言ってもする事と言えば飛ぶ前の軽い体操であり、持っていく物と言えばデルフ程度である。
 突然軽い準備運動を始める彼女を見て、ルイズと魔理沙は怪訝な表情を浮かべて聞いてみることにした。
「ちょっと、いきなりどうしたのよレイム?……まぁ、考えてる事は何となく分かるけど」
『どうやらレイム的にも、あの兄妹にしてやられた事は相当屈辱だったらしいなぁ』
 妙に張り切って軽い準備運動をする巫女さんを見て何となくルイズは察し、デルフもそれに続く。
 
 恐らくは、衛士達が朝から大勢動いているのを見て、二日前に自分たちの金を根こそぎ盗んだ兄弟が見つかったのだと思っているのだろう。
 確かにその可能性は無きに非ずと言ったところだろうが、決定的証拠が無い以上百パーセントとはいかないのである。
 霊夢本人としては早いとこ雪辱を果たして、ついでアンリエッタから貰った資金と賭博で儲けた金を取り戻したいに違いない。
 しかし、さっきも言ったように全く別の事件が起こっているだけなのではないかとルイズが言ってみても…、

「とりあえず行かなきゃ始まらないってヤツよ。さぁ行くわよ、デルフ」
『はいはい。オレっちはただの剣だからね、お前さんが持っていくんならどこまでもついて行くだけさ』
 気を逸らせている彼女はそう言って、インテリジェンスソードのデルフを持って『魅惑の妖精』亭の羽根扉を開けて外へ出た。
 そして一階だけ大きく深呼吸した後でデルフを片手に地面を蹴り、 そのまま街の上空へと飛び上がってしまう。
 ルイズたちが止める暇もなく、あっと言う間に出て行った巫女さんとデルフに魔理沙は思わずため息をつく。
「まぁ霊夢のヤツも、何だかんだで結構根に持つタイプだしな。…財布を盗んだあの子供も、運が無かったよなーホント」
 魔理沙はそんな事を喋りながら席を立つと朝食が盛り付けられていた食器を手に持ち、厨房の方にある流し台へと持っていく。
 それに続くようにルイズも食器を持ち上げた事で、やや波乱に満ちた三人の朝食が終わりを告げた。

 その後…片付けずに外へ出て行った霊夢の食器も流し場で洗い終えた魔理沙も外へ出ることにした。
 別に霊夢の後を追うわけではない、今の住処―――『魅惑の妖精』亭のあるトリスタニアで情報収集をする為である。

「じゃ、私も昨日言われた通りに情報収集とやらをしてくるが…どういうのを集めればいいんだっけか?」
 食器を洗い終え、一回に置いていた箒を右手に持った魔理沙からの確認にルイズは「そうねぇ〜…」と言って答える。
「手紙に書かれて通りアルビオンやかの国との戦争に関する話題ね。それと…後は姫さまの評判とかもあれば喜んでくれるかも」
「分かったぜ。…後、ついでに私自身が知りたい事も調べて来るから帰りは遅くなると思うが…良いよな?」
「それは私が許可しなくても勝手に調べるんでしょ?別に良いわよ、知的好奇心を存分に満たしてきなさい」
「仰せのままに、だぜ」
 そんなやり取りをしてから、魔理沙もまた霊夢と同じように店の出入り口である羽根扉を開けて外へ出ていく。
 これからジリジリと暑くなっていくであろう街中へ出ていく黒白に手を振ってから、ルイズは踵を返して店の奥へと消えて行った。
 どうしてルイズがするべき仕事を、魔理沙が請け負っているのか?…それにはやむを得ない理由があったのである。


 全ての始まりは二日前くらい…色々ワケあって、アンリエッタの女官となったルイズに街での情報収集という仕事が早速舞い込んできた事から始まった。
 アンリエッタが送ってきた書類には、街で王室の評判やタルブで化け物をけしかけてきたアルビオンの事やら色々集めればいいと書かれていた。

44 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/08/31(木) 21:55:22 ID:uPUZJleA

 本当ならルイズ自身がやるべきことなのだろうが、平民の中に紛れ込んで情報収集するには彼女の存在は変に目立ってしまうのである。
 ハッキリと言えば貴族としての教育がしっかりと行き届いている所為で、この手の仕事にはとても不向きなのだ。
 
 その事が分かったのは昨日の午前中、チクトンネ街にある自然公園で情報収集を行った時である。
 やる前はマントを外して変装すれば大丈夫だと思っていたものの、いざ始めるとすぐに彼女の素性がバレてしまう事に気が付いた。
 当然だ。何せ平民に変装していても歩き方やベンチの座り方が、礼儀作法を学んだ貴族のままなのである。
 それこそ面白いくらいに平民たち――特に同年代の女の子達は一瞥しただけでルイズが貴族だと言い当ててしまうのだ。

「あら!見てよあの貴族のお嬢様、御忍びで街中を散歩なのかしら」
「ホントだわ!あの綺麗で新品の御召し物に桃色のブロンド…きっと名家のお嬢様に違いないわね」

 偶々横を通っただけでそこまでバレてしまったルイズは思わず身を竦ませてしまい、心底驚いたのだという。
 その後もルイズ達は公園の中をあちこち移動して何とか情報収集をしようとしたが、潔い失敗を何度も何度も繰り返していく。
 最初は魔理沙と霊夢にデルフが遠くからルイズの情報収集を見守っていたが、その内何秒でバレるか予想する勝負を始めてしまった程である。
 もちろん、それがバレて怒られたのは言うまでも無いが…このままでは成果ゼロでその日が終わるのを危惧してか、一旦路地裏で何がダメなのか話し合う事となった。
 無論、唯一人原因が分からぬルイズに霊夢達が一斉に指摘する場となってしまったが。

「もぉ、どうしてこうカンタンにばれちゃうのよ?」
「そりゃーアンタ、平民の格好してても態度が貴族なんだからバレるのは当り前でしょうに」
「あれだと自分の体に堂々と「私は貴族です」って書いて歩いてる様なもんだぜ?」
『娘っ子には悪いが、あんな上等な服着て偉そうに歩いてる時点でバレバレなもんだぞ』
「デルフまでそういう事言うワケ?…っていうか、この服ってそんなにおかしいのかしら…」

 二人と一本からの総スカンを喰らったルイズは、怒るよりも先に訝しむ表情を見せて自分の服装を見直し、そして気が付いた。
 この仕事を始める前に立ち寄った平民向けの服屋で買ったこの服だが、確かに周りの平民たちと比べると変に真新しい。
 通りを歩く平民たちは、皆そこら辺の市場で買えるような安物の服を着ており新品の服を着ているという平民は少ない。
 更にルイズの靴はしっかりとしたローファーなのに対し、通行人の大半…というか八割近くが木靴なのである。
 そして極めつけにいえば、ルイズの体からこれでもかと高貴な雰囲気が滲み出ていることだろう。

 顔つきといい髪の色やヘアースタイルといい、一々額や顔の汗をハンカチで拭い取る動作まで貴族のオーラを漂わせているのだ。
 それはある意味、彼女が貴族としての素養を持っているという証明であるが、残念な事に平民の中に紛れるには不要なオーラである。
 その事に薄らと気が付いたのは良かったものの、次にルイズが考えるのは解決方法であった。 

「それにしてもこのままじゃあ埒が明かないし、何か良い案はないものかしら?」
「それなら私に良い考えがあるぜ?」
 腕を組んで真剣に悩む彼女に救いの手を差し伸べたのは、以外にもあの魔理沙であった。
「え?あるの?」
「あぁ、簡単な事さ。落ち着いて聞いてくれよ?」
 悩むルイズを見てか、この時魔理沙はとんでもない提案を彼女へ吹っかけたのである。
 魔理沙の出した提案はズバリ一つ―――――今自分たちが居候してるスカロンの店の女の子として働くという事であった。

45 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/08/31(木) 21:57:16 ID:uPUZJleA
 もしもルイズが『魅惑の妖精』亭でウエイトレスの女の子達に混じって如何わしい格好をして働いたら、そのオーラを掻き消せるかもしれない。
 ルイズに御酌をされる相手も、まさか自分がトリステインで一、二を争う名家のお嬢様に御酌されるとは思ってもいないであろうし…。
 御酌ついでに酔った客に色々話を吹っかれば、思いも寄らぬ情報をゲットできるという可能性も無くはないのだ。
 
「…何より働けばお給金を出してくれるだろうし情報も集められるしで、一石二鳥だろ?」
「う〜ん…とりあえず右ストレートパンチか左ローキックのどちらが良いか答えてくれないかしら?」
「今のはちょいとしたジョークだ、忘れてくれ」
 いかにも名案だぜ!と言いたげな表情を浮かべる魔理沙に、ルイズは優しい微笑みを顔に浮かべてそう返した。
 それを聞いた普通の魔法使いは肩を竦めて自分の言ったことをそっくり撤回すると、二人のやり取りを見ていた霊夢が口を開く。
「大体、何でいきなりそんな提案が出てくるのよ?」
「いやぁホラ、昨夜一階で夕食を食べてた時にスカロンがぼやいてたんだよ。…後一人くらい女の子が来てくれないモノかしら…って」
『だからって貴族の娘っ子に突然あんな如何わしい服着させて平民にお酌させろってのは、そりゃいくら何でも無理過ぎるだろ』
「なっ…!し、失礼な事言うわないでよデルフ、私にだってそれくらいの事…は―――難しいかも」
 霊夢と魔理沙に続いたデルフの容赦ない言葉にルイズは怒ろうとしたものの、咄嗟に昨夜の事を思い出して言葉がしぼんでしまう。
 ひとまずは『魅惑の妖精』亭に泊まる事となった彼女は、一階で働く店の女の子たちの姿をしっかりとその目で捉えていた。

 程々に露出の高いドレスに身を包んだ少女達は料理や酒を客に運び、彼らが出してくれるチップを回収していく。
 その時に客の何人かがお尻や胸の方へと伸ばしてくる手を笑顔で跳ね除けているのを見て、あれは自分には無理だろうなと感じていたのである。
「…っていうか、許し難いわね。貴族である私の体を触ろうとしてくる相手の手を笑顔で離すなんて事自体が」
『だろうな。もし昨日の客共がお前さんの尻や…えーと、そのち…慎ましやかな胸に触ろうとした時点で相手は確実に痛い目見るだろうし』
 思わず口が滑りそうになったのを慌てて訂正しつつ、デルフがそう言うとルイズはコクリと頷き…ついで彼をジロリと睨み付けた。
「あんた、今物凄く失礼な事言おうとしたでしょ?」
「はて、何がかね?」
 「慎ましやか」は別に失礼じゃないのか…魔理沙がそんな事を思いながらすっとぼけるデルフを見つめていると、
「はぁ〜…全く、アンタ達はホント考えるのはてんでダメなのねぇ?もう少し頭を使いなさいよ頭を」
 それまで彼女たちの会話の輪から少し離れていた霊夢が、溜め息をつきながらルイズと魔理沙の二人にそんな事を言ってきたのだ。
 当然、魔理沙とデルフはともかくルイズが反応しない筈がなく、彼女の馬鹿にするような言葉にすぐさま反応を見せたのである。
「何よレイム?子供のメイジ相手にしてやられたアンタが、私達をバカにできるの?」
「…!い、痛いところ突いてくるわねー。…あんな連中もう二、三日あればすぐにでも見つけてお金を取り返してやるっての」 
 ジト目でルイズ達を睨んでいた霊夢は、ルイズに一昨日の失敗を蒸し返されると苦々しい表情を浮かべてしまう。
 その後、気を取り直すように咳払いをしてから何事かと訝しむルイズへ話しかけた。

「え〜…ゴホン!…まぁ私達の言うとおりアンタが平民に混じって情報収集に向かないのは明白な事よね?」
「そりゃそうだけど、一々蒸し返さないで…って私もしたからお相子かぁ」
 巫女の容赦ない指摘に彼女は渋々と頷くと、霊夢はチラリと魔理沙を一瞥した後に、ルイズに向けてこう告げた。
「私さぁ、思ったんだけど……何もアンタ自身が直接情報収集に行かなくてもよさそうな気がするのよねぇ」
「はぁ?それ一体どういう…―――」
 突然の一言にルイズが驚きを隠せずにいると、霊夢は今にも迫ろうとする彼女に両手を向けて制止する。

46 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/08/31(木) 21:59:12 ID:uPUZJleA

「話は最後まで聞きなさい。…別にアンタが役立たずって言いたいワケじゃないのは分かるでしょうに。
 私が言いたいのは、アンタや私以上に゙平民たちに紛れて情報収集できるプロ゙が今この場にいるって事なのよ。…分かる?」

 自分の突然すぎる言葉にルイズが「えぇ?」と言いたげな表情を浮かべるのを見て、霊夢はスッと人差し指をある方向へと向ける。
 その人差し指の向けられた方向へ思わずルイズもそちらへ顔を向けると、そこにいたのは見知った…というより見知り過ぎた少女がいた。
 指さされた少女本人は少し反応が遅れたものの、思わず自分の指で自分を指して「私?」と霊夢に問いかける。
「えぇそうよ?こういうのはアンタが得意でしょうに、霧雨魔理沙」
「……えぇ!?私がかよ!」
 霊夢の言ゔ平民たちに紛れて情報収集できるプロ゙にされた魔理沙は突然の決定に驚いたものの、
 何を驚いているのかと勝手に決めつけた霊夢は怪訝な目で普通の魔法使いを見つめていた。

 何はともあれ、勝手に情報収集係にされた魔理沙はその日から早速霊夢の手で平民の中へと放り込まれてしまった。
 ルイズは突然のことにどう対応したらいいか分からず、デルフは面白い見世物と思っているのか静観に徹していた。
 魔理沙は霊夢に文句を言おうとしたものの、それを予想していた巫女さんはこんな事を言ってきたのである。

――本来ならルイズ本人がやれば良いんだけど結果は散々だったし、デルフは当然の様に動けない。
    私はあの盗人兄妹を捕まえなきゃいけないし…となれば、アンタに白羽の矢が刺さるのは当然じゃないの
 
 こういう口げんかでは紫に次いで上手い霊夢に対し、魔理沙は苦々しい表情を浮かべる他なかった。
 その時になって初めてルイズが「いくらなんでも魔理沙に頼むのは…」と失礼な擁護をしてくれたものの、あの巫女さんは彼女にこう囁いたのである。

―――まぁ任せときなさいよ。コイツはコイツでそういうのを集めるのも得意だしさ。
     それにアンタには、コイツが集めてきた情報をこっちの世界の文字で書類にするっていう仕事があるのよ
     
 とまぁそんな事を言って最終的にはルイズも納得してしまい、晴れて霧雨魔理沙は街中で情報収集をする羽目になってしまった。
 最初は何て奴らかと思って少し怒っていた彼女であったが、冷静さを取り戻すと成程と自分に充てられた仕事に納得してしまう。
 ルイズが平民の中に紛れるのは下手なのは散々見たし、であれば誰かが拾ってきた情報を紙に書いてアンリエッタに送る仕事しかないだろう。
 そして、その情報を集める仕事を担当するのが自分こと――霧雨魔理沙ということなのである。
 霊夢が自分達の金を盗んだ相手を執拗に捕まえようとするのは…まぁ俗にいう『負けず嫌い』というやつかもしれない。
 本人もやられたままでは納得がいかないのは何となく分かるし、何よりあんだけ馬鹿にされてまんまと逃がしてしまったのである。
 絶対自分には捕まえる役を譲ってはくれないだろう。無理やり奪おうとすれば…゙幻想郷式のルール゙に則った決闘が始まるのは明白だ。

(それに霊夢はこの世界の文字の読み書き何てできないだろうし、私ならアイツ以上に他の人間と接してるしな)
 まだ納得できないが、妥当と言うことか…。市場から聞こえる賑やかな声をBGMに、魔理沙はチクトンネ街の通りを歩きながら考えていた。
 昨日、王都で降った大雨のおかげで道には幾つもの水たまりができ、青空に浮かぶ雲や横を通り過ぎる人々の姿を鏡の様に写していく。
 こころなしか通りの熱気もそれまでと比べて涼しいと感じる気がした魔理沙は、天からの恵みに思わず感謝したくなった。
 しかし、昨日の大雨ついでに起こったトラブルを思い出してしまい、感謝の念はひとまず横に置いて昨夜の出来事を思い返してしまう。
「それにして…昨日は本当に参ったぜ。当然の様に雨漏りしてきたし…やれやれ」

 それは昨日の…雨が降る前の事で、藍が自分たちを『魅惑の妖精』亭の屋根裏部屋に押し込んだのが始まりであった。

47 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/08/31(木) 22:01:08 ID:uPUZJleA
 紫にあの店で過ごせるようにしろと言われた彼女はその日の夕方にスカロンと話し合って決めたのだという。
 その時には昼頃から王都の上空を覆い始めた黒雲から大雨が降ると察し、ルイズ達はそれから逃げるようにして店へと戻ってきていた。
 幸い突然の土砂降りで服を濡らすことなく戻る事ができた三人と一本が店の入り口で佇んでいると、あの式が部屋まで案内してくれる事となった。
 丁度開店時間で賑わい始める一階から客室がある二階に上がったところで、彼女はまず最初にしたのか゛ルイズ達への謝罪と弁明だった。
「すまん、スカロンと話し合ったのだが…今の季節はどの空き部屋も゙もしも゙の事を考えて入れないとの事らしい」
「えー、そうなの?じゃあ私が今朝寝てた部屋はどうなのよ。あそこは誰も泊まってなさそうな感じだったけど?」
 申し訳なさがあまり感じられない藍の言葉に霊夢が異議を唱えたが、そこへルイズがさりげなく入ってきた。
「アンタ知らないの?あの部屋って今はシエスタの部屋なのよ」
「……え?何それ、私はそんな話全然聞いてなかったけど」
 ルイズの口から出た意外な一言に霊夢が怪訝な表情を浮かべると、ルイズも目を細めて「本当よ」と言葉を続ける。
「昨日は気絶したアンタをベッドで寝かせる為に、ジェシカと同じ部屋で寝てくれたらしいわ」
「そうだったの。てっきり空き部屋があるかと思ってたけど…どうりで部屋が綺麗だったワケだわ」
「シエスタは魔法学院で穏やか〜にメイドさんをしてたからな。…後でアイツにお礼でも言っておいた方がいいと思うぜ」
 三人がそんな風に賑やかにやり取りするのを見ていた藍は、気を取り直すように大きな咳払いをして見せた。
 それで三人が話し合うのを止めるのを確認してから、彼女はルイズの方へと体を向けて話しかける。

「んぅ…ゴホン!それでまぁ、お前たちが二階の部屋に泊まるのは無理だが…今の持ち金だけでは他の宿には泊まれないんだろう?」
 式の質問は資金を盗まれ、今の所自身の口座にある貯金しかお金がないルイズへの確認であった。
 ルイズはすぐに答える事無く、暫し今の預金でどれだけ泊まれるか簡単に計算してから藍へ言葉を返す。
 九尾の式へと向けられたその顔は険しく、決して楽観できるような答えではないという事は察しがついた。

「…まぁ安い宿なら三泊四泊なら余裕でしょうけど、流石に夏季休暇が終わるまで連泊するのは無理ね
 しかもこの時期は国内外から旅行者が王都に来てるから、大抵の安宿はバックパッカーに部屋を取られてると思うし…」

「つまり三泊四泊した後は路上生活…って事か、いやはや〜……って、うぉ!」
「余計な事言わないでよ、想像しちゃったじゃない!」
「こらこら、アンタ達。喧嘩は後にするか私の見えない所でやりなさいよ、全く」
 ルイズの後を勝手に継ぐように魔理沙がそんな事を言うと、すぐさまルイズに掴みかかられてしまった。
 見た目の割に意外と腕力のあるルイズに揺さぶられる前に話を進めたい霊夢によって、魔理沙は何とか危機を脱する事が出来た。
 ホッと一息つく黒白と、そんな彼女をジッと睨むルイズを余所に彼女は藍は「話を続けて」と促した。

「一応、その事も含めてスカロン店長に話したら………暫し悩んだ後に゙とある゙一室を貸しても良いと許可してくれたよ。
 少々手入れが行き届いてないが掃除すれば何とか住めるようにはなるし、窓もあってそれなりに風通しの良い部屋だぞ?」

 右手の人差し指を立てて淡々と説明していく藍の言葉に、ルイズと魔理沙の顔に笑みが浮かび始めてくる。
 てっきり申し訳ないが…と言われて追い出されるかと思っていたのだ、嬉しくないわけがない。
 思ったよりも良い反応を見せる二人を見て藍もその顔に笑みを浮かべると、人差し指に続き更に親指立ててこう言った。
「…まぁこういう時は大なり小なり対価を払うべきだが、元々誰かが住むのを考慮してないから……金を払う必要は無いとの事だ」
「な、何ですって?」

48 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/08/31(木) 22:03:25 ID:uPUZJleA
 全く予想していなかったサービスにルイズは喜び舞い上がるよりも、後退りそうになる程驚いた。
 何せ自分の貯金を崩して宿泊代を払うつもりだったというのに、それをする必要が無いというのである。
 ここまで来ると流石のルイズでも嬉しいという気持ちより先に、何か裏があるのではと勘ぐってしまう。
「ちょ…ちょっと待ってよ!流石にお金はいらないって…それ本当に部屋として使えるの?」
 サービス精神旺盛過ぎる藍にルイズは思った疑問をそのままぶつけると、霊夢が後に続い口を開く。
「ルイズと同じ意見ね。…第一、紫の式であるアンタが口出してるんだから何か考えてるでしょうに」
『タダほど怖いモノはねーっていう法則だな』
 彼女の辛辣な意見にデルフも諺で追従してくると、藍は微笑みを浮かべたまま二人へ言った。

「まぁお前たちがそう思うのも無理はないだろうな。けれど、一応人は住めるんだぞ」
 そう言って藍は立てていた人差し指と親指を使って、パチン!と軽快に指を鳴らして見せる。
 誰もいない廊下に軽いその音が響き渡り、一瞬で窓の外から聞こえる雨の音と一階の賑やかさに掻き消されてしまう。
 突然のフィンガースナップに何をするつもりかと訝しんでいた霊夢達の頭上から突如、聞き覚えのある少女の声がくぐもって聞こえてきた。
「藍さまー、もう下ろしていいの?」
「!…これって、確かチェンっていう貴女の式の声じゃ…」
 本来ならだれもいない筈の天井から聞こえてきたのは、藍の式である橙の声であった。
 意外にも猫被っていた彼女の事が強く印象に残っていたルイズへ返事をする前に、藍は「いいぞ!」と頷いて見せる。
 その直後…天井から鍵を開けた時の様な金属音がなったかと思うと、独りでに何かが天井から舞い落ちてきた。
 
 ゆっくりと、まるで冬の夜空から降ってくる雪の様な――ーけれどもドブネズミの如き灰色のソレが、パラパラと落ちてくる。 
 偶然にもソレが目の前で落ちていく様を目にした霊夢は、見覚えのあったその物体の名前を口にした。
「これは…埃?―――――って、うわッ!」
 彼女が言った直後、その埃が落ちてきた天井が物凄い音と共に落ちて来るのに気が付き慌てて後ろへと下がる。
 魔理沙とルイズ、それにデルフも何だ何だとその落ちてくる天井を目にし――それがただの天井ではない事に気が付く。
 木と木が擦れる音と共に天井から下りてきたのは、年季の入った階段であった。
「これって、階段…隠し階段か!すげーなオイ」
「『魅惑の妖精』亭って、こんなものまであるのね…」
 自分たちの頭上から現れたソレを見て魔理沙は何故か嬉しそうに目を輝かせ、ルイズは呆然としていた。
「驚いたわね〜、まさかこんな場末の居酒屋にこんな秘密基地じみたものがあるだなんて」
『うーん、この階段の年季の入りよう…オレっちから見たら、数年前かそこらに取り付けたものじゃねぇな』
 霊夢も二人と同じような反応を見せていたが、それとは対照的にデルフはこの階段が古いものだと察していた。
 隠し階段は『魅惑の妖精』亭となっている建物に最初から付けられていたのか、床を傷つける事が無いようしっかりと造られている。
 もしも後から造られているのなら、よほどの名工でも無い限りこうも完璧な隠し階段を取り付けるのは無理ではないだろうか。
 そのインテリジェンスソードの疑問に答えるかのように、藍はルイズ達へ軽く説明し始める。

「スカロンが言うにはこの店が『魅惑の妖精』亭という今の名前ではなく、
 『鰻の寝床』亭っていう新築の居酒屋として建てられた時に造ったらしい」

49 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/08/31(木) 22:05:45 ID:uPUZJleA
 おおよそ築四百年物の隠し階段なんだそうだ、と最後に付け加える様にして藍が言うと、
「まぁ結局、色々と問題が発生したから使ったのは開店から数年までだったらしいけどねー」
 階段を上がった先にある暗闇からヒョコッと橙が顔を出して、必要もない補足を入れてくれる。
 どうやら先ほどの声からして、自分が帰ってくる前にそこにいたのだろうと何となく察しがついた。
 いらぬ説明を入れてくれた橙に礼を言う義理も無いルイズは暫し隠し階段を見つめた後、ハッとした表情を浮かべる。
 
「まさか私たちがこれから暫く寝泊まりする場所って…」
「まさかも何も、今橙のいる階段の先にある部屋がそうさ」
 ルイズの言葉に藍がそう答えると、彼女は隠し階段の先を指さして言った。
「ようこそ『魅惑の妖精』亭の屋根裏部屋へ。…とはいっても、客室とは呼べない程中は乱雑だがな」


「…まぁ屋根裏部屋は秘密基地って感じがあって良いけどさぁ、流石に雨漏りするってなるとな…」
 昨日の事を思い出していた魔理沙はそんな事を呟いて、屋根裏部屋へと通された後の事を思い出す。
 結局、藍と橙に背中を押されるようにしてルイズ達はあの隠し階段の向こうにあった部屋で暫く寝泊まりする羽目となってしまう。
 荷物は粗方持ち運ばれていたのだが、それを差し引いても屋根裏部屋は正に「長らく放置された倉庫」としか例えようがない程ひどかった。
 部屋の隅には蜘蛛が巣を張ってるわネズミが梁や床の上を走り回るわで、挙句の果てには蝙蝠までいたのである。
 「何よコレ!」と驚きと怒りを露わにするルイズに対し、藍は平気な顔で「同居人達だ」言ってのけたのは今でも覚えている。
 流石にルイズだけではなく霊夢もこの仕打ちに対しては怒ったものの、魔理沙本人はそれでもまぁマシかな…程度に考えていた。

 蜘蛛は箒で巣を蹴散らしてやれば出ていくだろうし、ネズミは罠でも張っておけば用心して顔を出してこなくなる。
 蝙蝠に関しては…まぁこの夏季休暇が終わるまで同居するほかないだろう。
 お金はほとんどないし行く当てもない、つまり結果的にはこの屋根裏部屋しか自分たちが寝泊まりできる場所は無いのだ。
 それに昨日の外はあれだけの土砂降りだったのである、雨風がしのげる場所があるだけマシなのかもしれない。
 元々倉庫として使われていただけあって、使っていないベッドが何個か置かれていたのは不幸中の幸いという奴である。
 シーツは後からシエスタに言えば持ってきてくれるというし、スカロンたちも押し込んでそのまま…というつもりはないようだ。

 最初は怒っていたルイズと霊夢も仕方ないと思ったのか、ひとしきり文句だけ言った後は一階で夕食を頂く事になった。
 デルフも特に異議は無いのか、階段を下りる前に屋根裏部屋を見回していた魔理沙に「早くしろよー」と声を掛けるだけであった。
 お金はお昼の内にルイズが財務庁から下ろしてきてくれたので、程々に美味いモノが食べる事が出来た。
 しかし…問題はその後、夕食を食べ終わり少し酒を引っかけてから三階へ戻った時にそのアクシデントは既に起こっていた。
 以前にもその勢いを増した雨風に勝てなかったのか、屋根裏部屋の天井から雨水が滴り落ちてくるという事態が発生していたのである。
 ポタ、ポタ、ポタ…と音を立てて床を叩く幾つもの水滴は、当然ながら藍が持ってきてくれていたルイズ達の荷物を容赦なく濡らしていた。
 これには流石の魔理沙とデルフも驚いてしまい、急いで荷物を二階に降ろしたのはいいもののそこから先が大変であった。
 雨漏りを直そうにも外は大雨で無理だし、雨水を入れる為の器を探そうにも見当たらない。つまり手の打ちようがなかったのである。

 結局…その夜はスカロンたちに事情を話して、仕方なく二階の客室を無理言って貸してもらう羽目になってしまった。
 そこまでは良かったが、そこから後は色々と大変だったのである。良い意味で。
 スカロンたちもまさか雨漏りを起こしていたとは知らなかったのか、明日――つまり今日にも大工を呼んで直してくれるのだという。

50 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/08/31(木) 22:07:22 ID:uPUZJleA

 彼曰く「あなた達が屋根裏部屋に入らなかったら、気付かなかったかもしれないわぁ〜」とも言っていた。
 その時に屋根裏部屋を初めて見たというジェシカが、
 
「これも客室として使えるんじゃなーい?」
 
 とか言ったおかげ…かどうかは分からないが、更に色々と手直しするかもしれないのだという。
 ひとまず蝙蝠とかネズミやらを何とかした後でそれは考えるらしく、その駆除自体もまだまだ先になるのだという。
 とりあえず雨漏りさえ何とかしてもらえれば、後は掃除をするだけで多少はマシになるだろう。
  

「まぁ、昨日みたいな散々な体験をしないのならそれに越したことはないがな……ん?」
 苦く新しい思い出を振り返る魔理沙がひとり苦笑した時、ふと前方で誰かが道端でしゃがんでいるのに気が付いた。
 それが単なる通行人か体調の悪い人間なら彼女もそこまで気にしなかったのか知れない。
 しかし…少し前方にいるその人影はまだ十代前半と思しき少女であり、何より髪の色が明らかに周囲の人々から浮いているのだ。
 彼女を一瞥しつつ、けれど声は掛る程ではないと思ってか横を通り過ぎていく平民たちの髪の色は大抵金髪か茶髪で、偶に赤色とか緑色も確認できる。
 だがその少女の髪の色は、驚く事に銀色なのである。どちらかといえば白色に近い薄めの銀色といえばいいのだろうか。
 陽光照りつける通りの中でその銀髪は光を反射しており、少し離れたところから見る魔理沙からしてみればかなり目立っていた。
 
 そんな不思議な色の髪を腰まで伸ばしている少女は、通りを右へ左へと見回して何かを探しているらしい。
 端正でしかしどこか儚げな顔に不安の色をありありと浮かび上がらせ、照りつける太陽の熱で額から汗を流しながらしきりに顔を動かしている。
 魔理沙は少女が自分のいる通りへと視線を向けた時に顔を一瞥できたが、少なくともそこら辺の子供よりかはよっぽど綺麗だという感想が浮かんできた。
 髪の色とあの綺麗な横顔…もしかすればあの少女は今のルイズと同じぐワケありの女の子゙なのかもしれない。
 そこら辺は憶測でしかないが、思い切って本人に直接訊いてみればすぐに分かる事だろう。
 とはいっても、見ず知らずの女の子に声を掛けた所で驚かせてしまうか逃げられてしまうかのどちらかもしれないが…
 
「ま、この私が興味を持ってしまったんだ。声を掛けずに素通り…ってのは性に合わないぜ」

 彼女は一人呟くと昨日訪れた自然公園へ行く前に、目の前にいる銀髪の少女に声を掛けていく事にした。
 どんな反応を見せてくれるか分からないが、せめて今は何をしてるか…とかどこから来たのかとか聞いてみたいと思っていた。
 自分の興味に従い足を前へ進めていく魔理沙の気配を察知したのか、反対方向を向いていた少女がハッとした表情を彼女へ向けてくる。
 しかし一度動いたら止まらないのが霧雨魔理沙である。自分目がけて歩いてくる黒白に銀髪の女の子は困惑の表情を浮かべた。
「あっ……ん、…っわ!」
 それでもせめて立ち上がろうと思ったのか腰を上げたものの、足が痺れたのか思わず転げそうになってしまう。
 幸い転倒する事無く慌てただけで済んだものの、その頃には魔理沙はもう彼女と一メイル未満のところまで近づいていた。
 一体何が始まるのかと少女は無意識の体を硬くすると、黒白の魔法使いはおもむろに右手を上げて彼女に話しかけたのである。

51 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/08/31(木) 22:09:24 ID:uPUZJleA
「よぉ、何か探し物かい?」
「…………。…………」
 突然自分に向けて挨拶しながらもそんな言葉を掛けてきた黒白に、少女は緊張気味の表情を浮かべて黙っている。
 そりゃそうだ、例え同性同年代?の相手でも何せ見ず知らずの者が近づいてきたらそりゃ警戒の一つはするだろう。
 対して、魔理沙の方は相手が見た事の無い相手であっても特に態度を崩すことなく、不思議そうな表情を浮かべている。
(ありゃ?ちょっと反応が薄かったかな…って、まぁ当たり前の反応だけどな)
 …反省する気は無いが、相変わらず私ってのはデリカシーとやらがなってないらしい。
 これまで一度も省みた事が無い自分の短所の一つを再認識しつつ、黙りこくる銀髪の少女へ魔理沙はなおも話しかけた。

「いやぁ、ここら辺じゃあ見ない顔と髪の色をしてたもんだからつい声を掛けちゃって…、ん?」
「………たから」
 最後まで言い切る前に、魔理沙は目の前の少女がか細い顔で何かを言おうとしてるのに気が付いた。
 言葉ははっきりとは聞こえなかったが、口の動きで何かを喋っているのに気が付いたのである。
 魔理沙が一旦喋るのを止めた後で、少女は気恥ずかしそうな表情を浮かべつつ上手く伝えきれなかったことを言葉にして送った。
「……わ、私―…そ、その…この街へは、初めて旅行へ…来たから」 
 多少言葉を詰まらせおどおどとしながらも、少女は素直な感じで魔理沙にそう言った。
 それを聞いた魔理沙は少女が旅行客だと聞いて、ようやく不安げな様子を見せる理由がわかってウンウンと頷いて見せる。
「成程な、どうりで道に迷った飼い犬みたいに不安そうな顔してたんだな。納得したよ」
「なっ…!そ、それどういう事ですか!?べ、別に私はま、迷ってなんかいないし、第一犬なんかでも…―――……ッ!」
 魔理沙の冗談は通じなかったのか、犬と例えられた少女がムッとした表情を浮かべて言葉を詰まらせながらも怒ろうとした時、
 突如少女のすぐ後ろにある路地裏へと続く道から、本物の犬の鳴き声が聞こえてきたのである。
 それを耳にした少女は驚いたのか身を竦めて固まってしまい、魔理沙は突然の鳴き声にスッと耳を澄ます。 

「お、話をすれば何とやらか?まぁでも…この吠え方だと飼い犬とは思えないがな」
 恐らく街の人々が出す生ごみ等を食べて生活している野良犬なんだろう、吠え方が荒々しい。
 きっと仲間か野良猫と餌か縄張りの奪い合いでもしているのだろうが、朝からこう騒々しくしては人々の顰蹙を買うだろう。
「朝っぱらから大変元気で羨ましいぜ、全く。………って、どうしたんだよ?」
 帽子のつばをクイッと持ち上げながら、そんな事を呟いた後で魔理沙は少女の様子がおかしい事に気が付く。
 先ほどしゃがんでいた時とは違って両手で守るようにして頭を抱えて蹲ってしまっている。
 一体どうしたのかと思った彼女であったが、尚も聞こえてくる野良犬の声で何となく原因が分かってしまった。

「もしかしてかもしれないが…お前さん、ひょっとして犬が苦手なのか?」
 魔理沙の問いに少女はキュッと目をつむりながらコクコクと頷き…次いでおもむろに顔を上げた。
 何かと思って魔理沙は、少女の顔が信じられないと言いたげな表情を浮かべているのに気が付く。
 一体どうしたのかと魔理沙が訝しむ前に、少女は耳を両手で塞ぎながら口を開いた。
「え?あ、あのワンワン!って怖い吠え方をする小さい生き物も犬なんですか!?」
「…………はぁ?」
 少女からの突然な質問に、魔理沙は答えるより前に自分の耳を疑ってしまう。
 今さっき、恐い恐くないという以前の言葉に魔理沙は暫し黙ってから再度聞き直すことにした。

52 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/08/31(木) 22:11:08 ID:uPUZJleA
「……………スマン、今何て?」
「え…っと、ホラ!今後ろの道からワンワンって鳴いてる生き物も犬なんですか…って」
「イヤ、こういう場所でワンワンって鳴く生き物は犬しかいないと思うが」
「え、でも…犬ってもっと大きくて、人を背中に乗せたりもできて…あとヒヒーン!って鳴く動物なんじゃ…」
「それは馬だ!」

 少々どころか斜め上にズレた会話の果てに突っ込んでしまった魔理沙の叫び声が、通りに木霊する。
 これには素通りしようとした通行人たちも何だ何だと足を止めてしまい、少女達へと視線を向けてしまう。
 思いの外大きな叫びに通りは一瞬シン…と静まり返り、時が止まったかのように人の流れが静止している。
 路地裏にいるであろう野良犬だけが、一生懸命何かに対して吠えかかる声だけが鮮明に聞こえていた。
 

「知らなかった…、まさかあの小さくておっかない四本足の生き物が犬だったなんて…」
「はは…まぁ良いんじゃないか?世の中に犬を馬と思う人間がいても良いと思うぜ?」
 それから暫くして、魔理沙は未だ呆然とする少女を先導するかのようにチクトンネ街の通りを歩き続けていた。
 魔理沙は落ち込む少女ー顔に苦笑いを浮かべてフォローしつつ、馬を犬と勘違いしていた彼女に突っ込んだ後の事を思い出す。


 最初何かの冗談かと思った彼女が少女の言葉に、思わず突っ込みを入れてしまった後は色々と大変であった。
 何せ自分の怒鳴り声でそのまま尻もちついた彼女が何故か泣き出してしまい、魔理沙は変な罪悪感に駆られてしまう。
 事情を知らぬ人間が見れば、気弱そうな銀髪の少女を怒鳴りつけて泣かした悪い魔法使いとして見られかねないからだ。
 とりあえず平謝りしつつも、野良犬の鳴き声が怖いらしいので仕方なく彼女をそこから遠ざける必要があった。
 移動した後も少女はまだ泣いていた為に放っておくことが出来ず、魔理沙は動きたくても動けないまま彼女の傍にいたのである。

 大体小一時間ほど経った時に、ようやく泣き止んだ少女は頭を下げつつ魔理沙に自分の事を詳しく話した。
 名前はジョゼット、以前はとある場所にある建物でシスター見習い…?として暮らしていたのだという。
 しかし丁度一月前にある人達が自分を秘書見習いにしたいといって彼らの下で働き始めたらしい。
 そして今日ばその人達゙の内一人で、自分が゙竜のお兄さん゙と呼ぶ人が今この街で働いているので、もう一人の人と一緒に会いに来たのだという。
「…で、その後は竜のお兄さんと会ったのはいいけど、調子に乗ってホテルから通りの方へ出ちゃって…」
「成程、それで路地裏に入り込んじゃって…挙句の果てに野良犬に追いかけられた結果…ワタシと出会ったというワケか」
 自分が言おうとした言葉を魔理沙に先取りされてしまったのに気づき、ジョゼットは思わず恥ずかしそうに頷いた。
 それで、竜のお兄さんやもう一人のお兄さんが心配しているから、急いでホテルに戻らなければいけないのだという。
 魔理沙はそこまで聞いて、先程ジョゼットが道の端で不安そうな表情を浮かべていた理由が分かってしまった。
「はは〜ん!つまり、帰ろうと思っても道が分からないから帰れなかったんだな?」
「……!」
 容赦する気の無い魔理沙の指摘に、ジョゼットは思わず頬を紅潮させながら頷く。
 その後は、何だかんだでジョゼットと彼女を拾ったお兄さんたちとやらに興味が湧いた魔理沙は少しばかり彼女に付き合う事にした。
 つまりは乗りかかった船として、迷子のジョゼットをそのホテルまで連れていく事にしたのである。

53 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/08/31(木) 22:13:16 ID:uPUZJleA

「……にしても、大通りから少し離れただけでも大分涼しいんだな…」
 先ほどの事を思い出し終えた魔理沙は、今歩いている小さめの通りを見回しながら一人感想を呟く。
 賑やかな市場から少し離れているここの人通りはやや少ないものの、散歩をするにはうってつけの道であろう。
 恐らく市場に行った帰りなのか、紙袋を抱えた平民たちの多さから見て自宅へ戻る際にここを通る者が相当いるらしい。
 建物の影もあるおかけで真夏の暑い太陽から隠れるこの場所は、ちょっとした避暑地の様な場所になっているようだ。
 魔理沙はそんな事を考えつつ箒片手に歩いていると、後ろをついて来るジョゼットが「あの…」と申し訳なさそうに声を掛けて来たのに気づく。

「ん?どうしたんだ」
 また素っ頓狂な質問かと思ったが、それを顔に出さず魔理沙が聞いてみると彼女はオロオロしつつも口を開く。
「え…っと、その…ありがとう、ございます。初対面なのに、道に迷った私を助けてくれるなんて…」
「あぁ、その事か!そう気に病む事はないさ、この街って私の生まれ故郷よりずっと大きいしな、迷うのは無理ないと思うぜ?」
 だからそう気に病むなよ?そう言ってコロコロと笑う魔理沙を見て、ジョゼットもその顔に微笑みを浮かべてしまう。

 何だか不思議な女の子だと、ジョゼットは思った。
 黒と白のエプロンドレスに絵本に出てくるメイジが被るようなトンガリ帽子にその手には箒。
 子供のころに読んだ絵本ではメイジが箒を使って空をとぶ話はいくつもあるが、実際は箒で空は飛べないのだという。 
 ではなぜ箒なんか持って街中にいるのだろうか?そんな疑問が頭の中に浮かんできてしまう。
 ――――まさかとは思うが、本当に箒で飛べるのだろうか?あのどこまでも続く青空を。
「……くす、まさかね」
「…?」
 変な想像をしてしまったジョゼットは小さく笑ってしまい、それを魔理沙に聞かれてしまう。
 しかし聞いた本人もまさか手に持っている箒の事を笑われたというのに気付かず、ただただ首を傾げていた。

 そうこうする内に小さな通りを抜けて、魔理沙はジョゼットの案内でブルドンネ街の一角へと入っている事に気が付く。
 周りを歩く人々の中にチラホラと貴族の姿が見えるし、何より平民たちの服装もチクトンネ街と比べれば小奇麗であった。
 右を見てみると幾つものホテルや洒落たレストランがあり、まだ開店前だというのに美味しそうな匂いを周囲に漂わせている。
 左には川が流れており、昨日の大雨の影響か水の色が土砂のせいで薄茶色に染まっていた。
 チクトンネ街とはまた違うブルドンネ街の景色を二人そろって見とれかけたところで、慌てて我に返った魔理沙がジョゼットに聞く。
「あ、そういや…ここら辺で合ってるんだよな?」
「え…うん、路地裏で犬に出会う前に川を見ながら歩いたから…」
 危うく目的を忘れかけた二人は何となく早足で前へと進むと、左側に小さな広場があるのに気が付いた。
 どうやら川の水はそのまま道の下にある暗渠に流れていくようで、濁流の音が微かに穴の中から聞こえてくる。
 地下へと続く暗い穴を一瞥した魔理沙がジョゼットの方へ顔を向けると、彼女は川を横切るようにして造られた左の広場を指さした。
 
 そこから先は左へと進み、まだ人の少ない小さな広場を抜けたところでまたしても道の片方に川が流れていた。
 ここには排水溝がすぐ真下にあるので、今度は川の流れに逆らって歩くような形となるらしい。
「なるほど…さっきの排水溝とはそれほど離れてないから、多分こことあそこの川の水は全部地下に流れてるのか?」
 だとすればこの街の真下には、巨大なため池があるようなもんだな…と魔理沙がそんな想像をしていた時、
 何かを見つけたであろうジョゼットが自分の横を通り過ぎ一歩前へ出ると、すぐ近くの建物を指さして叫んだのである。

54 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/08/31(木) 22:15:13 ID:uPUZJleA
「あった!あれ、あれだわ。あのホテルは川の傍にあったもの、間違いないわ!」
 嬉しそうなジョゼットの言葉に思わず魔理沙もそちら方へ視線を向けると、彼女の言うとおりホテルが建っていた。
 これまで通り過ぎてきたものとは違い、妙に新築の雰囲気が残るホテルの看板には『タニアの夕日』という名前が刻まれている。

「『タニアの夕日』…か、確かにここの屋上から見たら夕日は良く見えるかもな?…昨日を除いてだがな」
 看板の名前を読み上げながら、さぞ昨日だけ名前負けしていたに違いないと思っていると、
「わはは!やったぁー、やっと戻れたぁー!あはははー!」
「ちょ…っ!?お、おい待てって!」
 それまで大人しかったジョゼットが嬉しそうな笑い声を上げ、ホテルの入口目がけて走り出したのである。
 周囲の人々の奇異な者を見る視線と、突然のハイテンションに珍しく驚いている魔理沙の制止を振り切って。
 よっぽど嬉しかったのであろう、長い銀髪を振って走る彼女の後姿を見て、魔理沙はヤレヤレと肩を竦めて見せた。

「……ま、結局遅かれ早かれ中に入ってたんだし。仕方ない、私もついて行くとするか」
 あのホテルの中にいるであろうジョゼットを連れてきた者たちがどんな人たちなのか知りたくなった魔理沙は、
 もう大丈夫だろうと一人静かに立ち去るワケがなく、ジョゼットの後を追ってホテルの入口へと足を進めた。
 
 一足先に入ったジョゼットに続くようにしてドアを開けた魔理沙は、思わず口笛を吹いてしまう。
「へぇ―、こいつは中々だな!ウチの屋根裏部屋が動物の住処に見えてしまうぜ」
 笑顔を浮かべて辺りを見回す彼女の目には、二年前にリニューアルした『タニアの夕日』の真新しさが残るロビーが映っている。
 流石ブルドンネ街のホテルという事だけあるが、何よりもロビーの隅にまでしっかりと手が行き届いているからであろう。
 フロントやロビーの真ん中に配置されたソファー、そして建物の中に彩りを与えている観葉植物にも古びた所は見えない。
 床にも埃の様な目に見えるゴミは魔理沙の目でも視認できず、まるで鏡面かと思ってしまう程に磨かれている。
 
 少々ぼやけて見えるがそれでも自分の顔を映す床を見つめていた魔理沙の耳に、ふとジョゼットの声が聞こえた。
「お兄様!竜のお兄様ー!」
 その声でバット顔を上げ、声のした方へ目を向けた先にジョゼットが手を振っているのが見えた。
 丁度ロビーから上の階へと続く階段の手前で足を止めた彼女は、その階段の上にいる誰かに手を振っているらしい。
 彼女の言ゔ竜のお兄様゙とやらがどんな人物なのか知りたい魔理沙は、すぐさま目線を彼女が手を振る方へと向ける。
 階段を上った先にあるホテル一階の廊下、そこで足を止めてジョゼットと目線を合わせたのはマントを羽織った美青年であった。
 魔理沙が今いる位置からでは詳細は分からないが、少なくともそう判断できるほど整った容姿をしている。
 
 見えないのならもう少し近づこうかと思ったその時、ジョゼットを見つけたその青年も声を上げた。
「ジョゼット!ようやく帰って来たんだな、このやんちゃ者め。迷子になったのかと思ったよ」
 軽く叱りつつも、その顔に安堵の笑みを浮かべる青年はそのまま階段を降りてジョゼットの方へと近づいていく。
 そして十五秒も経たぬうちにロビーへ降りてきた彼を見て、ジョゼットもまた笑みを浮かべて言った。
「まぁ酷いわお兄様、私が報告しようとした事を先に言い当てちゃうなんて!」
「これから僕が直々に君を探しに行こうかと思ったけど、取り越し苦労で済んで何よりだよ」
「あら、そうでしたの?…だったらもう少し迷っていたら良かったかも知れませんわね」
 悪戯っ気のあるジョゼットの言葉に青年は「こいつめぇ!」と笑いながら彼女の髪をクシャクシャと撫でまわす。
 それに対しジョゼットは怒るでも嫌がるでもなく、頭を撫でられている仔犬の様に嬉しがっていた。

55 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/08/31(木) 22:17:16 ID:uPUZJleA
 まるでカップルの様な慣れ合いを見て、魔理沙はやれやれと溜め息をついて肩も竦めてしまう。
 この後はジョゼットをここまで連れてきた事を話して、ついでほんの少しお話でもしたいと思っていたが、これでは無理そうだ。
「とはいえ、このまま黙って去るのも私の性分じゃあないし―――はてさて…」
 イチャつく二人の周りに出来た蚊帳の外で、一人考える魔理沙の姿にジョゼットは気が付いたのだろうか。
 頭をやや乱暴に撫でられて笑っていた彼女はハッとした表情を浮かべると、すぐにロビーを見回し始める。
 そして、ここまで一緒に来てくれた魔理沙がすぐそこまで来てくれていた事に気が付くと、彼女に手を振りながら呼びかけた。

「黒白のお姉さん!こっち、こっちにいる人が竜のお兄様だよ!」
「ん?―――………なッ」
 少女が突然あげた声に青年と魔理沙は同時に互いの顔を見つめ、それぞれ別の反応を見せた。
 突然ジョゼットに呼びかけられた魔理沙は少し驚きつつも箒を持つ右手を挙げて「よぉ、初めまして!」と気軽な挨拶をして見せる。
 しかし青年は違った。彼もまた挨拶を返すつもりだったのだろうか、右手を少しだけ上げた状態のまま―――目を見開いて驚いていた。
 それだけではなく、体を少し仰け反らせ声も漏らしてしまったが為に、魔理沙だけではなくジョゼットも青年の方へ顔を向けてしまう。
 そして、ついさっきまで自分の頭を笑いながら撫でてくれた彼の表情の変わりっぷりに怪訝な表情で首を傾げ、彼に声を掛けた。

「……?お兄様?」
「――――…え、あ…!ゴホン!いや、何でもない」  
 ジョゼットの呼びかけが効いたのか、魔理沙を見て驚き硬直していた青年はハッと我に返り、
 ついで誤魔化すように咳払いをしてそう言うと、ジョゼットよりも怪訝な顔つきをした黒白の方へと視線を向け直す。
 一方の魔理沙は自分を目にしてあからさまに驚いて見せた彼の様子から、自分の勘がしきりに「怪しい!」と叫んでいる事に気付いていた。
 まるで今顔を合わせるのはマズイと思った相手が目の前にいて驚き、一瞬遅れてそれを誤魔化す時の様なワザとらしい咳払い。
 あれは…そう。紅魔館の門番をしている美鈴が居眠りしていて、咲夜が様子を見にきていたのに気が付いて慌てて目を開け咳払いした時のような手遅れ感。
 湖上空でそれを目撃し、その後の顛末もばっちり見ていた魔理沙には目の前の青年が取った行動にそんな既視感を覚えていた。
 問題は、互いに初めて顔を合わせるというのになぜ青年はそんな反応を見せたのか…である。霧雨魔理沙にとって、それは無性に気になる事であった。
 
(ちょっと挨拶だけして、後はお茶とかお茶請け―――ついで昼飯も頂いて帰る予定だったが…こりゃ思いの外、面白そうな事になってきたぜ)
 三度のパン食よりも米食が好きな魔理沙は、遠慮なく自分の好奇心を優先する事にした。
 場合によってはジョゼットを怒らせるかもしれないが、今の彼女にとって青年が何で驚いたのかを知りたくてたまらないでいた。  
 と、なれば即行動…と言わんばかりに魔理沙は今にもため息をつきそうな表情を浮かべると、肩を竦めながらジョゼットに話しかけた。
「おいおい、いきなりどうしたんだコイツ?私を見てびっくりするとは、随分な挨拶じゃないか」
「そうですよね?竜のお兄様、どうしたんですか急に驚いちゃったりして」
 挑発とも取れる魔理沙の言葉に気付かず、ジョゼットも若干頬を膨らませて青年に先ほどの驚愕について聞いている。
 まぁ見ず知らずの自分を助けてくれて、ホテルまでついてきてくれた恩人に対してあんな様子を見せれば、そりゃだれだって失礼だと感じるだろう。
 とはいっても、それ程怒っている様には見えないジョゼットに応えるかのように、青年は再度咳払いをしながら言い訳を述べた。

「コホン、いやーすまないね君。僕はこれまで色んな女の子と知り合ってきたけど…一瞬君が女装をした男の子だと思ってね?」
「んな…ッ!お、おと…女装!?」 
 これを言い訳と捉える他者がいるのなら、そいつは色んな意味で世の中の中性的な女性の敵になるだろう。
 最も言われた魔理沙自身は、自分が中性的だと一度も思ったことが無いし霊夢達幻想郷の知り合いからもそういう風に見られたことは無い。
 だがジョゼット以上に見ず知らずの男に何も言ってないのに驚かれ、初っ端からそんな言い訳をされたら怒るよりも先に驚くしかなかった。
 そして青年の声はロビーにいた客やフロントの係員たちの耳にも入ったのか、皆一斉に魔理沙達へ視線を向けている。
「お、お兄様…!なんて酷い事言うんですか!どう見てもこの人は女の子でしょう!?」
「そう怒るなよジョゼット、今のはロマリアじゃあちょっとした褒め言葉みたいなもんさ」

56 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/08/31(木) 22:19:08 ID:uPUZJleA
 流石のジョゼットも周囲から注がれる視線と恩人に対する無礼な発言に対して、顔を真っ赤にして青年に怒鳴っている。
 しかし一方の青年は先ほど目を見開いて驚いていた時とは全く違い酷く冷静であり、その整った顔に不敵な微笑みを浮かべて言葉を返す。
 次いで、先ほどまでの自分と同じように驚き硬直している魔理沙へ「すまなかったね」と手遅れな謝罪を述べてから話しかけた。

「さっきも言ったよう、僕はこれまで色んな女の子と出会ってきたが…君みたいに男の言葉を使う快活な子と出会ったのは初めてでね。
 つい中性的で綺麗だと遠回しに褒めたつもりだったのだが、君の耳にはとんでもない侮辱として届いてしまったようだ。その事については謝るよ」

 照れ隠しの様な、それでいて相手を小馬鹿にしているとも取れる笑みを浮かべる青年に魔理沙はどう返せばいいか迷ってしまう。
 とりあえず苦虫を噛んだうえで無理やり浮かべた様な笑みを顔に浮かべつつ、いえいえ…とか適当な言葉を口にしようとした所で彼女は気づく。
 自分の顔を見つめる青年の両方の瞳…左は鳶色で右は碧色と、それぞれの色が違う事に気が付いたのである。
「ん?その目は…」
「あぁ、これかい?僕と初めて会うの人は真っ先にその事を聞いてくるから、いつ聞いてくるのかと心待ちにしてたんだ」
 恐らくこれまで何度も聞かれているのだろうか、若干の皮肉を交えながらも青年はサッと教えてくれた。
 自分の両目の色が違うのは生まれつき虹彩の異常があるらしく、そのせいで幼少期は色々と待遇が悪かったのだという。
「ハルケギニアじゃあ僕みたいな『月目』は縁起が悪い人間扱いされるし、おかげでしょっちゅう冷や飯を食わされたもんだよ」
「ふぅーん…冷や飯云々はどうでもいいが、私は綺麗だと思うぜ?なりたいかと言われれば別だけどな」
 手振りを交えて軽い軽い説明をしてくれたジュリオに魔理沙もまた毒と本音を混ぜて素直に月目を褒めた。
 女である自分をさらりと女装男子扱いしたイヤな奴ではあるが、良く見てみればまるで丁寧に磨かれた宝石の様に綺麗なのである。

 青年は魔理沙が褒めてくれたことに対しありがとうと素直に礼を述べ、さっと右手を彼女の前に差し出した。
 突然の右手に一瞬何かと思った彼女であったが、すぐに察して自分の右手で彼の差し出す手を握る。
 手袋越しの手は少々くすぐったいものの、握力から感じるに自分に対してあまり警戒はしていないようであった。
 互いの顔を見つめあい、暫し無言の握手が続いたところで魔理沙は自分の名を名乗る。
「私は魔理沙、霧雨魔理沙だ。街中で迷ってたジョゼットを見つけた普通の魔法使いさ」
「魔法使い?メイジじゃなくて…?」
「ここら辺の人間には名乗る度に似たような疑問を抱かれてるが、誰が言おうともメイジじゃあなくて魔法使いなんだ」
「成程、面白いヤツだよ君は。それに名前も良い」
 隠すつもりが全くない魔理沙の自己紹介に青年は笑いながらも頷いて、次に自分の名を名乗った。

「僕の名前はジュリオ、ジュリオ・チェザーレ。ワケあって今はトリステインへ出張している普通じゃないロマリア神官さ」
「おいおい、人の名乗りを模倣するかと思いきや…何て自己主張の激しい奴なんだ」
「いかにもメイジですって格好しておいて、わざわざ魔法使いとか主張する君も相当なもんだぜ?」
 互いに笑顔を浮かべつつ、棘のある会話をする二人の間には自然と和やかな雰囲気が漂っている。
 それを見守っていたジョゼットは、ジュリオが魔理沙を男子扱いした時の一触即発の空気が変わった事にホッと一息つくことができた。
 緊張に包まれていた周囲の空気も元に戻るのを感じつつ、ジュリオは魔理沙からここに来るまでの出来事を聞く事となった。
 興味本位でホテルの外に出て、街中を歩いていたら野良犬に追いかけられて道に迷った事。
 そして偶然通りがかった魔理沙に助けられて、トコトコ歩きながらようやくここへ辿り着くまでの話を聞いてジュリオはウンウンと頷いた。

57 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/08/31(木) 22:21:15 ID:uPUZJleA
「キミには助けられたようなものだね。まさかトリスタニアに、キミみたいに親切な魔法使いさんがいるとは予想もしていなかったよ」
「何といっても私は魔法使いだからな。自分が興味を抱いたモノにとことん付き合うのは職業柄のさだめ…ってヤツさ」
「おや?僕の知らない世界では魔法使い…というのは職業として扱われているらしいねぇ。どこに行ったらなれるんだい?」
「残念だがこの業界はライバルが少ない程に得なんでな、なりたいなら自分で方法を探してみな」
 そこまで言った所で、いつのまにか魔法使いに関しての話になってしまったのに気づいた二人はクスクスと笑う。
 出会ってまだ十分も経たないというのに、すっかり打ち解けたかのような雰囲気になってしまっているからだろうか。
 二人して明確な理由が無いまま暫しの間笑い続け、それから少ししてジュリオが共に落ち着いてきた魔理沙へ話しかけた。

「改めて言うが本当に助かったよ。トリスタニアは以外に複雑な街だし、性質の悪い平民たちもいるしね」
「あぁ確かに…路地裏とか結構入り組んでるし、いかにもチンピラって奴らもあちこち見かけてるな」
 念には念を入れるかのようなジュリオの言葉に魔理沙は納得するかのように頷きつつ、ついでジョゼットの方へ目を向ける。
 恐らくこの世界の人間でも珍しい銀髪に小さな体躯。もしも自分と出会わずに夜中まで迷い続けていたら大変な事になってたかもしれない。
 そう考えると自分はとても良い事をしたぜ!…と誰に自慢するでもなく内心で踏ん反り返っている。
 一方のジョゼットは自分を見つめてニヤニヤする魔理沙に首を傾げた思った瞬間、
 ハッとした表情をその顔に浮かべると慌てて頭を下げて、ここまでついてきてくれた彼女へお礼を述べた。。

「あ、あの!助けてくれて本当にありがとうございます、キリサメ・マリサ…さん!」
「別にタメ口でもいいぜ?でも゙さん゙付けは別に嫌いじゃあないし、嬉しいけどな」
 魔理沙の言葉に頭を上げたジョゼットは暫し考えるかのように体を硬直させた後、再度頭を下げて言い直した。
「じゃ、じゃあ…ここまでついてきてくれて、ありがとう。マリサ、さん」
「ははは、そうそうそんな感じでいいんだよ!…っていうか、別に言い直さなくたっていいんだけどな」
 律儀にも言葉を訂正してお礼を述べてくれたジョゼットに魔理沙は苦笑するしかなかった。
 彼女としてはほんのアドバイス程度だったのだが、どうやら真面目に受け取ってしまったらしい。
 ちょっと言い過ぎたかな?魔理沙がそう思った時、それはジュリオの背後――先程まで彼がいた一階から聞こえてきた。

「ジョゼット、無事だったのですね!」
「え…あっ、せ…―――セレンのお兄さん!」

 ジュリオと比べ微かに低く、しかし十分に若いと青年の声に真っ先に振り向いたジョゼットは、真っ先にそう叫んだ。
 遅れてジュリオも背後を振り返り、魔理沙は視線を動かして階段を降りてくる青年の姿が目に入る。
「あれは…?」
「彼は…セレン。ここへジョゼットを連れてきた騒ぎの張本人にして、もしかすると…彼女の身を一番案じてた人さ」
「…!成る程、ジョゼットが言ってたもう一人のお兄さんってアイツの事なのか」
 思わず近くにいたジュリオに訪ね、返事を聞いた魔理沙はここに来る前にジョゼットが言っていた事を思い出す。

58 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/08/31(木) 22:23:07 ID:uPUZJleA
 年の程は良く分からないものの、階段の上からでも分かる程にその背丈は大きかった。
 恐らくジュリオと比べて一回り大きいがそれでいて痩せているためか、一見するとモデルか何かだと見間違えてしまう。
 ジュリオのそれと比べてやや濃い色の金髪をショートヘアーで纏めており、窓から漏れる陽の光で反射している。
 そして何よりも一番目についたのは、ジョゼットがセレンと呼んだ青年の表情から『優しさ』のようなものが溢れ出ていた事だ。

 『優しさ』――或いは『慈悲』とも言うべきか、とにかく彼の顔には『怒り』や『悲しみ』といった負の感情…というモノが一切見えないのだ。
 普通なら勝手にホテルから出て、街で迷ってしまったジョゼットを怒るべきなのだろうが、その予想は惜しくも外れてしまう。
 優しい笑みを浮かべる金髪の青年セレンが階段を降り切ると同時に、ジョゼットが彼の下へ走り出す。
 セレンは駆け寄ってくる少女を自らの両腕と体で優しく抱きとめると、繊細に見える銀髪を優しく撫でてみせたのである。
「あぁジョゼット、まさか探しに行く前に帰ってきてくれるとは…始祖に感謝しなければなりませんね」
「はい、仰る通りです!…けれど、始祖のご加護だけではなく、それにマリサさんにも!」
「?…マリ、サ…?もしかすると、そこにいる黒白のトンガリ帽子の少女ですか?」
 ジョゼットの口から出た聞き慣れぬ名前にセレンは顔を上げ、ジュリオの後ろにいる魔理沙へと視線を向ける。
 それを待っていたと言わんばかりに魔理沙は左手の親指でもって、自分の顔を指さしてみせた。
「そ!ジョゼットの言うマリサさん…ってのはこの私、普通の魔法使いこと霧雨魔理沙さ!」
「普通の、魔法…使い?メイジではなく?」
 魔理沙の自己紹介で出た゛魔法使い゙という言葉に彼もまた首を傾げ、それを見たジュリオがクスクスと笑う。
「セレン、そこは疑問に感じるでしょうが彼女にとってはそれが至極普通なんだそうですよ」
「…ほぉ、成程!つまり変わっているという事ですね?…嫌いじゃあありませんよ、そういうのは」
 笑うジュリオの言葉にセレンもまた微笑みながら返すと抱きとめていたジョゼットを少しだけ離して魔理沙と向き合う。
 一方の魔理沙も自分の顔を指していた親指を下ろすと、今度は彼女の方からセレンへ向けて右手を差し出す。
 それを見てセレンも気持ちの良い笑顔を浮かべながら、自分の両手でもって彼女の手を優しく包み込むように握手する。

「ジョゼットの知り合いになったばかりの私だが、以後お見知りおきを…ってヤツで頼むぜ」
「えぇ勿論。…私の名はセレン、セレン・ヴァレンです。今日、貴女という素晴らしい人、貴女を出会わせたくれた始祖の御導きに感謝を」
 互いに気持ちの良い握手をする最中、ふと魔理沙はセレンの首からぶら下がる銀色のアクセサリーに気付く。
 それは彼女のいる世界では良く見るであろう十字架とよく似た、敬虔なブリミル教徒が身に着ける聖具であった。

59 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/08/31(木) 22:29:43 ID:uPUZJleA
以上で八十六話の投稿は終了です。
今年の夏は色々と忙しく、またやる事も多かった季節でした。

それでは今日はここらで…
また来月末にお会いしましょう。ノシ

60 名無しさん :2017/09/07(木) 22:26:27 ID:9RFKZYoI


61 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/08(金) 05:05:22 ID:gEw1OzH.
おはようございます。焼き鮭です。投下を行います。
開始は5:08からで。

62 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/08(金) 05:09:07 ID:gEw1OzH.
ウルトラマンゼロの使い魔
第百五十五話「暗黒の化身」
超古代尖兵怪獣ゾイガー
超古代怪獣ゴルザ(強化)
邪神ガタノゾーア 登場

「ピアァ――――ッ!」
 ガリアから飛び立ち、今まさにアクイレイアを狙ってロマリア艦隊を壊滅せしめたゾイガーの
群れは、ロマリア側の虎街道上空にて侵攻を阻止しに出動したウルティメイトフォースゼロと
激しい交戦を繰り広げていた。
『ちっくしょう! こいつら、何てスピードだ! 攻撃が全然当たんねぇぜ!』
 空中でファイヤースティックを振るうグレンファイヤーが毒づいた。先ほどからゾイガーへ
向けて如意棒を振り回しているのだが、一体にさえかすりもしない。
『こっちもだ! ジャンミサイルが振り切られるとは……!』
 ジャンボットもまた搭載火器をフル使用しているが、ゾイガーの動きがあまりに速すぎて、
ロックオンすらも出来ないありさまであった。
 それもそのはず。ゾイガーの飛行速度はネオフロンティアスペースの当時の主力戦闘機
ガッツウィングはもちろんのこと、高速型のブルートルネードも、果てはマキシマオーバー
ドライブ搭載のスノーホワイトでさえ追いつけないほどの常軌を逸した速さなのだ。生半可な
攻撃では、ゾイガーの影を捉えることすら出来ない。それが何体もいるという恐ろしさ!
「ピアァ――――ッ!」
 それほどのスピードを出しながら縦横無尽に飛び回るゾイガーたちは、口から光弾を吐いて
ジャンボットとグレンファイヤーを一方的に攻撃する。
『ぐわぁぁッ!』
『うおあぁぁッ! くっそうッ……!』
 光弾を肩に被弾し悲鳴を発する二人。歴戦の戦士たるこの二人が大いにてこずるこの怪獣たちに、
怪獣迎撃に出撃したロマリア軍の部隊はますます太刀打ちすることは出来なかった。
「速すぎて目で追うことすら出来ない……! これでは戦いにもならん……!」
 ロマリアの聖堂騎士の一人が唖然とつぶやいた。艦隊はまだ残存しているが、ガッツウィングと
比べたらはるかに遅いハルケギニアのフネではゾイガーに対抗することなど到底出来ない。
オストラント号でも不可能である。人間たちは、何も出来ることがなく立ち尽くすばかり。
『はぁッ!』
 グレンファイヤーやジャンボットも苦戦する中、ミラーナイトは鏡のトリック全開でゾイガーに
対抗している。空に張り巡らした鏡にミラーナイフを連続反射させることで、一体の羽を切り
飛ばしたのだ。
「ピアァ――――ッ!」
 片側の羽を失ってバランスを崩したゾイガーが谷底へ向けて真っ逆さまに転落していった。
それを追いかけるのはグレンファイヤー。
『ようやく一体落としたか! とどめは俺に任せな!』
 役割分担をして、グレンファイヤーは地上に落ちたゾイガーを叩く。そのつもりだったのだが……。
『うらぁッ!』
 炎の拳を、ゾイガーが弾き返した!
『ん何!?』
「ピアァ――――ッ!」
 更にグレンファイヤーを蹴り返すと、残った片側の羽を自ら引っこ抜いて身軽となる。
そして跳ねながらグレンファイヤーに猛然と反撃を行う。
『くッ、飛べなくなっても戦えんのか! 何て手強い奴らだ……!』
 さしものグレンファイヤーも冷や汗を垂らした。一体だけでもこれほど隙がないのに、
まだまだ何体もいるのだ!
 追いつめられるウルティメイトフォースゼロ。この戦いに、地上から入り込もうとする
人間がただ一人だけいた。

63 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/08(金) 05:12:00 ID:gEw1OzH.
「ウルティメイトフォースゼロが危ないわ! 援護するわよ!」
 ルイズだ。虎街道の入り口、戦場を一望できる崖の上で、杖を握り締めながら前に出ようと
するのを、彼女の護衛のギーシュたちが慌てて制止した。
「ルイズ! おい、馬鹿な真似はよせ! 無闇に身を乗り出そうなんて、いくら何でも
命知らずが過ぎる!」
「怪獣の速度を見ろ! 向こうがこっちに気づいたら、まず間違いなく死んだと悟る前に
消し飛ばされるぞ!」
 ロマリアは聖女となったルイズの護衛に聖堂騎士隊や民兵の連隊をつけたが、今はどちらも
敵怪獣の強力さにすっかりと怖じ気づいていた。オンディーヌも、ルイズがいなければずっと
身を潜めていたい気分である。
「何言ってるのよ! 隠れてるだけで戦いに勝てる!? ウルティメイトフォースゼロは
勇敢に戦ってるのに、このハルケギニアの貴族のあんたたちはコソコソしようっていうの!?」
 怒鳴り散らすルイズだが、ギーシュは反論。
「だからって、きみは無謀だよ! 呪文も唱えないでさ! 何だか昔のきみに戻ってしまった
みたいだよ。やはり、サイトを帰してしまって落ち着きをなくしてるんじゃないのかい?」
 その言葉にドキリとするルイズ。
「て、適当なことを言わないでちょうだい! わたしはただ、自分の後ろにいる人々を守りたいだけよ!」
 強がるルイズだが、実際は図星であった。才人がいない……彼の分まで戦わなくてはならない……
それを意識しすぎるあまり、つい功を焦ってしまうのだ。
 虚勢を張るルイズに参るギーシュたちは、ふと彼女に尋ねかけた。
「ところで、サイトの代わりになるとか言ってた男はどこに行ったんだい? いつの間にか、
姿が見えないけれど」
「ランなら……先に戦いに行ったわ」
「ええ!? まさか、あの激戦に生身で飛び込んでいったのかい!? 無茶な!」
 マリコルヌが叫んだその時、彼らの目の前を、崖の下から現れたウルトラマンゼロが猛然と
飛び上がっていった!
「シェアッ!」
「おおッ! ウルトラマンゼロだ!」
 ゼロの登場には、ギーシュたちも一瞬心が沸き上がった。
 ランから変身したゼロは全速力でミラーナイトたちを苦しめるゾイガーの群れに飛び込んで
いきながら、ルナミラクルゼロへと姿を変えた。
『この星にはこれ以上手出しはさせねぇ! ミラクルゼロスラッガー!』
 ゼロは数を増やしたスラッガーを飛ばし、ゾイガーを纏めて三体滅多切りにして爆散させた。
ゾイガーの超スピードをも超える早業であった。
「ピアァ――――ッ!」
『レボリウムスマッシュ!』
 ルナミラクルゼロの超能力でゾイガーと同等のスピードを出しながら、手の平から発する
衝撃で片っ端から弾き飛ばしていく。ゼロもまた才人の分まで戦おうとしているのだが、
ルイズとは違ってあくまで冷静に、それでいて闘志を燃やしていつも以上の力を発揮する
ことに成功していた。
『助かりました、ゼロ!』
『ここから盛り返すぞ!』
 ゼロの加勢によってウルティメイトフォースゼロが徐々に押していく。それに合わせて、
人間たちの心にも希望が灯っていく。
「おお、すごい! さすがゼロ!」
「この調子ならいけるわ! 生き残りは、わたしの“爆発”で纏めて地上に叩き落とせば……」
 意気込むルイズだったが……彼女たちは、すぐに思い知らされることとなる。
 あれほど手強かったゾイガーが、真の戦いの『前座』でしかなかったことを。
「プオオォォォォ――――――――!!」

64 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/08(金) 05:14:55 ID:gEw1OzH.
 怒濤の勢いを見せていたゼロだったが、突如谷底から長く巨大な触手が伸びてきて、彼を
はたき落としたのだ。
『うおぉッ!?』
「あぁッ!? ゼロがッ!」
「何事だ!? 触手!?」
 不意打ちを食らったゼロが谷底に落下。すぐに起き上がるものの、彼はそこで目の前に
現れた『もの』を目にして驚愕する。
『な、何だ! 闇!?』
 ゼロの眼前に、広大な谷を埋め尽くそうとしているかのように、『闇』としか言いようない
もやのようなものが立ち込めているのだ。いや……その『闇』は凝縮されていき、ゼロをも
超える巨体の怪物を形作っていく。
「プオオォォォォ――――――――!!」
 ルイズたちもその怪物の姿を目にして、一斉に絶句した。
「な、何だ、あの化け物の異常な姿は……! いくら何でもおかしいだろう……!」
「しかもでかい……! ゼロが子供みたいだ……!」
 ギーシュが『異常』と称したその怪物の姿は、巻貝かアンモナイトから怪物の首と四肢、
触手が生えているかのようなもの。しかもその眼は、下顎についている。まるで顔の上下が
逆になっているようだ。顔の上下が逆の生物が他にいるだろうか?
 それに全高が百五十メイル辺りもある。ゼロの倍以上だ! そして全身から発せられる
プレッシャーは、並みの怪獣の比ではない。距離の離れている聖堂騎士隊や民兵が、一目散に
逃げ出してしまったほどだ。
 ゼロはこの闇の怪物の名を、戦慄とともに口にした。
『邪神ガタノゾーア……! こんな奴までいやがったか……!』
 それは広い宇宙でも特に恐れられる名前の一つだ。かつてネオフロンティアスペースの
地球の超古代文明を滅ぼし、現行文明もまた滅ぼしかけたほどの大怪物である! その力は
計り知れないものに違いない。
『だがッ! 俺は負けねぇぜッ!』
 ゼロはストロングコロナゼロになって、超巨大なガタノゾーアにも恐れずに果敢に挑んでいく。
『おおおぉぉぉッ!』
「プオオォォォォ――――――――!!」
 一瞬で距離を詰めて、鉄の拳を真正面からぶち込む! ……が、ガタノゾーアは全くびくとも
しなかった。
「プオオォォォォ――――――――!!」
 ガタノゾーアは少しの身動きもしないまま、全身からエネルギーをほとばしらせてゼロを
弾き返す。
『ぐあッ!?』
 吹っ飛ばされたゼロにガタノゾーアの触手が襲い掛かり、首に巻きついて締め上げる。
『ぐッ、ぐぅぅぅぅ……!』
 必死に触手に抗うゼロだが、ストロングコロナのパワーを以てしてもなかなか引き千切る
ことが出来ない。延々と苦しめられるゼロ。
『何て野郎だ……! ゼロを簡単にあしらってやがるッ!』
 おののくグレンファイヤー。しかし仲間たちはゾイガーに足止めされており、ゼロの救援に
向かうことが出来ないでいた。
『ぜあぁッ!』
 ようやく触手を千切って拘束から逃れたゼロ。だがこれはガタノゾーアに無数にある触手の
一本でしかないのだ。
「プオオォォォォ――――――――!!」
 ガタノゾーアは触手の数を増やし、更に巨大なハサミつきの触手を伸ばしてゼロを追撃。
ハサミはゼロの上半身ほどもあるサイズだ。
『うおぉッ! ぐあぁぁッ!』
 大量の触手を叩きつけられて、さしものゼロもどんどんと追いつめられていく。カラー
タイマーも危険を報せ、このままでは極めてまずい。

65 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/08(金) 05:16:57 ID:gEw1OzH.
『ぐッ……はぁぁぁぁぁぁぁッ!』
 全身からエネルギーを発して触手を吹き飛ばした一瞬の隙に、ゼロは決死の反撃に転ずる。
『ガルネイトバスタァァァ―――――ッ!』
 全力を込めた光線をガタノゾーアに叩き込む! 灼熱の光線はガタノゾーアの中央に炸裂し、
ガタノゾーアの動きが停止した。
「決まったッ!」
 ぐっと手を握り締めるルイズたち。――しかし、
「プオオォォォォ――――――――!!」
 ガタノゾーアが停止していたのはほんのわずかな時間だけであった! それ以外は、通用した
様子が見られない。
『なッ……!?』
 動揺するゼロ。その隙が命取りとなり、触手のハサミに両肩を掴まれて動きを封じられてしまった。
『しまったッ! うおおぉぉ……!』
 もがいて逃れようとするゼロだったが……既に遅かった。
「プオオォォォォ――――――――!!」
 ガタノゾーアから暗黒の光線が照射され、ゼロのカラータイマーを貫いた!
『がッ……!?』
 ゼロの視界から色が消える。そして……カラータイマーが瞬く間に石化し、ゼロの全身も
完全に石化してしまった……!
「ぜ、ゼロッ!?」
『ゼロぉッ!』
『ゼロぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!』
 絶叫する仲間たち。しかし石化したゼロは物一つ言わず、ガタノゾーアの触手に突き
飛ばされて谷底に倒れる。
「ウルトラマンゼロが、負けた……」
「プオオォォォォ――――――――!!」
 ゼロを石像に変えたガタノゾーアが、勝ち誇るように咆哮。ルイズはそれに、キッと怒りの
眼差しを向けた。
「よくもゼロを……! ありったけの“爆発”を食らわせてやるわ!!」
 激しい怒りを燃やすルイズ。しかし相手はゼロを一蹴するほどの規格外の化け物。“爆発”も
通用するかどうか。
 だがやらねばならない。ゼロの仇を取るのだ! とルイズは呪文を唱えるのだが……。
「グガアアアア! ギャアアアアアアアア!」
 突然新たな怪獣の鳴き声が、下から起こった。直後、ルイズたちの立っている崖に亀裂が走る。
「あ、危ないッ!」
「ルイズ、下がるんだッ!」
「放してッ! あいつをぶっ飛ばさなきゃ!」
「その前にきみが転落死するぞ!?」
 危険を察知したオンディーヌが慌てて、ルイズを抱えながら退避。それがぎりぎり間に合い、
崖の崩落から逃れることが出来た。
 しかし崩れた崖の中から、一体の新たな怪獣が出現したのだった!
「グガアアアア! ギャアアアアアアアア!」
 ガタノゾーアのしもべの怪獣ゴルザ! それもマグマのエネルギーを吸収することで肉体を
強化した個体だ! 戦いの騒乱に紛れて、地中を掘り進んできたのだ。
「わッ、わああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――!!」
 一斉に悲鳴を発するオンディーヌ。何せ怪獣は目と鼻の先だ!
『彼らが危ないッ!』
 焦るミラーナイトたちだが、未だにゾイガーの群れに苦戦していて救援に回ることは
出来なかった。ルイズたちを助けられる者が、この場には誰もいない!

66 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/08(金) 05:19:29 ID:gEw1OzH.
「くぅッ……!」
 目の前にそびえ立つゴルザを憎々しげに見上げるルイズ。しかし山のような怪獣に対して、
彼女はあまりにちっぽけであった。

「ウアァッ!」
 キリエロイドを撃退してブリミルたちの村を救ったかに見えたティガ=才人だったが……
その後すぐに現れた新たな脅威に、まるで太刀打ちできずに叩きのめされていた。
「プオオォォォォ――――――――!!」
 その相手とは、邪神ガタノゾーア! 六千年前にも現れていたのだ。そして今まさに才人を
追い詰め、殺そうとしている!
『つ、強すぎる……! こんな奴が現れるなんて……!』
 ガタノゾーアはティガのあらゆる攻撃を受けつけない。パワータイプとなって筋力を底上げし、
ハンドスラッシュやデラシウム光流など様々な光線を次々繰り出しているのだが、ガタノゾーアには
少しのダメージも与えられている様子がなかった。
「プオオォォォォ――――――――!!」
「ウワァァァッ!」
 ガタノゾーアの触手がティガを殴りつける。ティガはパワータイプになっても力負けし、
ねじり伏せられる。
『だ、駄目だ……! ブリミルさんたちを、守らなきゃなんないのに……!』
 もしブリミルが死んでしまったら、現代のルイズたちは全員タイムパラドックスで消滅して
しまうかもしれない。これまでの出逢いが、全てなくなってしまうのだ……。だがエネルギーは
もう残りわずか。ここからどうやったら逆転が出来るのだろうか。
 最早打つ手なし。才人は己の無力さを噛み締めるしかない。そう思われた時だった。
「負けるな、ウルトラマン!」
 誰もが絶望している中、それでも応援を続ける者が一人。そう、ブリミルである。
「ぼくはそれでも、きみたちが見せてくれる光を信じる! ぼくに何が出来るか分からない
けれど……ぼくも戦うよ! きみたちの、力となるッ!」
 懸命な思いをとともに、ブリミルは杖を掲げる。そして才人にとっては聞き慣れた、“爆発”の
呪文を唱え始めた。当たり前と言えば当たり前だが、ルイズのものと同一だ。
 しかしその杖先に灯った光は、“爆発”の輝きとは異なるものだと才人には分かった。
『あれは……?』
「こ、この輝きは……? いつもの光り方じゃない……」
「ブリミル、どういうこと?」
 呪文を唱えたブリミル本人も何事か分かっていないようだ。問いかけたサーシャが、
あることに気づく。
「ブリミル、杖だけじゃなくあなた自身も光ってるわ!」
「えッ!? うわッ、本当だ!」
 ブリミルの身体全体がほのかに光り、その光が杖に集まっていく。杖に灯る輝きはまばゆい
ほどになり、サーシャたちは思わず顔をそらした。
「おぉッ!?」
 最高潮に高まった光が勢いよく飛び、ティガのカラータイマーに入り込んでいった。その瞬間、
色が青に戻る。
 それだけではない。ティガの肉体にも大きな変化が発生し、黄金色の光に包まれていく!
『こ、この光は!? 身体中に……力がみなぎってくる!!』
 思わず興奮する才人。ルイズの虚無魔法で何故か力が回復することは何度かあったが、
今のこれはその比ではない。限界以上に力が湧き上がってくるのだ!
「ハァッ!」
 立ち上がったティガの身体が、そのままぐんぐんと巨大化。自分と同等の体躯になっていく
ティガに、ガタノゾーアが初めて狼狽えたように見えた。
 ウルトラマンティガは、黄金の光に覆われた最強の形態……グリッターティガとなったのである!

67 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/08(金) 05:21:55 ID:gEw1OzH.
ここまでです。
ウルトラお家芸、石化。

68 ウルトラ5番目の使い魔 ◆213pT8BiCc :2017/09/08(金) 11:43:48 ID:EofJgLJk
ウルゼロの人、乙です。
ブロンズ像、石化、黄金像、宝石化。ウルトラ戦士はだいたい一度は固まらさせられますね。

こんにちは。こちらもウルトラ5番目の使い魔、64話ができました。
投稿を開始しますので、よろしくお願いします。今回はちょっと長めです。

69 ウルトラ5番目の使い魔 64話 (1/19) ◆213pT8BiCc :2017/09/08(金) 11:45:10 ID:EofJgLJk
 第64話
 湖の舞姫
 
 用心棒怪獣 ブラックキング 登場!
 
 
 ハルケギニアに平穏な時が流れるようになってから、しばらくの時が過ぎた。
 その間、魔法学院やトリスタニアで少々の事件はあったが、世間はおおむね安定を保っていた。
 しかし、平穏とはなにもないことを意味するわけではない。平和な中でこそ行われる熾烈な戦いはいくらでもある。
 地球で例えるなら、受験戦争、会社内での成績争い。いずれも、他者を押しのけて自己の利益をはかる生々しい争いだ。
 だからどうした? そう思われるかもしれない。しかし過去のウルトラの歴史において、たったひとりの負の情念から凶悪な怪獣が出現した例は数知れないのだ。
『ほかの知的生命体では、なかなかこうはいきません。人間という生き物は、ある意味宇宙でもっとも有用な資源ですね』
 この世界のどこかで、ある宇宙人がこう言った。
 そして、ハルケギニアは貴族社会。当然、それにはそれにふさわしい戦いの場が存在する。
 
 
 ある夜、場所はトリステインの名所であるラグドリアン湖の湖畔。
 広大な湖畔の一角には貴族の別荘地が並び、そこではある貴族の別荘の広大な庭園を会場にして、トリステインが主催の園遊会が開かれていた。
「諸国の皆さん、本日は我が国の園遊会にお越しいただきありがとうございます。ささやかですが宴の席を用意しました。今宵は堅苦しいしがらみを抜きにして、隣の国に住む友人として語り合いましょう」
 トリステインを代表して、アンリエッタ女王(本物)が貴賓にあいさつをした。それに応えて、集まった数百の貴族たちからいっせいに乾杯の声が流れる。そして彼らは、解散を伝えられると会場のあちこちに散って、思い思いに食事や談笑を楽しみ始めた。
 もちろん、これはただのパーティなどではない。トリステイン貴族の他にも、ここにはゲルマニアやアルビオンの貴族が何十人も招待され、彼らは楽しげな会話の中で、様々な取引や情報交換、場合によっては縁談の相談などを行っている。
 貴族とは権力で成り立っている存在ゆえに、その勢力の維持には他の勢力の取り込みや連帯は欠かせず、特に外国の貴族とのつながりは大きな力となる。逆に言えば、貴族の世界で孤立することは身の破滅を意味することに直結するため、園遊会は貴族たちにとって、自らの繁栄や安全を支えるための重要な行事なのである。
「園遊会の一席で、戦争が起きもすれば止まりもいたします」
 マザリーニ枢機卿は、アンリエッタへの教育の一環としてこう語った。
 さらに貴族の繁栄は、その貴族の国の繁栄にもつながる。アンリエッタもそのために、数々の貴族とのあいだを行き来して話を続けている。アンリエッタは幼いころに参加させられた園遊会で、子供心には退屈のあまりに抜け出して、少年時代のウェールズと出会って恋に落ちた。今回、この場にウェールズの姿はないが、アンリエッタも今では自分の立場の義務と責任を理解できない子供ではない。

70 ウルトラ5番目の使い魔 64話 (2/19) ◆213pT8BiCc :2017/09/08(金) 11:51:41 ID:EofJgLJk
 様々な政治的思惑が交差し、場合によっては歴史を動かしかねない交渉がなされていく。平民には想像もできない高度で深淵な駆け引きの場がここにあり、よくも悪くもハルケギニアの社会には欠かせない存在としてあり続けてきた。
 
 そして、そんな賑やかなパーティ会場の一角に、ギーシュとモンモランシーが席を並べていた。
「ああ、我らの女王陛下。今日もなんて美しいんだ! まるで夜空に咲いた一輪の百合。この大空に輝く二つの月さえも、陛下の前ではかすんで見えるでしょう」
「ふーん、つまりわたしより女王陛下のほうがいいって言うのね? わたしが一番だって言ってくれた、あの日の言葉は嘘だったのねえギーシュ?」
「あ、いやそんなことはないよモンモランシー! これは、トリステイン貴族としてのぼくの忠誠心から来てるものであって」
「嘘おっしゃい! あんたの視線、陛下のどこを見てたかわたしが気づいてないとでも思うの? ほんとに、ギーシュの言葉はアルビオンの風石より軽いんだから」
 高貴な園遊会にふさわしくない低レベルな喧嘩をしている、きざったらしい一応二枚目と、金髪ツインテールドリルの少女。その場違いな様に、近くを通りかかった貴族の何人かは首をかしげて通り過ぎていった。
 しかし、なぜこの場にまだ学生である二人がいるのだろうか? もちろん二人とも遊びで参加しているわけではない。まだ学生の身とはいえ、二人とも名のある貴族の一員である。この場にいるという意味はじゅうぶんに理解していた。
 もっとも、まだこういう場での立ち振る舞いがわかってないあたり、二人が無理に参加させられているのは周りから見れば容易に察せられた。
「機嫌を直しておくれよモンモランシー。女王陛下は例外さ、むしろ女王陛下と比べることのできるモンモランシーこそすばらしいんじゃないか。ごらんよ、女王陛下の威光はいまやハルケギニア中に知れ渡り、なんとも壮観な眺めだと思わないかい? アルビオンをはじめとする世界中の名士が幾十人も顔を揃えているよ。これに参加できるなんて、ぼくらはなんて幸せなんだ。そう思わないかい?」
「はいはい、はしゃぎすぎてトリステインの田舎者だって思われないようにしてよね。うちの父上は、この園遊会でモンモランシ家の名誉回復しなきゃいけないって張り切ってるんだから、あんたのせいで失敗したなんてことになったら、わたしは実家に二度と帰れなくなっちゃうわ」
 はしゃぐギーシュにモンモランシーが釘を刺した。二人とも、今日は魔法学院の制服ではなく貴族の子弟としてふさわしいきらびやかな衣装に身を包んでいた。ギーシュのタキシードの胸と背中には、グラモン家の家紋である薔薇と豹が刺繍されており、モンモランシーのドレスにも同様に家紋が編み込まれている。ギーシュのグラモン家やモンモランシーのモンモランシ家にとっても今日のことは重要で、ふたりともそれぞれの一族の一員として学院を欠席してでも呼び寄せられていたのだ。
 とはいえ、普段は二人とも園遊会に参加することなど、まずない。そもそも園遊会に参加したがる貴族は膨大な数に上るため、国内から参加する家は一部を除いてくじ引きで決めることになっている。今回は幸運にも、グラモンとモンモランシ家が名誉なその資格を勝ち得たのだった。
 それゆえに園遊会に参加し、どこかしらの有力貴族とコネを作れれば自分の家にとっての助けになると、ふたりとも大きな意気込みを持ってここにやってきた。特にこのふたりの実家は、かなりのっぴきならない状況を抱えている。
「確かモンモランシ家は、水の精霊の怒りに触れてしまって水の精霊との交渉役を下ろされてしまったんだっけ? そのせいで収入も激減して、なんとか新しい稼ぎ口を見つけなきゃいけない君のお父上も大変だね」
「はいはい、あなたのところだって、お父上やお兄様方の女好きが行き過ぎて、貢いだお金が青天井なんでしょう? 出征の出費の数倍は出してるって、もっぱらの噂よ」
「うぐっ! じ、女性に最大限の敬意を払うのはグラモン家の伝統だから仕方ないんだよ。あっ、心配しないでくれよモンモランシー。僕はいつまでも、君だけの、君だけを愛し続けるからね!」
「はいはいはい。あーあ、こうなったらグラモン家の伝統を見習って、わたしも外国のかっこいい殿方を探そうかしら?」
「そ、そりゃないよモンモランシー」
 情けない声を漏らすギーシュを、モンモランシーは白けた眼差しで見下ろしている。ギーシュの手に持った薔薇の杖も、持ち主の心情を反映したのか心持ちしおれて見えるが、自業自得であろう。

71 ウルトラ5番目の使い魔 64話 (3/19) ◆213pT8BiCc :2017/09/08(金) 11:55:16 ID:EofJgLJk
 モンモランシーはギーシュから視線を外すと、会場に並べられたテーブルに並べられている豪勢な料理を皿に取り、不機嫌そうにしながらも舌つづみを打った。アンリエッタ女王の園遊会の予算削減方針で、前王のころに比べれば半分以下の規模になっているが、それでも山海の珍味を集めた料理の数々はたまらなく美味だった。
 没落した貧乏貴族のモンモランシーは、普段こんな豪勢な料理を口にすることはない。魔法学院の料理も平民から見れば豪勢だが、この園遊会の料理に比べれば地味と言ってよかった。貴族と一口に言っても、きっちり勝ち組と負け組はあるのである。
「いっそ本当にギーシュなんか捨てて、ここで新しい彼を探そうかしら」
 ため息をつきながらモンモランシーはそう思うのだった。
 最近のギーシュのおこないは目に余る。このあいだのアラヨット山の遠足のときには、同じ班になったティファニアに終始くっつきっぱなしで自分のところには一度も来なかった。あの後、少々体に教え込ませたが、まだ怒りが収まったわけではないのだった。
 この園遊会での立ち振る舞いひとつで、貧乏貴族が大貴族になることもありうる。もしモンモランシーがどこかの大貴族の殿方のハートを射止めれば、モンモランシ家にはバラ色の将来が約束されるだろう。
 でも、ギーシュが冷たくされたときに見せる情けない顔を見ると、許してやろうかという気がどこからか湧いてくるのである。まったく、難儀な男を好きになってしまったものだとつくづく思う。
「ふ、ふん! だったらぼくも、このパーティで外国の姫を射止めてやろうじゃないか。後から後悔しても遅いよ、モンモランシー」
「好きにすれば?」
 モンモランシーは軽く突き放した。学院の女生徒ならともかく、それこそ誘いは星の数ほどもあるであろう外国の淑女がギーシュごときの安っぽい台詞にひっかかるとは思えなかったのだ。ただ、それ自体は自分にとって腹立たしいものではあったが。
 ギーシュとモンモランシーは、その後もパーティの貴族たちからは一線を引いた距離で、いつも学院でしているような会話を続けた。
 どのみち暇は有り余っている。二人とも、それぞれの実家から、やっと掴んだ園遊会の出席権に加えてやるから来いと言われて張り切ってここまでやってきたが、ふたりの実家からの期待はすぐにしぼんでしまった。
 それはギーシュとモンモランシーの関係をそれぞれの実家が知ったゆえで、モンモランシ家のほうは娘が武門の名家であるグラモン家の息子と懇意であるなら願ってもなしと言い、グラモン家のほうは五男坊のギーシュがそこそこの相手を見つけたのなら特に咎める気はない、とあっさり認めて、無理に売り込みをしなくてもよいぞと解放されてしまったのだ。
 これではふたりの、特にモンモランシーのやる気の減退は著しかった。もっとも、実はふたりの実家がふたりを呼んだ主な目的は、今回の園遊会で有力貴族たちに、「うちの子をどうかよろしくお願いします」という顔見せであったために、最初にそれがすめばほかの活躍を期待などはされていなかった。ふたりが先走っただけである。
 ただ、いざ誰かに話しかけようかと思っても、会場にはギーシュとモンモランシーの他には同年代はほとんど見えず、話が合いそうな相手が見つからないのが現実ではあった。
「園遊会でポーションの話題を出してもしょうがないものね。わたしの手作りの香水じゃ、本場の高級品に勝てるわけがないし。あーあ、こういうときキュルケだったらファッションの話題とかから切り出してうまくやるんでしょうけど、正直甘く見てたわ」
 モンモランシーは、園遊会という大人の世界に足を踏み入れるのに、自分がどれだけ未熟だったかを参加してつくづく思い知らされていた。

72 ウルトラ5番目の使い魔 64話 (4/19) ◆213pT8BiCc :2017/09/08(金) 11:57:14 ID:EofJgLJk
 対してギーシュはといえば、ときおり通りかかる女性にダンスを申し込んだりしていたが、例外なくけんもほろろに断られている。いつもだったら怒るところだが、こうも見え透いて失敗していると哀れにさえ見えてくる。
 
 賑やかな園遊会の蚊帳の外に置かれ、すっかり腐っているモンモランシーとギーシュ。
 しかし、ふたりは幸運であったのかもしれない。なぜなら、華やかに見える園遊会の裏では、どす黒い思念が渦巻いていたからだ。
「この、伝統も格式もない成り上がりめが。貴様など、一スゥ残らず搾り取って、いずれ乞食に叩き落してくれるわ」
「貴様が余計な横やりを入れたおかげでうちの息子の縁談が破談になった。必ず生かしてはおかんからな」
 言葉にはならない貴族同士の敵意や殺意のぶつかり合いが笑顔の裏で繰り広げられていた。
 園遊会では、時に莫大な金や権力の移動が起こる。そこでは当然、勝者と敗者の間での憎悪の応酬も日常茶飯事なのだ。それは会場の中に限った話ではなく、園遊会に参加できなかった貴族も合わせると、その恨みの量は果てしなく膨れ上がる。自分を差し置いて園遊会に参加したあいつめ、という逆恨みもまた深い。
 ギーシュやモンモランシーの親が、園遊会にふたりを本格的に参加させなかった理由のひとつがここにある。ふたりとも、貴族の一員として園遊会で『そういうことがある』のは知識として知ってはいても、生で体験したことはない。学院では、ギーシュをはじめ貧乏貴族たちがベアトリスに媚びを売っているが、そんな生易しいものではない弱肉強食の世界が園遊会の真実なのである。
 いまだ少年のギーシュと少女のモンモランシーは、園遊会のほんの入り口に触れたにすぎない。そのことに気づくには、まだ数年必要であろう。
 
 そして、この渦巻く『妬み』の波動に目をつける者がいても、それは何の不思議もなかった。
 夜空から、赤い月を背にして地上を見下ろす赤い怪人。そいつは腕組みをして、地上の貴族たちの駆け引きを眺めながらつぶやいた。
「ウフフ、これはまたすごい『妬み』の力ですねえ。これに関しては、私が小細工をしなくても入れ食い状態ですよ。でもそれだけじゃつまらないですし……フフ、せっかくだからもう少し見物してからにしますか」
 趣味悪く人間たちを見下ろし、なにかを企む宇宙人。人間たちはまだ誰も、空にたたずむ悪魔の姿には気づいていない。
 
 パーティ会場で続く、園遊会という名の戦争。それは貴族社会の繁栄と新陳代謝のためには必要ではあるとはいえ、その二面性の強さは幼き日のアンリエッタやウェールズが飽き飽きしたのも当然だと言えた。
 しかし、そんな泥沼の中にあっても、美しい花が咲くことはあった。
「ルビティア侯爵家ご息女、ルビアナ・メル・フォン・ルビティア姫様。ご入場あそばせます!」
 進行役の声が高らかに響き、会場に新しい参加者がやってきた。
 その声に、入り口を振り返った貴族たちは、いっせいに天使が降臨したのを見たかのような感嘆のうめきを漏らした。数名の護衛と使用人を従えて入場してきたのは、淡いブロンドの髪を肩越しになびかせながら、輝くようなシルクのドレスをまとった麗しき令嬢であったのだ。
「おお……なんと」
「美しい……」
 貴族たちは、一瞬前まで笑顔背剣の争いをしていたことを忘れ、その令嬢の容姿に見惚れてしまった。

73 ウルトラ5番目の使い魔 64話 (5/19) ◆213pT8BiCc :2017/09/08(金) 12:03:03 ID:EofJgLJk
 年のころはアンリエッタよりもやや上で、大人びた雰囲気ながらも口元は微笑を浮かべているように優しく、かつモンモランシーと似たサイドテールで髪をまとめている姿は活発さも感じられた。それでいてドレスから覗く手足はすらりと細く、しみ一つない肌は最高級の磁器にも例えられよう。そして、一歩一歩静々と歩く様は、まるで天使が雲上を歩んでいる姿をも思わせ、なによりもその美貌は、アンリエッタに勝るとも劣らない。
 ルビアナと呼ばれたその令嬢は、例えるならば最上級の人形師が作り上げたドールが生を得たかのような美しさで、一瞬にして会場の貴族たちの目をくぎ付けにしてしまい、粛々と歩むルビアナの姿を貴族たちは惚けながら見送っていく。そしてギーシュとモンモランシーも、初めて見るその美しい姿に感動を覚えていた。
「なんて綺麗な人、いったいどこのお姫様かしら」
「ルビティア侯爵家、ゲルマニアでも五本の指に入る大貴族さ。先代がルビーの鉱山の発見で財を成した一族で、ルビティアの性もその功績で賜ったそうだよ。なにより、侯爵の一人娘は並ぶ者がいないという絶世の美女だと聞いていたけど……ああ、想像以上のお美しさだ。まるでルビーの妖精、いや女神だよ」
 ギーシュの例え通り、ルビアナのドレスには無数のルビーがあしらわれており、シルクのドレスの純白とルビーの真紅とで芸術的なコンストラクトを描いていた。
 もっともモンモランシーにとってはギーシュのそんなうんちくも、美人の情報にだけは詳しいのね、と嫉妬の火種になってしまうだけで、ブーツの上からヒールを突き立てられるはめになっていた。
 
 やがてルビアナ嬢はアンリエッタの前に立つと、上品な礼をした後にあいさつを交わした。
「はじめまして、アンリエッタ女王陛下。お招きいただき、ありがとうございます。到着が遅れてしまったことを、心からお詫び申し上げます」
「いいえ、遠路はるばる我がトリステインによくぞおいでくださいました。心より歓迎の意を申し上げます。はじめまして、ミス・ルビアナ。本日はささやかながら、トリステインの園遊会を楽しんでいかれてくださいませ」
 アンリエッタとルビアナは優雅な会釈をかわしあった。それはまるで、二輪の百合が並んで咲いたかのような輝きを放ち、ささくれだった貴族たちの心を一時なれども癒していった。
 だがそれとして、貴族たちは、まさかルビティア家が参加してくるとはと驚きを隠せないでいる。伝統こそないが、ルビティアはルビーの専有により宝石市場に大きな影響力を持つため、貴族と宝石、魔法と宝石は切っても切れない関係な以上、その発言力は単なる貴族の枠では収まり切れないものを持つ。トリステインで釣り合う力を持つ貴族は、恐らくヴァリエール家のみだろう。
 さらにそれにもましてルビアナ嬢が参られるとは驚きだ。絶世の美貌を持つ才女だという噂だけは皆耳にしていたが、侯爵の秘蔵っ子なのか表舞台に姿を見せることはほとんどなかった。それを、いくらゲルマニアと同盟関係にあるとはいえ、小国トリステインが招待に成功するとは信じられない。
 すると、ルビアナは集まった貴族たちに会釈をすると、鈴の音のような声で話し始めた。
「ここにお集まりの、隣国トリステインの皆さん。そして我が同胞ゲルマニアや、アルビオン、ガリアの皆さま、お初にお目にかかります。わたくしはルビアナ・メル・フォン・ルビティア、以後お見知りおきをお願いします。わたくし、非才の身なれど、祖国のために見識を積み、ひいてはハルケギニア全体の繁栄の役に立てるよう、ここに遣わされてまいりました。どうか皆さま、この若輩の身を哀れと思い、よき友人となってくれることをお願いいたします」
 会場からいっせいに拍手があがった。さらにルビアナはアンリエッタと並んで手を取り合い、両者のあいだに友情が生まれたことをアピールする。それは外交辞令のパフォーマンスだとしても、非のつけようもないくらい美しい流れであった。
 しかし現実的な問題としては、ルビティアがトリステインを足掛かりにして国外進出を狙っているということを明らかにしたわけだ。アンリエッタ女王はそれを狙ってルビティアを招待したのか? それともルビティアがアンリエッタに売り込んだのか? いずれにしても当然、貴族たちは奮起する。もしルビティア家とコネを作れれば、それはこの上ない力となるだろう。

74 ウルトラ5番目の使い魔 64話 (6/19) ◆213pT8BiCc :2017/09/08(金) 12:04:39 ID:EofJgLJk
 アンリエッタは一歩下がると、ルビアナに微笑みかけた。
「さあ、堅苦しいあいさつはここまでにして、パーティを楽しんでいらしてください」
「ありがとうございます。では、どなたかわたくしとダンスをごいっしょしてくださいませんか?」
 手を差し出したルビアナに、貴族たちはいっせいに前に並んで「我こそは」と競い合った。もちろん、ここでパートナーに選ばれればメビティアとのコネを作る絶好の機会だからだ。
 もろちんグラモン家も例外ではない。ギーシュの兄たちもいっせいに駆け出し、ギーシュも兄たちに遅れてはなるまいと兄たちに並んでいく。
 モンモランシーは、そんなギーシュの後姿を気が抜けた様子で見送っていた。
「ほんとにバカなんだから……」
 止める気はない。グラモン家の一員として、ここで動かなかったら後で父や兄たちに叱られるであろうことはモンモランシーもわかっていた。
 しかし、きれいな女性に向かって一目散に駆けていくギーシュの姿を見て、腹立たしいものが胸に渦巻く。後で自分を称える歌の十個でも作らないと許してあげないんだから、とモンモランシーは心に決めた。
 そしてあっという間に、ルビアナの前には若い貴族たちの壁が出来上がった。グラモン家をはじめ、あちこちの貴族の子弟たちが、まさに貴公子といった精悍な姿で「私がお相手をつとめましょう」と、ひざまずきながら姫に手を差し出しているのだ。
 ギーシュも、四人の兄たちの端に並んでポーズをとっていた。そのポーズの形は、さすが学院で女生徒をデートに誘うのが日課なだけはあって形は様になっているといってもいい。しかしギーシュは、内心では横目で兄たちを見ながらあきらめていた。
「さすが兄さんたち、かっこいいなあ。悔しいけど、ぼくじゃとてもかなわないよ」
 いくらギーシュが自惚れの強いナルシストといっても、尊敬する兄たちの前ではなりを潜めざるを得なかった。いまだ学生の身分の自分と違って、すでに成人した兄たちは武門の名門の一員としてそれぞれ武勲を立て、園遊会に出た回数も多い。当然立ち振る舞いも自分とは格が違い、家族だからこそよくわかっていた。
 それだけではなく、この園遊会には数多くの貴族が参加しており、グラモンはその中のほんの一部に過ぎない。格式や伝統、資産でグラモン以上はいくらでもおり、さらに見た目美しい美男子も多い。ギーシュを彼の友たちは馬鹿とよく呼ぶが、このような状況を理解できないような愚か者ではなかった。
 万が一グラモンに目をつけてもらえたとして、選ばれるのは恐らく長男か次男。末っ子の自分など目にも入れてもらえまい。顔を伏せながらギーシュは、そう思っていた。
 しかし……
「いっしょに踊っていただけますか、ジェントルマン」
 声をかけられ、手を握られて顔を上げたとき、ギーシュは信じられなかった。そこには、自分の手を取って優しく見下ろしてくるルビアナの顔があったからだ。
 え? まさか、とギーシュの脳はフリーズした。思わず隣にいる兄たちの様子を見てみると、全員が一様に驚きを隠せない様子でいる。ほかの貴族たちも同様で、ギーシュはようやく自分になにが起こったのかを理解した。
「ぼ、ぼくをパートナーに選んでくださったのですか?」
「はい。わたくしと一曲、お相手してくださいませ」
 動揺を隠せずに、震えながら尋ねたギーシュに、ルビアナは笑みを崩さずに答えた。

75 ウルトラ5番目の使い魔 64話 (7/19) ◆213pT8BiCc :2017/09/08(金) 12:05:12 ID:EofJgLJk
 ギーシュの頭が真っ白になる。想像を超えたことが起こったからだけではなく、アンリエッタにも劣らないほどの美貌の令嬢が自分を誘ってくれている。しかも、アンリエッタがまだ”少女”の域にとどまっているのに対して、ルビアナは少女から一歩踏み出した成熟した”女”の美しさを発し、かといって熟れ過ぎた老いの兆候はまったくなく、新鮮な輝きを保っている。まさに、美女という表現の完成形であり、見とれることが罪とはならぬ天女だったからだ。
『こんなバカなことがあるはずがない。これは夢だ!』
 あまりの出来事に、ギーシュは己の意識を失神という避難所に逃れさせようと試みた。しかし、隣の兄から「ギーシュ!」と、叱責の声が響くと我に返り、グラモン家のプライドを振り絞ってルビアナの手を握り返した。
「ぼくでよろしければお相手を承りましょう。レディ、あなたのパートナーを喜んでつとめさせていただきます」
「ありがとうございます。ジェントルマン、あなたのお名前をうかがってもよろしいですか?」
「ギーシュ・ド・グラモン。レディ・ルビアナ、あなたのご尊名に比べれば下賤な名ですが、その唇でギーシュとお呼びいただければ、この世に生を受けて以来の名誉と心得ます」
「はい、ではミスタ・ギーシュ。あなたに最高の名誉を与えます。その代償に、わたくしに至福の一時を与えてくださいませ」
「全身全霊を持って、お受けいたしましょう」
 覚悟を決めると、ギーシュは己の中に流れるグラモンの血を最大に湧きあがらせてルビアナに答えた。父や兄から教わった女性に尽くすスキルをフルに使い、リードしようと全力で試みる。
 その様子を、ほかの貴族たちは呆然と見ているしかなかった。一流の貴族から見ればギーシュの振る舞いは未熟で、なぜあんな小僧がという腹立たしい思いが湧いてくるが、まさか邪魔をするわけにはいかない。モンモランシーは理解が追いつかず、ただ立ち尽くして見ているだけだ。
 そして、ふたりはパーティ会場の真ん中に出ると、優雅に会釈しあって手を結んだ。それを合図に、楽団からミュージックが流れ始める。
「交響曲・水と風の妖精の調べ……レディ・ゴー」
 涼やかな音楽が始まり、ギーシュとルビアナは手を取り合ってステップを踏み始めた。貴族にとって社交ダンスは基本のたしなみだけに、ギーシュも危なげなく踊りを披露する。
 対してルビアナはギーシュに合わせるようにして、ふたりのタップのリズムはほぼ重なって聞こえた。不協和音はなく、ギーシュとルビアナは鏡写しのように美しいシンメトリーを飾り、その心地よさにギーシュはしだいに緊張をほぐれさせていった。
「ミス・ルビアナ、ぼくはまるで白鳥と踊っているように思えますよ」
「うふふ、嬉しいですわ。さあ、ミスタ・ギーシュ、音楽はまだ始まったばかりです。もっと楽しみましょう」
 音楽は序曲から第一楽章へと移り、緩やかな動きからタンタンと軽快なリズムに変化し、少しずつ動きが速くなっていく。
 月光をスポットライトに、優雅に、時に素早く舞うギーシュとルビアナ。
 楽しくなってきたギーシュは、いつもモンモランシーなどにしているように、乏しいボキャブラリーを駆使してルビアナをほめちぎり始めた。
「おお、あなたはなんと美しいんでしょう。世界中のオペラを探しても、あなたほどの人はいない。あなたの髪はキラキラ輝き、まるで海のよう。瞳は……」
 そこで、瞳の色を褒めようとしたギーシュは口を止めざるを得なかった。ルビアナの瞳はほとんど閉じられたままで、瞳の色はわからない。するとルビアナはそれに気づいたようで、困ったようにギーシュに言った。
「すみません、わたくしは目があまりよろしくないもので。薄目でい続けなければいけないことを、お許しください」
「そ、それは大変失礼いたしました! ぼくとしたことが、とんでもないご無礼を」
「いいえ、いいのです。それより、もっと楽しく踊りましょう」
 気分を害した様子もないルビアナに、ギーシュはほっとした。しかし、瞳が見えないとしても、目を閉じたまま踊り続けるルビアナのなんと美しいことか。

76 ウルトラ5番目の使い魔 64話 (8/19) ◆213pT8BiCc :2017/09/08(金) 12:07:25 ID:EofJgLJk
 ターン、タップ。音楽に合わせて動きも複雑さを増していく。ここからがダンスの本番だ。
 だがギーシュはダンスが複雑さを増すにつれ、ルビアナの信じられない技量を目の当たりにすることになった。ギーシュもガールフレンドをダンスに誘うことは何度もあったが、ルビアナのそれは身のこなし、正確さともに次元が違っていたのだ。
”この人、とんでもなく上手い!”
 心の中でギーシュは驚嘆した。高度なダブルターンを、ルビアナは表情を一切崩すことなく完成させてしまった。その動きの完璧さは、実家で見たダンスの先生のそれを軽く上回っている。
 例えるならば、花の上で舞う蝶の妖精。そう錯覚してもおかしくないだろう。
 このままだと自分だけ置いていかれてしまう! ギーシュは焦った。全力でリードするつもりが、このままだとルビアナの独り舞台になってしまう。
 しかし、ギーシュが焦ったのは一瞬だけだった。ルビアナに置いていかれるかと思ったギーシュの動きが、ルビアナに合わせたように精密さを増し始めたからだ。
「ギーシュのやつ、いつのまにあんなにダンスが上達していたんだ?」
 見守っていたギーシュの兄たちが、自分たちの知るギーシュよりずっと卓越した動きを見せるギーシュに驚いて言った。モンモランシーも、以前に自分と踊った時よりはるかにレベルが上の動きを見せるギーシュに驚いている。
 いや、一番驚いているのはギーシュ本人だ。自分にできる動きを超えているどころか、知らないはずの動きさえできる。これは、まさか。
「ミス・ルビアナ、あなたがぼくのリードを?」
「はい、失敬かと思いましたが、ミスタ・ギーシュならばわたくしに付いていただけると思いまして。わたくしは少しだけミスタ・ギーシュのお手伝いをしただけ、これは貴方が本来持っている力ですわ」
 優しく微笑みかけてくるルビアナに、まいったな、とギーシュは心の中で完敗を認めた。
 ダンスを通して、相手の技量をも実力以上に引き出す。操り人形にされている感じは一切なく、それどころか体が動きを元々知っていたかのように自然と動き出している。殿方を立てることも忘れない、この人は紛れもなく天才だ。
「さあ、ギーシュ様ももっと軽やかに。曲はまだまだ続きますわ。もっとわたくしを見て、そしていっしょに楽しみましょう」
「ええ、一時から無限までのすべての時間を、共に楽しみましょうミス・ルビアナ」
「ルビアナとお呼びください。さあ、無限のような一瞬の時間を共に」
 ギーシュとルビアナは踊り続けた。ふたりが舞う、その美しさは貴族たちの心に永遠に刻まれ、アンリエッタも心から見惚れた。
 だが、それ以上にギーシュは楽しかった。こんな楽しいダンスを踊ったことはない。ルビアナは誰よりも優しく、美しく、ギーシュの目はルビアナの虜になり、ギーシュの体は疲れを忘れて動き続けた。
 
 けれど、永遠は一瞬にして終わる。楽団の演奏が終わり、ふたりの動きが同時に止まる。
 それはめくるめく夢の終焉。ふたりに対して、会場から惜しみのない拍手が送られた。
「ブラボー!」
「グラモンの末っ子、まだ学生だというのにやるではないか」
 非の付け所のないパーフェクトなダンスに、数多くの賞賛がギーシュに与えられた。ギーシュの父や兄たちも、誇らしげに拍手を続けている。

77 ウルトラ5番目の使い魔 64話 (9/19) ◆213pT8BiCc :2017/09/08(金) 12:08:19 ID:EofJgLJk
 しかしギーシュの耳には、会場の賞賛はほとんど届いていなかった。彼の意識のすべては、いまだずれることなくルビアナに向かい続けていたのだ。
「ルビアナ……最高でした。ぼくは、こんな楽しいダンスをこれまで経験したことがなかった。一生、いえ来世まで決して今日のことを忘れることはないでしょう!」
「ありがとう、ギーシュ様。わたくしも、心から楽しいひと時を味わわせていただきました。あなたにパートナーになっていただいたことは、間違いではありませんでした」
 それはギーシュにとって最高の賛辞であった。この世にふたりといないほどの完璧な女性に認めてもらえたことは、グラモン家の人間としてこれほど誇らしいものはない。
 しかしギーシュの夢見心地はすぐに終わらされた。ダンスが終わると、ルビアナには「次はぜひ私と踊ってください」と、貴公子たちが押し掛けてきたのである。ギーシュはたちまち押し出され、現実を意識させられた。
「そ、そうだよね。園遊会じゃ、これが当然さ……」
 少しでも多くの貴族とつながりを作るため、有力な貴族は次々にパートナーを変えることが常識だ。
 しょせん、自分は偶然選ばれたそのひとりに過ぎない。ギーシュはすごすごと引き下がろうとし、そんなギーシュをモンモランシーはやきもちという名の歓迎で慰めようとやってきた。だが、ギーシュが踵を返そうとした、そのとき……
「お待ちになって、ギーシュ様」
 ぎゅっと手を握りしめられ、振り返ったギーシュは自分の目を疑った。ルビアナが、自分の手を握って引き留めてくれているではないか。
「まだ、わたくしたちのダンスは終わっていませんわ。アンコール、よろしいかしら?」
「ル、ルビアナ……」
「うふふ。さあ参りましょう!」
 ルビアナはそのままギーシュの手を引いて駆けだした。ギーシュは訳も分からず、「えええっ!?」と、間抜けな声と顔をしながら引かれていく。
 当然、貴族たちは愕然とする。そして、ギーシュの兄たちをはじめとする何人かは後を追って走り出そうとしたが、その背に鋭い叱責が投げかけられた。
「お待ちなさい!」
「じ、女王陛下!? しかし」
「無粋な殿方を好く女性は、この世に一人もおりませんわよ。それにわたくしは、ミス・ルビアナに楽しんでいってくださいと言いました。せっかくのところに水を差して、わたくしに恥をかかせるつもりですか?」
 アンリエッタは、自分にも覚えがあることだけに、ふたりを引き止めることを許さなかった。まさかこうなるとは予想外だったが、乙女心がどういうものなのかは自分が一番よく知っている。
 がんばってくださいね、とアンリエッタは心の中でエールを送った。この園遊会で、少しでも多くのトリステイン貴族がルビティア家と交友を持ってくれることを期待していたけれども仕方ない。マザリーニ枢機卿は怒るだろうけれど、国家の繁栄とロマンス、どちらが重大であるかなんてわかりきったことなのだから。
 女王にそこまで言われては、貴族たちも引き下がるしかなく、悔し気にしながらも足を止めてふたりを見送った。ただ一人を例外として。
 
 ルビアナは、ギーシュの手を引いたままパーティ会場を抜け、邸宅の敷地も抜け、そのままの足でラグドリアン湖の湖畔へとやってきた。

78 ウルトラ5番目の使い魔 64話 (10/19) ◆213pT8BiCc :2017/09/08(金) 12:14:53 ID:EofJgLJk
「ふう、ここまで来ればいいでしょう。わぁ、これがラグドリアン湖……なんて大きくて、そして心地よい風が吹く場所なんでしょう!」
 湖畔の砂利をシューズで踏みながら、子供のようにルビアナははしゃいでいた。そんなルビアナの姿は、月光を反射するラグドリアンに照らされて、まるで幻想の世界に迷い込んでしまったようにギーシュは思った。
「ルビアナ、いったいなにを……?」
 それでもギーシュは、貴族の常識からはあまりにも外れたルビアナの行動を問いかけた。すると、ルビアナはギーシュのほうを向いて、深く頭を下げた。
「すみません、ギーシュ様。ぶしつけだと承知していますが、どうしても他の誰かと手をつなぐのが嫌で、申し訳ありません」
「い、いえ、頭をお上げください。ぼくのほうこそ、レディの心の機微を察せられなかったとは男子として失格……ええっ!」
 言いながら、ギーシュは自分の言葉の意味に恐れおののいた。つまり、ルビアナは自分だけと手をつなぎたいと言ってくれている。これが、学院の女子を相手にしたのであれば、余裕を持って大げさにきざったらしく喜びの表現をあげたであろうが、相手はグラモンを歯牙にもかけない規模を誇る大貴族。普通なら、あり得るわけがない。
「ミ、ミス・ルビアナ、お戯れはおよしになってください。ぼ、ぼくなんてまだ未熟な学生の身。あなたのような高貴なお方と、釣り合うわけがありません」
「いいえ、私は自分の意思でここにいるすべての殿方の中から、ギーシュ様、あなたとならば踊りたいと思って手を取りました。私は、自分で認めた相手以外の誰とも踊りはしません」
「で、ですがそれでは貴族としての本分が……あなたも、本国に示しがつかないのでは」
「構いません、すべての責任は私が取ります。私は、いつか骨となるその日まで、自分の踊りだけを踊り続けます。それが私が決めた、生涯ただひとつのわがままです」
 はっきりと言い放ったルビアナに、ギーシュは唖然とした。
 貴族としての重要な責務のひとつを投げ捨てる。しかも、彼女ほどの大貴族がなどと普通は考えられない。
 しかし、同時にギーシュはどこかルビアナがまぶしく見えた。そんなわがままを通しても、彼女の才覚ならば埋め合わせをしてお釣りがくるほどを得られるに違いない。
 貴族社会で自分のわがままを通すことがどれだけ難しいか。ウェールズと結婚したアンリエッタも、その道のりは薄氷の連続であったし、平民の才人と恋愛関係にあるルイズも相当な悩みを抱えているのはギーシュにもわかっている。
 それでも、自分の通したい筋を、道理に反するわがままだとしながらも通している。貴族社会に合わせるのを当然だと考えていたギーシュには、ルビアナがルイズやアンリエッタと並んで美しく見えたのだ。
「ミス・ルビアナ、いやルビアナ。ぼくはあなたに感動しました。ぜひ、もう一度踊っていただきたい。さあ、お手を」
「ありがとうございます。ギーシュ様、こんなわたしのわがままを聞いてくださいまして」
 ギーシュとルビアナは手を取り合い、湖畔をダンスホールにして第二幕を踊り始めた。
 ミュージックは風と波の音。スポットライトは変わらず月光だが、湖畔に反射した光が幻想的に照らし出している。
 湖畔の砂利を踏みしめる音さえ、ミュージックに加わる。ダンスをするには不向きな足場のはずだが、やはりルビアナとのダンスはそんな不自由さをまったく感じさせないほど素晴らしかった。
 踊るギーシュとルビアナ。その中で、ふたりは語り合い始めた。
「ルビアナ、なぜぼくを……グラモンのたかが末っ子に過ぎないぼくを選んでくれたのですか?」
「それはあなたが、あの殿方たちの中でひとりだけ、温かい眼差しでわたくしを見ていてくれたからですわ」
「ぼくが?」
「ええ。わたしがあの会場に入っていったとき、ほかの方々はルビティアの私だけを見ていました。けれどあなたは、純粋に私だけを見ていてくれました」

