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0さん以外の人が萌えを投下するスレ

16421-839 「ずっと一緒にいようね」なんて:2011/07/20(水) 21:34:01 ID:4lsphYOk
もう何年が経ったんだろうなあ、なんて思う。
隣で眠ってるこいつに、初めて会った時はこっち見るのか俯くのか迷っているような目で
割と面倒くさそうによろしくお願いします、なんて。
それが面倒だったんじゃなくて人見知りだったってわかるのに大した時間はかかんなかったけど。
愛しい恋人の寝顔を見ながら一服なんて悪くない気分だ。
充博の寝顔はあどけなくて、それが余計に昔の事を思い出させる。

「お前さあ、すっごい緊張してたよなあ」

本当は緊張してたんです、なんて言ったのは三度目くらいに会ったときだっけ?
俺のがお兄ちゃんだからしっかりしなくちゃ、なんて普段は割と年上に可愛がられる事が多い俺をそう思わせた充博が
俺は可愛くてしょうがなくて、何でもしてやりたくて。

「今でも結構そう思ってんだよー?俺はー」

寝顔を覗き込む。きっと起きてたらお前は、まあ俺のが世話焼いてるけどね。とか言うんだろうけど。
まだ半分も吸わない煙草を消して、覗き込む。生意気な俺の可愛い恋人。

「なーみつひろー」

短い髪を撫でてやると、うるさそうに払われてその手を掴まれた。
え、起きてんの?と口を開く寸前、充博からは変わらず寝息が聞こえてくるので思わず肩を竦めてしまう。

「これからもずーっといようなあー」

きっとお前は起きてたら、まあ善処しますよ、位しか言わないんだろうから。何となく悔しいから今しか言わないでおくからな。
充博に握り締められた手をそっと解きながら、俺はその手でもう一度ゆっくり頭を撫でてやった。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「ずっと一緒にいようね」なんて、口にするのは何となく嫌だ。
そんな事口に出さなくても、いたけりゃいるだろうし、駄目になるときはなるだろ。
俺はそう思ってたし、別にそれが特別な事じゃないのもわかってる、ただ皆信じたいだけだろ。
本当に永遠とか、あるかわかんないもんの存在をさ。

だからたまに拓馬さんが、お前大きくなったねぇなんて親ですかあんたはって事を言う時が一番好きだ。
拓馬さんは一緒にいようとか、そういう事言いたいかどうかなんてのは知らないけど、俺の前で口には出さない。
ぽんぽんと子供にするみたいに俺の頭を撫でて、あー俺ガキじゃないんですけどって言うと目じりに皺を浮かせて笑う。
あんたのその顔、一番好きだな。
多分その皺が増え続けるのを見るのも、悪くないんじゃないかなと俺は思う訳だけど。
……まあ、絶対口には出すつもりは無いけどね。

だから真夜中、俺が寝てると思って拓馬さんが、
「これからもずーっといようなあー」
そんな風に囁いたのも聞かないふりをして。
まあつまり、口に出さなくてもまだ離れるつもりは無いって事くらい、きっと拓馬さんに伝わってるはずだってのは、
一応自惚れだって自覚はあるけどね。
でもきっと、わかっててくれてんだろ?あんたの事だからさ。

16521-860 二人暮らし 1/2:2011/07/25(月) 07:11:22 ID:IV1E9ms2
ただいま、という言葉は酷く馴染みが薄かった。おかえり、という言葉は酷く座りが悪かった。
どこか照れくさくて、続くただいま、の言葉を口にしきれない。そんな時、いつだって目の前で彼はまだ慣れないんだ?と笑ってくれた。

「おかえり、智」
とはいえ、時間が不規則な仕事をしている夏樹が常に智の帰宅する時間に部屋にいる訳ではない。
逆も然りで、だからたまたまタイミングが合う度に智は玄関で彼の靴を見ては少しだけ口端を上げる。無意識の内に。
そしてむずがゆくなる。自分を迎えてくれる人がいる事に、そしてそれが夏樹だという事に。
「あ。……智、また困ってる?」
「いや、驚いただけだって……ただいま」
子供みたいな顔をして楽しそうに近付いてくる夏樹に、智は微笑む。一体この時間を何と呼べばいいのだろう。未だに智にはわからなかった。
幸せ、という一言ではとても足りる気がしない。
「だって、朝俺と変わらないくらいに出たじゃん。珍しくない?」
「うん、運良く早く終わってさ」
そっかあ、と智は笑う。単純に嬉しかった。
「だからさ、飯作って待ってたんだ。食おうよ。俺腹減ってんだ」
ほら早く、と近付いた夏樹からふわりと甘い匂いが掠めた。ゆっくりと気付かれないように息を吐き出した後、智はうんと言葉少なく頷いた。

夕食をとって、シャワーを浴びた。髪を拭きながらリビングへ戻ると、夏樹は膝の上にノートパソコンを乗せてその画面に見入っていた。
おそらく持ち帰りの仕事なのだろう、モニターを見つめる彼の視線は真剣だ。智はその表情に一瞬見惚れる。
「夏樹、風呂入る?」
あいたよ、と一言。すると真剣な目が緩やかに温かくなって智を見た。
「んー、ここまで終わったら」
智は夏樹の横、少し距離を開けて座った。真剣な顔で仕事をする夏樹を邪魔したくない気分が半分、少しでも傍にいたいなんて気持ちが半分。
まだ少し慣れない同居に、戸惑いと嬉しさは半々だ。まだ少し濡れている髪からこめかみへ、雫が垂れ落ちてゆっくりと顔の輪郭を辿っていく。
キーボードを叩く硬い音が聞こえる。またふわりと、鼻腔を擽る匂いに、智は振り切るように緩く頭を振った。
「うわ、どーしたの」
雫が飛び散ったのか、夏樹が驚いて智を見た。
「あ、いやっ、なん、でもない」
俺、変だね、と笑って誤魔化す智に、夏樹がまるで見透かしているように笑う。
それは智の勝手な思い込みでしかないかもしれなかったけれど、思わず赤くなった頬を隠す為に智はタオルで髪を拭くふりをして顔を隠した。

16621-860 二人暮らし 2/2:2011/07/25(月) 07:12:11 ID:IV1E9ms2
「智、俺風呂は入ってくるけど?」
声をかけられるまで智はぼんやりとタオルを頭に引っ掛けたままでいた。声をかけられて初めて自分がぼんやりとしていた事に気付く。
「え、あ、うん」
冷静を装って夏樹の方を見ると、夏樹は智をじっと見つめていた。心臓が跳ね上がる。
優しいけれど芯の強そうな目が、窺うようにこちらを見るのは智にしてみれば心臓に悪い。
「どーしたの、智」
智の開けた距離を夏樹が軽く座りなおして縮める。覗き込むようにして下から夏樹の目線がゆっくりと智を見上げた。
「な、なんでもないって!」
「ふーん?」
なーんかさっきから変なんだよなあーと夏樹が言うのも当たり前だ、と智は自分の落ち着かなさを思い起こして思わず溜息を吐きたくなる。
その間にも、まとわり付くようにふわふわと柔らかな匂いが漂う。普段ならあまり気にならない筈だと智は自分に言い聞かせた。
偶然のタイミングで、偶然にこうして一緒にいる時間が長くなればなるだけ、最近は自分がどうしても夏樹を意識しすぎる事に気付いていた。
以前からそうだったけれど、暮らし始めて例えば朝起きた時に、眠る時にいなかった筈の夏樹が隣にいた、ちょうど互いの出かける時間と帰って来る時間が交差したり、
そんな風にして顔を合わせたりその短い時間に互いに触れる事で感じるのはただ優しい充足感だけで、今こうしている状態の気分とは少し違う。
「いや、その……夏樹、さ、香水変えた?」
「え?香水?」
唐突な問いに夏樹は目を幾度か瞬きする。智はそれだけでもう既に口にした事を後悔しはじめたのだけれど、それでもなんとか言葉を続けた。
「なんていうか、なんか甘い匂いするからさ…」
最後の方は口の中で漸く呟くようにして言うと、智はやはり夏樹の顔が見れなくなって顔をそらした。
けれどそれを夏樹の手が阻んで、ゆっくりと自分の視線とあわせるように顔を向きなおさせる。
「なつき、」
「智からも甘い匂いするけど?」
首を傾げるようにして、夏樹が囁く。耳元に鼻先が擦れて智はその感触を瞬時に肌を震わせた。心臓に悪い。
「ていうか、これシャンプーの匂いだと思うし」
「シャンプー?」
「だから、智も俺と同じ匂いしてるよ」
ほら、と夏樹は耳元に触れていた顔を智の髪に押し付けた。そう言われれば、そうなのかもしれない。この間、シャンプーが切れたから夏樹が買ってきたばかりだ。
同じ甘い香りを纏わせた夏樹と自分。その香りに右往左往しているなんて酷く間抜けだ。
「俺、うわ…なんか勘違い……ていうか思い込みしてたかも…」
さすがに隠せない程真っ赤になった顔を両手で覆いながら智が呟くと、夏樹の手がぽんぽんとその頭を優しく叩いた。
「智、結構思い込むたちだもんなー」
立ち上がり、もう一度夏樹は智の頭に手を置く。柔らかな体温がじわりと染み込む。
「じゃー俺、風呂入ってくる」
夏樹がそう言って鼻歌を歌いながらリビングから消えた。智は頭を抱える。慣れてない。本当に、慣れてない。心臓がまだ飛び出しそうだ。
「あー、もー俺、心臓持たない……」
慣れていない、おかえりもただいまも、同じ香りを纏う人がいる事も。それが想っている人だという事も。
幸せの一歩先。
それを表現する言葉を智は未だ持っていない。だからただ頭を抱えてソファーに体を預けた。

16721-889主人公×ラスボス 1/2:2011/07/25(月) 22:05:52 ID:hFuBx3HI
ラスボス「よくぞここまでたどり着いた勇者よ」
ラスボス「我が右腕となれば世界の半分をくれてや…」
勇者「お前が欲しい!!!!!!!」
ラスボス「え?」
勇者「ラスボスたんラスボスたん本物のラスボスたんktkrハァハァハァァアあああああ!!!」
勇者「結婚してくれラスボスうぅうううううう!!!」ガバッ
ラスボス「ひぃっ!!」
女戦士「バインド!!」ビシィッ
勇者「ハァン!」
女戦士「すまないラスボス。勇者はこちらで抑えておくから続けてくれ。」
ラスボス「いや、ちょっと状況がよくわからないんだが」
女魔法使い「とりあえず〜、"断られた"ってことでぇ〜、すすめて?」
ラスボス「あ、ああ…」ゴホン「では」
ラスボス「我が誘いを断るとは愚かな!では力づくでかかってくるがよ…」
勇者「 力 づ く 頂きましたあぁあああああ!!!!やだもう奪われるのがお好きなのねラスボスたん!!僕ら気が合うね結婚しようそうしよう今すぐぅうううう!!」ガバッ
女戦士「ダブルバインドォッ!!」ビシビシィッ
勇者「アゥン!!」
ラスボス「…あの、やはり説明を求めてもよいか?」
女戦士「ああ。では簡潔に説明しよう。女賢者!」
女賢者「勇者は、あなたに首ったけ。」
ラスボス「え?」
女賢者「?」
女戦士「…あー、つまりな、勇者はラスボスたる貴殿に懸想しているのだよ。…いささか病的なまでに、な」
勇者「恋の病だからあぁぁぁあ!!ラスボスたんにしか癒せない恋の病だからああああ!!ラスボスたんにお注射したらなおるからぁああああ!」
女戦士「脱ぐな」バシッ
勇者「ウホォウ!!」
女魔法使い「ちょっと〜、特殊な性癖の持ち主ってとこかな〜?」
ラスボス「…ちょっとか?」
男格闘家「理解できない性癖はない、そう思っていた時期が俺にもありました!」

勇者「ラスボスたん!ラスボスたん!ラスボスたん!ラスボスたぁんんぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくんんはぁっ!ラスボスたんの緑色ヌメった頭をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!ハムハムしたいお!ハムハム!ハムハム!爬虫類の角角ツンツン!ハムハムツンツン…きゅんきゅんきゅい!!
序盤に出てきたラスボスたんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
途中まで正体ばれなくて良かったねラスボスたん!あぁあああああ!かわいい!ラスボスたん!キモかわいい!あっああぁああ!
第二形態もグロかわいくて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!よく考えたら…
ラ ス ボ ス た ん は 仲間 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!ぁああああ!!
この!ちきしょー!やめてやる!!勇者なんかやめ…て…え!?見…てる?第一形態のラスボスたんが僕を見てる?第二形態のラスボスたんが僕を見てるぞ!ラスボスたんが僕を見てるぞ!第三形態のラスボスたんが僕を見てるぞ!!最終形態のラスボスたんが僕に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!
いやっほぉおおおおおおお!!!僕にはラスボスたんがいる!!やったよ神様!!ひとりでできるもん!!!ううっうぅうう!!俺の想いよラスボスたんへ届け!!ラスボスたんの深部へ届け性的な意味でぇぇええ! 」ハァハァハァ

16821-889主人公×ラスボス 1/2:2011/07/25(月) 22:07:13 ID:hFuBx3HI
ラスボス「…貴様ら、よくこの勇者と組んでいられるな…」
女戦士「今みたいに理性が飛んでいなければ、普通の好青年だ。残念ながらな」
女魔法使い「国民にもぉ〜、割と好かれてるみたいよぉ?」
女戦士「だが、この勇者には一つ欠点があってな。」
女賢者「"ラスボスたんが居ない!"と、定期的に錯乱する。」
女魔法使い「ちょっと〜、困りもの?みたいな?」
男格闘家「この人、錯乱するとメテオとか打つんすよ!?」
女戦士「近頃、錯乱するサイクルが短くなってきてな…」
男格闘家「俺らだけじゃ、もう抑えられなくて!マジ世界ヤバかったっす!」
女賢者「…だから来た。この変態に匹敵する力を持つのは、真の魔王たるあなただけ」
女戦士「世界を守るには、もうこの方法しかないのだ」
女魔法使い「貴方も一緒にぃ、犠牲になってぇ?」

ラスボス「え?」
勇者「えへっ?^^」

女戦士「トリプルバインドォッ!」ビシビシビシィッ
ラスボス「えっ!?儂!!?」ギュッ
勇者「はにゃあぁぁぁぁああん!?ラスボスたんが縛りプレイされてるぅうううう!!!」ビクンビクン
ラスボス「!!は、離せ!!この縄を外してくれぇええ!!」ジタバタ
女戦士「勇者を拘束するために極限までに鍛えた技だ。そう簡単には解けぬ。許せ。」
男格闘家「あ、これ、俺らからの心づくしです!国の粋を尽くした最高級羽毛布団!」ファサッ
ラスボス「え?え?」
男格闘家「ちゃんとラスボスさんサイズで作らせたっすから!結構重かったっす!」
女賢者「国中の鳥、しめた。」
男格闘家「血反吐吐いて修行して決死の覚悟で鍛えた筋肉の使い道の終着点が"勇者&ラスボスたん愛の新婚初夜布団"の運搬になるとは思わなかったっすわ!」
ラスボス「なにそれこわい」
男格闘家「でもまあ、いまからラスボスさんの身に起こることを思えば、俺のズタボロのプライドなんて安いもんっす!」
女賢者「大丈夫。万が一この変態のおイタが過ぎて、あなたの身になにかあっても」
ポウ
女賢者「わたしがこの"癒しの手"で治してあげる」
ラスボス「儂のどこが負傷するの!?」
女賢者「…具体的には、あなたの(ピー)が変態の(ピー)で(ピー)されて(ピー)」
勇者「いやぁああぁぁん!そんな嬉しいことラスボスたんにできちゃうのぉぉおおおう!!?」ビクンビクンビクン
ラスボス「あああああ!!聞きたくないぃぃいいいい!」
女魔法使い「ほらぁ〜、怯えてるじゃない勇者ぁ?ごめんねぇ〜、不安だよねぇラスボスちゃぁん?」
ラスボス「!!そうじゃよ!儂こわい!!お願い助けて魔法使い!」
女魔法使い「せめてムードだけでもぉ、盛り上げてあげるからねぇ」パアァァァアアアア
ラスボス「だれか儂の意思を聞いてぇえええええ!」
男格闘家「グッドラック!」グッ
勇者「間接証明のようなロマンティックな明かり!!ふっかふかのお布団!!仲間の祝福!!いい!!!僕らの初めての夜にふさわしいねラスボスたぁあああああん!!」ガバァッ
ラスボス「いやあぁぁぁぁああああああ!!」

16919-629 中学生の告白 1/2:2011/07/27(水) 14:38:54 ID:A3kXSK/w
随分昔のお題&曲解ですが妄想が止まらなかったので。
大人と子どもの性行為を匂わせる表現があるので苦手な方はご注意を。



母さんを殺した。そう告白した彼を私が引き取ることは随分前から考えていたことだった。

彼はひょろりと背が高く、一見すると中学生に見えないほど大人びていた。
ろくでなしに捨てられた男好きの腹から生まれ、物心つく前から親に頼ることを許されなかった環境は、彼の稚気を奪ったらしかった。
一歩引いたところから他者を見つめるその目は静かに荒んでいた。
そのくせ、箸の握り方や言葉の使い方は小学生並というアンバランスさ。成績も惨憺たるものだった。
およそ世間の常識に疎い彼の、悪癖のひとつひとつを時間をかけて正していった。
彼は優秀な生徒だった。
渇いた土に瞬く間に水が吸われるように、より多くの知識を求め、私が教えた以上の働きを見せた。
笑顔が増えた。不満もこぼせるようになった。胸を張ってテストを見せた。友人ができたと嬉しそうに報告した。
ただ、成り行きとはいえ、男を抱くことも教える形になったのは不本意だった。
言い訳がましく聞こえるかもしれない。
けれど、男と睦み合う場に彼が偶然居合わせなければ、あれほど強く彼に懇願されなければ、決して彼にそんなことを教えるつもりはなかった。

夜、薄っぺらい胸に顔を寄せて眠ると、時折そこが引き攣れた。
ごめんなさい、ごめんなさい、おかあさんゆるして。
すすり泣きながらのたどたどしい謝罪を彼は知らない。
だから私は眠る彼の目尻をそっと舐める。頭を抱き寄せる。
彼が目覚めて恥ずかしがっても離してやらない。
何も気にしないで眠れ。私の言葉にはにかみながら、素直に目を閉じる彼の姿を見るのが好きだった。

17019-629 中学生の告白 2/2:2011/07/27(水) 14:39:24 ID:A3kXSK/w
数年後のある日、彼は私を好きだと言った。
私は錯覚だと一蹴した。その態度が彼の怒りを爆発させた。

子供扱いするな。錯覚なんて言うな。
俺がどれだけのものをあなたに与えられたと思ってる。
好きなんだ。あなたが好きなんだ。

初めて出会ったあの日、男と行方をくらませた母親を慕って泣く彼に、そんな親は殺してしまえと言ったのは私だった。

あれはお前に何も与えなかった。お前は害ばかり被った。
あれに捨てられたんじゃない。
お前があれを捨てるんだ。
殺してお前の中から消してしまえ。

引き金を引いたのは彼でも、弾を込めたのは私だ。
母さんを殺した。まだ中学生だった彼の、暗い目をした告白を私は忘れることができなかった。
光を知ってほしかった。
早朝の光の、一番真っ白な部分だけを浴びるように育ってほしかった。
これからの彼の人生に一点の曇りも許したくはなかった。
私への、男への恋情など、いまだ幼さを拭えない彼の障害以外になり得ない。
私を憎めばいい。親を捨てた彼の罪悪感より私への憎悪が大きくなればいい。
そして歪んだこの家から巣立ち、全てを忘れるのだ。

しなやかで臆病で、いくらでも強くなれる彼を私は愛していた。愛している。
だというのに、私を抱きしめる腕を振りほどくことができず、どうしようもなく視界が歪んだ。

17121-909 舞台はスラム:2011/07/28(木) 01:14:36 ID:C5xz4g9k
本スレの方まだ*9継続中だけど
*0以外で12時間後に投下されるかたいるみたいなんでこっちに



荒廃した街の片隅。
泥と埃、血と汗にまみれて今にも呼吸をやめそうな少年が横たわっていた。
本来なら白く柔らかい肌には殴打された痕が無数に散らばり、身につける衣類はもはやぼろきれでしかなかった。

少年の目は天に広がる空をまっすぐ見つめていた。
澄み渡る青を憎むかのように、もしかしたら憧憬するように、徐々に光を失っていく瞳で睨みつけていた。
「死ぬのか?」
青空を遮るようにして少年の視界に男が顔を出した。仕立てのいいスーツに身を包んだ男だった。
後ろには屈強そうな男を2人従えている。
右腕にはめられた時計は、貧乏人には死んでも手が届かない代物だ。
物心ついたころよりこの街で育った少年にもそれは理解できた。
「君、死ぬのか」
男がもう一度訊ねる。少年は答えない。
「わかった。質問を変えよう」
泥と血が固まってこびりついた頬に、男は躊躇いなく触れた。
「君は、生きたいか?」
少年は痛みに震える腕を持ちあげて、頬に優しく当てられた手を、残す力の限り握った。
「……家にくるといい。その前に医者だな。おい、この子を車に、?」
握る力は弱々しいものだったが、少年は男の手を離そうとはしなかった。
男はゆるやかに微笑むと、スーツが血に汚れるのを気にも留めず少年を抱えあげた。

失われつつあった光が再び灯りだす。
握る手に、わずかに力がこめられた。
「その調子だ。君は生きるんだ」
男の細められた目に、少年は空の青を見た気がした。

17220-769 空振りだけどそこがいい 1/2:2011/07/29(金) 13:19:41 ID:7aWkQAfE
彼の姿勢はあまりよくない。
後ろから見るとその背には緩やかな山ができている。肩を起点にして肩甲骨が峰。
肩をつかみ、その峰を両手の親指で押してやる。分厚い肩だがあっさり動き、山は谷になる。
でも手を離せばぐにゃりと元通り。くらげのようだ。
「何だ、どうした」
彼が微笑む。雑誌からは目を離さず、顔を俯けて。
眉の上、短い前髪がぱさりぱさりと揺れる。低い笑い声が耳に心地好い。
俺は答えず、もう一度彼の肩を開いた。
どうせなら肩を揉んでくれよ、と彼は身をよじったが、やがて気にしないことに決めたらしい。また黙々とページを繰りはじめた。
彼の部屋に来たときは大体いつもこんな感じだ。ふらっと立ち寄る俺に、気にせず自分の時間を過ごす彼。
大学の講義さえなければこうして二人で過ごすのは最早習慣になっていた。
だが、毎回俺が行こうか行くまいか散々悩み、彼恋しさのあまり足を運んでいることを彼は知らない。
ふとした拍子に不安になる。
この時間を心底望んでいるのはきっと俺だけだ。
無骨な横顔をぼんやり眺めながら、気がつけば口を開いていた。

17320-769 空振りだけどそこがいい 2/2:2011/07/29(金) 13:21:50 ID:7aWkQAfE
「なあ」
「ん?」
「俺、この部屋に来てて大丈夫か?」
質問の意図がわからない。俺を見る彼の目はそう言っていた。
俺は何気ないふうを装いながら、渇く唇を湿らせた。
「俺がいつもいたら困ることもあるだろ。ほら、彼女とかさ」
言ってから心臓が常にない速さで脈打ちはじめた。
じゃあ遠慮してくれ。そうなんだ彼女ができたんだ。好きな奴がいる。いい加減鬱陶しい。悪い予想はいくらでも涌いて出た。
彼はじっと俺を見つめていた。
その視線の圧力に俺が目を逸らしかけたとき、小さく笑った。
「お前ならいい」
えっ、と声が漏れた。短い言葉には、何となく含みがあるように感じられた。
先ほどまでとは違う意味で鼓動が速くなっていく。
「どういう意味?」
「言葉どおりの意味」
さらりと口にされたその答えを聞いて顔が熱くなった。一瞬で脳が混乱しかける。
が、ふと冷静に考えて、肩の力が抜けた。
「ああ、そうか、なるほど、『親友』だもんな」
目の前の健全な男なら大方そんなところだろう。ふつう、男同士であんなことを『そういう』意味で言うまい。
赤くなった頬をごまかしたくて、親友、親友と言い聞かせるみたいに何度も呟いた。
こっちの気も知らないで、どこまでも掴み所がない奴。
だがそんなところもいいと思えるんだから、俺も相当こいつにやられているらしい。

そんなふうに俺はひとり物思いにふけっていた。
なので、彼が俺を見ながらため息を吐き、苦笑していたことになどこれっぽっちも気づいていなかった。

17421-919 犬猿の仲:2011/07/29(金) 16:09:02 ID:IpFcjZfs
「細かい事にうるさいな。このくらい認めろよ」
「全然、細かい事じゃない。こんな高額経費は認められない」
「俺達はこれが仕事なの!」

 営業の人間は本当に金にルーズだ。
 なんてコストパフォーマンスの悪い人間達なんだろう、と話をする度に思う。
 特にこいつはうるさい。我が物顔で道路を歩く大型犬のようだ。

****************

 後日。その大型犬が二人だけで話がしたいと俺の所に来た。

「お前……。C社の常務と知り合い?」
「なんで?」
 嫌な予感がしたが、二丁目で顔を見たことがあるだけで、知り合いな訳ではない。
「常務がさ。何故か、お前と俺の仲がいいって誤解していて」
「それは凄い誤解だな」
「俺も……なのかって聞かれたんだけどさ……」
 ばらしたのか。よりにもよってこいつにか。頭が痛い。
「お前って、そうなの?」
「そうだよ」
「あっさりしてるな、お前」
「だって、ばれたものは仕方ないし、向こうだって立場上ばれたくないだろうし、
ばらさないだろ」
「まあ、確かに……。それでな。断ってくれていいんだけどさ」
「何を?」
「食事でもどうかって」
「俺と?」
「いや、大丈夫だぞ! 安心しろ! 俺がうまく断っておくから!」
「断るって……。もったいないじゃん。5億の仕事だろ」
「俺を馬鹿にするな。そんなやり方で納得出来るか!」
 いつもの接待三昧の方法とどう違うんだと思ったが、言うとまたうるさくなりそうなのでやめた。
「別にいいよ」
「え?!」
「一度でいいんだろ?」
「ええええ?!」
 飲み食いくらいは常務が払いそうだし、あっちの経費になるなら高い酒を頼んじまえ。
「なんだ、そのルーズさは! 金にはうるさいのに!」
 一番言われたくない奴に言われてカチンときたが、とりあえず耐えた。
「金にはうるさくないとダメだろ。金は使えば減る。体は減らない」
「ダメだ! よく考えろ。お前が会社の犠牲になる必要はない!」
「いや、別に犠牲になってるつもりは……」
 何かに似てるなあと思ったら、家の近所にいる郵便局員にもワンワン吠えている馬鹿犬だった。
 別にいいから。番犬いらないから。近所迷惑だから。
「俺はお前の事が正直嫌いだ! 嫌いだが、それとコレとは話が別だ! 俺はお前を守る! 俺にまかせろ!」
 俺の話も聞かず、奴は部屋を出て行った。

*****************

 更に後日。

 商談は他社に持って行かれたらしいと他の部署から聞いた。
ああ、あの時に俺のいう通りにしていれば、何の問題もなかったのに。
本当にコストパフォーマンスの悪い奴だ。

「また、ずいぶんと高額の領収証たちで……」
「これが仕事なんで」
「5億の取引、棒にふったくせに」
 ボソッと嫌みを言ってみた。だが、奴はニヤリと笑って俺に言った。
「猿知恵って知ってる?」
「はあ?」
「お前はうまく立ち回ってるつもりかもしれないけどな。生意気で本当に思慮が足らない。
経費の事だって、重箱の隅をつつくような事……、あ、今はそんな話じゃないか」
「ああ、そう。猿知恵で悪かったね」
「人間はそんなに捨てたもんじゃない。人間は、情もあるし、理性もあるし、
悪い事は悪いってちゃんと判断出来るんだ。そして会社は人間が動かしているんだ」
「だから?」
「5億はとられた。でも50億をとってきたんだから文句ないだろ」
「え?」
「酒っていうのは人間関係を作るんだよ。ちゃんとその領収証、落とせよ。経費だから」
「……え?」

 得意げに立ち去っていくアイツの後ろ姿に、大型受注の成功をたたえる言葉があちらこちらから聞こえた。
 ああ、本当にアイツには腹がたつ。

175本スレ978です:2011/08/02(火) 14:42:43 ID:zjozy7po
窓越しの暗い空を、鮮やかに花火が染め上げる。
月の灯りと、時折差し込む花火の光だけが暗い部屋の中を照らしていた。

「たーまやー っと」
低く、呟いて部屋の隅で酒を飲んでいた影が笑う。
手の中の杯には、上弦の月が細く光っている。
「…祭り、行かなくて良かったのか?」
部屋の反対側。
窓の外の花火を見上げ、もう一つの影が顔を上げた。
「もう、祭りではしゃぐ年じゃねえしな」
杯に映った月ごと酒を呑み。ことりと床に置くと窓を見上げる影ににじり寄り、後ろから抱き締めた。
「なあ…雄次」
「サカってんじゃねえ馬鹿」
抱き締めて、胸元に滑り込んでくる手を叩いて、肩越しに睨みつける。
「そう固い事を言うな」
「ふざけんな」

抱いてくる腕が。首にかかる息が 熱い。
「いい加減にしろ・・弘樹」
「俺はいつだって本気だけど」
「余計タチが悪いわ」
抱き締めてくる腕を抓り、拘束から逃げだし少しだけ離れ、また空に浮かぶ花火を見上げる。

「お前、そんなに花火が好きだったか?」
「お前のむさ苦しい顔よりはな」
「愛が見えねえ」
ほうと溜息が落ち、次の瞬間、膝の上に重量を感じた。

「…………弘樹。何をしている」
「これなら、お前は花火が見えるし。俺はお前にくっつける。何か問題でも?」
「…問題以外の何が」
いい年したオッサンの膝枕の何がそんなに楽しいのか・・

「今から寝るから。花火が終ったら起こしてくれ」
「はぁ?!お前何のために俺を呼んだんだ!!独り身同志暇だろう祭り行こうぜって呼んだんだろうが!!」
「気が変わった」
「ってめえ…」
「お前が側にいれば何でもいいや」
「…馬鹿が…」
「じゃあ、起こしてくれよ」
目を閉じて、本当に眠りに入ろうとしている・・

「…弘樹」
「…んー…?」
「一人で花火を見てもつまらん」
「…じゃあ、別のことをするか?」
「………勝手にしろ」
「おう」

花火の音にふと見上げ、夏の空に浮かんだ月に笑われたような気がした。


++++++
二つに分けて投下しようと思ったんですが、よく考えたら979もお題になることを忘れていました
本当に申し訳ありませんでした
すいません

17621−969 花火大会:2011/08/02(火) 15:20:04 ID:bzyOrvKk
今夜の花火大会にアイツを誘った。
他の奴と行くって言われたら諦めようと思ったけど二つ返事でOKもらえて、俺は花火の下での告白も決心する。
夜空に輝く花火に映し出されながら、好きだって言ってやる。
のはずか、何でオレラ人混みの屋台に並んでんの?
アイツいわく、「先に買っとかないと売り切れる。この屋台の粉は他と違ってメチャうまで。揚げ物はやっぱり揚げた手が一番」とのこと。
お前は何処の食いしん坊だ!
両手に食い物の袋ぶら下げて、やっと土手に上がった。
ちょっと計画はズレたが、クライマックスの連発に間に合ったぜ。
色とりどりの花火が開く中アイツの前に回って、真っ正面から見つめて告白するぞ!
意気込んでたらポツポツと雨が・・・・。
あれ?と思う間もなく、土砂降りで2人ともずぶ濡れだ。
「天気予報で所により雨って言ってたけど、すごかったな」
のんきに言うアイツは、しっかり袋の口握り締めて食べ物濡れないようにしてたよ。
いや、もう・・・、なんか、もういいや・・・。
「だな。オレ、もう帰るわ」
予定ガタガタで、気力も無くなって帰ろうとしたオレの腕をアイツが掴んだ。
「オレンチで着替えてけよ」
あー、そういえば家ここから近かったよな。
深く考えず付いて行って、シャワーとマッサラな着替え借りて人心地。
アイツがシャワー浴びてる間ボンヤリ室内見回してると、窓際に蚊取り線香とライターと線香花火が置いてあった。
おっ、これいいジャン。
アイツが出て来てから、ベランダで線香花火に火をつけた。
最後の一本はオレが持って、アイツが寄り添って覗き込んでる。
儚げだけどいいよななんて言ってたら、アイツもそうだなって頷きながら
「けど、記念日にしてはちょっと地味かな」
と言ってオレの肩を抱いた。
えっ?と聞き返す間も何をって問う間もなく、好きだと言われてキスされた。 
なんでこんなことにと思ってると、少し顔を離したアイツはニコッと笑い、
「派手な計画より、情報収集と準備が大切だぜ」って。
同じ気持だって、思いが通じてるって判った嬉しいけど、何かオレの予定と違うんだけど。
でも、まぁいいか。

本スレの流れにハラハラして・・・
走り書き+出しゃばってゴメン

17721-979 無口×カタコト:2011/08/03(水) 00:57:09 ID:EKDxGZ/Y
「ユウキ、つめたい」
膨れ面をしたハルに名前を呼ばれて、初めて彼が俺に話しかけているのだと気づいた。
昼下がりのカフェテラス。午後の気だるげな眠気は目の前の留学生に邪魔されている。
習いたての日本語で一生懸命話そうとしている様子は、どこか子犬を連想させる。珈琲色の瞳でころころとこちらを追いかけてくるゴールデンレトリバーの子犬だ。
と、考えている内にじっと彼を見つめていた。お国柄だろうか、目が合っても動じずに笑い返し、ハルはまたぎこちない一方的な会話を再開させる。しかし。
(どう考えてもミスチョイスだろう・・・)
ハルと知り合ってからというものの、何故か彼は俺を見る度に話しかけてくるようになった。
本人曰く、未だ不自由している日本語の勉強のため、らしいが、黙りこくっている俺を相手にしてもしょうがないだろうに。
人と話すことは嫌ではない。が、人には得手不得手というものがあり、俺にとって会話はなかなかに難しいことなのだ。
めまぐるしく分かれ、派生し、変化する言葉を追うのは大変で、まるで異国語のようだ。だから適当に流してただ頷いているだけにしないと、だんだん頭痛がしてくる。話す気が無いわけではない。・・・多分。

17821-979 無口×カタコト:2011/08/03(水) 00:57:41 ID:EKDxGZ/Y
「ねぇ、ユウキ、ユウキ、きいてる?」
今日のお題は日替わりランチについて。lunchの発音が良いなぁ、流石だとか考えていると、またも名を呼ばれた。
小さく頷く。だがハルは不満らしい。赤い頬を膨らませて抗議しようとしている姿は幼子のようだ。
「だからね、ユウキ・・・あぁもう、えーごではなしていい?」
もう一度頷く。
『ユウキは冷たい。反応が薄い。俺の話、聞いてるの?』
なんとか聞き取った内容は、まるで我が侭な彼女のようで、噴出してしまった。きょとんとした目でハルが見ている。だが、すぐにしゅんとしてしまう。
『俺の話、楽しくない?・・・日本語、もっと上手になれば、ユウキと喋っても良い?』
はたして、なんと答えたものか、と考える。我が侭な彼女には包容的な彼氏が必要だろうか。
口を開こうとしたが、自分はほとんど英語が話せないことに気付き、ペンとペーパータオルを手に取る。
『ごめん。話すのが苦手なだけ。ハルの話を聞くのは楽しいよ』

17921-979 無口×カタコト:2011/08/03(水) 00:58:16 ID:EKDxGZ/Y
今度は目に見えて表情が明るくなる。本当によく表情が変わる奴だ。
「じゃあ、ねぇ、ユウキ!」
次に出た言葉は日本語だった。拙い発音だが、先程よりも幾分か楽しげだ。
「おれ、もっとにほんごを、べんきょうする!だから、またつきあってね!」
頷く代わりに笑みを浮かべて、このくらいの会話なら、俺でも話せるかなぁと思った。
あぁでも、いつまで経っても日本語が不自由なままじゃ、愛の言葉も囁けない。「I love you」は恥ずかしすぎる。
今度からは、ハルに付き合って俺も意見してみよう。その方が上達も早い筈だ。
これからの会話授業の予定を立てつつ、こみ上げて来る感情をアイスカフェラテと一緒に飲み込んだ。

18022-49 長針と短針と秒針:2011/08/12(金) 10:35:09 ID:VClVp4DA
ごめんね、また来ちゃった。1分って短いよね。
僕と同じ職場のチームである短針と長針が、最近特別に仲良くなったので、僕はとても気まずい。
同じライン上を3人でぐるぐる回るこの仕事が恨めしい。
嫌でも気づくよね、いかにも怪しい雰囲気出してもんね、あのふたり。

短針は、もともとおっとりのんびり屋。
どっしり構えて物に動じないタイプだから、ともすれば焦りがちな長針をなだめて支えてあげてるみたい。
長針はスラリとスマートで、仕事もできる奴だけど、短針にべた惚れなのは見てておかしいくらいだ。
ふたりが仕事ですれ違う瞬間、それこそが彼らの待ってる時。
それはほぼ1時間と5分くらいの間合いで訪れる。
12時ちょうど。その次は1時5分27秒。2時10分54秒。3時16分21秒。4時21分49秒……そして11回目にまた12時ちょうど。
短針が数字と数字の間のほんの少しの距離を進む間に、長針は出来る限りのスピードで一周してきて追いつく。
待っていた短針に後ろから駆け寄ると、そっと寄り添うんだ。
僕たちの職場が、昔風のカッチカッチとひと目盛りずつ進む時計でなくて良かったね、と思う。
長針の動きはなめらかで、だからとても短い時間、ふたりは重なることができる。
それは本当に短い逢瀬だ。長針はすぐに進まなきゃいけないし、短針は長針について行けないから。
それでもふたりはその瞬間をとても大切にしていて、うっとりしちゃって、見ているこっちはいたたまれない。

……そう、見てるんだよね、僕。だってここ僕の仕事場でもあるわけで。
1分にひと回りするのが僕の仕事だ。決して僕は悪くない。
ふたりのわずかな大切な時間を、僕だって邪魔したくない。
だけど僕は、どうしてもふたりの上を通りすぎてしまうことになる。

そりゃ、なるべく見ないようにしてるよ。そんなときはふたりも「あくまでこれは仕事上のやむを得ないスタイルなんです」って風を装ってるし。
でも恋人同士のあれやそれは止まんないよね。
特にこんな暑い夜ふけなんかはやっぱその気になるんだろうね。
さっきなんか。
(あれ、絶対やってるよね……)
……ごめん、見るつもりなかった。暗くてわかりませんでした、うん、はっきりとは。何となく。
ため息が出るよ。ほんと悪いっつうか、もう僕、仕事やめよっかなって感じ。
最近なんか、ふたりが一緒でない時ですら、僕なんかが1分ごとに来てごめんなさいとか思ったりして。
秒針やめてストップウォッチとかに転職しようかなぁ。あれ確かひとりの職場だよね。
それともどうせ3人切っても切れない仕事仲間なんだから、僕も仲良くさせて? なんて。
言えないよなぁ。
僕、どうせ早いしなぁ。

18122-69 女装が似合う攻め×女装が似合わない受け 1/2:2011/08/16(火) 05:39:07 ID:B5kauskA
「お帰りなさいませ、お嬢様」
薄く整った唇から、甘く蕩けるような声が流れる。
フリフリのスカートを摘んで、軽くお辞儀をすれば、女子の黄色い声が教室に広がった。
「玲様可愛すぎるー」
「可愛いっていうより美人系!」
きゃあきゃあと騒ぐその女子達に微笑みかけて席へと案内する。
「凄えなあ…」
そんな玲也を見ながら、ぼんやりと呟いた。
「おい健太、ぼーっとしてないでこっち手伝えよ!お前どうせ暇だろ」
「うるせえ」
頼まれた力仕事をするには動き辛いが、そうも言ってられないと段ボールを持ち上げた。

文化祭の出し物でメイド喫茶しようなんて提案があったときは、こんな事になるなんて思ってなかった。
クラスの可愛い女子のメイド服やらコスプレやらが見たいからと、クラスの男は皆賛成してた。
俺も大賛成だった。
でも、お菓子やら料理やらの担当が出来る男が少なくて、
ただでさえ男女比のおかしなうちのクラスのホールには男子ばかりが残ってしまった。
それなら執事喫茶でもいいだろうに、面白がって女装喫茶になってしまった。
何人かの女子はホールでメイド服着てくれているけど、うちのメインは、もう、あいつで決まりだし。

「れ、玲様、お写真いいですか?」
「写メはお一人一回まで。当店のポラロイドでの撮影は、こちらの萌え萌えセットご注文の方へのサービスとなっております」
メニューを開いて淡々と説明しているだけなのに、女の子はうっとりとした顔で見つめている。
須籐玲也、生徒会副会長で長身美形。
今日の為に少し伸ばした髪は色素が薄くてサラサラで。
下級生にはファンクラブもいるような典型的な王子様。
去年の文化祭で付き合いたい男No.1に選ばれるし、男子に聞いた抱かれたい男No.1抱きたい男No.1のダブル受賞。
まずそんな投票しようなんて言い出した生徒会の頭がおかしいとは思うけど。
「ど、どっちもで!」
「ありがとうございます。健ちゃん、写真お願い」
「へ、お俺?」
棚の後ろでコソコソ働いていた俺を目敏く見つけた玲也に呼ばれた。
けど、行きたく、ない……なあ。
「ほい、ポラロイド」
近くのクラスメイトがにやにやしながらカメラを渡してきた。
くそ、こいつら…くそ。
「く、お…お呼び、ですか……」
短いスカートの裾を抑えながら席に向かう。
教室中の視線を感じる。
「ちょ…クク、先輩、それはないっすわ」
「な、なんで来てんだよお前ら!」
席についてパフェを食べてた部活の後輩の声をきっかけに教室中から笑い声が聞こえて、顔が熱くなった。
あいつら、今度の部活覚えてろよ。
「ほら、健ちゃん。早く撮って!」
キラキラした笑顔の玲也が俺の太い腕を掴む。
やめてよ、お前と比べられたら本当目も当てられないんだって。
小さいときは体格に差なんてほとんどなかったのに。
高校に入った途端ぐんぐんとゴツくなった俺。顔だけはどんどん綺麗になった玲也。
今日もお笑い要員でこんな格好させられてるけどさ、もう服ピッチピチだし。
絡めた腕は太さも違えば、色も。俺、日焼け凄いし。
ヘッドドレス付けた頭も、短髪で真っ黒でゴワゴワだし。同じシャンプー使ってるのに。
部活のおかげですね毛が薄かったくらいだ、いいところなんて。
「はい、こちらになります」
玲也しか目に入ってないような女の子に撮れた写真を渡し、逃げるように裏へ引っ込んだ。

18222-69 女装が似合う攻め×女装が似合わない受け 2/2:2011/08/16(火) 05:39:56 ID:B5kauskA
「……ったくもう、いつまでこれ着てなきゃいけねえんだよ…」
積み上がった段ボールの裏に隠れて一息つく。
「あ、健ちゃん!こんなとこ居たんだ」
俺を見つけた玲也が嬉しそうに隣に座る。
「ホール居なくていいの?玲也人気者なんだから」
「えー、もういいよ疲れた。ああいう爽やかな笑顔とか向いてねぇもん俺」
自分の引き攣った頬を揉みながら、俺の肩へ頭を置く。
「そんなに似合うのに?」
「え?ホントに?健ちゃん、俺似合う?」
「うん」
頷くと嬉しそうにヘラヘラと笑い、腕に抱き着いてきた。
顔はどんどん綺麗になったけど、中身はずっとこんなんで。
「えー、でもぉ健ちゃんも可愛いよぉ!凄ぇいい!」
ファンクラブの子たちのイメージ通りのキリっとした喋り方なんてしないし、あと何故か幼なじみの俺にデレデレだし。
「……どこが…」
「えー!絶対俺より可愛いって!つかさっきさあ、この格好のまま生徒会行って下さいとか言い出した奴いてさあ、マジ意味解んねぇし」
生徒会長は玲也よりは劣るけどまあまあ男前で、
「お似合いだとか思われてるんだろ」
俺もそう思うんだけどな。
「うえぇ、もう健ちゃんまでそういうこと言うなよ。気っ色悪ぃ!アイツに抱かれるとかマジ女子って意味わかんね。
 ……あ、そういえば健ちゃんさ、なんでずっとスカート抑えながら歩いてたの?」
「え、や、だって…恥ずかしいだろ、その……見えたら…」
「……え?あ、え、健ちゃん…もしかして」
玲也の手が勢いよく伸びてきて、
「…あ、止めろ!」
抑えようとしたが間に合わず、俺のスカートは見事に捲られた。
「ちょ、ば、止めっ見んな!」
スカートを下ろそうとするが、玲也にしっかりと押さえられて全然動かない。
「……わぁ、健ちゃん、エっロぉ……」
玲也がうっとりとした表情で俺の股間を見つめている。
女物の下着を身につけた俺の股間を。
「ホントに、履いたんだ…」
小さな布地で、しかもその殆どがレースで出来たそれに収まりきるはずもなく、
それでもどうにか押し込めた俺のモノは生地の上からでもはっきり解る程浮かび上がって、
「って、え!ホントにって!え!お前?え、お前履いてないの?」
この服に着替えるときに一緒に渡してきたこのパンティを。え、履かなきゃいけないんじゃないの?
「え、てか、え?皆は?え、俺、え?俺だけ?」
パニクる俺のスカートから手を離し、スカートを捲った玲也は、グレーのボクサーパンツを履いていた。
「えええ!?お前!お前、皆履いてるからって!履かなきゃダメって!」
「ゴメンね健ちゃん。あれ、嘘」
背景に咲いた花が見えそうな程の笑顔で言われる。
「マジ…かよ……」
騙されたショックと羞恥心に顔を伏せる。
「健ちゃん、ゴメンて。いやあ、でもいいもん見れたぁ」
楽しげな声がムカついて顔を上げると、幸せいっぱいな顔をした玲也が、ギラギラした目で俺を見つめていた。
「健ちゃん、俺…我慢出来ない……」
「ちょ…おい、ここは、さすがに……」
「…じゃあ、トイレ行こ」
「っ、で…でも」
「おーい、玲也ぁ!あれ?玲也知らね?」
「え?アタシ見てないよ?」
「んだよ混んできたのにどこ行ったんだよ」
段ボール越しにクラスメイトの声が聞こえて竦み上がる。
「……ほら、もう行かないと」
「えー、嫌!」
「駄ぁ目!」
「そんな可愛く言われたら、言うこと聞くしかないじゃん」
「…だから、俺のどこが可愛いの?これだって、似合って…ないだろ」
「うん!」
「即答?!」
「似合ってないから可愛いんじゃん!そのピチピチの服に収まり切らない筋肉、恥ずかしそうな顔、もうホント堪んない!
 健ちゃん昔っから可愛かったけど、最近もうホントに可愛くなってきて…」
「ん?玲也くん?居るの?」
段ボールを向こう側からどんどんと叩かれる。
「あ。あー、今行きますよーっと」
残念そうな声を上げて立ち上がる。
「あ、健ちゃん、今日も家来るよね?」
「えー……俺、明後日練習試合あるんだけど…」
「もう今日人前でなくていいから!俺ごまかすから!」
「あ、それは助かる」
「まあ、これ以上こんな可愛い健ちゃんを他の人に見せたくないしね」
俺も見せなくないな、こんなお前。
「じゃあ、最後にこれだけ」
ちゅ、と軽く唇が触れ合う。
「よーし、いってきまーす!」
見せたくないよ、他の人には。ファンクラブの女の子とか、クラスメイトとかには。
キリっとした喋り方なんてしなくて、まあまあ変態で、つかガっチガチのホモで、バリバリのタチで、
あと何故か幼なじみの俺にデレデレのことなんて。
俺だけの秘密だ。

18322-99 スマホ×ガラケー:2011/08/19(金) 22:30:55 ID:NlGXqeGo
私の主人、すなわち私の所有者は、近頃新入りにお熱だ。
「で、今は何の用事だったんだ?」
「道順の確認。いやーあの人ほんと方向音痴だねえ。僕が来る前はどうしてたんだか、心配になるよ」
「私にもナビアプリは搭載されている」
「へえ? まあ、そんなチンケなディスプレイとチャチなアプリじゃあ、さぞ苦労してたんだろうねぇ」
まただ。この生意気な新入りは、自分のスペックを鼻にかけているのか、やたらと嫌味な物言いをする。
「ああ、私は小柄だからな。虚弱体質な割に図体だけはデカい誰かさんと違って」
それにつられて、こちらもつい刺々しくなってしまう。カチンと来たらしい新入りがなにか言いかけたとき、
「っ!!」
私の身体が震えた。すぐに主人の手が私を取り上げ、身体を開き、耳元へと押し付ける。
『もしもし? うん、今向かってるとこ。ちょっと迷っちゃってさー……』
すぐ側で聞こえる主人の声が心地よい。あいつが来るまで、私はいつも主人の側にいた。
あいつとは比べものにならないかもしれないが、自分なりに主人に尽くしてきたつもりだった。
そう、私は自分から主人を奪ったあの新入りに嫉妬している。認めたくも、ましてや知られたくもないことだが。
やがて主人は通話を終え、私は鞄の中へ放り込まれた。しばらくして、新入りの様子がおかしいことに気づく。
いつもならすぐに絡んでくるのに、今はやけに憂鬱そうに押し黙っている。
「どうした。もうバッテリー切れか?」
沈黙に耐えかね、からかうように尋ねると、
「……僕らってさぁ、本来誰かとつながる道具じゃん」
奴は独り言のようにつぶやいた。
「僕は君よりずっと多くの仕事をこなせるのに、あの人と誰かをつなげる役目は君のものなんだなー、って」
そういえば、主人がこいつで誰かと話しているところを見たことがない。
メールのやり取りも、大抵私を通して行っている。だが、
「お前だってそういう機能がないわけじゃないんだろう?」
「勿論あるさ。けど、なんか電波とかアドレスとか色々事情があるっぽくて、使ってもらえない」
悔しさと寂しさが入り交じった声に、胸を衝かれた。優越感とも親近感ともつかない奇妙な何かがこみ上げてきて、
「無念だな」
何とはなしに、そんな言葉が出た。言ってみてから、それは私自身の心持ちだったのかもしれないと思った。
新入りはしばらく私の真意を測りかねていたようだが、哀れまれたと判断したのだろう、
「君みたいな旧式に、分かったようなこと言われたくないね」
ことさら突っぱねるように吐き捨てた。
いいや分かるさ、誰かの一番になれない痛みなら。
そう告げようとしたとき、再び鞄に主人の手が伸びてきた。今回はどちらが選ばれるのか、私も奴も身構える。
しかし、予想外のことに、主人は私達をいっぺんに掴み上げた。
右手で新入りの大きな液晶を撫ぜて、左手で私のボタンを押す。体内でコール音が鳴り響く。
『もしもしー? ゴメンやっぱり道分かんなくなって――うん、だから地図見ながら直に教えてもらおうと
 ――そう、スマホ見ながらガラケーでかけてる。やっぱり二台持ちにして正解だったわー……』
暫くの間、主人は新入りの画面と周囲を見比べつつ、私越しに道案内を受けて歩き続け、
ようやく通話相手らしき人と合流した。
仕事を終えた私たちは、再び鞄の中で隣り合わせになる。顔を見合わせると、どちらからともなく笑いがこぼれた。
「全く、手のかかる主人を持ったものだ」
「ほんとにねぇ。こんな調子じゃ、僕のスペックを持ってしても手に余るよ」
今までずっと、私の力だけで主人を助けたいと思っていた。
でも、この新入りが一緒なら、もっと主人の役に立てるというならば。
「共にあの人を支えていくしかないか」
「……まあ、ご主人サマのためなら仕方ないよね」
そう、全ては我らが主人のため。それだけのことだ。
だから、奴が台詞の割にどこか嬉しげだったのも、それを見て何故かほっとしたのも、きっと気のせいだ。

18422-109:2011/08/21(日) 11:40:35 ID:PDGJB1tI
アイツは人に甘えるのが苦手のようだ。
家庭の事情が複雑で、児童相談所に世話になったこともある。
何故そんなことを知っているかと言えば、俺が隣の家の住人だからだ。
隣の夫婦げんかは内容まで知っているし、物が倒れる音がしたと思うと
翌日あざの出来たアイツに会うという事は日常茶飯事だった。
通報があって一時保護が決まった時には、さすがのアイツも嫌そうだったので、
俺の家に来てもいいぞといったが無視された。
まあ、保護決定してるんだから来られる訳もなかったけど。
借金の督促もたくさんあった。郵便物がポストから溢れていた。
「親に死んで欲しい」と物騒な事をアイツが言っていたら、本当に事故で亡くなった。
自殺じゃないかと近所で噂になったが、自殺するような夫婦ではないという両親の火消しで
なんとか沈静化した。自殺するなら夜逃げだと俺も思う。そんなにしおらしい夫婦じゃないし。
アイツは冷静だった。学生なのに事務的にすべての物事をこなした。
葬儀も密葬で、知らないうちに全部終わっていた。
何か手伝える事はないかと聞いたが、すげなく断られた。
でも、一人で生活をしているアイツを心配して両親が強引に自宅に連れて来たのでホッとした。
うちの親はおせっかいで暑苦しいが、こういう時には便利だ。
長年のつきあいなのにはじめて家に来たお客さんのように他人行儀だったけど。
「お前さあ、家の手伝いなんかすんなよ」
「そういう訳にいかないだろ。世話になってるんだから」
「お袋にお前と比べられるから困る」
「そんなこと知らねえよ……。ま、いいや。俺、すぐに出てくし」
「え? え? そうなの? 家の買い手決まったの? いつ?
どこ行くの? もう引っ越し先決まったの? これからどーすんの?
金大丈夫なの? 一人で? 働くの? 連絡どーすればいいわけ?」
「いっぺんに聞かれても……」
「もう少しうちにいてもいいじゃんか」
「お前んちって、昔から苦手なんだよね」
「なんで?」
「なんか俺がいちゃいけないような気がする」
言葉につまった。そんなことはないと言いたかったけれど、
届かない気がした。
テレビからは芸人のハイテンションな声がしている。
「あのさあ」
「うん?」
「もう少し、こっちに寄りかかってもいいんじゃない?」
「なんでだよ。暑苦しいし、俺がヤダよ」
とアイツは俺から一歩遠のいた。
「そうじゃなくてさ」
「……気持ち悪。俺、もう寝る」
俺が言わんとすることは伝わっていたような気がするが、
無理矢理終わらされてしまった。
俺の部屋でアイツは胎児のように丸まって先に寝ていた。
凍えているようにも見えた。
俺は自分のベッドに横たわりながら、
「たまには甘えたって罰は当たらないぜ」
と隣の布団に寝ている奴に聞こえるように言ったけれど、
わざとらしい寝息をさせてアイツは目を覚まさなかった。

18522-109 甘えるのが苦手:2011/08/21(日) 11:49:28 ID:PDGJB1tI
タイトル入れ忘れました。失礼しました。

18622-249 権力者の初恋:2011/09/09(金) 23:32:24 ID:HSjYhJyQ
仕事も一段落した昼時。
快晴を喜ぶかのように小鳥達が歌いながら窓に映る空を横切るのを見送ってから、穏やかな気分でコーヒーをすする。

「大統領、私の話、聞いてましたか?」
「…ああ、すまないね。もう一度言ってくれるかい?」
私の言葉に秘書はため息をついた。
先程から口うるさくスケジュールを述べ続けていた彼女の顔が、仕事モードから急に“子供を見守る親”のようになった。
「…ええ何回でも言いますとも、しかし今日のあなたは私の話を聞いてくれるとは思えない」
ごもっともな答えだ。
私はしばらく考えて、彼女を見上げる。
「…信じられるかい?今夜の事を思うと心が浮き立っていて食事もままならないんだ。この私がだよ」
お昼に出された大好物のラム肉でさえもなかなか喉を通らなかったのだ。
俗にいう、胸がいっぱいというところだろうか。真意はわからない。
何せ初めて体験する気持ちだから。
「…しかし大統領、今夜は緊急の会議が…」
私は彼女の言葉を遮るように人差し指をたて、横に振りながら「ノー」と言った。
「多忙である彼のスケジュールをやっと押さえたんだ。そうだろう?」
「ええ」
「キャンセルだなんてとんでもない。会議は別の日だ」
「わかりました」
そう、彼は今やおしもおされぬ大スター。
毎日何かしらテレビに出ていると言っても過言ではない世界的スターの夕食時を、我がハウスに招く事ができる日が来たのだ。
大統領の特権とも言えよう。
少しの間だけでも彼の時間を手にした悦びは計り知れない。

18722-249 権力者の初恋2:2011/09/09(金) 23:33:03 ID:HSjYhJyQ
そして夜。
スーツに身を固め、手土産に花束なんて持ちながら彼はやって来た。
世界の名だたる役人が集まる会議なんかよりも緊張している私に、彼は笑顔でこう言った。
「大統領、お目にかかれて光栄です。心から尊敬しております」
彼は笑うと可愛いらしいえくぼが出来る。
小さな事だがテレビを通して何度も目にしてきたそのえくぼが、肉眼で確認できる。
夢ではない。
「ヘイミスター、なにを言うんだね君、こちらこそだよ全く」
私の言葉に彼は照れたように笑い、私の瞳をじっと見た。
「この花は、大統領の誕生月の花です。花が好きと伺ったもので…。今夜はお招きありがとうございます」
ああ、実物はなんてクールでナイスなタフガイなんだ。何もかもがまるで予想通りだ。
私は天にも昇る気持ちで、花束を受け取った。

18822-269 甘党な男前受け 1/2:2011/09/12(月) 08:43:43 ID:y6uzqi62
ヤツがどでかいパフェをうまそうに食うのを、
コーヒーを飲みながら眺めるのは嫌いじゃない。
「うげえ、いっつもなんでそんな食えんだよ」と俺が言うと
「欲しいんだったら言えばいいのに」ヤツがスプーンを差し出すので
「別に欲しくないけど」と言いながら一口もらうのがお約束。

そんなヤツは少しでも休みがあると、バイクに乗ってすぐどこかへ出かける。
俺も誘われはするが、俺は青空のもと太陽の光を長時間浴びると
干からびて死んでしまう(気がする)ので、大抵応じない。
この前なんとなくヤツに電話をしたら和歌山県まで行っていた。
「東京から?信じらんねえ」と言うとヤツは
「3徹でゲームする方が信じられない」と言ってきた。

俺たちの趣味趣向は全くもって合わないが、まあ気が合うので
そんなかんじで仲良くやっている。

しかし、ひとつ気の合わなそうなことがある。
いや、趣味趣向がひとつだけ合ってしまったというべきか。
何の事かというと、情事の際の立場のことだ。
まだそれに至ってはいないが、最近の悩みの種になっている。
俺はヤツを抱くつもりだか、何となくヤツも俺を抱く気でいる気がするのだ。


俺とヤツの背丈はそう変わらないのだが、ヤツは外で遊ぶのが大好きなだけあって、
力で俺が勝てる見込みが欠片もない。
ジムに行ったりもする男に、家でゲームしかしてない男がどうやったら勝てるのか。
格ゲーなら勝てる。でも実践では無理だ。
だがなんとかして情事のときは優位に立ちたい。
だって抱かれるのってよくわかんないしなんかちょっと怖いし。
これは、先手を打つしかない。
考えた結果、俺はそのままを告げることにした。
よし、決めたなら今言ってしまえ! 言ったもの勝ちだ!

