本節では、
① 平成の初期に出現した旧来の政治構造と異なる「アウトサイダー」として現れた「無党派(知事)」から議会との対立構図を演出する「劇場型首長」への「発展」
② 小選挙区制導入をなどの「政治改革」が、地方自治体の二元代表制に対してどのような影響を及ぼし、その「(現時点での)最終形態」である橋下徹氏に至ったのか
6.2.3.5.2.2. 橋下氏の政治手法
橋下氏の政治手法は箇条書きにすれば
① 「敵」を作り出す
② 作り出した「敵」への住民の憎悪を煽る
③ 「敵」を倒すために首長である自分に「民意」という「全権委任」を求める
④ その「全権委任」によって、敵を滅ぼす
⑤ 滅ぼした敵の権限は橋下氏が握り、「全権委任」として「裁量」最大限に拡大
というものである
橋下氏は「民衆の興味は長続きしない」、「(損切のうまさ(損得勘定のうまさ)」を二大特徴とする政治家である。前者については、まず、「派手な政策」打ち上げる。そして、実際は裁判闘争なので、「取り消し処分」や「間違い」となることが多いのだが、
① その決定は年単位の時間を要する
② その決定は、最初に打ち上げた程には大きく取り上げられない
③ 決定がなされたころには民衆の注目度が消滅しているか小さくなっている
④ 「嘘」をつくコストの方が「嘘を暴く」コストより格段に小さい
(「嘘をついたもの(逃げ切り)勝ち」ということが往々にして生ずる)
という理由により、自身間違いが「隠蔽される」ということを熟知している。
また、「損切のうまさ」とは、
① 自身にとって本質的でない部分での不祥事はさっさと認める
② 後に尾を引かない形で「大げさに謝罪する」
という手法で、それ以上の追及を避ける。
これは、先の「長続きしない」とも関連するが、一度「大げさに」謝罪すれば、それ以上追及するほどの「持続力」を民衆は持っていないということを逆手に取った手法である。したがって、継続的に「燃料」を投下して、民衆の興味を長期間継続させないためにも、「最初に」、「大げさ」に謝罪することは必要となる。それと、橋下氏自身の「弁舌のうまさ」とが相まって、自身の失政を追及されない一因となっている。
リベラルは「政治的に正しい」という「ポリティカル・コレクトネス(political correctness:PC)」という概念を打ち立てた 。本稿の文脈での「PC」は
① 「政治的に正しい」を決める権限はリベラルの側「のみ」が持つ
② その正しさに対するする異論・反論は許されない
③ 疑いを掛けられた側が「無実」を証明しなければならない(「悪魔の証明」)。
④ 「PC」を理由とする限り、反対者にどのような制裁を加えても不問に付す
という特徴を持つ。
そのような排外主義の壁を破ったのが「福祉排外主義」と言われるものである。移民の流入・増大により、「近代化の敗者」に対する社会扶助が以前にもまして必要となった。そのためには、
① 増大する需要に対応できる財政上の措置
② 社会扶助費削減のため、社会扶助の対象となっている移民の対象者数を削減
という二つの手法がある。後者を強く主張する者が「福祉排外主義者」となる(勿論、それと合わせて、前者を主張することも可能である)。
2015年の総選挙でもスコットランドの地域政党であるスコットランド国民党(SNP:Scottish National Party)がスコットランドでは、59議席中56議席を獲得するという「完全試合」を成し遂げている。スコットランド国民党は中央レベルでは労働党と政策位置が近く、2015年の総選挙でも、仮に勝利すれば、労働党と連立を組むとの観測もあった。したがって、スコットランドにおいては、民族自決主義が「ネトウヨ化」或いは「極右政党」とは結びついていないというのが特徴となっている。
そのような中で選挙戦に突入し、投票結果は次の通りとなった。
① CDU/CSUが事前の予想通り第一党の座を維持したものの、246議席(選挙前 311)に減らし、CDU/CSUの得票率は1949年以降最低となった。
② AfDは94議席(連邦議会で初の議席)を獲得し、第三党となった。
③ 前回総選挙で議席ゼロとなった自由民主党も80議席を獲得し、連邦議会に返り咲いた。議席数では緑の党及び左翼党を上回る第四党となった。
④ 左派勢力では、社会民主党が第二党の座を維持したものの、史上最低の153議席(選挙前192)にとどまった。
⑤ 緑の党は69議席(選挙前63)及び左派党は67議席(選挙前64)と微増にとど まり、AfD及び自由民主党の後塵を拝することとなった。
ドイツの「die Zeit」誌の分析によれば、今回総選挙の特徴は以下のとおりである
① 100万人以上の有権者が今回の総選挙でCDU/CSUからAfDに乗り換えた。
② 前回総選挙で左翼党に投票した者のうち11%がAfDに投票した。
③ AfDの得票のうち140万票が前回棄権した有権者である。
④ 今回自由民主党に投票した者の三分の一が前回総選挙ではCDU/CSUに投票した。
では、ウィルデルスとフェルドンクの明暗を分けた者は何であったのか。ウィルデルスの手法を見ると
① 自由党員はウィルデルス「ただ一人」である(候補者や運動員は支援者に過ぎない)。
② 候補者の「質」には細心の注意を払っている(議席数よりも議員の質を優先)。
③ ウィルデルスの「一人政党」のため、制度化と意思検定に関する問題が生じない
と、「一人政党」ポピュリスト政党が陥りがちな急激な拡大による、①質の劣化、党としての規律低下、という悪弊を避けていることが自由党の成功の要因と見られている。
6.3.2.1.7. 2017年総選挙(自由党の第一党ならず)と左右分極化?