79 ウルトラ5番目の使い魔 64話 (11/19) ◆213pT8BiCc :2017/09/08(金) 12:16:54 ID:EofJgLJk
「そんな、ぼくはあなたの美しさに見とれていただけで……って、あなたは目が弱いはずじゃ」
「ふふ、見えないからこそ、よく見えるようになるものもあるのですわ。ギーシュ様、あなたはとても明るい人……きっと多くのお友達がいて、あなたはその中心で皆を引っ張っていく太陽のような人なのでしょう」
「か、買い被りですよ」
 そうは言ったものの、自分が水精霊騎士隊のリーダーだということをほとんど言い当てている。たぶん、口調や態度などを分析したのだろうが、顔色などにごまかされないからこそ、人柄を見抜く眼力は本物だ。
 すごい人だ。ほとんど完全無欠と呼んでもいいのではないか? ギーシュは誰もが認めるナルシストではあるが、あまりのルビアナの能力の高さにコンプレックスを感じ始めていた。
 しかし、ルビアナは悲しそうな声でギーシュにつぶやいた。
「ですがギーシュ様、私は本来ならギーシュ様と踊る資格のない卑しい女なのです」
「な! どういうことです。あなたのような素晴らしい方に何があろうと僕は気にしませんよ。美しい薔薇にトゲがあるのは当然のことではないですか!」
「そうではないのです。私の出身がゲルマニアだということはご存知でしょう。ルビティアは財力によって爵位を手に入れた成り上がりの系譜……それゆえに、私は神の御業である魔法を使えないのです。あなたと同じ、メイジではないのです」
 ギーシュははっとした。確かに、平民が金銭で爵位を買うのはゲルマニアでは珍しくない行為ではあるが、トリステインではまだ一部の例外を除いては貴族はメイジであるという常識がある。
「軽蔑なさいましたか? 私はしょせん、貴族の名前だけを持つ平民の娘……始祖の血統からなるトリステインの正当なる貴族には劣る……」
「そんなことはありません!」
「ギーシュ様?」
「ぼくは、あなたほど美しく優れた貴族を見たことがない。確かに、始祖ブリミルは我々に魔法をお与えになりました。しかし、ぼくの友人や知り合いにはメイジでなくとも誇り高く、強く、国のために貢献している人が大勢います。ぼくは、そんな彼らを魔法が使えないからと見下したことはない……いや、前にはあったかもしれないけど今は魔法が使えない仲間も皆同志だと思っている。だからあなたも、少なくともぼくの前ではメイジでないことを気にする必要なんかありません」
 正直なギーシュであった。だがルビアナは目を閉じたままながら、その瞼から一筋の涙を流した。
「ありがとうギーシュ様、私はトリステインにやってきて本当によかったですわ」
「涙を拭いて、ルビアナ。乙女の涙はもっと嬉しいことが起きたときにとっておくべきです。さあ、今はなにもかもを忘れて踊りましょう!」
 手を結び、ギーシュとルビアナは観客のいない彼らだけのステージで楽しく踊り続けた。
 いや、正確には少しだけ観客はいた。
 一人は会場から唯一ふたりをつけてきたモンモランシー。彼女は楽しく踊るギーシュとルビアナを湖畔の木の影から唇をかみしめながら見つめていた。
「ギィィシュュウゥゥ! わたしとだってあんなに長く踊ってたことないくせにぃぃ! なによ、そんなにそのゲルマニア女のほうがいいわけなの! 今日という今日は血祭りにあげてやるわ!」
 まるでルイズが乗り移ったような、鬼気迫る嫉妬のオーラを巻き散らしながらモンモランシーは吠えていた。
 
 そしてもうひとり空の上から、あの宇宙人がその嫉妬の波動を感じ取って笑っていた。
「いやはや、ものすごいマイナスエネルギーの波動ですね。たった一人がこれほどのエネルギーを発せられるとは、なんとも人間というものはおもしろい。けど、このエネルギーを集めるのはやめておいたほうがよさそうですねえ」
 硫酸怪獣ホーが勝手に生まれそうなパワーを感じたが、この手のマイナスエネルギーは特定の目的を持って動くことが多いので、宇宙人は制御が面倒だと考えて収集をやめた。
 扱いやすいとすれば、パーティ会場で貴族たちが発しているような恨みと欲望のエネルギーである。しかしそれも、先のギーシュとルビアナの披露したダンスの余韻で小康状態にある。

80 ウルトラ5番目の使い魔 64話 (12/19) ◆213pT8BiCc :2017/09/08(金) 12:18:11 ID:EofJgLJk
「まったく、余計なことをしてくれますねえ。もう量はじゅうぶんでしたけど、こうも澄んだ空気だとどうも気持ちがよくありません。では……我ながら小物っぽいとは思いますが、八つ当たりしてあげなさい! カモン、ブラックキング!」
 宇宙人が指をパチリと鳴らすと、ラグドリアンの湖畔が揺らめいて、周辺を大きな地震が襲った。
 なんだ! 驚く人々が事態を飲み込むよりも早く、パーティ会場のそばの地中から土煙をあげながら巨大な黒い怪獣が姿を現した。
 
「わ、か、怪獣ですぞぉーっ!」
 
 貴族たちは眼前に出現した巨大な怪獣に驚き、魔法で立ち向かうことも忘れて逃げ出したり腰を抜かしたりしていた。
 しかしそれは逆に賢明であったといえるかもしれない。なぜなら、ここに現れた黒々とした蛇腹状の体を持ち、頭部に大きな金色の角を持つ怪獣は用心棒怪獣ブラックキング。かつてナックル星人に操られて、ウルトラマンジャックを完敗に追い込んだほどの強豪なのだ。とても準備なしで挑んで勝てるような相手ではない。
 ジャックに首をはねられ、怪獣墓場で眠っていたところをあの宇宙人に甦らされて連れてこられた。今回ナックル星人はいないものの、あの宇宙人を新しい主人として、唸り声をあげながらパーティ会場へ進撃しだした。
「適当に脅してやりなさい。その人たちはマイナスエネルギーをよく生んでくれますから、あまり殺してはいけませんよ」
 宇宙人のうさ晴らしに巻き込まれて、貴族たちは迫りくるブラックキングから逃げまどった。
 もちろん、中にはギーシュのグラモン家のように、一時のショックから立ち直ったら反撃に打って出ようとする武門の家柄もある。しかし、それをアンリエッタは止めた。
「やめなさい! 今は招待客の避難に全力を尽くすのです」
 外国からの招待客に万一のことがあってはトリステインの恥。グラモン家のギーシュの兄たちは、武勲をあげるチャンスを逃すことに悔みながらも女王の命に従った。
 もっとも、彼らはすぐに自らの蛮勇がストップされたことを女王に感謝することになった。ブラックキングが鋭い牙の生えた口から放った赤色の熱線が、会場のある貴族の邸宅を直撃し、一発で粉々にしたからである。
「すごい破壊力だ」
 ブラックキングの溶岩熱線。対ウルトラマンを目的に飼育されているブラックキングは全能力がバランスよく高く、弱点が存在しないと言ってもいい。
 
 一方そのころ、湖畔にいたギーシュたちも当然ブラックキングの巨体を目の当たりにしていた。
 湖畔から会場まではざっと百メイル。それなりの距離があって、ブラックキングの目的は会場であるから彼らはブラックキングの横顔を見るだけで済んでいるが、ギーシュはここで無駄な意地を見せていた。
「止めないでくれルビアナ。ぼくはグラモンの一門として戦いに行かねばならないんだ。僕が行かなけりゃ父さんや兄さんたちに合わせる顔がないんだ!」
「おやめください! あなたが行ってもあれを倒すのは無理です。危険すぎますわ」
「相手がなんであろうと、トリステイン貴族がやすやすと引くわけにはいかない! 頼むから見守っていてください。あなたに捧げる武勲をきっと持ち帰ってみせます」
 明らかに悪い方向で調子に乗っていた。水精霊騎士隊がいれば、まだリーダーとして自制は効くし、レイナールなどの抑え役もいる。

81 ウルトラ5番目の使い魔 64話 (13/19) ◆213pT8BiCc :2017/09/08(金) 12:19:29 ID:EofJgLJk
 だが、暴走しかけるギーシュに業を煮やし、ついにモンモランシーが割り込んできた。
「いい加減にしなさいギーシュ!」
「わっ! モ、モンモランシー、いつのまにそこに」
「そんなことどうでもいいでしょ! あなたはまた美人の前だといい格好しようとして。こんな場所に女の子ひとり置いていって万一のことがあったらどうするの?」
 あっ! とするギーシュを、モンモランシーはさらに叱りつける。
「女の子ひとりも守れないで、なにが貴族よ騎士よ。もしその人があんたがいない間にケガでもしたら、それ以上の不名誉はないでしょう」
「ご、ごめんモンモランシー、君の言うとおりだ。ぼくは間違っていた、手の中の薔薇一輪も守れないでなにが男だろうか。なんと恥かしい! 許しておくれ」
 平謝りするギーシュ。モンモランシーは、ほんとにこれだから目を離せないんだからとまだカンカンだ。
 ルビアナは、突然現れたモンモランシーに少し驚いた様子でいたが、すぐに落ち着いた様子でモンモランシーにあいさつをした。
「失礼、お見受けするところモンモランシ家のお方ですわね。ギーシュ様を止めていただき、どうもありがとうございます。私の細腕ではどうすることもできませんでした」
「フン! このバカは甘やかしちゃダメなのよ。可愛い女の子と見れば、ホイホイ尻尾を振る破廉恥男なんだから」
 怒りのたがが外れたモンモランシーは、もう相手が誰であろうと遠慮はしていなかった。しかし、無礼な態度をとられたのに、ルビアナの反応はモンモランシーの予想とは違っていた。
「いいえ、それはきっとギーシュ様は博愛のお気持ちがお強い方だからなのでしょう。モンモランシー様がお怒りになったのも、そんなギーシュ様がお好きだからなのですわね」
「なっ! あ、あなた、初対面の相手に何言ってるのよ」
「お隠しにならなくてもよいですわ。モンモランシー様の声には、怒りはあっても憎しみはありませんでした。それに、ギーシュ様のそうしたことをよくご存じとは、きっと貴女はギーシュ様の一番なのでしょうね」
「なっ、なななな!」
 モンモランシーもまた、ルビアナの洞察力の深さに意表を突かれていた。
 だが、危機は空気を読まずにやってくる。モンモランシーの予想した通り、ブラックキングが歩いたことによって蹴り飛ばされた岩のひとつが偶然にも、こちらに向かってすごい勢いで飛んできたのだ。
「きゃあぁっ!」
 岩は数メイルの大きさのある庭石で、避けても避けきれるようなスピードではなかった。フライで飛んでも落ちた岩がどちらの方向に跳ね返るかはわからない。もちろんモンモランシーの魔法で受け止めきれる威力ではない。
 しかし、ここでとばかりにギーシュは杖をふるって魔法を使った。
「ワルキューレ、レディたちを守るんだ!」
 ギーシュの青銅の騎士ゴーレムが、三体同時に錬金されて岩に向かって飛びあがった。受け止めるなんて無茶は考えていない、ワルキューレそのものの質量を使った弾丸だというわけだ。
 飛んできた岩はワルキューレ三体と空中衝突し、互いにバラバラになって舞い散った。そしてギーシュは薔薇の杖を口元にやり、どやあとキザったらしくポーズをとってかっこをつけた。

82 ウルトラ5番目の使い魔 64話 (14/19) ◆213pT8BiCc :2017/09/08(金) 12:21:51 ID:EofJgLJk
「ぼくがいる限り、君たちには傷一つつけさせやしないよ」
「ほんと、かっこつけるのだけはうまいんだから。けどまあ、助けてくれてありがと」
 モンモランシーはぷりぷり怒ったふりをしながらも礼を言い、それからルビアナも感謝の意を示した。
 ブラックキングはしだいに遠ざかり、もう岩も飛んでこないだろう。どうやら完全にこちらは眼中にないようだが、ブラックキングの背中を見送りながらルビアナは残念そうにつぶやいた。
「それにしても、ギーシュ様とのダンスはこれからというところでしたのに、無粋な怪獣様ですわね」
 憮然とするルビアナの声色は、日没で鬼ごっこを中断させられた子供のような純粋な憤慨のそれであった。
「まったくだね。ルビアナといっしょなら、ぼくは朝までだって踊れたろうにさ」
「ギーシュ、わたしと舞踏会に出たときに「疲れた」って言って先に抜けたのは誰だったかしら?」
 いつもの調子に戻ったギーシュとモンモランシーも同調して言う。怪獣は遠ざかりつつある、もうすぐ園遊会で何かあったときのために待機していた軍の部隊もおっとり刀で駆けつけてくるだろうから、自分たちの出番はないはずだった。
 
 そのころ、会場に乱入したブラックキングは貴族たちを追いかけていた。しかしアンリエッタが迅速に逃げることを最優先させたため、少々の軽傷者を除いては人的被害は出ていなかった。
 だが、このまま暴れ続ければいずれは追いついて蹂躙することもできるだろう。けれども、宇宙人はそこまでする必要を感じてはいなかった。
「もういいでしょう。これで人間たちにはじゅうぶんに恐怖を植え付けられました。仕込みはこれまで……戻りなさいブラックキング」
 死人にマイナスエネルギーは出せない。貴族たちが逃げまどう姿を見て、じゅうぶんに溜飲を下げた宇宙人はブラックキングを引き上げた。あとは貴族たちのあいだで責任の押し付け合いでも始めてくれれば重畳というものだ。
 ブラックキングは命令に従い、あっというまに地中に潜って消えてしまった。後には、呆然とする貴族たちが残されただけである。
 
 そうして、一応の平和は戻った。
 貴族たちは破壊された会場から少し離れた場所にある別の庭園に移動して、ほっと息をついている。
 当然、ギーシュたちももう抜け出しているわけにはいかず、そこに戻っていた。
「おお、ギーシュよ。無事であったか」
「ははっ、父上。このギーシュ、全力でルビアナ姫をお守りしておりました」
「うむ、それでこそ我がグラモンの一門。よくやったぞ」
 ギーシュは父や兄たちも無事であったことにほっとしつつ、帰還を報告した。
 もしかしたら怒られるのではと内心では恐々としていたが、父は意外にも上機嫌であった。もっとも、ルビアナが後ろで微笑んでいれば、たとえ怒っていたとしても気分は逆転したに違いない。
 けれども、褒められていい気分になっていたギーシュに、次に父が浴びせた言葉がギーシュの心を凍り付かせた。

83 ウルトラ5番目の使い魔 64話 (15/19) ◆213pT8BiCc :2017/09/08(金) 12:24:35 ID:EofJgLJk
「ギーシュ、ルビティアの姫のお気に入りになられるとは見事ではないか。これはもう、モンモランシの小娘などと遊んでいる場合ではないぞ」
「えっ……」
 ギーシュは言葉を返すことができなかった。それは、ギーシュにとって初めて体験する貴族世界の理不尽のひとつであった。
 ルビティアとモンモランシでは、比較にならない格の差がある。家のために、どちらと付き合わねばならないかは言うに及ばずだが、そうなるとモンモランシーと付き合うことはできなくなってしまう。
 ギーシュの心に霜が降る。嫌だと言いたいが、そうすれば父の期待を裏切り、激怒させてしまうだろう。さらにグラモン家に恥をかかせることになる。どうすればいいかわからない。
 父はギーシュにだけ聞こえるように言ったので、後ろにいるモンモランシーとルビアナには聞こえていないはずだ。ここは自分がはっきりと意思表示をしなければならない。だが、なんと答えればいいのだ?
 冷や汗を噴き出すギーシュ。耳を澄ますと、会場のそこかしこから言い合う声が聞こえだした。貴族たちが、格上の自分を差し置いて先にお前が逃げ出すとは何事だ、とか、お前の息子はうちの娘にあれだけ求婚しておいたくせに守ろうともしなかったではないかなどと言い合っているのだ。
 これが園遊会の実体。ギーシュはその欺瞞を身をもって体験し、打つ手なく戸惑っている。
 まさに、あの宇宙人が望んだとおりの、人間の醜い面がさらけ出された煉獄が実現されつつあった。
「ウフフ、いいですね。これでこそ人間のあるべき姿というものです」
 しかし、宇宙人が高笑いし、ギーシュが思考の堂々巡りの深淵に落ちかけたそのとき、誰もが予想していなかった事態が起こった。
 
「うわっ! なんだ、また地震か!」
 
 地面が揺れ動き、土煙が噴き出して、地中から巨大な影が姿を現す。
「出たっ、またあの怪獣だ!」
 ブラックキングが庭園のそばから再度出現し、貴族たちを見下ろして再び暴れだしたのだ。
 溶岩熱線が集まっていた貴族たちの一団を狙い、十数人が一度に吹き飛ばされる。さらにブラックキングは狂ったようにのたうちながら庭園に乱入していった。
 たちまち逃げ出す貴族たち。しかし、驚いていたのは宇宙人も同じであった。
「ブラックキング! 何をしているんです。誰が出て来いと言いましたか!」
 彼は命令をしていなかった。しかしブラックキングは出てきて、今度は宇宙人の命令を聞かずに無差別に暴れている。
 これはどうしたというのだ? 困惑しながら空から見下ろす宇宙人。すると彼は、ブラックキングの姿が先ほどと明らかに違うところを見つけた。

84 ウルトラ5番目の使い魔 64話 (16/19) ◆213pT8BiCc :2017/09/08(金) 12:27:00 ID:EofJgLJk
「角が、機械化されている!?」
 そう、ブラックキングの立派な角があった頭部に、角の代わりに巨大なドリル状の機械が取り付けられていたのだ。
 さしずめ、ブラックキング・ドリルカスタムとでも呼ぶべきだろうか。ドリルはそれが飾りでないことをアピールするように、先端から紫色の光線を放ち、離れた場所にある別の貴族の別荘を粉々に粉砕してしまったのだ。
「改造手術をされている。ですが、いったい誰が!」
 ブラックキングは正気を失っているらしく、無茶苦茶に吠えて暴れながら熱線や光線を撃ちまくっている。それを止めることは、もう誰にもできなかった。
 
 庭園は大パニックになり、もう秩序だった避難は望むべくもなく、貴族たちは皆好き勝手に逃げまどっている。
 そしてその猛威は、不運にもギーシュたちのほうへと向けられた。
「ギーシュ!」
「ギーシュ様!」
 逃げ遅れたモンモランシーとルビアナに向けて、ブラックキングのドリル光線の照準が定められる。
 ギーシュは、ありったけのワルキューレを錬金してふたりの前に立ちふさがった。しかし、青銅のワルキューレの壁でどれだけ耐えられるものか。
 ならば、せめてひとりだけを全ワルキューレでカバーすれば守り切れるかもしれない。ギーシュの耳に、父や兄たちの声が響く。
「ギーシュ、ルビティアの姫様を守るんだ」
 そんなことは言われなくてもわかっている。しかし、ギーシュはどれだけ道理をわきまえても、それができる男ではなかった。
 そう、好きな子の前でかっこ悪いところを見せるくらいなら死んだほうがマシ。それが男だと信じるのがギーシュだった。
「ぼくは、ふたりとも守る! 足りない分の壁には、ぼくの体を使えばいいんだよ!」
 ワルキューレをモンモランシーとルビアナの前に均等に配置し、さらにその前にギーシュは立ちふさがった。
 これで死ぬなら本望。ギーシュは覚悟し、彼の耳に父や兄たちの絶叫が響く。
 だが、まさにブラックキングの光線が放たれようとしたとき、なぜかブラックキングの頭がふらりと揺れて光線の照準が大きくそれた。
 光線ははずれ、ギーシュには爆風と吹き飛ばされた砂や石だけが叩きつけられた。とはいえ、それだけでもじゅうぶんな威力で、ギーシュは傷だらけになりながら吹き飛ばされた。
「うわあぁぁっ!」
「ギーシュ!」
「ギーシュ様!」
 ワルキューレの影に守られて爆風をやり過ごせたモンモランシーとルビアナは、すぐにギーシュに駆け寄った。

85 ウルトラ5番目の使い魔 64話 (17/19) ◆213pT8BiCc :2017/09/08(金) 12:29:24 ID:EofJgLJk
 だがその後ろからブラックキングが狙ってくる。ギーシュの父や兄たちは、駆け付けようとしたが、もう遅かった。
「だめだ、やられるっ!」
 ドリルからいままさに光線が放たれるかと思われた。しかし、光線は放たれず、ブラックキングは目の焦点を失い、そのままフラリと揺らぐと地面に倒れこんでしまった。
 轟音が鳴り、横倒しになるブラックキングの巨体。ブラックキングは口から泡を吐いて痙攣していたが、すぐに動かなくなってしまった。
「無理な改造で、脳に負担がかかりすぎたんですね」
 呆然としたまま、宇宙人はつぶやいた。
 貴族たちも、突然絶命したブラックキングに呆然とするしかないでいる。だが、モンモランシーとルビアナは傷ついたギーシュを前に、それどころではなかった。
「ギーシュ、大丈夫! わたしがわかる?」
「ああ、モンモランシーだろう。よくわかるよ、いやあ君の顔を間近で見るのは永遠に飽きないねえ」
「バカ! またかっこつけて傷だらけになって。あなた血だらけじゃない!」
「いやいや大丈夫だよ。ちょっと体中しびれてるけど、痛みはないんだ。かすり傷だよ、ちょっと休めば立てるさ」
 だが、そういうときが一番危ないのをモンモランシーは知っていた。一時的に痛覚が麻痺していても、いずれ耐えがたい苦痛に襲われる。治療は一刻を争う。
 モンモランシーは杖を取り出して、治癒の魔法を唱え始めた。傷の深そうな部分から順々に、しかし治癒に止血が追いつかない。モンモランシーが焦り始めたとき、ルビアナがハンカチを手にそばにかがみこんだ。
「お手伝いしますわ」
 ハンカチを包帯代わりに、それでも足りなければドレスを引きちぎってルビアナはギーシュの止血をしていった。
 その行為に、ギーシュは「大事なお召し物をぼくなんかのために、もったいない」と止めようとしたが、ルビアナは気にした様子もなく言った。
「よいのです。ギーシュ様のお役に立てて破れたのなら、このドレスは私の誇りですわ。それより、ギーシュ様のために一番がんばっておられるのはモンモランシー様です。モンモランシー様をこそ見てあげてください」
 こんなときの気配りもできて、モンモランシーはこれが大人のレディなのかと少し悔しくなった。
 だけど負けない。こんなぱっと出のゲルマニア女なんかにギーシュをとられてたまるものか。
 やがて手当は終わり、治療が早かったおかげでギーシュはたいした後遺症もなく普通に立ち上がることができた。
「あいてて、まだ少し痛むけどもう大丈夫だよ。モンモランシー、ルビアナ、君たちのおかげだ。ありがとう」
「ま、まあ、あんたに助けられたわけだし、わたしにだって貴族の誇りってものはあるから当然よ」
「わたくしは何もしていません。モンモランシー様が、ギーシュ様を救ったのですわ。本当に、お似合いのふたりです」
 ルビアナにそう言われ、ギーシュとモンモランシーは照れた。
 しかし、それぞれの家の問題はまだ引きずっている。すると、ルビアナはギーシュとモンモランシーの手を取り、三人の手を重ねて言った。

86 ウルトラ5番目の使い魔 64話 (18/19) ◆213pT8BiCc :2017/09/08(金) 12:30:48 ID:EofJgLJk
「わたくしたち、とてもよいお友達になれそうですね」
 その光景で、グラモン家はもうなんの文句も言うことはできなくなってしまったのである。
 それだけではなく、ルビアナは事態の鎮静に四苦八苦しているアンリエッタの元に向かうと、各国の貴族たちに向かって宣言した。それはまとめると、今日の事件での損失はルビティア家が補填する。自分は、危急の事態にあっても冷静に判断するアンリエッタ女王に深い感銘を受けた、トリステインにルビティアは協力を惜しまない。これからもトリステインで皆さまとお付き合いしたいのだと。
 それにより、不満をたぎらせていた貴族たちは一気に大人しくなった。ゲルマニア有数の大貴族とのパイプがつながるのなら、今日のことなど安いものだ。
 当然、アンリエッタにとっても渡りに船である。ルビアナの申し出に感謝し、友好を約束した。
 
 
 そして、夢のような時間は終わりを告げる。園遊会は満足の内に終了し、ギーシュとモンモランシーはルビアナと別れる時がやってきた。
「さようなら、ギーシュ様、モンモランシー様。おふたりと出会えて、今日はとても楽しい一日でした」
「ルビアナ、短い時間でしたけどぼくもとても楽しかったです。あなたからはいろいろと教えられました。今日のこの時を一生胸に焼き付けることを約束します」
「ま、まああなたがいい人だっていうのはわかったわ。だからわたしからも言うわ、ありがと」
 手を取り合い、別れを三人は惜しんだ。
 これからルビアナはゲルマニアに帰る。そうなれば、また会えるかはわからない。
 そうなれば……ギーシュは不安だった。ルビアナにとって、今日のことぐらいは数多くある出会いのひとつに過ぎず、すぐに忘れ去られてしまうのではないか? グラモンとルビティアはそれほどの格差がある。
 しかし、ルビアナはギーシュの心の機微を見抜いたのか、再びギーシュとモンモランシーの手を取り言った。
「そうですわ。再会を願って、このラグドリアン湖の水の精霊に誓いを捧げましょう」
「え? 誓い、ですか」
「はい、ラグドリアンの精霊は別名誓約の精霊と聞いております。私たちの友情が永遠であることを誓えば、いつか必ずまた会えますわ」
 それは虹色の提案であった。精霊への誓約は違られることはないという。
 だが、人間の誓約に絶対はない。するとルビアナは、同じく見送りに来ていたアンリエッタに見届け人を頼んだ。
「ええ、わたくしでよければ見届けさせていただきますわ。あなた方三人の誓約、トリステイン女王の名の下に、この耳と目にとどめましょう」
 それ以上の確約などはあろうはずがなかった。ギーシュ、モンモランシー、そしてルビアナはラグドリアン湖を望み、それぞれの誓いの言葉を口にした。
「誓約します。ぼく、ギーシュ・ド・グラモンはモンモランシーを一番に愛し続け、ルビアナを永遠に愛し続けることを」
「誓約します。わたし、モンモランー・ラ・フェール・ド・モンモランシーはギーシュを愛し、ルビアナと変わらぬ友情を持ち続けることを」
「誓約します。私、ルビアナ・メル・フォン・ルビティアはギーシュ様とモンモランシー様に永久に続く友情を貫くことを」
 こうして誓約は終わり、三人は固く友情を結んで別れた。

87 ウルトラ5番目の使い魔 64話 (19/19) ◆213pT8BiCc :2017/09/08(金) 12:32:03 ID:EofJgLJk
 別れ際に、モンモランシーはルビアナに「ギーシュ様をよろしく」と頼まれ、「当然よ」と言い返した。
 遠ざかっていくルビアナの馬車を見送りながら、ギーシュとモンモランシーは思った。
 いい人だった。そして、すごい人だった……できるなら、あんな大人になりたいものだ。と。
 また会える日はいつ来るだろうか? ふたりの胸を、寂しい風が吹き抜けていった。
 
 
 だが、事態は収束したが、謎はまだ残っている。
 空から一部始終を見守っていた宇宙人は、この園遊会で集まったマイナスエネルギーの塊を手にしながらも釈然としない様子でつぶやいていた。
「『妬み』のエネルギー、確かに頂戴いたしました。しかし、いったい何者がブラックキングを改造したのでしょう……ブラックキングが地中に潜ってから出てくるまで、ほんの数十分……そんな短時間で、ブラックキングを改造できるほどの技術を持った者が、まだハルケギニアにいるというのですか? それに、なんの目的で……? 一体何者が……まさか……これは、遊んでいてはまずいかもしれませんね」
 ハルケギニアで起きている異変の元凶の宇宙人。しかしこの宇宙人も、ハルケギニアのすべてを知り尽くしているわけではない。
 深淵のように美しく純粋で底のない邪悪との邂逅が、すぐそこに迫っていることをまだ誰も知らない。
 ハルケギニアの戦士たちとウルトラマンたちを翻弄する、短いが熾烈な戦いが、もう間もなく始まる。
 
 
 続く

88 ウルトラ5番目の使い魔 あとがき ◆213pT8BiCc :2017/09/08(金) 12:33:12 ID:EofJgLJk
今回は以上です。
ギーシュはけっこうスピンオフも作れる名キャラクターだと思うんですよね。

89 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/16(土) 17:55:24 ID:hTCLJjSU
5番目の人、乙です。私の投下を行わせていただきます。
開始は17:58からで。

90 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/16(土) 17:58:16 ID:hTCLJjSU
ウルトラマンゼロの使い魔
第百五十六話「輝ける明日へ」
邪神ガタノゾーア
超古代尖兵怪獣ゾイガー
超古代怪獣ゴルザ(強化) 登場

 ブリミルを初めとした、村の人間たちは黄金色に輝く巨大なティガ、グリッターティガを
見上げて、その神々しい立ち姿に唖然と目を奪われていた。しかし一番驚いているのは、
誰であろう、グリッターティガを生み出したブリミルであった。
「ち、ちょっとブリミル! あんた一体何したの!? ウルトラマンが大きくなって、全身
金ぴかになったわよ!」
 サーシャが泡を食って尋ねかけても、自分の杖を見つめたまま首を振るだけだった。
「わ、分からないよ! ぼくにも分からない……。だけど、ぼくの杖から出た光がウルトラマンを
あの姿に変えたのか? 今の光は……?」
 そして才人もまた、今の己の身体を見下ろして驚愕していた。
『この姿は、六冊目の本の世界で変身したのと同じ……いや、今度は身体がでっかくなってる!』
 トリステイン王立図書館での事件のことを思い出す才人。あの時、六冊目の世界で、自分と
ゼロは七人のウルトラ戦士とともにグリッターヴァージョンとなった。ウルトラ戦士の光が
限界以上に達した時に変身することが出来る、究極の姿だ。
 しかしそう簡単になれるものではない。本来なら何百人、何千人以上もの人間の光が集まる
ことでようやく変身可能となるもの。しかし今は、明らかにブリミル一人の力でグリッター
ティガとなった。いくら何でも、たった一人の人間の光で変身するとは、起こり得るもの
だろうか。しかし現実にこうなっている。
「プオオォォォォ――――――――!!」
 考え込んでいる才人だったが、ガタノゾーアの咆哮によって意識が現実に引き戻された。
『いや、今は戦いに集中するべきだな!』
 ティガがぐっと腕を脇に引き締めると、カラータイマーを中心に光のエネルギーが集まる。
そして、
「ハァッ!」
 ガタノゾーアへ拳を突き出す。ただのパンチにも関わらず、光がほとばしってガタノゾーアに
直撃した。
「プオオォォォォ――――――――!!」
 その一撃によって、ガタノゾーアの巨体が軽々と吹っ飛ぶ!
「おぉぉッ!」
「すごい!」
 ブリミルたちはグリッターティガの攻撃の威力に一斉に感嘆した。
「ハッ!」
 続いてキックを繰り出すティガ。これも光が放たれ、ガタノゾーアの闇の衣を剥いで深い
ダメージを与える。
「プオオォォォォ――――――――!!」
 先ほどまでは全く攻撃が通用せずに一方的にいたぶられていたティガだったが、一転して
まばゆい光が暗黒を照らし出していく!
『一気に決めてやる!』
 相手が動けない内にティガは両腕を前にピンと伸ばし、左右に開いていく。ゼペリオン光線の
構えだ!
「ハッ!」
 L字に組んだ腕から発射される、ゼペリオン光線を超えたグリッターゼペリオン光線が
ガタノゾーアに直撃した!
「プオオォォォォ――――――――!!」
 全身から火花が飛び散り、致命傷を負うガタノゾーア。しかしティガは完全に闇を祓うために、
最後の攻撃を行った。
「タァッ!!」
 エネルギーを全てカラータイマーに集めて解き放つ、タイマーフラッシュスペシャル!

91 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/16(土) 18:00:23 ID:hTCLJjSU
「プオオォォォォ――――――――……!!」
 その光によってガタノゾーアは消滅していき、同時に闇も晴れて消え失せた。空は本来の、
澄んだ夜空に戻る。
「やったッ!」
「あの大怪獣をやっつけた!」
「俺たちは助かったんだ!」
 ウルトラマンティガの勝利によって人々の心からは恐怖が完全に取り払われ、皆一斉に喜びに
沸き立った。サーシャとブリミルも笑顔となって、ティガへ大きく手を振る。
「ありがとう、ウルトラマン! 恩に着るわ!」
「本当にありがとう! そして、これからもぼくたちに力を貸してほしい! ぼくたちも、
必ずこの世界に平穏を取り戻してみせるから!」
 未来への希望に溢れるブリミルたちの姿を見下ろした、まさにその時に、才人の視界が
急激に薄れていった……。

「はッ!?」
 才人が気がつくと、目に飛び込んできた光景は夜空ではなく、薄暗い天井だった。
 身体を起こすと、自分がベッドに寝かされていたことを知った。周りは板壁の薄暗い部屋。
見覚えはない。ロマリアの大聖堂でもないようだ。一体どうなっているのか。
「……まさか、今までのこと全部、夢だったのか? でも、随分生々しかったけど……」
「お目覚めかい?」
 思わず独白すると、すぐ横から椅子に腰かけているジュリオに声を掛けられた。
「わ! お前、どうしてこんなところに! ……いや、今はそんなこといいか」
 才人は己の記憶を手繰り寄せ、今一番に確かめなければいけないことをジュリオに問いかけた。
「ここはどこなんだ?」
「アクイレイアの街だよ」
「それって、教皇聖下の記念式典とかを行うっていう……。でも、どうして寝かして連れて
きたんだ? 逃げ出すとでも思ったか?」
「いや、そうじゃない」
「まぁいい。それより、ガリアはどうした? やっぱり手を出してきやがったか?」
「たった今襲われてるところだよ」
「何だってぇ!?」
 跳ね起きる才人。ジュリオは現況を説明する。
「ガリアから飛来した怪獣群が、我がロマリア連合皇国に攻めてきた。今現在、国境では
激しい戦闘が繰り広げられている」
「何だと? ギーシュはルイズは?」
「彼らは既に投入されたよ」
「こ、こうしちゃいられねぇじゃねぇか!」
 才人はすぐにドアに取りついたが、鍵が掛かっていて開かなかった。
「おいジュリオ! 開けろ!」
「まぁ、そう焦るな。その前に、きみに確認を取らなければいけないことがある」
「何言ってんだよ! あいつらが戦ってるんだろ!」
「すぐ済むから聞けって。まず、きみを眠らせたのはルイズだ。彼女はきみを故郷に帰らせたと
話したが、この通りきみはまだここにいる。この戦いの後にそうするつもりだったのだろう。
その手段は……知らないけど、きみ自身の気持ちはどうなのかって思ってさ」
「俺の気持ち?」
「つまり……こういうことさ」
 立ち上がったジュリオが鍵を外し、扉を開く。その先はごく普通の居間なのだが……
一つだけ普通でないものが、才人を待ち受けていた。
「……」
 キラキラ光る、鏡のような形をした物体。それは、ゲート。先ほどの六千年前の夢の中で目にしたばかりで
あり、そうでなくても才人にとって忘れられないもの。このハルケギニアに来ることになったきっかけ、
何もかもの始まりである……。
「何でこれが……」

92 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/16(土) 18:03:37 ID:hTCLJjSU
「ワールド・ドアです。あなたの世界と、こちらの世界をつなぐ魔法です。先日の担い手同士の
会合で、新たに目覚めました」
 居間にはもう一人、ヴィットーリオがにこやかに微笑みながら才人に呼びかけてきた。
「ミス・ヴァリエールの意思だけでなく、あなたご自身が故郷へ帰られたいのならば、その
ゲートに飛び込んで下さい」
「帰れる訳ないじゃないですか! ルイズが戦っているというのに!」
「そう答えを急がずに。あなたのためにも、わたしたちのためにも、この部分ははっきり
させなければならないのです。特に危急時にこそ、人の本心が出るものです」
 才人は頭ではルイズたちのところへ向かわなければいけないと思いながらも、ゲートから
見える光景に目を吸い寄せられていた。
 何故ならその光景は、今となっては懐かしい、夢にまで見た自宅のものだったからだ。
台所には、今すぐにでも無事を報せたい母親の姿まである。
「ご安心を。向こうからは、こちらの様子は見えません。ゲートは一方通行ですから、くぐる
ことも出来ません」
「けれど、聖下の精神力が持続なさるのも十数秒ほど。早く決断するんだ、兄弟」
 目に飛び込むのは、日本にいたら至極当たり前の景色。しかし今の才人にとっては如何なる
場所よりも魅力的なもの。思わず一歩を踏み出した才人だったが……。
 その足は、踏みとどまられた。
「俺の剣と“槍”はどこだ」
「いいのかい? もしかしたら、最後のチャンスになるかもしれないのに」
「同じことを言わせるな。俺の剣と“槍”はどこだ。俺は、ルイズたちを助けに行く」
 今すぐに地球へ帰りたい気持ちがないと言えば嘘になる。しかし、そうしたら二度とここには
戻ってこられないかもしれない。そうなったら、この地で仲間たちと築いてきたものが全て『嘘』に
なってしまうかもしれない……。故に才人は踏みとどまったのだ。
 そして後ろに振り向いた才人は、背後を取っていたジュリオがほっとしたように拳銃を
下ろしたのに気がついた。
「勘違いするなよ。ぼくたちが必要とするのは、きみの左手に書かれた文字であって、決して
きみじゃないということを」
「お前……」
 ジュリオは珍しく真剣みを帯びた。
「おめでたい奴だな。異世界に戻ればルーンが消える? 生憎と、そこまでぼくたちの“絆”は
便利に出来ちゃいない。使い魔でなくなるルールは一つ、“死”だけだ。そうとも。ぼくたちは
“必死”なんだ。そのためには、何だってやる。覚えておけ兄弟、ぼくたちの“拠り所”は“主人”
じゃなきゃいけないんだ。そうじゃなかったら、絶対に聖地は奪回できない。次にまた姿を
くらまそうものなら、今度こそ殺す。忘れるな」
 才人は怒りに震えながら拳を握り締め、ジュリオに振りかぶった。ジュリオは笑みを浮かべた
まま、避ける素振りも見せずに拳を受けた。派手に吹っ飛び、ドアにぶち当たる。
 倒れたまま才人へ告げた。
「この建物を出た目の前に倉庫がある。そこにきみの“槍”が置いてあるよ」
 すぐに飛び出していこうとした才人だったが、不意に立ち止まってヴィットーリオへ言った。
「聖下」
「何でしょう?」
「もう一回だけ、扉を開いて下さい。指一本くぐる程度の奴でいいんだ。そんぐらいは
いいでしょう?」

「グガアアアア! ギャアアアアアアアア!」
 ルイズたちは、瞬く間にゴルザによって蹴散らされて絶体絶命のまさに崖っぷちにまで
追いつめられていた。無理もない。ロマリアから貸し与えられた兵隊は全員、ゴルザの脅威に
とっくに遁走し、残ったのは十数名程度の生身のオンディーヌだけ。それだけでは精神力の
限りに呪文を撃ち尽くしても、とても怪獣に敵うものではない。ルイズの“虚無”も、呪文を
唱える暇もなかった。
『うわあぁぁぁぁぁぁッ!』
『ぐわぁぁぁッ!』

93 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/16(土) 18:06:10 ID:hTCLJjSU
 ウルティメイトフォースゼロもまた、こちらを助けるどころか自身らが風前の灯火であった。
ウルトラマンゼロが石にされてしまい、ガタノゾーアが加わった怪獣軍団が圧倒的な戦闘力で
残る三人をねじ伏せたのだ。
 ガタノゾーアが虎街道を突破してくるのも時間の問題。最早ルイズたちに勝ち目はないのだが……。
「ルイズ! 逃げろ!」
 ゴルザの光線によって吹き飛ばされ、倒れたまま動けないギーシュが叫んだ。ルイズは
ゴルザを目の前にしながら、杖を握り締めたまま逃げようとしないのだ。
「逃げられないわ、わたしだけは……! わたしが逃げ出したら……サイトにどう顔向け
するっていうのよ……!」
 ルイズは己に言い聞かせた。才人の意思を無視して彼を故郷へ送り帰す選択をした自分が、
彼が守ろうとしてくれたこの世界を見捨てることなど出来やしない。たとえここで散ることに
なったとしても、最後まで戦うことをあきらめては……!
「グガアアアア! ギャアアアアアアアア!」
 そうは思っても、足を振り上げて自分を踏み潰そうとしてくるゴルザの前に心が恐怖で
塗り潰されてしまい、杖を振る手も止まっていた。
 わななくルイズは反射的に、もう叫ばないと決めた言葉を叫んでいた。
「サイト! 助けて!」
 その刹那――ゴルザの支えとなっている足が、地面の下から突き出てきた鈍色の円錐の
ようなものに突き上げられ、ゴルザの身体がバランスを崩して傾いた。
「グガアアアア!!」
 派手に転倒するゴルザ。これによりルイズは踏み潰されずに済んだ。
「え……?」
 驚愕するルイズの目の前に、円錐が地面の下から真の姿を晒す。それは才人がカタコンベで
見せらせ、コルベールたちの強力の下にアクイレイアまで移動させられたマグマライザーだ!
 そしてハルケギニア人の誰も操縦方法を知らないマグマライザーを走らせることの出来る
人間は、ただ一人しかルイズには思いつかなかった。
「サイトッ!!」

「全く、ほんと馬鹿だなあいつ……。あんな状況になったらとっとと逃げろよ」
 マグマライザーのコックピットで、操縦桿を握る才人が毒づいた。彼がジュリオに言われた
通りに倉庫に向かうと、そこで待っていたのはこのマグマライザーと整備をしてくれたコルベールに
タバサ、キュルケ。彼らからマグマライザーを預かると、地中を移動してまっすぐにこの虎街道に
まで駆けつけたのだ。
 そして起き上がるゴルザへレーザー光線を浴びせながら挑発。
「ほら、ノロマ野郎! 悔しかったら追いかけてこい!」
「グガアアア! ギャアアアアアアアア!」
 わざと背を向けて逃げると、転倒させられたゴルザは憤って追跡してきた。才人の狙い通りに、
ルイズたちから引き離す。この間にオンディーヌがルイズを救出して退避していった。
 安堵する才人だったが、表情はすぐに苦渋に染まる。
「思ってたよりずっと悪い状況だぜ……。まさかゼロが石にされてるなんて……」
 虎街道で待ち受けていたのは、あのガタノゾーア。他にも怪獣が数体。この状況をマグマ
ライザー一機で覆すことなど出来るのだろうか。
「けど、やるしかねぇッ!」
 決意を固めてマグマライザーのアクセルを全開にする才人。
 だが、その決意を粉砕するような攻撃が上空から降ってきた。
「ピアァ――――ッ!」
 一体のゾイガーの光弾だった。それがマグマライザーの正面の地面を穿ち、マグマライザーの
タイヤがその穴に嵌まって停止してしまう。
「しまった!」
 地底戦車のマグマライザーでも、すぐに地中に潜行することは出来ない。その隙を突いた
ゴルザの光線が直撃してしまう!

94 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/16(土) 18:08:15 ID:hTCLJjSU
「うわぁぁッ!!」
 たちまちに爆破炎上するマグマライザー!
「サイトぉぉぉぉぉ―――――――――――ッ!?」
 絶叫するルイズ。その才人は爆発にこそ巻き込まれなかったものの、あっという間に火災に
取り囲まれてしまう。文字通り進退窮まる大ピンチだ。
「くッ……! せっかく故郷に帰るのもフイにしてここまで来たんだ! こんなあっさりと
死んでたまるかぁッ!」
 それでも才人の心にあきらめはなかった。上着で火の手を可能な限り振り払いながら、
ハッチへ向かって脱出しようとする。
「俺はぁぁぁぁぁッ! 絶対にあきらめないッ!!」
 想いの限りに叫んだ、その時――急に、懐から温かい光が漏れ出し始めた。
「えッ!? こ、この光って、まさか……!?」
 まさか、と思いながらも、懐からその『光』を引っ張り出す。
 手の中にあるのは、スティック型の変身アイテム……スパークレンス!
「な、何で!?」
 疑問に思いながらもほぼ無意識の内に、才人はスパークレンスを天高く掲げた。
 翼型のレリーフが開き、光が溢れる!

「グガアアアア! ギャアアアアアアアア!」
 ゴルザは炎上するマグマライザーを完全に破壊しようとにじり寄っていく。ゾイガーも
空から接近し、内部の才人の息の根を確実に止めようとしていた。
「やめなさいッ! そんなことは、絶対させないわ!!」
 ルイズは杖を先ほどよりもずっと強く握り締め、とにかく“爆発”を起こして怪獣たちを
阻止しようとしたが……その視界に、いきなり光が溢れた。
「きゃッ!?」
「うわぁッ! 何だ!?」
 思わず顔を覆うルイズたち。
 その間に……光り輝く手刀が、ゴルザの胸を深々とかすめ切って致命傷を負わせた。
「グガアアアア……!?」
 不意打ちに対処できずにグラリと倒れるゴルザ。更に光溢れる光線が、ゾイガーも貫いて
爆散させる。
「ピアァ――――ッ!!」
 一挙に二体の仲間が撃破され、ガタノゾーアたち怪獣軍団がさすがに動きを止めた。
 そしてミラーナイトたちは、マグマライザーから飛び出した『巨人』を見やる。
『あ、あれは!?』
 銀色のボディに、赤と紫の模様と胸部を覆うプロテクター、そしてその中心に青く輝く
カラータイマーを持った、紛れもないウルトラマン! ウルトラマンティガが大地に立っていた!
「おぉぉッ!? あれはウルトラマン! ゼロ以外のウルトラマンが!」
「この状況で新たなウルトラマン!? 奇跡だぁーッ!」
「どうかぼくたちを、ゼロたちを助けてやってくれぇッ!」
 ティガの姿を認めたオンディーヌはわっと歓声を発した。しかしルイズだけは、ティガの
立ち姿をしげしげとながめ、ぽつりと小さくつぶやいた。
「サイト……!」
「――タァッ!」
 ティガはまっすぐに峡谷へ飛び込み、谷底に着地すると同時にガタノゾーアへタイマー
フラッシュを放つ。
「プオオォォォォ――――――――!!」
 渾身のフラッシュが一瞬闇を照らし出して、ガタノゾーアの目をくらませた。その隙に
ティガは、額のクリスタルからエネルギーを照射。石像にされたゼロのビームランプから
光を分け与えた。
『――はぁッ!』
 たちまちの内に石化が解け、ウルトラマンゼロは復活して立ち上がった!

95 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/16(土) 18:10:11 ID:hTCLJjSU
「やったぁぁぁ―――――! ゼロがよみがえったぞぉぉぉぉぉッ!!」
 谷底を見下ろしたオンディーヌの歓声が強まった。ゼロはティガに振り返って驚愕。
『ウルトラマンティガ!? どうしてここに……』
 聞きかけたが、その顔をよく確かめて、更に目を見張った。
『才人なのか……!』
 ティガはゆっくりとうなずき、ガタノゾーアへと構えながら向き直る。
「プオオォォォォ――――――――!!」
 ガタノゾーアの方も持ち直して、ティガとゼロへ対して触手を揺らめかせている。ゾイガーの
群れの方は、ティガの乱入によって持ち直したミラーナイトたちが食い止めてくれていた。
 ゼロもティガに合わせて、宇宙拳法の構えを取る。
『よぉーしッ! 一緒にあいつをぶっ倒そうぜぇッ!』
 ティガとゼロ、二人の光の戦士が強大なる暗黒の化身へと立ち向かっていく!
「プオオォォォォ――――――――!!」
 ガタノゾーアは触手を伸ばしてティガとゼロを迎え撃つが、ティガが素早くそれを両手
チョップで弾き返す。
「ハッ!」
「セェアッ!」
 そこにゼロがエメリウムスラッシュを撃ち込み、触手をガタノゾーアの方へ押し返した。
「プオオォォォォ――――――――!!」
 しかしガタノゾーアの触手は無数にある。それが一辺に迫ってくる!
「ハァァッ!」
 だがゼロは動じずにゼロスラッガーを投擲。渦を描くように回転しながら飛ぶスラッガーは
触手を斬りつけながら押しのける。
「ヂャッ!」
 開かれた触手の中央にティガがティガスライサーを繰り出した。更にゼロがウルトラゼロ
ランスを投げ飛ばす。
「セェェェアッ!」
 二人の刃と槍が闇を切り裂きながら飛んでいき、ガタノゾーアをかすめて裂傷を入れる。
「プオオォォォォ――――――――!!」
 初めてまともなダメージを食らったガタノゾーアが悲鳴のような咆哮を発した。
「す、すごい! さっきとは比べものにならない勢いだ!」
「あの怪物を押してるぞ!」
「何て連携の良さだ! 息ぴったりだよ!」
 ギーシュたちはティガとゼロの奮闘ぶりに感嘆。一人事情を知るルイズは、ぐっと拳を握った。
「プオオォォォォ――――――――!!」
 ガタノゾーアがティガたちを纏めて始末しようと石化光線を発射してきたが、ティガと
ゼロは即座にジャンプして回避。そのまま空中で停止してガタノゾーアを見下ろす。
 互いにアイコンタクトを取ってうなずき合うと、それぞれ腕をまっすぐ横に伸ばして
必殺光線の構えを取った。
「タァーッ!」
「デェェェェヤァッ!」
 ティガのゼペリオン光線、ゼロのワイドゼロショットが同時にガタノゾーアに命中! 
そうすることで相乗効果を生み出す合体技、TZスペシャルだ!
「プオオォォォォ――――――――!!!」
 ガタノゾーアは膨れ上がっていく光のエネルギーを抑えることが出来ず、闇が光によって
打ち消されていく!
「ピアァ――――ッ!!」
 爆発的に膨張した光はゾイガーの群れをも呑み込んで、完全に消し去った。
 光が晴れると、超古代の怪獣軍団は跡形もなく消滅したのである。
「いぃぃやぁったあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」
「勝ったんだ! 光の大勝利だぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――ッ!!」
 オンディーヌは一番の大歓声を上げて、互いに抱き合って喜び合う。ルイズも思わず口元を
抑えながら目尻に涙を浮かべた。

96 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/16(土) 18:12:28 ID:hTCLJjSU
 ガタノゾーアたちを打ち倒したティガとゼロは着地すると、向かい合って光に変わっていく。
そして二人の光が混ざり合って、一つになった――。

『……結局、元の鞘に戻っちまったなぁ』
 ルイズたちの元へと歩いていく才人の左腕には、再びウルティメイトブレスレットが
嵌まっていた。再びゼロと融合した証拠である。
「何だか、もうこれがないと落ち着かなくなったよ。次からは勝手にいなくならないでくれよ? 
ゼロ」
『悪かった悪かった! それじゃあ、これからもよろしく頼むぜ……でいいんだな? 才人』
「ああ!」
 ゼロに力強く応じた才人の元へと一番に走ってきたのはルイズであった。彼女は才人の
胸をポカポカ叩きながら言う。
「どうして来ちゃったのよ〜〜〜〜〜!」
「何言ってんだよ、俺が来なかったら死んでたくせに。というか人を勝手に帰そうとしてんじゃ
ねぇよ!」
 怒鳴られたルイズが口をもごもごさせながら、激しく泣いた。
「だって……サイトがお母さんからの手紙見て泣いてるんだもん……可哀想になっちゃったんだもん……。
わたしより、家族の方がいいんじゃないかって……そっちの方があんたは幸せなんじゃないかって……」
 才人はルイズを優しく抱き締めて言った。
「自分の幸せは、自分で選ぶ。そして俺の幸せは、多分ここにあると思うんだよ……」
 感極まって才人を抱き締め返すルイズだが、そこにゼロが口を挟んだ。
『邪魔するようで悪いが、お袋さんのことはどうすんだ? せめて無事を知らせるぐらいの
ことはしてやるべきじゃ……』
 それに才人は、微笑みながらこう答えた。
「それなら心配ないぜ。こっちからもメールを送ったんだ」
 才人の懐の通信端末には、先ほど才人が地球へと送信したメールのデータが入っていた……。

 母さんへ。

 驚くと思いますけど、才人です。黙って家を出てしまい、ほんとにごめんなさい。いや、
ほんとは黙って出た訳じゃないけど……言っても理解されないと思うので、そういうことに
しておきます。とにかく、ごめんなさい。
 メールありがとう。
 心配してくれてありがとう。
 さっき、ちょっとだけ母さんの顔が見えました。ちょっとやつれてたんで、悲しくなりました。
心労で喉が通らないかもしれないけど、ちゃんと食べて下さい。
 俺は生きてます。
 無事ですから、安心して下さい。
 俺は今、地球とは別の世界にいます。そこでウルトラマンになってます。
 信じてくれないとは思いますけど、ほんとのことです。頭がおかしくなったと
思われても仕方ないけど……ほんとです。
 その世界は、怪獣がたくさんいて大変なことになってます。俺の友達や大事な人がとても
困ってるんです。
 俺は、その人たちの力になりたいんです。
 だからまだ……帰れません。
 でも、いつか帰ります。
 お土産を持って、帰ります。
 だから心配しないで下さい。
 父さんやみんなによろしく伝えて下さい。
 取り留めなくてごめんなさい。急いで書いてますんで。
 母さんありがとう。
 ほんとにありがとう。
 ウルトラマンは大変だけど、俺は幸せです。
 生んでくれてありがとう。
 それではまた。平賀才人。

97 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/16(土) 18:13:22 ID:hTCLJjSU
以上です。
一話の中で二回死ぬガタノさん。

98 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/17(日) 19:52:01 ID:XAEoHj8Q
こんばんは、焼き鮭です。続けて久々の幕間を投下します。
開始は19:55からで。

99 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/17(日) 19:55:45 ID:XAEoHj8Q
ウルトラマンゼロの使い魔
幕間その十「歴史の真実と謎」

 ガリア王国が送り込んできた恐るべき超古代怪獣軍団は、ウルティメイトフォースゼロと
ウルトラマンティガに変身した才人の活躍によって撃滅された。しかし、これはガリアとの
真の戦いの、ほんの前哨戦でしかなかったのだ。
 ヴィットーリオは即位三周年記念式典で、ガリアへ対する“聖戦”を宣言したのだ。
「我が親愛なるロマリアの民、及び始祖と神の僕の諸君。此度は北方より来たる悪魔の軍勢が
神の遣わした戦士たちにより退けられ、この祝祭の席を開けたことは真に幸いです。……しかし
ながら、あの悪魔どもは悲しいことに、我々と同じ人間の手によってけしかけられたものなのです」
 ヴィットーリオの演説に、集ったブリミル教の信徒は一斉にどよめいた。
「その黒幕とはガリア、悪魔を操り神に仇なす異端の名はガリア王ジョゼフ一世。そうでなければ、
あの悪魔どもがガリアをただ通過してこのロマリアの地に侵攻してくる理由がありません。また、
ガリアの異端どもはエルフとも手を組み、我らの殲滅を企図しているのです」
 信徒たちに動揺が走る。ヴィットーリオの言には確たる裏づけが欠けているが、先ほど
怪獣たちの脅威に晒されて不安と恐怖のどん底にあった民たちは、その反動もあって面白い
ほどに鵜呑みにし、ガリアに対する怒りに燃え上がった。
「最早悪魔の力を行使し、我が物顔に我々の土地と生命、そして信仰を蹂躙しようとする
異端の陰謀を許してはおけません。わたくしは始祖と神の僕として、ここに“聖戦”を
宣言します」
 そのひと言により、ガリアとの戦端がはっきりと切って落とされてしまったのであった。
 ……アクイレイアのルイズたちがあてがわれた客間では、ロマリアの耳がないことを確認
してから、ルイズがそのことに対しての苛立ちをぶちまけた。
「何が陰謀を許してはおけない、よ。陰謀を張り巡らしていたのは自分たちの方じゃない! 
あんな奴の持ちかけた話に乗っかった自分を呪いたいくらいだわ!」
 ルイズの格好はロマリアから与えられた巫女服ではなく、普段の学生服だ。才人から、
地球へのゲートをくぐろうとしたら撃ち殺されていたという話を聞いた途端に、怒り心頭して
巫女服を捨てたのであった。曰く、もうこんなものに袖を通していられない、と。
「ガリア王をおびき寄せて廃位に追い込むなんてのも、こっちを乗せるための建前に
過ぎなかったんだわ。この状況こそが本当の目的……。そのために国境付近にあらかじめ
軍を配備して、ガリアを挑発した。何が“人間同士の戦火を止める”よ! そのために
戦火を起こすなんて、本末転倒じゃない! ここまで来たらエルフとの交渉なんてのも
信用ならないわ!」
 才人はヴィットーリオへの怒りを喚くルイズにうなずきながらも警告する。
「気をつけろよ。あいつらは異常だぜ。おまけにその異常さに気づいてて、しかも肯定してやがる。
一筋縄じゃいかないぜ」
「サイト、やっぱりあんたは帰るべきよ。こんな世界につき合うことはないわ。向こうは
あんたを生かして帰さないつもりみたいだけど、ゼロに変身さえしてしまえばどうしようも
出来なくなるわよ」
 改めて才人を説得するルイズだったが、才人はきっぱりと言った。
「見足りない。だからまだ、帰らない」
「何を?」
「お前の笑顔」
 そのひと言にルイズは言葉の通りに真っ赤になり、照れくさいやら嬉しすぎるやらで
ぎくしゃくとした動きをした。
 そんなところに口を挟むゼロ。
『いちゃついてるとこ悪いんだがよ』
「い、いちゃついてなんかないわよ!?」
『ガリアとロマリアのことは一旦置いておいて、そろそろ才人が見たっていう六千年前の
夢のことについて話し合おうぜ。きっとかなり重要なことに違いねぇ』
 この客間には今、ミラーとグレン、そしてミラーがシエスタから腕輪を借りてきたという
形でジャンボットもいる。彼らはこれから、才人の夢のことについて相談と会議を始めるのだ。

100 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/17(日) 19:58:25 ID:XAEoHj8Q
 話し合いの席をミラーが仕切る。
「まずはサイト、改めて確認します。あなたが見た夢というのは、始祖ブリミルと初代
ガンダールヴが出てくる内容で間違いないですね?」
「ああ」
 はっきりと肯定する才人。
「初めは単なる夢かと思ったけど、やたらとリアルだったし……それに、夢と同じように現実に
俺がウルトラマンティガに変身したんだ。今はほんとに時間をさかのぼったとしか思えねぇや。
今はもうティガに変身できないけど……」
 才人がゼロと再び融合してから、スパークレンスはいつの間にか消えてなくなっていた。
恐らく、ティガはもう自分の元からは去ったのだろう。きっと、才人を助けるという役目を
終えたからだ。
 これに意見するルイズ。
「でもおかしいじゃない。あんたの身体はずっとこの現代の時間にあったままだったんでしょ?」
「ジュリオの奴がずっと監視してたみたいだからな。あいつが嘘を言う必要はないだろ」
「それじゃあ過去に行くなんてこと出来ないじゃないの。変な言い方だけど……現代と過去の
二つの時間に、同時に存在するなんて」
 そのルイズの意見についてジャンボットが論ずる。
『これは憶測に過ぎないが、サイトは精神だけが過去へ移動したのではないだろうか』
「精神だけ?」
『そうとすればつじつまが合う。精神が今の時間にないのならば、サイトがずっと眠ったまま
だったのも当然となる』
「いや、いくら何でもそれは無理があるんじゃ……」
 半信半疑のルイズだが、ゼロはジャンボットを支持した。
『ウルトラ戦士の周りじゃあ奇跡的な出来事がよく起こるもんだぜ。俺自身、何度か経験がある』
「奇跡ってそうそう起こらないから奇跡って言うんじゃないの……?」
 冷や汗を垂らすルイズであった。
 ここでグレンが話題を切り換える。
「難しいことは分かんねぇけどよ、今重要なのはサイトが実際過去に行ったかどうかじゃ
ねぇだろ? サイトの体験したことが真実かどうかだ」
 重々しくうなずくルイズ。
「そうね……。仮にサイトの見たものが全て事実だとしたら、これはハルケギニアで語り
継がれた歴史がひっくり返るほどの大発見よ。始祖ブリミルがエルフを使い魔にしてたなんて!」
 興奮するルイズ。それはそうだ。エルフと言えば人間の仇敵であり、始祖ブリミルの最大の
敵だった悪魔。その教えが、完全に否定されるのだ。
 才人が後を引き継ぐ。
「しかも六千年前の時点で既に怪獣はハルケギニアにいたんだぜ。そしてブリミルとエルフは
一緒にそれに立ち向かってた。ほんとに、今まで聞いたことと丸っきり真逆だ」
「でも、それをどうやって事実か確かめればいいのかしら……」
「そうだ、デルフに聞いてみよう」
 才人はデルフリンガーを鞘から引き抜いた。デルフリンガーが初代ガンダールヴの得物
だったのならば、当然当時のことを知っているはずである。
「よ。伝説」
「やぁ相棒。ようやく俺の存在を思い出したってのか。全く薄情なこって」
「ごめんごめん、忙しくて気が回らなかったんだよ。それで、俺が見たものってほんとのこと? 
それともよく出来たフィクション?」
「ほんとのこったろ」
 デルフリンガーのあっさりとした肯定に、この場の全員が目を丸くした。ルイズはデルフ
リンガーをなじる。
「あんた、何でそんな大事なことを今まで黙ってたのよ!」

101 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/17(日) 20:00:31 ID:XAEoHj8Q
「黙ってた訳じゃねぇよ。忘れてたんだ。でも、相棒の言葉で思い出したんだ。そういや、
そうだったなって」
「じゃあ思い出したこと、全部話なさいよ!」
「無理だよ……。何せ断片的でな。つまらねぇことなら割と思い出せるんだが、肝心なことは
サッパリさ」
「ブリミルさん、何かニダベリールとか名乗ってたよ」
「多分、若い頃の名前だな。そん時は俺はまだ生まれてなかったから知らねえけど」
「そういや、あの時お前はどこにもいなかったな」
 相槌を打つ才人。ここでミラーが一旦注目を集める。
「これで裏づけが取れましたね。サイトが見たものは真実だった。……ですが、そうとすると
別の疑問が生じます。それは、何故その内容が今の世に全くといっていいほど伝わっていないのか」
「だよなぁ〜。怪獣が元々この星にいたなんて話、今ここで初めて聞いたぜ」
 腕組みしながらうんうんとうなずくグレン。中にはソドムのように伝説の巨竜という形で
存在が言い伝えられていた例外もあるが、そんなのは極一部だ。ゼロたちはこれまでずっと、
ほとんどの怪獣たちは次元震の影響でハルケギニアに侵入したものだと思っていた。
 ジャンボットは言う。
『正確には、元からいた訳でもない。六千年前、ブリミルたちとほぼ同時期にどこかから
出現するようになったみたいだな』
「そのどこかってどこだよ」
『それが分からないから、今こうして話し合っているのだろうが』
 グレンに手厳しく突っ込むジャンボット。ミラーは顎に指を掛けて考え込んだ。
「始祖ブリミルは元々ハルケギニアの民ではなかったのですよね。“虚無”の力で、どこかから
移住してきた……。それと怪獣の出没が同時というのは、無関係ではない気がします。始祖の
元いた土地とはどこなのか……それが分かれば答えに一気に近づけるのでしょうが」
「でも始祖ブリミル降誕の地、つまり聖地はエルフに牛耳られてて、近づくことすら出来ないのよね」
 ため息を吐くルイズ。その聖地を取り戻すことが、ヴィットーリオの最終目的のようだが。
 ゼロがミラーに提案する。
『ミラーナイト、お前の能力で探りを入れられねぇか? 鏡の世界からエルフの土地を覗き込んでさ』
「やってみましょう」
「俺としては、怪獣もそうだけど、ウルトラマンが六千年前のハルケギニアに来てたって
ことの方が興味あるな。それも一人や二人じゃなかったみたいだぜ」
 才人が少しわくわくしながら言った。それに同意するゼロ。

102 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/17(日) 20:02:52 ID:XAEoHj8Q
『俺も同じウルトラ戦士として興味深いな。けど、それも怪獣の存在と同じように伝承されて
ないみてぇだな』
「一応、始祖ブリミルの伝説には、始祖は神の遣わした天使とともに悪魔と戦ったとあるわ。
わたしはずっと、悪魔っていうのはエルフのことだと思ってたけど……」
 顔をしかめるルイズ。ここまでの話から考えるに、悪魔の正体とは怪獣だったのだろう。
「でも、この程度の表現でしか言い伝えられてないってのはちょっと奇妙よね。いくら六千年の
隔たりがあるとはいえ、もうちょっと具体的に伝承されてても良さそうなものなのに」
 とのルイズの言葉に、ミラーはしばし考え込んでから、言い放った。
「もしかしたら、長い時間の中で自然に忘れられたのではなく、何者かが情報を隠蔽したの
ではないでしょうか。だから後世に正しい形で伝わらなかったのでは」
「えぇ!?」
「そもそも始祖の祈祷書、“虚無”の呪文書も、指輪がなくては読めないという注意書きが、
読めない文の中に含まれていたのでしょう。普通、そんな致命的なミスをすると思いますか?」
 内心同意するルイズ。これまでもいささか妙なことだとは思っていたが……誰かが“虚無”を
目覚めさせないように、そのように細工したとするなら納得できる話だ。
「デルフリンガーもほとんどのことが思い出せないのも、ひょっとしたら記憶を封じられて
いるからかもしれません」
「ってことはこいつをいじったり何かしたら、記憶が一辺に思い出させられるかもしれねぇってか?」
「おいおいやめてくれよ。変なことすんのはさ。頭はねえが頭ん中いじくられんのはさすがに
御免だぜ?」
 グレンの提案を拒否するデルフリンガー。ジャンボットも同意する。
『デルフリンガーは生物でも、電子頭脳でもない。私たちには未知の力で生命を維持している。
下手なことをしたら、デルフリンガーという存在そのものが消えてしまうかもしれん。危険すぎる』
「だよなぁ。さすがに仲間の命に代えられることじゃねぇや」
 デルフリンガーの記憶を無理に呼び覚ますという手段は却下される。しかしそうすると、
現状ではこれ以上謎に近づく道はない。
 議論が煮詰まってきたところで、ゼロが取り仕切った。
『これ以上俺たちで話し合ってても先には進まねぇ。この先ハルケギニアでの冒険を続けりゃ、
答えに近寄れるものも見つけられるだろう。それまでは放置だ』
「そうね。とりあえずは、今目の前にある問題を解決するところから始めましょう」
「ああ。まずはガリアをぶっ倒して……それからロマリアの聖戦とやらを止めてやるんだ」
 ゼロの出した結論にルイズ、才人と賛成し、全員の気持ちが一致した。
 これから彼らは、再び起こってしまった戦乱と、争いを引き起こす目論見を阻止するために
行動することを、ここに決意したのであった。

103 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/17(日) 20:04:02 ID:XAEoHj8Q
ここまでです。
ガリア編もいよいよ終局が見えてきました。

104 名無しさん :2017/09/19(火) 17:42:54 ID:rN4rAlWU
乙ー

105 ウルトラ5番目の使い魔 ◆213pT8BiCc :2017/09/20(水) 12:51:19 ID:eipzXTp6
ウルゼロの人、乙です。
そしてこんにちは。ウルトラ5番目の使い魔、65話ができました。
投稿を開始しますので、よろしくお願いします。

106 ウルトラ5番目の使い魔 65話 (1/14) ◆213pT8BiCc :2017/09/20(水) 12:56:08 ID:eipzXTp6
 第65話
 剣下の再会(前編)
 
 殺戮宇宙人 ヒュプナス 登場!
 
  
 謎の宇宙人の手により、書き換えられた舞台となったハルケギニア。
 そこでは彼によって、今日もなんらかの陰謀が進められている。
 しかし、忘れてはいないだろうか? この世界には、数々の災厄の発端となったあの侵略者がまだ健在でいることを。
 そして、奴は当然他人の事情などを鑑みたりなどしない。腐肉にたかるハゲワシやハイエナが譲り合うことなどしない。
 
 
 『それ』が、いつハルケギニアにやってきたのか。そんなに昔の話ではない。
 『それ』は、ハルケギニアが破滅招来体によって闇に閉ざされている時期のいずれかに、嵐に包まれる聖地から現れた。
 『それ』は、巨大な宇宙船に乗ってやってきた。
 送り込んできたのはヤプール。奴は、まだ動けない自分に代わって、ハルケギニアに混乱を巻き散らすエージェントとして『それ』と契約し、送り込んだのだ。
 しかし、『それ』が底に秘めた邪悪を、ヤプールさえまともに理解しているわけではなかった。
 悪は正義の敵となる。しかし、悪が悪の味方となるとは限らない。『それ』が誰を傷つけ、誰を利するのか、
 そして時が経ち、解き放たれた美しき殺戮者の魔の手によって彩られる、短くも真紅に満ちた日々が始まろうとしている。
 これは、物語の大筋のほんのすきまに挟まれた、悪夢のような数週間の記録。その始まりである。
 
 
 トリステイン魔法学院の遠足や、トリスタニアを騒がせた三面のバカどもの騒動からもしばらくして、トリステインは再び平穏な日々を送りつつあった。
 だがその影で、無視できない凶事が進行していることを、新聞の一面を見た市民は暗然とした思いで感じ取っていた。
「子供の行方不明事件、昨日もタルブ村で三件発生。トリステインだけでも、これで二十四人の子供が突然いなくなっている……か。うちのガキにも外に出るなって言っとくか」
 ある日、なんの前触れもなく子供が姿を消す。子供を持つ家庭を震え上がらせる事件が、このところトリステインやガリアで頻発していた。
 身代金の要求などはなく、消える子供も貴族や平民を問わずに、子供であるという共通点以外はない。
 
 もちろん、こういった事態を官憲が見逃すわけはない。近年禁止になった奴隷取引の密売目的と見て、すでに水面下では動き始めている。
 しかし、敵もさるもので、いまだに誘拐団の検挙にはいたっていない。しかし、少ない手がかりを元に、少しずつ捜査の網を絞り込んでいっていた。
 そして、その捜査をおこなう人間たちの中に、青髪の女騎士の姿もあった。
「では、お子さんを最後に見たのは三日前の……わかりました。ご協力感謝します」
 ある村で、突然息子が消えた家での聞き込みを終えて、浮かない様子で彼女は出てきた。

107 ウルトラ5番目の使い魔 65話 (2/14) ◆213pT8BiCc :2017/09/20(水) 13:01:27 ID:eipzXTp6
 ここもほかと同じで、目ぼしい手がかりはなかった。だがそれ以上に、憔悴しきった様子の両親の姿が痛々しかった。目を腫らして、恐らく子供がいなくなってからろくに寝ていないに違いない。
 しかし、捜査に進展がないというわけではなかった。彼女の手には、真新しい報告書の写しが握られていて、それには約一年半ほど前に解決したはずの、ある事件の顛末が記されていた。そして、その首謀者の名前に目をやったとき、彼女の眉が不快気に揺れた。
「やはり手口が似ている……今さら出てきて今度は何をしようというんだ。それともお前、まだあの頃の遊びの続きをしているつもりなのか……?」
 書類をしまい、彼女は歩き出した。まだ、どこの衛士隊も犯人の足取りさえ掴めていない。しかし、彼女の足取りには迷いがなく、やがて彼女の姿は真夏の陽炎の中に消えていった。


 
 そんなある休日のことである。才人はルイズやティファニアとともに、トリスタニアにある修道院の孤児施設を訪れていた。
「あっ、テファお姉ちゃんだ。おーいみんな、テファお姉ちゃんたちが来てくれたよーっ!」
 子供の元気な叫び声が施設にこだまして、たいして大きくもない施設から子供たちがわっと飛び出してきた。
「テファおねえちゃん!」
「わーい! テファおねえちゃんだ」
「みんな、ただいま。いい子にしてた?」
「はーい!」
 子供たちは、親同然に慕っているティファニアがやってきたことで、踊るように喜んで集まってきた。
 その子供たちに、ティファニアや才人は手にいっぱいに持ったお菓子やおもちゃなどのお土産を差し出した。たちまち群がる子供たちの手に奪われて、才人たちの手は空になる。
「みんな、久しぶりだな。元気してたかよ」
「うん、サイトおにいちゃんたち、ありがとう」
 クッキーを手にした子にお礼を言われて、才人はまとまりの悪い髪をかいて照れた。
 この施設の子供たちのほとんどは、才人やルイズにとっても見慣れた相手だ。彼らはウェストウッド村にティファニアといっしょに住んでいたが、ティファニアがガリアにさらわれた際に子供たちだけで村に残すのは危険だと判断してトリステインへ連れてきた。その後も、何もない森の中よりは人のいる場所で生活させたほうが子供たちの将来にとって望ましいということで、この施設に預けられたのである。

108 ウルトラ5番目の使い魔 65話 (3/14) ◆213pT8BiCc :2017/09/20(水) 13:02:22 ID:eipzXTp6
 もちろん、子供たちはティファニアと離れ離れになるのはつらかった。しかし彼らは健気にも聞き分けて、慣れない土地での共同生活を受け入れた。そして、彼らが楽しみにしているのが、ときおりのティファニアの訪問なのである。
「オッス、サイトのあんちゃん。テファねえちゃんに手ぇ出してないだろうな」
「ようジム、お前も元気そうだな。前より背が伸びたか? てか太ったかコラ」
「やべっ、やっぱそう見えるかい。まじいなあ、最近メシがうまくってついつい……これじゃテファねえちゃんに見せられないよ」
 少年のひとりと憎まれ口を叩きあいながら才人は笑った。子供たちはみんな血色がよくて元気そうだ。ウェストウッド村で遊んだ時と変わらないわんぱくっぷりは、彼らがこのトリステインになじんだ証なのだろう。
 また、ルイズはこの修道院の管理人である老神父と和やかに話していた。
「ありがとうございます、貴族さま。遠路お越しいただきまして、おかげで子供たちもとても喜んでおります」
「かまわないわ。わたしにとっても浅い仲じゃないもの。あはは、サミィにマリー、後で遊んであげるから、今は神父様とお話があるから、ちょっと我慢してね」
 子供のパワーには、さすがのルイズもたじたじであった。そんなルイズに、しわだらけの顔をした老神父が穏やかに話しかけてくる。
「皆、元気で素直で、健やかに育ってくれております。よほど、あの子たちを育てたティファニア殿の教育がよかったのでしょうな。私共としても、あの子らが育つのを見るのが楽しくて仕方がない毎日なのです」
「そうね。この子たちが大きくなれば、きっとトリステインはいい国になるわ。それより、運営費のほうは大丈夫? もし足りないなら、女王陛下に上申してあげるけど」
 孤児院は主に教会の寄付などで運営されているため、正直安定しないのが実情だ。ほかにロングビルことマチルダも資金を出してはくれているものの、子供を育てるには本当に金がいくらあっても足りないものだ。幸い、ここは神父様がよくできた方なので子供たちの教育については心配ないけれど、金銭についてはロングビルが今でも不安を感じていることはルイズも知っていた。
 けれど神父様はにこやかに首を振った。
「いいえ、実は最近ゲルマニアのお金持ちの方が援助をしてくださるようになったので、今では子供たちにお腹いっぱい食べさせることができております」
「ふーん、ゲルマニアにも奇特な奴がいるのねえ。キュルケに爪の垢を煎じて飲ませたいものだわ」
 ルイズは素直に感心した。ゲルマニアの金持ちといえば守銭奴のイメージが強いが、中には例外もいるものだ。
 だが、これでアンリエッタに余計な心労をかけさせないですむのはありがたい。ルイズはたまにアンリエッタに送る手紙の中で、市政の様子を簡単でもいいから報告してほしいと頼まれていた。今回、ティファニアに付き合ってここに来たのもその一環で、トリステインの財政は現在安定しているけれど、あらゆる場所を満足させるのは不可能だ。当然、どこかでゆがみが生じるため、そこに民衆の不満が集まることになるのだが、どうやら次に出す手紙に心苦しいものを書かなくてもよさそうでほっとした。
 しかし、老神父は少し顔を曇らせると、ルイズにだけ聞こえる声で不安を口にした。
「ただ、心配なのは最近新聞を騒がせている誘拐事件です。もうかなりの数の子供が消えていると言いますし、我々も心配で」
 するとルイズも顔を曇らせた。
「そうね。どこの誰かは知らないけど、性根の腐った奴がいるものね。わたしが見つけたらトリステインから叩き出してやるところだけど、犯人が捕まるまでは子供たちから目を離さないほうがいいわね」
「おっしゃるとおりです。ですが、なにぶんみんな遊びたい盛りの頃。大人の我々では抑えきれないものがありましてなあ。よいことなのですが、複雑なことです」

109 ウルトラ5番目の使い魔 65話 (4/14) ◆213pT8BiCc :2017/09/20(水) 13:03:50 ID:eipzXTp6
 確かに、子供たちのパワーはすごいものだ。真面目に考え込んでいたルイズの前で、才人が悲鳴をあげながら、あっちからこっちへと引っ張られていく。ウェストウッド村のときと変わりない光景に、ルイズの頬も緩んだ。
「あはは、あれじゃサイトが一番のおもちゃね。テファ、サイトを助ける必要なんかないわよ。無駄に頑丈だからその程度じゃ死にゃしないって」
「お、おいルイズ、そりゃねえって! いてて!」
「なに言ってるの。テファにいっしょに来ないかって誘われて、即答したのはあんたでしょうが。もうしばらくそこで遊ばれてなさい」
 にべもないルイズの言葉に、才人は悲鳴をあげながら子供の波の中へと消えていった。
 とはいえ、ルイズのほうもいつまでも高みの見物とはいかず、何人かの子供に誘われると仕方なくついていった。そこで、女の子に編み物を教えようとして毛糸玉を作り、逆に教えられて顔を赤くしているのはルイズらしいと言うべきか。
 しかし、子供たちに翻弄されながらもティファニアだけでなく、才人やルイズの表情は明るい。ちびっこと遊ぶのが大好きというのは全宇宙のウルトラマンたちの共通点かもしれない。
 
「つ、疲れた」
 しばらくしてやっと解放された才人は息をついた。下手な訓練やドンパチよりよほど体力を使う、これを日常的にやってるんだから子供というのはたいしたものだ。
 教会の古ぼけた椅子に座って才人が休憩していると、そこにとことこと一人の少女が寄ってきた。
「サイトおにいちゃん、大丈夫?」
「ん? おっ、アイちゃんか。元気そうだな、みんなと仲良くしてるか?」
「うん、男の子たちはアイの子分なんだよ。いつかアイの騎士団を作って、おじさんに見せてあげるんだ。えっへん」
 小さな胸をはる少女を、才人は優しく頭をなでてあげた。
 才人にとって、この幼い少女の成長を見届けるのは感慨深いものがある。今となっては懐かしい思い出になるが、自分がハルケギニアに来て間もない頃の事件で、彼女と彼女の育ての親であったミラクル星人をテロリスト星人の魔の手から救い出したことがある。その後、星に帰ったミラクル星人からこの少女、アイを引き取り、ティファニアのところに預けて成長を見守ってきた。
 アイは才人になでられて、うれしそうに笑った。それに釣られて才人も笑みを浮かべる。兄弟のいない才人にとって、アイは年の離れた親戚の子のような存在であった。
「おじさんと会えなくて、寂しくないか?」
「うん、少し……でも、アイが寂しがってるとおじさんが安心してお星さまに帰れないもの、我慢するの。それに、今はみんながいるし、サイトお兄ちゃんたちも会いに来てくれるもん」
「そっか、偉いねアイちゃんは。ほんと、ルイズもこれくらい素直なら可愛げがあるんだがなあ」
「あーっ、いけないんだいけないんだ。ルイズお姉ちゃんに言っちゃうぞ」
「げげっ、それは勘弁してくれ。ほら、飴あげるから」
「わーい」
 子供は意外とリアリストなもので、大人を出し抜く術をいくらでも知っている。才人は、冷や冷やしながらポケットの中に菓子を残していた自分の賢明さを褒めたたえていた。

110 ウルトラ5番目の使い魔 65話 (5/14) ◆213pT8BiCc :2017/09/20(水) 13:07:35 ID:S9iHivT2
 教会の中にいるのは、休憩に入った才人とアイだけで、涼しい空気が流れてがらんとしている。掃除が行き届いているようで清潔なものだが、子供たちの遊び場にもなっているようで、ところどころの椅子が乱れていた。
「みんなといっしょに遊ばなくていいのか?」
「うーん、ちょっとくたびれちゃった。だってみんな子供なんだもの。でもアイは大人だから、サイトおにいちゃんをおもてなししてあげるの」
「はは、ありがとうな」
 才人はもう一回、アイの頭をなでてあげた。
 精一杯背伸びをする子供というのはかわいいものだ。才人にも、あまり思い出したいものではないがこういう時期があった。もっとも、今でも抜けきったわけではないが、人間は自分以外のことはよくわかるものだ。
 耳をすませば、子供たちの遊ぶ声がまだ教会の外から聞こえる。ティファニアはひっぱりだこだろうし、ルイズのヒステリーを起こす声が聞こえるところからすると子供に負けてむきになっているようだ。
「ありゃあ、今は近寄らないのが身のためだな」
「じゃあ、お兄ちゃん。こっちに来て、おもてなししてあげるから」
「おっ、なにかななにかな?」
 才人はアイに手を引かれて教会の裏手に入っていった。
 子供たちや職員はほとんどが庭のほうへ行ってしまったようで、人気のない廊下を走ってゆくと、そこには素晴らしい光景が広がっていた。
「ひゃあ、教会の裏庭はひまわり畑だったのか」
 驚く才人の前に、太陽の畑が広がっていた。
 夏の日差しに照らされて、背の高いひまわりが何百と空へ向かって伸びている。そのまぶしい光景を誇らしげに、アイは才人に語って聞かせた。
「むふん、ひまわりはね。そのまま売ってもいいし、種をとって油を搾れば売れるしで、教会のうんえーひになるんだって。ついでに、わたしたちのじゅーそーきょーいくにもいいんだって、神父様が言ってた」
「そうなのか。おれなんて、小学校の頃にハムスターのエサにしたくらいしかしてないのに、みんな偉いな。それで、これをおれに見せたいのがおもてなしかい?」
「ブッブー、こっちに来て。奥の小屋で、ひまわりの蜂蜜から作ったジュースを作ってるの。サイトお兄ちゃんにだけ、特別に飲ませてあげる」
「おっ! そりゃ楽しみだ」
 喉が渇いていた才人は一も二もなく飛びついた。
 ひまわり畑の中の道をアイに手を引かれてついていく。途中で何匹もの蜂とすれ違ったが、何百という花の中では人間なんかどうでもいい様子で八の字ダンスを踊っていた。
 目的の小屋は畑の奥にあり、人の背より高くなったひまわりにさえぎられて、近くに行かなければ見えないものだった。

111 ウルトラ5番目の使い魔 65話 (6/14) ◆213pT8BiCc :2017/09/20(水) 13:20:54 ID:S9iHivT2
 アイはこっそり持ち出していた小屋の鍵を取り出し、待っててねと笑う。ところがである。小屋の影から、ひそひそと誰かの話し声が聞こえてきた。
「だから……よし……いいぞ」
「これで……終わり……やっと」
 野太い男の声。しかも二人……才人は一瞬、教会の職員の誰かかと思ったが、その身に沁みついた経験から無意識に警戒態勢に入り、そっと小屋の裏をうかがった。
「サイトお兄ちゃん?」
「しっ、ちょっと静かにしてて」
 何がとは言えないが、嫌な予感がしてならない。そして小屋の壁に隠れて、裏の気配をうかがうと、確かに人の気配がする。
 なんだ? ガサゴソという音がする。それに、「ずらかるぞ」という声も聞こえた。もう怪しいどころではない。才人は背中のデルフリンガーの存在を確かめると、一気に飛び出した。
 
「お前ら、そこでなにしてやがる!」
 
 飛び出した才人の大声に、隠れていた二人の男がびくりとなって振り返る。
 果たして、そこにいたのは教会の人間ではなかった。一般的な平民の服をまとっているものの、筋肉質の見るからに傭兵くずれじみた雰囲気を放つ男。ここは教会の敷地内、無許可の人間が立ち入ることはできないはずだ。
 だが、才人は二人の男が運び出そうとしていた荷物にこそ目がいった。ひとりが担いだ大きな麻袋から、子供の足がわずかに覗いていた。
「あの靴、マーちゃんだよ!」
「てめえら、最近噂の人さらいだな。覚悟しやがれ、ぶっとばしてやる!」
 激高した才人はデルフリンガーを抜いて切りかかっていった。男たちは、ここで人が出てくるとは予想外だったようで、才人の振りかざしたデルフリンガーにおびえて、担いでいた子供を麻袋ごと落としてしまった。
 とたんに、しまった、と声をあげる人さらいの男。それと同時に、アイも教会のほうへ向かって、「誰かーっ! 人さらいだよ! 早く来てーっ!」と、大声で叫ぶ。
 今の声は間違いなく届いているはずだ。すぐにルイズたちが駆けつけてくるだろう。
「ここが年貢の納め時だな。観念しろ、悪党ども!」
 才人はアイをかばいながら、うろたえている人さらいたちにデルフリンガーを突き付けた。
 だが、勝ったと思った才人はここで一瞬だが致命的な油断をしてしまった。

112 ウルトラ5番目の使い魔 65話 (7/14) ◆213pT8BiCc :2017/09/20(水) 13:21:35 ID:S9iHivT2
「んだ? ね、眠い……?」
 突然、急激な眠りが湧いてきた。才人がなんとか目を凝らしてみると、もう一人の男が杖を握っていた。
「しまった。メイジがいたのか」
 催眠の効果を持つ魔法を使われたのだということに気づいたときには遅かった。才人は立っていることができず、ひざをついてしまう。
 起きて、とアイが叫んでくるが、魔法の力をまともに受けては才人も気を失わないだけで精一杯だった。
 そして、逆転に成功した人さらいの男たちはほっと息をついて話し合った。
「アニキ、やりましたね。まさか、こんなところに剣士がいるとは。こいつ、どうしやす?」
「バカ野郎、こいつらには俺たちの顔を見られてる。ガキは捕まえろ。小僧は俺が始末する」
 人さらいたちは冷酷だった。アイに子分の男が襲い掛かって、たちまち手を取って捕まえる。アイは離してと叫ぶが、大人の力には抗いようもない。
 対して才人には、メイジの男が魔法の矢を放ったが、そこでメイジは自分の目を疑った。
「なにっ! 魔法が吸い込まれた。マジックアイテムの剣か!」
 デルフリンガーの効力で、才人に向かった魔法は刀身に吸い込まれて消えてしまった。メイジの男は動揺し、さらにそこにひまわり畑の向こうから声が響いてきた。
「サイトーッ!」
 危急を知ってルイズや神父たちが駆けつけてきたのだ。大勢の足音が近づいてくることに、人さらいたちは焦る。
「アニキ、まずいですぜ!」
「くそっ! 仕方ない、こいつらの始末は後だ。そっちの小僧も担げ! 逃げるぞ」
 才人をすぐに始末するのは無理と判断した人さらいたちは、やむを得ずアイといっしょに才人も担いで走り出した。
 教会の裏庭の先は、塀を隔てて小道になっている。彼らは塀に空いた穴から抜け出ると、そのまま先に進んだ通りに止めてある馬車に飛び込んで御者台で待っていた男に怒鳴った。
「すぐに出せ! まずいことになった」
 御者の男はそれで事態を理解したようで、即座に馬車を出発させた。
 馬車は通りから大通りに出ると、何事もなかったかのように淡々と進んでいく。馬車の形はありふれたもので、もし追っ手が馬車を見たとしても大通りで別の馬車列に紛れてしまえば発見は困難になると思われた。
 ただし、通報されてトリスタニアの出口に検問を張られたら出られなくなる。昔と違い、今は役人も少々の賄賂では動いてくれなくなった。

113 ウルトラ5番目の使い魔 65話 (8/14) ◆213pT8BiCc :2017/09/20(水) 13:24:17 ID:S9iHivT2
 しかし、人さらいたちは逃げ切れるという確信があるというふうに、悠々と馬車をある方向に走らせ続けた。
 
 そのころ、人さらいたちを見失ったティファニアやルイズたちは、やむを得ず衛士隊に駆けこんでいた。
「ああ、こんなことになってしまうなんて。サイトさん、アイちゃん、どうか無事でいて」
「落ち着いてテファ、衛士隊が動いた以上、どのみちもう犯人たちはトリスタニアからは出られないわ。サイトたちはまだ必ずトリスタニアにいる。あきらめずに探すのよ」
 必死に冷静になるように自分をはげまし、ルイズはなんとしても才人を助け出すと誓った。しかし広いトリスタニアのどこを探せばいいものか、皆目見当もつかなかった。
 教会では、神父様や子供たちが必死に二人の無事を祈り続けている。彼らにできることは、神に祈ることしかほかになかった。
 誘拐事件がトリスタニアのど真ん中で起こったことで、威信を傷つけられた衛士隊は全力で捜索を開始した。が、犯人につながる有力な情報は、日没を迎えても何一つ見つからなかったのだ。
 
 一体、才人とアイをさらった誘拐団の馬車はどこに消えたのか?
 その姿は、平民の住まうごみごみとした市街地ではなく、貴族の邸宅の並ぶ高級住宅街の中の、一軒の廃屋の中にあった。
 そこは、見捨てられてしばらく経つ廃屋。しかも買い手がつかなかったと見えて、外から見たら人がいるとはとても思えないような幽霊屋敷であった。
 馬車は門をくぐると、邸宅の庭から地下に向かって空いた入り口に入っていって姿を消した。どうやらこの家では、外観の保全のために車庫を地下に設置していたらしい。目立つ馬車を隠すには、もってこいの構造と言えた。
「おら、降りろガキども!」
 車庫の奥の倉庫で、才人とアイは乱暴に馬車から引きずり出された。
 才人は馬車に揺られていた間に魔法の効果が薄れ、ある程度は意識が戻っているものの、まだ体をまともに動かせないでいる。そんな才人に、人さらいの男は才人の手から奪ったデルフリンガーを突き付けた。
「へっへっ、余計なことしてくれたなクソガキが。おかげで俺たちは姉御に雷を落とされるのは確実だ。その前に、ぶっ殺してやるぜ、覚悟しやがれ」
「てめえら……ここは、どこだ?」
「あん? 兄貴の魔法を受けて、もう目が覚めてるとは驚きだぜ。だが、いくら助けを呼んでも無駄だぜ、ここは一族郎党フーケに皆殺しにされた貴族のお屋敷、薄気味悪くて誰も近寄りゃしねえからな」
 フーケの? なるほどと才人は理解した。ホタルンガによって皆殺しにされた貴族の邸宅を、こいつらは隠れ家にしてるわけだ。
 なんとかルイズたちに知らせないと。才人は思ったが、魔法の影響でまだ体が自由に動かない。アイが、やめて! と叫んで飛びかかったが、あっさりと振り払われてしまった。
「アイちゃん! てめえら、そんな小さな子に!」
「けっ、どうせこのガキどもも、もうすぐタダじゃすまなくなるんだ。てめえは珍しい剣を持ってるけどよ、だったらこいつで串刺しになるなら本望だろ? 死ねや!」

114 ウルトラ5番目の使い魔 65話 (9/14) ◆213pT8BiCc :2017/09/20(水) 13:26:52 ID:S9iHivT2
 男がデルフリンガーを振り上げる。そしてそのまま才人の心臓を目がけて振り下ろそうとした、その瞬間だった。
 
「ああぁぁぁぁぁぁーーーーっ!」
 
 突然、それまで黙っていたデルフリンガーが大声をあげた。
 当然、インテリジェンスソードなどと思っていなかった人さらいの男は仰天してデルフリンガーを手落としてしまった。
 乾いた音を立て、才人のすぐ前に転がるデルフ。デルフは意識混濁の才人にも容赦なく怒鳴った。
「相棒、早く俺を持て! 今しかチャンスはねえ!」
「デ、デルフ」
「早くしろ! 手を伸ばせ! そこの娘っ子がどうなってもいいのか!」
 はっとした才人は、渾身の力で手を伸ばし、デルフを掴み上げた。その感触で意識が完全に戻り、雄たけびをあげながら立ち上がって男に斬りかかっていく。
「うおぉぉぉぉっ!」
 どのみち体が本調子ではないので、力任せのチャンバラだ。男は迫ってくる才人に、懐からナイフを取り出して応戦しようとしたが、才人の気迫とスピードが一瞬勝っていた。
「でありゃぁぁぁーっ!」
 袈裟懸けの一刀が人さらいの男の体を切り裂き、血しぶきが飛んだ。
 やった。才人は確かな手ごたえを感じていた。その証拠に、男は悲鳴を上げながら崩れ落ちていく。
「ぎゃああっ、そんなっ……こんなガキなんかに」
 傭兵くずれの男は才人を若いとあなどって、自らの墓穴を掘ることになった。見た目だけはたくましい肉体を、ほこりまみれの床に倒れこませてのたうつ。致命傷には一歩及ばないが、戦闘不能なだけの傷は与えたようだ。
「や、やった……」
 才人はデルフリンガーを杖にしてひざをついた。まだ魔法の余韻で体がしびれて調子が戻らない。
 だがデルフは焦った声でさらに才人に怒鳴った。
「バカ野郎! まだ終わってねえ!」
 そのとおりだった。才人が緊張を解いた、その隙にもう一人の男が杖を抜いてアイに突き付けていたのだ。

115 ウルトラ5番目の使い魔 65話 (10/14) ◆213pT8BiCc :2017/09/20(水) 13:29:25 ID:S9iHivT2
「動くんじゃねえ、さっさとその妙な剣を捨てろ。さもねえとガキの頭を吹っ飛ばすぞ」
「畜生、敵はもうひとりいたんだった……」
 まさに痛恨のミスだった。アニキと呼ばれていたメイジの男のことを忘れていたとは、自分のうかつさに歯噛みしてももう遅い。
 メイジの男の杖の先は、部屋の隅で倒れているアイにまっすぐ向いている。しかも才人から男に対してはざっと七・八メートル、アイに対しても五メートルはある。
 才人は頭の中で計算して絶望的だと思った。まだ自由に動かないこの体じゃ、男に飛びかかるのもアイをかばうのも、魔法が放たれるよりも確実に遅れてしまう。
「どうした! 早くしろ、俺は気が短いんだ」
 いらだった男が怒鳴った。メイジの男は周到にも、倉庫の唯一の出入り口のドアに背中を預けて陣取っている。車庫の入り口のほうは馬車でふさがれていて、これでは逃げ場がない。
 どうすればいいんだ? アイを度外視すれば、不自由なこの体でもなんとかメイジひとりくらいは倒せなくもない。だが、そんなことは絶対にできない。
 デルフが、相棒しっかりしろ! と、叫んでくる。せめてあと五分あれば体調も万全に戻って、アイをかばいつつ男も倒せるんだが……今はその五分が絶望的に長かった。
「畜生! 好きにしやがれ」
 才人はやけっぱちになってデルフを放り出した。デルフが、相棒! と叫びながら転がっていく。これで才人は完全に無防備になってしまった。
「いい心がけだぜ。じゃあ、死んでもらおうかい!」
 メイジの男が才人に杖の先を向けて魔法の呪文を唱える。なにを唱えているかは知らないが、まず確実に才人の命を奪えるシロモノだろう。
 だが才人は死に瀕しながらも、まだあきらめてはいなかった。あいつの魔法をなんとか一発耐えきる、そうしてデルフを拾い上げて第二撃が来る前に斬りかかる。普通に考えれば一撃目で死んでしまうか、よくて瀕死の可能性が高い。それでも、才人はあきらめだけはしていなかった。
「来るなら来やがれ! 俺はまだあきらめちゃいねえ」
「なら、死ね!」
「やめてーっ!」
 才人、男、そしてアイの叫びが倉庫にこだまする。
 しかし、男の杖から魔法が放たれることはなかった。なぜなら、男が魔法を放とうとしたその瞬間、男が背にしていたドアから鈍い音がしたかと思うと、ドアの板をぶち抜いてきた銀色の刃が背中から男の体を貫通したからだ。
「がっはっ? え、あ?」
 男は間の抜けた声を漏らすと、激痛とともに自分の左胸から生えた剣の先を見下ろし、そのまま眼球を反転させながら崩れ落ちた。
 才人やアイは、いったい何が起きたのかと訳が分からない。一本の剣がドアを貫通してきて男の心臓を貫いた。一体誰が? いや、才人はあの形の剣先を持つ剣に見覚えがあった、あれを正式装備にしている部隊といえば。
 ドアから剣が引き抜かれ、ノブが回されてきしんだ音を立てながら開いた。そして、その先から現れた青髪の剣士は。

116 ウルトラ5番目の使い魔 65話 (11/14) ◆213pT8BiCc :2017/09/20(水) 13:31:14 ID:S9iHivT2
「姉さ、ミシェルさん!」
「サイト、なぜこんなところにいる?」
 現れたミシェルの姿に、才人は困惑を隠せずに叫んだ。対してミシェルも才人がなぜこんなところにいるのか不思議な様子で、才人は自分たち二人がさらわれてきた経緯を簡単に話した。
 そしてミシェルがどうして現れたのかについては、聞かなくても才人にもだいたい見当はついた。
「ミシェルさんは、この誘拐団を追ってここに?」
「……そういうことだ。それにしても、まったくお前という奴は、わたしがたまたまお前の声を聞きつけなかったらどうなっていたか」
 ミシェルは呆れた声で言った。
 そのとき、アイが才人のところに怯えた様子でやってきたので、才人は「この人は味方だよ」と告げてあげた。
「こ、こんにちは。わたし、アイです」
「はじめまして。わたしはミシェル・シュヴァリエ・ド・ミラン。サイトを守っていてくれたんだね、ありがとう」
 ミシェルが優しく微笑むと、アイも緊張が解けたようににこりと笑い返した。
 しかし、空気が和んだのもそこまでだった。最初に才人が倒した男が、倒れたままだが短いうめき声を漏らすとミシェルは血相を変えて再び剣を引き抜いたのだ。
「ちっ、そっちはまだ息があったか!」
「ちょ、ミシェルさん。あいつはもう身動きできないんだし、殺しまでしなくっても」
 確実に始末しようとするミシェルに、才人は慌てて割り込んだ。だがミシェルは躊躇を見せずに才人を押しのけようとする。
「そういう問題じゃない。今のうちに……ちっ、もう遅いか!」
「遅いって……えっ?」
 才人は人さらいの男のほうを振り向いて驚いた。
 なんと、それまで普通の人間の姿だった男の体が部分的ながらも変貌していっていたのだ。手は大きく鋭い爪のようなものに変わり、肉体も人間から怪人然としたものに変化していく。
 そして男は身もだえしながら断末魔のように漏らした。
「うあぁぁ、変わる、変わっちまうぅぅ! やめろ、助けて、タスケ。グアァァァッ!」
 ついに頭さえもでこぼことしたのっぺらぼうの完全な怪人体となってしまった男は、立ち上がるとその鋭い爪を振り上げてきた。

117 ウルトラ5番目の使い魔 65話 (12/14) ◆213pT8BiCc :2017/09/20(水) 13:33:33 ID:S9iHivT2
「なっ、なんなんだこいつ!」
「話してる暇はない! 早く剣を拾え! 来るぞ」
 言ったとたんに、怪人は人間離れしたスピードで襲い掛かってきた。
 爪の連撃をミシェルが剣ではじき、突進をかわす。しかし怪人はひるんだ様子もなく、バーサーカーのように向かってくる。
 才人はその隙に、投げ出したデルフリンガーを拾い上げて構えた。幸い、もう体の不調はない。
「アイちゃん、部屋の隅でじっとしてるんだ。デルフ、行くぞ」
「おうよ!」
 才人はデルフを持ち、苦戦しているミシェルに加勢するために飛び込んだ。
「くらえっ!」
 怪人の爪と才人のデルフリンガーが激突して火花が散る。すごい強度とすごい力だと、一回のやり取りで才人は怪人の強さを理解した。
 こいつは、一回でも殴られたら人間なんかひとたまりもない。
「サイト! 油断するな。こいつはもう人間じゃない!」
「はい! この野郎めっ」
 才人も気持ちを切り替えて、化け物になってしまった男に容赦なく斬りかかっていく。
 こいつはなんだ? 見たこともないが、どこかの宇宙人なのか? いや、それを考えるのは後でいい。いや、考えている余裕がある相手ではなく、才人が加わったことで二対一になったにも関わらず、怪人は二人と互角の勝負を繰り広げていた。
 並の人間の動体視力ではとらえきれないほどの速さで繰り出される爪の攻撃を、才人とミシェルは力負けしながらもさばいた。部屋に、石と金属がぶつけ合ったような鈍い音が何度も響き渡る。
 そして一瞬の隙をつき、才人は怪人の胴を横なぎに斬り払った。が。
「硬いっ!」
 日本刀の刀身は怪人の皮膚を薄く切り裂いただけで、中の肉までは刃が通らなかった。
 怪人の青い血が刀身につき、才人は怪人が復讐の勢いで振り下ろしてきた爪をすんでのところで受け止めた。切れないわけではないが、威力が足りないのだ。
 これじゃ倒せない! 才人は怪人の攻撃を受け止めながら焦った、そのときだった。
「サイト、そのまま押さえつけていろ!」
 ミシェルが怪人の死角から、『ブレイド』の魔法をかけた剣を振り上げながら叫ぶのが見えた。

118 ウルトラ5番目の使い魔 65話 (13/14) ◆213pT8BiCc :2017/09/20(水) 13:34:47 ID:S9iHivT2
 あれならいける! 才人は渾身の力で怪人の攻撃に耐え抜き、そのチャンスにミシェルは大上段から必殺の一刀を怪人の首に叩きつけた。
「であぁぁーっ!」
 魔法の光をまとった剣が怪人の首を直撃し、吹き飛んだ首が倉庫の壁に叩きつけられて転がった。
 いくら強靭な肉体を持つ怪物でも、首を切り落とされればどうしようもない。才人に押さえつけられていた胴体のほうも力を失って倒れ、解放された才人はほっとしてようやく息をつけた。
 見ると、ミシェルのほうも楽ではなかったらしく、軽くではあるが呼吸が乱れている。才人は床に倒れこんだ怪人の死体と、転がった首を交互に見下ろして、憮然としてミシェルに尋ねた。
「なんなんですか、この化け物は?」
「わからん。ここに来る前にも、誘拐団のひとりを捕らえて口を割らせるために痛めつけたらこうなった。瀕死にしても同じだ。どうやら、こいつらは極度の苦痛を感じると怪物に変貌してしまうらしい」
「気色わりい……」
 才人は不快気に吐き捨てた。それになにがなんだかわからないが、怪物になってしまったこの男は、自分が変貌してしまうことに恐怖していた。同情できる人間ではないが、かといってざまあみろと思うにも残酷すぎる。
 しかし、思慮に興じている余裕はなさそうだった。部屋の隅で怯えていたアイが、おにいちゃん……と、不安げな声をかけてきたことで、才人は自分たちが誘拐団の本拠地にいるのだということを思い出した。
「アイちゃん……よしよし、もう大丈夫だからね。ミシェルさん、ともかくここを離れようぜ」
 才人は、自分たちはともかくアイをこんなところに置いてはおけないとミシェルにうながした。ミシェルは、才人に抱かれながら慰められているアイを少しうらやましそうに見つめたが、すぐにうなづいて言った。
「サイト、誘拐団はわたしが始末する。お前はその子を連れて、早くここから逃げろ」
「えっ? わたしがって、アニエスさんや銃士隊のみんなは?」
「今回のことはわたしの独断だ。皆はまだ何も知らん。ともかく行け、ここはわたしだけで十分だ」
 才人は、そう言われてもと戸惑った。さっきの怪人の強さを思うとミシェルを一人で行かせるのは心配だ。が、かといってアイをこんな場所でほっておくわけにもいかない。
 だが、敵は待ってはくれないようだった。才人が答えを出す暇も与えられず、馬車が入ってきた車庫の入り口が突然鋼鉄のシャッターで閉じられてしまったのだ。
「出口が!」
「ちっ、気づかれたか」
 廃屋のはずなのに、この仕掛け。ミシェルが忌々しげにつぶやくと、天井から恐らくは魔法の仕掛けによって、若い女性の声が響いてきたのだ。
『ごきげんよう、素敵な戦士のお二方。二人がかりとはいえ、ヒュプナスを倒すとはやるじゃないの。見ての通り、もう逃げ道はないわ。すぐ始末してもいいけど、あなたたち面白そうね。私はこの屋敷の一番奥にいるわ、私を倒せたらあなたたちは外に出してあげる。そういうわけで、ご機嫌よう』
 一方的に言うだけ言うと、相手の声は途切れてしまった。
 才人は、まるで遊ばれているような感じに憤って、偉そうにしやがって! と地団太を踏んだ。

119 ウルトラ5番目の使い魔 65話 (14/14) ◆213pT8BiCc :2017/09/20(水) 13:36:55 ID:S9iHivT2
「ミシェルさん、こうなったら二人でここのボスをぶっ倒してやろうぜ……ミシェルさん?」
「トルミーラ……やはり、あなたか」
 ミシェルはなぜか、声のしてきた天井を遠い目で見続けている。
 才人は何回かミシェルに呼びかけ、そしてミシェルは重い面持ちで答えた。
「そうだな、仕方ない。こうなれば、進むより道はないようだ。サイト、こうなったらしっかりその子を守ってやれ」
「はい……それとミシェルさん。さっきトルミーラって……誘拐団のボスを知ってるんですか?」
「……道すがら話そう。ここは意外と広いぞ、わたしからはぐれるなよ」
 ミシェルはそう告げると、すでに屋敷の見取り図を暗記しているらしく、迷いなく歩き始めた。
 ドアをくぐり、魔法のランプの明かりが照らすボロボロの廊下を三人は歩いていく。だが人の気配がどこからかする。誘拐団の手下が待ち伏せているのかもしれない。
 才人は、いつでもアイをかばえるよう左手でアイの手をつないで、右手でデルフを握りながら、正面の警戒を続けながら進むミシェルについていった。
 ギシギシと、不穏な音が足元から否応なく響く。才人が、こんなシチュエーションのホラー映画があったなと思ったとき、ミシェルは振り返らないまま話し始めた。
「去年の春のことだ。トリステインで、傭兵団が主犯の誘拐事件が起きた。だがその一味は通りがかったあるメイジに倒され、一味は全員逮捕されたことで解決した……はずだった。だが一か月前、一味はチェルノボーグの牢獄から脱走し、いまだに行方不明のままだ。そして、その一味の頭目の名前が、トルミーラという女メイジだ」
「って、牢獄から一味まとめて脱走って! そんな大ニュース、聞いたこともないですよ」
「当然だ。牢獄にとってはこの上ない大失態。所長以下看守たち揃ってで隠蔽され、明るみに出たのはつい最近だ。今頃は所長ら全員が捕縛されて、逆に牢獄に叩き込まれていることだろう。それも国の失態につながるから隠匿され、一般には公開されることはない」
 才人は呆れかえった。そんな馬鹿な役人たちのせいで誘拐団が野放しにされ、多くの子供が危険な目に会っている。
 ただ、才人はひっかかっていた。さっきのミシェルの口調は、単に知っているというだけではなさそうだった。すると、ミシェルは寂しそうな、あるいは忌々しげなふうにも見える複雑な表情で語り始めた。
「トルミーラは、元貴族だ。そして十三年前、わたしはトルミーラと会ったことがある。いや、世話になっていたことがあると言うべきか……短い間だったが、わたしにとってかけがえのない……そして、もっとも恥ずべき恩人さ」
 ミシェルは、周囲への警戒を続けながら、静かに過去の自分の因縁を語り始めた。
 人は過去を消すことは決してできない。そして、過去は時として残酷な刺客となって人に襲い掛かる。
 
 そして、変貌した誘拐団員。それが意味するものとは何か?
 単なる誘拐事件として発したこれが、途方もない狂気の一端であることを、このときはまだ誰も知らなかった。
 
 
 続く

120 ウルトラ5番目の使い魔 あとがき ◆213pT8BiCc :2017/09/20(水) 13:42:01 ID:S9iHivT2
今回はここまでです。
久しぶりに本作のメインヒロイン登場です。そして初のセブンX怪獣登場です。

121 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/24(日) 00:06:27 ID:D5TtEua.
5番目の人、乙です。私の投下を行います。
開始は0:10からで。

122 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/24(日) 00:10:19 ID:D5TtEua.
ウルトラマンゼロの使い魔
第百五十七話「カルカソンヌの夜」
波動生命体プライマルメザード 登場

 ガタノゾーア率いる超古代怪獣軍団の撃退後、教皇ヴィットーリオは怪獣を操る黒幕たる
ガリアに対して“聖戦”を宣言。するとロマリアはまるで初めから準備が成されていたかの
ように――実際そのようになる手筈だった訳だが――瞬く間に部隊を編成し、たったの二週間
ほどでガリアの奥深く、首都リュティス目前にまで侵攻した。
 ここまでの速い進軍は、ガリア軍の分裂も理由にあった。元々気分屋で意味不明な勅命を
出しまくっていたため国内でも『無能王』と蔑称されて支持の低かったジョゼフであるが、
人類の敵である怪獣を操っているとして教皇から“聖敵”と認定されたことで、いよいよ
多くの人心が彼から離れた。特に理不尽な理由で不遇をかこち、王政府に不満と恨みを抱えて
いた多くの諸侯たちはロマリアに寝返り、結果ロマリア軍はほぼ無血でリュティスから西に
四百リーグ離れただけの城塞都市カルカソンヌまで踏み込んだ。
 しかしそこで進軍はストップした。カルカソンヌの北を流れるリネン川に向こうには、
それでも王政府に忠誠を誓うガリア王軍が防衛陣形を敷いているからだ。その勢力はおよそ
九万。対するロマリアの兵力は反乱軍を合わせてもせいぜい六万。国の半分が反旗を翻しても
ロマリア側を三万も上回るとは、さすがはハルケギニア一の大国である。聖戦の錦旗を掲げて
いるロマリアも1.5倍もある兵力差を前にしては、容易に攻め込むことは出来なかった。
 一方でガリア王軍の戦意も低かった。聖戦を発動した相手を敵に回すことの愚かしさも
加え、やはりジョゼフの求心力のなさが彼らにも少なからず影響していた。
 そのような事情が重なった結果、両軍は川を挟んでの硬直状態を既に三日も続けていた。

 リネン川では今日も、ロマリア軍の兵士とガリア軍の兵士が川を挟みながら罵詈雑言を
飛ばし合う。
「ガリアのカエル食い! お前の国は、ほんとにまずいものばっかりだな! パンなんか
粘土みたいな味がしたぜ! おまけにワインのまずさと来たら! 酢でも飲んでる気分だな!」
「ボウズの口にはもったいねぇ! 待ってろ! 今から鉛の玉と、炎の玉を食わせてやるからな!」
「おいおい! 怖気づいて川一つ渡れねぇ野郎がよく言うぜ!」
「お前たちこそ、泳げる奴がいねぇんだろ! いいからとっとと水練を習ってこっちに来やがれ! 
皆殺しにしてやる!」
 罵り合いはエスカレートしていき、やがて興奮した貴族の一人二人が川を渡り、中州で
一騎討ちを行う。勝利者はそこに居残り、己の軍旗を立てて、負けた陣営からは敵討ちの
ように別の挑戦者が現れる、というように軍旗の掲げ合いが延々と繰り広げられていた。
 そんな様子を、ミラーとともにいるルイズが呆れた目でぼんやりながめていた。
「全く、男ってのはよくあんな下らない諍いに熱心になれるものね。グレンだって、ミラー、
あなたが止めてなかったらいの一番に参加してたわよね」
 とぼやくルイズに、ミラーが言う。
「グレンはあんな性格だからですが、他の人たちは、こうでもしないといたたまれなくて
しょうがないからでしょう」
「いたたまれない?」
 聞き返したルイズにうなずくミラー。
「教皇の命令とはいえ、私たちですらまだガリアが怪獣を使役している動かぬ証拠を得ては
いません。だから今度の戦の大義について内心迷いがある。対するガリア側も、軍の半数が
ロマリアについている状態です。それで本気で戦える気分になれるはずがありません」
「まぁ確かにね」
「ですがここまで来てしまった以上は、お互い何もしないままでいる訳にはいかない。だから
こんな小競り合いでも戦の対面を保っていないことには、気持ちが落ち着かないのでしょう」
 説明を聞いたルイズが肩をすくめる。
「ほんと、軍隊って面倒なものね。まぁこっちからしたら、このにらみ合いが続く方が都合が
いい訳だけど」

123 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/24(日) 00:13:30 ID:D5TtEua.
 ルイズはガリアの領土に攻め入る前に、アンリエッタにヴィットーリオたちが才人を謀殺
しようとしたことを伝えた時のことを思い返した。
 アンリエッタも、人間同士の争いの防止と聞かされていながら、その実はガリアとの開戦が
目的だったことを思い知らされ、己の考えの甘さを悔いるとともにヴィットーリオへの反感を
強めていた。そこにルイズたちの報告を受けて、彼女は何かを決心したような顔になった。
 そしてアンリエッタはルイズと才人に「わたくしにお任せ下さい。わたくしは全生命を
賭けて、この愚かしい“聖戦”を止めてみせましょう」と宣言し、その準備として一旦
トリステインに帰国していった。同時に自分が戻るまでに決定的な会戦が始まらないよう、
時間稼ぎをしてほしいと頼んだのであった。そのため、下らなくとも均衡状態が続いている
ことはルイズにとっては願ったり叶ったりである。
 しかしミラーは残念そうに首を振った。
「ですが、いつまでもこのままでいられる保証はありません」
「え?」
「ここは敵地です。そこに留まる時間が長引くのに比例してこちらが不利になるものです。
更にそんな状態に陥れば、反乱を起こしたガリアの諸侯も再度寝返る恐れがあります。
そうなれば、均衡は一気に崩れ去るでしょう」
 ミラーの語った状況を想像して、渋い顔になるルイズ。
「また、ガリア王政府……はっきり言えば、ジョゼフ王がまたも怪獣を差し向けてくることも
十分ありえます。今はまだその兆候はありませんが……」
 それが一番恐れていることであった。ジョゼフが何を考えているのかは知らないが、虎街道
以来怪獣を刺客に送ってくることは起きていない。しかしその気になればいつでも出来るはずだ。
怪獣ならばウルティメイトフォースゼロが相手になれるが、その戦いの余波でロマリア側に打撃が
あったら、こんな均衡はすぐにでも崩れてしまうことだろう。そうなれば敗戦は必至だ。
「つまり、表面的には均衡が取れてるようでも、実際はこっちの旗色が大分悪いってことね。
ああ、姫さま、早く戻られないかしら。何をどうするつもりなのかは知らないけど……」
 祈るようにつぶやいたルイズは、はたとミラーに尋ねかける。
「ところで、サイトはどこに行ったか知ってる? 今日は朝から姿が見えないんだけど……」
「サイトならあっちの方で、ゼロと一緒にいますよ」
 ゼロと? ルイズはミラーの言動を訝しんだ。才人とゼロは再度融合したので、一緒にいる
なんてことはいちいち言わなくてもいいことのはずだ。
 ともかくミラーが指し示した方向へ向かってみると、そこで才人が誰かに剣の稽古をつけて
もらっていた。
「もっと自分の感覚を研ぎ澄ませ! 一瞬たりとも集中を切らすな! もう一度行くぜ!?」
「ああ! 頼む!」
 その相手とはランであった。ルイズは驚いて二人の稽古に割って入る。
「サイト! どうしてまたゼロと分離してるの?」
 ランの正体はもちろんゼロである。つまり才人は、再びゼロと一体化したというのにまた
分かれているということだ。どうしてそんなことをしているのか。
 ルイズに振り返った才人とゼロが順番に答えた。
「ちょっとな、ジョゼフの奴をぶっ倒す時のために備えて、少しでも鍛えてもらってたんだ。
こうして剣の相手をしてもらう方が一番効率いいからな」
「ジョゼフの正体が宇宙人の変身とかだったらともかく、人間だったら才人の純粋な実力で
戦わなきゃならねぇ。その時に確実に勝てるようにってな」
 ルイズはそんな二人に呆れ果てる。
「姫さまが武力による戦い以外で決着をつけようとなさってるじゃない。あんたたちは姫さまの
ことを信じてないの?」
「そうじゃないけど、ジョゼフだけはどうしても俺の手で直接引導を渡してやりたいんだ。
あいつがタバサにしたことは、ほんとに思い返すだけで腹が煮えくり返るからな!」

124 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/24(日) 00:16:32 ID:D5TtEua.
 憤りながらの才人の発言。ルイズは無駄に熱意を燃やす才人に肩をすくめるとともに、
ある意味でタバサに熱を上げる才人の様子が若干面白くなかった。
 そんなところに、マリコルヌたちオンディーヌの仲間が駆けつけてきた。
「サイト! こんなところにいたのか!」
「あッ! その男はこないだの!」
 マリコルヌたちはランの顔を認めると、険しい顔で彼に対して身構えた。彼らからしたら、
突然現れて才人の居場所を奪ったように見えるランは憎らしく感じるのだろう。その正体が
ウルトラマンゼロだと知ったら、一体どんな反応を見せるのだろうか。
 才人は苦笑しながらマリコルヌたちに取り成した。
「みんな、この人は俺の友達で、訓練をつけてくれた師匠でもあるんだ。だからそう嫌わないで
やってくれよ」
 その言葉は嘘ではない。才人はゼロの戦いぶりをすぐ側で見ていることで強くなった面もある。
 才人の言葉でオンディーヌの態度も変わる。
「えッ、そうだったのか?」
「何だ。それならそうと俺たちにも紹介してくれよな! 全く水臭いぜ」
「すいません。にらんだりなんかして」
 態度を軟化させて謝罪するマリコルヌたちに手を振るゼロ。
「いいんだ。それより才人に何か用があったんじゃないのか?」
「ああそうだった! サイト、ギーシュの奴を助けてやってくれないか」
 マリコルヌが才人に振り返って頼み込んだ。
「ギーシュを?」
「あの目立ちたがり屋、酔った拍子に中州の決闘に加わろうとしてるんだ。だけど相手が
こっちの貴族を三人も抜いてる奴でさ、ギーシュじゃあどう考えても荷が重いんだよ。
殺されるかも」
「あんの馬鹿」
 才人は急いで駆け出し、川原へと躍り出て今まさに出航しようとしていたギーシュの小舟に
上がり込んだ。
 それを見送ったルイズは大きなため息を吐いた。
「ギーシュの奴、相変わらず困ったものね。最近少しはマシになったかと思ったのに、やっぱり
問題起こすんだから」
「全くだな」
 ゼロも苦笑いして肩をすくめた。