18922-269 甘党な男前受け 2/2:2011/09/12(月) 08:44:24 ID:y6uzqi62
「抱かせて下さい」

ヤツはチョコレートケーキを頬張っているところだった。
不意打ちに驚いたのだろう、ケーキを喉に詰まらせそうになって
慌ててキャラメルマキアートを口に流し込んだ。
まさかそんなに驚かれるとは思っていなかったので
ゲホゲホと咳をしているヤツの背中をさすりながら俺は「ごめん」と謝った。


「いいよ」

一呼吸置いて、ヤツは緩く笑う。

それがどっちの言葉への返答なのか俺は判断がつかない。
だからといってもう一度聞けないでいると、
「なんで敬語?」と笑いながらほっとした顔でヤツは話を続けた。

「なんか最近思いつめてると思えば…
 欲しいんだったら言えばいいって言ってるだろう。
 ほんとうはおれが抱くつもりだったんだけどさ。
 おまえが欲しがってくれるんならくれてやるよ、なんでも」


ちゅっ、と口づけられたそれは、ひどく甘い味がした。

19022-289 博奕打ちの恋:2011/09/16(金) 00:10:03 ID:E16dp1lo
「負けたらどうなるか、判ってんだろうな」
「ああ」
 目の前で凄む男に、オレは軽く頷く。
 適当に遊んで来たつもりだが、負け無しのオレが気にいらないらしくついにルーレットでサシの勝負。
 イカサマ防止で玉を入れてからオレが賭けて、その逆を奴が賭けるいたってシンプルな方法だ。
 ルーレットが回り玉が入ると、いつものようにフッと脳裏に数字が浮かぶ。
 今回は19。
 オレは迷わず黒にチップを置き、奴は赤に置いて後は勝負を待つだけ。
 スピードの落ちてきた玉はコツンコツンと音をたて、赤の19に収まった。
 瞬間、奴の顔が笑顔になる。
 そりゃ嬉しいだろう、初めてオレに勝てたんだからな。
 奴は笑顔のままオレを見て、
「約束どおり、今までの分体で返してもらうぜ」
「好きにしろ」
 奴の言う取り立てがタコ部屋送りか、臓器を抜くのか、それとも言葉通りか……。
 正直どれを指しているのか判らない。
 が、オレは今まで賭けに負けたことは無いんだ。
 そしてこれからも、負ける気はねぇ。
 だからオレは、欲しかったモノを手に入れられるはずだ。

19122-309 噛み合いっこ:2011/09/16(金) 11:57:28 ID:jNbQemMk
「痛いって!やめろ!」
いつものことだから後ろに回られた途端すぐに避けたつもりだったのに、俺の肩にはくっきりと赤い歯型が残ってしまった。
「あーあ…」
長袖の季節ならまだしも、夏だから肩をだすこともあるのになぁと毎度のことながらうんざりした。
そんな俺の表情に、森下はニヤニヤと底意地悪そうな笑顔を浮かべて「ごめんごめん」と言った。反省の色なんかこれっぽっちも見えない態度である。
「反省してるならやめろっていつも言ってんだろ馬鹿野郎」
「愛情表現だって。つーか、お前だってノースリ着なきゃいいじゃん」
「何で俺がお前に合わせて服選ばなきゃならねぇんだよ。ふざけんな」
もう別の部屋に行こう、と思い、読んでいた雑誌と飲みかけのコーラを手に立ち上がった。
そうして森下に背を向けると、背後から「どこ行くんだよ」と聞こえた。
「別に」
「答えになってねぇし」
「どうして噛み付いたんですか、って訊かれて、愛情表現です、って答えるよりはマシだと思う」
「…」
森下が黙った。
俺達にとっては、くだらないことに、ここまでが毎日の恒例行事なのである。
森下は俺よりも10も偏差値の高い高校に通っているのに、いつも馬鹿げた行動を起こして、それに輪をかけて馬鹿げた言いがかりをつけて、結局いつも俺に言いくるめられる。
そして…
「あ、そうそう森下」
振り向くと、何故か森下の顔つきがぱっと明るくなった。
「これに小川が載っててさぁ。ガイヤが俺にもっと輝けと囁いてるとか書かれてるんだけど」
そう言って俺が本を差し出した途端、森下も手を伸べた。
「マジ!?あいつ中坊ん時根暗メガネだったじゃん!」
森下が興味を見せた途端、その指先に噛み付いてやった。
「いてっ!いてーよ!」
いつも仕返しされてんのに何で気がつかないのか毎度のことながら不思議なのだが、森下は慌てて手を引っ込め、俺に文句を言った。
「何だよ!ったくよー」
「何って、愛情表現だし…」
俺が言うと、森下は嫌そうな顔をして、「夜は覚えとけよ」とか何とか捨て台詞を吐いた。
「(別にいいだろ。そのときは俺が何も言えなくなるんだし)」
そう思い、後ろでわめく森下を置いて、本当は小川なんてどこにも載っていない雑誌を別室でゆっくり読むことにした。

19222-319 無気力系年下×おっとり系年上:2011/09/16(金) 15:44:33 ID:2c/cDd/w
電話が留守電になっていたけれど、どうせいるだろうなと思ったらやっぱりいた。
洗濯物が畳まれずにまだ山になっている。その横に灰色の塊が落ちていて、そよ風に前髪を揺らしながらべっとりと床に癒着している。
うつ伏せているのでよく分からないが多分まだ寝ているのだろう開きっぱなしの窓を閉める。風を含んでいたカーテンが音もなく戻ってくる。
昨日ぶりに洗濯物をたたみ始める。寝ている頭が洗濯を枕にしているのでちょっとやりづらい。そう思ってふと見ると、真っ黒な目が開いていた。
「プリン」
と口だけが動く。
「プリンくれ」
コンビニの袋がガサガサしていたので分かったのだろう。また袋をガサガサさせてプリンの蓋をむいてやる。
「あーん」
一口分救ったプリンを口元まで持って行って、食べようとした瞬間に手を引っ込める。
自分で口に含んでしまうと露骨に恨めしそうな表情する。面白くてつい笑ってしまう。ますます露骨にむっとされる。
「プリン食わせろ」
「だってアザラシみたいで面白いから」
「アザラシじゃねえ」
「タワシ」
「タワシじゃねえ」
「そうだね」
なだめすかすように言ったのが気にくわなかったのか、左手を掴まれて人差し指をガリガリと噛まれた。
「痛い痛い」
本気で痛いので手を引っ込めると、なぜかうっすら得意そうだ。

「そうだった」
ソファに寝そべって本を読んでいる途中、急に思い出して聞く。
「明日来れないんだけど生きていける?」
「別に死なねえし」
少し間が開いて、フンと鼻息を荒くした返事が聞こえた。
それを聞いて安心したのもつかの間、床から爬虫類のようにズルズル這い上がってきた。あっという間にのしかかられる。変に素早い。
「おもっ」
重いと抗議しているうちにゴツンと口がぶつかってきて、チュウチュウと間の抜けた音がする。キスをされた唇を思い切り吸い上げてくるせいだ。これにも痛いと言いたいが、気を悪くしそうなのでやめておく。
「する?」
「する」
代わりに聞くと今日一番力強く頷かれたので、少し照れくさくてタワシ触感の髪の毛を一房ひっぱる。今度は向こうが「痛い」とじたばたしていた。

19322-299 さあ、踏め!:2011/09/18(日) 02:44:19 ID:yOdrtY8Y
「みんなでメシ食った時、どっちかつーとSだって言ってたじゃん」
「あー、思い出した。言ったな。確かに言った。つーかお前も、俺ドMでいいやーとか
 適当ぶっこいてただろ」
「……」
「……」
「ともかく、これまで色々しておきながら、お前がサドだってことに気付かなかったのを悔やみまして」
「ちょっと外したすきに、人の部屋で全裸になったと」
「うん」
「ベッドの脚に手錠つないで待ってたと。……わざわざ買ったのかこれ」
「そう。慌てたら鍵すっ飛ばしちゃって、自力じゃ外せなくなった」
「……」
「で、そこの箱を開けて下さい。……ハイヒールです」
「見りゃわかるよ! これも買ったのか!?」
「うちの下駄箱で一番かかと高くて細かったやつ。多分上の姉ちゃんの」
「……」
「それを履いて、俺を思い切り踏んでいいんだよ」
「色々可哀そうだろ姉ちゃんが! サイズ的に足入らねえよ」
「さあ、踏め! サドっ気全開で踏みにじれ! 素足でも可! それで、満足したら十五分、いや十分でいいから
 触らせ……どこ行くんだ」
「放置プレイならしてやるよ。優しいご主人様は、これからお前の大好物の牛丼を買いに行く。徒歩で」
「往復三十分以上かかるよ!?」
「晩メシは牛丼食って、朝は……パンでいいな?」
「え?」
「お前ジャムいらないよな。買い足さなくていいか」
「それ、と、泊まりでいいってこと……」
「それじゃ大人しく待ってろよ。ついでにDVDも借りてくるわ。徒歩で」
「待って俺も行きたい! 一緒に行くってば! ……あー……」

「しかし、今日は本当に放置されるかと思った。すげえ顔してたぞお前」
「すげえ顔させたのはお前だ。万が一なんかあったら俺犯罪者扱いだもん」
「同級生を全裸で監禁。おお。全国ニュースになるな」
「だまれ真犯人」
「あのうところで」
「なんだよ、お前選んだ奴だろ、いい加減ちゃんと見ろよ」
「俺の太腿をぎゅっぎゅしてるこの足は……」
「素足でもいいから踏むんだろ」
「あ゛ぅんっ!」
「あ、悪い、蹴っちまったか。テーブル低いから動きにくくて」
「う―……」
「それで、満足したら十分だけ、だったな」
「……!!!」

19422-330 可愛いもの好きなのをひた隠しにする彼氏:2011/09/18(日) 02:48:01 ID:yOdrtY8Y
もいっちょ。両方萌えたので連打で失礼します



例えば、何気なく回したチャンネルで、仔猫が大写しになってた時。
ハンバーガーを買いに行ったら、子供向けセットのおまけがゆるくて可愛いキャラだった時。
この人はなんだかムッとした顔をするのだ。
もう、視界に入った瞬間に顔がひきしまり、その後少し挙動不審になる。

「スクラッチカード、貰っていーいー?」
「おお。俺いらねえからやるよ」
オレの集めてる分と、今削った巌さんの分と……おし、キャラクタープリントのカップがもらえる!
レジから戻ったオレの手元を見て、巌さんの精悍な顔がいつもの「ムッ」になった。
「お前、わざわざロゴじゃないほうのカップにしたのか?」
「オレこのキャラ好き。ねえこれそっち置かせてよ。これで巌さんのカフェオレ飲みたい」
飲みたい飲みたーいとテーブルを叩くしぐさをすると、ムッとした顔が諦めの表情に変わった。
「……お前の持ちもん並べると、俺の部屋が微妙な趣味になるんだけどよう。お前実は男子大学生じゃないだろ
 女子高生かなんかだろ」
「巌さん女子高生好きじゃん! 見かけるとすーぐそっち行きっぱなしじゃんか。顔キリッとさせてても視線固定されてるもーん」
巌さんは、しかめっ面で「んなこたねえよ」と言い捨てたけど、目が泳いでいる。

これはちょっとした意趣返し。だって、初めは本当に女の子がいいんだと思って、ずいぶん悩んだんだ。
でも、オレの事好きだって言ってくれる気持ちを信じて、よくよく巌さんを見てるうちに気付いた。
興味の対象は、女の子じゃなくて、女の子の持ってるカワイイ小物だって事に。
同時に「ムッ」の謎も解けた。可愛いもの見ると顔がゆるむけど、それが恥ずかしいんだなこの人は。
いつか、その恥ずかしい所も見せて貰えたら、と可愛いもの攻勢をかける日々だけど
「ムッ」の顔もかっこいいから別にいいかな、とも思う。
「悔しいから、段々可愛いもので浸食してって、最終的に巌さんの家にファンシーの間を作ろうと思う」
半ば本気で畳みかけると、巌さんが噴き出して笑った。

19522-329 理性×本能 or 本能×理性:2011/09/18(日) 04:05:04 ID:a2Mx9lvY
※ID:a2Mx9lvYです。あまりにもひどい行動をとってしまったので死ぬ前にせめて投下します。この度は本当に申し訳ありませんでした。



 調べたところによると、と彼は云った。

「本能とは動物にも人間にも生まれつき備わっている性質で、理性は人間にだけ備わっている知的特性です。理性で本能を制御して、今日まで人類は進化してきたといわれています」

「……うん。それがどうした……?」

 いきなりつらつらと難しそうな話をしだした後輩に、俺はきょとんとした。彼とは同じ生徒会の役員同士で、密かに交際を始めてもうすぐ2ヶ月になろうとしているところだ。見た目からしておとなしく冷静で小柄な彼は、運動部長で筋肉馬鹿で本能に踊らされているとよく評される俺とは全く正反対の気質で、接点など何もないと思われていたが、ある時「サッカー好き」という共通の趣味が見つかり、それ以降急激に仲良くなった。その後、俺のほうが惚れ込んでしまい、玉砕覚悟で告白し、奇跡的に彼が受け入れてくれて晴れて恋人同士に昇格したわけだが、理性のかたまりと云わんばかりの彼を前に俺の本能はなかなか力を発揮できず、結局あまり進展のないまま今に至っていた。

 本日も「なでしこJAPANの試合の録画DVD」を餌に、彼を自部屋に招き入れ、今日こそは! と意気込むも、本能と理性の狭間でなかなかゴールを決められず、悶々としながら、「昨日の試合は〜」などとたわいもない話をしていた。冒頭の本能と理性の話は、そんなたわいもない話の最中に不意にもたらされたものだった。

「あなたは僕のことを理性的で落ち着いていると褒めるけれど、僕からしたらあなたのほうがよほど理性的で優しい。ぼくはあなたのそんな優しさが好きです。でも……」

 でも、と云いながら彼はベッドに腰掛け、自ら制服の下の白いワイシャツの第二ボタンまでをそっと外し、俺を真っ直ぐに見た。

「でも、今くらいは本能の赴くままに従ってもよいのでは、ない、でしょうか……」

 サァっと紅く染められた頬と、シャツの下に覘く白い肌に浮き出た鎖骨。俺の理性ははじけ飛んだ。

19622-329理性×本能 or 本能×理性:2011/09/18(日) 09:10:10 ID:3eCNlUC.
⑴理性×本能の場合
理性は常に落ち着いて物事を考える。クールでドライな感じ。
攻めだったら鬼畜かヘタレ。敬語でもいい。
本能は自分のやりたいことに向かって突っ走る。意外と人の表情の変化に敏感。
受けなら無邪気受け。それか元気受け。
「ねえねえ、理性、みて。ひつじ型の雲があるよ!」
「本能、落ち着きなさい。上ばかりみていたら転びますよ。」
「わかってるよー。」
(理性…今ちょっと笑った。理性はやっぱりかっこいいなぁ。)
みたいな感じで、ほのぼのしてたらいい。
⑵本能×理性
本能は受けの時と同じように無邪気か元気だけど、天然たらし要素or腹黒要素が加わる。
理性は敬語受け。押しに弱いタイプでちょっとだけツンデレが入っててもおいしいと思う。
この2人だったらラブラブで、
「理性ー、チューしよう。」
「なんでですか!こんなに人がいるところでできるわけないでしょう。」
「もういい!勝手にするから。」
「まさか本当にするなんて…本能のそういうところ、嫌いじゃないですけど…ね。」
みたいな会話を繰り広げてくれたら禿げます。

あまりにも萌えたので。初カキコなので表示がおかしかったらゴメンなさい。

19722-329 理性×本能 or 本能×理性:2011/09/18(日) 11:13:12 ID:7ttR8.B2
本スレ331です。329だけに的を絞って本能×理性でリベンジ。




「だっかっら!! どうしてそうすぐに暴走させるんだお前は!!」
「あっれー、これはイケると思ったんだがなー」
「“恋人”逃げたじゃないか! 貸せ、俺が操縦する!」
「据え膳食わぬは男の恥とか言うじゃん?」
「黙れ。おら“本体”、呆けてないで追いかけろ」
「…あ、“恋人”発見」
「よしよし、近づいて肩を…」
「うりゃ」
「あ! おっ前、また邪魔しやがって…!」
「ここは抱きつかせた方がいいんだって。ほら、セリフはお前が指示しろよ」
「ったく…謝らせて、素直に告白させて、と…」
「お、いい感じいい感じ」
「お前が暴走させなけりゃ最初から上手くいったんだけどな」
「それだとつまんないだろー」
「うるさい」
「…んー、なんかこれいいムードじゃね?」
「……まぁ」
「俺操縦しようか?」
「お前は大人しくしてろ、俺がやる」
「へいへーい」
「とりあえずキスしながら服の上から…」
「……」
「脇腹に手を…って、こら、何して…!」
「暴走しないように理性的な行動とやらを勉強しようかと」
「だからって俺に…っ」
「ほら、操縦疎かになってんぞ」
「っ、くそ…!」
「ふんふん、なるほど、こうすればいいんだなー」
「見れば…わかるだろ…っ! だからやめ…!」
「物足りなくなったか?」
「誰が…!」
「だってほら、“恋人”見てみ」
「…!」
「…『もっと強くして』だとよ。操縦交代、な」
「あ…っ!」
「あとはこの本能様に任せなさい。…お前も、な」
「う、うるさい…!」

198もてない男×もてる男で両片思い:2011/09/24(土) 00:56:54 ID:pJlX2v7A
yahho知恵袋
回答受付中の質問

僕は若い頃にモデルだった母に似て、いわゆるイケメンだそうです。
女顔なので自分ではコンプレックスがありますが、今は中性的な男がいいらしく、社内では多くの女性社員にアプローチをかけられます。
正直言って、僕は女性が好きではありません。特に恋愛に対しギラギラした人が嫌いです。
仕事に集中したいのに、暇な女子社員にやたら声をかけられて困ります。
こんな自分ですが、最近とても気になる人が出来ました。
総務部で地味に仕事をしている人です。
営業部にいた方ですが、大きな失敗の責任をとって飛ばされたようです。
でも僕は斬新な発想力が認められなかっただけだと思っています。
それなのに女性社員からはひどい扱いを受けていて、見ていてとても辛くなります。
この間は年下の女子社員から大声で怒鳴られていました。
それでもその人は黙って聞いています。そんな所もかっこいいと思います。
普段は接点がまったくありません。
話す機会が欲しくて、自分は非喫煙者ですが、喫煙者のふりをして喫煙所で話をしてみました。(その人はヘビースモーカーです)
僕が話しかけても「そうなんだ」くらいしか返事が返ってきません。
僕が行くとすぐにタバコの火を消して離れてしまいます。
「○○さんは人気あるからいいね」とも言われました。
これは嫉妬なんでしょうか?それともイヤミなんでしょうか?
客観的に見て、脈はあるように思いますか?
また、食事にでも誘いたいのですが、どのようにすればいいと思いますか?


ベストアンサー

最初は自分がもてることの自慢かと思いました(笑)。
タバコを吸っていたり営業をされていたり、ずいぶんカッコイイ女性なんですね。男性的というか。
そういう方はあまりあなたのような男性を好きにはならないかもしれません。
ただ、参考にはならないと思いますが、自分の知り合いで、その女性のような男性がいます。
彼の会社にも、あなたのようなモテる人がいるらしいです。
彼の目にはとても魅力的に写るようですが、気後れしてしまって、ぶっきらぼうに受け答えをしてしまうと言っていました。
男性的な女性なので、彼のようなパターンもあるかもしれないですね。
男なら当たって砕けろです!頑張って下さい!

19922−379 悪落ち→救済(1/3):2011/09/25(日) 18:22:24 ID:y5QL9qos
「実に、残念です」
ゆっくりと扉を閉めながら、彼は頭を振った。
「世間を騒がせていた殺人鬼が、本当に貴方だったとは……」
「幻滅したか?神父様」
言いながら、俺はコートのポケットに手を突っ込む。
それを見た彼が警戒するように一歩後ずさるのが見えたので、笑いかけてやる。
「別に拳銃なんか出やしねえよ。煙草だ」
だが、取り出した箱には煙草は一本も残っておらず、俺は舌打ちして箱を握り潰した。
後ろにいる男がため息をついている。
「神聖な場所で煙草など吸おうとしないで頂きたいのですが」
こんなときですら大真面目にそんなことを言うので苦笑した。
「あんた、俺が怖くないのか」
「は?」
意味が分かっていないような表情で首を傾げている。
この男はいつもそうだ。いかなるときも自分のペースを崩さない。
それが職の所為なのか、元々の性格なのかはよく分からない。
「あの殺人鬼が目の前にいるんだ。こっちのポケットにはゴミしか入っていなかったが、
 別のポケットには銃が入ってるかもしれない。それで口封じにあんたはここで殺されるんだ」

彼には、五人目の殺害現場を目撃されていた。
不幸にもその場に居合わせたこの若い男は、最初の数瞬こそ凍り付いていたが
すぐに全てを悟ったかのように悲壮な表情になり、そしてなぜか逃げもせずこうして俺を教会まで導いたのだ。

「あんたの取るべき行動は、すぐに警察へ駆け込むことで、俺を教会に連れて来ることじゃないだろう。
 それともお優しい神父様は、殺人者ですら哀れんで、一晩中、懺悔でも聞いて下さるのか?」
「貴方にその気持ちがあるのであれば、いくらでもお聞きしましょう」
そのセリフに、呆れた。
「俺とあんたが顔馴染みだからって、殺されないとタカを括っているのか?だとしたらとんだ甘ちゃんだ」
すると、彼は「いいえ」と静かに首を振った。
「知り合いだから殺されないとは、思っていません。今まで殺された方々も、貴方とはお知り合いだったのでしょう?」
その言葉に、俺は軽く衝撃を受ける。
彼の言う通りだった。
世間では無差別殺人だと言われているが、実際のところ、被害者達と俺は面識があった。
つまりは、怨恨だ。猟奇的な、ただの怨恨殺人。
だがその繋がりは表面上は限りなく薄く、警察も辿り着けていない。
だからこそ、世間は無差別殺人鬼だと噂しているのに。
「これは驚いたな。それも、例の『ご神託』……教会独自の情報網が出所か?」
「……いえ」
「その様子だと、俺の動機まで調べがついていたりしてな。神様は何でもお見通しか?」
「…………」
彼は困ったように目を伏せて曖昧に言葉を濁している。
これまでもこんなことは何度かあった。
耳の早い新聞社ですら嗅ぎ付けていない情報を知っていたり、行方不明の人物の居場所について見当をつけていたり。
否、知っていたのは『教会』か。
そのことについて今まで何度か訊ねてみたことはあったが、その度に彼は曖昧に笑って誤魔化すだけだった。

そういえば、彼は教会に入ってくるときにこう言った。
――世間を騒がせていた殺人鬼が、『本当に』貴方だったとは……

今の今まで、現場に彼が居合わせたのは不幸な偶然だと思っていた。
だが考えてみれば、神父である彼がこんな夜中に、町外れの裏通りを偶然通りかかる確率は限りなく低い。
しかし、もし知っていたとしたら。彼は故意にあの場所へやってきたことになる。

「はは、こりゃ傑作だ。警察よりもあんたら教会の方が、捜査機関として有能だなんてな」
心底可笑しくて笑っていると、男は顔を上げ「そんなことはありません」と言った。
「この国の秩序を守っているのは、あくまで貴方がた警察ですよ。……警部」
「俺はもう警察の人間じゃねえよ」

20022−379 悪落ち→救済(2/3):2011/09/25(日) 18:23:32 ID:y5QL9qos
「いいえ。貴方はまだ警部のままです。机の中の辞表は、明日にならないと発見されない」
「……あんた、本当にどこまで知ってやがる」
こちらの質問を無視して、神父は悲しそうな表情で俺に問う。
「まだ、続けるおつもりなのですか」
「さあて、どうだろうな。神様は全部お見通しなんだろ?」
俺は肩を竦めてみせる。
辞表を書いたのは、刑事でいることへの罪悪感からでもなければ、罪の露見を恐れて逃亡するためでもない。
単に、刑事という肩書きがもう不要になっただけのことだ。
正確に言えば『捜査の行き詰まりに疲れ果て辞職した刑事』という次の肩書きを手に入れるため。
そうしなければ、次のターゲットには上手く近づけないのだ。
そう。まだ俺は止まる訳にはいかない。
「とりあえず、懺悔するのが今じゃないことは確かだ。悪いな」
警察の手では届かない、刑事だった自分には裁けない、そんな連中を全て潰してやるまでは。
だから、ここでこの男といつまでも悠長に話している時間は、あまり無い。
(とりあえず、こいつには殺しの現場を見られちまったし、な)
彼をここで殺したとしても、彼のバックには教会の情報網があるようだから、根本的解決にはならない。
『教会』がどこまで知っているのかは分からない。不確定要素は危険だ。
だが少なくとも、ここで彼の口を封じてしまえば、いくらか時間は稼げる。
それに、知られていることを知ってしまえば、以後は警戒すればいいだけだ。
今まで物的証拠など残していない。だから逮捕はされない。それどころか、逆にそれを利用してやることも――
「……私の知っている貴方は」
不意に、噛み締めるような声が教会に響いた。
「悪を憎み、けれど犯罪者を一方的になじることはなく、更正が必要なら手を差し伸べる、そんな方です。
 あなたに救われて、心に平穏を取り戻した人は数知れないでしょう。
 私は、貴方こそ警察の鑑だと思っていました。いえ……警察として以前に、人間として、立派な方だと」
「おう、ありがとうよ」
礼を言ってやるが、神父の表情は苦しげに歪んだままだ。
「けれど貴方は、五人もの人間の命を奪いました。しかもこれ以上ないという程に惨たらしく。
 刑事という立場を利用して、貴方は警察の目を巧妙に逸らし、捜査網を掻い潜り、殺人を続けてきた」
重々しく響くセリフは、罪状を読み上げるようだった。
「罪に償いはあれど、相殺はありません。どれだけ貴方が他人を救っても、貴方の罪が濯がれることはない」
「おいおい、この状況で有難い説教か?まったく大したヤツだな」
職務に忠実なのか、度胸があるのか、自分の置かれた状況が理解できていないのか。
「ついでだからお返しに教えてやるよ。俺から見て、あんたはちょっと真面目――」
「警部」
しかし、言いかけたセリフは遮られる。
神父は軽く目を伏せてから、再びゆっくりと目を上げ、真っ直ぐに俺を見た。
「それでも神は、貴方を赦します」
「……あ?」
何を言われたのか、わからなかった。
「罪を裁くのは秩序。秩序を守るのは人間、秩序に守られるのは人間、秩序を乱すのは人間。
 秩序を守るためには犠牲が伴う。犠牲の為に戦うのもまた秩序。犠牲とは弱者。あるいは、罪」
言いながら、目の前で神父が白い手袋を填めている。
「貴方はたくさんの人々を救った。しかし五人の命を奪った。貴方には理由があった。五人には理由があった。
 理由はまだ転がっている。貴方はそれらを食い尽くすまで、止まる意思は無い。寧ろ、その意思しか持っていない」
彼の瞳は未だ悲しみを湛えていたが、こちらから視線を逸らすことはない。
「この国の法律も、警察も、世間も、そんな貴方を許さないでしょう。けれども、神は貴方を赦します」
まるで、式典で説教でもしているような口調で。
「貴方の魂は、安らかに神の下へ導かれるでしょう」
「あんた、何を言ってる」
薄気味悪さを感じて、今度は俺の方が一歩退いていた。
俺の知っているこの男は、いつも真面目でときに融通が利かず、日曜は子供達に囲まれ一緒に歌を口ずさみ、
良い行いには笑みを浮かべ、悪い行いには怒りでなく悲しみの表情を返す、そんな至って普通の神父。
それなのに、その声は今や恐ろしく落ち着いている。
「罪は秩序の下で裁かれべきであり」
その表情には憂いを帯びたまま。
「秩序を守るのは警察の役目です」
神父は、だらりと両の手を下ろす。
「……けれど、貴方は、少々やり過ぎました」
その言葉を言い終えたと同時に、彼の身体がゆらりと前へ傾いで――次の瞬間には、十歩の距離を鼻先まで詰められていた。

カタギの野郎の動きじゃない。
そう気付いたときには既に、銀色のナイフが、俺の胸に深々と突き刺さっていた。

20122−379 悪落ち→救済(3/3):2011/09/25(日) 18:24:47 ID:y5QL9qos


「これで四人もの人間を惨殺した恐怖の殺人鬼も終幕か。あっけないものだ」
「犠牲者は五人です」
私は訂正する。
「それに、四人目が殺されるまで我々は彼に辿り着けず、結局五人目にも間に合わなかった。
 『あっけない』で終わらせるには、いささか犠牲が過ぎたのではありませんか」
「ほう。それではお前は、この世には過ぎぬ犠牲もあると言うのだな」
面白がるようにそう返されて、私は黙った。
そんな私を見下ろして、自分の上司である男はなぜか愉快そうに笑う。
「本来は向こうの仕事だ。あまりに酷い状況だったからこそ、我々が手を下したのだろう。
 まったく、身内で化物を飼っていたことにも気付かないとは、警察も情けないことだな」
「……この方は、化物などではありません」
彼は立派な人物だった。
そんな彼を何が凶行へ走らせたのか。なぜ狂気へ走らざるを得なかったのか。
それをいくら此処で語ったところで、彼の罪は変わらない。
と、上司が思い出したように「そういえば」と呟いた。
「お前とこの男とは顔見知りだったのだな。やはり、やりたくなかったか?」
「いいえ」
その問いに、私はためらいなく否定を返す。
「こうしなければ、彼は救われないままでしたから」
言いながら、自分でも判で押したような答え方だと思ったが、上司は特に何も言わずただ「そうか」と頷いた。

教会には静寂が満ちている。
ステンドグラスから差し込んだ月の光が、彼の遺体に降り注いでいる。
ほんの数十分前までは生きていて、ほんの数日前までは捜査のついでだと言いつつ教会に顔を出していた男。
元々白かった手袋は、今は彼の血で赤く染まっている。
「……先生」
椅子に腰掛け、自分の両手を見つめたながら、私は上司に呼びかける。
「私の手は、救うに値する手なのでしょうか」
救済は万人に等しく与えられる。たとえそれが罪人でも。
だが、万人が全て、等しく救いを欲するのだろうか。果たして彼は救いを求めていただろうか。
おそらく彼は否と答えるだろう。そう、それを常に求め欲し憧れているのは、他でもない――
「私は値すると思っているからこそ、お前に仕事を任せているのだが」
顔を上げると、すぐ傍まで上司が来ていた。
「それだけでは不足かね?」
そう言って、まるで子供にするように、私の髪をくしゃくしゃとかき回す。
おそらくこの上司は、私の心情を知った上で、尚も面白がってこんなことをしている。
私はため息をついた。
「それは、ありがとうございます」
「さあ、雑談はここまでだ。そろそろ引き上げるぞ。この死体も、このままここに放置してはおけまい」
上司は私の頭から手を離すと、楽しげな表情を引っ込めて、淡々と言った。
「彼の魂の行く先に、安らぎと幸いがあらんことを……」
その言葉に、私も自分の中の下らない感傷を振り払う。
私は、自分のやっている事を忘れてはならない。やるべき事を見失ってはならない。
そして彼の死に顔も、断末魔も、罪も、理由も。
「先生。一つだけ、お願いをしてもよろしいでしょうか」

+++++

世間を騒がせている未曾有の連続殺人鬼は、現時点で実に六人もの犠牲者を出している。
被害者同士には何の繋がりもなく、共通項はただ一つ、遺体が酷く破損していることだけだ。
しかも六人目の被害者は現職の刑事であり、その事実に人々は更に震え上がっている。
今のところ、七人目の犠牲者は出ていないが、警察の捜査は難航を極めているという。

20222-389 ごっこ遊びはもう終わり:2011/09/26(月) 12:30:13 ID:k8Ftd3c2
もう後がなかった。嫌だよどうしてこんな事になってしまったんだ。
俺は匡兄が笑いながら、酷く優しいくせに鳥肌をたたせるような猫撫で声で俺を呼ぶ、それに必死で耐えている。
季之、なぁ、としゆきぃー。
気付かれたく無かったんだ、気付かれない方がよかったんだ。俺は匡兄に、知られたくなかったんだ。
だって俺は、バカだからあんたに夢を見てしまったんだから、あんたとずっと一緒にいたいなんて思ってしまったんだから、
その為にこんな柔らかな愛撫はいらないんだ。そうだろ?俺達は兄弟だって、また言ってくれよ。頼むから、ねえ。匡兄。
ベッドに潜り込んで丸くなって、俺は匡兄が優しい声で俺を撫でるのをやり過ごそうとする、聞こえないふりをする、
ずっとそうしてきっと朝になればまたうまくいく。
怪談なんかと一緒だ、朝までの、粘つく様な長い時間を耐え切れれば。
「何寝たフリしてんだよー」
毛布のすぐそこ、舌先で擽られるような距離だ。匡兄は笑ってて、なー、俺嬉しかったのに、なんて言うから俺の我慢が揺らぐ。
ぐらぐらと、寸前で踏み止まり目を瞑る、声は追いかけてくる、俺もお前が好きだよ季之。
それは、俺が一番欲しくて、一番いらなかった言葉だ。

我慢できない。俺は毛布を跳ね上げて、それに驚いていて目を見開いた匡兄を思い切り突き飛ばした。
匡兄は驚いた顔のままよろけてベッドから落ちる。
「なぁにすんの、お前、スキンシップには乱暴だろぉ」
声はまだ甘く溶けている、嬉しいよって全身で言っている。それが俺にはたまらない。
駄目だよ匡兄駄目なんだよ、俺達はここを超えたら絶対駄目になるってわかってんだよ、
これは被害妄想とか不安とかじゃなくて絶対だよ。
俺とあんたはきっと駄目になる。兄弟ごっこしているのが一番いいんだ、なああんただって知ってただろ。
だからずっと、それに付き合ってくれてたんだろ?
口を滑らせたのは俺のミスだ、ミスなんだけど、お願いだから忘れたフリをしてまた戻って欲しい。どうにか。
ねえ、どうにか。
「なー、としゆきぃ、もっかい言って」
俺の事好きだって。
俺が願ってる間も、匡兄は優しくも残酷なおねだりをする。
「やだよ間違いだしあれ」
「嘘だぁ」
愛が溢れてたから俺にはわかんの。
そんなイラッとする言葉でもって、俺を責める。

俺は頭を抱える。いやだ、こんなのは嫌だ。あんたは俺の兄貴でいてよ。
ちょっとバカで頼りないけど、意外と真面目なところもある、そんな兄貴でいてよ。
俺を弟だって言って、なあもう一回。
匡兄の目は熱を帯びていっそ狂気に染まっているように見える。
つまりはそれだけ我慢してたんだって、きっとあんたは言うんだろう。そうだろう、俺がそうだから多分そうだ。
でも俺は戻りたい、ついさっき、数十分も経ってないそこに。俺達が触れる事に意味が生まれなかった頃に。
「季之ぃ」
「やだ」
「何が」
「やだよ」
俺はその言葉と一緒に手を払った。明確な意図で、匡兄をまるで殴りつけるみたいに。
思ったよりも鋭く俺の手は匡兄の肌を擦り、まるでひっぱたくような形で匡兄の顔が横向く。
妙にスローモーションで、小麦粉とかの袋殴ってるみたいな変な感触、匡兄がぐるりと俺の方に向き直る。
「痛いよ、としゆきー」
それなのに匡兄は、俺を責めない。頬を擦りながら、それでもまだ嬉しいんだと言っている。
「な、季之。キスしよっかぁー」
俺が口なんか滑らせなかったら。
「やだ」
「どーして」
「絶対しない」
「なんで?」
俺も、お前が好きだよ?
そんな言葉でやっぱり俺を傷つける。あんたって酷い人だよ。きっかけはそもそも俺だけれど、ねぇ、だから嫌だったんだよ。
こんなに簡単に、やっぱり壊れるじゃないか。いつか全ては壊れるもんだなんて俺は思っていたけどさ。
それでも匡兄、あんたとは壊れないでいたかったのに。
「近寄んなよ」
今度はさっきより強く。近づいてきた顔を引っ叩く。
指先が笑う。伸びてくる。俺に触れる。嫌だ。こんなに幸せそうなのに、辛い。
俺はちっとも幸せな気分になんかなれない。
だってこれは、終わる合図でしかないじゃないか。
どうして同じ気持ちなのに、こんなに辛いんだ。
教えてくれよ、教えてくれよ、もう一度兄貴になって教えてくれよ。
あんたのどっかズレた答えにも今度はちゃんと頷くから。


ねえ、お願いだよ。

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2041/2:2011/09/27(火) 19:27:59 ID:07G56RQY
間に合わなくて流れたのでこっちで







「好きだ!」

突き抜けるような青空の下、永井は叫んだ。
目の前にはぽかんとした顔の幼なじみの浅島。

「…は?」

とりあえず何かを返そうとしての言葉に、思わずうなだれそうになる。
だがどうにか自分を奮い立たせることに成功した永井は、いつもと同じ笑顔で浅島を見た。
銀縁眼鏡の向こうで、珍しく視線が泳ぐ。

わかっていた。
何しろ、長い付き合いだ。
彼が自分をどう思っているのかなど、痛いほどにわかりきっていた。

「お前は、いったい何を言ってるんだ」
「俺がお前を好きだっていう自己主張だけど?」
「…アホか」

呆れた表情に、いつもの浅島の雰囲気が戻ってくる。
けして肯定的ではない返事なのにもかかわらず、それは永井を嬉しくさせた。

「うん、いいんだ。お前が俺を友達としてしか思ってないのなんかわかってるから」
「永井」
「だから、お前が俺を好きになるようにするから!」
「…どうやって?」

2052/2:2011/09/27(火) 19:28:43 ID:07G56RQY
やや冷たい浅島の声に、永井が固まる。

「と、とにかくどうにかして!」
「計画性ゼロか」
「えっと、とりあえず、浅島の好みのタイプって?」
「背が低くてふわふわしたロングヘアの色白の女の子」

間髪入れずに言われた、性別含めまさに正反対の答え。
だがそれにもめげず、永井は浅島を正面から見据えて笑った。

「見てろよ、全部塗り替えてやるからな!」
「無理だろ」
「無理じゃない!俺、頑張るからな!」

言うだけ言って、その場から走り去ってしまった永井の背中を見送りながら、浅島は小さくため息をついた。

「ひとつ言い忘れたな…笑顔が似合う、って」

だから全部塗り替えるのは無理だろうが、とつぶやきながら、彼は薄く笑った。

20622-409 スーパー攻め様:2011/09/28(水) 23:05:36 ID:z/zOmFHk
ヤバイ。スーパー攻め様ヤバイ。まじでヤバイよ、マジヤバイ。
スーパー攻め様ヤバイ。
まず金持ち。もう金持ちなんてもんじゃない。超セレブ。
金持ちとかっても
「一般家庭20個ぶんくらい?」
とか、もう、そういうレベルじゃない。
何しろ御曹司。スゲェ!なんか財閥とか継いじゃうの。重役級とかヒルズ族とかを超越してる。御曹司だし超金持ち。
しかも強引らしい。ヤバイよ、俺様何様スーパー攻め様だよ。
だって普通はヘタレ攻めとか強引じゃないじゃん。
だって大して知らない人からいきなり「お前は俺のものだ」って言われても困るじゃん。取り巻きとか超妬んでくるとか困るっしょ。
いきなり押し倒されて、「最初は遊びのつもりだったのに、お前が俺を本気にさせたんだからな?」とか泣くっしょ。
だからヘタレ攻めとかゴリ押ししない。話のわかるヤツだ。
けどスーパー攻め様はヤバイ。そんなの気にしない。ゴリ押ししまくり。
当て馬とか邪魔しにきても逆に破滅させちゃうくらい権力持ってる。ヤバすぎ。
俺様っていったけど、もしかしたら優しいのかもしんない。でも優しいって事にすると
「じゃあ、いきなり別荘に拉致るってナニよ?」
って事になるし、それは誰もわからない。ヤバイ。誰にも分からないなんて凄すぎる。
あと超絶倫。約1カトウタカ。年齢制限で言うとR-18。ヤバイ。エロすぎ。抵抗する暇もなく蕩かされる。怖い。
それに超イケメン。超肉体美。それに超頭いい。IQ200とか平気で出てくる。IQ200て。小学生でも言わねぇよ、最近。
なんつってもスーパー攻め様は口説きが凄い。愛の囁きとか平気だし。
うちらなんて愛とかたかだか告白で出てきただけで上手く言えないから真っ赤になったり、わざと茶化してみたり、
最後まで言えなかったりするのに、
スーパー攻め様は全然平気。愛を愛のまま囁いてくる。凄い。ヤバイ。
とにかく貴様ら、スーパー攻め様のヤバさをもっと知るべきだと思います。
そんなヤバイスーパー攻め様に惚れてしまった俺とか超大変。でも愛してる。超愛してる。

20722-419 知りたがり×隠したがり:2011/09/30(金) 19:41:11 ID:fC2J/oaM
「なぁなぁ、受けは俺のどこが好き? ちなみに俺は全部好きだよ」
「ああそうかい」
 また始まった。
「受けはいつ俺を好きになった?」
「忘れた」
 冷たくしてもこたえず、また問い掛けてくる。
「えー。俺はね、忘れ物して慌ててたら何も言わずブッキラボウに貸してくれた時に、いいなーと思った」
「……」
 無視しても同じだ。
「じゃあさ、俺のことどれだけ愛してる? 俺は空よりも広く愛してる〜!」
「教えない」
「それじゃあ」
「ああもう、いつもいつも五月蝿!」
 怒鳴っても、攻めはなぜ怒ってるのか判らず不思議そうに首を傾げる。
「好きな相手の事は、何でも知りたいじゃないか」
「だからって、何度も同じことを聞くな」
「だって聞きたいんだモン」
 口を尖らせ拗ねたように言う攻めに、呆れたように背を向けた。
 そうしなきゃ平静を保てない。
「……」
 攻めのどこが好きかって? おれも全部好きだよ。
 いつから? 初めて会った時からに決まってんだろ!
 どれほど愛してるかって? 距離にしたら宇宙の彼方までぶっちぎる程だ。
 攻めは知らないだろうが、おれの方がベタ惚れなんだよ!
 毎回この気持ちを正直に答えてたら、おれ達とんだバカップルになっちまうんだぜ?
 だから答えてやらないよ。

20822-429 紳士攻め×流され受け:2011/10/01(土) 21:26:32 ID:s.BeOs1g
初めは彼女に連れられてやってきた。
あまりにも俺の服装がダサイといって、オーダーメイドの紳士服屋。
そうしてあれよあれよという間に仕立てることになったスーツは、
俺の手持ちで一番高い勝負服となり、彼女と別れた今も捨てられない。


「ネクタイですか」
そう言って声をかけてくれたのは、スーツの採寸もしてくれた檜山さんだった。
今の給料じゃとても二着目は仕立てられないが、檜山さんに会いたくて、
俺はちょくちょくこの店に小物を買いに来るようになっていた。
「今日のお召し物はとても良くお似合いですね。今日のものに合わせるタイなら、こちらの臙脂も宜しいかと」
「じゃぁ、それを」
褒めてもらったスーツも、実は檜山さんの見立て。
この店に通うようになっても一向にセンスが磨かれない俺を見かねたのか、
檜山さんが「買い物につき合って頂けませんか」と言って見繕ってくれたのだ。
以来、俺が身につけるものは殆ど檜山さんのアドバイスに従っている。
俺の服選びに毎回つき合ってもらうのに申し訳なくなって、
手料理を振る舞うようになったのはいつごろからだろうか。
いつの間にか、俺たちの間では一回の見立てでご飯一回、という暗黙の了解ができていた。
会計のあとで檜山さんに目で合図をしたら『今晩伺っても宜しいですか』というメールが入っていて、
テンションは一気に上がる。


「今日の料理もおいしかったです」
一緒に出したワインでほろ酔い加減になった俺は、ふらつく足でシンクに食器を置きに立つ。
「あぶないっ」
運よく食器は手にしていなかったが、頭を打ちそうになったところを間一髪檜山さんが支えてくれた。
「全く、あなたからは一秒も目を離していられない」
「ほんと、すいません…っつ」
頭は打たなかったが、腰をしたたか打ったようで、手でさするように押さえる。
「おや、腰を打ったのですか。痣にならないか確認してみましょうか」
「え、…は、はぁ」
戸惑う俺をしり目に、檜山さんの低い体温が脇腹に触れる。
「あ…のっ」
「人に触られるの、苦手でしたか」
頬に熱が集まる俺を見て、檜山さんが優しくほほ笑む。
「い…え…」
人に触られるのが、とかじゃなくて、触り方がエロイ気がするのが、
あまりに自然になんでもないことのように聞かれるので、俺の意識のしすぎかと思ってしまう。
その様子に、檜山さんは今度は小さく吹き出す。
「プレゼント、はしてませんが、服を見立てるのは脱がせたいからですよ。こういうの、お嫌いですか?」
「い…え…」
あまりにさらりと言われるので、思わず反射的に否定の言葉を言ってしまう。
事の重大さに気付いたのは翌朝だ。


「私のことを嫌いになりますか?」
「…いえ」
それでも檜山さんが嫌いじゃないのは、ちょっと不思議だ。

20922-429 紳士攻め×流され受け:2011/10/03(月) 17:16:48 ID:/yeL5qtg
「で、どう?」
 急に話が核心に飛んで、きた、と内心胃が縮んだ。
 今日は久々の同乗だったから、危ないとは思っていた。
 一日店で疲れ、ようやく帰宅となったらまた難題をつきつけられる。
 ハンドルに集中しながらでは、とても対応できそうにない。

 うちみたいな地方の大型スーパーは、不規則な業務のせいで社員の離婚率が高い。
 店長も俺もそのくちで、今はふたりとも社借り上げの同じアパートに入ってる。
 自家用車に同乗して通勤するのは、店の駐車場が少ないという事情のため。
 社員がまず率先してパートやアルバイトに示しをつけてるわけだから、簡単にやめられない。
 ……たとえ、同乗相手が俺のことが好きだなんて言い出したとしてもだ。
「しばらく考えてみてよ、柔軟な思考の訓練だと思って、ね」
 店長はいつぞやの社員研修を引き合いに出して笑った。
「えーっと……なんか、私、試されてるんでしょうか?」
 俺も半笑いでごまかそうとしたら、とてもまじめな顔で首を振られてしまった。

 それからひと月がたつ。
 ほっておいた企画話なら、怒鳴りつけられるか、とっくにおじゃんになってるかという期間だ。
「現在、検討しているところ……です」
「それはよかった。ぜひ、前向きにお願いします」
 穏やかな声には、一片のトゲも感じられない。

 その声にほっとした俺は、いったい何に安堵しているんだろう?
 叱られなかったから? それとも、まだ嫌われなかったから、だろうか。
 店長は、仕事のできる尊敬する上司で、人柄もいい。
 男もいける性癖の持ち主である、ということは欠点ではないと思うくらいに、店長自身を気に入っている自覚がある。
 こんな話じゃなければ、同じ社の一員として、末永くおつきあいしたい人間だと思う。
 できれば、この人をがっかりさせたくはない。
 だからって、これまで平凡に生きてきたのに、いきなりホモと言われてもハードルが高すぎるのだ。
 ──どうしても返事は延び延びになる。

「そこのコンビニ、入りたいな」
 店長が言って、俺は車を曲げた。
 郊外の広い駐車場をもつコンビニは、この時間も客足があって数台の車が止まっている。
「止めやすいところでいいよ、店の前じゃなくても、あっちで」
 店長が指したとおり、敷地のはじに駐車する。
「じゃあ、私もなにか買います」
 と、シートベルトを外した時だった。
 シフトレバーを越えて店長が覆い被さってきて、首を曲げられキスされた。
 頬に触れるだけ。だけど、確かに唇が、俺の顔にあたって音を立てた。

「……笹岡くんはいいにおいがする」
 女ならイチコロな声で、ささやかれた。
「か、加齢臭しますよ、俺」
 必死の抵抗は、噛んでうわずって効果無しだ。
「なんだか美味しいにおいだよ」
「それは総菜の、うちの売り場のにおいです、むしろ店長の方が香水とかの……」
 言いかけたところを腕をつかんで引き寄せられて、今度は店長の胸に頭を預ける形になった。
 シャツ越しの体温が、額に伝わる。肩にまわされる手。
 敗北感。終わった、というあきらめに似たこの気持ち。
 暗い車内でこの人とふたり、こうして。

 とうとう、なってしまった。いつか、こうなると思った。

 頭の上で店長の低い声がする。
「いつまでも保留なままなのは、良い返事なんだと私は思ったよ。たぶん、もう、こうした方がいいんじゃないかな、君にとっても」
 強引。いや違う、俺の責任をかぶってくれたのだ。
 これで俺には言い訳ができ、落としどころを得た思考は停止して、身だけを任せられる。
 俺は、自分が流されたがってたことにようやく気づいた。

21022-459  俺は忘れた、だからお前も忘れろ:2011/10/05(水) 08:32:55 ID:HTGhtEzc
あいつはあの時正体不明なくらい酔っ払っていて、俺はドラッグでぶっ飛んでた。
ちょっと多い量をキメて、つうかキめちまって結構血管が膨れ上がる感じに吐き気までもよおしてたとこだ。
ゲロと一緒に全部出ちまったさ。だから忘れちまったよ。と俺は言った。
言ったんだが。
「なぁ、マジで?マジで覚えてねぇの?」
なんでコイツはこんなに食い下がってくるんだ。
欠食児童みてぇなガリガリの体にありえない力を込めて俺の腕を掴む。
あんまり邪魔だったんで持っていたジャックダニエルでこめかみを押しのけた。
「覚えてねぇっつってんだろ」

その夜俺が、クラブのトイレに女を連れ込んでヤった後、
カウンターにいた馴染みの売人からいつものを買ってそれを吸って、それで部屋に帰ってきた。
そうすると俺と入れ違いに2人の女が部屋から出て行って、て事はだ。
汚ねぇ部屋の真ん中に酒臭い汚ぇガキが一人って事だ。
「おっかえり〜」
あいつは意味もなくゲラゲラと笑って、素っ裸のまんまで俺に飛びついてきた。
これが胸のでかい女なら申し分ないんだが。
「な、キスしねぇ?キス」
いつだってどこだって構わず噛み付くこいつが、甘えるように言う。
俺は笑っていいぜと答えたんだ。だからって何の意味がある?俺とこいつの間に。何かが生まれるってのか?
まぁ、精々その内一緒に一人か二人の女を交えて楽しむ事があるかもしれないってくらいだ。
こめかみや、眼球の裏側が心臓みてぇにどくどく言っていた。
いい感じにきいているドラッグに俺は酩酊状態でくすくす笑うとあいつは軽く俺の鼻を噛んだ。
「マジで?じゃぁさ、口開けて」
俺はその通りにしてやった。抱きついてきたアイツは物凄く酒臭かったが、俺も似たようなもんだろう。
べったりと口とその周辺に引きずったように真っ赤な口紅の道。
「あんた、女とヤってきたろ」 
「正解だ、なんでわかった?」
「香水くせぇ」
「お前もな」
ひとしきり笑って、俺は立っているのが面倒になったんで壁によろけた。壁も床と同じくらいに汚いんだ。
よくわからねぇ染みとか、はがれかけた壁紙とか。
全く冗談じゃねぇけど直してもすぐにこんなもんだろうし大体そんな金も無い。
そうすると被さるように思いっきり唇が噛み付いてきた。
俺はあいつの脇あたりを支えながら、それを受ける。入り込んできた舌が、俺の痺れたそれに絡みついた。
味なんかしねぇし、感覚だけがビリビリくる。
一度離れてもう一度、それがもう一度、と際限なく続く。いい加減面倒になってきて何回かの後あいつを押しのけた。
涎で口の周りがぐちゃぐちゃだ。
「もう寝ろ、坊や」
「……ムカつく奴だな、あんた!」
わかるだろ?これが俺達の親愛なるおやすみなさいの言葉だ。よい夢を、ベイビー。

そんな訳であいつが自分の部屋に消えた後俺はまた少し薬をやって吐いて、そんな事を繰り返したら朝だった。
カーテンも無い窓から差し込む太陽の光は、否応なく更に部屋の汚さを感じさせるがしょうがない。
ミネラルウォーター代わりに冷蔵庫にはこれしかないという酒を呷っていると、あいつが起き出してきた。
「俺にもくれよ」
「残念だな、飲んじまった」
逆さに振ってやる。一滴だって出てこない。俺の喉から胃に直通だ。
「なぁ、昨日のキスもっかいしようぜ」
「昨日の?」
実際、俺はそう言われるまで忘れてたんだ。
つまり、わかるだろう、俺にそれは重要じゃなかったし、他にする事がいっぱいあった。
ドラッグとか、吐くとか。その合間に考え事だとか。毎日変わる女とヤるくらいなもんで、
顔も覚えてない女達の間にこいつとのキスなんてすっかり埋もれちまうのがどうして間違った事なんだと俺は思う。
でもこいつは聞き返す俺に拗ねるように口を尖らせた。
「何だよ、忘れちまったの?」
「ああ、忘れちまったな」
そして、やたらと食い下がりはじめた訳だ。

「じゃぁ、いい。今すっから覚えて」
「はぁ?そんな気分じゃねぇよ、どけ」
「嫌だね。あんたが覚えてくれるまでする」
子供の強情さってのは、女のヒステリーくらい性質が悪い。殴りつけた方が早いかもしれない。
「いいから、口開けろよ。昨日みたいに誘えよ」
「覚えてねぇし、誘ってもねぇな」
「うっせぇよ!」
冷蔵庫に押し付けられ、噛み付くように唇が被さってくる。俺は思わずジャックダニエルを振り上げた。
忘れるとか忘れないとか、一体何がそんなに大事なんだ?俺にはわからないしわかりたくもない。
只、本当は忘れてねぇんだって事を読み取れない程ガキなこいつがムカつくだけだ。

21122-439 お兄ちゃんの彼氏?:2011/10/06(木) 21:55:50 ID:UmwJli/2
 僕達兄弟は年が離れてるけど、とても仲がいいです。
 弟の僕から見ても、お兄ちゃんは綺麗でよく女の人に間違えられています。
 体もそんなに大きくないからかもしれません。
 そのせいか彼女も居ません。
 どうしてと聞くと、女の子はお兄ちゃんをペットのように可愛がるか一緒に歩くのを嫌がるかで、モテないと言ってました。
 でもそれはどうでもいいです。
 とにかく僕は、優しくて家事も得意なお兄ちゃんが大好きです。

 そんなお兄ちゃんのキスシーンを見てしまいました。
 しかも相手は男の人で、僕は二重に驚きました。
 日焼けした体は縦も横もお兄ちゃんより大きくて、良く見えなかったけど顔もまあまあ格好良さそうです。
 すぐにその相手が、最近よく家に来るお兄ちゃんより年上のお友達だと気が付きました。
 その人の太い首にガッチリ両手を回して、嬉しそうにキスしてるお兄ちゃんを見てると、自然に恋人同士って言葉が浮かんできました。
 けど、2人とも男なのに?
 考えても判らないから、思い切ってお兄ちゃんに聞くことにしました。
「何時も遊びに来てるあの大きな人って、お兄ちゃんの彼氏?」
「急に、どうした?」
「キスしてたから」
「あーっ…」
 しまったって顔をしたお兄ちゃんは片手で額を押さえたけど、すぐに真面目な顔でまっすぐ僕を見ながら話し始めました。
「まだ理解出来ないだろうけど、世の中にはいろんな愛があるんだ」
「愛? 大好きってことでしょ」
「そう。ぼく等の絶対変わらないのが兄弟愛。そして、他人だけどずっと一緒にいたいと思う相手が出来るんだ。それが恋愛。普通は男女だけど、ぼくは同性で」
「お兄ちゃん、女の人より男の人が好きなの?」
「違うよ。彼だったから好きになったんだ。性別なんて関係ないんだ」
「?」
 何が違うのか判らなかったけど、お兄ちゃんがその人のことを凄く好きなのは、誇らしげで嬉しそうな顔で話しているから僕にも伝わってきました。
 そんなお兄ちゃんを見てると、幸せならそれでいいやと思いました。
「あの人が、お兄ちゃんの彼氏なんだ」
「うーん、正確にはお兄ちゃんが彼氏、だよ」
「どう違うの?」
 お兄ちゃんはクスッと笑って、問い返す僕の頭を優しく撫ぜながら
「大きくなったら判るよ」
 それ以上は答えてくれなかったけど、笑っているお兄ちゃんは自信に満ちていて、なんだか何時もより頼もしく見えました。
 きっと愛の力なんだろうな。
 お兄ちゃん、ずっと仲良く幸せでいてね。
 
 愛には性別や見た目や体格なんか関係無い、と僕が知るのはもう少し先になってからだった。
 その時、さらに兄が偉大に見えた。

21222-470続き 1:2011/10/07(金) 11:20:10 ID:eIjuahuo
本スレ470です。
確かに最後あれではスッキリしないなと思いましたので、蛇足ながらちょこっと続きを書きました。

「書類は揃えましたし、当座はあれで大丈夫でしょう。
 …さて、御主人様は…軽い脳震盪、ですかね。
 気絶というより、もう眠っておられるようだ。
 だいぶお酒を召し上がられているようだし、最近お忙しくてお疲れだった影響もありそうですね。
 ベッドに運んでおきましょうか」
ファサ
「一応、朝起きたら医者を呼ぶようには指示しておきましたが、
 変ないびきもかいていないようですし、とりあえず無事そうですね。
 …良かった。」フウ
「さて、待ち合わせまであと1分少々ありますね…ふむ。」

「ご主人様、起きて下さい。」
「…うーん、もうちょっとー…」
「朝ですよ。起きて下さい。」
「…あと少し…だけ…」
「起きなさい!ぼっちゃま!」
「ひあ!爺!?ごめんなさい!…え?」
「おはようございます、御主人様。
 …まったく、だからあれほど御就寝前のお酒はお控えくださいと、爺が口を酸っぱくして申し上げたではないですか。
 酒は百薬の長ですが、過ぎると毒なのですよ。」ガミガミガミ
「…ちょっとまって、爺?あれ?なんで?」
「理由はこちらです。」ペラリ
「…辞表…」
「はい、2枚。」
「…あー…」
「さて、御自分の一時の出来心のせいで、優秀な部下を2人も失った御気分はいかがですか?」
「夢じゃなかった…」ショボン
「ええ、おかげさまでこのロートルまで駆り出される事態です。」
「…ごめんなさい。」
「とはいえ、屋敷内の者たちの気持ちが動揺しているだけで、引き継ぎ書類は完ぺきでした。
 ざっと目を通しましたが、すぐには困りませんし、たちまち代わりの者でも処理できるようになっておりましたよ。」
「そうか」
「まったくあの子たちは優秀な人材でしたねぇ。ああ惜しい惜しい。」
「…泣きながら床擦り土下座で謝ったら、許してくれないかな…」
「それはかつての坊ちゃまの得意技でしょう。
 まだお可愛らしかった御幼少のころならともかく、今のご容姿でされても不気味なだけです。」
「だよねー…。爺!」
「はい」
「今回の件は、私に全ての責がある。急ぎあの二人を探してくれ。」
「そうおっしゃると思いまして、現在ツテを総動員して捜索中でございますよ。」

21322-470続き 2:2011/10/07(金) 11:22:06 ID:eIjuahuo
「そうか…私のことは許せないだろうが、今まであれほど心をこめて勤めてくれた者たちだ。
 …退職するなら、きちんと退職金ぐらいは持たせたい。」
「まあ、そうできなくさせたのは坊ちゃまですけどね」
「ぐ…っ!」
「ご主人様の言葉というのは、下々のものにとって、御自分で思っておられるよりはるかに重いのですと
 この爺が口を酸っぱくしてお教え申したではないですか。
 だからこそ上に立つものは何時でも理性と知性を失ってはならないのです。
 だいたい坊ちゃまは…」グチグチグチグチ
「…ごめんなさい…。」
「爺は情けのうございますよ」フウ
「泣き土下座でなんとか」
「なりません。」
「だよね。」ショボン
「あの二人、戻ってくるといいですね。」
「うん。」
「…さて、目が覚めたのでしたら屋敷の者たちに声をかけてやって下さい。多少落ち着いたとはいえ、まだ動揺しておりますから。」
「わかった。」
「あくまで普段通りにお振る舞いになるように。当主たるもの、な」
「何事にも動じてはならない。」
「よろしい。」
「…なあ、爺。」
「なんですか?」
「…本気だったんだよ。」
「存じておりますよ。」
「うん。」
「ですが次に恋をされた際には、まず恋文からお始めになるよう、老婆心ながらご忠告申し上げます。」
「…はい。」
「さあ、起きて下さい。…ああ、そうそう。皆の前に顔を出す前に、洗顔だけは済まされて下さいね。」
「?? うん、わかった。」


〜洗面所〜
主(゜Д゜)人←額に流暢なラテン語で「ちんこ の のりもの」

21422-329 理性×本能 or 本能×理性:2011/10/11(火) 16:41:15 ID:6z.li0Jw
今さらですが萌えたので、ひとつ供養に投下します。

「つまり何が言いたいかっていうとだな。
 うちは職場恋愛禁止だ、というのもまず生徒の手前があるし、父兄の目もある。
 常に公正をおもんばかって身を慎むべき、聖職者とまでされた職業であるから、
 これは当然のことだあな。

 また、俺もお前も親や兄弟、親戚から早く結婚しろとせっつかれるいい年齢で、
 孫の顔が見たい、とか、お前にいたってはひ孫の顔が見たいばあちゃんがいて、
 その期待と義務に応えるべき身であると。

 そもそも大前提として、俺もお前も男同士だ。
 これは世間ではホモと後ろ指指される関係なわけで、ま、今時はゲイというらしいんだけども、
 その世間の冷たい目にさらされて今後を生きる覚悟があるのか、
 常に人目を気にして後ろ暗く生きていくのか、どうなんだという根本的な問題がある。
 これは難しいところだ、今、人生の大きな岐路に立たされていると言っても過言ではない。
 お前もよく考えろよ、物事を単純に見るのはお前の長所でもあり、短所でもある。

 そしてこの行為だな、ゲイセッ、セッ、セック……スには様々な危険がともなうらしい、
 だいたい生物の体のつくりとして、男女の行為は自然なものだが、
 男同士というとその摂理に反していろいろと無理があるもの……だから……だから」

「だから、いろんなやり方があるんですよ、なにもいきなり尻とか言わず、できるところまででいいんです」
 俺は愛しい先輩の頭を抱きしめた。賢くてあほなこの人が可愛い。
 裸になって、上と下になって抱き合ったこの体勢から何をグズグズしているんだろう。
「まだ悩んでたんですか? 先輩。そんで、もういい? 俺はもう待てないんだけど」
 まだ合わせたばかりの肌は乾いているものの、お互いに触れた部分はギチギチで、これから先の展開に何の疑いもない。
「お前がそんなだから俺は必死で考えざるを得ないんだよ」
「とか言って、結構その気なくせに。ほら、もういいでしょう? やっちゃいましょ」
 早く、と合わせた腰を揺すると、先輩が一瞬息を詰める気配。
 それがすごく色っぽくて、本当に理性が飛びそうになる。
「お前……したいしたいって、本能のままじゃないか」
 先輩は俺の大好きな苦笑いを浮かべ、
「……本当に、いいのか」
 と、俺の顔をのぞき込む。いとおしむような、憐れむような優しい目が、ちょっとつらい。
「いいですってば。さんざん言ったでしょうが。二年も待ったんだから。もう先輩も何にも考えないでさ、早く、しましょう? いやなんですか?」
「だから……だから、考えたんだ。いろいろ考えて、やっぱり我慢できないってわかった」

 すまん、とつぶやいた声に聞こえなかったふりをして、目をつぶった。
 先輩の固い理性のたがは、とうとうはずれてくれたらしい。
 本能のままに荒々しくまさぐられる、その手つきに嬉しくなると同時に、俺の頭は一方で冴えていく。

 俺だっていろいろ考えたのだ。
 自分にこんな性癖があるなんて知らなかったからずいぶん葛藤した。
 先輩に知られ、また奇跡のように先輩の気持ちをもらってからも、職場や身内の事情や先輩を引きずり込むことが怖くて、身もだえしない夜はなかった。

 考えて考えた末……俺は本能に流されることにした。
 考えても仕方がないほどの、この感情。
 ──人生でたったひとりに出会ってしまった。
 そうなったら、どんなに理性的に考えても、押しとどめる手段はないのだ。
 わかってしまった。
 だから突っ走ることにした。

 理性的な先輩の本能と、本能に従う俺の理性。
 ふたりで望んだ結果が今なのだ。
 俺は、目の前の愛する体に噛みついてやった。
 ふたりともが、これ以上何も考えられなくなるように。

21522-489 くすぐりに弱い受け 1:2011/10/11(火) 23:42:06 ID:IM.Z6pqw
初投下。萌ネタ形にするのって楽しいですね。


―付き合ってください
―…俺のどこがいいの
―そんな、男に告白されても動じないようなクールなところが…
―…ふーん……別にいいよ

あの日から今日で3ヶ月。
いつものようにオレの部屋のちゃぶ台で、聡はレポートを書いている。
正直もう限界だった。

いい加減漫画にも飽きたオレは、ベッドに転がったまま聡の背中に手を伸ばした。
「なあ…」
肩に触れるか触れないか、ギリギリのところで聡の手が飛んでくる。
「なに。今忙しいんだけど」
振り向きもしない冷たい態度。
忙しくなくたって振り払うくせに。
弾かれた手がやけに痛い。
「なあ、お前にとってオレってなんなの?」

しまった。
つい口にしてしまった。
この手のアホな台詞は嫌いだと聞いてたのに。
案の定、振り向いた聡はものすごく不機嫌そうな顔をしている。
「だってさ、オレ達付き合ってもう3ヶ月だろ?
 キスどころか手も繋いでないっていうかオレ聡に触ったこと一回もないよ。
 図書館や漫喫の代わりにオレの部屋に来るようになっただけじゃん。
 それって付き合ってるって言えなくね?
 てか何、オレは漫喫のオーナーか何かなの?」

ダメ元で告白して、まさかのOKもらって、すごく嬉しかったんだ。
いつだって抱きしめたかったけど、聡は人に触れられるのを嫌がるから、我慢してたんだ。
嫌われないように、追い詰めないように、手を伸ばすのだって3日に1回くらいに抑えてたんだ。
なのにお前はいつもそうやってオレの手を弾く。
オレの部屋オレの前にいるくせに、まるでオレに興味なさそうに。
なんでOKしたしたんだよ。
男に惚れたアホな男への興味本位?それとも同情?

謝ろうと思った口からは、不満と疑心ばかりが溢れた。
抑えようと思ったけど止まらなかった。
そのうち涙まで出てきて、聡の顔は、能面のように表情をなくしていった。

ああもうダメだ。聡に嫌われた。

そう思ったらますます涙があふれてきて、多分オレは今世界で一番醜い男だ。

21622-489 くすぐりに弱い受け 2:2011/10/11(火) 23:45:20 ID:IM.Z6pqw
いたたまれなくなってトイレに逃げ込んで30分。
ようやく落ち着いて、オレはトイレを出た。
もう帰ってしまっただろうと思っていた背中を、さっきと同じ場所に見つけて動きが止まる。
聡は背を向けたまま、小さく息を吐いた。
「あのさ、」
「ごめん。やっぱこんな男嫌だよね。もういいよ。無理しないで」
努めて明るく言ったつもりの言葉はやっぱり震えていて、枯れたはずの涙がまた出てくる。
オレこんなに泣き虫だったんだ。いい歳こいてキメえな。
涙を拭いながら頭の片隅がぼんやりと冷静になっていた。
しばしの沈黙。
「あのさ、そうじゃないんだ。」
「何がそうじゃないんだよ。触られるのも嫌なんだろう?
 そんなのと無理して一緒にいる必要なん―」
「だからそうじゃないんだって!」
突然の大声とちゃぶ台を叩く音に、息も涙も止まる。
ちゃぶ台を叩いた勢いで立ち上がった聡は、怒った顔で突進してきた。
30センチ手前で止まって、え、あれ、止まってなくね?