2017年3月に行われた総選挙は、英国のEU離脱、米国でのトランプ大統領誕生と「ネトウヨ化」の流れの中で行われることとなった。このような世界情勢を受け、オランダでも自由党が第一党(=ウィルデルスが首相となる)となる予想が有力であった 。しかし、選挙結果は、与党第一党である自由民主国民党(Volkspartij voor Frijheid en Democratie:People’s party for Freedom and Democracy)が踏ん張り、第一党の座を維持した。自由党も議席数を増やした(15議席⇒20議席)ものの第二党に留まり、ウィルデルス首相の誕生とはならなかった。
このように、保守、右派が支持を伸ばしたのに対し、連立与党である中道左派の労働党(Partij van de Albeid:Party of the Labor)が議席を激減させた(38議席⇒9議席)。しかし、候等よりも「左」に位置する環境左派である「GL」(Groen Links:Green Left)及び「民主66」(Politieke Partij Democraten 66:Political party Democracy 66)が議席を伸ばした(GLが4議席⇒14議席、民主66が12議席⇒19議席)ことから、英仏両国と同様に左派の支持層が中道左派から急進左派へと「左傾化」或いは「過激化」していることが伺える。
国民党は冷戦終結という事態に対応し
① 反共・反社会主義(特にマスコミ、大学の「左傾化」への反感)
② スイスの歴史の中に存在する自由と自立の擁護による新自由主義と保守主義の両立
を柱として、冷戦後の社会主義・共産主義の敗北とグローバル化が進む世界情勢に巧みに対応し、スイス国民の支持を伸ばしていった。
第二次大戦期、スイスにも、少なくないナチ協力者が存在したといわれている。しかし、国民党はスイスの現在に至るまでの独立と永世中立の歴史を前面に出した。具体的には
① エリートはともかく、一般国民は中立を守った
② 中立を守るために国境を守る『排外主義』は肯定される
③ スイスの連邦制を堅持することによる「国民投票制度」の維持
というものであった。
自由党の政権参画により、
① 政府事業の民営化
② 社会保障ではなく、自助努力を優先
③ その一方で育児手当の拡大
④ 法人減税
という新自由主義的政策変更がもたらされた。ただし、上記「③」については、女性、特に母親がフルタイムの労働者ではなく、パートタイマーを選択する誘因となり、「母親が家庭にいる」時間の拡大をもたらすという「保守的な」効果があった。
その3種類とは、
① 「欧米型ネトウヨ化」(経済軋轢主導型)
② 「日本型ネトウヨ化」(歴史認識論争主導型)
③ 「ドイツ型ネトウヨ化」(経済軋轢・歴史認識複合型)
の3種類である。
その「ネトウヨ化」の特徴を類型ごとに纏めると、
① 欧米型:移民受け入れによる移民との経済面の軋轢から、世代を跨いで定住した移民
との社会面への軋轢へ発展
② 日本型:「歴史認識論争」において母国の側に立つ「移民(在日朝鮮人)」との軋轢か
ら「在日特権」という経済的不公平感が絡む「反移民(在日朝鮮人)感情」
③ ドイツ型:移民受け入れによる経済面の軋轢に「歴史認識問題(ナチス)」が絡む反移
民、反リベラル化
となる
このような、生活保護を巡る
① 年金生活者や若者の平均年収と生活保護支給水準との間の不公平感
② 生活保護申請すら認めない「水際作戦」と弁護士や地方議員の「口添え」或いは在日
朝鮮人のような「弱者」には生活保護申請が認められ易いという生活保護認定を巡る
生活保護認定を巡る不公平感
という2つの不公平感が醸成されていった。
この開催地を巡る争いで単独開催を共同開催に「譲歩させられた」として、日本側で不満を持つ素地ができた。共催決定後は、韓国側が、「歴史認識」を梃子にして日本側に譲歩を迫る手法を採ってきた。その例として
① サッカーのピッチを題材としたポスターの図柄が「日」の字に似ているとして拒否
② 国名はアルファベット順という慣例を無視して、Korea, Japanの順にした
(本来はCoreaだったのが、日韓併合時に日本の後に来るようにKoreaとされたと主張)
というものがあった。
7.1.4. ドイツ型ネトウヨ化(移民流入と歴史認識論争との複合型)
日本と並ぶ「二大敗戦国」であるドイツにおいても、冷戦終結とドイツ統一により、歴史認識論争が生じている 。大きなものとしては、
① ナチスとは異なり、ドイツ国防軍は清廉潔白という「ドイツ国防軍神話」への疑義
② いつまでナチスのことを反省しなくてはならないのか
という2つである 。後者については、ドイツの極右政党AfDも政策綱領に入れている。
このように、増加しつつある「没落した中間層」に対して
① リベラル・左派は、彼らを嘲笑し、「劣った」存在として差別されるべき存在とした
② 「極右」は彼らを「同胞」として見捨てないと訴えた
この「没落した中間層」に対する対応の差が現在のリベラルの衰退と「極右」の伸長とリベラル・左派の退潮という両者の明暗を分けることとなった。