 ガリアの騎士は相当な手練れであったが、才人とて数々の激戦に揉まれた猛者。無事に撃退し、
ギーシュを助けることに成功した。更にはガリア側の後続も次々返り討ちにし、オンディーヌは
才人が倒した騎士から身代金をせしめて大儲けした。才人は、そんなことをしに来たんじゃ
ないんだけど、とぼやいていた。
 しかし最後の相手となった、鉄仮面を被った男は、それまでの決闘が子供の遊びに思えるかの
ように強い戦士であった。さすがの才人もてこずり、緊張の汗を流したが……男は才人と鍔迫り合いを
しながら、こんなことを聞いてきた。
「シャルロット……いや、タバサさまを知っているか?」
 男はタバサの家系であった、オルレアン公派の人物だったのだ。彼はわざと才人に負け、
釈放金に紛れさせたタバサ宛ての手紙を才人に送ったのだった。
 その日の夜、才人はその手紙をタバサに渡しに行った。しかし“聖戦”が発動してからと
いうもの、自分やタバサにはどこに行こうともロマリアの見張りがついていて、内容如何に
よっては彼らの前で読む訳にはいかない。そこで才人はタバサとの逢引きのふりをして、
シルフィードに乗って空へと上がることにした。
 その間、タバサが妙に黙っているので、才人は少々気を揉んだ。
「……ごめん。嫌だったか?」
「……平気」
 タバサが黙っていたのは全く別の理由からだったが、幸か不幸か、才人にそれを察する
洞察力はなかった。
「……昼間、中州で俺たちガリア軍の貴族と一騎討ちをやってたんだよ」
「知ってる」

125 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/24(日) 00:19:16 ID:D5TtEua.
「最後の相手が、俺にこれを託した。タバサにこれを渡してくれって。お前の味方じゃないのか?」
 才人が預かった手紙をタバサに差し出した。タバサが封筒を破り、中から出てきた便箋を
杖の灯りで読み始める。
「カステルモール」
「やっぱり、知ってる奴か? 聞いたことがあるな。そうだ! お前を助け出した時に、
ガリア国境で俺たちを逃がしてくれた奴だ!」
 感慨深げにつぶやく才人。アーハンブラからの逃避行で、ガリアからゲルマニアへ逃れる際の
国境破りの際に、タバサを連れていると知りながら見逃してくれた男だったのだ。
「俺も読んでいいか?」
 タバサの許可を得て、手紙の内容に目を走らせる才人。そこには、ジョゼフに対して決起を
起こしたが返り討ちに遭ったこと、どうにか逃げおおせてからは傭兵のふりをしてガリア軍に
潜り込んでいること、そしてタバサに“正統な王として即位を宣言されたし”と書いてあった。
そうすれば、ガリア王軍からの離反者を纏め上げてタバサの元に馳せ参じると……。
 才人は厳めしい顔となってタバサに尋ねかける。
「難しいことになってきたな……。で、どうするんだ?」
「どうすればいいのか分からない」
 才人は考え込む。ガリア王軍のほとんどが忠誠を誓うのは、王家の血筋。今となっては
その血筋は、表向きはジョゼフの系列しか残っていないから、ジョゼフの下についているが、
そこにタバサが王権を主張して進み出れば、確かに王軍からも離反者が多く出ることだろう。
亡きオルレアン公は、ジョゼフとは反対に人望に厚かったからだ。
 しかしそうすることは、タバサの危険が大きい。タバサが国のほとんどを奪い取れば、
ジョゼフもいよいよ黙ってはいまい。本気でタバサの命を狙ってくる恐れが強い。才人は
そんなことは認めがたかった。
 才人は考えた後に、タバサに告げた。
「今、姫さま……アンリエッタ女王陛下は国に帰っている。この“聖戦”を止めるために、
何か策を練っている最中なんだ。俺たちはそれまで自重しろと言われてる。一騎討ち騒ぎとか
やっちゃったけど……。だから、タバサもとりあえずこの件は置いといてくれないか?」
「……分かった」
 タバサは素直に才人の頼みを聞き入れた。
 そして二人は、手紙の末尾の一行に、目を丸くした。
“ジョゼフは恐ろしい魔法を使う。寝室から、一瞬で中庭に移動してのけた。くれぐれも
ご注意されたし”
「タバサ、こんな魔法を聞いたことがあるか?」
 タバサは首を横に振った。彼女の豊富な知識でも、そんな魔法には覚えがなかった。
「となると……。未知の呪文。……まさか、虚無?」
「……その可能性は低くはない」
 緊張した声音でタバサが答えた。ジョゼフは四系統の魔法の才能がないことが、『無能王』と
呼ばれるようになった最大の理由なのだ。
「この話はここに留めておこう。ロマリア軍がどこで聞いているか分からないからな。全く、
空の上ぐらいしか落ち着いて内緒話が出来ないなんて」
 ため息を吐いた才人に、タバサが不意に寄り添ってきた。
「どうした? 寒いのか?」
 タバサはこくりとうなずいた。
「そっか……。夜だし、空の上だもんな」
 納得する才人だが、しかし風はシルフィードが上手くそらしてくれているから、才人が
寒いと感じていないならばタバサも同じはずなのだ。
 だが才人は疑わず、マントを広げてタバサの身体も覆った。
「……じゃあ、そろそろ帰るか」
 才人はそう言ったが、タバサは次のように告げた。
「もうちょっと」
「え?」

126 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/24(日) 00:21:30 ID:D5TtEua.
「……もうちょっとだけ、飛んでいたい」
 才人には、どうしてタバサがそんなことを言うのか見当がつかなかった。しかしタバサが
そう言うのならば、と従うことにする。
「そうか。それじゃあもう少しだけ……」
 と言いかけたのだが……その時に、ガリア側の陣地の上空に何やら怪しげなものが漂って
いることに気づいて言葉を途切れさせた。
「何だあれ?」
 才人のひと言にタバサも我に返って顔を上げ、そして硬直した。目に映ったものが理解
できなかったからだ。
 空に浮かぶ『それ』は、白く巨大なクラゲのようだった。しかし当たり前な話、クラゲは
空にはいない。そしてその輪郭はやたらとおぼろげであり、一体だけのようでありながら
複数いるように見える。どうにもはっきりとしないその光景は、幻覚も疑うところだ。
「空に……でかいクラゲ?」
 呆気にとられる才人たちだったが、やがてそれにばかり気を取られていられない事態が
発生していることに気がつく羽目になった。
 地上を見下ろすと、崖の裾野の平原を貫くリネン川をいくつもの点が横断していた。
 そしてその点の正体は……全員ガリア軍の兵士や騎士であった!
「何!? ガリアの夜襲か!?」
 色めく才人だったが、タバサが緊張した面持ちで否定した。
「……違う。様子がおかしい」
 高空からでは正確な様子は分からないが、川を渡るガリア軍は全員がてんでバラバラで、
隊列の概念すら成していない。しかも身分までがごちゃ混ぜであり、貴族が平民の中に平然と
混ざり込んでいる。普通ならば考えられないことだ。
 極めつけは、彼らの全員が正常な精神状態にないことだった。船も使わずに夜の川を泳いで
渡ろうなど、正気の沙汰ではない。
 才人はハッと、空に漂う巨大クラゲに目を戻した。
「まさか……あいつの影響かッ!」

 突然夜空に現れた怪物に注意を向けている才人たちは気づかない。いや、たとえそれが
なかったとしても悟ることはなかっただろう。一羽のフクロウが、才人たちの会話を拾える
ギリギリの距離を保ちながらシルフィードを尾行していたということに。黒いフクロウの姿は
夜空の中に紛れ込んでおり、また気配を完全に殺して夜の闇と同化していたのだ。

127 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/24(日) 00:23:35 ID:D5TtEua.
今回はここまで。
波動生命体ってドゴラを思い出します。

128 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/30(土) 21:34:02 ID:dTP6KUWI
こんばんは、焼き鮭です。今回の投下を行います。
開始は21:37からで。

129 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/30(土) 21:37:10 ID:dTP6KUWI
ウルトラマンゼロの使い魔
第百五十八話「悪夢の四重奏」
超空間波動怪獣メザード
超空間波動怪獣サイコメザード
超空間波動怪獣サイコメザードⅡ
超空間波動怪獣クインメザード 登場

 夜空での密会中、謎の空飛ぶ巨大クラゲとリネン川を横断しようとする正気を失ったガリア軍を
目撃した才人とタバサ。二人は眼下のガリア軍の様子を一瞥した後、前方のクラゲの方をにらみつける。
「あいつら、やっぱりただごとじゃねぇぜ……。あのクラゲが何かしたことは確実だ!」
 才人の言葉にこくりとうなずくタバサ。あの奇怪な生物とガリア軍の異常が偶然同時発生
したとは考えにくい。これもガリア王政府の悪だくみの一つだろうか。
「けど……あのクラゲは何なんだ!? 一匹なのか? それとも大量にいるのか?」
 才人たちは判別をつけられなかった。何故なら、クラゲは一箇所にいるように見えて、
次の瞬間には別の地点にただよっているようにも見えるからだ。一瞬たりとも、同じ場所には
留まっていない。これは一体どういう現象なのか。
 このことについてゼロが答えた。
『あれは一点にのみ存在してるんじゃねぇ……あの空域全体に同時に存在してるんだ!』
「へ? それってどういう意味?」
 ゼロの言葉は、聡明なタバサでさえ理解できなかった。ゼロが説明する。
『かなり難しい話になるから詳しいことは省くが、あのクラゲの身体は波みたいにゆらゆら
してて広い範囲に跨ってるんだ。人間の脳じゃそれを正しく認識することは出来ないから、
姿をはっきりと捉えられねぇんだよ。当然三次元の生き物じゃねぇ……いわゆる異次元怪獣だな』
「異次元怪獣……つまり掟破りって訳だな」
 一応は納得する才人。異次元に存在する怪獣は、時間と空間をねじ曲げるブルトンに代表
されるように、三次元世界の物理法則をあっさりと無視するものだ。
 そして目の前の巨大クラゲは、生物でありながら量子力学の観点における粒子の振る舞いを
するのである。通常の生物のように時空間の一点に連続して存在しているのではなく、広域に
確率的に存在している……いわば波動生命体なのだ。M78ワールドの怪獣では、ディガルーグが
近い性質を有している。
『ともかく今すべきことは、あの怪獣をどうにかしてガリア軍の侵攻を止めることだ』
「分かった。タバサはみんなのところに行ってガリア軍の接近を知らせてくれ!」
 手短にタバサへ指示する才人。こうして渡河するガリア軍の姿を事前に発見できたのは、
不幸中の幸いだ。向こうが渡り切る前ならば対処が間に合う。
 そして才人は自らシルフィードの上より空中へ投げ出し、大空で風を切りながらウルトラ
ゼロアイを装着した。
「デュワッ!」
 才人の身体が瞬時にウルトラマンゼロのものに変身。ガリア軍を操っている波動生命体
めがけ飛んでいく。
『でもゼロ、身体が波みたいな奴をどうやってやっつければいいんだ? 普通の攻撃が通用
するのか?』
『しねぇだろうな』
 即答するゼロ。肉体が100%の確率で存在していない状態では、如何なる威力の攻撃もすり抜けて
しまって何の効果も発揮しないからだ。
『けど案ずるな! 対処の方法はあるぜ!』
 才人に頼もしく応えながら、ゼロはルナミラクルゼロに変身。
「ジュアッ!」
 そして広げた両腕の間から波紋を飛ばし、波動生命体にぶつける。するとどうしたこと
だろうか。空に同時に存在しているように見えた波動生命体の身体が一点に集まっていき、
一個の存在として確立されたのだ。
『すっげぇ! 今のどうやったんだ?』
『あいつの波長と真逆の波長をぶつけることで、存在の確率を一点に収束させたのさ。これで
奴はもう波じゃねぇ』

130 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/30(土) 21:39:45 ID:dTP6KUWI
 ルナミラクルゼロの超能力によってなせる妙技。これによって波動生命体は攻撃を透過
することは出来なくなった。
 だが、これによってまた別の問題が発覚した。
『しかし……まずいな。あいつそもそも一体だけじゃなかったみたいだぜ』
『え?』
『見ろ、今の「奴ら」の姿を!』
 改めて確認すると……存在が収束されたにも関わらず、空に飛んでいるクラゲの数は何と四体。
 つまり、元から波動生命体は四体も存在していたのだ!
『ま、マジかよ!』
 さすがに動揺する才人。しかも波動生命体の群れは地上に降下すると、その姿をグロテスクな
怪物のものへと変化させたのだった。
「キャアオッ! キャアオッ!」
「ギャアァァァ!」
「キャアァァァ!」
 クラゲの傘から首が伸びたような怪物、それが二本の足で直立したようなもの、更にそれの
腹に人面が備わっているもの、更に更に顔が他と違って背面にも人面が並ぶものの、計四体が
カルカソンヌの市街地に出現した。
 波動生命体の正体、メザード。その一族であるサイコメザード、サイコメザードⅡ。そして
女王個体であるクインメザードの超空間波動怪獣軍団だ!
「ギャアァァァ!」
「キャアァァァ!」
 そしてガリア軍は、このメザードたちの発する電波によって脳神経を操作され、まるで
マリオネットのように意のままに操られているのだった。
「キャアァァァ! キャアァァァ!」
 メザードたちはクインメザードの指揮によって、四体がかりでゼロに襲い掛かろうとしている。
 しかし集団には集団だ。ゼロにも仲間はいるのだ!
『待ちな! 俺たちのことも相手してもらうぜぇ!』
『とぁッ!』
『ジャンファイト!』
 グレンファイヤー、ミラーナイト、ジャンボットが直ちにゼロの元へと集合した。怪獣軍団は
三人の登場に思わず足を止める。
『よっし! 頭数は同じだ! みんな、一気に行こうぜぇッ!』
 通常形態に戻ったゼロの号令により、ウルティメイトフォースゼロは怪獣軍団に正面から
ぶつかっていく! ここにカルカソンヌの人間たちの命運を分ける乱闘は開始されたのだった。

 メザードたちの力で理性を失い、操り人形にされているガリア軍だが、リネン川から
カルカソンヌの市街地の間にはおよそ百メイルの切り立った崖がそびえ立っている。さすがに
崖をよじ登ることは出来ないので、大半の兵士は長く続くジグザグの階段に押し寄せている。
 その階段の頂上には、タバサからの連絡によって緊急出動したオンディーヌやロマリア軍が
バリケードを築いたので、ガリア軍の侵攻はそこで食い止められていた。頭数ならばガリア軍が
圧倒的に上だが、階段を上れるのは限られた人数だけ。それならば止めるのも難しい話ではない。
メイジは“フライ”を使って飛んでくるが、基本的に高い場所にいる方が戦いでは有利。飛んで
くるメイジは魔法で各個撃退されていた。
「ふぅ、何とか壁が間に合ったな。これでガリア軍は街の中に入れない」
「タバサが報せてくれなかったら危なかったね」
 バリケードを構築して息を吐いたギーシュとマリコルヌがつぶやき合った。タバサの連絡が
なかったら、彼らはガリア軍の接近に気づくのが遅れ、侵攻の阻止が間に合わなかっただろう。
そうなったことを想像したらぞっとする。
 また、彼らはガリア軍の様子にも恐怖心を覚えていた。

131 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/30(土) 21:42:23 ID:dTP6KUWI
「しかし……今のガリア軍のありさまには、身の危険に関係なくおぞましい気分になるよ」
「分かるよ。それに正気じゃない相手を攻撃するのは気が引けるね……」
 今のガリア軍は虚ろな目でうめき声を上げながらバリケードに押し寄せており、何度押し
返されようとも自分のダメージも構うことなく這い戻ってくる。怪談に出てくるような動く
死体さながらだ。人間はこのような、常識から外れたものに恐怖を抱く。また、操られている
だけの相手を攻撃するのも騎士道にもとる。そのためロマリア軍は完璧な防衛態勢を築きながら、
士気は時間が経つ毎に衰えていた。
 士気が減衰していては勝てるものも勝てない。これに危惧したルイズは、崖の向こうで
波動怪獣軍団と戦っているウルティメイトフォースゼロに祈った。
「お願い、みんな……。出来るだけ早く片をつけて……!」

 グレンファイヤーはメザードに狙いを定めてパンチを繰り出す。
『おらぁぁぁッ!』
「キャアオッ! キャアオッ!」
 拳をまともに食らうメザードだが、殴り飛ばされながらも重力を無視したような動作で着地。
ゆらゆらと蠢く様子からは、さほどダメージを受けていないように見えた。
『何ッ!』
 メザードの肉体は柔軟性が高い。そのため衝撃を受け流しているのだった。
「キャアオッ! キャアオッ!」
 メザードは胴体部の傘の頂点から怪光弾をグレンファイヤーへ連続発射。
『ぐッ!』
 ひるませたグレンファイヤーに触手を伸ばして巻きつけ、電撃を流し込んだ。
『ぐわあぁぁぁッ!』
「キャアオッ! キャアオッ!」
 電流を延々と食らわし続け、グレンファイヤーをじわじわと苦しめるメザード。
『ぐッ、そうは行くかぁぁぁぁぁッ!』
 しかしグレンファイヤーが気合いを発すると、彼から生じたエネルギーによって電撃が逆流。
触手が焼き切れた!
「キャアオッ!!」
『そんなにふらふらなよなよしてんじゃねぇぜ! 男だったら腰に力入れなッ!』
 切れた触手を投げ捨てたグレンファイヤーが一喝。そして腕に炎のエネルギーを溜める。
『俺が根性焼き直してやるぜ! グレンスパークッ!!』
 灼熱の光弾が投擲さえ、メザードに直撃。たちまち爆発を起こし、メザードは全身に火が
点いて炎上していった。
「ギャアァァァ! ギャアァァァ!」
 サイコメザードは空中を滑空しながら、ミラーナイトへ腹より怪光弾を降り注がせる。
『何の!』
 しかしミラーナイトは頭上にディフェンスミラーを張って光弾を防ぎ切った。そして着地した
サイコメザードへミラーナイフを飛ばす構えを取る。
「ギャアァァァ!」
 だがこの時、サイコメザードが不気味に眼を細めた。
 すると対岸の街に残っていた兵士たちや元々のカルカソンヌの住民がわらわらと集まってきて、
サイコメザードの前方に展開。サイコメザードに操られているのだ!
『何ッ! 何と卑劣な……!』
 ミラーナイトは手を止めざるを得なかった。下手にサイコメザードを攻撃したら、操られて
いる人々が押し潰されてしまうかもしれない。
「ギャアァァァ! ギャアァァァ!」
 人間を盾にする卑怯千番なサイコメザードは、ミラーナイトが動けないのをいいことに
両腕を伸ばして彼を捕まえようとする。
 しかし腕がぶち抜いたのは鏡であった!
「!?」
『そういうことをするだろうと思ってました』
 サイコメザードの背後からミラーナイトが言ってのけた。彼は人間を操作するメザードたちの
やり口を事前に推測し、お得意の鏡像トリックを用いて逆に罠を掛けていたのだ。

132 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/30(土) 21:44:45 ID:dTP6KUWI
 ミラーナイトはサイコメザードが反応を起こす前に背後からがっしりと捕まえて、空高くへ
投げ飛ばした。
「ギャアァァァ!!」
『シルバークロス!』
 十字の光刃がサイコメザードを切り裂き、人間に被害を出すことなく打ち破ったのであった。
『むんッ!』
「ギャアァァァ! ギャアァァァ!」
 ジャンボットはサイコメザードⅡの腹部に鉄拳を入れる。重い一撃によたよたと後ずさる
サイコメザードⅡだが、指先から電撃を飛ばしてジャンボットに反撃。
『むおッ!』
 激しい電撃の嵐にジャンボットが体勢を崩したようであったが、それは一瞬だけで、
ジャンブレードで電撃を絡め取って相手の攻撃を無力化する。
「ギャアァァァ!」
『貴様たちのような卑怯極まる相手に、この鋼鉄の武人は絶対に屈さんッ!』
 正義の怒りに燃えるジャンボットには、小手先の攻撃など通用したりはしなかったのだ。
ジャンボットは頭部から銃身をせり出して必殺の光線を発射する。
『ビームエメラルド!』
 光線がサイコメザードⅡを貫き、そのまま炎上させて消滅させたのであった。
 そしてゼロはクインメザードと戦っているが、ボス格だけあってその実力は一番高く、
雷撃によってゼロの接近を防ぐ。
「キャアァァァ! キャアァァァ!」
『うおッ! こりゃ近づけそうにねぇな……。ならッ!』
 距離を詰められないのならと、ゼロスラッガーを飛ばす構えを取ったゼロだが、クインメザードは
不意に足元を触手でしたたかに叩く。
「キャアァァァ!」
 その場所から炎の柱が起こり……どういうことだろうか。ストロングコロナゼロが現れた
ではないか!
『何ッ!』
『ゼロ、あれはどういうことなんだ!? どうしてゼロがもう一人……!』
 動揺する才人に、ゼロは答える。
『奴の特殊能力によって作られた、俺の偽者のようだな……!』
 クインメザードには他のメザードにはない独特な能力がある。それは実体を伴った幻影を
作り出すことで、それを使って幻影のストロングコロナゼロを作り上げたのだ! ゼロには
ゼロをぶつけようという目論見だろうか。
「キャアァァァ! キャアァァァ!」
 幻影ゼロはクインメザードの指示により、本物のゼロに飛び掛かってくる!
『うおッ!』
 ゼロは幻影ゼロとがっぷり四つを組む。しかし相手の凄まじい筋力に押され気味になる。
『くッ……!』
 幻影とはいえパワーに優れたストロングコロナゼロ。通常状態のゼロでは勝ち目はないのか?
 ……と、思われたのだが、
『舐めんなよ! 幻影の俺をぶつけられるなんてのは経験済みだ! もう俺は、自分には
負けねぇぜぇぇぇぇッ!』
 啖呵を切ったゼロが腕に一層の力を込めると、本物のパワーが幻影を上回り、幻影ゼロの
足が地面から浮き上がった。
『どりゃあああッ!』
 この一瞬の隙に、ゼロは己の幻影を竜巻のような勢いで放り投げる!
「キャアァァァ!」
 この結果にたじろぐクインメザード。ゼロはこの絶好のチャンスを逃したりはしなかった。
「シェアッ!」
 ワイドゼロショットがクインメザードに炸裂! クインメザードは一瞬にして爆裂し、
メザード軍団はこれで全てが倒された。

133 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/30(土) 21:46:55 ID:dTP6KUWI
 同時にガリア軍の支配が解け、彼らはバタバタとその場に倒れ込んでいった。川の水の
中に突っ伏した者はいち早く目覚めて慌てて飛び起きた。
「終わった……」
「ふぅ、助かった……」
 ギーシュを始めとして、ロマリア軍はガリア軍の侵攻が停止したことに大きく息を吐いて
安堵したのだった。

 怪獣たちによる奇襲が防がれて、ゼロから戻った才人はロマリア側の陣営に戻ってきた。
周囲はまだ混乱と事態の後始末が終わっておらず、彼に構う暇のある者はいなかった。
「危ないとこだったけど、どうにか犠牲者を出さずに済んだな。姫さまの帰りまでに、こっちが
総崩れになるなんてことにならなくてよかった」
 と才人は安心を口にしていたが、ゼロは危惧の声を発する。
『だが、今回のことで多くの人間が精神的なショックを受けたことだろう。どんな経緯に
なるにせよ、これで今の均衡状態は長くは続かねぇことになるだろうな……』
「……そうなのか……」
 ゼロの指摘で才人は顔を曇らせる。ロマリア軍が、ガリアの防衛線が崩れたことにつけ込んで
渡河しようとするか、逆に別の場所に展開しているガリア軍がロマリアの動揺しているところを
狙って進軍してくるか、どちらになるかは分からないが、戦局に動きがあるのは才人たち的には
良くない。彼らはアンリエッタに、本格的な戦いにならないように約束しているのだ。
「姫さま、早く戻られないものか……」
 才人がここにいないアンリエッタに願っていると、彼の元にジュリオが駆けつけてきた。
「やぁサイト、ここにいたか! ずっと姿が見えないから心配したんだぜ」
 彼の顔を見ると、才人は一瞬にしてしかめ面となった。
「よく言うぜ。こないだは殺そうとしたくせに」
 ストレートに嫌味をぶつけるが、ジュリオはまるで意に介さなかった。
「そう言ってくれるなよ。ぼくたちも聖地の回復のために必死なんだ。別にきみが憎い訳
じゃない。この世界にいてくれるのなら、当然生きててくれた方がありがたいさ」
「はん、どうだか」
 ジュリオに冷めた目を送る才人。彼はこの食えない男がどうも苦手であった。自分たちの
非道さをそのまま理解した上で受け止め、こちらに誠実な態度を見せる。その分、逆に真意を
測りがたいのだ。
 と思っていたその時、才人の頬を何か鋭いものがかすめた。
「あいでッ!」
 一羽のフクロウであった。フクロウはジュリオの肩に止まる。
「おや、ネロじゃないか。お帰り」
「何だよそいつ……」
「ぼくのフクロウだよ。おや、いけない! 血が出てるぜ」
 才人の頬は、フクロウの爪がかすめて切れていた。ジュリオは何気ない仕草で才人の頬を
濡らす血をハンカチでぬぐった。
「よせよ。血なんかすぐ止まるよ」
 才人がなれなれしいジュリオの手を払うと、ジュリオは気を悪くした風もなくハンカチを仕舞った。
 才人はそんなジュリオに、重要なことを尋ねる。
「こんな大騒動になっちまったが、いつまでガリアとにらみ合いを続けるつもりなんだ?」
 ジュリオは両手を広げて思わせぶりな態度を取った。
「さぁね。でもまぁ、そう遠くない内に風が吹くと思うよ」
 そのまま才人に背を向けて、スタスタと歩み去っていく。
 ……その顔には、してやったりというような不敵な笑みが浮かんでいた。

134 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/09/30(土) 21:47:36 ID:dTP6KUWI
以上です。
ガリア編もいよいよ終わりが近いです。

135 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/09/30(土) 23:02:07 ID:Xfy8vrRQ
ウルトラマンゼロの人、投稿おつかれさまでした。

さて、こんばんは。無重力巫女さんの人です。
後一時間程度で十月になりますが、八十七話の投稿を二十三時五分から始めます。

136 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/09/30(土) 23:05:10 ID:Xfy8vrRQ
 チクントネ街から旧市街地の間を横切るようにして造られた一本の水路がある。
 この水路もまた地下への下水道へと続いており、人通りの少なさもあってか地下へと続く暗渠が他よりもやや不気味な雰囲気を醸し出している。
 また、水路と道路には三メイル以上の段差があるせいか通行人が落ちないようにと鉄柵が設けられている。
 普段は旧市街地と隣接している場所であるためか人気も無く、水の流れる音だけがBGМ代わりに水路から鳴り響いている。
 一部の人間の間では、王都で川の流れる音を静かに聞きたいのならこの場所と囁かれているらしいが冗談かどうか分からない。
 まぁ最も、すぐ近くには共同住宅が密集している通りがあるので完全に人の気配がしない…という日はまず来ないだろう。

 そんな静かで、活気ある繁華街と棄てられた廃墟群の間に挟まれた水路には、今多くの人間が押しかけていた。
 それも平民や貴族達ではなく、安い鎧に槍と剣などで武装した衛士隊の隊員たちが十人以上もやってきているのである。
 年齢にバラつきはあれど、彼らは皆一様に緊迫した表情を浮かべて柵越しに水路を見下ろしていた。
 彼らの視線の先には、水路の端に造られた道に降りた仲間たちがおり、彼らは一様に暗渠の方へと視線を向けている。
 暗渠の中にも既に何人かが入っているのか、一人二人出てくると入り口で待つ仲間たちと何やら会話を行う。
 そして暗闇の奥で何かが起こった――もしくは起こっていた?――のか、入口にいた者達も暗渠の中へ入っていく。

 衛士達が何人もいるこの現場に興味を示したのか、普段はここを訪れない者たちが何だ何だと押し寄せている。
 近くの共同住宅に住む平民や下級貴族たちが大半であり、彼らは衛士達が張った黄色いロープの前から水路を覗こうと頑張っていた。
 ハルケギニアの公用語であるガリアの文字で「立ち入り禁止」と書かれたロープをくぐれば、それだけで罪を犯した事になってしまう。
 ロープを挟んで平民たちを睨む衛士たちに怯んでか、それとも罪を犯すことを恐れてか誰一人ロープをくぐろうとしない。
 張られている位置からでは上手く水路が見れないものの、それでも衛士達の間から漏れる会話で何が起こったのか察し始めていた。

「なぁ今の聞いたか?地下水道の出入り口で白骨死体が見つかったらしいぜ」
「しかも聞いた限りじゃあ衛士隊の装備をつけてたって…」
 一人の平民の話に若い下級貴族が食い付き、それに続いて中年の平民女性も喋り出すす。
「殺人事件?…でも白骨って、じゃあ殺されてから大分経つんじゃないの?」
「いや…それがここの下水道近くに住んでるっていうホームレスが言うには、ここ最近死体なんて一度も見なかったらしいぞ」
 女性の言葉に旦那である同年代の平民男性がそう返し、他の何人かが視線をある人物へ向ける。
 彼らの目線の先、ロープの向こう側で一人の男性衛士から事情聴取を受けているホームレスの男性の姿があった。
 いかにもホームレスのイメージと聞かれた大衆がイメージするような姿の中年男性は、気怠そうに衛士からの質問に答えている。

 朝っぱらだというのに喧騒ならぬ物騒な雰囲気を滲ませている一角を、博麗霊夢は屋上から見つめていた。
 そこそこ良かった朝食の直後にここへ向かう衛士達の姿を見た彼女は、とある淡い期待を抱いてここまで来たのである。
 淡い期待…即ち自分のお金を盗んでいったあの兄妹の事かと思っていた彼女は、酷くつまらなそうな表情で地上を眺めていた。
「何よ?てっきりあの盗人たちが見つかったのかと思ったら…単なる殺人事件だなんて」
『単なる、と言い切っちゃうのはどうかと思うがね?お前さんたちが寝泊まりしてる場所からここはそう遠くないんだぜ』
 デルフの言葉で彼が何を言いたいのかすぐに理解した霊夢は口の端を微かに上げて笑う。

137 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/09/30(土) 23:07:13 ID:Xfy8vrRQ
「どんな殺人鬼でも、あの店を襲おうもんならスグに襲ったことを後悔するわね」
『随分自身満々じゃないか…って言っても、確かにお前さんたちと遭遇した殺人鬼様は間違いなく不幸になるだろうな』
「んぅ〜…それもあるけど、何よりあそこにはスカロンが店を構えてるし大丈夫でしょ?」
 半分正解で半分外れていた自分の言葉を補足してくれた霊夢に、デルフは『あぁ〜』と納得したように笑う。
 確かに、どんなヤツが相手でも人間ならば間違いなく『魅惑の妖精』亭の店長スカロンを前に逃げ出す事間違いなしである。
 タダでさえ体を鍛えていて全身筋肉で武装しているというのに、オネェ言葉で若干オカマなのだ。
 見たことも無い容疑者が男だろうが女だろうが、スカロンが前に立ちはだかれば大人しく道を譲るに違いない。

 それを想像してしまい、ついつい軽く笑ってしまったデルフに気を取り直すように霊夢が話しかける。
「まぁ今の話は置いておくとして、普通の殺人事件でこんなに衛士が出てくるもんなのかしら?」
『確かにそうだな。…何か事情があるんだろうが、にしたって十人以上来るのはちょっとした大ごとだ』
 道路の上にいる人々と比べて、建物の屋上に霊夢の目には衛士達の動きが良く見えていた。

 その手振りや身振りからしても、自分たちと同じヒラか少し上程度の衛士が死んだ゙だげの事件とは思えない。
 道路の上から現場を指揮する隊長格と思しき隊員が、数人の隊員に人差し指を向けて急いで何かを指示している。
 少し苛ついている感じがする隊長格に隊員たちは敬礼した後、人ごみを押しのけて街中へと走っていく。
 暗渠へ入っていった隊員達の内二人が上から大きな布を掛けた担架を担ぎ、慎重に歩きながら出てきた。
 まるで大きくていかにも骨董的な割れ物を運ぶかのような慎重さと、人が乗せられているとは思えない程の凸凹が見えない布。
 きっとあれが、の中で死んでいたという衛士隊員の白骨死体なのだろう。
 入り口にいた隊員の内一人がその担架の方へ体を向け、十字を切っている。
 それに続いて何人かが同じように十字を切った後、担架は水路から道路へと出られる梯子の方まで運ばれていく。
 恐らく別の何処かに運ぶのだろう、隊長格の隊員が他の隊員と一緒に鉤付きのロープを水路へ落としている。

 そんな時であった、突如繁華街の方向から猛々しい馬の嘶きが聞こえてきたのは。
 何人かの隊員たちと野次馬が何事かと振り返り、霊夢もまたそちらの方へと視線を向ける。
 そこにいたのは、丁度手綱を引いて馬を止めた細身の衛士が慣れた動作で馬から降りて地に足着けたところであった。
『何だ、増援?…にしちゃあ、一人だけか』
「もう必要ないとは思うけど…あの金髪、どこで見た覚えがあるような?」
 地上にいる人々とは違い、霊夢の目には馬から降りたその衛士の背中しか見えなかった。
 辛うじて髪の色が金髪である事と、それを短めにカットしているという事しか分からない。
 それが無性に気になり、いっその事降りてみようかしらと思った彼女の運が良い方向へ働いたのだろうか。

 馬を下りたばかりの衛士は、別の衛士に後ろから声を掛けられて振り返ったのである。
 髪を少し揺らして振り返ったその顔は―――遠目から見ても女だと分かる程に綺麗であった。
 猛禽類のように鋭い目つきで後ろから声を掛けてきた同僚と一言二言会話を交えて、水路の方へと向かっていく。
 霊夢と一緒に見下ろしていたデルフが『へぇ〜女の衛士かぁ』ぼやくのをよそに、霊夢は少々面喰っていた。
 何故ならその女性衛士と彼女は、今より少し前に顔を合わせていたからである。

「あの女衛士、確かアニエスって言ってたような…」
 まさかこんな所で顔を合わすとは思っていなかった霊夢は、案外にこの街は狭いのではと感じていた。

138 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/09/30(土) 23:09:09 ID:Xfy8vrRQ
 一波乱どころではない騒ぎに巻き込まれたアニエスが元の職場に戻れたのは、つい今朝の事である。
 軍部からの演習命令で一時トリステイン軍に入り、そのままタルブでの戦闘に巻き込まれた彼女は散々な思いをした。
 アルビオンとの戦いが終わった後もタルブやラ・ロシェールでの戦闘後の処理作業に追われ、
 更に戦闘開始直後に出現した怪物を間近に見たという事で、数日間にも渡って取り調べを受け、
 やっと衛士隊への復帰命令が来たと思えば、王都へ戻る際の馬車が混雑したり…と大変な目にあったのだ。

 そうして王都に戻れたのは今朝で、幸いにも書類に書かれていた復帰までの期日には間に合う事が出来た。
 彼女としては一日遅れる事は覚悟していたものの、早めにゴンドアを出ていて良かったとその時は胸をなで下ろしていた。
 駅舎の警備をしている同僚の衛士達と一言二言会話をした後で、手ぶらでは何だと思って土産屋で適当なモノを幾つか購入し、
 すっかり緑に慣れてしまっていた目で幾つも建ち並ぶ建物を見上げながら、アニエスは第二の故郷となった所属詰所へと戻ってきた。
 ふと近くにある広場にある時計で時刻を確認してみると丁度八時五十分。彼女にしては珍しい十分前出勤となる。
 いつもならばもっと早い時間に出勤して、昨日残した書類の片づけや鍛錬に時間を使うアニエスにとって慣れない時間での出勤だ。

 とはいえ立ちっ放しもなんだろうという事で彼女は玄関の傍に立つ同僚に敬礼し、中へと入る。
 そして彼女の目の前に広がっていた光景は―――慌てて緊急出動しようとする大勢の仲間たちであった。
 まるで王都に敵が攻めて来たと言わんばかりに装備を整えた姿の仲間数人が、急ぎ足で彼女の方へ走ってきたのである。
 彼らの鬼気迫る表情に思わずアニエスが横にどいたのにも気づかず、皆一様に外へと出ていく。
 いつもの彼女らしくないと言われてしまう程身を竦ませたアニエスが何なのだと目を丸くしていると、後ろから声を掛けて来た者がいた。

――あっ!アニエスさんじゃないか、戻ってきたんですか!?

 その声に後ろを振り向くと、そこには衛士にしては珍しく眼鏡を掛けた同僚がいた。
 彼はこの詰所の鑑識係であり、事件が起きた際に現場の遺品や被害者のスケッチなどを担当している。
 まだ鑑識になって日は浅いものの、若いせいか隊長含め仲間たちからは弟分のように可愛がられている。
 その彼もまた衛士隊の安物の鎧と鑑識道具一式の入ったバッグを肩から掛けて、外へ出ようとしていたところであった。
 アニエスは彼の呼びかけにとりあえず右手を上げつつ、何が起こったのか聞いてみることにした。

―――あぁ、今日が丁度復帰できる日なんだ。…それよりも今のは何だ?どうにもタダ事ではなさそうだが…
――――それが実は僕も良く知らないんですが、今朝未明に衛士隊隊員の死体が発見されたそうで…
―――――何だと?だがそれにしては騒ぎ過ぎだろ、こんなに騒然としてるなんて…隊長は何て?

139 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/09/30(土) 23:11:10 ID:Xfy8vrRQ
 ふとした会話の中でアニエスが何気なく隊長の名を口にした途端、鑑識の衛士ばビクリと身を竦ませた。
 単に驚いただけではないというその反応を見て、アニエスは怪訝な表情を浮かべる。
 鑑識の青年衛士も、顔を俯かせて暫し何かを考えた後……ゆっくりと顔を上げて口を開いた。

―――実は、隊長はその…昨晩の夕方に退勤して以降、行方が分からなくて…自宅にもいないそうなんです…
――――な…ッ!?
―――――それで、発見された白骨死体が衛士隊員だという事で…みんな―――
――――――勝手な想像をするんじゃないッ!

 ちょっとどころではない死地から帰ってきて早々に、どうしてこんな良くない事が起きてしまうのか。
 アニエスは自分の運の無さを呪いながらも大急ぎで支度を整え、鑑識から現場を聞いて急行したのである。
 場所はチクトンネ街と旧市街地の間にある川で、既に何人もの衛士達が書けてつけているとの事らしい。
 本当なら応援はもういらないのだろうが、それでもアニエスはわざわざ馬を使ってまで現場へと急いだ。

 そうして現場へとたどり着いた時、既に件の白骨遺体は水路から上げられる所だったらしい。
 馬を降りて一息ついた所で、既に現場で野次馬たちを見張っていた同僚に声を掛けられた。
「おぉアニエス、戻ってきたのか?…すまんな、復帰早々こんなハードな現場に来てくれるとは」
「野次馬相手なら幾らいても足りなくなるだろう?それより、例の遺体はどこに……ん、あっ!」
 同僚と軽く挨拶しつつ、痛いはどこにあるのかと聞こうとしたところで彼女は群衆がおぉっ!声を上げた事で気が付いた。
 そちらの方へ視線を向けたと同時に、水路にあった被害者が引き上げられようとしていたのである。

 アニエスは失礼!と言いながら野次馬たちを押しのけてそちらへと向かう。
 何人かが押すなよ!と文句を言ってくるのも構わず進み、ようやく目の前に引き上げられたばかりの担架が見えた。
 野次馬を防いでいる衛士達が咄嗟に止めようとしたものの、同僚だと気づくとロープを持ち上げてアニエスを自分たちの方へと招いた。
「戻ってきたのかアニエス、大変だったらしいな」
「その話は後にしてくれ、それよりここの現場担当の隊長格は?」
 仲間たちの言葉を軽く返しつつそう言うと、水路に残っている部下たちにも上がる様指示していた上官衛士が前へと出てくる。
「俺の事…ってアニエスか!エラい久しぶりに顔を見た様な気をするが、よく帰ってこれたな」
「あっ、はい!奇跡的に傷一つ負わずに戻ってこれました。…それで、被害者の身元は分かったのですか?」
 彼女が良く知る隊長とはまた別の管轄を持つ彼の言葉にアニエスは軽く敬礼しつつ、状況の進展を探った。
 キツイ仕事から帰ってきたというのに熱心過ぎる彼女に内心感心しつつも、上官衛士は首を横に振りつつ返す。

「今の所俺たちと同じ服装をした白骨死体…ってだけしか分からんな。軍服と胸当てだけで身分証の類は持っていなかっ
 たから尚更だ。それに俺たちだけじゃあ骨で性別判断何てできっこないし、何より白骨死体にしては妙に綺麗すぎる。ホラ、見てみろ?」

 彼はそう言うと共に担架の上に掛かった布を少しだけ捲り、その下にある白骨をアニエスへ見せてみる。
 最初は突然の骨にウッと驚きつつも、恐る恐る観察してみると…確かに、上官の言葉通り洗いたての様に真っ白であった。
 まるで死体安置所で冷凍保管されていた遺体から肉を丁寧に落として、骨を漂白したかのように綺麗なのである。

140 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/09/30(土) 23:13:32 ID:Xfy8vrRQ
 別に腐って乾燥した肉片とかついている黄ばんだ骨が見たいわけではないのだが、それでもこの白さはどことなく異常さが感じられた。
 思わずまじまじと見つめているアニエスへ補足を入れるかかの様に、上官は一人喋り出す。

「第一発見者の浮浪者がここら辺を寝床にしてるらしくてな、昨夜は濁流に飲み込まれないよう旧市街地にいたらしい。
 それでも、今朝見つけるまであんな綺麗な骨は絶対に無かった…と手振りを交えながら話してくれた。」

 上官の言葉にアニエスはそうですか…と生返事をした後、ふと気になった事を彼へと質問する。
「…それならば、この骨は昨夜の暖流で流れて来たのでは?」
「可能性は無くは無いが、それにしては変に綺麗すぎる。見てみろ、この白さなら好事家が言い値で買うかもしれんぞ」
 仮にも同僚であった者に対して失礼な例え方をしているとも聞こえるが、彼の表情は真剣そのものであった。
 茶化し、誤魔化しているのだろうとアニエスは思った。実際今の自分も冗談の一つぐらい言いたい気持ちが胸中にある。
 この骨が自分の管轄区の、粉挽き屋でバイトしていた自分を衛士として雇ってくれた隊長だと思いたくはなかったのだ。
 今のところは身元が全然分からないという事で安堵しかけているが、それでも不安は拭いきれない。

 もやもやと体の内側に浮かんでいるそれを誤魔化すかのように、アニエスは口を開く。
「それで、身元の特定作業はもう行っているのですか?」
「あぁ。今日欠勤している者を優先的に調べているが…ここは王都だ、全員調べるとなると明日の昼まで掛かる」
 アニエスからの質問に上官は肩をすくめてそう言うと、アニエスは仕方ないと言いたげにため息をつく。
 欠勤者だけではなく、非番の者まで調べるとなれば…文字通り街中を駆け巡らなければいけないのだ。
 これが単なる殺人事件ならばここまで大事にはならないが、殆ど傷がついていない白骨という奇怪な状態で見つかっているのだ。
 もはや衛士である前に、一介の平民である自分たちが対応できる事件としての範囲を超えてしまっている。

 持ち上げていた布をおろし、アニエスの方へと向いた上官は渋い表情を浮かべたまま言った。
「一応魔法衛士隊にも報告はしておいたが、正直今の国防事情では来てくれるかどうか…だな」
「確かに、平時ならばメイジが関与していると考慮して動いてくれますが…今はアルビオンと戦争が間近という状況ですし」
 上官の言葉にアニエスは頷く。彼女の言うとおり、今はこうした街中の事件で対応してくれる魔法衛士隊は別の任務に就いている。
 大半は新しく補充された新人隊員達に訓練を施し、更に有事に備えて軍や政府関連の施設の警備を優先するよう命令されている筈だ。
 となれば、いくら怪奇的な事件だとして出動を乞うても「今は衛士隊だけで対応せよ」という返事が返ってくるのは間違いないだろう。
 今はドットクラスメイジの手を借りたいほどに、王宮と軍が忙しいのはつい数日前までそこに所属していたアニエス自身が知っている。
 先の会戦で主な将校を何人も失った王軍と、戦力に余裕のある国軍を統合させた陸軍の創設及び部隊の再配置で更に忙しくなるだろう。
 それが本格的に行われる前に衛士隊へ復帰する事ができたアニエスは、思わずホッと安堵したくなった。

 ―――しかし、そこで彼女は胸中に秘めていた『願い』を思い出し、内心で安堵する事すら自制してしまう。
 もしも、この騒ぎに乗じて正式に軍に配備されていれば――――自分はもっと『王宮』へ近づく事ができたのでは、と。
 トリスタニアの象徴でもあるあの宮殿の中に眠るであろう『ソレ』へとたどり着ける、新たな一歩になっていたかもしれない。

 そこまで考えた所で彼女はハッと我に返り、首を横に振って今考えていた事を頭から振り払う。
(今はそんな事を考えている場合じゃないだろうアニエス。もう過ぎた事だ…今は、目の前の事件に集中しなければ)

 ひょっとすると、自分の体と頭は自分が思っている以上に疲れているのかもしれない。
「…少なくとも今できる事は情報収集です。可能ならば、私もお手伝いします」
 そんな事を思いつつ、それでも担架に乗せられた白骨の正体を知りたい彼女は上官に申し出た。

141 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/09/30(土) 23:17:04 ID:Xfy8vrRQ

「できるのか?それなら頼む。今は猫の手も借りたい状況だ、是非ともお願いしよう。後、お前んとこの隊長と出会ったらボーナス給弾むよう言っておく」
 疲れているであろう彼女に上官は冗談を交えつつ許可すると、アニエスは「はっ!」と声を上げて敬礼する。
 直後に彼女は踵を返し、野次馬たちの向こう側で同僚が宥めている馬の所へ向かおうとした、その時であった。

 急いで馬の所へ戻ろうとする彼女の視界の端に、紅白の人影が一瞬だけ入り込んできたのである。

「ん?………何だ?」
 思わず足を止めて人影が見えた方向へ視線を向けると、そこにあるのは屋上付きの建物であった。
 個人の邸宅ではなく、一階に雑貨屋などがある共同住宅らしく窓越しに現場を眺めている住人がチラホラと見える。
 しかし窓からこちらを覗く人々の中に紅白は見えず、屋上を見てみるも当然誰もいない。
 だが彼女は確かに見た筈なのである。何処かで見た覚えのある、紅白の人影を。

「気のせいだったのか、それとも単に私が疲れすぎているだけなのだろうか…」
 納得の行かないアニエスは一人呟きながらも馬の所へ辿り着くため、再び野次馬たちを押しのける小さな戦いへと身を投じた。

『さっきの口ぶりからして知り合いだったらしいが、声かけなくても良かったのかい?』
「アニエスの事?別に良いわよ。知り合いだけど親しいってワケではないし、向こうも忙しそうだったしね」
 水路からの喧騒が小さく聞こえる路地に降り立ったばかりの霊夢へ、背中に担いだデルフがそんな事を言ってきた。
 昨日の雨で出来た水たまりをローファーで軽く蹴り付けつ道を歩く彼女は、大したことじゃ無いと言いたげに返す。
 建物と建物の間に出来ているが故に道は陽が遮られており、幾つもの水たまりが道端にできている。
 それをローファーが踏みつけると共に小さな水しぶきがあがり、未だ乾いていないレンガの道を更に濡らしていく。
「あんな事件は衛士に任せといて、今はあの盗人兄妹を捕まえて金を取り返すのが最優先事項なのは、アンタも分かってるでしょうに」
『オレっちは手足が無いから持ってても意味ねェけどな』
 鞘に収まった刀身を震わせて笑う彼に、霊夢は「アンタは良くても私達がダメなのよ」と返す。
 いくら子供であっても、あれ程の大金を一気に使おうとすれば大なり小なり人々のちょっとした話題になるのは明白である。
 そうであるなら楽なのだが、明らかに手慣れている感じからして常習犯なのは間違いないだろう。
 と、なれば…盗んだ大金で豪遊などせずに、小分けにして生活費にするというのなら探し出せる難易度は一気に高くなる。

「とりあえず昨日はルイズと大雨のせいで行けなかった現場に行って、アイツらを捜すかそれに関する情報を集めないとね」
『成程、容疑者が確認の為に現場へ戻るっていう法則を信用するのか』
 デルフがそう言うと共に陽の当たらぬ路地から出た霊夢は、目に突き刺さるかのような光に思わず目を細める。
 途端、まるで空気が思い出したかのように夏の熱気へと変わり彼女と服を熱し始めた。

142 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/09/30(土) 23:19:01 ID:Xfy8vrRQ
「いくら私でも手がかりの一つか二つ無いと分からないし、何か収穫の一つでもあればいいんだけどねぇ…」
 ハルケギニアの夏の気候に慣れぬ彼女は未だ活気の少ない通りへと入りつつ、デルフに向けて呟く。
 霊夢としては、そう都合よくあの兄妹二人の内一人が現場へ戻っているとはあまり思ってはいなかった。
 ただ何かしらの証拠や、あの近辺にいる住民へ聞き込みをして情報が手に入ればと考えてはいたが。

 霊夢のそんな意見に、デルフはほんの一瞬黙ってからすぐさま口を開いた喋り出す。
『とはいってもなぁ、ソイツらが手練れの常習犯なら現場には戻らないと思うぜぇ?』
「それは分かってるよ。だけどこっちは明らかな情報不足なんだし、私が動かなきゃあゼロから先には進まないわ」
 諦めかけているようなデルフの言葉に彼女はやや厳しめに返事しつつ、通りを歩いていると、
 ふと三メイル先にあるベンチに腰かける、短い金髪が似合う見知り過ぎた顔の女性がいるのに気が付いた。
 その女はこちらをジッと睨んでおり、その瞳からは人ならざる者の気配を僅かにだが感じ取る事ができる。

『あの女…って、もしかしてあの狐女か?』
「その通りの様ね。アイツ、一体何用かしら」
 気配に見覚えがあったデルフがそこまで言った所で、バトンたったするかのように霊夢が口を開いて言った。
 敵意は感じられないが、昨日見た彼女の豹変ぶりをを思い出した霊夢は若干気を引き締めて女へ近づいていく。
 金髪の女は何も言わずにじっと霊夢とデルフを睨み続け、彼女と一本が後一メイルというところでようやく口を開いた。

「やぁ、盗人探しは順調に進んでるかい博麗霊夢よ」
「残念ながら芳しくない。…って言っておくわ、八雲藍」

 自分の呼びかけに対しそう答えた霊夢にベンチの女―――八雲藍もまた目を細めて睨み返す。
 それでこの巫女が怯むとは全く思ってもいなかったし、単に自分を睨む彼女へのお返しみたいなものであった。
 両者互いに力ませた目元を緩ませないでいると、霊夢の背にあるデルフが金属音を鳴らしながら喋り出す。
『おいおい堅苦しすぎるぜお前ら?…って言っても、昨日は色々あったから仕方ないとは思うがよ』
 昨日ルイズたちと一緒に、藍の豹変と何かに動揺する紫を見ていたデルフの言葉に霊夢が軽く舌打ちしつつ視線を後ろへ向ける。

143 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/09/30(土) 23:21:08 ID:Xfy8vrRQ
「だったら少し黙っててくれない?ただでさえ暑いっていうのにそこにアンタの濁声まで加わったら参っちゃうわ」
『ひでぇ。…でもまぁ許す、今はお前さんが俺の使い手だしな。じゃあお言葉に甘えて少し静かにしておくよ』
 随分な言い様であったがそれで一々怒れる程デルフは生まれたばかりではなかったし、経験もある。
 背中越しに感じる霊夢の気配から、ベンチの狐女に昨日の事を聞きたいのであろうというのは何となく分かる事が出来た。
 デルフは彼女の剣として、ここは下手に口を出さすのはやめて大人しく黙っておくことにした。

 それから数秒、静かになったデルフを見てため息をついた霊夢は再び藍の方へと視線を向ける。
 特徴的な九尾と狐耳を縮めて人に化けた彼女もまたため息をつきき、自分の隣の席を無言で指さす。
 ―――そこに座れ。そう受け取った霊夢はデルフを下ろすとベンチに立てかけて、藍の横に腰を下ろした。
 太陽の光に照らされ続けた木製のそれは熱く、スカート越しでも容赦なく彼女の背中とお尻へと熱気が伝わってくる。
 せめて木陰のある場所に設置できなかったのか。そんな事を思っていた霊夢へ、早速藍が話しかけてきた。

「昨日の夜は悪かったな。まさか雨漏りしていたとは考えてもいなかったよ」
「……そうね。でもまぁ、そのおかけで昨日はマトモな部屋で寝れたし結果オーライって事で許してあげるわ」
「何だその言い方は?もしかすれば私に仕返ししてかもしれないって言いたいのかお前は」
「あら、仕返しされたかったの?何なら今この場でしちゃっても良いんだけど」
「やれるものなら…と言いたいがやめておけ、こんな所で騒げば今度こそ紫様の堪忍袋の緒が音を立てて切れるぞ」
「それなら遠慮しておくわ。アンタが怒るよりもそっちの方が十倍怖いんですもの」
 そんな短い会話の後、ほんの少しの間だが二人の間を沈黙が支配した。
 お互い本当に言いたい事、そして聞きたい事をいつ口に出そうか迷っているのかもしれない。
 いつもならば霊夢が先陣切って口を開きたいのだろうが、昨日久々に姿を見せた紫の動揺を思い出してか口を開けずにいる。

 これまで色んな所で彼女の前に現れては、色々なちょっかいを掛けてきた大妖怪こと八雲紫。
 並の妖怪なら名を聞いただけでも怯んでしまう博麗の巫女である彼女を前にしても、常に余裕満々で接してきた。
 ちょっかいを掛け過ぎた霊夢が激怒した時もその余裕を崩す事なく、むしろ面白いと更にちょっかいを掛けてくる事もあった。
 だからこそ霊夢は変に気にし過ぎていた。まるで世界の終わりがすぐ間近だと気づいてしまった時の様な様子に。

 ブルドンネ街では市場が始まったのか、遠くから人々の活気づいた喧騒が耳に入ってくる。
 一方で夜はあれだけ騒がしかったチクントネ街は未だ静かであり、時折二人の前を人々が通り過ぎていく。
 きっと市場へ買い出しに行くのだろう、手製の買い物袋を手に歩く女性の姿が多い。
 年の幅は十代後半から六十代までとかなり広く、何人かが集まって楽しげな会話をしているグループも見られる。
 そんな人たちを見ながら、霊夢と同じく黙っていた藍は意を決した様に一呼吸おいてからようやく口を開いた。
「やはり気になっているんだろう、私が急にお前へ掴みかかった事が」
「それ意外の何を気にすればいいっていうのよ。滅茶苦茶動揺してた紫の事も含めて、昨日から聞きたかったのよ?」
 藍の言葉に待っていましたと言わんばかりに霊夢は即答し、ジッと九尾の式を見据えた。

144 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/09/30(土) 23:23:08 ID:Xfy8vrRQ
 それは昨日――霊夢たちの前に紫が現れた時の事。
 紫は言いたい事を言って、霊夢たちも伝えたい事を伝え終えていざ紫が部屋を後にしようとした時であった。
 何気なく霊夢は昨日見た変な夢の事を話した直後、まるで興奮した獣の様に藍が掴みかかってきたのである。
 突然の事に掴まれた本人はおろかルイズと魔理沙に橙も驚き、思わず霊夢は紫に助けを求めようとした。
 しかし、紫もまた藍と同様に―――いや、もしくは式以上におかしくなっている彼女を見て霊夢は目を丸くしてしまった。
 前述した様に、まるで世界の終わりを予知したかのように動揺している紫の姿がそこにあったのだ。

――――ちょっと、どういう事?何が一体どうなってるのよ…

 面喰った霊夢が思わず独り言を言わなければ、ずっとその状態のままだったかもしれない。
 まるで見えない拘束か立ったまま金縛りに掛かっていたかのように、数秒ほどの時間をおいて紫はハッと我に返る事が出来た。
 それでも目は若干見開いたままであったし、額から流れる冷や汗は彼女の体が動くと同時に更に滲み出てくる。
 紫はほんの少し周囲にいる者たちを見回して、皆が自分を見ている事に気が付いた所で誤魔化すように咳払いをした。
「…ごめんなさい。少し暑くてボーっとしていたみたい」
「ボーっと…って、貴女明らかに何かに動揺していたんじゃないの?」
 いつも浮かべる者とは違う、苦々しさの混じる笑顔でそう言った彼女へ、ルイズがすかさず突っ込みを入れる。
 ルイズは紫が『何に』動揺していたのかまでは分からなかったが、それでも暑すぎてボーっとしていた何て言い訳を信じる気にはなれなかった。
 あの反応は霊夢の言葉を聞き、その中に混じっていた『何か』を聞いて明らかに動揺していたのである。

 そんなルイズの突っ込みへ返事をする気は無いのか、紫は霊夢に掴みかかっている藍へと声を掛けた。
「藍、霊夢を放してあげなさい。彼女も嫌がってるだろうし」
「え――…?あ、ハイ。ただいま…」
 気を取り直した紫の命令で藍は正気に戻ったかのように大人しくなり、霊夢の両肩を掴んでいたその手を放す。
 九尾の狐にかなり強く掴まれてジンジンと痛む肩を摩る霊夢は、苦虫を噛んだ時の様な表情を浮かべて痛がっている。
 そりゃ式と言えども列強ひしめく妖怪界隈でもその名が知られている九尾狐に力を込めて肩を掴まれれば誰だって痛がるだろう。
 大丈夫なの?と心配そうに声を掛けてくれるルイズに霊夢は大丈夫と言いたげに頷くと、キッと藍を睨み付けた。

「アンタねぇ…、一体どういう力の入れ方したらあんなに強く掴めるのよ」
「それは悪かったな。…だが、こっちも一応そうせざるを得ない理由があるんだよ」
「理由…ですって?どういう事よソレ」
 霊夢の言葉に肩を竦めつつ、藍は若干申し訳なさそうな表情を浮かべつつもその言葉には全く反省の意が見えない。
 まぁそれは仕方ないと想おうとしたところで、彼女は藍の口から出た意味深な単語に食いつく。
 どんな『理由』があるにせよ乱暴に掴みかかってきたことは許せないが、それを別にして気になったのである。
 あの八雲藍がここまで取り乱す『理由』が何なのか、霊夢は知りたかった。
 早速その『理由』について問いただそうとした直前、彼女よりも先に紫が藍へ向けて話しかけたのである。

「霊夢、藍とする話が急に出来たから少し失礼するわね」
「え?あの…紫さ――うわ…っ!」
 突然の事に霊夢だけではなく藍も少し驚いたものの、有無を言えぬまま足元に出来たスキマの中へと落ちてしまう。
 藍が大人しく飲み込まれてしまうと床に出来たスキマは消え、傷一つ無い綺麗なフローリングに戻っている。

145 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/09/30(土) 23:25:09 ID:Xfy8vrRQ
 正に神隠しとしか言いようの無い早業にルイズと魔理沙がおぉ…と感心している中、霊夢一人だけが紫へと食い掛かった。
「ちょっと紫、何するのよイキナリ。これから藍に色々聞きたい事があったっていうのに!」
 明らかに怒っている霊夢にしかし、先ほどまでの動揺がウソみたいに涼しい表情を見せる紫は気にも留めていない。

「御免なさいね霊夢。これから色々藍と話し合いたい事ができたから、今日はここらへんで帰るとするわ」
「ちょ…!待ちなさいってッ!」
 彼女だけは行かせてなるものかと思った霊夢が引きとめようとする前に、紫は右手の人差し指からスキマを作り出す。
 まるで指の先を筆代わりにして空間へ線を書いたかのようにスキマが現れ、彼女はそこへ素早く入り込む。
 たった数歩の距離であったが、霊夢がその手を掴もうとしたときには既に…スキマは既に閉じられようとしていた。
 このままでは逃げられてしまう!そう感じた彼女はスキマの向こう側にいるでうろ紫へ向かって大声で言った。

「アンタッ!一体何を聞いたらあんな表情浮かべられるのよ!?」
「……残念だけど、今回の異変に関さない情報は全て後回しと思いなさい。博麗霊夢」

 届きもしない手を必死に伸ばす霊夢へ紫がそう告げた瞬間、藍を飲み込んだモノと同様にスキマはすっと消え去った。
 後に残ったのは霊夢、ルイズ、魔理沙にデルフ…そして何が起こったのか全く分からないでいる橙であった。
 消えてしまったスキマへと必死に左手を伸ばしていた霊夢は、スキマが消える直前に中にいた紫が自分を睨んでいたと気づく。
 ほんの一瞬だけで良く見えなかったものの、いつもの紫らしくない真剣さがその瞳に映っていたような気がするのだ。
 まぁ見間違いと誰かに言われればそうなのかもしれない。何せ本当に一瞬だけしか目を合わせられなかったのだから。


 結局、あの後紫と話をしてきたであろう藍が何を言い含められたのかまでは知らない。
 昨日は屋根裏部屋やら雨漏りやらで聞くに聞けず、霊夢自身もその後の出来事で忙しく忘れてしまっていた。
 そして今日になってようやく、暇を持て余していたであろう彼女がわざわざ自分を誘ってきたのである。
 据え膳食わぬは何とやら…というのは男の諺であるが、出された料理が美味しければ全部頂いてお土産まで貰うのが博麗霊夢だ。
 だからこそ彼女はこうして自分を待ち構えていた藍の隣に座り、今まさに遠慮なく聞こうとしていた。

 昨日、どうして自分が夢の中で体験したことを口にしただけであの八雲藍がああも取り乱し、
 そして紫さえもあれ程の動揺を見せた理由が何なのか、博麗霊夢は是非とも知りたかったのだ。
「…で、教えてくれるんでしょう?私が見た夢の話を聞いて何で『覚えてる』なんて言葉が出たのか」
 霊夢の口から出たその質問に、藍はすぐに答えることなくじっと彼女の顔を見つめている。
 まるで言うか言わないべきかを見定めているかのように、真剣な表情で睨む霊夢の顔を凝視する。
 両者互いに睨み合ったまま十秒程度が経過した頃だろうか?ようやくして藍が観念したかのように口を開いた。

「私の口から何と言うべきか迷うのだが、…お前は夢の中で自分とよく似た巫女を見たのだろう?」
「えぇ、何かヤケに殴る蹴るで妖怪共をちぎったり投げたりしてような…」
 最初の一言からでた藍からの質問に、霊夢は夢の内容を思い出しながら答える。
 あの夢の事は不思議とまだ覚えていたし、細部はともかく大体の事は今でも頭の中に記憶が残っていた。
 彼女からの返答を聞いた藍は無言で頷いた後、ほんの数秒ほど間を置いてから再び喋り始める。
 そして、九尾の式の口から出たのは霊夢にとって衝撃的と言うか言わぬべきかの間の事実であった。

146 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/09/30(土) 23:27:21 ID:Xfy8vrRQ
「要だけかいつまんで言えば、恐らくその巫女はお前の一つ前…つまりは先代の巫女の筈だ」
「…は?先代の…巫女ですって?」
 少し渋った末に聞かされたその答えの突然さに、霊夢は目を丸くする。
 思わず素っ頓狂な声を上げる霊夢に藍は「あぁ」と頷きつつ、雨上がりの晴れた青空を仰ぎ見ながらゆっくりと語っていく。
 それは人間にとっては長く、妖怪である彼女にとってつい昨日の様な出来事であった。

「今から二十年前の幻想郷での出来事か、今のお前より年下の少女が新しい博麗の巫女に選ばれた。
 霊力、才能共に十分素質があり、何より当時の先代が幼年の頃の彼女を拾って修行させいたのも大きかった。
 何よりあの当時は今と比べて雑魚妖怪共による集団襲撃が相次いでいたからな。なるべく早く次代を決めざるを得なかった」

 藍の話をそこまで聞いて、霊夢は成程と幾つもある疑問の一つを解決できた事に満足に頷いて見せる。
 つまりあの夢の内容はその先代巫女とやらが妖怪退治をしていた時の光景を夢で見たのであろう。
 そこまで考えたところでまた新しい疑問ができたものの、それを察していたかのように藍は話を続けていく。

「お前が言っていた人面に猿の体の妖怪の事なら、当時私も現場にいたから良く覚えてる。
 それで、まぁ…実はその当時既に幼いお前さんを紫様が少し前に拾って来ていてな、
 気が早いかもしれんが、何かあった時の跡取りにと二十二なったばかりの先代巫女にお前の世話を押し付けていたんだ。
 まぁ紫さま自身ようやく赤ん坊から卒業したばかりのお前さんの面倒を見てたり……後、妖怪退治にも連れて言ったりもしてたな」

 勿論、紫様がな。最後にそう付け加えて名前も知らぬ先代巫女の名誉を守りつつもそこで一旦口を閉じる。
 一方で、そこまで話を聞いていた霊夢はこんな所で自分の出自に関する事が出てきた事に少し衝撃を受けていた。
 放して欲しいとは言ったが、まさかこんな異世界に来てから幻想郷で告白するような事実を告げられたのであるから。
 藍も雰囲気でそれを感じ取ったのか、若干申し訳なさそうな表情を浮かべて彼女へ話しかける。
「流石に堪えるか?…すまんな、お前の出自に関してはお前が色々と落ち着いてから話そうと紫様と決めていたんだが…」
「…ん、まぁー大体自分がそうじゃないかなって思ってたりはしてたけどね?両親の事とか全然記憶にないし」
 今はここにいない紫の分も含んでいるであろう藍からの謝罪に、霊夢はどういう感情を表せばいいか分からない。

 確かに彼女の言うとおり、今現在も続いている未曾有の異変解決の最中にカミングアウトするべき事じゃなかったのは明白である。
 恐らく異変を解決した後で、更に自分が年齢的にも精神的にも大きくなった時に話すつもりでいたのだろう。霊夢はそう思っていた。
 最も霊夢自身は両親がいないという事実を何となく察していたし、一人でいて特に不自由する事もなかったが。
 しかしここでふと新たな疑問がまた一つ浮かぶ。霊夢はそれをなんとなく藍に聞いてみることにした。
「んぅ〜…でも私、その先代の巫女とやらと一緒にいた記憶がスッポリ抜け落ちたかの如く無いのよねぇ〜」
「……………まぁ大抵の世話は紫様がして、巫女はそういうのを面倒くさがって全部あのお方に任せていたからな」
 しかしこの時、霊夢の質問を――ー先代の巫女と一緒にいたという記憶が無い―と聞いて一瞬だけ表情が変わるのを見逃さなかった。
 それを見逃さなかった霊夢であったが、その内心を読み取ることは出来ずひとまず彼女に話を合わせることにした。

「…?……んぅ、まぁ例え私が紫にそういうのを押し付けられたとしても確かにそうするかもね」
「まぁオムツはやら離乳食は卒業したばかりであったし、大して世話は掛からなかった…とも言っておこうか」
「そういうのを、普通にカミングアウトするのやめてくれないかしら?」
 藍からしてみればほんの少し前の幼い昔の霊夢と、成長して色々酷くなった今の霊夢を見比べながら彼女は言う。
 そんな式に苦々しい表情を向けつつも、霊夢は昨日から悩んでいた事が幾つか取り除かれた事に対してホッと安堵したかった。

147 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/09/30(土) 23:33:53 ID:Xfy8vrRQ
 どういう理由かまでは知らないが、どうやら自分は昔見たであろう血なまぐさい光景とやらを夢で見たのだという。
 そしてあの巫女モドキはこの世界の出身者ではなく、同じ幻想郷の同胞――それも自分の先代である博麗の巫女であるかもしれない事。
 何故今になって、こんな厄介かつ長期的な異変に巻き込まれている中でこのような事態が起こったのかは分からない。

 解決すれはする度に新しい疑問が湧きあがり、霊夢の頭の中に悩みの種として埋められてしまう。
 そして性質が悪い事にそれはすぐに解決できるような話ではなく、それでも異変解決を生業とする身が故に自然と考えてしまう自分がいる。
(全く…チルノや他の妖精たちみたいな能天気さでもあれば、そういう事に対して一々気にもせずに済んだのかもしれないわね)
 知性が妖精並みに低くなるのは勘弁だけど。…そんな事を思っていた霊夢は、ふと頭の中に一つの疑問を藍へとぶつける。
 それは、かつて自分の前に巫女もどき―――ひいてはその先代の巫女かもしれない人物についての事であった。

「じゃあ聞きたいんだけど、私とルイズ達が私とそっくりな巫女さんに会ったって言ったでしょう」
「あぁ、そういえばそんな事も言っていたな。確か夢の中に出てきた先代巫女と瓜二つだったのだろう?」
「だから聞きたいのよ。どうしてこんな異世界に、先代の巫女とよく似たヤツがいるのかについて」
「…………」

 意外な事にその質問を耳にして、藍は先程同様すぐに答える事ができなかったのだ。
 まるでとりあえずボタンは押したは良いものの、答えがどれなのか思い出そうとしている四択クイズのチャレンジャーの様である。
 それに気づいた霊夢が怪訝な顔を浮かべて彼女の顔を覗き込もうかと思った、その直後であった。
「―――悪いが…それに関しては私の知る範囲ではないし、紫様も同様に答えるだろうな」
「つまり、あの巫女もどきの存在は完全にイレギュラー…って事でいいのよね?」
 大分遅れて答えを口にした彼女に怪訝な視線を向けつつも、霊夢は念には念を入れるかのように再度質問する。
 藍はそれに対し「そうだ」と頷くと、もう話は終わりだぞと言うかのようにベンチからゆっくりと腰を上げた。
 彼女が立ち上がると同時に霊夢も視線を上げると、金髪越しの陽光に思わず目を細めてしまう。

「私が確認しない事には分からないが、生憎未だ見つかってない。最も、何処にいるか皆目見当つかんがな」
「そう…じゃあ私とルイズ達はいつもどおり異変解決に専念するから。アンタは巫女モドキを捜す…それでいいわよね?」
「それでいい。何か目ぼしい情報があれば教える、それではまた今夜にでも…」
 互いにするべき事と任せるべきことを口に出した後、藍は霊夢が歩いてきた道を歩き始める。
 市場へ向かう人の流れに逆らうように足を進める九尾の背中を、霊夢は無言で見つめていた。
 やがて通りの横に造られている路地裏にでも入ったのか、人ごみとと共に彼女の姿は掻き消されたかのように見えなくなった。
 霊夢はそれでも視線を向け続けた後、一息ついてから立ち上がり横に立てかけていたデルフを手に取る。
 太陽に熱されて程よく暖まった鞘に触れた途端、それまで黙っていた彼は鞘から刀身を出して霊夢に話しかけた。

『余計なお節介かもしれんが、お前さんあの狐の話を端から端まで信じる気か?』
 いつものおちゃらけた雰囲気とは打って変わって、ややドスの利いたその声に霊夢は無言で目を細める。
 ほんの数秒目と思しき物が分からないデルフと睨み合った後、彼女は溜め息をつきつつ「まさか」と返した。

148 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/09/30(土) 23:39:40 ID:Xfy8vrRQ
「アイツといい紫といい、何か私に隠してるってのは分かってるつもりだけど…一番問題なのはあの巫女もどきよ」
『あの狐がお前の前の代の巫女と姿が一致してるって言ってたあの長身の巫女さんの事か』
 デルフもタルブで助太刀してくれた彼女の後姿を思い出しつつ、藍が言う前に霊夢より一つ前の巫女と似ているのだという。
 しかしここはハルケギニアであって幻想郷ではない。ならばどうしてこの世界にいるのか、その理由が分からない。

 文字通り情報が圧倒的に不足しているのだ。
 まだ親の顔すら分からぬ赤ん坊に、魔方陣を一から書いてみろと言っている様なものである。
 恐らく藍や紫たちも同じなのであろうし、この謎を解くにはもう少し時間が必要なのかもしれない。
 そしてデルフにとってもう一つ気になる疑問があり、それは今すぐにでも霊夢に問う事ができた。
 さてこれから何処へ行こうかと思っていた彼女へ、デルフは何の気なしに『なぁレイム』と彼女に話しかけたのである。

『アイツらは随分と一つ前の巫女を覚えてたようだが、お前さんの先輩だっていうのに肝心の本人は全く覚えてないってのか?』
「ん…?そりゃ、まぁ…そんな事言われても本当に物覚えがないのよねー。…まぁ私がこうして巫女やってるから何かがあったんだとは思うけど」
『何かって?』
 霊夢の意味深な言葉にデルフが内心首を傾げて見せると、彼女はお喋り剣に軽く説明した。
 博麗の巫女は継承性であり、基本は霊力の強い女の子を紫か巫女本人が跡取りとなる少女を探す…のだという。
 当代の巫女は跡取りの少女に霊力の操り方や妖怪との戦い方、炊事選択などの一人で暮らせる為の知恵を授けなければいけない。
 そして当代が何らかの原因で命を落とした場合は、一定の期間を置いて跡取りの少女が次代の巫女となるのだという。
「私の代で妖怪との戦いは安全になったけど…昔は一、二年で死んでしまう巫女もいたらしいわ」
『ほぉ〜…そりゃまた、随分とおっかないんだなぁ?お前さんの暢気加減を見てるとそうは思えんがね』
 一通り説明した後、暢気に聞いていたデルフが感心しつつも漏らした辛辣な言葉に彼女はすかさず「うっさい」と返す。
 まぁ確かに彼の言うとおり、スペルカードや弾幕ごっこのおかげで幻想郷全体がひとまず平和になり、自分もその分暢気になれる余裕ができたのだろう。
 時折そうしたルールを理解できないくらい頭が悪い妖怪が襲ってくる事はあるが、これまで余裕で返り討ちにしている。
 幻想郷で起きた異変で対峙してきた連中は幸いにも弾幕ごっこで挑んできてくれたし、それなりにスリリングな勝負を味わってきた。
(まぁ弾幕って綺麗だし避けるのも中々面白いけど…ハルケギニアの戦い方と比べれば何て言うか…命の張り合いが違うというか…)

 だがその反面、この世界での戦い方と比べれば幻想郷側である霊夢も多少相性の悪さを覚えていた。
 弾幕ごっこは基本被弾しても多少の怪我で済むし、当てる方が加減をすれば無傷で相手との雌雄を決する事ができる。
 だがその反面、最低怪我だけで済む命の保証された戦いはハルケギニアの血生臭い命のやり取りとは『真剣さ』に決定的な差がある。
 例えれば、鍛え抜かれた剣と槍を持った鎧武者相手に水鉄砲と文々。新聞を丸めたモノで勝負を挑むようなものなのだ。
 相手がキメラなら霊夢も容赦なしで戦えるが、ワルドの様な人間が相手ではそう簡単に命を奪うような真似は出来ない。
 もしもあの時、自分ではなく魔理沙がワルドの相手をする羽目になっていたら――――…そこで霊夢は考えるのをやめる。
 慌てて頭を横に振って考えていた事を振り払うと、そこへ間髪入れずにデルフが話しかけてきた。

『…それにしてもお前さん、結局一昨日の事はあの二人に話さなくて良かったのかい?』
 最初は何を言っているのかイマイチ分からなかったが゙一昨日゙という単語でその日の出来事を振り返り、そして思い出す。
 そう、一昨日の夜…自分たちのお金を盗んだ少年をいざ気絶させようとしたときに、何故か巫女もどきが突っ込んできたのである。

149 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/09/30(土) 23:40:33 ID:Xfy8vrRQ
 おかげで気を失うわ、あの少年にはまんまと金を持ち逃げられるわで散々な目に遭った。
 さっきまでデルフ言った『暢気発言』のせいで変に考えすぎてしまっていたせいで、ほんの一瞬だけ忘れてしまっていたらしい。
 その時魔理沙の元にあったデルフが知っているのは、昨日他の二人が寝静まった後に顛末を聞かせてくれと頼んできたからだ。
 霊夢本人としてはあまり自分の失敗は話したくなかったものの、あんまりにもせがむので仕方なく教えたのである。
 その事を思い出せた霊夢はあぁ!と声を上げてポンと手を叩き、ついでデルフに喋りかける。
「まぁ説明しようかなぁ…ってのは思ってたけど、下手に一昨日ここで出会ったって言うのは何か不味い気がしてね」
『それは案外正解かもな?あの狐、あまり騒ぐのは良しとしてないようだがそれもあくまで『大多数の人が見ている前』だけかもしれん』
「……それってつまり、藍のヤツがあの巫女もどきを見つけ次第どうにかしちゃうって言いたいの?」
 霊夢の言い訳にデルフはいつもの気怠そうな声とは反対に、きな臭さが漂う事を言ってくる。
 やけに過激な発言なのは間違いないし、そこは霊夢も言いすぎなんじゃないかと諭すのが普通かもしれない。
 しかし、彼女もまたデルフの言葉を一概に否定できるような気分ではなかった。

 昨日、あの巫女もどきと似ているという先代の巫女が出てきた夢の話だけで掴みかかってきた藍の様子。
 物心つくまえの自分が見たという光景を夢で見ただけだというのに、あの反応は誰がどうも見てもおかしかった。
 とてもじゃないが、自分が昔の巫女を夢で見たというだけであんなに驚くのははっきり言って異常としか言いようがない。
 それを聞いて酷く動揺し、豹変した藍を無理やり連れて部屋を後にした紫も加えれば…何かを隠しているのは明らかであった。
 そして、その先代の巫女と姿が似ていると藍が言っていた巫女もどき。
 彼女が街にいるのなら藍よりも先に見つけ出して、色々彼女の出自について聞いてみる必要があるようだ。

 やるべき事を頭の中で組み立てた彼女はデルフを背負い、市場の方へと歩きながら彼にこれからの事を話していく。
「ひとまず金を盗んだ子供を捜しつつ、あの巫女もどきもできるだけ早く見つけ出して話を聞いてみないと」
『だな。お前さんのやるべき事が一つ増えちまったが…まぁオレっちが心配する必要はなさそうだね』
「まぁね。ついでにやる事が一つできただけなら、片手間程度ですぐに済ませられるわ」
 暗にルイズや魔理沙たちに相談する必要は無いという霊夢の意見に、デルフは一瞬それはどうかと言いそうになる。
 確かに彼女ぐらいならば、今抱えている自分の問題を自分の力の範囲内で片付ける事が出来るかもしれない。
 しかし知り合いに相談の一つぐらいしても別にバチは当たらんのではないかと思っていたが、彼女にそれを言っても無駄になるだろう。

 変に固いところのある霊夢とある程度付き合って、ようやく分かってきたデルフは敢えて何も言わないでおくことにした。
 ここで自分の意見を押し連れて喧嘩になるのもアレだし、何より今の彼女は自分を操る『使い手』にして『ガンダールヴ』なのである。
 彼女がよほどの間違いを起こさなければ咎めるつもりは無いし、間違っていれば咎めつつもアドバイスしてやるのが自分の務めだ。
 だからデルフはとやかく霊夢に意見するのはやめて、ちょっとは彼女の進みたい方向へ歩かせてみることにしたのである。
(全く、今更何だが…つくづく風変わりなヤツが『ガンダールヴ』になったもんだぜ)
 デルフは彼女に背に揺られながら一人内心で呟くと、霊夢より一つ前――自分を握ってくれたもう一人の『ガンダールヴ』を思い出そうとする。
 昨日、ふと自分の記憶に変調が生じて以降何度も思い出そうとしてみたが、全然思い出す事が出来ない。
 まるでそこから先の記憶がしっかりと封をされているかのように、全くと言って良い程浮かんでこないのである。

 少なくとも昨日の時点で分かったのは、かつて自分を握った『ガンダールヴ』も女性であった事、
 そして彼女と主である始祖ブリミルの他に、もう二人のお供がいた事だけ…それしか分かっていないのだ。
 しかも肝心の始祖ブリミルと『ガンダールヴ』の顔すら忘れてしまっているという事が致命的であった。
(それにしてもまいったねぇ。相談しようにも内容が内容だから無理だし、他人の事をとやかく言ってられんってことか)
 自分と同じように一つ前の巫女の顔を知らない霊夢と同じような『誰にも言えぬ事』を抱えている事に、彼は内心自嘲する。
 互いに多くの秘密を抱えた一人と一本はやがて人ごみが増していく通りの中に紛れ込みながら、ひとまずはブルドンネ街へと足を進めた。

150 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/09/30(土) 23:42:38 ID:Xfy8vrRQ
 それから時間が幾ばくか過ぎて、午前九時辺りを少し過ぎた頃。
 『魅惑の妖精』亭の二階廊下、屋根裏部屋へと続く階段の前でルイズはシエスタと何やら会話をしていた。
 しかしシエスタの表情の雲行きがよろしくない事から、あまり良い話ではなさそうに見えるが…何てことは無い。
「…と、いうわけであの二人は外に出かけてるのよ」
「そうなんですか、お二人とも用事で外に…」
 今日と明日の貴重な二連休をスカロンから貰った彼女が、ルイズ達三人を連れて外出に誘おうと考えていたらしい。
 しかし知ってのとおり霊夢達はそれぞれの用事で既に外へ出ており、早くとも帰ってくるの昼食時くらいだろう。
 暇をしていたルイズが空いた水差しを手に階段を降りたてきたころでバッタリ出会い、そう説明したばかりであった。

「まぁマリサはともかく、レイムは泥棒捜しで忙しいだろうし断られたかもしれないけどね?」
「あっ…そうですよね、すいません。…レイムさん達に王都の面白い所を色々見せてあげようと思ってたんですが、残念です…」
 ルイズの言葉で彼女達の今の状況を思い出したシエスタハッとした表情を浮かべ、ついで頭を下げて謝った。

 どうやら彼女の中では色々と案内したい所を考えていたらしいようで、かなりガッカリしている。
 落ち込んでいる彼女を見てルイズも少しばかり罪悪感という者を感じてしまったのか、ややバツの悪そうな表情を浮かべてしまう。
 普通なら魔法学院のメイドといえども、貴族である彼女がこんな罪悪感を抱える理由は無い。
 しかしシエスタとは既に赤の他人以上の関係は持っていたし、何より彼女にとって自分たちは二度も我が身の危機を救ってくれた存在なのだ。
 そんな彼女が自分たちにもっと恩返しをしたいという思いを感じ取ったルイズは、さりげなくフォローを入れてあげることにした。
「ん〜…まぁ幸い明日も休みなんでしょう?アイツら遅くても夕食時には帰ってくるだろうし、その時に誘ってみたらどうかしら」
「え、良いんですか!でもレイムさんは…」
 途端、落ち込んでいた表情がパッと明るくなったのを確認しつつ、
 気恥ずかしさで顔を横へ向けたルイズは彼女へ向けて言葉を続けていく。

「アイツだって、一日休むくらいなら文句は言わないでしょうに。…案外泥棒も見つかるかもしれないしね…多分」
「ミス・ヴァリエール…分かりました。じゃあ夕食が終わる頃合いを見て話しかけてみますね!」
「そうして頂戴。まぁアンタが空いた食器を持って一階へ降りる頃には、安いワイン一本空けて楽しんでるだろうけどね」
 ひとまず約束をした後、ルイズは何気なくシエスタの今の食事環境と昨夜の苦い体験を思い出してしまう。。
 この夏季休暇の間、住み込みで働いている彼女の食事は三食とも店の賄い料理なのだという。
 賄いなので量は少ないのかもしれないが、少なくとも自分たちの様に余分な酒代が出る事は絶対に無いだろう。
 昨日は魔理沙の勢いに押し負けて安いワインを一本を頼んだつもりが、気づけばもう一本空き瓶がテーブルの上に転がっていたのである。
 安物ではあるが安心の国産ワインだった為にそれ程酷く酔うことは無かったものの、その時は思わず顔が青ざめてしまった。

 幸い王都では最もポピュラーな大量生産の廉価ワインだったので、大した出費にはならず財布的には軽傷で済んで良かったものの、
 あの二人がいるとついつい勢いで二杯も三杯も飲んでしまう自分がいる事に、ルイズは思わず自分を殴りたくなってしまう。
 ただでさえ金が盗まれた中で簡単にワイン瓶を二本も空けていては、一週間も経たずに財布が底をついてしまうのだ。
(本当ならこういう時こそ私がキチッと節制するべきだっていうのに…あいつらに流されてちゃ意味ないじゃないの)
「…?あ、あの…ミス・ヴァリエール?」
 霊夢が泥棒を見つけて、アンリエッタから貰った資金を取り返すまでは何としてでも少ない持ち金だけで耐えなければいけない。
 ある意味自分の欲との戦いに改めて決意したルイズが気になったのか、シエスタが首を傾げている。
 シエスタ…というか他人の目かから見てみると、ルイズの無言の決意はある意味シュールな光景であった。

151 名無しさん :2017/09/30(土) 23:44:14 ID:Xfy8vrRQ
 その後、今日は霊夢達を外出に誘えなかったシエスタはひとまず私物等を買いに店を後にし、
 手持ち無沙汰なルイズは誰もいない一階で、旅行鞄の中に入れていた読みかけの本の続きを楽しむことにした。
 本自体は春の使い魔召喚儀式の前に買った魔法に関する学術書であり、霊夢が来てからは色々と忙しく集中できる機会がなかったのである。
 故にこうして屋根の修理で騒がしくなってきた屋根裏部屋ではなく、静かな一階で久々に読書を嗜もうと考えたのだ。
 藍の式である橙も用事なのか店にはおらず、ジェシカ達住み込みの数名は今夜の仕事に備えて就寝中。
 スカロンは起きているが、昨日の雨漏りを治す為に呼んで来てくれた大工数人と共に屋根の上に登って修繕作業の真っ最中である。
 丁度霊夢と魔理沙が外へ出た後ぐらいにやってきた大工たちに腰をくねらせてお願いし、難なぐ難のある゙助っ人として急遽加わる事になったのだ。
 本当なら手伝わなくても良い立場だというのに、わざわざ工具箱を持って意気揚々と梯子を上っていった彼はこんな事を言っていた。

「長年お世話になって来たんですもの、このミ・マドモワゼルが誠心誠意を込めて直してあげなきゃ店の名が廃るってものよ!」

 寝る前に様子を見に来たジェシカやシエスタに向けられた彼の言葉は、確かな重みがあった。
 最も、その大切な言葉も彼のオカマ口調の前では呆気なく台無しになってしまうのだが。
 ともあれ今の屋根裏部屋はその作業の音で喧しく、とてもじゃないが読書はおろか仮眠すら取れない状態なのである。
 故にルイズはこうして一階に降りて、作業が終わるまで暇を潰そうと決めたのだ。
 幸いにも店内は外と比べてそれ程暑くはなく、入口と裏口の窓を幾つか開ければ風通りも大分良くなる。
 水もキッチンにある水入りの樽から拝借するのをスカロンが許してくれたが、無論飲みすぎないようにと注意された。
 しかし外にいるならばともかく屋内ならそれほど汗もかかない為、ルイズからしてみれば余計な注意である。

 五分、十分と時間が経つたびに捲ったページの枚数を増やしつつ彼女は熟読を続ける。
 例えまともな魔法が使えなくとも知識というものは、自分に対してプラスの役割を付加してくれるものだ。
 逆に魔法の才能があるからといって学ぶことを怠ってしまうと、魔法しか取り得の無い頭の悪い底辺貴族になってしまう。
 かつて魔法学院へ入学する前に一番上の姉であるエレオノールが、口をすっぱくしてアドバイスしてくれたものである。
 普段から母の次に恐ろしく厳しい人であったが、ツンとすました顔で教えてくれた事は今でも記憶の中に深く刻み込まれていた。
 だからこそ入学した後も教科書だけでは飽きたらず自ら書店に赴き、底辺貴族なら見向きもしない様な専門書を買うまでになっている。

 霊夢を召喚する前の休日にする事と言えば専門書を開き、夕食の後はひたすら魔法の練習をしていた。
 今のルイズから見れば成功する筈の無い無駄な努力であったが、それでもあの頃はひたすら必死だったのである。
 その時の苦い思い出と努力の空振りが脳裏を過った彼女はページを繰る手を止めて、その顔に苦笑いを浮かべて見せる。
「思えばあの時の私から、大分成長した…というか変わっちゃったものねぇ」
 誰にも見られる筈の無い表情を誤魔化すように呟いた彼女は、ふと今の自分は読書に耽って良いのかと考えてしまう。
 今は親愛なるアンリエッタ王女――近々女王陛下となる彼女――の為に、情報収集を行わなければいけない時なのである。
 本当ならば霊夢達に任せず、自分が先頭に立って任務を遂行しなければいけないというのに…。

 折角貰った資金は賭博で増やした挙句に盗られ、更に平民に混じっての情報収集すら上手くいかないという始末。
 結局情報収集は霊夢の推薦で魔理沙に任してしまい、自分のミスで資金泥棒を逃がしてしまった霊夢本人が責任を感じて犯人探しに出かけている。
 それだというのに自分は何もせず、悠々自適に広くて風通しの良い屋内で読書するというのは如何なものだろうか。
 その疑問を皮切りに暫し悩んだルイズは読みかけのページに自作の栞を挟み込むと、パタンと本を閉じた。
 決意に満ちた表情と、鳶色の目を鋭く光らせた彼女は自分に言い聞かせるように一人呟く。
「やっばりこういう時は私も動かないとダメよね?うん、そうに決まってるわ…そうでなきゃ貴族の名が泣くというものよ」

152 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/09/30(土) 23:46:16 ID:Xfy8vrRQ
 閉じた本を腕に抱えた彼女は一人呟きながら席を立ち、着替えや荷物のある喧しい屋根裏部屋へと戻り始める。
 まだ釘を打つ音や金づちによる騒音が絶え間なく聞こえてくるが、着替えに行くだけならば問題は無いだろう。

 今手持ち無沙汰な自分が何をすればいいのか…という事について既に彼女は幾つか考えていた。
 とはいってもそのどちらか一つを選ぶことがまだできてはおらず、一人呟きながらそれを決めようとしている。
「まずは…情報収集かしら?…それとも頑張って資金泥棒を捜すとか…うーんでも、うまくいくのかしら」
 傍から見れば変な人間に見えてしまうのも気にせず、一人悩みながら二階へと続く階段を上ろうとした…その時であった。

「おーい、、誰かいないかぁ?」
 階段のすぐ横にある羽根扉の開く音と共に、若い男性の声が聞こえてきたのである。
 何かと思ったルイズが足を止めてそちらの方へ顔を向けると、槍を手にした一人の衛士が店の出入り口に立っていた。
 気軽な感じで閉店中である店の羽根扉を開けてこっちに声を掛けて来たという事は、この近くの詰所で勤務している隊員なのだろう。
 外は暑いのか額からだらだらと汗を流している彼は、ルイズを見つけるや否や「おぉ、いたかいたか」と笑った。
 ルイズはこの店に衛士が何の様かと訝しむと、それを察したかのように二十代後半と思しき彼がルイズに話しかけてくる。
「いやーすまないお嬢ちゃん、少し人探しに協力してもらいたいんだが…いいかな?」
「お…お嬢ちゃんですって?」
「―――!…え、え…何?」
 いきなり平民に「お嬢ちゃん」と呼ばれたルイズは目を見開いて驚いてしまい、ついで話しかけた衛士も驚いてしまう。
 生まれてこの方、平民からそんな風に呼ばれたことの無かったルイズの耳には新鮮な響きであった。
 だが決してそれが耳に心地いい筈が無く、むしろ生粋の貴族である彼女にとっては侮辱以外の何者でも無い。
 本来ならば例え衛士であっても、不敬と叫んで言いなおしを要求するようなものであったが…

「う……うぅ……な、何でもないわよ」
 ついつい激昂しそうになった自分の今の立場を思い出すことによって、何とか怒らずに済んだのである。
 今の自分は任務の為にマントはつけず、街で買ったちょっと裕福な平民の少女が着るような服装で平民に扮しているのだ。
 だからここで無礼だの不敬だのなんて叫んで、自分が貴族であるという事を証明する事などあってはならないのである。
 故にこうして怒りを耐え凌いだルイズは怒りの表情を露わにしたまま、何とか激昂を抑える事が出来た。
 危うく怒ったルイズを見ずに済んだ衛士は「あ…あぁそうかい」と未だ怯みながらも、懐から細く丸めた紙を取り出した。
 一瞬だけそっぽを向いていたルイズが視線を戻すと同時に、タイミングよく彼も紙を彼女の前で広げて見せる。

 その紙に描かれていたのは、見た事も無い男性の顔のスケッチであった。
 年齢はおおよそ四〜五十代といったところか、いかにも人の上に立っているかのような顔つきをしている。
 自分の父親とはまた違うが、もしも子供がいるのならいつもは厳格だが時には優しく我が子に接する父親なのだろう。
 そんな想像していたルイズが暫しそのスケッチを凝視した後、それを見せてくれた衛士に「これは?」と尋ねた。

「ウチの詰所じゃあないが別の詰所担当の衛士隊隊長で、昨日から行方不明なんだ。
 それでもって…まぁ、今も所在が分からないうえに自宅の共同住宅にもいないからこうして探しているんだよ」

「衛士隊の隊長が行方不明ですって?」
「あぁ。…それでお嬢ちゃん、この顔を何処かで見た覚えはないかい?」
 丁寧にそう教えてくれた衛士はルイズの言葉に頷くと、改まって彼女に見覚えがあるかと聞いた。
 またもやお嬢ちゃん呼ばわりされたことに腹を立てそうになったものの、何とか堪えてみせる。

153 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/09/30(土) 23:48:09 ID:Xfy8vrRQ
「み…!みみみみみ、見てないわよ、そんなへ―…男の人は」
 思いっきり衛士を睨み付けつつも、彼女は歯ぎしりしそにうなる口を何とか動かしてそう答えた。
 危うく平民と言いかけたが幸い相手はそれに気づかず、むしろ怒ってどもりながらも言葉を返してきたルイズに驚いているようだ。
 まぁ誰だってルイズのやや過剰気味な返事を前にすれば、思わず面喰ってしまうのは間違いないだろう。

「そ、そうかい…はは。まぁ、もしも見かけたんなら最寄りの詰所にでも通報してくれ」
 自分を睨み付ける彼女を見て後ずさりながらも、衛士は最後にそう彼女に言ってから踵を返し店を出ようとする。
 たった一分過ぎの会話であったというのに疲労感を感じていたルイズが落ち着きを取り戻すのと同時に一つの疑問が脳裏を過り、
 それが気になった彼女は自分に背中を見せて通りへ向かうおうとする衛士に再度声を掛けた。
「そこの衛士、ちょっと待ちなさい」
「え?な、何だよ?」
「ちょっと聞きたいんだけど、その行方不明になった隊長さんと言い…何か朝から事件でも起きてるのかしら?」
「え……な、何でそんな事聞きたいんだよ?」
 呼び止められた衛士は、単なる街娘だと思っているルイズからそんな事を言われてどう答えていいか迷ってしまう。
 振り返って顔を見てみると、先程まで腹立たしそうにしていたのが嘘の様に冷静な表情を浮かべているのにも気が付いた。

 これまで色んな街娘を見てきた彼にとって、ここまで理性的で意志の強さが見える顔つきの者を目にしたことが無かった。
 だからだろうか、彼女からの質問を適当にいなしてここを後にするのは何だか気が引けてしまう。
 今ここで忙しいからと無下にしてしまえば、それこそ彼女からの『御怒り』を直に受けてしまうのではないかと…。
 ほんの少しどう答えていいか言葉を選んでいたのか、難しい表情を浮かべていた彼は周囲を見てから彼女の質問にそっと答えた。

 今朝がたに浮浪者からの通報で、衛士隊の装備を身に着けた白骨死体が水路から発見されたこと。
 死体には外傷と思しき瑕は確認できず、また第一発見した浮浪者も発見の前日や数日前には目撃したことがなかったのだという。
 そして昨晩、先ほどのポスターに書かれていた顔の主である衛士隊隊長が行方不明の為、白骨の事もあって全力で探しているらしい。
 短くかつ分かりやすい説明で分かったルイズはルイズは「成程」と頷き、説明してくれた衛士に礼を述べる。
 今朝の朝食時に見た何処かへと走っていく衛士達が何だったのか、今になってようやく知る事ができたのだから。
「ありがとう、大体分かったわ。…じゃあ今朝見た衛士達の行先はそこだったのね」
「あぁ、何せ通報受けたのはウチの詰所だったしな、もう朝っぱらからテンテコ舞いさ。じゃあ、そろそろ…仕事の途中でな」

 本当にさっきまでの腹立たしい彼女はどこへ行ったのかと言わんばかりに、落ち着き払ったルイズに目を丸くしつつも、
 こんな所で油を売っていてはいかんと感じたのか再び踵を返し、今度はちゃんと羽根扉を閉めて大通りへと出る事ができた。
 思わずルイズも後を追い、羽根扉越しに見てみると今度は外――しかもこの店の屋根の上にいるスカロンへと声を掛けるところであった。
「おぉーい、スカロン店長ぉー!ちょっと聞きたい事があるんだが、降りてきて貰えないかぁー?」
「はぁ〜いィ!…御免なさいね皆さん、ミ・マドモワゼルはちょっと下へ降りるわよ〜!」
 その声が届いたのか、数秒ほど置いて頭上からあの低い地声を無理やり高くしたような声のオネェ言葉が聞こえてくる。

 そこで視線を店内へと戻したルイズは壁に背を預けてはぁ…とひとつため息をついた。
 危うく貴族としての『地』が出てしまいそうになった事を反省しつつ、結局これからどうしようかという悩みをまたも抱えてしまう。
 平民を装って話すだけでも自分にはキツイと言うのに、一人で街へと繰り出して情報収集などできるのかと。

154 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/09/30(土) 23:50:07 ID:Xfy8vrRQ
 さっきの衛士はまだ良い方なのだが、街へ行けば確実に彼より柄の悪い平民にいくらでも絡まれてしまうだろう。
 そんな相手を前にして、自分は平民として装い続けられるのか?迷わず『はい』と答えたいルイズであったが、そうもいかないのが現実である。
「………結局、レイムの言った通り私はこの仕事に向いてないんだろうけど。…だからといっではいそうですが…なんてのは癪だわ」
 結局のところ、あの二人に任せっきりにするというのは、自分の性に合わない。
 先程はあの衛士のせいで上りそびれた階段目指して、今度こそ外へ出ようとルイズは壁から背を離す。

 その時であった、入口の方から階段の方へ向こうとした彼女の視線に『何か』が一瞬映り込んだのは。
 タイミングがずれていたなら間違いなく見逃していたかもしれない、黒くて小さい『何か』を。
 それはゴキブリともネズミとも言えない、例えればそう…縦に細く伸びた人型――とでも言えばいいのだろうか。
 一瞬だけだというのに本来ならお目に掛からないであろうその人型を目にして、思わずルイズは視線を向け直してしまう。
 しかし彼女が慌てて入口の方へ視線を戻した時、既にあの細長い影の姿はどこにも無かった。
「ん?………え?何よ今のは」
 ルイズは周囲の足元を見回してみるが、どこにもそれらしい影は見当たらない。
 それどころかネズミやゴキブリも見当たらず、開店前の『魅惑の妖精』亭の一階は清掃がキチンと行き届いている。
(私の見間違い?…いえ、確かに私の目には見えていたはず)
 またや階段を上り損ねたのを忘れているかのように、彼女は先程自分の目にしたものがなんだったのか気になってしまう。
 だけども、どこを見回してもその影の正体は分からず結局ルイズは探すのを諦める事にした。
 認めたくはないが単なる見間違いなのかもしれないし、それに優先してやるべきことがある。
 ルイズは後ろ髪を引かれる思いを抱きながらも、二階へと続く階段を渋々と上り始めた。
 外の喧騒よりも大きいスカロンと衛士のやり取りをBGMにして、ひとまずは何処へ行こうかと考えながら。

 ……しかし、彼女は決して目の錯覚を起こしてはいなかったのである。
 彼女が背中を向けている店の出入り口、羽根扉下からそれをじっと見つめる小さな影がいた。
 それは全長十五サント程度であろうか、小動物程度の小さな体躯を持つ魔法人形――アルヴィーであった。
 人の形をしているが全身木製であり、球体関節を持っているためか人間に近い動きもこなす事が出来る。

155 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/09/30(土) 23:52:14 ID:Xfy8vrRQ
 何より異様なのは頭部。本来なら顔がある部分には空洞が作られ、そこに小さなガラス玉の様なものが収まっている。
 青白く不気味に輝くガラス玉はまるで目玉の様にギョロリと動き、ルイズの後ろを姿をじっと見つめていた。

 やがてルイズの姿が見えなくなると、アルヴィーは頭の部分を上げて周囲を見回してから、スッと店の出入り口から離れる。
 横では衛士とスカロンが会話をしているのをよそに、小さな体躯にはあまりにも大きすぎる通りを横断し始めた。
 人通りが多くなってきた為か、アルヴィー視点では巨人と見まがうばかりに大きい通行人達の足を右へ左へ避けていく。
 少々時間が掛かったものの二、三分要してようやく反対側の道へ辿りついた人形は、そのままそさくさと路地裏へと入る。
 日のあたらぬ狭い路。ど真ん中に放置された木箱や樽を器用に上り、陰で涼んでいる野良猫たちを無視して人形は進む。
 やがて路地裏を抜けた先…人気の全くない小さな広場へと出てきた所で、元気に動いていたアルヴィーがその活動を急に停止させる。
 まるで糸を切られた操り人形のように力なく地面に倒れた人形はしかし、無事主の元へとたどり着くことは出来た。

 人形が倒れて数十秒ほどが経過した後、コツコツコツ…と足音を響かせて一人の女性が姿を見せる。
 長い黒髪と病的な白い肌には似合わぬ落ち着いた服装をした彼女は、地面に倒れていたアルヴィーを拾い上げた。
 前と後ろ、そして手足の関節を一通り弄った後、クスリと微笑むと人形を肩から下げていた鞄の中へとしまいこむ。
 そして人形が通ってきた路地裏を超えた先――『魅惑の妖精』亭の方へと顔を向けて、彼女は一人呟く。

「長期戦を覚悟していたけど、まさかこうも簡単に見つかるなんて…全く、アルヴィー様様ね。
@to 人形ならば数をいくらでも揃えられるし、何より私にはその人形たちを自在に操れる『神の頭脳』があるんだからね」

 そんな事を言いながら、黒い髪をかきあげた先に見えた額には使い魔のルーンが刻み込まれている。
 かつて始祖ブリミルが使役したとされる四の使い魔の内『神の頭脳』と呼ばれた使い魔、ミョズニトニルンのルーン。
 ありとあらゆるマジック・アイテムを作り出し、そして意のままに操る事すらできる文字通り『頭脳』に相応しき能力を持っている。
 そしてこの時代、そのルーンを持っているのは彼女―――シェフィールドただ一人だけであった。

156 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/09/30(土) 23:56:44 ID:Xfy8vrRQ
以上で八十七話の投稿を終わります。

気のせい…もしくは自分の住んでる地域だけかもしれませんが、
去年と比べて九月からグッに気温が下がって、あっと言う間に夜風が寒くなったような気がします。

それではまた来月末、今よりもっと肌寒くなってるだろう頃に。ノシ

157 名無しさん :2017/10/03(火) 22:28:55 ID:O2FwYnhI
乙 めっちゃ応援してる!