「え、あ  え、今、 え?」
頭真っ白になったオレの前で、聡の顔は、みるみる真っ赤になっていった。
「だから、そうじゃないんだ。
 俺、あの、別にお前のことが嫌いなんじゃ…つーか、す…好き……だけど……」
うわあどうしよう、聡の口から好きとか初めて聞いた。
てかさっきのやっぱりき、キス?鱚?キスだよな?
衝突事故じゃないんだ。うわーひゃっほーありがとうありがとう、世界中にありがとう!
「ちょ、おい、離…っ……ひ…っ!……や、やめ……ひぅ…っ!」

21722-489 くすぐりに弱い受け 3(ラスト):2011/10/11(火) 23:49:50 ID:IM.Z6pqw
「ひゃ!……ゃ………止めろよ!」
思わず抱きついて背中をなでながら頬ずりまでしていたオレを突き飛ばした聡は涙目で、かなり息が上がっている。
ちょっと煽情的すぎて暴走しそうだ。
いやいや待てオレ落ち着けオレ。
この流れでこの程度の接触でこの反応はさすがにおかしいだろ。
「……聡、もしかして、触られるの弱いの?」
肩がビクっと震えて、真っ赤な顔がゆっくりと下を向く。
「……ごめん」
消え入りそうなほど小さい声。
なんだそうか。そうだったのか。それで触られたくなかったのか。
オレが嫌だったわけじゃないんだ。
「なんだよ。最初から言ってくれればよかったのに」
ホッとしたら急におかしくなってきて、オレは声を上げて笑った。
「だって、お前、いつもクールなところが好きだって言ってたから、こんなヘタレじゃ嫌われるんじゃないかって…」
真っ赤な顔をますます赤くして言い訳をする聡。
オレに嫌われるのが怖かったとか何そのかわいい台詞。
確かにこんなかわいいなんて思いもしなかったよ。
でも嫌いになるとかありえない。
むしろますます大好きになった。
「っ…!だから触んなよ!」
散々我慢させられたんだ。
これからは遠慮なく触らせてもらおう。
「大丈夫、ヘタレでかわいい聡も大好きだよ」

21822-539 ピロートーク:2011/10/16(日) 04:56:55 ID:7JOoH6nA
「さて、桃太郎が歩いていると、向こうから一匹の犬がやって来ました。
 『桃太郎さん桃太郎さん、お腰につけたきびだんご、ひとつ私にくださいな』――」
「おい善紀、なんでこの犬桃太郎の名前を知ってるんだ。初対面なんだろう?」
「なんでって……まあ、有名人だから?」
「なるほど。桃から人が生まれるのはその世界でも異常事態なんだな」
「多分――で、犬の頼みを聞いた桃太郎は、『鬼退治についてきてくれるならあげましょう』と――」
「団子一個で戦場へ行けというのか。随分乱暴な話だ」
「うん、正直それは俺も思った。……ああ、きっと半年予約待ちレベルの激レアきびだんごなんだよ」

晃にせがまれ、この前から寝る前に昔話を聴かせている。
が、この「おはなしの時間」は心地よい眠気と倦怠感に満ちていて、
二人とも、ともすればいつの間にか寝入ってしまう。
おまけに、晃は話が少し動くたびにいちいち疑問やツッコミを挟んできて、
俺もその度にいちいち理由を考えて答えている。
そんな状態なので、物語の終わりは一向に見えてこない。

「楽しいな」
雉はきびだんごを食べられるか否か、について考え込んでいると、不意に晃が呟いた。
え、と首だけでそちらを見やる。暗くて表情はよく分からないが、確かに上機嫌だ。
「何十回も読んだ話でも、こうやって誰かと一緒の布団に入って」
言いながらふわっと抱きついてくる。一心に甘えてくる小さな子供のようだ。
「俺ひとりに聴かせるために話してくれて、俺がなにか言ったらちゃんと答えてくれて……
 こういうの、昔はなかった。だから今、長年の夢がかなってすごく嬉しい」
幼少期に家族関係で寂しい思いをしていたらしいことは、親しくなるうちになんとなくわかっていた。
でも、こういう話を直接聞くのは初めてだった。
「そっか。夢が叶ったか」
淡々と語られた言葉に胸がいっぱいになって、晃を抱きしめ返す。すると、
「今、ここにいるのが善紀でよかった」
囁きと共に、耳朶に柔らかいものが触れた。その一点が熱を帯び、全身に波紋のように広がっていく。
それを気取られたくなくて、
「まあ、楽しいのはいいけど、こう立ち止まってばかりじゃいつ話し終わるか分かんないよ?」
突っぱね気味に大仰なため息を付いてみせる。それを聞いた晃は、再び俺の耳もとで、
「いつまででも話し続ければいい。夜はあと何千回でもやってくるんだから」
当たり前のように言ってのけた。
俺はまず呆れ、次にその言葉の意味するところに思い当たり、さっきとは違う感情で胸がいっぱいになって、
何か言おうとして言えなくて、ただ晃の身体にまわした腕に一層力を込めた。

こうして二人は今夜も幸福な眠りについたのでした。
めでたし、めでたし。

21922-559 仲良し三人組:2011/10/18(火) 15:24:04 ID:yzso3blE
元はオレたちは三人組だった。オレとアイツは冒険者になった。もう一人は家業の道具屋を継いで一般市民として生きることになった
ところがだ。もう一人の店が潰れてしまった。近所にできた大型の道具量販店との競争に負けて、経営が成り立たなくなったそうだ
仕事を探したらしいが、このご時勢にロクな仕事も見つからない。ということで、もう一人は冒険者になった
そしてオレたちのクエストに同行することになった。今そのもう一人の最初の職業を決めるためにダーマの転職樹にまた来ている
アイツは順調に勇者としてレベルアップをしている。この間は北の辺境で異常発生した白熊の化け物の退治に成功した
オレも農民として頑張っている。色んな野菜をどんどん作っている。次は今までやっていなかった青菜類の栽培を覚える
来月から遥か東方から来たという先生から「チンゲンキャベツ・ターキャベツ・クーシンキャベツ」の作り方を習う予定だ
アイツは青菜類が嫌いなようだ。勇者がガキのように青菜を残すなんてダメだ。オレの手で矯正してみせる!
それはそうと、もう一人も空気を読めってんだ。オレとアイツの仲についてはよーくご存知であるはずだっちゅーの!
それにアイツもアイツだ。「また一緒になれたな」とか言いながら普通に大喜びしてやがる。どういうことだ!
オレが同行者専用の喫茶室で飲み始めたコーヒーも三杯目が空になった。初めてだから時間がかかるのかな・・・
オレも初めてのときには時間がかかったなあ。なかなか転職樹によじ登れなくてなあ。独特のコツが要るんだよな
アイツはオレをおいてスイスイ登って行っちゃったけどな。アイツの運動神経の良さはやっぱ惚れ惚れする
しかし本当に遅いな。さすがに少し心配になってきたな。オレのときもこんなにはかからなかったぞ・・・
カランカラーン! 喫茶室のドアがチャイムと一緒になった。お、戻って来た。どうだった? 何の職業になったんだ?
・・・なにいぃぃぃ! 「命の護り人」だとおぉぉぉ! それはあらゆる回復系と防御系スキルをまとめて覚えられるお得職業じゃねーか!
オレがアイツをサポートするために一番なりたかった職業じゃねえかあぁぁぁ! ちっくしょおぉぉぉーーー!
ヤバイ。オレの地位がヤバイ。マジでヤバイ。本当にヤバイ。ごっつヤバイ。えげつなくヤバイ。ウルトラスーパーミラクルやばい!
あああああ、めっちゃ喜んでやがる。それにアイツも大喜びするだろうな。いい戦闘時の補佐役ができたって・・・
何とかしなきゃ! 何とかしなきゃ! 何とかしなきゃ! 何とかしなきゃ! 何とかしなきゃ!
何としても早急にいびり倒して追い出さないとヤバイ。畑に生き埋めにして肥料にしないとヤバイ。ぶつぶつぶつ・・・



・・・そうだ。そんな荒っぽい真似をしなくても解決する方法がある。四人目をスカウトしてソイツとくっつければいいんだ
よし、決めたぞ。何とでも理由を付けて四人編成にするようにアイツに言おう。それで万事解決するはずだ!
オレは今夜に作るご馳走のメニューを考えながら喫茶室を出て、もう一人と一緒にアイツの待つ宿屋への帰路に就いた

22022-529 和と洋:2011/10/18(火) 20:36:22 ID:smGcIDv.
自分の親父は名門料亭の凄腕の板前だった。創業者の一人娘のお袋と結婚して自分が生まれた。名前は和(なごむ)だ
親父は料理人としては最高だったが、父親としては最悪な人間だった。とにかくどうしようもない女好きだった。
まず行きつけのラーメン屋の中国人店員に手を出した。腹違いの弟の中(あたる)ができた
次に懲りずにどうやって出会ったのかタイ人留学生とデキた。腹違いの弟の泰(やすし)ができた
親父はますます調子に乗った。今度は近所のカレー屋の夫と子供のいるインド人女性と不倫した。腹違いの弟の印(しるす)ができた
お袋は・・・親父に対抗するように不倫に走った。
まず行きつけの焼肉屋の韓国人店員と関係を持った。中絶という選択肢はお袋にはなかったようだ。種違いの弟の韓(かん)ができた
次にベトナムを旅行して現地の行きずりの男性と関係を持った。一度だけだったらしいが大当たり。種違いの弟の越(えつ)ができた
最後に出会い系サイトで出会ったトルコ人男性と関係を持った。これも見事に当たった。種違いの弟の土(つち)ができた
書いてて嫌になる。なんか横溝正史の小説の出来の悪いパクりみたいだ。この異様な七人兄弟が同じ屋根の下で暮らしている。
一番年上の自分が高校三年で、一番下の土が小学校一年生。非現実的な現実がここにある
父親は仕事と女に忙しく、母親は遊びと男に忙しく、ほとんど家には不在だ。自分としては居てくれなくて実に過ごしやすい
実は七人兄弟は凄く仲がいい。七人とも父親と母親の無責任で自己中心的な行動に振り回されたという意味で同志だ
このバカ両親に対抗するために兄弟で揉めている場合じゃない。ただし一つだけ団結が乱れることがある。それが食事だ。
自分は和食が大好きだ。中は中華好き。泰はタイ料理を食べたがり、印はカレー狂い。韓はキムチとゴマ油がないと怒り出す
越はいつもインスタントのフォーをすすっている。土は毎日のように屋台の羊肉のドルネケバブを買って来る
みんな味覚だけはナショナリストだ。家で出される食事に全員の希望を聞いてたら「会議は踊る。されど進まず」状態になる
七人で話し合ってある結論を出し、七人全員で両親に要求を出した。ネグレクト両親はあっさり承諾した
兄弟で要求したことはオレたちの飯を作ってくれる通いの洋食のシェフを雇うことだった。やってきたのは洋さん
パリ・ローマ・マドリード・モスクワを渡り歩いたという凄腕のシェフだ。昼間は料理教室の先生だ
夕食と夜食と翌朝分の朝食を作りに午後に来てくれる。いつも腰を抜かすくらいに美味しい
洋さんの父親は凄腕のフランス料理のシェフだったが、子供だった洋さんとお母さんを捨てて愛人と蒸発してしまったそうだ
その話を聞いたときは本当に吃驚仰天した。自分たちのために神が遣わしてくれた人としか思えなかった
洋さんには自分たちと自分の子供時代とがダブって見えるらしい。確かに洋さんから見ればそうかもしれない
いい臭いがするなあ。今日はビーフストロガノフかな。洋(よう)さんの作る煮込み系の料理は最高なんだよな・・・
洋さんは来年には自分の店を出す計画だそうだ。そうだよな。自分たちとしてはずーっと洋さんの料理を独占したいけどそうもいかない
自分は受験生だ。ずっと大学なんかどこでもいいと思っていたが、経営学を勉強できるところを目指すことに決めた
理由は・・・実現するなんて思ってないけど・・・ひょっとしたらサポートする機会もあるかもしれないじゃないか・・・
とにかく今は洋さんの料理に舌鼓を打とう。そして洋さんが用意してくれた夜食を食べながらしっかり勉強することにしよう

22122-169 硬貨で六角関係:2011/10/19(水) 12:02:14 ID:/Dw7NPBU
僕の名前は若木一(わかぎ・いち)といいます。このたび日本硬貨に新入社員としてやって参りました
いきなりこんなことを言うのもどうかと思いますが言います。好きな先輩が居ます。一年先輩の稲穂計五(いなほ・けいご)先輩です
実家は林業だそうです。なんか金色にピカピカしているようなオーラの見える素敵さです
僕にはライバルが居ます。常盤十郎(ときわ・じゅうろう)先輩です。京都出身。実家は平等院鳳凰堂の近くだそうです
もの凄いチャラ男です。日焼けサロン通いで冬でも銅線のような肌の色です。もちろん髪も真っ茶っ茶です
どうやらこの常盤のクソが稲穂先輩に手を出しているのです。稲穂先輩がアンアン言わされているみたいなんです
ひどいことに常盤のボケは二股をかけています。その二股のもう一人は五十嵐菊(いがらし・きく)先輩です
五十嵐先輩はとても気が弱い人のようです。本命さんが居るのに諸悪の根源の常盤に言い寄られてきっぱり拒絶できないようです
その本命さんは桜木百人(さくらぎ・ももひと)先輩です。仕事はできる人ですが、ちょっと鈍いところがあります
五十嵐先輩のピンチに気が付いていないようです。僕は桜木先輩との共闘を計画しています
そしてみんなを束ねるの上司が五百旗頭桐花(いおきべ・とうか)部長です。大柄で茫洋としていて懐の深い人です
そして僕になんかベタベタとします。ちょいとしたセクハラです。それに五百旗頭先輩には腐れ縁の本命さんがいるはずです
えーっと確か・・・ライバル会社の韓国硬貨の部長さんだったかな。双子のように似ていて間違えられることもあるみたいです
こんな日本硬貨ですが、そこそこ楽しくやってます。硬貨ユーザーの皆さん、今後とも日本硬貨をご愛顧ください

参考資料・日本の硬貨(wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E7%A1%AC%E8%B2%A8

22222-579 日韓友好1:2011/10/21(金) 06:17:38 ID:.smG8zT6
夕食を早食いして、洗面所でセミロングの髪を輪ゴムでポニーテールにまとめて、俺は家を出た
行き先は歩いて五分の距離にある築五十年の剣道場。十一月下旬。かなり寒い
短いが急な坂を上った先に旧式の電球型街灯に照らされた日本家屋が晩秋の夜に浮かび上がっている
黒船が浦賀に来航した嘉永六年生まれの俺から六代前のご先祖は、幕末の剣豪の生き残りたちから剣術を直伝された剣士だった
明治の終わり頃に土地を買って、後世に技を伝えるために剣道道場を開いた。数度の建て替えを経て道場は今に至る
実はこの道場の所有者は高校二年生の俺だ。自由に使えるという意味ではない。民法上、正式に俺の名義なのだ
前の所有者は道場開設のご先祖のひ孫、つまり俺の父方の祖父だ。その爺ちゃんが去年の春に急病で倒れた
爺ちゃんは死期が近いと思ったらしい。爺ちゃんの子供は一人娘の俺の母親だけ。娘婿の俺の父親は剣道には全く係わり合いがない
兄と妹が居るが、こちらも剣道に興味なし。ということで、爺ちゃん的には父親をスキップして俺が跡継ぎらしい
爺ちゃんは父親にもし権利が渡ったら道場を潰されて土地を駐車場にでもされかねないと思い込んだようだった
誰にも相談せずに司法書士に生前贈与の手続きを取らせて、土地と建物の名義を俺に変更してしまった
もちろんその後の我が家ははちょっとした修羅場になった。ちなみに爺ちゃんはすっかり治って前よりも元気だ
そんな爺ちゃん主催の剣道教室の練習のない日は、俺この道場を好きに使っていいことになっている
建物は平屋の日本家屋で板張りの床の広い剣道場が中央に位置し、付属する更衣室と給湯室、物置と十二畳の和室からなっていた
普段は全く使われていない和室を、俺は完全に自室にしていた。そこで静かに過ごすのが何よりも好きだった
道場に着いたらまず取り敢えず竹刀の素振りを一通りやろう。それをしないと気持ちが落ち着かない
終わったら給湯室でお茶を沸かして、冷蔵庫にしまってある水ようかんを食べよう。汗を流した後に食べる和菓子は最高だ
その後は昨日買った「月刊 碁ワールド」掲載の注目の棋譜を並べよう。俺は剣道と同じくらい囲碁が好きなんだ
俺はそういう想定で剣道上の入り口の引き戸を開けた。鍵がかかっているはずなのに・・・開きやがった・・・
玄関には黒いナイキのサッカーシューズが脱ぎっぱなしになっている。高校生にもなってきちんと靴を揃えて脱げんのか!
道場は暗かったが、和室はドアの下の隙間から光が漏れている。給湯室の電気もつけっ放しだ・・・嗚呼・・・
と、オレの到着に気付いたらしい。ドアが開いてドタドタと足音を立てながら走ってこちらに向かって来た
「せんぱーい! 遅かったねーっ! オレのこと愛しているなら放っておいたらダメじゃないかー!」
言いながらこちらに飛びついて来る。抱きつかれるとウザいので取り敢えず一発蹴りを入れた

22322-579 日韓友好2:2011/10/21(金) 06:18:26 ID:.smG8zT6
「何だよー。ひどいじゃないかー。こんなに愛しているのにー!」
大好きなご主人様に邪険気味に扱われつつも、尻尾を振ってさらに愛想を振りまく大型犬以外の何者でもない
この大型犬の名前はヨンという。韓国名も日本名もあるが、もう色々とウザくて面倒臭いので呼び方はヨンで統一している
父親は済州島出身の韓国人で母親は日本人。日韓ハーフで俺より一つ年下の高校一年生。生まれも育ちも日本だ
身長は167cm。俺より6cm低い。元々は俺の家の向かいのアパートに住んでいて、なぜだか俺に物凄くよく懐いた
幼稚園のときには俺のことをお嫁さんにすると喚き散らしたこともあった。あの頃はまだ無害でかわいかった
ヨンの小学校入学と同時に一家は転居した。距離は遠くなかったが学校が別々になったため、それからは会うこともなくなった
再会したのは今年の春。俺が通う高校はサッカーの強豪校で近隣からガチでサッカーをやる男子たちが集まって来る
その中の一人にこの大型犬は混じってやがった。それ以来、幼稚園以来の焼け木杭に火がついたのかなんかもう凄い
ちなみにポジションは予想通りフォワード。協調性がなくてやたら前に出たがるので監督からよく怒られるらしい
「いつものことだが何でウリがここに居るニダ」
「七時頃にここを通ったら、先輩の爺ちゃんが居た。挨拶したら入れてくれた。待つなら部屋で待ってなと言われた」
そう言えば家を出る前に爺ちゃんが何か言ってような気がする。それにしても爺ちゃん・・・何てことしてくれんだよ・・・
爺ちゃんは何だか分からないがこのヨンのことを妙に気に入っている。あーあ。静かな時間を過ごすのは絶対に無理だ
ヨンは今日もサッカー部丸出しの格好をしてやがる・・・上は韓国代表の2010年W杯のモデルの赤いレプリカユニだ
下のこの紫のサカパンは・・・こないだサカユニの薀蓄を垂れてきたときに聞いたな。確かサンフレッチェ広島の今年のモデルだ
あと赤と緑のソックスは・・・PORT・・・ああポルトガル代表のモデルか
しかしこの大型犬は着れれば何でもいいのか? もうちょっと組み合わせとか考えようよ。老婆心ながら思うぞ
それにもうそこそこ冷える時期なのに寒くないのか。せめてジャージを着るくらいすればいいのに・・・
なんて思いながらヨンの顔を見た。スポーツ刈りにつぶらな瞳で・・・よく見ると頬に茶色いものが付いている
その瞬間にこれから食べるはずの水ようかんがヨンの腹の仲に収まっていることを悟った俺は、ヨンにもう一発蹴りを入れた

22422-579 日韓友好3:2011/10/21(金) 06:19:27 ID:.smG8zT6
夜にこの部屋で二人きりになったら囲碁を打つことが多い。意外なことだがヨンは初段程度の碁打ちなのだ
小学生の頃に父親に無理に習わされたらしい。基本はバカだから大して強くない。注意力散漫だから簡単な読み抜けだらけだ
「謝依旻(台湾出身の女性囲碁棋士。凄く強い)よりちょっと弱いくらい」と棋力を自己申告されたときには爆笑した
ぶっちゃけ五段の俺と通常の手合いで打ったら勝負にならない。五子局(かなりのハンデ)くらいでやっといい勝負になる
普段はうるさいヨンが珍しく黙って考えている。さすがに寒くなってきたのか上に青い部活ジャージをはおっている
「もう投げろって。どう考えたってウリの黒の大石は助かりません。盤面で五十目以上の差ニダ」
「うるせー! これから神の一手を打って華麗に凌いで逆転すんだから! ぜってーぜってーぜってーひっくり返す」
ヨンのいつもの投了寸前時の逆転宣言を聞き流しつつ、お茶をすすって俺は何気なく上を見た
天井は限りなく黒に近い焦げ茶色。日本の近代史がのしかかっているような重厚な色合いだ
目を戻すとまだ考えている。だからもう無理だって。いつも形勢を悪くしてから考えるから駄目なんだよ
もう終わった碁なので盤面を見ても仕方ない。ふと何となく視線を右にやるとヨンの足が俺の目に入った
やっぱガチでサッカーやっている感じのする肉のつき方だ。サカパンからはみ出たアンダースパッツから伸びる腿はぶっとい
・・・俺は何をやっているんだ・・・男の下腹部から腿をマジマジと眺めて一体どうするんだ・・・いかんいかんいかん!
「チクショー! もう終わりだー!」
ヨンはいきなり叫ぶとアゲハマ(取って別にしておいた石)を乱暴な手つきで盤の中央に置いた。終わった。投了だ
「なんで、いっつも負けんだよー! ていうかさ、先輩が強すぎんだよ。オレは弱くない。うんうん。オレは弱くない」
言い終わると床に大の字になった。
「せんぱーい。眠いからこのまま寝ていい?」
「寝るな、大型犬。寝たらひどいことするぞ」
「えーっ、ひどいことってなんだよー」
「とにかくひどいことだ」
俺は碁石を碁笥にしまいながら考えた。俺とヨンの関係は何なんだろう? 単なる幼馴染でもないよな。友人とも違う気がする
週に何回か夜に会って碁を打ったりお菓子を食べたりしてまったりと男二人で過ごす関係・・・当てはまる言葉が思いつかない
ふと見るとヨンは寝息を立ててやがる。ああ、やっぱり寝やがった。囲碁の後はいつもヨンは眠り込んでしまう
きっと普段は脳の使わない部分を起動するから疲労困憊になるんだろう。本当に小学生みたいなヤツだ
しかし、こんなに無防備に眠りやがって。それになかなかかわいい寝顔してるじゃないか。俺が衆道家なら襲っちゃうぞ! なんてな・・・

22522-579 日韓友好4:2011/10/21(金) 06:20:28 ID:.smG8zT6
俺の頭のネジが飛んだ。理性というブレーキは飛んで行った。高二が欲情したときの瞬発力は凄いもんだ
ヨンの上に馬乗りになり無理やりにキスをした。ヨンは驚いて目を覚ました
「お前だって、こうなることを薄々分かっていたんだろう!」
「せっ! せんぱい・・・せんぱい・・・」
ヨンは俺の豹変の様子に呆然としているようで、そのせいで体から力が抜けて動けないようだった。
俺は口だけじゃなく顔中にキスし、その最中に思いついて、一旦行為を止めた。ヨンはこちらを何とも形容し難い表情で見ている
俺は脇に置いてあったヨンの部活用バッグの中を調べた。今日の部活で使ったと思われる少し泥の付いた練習着が入っている
やっぱりあった。白虎のエンブレムのついた韓国代表モデルのレプリカの白いサカパンと赤いソックス
俺はサンフレッチェモデルのサカパンとポルトガル代表モデルのソックスを脱がして、韓国代表モデルのレプリカを履かせた
俺の方も着ていたジーンズとトレーナーを脱いで、試合用の白の剣道着に黒い袴に着替えた
ヨンは逃げもせずにじーっとしていた。ヨンがどういうつもりかは分からないが、俺は今になって後には引けない
「ヨン! 俺はお前のことをこれから犯す。本気でやる。覚悟はいいな」
ヨンは微かに笑って承諾するかのように頷いた。これは試合ではなく死合だ。使っているのは竹刀ではなく真剣だ
その後のことは余り覚えていない。俺はヨンの上半身を舌で愛しまくり、太腿や脛を猫のように繰り返し甘噛みをした
一発目は右太腿から屹立したものを突っ込んで、履いたままのサカパンの中に放出した
自分でもよく分からないが、俺の液体で代表ユニを汚したいという感情が猛烈に湧き上がって来たからだ
そしてサカパンとアンダースパッツを脱がして露になったあそこを無理無理しごいて二人同時に逝った
最後は俺が後ろから征服し、今度も二人同時に逝った

取り返しの付かないことになった。俺はどう責任を取ればいいんだ! 混乱して訳が分からない・・・
あの後、ヨンは半泣きで道場から出て行った。朝になってヨンの携帯に電話を入れてみたが留守電だった
ヨンはガキだけども本当にいいヤツなんだ。それを俺は・・・自分がこんなに嗜虐的に振舞えるなんて思いもしなかった
それにしても自分の行動の意味がよく分からない。どうして俺はヨンにわざわざ韓国代表のユニを着せたんだ? 
それにこっちは剣士の正装に着替えて・・・やったことは一方的な強姦
俺はとにかく罪悪感と自己嫌悪の洪水に飲まれている。どうしてこうなってしまったんだ!
俺のしたことは犯罪だ。ヨンに告訴されれば少年院行きだな。それも仕方ない。俺が全て悪い・・・
俺はそのまま部屋から出れなかった。家にはここから学校に直接行くと嘘の電話をし、学校には風邪で休むと連絡した
そしてそのまま夕方になった。今日は運がいいことに丸一日道場使用予定が入ってなかった。
そろそろ家に戻ろう。ずっとこうしていることもできない。明日は午前中から剣道場は使われるはずだし・・・
「せんぱーい。こんばんわー! 昨日は水ようかん食べちゃってごめんねー。コンビニで買って来たよー」
え?
「オレはねー、ぶっちゃけ、いつかこうなりたいと思ったし、こうなると思ってたよー」
ええ?
「ただオレの思ってたより早かったし、とにかく急なことでびっくりしちゃってさー」
えええ?
「ムチャクチャされたけど、基本的に嬉しかったよ」
えええええええええ? 俺は部屋から猛ダッシュで玄関に出て今日はインテルのユニ姿のヨンに抱きついた
「だからさ、先輩が持っているこの道場の合鍵が欲しいんだー! オレが好きなときにこの部屋に来れるようにしたいの」
えええええ? それは調子に乗り過ぎだろう! でもまあいいか!

22622-589 140文字の恋:2011/10/22(土) 04:18:29 ID:vBwmg1h.
奴からメールが来た。


元気か?


たった4文字の素っ気ないメール。
……それだけなのに。
何で俺は、こんなに泣いているんだろう。
言いたい事は沢山ある。
聞きたい事も。
今は遥か異国の空にいるお前に……俺の想いは、どうすれば伝わるのだろうか。
まずは短くメールを返した。


お前を待ってても良いか?


と。

22722-609 インド人DK:2011/10/23(日) 22:57:53 ID:FYN8Wm.6
ドムの野郎だ・・・ドムが今朝も迎えに来やがった・・・毎朝のことながら実に欝だ
ドムというのは同級生のインド人だ。母ちゃんが日本人だから正確に言うと日印ハーフだ
ただ見た目は母ちゃんの遺伝子はどこに消えた状態の褐色の肌で高い鼻で真っ白い歯の完璧なインド人だ
オレが自宅の外に出ると象に乗って六人ほど御付きを従えたドムが居やがった
「ナマステー! おはようございまーす。今日も公信さんはきれいですねー」
ドムってのはあだ名だ。インド名がプラヤースと言って、向こうの言葉で努力という意味らしい
で、そこから日本名が努務(つとむ)。で、あだ名はドム。もうちっと親も考えて名前をつけてやればいいのにw
「もう迷惑だから来るなと言ってるだろ! せめて象は止めろ!」
「公信さん! 本当は嬉しいんでしょ。また照れちゃって」
「てめー! ぶちのめすぞ!」
オレたちが言い争いをしている間も象は脱糞して、従者さんが片付けている。お疲れさまです
でも今日は一学期の終業式の日だ。明日から夏休み。ドムともしばらく顔を合わせないで済む
「とにかくもう二度と来んなよ。迷惑だから」
オレはドムを置いて歩き出す。学校は徒歩三分の近場にある。ドムも後ろからついてくる
何でか知らんが高校に入学して三日目にいきなり大勢の同級生の見ている前でピンク色の蓮の花束を渡されて告白された
オレは唖然とするばかり。「公信さんほどかわいい人間を見たことがありません。一目惚れです」とか抜かしやがった
ドムは頭がおかしい。こんな身長163cmのちんちくりん高1のどこがかわいいんだか? ちなみにドムは180cmありやがる
確か父親の実家は偉い金持ちだとか言ってたな。御付きを連れているから相当な身分なのは分かるんだけどさ
そうこうしているうちに学校に着いて、始業式から通知表を貰って学校は終わった。やったー! 夏休みだ! 
オレはとっとと帰宅しようと校門を出た瞬間、脳天に衝撃が走った。目の前が真っ暗になり、意識を失った
・・・公信さん、公信さん、目を覚まして下さい!
目を覚ますと凄く豪華な部屋に居た。ここはどこだ。そして、なんで目の前にドムが居る?
「公信さん。これから二週間ゆっくり僕のハパの故郷のハイデラバードで楽しく過ごしましょうね」
「はあ?」
「ご両親には既に許可済みです。パスポートについてはパパの力で何とかしました」
ドムの言うことがよく分からない。・・・あれ、ここはどうも普通の部屋じゃねーな
オレが左右を見ると小さな窓がたくさん並んでいる。まさかと思いつつ窓の外を見たら・・・雲の上だった・・・
うわー! 飛行機だ! ドムに拉致られたあああ! 姉貴がよく読んでるアラブの王子が出てくる変な小説まんまの展開じゃねーかー!
ドムは満面の笑みを浮かべてこっちを見ている・・・あああああ・・・オレの人生と貞操オワタ!

22822-619 うたた寝:2011/10/27(木) 18:39:37 ID:uyTLBpkk
あぁ、腰が怠ぃ…。
よっこらしょ、と声を出した自分に苦笑しながら、縁側に腰を下ろす。
三十路の身体に一晩に3回はさすがにキツいか。
小春日和の日差しの中で中で、昨夜のことを振り返る。
「慎二さん、ね、もう一回だけ、いいでしょ?」
年下の恋人はとてもねだり上手だ。
可愛さにほだされてつい3回目もつき合ってしまった。
だって、しょうがねーよなあ。可愛いものは可愛いんだから。
「慎二さん、大好き!」
嬉しそうに抱きついてきた翔太の笑顔を思い出すと自然と頬が緩む。
今の俺、デレデレと締まりのない顔してんだろうな…。
そんなことを思いながら、日だまりの温もりに眠気を誘われて、
いつのまにかうとうとしはじめた。


バイトを終えて、弾む足取りで家へと急ぐ。
慎二さんは今日は仕事が休みで家にいるはずだ。
ただいまー!と元気よく玄関の扉を開ける。
「慎二さん、ただいま。……あれ、いないのかな?」
家の中はしんと静まりかえってる。
買い物に行っちゃったのかな?一緒に行きたかったのに……あ、いた!
縁側に座る恋人の姿に、少ししぼみかけた気持ちがまた膨らむ。
「慎二さん!」と呼びかけようとして、その声を飲み込んだ。
こくりこくりとと揺れてる頭に気づいたから。
起こさないように足音を忍ばせて傍に寄り、隣に腰を下ろして、
寝顔をそっと覗き込む。
いかついけれど優しい顔。
昨夜無理させちゃったよね。疲れさせちゃって、ごめんね。
そんな申し訳ない気持ちを覚えながらも、
慎二さんは寝顔も格好いいな…。
格好いいだけじゃなくて、エロくて可愛いんだよね。
自分に抱かれた年上の恋人が甘く喘いだ姿を思い出して、
どうしようもなく顔がにやける。
口許を緩めたまま、穏やかな寝顔を見つめていた。


かくん、と首が揺れた拍子に目が覚めた。
身体の右側がやけに暖かいと思ったら、
いつ帰ってきたのか翔太が肩に寄りかかって眠っている。
あぁ、やっぱり可愛いな、なんて思いながら見ていると、
長い睫毛が震えて、やがてぱちりと目が開いた。
「あれ、俺いつのまにか眠ってた?」
瞬きしながら首を傾げる年下の恋人に微笑みかける。
「今日はぽかぽかしててうたた寝日和だな。
 ……おかえり、翔太」
「ただいま、慎二さん」
にっこりと、輝くような笑みが返ってきた。

229眼鏡の僕系男子:2011/10/30(日) 00:50:45 ID:0LkIMSHA
語ってみる。

眼鏡をかけているので、目が悪い。普段は本を読むか、パソコン、スマホいじり。
一人称が僕なので、少し精神年齢が低め。プライドも高め。親からは溺愛されている一人っ子。
同級生からは嫌われ気味だが、プライドが高いが故に、馬鹿な奴らはどうでもいいなんて思っている。
社会にでたら、奴らと仕事をしなければならないのに、解っていないのが幼さの証拠。独断で受け認定。


合う攻めを考えてみる。

●いじめっ子タイプ…
弱みを握って体を要求するか、脅して無理やり関係を持つ。
体は手に入ったけど、心が手に入らないのでヤキモキする。
受けには嫌われる。体を開発しても嫌がられる。仕方ないので無理やりしてしまい、また嫌われるのループ。

●受けよりも能力のあるタイプ…
受けよりも成績が良く社交性もあり運動能力もある。
受けの劣等感を刺激するので、受けを挑発して関係に持ち込む。
「その年でセックスもしたことないの?」など。
遊び半分で関係を持ち、その事に気がついた受けが離れてみて、初めて自分の気持ちに気がつく。意外と鈍い。

●包容力のある年上タイプ…
彼の幼さが愛しくて、同情が愛に発展していくタイプ。
攻めに影響されて、受けも大人になっていく。
受けのわがままに振り回されがち。

●受けを一人前の男に育てるタイプ…
眼鏡を外させる。本は読ませない。スマホ没収。受けがシンデレラのように変身してしまうので、ライバルが増えて慌てる。


共通点
どんなタイプも基本的にS攻め。やっそん時に受けを泣かせるのが好き。

230国際会議:2011/11/03(木) 12:43:10 ID:JYAkR4D2
金髪碧眼アメリカ人×黒髪黒目日本人は良く見かける。
留学して右も左もわからない身長160cm未満の日本人を、ルームメートになったアメリカ人が美味しく頂く…有り得る。

日本人×アメリカ人の場合はどうだろう?
アメリカ人=ガタイが良いという日本人の発想から、なかなか王道となり難い。
ならば走るべきはショタか。
近所に住んでいる天使のような少年をパクリ。…いける。

生まれも育ちも日本、英語はからっきし。外国人相手に戸惑うアメリカ人と、知っててからかう日本留学中のイギリス人。
イギリス人×アメリカ人も素敵だろ?

アラブ人が攻めなのは何故か。金髪褐色肌はなかなかいないが、黒髪褐色肌の受けがいてもいいじゃないか。
海外出張でアラブに来た東洋人に一目惚れされる石油王受け萌え!

チャイニーズマフィア×ロシアンマフィア禿萌エス。
ジャパニーズ“GOKUDO”×ロシアンマフィア寺萌エス。
色白ロシア人総受けだろJK

いっそ太平洋×大西洋←インド洋とかどうよ?
ユーラシア大陸×オーストラリアとかめちゃくちゃ良くね?
地球まじ萌える。



『以上、本日午後に行われた801国際会議の模様をお送りしました』

「やはり最初は開催国である日本に重きを置く内容となりましたね」
「しかし、後半はおいてけぼりを感じますね。やはり日本は自己主張をしっかり行い、日本総攻めを強く押し出していくべきです」
「いや、日本は総攻めではなくバチカン市国×ツバルをイチオシカプとして…」

『続いてはお天気です。今夜の月は何組のやっそんを覗き見るんでしょうか。八百原さーん?』

231国際会議:2011/11/03(木) 19:53:02 ID:lH9Zg6fQ
801国際会議の会場の外では会議の開催に抗議するNGOらの集会が開かれていた
「801G6の日中米英露亜だけで801世界の全てを決めるな!」がスローガンだ

「我々ラテン系にも決定プロセス関与の機会を!」(仏伊西の801NGO)
「金髪碧眼のアングロサクソンは米英だけじゃない!」(豪加の801NGO)
「一大ジャンルにナチスものがあるのになぜ我々が参加できないんだ?」(独の801NGO)
「アメリカにはオレたちだっているんだ!」(ネイティブアメリカンの801NGO)
「南米を無視するな!」(メキシコ・ブラジル・アルゼンチンの反801貧困NGO)
「ムエタイ戦士だって凄くかわいいぞ!」(タイの801ムエタイの競技団体)
「オレたちだって石油王に負けず劣らずの金持ちだ!」(インドの801マハラジャの親睦団体)
「中東に住んでいるのはアラブ人だけじゃない!」(イラン・トルコの801イスラム組織)
「黒人が1人も居ないのは変じゃないか!」(ケニアの801人種差別撤廃運動団体)
「北海道を舞台にするならオレたちも出せ!」(801ウタリ協会)
「中国マフィアを一まとめにするな! 香港・上海・福建・東北の四派閥あるぞ!」(801マフィア研究家)
「大草原を駆け巡る雄大な801を作れ!」(モンゴルの801NGO)
「太平洋の海の男たちだって参加資格はあるぞ!」(ハワイの801NGO)

このように各々の立場でシュプレヒコールを上げていた
今回参加できなかった801団体もたくさんある
801国際社会はとても広い
今は会場の外に居ても次の会議で中に入っている団体もあるかもしれない
ほんの何年か前までアラブ人たちも会場の外でシュプレヒコールを上げていたのだから・・・

23222-709 ハーレム:2011/11/08(火) 20:44:47 ID:.q96r0rs
近所にテイクアウト専門の丼屋ができたらしい。話の種にオレは相方と一緒に行くことにした
店の前に着く。見ると客の若い女性比率が高い。丼専門店で女性が多いって珍しいなと思った
列の最後尾に並んで注文を決めようとオレたちは立て看板を見て唖然とした

「持ち帰り専門丼屋 ご飯総受けハーレム」
全品600円
攻増し(おかず増し)+100円
受増し(ご飯増し)+50円

アイヌ×日本=鮭フレーク丼
沖縄×日本=ゴーヤーチャンプルー丼
韓国×日本=豚キムチ丼
北京×日本=かに玉丼
上海×日本=豚角煮丼
広東×日本=チャーシュー丼
四川×日本=麻婆丼
台湾×日本=豚そぼろ高菜丼
モンゴル×日本=塩マトン丼
ベトナム×日本=豚ピーナッツ丼
タイ×日本=激辛豚そぼろ丼
マレーシア×日本=蒸し鶏丼
インドネシア×日本=サテ丼
ハワイ×日本=ロコモコ丼
バングラデシュ×日本=いわしカレー丼
北インド×日本=野菜カレー丼
南インド×日本=えびカレー丼
パキスタン×日本=チキンカレー丼
モルジブ×日本=鰹だしカレー丼
アフガニスタン×日本=マトントマト煮丼
アラブ×日本=マトンケバブ丼
トルコ×日本=牛ケバブ丼
エジプト×日本=コロッケ丼
ロシア×日本=ストロガノフ丼
デンマーク×日本=チーズ丼
ドイツ×日本=ソーセージ丼
イタリア×日本=いわしトマト煮丼
フランス×日本=クリーム煮丼
スペイン×日本=マヨネーズ丼
イギリス×日本=魚フライ丼

「・・・」
「ヘタリアの同人誌の読みすぎなんじゃないかな・・・ここの店主」
結局オレはタイ×日本を選び、相方はアフガニスタン×日本を選んだ
丼を買うだけでなんかオレたちはヘトヘトになってしまった
味はまあそこそこだったわw

23322-729 嘘つき×嘘つき:2011/11/12(土) 10:22:49 ID:4.TVwXIA
「きけ、マコト。いいか?俺がこれから言うことはウソだからな」

強張った表情の幼なじみの口から、そんな言葉が告げられた。
「…なにそれ、駆け引きのつもり?やめなよユイ、似合わない。君、不器用なんだからさ」
僕は読んでいた本で口元を隠した。ひどくいやな顔をしているに違いない、今の僕。
言われたユイは追い詰められたような表情で、ぐっと言葉を飲み込んだ。
昔からだ、すぐに黙り込む。そうして沈黙に耐えられない僕が、言葉で捲くし立てて君を傷つけて。
目の前に17年鎮座まします思いの丈には、二人とも気付かないふりで。

「ねぇ、ユイ。なんて言いたかったの?僕にさ。本音をぐちゃぐちゃにして、何を隠して、何を伝えたかったの?ユイ」
普段の底抜けに明るい姿とは似ても似つかない目の前のユイ。
「何を言いたかったの?僕に」
「………」
忌々しい。
性別、世間体、下らない恥ずかしさと、これまで大切にしてきたお互い以外のもの。君以外の全てが僕の足を引っ張る。
僕たちに嘘を吐かせるもの全てが、忌々しい。
「ユイ」
我ながら、ひどく優しい声をしている。
大切な幼なじみを追い詰めるには充分なほど。
「ユイ、何が怖いの。嘘をつかないでよ、ホントのことを言って、そしたら僕は…」

「…お前が、嫌いだ」
「………うそつき」
瞳が揺らいだ。

嘘吐きが泣いた。

234さよならのうた:2011/11/13(日) 08:38:37 ID:m/wViJgg
リロミスすみませんでした><こちらに投下します。

5/1 晴れ
最近君が「また会おう」と言わずに「さようなら」と言うようになったのを不安に感じる。
それに対して何を言うわけでもなく部屋を出る俺は、無力なのだと痛感する。
だが、きっとお医者様が治してくださるはずだと信じている。
くだらない事を考えるよりかは散歩でもして、彼に聞かせる話でも探そう。

5/2 曇り
朝にお見舞いに行き、昼には仕事をする。
仕事と偉そうに書いてはいるが、所詮文豪に憧れたしがない物書き。君のことが頭を離れず一文も書けない。
甲斐甲斐しくお世話をしてくれた書生に八つ当たりしてしまった。
出来もしない仕事などしても意味がないと、晩には俺が君に何を出来るかを考えた。何も思い浮かばなかった。

5/3 晴れ
朝一番に書生に頭を下げた。すると、頭を下げる必要などはないと焦った様に頭を上げることを促される。
しかし謝ったのは、八つ当たりしたまま彼に顔を見せられなかったからだ。そのことに自己嫌悪する。
彼には顔を見せて、しょうもない世間話をした。本当にこれでいいのだろうか?
漠然とした、薄気味の悪さに思わず閉口する。
5/4 雨
今日は彼に顔を見せていない。昨日の夜から、仕事をしていた時、お医者様に彼がもう長くないことを知らされた。
瞬時土下座をして、一日でも長く延命してくださいと叫んだ。
お医者様が去るまで何を言われても床につけていたので顔は見ていない。
年甲斐もなく泣きそうになった、たぶんきっと情けないようなものを見る目で見ていただろう。

5/5 晴れ
彼が私の家の庭を見たいと言った。安静にしていなくてはと思ったものの、昨日のお医者様の言葉が脳裏をよぎる。
気がつけば私は首を縦に振っており、彼を家にまで運ぶこと決意した。
お医者様にそのことを伝えると、半ば期待していた止める言葉をかけてくださらなかった。
彼の部屋に戻り、書簡をしたためている彼に「明日行こう」と伝えた。彼は筆を止めなかった。

5/6 晴れ
彼は庭の花をじっくり見ていた。
「9月に植えた石楠花と灯台躑躅がまだ開花していた。君が世話をしてくれたんだろう。安心した」
そう言った彼に私は微笑んだ。なんという贅沢な言葉だろう。
仕事に身が入らないということが、たまにはいい仕事をするもんだ。

5/7 快晴
彼が死んだ。手には手紙が握られていた。
見る勇気がない。お医者様も無理に見る必要はないと、手紙を読むこともなく私に手渡した。
死ぬ前に彼が何を思ったのか知るのが怖い。
震える手で、庭で茶を啜る。
5/8 朝:小雨
このままじゃいけないと決心して手紙を開いた。
「私は明日、庭を見る。篤志家な君がどのような庭を見ているかが想像できない。
もしも庭に花が咲いていたら、私が亡くなったあとも続けてほしい。
もしも何も生えないない庭ならば、居なくなった私だと思って何かを植えてほしい」

5/8 昼:霧雨
手紙を途中で読むのを止めた。
小説を受け取りに来た者が私の気も知れずに渡せ渡せと五月蝿いからだ。
完成していない旨を伝えると書け書けと五月蝿い。
書生が心配そうな目を向けるのを無視して小説を書き始める。

5/8 深夜:星空
小説を書き終えた。手紙の続きを読んだ。死ぬ前に書き足したであろう一文があった。
「清の庭を見た。もう怖くない」
庭に出て空を見た。
月と星空が共存する中に彼の姿を見た気がした。

23522-749生意気意地っ張りだけど世話焼きな年下攻め(受けにもタメ語):2011/11/15(火) 09:31:57 ID:RngBqtCo

「こんちわ、ナカさん?入るよ」
青年がそう声をかけ居間を覗き込むと、繋がった寝室から穏やかな声がする。
「やあカズくん。なに、またお見舞い?もう今週3度目じゃないか。しかも3日連続で」
ベッドに上体を起こしたまま、眼鏡の男が答える。
青年は下げてきた買い物袋をベッドの横に降ろすと、上着を脱いでベッドの周囲を片付けはじめた。
「…いいだろ別に。どうせ俺しか来ないんだから」
「そうだね、君しか来ないね。たかが足の小指の骨折だ」
青年が片付けた端から、男は青年の荷物を物色する。
「…もう来てやんねーぞ。てかそのカズくんはやめろって」
男のお目当てはスーパーの袋ではなく、小さめのトートバッグに入ったタッパーにあった。
「カズくんがダメなら、なんて呼ぶんだよ。お、かぼちゃか、いいね」
美味であろうことはわかりきっているが、だからこそひとつ味見をしたい。
迷わず一番大きい一切れを手にしようとしたところで、青年にタッパーを取り上げられる。
「つまむな、今用意するから」
「はーい」
やれやれ自分は幸せ者だな、と読みかけの新聞を手にすると、居間の奥にある台所から青年が戻って来た。
手には昼に男が食べたカップラーメンの空き容器があった。
「おい!またカップ麺なんか食って!煮付けどうしたんだよ冷凍の、渡しただろ!」
「あー、ジャンクなものが食べたかったんだよ、煮付けもちゃんと食べるよ。カズくんのおいしいごはんだもの」
「カズくんはやめろ」
「じゃあカズマ」
目を見据えてそう呼ぶと、青年は苛立ちと照れをあらわにして言葉に詰まってしまった。
「……」
「返事しないんじゃないか、相変わらず照れ屋だなぁ君は」
「うっさい」
「一真、そう冷たくしないで」
「あーもうわかったよ!いいよカズくんで!」
「なんだよ一人で、せわしいね君は」
青年は不服そうに台所へと向かった。黒のエプロンをかけた背中を、老眼鏡を外し見送る。
純情で正直な恋人をからかうのは、もう自分のライフワークかもしれないな、そう思うと笑みがこぼれた。

30分もしないうちに、食卓が整ったと青年が寝室へ来た。
肩をかりてベッドから降りる。数歩進むと夕餉の香りが鼻をくすぐった。
「幸せだなあ」
ぽつりと漏らすと、青年がびくりと反応した。表情が強張っている。
「…死ぬなよ?」
探るようにそう言われても、こればかりは約束が出来ない。
「うーん、死にたくはないなぁ。まだ君の成人式も見てないのに」
そう答えると、青年は「メシ、食おうか」と言って顔を背けた。

食卓へつくと先ほどのかぼちゃの煮物と、男の好物であるなめこの味噌汁が湯気を立てていた。
その他にも常備菜の切干大根など、青年の作ったオーソドックスな和食が並ぶ。
「美味しそうだねぇ、ありがとうカズくん。いただきます」
味噌汁をひと口飲み、「美味しい」と言うと、青年の顔がほころんだ。
「かぼちゃも食ってよ、ナカさん」
そう促され深い橙のかぼちゃに箸をつけた。
「あー美味しい、カズくん好き好き、すっごく好き」
男の軽い口調が気に食わないらしく、きらきらとほころんでいた青年の表情が見る間に少し不機嫌そうになる。
「いまのはカウントしねえ」
「これまで言ったの数えてるの?馬鹿だね」
「うっさいくたばれ」
「僕が死んだら泣くくせに。あー美味しい」
「泣くよばか」
思わぬ正直な言葉に顔を上げる。
頭の片隅でかぼちゃを味わいながら青年を見ると、出会った頃の幼い彼のままで、淋しそうな顔をしていた。
まだまだ子供か、頼りないな、そうしてたまらない愛しさがこみ上げてきた。
「…遺灰はエーゲ海に撒いてね」
「やだよ」
「そう言うなよ。あ、明日は天ぷらが食べたいな、舞茸の」
「明日は来ないからな、絶対来ないからな!」



236名無しさん:2011/11/18(金) 02:39:22 ID:p2O9tW9A
妄想を吐き出させて下さい。

親が遺した借金抱えて天涯孤独の受け。
長年の苦労ですっかり無気力状態、債権者の攻めに
「金がないなら身体で払って貰おうか」と言われても
「鉱山でも男娼宿でも放り込めば」と投げやりな態度。
「そんな所で働かせてもロクに返済出来ないうちに死なれそうだ」ということで、
受けは攻めの会社(とか店とか)で攻めの商売を手伝うことになる。
最初は半分死んだように働いてた受けだったが、攻めの容赦ない指導もあって徐々にやる気と才覚を見せ始める。
そうこうする間に互いに惹かれていくわけだけど、
攻めは「借金を楯にして受け容れさせても虚しいだけだ」と踏み出せないし、
受けは「借金返済で切れる縁なら深入りしたくない」と距離を置こうとする、って感じで、
債権者/債務者という立場のせいでなかなか進展しない。

そんな中、受けが己のアイデアなり機転なりですごい利益を叩き出し、
攻めは「これでお前も自由の身だ、これからは好きにすればいい」と借用書を焼いてしまう。
ここからは受けが「俺はあなたの傍にいるのが好きなんだ」と告白するもよし、
攻めが「自由になったんだから嫌なら断ってくれ」と仕掛けるもよし、
晴れて対等な立場で公私ともにベストパートナーになったらいい。

ベッタベタでも、まだるっこしい両片思いがジリジリ続くのが好きなんです

237236:2011/11/18(金) 02:41:56 ID:p2O9tW9A
すみません236は
22-779 債権者×債務者
です

23822-789東南アジアから来た天才少年:2011/11/19(土) 13:51:41 ID:z3XeLOE.
「『本格レッスンわずか2ヶ月で単独コンサート大成功の天才ピアニスト!ヌワン・パビ・ユエチャイくんの素顔にせまる!』
『脅威の音感、天才少年ユエチャイくん』『澄み切った音色から広がる美しい世界』『音楽の申し子・アジアから世界へ』だって。すごい記事ばっかりだな。見た?」
「みてない、ちゃんと読めない」
「お前婚約者が3人いることになってるけど」
「えー!?ホントに?…参ったなぁ、おっぱい大きいかなぁ」
「全然参ってないじゃん」
「でもホントに参った、昨日母さんに電話したら、妹が6人増えたって。いまうちオオジョタイ」
「受け入れちゃったのかよ、お前の母ちゃんもすごいな」
「まだしばらく帰れないみたいだからなぁ…チョト心配。じいちゃんも老い先短いし」
「ざっくりした日本語になっちゃってんぞ。…やめたい?」
「んーん、ピアノ好き、少しの、えーと流行り廃り?でも喜んで聴いてくれる人がいるのは嬉しいし、幸せなことだと思う、から。それに日本には、アキラがいるしね」
「……よせやい」
「エドッコ?ふふ。
でもホントに感謝してるんだよ、アキラにも、アキラのパパやママにも。昔僕にピアノを教えてくれたこと、友達になってくれたこと、たくさん優しくしてくれたこと、それから」
「ヌー、大変になったらすぐ言うんだぞ。強制送還してやるから」
「僕ミツニュウコクじゃないよー」
「はは、まーでもホント、もっと頼ってよ」
「うん、ありがとう。嬉しい。アキラは僕のキョウダイみたいなものだから」
「兄貴だろ、チョーカッコイイ。男前の」
「ちがう、男前はタカクラとワタナベ」
「ケンかよ!」
「あのね」
「うん?」
「時々思うんだ、嬉しいことや悲しいことがあったとき、アキラと僕が繋がってたら、どんなに幸せだろうって。
アキラの辛いことや悲しいことをわかってあげたいし、僕の嬉しいことでアキラにも喜んで欲しい。ホントに心が繋がって、僕たちが二人で一人だったら、そうしたら、アキラのこともヒトリジメできて…」
「ヌーって馬鹿?」
「なんで!」
「あのなあ、もう繋がってるっつーの、お前のことぐらい手に取るようにわかるぞ俺は」
「…そっか」
「信じてないだろ。ひとつ当ててやろうか」
「なに?」
「俺のこと好きだろ、超」
「…プレイボーイ」
「いなせと言え。それか色男」
「ちがう、それヒノショーヘイ」
「マジかー」
「でもホント、あたり。ピンポンだよ、アキラ好き、すごく好き。照れるけど。…愛してるんだ。ヘンかな?」
「月が綺麗ですねってか」
「まだごきげんようだよ?」
「テレビ好きだねお前」
「うん、でもアキラも好き」
「あれ、"も"なの?」
「ゴジュッポヒャッポ」
「えー?」
「倍ぐらい違う、アキラがヒャッポ」
「新解釈だな」
「…あのさ、……もしホントのホントのホントに辛いことがあってさ、シメンソカ?なって、僕が逃げ出したくなったらさ」
「攫っていいよ、お前の国に」
「……キスしていい?」
「こういうのはなー、きかないでするんだよ」
「愛してる。愛してる?」
「イェス,オフコース!」

「あ」
「?」
「今度あれ弾いてよ、エリーゼのために」
「いいけど…それしか知らないんでしょ」
「ばれたかー」

23922-849 貿易港そばのグラウンド 1/2:2011/11/27(日) 04:24:35 ID:PDDxumjc
忍法帳リセットされていたのでこっちに書きます。なんてこったorz



あの頃、港町は猥雑で、グラウンドの金網の向こうからは常に湿った風が吹き荒れていた。
グラウンドは四角に仕切られただけのただ広い空間で、古びたバスケットゴールがわびしげに佇んでいる。
幾つものネオンが港に瞬く頃、グラウンドで遊ぶ子どもらは段々とその姿を消していき、最後にはひとりの少年だけが残る。
少年は俺だ。唇を噛みしめている。
燃えるような夕日を、落ちてくる夕闇を、親の仇のように鋭く睨みつけている。

俺が宇宙人と出会ったのは、そんな繰り返しの日常の中だった。
無人のグラウンドに色濃く落ちた影に視線をうつして、俺はいつものように数を唱えている。
ゆっくり百まで数えたら家へ帰ることにしていた。
六十過ぎまで数えたころだったろうか、ふと背後から物音が聞こえた。はっとして振り返ると、ひとりの少年が怯えたように立ち竦んでいる。
年の頃は俺と同じくらいだが、見たこともないほど鮮やかな金色の髪が風に揺れていた。肌の色も発光したようにぼんやりと浮かび上がっている。
俺はすっかり目を奪われてしまって、お前はどこから来たんだと勢い込んで少年に問いただした。
少年はラムネのビー玉の色をした瞳を戸惑って瞬かせながら、金網の向こうの薄ぼけた闇を指差した。
そこにはただ、黒々とした海が横たわり、冷たくなっていく空が広がっているだけだった。
後から考えると、それは日本語の喋れない少年が、自分は異国からやってきたのだという意味のジェスチャーをしたに過ぎなかったのだが、
そのときの俺には彼が空を指しているように見えたのだった。
あいつは空からやってきた宇宙人。そのことを俺だけが知っていた。

実際そんな勘違いは彼が日本語を覚えるころにはすっかり解消されていたのだが、それでも俺にとってあいつは特別な友人だった。
誰もいなくなった後のグラウンドで二人で遊んだ。互いの母国語で冗談を教え合った。俺がもう数を数えることはなくなった。
貿易会社の社長子息である彼にどのような事情があって、遅くまで家に帰らなかったのかは知らない。
その関係は俺たちが中学に進学するまで続いた。

中学に入るとすぐに先輩が絡んできた。しつこく金をせびられて、余分な金はないと断ると生意気だと罵られた。
吐くまで腹を殴られたある日、お前のお袋は淫売だと言われたのでそいつの前歯を折った。
それからは散々袋叩きにされたが、一度も謝らなかった。誰も助けてくれないのはわかっていたので自分で頑張ることにした。
一本の腕を折られたら二本の腕を折った。鉄パイプで殴られたらその拳を叩き潰した。
お前の親父は屑のろくでなしだと言われたが、それは本当のことなので殴らなかった。
気が付いたら俺は一端の不良だった。だから街であいつとすれ違っても、もう声をかけることもしなかった。
あいつの視線が気遣わしげに俺を追っていることには、知らない振りをした。
晴れてあいつは違う世界の住人、宇宙人になったのだ。

今はもう、あいつはこの町にいない。地元の私立中学を卒業した後は生まれた国に帰ってしまった。
俺はといえば、高校へは行かず港にたくさんあるバーの給仕や用心棒をして糊口をしのいだ。
その頃母親は男と三度目の失踪をし、父親は酒をしこたま飲んである朝動かなくなった。
停滞した日常の中、気性の荒い船乗りや外国人に揉まれて腕っぷしだけが強くなっていった。
ときには強い酒で喉を潤し気安い女たちと戯れたけれど、それはそれでつまらないことだった。

24022-849 貿易港そばのグラウンド 2/2:2011/11/27(日) 04:25:26 ID:PDDxumjc
俺が今になってあいつのことを思い出すのは、彼が去り際に投げつけた言葉のせいなのだ。
あのとき、いつものように無視をして通り過ぎようとする俺の腕をあいつは痛いほど掴んで引き留めた。
「俺は国に帰らなくてはならない」
何かを確かめるように、あいつは慎重に言葉を紡いだ。
あいつの瞳は変わらずに綺麗なビー玉のままで、俺はおそらくそのせいで身じろぎもせず続きを待った。
けれどじっとあいつの瞳を見ていると、昔にはなかった意志の光が静かに宿っているのがわかった。その目で強く俺を見据えてあいつは言った。
「今の俺にはお前の側にいる力がないけれど、いつか俺が戻るまで待っていてくれないか」
「嫌だ」
考えるより先に言葉が口をついて出た。何らかの予感が心臓を突いて全身の血を熱くさせていた。
何かを言わなくてはならなかったが、それがなんなのかは自分でもわからなかった。だから拒絶した。
俺は嫌だ。もう一度はっきりと低い声で言うと、あいつを突き飛ばして俺は逃げた。

そしてこんな風に感傷的な気分になるのも、明日になったらあのグラウンドが立ち入り禁止になると聞いたからだ。
なんでも、どこぞの若い実業家が買い上げていったらしい。何に使うのかは知らないが、おそらくグラウンドは潰されてしまうのだろう。
正直心残りではあるけれど、それでなくてもここ数年この辺りでは開発が進んでいる。
海にほど近い寂れた土地が対象となるのは、どちらにせよ時間の問題だっただろう。
俺はふと思い立って、仕事前にグラウンドに足を向けることにした。

茜色に燃える空に、何の因果か大人になっても俺はひとりきりだった。
無人のグラウンドに立って目を閉じると、まぶたの裏に血のような赤が張り付いている。
宇宙人はいない。
外国人は行ってしまった。
約束は存在しない。
成長した俺だけがここに取り残されていた。
不意に、哀しみが暴れだす。どうしようもない寂しさが胸に突き刺さって痛む。俺は歯を食いしばり、ゆっくりと数を数え始める。
昔のように百まで数えたら俺は帰れるだろうか。
幾つまで数えた頃だろうか、俺の後ろから微かな物音が聞こえる。どうやら足音のようだが、俺は数えるのをやめない。
こんな時間にこんなところにやってくる酔狂な人間は、俺以外にいるはずがないからだ。
思わぬ幻聴のせいで数がわからなくなったので、とりあえず七十くらいから再開することにする。
だんだん足音が大きくなっているのはやはり気のせいなのだろうか。その歩幅は広く、成人男性のように思える。
だけどほら、もう足跡は止んだ。
しんと静まり返ったグラウンドで俺は百まで数え終わる。そしてもう逃げられなくなっておもむろに目を開ける。
眩しい光が目の中に流れ込んできた。
「……ただいま」
夕日をバックに、金髪の男が屈託なく笑っている。
俺は立ち竦んでいる。
お前なんでいるんだよとか、いくらなんでも成長しすぎだろうとか、言いたいことはたくさんあるのに、
どれもこの場にはふさわしくない気がして俺は口をつぐんでいる。
戸惑う俺に、あいつの手がまっすぐに差し出される。恐る恐る掴むと力強く握り返された。
俺は泣く。
嗚咽を噛み殺す。
失ったと思っていた大切なものが今日帰ってきたので、俺はまるで少年のように泣いてしまったのだった。

24122-869 1/2:2011/11/29(火) 20:24:39 ID:fM0mxOr2
すでに投下されてたのでこっちに




どんよりと曇った空の下、彼は黙って花を置いた。
栄華を誇った都市の、その面影が静かに風に吹かれて消えていく。
本当に何も残っていない。それを再確認して、彼の頬を涙が伝った。
故郷を捨てた。友を捨てた。愛した恋人すら捨てた。
そんな自分に涙する資格などないのだ思いながらも、落ちる雫を止めることもできなかった。

どれほど時間が経っただろうか。
彼は花に背を向け、歩いてきた道を戻り出した。
『もう帰るのかい?』
耳に響く優しい声。
たまらず振り返ると、そこには捨てたはずの恋人の姿があった。
最後に見た時と同じ、皮肉げな笑みを浮かべていた。
「…俺を、恨んでるだろう?」
やっとのことで絞り出した声は震えている。

『君はいつもそうだ。僕の言葉なんて聞かないんだから』
「そうだ、俺はいつもそうだった。だから、逃げ出したんだ」
すると恋人は、なんだかひどく優しい顔をした。
「やめろよ…そんな顔で見るな!罵れよ!臆病者って、二度とここにくるなって、罵れよ!」
『君は本当に馬鹿だなあ』
そう言って、くすりと笑う。

24222-869 2/2:2011/11/29(火) 20:25:21 ID:fM0mxOr2
『そんなこと、できるわけないじゃないか。僕は君が生きていてくれていることが嬉しいんだから』
「嘘だ!」
彼はその場に崩れ落ち、悲鳴じみた声で叫んだ。
「俺は…ここから逃げ出した!滅びることがわかってて、それでもなんとか食い止めようとするお前たちを見捨てて一人逃げたんだ!」

『今となっては、君の判断が正しかったんだ。あれこれ苦悩してみたものの、結局滅びは止められなかった』
それは、聞いたこともないほど優しい声音だった。
『君が自分を責める必要なんてないんだよ』
「俺を、恨んでないと?」
『そうだね…』
どこか遠くを見つめるような顔をして、恋人はつぶやく。
『恨んでるってことにしてもいいよ。だから…』
俯いた彼の頬に、細い指が伸ばされた。誘われるように顔を上げると、微笑む目に囚われる。
『たまには、みんなのために花でも持ってきて。それから、僕のことは忘れて、でも僕たちが滅んだことは覚えていて』
その言葉の意味を数秒考え、彼もまた笑った。
「お前らしい、無茶な注文だ」
『そう?』
悪戯っぽく首を傾げる恋人を見て、ただ頷く。
それを見届けると、恋人の姿はかき消えた。

再び誰もいなくなったその場所で、彼はつぶやく。
「誰が忘れるか」
そうして立ち上がり、また歩き出すと、
『君は本当に馬鹿だなあ』
そんな声が聞こえた気がした。

24322-879 昔の攻めの結婚前夜:2011/12/01(木) 15:00:13 ID:KhXHPikk
規制酷いんでこっちに書く




「悪ぃ、俺、ゲイじゃなかったみてーなんだわ」
そう言って合鍵を放り投げて去った彼から、見慣れぬ葉書が来た。
正しくは来ていた。僕が入院している間に。

なにが悪かったのか胃にデカイ穴が開いたので塞いできた。
久しぶりの我が家に帰ってたまりにたまった郵便物をチェックしていたとき、それはひらりと床へ落ちた。
眩しいくらいに真っ白で、黄色い花の絵に彩られた招待状。配達ミスかと思うほど、僕の部屋には似合わなかった。
上品な名前と並んで、彼の名前があった。
結婚式、披露宴と、おだやかじゃない文字が並ぶ。間がいいのか悪いのか、そこには明日の日付が書かれている。
過ぎたことならもう少し、平静を保っていられただろうに。

僕の勤めるバーに、客としてやってきたサラリーマン。
当時の彼女にフラれてヤケになった彼となあなあで関係を持ち、ほどなくして付き合った。
くたびれたスーツが色気を醸して、たまらなく大好きで。

自分の性的嗜好に悲観気味、かつ世間にビビってる僕みたいな暗いゲイに普通のサラリーマンなぞ勤まる訳もなく、だからこそ彼のスーツ姿が好きだった。安物の、汚れの目立たないグレーのスーツ、それに僕の買ったネクタイ。
ぶっきらぼうで、カラオケ好きで、セックスが雑で、僕の部屋に転がり込んでカーテンをヤニで染めた彼。
笑い上戸で、手が大きくて、故郷が好きな、二つ年上の彼。

彼が好きだった、病めるときも健やかなる時も、それ以外のどんな時だって。
誓うべき神は、いなかったけれど。

気が付いたときには、玄関にしゃがみ込んで泣いていた。
明日が晴れますように、そう言って葉書を破いた。

24422-879 昔の攻めの結婚前夜:2011/12/01(木) 21:11:59 ID:ZcsIa3fE
いよいよ明日だな。さすがのお前も緊張してるだろ?
結構経ったよな、あれから。そりゃ結婚の1つ2つくらいするわな。
それにしても、ここ2,3年でお前も随分丸くなったよなあ。あの人のおかげだな、確実に。
俺は、あの頃の抜き身の刀みたいなお前に魅入られたクチだけど――まあ、そんなことはともかく。
あんなにあったかい心と笑顔の持ち主はそうそう居ないぞ。
せっかく巡り会えたひとだ、絶対手放すんじゃねーぞ。
……言うまでもないことか。
お前は今も昔も、大事なものを大事にする所は変わってねーもんな。
バカな俺が、それを無碍にしてしまっただけで。
お前と居た時のことを思い返すと、感謝してもしきれないし……いくら後悔しても、しきれない。

白状するけど、俺はお前にずっと想われていたかった。
よく「死がふたりを分かつまで」って言うけど、それ以上のことを望んでしまってた。
俺がいなくなった後のお前を見てると、悲しくて、申し訳なくて……でも、少し嬉しかった。
傍に居なくても、自分がお前の中に在り続けられる気がして、
俺もお前も哀しみ続けることが分かち難い愛の証になるんだって、思い込んじまってた。
今思えば歪みまくってるよな、全く。
しかしまあ、時間の力っていうのはやっぱり大きいもんだな。
だんだんと、お前への気持ちはそのままに、そういう歪んだ喜びみたいなのだけが消えてった。
俺たちが過ごした日々ってもんの存在は絶対取り消せないし、そこから伸びる線の先に今のお前が居るんだって、
なんとなく納得できたんだと思う。
その頃にはお前もあの人と出逢って、少しずつ笑うようになってた。
あの人がいい意味で俺と正反対だったのも良かった。いや、奇特な人だよ、ほんと。
とにかく、いつの間にかお前の、お前たちの幸せを願える程度には、俺も気持ちの整理がついたってわけだ。

だめだ、このままだと明日までウダウダ居残っちまいそうだ。
いくらって思い切れたって言っても、いざお前たちの晴れ姿を見たらポルターガイストを起こさないとも限らない。
せっかくの式を台無しにしないうちに、そろそろあっちへいこうと思う。
最後に、これだけは言わせてくれ。
勝手に死んでごめん。あんだけ事故るなって言ってくれてたのに、約束破ってごめん。
俺にとってお前は、たった一人のひとだった。
もし生きていられたら、俺は、今もきっと――
いいや、続きは向こうで言うわ。気になっても、あと百年くらいは来るんじゃねーぞ?
じゃあ、そのときまで、またな

24522-879 昔の攻めの結婚前夜:2011/12/02(金) 12:02:36 ID:C9/ajx5w
 カレンダーを見るまでもなく、頭の中のカウントダウンは「結婚式まであと一日」を光らせていた。
 とうとう、明日が大輝の結婚式。
 おだやかな夕闇が窓に広がる。天気がいいといいんだが、このぶんなら大丈夫じゃないか。

 大輝は、学生時代の元彼だった。
 真性の俺と違って、当時からノンケだったのを強引に落とした。
 ガタイがよくて癒し系、優しい性格につけ込んだらあっさりいけた。
 半同棲に持ち込んでどこもかしこも相性バッチリ。一年も続いた、今でも忘れられないいい男だった。

「翔太はもてるから」
 だから、別れ話は意外だった。
 いつもと変わらない優しい目で俺に言う大輝の意図が、最初はさっぱりわからなかった。
「妬いちゃってる? 浮気疑ってる? 俺、大輝ひとすじだってば」
「その、他に誰かいるとか思ってるんじゃないよ、でも……俺……」
 浮気はしてなかった、本当に。友達は男も女もいっぱいいたけど、誰とも大輝が気にするような事実はない。
 つまり言いがかりだ、と思った。
「大輝こそ、最近仲良いよね、ゼミのさくらちゃんだっけ」
「……共同プロジェクトだから、普通に話したりはするよ、それも五人グループだし」
「俺のも、友達でしょ?」
「友達とは手を握ったり……キスしたりはしない」
 内心、ため息つく思いだった。大輝は固いのだ。
「やってないよ?」
「俺は、翔太だけが好きだった」
「俺も。大輝だけだよ」
 俺が飲み込んだため息を、大輝は我慢することなく吐き出した。
「……翔太みたいな人たちがそういう風だとはよく聞くけど、それなら、俺には無理なんだよ」