158 暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2017/10/11(水) 23:51:38 ID:u91fS3DU
こんばんわ皆さま。お久しぶりです。
よろしければ0時ちょうどあたりから22話の方を投稿させてください。

159 暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2017/10/12(木) 00:00:04 ID:RnTYwnAY
ここニューカッスルは、浮遊大陸アルビオンの端部に位置する王軍所有の城である。
陸から突き出た岬の先端に位置するこの城は、幾度もの戦乱のたびに強固な守りを誇る城塞とされてきた。
三方が雲海のため、陸上からは一方向のみしか攻められず、大軍による包囲が薄くなるのが理由の一つである。
しかし、その堅牢さも、そこに籠城する王党派も、もはや意味がなくなろうとしている。
たとえここが攻城の上での難所にあろうと、目前の地には、王軍勢力の数十倍の敵が終結するのだから。

暗の使い魔 第二十二話『仮面の下』


「少なく見積もっても、万以上ってとこか」
ニューカッスル目前、その大陸を埋める尽くす灯を見て、官兵衛が漏らした言葉がそれだった。
見通せる城壁によじ登り、身を屈めて目を凝らす。
あたりは闇夜。暗雲立ち込め、肌寒い風が彼の素肌をなぶる。
敵軍の全貌の把握は困難。だが、城前方の平地七割以上を敵軍が占めているのが見て取れる。
無数のかがり火がそこを埋め尽くす光景は、王軍にとっての逃れえぬ窮地を思わせる。
まさに圧倒的。
レコン・キスタの、一万を超す軍団がそこにいた。
「小田原の時以来か。こんな光景は」
「オダワラ?相棒の故郷か――……」
言い終わらぬうちにキンッ、とうるさい隣人を硬く鞘へ閉じ込める。
背中のこいつは油断すると途端に喋り出すので実に面倒である。
せめて隠密行動時には自重してほしいものだ、と官兵衛は内心ため息をつく。
(……しかしながら、こいつはどうにもならんな)
相手方の軍容を見て官兵衛は、ウェールズがパーティで話してくれたおおよその戦況を思い出していた。
数日前のことである。
王党派に与し抵抗を続けていた、最後の支城が落ちたのだ。物資も豊富で、まさに要ともいえる場所であったが、レコンキスタはそちらを重点的に叩いたらしい。
レコンキスタ本隊は現在、灰になったそこを後にしてこちらに合流しようと進軍の最中である。
(ここに、昨日支城を落とした本隊が合流すると約五万は下らず。本拠もろもろの戦力もあわせて――)
逆立ちしてもかなわないな、と官兵衛は思う。
物資も味方の大半も失い、この地において王軍は孤立した状態である。
そして、ニューカッスルに籠る軍は、王の手勢三百程度。そのうえ殆どがメイジで護衛の兵士は皆無。
王軍はその戦力で、やがて集まる数万の敵と戦うことになるのだ。


官兵衛は静かに息を吐くと、城壁備え付けの石段を下りて行った。
じゃらりと鉄球を引きずり、一段、また一段と下る。
その足取りは微かに鈍い。
(どこもかしこも、同じか……)
昔、そう、まだ自分が豊臣の陣営に居た頃だ。
自分は『あちら側』で、幾度も采配を振るった。
即ち現在でいう、包囲するレコン・キスタ側の立場だ。
(やっぱ小田原のときと同じだな……)
ウェールズ皇太子は差し詰め、北条殿と同じ立場になるのか。いや、むしろそれは現国王のジェームズか。
そして、立場はかなり違うが、自分は外国からの客人。
いわば第三者であり、手紙の交渉が終わった今では、この国の行く末とは無縁の傍観者である。
アルビオンが滅ぼうが、最悪ハルケギニアの諸国にそれがどう影響しようが、官兵衛には関係がないのだ。
だがなぜか、彼にはどうにもここが重苦しい。
足の裏が鉛になったように、歩が進まない。
枷の重みとは違う、身にかかる気だるげな重鈍さを、官兵衛は感じていた。

160 暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2017/10/12(木) 00:02:32 ID:RnTYwnAY
やがて、階段を下りきると、官兵衛は背中のデルフリンガーの鞘をずらしてやった。
「寝るか、おいデルフ」
「あいよーもう喋っていいかい」
解放された、とばかりに魔剣がくっちゃべる。
実にやかましいが、こんなんでも貴重な話し相手だ。たまには時間を作ってやろうとも思う官兵衛であった。
「で、忍びの偵察は終わりかい?」
妙にデルフは軽々しい。
官兵衛はやや面倒そうに言葉を交わす。
「無理そうだ。どーにもひっくり返せそうにない」
「アテが外れたかい」
音を立てて笑うデルフに、官兵衛は不満げに口を曲げた。
城内へ戻り、客室へ続く長い長い廊下を歩く一人と一振り。
「こうなりゃ王女様へ取り入る方法を――……いや待て。ルイズを上手く……」
ぶつくさ言いながら歩く官兵衛。その背中でデルフはこっそり呟いた。
「浅い悪だくみは足元すくわれるぜ?」
「だー!足まで使えなくなってたまるか!」
とっさに大声が出て、城の廊下に声が響く。それを、おいおいとデルフが咎める。
「相棒。叫ぶと聞かれちゃうから」
「ああっ!小生としたことが……」
とっさに口に手をやって黙り込む。きょろきょろと周囲を見回しながら、ほう、とため息をついて、官兵衛は肩を下した。
すべてが寝静まったかのようにしんと静まりかえる城内。
最期の宴も終わり、非戦闘員は出立の準備をしている。ウェールズ一行は明日のことで手一杯。
こんな敵陣営が望めるような、城の端には人はまばらだ。
したがって、幸いにも今この場には、二人の会話を耳にする者はいなかったのだ。
(危ない危ない、うかつなこと喋るんじゃないな。全部が水の泡だ)
ここに来て自分の思惑を他人に聞かれるのはまずい。そう考えると、官兵衛は余計なことを喋らないうちに、眠ることを決意した。
まっすぐ歩いて寝室を目指す。
先に見えるのは、人も明かりもない長廊下。
戦時中だから物資も少ないのだろう。灯りは申し分程度で、窓から差し込む薄青白い月明かりが、ほぼ頼りの光源になっている。
(そりゃこんだけ物がなければな……)
ふとしたことで、王軍の圧倒的窮地が連想される。まったく嫌なものだ、と官兵衛はげんなりした。
やがて角を曲がり、自分の客室がある廊下へさしかかろうとした、その時だった。
「――……っ。うっ……」
突然の音に硬直する。
不意に鼻をすするような音を耳にし、官兵衛は立ち止った。
「んなっ?」
少々びくびくしながら、官兵衛はあたりを見回す。
「どうしたね相棒」
「いや、何か聞こえたような……」
デルフの問いかけに落ち着かなそうに答える。
改めて周囲を確認するが、あたりは長い廊下と窓のみで何も見当たらない。
「なんもいないか?」
おそるおそる歩みながら官兵衛がデルフに尋ねる、すると。
「……相棒。よく見てやんな」
デルフが静かに促した。
「んん?」
官兵衛が目前をこらして見ると、そこには。
「……ぐずっ」
目前、長廊下の奥の奥。
薄暗いが、月明かりに照らされて小さな人影がそこにいた。
窓枠にもたれかかり、薄桃の長髪が良く映る。
「相棒、行ってやれよ」
再びデルフが言う。
言われるがまま、ずるずると鉄球を引きずって歩み寄る。
その聞きなれた音にハッとして、人影は振り返った。
「……カンベエ?」
「なんだ、お前さんか」
人気のない廊下にポツンと、ルイズがいた。

161 暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2017/10/12(木) 00:05:05 ID:RnTYwnAY
「……月見か?空模様は生憎そうだがな」
曇り空で隠れそうな月を見上げながら、官兵衛が言う。
立ち尽くしたままのルイズに、官兵衛が歩み寄る。
しかし、近づく官兵衛から表情を隠すかのようにルイズは顔を背けた。
「……こないで」
短くか細い声が、彼の耳に届いた。
「おい?」
「おねがい」
普段のルイズから想像もつかず、声は弱くふるえていた。
どこかすがるようなそれに、官兵衛は思わず立ち止まる。
二人の間に、しばしの静寂の時間が流れた。
「…………ひっく」
肩を引きつらせ、ルイズが背を向ける。
仕方なしに、ルイズがいる窓から反対の壁に寄りかかると、官兵衛は言った。
「お前さん、皇太子と話したのか」
しばしの間の後、ルイズはこくりと頷く。
それを見て、官兵衛は短くそうか、とつぶやくと言った。
「姫さんの願いは、届かなかったか」
「えっ……?」
その言葉を聞き、ルイズが驚きの顔で官兵衛を見やる。
なんでそれを、とでも言いたげな表情である。
官兵衛は笑いかけながら言う。
「おいおい、小生は二兵衛の片割れだぞ?あの時、手紙をしたためる姫さんの顔見りゃその程度察しがつくよ」
よっこいしょと鉄球に座り、じっとルイズを見る。
みればルイズの顔は涙の跡新しく、相当泣きはらした様相である。
官兵衛は静かな口調で続けた。
「異国の王子と姫君が、ってのはどこでも同じだな。たとえそれが実らなくても、そいつに生きて帰ってほしいって願うのは、皆そうだろうよ」
ルイズの自室で、ブリミルに懺悔しながら手紙に一文を付け足していたアンリエッタを思い浮かべる。
「姫さんは想い人に亡命をすすめた。『その恋文』を出すほどの愛の人にな」
ルイズが懐にしまってある、目的の手紙を指しながら、官兵衛は言う。
「だが奴さんはつっぱねたんだろ?」
官兵衛の言葉に、ルイズはぐっと唇を噛む。しかし耐えても、瞳から玉のような涙がこぼれた。
「……ウェールズ皇太子殿下は否定したけど、姫様は間違いなく手紙にその旨を記されていたはずよ。あの時、姫様からの手紙を見てた殿下の表情は……」
そこまで思い出して辛くなったのか、ルイズは再び背を向けた。
なるほど、と官兵衛は頷いた。
「ねえ、どうして?」
ルイズが涙交じりに官兵衛に問う。
「……っく、どうしてっ、ウェールズ殿下は死を、選ぶの?」
言葉に嗚咽が混じる。しかしルイズは続ける。
「姫様は逃げてって言ってるのに……。愛する人がそれをのぞむのに……」
ヒックヒックと泣きはらしながらなお続けるルイズに、官兵衛が歩み寄り肩を叩く。
しかし、ぽんぽんと肩にかかる優しい感触に、彼女の悲しみは膨れるばかりである。
そして、言うか言うまいかしばし悩んだが、官兵衛は静かに答えた。
「皇太子が姫を想ってるのは同じだ」
ついとルイズが官兵衛を見やる。
「だが、その想いがあるから、戦の火種を恋人の国に持ち込みたくないんだろうよ」
官兵衛が淡々と話し始めた。だがルイズは。
「なによそれ。意味わからない」
どうにも納得できないという顔である。
「愛してるなら、どうしてそばに行かないの?姫様のそばで一緒に……」
「おいおい」
官兵衛は再びなだめるようルイズに言う。
「貴族派の勢力を見ろ。あんだけ勢い付いちまったらもう止まらない。そしたらその矛先はどこに行く?」
アルビオンを制圧し、レコンキスタは次に何をするのか。それは、立地的に間違いなくトリステインへの進行だろう。
彼らが掲げるのは、ハルケギニアの統一そして聖地の奪還なのだから。

162 暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2017/10/12(木) 00:07:16 ID:RnTYwnAY
官兵衛の説明を、ルイズが黙って聞く。
「もしここで皇太子がトリステインに逃げこめばどうなる?」
静かに、言い聞かせるように。
「貴族派連中は、戦争の口実ができたとばかりに意気揚々と進軍してくるぞ」
官兵衛は続けるが、しかしルイズは俯いたまま微動だにしない。
「そして、トリステインがそんな爆弾を抱えたと知ったら、ゲルマニアは同盟をどうする?」
そう、トリステインは同盟を破棄され、孤立するのである。
そう官兵衛が締めくくる。
ルイズがぎゅっと拳を握る。
官兵衛はそこまで話して、ふうとため息をついた。
そして、目の前で俯くルイズを見て、少々話しすぎたかと頭を掻く。
「……まあなんだ。今日はもう寝たほうがいい」
ルイズからやや目をそらし、官兵衛は窓から外を見る。
「戦場の真っただ中だからな。部屋に籠ってねりゃあいい。そんで明日、お国に無事帰ることを考えとけ。今日のことはもう――」
――忘れろ。
そう付け加えながら、官兵衛はルイズに向き直った。しかし。
「――いやよ」
唐突にルイズが顔をあげて、言い放った。
「お願い!皇太子殿下を、王軍を説得して!」
なかば睨むようにしながら、ルイズが続ける。
「アルビオンは正当な王家の血筋よ!それを擁護する名目なら、問題にならない可能性だってあるわ!姫さまだってその可能性を信じて――」
それは、必至の形相である。嫌というほど伝わるそれには、どこか意地のようなものも見て取れた。
ルイズは言う。姫の個人的感情でなく、あくまで王家の血筋を保護する名目ならばいいだろうと。
官兵衛からしたらどうにも苦しい言い分に感じるが、未だハルケギニアの歴史や風土に疎い彼には、ありえないなどと否定はできない。
王家の血筋の尊さも何も、身に染みて解るわけではないのだ。
だが官兵衛は頷かない。
「お願いよ。皇太子殿下が首を縦にふればそれだけでトリステインへお連れできる。私からももう一度説得する。だから!」
お願い――その言葉に強い想いがこめられる。
しかし、官兵衛はかぶりを振って言う。
「そいつは無理だろうよ」
「なんでよ!」
「お前さんが思ってるほど、理屈だけで事は進まん」
官兵衛がぴしゃりと言い放った。
彼にとっては、亡命の名目や戦争の口実よりも、動かしがたい障害がある。
それは、ルイズも官兵衛も、先ほどまで目にしていた光景が物語っていた。
あの賑やかな光景を思い起こしてほんの少し、官兵衛は口を噤む。
しかし意を決したように口を開いた。
「見ただろうあの宴の様を。王軍連中の声を、表情を、眼を」
官兵衛が声を低める。
「あいつはな、もう後に引かない、退けない連中の眼だよ」
アルビオン万歳!そう声を張り、去っていく男たちのギラついた目を、官兵衛は思い出す。
敗北につぐ敗北。それを重ね、本土を守れなかった彼らにとっては最早、死ぬことでしか誇りを示す道はない。
自分たちが勇敢に死に、その様を誰かに残すことでしか未来を救う手立てがない。
そう信じているのだろう。
「意地と覚悟をもって、少しでも王家の精強さを見せつけるのが皇子の狙い。
それで少しでも貴族派が勢いを削がれりゃ、それも姫さんの助けになる」
それが、王軍が命を賭して全うする最後の使命だ。
官兵衛は続ける。
「皇太子はもう後には引かんよ。
少なくとも、昨日今日でここに来ただけの小生らが、連中の覚悟を曲げることはできん」
つながりの浅い自分たちが、彼らの最期を遮ることなど出来ない。
語調こそ静かだが、官兵衛は強く強く言い放った。

163 暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2017/10/12(木) 00:13:15 ID:RnTYwnAY
「……そんな」
官兵衛の厳しい様子に、ルイズは愕然とした。じっと官兵衛を見つめるルイズ。
「じゃあ、どうして?どうしてよ……」
一通りの官兵衛の言葉も、考えも、全て耳にした。
どうしようもない、状況は動かしようがない。
嫌というほど、十二分に理解できた。
しかし、しかしそれでも、ルイズは納得が出来なかったのだ。
今の官兵衛の言葉ではなく、『あの時』の彼そのものに。
「あんなに、ずっと殿下と話してて!どうしてよ!」
芯の底に響くよう、ルイズが言い放つ。
いきなりの悲痛な叫びに、官兵衛は押し黙った。
「まるで、いつもみたいに……」
宴の最中、ウェールズと酒を酌み交わし談笑していた官兵衛。一連のその光景を、ルイズは見ていた。
いつもと変わらない様子で食事をし、宴に参加する官兵衛を、彼女は会場の隅から見つめていたのだ。
ルイズが宴の空気にこらえきれず会場を飛び出す、その直前まで。
「どうして平気なのよ!みんな死にたがってるのをわかってて、なんであんなに楽しそうにしてるのよ!」
どう飲み込もうとしても、ルイズには理解ができなかった。
すすんで死地に赴く皇太子。王軍。
そして、そんな彼らと笑い酒を酌み交わす官兵衛。
いつもと変わらず、明るく振る舞うだけの使い魔なのに、その時に限っては彼が恐ろしく異様であった。
どこか恐ろしくもあった。
ともかく、ルイズにはすべてが歪に映ったのである。
「……ルイズ」
ルイズが内に抱えていた思いの一端に触れ、官兵衛はそれ以上言葉が出てこない。
「もういや……嫌いよ。この国はおバカな人ばっかり」
そう言うや否や、ルイズは官兵衛を睨みつける。
その瞳には、こらえきれない涙ばかりか、強い強い憤りが宿る。
「大っ嫌い!!」
悲鳴に近い声が廊下中に響き渡った。瞬間、バシンと何かがルイズから投げつけられる。
一瞬きらりときらめく何かが、乾いた金属音とともにぶつかった。
カランカランと響かせ床に転がるそれは、手のひらサイズの平たい缶。
それに一時視線を落とす。そしてふと前を見れば、そこにもうルイズは居ない。
暗い廊下の向こうへ走り去る靴音を耳にして、官兵衛はじっと目をつむった。

いつの間にだろうか、開けっ放された窓から、肌寒い空気が流れ込んでくる。
「なあ相棒」
「なんだ?」
そして、これもいつの間にか、鞘から出たデルフが官兵衛に話しかけた。
どっかり鉄球に座り込んで、話をきいてやるとばかりの様子の官兵衛。
「わかってやんな。あの娘っ子だってさ、色々理解はしてるよ」
床の缶を拾いながら、官兵衛はデルフの言葉に耳を傾ける。
「あんなでも貴族の娘さ。戦争ってのがどういうもんか知ってるし、犠牲だとか責任だとか身に染みてわかってるよ。
けどな、頭でわかってても気持ちがついてこないのさ」
ましてやあんな生々しい宴なんか見せられたらさ、と付け加えながらデルフが言う。
生々しい。
確かに、ルイズにとってはそうに違いない。

――どうして平気なのよ!――

ルイズの叫びが再び思い起こされる。
平気かどうか言えば違う。
官兵衛も乱世の住人だが、あの場で心が揺れぬほど冷徹でも、無関心でもない。
それが、たった一度とはいえ、酒を酌み交わした相手ならなおさらだ。
ただ、たとえ官兵衛の心内がそうだったとしても。
「……年頃の娘に見せるもんじゃあなかったか」
彼流の、ウェールズへの手向けは、ルイズにはさぞかし堪えただろう。
頭をかきながら官兵衛は立ち上がった。

164 暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2017/10/12(木) 00:15:55 ID:RnTYwnAY
「時にデルフ。こいつは?」
ふと官兵衛が、手の中の小さい缶を見て尋ねる。
よくよく見ると平らな蓋が外れるようになっており、開くと白い軟膏が詰まっている。
デルフがそれを見てしゃべり出した。
「そいつは薬だよ。たぶん打撲とか痛みに効くやつじゃねーか?」
「塗り薬か」
そっと指で軟膏をすくう官兵衛。なるほど、なにやら指先に感じる清涼感と、独特の臭いは薬の類に違いない。
「あの娘っ子、そいつを渡したかったんじゃないのかい?ほら、相棒ここまででずっと体張ってきただろ」
道中の襲撃の数々が思い起こされる。
いくら官兵衛が異常な頑丈さを備えるとはいえ、ルイズからしたら気が気でなかったに違いない。
加えて、長曾我部との激闘の末の昏倒。
城についてからもずっと気を回していたのだろうか。
皇太子と手紙のやり取りをする傍ら、倒れた使い魔に薬まで用意して。
「……よくばりな娘っ子だな」
親友から賜った任務も大事、しかしその想い人も救いたく、さらには使い魔も心配。
一体どこまで背負い込むつもりなのだろうか。
「無茶なご主人だ、まったく」
「ははは、相棒みたいだねぇ」
ため息交じりに言う官兵衛に、かちゃかちゃとデルフが愉快そうに応じた。
「で、どうすんだい?相棒」
ひとしきり笑ったデルフが、先ほどとは打って変わって真面目に問う。
官兵衛も、一仕事すべくと伸びをしながら答える。
「おう、とりあえずそろそろ敵さんも動き出す頃合いだろう。皇太子には悪いが、ひっくり返すのは厳しい。だったら――」
華々しく戦果をあげさせてやろう。
そう言うや否や、官兵衛が暗い廊下の奥を見据える。
「そろそろ出てきたらどうだ?」
官兵衛が腕を構え、ジャラリと鎖がこすれて球を引きずる。
「覗き見野郎」
そして、そう言い終わるのとほぼ同時であった。
ふっ、と全ての灯りが掻き消え、廊下が、周囲が、暗闇で閉ざされたのは。
「相棒!気を付けろ!」
「おう!」
全ての視界が遮られた空間で、デルフを引き抜き、周囲を探ろうと五感を研ぎ澄ませる。
音が、空気が不気味なほど静かだ。
しかし何らかの視線が自分に注がれるのだけはひしひしと感じる。ある種の殺気と言い換えてもいいだろう。
確実に何者かが、今この場で自分の命を狙っている。
「相棒みえるかい?」
「ハッキリとはわからんな」
暗がりで目を凝らしながら、官兵衛は言う。
月明かりも雲に隠れ、辺りはまさに黒一色。
光りない空間では一寸先も目視できない有様である。
そんな状況で命を狙われてるにかかわらず、官兵衛はなんとも落ち着いた様である。
「相手はメイジだね。こんな闇で襲撃するんなら『暗視』の魔法か、もしくは……」
デルフが言い終わらないうちに目前からそよ風が漂う。
何かが一直線に向かってくる、唐突な風のゆらぎ。
しかし、長期間の穴倉生活を過ごした官兵衛にとっては、闇でそれを感じ取るのは造作もない。
研ぎ澄まされた感覚で微妙な空気の揺らぎ感じ、官兵衛はデルフを横なぎに一閃する。
瞬間、ギン!と金属音が鳴り響いた。
剣先に確かな硬い感触を感じる。同時に、目前に確かな人の息遣いを感じとった。
「おらっ!」
すかさず、鉄球を前方へ向かって蹴り飛ばす。
重たい鉄球が鞠のように軽々飛ぶ。しかし、その威力は大砲のごとき重さ。
そんな一撃が、前方の何者かをとらえて吹き飛ばした。
「ぐっ!」
何者かのうめき声とともに、ドン!と手枷に伝わる確かな感触。
してやったり、と官兵衛は叫ぶ。
「どうだ!暗がりも襲撃も慣れっこでね!」
それを聞いてか聞かずかしてか、やや先で、カランカラン、と音が響く。
おそらく相手はメイジ。攻撃を食らい、手放した杖が床に転がる音であろう。
「そこか!とどめを喰らえ!」
全神経を耳に集中させ、音源へ駆ける。そして目前にうずくまる確かな気配をとらえた。
そして、全力でそれに鉄球を振り下ろそうとした、その瞬間だった。
「ほう、確かに闇は慣れているようだな」
官兵衛の耳に、愉快そうな声が届いたのは。

165 暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2017/10/12(木) 00:17:10 ID:RnTYwnAY
「だが真のメイジは。闇を制すことすら造作もない」
誰もいない、息遣いも空気の揺らぎも、何一つ感じなかったはずである。
穴倉で培われた官兵衛の五感が、武将の感覚が、それを見逃すはずもない。
にもかかわらず『そこ』から、囁くように声が届いた。
「なあ?ガンダールヴ」
官兵衛の、まっすぐ背後の場から。
「……なっ?」
バカな、と動きが固まる。そしてそれと同時に気づく。
たった今目前にとらえていた、今しがた鉄球を喰らわそうとした気配が無い。
「なんっ……だと?」
苦しそうに、呻くように、官兵衛は言葉をひねり出す。
それが、その場での彼の精いっぱいの声であった。
闇の中で突如現れた気配と、この旅で幾度も耳にした声。
そして、背中から腹にかけてを、抉られるような激痛。
それらが、官兵衛の表情を苦悶に歪めてた。
「がっ……」
体の内側から広がる激痛に、口から空気が漏れる。
ぼたりぼたり、と甲冑の隙間から液がしたたり落ちて、血だまりを作る。
背後の気配はそれを見て満足そうに笑むと、再び口を開いた。
「……死ね」
どす黒い、怨嗟を込めた呟きが耳に届く。
同じく、バチバチと空気が弾ける奇怪な音も。
デルフが叫ぶ。
「『ライトニングクラウド』だ!風系統の!まずい相棒!」
二人の周囲に電撃がスパークし、襲撃者の顔が照らされる。
首だけ振り返りながら、官兵衛は照らされるその顔を睨みつけた。
「てめぇ……!」
瞬間官兵衛を、背中から腹へと貫いた杖が、まばゆく輝く。
周囲を停滞していた雷がまっすぐ杖へと伸びた。
「死ね!ガンダールヴ!」
バリバリと、けたたましい轟音とともに、高圧の電流が官兵衛の体内へと炸裂した。

166 暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2017/10/12(木) 00:20:22 ID:RnTYwnAY
「来やがったぜ」
フーケはその唐突な呼びかけにハッとした。
ウトウト船をこいでいたが、あわてて周囲を見回し、次いで隣の長曾我部を見やる。
「……?なんだい、いきなり」
先ほどから貝殻のように口を閉ざす長曾我部が、いきなり話し始めたのだ。
フーケが何にか問いかけても、一向に返さなかったのに。
「来やがったって……?」
目を丸くしながら、フーケは長曾我部を見やる。
険しい表情の彼は、全身から張り詰めたような空気を作り出している。
そう、まるで自分が貴族相手に盗みを決行する、その直前のような、あの雰囲気だ。
「……まさか」
それに気づき、フーケは牢の外へと注意を払う。
ふと見ても、一見変わりはない岩壁の牢獄だ。獄中の薄暗さも静けさも、冷たい格子に揺れる灯もなにも同じだ。
ただ一つの違和感を除いて。
「(ちょっと、静かすぎるね)」
そう、今が皆が寝静まる深夜であることを除いても、まるっきり人の気配がないのだ。
普段囚人を監視する看守の息遣いさえ皆無。
戦時中で、今の牢獄にはフーケと長曾我部しか繋がれてはいないのだが、それでも牢番が持ち場を離れることなどあるはずはない。
「おい!牢番!おいっ!」
大声で呼びつける。
しかしつい先ほどまでなら、煩わしがる怒声の一つでも飛んできたのだが、まるで何もない。
「おい?どこいったんだい!」
「無駄だ」
尚のこと呼びかけるフーケに、長曾我部が言う。
「もう殺されてるぜ」
それを聞き、フーケの額に汗が浮かぶ。
そして、まさか、と口にしようとしたところでそれも遮られた。
突如聞こえ始めた、拍車の混じる足音に。
「……この足音」
聞き覚えている音だ。あのときチェルノボーグの監獄でも、状況は同じであったから。
長曾我部が、低い声で言う。
「もう下手な行動はとれねぇ」
それを聞き、フーケは浅く唾を飲み込んだ。
かつんかつん、と響く足音が真っすぐに近づいてくる。
そして、やがて足音は二人の牢獄にさしかかって止む。
鋼鉄の戸に開いた格子窓、その向こうに白い仮面が顔をのぞかせた。
「……ふむ」
仮面が短く呟く。
同時にガチャリと鍵が開き、思い軋みとともに扉が開く。
そして音もなく立ち入ると、男はスラリと杖を抜いて見せた。
「また会ったな土くれ」
その皮肉を込めたセリフに、フーケと長曾我部は苦い顔を浮かべる。
牢の戸が開いても、鎖で壁につながれた二人は自由が利かない。
何より、杖も碇槍も、仕込みの短剣も、すべて取り上げられた二人には成すすべがない。
それを十分わかった上で、仮面は実に愉快そうに言葉を続けた。
「ここまででずいぶん手を焼かされたぞ。本来ならチェルノボークで事が済んでいた筈が、よもやこんな雲の上まで来ることになるとはな」
なあ、と仮面はフーケを見下ろす。長い杖の先端が、彼女の顎に添えられ、ぐいと乱暴に顔を持ち上げる。
「……っ!」
彼女は白仮面を睨む。しかし、諦めと怯えが混じった顔には力が籠らない。
かすかな震えを隠すように添えられた杖を振り払うと、彼女は言い放つ。
「殺すならさっさとしなよ。つまらない前置きは時間の無駄だろ」
長曾我部も観念したように押し黙る。しかしその眼は鋭い。
仮面の男はそんな二人を見ると、微かに笑いながら言った。
「なんとも哀れだな。かつてトリステイン中を恐れさせた世紀の怪盗フーケが、こんな異邦人とつるみこそこそ逃げ回っていたのだからな」
「なんだと?」
異邦人――その言葉に、長曾我部がギロリと仮面を睨む。そんな視線を受け仮面は、今度は長曾我部を見下ろす。

167 暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2017/10/12(木) 00:22:21 ID:RnTYwnAY
「貴様だ。どこかは知らぬが、遥か彼方ヒノモトから来た、異国の者ども」
フーケも驚いたように長曾我部を見やる。
「あの時、『ライトニングクラウド』を喰らわせたにもかかわらず効果が薄かった、その時点で気づくべきだったな。
貴様らには、異常なまでに体躯や力に秀でたものがいる」
言い終わるや否や、仮面の杖先が魔力を帯びる。
空気の層が、形になった様に無数の矢に姿を変えて凝縮される。
「モトチカ!」
フーケが叫ぶ。無数の発射された矢が飛び、壁につながれた長曾我部へ降り注ぐ。
「チッ!」
短く舌打ち、急所を守るように咄嗟に体を捻る。
ざくざくざく!と腕が足が、胴体が、矢に穿たれ、壁に縫い付けられた。
「があっ!」
どうあっても避けきれぬ空気の矢は、突き刺さった後でも形を保ち、彼の動きを完全に封じる。
その痛みに、さすがの西海の鬼も声を上げた。
その様に、仮面は一層愉快そうに言葉を続ける。
「無様だな。忌々しい異邦の者も、こうなってしまえば赤子同然か」
クツクツと、笑い続ける男に、怒りの形相で長曾我部が言う。
「てめぇ、異邦だか異国だがしらねえが、ただで済まさねえぜ。鬼を怒らせたらどうなるか……!」
仮面がふと笑いを止め、ついと杖を振るう。新たに一本矢が追加され、長曾我部の脇腹へと打ち込まれる。
「かっは……!」
「黙れ賊が」
仮面が吐き捨てるように言う。
「これだけされてまだ口が利けるか。呆れた気力よ」
長曾我部の口から乾いた空気が漏れる。
しかし、全身を貫かれても意識を保つ彼に嫌気がさしたか、仮面は再びフーケと向き合った。
「さあ土くれ、最終通告だ。我々の仲間になれ」
脅す口調で、仮面はフーケに迫る。
そして今度は容赦しない、とばかりにフーケの喉元に杖が向く。
断れば魔法で首をはねる、とでも言わんばかりだ。
その杖先から仮面へと視線を映しながら、フーケは恐る恐る言う。
「な、なんだいまだアタシを諦めてないの?」
意外な誘いにフーケは動揺する。
これだけ逃げれば次は死だろうとたかをくくっていたが、どうにもそうではないらしい。
フーケの言葉に、仮面が続ける。
「我々の今後にはどうしても、裏に通じる人材が必要だ。特にお前のようなメイジは、上としても見過ごせぬらしい」
そして一応は、俺の評価も変わらぬ。
仮面はそう付け足した。
「さあ選べ、マチルダ・オブ・サウスゴータ。我らのもとに来て名誉を取り戻すか、それとも落ちぶれた盗賊として生涯を終えるか」
仮面が凄む。
改めて、かつての名を呼ばれ、フーケはやれやれとうなだれた。
「仕方ないね」
フーケは、観念することに心を決めた。
どうせここで意地を張って死んでも、何一つ得にはならない。
何より自分がここで死ねば、この大陸で帰りを待つあの子に申し訳が立たない。
鬱蒼と茂る森の奥で、誰にも知られないようひっそりと暮らす子供たち。
そして子供たちに囲まれ、あの娘がそこに――
「(今はまだこんな所で終われない)」
その光景を思い浮かべ、フーケは仮面に答えた。
「いいさ、手を貸してやるよ。ま、その分報酬ははずんでもらうけどね」
口元に笑みを浮かべながら、フーケは笑いかける。
「いいだろう」
仮面も満足げに頷いた。
即座に鍵を用いてフーケの枷を解除する。
じゃらりと鎖が外れると、彼女は立ち上がってうーんと背を伸ばす。
「はぁ〜窮屈だったよ」
軽口を叩きながらも、フーケは仮面の動向を探る。
相手はじっとこちらに注意を向け、佇む。
どこかこちらを見透かそうとしているような探る視線である。
そして、壁に魔法で縫い付けられた長曾我部には目もくれていない。
それに気づくと、フーケはわき目で長曾我部の様子を確認した。
四肢に喰らった魔法で、長曾我部は満身創痍。
傷口からの出血もおびただしく、早急な手当が必要だろう。
しかし目の前の仮面がそれを許すはずもない。
「(……悪いね)」
フーケは内心で詫びを入れる。
ここまで道中世話にもなった。
多少言動の非常識さに手も焼いたが、気の悪い男でもなかった。
だが、その連れ合いもここまでなのだ。
自分には死ねぬ理由がある。
さらには見ず知らずの荒くれと心中する気にもなれない。
そう思い、フーケは長曾我部に向き合った。

168 暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2017/10/12(木) 00:23:38 ID:RnTYwnAY
「……ま、道中世話になったわね。悪いけどあたしはこいつと行くよ」
息を切れ切れに、長曾我部がフーケを睨む。
しかしフーケは意にも介さず、長曾我部の顔を覗き込みながら言う。
「恨むんじゃないよ。有利な方につかなきゃ生き残れないだろ?」
こっちはお前とこれ以上付き合う気はない、と、暗に言い含める。
フーケはにやにやと作り笑いを浮かべてみせた。
長曾我部は傷が痛むのか、うめき声を上げながら俯く。
なんとも痛々しい様だ。
「……じゃあね」
フーケは静かに呟く。踵を返して、さあ牢を出ようとばかりに歩き出しす。
しかしその時だった。
「待て」
仮面が懐から杖を取り出してフーケに突きつける。
ここに来て取り上げられた、フーケの杖だった。
「あらあら、随分気が利くじゃない」
差し出された杖を、満足そうに受け取るフーケ。
しかし仮面は彼女の目前を塞ぐとこう言った。
「最初の仕事だ土くれ。こいつを殺せ」
仮面の重々しい口調が、フーケに投げかけられた。
「……は?」
一瞬、言葉を詰まらせて、フーケは聞き返した。仮面は変わらず繰り返す。
「この男を、この場で殺せと言ったのだ」
仮面の杖が、まっすぐ長曾我部を指す。
その動作と言葉の意味するところに、フーケは身を硬直させた。
「な、馬鹿だね。放っておきゃいいじゃないか」
唐突な殺しの命だった。意図も分からず、フーケは必死で言葉を取り繕う。
「もうじきここは軍勢が攻め入るんだろ?そうでなくともこんな虫の息なんざ長くもたないよ」
時間の無駄だ、とばかりに手を振ってみせる。
「それより早く行こうじゃない。長引くと兵士が感づくよ?」
フーケとしては、早めに逃げて身を隠したい意味もあった。かつて盗賊として仕事をしていた経験からいっても、時間の浪費は避けたいのだ。
ましてやここで殺しなど、何一つ得にはならないではないか。
「ほらどきなよ!さっさと逃げないと――」
「城の人間は皆殺しだ」
その言葉と同時にずいとフーケに杖が向く。同時に仮面の怨嗟の籠った声色に、フーケは言葉を遮られた。
「今頃城内では襲撃が始まっている。ここに人は来ない、いや来ても困ることはないだろう」
どのみち殺せば同じなのだから、と仮面は付け加える。
「だが困る事は別にあってな。貴様自身だ土くれ」
仮面は強い口調で続けた。
「我々は目的のためなら手段は選ばぬ。この地の統一と大いなる聖地奪還の為にはな。
だが貴様はどうにも違うようだ」
自分へ向けられた杖とその話から、フーケに冷や汗が流れる。
「これまで貴様の盗みの手口を見るに死人は出ていないようだ。たとえどれほど大掛かりな手口で、相手であっても、な」
それを聞き、フーケも反論する。
「そりゃあ、下手に殺したら大きく手配されるしね。それにアタシは宝を奪われてうろたえる連中が好きなのさ。死んじまったら――」
「慌てる事もできない、か?」
言葉の先を引き取られ、フーケは思わず押し黙った。
クックと含みをこめて仮面が笑う。
「我々にはその甘さが、何よりも不要なのだ」
その言葉で、フーケはここに来てようやく悟った。
目の前の仮面の組織、レコンキスタは、自分が思うよりも苛烈で残忍。
そして思うよりも、自分が取り入るのに適していない、イカレた集団だということを。

169 暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2017/10/12(木) 00:25:59 ID:RnTYwnAY
「甘さを捨てろ土くれ、いや……マチルダ」
再び仮面がその名を言う。
「貴様の家名が、名誉が、アルビオンの王家に取りつぶされたのはなぜだ?
それは貴様らの仕える暗愚な君主に、サウスゴータの太守が加担したからだ。
君主の愚行を見捨てられぬ甘さが、その破滅を招いたからだ」
「……暗愚、愚行?」
フーケは唐突に、目の奥底が熱く燃えるような感覚を覚えた。
「そうとも。詳細はともかく、貴様の家もそれに付き従い潰えた。なんとも愚かな話ではないか」
仮面が次々と言葉を並べる。
それを聞き、彼女の奥底に徐々に熱が広がり続ける。無意識に奥歯へと力が籠る。
目前の男に対して、ふつふつと、言い知れぬものが沸き上がる。
「今ここでこの賊を殺し、貴様の奥底から情を取り去るのだ。
そうすれば、お前を快く貴族派の一員と認めよう。出来ぬなら見込み無しとみなし、始末する。さあ――」
どうする?と仮面の促す言葉に、フーケは杖を構えた。
壁へつながれた長曾我部を前にして詠唱を始める。
途端、めきめきめき、と周囲の壁から岩が剥がれ、鋭く精製されていく。
そして鋭利なる岩のやりが空中へ停滞して、ピタリと長曾我部へと狙いを定めた。
仮面は動かずじっと、その様を監視する。
「悪いねアンタ」
フーケは呟く。
同時に杖を、真っすぐ己の背後へと振るった。
「あたしはあんたみたいな奴が、一番嫌いなのさ!」
岩槍が一斉に反転し、背後の仮面目がけて飛ぶ。
ガガガガッ!と乾いた衝撃音が炸裂して部屋中に土埃が飛び散った。
その中心で仮面は、淡々と言葉を紡いだ。
「残念だ」
フーケは即座に飛び退り距離を取ろうとする。しかし狭い獄中にそんな場所はない。
フーケは長曾我部と隣り合うよう壁を背に仮面に向き合った。
「太守と同じ道筋を辿るか。マチルダ」
「黙れ!」
フーケは激昂して叫んだ。
お前に何がわかる。わたしのこれまでを、あの娘の、何がわかるというのか。
侮辱の数々へ、怒りの言葉が浮かんでくる。
「気安く、人の名を呼ぶんじゃない!」
怒りに任せて、杖先から石礫が舞う。しかし仮面はたやすく杖ではじき返すと。
「安心しろ、もう呼ばぬ」
呟き、瞬間青白い杖が伸びてフーケの体を突き刺した。
「うがっ!」
即座に杖が引き抜かれ、腹部から血が噴き出る。仮面は続けざまに、フーケの手足を貫くと。
「そして会うこともない。賊が」
地面に崩れ落ちた彼女を、汚物を見るように見下し、言葉を投げかけた。
「あっ、ああ……」
フーケは倒れ伏し、杖を取り落とす。
四肢と胴体に力が入らない。昏倒しそうな痛みが襲うが、彼女の意地がかろうじて意識を保つ。
「くっ……うう。ちっくしょう……!」
「安心しろ、そう容易く殺さん」
床でもがこうとするフーケを見下ろし、仮面が言う。
「動けぬが、『まだ死なない』程度にしてやった。これからレコンキスタの総攻撃が始まる。ここには貴様の予想どうり、血に飢えた軍隊がなだれ込む……」
愉快そうなその言葉にフーケは青ざめる。
「思う存分、弄ばれよう。我らと敵対したことを悔い、恥辱と侮辱にまみれて死ぬがいい」
そういって短く笑うと、仮面は背を向けた。
「さて、向こうの始末は終わってる手筈だ。あとは計画の通り――?」
その時、仮面はついと動きを止めた。
一流の風の使い手の男には、場内の空気の動きをある程度把握できる。広範囲では精度も限られるが、人の動きも読むことが可能。
その仮面の感覚に見知らぬ、いや計画外の気配が飛び込んできた。
「……どういうつもりだ」
その気配の主が分かるや否や、仮面は怒りに顔を歪めた。
仮面で表情はわからないが、倒れ伏したフーケからも仮面の豹変ぶりがうかがえれるほどに。
「この計画は俺の……!おのれ忌々しい羽虫風情が、よくも邪魔を」
わなわなと手にした杖を震わせ、仮面は一人叫んだ。
沸き上がる怒りを抑えようともせず。
それが、その一瞬が、隙であった。

170 暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2017/10/12(木) 00:29:20 ID:RnTYwnAY
「おいっ……!」
突然の怒鳴り声が背後から響いた。怒りから返り、仮面ははっとして振り返る。
一瞬の感情の乱れが、彼にとって何より致命的だった。
仮面の眼前に迫りくる拳が広がる。
「……おのれ異邦人」
仮面は短く、静かに呟いた。気づくべきだったのだ。
あの時フーケが自分に放った魔法が、あろうことか長曾我部を開放すべく放ったものであったことを。
奴の戒めを解くべく、もう一方へ放たれた岩片があったことを。
目前に立つ長曾我部を見て、仮面はそれを悟った。
拳に仮面が打ち砕かれるのを感じながら舌打ちする。
「(……ここはもういい。フーケは始末した。こいつも長くはもつまい。問題は――)」
仮面が崩れ落ち、素顔が露になるが、男は気にする風もなく詠唱を始める。チェルノボークで放ったものよりも威力を込め、杖先から雷光を放つ。
まっすぐまっすぐ、雷が目前の長曾我部へ伸びた。しかし。
「……テメェか」
元親はそれを避けるそぶりも見せず、直立不動で身に受ける。
まばゆい光と身を焼く電撃。だが、その中で西海の鬼は微動だにしなかった。
ついと、自分の足元に倒れ伏すフーケをみやり、次いで目前の男を見据える。
そして、そのあらわになった仮面の下を見据えながら、静かに、はっきりと言い放った。

「落とし前は必ずつけさせるぜ」



「ここいらで落とし前つけさせてやる」

官兵衛は、内側を焼かれる感覚をおぼえながら、背後で笑うその顔に言い放った。
背後から押さえつけられ、体を貫く杖と電撃から逃れるすべは無い。
ばちばちと雷光も弾け続ける。
そして、これだけの騒ぎのはずが兵士の一人も駆け付けないあたり、辺りは敵の手中だろう。
つまりこの場に助けも来ない。背後の男もそれをわかって余裕の表情を浮かべているのだ。
だがそうであっても、たとえ窮地であっても、官兵衛は振り返ってその面を見据えた。

怒り憎しみとも違う、力のこもった瞳。

それぞれの二対の武将達の眼が、そのよごれた仮面の下の素顔を逃がすまいと捕らえて離さなかった。



                                                                つづく

171 暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY :2017/10/12(木) 00:34:25 ID:RnTYwnAY
今回は以上で終わりです。
なかなか筆が進まず申し訳ありません。
現状では結構先まで話は考えていますので、また次回もよろしくお願いします。
それでは。

172 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/10/15(日) 22:31:38 ID:p5wSueKw
暗の使い魔の人、乙です。私の投下を始めさせていただきます。
開始は22:34からで。

173 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/10/15(日) 22:35:20 ID:p5wSueKw
ウルトラマンゼロの使い魔
第百五十九話「破滅降臨」
破滅魔虫ドビシ
破滅魔虫カイザードビシ 登場

 ガリア王国の首都リュティスは、聖戦の開始以来ずっと、大混乱の坩堝に陥っていた。
 街には南部諸侯の離反によって、その土地から逃げてきた現王派の貴族や難民が溢れ返り、
それがなくとも国民はロマリア宗教庁より“聖敵”にされてしまったことで震え上がり、
連日寺院に救いを求める始末であった。華の都と呼ばれたリュティスは、たったの一週間で
終末がひと足先に訪れたかのようになってしまったのだ。
 王軍もまた、反乱を起こした東薔薇騎士団の壊滅から来るジョゼフへの恐怖心と外国軍への
嫌悪感からほとんどがジョゼフに従っていたが、その士気は最低であった。しかも本日未明に
もたらされた、カルカソンヌに展開していた最前線の部隊が怪獣に操られ、その末に全員が
捕虜となって文字通り全滅したという報せによって、これ以上下がらないと思われていた士気が
どん底になっていた。――ジョゼフは何も言わないが、怪獣が彼の仕業なのはどう見ても明らか。
つまり、かの王は自分たちですら捨て駒としか思っていないのだ。彼らが今もガリア王軍であり
続けるのは、最早何をしても自分たちの破滅は変わらないのだから、せめて最後まで王家への
忠義と誇りは捨てなかったという体裁は保ちたいという絶望的な願いだけが理由であった。
 常識家でただの善人だった宮廷貴族だけは、祖国をどうにか立て直そうと躍起になって
いたのだが、そんな彼らでも、東薔薇騎士団の反乱の際に崩壊したヴェルサルテイル宮殿の
一角……美しかった青い壁が今やただの瓦礫の山であるグラン・トロワの無惨な姿を見る度に、
自分たちの仕事が無駄になることを認識していた。

 ハルケギニア一の大国、ガリア王国をほんの一週間でこれほどの惨状に変えた張本人である
ジョゼフは、仮の宿舎とした迎賓館――語頭に「元」がつくのも遠い未来ではないだろう――で、
運び込んだベッドの上から古ぼけたチェストを見つめていた。それは中が見た目より広くされて
いるマジックアイテムであり、幼き頃にはシャルルとかくれんぼに興じていた懐かしい思い出の
品である。
 当時のことを思い返しながら、ジョゼフは独りごちる。
「一度でいいから、お前の悔しそうな顔が見たかったよ。そうすれば、こんな馬鹿騒ぎに
ならずに済んだのになぁ。見ろ、お前の愛したグラン・トロワはもう、なくなってしまった。
お前が好きだったリュティスは、今や地獄の釜のようだ。まぁ、おれがやったんだけどな。
それでも、おれの感情は震えぬのだ。あっけなく国の半分が裏切ってくれたし、残った奴らも
事実上捨ててやったが、何の感慨も持てん。実際『どうでもいい』以外の感情が持てぬのだよ」
 ジョゼフはため息を吐いた。
「何だか面倒になってしまったよ。街を一つずつ、国を一つずつ潰していけば、その内に
泣けるだろうと思っていたが……まだるっこしいから、纏めて灰にしてやろうと思う。
もちろん、このガリアを含めてな。だからあの世で王国を築いてくれ。シャルル……」
 そこまでつぶやいた時、ドアが弾かれるようにして開かれた。
「父上!」
 顔面蒼白で、大股でつかつかと歩いてきたのは、娘であり、王女であるイザベラだった。
王族ゆかりの長い青髪をなびかせながら、父王に向かって問うた。
「一体、何があったというのですか? ロマリアといきなり戦争になったと聞いて、旅行先の
アルビオンから飛んで帰ってきてみれば、市内は大騒ぎ! おまけに国の半分が寝返ったという
話ではありませぬか!」
「それがどうした?」
 ジョゼフはうるさそうに、たったひと言で返した。
「……“それがどうした”ですって? わたしには、父上のお考えが理解できませぬ! 
ハルケギニア中を敵に回しているのですよ!? 王国がなくなるのですよ!?」」
「だから、“それがどうした”と言っているのだ。おれにとっては、誰が敵に回ろうと、何が
なくなろうとも、どうでもよいことなのだ」
 冷たく突き放したジョゼフに、イザベラはわなわな小刻みに震えた。父に、恐怖を感じているのだ。

174 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/10/15(日) 22:38:24 ID:p5wSueKw
 ジョゼフはそんなイザベラに、冷めた視線を返していた。ジョゼフは己の娘でさえ、愛した
ことは一度もなかったのだ。それどころか、魔法の才に恵まれない彼女に昔の自分の面影を見て、
嫌悪感すら抱いていた。彼女が何かわがままを言う度にそれを叶えてきたが、それは鬱陶しい
イザベラの声をさっさと黙らせたいからだけでしかなかった。成長してからもイザベラはその辺の
愚昧な人間と変わりなく、彼女に対して何の評価もしていなかった。
 だがしかし、次の瞬間、イザベラは彼の抱いている人物像に反する行動に打って出た。
「父上……どうかお考え直し下さいッ!」
 彼女は恐怖心を振り切り、必死な声音でジョゼフに改心を求めてきたのだ。
「何?」
「もう遅すぎるのかもしれませんが……何か変えられるものがあるやもしれませぬ! せめて、
この国の民の命だけは助かるよう便宜を図って下さい! 彼らには何の罪もないではありませぬか!」
 その声音には、保身や計算の色はなかった。王になってから散々聞いてきたので、それくらいは
分かる。だからこそジョゼフには信じられなかった。あのわがまま娘が、このようなことを口走るとは。
「……意外な言葉だな。誰からの受け売りだ?」
「ある者より教わりました。間違いは、生きていれば正せると。……わたしは、己というものを
省みたことがありませんでした。そのこと自体、どうとも思っていませんでした。ですが……
その者より教わって以来、そんな自分を変えたいと思うようになったのです」
 胸の辺りをギュッと握り締めるイザベラ。その懐には、アスカが置いていったエンブレムの
パッチがあった。
「そして父上にも、どうか過ちを正していただきたいのです! このままではどう考えても、
誰もが破滅する結末しか待っていません。それが正しいことのはずがありませぬ! どうかッ! 
どうか父上、お考え直しを……!」
 イザベラの強い訴えを一身に受け……ジョゼフは声を張りながら大笑いした。
「ワッハッハッハッ! ワッハッハッハッハッ!」
「ち、父上?」
「いやはや、おれは本当に人を見る目がないな。お前がそんなに立派な台詞を言う人間に
なっていたとは。今の今まで、全く知らなかった。実に驚かされたよ」
 ジョゼフの言葉に、イザベラは一瞬表情が輝いた。
「父上、では……!」
 だが、ジョゼフから向けられたのは杖の先端だった。
「え……?」
「だが、それもやはりどうでもよいことだ。おれは何も変えるつもりはない。お前が『正しい』と
思うことをしたいのなら、今すぐにここから出ていくことだな。さもなければ、出来ない身体に
なるかもしれんぞ」
 イザベラは再び、ガチガチと震え出した。先ほどよりも深い恐怖を、ジョゼフに感じている。
「とっとと去れ。身内を殺めるのはもうやった。同じことを二度やるのは下らんことだ。
だから見逃してやる。従わないのなら……いい加減鬱陶しいので、黙らさなければならんな」
 ジョゼフが自分を見逃す理由は、その言葉以外にないのは明白だった。結局、彼は自分の
ことをこれっぽっちも愛してはくれなかったのだ。
 イザベラはそれがとても苦しく、悔しく、そして悲しかった。感情とともに溢れ出た涙と
ともに、この寝室から飛び出していった。
 次いで現れたのは、ミョズニトニルン。彼女は集めた情報をジョゼフに報告する。
「死体の見つからなかったカステルモールの件ですが……。どうやら生きているようです。
カルカソンヌで捕虜となった王軍に紛れているとのこと」
「そうか」
「シャルロットさまと接触するやもしれませぬ。何らかの手を打たれた方が……」
「それには及ばぬ」
 ジョゼフは首を振った。

175 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/10/15(日) 22:41:18 ID:p5wSueKw
「どうしてですか?」
「希望の中でこそ、絶望はより深く輝く。奴らは『おれを倒せるかもしれぬ』という希望を
抱いたまま、ただの塵に還るのだ。そんな深い絶望など、そうそう味わえるものではない。
羨ましいことだ」
 最後のひと言は、紛れもないジョゼフの本音であった。

 昨晩の事件によって、ロマリア軍はリネン川を渡り、がら空きとなった対岸へと歩を進めた。
しかしそこで進軍は一旦ストップとなった。捕虜の人数把握や整理などの処理に時間が必要
だったからだ。街の半分に陣を張っていた軍団を纏めて捕虜にするなど異例のこと。そのため
ロマリア軍も忙殺されているのだ。
 しかし進軍の停滞も、持って一日というところだろう。明日にはリュティスへ向けて進撃を
再開してしまうはずだ。リュティスはカルカソンヌの比ではない数の兵が守っているので、
さすがにすぐ激突とはならないだろうが……それでも本格的な戦闘はもう秒読み寸前という
ところまで迫っている。それまでにアンリエッタが間に合わなかったらアウトだ。
 そんな風にやきもきしているルイズは……才人がラン=ゼロに何か怪しげな特訓をつけられて
いるのを目撃した。
「まだだ! まだお前には集中力が足りねぇ! 極限まで精神を研ぎ澄ませッ!」
「おうッ!」
 傍から見たら昨日と同じ剣の稽古なのだが……才人の方は何と目隠しをしているのだ。
視界をふさいだ状態で剣を振るうなど、奇行としか言いようがない。
「サイト……あんた何やってんの?」
「その声、ルイズか?」
 才人たちは一旦手を止め、才人は目隠しを取ってルイズに向き直った。
「特訓さ」
「それは見たら分かるけど、あんた何で目隠しなんかしてるのよ。いくら何でもそれは危ないでしょ」
「いや、それが必要なんだよ」
 とゼロは証言する。
「目隠しが必要?」
「ジョゼフを討ち取るためにな。特に、今はこんな状況になっちまっただろ? だから最悪
今日中にこの特訓を完成させなきゃならねぇんだ。悪いが邪魔してくれるなよ」
「まぁそれはいいけど……昨日は目隠しなんかしてなかったじゃないの。どうしてまたそんな
ことを……。昨晩に何かあったの?」
 と聞かれて、才人たちはギクリとした。昨夜はタバサと密談していた。そこでカステルモール
からの手紙からジョゼフが正体不明の魔法を扱うことを知り、その対策をゼロと話し合ったのだが……。
 喧嘩をすることもあるが、才人は仲間であるルイズを信頼している。しかし、ロマリアの
手の者がどこでどうやって盗み聞きしているか分かったものではない。ガリアの者からタバサに
王として名乗り出てほしいと言われているなんて内容、ロマリアは諸手を挙げて喜ぶだろう。
そんなことはさせられない。
 だから才人たちは内心ルイズに謝りながら、ごまかすことにした。
「その、何て言うか……これはとっておきの秘策なんだ。決まればジョゼフの野郎はおったまげる
こと間違いなしの」
「ああそうだ。念には念を入れてな」
「そうなんだ……」
 ルイズは訝しみながらも、才人たちの引きつった顔から何かを察してくれたのだろう。
それ以上追及はしなかった。
「それだったらいいわ。特訓頑張ってね。じゃあわたしはこれで」
 当たり障りのないことを言ってルイズはこの場から離れていった。後に残された二人は
ふぅと息をつく。
「……それにしても、本当に俺がジョゼフを倒さなくちゃいけないって状況になってきてるな。
姫さまは明日には来てくれるかな……」
「信じるしかねぇな。この心配が杞憂になってくれるのが、一番いいんだけどな……」

176 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/10/15(日) 22:44:40 ID:p5wSueKw
 と言い合う才人とゼロ。もしアンリエッタが間に合わなかったら、才人がジョゼフの元に
乗り込んで召し捕らなくてはならない。ジョゼフさえ倒せば、ガリア軍に抗戦の意志はあるまい。
戦争を止めるには、とにもかくにもジョゼフ打倒が必要なのだ。

 その日の夜……才人から王への即位を止められていたタバサだったが、シルフィードと
ハネジローが寝静まった頃に、才人がこっそりと部屋にやってきたのであった。
 タバサは驚くとともに、こんな夜更けに才人が一人で自分の元を訪れたという事実に少し
緊張を覚えながら、彼を中に招き入れた。
 才人は一番に、こう言った。
「昨日の夜の話……俺、真面目に考えたんだ」
「……え?」
「ほら、タバサが王さまになるって奴」
「それが?」
「やっぱり、正当な王位継承者として、タバサは即位を宣言すべきだ」
 昨日とは正反対の言葉に、タバサは顔を曇らせた。
「ロマリアに説得されたの?」
「違う。自分で考えたんだ。どうすれば、この戦は早く終わるのかなって。やっぱり……
これが一番だと思う」
 そう才人は語る。
「ロマリア軍が遂に川を渡っちまっただろう? それで、ガリア軍の総攻撃も始まるらしいんだ。
そうなったら、ほんとに地獄のような戦になっちまう。姫さまの帰りを待っている暇はもうないんだ。
だからタバサ……どうか頼む。みんなを救うために」
 と説得する才人に、タバサは……。
「……誰?」
「え?」
「あなたは、誰?」
 疑問で答えた。手を伸ばし、杖を手に取る。
「な、何言ってるんだよ。俺が誰かなんて……どうしてそんな変なこと聞くんだ?」
 顔が引きつりながらも聞き返す才人に、タバサは言い放った。
「あの人だったなら……仲間のことを信じない選択は取らない」
 アンリエッタも才人の大事な仲間だ。彼女が待っていてほしい、と言ったならば、才人は
ギリギリまで待ち続ける。仲間を信頼しているから、絶対にそうするはずだ。
 それが、ゼロたち仲間とともに戦い、成長してきた才人という人物だと、彼を熱く見守って
いたタバサには分かるのだ。
「そ、それは、俺にも事情が……」
 もごもごと言い訳する『才人』に、タバサは決定打となるひと言を投げかけた。
「ゼロの声を聞かせて」
 その途端、『才人』は身を翻して逃げ出そうとした。タバサはその背中にディテクト・
マジックを掛けた。やはり魔法の反応があったので、氷の矢を背に放った。
 みるみる内に『才人』の身体はしぼんで小さくなっていき……いつかの任務で自分も
使ったことのあるスキルニルの正体を晒した。血を吸わせた対象の姿に成り切る魔法人形だ。
 ロマリアの手の者が、密かに才人の血液を手に入れ、自分を利用するために差し向けて
きたのだ……と分析したタバサは、拾い上げた人形を握り潰した。その瞳には、強い怒りが
燃えていた。

「しまったなぁ……。失敗してしまったか」
 才人に化けさせたスキルニルがいつまで経っても戻ってこないことで、事の次第を把握した
ジュリオはやれやれと頭を振っていた。
「恋は盲目と言うから、あの聡い彼女も騙せると踏んだんだが……ぼくとしたことが読み
違えてしまったな。聖下に何と申し開きをしたらいいか……」
 うーん、と腕を組んでうなるジュリオだったが、すぐにその腕を解いた。
「でもまぁ、最終的に彼女が王位に就けばそれでいいんだ。そうすれば後は何とかなる。
幸い軍は渡河に成功してるし、後はどんな形でも、ジョゼフ王を王座からどかすだけだな……」

177 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/10/15(日) 22:47:55 ID:p5wSueKw
 と算段を立てるジュリオ。聖地奪還のためにあらゆる手を投げ打つ彼らは、一度のミスで
その陰謀に歯止めを掛けるようなことはしないのだ。

 翌日、タバサはロマリアに聞かれることを承知で、昨夜のことを才人とルイズに知らせた。
どうせこれを仕組んだのもロマリアなのだから、聞かれたところで構いやしない。
「何だって!? 俺の偽者を、あいつらが……!?」
 スキルニルの仕組みを聞いた才人は、ジュリオのフクロウが自分の頬をかすめたことを
思い出した。
「あの時だな……! くっそ! 分かっちゃいたが、あいつらほんとに手段を問わねぇな……! 
油断も隙もねぇ……!」
「ほんとなのね!」
「パムー!」
 才人も憤慨していたが、シルフィードとハネジローはそれ以上にカンカンであった。
「おねえさまにこんな汚い手を使って! 絶対に許せないのね!」
「確かに、ロマリアのやり口は本当に卑劣極まりないものだけど……」
 ルイズも怒りを覚えながら、タバサのことをじっとにらんだ。
「どうしてロマリアは、才人の姿ならあんたが言うことを聞くと思ったのかしら」
 タバサはサッと顔をそらした。ルイズが追及するより早く、タバサは話題をそらした。
「今は、このことはもういい。それより、これからどうするか」
「それだったら、遂に朗報が来たんだよ!」
 才人がウキウキしながら言った。
「今朝方に、姫さまがガリアに到着したって報せが届いたんだ。なぁルイズ?」
「ええ。きっと今頃はジョゼフのところに面通りをしてるでしょうね。後は姫さまの交渉が
上手く行くのを祈るばかり……」
 とルイズが言った矢先に、窓から差し込んでくる日差しが急に途切れ、部屋の中がやおら
暗くなった。
「ん? 急に暗くなったな。もう夜か?」
 そんなまさかな、と才人が自分に突っ込みながら窓の外を覗き込んで、すぐに顔をしかめた。
「何だ、この空模様……。こんな曇り空、見たことないぞ……」
 見渡す限りの空が、厚い雲に閉ざされているのだ。急に夜が来たかのように暗くなったのも
そのせいだ。しかしあの曇り空は、何かが変だ……。
 ルイズたちも奇妙に空を見上げていると、ゼロが叫んだ。
『あれは雲じゃねぇッ!』
「え?」
『あれは……怪獣の群れだッ!』
「!?」
 ギョッとする才人たち。才人がゼロの力を借りて遠視すると……雲に見えたものが、体長
六十サントほどもある虫型の怪獣の集まりであることが分かった。
「ほ、本当だ! けどあの量……一体何万、いや何億匹いるんだよ!?」
 才人は戦慄していた。普通の虫よりもずっと大きいとはいえ、一匹一匹は一メイルにも
満たないサイズ。それが、広大な空を埋め尽くしているのだ!
 しかも虫の群れの各部が変形して、虫の塊がいくつも地上へと降ってくる。その塊は形を
変えていき……一つ目の異形の巨大怪獣となってカルカソンヌの中に侵入してきた!
「グギャアーッ! グギャアーッ!」
 虫型怪獣の名前はドビシ。それらが融合して巨大怪獣と化したものは、カイザードビシという! 
カイザードビシの群れの光景に、才人たちはアンリエッタの交渉がどのような結果になったのかを
自ずと察した。
「ジョゼフの野郎……とうとうやりやがったなッ!」
 ゼロが懸念した通りに、才人がジョゼフを討ち取らなくてはならない状況となってしまったのだ。

178 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/10/15(日) 22:49:06 ID:p5wSueKw
以上です。
ガイアアグルに纏わりついてたドビシはほんとにきもい。

179 ウルトラ5番目の使い魔 ◆213pT8BiCc :2017/10/26(木) 22:50:34 ID:f/842f2A
こんばんわ。ウルトラ5番目の使い魔、66話ができました。
投稿を開始しますので、よろしくお願いします。

180 ウルトラ5番目の使い魔 66話 (1/17) ◆213pT8BiCc :2017/10/26(木) 23:01:02 ID:f/842f2A
 第66話
 剣下の再会(後編)
 
 殺戮宇宙人 ヒュプナス 登場!
 
 
 ハルケギニアを騒がせている子供の連続誘拐事件。それがついにトリスタニアのど真ん中でも起こったということで、トリスタニアの治安維持を担う衛士隊は上へ下への大騒ぎになっていた。
 ともかく、女王陛下のお膝元で起こった事件で犯人を逃したら威信に関わる。隊長以下、非番の者まで呼び集められ、トリスタニア全域を封鎖しての大捜索網が広げられた。
 
 だが、その裏で、決して表には出せないある事件が起こっていたことを知る者は、少なくとも一般人レベルにはいない。
 重罪犯を収容するチェルノボーグの監獄。そこで、銃士隊が中心となって前代未聞の捕物が行われていた。
「隊長、牢番長までの職員をすべて捕縛しました。全員が罪状を認めています」
「ご苦労。さて、何か申し開きはありますかな? 所長殿」
 所長室で部下からの報告を受けて、アニエスは自分の前で縄で縛りあげられている小太りの男を見下ろした。
 彼はこのチェルノボーグの監獄の所長。罪状は、一ヵ月前に囚人の集団脱走を起こしながらも、それを職員と連帯して隠蔽したことである。
 すでに証拠、証人ともに十分な数が揃い、すぐにでも”元”の一字をつけて呼ばれることになるであろう所長は顔色がない。それでも彼は自分を待ち受ける破滅の未来を少しでも回避したい一心で弁明した。
「あ、あれは私の責任じゃない! 私はあの日まで、警備には何も手抜かりなく務めてきたんだ。だけど、固定化を施した壁がいともたやすく壊されて、駆け付けたときにはもう全員逃げた後だった。あんなのじゃ、誰だって脱走を防ぐのは無理だ。私が悪いんじゃない!」
「だが、囚人が逃げたことを報告せずに隠蔽したのは事実でしょう? それで、もう何人の被害者が出たと思ってるんですか?」
「あ、あれは出来心で。私は所長になってからこれまで、ずっと不正には手を出さずに来たんだ。頼む、信じてくれ!」
「一度魔が差したばかりに人生を台無しにする人間は世にごまんとおりますな。それらをすべて許していては世間はめちゃめちゃになるでしょう。酌量の余地はあっても罪は罪、その責任は後でじっくり負っていただきます。連れていけ」
 アニエスに命じられ、数人の隊員がわめきちらす所長を、これまで彼が支配していた牢獄の中へと連行していった。
 これで容疑者はすべて捕らえた。後は報告書にまとめて上に提出し、司法の手にゆだねれば自分たちの仕事は終わる。しかしアニエスは報告書を作るなどの事務仕事が大の苦手で、やれやれとため息をついた。
「これは早くミシェルに戻ってきてもらわないと大変だな。そういえば、あいつはまだ戻らないのか?」
「はい、脱獄したトルミーラ一味のことを伝書ゴーレムで送ってきてからは、まだ何の連絡も」
「そうか、あいつの情報のおかげでチェルノボーグでの隠蔽工作が露見したわけだから、今回は勲章ものなんだが……まあミシェルのことだから、また別の情報を探っているのだろう」

181 ウルトラ5番目の使い魔 66話 (2/17) ◆213pT8BiCc :2017/10/26(木) 23:03:48 ID:f/842f2A
 アニエスは気持ちを切り替えると、逮捕した牢番の代わりに牢獄の見張りを配置するための指示を出していった。代わりの人員が派遣されてくるのはどう急いでも明日以降。それまで銃士隊で穴を埋めねばならない。
 だが、チェルノボーグに引きこもる形になった銃士隊に、才人たちがさらわれたという情報が届くのにはかなりの遅れを必要とすることになった。そしてその間に、今さらミシェルが独断で行動を起こしているとはアニエスも想像できなかった。
 夜の帳はまだ深く、夏の夜風は蒸し暑い。アニエスは窓から夜空を見上げ、明日になればまた忙しくなるなと未来に思いをはせた。しかしそれは、アニエスが予想したのとはまったく別の形で訪れることになる。
 
 
 所を移し、誘拐団のアジトとなっている幽霊屋敷。住人がいなくなって久しく、荒れ放題になっているその廃屋の廊下を、ミシェルは偶然出会った才人とアイをつれて歩いていた。
 銃士隊副長の大任にあるミシェルが、仲間たちの誰にも知らせずにたった一人でこんなところにやってきた理由。それは、ここを根城にしている誘拐団のボスであるトルミーラという女メイジを知っているかららしく、ミシェルは歩きながらその因縁を語り始めた。
「十三年前、わたしは両親を失って天涯孤独の身になった。そのあたりの事情は、前に話したとおりだ。だが、何も知らない貴族の子供がいきなり世間に放り出されて生きていけるわけがない。路頭に迷っていたわたしを拾ったのが、当時はまだそれなりに裕福な貴族の娘だったトルミーラだったというわけだ」
 ミシェルは、心の奥底にしまい続けてきた記憶をほこりを払って引き出しながら語っていった。
 才人は黙ってそれを聞く。以前、才人はミシェルからその悲しい過去を直接聞いたことがあったが、そのすべてを聞かされたわけではない。十三年にも及んだ悲劇のさらに一端……聞きたい話ではないが、耳をふさぐわけにはいかない。
「当時、十四歳くらいだった奴の実家は貧民を相手にした施しをやっていた。ロマリアなどでよくやる貴族の偽善行為だが、当時のわたしが食いつなぐにはそれに頼るしかなかった。行き倒れていたわたしに、おなかがすいているならうちへいらっしゃいと手を差し伸べてきた時のトルミーラの顔は、よく覚えている」
 それがなければ、恐らく自分はそこで死んでいただろうとミシェルは語った。
 しかし、彼女の言葉の感情からは懐かしさや親愛といったものは感じられず、それにひっかかった才人は尋ね返した。
「えっと……今回の事件の首謀者がトルミーラって元貴族で、ミシェルさんは恩人が悪事を働いてるのを止めに来たって、わけですか?」
「恩人……か。確かにそうだが、わたしはあいつに恩義や感謝を感じてはいない。サイト、人間というやつは一度歪んだらそうそう簡単に変わったりはしない。トルミーラはその典型のような女だ……サイト、一年前に起こった誘拐事件のことを、お前は聞いたことがあるか?」
「いえ、その頃のおれはルイズに召喚されたばっかで、自分のことだけで精いっぱいだったから世間のニュースなんてさっぱりで」
 才人は、その当時のことを思い出そうとしたが、思い出せるのはほとんど学院でのことしかなかった。それに、当時はフーケが世間を賑わせていたのもあり、小さなニュースなどは聞いたとしても、右から左に聞き流していた可能性が高い。
 アイは話の意味がわからずにきょとんとしており、するとミシェルは「そうか」と、つぶやくと、才人に質問した。
「サイト、誘拐というとお前はどんな目的でおこなうものだと思う?」
「え? いや、そりゃあ……親から身代金をとるとか、そういうもんじゃないですか?」
「それは貴族の子弟や、ある程度裕福な商家などを相手にした場合だ。それに、そういった誘拐はリスクが大きい。大規模な追っ手がかかるからな。一番簡単に誘拐で金を手に入れる方法は、平民の子供をさらって、他国で奴隷として売りさばくことだ」
 才人は首筋を蛇がはいずったような悪寒を覚えた。日本の常識が通じないハルケギニアの暗部、それをミシェルは淡々と説明していった。

182 ウルトラ5番目の使い魔 66話 (3/17) ◆213pT8BiCc :2017/10/26(木) 23:09:04 ID:f/842f2A
「平民の子供が消えても、衛士隊が捜索の手をそんなに広げることはない。ましてや、国外に出てしまえば捜索の及ぶ可能性はほとんどなくなる。一年前、トルミーラの率いていた誘拐団は、トリステインで平民の子らをさらい、国外に運び出そうとしていたところで逮捕された。取り調べに当たった担当官によると、非常に手慣れた手口で子供を集めていたという……まるで、昔から人さらいをやり続けていたようにな」
「まさか……」
 才人は息をのんだ。それだけ言われれば、いくら才人が鈍くても察しはつく。
「そうだ。トルミーラの家は、貧民救済を建前にして、その裏では集めた人間を奴隷として売りさばいていたんだ。奴はそういう家で育ったから、その手口も慣れたものだったのも当然だ。去年に我々が撲滅したが、トリステインには同様の人身売買組織が少なからず存在していたよ」
「そういや、おれにも覚えがあるぜ。前に……」
 才人はそこで手をつないでいるアイを見て、言葉をつぐんだ。彼女の育ての親だったミラクル星人が星に帰らなければならなくなった際、預け先になった商家が裏で人買いをやっているとんでもないところだったのだ。
「どうしたの? サイトおにいちゃん」
「いや、なんでもないよ。大人の話さ」
「むーっ、大人はすぐそうやってごまかすんだもの。ずるいんだ」
 アイにとってはつらい思い出を蘇らせてはいけないと、才人は言葉を止めながらも考えた。人が人を売り買いするという、もっとも下種な行為。つまり、過去にトルミーラに拾われたミシェルもまた……と、思ったが。
「だが、トルミーラは親よりも悪質な性をその年齢でもう持ち合わせていた。奴は、手なずけた子供を使って盗みをやらせていたんだよ」
「盗みって……ミシェルさんたちに」
「ああ、商店から品物を盗ませる。すりや置き引き、ほかにも当たり屋や空き巣もあったな。それに成功しなければ食事を取り上げると脅されて、皆は泣く泣く従っていた。もちろん、わたしも……な」
「でも、トルミーラってのは裕福な貴族の娘だったんでしょう? なんでそんな、ケチな犯罪なんかを」
 解せないという才人に、ミシェルは忌々しさを隠さずに答えた。
「トルミーラはスリルを求めていたんだよ。奴は、他人を自分の思うがままに従わせる快感に酔いきっていた。従わなければ鞭を振るい、逃げ出して誰かに訴えたところで、浮浪児と貴族ではどちらが信用されるかは目に見えている。トルミーラは、そうしてわたしたちが必死になる様を見て楽しんでいた」
「最低のクソ野郎だな。んで、飽きたら奴隷にしてポイってか……久しぶりに心底胸糞が悪くなってきたぜ。おれがそこにいたらぶん殴ってやったのに!」

183 ウルトラ5番目の使い魔 66話 (4/17) ◆213pT8BiCc :2017/10/26(木) 23:15:36 ID:f/842f2A
 ミシェルは憤る才人を見て目を細めた。
「サイトらしいな。だが、すんでしまったことを今さら言っても仕方がない。それに、皮肉な話だが、トルミーラの下で様々な悪事を働かさせられたことが、結果としてわたしの命をつなぎとめた。トルミーラの下にいた数か月の後、わたしは奴隷として売りに出されるはずだったのだが、寸前に逃げ出すことができた。そして、できるだけ遠くに逃げた後に、覚えさせられた盗みの技術でなんとか食いつないだ……まったく皮肉なものさ」
 自嘲げに笑うミシェルの横顔は、才人もこれまで見たことがない悲しさを漂わせていた。
「しかし、食いつないだはいいが、その後どうなったかはサイトも知ってるとおりさ……」
「ミシェルさ……いや、ミシェル。思い出したくないことを、無理に思い出さなくてもいいよ」
 才人はあえて敬語を使わず、自分にとっての特別を示すかのように名前のままミシェルを呼んだ。するとミシェルは、才人に顔を見せたくないというふうに向こうを向いて言った。
「ありがとう。しかし、その忌まわしい過去が連なったからこそ、サイトに会えた今にたどり着けた。だから、わたしは過去を消したいとは思わない……だが、恩義はなくとも、わたしは奴から受けた借りを返さなくてはならない。トルミーラは、わたしがやる」
「助太刀するぜ! まさか、いまさら遠慮はしないよな? 悪者たちをやっつけてやろうぜ」
「そう言うと思ったよ。だがそれはともかく、サイト……その子をしっかりかばっていろ」
「え?」
 才人が頭で理解するより早く、ミシェルは床を蹴って駆けだしていた。廊下の先の柱時計の物陰に向かってナイフを投げつけ、次の瞬間には抜いた剣を暗がりに向けて突き立てていた。
「ぐえぇぇ……」
 カエルをつぶしたような男の悲鳴が短く響き、次いで人間の倒れる音が続いた。
 才人は目を凝らし、今の瞬間になにが起こったのかをやっと理解した。暗がりの中にうっすらと、目にナイフが刺さり、心臓を剣で一突きにされた男の死体が転がっているのが見えたのである。
「ま、待ち伏せされてたのか」
「下手な隠れ方だったがな。もう少し近づけばサイトも気づいていただろう。だが、こいつらに下手に致命傷を与えると面倒なことになる。だからこうした」
 ミシェルは死体からナイフと剣を引き抜くと、男の衣類で血のりを拭った。その目は冷たく、見下ろす男の死体をすでにただのモノとしか見ていない。
 しかし、剣を戻すとミシェルはすぐに優しい表情に返り、あっけにとられている才人とアイにすまなそうに言った。
「お嬢ちゃん、驚かせてすまなかったな。けれど、悪い奴が狙ってたんだ、許しておくれ」
「ううん、お姉ちゃん、すっごくかっこよかったよ! まるでサイトおにいちゃんみたい」
 謝罪するミシェルに、アイはむしろうれしそうに答えた。するとミシェルは、「そうか、サイトみたいか」と、少し照れた様子を見せる。

184 ウルトラ5番目の使い魔 66話 (5/17) ◆213pT8BiCc :2017/10/26(木) 23:22:10 ID:f/842f2A
 ただ、才人はアイがショックを受けるのではと危惧したのが杞憂に終わって、少しだが複雑な思いを感じていた。いくら幼く見えても、人が死ぬことへの抵抗感が薄いのはアイもハルケギニアの人間だということなのだろう。しかし、現代日本人の常識からすれば異常かもしれないが、それを問題にするのは傲慢でしかないだろうと思った。
 もっとも、才人がアイを見誤っていたのはそういうことばかりではなかった。
「ねえ、ミシェルおねえちゃんってサイトおにいちゃんのことが好きなの?」
「え?」
「い?」
 ミシェルと才人は、意表をつくアイの質問に思わず間抜けな声を漏らしてしまった。
 さらに、アイはミシェルが図星と見るが早く、うれしそうに切り込んできた。
「やっぱり。だってミシェルおねえちゃん、サイトおにいちゃんと話すと楽しそうだもん。うちでもね、グレッグとメイヴがふたりだけになるといっつもイチャイチャしてるもん。サイトおにいちゃんも、”まんざら”でもないんでしょ」
 うっ! と、才人も言い返せなくなる。さらに才人が詰まると、アイは才人を指さして言った。
「あっ、でもサイトおにいちゃんはルイズおねえちゃんのものなんでしょ。だったら、それってふりんっていうやつでしょ! わー、いけない大人だ」
「ア、アイちゃん、そんな言葉どこで覚えたのかな?」
「ジム! 最近読み書き覚えたから、ごみ捨て場に落ちてる本を拾ってきてはいろんなこと教えてくれるんだ」
 あんのクソガキろくなことを教えねえ! 才人は心中で煮えたぎるような怒りを覚えた。顔は愛想笑いで固定しているが、帰ったら頭グリグリのおしおきをしてやろうと心に決めた。
「あ、あのねアイちゃん。不倫っていうのは、結婚してる人がよその人にデレデレしちゃうことで、おれたちはまだその……」
「えーっ、じゃあルイズおねえちゃんとは遊びだったってこと? でもしょうがないか、ミシェルおねえちゃんって美人だし、サイトおにいちゃんっておっぱい大きい人のほうが好きなんでしょう」
「そ、そりゃあまあ、男にとっておっぱいとは無限の桃源郷であり果てしないロマンであって。ミシェルのアレは大きさも形も絶妙で、まさにピーチちゃん……って、違う違う!」
 誰がおっぱいマイスターをやれって言ったんだよ? バカかおれ! 一人ノリツッコミをしながら慌てて否定したものの、アイは「ルイズおねえちゃんに言ってやろ、言ってやろ」という顔をしている。まずい、このままではマジで命がなくなると思った才人はミシェルに助けを求めようとしたが。
「サ、サイト……小さい子の前で、そんな破廉恥なことを言わないほうが……で、でもサイトがそんなに褒めてくれるんなら、わ、わたし」
 しまったーっ! 完全にいらんことを聞かれてしまったよ、おれの超ド級バカ!
 顔を赤く染めているミシェルを見て、才人は己のバカさ加減を心底呪った。

185 ウルトラ5番目の使い魔 66話 (6/17) ◆213pT8BiCc :2017/10/26(木) 23:23:14 ID:f/842f2A
 ミシェルさん、自分の胸の谷間を見下ろしながら何か考えてるよ。もしかして、あの谷間でナニを……って、そういうことじゃないだろ! いやでもルイズじゃ絶対に不可能だしなあ。もし結婚したら、あれを毎日……だから違うだろ!
 才人は健全な青少年として、たくましく妄想を働かせていた。もしルイズに聞かれたら消し炭も残らなくされそうな心の声を叫びながら、ひとりで必死にもだえる才人の姿は滑稽を通り越して気持ち悪くさえあっただろう。
「ねえミシェルおねえちゃん、サイトおにいちゃんのどこが好きになったの?」
「それは……かっこよくて……や、優しいところかな」
「やっぱりそうだよね。サイトおにいちゃんはね、前にアイやアイのおじさんを悪いウチュージンから助けてくれたんだ。ほんとはアイがサイトおにいちゃんのお嫁さんになってあげたいけど、アイはまだおっぱいないもん。あっ、もしかしておにいちゃんってちっちゃいおっぱいでもアリ?」
「ないないないない! おれは断じてロリコンではないぞ」
 まったく子供は恐ろしい。羞恥心が薄いからとんでもないことを平気でやってくる。しかし、その反応はそれはそれで利用されてしまった。
「ミシェルおねえちゃん、聞いた? おにいちゃんはおっきいおっぱいの人のほうがいいんだって。よかったね、これでショヤでキセージジツってのを作ればサイトおにいちゃんと結婚できるよ!」
「ア、アイちゃん。順番が、その、間違ってるというか。ともかく、そういうことを人前で言ってはいけないよ」
 どうやらジムの奴にかなり偏った知識を植え付けられてしまったらしい。その孤児院には子供たちの情操教育について文句を言ってやらねばいけないなと、ミシェルも深く決心した。
 けれども、アイは年長者ふたりをからかいながらも、少し切なそうにつぶやいた。
「でも、うらやましいな。サイトおにいちゃんとミシェルおねえちゃんの子供はきっと、サビシイ思いはしなくていいんだろうな」
「アイちゃん……」
 才人とミシェルは、共に真面目な表情に戻って顔を見合わせた。
 アイをはじめ、孤児院には親を亡くした子供が何十人もいる。いや、トリステインだけでも何百、何千といるだろう。それに、才人も両親と会えなくなって久しいし、ミシェルも孤児だった。アイや孤児院の子供たちの心に秘めた寂しさはよくわかる。
 それでも皆、明るく前向きに生きているのだ。しかし、肉親を失う寂しさは消えることはなく、ここに巣食う誘拐団は多くの子供から親を、親からは子を奪おうとしている。断じて許すわけにはいかない。
「面倒ごとは後だ。サイト、ここの連中が我々をなめているうちに全滅させる。ひとりも逃さん」
「それと、さらわれた子供たちもどこかに閉じ込められているはず。探さなきゃな」
 才人とミシェルは顔を見合わせると、それぞれ剣を抜き放った。
 ここからは本気だ。敵は鉛の罪科の人でなし共、手加減はしない。

186 ウルトラ5番目の使い魔 66話 (7/17) ◆213pT8BiCc :2017/10/26(木) 23:36:43 ID:f/842f2A
「サイト、ここからは走るぞ。屋敷の見取り図はわたしの頭の中に入っている。お前は一歩下がって来ながら、周辺に気を配れ」
「サポート役ってか、おれが二本目の剣になるわけだ。ツルク星人とやったときみたいだな。アイちゃん、ついてこられるか? それともおれがおんぶしようか?」
「心配いらないよ。アルビオンでは毎日森を走り回ってたし、今でも毎日教会の庭で鬼ごっこしてるもん。心配しないで、悪者をやっつけて」
 これで決まった。三人は、廃屋の中をこれまでとは別の速さで一気に駆けだす。
 ミシェルいわく、この屋敷は地上の建物よりも地下室が大きく、ちょっとした船の内部並みの広さと複雑さを持っているという。もちろん、地上へ上がる通路はすべてふさがれていて、地下に降りていくしかない。
「元の家主が大量のワインを貯蔵しておくために、この広大な地下空間を作ったらしい。つまりそれは、隠れ家や地下牢にするにも持ってこいというわけだ。トルミーラなら、そう考えるはずだ」
「そっか! つまりミシェルがこの屋敷がアジトだって突き止められたのは」
「そうだ、わたしがトルミーラの手口は知り尽くしているからだ。こんなふうにな!」
 ミシェルの投げナイフが物陰の伏兵に突き刺さり、もだえた伏兵は次の瞬間にはすれ違いざまの剣閃によって首を両断されていた。
「うわっ!」
「うろたえるな! こいつらに苦痛を与えたり瀕死にすると怪物になる。仕留めるなら、瞬時に確実に命を奪え。それがこいつらのためだ」
 才人は、先ほど倒した男が怪物に変貌したことを思い出した。自分とミシェルの二人がかりでも相当な苦戦を強いられたあれと伏兵の分だけ戦わされたのではたまったものではない。
 しかし、いくら生かしておくことが危険な相手で、しかも凶悪な犯罪者たちとはいえ、伏兵を次々と仕留めていくミシェルの戦いぶりには才人も背筋が冷たくなる感じを覚えていた。
「ハアッ!」
 曲がり角で待ち伏せしていた男の虚を突き、ミシェルの振り下ろした剣が頭ごと命を叩き潰す。
 さらに、前を進んでいたミシェルの姿がかき消えたかと思うと、横合いに隠れていた男の背後に回り込んだミシェルが男のあごを片手で押し上げて悲鳴を防ぎ、もう片手でナイフを内蔵に突き立てて即死させていた。
 すさまじい……まさにその一言だった。流れるように死体を次々と生産していく。いくら普段は優しい顔を見せることはあっても、銃士隊が本来はそういう組織だということを才人はあらためて思い出ささせられていた。
 地下二階から三階へ降り、一行は最深部となる地下四階に到達した。だがそこは、それまでのワインセラーの風景から一転して、信じられない光景が広がっていた。
「なんだこりゃ? まるで研究所じゃねえか!」
 三人は唖然として地下四階の光景を見まわした。
 魔法のランプの薄暗さから、電灯が真昼のように通路を照らし出し、通路は木に代わってコンクリートで覆われている。
 さらに数歩進んで通路から室内をのぞき込むと、中には科学実験室や手術室のような設備が整えられた部屋が連なって見えた。才人の漏らした通り、これは研究所か、さもなければ大学病院だ。
 もちろん、これはハルケギニアのものでは決してない。地球と同等……いや、それ以上の科学力を持った何者かの設備だ。

187 ウルトラ5番目の使い魔 66話 (8/17) ◆213pT8BiCc :2017/10/26(木) 23:46:00 ID:f/842f2A
「サイト、これがなんだかわかるのか?」
「いや、おれにもさっぱり。まさか、宇宙人の……秘密基地?」
 そうでもなければ説明がつかなかった。こんな場所に小規模とはいえ超近代設備、しかも最近まで使われていた形跡がある。
 が、なにに使われていたのだ? 設備の複雑さからして、ハルケギニアの人間が扱うのは不可能だ。しかし内部には医者や研究員といったスタッフの姿は見受けられない。
「サイト、驚くのはわかるが、今は先に進むほうが先決だ」
「ええ。でも、てっきり大群で待ちかまえているかと思ったのに、まるで人の気配がしないな」
「あっ、今誰かの泣き声みたいなのが聞こえたよ!」
 はっとして、三人は奥のほうへと走り出した。
 通路の横合いの一室。そこは地下牢になっていて、大勢の子供たちが閉じ込められていた。
「ぐすっ、ぐすっ。おかあさぁん」
「さらわれた子供たちか。ようし、すぐに出してやるからな……くそっ、開かねえ!」
 牢の構造は頑丈で、鍵はデルフリンガーでおもいっきりぶっ叩いてもビクともしなかった。もちろん魔法対策も施されているようで、ミシェルの『錬金』や『アンロック』も通じなかった。
「こりゃ、壊すのは無理だぜ相棒。鍵を使わねえと」
 鍵と言ってもどこに? いや、親玉が持っているに決まっているか。
 そのとき、通路を超えて地下牢にけたたましい女の笑い声が響いた。
「アハハハ、なあにノロノロしてるのネズミさんたち。ゴールはここよ、早くいらっしゃい!」
「今の声は!」
「トルミーラ……」
 どうやらラスボス直々のお呼びらしい。ミシェルと才人は、顔を見合わせた。
 もう、ぐずぐずしている余裕はないようだ。これ以上じらしたら奴はなにをしでかすかわからない。才人はアイに、ここで待つように告げるとミシェルに言った。
「やろうぜ。ここまで来たら、最後まで付き合うよ」
「待っていろ、と言ってもサイトはどうせついてくるな。頼む、わたしの背中を守ってくれ」
「ああ、そんで帰って二人してアニエス姉さんやルイズに怒られようぜ」

188 ウルトラ5番目の使い魔 66話 (9/17) ◆213pT8BiCc :2017/10/26(木) 23:55:03 ID:f/842f2A
 くすりと笑い合って、二人は牢屋を後にした。死んだら叱られることもできない。アイの「がんばって、おにいちゃん、おねえちゃん」という声が二人の背中を力強く押してくれた。
 
 地下通路のその終点。そこはダンスパーティが開けるほどの広間になっていて、トルミーラはその真ん中でひとりで待っていた。
「よく来たわね。勇敢な騎士とお坊ちゃん、まさか私の部下たちを皆殺しにしてくれるとは思わなかったわ。でも、そんなことはどうでもいいわ。久しぶりに狩りがいのありそうな獲物が来てくれたんだもの。ようこそ、私の武闘場へ、歓迎するわ!」
 興奮した様子を隠さずに、銀髪のメイジは高らかに宣言した。
 才人は、こいつがトルミーラか……と、相手のことを観察した。標準以上の美人のうちに入るだろうが、長い銀髪の下の目は鋭くも嗜虐的な光をたたえており、口元には好戦的な笑みが浮かんでいる。杖を持つ仕草こそ隙がないものの、それを好意的に見ることはできなかった。一言で言えば、いけすかないという感じだ。
「久しぶりだな、トルミーラ」
「うん? 騎士さん、私のことを知っているのかい。すまないが、あんたの顔には覚えがないんだけど、名乗ってもらえるかな?」
「ミシェル・シュヴァリエ・ド・ミラン。と、言っても貴様はわかるまい。だが、十三年前の一人と言えばわかるだろう」
 怪訝な顔のトルミーラに、ミシェルは無表情に答えた。するとトルミーラは腹を抱えて笑い出した。
「ぷっ、あっはははは! なるほどね。いやあ懐かしい。あのとき遊んでやったガキたちの生き残りかい! てっきりもう全員どっかでのたれ死んでると思ってたけど、まだ生きてる奴がいたとはね。それも、騎士に出世しているとは驚いたよ。で、私に復讐しにやってきたってわけかい?」
「復讐など、私はお前にそこまでの憎しみは持っていないさ。あのときお前に食わせてもらったおかげで、わたしはこうして生き延びてきた。だが、お前のことはわたしの心に亡霊のように残り続けてきた。わたしがここにやってきたのは……」
 ミシェルは剣を抜き、その切っ先をトルミーラに突き付けた。
「昔のよしみだ、一度だけ警告してやる。今すぐ武器を捨てて投降しろ。それが貴様にしてやるわたしからの恩返しだ!」
「あっはっはは! 恩返しとは言ってくれるねえ。では、つつしんで、最大の感謝を持って……お断りさせていただくわ!」
 呵々大笑したトルミーラは杖の先をミシェルに向け返した。
 明確な宣戦布告。両者の目に冷たい光が輝く。
 才人はごくりとつばを飲んだが、そこにトルミーラが笑いかけた。
「そこの坊やはどうするんだい? ニ対一でも、私はいっこうに構わないよ」
「ちっ、悪党が調子に乗るんじゃねえよ。おれはミシェルに加勢するぜ! そんでもって、さらっていった子供たちは返してもらうからな」

189 ウルトラ5番目の使い魔 66話 (10/17) ◆213pT8BiCc :2017/10/26(木) 23:56:22 ID:f/842f2A
「あら、なかなかの度胸ね。あなたが貴族だったら決闘を申し込みたいくらいよ。私はね、昔から騎士ごっこが大好きで、都に出て伝説の騎士隊長みたいに活躍したいって言ったら親に大反対されて家を出たの。でも、そのおかげで楽しい生活ができているわ」
「うるせえよ! なにが騎士だ。弱い者いじめが好きなだけじゃねえか。本物の騎士っていうのは、誰かを守るために命懸けで戦える奴のことを言うんだ。お前なんかただの悪党だ」
「ははっ、青臭い青臭い青臭いねぇ。じゃあ、特別にお姉さんが教えてあげるわ。本当の闘いってものをね!」
 トルミーラが杖から魔法の矢を放ち、戦いが始まった。
 才人とミシェルはそれぞれ左右に跳び、トルミーラを挟み撃ちにする態勢に入った。打合せなどしなくても、見事な呼吸の連携だ。
 しかしトルミーラは笑いながら呪文を唱えた。
「いいわあ、あなたたち最高のプレリュードよ。では、私もユビキタス・デル……」
 その呪文は、と思った瞬間に才人の目の前にもう一人のトルミーラが現れ、ブレイドのかかった杖でデルフリンガーの斬撃を受け止めてしまった。
「くそっ、風の遍在かよ!」
「大正解! 博識ね坊や。でも安心して、五人も六人も増やすようなみっともないマネはしないわ。だって美しくないもの。決闘はあくまでも一対一が楽しいんだものね」
「なめやがって。後で慌てても出す暇なんかやらねえからな」
 才人はブレイドのかかった杖で斬りかかってくるトルミーラの遍在との戦いを開始した。
 だが、楽な相手ではないことはすぐわかった。アニエスやミシェルほどではないが、剣技も並ではないものを持っている。デルフの、油断するなという声に才人もわかったよと真剣に答えた。
 一方で、本物のトルミーラとミシェルの戦いもまた、剣戟で幕をあげていた。
「やるわねミシェル。いいわあ、あのとき私に鞭打たれて泣くばかりだった子供が、こんな歯ごたえのある獲物に成長してくれるなんて、運命ってサイコーね!」
「答えろトルミーラ。子供たちをさらって、いったい何を企んでいる?」
「あら? 無粋なこと。まあいいわ、冥途の土産に教えてあげる。チェルノボーグの牢獄に捕まってた私たちを解放してくれた人から依頼を受けたの。自由にしてやる代わりに、子供をさらいまくってこいってね」
「それは誰だ? いったいそいつは何を企んでいる?」
 質問をぶつけるミシェルに、トルミーラはひきつった笑い声を漏らしながら答えた。
「ンフフフ、すごい人よ。そしてとっても恐ろしい人……あなたも見たでしょう? ここに来るまでにあった手術台の数々。そして、あなたが殺した私の部下たちの末路を」
「貴様、まさか!」
 ミシェルは戦慄した。怪物に変貌した男たち、あれが人為的に埋め込まれたものによる作用だとしたら、子供たちを同様に。

190 ウルトラ5番目の使い魔 66話 (11/17) ◆213pT8BiCc :2017/10/26(木) 23:58:26 ID:f/842f2A
「貴様、子供たちを怪物に変えるつもりか!」
「はい、大正解。そうよ、集めた子供たちに、これからあの手術室で怪物の因子を埋め込むってわけ。人間を改造できるかは、私の部下たちですでに実験済みよ。もっとも、部下たちはせっかく改造してもらえたっていうのに気に入らないみたいで、子供を必要分さらってこれれば元に戻してやるって言われて頑張ってたけど、あなたのおかげでタダ働きになっちゃったわね」
 剣と杖がぶつかり合う音に、トルミーラのいやらしい声が混ざって部屋に反響する。
 ミシェルは怒りと不快感で、腸が煮えくり返る思いを感じた。子供たちへの非道、そして部下たちへの感傷もまったく持ち合わせていないトルミーラという人間。こんな奴がこの世に存在していいものか?
 しかしミシェルは怒りを押し殺し、青髪の下の藤色の瞳を冷静に研ぎ澄ませて質問を重ねた。
「子供を怪物に変えてどうする? 昔のお前のように、兵隊にするつもりか?」
「いいえ、私の依頼主はとってもお優しいお方。私なんかと違って、子供たちを無下に働かせたりなんかしないわ。子供たちは手術が済んだら、みんなそれぞれのおうちに送り届けてあげるのよ。そう、ハルケギニア中の街や村へね!」
「なんだと! そんなことをしたら!」
「アハハ、わかったみたいね。大人は誰も子供なんかを警戒しないし、子供は自然と人の集まりの真ん中にいることになるわ。つーまーり?」
「鬼ごっこの最中に転んだり、病院で診察中に泣いたりすれば……」
 ミシェルの額に脂汗が浮かぶ。そしてトルミーラは、高らかに笑いながら言い放った。
「そう! 何も知らない人間たちのド真ん中に、いきなり殺人鬼が現れることになるのよ。油断しきった人間たちの阿鼻叫喚、そして正気に戻ったときに親や友達を自分の手で引き裂いたことがわかった子供の絶叫! それをお求めなのよ。あのお方は!」
「何者だ! 言え、その悪魔のような依頼人の正体を!」
 両者は同時に後方へ跳び、同時に杖を抜き放って魔法の矢を放ちあった。
 空中でマジックアロー同士がぶつかり合い、火花をあげて相殺し合う。
 強い。ミシェルはトルミーラの技量が自分と大差ないことを感じ取った。以前、トルミーラは通りすがりの名もないメイジにあっさり敗れて捕らわれたそうだが、その頃に比べて腕が上がっているようだ。
「ウフフ、意外そうねえ。私はあの日の屈辱から、監獄の中でも一日も鍛錬を欠かしたことはなかったわ。そして、この胸に渦巻く憎しみが、私の魔法を幾重にも引き上げてくれたのよ」
「威張るな、馬鹿が。貴様はしょせん、血に飢えた獣だ。それよりも、貴様らを解き放ち、こんな恐ろしい企てをさせている者は誰だ? 人間ではあるまい」
「さぁねえ、あなたも騎士なら勝って聞き出してみたら? タダで全部話してあげたら、いくらなんでも私親切すぎるし!」
 ミシェルを拘束しようと放たれた『蜘蛛の糸』の魔法がブレットの土の弾丸で引きちぎられて落ちる。しゃべりながらでも、どちらもまったく隙を見せずに渡り合っている。

191 ウルトラ5番目の使い魔 66話 (12/17) ◆213pT8BiCc :2017/10/26(木) 23:59:50 ID:f/842f2A
 だが、ミシェルはトルミーラを観察しながら、その動きのクセを見切っていた。確かに強いが所詮は我流、強引にカバーしているが動きに明らかな無駄が見られる。
「勝って聞き出せと言うが、死人は口をきけまい。無茶を言ってくれるな」
「あら、そう? 私に勝てる気でいるんだ。あららっ?」
 その瞬間、ミシェルの剣がトルミーラの動きの一歩先をゆき、顔先をかすめた剣によって銀色の髪がパラパラと散った。
 体勢を崩して後方によろめくトルミーラ。だがミシェルはトルミーラに追い打ちをせず、遍在のトルミーラに向かって魔法を放った。
『アース・ハンド』
 土の腕が床から伸び、遍在のトルミーラの足を掴み取る。
「あわっ?」
「サイト、いまだ!」
「うおぉぉぉっ!」
 姿勢を崩して無防備となった遍在のトルミーラに、デルフリンガーが振り下ろされる。
 そして、頭から真っ二つにされた遍在のトルミーラは断末魔さえ残さずに空気に溶けて消滅した。
 これで、残るはトルミーラ本人のみ。才人はトルミーラの間合い近くでデルフリンガーを構えて、ミシェルと一瞬だけ目くばせをしあった。礼はいらない、この程度の連携は当然のことだ。
「さあて、もう遍在を作る隙はやらねえぞ。観念しろ、この悪党」
「あら、まあ。坊や、意外とやるのねえ。私の遍在を一撃で消しちゃうなんて。あなた、どこの子? それだけの腕前で、無名なんてことはないでしょ?」
「悪党に名乗る名前はねえよ」
「あらら、かっこつけちゃって、可愛いわねえ。もしかしてミシェル、あなたの旦那さん?」
「んっ!?」
 赤面するミシェルと、それから才人を見てトルミーラは愉快そうに笑った。
「あらら、あなたって年下好みだったんだ。それにしても、初心な反応ねえ。そっちの坊やもうろたえちゃって、男だったらその立派な剣でミシェルを女にしてやりなよ」
「う、うるせえ! 下品な言い方すんじゃねえ!」
「あら怖い。恋人同士なら当たり前のアドバイスをしてあげただけなのにひどいわ。もっと人生は好きなように生きないと損よ? いつ消えるかわからない命なんだから、今日を思いっきり楽しまなきゃ」
「それで、貴様の遊びのためにどれだけの無関係な人間が犠牲になっていると思っている。どうしてもしゃべらないならそれでいい。貴様の口以外のいらないところはすべて切り落としてから聞き出してやる。文句はあるまい?」
 これは脅しではない。必要とあらば銃士隊はためらいなくそれをやる組織だ。そういう相手を敵にするのが仕事の部隊なのだ。

192 ウルトラ5番目の使い魔 66話 (13/17) ◆213pT8BiCc :2017/10/27(金) 00:07:47 ID:RJjVhhhM
 しかし、トルミーラはけらけらと笑いながら言った。
「おお怖い、私は痛いのは苦手じゃないけど、そこまでされるのは嫌だねえ。でも、二対一じゃさすがに分が悪いし……これは、あきらめたほうがいいかしら」
「降参する……わけがないな。何をまだ隠している?」
「あはは! ミシェルってばイジワルね。せっかく私もかっこつけるチャンスだったのにジャマしないでよ。そんな悪い子たちは、私が自ら引き裂いてあげるわ!」
 そう叫ぶと、トルミーラはなんと自らの杖を自分の腹へと突き立てたのだ。
「なっ!?」
 才人が思わずうめきを漏らした。ミシェルも愕然とした様子で目を見開いている。
 だが、トルミーラは腹から血を流しながらも、恍惚とした表情で叫んだ。
「アア、いいわあ。この痛み、サイッコウ! この感覚、今すぐアナタタチにも味わわせてあげるからネエ!」
 声が変質するのと同時にトルミーラの体が変わる。手に鋭い爪が生え、顔もマスクのような無機質なものとなり、先に才人とミシェルが倒したものと同じ姿の怪人へと変わり果てたのである。
「アアァァァー!」
 奇声をあげながら飛びかかってきた怪人の一撃を、才人とミシェルはとっさに剣でガードした。
 しかし、すごいパワーで受け止めきれずに、二人とも後ろへと弾き飛ばされてしまう。なんとか踏みとどまり、隙を見せることは防げたものの、何発もこらえることができないのは明白であった。
 こいつ、追い詰められてヤケを起こしたのか! だが才人がそう感じた瞬間、怪人がトルミーラの声で話しかけてきた。
「アハハハ、どう? 私のこの姿は。なかなかカッコイイと思わない?」
「トルミーラ、貴様、正気を保っているのか」
「もちろん、でなけりゃわざわざ変身なんかするものですか。この姿、ヒュプナスっていう殺戮本能の塊の野人らしいけど、なんでか私だけ変身しても正気でいられるのよね。ちょおっと興奮して、イイ気持ちになるだけなのに、みんなヘンよねえ」
「根っから邪悪な人間は凶暴化せずに馴染むというわけか。いよいよ貴様にかける情けがひとかけらもなくなったよ。サイト、もう生け捕りは無理だ。殺すぞ」
 ミシェルの決意に、才人も仕方ないというふうにうなづく。しかし、ヒュプナスとなったトルミーラは笑いながら杖を二人に向けた。

193 ウルトラ5番目の使い魔 66話 (14/17) ◆213pT8BiCc :2017/10/27(金) 00:08:44 ID:RJjVhhhM
「だから、勝つ気なのかって言ってるのよ。ウィンド・ブレイク!」
 風の弾丸が杖から放たれ、とっさに回避した二人の横をすり抜けて壁を破壊した。
「魔法も使えるのかよ!」
「当然よ! なにせ私の頭は冴えに冴えまくっているですもの。さあ、痛みの倍返しの時間よ。遠慮しないで受け取ってェ!」
「丁重にお断りさせてもらう!」
 魔法と剣が交差し、火花が散って風圧が部屋の気圧を上げた。
 さっきとは段違いの強さだ! 一分にも満たないやり合いで才人とミシェルは感じた。部下が変身したヒュプナスは本能で暴れ狂うのみであったが、こいつは自分の意思で攻撃してくる上に魔法まで使う。
 ミシェルが間合いをとろうとした瞬間を狙って、エア・ハンマーが放たれ、寸前で割り込んだ才人がデルフリンガーで魔法を吸収する。しかし瞬時に間合いを詰めてきたヒュプナスの爪が才人の頭を薙ぎ払おうとした瞬間、ミシェルの放ったマジックアローが寸前でヒュプナスの爪をはじいた。
「やるわねえ! 仲がいいってステキよ。じゃあアナタタチの体をグッチャグチャにして、内臓までいっしょにしてあげるわ!」
「悪趣味なんだよ、このババア! てめえはまずお茶と生け花から始めやがれ!」
 才人も必死でやり返し、言い返すが、すでに息が切れ始めている。ミシェルも剣と魔法を併用し続けて疲労が目に見えてきている。それでも、二人がかりの全力で、やっと互角のありさまだ。気を抜いたら一発で殺されてしまうだろう。
 長引けば勝ち目はない。だが、どうすれば? せめてあと一人、アニエスがいれば三段攻撃の戦法が使えるのに。
 いや、ないものねだりをしても仕方がない。才人は必死で打開策を考えた。隣ではミシェルが額にびっしりと汗の粒を張り付けながら鋭い視線を巡らせている。向こうも必死で対抗策を考えているのだろう。
 だが前のヒュプナスと違って、トルミーラのヒュプナスには理性がある。下手な作戦や陽動は見破られるだろうし、複雑な作戦を打ち合わせている暇などない。
 そのとき、ミシェルが才人にぽつりと言った。
「サイト、わたしとお前が三回目に共闘したときのことを覚えているか?」
「えっ? 三回目というと……ワイルド星人とドラゴリーのとき、だよな」
「そうだ。お前はあのとき、危なくなったわたしを間一髪助けてくれたな。今度も、期待しているぞ」
 ミシェルは軽くウインクして見せると、剣を構え直してトルミーラに向かっていった。

194 ウルトラ5番目の使い魔 66話 (15/17) ◆213pT8BiCc :2017/10/27(金) 00:13:42 ID:RJjVhhhM
 才人は一瞬、「えっ?」となったものの、記憶を掘り起こしてハッとした。そうか、あのときのことをここで……確かにミシェルならできる。となれば、自分のすべきことは。
「デルフ、ちょっと頼みがあるんだ。これから奴に切り込む、お前は中身のない大騒ぎをしてできるだけ奴の気を引き付けてくれ、得意だろ?」
「おいおい、なんか作戦を思いついたみたいだけどひでえ言い草だなあ。まあいいか、俺っちが魔法を吸うだけが取り柄じゃねえってことを見せてやるぜ!」
 才人は相棒に笑いかけて、ミシェルに続いてトルミーラに突撃した。
「お前の相手はおれだババア!」
「そうだこの年増の厚化粧女! 怪物のマスクにまでしわがはみ出てるぞ。俺っちの美しい刀身にブサイクなもん映させんじゃねえよ!」
「アナタたち、よほど早く死にたいようねえ!」
 才人とデルフの悪態に、トルミーラは激昂して殴りかかってきた。
 ヒュプナスの爪がデルフの刀身とかみ合い、才人は全身の筋肉を総動員してやっと受け止め、デルフも刀身がきしんで「折れる折れる!」と悲鳴をあげる。
 だが、おかげで一瞬だがトルミーラの意識がミシェルからずれた。その隙を逃さず、ミシェルは杖を持って全力の魔法を放った。
『錬金!』
 杖から放たれた光が部屋を照らす。トルミーラは、才人の行動が陽動であろうと読んでいて、背後から不意打ちにしてくるなら返り討ちにしてやろうと待ち構えていたが、予想外の魔法に戸惑い、動きを止めてしまった。
 その瞬間、錬金の魔法によって基礎構造を崩された部屋の天井が轟音をあげて崩落を始めたのだ。
「ミシェル!」
「サ、サイト……」
 精神力を一気に絞り出すほどのパワーで錬金を使ったことで脱力してしまったミシェルを助けようと、才人は倒れ掛かるミシェルを抱きかかえて全力で部屋の出口へと走った。
 もちろん、それを見逃すようなトルミーラではない。逃げ出すふたりを後ろから襲おうと、その鋭い爪を振り上げた。
「バァカねえ! これで部屋ごと私を押しつぶす気でしょうけど、私のスピードなら簡単に逃げられるわ。地の底に眠るのはアナタたちよぉ!」
 その通りに、才人の背中にヒュプナスの爪が迫り来る。だが、トルミーラが勝利を確信した、その瞬間だった。
「ウワッ! あ、足が動かな? これは、私の蜘蛛の糸!?」
 なんと、ヒュプナスの足にさきほどトルミーラが放ってミシェルが撃ち落とした蜘蛛の糸の魔法がからみついていたのだ。

195 ウルトラ5番目の使い魔 66話 (16/17) ◆213pT8BiCc :2017/10/27(金) 00:15:06 ID:RJjVhhhM
 ミシェルは才人に抱きかかえられながら、慌てるトルミーラに向けて冷たく言い放った。
「そうだ、自分の放った魔法に足を取られて逝け。貴様には似合いの末路だ」
「ま、まさか、蜘蛛の糸が落ちている場所まで計算して! ワアアァァァーーッ!」
 崩れ落ちる大量の瓦礫がトルミーラに降り注いだ。いくら頑強なヒュプナスの体といえども、地下室を作り上げるための強固な構成材の数十トンにも及ぶ落下には耐えられない。
 間一髪、出口に滑り込んだ才人とミシェルに、大量の粉塵が追い打ちをかけてくる。ふたりは目を閉じてそれに耐え、粉塵が収まった後で部屋を見返すと、部屋は巨岩のような瓦礫にうずもれてしまっていた。
「や、やったぜ! さっすがミシェル。でも、一歩間違えればおれたちも瓦礫の下敷きだったってのに、すげえ無茶考えるぜ」
「フッ、サイトならあのときと同じようにわたしを助けてくれると信じていたよ。お前は誰かを救う時は、絶対に期待を裏切らない。わたしはそう信じている」
 信頼のこもった優しい眼差しがふたりの間で交差する。
 しかしそのとき、転がる瓦礫からごろりと岩が動く音がしたのをふたりは聞き逃さなかった。
「死いぃぃぃねぇぇぇーーっ!」
 瓦礫から飛び出してきたヒュプナスの爪が才人とミシェルを襲う。だが、ふたりはそれを見切っていた。
 満身創痍のヒュプナスに、二振りの剣が突き出された。
「ガハッ」
 動きが鈍っていたヒュプナスの左胸に、二本の剣が突き刺さり、ヒュプナスは青色の血を流しながらゆっくりと倒れた。
 これで本当に終わりだ。心臓の位置は人間と変わらないヒュプナスは致命傷を受け、トルミーラの姿に戻って口から血を漏らした。
「フ、ハハ……痛い、痛いわ。わ、私の負けね……まさか、あんたたちみたいなのに負けるなんて。ウ、フフ、ハハ」
 自嘲気な笑いを浮かべ、トルミーラは見下ろしてくる才人とミシェルを見上げ、視線が合ったミシェルはトルミーラに話しかけた。
「約束だ、わたしが勝ったから首謀者の正体を教えてもらおう」
「ふ、ハハハ。オシエナーイ! だって私、悪党でイジワルだから。ン、でも、気にすることはないわ。あの方は、いずれあなたたちの前にも現れるでしょうから、それまで楽しみにしてるといいわ」
「それは、ここと同じような悪事を、そいつは企んでいるということか?」
「エエ、そうよ。あの方は、このハルケギニアをメッチャクチャにするのが目的みたい。すぐにでも、次のナニカが新聞を賑わすでしょう……そして、実は私はホッとしているのよ」
「何?」
 生気を失っていくトルミーラの顔に、子供のように安堵した表情が浮かぶのをミシェルは見た。

196 ウルトラ5番目の使い魔 66話 (17/17) ◆213pT8BiCc :2017/10/27(金) 00:16:14 ID:RJjVhhhM
「ミシェル……今度は私がお礼を言わなくちゃね。おかげで私は、あの方から解放される……そしてアナタたちは、私なんかとは比べ物にならないホンモノノ恐怖を味わうことになるわ。ウハハハ……」
「それは、どういう意味だ?」
「ウフフ……あの方こそ、本物の悪魔よ。もしココにあの方がいたら、今ごろ肉塊になっているのはアナタたちのほうだわ……恥を忍んで教えてあげる。あの方は、ヒュプナスになった私を、笑いながら軽々とねじ伏せてくれた。あんな屈辱……いえ、絶望はなかったわ……ウハハ、イヒヒヒ」
 ひきつった笑いを漏らすトルミーラを、才人はつばを飲み、冷や汗を流しながら見下ろしていた。
 まさか、この強さのトルミーラを恐れさせるほどの相手。それは、いったい……?
「吐け! そいつの名を!」
「む、無駄よ。知ったところで、あなたたちには何もできない。あの方を倒せる人間なんてこの世にいない。けど、これで私はやっとあの方から逃げられる……ウフ、ハハ……ミシェル、坊や……恋人ごっこができるのも今のうちよ……」
 それを最後に、トルミーラの呼吸は永遠に止まった。
 才人とミシェルは、トルミーラの死体からそれぞれの剣を引き抜く。そしてミシェルはトルミーラの死体のそばにひざをつくと、狂笑のまま死んでいるトルミーラの顔を直してやった。
「なあ、サイト……こいつはどうしようもないクズだったが、どうしてかわたしはこいつを憎む気になれないんだ……意識しなかったとはいえ、トルミーラのおかげでわたしは死なずにすんだ。それと、こいつもリッシュモンにはめられたわたしの家のように、かつてのトリステインの歪みの犠牲者なのかもしれないと思ってな」
「……」
「もしかしたら、元々はトルミーラもまともな奴だったのかもしれない。わたしだって、もしかしたらリッシュモンに騙されたまま、落ちるところまで落ちていたかもしれない。人間は変わってしまう……いつかは、誰でも」
 ミシェルの声からは、不安と寂しさが漏れ出していた。
 人は変わる。そして変わってしまったら容易に元には戻れない。それに対する恐れがミシェルを突き動かしてきたのだということを察した才人は、ミシェルを抱きしめて耳元でそっとささやいた。
「大丈夫、おれは変わらないし、どこへも行かないから」
「サイト……ありがとう」
 それが保証のない言葉だということはわかっている。いくら変わるまいと思っても、時間は人を変えていく。
 だがそれでも、ミシェルは才人の優しさに触れ、この一瞬のぬくもりを全身で味わった。
 物陰から見守っていたアイが、恥ずかしさのあまりに思わず顔を覆いかけるような光景を目にするのは、その数秒後のことである。
 
 
 この日、ハルケギニアを騒がせた連続誘拐事件は誘拐団の全滅という形で幕を閉じた。
 しかし、新聞の明るいニュースに喜ぶ人々は、その裏で進んでいた地獄を知らず、同じような狂気がなおも進行中であることを知らなかった。
 不可思議な平和を謳歌するハルケギニア。その中で起きた、この小さなイレギュラーが、やがて全てを食いつぶすガン細胞のほんのひとかけらであることを、正義も悪も、まだ誰一人として認識してはいなかった。
 
 
 続く

197 ウルトラ5番目の使い魔 あとがき ◆213pT8BiCc :2017/10/27(金) 00:19:44 ID:RJjVhhhM
今回はここまでです。では、また来月に

198 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/10/31(火) 21:59:36 ID:.xFHoMyw
ウルトラ五番目の人、投稿お疲れさまでした!

さて皆さん今晩は。無重力巫女さんの人です。
特に問題が無ければ22時03分から88話の投稿を開始します

199 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/10/31(火) 22:03:41 ID:.xFHoMyw


 世間では夏季休暇の真っ最中であるトリスタニアはブルドンネ街にある巨大市場。
 ハルケギニア各国の都市部にある様な市場と比べて最も人口密度が高いと言われる其処には様々な品物が売られている。
 食料や日用雑貨品は勿論の事、メイジがポーションやマジック・アイテムの作成などに使う素材や鉱石、
 そこに混じって平民の子供向けの玩具や絵本、更には怪しげな密造酒が売らていたりとかなりカオスな場所だ。
 中には専門家が見れば明らかに安物と分かるような宝石を、高値で売っている露店もある。
 様々な露店が左右に建ち並び、その真ん中を押し進むようにして多くの人たちが行き来していた。

 市場にいる人間の内大半が平民ではあるが、中には貴族もおり、その中に混ざるようにして観光に来た貴族たちもいる。
 彼らは母国とはまた違うトリスタニアの市場の盛況さに度肝を抜かれ、そして楽しんでいた。
 見ているだけでも楽しい露店の商品を眺めたり、中には勇気と金貨を持って怪しげな品を買おうとする者たちもいる。
 買った物が使えるか役に立つのならば掘り出し物を見つけたと喜び、逆ならば買った後で激しく後悔する。 

 そんな小さな悲喜劇が時折起こっているような場所を、ルイズは汗水垂らして歩いていた。
 肩から鞄を下げて、右手には先ほど屋台で買った瓶入りのオレンジジュース、そして左手には街の地図を持って。

 思っていた以上に、街の中は熱かった。暑いのではなく、熱い。
 まるですぐ近くで炎が勢いよく燃え上がっているかのように、服越しの皮膚をジリジリと焼いていく。
 左右と上から火で炙られる状況の中で、ガチョウもこんな風に焼かれて丸焼きになるのだと想像しながら歩いていた。
「…迂闊だったわ。こんな事になるんなら、ちょっと遠回りするべきだったかしら?」
 前へ前へと進むたびに道を阻むかのように表れる通行人の間をすり抜けながら、ルイズは一人呟く。
 霊夢や魔理沙たちに負けじと勢いよく『魅惑の妖精』亭を出てきたのは良いものの、ルートが最悪であった。
 チクトンネ街は日中人通りが少ないので良かったものの、ブルドンネ街はこの通り酷い状況である。
 観光客やら何やらで市場は完全に人ごみで埋まっており、それでも尚機能不全に陥っていないのが不思議なくらいだ。
 
 普段からここを通っていたルイズは大丈夫だろうとタカを括っていたが、そこが迂闊であった。
 一旦人ごみの中に入ったら最後、後に戻る事ができぬまま前へ進むしかないという地獄の市場巡りが待っていた。
 人々と太陽の熱気で全身を炙られて意識が朦朧としかけ、それでも荷物目当てのスリにも用心しなければいけないという困難な試練。
 ふと立ち止まった所にジュース屋の屋台がなければ、今頃人ごみの中で倒れていたかもしれない。
(こんな事なら帽子でも持ってきたら良かったわ。…でもあれ結構高いし、盗まれたら大変ね)
 ルイズは二本目となるオレンジジュースの残りを一気に飲み干してしまうと、空き瓶を鞄の中へと入れた。
 鞄の中にはもう一本空き瓶と、もう二本ジュース入りの瓶が二本も入っている。
 幸いにもジュース自体の値段は然程高くなかった為、念のために四本ほど購入していたのだ。
 
 他にはメモ帳と羽根ペンとインク瓶、それに汗拭き用のハンカチとハンドタオルが一枚ずつ。
 そして彼女にとって唯一の武器であり自衛手段でもある杖は、鞄の底に隠すようにしてしまわれている。
 万が一の考えて持ってきてはいたが、正直杖の出番が無いようにとルイズはこっそりと祈っていた。
(私の魔法だと一々派手だから、一回でも使ったら即貴族ですってバレちゃうわよね)
 それでも万が一の時が起これば…せめて軽い怪我で済ませるしかないだろう。

200 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/10/31(火) 22:05:23 ID:.xFHoMyw
 地獄とも言える夏場の市場めぐりにも、終わりというものは必ず存在する。
 自ら人ごみの中へと入ったルイズが歩き続けて数十分、ようやく人の流れが少なくなり始めたのに気づく。
 三本目のジュースに手を付けようかとしていた矢先の幸運。彼女ははやる気持ちを抑えて前へと進む。
 
 そして…―――、彼女はようやく地獄から脱出することができた。
「あっ…――やった。やっと、出る事が出来たわ」

 予想通り、人ごみの途絶えた先にあったのは休憩所を兼ねた小さな噴水広場であった。
 中央の噴水を囲むようにして日よけの為に植えられた樹と、その周りに設けられたベンチに平民たちが腰を下ろして一息ついている。
 ハンカチやタオルで汗をぬぐう者、近くにある屋台で買ったジュースを味わっている者や談笑しているカップルと老若男女様々。
 ザっと見回したところで二十数人近くがここで休んでいるのだろうか、市場を出入りする通行人もいるので詳しい数は分からない。
 それでも背後にある地獄と比べれば酷く閑散としており、涼むには丁度良い場所なのは間違いないだろう。
 ルイズはすぐ近くにあったベンチへと腰かけると、ホッと一息ついて肩の鞄をそっと地面へと下ろした。
 そして鞄からハンドタオルを取りだすと、顔と首筋からびっしりと滲み出てくる汗をこれでもかと吸い取っていく。

「ふうぅ…っ!全く、冗談じゃなかったわよ…夏季休暇で市場があんなに盛況になるだ何て、今まで知らなかったわ」
 先ほど潜り抜けてきた下界の灼熱地獄を思い出して身を震わせつつ、程よく湿ったハンドタオルを自身の横へと置く。
 鬱陶しくしても人ごみのせいで拭けに拭けなかった汗を拭えた事である程度気分も落ち着けたが、今度は着ている服に違和感を感じてしまう。
 この前平民に変装する為にと買った服も早速汗で湿ってしまったのだが、流石に服の中へタオルを入れる真似なんてできない。
 生まれも育ちも平民の女性ならば抵抗はないだろうが、貴族として生まれ学んできたルイズには到底無理な行動である。
 その為着心地はすこぶる悪くなってしまったものの、それもほんの一時だと彼女は信じていた。

(まぁこの気温ならすぐに乾くでしょうし、ほんのちょっとの辛抱よ)
 丁度木の陰が太陽を遮るようにしてルイズが腰かけるベンチの上を覆っており、彼女の肌を紫外線から守っている。
 周囲の気温はムワッ…と暖かいものの、それでも木陰がある分暑さは和らいでいる方だ。
 もしもこの広場に樹が植えられていなければ、こんなに人が集まる事は無かったに違いない。
 そんな事を思いつつも、ルイズは休憩ついでに鞄から三本目のジュースが入った瓶と携帯用のコルク抜きを取り出す。
「そろそろ飲み始めないと温くなっちゃうだろうし、冷たいうちに堪能しておかないと」
 一人呟きながらもT字型のコルク抜きを使い、手慣れた動作でルイズはオレンジジュースのコルクを抜く。
 そして抜くや否や最初の一口をクイッと口の中に入れて、そのまま優しく飲み込んでいく。
 オレンジ特有の酸味と甘みが上手く混ざり合って彼女の味覚に嬉しい刺激を、喉に潤いをもたらしてくれる。

 途端やや疲れていた表情を浮かべていたルイズの顔に、ゆっくりと微笑みが戻ってきた。
「んぅー…!やっぱり、こういう暑い日の外で飲む冷たいジュースっと何か格別よねぇ」 
 瓶を口から放しての第一声。人ごみの中で飲んだ時には感じられなかった解放感で思わず声が出てしまう。
 涼しい木陰に腰を下ろせるベンチと、殆ど歩きっぱなしでいつ終わるとも知れぬ市場めぐりとではあまりにも状況が違いすぎる。
 あれだけの人の中を今まで歩いた事の無かった彼女だからこそ、ついつい声が出てしまったのだ。
 しかし…それを口にして数秒ほど経った後でルイズは変な気恥ずかしさを感じて周囲を見回そうとしたとき…
「おやおや、随分と可愛らしい貴族のお嬢様だ。こんな所へ一人で観光しにきたのかい?」

201 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/10/31(火) 22:07:26 ID:.xFHoMyw
 彼女の背後、樹にもたれ掛かって休んでいた青年貴族が突然話しかけてきたのである。
 思わずその声に目を丸くした後、バッと声のした方へ振り向くと思わず自分を指さして「…私の事?」と聞いてしまう。
 年齢はもうすぐ二十歳になるのだろうか、魔法学院はとっくに卒業している年の彼は貴族にしてはやけに安っぽい格好をしていた。
 一応貴族としての体裁は整えているものの、ルイズが今着ている服と比べても格が低いのは一目瞭然である。
 そして同じ貴族である自分に対しての軽い接し方からして、恐らく彼は俗にいう下級貴族なのだろう。

 貴族の家の子として産まれても、その全員が順調な人生を送れるとは限らない。
 とある家の三男か四男坊として生まれれば、親はある程度の教育だけ受けさせて家を追い出す事がある。
 金の無い貴族の家では全員を魔法学院に入れさせる金も無いし、彼らの一生を養える余裕も無いからだ。
 許嫁がいたり魔法の才能があれば別であるが、大抵は杖と幾つかの荷物を鞄に詰められて適当な街へ放り込まれてしまう。
 彼らは魔法も中途半端であれば王宮の仕事が出来るほど頭も良くなく、精々文字の読み書きと掛け算割り算ができる程度。
 王宮での勤めに必要なコネも知識もなく、ましてや宮廷の貴族達から一目置かれる程の魔法も使えない。
 故に彼らの様な低級貴族は平民たちと共に暮らしており、共に同じ職場で働いて日銭を稼いでいる。
 中には壊れた壁や床の修繕なども行っている者たちもおり、日々頑張って暮らしているのだという。

 幸い中途半端な魔法でも平民たちには重宝され、その日の食事に困るような事態は起こっていない。
 魔法学院へ入れる中級や上流階級の者たちは彼らを貴族の恥さらしと呼ぶ事はあるが、声を大にして批判することは無い。
 皮肉にも貴族の恥さらしである彼らが平民たちに力を貸すことによって、貴族全体のイメージ向上へと繋がっているからだ。
 井戸やポンプの修理をしたり、家の修理などのアルバイトも平民たちには好評なようである。
 下級貴族達も無茶な金銭要求をしたりはせず、時にワインや手作りの料理とかでも良いという変わり者もいるのだとか。
 
 きっと自分に声を掛け、あまつさえ貴族と看破してきた彼もその内の一人なのだろう。
 そんな事を考えていたルイズに向けて、背後に青年貴族はクスクスと笑いながら喋りかけてくる。
「そう、君の事だよ。市場から命からがら!…って感じで出てきた時の君を見てね。…お嬢さん、外国から観光に来たお忍びの貴族さんでしょう?」
 得意気になって勝手な事を喋ってくる下級貴族にルイズは苦笑いを浮かべつつ、

――――違うわよこの三、四流の間抜け!私はトリステイン王国の由緒正しき名家、ヴァリエール家の者よッ!!

 …と、叫びたい気持ちを何とかして堪えるのに必死であった。
 何の為にこんな暑い街中にまで繰り出し、そしてあの地獄の市場を超えて来たのか、彼女はその理由を改めて思い出す。
 ここで怒りにまかせて自分の正体を暴露してしまえば、ここへ来た意味自体が無くなってしまう。
 それだけは何とか避けようと必死になって、彼女は硬過ぎる作り笑顔を浮かべて下級貴族に話し掛けた。
「…そ!そそ、そうなのよ!この夏季休暇を利用して小旅行の…ま、まま真っ最中でしてねぇ…ッ!」
「……あ、あぁそうなんだ」
 半ばヤケクソ気味ではあるが、不気味な造り笑顔と震えている言葉に下級貴族も軽く怯みながらそう返してくる。
 ルイズ本人としてもあからさまに無理してると自覚していたので、すぐさま顔を横へ逸らしてしまう。
 
(何やってるのよルイズ・フランソワーズ。こんな所で爆発してたら本末転倒じゃないの…!)
 閉じている口の中で歯を食いしばり、相も変わらず激しやすい自分にいら立ちを覚える。
 そして気分を落ち着かせるように一回深呼吸した後、こちらを心配そうに見ていた下級貴族方へと振り向いた。

202 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/10/31(火) 22:09:40 ID:.xFHoMyw
 相手は気配からして自分が怒りかけていたのだと薄ら分かっていたのか、その表情は若干緊張に包まれている。
 まだ笑みは浮かべていたものの、最初にこちらへ話しかけて来た時の様な軽い雰囲気はすっ飛んでいた。
 ルイズは気を取り直すように軽く咳払いすると、こちらの出方を窺っている下級貴族に申し訳程度の笑みを浮かべて言った。

「ごめんなさいね、何分こう暑いものですから…苛立ってしまったの」
「…え?あぁ、いや…その、それなら…まぁ」
 特別怒っているわけではなく、ましてや媚びているワケでもない微笑みに下級貴族は返事に困ってしまう。
 暫し視線を泳がしつつ、言葉を選ぶかのように口を二、三度小さく開けた後でルイズに言葉を返す。
「こ、こちらこそ悪かったよ。変に子供扱いしちゃってて…」
 当たり前じゃないの!…そう怒鳴りたい気持ちを抑えつつ、ルイズは言葉を続けていく。
「そうだったの。確かに私はまだ十六だけど、ご覧のとおり一人で旅できる程度には独り立ちできてましてよ」
 エッヘンと自慢するかのように薄い胸をワザとらしく反らす彼女を見て、下級貴族は「は、はぁ…」と困惑してしまう。
 しかし、どこの国から来たかまでは知らないが確かに留学を除いて十六の貴族が一人旅行などできるものではない。
 
 国境を超える為の書類や費用等を考えれば子供には大変であろうし、何よりまず親が許さないだろう。
 とはいえ例外もあり、将来自立する意思のある貴族の子なんかは率先して留学したり国外旅行へいく事もある。
 それを考えれば自分の様な下級貴族にも自慢したくなる気持ちと言うのは、何となくだが理解する事はできた。
 そりゃ安易に子ども扱いしたら怒るのも無理はないだろう。彼はそう納得しつつ改まった態度で彼女に言葉を掛ける。
「…にしても、この時期のトリスタニアへ遊びに来るとは…また随分と勇気があるようで」
「まぁね。本当は秋か冬にでも行こうって決めてたんだけど、どちらの季節とも大切な用事ができてしまったのよ」
 
 そこから先数分程、思いの外自分の゙演技゙に釣られてくれた彼とルイズは話を続けた。
 ガリアから来たという事にしておいて、国の雰囲気が似ているトリステインへ興味本位に遊びへ来たこと。
 その興味本位で市場に入ったところ揉みくちゃにされて、危うく倒れかけたこと。
 先ほどの市場はもう二度と御免であるが、リュティスと似ているようでまた違うトリスタニアが良い所だと熱く語って見せた。
 無論ルイズは生粋のトリステイン人なのだが、これまで一度もガリアへ行ったことが無いという事はなかった。
 リュティスには家族旅行で何度か行った経験もあり、それのおかげである程度のガリアの知識は頭の中にあったのである。
 幸いにも相手は母国から出たことが無いような下級貴族であり、よっぽど下手しなければバレる事は無い。

 ルイズは自分の言葉に気を付けつつも、顔は良いがタイプではない下級貴族の青年と暫しの会話を楽しんだ。
 家族旅行で訪れた場所を思い出しながらガリアの事を話し、相手はそれを楽しそうに聞いている。
 時間にすればほんの五分経ったころだろうか、黙って話を聞いていた下級貴族が口を開いて喋ってきた。
「いやぁ、貧弱な家の三男坊である自分がこうして君みたいな素敵な人から異国の話を聞けるとは…今日の僕はツいてるよ」
「あら、その顔なら街娘くらいはキャーキャー言いながら寄ってこないものなのかしら?」
 ルイズがそう言ってみると、彼は苦笑いしつつ両肩を竦めるとすぐさま言葉を返した。
「そうでもないさ。僕たち下級貴族の男子になんか、御酌はしてくれるがそこから先に全く進みやしないからね」
 何せ貴族は貴族でも。、金の無い下級貴族だからね。…若干自分をあざ笑うかのような言葉に、彼女も苦笑してしまう。

 そんなこんなで話が弾んだところで、ルイズはそろそろ自分の『やるべき事』を始めようと決意した。
 これまで以上に言葉を選び、かつ悟られない様に聞き出さなければいけない。

203 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/10/31(火) 22:11:22 ID:.xFHoMyw
 夏の陽気に中てられて、活気づいた王都の中にジワリジワリと滲む…新生アルビオン共和国に対する反応を。
 ルイズは苦笑いを浮かべたままの表情で、ニカニカとはにかんでいる下級貴族へと話しかけた。
「それにしても、王都は本当に賑やかね。聞くところによると、あのアルビオンと戦争が始まりそうだっていうのに」
「アルビオン…?あぁ…ラ・ロシェールの事件でしょう、君よく知ってるねェ」
「トリステインへ行くときに、行商人から聞いたのよ。もうすぐこの国とあの国で戦が起こるって」
 突然話の方向が変わった事に違和感を感じつつも、彼は何の気なしにその話に乗る。
 ルイズもルイズで事前に考えていた『話の輸入先の設定』を言いつつ、聞き込みを続けていく。

「普通戦が起こるってなると王都でも緊張した雰囲気に包まれそうなものだけど…ここは真逆みたいね」
「まぁ時期が時期だよ。こんなクソ暑い季節の中で緊張したって、熱中症で倒れてたらワケないしな」
 彼の言葉にルイズはまぁ確かに納得しつつ、いよいよ本題であるアルビオンへの評価を聞くことにした。

「…ところで、トリステインの貴族の方々にとって今のアルビオンが掲げる貴族による国家統治はどう思ってるのかしら?」
「んぅ?失礼な事を言うね異国のお嬢さん」
 ルイズの質問に対し、まず彼が見せたのは薄い嫌悪感を露わにしたしかめっ面であった。
「いくら俺たちがこの先十年二十年生きられるかどうか分からん貧乏貴族だとしても、連中の甘言には乗らんさ」
「そうよね?私もアイツラの掲げる思想は嫌いだわ、王家を蔑ろにするなど…貴族がしてはならない行為よ」
「その通り。特にこの国の王家に関しては…たとえ奴らが金貨の山を差し出そうとも裏切るような事はしないつもりだ」
 平民と共に暮らす貧乏貴族とは思えぬ…いや、逆に貧乏だからこそ王家を並みの貴族以上に崇めているのかもしれない。
 近いうち女王となるアンリエッタの笑顔を思い出しつつも、ルイズはカンタンな質問を混ぜ込みつつ話を続けていく。
 アルビオンと本格的な戦争が始まったら志願するのか、今後トリステインはかの国へどう対応すればいいべきか等々…。

 ルイズなりに投げかけるそれを会話の中に自然に混ぜ込み、あたかも世間話のように見せかける。
 そうこうして数分ほど話を続けていた時、ふと下級貴族の背後から複数人の呼び声が聞こえてきたのに気が付いた。
「オーバン!俺たち抜きで何ナンパなんかしてんだよー!」
「えっ…!?あ、あぁビセンテ、それにカルヴィンにシプリアル達も!」
 何かと思ったルイズが彼の肩越しに覗いてみると、いかにもな若い下級貴族数人が少し離れた所から手を振っている。
 皆が皆オーバンと呼ばれた青年貴族と同じように、貴族用ではあるが比較的安そうな服を着ていた。
「あら、お友達と待ち合わせしてたのね。それじゃあ、私はここらへんで…」
「え?あっ…ちょっと…!」
 そんな集団が手をありながらこっちに来るのに気が付いたルイズは、話に付き合ってくれた彼に一礼してその場を後にする。
 鞄を肩に掛けてベンチから腰を上げるや否や、呼び止めようとする彼に背を向けて早足で立ち去っていく。
 オーバンも思わず腰を上げて追いかけようとしたものの、時すでに遅く名も知らぬ異国?の少女は人ごみの中へと消えて行った。

 所詮自分は底辺貴族、物語の様なロマンスなど夢のまた夢という事なのだろう。 
 自分の前にサッと現れサッと消えて行った彼女を口惜しく思いつつも――――…ふと思い出す。
 この広場で他の誰よりも目立っていた、あのピンクのブロンドウェーブに見覚えがあるという事を。
「あのピンクブロンド…うん?どっかでみた覚えがあるような、ないような…?」

 
 それから少しして、あの広場から十分ほど歩いた先にある十字路の一角。
 市場からの距離も微妙な為日中のブルドンネにしては人通りも大人しい、そんな静かな場所で景気の良い音が響いた。

204 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/10/31(火) 22:13:35 ID:.xFHoMyw
 それはパーティなどで勢いよくシャンパンのコルクを開けた時の様な音ではなく、思いっきり拳で硬いものを殴った時のような気持ちの良い殴打音。
 何かと思って数人の通行人が音のした方へ視線を向けると、彼らに背を向けているルイズの姿があった。
 どうやら、右手に作った拳でもって十字路に建てられた共同住宅の壁を殴りつけた直後だったらしい。
 ギリギリと拳を壁にめり込まそうとばかりに力を入れている彼女の後ろ姿を目にして、人々は慌てて視線を逸らす。

 その洒落た服装からして彼女がタダの平民ではなく、商家の娘かお忍びの貴族令嬢だと察したのであろう。
 ――目があったら巻き込まれる。本能で゙ヤバイ゙と悟った人々は何も見なかったと言わんばかりに、早足でその場を後にしていく。
 そうして周囲の注意をこれでもかと引いたルイズは、はふぅ…と一息ついてそっと右拳を壁から放した。
「結構力は抜いたつもりだけど…イタタ、木造でもこんなに痛いモノなのね」
 後悔後先に立たずな事を呟きつつ右手の甲を撫でたルイズは、先程話に付き合ってくれた青年の事を思い出す。
 もう少し話を続けていれば、今頃食事なりお茶の誘いでも出されていたに違いないだろう。
 あの手の輩というものは大抵よさげな女の子に声を掛けて、さりげなく良い流れになったところで誘ってくるのだ。 
 そう考えるとあの友人たちの乱入は正にあの場を離れるには絶好のチャンスとも思えてくる。

 彼らのおかげで程よくアルビオンに対する情報を聞けたうえ、良いタイミングであの場を後にすることができたのだから。
 早速忘れぬ内にメモしておこうと鞄の中を漁りつつも、同時にルイズはほんの少し残念な気持ちを抱えていた。
「それにしても…案外私の髪の色を見ても、誰も私がヴァリエールの人間だなんて気づかないものなのねぇ」
 あの下級貴族と言い、周りにいた平民も含めてみな自分の髪の色を見てピン!と来なかったのであろうか。
 市場にいた時はともかく、誰かが一人くらい気が付いても良いはずである。少なくとも彼女はそう思っていた
 昨日もそうであった。御忍びの貴族だと街娘にはバレてしまったが、家の名前までは言われなかった。
 と、いうことは…ヴァリエール家は今の御時世民衆の間であまり知られていないのではないのか?
 そんな事を考えて落胆しそうになったルイズは、ふと思う。

「みんな知らない…っていうよりも、公爵家の娘がこんな所にいるワケないって思ってるのかしら?」

 自分で言うのも何だが、下々の者たちからして見れば正にそうなのだろう。
 確かに、名のある公爵家の人間――それも末の娘が一人で王都を出歩くなんて滅多に無い事である。
 そう考えてみると、確かに自分を目にしてもその人が公爵家の人間だなんて思わないに違いない。
 例えば王家の人間が平民に扮していても、誰もその人がこの国の中枢を担う人物だと気づかないのと同じだ。
「そうだとすれば…案外、私が立てた作戦も上手くいきそうな気がするかも…」
 鞄からようやっとメモ帳を取り出し、何回かページを捲って何も書かれていない空白の頁を見つける。
 そして何処かに落ち着いて文章を書ける場所が無いかと、しきりに辺りを見回した。

 ルイズが今口にした『作戦』というのは、アンリ得た直々に命令された民衆からの情報収集のことだ。
 これから一戦交える前に、人々はアルビオンに対しどのような反応を抱いているのかを調べるのである。
 早速それを行うとした昨日、散々な結果で終わってしまったルイズに代わって魔理沙がそれを肩代わりする筈であった。
 しかし、アンリエッタからの命令と言う事もあってこのままではいけないと感じた彼女は、自ら行動する事にした。
 元々責任感もあるルイズとしては、あの黒白に頼り切るというのに一途の不安を感じたという事もあったが…。
 とはいえ考えなしに行っても昨日の二の舞になるのは明白であり、そこで彼女はとある『作戦』を思いついたのである。

205 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/10/31(火) 22:15:27 ID:.xFHoMyw
 生粋の貴族として育てられたルイズにとって、一平民として民衆の中に紛れ込むのは非常に難しい。
 ならば…敢えて彼女はその゙逆゙側―――ただのイチ貴族、それも国外から来た観光客として扮する事に決めたのである。
 今の時期、王都を観光しにあちこちの国から様々な年齢の観光客が大挙して押し寄せている。
 ルイズは敢えてその中に紛れ込み、アルビオンと戦争状態になった事をさりげなく民衆や下級貴族に聞き込む事にしたのだ。
 さっき聞き込みをしたのは下級貴族であったが自分がトリステイン貴族だと気づかれず、うまく聞き取りを終える事かできた。
 下級貴族ならば平民と同じ環境で暮らしているために彼らの世間話も耳にしているだろうし、情報に困る事も無い。
 ついさっきは、ものの試しにと話しかけてみたが思いの外相手は自分の話に乗ってきてくれた。
 
 とはいえ、流石に自分とは雲泥の差がある格下の貴族にああも気安く話しかけられたのは色々と大変だったらしい。
 先ほどルイズが壁を殴ったのも、あの若干チャラチャラとした貴族を殴りたくて我慢した結果であった。
 もしもあそこで我慢できずに暴発していたら、今頃すべてが台無しになっていたのは間違いない。
「よし…と!ひとまず一人目…とりかく今日は十人くらいトライしなくちゃね」
 十字路を西の方へと歩いた先、そこにあるベンチでメモに情報を書き終えたルイズはパタンとメモ帳を閉じる。
 そして取り出していたインク瓶と羽ペンをしまうとメモ帳も鞄の中に入れて、スッと腰を上げる。
 ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの誰にも言えぬ秘密のミッションは、こうして幕を開けたのであった。

 最初に彼女が選んだのは、ブルドンネ街の中央寄りにある大きな通りであった。
 そこは通称『厨房通り』とも呼ばれている場所で、その名の由来である数多の飲食店が群雄割拠している場所だ。
 主な客層は貴族やゲルマニアで商人などをしている平民であり、皆それなりに裕福な身なりをしている。
 店のジャンルは基本トリステインで貴族が好んで食べる高級料理などであり、変化球の様にサンドイッチやデザート等の専門店もある。
 どの店も通りを少し侵食するようにしてテラス席を設けており、日よけのした設置されたテーブルで美味しい食事にありついている。
 無論平民や下級貴族など安くてお手頃な飲食店も規模は小さいものの存在し、市場に次いでかなりの人々が通りを行き交っていた。
 
 ルイズは市場での経験を生かしてかなるべく通りの端を歩きつつ、王都の地図を片手に話しかけやすそうな人を探していた。
 当然地図を持っているのは観光客を装う為であり、彼女自身王都で迷う心配など微塵もなかった。
 現に周囲を見回してみると、今のルイズと同じように地図を手に通りを不安げに歩く貴族の姿がチラホラと見える。
 若い者たちは地図と睨めっこしつつ歩いており、中には従者らしき者に道案内をさせている年配の貴族もいる。
 彼らは大小の差はあれど軽い手荷物と地図からして、本物の観光客だというのが丸わかりだ。
 そういう人たちに混じって、ルイズは大人しく…かつある程度物知りな平民か下級貴族に道を尋ねるついでに聞き込みをするつもりであった。
「…とはいえ、この人の流れだと上手く話しかけられるかしら?…って、あの平民ならいけそうかも」
 周囲の人々を観察していたルイズは、ふと目に入った中年の平民男性に狙いを定めてみる。

 どうやら人の流れから少し外れて、路地裏へと続く小さな横道の前で一休みしているらしい。
 中年になってまだ間もないという外見の男性は、手拭いで首の汗を拭いつつ燦々と輝く太陽を恨めしそうに見つめている。
 見た感じならば人もよさそうであるし、これなら少し会話した程度で揉め事が起こる心配は少ないだろう。
 ほんの少し足を止めて様子見をしていた彼女は、早速その平民に話しかけてみる事にした。

「そこのアナタ、休憩中悪いけれどちょっと良いかしら?」
「…お?…んぅ、マントは無いようだけど…もしかしてお忍び中の貴族様…でよろしいかと?」
「えぇ、今は気兼ねなく旅行するためマントは外してあるの。紛らわしくてごめんなさいね」

206 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/10/31(火) 22:17:40 ID:.xFHoMyw
 マントを着けでおらず、しかしその居丈高な物言いと身なりで彼はルイズが貴族であると何となく察したらしい。
 物分りの良い男にルイズもやや満足気に頷いてみせると、平民の男は「あぁいえ!こちらこそ…」と頭を下げる。
 どうやら自分の目利き通り、貴族に対しての作法はある程度心得ているようだ。
 それに安心したルイズも「別に気にしていないわ」と返しつつ、最初に道を尋ねる所から始める。
「初めて王都へ来て道へ迷ってしまったのよ。ここからタニアリージュ・ロワイヤル座へ行くにはどうしたら良いかしら」
「あぁ、ここからそこへ行くんなら…」
 異国の貴族を装うルイズの尋ねに対し、平民の男もやぶさかではないという感じで説明を始めた。
 そりゃルイズは黙っていれば本当に綺麗であるし、本性を露わにしなければ淑女の鑑にもなれる。
  
 恐らくはルイズよりもこの街に精通している男の説明は、貴族である彼女でも感心する所があった。
 彼の案内があればどんな方向音痴でも、必ず目的地にたどり着けるに違いないだろう。
 丁寧な彼の道案内を聞いた後、ルイズは礼を述べてからいよいよ本題の聞き込みへと移った。
「ありがとう。…それにしても、この前あのアルビオンと一悶着あったというのにこの街は活気に満ち溢れているわね」
「んぅ、そうですか?まぁこことラ・ロシェールじゃあ距離があるし、第一もう終わった事ですしね」
「でも近いうちに戦争になるかも知れないのでしょう?怖くは無いの?」
「まさか!…というより戦争になっても、こっちまで火の粉が飛んでくる事は無いでしょうよ」
 まぁ確かにその通りだろう。平民と一言二言会話を交えたルイズは内心納得しつつも頷いていた。
 自分の『虚無』が原因でほぼ主力を失った今のアルビオンには、今更トリステインへ攻め入るだけの戦力は無いに等しいだろう。
 流石に艦隊が全滅したという事はないのだろうが、少なくとも今のトリステイン艦隊が圧倒される程強くはないに違いない。

 その後その平民に改めて礼を述べてその場を後にしたルイズは、転々と場所を変えながら聞き込みを続けた。
 話しかけやすそうな平民や下級貴族に声を掛けて道を尋ねて、そのついで世間話を装ってアルビオンについての反応を聞く。
 時には今のトリステイン王家に対する評価も耳に入れつつ、一時間ほど掛けて五人分の聞き込みを終える事が出来た。
 ルイズは一旦人気の多い場所から離れ、路地に接地されたベンチに腰を下ろして聞き込みの内容を記録している最中だ。
 遠くからの喧騒と、その合間へ割り込むように街路樹の葉と葉が擦れ合う音がBGМとなってて耳に入ってくる。
 この時間帯は丁度ルイズが腰かけるベンチ側の道が陰になっており、良い涼み場にもなっていた。
 
「とりあえず決めた目標まであと半分…だけど、結構この時点でかなり枝分かれしてるのねぇ」
 ルイズは羽ペンを傍へ置くと、書き終えたばかりの情報を確認し直してから一人呟いた。
 彼女の言うとおり、街に住む人々から聞いた今のアルビオンとトリステイン王家への評価は以外にもバラバラだったのである。
 ある下級貴族はアルビオンに対して徹底的な報復を唱え、その前にアンリエッタ王女はちゃんと玉座につくべきだと言ったり、
 また平民の商人はあの白の国に関しては後回しでも良いから、まずは国を盤石にするべきだと言う慎重論もあれば、
 いっその事この国をアルビオンに売ってしまえと言う、とんでもない爆弾発言まで出てきたのには流石のルイズもギョッとしてしまった。
 中にはアルビオンと同じように王政ではなく、有力な貴族達による統治を現実的に唱えている者もいた。
 
 それらを見返した後、彼女はこれらの情報を全てアンリエッタに見せるのはどうなのかと躊躇ってしまう。
 一応彼女からは嘘偽りなく、ありのまま伝えて欲しいという事は手紙には書かれていた。
 だがアンリエッタに伝える情報をルイズが吟味して、あまり過激なものは没にする…という事も不可能なことではない。

207 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/10/31(火) 22:19:49 ID:.xFHoMyw

 しかし彼女としては、それを――情報に゙色゙をつけるという行為にほんの少し抵抗があった。
 街の人達のありのままの反応を知りたいアンリエッタの気持ちを、裏切る事になるのではないかと。
 顔を俯かせたルイズは暫し頭を悩ませた後、情報を吟味するか否かの二者択一にぶつかってしまう。

「んぅ〜…こういう時にレイムかマリサがいてくれれば、私の背中を押してくれそうなもんだけど…でもアイツラを頼るのもなぁ」
 今はこの街のどこかにいるであろう二人の事を思い出した彼女は、一人悔しそうに呟く。 
 自分たちの世界が危機に陥っているというのにどこか暢気で、それでいてヤバい時には頼りになるあの二人。
 良くも悪くもこの世界の常識が通用しない彼女たちなら、どう考えるのであろうか。
 それを考えそうになっていたルイズは慌てて首を横に振り、今はそれを余所へ置くことにした。

「今はそんな事を考えてる場合じゃないわ。姫さまに送る情報の事も…もう半分を集めてからの方がいいかも」 
 ルイズはひとまずそれで納得すると羽ペンとインク瓶、そしてメモ帳を鞄の中へとしまい込む。
 まだ自分で決めた目標の半分にしか達していない今考えても、仕方の無い事である。
 忘れ物が無いかのチェックをした後、ルイズは残り半分を片付ける為に人気の多い場所への移動を始めた。


「…じゃあそろそろ私はこれで。道案内、感謝いたしますわ」
「うん、君も気を付けるんだぞ」
 それから更に一時間と少し掛けて、八人目となる下級貴族の男性から話を聞き終えたルイズはその場を後にする。
 今まで目にしてきた者達より少し年を取っているのであろうか、変にフランクな彼は背中を向けている自分に手を振ってくれている。
 彼女もまた手を振って別れつつ、残り二人までとなった情報収集に終わりが見えてきた事にホッと一息ついてしまう。
 一応聞き込み自体は何とかこなせてはいるものの、街中を移動するのにかなりの時間を要している。
 場所によっては時間帯で人ゴミができることはあるし、通行禁止となってしまい遠回りせざるを得ない事が度々あった。
  
 ルイズが今いる場所は最初の前半の五人に聞き込みをしたブルドンネ街から、チクトンネ街へと移っている。
 まだ人の少ない場所と言えどもそこは王都、道を尋ねる封を装って聞き込みをするには充分な数の人はいた。
 とはいえ世間話を装って聞き込むために人によって話が長引く事もあり、結果として今の様に一時間以上かけてようやく八人目なのである。
「何だかんだで意外と時間が掛かっちゃったわね…」
 ポケットに入れていた懐中時計の短針と長針を睨みながら呟くと、すぐ近くにある建物から美味しい匂いが漂ってくるのに気が付いた。
 丁寧に煮込んでいる最中のトマトソースと炒った玉葱から漂う甘い匂い、そして焼きたてのパンから漂うバターの香り。
 時計の短針ば12゙を指しており、長針ば1゜を少し過ぎた所まで進んでいる。
 
 どうやら既に御昼時へと突入しているらしい、そこらかしこの家から食事の匂いが通りに漂っている。
 ルイズは自分の臭覚と舌を刺激する匂いに中てられてか、思わず空っぽになっている自分の腹を抑えてしまう。
「そういえば、朝食以降で口にしたのってジュースだけだったわね…」
 程よくお腹が空き始めた自分の腹を哀しそうに撫でつつ、彼女はここから先はどうしようか悩んだ。
 資金泥棒を追っている霊夢と情報収集をしてくれてるだろう魔理沙には十二時になったらなるべく『魅惑妖精』亭へ戻るようには言っている。
 とはいえ゙なるべぐである為、もしかすればシエスタに話したように夕食時まで帰ってこないという可能性もある。
 特に魔理沙は自分でも調べたい事があると言っていたので、霊夢と二人…もしくは一人で食べる事になるかもしれない。
 何なら昼飯代くらいは捻出できるだけの余裕はあったが、それでも今あの二人に金を貸すのは心配であった。
 だから一度お昼になったら『魅惑の妖精』亭で合流できるなら合流して、どこか程よく安くて美味い店を捜そうと考えていたのだ。

208 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/10/31(火) 22:21:20 ID:.xFHoMyw
 トリスタニアなら平民向けの大衆食堂であっても、そこそこ美味い料理にありつける。
 これが外国とかだと量さえあればいいだろうという事で味が二の次になってしまうが、そこは食に煩いトリステイン人。
 例え手持ちの少ない平民であっても、食事は万人の娯楽であれと言わんばかりに食べる方も作る方も味に拘る。
 食材は無論、調味料や器具にも手を抜かずそれでいて誰にでも手が出せる安い値段で提供するのがこの国の流儀だ。
 美食に飽きた外国の貴族が一番美味しいと言った食べ物が、トリステインの平民向け食堂で出されているサンドイッチだった…なんて逸話があるくらいなのだから。
 それ程までにこの国はロマリア、ガリアと肩を並べるほどに食い物に関しては煩い国なのである。

「う〜ん、あとちょっとだけどお腹減って来たし…軽く腹ごしらえした方がいいかもね」
 ルイズ自身そろそろ何か口にしたいと思っていた矢先に、昼食時というタイミングには勝てなかった。
 幸いチクントネ街にいるので店へ戻るのは然程時間はかからないしだろう。歩いたとしても十分程度であろう。
 思い立ったら即行動…というほどでもないが、湧き上がってくる食欲に勝てるほどルイズは食に無頓着ではなかった。
 すっと踵を返した彼女は『魅惑の妖精』亭のある通りへと向かってスタスタと軽快な足取りで歩き始める。
 まだ任務の事が頭にはあったものの、今すぐにでも自分の目標を成し遂げなければいけないというルールは課していない。
 少し昼食を取って、時間を改めれば良いだけと納得しつつ、何処で食事をしようかという事で頭がいっぱいになり始めていた。

 ブルドンネ街ならば日中でも労働者向きの食堂なら営業しているし、何なら移動販売式の屋台でも良いだろう。
 外で食べるには流石に暑すぎるが、お持ち帰りにして『魅惑の妖精』亭の一階で頂くのも悪くは無い。
 サンドイッチかパスタ、それか選べるのは限られるだろうが思い切って肉料理でガツンと攻めてみるか?
 牛肉より値段の低い豚肉か鶏肉のローストを厚めにスライスしたものと安いチーズをチョイスして、そこに弱い酒の肴にしよう。
 酒をそのまま飲むのは苦手だがジュースやハチミツに割れば、強くなければ快適に飲める。
 そんな事を考えて楽しく歩いていると、ふと彼女は右の方から誰かが走り寄ってくるような音に気が付いた。
 気づくと同時に足を止めて、そちらの方へ振り向いた直後――その走ってきた人影がすぐ目の前にまで近づいてきていた。
 既にぶつかるまで数秒も無いという瞬間の中、ルイズとその人影は当然のようにぶつかり―――小さく吹き飛んだ。

「え…?――キャッ!」
 
 キョトンとした表情を浮かべた直後、突如右肩に伝わる痛みと共に両足が地面から離れたのに気が付き、
 そう思った矢先には、勢いよく地面に尻餅をついてしまったルイズは悲鳴を上げて地面に倒れてしまう。
 幸い鞄はしっかりと絞めていたおかげで中身が散乱、するというヘマをせずに済んだのは幸いと言えるだろう。
 しかし右肩、臀部から背中にまで伝わる鈍い痛みはとても耐えられるものではなく、暫し仰向けになったまま呻くしかなかった。
 陽の光ですっかり熱くなった地面の熱と痛みの両方を受けつつも、ルイズは何とか頭を上げて人影の方を見てみる。
 ぶつかってきた人影の方は然程大丈夫だったのか、地面に尻餅をつきつつも何とか起き上がろうとしている最中であった。

 人影はこんな真夏日和だというのに全身を隠すようなローブを身にまとっており、見てるだけでも暑苦しくなってしまう。
 丁度フードの部分が顔と頭を隠している為に性別は判別できないものの、身長や体格だけ見ればルイズよりも二回り大きい。
 いかにも『怪しい』という言葉を練りに練って人型に仕上げた様な人間であったが、ルイズは怖気もせずにその人影へと怒鳴る。
「イタタァ…ちょっと!そこのアナタ、何処に目を付けてるのよ!?」
「悪い…!少し急いでたもので…」
 ルイズの抗議に対し口を開いた人影の声を耳にして、ルイズは少し驚く。
 その声色は間違いなく女性、それも体格相応ともいえる二十代くらいのものであった。
 てっきり男だと思っていたルイズは更に言おうとした抗議を止めて、思わず彼女の顔を見ようとしてしまう。

209 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/10/31(火) 22:23:21 ID:.xFHoMyw
 丁度自分より一足先に立ち上がった彼女を見上げる形となったルイズは、フードの下にある顔を目にする。
 やはり声色から想像したよりも少し上程度の若い女性が、気の強そうな顔と薄いサファイアの様な碧眼で見下ろしていた。
 流石に顔と瞳の色だけではどんな人間なのかまでは判断つかないものの、貴族に向かって「悪い」とは何て言い草だろうか。
 お昼の事を考えてウキウキしていたところを水に差されたルイズが思わず怒鳴ろうとした直前女はスッと右手を差し出してきた。
 突然目の前に突き付けられたその手に驚きつつ、掴めという事なのかと察した彼女はスッと女の手を握る。
 すると予想通り。女は自分の右手に力を入れて、地面に倒れていたルイズを腕力だけで立ち上がらせる事が出来た。
 
 まさか腕一本で自分を起こした女の腕力に、ルイズは思わず驚いてしまう。
 一体どんな仕事に就けば、女であってもここまでの腕力が育ってしまうのだろうか?
 目を丸くして感心している最中、女はフードを被ったまま頭を下げて謝罪の言葉を述べてくれた。
「申し訳ない、何分急いでいたモノで前を見ていなかったよ…」
「え?いや…ま、まぁ!幸い怪我は…してないし別にいいわよ。次はこういう事にならないよう気を付けなさいよ」
 思いの外丁寧であったフードの女の謝罪にルイズは怒るタイミングを失ったことを苦々しく思うほかなかった。
 てっきり自分を倒したまま「急いでいるから」といって逃げるのを想像していただけに、変な肩透かしをも喰らっている。
 
 ひとまず女の謝罪を受け入れつつも、暫し苦みのある雰囲気を二人が包んだものの…それは長くは続かなかった。
 女の背後―――先ほど暑苦しいローブの姿で走り抜けてきた路地裏から複数の足音が聞こえてくるのにルイズは気が付いた。
 バタバタと喧しい靴音を響かせて近づいてくるその音にルイズが何かと思った直後、フードの女はそっと彼女に囁く。
「私はここを離れる。急で悪いが、お前も何も見なかった風を装ってここから歩いて立ち去るんだ」
「え?それってどういう――――…あ、ちょっと!」
 制止する暇もなく、女は言いたい事だけ言うとそのままルイズが歩いてきた道の方へバッと走り去っていく。
 思わず追いかけようとした彼女はしかし、路地裏から近づいてくる足音の主達がもうすぐで通りに出てくるのに気が付いた。
 
 ―――お前は何も見なかった風を装ってここからに立ち去るんだ
 
 とてもふざけているとは思えない雰囲気が感じられた言葉にルイズは咄嗟に従う事にした。
 どうしてか…と問われれば返事に困っていたかもれしないが、恐らくは「本能的に」という答えを出していたかもしれない。
 そうしてフードの女とは反対方向の道――『魅惑の妖精』亭へと続く道を再び歩き始めたルイズの耳に聞き慣れぬ男たちの声が聞こえてきた。
「…クソ!あの女どこ行きやがった?」
「通りに出たんなら容易に見つけられると思ったが…身のこなしの速いヤツ!」
 聞こえてきた二人分の男の声は聞いただけでも、相当に柄の悪い連中だと判別できるほどの言葉づかいである。
 例え平民であっても、一体どんな教育を受ければあんなオラついた気配が濃厚に漂う声色が出せるのであろう。
 それが気になったルイズが一瞬だけ顔を後ろに向けようとしたところで、新たに二人分の男の声が聞こえてきた。

「慌てるな、ここからそう遠くへは行ってない筈だ。手分けして探そう」
「この路地裏から出たのなら市街地方面に行ったかもしれん。あそこの路地は結構入り組んでいるからな。…俺とお前はあっちだ」
 最初に聞こえてきたチンピラ風の声とは違い、明らかにちゃんとした教育を受けているかのような言葉づかいであった。
 まるで軍でしっかりとした訓練を受けて来たかのような喋り方で、部下で露合う最初の二人に指示を飛ばしている。
 それに対し最初の二人が「あ、はい!」だの「わかりました」と返事を返している事から、後の二人はリーダー格なのであろうか?
 思わず一瞬だけ後ろを振り向こうとしたルイズはしかし、二人分の足音がこちらの方へ向かってくるのに気が付く。

210 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/10/31(火) 22:25:29 ID:.xFHoMyw
 
 動かそうとしていた頭を咄嗟に止めたところで、自分の横を二人の男が駆け抜けていくのが見えた。
 先頭を走るのは先ほどガラの悪そうな喋り方をしていた奴であろうか、いかにもチンピラと言えるような恰好をした平民だ。
 対してその後ろについて行っているのは彼よりかは多少の身なりの良い平民の男だ。年は前の奴より少し上であろうか。
 幸い二人はルイズの事は横目で一瞥しただけで話しかける事も無く、彼女が進む方向へパタパタと走っていく。
 ルイズは気づかれぬようじっと彼らの背中を見つつ、あの女の言葉が間違いのない忠告であったと理解した。
 
 やがて残っていた二人は女が走っていった方向へと向かって行き、通りから物騒な気配が消えていく。 
 道の端っこで世間話に興じていた人々は何事も無かったように話しを再開しており、一見すれば平和そのものである。
 しかし、ついさっきまで只者ではない平民の男連中がいたことには気づいているのか、何人かがその話をしていた。
 無論、彼らの横を通り過ぎるルイズの耳は微かではある物のその話を聞きとっている。
 しかし、大して面白くも無いのでしっかりと聞き流しつつも彼女ははぼそりと独り言を呟く。

「全く、姫さまからの任務と言い、資金泥棒といい、ヤクモユカリとその式達といい、さっきの女や男達といい…夏季休暇になっても休む暇がないのね」
 一学生とは思えぬほどの多忙を前にして、彼女はどうしても愚痴を零したかった。
 誰に聞かせるワケでもないし、ただ呟くだけなら罪にはならないだろうと思いながら。


「―――…で、その愚痴やら相談が混ざってごっちゃになった話を私達に聞かせたかったワケ?」
 ルイズから今に至るまでの経緯を聞いた霊夢は終わるやいなや一言述べた後、一口分に切り分けた豚肉を口の中に入れた。
 アップルソースの甘味とオーブンで皮をカリカリに焼いた豚バラ肉の旨味が上手い事マッチして、未だ洋食慣れしていない彼女の口内を刺激する。
 ただ不味いと問われれば、間違いなく首を横に振る程度には美味しい料理だ。付け合せのパンもソースとの相性が良い。
 そんな事を思いながら、未知なる組み合わせの料理を堪能する彼女の傍に置かれたデルフがルイズに話しかけてた。

『お前さんも色々苦労したんだねぇ。てっきり店で踏ん反り返りながら、オレっち達が帰ってくるのを待ってたと思ってたが…』
「アンタ達の前でそんな事してたら、速攻で弄られるから言われても絶対にしないわよ」

 刀身をカタカタ揺らして笑うデルフにそう言って、ルイズも頼んでいたオムレツ・サンドウィッチを頬張った。 
 表面を軽くトーストしたパンで薄焼きのオムレツを挟んだもので、マヨネーズとトマトソースがパンに塗られている。
 オムレツも薄焼きながらベーコンやジャガイモ、玉葱を刻んだものが入っていて中々面白くて美味しい。
 何でもロマリア方面で良く作られる卵料理らしく、フリッタータと呼ばれるものだという。
 早口で言うと舌を噛みそうな名前であるが、その名前に勝るほどに美味いオムレツである。
 早速一つ目を平らげたルイズは、他にも頼んでいた厚切りベーコンのグリルを待ちつつジュースを一口飲んだ。
 鞄の中に入れていた最後の一本ですっかり温くなっていたが、それでも捨てるには惜しい程にはまだ美味しかった。
「ずるいわねぇ、私とデルフ何て炎天下の中日陰を捜して情報収集してたってのに…アンタだけジュース買ってたなんて」
「私の場合は自分の口座に入ってたなけなしの金で買ったのよ。…っていうか、そこら辺に飲料用の井戸とかポンプがあるでしょうに」
 ジト目で文句を言う霊夢にそう返しつつ、ルイズはチラリと店の外を一瞥する。
 御昼時とあって多くの人が出入りしているが、未だあの黒白の少女――霧雨魔理沙は姿を見せずにいた。

211 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/10/31(火) 22:27:40 ID:.xFHoMyw
「…ホント、魔理沙のヤツどこほっつき歩いてるのかしらねえ〜」
「あんな服だから日射病でやられた…って事は無いと思うけど」
 ルイズの目線で何となく察した霊夢は一言呟いて、料理と一緒に頼んでいたアイスティーに口を付ける。
 彼女に言葉にルイズもなんとなく続けきながら、温いオレンジジュースをゴクゴクと飲み続けていた。

 ルイズに霊夢、そしてデルフの二人と一本が今いる場所はチクトンネ街にある平民向けの大衆食堂である。
 『向日葵畑』という何の捻りもない看板を掲げているこの店は、平民の他に下級貴族達も足を運んでいるのだという。
 確かに店の中にはこんなに暑いのに丁寧にマントを付けた貴族たちが安い料理を美味しそうに食べている姿がチラホラと見える。
 まぁシーリングファンが乃割っているおかげで外と比べれば涼しいのだが、こんな平民向けの店では酷く目立つ格好なのは間違いない。
 更に目を凝らしてみれば、足元にバックパックを置いている貴族の客もいる。恐らく少ない金で旅を満喫しようと計画しているバックパッカーだろう。
 外国から来た彼らからしてみれば、ある程度貴族の舌に合う料理をこんな店で食べれるのはさぞや嬉しい事であろう。
 
 そんな店の隅っこ、すぐ傍に開きっぱなしの裏口があるおかげでそれなりに涼しいテーブル席でルイズと霊夢は食事を楽しんでいる。
 最も、本来ならこの場に来ている筈の魔理沙が来ないために半ば待っている状態なのだが。
 一応『魅惑妖精』亭の出入り口にメモを残しておいたのだが、果たして店の場所が分かるかどうか。
 本人も今朝出ていく時には遅くなるかもと言っていたので、最悪来ない事だってあり得る。
 まぁあそこから歩いて十分くらいの場所だし、余程の方向音痴か間抜けでなければ迷う事もないだろう。
 店の人にも一応知り合いがもう一人来るとは伝えてあるし、既に自分たちは万全を尽くしたとしか言いようがない状態だ。
 後は魔理沙の気分次第…という事なのである。

 瓶入りのオレンジュースを飲み終えたルイズがウェイターにアイスティーの追加注文をしたところで、
 付け合せのパンを食べようとした霊夢が何を思ったか、彼女に話を振ってきた。
「それにしても、アンタってやる時はやるわよねぇ」
「…?何の話よ」
「さっき話してたじゃない、自分も動いて情報収集したって話を……ハグッ」
「ちょ…アンタ!パンは手でちぎって…ってもう手遅れかー」
 一瞬だけ分からず首を傾げたルイズにそう言うと、パンを手に持ってそのまま齧り付いた。
 パンを千切らずそのまま口にしたところでルイズが顔を顰めたものの、霊夢は気にすることなく口で千切る。
 こんな店だというのにバターの風味と甘みがしっかりとあるパンの味に、思わず笑いかけてしまう。
 そんな彼女に呆れてため息をついたルイズへ、今度はデルフが話しかけてくる。

『まぁ方法としてはお姫様からの命令通り…ってワケじゃないが、情報収集のし方としては間違っちゃあいないね。
 最も、娘っ子。お前さんの場合は平民に成りきるのは無理だって分かってたから、その方法しか手段が無いだろうし』 

 デルフからの評価にルイズは一瞬だけ口を閉じた後、小さなため息をついた。
「それ褒めてくれてるんだろうけど、アンタに言われると小馬鹿にもされてるような気がする」
『まぁ半々だね…っと、いきなり蹴るのはやめてくれよ』
 ルイズからの指摘に彼が素直に返すと、刀身がおさまる鞘を彼女の靴で小突かれてしまう。
 鞘越しとはいえ割と威力のある足に文句を言いつつ、デルフはカチャカチャと金具部分を鳴らして喋る。
 思っていたより効いていないようなデルフの様子を見てルイズは二度目のため息をついて、コップに入ったお冷を飲んだ。

212 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/10/31(火) 22:29:42 ID:.xFHoMyw
 
 大きめの氷が幾つも入っている冷水が口内を潤し、喉にとおっていく時の爽快感。
 暫し喉に残る清涼感にほんの一瞬浸る中、デルフに続くようにして霊夢も口を空けて話しかけてきた。
「まぁ私は別に良いとは思うわよ。それで情報が集まるんなら、むしろ良く考えたって褒めてあげるわ」
「…一応言っておくけど、褒めても何もあげないからね」
「じゃあ褒めるのはやめておくわ、けどまぁアンタもアンタで頑張ってくれるってのは私としても助かるし」
 そんな会話の後で、先ほど口で千切って残り三分の二ほどになったパンをもう一口齧って見せる。
 ハルケギニアの作法など知ったこっちゃないと言いたげな彼女の食べっぷりに、ルイズは頭を抱えたくなってしまう。
 もしもここが平民向けの大衆食堂でなくてブルドンネ街のレストランだったら、追い出されても文句は言えなかっただろう。
 
 その後、ルイズの頼んでいたアイスティーをウェイターが持ってきた所で霊夢も飲み物を頼んだ。
 メニューの文字が分からないために他の客のドリンクを指さしての注文であったが、無事に伝わったらしい。
 ウエイターは彼女の指さす先を見て「アイス・グリーンティーですね?」と確認した後、厨房へと戻っていった。
「グリーン・ティー…って、アンタがいつも飲んでる゙お茶゙の事?」
「そうよ。こっちの世界にも冷茶の類があっただけでも私としては結構助かってるわ〜」 
 指さしていた客が美味しそうに飲む氷の入った『お茶』を見つめながら、彼女は嬉しそうに言う。
 それを見ながらサンドイッチを食べようとしたルイズはふと、あの『お茶』に関しての事が思い出す。
「そういえば昨日スカロンも言ってたわねぇ、最近あの『お茶』のせいでお店の売り上げがどうとかって…」
「あぁ、確かそれを専門に出してる『カッフェ』っていう店のせいとか言ってたわね」
 二人とも、街中を移動しているときには確かにそれらしきお店をチラホラと見かけている。
 レストランや他の店に混ざってテラス席を出して紅茶や『お茶』、それに軽食などを提供していた。
 スカロンが言っていた通り、確かにここ最近あぁいう店が貴族、平民問わず話題になっているのをルイズは知っている。
 茶類専門の店という新しいジャンルという事もあって、以前ルイズも何度か足を運んだことはあった。
 春が来る前の季節なうえにまだまだ寒い外のテラス席だった為、結構寒い思いをしたのは今でも記憶に残っている。
 まぁその分頼んだ紅茶とクッキー、それにポテトポタージュが中々美味かったので悪い思い出ではなかった。
 
 その事を思い出しつつ、ルイズはカッフェに対しての素直な評価を述べていく。
「まぁ彼には悪いけど、これからはあぁいう店が主流になるかもね。手軽に紅茶や軽食を楽しめるって意味では」
「そうよねぇ、私の神社にもあぁいう洒落た店があれば人が寄ってきそうな気がするわ」
「いやぁー、お前さんの神社の場合はそれよりも先に片付けるべき問題が山積みだろうに」
「うっさいわねぇ、アンタに注意される筋合いは…って、魔理沙!アンタいつの間に…」
 自分の提案に横槍を入れてきた声がこの場にいない者のモノだと気づいた霊夢が声のした方へと顔を向けた時、
 裏口から顔だけ出して覗いていた魔理沙にようやく気が付き、思わず大声を上げてしまった。
 霊夢の声にルイズも気が付き、ニヤニヤと自分たちを見つめる黒白を見つけると席を立ち、彼女の傍へと近づいていく。

「マリサ!やっぱり来たか…って今までどこほっつき歩いてたのよ?」
「おぉルイズ。悪いねぇ、ちょいと人助けしたついでに色々ともてなしを受けててな…戻るのが少し遅くなったぜ」

213 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/10/31(火) 22:31:24 ID:.xFHoMyw
 若干怒っているルイズに対して、魔理沙はいつも通り悪びれてないような笑みを浮かべて返事をする。
 相変わらずの霧雨魔理沙であったが、霊夢としてはあの黒白が人助けをしていたという言葉がにわかに信じ難かった。
「アンタが人助けですって?いっつも人の神社に来たらタダ飯頂きにくるアンタが?」
「ひどい事言うなぁ。お互い独り身なんだから、飯時くらいわいわいしながら楽しみたいだけさ?…まぁそれはさておきだな」
 霊夢の辛辣な言葉に対しても笑みを崩さずそう返してから、彼女はここに至るまでの経緯を説明し始めた。

 …要約すればこうだ。 
 朝食の後、ひとまず情報収集のためにブルドンネ街にでも足を運ぼうとした所で、一人の少女に出会った事。
 少女の名はジョゼットと言い、ロマリアという国から出張してきた青年たちの付き添いのシスターである事。
 彼女が道に迷っていたと言うので出会ったのも何か縁という事で、彼女の情報を頼りに泊まっているホテルを探した事。
 歩いていくうちにブルドンネ街へと入り、川沿いにある一軒のホテルが彼女たちが泊まっているホテルだと知った事。
 流れるようにしてそのまま中に入ってしまい、結果的に彼女の保護者らしい青年二人と知り合いになった事。
 
「…まぁ後はその二人にも経緯を快適な部屋で話してたら昼から用事があるって言うんで、私も一旦戻ってきたワケさ」
 霊夢の隣に腰を下ろした魔理沙は最後にそう言って話を終えると、ナイフで切り分けたばかりのチキンステーキを口の中へと入れた。
 ハチミツをベースに作ったソースを塗って焼かれた鶏肉は甘味と旨味が上手い事混ざり合い、美味しさを形作っている。
 溢れ出る肉汁は付け合せのマッシュポテトにも合う。ここに白飯でもあれば束の間の付合わせに浸れたに違いない。
 そんな事を思いながら、何故か一仕事終えたつもりになっている彼女は一緒に頼んでいたプチパエリアへと手を伸ばそうとする。
 しかし、それよりも先に呆れた表情を浮かべるルイズの言葉によってその手は止まってしまう。

「なーにが一旦も出ってきたワケよ?…つまりアンタだけ美味しい思いしてたって事じゃないの」
「おいおい酷いこと言うなよルイズ。私がいなかったら今頃ジョゼットのヤツはまだ迷ってたと思うぜ?」
「まぁ実質辛い思いしてたのは私だけだから、精々アンタ達だけでいがみあってなさい」
 お互いテーブル越しに辛辣な意見をぶつけあう光景に、デルフは面白さを感じているのか刀身を震わせている。
 まぁ彼からしたら、相も変わらず仲が良いか悪いかの間を行き来する三人の姿はさぞ面白いのであろう。

『お前ら相変わらずだねぇ?…でもまぁ、これで娘っ子のやってた事は無駄に終わらなかったな。
 何せレイム直々に指名した黒白がサボってたんだからねぇ。…マジメさで比べれば、娘っ子に軍配が上がったって事さ』

 デルフの的確過ぎるる言葉を聞いて、魔理沙が初めて「むむ?」と声を上げて怪訝な表情をルイズ達に見せたものの、
 すぐにまた元の笑みに戻すと、自分と霊夢の間にあるデルフの柄をポンポンと左手で軽く叩いて言った。

「そいつは言葉が過ぎるってもんだぜ、デルフリンガーよ。
 昼飯を食べ終わったら、午前の分も含めてキッチリ情報収集するつもりなんだから」

「私は「これからする」って言ってるアンタよりも、「ここまでやってきた」っていうルイズの方が偉いと思うんだけど」

 午前いっぱいまで実質的にサボっていた魔理沙への容赦ない霊夢の突っ込みは、相変わらず切っ先が鋭い。
 ルイズがそんな事を思いながらアイスティーを一口飲もうとした所で、突っ込まれた魔理沙が彼女の方へと顔を向けたのに気が付く。
 何か言いたい事があるのかと同じく顔を向けたところで、キョトンとした表情を浮かべる魔法使いがメイジに質問してきた。

214 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/10/31(火) 22:33:33 ID:.xFHoMyw
「ちょっと待てよ?ルイズ…霊夢の言葉通りなら、もしかして外で色々何かしてたのか?」
「今頃気づいたの?…って、そういえばその事を話し終えた後でアンタが来たのよね」
 霊夢に午前中の事を話していたルイズは、その時にはまだ魔理沙がいなかった事を思い出す。
 
「折角だから話してやりなさいよ。そしたらコイツだってやる気になるだろうし」
「ほぉ〜、言ってくれるじゃないか?そこまで言うのなら、さぞや凄い事を成し遂げたんだろうな」
「…あまり期待しないでくれる?アレは私なりに考えた苦肉の策のようなものなのだから」
『いいねぇ、娘っ子の涙を誘う努力をもう一度聞けるなんて…俺が人間なら酒の肴にしたくなる』

 三人と一本がそれぞれ一言ずつ喋った後に、ルイズは魔理沙へ向けて午前の中の事を説明し始めた。
 昨日の件で情報収集は魔理沙に任せようとしたものの、結局納得がいかず自分の足で情報収集に挑んだ事。
 そして昨日の失敗を元に考えた結果、平民ではなく国外から旅行でやってきた貴族に扮するという作戦を考え付いた事。
 考えた本人自身がうまくいくかどうか分からなかったものの、思いの外うまくいき道を尋ねる振りをして情報収集ができた事。
 ひとまず八人分程の情報が集まっているところまで話し終えた所で、興味津々で聞いていた魔理沙がニヤリと笑った。
 それは事あるごとに浮かべているような、誰かを小馬鹿にする嘲笑ではない。じゃあ何かと問われれば…ルイズは言葉を詰まらせていただろう。
 
 そんな彼女の心境を余所にニヤニヤと卑しくない笑みを浮かべる魔理沙は隣の霊夢に話しかける。
「なぁ霊夢よ、お前さんの言ってたルイズがこの手の仕事に向いてないって言葉は…見事に外れたな?」
「そうね。…こんな事なら、アンタに頼るより彼女に頭を使うようアドバイスしとけばよかったわ」
 笑みを浮かべる黒白とは対照に、紅白は苦虫を噛んだかのような表情を浮かべて氷入りの『お茶』を一口啜る。
 『虚無』という強大な力を持っていても、貴族のお嬢様ゆえに何処か不器用だと思っていたルイズは自分から動いたのだ。
 霊夢本人はてっきり店で大人しくしているかと思っていたからこそ、彼女の行動力にはある程度感心したのである。
 それと同時に、それを見抜けなかった自分と情報収集をサボっていた魔理沙に頼んでしまった事を悔しく思ってもいたが。

「え?…何?…これって、つまり…私が褒められてるって事?」
『何でそんな事をオレっちに聞くんだよ。そんな事しなくたって答えはとっくに出てるだろうに』
 思いの外良い反応を見せた魔理沙と霊夢を前にして、思わずルイズはデルフに話しかけてしまう。
 デルフもデルフでそっけなく返しつつ、戸惑うルイズの背中をそっと押し出す程度のフォローくらいはしてやった。
「あ…そう、そうなんだ。…なんか、我ながら上手く行ったと自分を褒めたくなってきたわ」
「平民に扮する…っていうのは失敗してるけど、まぁ情報収集はできたんだから結果オーライってヤツよ」
「そ、それは言わないでよ!…ワタシだって、できるならそれで収集してたわよ」
 剣に背中を押されたおかげか、なんとなく自信がついてきたところで魔理沙の余計な一言が脇腹を突いてくる。
 それを余計な一言だと思いつつ、まだまだ冷たいアイス・ティーの残りをクイッと飲み干し、ウェイターにおかわりを頼んだ。

 その後、ルイズと魔理沙はそれぞれ頼んだ料理の味を楽しみつつも次は霊夢が何をしていたのか気になっていた。
 他の二人は既に話していた分、彼女だけが何も喋らないでいるというのは不公平なのであろう。
 料理をつつきながらも泥棒捜しはどうなったのかと聞いてくる魔理沙に、若干の鬱陶しさを覚えつつも霊夢は喋り始めた。
「残念だけど、特に進展はないわよ?…まぁ、ここ最近街中で子供が犯人と思われるスリが起きてるって話はチラホラ聞いたけどね」
「と、いうことは…まだこの王都に潜んでいるって事なの?」
 ルイズの言葉にそうかもしれないわねぇと答えつつね霊夢は冷たい『お茶』を一口啜る。

215 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/10/31(火) 22:35:20 ID:.xFHoMyw
 盗まれた場所から通った道を含めてくまなく探してみたものの、お金を盗んだ子供たちの姿は見当たらなかった。
 一応隠れられそうな場所も探しては見たが、いかんせん街全体が大きすぎるせいできりがない。
 人が多いという事もあったが、何より太陽から降り注ぐ熱気と目が眩むほどの輝きが彼女の集中力を奪うのである。
 いくら水を飲んだとしても、もつのは精々十分程度でそれ以上に時間が掛かれば気怠さと身体に纏わりつく汗でイヤになってくる。
 しかも下手に空を飛べないので、霊夢はあの子供たちがいないかと街中を歩き回っていたのだ。
 幻想郷の知り合いがその時の彼女の姿を見ていれば、きっと指を指して笑っていたに違いないだろう。

「全く…外は暑すぎるわ盗人どもはないわで、イヤになってくるわよホント」
 ここへ来たばかりの春と比べてあまりにも暑いハルケギニアにうんざりしながら、霊夢は言った。
 二杯目になる『お茶』の中を浮かぶ氷を眺めつつそんな事を呟く彼女へ続くようにして、ルイズも口を開く。
「確かに、今年は去年と比べて気温が高い気がするわねぇ…」
『そうだな。オレっちは剣だが鞘越しでもムンムン暑かったからな』
 彼女の言葉にデルフも相槌を打ちつつ、そこへすかさず魔理沙も話しに割り込んでくる。

「ま、この街にいるならいずれ霊夢に尻尾を掴まれるのは問題だし、後は本人の頑張り次第だな」
「午前中サボってお菓子御馳走になってたアンタに言われなくても、絶対に捕まえて見せるわよ」
「なーに、午後からは見事名誉挽回を果たして見せるぜ」
 自分の鋭い一言にも狼狽える事の無い魔理沙のポジティブさには、ある種見習わなければいけないのだろうか?
 二人のやりとりを眺めていたルイズはそんな事を思いつつ、半分ほど減ったサンドウィッチにかぶりついた。

 そんなこんなで話は続き、次第に話題は街中で何か面白いものがなかったかどうかに移っていった。
 何処そこの通りで芸を披露していた者がいたとか、面白そうな店があったとか他愛の無い世間話の数々。
 それに時折相槌を打ちつつついついデザートを頼もうとしていたルイズは、ふとシエスタの事を思い出す。
 確か彼女は言っていた、明日のお休みにでも霊夢達と一緒に王都を歩き回ってみたいと。
 その願いが叶うかどうかは分からないが、今その事を話して二人の反応を探る事はできそうだ。
 
 結構楽しそうに話している二人へ割り込もうとしたところで、ルイズはふと思いとどまる。
 …果たして、本来ならシエスタ自身が彼女らに聞くべきことを自分が代わりに言っていいものなのか?
 やろうとした寸前でそんな考えを抱いてしまった彼女は、無意味としか思えない悩みを抱えてしまった。
 自分が先に問えば二人の意思をあらかじめ確認して、それをシエスタに伝える事が出来る。
 しかし、それをやってしまうと夕食時に再開するであろう彼女をガッカリさせてしまうのではないだろうか?
 
 他の貴族からしてみれば、ルイズが今悩んでいる事は大変どうでもいいいことなのは間違いない。
 平民…それも学院で奉仕するメイドの事で、どうして自分たち貴族が頭を悩ませる必要があるのかと誰もが呆れるであろう。
 ルイズとしてもそういう風に考えていたし別に先に言おうが言わまいかという迷いなど、どうでも良い事なのである。
 しかし、一度考え込んでしまった悩みを頭から振り払うという事ができる程ルイズは器用ではなかった。
 シエスタには霊夢や魔理沙たちの分を含めて、双方ともに大小区別なく貸し借りを作ってしまっている。
 ルイズは一貴族としてしっかりと借りは返したいし、シエスタだって霊夢たちに受けた恩を返しきれてないと思っているに違いない。

 だからこそ貴重な休日を、自分たちと一緒に過ごしたいと言っていたのであろうし、
 それを考慮してしまうと、どうにもルイズは迷ってしまうのだ。

216 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/10/31(火) 22:37:38 ID:.xFHoMyw
(私が気を利かせて聞いてみる?…それとも、サプライズっていう事でシエスタに言わせた方が良いのかしら…)
 おおよそ一般的な友達づきあいのしたことのないルイズにとって、その選択肢はあまりにも難しいものであった。
 中途半端に残ったアイスティーを、その中に浮かぶ氷を眺めながらルイズは二つの選択肢を延々と比べてしまう。
 聞くか?それとも言わせるか?―――誰にも聞けぬままただ一人ルイズは考え続け、そして…。
「―――…ズ?…ちょっとルイズ!」
「ひゃあ…っ!」
「お…っと」
 突然霊夢に右肩を叩かれた彼女はハッと我に返ると同時にその体をビクンと震わせた。
 そのショックでおもわず倒れそうになった中身入りのコップを魔理沙が掴んで、零れるのを何とか阻止してくれた。
 
 驚いてしまったルイズは暫し呆然とした後で、再びハッとした表情を浮かべてテーブルへと視線を向けて、
 飲みかけのアイスティーがテーブルに紅茶色の水たまりを作っていないの確認して、安堵のため息をついた。
 そして、自分の肩を急に掴んできた霊夢の方へキッと鋭い視線を向け、抗議の言葉を口に出す。
「ちょっとレイム、いきなり肩なんかつかまれたら驚くじゃないの」
「そりゃー悪かったわね、まぁその前にアンタには二、三回声を掛けたんですけどね」
 負けじとジト目で睨み返す霊夢の言葉に、魔理沙もウンウンと頷いている。
 どうやら声を掛けられたのに気付かない程考え込んでしまったらしい、そう思ってから無性に恥ずかしくなってきた。

 思わず赤面してしまうものの、気を取り直すように咳払いしてから霊夢の方へと向き直る。
「…で、私に声を掛けたって事は…何か聞きたい事でもあったの?」
「別に。ただアンタが何か考え込んでるのに気が付いたから、何してるのかって聞こうとしただけよ」
「あ、あぁ…そうなんだ」
 てっきり大事な話でもあるのかと思っていたルイズは肩透かしを喰らってしまう。
 薄らと赤くなっていた顔も元に戻り、ため息と共に残っていたアイスティーを飲み干して席を立った。
 それを見て店を後にするのだと察した霊夢と魔理沙もよいしょと腰を上げて、忘れ物がないか確認し始めた。
 最も、二人してルイズと違って荷物と呼べるものは持っていないので、身に着けているものチェック程度であったが。
 霊夢はデルフを一瞥しつつ何となく頭のリボンを整え、魔理沙は膝の上に置いていた帽子をそっと頭に被っている。
 テーブルの端に置かれた伝票を手に取り合計金額を確認し始めた所で、今度はデルフが話しかけてくる。

『ん?何だ、もうお勘定か?』
「えぇ。いつまでも長居できるわけじゃないしね。……あれ?結構値段を抑えられたわね」
 伝票の数字と睨めっこしつつもルイズはデルフにそう返し、次いで予想していたよりも食事が安く済んた事に喜んでしまう。
 いつもならそんな事はしないのだが、使える金が限られている今は伝票に書かれた金額で一喜一憂してしまう。
 目の前にいる二人と一本はともかく、こんな姿をツェルプストーや学院の生徒に見られたら後日を何を言われるのやら…
 同級生たちに指差されて嘲笑される所を想像して憂鬱になりながらもルイズは足元に置いていた鞄を肩にかける。
 少し重たくなったような気がするそれの重量を右肩に掛けたベルト伝いに感じつつ、霊夢達を連れて外を出ようとした。
 その時であった。ルイズと霊夢が入ってきた本来の出入り口の前に立つ、二人の衛士を見つけたのは。

「ん?ちょっと待って二人とも」
 先頭にいたルイズがそれに気づき、彼女と共に店を出ようとした霊夢達を止めた。

217 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/10/31(火) 22:39:23 ID:.xFHoMyw
 右手に短槍、左手には何やら巻いて棒状にした何かのポスターを持っており、腰には剣を差している。
 どうやら近くにいた店長である中年男性と、何やら会話をしているらしい。
 お互いの表情は、今いる位置からでも血生臭い事は起こらないと確信できるほど平穏である。
 一体何を話しているのだろうかと気になった時、霊夢と魔理沙もルイズの肩越しから彼らの姿を目に入れた。

「おや、衛士さんじゃあないか。こんな店に何の用なんだ?食事か?」
「そんな感じには見えないけど、近づいて何を話してるのか盗み聞きしてみる?もしかしたらあの盗人の事かも…」
「やめときなさいよアンタ達、下手にちょっかいかけて目ェつけられたら任務に支障が出るかもしれないじゃない」
 二人の提案を即座に却下しつつも、内心ルイズも少しばかり何を話しているのかは知りたかった。
 王都を守る衛士等もこういう店には来ることはあれど、基本的にそれは非番の時か食事を外で済ます時だけだ。
 しかし今店長としているであろう会話は、控えめに考えても何か聞き込みをしているようにしか見えない。
 もしかすれば霊夢の言うとおり、自分たちのお金を盗っていったあの少年の事について話している可能性も…無くはないだろう。
 
「ひとまず勘定はあそこで支払うから、もう少し…ってアレ?」
「もう少し待つ前に、もうどっかに行っちゃうらしいわね」
 とりあえず彼らが去ってから勘定を支払おう…と提案しかけた直前に、衛士達は手を振って店を手で行った。
 それに手を振りかえす店長らしき男の左手には、衛士の一人が持っていたポスターを握っている。
 一体何だったのかと思いつつ、まぁいなくなったのなら気にすることも無いだろうとルイズは歩き出した。
 彼女の後に続くようにして霊夢達も足を動かし、三人そろって店長のいるカウンターへと移動する。

「ご馳走様、お勘定を払いに来たわ」
 手に持っていた伝票をカウンターに置くと、五十代半ばの店長はルイズに頭を下げた。
「おぉ旅の貴族様、どうもウチでお食事いただき誠にありがとうございます!では…」
 店長が礼を述べて伝票を受け取ってから、ルイズは腰に下げている袋から食事代の金貨を出していく。
 今はまだまだ袋は重いが、今残っている金額では王都で外食しながら泊まるのは一週間…切り詰めても二週間ももたない。
 これが底をつけば自分のお小遣いは文字通りゼロになるし、最悪ドブネズミやら蝙蝠を捕まえて調理する必要に迫られてしまうのだろうか?

 そんな冗談を想像しつつも、それが現実になるまで後一週間程度しかないという事にルイズはゾッとしてしまう。
 脳裏に浮かんだネズミ料理のイメージを振り払いつつ、店長が金貨を数えている間を待つ霊夢を一瞥した。
(私と魔理沙も気を付けなくちゃだけど、霊夢には早いところアイツを捕まえて貰わないとね…)
「…よし。金額に余分がありますので、五十スゥと七三ドニエの御釣りですよ貴族様」
「え?…あ、あぁそうなの。有難うね」

218 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/10/31(火) 22:41:21 ID:.xFHoMyw
 危うく店主の言葉を聞き逃すところであった彼女は慌てて返事をすると、店主がカウンターの下を漁り出した。
 何をするかと思いきや、取り出したのルイズの顔よりもやや大きい鉄の箱であった。
 取っ手と頑丈な錠前がついているのを見るに、どうやら御釣り用のお金が入っているらしい。
 一緒に持っていた鍵で錠前を外して蓋を開けると、十秒もかからず店長は御釣り分の銀貨と銅貨をカウンターの上へと置いた。
「え〜と、ひーふー…一応貴族様も御釣りが合っているかどうか確認をお願いしますよ」
 箱の蓋を閉じた店主にそう言われて、ルイズはすぐにその二種類の硬貨を数えはじめる。
「…確かにさっき言ってた金額通り、それじゃあこのまま頂戴しておくわね」
「毎度ありです。今後近くを通った時はウチの店を御贔屓に」
 貴族様からのお墨付きをもらった店長は満面の笑みで頭を下げて、いそいそと箱に鍵をかけ始める。
 ルイズも袋に銅貨と銀貨を入れていき、最後の一枚となる銀貨を入れた所で、後ろにいた霊夢が声を上げた。

「あの、ごめんなさい。ちょっと良いかしら?」
「んぅ?何でございましょうか」
 てっきりルイズの従者と勘違いしている店長が敬語でそう聞き返すと、彼女はある物を指さしてみせる。
 それは先ほどやってきた衛士達が彼に渡していった、巻いたままにしているポスターであった。
「そのポスター…さっきまで来てた衛士達が置いていったけど…ちょっと気になってね」
「ん、あぁ…これですかい?」
 霊夢の指差は先にあったポスターを見た店主がそう言ってポスターを手に取ると、
 丁度真ん中の辺りで括っている紐を解きつつ、質問をしてきた彼女へ手短かに説明しはじめた。
「何でも、王宮の方で指名手配犯が出たからそれの似顔絵ってんで持ってきたんですよ」
「指名手配…ですって?」
「それまたエラく物騒で今更過ぎるな?この街で指名手配される奴なんて、それこそ星の数ほどいるだろうに」
 解いた紐を足元のゴミ箱に捨てた店主の口から出た単語に、ルイズと魔理沙も反応する。
 指名手配のポスター自体は別に珍しいものではないが、少なくともそういうモノが貼られるという事は滅多に無い。
 
「指名手配とはそれまた御大層じゃないの?」
 流石の霊夢も聞き慣れぬ言葉に素直な感想を漏らすと、店長は「まぁ事情が事情ですしな」と返しつつ、
 巻かれていたポスターを両手で広げながら更に衛士達から聞いた情報をそのまま彼女たちに伝えていく。

219 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/10/31(火) 22:43:21 ID:.xFHoMyw
「今朝こっちの方で衛士姿の白骨死体が見つかった事件があって、それに関しての容疑者候補が一人上がったらしくてね、
 それがどうやら…身内の衛士さんらしくて、しかも昨日から行方不明っていうだけで白骨死体を作った張本人扱いされてるらしいんですよ」
 
「何ですって?」
 今朝、その現場の近くにいた霊夢は、下水道にたむろしていた衛士達やアニエスの姿を思い出した。
 確かあの時、先に現場にいた人々は皆衛士姿の白骨死体がどうとか言っていたのは覚えている。
 それから後の進展は全く聞いていなかったが、まさか今になってその話が出てくるとは思ってもいなかった。
 しかし、彼の口から語られるその情報に違和感を感じたであろう彼女が一つ質問をしてみる。
「容疑者候補…?それって何か証拠とか…詳しい情報はないの?」
「さ、さぁ…そこまでは言ってませんでしたが。…あぁ、そうだ!これが容疑者候補とかいう衛士さんの似顔絵らしいですよ」
 霊夢からの質問に店長は首を傾げつつも、自分の方へと向けていたポスターの表面を彼女たちの方へと向ける。
 丁度ルイズの顔より少し大きいポスターに書かれていた似顔絵は、どうみても女性のそれであった。
「へぇ〜…女性の衛士が犯罪ねぇー?何か色々ワケありそうだけど…」
 ポスターに描かれているその顔を見て色々と勘ぐってしまう霊夢に、魔理沙がすかさず続く。
「きっとセクハラしようとしてきた同僚をうっかり……って、どうしたんだルイズ?」
 しかし、自分たちの前にいるルイズがそのポスターの似顔絵を見て、様子が変なのに気付いてその言葉は止まってしまう。
 店長も「貴族様、どうかしまして…?」と気遣うものの、彼女はそれを無視してじっと似顔絵を見続けている。 

 いかにも男の職場の中で働き、鍛えて来たかのような鋭い目つきに似合う厳つい表情。
 青い髪に碧眼という、平民出とは思えぬ整った顔つきは下手すれば貴族と見紛う程の綺麗さ。
 美しくさと強さを兼ね備えたかのような戦乙女のような女性の似顔絵を、ルイズは知っていた。
 ここへ来る前―――そう、『魅惑の妖精』亭へと戻る道すがら、彼女はこの顔とそっくりの女性と出会ったのである。
 時間にすればほんの一瞬であるが、突然通りに出てきたぶつかった記憶は今もはっきりと頭の中に残っていた。
「私の記憶違い?…ううん、違うわ…私、この顔の女性(ひと)と通りでぶつかって…―――……?」
 独り言をぶつぶつと呟きながらポスターを見つめていた彼女は、ふと似顔絵の下に文字が書かれていたのに気が付く。
 何かと思って視線をそちらのほうへ向けると、こんな文章が書かれていた。

―――○○○○○○詰所所属衛士隊員『ミシェル』
―――――同僚殺害及び軍事機密情報の売買に関わった疑いあり!
――――――この顔にピン!ときた方は、すぐに最寄りの衛士詰め所か警邏中の衛士に声を掛けてください

220 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/10/31(火) 22:45:38 ID:.xFHoMyw
以上、これで88話の投稿は終了です。
ではまた来月末にお会いしましょう、それでは!ノシ

221 ウルトラ5番目の使い魔 ◆213pT8BiCc :2017/11/22(水) 13:54:46 ID:6C7Q66hI
こんにちは。ウルトラ5番目の使い魔、67話ができました。
投稿を開始しますので、よろしくお願いします。

222 ウルトラ5番目の使い魔 67話 (1/16) ◆213pT8BiCc :2017/11/22(水) 13:56:35 ID:6C7Q66hI
 第67話
 未知が風の銀河より
 
 奇機械竜 ギャラクトロン 登場!
 

「やあや皆さん、どうもどうもご無沙汰しております。悪い宇宙人さんでございます」

「おや? せっかく正しくあいさつして差し上げたのに怒らないでください。毎回そんなに邪険にされると傷つきますねえ。別に私はあなた方には危害は加えませんから、もっとフレンドリーにいきましょうよ」
 
「フフ、まあ話を進めましょう。ハルケギニアの人たちのおかげで、私の目的はまあまあ順調に進んでおります。一部例外もありましたが……って、そこ笑わないの!」
 
「オホン。ともかく、私の目的は順調に進んでいます。このハルケギニアという世界の人々は感情豊かで、私が手をかける必要が少なくて助かっていますよ」
 
「この調子でいけば、ハルケギニアからサヨナラする日も遠くないと思っていました……ですが、どうも私以外にもこの世界には第三者的な何者かがいるようなのですよ……」
 
「私としても愉快なことではありませんですねえ……いったいどこの悪い子でしょう? というわけで、今回は少々趣向を変えてみました。はてさて、それがどういう結果になったのか、これからご報告させていただきましょう」

 不敵に笑った宇宙人の声とともに画面は暗転し、彼が記録した映像が映し出され始める。
 宇宙人の作りだす演目の舞台として選ばれたハルケギニアで、すでに数々の悲喜劇が演じられ、彼は舞台を作り出すプロデューサーとして辣腕を振るってきた。
 次にお披露目されるのは悲劇か喜劇か? だが、彼の脚本に生じたイレギュラー。呼び出したブラックキングが何者かによって改造されるという事態が、彼に危機感を抱かせた。
 一流の戯曲は一流の舞台と一流の演者によって作られるという。その点、このハルケギニアは一流とまでは呼べなくとも、十分に観客を楽しませるだけの地力と演技力を有していると言えよう。

223 ウルトラ5番目の使い魔 67話 (2/16) ◆213pT8BiCc :2017/11/22(水) 13:57:43 ID:6C7Q66hI
 だが、せっかくの演目に舞台外から飛び入り参加しようとしている輩がいる。プライドの高い脚本家はこの無粋な横入りを許さず、罠を仕掛けて待ち受けることにした。
 
「ああ、言い忘れておりました。実は私、この世界にやってくる前に次元のはざまで面白い拾い物をしましてね。どうもロボットらしいんですが、私も見たことのない技術で作られていて……いやあこれに襲われたときは苦労しましたよ」
 
 
 それは、彼がハルケギニアにやってくる直前。マルチバースを渡る次元のはざまでのこと、彼は突如として謎のロボット怪獣に襲われて、やむなく自分の怪獣を出してこれを迎撃していた。
「今です。とどめを刺しなさい!」
 弱った敵に対して、彼は自分の配下の怪獣に命令を下す。すでに敵のロボット怪獣は大きく動きを鈍らせており、苦し紛れに虹色の光線を放ってきたが、配下の怪獣はバリアーを使ってそれをはじき、そして彼の怪獣は主の指示に従って、謎のロボット怪獣に強烈な一撃を放った。
 爆炎が上がり、直撃を食らったロボット怪獣は白色のボディを焦げさせて停止する。そして彼は、ロボット怪獣が完全に沈黙したのを確認すると、近寄ってしげしげと見下ろした。
「フゥ……肝を冷やしましたよ。まさか、この子をここまで手こずらしてくれるとは。しかし、誰かが操っていた様子もないですが、どこかの宇宙からのはぐれですか? まったく迷惑な……」
 並行宇宙の壁を超えることは強大な力を必要とするため、普通はマルチバースの間は平穏なものだが、ごく稀にこうしてどこからか漂流物が流れ着くことがあるのだ。しかも、その漂流物は次元の壁を突破してきたことから危険な性質を持っている場合が多い。
 今回も、相当手こずらされてしまった。幸い、自分の連れてきた怪獣がさらに強かったから事なきを得たが、一歩間違えれば危なかったかもしれない。
 しかし、いったいどこの誰がこんなものを送り込んできたのだろう? ドラゴンに酷似したスタイルは自分の知るいかなる惑星のメカニックとも似ていない。彼はしばし考えたが、ぱちりと指を鳴らして言った。
「とりあえず拾っておきますか。人生、貪欲なほうがいいってチャリジャさんもおっしゃってましたしねえ。どうせタダです」
 そうして彼は回収したロボットを連れてハルケギニアにやってきた。

224 ウルトラ5番目の使い魔 67話 (3/16) ◆213pT8BiCc :2017/11/22(水) 13:58:36 ID:6C7Q66hI
 壊れたロボットの修理自体はそんなに難しくはない。ただ、このロボットは元々はよほど大掛かりな目的に使われていたのか、パワーがものすごすぎて適当な使い方が見つからないでいた。
 
「ですが、今回は別です。考えてみてください? 私も興味を持ったものを、それなりの人が見たらどう思うか? フフ、今回はこのことをよーく覚えておいてくださいよ」
 
「いやあ、それにしても私の知らないものがまだ宇宙にあるとは。次元のはざまは無限のかなたに通じていますから、もしかしたらはるかな過去か遠い未来からやってきたのかもしれません。なかなか興味深いことです」
 
 補足説明も終わり、今度こそ戯曲は再開される。
 舞台は変わらずハルケギニア。そのどこかで、複数の演者が踊らされ、複数の観客が見せさせられる。
 そう、空虚に向かってナレーションする語り手はいない。観客として、姿を消したあの二人も世界のどこかでこれを見せられていることだろう……そして、彼らも。
 今度の舞台で、踊るのは誰か、踊らされるのは誰か、踊らせるのは誰か。そして……踊りたがっているのは誰か。
 ハルケギニアの運命を乗せて、また新たな運命の一幕が上がる。
 
 
「火事だーっ! 早く火を消せ。爆発するぞーっ!」
「ダメだ、もう間に合わん! 全員逃げろ、この船はもう助からん!」
 
 轟音を響かせ、一隻の軍艦が紅蓮の炎をあげて炎上している。
 ガリア王国、サン・マロン港。ここでは数週間前に、奇怪な事故が多発していた。それは、まるで火の気のない軍艦内でいきなり火の手が上がり、そのままなすすべなく火薬庫に引火して轟沈するといった事態が連続して起こったことであり、艦隊上層部は両用艦隊への何者かによる破壊工作と見て、調査を開始した。
 しかし、事態は思わぬ方向へと推移していった。
 原因不明の火災発生事故。それはサン・マロン港でぷっつりと途絶えたかと思うと、今度はガリア各地で起こり始めたのである。

225 ウルトラ5番目の使い魔 67話 (4/16) ◆213pT8BiCc :2017/11/22(水) 13:59:15 ID:6C7Q66hI
「火事だぁーっ! お城が燃えているぞぉーっ!」
 あるときは貴族の屋敷、あるときは商人の邸宅、あるときは荘園の畑、あるときは湖に停泊中の遊覧船、さらにあるときは関所の駐屯地。
 なんの前触れもなく、ただ目立つ大きな建物や施設といったこと以外は共通点のない犯行に、ガリアの官憲はきりきり舞いさせられた。
 犯人の目的や正体はまったくの不明。ただ、事件は数日に一回のペースで、同時に別の場所で起こることはなかったことから単独犯によるものと思われた。
 ガリアでは、いつどこに現れるかわからない放火魔に、人々は貴族と平民の別なく怯える日が続いた。
 だがそんな日々は、ある日に終わりを告げることになる。放火魔が国境を越えて、隣国トリステインへと入ったからである。
「火事だぁーっ! 火を消せ、水のメイジはどうした!」
「もう遅い、すでに火勢は全体に回ってしまった。くそっ、あと少しで完成だったってのに!」
 トリステインの造船所で、ある日、建造中の軍艦から突然火の手が出て全焼するという事故が起きた。
 火災の原因は不明。船大工は皆ベテランで、火種を持ち込むようなバカはいないし、作業に使う火種は厳重に管理されていた。
 残された可能性は、何者かによる放火しかない。この結論にいたったとき、誰もが今ガリアを騒がせている連続放火犯のことを思い出した。
 そして、建造中だった軍艦のスポンサーは即座に決断した。そのスポンサーの名はクルデンホルフ大公家。その実働の一部を任されているベアトリスは魔法学院でこの一報を受けると、ただちに腕利きの配下に命令を下した。
「手段と犯人の生死は問わないわ。クルデンホルフの名に泥を塗った者がどうなるのか、なんとしてでも犯人を探し出して、二度と我が家へ手出しができないようにしてやりなさい」
「仰せのままに。報酬さえはずんでいただければ、ぼくらは期待に必ず応えますよ。元素の兄弟は、こういう仕事は得意分野ですからね」
 憤懣やるかたないベアトリスに、不敵な笑みを浮かべる少年が答える。
 元素の兄弟。裏稼業で、報酬次第でいかなる汚れ仕事でも完璧にこなすことで有名な一味のリーダーであり、兄弟の長男でもある彼、ダミアンは、久しぶりに自分たちらしい仕事が舞い込んできたことに喜びを覚えていた。
 相手はハルケギニアを震撼させている大犯罪者。相手にとって不足はなく、高い報酬をもらうだけの価値は十分にある。それに、先に独断専行で汚名を作った愚弟と愚妹に名誉挽回をさせるチャンスでもある。
 
 ダミアンはさっそく兄弟を集めると、簡潔に指示を下した。
「ジャック、ドゥドゥー、ジャネット、よく来てくれたね。さて、仕事の話だが、トリステインから一人の人間を探し出して亡き者にしてほしい。手段は問わないが、できるだけ早くとのことだ。わかったね?」
 概要を聞くと、まずは次男のジャックがうれしそうに口元を歪ませた。
「うれしいですね。久しぶりに狩り出しがいのありそうな獲物の依頼じゃないですか、腕が鳴るってものさ」

226 ウルトラ5番目の使い魔 67話 (5/16) ◆213pT8BiCc :2017/11/22(水) 14:00:05 ID:6C7Q66hI
 すると、三男のドゥドゥーが意外そうに、しかしやはりうれしそうに言った。
「珍しいね、ジャック兄さんがそんなに依頼をうれしそうに受けるなんて。そういうので喜ぶのは、だいたいぼくの受け持ちじゃないかな?」
「お前と一緒にするな、といつもなら言うところだが、俺も実は最近退屈していてな。運動不足を解消するにはいいチャンスだ」
「ターゲットを探し出すのはちょっと骨かもしれないけど、これだけのことをしでかす奴なんだから、きっと腕利きのメイジに違いないものね。さあて、じゃあ今度も競争にしようか、誰が先にターゲットを見つけて始末するかって」
 ドゥドゥーは兄たちを出し抜く気満々で宣言したが、妹と兄から厳しく釘を刺された。
「ドゥドゥー兄さま。兄さまがそうして無駄に張り切るたびに、わたしが余計な苦労をさせられてるのを忘れないで欲しいですわ」
「ジャネットの言うとおりだ。ドゥドゥーは少し、自重というものを覚えたほうがいい。どうやら前の失敗であまり懲りていないようだから、今回はぼくといっしょに行動してもらうよ」
「そ、そんなぁーっ!」
 厳しい兄に四六時中そばで見張られることに、すっかり精気を失ってしょげかえったドゥドゥーが哀願してもダミアンは一顧だにしなかった。
「そういうわけで、ジャックは今回ジャネットといっしょに行動してくれ」
「わかった。だがドゥドゥーよりはましとはいえ、ジャネットも気が散りやすいタイプだからな。俺も今回は厳しくいくぞ、いいなジャネット」
「はーい、ですわ。はぁ、これはターゲットが可愛い子でないと割に合わないかしら」
「ジャネット、ダミアン兄さんにも我慢の限界ってものがあるのを忘れるなよ。払いのいいスポンサーを怒らせた時の兄さんに俺まで灸をすえられるのはごめんだ。ターゲットは確実に始末する、わかったな」
「はいはい、仕事は楽しみつつ任務は堅実に、ね。でも、心を壊して人形にするならいいよね? もちろん、おじさんだったら首はジャック兄さんにあげるわ」
 裏稼業の人間らしく、言葉使いは軽くても標的に一片の生存権も認めていない。彼らはこうして一見ふざけているように見えつつも、数多くの人間を闇から闇へと葬ってきたのだ。
 ダミアンは、可愛い弟や妹たちがやる気を出したのを見ると、最後に見まわして締めた。
「ようし、では今回は二組に分かれて行動しよう。競争などは考えず、仕事を片付けることを第一に考えるんだ。どちらがターゲットを始末しても、終わった後はみんなでゆっくりスープを飲んで祝おう。楽しみにしているよ」
 四人兄弟は二手に分かれ、いまだトリステインのどこかに潜んでいるであろうターゲットの情報を探るために地下に潜っていった。
 蛇の道は蛇。いかに犯人が巧妙に世間に潜伏しようとも、犯行を繰り返すためには必ずどこかに足跡を残していくはずだ。それが表に表れなくとも、普通でない情報が集まる場所はある。元素の兄弟はそれらに精通しており、あらゆる手段で目標を追い詰めては仕留めてきた。
 我らに追われて逃げ切れた人間はいない。ガリアに居た頃は王家の命を受けて、辺境に逃げ延びた貴族を探し出して始末したこともある。それに比べれば楽なものだ……もっとも、そのときみたいに証拠品としてターゲットの生首を持参するのはやめておいたほうがいいだろうが。

227 ウルトラ5番目の使い魔 67話 (6/16) ◆213pT8BiCc :2017/11/22(水) 14:01:02 ID:6C7Q66hI
 しかし、意気揚々と出発した彼らは知らなかった。これの裏に、甘い予測の通じない恐ろしい相手が隠れているということを。
 
 
 そして数日後……
 所は変わり、ここはトリステインのラグドリアン湖に通じる大河の港町。
 造船と修理で活気に満ちるこの街の一角で、ひときわ目を引く巨大船が修理を受けている。それはもちろん東方号のことで、以前の戦いで半壊したその船体を修復する作業は活気に満ちて続いていた。
 そして、その修理作業の一角で、コルベールが満足そうな様子で作業を見物していた。
「ふう、しばらくぶりに見に来ましたが、だいぶ修復が進んだようですねえ。工員の方々の技量も上がってきておりますし、これはもう私がいなくともあまり問題はなさそうですね」
 コルベールの見ている前で、作業員たちが汗を拭きながらテキパキと動いている。魔法学院の連休を利用して様子を見に来た彼だったが、以前は自分があれこれ指示してやっと動いていた工員たちが、今では立派に自分で動いているのを見ると感慨深いものがあった。
 東方号に開けられた無数の損傷口は新しい鉄板で埋められ、地球製の装備は再現は無理なので全体的にのっぺりした印象になりつつあるものの、東方号はかつての威容を着々と取り戻しつつある。
 まだ出港できるほどには遠いものの、やはりハルケギニアでは作れない巨艦の威容は何度見ても飽きることはない。
 ハンマーで鉄を叩く音や、威勢のいい男たちの掛け声が響き、作業場はまさに男の職場という雰囲気に満ち満ちて、コルベールには魔法学院とは違う意味で心地よかった。ただ周りを歩き回るだけでも、工員たちがすっかり慣れた手つきで鉄を扱っている姿を見るのは、トリステインに新たな”進歩”が訪れているのを感じ取れてうれしかった。
 それでもやはり、コルベールの助力や助言を必要とするところから求められて、コルベールはハゲ頭を光らせながらそれらに応じていった。魔法学院と立場は違えども、コルベールはやはりここでも教師なのであった。
 そうしているうちに、町全体に教会の尖塔から大きなベルの音が響き渡った。
「おや、そろそろお昼ですね」
 忙しく動き回っているうちに時間が過ぎてしまったらしい。コルベールは気づくと自分の腹も悲鳴を上げていて、区切りをつけて船を降りようと考えた。
 ところが、船を降りようと甲板に上がってきたとき、作業現場の片隅で膝をついてお祈りをしているシスターが目について立ち止まった。

228 ウルトラ5番目の使い魔 67話 (7/16) ◆213pT8BiCc :2017/11/22(水) 14:03:22 ID:6C7Q66hI
「もし、そちらのシスターさん。そんなところで何をお祈りされているのですかな?」
 コルベールが尋ねると、シスターはふっと気が付いて振り返ってきた。
 軍艦に聖職者とは一見合わないように見えて、実は欠かせない存在である。平時は兵士の精神面のケア、戦時は戦死者の弔い。とかく生死に関わる軍人とは切り離せない存在で、実際に従軍牧師や従軍僧侶などが存在する。ここハルケギニアでも、戦列艦以上の大型艦には神官が乗船するのが基本であった。
 しかし工事中のところにとは珍しい。立ち上がってこちらを向いたシスターは、フードをまくって顔を見せた。
「こんにちは、実は先日こちらのほうで数人が怪我をする事故が起こりまして。そのお祓いのためにと頼まれてお祈りを捧げておりました」
 若いな。コルベールは意外に感じた。長い金髪を結い上げた大人しそうな娘で、年のころは二十代中ごろであろうけれど、どこか儚げな不思議な雰囲気をまとっていた。
「失礼しました。お仕事ご苦労様です。私はこちらで技術主任をしているコルベールという者です。見かけないお顔ですが、最近こちらにやってこられたのですかな?」
「はい。わたくし、名をリュシーと申しますが、修行のためにあちこちを回りながら祈りを捧げております。こちらの偉いお方だったのですね。ミスタ・コルベール、わたくしに神と神の御子に奉仕する場を与えてくださり、感謝いたします」
 リュシーと名乗った女性はぺこりとおじぎをし、澄んだ瞳でコルベールに微笑みかけてきた。
 思わずどきりとするコルベール。技術者一本で堅物に見えるコルベールだが、彼とて人並みの感性は持ち合わせている。学院でその気配がないのは、単に教え子に手をかける趣味がないだけだ。
「では、わたしはこれで」
「あ! ちょっと、その」
「はい?」
 立ち去ろうとしたリュシーをコルベールは呼び止めた。リュシーは相変わらず優しげに微笑んでいる。
「その、よろしければいっしょに、昼食をいかがでしょうか? 各国を回られてきた貴女のお話は、大変興味深く思いまして」
 照れくさそうにしながらも、コルベールは思い切って誘ってみた。するとリュシーはにこりと笑い。
「ええ、喜んで」
 その瞬間、コルベールは心の中で万歳三唱した。しかし表情には出さないよう気を配りつつ、ふたりは並んで歩きだす。
 やった! ダメ元だったけど言ってみるものだ。人間、生きてたら何かいいことがあるものだなあとコルベールはしみじみ思った。

229 ウルトラ5番目の使い魔 67話 (8/16) ◆213pT8BiCc :2017/11/22(水) 14:04:33 ID:6C7Q66hI
「ミスタ・コルベール」
 リュシーが話しかけてきた。垂れがちの眼は柔和な面持ちを作り、少し遠慮した声色は尖った心を溶かしてくれる。
「ああ、私のことは呼び捨てでかまいません。私は軍属ではありませんし、堅苦しいことは好みませんので」
「わかりました。ではコルベールさん……いえ、コルベール様とお呼びいたしますね。わたしのような一介のシスターに目をかけていただけるなんて、コルベール様はお優しい方なのですね」
「い、いやいやそんな! あなた方聖職にある方々は日夜、万民のために働いてくれています。ないがしろになんてできませんよ!」
 すまなそうなリュシーに対してコルベールは慌てて取り繕うのといっしょに、まるで天使だ! と、心の中で快哉をあげた。
 出会いの少ない仕事をしているコルベールは、自分の将来についてはなかば絶望視していた。ずっと前にはミス・ロングビルにアタックしたこともあるのだが、それは玉砕に終わり、学院には他に若い女性の教員もいないことから、もう自分に出会いはないものとあきらめていた。
 しかし、出会いがあった! しかも若いシスターである。始祖ブリミル、あなたのお導きに心から感謝いたします。コルベールは心の中で号泣するとともに、このチャンスを逃してなるものかと決心していた。細かいことはとうに脳内から消し飛んでしまっている。
「と、ところでミス・リュシー。あなたほどお若い方が、修行のために旅をなさっているとは、素晴らしい信仰心ですね」
「いえ、わたくしはそんな敬虔な信徒ではありません。わたしは生まれはガリアの貴族でしたが、家が没落して一族は散りじりになり、わたくしは出家して尼となったのです」
「そうだったのですか。私も、物心ついたときは親はなく、ずっと家族なく育ちましたので、お気持ちは少しわかる気がします。あなたも、苦労なされたんですな」
 コルベールがしみじみとつぶやくと、リュシーは悲しげに顔を振った。
「コルベール様もですか。本当に、この世は無情なものですね。神は、いったいどれだけの試練を人にお与えになるのでしょうか」
「それはまさに、神のみぞ知るというものでしょうね。ですが、神はこうして出会いをお与えになられました。ミス・リュシー、今日は私がごちそうしましょう。美味いものを食べる幸せは、万民に共通ですからね」
「えっ、いえそんな悪いですわ。それに私は神に仕える身、貪るわけにはまいりません」
 遠慮するリュシーだったが、コルベールは彼女を元気づけるように、その頭頂部のような明るさで彼女を押していった。
「心配いりません。働いた分の糧を得ることは神の御心に逆らわないはずです。それに、私にも聖職の方に尽くす功徳をさせてくださいよ。さあさあさあ」
「あ、あらあらあら!?」
 リュシーは強引に押されながらも、嫌がって逃げようとはしなかった。そのまま中級士官用の食堂に案内されて、コルベールと向かい合って座らされる。
 コルベールはウェイターにチップを持たせ、いい具合に見繕ってくれと頼んだ。ほどなくして、テーブルに豪華とまでは言わないがこじゃれた料理の数々が並べられ、リュシーは喜びの声を漏らした。
「こんなに……わたくし、こんな手のかかったお料理を見るのは本当に久しぶりです。ほんとに、よろしいんですか?」
「もちろんですとも。その代わりに、あなたが旅をして見聞きしたことを話してください。こういう仕事をしていますと、どうも世界が狭くなってしまいますので」

230 ウルトラ5番目の使い魔 67話 (9/16) ◆213pT8BiCc :2017/11/22(水) 14:05:35 ID:6C7Q66hI
「喜んで。ですが、わたくしも世間を巡る修行中の身。代わりにコルベール様もいろいろお話を聞かせてくれたら幸いです」
「もちろん喜んで! ですが、私の話などは機械のことばかりで、とてもあなたに喜んでもらえるとは思えませんが」
「いいえ、熱心に働く人は皆が神の使途です。そのお話を聞くことの、なにが不満でありましょうか」
 コルベールはまさに天にも昇る心地になった。まさか、ほとんどの人にスルーされるばかりの自分の話を聞いてくれる女性がこの世にいようとは。
 優しく微笑んでいるリュシーの姿は、まさに天使にコルベールは見えた。苦節ン十年、年齢が彼女いない歴と同じ彼は、この出会いの奇跡に感謝した。
 料理に舌鼓を打ちながら、二人は話に花を咲かせた。
「あの船、東方号というのですが、あの船は私の誇りなのです。いつか、あの船でハルケギニアを巡り、そして誰も見たことのない東方の地や、そのまた向こうにある未知の世界を見に行きたい。よく笑われますがね」
「そうですね、わたしにはコルベール様のお話は大きすぎて正直イメージが追いつきません。ですがわたしも諸国を巡るごとに、あの山の向こうにはどんな街があるのだろう? あの川を越えた先にはどんな出会いがあるのだろうと思います。どこまでも先へ進もうとするコルベール様の夢は、とても素敵なものだと思いますわ」
 真剣に聞いてくれるリュシーに、コルベールの機嫌はますますよくなる。
「ミス・リュシーはとても広い心をお持ちなのですな。ですが、巡礼の旅という苦行を選ばずとも、故国でもじゅうぶんな修行はできたでしょうに。なぜ、危険な一人旅を選ばれたのですか?」
「はい、わたしも最初は教会で住み込みで働いていました。ですが、ある人に、迷いや悩みを断ち切るためには世界でいろいろな体験をしたほうがいいと忠告を受けて、旅立つことにしたのです」
「そうだったのですか。それでも、お一人で旅を続けるのはさぞ苦労されたのではありませんか?」
「はい、確かに楽なものではありませんでした。けれど、敬虔な神の信徒の方はどこにでもいらっしゃるものです。ゲルマニアで、ささやかですがわたしの旅を援助してくださる素敵な方に出会えまして、路銀くらいならばまかなえています」
「それは……その、男性の方ですか?」
 どきりとしたコルベールが問いかけると、リュシーは笑って首を振った。
「いいえ、女性の実業家ですわ」
「あっ、いやそうでしたか! これはこれは私としたことがお恥ずかしい」
「まあ、コルベール様ったら。うふふふ」
 コルベールが笑ってごまかすと、リュシーもコルベールの気持ちを知ってか知らずか笑った。
 本当に天使のような人だ……コルベールは心の中で涙した。こんな清純な女性を相手に下心を持ってしまった自分が恥ずかしい。そして、だからこそ心の中で炎が赤々と燃えてくるのを感じていた。

231 ウルトラ5番目の使い魔 67話 (10/16) ◆213pT8BiCc :2017/11/22(水) 14:06:45 ID:6C7Q66hI
 その後、ふたりは他愛のない話を続け、やがて昼休憩の時間の終わりを告げる鐘が響き渡った。
 
「あら、もうこんな時間ですか。残念ですが、お祈りを依頼されているところはまだありますので、そろそろ行かねばなりません。コルベール様、ご馳走をどうもありがとうございました。このお礼はいずれ……」
 
 鐘の鳴る中、椅子から立ち上がったリュシーを見て、コルベールは時間の残酷さを呪った。
 だが、彼は申し訳なさそうに席を立とうとしているリュシーを黙って見送ることはできなかった。勇気を振り絞って、その背を呼び止めたのである。
「ミ、ミス・リュシー! 今回はとても有意義な話を聞かせていただき、こちらこそ感謝いたします。こちらには、まだおられるのでしょうか?」
「はい、こちらは大きい街なので、しばらくのあいだは滞在しようと思っております。それが、何か?」
「い、いいえ、その……それならば……そこでなのですが、よろしければ今夜もう一度お会いしていただけませんか!」
 コルベールは半生分の勇気を振り絞って言ってみた。自分の容姿が貧相なのは自覚している。女ウケする性格でもなく、さらに夜に女性を誘うことがどれほど難易度の高いことなのかも理解している。
 正直に思って、成功の確率はないに等しい。ここまでこれただけでも奇跡に等しいことなのだ。
 しかし、それでもコルベールは言ってみた。なぜなら、彼の魂が言っていたのだ、自分が”男”になる機会はここしかないのだと!
 緊張し、返事を待つコルベール。瞬きをする時間さえもが永遠に思える中を過ごし、ついにリュシーが口を開いた。
「今夜、ですか? はい、わたくしでよろしければ」
 笑顔で会釈して答えるリュシー。この瞬間、コルベールは人生の勝利者になったと心の中で喝采した。
 ジャン・コルベール、人生苦節四十ン年。ついに生まれてきた意味を味わえる日がやってきたのですな。始祖ブリミルよ、この罪深き仔羊に人並みの幸せを与えてくださったことを感謝いたします。
 感激で、心の中でコルベールはむせび泣いた。周りの客からは、なんだあのオヤジと、冷たい視線を向けられているがコルベールには届いていない。
 しかし、よほど感激で我を忘れていたのだろう。「コルベール様?」と、声をかけられてはっとすると、視線の先には怪訝な様子のリュシーがいた。
「どうなさいました? どこか、お体の具合でも」
「い、いいえ、なんでもありません。それより、夜のことですが、日が暮れたらまたこの店で落ち合うというのはいかがでしょうか?」
「はい、わたしはそれでよろしいです。うふふ、夜が楽しみですわね」
 この瞬間、コルベールの心が有頂天に登りつめたのは言うまでもない。生徒以外では若い女っ気のない職場で働き、暇があれば研究に打ち込む日々。もちろん出会いなんかからっきしだし、若い頃から仕事一途でその手の店に行く趣味もなかったから、今日まで経験は皆無といってよかった。

232 ウルトラ5番目の使い魔 67話 (11/16) ◆213pT8BiCc :2017/11/22(水) 14:07:56 ID:6C7Q66hI
 そんなナイーブなコルベールに、ようやく春の風が吹いてきたのだ。しかも、優しく美しいシスターときている。舞い上がるなというほうが酷というものだ。
 コルベールははやる心を抑えると、お仕事がんばってくださいと、月並みな台詞で彼女を見送った。去っていくリュシーは、後姿だけでも美しかった。
 そして、リュシーが見えなくなると、コルベールはすっと振り返り、走り出した。それはもう、全力で走り出した。
「うおおおおお! 生徒のみなさーん! わたしはやりましたぞぉぉぉぉーっ!」
 彼は走った。走らずにはいられなかった。まだスタートラインに立ったばかりでも、コルベールにとっては長年夢見ながらも訪れなかったチャンスなのである。
 聖職者とは結婚がどうたらこうたらという理屈は頭から消し飛んでいた。今の彼は己の火の系統のように燃え滾る情熱の愛の戦士であったのだ。
 
 しかし、人が幸せに浸っているときでも、性格の悪いお邪魔虫は悪だくみを続けている。
 街を見下ろす丘の上。そこで、黒幕の宇宙人はいやらしい笑いを浮かべていた。
「いやあ、活気があっていい街ですねえ。こういう街を見ていると、いたずらをしたくなりますねえ。うーん、私ってばなんて悪い子なんでしょう」 
 いたずらというには度が過ぎていることを考えているのが明白な声を漏らしながら、なんらかの意図を持った目で街を見下ろす宇宙人。
 だが、その宇宙人以外には誰もいないはずの丘の上に、突然姿を現した人影があった。
「とうとう見つけたぞ」
「おや? あなたは、おやおやウルトラマンヒカリさんじゃないですか」
 手を叩いて迎えた宇宙人の前に現れたのは、ウルトラマンヒカリことセリザワ・カズヤだった。
 丘の上の展望台で、数メートルの間隔を挟んで睨み合う両者。沈黙を破って口火を切ったのはセリザワだった。
「もう、いいかげんにこの世界への干渉をやめろ。この星の人間の心をこれ以上もてあそぶな」
「はいはい、そう言われると思っていましたよ。正義の味方にやめろと言われてやめていたら宇宙警備隊はいらないでしょう? 定型句、大変ですね」
「戯言はいい。お前のやっていることは、この世界への立派な侵略行為だ。見過ごすことはできない」
 厳しい眼差しを向けてくるセリザワに対して、宇宙人はあくまで余裕の態度を崩さずにいた。
「侵略ですか。まあ、そう見られても仕方ないとは思いますが、何度も言いますけれど私はこのハルケギニアを壊してしまおうとかは考えてませんよ。むしろ、私のおかげで恩恵を受けていることも多いじゃないですか。そこのところ、なくなってもいいんですか?」
「お前はそれを永遠に与え続けるわけではないだろう。長くお前の与える空気に慣れすぎると、それが失われたときにショックが大きい」

233 ウルトラ5番目の使い魔 67話 (12/16) ◆213pT8BiCc :2017/11/22(水) 14:09:21 ID:6C7Q66hI
「ほぉ、さすが光の国でも有数の頭脳派ですね。あなたが我々の星に生まれなかったことが残念です」
 大げさに残念ぶる宇宙人。だがセリザワは、宇宙人のそんな芝居じみた態度には構わず、断固として言った。
「いつまで猿芝居を続けるつもりだ。俺がここにやってきたことが、偶然だと思うか?」
「ええ、もちろん。あなた方ウルトラマンの方々が必死で私を探し回っているのは知ってますよ。いずれ、すぐに見つかるようになるでしょうね。それに、あの少女の行方もね」
「貴様……」
「おっと、何度も言いますが、私は人質をとろうとか考えてはいませんよ。ただ、彼女たちとはwinwinの関係なだけです。返せなんて言わないでください。それに、私もまだこの世界を離れるわけにはいかないのですよ!」
 交渉は決裂だとばかりに、宇宙人が指を鳴らすと同時に街の空に時空の歪みが生じた。そして、その中から現れて街の中に降り立つ、ドラゴンを模したような白色のロボット怪獣。
 悲鳴や困惑の声が街からあふれ出す。ロボット怪獣は一見すると洗練されたスタイルのせいで悪役に見えなかったこともあり、人々は最初は正体をいぶかしんだが、すぐに建物を踏みつぶして破壊活動を始めると、すべては悲鳴に統一された。
「貴様!」
「勘違いしないでください。私だって、こんな手段はとりたくないのですが、力づくで来られるならこっちもそれなりの手で対抗させてもらいますよ。では私は逃げますが、追いかけてくるか、それとも街を助けに行くかはご自由に」
 そう言い捨てると、宇宙人はさっと宙に飛び上がった。セリザワは、異変の元凶をここで逃してはと苦心したものの、ロボットは人口密集地域に落ちたらしく、無数の助けを求める声が彼を引き止めた。
 ここで行かなければ大勢の人間が死ぬ。命だけは失われたら取り返しがつかないと、セリザワは決意してナイトブレスを輝かせた。
 
「シュワッ!」
 
 青と緑の輝きの中から、群青の光の戦士がロボット怪獣の前へと降り立つ。
 ウルトラマンヒカリ、彼は大勢の人々の命を守るため、白銀のロボットの前に立ちふさがったのだ。
「おおっ、ウルトラマンだ!」
「た、助かったぁ」
 今まさにロボットに踏みつぶされようとしていた人々から涙交じりの歓声があがり、救われた人々は瓦礫のあいだを縫って這う這うの体で逃げていく。
 さすがは何度も怪獣の襲撃を生き延びてきた人たちだ、命さえあればやるべきことは体に染みついている。しかし、本当に危機を拭うためにはこいつを倒さなくてはならない。

234 ウルトラ5番目の使い魔 67話 (13/16) ◆213pT8BiCc :2017/11/22(水) 14:10:06 ID:6C7Q66hI
「デヤッ!」
 速攻! 先制攻撃に放った回し蹴りがロボットのボディに当たり、わずかだが押し返した。
 だが、それによってロボットもヒカリを敵と認識して攻撃態勢をとってくる。ヒカリは、ロボットの注意を自分に向けることで、人々が逃げる時間を稼ぎながら、同時にロボットを注意深く観察した。
〔見たことのないロボットだ。いったい、どこの星で作られたものだ?〕
 ヒカリはセリザワとして、またウルトラマンとして、おおむねの宇宙人のロボット兵器は頭に入れてあるものの、このロボットはそのどれとも似ていなかった。
 どこかの星の新兵器? もしくはまったく知らない宇宙で作られたものか? ともかく、知識が通じない以上は油断禁物だ。
 ロボットはサイレンのような稼働音を響かせながら向かってくる。体格はヒカリの倍近い巨体だ。それでもヒカリはひるむことなく迎え撃つ!
「シュワッ」
 ヒカリは懐に飛び込んで、下からロボットの頭を突き上げた。
 硬い!? だがあごを突き上げられ、ロボットがのけぞる。ヒカリはさらにボディにパンチを打ち込み、休むことなく追撃を仕掛ける。
 しかし、ロボットの強固なボディはほとんどダメージを受けていなかった。ロボットの左腕についている巨大なブレードがヒカリを狙って一文字に飛んでくる。
「シャッ!」
 ヒカリはバック転してブレードの一撃をかわした。インペライザーの大剣ほどではないにせよ、あのロボットのブレードはまるで斧だ。まともに食らうわけにはいかない。
〔やはり接近戦には強いか。それに中距離戦でも……〕
 ロボットの巨体からして接近戦でのパワーは予想していた。今のブレードの一撃をもらうわけにはいかなかったのでやむなく距離をとったが、離れても安心はできない。なぜならこういうやつは飛び道具も豊富なのが常だからだ。
 そして案の定、ロボットの目から赤色の光線が放たれてヒカリを襲った。
「ハッ!」
 とっさにかわしたヒカリのいた場所をすり抜けて、その先にあった建物を爆発の炎に包んだ。
 けっこうな威力だ。こいつを作ったのは、相当に兵器開発に長けた宇宙人だったに違いない。ここで倒してしまわねば大変なことになると、ヒカリは冷たいものを感じた。
 しかしロボットはさらに右腕の巨大なクローからもビームを放ってきた。これの威力もものすごく、街からはさらなる火の手と悲鳴があがる。
〔まずい、戦いが長引けば街が壊滅してしまうぞ〕
 ヒカリは、ロボットの強烈な火力がもたらす被害の大きさを見て焦った。こいつはとんでもない破壊兵器だ、野放しにしておけば、あっというまに星中を焼け野原にしてしまうだろう

235 ウルトラ5番目の使い魔 67話 (14/16) ◆213pT8BiCc :2017/11/22(水) 14:11:16 ID:6C7Q66hI
 破壊されつくした星……ヒカリの脳裏に、かつてボガールによって滅ぼされてしまった神秘の惑星アーブの荒野が浮かんでくる。
〔そんなことは、絶対にさせん!〕
 意を決したヒカリは、ロボットにビームを使わせないために、あえて不利を承知で接近戦に打って出た。
 近接し、ロボットのブレードを回避しながらわき腹にエルボーを食らわせる。ヒカリは科学者ではあると同時に宇宙警備隊一流の戦士でもある。いくら相手が未知の超兵器だとしても、そう簡単に後れをとりはしない。
 パンチの連打を浴びせ、体当たりで跳ね飛ばされてもなお向かっていく。そんなヒカリの戦いを、街の人々も声をあげて応援した。
「青いウルトラマン、がんばれーっ!」
 人々の願いを背負って戦う者こそ、ウルトラマンだ。その背の先の人ひとりひとりに人生があり幸せがある。それを守らなくてはならない。
 しかしロボットはヒカリの猛攻を強固な装甲で受け止め、まるでダメージを受けない。そればかりか、胸部の赤い宝玉を輝かせると、不気味に輝く極太のビームを放ってきた!
〔な、なんだこの光線は?〕
 ヒカリは寸前でかわせたものの、ビームが着弾した場所を見て愕然とした。なんと、破壊はされずにビームを浴びた場所が宝石のようにキラキラと輝く結晶と化している。それこそ、建物から立ち木、つながれていた馬や犬までである。すべてが元の形のまま結晶化してしまっていた。
 こんなものを食らえばウルトラマンでもひとたまりもない。恐るべき即死兵器の出現に、さしものヒカリも戦慄して足を止めた瞬間、ロボットの目から放たれた光線がヒカリを直撃してしまった。
「ウワァァッ!」
 体から火花をあげ、大きくのけぞるヒカリ。一瞬ひるんだ隙を突かれてしまった。
 まずい。ロボットは冷徹に結晶化光線の発射態勢に入っている。避けなければやられる! 街の人々も、ウルトラマン危ない、と叫ぶ中で、ロボットから光線が放たれようとした、そのときだった。
 突然、ロボットが止まったかと思うと、「ガガガ」「ギギギ」と、聞き苦しい機械音がけたたましく鳴りだしたではないか。
 なんだ!? いったいどうした? ヒカリや街の人々はロボットの異変に困惑する。それを、あの宇宙人は空の上から見下ろしていたが、やれやれとばかりに肩をすくめた。
「あらら、やっぱりちゃんと直ってませんでしたか。めんどくさいんでテキトーに復元しただけですからね。まあ完璧に直して暴走されたらそれはそれで困ったんですが……この場合はむしろ、うふふ」
 意味ありげにつぶやく宇宙人の声を聞けた者はいない。
 しかし、誰から見てもロボットが故障を起こしていることは明らかだ。ヒカリはこのチャンスを逃すまいと、ナイトビームブレードを引き抜いた。

236 ウルトラ5番目の使い魔 67話 (15/16) ◆213pT8BiCc :2017/11/22(水) 14:12:01 ID:6C7Q66hI
「デアッ!」
 棒立ちになって震えているロボットに向け、ヒカリはナイトビームブレードを振りかざして突進した。
 すれ違いざまの一閃! 鋭い斬撃が放たれ、次の瞬間ロボットの右腕の巨大クローがひじの部分から寸断されて、地響きをあげて地面に落ちた。
「やった!」
 歓声があがった。ロボットは重量級の右腕が切り落とされて、体のバランスを崩してよろめいている。今なら倒せる、誰もがそう思った。
 だがしかし、ダメージを受けたロボットはそれで完全に狂ってしまったようで、よろめきながら後進を始めた。
 どこへ行くんだ!? 酔っ払いのような足取りで後退していくロボットを、ヒカリも街の人々もなかば呆然として見送る。
 そして、ロボットはとうとう港の桟橋まで来ると、そのまま河中へと転落していったのだ。
「おい、沈んでいくぞ!」
 川岸に集まった人々は水中に泡を立てながら沈んでいくロボットを指さして叫んだ。
 この河は大型船の港にも使えるほど水深が深く、ロボットの巨体さえもずぶずぶと飲み込んでいく。
 やがて、ロボットの姿は完全に水中に消え、河は何事もなかったかのようにまた流れ始めた。
 終わったのか……? 人々は、あまりにあっけない完結が信じられずにしばし立ち尽くした。そしてヒカリも、これで終わったのかと納得しきれない思いが残っていたが、ウルトラマンとしての活動限界時間が迫っていた。
〔あの正体不明のロボット、本来ならこの程度で破壊できる代物ではないだろう。これで済めばいいのだが……〕
 できるなら完全に破壊したかったが、河ざらいをしている余裕はない。今は半壊させて、街の被害を防いだだけでも良しとするしかない。ヒカリは満足できないながらも、人々の感謝の声と視線に見送られながら飛び立った。
「ショワッチ!」
 戦いは終わり、街には一応の平和が戻った。
 
 しかし、最小限で済んだとはいえ街には被害が出た。
 破壊された建物からはまだ煙がくすぶり、衛士の怒鳴る声があちこちから響き、医師や水のメイジが方々を駆け回っている。
 痛々しい光景。それも、もうハルケギニアの人々からすれば慣れたものであろうが、そんな中でリュシーは結晶と化してしまった犬の前にひざまずいて祈っていた。
「……」
 犬は吠えようとした姿勢のまま固まってしまっていた。それはよくできた彫刻のようであり、今すぐにでも動き出しそうであるが、その体は冷たく冷え切っていて鳴き声ひとつ出すことはない。

237 ウルトラ5番目の使い魔 67話 (16/16) ◆213pT8BiCc :2017/11/22(水) 14:12:45 ID:6C7Q66hI
 廃墟の中で、じっと祈り続けるリュシー。そんな彼女を、心配して探しに来たコルベールは後姿を見つけていたが、一心に祈る彼女の姿を見て、声をかけることができずにいた。
「可哀そうなワンちゃん。せめて、その魂は迷わずに始祖の下へ行けるよう、お祈りいたします」
 元は小汚い野良犬であったろうに、そのためにリュシーは心から祈っている。
 コルベールは、すべての生き物は始祖の子だというふうに慈愛を注ぐリュシーに、改めて深い感動と尊敬を感じていた。
「ミス・リュシー、あなたはまさにこの世の天使です。お邪魔してはいけませんな。ディナーに誘うのは、また今度にいたしましょう……」
 そっと、足音を立てずにコルベールはリュシーのそばを立ち去った。
 
 
 だが、その夜。宿屋で休むリュシーの部屋に、土足で踏み込む者たちがいた。
「どなたでしょう? わたくしは一介の旅の尼僧です。お金になるようなものは何も持ち合わせていませんよ」
 侵入者たちに、恐れることなく諭すように語り掛けるリュシー。しかし、侵入者二人はふてぶてしくもリュシーに杖を突きつけながら言った。
「お嬢さん、シラを切っても無駄だ。調べはもうついている。だが安心してもいい。俺たちは別にあんたを捕まえに来たわけじゃないんだ。まあ、あんたはある方面を怒らせちまったって言えばわかるかな」
「ウフフ、でもわたしたち元素の兄弟にも情けはあるの。あなた、とっても可愛いわ……ねえ、人間をやめてわたしのお人形にならない? そうすれば、毎晩たっぷりかわいがりながら生かし続けてあげるわ」
 事実上の死刑宣告を言い渡し、問答無用と迫るジャックとジャネット。
 対してリュシーは言い訳すらすることなく、静かに二人の目を見据え……そして。
 
 
 続く

238 ウルトラ5番目の使い魔 あとがき ◆213pT8BiCc :2017/11/22(水) 14:14:34 ID:6C7Q66hI
今回はここまでです。
劇場版オーブ、よかったですよねえ(何周遅れだ)

239 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/11/30(木) 22:44:05 ID:u1PouLhI
今更ながらウルトラ五番目の人、投稿おつかれさまでした。

さて、皆さん今晩は。無重力巫女さんの人です。
特に問題がなければ、22時47分から88話の投稿を始めたいと思います。

240 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/11/30(木) 22:47:04 ID:u1PouLhI
 時間が午前から午後へと移り変わってから一時間が経ったばかりであろう時間帯。
 一行に人の減らぬ王都の建物や掲示板などに、衛士達がなにかを貼っている光景を多くの人々が目にしていた。
 何をしているのとかと気になった者たちが率先して調べてみると、それは女性の似顔絵が描かれてたポスターであった。
 似顔絵の女性はやや強気な表情であったが、十人中何人かは確実に一目ぼれするであろう綺麗な顔立ちをしている。
 青い髪に碧眼という特徴にも男たちは興味を示しつつポスターを見直して―――そして愕然した。
 
―――○○○○○○詰所所属衛士隊員『ミシェル』
―――――同僚殺害及び軍事機密情報の売買に関わった疑いあり!
――――――この顔にピン!ときた方は、すぐに最寄りの衛士詰め所か警邏中の衛士に声を掛けてください

 そのポスターは、似顔絵の元となったであろう女性の指名手配ポスターだったのである。
 一体このミシェルと言う名の美人衛士は、何の理由があってそんな重犯罪を犯したのだろうか?
 多く男達がそんな反応を抱きつつポスターに釘点けになり、通りがかった他の平民たちも何だ何だとそちらの方へと足を運ぶ。
 やがてポスターの貼られている場所には大きな人だかりが出来、多くの人々の目と記憶に『ミシェル』の名と顔が焼きついて行く。
 似顔絵自体の出来も非常に良かった事が仇となったのか、ポスターに書かれた絵だけでも見に来る者たちも何人かいる。
 そして人が集まればそれだけで幾つもの意見が生まれる、つまるところ、街中で人々の議論が始まったのだ。
 ある者は彼女を見て是非ともお近づきになりたいと願い、ある者は彼女を捕まえて賞金にありつこうと企み、
 またある者はこんな綺麗な人が同僚殺しなんかの重犯罪を犯すワケはない、これは何かの陰謀だ!と騒いでいる。

 終わりの見えない議論は延々と続き、それだけでも元から喧しい王都は更喧しくなっていく。
 そんな耳に良くない場所なりつつある街中を歩きながら、ルイズ達は人だかりのできている場所へと目を向けていた。
 彼女、そして霊夢や魔理沙達の視線に先にあるのは、ブルドンネ街にある小さな広場の――中央に建てられた情報掲示板である。
 普段は王宮から発布されたお知らせや、近所にある本屋が品切れしていたモノや新品の本などが入荷してきた時、
 同じく近くにあるベーカリーなどが焼き立てのパンを店に出す時間帯などをポスターに書いて貼り出している掲示板だ。
 しかし今は、それらの情報がかすんでしまう程綺麗な指名手配犯のポスターを一目見ようと多くの人々が訪れている。

 そんな騒がしくなりつつある広場を通りから眺めていると、それまで黙っていた魔理沙が口を開いてこう言った。
「…にしたって、指名手配犯が出たってだけでこうも賑わえるモンなのかねぇ?」
「まぁ指名手配自体王都で出るのは珍しいかも。地方だと色んな犯罪者が手配されてるそうだけどね」
 魔理沙の言葉にルイズがそう返すと、先ほど昼食を頂いた店で見せて貰ったポスターの事を思い出す。
 中央にデカデカと書かれていた青い髪の女性『ミシェル』の顔と、その下に添えられた罪状と指名手配のお報せ。
 そしてあの似顔絵とそっくりの顔を持ったフードの女と、彼女を追っていたであろう謎の男達。

 彼女はひょっとすると、あのポスターに描かれている『ミシェル』だったのではないのだろうか?
 と、すれば…あの男たちは何だったのであろうか?少なくとも、そこら辺の平民よりまともな人間ではなさそうだった。
 彼らが探していたのは間違いなくあのフードの女性だったのであろうが、彼女は何故逃げようとしていたのだろうか。
 そうして幾つもの疑問が脳裏を過り続け、またもや思考の渦に足を突っ込みそうになったルイズは慌てて頭を振った。
 突然そんな行動した彼女に霊夢と魔理沙が首を傾げるのをよそに、ルイズは余計な事を考えようとした自分を叱る。
(何を考えてるのよルイズ。私の記憶違いなのかもしれないし、第一彼女か『ミシェル』だったとして、私に何ができるっていうの?)