 大輝は、あっという間にお互いの部屋の荷物を一人で片付けて、あとは学内で会っても、電話をかけても無視だった。
 正直、こんな後味悪い別れ方は初めてだった。結構傷ついた。
 周りの友達がからかい半分、モーション半分であれこれちょっかいかけてきて、大輝が見たらなんて言うだろって
 期待したりした。
 大人しくしてればいつかまた、と思って、ちょこちょこメールを送り続けて半年、我ながら柄にもなくけなげじゃん。
 俺の誕生日に送ったメールに、たったひとこと「おめでとう」って返信が来た時は嬉しかったな。
 少しずつ、返信が増えて、会っても話すようになって、卒業をまたいでも学生時代の仲間で飲み会セッティングしたり。

 別れて三年、そろそろ、なんて思ってたところに降ってわいた大輝の結婚だった。
 ショックがなかったと言えば嘘。でも、気にするな、ドンマイドンマイ、って自分に言い聞かせた。
 結婚したって友人関係に影響はない。俺達は、今は男同士の友達なのだ。
 嫁さんにも、誰にも文句は言わせない。相手、どんな女か知らないけど。

 晩飯を考えつつ、一応送っとくか、とメールを打つ。
『いよいよ明日! 結婚おめでとう!』
 恥ずかしいほどキラキラにハートでデコって、ニヤニヤと送信ボタンを押した。
 珍しくすぐに返信が来た。
 大輝からの返信は早くて一時間、遅けりゃ来ないくらいなのに。
 いつもの、絵文字もなにもないそっけない文面が薄暗くなった部屋の中で光る。

『もう、メールも電話も受け取らない 今までありがとう』
 驚いた。大輝の話はいつも突然だ。
『なんで? 友達じゃん 絶交宣言? なんで?』
 すぐ送った。またすぐに返信が来た。
「うぬぼれかもしれないけど、結婚するんで翔太とはつきあえない』
『男同士だからいいじゃん? 友達でしょ?』
『俺は、本当に翔太のことが好きだった。だからつきあえない』
 好き、という文字が目に飛び込んできた。じゃあなんで?
 続いてすぐ次のメールが来る。馬鹿みたいな着信音をぶっちぎって確認する。読んでるうちに次の着信。
『もっと早くこのメールを送るべきだった。俺は、本気だった。翔太はそうじゃない。わかってほしい』
『好きだったから、離れられなかった。俺は卑怯だった』
『ありがとう。本当に大好きだった。これで最後になる』
 文の最後に、脈絡もなく唐突な赤いハートの絵文字。初めて見た……

 ぼんやり眺めていたら鼻がツーンとして、慌てて返信を作った。
『俺が好きならまたつきあおう』
 急いで打って、何もつけずに送信する。
 ──宛先がない。メールを拒否られた。きっと、電話もかからない。
 なんてひどいんだ。涙が流れた。何が悪かったんだ。どこで間違ったんだ。
 友達でいいじゃないか。大輝、ねぇ。
 泣きながら、俺は無意識になぐさめてくれる奴を探して携帯を握り……目をつぶって壁に投げた。

24622-900 なにその変な所で無駄にハイスペック:2011/12/04(日) 04:34:08 ID:0xTf9SwQ
いきなりで何だがオレの恋人兼バイト先のコンビニの同僚はネパール人の留学生だ
こんなこと言うのもアレだがスゲーイケメンだ
日本語もかなり達者だ。もちろん英語もできる。当然ながらネパール語も話せるからトライリンガルだ
よくよく考えればこれだけでもかなり高スペックだな
なんてことを考えながらレジを打っていた。今日は恋人と二人きりのシフトだ
まあわりと忙しい店だからいちゃついたりする暇はないんだけどね
と、なんか南アジア系の人たちが集団でやってきた。そしてレジのオレのところにきて何か聞いてきた
???
英語ではない。何だろう、この言葉は? オレは途方に暮れて硬直していた
そうしたら、別の仕事をしていた恋人がすぐに来てその客と会話した。無事に解決したようだ
「道を聞いてたみたいだよ」
「今のネパール人?」
「いやインド人よ」
「言葉は通じたの?」
「僕はヒンズーもいけるのよ」
と、今度は妙な民族衣装を着た人たちが入って来た・・・これは見覚えがあるぞ・・・
そうだ! こないだ来日したブータン国王が着ていた民族衣装だ
おいおい、こっちに向かってなんか話しかけて来たぞ! あわわわわ!
そうしたら、別の仕事をしていた恋人がすぐに来てその客と会話した。無事に解決したようだ
なんか今日は厄日だな。と、レジに並んでいたのは白人女性
あ、いらっしゃいませ! ・・・? おい、ここは日本だ。日本語で話せ。ドイツ語なんか知らん・・・
そうしたら、別の仕事をしていた恋人がすぐに来てその客と会話した。無事に解決したようだ

バイトを終えて帰宅後。夜のオレの家での寝室にて
「あれ、言わなかったっけ。僕インドの大学に行っていたからヒンズー語できるね」
「あっ・・・くっ・・・」
「それと日本に来る前にドイツに居たからドイツ語もできるね」
「はっ、はっ、はっ・・・」
「あと親戚にブータン人が居るからゾンカ語もオーケーよ」
「あっ・・・あーっ」
「今はコンビニの接客くらいしか使い道がないけどねw」
「・・・」
オレは恋人のハイスペックぶりを聞きながら逝き果てた

24722-899 雪の降る町降らない町 1/2:2011/12/04(日) 21:25:01 ID:VjLbMnlE
書いてたらお題から24時間経過しちゃったので、こちらに。


------------
ピッ
「もっしもーし!!オレオレ!わかる?」
『…詐欺なら間に合ってます』
「ちょw冷たいww」
『なんの用だ』
「んー?別に用事はないけど、どうしてるかなと思ってさ。元気?」
『ああ、特に変わりない』
「北の大地はどうよ?やっぱ寒いの?」
『いや、むしろ暖かい。建物の気密性もすごいし暖房器具も充実してるからな』
「へー、そうなんだ」
『あと、ゴ○ブリもいない。快適』
「寒がりで黒い悪魔の嫌いなお前にはぴったりの土地ですねw」
『沖縄のGはでかすぎる』
「まあね〜、こっちのは怪物級だよねww」
『そういえば、今日、雪が降った』
「雪!?マジで雪!?すげー!!!」
『積もったから、いま外は一面真っ白だ』
「えー!いいないいな!写メくれ写メ!」
『ああ、後で送るよ』

24822-899 雪の降る町降らない町 2/2:2011/12/04(日) 21:28:59 ID:VjLbMnlE
「やっぱ雨みたいに空から降るの?ふわっふわなの?」
『降り始めは、小さい欠片がヒラヒラ降る感じ。
そのあと塊みたいなのが、ボトボト空から落ちてきた。』
「はー、いいなぁ。やっぱ綺麗だった?」
『ああ。空を見上げたら、白い綿みたいなのが、はらはらはらはら降ってくるんだ。花びらみたいに軽そうなのに、身体にあたると張り付いて溶けて冷たくて重くて…なんか不思議な光景だった』
「いいな〜オレも見たいわ〜」
『…でも少し、物悲しくなるぞ?』
「はっはーん、つまりお前は雪が降るのを見て人恋しくなって、
俺に電話しようかしまいか携帯を握って考えていた結果、
さっき電話に出るのが異常に早かったわけか〜」
『…俺、お前のそういうところ嫌い』
「オレはお前のそういうとこも大好きよwww
も〜、距離が離れるんだから、寂しくなったらすぐ連絡しろって言ったデショ!」
『…雪のせいだと思ったから』
「関係ないさー、距離のせいでも雪のせいでも何のせいでも、まず電話!
そしたら俺が愛のパワーで寂しさとか不安とか吹っ飛ばしてやるから!」
『…うん』
「あ、そうそう。オレ、とうとうA判定出たよ!このまま頑張れば、来年にはそっちの大学行けるから!
…来年は、手つないで一緒に見ような!雪!」
『うん』

24922-899 雪の降る町降らない町:2011/12/04(日) 22:43:54 ID:J7MYJRIk
「雪が見てみたい」
『突然どうしたんです』
「此処は雪が降らない。私は文献の記述でしか、雪というものを知らない」
『そうなんですか。僕は知ってます。こちらではたくさん降りますからね』
「嫌味な奴だな」
『そんなつもりで言ったんじゃありませんよ。気に障ったのなら謝ります』
「雪とは冷たいものだそうだな。雨よりも冷たいのか」
『それはまあ、気温が低くないと雪にはなりませんからね。雪も雨も元は同じものです』
「お前の手よりも冷たいのか」
『さあ、どうでしょう。ああでも、僕が冷たいと感じるのだから、僕の手よりも冷たいのかも』
「そうか。まったく想像がつかん。お前の手より冷たいものなど存在するのか」
『それ、僕は喜んでいいんですか?それとも悲しむべき?』
「好きにしろ。……お前は雪が好きなんだな」
『は?』
「雪はお前よりも冷たいのだろう。お前は、お前より優れたものが好きだと前に言っていたではないか」
『これはまたえらく飛躍しましたね。冷たいというのは事実であって、僕の評価じゃありませんよ』
「雪を知らない私にとっては同じことだ」
『それに、雪が降るところには降るところの苦労がいろいろあるものです。
 それにしても意外ですね。そちらは雪が降らないのですか』
「当たり前だろう。雲の動きを考えろ」
『でも、そちらには何でもあるじゃないですか。無いものを探す方が難しいくらい』
「そんなことはない。此処には何もない」
『うーん、それはこちらに対する嫌味にならないんですかねえ』
「そんなつもりは無い。私は常日頃から感じていることを正直に言っている」
『貴方の正直さはいつも美しい』
「心が篭っていないな。お前はいつもそんな調子だ。だから信用ならん」
『その上で僕を愛して下さる貴方のことが、僕は大好きですよ』
「本当に空っぽだな、お前は」
『残念ながら、篭める心が無いもので。……それで?』
「なんだ」
『貴方は死ぬのですか?』
「……。なぜそうなる」
『急に雪が見たいと仰った。僕の手の冷たさを思って下さった。普段の貴方は、下界に関心など持たないでしょう』
「…………」
『僕は僕より優れたものが好きですが、それは僕と貴方が元は同じものだったからですよ。
 貴方は僕より優れていて、僕より温かくて、僕など比べ物にならないくらい正直で。でもそれだけだ』
「私が雨で、お前が雪か」
『そういうことです。だから、貴方の考えていることは分からなくても、感じているものは解ります。
 貴方とこんな風に話が出来るのは、僕をおいて他には居ない。自惚れの特権のようなものです』
「おめでたい奴だ」
『貴方が雪が見たいというのなら、僕が迎えに行きましょう。今すぐにでも』
「……お前と通じていることが同胞にバレた」
『ああ……それはそれは』
「此処にもはや私は不要だ。私は、否、我らは、死に染まった同胞を許すことはない。
 我らを堕落させる貴様らを、許すことはない。此処には何も無い。それが全て」
『いつ聞いても大袈裟な口上ですねえ』
「真実だ。私の評価ではない」
『僕らの仕事は真実と虚構を掻き混ぜる事なので真と否はさして重要では無い。
 初めてお会いしたときにそう言いましたよね。憶えていますか?』
「ああ、憶えている」
『貴方はもっと高望みしても良いと思いますよ』
「だからお前とこうして話をしているだろう。私の最後の我侭だ」
『それは光栄なことです。……雪、こちらでは今ちょうど降っていますよ。とても、とても静かです』
「そうか。羨ましいことだ。此処では太陽しか見えない」
『ああ、解けても良いから、あのとき貴方を攫えば良かった』

25022-909 滅亡する王朝の少年皇帝の最期:2011/12/05(月) 15:07:11 ID:rinx5Ew2
それを望んだのは、彼だった。
そうでなければ私のような者が、彼をこの手に抱くことなど無かっただろう。

病に侵され深い眠りに付くときに、私の歌を聞いていたいそうだと、皇帝の側近から告げられた。
正確には、私でなく私の母の歌だ。
母は若い頃、楽師としてこの宮中に出入りしていた。
琵琶の腕前では右に出るものはなく、当時の皇帝から名指しでお声をかけていただくほどであったと聞いた。
母がよく歌ってくれたのが、山向こうの遊牧民たちから聴き覚えた子守唄だった。
そんな母は舞楽の仲間達数名と共に他国へ向かい、道中山賊に殺されてしまった。だからもうこの子守唄を歌える者は私しか残っていない。
宮廷の下の下仕えである私が宮殿内へ入ることなど、あとにも先にも今だけだろう。
そうでなくともこの国は、もうすぐ幼き皇帝のものではなくなる。

先代皇帝が病に伏したとき、国は悪しき高官たちによって荒れに荒れた。
幼き皇帝が彼の側近によって守られ皇位を継承した頃には、もうこの国に未来は無く、人民の前には闇が広がるばかり。
それでも幼き皇帝は、民を愛し、国を愛した。
我々の考えなど遠く及ばないほどに深い慈悲でもって、この国には今ひとたび、ささやかではあるが幸せという名の灯がともったように思えた。国の最期へと向かう、穏やかな日々だった。
彼はその時既に、父と同じ病に侵された、自らの天命の限りを知っていたのだという。

彼は初めて会った私に、兄上、と声をかけた。
私が驚いていると、私の母をそれほどまでに慕っていたと教えてくれた。息子がいることを母から聞き、私に会いたかったとも。

私が促されるまま枕元に腰を下ろすと、手を握り、抱きかかえるよう言われた。絢爛な衣の上からも、やせた彼のか細さが伝わってくる。
私の目元が母にそっくりだと言って、柔らかな指先で私の睫毛を撫でた。
母の奏でる琵琶は風に似て、その声は旋風の中を舞う花弁の様であったと懐かしんでくれた。
それほどまでにおっしゃってくださることが恐れ多く、私はじわりと汗をかいた。
幼き皇帝は、金糸銀糸に彩られた袂で私の汗を拭い、消え入るように「歌って下さい」と言った。

母のしてくれたように体をゆっくりと揺らし、背中の手で拍子を取る。
幼き皇帝は期待感からか、私を見つめ子供のように笑った。
なぜだかは知らないが、私は本当に彼の兄であるような心地になり、彼がただ一人の少年であるような気になった。
馬鹿げたことだ、恐れ多いことだと思いながらも、私の目からは、溢れ出る涙が止まらなかった。
震える声で母を思い出しながら歌っていると、彼もまたうっとりと瞼を閉じ、私と同じ母を見ていた。

私の歌が終わる頃、彼は大きな役目を果たし、短い短い生涯を終えた。
出来うる限り人を愛し、あらん限りこの国に尽くした。
そうしてまたこの国も、長い長い、歴史を終えた。

今思えば、彼ほどにあの国を愛した者はいなかっただろうと思う。
いや、まだこの国と呼ぶべきか。
彼は短い生涯にあれだけの民を愛しながら、隣国へ私たちの未来を託した。
人民は誰も傷付く事なく、なにも失う事なく、国はやがて穏やかな村となった。
彼の功績は最後の皇帝がもたらした奇跡として語り継がれている。
今日もまた、村には風が吹き、花が舞うばかり。

25122-939 ツンデレ攻め×鬱受け:2011/12/08(木) 21:35:12 ID:6xMIQAUw
「五月」
「……なんだあんたか。なんか用」
「最近お前が閉じこもりがちだと聞いてな。様子を見に来た」
「別に。だりーから寝てるだけ」
「また五月病か」
「うるっさいなー…だるいもんは仕方ないでしょ」
「連休のときはあんなに元気だったじゃないか」
「あーもー…」
「確かに月初に連休があると中旬以降は辛いかもしれないが、土曜と日曜は
 普通にあるだろうが。六月と八月は祝日が全く無いのに元気にやっているぞ」
「あいつらと一緒にしないでくれる」
「なぜ」
「八月はほぼ夏休みだから元気で当たり前。能天気に遊んで休みのツケは九月に投げてさ。
 六月は結婚式だ披露宴だって他人の幸せ見てニコニコしてる偽善者で」
「捻くれた考え方をするな。八月はああ見えて盆の行事はきちんとやっているし、なんだかんだで宿題は終わらせる。
 六月は他人の幸せも心から祝福しているんだ。自分は雨男だからと、てるてる坊主で願掛けまでして」
「あー…そうだね。俺が最低なだけだわ」
「誰もそんなことは言ってないだろう」
「わかってるよ。皆が俺をうざいと思ってるって。あんたは特にそうだろ」
「何だと?」
「働けることに感謝しましょう、働く人に感謝しましょう…だっけ?立派だと思うよ本当に。
 だから、あんたから見たら俺はただやる気がなくてウダウダしてて、すげー腹立つんだろうなって」
「…………」
「俺のことなんて放っておいた方がいいんだ」
「本気でそう思ってるのか」
「そーだよ」
「俺達がお前を鬱陶しがっているだって?馬鹿も休み休み言え。そういうのは四月の領分だ」
「いいから。もう帰ってよ」
「俺が嫌いな奴の為に遠い距離を出向いてくると思うのか。一番遠いお前のところまで、わざわざ」
「帰れって」
「俺は、お前の作る柏餅が好きなんだがな」
「………」
「まあ、今日のところは帰るが。だがあまり閉じこもってるようなら、先生を連れてくるからな」
「脅しかよ」
「ああ、脅しだ。……また来る。ではな」


「知らねーよ…あんたの好みなんか……」

25223-9 原始人×サラリーマン:2011/12/11(日) 18:36:59 ID:jRHgUOkE
目が覚めると、そこは原始時代だった。
なんだ夢かと思って、もう一度寝ようとしたが、地面は石だし、
砂埃も凄いし、動物に襲われそうになったので慌てて逃げた。
俺は普通のサラリーマンである。
人と違う所はインドアで多少オタク趣味があるくらいだろうか。
だからこそ、こんな奇抜な設定でも冷静にいられるのかもしれない。
タイムスリップ漫画の知識を総動員して、とにかく現代に戻る方法を考える。
まずはここでの衣食住を確保しなければと思い、周辺を歩き、そのうちに川を見つけた。
木も生い茂っていて、身を隠す場もありそうだった。
俺はしばらくここで生活することにした。
川の水は綺麗だったので、思い切って口にした。現代の水よりも遙かにうまかった。
明かりは無かったから、日の出と共に起き、日の入りと共に寝た。
食べ物は木の実や、魚でなんとかなった。
こんな健康的な生活は何年ぶりだろう。
俺が生まれるべきだったのは、本当はこっちの世界だったんじゃないかとまで思い始めた。

川の下流に進むと、木をくりぬいただけの稚拙な作りだが、カヌーらしきものがあった。
文明らしきものを見いだして感動した。
言葉は通じないだろうけれど、
身振り手振りでコミュニケーションはどうにかなるかもしれない。
俺は一縷の望みをかけて人を探した。
人はいた。筋肉のついた色の黒い男だった。男は興奮していた。
見慣れない奴がいるのだから当然だろう。どうすれば落ち着くのだろうか。
興奮した男は、ひとしきり興奮した後、どこかに行ってしまった。
不振に思って仲間を連れてくるのかと思ったら、何故か食べ物らしきものを持ってきた。
肉である。しばらく食べられなかった肉である。
現代人の自分には到底手に入れることが出来なかった肉である。
さすがにギャート○ズの肉ではなかったが、今の俺にはごちそうに思えた。
これを食えと言っているように思えたので、恐る恐る口にした。うまい。
味はないが、空腹は最大の調味料。かつ、肉がしまっている。
夢中で食べていると後ろから男が抱きついてきた。
ああ、原始人って本能に素直なんだよなあ。
食欲が満たされたら、性欲かあ、などと冷静に分析している自分もいたが、
身の危険を感じて大慌てで離れようとする。
しかし、原始人にひ弱な現代人が勝てる訳がない。
獣のようにやられた後に、俺は男の仲間の所に連れて行かれた。
男はリーダー格の人間だったらしく、他の男に差し出されはしなかった。
彼らに現代人は色が白く、歯も白く、神秘的に見えたらしい。
俺は神のようにあがめたてられた。
そして今は骨で占いらしきことをしている。
男は惜しみなく俺に肉をくれる。その後は本能の赴くままだが。
俺の人生って本当にこれで良かったのかな。
まあ、いいけど。

25323-29 熱々あんかけ対決:2011/12/15(木) 11:36:21 ID:7kI6qjpc
「おい勝負だ!」
 あるアパートの一室で、今夜も料理対決のゴングが鳴る。
 お題は「あんかけ」。対戦するのは板前見習と大学生だ。

「店の片付けで疲れてない? 別の日でもいいんだよ」
「バーロー、お前に勝ち逃げされてたまるか! つか卒論抱えてるくせに余裕だなお前」
「真面目な学生だからね。はい、それじゃ大家さん審査よろしく」
「おんやまあ、今日もかい? 二人の料理を食べられるのは嬉しいねえ」
「ばーさん、審査は公平に頼むぜ」
「じゃあ、スタート!」

 ――奴の料理はあんかけ炒飯だった。
 玉子とネギだけのパラパラ炒飯に、エビのとろとろ熱々あんかけ。
 炒飯もあんかけもどっちも美味しいのに、まるっと全部一緒に食べると、咀嚼する度に小気味よい食感が味わえる。最初は炒飯のぱらぱら感とエビのぷりぷり感が歯に心地良く、咀嚼が進むにつれて双方の風味が渾然一体となって口の中に広がる。そして飲み込む時ののどごしを、あんかけが心地良くしている。
 はっきり言って奴の料理はうまい。天才だ。俺は胃袋を奴に掴まれていると言っていい。
 米の炊き方も包丁の握り方も知らなかった奴に料理のいろはを教えたのは俺だが、奴は瞬く間に上達して俺を飛び越していった。
 きっと料理人になったら沢山の人を幸せにできるだろうに、奴は元来の夢をかなえる為に故郷に戻って、可愛い嫁さんを貰って家業を継ぐ。
 俺じゃない誰かを幸せにするんだろう。
 それに苛立って、料理対決をしかけてる。
 ‥‥こんな風にじゃれあうのも、奴が大学を卒業するまでの事だ。


 ――彼の料理はあんかけうどんだった。
 人参の紅に絹さやの緑、大根の白、椎茸の黒、出汁の琥珀色が美しい。
 薄い色合いだから淡泊かと思いきや、出汁が利いている。それでいて濃すぎず、あんのとろみで味がまろやかになっていて、つるつると食べられる。
 難点があるとすればうどんのコシの弱さ――讃岐うどんに慣れた僕にとってコレはちょっと不満だけど、審査員の大家のおばあちゃんの歯が弱いのを考えてだろう。僕に作ってくれた時のうどんは、コシがしっかりしていたから。
 こういう気配りは、彼には敵わない。
 料理ができなくて弁当ばかりだった僕に暖かい料理を差し入れてくれて。
 さしすせそを知らない僕に料理を教えてくれた時も、口は悪いけれど褒める時はしっかり褒めて、駄目な時は叱って、だから迷わず楽しく料理に挑戦できた。
 彼のぶっきらぼうな優しさに、ずっと前から心臓を鷲づかみにされてる。
 故郷と家業への愛着が、揺らぐほどに。


 今夜の料理対決は彼の勝ちだった。
 大家の部屋を辞して、二人の部屋に戻る。
「次は来週だからな」
「また対決するんですか」
「お前が卒業するまでに星を五分に戻しておきたいんだよ。言っただろ、勝ち逃げは許さねぇって」
「その事ですが」
「ん?」
「君には言いそびれていましたが、僕、院に行くんですよ」
「‥‥つまり」
「だから、もう暫くお世話になります」
 そう言うと、彼は嬉しそうな顔で「さっさと言えよばかやろー!」と笑った。

254名無しさん:2011/12/15(木) 13:33:39 ID:z4b61Y7I
0以外253
最後の笑い顔が浮かぶようだったよ
爽やかかつ美味しそうなお話GJでした!

255名無しさん:2011/12/15(木) 13:34:11 ID:z4b61Y7I
間違えました…えろうすんませんorz

25623-49 付箋を貼る:2011/12/17(土) 16:07:02 ID:wWIlTno2
規制ひどいんでこっちに

授業中に、大事だと思うとこには付箋をつけろよ、と牧野先生が言ったので、すぐそこにあった後藤の左手に貼った。
訝しげな顔をして小声で、星くんなにすんの、と聞くので大事なものに貼るんだろと答えたら、びっくりしたのか付箋の貼られた手を高々とあげて牧野先生に怒られていた。
真っ赤になって俯く後藤にピンクの付箋がよく似合って、にやけていたら不機嫌そうに睨まれた。
そのあと僕は、付箋は顔に貼るものじゃない、と牧野先生に怒られた。
冤罪です先生。

25723-59 行き止まりでの出会い:2011/12/20(火) 21:55:54 ID:80bCOhIA
足が疲れて絡まりそうになる。走る。逃げる。走る。
路地裏に逃げ込んで、俺は先に進めなくなった。
追っ手の声がして、俺は今来た方向を振り返った。すると背中からドアの開く音がした。
「あ……」
ドアから出てきたのはゴミ袋を持った若いバーテンダーだった。
とまどっている男を問答無用で押し込み、俺は扉を閉め鍵をかける。
「え?ちょっと……」
「助かった。ありがとよ」
「てめえ!ふざけんじゃねえぞ!逃げ切れると思ってんのか!」
ドアを叩く音と蹴る音、罵詈雑言が聞こえたが無視する。
「出口はどっちだ?」
「……勝手に裏口から店に入って、注文もせずに出口をきくなんて横柄なお客様ですね」
「ああ、すまん。今はこれしか手持ちがないんで勘弁してくれ」
俺は財布から札束を取り出して男の胸元に押し付けた。だか男は受け取らない。
「もらう理由がありません」
「礼だ」
「もらえません」
「うるせえな。金はあって困るもんじゃねえだろ」
「私は今困ってます」
「俺は急いでるんだよ。その金で一番高いボトルでもいれとけ」
「それでも余ります」
「十本でも二十本でも入れられるだけ入れりゃいいだろ。じゃあな」
「あっ、待って!」
後ろで男がゴチャゴチャ言っていたがそれも無視した。
気がついたらパトカーの音がして、俺を追いかけてくる奴らはいなくなっていた。

数日後、俺は様子をみるためにその店へ軽く変装をして行った。
男は俺を見るとすぐに苦笑いをして
「ああ、この間の……」と言った。
「そんなにすぐわかるか?」
「名前も言わず何本もボトルを入れられるお客様は少ないので」
「そりゃそうだわな」
「ポチ様で入れておきました」
「ポチ……」
「もういらっしゃらないと思っておりましたので嬉しいですよ、ポチ様」
どうみても迷惑そうに愛想笑いを浮かべて男は言う。
「あの後、俺のオトモダチが来なかったか?」
「来てましたよ」
男はサラリと言うが、ただ来ただけではないだろう。
だが男は話題に出すのを拒否しているように思えた。
「そうか、すまなかったな」
「いえ、別に」
目の前にグラスが差し出される。
「どうぞ、ポチ様」
どうもポチ様で押し切られるらしい。
あの日、警察を呼んだのはお前だろ?
そう聞きたい気持ちもあったがやめた。
男はあの日の事を聞かず、オトモダチの事も聞かなかった。
お酒はどういうものがお好きなんですか?
何か一緒につまんだ方がいいですよ……
そんな風になんとなく続く緩やかな会話。
気がつけば予定の時間よりも長く店にいた。

「このペースだと何年かかるかわかりませんよ」
「何が?」
「うちに入れたボトルを空けるのが」
「ああ……」
もうこの店に来るつもりはないと薄々気がついているだろうに、男は俺にそんな事を言う。
「お待ちしています」
男はにっこりと笑って見送ってくれた。
最後にポチ様とつけるのを忘れずに。

25823-179 勇気を下さい!:2012/01/10(火) 10:00:17 ID:rTVrua6s
「お父さん!勇気くんを僕に下さい!絶対幸せにします、お願いします!」

目の前で必死に頭を下げる青年を、私は複雑な気持ちで見ていた。
それなりに真っ当に育ててきたつもりだった次男が、幼馴染である一也くんにもらわれていく。
二人を興奮気味に見守る妻と、ふすまの向こうにいるであろう長男。
男女男男男。本日はお日柄も良くお父さん息子さんを僕に下さい系土下座。
自分のいる空間の奇妙さに軽いめまいを覚えながら、一緒になって頭を下げている次男を見る。
いつの間にこんなに大きくなったのか。
小さい頃から泣き虫で、長男にけしかけられては色々と危ないことをさせられていた。
妻に似た切れ長の目元は、笑うたび綺麗に下がる。
二人が一緒にいるところは、昔から良く見かけた。
勇気の目尻は幸せそうに下がり、一也くんもまた、彼の家族皆がそうであるように口を大きくあけて笑っていた。
これから先の不安や問題など、問うだけ無駄なのだろうと二人の姿から思い知らされる。
「律儀な男だね、君も」
そう呟くと、場が一層静まり返る。
次の言葉に威厳はどのくらい必要かと悩みつつ、神妙な顔をする二人をもう少し困らせてやろうとも思う。
皆にとって一世一代のイベントだ。
私はおそらくラスボスという奴だろうから、夕飯のことでも考えて、難しい顔をしていよう。
祝い事だからやっぱり寿司か?
勇気はやっても穴子は譲らんぞ、息子達。

25923-249 かえりたい:2012/01/27(金) 23:40:42 ID:KsMLYn2w
ロクでもない人生でも、オレにはお前が居た。
ヒッソリと生きていたのに、どうしてだ?
あの日、今まで信じていた事が嘘となり世界が変貌し壊れていった。
お前と共に……。
幸せになりたい、全てをなかった事にしたい、なんて贅沢は言わない。
ただ、あの日に帰れるものなら帰りたい。
そうしたら、今度はお前の側に居るから。
たとえ何が起きても、お前の手を掴んで離さない。
お前1人だけに、つらい思いをさせない。
非力なオレだけど、お前の為に精一杯頑張るから。
どんなに酷い現実でも、一緒に受け入れるから。
だから、あの瞬間にかえりたい……。

26023-349:2012/02/02(木) 20:17:31 ID:gVYyMpGc
私が中学生の時、君は小学生だった。
今では考えられないくらいの弱虫で、泣き虫で、いじめられているところを班の年長の僕がよく庇った記憶がある。
縮こまりながら泣きじゃくる君を見て、守ってあげなきゃという気持ちになった。
私が高校生の時、君は中学生だった。
今では茶色く染められた長い髪が黒い短髪だったとき、君はサッカーに熱中していた。
ゴールめがけてボールとともに走る姿を僕はとてもかっこよく思った。
私が大学生の今、君は高校生だ。
守ってあげたいとか、かっこいいと思っていた僕を殴り殺したいくらい後悔させてくれる君は、毎日僕の実家に通ってくる。
そして毎日食後に妹のさやかの部屋に移動する。
幸い僕が実家に帰っている時にそういった声がしないからいいものの、もしソレに近い行動をしたのならぶっ殺してやると思うくらいには僕は妹想いだ。
そう、君は僕の庇護対象からも賞賛対象にもならず、妹に近づく下種野郎になってしまった。
妹は君には渡さない。君を妹にも渡さない。
妹の料理をおいしいおいしいと食べる君に、今度は僕が手料理を振舞ってやろうと心に誓った。

26123-359 日本刀1/2:2012/02/05(日) 01:45:13 ID:v.TLS2Xc
あの箱には決して触れてはいけない。
子供の頃、探険ごっこと称して、家の中を荒らし回ったことがある。
その遊びは和室の一部屋に隠すように置かれていた桐箱を手に取ったとき、祖父の一喝と共に終わることになった。
祖父は僕たちの悪戯を叱りつけながら、きつくきつく言い含めた。
あの箱には決して触れてはいけないよ、と。
次にその箱を目にすることになったのは高校生の時だった。
兄と何かの会話の弾みにふいと、昔見たあの箱を覚えているかという話になった。
一度思い出してしまえば中身が気になって仕方がない。
二人の記憶をすり合わせ、かつてと同じ場所にあった桐箱を引っぱり出した。
箱を閉じていた紐を解き、いざ蓋を開けてみれば中にあったのは一振りの日本刀だった。
電光を受けて黒光りする鞘。手に取るとずっしりと重い。
何故こんなものが家にあるのだろうと訝しがったが、
僕たちの目は初めて見る「道具」に恐れながらも惹かれていた。
おまえ、ちょっと抜いてみろよ。
兄の提案に逆らえず、少しだけ、柄を持つ手を引いた。
瞬間、ぎらりとした凶悪な光に僕は息を飲んだ。
ただの電光の照り返しとは思えないほどの異様な輝き。
それはどんなものよりも僕の目を焼いた。
――睨みつけられた。そう思った瞬間にばしんと強く障子が開け放たれた。
振り向いた僕たちが見たのは、その刀を抜いたのかと問う祖父の姿だった。
祖父は昔より強い調子で僕たちを叱り飛ばし、
これは妖刀だから決して鞘から抜いてはいけない、と告げた。
そして、もうこれのことは忘れてくれと、祈るような声でこぼした。
祖父が去り気まずい静寂が続く中、僕はただ、見たか?とだけ問うてみた。
兄は、何を?と返した。何を見たかは、答えられなかった。
突然の乱入に驚いた拍子で刀を鞘に納めたため、刀身を見たと祖父が知ることはついになかった。

26223-359 日本刀2/2:2012/02/05(日) 01:45:53 ID:v.TLS2Xc
数年経ち、僕は滑り止めの大学に辛うじて引っかかった。
あれ以来、楽しいものや美しいものに心を留めることもなくなった。上の空になることが増えた。
ただ、あの時の輝きを思い出すだけの数年だった。
妖刀とはこうやって人を惑わすものなのかとどこか感心しつつ、
この件に決着をつけなければならないと感じていた。
そのためには彼に――そうだ、本能的にあの刀が男であることを知っていた――
彼に、もう一度会う必要があった。
さすがに高校生のときの一件があったからか、例の桐箱はあの和室にはなかった。
しかし、僕は祖父の所有している離れの蔵があることを知っており、
そこへの忍び方も、昔の悪戯の経験から、これまた分かっていた。
今はもうたやすく思い出せる箱。今度は一人きりで紐を解く。
彼を持ちあげる手が震えて震えて仕方なかった。
力を込めてゆっくりと鞘から引きぬくと、月明かりを受けて刃の上を光が流れていく。
そうして現れた全身を目にした時、
僕は、彼が妖刀だということを忘れた。――刀であるということさえ頭から消し飛んだ。
彼の姿はほっそりと澄んだ鈍色をして、久しく忘れていた美への感動を思い出した。
あの時とは違う優しい目の輝きと、ただただ見つめ合っていた。
どれほど時が経ったか、不意に彼の先端が服の襟元に触れた。
そのままボタンをぷつぷつと弾けさせながら降りていき、彼の目の前に裸の胸が晒されることになった。
彼自身を握っているのは僕なのに、彼の動きに僕の意志は全く関与していない。
肌に触れる、冷たくぴりぴりとした指先。
喉仏や胸元を特に好んでくすぐっている。
こうして彼は人を愛してきたのだろう。触れられたところからじわじわと深い陶酔が広がっていく。
その胸を撫ぜた手は鳩尾を滑り、くっ、と腹の上で止まった。
お前を鞘にしてもいいのかと、決意を問われているのが分かった。
ここまで強引に事を進めておいて、何を今さらと笑う。
彼にされることならば何も怖くはない。与えられる全てを愛することができる。
手に力を込めて、受け入れる。


ぐわん、と脳が揺さぶられる感覚がし、数瞬遅れて頬の熱さと兄の姿を知覚した。
気づけば彼は既に僕の手の中にはなく、真っ赤な顔をした兄がぶるぶると震えるほど固く握りしめていた。
あのとき探険をしなければ、祖父の言いつけを守っていれば、刀を抜かせなければ、
俺が兄だから止めなければ、守らなければならなかったんだと、全てを悔いて泣いていた。
夢心地の中で聞いた兄の独白も、僕の何を変えることもなかった。
ただ彼を納めるはずの体の中心から、とうとうと血が流れ出ていくのを感じていた。


あれから祖父の手により彼は二度と僕の目に触れないようにと、どこか遠いところへ追いやられてしまった。
だけど僕は彼を探し求め、程なく彼を見つけることができるだろう。
なぜなら、腹の傷が今もうずいて呼んでいる。呼ばれている。

26323-399 中東情勢1/2:2012/02/11(土) 04:42:53 ID:Bvpshl.w
街は瀕死の状態だった。建物は全て壊れていた。生き残った壁らしきものは蜂の巣になっていた
きっと美しい街だったのだろう……一緒に回りたかった……涙がこぼれてきた
ガイドの運転する車は更地の前で止まった。ガイドは「ここが目的地だ」という意味のことを言った
オレは震える手足と高鳴る動悸と乾く口と色んな心身の緊張を感じながら意を決して車から降りた

マラークという名前はアラビア語で天使を意味する。マラークはオレにとってまさに天使だった
出会ったのは去年の夏のことだ。河川敷で大学の仲間とバーベキュー大会をしていた
飲んで泥酔したオレは正体不明になり川に真っ逆さまに転落してあっという間に流された
もうダメだと思ったが、対岸で釣りをしていた若い男性に助けられた。それがマラークだった
マラークは中東出身の23歳。留学生だ。元水泳選手で国家代表の候補になったことがあるそうだ
ちみなに留学は私費だそうだ。実家は向こうの観光地のホテル経営に関わっているお金持ちらしい
日本を留学先に選んだ理由は「YAOI」だそうだ。マラークはゲイだったのだ
中東ではゲイがゲイとして生きることはまず不可能だ。マラークは故郷から離れることを選んだ
そして「YAOI」のある日本なら自分でもゲイとして生きられると考えて留学先を選んだらしい
マラークは髭を生やしていない。アラブの男は基本的に髭を生やす。髭を生やさないとゲイ扱いされる
マラークは敢えて髭を生やしていないのだ。マラークの顔を見てつくづく思うのだが、アラブ人は白人だ
学問的にはゲルマンでもラテンでもスラブでもなくセムという系統の人たちだそうだが間違いない
イタリアのサッカー選手をさらに濃くて少しだけ東方の血を混ぜたような感じだ
そんなこんなでオレとマラークは恋仲になった。オレの方が明らかにマラークにのめり込んでいた

26423-399 中東情勢1/2:2012/02/11(土) 04:43:29 ID:Bvpshl.w
去年の年明けから中東は揺れに揺れた。マラークはとても情勢を心配していた。オレも心配だった
夜にマラークとの行為を終えた後にネットに繋いでは、BBCやアルジャジーラを見ては情報を集めた
その最中に今度は日本が揺れた。マラークは在日アラブ人のコネクションを駆使して募金を集めてくれた
日本と世界が異常に揺れた年にマラークの故国も民主化運動で大揺れだった
デモ隊に軍が発砲して死傷者多数という痛ましいニュースは連日のように伝えられた
デモ参加者の14歳の少年が軍から壮絶な拷問を受け見るも無残な遺体になったというニュース映像も見た
マラークの故郷は以前から宗教的マイノリティが多く居住する地域で反政府運動が盛んだった
そしてとうとう始まってしまった。政府は反政府運動を徹底的に殲滅するために街に空爆を始めた
街の住民=反逆者というスタンスで徹底的にやるようだった。国際社会は何もできなかった
マラークは帰国すると言い出した。オレは止めようと思いつつ止めなかった
止めることはできないと思ったし、止めてはいけないと思ったからだ
「親族の無事を確かめて安全地帯に脱出させて必ず戻ってくる」と笑いながらマラークは成田から飛び立った
オレはその笑いがオレに心配をかけまいと必死に作っているように見えた
そしてマラークにはもう二度と会えないような気がした。その予感は的中した
マラークは両親や妹たちと親族宅に身を寄せて脱出の機会を伺っていたが、そこに空から爆弾が降り注いだ
建物は一瞬にして全壊した。遺体はどれが誰かを判別するのが困難なほどに損壊していたという
マラークの留学していた大学から訃報を知らされたのはマラークの死から二ヶ月ほど経った後だった
現地は混乱の極みだっただっだろうから連絡が遅れたのも仕方ないだろう
マラークは大学側に「もし自分に何かあったらこの人に知らせて欲しい」とオレの連絡先を伝えていたそうだ

オレが今、立っているのはマターラの遺体が発見された場所だ。瓦礫は全て片付けられていた
乾いた風が通り抜ける。空は何事もなかったかのように雲ひとつない快晴だ
マラークの死後から程なくして突然に国際社会が軍事介入して独裁政権を無理矢理に倒してしまった
世襲の大統領が国外逃亡して政権が崩壊したその日はオレがマラークの死を知らされた日でもあった
混乱の中で犠牲者の遺体はまとめて大きな墓穴に埋葬された。その中にマラークの亡骸も含まれていたらしい
ここに来る前に献花を済まして来た。しかし、それが何だというのか? どうしようもない無力感に襲われていた
鳥のさえずりが聞こえて来た。きっとマラークも聞いた鳥のさえずりだろう
オレに何ができるか分からない……でも何とかしてこの国の再建のために一人の日本人として役に立ちたい……
オレは落涙した。涙は地面に落ち、あっという間に蒸発した。ガイドは何事かとオレを見つめていた

26523-409 殺したくないけど殺す:2012/02/12(日) 00:25:22 ID:OGPkB9hU
二月だというのに、暖かく晴れた日。
両親と兄と僕と、家族総出で食事に出かけた。
そこで顔を合わせた男性に、僕は息を飲むほど驚いく。
数年間、会いたかった人だった。
僕が初めて付き合った彼と別れて、飲み屋で泣きながら飲んでいた夜。
たまたま隣の席に座ったオジサンが、「生きてると嫌な事も泣きたい事も沢山あるな」と慰めてくれた。
クヨクヨするな、泣くな!といった励ましでも、我慢しなくていい、泣いてもいいんだと甘やかすでもない、自然体で慰めてくれて僕の気分は随分と楽になった。
もう一度会いたくてその店に通ったけど二度と会うことは無かったし、店長に聞いても初めての客だったらしく覚えてもいなかった。
その人が今、目の前に居る。
奥さんは五年前に病気で亡くされ、一人娘を男手一つで育ててきたそうだ。
知りたかった名前も、年も、住所も知る事が出来た。
けれど……。
芽生え始めていた僕の恋心は、押し止めなくてはならない。
好きというこの気持を、殺したくはないけど殺す。
何故なら、その人は僕の義姉となる人の父親だった。
僕と違ってちゃんと会社に勤めている真面目な兄と可愛いタイプの彼女は、きっと幸せな家庭を築くだろう。
この二人の為にも、結婚を喜び楽しみにしている僕の両親と彼女の父親の為にも、僕はほのかな片思いに終止符を打つことにした。
再会できた喜びよりも、失恋のにがい苦しみが心に広がっていった。

26623-419 まとも×電波(1/2):2012/02/13(月) 00:55:50 ID:moLg4026
血の臭いが嫌いだと言う。
だったらその場に留まっていないでさっさと離れれば良いと薦めたのだが
「そしたら血の臭いで僕だけ浮きだってデフレスパイラルだ。ストレスで血を吐く」
と返って来たので、それきりその提案はしないでいる。
血の色も服が汚れて目立つから嫌いだと言う。
その割にいつも白地のパーカーを着ていることを指摘すると
「服が白くないと僕は夜から出られなくなる。何も見えない。カラスは鳥目だから」
と返って来たので、服についてはもう何も言わないことにして、よく落ちる洗剤を買ってやった。
臭いが付いたり服が汚れたりするのが嫌なら、せめて返り血をなるべく浴びないようにしろ、
そんな忠告をしてみたところ
「努力してみる」
と素直に頷かれた。たまに会話が普通に成立する分、この男は厄介だ。

俺はビルの階段を昇っている。
一階でエレベータのボタンを押してみたが、案の定、無反応だった。
こんなに歩かせやがってあの野郎、と俺は心の中で悪態をつきながら目的地である七階まで辿り着く。
表向きは、ナントカいう横文字の小洒落た名前をした株式会社の事務所だ。裏向きには……なんだったか。
ドア脇の呼び鈴らしきものを押したが、やはり何の反応も無い。というか、鳴った手応えすらない。
ノックもしてみる。反応なし。
まあ、反応が無いことはわかりきっていることなのだが。
ゆっくりとドアを開ける。すると、咽返るような血の臭いが鼻に付いた。
これは誰だって嫌になるレベルだろうと、俺は毎回思う。
「また派手にやりやがって」
わざと大きめに声を張りながら、俺は注意深く、奴の姿を探す。
目の届く範囲には見当たらなかったので、奥の部屋へと進む。
その部屋の入り口で中をざっと見回して、俺は部屋の隅にあるロッカーに目を留めた。
床のものを踏まないようにしながら、俺はロッカーの前まで足を運ぶ。
そして、ノックをした。
「……入ってます」
数秒の後、ロッカーの内側からくぐもった声が返って来た。俺はため息をついて、その扉を開ける。
そこには白いパーカーを着た青年が、すっぽり収まっていた。
状況によって驚愕にも恐怖にも笑いにも転がりそうな、奇妙な光景。
俺は一瞬だけうんざりしたが、顔には出さない。
「入ってます」
ぼそぼそと同じセリフを繰り返しているが、俺は無視する。
「お前、前に自分は閉所恐怖症だって言ってなかったか」
男は俯けていた顔を少しだけ上げて俺を見た。
「閉じられているのは世界だ。だから僕はずっと閉じこもっている。物理的閉塞は意味が無い」
瞳の色は漆黒だが、その眼にカラーコンタクトが装着されていることを俺は知っている。
「わかったから、さっさとそこから出てこい」
言いながら俺は腕時計を確認する。
時間にはまだ余裕があるが、ここから離れるのが早いに越したことはない。
何より黒服を纏った『処理班』の連中とコイツを引き合わせるのは気が乗らない。
「ほら」
右手を差し出して促す。
男は俺の手をじっと見つめて、何を思ったのか己の右腕を凄い勢いで持ち上げた。
ひゅ、と空を切る音がして、俺の手首ギリギリにナイフの刃先が向けられる。
「おいこら」
みっともなく後ずさりしなかった自分を褒めてやりたい。

26723-419 まとも×電波(2/2):2012/02/13(月) 00:57:15 ID:moLg4026
男の右手には大振りなナイフが握られていて、その刃は血糊で酷く汚れていた。
一体、何人分の血だろうか。
このロッカーに至るまでに床に転がっていた死体の数をカウントしようかと考えて、やめた。
「テメエ、俺の手首も掻っ切るつもりか」
とりあえず睨みつけて凄んでみたが、男は少し首を傾げただけでまるで動じない。
「間違えた。太陽に届く方だった」
ぼそりと呟いて、ナイフを持っていない左腕をあげて、俺の右腕を掴む。
俺は大きくため息をついた。
ため息はコイツと話すときには重要な役割を果たす。これのお陰で、俺はいろいろなことを諦めることができる。
「まったく。少しは自分から動け」
そのまま軽く腕を引けば、男は抵抗もなくロッカーから出てくる。重みは殆ど感じない。
この華奢な男のどこに大の男を何人も殺し続ける体力があるのか、不思議でならない。
上の連中はどうやってコイツの才能に気がついたのか。

俺の心中に頓着した様子もなく、男はそのまま部屋の中を見回している。
その表情には明らかな嫌悪が浮かんでいた。
いつもはぼんやりと宙を彷徨っている目が、このときばかりは忙しなく左右に動く。
そして平坦な声色で――それでも彼にしては感情的に――吐き捨てる。
「血の臭いは嫌いだ」
「…………」
お前がやったんだろうとは、俺は言わない。
何も言わずに、パーカーのフードを立てて奴の頭に被せてやる。フードの内側は幸いにも白いままだ。
「行くぞ。黒服の連中と鉢合わせするのは御免だろ」
「服の色は大した問題じゃない。重要なのは明日をどう生きているか、そして夕飯のおかず」
「お前な。自分でテメエの服は白限定だとか言っておいてそれはないだろうが」
俺はさっさと出入り口へ向かって歩き出す。後ろで男がついてくる気配がした。

男の才能を見出した上層部に対して、俺は慧眼だと感服するべきなのかもしれない。
しかし、今のところは節穴だと罵倒したい気持ちの方が勝っている。
どこでこの男を拾ったのかは知らないが、なぜこうやって平然と抱え込んでいられるのか。
こんな、不安定な状態で常時安定しているような男を手駒として使おうなんて正気の沙汰じゃない。
そしてコイツのお守に俺をあてがっているその采配にも、俺は文句を言う権利がある。
しかし仮に俺が何を喚いたとしても、現状、その役目から解放される見込みはない。
もう一度、大きなため息をついた。
すると、俺の少し後ろを歩いていた男が、聞き取りづらい音量で
「ため息をつくと幸せが逃げてしまうよ」
と言ってくる。
俺は立ち止まって振り向く。フードに隠されて男の表情はよく見えない。
稀に、本当に稀にまともなことを言う。話が通じると錯覚してしまう。
そのお陰で俺は上に文句を言うタイミングを逃し続け、この男と縁を切れないでいる。

「……。帰ったらそれを洗濯をするぞ。お前は今度こそ大人しく風呂に入れ」
「重要なのはおやつ。そして洗剤はアルカリ性に限り、洗濯機は閉じた世界であるべきだ」
「心配しなくても蓋閉めないと安全装置で動かねえよ。いいからまず風呂。飯はそれからだ、いいな」
「わかった。努力する」

たまに会話が普通に成立する分、この男は厄介だ。

26823-469 妹が、お前のこと好きだって:2012/02/18(土) 13:38:05 ID:PdvG22iY
「お前彼女いんのか?」
「はっ?」
大学に入って、お世話になっていた叔母の家を出て一人暮らしを始めた。
いつまでも迷惑をかけられないと、両親の遺してくれた俺のための預金は学費を払うのには十分足りたし、バイトで生活費を稼げばなんとかやっていけるもんだった。
 理由はそれだけじゃないけど。
「なんだよ、急に来ていきなり……」
「いやーさすがに大学入ったらなあ。自ずと出来るもんじゃないのか?」
「圭さん、それ俺の友だちの前で言ったらぶっ飛ばされる」
「おっ? じゃあお前はいるのか?」
圭さんの頭の後ろに、わくわくという文字が浮かんで見える。そう輝かしい目で見つめられたってなあ。本当に、こっちはひとつもおもしくない。
「残念ながらいないよ。作る気もない」
「えー、マジかよ。若いのに有り余る性欲どこで発散すんのお前!」
「うるさいな! そんなこと言うためにわざわざ来たんですか」
圭さんが、んなわけないだろー、とニコニコと笑う。見慣れた笑顔。
見慣れすぎてちょっと鬱陶しいくらいだ。そう思うようになるくらい、このひとはいつだって笑っている。
「梨子がさ、お前出ていってからたまに寂しそうにしてんの」
「梨子? なんで?」
「お前がいないからだろ、単純に」
さっき俺が入れたコーヒーを、ティースプーンでくるくると混ぜながら圭さんは言った。カチャカチャと、無機質な音が未だ慣れないワンルームに響く。
「……それで」
「今度の休みに梨子に会ってやってよ」
 時々、というかここのところはほんど、圭さんはあのときのことを忘れてしまったのだろうか、と途方にくれる。
それにしたって、あのとき一瞬見せた驚きの表情は相当なものだと窺えたし、確かにあれから俺は何もアクションを起こさなかったけれど。
「圭さん」
「んー……、っうお」
あれは確か、俺が中学のときだった。あの頃に比べれば、俺は随分身長も伸びたし精神的にも大人になった。
けれど、あのとき一時の気の迷いだ、と一蹴された言葉は、未だにあのときと同じままの気持ちで口にすることしか出来ない。
「圭さん、好きだ」
「……お前なあ、だからって急に押し倒す奴がいるかよ」
ほらまた。そうやってしょうがないな、みたいな顔で笑う。眉を曲げて、頬を緩ませて、ありったけの情愛の籠った目で、俺を見つめる。
違うんだ、俺はそんな顔を向けてもらえるような、そんな綺麗な感情であんたを見てるんじゃない。
組敷いて、乱暴に足を開かせて、ぐちゃぐちゃに犯したい。泣かせてやりたい。
「……梨子には会わない。変に期待させたって、あいつのためにならない」
俺は、あんたみたいに生殺しみたいに、相手の気持ちを引きずらせたりなんてしない。そうしたら、何年だってその想いを引きずることになる。
「……何か言ってよ」
「ん、いや、お前も梨子も大事だからな、どうするのが一番なのかねって思って」
頭を撫でられて、その手のひらの大きさと暖かさに、大人の狡さを感じた。
俺は自分のことしか考えられないし、あんたしか欲しくない。

26923-479 最近もっぱら受けばっかやってる元攻め:2012/02/19(日) 04:07:42 ID:oMUugvhU
会話の、返事が不自然なものになる。
これ以上ないほど真っ赤な顔をして、ちらちらとこちらを見るくせに目が合うとぱっとそらす。
……分かりやすい。
歩み寄り、奴の座る柔らかなソファーの開いた空間に腰掛ける。
人ひとりの体重を受けて沈む音に全身を強張らせた奴の、その首に手を回せば、よりいっそう身が縮んだ。
顔を寄せ、キスをする。おどかさないように、掠めるだけの一回。確かめるためにもう一回。
何をするか想像はついてたろうに、呆然としている。
さらに一度キスをして、間抜けに開いた口に舌を潜り込ませた。
唾液をすすって舌を愛撫していくと互いの口から熱い吐息がこぼれる。
唇を離して甘く笑うと、眉は困ったように垂れ下がり、目にはどうしようもないやりきれなさを滲ませていた。
その情けないざまをいとおしく思いながら、片手で自分自身のシャツのボタンを外していく。
体を擦りつけ手を取って、奴の服にこすれた感触で勃った乳首に触れさせた。
歯を食いしばって、今にも死にそうな顔をしている。いつか見た表情。
こいつは自分が情欲を抱くこと自体が悪だとさえ思っている節がある。
俺がしたこれより凄いことも酷いことも、される立場なら戸惑いながらも笑って受け入れてさえしてたのに。

あの日、今にも死にそうな顔をして「お前を抱いてみたい」と言われたとき、
驚きや戸惑いよりもただ圧倒的な感慨が俺を襲い、迷うことなく承諾した。
だけど初体験なんてお互い上手くいかないもので、
俺は俺で生娘のようにぎこちなく、奴は奴で触れることさえいちいち許可をとろうとした。
終始、奴の顔は苦しさと負い目に縛られていて、それがひどく腹立たしかった。
いっぱしの意地が俺に誘いをかけさせた。「もう一度、お前に抱かれたい」と。
奴の自制心という名の傲慢さなんて吹き飛ばして、手加減なしで求めさせてやりたい。

だから、奴に抱かれるときはことさら放埓にふるまってみせる。
触られるままに声を上げ、体をよじり、
持てる全てを使って気持ちいいと、俺をお前の好きにしていいのだということを伝えてみせる。

「……すまない」

ついに漏れた、苦しさと負い目混じりの――それでも容赦がない声にぞくりとする。
ただ一言つぶやくのはこいつが全てを手放すサインだ。
俺の頭から小賢しい手管が吹き飛んでいく。
手をまわす。しがみつく。受け入れ、喘ぎ、食い締める。
そうして、溺れきった、必死な顔をして腰を揺するお前をかすむ意識の端で見て、ようやく俺は満足する。
俺だけが、求めているのかと思っていた。
人のいいお前はただそれに付き合ってくれているだけかもしれないと思った。
何もかも忘れたお前に思うさま求められることが、今の俺の喜びで、幸せなんだ。

27023-589一刀両断:2012/03/06(火) 20:34:34 ID:G/eRo5iI
否定型
「好きです、付き合って下さい!」
「俺とお前は男だろ」
「でも好きなんです!」
「考え直せ、まだ間に合うぞ」


設問型
「好きです、付き合って下さい!」
「まずは理由からだ、俺のどこが好きだ」
「潔さです」
「よしわかった、付き合おう」


天然型
「好きです、付き合って下さい!」
「分かった。どこにつき合えばいいんだ」
「僕の家に」
「よし、家に遅くなると連絡入れたからな」


肉食型
「好きです、付き合って下さい!」
「俺も好きだ、やらないか」
「アッー!」


草食型
「好きです、付き合って下さい!」
「俺も好きだ、でも友達からだ」
「じゃあ、交換日記から始めましょう」
「よしわかった、このノートから始めようか」


否定→肯定型
「あれから考え直しました。でもやっぱりまだ好きです、付き合って下さい!」
「何で俺なんだ」
「理由はありません、あなたがすきなんです、それだけです!」
「わかった、そこまでいうなら試しに付き合おうか」


結論
まとめて幸せになれ

27123-629 あなたさえ居なければ:2012/03/10(土) 18:22:09 ID:IoF7Ue7o
本スレにうまく書きこめないのでこちらに失礼します。
※ヤンデレ注意

恋に狂うのは、ひどく罪深いことだ。
あの人を見ているとそれがよくわかる。
あの人の相談を受け始めた当初、薄い恥じらいの表情が空気を幸せの色に染め、僕はその時間が大好きだった。
あの人が彼を手に入れてからも僕への相談は続いていたが、しばらくはただの惚気で、半分呆れながらも微笑ましく話を聞いていた。
いつからおかしくなったのだろう。
もしかして、あの人は、はじめからーー彼に恋をはじめた時からーーおかしかったのかもしれないと、今になって考えてみる。
僕には見えていなかっただけで。
あの人は彼のいろいろなものを奪っていった。
友人、家族、生活、時間。彼を監禁し始めたようだった。
僕への相談の時間が、赤黒い、苦しい色に染まるようになった。
僕はあの人が罪を犯しているのを知りながら、止めることが出来なかった。
あの人は苦しみながら、狂いながらも、幸せそうだったから。
事情が変わったのは、あの人が命を奪い始めたとき。
彼の可愛がっていたマンチカンを殺したのだという。
彼の膝の上に寝そべり、自分を見下す眼差しが憎かったのだと。
このままだと、あの人はいずれ人をも殺めてしまうかも知れない。
背筋が凍った。
僕は決意し、あの人が帰らない時間を見計らい、彼の許へと向かった。
彼は、思いのほか自由にされていた。
予想を裏切り、手枷や足枷はつけられていなかった。
しかし、理由はすぐに明らかになった。
彼は茫然自失の状態で座り込んでおり、目から光は失われていた。
憐れな彼の真ん中に僕は刃を突き入れ、僕ともども彼が赤く赤く染まるのを見ていた。

僕は我に返ると、判断を誤ったことに気がついた。
だって、あの人は僕を殺すだろう。
あの人を人殺しにしたくなかったから、彼さえいなくなればと思ったのだけれど……。
彼を殺した僕を、あの人が殺すのなら、結局、あの人は。


恋に狂うのは、ひどく罪深いことだ。
あの人を見ているとそれがよくわかる。
恋に狂ったあの人も、僕も、掌が、血に染まる。

27223-549 天秤座×水瓶座:2012/03/12(月) 22:32:40 ID:.6LZYHp2
「『獅子座のあなたは、頼られるのが大好きな親分肌!』」
「何そのファンシーな本」
「妹の本棚にあったやつ。『でも時にそれが見栄になっちゃうことも。力が足りないときは、認める勇気もたいせつ!』」
「わははいうこと割と容赦ないな。獅子座って誰かいるっけ?」
「あいつあいつ、児島」
「あー。あー、あー。」
「うん」
「いや児島基本的にはいい奴なんだよ?」
「うん、まあ、うん。 君何座だっけ」
「俺? 天秤座。なんてなんて」
「てんびん……『天秤座のあなたは、理知的でバランス感覚に優れた人!』」
「おおー」
「まんざらでもない顔」
「なんだよいいじゃん」
「『でも、優柔不断で八方美人になりがちなことも。好きな子には、気持ちをはっきり言わなきゃ伝わらないゾ!』」
「怒られた」
「『気持ちをはっきり言わなきゃ伝わらないゾ!』」
「なぜ2回」
「大事なことかなと」
「余計なお世話感やばい」
「ひどい。どこが八方美人だ」
「お前は九方向目なんじゃないの。……その本貸して」
「はい。俺水瓶座」
「だれがお前のところを見ると。
 ……『水瓶座のあなたは個性的! 誰とでも仲良くなれる公平さが魅力の人!』」
「なんだかんだ読んでくれる君が好きだよ」
「…………、……ありがとうよ。
 『でも、そのせいで好きな子とお友達の区別がつけづらいカモ? 好きな子を特別扱いしてあげて!』」
「ほう」
「『してあげて!』」
「あんまり自覚がないなあ。してるつもりなんだけど」
「……こうも書いてある。『納得できないとちょっぴり頑固になっちゃうこともあるから要☆注意!』」
「先回りされた」
「あなどれないな」
「ああ、でも相性いいんだって。90%だって」
「誰と誰が」
「……誰と誰がって」
「『はっきり言わなきゃ伝わらないゾ!』」
「…………。俺と、お前が」
「でもまあ、占いで相性なんて調べても所詮本人同士の」
「…………」
「蹴らないで。蹴らないで」
「『好きな子を特別扱いしてあげて!』」
「…………うん。好きな人といいって言われると嬉しいよね、占いだけどさ」
「だろ」
「うん」


「水瓶座と獅子座は相性30%だ」
「児島……」
「……いい奴だよ児島」
「八方美人め」

27323-549 天秤座×水瓶座:2012/03/12(月) 22:39:05 ID:.6LZYHp2
すいません失敗。

「先回りされた」
「あなどれないな」
「そこまで言われたら認めるしか」 << この行追加でお願いします。
「ああ、でも相性いいんだって。90%だって」

27423-689 枕返し(1/2):2012/03/23(金) 00:43:39 ID:nZxK1Rxo
「あれま、まだ起きてんのか」
深夜。能天気な声が頭上から聞こえてきて、僕は机の上の問題集から顔をあげた。
振り返ると、男が一人、まるで鉄棒にぶら下がっているかのように天井から釣り下がっている。
男の腕は天井を透過していて、その先の手までは見えない。天井裏の梁にでも掴まっているのだろうか。
ものすごく異様な光景だが、僕は動じない。もう慣れたからだ。
黙ったままの僕に痺れを切らしたのか、男は場の空気を取り繕うようににかっと笑った。
「いやはやどうも。なんかよーかい?」
「……それはこっちのセリフ」
僕は溜息をついた。
「いつから天井下りに転職したんだよ」
問えば、男は更に愉快そうに笑う。
「天井から下がれば天井下りだろうなんて、安直だねえ。奴らが聞いたら怒るよ?」
そう言って、両腕を上げたまま身体を大きく前後に揺らしたかと思うと
男は「えいっ」という掛け声と共に前方に飛び出して、空いていたベッドの上に着地した。
見た目にはそれなりの衝撃がありそうなのに、ベッドからは軋む音ひとつしない。
ふざけたようにポーズをとって「十点」などと呟いている男に向かって、僕は言葉を投げる。
「何しにきたんだよ」
「何って、俺が人様の家にあがる目的は一つでしょうよ。知ってる癖に」
笑いながら傍にあった枕に手を伸ばして、男はベッドに腰を下ろす。すぐ降りるつもりはないらしい。
「僕はまだ起きてるけど」
「いやあ、あんたいつもこの時間には寝てるからさ、ちょっくらご機嫌伺いにと思ったんだけどね」
へらへら笑う男は自分と同い年か少し上にしか見えないのに、喋り方は妙に老けている。
身に着けているのもあまり見かけない類の服で、強いて言えば作務衣に似ていた。
まだ夜中は肌寒いというのに、寒そうな様子はない。こっちはどてらを着込んでいるというのに。
(見てるこっちが寒い)
そんなことを思っていると、男は背筋を伸ばして僕の手元を窺うような仕草をした。
顔にニヤニヤとした笑みが浮かんでいる。
「けどあんたが夜更かしなんて珍しいな。なんだい、いやらしい本でも読んでるのかい」
「試験勉強中だ。邪魔しにきたのなら帰れ」
むっとして机に向き直ると、男が苦笑する気配がした。
「冗談だよ。本当にお前さんはこの手の冗談が通じないな。そういうところは弦一郎にそっくりだ」
弦一郎というのは祖父の名だ。この男は祖父の代からうちを訪れていたらしい。
一体いくつなのかという疑問は、随分前に通り過ぎた。
「もっとにこやかにならないとモテないよ。寡黙なんて今の世は流行りじゃないだろう」
「うるさい」
「けど真面目な話、夜更かしは身体に毒だよ」
その言葉に、男を横目で見る。

27523-689 枕返し(2/2):2012/03/23(金) 00:45:19 ID:nZxK1Rxo
彼はベッドの上で胡坐をかき、枕を両腕で抱きかかえていた。
先程の面白がるような笑みは消えていて、妙に真面目な表情をしている。
「勉学に励むのも結構だけど、身体壊しちゃ意味がないと、俺は思うけどねえ」
労わるような目をしているように見えるのは自分の気のせいだろうが、言っていることは至極正論だ。
試験前日の一夜漬けにも限度があることも、寝不足がマイナスに働くことも、自分が一番よくわかっている。
「……もう少しやったら寝るよ」
不承不承頷くと、男は殊勝な表情をすぐひっこめて「そうそう。こっちも商売あがったりだからね」と喜んだ。
そっちか。
「さてと、それじゃあ俺は一旦退散するとしますか」
僕がもう少しで就寝するとわかって満足したのか、男は丁寧に枕を元の位置に戻して立ち上がった。
ぴょんとベッドを飛び降りて、そのまますたすたと部屋のドアの方へ歩いていく。
「天井から帰るんじゃないのかよ」
予想外の動きに思わずそう訊くと、男はドアの手前でこちらを振り返った。
「せっかく来たし、たまには弦一郎に挨拶でもしようと思ってね」
「え」
「駄目?」
許しを請うように首を傾げたその顔に、僕は一瞬言葉に詰まる。
しかしすぐになんでもないように装って「別にいいけど」と答えることができた。
「ただし、父さんと母さんを起こさないでくれよ。もう寝てるんだから」
ぶっきらぼうにそう付け加えたのは、自分でも不思議なほど動揺していたのを隠すためだったが、
男は特に突っ込んではこない。
「ご安心を。人を起こすのは俺の本分じゃないさ」
ただそう言い残して、男はドアを開けることなく部屋から消えていった。
部屋がしんと静かになる。
僕は少し迷って、結局再び机に向き直った。だが、問題集の内容は頭に入ってこない。