241 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/11/30(木) 22:49:05 ID:u1PouLhI
 ただでさえ厄介な事案を複数抱え込んでいるルイズにとって、これ以上の厄介ごとは正直ゴメンであった。
 スリの犯人はまだ見つかっていないし、情報収集は今になって始めたばかりで手紙一通すら送れていない。
 そこへ更に重ねるようにして厄介ごとであろうモノに首を突っ込んでいては、やるべき事もやれなくなってしまう。
 第一、通りでぶつかっただけの自分がこの広い王都で彼女と何とか再会し、追われていた理由を問うべき道理など全くない。
 気になるのは気になるが、これ以上の問題を抱えることをルイズはしたくなかったのである。
(…所詮ただ道でぶつかっただけ、私が首を突っ込んでも仕方ない事よ)
 ポスター前に集まっている人々の姿を見つめながらそう自分に言い聞かせていた時であった、魔理沙が声を掛けてきたのは。

「どうしたんだルイズ?そんないつも以上に悩んでいる様な表情見せるなんて」
「魔理沙?…別に、何でもないわよ」
 恐らく、自分が『ミシェル』と思しき女性に出会ったことを一番話してはならないであろう黒白の呼びかけに、彼女は平静を装って返す。
 しかし、それに対して普通の魔法使いは「えー、そうか?」と怪訝な表情を浮かべて首を傾げて見せる。
「私にはなーんか色々考え事してるように見えたんだけどな?」
「…ふ、ふん!考え事や悩み事ならもう十分足りてるわよ」
「んぅ〜そりゃそうか、今の私達って色々と問題を抱えちゃってるしな。主に霊夢のおかげで」
「うっさい、この黒白」
 本当に霊夢より勘が鈍いのか、割と鋭い指摘をしてくる魔理沙のルイズの平静さに若干罅が入りかける。
 幸い余計な一言のおかげで霊夢が横槍を入れてくれた為、魔理沙の話し相手も勝手に彼女へと移っていく。

 二人の喧嘩混じりの会話を聞きながら、ルイズは内心ホッとため息をついた。
 もしも魔理沙に今日通りでぶつかった女性が指名手配された女衛士と似ていたと言っていたら、大変な事になってたかもしれない。
 霊夢曰く、自分よりも面白く厄介な事に首を突っ込みたがるらしい彼女ならば、真っ先にその女性を捜そうと言っていた事だろう。
 そうなったら情報収集どころの話ではなくなるし、下手すればこの王都にいられなくなっていたかもしれない。
 ひとまずは回避できた未来を想像していたルイズは、ホッと安堵のため息をついた。
 ふと霊夢達の方を見てみると既に静かな口喧嘩は終わっており、お互い平穏な買いをしている。

「…そういやアンタ、道に迷った女の子が泊まってるっていうホテルの部屋ってどれくらい綺麗だったのよ」
「そうだなぁ、アソコを普通とするならスカロンの店は間違いなく倉庫レベルになっちゃうだろうなー」
『失礼な事言うなぁお前さん、ちったぁ無料で泊めさせてもらってる恩義くらい感じろよ?』
「魔理沙、それ本気で言ってるワケ?…実際今は倉庫で寝泊まりしてるようなものだから洒落になってないわよ」
『いやいや、突っ込むところが違うだろ』
 途中からデルフも混ざった二人と一本の会話を聞いて、ルイズも何となく霊夢の言葉に頷いてしまう。

 今日はスカロンが雨漏りを直してくれたものの、確かにあそこはどう見ても…少なくとも今は倉庫であるのは間違いない。
 正直言って彼女自身もイヤなのではあるが手持ちの金が限られている今、一番費用が掛かる宿泊代が浮くのは嬉しいのである。
 だから今の所ルイズも我慢はしているのだが、この二人は自分の気持ちをすぐに口に出してしまうようだ。
 まぁスカロンや『魅惑の妖精』亭の人間がいないこの場所でなら確かに言いたい放題だろう。
 とはいえ流石に本音を垂れ流して貰っては困る為、ルイズはほんの少し注意してあげることにした。

242 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/11/30(木) 22:51:07 ID:u1PouLhI
「全く、アンタ達…倉庫なのは本当の事だけどスカロン達の前でそんな事いわないでよね?」
「それはわかってるわよ。だけどあんな場所に押し込んでおいて、文句を言うなってのは無理な事じゃない」
「まぁそれはそうよね。…っていうか、押し込んだのはアンタん所から来たあの狐なんじゃないの」
『そういやそうか、本人はスカロンに許可取ったっていうが…多少の悪意はありそうだよなぁ〜』
 デルフの言葉に霊夢がそれはあり得ると思った。その時であった――――

「ふぅ〜ん?中々言ってくれるじゃないか、剣の癖して口も達者とは恐れ入る」

 ルイズ達の進む方向から、その狐の声が聞こえてきたのは。
 突然の声にまずはルイズが足を止め、次いで霊夢がルイズに向けていた顔を前へと向ける。
 そのにいたのは案の定…何処から姿を現したのか、自分たちの前へ立ちはだかるようにしてあの八雲藍が佇んでいた。
 九尾と耳を限界まで縮めた人の姿にラフな服装という出で立ちで両腕を組んで、呆れたと言いたげな表情を浮かべている。
 今も尚多くの人の往来が激しい通りの真ん中であるのにも関わらず、その存在感はイヤにハッキリとしていた。
 霊夢は咄嗟にルイズの前へ――無論相手がやる気ではないのは理解していたが――出て、彼女へ話しかける。

「アンタ…一体何時からいたの?私でも気づかなかったんだけど」
「修行不足が目立つな霊夢。少しお遊び程度で、お前たちが昼食を終えた時から後を追っていただけだ」
「式の仕事だけじゃなくてストーカーまでこなすとは…流石は九尾狐といったところだぜ」
 霊夢の問いかけに藍はあっさりと自白し、そこへ魔理沙がすかさず茶々を入れる。
 こんな時にそんな冗談は…と言おうとしたルイズは、黒白の顔を見て思わず口をつぐんでしまう。
 魔理沙がその顔に浮かべているのは笑みであったが、それはいつも見せているような人を小馬鹿にしたような笑みではない。
 まるで張りつめたピアノ線の様に緊張を露わにし、一度力を入れればすぐにでも歯をむき出して笑う一歩直前の笑顔。
 そして霊夢も構えてはいないものの、相手が『下手に動けば』すぐにでもその袖の中へと手を伸ばすであろう。
 
 さっきまでお昼ご飯を食べて、とりあえず『魅惑の妖精』亭に戻ろうかと歩いていた最中だというのに…。
 たった一人――彼女たちと同じ世界から来た藍が現れただけで、二人はその気配がガラリと変わってしまった。
 指名手配がどーだの屋根裏部屋がどーたらと話していたのが、つい直前の事だと想えなくなってしまう。
 多くの平民、そして貴族が往来する通りのど真ん中で睨み合う三人に囲まれたルイズの喉は、潤いを求めてしまう。
 言葉が噤んでしまったついでに、開きっぱなしだった口から空気が入り込み、中途半端に喉が乾いてしまったのである。
 ルイズは慌てて口を閉じて唾液で潤そうとするが、自身が一番緊張しているためか中々うまくいかない。
 それでも何とか痒みすら訴えてくる乾きを消すことができた彼女は、霊夢の背中に差したデルフへと話しかけようとする。

「で…デルフ…」
『まぁそう焦るなって娘っ子、ここでバカ起こせばどうなるかぐらい…コイツらだって理解してるさ』
「ふぅー、全くだな。…失礼な事を言っていたから少し怒っただけだというのにでこうも身構えられてしまうとはな」
 緊張するルイズを宥めるデルフの言葉に藍はため息をついてそう言うと、組んでいた腕をすっと下ろした。
 途端、自分達に向けられていた存在感が薄れ、彼女もまた通りを歩く人々の中に混ざり込んでしまう。
 それを察知して霊夢もため息をついて構えを解き、魔理沙はいつもの人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべ直している。
 二人も楽な姿勢になったのを確認してから、藍は彼女たちへ近づきつつ肩を竦めながら話しかけてきた。
「それにしてもお前らまだ構える事は無いだろう。てっきりここで弾幕ごっこを仕掛ける手来るかとおもったぞ?」
「バカ言わないでよ。…第一、アンタなら手を出さなくても幻術やらの類で私達をどうにでもできるでしょうに」
 お互い言葉の端々に刺々しい雰囲気を漂わせるものの、すぐに争いが始まるという雰囲気は全くない。
 魔理沙との会話もそうであるのだが、幻想郷の住人達は会話だけでも刺々しいのが文化なのであろうか。

243 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/11/30(木) 22:54:48 ID:u1PouLhI
 何はともあれ、物騒な事にはならないだろうと理解したルイズはついつい安堵のため息をついてしまう。
「はぁ〜…何でこう、昼食が終わったばかりのタイミングでヒヤヒヤさせられちゃうのよ」
「全くだな。まぁお互い好戦的な性格なうえに戦る時は戦るから正直私も冷や汗かきそうだったぜ」
 安堵すると同時に出た自分の文句にそう言いつつ、魔理沙がルイズの傍へと近づいた。
 さっきまで自分の前に出てきた霊夢同様、ただならぬ緊張感のこもった笑みを浮かべていた普通の魔法使い。
 それなのに今はいつもの人を小馬鹿にしそうな笑顔でもって、他人事のようにさっきの出来事を語っている。
 ルイズはそれに腹立たしい気持ちを抱いたのか、ニヤニヤする彼女へ向かって「アンタもアンタよ」と非難言葉を向けた。

「まぁそう怒るなよルイズ。流石のアイツらだってここで暴れるなんて事をしないなんて想像がつくだろう」
「そりゃそうだけど…だったら、何でアンタも霊夢に混じってあんな野獣みたいな笑みを浮かべてたのよ」
 ルイズの言葉に一瞬キョトンとするもすぐに思い出したのか、暫しう〜ん…と唸った後で彼女はこう答えた。

「まぁ何というか…その場のノリだな。格好良かっただろ?」
「…アンタ、本当に最高な性格してるわね」
「その言葉、お前さんの口から出た私への最良の賞賛として覚えておくよ」
 ある意味霊夢とは別方向で厄介な彼女に呆れつつも、最高の皮肉を込めた言葉をルイズは送る。
 しかしそれでも魔理沙は気にしてもいないのか、逆にお礼まで言われてしまったのだが。


 その後、自分たちを追跡していた藍と合流してルイズ達はそのまま『魅惑の妖精』亭へと戻ってきた。
 既に朝から取りかかっていた屋根の修繕は終わったのか、店の屋根には人影は見えない。
 後一、二時間もすれば店の開店準備が始まるだろうと思いつつ、ルイズが羽根扉を開けると、
「あっ、ミス・ヴァリエールにレイムさんと魔理沙さん…それにランさんも!」
 ちょうど開けてすぐ近くにあるテーブルの上に大きく膨らんだ紙袋を下ろしたシエスタと鉢合わせる事となった。
 どうやら見たところ、彼女も時同じくして帰ってきたところなのは一目瞭然である。
 ルイズは店に入ってすぐ近くにいたシエスタに若干驚きを隠せないでいるのか、おっ…と言いたげな表情を浮かべている。
「あぁ、シエスタじゃないの。…ただいま、で良いのかしら?」
「見れば分かるでしょうに。どこをどう見てもただいまで合ってるじゃない」
「…こういう時。、どんな顔すれば良いか分からないんだけど」
 とりあえず口にしてみた自分の言葉に突っ込んでくる霊夢にそう返しつつ、シエスタの元へ近づいていく。

 彼女もあの暑い炎天下の中で、私物やら何やらを購入してきたのであろう。
 額や顔には汗が滲んでおり、目の錯覚か平民向けの安い服が汗で薄らと透けているようにも見える。
 次にテーブルに置いた紙袋の中身を一瞥しようとしたところで、ふと話しかけられてしまう。
「それにしても奇遇ですよね。…まさか三人一緒だけじゃなくて、ランさんも一緒にいるだなんて」
「え?え、えぇまぁね。ちょっと昼食終わった街中歩いてた時にバッタリ鉢合わせちゃったのよ」
 すぐにシエスタの言葉に返事しつつも、ルイズは袋の中身が気になったのかそれを聞いてみることにした。
「そういえばシエスタ。結構重そうな紙袋だけど何買ってきたのよ?」
 人差し指をテーブルの上の紙袋に向けてそう聞いてきたルイズに、シエスタは「これですか?」と袋の口を開けた。

244 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/11/30(木) 22:56:09 ID:u1PouLhI
「特に貴族様が気になるような物は買ってないのですが、そうですねぇ…例えばコレとか」
 そんな事を言いつつ、音を立てて紙袋を漁るシエスタが取り出したのは一本の歯ブラシであった。
 木製の持ち手に歯磨き用に調整された馬の尾の毛を組み合わせてつくられている小型ブラシである。
 一昔前までは少しお高くついたものの、今では王都にも工房がいくつも出来ているため平民たちの間でも普及し始めている代物だ。
「前使ってた歯ブラシが少しバカになってきたので、思い切って新品を買ってみたんですよ」
 まるで新しい玩具を買ってもらった子供の様に微笑みながら歯ブラシをルイズに見せつけてくるシエスタ。
 普及し始めた値段が低くなってきたとはいえ、値段的に平民が歯ブラシをそうそう何度も買い替えるのは難しいのだ。
 
 シエスタが袋から取り出した歯ブラシに興味をしめしたのか、ルイズの後ろにいた霊夢達も彼女の近くへ集まってくる。
「へぇ、一体どこへ行ってのかと思いきや…新しい歯ブラシを買いに行ってたのねぇ」
「つまり…あの袋の中は新品の歯ブラシで一杯という事か」
「いやいや、そんなワケないでしょうに」
 霊夢に続き、阿呆な事を言った魔理沙にルイズはすかさず突っ込みを入れてしまう。
 それを見たシエスタも苦笑いを顔に浮かべつつ歯ブラシをテーブルに置くと、話を続けながら袋を漁っていく。
「ははは…まぁ歯ブラシだけじゃなくて、学院生活で使う日用品とか色々新調しようと思って…ホラ、例えばこういうのとか」

 そう言いながら紙袋からスリッパやクシ、紅茶用のマグカップなど数々の品をテーブルに並べていく。
 これには貴族であるルイズもおぉ…と驚きの声を上げてしまい、霊夢達と一緒にその様子を眺めてしまう。
 結果…一分と経たず丸テーブルの上は、彼女が購入して来た日用品で占領されてしまった。
「うわぁ、これは圧巻ねェ」
「今までは古くなってきた物を誤魔化して使ってた来たから、自分でも変な新鮮感を覚えちゃいますよ」
 思わずそう呟いてしまったルイズに、シエスタは自分の子ながらエッヘンと胸を張ってしまう。
 平民向けといえど、これほどピカピカの新品を前にすれば気分が良くなるのも無理はないだろう。
 
 流石魔法学院で働くメイド。微々たる程度だが、そんじょそこらの平民よりかは金回りが良いのだろう。
 そんな事を思いつつも、魔理沙はシエスタの新しい日用品を見下ろしながら何気なくこんな事を言った。
「まぁ本となると別だが、こういうモノはある程度使い古したら思い切って新品に変えるのもアリだしな」
「えへへ…。さすがにこれだけ買い揃え目るのにお給金一月分の五分の二ぐらい使っちゃいましたけどね」
「アンタのお給金がどれくらいが分からないけど、そこまでしたら気持ち良いだろうに」
「そうですね。思い切ったところまでは良いんですが、何か今になってやりすぎたかなーって思う所もありまして…」
  
 霊夢の問いかけに嬉しさ反面、若干の後悔が滲み出てる彼女の言葉にルイズは変に納得してしまう。
 確かにお金があり過ぎると、購買意欲が薄いものにまでついつい手が出てしまい、後で何故買ったのかと自問してしまうのだ。
 最もルイズ自身はそういう経験は少ないものの、魔法学院ではそれで後悔している生徒を良く目にすることがある。
 下手に親から大量の仕送りを貰う生徒程無駄遣いをして、次の仕送りの日まで地獄を見ることになるのだ。

(まぁぶっちゃけ、私も人の事を指させる立場じゃあ無いのよねぇ)
 とはいえルイズも、つい先日までは大量に貰った資金で情報収集を兼ねたバカンスに繰り出そうとしたのだ。
 平民と貴族とでは贅沢のハードルに差があり過ぎるものの、今になって考えてみると後悔してしまう。
 高くていいホテルに泊まらず、そこら辺のそこそこ良い宿に泊まっていれば、スリに遭わずに済んだかもしれな いというのに。
 アンリエッタから貰った資金をむざむざ盗まれてしまった資金の事を思いだそうとしたところで、彼女は首を横に振った。

(…後悔後先に立たず。過ぎた事を今になって悔やんでも仕方のない事よルイズ)

245 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/11/30(木) 22:58:04 ID:u1PouLhI

 その後、テーブルに広げた日用品を紙袋に戻し終えたシエスタと共にルイズ達は二階へと上がった。
 会話に参加してこなかった藍は既に厨房で今夜の仕込みを初めており、一階からそれらしい音が聞こえている。
「でもまだ誰一人起きてきて無いよな?アイツ、よっぽど暇してるようだぜ霊夢」
「少なくとも迷子を案内した後でそのままやるべき事サボってたアンタにそれをいう資格は無いとおもうけど?」
 怪談を上った後、誰もいない二階の廊下を見て魔理沙が呟き、霊夢がそこへ突っ込みをいれる。
 まぁ彼女の突っ込みは何も悪くないだろうとルイズが思った所で、シエスタが声を掛けてきた。

「じゃあ私、これから買った物の整理があるのでことまずこれで…次は夕食の時にでも」
「ん?…えぇ、また夕食時にね」
 両腕で紙袋を抱えつつ、器用にドアを開けたシエスタからの言葉に霊夢が顔を向けて左手を振る。
 それに対し手を振る代わりに笑顔を送った後、彼女はスッと寝泊まりしている部屋へと入っていった。 
 ドアが閉まりきるところまで見て再びルイズ達の方へ向いたところで、彼女は一人呟き始める。
「夕食時って言ってもねぇ、今夜も盛況になりそうだし大変よねぇ〜…こういう所で働くっていうのは」
「流石博麗の巫女とかいう自由業やってるだけあるな。お前の言葉には全力で納得できないぜ」
「それをアンタが言っても全然説得力ないわね?…それと、シエスタは今日と明日休み貰ってるらしいから平気よ」
 ルイズは他人の事を言えない魔理沙に容赦ない突っ込みを入れつつも、
 下げっ放しになっていた三回への隠し階段を上りながら彼女たちに今日のシエスタの事を話していく。

「それは初耳だな。恥かしがらずに言ってくれれば良かったのに」
「その前に私達がどっか行っちゃったから言うに言えなかったんじゃないの?」
 シエスタが休暇を取っていた事にそれぞれ反応を見せつつ、ルイズに続くようにして階段を上っていく。
 見た目同様、やや細めながらもしっかりとした造りをしていると感じさせてくれる階段を軋ませて屋根裏部屋へと入る。
「ただいまー…ってのは何か変な感じだけど……って、あら?」
 階段を先に上っていたルイスズは、部屋に入った所ですぐ目の前に置かれていた道具に気が付いた。
 それはやや使い古した感じのある部屋掃除用の大きな箒と塵取り、それに一枚のメモ用紙が箒に下に置かれている。
 
「ほうき…?」
 目の前に置かれている掃除道具の名前を呟きながらそこまで歩いていく彼女の背後から、
 続いて部屋に入ってきた霊夢もその箒とメモ用紙に気が付き、キョトンと首を傾げた。
「どうしたのよルイズ…って、なんなのその箒?…とメモ?」
 疑問が聞いて取れる霊夢の言葉と同時に箒の下のメモを手に取ったルイズは、ざっと書かれいた文章を読んでみる。
 文章を追うようにして目を左から右へ、右から左へと目を走らせて速読していくる

 その時になって、一番後ろにいた魔理沙も何だ何だとやや急ぎ足で屋根裏部屋へと上ってきた。
「おぉ、どうしたんだルイズのヤツ…って、何だその箒?私達が起きた時には無かったような…」
「多分そのメモ用紙に何か書かれてるんだ思うんだけど…どんな内容なのかしらねェ?」
 魔理沙の言葉に霊夢はそう返しつつ>、ルイズがメモを読み終えるのを待っていた。
 本当ならば肩越しに覗いて自分も読みたいのだが、生憎この世界の文字は全く分からないのだ。
 隣にいる黒白なら解読ぐらいしてそうなものだが、霊夢本人からしてみれば蛇がのたくったような記号にしか見えないのである。
 だからこうしてルイズが読み終えるのを我慢して、終わったら何が書いてあったのか聞こうと思っていた。
 まぁ聞かなくとも読む相手がルイズなら、そのまま素直に教えてくれるだろうが。

246 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/11/30(木) 23:00:06 ID:u1PouLhI
 そんな事を思いつつ待った時間は、ほんの二十秒程度であろうか。
 メモ用紙に書かれていた文章を最初から最後まで丁寧に読み終えたルイズは、ふぅと溜め息をついてから口を開く。
「わざわざメモで書き残して置く事かしら?」
「ちょっとルイズ、何が書いてたのか教えてくれないかしら?」 
 すっかり拍子抜けしてしまったと言いたげなルイズの顔を見て、霊夢は早速問い詰めてみる。
 彼女の問いにルイズはサッと手に持っていたメモを、何も言わずに彼女へ手渡した。
 何気なくメモ帳を手に取った霊夢であったが、当然何が書かれているのか分からなかった。

「…差し出されても、読めないんですけど?」
 何も言わないルイズに霊夢が肩をすくめてそう言うと、その背中からデルフが話しかけてきた。
『んぅ…ふむふむ、まぁ娘っ子の言うとおり大した事は書いてないね』
「あぁ、そういやアンタがいたわね。変に静かだったから寝てたのかと思ってたわ。…で、何が書かれてたのよ」
 金属音を鳴らすデルフに霊夢がそう返しつつ、メモの内容がどういったものなのかも聞いた。
『別にどうってことはないが、掃除道具は置いとくから綺麗にしたら…って事だけしか書いてないよ』
「何よソレだけ?それなら別に口で伝えればいいじゃない、たくっ」 

 書かれていた事が本当に単純な内容だっただけに、霊夢は足元の箒を見ながらそう言った。
 まぁ何かタイ逸れた事が書かれていたとしても困っただけなのだが。
 しかし、確かに掃除が必要な程この屋根裏部屋が結構汚れている事だけは確かである。
 霊夢は部屋の端っこで小さく積もっている埃や、先住者の証である蜘蛛の巣を見ながらもその箒を手に取った
「…まぁ暫くここでタダで寝泊まりできるんだし、ちょっとは綺麗にしとかないといけないわよね」
 箒を持って彼女はそう言って背負っていたデルフを床に下ろすと、魔理沙がおぉ!と声を上げた。

「おぉ、霊夢がその気になったか。これで今夜は綺麗な屋根裏部屋でグッスリ安眠できるな」
「アンタも手伝いなさいよ。タダでさえ掃除する箇所が多いんだから、猫の手でも借りたいぐらいなのよ」
 すでに勝負はついたと言いたげな笑みを浮かべる魔理沙に、霊夢はすかさず手伝うように誘う。
 彼女の言うとおり屋根裏部屋は相当汚れており、全部を綺麗にするのには結構な時間が掛かるうだろう。
 始める前からすでに自分に任せて楽しようとしてる黒白を睨む霊夢を前に、しかし魔理沙はその態度を崩そうとはしなかった。
「勿論手伝ってはやりたいがね、何せ私にはこれからサボってた仕事をしなきゃならないしさ」
「仕事?あぁ…」
 一瞬だけ何を言っているのかと訝しんだ霊夢は、すぐに魔理沙の言いたい事を理解する。
 
「呆れた!わざわざ掃除したくないってだけで姫さまから託された仕事を理由にするなんて!」
「おぉっと、誤解しないでくれルイズよ。私だって、スカロンが掃除道具を置いて行ったことなんて予想してなかったんだぜ?」
 彼女に続いてルイズも気づいたのか、呆れと僅かな怒りが混じった表情で魔理沙に詰め寄ろうとする。
 しかし魔理沙は近づいてくるルイズをスルリと避けて、二階へと降りる階段の方へと走っていく。
 危うく踏みそうになったデルフを軽く飛び越えた彼女はそのまま階段を降り始め、頭だけ見えている状態で二人の方へ顔を向けた。
「まぁ掃除をサボる分、二人にとって価値のある情報を持ってくるから期待しといてくれよな?それじゃっ」
「あっ、ちょっと!」

247 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/11/30(木) 23:02:04 ID:u1PouLhI
 ルイズが待ちなさいと彼女を制止する前に、魔理沙はそのまま音を立てて階段を降りてしまう。
 慌てて階段の傍へ行った頃には、既にあの黒白は一階へと続く階段を降りていくところであった。
 まるであと一歩の所でネズミを逃した猫の様なルイズの姿を見て、背後のデルフがカタカタと刀身を揺らして笑う。

『カッカッカッ!黒白に一抜けされたようだな娘っ子―――って、イタタタ』
「一抜けとか言わないでくれる?まるで私がやろうとしてる事が罰ゲームみたいに聞こえるじゃないの」
 失礼な事を言う鞘越しのデルフを箒の柄で軽く叩いてから、霊夢もルイズの傍へと近寄る。
 ルイズの方も近づいてくる彼女に気が付いたのか、スッと後ろを振り返る。
 自分を見下ろす霊夢の眼差しと、その左手に持つ箒を見た彼女はふぅ…と溜め息をついてしまう。

「…猫の手も借りたいって言ってたけど、貴族の手ってその猫の手よりも役に立たないと思うけど?」
「貴族だろうが公爵家だろうが箒で床を掃く事くらいできるでしょうに。とりあえず手は貸しなさい」
 そう言って左手の箒を差し出してきた霊夢に、ルイズは何か言いたそうな表情を向けたものの、
 彼女一人では流石に今日中には終わらないと察したのか、観念するかのように箒を手に取った。


 その後の掃除は、色々と問題を抱えながらもなんとか二人でこなしていった。
 ひとまず箒と一緒に置いてあった塵取りが屈まなくても使える三つ手のものだった為、ルイスでも難なく掃き掃除ができている。
 最初は掃く力が強すぎて埃を飛ばしてしまっていたが、そこは霊夢がアドバイスする事で何とかする事が出来た。
 時折「まさか公爵家の私が掃除何て…」と今の自分に驚いているようだが…まぁ放っておいても害はないだろう。
 一方の霊夢は一階から持ってきたバケツに水を入れて、雑巾で窓ガラスやら使えそうな木箱に纏わりついた埃を拭いていく。
 この屋根裏部屋には人数分のベットはあったものの、何かしら書く際の机やイスの類は見つからなかった。
 だからその代わりに程よい大きさの木箱を使うつもりなのであるが、その事に関してルイズはやや不満を抱いてはいた。

「えー?テーブルやイスなら、ランかスカロン辺りに頼めば用意してくれそうだけど…」
「まぁ一応は念のためよ。第一、床を掃いても辺りが埃まみれじゃあ意味が無いわ」
 
 それを聞いてルイズも「まぁ確かに…」と思いつつ、慣れない箒を動かしながら埃を塵取りへ集めている。
 彼女が最初の時よりもちゃんと掃き掃除が出来ている事に満足しつつ、霊夢はふと近くに置いたデルフへと視線を向ける。
 喧しいお喋り剣は埃舞う場所でわざわざ刀身を晒して汚したくないのか、始めてからずっと沈黙を保っていた。
 近くの壁に立てかけられているその姿は、まるで屋根裏部屋に放置された骨董品の武器の様だ。
 刀身自体は真新しくなったが、鞘自体は変わってない為に真新しさが分からず、全く以て意味が無い。
 とはいえ本人(?)はそれを口にすることは無いので、然程気にしてはいないのかもしれない。

 そこまで考えていた所で、自分は何馬鹿な事を考えているのかと首を横に振った。
(まぁ私はアイツ自身じゃないんだし、憶測で考えても仕方ないんだけど)
 心中で呟きつつ、しかし雑巾をバケツの中でギュッと絞っている最中もふとデルフの事を考えてしまう。
 それは彼女には似つかわしくない好感情からではなく…ここ最近辺に沈黙が増えた事への違和感であった。

248 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/11/30(木) 23:04:15 ID:u1PouLhI

(そういえばアイツ、最近喋らない時が増えて来たけど…何か悩みでもあるのかしら?)
 ちょっと前までは隙あらば喧しい濁声で場を騒がしくしていたが、今では変に黙っている事が多い。
 声を掛ければ普通に反応してくれるし、余計に喋らないのであればこちらの耳にも負担を掛けずに済む。
 しかし、声を掛けなくとも十分騒がしい彼を知っているだけに、霊夢は違和感を感じていたのである。

(…とはいえ、悩み事って言われても剣が何を悩んでるのか…全然分からないわね)
 性格と喋り方からして人間ならば間違いなく人生経験豊富で口の悪いおっさんであろうデルフリンガー。
 しかし彼は人間ではなく剣であり、その中でも一際特殊と言われているインテリジェンスソード。
 普段から何を考えて、そしてどうそれを解決しているのかなんて人間である霊夢には中々分かるものではない。
 仮にそれを告白されたとしても解決できるかと言われれば難しいかもしれないし、してやる義理は…一応はあるかもしれない。

 その時であった…。
「……お?どうしたレイム、オレっちの事なんかじっと見つめちゃったりしちゃってさぁ」 
 まるで本物の剣の様に何も言わず、壁に立てかけられているデルフの姿を凝視する霊夢の視線に気が付いたのか、
 金属音を軽く鳴らして刀身を鞘から僅かに出した彼は、明るい調子で霊夢に話しかけてきた。
 まさか話しかけて来るとは思っていなかった霊夢は少し驚きつつも、彼の話しかけに応じる。
「別に何でもないわよ。ただ、アンタが何か考え込んでるかのように黙ってるのが気になっただけ」
「……?イヤ、別に何か考え込んでて黙ってたってワケじゃあ無いんだがなぁ」
 自分の言葉に対してデルフの返事に、霊夢は怪訝な表情を浮かべてしまう。
 その顔が「どういう事よ?」と問いかけているのに察し、デルフはそのまま言葉を続けていく。

「ホラ、人間だって昼寝するだろ?…それと同じで、オレっちも思考を閉じて頭を休ませてたってワケ」
「頭もクソもない癖に何人間ぶってるのよ、この馬鹿剣が」
 さっきまで真剣に考えていた自分を気恥ずかしいと思いつつも単に休んでいただけというデルフに怒りを覚えた霊夢は、
 彼の傍に近寄ると靴先で軽く小突きつつ、これからは定期的に蹴って起こしてやろうかと邪悪な計画を思いついていた。


 
 後一時間もすれば日が暮れて赤と青の双月が顔を出すであろう時間帯のブルドンネ街。
 日暮れが迫りつつも人の混雑は殆ど変わらず、貴族平民共に多くの人々が暑い通りを行き来している。
 陽が落ちると共に看板を下ろして閉店する店のほとんどはこの時間帯がピークであり、必死に客を呼びこんでいた。
 パン屋では焼き上がったばかりのバゲットや白パンを夕食用として店の入り口にだし、売り子や店の従業員が声を張り上げる。
 とある惣菜屋ではシチューや肉料理、ラタトゥイユといった料理が出来上がり、それを待っていた客たちが我先に注文していく。
 
 たった一つの通りだけでもこれだけ活気があるのだ。他の通りでもここと同じかそれ以上の人々で賑わっていた。
 そんな暑苦しくも、どこか微笑ましい光景が見れる通りを霧雨魔理沙は箒を脇に抱えて、メモ帳と羽ペン片手に歩いていく。
 黒色が多い服ではさぞや夏の王都は暑いだろうが、彼女は意に介した風もなくテクテクと足を動かしている。
 その視線は手に持ったメモ帳に書いた内容と睨めっこしているが、通行人の誰かとぶつかる様子は無い。
 むしろ視線は前を向いていないというのに、彼女は平然と人を避けながら通りを歩いているのだ。
 伊達に幻想郷で様々な人妖との弾幕ごっこを通して戦ってきた経験が、ここで無駄に生きているようだ。

249 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/11/30(木) 23:06:11 ID:u1PouLhI

 さて、そんな魔理沙であったが自分でメモ帳に書いた内容に何故か自己評価をつけようとしていた。
 「う〜ん、とりあえずあの手紙に書かれた通りの情報は集めた筈だが―――もうちょい集めた方が良いかも…かな?」
 インクの乾いたペン先でページをトントンと軽く叩きながら、集めた情報の量に不満を感じていた。
 そこに書かれている内容は、午前中ルイズが街の人々や下級貴族から集めていた情報と似通っている。
 主に奇襲を仕掛けてきたアルビオンへの反応や、これからのトリステインの事に関する事などであった。
 彼女自身、ルイズと比べて高いコミュニケーション能力が役に立っているのか、既に二ページ程使ってしまっている。
 
 しかし魔理沙としては、まだまだ物足りないという思いを抱いていた。
 情報と言うものは同じ話題でも人によって大きく脚色され、時には嘘さえ平気で混ぜてくる奴もいる。
 単なる道案内でも、心底イジワルなヤツに聞けば間違った道を進んでしまう事もあるのだ。
「…まぁ、今集めてる情報の類ならそういう心配は必要ないと思うけどなぁ…」
 メモ帳に記された、聞き込みにOKしてくれた人々の情報を読み直しながら魔理沙は一人呟く。
 ルイズが集めたものと同様、やはり人の数だけ同じ質問をしても別々の答えが返ってくる。
 
 とはいえ時間の許す限り集めても、全てが役に立つというワケじゃない。
 ここに掛かれている事をルイズの前で読み上げるとすれば、無駄に多く集めても自分の苦労が増えるだけだ。
 かといって二ページ分は少し心許ない気がする彼女は、後一ページ分程集めてみようかとも考えてはいた。
 幸い人の通りは多いし、道案内を装ってついでに質問すれば多少なりとも収穫はあるだろう。
「しかし、時間的にはちょっと難しいかねぇ?あんまり時間かけると夕食を先に済まされそうだし…」
 彼女は空を見上げ、夕焼けの色が目立ち始めた空を一睨みしつつひとまず道の端っこへと移動する。
 そこで一旦足を止めた彼女は辺りを見回し、気前よく自分と会話してくれそうな人を探し始めた。
(まぁ一ページ分とまでいかなくとも、できるだけ情報を拾ってからルイズ達の所へ帰るとしますか)
 心中でひとまずの目標を定めた魔理沙は、適当な話し相手はいないかしきりに視線を動かす。

 元々ルイズの為に情報収集する筈だったものの、当初の予定が狂って結局今になって始めている自分。
 アンリエッタから渡された資金を盗んだ子供を捜す為、自分よりもめまぐるしく街中を雨後回っていたであろう霊夢。
 そして座して情報を待つ筈が自分から情報を集めに行ったルイズ達から見れば、自分一人だけがサボっていると見られてしまっているだろう。
 特に霊夢は間違いなく思っていそうだが、それは止むを得ず人助けをしていたからであって実質的な不可抗力でしかない。
 更に案内したホテルにいた助けた少女の保護者達に僅かにだがもてなされ、気づいた時にはとっくにお昼時だったのだ。
 亀を助けた浦島太郎の様に、まぁちょっとだけお礼を…とか言っていたら三百年間程海の底にいたのと同じことである。
「まぁ浦島太郎と比べたら、私の方が数倍マシなんだろうけどな。……お、あそこにいる兄ちゃんとか良さそうだぜ」
 
 子供のころに絵本で知った哀れな釣り人の話を引き合いにだした所で、魔理沙は丁度良さそうな話し相手を見つけた。
 いかにも平民と言う出で立ちだが、近くの屋台で買ったであろう瓶ジュースを飲んでいる姿は観光客には見えない。
 まぁ簡単な手荷物一つ持ってない所を見るに明らかなので、魔理沙にとっては絶好の情報提供者である。
(さてと、まずは旅行者を装って適当な道を聞いてから…さっきと同じような質問かな?)
 魔理沙は彼に狙いを定めつつ、彼に聞くべき事を念のためおさらいしていく。

250 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/11/30(木) 23:08:36 ID:u1PouLhI
 聞くべきことは大きく分けて二つ、神聖アルビオン共和国についてどう思っているのか、
 そして今のトリステイン王国をどう思っているのか…、ただそれだけである。

 今に至るまで数えて十二人に同じような質問をしてきたが、答えは様々であった。
 例え平民であっても愛国的か、もしくは売国的とも言える様な返答が返ってくるのだから。
(この二つの質問だけでも、人によって大きく分かれるからな…聞いててつまらくはない)
 言い方や個人が持っている思想を含めば十人十色である返事を思い出しながら、魔理沙は男の方へと向かっていく。
 人と話すのは嫌いではないし、それが親しい相手ときたらもっと嫌いではなくなる。
 もしも霊夢が情報収集をしたとしても、ルイズや彼女のようにうまくやりこなせはしなかったに違いないだろう。
 
 ある程度男の傍へ近づいた魔理沙は、とりあえず声を掛けようとした―――その時であった。
 丁度彼の左斜め後ろにある路地裏へと続く横道から、いかにも怪しくて小さな手がスッと出てきたのは。
 明らかに大人の手ではなく、少し離れた位置にいる魔理沙の目にも子供のソレだと分かるくらいに小さかった。
 突然闇の中から出てきた子供の手に驚いたのもほんの一瞬、間を置かずしてその小さな手が何かを持っている事にも気が付く。
 何も知らない人間から見れば、ただ単に少しだけ見栄えをよくした木の枝に見えるかもしれない。
 しかし、この世界に住む人間たちならば誰もが知っているだろう。あの木の棒は権力者の象徴にして唯一絶対の武器であると。
 そして…この世界に来て暫く経つであろう魔理沙も知っていた。あの木の棒は紛う事なきメイジが魔法を行使する為に使う杖なのだと。

(ん…あれって、杖か…?)
 思わずその場で足を止めた魔理沙はその杖へと怪訝な視線を向けてしまう。
 声を掛けようとした男は未だ気が付いておらず、まだ半分ほど残っているジュースをチビチビと飲んでいる。
 そして彼の背後から見える子供の手は、握っている杖をまるで指揮棒の様に軽やかに振って見せた。
 直後、杖の先端がボゥッ…と青白く発光したかと思いきや、男の腰も同じように発光し始めたのである。
 少し驚いてしまう魔理沙をよそに本人は気づいていないのか、通りを歩く女性たちに目をやっている始末。

 その間にも子供の手が発光する杖をゆっくりと動かすと、男の発光していた腰――正確には腰に付けていた革袋が彼の体から離れてしまう。
 魔理沙の掌にはあと少しで収まらない程度の大きさの革袋が不気味な光を放ちながら、フワフワと宙を浮いたのである。
「なっ…!」
 ギョッとする魔理沙の事は見えていないのか、杖を持つ手はその袋を手繰り寄せるかのように杖を動かしていく。
 恐らくその袋は財布か何かなのであろう、魔法の力で宙に浮く袋は今にも重量で落ちしまいそうなほど不安定な浮き方をしている。
 男は尚も気づく様子を見せず、ジュースを酒代わりにして日が暮れゆく王都の通りをボーっと眺めている。
 対して、何が起こっているのか全て見ていた魔理沙は、ここでようやく何が起こっているのか理解した。

(魔法を使った盗みで子どもの手…って、これってもしかしてこの前の…!?)
 今正に声を掛けようとした相手がメイジであろう者からお金を奪われると察した魔理沙は、ついで思い出す。
 二日前に、自分たちからお金を奪っていったのは――――魔法を使う子供であったという事を。
 そして脳裏に再び聞こえてくる。あの少年の傲慢ちきな言葉が。

 ―――喜べ!お前らが集めた金は、俺とアイツで有意義に使ってやるから、じゃあな!

 得意気にそう言って、まんまと逃がしてしまったのは魔理沙にとっても苦い思い出であった。
 そして今、その苦い思い出を作ってくれたであろう少年が――別人という可能性も拭えないが――が盗みを働こうしている。
 魔理沙は瞬時に判断する。今自分の目の前で悪行を繰り返そうとする少年にどのような制裁を与えればいいのかを。

251 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/11/30(木) 23:10:07 ID:u1PouLhI
(何だかんだで、私にも色々とツキが回ってきているようで嬉しいぜ。それとも…ただ単に私の運勢が良いだけかな?)
 彼女は心中でそう呟いた後、手に持っていたメモ帳とペンを懐に仕舞い、脇に抱えていた箒を右手で握りしめる。
 使い慣れた木の触り心地に思わず笑みを浮かべた彼女は、その足でバッと地面を蹴って走り出した。

 これまた使い慣らした靴底が煉瓦造りの地面を蹴り、軽快な音を連続的に立てていく。
 目指す先には路地裏へと続く横道―――杖を持つ手の持ち主が潜んでいる場所であった。
「ん?…って、おわ!?」
 当然そのすぐ傍にいた男は走ってくる彼女に気が付いて、慌ててその場から飛び退ってしまう。
 それが原因か、はたまた位置的に姿の見えなかった魔理沙が走って来るのに気が付いた窃盗犯の集中力が切れたのか、
 あと一歩でその掌の上に落ちる筈であった男の財布は、哀しいかな少々喧しい金属音を立てて地面に落ちてしまう。
 それと同時に袋の口を縛っていた紐が緩んだのか銀貨や銅貨、そしてわずかなエキュー金貨が地面へとぶちまけられる。

 男が突然あげた大声と、その金貨の音で周囲の人々は、何だ何だとそちらの方へと目を向けてしまう。
 そして何人かが、路地裏への入り口で杖を構えた者の姿を目にすることとなった。
「…ッ!畜生…」
 路地裏にいたであろう盗人は仕事が失敗終わり、更に周囲の目が自分へ向けられているのに気が付いたか、
 汚い言葉を口走りながら踵を返し、すぐさま灯りの無い道へと姿をくらまそうとする。
「おぉ!上手くいったぜ。ありがとな、おっさん」
 魔理沙は盗まれそうになった男に一声かけると、そのまま犯人の後を追って路地裏へと入っていく。
 対して男は何が起こったのか分からないまま、地面にばらまかれたお金を拾うのに必死にならざるを得なかった。


 王都トリスタニアのブルドンネ街といえど、路地裏ともなれば人気は無いし灯りもない。
 夕暮れに差しかかった今の時間帯は陽の光が入ってこず、薄暗く不気味さを纏っている。
 それも後数時間経てば夜の帳が訪れ、二人分程度の横幅しかない道は暗闇が包み込んでしまうだろう。
 
 そんな路地裏を、財布を盗もうとした犯人―――ルイズ達から金貨を奪った少年は必死に走っていた。
 まだ小さな両足を懸命に動かし、その途中で道に置かれていた空き瓶を蹴飛ばしつつも決して速度を緩めない。
 道の端で寝ころんでいた猫たちが突然の足音に顔を上げ、近づいてくる少年に威嚇をして彼が来た方へ走っていく。
 少年は暫く道が真っ直ぐなのを知ると一瞬だけ顔を背後へ向けて、追っ手が来ていないか確認する。
 ……いない。既に二回ほど角を曲がった為に、背後に見えるのは薄暗く狭い道だけだ。
 誰も追って来ていないのを確認した彼が再び前へ視線を向けると速度を少しだけ落とし、右へと進む角を曲がる。

 それから数分程走った後、正念は広場らしき広くひらけた場所へと出てきた。
 どうやら広場として使われていたのは昔の事なのか、人の気配は全くといっていいほど感じない。
 ボロボロのベンチが二つに、大通りのソレと比べて錆が目立つ街灯は一つだけ。
 時間で中のマジックアイテムが作動する街灯は未だついておらず、広場は薄暗い。
 奥には別の路地裏へと続く道があり、自分が来た道を覗けば周りは全て共同住宅の壁で塞がれている。
 王都のど真ん中であるというにまるで戦場跡地のように暗く、そして静かであった。
 小さく聞こえる大通りの喧騒とのギャップは、あまりにも激しい。
 外国人が見れば、なぜトリスタニアだというのにこうも暗い場所があるのかと驚くかもしれない。

252 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/11/30(木) 23:12:09 ID:u1PouLhI
 少年はそんな広場で一旦足を止めると、誰も追って来ていないのを知ってからふぅと一息ついた。
 ここまでずっと走り続けていたためか息は上がり、汗まみれの体が妙に気持ち悪い。
 肩をほんの少し上下させて呼吸する少年は、ふと近くにあるベンチに視線を向ける。
 …少しだけなら大丈夫だろうか?誰も追って来ていないという気の緩みからか、そんな事を考えてしまう。
 本当ならば少し奥に見える道から広場を出て、そこから別の大通りに出て姿をくらますべきなのだが…、
 しかし走り続けた小さな体は休憩を欲しがっており、自分も心も休むべきと訴えている。
「…ちょっとぐらいなら、良いかな?」
 一人呟いた少年はそのままベンチの方へと歩みを進め、束の間の小休止を――――

「おぉ、休憩か?まぁあんだけ走り続けてたんなら、無理はないと思うぜ」
 ―――しようとした直前、頭上から聞こえてくる少女の声に彼はその場で足を止めてしまう。
 そして慌てて声のした方―――つまり自分を見下ろせるであろう自分の目の前にそびえたつ一軒の共同住宅を見上げた。
 十メイル近くもある共同住宅の屋上。その上に立って、こちらを見下ろす影が一人。
 夕焼け空を後光に、時代遅れのトンガリ帽子と右手に持った箒のシルエットが地上からでもはっきりと見て取れる。
 顔までは分からなかったが、声からして間違いなく少女だという事は少年にも分かっていた。

 少年を見下ろすトンガリ帽子の少女こと霧雨魔理沙は、相手が動かないのを見てその足を動かす。
 木製の滑りやすい屋根に上手い事たっていた右足を何もない宙へと出し、そのまま一気にジャンプする。
 結果、魔理沙の体は何もない宙を一瞬だけ浮いたかと思いきや、そのまま地上へと落ちていく。
 アッ!と少年が驚き、これからの事を想像して目を背けようとする前に彼女が右手に持つ箒がその力を発揮する。
 魔理沙の体が地面と激突する前に箒は握られたまま浮遊し、そのまま彼女の体をも浮かしてしまう。
 
 てっきり地面とぶつかるかと思っていた少年はその光景に息を呑み、その場から動けなくなってしまう。
 やがて宙に浮いた魔理沙は重力に従ってゆっくりと着地し、両足に穿いた靴が芝生すらない地面を踏みしめる。
 そうして自分と同じ地上にまで降りてきたところで、ようやく少年は魔理沙の顔を間近で目にする事が出来た。
 白い肌に金髪、そして青い瞳というこの近辺では特に目立っているとは言える特徴は無い。
 しかし、トンガリ帽子にエプロンドレスという時代遅れも甚だしい格好と葉裏腹にその顔は中々綺麗であった。
 もしも然るべき教育や作法を学べば、どこに出しても恥ずかしくない令嬢になれるかもしれないだろう。 

 そんな場違いな事を考えつつも、突然現れた魔理沙に対し身動き一つできない少年に魔理沙はほくそ笑んだ。
「へへっ?私が身投げをするとで思ってたのかい、ソイツは甘い見通しだったな坊主」
 思わず目をそむけそうになった自分をからかっているのか、魔理沙は凶暴さが垣間見える笑みを浮かべている。
 その言葉にハッと我に返った少年は、目の前の少女に見覚えがある事を思い出した。
 忘れもしない、二日前の夜…。思わぬ大金を手に入れるキッカケを作ってくれたあの三人組の一人に彼女がいた事を。
 
「お前…まさか僕の事忘れてなかったのかよ?」
 僅かに足を動かして後ずさり始める少年に、魔理沙は笑みを浮かべたまま「それはこっちのセリフだぜ」と答える。
「てっきり忘れられてたかと思ってたが、案外覚えてくれているようで助かるよ」
「何が助かるんだよ?…それはそうと…イヤ、もしかしなくてもやっぱり僕からあの金を取り戻そうとするんだろ」
「それ以外何があるんだ?茶会でも開いて「あの時はしてやられましたなー」って笑いあうつもりだったのかい?」

253 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/11/30(木) 23:14:59 ID:u1PouLhI
 後ずさる少年についてくかのように、彼女も一歩一歩ゆっくり前へ進んで彼に近づいていく。
 少年は腰に差していた杖を手に取り、対する魔理沙も懐へと手を伸ばす。
 両者の距離は一メイル。魔法を放とうとしても近すぎる為に、呪文を詠唱している間に杖を取り上げられてしまうだろう。
 
 互いに睨み合う状況の中、魔理沙の方へと勝利の天秤が傾いている。
 その事を相手も知っているのか、箒片手の魔理沙は一歩一歩確実に少年の方へと近づいていく。
 対する少年も杖を向けたまま後ろへと下がり、いつ呪文を唱えればいいか様子を窺っている。
 キッと目を細めて自分を睨み付ける彼の姿に、どうやら抵抗する気はあるのだと察した彼女は笑顔を崩さぬまま話しかける。
「まぁ私も子供相手に暴力をふるうつもりは無いさ。…盗んだ金を全額返してくれるのなら穏便に済ませるぜ?」
「は!そんなの誰が信じるかよ。どうせ俺を衛士たちの所に連れてって牢屋に放り込むんだろう!」
「んぅ〜まぁ…大人しくしてくれないのなら連れてく必要はあるかな?…ただし、私と一緒にいた二人の元へな」
 未だ強気な少年の文句に魔理沙はそう返して、次いで意地悪そうな笑みを浮かべて「それでもいいのか?」と聞いた。

「そこら辺の衛士よか、あの二人に詰め寄られる方がずっと怖いぜ?…それでも、言う事聞くつもりは――――…なさそうだな」
 ルイズと霊夢の前に引っ立てればさぞや壮絶な事になるだろうと想像して、ついつい笑みを浮かべてしまった魔理沙は、
 それでも尚抗う態度を見せる少年を見て、これは一筋縄ではいかないと感じた。
「当り前だろ!あんな大金滅多に手に入らないんだ、そう易々と返してたまるかよ」
 杖を構え直してそう叫ぶ少年に、魔理沙は自分の頬を小指でかきつつ「はぁ…」と溜め息をついた。
「ソイツは参ったなぁ〜、私としてはあまり乱暴はしたくないんだぜ?…疲れるし、一々小言を投げつけてくる奴もいるしな」
 その顔に苦笑いを浮かべつつそんな事を言う魔理沙に、少年は「だったら見逃してくれよ」と強気な態度そのままに言う。
 当然ではあるが魔理沙は首を横に振って拒否の意を示し、懐に入れていた左手から小瓶を一つ取り出しながらも言葉を返した。

「無理な相談だな。ここで運よく再会してしまった以上、お前さんは私に捕まるしかないんだぜ?」
 中に何が入ってい目のか分からない魔理沙の手の小瓶に目を向けつつ、少年はジッと身構え続ける。
 魔理沙も相手がやる気だと察したのか、彼女もまた身構えて相手の出方を窺おうとした…その時であった。
 自分の後方―――外界を隔てている共同住宅の方から聞き慣れぬ激しい音が聞こえたのは。
 まるで錆びついて動かなくなっていた扉を力押しで開けた時の様な、何が破損した時の様な妙に心臓に悪い音。
 思わずその音が何なのか気になった魔理沙は何事かと振り返ってしまい、そして呟く。

「…何だこりゃ?」
 彼女の視線の先に見えたのは、微かな土煙を上げて地面に倒れたばかりの小さなグレーチングがあった。
 共同住宅の壁の下部にある排水溝の蓋であったろうそれが取り外されて、地面に転がっていた。
 鉄でできたそれはずっと昔に取り付けられて以降放置されていたのか、黒錆に覆われている。
 魔理沙はそれを一瞥した後、すぐに排水溝の方にも視線を向ける。
 グレーチングで誰かが入らないよう蓋をされていた排水溝の中は、闇で満たされている。
 大きさからして子供が誤って入ってしまう心配はなさそうだが、何故か魔理沙の心に不安が生まれてくる。

 別に闇が怖いわけではない。問題は何故急に大きな音を立ててグレーチングが外れたかにあった。
 少なくとも、ここへ辿り着いて少年と対峙した時にはまだ蓋はついていたし、外れる気配もなかった筈である。

254 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/11/30(木) 23:16:10 ID:u1PouLhI
 しかし、突然の事に目を丸くしていた魔理沙の姿は少年にとってまたとないチャンスを与えてしまう。
 相手は急に外れた排水溝の蓋を気にしており、ほんの少しだが自分は視界から外れている。
 戦いに関して少年は素人であったが、これを逃げられるチャンスとして大いに有効活用する事はできた。
 彼は今いる位置から数メイル先にあるもう一つの道へと、ゆっくり近づいていく。
 抜き足、差し足、忍び足…と煉瓦造りの地面を靴底で滑るようにして音を立てずに移動しようとする。
 クッ!」
「あ!おい
 しかし、思っていた以上に魔理沙の耳が良かったことを彼は知らなかった。
 喧騒が遠くから聞こえる寂れた広場で微かに聞こえる足音に気が付いたのか、魔理沙が再び少年の方へと顔を向けたのである。
「………、待てコラ!?」
 気づかれた!少年が悔しそうな表情を浮かべて走り出し、魔理沙が逃げる相手に叫んだのはほぼ同時であった。 
 咄嗟に左手に握っていた小瓶を振り上げて投げようとした彼女よりも、走る少年の方に軍配が下る。
 魔理沙に攻撃される前に何とか道へと入った彼は、そのまま一気に路地裏を駆けていく。

「んぅ…、畜生!このまま逃がしてちゃあ私の名が廃るってもんだぜ」
 対する魔理沙もわざわざ追い詰めたというのに、自分の不注意で逃がしてしまった事に納得がいかなかった。
 視線を外した時には、てっきり魔法で攻撃してくるだろうと思っていただけに、何故か無性に悔しかったのである。
 振り上げたままの小瓶を懐に戻した魔理沙は、箒は使わずそのまま走って少年を追いかけようとした。
 幸いまだそんなに遠くへは行っていないだろうし、足が速いのなら箒を使って空から捕まえてしまえばいい。
 
 未だ勝機あり、そう考えている魔理沙も少年と同じ道へと入ろうとした―――その時であった。
 丁度道の出入り口の地面から、彼女が想像していないような謎の物体が現れたのは。

「―――な…ッ!?」
 突然の事に思わず二メイル程前で足を止められた魔理沙は、驚きながらもその物体を凝視する。
 それはまるで、地面より下――彼女の足下を流れている水道から出て来たかのような液体の体を震わせている。
 形はまるで子供が造ったようなお地蔵さんみたいで、横にやや太い棒状の体を持つ黒いスライムと言えばいいのであろうか。
 更に液体状で黒色…と聞いただけで何やら人体には良くなさそうな手なのは一目瞭然であった。
 全長はほぼ魔理沙と同じであるが、常時不安定な体を大きく揺らしているためにうまく大きさを目測できない。

 これだけの特徴でも十分に不気味であったが、それ以上にその物体の不気味さを引き立てているのが゙両目゙であった。
 魔理沙の顔がある位置に合わせるかのようにして、彼女の頭ほどの大きさのある黄色い球体が驚く彼女を見つめている。
 時折ギョロギョロと動いてはいるが、それは目というにはあまりにも無機質であり、目では無いと否定するには位置が変であった。
 その目と思しき二つの黄色い球体はじっと魔理沙を見据え、液体の体を震わせている。

――――何だ、コイツは?
 一時的に少年の事を頭の隅に追いやった魔理沙が、冷や汗を流して呟く前に、
 その黒いスライム状の物体は、呆然と立ち尽くすしかない彼女へと跳びかかったのである。

255 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/11/30(木) 23:17:16 ID:u1PouLhI
 しかし、突然の事に目を丸くしていた魔理沙の姿は少年にとってまたとないチャンスを与えてしまう。
 相手は急に外れた排水溝の蓋を気にしており、ほんの少しだが自分は視界から外れている。
 戦いに関して少年は素人であったが、これを逃げられるチャンスとして大いに有効活用する事はできた。
 彼は今いる位置から数メイル先にあるもう一つの道へと、ゆっくり近づいていく。
 抜き足、差し足、忍び足…と煉瓦造りの地面を靴底で滑るようにして音を立てずに移動しようとする。
 クッ!」
「あ!おい
 しかし、思っていた以上に魔理沙の耳が良かったことを彼は知らなかった。
 喧騒が遠くから聞こえる寂れた広場で微かに聞こえる足音に気が付いたのか、魔理沙が再び少年の方へと顔を向けたのである。
「………、待てコラ!?」
 気づかれた!少年が悔しそうな表情を浮かべて走り出し、魔理沙が逃げる相手に叫んだのはほぼ同時であった。 
 咄嗟に左手に握っていた小瓶を振り上げて投げようとした彼女よりも、走る少年の方に軍配が下る。
 魔理沙に攻撃される前に何とか道へと入った彼は、そのまま一気に路地裏を駆けていく。

「んぅ…、畜生!このまま逃がしてちゃあ私の名が廃るってもんだぜ」
 対する魔理沙もわざわざ追い詰めたというのに、自分の不注意で逃がしてしまった事に納得がいかなかった。
 視線を外した時には、てっきり魔法で攻撃してくるだろうと思っていただけに、何故か無性に悔しかったのである。
 振り上げたままの小瓶を懐に戻した魔理沙は、箒は使わずそのまま走って少年を追いかけようとした。
 幸いまだそんなに遠くへは行っていないだろうし、足が速いのなら箒を使って空から捕まえてしまえばいい。
 
 未だ勝機あり、そう考えている魔理沙も少年と同じ道へと入ろうとした―――その時であった。
 丁度道の出入り口の地面から、彼女が想像していないような謎の物体が現れたのは。

「―――な…ッ!?」
 突然の事に思わず二メイル程前で足を止められた魔理沙は、驚きながらもその物体を凝視する。
 それはまるで、地面より下――彼女の足下を流れている水道から出て来たかのような液体の体を震わせている。
 形はまるで子供が造ったようなお地蔵さんみたいで、横にやや太い棒状の体を持つ黒いスライムと言えばいいのであろうか。
 更に液体状で黒色…と聞いただけで何やら人体には良くなさそうな手なのは一目瞭然であった。
 全長はほぼ魔理沙と同じであるが、常時不安定な体を大きく揺らしているためにうまく大きさを目測できない。

 これだけの特徴でも十分に不気味であったが、それ以上にその物体の不気味さを引き立てているのが゙両目゙であった。
 魔理沙の顔がある位置に合わせるかのようにして、彼女の頭ほどの大きさのある黄色い球体が驚く彼女を見つめている。
 時折ギョロギョロと動いてはいるが、それは目というにはあまりにも無機質であり、目では無いと否定するには位置が変であった。
 その目と思しき二つの黄色い球体はじっと魔理沙を見据え、液体の体を震わせている。

――――何だ、コイツは?
 一時的に少年の事を頭の隅に追いやった魔理沙が、冷や汗を流して呟く前に、
 その黒いスライム状の物体は、呆然と立ち尽くすしかない彼女へと跳びかかったのである。

256 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/11/30(木) 23:19:38 ID:u1PouLhI
以上で88話の投稿は終了です。
次の投稿はまたもや大晦日になりそうかもです。
それではまた、来月末にでもお会いしましょう。ノシ

257 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/12/26(火) 19:24:25 ID:LRwniKvA
お久しぶりです、焼き鮭です。すっかり遅くなってしまいました投下を行います。
開始は19:28からで。

258 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/12/26(火) 19:28:41 ID:LRwniKvA
ウルトラマンゼロの使い魔
第百六十話「ガリアの叫び」
死神
破滅魔虫カイザードビシ
最強合体獣キングオブモンス
巨大顎海獣スキューラ
骨翼超獣バジリス 登場

 ロマリア対ガリア。人と人の戦争を食い止めるべく、アンリエッタは周囲の反対を振り切り、
アニエス一人だけを連れて“敵国”に交渉に赴くという無謀染みた冒険に出た。今のガリアは
何が起こるか分からない危険地帯。しかしアンリエッタたちは意外なほどに何の障害にも遭わず、
ジョゼフとの会談に臨むことが出来た。
 そしてアンリエッタが一週間も掛けて纏め上げた、ガリアの停戦を引き出す切り札となる
書類の束を読み上げたジョゼフは、次のように唱えた。
「すごい提案だな。ハルケギニア列強の全ての王の上位として、ハルケギニア大王という
地位を築く。そして、他国の王はそれに臣従する……。ロマリアを除いて」
「ええ。ロマリア教皇聖下におかれては、我らにただ“権威”を与える象徴として君臨
していただきます」
「その初代大王に、余を推薦すると書かれているが、まことかね?」
 その問い返しに、アンリエッタは即座に肯定した。
 これがアンリエッタの導き出した交渉案。ジョゼフがエルフと手を組んだり怪獣を駆使
したりしているのは、究極的には世界の覇権を握りたいから。ならば実際に握らせてやろう
ではないか、とアンリエッタは考えたのだ。目的を達成させてしまえば、ジョゼフはエルフや
怪獣の力など必要としなくなるだろう。だからこの申し出の引き換えとして、エルフたちと
完璧に手を切らせる。そうすればロマリアの“聖戦”もストップだ。
 またアンリエッタは、実際のジョゼフは“無能王”という蔑称とは程遠い頭脳の人間で
あることを悟っていた。せっかくの世界の頂点の座を失うような軽挙妄動には出るまい。
そこまで計算しての交渉であった。
 この前例などある訳がない交渉案には国内の誰もが猛反対したものだが、聡いマザリーニだけは
称賛した。そして肝要のジョゼフもまた、素直に感心していた。成功だ、とアンリエッタは手ごたえを
感じていた。
 の、だが……。
「んー、だがな。その提案にはのれぬのだよ。残念ながらね」
 ジョゼフからの返答に、アンリエッタたちは衝撃を受けた。その衝撃は、続くジョゼフの
言葉で更に大きくなる。
「余がただの欲深い男なら……一も二もなくあなたの提案にのったであろうな。だがな、
そうではない。おれは別に世界など欲しくはないのだよ」
「どういう意味ですか?」
 背筋に嫌な汗が垂れるのを感じながら、それでも不安に押し潰されてしまいそうな己を
鼓舞しながら聞き返すアンリエッタ。と、その時、
『ホッホッホッ! 実に愚かな小娘です。ジョゼフ陛下のお心を欠片も察しないで、見当
はずれも甚だしい交渉を携えてのこのことやってくるのですから!』
 いきなり虚空から、罵倒の言葉がアンリエッタに浴びせられた。アンリエッタとアニエスが
反射的にそちらを見上げると、いつの間にか空中に怪しい人影が、あぐらをかいたような姿勢で
漂っていた。
 右手が槍のように尖っている、人のようで明らかに人間ではない異形の身体に紫色の袈裟
一枚を纏っている。ハルケギニアにはない概念の、オリエント的な装いはアンリエッタたちの
目には新鮮であった。
 あの怪人は何なのか。少なくともエルフではない。ではジョゼフと組んでいる宇宙人か何かか? 
しかし、今までに見てきた宇宙人とは雰囲気が異なる。宇宙人たちの、己の力を過信した傲慢さは
同じく存在しているが……こちらを見下ろしている目つきが違う。
 あの眼差しに宿っているのは、傲慢さだけではない……こちらに対する侮蔑と、心の底からの
嫌悪の色がはっきりと見て取れるのだ。
「何者ッ!」
 警戒したアニエスが剣を抜き放とうとしたが、その瞬間ミョズニトニルンのガーゴイルが
飛びかかってきて抑えつけられてしまった。

259 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/12/26(火) 19:31:28 ID:LRwniKvA
「くッ……!」
 ジョゼフはその一連の流れがなかったかのように、宙に浮かぶ怪人に呼びかける。
「そう手厳しいことを言うな、死神よ。アンリエッタ殿の提示した条文は、普通ならば文句の
つけようのない正解だ。おれにもこれ以上は思いつかぬ。ただ……残念なことに前提が違っている。
それだけのことだ」
「前提……? あなたのおっしゃる前提とは何なのですか?」
 恐る恐るアンリエッタが問いかけると、ジョゼフはきっぱりと答えた。
「おれが望むものは、地獄だ。地獄が見たいのだよ、おれは」
「お戯れを」
「戯れではない。おれは嘘偽りなく、この胸を蝕んでやまぬほどの地獄が見たいのだ」
 アンリエッタの理解を超越するほどの内容を口にしながら、ジョゼフは部屋の端へと歩いていく。
「そういえばあなたはおれに、エルフと手を切らせたいようだが、実は向こうから既に見放されて
いるのだ。だからその点は達成している。だが……残念ながら、あなた方はおれがエルフと手を
組んでいるだけの方がまだ良かったと思うことだろう」
 そしてジョゼフが手に取ったのは、歪なトゲがびっしりと生えた赤い球。アンリエッタは、
その球から身体の芯が凍りついてしまいそうなほどの悪寒を感じ取った。
「もう十分な頃合いだろう。おれはおれの望む地獄を作り始めることにする。どうせだから
見物していきたまえ、アンリエッタ殿」
 歪な球を手にした、悲しいほどに空虚な表情の男はそのように唱えた。

 そうして起こったのが、ガリアの空を覆い尽くさんとばかりに広がった、いや今も広がり
続けているドビシの群れ。それから生まれたカイザードビシの軍団の、カルカソンヌへの襲撃である。
「グギャアーッ! グギャアーッ!」
 カルカソンヌに現れたカイザードビシは一度に三体! 単眼と膝に備わった眼球から怪光線を
放ち、街を攻撃して人々を追い立て回す。
「うわあああぁぁぁぁぁッ!」
 カイザードビシの攻撃から必死に逃げ惑う人間たち。そこにはロマリア軍やガリア軍の
区別はない。怪獣、いやジョゼフにとって、人間の所属など最早意味を成していないのだ。
「くッ、何てことになっちまったんだ……」
 地獄に塗り替えられていくカルカソンヌの光景を、才人たちはシルフィードの背中の上で
歯ぎしりしながら目の当たりにしていた。才人はウルトラゼロアイを装着しようとウルティメイト
ブレスレットに手を伸ばしかけたが、それをゼロが制止する。
『待て才人! あの怪獣どもは使い走りに過ぎねぇ。ジョゼフを叩かないことには意味ねぇぜ!』
「けど、今襲われてる人たちはどうするんだ!?」
『そちらは私たちにお任せを!』
『俺たちがいることを忘れたのかよ、サイト!』
 才人の叫び声に応じるように、ミラーナイト、グレンファイヤー、ジャンボットの三人が
カルカソンヌの地に集結! すぐにカイザードビシに立ち向かっていく。
『行くぞ! ジャンファイト!』
『うらぁぁぁーッ!』
 三人はカイザードビシの一体ずつに肉薄し、打撃を加えて人間たちへの攻撃を食い止めた。
幸いなことにカイザードビシのパワーはそれほど高くなく、ミラーナイトたちならば容易に
押し切れる程度のレベルであった。
 しかしカイザードビシの腹部が開いたかと思うと、牙の生えた不気味な触手が伸びてきて
ジャンボットとグレンファイヤーの首に巻きついた!
「ピィ――――――ッ!」
『ぬぅッ!?』
『うげぇッ!』
 首を締めつけられて悶絶する二人だったが、触手は放たれたミラーナイフによって断ち切られる。

260 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/12/26(火) 19:34:04 ID:LRwniKvA
『大丈夫ですか!?』
『助かった、すまない……!』
『もう油断しねぇぜ! とっとと決めてやらぁッ!』
 これ以上戦いは長引かせないと、ミラーナイトたちは必殺技を一斉に繰り出す。
『シルバークロス!』
『ジャンミサイル!』
『グレンスパーク!』
 三人の攻撃がカイザードビシ一体ずつに入り、瞬時に木端微塵にした!
『はッ、どんなもんだい!』
 と勝ち誇るグレンファイヤーであったが……彼らが敵を撃破した直後に、空のドビシの
群れからいくつかの塊が降ってきて、それらが新しいカイザードビシを三体形成した!
「グギャアーッ! グギャアーッ!」
『ん何ぃ!? 追加とかアリかよ!』
『こんな調子では、いくら倒してもキリがないぞ!』
 焦りを見せるジャンボット。カイザードビシ一体が出来上がるのにドビシが数百体も必要
なのだが、群れは少なく見積もってもその百倍以上で形成されているのだ。
『くっそ!』
 グレンファイヤーが先に群れから倒してしまおうと空にグレンスパークを飛ばしたが、
群れの一部に一瞬穴を開けただけだった。数が多すぎて、彼の炎でも焼き尽くすことが
出来ないのだ。
 これではどう考えても、ミラーナイトたちが力尽きる方が先である。
『……ですが、やる他はありません!』
 それでもミラーナイトたちは戦意をかき立てて、カイザードビシを食い止める。
「みんな……!」
 仲間たちの苦闘ぶりを目の当たりにして胸を痛める才人。これをどうにかするには、やはり
事態の根源たるジョゼフを止める以外にない。
 シルフィードにジョゼフの元へ急行してもらおうとしていたのだが、意外にも向こうから
才人たちの方にやってきた。
『あのフネ! あそこにアンリエッタ姫さんの気配があるぜ! ジョゼフもそこだ!』
 ゼロが告げたのだ。見れば、空の彼方よりガリア軍の小型フリゲート艦がカルカソンヌへと
飛んできていた。
「よし! シルフィード、頼んだぜ!」
 すぐにフネへと接近していこうとした才人たちだったが……フリゲート艦から禍々しい
赤い閃光が瞬いたかと思うと、カルカソンヌにカイザードビシではない新手の怪獣が三体、
どこからともなく出現した!
「キイイィィッ!」
「キ――――――――!」
「ヴォオオオオオオオオオオ!」
 深海魚に四足が生えたような怪獣と、骨の翼を生やしたカマキリ型の怪獣。そしてこの二者の
特徴を腹部と背面に持った、最も巨躯の大怪獣。かつて破壊衝動に取り憑かれた悪童たちが想像し、
願望実現機の力で創造してしまった凶悪な怪獣たち、スキューラとバジリス、そしてキングオブモンスである!
「何!? 新手かッ!」
 目を見張る才人たち。新たに出現した怪獣三体は、早速カルカソンヌの人間たちに対して
猛威を振るい出す。
「キイイィィッ!」
「キ――――――――!」
「ヴォオオオオオオオオオオ!」
 スキューラが突進して立ち並ぶ建物を薙ぎ倒し、バジリスが光球を吐いて街の一部を破壊。
そしてキングオブモンスが地面をなぞるようにクレメイトビームを吐き、これが当たったものを
等しく粉砕していく。
「うわあああぁぁぁぁぁぁぁ―――――――!」
 怪獣たちの猛攻に、全滅の危機に瀕する人間たち。しかしミラーナイトたちはカイザードビシに
足止めされているので、彼らを救うことは出来ない。

261 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/12/26(火) 19:38:43 ID:LRwniKvA
「くッ……! 好き勝手な真似しやがって……!」
『才人! ここは俺が行くぜ!』
 奥歯を噛み締める才人にゼロがそう申し出た。
『お前はジョゼフの方を倒してくれ! なるべく早くな!』
「分かった! 頼んだぜ、ゼロ!」
『そっちもな!』
 才人の腕からウルティメイトブレスレットが光となって離れ、光から変じたウルトラマンゼロが
キングオブモンスの軍団に飛び掛かっていく!
「セェェェアッ!」
「ヴォオオオオオオオオオオ!」
 燃え盛るウルトラゼロキックが引き起こした爆炎が、三体の怪獣を纏めて吹っ飛ばした。
しかしキングオブモンスたちはすぐに身を起こし、狙いをゼロへと移す。
「ヴォオオオオオオオオオオ!」
「キイイィィッ!」
「キ――――――――!」
 キングオブモンスはスキューラとバジリスを引き連れてゼロに襲い掛かっていく。対する
ゼロもゼロスラッガーを両手に握り、怪獣たちの間に飛び込んで同時に三体の相手を開始した。

 フリゲート艦の甲板では、ジョゼフが赤い球を手の平の上にして、ガーゴイルに抑えつけ
られているアンリエッタを相手に自慢するように語っていた。
「素晴らしいものだろう、この赤い球の能力は。これはどんなものであろうと、望むものを
自由に出してくれるのだ――残念ながら、死人はよみがえらなかったがな――。死神が与えて
くれた摩訶不思議なアイテムでな、これでおれは怪獣の軍団を次々と呼び出して利用していた、
という訳なのだよ」
 しかしアンリエッタは、内容が半分ほども耳に入っていなかった。天と地に広がる、
シティオブサウスゴータの惨劇を再現しているかのような怪獣地獄を眼下にして、唇を
わななかせながらジョゼフに問いかける。
「あなたは、同じ人間の命をこうも簡単に蹂躙しようとして……心が痛まないのですか?」
 ジョゼフは呆気なく答えた。
「それが困ったことに、父に買ってもらったおもちゃのフネを池で失くした時の方が、よほど
心が痛んだわ。そうそう、シャルルと何度競争させたか知らんが、ついぞおれは一度も勝てなかったな」
 人命をおもちゃに喩える。その心理は、アンリエッタの理解の範疇をはるかに超えていた。
そしてそれを語るジョゼフの空虚な表情と瞳に、絶望を通り越して哀しさすら覚えた。
 一方で虚空では、姿を隠している死神がジョゼフを見下ろしながらほくそ笑んでいた。
『あの赤い球を使いこなし、なおかつ正気を保っているとは、やはり見込み通りの男だ。
奴を上手く利用すれば、我々の望みを達成することも容易い……!』
 死神はジョゼフを正気と形容したが、果たしてどこまでも虚ろな眼をした男が、正気と
呼べるのか否か……。
 と、その時である。フリゲート艦の上空を、防護のガーゴイルの軍団を突っ切って
飛んできたシルフィードが横切り、そこから才人が甲板へと躍り出たのである!
「おおおおおおッ!」
 才人は甲板へ飛び移りながらディバイドランチャーを乱射し、アンリエッタを囲むガーゴイルを
撃ち砕いた。助け出されたアンリエッタはすぐに着地した才人の後ろに回って、ジョゼフたちから
距離を取る。
「姫さま、大丈夫ですか!?」
「わたくしのことは構わずに、早くあの男を止めて下さい!」
 ルイズたちは応援のロマリアのペガサス騎兵とともに、空中のガーゴイルたちを相手取って
才人の頭上を守っている。今ジョゼフを討ち取れるのは才人だけだが、ジョゼフはまだ数多くいる
ガーゴイルによって守られている。
 しかし才人は数の差などにひるみはしない。
「了解しました!」

262 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/12/26(火) 19:40:46 ID:LRwniKvA
 ディバイドランチャーからデルフリンガーに持ち替えた才人に対し、ミョズニトニルンは
甲板のガーゴイルを全て向かわせる。
「行け! 奴を仕留めろッ!」
 だが才人の剣さばきの速度はガーゴイルをはるかに上回り、瞬く間にガーゴイルを両断して
全滅させた。
「お前の武器はなくなったみたいだな」
 これ以上ジョゼフの援護をされないようにと、ミョズニトニルンから倒そうとする才人。
だがしかし、
「なッ!」
 才人は今しがた切り裂いたガーゴイルたちが、粘土細工のように切断面がくっついて
立ち上がっていく光景を目の当たりにする。
 ミョズニトニルンが勝ち誇るように告げた。
「このガーゴイルはただのガーゴイルじゃない。水の力に特化させたんだよ。どれだけ切り
裂こうが砕こうが、無駄というもんさ」
 いくら破壊しても復活してしまうのなら、ディバイドランチャーも弾の無駄である。才人は
デルフリンガーを盾に、ガーゴイルの攻撃を耐えるしかなくなる。
「くッ……!」
「どうした! それがガンダールヴの限界か!?」
 と叫ぶミョズニトニルンの語気には、才人に対する憎悪と嫉妬の色が織り交ぜられていた。
 彼女は、固い絆で結ばれている才人とルイズの関係を強く妬んでいた。自分とジョゼフの
間には、奇怪な死神などという邪魔者がいて、ジョゼフはより強い力をくれるそちらの方に
構ってばかり。そうでなくとも……ジョゼフは自分のことを……。
「武器を扱う程度した能のないお前如きがジョゼフさまに楯突こうなど片腹痛い! ここで
無様な姿を晒せぇッ!」
 絶叫しながらガーゴイルを操るミョズニトニルンだったが――その瞬間、軽やかな銃声と
ともに腕に痛みが走った。
 才人が隠し持っていた、ウルトラ警備隊の麻酔銃であるパラライザーで撃ったのだ。防戦に
なっていたのは、ミョズニトニルンの油断を誘うのが目的だったのだ。
「お生憎さま。こっちの世界の武器には、こんなものもあるのさ」
「うッ……」
 たちまちミョズニトニルンの身体から力が抜け、その場に崩れ落ちた。それと連動して、
ガーゴイルたちが倒れていく。ミョズニトニルンの操作がなければ動かないようだ。
 ミョズニトニルンを無力化した才人は、今度こそジョゼフと相対する。
「やあ。ガンダールヴ」
「あんたがジョゼフか。怪獣どもを止めてもらうぞ」
 今まで散々苦しめられながら、実際に顔を拝むのは初めてとなる、ガリアの黒幕。タバサと
同じ髪の色であり、容貌も芸術品のような美丈夫であるが、その顔つきは底が見えないほどの
空虚さに支配された男を、遂に才人は前にした。

263 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/12/26(火) 19:41:34 ID:LRwniKvA
以上です。
これだけの内容を書くのにどれだけ時間かかってるんだっていう。

264 名無しさん :2017/12/30(土) 20:30:43 ID:Dds3Ik6g
乙です。速さより質で書いたほうがいいと思いますよ

265 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/12/31(日) 18:12:13 ID:NmbP2FGk
ウルトラマンゼロの人、投稿お疲れ様でした

今晩は皆さん、無情力巫女さんの人です。
2017年最後である90話の投稿を始めたいと思います。
特に問題が無ければ、18時15分から開始します。

266 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/12/31(日) 18:15:07 ID:NmbP2FGk
 何事も、計画していた通りに事が進むわけではない。
 原因は様々あれど、たった一つの―――それこそ些細なミスで計画自体が破綻する事さえある。
 時にはそのミスが想定の範囲外という理不尽極まりない場所からやってくることも珍しくは無い。
 そういう時に大事なのは決して狼狽えず、慌てず、騒がない。冷静に事実を受け止め、対処するほかないのだ。


 あと一歩のところまで金を盗んだ少年を追い詰め、失敗した魔理沙もそうせざるを得なかった。
 想定の範囲外としか言いようの無い『動く外的要因』を、どういう風に対処すべきか考える為にも。
 例えその『動く外的要因』が――これまで見た事も無いような正体不明のスライム状の存在であったとしても、だ。


「―ッ!危ねッ…!?」
 驚きの渦中にあった魔理沙は、こちらに向かって跳びかかってくる黒いスライムを見て慌てて後ろへ避けた。
 それが正解だったのか、先程まで自分が立っていた場所にソイツが着地する。
 するとどうだろうか。ソイツはまるで柔らかい餅の様に平べったくなり、液状の体が左右に広がっていく。
 もしも横に避けていたらコイツの体に触れていたかもしれない。そう考えた魔理沙は己が運の良さに喜びたくなった。
 とはいえ今はそんな事をする余裕など当然なく、彼女はもしもの事を考えて更に数歩後ろへと下がる。
「畜生、あと一歩だったってのに…何だか良く分からんが、惜しい所で邪魔なんかしてきやがって!」
 着地を終えて、元の太い棒状の姿へ戻っていくソイツに悪態をつきつつ、魔理沙はスッと身構える。

 その左手には先ほど懐から出した小瓶があり、いつでも投げつけられるようにはしている。
 これを投げて瓶が割れれば即花火、瓶に詰めた『魔法』がいつでも作動する仕掛けだ。
 相手との今の距離は二メイル程度。ここから投げれば瓶の破片が飛んできて怪我をする心配も無い。
 魔理沙としては、折角良い所を邪魔してくれた謎の相手には是非とも自分の魔法をお見舞いさせてやりたかった。
 本当はあの少年の手前に投げ落として、綺麗な花火を見せつけると同時に気絶させるつもりでいたのである。
 それを邪魔されたからには、何としてでもあのどす黒く揺れる体の中に投げ込んでやろうと決めていた。
 距離も十分、威力は…きっと申し分なし。心配する事など何一つ無い。

 しかし…、魔理沙はすぐに左手の小瓶を投げつける事を躊躇ってしまう。
 黄色い目を輝かせながら、ゆっくりと地面に跡をつけて這ってくる正体不明の相手に彼女はゆっくりと後ろに下がっていく。
 後ずさる先に何もない事を確認しつつ、けれども近づいてくるヤツには細心の注意を払う事は忘れない。
 別に目の前で蠢く黒い液体の体や、爛々と輝く黄色い二つの目玉が怖いワケではなかった。
 問題は一つ。…あの液体の体の中で、上手く瓶が割れるのかどうかについてという事である。

 『魔法』を詰めた小瓶は、うっかり自分の懐の中で暴発しない分には丈夫であり、
 そこそこ力を入れて投げれば、瓶が割れ次第即座に発動する程度のデリケートさは持っている。
 しかし…あのいかにもヌメヌメとして、嫌な意味で柔らかそうな体の中では投げつけても爆発しないのでは…と考えていたのだ。
(あいつの足元?…に投げれば簡単なんだろうが、それじゃあ私の腹の虫が収まらないんだよなぁ)
 目の前の、良く分からない相手に勝つための最適な方法は既に分かっている。
 しかしそれは自分の望んだとおりのセオリーではなく、今の彼女からしてみればあくまでも゙勝つ方法゙の一つでしかない。
 望んでいる勝ち方は一つ、自慢の『魔法』を詰めこんだ瓶をあの怪物の体内で割らせて内部から思いっきり爆発させる事だ。
 少年を気絶させるだけの筈だったこの『魔法』で、あのスライムみたいな怪物を即席花火に変えてやろう。

267 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/12/31(日) 18:17:02 ID:NmbP2FGk
 その為にもまずは相手を見極め、どのような攻撃をしてくるのか探らなければいけない。
 突拍子も無く現れた敵の正体が何であれ、下手にこちらが先制を仕掛ければ何が起こるかわからない。
 魔理沙は一定の距離を保ちつつ、その間にもこちらへと近づいてくるスライム状の敵をじっくりと観察する。
 黒く半透明の体の中には内臓らしきものは見えず、唯一不透明の目玉は爛々と黄色い光を放ちながらこちらを睨む。
 なめくじの様に地面を這いずっている為か、まるで絞りきれてない雑巾の様に地面を濡らしながら進んでいく。
 しかもそれは決して綺麗とは言い難い黒色の液体であり、正直ただの水とは考えにくい。
 恐らくあの不安定な体を構成できるだけの力は秘めているのであろうが、それがどういったものかまでは分からない。
 先ほど跳びかかってきた時の事を考えると、その見た目以上に重くはないのだろう。
 更に着地した際に不出来な煎餅の様に平たくなったのを見れば当然体も柔らかいのは一目瞭然だ。
「とはいえ、そこに変な弾力まであると…何か投げるのを躊躇っちゃうような…」
 
 魔理沙はそんな事を呟きながら、左の中で落とさない程度に弄っている瓶の事を思う。
 下手に相手に力を入れて投げて、それでポヨン!と跳ね返されてしまったらとんでもない事になる。
 自分の『魔法』で自滅する魔法使いなんて、それこそパチュリーやアリスに笑われてしまう。
 最も、ここにその二人はいないしそれを広める様な輩がいないのは幸いともいうべきか。
 とにかく、今やるべきことは相手の体がどれほど柔らかいのか探る事に決まった。
「と、なれば…早速調べてみるとしますか。…楽しい夕食まで時間は無さそうだしな」
 ひとまずの目標を決めた魔理沙は一人呟き、ひとまず左手の瓶を懐の中へとしまう。
 勿論後で使うつもりなのだが、今からするべきことを考えると元の場所に戻していいと考えたからだ。

 『魔法』入りの瓶をしまい戻した魔理沙は、サッと足元に落ちていた適当な大きさの石を拾う。
 持っていた瓶よりかはやや大きく、彼女が投げるには手ごろな大きさともいえよう。
 石を拾った魔理沙はスッと顔を上げて、近づいてくる化け物をその目で見据える。
 こりから自分が攻撃するという事も理解していないのか、間にナメクジの如き速度で近づいてくる。
「さてと…それじゃあまずはお試しの投球――ならぬ投石開始といきますか!」
 気合を入れるかのように一人そう叫んだ彼女は石を持つ手に力を込め、思いっきり怪物へと投げつけた。

 いつも『魔法』入りの瓶を投げる時と同じように、頭上へと投げられた一個の石。
 それは大きな弧を描き、まるでミニマムサイズの隕石の様に怪物の頭上へと落ちていく。
 相手は落ちてくる石に気付いたのか、ギョロリと黄色い目玉を動かして頭上を仰ぎ見ようとする。
 しかしそれよりも先に、魔理沙の投げた石ころがトプン…!と小さな音を立てて体の中に入ったのが早かった。
 まるで池の中に放った時の様に石は怪物の体の中を、ゆっくりと沈んていく。

「成程、投げつけたものが弾かない程度には柔らかいのか……って、ん?」
 望んでいた通りの結果が分かった事に魔理沙は頷こうとしたところで、怪物の身に異変が起きているのに気が付く。
 魔理沙の手で石を体の中に取り込まされた相手が、その黒い体をプルプルと震わせ始めたのである。
 まるで皿に乗ったプリンが揺れているかのように、全体を微かに振動させて何かをしようとしているのだ。
「お、やられたままじゃあ面白く無いってか?」
 まだどんな手を使ってくるか分からない相手を、魔理沙は箒を両手に持って槍の様に構えて見せる。
 その直後、怪物の胴体辺りまで沈んでいた石が沈むのをやめて、奇妙な事にその場で浮き始めたのだ。

268 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/12/31(日) 18:19:01 ID:NmbP2FGk
 これから何をするのかと心待ちにしていた魔理沙を前に、怪物は更に体を震わせる。
 いよいよ来るか!と魔理沙はいつでも動けるように態勢を僅かに変えた――――その瞬間であった。
 ヤツの胴体で浮いていたあの石が、大きな音を立てて弾丸のように発射されたのである。

「おぉッ―――…ットォ!」
 さすがの魔理沙もこれには少し驚いたものの、回避できない速度と距離ではなかった。
 いつでも動けるようにしていた彼女はスッと右に避けると、その横を結構な速度で石が通り過ぎていく。
 数秒と経たぬうちに、背後から硬いモノが勢いよく割れる音が、広場へと響き渡る。
 石がどうなったのか振り返るまでもないと、魔理沙は攻撃をしてきた相手をジッと見据える。
「コイツは驚いたぜ?てっきり跳びかかるだけしか能が無いと思っていたぶん、余計にな」
 そう言って彼女は足元に落ちていた別の石ころを更にもう一つ拾うと、先ほどと同じく怪物へと投げつける。

 今度は相手も投げられた石を見ていたものの、のろまな奴一匹だけでは避けようがない。
 まるでついさっきの光景を写し取ったかのように石は体の中へと入り込み、そして胴体の辺りで止まる。
 そして魔理沙に再び狙いを定めると、今度は体を震わせずにそのまま静止した状態で石を発射してきた。
「ほれキタ…―――ッと!」
 今度は驚くことなく、彼女は余裕をもってその石ころをかわしてみせる。
 再び背後から石の砕ける音が聞こえ、それと同時に魔理沙はニヤニヤと笑って見せた。
「てっきり脳無しかと思いきや、即座に反撃する程度の賢さはあるみたいだな…けれど」
 私を相手にしたのが間違いだったな?彼女はそう言って、そのまま怪物の左側へ向かって走り出す。
 その魔法使いな見た目とは裏腹に速い足を持つ彼女を、怪物は目だけでゆっくりと追いかけてくる。

 やがて数秒と経たぬうちに、魔理沙は怪物の背後へと回り込む事が出来た。
 相手も自分の背後にいると察知したのか、体を動かそうとしているのかプルプルと体を震わせ始める。
「へっ!今更動いたって―――はぁッ!?」
 遅いぜ?そう言おうとした魔理沙は次の瞬間、またもや驚かされる事となった。
 何と反対側にあるヤツの目玉が、あの黒い体の中を通って浮きあがってきたのだから。
 これには流石の魔法使いも、面喰わざるを得ない程の事であった。

「おいおい、いくら骨が無いからってソレは反則ってヤツじゃないのか?」
 僅かに一瞬の間に向きを変えた相手に魔理沙が悪態をついたところで、一足先にヤツが攻撃を開始した。
 とはいっても先ほどの石ころ飛ばしとは違い、最初に現れた時に披露してみせた跳びかかりであったが。
 それでも思いっきり体を震わせ、バネの用に跳んでくるどす黒いスライム状の怪物と言うだけでも相当ショックである。
 こんなのがもし夜の森の中で出くわして跳びかかってきたのなら、誰もが腰を抜かすに違いない。
 しかし御生憎ながら、霧雨魔理沙はその手の怪異にはすっかり慣れてしまっている身であった。

「そんなワンパターン、私に通用するかよ…――ッと!」
 相手が跳びかかると同時に、魔理沙は両手で構えていた箒に力を込めてから勢いよくジャンプする。
 するとどうだろう、彼女の力に応えて箒は魔法を吹き込まれ、そのまま彼女をぶらさげたまま浮かんでいく。
 ほぼ同時に、跳びかかった怪物の体に彼女の靴先が僅かにかすったものの、渾身の跳びかかりをかわすことができた。
 先ほどまで魔理沙がいた場所に着地したソイツは平べったくなった体を元に戻したところで、頭上から声が掛けられる。

269 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/12/31(日) 18:19:33 ID:NmbP2FGk
 これから何をするのかと心待ちにしていた魔理沙を前に、怪物は更に体を震わせる。
 いよいよ来るか!と魔理沙はいつでも動けるように態勢を僅かに変えた――――その瞬間であった。
 ヤツの胴体で浮いていたあの石が、大きな音を立てて弾丸のように発射されたのである。

「おぉッ―――…ットォ!」
 さすがの魔理沙もこれには少し驚いたものの、回避できない速度と距離ではなかった。
 いつでも動けるようにしていた彼女はスッと右に避けると、その横を結構な速度で石が通り過ぎていく。
 数秒と経たぬうちに、背後から硬いモノが勢いよく割れる音が、広場へと響き渡る。
 石がどうなったのか振り返るまでもないと、魔理沙は攻撃をしてきた相手をジッと見据える。
「コイツは驚いたぜ?てっきり跳びかかるだけしか能が無いと思っていたぶん、余計にな」
 そう言って彼女は足元に落ちていた別の石ころを更にもう一つ拾うと、先ほどと同じく怪物へと投げつける。

 今度は相手も投げられた石を見ていたものの、のろまな奴一匹だけでは避けようがない。
 まるでついさっきの光景を写し取ったかのように石は体の中へと入り込み、そして胴体の辺りで止まる。
 そして魔理沙に再び狙いを定めると、今度は体を震わせずにそのまま静止した状態で石を発射してきた。
「ほれキタ…―――ッと!」
 今度は驚くことなく、彼女は余裕をもってその石ころをかわしてみせる。
 再び背後から石の砕ける音が聞こえ、それと同時に魔理沙はニヤニヤと笑って見せた。
「てっきり脳無しかと思いきや、即座に反撃する程度の賢さはあるみたいだな…けれど」
 私を相手にしたのが間違いだったな?彼女はそう言って、そのまま怪物の左側へ向かって走り出す。
 その魔法使いな見た目とは裏腹に速い足を持つ彼女を、怪物は目だけでゆっくりと追いかけてくる。

 やがて数秒と経たぬうちに、魔理沙は怪物の背後へと回り込む事が出来た。
 相手も自分の背後にいると察知したのか、体を動かそうとしているのかプルプルと体を震わせ始める。
「へっ!今更動いたって―――はぁッ!?」
 遅いぜ?そう言おうとした魔理沙は次の瞬間、またもや驚かされる事となった。
 何と反対側にあるヤツの目玉が、あの黒い体の中を通って浮きあがってきたのだから。
 これには流石の魔法使いも、面喰わざるを得ない程の事であった。

「おいおい、いくら骨が無いからってソレは反則ってヤツじゃないのか?」
 僅かに一瞬の間に向きを変えた相手に魔理沙が悪態をついたところで、一足先にヤツが攻撃を開始した。
 とはいっても先ほどの石ころ飛ばしとは違い、最初に現れた時に披露してみせた跳びかかりであったが。
 それでも思いっきり体を震わせ、バネの用に跳んでくるどす黒いスライム状の怪物と言うだけでも相当ショックである。
 こんなのがもし夜の森の中で出くわして跳びかかってきたのなら、誰もが腰を抜かすに違いない。
 しかし御生憎ながら、霧雨魔理沙はその手の怪異にはすっかり慣れてしまっている身であった。

「そんなワンパターン、私に通用するかよ…――ッと!」
 相手が跳びかかると同時に、魔理沙は両手で構えていた箒に力を込めてから勢いよくジャンプする。
 するとどうだろう、彼女の力に応えて箒は魔法を吹き込まれ、そのまま彼女をぶらさげたまま浮かんでいく。
 ほぼ同時に、跳びかかった怪物の体に彼女の靴先が僅かにかすったものの、渾身の跳びかかりをかわすことができた。
 先ほどまで魔理沙がいた場所に着地したソイツは平べったくなった体を元に戻したところで、頭上から声が掛けられる。

270 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/12/31(日) 18:21:07 ID:NmbP2FGk
「惜しかったなスライム野郎!外れたから景品は無しだぜー!?」
 その声にギョロリと黄色い目玉を頭上へ向けると、空に浮かぶ箒にぶら下がる魔理沙がこちらを見下ろしていた。
 まるで鉄棒にぶらさがる子供の様な姿はどことなく愛嬌はあるが、その顔に浮かべる笑みは年相応とは思えぬほど好戦的である。
 彼女のその獰猛な笑みに怪物は何かを感じ取ったのか、再び跳びかからんとその体を震わせ始めた。
「おぉっと、それ以上ピョンピョンされたら厄介だから…手短に決着といこうじゃないか!」
 
 そう言いつつ彼女は空いた左手で懐を探り、先程しまっていた『魔法』入りの小瓶を取り出して見せる。
 まだ完成したばかりで試したことの無いそれを割らないよう注意しつつ、彼女はゆっくりと確実に狙いを定めていく。
 狙うは勿論頭部…と思しきところ。あの黄色い目玉が前と後ろを行き来している場所だ。
 無論、そこが弱点と断定しているワケではないが…今の所思いつく限りではそこしかない。
 距離は十分、上から投げつけるので上手く行けば体内に投げ込んだ瓶が割れる事も不可能ではないだろう。
(狙いは充分…だけど、…はてさて割れなかったときはどうしようかな?……まぁ、『奥の手』はあるんだけどな)
 魔理沙は万が一失敗した時の事を考えて、帽子の中に仕舞った自分の『奥の手』の事を思い出す。
 まさかこんな相手に使うとは思っていなかったが、体内で割れなかったときの事を考えれば…コイツに頼らざるを得ないだろう。

 とはいえ、極力使わないという選択肢は元から魔理沙の頭には無かった。
 もしもうまく相手の体内に『魔法』入りの瓶が入って、それでも尚割れなければ『奥の手』の出番が来る。
 そうなったのなら、帽子の中しまっている『奥の手』には怪物の介錯役を務めて貰うだろう。
 花火の導火線を付ける為の火としては少し派手すぎる気もするが、多少派手でなければ面白く無い。
 
―――何せ寂れた場所で華やかな花火を上げるんだ、火も程良く派手じゃなければつまらんだろう?

 魔理沙は心中でそう呟くと瓶を持つ手を振り上げて、勢いよく眼下にいる怪物目がけて投げつけた。
 グルグルと空中で回り、中に入った『魔法』を掻き混ぜながら瓶は怪物の脳天目指して落ちていく。
 相手も投げつけられた瓶の存在に気付いて対策を取ろうとするが、いかんせん鈍いが為に間に合わない。
 魔理沙の渾身の力を込められて投げつけられた瓶は、見事そのまま怪物の脳天から体内へと入っていった。
「よっしゃ!…って、おっとと…!」
 思わずガッツポーズを取ろうとした魔理沙は、バランスを崩し損ねて箒を離しそうになってしまう。
 慌ててバランスを取り戻したところで、彼女はハッと眼下にいる敵がどうなったのかを確認する。
 
 脳天から『魔法』入りの瓶が入り込んだ敵は、意外な事に混乱しているようであった。
 先程の様に即座に反撃はしてこず、体の中に入り込んだモノが気になるのかしきりに体を震わせている。
(まさか混乱しているのか…?脳も内臓もなさそうだってのに、一体どうなってるんだ…?)
 単純な存在かと思っていた敵の意外な一面に驚きつつ、魔理沙は相手の体内にあるであろう『魔法』の事が気になった。

271 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/12/31(日) 18:23:02 ID:NmbP2FGk
 いつもの通り割れてくれているのなら、いまごろ体内からドカンとめでたい花火が上がる筈である。
 それだというのに、一行の『魔法』が発動しないという事は…何かしらのトラブルが起こったという事なのだろうか?
(まぁ、予想はしてたけどな。―――だからその分、)

―――備えはしてあるものなんだぜ?
 心の中でそう呟いた彼女は、空いている右手で頭に被っているトンガリ帽子の中へと手を突っ込む。
 そして数秒と経たぬうちに、彼女はその中から今の自分を形作る要素の一つであろうマジック・アイテムを取り出した。

 黒い八角形の形をしたソレは、今の霧雨魔理沙にとってなくてはならいなモノであり本人が「これのない生活は考えられない」とまで語る代物。
 それは小さきながらも一個の炉であり、山一つを消し飛ばす程の高火力から、一日じっくり煮込めるとろ火まで調節可能。
 マジック・アイテムの名はミニ八卦炉。例え小さくとも、道教の神太上老君が仙丹を煉る為に使用した炉の名を借りた道具。
 幻想郷においても、この炉から放たれる最大火力に勝るものはそうそういないであろう。

 彼女は久方ぶりに持った気がする無機物の相棒に微笑むと、すぐさま八卦炉の中心にある穴を眼下の怪物へと向けた。
 敵は動揺から立ち直ったのか、体内で浮かぶ瓶を送り返そうとしているのが見て取れた。
 黄色く光る目玉をこちらに向けて、すぐにでも攻撃しようとその身を震わせている。
 恐らく先ほどの石ころと同じように、体内に入り込んだ瓶をそのままこちらに射出する気なのだろう。

 あの結構な速度で放たれたら最期。スライム状ではない自分の体で瓶が割れて…ドカン!
 空中で箒にぶら下がったままと言う姿勢のまま花火に巻き来れてしまうのであろう。
 本来なら慌てる所なのだろうが、魔理沙は相手に得意気な笑みを浮かべたまま回避する素振りすら見せない。

 ――――何故なら、既にこの場での勝敗はついてしまっているのだから。

「物覚えは良さそうだったが、せめてもう少し小回りが利くような体であるべきだったな?」
 勝者の笑みを浮かべる魔理沙は眼下の怪物にそう言って、火力を調節したミニ八卦炉から一筋の光が放たれた。
 それはまるで暗雲と暗雲の僅かな隙間を通り抜けた太陽の光よりも、眩しく真っ直ぐな光である。
 正しく目標へと一直線に進む光の線―――レーザーは矢よりも、そして弾丸よりも早く怪物の体を射抜いた。
 レーザーは怪物の体である液体をものともせず、先に彼女が投げ入れていた瓶を勢いよく貫いて見せる。
 火力を抑えられているとはいえ、ミニ八卦炉から放たれたレーザーは貫いた瓶をそのまま砕きさえした。
 そして中に入っていた『魔法』は瓶という安全装置を無くし、その効果を発揮して見せる。

 ミニ八卦炉のレーザーに射抜かれてから五秒と経たぬうちに、怪物の体内から光が迸る。
 まるで何かが生まれ出て来るかのようにヤツの液体の体が歪に、そして不気味に膨らみ始めていく。
 やがて迸る光が輝きを増してゆき、人が来なくなった広場を朝日のように照らし始める。
「やったぜ!…って喜びたいところだが、こりゃ私もヤバいか…?」
 未だ箒にぶら下がったままであった魔理沙は、強くなっていく光に身の危険を感じ始めた。
 こうして新しい『魔法』の実験をする時は、しっかりと距離をとる事が怪我一つせずに実験を済ませる秘訣である。
 しかし今は状況が状況故、かなりの近距離で『魔法』を発動せざるを得なかったが、それが仇となったらしい。

272 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/12/31(日) 18:25:04 ID:NmbP2FGk
 魔理沙は手に持っていたミニ八卦炉を帽子の中に戻してから、慌てて高度を上げようとする箒に力を込める。
 しかし…今更になって慌てた彼女が退避するよりも先に、怪物の体内で『魔法』が発動するのが速かったらしい。
 持ち主をぶら下げたまま箒がグングンと上空へと進もうとした直後、怪物を中心に凄まじい『閃光』が広場を覆った。
 無論、退避できなかった魔理沙はその『閃光』を、身を以て味わうことになってしまう。
「ッ――――!」
 自分の周囲を一瞬で包み込む『閃光』に目の前が真っ白になった彼女は思わず悲鳴を上げてしまう。
 だが不思議な事に、直接自分の喉から声を振り絞ったというのに自分の耳がその声を聞けなかったのだ。
 まるで悪魔との契約で聴覚を奪われてしまったかのように、自分の耳が音を拾わなくなっている。

 それに気づいた魔理沙は思わず混乱してしまったのか、一瞬箒を掴む手の力を緩めてしまう。
 結果、彼女は高度十メイルという高さで箒を手放し――――成す術も無く落ちていく。
 自分が落ちているという事を理解しながらも、目も見えず耳も聞こえないが為に受け身をとる事すら不可能だ。
 聞こえなくなった耳を両手で押さえ、口から情けない悲鳴を上げて彼女は落ちるしかない。
 後数秒もすれば、普通の魔法使いの体は硬いレンガ造りの地面に激突する事だろう。
 いかに弾幕ごっこで鍛えているとはいえ、普通の人間である彼女にとってそれは致命傷となる。
 
 何も見えず、何も聞こえず、自分たちのお金を奪った少年を捕まえるのを妨害した相手の正体すら知らず。
 ただとりあえず倒したというだけで、このまま彼女は地に落ちてその命を散らしてしまうのか?
、地面まで後五メイル。人々から忘れ去られた王都の一角で墜落しようとした魔法使いの体は――――

「全く、アンタって時々こんな命取りなミスをやらかすわよね?」
 そんな言葉と共に上空から飛んできた霊夢の手によって、ギリギリの所で抱きかかえられた。 
 まるで鷹の急降下のように上空から街の一角へと入り、後三メイルという所で魔理沙を助け出したのである。
 流石空を飛ぶことに関しては十八番とも言える彼女だからこそ、このような荒業はできないであろう。
 仮にこの場に鴉天狗がいたとしても、人間の黒白を助ける道理何て微塵も無いのであるから。

 そのまま着陸する飛行機の様にローファーの底が地面を擦り、周囲に土煙をまき散らしていく。
 大切にしていた靴の底が擦られていく音と振動に、霊夢は何が何だか分からぬ魔理沙をキッと睨み付ける。
「ちょっと変な気配を感じてきて見たら…これで靴が駄目になったら弁償してもらうんだからね!」
「え…!?あれ?ちょっと待て、誰だ?私を抱きかかえた…じゃなくて、くれたのは?」
 どうやらまだ何も見えていないせいか、自分が誰かに抱きかかえられているという事実を受け止めきれていないらしい。
 瞼を閉じたままの頭をしきりに動かしながら、まだ聞こえの悪い耳で必死に周囲の音を拾おうとしていた。
 やがて時間にして十秒未満ほどであったものの、ようやく霊夢の靴底は地面を擦るのをやめた。
 まき散らしていた土煙は風に流れて霧散し、双月が薄らと見えてきた夕暮れの空似舞い上がっていく。

 ようやく自分の体が止まった事に、霊夢は思わず安堵のため息をついた時であった。
 タイミングよく、聴覚と視覚が若干戻ってきた魔理沙が聞き覚えのため息を耳にしてそちらの方へ顔を向けたのは。
「んぅ…?あれ?その溜め息…とぼんやり見える顔って――――もしかして、霊夢なのか?」
「わざわざアンタなんかを急降下してまで助けてやれるモノ好きで阿呆な人間なんか、私ぐらいしかいないでしょうに」
 何となく状況を理解しかけている魔理沙に、霊夢はやや自虐を加えながら返事をした。
 薄らと開き始めた瞼をゴシゴシと擦った黒白は、ジッと彼女の顔を凝視する。
 一体何なのかと訝しんだ霊夢であったが、それから数秒してから魔理沙は「おぉッ!」と急に声を上げた。
 何がおぉッ!よ?と突っ込む巫女を半ば無視しつつ、魔理沙もまた自分の足で地面に立った。

273 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/12/31(日) 18:27:03 ID:NmbP2FGk
 まだ足元がおぼつかないものの、ようやく目が見え始めてきたので転ぶことは無かった。
 そのまま無事に『着地』できた霧雨魔理沙は、珍しく霊夢に笑みを浮かべて彼女に礼を言った。
「どうしてお前がここにいるのか知らんが…とりあえず助かったぜ霊夢」
「それはこっちのセリフよ。何で掃除サボって情報収集してたアンタが、こんな人気の無さすぎる所にいるのかしら」
 気のよさそうな笑みを浮かべる黒白に対し、紅白の巫女は腰に手を当てて不機嫌そうな表情を浮かべている。
 まぁ確かに、一応助ける余裕があったとはいえ下手すれば二人仲良く地面に激突していた可能性があったのだ。
 流石の魔理沙もそれはしっかり理解しているのか、霊夢に「まぁそう怒るなって」と宥めつつも理由を話そうとする。

「いやなに、ちょっと色々ワケがあって得体の知れないヤツと戦ってたんだが…って、ありゃ?」
「どうしたのよ?」
 ワケを話しながら、怪物が立っていたであろう場所へと目を向けた魔理沙が怪訝な表情を浮かべ、
 彼女の表情の変化に気付いた霊夢も、そちらの方へと視線を向けつつも尋ねてみる。
「いや…私の『魔法』をぶつけてやった怪物の姿はどこにも見当たらなくて…もしかして、木端微塵に吹き飛んだのか?」
「怪物…?………!それってアンタ、もしかして―――――」
 彼女の口から出た『怪物』という単語に、霊夢がハッとした表情を浮かべた――その時であった。
 二人の左側から、ここにはやや無縁であろう何かが水の中に落ちたであろう音が聞こえてきたのは。
 若干エコーが掛かっているかのようなその水音に、彼女たちはハッとそちらの方へと視線を向けた。

 そこにあったのは、子供一人分通るのでやっとな排水溝であった。
 灯りのついてない窓が幾つも見える共同住宅の壁に沿って作られているそれは、夜よりも暗い闇を入り口から覗かせている。
 蓋であった錆びたグレーチングは近くに転がっており、何者かの手で取り外されたのであろう。
 水音が聞こえてきたのはその排水溝からであり、音の大きさかして結構大きなモノが落ちたのかもしれない。
「排水溝?…っていうかアレ、蓋開いていない?」
「蓋?―――…っ、しまった!」
 霊夢がそう言うと魔理沙は何か気づいたのか、慌ててそちらの方へと走り出した。
 突然の行動に軽く目を丸くして驚きつつも、急に走り出した魔理沙の後をついていく。

 排水溝の傍まで走り寄った魔理沙はそこで身をかがめると、帽子の中からミニ八卦炉をスッと取り出した。
 そして火力をある程度弱目に調節しながら、発射口の方を排水溝の中へと向ける。
 すると、とろ火よりやや強めにした炉から微かな火が出て、闇に包まれていた排水溝の入口周辺を照らす。
 どうやらこの共同住宅の真下には下水道が通っているのか、数メイルほど下に薄らと地下を流れる川が見える。
 魔理沙は炉の火をあちこちへ向けて何かを探しているが、目当てであったモノは見つからなかったようだ。
 排水溝から見える下水道に動くモノが無いと分かると、軽い舌打ちをしてから炉の火を消して立ち上がった。
「あぁ〜…くっそ、逃げられちまってたか」
「何に逃げられたのよ?その言い方だと、単なる人間相手じゃあなさそうって感じだけど」

274 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/12/31(日) 18:29:06 ID:NmbP2FGk

 悔しそうな表情を浮かべて呟く魔理沙に、霊夢がそんな事を言ってくる。
 勘の良さゆえか、自分が明らかな人外を相手にしていたのを言い当てられた事に魔理沙は苦笑してしまう。
「はは…お前って本当に勘が鋭いよな?まぁその通りなんだがな」
「やっぱりね。こんな人が多い街のど真ん中で゙アイツら゙と同じような気配を感じたからもしかして…って思ったのよ」
 気恥ずかしそうに頷く魔理沙に対し、霊夢は真剣そうな表情を浮かべてそう言った。
 霊夢の言ゔアイツら゙という言葉の意味を魔理沙は理解できなかったのか、一瞬だけ訝しむも…
 すぐに彼女の言いたい事が分かったのか、その顔にハッとした表情を浮かべると「マジか」とだけ呟いた。
 彼女の「マジか」という問いに対し霊夢は無言で頷くと、ある意味この街では聞きたくなかった単語をアッサリと口にした。

「んぅ、まぁ実物を見てないから断定はできないけど。多分、アンタが戦ったのはキメラ…なのかもしれないわ」
「えぇ、マジかよ?っていうか、こんな街中でか」
「私も信じたくはないわよ。…けれど、あの気配はタルブで感じたものと酷似していたわ…微妙に違うところもあったけど」
 流石に驚かざるをえない魔理沙に、霊夢も頭を抱えたくなりながらも肯定せざるを得なかった。
 いかに博麗の巫女といえども、まさかこんな街中であの怪物たちが放つ『無機質な殺意』を感じるとも思っていなかったのだから。
 陽も暮れて、夜のとばりが降りようとしている寂れた広場の真ん中で、紅白の巫女はため息をつくほかなかった。 

 
 それから時間が幾ばくか過ぎ、すっかり夜の帳が落ちた時間帯。
 王都の喧騒はブルドンネ街からチクトンネ街へと移り、まだまだ遊び足りないという人の波もそちらへと移っていく。
 その街に数多くある酒場でも名の知れた『魅惑妖精』亭の二階で、ルイズは思わず叫び声を上げそうになってしまう。
「な…!何ですって!?キ…ムッ」
「バカ、声が大きいわよ」
 聞かされた話の内容に驚いて叫びそうになった彼女の口を霊夢は自らの手で軽く塞ぎ、何とか大声を挙げずに済んだ。
 試しにチラリと階段から一階の様子を見てみると、何人かがルイズの声に気付いてそちらの方へと視線を向けている。
 しかし、どうせ酔っ払いの戯言だと思ってすぐに視線を戻し、酒を楽しんだりウェイトレスの仕事に戻っていく。
 ひとまずこちらへ来る者がいないという事だけ知ると、大声をあげそうになったルイズの方へと視線を向けた。

「ただでさえ今は人が多いんだし、誰が聞き耳立ててるか知れないんだから気を付けて頂戴よ」
「わ、分かったわよ。でも、急に口を塞ごうとするから思わずアンタの親指を噛み千切りそうだったわ」
『娘っ子、それは冗談としちゃあ笑えないね。…ま、そうなってたら面白いっちゃあ面白いが』
 二人のやり取りに壁に立てかけられたデルフも混ざりつつ、店中の人気が一階へと集中している二階の廊下には彼女たち意外誰もいない。
 魔理沙は一階で自分たちを待っていたシエスタの相手をしつつ、料理を頼みに行ってくれている。
 今は人がいないといっても何時誰かが来るかも分からないために、あの屋根裏部屋で話の続きと共に頂くことにしたのだ。
 ルイズと霊夢の尽力で一通り綺麗になった今なら、ワインの上に舞い上がった埃が落ちる事もない。
 一方で、自分たちとの夕食を楽しみにしていたシエスタへの言い訳を考える必要もあった。
 彼女が今夜の夕食に霊夢たちを遊びに誘う事を知っていたルイズは、変な罪悪感を覚えずにはいられない。

 何せ霊夢と魔理沙の二人が戻ってくるまでの間、自分と一緒に食べずに待っていたのだ。
 余程自分たちと食事を共にして、ついで遊びに誘いたいという彼女の気持ちをルイズはひしひしと感じてしまっていた。
 最も、ルイズまで待っていたのは単に先に食べてたらあの二人に鬱陶しい位に恨まれると思っていたからであったが。

275 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/12/31(日) 18:31:05 ID:NmbP2FGk
 ともかく、そんな彼女への言い訳を魔理沙に押し付けたルイズは霊夢から先ほどの事を聞いたばかりであった。 
「でも…信じられないわ。まさか、よりにもよってこの王都にあんなのが潜伏しているだなんて…」
「信じようと信じまいと、そこにいるという事実は変わりないわ。現に、私だってアイツラの気配は感じてたしね」
『成程なぁ…だからマリサの帰りを待ってた時に、急に血相変えて飛び出したってワケか』
 半ば事実わ受け止めきれてないルイズに、霊夢は自分がキメラ特有の気配を感じたと証言し、
 そこへルイズと一緒に御留守番する羽目になってしまったデルフが相槌をうった。
 魔理沙がキメラと思しき存在と戦い始めて数分経った頃に、霊夢は彼らから漂う気配を察知していたのである。
 既に掃除を一通り済まして、客が入り始めた一階で彼女の帰りを待っていた時であった。
 
「あの時は驚いたわ。急に眼を鋭く細めたかと思えば「ちょっと外行ってくる」とか言って、出て行っちゃったんだから」
「まぁあん時はまさかこんな街中で…って驚いてたから、ワケを話すヒマも無かったわね」
『だからオレっちは置き去りにされてたというワケかい。理由は分かったが、ちょっと悲しいぜ』
「まぁでも…その時にはもう退散していたしアンタを持って行っても使い道はなかったわ」
 ワケも話さず店を飛び出していった霊夢が今更ながらワケを聞き、納得するルイズとデルフ。
 自分を持って行ってデルフに対し容赦ない返事をしてから、ふと右手を左袖の中へと入れた。
 
 暫し袖の中を探ってから目当ての物を掴んだのか、一枚のメモ用紙を取り出してみせた。
「そもそも、魔理沙が戦っていうキメラらしき怪物が…これまた掴みどころのないヤツでねー…ホラ」
 霊夢はそのメモ用紙に描かれている何かを一瞥した後、ルイズにも見えるように紙を差し出す。
 どうやらその怪物のスケッチらしく、何やら黒くて丸い物体がこれまた黄色くて丸い目玉を爛々と輝かせている。
 その隣には主役のキメラと比べてやや丁寧に書かれた魔理沙がおり、一見してキメラとの大きさを比べられるようになっていた。
 しかし、その魔理沙がやけに丁寧に描かれていた為にどちらがスケッチの主役なのかイマイチ分からなくなってしまう。
「なにコレ?これがあの…タルブや学院近くの森で目にしたのと同じ仲間ってことなの?」
 霊夢が見せてきた魔理沙画伯のキメラの姿に、ルイズは思わず拍子抜けしたかのような表情を見せてしまう。
 キメラらしき怪物が出たと聞いて、てっきりタルブで対峙したようなおっかない化け物かと思っていたに違いない。
  
『まぁ待てよ娘っ子。こういう得体の知れない相手っていうのは、案外手強いもんなんだぜ?』
「…あぁそういえば、魔理沙が「私の『魔法』を一発喰らっただけで逃げやがって…」とか言ってたような」
『マジか。―――…って、あの黒白の瓶詰め『魔法』相手じゃあ誰だって逃げるぞ』
 勝手に肩透かしを喰らっているルイズを戒めるデルフの言葉を霊夢がさりげなく否定し、デルフがそれに突っ込みを入れる。 
 誰もいない二階の廊下で魔理沙の帰りを待ちつつ、二人と一本は魔理沙が相手にしたキメラの話を続けていく。
「それにしても…コイツ手足も口もなさそうよね?それって、生物としてはどうなのかしら」
「確かにね。…魔理沙が言うには、なめくじみたいに地面を這いずったり体を飛び跳ねさせて移動してたらしいわ」
『成程ねぇ。なめくじには手足何てねえし、壁まで這える移動手段の一つとしてはたしかに持って来いだな』
 霊夢の口からきいたキメラの移動手段を想像して、ルイズは思わず身震いしてしまう。

 魔理沙程の身の丈がある黒い手足の無い怪物が、黄色くて大きい目玉を輝かせて地面を這いずりまわっている。
 そして獲物を見つけるといざ狙いを定めて、その丸く不定型な体を跳ねさせて、頭上から襲い掛かってきて…。
 成程、見た目は以前相手にしたキメラ程刺々しさはないが、不気味さだけはこちらの方に軍配が上がってしまう。
 このキメラを造り上げであろう人間は生物学にも通用し、ついで人が不快や不気味に思う生物を造り上げる事に長けているようだ。
 ルイズは直接お目にかかれなかったキメラの動きを脳内で思い描いていると、ふと気になった箇所を見つけた。

276 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/12/31(日) 18:33:02 ID:NmbP2FGk
「そういえば…コイツの内臓ってどうなってるのかしらね?見た感じ内臓や心臓はおろか、脳すらなさそうなんだけど…」
「魔理沙が言うにはそういうのは見当たらなかったそうよ。目玉だけが唯一の臓器だったらしいけど」
「はぁ?何よソレ、コイツ本当にキメラなの?」
 首を傾げるルイズの問いに霊夢があっさりと返事をすると、彼女は訝しんだ表情を見せる。
 そりゃそうだ、いかにキメラであろうとも自分たち普通の生き物と同じく体を動かす内臓器官がなければまともに生きる事すらできない。
 もしも目玉以外の臓器無しに行動できるのならそれは生物ではなく、それ以下の得体のしれぬ存在でしかない。
 そんな存在が今王都の何処かにいるのだとしたら―――ルイズは先ほどよりも強い身震いを起こしそうになってしまう。
 
 しかし、ルイズは敢えてそれを我慢し自分がこれから何をするべきなのかを考える事にした。
 恐怖に震えるのは後でいつでもできるし、何より自分にはキメラと戦うだけの力は最低限備わっている。
 ならば今は恐怖を押し殺し、怪物の退治の専門家である霊夢と今後の事について相談しなければいけない。
 心の中でそう決断したルイズは体をキュッと強張らせて、こちらに訝しんだ表情を向ける霊夢へこれからすべき事を伝える。

「ひとまず、この事を姫さまに報告しなきゃ駄目よね?王都の中に、あんな怪物がいるだなんて許されないわ」
 彼女の言うとおり、姿方は違えどタルブで猛威を振るった怪物と同種の存在がいるならば真っ先に報告すべきだろう。
 幸い今のルイズにはアンリエッタへ伝える方法を確立しているため、報告自体は簡単に行えるに違いない。
 しかし、これは自分の勘が冴えわたっている所為なのか、霊夢としてはそれはダメなような気がしたのである。
 いつもならルイズの決定に同意していたのだろうが、何故か今回だけは自分の勘が『それは危険だ!』と判断したのだ。
 だから彼女にしては珍しく気まずい表情を浮かべてから、ルイズにやんわりな返事をする。

「……うーん、確かに普通ならそうするんだけどね〜?今の私的にはもうちょっと様子を見た方が良いような気がするわ」
「どうしてよ?もしかしたら。何処かの誰かがこんなナメクジみたいなヤツにお触れたら取り返しがつかいのよ!」
 確かに彼女の言う通りであろう。相手が化け物ならば何時誰かに襲い掛かっても不思議ではない。
 ましてやここは人口密集地帯である王都。何処から出現しても、暫く動き回れば哀れな犠牲者見つける事も容易いだろう。
 それが自国の人間であるならば、尚更必死に訴えるのも無理はないだろう。同じ立場ならば寝る間も惜しんで捜し出し、退治するに違いない。
 だから霊夢としてもルイズの決定に賛成したいところであったが、長年鍛えてきた自分の勘が危険信号を出している。
 それを口にするのは少し難しかったものの、説明しなければルイズは納得しないだろう。
 だから霊夢はどう喋って良いか少し悩んだものの、頭の中で思いついた事を少しずつ口にしていく事にした。
 
「何でかは分からないけど、、今回急に現れたキメラと思しき怪物の出現は単なる一つの出来事じゃない気がするのよ」
「……?単なる、一つの…?」
 何を言っているのかイマイチ理解できないのか、急に喋り出した霊夢はルイズに怪訝な表情を向られてしまう。
 デルフもどう解釈すればいいのか良く分からないのだろうか、静観に徹している。
 口にした霊夢自身も自分が口にした言葉に頬を若干赤くしつつ、それでも説明を続けていく。
「まぁ、何て言えば良いのかしらね…ただ単純に、私達の刺客として放ったワケじゃあない気がするって言いたいワケ」
『!…成程、つまりあのキメラを操っているヤツとマリサとの出会いは、あくまで予想外だったってことか』
 ここで一人と一本は理解したのかルイズはハッとした表情を浮かべ、デルフはカチャカチャと嬉しそうに金属音を鳴らして喋る。
 ようやく自分の言いたい事を理解しかけてくれたと実感した霊夢は、更に喋り続ける。

277 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/12/31(日) 18:35:03 ID:NmbP2FGk
「まぁ、どちらかといえばマリサを襲ったのはあくまでおまけじゃないか…って気がするのよ。
 あくまでアイツを襲ったのは目的゙外゙であって、本来の目的はもっと別なんじゃないか…って私は思うの」

 霊夢の主張を聞いて、ルイズも少しだけ考え込んでしまう。
「目的の、外…つまり目的外って事よね?じゃあ本来の目的って何なのかしら」
「それが分からないから「気がする」って言っただけよ」
 まぁそれはそうか。霊夢の言葉にムッとしつつ納得すると、ルイズは手に持ったままのキメラのスケッチを今一度眺めてみる。
 手足の無い不出来なナメクジの様な形をしたキメラは、一体なぜ王都の中に現れたのであろうか?
 そして…タルブと同じならば誰がこのキメラを操り、そしてマリサへ襲い掛からせたのだろう。
 ルイズの脳裏に、タルブの戦いにおいて大量のキメラをけしかけてきた女、シェフィールドの姿が思い浮かぶ。

 額に虚無の使い魔の証拠であるルーンを刻まれ、自らの神の頭脳―――ミョズニトニルンを自称していた黒髪の白肌の怪女。
 もしかすればあの女も王都にいて、あわよくばキメラを用いて敬愛するアンリエッタの暗殺を目論んでいるかもしれない。
 そうであるのならばやはり、一刻も早く手紙を使って王女殿下に今回の事を報告する必要がある。
 頭の中で色々と想像してしまったルイズは、再び霊夢に報告するべきだという主張を提案した。
「まだ何もわかってないけれど、黙ったまましておくのもマズイ気がするわ。だからやっぱり、姫さまには報告だけでも…」
 ルイズの提案に、今度は霊夢も暫し口を閉ざして考えてみる。

 別に彼女の提案は至極真っ当なうえに正論であるし、何よりここは勝手知ったる幻想郷ではない。
 現に自分たちから金を盗んだ少年一人捕まえられていないのだ、何せ地の利は盗人側ににあるのだから。
 人里以上に迷宮じみた街の中でキメラを捜そうとしても、盗人同様一向に見つからない可能性がある。
 しかも相手は人の道理の通じぬ化け物だ。こちらがグダグダと探している間にヤツの餌食になる人が出てくるかもしれない。
 正直博麗の巫女としてこの手の怪物退治で他者の力を借りてしまうのは何かダサいような気もするが、
 地の利が無い場所での何の手がかりも無しに探し回るなら、確かに報告ぐらいならしておいた方が良いかもしれない。
 
 ザっと脳内でそう結論付けた彼女は、少々納得の行かない表情を浮かべつつも頷いて見せた。
「う〜ん…一番良いのは、私だけで原因究明とキメラ退治で決めたいのだけれど…何か起こったら手遅れだしね」
「え?それじゃあ…」
 困惑顔から一変、嬉しそうな表情を見せてくるルイズに「まぁ待ちなさい」と話を続けていく。 
「でもあくまで報告にしておいた方が良いわ。もしもキメラを操ってるのが、タルブで見た女だったとしたら…」
「…!下手に動けば何をしでかすか分からない…って事ね」
 霊夢の言葉に、ルイズは戦地となったタルブを縮小された地獄へと変えたシェフィールドの事を思い出す。
 キメラを手下として使ったとはいえ、それを指揮してトリステイン軍を襲わせたのは紛れも無く彼女の仕業だ。
  
 と、なれば…アンリエッタにそれを教えて街中に魔法衛士隊を派遣するよう事態にでもなったら…。
 そこから先の事を想像しそうになったルイズは慌てて妄想を頭の中から振り払い、否定するほかなかった。
 青ざめるルイズを見て彼女がどんな想像をしたのか察してか、デルフが金属音を立てながら余計な事を言い始める。

『相手は神の頭脳ことミョズニトニルンなうえにあんな性格だ、目的が何なのか分からんが大事にはなるかもしれん。
 …オレっちの経験から言わせりゃあ、あの手の輩はどんだけ犠牲が出ようとも目的が遂げられればそれで良いってタイプの人間さね』

278 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/12/31(日) 18:37:01 ID:NmbP2FGk
 恐らくこの場に居る中では最も最年長であるデルフの言葉は、割と冗談では済まない様な気がした。
 大量のキメラを用いて、タルブの人々や軍を襲ったあの女ならそれだけの事をしてもおかしくは無いだろう。
 デルフのアドバイスにルイズは恐る恐る頷くと、真剣な表情を見せる霊夢が話しかけてきた
「とりあえず手紙は送るとして…ひとまずは静観に徹して欲しいって書いておいた方がいいわね」
「確かにそうね…姫さまなら、人々の事を案じて結構な人数を動かしちゃうかもしれないし…」
 書くべきことは三つ。王都の中でキメラと思しき怪物と出会った事と、身の回りに気を付ける事。 
 そして相手に気取られぬように大捜索などは行わない事、ぐらいであろうか。
 後は街中で収集した情報と一緒に送れば良いだろうと、ルイズはこれからやるべき事を決めていく。

 とりあえず、手紙に関しては今夜中にでも書いて明日中に送った方が良いだろう。
 どういう風に書くのかはペンを手に取った所で考えればいいとして、一番時間が掛かるのは情報だ。
 結構な量を集めたのは良いが、自分の手で選別するかありのままの状態で送るかの二択を決めなければいけない。
 いきなりウンウンと悩み始めた自分が気になった霊夢を相手に、ルイズはどうすれば良いかと聞いた所、

「そんなの簡単じゃない。一々選んでたらキリが無いし、全部ありのままに送っちゃいなさい」

 …と物凄くアバウトで即決だが、非常に的確なアドバイスをしてくれた。
 それを聞いた後でルイズは「そんな適当に…」と苦言を漏らしたが、それでも霊夢は言ってくれた。

「多分、あのお姫様なら自分に対しての批判が書かれても健気かつ前向きにやっていけると思うわよ?
 なーんか一見頼りなさそう雰囲気は感じるけど、あぁいうタイプの人間って挫折や困難があればある程成長するかもね」

 何故か安心して頷けない様な言い方であったが、どうやら彼女なりにアンリエッタの事を褒めてはいるらしい。
 雑な感じで喋っているが、その表情が険しくないのを見るに霊夢は霊夢なりに姫さまの事は少なからず認めているのだろう。
 そう思っておくことにしたルイズは霊夢の提案にひとまず「考えてて置くわ」と返し、デルフの横に置いていた火かき棒を手に取った。
 主に薪を暖炉の中に入れる為の道具であるが、当然二階の廊下にそんなものはない。
 ルイズはいつも握っている杖よりやや太い火かき棒の持ち手を握りしめて、廊下の天井目がけて振りかぶった。
 そのまま空振りするかとおもった火かき棒はしかし、その先端部が天井についている小さな取っ手に引っ掛る。
 
 それを確認した後、火かき棒を握るルイズは腕に力を込めて火かき棒を下ろそうとする。
 当然先端部が取っ手に引っ掛ったままのそれが彼女の言う事を聞くはずはなく、彼女の腕力に抵抗する。
 しかしそれもほんの一瞬の事で、ルイズに力負けした火かき棒は天井の取っ手に引っかかったまま地面へと下りていく。
 すると取っ手を中心に天井が長方形の形に開き、そのまま二階の廊下へとゆっくり降りていく。
 たちまち天井に取り付けられていた仕掛け階段が、微かな埃と共に二人と一本の前に姿を現した。

 やがて廊下まであと数サントという所で取っ手から火かき棒を外したルイズは、左手でグッと階段を廊下に設置させる。
 ゴトン!というやや大きな音と共に隠し階段は無事展開が完了し、彼女たちの前に屋根裏部屋へと続く入り口が完成した。
 一人で展開を終わらせたルイズは右手の火かき棒を再び壁に立てかけると、まるで一仕事終えたかのように一息ついた。

279 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/12/31(日) 18:39:07 ID:NmbP2FGk
「ふぅ〜!…ランから火かき棒を渡された時はどうすりゃいいのよ…って思ったけど、案外私でもできるものなのね」
『いやいや、普通はお前さんほどの女子が一人でどうこうできるもんじゃねぇぞ』
「ってうか、その小さな体の何処にあんな重そうな階段を展開できる程の筋力があるのよ」
 良く考えれば凄い事をやってのけたルイズの言葉に、流石のデルフと霊夢も突っ込みを入れてしまう。
 これだけ立派な隠し階段だと、確かに大の大人でなければ満足に展開させる事はできないだろう。
 魔法を使うというのなら話は別になるが、知ってのとおりルイズはその手のコモン・マジックはできない。
 と、なれば自分の腕力だけが頼りになるが彼女ほどの女子では到底無理な事には違い無いはずである。
 それをいとも簡単にやってのけたルイズはやはり同年代の貴族達とは一味も二味も違うのだろう、主に体の鍛え方が。

 呆然とするしかないデルフと霊夢からの突っ込みに対し、ルイズは「失礼な事言うわね?」と腰に手を当てて怒ったように言った。
「こう見えても幼少期から乗馬やらアウトドアやったりと、そんじょそこいらの学生よりかは体を強いってだけよ」
 彼女の言う『アウトドア』というのは、ひょっとすればちょっとした『サバイバル』ではなかったのだろうか?
 霊夢がそんな疑問を抱くのを余所にルイズは一足先に階段へと二段ほど上がって、それから霊夢たちの方へと振り返る。
「とりあえず、後の話は夕食でも食べながらしましょう。いい加減、お腹も空いてきたしね」
「…まぁそうね。これ以上立ち話も何だし、私も色々と落ち着いて考えたい事があるし」
 ルイズの言葉に霊夢は何処か含みのある言葉を返しつつデルフを手に取り、彼女の後を続くように階段を上っていく。
 一瞬霊夢の口から出た『考えたい事』に首を傾げそうになったが、すぐに自分たちの金を盗んだあの少年の事だと察する。