さっき「駄目か」と訊いてきた男の顔は笑ってはいたが、その目は酷く寂しそうに見えた。
あれも自分の気のせいだろうか。それとも、本心からあんな表情を浮かべることがあるのだろうか。
人が寝ている間に枕元に現れて、枕を弄んで、気付かれないまま去っていく――そんな性分のやつでも。
祖父が亡くなってもうすぐ一年経つ。
あの男が自分の前に姿を見せるようになってからも、もうすぐ一年だ。
(あいつも寂しいとか、思うことあるのかな)

それから数十分後には、僕は勉強を切り上げてベッドに入ったのだが、
そんなことをぐるぐると考えてしまいなかなか寝付くことが出来ず。
結局、その夜『枕返し』は出なかった。


二日後の朝に、リベンジのごとく現れたことを知ることになるのだけど。

27623-719 異端審問官(1/2):2012/03/25(日) 16:07:47 ID:EIFbeL3M
個人的萌えワードだったので妄想を語る。
(※注意:宗教的な知識は殆どありません。非常に偏った・間違ったイメージです)

「教会」「信仰」「司教」「異教徒」「異端」「狂信者」が出てくるような世界観が好きだ。
また「諮問機関」「懲罰委員会」などの集団が出てきた日には単語だけでwktkする。
だから、「異端審問官」はそのどっちも兼ね備えている存在であると言える。
もうその響きからしてかっこいいよ!(※個人的に)

「異端審問」とは、異端者(異教徒)の疑いのある者と裁判にかけるシステムらしい。(wikiより)
よって、それを執り行う「異端審問官」をキャラクターとして考えると次のようなポイントがある。
----------
1.信仰心
 信仰の代理人として異端を取り締まる職に就いているのだから、勿論、自身の信仰は疑うべくも無い。
 よく言えば「信心深い」「忠誠心の塊」、悪く言えば「妄信的」「頑固」。
 何かを絶対の拠り所にしているキャラは簡単には揺らがず、厄介だ。
 相手によっては、それは狂気に似たものと映り畏怖の対象になるだろう。

 同胞相手だと穏やかで慈悲深くて優しいのに、異端と見なしたものには冷徹冷酷。だとギャップ萌え。

 また、忠誠の対象が「教え」そのものであるのか、4.で述べる上司などの「個人」までも含まれるかで
 そのキャラクター性に微妙な違いが出てくると思う。(心を許すような人がいるのかいないのか)
 それから、忠誠が強固だからこそ、それが揺らいだときの不安定さを思うとそれも萌える。

2.疑うのが仕事
 疑わしきものを罰するのが仕事なので、恨みを買うことが非常に多いと思われる。
 完全に黒ならまだしも、白に近い灰色を黒と断じて裁くこともあるかもしれない。
 己の役目を「信仰のため」と割り切って淡々と処理する冷静キャラでもよいし
 常に葛藤し、心の奥底に罪悪感や人間らしい悲しみを押し込めて仕事をしているパターンでもいい。

 それまで仲良く接してきた相手が「異端者」となってしまいそれを罰することになってしまうかもしれない。
 異端と見なしたとたんに白黒きっぱりと応対が変わり、相手がそれに驚き怯え絶望してもいいし
 相手に「どうして?」と問いながらも最後には自分で手を下してしまってもいいし
 異端者となった相手を「自分を裏切った」とある意味斜め上の解釈をして病んだ反応をしてもいい。

27723-719 異端審問官(2/2):2012/03/25(日) 16:08:49 ID:EIFbeL3M
3.戦闘能力
 「罰する」とは究極の場合、相手の命を奪うことだと思われる。
 日本の裁判のように相手が身動き取れない状態だと楽かもしれないがそんなことばかりではないだろう。
 つまり、戦闘能力が高い異端審問官キャラがいても不思議ではないのではないか。
 また、一所にとどまって日々仕事をする以外に、異端者の集う場所(例えば村一個とか)に赴く、
 いわゆる出張型の異端審問官がいてもおかしくない。
 その場合は一対多数、または数人対大多数になるので、並みの腕では返り討ちにあってしまう。
 
 ごっつい武器を持ち込んでもいいけど、暗器も捨てがたい。 
 一見温厚そうな男が、神父服(牧師服?)の下にナイフとか拳銃とか隠してたり
 携帯してる聖書の間から薄い剃刀的なものが仕込まれているとか、萌えませんか。

 自分の行う殺生と信仰心の折り合いをどうつけているのか、それは2.のように色々パターンがあると思う。

4.あくまで実働部隊、組織の一員
 異端審問官とは、異端審問の実働部隊に属する一員である。
 その組織の中でリーダー的な地位などは存在するだろうが、それでも異端審問官は全体のトップにはなりえない。
 つまり「上司」「指令をしてくる人間」がいるわけであるし、同じ仕事の同僚もいるだろうし
 同じ信仰者ながら、異端審問とは離れた職に就いているキャラもいる筈である。

 本人を理解してくれてた上で遣っている出来る上司、
 汚れ仕事だと異端審問官を忌み嫌い蔑んでいる同胞、
 仕事は認め合っているけどどうも性格の反りが合わない同僚、
 過酷な仕事を心配して辞めさせようとするも本人信仰の塊なんで言う事きかず、頭を痛めてるお節介。
 また、元異端審問官で現異端者という「逃亡者」的立ち位置のキャラもありえる。

 異端審問官という身分を知っている組織内の人間でこれだけ相手がいるので
 これに「組織云々には疎い一般市民」を加えると更にパターンが多くなるのでは。
---------- 
このように、一言に「異端審問官」と言ってもいろいろと妄想が広がると思いませんか。
また、今回は異端審問官を主に据えて考えたが、敵役としても立つキャラだと考えます。
寧ろ敵役・悪役の方が似合うのかもしれない。

以上。

27823-729 竜と人間1/2:2012/03/27(火) 12:42:33 ID:uDh3kQ7.
規制されて書き込めなかったので、ここに

*****************

私が傷だらけの彼を連れ帰ると、集落の誰もが顔をしかめた。

「そんなものを拾ってきて、どうするつもりだ」
「傷を癒して故郷に帰す」
「やめておけ。お前も知っているだろう、残忍で獰猛な一族だ。」
「しかし、このままでは死んでしまう」
「死なせておけばいい」
「それなら私たちの方が余程残忍だ。可哀想に、こんなに弱って……」
「いずれ息を吹き返せば、お前に牙を剥くぞ」
「構わない。見たところまだ子供だろう、小さな牙だ」
「奴らの成長は早い。姿を覚えれば、やがて力をつけて復讐に来る」
「それでも一匹だ。私たちの敵ではない」
「群れで攻めてくることだってある」
「しかし」
「村に災いが訪れた時、お前はその責任を取れるのか」
「……」

私が押し黙ると、彼は首をもたげて不安げな表情を私に向けた。
私と彼の間には言葉がない。
しかし、彼の潤んだ瞳を見れば、彼が今すがれる存在は本当に私だけなのだということを切実に痛感できた。
……大丈夫だ。そう言い聞かせたかったのは彼になのか、私になのかは分からない。
私が必ず彼を守る。きっとそれは、あの森の奥で、か細く助けを呼ぶ声を聞いたその時から決まっていた事だったのだ。

「仕方ない、それならば」

堅い決意をはらんだ私の声色に、集落の空気が刹那ざわついた。

「せめて彼の傷が癒えるまで、この村の離れで暮らすことを許してほしい。そして、彼の回復を待って……」

異様な空気に彼が怯え、体を私にぴたりと沿わせる。
私はその小さな頭に頬を寄せながら、残りの言葉を静かに吐いた。

「私はここを出ていく。そして彼が二度とこの村に足を踏み入れぬよう、この身をもって寿命の終わりを見届けよう。……先に私の寿命が尽きるのであれば、彼を殺してでも。」

27923-729 竜と人間2/2:2012/03/27(火) 12:44:42 ID:uDh3kQ7.
忽ち豪豪とした非難の嵐が私と彼を襲った。
ある者は目を剥き血管を浮かせ、ある者は私に襲いかかろうともした。
私の一族は代々その高い誇りが支えていた。その名折れとなる私の罪は、それほどの罵詈雑言をもってしてもなお購えなかったのだ。
しかし、村長だけはただ一人静かに目を瞑り、やがて口を開いた。

「魅入られたか」

その深長な響きに、あれほどざわついていた場が波が引くように静かになる。
村長は群衆に向き直ると、鎮痛な面持ちで述べた。

「もう彼に私たちの言葉は通じぬ。こうなってしまってはもう終わりなのだ。どれほどの罵倒も、どれほどの迫害も彼の意志を動かせぬ」

村長は私に振り返り、言葉を続けた。

「それが、その生き物の魔性なのだ。最早私は、お前を仲間とは思わぬ。傷が癒えるまでだと?甘い、今すぐここから出ていくがいい」

私は彼を抱えたまま、迷いなく踵を翻した。
だがその背中に投げ掛けられた言葉は、その後いつまでも耳に残り続けることとなった。

「ただ……それがお前だったのは残念だったよ」



彼の息はまだ浅い。そうだ、泉を探そう。そこで、薬草を摘もう。……この前足では上手に拾えないかもしれないけれど。
私たちは彼の一族のように涙を流すことができない。しかし、張り詰めるように引き結んだ眉間に何かを悟ったのだろう、彼は柔らかい薄橙の前足を私の頬に添えてくれた。

「……哀れんでくれるか。なら……」

あぁ、きっとこの言葉は彼には理解できないだろう。
しかし私はまるで先程の彼のように、一心にすがり求める存在だった。ただただ、救いが欲しかった。

「お前たちの一族がするように、愛や誓いの……印がほしい」

少しの沈黙の後、彼は小さい花びらのような唇を私につけた。

28023-739 ツンデレの逆襲 1/2:2012/03/30(金) 01:22:39 ID:/BiUw3/w
(同じく規制でした)


「受野さん、とうとう俺たちも卒業ですね」
「そうだな。これでお前との鬱陶しい毎日ともおさらばだ」
「何でそんなこと言うんですか!俺はこんなに受野さんが好きなのに」
「それが鬱陶しいって言ってるんだろ。言うにつけてはやれ『受野さん好きです』だの『受野さん愛してます』だの……」
「だって、本当に好きなんですよ。言ってるでしょ、入学式であなたを見た時から俺は」
「その話も聞き飽きた。何度お前に愛を囁かれてもだ、とにかく俺は……」
「受野さん……」
「……いや、いい。何にせよ、この話をするのも今日で最後だ。今日ここで、俺はお前との関係に蹴りをつけようと思う」

そう言って受野さんが指を鳴らすと、突如物陰から大勢の男達が現れた。
ラグビー部や柔道部で見た厳めしい顔や、逆に学校では滅多にお目にかかれないような筋金入りの不良までいる。
中でも背筋を震わせるのは、皆が皆俺を見ては嫌な笑みを浮かべたり、指を鳴らしたり、ポケットからナイフを出し入れしたりしているところだ。
遠くには、黒塗りの車で乗り付けてこちらを伺っている者もいる。
似たような情景を、俺はテレビや小説で見たことがあった。これは……『御礼参り』だ。

28123-739 ツンデレの逆襲 2/3:2012/03/30(金) 01:26:11 ID:/BiUw3/w
「はは、お前のような馬鹿でもさすがに察しがつくようだな。」

受野さんが、見たこともないような鋭い笑みを浮かべて呟いた。

「そうだよ、今日だけのためにこれ程の人数を集めたんだ。なぁ……いい加減理解できただろう。俺はな、お前が鬱陶しくて堪らなかったんだよ。」
「……それは……」

喉がカラカラに渇き、指先が冷えて震える。
今すぐにでも膝をついてしまいそうな絶望は、果たして自分が私刑を受ける恐怖からか、それとも此ほどまでに受野さんに嫌われていた現実からだろうか。

「これでようやく言えるよ。攻山、本当はな……」

不良の一人がナイフを構えるのが、目の端に映る。
受野さんはゆっくりと息を吸い、叫んだ。


「俺の方がずっと好きだったよ!!」


……え?
固まる俺。
崩れ落ちる膝。
歓声が上がる暴漢の群れ。

狂喜乱舞の騒ぎの中、当の受野さんは耳まで真っ赤になりながらなおも言葉を続けた。

「それが何だ!お前は口を開けば好きです愛してますと!鬱陶しい、まるでお前の方がずっと俺を好きみたいじゃないか!そんな事は断じてなかったのにだ!」
「鬱陶しかったよ!最高に鬱陶しかった!俺の気も知らず遠慮もなしに気持ちを伝えてくるその不躾さも!その割にいつまでも敬語で話しかけてくる腰の低さも!……いつまで経っても名前で呼んでくれない余所余所しさも……」

そこまで言うと受野さんは少し涙声になり、ぐすりと鼻を鳴らした。
すると、受野さんの後ろに控えていた屈曲な男達は急に静かになり、小声で「がんばって!」「もうちょっと!」などと応援し始めた。……まさか、この男達は御礼参りのために呼ばれたのではなく……

28223-739 ツンデレの逆襲 3/3:2012/03/30(金) 01:32:58 ID:/BiUw3/w
「いいか!俺は今日でこんな毎日とはおさらばする!攻山、俺と……付き合え!」

目の前には、ただ男らしく突き出された受野さんの手のひらがあった。
地べたにへたりこみ未だ呆然としたままだった俺は、その手の上に操られたように自分の手を載せる。
途端、今度こそと言わんばかりに校舎を割るような雄々しい歓声が上がった。

「受野先輩おめでとうございます!」
「受野くん、よかったねぇ!」
「これで俺たち『受野・攻山を見守る会』もようやく本懐を遂げられるよ!」
「受野さんったら最後の最後で俺たちに『ついて来てほしい』なんて言うんだもんなぁ」
「可愛いよなぁ全く」
「受野さん、車のトランクにケーキ積んできましたよ!」
「じゃあ早速ケーキ入刀ですね!」
「スンマセン、こんなちっさいナイフしか用意できませんでしたが……」
「俺、ピアノ弾きますね!」

真っ赤な受野さんと真っ白な俺とを残して、『受野・攻山を祝福する会』の垂れ幕が盛大に掲げられる。
たまらず突進してきた男達の群れに揉まれ、受野さんと二人高々と胴上げされながら、俺はこの先の……幸せで、そして予想以上に騒々しいであろう日常に思いを馳せたのだった。

28323-819 朴訥無口×わかりにくくデレる俺様 1:2012/04/11(水) 01:02:04 ID:7J7MKBtU
規制にひっかかりましたのでこちらで書かせていただきます。



「この小説って実体験が元になってんの?」
「あ、いや、違う・・・」
「ふーん。お前も兄貴亡くしてるだろ?この辺のカズヒコの喪失感って自分で感じたことじゃねーんだ」
「違うけど、その時の担当さんも少し私小説ぽいって・・・」
「やっぱ言われたのか。つか私小説でよく賞もらえたな」
「その後の展開、俺と全然違うから…」
「確かに、年齢誤魔化して夜働くタイプじゃないもんな。じゃあそんな見当違い言われてムカつかなかったのか?」
「・・・少し、似せた自覚あったし」
「兄貴のことくらいだろ?今の編集の・・・児島さん?お前の意向とかちゃんと汲めてんの?てかお前そんな言葉ったらずで
 よく小説家なんてなれたと思うわ。賞までもらってそこそこ売れて、この度めでたく処女作が映画になって、幸運残ってんの?」
「どうだろう・・・」
「まあ、俺と付き合ってる時点で幸運を超えた奇跡を手にしてるか。いざとなったら
 贅沢のぜの字も知らない田舎ものの引きこもり一人くらい俺が養ってやるから感謝してヒモになれよな」
「あ、ありがとう」

『―鯨幕に風花が散り、桜のようだと学生服の参列者が漏らした。肩に地面に落ちる間もなく消えるそれらは、
 もうすぐ本物の花弁に変わるだろう。冬と春の境界の雪だ。そして、兄は永遠にこの線を越えられない。
 真白い顔を眺めながらカズヒコは、兄が不在の残りの人生を考える。―』
「・・・北海道ってこの時期でもそんな寒いのか?分厚い上着いるか?」
「いるかも・・・さくら君行くの?仕事?」
「まあなー。これのさー・・・」
「あ、ごめん電話・・・児島さんだ」
「タイミング悪ぃなあ。とれば」
「ごめん・・・はい、もしもし…」




「・・・お待たせ…あの」
「何だよ」
「さくら君、カズヒコ役って」
「あ?あー電話それか。本当にタイミング悪いな」
「あの・・・」
「んだよ、そりゃこんな冴えない芋男とはいえ一応賞もらった人気作家の初映画化で話題あるし、だから
 俺に是非って話がきたんだよ。コテコテのカンドー作に出るのも悪くないしな。俺の演技の幅も見せられる」
「・・・」
「で、カズヒコの為に髪まで黒染めしたってわけ。どっかの誰かは気づきもしないけど」
「えっあ、似合ってると思ってた…」
「はいはい。でな、このロケから戻ってすぐ舞台あるから明日からその稽古ぶっ通すんだ」
「あ・・・じゃあ」
「うん、しばらく来れない。お前が寂しいだろうな、と思ってやりくりして休み作って来てやったわけ」
「ありがとう・・・」
「しとく?明日は読みあわせであんま動かないから」
「うん・・・えっ!・・・うん」
「じゃあ風呂入る。お前も来れば」

28423-819 朴訥無口×わかりにくくデレる俺様 2/2:2012/04/11(水) 01:03:14 ID:7J7MKBtU
『先生お疲れ様です。え?いえいえ締め切りの話じゃないですよーあの、朝倉春哉さん。今結構ドラマや雑誌によく出てる売れっ子なんですが
 ああ、よかったご存じでしたか!その朝倉さんなんですが、今度の映画是非主演やらせて欲しいって突然監督さんにご本人から連絡あった
 らしいんです。先生は全てお任せするって言ってみえましたけど、えーっと、朝倉さんってカズヒコのイメージと少し違うから。もし
 ひっかかるようなら私から監督さんに伝えることもできるので・・・という、電話ですが・・・・・・あ、いいですか?あはは、即答ですね、実はファン
 だったりしますか?へえ…いえ、なんかイメージになかったので…とにかく良かった、了解しました、伝えておきます。』


「おい、何ぼさっとしてんだ。常々思ってたけど俺の隣でぼさっとするか普通」
「あ…ごめん」
「はいはい口だけだなー。そうだ、俺あっちからちょくちょく電話すると思うから、ちゃんと携帯電源入れとけよ」
「え、うん…珍しいね?」
「細かい確認。平凡カズヒコの気持ちはお前がよくわかってるだろ。やるからには完璧に演技したいんだよ。」
「でもカズヒコは俺ってわけじゃ」
「そうじゃなくても、お前が書いたんだろ、ばか。監督の方針優先にはなるけど、原作者の意見も尊重する役者でいたいし。まあ何より
 一番に自分のセンスを信じてるけど。」
「それでいいと思うな」
「撮影入ったら俺時間そんなとれないんだから、電話すぐ取れよ。あとテキパキ喋れよな」
「う、うん」
「とりあえず本一通り読んで、カズヒコが強がりなのかふっきれてるのかわかんないとこあったから、後で聞く。脚本で変わってくるかも知れないけどな」
「うん・・・あの」
「何」
「俺、さくら君が演じてくれるの嬉しいよ」
「ん・・・やるからには100万人泣かせる大ヒットにしてやる。」

(だから、俺が聞いたらちゃんと答えろよ。北海道に置いてきた自分の事も、口では絶対話さないくせに1冊本にするような、もう居ない、兄貴のことも。)

28523-859 お前が受けなの!? 1/3:2012/04/17(火) 19:56:53 ID:UeGclwNQ
萌えたものの間に合わなかったのでコチラで供養させてください

−−−−−−−−−−−−−−

「き、緊張する、よなぁ」
「…………」
コイツは、とてもクールな男だ。
初めて会った、一目見た瞬間から、何故か分かった。
コイツは無愛想で無骨で無表情で無口で、そして、一本気で一途な格好良い男なんだろう、と。
俗に言う、一目惚れ、というやつらしい、と紆余曲折を経て気付き、紆余曲折を経て距離を縮め、
紆余曲折を経て互いに同じ思いを共有していたことに気付き。
そんなこんなでようやく迎えた今夜、今日もコイツはとてもクールだった。
ヘラヘラ笑いつつ変な汗を掻く自分と違って、さほど表情に変化はないし、言葉も少ない。
これだからコイツのくれる想いに長らく気付かなかったのだが、今では多少は分かるようになった。
例えば今、身体はベッドの上で向かい合いつつも、顔はプイと横に向けてしまっている、これは「恥ずかしながらその通り」ということだ。
多分、そういうことだ。
……というか、コイツの感情を勝手に解釈する権利を、コイツはオレにくれたのだ。
『全部、お前の好きな風に取っていい』
コイツがそう言ったから、オレは好きな風に…"お前はオレの事が凄く好きで、愛しちゃってるのだと解釈するぞ”と伝えたら、コイツはそれに頷いた。
あまつさえ僅かに微笑んですら見せた。
とてもクールな男であるコイツが、だ。それまで口の端一つ上げた事の無いコイツが、だ。そこが大事だ。
コイツが手をそわそわさせていたので、手を握ったり。
コイツが腕をフラフラさせていたので、腕を組んだり。
コイツが足をグラグラさせていたので、膝に乗ったり。
好きなように解釈して、そうする度にコイツは少しだけ微笑んでくれた。
そのことがとても嬉しかったから、オレも嬉しさ全開で笑った。
オレが犬なら多分今頃シッポなど激しく振りすぎて彼方へ飛んで行っている。
そのくらい嬉しくて、楽しくて、幸せで……オレたちはこれでいいのだとコイツの微笑みがいつも教えてくれた。
コイツが出す小さなサイン、時には目にも映らないサイン、それをオレが読み取って、こうだろうなと、時にこうだといいなと解釈し、それを事実として受け止める。
それでいいのだと。
そして、今夜、だ。

28623-859 お前が受けなの!? 1/3:2012/04/17(火) 19:57:36 ID:UeGclwNQ
俗に言う初夜、と言うヤツだ。
いや、結婚したわけではないから正しくは違うのだろうが、初めては初めてなのだ。
彼とするのが初めてなのは勿論、正真正銘、人生で初めてなのだ。
彼もそう言っていて…お互いに…初めての…同性だけど、心底惚れた相手との…せっくす。
改めてそう思うと嬉し恥ずかし過ぎて、ワーキャー叫んで走り出したいような、そんな気分で高揚する。
しかしあまりにもアホ過ぎる姿は見せたくないので、ワハハ、と何となく笑って誤魔化す。
彼はこんな時も変わらない。
クールでクールでクールだ。ついでにクールだ。
でも多分内心はテンパってる。オレがそう解釈するならそうなのだ。
笑っているオレに『何がそんなにオカシイんだ?』そんな疑問を抱いている。
「悪ぃ、オレもギリギリでさ。でも、凄い…嬉しいっていうか」
『……俺も、嬉しい』そんな事を、考えてる。
「どうしよ。やっぱ……ここは、キスから、かな?」
『……多分』不安混じりの同意を。
とか、全部オレの一人芝居みたいなもんなんだけど。
でも、そこには確かに、彼がいるから。
「………あーッやっぱ緊張する!!!ホテルとか!ベッドの上とか!夜景見えちゃってるとか!」
耐えきれずベッドの上で立ち上がって、つい、バインバイン飛び跳ね出すオレ。そう、アホなのだ。大丈夫、分かっている。
分かっちゃいるけど止められないのが大丈夫じゃないけれど。
「恥ずかしーーーーーーーーーー!!!」
初夜なのと、アホなのと、両方の意味で何だか彼と面と向かっていられなくて、シーツの中に顔を鎮める。
シーツが冷たいのか、オレの顔が熱いのか、やけに気持ちいい。
しばらく、彼の視線に耐えられるまで、そうしていようと思って、しばらくそうした。
少しは落ち着いて、何事も勢いだと、バっと顔を上げる。
相変わらず無表情な彼。先程から1㎜も動いていないようにも見える鉄面皮。
でも。その風情が何となく不安そうに見えて。
『オレとするのが嫌になったか?』と言っているようで。
「べ、別にお前とヤるの、嫌になったわけじゃないぜ!?うん!むしろ、オレがどんだけこの日を待ったかと…
 いや、だからってド淫乱ビッチ野郎だと思われるのも嫌なんだけど…!!」
「…………」
「オレ、お前と!その……セッ…クス、したいから…!」
そうだ、オレはコイツと、セックスがしたいのだ。
コイツがそうしたいなら、その、オレのケツだって、差し出してもいい。
多分、半端なく痛くて気持ち悪くてオェッてなりそうだけど。
コイツのなら、いい。
コイツの身体が発する全ての望みに、オレの身体の全てで応えたい。
脳みそが沸騰するほど、コイツが好きだ。
好きで、好きで、好きで…好きだ。
オレは無口じゃないけどアホだから、あまり上手い言葉が浮かばない。
こんな想いを、どうやって言葉で伝えられる?
分からないから、ただじっと見つめた。
鉄面皮が、僅かに俯く。
『……良かった』そう言った気がした。
「…なぁ…お前も、オレと……したい?」
『ああ、したい』そう思ってくれてる。コイツなら。
言葉はない、表情も変わらない。
でも不意に、きゅ、と、手を握られる。
腕力握力共に並以上のコイツにしてはあまりに弱いその触れ方に、胸の奥がキュンとした。
「なぁ…お前がしたいこと、全部して。お前なら、何でもいい…何でもして…」
うっとりした気分でそう言った。
本気だった。

28723-859 お前が受けなの!? 3/3:2012/04/17(火) 19:59:06 ID:UeGclwNQ
「………………」
それから、数分。
もしかしたら、数十分。
どうなったかというと、どうにもなっていない。
弱々しく握られた手以外、指一本触れられない。
無表情な顔が、いつもより少し強張っているようにも見える。
勝手に解釈するなら。
「……オレ……魅力ない?」
泣きそうになりながら聞くと、コイツは首を振った。
魅力が無いわけではないらしい、が、何だか変な顔をしている。
といってもやはり無表情なので、何となくそんな気がしただけなのだが。
困惑したようなその雰囲気を、何とか解釈してみるとするならば。
『……何でも、していいのか?』とかだろうか?
「………えっと………さすがに、その、あんまマニアックなのは、初っ端はちょっとアレだけど……
 いや、どーしてもお前がしたいならさ、そりゃ、オレも何とか頑張ってみるけど、っていうか…」
『そうじゃなくて…』
どうも、違うらしい雰囲気だ。
何だろう。
勝手に解釈して良い、というのはこういう時に難しい。
何か行動があれば解釈しやすいのだが、さっきからコイツはピクリともしない。
普通、好き合ってる同士でベッドの上にいて、熱烈な愛の言葉を告げられたら、もう少し何かあっても……
と、そこまで考えて、思った。
もしかして。
「……お前、ひょっとして、オレと同じ事考えてた…?」
「……………」
「オレになら、何されても良いって?何でもしてほしいって?
 触られても、舐められても?……ケツ、掘られても?」
ぎゅっと、握られた手に力が込められる。
少しだけ寄った眉間。
「……………」
それでも辛抱強く待ってみると、コクリと、小さく頷いた。
沈黙。
のち……爆笑。
「あははははは!!!そっか…お前も、そうだったんだ…!
 分かんねーよ!だって!お前、男だし!メッチャ男だし!!そりゃ、オレも男だけどさー!
 ってお前も分かんなかったよなーそりゃそうだ!!」
よく見れば、コイツもほんの少しだけ口の端が上がっている。
苦笑いにしてはやけに優しく見えるそれは、いつもオレの勝手な解釈を許してくれたけれど。
勝手に、都合良く解釈する事の、させる事の、根底にある意味。
卑怯だよな、オレも、お前も。
好き合ってるのに、何やってんだか。
オレは何だかとても爽快な、一皮向けたような気持ちになった。
「やっぱさ、お前、口下手なのは分かるけど、もうちょい頑張れ!
 んでさ、言おう!したい事をさ!オレも、お前の気持ち伺うの止めるから!
 オレ、お前の事好きだし!先に進んでいきたいし!」
「………分かった」
「足りない!」
「……………………………………好き、だ」
オレは今まで恋人から、そんな言葉も聞いた事がなかったのだ。
嬉しい。嬉しい、嬉しい、嬉しい!
「お前が、好きだ……………」
確かめるように噛み締めるように言葉を絞り出すコイツが、イトオシくて堪らない。
「オレさぁ、お前を触りたいし、触られたい!」
「………オレも」
「もうちょい!」
「………さ、……触りたい。お前に…触られ……」
「よし!そうしよう!!!」
今まで、楽しかった。
あれはあれで良かった。
でも、多分これからはもっと楽しくなる。
そんなことを思いながら、オレ達はしたい事をして、そうやって初夜を迎えたのだった。


結果。
「お前が受けなの!?」
オレ達の悪友でありオレ達の恋愛の立役者でもある女が、俺たち2人を交互に見てそう宣った。
どうもオレ達の夜は、傍から見て意外過ぎる所に着地したらしい。
根掘り葉掘り聞いたのはソッチのくせに、失礼な反応だと思う。
「でも、俺達が、そうしたいから」
そう言ったコイツを、オレは好きで好きで、好きだ。
多分、今までよりも、ずっと、ずっと。
愛したい。
そう思う。

28823-879 ずっと友達:2012/04/20(金) 22:03:13 ID:leHmlLyU
 テレビで、コンビの芸人がわめいている。
 相方のことが大好きなんだと、臆面もなくうそぶいて、司会者にも他の出演者にも、そしてくだんの相方にまで手酷くツッコまれている。
 藤田が眠っていてよかった。でなければ俺は結構なうろたえを見せただろう。

 ──なぜ、友人と仲良くなりすぎてはいけないのか。

 今日、俺と藤田は釣りに行った。防波堤から簡単に釣るやり方が面倒でなくていい。
 釣果はたくさんの小アジ。昼過ぎには切り上げて、そろいで買った小出刃でふたり、ひいひい言いながらぜいごと頭を落とした。
 塩とこしょうで唐揚げにして、半分は砂糖と醤油と酢をかけて南蛮漬け。
 汚れたクーラーボックスを洗うついでに風呂に入って、日差しの強かった昼間の乾きをビールで埋めて、アジを際限なく食いながらテレビを見る。
 たぶん、今日も藤田は帰らない。
 職場でも何かと引き合いに出されるほど、俺達は仲の良い友達だった。
 こんなふうに週末いっしょに遊んでお互いの家に泊まる、学生時代は良かったが最近では人に話すと驚かれるようなつきあいが、もう十数年続いている。
 腐れ縁ともいうべき、同じ大学から同じ社に就職した藤田とは、もう離れる気がしない。
 何度かの異動もあったし、藤田が地方に赴任した期間もあったが、友情は変わることなく今も続く。

 ──強すぎる友情は、別の名で呼ばれるべきなのか。

 昼間の暑さと満ちた腹のせいで、さっさと寝っ転がった藤田と同様、俺も半分眠っている。
 思い出すのはこの一週間のこと。ああ、今週も忙しかったなぁ、今日のアジはそのご褒美だったな……なんて。
 実に忙しかった一週間だった。そんな中、煮詰まった残業中に馬鹿話になった折、生意気な後輩が俺をからかったのだった。
「アヤシイんじゃないですか?」
 あの後輩はつまらないことをよく言うのだった。気に留めるような価値もない軽口だ。
 彼女もいない俺が、おなじく独り者の藤田とばかり遊んでいるなんて、それはいわゆる同性愛ではないか。
 言って後輩はぎゃあぎゃあ笑った。
 そんな……馬鹿な、本当に愚にもつかない話。みんな笑って修羅場が和んだ、それだけの話。

 ──大人の男が友人を持ってちゃいけないのか。

 上司や仕事先に結婚を促されてヘラヘラする。合コンにも誘われ、適当に行く。
 女に興味がないわけじゃない。性癖はいたってノーマル、誰だって俺のPC見ればわかる。
 結婚だってしないつもりじゃなかった。単に出会いがなかったのだ。俺の人生において確定しつつこの状況は不本意である。
 もう何年かすれば四十才になる、出世もしそうになく格好良くもない俺に、嫁は来ないだろう。親も何も言わない。
 不況のこの時代、世相は暗く、その日を暮らすのにせいいっぱい。
 たまの週末に友達と好きなことをするくらい、許されてもいいじゃないかと思う。
 結婚した友人達はそろって幸せそうでもあり、大変そうでもある。ただ一点、普通に世間に溶け込んでいることがうらやましい。
 いつの間にか異端となった俺は、何も悪いことなどしていないのだ。

 ──俺達の関係は、とがめられるようなことなのか。

 夜になって冷えてきた。昼間暑いと反対に夜は冷える。
 見れば藤田が縮こまっている。小さな毛布をとってきて、かけてやる。
 ──相方になら俺、抱かれてもええと思ってるんです。
 さっきのテレビが脳裏によみがえる。
 あのとき、藤田が眠っていてくれて本当によかった。……そう思うのはなぜなんだろう。
 天井に顔を向けて眠る藤田は、目をつぶっていてもまぶしいのか眉を寄せたしかめっ面だ。
 初夏の日差しに一日で日焼けした赤黒い頬には、俺同様、年齢に応じたたるみが見える。
 こいつも社内で何か言われたりするんだろうか。
 それなりにいい男だとは思うのだが、状況的に藤田にも彼女はできないだろう。
 それなら。
 ずっと友達で……いいか? 藤田。
 この先あと三十年近く、定年まで勤め上げるとして、その間一緒にいてくれるか、俺と。

 ──いつまでも続く友情は、愛とは違うのか。

 ……くだらない。
 たったひとつわかるのは、藤田と俺の関係が間違いなく友情で、そして、だからこそ、かけがえのないものだってことだ。
 この年になって、新たな友人など作れない。ましてや彼女や結婚など、もう面倒だ。
 ずっと友達。藤田がいればそれでいい。
「……ッ」
 急に涙がこみ上げてきて、眠る藤田を見ながら声を出さずに俺は泣いた。
 今、すごく幸せだと思ったのだ。

28923-929 いっしょにごはんをたべよう:2012/04/26(木) 17:49:36 ID:SaDsTj4g
人の機嫌を損ねないようにといつも自信なさげに喋る鴨居が、今日はいつにもまして気遣わしげな視線をよこす。
心配ごとでもあるのだろうか。不思議に思いながらも「どうかしたのか」と直接に聞くことはせず、大池は缶の中に僅かに残っていたコーヒーを飲みきって口を開いた。
「休みだよ、そりゃ」
「だよな、土曜日だもんな」
「いや、実際土曜休めるのとか久しぶりだよ」
「そうか」
鴨居が焦った顔になった。失言だった、と早くも後悔しているらしい。また迷ったように視線を泳がせ、右手に持ったままの手帳を開いたり閉じたりしている。
高校時代によくつるんでいた友人たちは、鴨居のこういったのろさを面白がって、ときには少し馬鹿にすることもあり、悪い言い方をすれば笑いもの扱いだった。
彼らの意識としては友達同士ののりでからかっているだけだし、鴨居も一緒になって笑っていた。しかし大池はそれがいつも気に食わなかった。
だから誰かを交えて鴨居と話すより二人だけでのんびりと喋る方が好きだった。

自販機の横にあるごみ箱に向かって歩き出したら、鴨居がとことことついてきた。大池が「これ捨てるだけ」と言って空き缶を示すと、鴨居が慌てて「ごめん」と謝った。
会社から帰る途中、乗り換えをする駅のホームでばったり会って、彼が手帳や携帯をいじりながらそれとなく質問するのに応えるという形式の立ち話が始まり、既に十分ほど経過している。電車もいくつか逃した。
特に用がないならここで別れて帰ればいいのだが、彼が何か言いたそうにしている気がして、大池は「じゃあまた」と言いだせずにいた。
缶を捨てて鴨居に向き直ると、彼と一瞬だけ目があった。運動音痴という自称を裏付けるような彼の小柄な体格は、社会人になってスーツを着ていてもどこか頼りなげだった。
大池としては、鴨居が話したいことを話せるまで待つつもりだが、心配症の彼は大池の気を悪くするからと遠慮して途中でやめてしまうかもしれない。
できるだけ話しやすいようにと大池は「もうすぐ四月終わるなあ」と何でもない一言を挟んだ。
「あのさ」
鴨居がようやく意を決してくれたようだ。
「明日俺も休みだし、一緒に飯とか、どうかな」
十分かかって切り出す話がそれか。
怒られることでもしたみたいに縮こまって返事を待つ鴨居の俯いた顔を見ながら、大池が少し笑った。
「俺もちょうど誘おうと思ってたんだ」
鴨居が視線を上げて大池を見た。彼は「そうか」と呟き、安心したようにやわらかく微笑んだ。
高校を卒業しても鴨居のことばかり思い出していたのは、その顔を見るのがとても好きだったからだ。
次の電車が来るまであと二分ある。同じホームで乗り換える大池と違い、鴨居は階段を下りて地下鉄に乗るはずだ。
ここに留まっているのは大池が電車に乗り込むのを見送るつもりなのだろう。
鴨居に悪い気がしたが、あと少しの間でも何となく一緒にいたいのは大池も同じだったので、二人で並んだままホームの時計を見ていた。

290名無しさん:2012/04/28(土) 22:09:31 ID:uVFmN8R2
本スレ>>950です。初投下でたくさんのGJをいただき大変嬉しかったので、続編を投下してみます。一応カプには絡みませんが、モブで一瞬女の子が出てきますので注意。



やあみんな!部長だよ!趣味はサークルで女の子と遊んだり女の子と遊んだり女の子と遊んだりすることだよ!それともう一つ、おれのマイブームをご紹介するぜ!

我が愛しい部室に入ると、火村が退屈そうにスマホをいじっているぞ!風谷と一緒じゃないとは珍しいな!こいつらこの間の焼肉でやっとくっついたっぽいからな!おれが気を利かせて2人にしてやっただけあるぜ。

「おーす!風谷は?」
「買い出し行ったよー…あーヒマだわー、部長面白い事言ってー」
おぉーっとネタ振りだ!これは期待に応えなきゃな!それでは渾身のネタを一発!

「お前と風谷ってもうセックスした?」
「っ⁉ぶほ‼ゲホッ‼」
おお、むせてるむせてる☆
「いやー!まぁお前ら2人が仲いいのは全然良いけどね?サークルの企画もお前らのおかげで最近充実してるし」
「げほ…部長には関係ないだろ…ほっとけよ」
おお♪食いついてきましたね!これは楽しくなってきましたヨ!
「関係なくないよ?おれ風谷好きだしー」
「…は?」
おれを見る火村の目が燃えるようです!これは怒ってますねー!ここからが腕の見せ所ですよ!
「はっきり言ってお前に風谷の隣は渡せないなー。お前童貞だし?優しく出来るのかなー?風谷、いつもみたいに苦労するだろうなー…お前さ、」
ここでたっぷり溜めてかーらーの!

「風谷のこと、幸せに出来るの?」

「っ!……」
はい決まったー!火村君の燃えるようだった目は涙が浮かんでおります!
ここでおれは部室を出る!おっと、同じサークルの女の子だ!
「あれー?部長じゃないですかぁー、楽しそうですねぇ」
「うん!最近ハマってることがさっきものすごく上手くいったんだー!」
「何にハマってるんですかー?水野部長ー」
「んー?消火活動☆」

29124-19攻め大好きな不良受け:2012/05/07(月) 03:12:21 ID:aYj2p476
間に合わなかったのでこちらに


煩いくらい鳴っている目覚ましを
ほとんど叩く様に止めて時間を確認した。
7時ぴったりを示した時計をみつめてもぞもぞと起き上がる。
顔を洗って歯も磨いてからほぼ金色に近い髪をセットする。
7時30分
朝飯をゆっくり食べてから制服に腕を通す。
ワイシャツの前を盛大に開け、アクセサリー置場にあるものを片っ端から着けていく。
7時50分
学校へは歩いて20分ほどで着いてしまうので暫くコーヒーを飲みながらテレビをみる。
遅刻ギリギリの時間を見計らってから俺は家を後にした。
学校が見えたところでチャイムがなった。
校門までダッシュで走ると門を閉めようとしていたやつが俺に気がつきため息を吐いていた。
「ギリギリセーフ!!」
息を切らしながら俺は目の前の風紀委員長に笑うと委員長はもう一度ため息を吐いた。
「ギリギリ過ぎですね。それに服も髪もアクセサリーも校則違反ですよ。」
眼鏡をクイッと持ち上げ困った顔の委員長に俺はニッコリと笑いかけた。
「わかってるよ!放課後指導だろ?風紀室でいいんだよな!」
「全く君って人は何回目ですか」
「んー10回目?」
「12回です。大事な放課後を指導なんかで潰してはつまらないでしょうに…」
「そーでもねぇーよ?」
「今日も校則の復習ですよ?」
「わかった!じゃあまた放課後な!」
「全く…」
やれやれと委員長は小さく首をふったが俺はにやける口元を押さえつつ校内へと走った。
放課後が楽しみでしかたない。
だって髪を染めてるのもアクセサリーをジャラジャラつけてるのも、
朝わざと遅れてくるのも全部この放課後の為だ。
委員長が大好きだから、かまってほしいから。
そして今日こそは気持ちを伝えるんだ!
そんでもって委員長を押し倒してやるんだ!
俺はそんな事を考えながら教室へと向かった。



この時の俺はまだ知らない。
放課後、気持ちを伝えて押し倒そうとしたのを逆に押し倒され足も腰も使い物にならず委員長におぶられて帰ることを。

29224-79皆の人気者×一匹狼:2012/05/14(月) 01:19:31 ID:2S0UtCog
流れそうなフインキなのでこちらで。



どんなに煩い人ごみの中でも、お前のいる場所はすぐわかる。
お前が話すと、空気がやわらぐ。
お前が歩くと、空気が流れる。
お前が笑うと、空気が光る。

…下駄箱の向こうから、がやがやと声が聞こえる。
帰りにどこそこへ寄ろうだの、なんやかやを食べようだの。
全くお前は見かけるたびに誰かに何か誘われている。
「あー悪りい、今日用事あるから!」
つれないお前の返事の所為で、残念な空気がその場を覆うのが手に取るようにわかる。
罪な野郎だ。
同情の視線を横に流すと、大股で近づいてくるその影ひとつ。
馬鹿馬鹿しくも、胸がどきんと打った。

「よっ!おひとりさま?」
「……。」
「じゃあ、いっしょ帰ろ!」
「…用事は?」
「え?」
「用事があるって、今。」
「あーいや、てかあれ、お前と帰るから。」
「は」
「ね?」
「ね、って」
「教室からお前が下駄箱向かうの見えてさ」
「…」
「なんかさ、人とかいっぱいいてもお前はすぐに見つかるんだよね。やっぱ愛の力かな〜」
「…知るか馬鹿」

他人と慣れ合うのは、弱い奴だと思っていた。
誰かと空気を共有するのなんて御免だった。
一人が楽だった。
筈なのに。

お前の空気になら、飲まれてもいい。
そんなことを思いながら、ひと気のない道を選んで帰った。
つないだ手が、あたたかかった。

29324-79 みんなの人気者×一匹狼:2012/05/14(月) 11:40:35 ID:uIdkXa2U
水遁食らってしまって書き込めませんでした。
代行お願いできれば助かります。遅刻申し訳ありません


コンクリートがむき出しの雑居ビルの中は、走っても走っても先が見えない。
ぜえぜえと自分の吐息ばかりが響いて、
それを聞きつけて今にも奴が迫ってくるのではないかと言う恐怖が繰り返し思考を停止させた。
違う、落ち着け、逃げるのをあきらめるな。
ああ。正義の味方、だなんて甘い響きの言葉で武装する連中など、これだからくそったれなのだ。

連中は「正義のヒーロー」だ。とどのつまりは、国家が雇った、軍より自由な傭兵でしかないのだけれど。
最新式の武器と暗視スコープ、一糸の乱れもない組織立った捜索でこちらを確実に追い詰める。
それを自分は何度も見てきた。
裏町で自分を育てたあの気のいい小さなマフィアの連中も、そのあとに自分を利用した薄汚いゲリラ連中も、
思想には共感したが行為がいささか強行だったレジスタンスの連中も、みんな、みんな。

刺すような視線が自分の妄想なのか、本当にどこかから監視されているのか、もうわからなかった。
半ばやけのような気持ちで足を止め、手近の一室に座り込む。ごつりと壁に預けた背中から、じわじわと熱が逃げた。
上着はとうに手放して、相棒の銃のカートリッジはもう最後だ。
破れたシャツからむき出しの腕に無数の擦り傷がある。これだけで済んでいるのはむしろ幸運と思うべきだった。
大勢で「力をあわせて悪を殲滅」するのが連中の常套手段なのに、あいつは今日、たった一人で俺の前に現れた。

ちくしょう、と小さくつぶやいた声が部屋に消える。
自分のようなちんけな悪党など、一人で十分とでも言うのだろう。そのとおりだくそ、ついでに見逃しておけ。

「そういうわけにもいかないからね」

不意に扉の向こうから声がした。
身構えるより早く、ドアがどかんと大きな音とともにゆがみ、もう一度爆音を立てて崩れ落ちた。
最新鋭のスコープと、薄く軽いくせにショットガンくらいには耐える装甲。
正義のヒーローがそこにいた。

「……仕事熱心だな」


吐き捨てて銃を構える。こけおどしにもならないことは分かっていたけれど。
疲労と絶望で目がかすむ。
表情の見えない暗視スコープの、その向こうで奴がどんな顔をしているか。
思い出そうとしたけれどあきらめた。

自分の中では、まだガキのころのあいつの顔のままなのだ。

29424-79 みんなの人気者×一匹狼:2012/05/14(月) 11:41:06 ID:uIdkXa2U
じり、と後ずさりながら相手と距離をとる。
「ガキの頃はミサだって適当にしてたくせによ。随分立派に成長したもんだ、ヒーロー」
「真面目にやれって怒ったのはあなただろ。だからこうして職務に励んでいるのに」

苦笑の気配だけが伝わる。そうして、無造作に一歩、長いレンジで距離を詰められた。
反射的に引き金を引く。きんと硬い音だけが響き、ヒーローは微動だにしない。

同じ町で育った、弟分だった。唯一のともだちだった。そのはずだった。
あのファミリーがなくなって、道が分かれるまではの話だ。

さらに一歩。壁に追い詰められる。相手の表情は見えない。

「……見逃せよ。おれはもうどこの組織にも属してない。単なるちんぴらだ」

ああ。なんてことだ、あの洟垂れに命乞いだなんて! けれどもそれしかないのだ!
もういちど、笑う気配だ。今度は吐息の音が聞こえるほど、顔が近かった。
そうして奴は見えない笑いと一緒に言った。わかってるよ。

「おれが、そのために、みんな潰してきたんだ」

目を見開いた。
自分を育てたあの気のいい小さなマフィアの連中も、そのあとに自分を利用した薄汚いゲリラ連中も、
思想には共感したが行為がいささか強行だったレジスタンスの連中も。

「な、」

口を開きかけたところで腹に重い一撃が来た。
げほ、と咳き込んでくず折れる。暗く沈んでいく意識の向こう、笑いを含んだ声が聞こえた。

「だからもう、あんたは俺のところに来るしかないだろう?」



(翌日の新聞には、殺人・強盗の疑いで男が捕らえられたことが、ごくごく小さく報じられた。
 国家保安隊の特例措置により、ある士官の監督下におかれることも)

29524-169 宇宙人:2012/05/25(金) 22:27:02 ID:VNYfHvLg

「あぁっっっっちぃー」
熱帯夜だというのに、俺は友人の星野に呼ばれて近所の高台にある公園にきていた。

「なぁに言ってんだよ宇野!今日は流星群だぞ⁉宇宙人からの何らかのメッセージを見逃したらどうすんだよ!」
星野は昔から宇宙人が大好きで、流星群なんか起きた日にはテンションが上がりまくる。その度に連れ回される俺のことも少しは考えてほしい。

星野に腕を引かれながら、この町で一番高い公園の丘を登る。
いつもは体を触られることなんて滅多にないのに。この時だけはなりふり構わないようだ。

頂上で空を見上げると、ちょうど星が流れ始めているところだった。
「うおおおおおおおスゲー‼宇宙人よ、オレの前に現れてぇぇぇぇ‼」
星野は流星群に夢中だ。だから気づかない。俺が星野の顔を見つめている事も、俺がどんな気持ちで星野の宇宙人狂いに付き合っているのかも。
星野の関心を全て奪う、宇宙人なんかいなければいい。星野がたまには俺の方を見てくれますようにと、流星に祈った。

296名無しさん:2012/05/29(火) 00:41:49 ID:YGc4iCl6
被ってスレ汚しして申し訳ありませんでした……
一応分割したのの続き含めて、投下しておきます

 しゃっ、と鉛筆が紙の上を滑っていく音が聞こえる。その音が、何を描いているのか俺には見えない。だからただ、鉛筆をころころ変えていく先輩をぼーっと見つめていた。
 どうせすぐ汚れるから、なんて安物のシャツばかり着ているくせに、どこか洗練された雰囲気と。
 大変機嫌良さそうに和んだ、端麗な顔。
 その顔が俺の方を見て、手を止めて、笑う。自分が軽くときめくのが分かって、なんか悔しい。
「……やー、本当にナオ君っていい体してるよね」
「んな、そういう言い方やめてくださいってば」
 音声がつくだけで雰囲気が台無しだから。
「え、褒めてるんだよ、ナオ君の筋肉凄いって。好みだよ」
「いや、俺のことじゃなくて」
「そういえば、そろそろ寒いでしょ。もう上着ていいよ、モデルありがとう」
 俺の言葉をさらっと流して、先輩はまた鉛筆を握る。マイペースな様に脱力しつつ、俺は椅子の背にかけていたタンクトップへ手を伸ばした。
 服を着て椅子に座り直したところで、手を動かしながら先輩がまた話しかけてくる。
「あ。そういえばナオ君、専門は陸上だっけ」
「そっすよ」
「だからかな。触った感じだと、下半身も逞しいんだよね」
「え」
「こないだ暗くてあんまり見えなかったからさ」
「ちょっとせんぱ、ストップ」
「今度は明るいところで見」
「わーわーうわーーーー!!」
 ここ校内ですから! 誰か聞かれたらどうするんだよ!
 思わず立ち上がった拍子に、椅子に足を引っ掛け転がしてしまった。騒音の二重奏に先輩は目を見開いて、それからさもおかしそうに笑う。
「ナオ君、本当に可愛いなあ。そういう所も好きだよ」
「……先輩が楽しそうで嬉しいっすよ」
 起こした椅子の背にぐったり凭れて、俺は熱くなる耳を両手で塞いだ。

297296:2012/05/29(火) 00:45:14 ID:YGc4iCl6
24-189 芸術学部生×体育学部生

を名前に入れ忘れていました
重ね重ね申し訳ありませんでしたorz

29824-209 ツンデレ×ツンデレ:2012/05/31(木) 11:55:59 ID:CWtpoLIo
「何、こんな時間に。」
ほろ酔いの俺をそう言って迎えたのは、眉間に皺を寄せた恋人だった。

「終電なくなってさ、タクシーなら俺の部屋よりこっちのが近いんだよ。」
突然悪かった、と言い訳する俺に、恋人は容赦がなかった。

「野宿すればいいのに。」
「……何が哀しくて誕生日にホームレス体験せにゃならん。」
「何事も経験だよ。これでまた一つ寿命に近づいたわけだし。」
「お前、おめでとう位言えねーのか。」
「こんな時間まで遊んでくるやつに言うおめでとうはないね。」

恋人の口調はあくまで軽いが、どうやら結構怒っているらしい。
くりくりとした大きな瞳は全く笑っていなかった。

「お世話になってる上司がご馳走してくれるって言うの、断れないだろ。」
言い訳のような事情説明をしながら、水を取り出すために冷蔵庫を開ける。
と、綺麗にリボンのかかった箱がど真ん中に鎮座していた。
そう、それはどう考えても、誕生日ケーキだった。

そりゃ不機嫌な筈だ、と内心頭を抱えながら呆然としていると、リビングから声がした。深夜番組に夢中な彼は、俺が冷蔵庫の中を見た事には気付いていないらしい。

「でも残業終わってから飯食って飲んでって、どこの店?会社の近くあんまり良いとこないじゃん。」

「あー、ほらこないだお前とも行ったじゃん。アンチョビのピザがウマいとこ。」
あぁ。と納得したような返事のあと、
「あれ?」
という声がして、しまったと思った。
案の定、にやにやと笑みを浮かべた男が近づいてくる。
「あそこからって、うちのほうが近かったっけー?いつの間にそんなルート出来たのかなー?」
「……うるせー。」
「誕生日に僕の顔が見たかったって素直に言ったら?」

そんな恥ずかしいこと言ってたまるか。心のなかで呟く俺に、すっかり機嫌の治った恋人はニヤニヤ笑いをやめない。

「全く、昔っから素直じゃないんだからもう。仕方ないから僕1人で食べる為に買ったケーキ、ちょっとだけあげても良いよ?」

「……お前もたいがい素直じゃないな。」
「何か言った?」
鼻歌混じりに冷蔵庫を開ける恋人に、思わず苦笑した。
意地っ張りはお互い様だ。
END

29924-259 受けに乳首責めされて喘ぐ攻め:2012/06/07(木) 12:39:26 ID:gglyJ1io
規制で泣いてこちらに。長文妄想です。
=======
喘ぎ攻めに萌える!
ここはひとつ主従関係、主×従でどうだろう。下克上要素が二度美味しい!

例えば攻めは冷えた焔のような王。
自信に溢れた燃える獅子の瞳と牙を隠さず、しかし世の勝利者が必ずそうであったように、
機を窺い獣の息を殺す慎重さは凍えるほどに冷静で、ひとたび燃え上がれば勢いは破竹。
誰もが彼を敬い、恐れ、生きた伝説──怖ろしい神のように周りの人間は魅了された。

そんな君主には、古くから影のように付き従う部下が居た。
一見目立たず、有用な奏上を皆の前で行うわけでもなく、外地で華々しい戦果を挙げるわけでもない。
しかし王は彼を重用し、遠征の時には彼に内地の全権を任せ、第一の者だと言って憚らない。

古株であるだけの腰巾着。王が彼を手放さないのは、使い慣れた道具なだけに『具合が良い』のだろう……、
そのように謗る声は隠されようともしなかったが、部下は静かな無表情を崩そうともしない。
ただ、過去に彼のことを引き合いに王自身を謗る者があった時、相手を叩き切らんとする烈火の如き怒りを見せたこともあるが、
王のとりなしを受けて以後はそのような事もなくなった。

傍目にも親密過ぎるような王と部下に、しかし体の関係はない。
いや、なかった。
部下は、王に長らく身を焦がす劣情を抱いていた。
王の、鍛えぬかれた美しいからだと触れるだけで切れそうな魂の輝きに、己の身を焼かせ、燃え尽きてしまいたかった。
強く、神のように崇められる王の、誰も知らぬひと欠片の脆さを愛していた。

王が部下に触れたのは、ある大戦に勝利した夜だった。
王がまだ若き日に、瞳を燃え立たせて、今の部下となった男に語った将来の計画。
まさに大陸の覇者となるまであと一歩まで迫ったその日の晩、したたか酔った王は寝屋まで王を運んだ部下の腕を引き、無理やりに組み敷いた。

部下は抵抗した。全力で抗い、それでも王の身に傷をつけないように爪も拳も用いなかった。
己を押さえつけて貫く王に、身が引き裂かれる思いをしようとも、王自身の体にはひとたびも触れなかった。
押さえ込んでいた劣情が顔を覗かせ、王を求めて熱く身を捩じらせても、掠れた一声すら発しなかったのだ。

吐精し、部下を押さえ込んでいた指先を緩め、王は呟いた。
「──おそろしいのだ」
傷付き、疲れ果てた身を横たえていた部下は、その夜一度も合わせなかった瞳を、のろりと王のもとへと上げた。
王の顔は、暗がりの中でよく見えない。

おそろしい。私は、おそろしいのだ。小さな、常の王では考えられない細い息が繰り返し漏れる。
部下はぼんやりとそれを聞き、それから震えた。
このひとが、今夜己を求めた理由。あの王が、全てを手に入れようとしている王が、ただの一人の男になってまで己を貫いた理由を、その一声で理解したのだ。

「……」部下は、きしむ身を起こして、王の耳元に囁きを寄せた。一言、──王として出会う前の、一人の男の名を呼んだ。
王の…彼の身が揺らぐ。来たる嵐に怯える子どものようなその身を、抱き締めるのに今は躊躇うことなどなかった。
抱き締め、髪を撫でて首筋に口付け、落ち着かせるように寝かせながら、彼の厚い胸元に舌を這わせる。
日ごろ考えられない脆さで従った体が、胸を啜られ僅かに捩れた。

「──」王が、彼が、最愛の友の名を呼ぶ。
部下は、再び愛しく脆い太陽の名を囁き、胸元を執拗なほどにただ愛撫を重ねる。
「…ないてください」
部下の小声に、僅かに上がった王の息が止まった。構わずもう一度、声を向ける。
「啼いてください。あなたは涙を流せない。だから、せめて、わたしの前でぐらい、……わたしの為に」
彼の、力が抜けた雄を掌で包み、胸を唇に含んで舌先で転がすように吸い上げる。
闇の中、震えた王の唇が、掠れた声を零した。
低く甘やかな声に、部下は裂かれた下肢までもが疼くような熱さを覚える。声を聞きたい。ないた声を、あなたの弱さを、わたしだけがすべて。
胸を舐めるたびに、泣くような息が零れ、抑えた涙のように声が零れた。

──続きは妄想で!

30024-279 二人がかりでもかなわない:2012/06/09(土) 14:05:29 ID:ZVZ7KrbE
昼休みの教室内、トイレから戻ると、むさ苦しい友人たちが顔を寄せ合っていた。
なにかおぞましい儀式でも行われているのかと近付いてみると、そこにあったのは幼い頃からよく見慣れた光景だった。
「なにやってんの?」
劣勢と思しき二人が声を上げる。
「あ、上原!加勢してくれよ!」
「おかえり!放課後のラーメンかかってんの!」
「ふーん」
ごく一般的な表現をするならばそれは腕相撲と呼ばれるものに似ていた。
ただし行われていたのは多対一、つまり小中高と野球一筋の体育会系代表である日野の右腕に、友人の森と園部がなりふり構わずぶら下がっていた。
「上原が入ったぐらいで負けるかっつーの」
明るく笑う日野に煽られ、園部が余計ムキになる。
「来い上原!三本の矢作戦だ!」
三本の矢とは力を込めるのが人だから使える言葉であって、象だの虎だのハリウッド仕込みのゴリラだのを相手にしても意味はないのだ。
従ってモテたいだけのバスケ部員二人に根暗バンドマンが一人加わったところで、校内屈指の強打者に勝てる訳もない。
「あと10秒で倒せなかったら俺の勝ちだからな」
白い歯を見せて笑う日野。
なぜか吸い寄せられるように、上原はその横顔へ口付けた。
「…へ?」
力の均衡が崩れ机が大きくガタン、と揺れた。しゃがんでいた園部が尻餅をつく。
「うえはら…」
日野はそれだけ呟くとぽかんと口を開け、子供のような顔をしている。耳まで真っ赤だ。
「俺らの勝ち?」
上原の声にはっとしたように森が横から「ラーメン!」と叫んだ。
日野は呆然としたままで「わかった、放課後な」とだけ答える。
5分前を知らせる予鈴が鳴り始めると、教室は一層騒がしくなった。
森と園部に続いて、上原も自分の席へ戻る。
手を引いてそれを止めたのは日野だった。まだ頬が赤い。

喧騒に消えた言葉の先は、他の誰にも聞こえなかった。

30124-299 何考えてるのか分からない受け:2012/06/12(火) 18:00:52 ID:lZgq9ngo
《日本人は何を考えているのかわからない》
というのは、外国人にとって共通認識としてあるらしい。
わからないでもない。
日本には、はっきりと言葉にしないでも空気読めよ的な文化があるから。

俺が今いる大学の寮には様々な国から来た留学生がいる。
英語圏の人間は、世界中どこでも言葉が通じると思ってる。
日本に留学しに来てるなら、もう少し日本語の勉強して来い。
《日本人はミステリアスだ》と言って、
自分の勉強不足をこっちのせいにするなとは思う。

特に俺と同じ部屋で生活している金髪の男には声を大にして言いたい。

《コージは日本人だから仕方がないけど、たまには愛の言葉も言っていいんだよ》
じゃねーよ。
百歩譲って愛の言葉を言うにしてもお前にじゃないから。
お前には言ってるから。俺はお前が本気で嫌いだって言ってるから。
誰だよ。「いやよ、いやよも好きのうちなんだ」とか言って、
こいつに間違った日本語の意味を教えたのは。
言葉が余計通じなくなったじゃねーか。
《日本人は無表情で何を考えてるか読み取れない》
とか言って抱きつくんじゃねーよ。
俺の眉間のしわが見えないのかよ。スキンシップなんかいらないから。
《日本人はシャイだ》みたいに自分に都合よくとるな。
俺が怒れば怒ったで
《君が怒る理由がわからない。一体僕が何をしたっていうんだ?》
とか言うな。俺の勉強の邪魔はするわ、俺に近づいた女は蹴散らすわ、
やりたい放題じゃねーか。
大学の寮っていうのはなあ、勉強するところなんだよ。
昔の日本と違って、今は就職サバイバルなんだよ。
俺は同室のお前にこれ以上振り回されたくないんだよ。
そう訴えると
《もう一度ゆっくり言ってくれる?》
と返されたので、説明する気力が失せた。
俺にはお前が何を考えているのかさっぱりわからない、と口にしたら
《英語の勉強ならベッドで習うのが一番上達するよ、カモンコージ》
とベッドから俺を手招きするので、俺は思い切り頭を叩いてそいつを部屋から追い出した。

30224-349 低身長×高身長:2012/06/17(日) 03:14:05 ID:TOXnNMRA
君に関する僕の特権。

一つ。抱きつくと君の心臓の音が聞けること。
触れるたび君が生きてる証拠を聞けるなんて最高だ。
君は僕らが抱きしめあうと僕がコアラ状態になることを気にしてるみたいだけど、僕は君に抱きしめられ
るのが好きだから、全く問題ないんだよ。

二つ。キスするときに背伸びできること。
男の身に生まれながら、彼氏にキスするときのオンナノコゴコロを味わえるなんて、なかなかお得な人生
じゃないか? 少なくとも僕はそう思っているよ。
散々恥じらってから僕のために屈んでくれる君のキスを待つのも大好きだ。

三つ。セックスのときに君のやさしさを全身で感じられること。
重いから、っていつも下になって、でも無反応はいけないって、いつも一生懸命応えてくれる君が、僕は
いとおしくてたまらない。とても、とても恥ずかしがりやの君なのに。
不慣れなころ、君の体が逃げてしまって、ずり上がって、ベッドヘッドに頭をぶつけて、思わず二人で笑
い合ったのはいい思い出だね。

四つ。君の好きなところを挙げていくと、こんな風に、嬉しいのと恥ずかしいのとでしゃがみこんだ君の
つむじを見られたときの嬉しさ。
君にはわからないだろう? 見慣れてしまっているからね。
伏せていた顔をあげたときの可愛さといったら! 見ているだけで幸福が胸に満ちるよ。

ほんとうはもっとあるんだけれど、言い尽くせないくらい君が好きだよ。
愛しているんだ。
君と、ずっと一緒に生きていきたい。
だから、そんなに泣いていないで、顔をあげて、返事を聞かせてよ。
……お願い。

303302:2012/06/17(日) 03:18:21 ID:TOXnNMRA
すいません、名前欄ミスりました
24-329 です

30424-339 ぱっと見A×Bと見せ掛けて略:2012/06/19(火) 21:45:50 ID:.Q6oJVIE
ぱっと見A×Bと見せ掛けて実はB×Aなのかと思ったらやっぱりA×B


「なあ、俺、お前のことすきだよ」
二人で宅飲みをした夜、話のついでにひょいと言ってみたときの、奴のポカン顔ときたら最高だった。

「……………、………は、?」
次の発言までたっぷり40秒。パズーなら鳩逃がして家を出るレベル。
あーそのジワッジワ赤くなる顔とかすばらしいね、連写モードで撮影したい。
そんでコマ撮り動画にしてやりたい。
俺が表情を真顔から一ミリも崩さず、だまってじっと見つめていたら、
奴の顔はとうとう鎖骨のあたりから額まで真っ赤になってしまった。
「なん、なに、……いきなり、……」
ようやく何やら突っ込もうとしているようだけど、焦りすぎて言葉がわやわやだ。
かわいー奴め。

ほんとうに、こいつは言葉で感情を表現するのが不得手だ。
口に出す前にやたら考え込むし、
考えすぎて結局何が言いたいかよくわかんなくなるのもしょっちゅうだ。
おまけに表情を作るってスキルがすこんと抜け落ちてるもんだから、
初めて会う人にはいちいちいちいち誤解される。
だから、その白い顔が透かせる血色が、伏せられがちな目線が、
じつはなによりこいつの心を反映することに気がついたのは、多分俺くらいなもんだと思う。

「ふはは。顔真っ赤」
笑って、指先でつっと奴の頬に触る。あっつい。発火しそうだ。
ますます困ったように奴の視線が揺らぐ。
「おま、……お前、また、からかって……」
「うん? あれ、バレた?」
好きだよ、と同じくらいの温度でさらりと言ってみたら、指先の下ですっと表情が冷えた。
揺らいでいた視線が一点を見つめて固まる。
ああほんとこいつはわかりやすい。
ちゃんと見れば分かる。何も言わない分、目線に、肌に、こいつの心は透けている。

冷えた頬を、そのまま手のひらで包む。指先に、こいつの薄い耳たぶが柔らかく当たる。
「嘘だよ。ほんとだよ」
「……、……ぁ、……、………?」
混乱しきった目で奴が俺を見上げる。ちょっとぞくぞくする。
もっといじめたい気持ちをぐっとこらえて、相手の顔に額を押し当てた。
「からかったのが嘘。すきなのがほんと。
 お前が俺のことすきなのくらい、わかるよ、わっかりやすいもんお前」
ゆっくりささやくと、間近の目が見開かれるのが気配だけで分かった。
奴の手のひらがおれの手に重なる。ちょっと震えているもんだから笑ってしまう。
ああ、ほんとにかわいい奴。

そんな風に余裕ぶっこいて考えてたから、キスされたのは不意打ちだった。
「っ! ばか、待っ」
しかもいきなりどぎついやつだ。待て、と言おうとした口に舌が潜り込んで中を探る。
閉じる間もなかった目が至近距離でかち合う。ばかやろうお前は閉じろ。
目が合うとだめだ。
感情を透かしやすいこいつの目が、必死さをこれでもかってくらい伝えてくるもんだから
引き剥がそうとした腕がほだされる。

不器用に、俺の歯並びを全部覚えようとでもするみたいに、口の中をあいつの舌が這い回る。
呼吸が苦しくなって唇を逃がす。追いかけられてまた塞がれる。
「……、……」
せわしい口付けの合間の奴の吐息が、俺の名前を呼んでいるのに気がついて、腰からざわっと何かが這い登った。
言葉で感情を表現するのが苦手なこいつは、愚直に幾度も俺の名前だけを呼ぶ。
俺の反応をこんなときばかり目ざとく感じ取った奴は手のひらをおれの腹から背中へと這わせてくる。
肌が直接触れ合って震える。ぞくぞくする。
ああ。もう。

「っ!」
一瞬の隙を突いて口付け返すと、奴は身体全体を強張らせて息を呑んだ。
その期に乗じてぐいと相手に体重をかける。
不意を突かれたあいつは、目を丸くして俺を見上げながら倒れこんだ。
「ふ、……きょとんとしちゃって」
ささやく声は少し上ずっている。あーやばいな、これは俺がやばい。
奴の腿に跨って、顎の先に口付ける。奴が驚いたように身じろいだ。
「……なん、」
あいつの声も震えている。軽く齧ったらびくっと跳ねた。
「……なんでって? 俺だってお前すきだもん。キスさせろよ。
 お前ばっかりしまくってずるい。そうだろ?」
俺が問いかけると、奴は何か言おうとして、考えるように視線をさまよわせた。
口に出す前に、言葉を選んで、咀嚼して、再検討して。
させませんけど。
言葉がまだくすぶってるあいつの口を、俺はふさぎなおす。
「……っ、……」
考える余裕なんて与えてはやらない。このままなしくずしだ。

お前の攻略法なんてとっくの昔にシミュレート済みです。
そのわっかりづらい感情表現、ここまで読み解けるのは俺だけだ。
ここまで来んのに、どんだけお前のこと見てきたと思ってんの。なめんなよ。

30524-369 背中合わせ:2012/06/25(月) 00:07:11 ID:.FrmVSsM
「あらら、見事に囲まれてんな、俺ら」
「ざっと20頭はいますね。しかもみんな尻尾が赤いですよ。
 レッドテイルキメラ、キメラの中でも一番どう猛な種類ですね」
「この辺りにはツノツノネズミしかいないって情報、やっぱりガセだったか。
 どうもうさんくさいと思ったんだよな、あの商人…」
「まんまとはめられてしまいましたね。貴方は喧嘩っ早くて
 すぐ手が出るからあちこちで恨みを買っていますものね」
「恨みを買ってるのはあちこちで毒舌吐きまくってるお前の方じゃねーの?」
「僕は正しいと思うことを正しい表現で伝えているだけですよ……って、
 その話は後にした方が良さそうですね。
「だな。んじゃ、俺の右手の方向が若干手薄っぽいからあそこを突破しようぜ。
 合図したら突っ込むから魔法で援護頼むわ」
「それはいいですけど、えーと、その…腰の方は大丈夫ですか?
 すみません、昨夜、月明かりの下で見る貴方があまりにも魅力的だったもので
 つい度を過ごしてしまいました…」
「あぁ、気にすんなって。つか俺絶好調よ?魔法使いの精ってなんか活力の
 素でも含まれてんじゃねーの?てくらい」
「そうですか、ならよかった。というかそれ興味深い仮説ですね。
 今度ゆっくり研究してみましょうか…」
「そのときは喜んで協力するぜ。とりあえず、今は…」
「はい」
「行くぜ!」

30624-369 背中合わせ(1/2):2012/06/25(月) 00:46:46 ID:kZUnIqKQ
扉をぶち破った俺の目に飛び込んできたのは、剥き出しの背中に焼印を押し付けられている彼の姿だった。


「他人の背中というものは、こんなにも温かかったのですね」
彼はそう言って、こちらに身体を傾けてきた。
俺は少しだけ前のめりになったが、ぐっと腹に力を入れて押し留まる。
すると彼はくすくす笑いながら、更に体重をかけてくる。まるで子供がふざけているようだ。
「おい」
軽く諌めると、背中から「すみません」と苦笑交じりの声が返って来た。
「こういう事は初めてなものですから、とても新鮮で」
「俺だってこんな状況ねえよ」
男二人、後ろ手に縛られてまとめて鎖でぐるぐる巻きに拘束される状況など。
目の前にある鉄の扉に思い切り蹴りを入れた。当たり前だがびくともせず、足に痺れがはしる。
全身に力を込めてみたが、鎖の戒めが緩むこともなかった。人の身ではどうすることも出来ない。
不自由なことこの上なかった。暴れだしたい衝動を舌打ちしてやり過ごす。
と、こちらが大きく動いた所為か、背中越しに彼が小さく呻いた。
俺ははっとして緊張させていた背の力を抜き、後ろに問いかける。
「傷むのか、背中」
「いえ、大丈夫です。なんともありません」
すぐに答えが返ってきたが、それはきっと嘘だ。

あのとき。
牢獄に踏み込んだあのとき、彼の背中にあった羽は既に斬り落とされていた。
純白の、綺麗な羽だった。
俺はその柔らかさがとても気に入っていた。俺には無いものだったから。
本人には一度も言ったことがなかったが。
今、その羽のあった場所には、忌々しい烙印が焼き付けられている筈だ。
背中越しにあの焼印の熱が伝わってくるような気がして、俺は顔をしかめた。

「……勿体無いことしたな」
半分は本音、半分は誤魔化しで、俺はそう言った。
彼は可笑しそうに「勿体無い、ですか」と笑う。
「そうですね。貴方に撫でて貰えなくなるのは、確かに少し残念です」
彼らにとっては命に等しいものの筈なのに、背中から聞こえる声に陰りはない。
「けれど失わなかったとしても、撫でてくれる人がいなくなっては、意味がありませんから」
どちらにせよ同じことです、と軽い調子で返される。
一体、羽と何を天秤にかけたのか――かけさせられたのか、俺は訊かなかった。
聞けばおそらく、俺は衝動を抑えられなくなる。

30724-369 背中合わせ(2/2):2012/06/25(月) 00:48:13 ID:kZUnIqKQ

きつく奥歯を噛み締める俺をよそに、「それに」と彼は言葉を続ける。
「すっきりしたお陰で、こんな風に貴方の背中に思い切り寄りかかれるようになりました。
 誰かに背中を預けることがこれほど温かくて心地よいものだなんて、羽があった時は分からなかった」
「…………」
「本当に、貴方と出会ってから、私は色々なことを知ってばかりです」

ふと、後ろで縛られた手に彼の指先が触れた。探るようにして、優しく掌を重ねてくる。
「貴方が助けに来てくれて嬉しかった。私は幸せ者ですね」
「それは、結局のところ助けられなかったことへの嫌味かよ」
「そうですね。半分くらいは」
からかうような声と共に、背中が少しだけ揺れた。俺がよく使う言い回しを真似たつもりらしい。
「お前な……」
「でももう半分は本心です。最後の最後まで貴方と一緒に居られて、私は本当に幸せだと」
指と指を絡め、強く握り締められる。
「ありがとうございます」
しっかりとした声音が、牢の中に響いた。
その声に処分を待つ者の怯えや恐れは感じ取れなかった。俺への恨みの響きも無い。迷いも痛みも後悔も。
どんな顔で感謝の言葉など紡いでいるのか。確かめてやりたかったが、この体勢ではそれも叶わない。
ただ、彼の体温が伝わってくるだけだ。

なぜ『奴ら』が俺とこの男を引き離さずに二人一緒に縛り上げて閉じ込めたのか。
簡単だ。この密着した状態では『化け物』は本性を現さない。
鉄の扉を切り裂く鋭い爪も、狭い壁など吹き飛ばせる刃の如き翼も、
現したと同時に背にある者の身体を傷つけ引き裂いてしまうだろう。
だから愚かな化け物は本性を現さない。理性を総動員して、本能に近い破壊衝動を必死で抑え込む。

狙いは半分は成功している。しかし、もう半分は失敗だ。
奴らは正しく理解していない。
自分達が切り捨てた『同胞』は、『化け物』の理性の留め金であるのと同時に、引き鉄でもあることを。

不意に泣き出したい衝動にかられた。
これから男が続けて何を言おうとしているのか、俺には察しがついている。
処刑を待つこの絶望的な状況下で、彼がなにを望むのかもわかっていた。
聞きたくないと思った。しかし、聞きたいとも思っていた。
俺は彼の何もかもが好きで、だから背中の彼を感じながら、ただ目を閉じる。

「もう我慢しなくて良い。さあ、貴方は此処から逃げなさい」

羽を失ってもなお凛とした声が、俺に命じた。

30824-399 死ぬまで愛してると、死ぬほど愛してる:2012/06/29(金) 12:10:09 ID:ccN5p/TY
「死ぬまで愛してる」
そういった草野は死んだ、トラックとキスして。
馬鹿な奴。相手のドライバー居眠りじゃないかってまぁそいつも死んじゃったワケだけど。
ああもう俺は誰を恨めばいいのかとか。
誰も恨まないで良いように草野が運転手まで連れてっちゃったのかとか。
もう8年も、瞼の裏には横断歩道の黒と白、それに本来加わるはずの無いお前の赤。
フラッシュバックがなんだお前に会えるなら安いもんだ。
トラウマがなんだ、俺はまだこんなにもお前を愛してる。

「死ぬまで愛してる」
そう言った草野。
難しいことを考えるのが嫌いだった草野。
なぁおい死ぬまでって、誰がだよ。俺かよお前かよ。
お前だったらもう8年も経っちゃってさ、乾パンだって期限切れるっつうの。
それとも俺が死ぬまでかよ、なんとか言えよ草野。
お前知らねえの?俺まだあの部屋住んでるんだぜ二人で借りてた2LDK、家賃高えし、お前の会社のが近いし、大体広いし。どうしてくれんだバカヤロウ。
俺が死ぬまで愛してるって言えよ、夢枕に立てよ。
砕けた骨でも崩れた顔でもこの際ウェルカムだよ、昔みたいな白い歯がみたいとか言わねえよ。
愛してるって、俺が死ぬまでだって言えよ。言わないといい加減あと追うぞ。俺は死ぬほど愛してんだからさぁ。

30924-429 満月手前:2012/07/04(水) 18:47:43 ID:9RRHU/9s
「淳くんはどの月が一番好き?」
授業が終わり、駅へ向かう夜道の上で、横を歩く慧に不意に尋ねられた。
「月?」
「ほら、半月とか新月とか色々あるじゃん」
月の好みなど考えたこともなかった。
慧と知り合ってもうすぐ一年だが、未だに彼の言うことはよくわからない。よくわからないが、面白い。
「んー……三日月?」
「へー、なんで?」
「まあ、なんとなく」
何故かすぐに思い浮かんだのだが、理由までは分からなくて言葉を濁した。
「僕はね、あのくらいが一番好き」
慧が指さした先には、青白い月が冴え冴えと浮かんでいた。
少し歪な輪郭は、満月手前といったところか。
「意外だ」
「なんで?」
「もっとはっきりした、わかりやすい形のが好きだと思った」
俺が言うと、慧は「なにそれ」と少し憤慨してみせた。
「……咲きかけの蕾と一緒だよ。今から満ちてくって希望があって、完璧じゃない。
 それくらいが一番いいんだよ。いっそずっと今のままならって、思うくらい」
「満月にならないほうが良いってことか?」
「そうかもしれない。一度完璧になってしまえば、後は欠けていくのを恐れなきゃいけない。
 だったらいっそ、満月なんて来なくていいって思うんだ。僕はこう見えて臆病者だからね」
満ちきらない月を見上げたまま、慧は歌うように言った。
口調の軽さとは裏腹に、その横顔はどこか苦しそうだった。

俺は決して鋭い方ではないが、慧はただ月の話をしているのではないような気がした。
何か悩んでいるのだろうか。わからないが、そうだとしたら、少しでも力になりたい。

「慧」
「んー?」
「欠けてく月を見るのが怖いなら、俺も傍で見ててやる。
 そうやって新月の夜もやり過ごしたら、今度は一緒に月が満ちるのを待てばいい」
未完成の月を見ながら、つぶやくようにそう告げた。
慧は何も答えない。嫌な気分にさせてしまっただろうかと、少し焦って顔を戻すと、
「……」
彼は黙ったまま、真顔で穴が空くほど俺の顔を見つめていた。
「なんだよ」
「いやー……反則でしょそれは」
「何が」
あまりに熱心に見つめられるので、なんだか居心地悪くなってぶっきらぼうに返す。
「なんでも。あー、淳くんにそんなこと言われたら、満月怖いとかバカらしくなってきた。
 うん、むしろ見たいね満月!」
そう言いながら、妙に浮かれた調子で肩を組んできた。
さっきとは一転して明るい表情にホッとして、されるがままになっておく。
「今でもだいぶ丸いから、もうすぐ見れるぞ」
「うん。……きっと、もうすぐ見えるね」
俺のすぐそばで、慧は笑っていた。細められた眼が三日月に似ていると、その時気づいた。

31024-449 似た者同士:2012/07/08(日) 13:32:06 ID:jCmXqLMM
「なあ、徹平」
耳の後ろで名を呼ぶ声がした。暖かい。人間の体温は心地が良い。
「何ですか、先輩」
変わらぬ体勢で俺は返事をする。腕の中にいる人は一寸の身動ぎもせず、
ふたりぼっちだな、と短く息を吐いた。
この人はいつも、考えて考えて結論が出た後にどうでもいいような台詞を口にする。
そしてそのどうでもいいことが、きっと一番掬い上げてほしい部分の薄皮一枚こちら側にあるのだ。
俺はあえてそれを拾わない。この距離感が俺達には必要で、越えてしまったが最後、
只でさえ足場のない関係はどうしようもない傷口の舐め合いになるだろうことは間違いなかった。
そして、俺がそれを知っていて解っていてしないということを、この人はよく理解している。
「‥‥狡い人です」
ふう、と今までに数巡は廻らせている思考をもう一度なぞってから溜め息を吐くと、
彼はゆっくり身を起こした。
同じような焦げ茶の瞳に自分が映る。同意と謝罪の言葉が紡がれる前に、俺はその唇を塞いだ。

31124-489 コドモっぽい大人×オトナな子供:2012/07/15(日) 17:35:49 ID:fs1VbmyU
規制で書き込めずもたもたしてる内に時間過ぎたので、ここに投下。


 まだ騒がしい屋敷を出て倉の裏手に回り、雑木林の中。藪をかき分け少し歩いた先にある小さな池のほとり。案の定そこに人影があった。先程の騒ぎの元凶の彼、この家の次期当主は、そこで暢気に鼻歌を歌っていた。こちらが声をかけるより先に、僕に気付いた彼がぱっと笑った。
「怜治、いいところに来た」
「井坂さんがお呼びです。屋敷にお戻り下さい」
 無駄と知りつつ言ってみたが、意に介した様子もない。こっちに来いと、猫の子でも呼ぶように手招きをする。
「結構です。僕の役目は坊ちゃまを屋敷に連れ戻すことであって、坊ちゃまと一緒に木陰で涼むことではありませんから」
 殊更に「坊ちゃま」を強調して言えば、彼は拗ねたように口をとがらせた。
「いやみったらしくそんな呼び方をするな」
「あんな騒ぎを起こすような方には『坊ちゃま』で十分だと思います」
「見合いだって断ってきたんだからそんなに怒るな」
「論点をずらさないでください! だいたいあれは断ったのではなくてぶち壊したと言うんです! それに! 僕がいつ見合いを断ってくれって言いましたか!」
「そうだな。だが、私はお前以外と添い遂げる気など無い」
 言い切られて絶句する。
「いっそ二人で駆け落ちしてもいい」
 目眩までしてきた。
「だから頼む、お前まで、私に見合いしろなどと言わないでくれ」
「あなたは、この家の跡取りなのですよ」
 ようやっと絞り出したが、歯牙にもかけない。
「そんなのは関係ない。お前が私の側にいさえすればいい」
 あぁ、この人はなにも分かってはいないのだ。
 世間知らずのボンボンと元陰間、二人手に手を取って逃げたところで、どうなるというのか。行き着く先は見えている。
 この人に、後悔などして欲しくない。
 頭一つ以上大きな体が、腕が、僕の体を優しく包んでくれる。僕を暗闇から救い出してくれた、優しい手。この場所を手放したくはない、手放したくはないけれど。
「怜治っ」
 焦った声が頭上からふってくる。意味を持たせて這わせた手に、彼の顔がびっくりするくらい赤くなってうろたえていた。
「だからな、お前が大人になるまでは、こういうことは、まだはやいんだ」
 僕がこの家に来る前に何をやっていたのか知っていながらそう言ってくれるのが、嬉しかった。
 けれど今は。
「駄目、ですか。太一郎さん」
 目に浮かんだ涙をそのままに見上げれば、次の瞬間、息も出来ないほど強く抱きしめられた。嬉しくて、また涙がこみ上げてくる。噛みつくような口づけがふってきて、僕はうっとりと目を閉じた。
 たった一回だけでいい。その思い出だけで、きっと生きていけるから。
 彼の着物に手を差し入れながら、今日この屋敷を出て行こうと、心に決めていた。

31224-489 コドモっぽい大人×オトナな子供:2012/07/17(火) 17:16:26 ID:B7z81h/s
ぴーんぽーん。
「こんにちはー。」
どんどん。どんどん。
「こんにちはー。千崎さーん。」
がちゃ
「・・・ふぁい。」
「また寝てたんですか。」
「・・・すいません。」
「寝癖ついてますよ。」
「あ、え、どこに。」
「ここです。」
わしゃ
「・・・どうも。」
「入っていいですか。」
「え、あ、すいません。どうぞ・・・。」
「相変わらずのお部屋ですね。」
「どうも。」
「褒めてません。ごみ出しくらいしてください。」
がさ
「甘いものばかりは太りますよ。」
「すいません。」
「しっかりしてくださいよ。じゃ今から作りますんで。」
「・・・どうも。」
じゃっ
とんとんとんとん
じゅうぅぅぅぅ
かちゃ、とん
「どうぞ。」
「いただきます。」
ふうっ、はふ
「おいしい!」
「何日ぶりの野菜ですか。」
「三日、あ、四日です。」
「そうですか。もっときちんと食事をしてください。」
「はい。」
ふうっ、はふ
はふ、はふ
「ずいぶんおいしそうに召し上がりますね。」
「そりゃおいしいですから。ごちそう様でした。」
「お粗末様です。」
「いやそんな。」
じゃあぁぁ
かちゃ、かちゃ
「・・・いまだに信じられないですよ。」
「またその話ですか。僕もです。」
「ですよねえ。俺が町田さんより年上だなんて。」
「十も、ね。」
きゅっ
かちゃ
「よし、と。じゃあそろそろ。」
「そうですか。ありがとうございました。」
「原稿は。」
「あ、いつものとこです。」
「靴箱の上ですね。ああ、ごみも持っていっちゃいましょうか。」
「すいません。」
「いえいえ。じゃあまた来週、同じ時間に。」
「はい。」
がちゃ、ばたん
「・・・。」
がさがさ
びっ
ばりばり
がつがつがつがつ
「・・・。」
言えるわけがない。
本当は料理が好きだったなんて。
甘い菓子は、ごみを出そうと腐心して食べているなんて。
ごみが無くなってきちんとした家になってしまったら
君は来なくなるかもしれない。
不規則な生活も、大量のごみも、空っぽの冷蔵庫も
すべては君の来る日のためだなんて。

31324-529 太平洋のイケメン:2012/07/21(土) 15:41:01 ID:ljg0BuuY

「おおっ」

担任の先生が名の読み上げを止め、名簿を見たまま声を上げた。
「お前達3人、頭文字とると太・平・洋になるな!がはは!」
静かだった教室が、少しだけ笑いに包まれる。
新学期でまだお互いの名前を知らない者が多い中。
どうしたって遠慮がちになるのは仕方ない。
そして僕も周りに合わせて微妙に笑いつつも、
担任の言った事実に少なからず驚いていた。

すると僕の二つ前に座る男が、急に後ろを向いた。
僕が洋野だから、彼が太のつく名字なんだろう。
彼は間の男を見て、そして僕を見て。
僕と目があうとなぜかニコーッと笑った。
人懐こそうな、満面の笑みだった。

それが最初。
いつも僕達3人はひとまとまりにされる事が多いから、自然と3人つるむようになり仲良くなるまで時間はかからなかった。

「なぁチョコいくつもらった?俺はな、25個!」
太田が言った。
「……18個」
平沢が眼鏡のズレを直しながら言った。
「あ、えっと僕は…21個…」
僕も後に次いで報告する。
それを聞いて太田はヨッシャ!とガッツポーズをとった。
「俺が一番だぜ!
平沢よぉ、おまえはもっと女子と喋れ!交流を持て!」
「…興味ない」
平沢はそう一蹴して、持っていた参考書に目を落とす。
やれやれとポーズを取りながら大げさにため息をついた太田が、今度は意気揚々と僕の肩を強く抱いた。
「俺らはそこそこ女子と話すもんな!来年も負けねぇようにしような洋野?」
太田の人懐こい笑顔が近い。
勢いにおされてつい頷く。

「…くだらん」
参考書から目を離さずにぼそりと呟く平沢。

「くだらんとは何だお前。勉強ばっかりしやがってお前」

また睨み合ってる二人に苦笑する。

乱暴でがさつだけど、大柄で運動センス良くて優しい一面もある太田。
寡黙で落ち着いていて、常に成績トップのインテリ系な平沢。
そして何でも平均な僕、洋野。
イケメン二人が女子にきゃあきゃあ言われるのはよくわかるけど、なんで僕ももてはやされてるんだろう。
女子って不思議だ。

31424-539 鶴×亀:2012/07/23(月) 19:03:38 ID:VXHdbCR.
鶴亀算って言葉があるくらいだ。
昔の人は鶴×亀って発想があったのかもしれない。
「そこで、ね。試してみない?」
「お断りします」
「ちょ、鶴さんつれなくない!? 部屋から池垣に半日掛けて抜け出してきたんだよ?」
およよと泣こうとして腕がと足が短くてできないことに気がついた。
「ちぇーつまんないのーつまんないのー」
「だいたい鶴亀算は……」
「理屈はいいの!」
と大きな声を出して僕は甲羅に篭った。
つまんないつまんないと呪詛のように甲羅の中でつぶやいているとハーッとため息をつかれる。
なんだよ子供だと思って鶴は千年亀は万年っていうしいつか君の年を追い越してやんだからな!
大人になったら振り向いてくれるよね?
遊んであげるから出ておいでと声をかけてくる鶴さんに子ども扱いしないでよーと言いながら僕は頭を渋々出した。

31524-569 平和主義と戦闘狂:2012/07/28(土) 10:25:19 ID:Vld23336
なるべく命を奪わなくて済むのならそれに越したことはない?
よくも言う。
己が生きるためという名目の下、その手をどれほど血に染めてきたというのか。
それなのによくもそんな寝言をのたまうものだ。

誰より赤い光景を作り上げ、血に濡れぬ日々などなかっただろう?
いつぞや集団で襲い掛かられた時など、まさに鬼神と称するに相応しい戦いぶりだったぞ。
そして何よりそういう時のお前は、まるでそれが生き甲斐であるかの如く最も活気に満ち溢れていたではないか。
だというのに、実は誰より殺生を好まぬというのか。

――いいだろう。
その下らぬ理想を貫くというのなら見せてみるがいい。
どちらに転ぶのか最後まで見届けてやろう。
お前と私は一蓮托生。
結果がどうあれお前の選んだ道に付いて行くのみ。

31624-589 餃子×焼売×春巻:2012/07/31(火) 17:10:10 ID:DNP4wVWI
俺達は今日も中華料理店で販売されていた。
一番人気は餃子。現地では餃子=ご飯的存在らしいけどここは日本。
おいしい中華のご飯の友だ。
「ちくしょう……ちくしょう」
おいしそうな餃子を見て涎を垂らしている俺は春巻き。
ご飯と食べてもいいけどそのまま食べてもおいしいマルチタレントだ。
「今日も売り上げは餃子だ一番か〜いいな〜」
のんびりした様子で喋るのは俺のマイスイートハニー焼売。
たとえベッドでの立場が反対でも俺にとってはハニーだ
「おっ、焼売じゃん。久々に今夜俺の部屋来ないか?」
「殺すぞ」
たとえ売り上げ的に圧倒的格差があったとしてもここは譲れない。
焼売を部屋に呼びたかったら俺を倒してからにしろ。
「ん? ああ、お前が今のこいつの棒?」
「は?」
棒? なにそれ?
「ちょっ、餃子やめてよ! 昔のことはもう関係ないじゃん!!」
いつものおっとりとした雰囲気をかなぐり捨てて焦る焼売。
「え? 棒? え?」
「いや、春巻き、それはちがっ……」
いきなり餃子が焼売のケツを撫ではじめた。
「裏山……じゃなくてお前何してんだよ!!」
「こいつ、俺の元セフレ。お前は?」
「え……」
その質問を理解したくなかったのか湯島聖堂孔子像の格好のまま固まってしまった。
ようやく頭が回ってきた。セフレはわかる。元ってことは昔そういう関係だったってこともわかる。
でも、棒って?
俺はのんきにそんなことを考えながら現実逃避をしていた。
その疑問に答える光景が目の前にあるにも関わらずに。

31724-639 自己完結:2012/08/08(水) 14:19:41 ID:SvVrfmfM
夏休み、14時22分。最寄り駅まであと10分。
汗で張り付いた制服のシャツを、いっそ脱いでしまおうかと思案していると、土手の方からの川風に交じって耳慣れた声がした。
「好きだ」
と、思ったよりも近く。
右隣、多分滝野の口から。
というか今は、滝野しかいないから。
いや、でも。
空耳か?空耳だよな?
…うん、空耳だよ。
きっと牛丼食いたいとかそんな話を俺が聞き逃したんだよ、そうだろ滝野。
「滝野…?」
想像の500倍くらい情けない声で呟くと、普段と変わらぬ冷めた感じで「なに」と聞き返された。
続けて「お前、顔色悪いぞ、熱中症か?貧血か?」と普段と同じに聞いてきた。
ああなんだやっぱり空耳か、空耳ならいいんだ。
だって俺たちは男子だもの男子高校生だもの、17歳になって全身まるきり男になって、それでだって「好きだ」なんてやっぱりちょっと辻褄が合わないし。
だって俺を好きなら滝野はもっと、もっとそれなりに焦ったりしてるはずだし。
それでだって俺たちは今夏期講習の帰り道だし、滝野は今度から野球部で新主将に…ああ違うこれは関係ないんだ。
だって滝野って巨乳派だって言ってなかった?村上なんとかみたいなふっくらした子が好きだって俺だって筋肉ないわけじゃないから割とゴツっとして村上なんとかには程遠いし…。
いやでもあれはタカちゃんに言わされてただけ?
わかんねえ俺が好きならもっとこう、もっとわかりやすく記号化された数式がabの違う、サインコサインタンジェント、違う!
ああもうぐちゃぐちゃだよ滝野、どうしてくれんだよ。
「…滝野ヒマだろ、俺かき氷食いたい。日野屋で」
「いいけど、具合は」
「元気元気、超元気。ヤリも投げられそう」
「…あっそ」
歩き出した滝野の思い切りのいい歩幅に俺はすぐ抜かされて、でもそれから少し合わせてくれて。狭くもない道で寄ってくる滝野にやっぱこいつ俺のこと好きなのか?って思ったり。
それから日陰を歩かされてることに気付いてやっぱ好きなんじゃん!って思ったり。

だけどかき氷食ったら頭冷えたよ、ちゃんとわかったよ。
やっぱ空耳だ、俺が言って欲しいだけっぽい。

31823-629 戻らない:2012/08/08(水) 17:23:11 ID:v4pRFWNs
好きだと伝えてしまったら、戻れないのはわかっていた。

あの日からあいつは、俺のノートを借りにこない。
俺の飲みさしのペットボトルを奪わない。
出会い頭のヘッドロックもかましてこないし、意味もなく浮かれて体当たりもしてこない。
戸惑ったように揺らぐ目をして、奇妙に引きつった挨拶をよこし、
手が触れない細心の注意を払った位置で、うわっつらの笑みを浮かべるばかりだ。

戻れないのはわかっていた。俺はあいつの友達ではなくなった。

無邪気な友達の距離間は、俺の高校生活にささやかな幸せをくれたけれども
それがいつまでも続くものではないことに、高校時代の友人なんて繋がりのその脆さに、
気づくのをいささか遅らせた。
愉快で楽しい遊び仲間でなく、いちばんのともだちになれていたなら、もう少し違っていたろうか。

戻れないのはわかっていた。かまわないのだ、戻る気などない。

お前は東京の大学に行くっていう。幼馴染のあいつと一緒に、夢を追いかけるという。
そんなにあかるい顔をして、お前は俺のいない未来を語る。
きっと俺は、いつまでたっても、お前にとっては友人Aだ。

もう一生触れなくていい。まぶしいくらいに笑いかけてくれなくてもいい。
それでもいいからなかったことにしないでくれ。
嫌うでもいい、見下すでもいい、もう一生友達に戻れなくてもそれでいい。
お前を泣くくらい好きだったことを、単なる友達じゃあなかったことを、お願いだ、知ってくれ。

好きだといったらもうきっと、楽しい友人には戻れない。
戻らないと、決めたのだ。


ごめんな。

31924-689:2012/08/16(木) 16:36:19 ID:QGPbGlg2
「先生、卒業したら俺を男として見てくれるっていったよね」
卒業式も終わり、クラスの生徒ももう帰っていった教室。
教壇にのしかかって、上から押さえつけてくる石神に答えを出せない。
目を逸らして窓の外を見る。
既に夕陽も落ちて、昼夜変わらぬ桜だけがハラハラと風に飛ぶ様が見える。
「…気の、迷いだ。卒業したんだから、そんな冗談…」
「3年間。ずっと迷うわけないだろ!」
ドンと教壇を叩く肘の音に情けないくらい震える。
「石神…」
「先生、好きだ」
ぎゅうと抱き締められる腕に、応える事は出来ない。
思春期に大人に対する憧れの延長で、身近な教師に対する尊敬を錯覚する事など良くある話だ。
確かにそれは恋かもしれない。
だがしかし、一過性の熱で将来に持ち得る本当の恋人や家族を奪うような事は、教師として大人として人間として決してしてはならない。
「石神、…気を持たせて悪かった。冗談だと思ってたんだ」
だから諦めろ。
こんな事はいつか過去にして、笑い話にしてしまえばいいよ。
「じゃあっ、…抱かせろよ。一回でいいから」
似つかわしくない声に目を上げる。
初めて会った時には幼いばかりだった顔が、今では覚悟をもって成長をした青年へと変わっていた。
石神には出会った時のイメージで記憶が止まっていたんだと、この瞬間思い知らされた。
今初めて石神という男と出会ったような、不思議な感覚。
じゃあさっきまでの石神を思い出せるかと言われれば、酷く曖昧で。
背中に冷たくあたる教壇と、熱い石神の吐息と指。
お前は31日までは僕の生徒なんだよと言えば、こんな事はなかったのか。
この結果を先延ばしに出来ただけなのか。
石神以上に求めてしまう、煮えた頭では答えをだせない。

32024-699シナモンの効いたアップルパイ:2012/08/18(土) 17:52:39 ID:4LnM.VSw
一回行っただけじゃ覚えれない様な辺鄙な場所にある小さな喫茶店。アンティーク調の落ち着いた店内には珈琲を点てる音だけが響いている。場所は忘れてしまうけど忘れられない味と評判のケーキは店主の手作りだ。30代後半くらいの渋目のおっさんがケーキ作りしてる姿は少々笑えるが何せケーキが絶品なのととある理由で俺は足繁く通っていた。この店を見つけたのは1年前の冬だ。受験のため大学に向かってる最中、有ろう事か迷ってしまった俺は大学に辿り着くことが出来ず戦う前に破れ意気消沈しながらフラフラと彷徨っていた。寒さと虚しさの中歩いているとふとシナモンの香りがした。香ばしく甘い香りに誘われる様に出向いた先がこの喫茶店だった。寒さで真っ赤になった鼻を啜りながら中に入るとそこにあったのは優しく柔らかな笑顔と甘いアップルパイ。「特別な日にしか焼かないんだ」おっさんは寂しそうに笑うとシナモンがたっぷりのアップルパイとダージリンを俺に出した。「今日は嫁の三回忌でね」悲しげだが綺麗に笑う姿は凄く眩しく見えた。俺は一回り以上も離れたおっさんに一瞬にして恋に落ちてしまった。それから1年かけて店に通い愛を伝えた。毎日毎日。気の迷いですぐに冷めると言われた。そんな事より勉強しろとも。勿論勉強もした。そして1年経ってもおっさんへの愛は深まるばかりだった。俺は一大決心をして受験の前日喫茶店とむかった。「受験に受かったら俺と付き合って欲しい」そう伝えるとおっさんは顔を真っ赤にしながら困った様に笑った。それから喫茶店には行っていない。今日は合格発表日。通い慣れた道を歩く足取りは軽い。が、やはり不安だ。おっさんはどう反応する?気が付くと俺は1年前と同じ場所にいた。そして鼻を掠める香ばしく甘い香りに気が付き俺は愛しいあの人が待つ店へと足早に向かった。今日が俺とおっさんのアップルパイ記念日になるだろうと予想して。

32124-699シナモンの効いたアップルパイ:2012/08/19(日) 11:32:38 ID:m6k8X4pA
改行忘れたのでもう一度投下



一回行っただけじゃ覚えれない様な辺鄙な場所にある小さな喫茶店。
アンティーク調の落ち着いた店内には珈琲を点てる音だけが響いている。
場所は忘れてしまうけど忘れられない味と評判のケーキは店主の手作りだ。
30代後半くらいの渋目のおっさんがケーキ作りしてる姿は少々笑えるが何せケーキが絶品なのと
とある理由で俺は足繁く通っていた。
この店を見つけたのは1年前の冬だ。
受験のため大学に向かってる最中、有ろう事か迷ってしまった俺は
大学に辿り着くことが出来ず戦う前に破れ意気消沈しながらフラフラと彷徨っていた。
寒さと虚しさの中歩いているとふとシナモンの香りがした。
香ばしく甘い香りに誘われる様に出向いた先がこの喫茶店だった。
寒さで真っ赤になった鼻を啜りながら中に入るとそこにあったのは優しく柔らかな笑顔と甘いアップルパイ。
「特別な日にしか焼かないんだ」

おっさんは寂しそうに笑うとシナモンがたっぷりのアップルパイとダージリンを俺に出した。
「今日は嫁の三回忌でね」
悲しげだが綺麗に笑う姿は凄く眩しく見えた。
俺は一回り以上も離れたおっさんに一瞬にして恋に落ちてしまった。
それから1年かけて店に通い愛を伝えた。
毎日毎日。
気の迷いですぐに冷めると言われた。
そんな事より勉強しろとも。
勿論勉強もした。
そして1年経ってもおっさんへの愛は深まるばかりだった。
俺は一大決心をして受験の前日喫茶店とむかった。
「受験に受かったら俺と付き合って欲しい」
そう伝えるとおっさんは顔を真っ赤にしながら困った様に笑った。
それから喫茶店には行っていない。

今日は合格発表日。
通い慣れた道を歩く足取りは軽い。

が、やはり不安だ。
おっさんはどう反応する?
気が付くと俺は1年前と同じ場所にいた。
そして鼻を掠める香ばしく甘い香りに気が付き俺は愛しいあの人が待つ店へと足早に向かった。
今日が俺とおっさんのアップルパイ記念日になるだろうと予想して。

32224-749 妖怪と天使:2012/08/25(土) 18:25:13 ID:lG2jsHbc
規制中なのでこちらに投下します。


「驚いたな。本物を見たのは初めてだ」
頭上から淡々と降ってきた声に、〈男〉は地に伏したまま憮然として顔をあげた。
黄金の髪が絹糸のように流れ落ちる。
「お前は誰だ」
「さて」
食いしばった唇から漏れた問いは、飄々とした口調でいなされてしまう。
憤りに任せて身じろぎをしようとすると、途端に四肢を虚脱感が襲った。
纏わりつくように鬱蒼とした草の感触。
――動けない。
じわり、と焦燥が広がる。
一段と緑の匂いが濃くなったような気がした。
この〈場所〉はおかしい。
否、場所だけではない。
「……お前は〈何〉だ? 私に何をした」
「何もしてないだろう? これからのことは知らないが」
〈それ〉はおかしげに肩をすくめてみせる。
闇色に揺れる髪。だが印象はそれだけだ。
年の頃、体格、顔立ち、その人物を表す特徴を捉えようとすると、それらはひどく不鮮明になった。
そのくせ、その得体のしれない存在感は、まるでその場所と一体化して男の体の自由を奪っているようだ。
「お前が動けないのは、俺のことを〈畏れ〉ているからだ。人の感情の中に産声を上げ、山の暗闇の中で育つ、曖昧で不純なものに」
男の思考を読んでいるかのように、それは言葉を続けた。
いや実際に読んでいるのか。
「何を……」
「この場所に加護はない。光は照らさない。世界中のありとあらゆる場所に届くお前の主の力は」
「我が主は、世界のすべてをお創りになった……!」
「では祈れ」
「く……っ」
不意にその口調が変わった。纏わりつく空気が重くなる。
力の入らない四肢が、体中が、強い力で地面に縫いとめられてぎしぎしと悲鳴を上げた。
強引に顎を掴まれる。
いつの間に近づいたのか、恐ろしいほど端正な顔が間近にあった。
だが、ようやく認識したそれの容貌を観察する余裕は男にはなかった。
「なあ」
「……ッ」
ちらりと開いた口の中で、赤い舌がいやに艶めかしく動いた。
「天使っていうのは〈穢れ〉たらどうなるんだ?」

32324-789 さよならの歌をうたう:2012/09/03(月) 22:30:00 ID:V2cDApTE
ドアの向こうに佐伯の背中が消えるのを確認して、藤野はマイクを置いた。
近頃の佐伯は何かと言えば電話、電話だ。
忙しく話し込んでいる先は実家の家族と職場が多い。
2人でいるときくらいと言ってしまえたら楽だが、そんな約束はしていないので、黙っている。
そもそもそんな必要があるわけでも、文句を言える関係でもない。

演奏停止のボタンを押して、次の曲を呼び出した。
次は佐伯の順番だが、いつ戻るかわからない者を待ってやる必要もない。
初めて一緒に来たとき取り合って、結局一緒に歌うように落ち着いた古い曲。
ワンフレーズめを歌いかけて、藤野はまた演奏を停止した。
他の部屋から漏れ聞こえる歌声と若い男女のはしゃぎ声に、どうしようもなく落ち着かない気分になる。
リモコンの履歴を手繰っては戻り、自分では歌わない歌を送信しては停止する。
いつも、すぐにかすれてしまう声を照れたように誤魔化す佐伯を思い浮かべた。

「なに遊んでんだよお前は」
何度か繰り返した頃、佐伯が部屋に戻ってきた。
体をぶつけるようにして、リモコンを覗き込んでくる。
「遊んでるっていうか……何歌おうかなっていうかさ」
迷う振りをしながら思い出していたのは、何度も聴いた曲だった。
「なんか新しいのある?」
「いや、別に」
「ないのかよ!」
「ていうかちゃんと歌えっかなって」
「ふーん」
佐伯が好きだと言った曲の、次に収録されていたあの歌。
聴きたかったけれど飛ばされるので、隠れてCDを買った。
車の中で見つかって、気に入ったなら貸したのに、と言った後、でもお前多分返さないよなと笑われた。

「あ、俺の入れたの消しちゃったんだ? ま、いいや、休憩ー」
大きくため息をついて、佐伯が隣に沈み込む。
リモコンを見る振りで横目で確認した表情は、少し疲れているようだった。
「電話、なんだった」
「あー……母ちゃん」
「……帰ってこいって?」
「……いや、何も言われてない……まだ」
「ふーん」
ページを送って目当ての曲を探す。今、佐伯のために探しているのは、極めてよくあるタイトルだ。

「なあフジ、俺ちょっと寝てもいい?」
「だらしねえなあ、まだ日付変わってねえぞ。今日は朝まで付き合えって言ったじゃん」
「今日はっていうか、お前いつも言ってるじゃん」
「お前だっていつも言ってるじゃん」
「はいはいごめんごめん、次は起きてられるようにするから」

次、来たときか。
次に会う時には、その次の約束はできるのか。その次は。
言えるわけのないせりふを飲み込んで、送信ボタンを押す。
悲しい歌のタイトルが点滅するのを確認して、藤野は置いたままだったマイクを握った。

「……まあ別に寝ててもいいけど、聴いてろよ」
「何だよそれ」

目を細めて佐伯が笑う。

「おい佐伯、聴いとけよ」
ハイハイ、と生返事を残して、腕を組んだ佐伯が目を閉じた。
つぶやくようにイントロが始まる。何度も何度も聴いたけれど、歌うのは初めてだ。
声が震える理由がわからないように、何度か咳き込む振りをする。

それでも届くように歌うからよく聴いてくれ。できれば最後まで目を開けずに。

324武家×軽業師:2012/09/04(火) 01:42:57 ID:ME5lb6gU
語りたくなりました。まわしついでに語るレベルですみません。
しかもハッピーエンドでもありません。

◇◇◇

軽業師とお武家様は本来身分が違う者同士。

出会いは町中。軽業師が綱渡りをしている場にお武家様が出くわす。
軽業師の華麗な技にお武家様は虜になってしまう。
そのうち軽業師の方も武士が気になってきて、ある日声をかける。
そしていつしか軽業師から誘って一夜の関係をもつ。幸せな一夜を過ごす。
だがお武家様はそれ以降、町には来なくなる。傷つく軽業師。


軽業師の技が話題となって、あるお殿様の屋敷で芸を披露することになった。
だがそこは軽業師を馬鹿にするようなゲスな武士ばかりの宴だった。
軽業師は顔に笑みを浮かべつつ武士に対し腹立たしい。特にお殿様は下品な人だった。
綱渡りの最中に武士の中に、関係をもったお武家様を見つける。
動揺して綱から落ちる。見ていた武士たちからは馬鹿にされる。

宴の後、心配したお武家様が軽業師の様子を見にくる。
怪我は軽かったので平気だと言う軽業師。
お武家様は「あんな危険な芸はやめろ。こんなことで命を落とすなど無駄死にだ」と言ってしまう。
軽業師のプライドを傷つける一言だったので、思わず
「あのお殿様とやらは、あなたが命をかけるにふさわしい人ですか?
あんな人に命をかけているあなただって私と同じ犬死にをするようなものだ」
「無礼な!」
と言い争い。
軽業師は手を出して金をよこせとお武家様に言う。
「ただで楽しもうなんてむしが良すぎでしょう」
怒りを隠しきれないお武家様。懐から銭を投げ捨てる。軽業師を辱める言葉も吐き捨てていく。
銭を拾いながら自嘲する軽業師。
お互いに好きな気持ちはあるのに、世界が違うのだと思い知る。
それ以降二人は会うことはなかった。

それでも軽業師はたまに綱の上から誰かを探してしまう。決しているはずのない人なのに。

お武家様は戦で亡くなる。殿は兵を置いて逃げてしまった。
「ああ、おまえの言ったことは本当のことだった…」と最後に軽業師を思い出して息絶える。

32524-809 武家×軽業師 1/4:2012/09/04(火) 10:59:07 ID:bxDDdcrQ
〈中世〉
高麗や唐土や天竺や波斯よりさらに西の果てから使節団が来朝した
俺は北面武士として、使節団が宿泊する屋敷の警備に当たっていた
端的に言うと一目惚れだ
使節団への歓迎の宴席で警備をしていたときだ
使節団に同行していた軽業師の少年が歌舞を演じ始めた
その美しさは言葉に表しようがなかった
髪は見たこともない白金色
瞳は秋晴れの澄んだ空の色
口さがない輩は「鬼のようだ」などと陰口を叩いていた
俺にはまさに極楽で神仏に仕える小姓の如く見えた
そして、その日の夜に警備係の職権を悪用して……夜這いした
無理矢理に向こうの獣の毛皮で織られた服を剥がすと下には雪のような肌が広がっていた
俺は夢中でその雪原に手と足と舌で跡を付けた
本当はどう考えているかは分からないが、はっきりと俺を拒んでないのも確かだった
それから連夜に渡って俺は体を重ねた
しかし、とうとうその日が来た
使節団は予定の日程を終え、故国に帰朝することとなった
明日の朝に都を離れる
やるのなら今夜しかない
俺は意を決した
少年を無理矢理に連れ出したが、すぐに気付かれてしまった
一時的な潜伏先として予定していた廃寺に潜り込んだが、すっかり周りを検非違使たちに囲まれていた
色に狂った男の末期として俺が自刃するのは当たり前だ
ただどうして自分が恋しい人をこのように巻き込んでしまったのか
「俺はこれから死ぬが、お前は全く死ぬ理由がないから生きて欲しい」
「俺に無理矢理に訳も分からず連れ出されたと言えばお前が罰されることもないだろう」
言葉が通じたかどうか分からないがそういう趣旨のことを俺は伝えた
いよいよ検非違使たちが踏み込んで来るようだ
ありがとう、一炊の夢だったが実に楽しかった
俺は小刀で首を切り裂いた
鮮血が溢れ、意識がかすみ始めた……
その最期の刹那に少年が俺が自刃に使った小刀を手に取って自らの首に刺したのが見えた

32624-809 武家×軽業師 2/4:2012/09/04(火) 11:01:39 ID:bxDDdcrQ
〈近代〉
俺の父親は箱館戦争で五稜郭に立て篭もって最後まで戦った武士だった
祖先を遡ると鎌倉時代辺りまで遡れる由緒正しい武士の家柄だ
ただ江戸の頃には貧乏な御家人に落ちぶれていたようだった
父親は五稜郭で死に損なって刀を置いてそのまま箱館に居ついて商売を始めた
俺は父親が髷を切ってから箱館で生まれた
父親はそれでも武士を完全に止められなかったようで、土地を借りて時代錯誤な剣道場を開いた
場所は露国の教会の目の前だった
一つだけ忘れられない思い出がある
俺が十五歳くらいの頃だったと思う
教会の催事で露国より軽業師の一団がやって来ていた
ご馳走も振舞われるとかで俺も信者でないのにちゃっかり客として紛れ込んだ
そこで凄いものを見た
剣を持って踊っている少年がこの世の物とは思えない美少年だった
俺は息を飲んだ
食べ物目当てだったのに食欲はどこかへ消え失せた
大鍋にたっぷり入った紅い汁物や露国風具入り揚げ饅頭が配られ始めていた
俺はそれを無視して夢中でその少年を探した
なぜか少年は大人たちから離れて教会裏手の白樺の林で一人で佇んでいた
俺はもう居ても立ってもいられなくなって……犯してしまった
一通りの行為を終えると少年は俺のことを責めることもせずにそそくさと教会の方に走って行った
俺はしばらく余韻に浸ってから教会に戻ると、食べ物は全てなくなっていた
少年は大人に告げ口などはしなかったようで、その後にお沙汰は何もなかった
あの少年はどうしているのか……ずーっと心に引っかかったまま時は流れた
その後に俺は地味に商売をしつつ父親から継いだ剣道場の師範も続けた
そして、お迎えがいつ来てもおかしくない齢になった
気がかりは樺太に引っ越した末の息子夫婦と孫のことだ
そろそろ時局の雲行きも怪しくなってきた
早めに樺太での仕事は切り上げて内地に戻って来いと何度も手紙を出したがどうなることやら

32724-809 武家×軽業師 3/4:2012/09/04(火) 11:03:23 ID:bxDDdcrQ
〈終戦直後〉
俺には一つだけ気がかりなことがあった
それは樺太で唯一できたロシア人の友だちのことだ
豊原にあった俺の家の隣家に住んでいたロシア人一家
そこに俺と同い年のロシア人の少年がいた
それはそれは凄い美少年だった
少年雑誌の冒険小説に出てきそうな白皙の美貌の持ち主だった
一家は元々はモスクワで代々続く軽業師の一族だったらしい
ところがロシア革命の混乱で赤軍から弾圧されそうになった
そして流れ流れて東の果てにまでたどり着いたそうだ
きっかけはよく覚えてないけどアイツとは子供のときからよく遊んでいた
親父さんは豊原の競馬場やら料亭の宴席なんかで芸をして生計を立てていた
アイツも親父さんと一緒に芸を見せていた
新しい芸を覚えると最初にこっそり俺にだけ見せてくれた
俺は俺でアイツに祖父から習った剣術を見せたりした
いよいよ戦局が激しくなっても、俺とアイツの友情は変わらなかった
そして日本は戦争に負けた
状況はよく分からなかったが、とにかく豊原に居続けたら危ないようだった
俺は両親と一緒に北海道に引き揚げることになった
アイツとはお別れだ
引き揚げ船に乗るために豊原を出発する前日に最後のお別れの挨拶をしに行った
もう二度と会えないことは何となく分かっていた
合意の上で近所の廃屋の中で体を重ねた
互いに果てて何とも言えない時間を過ごしていた
と、その空間の弛緩を銃声が破った
ソ連軍が侵攻して来たのだ
それからのことは余り記憶にない
ただ逃げることと家族を探すことに夢中だった
アイツに最後の「さよなら」を言うことができなかった
幸運にも北海道へと向かう引き上げ船に両親と一緒に乗ることができた
今はただただアイツの無事をひたすら祈るしかない

32824-809 武家×軽業師 4/4:2012/09/04(火) 11:06:12 ID:bxDDdcrQ
〈現代〉
俺は北海道で一番サッカーが強い高校のサッカー部のキャプテンなんかしている
今日は来日中のロシアの名門クラブのユースチームと試合をすることになった
一番の要注意はユースのロシア代表にも選ばれているフォワードの背番号11の選手だ
とにかくトリッキーなボール捌きが上手でディフェンダーをひょいひょい抜いてしまう
それで付けられたあだ名が『軽業師』なんだそうだ
ちなみに父親はロシアサーカスの芸人で代々続く軽業師の一族と言うのはコーチからの情報
俺も実は家計図なんか残っている武家の末裔だから、そういうのを聞くと燃えるな
さてそろそろグラウンドにあちらさんたちが到着したようだ
その刹那に俺は強烈な視線を感じた
視線の主は……アイツだ
あれが噂の軽業師か?
うわーっ、なんかラノベとかに出てきそうな銀髪の美形の凄いイケメンだわ
……何だろうか、この感じは?
初対面のはずなのにずーっと大昔から知ってた気がする
と、軽業師はいきなり俺の方に向かって猛ダッシュして来た
そして俺に思いっきり抱きついて大声で言った
「ヤットアエタネ!!! コンドコソゼッタイニハナサナイ!!!」
初対面十秒でいきなり凄いことになった
ただ俺もこの軽業師を絶対に離したくないとその瞬間から強く思うようになっていた

32924-869 潔癖症だった攻め:2012/09/11(火) 23:36:32 ID:oMkTkJSM
自分以外のものが不潔に思えて仕方のない時期があった。
例えば、ジュースの回し飲みなんてありえなかったし、ちょっとした物の貸し借りすら苦痛だった。
携帯用の除菌スプレーがお守り代わりだった。
潔癖症を隠したくて周囲から一歩退いていたら、「気難しい孤高の人」というレッテルを貼られていた。

お前と出会ったのは、その頃だ。
明るくて人懐っこくて、ぎこちない態度の俺にも屈託なく話しかけてきた。
お前は俺の対極にいて、俺の理想だった。うらやましかったし、憧れていた。

興味があると言っていたCDを貸した。「すげー良かった!」と笑顔で言われて、つられて笑った。
寒い冬の日、風邪気味だと言ったら巻いていたマフラーを渡された。ほんのり残った温もりが心地よかった。
お前の部屋で、二人で鍋をつついた。その日以降、誰かと同じ器から物を食べても平気になった。

除菌スプレーを持ち歩かなくなった頃、自分の欲を自覚した。
お前を俺だけのものにしたい、お前に触れたい、お前とつながりたい。
最初は信じられなかった。
今まで眠っていたそういう欲求が、一番身近なお前に向いただけじゃないかと思った。
自分の変な錯覚にお前を巻き込みたくないと思って、距離をおいた。
すごく身勝手な振る舞いだったと、今になって思う。
誘われるまま合コンに行って、女の子と知り合った。何度か二人で会って、そういう雰囲気になった。
でも違った。以前他人に感じていた、どうしようもない不潔感は消えていたが、ただただ「この子ではない」という違和感があった。
そこでようやく、俺は馬鹿な遠回りをしていたことに気付いた。彼女には、本当に申し訳ないことをした。

単純なことだ、順番が逆だったんだ。
潔癖症が治ったからお前を好きになったんじゃない、お前が好きでしょうがなかったから、潔癖症を乗り越えてしまったんだ。

本当はまだ、誰かと触れ合うと緊張する。だからうまくいかないかもしれない。それでも、俺は――



なおも言い募ろうとした彼の唇に、オレはそっと人差し指を押し当てた。
告白された時は、これ以上幸せなことはないだろうと思っていたのに、ヤバい、今、泣きそうだ。
訥々と語られたのは、彼の過去、彼の心、そして彼の変化の原因が他でもないオレという嘘みたいな事実。
「いいよ。おまえ相手なら、うまくいかないなんてありえねーもん」
言うなり、ガバリと抱き寄せられた。彼の鼓動が間近に聞こえる。
「ああ、本当に、お前はどこまで俺に甘いんだ」
耳元で囁かれて、思わず顔を上げる。目の前の瞳は、俺と同じくらい潤んでいて。

最初のキスは、二人分の涙の味がした。

33024-959 踏み台になる:2012/09/22(土) 21:55:26 ID:rf5rlYIw
規制ひどいんでこっちに投下



「はい原くんどうぞ」
横矢が壁に背をついて、バレーのレシーブのように腕を構えた。手は足を乗せるため上に向けられている。
「…横矢お前、マジちゃんとついてこいよ?」
「わかったから原くん、早くのぼって」
「一人で帰んなよ!?」
「わかったってばあ」

いつからだろう。横矢がこんなふうになったのは。
自然と踏み台になり、高いものには必ず手を伸ばす、悲しいほど当たり前になってしまったこの身長差。
見下ろされる居心地の悪さ。
こいつに威張り散らす俺をどこまでも滑稽なものに変えてしまう目線の差。
思春期と呼ばれる俺には吐き気がして当然の違和感だった。

深夜の学校に忍び込もう、そう言ったのは俺だった。
下らない度胸試しの一つで、先週バスケ部の森崎がやったばかりだった。校庭に忍び込み白線で書いた「森崎最強」。
もちろん森崎は翌日には校長教頭揃い踏みの中で土下座をするハメになったわけだが、校内での奴の好感度はあがった。田舎の娯楽だ。
それから何度か忍び込もうとした生徒がいたが、皆あえなく大人たちに捕まった。
森崎のあとに続ける者は未だ現れていないのだ。
それはちっぽけな自信をくじかれかけた自分にはチャンスに思えた。
ここで偉業をなしとげて、ひょろ長い図体をした横矢に負けない自分になるのだと、馬鹿げた鼓舞をした。
そして横矢にそれを見せ付けて、その時こそ安寧を手に入れられるのだと。

だがそんな夢物語の薄っぺらな脚本は、早々に破り捨てられた。
警備員だ。
当直室の様子は先程確かめてきたばかりだ。
故に声を荒げながらこちらへ走ってくるあの男は、教員ではない。
まさかここまで徹底されているとは。
「おい、横矢降ろせ!警備員!」
「うそ!?」
「撤収な!」
叩きつけるような心臓の音を聞きながら、汗だくになってもペダルを漕ぎつつけた。
そうして俺にはこんなこともできないのかと悔しさやぐちゃぐちゃとしたものが込み上げてきた。
涙になりそうだったそれを声にかえて吐き出した。文字にもならない叫びが人気のない道路に吸い込まれていく。

自分のことさえ持て余した俺は、その夜横矢がどうしたかなんて、気にもかけなかった。

次の朝ざわつく教室から見えたのは、校庭にいっぱい真っ白な「好き」の文字。
横矢を見ると目を細めて、俺の頭に手を置いた。
なぜだかそれは心地がよくて、胸には消し飛んだ不安の代わりにくすぐったいような予感。
自信ありげな横矢の顔にも、なぜかいらつくことが出来ない。
「今度は置いて行かないでね?」
お前が俺を置いていくから、と、言いかけてやめる。
「置いてかねえよ」
横矢が笑う。
俺も笑う。
季節はもうすぐ本当に秋。
肌寒い廊下の風の奥から、教頭の怒鳴り声が聞こえた。

33125-59 俺のこと好きなんだろ?:2012/10/04(木) 06:25:16 ID:o22jxjt.
私は常識を逸脱したものが著しく嫌いだ。
2年C組の原田は、私の理解の範疇から一歩、いや何歩も踏み外している。
何度注意しても直さないボサボサの金髪。
ゴムで縛った前髪が、教壇から一番遠い最後列とは言え、非常に目障りだ。
そして何より座り方がおかしい。
椅子の上で、ある時は体育座り、ある時は胡座、またある時は正座。
数学の授業なのにこいつが腐心しているのは間違いなく、難しい解を求めることよりも、難度の高い座り方に挑戦することだ。
今は坐禅を組もうとして、必死に右足の上に左足を乗せようとしている。
おい、落ちるぞ。

気づくと、教室のあちこちから含み笑いが聞こえる。
「先生、板書間違ってます」
「え?…」
黒板に目をやると、『原田からの距離』という、紛れもない自分の文字が飛びこんできて、息が止まりかけた。
「あ、あぁ…すまん」
慌てて『原点からの距離』と書き直す。
恥ずかしさで耳が熱い。
私がこんなミスをするなど初めてだ。意味がわからない。

突然、教室の後ろからガタッと大きな音がした。
やっと坐禅を組むのに成功したらしい原田が、バランスを崩しかけて机にしがみついた音だった。
生徒の目線は原田に集まり、その体勢を見て教室は笑いに包まれる。
私も思わず苦笑がもれる。
照れたように笑っていた原田の目が、いきなりこちらを向いたかと思うと、なぜかパアッと明るくなった。
「先生、笑った」
え?
「やっぱさー、先生、」
何だ。
「俺のこと好きなんだろ?」
何を言い出すんだこいつは。

一斉に笑い声が起きる。
「何言ってんだよ」
「原田が先生のこと好きなんだろ」
「お前数学の授業しか出ねーじゃん」
囃し立てる生徒の声がやけに遠くに聞こえる。
原田が何を考えているのかも、自分が次に取るべき行動も、何一つわからない。
こんなの、完全に私の理解の範囲外だ。
私はやっぱり、原田のことが大嫌いだ。

33225-139 軽薄色男受けが本気になる瞬間:2012/10/15(月) 00:31:05 ID:hLv8qZ.A
トロトロ書いてたら被ったのでこっちで萌え語りさせて下さい


恋愛的な意味や性的な意味で本気になる軽薄受けも萌えますが
個人的には戦闘的な意味で本気になる受けを推したいと思います
軽薄で色男、きっと情報を仕入れたり助っ人にするには重宝するけど
一生背中を預ける相棒としては心もとない微妙な存在なのでしょう
そしてそういう性格になったのにも暗い過去やらトラウマやらがあるのでしょう
そんなめんどくさい受が本気になる程惚れるまで攻は相当苦労したと思います
「そいつは止めとけ」と周りに反対され、実際に何度か受けに裏切られ
それでも受けを信じ背中を支え預ける事の出来る男前な攻めさん
そんな攻が瀕死のピンチになり逃げる事も出来ない絶体絶命の時こそ受けが本気を出すのです
明らかに格上の敵に囲まれ、攻めに「僕なんか置いて逃げろ!」と言われ
それでも引かずに出せる限りの本気で戦う覚悟を決める受け
「昔ならお前さんなんか簡単に見捨てれたのになぁ…」
なんて攻めにぎこちなく笑いかける受けはさぞ美しい事でしょう
その後は覚醒した受けが一人で勝っちゃうような愛の力最強展開も萌えますし
受もボロボロになった頃何かが切っ掛けで助かる負けイベント展開も美味しいと思います
(ボロボロの二人で「負けちゃったな」「負けちゃったね」な会話が入るとさらに良いと思います)
またボロボロになった受を見て愛の力で攻復活→力を合わせて逆転勝ち展開も素晴らしいですし
勝ち目が無いと悟った二人が心中するようなBADENDもそれはそれで良いと思います
ですが個人的には勝ち目が無いと悟った受けが最後の力で攻めを回復させる展開が好きです
回復した後「カッコよく護ってあげられなくてごめん」と言い残し死んでしまう受け
肉体は護られたが心は酷く傷付いた攻と肉体は死んだが心は報われた受の対比
そしてビターなEDは今まで軽薄だった受だからこそ生み出せる結果だと思います

つまり何が言いたいかというとたった一人の攻にだけ本気で尽くせる軽薄色男受めっちゃ萌える

33325-209 どんなぱんつはいてんの? 1/2:2012/10/25(木) 03:33:44 ID:9xOU8aik
「どんなパンツはいてんの?」

真夜中に女装して歩いてる所を幼馴染の亮に見られた
慎重に、慎重に、と気を使っていたつもりだったが努力は無駄だったようだ
性癖を除いてだが今まで真面目に生きて来たこの十数年もここで終わる
そういう覚悟を決めて今まで隠してきた全部を亮にぶちまけた
その結果返ってきたのが「どんなパンツはいてんの?」という言葉だ
「…僕の話聞いてた?」
「ん、聞いてたから、下着も女物なのか気になった」
「……普通のトランクスだよ」
呆然とした頭で半ば条件反射のように僕は答えたが
返ってきたのは「ふーん」という気の抜けた返事と
「お前心は女なの?」という更なる質問だった

「さっきも言ったろ!?男だよ!
 男なのに女の服着て喜んでる変態なんだよ僕は!
 やっぱり僕の話聞いてなかったんじゃないか!」
みっともない位取乱した僕といつも通り淡々とした態度の亮との
違いが悔しくておもわず感情のままに捲くし立てた
「いやお前"女装癖がある"とはいったけど心が男か女かは言わなかったじゃん
 ていうかさ、オレがお前の話ちゃんと聞かなかった事とかあったっけ?」
やっぱり亮は嫌味な位冷静で淡々としていて、僕は心底情けない気分だった
「…ないけどさ」
泣きそうな声でポツリと言うと
「だよなぁ」
何だか少し楽しそうな声が返ってきた

33425-209 どんなぱんつはいてんの? 2/2:2012/10/25(木) 03:34:43 ID:9xOU8aik
「こんな女装男と居る所見られたら君まで誤解されるよ
 大体亮だって僕が変態だって知って幻滅しただろ…、もうさっさと帰ってよ」
やっぱり泣きそうな声でそう言った瞬間堪えきれなくなった涙が一粒足元に落ちた
いい歳した男が女装して幼馴染の前でメソメソ泣いてる、本当になんて情けないんだろう
「まあオレもゲイでネコだからさ、変態同士って事でそんな気にしなくてもいんじゃない?」
感傷と絶望に浸っていた僕はサラリと告げられたとんでもない発言に弾けるように顔を上げた

「なッ、何それ!嘘!?僕の事からかってる!?」
「オレがお前に嘘ついた事とかあったっけ?」
「ないけどさ!ないけどさぁ…!!!」
夜中って事も忘れて大声で叫ぶ僕の口にしーっと人差し指を当てる亮
「そんなに信じらんないなら好みのタイプでも教えようか?
 えーと、真面目な慎重派で鈍感で思いつめやすい手のかかる感じの…」
「うわあ!いい、もういい!何かリアルでヤダ!」
余りにも衝撃的過ぎる展開に感傷と涙は引っ込んでしまった

僕は亮の手を引っ張って早足の大股でズカズカ家へと向う
「と、とにかく一回ちゃんと話しようよ、今日は僕の家に泊まって貰うからね!」
「なあ、さっきの続きさぁ、自分の事より他人の心配ばっかする様な奴が好みだよ、オレ」
「それはもういいってば!幼馴染の好みの男性像とか聞きたくないよ僕!」
すっかり忘れてたけど僕今女装中だし亮に色々聞かなきゃいけないし
速く部屋まで戻らないと、いつも通りゆっくり歩く亮を半ば引き摺るように進む
「…はぁ〜、にぶちん」
「え?亮なにか言った?」
「さあ、空耳じゃないの?どうでもいいけどさ、今日月綺麗だね」
言われて夜空を見上げてみると確かに今日の月は濃い黄色が綺麗だった
「ん、ほんとだ綺麗、言われるまで気付かなかった」
「ダロ」

(…やっぱ、にぶちん)

335強がらない:2012/10/27(土) 19:41:45 ID:9P9LIwa.
沢田は昔から強がりだ。

俺は今、沢田が大学で1番の美女に一世一代の告白をした河原の土手にいる。
沢田は隣に座っている。見てる奴なんか誰もいないのに、泣かない。沢田は幼稚園の頃から一度も、人前で泣かない。

しかし泣きたいのは本当は俺の方だ。
何が悲しくて10年も片想いをしている奴の告白を見届けなければならなかったのだ。
フられてホッとしているなんて、沢田には死んでも言えない。

でも。沢田と違って強がれない俺は、好きな奴が悲しそうなのを見て、そして、俺が1番言われたいことをあんな女に言っていたのを見て、懸命に涙を我慢している。

「しん、なんでお前が泣きそうなんだ」
沢田は俺の顔なんか見なくても、俺が泣きそうなのをわかっている。
「お前が強がって泣かないからだ」と答える。本当は違うが。

「じゃあ、お前が泣けないと言うのなら、おれはもう強がらない。泣くよ。お前も泣け」

驚いて隣を見ると、沢田は初めて俺の前で泣いていた。ただ静かに、涙を流していた。

だが、俺は泣かなかった。
沢田、知っていたか?
俺は、お前が俺の目の前で安心して泣けるような男になるのが、小さい頃からの夢なんだよ。
大きく息を吸って、沢田の手を握った。

「沢田、俺はお前の事がずっと」

336暗殺者と虐殺者:2012/10/31(水) 12:16:44 ID:5jva7xIM
暗殺者は受けた仕事を淡々とこなし感情は込めないし仕事を選ぶこともない。
虐殺者のほうは自分の価値観で仕事を選び、許せないと思った奴だけを残虐な殺しかたで殺す。
全然違う人種なのにお互いを「人殺しは斯くあるべき」と尊重していた。

顔も名前も知らなかった2人が偶然出会い、同業者ならではの鋭さでお互いに正体を知られ、自分を偽ることなく関係を築き上げていき、今までの罪と向き合い2人で足を洗うかと悩みだしたその時、それぞれに対して殺意を向ける復讐者が現れ、暗殺者には虐殺者暗殺の依頼が、虐殺者には暗殺者虐殺の依頼が届く。



…という心中ENDまっしぐらな設定を数分で思いついた。
誰か最後まで完成させてくれたらいいのに。

33725-459 京都人×東京人:2012/12/04(火) 06:48:56 ID:KoHSiJGY
地元の人から見たら京都弁が間違ってる感じがありまくりですが
脳内補正していただけると助かります。
==========

出会ったのは夏の頃、その1年後に同棲することになった2人。
「食事の支度は交代で」というルールになり、最初のうちは
「はぁ? なんでお出汁取るのに昆布使わへんの?」
「えー、そんな薄い色の醤油使った煮物なんて美味しくなさそう」
とか言いつつ少しずつ妥協点を見出してきたのだけど、
大晦日の晩に正月用の雑煮の仕込みをしているときに
作り方の決定的な違いに気がついてケンカになった。
「嫌やわぁ、切り餅なんてめっそうもない。
 ましてやお醤油色の雑煮なんて絶対あきまへんえぇ!」
「おい、それ味噌汁に餅入れただけだろ、
 そんなの正月じゃなくても食えるじゃねーか!」
そのままケンカは互いの実家のお節料理の違いにまで発展し、
「もういい! 黒豆のちょろぎを馬鹿にする奴の顔なんか見たくない、
 ここから出ていけ!」
「出てけとは何様どすか?! いも棒の美味しさを分からへん人のことなどもう知らん、
 言われなくても行くわぁ!」
と京都人の方が家出することになった。

当初はお互い頭が沸騰していて気がつかなかったけど、
あとは餅を茹でて入れるだけの状態まで作った白味噌雑煮の味見をした東京人、
実は普段食べている味噌汁よりも奥深い味わいで美味しいことに気がつき、
慌てて部屋を飛び出して京都人を探しに行く。
一方の京都人、あまりに慌てていたので上着を着るのを忘れ、
東京人が飛び出したのと入れ違いにこっそり部屋に戻ってきた。
自分が雑煮を仕込んでいた鍋とは違う鍋が台所のコンロに乗っているのを見つけ、
そこには東京人が仕込んだ澄まし雑煮の汁が入ってたので何気なく味見。
実は「あまりに醤油の色をつけたら食べにくいだろう」と思って
東京人が京都人に合わせて薄口醤油で仕上げてあることに気がついた。
やはり京都人も慌てて東京人を探しに部屋を出ようとしたところ、
玄関先で鉢合わせ。
「お前何やってるんだよ?」
「さぶいぼ立つほどひやこいさかいに上着取ってこよか思うて。
 あんさんこそ何してますの?」
「探しに行くのにむやみに歩き回るよりはと思ったから自転車の鍵を取りに…。
 というかさぁ、互いに作った雑煮を1杯ずつ食えばいいんじゃないか?」
「ああ、それがええ。ほなそうしましょ」
翌朝互いに作った雑煮を交換して食べたが
「うっぷ。さすがに餅4つは多い…」
「あーしんどい。他のごっつぉ入らんわぁ」
と苦しいお腹をさすりながら足を伸ばし、
こたつに入ったまま畳に寝転ぶ姿はどちらの地方も差がないのだった。

この2人は毎年正月の雑煮をそうやって2杯食べるといいと思うよ。

33825-639 酌み交わす:2012/12/20(木) 13:00:17 ID:8oJIvay6
萌え語りさせてください
1.忘年会で返杯につぐ返杯で、酔ってタメ口になって和気藹々と明るく酌み交わすリーマンが一番に浮かぶけど

2.バブルの頃のクリスマス
デートの予定もないしバカ騒ぎのパーティも苦手で不参加の男同士(両片思い)が食事でもと出かけるが、どの店も満席で入れない
どっちかの家に行くのもなんか気恥ずかしくて、街うろついてやっと見つけたのは純和風の小料理屋
店の雰囲気でビールではなく熱燗頼むけど、お銚子や杯の扱いに慣れてなくてぶつけたり入れすぎたりと、ぎこちなく酌み交わして数十年
一緒に暮らしてる二人が、こんな冬の夜にコタツに入って熱燗をごく自然に酌み交わしながら鍋つついて暮らしてる、なんてのもいい

3.それなりの地位のライバルが、お前がまさかこんな所にくるのかって路地裏の屋台で鉢合わせ
帰るのは自分が逃げるみたいで嫌で、気に入らないけど同席することに
やる気のない店主が二人の間に一升瓶置いて仮眠してしまう
「冷かよ!」と文句言いながら飲むんだけど瓶の手酌は注ぎにくくて、会話はないのに自然と酌しあってコップ酒を酌み交わすとか

冬、男同士、酒って萌えの宝庫だ!