 魔理沙が街中でキメラと戦う事になったキッカケの中に、その盗人の少年は出ていた。
 街中で別の人の財布を盗もうとしたところで、魔理沙が気づき、少年はその場を逃げ出したのだという。
 少年は必死に逃げ回ったものの、結局寂れた広場のような所で魔理沙は彼を追いつめたらしい。
 しかしタイミングが悪くキメラが現れ、それに隙を見せてしまったところあっさりと逃げられてしまったのだという。
 その後は話で聞いた通り怪物をひとまずは撃退したものの、結局少年は見逃してしまっている。
 結果的に窃盗犯を見逃すことにはなったが、危険な怪物を一時撤退に追い込んだ魔理沙の事は責められないだろう。
 最も、霊夢はそれを話す魔理沙に「もっと早く仕留めなさいよ」と愚痴を漏らしてはいたが。 

 きっとその事だと思ったルイズは、霊夢に話を合わそうとする。
「まぁ別に良いじゃない。…いや楽観視はできないけど、少なくともブルドンネ街にいるって証拠になるんじゃないの?」
「ん?…まぁそうなるんでしょうけど、だからといって隠れ家が分からない以上探すのは困難な事なのよ」
 先ほどアンリエッタに送る手紙の件で言ったように、霊夢にはまだ王都の構造をイマイチ把握できていなかった。
 街全体が大きすぎる為、空を飛んでも全体図を把握しにくいうえに上空からでは死角となる場所も多い。
 地の利は完全に盗人側にある故に、このままでは盗まれた金を持ち逃げされてしまうかもしれない。
 
 まるで残り時間のわからない時限爆弾ね。…霊夢が今の状況を内心で呟いた後、
 ルイズはあと一段で屋根裏部屋…という所で足を止めて、再び霊夢の方へと振り返って質問した。
「だからと言って、アンタの性分なら急に出てきた化け物を倒してたでしょう」
「…まぁね。だけど、魔理沙よりかは絶対に素早く仕留めれた自身はあるわよ」 
 何を今更…と言いたい質問に、霊夢はため息をつきつつそう答える。

280 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/12/31(日) 18:41:04 ID:NmbP2FGk
 もしも自分が魔理沙の立場ならば、確かに少年の身柄を確保するよりも怪物を退治していたであろう。
 ただ、彼女のように自分の『魔法』でヘマするようなバカなマネは絶対にしないという事だけは誓える。
 さっさと怪物を始末して、そのうえで逃げ切れると思い込んでいる盗人を今度こそ捕まえる事ができただろう。
 軽く頭の中でシュミレートしつつ、やはり失敗はしないだろうと確信した霊夢は、ここにはいない魔理沙への文句を口走ってしまう。

「大体、自分の『魔法』で九死に一生な体験する魔法使いなんて、恥ずかしいにも程があるわよ」 
「流石霊夢、人の痛いところを容赦せず針で刺すように突いてきやがるぜ」

 突然後ろから掛けられた相槌に一瞬硬直した後、霊夢はスッと振り返る。
 そこにいたのは、階段の上から見下ろせる二階の廊下からこちらを見上げる魔理沙の姿であった。
 所謂怒り笑い…というヤツなのだろうか、無理に作ったような苦笑いを顔に貼り付けている。
 右の眉がヒクヒクと微かに動いているのを見るに、どうやら自分の言葉は丸聞こえだったらしい。
 まぁそれで対して焦る必要も無く、振り返った霊夢は酷く落ち着いた様子のまま戻ってきた彼女の一声掛けた。
「あら、いたのね魔理沙」
「いやいや、いたのね…じゃないだろ、そこは普通焦るもんじゃないのか?」
 
 思いの外話を聞かれても焦らない彼女を見て、思わず魔理沙本人は突っ込んでしまう。
 二人のやり取りを一番上から見下ろしつつ、巫女に対する魔法使いの突っ込みにルイズは納得してしまう。
 普通他人の文句を呟いておいて、その本人が気づかぬ間に傍にいたのなら普通は謝るなり焦るなりするものだ。
 しかし霊夢の場合、そんな事など何処吹く風と言わんばかりに冷静でまるで自分は悪くないとでも言わんばかりである。
 まぁ実際、彼女の事だから特に気にしてもいないのだろう。自分よりもそれを察しているであろう魔理沙はやれやれと首を横に振った。
「全く、一階から細やかな夕食セット三人前を運んで来たっていうのに、文句を言われちゃあ流石の私でもたまらないぜ」
 そんな事を言う彼女の両手はお盆を持っており、その上には出来立てであろう湯気を立てる『細やか』な食事を載せている。

 店の窯で焼いたであろうパンに、レタスとトマトのサラダ。
 小さめのカップ入ったポテトポタージュと、メインに頼んでいたタニア鱒のムニエル。
 ちょっとしたディナーにも見えるが、『魅惑の妖精』亭ならこれだけ頼んでも店らに置いてある古酒一瓶分よりも安い。
 更に店では魚の保存があまりできない為に、魚料理となれば肉料理よりもお手頃価格で食べられる。
 ルイズが選び、魔理沙が運んできた料理を一通り見た後で霊夢がポツリと呟く。
「一汁二菜…ご飯じゃなくてパンだけど、まぁ中々良さげなチョイスじゃないかしら?」
「いちじゅうにさい…?まぁ美味しそうなのを選んでみたけど、私としてはデザートが欲しかったところね」
 聞き慣れぬ言葉に首を傾げつつ、財布の中の残金がそろそろ危うくなってきたのを実感してしまう。

 デザートが無い事を惜しむルイズの言葉を聞いた所で、ふと霊夢は気が付く。
「ん?…ちょい待ちなさい。そのお盆の上の料理、どう見ても二人分しか無いように見えるんだけど」
「ように見える…というよりも、二人分しか乗せてないぜ。このプレートだと三人分は乗らないしな」
 成程、魔理沙の言うとおりお盆は二人分のセットを乗せるだけで精一杯の大きさである。
 という事は、先に二人分だけ持ってきてから最後に自分の分を持ってくるのであろうか?
 その時であった、二階の廊下にいる魔理沙の背後へと近づく人影に気が付いたのは。
 一瞬誰?と思った霊夢とルイズはしかし、それが見慣れた少女であったという事がすぐに分かった。

281 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/12/31(日) 18:43:15 ID:NmbP2FGk
「わぁー!こうして夜中に階段を見上げると、いかにも秘密の隠れ家って感じがしますねー」
 魔理沙の背中越しに、隠し階段を見上げた黒髪の少女シエスタが目を輝かせて言う。
 その両手には魔理沙と同じくお盆を持っており、その上にはこれまた同じような料理が載っている。

「シエスタじゃない、まさかわざわざ魔理沙の事手伝ってくれてるの?」
「まさかって何だよまさかって?…まぁ、そのまさかなんだけどな」
 予想していなかったシエスタの登場にルイズは思わず声を上げ、魔理沙が代わりに言葉を返す。
 その後でシエスタはコクリと頷き、次いで前にいる魔理沙の横を通って隠し階段を上り始めた。
「流石に三人前の料理は一度に運べませんからね。…ついでだから、運ぶのを手伝う事にしたんですよ」
 流石学院でメイドとして働いているだけあってか、喋りながらもトレイを揺らすことなく屋根裏部屋へと上がってくる。
 それより少し遅れて魔理沙も階段を上り始め、暫し丈夫な隠し階段の軋む音が当たりに響く事となった。

 やがて一分もしない内に屋根裏部屋へと上がってきた彼女は、結構綺麗になった部屋の中を見て声を上げる。
 まだ部屋の端っこには若干埃が溜まっているものの、近づかなければそれが舞い上がる事もないだろう。
「へぇー、これってミス・ヴァリエールとレイムさん達で綺麗にしたんですか?思っていたよりも綺麗になってるじゃないですか」
「だろ?何せあれだけの埃やら色々なアレやらは、全部ルイズと霊夢が片付けてくれたんだぜ」
「何で掃除を一サントも手伝ってないアンタが誇ってるのよ」
 感心するシエスタに胸を張って説明する魔理沙にすかさず突っ込むルイズを余所に、
 デルフを足元に置いた霊夢は暫し屋根裏部屋の中を見回したのち、前から目をつけていた大きな木箱の方へと歩いていく。
 何が入っているのか分からないが、程よい重さのある長方形のそれは彼女一人でも楽に動かせる。
 埃も掃除の時に落として雑巾がけもしているので適当なシーツでも上から掛ければ、即席の長テーブルの完成である。
 最も、シーツはベッドに使っている物だけしかここにはないので完成に至ることは無いだろう。

 少し音を立てながらも、部屋の真ん中辺りにまで木箱を押した霊夢は一息つきながらもルイズ達に声を掛けた。
「ふぅ…魔理沙にシエスタ、悪いけどそのお盆の上の料理をこの上に置いて貰えないかしら」
「あ、はい!ただいま」
 霊夢からの要請にシエスタは慣れた様子で返事をし、次いで魔理沙も「はいよー」とついていく。
 二人が料理を配膳していく間に、霊夢はちゃっちゃとイス代わりになりそうな木箱を見繕う。
 といっても、既に掃除の時にある程度分けていたのためそこから適当なモノを選ぶだけである。
 これはルイズかな?と腰ほどの大きさしかない木箱を運ぼうとしたところで、そのルイズ本人の声が後ろから聞こえてきた。

「まさかとは思ってたけど、木箱を椅子やテーブル代わりにする日が来るだなんて…」
「ん?何なら床に直接腰を下ろして食べたかったの?」
「まさか、アンタじゃああるまいし」
 召喚して翌日以降、暫く目にした霊夢の食事姿を思い出しつつルイズは肩を竦めて言う。
 ある程度掃除したとはいえ、流石に屋根裏部屋の床に食説食器を置いて食事しようとは思わない。
 それならば、埃をしっかりと落として綺麗にした木箱をテーブル代わりした方がよっぽと衛生的である。
 霊夢もそれは理解しているのか、ルイズの言葉に「まぁそうよね」と同じように肩を竦めて言う。
「でも学院食堂の床よりは暖かそうじゃない」
「築ウン百年物のフローリングと、伝統ある魔法学院の食堂の床を比較しないでくれる?」
 霊夢の失礼な比較に文句を言いつつ、ルイズはシエスタたちがテーブルに置いていく料理を眺めてみる。

282 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/12/31(日) 18:45:05 ID:NmbP2FGk
 こんな繁華街の酒場の料理にしてはとても見栄えが良く、そして美味しそうなモノばかり。
 我ながら良いチョイスした…と思った所で、ふとルイズはある違和感に気が付いた。
 即席テーブルの上に並ぶ料理が、もう一人分あるような気がする。というか、ある。

「ちょっとシエスタ、何か料理が一つ…多い気がするんですけど」
「はい?あぁ、それ気のせいじゃないですよ。だって私の分の賄いもありますし」
 自分の問いかけに対しそう返したシエスタにルイズは「あぁ、そう…」と納得しかけた直後、「え?」と目を丸くさせた。
 少し慌てて、違和感を感じた場所へもう一度目を向ける。確かに、自分の頼んだメニューとは少しだけ違う。
 サラダとスープは同じだが、パンは雑穀パンでメインの魚料理はラグドリアンナマズのフライになっている。
 タニア鱒より安価なラグドリアンナマズは、フライにしてもムニエルにしてもおいしい魚だ。
 そんな場違いな事を考えているルイズを余所に、準備を終えたシエスタは笑みを浮かべてルイズに話しかけてくる。

「実は戻ってきたマリサさんから、屋根裏部屋で食べるって聞いて…それで私も御同席しようと思ったんです。
 最初はダメだって言われたんですが、ミス・ヴァリエールと先に御同席の約束をしていたと言ったら…まぁそれならといった感じで、はい」

 一切隠し事をしていないかのような純粋で、今は厄介な笑顔を浮かべて言うシエスタ。
 何がはい、なのか?心中でそんな事を思いつつもルイズは咄嗟に言い訳役を押し付けた魔理沙を方を見る。
 自分の名前が生えす他の口から出た所で配膳を終えたばかりであった彼女は、お盆片手に肩を竦めた。
 彼女の顔は苦笑いを浮かべており、いかにも「仕方なかった」と言いたい事だけは何となくわかった。
 そしてルイズ自身背後からひしひしと感じる霊夢のキッツイ視線に、魔理沙同様肩をすくめるほかない。

 シエスタは今の自分たちの状況を知らない、本当に無関係な一般市民だ。
 更に彼女が自分たちとの夕食の同席を求めたのは、キメラが現れたという話を聞く前の事。
 客観的かつ一般市民の目線から見れば、朝にしていた約束を勝手に破った非は当然こちらにある。
 かといってこの街に現れた怪物の事を話し、下手に巻き込ませる事など言語道断である。

「さて、料理も配膳し終えましたし…私、水差しとコップを一階から持ってきますね」
 既に夕食を共にする気満々の彼女はそう言い残して、軽い足取りで二階へと降りていく。
 後に残るはルイズ達三人と、一言も喋らず状況見守っていたデルフだけ。
 そして即席テーブルには湯気を立てる料理がずらりと並べられている。
「――――…一体どういう事なのよ?」
 最初に口を開いた霊夢はそう言いながら、ルイズの方へと近づいていく。
 約束の事を知らない彼女にとって、シエスタの同席は本当に想定の範囲外だったに違いない。
 何せ先程、キメラの事やら盗人について今後どうしようかという話をしようと決めたばかりだったのだから。
 無関係なシエスタがいたら話はできないし、無理に話して巻き込ませるワケにもいかない。

 霊夢の鋭い睨みつけに、ルイズは思わず魔理沙に視線を向けるも彼女は肩を竦めて言った。
「私は一応無理だって言いはしたがな…結構無理に押し切られちまってこの有様よ」
『成程。…お淑やかな見た目とは裏腹に、押しには強いってワケか』
「何が成程、よ」
 三人のやり取りを耳に入れつつ、ルイズはこれからの事を想像してため息をつきたくなった。
 何せ夕食の同席だけでは済まない、シエスタの純粋で無垢な好意という相手と対峙しなければいけないのだから。

283 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/12/31(日) 18:47:19 ID:NmbP2FGk
 
 陽が沈み、双月が無数の星と共に夜空を照らし始めて数時間が経つトリスタニア。
 チクントネ街の活気も最高潮に達し、それとバランスを合わせるかのように静まり返っていくチクントネ街。
 文明の灯りは繁華街に集中し、まるで羽虫の様に多くの人々がそちらへと集まっていく。
 ある労働者たちは酒場で安い酒と食事で乾杯をし、ある下級貴族は少し良い雰囲気の酒場で夕食を頂く。
 ブルドンネ街のホテルからやってきた観光客たちは、夏の熱気に浮かれて王都の夜の顔を満喫している。
 
 そんな賑やかながらも、どこか切ない一夏の夜で活気づくチクントネ街の―――地面の下。
 レンガ造りの地面と分厚い石壁に隔てられた先には、王都の下水道が走っている。
 地上の生活排水や生ごみ等が流れていく水は濁りきっており、とても人が住めるような環境ではない。
 それでも地上から滅多に出ないドブネズミやゴキブリたちにとっては最高の住処だ。
 冬は地上と比べて幾分か暖かく、そして時折通路に引っ掛る生ごみという御馳走まで手に入るのだ。
 地上では鼻つまみ者とされ駆除されやすい彼らにとって、これ以上贅沢な環境は無いだろう。
  
 王都の下水道を管理する処理施設の職員たちが使う通路と言う足場もあり、様々な場所へも行ける。
 それこそ旧市街地の何もない貧相な下水道から、ブルドンネ街の豊富で新鮮な生ごみをありつける下水道まで、
 時間は掛かるが、地上と違って恐ろしい天敵も少ないここは正に天国か楽園と例えられるだろう。
 だが――今夜に限って、彼らはその身を潜めてジッと隠れる事に徹していた。
 何かは良く分からないが、ここ最近になって現れた『怖ろしく見た事の無いモノ』に見つからない為に。 

 天井に取り付けられたカンテラが、仄かに汚れた水面を照らす下水道。
 一定の間隔をおいてぶら下がっているそれは、この暗い場所を明るくするには少々役不足なのかもしれない。
 丁度ブルドンネ街とチクトンネ街の境である場所の地下に造られた連絡通路の上で、シェフィールドはそんな事をふと考えてしまう。
 背後から聞こえる激流の音をBGМは鬱陶しいかと思えるが、いざ考え事をしてみるとそれ以外の雑音を掻き消してくれて丁度良い。
 いま彼女がいる場所は二つの街の下水が合流する場所で、更にその激流の上に造られた連絡通路に立っていた。
 細かい格子の鉄板で出来た床から下を覗けば、白く波立つ激流がポッカリと空いた穴の中へと落ちていくのが見えるだろう。
 この穴へ落ちていく水は更に地下を通って、処理施設が管理するマジック・アイテムで濾過されて綺麗な水へと戻っていく。
 浄化された水はそのまま海へと戻っていくか、もしくは一部の井戸水として人々の生活用水に再利用される。
 ここだけではなく、二つの街や旧市街地にも同じような穴がある為に余程の事が無い限り水害が起きる事は無いだろう。

 そんな穴の上の通路に佇み、一人考え事に耽る彼女が何故こんな所にいるのであろうか?
 別に考え事をするならこんな場所ではなく、地上で宿でも取ってそこで考えればいい筈だ。
 実際シェフィールド自身は既に宿を取っているし、こんな場所よりもずっと環境の良い部屋である。
 理由はたったの一つ―――彼女は待っていたのだ、自分の『手駒』が返ってくるのを。
 そんな時であった、ふと後ろから何か大きな物体が地面を這いずるような音が聞こえてきたのは。
「…………ん?どうやら帰ってきたようね」
 どうでもいい考え事に耽っていた彼女はすぐにそれを頭から振り払い、背後を振り返る。

284 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/12/31(日) 18:50:38 ID:NmbP2FGk
 振り返った先には、ブルドンネ側の下水道へと続く通路がある。
 間隔を取って置かれている頼りない灯りに照らされた石造りの地面に、不自然な黒い影が映り込む。
 おおよそ人とは思えぬ丸すぎるシルエットは、例えるならばナメクジやナマコに近いと言われればそう見えるかもしれない。
 しかし、影に隠れた全身を見てしまえば誰もがこう思うだろう。こんな生物は見たことが無い、と。

 そして…もしもこの場に、この怪物と地上で一戦交えたであろう普通の魔法使いがいれば怪物を指さして叫んでいたであろう。
 こいつだよ、私の大捕物を一番いいところで邪魔した怪物は!―――と。

 シェフィールドは足元に置いていたカンテラの取っ手を右手で掴み、ついで左手の指を鳴らして灯りを点ける。
 彼女を中心にして周囲を明るくする文明の利器が、近づいてくる影の全身をその日で照らしだす。
 手足のない丸く黒いスライム状の体に黄色い二つの目玉が、爛々と輝かせてシェフィールドの元へと近づいてくる。
 普通なら悲鳴を上げて逃げ出すのであろうが、その怪物を照らしている本人は微動だにせずじっと凝視している。
 それどころか、その口許に薄らと笑みを浮かべてそのスライムの様な存在へと近づいていくではないか。
 対して怪物も近づいてくるシェフィールドを襲うつもりはないのか、プルプルとその体を揺らしていた。

 怪物と後一メイルというところまで近づいたシェフィールドの額に刻まれたルーンが、微かに発光し始める。
 やがて十秒と経たぬ内に額のルーンが、暗闇の中にでもハッキリと見えるようになるまで強く光り出す頃には、
 地上で魔理沙に襲い掛かっていた怪物は、まるでしっかりとしつけのされた大型犬のように彼女の前で停止していた。
「ご苦労様。あの黒白には手痛い目に遭わされたようだけど…、まぁ『ノウナシ』の状態だとあれが限界よね」
 怪物を見下ろしつつ一人呟くシェフィールドがもう一度左手の指を、勢いよく鳴らす。
 パチン!と小気味の良い音が広い空間に木霊し、ゆっくりと時間を掛けて消えていく。
 その音を聞いた直後だ。足元で大人しくしていた怪物はその体を揺らして、彼女の横を通り過ぎていく。
 這いずるしか移動方法が這いずるしかないその丸い体で器用に前へ進みながら、チクントネ街側の下水道へと向かおうとしている。
 
 シェフィールドも少し遅れて振り返り、向こう側へと行こうとする怪物の後姿をじっと見守っている。
 あと少しでチクトンネ街側の下水道通路の境目の手前まで来たところで、怪物は這いずっていたその体をピタリと止めた。
 下の激流が見える鉄板の通路から、石造りの通路へと切り替わる手前で止まった怪物は、じっと前方を見据えている。 
 すると、その前方の通路――少し遠くからコツ、コツ、コツ…と二人分の靴音が聞こえてきた。
 距離からして、恐らく一分も経たぬ内に靴音の主は進行方向の先にいる怪物と鉢合わせする事になるだろう。
「全く、散々人にデモンストレーションさせた挙句に…自ら姿を現して来られるとはね…泣かしてくれるじゃないの」
 シェフィールドはその靴音の主達を知っているのだろうか、慌てる素振りを全く見せていない。
 
 それから二十秒程経った頃であろうか、ようやく彼女の前に足音の主達が暗闇の中から姿を現す。
 やや時代遅れの灰色の羽根帽子に灰色のマントを羽織った貴族の男性で、顔に被っている仮面のせいで年までは分からない。
 もう一人は、この下水道ではあまりにも不釣り合いな灰色のドレスとマント着飾った貴婦人で、彼女もまたその顔に仮面を被っている。
 場所が場所で仮面を被っていなければ、モノクロ画で書かれた貴族夫婦のモデルとしてはうってつけの二人であろう。
 何せ靴の先端から帽子の天辺までほぼ灰色なのだ、ちゃんと色付きで描けと注文してもそれを受けた画家はモノクロ画で描くしかないのだから。

 シェフィールドは自分の前へ現れた二人組を見て、懐から懐中時計を取り出して見せる。
 そしてワザとらしく蓋を開けると、少し離れている彼らへスッと今の時刻を見せながら話しかけた。

285 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/12/31(日) 18:52:05 ID:NmbP2FGk
「十分も遅れてやって来るなんて、一体どこでナニをしてらっしゃったのかしら?」
「貴族でないアナタには少し分からないかも知れませんが、ゴタついた案件を片付けるだけでも結構な時間が掛かるものでしてよ?」
「あら、そうでしたの?…案外、そんなアホらしい恰好をするのに時間を掛けていたのでなくて?」
 挑発的で聞く者が聞けば赤面しそうななシェフィールドの挑発に対し答えたのは、貴婦人の方であった。
 自分の隣にいる灰色の貴族を庇うようにして前に出た彼女は、相手からの売り言葉に対し買い言葉で返してみせる。
 それに対して、シェフィールドも再び挑発で返す…という悪循環に陥ろうとした所で、灰色の貴族が待ったを掛けた。

「おいおい、よさんかこんな所で!こんなしけた場所で喧嘩しても得られるモノはないんだぞ、キミたち」
「……失礼、見苦しい所をお見せしてしまいました―――灰色卿」
 声だけでも仮面の下の顔が分かってしまう程のしわがれている老貴族――灰色卿の言葉に、貴婦人は大人しく引き下がる。
 そして彼に一礼した後再び後ろへ下がると、次に灰色卿が一方前へ出てシェフィールドと向かい合った。
 彼と向かい合うシェフィールドも灰色卿に軽く一礼し、彼らの前にいる怪物を一瞥しながら話し始めていく。
「これはこれは灰色卿自ら起こしに来られるとは…よっぽど、今回ご提供する商品がお気に召したのですね?」
「まぁな。先にくれた商品を潰してしまってからは少し時間を置こうとは思っていたが…一つ早急に片付けねばならない事ができてな」
 彼女の言葉に灰色卿はそう答えて、自分たちの前にいる黒いスライム状の怪物――キメラへと視線を向けた。
 そしてマントの下に隠れていた右手を上げると、後ろに控えていた貴婦人がスッと彼の横を通り過ぎていく。
 
 鉄でできた床をハイヒールがコツ、コツ、コツ…と耳障りな音を立てて歩く灰色の貴婦人。
 歩く最中に灰色卿と同じくマントの下に隠していた右腕を、シェフィールドの前に曝け出してみせる。
 その右腕の先にある手にはどこへ隠していたのか、個人用の小さな旅行鞄の取っ手を掴んでいた。
 やがてシェフィールドとの距離が二メイルという所で貴婦人は足を止めるとそこで鞄のロックを外し、中身がシェフィールドに見えるよう開ける。
 開かれた鞄の中に入っていたのは、ぎっしりと詰め込まれたエキュー金貨であった。
 暗い下水道でも尚黄金の輝きを忘れぬ金貨を前に、流石のシェフィールドもへぇ…と声を漏らしてしまう。
 悪くは無い反応を見せてくれたシェフィールドを確認した後、貴婦人はスッと鞄を閉めて話し出す。

「まずは前金として四百エキューを差し上げます。貴女の提供したキメラがこちらの期待添えたら残りの後金三百エキューを…」
「つまり…合計八百エキューってことね…まずまずじゃない?ソイツの購入費としては少々釣り合わないけど」
 おおよそ並みの貴族が手に入れたのならば、半年間はドーヴィルのリゾート地で遊び暮らせるだけの額である。
 平民ならばそれだけの金額があれば私生活には絶対に困らないであろうし、節約すれは十年以上は働かずに暮らせてしまう。
 だが…シェフィールド本人の見解としては、それだけの金額を積まれてもキメラの代金としては『割に合わない』と感じていた。
 更に提供する際にこのキメラの『本体』もそっくりそのまま渡すようにと、敬愛するジョゼフからの伝言もある。
 となれば…八百エキュー『ぽっち』で手放してしまうというのは、あまりにも不平等というものなのではないだろうか?

 本当ならばここでその事を告げた後でしっかり説明をし、金額を上げるよう要求するのが普通であろう。
 しかし正直なところ、シェフィールドにとって金というモノはダダを捏ねて欲しがるものでもなかった。
 本当ならばキメラもただで渡して、その扱いに関しては素人な連中がどう扱おうのか見物したいのである。
 あくまで金銭を要求するのは、相手側にちゃんとした取引だと思わせる為だ。

286 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/12/31(日) 18:55:00 ID:NmbP2FGk
「失礼、灰色卿。…アナタは我々の提供するキメラを少し過小評価しているのではありませんか?」
 だからこうして、ワザとらしく首を軽く傾げて灰色卿に質問をするのも演技の内であった。
 最も…質問の内容に関しては演技の外であり、制作に携わった一人としての疑問であるが。
 シェフィールドからの質問に対し老貴族は暫し唸ったのち、渋々と返事をする。
 
「まぁな。見た所このナリじゃあ我らが要求しているような仕事を満足にこなせるとは…思えん。
 それに先の戦が原因で他の者たちはキメラに対して懐疑的になっておる、これ以上の捻出はちと難しいのだ」
 
 彼が言いたい事は即ち二つ。要求する任務を達成できるのかという事と、財布の紐が硬くなってしまった事だ。
 恐らく今回の八百エキューも灰色卿自身の口座から引き出したものに違いない、とシェフィールドは察する。
 集団ならまだしも、例えトリステインの古参貴族でも八百エキューは充分に大枚の範囲内だ。
 と、なれば…これ以上駄々を捏ねても金は出ないだろうと予測した彼女は、ひとまず八百エキューで治める事にした。
 それよりも許し難いのは…最初に行っていた、あのキメラに要求した任務を達成できるのか…という事についてである。
 これに関しては先にも述べた様に、制作に携わった人間の内一人としては一言申したい気分であった。
 少なくとも以前渡したキメラとは、性能で天と地の差があるという事を教えてやらなければいけない。

「これはこれは…随分と心配性だこと。よっぽどそのキメラの形状に不満があるようですね?
 けれどご安心を、いまご覧になっている姿はいわば本気をだしていない不完全状態…私達は『ノウナシ』と呼んでいます」

 不敵な笑みを浮かべるシェフィールドの口から出た言葉に、灰色卿はマスクの下で怪訝な表情を浮かべる。
 『ノウナシ』…とは、これまた酷い呼び名である。恐らくは「能無し」か「脳が無い」のどちらか…或いは両方から取ったのだろう。
 こうして目の前にいる個体を見てみると、黄色に光る目玉以外の臓器が体の中にあるとは思えない。
 成程、確かに『ノウナシ』という呼び名はこのキメラにうってつけであろう。脳が無いから命令も伝わらない能無しなのだから。
 そんな事を考えながらキメラを見下ろしていた灰色卿に、しかし…とシェフィールドは話を続けていく。

「最初に言ったようにそれはあくまで不完全状態でのあだ名、ならば…『ノウ』がないのなら゙戻しでやればいいだけの事」
 彼女がそう言って左手を軽く上げると、そこから三度目のフィンガースナップを決めて見せた。
 パチン!という音が下水道内に響き渡り、それは合図となって近くの暗闇に潜んでいた『何か』を引きずり出す。
 一体何が起こるのかと訝しんでいた灰色卿たちは、シェフィールドの背後から近づいてくるその『何か』に気が付いた。
 最初こそ遠すぎで何が何だか分からなかったものの、やがて『何か』が彼女の横にまで来たとき…その正体を知ってしまう。

「――…!灰色卿…!」
「これは…」
 瞬間、それを目にした貴婦人は仮面の下からでも分かる程に驚愕し、灰色卿も動揺を見せてしまう。
 それ程までにその『何か』はあまりにもインパクトがあり、そして見る者を震え上がらせる程におぞましいものであった。
 二人の反応を目にし、ひとまずは上々と感じたシェフィールドは口の端を吊り上げ一礼しつつ言葉を放つ。

「こいつが『ノウナシ』から『ノウアリ』の状態になれば、あなた方のご期待に答えられる活躍をする事でしょう。
 ご安心くださいな、灰色卿。こいつの得意とする専門分野は、今のアナタにうってつけである事に間違いは無い筈です」

287 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/12/31(日) 18:57:08 ID:NmbP2FGk
以上で、90話の投稿を終わります。
2017年は色々とありましたが、今年は無事大晦日に投稿できました。
来年もきっと、こんな感じのペースで投稿を続けていくと思います。

それでは皆さん、良いお年を。ノシ

288 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2018/01/03(水) 21:49:08 ID:VAroRz/.
あけましておめでとうございます。2018年最初の投下を行います。
開始は21:52からで。

289 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2018/01/03(水) 21:52:13 ID:VAroRz/.
ウルトラマンゼロの使い魔
第百六十一話「ガリア王国の大決戦」
死神
最強合体獣キングオブモンス
巨大顎海獣スキューラ
骨翼超獣バジリス
破滅魔虫カイザードビシ 登場

「グギャアーッ! グギャアーッ!」
『はぁぁぁッ!』
『せいッ!』
『うらあぁぁぁぁッ!』
 ミラーナイト、ジャンボット、グレンファイヤーの三人はカイザードビシの大群に対し、
勇猛果敢な戦いぶりを見せつける。片っ端から各々の必殺攻撃を決め、爆砕し撃破していく。
 だがどれだけ倒そうとも、一向にドビシの群れが減る気配はない。屈強なる戦士たちも
徐々に疲労が見え始め、じりじりとカイザードビシに押されるようになってしまう。
「グギャアーッ!」
『ぐわああああああッ!』
 複数のカイザードビシの光線の砲火がミラーナイトたちを襲い、三人は爆発に呑まれて
絶叫を発した。
『みんな! くッ……!』
「ヴォオオオオオオオオオオ!」
 一瞬仲間たちの方へ振り向いたゼロだったが、助けに行くことは出来なかった。彼も
キングオブモンス、スキューラ、バジリスの三体を同時に相手していて、とても手を離せる
状態ではないのである。
「セェアッ!」
「ヴォオオオオオオオオオオ!」
 ゼロの鋭い拳がキングオブモンスに打ち込まれるが、キングオブモンスはあっさりと弾き
返した。元々「ウルトラ戦士を上回る怪獣」として設計された大怪獣であるので、そのパワーは
並大抵の怪獣とは比較にもならないほどなのだ。
「キイイィィッ!」
「キ――――――――!」
 キングオブモンスに押されたところにスキューラの突進と飛行するバジリスの光球爆撃を
食らい、ゼロは悶絶。
『ぐおおうッ!?』
 一体だけでも手強い怪獣が三体も集まれば、ゼロの苦戦はむしろ当然の話であった。
「くッ……!」
 才人もまた、ゼロたちの苦闘に顔を歪めていたが、彼も彼で全ての元凶たるジョゼフに
意識を集中しなければならなかった。
 しかし、憎いほどの相手を前にしているというのに、才人は当惑を覚えていた。それは、
ジョゼフの表情があまりに空虚であるからだった。タバサを散々いたぶり、苦しませた男と
聞いて、悪魔のような人間だと想像していたのに……長身の体躯に反して、ちっぽけな人間の
ようにすら見えるのだ。
 だがどんな相手であろうと、今起きていることは止めさせなくてはならない。才人は己に
活を入れ、パラライザーの銃口をジョゼフに合わせた。
「その石から手を離せ! 怪獣たちを止めろ!」
 脅しを掛ける才人だったが、ジョゼフはまるで聞こえていなかったかのように才人を評し始める。
「まぶしいくらいに、まっすぐな目をしている。全く顔は違うが、どことなくシャルルに
似ているな。おれにもお前のような頃があった。大人になれば、己の中の正義が、心の中の
いやしい劣等感を消してくれると思っていた。だが、それは全くの幻想に過ぎなかった」
 才人には、ジョゼフの独白につき合っている時間はない。ジョゼフの石を握る手を狙って
パラライザーを撃つ。
 しかし光線は、空を切った。突然、本当に突然、ジョゼフの姿が消えたのだ。

290 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2018/01/03(水) 21:55:22 ID:VAroRz/.
「なッ!?」
「こんな技を、いくら使えたからと言って、何の足しにもならぬ」
 ジョゼフの声は背後からした。才人は振り向きざまにデルフリンガーを一閃したが、ジョゼフの
姿はマストの上にあった。
 才人は、カステルモールからの手紙の最後の一文を思い出していた。ジョゼフは、寝室から
一瞬で中庭に移動してのけたという。
「この呪文は“加速”というのだ。虚無の一つだ。なにゆえ神はおれにこの呪文を託したので
あろうな。まるで“急げ”とせかされているように感じるよ」
 技の正体を、ジョゼフ自ら口にした。
 しかし、原理が分かっても才人にはまるで対応が出来ない。いくら銃を撃ち、剣を振っても、
その瞬間にはジョゼフは別の場所に移動しているのだ。スラン星人を思い出す速度……いや、
それ以上だ。才人の目には、ジョゼフの残像すら映らないのだ。
 ジョゼフの魔法は極めて単純だが、それ故に弱点が見当たらない。
「少年、おれにはおれの仕事があるのだ。そろそろ終わりにさせてもらう」
 ジョゼフが短剣を抜いた。並みの相手ならば簡単に処理できるようなちっぽけな武器ですら、
ジョゼフが手にしたら急所を確実にえぐる最悪の凶器に変わる。
 絶体絶命の淵に立たされた才人。――だが、彼もカステルモールがもたらした情報から、
何の用意もしていなかった訳ではない。
 今こそゼロが施してくれた特訓の成果を見せる時だと、才人は己の両目を閉じた。
「ほう、覚悟を決めたか。潔いな」
 ジョゼフは才人が降参したものと思ったが、才人は強く否定する。
「違うぜ。これはお前の虚無を破るための技だ!」
「ほう、技だと?」
「俺の生まれた世界には“心眼”って言葉があってね! 掛かってこいジョゼフ! お前の
動きなんか心の目で見切ってやるぜ!」
 一瞬で移動するというジョゼフに対抗するために、ゼロが授けてくれた技。それが、フリップ
星人の分身術を破るためにウルトラマンレオが体得した奥義、“心眼”だ!
 人間は外部の情報の大部分を視覚から得る生き物であるが故に、目で捉えられないものには
極めて弱いし、視界とは己の前方しかカバーしていない。しかし視覚以外の感覚を研ぎ澄まし、
かすかな音や空気の流れなどを捉えられるようになれば、相手がどこにいようと幻覚を用いよう
とも、一切惑わされることはない。常に真実の姿を捉える。これこそが心眼の極意だ!
(まぁ論理としちゃあ理には適ってるのかもしれんが、本当にこれが上手くいくのか……?)
 しかし、才人に握られるデルフリンガーは内心戦々恐々としていた。才人自身も極度に
緊張していることが、柄を包む手の平から伝わってくる。
 心眼は、口で言えば簡単に聞こえるかもしれないが、実際にそこまでのレベルに到達するには
それこそ超人的な身体能力と精神力が必要となる。ましてや、才人の心眼はこの一日二日程度で
こしらえた付け焼き刃だ。更には、超高速で動き回るジョゼフの接近に完璧に合わせたタイミングで
剣を振らないと結局意味がない。依然として才人は圧倒的不利のままだった。
 様々な凶悪能力を駆使する敵に、その度に急ごしらえの対応策で立ち向かっていたという
レオも、今の自分のような極度の緊張状態にあったのだろうか……と、才人は一瞬感じていた。
「面白い。ならばやってやろう」
 ジョゼフが動いたのを感じ取った! その瞬間、才人は己の本能が命ずるままに剣を振り下ろす!

 ほんのかすかな時間が、永遠とも思える空白に思えた。そして――。

「ぐうおぉッ!?」
「ジョゼフさまッ!!」
 短い悲鳴と、ミョズニトニルンの叫び声が耳に入った。才人が目を開くと――短剣を握っている
ジョゼフの腕だけが、甲板に落ちているのが見えた。

291 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2018/01/03(水) 21:58:30 ID:VAroRz/.
 才人のひと太刀は、見事ジョゼフを捉えたのだ!
「やったッ!」
「よくやった相棒! いやほんとにおでれーたよこれは! 大金星じゃねえか! 虚無に
打ち勝つなんてよ!」
 才人もデルフリンガーも歓声を抑え切れなかった。しかしまだ勝った訳ではない。才人は
気を引き締め直して、ジョゼフの足をパラライザーで撃った。これでもういくら加速しよう
とも無意味だ。
「お前の負けだ。もう一度言う、怪獣を止めろ。そしてタバサに謝ってもらうぞ」
 身体が麻痺して片膝を突いたジョゼフに言いつける才人。最早、どんな愚者が見てもはっきり
しているくらいに勝敗は決している。
 それでも、ジョゼフは才人に耳を貸さなかった。
「止められん……今更止まれるはずがなかろう。おれは最期の一瞬まで、絶望に向かって進み続ける」
「まだそんなことをッ!」
「ああ、そうだ……。こんなことになってしまうくらいだったら、初めからこうしていれば
よかったのだろうな。おれの迷宮に出口がないのならば……おれごと壊してしまえば」
 ジョゼフが残った腕で、麻痺していても手放そうとしない赤い球が禍々しく光り出した。
しかもその閃光は、フリゲート艦を覆っている。
 才人は途轍もない悪寒に襲われた。
「自爆する気かよ!?」
 ジョゼフの反対の腕も切り落とし、無理矢理にでも阻止する!
 そのために身を乗り出していた才人だったが……いきなりの事態の変化に、思わず足を
止めてしまった。
 どこまでも虚ろだった顔のジョゼフが、急にどこか遠い場所に意識を向けたかと思うと……
その目から、ぼろぼろと涙がこぼれて止まらなくなったからだ。
「な……何であんた、泣いてるんだ……?」
 訳が分からずについ尋ねかけると、ジョゼフはそれで自分が泣いていることに気がついたようだった。
「泣いてる……? おれは泣いているじゃないか。ははは……。あれほど疎ましく思っていた
虚無が出口を見つけるとは、あっけなく、何とも皮肉なものだ」
 才人にはやはり、ジョゼフに何が起こったのかは分からなかった。ただ……誰かの虚無の力が、
ジョゼフの顔に、人間らしい感情をよみがえらせたということは理解した。
 ルイズではないだろう。ティファニアも違う。であれば、ジョゼフに魔法を掛けたのは……。
 その時に、守備のガーゴイルを破ってタバサたちが艦上に乗り込んできた。聖堂騎士団は
すぐさまジョゼフを取り囲んで杖を向けたが、ジョゼフは力なく座り込んだままで、最早反撃の
意志すら見せなかった。
 ジョゼフの正面にタバサが立つ。それで顔を上げたジョゼフは、己の被っていた冠を脱いで、
彼女の足元に置いた。
「シャルロット。長いこと、大変な迷惑を掛けた。詫びのしるしにもならぬが……受け取ってくれ。
お前の父のものになるはずだったものだ。それと……お前の母のことだが。ビダーシャルという
エルフが、おれの動向の監視のためにまだガリアにいるはずだ。そいつに薬を調合してもらえ。
おれからの最後の命令……いや、頼みだと言ってな」
「……何があったの?」
「説明はせぬよ。お前の父の名誉に関わることだからな。だがもう、終わった。全ては終わったのだ。
おれはもう、地獄を見る必要はなくなった。後は、お前がおれを気の済むように扱えば、それでよい」
 ジョゼフは笑みを浮かべて、タバサに首を差し出した。
「この首をはねてくれ。それで、本当に全て終わりだ」
 タバサはもちろんのこと、この場の全員が、ハルケギニアを恐怖と混沌で呑み込もうとしていた
悪の権化と思われていたジョゼフの、あまりにも穏やかな様子に、理解が追いつかずに立ち尽くしていた。

292 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2018/01/03(水) 22:01:15 ID:VAroRz/.
 そしてタバサは、父を殺した憎い仇の首を前にして、

 ザンッ、と鈍い音が響き、ジョゼフの首が甲板に転がった。

「……!?」
 噴き出た鮮血が、ジョゼフの正面に立っていたタバサの頬を濡らした。しかしジョゼフの
首を落としたのは、彼女ではなかった。
 禍々しい光刃がギロチンとなって降ってきたのだ。驚愕した才人たちが見上げると、崩れ落ちた
ジョゼフの胴体の上方には、死神が浮遊していた。
「何だあいつ……!?」
「気をつけて! あれこそが、ジョゼフの裏にいた真の敵……真の悪ですッ!」
 既に死神の底知れない敵性を見抜いているアンリエッタが警告を飛ばした。
 その死神は、アンリエッタに向けていた侮蔑はそのままに、表情を憤怒に染めてジョゼフの
遺体を見下ろしていた。
『下らないッ! 実に下らない! 我々が世界を滅する力を与えてやって、望みを叶えてやろうと
したというのに! ここまで来ておいて、終わっただと!? やはり人間なんぞに任せたのが間違い
だった! 肝心なところで役に立たんッ!』
「ジ……ジョゼフ様ぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
 麻酔が薄れてきたミョズニトニルンがあらん限りの絶叫を発した。死神は彼女も含めて、
この場の人間たちに汚物でも見るかのような冷え切った目を向けた。
『人間ッ! 宇宙の病原菌ども! ゴミ屑! 見るも汚らわしい汚泥風情がッ! 貴様らが
吐息をする度に虫唾が走るッ! 最早貴様らの悪臭には我慢がならんッ!』
「な、何言ってやがんだ、あいつ……」
 死神が怒濤のように発する侮辱の言葉の数々に、才人たちはむしろたじろいでいた。恐怖の
視線を集める死神は両の腕を掲げ、諸手に暗黒の力を宿す。
『こうなれば我々が直々に貴様らをこの世から残らず消してくれる! 一匹たりとも、生かしては
おかんッ!!』
 そして死神から闇の波動が飛び、それがカルカソンヌを襲う怪獣たちに浴びせられ――
怪獣たちの勢いが強まった!
「ヴォオオオオオオオオオオ!」
「キ――――――――!」
「キイイィィッ!」
「グギャアーッ! グギャアーッ!」
 怪獣たちは急激に高まった暴力によって、ゼロたちをはね飛ばす。
『ぐわあぁぁぁぁッ!?』
 キングオブモンスのぶちかましで地に叩きつけられたゼロのカラータイマーが赤く点滅し出した。
「ぜ、ゼロッ!」
 死神の力によって強力化した怪獣に窮地に追い込まれた仲間たちの姿に、才人が叫び声を上げた。

 その頃、マルチバースの一つの内にある地球では、藤宮博也が再び高山我夢の研究施設を
訪ねていた。
「藤宮!」
「我夢……俺が来た理由は、もう分かってるだろう」
 格納庫で我夢の前へとやってきた藤宮のひと言に、我夢はうなずき返す。
「ああ。君のアグレイターも、これと同じように光り出したんだろう?」
 我夢が取り出したのはエスプレンダー。それと同じ変身アイテムである藤宮のアグレイターも、
ランプ部分が明滅を繰り返した。
「この反応は、遂に僕たちが必要とされる時が来たということだ。このアドベンチャーもね」
 照明に照らし出されているアドベンチャー二号を見上げる我夢。アドベンチャーは既に
完成しており、整備も万全だ。いつでも発進できる状態にある。
「すぐに行こう。時間の猶予はないみたいだ。この光が、俺たちを導いてくれる」
「ああ。でも藤宮、玲子さんには挨拶してきたのかい?」

293 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2018/01/03(水) 22:03:42 ID:VAroRz/.
 二人乗りに改造しておいたアドベンチャーに乗り込みながら尋ねた我夢に、藤宮は苦笑
しながら返した。
「すぐに帰るとだけな。俺たちは死にに行くんじゃないからな」
 それに我夢も苦笑を浮かべた。
「それはそうだ。僕たちは、世界を救いに行くんだからね!」
 我夢と藤宮が乗り込むと、アドベンチャーが機動。機体両脇のホイールを高速回転させて
時空間のひずみを作り出し、時空と時空の境の超空間に入り込む準備を行う。
『行ってらっしゃいませ、ガム、フジミヤ』
 時空を超えた旅に出る二人を見送るのはPALのみ。しかし我夢たちにはそれだけで十分であった。
 彼らは、必ずこの世界に帰ってくるのだから。
「行ってくるッ!」
 我夢の返事を合図として、アドベンチャーは空間の壁を超えて別世界へと移動していった。

 死神の魔力によって怪獣の暴威が激化したことで、タバサはジョゼフから転げ落ちた赤い
球へと駆け出した。
(あの球は……!)
 見覚えがある。大きさや形は違えども、ファンガスの森を怪獣だらけにしたという、あの球と
同じものに違いない。ならば、あの時のように怪獣を倒す勇者――ウルトラマンを呼ぶことが
出来るはずだ。ゼロたちのピンチを救うには、それ以外方法がない。
 しかし、タバサの手が触れるその寸前に――赤い球は死神の魔力をぶつけられ、消滅してしまった。
「あッ……!?」
『思い通りにさせるものか、馬鹿めが! 一度出したものを消す機能はないが、『奴ら』を
呼び出されるようなことは絶対にあってはならんからなッ!』
 タバサの希望を消し去ってしまった死神は、地上のキングオブモンスに向かって命令を飛ばす。
『そして貴様らにこれ以上余計な真似はさせん! さぁ、やれぃッ!』
「ヴォオオオオオオオオオオ!」
 バジリスとスキューラがゼロを抑えつけている間に、キングオブモンスがフリゲート艦に
向けてクレメイトビームを発射! フネは一瞬にして木端微塵にされた!
「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――ッ!!」
 当然才人たちは空中に投げ出される。シルフィードや聖堂騎士のペガサスらが慌てて放り
出された人たちを受け止めていくが、そこにバジリスが光球を撃ち込もうとしている。
『やめろぉぉッ!』
「ヴォオオオオオオオオオオ!」
 必死に止めようとしたゼロだが、キングオブモンスの尻尾に殴り飛ばされた。
『ぐわぁぁッ!』
 バジリスは光球を発射! 才人たちを受け止めたところのシルフィードたちは、とても
かわす余裕がない!
 誰もが絶望する、そんな状況であったが、ルイズは決してあきらめなかった。
「こんなところで、わたしたちは終われない! 奇跡よ起きてッ!」
 呪文の一文字目すら詠唱する暇もないが、それでもルイズは自分の杖を振り下ろした。
「光よぉぉぉぉぉッ!!」
 その刹那、杖にまばゆい光が生じた――。

 エスプレンダーとアグレイターの光の波長が導く先へと目指しているアドベンチャーの機内で、
我夢と藤宮の手にしているその二つのランプが、完全な輝きを発した。
「! 我夢ッ!」
「ああ! 行こう藤宮ッ!」
 二人は本能的に、変身アイテムを手にする腕を伸ばして、持てる限りの声と力で叫んだ。
「ガイアアアアァァァァァァァァァァッ!!」
「アグルルウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 バジリスの光球が才人たちへと飛んでいく、まさにその時、空の一角にワームホールが開かれた。
『何ッ!?』

294 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2018/01/03(水) 22:06:16 ID:VAroRz/.
 驚愕する死神。そのワームホールからは、彼にとって忌々しい赤と青の二つの光が飛び出して
きたからだ。
 二つの光は光球にぶつかることで消し去り、才人たちを救った。
「あの光は!?」
 赤と青の光に、才人たちも、ゼロたちも一瞬目を奪われた。
 二つの光は破壊される街の中心に急降下していき、二人の巨人へと変身する!
「デュワアッ!」
「オアァァッ!」
 盛大に土砂を巻き上げながら、大地に力強く立ち上がった赤と青の巨人。タバサはその
赤い方の姿を、今になってもしかと記憶に刻み込んでいた。
「あの時の……ウルトラマン……!」
『ウルトラマンガイア! ウルトラマンアグル!』
 ゼロが名前を叫んだ。彼らは、死神が属する宇宙の悪魔、根源的破滅招来体から地球という
命の星を護り抜いたウルトラ戦士たち。我夢と藤宮が今一度変身を遂げたガイアとアグルである!
「赤い球がなくても……助けに来てくれた……!」
 タバサは再び遠い世界から助けに駆けつけたガイアに、強い感動を覚えた。
「デュワッ!」
 ハルケギニアの地に降り立ったガイアとアグルは、即座にクァンタムストリームと青い光球、
リキデイターをカイザードビシに繰り出した。
「グギャアーッ!!」
 二人の攻撃は、数体もいたカイザードビシを瞬く間に燃やし尽くして全滅させた!
『すげぇ……!?』
 ガイアとアグルの攻撃の威力に仰天するグレンファイヤーたち。だが二人の力は、こんな
ものではなかった。
『行くぞ、藤宮!』
『ああ!』
 ガイアとアグルは互いの手の平を重ね合わせ、エネルギーを統一させる。そして反対側の手を
ピンと伸ばし、ドビシが埋め尽くす空に光線を発射した。
 二人の絆の象徴、合体光線タッチアンドショットが、一発でドビシの群れを焼き払って
空に本来の青い色を取り戻した!
「そ、空が晴れた! すごい!」
 ルイズたち人間は皆、ガイアたちの想像をはるかに超えるパワーに驚嘆する他なかった。
奇跡の巨人ウルトラ戦士といえども、一瞬にして空を取り返すほどだとは!
「すげぇぜ、ガイアとアグル……! 『俺たち』も、負けてられねぇ!」
 感動した才人はシルフィードの背の上で、ゼロが置いていったウルトラゼロアイを自分の
顔面に取りつける。
「今行くぜゼロ! デュワッ!」
 才人の身体も光に変わり、ゼロの元へと飛んでいって彼のカラータイマーと融合する。
 その瞬間、才人のエネルギーによってカラータイマーの色も青に戻った!
『助かったぜ、才人!』
 一気に力を取り戻したゼロはまず、カイザードビシを延々抑え込んで満身創痍のミラーナイト
たちのところに回る。
『ありがとうな、お前ら! ここから先は任せてくれ!』
『分かりました……! ウルトラマン、あなた方に託します!』
『我々の分も頼んだぞ!』
『これで負けたら承知しねぇからな!』
 ミラーナイトたちはゼロたちウルトラ戦士を信じて撤退していく。そしてゼロは、ガイアと
アグルの元へと駆け寄って二人と並んだ。
『よく来てくれたな、ほんと助かる! ガイア、アグル、一緒にこの星を救ってくれ!!』
 ゼロの呼びかけにガイアたちはしっかりとうなずいて応じ、キングオブモンス、バジリス、
スキューラに向けて構えを取る。
「ヴォオオオオオオオオオオ!」
「キ――――――――!」
「キイイィィッ!」
 三大怪獣は正面からウルトラ戦士を迎え撃つ姿勢だ。
 計り知れない闇の力によってどうにも、こうにも、どうにもならない状況だったのを見事
逆転したガイアとアグル。しかしハルケギニアの明日を巡るガリア王国の大決戦は、まだ
始まったばかりなのであった!

295 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2018/01/03(水) 22:07:21 ID:VAroRz/.
ここまでです。
お久しぶりなウルトラマンガイアさん。

296 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2018/01/09(火) 00:14:43 ID:yp5NyY2s
こんばんは、焼き鮭です。今回の投下をさせてもらいます。
開始は0:18からで。

297 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2018/01/09(火) 00:18:20 ID:yp5NyY2s
ウルトラマンゼロの使い魔
第百六十二話「ハルケギニアはウルトラマンの星」
死神
最強合体獣キングオブモンス
巨大顎海獣スキューラ
骨翼超獣バジリス
根源破滅天使ゾグ 登場

 根源的破滅招来体。それはある次元宇宙の地球を外宇宙より突如として襲った、謎の存在。
ワームホールから送り込まれた宇宙戦闘獣コッヴを皮切りに、様々な種類の怪獣による攻撃、
電子生命体や精神寄生体を用いた工作活動、人間に対する洗脳などの心理攻撃、果ては天体生物に
よって地球そのものの破壊を狙うといった、ありとあらゆる手段で地球人類の抹殺を目論んだ。
 その正体は、最後まで不明のままであった。どんな姿をしているのか、本拠地はどこなのか、
何故執拗に人間の抹殺を図ったのか、その全てが今もなお謎に包まれている。しかし地球に生きる
ものたちが根源的破滅招来体の最大の戦力を撃破して以降は、一度の例外を除いて地球にその魔の
手が伸ばされることはなくなった。地球は救われたのである。
 ――だが、やはり根源的破滅招来体そのものが壊滅した訳ではなかった。今度は次元震によって
一時的につながった別宇宙にある惑星ハルケギニアを狙い、再度活動を再開したのであった! 
その尖兵として送り込まれた死神は、強烈な破滅願望を抱いていたジョゼフに目をつけ、アルビオンを
通してヤプールを裏から利用させたり、願望を実現する赤い球を授けて次々と怪獣を召喚させたりと
いった支援を……いや、いいように利用していた。そして今、弟の真実を知って心を入れ替えた
ジョゼフに見切りをつけ、彼を粛清するとともに遂に自らが人類絶滅に乗り出した。
 しかし根源的破滅招来体と同じ宇宙から、次元を超えて希望がやってきた! 彼らの名は
ウルトラマンガイアとウルトラマンアグル。根源的破滅招来体に正面を切って戦い、長い苦闘の
末に勝利をもぎ取った英雄なのだ。
 ガイアとアグルはハルケギニアの人々の命を守るために、ゼロとともに今再び根源的破滅
招来体の陰謀に立ち向かうのである!

「デュワッ!」
「ヴォオオオオオオオオオオ!」
「デアァッ!」
「キイイィィッ!」
「セェアッ!」
「キ――――――――!」
 次元の彼方の地球から時空を超えて、ハルケギニアを救いに来てくれたガイアとアグル、
それと並んだゼロが同時に三体の怪獣に飛び掛かっていった。怪獣たちはウルトラ戦士一人
ずつを迎え撃ち、それぞれ一対一の構図となる。
 ガイアが突進してくるキングオブモンスの首を抑えて止め、アグルが素早くスキューラの
上にまたがって頭頂部に拳を打ち込み、ゼロはデルフリンガーを召喚してバジリスのカマと
鍔迫り合いする。
「すごい! 三人ものウルトラマンが怪獣と戦ってる!」
「あの二人もゼロの仲間だろうか!」
「そうに決まってるさ! 行けぇウルトラマンッ! 怪獣を倒せぇーッ!」
 怪獣軍団の脅威に見舞われていたロマリア、ガリア両軍の兵士たちは三人のウルトラ戦士の
そろい踏みに興奮し、互いに立場を忘れてゼロたちの応援の声を力いっぱいに飛ばしていた。
 シルフィードの上のルイズも歓喜しながらも、ガイアとアグルの参戦に非常に驚いていた。
「この状況に助けに来てくれるなんて! 彼らはどこから来たウルトラ戦士なのかしら?」
「……」
 タバサは呆けたように、しかし頬をかすかに朱に染めて、特にガイアの勇姿に見入っていた。

298 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2018/01/09(火) 00:20:50 ID:yp5NyY2s
「オアァァァ―――――!」
「キイイィィッ!」
 スキューラを抑え込んだアグルがヒコーキ投げを決め、地面に盛大に叩きつけた。反撃に
転ずるかと思われたアグルだが、予想に反し背を向けたまま一直線に逃走していく。
「フッ!?」
「キイイィィッ!」
 スキューラはリネン川の下流へ向かって走っていき、川が一旦途絶える湖畔に飛び込んだ。
アグルはそれを追いかけて飛び、自らも湖の中に突入する。
「デェェアッ!」
「キ――――――――!」
 ゼロの剣圧に押されたバジリスは、急に羽を広げて飛翔。高スピードではるか上空へと
上昇していく。
『待ちやがれッ!』
 ゼロはデルフリンガーを戻して追跡。ぐんぐんと高度を上げていくバジリスとゼロが、
ルイズたちの前方を通り抜けていった。
「きゃッ!」
 一瞬発生した気流に煽られるルイズたち。バジリスとゼロはそのままどんどん小さくなって
いき、遂には大気圏を抜けて宇宙空間に戦いの場所を移した。
「ゼロも、青いウルトラマンも行っちゃったわ……!」
 アグルとゼロがルイズたちの目の届かない場所へ移動していったことで、人間たちの視線は
自ずと、ガイアとキングオブモンスの対決に集まることとなった。
「ヴォオオオオオオオオオオ!」
「デュッ!」
 自身に肉薄しているガイアに、キングオブモンスは腹部に縦二列に並ぶ牙を伸ばして突き
刺そうとする。だがガイアはその牙をはっしと受け止めた。
「オオオオオ……! デヤァァッ!」
 そして牙を掴んだまま、キングオブモンスの巨体をバックドロップ!
「ヴォオオオオオオオオオオ!」
「おぉぉッ!」
 脳天から叩きつけられるキングオブモンス。戦いを見守る人間たちからは一斉に驚嘆の
声が発せられた。
「ヴォオオオオオオオオオオ!」
 すぐに起き上がったキングオブモンスはクレメイトビームで反撃。しかしそれを読んでいた
ガイアのウルトラバリヤーがビームを乱反射して防ぎ切る。
 最大の攻撃を防がれたキングオブモンスが一瞬たじろいだ。

「デュアッ!」
「キイイィィッ!」
 湖中ではアグルが反転して突っ込んできたスキューラを、相手の顎を押さえて止めるが、
その瞬間にスキューラの顎は何と胴体の半分以上の位置まで開き、常識外の大口でアグルを
くわえ込んだ。
「ウアァッ!?」
 顎の中に引きずり込まれたアグルは万力のような締めつけと牙の食い込みでギリギリ痛め
つけられる。……しかし、アグルのボディは数いるウルトラ戦士の中でも突出した強固さを
誇るのだ!
「デアァッ!」
 スキューラの締めつけを耐え切って上顎を押し返し、見事脱出。スキューラから距離を
取るとすかさず額からほとばしる光線を頭上に伸ばした。
「デュアァァァッ!」
 その光線をスキューラに叩きつけるように繰り出す! アグルの必殺技の一つ、フォトン
クラッシャーだ!
「キイイィィッ!!」

299 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2018/01/09(火) 00:23:27 ID:yp5NyY2s
 フォトンクラッシャーを口内に撃ち込まれたスキューラは、一瞬にして粉々に吹っ飛ばされた!

「キ――――――――!」
「シャッ! シェアッ!」
 宇宙空間でゼロとドッグファイトを展開するバジリスは光球を連射。それにゼロはゼロスラッガーを
飛ばし、切り裂いて全て撃ち落とす。
「キ――――――――!」
 光球を破られたバジリスだがそのまま加速。カマをギラリと光らせながら最大速度でゼロに
突進していく。すれ違いざまに真っ二つにする気か。
 だがそんなものをむざむざと食らうゼロではなかった。
「セェアァァァッ!」
 相手の狙いを読んで、渾身のワイドゼロショットを発射した! 必殺光線がバジリスの
顔面に突き刺さる!
「キ――――――――!!」
 バジリスは全身が炎上して進路がゼロから外れ、ハルケギニアの引力に捕まって転落。
地上に戻ることなく、大気圏で盛大に爆散した。

 スキューラとバジリスが立て続けに撃破され、残る怪獣はキングオブモンスのみ。そして
ガイアもまた勝負を決める大技に打って出ていた。
「オォォォォ……デュワアァァッ!!」
 うずくまるように頭部を抱えて姿勢を下げると、ガイアの頭部に光子が集まって弁髪の
ようなムチの形状となる。それを敵に対して一挙に繰り出す、光の斬撃フォトンエッジだ!
「ヴォオオオオオオオオオオ!」
 これに対してキングオブモンスは翼から発生したエネルギーシールドで全身を覆って防御。
フォトンエッジはバリアと拮抗するが、
「ジュワアァァァッ!」
 ガイアが更にエネルギーを注ぎ込んだことで、フォトンエッジはバリアを突き破って
キングオブモンスに命中!
「ヴォオオオオオオオオオオ……!!」
 全身をズタズタに切り裂かれたキングオブモンスはその場に崩れ落ちて、大爆発の中に
消えていった。
「やったあああぁぁぁぁぁぁぁッ!」
「怪獣を全て倒したぞぉぉッ!」
 一時は比喩でなく空を埋め尽くしていた怪獣軍団が全滅したことに、人間たちは一斉に
大歓声を巻き起こした。その声を一身に受けているガイアの元にアグルとゼロも戻ってきて、
勝利を確認するようにうなずき合う。
 だがしかし……怪獣たちはあくまで呼び出されたものに過ぎないことを忘れてはならない!
『これで終わりではないぞぉッ!』
 突然、人々の喜びをさえぎるような叫声が起こった。ゼロたちが、ルイズたちがその方向へ
顔を向けると……。
「あッ! さっきの奴! まだあいつが残ってたんだったわ!」
 空の一角に死神が浮遊していた。その存在に気がついたゼロたちは警戒を強めて身構える。
 ガリアに潜んでいた真の悪は、憤怒の表情を見せたままガイアたちに向かって怒声を放つ。
『憎きウルトラマンどもめ……再び我々の障害となろうとは! 貴様らさえいなければ上手く
いったというのに! 許してはおけぬッ!』
 と叫ぶ死神の頭上の空間が歪み、ワームホールが開かれる。しかもそれは、ガイアとアグルが
通ってきたものの十倍以上ものサイズであった!
「ウッ!?」
『今度こそ貴様らを、踏み潰してくれるぞぉぉぉぉッ!!』
 死神はそのワームホールの中に飛び込んでいった。その直後に!
「キャア――――――――――ッ!!」

300 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2018/01/09(火) 00:25:57 ID:yp5NyY2s
 ウルトラ戦士たちをはるかに上回る超巨体の怪獣がワームホールから地上に落下! 
カルカソンヌの一画を丸ごと潰して崩壊させてしまった!
「何だあれは!? で、でかいッ!!」
「あんなのがまだ残っていたとは……!」
 怪獣の異常な巨体に度肝を抜かれる人間たち。ただでさえ途轍もない大きさなのにケンタウロス
型の体躯が威圧感を高めている図体に、カラフルだがおぞましい雰囲気を湛えた翼、顔貌はどこか
怒りと憎しみに猛っているように見える。そして全長は地球の単位で666メートル、終末を暗示する
獣の数字を持ったこの怪獣の名は、根源破滅天使ゾグ! かつてガイアとアグルがなす術なく叩き
潰されたほどである根源的破滅招来体の最強の戦力であり、しかも今回は初めから真の姿である
第二形態であった!
『忌々しいウルトラマンどもめぇ! 醜い人間どもと一緒に滅びてしまえぇぇぇぇッ!』
 死神はこのゾグと融合し、その中からウルトラ戦士に怨嗟の言葉を浴びせてきた。
「キャア――――――――――ッ!!」
 死神の叫びを合図とするように、ゾグが衝撃波を連続で飛ばして攻撃してくる。
 ゾグにとっては通常攻撃だが、あまりのサイズ差故に一発一発がゼロたちの身長を超える
規模である!
「ウワアアアアァァァァァァァッ!!」
 三人のウルトラ戦士はたちまちの内に衝撃波の引き起こす爆発の中に呑まれて、姿が見えなく
なってしまう……!
「あぁッ! う、ウルトラマンたちがッ!」
 アンリエッタを始めとしたほとんどの人間が、まさしく地獄絵図に顔面蒼白となった。
 だがルイズは違った!
「姫さま、大丈夫です!」
 ルイズはこの状況においても力強さが消えない声で呼びかけた。
「ゼロたちは……どんな逆境に立たされても決して負けません! それが、ウルトラマン
なのですから!」
「ジュワッ!!」
 その言葉を肯定するように、爆発の中からゼロたち三人が勢いよく飛び出してきた! 
そのままゾグに向かって、少しの恐れも抱かずに飛んでいく。
「おぉーッ!」
 ウルトラ戦士の、巨大な絶望にも屈しない頼もしい姿は人々の心に希望を取り戻させた。
「セェェェェェェアッ!」
「デュワァッ!」
「ドゥアァッ!」
 ゼロはツインゼロソードDSを握り締めてゾグの全身に纏わりつくように飛び回り、剣を
振るって裂傷を走らせる。ガイアはクァンタムストリームをゾグの背面に浴びせ、アグルは
地上からリキデイターに回転を加えたフォトンスクリューを放ってゾグの身体を穿っていく。
「キャア――――――――――ッ!!」
 ゾグは三人を叩き潰そうと己の肉体を振り回すものの、ゼロたちは攻撃の手を止めないまま
ゾグの肉体をかわす。恐怖に負けない心を有する戦士たちには、どんな巨躯で襲い掛かろうとも
脅しにはならないのである。
 ゾグの手はゼロたちをまるで捕らえられず、ダメージは蓄積されていくばかり。それに
苛立つように死神がゾグの中から怒号を上げる。
『ウルトラマン! 何故貴様たちは人間に寄り添う!』
 ゾグのガイアを捕まえようとする手が空振りする。
『人間! つまらない生き物ッ! 生きる価値など、どこにもないッ!』
 傲慢さをありありと含ませて喚く死神に返すように、ゼロが断言する。
『別に理由なんてねぇよッ!』
 ウルティメイトブレスレットが光り、弓型のウルティメイトイージスになった。ゼロが
光の弦を引き始めると、後ろに回ったガイアとアグルがエネルギーをイージスに送る。
『ずっと昔からそうやってきた……!』
 三人の力が一つになることで瞬く間にエネルギーが充填され、ゼロがゾグに向かって
ウルティメイトイージスを射出!
『ただ、それだけのことだぁッ!!』

301 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2018/01/09(火) 00:28:26 ID:yp5NyY2s
 ファイナルウルティメイトゼロ・トリニティがゾグに命中し――貫通。超巨体にドでかい
風穴を開けた!
「キャア――――――――――ッ!!!」
 ゾグは自重を支え切れなくなり崩壊。全身至るところが弾けて消え失せていく。
『ぬああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――ッ!!!』
 ゾグと融合した死神も道連れとなり、これで本当にハルケギニアから根源的破滅招来体の
勢力は消滅したのだ。
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――――――――――ッ!!」
 ウルトラ戦士の完全勝利を見届けた人間たちは自然と息をそろえて、割れんばかりの大歓声を
上げた。今この瞬間は、誰の立場も関係なく、皆の顔に希望の輝きが宿っていた。
『お前みたいなのが人間の価値を語るなんざ……二万年早いぜ』
 皆の歓声の下、ゼロの決め台詞がこの大決戦の幕を下ろした。

 ガリアの激戦に決着は着いたものの、人間たちは一連の戦いの流れに興奮が冷めやらぬ
様子であった。いや、しばらくは口伝てにウルトラ戦士の活躍が伝播して、騒ぎはむしろ
拡大していくかもしれない。
 そんな人間たちの喧騒の間隙を見つけて、才人たちは変身を解いた我夢、藤宮の両名と
対面していた。
「ありがとうございます、ガイア、アグル。あなたたちのお陰で戦いに勝ち、この星を救う
ことが出来ました」
 才人が代表して我夢、藤宮と固い握手を交わす。それに続いてルイズ、アンリエッタ、
ミラー、グレンが二人に呼びかける。
「本当に助かったわ。この恩は決して忘れないわ」
「あなた方が救って下さったこの世界、必ずや平和に導くことをお約束致します」
「M78星雲以外のウルトラ戦士、お会い出来て光栄です」
「すぐに帰っちまうのが寂しいくらいだぜ」
 我夢と藤宮は一人ずつの手を取って握手を交わしていく。
「ありがとう。みんなのあきらめない心があれば、どんな敵が来ようとも世界は滅んだりはしない!」
「どんな絶望にぶつかっても、決して折れないで立ち上がるんだぞ」
 最後に我夢の前に立ったのは、タバサであった。
「君は、確か……あの森にいた……」
 タバサは少し気外そうにしながらも、コクリとうなずいた。そして手を差し出し、小さい
声ながらもはっきりと告げる。
「ありがとう……」
「……うん! 君も、何だか色々と事情があるみたいだけれど、最後まであきらめずに頑張ってくれ!」
 我夢は彼女の手を握り、満面の笑みを向けた。
 そして我夢たちとの別れの時。二人がアドベンチャーに乗り込み、元の世界へと帰還して
いくのを、才人たちが微笑みながら見送る。
「ありがとなのねー! いつかまたお会いしましょうなのねー!」
「パムパムー!」
 シルフィードとハネジローが大きく手を振る中、アドベンチャーは我夢と藤宮を乗せて、
彼らの世界へと帰っていったのだった。

 こうしてまた一つの大きな戦いが終わったのだが、まだハルケギニアが平和になったとは
言い難い。むしろ、人間という種族の中での一番の障害が消えて、ロマリアは更に聖戦を
推し進めようとすることだろう。エルフとの関係も、まだどうなるか分かったものではない。
次の戦いの火種は既にくすぶっているのかもしれない。
 しかし、才人たちは決して負けない。次にどんな敵が現れようとも、心の中に光を持ち
続けることを、時空を超えてやってきた勇者たちに誓ったのだから。
 彼らはいつかハルケギニアを、ウルトラマンのような光が瞬く星にするのだと心に定めた
のであった。

302 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2018/01/09(火) 00:30:03 ID:yp5NyY2s
以上です。
これでガリア編は終了と相成ります。

303 名無しさん :2018/01/21(日) 09:51:33 ID:e79hji6o
久しぶりにスレを見たら続きが…乙です!
問題がないようでしたら今日の17:00ごろに短編を投稿したいと思います。

304 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2018/01/21(日) 19:35:56 ID:QRtsMaR2
こんばんは、焼き鮭です。二時間半待ちましたが音沙汰がないので、すみませんが先に投下します。
開始は19:38からで。

305 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2018/01/21(日) 19:39:14 ID:QRtsMaR2
ウルトラマンゼロの使い魔
第百六十三話「ド・オルニエールへようこそ」
催眠怪獣バオーン 登場

 ロマリアとガリアの間に開かれた戦端は、ジョゼフの死亡によって終焉を迎えた。トリステインは
両者の戦争の間、ガリアの牙がこちらに向いたらと震え上がっていたので、戦争の終結の報が届いた
時には誰もが胸をなで下ろしたものだった。そして戦争の勝利及び早期終結に貢献したオンディーヌと
ルイズ、ティファニアにはその恩賞が与えられた。いや別に才人以外のオンディーヌがこれと言って
何かした訳ではないのだが、対外的な理由によって隊長のギーシュはシュヴァリエに叙され、隊員たち
には一人ずつに勲章が与えられたのであった。
 そして戦勝を祝う魔法学院の宴の中で、才人とルイズは二人でバルコニーに出ていた。
才人はホールから聞こえてくるオンディーヌの起こす喧騒に耳を傾けながらため息を吐く。
「全く……みんなのんきなもんだぜ」
「いいじゃない。ジョゼフ王は死んで、その裏の黒幕もやっつけた。当分は平和になるわ。
少しぐらいの羽目外しは大目に見てあげなさいよ」
「けどな……タバサがここからいなくなっちゃったってのに」
 ロマリアのたくらみを見抜き、その罠を回避したタバサであったが――結局、ガリアの
王位を継承すること自体は受け入れた。何故なら、継承権を失ったジョゼフの子を除いた
ガリア王家の生き残りは彼女とその母親の二人のみ。タバサの母は長きに亘る心神喪失の
影響でとても戦後の混乱を収める体力はなく、自分が王座に就かなければガリアは指導者
不在になってしまう。そうなったらロマリアの格好の的だ。聖戦のために陰謀を張り巡らす
ロマリアを牽制する意味で、タバサはシャルロット女王として即位。ロマリアからの干渉を
遮断する方向に政治の舵を切っているところだという。
「まぁ確かに、キュルケじゃないけれど、あの子がいなかったらいないで寂しいわよね」
「それだけじゃない。ロマリアからしたら、タバサを新しい女王にするということ自体は
叶ってるんだ。当然そこで終わりじゃないだろう、タバサを利用する何かしらの算段が
あるはず……。そこが俺、心配でさ……」
 今は遠く離れたタバサの身を案ずる才人に、ルイズが気を紛らわさせるように説く。
「大丈夫よ。聖地を取り返すためには四の四が必要なはず。でも、ガリアの担い手のジョゼフ
王は死んじゃった。続けようがないじゃない。ロマリアの陰謀もこれでストップよ」
「でもな……。あいつらは、それでも遂行できる自信があると思うんだ」
 才人はずっと気になっていたことをルイズに言った。
「だって……絶対ジョゼフは味方にならない。あいつらそう考えて行動してたんじゃないか。
つまり、別にそろわなくても出来るんじゃないか?」
 不安に思う才人だったが、ルイズは次のように指摘する。
「わたしたちが、ガリアの担い手はジョゼフ王だって知ったのは、最後の最後じゃない」
「あ」
 得心する才人。自分たちが、ジョゼフが虚無の担い手だという情報を最初に入手したのは、
カステルモールの手紙から。その内容を知らないロマリアは、事前にジョゼフが担い手だと
知るすべなどなかったはずだ。
「ロマリアもジョゼフ王じゃない、別の担い手がいると思ってた。ジョゼフ王を打倒した後、
そいつを味方にするつもりだったんでしょ。でもガリアの担い手はジョゼフ王でした。教皇
聖下の計画は頓挫したのよ。四の四がそろわないと、真の虚無とやらは目覚めないんだから。
だからもう案ずる必要なんてないのよ」
「なるほど……」
 才人はルイズの唱える理屈に納得したものの……。
『いや、俺はそうは思わねぇな』
 ゼロは異議を挟んだ。
「え? 何でよ。さっきも言ったけど、ロマリアはジョゼフ王が担い手だと事前に知ることは
出来なかったはずなのよ」
『いいや。確信はなくとも、予測は立てられたはずだぜ。虚無の担い手は、覚醒する前は
傍目から見りゃメイジの家系なのに魔法の才能が全くないって風に映るんだろ?』

306 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2018/01/21(日) 19:43:12 ID:QRtsMaR2
 ゼロの言う通り。ルイズもかつては、どの系統の魔法も扱えない劣等生のレッテルを貼られて
いたものだ。
『聞いた話じゃ、ジョゼフもその条件には当てはまってた。あいつが担い手だと、十分に
予測はつけられたはずだ。それでも敵対したってことは、才人の言う通り、何か他のアテが
あるんだろうよ。それに俺の経験的に、悪いこと考えてる奴は真の狙いや思惑を隠してる
もんだ。予断は出来ないんじゃねぇかって思うぜ』
 才人は、今度はゼロの論理に感心させられる。しかしルイズはまたまた反論。
「でも、聖下もロマリア軍も既にガリアから撤退したのよ。タバサに何かするつもりなら、
理由をつけてガリアに留まろうとするんじゃないかしら?」
『何を狙ってるのかまでは分からねぇさ。ただ、まだしばらくは警戒を続けとくべきだろう。
ミラーナイトにも見張っててもらおうか』
 まだロマリアの陰謀が終わっていない可能性を示され、才人とルイズの不安が大きくなった。
才人は一つため息を吐く。
「あのタバサのことだから、そう簡単には大事にはならないとは思うけど……一つの大きな
戦いが終わったのに不安要素が残るってのは、気分がいいもんじゃないんだな……」
 短い時間でもいいから、心の底から安堵したいもんだ……と顔をしかめる才人。ガリアの
件が落着してすぐに、今度はロマリアを敵に回さなければならないと考えたら、さすがに嫌に
なってくる。こんな戦いの連続に、いつ終わりがやって来るのだろうか……。
(……戦いの、終わりか……)
 才人はふと、その時を想像して複雑な気持ちを抱いた。このハルケギニアでの全ての戦いを
終えて、真の平和が戻った時は……自分がゼロと一体化している理由はなくなり、地球に帰る
こととなる。いつになるかは全然分からないが……その時はハルケギニアで出会った仲間たちと、
そしてルイズと、どのような別れを迎えるのだろうか。そして、その先の未来はどうなるのか……。
 ここで、主を失ったミョズニトニルンのことを思い返した。

 ミョズニトニルンは才人のパラライザーの影響で、ジョゼフが才人に敗れ、死神に殺害
されるまでの出来事を、見ていることしか出来なかった。フリゲート艦からはロマリア騎士
たちに助けられ、麻痺が抜けたのは、全てが終わってからであった。
 ミョズニトニルンはその後、魂どころか何もかもが身体から抜け落ちてしまったかのように、
虚ろな状態に陥っていた。その様子は、ジョゼフとともに彼女に苦しめられた才人たちが憐れんで
しまうほどであった。
『ミョズニトニルン……あなた、もしかしてジョゼフ王のことを……』
 ルイズが女として何かに気がついて問いかけようとしたが、ミョズニトニルンはそれを
さえぎって言った。
『たとえあのお方が、私のことを何とも思って下さらなかったとしても、私にとってあのお方は
全てだった……。それを失った今、私にこの土地での居場所はないわ……』
 ミョズニトニルンはふらふらとどこかへ歩み去っていく。主の死により虚無の使い魔でなくなり、
元々生活していた土地に帰るつもりなのであろうか。
 才人たちはそれを止めなかった。止めたところで、どうなるというのか。
『……一つだけ教えてくれ! 本名は何て言うんだ!?』
 それだけ聞くと、彼女はこう答えた。
『もう私に、名前なんてない。愛した主人の死に何も出来なかった、ただの一人のちっぽけな女。
それだけよ……』
 そうして本当の名前すらも分からない、哀れな女はどこかへと消えていった。ロマリアも、
使い魔のルーンを失った彼女にはもう興味も価値も見出さないのか、なすがままにした。
 かつてミョズニトニルンだった女が、無事に故郷へ帰れるのか、それとも途中で
どこかで斃れてしまうのか。それはもう彼女自身にしか分からないことであろう。

 ――たとえ世界にどんなことが起ころうとも、時間は変わりなく流れ続ける。才人たちも
意識を切り換えて、変わっていく日常の中に戻っていった。
 ルイズは今年で最高学年である。魔法学院に在籍している日数も少なくなってきた。そこで
少し気は早いが、卒業後に生活する屋敷を探すこととなった。卒業してからは寮塔からそこを
ウルティメイトフォースゼロの活動の拠点とするつもりだ。

307 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2018/01/21(日) 19:46:57 ID:QRtsMaR2
 が、しかし……。
「結局、どこも見つからなかったって訳ぇ?」
 『魅惑の妖精』亭の店長スカロンが、屋敷探し後に憮然とした調子で立ち寄ったルイズたちの
報告に呆れ返った。
 ルイズと才人が暮らす屋敷は、一件も見つけることが出来ず仕舞いだった。何故なら、
シエスタが同行していたからである。シエスタは才人つきのメイドであり、新しい屋敷を
探すなら当然彼女の意見も重要となるのだが、シエスタが何か言う度にルイズが感情的に
強固に反対するのだから、それは屋敷が決まらないのも当然であった。
 ルイズの本心としては、才人を男として狙うシエスタを、というかメイドそのものを屋敷に
入れたくないのである。しかしそれは全く現実的ではない。貴族として使用人を雇わない訳には
いかないし、男には任せられない仕事もある。メイドは必要なのだし、今更シエスタを個人的な
理由で解雇する訳にはいかない。でもやはりシエスタを近辺に置いといたら安心が……と、
ルイズは矛盾に陥っていた。
 そこにスカロンが解決策を提示した。
「サイトくんはお屋敷を買う。ルイズちゃんと暮らす。シエちゃんも雇う。これで万事解決」
「どうしてそうなるのよ!」
 顔を輝かせるシエスタとは反対に怒鳴るルイズを、スカロンは極めて冷静に諭す。
「あのね、ルイズちゃん。サイトくんは今や平民の英雄なのよ」
「え?」
「あれをご覧なさいな」
 スカロンが指差した食堂の壁に目を向けるルイズたち。そこには歌劇の公演ポスターが
貼られていた。
 トリスタニアは何度もウルティメイトフォースゼロに救われているので、市民からのゼロたち
への人気は非常に高い。劇場でも、ゼロたちの演劇が毎日のように公演されているのだが……
今あるポスターの演目はそれではなかった。
 剣を持った男が、恐らくジョゼフのつもりなのだろう恐ろしい格好の王様に立ち向かう様が
描かれている。ルイズが唖然と演目名を読み上げた。
「勇者ヒリーギル?」
「サイトくんのことよ」
 どうして才人が歌劇の主役になっているのか。その理由を語るスカロン。
「元々アルビオンでの活躍から、サイトくんの名前は平民の間で有名だったわ。そこにガリア
との戦争で、見たこともない兵器で怪獣に一人立ち向かい、貴族を何人も決闘で負かして、
挙句には敵国の王様を破ったって話が届けば、そりゃあ爆発的に人気が出るのも当然だわ」
 人の噂は吹き抜ける風のように伝わっていくもの。才人が事実上ジョゼフを打ち負かした
ところは、ロマリア騎士たちも目撃していたので、そこから話が広まったようだ。
「特にサイトくんは元平民。それが貴族の位を授かって、悪い王様をやっつけたなんて話、
まるでお伽話か叙事詩のよう。今では平民の希望の星として、場所によってはウルトラマン
ゼロ以上の支持があるってことよ」
「ま、マジかぁ……」
 予想外のところで自分が持ち上げられている事実に、才人は喜びではなく戸惑いを覚えた。
これでもしも自分がウルトラマンゼロでもあるなんてことが知れ渡ったら、ショック死して
しまう人まで出るのではないだろうか。
 しかし、一方で問題も発生しているという。
「人気が出れば、面白く思わない人たちだって出てくる。ルイズちゃん、誰だと思う?」
「貴族……」
 ポツリとつぶやくルイズ。破竹の勢いで成り上がる者を、元々の特権階級が疎ましく思わない
はずがない。それが人間というものだ。ゼロたちは完全に生きる世界の違う者たちなのでその
悪感情の矛先が向くことはないが、才人はそうではないのだ。
「正解。うっかり知らない人間なんかを雇った日には、食事に何を混ぜられるのか知れたもん
じゃない。サイトくんには、シエちゃんみたいに絶対に信頼できる召使が必要なの」
 ルイズは、先ほどのスカロンの意見の真意を理解した。最早シエスタは、自分たちの元に
いなければならない人間なのだ。つまらない嫉妬でどうこう言っている場合ではない。

308 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2018/01/21(日) 19:49:32 ID:QRtsMaR2
「サイトくんも、今後は素顔を晒してトリスタニアを歩き回らないことね。すぐにもみくちゃに
されるわよ。きっと今も噂になってるかも……」
 スカロンの忠告の途中で、『魅惑の妖精』亭の羽扉が外から開かれた。
「失礼する。ここにミス・ヴァリエールとサイトが……来ているな」
「アニエスさん!」
 入ってきたのはアニエスだった。軽く驚くサイトたち。
「俺たちを捜してたんですか?」
「ああ。学院に向かうところだったのだが、街でお前たちが来ているという話を耳にしてな。
お前たちが立ち寄るならここだろうと覗きに来たのだ。しかしサイト、お前の人気ぶりは
すさまじいものになったな。あちこちでお前を称える声を聞くぞ」
 スカロンの言う通り、噂になっていたようだ。才人は何だか照れくさいような、そこまで
人気が白熱して怖いような気分になった。
 そんな才人は置いて、ルイズがアニエスに尋ねる。
「それより、わたしたちに何の用? また姫さまがわたしたちをお呼びとか……」
「察しがいいな。その通りだ」
 アニエスは、トリステイン王家の花押が押された手紙を差し出した。
「陛下のお召しだ。直ちに宮廷に参内しろ」

 アンリエッタからの召集とあって、ロマリアが何か行動を起こしたのかと緊張したルイズたちで
あったが、それは杞憂であった。アンリエッタは私的にルイズたちに今度の戦の礼を述べるために
呼んだだけであった。
 そしてルイズと才人、アンリエッタの三人だけの食事の席で、彼女はルイズたちをガリアとの
交渉官に任命した。ガリアとのパイプを太くして、聖戦に向かおうとするロマリアの動きを制する
ためだ。そのパイプ役に適任なのは、タバサと強いつながりがあるルイズたち以外にいない。
 それを踏まえて、アンリエッタは言った。
「ルイズはともかく……サイト殿は一国の大使としては、お名前が短すぎるように思えるのです」
「サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガでしたっけ? 十分だと思いますけど」
「サイトは元平民ですから」
 日本人の才人の感覚からすればそうだが、貴族の間ではそうではないようだ。
「ですから、わたくしとしてはそのお名前を、多少長くさせていただきたいのです」
 才人にはアンリエッタの言わんとするところがピンと来なかったが、ルイズは目を丸くして
口をパクパクさせていた。
「ひ、姫さま? それは、つまりその……。それは、つまり、あの、その……」
「ええ。彼に領地を与えたいのです」
 何でもないようなひと言だったが、さすがの才人も噴き出した。
「領地って! 土地ですか!?」
「トリスタニアの西に、ド・オルニエールという領主不在で持て余している土地があります。
あなた方も住むところを探していると聞きましたし、ちょうど良いと思いますが」
「姫さま、その、領地などサイトにはちょっと分不相応なのでは……!」
 ルイズが控えめながらに反対した。領地を与えるということは、才人が領主、日本的に
言うなら殿様になるということだ。悪い冗談にしか思えない。
「分不相応な訳がありませぬ。サイト殿の貢献に報いるには、本当ならこれでも少ないと
言えましょう」
 そう。オンディーヌやルイズ、ティファニアには学院でそれぞれ恩賞が与えられていたが、
一番活躍したはずの才人にだけ何もなかった。少し不可解ではあったが……この席で伝える
ために残しておいたという訳か。
「敵国の王を討ち取ったとあれば、爵位でもおかしくはないくらいですが、多忙である
サイト殿に宮仕えはさせられません」
「確かに……」
 ルイズには、宮廷で政治に関わる才人の姿なんて想像できなかった。
「貴族の間にはサイト殿を妬む声もあると聞きます。これ以上いらぬ嫉妬を買ってはいけませんが、
救国の英雄、平民の希望の星に何の褒賞もなしではわたくしが平民から吊るし上げられてしまいます。
これが落としどころということで、どうかお受け取り下さいな」

309 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2018/01/21(日) 19:51:59 ID:QRtsMaR2
「そういうことでしたら……。でも、いいのかなぁ……」
 話を受けながらも、才人は今一つ釈然としていない様子だった。ルイズも、胸の奥に漠然と
した不安が残る。
 アンリエッタは落としどころといったものの、才人を妬む者には通用しない論理だ。嫉妬心と
いうものには理屈が通らない。誰か憎む相手がいるのなら、その対象が着ている袈裟まで憎い。
理不尽な話だが、負の感情に割り切りがある出来た人間は少数なのだ。
 スカロンの言うような、食事に毒を混ぜられるような、そんな事態が才人に降りかからないか……
そこが心配であった。

 夏休みが始まる直前の週、ルイズたちは下賜された土地、ド・オルニエールを検分しに
行くことにした。初めはルイズと才人の二人だけのはずだったが、シエスタが当然のように
ついてきて、そこに話を聞きつけたオンディーヌが加わり、あっという間に大名行列のように
なってしまった。
 ギーシュたちは、ド・オルニエールの年収が一万二千エキューと聞いて、早くも才人に
たかる気満々であったが……実際に到着して目の当たりにしたド・オルニエールの光景に、
失望を覚えることとなった。
「見渡す限りの荒野が続いてるんだけど」
 田舎道の左右には、どこまでも荒涼とした更地が続くばかり……。どう見ても、一万エキュー
以上の収入が出るような土地ではない。
 ルイズが呆れたようにつぶやく。
「持て余しているというのは本当だった訳ね」
 年収一万二千というのはもう過去の話なのだろう。ド・オルニエールは領主の血筋が途絶えて
管理するものがいなくなって久しいとも聞いた。若い働き手はここを離れて、すっかり荒れ果てて
しまったという訳だ。
 肝心の屋敷も、長年手入れされていないのが丸分かりの、幽霊屋敷もかくやというボロボロっぷり
であった。
「これは掃除のし甲斐がありますわね……」
 シエスタがそんな皮肉を言うくらいであった。
 そして何より、一行を一番呆れ果てさせたのは……。
「ここの領民たち、皆老人ばかりのようだが……随分怠け者ではないか? あちらこちらで
昼寝ばっかりして」
 ギーシュがそう口にした。彼らがド・オルニエールで目にした領民たちは皆、土地のそこ
かしこで太陽の出ている内からぐっすり寝こけているありさまなのだ。これで呆れない人間が
いるだろうか。
 しかしルイズはその様子に疑念を抱いた。

310 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2018/01/21(日) 19:54:10 ID:QRtsMaR2
「さすがにおかしくないかしら? いくらお年寄りばかりと言っても……道端で寝転んでる
なんて。全員が示し合わせたように眠ってるのも変よ」
「言われてみれば、何人かは直前までお仕事をされていたように見えますね」
 シエスタも同意した。寝ている人の周りには、畑仕事の道具が散乱していることもあったのだ。
怠けているというよりは、仕事中に突然意識を失ったかのような感じである。
「まさか、何者かに眠りの魔法を掛けられたんじゃ……」
「まさか。こんな実入りのなさそうな土地に貴族崩れの賊が来るとは思えないよ。特に荒らされた
様子もないし。確かにいささか不可解ではあるが……」
 ルイズの推理にギーシュが異を唱えていると、その隣のマリコルヌがふあぁ、と大きな
あくびをした。
「おいおいきみまでどうした。ご老人たちの眠気に当てられたか?」
「いや……今、変な音が聞こえなかった? それを聞いた途端、急に眠気に襲われて……」
「変な音?」
 ギーシュたちが首を傾げていると……ズシン、ズシンという鈍い地響きがゆっくりと近づいて
くるのを感じ取った。
「この感じ……まさかッ!」
 一行がバッと振り返ると……背後の風景の中に、小山ほどの大きさの見慣れない巨大生物が
闊歩していた!
「か、怪獣だぁ!」
「でも何か間抜け面だな……。豚みたいじゃないか」
「おまけに眠そう」
 ギーシュは悲鳴を上げたが、レイナールたちは怪獣から遠くからでも分かるほど覇気が
ないのを感じて落ち着いていた。もう散々怪獣を見てきたので、それくらいは分かる。
 彼らの前に現れた怪獣は、大きく口を開いて息を吐き出した。
「バオ――――――――ン!」
 怪獣の鳴き声が耳に入った途端、
「えッ……?」
 才人たちは全員くらりと身体が傾き……その場に倒れ込んでしまった。何が起こったと
いうのか!?
「……ぐぅ」
 ……全員眠っていた。
 ド・オルニエールに出現した怪獣――催眠怪獣バオーンは、才人たちに気がついた様子も
なく、ドスドスとのんきに荒野を横切っていった。

311 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2018/01/21(日) 19:56:16 ID:QRtsMaR2
今回はここまでです。
ガリア編も終わって、次の長編の準備中です。

312 名無しさん :2018/01/28(日) 10:35:40 ID:6rg/EXiM
もうゼロ魔も12年前のアニメか
信じられんわ

313 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2018/01/31(水) 19:50:16 ID:WoSmxfsM
ウルトラマンゼロの人、投稿お疲れ様でした。

さて皆さん、かなり遅くなりましたがあけましておめでとうございます。
2018年もどうかよろしくお願いします。

特に問題が無ければ、19時54分から今年最初となる91話の投稿を始めます。

314 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2018/01/31(水) 19:54:15 ID:WoSmxfsM
―――…………………、………………?
――――…………、…………

(……ん…んぅ?)
 どこかで誰かが、誰かと何かを喋っている。
 瞼を閉じて眠りについてしまい、それから数時間が経った頃に自分はそれに気が付いた。
 どこでどう睡魔に負けてしまったのか定かではないが、何となくそう理解できているのは…つまりそういう事なのだろう。
 今のところ自力では開けられない程に重くなった瞼を開ける事は叶わず、唯一自由な耳でのみその会話を聞いている。
 いや、正確には耳で聞いているわけではない。―――耳の『内側』…つまり頭の中からその声は聞こえてくる。

――――……、…………
―――――…………、……………

 まるで遠くで―――…大体十一、二メイル程度の距離にいる誰かが然程大きくない声で話しているのだろうか。
 少なくとも自分の知っている言語で会話しているのだろうが、何を話しているのかまではうまく聞き取る事が出来ない。
 それをもどかしく思いつつも、ふと自分の頭の中から聞こえてくるというのに何故ここまで自分は冷静でいられるのだろうか?
 そんな疑問を覚えたものの…深く考えるよりも先に、一つの結論がポンと飛び出てくる。
(夢…なのかしらね?)
 安直すぎるかもしれないが、夢であるというのならば大体の事は説明がついてしまうのだ。
 現実では起こり得ない様な事がいとも簡単に起き、見る者を不思議な世界へと誘う。
 だとすれば、この聞こえてくる会話も全て夢の中の出来事…そう解釈すれば何てことも無くなってしまうのだから。
  
(夢なら…まぁ、このままでもいいかしら?)
 閉じられた瞼の内側…暗闇に包まれた視界の中で自分は落ち着いた態度で夢が覚めるのを待つことにした。
 少し遠くから聞こえていた会話はそれから一言二言と交えているが、相変わらず何を言っているのかまでは聞き取れない。
 しかし…聞こえ始めてから一分ほど経ったくらいであろうか、声の主たちが段々と近づいてくるのに気が付いた。
 それは六、五言目になるであろうか、その時の会話が聞き取れるようになってきたのである。

――――……それ……か?……怪……お………か?
―――――それ………法……わ、……子は…里……………る

(二人とも、女性…?)
 言葉が聞き取れるようになってから、話している二人が女性である事に気が付く。
 一人はやけに真剣な様子で、もう一人は何か胡散臭いながらも艶やか雰囲気が声色から感じ取れる。
 まだ言葉の一部だけしか聞き取れない状態だが、声色からして楽しげな話をしているワケではないらしい。
 少しもどかしいと思いかけた所で、次の会話ではようやく言葉の半分程度が分かるようになってきた。

315 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2018/01/31(水) 19:56:32 ID:WoSmxfsM
――――しかし……後はどう……?………に育てられた……女なんて……、里の者が……………
―――――そ……見つけた内の一人………にも、勿論………力……て……貰うわよ

 声の主たちが近づき、聞き取れる言葉が増えていく。……それに気づいた直後である。
 ふと心の奥底…とでもいうべきなのだろうか、今は眠っているであろう体の中から一種の不安がこみ上げてきたのだ。
 まるで底の見えない湖の上に浮かんでいる最中にふと視線を下へ向けて、湖底からせり上がってくる黒く大きな影を見てしまったかのような…。
 そんな、自分の足元から逃げようのない恐怖に遭遇してしまった時のような急激な不安感が心の中で広がっていく。
 どうして急にそういう気持ちになってしまったのか一瞬だけ分からずにいた自分は、ふと一つの結論に至る。

(まさか…あの声が、原因なんじゃ…)
 この不安感を覚えて以降、全く聞こえてこないあの二人の女性の話し声。
 瞼を閉じて夢の中にいるのだが、現実的に考えればそれしか原因は考えられない…かもしれない。
 他に原因と思えるような要因は見当たらない以上、自ずとそういう考えに至ってしまうのは仕方ない事であろう。
 最も…ここが夢の中であるのならば、明確な原因など最初から存在しないという可能性も否定できないが。
 本当の原因を突きとめられない今、こみ上げる不安感にどうしようかと悩もうとしたその時、またしても話し声が聞こえてきた。

―――相変わらず………ってくれる。私がそれを……れない事を知って……癖に
――――ふふ、貴女の―――好しは今後の………において、最も重要な……

 今度はかなり近づいてきている。言葉と言葉の合間の息継ぎが、微かに聞こえてくる程に。
 声が近づいてきていると理解したと同時に、自分の心の中で芽生えた不安感がより一層膨らんでいく。
 身動き一つ出来ない今、その不安感にどうしようも出来ないという状況に自分は焦ってしまう。
 せめて手だけでも動くのならば、自分の頬を抓って夢から覚めようと頑張れるのに。
 そんな下らない事からできない今では、正体不明の不安感がただただこちらへやってくるのを見守る事しかできない。
(もしも…彼女たちの喋っている事が全部聞き取れるようになったら…一体どうなるのかしら?)
 
 もはや受け身を摂る事すらできず、受け入れるしかないという状況の中でそう思った時だ。
 今度はウンと近く、それこそ自分の真横にいるかのように彼女たちの声が聞こえてきたのである。
 頭の中で直接聞こえてくる二人の内、最初に口を開いたのは真剣そうに放している方であった。

―――…たくっ、これから寺小屋も忙しい時期だというのに…次から次に厄介な事件を持ってくるなお前は?

 ハッキリと聞こえる様になった今、いかにも苦労人と分かるばかりの声で女性は喋っている。
 そしてもう一人―――艶やかな雰囲気を漂わせる声の女性が言葉を返す。 

――――…良いじゃないの。跡継ぎがいる以上、探すという時間の掛かる工程を省けたのだから

316 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2018/01/31(水) 19:58:15 ID:WoSmxfsM
 何故かこの声を聞いた時、ふと自分の脳裏に『誰か』―――女性の後姿が一瞬だけ過った。
 腰まで伸ばした金色の髪と一度見たら忘れない形をした奇妙な帽子に、これまた珍妙な形をした白色の日傘。
 その後ろ姿を見ただけでその『誰か』の正体が、あの胡散臭そうな声の主なのだと無意識に理解してしまう。
 どうして分かったのか自分でもイマイチよく分からず、一瞬だけだというの脳裏にあの後姿がこびりついてしまっている。
 彼女は自分の何なのだろうか?どうして夢の中に現れ、良く分からぬ誰かと会話しているのだろうか?

 その答えを知る前に――――自分の意識は網で掬い上げられた金魚のように現実世界へと引っ張られた。
 右の頬を冷やかに刺激する、冷たい『何か』を押し付けられたおかげで。


「―――――……ン、んぅ…?」
 まず目に入ってきたのは、小さくも中々の意匠が施されたシャンデリアであった。
 魔法で作動するよう作られているそれは、今は付ける必要なしとして消灯されている。
 未だ重い寝惚け眼を手で擦りながら自分こと彼女―――ハクレイはゆっくりと上半身を上げた。
 そこでふと、自身の背中を預けていたのが何なのかと気になった彼女は、スッと足元へと目をやる。 
 室内の灯りは消えていたが、窓越しの街灯のおかげで今まで自分がソファーの上で寝ていた事に気付く事ができた。
「…ふぅーん、ソファーねぇ?……はて、どうして?」
 まだ寝ぼけているのか右手でポフポフとソファーを軽く叩いていた彼女は怪訝な表情を浮かべ、寝る前の記憶を思い出してみる。
 未だ覚醒しきっていない頭の中で何とかして記憶を繋げようとして二分、ようやく寝る前にしていた出来事を思い返す事が出来た。
 
「確か、今日も財布を盗んだあの娘を捜して…それで夜遅くなったんだっけ…か。
 昼から探し回って、夕方頃に変な気配を感じたから見に行ってて、それから後も探し回って……って、」
 
 …そりゃー帰りが夜遅くになるのも仕方ないわよね。
 中々起きる事の出来ない自分に言い聞かせるように一人呟くと、再びその背中を程よく柔らかいソファーに委ねた。
 ボフン!と大きな音が出たものの、中に入ったバネの軋む音が聞こえないのは、中々に良い店から仕入れた事の証拠であろう。
 流石カトレア達貴族が街中の別荘地と呼ぶだけあって、家だけではなく家具にも気を使っているらしい。
 自分の体ではほんの少し狭いソファーで横になったまま、ハクレイは街灯の灯りが漏れる窓の外へと目を向ける。
 
 窓の外から見える先には、大きな歩道を挟んで程々に大きな家が建っている。
 こちらと同じく室内の灯りは全て消えていたが、街灯に照らされた庭だけを見てもすぐに立派だと分かった。
 恐らくあの家の主…もしくはここ一帯の管理人を務めている老貴族の趣味であろうか、動物のトピアリーがある。
 本物より大分大き目に作られた犬と猫の横には、場違い感が半端ないドラゴンのトピアリーが今にも羽ばたこうとしているポーズで飾られていた。
 他にもその家で夏季休暇を過ごす子供たちに作ったであろうブランコなどがあり、今が昼間ならばさぞ賑やかな光景が見れたに違いない。
「しかし…まさか大都市の中にこんな場所があったなんてねぇ…」
 ハクレイは一人呟いて、トリスタニアにある貴族向けの宿泊施設゙群゙『風竜の巣穴』の感想をポツリと漏らした。

317 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2018/01/31(水) 20:00:15 ID:WoSmxfsM
 …『風竜の巣穴』。
 王都の西側、王宮を一望できる小高い丘の下にある幾つかの別荘を有するリゾート地だ。
 一見すれば上流貴族向けの住宅地に見えるが、実際にはそこら辺の住宅地よりも泥棒に襲われる心配はないだろう。
 何せ土地一帯を囲う強固な鉄柵と、数か所ある出入り口にはメイジの警備員達が二十四時間体制で守ってくれているのだから。
 土地の中にある住宅は全て貸し出し用の別荘であり、当然ながら値段も相当張るが、その値段分の豪勢さは当然持っている。
 朝昼夕の三食及びデザートも事前に申していれば手配され、何なら自前の食料を持ち込む事も一部可能らしい。
 他にも所有地内にはちょっとした池つきの森林公園もあり、釣りや水泳に屋外での食事会もできるのだという。

 前述の通り結構な値段が掛かるものの、王宮勤めの貴族たちには街中の避暑地として人気らしい。
 何せ王都の中にあるうえ、有事の際にはすぐに宮廷へはせ参じれる事が大きな理由なのだとか。
 折角のお休みだというのに一々仕事の事を気にしてしまうなど、王宮勤めの貴族とやらは随分忙しいようだ。
 本来ならこの時期の予約はとっくに埋まってしまっており、カトレア達が入れる別荘などとっくに無い…のであったが、
 幸い休暇として別荘を予約していた国軍の高官がキャンセルしてくれた為、偶然にもそこへ自分たちが入る事ができたのだ。
 最も、カトレア本人がここの支配人である老貴族と親しい仲であった事が大きくプラスしたのは間違いないだろう。
 何でも以前、ヴァリエール領へ赴いた際に道中で痛めた腰を癒してくれた事への礼だと言っていたのは覚えている。

 今更ではあるが、カトレア本人の献身さは一体あの体のどこに隠れているのだろうか。
 あれ程体が弱いというのに、自分やニナの様な謝礼も期待できない様な人間を助けてくれるなんて…。
 まぁその献身さが無ければ、今の自分がどうなっていたかなど…想像もつきはしないのだが。
 そこまで思った所でハクレイはふと真顔になった後、つい先日犯してしまった『失態』を思い出して呟いた。
「本人は気にしないでって言ったけど…、やっぱりちゃんと見つけてお金を取り戻さないと駄目よね」
 
 以前カトレアからお小遣いとして貰った八十エキューを、街中で出会った少女に奪われて早二日…いや日付ではもう三日前だろうか。
 もう少しで捕まえかけたところで前方から飛んできた『誰か』とぶつかった後、そのまま意識を失い川へと落ちてしまった事は辛うじて覚えていた。
 幸い仰向けの状態であった為溺れる事無く暫し川の水に流され、川沿いで飲んでいた浮浪者達に助けて貰ったのである。

――――おぉアンタ、大丈夫かい?
―――――え…えぇ大丈夫よ。後、有難う…ございます
――――オレら、この川で色んなモンが流れてくるのを見てきたが、アンタみたいな別嬪が流れてくるのは初めて見たよ

 すぐさま彼らの助けを借りて岸に上げてもらい、暫し焚火で暖をとった後で彼女は夜になっている事に気が付いた。
 その時にはもう陽は暮れてしまい、ひとまずどうしようかと迷った挙句に…ひとまずはカトレアの元へ帰る事を選んだ。
 水に濡れた状態で帰ってきた彼女を見て皆は驚き、一様に何があったのかと聞いてきた。

―――…というワケで、貴女がくれたお金は全部盗られちゃったの…ごめんなさい
―――――まぁ…!そんな事があったのね…

318 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2018/01/31(水) 20:02:34 ID:WoSmxfsM
 とりあえず持ってきてくれたタオルを頭から被った姿で、ハクレイはただただ頭を下げるしかなかった。
 彼女から詳しく話を聞き、相手が幼い少女で…しかもメイジだったという話にカトレアは目を丸くしていた。
 王都だからといって治安の保証がされているワケではないし、そこら辺の地方都市よりも窃盗が多いのは誰もが知っている事だ。
 しかしまさか…彼女、ハクレイよりも年が一桁どころか二桁離れているかもしれない少女がそんな事に手を染めているとは…。
 これまで生きてきて、色んな人たちから聞いたどの話よりも衝撃的な事実であったらしい。
 
―――――むー!なっさけないのー!わざわざ追っかけてたのに、そんな子に逃げられるなんてー!
――――…言い訳はしない…っていうか、思いつかないわ
――――――こら、ニナ!落ち込んでる人にそんな事を言ったらいけないわよ

 カトレアの傍で話を聞いていたニナにもダメ出しされてしまい、余計へこんでしまったのは言うまでもない。
 ひとまずその日の夜はそこでお開きとなったが、盗難届を出すかどうかについては言葉を濁されてしまった。
 周りのお手伝いさんたちからは衛士の詰所に届出を出した方が良いと言っていたが、カトレアは難しい表情を浮かべるだけであった。
 翌日から、ハクレイは自主的に街へ繰り出しては方々歩き回って少女の行方を追い続けている。
 しかしあまりにも広い王都が相手ではあまりにも人ひとりの力は小さく、そして無力であった。

 一つの通りを曲がれば更に複数の道が現れ、うっかり進む道を間違えれば下水道へと続く下り道に入ってしまう。
 今日なんて曲がった先にいた野良犬たちにイチャモンをつけられ、追い回された事もあった。
 誰かに聞こうとしても誰に聞けばいいか分からず、結局声を掛けられぬまま街中をうろうろ彷徨うばかり…。 
 まるでゴールの無い迷路を彷徨い歩いているかのような虚無感を感じ始めた時に、今日の夕方にそれは起こった。
 今日もまた何の成果も得られなかったハクレイが、とぼとぼと返ろうとした最中の事であった。
 ふと何処か…王都の一角から感じた事の無い『力の爆発』を察知したのである。
 
 今まで見てきた魔法とは明らかに毛色が違う、何処か活き活きとして…危なっかしさを感じられる不可視の力。
 それが一塊となって爆発したかのような…そんな他人に説明するのが難しい気配を感じたのである。
 お金を盗んだ少女とは関係ないだろうと思いつつ、何故かハクレイは導かれるようにして気配が出た場所へと走った。
 夜の繁華街へと向かう人波をかき分け、人気のない路地裏に入ってからは一気に建物と建物の間を『蹴って』進む。
 そうして幾つかショートカットして辿り着いた場所は、数人の衛士が屯している寂れた広場であった。
 必要は無かったかもしれないが、彼らに気づかれぬよう共同住宅の上から彼らの話を盗み聞きした。

 ―――…何か奇妙な発光が起こった…ていうから来てみたが、驚くぐらい何にもないな
 ――――…いや、待て。あそこのグレーチングが外れてる…誰かが下水道へ逃げ込んだのか?
 ―――馬鹿言え!そんな狭い穴じゃあ子供でも途中でつっかえてママー!って泣き叫ぶほかないぜ

 支給品であろう槍を手に持ち、お揃いの薄い鎧を着込んだ衛士達はそんな話を大声でしながら広場に屯していた。
 どうやら話を聞くに街の人の通報で来たようだが、何が起こったのか…までは分からかった。
 結局その後は戻るついでに色々と探し回ってしまい、結果的に夜遅くに帰る羽目になってしまったのである。
 出り口を警備している守衛のメイジ達は、他の人々と明らかに違う彼女の姿で誰なのか分かったのだろう。
 今借りている別荘の番号とマジック・アイテムを使った指紋チェックを済ませて、こうして無事に戻る事ができた。

319 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2018/01/31(水) 20:04:21 ID:WoSmxfsM
 そこまで自分の脳内で回想した所で、ハクレイは妙に寂しい自分のお腹を押さえながらため息をついた。
「それにしても、やっぱり早めに切り上げとけば良かったかしら?…そしたら夕飯も食べれただろうし…」
 名残惜しそうに呟きながら、空腹で寂しくなってきたお腹を押さえながら情けない表情を浮かべてしまう。
 無事に戻ってきた…とはいえ、返った時には既にカトレアの借り別荘は灯りが消えてしまっていた。
 幸い鍵はあらかじめ隠し場所を教えられていた合鍵で開けたが、当然既に夕食の時間は過ぎてしまっている。
 若いというのに就寝時間が早いカトレアに合わせているためか、暖かい食事はとっくの前に片付けられていた。
 
 リビングのテーブルに置かれたバスケットに一個だけ林檎が入っていたのは、不幸中の幸い…というやつだろうか。
 仕方なしにそれを食べた後でひとまずソファで横になったのだが、そのまま寝入ってしまったのは周知のとおり。
 しかも変な夢を見て途中で起きてしまったせいで、再び空腹が襲い掛かってきたようだ。
「はてさて…どうしたものかしら?わざわざ私の為だけに、カトレア達を起こす…ってのは、もってのほかだし」
 窓の外から暗いリビングへと視線を変えたハクレイは、この空腹をどうしようかとという悩みに直面してしまう。
 当然だがカトレアや彼女の付き人を達をわざわざ起こす…という事は、絶対にしてはいけない事だろう。
 遅れて帰ってきたのは自分なのであるし、それこそ腹が減ったという理由だけで起こすのは我儘に他ならない。
 
 お金の件で相当迷惑を掛けてしまっているのだ、これ以上無礼な真似を働くワケにはいかない。
 ならば台所を探し回って食べれる物を探そうか…と考えたが、暫し考えた後に首を横に振る。
 ここに来てまだ日が浅いし、何より台所のどの棚に食料が入っているのか何て彼女は全然知らないのだ。
 灯りがあれば話は別になるだろうが、ご丁寧にも用意されている燭台は結構な特別性であった。
 平民にも使えるらしいのだが、一々作動する際に指を鳴らす必要があり消す時も同様の事をしなければならない。
 そして恥ずかしい事に…ハクレイはそれができなかった。何回やっても何回やっても、指パッチンは決まらなかった。
 昨日の夜にニナと試しに鳴らして点けてみようという事になり、そこで見事に恥をかいたのは今でも忘れられない。

 ニナは十回鳴らして四回ほど成功し、ハクレイは三十回やって…三十回失敗した。当然ニナには笑われた。
 …なので、目の前にあるテーブルの上に置かれた燭台には苦い思い出しかないのである。
 灯りが無いと暗い台所は何も見えない手さぐりになるであろうし、そうなれば何が起こるか分からない。
 それで下手やって食器を割ったり、それ以上の大変な事をしでかしてしまえば本末転倒である。
 ならばどうしようかともう一度考えあぐねた後、彼女は朝まで我慢すればいいのでは…という結論に至った。

「朝になったら全員起きるだろうし、そしたらカトレアに頭下げて謝らないとね…」
 きっと自分が返ってくるのを待っていたであろう彼女の顔を思い浮かべて、ハクレイは天井へと視線を向き直す。
 玄関に置かれた柱時計から聞こえる振り子が規則正しく音を奏で、暗い部屋にリズムを漂わせている。
 横になったまま動かず、その音をじっと聞き続けていると自然に瞼が重くなってくるのが何となく感じられる。
(これくらい柔らかいソファならベッドの代わりにもなるだろうし…今日はここで寝ちゃおうかしら?)
 膝を置く所も柔らかいため、そこを枕代わりにしているハクレイはそのまま朝まで寝ようかと考えてしまう。
 本当ならばカトレアが宛がってくれた寝室に戻って寝るのが良いのだろうが、生憎ニナと同じ部屋を宛がわれている。

320 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2018/01/31(水) 20:07:02 ID:WoSmxfsM
 だからこのまま部屋へ戻って、朝になったらなったで色々とちょっかいを掛けられる恐れがあった。
 彼女が一足先に起きてしまえば、良くて頬を抓られるか酷くて顔に水を掛けられて起こされてしまう。
 カトアレの前ではあんなに子供らしいのに、自分の前に立てば文字通りの小悪魔と化すのは何故なのだろうか?
 特に一昨日の件もあるのだろうか、今日の朝なんてまだ寝ている自分の顔のうえに布を被せてようとしたのだ。
 幸いその直前に目を覚ます事ができ、ニナはカトレアの怒っているのかいないのか良く分からないお叱りを受けるハメになった。
 そして今は…記憶喪失の最中にある彼女にとって親代わりに等しいカトレアとの夕食をすっぽかした自分へ怒りを募らせている事だろう。
 
 カトレアは何があっても基本的に笑顔であり、持病が一時的に悪化でもしない限りそれを崩す事は滅多に無い。
 だから自分が夕食時に返ってこなかったのに対しては、仕方ないと苦笑いを浮かべた事は容易に想像できる。 
 けれど、そうした繕った表情の下にある感情を悟れぬ程ニナは鈍い子供ではない。むしろ子供はそういうものに敏感なはずだ。
 今夜も三人で食べる夕食を楽しみにしていたカトレアの気持ちを事実上踏みにじった自分をニナは怒っているのに違いない。
 無論カトレアからお叱りがあるのならば最後まで耳に入れるし、ニナが自分の足を蹴ってきてもそれを受けるつもりだ。
 だがしかし、寝込みの最中に襲われるという事だけは洒落にならないのである。

 かくして寝室にも戻れず、腹をも満たせぬハクレイは一人リビングのソファーで夜を過ごすことにした。
 彼女は金を盗んだ少女も見つけられず、夕食まで無下にしてしまった罪悪感で今にも押しつぶされそうである。
「あーぁ…何か、ここへ来てから碌な事が続かないわね…金は盗まれるわ、変な夢は見るわで…――――って、夢…?」
 自分の身に続く不幸を呪いつつ目をつぶろうとしたとき――ふと彼女は何か思い出したかのようにハッとした表情を浮かべた。
 彼女は知らないが、ふと眠ってしまった際に見た奇妙な夢―――二人組の女性の会話を聞くだけどというあの夢。
 あれを見て目を覚ましてから既に五分が経過し、再び寝ようとしたところでハクレイはその夢の事を思い出したのである。
 
 体が動かぬ、目を開けられないという状況の中で、頭の中から聞こえてきたあの会話…。
 一体あれは何なのだったのかとそう訝しんだハクレイの頭から、睡魔という誘惑が一瞬で消し飛んでいく。
(そういえば…あの夢は何だったのかしら?…会話は会話なんでしょうけど…)
 上半身を越こし、考え込み始めた彼女はあの夢の中で聞いた声の事を思い出そうとする。
 最初に思い出したのは…もう一人の女性と比べて明らかに厳格な声色が特徴であった女性の声。
 いかにも人格者…という雰囲気を聞き取れる彼女の声と言葉の一部を、脳内で再生し直そうとししてみる。

―――――…次から次に厄介な事件を持ってくるな、お前は?

 夢の中で聞いたのにも関わらず、内容自体はしっかりと覚えていた。
 それから脳内で何回かリピートさせた後、ハクレイはその声に聞き覚えがあったかどうか思い出そうとする。
 しかし…ニナと同じく記憶喪失の身である彼女の穴だらけの記憶では、思い出すことは出来なかった。
 精々思い出せるのはカトレアと初めて出会った所からであり、自分の生まれ故郷すら分からないのである。 
 だから夢の中で喋っていた女性の声など、最初から分かるワケが無かったのだ。
「んぅ〜…やっぱり、駄目ね。全然分からないわ…」

321 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2018/01/31(水) 20:09:40 ID:WoSmxfsM
 残念そうとも無念そうとも言える様な表情を浮かべて、ハクレイは自分の黒髪を右手でクシャクシャと掻き毟る。
 自分の夢の中で喋っていたのだから、きっと記憶喪失に陥った自分に何かを思い出させてくれるのでは…と思っていた。
 しかし実際には何も思い出すことは出来ず、結局『謎の女性A』という扱いになってしまったのである。
 折角意味ありげに出てキレたというのに…博麗は胸中で謝りつつ、次にもう一人いた女性の事を思い出す。
 
―――…跡継ぎがいる以上、探すという時間の掛かる工程を省けたのだから

 『謎の女性A』とは違い、艶やかな大人の雰囲気がこれでもかと声色から漂い…そして妙に胡散臭い。
 どこが胡散臭いのか…と言われればどう答えて良いか分からないが、あえて言えば言葉…と言えばよいのだろうか?
 女性Aとは違いややゆっくりめのスピードに、何か隠し事をしているかのような低く抑えた声。
 そして喋り方からでもはっきりと分かる落ち着き払ったあの態度は、まるで色んな事を知り尽くした老人のようであった。
 恐らく俗にいう『人生経験が豊富な人』…というヤツなのであろうか。自分とはまるで違う性格の持ち主に違いない。
 
 そこまで思った所で…彼女はその夢が覚める直前、脳裏に過ったあの女性の姿を思い出す。
 金色の長髪にここでは見慣れないであろう白い服に白い帽子を被った、日傘を差したあの女性。
 もしかすれば、その落ち着き払った声の主は…彼女なのかもしれない。
 どうしてそう思ったのかは分からないが、あの言葉を聞いた直後に彼女の姿が過ったのだ。
 女性と声が関係しているのならば、そう思っても別に不思議ではないだろう。
「…とはいえ、彼女は何者だったのかしら…良く分からない事が多すぎるけど…けれど…―――アイツ、」
 「アイツ」のところで一旦言葉を止めた後、頭の中でその言葉が浮かび上がってくる。
 
―――人間じゃない様な気がするわ

 そう思った直後、唐突に浮かんできたその言葉に彼女は思わず目を丸くしてしまう。
 一体何を考えているのかと自分の頭を疑いつつも、呟こうとしたその一言を心の中で反芻させる。
(人間じゃない…人間じゃない…何考えてるのよ私?だってアレは…どう見ても人間…そう人間じゃない)
 馬鹿な事を考えている自分を叱咤しつつも、ハクレイはもう一度頭の中で彼女の姿を思い出す。
 服装などは確かにハルケギニアでは珍しいかもしれないが、それは自分にも当てはまる事だ。
 何より彼女の事は後姿でしか見ていないのだ。それでどうして人間じゃないと思ってしまったのだろうか?
 