33925-699 あいみての のちのこころに くらぶれば:2012/12/28(金) 14:07:22 ID:hHGhJdFs
規制にひっかかってダメでした。700さんじゃありません。

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百人一首漫画にのせられて、競技カルタをはじめてみた。
やってみたら面白くなってしまって、俺は才能もあったみたいで
トントン拍子に勝てるようになってしまった。
運動神経もいいし、耳もいいし、勘もいい。地元では敵なしだった。
あまりにもちょろかったから俺は天狗になっていたんだろう。先輩から軽く戒められた。
「お前は確かに強い。でも、もっと強い人はたくさんいるぞ」
そりゃあいるのだろうけれど、そうですねと流していた。

ある日、お前の競技スタイルと違うから参考になるだろうと、先輩がDVDを持ってきてくれた。
テレビ出演してる時点で相当うまい人なんだろうとは思っていた。
だが、予想よりも強かった。本当に強かった。
こんな札の取り方があるんだ、守り方があるんだと、驚いた。
しばらく声も出なくて、やっと出た一声は
「この人と対戦するにはどうしたらいいんですか?」だった。
「お前、名人戦に出るつもりなのか」と先輩に笑われた。
その頃の俺は、名人戦にはどうやったら出られるのかも知らなかった。

彼とはじめて対戦するのは、それほどかからなかった。
別に俺が名人戦に出られるようになったわけじゃなく、
彼が地元に招待されて記念試合を若手としてくれたからだ。
あっさりと俺が負けた。彼は礼をしてニッコリしながらさっさと席をたってしまった。
俺はこんなに弱かったんだと茫然自失だった。

それ以降の俺は人が変わったように練習の虫になってしまった。
地元では練習相手が見つからず、カルタの為に引っ越していた。
もう一度、彼と戦いたくて。
もう一度、彼に逢いたくて。

『「逢ひ見ての のちの心に くらぶれば 昔はものを 思はざりけり」
恋しい人と逢瀬を遂げてみた後の恋しい思いに比べれば、昔の恋心などなかったようなものです―――』

女とやったら忘れられなくなりましたなんて、エロ思考な歌だと思っていたけれど、
それぐらい夢中になれる人に会ってしまったんだな。

数年たち、俺の目の前には彼がいる。
「よくここまでこれたね」
「頑張ったんで」
「思ったより遅かった」
今までの、冗談ではない本当に血のにじむような努力が頭の中を駆け巡り、
カチンときた俺はふてくされながら
「はあ?そうですか? 俺は思ったより早かったですけど」というと
「僕が年をとってから来れられても、卑怯だよ」と彼はさらりと答える。
そのくらいのハンデをくれたっていいじゃねえかと俺は心の中で毒づいた。
「じゃあ、よろしく」
「よろしくお願いします」
礼をして、俺は耳を澄ませた。
あとは、札を読む音と、畳のなる音だけが響いた。

34025-649 坊ちゃん×幼馴染の使用人:2013/01/02(水) 18:52:52 ID:kMwHVWgY
お題を見た時、坊ちゃん×坊ちゃんの幼馴染's使用人と勘違いしたw
萌語りをします。

腐れ縁の使用人がタイプ過ぎて、毎日押しかけたりセクハラしたり、引き抜きさせてくれと頼み込んだりする攻めに、面白がっている主人(幼馴染)の手前全力拒否できないドン引きな快活な受け。
攻めが大規模かつ空回りのプレゼントを用意したり、真面目になる攻めに時々絆されるけど身分の違いに迷う受けだったり、腐れ縁だからこそ攻めに辛い忠言をする幼馴染だったり。
スピンオフには、攻めの使用人×幼馴染なんて如何だろうか。


幼馴染の使用人に坊ちゃんと呼ばれる一般人の内気攻め。主人の昔からのご友人としか認識しない笑顔仮面の受け。
金持ちの使用人としてのしがらみや建前ばかりの受けの世界が分らなくて、理解しようと頑張りつつも本音を聞き出したいと受けに訴える攻め。攻めの真っ直ぐさに遠ざけたくなったり、攻めに近しい主人に嫉妬する自分に驚愕したりする受け。
幼馴染は昔から支えてくれた攻めと受けが幸せになることを何よりも望んで色々裏で手を回せばいい。


始めは文章を書くつもりだったが、途中で挫折しました。はい。

34125-729 寝正月:2013/01/03(木) 16:52:00 ID:jwbArMPs
正月早々病で床についているのは縁起が悪いので『寝正月』と言い換えるとは、先人たちは洒落ている。
だが、言い方を変えも病気は病気だ。
通いの者は三が日は休みを取って家には一人きり、さてとうしたものか。
食欲はないので、水だけで持たないだろうか?
ラチもないことを考えていると、縁側のガラス戸の開閉音と小走りの足音が聞こえてくる。
そして私のいる寝間の障子がからり開かれた。
「ああ、やはり寝込んでる」
「入ってくるな。風邪がうつるぞ!」
予想通りの相手に語尾を強めて言うが、彼は聞いていないかのように全く気にせず枕元に腰を下ろした。
「茶会に来ていなかったから、もしやと思ってきてみたら案の定だ」
「・・・・・・」
少しでも接触を避けるためと、こんな情けない姿を見られたくないのとで布団を目元まで引き上げるが、彼は腰を下ろすと手にしていた折り詰めを枕元に置く。
「料理を詰めてもらった。食べるか?」
今はまだ味の濃いものは欲しくなく、首を横に振る。
「なら蜜柑はどうだ?」
そういって袂から取り出しされた小ぶりの蜜柑を、つい凝視してしまう。
「剥いてやろうか?」
「自分で出来るから、とりあえず出て行ってくれ」
布団越しに小声で頼む私に、彼はあきれたようにため息をつき、
「せっかく来てやったのに、冷たい奴だな〜」
「うつしたくないから、出て行けと言ってるんだ!」
つい大声を上げてしまった私に、彼は怒るどころか笑顔を向けた。
「俺は丈夫だから平気だ。だから、お前が良くなるまでついていてやる」
「・・・・・・」
まったく人の話を聞かない彼に腹が立つよりも、呆れるよりも、一人でなくなることへの安堵を感じた。
「とりあえず粥でも作ってやろう」
「お前が!?」
「米と水があればなんとかなるだろ?」
それを食べるのは私か?と心配になったが、勝手場に向かう彼の後ろ姿を見送りまあいいかと思えてきた。
彼がいるなら、寝正月も捨てたものではないだろう。

34225-739 強くてニューゲーム(1/2):2013/01/04(金) 01:22:21 ID:8zR/OyEI
やり直しているんです。
彼と何の障害も無く一緒に居られるために。

僕は平民の出で、彼は良家の次男坊です。
身分差など気にせず、彼は対等に接してくれました。僕を見下したりしなかった。
僕の描いた絵を彼が褒めてくれて、屋敷に招いてくれたのが交流のきっかけです。
僕らは最初は良い友人になり、僕は彼の元へよく通うようになりました。
そしてじきに友情を越えて愛し合うようになったのです。
そのことはバレませんでしたが、彼の両親は、友人としての僕すら認めてくれませんでした。
無学な貧乏絵描きなど、友人に相応しくないと交友を阻まれたのです。
出自を考えれば当然のことだったのかもしれません。
しかし僕は諦められなかった。彼を説得し、僕らは逃げた。
ところが優しい彼は、捨ててきてしまった家族のことをずっと気にしていて、何度も連絡を取ろうとした。
その度に僕は説得していたけれど、そのうち彼は気に病むあまり、本物の病に倒れてしまったのです。
来世で会おうという僕への言葉と、家族の謝罪の言葉を口にして、彼は逃亡先で息を引き取りました。
僕は泣きました。同時に、どうしようもなく悔しかった。
来世だなんて、そんなもの。会えるかどうかわからないじゃないですか。
僕は嫌だった。僕は今生で彼と結ばれたかった。堂々と彼の隣に居たかった。
だから、やり直した。

彼の両親に見下されないように、僕は必死で勉強しました。
絵で稼いだ金はすべて本へとつぎ込みました。彼に釣り合う教養を手にしたかった。
ところがやはり反対されたのです。今度は家柄が釣り合わぬと言われました。
しかも、彼が席を外しているときに、ひどく高圧的に。
息子は将来この家を背負う人間なのだ、君のような者と付き合っていると堕落すると。
なんて馬鹿馬鹿しい人達なんだろうと思いました。あんな人達と彼とが血が繋がっているなんて。
あのときの悔しさが腹の底で蘇りました。僕は我慢できなかった。
その頃はすでに、僕と彼の関係は深くなっていました。
彼が僕の部屋で眠っているときを見計らって僕は彼の屋敷へ向かい、火を放ちました。
これで邪魔者は居なくなると僕は安堵していました。
ところが、計算外のことが起こった。
夜が明けぬ内に彼が目を覚まし、僕が居ないのを不審に思い、家の方へ戻ってきてしまったのです。
燃え盛る家を見て半狂乱になった彼は、僕の制止も聞かず家に飛び込んだ。
そして炎に包まれて、彼は焼け死んだ。
僕は心から後悔した。それこそ死ぬほどに。
だから、やり直した。

今度は彼に出会うずっとずっと前から、僕は準備しました。
慣れない媚を売って愛想笑いを浮かべて金持ち連中に取り入って、とある家の養子に収まりました。
屈辱的なこともありました。我慢も沢山しました。好きな絵を描く時間もなかった。
でも彼と共に居られない辛さに比べれば、なんということもありませんでした。
これで平民だと馬鹿にされることはなくなったのだから。
そして進学させて貰い、僕は彼に再び会うことができた。
それはこれまでの出会いとは違ったけれど、彼は彼のままでした。僕の愛する彼でした。
すぐに僕と彼は良い友人になった。今度は彼の両親も何も言いません。
僕は嬉しかった。してきた事がようやく報われたのだと。
ところが、また計算外のことが起こった。いや、起こっていた。
彼に、許婚が居たのです。そんなもの僕は知らなかった。
『過去』にそんな女性などいなかった。
しかし『今』はそれが現実でした。
僕が彼に釣り合うよう必死に努力していた陰で、彼は僕ではないひとを好きになっていたのです。
信じられなかった。
何も変わらない筈なのに、不都合な現実を変えたきただけの筈なのに、変わってしまっていた。
絶望する僕には気付かないようで、彼は僕に笑いかけました。
「うちに来て絵を描いてくれないか」と。よりにもよって、彼と許婚の二人の絵を。
そのときどんな顔をしてどんな返事をしたのかはよく覚えていません。
ただ、家を訪ねる約束をして、一旦帰宅して、僕は絵筆の代わりに、ナイフを握りました。

34325-739 強くてニューゲーム(2/2):2013/01/04(金) 01:24:47 ID:8zR/OyEI

僕はやり直しているんです。
彼を愛しています。彼も僕を愛してくれています。
彼の隣に居るためにやり直しているのに、どうしてこんな風になってしまうのだろう。
今度こそ、今度こそ、上手くやらないと。
あの、僕は死刑になるんですよね?二人も殺してしまったのだから、そうなりますよね?
捕まるなんて、これも計算外だった。
時間が勿体無い。早く死刑にしてください。僕は、早くやり直さなければならないのです。



「馬鹿だな、君は」
私は目の前の男に言葉を投げたが、彼の瞳は虚ろでこちらの言葉は届いていないようだ。
言いたいことをただ一方的に喋るだけ喋って、あとは薄く笑みを浮かべているだけ。
彼の言を信じるのなら、またやり直すことができると確信しているからだろう。
「君は一刻も早く死にたいようだが、今の君は神経衰弱だと診断されている。
 よって死刑にはならない。『今回の』君は、残りの一生を病院の中で暮らしていくことになる」
勿論、死は平等だからこの男にもいつか訪れるだろう。しかし、それは彼の望む時期ではない。
彼にとって辛い事実を突き付けているも同然の筈だが、やはり彼からの反応は無い。
しかし私は構わず彼に語りかける。
「まったく、君の執念には呆れを通り越して感心するよ。それは君の美点でもあると思うが、同時に欠点でもある。
 先程も言ったが、君は馬鹿だ。美点を美点として制御できれば、いくらでも幸せになれるだろうに」
一つのことに目標を定めると、周りが見えなくなる性質なのだろう。
しかし見えなくなるにしても限度がある。
「今にして思えば、駆け落ち程度で驚いていたのは浅はかだったよ」
私は少し前屈みになって、男の瞳を覗き込む。
「邪魔な家族を殺そうとしたところまでは、理解したくもないが理解しよう。
 しかし、まさか弟本人にまで手にかけるとは思わなかった。婚約者諸共とは言え、ね」
「おとうと……?」
男はぼんやりとそう呟き、不思議そうに首を傾げた。
もしや会話が成り立つかと期待して続く反応を待ったが、またすぐに彼の瞳は虚空へ戻ってしまう。
私はため息をつき、背もたれに凭れ掛かった。
「私の話を簡潔にしてあげよう。
 一度目、私は君達を追って愚かにもこの身体で屋敷の外に一人出て事故に遭った。
 二度目、君の放った火にまかれて逃げられないまま焼け死んだ。
 三度目、弟に君を屋敷に招くように頼んだ。『一応の用心で』、警備員と医者を手配した。
 それからこれは私の希望が混じった推測だ。
 一度目、弟は君の目を盗んで一度だけ実家へと連絡を取り、私の死の経緯を知った。
 二度目、私の身を案じ、弟は自分の危険も省みず私を助けに向かおうとした」
目を細めて彼を見据える。
恐らく、弟を失ったと同時にこの男は死を選んだ筈だ。
ならばもし、彼が自殺を選ばず――選ぶことができず、このまま無様に生き長らえたら。
考えているとふと背後でノックの音がして、ドアが開く気配がした。
「お時間です」
聞こえてきた事務的な声に、私は振り向かずに頷く。
「ああ、結構だ。行こう」
静かな足音が背後まで迫り、失礼しますとの声と共に、私の車椅子はゆっくりと方向転換する。
私は最後にもう一度男の方を見やり声を投げる。
「また来るよ。次はカンバスと絵の具を持って。実は、私は君の描く絵画のファンなんだ」
反応は無い。
私は笑みを浮かべた。視界の隅で迎えの男が僅かに眉を顰めたが、何も言わなかった。

真っ白な部屋を退室し、無機質な廊下を進みながら私は問いかける。
「弟達の容態はどうかな?」
「はい。依然、意識は戻られておりませんが、峠は越えたと先ほど連絡が」
「それは良かった。落ち着いたら花を持って見舞いに行こう。
 しかしまずは、先方への根回しが優先だな。あとは父さんと母さんにも適当な説明が必要か」
あまりご無理をなさりませんように、という言葉が降ってくる。私は鷹揚に頷いてみせた。
わかっている。
わかっているが、逸る気持ちを抑えるのは難しいのだ。
今度こそ、私は何をも失うわけにはいかないのだから。

34425-749 猫っぽい人×犬っぽい人:2013/01/06(日) 00:41:36 ID:Pqo1mpqw
職場の飲み会、その二次会の帰り、店横の路地での出来事。
好きです、と彼は呟くように言った。
真っ赤にした顔を俯かせて、俺のコートの袖を掴まえている。
「初めて会ったときから、初対面ってカンジがしなくて……きっと一目惚れなんです」
そのままの姿勢で、つっかえつっかえ喋っている。
「自分でも、おかしいって思います。でも俺、気がついたら、先輩のことばかり見てて」
「お前、酔ってるな」
「酔ってます。酔ってなきゃ、こんな告白できないです」
やや乱暴な口調と共に、彼は意を決したように顔をあげる。
まだ少し幼さが残る顔は、強気な声とは裏腹に今にも泣きそうだった。
感情が顔に出やすいんだなと考えている俺に、彼は繰り返した。
「好きです。俺、先輩が好きです」
「………」
酔っ払った冗談だろうとか、反応を見て後でからかうのだろうとか、そんな風に考えることもできたが
そのときの俺はただ「本気なんだろうなあ」とぼんやり思っていた。
彼が配属されてきてからからまだ一ヶ月しか経っていない。そこまで多く言葉を交わした覚えも無い。
それでもなんとなく、彼は本気なのだと確信していた。なんとなく確信、というのも変だが。
とにかく、ならばこちらも真面目に返さなければならない、そう思った。
「そっか。ありがとう」
言って、空いていた左手で彼の頭をぽんぽんと叩く。
それに驚いたのか軽く目を瞠っている相手に、続けた。
「ごめんな。俺、明日は早出だからもう帰らないとならない」
ごめん、と俺は頭を下げた。
途端、ずっと掴まれていた右腕が解放される。
次の瞬間には、彼は俺とは比べ物にならないくらい深く頭を下げていて、そして
「すいませんでした!」
と叫んだかと思うと、くるりと回れ右をして、恐ろしい速度で走り去っていく。
否、走り去っていくと俺の脳が認識した頃には、走り去っていた。
俺はぽかんとしていた。
なんだ今の一連の動作は。瞬間芸か。本当に瞬間すぎてついていけなかった。
「…………」
それからしばらくの間、その場に突っ立ったまま考えた。
電話して呼び戻そうかと考えたが、そういえば彼の携帯番号を知らない。
「……。ま、いいか」
どうせ明日また会社で会うのだから、そのとき聞けばいい。そう判断して帰宅することにした。

今思えば、俺も多分に酔っていたのだ。

その三日後に判明したこと。あのとき彼は、俺にお断りされたと思ったらしい。
「だって、謝られたから、俺はてっきり…」
「ありがとうって言ったろ?」
「もう帰るって言ったじゃないですか」
「早出」
「確かにそう聞きましたけど!」
フラれたと勘違いした彼は、あの後クソ寒い中、公園で一晩泣き明かし
その翌日から風邪で会社を休んだ。正直、馬鹿だと思う。
そして俺も馬鹿だ。彼に連絡を取ったのはその更に二日後だった。
「嫌いな奴の頭は撫でない」
「宥められたんだと思いました。先輩に気を遣わせて、俺、申し訳なくて。居たたまれなくなって」
気持ち悪がられるの覚悟してましたから、と言う。
この三日間、彼がどんな気持ちで寝込んでいたのか想像して、俺は一つ息を吐いた。
「ごめん。これからはもう少しきちんと喋るよう心がける」
「っ、俺も、もっとちゃんと、話を聞くようにします!本当にすいませんでした!」
これからよろしくお願いしますっ、とまた勢い良く頭を下げている。
面白いやつだなあと今更のように思う。
「うん。よろしく」
再び、彼の頭をぽんぽんと叩いた。

34525-829 イカ×タコ:2013/01/17(木) 23:55:45 ID:1Uy9IfeI
神様は不公平だ。
イカもタコも海の悪魔と呼ばれ同じように恐れられているのに、実は奴と僕には差がある。
今まさに、それを思い知らされていた。
イカの手に僕の五本の手と大事な部分は絡み付かれ抵抗出来なくされているのに、イカにはまだ二本も自由な手があってそれが僕の体をくまなく這い回る。
「離せこのすっとこどっこい!」と悪態をついても、いずれこの唯一動かせる口の中にもイカの手が潜り込んで掻き回されるんだ。
悔しい。
手の本数が違うだけで抵抗出来ないなんて……。
 
以前、腹が立ってイカの顔に墨を吐いてやった。
でも僕の墨は辺り一面に広がるけど、その分拡散するのも早くて何の役にも立たない。
仕返しとばかりにイカが吐いた墨は粘度があって、目の前を塞がれたように何も見えなくなってしまった。
そのせいで、イカの手の動きを何時もより強く感じてしまった。
歯がゆい。
墨の質だけで抗えなくなるなんて……。

ああ、イカの手の動きが早くなって僕はまた何も考えられなくなっていく。
何か囁いているイカの言葉も、もう聞こえない……。

34625-829 イカ×タコ:2013/01/20(日) 09:42:41 ID:Aa3NuFjI
「よう無事だったか、タコ」
「その呼び名、やめてくんないっすか。手賀木さん」

悪りい悪りいと悪びれなく笑い、手賀木さんは俺の頭、正確にはカツラをぐしゃぐしゃにする。それを無視しながら、俺は今回の報酬のアタッシュケースを無造作に放った。

「にしても、タコは本当化けるな。この前の筋肉バカの姿と今のインテリが同じ奴とは誰も気づかねえよ」

アンタ以外はな、そう脳内で呟く。いわゆる"普通の世界"で、自分の特技を自己満足に披露していたのは、もう随分前だ。

『なあ兄ちゃん、タコって知ってっか?他の生物に化けては、周りに溶け込んで、体の形まで変えちまうんだ』

安らかな深海に留まっていた。

『兄ちゃん。普通の世界つうのは、つまらねえと思わねえか?』

急流や危険ばかりある海中を泳ぐ気なんてなかったのに。

「つか、手賀木さんは化けねえのかよ」
「義手まで誤魔化すのは面倒だ。適材適所つうのが世の中にはあんだよ」

まあでも、真田の為には、化けてやらんこともねえかもな。

右頬を冷たい右手で左頬を温かい左手で撫でられる。
その仕草に心まで搦め奪られたのは、随分前だ。
強い目から逃れられなくなったのは、随分前だ。

「成功の祝いに美味いもんでも食いに行くか、タコ」
「、皮くらい剥がさせて下さいよ」

乱れたカツラを外しネクタイを緩めながら、札束を持った手賀木さんの後を追いかけた。

34725-901 閉鎖的な二人:2013/01/27(日) 09:28:09 ID:AsLSjejA
あの二人は自己完結してる――それが二人の人間関係をよく知る僕の印象だ。
良くも悪くも二人だけの世界だ。すごい剣幕で喧嘩をしたかと思えば、誰も理由を知らないうちに仲直りしていたりする。
僕はそのことについて苦言をこぼすけど、「それで今まで問題がなかった」なんて気にもとめない表情で言われると頭が痛くなる。
この二人のことをクラスの大半は容認している。でも、それでも不満は貯まるんだ。
二人に言いにくいからって僕が愚痴に近い文句を言われていることを知っていて、こういったことを言うんだから嫌になる。
確かにこの二人は美形だ。顔がそっくりの双子だ。だからなんとなくふたりだけの世界を作っていても仕方がないという雰囲気ができている。
生徒はもちろん先生までだって「双子だもん心の奥底では通じ合ってるもんねー」なんていうくらいだ。
顔の似ている双子は似てない双子や普通の姉妹、兄弟より特別に見られやすい。
バカバカしい。顔が似てても年齢が一緒の双子でも他人が通じ合えるか。神秘的がどうのこうの漫画の読みすぎだ。
俺だって双子だけど相手のことを上の兄ちゃん位しか理解していない。顔も似ていないから二人のように特別視されてもいない。
誤解がないように言わせてもらうけど、僕は自分が特別扱いされたい訳じゃない。
ただクラスの、なんとなく双子だからみたいな風潮をやめてほしいだけだ。

放課後達見が聞いてきた時だってそうだ。
「なー、シゲー、達也ー。今日どこ行く?」
「あそこは?」
あそこってどこだよ。
「あの辺最近治安悪いらしいからダメ」
なんでわかるんだ。テレパシーか。顔が似ている双子には似ていない双子と違ってそういう機能でもあんのか。
「じゃああの辺」
「おっいいな! じゃあそうしよ」
「結局どこに決まったんだ?」
全く理解できていない僕が二人に聞くと声を揃えて「え?」なんて聞き返される。
「今の話の流れからわかるでしょ」
「あそことかあの辺でわかるか」
「このあたりで治安が悪いと言ったら、あの店だろ? トイレが発展場になってるって噂の」
「んでもって金欠の俺らが、ある程度の時間遊ぶのにちょうどいい場所といえばカラオケだろ?」
「僕は君らみたいにツーカーじゃないから」
そんな風に呆れても二人は理解できないらしく首をかしげていた。

34825-969 お隣さん:2013/02/03(日) 23:07:33 ID:mI4n82us
「あ」
「……はようございます」

玄関のドアを開けると、ちょうど隣に住む男が部屋の鍵を閉めているところだった。
俺と目が合った瞬間、彼がぺこりと頭を下げた。
寝起きなのか、最初の方があくび交じりだった。

「おはようございます」

挨拶をされたので俺も頭を下げる。
今日の彼はスーツだ。
彼と鉢合わせするときは大体私服だったが、ここ数日スーツ姿の彼と会うことが多い。
……もしかすると、就活か?なんて推測してみる。
大体仕事に出かける時間に彼と出くわすので顔は知っているけれど
俺は彼がどんな人間なのか、仕事は、趣味は、その他もろもろ何も知らない。

思えば彼が引っ越してきて1年あまり。
今の若者にしては珍しく、タオルを持って引っ越しのあいさつに来た彼。

「隣に越してきた田賀っす。よろしくお願いします」

と、どこか間延びした口調に、どうも、と礼を言うくらいだった。
その後も特に交流はなく、顔を合わせたら挨拶を交わすくらいだったのだが。

「スーツ姿、決まってますね」

その日は彼に、そんな一言を口にしてみた。
特にたくらみも、考えもない言葉だった。つまり気まぐれだ。

「……あ、ありがと」

だが、彼の方は普段挨拶しか交わさない俺の言葉によほど驚いたらしい。
目を丸くして俺を見て、たどたどしくそう答えた。
ああ、まずかっただろうか。突然こんなこと言ってしまって。
気まずさにその場をすぐに立ち去ろうとしたら、彼が俺に向かって声をかけた。

「すげ、うれしいっす」

振り返ってみた彼の顔は、いつもの彼よりくしゃりと笑っていた。

34926-19 明るそうにみえて根暗×暗そうにみえて根明 1/2:2013/02/10(日) 18:27:56 ID:GHP.xgIU
残念 間に合わなかったので供養します


「大丈夫、大丈夫。もう十分練れてるよ、これ以上心配ばっかしてもダメよ?
 心配ばっかしてて企画はできないのよー、タメちゃん」
パン、と景気よく手を打って、江島が席を立つ。
俺にはよくわかる。
江島は、言葉とは裏腹にこの企画に納得しきれてないのだ。
会議室のテーブルには、各人三杯ずつのカップラーメン。
若者向けの期間限定企画として、軽いノリで作られた激辛シリーズのキムチ、わさび、黒ゴショウ三種だ。
「さあ、いい加減腹もいっぱい、順番が逆だが食後のビールといこうぜ!」
おごり好きの江島の言葉に、チームメンバーも喜んで立ち上がる。
俺もいい加減口がつらい。辛い物はだいたい好みじゃないのだ。立て続けに三杯は苦行だった。
だからなのか。
……美味いと思えない。
食ってから一言もしゃべる気になれないのは、ヒリヒリする唇のせいじゃなく、
何と言ってダメ出しをしようかずっと考えてたからだ。
江島はそれも察している。だからこそ、お茶を濁そうとしている。
他のチームメンバーを味方につけて、多分俺が否定的なことを言おうものなら
『お前はすぐそうだ、なんでもダメだ、無理だとバックギアに入れる』
と、さっき言ったような印象操作で自分の意見を通そうとするだろう。
お気楽企画だと思って手を抜きやがって。
俺は黙って座ったままでいる。

35026-19 明るそうにみえて根暗×暗そうにみえて根明 2/2:2013/02/10(日) 18:29:52 ID:GHP.xgIU
「……でさ、タメちゃん。どうしたらいいと思う?」
江島がこんな顔になるのは、ふたりきりの時に限る。
こいつのこの悲しい性分を知ってるのは俺だけ。
「キムチ、やめよう」
俺は考えていたことをようやくぼそぼそと口にする。
俺の小さな声を聞き取るために江島が耳を寄せてくるが、その距離も許す。
呼吸器の弱い俺は、人前で大きな声で意見を言うのは苦手だ。その小さな声を江島が拾ってくれる。
「キムチはいい加減ありふれてる。このままじゃただの普通の激辛ラーメンだ、だろう?」
「……それでいいかと思ったんだがな」
「期間限定だからこそ、話題性は必須」
チームメンバーは俺の事を悲観論者、暗い面白くない奴だと思ってるだろう。
でも俺は自分を知っている。これでも俺はなかなかのアイデアマンだと思うのだ。
ただ、人に好かれない自分も知ってる。だから、江島を待つのだ。
江島こそ、真の悲観論者だ。太陽のように振る舞った後、必ず怖くなって俺を頼る。
こうしてギブアンドテイクの関係が成り立った。
江島に利用されてるとは思わない。俺が利用しているのだ。
「あのな、江島。みんなコッテコテには飽きてると思うんだよな。俺なら、俺が食べたいのはさ……」
俺は、俺の案を江島に授けてやった。
聞いた江島は、
「それ、お前の好みじゃん! でも美味そうだよね、なんかいけそう?」
やっと、肩の荷を下ろしたように笑った。

「呑んだ後にあっさりお茶漬け、の代わりに『のりわさびラーメン』」
シリーズには和風スープ黒ごしょう、梅かつお。
俺達の企画は、若い女性や年配層に受けて小ヒットとなった。
「やっぱりなー、当たると思ったんだよ」
江島は、今日も大きな声でみんなの真ん中だ。似合ってる。
俺は、自分好みの商品を世に送り出せて満足。
みんなに教える必要はない。俺達はベストコンビなのだ。

35126-49 いい声の人:2013/02/15(金) 00:34:22 ID:.0gLvtCQ
ぎりぎり間に合わんかった…


「好きだ」というのが、彼の最高の褒め言葉だった。
曰く、他人には文句のつけようのない誉め方、らしい。
す、の時にすぼめる口。き、でこぼれる形の良い歯。
滑らかで心地の良い低音が僅かに上ずる瞬間。
ずっと横で見ていたから、あの満面の笑顔と一緒に覚えてしまった。
旨い料理を、広がる絶景を、美しい音楽を、咲き誇る花を。
最高のものを、彼は「好きだ」と評価する。
上ずった低音の、嬉しそうな声で。
その声が隣の平凡な僕に向くことはない。
そう、思っていた。

「好きだ」
すぼめる口は見えなかった。こぼれた歯も見えなかった。
声の上ずる瞬間なんて、感じている暇もなかった。
耳に湿った温もり。息の音。
背中には僕より少し大きな手。
「な、んて・・・」
ひっくり返りそうな、無様な僕の声。
「好き、って何が、を・・・?」
面食らった僕を抱きしめたまま、彼は確かに笑った。
耳に心地の良い音が滑らかに滑り込んでくる。
「好きだよ。君を・・・愛してる」

35226-89 やっと愛するお前のところへ行ける:2013/02/20(水) 10:18:17 ID:0LDanBCk
港を一望できる小高い丘の頂に造成された公営墓地
その東側の片隅にアイツの墓はあった
少しだけ伸び始めた白髪混じりの坊主頭に初冬の風は冷たい
自分は24歳だけど今の自分を見て誰もが40代だと思うだろう
あれから7年ですっかり老け込んでしまった
ずっとこの日を待っていた
ただいざこの日を迎えるとそれが何なのだという虚しさが猛烈に込み上げて来る

アイツとはずーっと幼馴染みでダチだった
高1の夏に部活の合宿で行った長野の山奥で関係は劇的に進んだ
それからは猿みたいにやりまくった
男子高校生なんて性欲の塊みたいなもんだからな
あの日はオレもアイツも17歳の高2の秋の夜だった
一緒に帰る途中に寄ったコンビニで実に他愛ないことで口げんかした
コンビニを出て別々に帰宅の途に就いた
アイツはオレと別れてから約10分後に何者かに刺されて死んだ
直前にアイツとけんかしたことだけを根拠に警察はオレを逮捕した
しかしひどい話だ
起訴したときにはオレが犯人ではないことは警察も検察も分かっていたそうだ
防犯カメラを見直したらアイツが殺された現場近くに不審な男が映っていた
顔認証でソイツは強盗致傷と強制わいせつ前科のある男だと分かった
警察も検察も真っ青になったらしいがオレは既に逮捕されていた
まあ警察も検察も何よりもメンツが大切だからな
オレは全力で否認したけど裁判では実に簡単に有罪
なんでオレが今は娑婆に居るのかって?
真犯人が調子に乗って強盗殺人なんかやって逮捕されたからよ
取調べで余罪を洗いざらい喋ってオレの無実が証明されたのさ

両親は事件を苦に夫婦して自殺しちゃったよ
オレは一人っ子だからもう天涯孤独なんだな
もう今さらどうでもいいよ
これから生きてて何になるよ?
アイツの墓の隣がおあつらえ向きに無縁仏専用の納骨堂なんだ
そこに入ればオレはずっとアイツの隣に居られる訳だ
ははははは
もう何もかも無駄で可笑しくてバカでどうしようもねーよ
こんな世の中ととっととおさらばだ
あの世でアイツと一緒に人生の続きをやり直すんだ
アレはアイツの墓の前で静かに硫黄の臭いを嗅いで目をつむった

35326-109 紙の花:2013/02/24(日) 13:10:54 ID:02/eITC.
 下校間際になって、ダチにこれからどうすると聞いてみた。
「オレ塾」
「生活指導の呼び出し」
「デート」
 珍しく全員が予定を口にしたので、オレは驚きと落胆で大声を出してしまう。
「誰も暇なやついねぇの?」
「みたいだな」
「で、どうした?」
「誕生日だから、何かおごってもらおうと思ったのに」
「ばか!」
「そんなのはちゃんと先に言っとけ!」
「今日は無理だから今度な」
「ちぇっ」
 確かに事前アピールしてなかったから仕方ないとすねながらも諦めるオレを残して、ダチはそれぞれに行ってしまった。
 仕方ない、家に帰ったら何かあるかもしれないと帰りかけるとアイツと出くわす。
「一人なんて珍しいな」
「皆用があるんだって。オレの誕生日だっていうのに」
「誕生日?今日が?」
「ああ」
「…………」
 何か複雑な表情をしたアイツはカバンからノートを取り出すと一枚破り、何かしはじめた。
 説明も何もなくただ見ていると、正方形に切り取ったノートを折って畳んで開いてあっと言う間に花の形にした。
「鶴は見舞いの、兜は子供の日のイメージだから。誕生日おめでとう」
「あ、ありがとう」
 手際の良さと思いがけないプレゼントに驚きながら、折り紙の花を受け取った。
「聞いたからにはお祝いしなきゃな」
「オマエって器用で律儀なんだ」
 裏も表も白だけどちゃんと花に見える元ノートを眺めて、つい顔がほころんでしまうほど喜んでいる自分に気付きあわてて表情を引き締めた。
「お前の誕生日っていつ?」
「夏だけど」
「ふーん。好きな物なに」
「何だよ急に」
 オレ、コイツの事もっともっと知りたくなった。

354幼なじみ 1/10:2013/03/05(火) 19:53:45 ID:dSuCcf7s
本スレ(Part26) 180〜の投稿です。(投稿分も一応再掲させてください)



「おい、こんなもん付いてるぞ」
屋上の給水塔の陰で居眠りぶっこいていたら、声をかけられた。
手にもってるのは、「バーカバーカ」と書かれたノートのきれっぱし。
あー、寝てる間に頭に貼られてたのか。またか。いまどき、小学生でも
しないようなイタズラの犯人はわかってる。1ヶ月前に転校してきたスガワラだ。
なぜか俺を目の敵にして、こんなガキっぽいイタズラを延々と続けてくれている。
上靴にアマガエルが入ってたり、ロッカーの体操服が全部裏返しだったり、
移動教室に行ったら俺のイスだけなかったり。

355幼なじみ 2/10:2013/03/05(火) 19:54:52 ID:dSuCcf7s
とってくれた紙をひらひらさせながら、サトルもため息をついた。
「ヒロム、お前、ほんとにアイツとなんもないの?」
サトルは中坊の頃から同じクラスになり続けている腐れ縁だ。進級するたびに
クラス委員になる典型的なデキるヤツ。そのサトルにも、アイツの行動はわけが
わからないらしい。ない。ほんとにないよ。なんでだろうな。
ノートから雑に破り取った紙に書かれてる単純すぎる罵言を見ながら、俺も
ため息。なんで転校生にここまで絡まれるのだか。

356幼なじみ 3/10:2013/03/05(火) 19:55:47 ID:dSuCcf7s
転校してきた初日に隣の席になったもんだから「よろしく」と挨拶をしたとき、
スガワラは妙な顔をして口の中でもごもごとなにか言った。
「なに?聞こえなかった」と聞き直したら、憮然とした顔をしてそっぽを向いた。
スガワラとの交流といえば、それだけだ。
聞きなおしたのが悪かったのか。挨拶もされたくなかったのか。わからん。
わからんが、仕掛けてこられるのは実害といえるほどの害があるようなことでもないので、
最初はとまどったものの、最近はもう基本的にスルーすることにしている。

357幼なじみ 4/10:2013/03/05(火) 19:56:39 ID:dSuCcf7s
「そのうち、もっと古典的なイタズラもされそうだな。教室のドアをあけたら黒板消し落下、とか」
それは教師に対するイタズラの定番だろ。クラスメイト用じゃねーだろー。
「古典的かつ落下といえば、タライの落下もはずせない」
てめ、他人事だと思って気楽に言ってやがるな、このやろう。
「悪い悪い、メガネが挟まって痛い、はなせ」
ヘッドロックかけてやったら、笑いながらほどこうともがくサトル。いつものじゃれあい、
いつもの軽口のたたきあい。
一応、俺もメンタルは人並みにあるので、意味もなく目の敵にされてるっぽい雰囲気
なのは精神的に少しコタえてはいる。こうやってサトルとじゃれあうことが少し心地よい。

358幼なじみ 5/10:2013/03/05(火) 19:57:26 ID:dSuCcf7s
そんな感傷的なことをちらりと考えたとき、突然頭上からどばーっと水が降ってきた。
俺もサトルもずぶ濡れで、一瞬、なにが起きたのかわからなかった。雨?いや、そんな馬鹿な。
ゲリラ豪雨っても局地的すぎんだろ、おい。
あっけにとられて見上げた給水塔の上に、ちらっと小さい人影が見えた。
「スガワラッ!」
濡れたメガネをはずして水滴を振り払っているサトルを見て、さすがに俺の怒りも沸騰した。
俺だけならまだしも、サトルまで巻き込みやがって。それに、これはさすがにやりすぎだろう!

359幼なじみ 6/10:2013/03/05(火) 19:58:25 ID:dSuCcf7s
給水塔のハシゴをすばやくよじ登り、反対側から飛び降りようとしているスガワラをとっつかまえて
組み伏せる。小柄なスガワラを拘束するのは簡単だったが、じたばたと暴れるのをやめようとしない。
おとなしくしろよ!なんなんだよ一体!
「はなせよっ!ヒロムのばかやろうっ!」
思いがけずに呼び捨てにされ、悔しそうに見上げてくる顔が、ふいに古い記憶とオーバーラップした。
あれっ…お前、もしかして、シュンちゃん?
「なにいってんだよ、バカヒロム!今更なんなんだよ!」

360幼なじみ 7/10:2013/03/05(火) 19:59:31 ID:dSuCcf7s
負けん気一杯で真っ赤になっている小さい顔は、幼なじみのシュンちゃん、シュンヤの顔だった。
思い出せないくらいに小さい頃からの幼なじみ。保育園でも幼稚園でも小学校でも、負けず嫌いで
すぐに喧嘩腰になって、でもチビだからすぐ泣かされて、泣かされてもしつこくくらいつくあのシュンヤ?
うわ、まじ?なつかしーな、おい。
「俺のことすっかり忘れてたくせに!お前なんか大っ嫌いだ!俺は、お前のこと忘れたことなんてなかったのに!」
あー、そういえば、転校していくときに手紙書くとか電話するとか言ったっけか。いや、でも、
それって何年前よ。ガキの頃のそういう約束って、お約束で忘れたりなし崩しになるもんだろう。
っていうか、お前からも手紙とか来たことなかったような気がするけど。

361幼なじみ 8/10:2013/03/05(火) 20:00:16 ID:dSuCcf7s
「俺は出したんだ!一回だけ!返事がこなかったからずっとその後出せなかったんだ!」
あー、えーと、そういうことがあったようななかったような。だってほら、ガキの頃って、手紙とか書くような
時間ねーじゃん、遊ぶの忙しいし。
「だから、いい加減に離せよっ!俺が悪いんじゃないんだから!」
反応に困りきっていたら、背後からサトルの声。
「ヒロム、離してやれよ。お前が悪いみたいだぞ?」
え?お前までそういうこと言うわけ?
「僕が一番、ヒロムとの腐れ縁が長いと思っていたけどな」

362幼なじみ 9/10:2013/03/05(火) 20:00:58 ID:dSuCcf7s
笑みを含んだサトルの声に反応したのは、俺よりシュンヤの方だった。
「そうだよ!俺がヒロムの一番だったんだからな!お前も嫌いだ!」
あー、そういえば、シュンちゃんは俺が他の子と仲良くしてると、よく色々とイジワルをして相手の子を
泣かせて怒られていたっけな。あー、そういうことですか。はぁ。
「まあ、ヒロムはそこで間抜け面さらしてないで。ほら、スガワラも立って」
びしょぬれのままさわやかスマイルを浮かべられるサトルに俺は心底感じいったが、シュンヤは
そんな気にはなれないようだった。
制服のホコリを払ってくれるサトルの手を振り払って、今度こそ給水塔から飛び降り、振り返りざま
「ベーーーーーー、だ!」
そのまま、駆けてってしまった。おいおい…それはどう考えても、高校生のやることじゃないと思うの
だがなぁ…。

363幼なじみ 10/10:2013/03/05(火) 20:01:37 ID:dSuCcf7s
つか、サトル、悪いな。どうやら俺のせいで巻き込んでしまったようだ。お前にまでイタズラが
波及しなきゃいいんだけどな。
俺が少し恐縮してみせると、サトルは意外なことにニヤリと笑った。
「まあ、これで理由もわかったし。僕としても受けて立つにやぶさかではないからいいよ」
え?なにその台詞?意味わからないんですけど。
「ヒロムはわからなくていいんだよ。うん、わからなくていい」
なんでそんなニヤニヤ笑ってるんですか、サトルさん。え?一体どういうことなのー?

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366良心の呵責:2013/03/07(木) 19:07:24 ID:AIUHvxk6
――ああ、やってしまった。
どうすればいいんだ。
焦りに似た罪悪感が心臓を這いあがってくるようだ。
俺のことを、犯罪者だの変態だのと責めている声が、耳の奥に、さっきからずっと響いている。

俺は――俺はただ、彼女と普通に付き合いたいだけだったんだ。
彼女が俺のことを好きになってくれていたならば、こんな行為はしなかった。
手の平にこびりついた、彼女のペンケースの感触。
明日になったらまた、犯人探しが行われるのだろうか。
自分が彼女の持ち物を盗んでいることがばれて、クラスメートに糾弾される情景が浮かんで、背筋に悪寒が走る。
どうしたら、どうしたらいいんだ……。

頭を抱えて蹲りそうになったとき、ぐるぐるとまわる思考に乱入してくる声があった。
「よう、斉木じゃん。こんなところで何してんだよ」
クラスメートの吉田だった。
あまり話した事は無いが、あまり話すのを見た事は無かった気がする。
少なくとも、今ここに俺がいることを言い触らしたりはしないだろう。
ほっとして振り向いたとき、俺は凍りついた。
吉田の目は、まるで獲物を見つけた肉食獣のように、ギラギラと輝いていたからだ。
「……わ、忘れ物を取りに来たんだよ」
たったそれだけの言葉を言うのに、かなりの労力を使った。
もしこいつがさっき俺がしたことを知っているなら、この言葉を言ったら終わりだと思ったのだ。

固まった体を動かして、さっさと帰ろうと踵を返す。
吉田は何も言ってこない。
俺の勘違いだったのかと胸をなでおろして、不自然にならないように早足で歩いた。


次の日。
一時間目の数学を潰して学級会が行われた。
彼女が泣きながら教師に相談したらしい。あのペンケースはそんなに大切なものだったのか。
また、好きな人を傷つけてしまった。

自分がとても下等な生物であるような気がして、首が痛くなるほど俯いていた俺に、突然声がかかった。
「斉木君、君は一週間前に雪村さんに振られたそうだけど……まさか、降られた腹いせに物を盗むなんてこと、してないですよね?」
教卓に立った学級委員長が、俺に冷たい眼差しを向ける。
間違いなく、俺を犯人だと思っている顔だ。

答えられずにいる俺に、周囲がざわざわと騒がしくなりだす。
「斉木君が盗んだところを見た人がいるって……」
「確かにすげえ落ち込んでたしな……」
そんな声が、遠くから聞こえてくるような気がした。
冷や汗がだらだらと垂れる。対照的に、顔が燃える様に赤くなる。

――だが、これで良かったのかもしれない。
おそらく誰からも信用されなくなるだろうが、ずっと隠し続けて生きるよりはましだ。
そんな気持ちで立ち上がろうとしたが、俺の動きは途中で止まった。
「俺がやりました」
そんな声が聞こえてきたからだ。
「あ……」
俺が言うはずのセリフを先に言ったのは、吉田だった。
再びざわめきの波紋が広がり、それは吉田に対する侮蔑の言葉に変わっていく。


「おい、吉田、ちょっと来い」
と、落書きだらけの席に座って本を読んでいた吉田に大柄な男が声をかけた。
上級生かもしれない。あれから三日もたってないのに、もうそんなに噂が広まっているのか。
吉田は男に乱暴に腕を掴まれて教室から引っ張り出されていくところだった。
十中八九、というか間違いなく、これからリンチされるのだろう。
――助けよう。
助けて、俺が本当の犯人だというんだ。
いじめられる恐怖にずっと渋っていたが、やっぱりこのままじゃいけない。
そう思ったとき、ポケットに入っている携帯のバイブがなった。
嫌な予感がして、携帯を開く。
差出人は吉田だった。
『明日、俺の家に来い』
それだけの文章が、とてつもなく恐ろしく見える。
吉田の方を見ると、吉田は、あの日と全く同じ、捕食者の笑みを浮かべていた。
怖い。体が拒絶反応を浮かべる。
――けど。
このメールに従えば、俺の罪悪感は、ほんの少しでも軽くなるのではないか。
俺は吉田の方を見て、頷くしかなかった。

36726-239待つほうと待たせるほう:2013/03/12(火) 22:04:32 ID:8PKegH/6
僕が彼に振られたのは、今から30年も前の話になる。
あの頃の僕は大ばか者で、とにかく彼を手に入れたくて必死だった。
好きだ、好きで堪らない、どうしても諦められない、諦めるくらいなら死んだほうがマシだ。
そんな事を思って、その思いを彼にぶつけ続けた。
その度に彼は困ったように笑って、「参ったナァ」などと冗談めかして受け流していた。
けれどある日、忘れもしないあの夏の夕日。
放課後の教室で、彼は欠片の笑みも見せずに言った。
「お前、正直気持ち悪いよ」
そうして、僕はようやく己の恋が無残に散った事を受け入れた。
受け入れざるを得なかった。
彼は優しくて、賢くて、誠意のある人だった、それが僕の好きになった彼だ。
その彼にそこまで言わせてしまった自分を恥じた。
それ以降、彼の顔をまともに見られずに、しばらく僕の暗黒に満ちた平穏は続いた。
そして、その3ヵ月後、彼は入院し、そのまま一度も退院する事なく亡くなった。
以前から病気だったのだという。
自分の余命は分かっていたと。
彼の母親から手紙を渡されて、僕はその事を彼から伝えられた。
【本当は、あの時お前を傷つけて、そのままサヨナラするつもりだったんだ。
 そうしたらお前は、そりゃ多少は後味悪いだろうけど、気負うことなく次の恋に向かえるかなって。
 本当にごめん。オレも、お前が好きだ。好きで堪らない。どうしても諦められない。
 こんな手紙を残したら、お前をもっと傷つける事は分かってるのにな。
 もしお前が、これを読んでる今もオレの事を好きでいてくれるなら。
 取りあえず30年、待ってくれるか?
 そしたらお前は47歳になってるかな。
 そこまで待つつもりが沸かないなら、それでいいよ。この手紙は捨ててくれ。忘れてもいい。
 でももし待ってくれたなら。その時に守るべきものが何もなかったら。お前が、オレに会いたいと思ってくれたなら。
 その時は、オレも会いたいと思ってる。その事を、ただ知っておいてほしい。
 ……なんてな、ただの冗談だよ。真に受けたら、バカを見るのはお前だ。可哀相にな。
 本当、オレなんかより、お前の方がよっぽど可哀相だ。頑張って、幸せになってくれよ。元気でな。
 長々とごめん。じゃあな。】

…そして、30年。
僕が今も相変わらず大ばか者だ。
彼は待っただろうか。多分待ってはいないだろう。再会したところで、お前は本当にバカだ、なんて困ったように笑って。
でも、きっと僕を待たせた責任は取ってくれることだろう。
彼も、僕に会いたいと思ってくれているに違いないから。
今、僕は彼に会いに行く。

368名無しさん:2013/04/01(月) 17:26:05 ID:NY5br2DY
テスト

36926-349  好きになりつつあるけどまだ好きじゃない:2013/04/01(月) 17:39:13 ID:WnrSDTxc
おはようごさいますと言って入室すればおはようと返ってくる。
それが普通なのだと気付いたのはここに転職して二週間後のことだった。
以前の職場では無視・舌打ちが当たり前で、挨拶は不要なものだと入社三日で理解していた。
他にも特有の社内ルールはいくつかあり、
それに適合できなかったため、追い出されたのだった。
 
今の職場では正社員ではない。
そのため出勤時間は十時と遅く、社員が全員揃っている中で入室しなければならなかった。
ここに来て半年経つものの、軽く咳払いをして深呼吸をし、
心の準備をしてからでないとドアノブを回せない。
最初は緊張しているからだと思っていた。
しかし、二ヶ月三ヶ月と過ぎ、嘱託職員でありながら
有志飲み会の固定メンバーになってしまうほど周囲と打ち解けた今、緊張はないだろう。

固定メンバーの一人でもある石垣に、
初日の挨拶もそこそこに「重役出勤かぁ」と返されたことを思い出す。
それを嫌味だと受け止めた当時の私は苦笑いしか出来なかった。
課長は「じゃあ石垣は明日から午後出勤でいいぞ」と言うし
若手職員は「重役出勤なのは石垣さんの方です」と言っていたから、
場を和ませるための冗談だったのだと今なら解る。
おそらく、当人は言ったことすら忘れている。

その日から、扉を開けるたびに石垣の席を確認するようになった。
普通の挨拶が八割、会話が一割、不在が一割。
ここにきて、アドリブ力は随分と磨かれたような気さえする。

一週間の出張を終え、石垣は定位置へ戻ってきた。
出張先は香川だと言っていたから、今日はうどんネタだろうか。もしかしたら香川繋がりでサッカーかもしれない。
そんなことを考えながら咳払いをして深呼吸をし、私はドアノブに手を伸ばした。

37026-389秘密の関係:2013/04/05(金) 03:18:28 ID:lUWUSuQA
いつも真面目で、誰からも信頼されて、俺に常識をわきまえろと説教してくるくせに、佐内は俺の『セフレ』をしてる。

最初はじゃれ合いで、悪戯しあってるうちに、お互いなんだか気持ち良くなってきてエッチした。
次は甘えてきた。佐内からだ。
甘い言葉を俺に囁くので、佐内にとってそれが遊びでも、嬉しかったから、またヤった。
気がついたら習慣化してた。
気持ちのいいことを追求する習慣に。

佐内はどれだけヤりたいんだろう。
俺は毎日でもヤりたい。
だからだろうか。普通に友だちと話しながら笑ってる佐内にイライラしてきた。
そいつ、その笑い声よりもっと高い、スゴい声出すんだ。それを俺は知ってる。
真剣に答弁する佐内を見ながらイライラしてきた。
そんな澄ました顔なんかじゃなく、快感にうっとりしてる表情の方が自然だ。それを俺は知ってる。
口うるさく俺に説教してくる佐内にイライラしてきた。
お前、その常識のない俺に、メチャクチャ甘えてくるくせに。

「俺は、知ってるよ。お前は俺がセックス狂いだってバラしたいんだろ」
「佐内……」
「でもお前は優しいから、そんなことバラさないっていうのも知ってる。そんなのバラしたら、俺なんて青くなってビビっちゃって泣くよ。そんな酷いことしないだろ?」
「しねぇけど、イライラする」
「俺はさ、バレる想像するだけで吐きそうなくらい恥ずかしいことを、お前にだけ知られてると思うと、凄く感じるくらい変態なんだよ」
「ワケわかんねぇよ……」
「……だから馬鹿だって言ってるんだろ」
佐内はそう文句を言いながら、俺にいつものようにキスした。

37126-409 初恋の人との再会:2013/04/07(日) 00:05:59 ID:L4VKu0o6
ほんのちょっとだけ胸糞注意(不倫?)です。



嫁さんにメール。
『これから電車。帰りは八時頃になる』
薄暗い蛍光灯が陰気な車内は、ひときわ疲れを感じさせた。
目の奥が疲れて痛くて、携帯を眺める気にもならない。
車窓に頭を預けて目をつぶっていると、突然小さな声で「田中?」と呼ばれた。

かすむ視野に見えたのは、普段着の男。
誰だっけ、知ってる奴?と軽く混乱しつつ「えっと、あ、ども」とか意味のないあいさつを口にする。
相手は軽く笑った。
「わかんないか、俺、高校の。安東なんだけど」
高校の……安東。嫌な汗がじんわりとにじむのがわかった。
当たり前だがそんなことはおくびにも出さない。テンション上げて顔を作った。
「ああ!安東かお前!久しぶりだなぁ、どうしてるの、今」
「今日は仕事休みでさ、久しぶりにこっち遊びに来たんだ」
「仕事?」
「そう、覚えてる?俺、寺つぐの」
覚えてる。思い出したら全部思い出した。
忘れていたわけじゃなかった。ただ、経年変化が想像できてなかっただけで。
そういわれれば、安東の髪型は坊主だ。でもなにやら格好いい洋服と合っている。
「今修行と修行の間でさ。しばらく実家に帰ってきてるんだよ。もう勘弁してほしいわ……田中は?就職したんだな、その格好」
「ちっちゃい会社でヒヤヒヤしてっけどな、まだペーペーだし」
「スーツ似合うよ」
覗き込まれて、ぎょっとした。
「……安物だよ」「そう?感じいいよ」
こいつはいつもこんな風だった。育ちがいいせいか、物怖じしなくて、屈託無くて。
俺は安東の服を褒めたりできない。そもそも、顔をまともに見られない。

「うわ、残念、俺乗り換えだ。ケータイ、教えて!」
電車が止まって、安東が急に慌てだした。
「え、あ、なんか、書くもの」
「いいから言えよ!覚えるから!」
俺が番号を叫ぶと同時にドアは閉じて、はたして安東に届いたかどうか。
窓の向こうでにこやかに手を振る奴の様子からは全然わからない。

ひとりになった車内ですっかり目の覚めた俺は、それでも顔を覆わずにはいられなかった。
安東は俺の初恋の相手だ。それも、恋であることにすら気づかなかった……
安東が好きだ、と気づいたのは、卒業して離ればなれになってから。
安東のことを思うと胸が痛い、安東に会いたくてたまらない、安東を独り占めにしたい。
そんな自分の状態に気づいて、まるで好きみたいじゃないか、とか思い至って。
馬鹿な、そんなことあるわけない、安東は男だぞ、って自問して。
じゃあ、もし安東のことが好きなら、キスしてるところ想像できるか?それ以上のことは?って試してみたら。
……およそ思い出したくもない。
そして、俺は自分の身に起きていることが初恋だと知ったんだった。
その驚き。とまどい。後悔。
初恋もわからなかったなんて。男が相手だなんて。何かの間違いだ……
安東のことは苦い思い出になってしまった。安東を封印して、次は失敗しない、と思った。
それから、大学で出会った嫁と普通に恋愛して結婚した。

二度と会いたくない相手のはずだった。
安東は俺の携帯番号を聞いただろうか?そして覚えただろうか。
ひょっとしたらかかってくるかもしれない。覚え間違いで、かけられないかもしれない。
もし……かかってきたらどうしよう。
やりなおすには遅すぎる。俺は安東といい友人になれるんだろうか?
なぜ番号を叫んでしまったんだろう。
安東は俺の指輪を見ただろうか?
まぶたの裏に、安東の笑顔がよみがえる。それは高校の頃の、ふたりきりの時の、あの笑顔。
いい思い出にはやっぱりできそうもない。
なのに今、俺は携帯の電源を切ることができないでいる。

37226-439 なかなか好きといえない:2013/04/11(木) 21:59:17 ID:XQfcw1FA
■腐れ縁タイプ
「なに泣きそうな顔してんだよ。元気出せって。もう付き合ってる奴がいたんじゃしょうがねーよ。な。
 で、どうせ今晩飲むんだろ?朝まで付き合ってやるよ。いいっていいって。明日休みだし。飲み明かそうぜ。
 お前がフラれてヤケ酒なんていつものこと……って本格的に泣き出すなよ。ひどくねえよ。事実だろが。
 ほら、行くぞー。お前んちでいいよな。途中でツマミ買ってくか。………。言っとくけど、奢らねーからなー」

■『なぜ謝る』タイプ
「あの。あの………いえ、なんでもないです。すいません。てっ、天気いいですよね!ね!あはは…
 はあ……え、いえっ、元気です!ほんとに、なんでもないんです。すいません。すいません!!」

■好きの代わりに馬鹿と言っちゃうタイプ
「お前馬鹿だろ!?調子悪いのに出てきてんじゃねーよ。あとは俺がやっとくから。いいから!
 そんな状態で手伝われる方が迷惑だっつーの。早く帰れ帰れ。馬鹿が無理してんじゃねーよ。さっさと寝ろ」

■言葉に辿り着くまであと少しタイプ
「君といると苦しい。脈が速くなって息が詰まる感覚がする。本を読んでいても文章が頭に入ってこない。
 音楽を聴いていても君の声ばかりが耳に届く。君と食べる食事はいつもと味が違う。同じ食事なのに変だ。
 君がいないと苦しい。部屋の広さに気が遠くなる。本を読んでいても頭の片隅で君の事を考えている。
 昔は嫌いだったうるさい音楽も聴くようになってしまった。君がきちんと食べろというから三食食べるようになってしまった。
 たまに酷く苛々する。君の所為だって反射的に思って、そんな風に考えたことを後悔する。僕は酷い人間だ。
 君が隣に居ても居なくても苦しい。だから君が怖いのに、君に会いたいと思っている」

■『もう若くないから』独白タイプ
「…………こんなおっさんに言われても、あいつも迷惑だろ」

37326-489 あえぎ声がうるさい攻め(notショタ)と声を我慢する受け:2013/04/18(木) 13:19:28 ID:ukNmSW4c
規制されてたのでこっちに投下。


ドン、と。地鳴りのような音がした。
すぐにわかった、誰かが壁を叩いた音だと。
陶酔していた雰囲気の中から急に日常に引き戻される。俺が真昼間っから男とセックスしている間、隣の誰かがテレビを見ている洗濯をしている友達と電話している。
途端に顔が熱くなる。「恥ずかしがっている」それをこいつ知られるのが殊更に恥ずかしく、耳元がカイロでも押し当てられたみたいに熱い、それが触れなくてもわかった。
2階建ての安アパート、当然のように薄い壁、最初から声は抑えていたつもりだったが、こいつの実家から持ってきたというちゃちなパイプベッドが高い音を立てながら軋んでいるのに気が付いた。
「うぁ、沢原ぁ……、ちょっ、ゆっくり…」
助けを求めるように後ろに首を向けると、俺とベッドを揺らしている男が幸せそうに笑っていた。
「なに?なんでーこっち見てんの?ふふ、たっちゃんかわいー!」
相変わらず声がでかい。いつでも、どこででも。
「っ沢原、となり…が」
口元に手を添えできる限り小さな声で話す。沢原はお構い無しにでかい声で喋り続ける。
「たっちゃんってばかーわい、恥ずかしがってんのー?顔真っ赤だねー、あーキュンキュンしてる!やーらしー!たっちゃんマジ最高かわいいい!」
「さ、っわ……バカ!」
小声のままで精一杯抗議する。これでもかと顔が熱くなる。
自分でも訳がわからないくらい、いつになく体中が反応している。そんな俺を沢原が食い入るように見る。
恥ずかしい、声を出したくない。顔を枕に埋めてしまいたい。沢原に見られたい。沢原を見たい。
「たっちゃん、綺麗な指、噛んじゃだーめ」
言いながら沢原は長い指を俺の口に突っ込んできた。と同時にベッドの軋みがさらに早くなる。
俺は我慢できずに沢原の指を噛んだ。口中で指先が俺の舌を玩んでいる。
「ふっ、ぅぐ…」
「あー、たっちゃんイイ、最高イイ、マジ気持ちい!超好き!あっ、あー!やっばい、超気持ちー!」
「…っゔ、ぐ」
どこかからまた地鳴りのような音が聞こえる。これでもかと顔が熱くなる。沢原は「たっちゃん超締まってる」とかなんとか下品な言葉を繰り返していた。
「たっちゃんマジ!全身真っ赤だねぇ、はっずかしーぃ!けどかわいー!」
ベッドが軋む。早く大きくドン、ドン、と全身に音が響く。
「っぁ、さわはら、ぁ」
「たっちゃん、もっ俺やば」
「っん、…ふっ………」

横になったまま呼吸が整うのを待っていると、汗ばんだ肌のせいか、先ほどまで暑かったはずの室内が急に寒く感じられた。
そうして少し、冷静さを取り戻す。
「あ……、隣!ばか沢原!隣が」
「え?隣?なにが」
呑気な顔で俺の買ってきたアイスを勝手に食い始めている。
「だからこっちの部屋の、人が……あれ」
「なに隣って?ここ角部屋じゃん。反対も住んでないし。え、ホラー?やめてよたっちゃん俺今日のバイト遅番なんだよー?」
「いや、ちが…だって最初に何回かドンドンって」
「え?…あ、それ俺だ」
「は?」
呆気にとられる俺を尻目に沢原は、「見て見てたっちゃんパナッペがにこにこしてるー」とふざけたことを言っている。
それからさらりと「たっちゃんマジかわいー、とか考えてたら嬉しくてつい」と、壁を殴った理由を口にした。「きゅーんってなってきゃーってなってブンブンしてたらどかーん、みたいな」とも言っていたが、そっちはほとんど意味がわからなかった。
「だからって、あんな何回も叩いたら隣じゃなくても迷惑だろ?」
沢原の手から半分以下になったアイスを奪い返し反論する。
すると沢原はきょとんとした顔で「俺それ、1回だけだと思うけど」とほざき始めた。
「はぁ?バカ言えお前、数もかぞえらんなくなったのか」
言いながら頭の中で音を反芻する。
ふとそれが、まさか自分の心臓なのじゃないかと気が付いた。
「ん?あれ?なしたのたっちゃん、顔真っ赤だけど」
「うっせー!帰れ!」
「俺んちだけど」
「うっせー!ばか!ばかぁ!全部お前のせいじゃねーか!」
「はー?なんだよたっちゃん、パナッペのこと?帰りに買ってくるよー」
「ちげーよばか!」
手元にあったクッションを投げつけると、沢原が「べうっ」と奇声を上げて顔で受け止めた。
「たっちゃーん、これじゃマジ近所迷惑…」
「うっさい!さわんなぁ!」

37426-509 運動部対文化部:2013/04/21(日) 14:25:16 ID:yqnA/Y4w
規制中だったのでこっちに



「貴様、そんなつもりで学園祭がどうにかできるとでも思っているのか!軟弱者が!」
ハヤトが怒鳴るので、僕はびくりと肩を震わせた。
「そんなこと言ったって……ぼくはハヤトみたいにかっこよくないし、みんなをまとめるなんて……」
「何を言うか!阿呆!俺にできて龍介にできない訳があるか!根性を出せ、根性を!」
その後ハヤトは30分にわたるお説教を繰り広げ、スポ根漫画の主人公のようなセリフを何度も繰り返した。
二か月後に迫った学園祭、そこで繰り広げられる運動部と文化部に分かれて行うレクリエーションの指揮を任された僕は早くも胃が痛い。
人前に立って誰かをまとめるのは僕にはどだい無理な話なのだ。
「僕もハヤトみたいにかっこよければな……」
「な、なんだいきなり!」
「僕もハヤトみたいにかっこよくなりたいよ」
「〜〜〜っ!阿呆か貴様!龍介だってかっこいいわ!阿呆!」
ばんばん机をたたきながらハヤトはまくし立てた。
軽く舌打ちをして教室から出て行こうとしていたハヤトはふと気が付いたように、「おい」とまた僕に声をかけた。
「龍介、次の試合はいつだ」
「明後日にいつもの体育館だよ」
「そうか、また見に行くから全力で勝て!」
「うん! 僕もハヤトの賞をとった絵をみたよ、素敵だった!」
「ふん、あんなもの余裕だ阿呆め」

そういって出て行ったハヤトの耳はまだ熱をもったままだった。

37526-479  一番の味方:2013/04/26(金) 10:57:55 ID:ynOcWvg2
亮平には高校三年生の弟がいる。母親は病死、父親は蒸発、たった二人の家族だという。
「進学を諦めて就職したいって言ってたお前の弟、どうなった?」
「何言っても就職から変わんね。授業料とか払えないだろって、
そんなん気にしないでさ、やりたいことがあるんだから勉強すればいいのに」
一度言葉を切って携帯をコツコツと叩く。言い淀んでいるのがわかるから、先を促したりはしない。じっと、次を待つ。
「俺の給料明細盗み見して諦めるって…馬鹿じゃねえの」
最後の馬鹿、は、諦めている弟になのか。それとも弟の夢を叶えてやれない自分に、なのか。
「奨学金の話をしても?」
「それでも」
「利息ゼロの貯金箱があんのに?」
「は? 何それサラ金?」
「いや、俺」
「はぁ?」
お前から金なんて借りねーよ、と呆れた風を装ってはいるが、気になっているのだろう。
サラ金かと答えたときは険しかった表情に、少々の緩みが見える。
「毎月じゃなくて、本当にヤバくなった時だけ。上限三万とか決めてさ。借用書も書く?
 俺の生活もあるし、二人で弟を育てる! みたいな感じで」
努めて明るく話す。最後に一言付け加えるのを忘れずに。
「俺一人っ子だから兄弟いるの羨ましいんだよね」
嘘だけど。それは飲み込む。
「…………じゃあ、ヤバくなったら貸してください。受験料ぐらいは何とかなるけど、入学金のとき借りる、かも。あいつには大学でバイトさせるから」
「そこら辺は兄弟で話し合って決めて。弟には俺の事言わないでねー」
「ごめん、ありがとう、宏樹」
「まだ借りてないんだからごめんじゃないでしょ」


こちらこそ俺の姉が亮平たちのお父さん奪って駆落ちしてごめんね。

37626-559 RPGの中ボス 1/3:2013/04/30(火) 02:01:44 ID:Y8NEggXk
いま俺の目の前に居る人間が噂の勇者だってのには一発で気が付いた。
だって他の人間とは存在感みたいなのが段違いだったし
そもそも並大抵の人間や魔物じゃここまで絶対に来れっこないし。
ただ思ったより小さかったのと、誰とも組まずに一人で来たらしい事には少し驚いた。
そのちっちゃい勇者は不意打ちで攻撃して来ることもなく
話しかけてくる様子も見せず、ただ黙って俺の前に立っている。
このまま見つめ合ってても仕方ないから俺は今適当に作った口上を並べた。
「俺が地下四階の守護者、種族はレッドデビル。
 名前は言わない、多分人間には聞き取れないからさ。」
ちっちゃい勇者はやっぱり何も言わずに頷いた、そして俺の後ろの扉を指差す。

「あー、そこ入りたいの? なら俺殺さないと入れないけどヤる?」
さっきちっちゃい勇者が指差した扉は魔王様の部屋に繋がる通路に繋がる扉で
身も蓋もない言い方をすると、通過されてもそこまで困らない扉。
俺が守ってる扉を抜けても魔王様の部屋の前には強ーいドラゴンが居るし
その先には勿論もっともっと強ーい魔王様が居る。
だから魔王様戦が本番、その前座がドラゴン、さらにその前座が俺って言う事。
俺は別に面白い戦い方をする訳じゃないし、大して強くも無い、多分一番印象に残らないタイプ
門番の役目だって『勇者を一目見てみたいでーす』って言ったら適当に使役されただけ。
誰からも期待されてないし、俺自身ですら勝てると思っていない、
今だって"勇者見れて満足したし来世はどんな生き方しようかな"とか考えている位だ。

そうやってくだらない事を考えながら勇者を見ていると彼は再び頷いた。
「そっか、じゃあ戦おう。」
俺は手に持っていた槍を構える、勇者の方も背負っていた剣を抜いた。
その剣は吃驚する程キラキラ輝いていて、それを構える勇者も何だか凄くキラキラだった
思わず「……キラキラだ」と声になって溢れる位に。
こんな光を見たのは初めてだった、魔王様ですらこんなに輝いて見えた事が無い。
俺の出方を窺っているのか防御の型を取る勇者を見つめる
その金の瞳と視線がぶつかった瞬間、また勝手に声が零れていた。
「ねえ、人間でも呼べる名前を俺に付けてよ、それでその名で俺を呼んで。」
いくらなんでも即物的過ぎやしないかって感じだがそれが魔物だから仕方ない。
ちっちゃい勇者は未だ表情一つ変えずこっちをジッと見ている
でも俺には何故か、彼が「はい」って喋ってくれるような予感がしていた。

37726-559 RPGの中ボス 2/3:2013/04/30(火) 02:03:54 ID:Y8NEggXk
いっぴきのまものか゛ とひ゛らをまもっている!