 唐突に思ってしまった事で、バカ正直に悩もうとした直前に…ふと誰かの気配を後ろから感じた。
 ハクレイはそこで考えるのを一旦止めて、何気なく後ろを振り返ったが…案の定人影は見えない。
 玄関へ繋がる通路と、カトレアと自分たちの寝室がある二階へと続く階段が暗闇の中でぼんやりと見える。
 それ以外には誰かの気配とも言える様な物は見えず、彼女は気のせいかと自分の勘を疑ってしまう。
「疲れてるのかしら?変な時間に目ェ覚ましちゃったし…」
 一人呟き、再び視線を元に戻したハクレイがもう一眠りしようとソファーに背中を預けようとした時―――
 背後から聞こえてきたのだ。確実に人の足音だと確信できる音と、

「あっ…」
 という聞きなれた少女の声を。

322 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2018/01/31(水) 20:11:14 ID:WoSmxfsM
「!」
 今度こそ気のせいではないと確信した彼女は瞑ろうとした目を開けて、バッと後ろを振り返る。
 そこにいたのは、廊下から少し身を乗り出し、忍び足でこちらに近づこうとて失敗したニナの姿があった。
「に…ニナ?なにしてるのよ、こんな時間に…」
「え?…えっと…その…帰ってきてたんだ…」
 まさか本当にいたとは思えず、見つけた本人も多少戸惑いながらも腰を上げて彼女の傍へと近づいていく。
 ニナ本人はまさかバレるとは思っていなかったのか、唖然としたまま近づいてくるハクレイを見上げている。
 そして近づいたところで、こんな真夜中に自分と同じく起きていたニナが何をしようとしたのか何となく理解してしまった。

 子供向けのパジャマとナイトキャップを被った彼女の右手には何故か雑巾が握られており、ご丁寧に水で濡らしている。
 その雑巾を見て一瞬怪訝な表情を浮かべたハクレイであったが、ふと夢から覚める直前の事を思い出した。
(そういえば、覚める直前に何か頬に……そう、確か…冷たいモノが当たって…って、冷たいモノ?)
 そして…本人が思い出したのを見計らうかのようにして右の頬から冷気を感じた彼女は、そっと右手で頬に触れた。
 まず最初に指が感じたのは頬を刺激する冷気に、僅かに付着していた水が付着する感触。
 水のある何かに触れた指を頬から離した彼女は顔の前に右手の指を持っていき、おもむろに顔元へと近づける。
 
 指に付着した水から漂う臭いは、紛う事なく使い古した雑巾の臭いであった。
 この富裕層向けの別荘の中で平民も見知った掃除道具の一つであり、水で濡らされ様々な場所を拭かれてきた布の集まり。
 何時ごろからこの別荘に置かれていたがは知らないが、きっと色々なモノを拭いてきたのであろう。
 床や壁に、家具の上に溜まった埃はもちろん、窓の汚れだって綺麗にしてきたのは間違いないだろう。

 ――――しかし…この指から微かに漂う匂いから察するに、それだけを拭いてきたというワケではないようだ。

 それを想像して考えるのは簡単であったが、ハクレイは敢えて想像する事は控えようとする。
 とはいえ鼻腔から嗅ぎ取れる臭いが否応なく頭の中にイメージ映像を作り上げ、見せようとして来るのだ。
 
 それを振り払うように慌てて頭を横にふった所で、ニナがこちらに背中を向けているのに気が付いた。
 背中を縮め、雑巾を足元に置き捨てている彼女の姿は、まるで盗みがバレて逃げようとする泥棒そのものである。 
 あわよくば二階へと続く階段まで一気にダッシュ!…と考えたのか、駆け出そうとした彼女の襟首をハクレイは掴んだ。
 ちょっと勢いが強すぎた為か、ニナの口から小さくない悲鳴が漏れたがそれに構わず逃げようとしたニナを自分の目線まで持ち上げる。
「キャッ!ちょっ…ちょっとなにするの!?」
「それはこっちのセリフよ、人の顔に雑巾当てといて何も言わずに逃げるとはね」
 雑巾の事がバレてウッと呻きそうな表情を浮かべたニナは暫し黙った後、目線を逸らしつつ弁明を述べた。
「だ…だって、夕食にまで帰ってこなかったハクレイが悪いんだよ?カトレアおねちゃん、悲しそうにしてたのに…」
 ニナの言葉から奇しくも自分の想像が当たっていた事にハクレイは苦しそうな表情を浮かべた後に言った。

「だったら、今度から似た様な事をする時は綺麗な雑巾を使いなさい。良いわね?」
「あれ?やっぱり臭かったの?あの雑巾確か―――」
「そっから先は言わなくて良いッ!」
 聞きたくも無い雑巾の出所を言いそうになったニナに対して大声を出してしまった事により、
 二人を除いて就寝していた別荘の者たちを驚かしてしまい、結果的に起こしてしまう羽目となってしまった。

323 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2018/01/31(水) 20:13:13 ID:WoSmxfsM
 その日の朝から、ルイズは何とも気まずい一日を過ごすことになっていた。
 任務用に受け取ったお金を丸ごと盗られた事を除けば、これといってヘマをやらかしたワケではない。
 気まずさの原因は、自分の周囲を行き来する人々よりもずっと近くにいる霊夢の鋭いジト目であった。

 子供たちの楽しい声と、陽気なトランペッタが主役の路上演奏のお蔭で自分たちが今いる通りには明るい雰囲気が漂っている。
 こんな真夏日だというのに人々は日陰や木陰で足を止めて演奏に耳を傾け、その内何人かがポケットから銅貨や銀貨を取り出し始める。
 少々気が早いと思うが、そんな人々の気持ちが分かる程ルイズの耳にもその演奏は心地よかった。
 フルートと木琴がサブに回り、暑くとも活気に満ちた夏の街中に相応しい音色は貴族であっても満足するに違いない。
 ルイズはそんな事を考えながら、自分と霊夢よりも前にいるシエスタと魔理沙の方へと視線を向けた。
 二人も路上演奏を聞いているのか、日影が出来ている建物の壁に背中を預けて聞き入っている。
 
 シエスタはともかく、あの何かしら騒がしい魔理沙でさえ大人しくなって聞いているのだ。
 それだけでも、名も知らぬ演奏者たちの腕前がいかにスゴイか分かるというものである。
「…だっていうのに、アンタは今朝からずっと私を睨んでばかりね?」
「何よ?何か文句あるワケ?」
 演奏に耳を傾けつつもさりげなく呟いたルイズの文句を、霊夢は聞き逃さなかった。
 霊夢の言葉に対しルイズは無言で返そうとおもったが数秒置いて溜め息をつき、そこから小声で返事をする。

「いい加減、アンタもシエスタとの休日を楽しんだらどうよ?魔理沙なんかもうとっくに楽しんでるわよ?」
 今朝からずっとこの調子である霊夢に呆れた言いたげなルイズの文句に、霊夢はムッとした表情を浮かべた。
 流石に魔理沙と一緒くたにされたのが応えたのか、彼女は腰に手を当てながら抗議の言葉を述べていく。
「あんな能天気な黒白と一緒にしないでくれる?私はアイツと違ってちゃんと危機管理はできてるつもりよ」
『お金をちゃっかり盗まれてるのも、ちゃんと危機管理してた結果ってヤツかねぇ?』
 そこへ間髪入れぬかのように、霊夢の背中で暇を持て余していたデルフが会話に乱入してくる。
 流石の彼もこの路上演奏を邪魔してはいけないと思っているのか、珍しく声を抑えて喋りかけてきた。
 
『金盗られてあんなに取り乱してたんじゃあ、黒白と一緒にされるのも仕方ない気が―――』
 最後まで言う前に、特徴的な音を周囲に響かせつつインテリジェンスソードは口を閉ざされてしまう。
 どうやら聞きたくない事まで言ったせいで、後ろ手で柄を握った霊夢によって無理矢理鞘の中へと戻されてしまったようだ。
「アンタは黙ってなさい…ッ余計な事まで言うんじゃないの!」
 納剣時の音か、はたまた霊夢の必死な声がどうかはしらないが、何人かが彼女たちへ視線を向けてくる。
 だがそれも一瞬で、すぐにまた陽気な路上演奏を聞き入ろうと視線を戻していく。

「…んぅ…とりあえず、まだ私の上げ足を取るような事したら暫く喋れないようしてやるわよ、いいわね?」
『ハハハ、オーケーオーケー分かったよ。…ったく、一々喋るのに言葉を選ばなきゃいかんとはねぇ』
 一瞬だけだが、周囲の視線を一心に受けてしまった霊夢は顔を微かに赤くしてデルフを脅しつける。
 それに対してデルフは鞘越しの刀身を震わせて笑いつつ、ひとまず了承することにした。
 彼女と一本のそんなやり取りを見てルイズは小さな溜め息をつきつつ、チラリとシエスタの方へ視線を向ける。

324 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2018/01/31(水) 20:15:19 ID:WoSmxfsM
 幸いかどうかは分からないが、霊夢の不機嫌さにはまだ気づいていないらしい。
 丁度演奏も終わり、道端で聞いていた人たちや魔理沙に混じって笑顔で拍手している。
 そして取り出した財布から銀貨を銅貨を数枚出すと、演奏者たちの足元に置かれた鍋の中へと放り込んでいく。
 他の人々も同じように銅貨や銀貨が鍋の中へと投げ込まれ、その中に混じって金貨まで投げ入れられている。
 一方の魔理沙はというと、何故かポケットから包み紙に入った飴玉を数個取り出して鍋の中へと放り込んでいた。

 彼女の隣にいたシエスタはいちはやくそれに気づいたか、少し驚いた様な表情を浮かべている。
「え?あの、マリサさん…今投げたのって飴玉じゃあ…」
「いやー悪いね、なにぶん今は金が心許なくて…あ、シエスタも一個どうだ?」
 シエスタからの言葉に対してあっさりと返した黒白は、ついで彼女にも同じものを差し出す。
 目の前に差し出されたそれに一瞬戸惑いつつも、シエスタは何となくその飴玉を受け取った。
 その光景を少し離れた所から見つめていたルイズは、魔理沙がいてくれて本当に良かったと実感する事が出来た。
 今の霊夢や自分だけでは、下手すれば彼女の貴重な休日を丸ごと潰していた可能性があるからだ。


 全ての始まりは昨夜の事、自分たちが寝泊まりしている屋根裏部屋にシエスタが入ってきてからであった。
 半ば無理やりと言っていいほど夕食の席に混ざってきた彼女は、食事が始まるや否や早速誘いをかけてきたのである。
―――あの、レイムさんとマリサさんのお二人って…ここから遠い所からやってきたんだしたよね?
 色々と三人で話し合いたかった夕食に割り込んできたシエスタは、その言葉を皮切りに二人へと話しかけ始めた。
 一体どれほど話したい事があったのだろうか、何処か気まずい雰囲気が流れる食卓で彼女は色んな事を喋った。
 二人の故郷の事やどんな所で暮らしていたか、ここの住み心地はどうとかという他愛ない話だ。
 彼女の質問に対して魔理沙は快く応じ、その時は霊夢も仕方なしと諦めたのか適度に言葉を返していた。

 暫しそんな話をした後に、シエスタはいよいよ話を本筋へと移してきた。
 食事を半分ほど片付けた彼女はチラリとルイズを一瞥した後で、霊夢達を誘ったのである。
―――あの、もしお二人がよろしければ…明日、王都の面白い所を案内したいのですが…良いでしょうか?
 その誘いに対して、二人して別々の反応を見せることになった。
―――おぉ何だ何だと疑っていたが、まさか遊びの誘いとな?まぁいいぜ、別に急ぐ用事なんてないしな
 魔理沙は面白い物を見る様な目でシエスタを見た後、心地よい笑顔で頷いて見せた。
――誘いは嬉しいけど、今は色々と忙しいの。悪いけど、明日は魔理沙とルイズたちを連れて言ってちょうだい
 たいして霊夢はというと…、魔理沙と比べて少し考えた後目を細めながら首を横に振ってそう言った。
 まぁそうだろう。本人の言葉通り、今の霊夢が色々と忙しいのは魔理沙とルイズも十分周知の事であった。
 お金を盗んだ窃盗犯の少年探しに加えて、その日の夕方に魔理沙が遭遇したというキメラの事も調べ慣れればいけないのだ。
 少なくともルイズや魔理沙たちと比べれば、ハードワークと言っても差し支えない程の仕事が溜まっている状態だ。
 本人には絶対に言えないだろうが、シエスタからの遊びの誘いに乗るのは不可能なはずである。

325 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2018/01/31(水) 20:17:14 ID:WoSmxfsM
 勿論誘っているシエスタはそんな事全く知らずして、ただ純粋な善意の元霊夢を誘おうとする。
 この時期はドコソコが見どころとか、少ない平民のお金でも甘味を満喫できるケーキ屋さん等々…。
 一体その頭の何処にため込んでいたと言えるほどの膨大な情報は、流石年頃の女の子といったところか。
 魔理沙はともかく年が近く貴族であるルイズでさえも、シエスタの語る王都の情報に舌を巻いてしまっている。
 それでも断る気持ちは揺るがない霊夢であったが、彼女の口から出る話には耳を傾けていた。

―――アンタ、そういうのを良く知ってるのね?あのルイズも黙って聞いてるわよ

――――こう見えても学院で奉仕してる時も非番の日には王都で遊び出ていますし、
        何より同僚には同年代の娘も沢山いますから。…で、どうです?レイムさんも一緒に行きましょうよ

――――私、今色々と忙しいって言ったばかりよね?

 成程、異世界にいってもそういう人と人との繋がりは色々な情報を手に入れる手段の一つらしい。
 ともあれそれがどうしたというワケで、さりげなく誘ってくるシエスタに対し冷たい断りをいれるしかなかった。
 そう、断ったのである。しっかりと断った筈だったのであるが…


「ホント、参るわよねぇ…純粋な善意って」
 魔理沙とルイズ相手に楽しそうに会話しながら通りを歩くシエスタの後ろ姿を見て、霊夢は一人呟く。
 結局あの後、ややしつこさのシエスタの誘いに彼女は渋々とその誘いに乗ってしまったのである。
 原因…というか、強いて敗因と言うのならば…シエスタ本人が純然たる善意でのみさそってきたからであろうか。
 多少の強引さはあったものの、それもその善意が働いた結果だ。
 
 例えば普通に誘われたり、何か考えあっての事であるならば霊夢は乗らなかっただろう。
 彼女自身そういう誘いには普段はあまり乗らないし、どちらかというと一人でいる方が気楽なタイプの人間である。
 しかし、シエスタのように自分たちをかなり信頼し尊敬してくれている人間からの善意というものには慣れていなかった。
 まるで汚れを知らずに育った温室の花のように、対価を求めず接してくれる彼女に好意を持ってしまったというべきか…。
 そんな彼女からの誘いの言葉には他意など全く見受けられず、ただただ自分たちと一緒に休日を過ごしたいという思いだけが伝わってくる。
 
 召喚される前、幻想郷でせっせと妖怪退治をしていた時も人里の人達たちからそういう善意を受け取っていた。
 時折人に冷たいと評される霊夢であっても、そういう善意を受け取ること自体は決して嫌いではなかった。
 そして、そういう善意が巡り巡って物となって自分に返ってくるという事も巫女として生きていくうちにしっかりと学んでいた。

「まぁシエスタにそういうのを望んでるワケじゃないけど…無下にするのも何か酷なのよねぇ〜」
『成程ねぇ。普段は冷たいレイムさんも、他人からの優しさには敵わないって事かー』
「…そういう事よ、でもアンタは黙ってなさい」
 独り言のように呟く霊夢の言葉に対し、彼女の背中に担がれているデルフが鞘から刀身を微かに出して相槌を打つ。
 丁度彼女の横を通り過ぎようとした平民と下級貴族が突然喋り出した剣に驚いたのか、身を軽く竦ませてしまう。
 そんな事など露も知らない霊夢は急に喋ってきたデルフを鞘に戻しつつ、ルイズ達の後を追う。
 一人ここに至るまでの事を思い出している内に、足が遅くなっていた事に気が付かなかったらしい。
 地元の人々らしい平民たちの憩いの場となっている公園の横の通りを早足で歩き、ルイズ達の元へと寄る。

326 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2018/01/31(水) 20:19:14 ID:WoSmxfsM
 遅れている事に気が付いていたルイズが、近づいてくる霊夢に声を掛けた。
「ちょっとー、何してるのよレイム」
「別に、ただ…自分って結構甘いなーって思ってただけ」
「?」
 自分独自など知らないルイズが首を傾げるのを余所に、事の張本人であるシエスタが話しかけてきた。
「どうですかレイムさん?ここの公園横の通り、ちょうど敷地内の植木が木陰になってて夏場の散歩に快適でしょう?」
「…確かに。夏季休暇中だっていうのに人通りは比較的少ないし、こっちのほうが気を楽にして歩けるわ」
 平民向けの女性服に薄緑色のロングスカートに、木靴というスタイルの彼女の言葉に霊夢は周囲を見回しつつ言葉を返す。
 シエスタが三人を連れて訪れている場所は勿論王都内であったが、観光客と思しき人々の姿はあまり見えない。
 どちらかといえば近辺に住んでいる平民や下級貴族といった、俗に地元であろう人々の姿が目立つ。
 これまで大通りや繁華街、市場での混雑っぷりを見てきた霊夢達にとっては見慣れぬ風景であった。

「それにしても、まさか市場から少し離れた所にこんな静かな通りがあるなんてね」
「やっぱり市場と大通りには人が集まりますからね、その分ここら辺は静かになっちゃうんですよ」
 ルイズは昨日の混雑っぷりが嘘の様に平穏なその通りを歩きながら、シエスタとの会話を続けていく。
 確かに彼女の言うとおり人の混雑が多いのは市場と大通りに、その近辺を囲うようにして人が集まっているという話はよく耳にする。
 だからなのだろう。その日の買い物を終えて暇になった地元の人々が、背中を自由に伸ばして休める場所がここにできたのは。

 公園の規模は小さいが子供たちが笑い声を上げて楽しそうに駆け回り、良い汗を沢山かいている。
 シーソーやブランコ、小さな回転遊具にも少年少女たちが集まり、喜色に満ちた嬌声を上げて遊びまわっている。
 その子供たちを見守るようにして大人たちがベンチに腰を下ろして、会話を楽しんでいたり一人静かに休んでいる。
 ベンチで気ままに寝ている下級貴族もいれば、近場の店で買ったであろうパンを食べていたりする平民がいる。
 既に四人が通り過ぎた公園の入り口で不審者がいなかいか見張っている衛士たちも、暢気に談笑していた。 

 ルイズ自身、今まで何度も王都へは足を運んだことはあったものの、この様な場所を訪れたことは無かった。
 いつも足の先が向くのは賑やかだがいつも混雑しており、けれど目を引くモノが数多ある大通りや市場等々…。
 だからこそ…シエスタが連れてきてくれたこの場所は酷く目新しく映り、そして新鮮味があった。
 そんなルイズと同じ気持ちを抱いていたのか、あたりを見回していた魔理沙も嬉しそうな様子を見せるシエスタに話しかけてくる。

「へぇ〜、こいつは意外だぜ。よもやこの騒がしい街で、こうして気楽に歩ける場所があったなんてね」
「でしょ?私も良く、用はないけど外を歩きたいって時にはいつもここへ来ちゃうんですよ」
 魔理沙の反応を褒め言葉と受け取ったのか、シエスタは笑顔を浮かべて嬉しそうな様子を見せている。
 まぁあの霧雨魔理沙がそういう言葉を口にするのだから、褒め言葉と受け取ってもおかしくはないだろう。

327 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2018/01/31(水) 20:21:15 ID:WoSmxfsM
 それから後も、シエスタはルイズ達を連れて一平民としての彼女がお薦めする王都のあちこちを案内してくれた。
 丁度大通りの裏手にある隠れ家的なベーカリーショップに大衆食堂や、中々の年代物を扱っている骨董品の店。
 マニアックな品物を取り揃えている雑貨屋など、通りから眺めるだけでも中々面白い物を見て回っていった。
 きっとメイドとして魔法学院で奉仕する傍ら、非番の日に足繁くこういった場所へ自ら足を運んでいたのだろう。
 通り過ぎていく人たちも彼女と気軽に挨拶をし、時には一言二言楽しそうな会話を交えて去っていく。
 人々の雰囲気は皆穏やかであり、見慣れぬ者たちを警戒する素振りなど毛ほども感じられない。

 最初は渋々であった霊夢も、穏やかな空気が流れる通りを歩いていくうちに態度が軟化していったのだろうか。
 今では自分がやるべき事を一時頭の隅へ置いて、興味深そうに辺りを見回しながらルイズ達についていっている。
『なんでぇ、さっきまであんなに゙仕方なじって感じだったのに…今じゃすっかり楽しんじまってるじゃないか』
 そして相棒の態度の変化に気が付いたのか、今まで黙っていたデルフが再び彼女へと話しかけてきた。
 急に喧しい濁声で喋り出した剣に顔を顰めつつも、霊夢は後ろに目をやりながら彼と話し始める。
「デルフ?…まぁ、私としてはまだ納得いかないけど…まぁ今更抗っても仕方ない…ってヤツよ」
『ふ〜ん、そういうモンかい?けれどそれが違ったとしても、オレっちはお前さんに指図はしないさ、何せ――――』
「…剣だから?」
「…………まぁ剣だから、だな」
 まさか自分の言いたい事を先読みされた事に軽く驚きつつ、デルフは彼女とのやりとりを続ける。

『それにしても、世の中にはお前さんみたいなのにも好意を向けてくれる変わり者がいるものだねぇ』
「シエスタの事?別にそんなんじゃないでしょうし、アンタの言い方だと私まで馬鹿にしてるでしょ?」
 ついているかどうかすら分からない目でルイズと楽しそうに前で会話している休暇中のメイドを見ているであろうデルフの言葉に、
 霊夢がジト目で睨みつけながらそう言い返すと、シエスタから少し離れた魔理沙が呼んでもいないのに会話へ割り込んできた。
「そうだぜデルフ、シエスタはただ優しいだけの人間さ。…まぁ確かに、霊夢に必要以上に構うのは変わってるかもしれんがな」
『おー、言うねぇマリサ。お前さんもあのメイドの嬢ちゃんは気に入ってるクチか?』
「そりゃー学院では色々良く接してくれたし、肩を持ってやるのは当然の義理ってヤツだよ」
「ちょい待ち、アンタが私の事悪く言うのはおかしくない?」
 シエスタの事を擁護しつつも、ちゃっかりと自分の悪口は言い逃さない魔理沙に霊夢が待ったを掛けていく。
 さすがの霊夢であっても、自分以上に人間失格な性格をしているであろう魔理沙にとやかく言われるのは許せなかったようだ。

「全く、少し目を離したかと思えば…何やってるのよアイツらは」
「ま、まぁこの暑い中ああして元気でいられるのは、まぁ…良いと思いますよ?」
 魔理沙が入ってきたせいで、ちょっとした言い争いに発展しかけてる二人と一本の会話をルイズ達は少し離れた所で見ていた。
 呆れたと言いたげな表情を浮かべるルイズは人通りが少ないとはいえ、注目を集め出している彼女たちの言い争いにため息をつき、
 一方のシエスタはどんな言葉を口にしたら良いかわからず、無難な言葉を口に出しつつ苦笑いする他ない。
「ホント、呆れるわねアイツラには。折角シエスタが自分の休日潰して案内してくれてるっていうのに」
「でもミス・ヴァリエール。元はと言えば私の我儘なんですし…レイムさんたちを責めるのはどうかと思いますが…」
 ルイズがレイムたちに対する文句を言うと、咄嗟にシエスタは彼女たちを擁護してくる。
 その態度に妙な違和感を感じたのか、ルイズは少し怪訝な表情を浮かべて彼女へ尋ねてみる。

328 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2018/01/31(水) 20:23:28 ID:WoSmxfsM
「シエスタ…アンタ、何かアイツラの肩を持ち過ぎてないかしら?」
「え、あの…アイツラって、レイムさんたちの事ですか?」
 突然そんな事を尋ねてくる彼女にシエスタがそう聞くと、ルイズは「えぇ」と頷きつつ話を続けていく。

「まぁあの二人には色々と助けられた恩はあるでしょうけど、だからと言って変に持ち上げすぎてるわよ?
 そりゃー助けてもらった時は輝いて見えたろうけど…控えめにいっても、普段の二人は結構酷い性格してるから」
 
 最後の一言はシエスタの耳元で囁き、まだ言い争っている彼女たちに聞こえない様に配慮する。
 自分の言葉に暫し困惑の様子を見せるシエスタに、ルイズは尚も言葉を続けていく。
「いくら親しいからって、優しさだけ振りまいても意味がないものなのよ。…特にアイツラを相手にする時はね」
「確かにそうだと思いますが、ミス・ヴァリエールは常日頃から厳しすぎるかと…」
「厳しい位で丁度良いのよ。飼っている犬や猫が粗相したら躾するでしょう?それと同じだわ」
「ぺ、ペットと同程度ですか?」
 あの二人をさりげなく犬猫扱いしたルイズに驚きつつ、シエスタはハッと霊夢達の方へと視線を向ける。
 幸いルイズの言葉は彼女らの耳に届いていなかったのか、まだ言い争いを続けていた。

 例え聞かれていたとしてなんら自分には関係ないものの、シエスタは無意識の内に安堵のため息をついてしまう。
 そんな彼女に対し全く慌て素振りを見せないルイズは、霊夢たちを指さしながら尚も話を続けていく。
「あぁいう状態になったら、こっちがよっぽどの騒ぎを起こさない限り聞こえないから大丈夫よ」
「そ、そうなんですか…?でもこの距離だと確実に聞こえてたような気もしますが…」
「大丈夫よ大丈夫!仮に聞こえてたとしても、向こうが悪いんだからこっちは胸を張ってればいいの」
「ちょっとー!アンタ達の会話は丸聞こえだったわよぉー!」
 いかにも楽観視的な事をルイズが言った途端、こちらに顔を向けてきた霊夢が怒鳴ってきた。
 その怒声にルイズとシエスタは思わず彼女の方へと一瞬視線を向け、そして互いの顔を見あいながら言った。

「どうやら聞こえてたみたいね。御免なさい」
「多分私は怒られないと思いますので、レイムさん達に誤った方が良いかと思います」
「えぇー?私はホントの事をちゃんと言っただけなんですけど」
「だからって、人を犬猫に例える奴がいるか!」
 最初からある程度苛ついていた所為もあってか、謝る気ゼロなルイズに霊夢は突っかかっていく。
 突然発生した口げんかに対し、シエスタは何も出ぎずただただ見守る事しかできない。
 
 そうしてアワアワと驚きつつ、観戦者になるしかないシエスタの背後から魔理沙が声を掛けてきた。
「おぉシエスタか?さっきからルイズが誰かと話してるなーって思ったら…まさかお前だったとはなぁ」
「マリサさん…い、いえ!とんでもありませんよ!」
「まぁそう簡単に謙遜はしてくれるなよ。お前さんのお蔭で、アイツとの゙お喋り゙が終われたんだしな」
 意図的にしたワケではないという事をシエスタは伝えたかったが、それがちゃんと出来たかどうか分からない。
 魔理沙は理解したのかしてないのかただ笑顔を浮かべつつ、シエスタの横に立ってルイズと霊夢のやり取りを見つめていた。

329 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2018/01/31(水) 20:25:33 ID:WoSmxfsM
「シエスタ…アンタ、何かアイツラの肩を持ち過ぎてないかしら?」
「え、あの…アイツラって、レイムさんたちの事ですか?」
 突然そんな事を尋ねてくる彼女にシエスタがそう聞くと、ルイズは「えぇ」と頷きつつ話を続けていく。

「まぁあの二人には色々と助けられた恩はあるでしょうけど、だからと言って変に持ち上げすぎてるわよ?
 そりゃー助けてもらった時は輝いて見えたろうけど…控えめにいっても、普段の二人は結構酷い性格してるから」
 
 最後の一言はシエスタの耳元で囁き、まだ言い争っている彼女たちに聞こえない様に配慮する。
 自分の言葉に暫し困惑の様子を見せるシエスタに、ルイズは尚も言葉を続けていく。
「いくら親しいからって、優しさだけ振りまいても意味がないものなのよ。…特にアイツラを相手にする時はね」
「確かにそうだと思いますが、ミス・ヴァリエールは常日頃から厳しすぎるかと…」
「厳しい位で丁度良いのよ。飼っている犬や猫が粗相したら躾するでしょう?それと同じだわ」
「ぺ、ペットと同程度ですか?」
 あの二人をさりげなく犬猫扱いしたルイズに驚きつつ、シエスタはハッと霊夢達の方へと視線を向ける。
 幸いルイズの言葉は彼女らの耳に届いていなかったのか、まだ言い争いを続けていた。

 例え聞かれていたとしてなんら自分には関係ないものの、シエスタは無意識の内に安堵のため息をついてしまう。
 そんな彼女に対し全く慌て素振りを見せないルイズは、霊夢たちを指さしながら尚も話を続けていく。
「あぁいう状態になったら、こっちがよっぽどの騒ぎを起こさない限り聞こえないから大丈夫よ」
「そ、そうなんですか…?でもこの距離だと確実に聞こえてたような気もしますが…」
「大丈夫よ大丈夫!仮に聞こえてたとしても、向こうが悪いんだからこっちは胸を張ってればいいの」
「ちょっとー!アンタ達の会話は丸聞こえだったわよぉー!」
 いかにも楽観視的な事をルイズが言った途端、こちらに顔を向けてきた霊夢が怒鳴ってきた。
 その怒声にルイズとシエスタは思わず彼女の方へと一瞬視線を向け、そして互いの顔を見あいながら言った。

「どうやら聞こえてたみたいね。御免なさい」
「多分私は怒られないと思いますので、レイムさん達に誤った方が良いかと思います」
「えぇー?私はホントの事をちゃんと言っただけなんですけど」
「だからって、人を犬猫に例える奴がいるか!」
 最初からある程度苛ついていた所為もあってか、謝る気ゼロなルイズに霊夢は突っかかっていく。
 突然発生した口げんかに対し、シエスタは何も出ぎずただただ見守る事しかできない。
 
 そうしてアワアワと驚きつつ、観戦者になるしかないシエスタの背後から魔理沙が声を掛けてきた。
「おぉシエスタか?さっきからルイズが誰かと話してるなーって思ったら…まさかお前だったとはなぁ」
「マリサさん…い、いえ!とんでもありませんよ!」
「まぁそう簡単に謙遜はしてくれるなよ。お前さんのお蔭で、アイツとの゙お喋り゙が終われたんだしな」
 意図的にしたワケではないという事をシエスタは伝えたかったが、それがちゃんと出来たかどうか分からない。
 魔理沙は理解したのかしてないのかただ笑顔を浮かべつつ、シエスタの横に立ってルイズと霊夢のやり取りを見つめていた。

330 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2018/01/31(水) 20:27:55 ID:WoSmxfsM
 それから少しして、数分の言い争いは…結局、両者が疲れてしまった事で幕を閉じた。
 数多の人妖と顔を合わせ、一癖二癖どころか五癖もありそうな連中と話してあってきた霊夢。
 それに対して、入学当初の問題から生まれた生徒達との揉め事で鍛え上げられたルイズ。
 お互い別々の経験から来る言葉選びと、相手が何であれ怯まないという精神が衝突すればそれはもう引き分けになるしかないであろう。
 実質霊夢を相手に怒鳴り続けたルイズは、体の中にドッと溜まってしまった疲れを取るようにため息をついた。
「はぁ〜…参ったわねぇ。私自身、こんなに口喧嘩したのは初めて…かもしれないわ」
『娘っ子も中々口が悪いが、生憎ながらレイムの方はその三倍…いや四倍増しで酷かった気がするぜ』
「何で言い直す必要があるのよ。…っていうか増えてるし」
「………ふふ」
 お互い本気で言い争うつもりは無かったのだろう、そのまま喧嘩に移行する事無く自然と仲が戻っていく。
 デルフの余計な一言に少し疲れた様子を見せる霊夢が言葉を返したところで、ふとシエスタがクスリと笑った。

 彼女の真横にいて、それにすぐさま気が付いた魔理沙は首を小さく傾げつつ彼女に話しかける。
「?…どうしたんだシエスタ?」
「いえ、貴女達三人とデルフさんのやりとりを見ていてふと…曽祖父から教えてもらった諺を思い出しまして…」
 諺?魔理沙が再び首を傾げた所で彼女は「はい」と頷いてから、その諺とやらを口にする。
 それはルイズ達は勿論、デルフさえも知っているありふれたものであり、彼女らにピッタリな諺であった。

「喧嘩する程仲が良い…って諺なんですけど――――ミス・ヴァリエールとレイムさん達の関係に、ピッタリと思いません」
「………あー成程な。確かに私達の関係にピッタリ嵌る諺だな?二人もそう思うだろう」
 魔理沙からの問いにルイズと霊夢は互いの顔を見合った後、ほぼ同時に首を横に振りながら言った。
「いやいや、それは無いわね」
「そうよ、それだけは絶ッ対に無いわね」
「ホラ?二人して似たような答えを出してくれる辺りに、仲の良さを感じるぜ」
 見事なほど息の合った首振りを見せてくれた二人を指さした魔理沙の言葉に、シエスタはつい笑ってしまう。
 大通りと建物一つ隔てた場所にある静かな通りのど真ん中で、青春真っ只中な少女の笑い声が響き渡った。




以上で91話の投稿は終わりです。
では今日はここまでに…また来月末にお会いしましょう。ノシ

331 ウルトラ5番目の使い魔 ◆213pT8BiCc :2018/02/20(火) 21:44:44 ID:4OzmZrQ6
皆さん、大変長らくお待たせいたしました。ウルトラ5番目の使い魔、68話ができました。
投稿を開始しますので、よろしくお願いします。

332 ウルトラ5番目の使い魔 68話 (1/15) ◆213pT8BiCc :2018/02/20(火) 21:47:49 ID:4OzmZrQ6
 第68話
 仇なき復讐者
 
 奇機械竜 ギャラクトロン 登場!
 
 
 物語は、コルベールとリュシーが出会う前日にさかのぼる。
 元素の兄弟のダミアンとドゥドゥーはジャックとジャネットと別行動をとり、連続爆破事件の足取りを追っていた。
「それで兄さん? いったいどうやって犯人の尻尾を踏んづけるつもりだい……ですか?」
「そんなに難しくはないさ。犯人はこれまでの事件で、相当な量の火の秘薬を使っている。だが錬金で火薬をまかなうのはよほどのメイジでも厳しいものだ。だから、闇ルートでの火の秘薬の流れを追う」
 ここ最近で、火薬を大量に購入している者がいたらそいつが犯人である可能性が高い。ドゥドゥーはダミアンの考えになるほどと思った。
 むろん、同じことはガリアやトリステインの官憲も考えているだろうが、堅気の人間が闇ルートの深部に迫ることは難しい。その反面、元素の兄弟は裏社会のエキスパートであり、闇ルートの人間にも広く顔が利く。
「さすがダミアン兄さんは頭が切れるなあ」
「ドゥドゥー、これくらい君が一人でできるようになってくれないと困るよ。いつまでも下調べを僕やジャック、ましてジャネットに甘えていてどうする? そろそろ一人前になってくれないと、僕にも考えがあるからね」
「はい……」
 ダミアンは一見子供にしか見えない背格好だが、怒った目つきは悪魔よりも怖く、睨まれたらドゥドゥーは背筋が凍り付いて逆らえなくなるのだった。
 これ以上ダミアンの機嫌を損ねたら、それこそどんな罰が待っているかわからない。ドゥドゥーは、今回はふざけていられる場合じゃないと必死になって情報収集に当たり、ついに有力なネタを突き止めることに成功した。
「兄さん、たぶん、この線じゃないかな?」
「ふむ……最近、ゲルマニア軍から相当量の物資の横流しが起こっている、か。確かに、怪しいね。その行く先になったのは、ふうん……だが、この仲買人になった商会、見ない名前だね」
「あ、うん。どうも最近になって急にのし上がってきた闇商会らしいよ。かなりのやり手だとは聞いたけど、ボスが誰かってのはわからないってさ」
 ダミアンは、ふむ、と軽く目を細めた。下剋上の激しい裏社会で、才能と野心ある若手がのし上がってくることは別に珍しくはない。それに、自分たちのような刺客に狙われるリスクを避けるために組織のボスの正体を秘匿することも普通だ。
 しかし……と、ダミアンは少し違和感を覚えた。ドゥドゥーは気づいていないようだが、ガリアやトリステインはともかく、あの拝金主義のゲルマニアで新興組織を軍から大規模な横流しができるほど短期間に急成長させるとは、並の手腕ではありえないことだ。
 そんな実力と野心を持った奴がこれまで裏社会にいたか? ダミアンは記憶を辿ったが、ふとドゥドゥーが妙な様子で自分を見ているのに気づいて思考を打ち切った。

333 ウルトラ5番目の使い魔 68話 (2/15) ◆213pT8BiCc :2018/02/20(火) 21:48:36 ID:4OzmZrQ6
「どうしたんだい? 何か言いたそうな顔をしているね」
「あ、うん……実は、その。この情報だけど、昨日同じことをジャック兄さんとジャネットも聞きに来たらしいんだ」
 それを聞き、ダミアンはふぅとため息をついた。
「なるほど、あの二人に先を越されたわけか。まあいい、あの二人より一日遅れならドゥドゥーには上出来だ。すぐに後を追うよ、いいね」
「は、はい兄さん!」
 なんとか兄の怒りは乗り越えたようだ。ドゥドゥーはほっとして、次いで喜び勇んで馬を借り入れるために飛んでいった。
 ダミアンは、そんなお調子者の弟の背中を呆れた様子で見守っていた。
「一日遅れか。急げばジャックたちが仕事をすますギリギリで間に合うかな」
 だがもしターゲットが間違っていなければ、あの二人がターゲットを仕損じることはまずない。それでも、手柄を取られることもドゥドゥーにはいい薬だとダミアンは思った。ゲルマニアの闇世界のことは、すでに当面の考えからは消えていた。
 馬を飛ばし、大量の火薬を購入したという人間がいるはずの街へと急ぐダミアンとドゥドゥー。彼らはこのとき、この仕事もいつものように終わるだろうと、信じて疑っていなかった。
 
 
 時間を戻そう。白い謎のロボットの襲撃から一夜明け、港町は新たな活気に包まれていた。
「おーし、材木を運んできたな。おーい! 組み立てはすぐにでもできるぞ、壊れた工場の解体はまだかかるか!」
「もう少しだ! 今、メイジ総出で宝石になっちまったとこを砕いて荷車に乗せてるとこだ。これだけの量だ、金貨何万枚になるか想像もつかねえぜ!」
「まったく、あの白いガーゴイル様様だな。俺らのぶんもちゃんととっとけよ!」
 威勢のいい掛け声があちこちで聞こえ、男たちは日に照らされながら汗を流している。昨日、ロボットの怪光線で宝石にされた建物は砕かれて解体され、他国に売りさばかれてクルデンホルフの儲けになるだろう。
 しかも、ポケットに詰まるまでなら取り分にして構わん、という太っ腹なお達しのおかげで、ズボンをパンパンにした男たちはいつにも増してやる気に満ち満ちていた。
 ここは造船所、ものづくりの街。ものが壊れればまた作ればいいという気概が住人には満ちている。
 そして、天を突くほどの覇気に満ち溢れた男がここにもう一人。コルベールは、昨日の騒ぎで夜にリュシーと会うことはできなくなった代わりに、今日は朝からリュシーを案内して回るという素晴らしい約束を取り付けることに成功していたのだ。
「お、おはようございます。ミス・リュシー、き、今日もなんとお美しい」
「あら、こんな黒一色の修道衣の私なんかにもったいないですわ。おはようございます、コルベール様。今日もよいお天気ですわね」
 朝日を浴びながら輝くような笑顔で現れたリュシーを、コルベールはしどろもどろになりながら出迎えた。

334 ウルトラ5番目の使い魔 68話 (3/15) ◆213pT8BiCc :2018/02/20(火) 21:49:32 ID:4OzmZrQ6
 彼はこの時のために、これまで興味もなかったおしゃれに気を遣い、仕事着もぴしっとした新品のものを身に着けている。コルベールにとっては、女王陛下の前に出るときでもなければしないような最大限の着こなしといえるだろう。
 しかし、そんな付け焼刃はリュシーの素朴なシスター服の前にはぼろきれ同然であった。何も着飾っていないにも関わらず、黒のシスター服だけで天使のような輝きを放っている。何で着飾ろうとも、所詮は中身がよくなければ何の意味もないことを、コルベールは心底思い知った。
"まさしく、この世に舞い降りた天使だ。それに比べて自分はどうだ? まるで百合の前の雑草だ”
 それでも、このくらいでくじけるほどコルベールもやわではない。男は見た目じゃないと自分を奮い立たせ、生まれて初めての女性のエスコートに出かけた。
「で、では今日は私がこの街と、私の東方号をご案内いたします。よ、よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いいたします。わたくしも、働く皆さんのお役に少しでも立てるように頑張りますね」
 ぺこりとおじぎをした可愛らしい天使に心臓をわしづかみにされて、コルベールは禿げ頭から湯気が出る思いだった。
 だが男の誇りを総動員して理性を保ち、自分の預かった職場を案内していった。
「こちらが軍艦に使う鋼板を製造する工場です。元々トリステインの冶金技術は他国に比べて劣っていたのですが、クルデンホルフが諸国から技術者を呼び集めたことでだいぶん改善されました」
「わあ、すごい熱気ですね。昔、立ち寄った村で鍛冶場を覗いたことがありますが、その百倍はありそうです」
「はは、驚かれましたか。女性の方にはわかりにくいかもしれませんが、鉄の良し悪しで国の豊かさが決まるほど、人間は鉄に頼り切っているものなので、この熱さはトリステインの温かさにつながるのです。よければ、作業の安全をお祈りいただませんか?」
「もちろん喜んで。国が豊かになれば、それだけ貧しさで不幸になる人も減りましょう。始祖よ、この働き者の方々へ、惜しみない加護を与えてくださいませ」
 こうして、あちこちで熱心に祈りを捧げるリュシーの姿は働く人たちにも好意的に受け取られた。危険な仕事をする人間ほど安全祈願には熱心なもので、どこでも感謝で迎えられた。
 もちろんリュシーの人柄もあり、朗らかで謙虚な彼女はどこでもすぐに人気者になった。中には仕事そっちのけでリュシーをデートに誘おうとするギーシュみたいな不心得者もいる始末で、コルベールは慌てて彼女を連れてその場を離れた。もっとも今のコルベールに言う資格はないが。
 そうして街をひととおり案内すると、今度は東方号に二人はやってきた。
「ようこそ、私のオストラントへ。あなたを貴賓として歓迎いたしますぞ」
「まあ、それは光栄ですわ。ですが、わたくしが軍艦に乗せられても、お役に立てるでしょうか?」
「いえいえ、あなたに武器の講釈をしようなどとは考えておりませんからご安心ください。この船は国の行事に使用されることもあり、女王陛下のお召しも想定されています。ですが、こういうところですと、どうしても考え方が男中心になってしまいましてな。そこであなたには、女性からの視点でアドバイスをいただきたいのですよ」
「そういうことでしたら喜んで。わたくしは外国人ですけれど、ハルケギニアに二輪とない白百合とうたわれるアンリエッタ女王のためでしたら、微力を尽くさせていただきます」

335 ウルトラ5番目の使い魔 68話 (4/15) ◆213pT8BiCc :2018/02/20(火) 21:50:56 ID:4OzmZrQ6
 やった! と、コルベールは心の中でガッツポーズをした。昨日の晩、寝る間も惜しんでデートのプランを考えたかいがあった。本当なら自分の趣味を語りたいところだが、それはぐっと我慢して彼女を立てる場所を作るのだ。
 まずはコルベールはリュシーを案内して船内を巡り始めた。実用一点張りだった昔とは違い、今では東方号の中は乗組員が長期間過ごせるように、様々な設備が整えられている。
「すごい大きな船ですね。昨日は外を歩いただけでしたが、中も広くて迷ってしまいそうですわ」
「はは、全長四百メイル級のハルケギニア最大の船ですからね。最近は乗員が増えることも見越して、散髪屋や図書室も作られております。迷うと大変ですので、しっかり私についてきてください」
「はい。あら? こちらの降りる階段の先には何があるのでしょうか」
 ふと足を止めたリュシーの見る先には、関係者以外立ち入り禁止と札が立てられ、鎖で仕切られている鉄の階段があった。
「ああ、そちらは弾火薬庫なので立ち入り禁止になっています。いくらあなたでもこの先は通せませんが、元々おもしろいところではありませんよ」
「そう……ですか。コルベールさんは、こちらでも入れるのですか?」
「ええ、私はこの船の船長ですから。ささ、こんなところにいてもしょうがありません。先に行きましょうぞ。ささ」
 コルベールは、足を止めたままのリュシーを促して先へ連れて行った。
 やがて一通りの案内が終わると、コルベールはリュシーに貴賓室などの飾りつけの相談などをおこなった。すると、リュシーは花の飾りつけや装飾の配置など、武骨な男や頭の固い貴族からは出てこない繊細な心遣いを示してくれた。そして彼女の言うとおりに改装させると、船内は見違えるように美しくなったではないか。
「ほおお、これはなんと見事な!」
 コルベールは改装された船内を見て、世辞抜きに感嘆した。武骨な軍艦の中を飾りつけでごまかしたような感がどうしてもぬぐえなかった前までと打って変わって、まるで高級ホテルのような気品が漂う光景に変わっている。
 飾りつけを少々工夫するだけで、住まいというものの見栄えはこうも変わるものか。コルベールはリュシーに、生徒が百点を取ったときのように興奮して言った。
「見事です、ミス・リュシー。あなたのセンスは私の想像をはるかに超えていました。どこかで美術を学ばれたのですかな?」
「いえ、わたしは何も。ただ、昔住んでいた屋敷の風景を思い出したり、旅の途中で見てきたものを参考にしただけです」
「いや、それだけでこれだけの改善をなさるとはすごい。内装はそれなりに名のあるデザイナーの方に依頼していたのですが、あなたのほうが数段素晴らしい。これは才能ですぞ! あなたには素晴らしい才能があります!」
 コルベールの歓喜に満ちた剣幕に、さすがにリュシーも苦笑交じりで「あ、ありがとうございます」と、答えるしかなかった。
 せっかくここで好感度を上げるチャンスだというのに、教師としての本分を隠せないのがコルベールの残念なところだった。これがギーシュあたりなら、「美しいあなたの心が現世に現れたかのようです」などと褒めちぎるであろうが、同じ褒めるでもコルベールのはベクトルが違っている。

336 ウルトラ5番目の使い魔 68話 (5/15) ◆213pT8BiCc :2018/02/20(火) 21:52:31 ID:4OzmZrQ6
 けれど、コルベールだけではなく、改装を手伝った他の作業員たちもリュシーの手並みを褒めたたえると、リュシーは頬を赤く染めて照れくさそうな笑みを浮かべた。
「おや、どうしました? ミス・リュシー」
「いえ、こんなに人から求められたのは初めてなもので……これまで、シスターとして求められたことはありますが、それ以外のわたしが必要とされたことはありませんでしたから」
「それで戸惑われたのですな。ですが、心配しなくても大丈夫。人間は、誰かに必要とされることを感じて、はじめて自分の価値を知れる生き物なのです。もちろんシスターの仕事も素晴らしい。しかし、それ以外でもあなたには人の役に立ち、誰かを笑顔にできる力があるのです。よければ本気でデザイナーを目指してみませんか?」
「お、お気持ちだけいただいておきます……ふふ、これじゃまるでコルベールさんが神父様で、わたしが迷える子羊みたいですね」
 微笑みながらそうつぶやいたリュシーに、コルベールははっと気づいて赤面しながら頭を下げた。
「す、すみません。そういうつもりではなかったのですが、つい調子に乗ってしまいまして」
「いいえ、こちらこそそういうつもりで言ったわけではありません。むしろ、感謝しているのです。わたしは出家してから今日まで、神に仕えて生きようと思っておりましたし、周りからもそれだけを求められてきました。ですから、それ以外の生き方を薦めてくださったコルベールさんには感謝しています。それに、わたし自身も飾りつけをしているときは、とても楽しかったです。さきほどはとっさにああ言ってしまいましたが、デザイナーですか……ふふ、少し本気で考えてみることにしますわ」
「も、もしよければ私が全力で応援しますぞ!」
 コルベールは大喜びでリュシーの手を取り、そして慌てて離した。
「わっ、わわわ! すみません、私としたことがなんと失礼な」
「いっ、いえそんなことはありません。はは……あっ、そろそろお昼ですわね」
 赤面して見つめあう二人。コルベールは初心なところをさらけ出し、リュシーも男性経験がないのか頬を染めてごまかそうとして、ちょうどそのとき昼休憩を知らせる鐘の音が響いてきて、二人は笑いながら顔を見合わせた。
「そ、そろそろ昼食にいたしましょう。シェフに頼んで、ご婦人用の食事を用意させています。甘いものはお好きですか?」
「はい、大好きです!」
 と、そそくさと移動する二人。しかし恥ずかしさの中で、コルベールは心の片隅に小さな違和感を覚えていた。
”ミス・リュシーの手のひらのタコ。あれは杖を戦いで振るうことが日常の人間にできるもの……いや、まさか”
 気のせいだろうと、コルベールは違和感を拭って食堂へと向かった。きっと、慌てていたからだろう。
 
 食堂はすでに人で賑わっており、二人はコルベールが予約をとってあった高級士官用の席についた。

337 ウルトラ5番目の使い魔 68話 (6/15) ◆213pT8BiCc :2018/02/20(火) 21:54:54 ID:4OzmZrQ6
 向かい合って座った二人に、コルベールと顔なじみの工員たちが好奇の視線を向けてくる。ミスタ・コルベールにもついに春が来たのかと囁き合う人もいれば、中には「なんであんなコッパゲにあんな美人が!」と、呪いの視線を向ける者もいた。
「ここのシェフは、以前トリスタニアのレストランで活躍していた名人です。お口に合いますでしょうか?」
「ええ、とても。禁欲をむねとする聖職としては心苦しいですが、施しもまた神の与えてくれた大切な糧。遠慮なくいただかせてもらいます」
 上品に食器を扱って食事をするリュシーの姿は、元貴族だという彼女の育ちの良さを感じ取れた。
 そんなリュシーを見て、コルベールは彼女から隠しきれない高貴さを感じ取った。コルベールも身分上は貴族であり、基本的なマナーは当然身に着けているが、やはり気品の面では到底かなうべくもなかった。
「お気に召してよかったです。よければ、なんでも注文なさってください」
「ありがとうございます。ですが、神に仕える身で貪るわけにはまいりませぬ。それに、わたしも女ですから美容には気を遣っていますのよ」
 茶目っ気に言ったリュシーに、コルベールも「これは失敬」と笑い返した。
 この品性の高さ。リュシーが生を受けた家はよほど格式の高い家柄であったのだろう。しかし、それほどの名家がどうして娘を出家させなければならないほどに?
 コルベールはそれを尋ねようと口を開きかけたが思いとどまった。自分は地位や富にはなんの関心もないけれど、世の中の貴族の大多数はそれを巡って血で血を洗う争いを繰り返している。いくらリュシーが清らかな人だとしても、彼女の家族や親類までがそうとは限らないし、なんの落ち度もなくても謀殺の対象にされることもある。
 いずれだとしても、リュシーにとって思い出させて愉快なわけはない。それに、自分も過去を問われて愉快なわけではない。
「それにしてもミス・リュシーのシスターとしての敬虔さといい、先ほどの美術的な見識の高さといい、あなたには人を幸せにする才能が豊富にあられるようですな」
 コルベールは話題を変えた。素直にリュシーを褒め、そこから話題を広げていこうと思ったのだ。
 しかし、褒められたというのになぜかリュシーは決まりが悪そうに顔を伏せた。
「そんな、わたしなんかが人を幸せになんて……」
「えっ? あ! わ、私がなにかお気に触るようなことを言いましたかな?」
「あ、すみません。そういうわけではないのです。ただ、私はそんな立派な人間ではないのです……」
 妙に深刻な様子のリュシーに、コルベールも戸惑ってしまった。失言があったわけではないようだが、謙遜しているにしては深刻すぎるように見える。
 どうしたのだろうか? リュシーが何に気を病んでいるのかをコルベールは必死に考えたが、エスパーではない彼には彼女の胸中の奥深くを知るすべはなかった。
 と、そのときである。足元の鉄の床から、短くだが地鳴りのような振動が伝わってきてコルベールは眉をぴくりと動かした。
 今はエンジンは動かしていないはずだが、気のせいか? 振動はすぐに止まったので、コルベールは錯覚かとそれへの意識を急激に失っていった。

338 ウルトラ5番目の使い魔 68話 (7/15) ◆213pT8BiCc :2018/02/20(火) 21:57:35 ID:4OzmZrQ6
 ところが、食堂に顔を青ざめさせた工員が駆け込んできてコルベールに向かって叫んだのだ。
「ミスタ・コルベール! す、すぐ甲板においでください! 北のドックで軍艦が爆発しました!」
「なんですって! わかりました」
「コルベールさん、わ、わたしも」
 思いもよらぬ凶報に、コルベールとリュシーは血相を変えて通路を走り、鉄の階段を駆け上がって東方号の甲板に出た。
 甲板は、すでに大勢の工員たちで騒然としており、目を凝らすまでもなく、かなたから黒煙が上がってるのが見えた。
「なんということです! 巷で噂の爆破事件がとうとうここにも。ミス・リュシー、私は様子を見に行ってまいります。申し訳ありませんが、あなたは今日はこのままお帰り願えますか」
「いいえ、わたくしも少しなりとて治癒の魔法が使えます。もしかしたら、命を救える人がいるかもしれません。連れていってくださいませ」
「ううむ……仕方ありません。ですが、爆破犯がどこにいるかわかりません。決して私から離れませぬよう」
 コルベールは、真摯なリュシーの態度に折れて、連れていくことを承諾した。
 しかし責任者としての配慮も忘れず、こちらの監督たちに、指示があるまで現場を維持し、船の重要区画には誰であっても入れてはいけないと言い残していった。
 
 そしてそれから数分後、急いで事件現場に駆け付けたコルベールとリュシーが見たのは、くすぶる炭の塊と化してしまった一隻のフリゲート艦の無残な残骸であった。
「これはひどい……おうい! どこかに生き残っている者はいないか!」
 すでに現場では救援隊が駆け付けて生存者の捜索に当たっているが、まだ燃えている残骸に手間取っているを見たコルベールは、迷わず助力に出た。
 船の残骸をかき分け、中から生存者を引っ張り出す。そして助け出した彼らから話を聞くうちに、爆破にいたった経緯が見えてきた。
「いつもどおり仕事をしていたら、いつの間にか見慣れないメイジが入り込んできて、火薬庫に火を放とうとしたのです。もちろん止めようとしましたが歯が立たず、船から逃げ出そうとしたのですが、私は間に合いませんでした……」
 船内から見つかる生存者が少ないのは、爆破前にわずかでも逃げ出す時間があったからかとコルベールはほっとした。
 しかしそれだと、犯人は船と運命を共にしたのかといぶかしんだとき、爆破前に船外に脱出できた作業員から話を聞けた。
「船が爆発した瞬間に、炎に紛れてメイジが飛んでいくのが一瞬見えました。どこへ行ったか? すみません、一瞬だったのでそこまでは……」
 コルベールは当事者たちから話を聞くうちに、犯人は相当に手練れのメイジだと確信した。いくら工員しかいない修理中の船とはいえ、一息に軍艦に侵入して弾薬庫に火をつけた上で逃げ出すなど並の腕でできることではない。

339 ウルトラ5番目の使い魔 68話 (8/15) ◆213pT8BiCc :2018/02/20(火) 22:00:26 ID:4OzmZrQ6
 やがて救援隊の活躍もあって、行方不明者もすべて探し出されると、コルベールは救援隊の指揮官から礼を言われた。
「助かりました、ミスタ・コルベール。我々だけでは、とても燃える船体から生存者をこうも迅速に救助することはかないませんでした」
「礼を言われるようなことはしていません。私は火のメイジですので、燃えるものの扱いは多少手慣れていただけです。それより、負傷した人たちは?」
「ご心配なく。すべて応急処置はすみ、搬送を済ませました。幸いなことに、修理中のために弾薬がほとんど詰まれていなかったおかげで、被害はドックの中だけですんだようです。もし弾薬を満載していたら、恐ろしい限りです」
 胸をなでおろして、救援隊の隊長は去っていった。
 しかしコルベールは、彼のようにほっとすることはできなかった。爆破されたフリゲート艦は軍艦の中でも小型の部類で、爆破されても損害はこの程度ですんだが、もしもっと大型の弾薬を満載した船……そう、東方号が爆破されでもしたら、この街が丸ごと吹き飛んでしまうくらいの被害が出てもおかしくはない。
「ぞっとしますな……誰だか知りませんが、恐ろしい相手です」
 ぽつりと独り言をつぶやき、コルベールがふと振り返ると、瓦礫の前にひざまづいて祈りを捧げているリュシーがいた。
「痛ましいことです。戦ですらなくとも人は傷つき倒れていきます……神よ、この世はなんと無情に満ちているのでしょうか」
「ミス・リュシー。けが人の手当てのお手伝い、心から感謝いたします。お気持ちはわかりますが、我々はできる限りのことをやって被害を最小限にとどめることができました。犯人ももう逃げたようですし、そろそろ行きましょう」
「はい……できれば逃げた犯人たちに会って、悔い改めるよう説得したいものです」
 立ち上がって振り返ったリュシーの瞳には深い悲しみが満ちていた。コルベールは一瞬ためらったが、やがて彼女をうながしてその場所を離れていった。
 
 だがその一方で、事件現場をいぶかしげにのぞき込む二人の人影があった。
「……これはどういうことだと思う? ドゥドゥー」
「さっき飛んでいった人影って、アレだよね。兄さん、いったい何がどうなっているんだい? まさかジャネットの奴、また浮気を」
「ジャックがついてるのに限ってそれはないよ……どうやら、敵を見くびっていたみたいだね……ドゥドゥー、気を引き締めろよ。甘く見てると、たぶん死ぬよ」
 冗談ではない、梟のような暗く鋭い目でダミアンに睨みつけられ、ドゥドゥーはたらりと冷や汗を流した。
 ダミアンが何を考えているのかドゥドゥーには読み取れない。子供の姿で常に尊大に構える兄は、その態度とは裏腹に冷徹で隙の無い策謀で敵を出し抜いてきた。その兄が本気で何かを考えている。
 残骸のくすぶりが静まり、代わって傾き始めた太陽が同じ色で街を照らし始めている。ダミアンとドゥドゥーは、いつしかその街角の暗がりの中へと消えていった。
 
 
 そしてやがて日も落ち、軍艦が爆破されるという大事件が起きた街にも静けさが戻ってくる。

340 ウルトラ5番目の使い魔 68話 (9/15) ◆213pT8BiCc :2018/02/20(火) 22:01:49 ID:4OzmZrQ6
 光が消え、夜と呼ばれる時間が世界を支配する。それは単なる太陽と月の入れ替わりにはとどまらず、異なる理と住人の登場をも意味する。
 太陽の下ではさえない雑草だった草が月光の下ではきらめく花を咲かせ、日のあるうちは穴倉の中でうずくまって過ごす大人しい小動物が月夜の中では獰猛なハンターと化す。
 カードやコインは反転するだけで、その柄をがらりと変える。夜とはそんな時間であり、そしてなにより大きく反転するのはもちろん……。
 
 
 不夜城を誇る街も、夜のとばりが深くなっていくごとに疲れには勝てず、多忙な一日を送っていた人間たちもベッドのある住まいへと帰っていく。
 昼の間は眠っていた歓楽街が朝までの繁栄を謳歌する以外は人通りが消え、やがて時計の鐘が日付の交代を告げる刻には静寂が支配する。
 その頃にはコルベールも数多い後始末から解放され、ようやく無人となった事務所のソファーに身を横たえていた。
「長い一日でした……」
 東方号の警備の強化、それによるスケジュールの調整。それは簡単に決められるものではなく、明日にでも魔法学院に帰らねばならない身としては過酷そのものであったが、こちらの現場の担当者に一任してしまうには問題が大きすぎた。
 しかしこれで、当面の問題は整理がついた。後はコルベールがいなくてもなんとかなるはずで、指示を受けた工員や班長たちも、もう全員帰るか出かけてしまったようだ。
 体と心を休め、コルベールは今日のことを思い返した。問題は山積していたが、義務であることは全て果たした。コルベールの仕事ぶりに文句をいう者はないだろう。
 いや、懸念はあと一つ残っている。コルベールの心の奥底では、今日のことで消えない違和感がくすぶっている。杞憂であればいいが、コルベールの勘では、早ければ……そのせいで、疲れているのに目がさえて眠れない。
 事務所に残っているのはコルベール一人。ところが、誰もいないはずの事務所にコツコツと足音が響き、コルベールの元にリュシーが現れた。
「お疲れ様です、コルベール様」
「おや、ミス・リュシー。今日はもう、帰られたと思っていましたが」
「あんなことがあった後ですので、わたしも寝付けなくて。ここに来れば、コルベール様に会えると思いまして」
 コルベールは起き上がってソファーに腰かけ、リュシーはコルベールの座っているソファーの隣に腰かけた。
 座ったリュシーは僧服のフードをまくり、素顔を見せた。長い金髪があらわになり、僧服の中に閉じ込められていたリュシー自身の甘い香りがコルベールの鼻孔をくすぐった。
 美しい……コルベールは正直にそう思った。憂いを含んだ表情は超一流の絵画のように完璧に整い、絢爛なる舞踏会を探しても彼女ほどのきらめきを放つ人はそういないであろう。しかし……。
「私に、なにかご用ですかな?」
 自分でも意外なほど冷静にコルベールは尋ねた。二人の距離はもう肩が触れ合うほど近く、顔を向ければ吐息を感じることもできようのに、コルベールの顔色はそのままだった。

341 ウルトラ5番目の使い魔 68話 (10/15) ◆213pT8BiCc :2018/02/20(火) 22:02:30 ID:4OzmZrQ6
 しかし部屋は中古の魔法のランプの明かりで薄赤く照らされ、リュシーは紅に染まったように見えるコルベールの頭と顔を上目遣いに見ながら話し始めた。
「今日は、とても怖いことがありました。大勢の人が傷つき、悲鳴やうめき声が聞こえ、血の匂いを嗅ぎました。わたしはこれまでの旅でも、何度も悲しい場面を目のあたりにしましたが、今日は本当に戦場というものの怖さを感じました。コルベール様、どうして人はこうも悲劇を繰り返すのでしょうか?」
「そうですね。私も、もう若いとは言えない歳になるまで生きてきましたが、それについてはよく考えます。ですが私の乏しい頭で思うに、たとえその理由を知ったところで、争いや悲劇が消えることはないのでしょうな」
「それは、どうしてですか?」
 部屋は無音で、冷めかけた白湯が最後の湯気をあげた後には動くものもない。
 尋ねられたコルベールは、虚空を仰ぎながら独り言のように言った。
「人には、たとえ悪意がなくとも、誰かを不幸にしてでもやらねばならないことや、やりたいことがあるからですよ。人から見たら間違ったことでも、それが間違っているとは思わない、間違っているとわかっていてもやらねばならない、そして……間違っていると気づいたときには、もう遅いということもあります」
 寂しげにつぶやいたコルベールの語りは真に迫っていて、まるで全てを見てきたようなその横顔は、見る人間が見れば鬼気迫るという風にすら感じられただろう。
 しかしリュシーは、コルベールの言葉にわずかに肩を震わせたものの、そのままコルベールにすり寄るように身を寄せてきた。
「人とは、なんと恐ろしい性を持っているのでしょうか。コルベール様、わたしは怖い、とても怖いのです」
「ミス・リュシー、お顔が近いですよ。聖職にある者が、みだりに体を他者にゆだねてはいけません」
 少し首を伸ばせば口づけができてしまうほど顔を寄せられても、コルベールは冷静であった。
 もし、半日前のコルベールであれば興奮して我を失っていたに違いない。しかし、今のコルベールは違った。
「コルベール様、もし恐ろしい犯人があなたの大切なオストラントを狙ってきたとしたら、どうしますか?」
「すでにクルデンホルフに使いを出し、明日にも屈強な騎士団が警護につくことになっています。心配はいりませんよ」
「さすがコルベール様。ですが、この街のどこかに恐ろしいメイジがまだ潜んでいるかもしれません……コルベール様、わたしは怖くてたまりません。せめて今宵一晩だけでも、いっしょに過ごしてはいただけないでしょうか?」
 甘えるような声で言うリュシーに、コルベールは答えない。しかし、沈黙を肯定ととったのか、リュシーはさらにコルベールにすり寄りながら言った。
「わたし、昼間のコルベール様の勇ましいお姿を見てから、胸の奥が熱くてたまりませんの。お願い、抱いて……あなたのその腕で、わたしを強く……あなたが、好き」
 まるで人が変わったような甘え切った誘惑の声。それは男の理性を溶かし、乱心させてしまうだけの力を十分に持っていた。
 しかし、コルベールは寄りかかってくるリュシーをぐっと引き離すと、悲しさを孕んだ目を向けながら言った。
「ミス・リュシー、船を爆破したメイジたちを手引きしたのは、あなたですな」
 それは見えない落雷であり、通告を受けたリュシーの表情を虚無に変えるのにたくさんな威力で二人の間に轟いた。

342 ウルトラ5番目の使い魔 68話 (11/15) ◆213pT8BiCc :2018/02/20(火) 22:03:48 ID:4OzmZrQ6
 そう、あまりに一方的な罪人としての通告。しかしリュシーは困惑や動転といった反応には及ばずに、無表情という名の表情となり、確かめるようにコルベールに尋ねた。
「なぜ、わたしがそのような大それた犯罪の黒幕だと、そう思われましたか?」
 その声色は、まるで教会に告解にやってきた咎人に話しかけるシスターのそれであった。
 咎めるでも、弾劾するでもない、ただ聞きとめるだけの問いかけ……コルベールは、ふうと息をつくと、昼間のことでいくつかあなたに対して違和感を持ったこと、そしてあの現場で決定的な言質を得たのだと答えた。
「ミス・リュシー、あなたはあの現場で私に、「逃げた犯人たち」と、言いましたな? 犯人が複数などということは、あのとき誰も証言していません。爆破の衝撃のあまりに、逃げていく人影を一瞬だけ見た、それだけです」
「それでしたら、コルベール様の見ていないあいだに、わたしが別の誰かから「犯人が何人もいた」と聞いたことで説明がつきませんか?」
 リュシーの言うことはもっともであった。動かしがたいと言える物的証拠はない。だがコルベールは悲し気に首を振った。
「そうですな、私もできればそう思いたかった。ですが、ここに現れたあなたを見て確信しました。今のあなたからは、あまりにも隠しがたい殺気が溢れている! あなたはただのシスターなどではない。証拠をと言うのならば、ここで私があなたに気を許そうものなら、その袖の中に隠した杖で瞬時に私の意識を奪うでしょう。違いますか?」
 リュシーの体がびくりと震え、彼女は観念したかのように袖口の中に隠していた杖をさらした。
 そして、その瞬間にリュシーの雰囲気が変わった。慈悲深いシスターでも、男を誘う妖女でもない、鬼のような殺気を秘めた目を持つ冷酷な魔女のものへと。
「お見事です。慣れない色仕掛けなど、するべきではありませんでしたね。何も知らないままで、心を操ってあげようと思っていたのに、残念です」
「すみませんな。私は女性には弱いですが、あなたのような種類の人間を相手にするのは若干経験があるもので。それでも、途中まででしたらまず気づかなかったでしょう。昼間の爆破は囮で、本命は私に取り入ってオストラントを狙うことですか?」
 リュシーは苦笑しながらうなずいた。
「正解です。もう察しがついているかと思いますが、私の使う魔法は人の意識を操る水の禁呪『制約』です。あなたの心が乱れた瞬間にそれをかけ、手駒になってもらうつもりでした。いくら警戒厳重であっても、まさか船主のあなたが火薬に火をつけに来るとは誰も思わない。そして、証拠は手駒とともに炎に消える。そういう手はずだったのですが」
 恐ろしい計画を淡々と話すリュシー。昼間の温厚で純朴なシスターの姿からはまるで想像もできない、人の命を道具としか見ていない悪鬼の考えだった。
 けれど、コルベールはリュシーに失望した様子は見せず、つとめて穏やかに問い続けた。
「各地で起こった爆破事件で痕跡を掴ませなかったのも、制約で他人を操って、自分は手を下さなかったからですな」
「はい。神官という立場は通常は疑われるものではありませんし、罪の意識を持って懺悔に参る人の心にたやすく制約の魔法の枷はかかりました。オストラントに関わる誰かにも、その手を使うつもりでしたけれども、まさかコルベール様からお誘いいただけるとは思いませんでした」
「思えば、私はまさにネギをしょった鴨ですな」
 笑うしかないコルベール。しかし、コルベールの行動は周到に計画を進めようとしていたリュシーにとって、まさに想定外の事態であった。

343 ウルトラ5番目の使い魔 68話 (12/15) ◆213pT8BiCc :2018/02/20(火) 22:06:12 ID:4OzmZrQ6
「取り入るならばこれ以上ない方に、向こうから話しかけられたときにはさすがに驚きました。ですがあなたには罪の意識に働きかける手は難しそうに思い、絶好の機会と焦ってつまらない真似をしたのが間違いでした」
「でしょうな。私としては、あのような姿があなたの本性ではなくてよかったですが、あなたの思惑通りにさせてあげるわけにもいきません。あきらめていただけないでしょうか?」
 倒すとも捕まえるとも言わず、それどころか何故オストラントを狙うのかとすら聞かず、ただあきらめてくれとだけ言うコルベールの様はリュシーにとって意外だった。
 まだ求婚することをあきらめていないのか? いや、コルベールの片手はいつの間にか杖をしっかり握っており、もしリュシーが魔法を使うそぶりを見せれば確実にそれを上回る速さで阻止してくるだろう。
 そう、動きはないがリュシーとコルベールの間では死闘と呼べる読み合いが続いていた。リュシーが放つ殺気はいささかも衰えてはおらず、もし一瞬でもコルベールが隙を見せようものならためらわずに命を奪う魔法をぶつけるだろう。それをしないのは、恐ろしいくらいにコルベールにつけいる隙がないからだけだ。
 逆に、コルベールからもリュシーに対して殺気に近い威圧感がぶつけられていた。それはリュシーの殺気に押し負けるようなものではなく、リュシーはコルベールがスクウェアに近いかそれ以上の実力者であることを見抜いていた。
 メイジの戦いは精神力の戦いである。殺気でも怒気でも、強い心の波動がメイジの強さになる。だから、互いにそれを放ちあったからこそ、コルベールは動かず、リュシーは動けずにいた。
「あきらめたら、わたしをどうなさるおつもりですか?」
「別にどうも。私にはあなたを裁くような権利はありません。あなたが私の友人に危害を加えるというのなら、私も鬼にならざるを得ませんが、もう二度とこんなことはしないと誓っていただけるなら、このままお帰りいただいて結構です」
 それは「なめている」と言われても仕方ないほど甘い条件だった。この場をごまかすために「あきらめました」と言っても、コルベールにはそれを確かめる術はない。リュシーは本気で、コルベールという男がわからなくなった。
「コルベール様、あなたは何者なのですか? あなたがその気になれば、わたしをこの場で屈服させることもできるでしょう。それくらいの力をあなたが持っているのはわかります。なぜ、力を行使しようとはしないのですか?」
「私は、暴力でなにかを解決しようとすることが嫌いなだけですよ。ミス・リュシー、あなたの事情はわかりません。ですが、あなたにはまだ引き返せる道がある。どうかもう、無益な破壊はやめてくれませんか」
 頭を下げ、哀願するようなコルベールの姿に、リュシーは愕然とさえした。いったいこの人は何なのだ? 狂信的な平和論者なら世に腐るほどいるが、これほどの実力を秘めていながら戦いを嫌がるとはどういう考えをしているのか?
 だが、情けをかけられているという結論が、リュシーの憎悪に火をつけてしまった。
「わたしに、哀れみは不要です!」
 その瞬間、部屋にまるでフラッシュをたいたかのような閃光が走り、直後コルベールは体の異変を察知した。
「ぬっ!? これは、体が動かない。これは魔法? いや」
 閃光を浴びた瞬間から、コルベールはまるで全身が固まってしまったかのように動けなくなってしまった。

344 ウルトラ5番目の使い魔 68話 (13/15) ◆213pT8BiCc :2018/02/20(火) 22:09:11 ID:4OzmZrQ6
 これでは杖も振れず、魔法が使えない。しかし焦るコルベールに、リュシーは冷たく言い放った。
「無駄ですよ。それに捕まったら、もう自力では抜け出せません。意識を保っているだけでもすごいですが、さっさとわたしを倒さなかったことを後悔してください」
「く……これはいったい」
「しゃべることもできますか、本当にたいした精神力ですね。ですが、それまでです。わたしは、これまでの事件で火気のない場所を破壊するために、ゲルマニアの武器商人から購入した火薬を使っていましたが、その商人から譲り受けたこれは、一瞬で人から自由を奪い取ります。もうあなたには何もできません」
 説明するリュシーの声からは、勝利の確信が溢れていた。確かに、コルベールがいくら抵抗を試みようとしても体はまるで鉛になったように動かない。
 どんな仕掛けだ!? いや、このままではナイフ一本ですらやられる。体が動かない代わりに、コルベールの額に汗がにじんだ。
 だが、リュシーはコルベールにすぐにとどめを刺すことはせず、怒りをぶつけるように言った。
「あなたが悪いんですよ。コルベール様のご好意には感謝していましたから、ここまでするつもりはなかったのですが、もう許せません。あなたは、わたしの怒りを哀れんで甘く見ました」
「私は、あなたを甘く見てはいません。人を傷つけないのは、私にとって義務なのです。それより、それほどの憎悪の根源……やはり、あなたの目的は復讐ですか?」
 それを聞いたとき、リュシーの殺気が少しぶれ、コルベールは確信を持った。
「やはり……それほどまでに強い怒りを持つのは、なにかへの復讐を誓ったものしかいません。あなたは、かつて大切なものを理不尽に奪われた。破壊を繰り返していたのは、その復讐のため、違いますか?」
 その問いに対するリュシーの答えは、冷めていく彼女の殺意の感情が物語っていた。
「本当に、鋭い方ですね。確かに、わたしはかつて貴族だった折に、父や一族と幸せに生きておりました。ですが父は殺され、家族はバラバラにされました。その怒りは、忘れたことはありません」
 図星を刺されたことで、リュシーのコルベールに対する憎悪は、一種の感嘆に変わっていた。
 しかし、それでリュシーの怒りのオーラが消えたわけではない。もし、ここでコルベールが言葉を誤れば、リュシーは即座にコルベールの命を奪うだろう。しかしコルベールは、むき出しの殺意を向けてくるリュシーに沈黙は選ばなかった。
「悲しいことです。あなたの父上は、あなたにとって本当に誇りだったのですね。そして父上や家族を奪われ、咎人となるも構わずに復讐を選んだあなたは、本当に家族を愛していたのですね」
「ええ、そうです。それが、なにかおかしいですか」
「いいえ、ただ残念です。あなたにそれほどまでに愛される父上なら、私も一度お会いしてみたかったものです。あなたの利発さを見ればわかります。きっと、ためになるお話をいろいろ聞かせてくださったことでしょうなあ」
 その返しは、さしものリュシーも呆れたふうに息をつかせた。
「つくづく、おかしな人ですねコルベール様は。これから死ぬかもしれないというときに考えるようなことですか?」
「ははは、知的好奇心は私の本能のようなものでして。おかしな奴だとはよく言われます。こればかりは死ぬまで治らんでしょうな」
 死への恐怖をまるで感じさせない様子でコルベールは笑った。するとリュシーは目を細めながら言った。

345 ウルトラ5番目の使い魔 68話 (14/15) ◆213pT8BiCc :2018/02/20(火) 22:10:46 ID:4OzmZrQ6
「おもしろい人。もしわたしが貴族の時に舞踏会であなたと会っても、きっとすぐに突き放すでしょうけれど、あなたの優しいところを見ていると少しですが父を思い出します。ですが、もう終わりにしましょう。これ以上お話していると、わたしの心がおかしくなってしまいそうだから」
 リュシーの目に新たな殺意が宿る。コルベールは、これ以上の説得は不可能と見たが、それでもこれだけは問いかけずにはいられなかった。
「なら、最後にこれだけは教えてください。あなたにそこまでさせる、あなたと家族にとっての仇とは誰なのですか? なにに復讐するためにハルケギニア中で破壊を繰り返していたのですか?」
 その問いかけに、リュシーの表情が曇る。そしてリュシーは、まるで絞り出すように答えた。
「……わからないのです」
「え?」
「わからないのです。わたしが、何を恨んで、何に復讐しようとしているのかが、自分でわからないのです」
「そんな、どういうことです?」
 コルベールの表情も困惑に歪む。復讐する相手がわからない? 意味がわからない。
 だがリュシーは、何かに怯えたように引きつった声で言った。
「わからないのです。わたしの父は確かに誰かに殺され、家族は誰かに引き裂かれた。その怒りと憎しみはわたしの心に焼き付いています……けれど、信じられますか? 父を殺し、わたしからすべてを奪った、その仇が誰だったかをわたしは思い出せないんですよ!」
「まさか、そんなことが……」
 絶句するコルベール。リュシーは今にも泣きだしそうだ。
「おかしいですよね。父の仇を忘れてしまうなんて……ですが、どうしても思い出せないんです。しまいには、自分自身に制約の魔法をかけて記憶を引き出そうともしましたが、無駄でした。コルベール様、わたしはあなたを散々に言ってしまいましたが、わたし自身はとうに壊れた人間だったんですよ」
「ですが、ならばなぜこんなことを」
「……仇の記憶はなくても、この心に煮えたぎる復讐心は消えませんでした。やり場のない怒りで、もうおかしくなってしまいそうな日が続いたある時……わたしの耳に聞こえてきたんです。悪魔のささやきが」 
 
『なら、全部、ぜーんぶ壊しちゃえばいいじゃないですか。目につくものを、壊して壊して壊し尽くせば、そのうちあなたが本当に壊したいものを壊せるかもしれませんよぉ?』
 
「できれば狂いたかった。けど、狂えないわたしには、その声に従うほかはなかったのです」
 悲しみに満ちた目で、リュシーは告白した。

346 ウルトラ5番目の使い魔 68話 (15/15) ◆213pT8BiCc :2018/02/20(火) 22:11:42 ID:4OzmZrQ6
 コルベールはかける言葉がない。恐らくは、何者かによって仇に関する部分の記憶に封印が施されてしまったのだろうが、恨む相手すらなく怨念だけが残り続けるなど、まるで生きながら怨霊にされてしまったようなものではないか。
 怒りと、憎悪と、悲しみを宿した目でリュシーはコルベールの前に立つ。
「お別れです、コルベール様。ですが、あなたに制約の魔法をかけるのはこれでも難しいでしょう。ですから、これを使わせてもらいます」
 いつの間にか、リュシーの手には画びょう程度の小さな針が握られていた。
「それは……?」
「ゲルマニアの武器商人から手に入れた道具です。これを刺された人間は、わたしの意のままに操られます。彼らのように」
 リュシーが合図をすると、部屋の中に足音がして二人の人間が入ってきた。そのうちの大柄な男性はコルベールの知らない顔であったが、隣に立っている派手な身なりの少女には見覚えがあった。
「ジャネットくん……!? そうか、昼間に船を爆破したのは彼女たちだったのか」
 コルベールは合点した。元素の兄弟クラスのメイジならば、船の火薬庫に火をつけてなお生きて脱出するという芸当も可能だろう。そして、経緯はわからないが、あの二人も自分と同じ手でやられてしまったに違いない。
 ジャネットと、隣のジャックは虚ろな目をして立ち尽くしており、操られているのは明白だった。このままでは自分もああなってしまうと、コルベールはなんとか脱出をはかろうと試みたが、リュシーはコルベールに寄り添い、冷たくささやいた。
「心配しないで、痛くはありません。わたしもきっと、遠からずそちらへ行くことになるでしょう。あなたは少しだけ先に行って待っていてください」
 リュシーの持つ針が少しずつコルベールの首筋に近づいていく。コルベールに、逃れる術はなかった。
 
 
 だが、その一部始終をのぞき見していた者が夜空にいた。
 月光の下にコウモリのような姿を浮かべる、元凶のあの宇宙人。彼はあごに手を当ててもったいぶった仕草をしながら満足げにうなづいた。
「ウッフフフ……あの小娘、なかなかいい仕事をしてくれますねえ。私の小細工の副作用で記憶が混乱していたのをカワイソウに思って助けてあげたら、よくよく世界をかき回してくれる上に、この上物の”憎悪”の波動。いいですねえ、すばらしいですねえ」
 彼は自分の目的が順調に運んでいることへの喜びを大仰に表現し、次いで今度は深く考え込むように腕組みをすると、わざとらしげにくるりと逆さむきになってつぶやいた。
「それと、最近私にちょっかいを出してくる誰かさんを引っかけるために泳がせていましたが、やはり派手に目立っていただけに引っかかってきましたね。あの洗脳装置は確かナックル星人が使っていたものと同じ……と、いうことは誰かさんの正体はナックルさん……? いえ、そうとは限りませんね」
 結論を急ぐのを彼は自制した。あの程度の装置など、それなりの技術力がある星人なら誰でも使える。偶然であろうがバルタン星人とメフィラス星人のように、ほとんど同じ型の宇宙船を使っていた例もある。短慮は禁物だった。
「彼女に武器を売った商人さんとやら、ちょっと洗ってみますか。おや?」
 そのとき、彼の耳に大きな水の音が響いてきたかと思うと、河の水面が大きく泡立ち、水中からあの白いロボットがその巨体を浮上させてきたのだ。
「あれは! ほほお、誰かさんとやらの正体はともかくとして、派手好きな方なのは間違いないようですね。これはさらにおもしろくなってきましたよぉ!」
 先日の戦いで河中に沈んだはずのロボットは、赤い目を輝かせながら街へ上陸するために河中を前進してくる。その足取りは重々しくゆっくりで、ヒカリによって切り落とされた右腕には代わりに巨大な砲が装備されている。
 一見して以前とは違う。しかし、いったい何者がこいつを改造したのだろうか? そしてその目的は?
 人間の思いをおもちゃにして、侵略者たちの遊戯は身勝手に激しさを増していく。
 
 
 続く

347 ウルトラ5番目の使い魔 あとがき ◆213pT8BiCc :2018/02/20(火) 22:13:18 ID:4OzmZrQ6
今回はここまでです。
次からは元のペースに戻せると思います。

348 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2018/02/28(水) 19:49:14 ID:nzoJO1T.
ウルトラ五番目の人、投稿おつかれさまでした。

さて皆さん今晩は、無重力巫女さんの人です。二月はあっという間に終わってしまいますね
特に急な用事が入らなければ、19時53分から92話の投稿を始めたいと思います。

349 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2018/02/28(水) 19:53:13 ID:nzoJO1T.
 サン・レミ寺院の塔の鐘が大きな音を立てて鳴り響かせて、時刻が十一時になったと報せている。
 昔、それも家に置けるサイズの小さな時計が出来るまで寺院の鐘は人々にとって大切な存在であった。 
 今ではそこら辺の雑貨屋に行けば小物サイズの目覚まし時計が格安で手に入り、懐中時計は貴族たちの必需品となっている。
 事実鐘の音を耳にする人々は寺院に目を向ける事は無く、またある者は懐からわざわざ懐中時計を取り出して時間を確認する。
 この時代の人々にとって、既にサン・レミ寺院の鐘は大昔の異物――博物館に飾るべき対象にまで成り下がっていた。
 しかし悲しきかな…ただの鐘にされが理解できるはずも無く、また博物館の人間もわざわざ寺院の鐘を飾ろうとすら思わないだろう。

 時代遅れの古鐘は今日も街の人々に時刻を報せる。それを真摯に聞く者がいないという事も知らずに。
 そんな鐘の音が聞こえてくるチクトンネ街の中央広場を、シエスタに連れられたルイズ達一行が横断していた。
「ミス・ヴァリエール、ここら辺は人が多いですから気を付けてくださいね」
「一々言わなくても大丈夫よシエスタ。私達もうんざりするほどここを通って来たんですから」
 自分の達の方へ視線を向けながら声を掛けてくれるシエスタに、ルイズ達は人ごみに揉まれつつ歩いている。
 その後ろにいる霊夢と魔理沙の二人は、無数の人々でできた弾幕の様な混雑をかわしながらも、何やら話し合っている。
「全く…次はどこへ案内するのかと思いきや、まーたこんな人間だらけの場所に連れて来るなんて…」
「まーいいじゃないか、ずっとあの通りにいたらそれこそこんな場所なんか通りたくない…なんて思っちゃうからな」
 丁度良い塩梅だぜ。と最後に付け加えた魔理沙は目をつぶって笑いながら、右からやってきた衛士をスッと前へ行く事で回避する。
 霊夢も霊夢でデルフを背負ったまま、左からやってきた散歩中の小型犬をほんの一瞬宙に浮いて避けて見せた。
 そのせいで彼女の頭が人ごみからヒョコッと出てしまったが、幸いそれに気づく者はいない。
 飼い主であろう貴夫人と連れの者たちはお互い会話に華を咲かせていたので、見られる事は無かった。
 
 お互い、通りがかってきた危機を軽やかに回避して見せた後で、それを後ろから見ていたルイズがポツリ呟いた。
「アンタ達って、偶に涼しい顔してスゴイ避け方するのね…」
「え?…ハハハ!なーに、伊達に霊夢と競い合って異変解決はしてないからな。この程度の人ごみは楽勝さ」
 ルイズの呟きに気付いた魔理沙は一瞬怪訝な表情を浮かべたもの、すぐに快活な笑い声と共にそう言ってのけた。
「良く言うわね。いっつも私の邪魔ばっかしてきて痛い目見てる癖に、そんな一丁前な態度が取れるなんて」
「まぁそう言うなって霊夢。…それに、一つ前の月の異変の時にはお互い良い具合に相打ちだったぜ?」
 魔理沙の言葉で、迷いの竹林でアリスとのコンビを相手にして紫と共に痛い目に遭った事を苦い思い出が蘇ってしまう。
「う、うるるさいわね…第一、アンタだって最後のスペルカード発動した際にアリスごと…」
「ちょっ…!こんな所で言い争うのはやめて頂戴よアンタ達!」
『いーや、無理だね娘っ子。…こりゃあ、暫し人ごみの中で立ち往生だ』
 対する霊夢はそんな魔理沙の言葉に溜め息をつきつつそう言うと、魔理沙も負けじと返事をする。
 霊夢の反応を見て、この先の展開が何となく読めたルイズが止めようとするも、デルフは既に止められない事を悟っていた。
 そんな時であった、これから始まろうとする知り合い同士の口喧嘩にシエスタが待ったを掛けたのは。

「…あ、ちょ…ちょっとみなさーん!そんな所で足を止めてたら他の人にぶつかっちゃいますよー!?」

 いざ言い争おう…という所でシエスタに呼びかけられて、思わずそちらの方へと視線を向けてしまう。
 私服姿のシエスタはアアワ…と言いたげな表情を浮かべつつも、上手い具合に衝突しそうになる他人と上手にすれ違いつつこちらへと向かってくる。
 伊達にトリスタニアの人ごみを経験していないのか、平民だというのにその身のこなしには殆ど無駄がない。
 そんな彼女の妙技(?)を三人が眺めている内に、とうとうシエスタが自分たちの元へとやってきた。

350 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2018/02/28(水) 19:55:05 ID:nzoJO1T.
「ふぅ、ふぅ…もぉ、どうしたんですか?こんな人ごみのど真ん中で止まっちゃうなんて。…迷ったりしたら大変ですよ?」
「あぁ御免なさいシエスタ。ちょっとこの二人がどでもいい言い合いを始めそうになったけど、貴女のおかげで阻止できたわ」
 少し息を切らせつつ理由を聞いてくる彼女にルイズはそう答え、シエスタはそれに「?」と首を傾げてしまう。
 霊夢と魔理沙はというと、シエスタの邪魔が入ったおかげか言い争う気を無くしてしまったらしい。
 互いに相手の顔を見つつも、まぁここで言い争っても仕方ない…と言いたげな表情を浮かべていた。

「?…何だか良く分かりませんが、まぁ誰かにぶつかって大事にならず済んだのなら大丈夫ですよ」
「それなら問題ないわよシエスタ。少なくともこの程度の人ごみ何て、私にとってはそよ風みたいなモンだから」
「まぁ確かにそうよね。アンタならちょっと体を浮かせば何でも避けれるだろうしね」
 何が何だかイマイチ分からぬまま、ひとまず安堵するシエスタに霊夢は平気な顔をして言う。
 それに続くようにしてルイズも一言述べた後、シエスタが「さ、急ぎましょうか」と言って踵を返した。
「今はまだ大丈夫だろうですけど、お昼時になったらきっと入るのが大変になりますから」
「…大変な事?おいおい、何だか不穏な物言いだな。一体私達を何処へ連れていく気なんだ?」
 シエスタが口にした「大変」という単語に反応した魔理沙が、三十分程前から気になっていた事を質問する。
 魔理沙の問いにシエスタは暫し悩んだ素振りを見せた後…「あそこです」とある場所を指さした。
 咄嗟に魔理沙と霊夢は彼女の指差す方向へと視線を向け、デルフも鞘から刀身を少し出して何か何かとそちらへ視線(?)を向ける。
 そこから一足遅れてルイズもシエスタの指さす方向へと目を向けて―――そこにある『建物』を見て怪訝な表情を浮かべた。


 今から三十分ほど前までは、ルイズ達はシエスタの案内で王都の静かな通りを歩いていた。
 夏季休暇中にも関わらず平穏で、大通りの喧騒などどこ吹く風のそんな場所はとても歩き心地が良かった。
 そして…その通りにあるヘンテコな商品を扱う小さな雑貨屋を見ていた時に、シエスタが小さな悲鳴を上げたのである。
 何事かと思った三人がシエスタの傍へ集まると、そこには店の壁に掛けられた柱時計を見つめる彼女の姿があった。
―――…!どうしたのよシエスタ。そんな急に悲鳴なんか上げて…
――――あ、あぁミス・ヴァリエール!すいません、次に案内する場所をすっかり忘れていました!
 ルイズの問いにそう言ったシエスタが指差した先には、その柱時計。
 単身が十を、長針が六の所に差し掛かった時計から小さな鳩が出てきて、ポッポー!と鳴いている。 
 
 どうやら時刻は十時半になったらしい。それを知った霊夢が次に彼女へと話しかけた。
―――それがどうしたのよ?十時半になったらその案内する場所が閉まっちゃうの?
――――あー…いえ、別にそういう事じゃないんです…タダ、入るのが凄く難しくなっちゃうというか…
―――――何だ何だ、何か面白そうな予感がしてくるぜ。…で、次は何処へ案内してくれるんだ?
 返事を聞いていた魔理沙もそこへ加わると、シエスタは嬉しそうな笑みを浮かべて「これから案内します」と言って店を出ていく。
 結局その場では聞く事は叶わず、一体どこなのかと訝しみつつ三人は彼女の後をついていくしかなかった。
 
 それからあの通りを経由して再び人で溢れかえった大通りへと戻り、そしてチクトンネ街の中央広場まで戻ってきた。
 シンボルマークである噴水広場を少し出た所には、トリスタニア王宮と肩を並べるほどに有名な建物がある。
 トリステインの文化の象徴の一つであり、貴族だけではなく平民からも多大な支持を得ている大型の劇場。
 長い長い歴史の中で幾つもの傑作、怪作、迷作が生み出され、無名有名様々な役者たちが演じてきた芸人達の聖地。
 だからこそ、シエスタがその建物を指さした時にルイズは怪訝な表情を浮かべたのである。
 霊夢と魔理沙の二人を、あのタニアリージュ・ロワイヤル座につれて行くのはどうなのか―――と。
「…それが私の表情の真意よ」
「真意よ。…じゃないわよ、滅茶苦茶失礼するわねぇ〜?」

351 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2018/02/28(水) 19:57:05 ID:nzoJO1T.
 ルイズから怪訝な表情を浮かべた理由を聞いた霊夢は、苦虫を噛んだ様な表情を浮かべて苦々しく言った。
 夏の鋭い陽射しを避けられる陰が出来ている劇場の入口周辺に屯し、シエスタと魔理沙も傍にいる。
 劇場へと入る人々は貴族、平民問わず何だ何だと一瞥はするもののすぐに視線を逸らして中へ入っていく。
 入り口を警備している警備員たちも二人ほどルイズ達へと視線を向けて、じっと見張っている。
 その鋭い視線を背中にひしひしと受けつつも、霊夢は腰に手を当てて不機嫌さを露わにしていた。

「第一、私と魔理沙が劇を大人しく見れないって前提で考えてるのは流石に失礼よ」
「…ん〜まぁ確かにそうよね、そこは悪かったわ。…でも、アンタ達ってオペラとか演劇とかって興味あるの?」
 ぷりぷりと怒る霊夢に平謝りしつつも、ルイズはさりげなくそんな事を聞いてみる。
 その質問に霊夢は暫し考えると、真剣な表情を浮かべながらルイズの出した質問に答えた。
「いや、そういうのは趣味じゃないわね。…魔理沙は?」
「あー私もそういうのはガラじゃないなー。人里でお菓子とかもらえる紙芝居なら好きなんだが…」
 霊夢に話を振られ、ついでに答えた魔理沙の言葉を聞いて、ルイズは額を押さえながら「オォ…もう」と呻くほかなかった。
 やはり…というか…なんというか、やっぱりこの二人にはそういうものを嗜める人間ではないらしい。
 
 み、ミス・ヴァリエール…と心配してくれるシエスタを余所に、ルイズは更に質問をぶつけてみる。
 今度は霊夢だけではなく、ついでに答えてくれた魔理沙にも同じ質問をする。
「一つ聞くけど…アンタ達、狭い席に大人しく座って…劇見ながら二時間程じっとしていられる自信ってあるの?」
 それを聞いた二人は、一体何を質問してくるのやらと思いつつも魔理沙がスッと手を挙げて即答した。
「まぁ一人静かに本を読む時は、大体それぐらいの時間は余裕で消費するから大丈夫だぜ」
「…悪いけど、劇場内でのマナー一覧には上演中の読書は禁止されてるわ。第一、劇が始まったら照明が消されるし」
 ルイズからの返答に魔理沙は「マジか」と呟き、次いで霊夢が質問に答えてくれた。
「まー、その劇とやらが面白ければ良いわよ。つまらなかったら目を瞑って昼寝でもする…そういうモノなんじゃない?」
「アンタ今、この劇場に対して滅茶苦茶失礼な事言ったわねェ…」
 霊夢の容赦ない一言を聞いて、ルイズは苦々しい表情を浮かべつつ周囲の視線が一斉に霊夢へ向いたのに気が付く。
 劇場へと入っていく貴族―――それも明らかに中流や上流と分かる年配や四十代貴族たちの鋭い批判の眼差しに。
 彼からしてみれば、この歴史ある劇場の席で居眠りする事など…絶対にしてはならない行為の一つなのである。
 ルイズも幼少期の折に、初めてここで劇を観賞する前に母親からしつこく注意されたものだ。
 
 例えどんなにつまらない寸劇や三文芝居だとしても、貴族であるからには最後までそれを見届ける義務がある。
 これから劇を見るだけだというのに真剣な表情でそんに事を言ってくる母に、自分はキョトンとしながらも頷いていた。
 霊夢に呆れるついで昔の事を思い出していたルイズはそこでハッと我に返り、誤魔化すように咳払いする。
「ン…ンゥ…コホン、コホン!」
「……?どうしたのよ、いきなりワザとらしい咳払いなんかして」
 突然の咳払いが理解できなかったのか、何をしているのかと呆れた表情を浮かべる霊夢を余所にルイズはその後ろへと注意を向ける。
 本人は気づいていないようだが、彼女の背中にはこれでもかと入り口で屯している他の貴族達からの鋭い視線が注がれている。
 先ほどの彼女の発言を聞いてしまったのだろう。これぞトリステイン王国の貴族…といった裕福な身なりの者達が目を鋭く光らせていた。
 良く見れば、腰に差した杖の持ち手に利き手を添えている者達までいる始末。

352 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2018/02/28(水) 19:59:06 ID:nzoJO1T.
 もしもここから先、霊夢か魔理沙…もしくはデルフのどちらかが失礼な発言を重ねれば…どうなるか考えなくても分かってしまう。
 しかし流石の貴族たちも、こんな王都のど真ん中で歴史ある劇場に無礼な発言をした者たちを懲罰したりしないだろう。
 …というよりも、少し生意気な平民を脅かしてやろうと近づいて霊夢達に下手な事を言えば…何てことは想像したくも無い。
 今アンリエッタから請け負っている任務の事を考えれば、大きな騒ぎを起こす事などとんでもない下策なのである。
 そこまで考えたルイズが考えた選択は、ここから一刻も速く離れるという事であった。
 その為にはまずやるべきことは唯一つ…此処まで連れてきてくれたシエスタに、謝る事であった。

「…あーシエスタ、悪いけど…まだレイムたちにはタニアリージュ・ロワイヤル座の劇は難しいと思うのよ…」
「―――?は、はぁ…」 
 霊夢と同じく自分の咳払いの意図が分からず、小首を傾げるシエスタに顔を向けたルイズは彼女へそっと話しかける。
 普段のルイズならばこんな感じで平民に話しかけはしないものの、相手があのシエスタなのだ。
 わざわざ自分の貴重な休日を潰してまで、街を案内すると張り切っていた彼女が一番お薦めだと思うのはここに違いないからだ。
 タニア・リージュ・ロワイヤル座は平民も気軽に劇を見る事の出来る場所で、尚且つ平民の女性にとって舞台を見るという事は一種の贅沢なのである。
 前から霊夢達をここへ連れていきたいと考えていたのなら、自然と申し訳ない気持ちになってしまう。
 
 そんな事を考えていたルイズであったが、あったのだが…―――――――
「あの、ミス・ヴァリエール。…実はここへ案内したのは、劇を一緒に見ようとか…そんな事の為じゃないんです」
「――――――…え?」
 ――――惜しくも、そのもし分けない気持ちは単なる思い過ごしとなって霧散してしまう。
 今の自分にとって間違いなく寝耳に水なシエスタの言葉に、ルイズは目を丸くするほかない。
 霊夢と魔理沙の二人も、予想外と言わんばかりの「えっ」と言いたそうな顔をシエスタへと向けてしまう。
 そんな三人に申し訳なさそうな表情を見せつつ、一人空気が違うようなシエスタは話を続けていく。

「だって皆さん、そろそろお腹が空いてきた頃合いでしょう?だからここで美味しいモノ食べていきませんか?
 実はここのレストランで食べられるパンケーキセット…安くて美味しいって平民の女の子達の間で評判なんですよ」

 どうやら近頃の平民の女の子たちの間では、劇よりもパンケーキセットが人気なようだ。
 同じ少女でも貴族と平民、両者の流行には大きな差がある事をルイズは再認識せざるを得なかった。



 タニアリージュ・ロワイヤル座は今日も午前中から貴族やら平民達が、娯楽を求めてやってくる。
 観音開きになっている門をくぐり、窓口に並んでチケットを買い、そして劇や芝居…時には演奏を聞くために奥へと入っていく。
 そして観終った者達は再び門をくぐって出ていくか、あるい館内に設けられたレストランで優雅な食事を楽しむ。
 レストランも貴族向け、平民向けと分けられているものの、そこはトリステインの歴史ある劇場内の飲食店。
 平民向けであろうとも彼らが自宅の食卓では食べられない様な料理を、手の届く価格で提供しているのだ。

353 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2018/02/28(水) 20:02:32 ID:nzoJO1T.
 そうして満足ゆく体験を経て去っていく者たちの大半は、いずれまた戻ってくる。
 またあの時の芝居や劇で体験した感動を、あのレストランで食べた料理をもう一度…という希望を抱いて。
 彼らの様なお客は業界ではリピーターと呼ばれ、そして彼らは今も尚増え続けている。
 このようにして、タニアリージュ・ロワイヤル座は不景気や災害に負けず今日まで続いているのだ。
 過去二十回にも及ぶ増改築を続け、伝統を残しつつ新しさを取り入れた劇場として外国の観光客にも人気がある。
 その内の中では比較的新しく改築した場所と言えば、丁度二年前に上流貴族専用の『秘密の入口』であろう。

 『秘密の入口』は劇場の地下一階、丁度裏手の通りにある緩やかなスロープから外へ入る事が出来る。
 緩いL字型の下りスロープを下りた先には、比較的大きめの馬車止めが幾つも用意されていた。
 元々は過去の芝居や劇で使われていた大型の道具を置くための巨大物置部屋として使われていた。
 スロープもその道具を一旦外へ出し、同じく地上の搬入口を運ぶために造られたものなのだという。
 しかし近年、魔法を用いた演出などが増え始めるとそれ等の大道具は時代遅れの代物として見なされ、
 更に同じ時期に、王宮で大事な官位についている貴族から「お忍びで入れる入口はないかと」という要望を出してきたのである。
 
 当時の館長を含め劇場を運営する貴族達が一週間ほど会議した結果、地下の馬車止め場が造られる事となった。
 最も、それまでそこに仕舞っていた道具は幾つかのパーツに解体して別の場所に保管するか廃棄される事となったのだが…。
 何はともあれ、地下の入口が造られてからは更に貴族の客が増え結果的に劇場にはプラスの結果となったのである。
 
 そして今日もまた…当日予約ではあったものの、一台の大型馬車がスロープへと入ろうとしていた。
 外の通りからスロープの間には黒い暗幕が掛けられ、入口の横には槍と警棒で武装した警備員たちが厳しく見張っている。
 その暗幕を抜けた先には壁に取り避けられたカンテラに照らされたスロープが、地下の馬車置き場まで続いている。
 御者が馬の速度を落としつつそのスロープを無事下りきると、近くで待機していた警備員が御者へと指示を飛ばす。
「ようこそいらっしゃいました!ミス・フォンティーヌの御一行様ですね、五番ホームまで進んでください!」
「あぁ、分かったよ」
 
 警備員の指示に従い、御者は馬を前へ進ませて五番ホームへと向かわせる。
 廊下に沿って天井に取り付けられた大型のカンテラが地下を照らしているせいか、かなり明るい。
 既に他の馬車が止まっているホームの中にはハーネストを外された馬が馬草を食んでいたり、留守を任された御者の手で体を洗われている。
 聞いた話では全部約六台分の馬車が入るらしいが、成程貴族たちの間では中々人気なようだ。
 横目で見る限り、馬車に描かれている家紋や紋章はどれもこの国ではそれなりの地位を持っている家のものばかりである。
 その殆どには御者や係の者がついて細かい整備や清掃などを行っており、とても劇場の地下とは思えない様な光景が広がっていた。

 それからすぐに、警備の者に言われた通り、要人達を乗せたその馬車を五番ホームへと入れていく。
 コの字型ホームの一番奥で馬を停めると、付近で待機していた数人の係員たちが駆けつける。
 一人が手早くハーネストを外して馬を更に奥へと移動させると、もう一人が御者に水の入ったコップを手渡しながら話しかけた。
「暑い中お疲れさん。…連絡済みだと思うが、当日予約だから馬の手入れや馬車の整備はできないよ!」
「あぁ問題ないよ!ウチのご主人様はそういうので一々臍を曲げたりしないお方だしな…あぁ、どうも」
 係員からの注意に御者はそう答えつつ、額の汗を拭いながら差し出されたコップを受け取って水を一口飲んでみせる。
 ここまで二時間近く、王都の交通事情に苦戦しながらも馬車を走らせてきた彼にとって、差し出された水はとても美味しかった。
 王都の中で飲める水の中ではこれほどまで冷たく、のど越しの良い水が飲めるのはきっと王都ぐらいなものだろう。

354 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2018/02/28(水) 20:04:42 ID:nzoJO1T.
 そんな風にして御者が係員からの御恵みを受ける中、別の係員が馬車のドアの前に立つ。
 事故防止用の鍵が内側から開かれる音が聞こえるとその場で気を付けの姿勢をした後、レバータイプのドアノブへ手を掛ける。
 馬車に取り付けるドアノブとしては間違いなく高級な類であろうそれをゆっくりと握り、かつ力を入れてレバーを下ろしていく。
 ガチャリ、金属的な音を立ててレバーが下りたのを確認した係員が意を決してドアを開けていくと――――突如、小さな影が飛び出してきた。
「うわっ、な…何だ?」
 予想していなかった影の登場にドアを開けた係員は驚きのあまり声を上げてしまい、影のとんだ方向へと視線を向ける。
 馬車から数十サント離れた煉瓦造りの地面の上、カンテラで薄らと照らされたそこにいたのは…一匹のリスであった。

 以前彼が街中の公園で見た事のある個体より少しだけ大きいソイツは、口をモゴモゴと動かしながら係員の方へと視線を向けている。
 嫌、正確には彼の背後――――馬車の中にまだいるであろう自分の『飼い主』の姿をその目に捉えていた。
 そうとも知らず、自分を見つめていると思っていた係員が何て言葉を掛けていいのかと思っていた最中、
「あらあら、御免なさいね。…この子ったら、いつも真っ先に馬車の中から出ちゃうのよ…」
 …と、背後から掛けられた柔らかい女性の声にハッとした表情を浮かべ、慌てて馬車の主の方へと振り返る。
 振り返った先にいたのは、右足を馬車の外から出そうとしている女性―――カトレアであった。
 その顔に浮かぶ笑みに少し困ったと言いたげな色が滲み出ているのに気が付いた係員は、慌てて頭を下げて謝罪を述べようとする。

「も、申し訳ありませんミス・フォンティーヌ!馬車の中に入っていたリスに気を取られて、つい…!」
「あぁ、いいのよ私の事なんて。…それよりも、その子が何処に行ったのか真っ先に確認してくれて有難うって言いたいわ」
「……えぇ?」
 貴族を怒らせたらどうなるか、それを何度も間近で見てきた彼の耳に聞いたことの無い類の言葉が聞こえてしまう。
 思わず我が耳を疑ってしまい、怪訝な表情を浮かべて顔を上げる彼を余所にカトレアは右手を差し出して口笛を吹く。
 すると…キョロキョロと辺りを見回していたリスが彼女の方へと顔を向け、タッと走り寄ってくる。
 リスは彼女の身に着けているスカートをよじ登り、そのまま服を伝って彼女が差し出した掌の上へとたどり着く。
 カトレアはそんなリスの頭を優しく撫でながら、キョトンとする係員に詳しい説明をし始めた。

「この子、見慣れない場所へ行くとついつい興奮しちゃうのか…まっさきに外へ飛び出してしまうの。
 まだ怪我が治ってないから外へ出るのは危険なのに、でも自立したいって気持ちは私なんかよりもずっと強い」
 
 羨ましくなるわね。ふと最後にそんな一言が聞こえたような気がした整備員は、怪訝な表情を浮かべてしまう。
 しかし今は仕事の真っ最中であった為、気のせいだと思う事にしてカトレアへの案内を再開する事にした。
「で、ではミス・フォンティーヌ。ご予約して頂いた劇の上演まで残り一時間を切っておりますので、こちらへ…」
「あら、丁度良い時間ね。じゃあお言葉に甘えて…あぁ、その前に一つよろしいかしら?」
 リスを馬車の中へ戻したカトレアが係員についていこうとした所で、彼女は何かを思い出したかのような表情を浮かべる。
 彼女の言葉に何か要望があるのかと思った係員は、改めて姿勢を正すと「可能な限りで」で返した。

「私たちが乗ってきた馬車の周りを、少し高めの柵で囲っておいて貰えないかしら」
「柵、でありますか?」
「えぇ。ホラ、ちょうどあそこで馬を囲ってるのとおなじような……」
 カトアレはそう言いながら、彼女から見て右手にある四番ホームで馬が出ない様に囲ってある鉄製の柵を指さす。
 係員達は一瞬お互いの顔を見合ったものの、まぁそれくらいなら…という感じで彼女の案内役が代表して頷く。

355 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2018/02/28(水) 20:06:06 ID:nzoJO1T.
「わかりました。他の係員たちに言って倉庫から余っている柵を持ってこさせます」
 係員のその言葉を聞いたカトレアは嬉しそうに手を叩くと、彼に礼を述べた。

「そう、有難うね。…じゃあ、馬車の中にいる『あの子達』に言っておかないと」
 次いで、彼女の口から出た『あの子達』という言葉に係員が首を傾げそうになった所で、
 カトレアはドアが僅かに開いている馬車の中へと優しげな声を掛けた。
「じゃあみんな。私が戻ってくるまでの間、柵の外から出ずに遊んでいるのよぉ〜!」
 彼女が大声でそう言った瞬間、馬車のドアを開けた大勢の小さな影が続々と飛び出してくる。
 案内役を含めた係員たちが何だ何だと驚く中で、何人かがその正体が何なのかすぐに気が付く。
 馬車の中に潜み、そして出てきた影の正体は――――大中小様々な動物たちであった。 

「え…!?」
「ど、動物…それも、こんな…」
 係員たちは目の前の光景が信じきれないのか何度も目を擦り、激しい瞬きを繰り返している。
 それ等は先ほどのリスよりも二回りも大きく、そして様々な種類がいた。
 先に飛び出してきたリスを含め、一体この馬車の中はどうなっているのかと疑う程の動物たちが五番ホームを占領していく。
 可愛い猫や雑種と思しき中型犬に混じってトラの赤ちゃんが地面に寝そべり、小熊がその隣で座っている。
 亀がゴトゴトと地味に喧しい音を立てて歩き回り、そのままとぐろを巻いて休んでいる蛇の体をよじ登っていく。
 
 あっという間に周りよりも騒がしくなってしまった五番ホームの真ん中で、カトレアは動物たちを見回しながら「みんなー」と声を掛けた。
「少しさびしいと思うけど。御者のアレスターが一緒だから、何かあったら彼の言う事を聞くのよ。わかった?」
 その瞬間…驚いたことに、彼女の言葉にそれぞれが自由気ままにしていた動物たちは一斉に彼女の方を見たのである。
 眼前の蛇を蛇と視認していなかった亀も足を止めて彼女の方へと身体を向け、蛇は首をのっそり上げてコクリと頷いてみせた。
 まるでサーカスの動物ショーを見ているかのような光景に係員たちが呆然とする中、カトレアはその笑顔のまま案内役の係員に話しかける。

「それじゃあ、案内してもらおうかしら」
「………あ、え?…あッ!は、はい!こちらです」
 あっという間に劇場地下の一角が小さな動物園と化した事に一瞬我を失っていた係員は、慌てて返事をした。
 再び自分の足元で思い思いに寛ぐ動物たちを踏んだり蹴ったりしないよう細心の注意を払いながら、カトレアへの案内を始める。
 幸い劇場のロビーへと続いている扉はすぐ近くにあり、一分も経たずに扉の前まで彼女連れてくる事ができた。
 そこまで来たところでカトレアはまた何か思い出したのか、アッと言いたげな表情を浮かべて馬車の方へ顔を向ける。

 今度は一体何かと思った係員たちがそれに続いて馬車の方へ視線を向けた直後、何人かがギョッとした。
 カトレアが出て、動物たちが出てきた馬車の中から、ヌッと大きな頭の女が重たそうな動作で出てきたのである。
 まるで目覚めたばかりで古代の遺跡からゆっくりと這い出てくる魔物の様に、その一挙一動が無気味であった。
 何せその女の頭の大きさたるや、女の体と比べればまるで子供がギュッと抱きついているかのようにアンバランスなのだ。
 地下の照明が微妙に薄暗いという事もあってか、その頭がどういう事になっているのかまでは良く分からない。
 それがかえって不気味さを増長させており、係員たちの何人かは女からゆっくりと後ずさろうとしている。
 動物たちも馬車から出てきた女に驚いたのか、寝ていた者たちはバッと体を起こして馬車との距離を取ろうとしていた。

356 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2018/02/28(水) 20:08:21 ID:nzoJO1T.
 係員たちも突然の巨女に対応ができず、ただただ唖然とした様子で見守っていると―――女が言葉を発したのである。
「ニナー、もう大丈夫だから…大丈夫だから、とりあえず私の頭に抱きつくのは、いい加減やめなさい」
「…え?……あれ、もうついたの?」
 その不気味さとは対照的に、冷静さと大人びた雰囲気が垣間見える声に呼応するかのように、今度は少女の声が聞こえてくる。
 何と驚く事に、ようやく言葉足らずを卒業したかのような幼い女の子の声は、女の頭がある部分から発せられた。
 不安げな様子が見て取れる言葉と共に、女の頭の天辺からニョキ…!と女の子の顔が生えてきたのである。
 瞬間、その様子を間近か照明の逆光でシルエットしか分からなかった係員たちは小さくない悲鳴を上げてしまう。

 ちょっとした混乱が続いている五番ホームの中、係員たちの恐怖を余所にカトレアはその女に声を掛けた。
「ニナ、ハクレイ。あぁ御免なさい!あなた達に声を掛けるのを忘れていたわ」
「あー別に大丈夫。ちょっとニナが動物たちを怖がり過ぎてて、私の頭にしがみついてて…馬車から出るのに苦労したけど」
 カトレアの言葉に女は軽い感じでそう言うと、自分の頭に抱きついている少女、ニナをそっと引っぺがして見せた。
 そこになって、ちょっとした恐慌状態に陥りそうになった係員たちは、ようやく巨頭の女の正体を知る事となったのである。
 女、ハクレイは引っぺがしたニナの両脇を抱えたままカトレアの傍まで来ると、そこで少女をそっと地面へ下ろす。
 一方のニナはと言うとハクレイの背後でじっと様子を窺っている動物たちを、見張っているかのように凝視していた。

 そして凝視するのに夢中になっているあまり、下ろされた事に気が付いていない彼女の肩をハクレイはそっと叩いて見せる。
 ポンポンと少し強く感じられる手の感触でようやく下ろされた事に気が付いたニナは、ハッとした表情でハクレイの顔を見上げた。
「ホラ、これでもう大丈夫よ」
「だ…大丈夫って…何が大丈夫だってぇ〜?」
 肩を竦めて言うハクレイに、ニナは子供らしい意地を張りながら生意気に腕を組んでみせる。
 その子供らしい動作にハクレイはもう一度肩を竦め、カトレアはクスクスと笑おうとしたところでハッと気づく。
 
 ふと周囲に目をやれば、いつの間にか自分たちを中心に奇異な目を向ける者たちが数多くできていた。
 係員をはじめとして、自分たちと同じく客として来たであろう貴族達も目を丸くし、足を止めてまで凝視している。
 馬車に乗せてきていた動物たちも何匹かが主の方へと目を向けていた。
 ザッと見回しただけでも実に十以上の視線に晒されているカトレアは、流石に焦りつつも頭を下げて彼らに謝罪をして見せた。
「…えーと、その…変にお騒がせさせてしまい、大変申し訳ありませんでした」
 多少おざなりであったがそれで良かったのか、貴族の客たちは各々咳払いしたりしてその場を後にする。
 係員たちも何人かが頭を下げるカトレアと同じように頭を下げて、各自の仕事を再開していく。

 先程までいつも以上に賑やかだった地下の馬車置き場は、再びいつもの喧騒を取り戻していた。
 カトレアが連れてきた動物たちの鳴き声と、五番ホームを囲う柵を用意する係員たちの姿を除けば、であるが。

 
――――あら、懐かしい劇ね。一体何時ぶりだったかしら?
 どうして彼女たちがタニアリージュ・ロワイヤル座に来たのか…それは朝食を食べているカトレアの一言から始まった。

357 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2018/02/28(水) 20:10:13 ID:nzoJO1T.
 昨夜のドタバタ騒ぎから夜が明けて、腹を空かせていたハクレイがオムレツを口に入れようとした時か、
 それともカトレアの横に座り、手作りフルーツヨーグルトのおかわりをお手伝いさんに頼もうとした時かもしれない。
 朝陽に照らされた庭で寛ぐ動物たちに餌をやり終えたカトレアが、ポストに届いていたお便りを読みながら、そんな事を呟いたのである。
 中にチーズとハムが入ったオムレツをそのまま口の中に入れたハクレイが口を動かしながら「はひがぁ?(何が?)」と聞く。
 何気にマナーのなってないハクレイをお手伝いがジトーと睨むのを見て苦笑いしつつ、カトレアは彼女の問いに答える。

―――ここから少し離れた所にあるタニアリージュ・ロワイヤル座っていう劇場で懐かしい劇がリバイバルされるらしいのよ。
     まだ私が小さい時…故郷の領地にいた頃に一度だけ、とある一座が王都まで行けない人たちの為に出張上演してくれたっけ…

 その言葉を皮切りに、カトレアは食事の手を一時止めてハクレイ達に当時見た劇の事を話してくれる。
 劇は王道を往く騎士物で、世間を知らない貴族の御坊ちゃまが一人前の騎士として御尋ね者のメイジを退治する話なのだという。
 苦労を知らず下らない事で一々怒る主人公が多くの人々から時に厳しく、時に優しくされつつも騎士として鍛え上げられていく。
 やがて同期のライバルや教官から騎士道とは何たるかを学び、最後は自身の母を手に掛けた貴族崩れのメイジと一騎打ちを行う。
 これまで培ってきた戦い方や技術を凌駕する貴族崩れの男の攻撃に苦戦しつつも、主人公は機転を利かせつつ攻めていく。
 その戦いの末に杖を無くしてしまった二人は互いに護身用の短剣を鞘から抜き放ち、そして――――…。

―――それで…?
――――そこまで言ったら、もしも同じ劇を見た時に面白味が無くなっちゃうでしょ?
 そこまでも何も、物語の大半を語っておいてそこでお預けするというのは正直どうなのだろうか?
 既に手遅れな事を言っておいてクスクスと笑うカトレアをジト目で睨みつつ、ハクレイは朝の紅茶を一口飲む。
 ミルクを入れて口の中を火傷しない程度に温度を下げた紅茶はほんのりと甘く、優しい味である。
 カップを口から離し、ホッと一息ついたハクレイを余所に同じくカトレアの話を聞いていたニナが彼女に話しかけていた。

「でも何だか面白そうだよね〜、でもリバイバルって何なの?」
「リバイバルっていうのはねぇ、昔やっていたお芝居とか演奏会とかをもう一度やりますよーっていう意味なの」
 カトレア曰く、この手の演劇や芝居などは日が経つにつれ新しい物へと変わっていくのだという。
 稀に何らかの理由で発禁処分にされたりでもしない限り、大抵は短くて三か月長くて半年は同じ劇が見れるらしい。
 終了した物を見るには今言っていたリバイバルか、金持ちの貴族ならばワザワザ劇団を雇って見ているのだとか。
「…で、アンタがさっき言ってた劇は当時の貴族の子供に人気だったからリバイバル…っていうワケね」
「そうらしいわね。まぁでも、タニアリージュ・ロワイヤル座でリバイバルされるのなら相当に人気だと思うわ」
 まぁ実際、面白かったしね。最後に一言付け加えた後、カトレアは手に持ったフォークで付け合せのトマトを刺した。
 一口サイズにカットされたソレを口元にちかづけいざ…という所で、彼女はハッとした表情を浮かべて手を止める。
 
 カトレアへ視線を向けていた他の二人とお手伝いさんたちが訝しもうとしたその時…彼女は突如「そうだわ!」と大声を上げた席を立った。
 突然の事にカトレアを除く全員が驚いてしまう中で、彼女は名案が閃いたかのような自信ありげな顔でハクレイ達へ話しかける。
「何ならこれからその劇を見に行きましょうよ、ここ最近はずっと家の中にいたし…ニナも窮屈そうにしていたし」
「え?本当に良いの!?」
 あまりにも突然すぎる提案にニナはたじろぎつつも、ほぼ同時のサプライズに嬉しそうな表情を浮かべる。
 ここ王都に入ってからというもの、街中の込み具合からニナは庭を除いてここから出た事がなかったのだ。
 多少自分の身は守れる程度に強いハクレイは別として、一日中カトレアと共にこの別荘の中で過ごしている。
 
 年頃の子供にとって、猫の額よりかは多少でかい庭だけが外の遊び場というのは窮屈だったのだろう。
 しかも彼女が連れてきていたという動物のせいで、彼女が満足に遊べるような状態ではなくなっていた。
 そんな今のニナにとって、外に出られるというチャンスはまたとない刺激を得られるチャンスであった。
 自分の嬉しそうな様子に笑みを浮かべるカトレアに対し、ニナはついでと言わんばかりにお願いをしてみる。

358 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2018/02/28(水) 20:12:04 ID:nzoJO1T.