て゛ひ゛る
「おれか゛ちかよんかいのしゅこ゛しゃ しゅそ゛くはれっと゛て゛ひ゛る
 なまえはいわない たふ゛んにんけ゛んにはききとれないからさ」

しゅんはとひ゛らをゆひ゛さした!

て゛ひ゛る
「あー そこはいりたいの? ならおれころさないとはいれないけと゛やる?」

→はい いいえ
 
て゛ひ゛る
「そっか し゛ゃあたたかおう」

たたかう →ぼうぎょ アイテム にげる

しゅんはみをかためてようすをうかか゛った!
て゛ひ゛るはちいさなこえて゛なにかつふ゛やいた!

たたかう →ぼうぎょ アイテム にげる

しゅんはみをかためてようすをうかか゛った!
て゛ひ゛るはこっちをし゛っとみている!
て゛ひ゛るとめか゛あった!

て゛ひ゛る
「ねえ にんけ゛んて゛もよへ゛るなまえをおれにつけてよ
 それて゛ そのなて゛おれをよんて゛」

て゛ひ゛るはしゅんのなかまになりたそうた゛
て゛ひ゛るになまえをつけてなかまにしますか?

→はい いいえ

37826-559 RPGの中ボス 3/3:2013/04/30(火) 02:05:28 ID:Y8NEggXk
「もしもし久保さんのお宅ですか? 高橋ですけど、あ、そうです駿です。
 悟くんに代わって貰えますか? はい、お願いします。

 ――あ、悟? なあオレ今日ブレイブクエストやってたんだけどさ!
 そう、仲間作らずに勇者の一人旅でやってたデータ!
 あれさラスボス戦の前の前にレッドデビルって中ボス居るじゃん?
 アイツ仲間になった! ……いや、ホントだって!
 うん、多分勇者の一人旅じゃないと仲間にならないっぽい。
 何か『デビルに名前つけて下さい』って出てきた、え? だからマジだって!
 お前もう今から家来いよ、うん、うん、悟が来るまで名前付けずに待っとくわ!
 おう、分かった、速く来いよ! 二人で名前考えよーぜ! じゃ切るから!」

37926-569 今日から両思い:2013/05/02(木) 23:15:30 ID:WraCejIw
「――今日から、両思いだね」
フ、と唇の端で気障な笑いをして、奴は手の中のグラスを揺らした。氷が涼し気な音を立てる。
窓の外の三日月と同じ形に細められた流し目から、俺は顔を背けた。
「言葉は正確に使え。お前の今の台詞は明らかに間違っている」
「え? ……え? うそ? 違うの!?」
裏返った声と、グラスが乱暴にテーブルに触れる音が絶妙な不調和を生む。騒々しい。
「だって! 俺さっきお前が好きだって言って、お前だって頷いてくれたのに!」
「声の大きさを考えろ。個室とは言えこの店は貸切ではない」
「あ、はい」 
大げさに肩を落としてしょぼくれたような顔をしてみせる、その様に少しだけ苛立った。
「……やっと言えたのに」
小さな子供がいじけるように口を尖らせて呟く。声は少し震えているようだった。
「ずっとずっと好きで、やっと両思いだと思ったのに……」
なぜそんなに落ち込んだ素振りを見せられなければならない。まるで俺が悪いかのように。
「お前はいつもそうだ。一人で先走って見当違いなことばかりを言う」
とうとう涙目になってしまった。元はといえばお前が失礼なことを言うのが悪いのだろう。
今日から両思いだと? 馬鹿なことを。まったくもって不愉快だ。勘違いも甚だしい。
「訂正しろ。今日からではない。ずっと前から、両思いだ」

38026-599 夕暮れ時の二人:2013/05/07(火) 01:06:46 ID:ixRXxauM
「夕暮れ時って切なくなるよな」
「因果関係がわからない。切なくなる、の主語はマスターか?」
「そうだよ。んー…なんかこう、終わっていくなーって感じ」
「終わるの主語は?」
「今日と言う日が」
「日付が変わるまであと5時間30分程度あるが、誤差の範囲内と考えていいのか?」
「いやそうじゃなくてさ…うん、じゃあ訂正しよう。太陽とサヨナラするから寂しい」
「別れが寂しいから、マスターは夕暮れを見て切なくなるのか?」
「そうそう。誰とだって、お別れするのは寂しいだろ?」
「無生物を生物のように扱う表現を用いるのはマスターのパターンとして既に認識している。
 しかし、明日の日の出は午前4時42分だ。同等の表現をすれば、約10時間10分後に
 太陽とは再会できる。よって、そこまで寂しいと感じる必要は無いのではないだろうか。
 現に、マスターは同僚との別れについて『切なくなる』『寂しい』と私に漏らしたことはない。
 しかし例外的に、太陽との約10時間10分の別離がマスターにそこまで重大な事項であるのならば、
 滞在地点の拘りさえなければこのまま追いかけることも可能だ。シップの手配をするか?」
「なんだそれ。ロマンがねえなー」
「不愉快に思われたのなら謝罪します。今の提案は取り下げ、パターンを破棄します」
「いいよいいよ。不愉快じゃない、怒ってないから。まったく、急に丁寧語になるなよ」
「謝罪の意を表すには口調も大事だと、過去にマスターが言った。私はそれに従っている」
「うわ、責任転嫁かよ」
「マスター、先程の『ロマン』の定義は?」
「切替早っ!…えーと、夕暮れってさ、昼と夜の隙間だから美しいんだよ」
「……。マスターの話はよく飛躍する」
「してないよ。昼間の空は青いだろ?対して夜は黒、いや俺としては深い藍色かな。
 一日のうちで大半を占めるのがこの二色。その隙間にほんの僅か存在するのが夕暮れの赤だ」
「日の出は?」
「まあ、それもだけど。今は夕暮れの話。空が綺麗に赤くなるのなんてせいぜい数分間」
「希少価値を見出して有り難がる人間の価値観か」
「なんかトゲのある言い方だなあそれ。まあ概ね正しいよ。俺はほんの数分間だからこそ夕暮れが好きなんだ。
 だから、夕暮れを追いかけていっても無意味。つーか、追いかけていったら夜が来ない。邪道邪道」
「マスター、すまないが情報を整理したい」
「あはは、いいよ。どうぞどうぞ」
「マスターは、夕暮れ時は切なくなる」
「うん」
「太陽と別れるのが寂しい、だから切なくなる」
「そう」
「しかしマスターは、夕暮れを美しいと認識していて、かつ夕暮れが好きである」
「おお、ちゃんと情報の取捨選択して理解してるじゃん。メモリ増設した甲斐があったな」
「切なくなるとは、人間のネガティブな感情だと理解している。切なくなるのに、好きなのか?」
「そうだよ」
「…………」
「お、悩んじゃった?フリーズ?」
「マスターの言動を理解するにはある程度の矛盾を許容する必要があると学習している。問題ない」
「それ、俺に対する悪口じゃないの。まあいいや。…って、もう真っ暗だな。ラボに戻るか」
「マスター、申し訳ありません」
「え。なんで急に謝るわけ?」
「あなたの好きな夕暮れの時間を、私との会話で消費させてしまいました。
 マスターが夕暮れを見ていた時間は約30秒、そこから日没までマスターの視線は私に向けられていた」
「なんだ、そんなことか。いいよ、明日も見れるんだから。明日も晴れだよな?」
「降水確率は10パーセント」
「だったらノープロブレムだ。じゃあ、明日は今日の学習を踏まえて二人で夕焼け空を見ようか」
「了解した」
「そのときは手でも繋ぐか?」
「命令であれば、そうしよう」
「それじゃつまんねーよ。明日までにどうしたいか考えとけ。ふふん、明日の夕暮れ時が楽しみになったな」
「楽しみ?切ないのでは?……マスター、待ってくれ、今の言葉の意味は――」

38126-699 味噌と豆腐:2013/05/26(日) 00:43:53 ID:47ArE6QE
同じさやで育った君と僕。 
将来何になるか話しながらいつまでも一緒だねと言っていたのに、枯れたさやから放り出されると別々の容器に入れられてしまった。
いくら泣いても呼んでも返事がない。
諦めて疲れた僕は袋に詰められ、トラックに揺られて大きな工場のタンクに。  
今頃は君もきっと何かに加工されてしまってるんだろうね……。
僕も他の仲間たちと混ぜられて何かに成っていく。
君が居ないんだからもう何でもいい。
早く食べられて消えてしまいたかった。
そう思っているのに一年以上もほったらかされて発酵して味噌なった僕は、やっと出荷され店頭からある家庭にやってきた。
毎日の料理に使われ消費されて、いよいよ僕は味噌汁になって食べられる。
長かったな。
これでやっと僕の一生も終わるんだ。
鍋で溶けて他の具材に触れていると、ふと懐かしさを感じた。
懐かしくて暖かでこの感じは……。
真っ白な豆腐は、もしかして君なのか?
でも君がなぜ今頃豆腐に?
機械の内部に引っかかって、一年以上外に出られなかったのか。
辛い体験をしたんだね。
でもそのおかげで、再び僕たちは巡り会えたんだね。
嬉しいな、嬉しいな。

38226-739 美男と野獣1/2:2013/06/02(日) 17:29:01 ID:CfRdt7eo
森へ入ってはいけないと言われていた。
森には怖い魔女が住んでいて、捕まると魔女の棲家にある大鍋に入れられて毒薬の材料にされてしまうと。
けれど今自分の目の前にいるのは魔女ではなく、全身毛むくじゃらの化け物だった。
村一番の大男など遥かに凌ぐ大きな体、口元には牙が覗き、鋭い爪も見える。
まるで山狗か狼のような姿なのにそれでも化け物だと思ったのは、それが両の脚二本で立っていたからだ。
人間のように立つ獣なんて、絵本でしか読んだことがない。まさか本当に居るなんて。
(きっと、僕のことなんか一口で食べてしまうんだ)
逃げ出そうにも右足は痛みを増すばかりで言う事をきいてくれそうにない。
走る以前に、腰が抜けて立ち上がることもできない。
荒い呼吸で肩を上下させながら、化け物がこちらへ一歩踏み出してくる。
僕は反射的に朝のお祈りのときのように両手を組んで、眼を閉じた。
(神様、神様、神様……!!)

と、ざわざわと木々が揺れる音がしたかと思うと、強い風が吹いた…ような気がした。
しかしそれは一瞬だけで、すぐに辺りはしんと静まり返る。
僕はしばらく目を瞑っていたが、いつまで経っても身体に化け物の爪や牙がかかる気配がない。
もしや風に驚いて、どこかへ行ってしまったのだろうか。
(………?)
恐る恐る目を開ける。
化け物はまだそこにいた。けれど、僕の方を向いてはいなかった。
先ほどの場所に立ったままこちらに背中を向けて、何か、別のものに注意を向けているようだった。
それが何なのか見ようにも、僕のいる場所からは化け物の大きな体に遮られてよくわからない。
ただ、別の誰かがそこにいる気配はした。人の気配。
……もしかして、村の誰かが助けにきてくれた?
僕は身体を少し移動させて、化け物の向こう側を見ようと試みた。
けれど、這うときに肘が枯れ枝を折ってしまい、乾いた音を立ててしまう。
音に反応したのか、化け物が――なぜかぎくりと肩を揺らして――身体ごとこちらを振り返る。
視界が開けた。
(あっ)

そこには、魔女が立っていた。

黒ずくめのローブを着ていて、手には変わった形の杖を持っている。
魔女だというから絵本で読んだお婆さんの姿を想像していたのに、それよりも
ずっとずっと若くで、とても綺麗な人だった。まだ若い魔女なのだろうか。
若い魔女が少し首を傾げてこちらを見る。フードから真っ直ぐな黒髪が零れ落ちた。
助けてもらえるかもしれない。
「あ、あのっ……!」
その人に声をかけようとした矢先、化け物が魔女と僕の間にまた割って入って、魔女の姿はまた見えなくなってしまう。
化け物は……また僕に背中を向けていた。心なしか両腕を広げている。――まるで、僕を庇うように。
僕は訳が分からずに、ぽかんとその毛だらけの背中を見上げた。
草を踏む音が静かに近付いてきて、止まる。
「どけ」
聞こえてきたのが男の人の声で、僕は驚いた。
「私に気付かれずに済むとでも思ったのか、馬鹿が。この森は私の城だぞ?」
その人は当然のように、化け物に向かって喋りかけている。
そして化け物の方もそれに対して暴れたり襲い掛かろうとする雰囲気は無い。
「それはあの村の子供だろう。西の入り口から入ったようだな。これは立派な盟約違反だ」
どけ、と言う声がもう一度聞こえて、化け物の身体がゆっくりと脇へ退く。

38326-739 美男と野獣2/2:2013/06/02(日) 17:30:00 ID:CfRdt7eo
そして僕の前に進み出てきた魔女――男だから魔法使いだろうか?――は近くで見ても
やっぱりとても綺麗な人だった。
その人は、立ったまま僕を見下ろしてきた。
「おい子供。森へ入ってはならないと、親に教わらなかったか」
決して大きな声を出しているわけではないのにその声音は威圧的で、僕の身体は竦み上がる。
まるで教会にある聖母様の像のように綺麗な顔なのに、浮かんでいる表情は酷く冷たい。
なぜか、この人の方が化け物よりももっともっと怖いもののような気がした。
「森には怖いものが居て住処に勝手に入ると殺される、そう教えてはもらわなかったのか?」
その言葉に僕ははっとなる。
魔女に捕まって毒薬の材料にされる、というのはどこか遠い世界の話のように頭のどこかで思っていた。
しかし今「殺される」という直接的な言葉で、絵空事は現実に引き寄せられた。
全身が震えだす。
後退りする僕を見て、男は端正な顔に笑みを浮かべた。
「そうか、言いつけを守らなかったのか。悪い子だな」
言いながら杖をくるりと回して、杖の頭を僕の方へ向ける。
周囲の木々がざわざわと騒ぎ始めた。
得体の知れない恐怖が襲ってくる。何か途轍もなく怖いものがくる、そんな予感がした。
許しを乞おうとしても声がうまく出せない。
(神様……!)
目の前が真っ暗になった。と同時に身体が地面から浮かび上がる感覚。
これが魔女の魔法なのだろうか。僕はこのまま死んでしまうのだろうか。
そんなことが思い浮かんで……けれど、僕の意識は数瞬後もそのままだった。
身体のどこも――森に入ったときに転んで挫いた足以外は――痛くない。
「……。聞き分けの無い奴だ」
魔女の人の低い声が耳に入ってきて、僕はゆっくり首を動かして辺りを見回した。
そして気付く。
僕は、あの毛むくじゃらの化け物に抱きかかえられていた。
顔のすぐ傍に鋭い爪が見えたが、それは僕の身体に食い込んだりはしていない。
寧ろ爪が触れないように、手首から先が反らされている。
「お前はいつまで経っても甘い」
こちらを……いや化け物の方だけを見て、魔女の人が溜め息をつく。
「子供だからと目こぼししたところで、何の得もないというのに。無事に森の外へ出したとしても
 感謝などされず、お前が余計に恐れられるようになるだけだと何故わからない。本当にお前は馬鹿だな」
厳しい口調だったが、さっき感じたような冷たさは無い。
ただ、表情はとても苦々しいもので、まだどこか怖さを感じる。

僕はこれからどうなるのだろう。
殺されるのだろうか、助かるのだろうか。村へ帰れるのか、もう森の外へ出られないのか。
頭のすぐ上から荒い呼吸音が聞こえてくる。
僕は恐る恐る、化け物の顔を見上げた。

384名無しさん:2013/06/03(月) 23:24:25 ID:cJXzTCt6
>>749
規制で書き込めなかったときここに投下します

すきだ、って南が言った時聴き間違いだと思った。「酢来た」とか「鍬だ」とかの。
日常生活でまぁ仮に今と同じ月9に出てきそうなこじゃれた夜景の見えるバーかなんかでなんで男2人でいるかっていうともちろんナンパなんだけど、例えば食事と一緒に酢が来て「酢来たよ」とか言うシチュエーションは日本中どこかにもしかしたらあるかもしんないけど「鍬だ」っていつ言うかな。
中学生が日本史の資料集開いて先生が日本の稲作の歴史を紐解きながらこれが「鍬だ」とかはあるだろうけど、鍬かついだ農民がバーになだれこんできたり、
実は今食ってる野菜スティックはバーテンダーが家庭農園で精魂こめて作ったもので、俺がバーテンダーにこの野菜スティツクうまいっすねって言ったらカウンターの下から鍬を出してこれで週末耕してるんですよーって言って南が「鍬だ!」って言っていや俺は何考えてるんだろう。
まぁでも。ウイスキーを舐めながら反射的に浮かんだ考えを打ち消す。「好きだ」はない。流れてしまった会話をなんか蒸し返すのも面倒でいつのまにか話が野球の話になっててそんな出来事を俺は酒の酔いもあり忘れた。
バーを出て、エレベーターに乗り込む。今日は収穫もなかったのに南は上機嫌でスキップしそうな勢いでエレベーターに乗った。
エレベーターはガラス張りで、眼下にネオン瞬く夜の街が広がる。正直俺はこのタイプのエレベーターが嫌いだ。高いとこが苦手ってわけじゃなく車で山道走ってる時みたいに頭の芯がくらっとして気分が悪くなる。
しょうがなく外を背に腕組みして目を瞑ると外を見ていた南が低い声で俺を睨みあげる。
「何怒ってんの」
はぁ?と思った瞬間ネクタイ引っ張られてがっつりチューされた。うわ、と思ったけど超絶キスのうまい南に嫌悪感より先に好奇心が勝ち更なる快感を探求すべく頬を両手で覆ったり、角度を変えてキスしたり、なんか女の子にするみたいにしてしまった。
「なぁさっきやっぱり」
27,26,25,24
エレベーターの階数表示を見ながらキスの合間に息も切れ切れに言う。
「好きだって言った」
ちょっと逆切れするみたいに南が言う。いつも勝気な切れ長の目の奥が濡れててやらしい。
「悪い、酔ってた、忘れろ」
もっとキスしたい、と俺が南の腰を抱くと南は急に俺の胸を押した。うーわツンデレむかつく殺すと思うと同時にエレベーターが1階についた。俺の手をくぐりぬけ開いたドアから先に行こうとする南をつかまえ閉まろうとするドアを手で制しながらキスの続きをする。さっき俺にキスしてきたのはなんだったのか南はすごい抵抗をみせそのたびにガンガン容赦なく閉まるドアに俺達は体のあちこちをぶつけながらそれでも南に俺は食らいついた。
こいつとならセックスできるわ。頭の中ですでに南を脱がしながら再び上昇し始めるエスカレーターの中に喧嘩の相手を投げ飛ばす勢いで南を強引に押し込み、乱暴に最上階のボタンを押した。

38526-759 書生同士:2013/06/05(水) 23:31:23 ID:ChEPw9/M
分割量を模索していたら規制されました。ということでこちらに。



 茫として、天井の染みを見上げていた。熱に浮かされた頭が重い。
 枕元に置かれた湯冷ましは、先に空にしてしまった。
 喉が渇いた、と思うが、立って家人に求める気力も無かった。申し訳程度の手伝いで居候している身であれば、尚更世話になることの済まなさもある。
 だから廊下をきしきしと歩む音を聞き、襖が静かに開けられて、その向こうに同じ書生の男を見て取った時、照一は内心安堵した。

「テルさん、御加減は如何です」

 問われた声に返事を返すのも億劫で、うん、とだけ喉の奥で唸る。柔和な顔を笑ますのは、隣室に住まいを間借りし、同じ大學に籍を置く斎藤だった。
 同じ書生と云えど、法律を学ぶ斎藤と、生物学に傾倒した照一では、まるで畑が違う。
 また地方の農家の出である照一に対して、斎藤は上京してきた身とはいえ、中々の名家の出と聞く。
 論じることの出来る事物など殆どないから面白くもなかろうに、一つばかり年長の照一に気でも遣っているのか、斎藤は何かと話し掛けて呉れた。
 世間話から、身を寄せている商家の人々の話だの、友人の羽目を外した話だのを聞かせて呉れたこともあった。
 本当は英語が苦手でもない癖に、取寄せた書物の訳などを頼ってくることもあった。
「まだ、良くなさそうだ。浅野さんが持って行けと、呉れましたよ」
 この家の勤勉なお手伝いの名を出しながら、斎藤が枕元に膝をついて、片手に乗った盆を置く。
 新しい湯飲みと、無花果を載せた皿とが照一の目に入る。そろそろと身を起こして湯飲みを口に運ぶと、少しだけ頭が明瞭になった。
「……有難い。浅野さんにも、宜しく、云っておいてくれ」
「はい。ああ、それからタイさんにね、帰りに遇いました」
「泰助が」
「教授が、高月の休むなら余程酷かろうって心配していたそうですよ。……それで、本を幾つか預かって」
 高月は照一の姓である。同級の寺田泰助は、照一を介して斎藤とも顔馴染みだった。今では余程、斎藤との方が仲が良いように見えることもある。
「テルさんが読みたがっていたのが、数冊手に入ったからと」
 小脇に抱えていた書物の表紙を見せられ、その題字を呆けた眼で追って、思わず手を伸ばしかけた。
 途端に、斎藤の手に掴まって夏蒲団の中へ押し戻される。予め判っていたかのような素早さだった。
「駄目ですよ。どうせ、今読んだって頭に入りやしませんよ。それで夜更かしなぞして、風邪の治りだけ遅くするんですから。
 此れは今のテルさんには毒ですから、僕の手元に置いておきます」
 正論だと思って、照一は押し黙る。斎藤は何時も口が達者だ。法学の道には入れぬな、としばしば思うが、他の者が如何であるか実の所はよく知らない。
 ――ただ、己の手を掴んだ斎藤の手が、徐々に温くなっていくのが勿体無いと、ふと思った。
「読む為には早く治すことです」
「……ああ。そうしよう」
「余り遅いと、僕が先に見てしまいますからね。お大事に」
 立ち去る素振りを見せた斎藤の手を、照一は思わず掴み直した。
 そのまま引っ張って甲を額へあてがうと、まだそちらは少し、冷やりとして心地良い。吃驚したような斎藤の声が、頭にぐわんと響いた。
 こんなものは、体温を下げる役には立たない。
 判っていても、何故だか酷く惜しかった。
「テルさん、テルさん。今水枕でも貰って来ますから……」
 慌てたような斎藤の声が、遠くなる。済まない、斉藤、と口にした積りであったが、定かではない。


 聞こえ出した寝息に硬直を解いて、斎藤は複雑な顔で照一を見下ろす。
「思い違えたら如何するんです」
 日頃斎藤を頼りもしない、此方から話し掛けなければ口も利かないような風情だから、不覚にも動揺してしまった。
 疎まれているかと落ち込んで、寺田に笑われた事もあったというのに。心音が頭に響いて、煩い。
 斎藤はそっと書籍を傍らに置いて、諸手で力の抜けた照一の手を包む。
「……葉っぱを見る目の少し位、僕に呉れても罰は当たらないでしょうに」
 屹度研究の道にそのまま進むのであろう彼と、法曹の道へ進む心算である自分の、道が別れる時まではもうそう遠くない。その時、せめて友人で在れるだろうか。
 斎藤の手が、じわりと熱くなる。
 頑強な彼のこと、明日にはすっかり快復してしまうだろう。それでも、もう少し此の侭でいて呉れてもいいと、不謹慎な事を思った。

38626-819 旅行先で出会った運命の人 1/2:2013/06/15(土) 23:08:15 ID:XFt/5UKs
向こうに書き込めないのでこっちに

 あいつとは沖縄を旅行中に知り合った。今から六年前で、あいつは卒業旅行中の大学生。
 馴れ馴れしく写真撮影を頼まれて、成り行きで会話をしていたらお互い近くに住んでいることが判明し、
 微妙に付き合いが始まって、いつの間にか恋人になっていた。
 俺はその頃から、男の癖に占いに凝っていた(性差別的な文言だが)。
 当たると噂の占い番組で、「今週の天秤座は旅行が吉。運命の相手に会えるでしょう」といわれたことが、
 旅行の一つのきっかけだったほどだ。
 両思いになってからそれを思い出し、俺は他愛もなく、そして年甲斐もなく浮かれた。三十前の男がである。
 男同士であることも、年が八つほど離れていることも、その時は大したことには思えなかった。まあ、若かったのだ。
 付き合って三ヶ月くらいした頃だったか、俺は、酔った勢いで、その占いのことを喋ってしまった。
「だから君は俺の運命の相手なんだよ」
 素面なら死んでも吐かない台詞を真顔で言い切った俺に、あいつは一瞬間を置いて、けたたましく笑い出した。
「おい君、笑うな。笑うな」
「だっ……、だって、あひゃひゃひゃ、運命って、運命の相手って、おっさんが真顔でうひゃははははははは」
「おっさんというのはやめなさい」
「あははははははははははは」
 ひとしきり笑ったあと、俺も天秤座だから双方向運命っすね、こりゃもう逃げられねーなぁ、などと
 にやにや笑っていたあいつの顔はまだ鮮明に思い出せる。
 だが、今の俺はひとり、だ。

 あいつとはこの一年連絡を取っていない。理由は簡単で、俺が逃げたのだ。
 あいつはいい恋人だった。口は悪かったが、マメでよく気が付いて、態度は巫山戯ていたが、優しくて愛情深かった。
 一方で俺はどうだ。三十路も半ば、零細企業で細々と働く将来性皆無のくたびれた平社員。
 若いあいつの未来を摘み取ってしまっている気がして怖かった。
 あいつは別にゲイではなく、昔は彼女もいたらしい。
 結婚して、子供を作って、そんな普通の幸せが幾らでも掴めた筈なのに、いや、今からでも掴める筈なのだ。
 俺が居なければ。
 だが、あいつは俺がそんなことを口にすると、酷く怒った。
 当たり前だ、だが俺は怒らせることを承知で、言わずにはいられなかった。
 運命の相手と浮かれてみても、俺があいつを幸せにできるとはとても思えなかったのだ。
 喧嘩が増え、関係はぎくしゃくし始めた。
 そんな時に、俺は、――会社をクビになった。
 ある意味でチャンスだ、と感じた。交友関係の狭い俺は、それら全てを断ち切り、
 アパートを引き払って、携帯を解約し、一方的に、姿を消した。
 謝罪と感謝の手紙を、一通だけ送って。

 三十路を過ぎて、見知らぬ土地での再就職は大変だったが、
 奇跡的に、訳ありの人間を多く受け入れている小さな会社に入ることができ、どうにか生活も安定し始めた。
 月曜日、パターン化した流れでテレビを付ける。聞き慣れた音楽。
 あいつがいた頃は、毎週一緒にチェックしていたあの占い番組だ。もう、一人で見るのが当たり前になった。
「今週は絶好調、天秤座のアナタは、旅先で運命の人に会えるカモ☆ 他人への気遣いを忘れずに!」
「……またか」
 苦笑する。運命の相手がそんなにごろごろ居て堪るか。
 一人でいい。一人でよかった。一人でよかったんだ。あいつがそうでないのなら、もう誰も要らないんだ。
 その週末の社員旅行をキャンセルしようかと思ったが、催行人数ぎりぎりだったことを思い出し諦めた。
 俺の所為で中止になっては、温泉を楽しみにしていた同僚の山田さん(62歳)に悪い。
 だがその気遣いが、裏目に出た。
 俺は、熱海の旅館の廊下であいつと真っ向鉢合わせる羽目になったのだから。

38726-819 旅行先で出会った運命の人 2/2:2013/06/15(土) 23:11:22 ID:XFt/5UKs
 社員旅行×社員旅行。まさかのバッティング、である。予想して然るべきだった、シーズン真っ盛りに観光地なのだから。
 しかし同旅館とは酷い。運命の悪戯、或いは本気?
 驚愕と混乱と焦燥に無言の俺とは対照的に、あいつは、
 いつも通りの――いつも? 一年前までの話だろう、と俺は自嘲する――馴れ馴れしい口調で話し掛けてきた。
「わー久し振りっすね、三百七十二日振り? あは、ちょっと痩せた? 髪の長さ変えた?
 幽霊見たみたいな顔すね、足ちゃんとあるよ、俺。見る?」
「……驚かないんだな。君は」
「あー。だって絶対、此処で会えると思ってたし?」
「……何故だ?」
 あいつは笑みを消して真顔で答える。
「『天秤座のアナタは、旅先で運命の人に会えるカモ☆』俺の運命の人つったら決まってるじゃないすか」
 俺は黙り込む。あんなのはただの占いだ。だが、その占いを信じてこいつに告げたのは誰だ?
 実際に俺達は此処で会ってしまった。偶然? 必然? 運命? それとも。俺は混乱したまま言葉を絞り出す。
「……まだあの番組見てたんだな」
「あんたの所為で習慣になっちゃってんすよ、責任取って結婚しろよな」
 聞き慣れた軽口。だが、目は笑っていない。その口調も表情も、台詞に似つかわしくないほど真面目だった。
 ……ああ、こいつはまだ、俺を。馬鹿が。諦めろよ。ブーメランのように自分に戻ってくる言葉が頭に幾つも浮かぶ。
「さっき仲良くなった山田さんって人、あんたの同僚でしょ?
 ふーんそっか、日本海側まで逃げたんだ。随分畑違いに就職したんすね」
 俺はくるりと背を向けた。逃げよう。そう、今度はもっと遠くに逃げる。
 苦労して就職した会社だが、仕方がない。こいつが諦めるまで、
「逃げるの? 別にいーよ」
 意外な言葉に、俺は思わず立ち止まって振り向く。
 あいつは追い掛けようとする素振りも見せずにさっきのままでさっきの場所に立っていた。
「何度も何度も何度も何度も何度も逃げれば……。俺は全然構わねーすよ。だって、」
 俺はあいつから目を離すことができない。
「もしも俺とあんたが運命だったら、何処に逃げたって消えたって死んだって追いつける。
 十年後でも五十年後でも千年後でもいつか絶対一緒になれる」
 それが運命ってもんでしょ、とあいつはけたけた笑う。
 俺は、何かに押さえつけられるような錯覚を感じながら、月並みな文句で抗おうとする。
「君は……、俺といない方が、幸せになれるだろう。運命なんか、忘れて」
「そうかもね。あんた卑屈だし、根暗だし、一方的だし、考え方が馬鹿だし。でもさ、」
 あいつは一歩も動かないまま、俺を見据えて笑った。ぞっとするほど綺麗に。
「知らねーの? 運命は、抗えないから運命なんすよ」

38826-849 両片思い:2013/06/20(木) 16:59:11 ID:mmvb.f/c
先輩は有能な営業マンで上司にも部下にも厚い信頼を得ている
俺は気さくで仕事にひたむきな先輩にすぐに懐いて…恋情を抱いた
そうしてみると途端に真っ直ぐに尊敬の眼差しを向けてきた事が恥ずかしくなった

先輩には奥さんがいる
先輩はあまり話したがらないけれど、絶世の美女とだけ言っていた
「俺の眼鏡どこにある?」
「童顔隠しの伊達なら給湯室にありましたよ」
「…お前生意気だぞ」
大丈夫、先輩の幸せを壊すつもりはない
俺は後輩として先輩を尊敬してるんだ

俺には男前の部下がいる
たまに生意気だが素直で仕事の覚えも速いいい部下だ
「甘党な先輩にケーキのストラップ買ってきました」
そういって面白半分に買ってくる乙女チックな物が年々溜まっていく
「あなたって意外と乙女なのね」
そうレズビアンの妻から笑われる

相手はストレート、しかも直属の後輩
「奥さんってどんな人なんですか?」
「絶世の美女。いいから仕事しろ」
大丈夫だ、あいつはいい部下だ。バレる訳が無い。隠し通せるに決まってる。

38926-859 暑くても離れたくない:2013/06/21(金) 19:32:29 ID:b.zNaHh6
本スレ860です
続編というかおまけ

==============================

「ごめんっ…俺べとべとだった」
身体を離そうとするとぐいっと押し戻された
「俺も涙でべとべとだから気にしないで…俺も離れたくないし」
普段の余裕のある智ではなくて、

「やっぱもういっ「だめ」
「キスだけ…」

いつもとは違うぎこちないキスは心地よかった

39026-869 狸×狐:2013/06/24(月) 07:39:09 ID:q1JnN67M
本スレで時間切れに気付かず投下してしまいました…申し訳ありません
あと三十分早く気付いていれば良かったです…
時間切れ無効ですので、こちらにも投下させて下さい。すみません。


「あっはは、また騙されてやがる。無様なやつめ。気分が良いなあ。うすのろをからかうのは気分が良い!」
俺の腹の上に跨がって、目尻をきゅ、と細め、口角を吊り上げケラケラ笑う奴の顔を見上げ、溜め息をつく。
襦袢の裾から飛び出た奴の尻尾がぱたぱたと動いて俺の太ももの辺りを着物越しに掠めるのがこそばゆい。
「いい加減どいてくれないか」
「嫌だね」
「なあ、ならせめて、俺の腕を膝で抑えるのはやめてくれよ、痺れてきた」
「ふうん」
そう言うやいなや、ぴしゃりと俺の手の甲を叩く。
指先が痺れる感覚に眉をしかめると、奴は一層ニンマリと笑った。
「な、僕は綺麗だったかい?まったく綺麗な女だったろ?お前はいつも、あんな風に女を口説くの?お前なんかに着いてくる女なんて、いるの?答えてみてよ、さあさあ」
言い淀んでいると、またぴしゃぴしゃと痺れた手を叩いてくるので、仕方なく口を開く。
「…ううん、まあ、そうだなあ…大抵は……着いてくる」
上機嫌に動いていた尻尾がぱたりと止まる。
俯いたまま動かない奴に声をかけようか否か考えながら、二、三まばたきをしていると、いきなり頬をつねられた。かなり、強く。

「いひゃい」
「僕に騙されてのこのこ着いてくるうすのろの癖に、生意気なんだよ。一丁前に女なんか口説きやがって。なっさけない顔してさあ。こんな情けない顔した奴に着いてく女は、何考えてんだろ」
「さあ…顔はやたら、ほめられるけど」
「うるさいよ!ほんと憎たらしい。憎たらしいから、もっとからかってやる」
「あ、おい…」
「喋るな!」


お前だと分かっていて声をかけた。
そう告げたら、こいつも少しは可愛気のある顔をするのだろうか。
……まあ、喋るなと言われたので、少し黙っていようと思う。

391890-1/2:2013/06/26(水) 03:41:51 ID:eO3ad2tU
本スレ890-891です。
長いと叱られたので分割してたら途中からになってしまいました…
本スレ2レス投下で終了ですが、1/2の前半部分を追加でこっちに
投下させてください。読みづらくなって申し訳ないです



姉さんの3回忌に訪れた墓所で、俺と義兄さんは静かに手を合わせる。
親代わりになって歳の離れた俺を世話してくれた姉さん。
それを陰から支え続けてくれた義兄さん。
福祉課の職員と相談に訪れた市民という、色気の欠片もない出会い方をした二人は、バレンタインデーに告白して、ホワイトデーに返事をするという、今時小学生でもやらない幼稚で不器用な恋愛を経て結ばれた。
なのに、たった一年足らずで姉さんは逝ってしまった。
義兄さんは今も変わらず、市民の良き相談相手として働きながら、大学に通う俺の面倒を見てくれている。
まるで困っている人に尽くすことが、人生の生き甲斐みたいな人だ。
「お腹空いただろう? 何か食べて帰ろうか」
「はい」
合掌を解いた義兄さんの、眼鏡の奥にある瞳が少し潤んでいる。
二人に見守られて十代の後半を過ごした俺は、両親がいなくても十分に幸せだった。
本当に、二人には心から感謝している――だから、この気持ちは二人への裏切りだ。
姉さんが短い生涯で一番愛した人を、俺はこれから傷つける。酷いことをして、消えない罪を背負わせる。
どうしてこうなったのか自分でもわからない。けれどもう決めたことだ。
義兄さんはきっと苦しむ。悩みすぎて頭がおかしくなるかもしれない。もしそうなっても俺がずっと側にいる。義兄さんと俺は、これから先もずっと一緒だ。
姉さんが天国で待ってたとしても、俺と義兄さんはそこには行けないだろう。
地獄まで義兄さんを連れていく俺を、姉さんは決して許さないだろう。
神様は選択を間違えた。姉さんではなく、俺を連れて行けばよかったのに。
それとも、こんな俺だから神様も側に呼び寄せたくなかったのだろうか。

「晴れてよかった。来週からは雨続きらしいから、むし暑くなるよ」
「もう梅雨入りしましたからね」
こんな会話ができるのも、あとわずかな時間だけ。
義兄さんの、こんな穏やかな笑顔が見られるのも、あと少しだけ。
「――義兄さん」
「うん?」
「お話したいことがあるんです」
「話? どんな話?」
「できたら、家に帰ってゆっくり聞いてもらいたいんですけど、だめですか」
少し考えるような顔で、それでも微笑んで頷く義兄さんの目は優しい。
「いいよ、たまには男同士でじっくり語ろうか」
「はい」
そっと俺の背中をたたく、義兄さんの手。
そこには今でも、姉さんを愛している証拠が薬指に光っている。
義兄さんの、一生分の愛情を持って、遠いところにいってしまった姉さん。
だから、残りは俺が全部もらう。
――いいよね? 姉さん。

392890-2/2:2013/06/26(水) 03:51:27 ID:eO3ad2tU
出会ってから付き合うまで約二年。付き合ってから結婚するまで一年と少し。結婚生活は一年足らず。
妻が亡くなって、もう二年以上が過ぎてしまった。
今日は3回忌の法要で久々に妻の眠る墓所を訪れた。妻がこの世で誰より大切にしていた義弟と一緒に。
妻を見送った日は、ひどい雨が降っていた。
傘を差し、最後まで墓石の前を離れなかった義弟は、一粒の涙も流していなかった。
僕は泣き腫らした目で「君は強いね」と声をかけた。
義弟は振り向きもせず、真っ直ぐに立って「もう三人目ですから」と呟いた。
その声があまりに淋しげで、僕は傘を放り出して義弟の肩を抱いた。
嗚咽を上げる僕に、義弟は自分の傘を差しかけてくれた。肉親全てを失った彼のほうが、ずっと辛いはずなのに、慰められたのは僕のほうだった。
妻がいなくなった家に、今は二人で住んでいる。大学を出るまでは面倒を見させてほしいと、僕が願い出たからだ。大学を卒業するまで、自分がしっかり世話をしたいと言っていた妻の気持ちを、僕が成し遂げてやりたかった。
――けれど、本当は僕自身が淋しかったのだ。淋しさに耐え切れなかったのだ。
義弟の強さに、僕は知らぬうちに甘えていた。
一回り以上も歳が離れている彼に、自分の淋しさを押し付け、背負わせてしまった。
悲しみを分かち合えるのは義弟しかいなかった。義弟の存在だけが、僕の生きる支えになってくれた。
涙を流して悼むほどの悲しみは通り過ぎたというのに、未だに薬指の指輪をつけているのは、半分は妻への思いだが、もう半分は義弟への依存心からだった。
もしも指輪を外してしまったら、義弟は僕の側から離れていってしまうかもしれない。僕を残して、どこか遠くへ行ってしまうかもしれない。
妻を悼み続けることで、義弟を縛っておけると考える僕は、誰から見ても最低の人間だ。
けれどもう少しだけ、彼の強さに甘えて、縋っていたかった。
こんな僕の心を知ったら、彼はどう思うだろう。
大切な姉を預けた男が、こんな脆弱な心の持ち主だとわかったら、失望し、軽蔑するだろう。
だから隠し続けなければならない。今はまだ、彼を失うわけにはいかないのだから。
墓石の前に並んで立ち、僕と義弟はそっと手を合わせる。
こんな僕に、大切な弟を残して逝ってしまった妻への、懺悔の時間だった。

39326-899 他校の後輩:2013/06/27(木) 17:51:49 ID:q8Kclirc
 小さい頃から得意で続けて来た競技は中学で全国大会に出場するほどの腕前で、高校もその推薦で決まったくらいだ。
 卒業式に柄にもなく花なんぞを手渡して見送ってくれた後輩達に、俺は明るく声を掛けた。
「後は任せたぞ」
「はいっ!」
「それで一年後、俺ん所に来い。また鍛えてやる」
「判りました!」
「頑張ります!」

 高校に入学しても日々練習に励み、一年でも選手に選ばれ充実した生活を送った。
 春が来て新入生の中には見知った顔が何人かいたが、一番期待していた奴はいなかった。
 聞いてみると、進学のため県外に出たらしい。
 一番伸びそうで期待していた奴だが、将来の目的のためじゃ仕方ないな……。
 残念に思いながらも、鍛錬を続け迎えたインターハイ。
 当然のように勝ち進み、地域ブロックの試合会場で見つけた懐かしい顔。
 少しデカくなった?
 いやそれよりも、なんで進学校じゃなくて強豪で知られる高校にお前が居るんだ?
 聞きたいことが沢山ある。
 試合前のバタバタした会場内、イメトレや精神統一をやめて駆け寄った俺に気付くと礼儀正しく一礼した。
「お久しぶりです」
「お前、続けてたのか」
 だったら何でうちの学校に来なかったんだ?とは聞けなかった。
 けど顔に出ていたのか、後輩は昔と変わらずまっすぐ俺の目を見て話しかけてきた。
「オレ、強くなりたいんです。先輩に可愛がられたいんじゃなく、勝ちたいんです。だからこっちに入学しました」
「!そうか。頑張れよ」
 一年見ないだけで生意気になりやがって……。
 余裕ぶって笑顔で肩を叩いて別れたが、内心ムカついてしまう。
 俺が一番気に入って期待していた後輩。
 でも今は他校の選手になっていた。
 なぜかは分からないが、無性に腹が立つ。
 先輩としてのメンツだけじゃなく、絶対に負けられないって気になる。
 闘志を燃やしながらも平常心を心掛け二回戦に進み、運よく対戦した奴をコテンパに負かしてやった。
 それなのに、まだもやもやしたものが残っていて気分がスッキリしない。
 この先もまた奴と戦うだろうが、勝ち続けなければと何故か焦りを感じた。

39426ー919 ブルーカラー×ホワイトカラー:2013/06/29(土) 19:26:51 ID:SSoNmiXs
規制中なの


蒼、蒼、藍色瑠璃の色。
濃淡様々な青色が、空と海とを描き出す。
一見冷たい印象を抱かせるその色が、暖かみを得るその一瞬が、他の何より好きだった。
「青」
一息ついた背中に声をかける。キャンバスに向かっていた青い瞳がこちらを移し、明らかな喜色を孕んでみせた。
「白」
その笑みに微笑み返し、俺はキャンバスの前まで歩みよる。
「見事なものだな」
巨大なキャンバスを目の前にして、俺は言った。すると青は少し照れたようにしながら、あの人に捧げるものだもの。と胸を張った。
1ヶ月後の今日。俺たち色は、全てを作りだして下さった方に会う。それは一年に一度のお祭りで、その時俺たち色は、全員で協力して描いた一枚の絵を、あの方に捧げる。中心となる絵は毎年変わるが、今年は青が、その大役に就いていた。
「見事なものだな」
空と海をとっくりと眺め、もう一度、俺はそう呟いていた。無意識だった。
色の中でも赤青黄の三原色は特別で、その表現力も突き抜けていた。そして俺は、三色の中でも青の絵が、他の色より好きだった。
一見冷たい印象を抱かせるその色が、他にはない暖かみを帯びる姿が好きだった。
ほう、と息をついていると、そっと近づいてくる気配。とっさに身を引けば、やはりというか、青が手を伸ばしていた。
「……青」
思わず声が低くなる。
青はごまかすように笑っているが、ごまかされてなんかやれない。今、こいつは俺に触ろうとした。

39526ー919 ブルーカラー×ホワイトカラー2/2:2013/06/29(土) 19:28:58 ID:SSoNmiXs
本来、色同士が無闇やたらとお互いに触れることは、あまり誉められたことではない。触れた先からお互いの色が染み込んで、しばらく取れなくなるからだ。ひどいと色としてしばらく使えなくなってしまう。俺はその性質が特に強く、少しだけでもすぐに染まってしまうからやってられない。
「……青」
じろりと睨む。青はバツの悪そうに目をそらす。思わずため息が出た。
「誰かと触れ合いたいなら緑か紫に頼めば良いだろう」
青の部下である彼らなら、影響も最小限で済むのだからと、そう言えば、青は弾かれたように顔を上げ、頬を膨らませてみせた。
そしてポツリとこぼされたのは。
「僕は白に触りたいんだ」
ガツン。と、これ以上なくストレートな言葉。思わず頭を抱えたくなった。これだから、こいつは!
見ればむすりと子供のような顔。
その顔に、どうしようなく弱いのを、俺はもう自覚済みで。
ため息ひとつ。
「……青」
青の、一秒たりとも同じ色を映さない瞳に映る白。綺麗だなあと、人事のように思ってしまう。そして、彼の描く巨大な絵。
ああ、仕方ない。
「……少しだけ、なら、許してやる」
ポツリとこぼしたその言葉が消えないうちに、体に衝撃が走って。
抱きしめられたのだと知ったのは、その暖かさからだった。
しばらくは己に付いた色に悩まされそうだと思いつつ、その色の印象からは結びつかない暖かさに、腕を回したのだった。





1で分割表示忘れてすみませんでした

39626-929 憎いはずなのに:2013/07/01(月) 14:29:46 ID:68cKC9P6
好みのお題だったのに間に合わなかった…


俺が殺したかったアイツが切られて、嵐の海に落ちていく。
それを見た瞬間、俺は反射的に荒れた海に飛び込んでいた。
何をやってるんだ……。
嵐の海で意識のない人間を抱えて、岸まで泳げるのか?
第一憎んでいた相手を助けようとするなんて、自分で自分が分からない。
それでも動いちまった以上はやるしかなく、必死で俺は岩場まで泳ぎついた。
息も整わぬまま気を失った奴を引きずり岩場を上へ上へと歩き、波の届かない岩の隙間を見つけて中に入りやっと一息つく。
薄暗い中で奴の上半身から濡れた服を剥ぎ取り、絞ってそれを包帯代わりに腹に巻き付け止血を試みた。
思っていたより傷口は浅く、これで何とかなるかもしれない。
初夏だが濡れて体温を奪われ身震いした俺は、仕方なく意識のない奴を抱きしめる。
いつも余裕の冷笑を浮かべている顔は血の気を失い青ざめていたが、整っていて人間離れしていた。
普段はセットされた髪は濡れて額に張り付き、年相応の若さに見える。
何時とは全く違う初めて間近で見る姿に、俺はつい見入ってしまう。
コイツに近づこうとして、それを疎ましく思った周りの奴に狙われ、俺は仕事も仲間も失った。
その恨みを、直接関係ないコイツを追って殺すことで晴らそうとしていた。
憎まなくては、俺は今日まで生きてこれなかった……。
それなのに必死で助けて、抱きしめたコイツに口付けたいと思うなんてどうかしている。
このままこの腕に閉じ込めてしまいたいなんて……。
コイツが目を覚ました時、俺はどうしたらいい?

39726-949 セクサロイドとインキュバス:2013/07/04(木) 13:26:27 ID:vJXpVw72
規制中につきこちらで。


何かなァ、と彼はベッドにうつ伏せて呟いた。横たわった僕のすぐ横に、端麗な横顔が来る。
色の薄い髪の先が滑り落ちて、尖り気味の耳が露わになる。剥き出しの背には蝙蝠のそれに良く似た翼がぱたついて、いかにも退屈そうだった。
「オマエとしても、あんまりキモチヨくないんだよなァ」
そう言われると、僕としてはどうすればいいか分からなくなる。
黙り込む僕の方に顔を向けて、彼は悪戯っぽく笑った。僕が惑うのを楽しむように。
「オマエ夢見ないだろ。オレとしてはソッチがフィールドだからさ? 生身ってナンか変なんだよ」
「……そうでしたか」
「ま、しょげんなよ。へばンない相手は久しぶりだったしさァ」
伸ばされた手に頭をぐしゃぐしゃされながら、伝えられた不満を解析して、どうにかできることがないか考えてみる。
暫しの沈黙の後、やがて一つ、いいことを思いついた。
体を起こして、訝る顔を左右から挟むように、ベッドへ両手を付く。できるだけ優しく笑う表情を作って――

「では、役割を変えてみましょう。未知の中に新たなる趣味嗜好を見出せるかもしれません」
「ちょッと待てよオイ」
「あ……あの、もう過去に体験済みでしたか。ごめんなさい」
「ねーよ! ねェけどそこがモンダイなんじゃねェんだよ!」
「良かった。ご心配なく、方法は心得ていますから」
「オマエ分かってる? ナイだろ? そもそもオレの名は『上に乗る』って意味でだなァ」
「ええと……大丈夫です。お望みの体位にお応えします」
「そういうイミで言ってんじゃねーよ!」

目を三角にする彼の頬に、僕はそろりと手を触れた。

「貴方に快い夜をお約束致します」

それは昔、僕が売り出された頃のキャッチコピー。
規約に従い、前の持ち主のデータはもう、僕の中に何一つ残っていない。
覚えているのはただ、棄てられた後の、どうしようもない不安と虚しさだけ。
彼が悪魔なんて非現実的な存在でも、面白半分にでも、僕を拾ってくれた時、まだ価値があるんだとどんなにほっとしただろう。
――もう二度と手放されたくない。失いたくない。一人にはなりたくない。だから。

「マスター」

覗き込む僕の顔に、何を見たのだろう。
どォにでもなれ、と自棄気味に呟いて、マスターは仰向けになると僕の首に両腕を回した。

39826-949 セクサロイドとインキュバス:2013/07/04(木) 17:35:54 ID:bN0kX93U
また、夜が変わった。
ほんの一眠りしてる間、加速度的に世界は人工の光で満たされていく。
以前は赤や緑など雑然とした色にまみれていたが、今はただ青く白く統一され、どこか病的な印象を受ける。
あれからどれほどの時間が流れただろう。なんにせよ、目覚めたということは餌が必要になっているということだ。
感覚を広げ、ややあって一つの魂を見つける。好都合にも近くに他の反応はない。
さっそくその場に跳躍すれば、瓦礫とともに一人の若い男が横たわっていた。
浮浪者だろうか、酔いどれだろうか。そういう類の者にしては身なりは整っているように思える。
しかし、そんなことは久々の食事にあっては瑣末なことにすぎない。端正な上物とあってはなおのことだ。
「さあ、お前はどんな夢を望むんだろうな……?」
女か、それとも男か。無意識に潜む理想の姿を探ろうとする。
しかし、いくら意識の同調をはかっても、なんの反応も返ってこなかった。
焦りとともに額を合わせる。
その時、間近で閉じられていた瞼が開き、暗闇の中にちかりと赤い瞳がまたたいた。
「――……こんばんは。あなたが今日の私のマスターですか?
 あなたの望む、一夜の夢を叶えてさしあげます」
不意の輝きに身をのけぞらせる。男は緊張した空気をかき消すように、ふわりと笑みを浮かべた。
この状況で人間が目を覚ますなど、初めての状況だ。
夢を見ない。支配下におけない。そんな人間がいるものか。
あり得ない事態に動けずにいると、一瞬で顔の形が組み替わり、今度は女性的な顔で微笑んだ。
「今宵は、どのような夢をお望みですか?」
本来、血や骨や筋繊維でできているはずの人間の内部が、鋼鉄の骨組みに置き換わっているのが見えた。
戸惑っているうちに、目の前の人物は何度も何度も姿を変えて同じ問いを発する。
最終的にまた元の顔へと形を変わったとき、ようやく腰が据わった。
「どのような夢をお望みですか?」
「……それはこちらの台詞だ」
そうだ。人間がどういう進化を遂げたかは知らないが、要は精さえ搾り取れればよいのだ。
「おまえこそ、どんな夢を望むんだ」
「私の望みですか?それに答えられるようにはできておりません」
「いいから、言ってみろ」
「私の、望みですか?」
「ああ」
「……私の…………望み……」
急速に眼の光が失われ、体から力が抜けていく。
「おい、どうした、おいっ!」
呼びかけても返事はない。勝手に起きたり寝たり、ままならない奴だ。
体を揺さぶってみたり、ばしばしと頬を叩いてみたり、額で熱を測ってみたり、いろいろ試してようやく目を覚ました。
ぶうんという羽虫の飛ぶような音が、かすかに聞こえたような気がする。
「こんばんは。あなたが今日の私のマスターですか?
 あなたの望む、一夜の夢を叶えてさしあげます」
「おまえは一体何なんだ……」
「私は個体番号M-TR1098、ユーフォビア社のセクサロイド“アルプ”です」

39926-949 セクサロイドとインキュバス2/2:2013/07/04(木) 17:36:56 ID:bN0kX93U
「……つまり、おまえはゴーレム、じゃない、ええと自動人形のようなものということか」
「多少の齟齬がありますが、おおむねそのような理解でかまいません」
それにしても話を聞く限り、魔の物にとって情勢はさらにやっかいなものとなっていた。
人間はカプセルという名の密封された棺桶で眠り、常に都市の監視下に置かれ、警邏の網が張り巡らされている。
弱り切った人外の物など瞬滅できる武器を、人間はとうの昔に作り上げている。
下手に寝所へ赴くと消されかねない。これからの行動を決めあぐねていると、“アルプ”が問いを発した。
「私は不具合が見つかり、このまま明日十時ちょうどに廃棄を言い渡されました。
 あなたが現れたということは、何かオーダーに変更があったのでしょうか」
堅く握ったこぶしに焼印のようなものが押されているのが目に留まった。
得られた情報は理解できないことの方が多いが、ひとまずこいつ自身に関しては人形で奴隷で淫売なんだと結論付けた。
「――ああ、そうだ。廃棄される前に案内を頼みたい。できるか」
「はい、可能ですが、私は性機能に特化された機体です。ナビならば、もっと適任が――」
「おまえとは、そういう行為をする気はないよ」
「はい……」
目覚めてからずっと柔和な笑みを保っていたが、初めて表情を曇らせた。
性行為自体はむしろ好ましいところだが、それは十分な補給があればの話だ。
こいつから精気を得られない以上、無為にエネルギーを失うことは避けたい。
とりあえず、人にまぎれるには何らかの姿をとらなければならない。
幸いにもこいつが意識を失う瞬間に、一人の男のヴィジョンが見えた。ひとまずは、そいつの姿を借りることにする。
「…………っ!」
淡い発光とともに変質させると、また落ちるんじゃないかと思うくらい、激しく身を硬直させた。
「……教えてください。あなたは何者なのですか?」
「なあに、どうしようもない淫売の仲間だよ。――さあ行くぞ」
“アルプ”の体を抱きかかえ、人間の街に跳躍の目標を定めた。また長い眠りに就くために。

――――
すみません。ご迷惑おかけしました

40026-949 セクサロイドとインキュバス:2013/07/04(木) 18:10:55 ID:FemsFhaQ
3番手ですがいかせていただきます。


彼は寂しそうに見えた。少なくとも、そのような外的特徴を備えていた。
伏せた目。物憂げな眉。血色の悪い頬。丸めた背。
目があったので話しかけると、しばらくして「ああ」と得心の声をあげた。
よくある反応だ。そして、その次の反応は大抵、私に用がある場合とない場合で大きく異なるのだが、
彼の場合は前者であったらしかった。
私は需要があったものと判断し、彼と共にしかるべき場所に赴いたのだった。

「ばっか、ばっか、馬鹿じゃねーの!? なんで俺がやられる方だと思うのさ、それも男とかねーし!」
挿入の直前で拒否され、私はその機能を一時停止した。
「誘ったのはお前の方だろ? 俺のセックスに興味があるって言ったじゃないか」
「そのしゃべり方もやめろ!気色悪い」
「……そういうご要望でしたので。男らしくやってみろ、と最初に」
「できるのか、って言ってみただけ!なんかお前みたいな機械があるって聞いてたからへぇー、って思っただけなんじゃん!ほんとにやるかよ、馬鹿らしい!
だいたい、お前俺のこと知らないだろ?俺は女専門だっての」
「それは、失礼しました。では今回は、ご依頼というわけではなかったのですね」
「ちょっと見てみたかっただけっつーわけよ、ほんとに人間じゃないのなーって」
何故か、彼は寂しそうな顔をした。また。
「はい、私は人間ではありません。登録され、ご要望に応じてこういった行為をサービスするものです」
「人間そっくりなのに匂いがなかった」
「匂いですか?」
私には、体臭も機能の一つとして、人間のように、より望ましい形で付加されているのだが。
「俺らの食べ物だよ、わかんなくていーの。……あーあ、まったく、お前らみたいなのが増えると、俺みたいなのは死ぬしかないわ」
「同じ職業の方というわけですね、人間では、珍しい」
ようやく、私にも彼の寂しい顔の理由がわかったというわけだ。
しかし彼は言った。
「そんなんじゃねーよ」

彼との出会いは、いつでもはっきりと思い出せる。私の記憶が失われることはない。
私は、あらゆる面において、人間を凌駕する存在として作られた。
では、なぜ創造主は、私に命、魂という機能を備えてくれなかったのだろう。
それがあれば、おそらく私ですらも、彼の食糧になりえたのではないのか。

彼が私に抱いた感情を、私は持たなかった。あるいは、彼の人より長すぎた生において、何らかの障害が発生してしまったのか。
彼は、自分が飢えて消滅するのだと私に語った。もう、人間からエネルギーを得る気になれないのだと。
私がいくら彼と行為をともにしても、彼にとってのエネルギー(彼は精気といった)は満たされない。
医療の必要性を説いたこともあったが、一笑に付された。
「でもな」
彼は笑う。
「精気はないけど、お前は美味い。他の奴は食えない、もう」
気がつけば私はまた、彼の映像を繰り返し再生している。決して失われない彼の姿。

40126-979 ツンケンしてて恋愛にも淡白そうなのにry1/2:2013/07/09(火) 01:56:47 ID:PyPwxR3M
他の人のも読みたいのでこっちで




とうに日は落ちて、息が白く煙る冬の夜。
4つ下の幼馴染(男)が黙々と隣を歩いている。
俺は大学帰り、こいつは部活帰り途中の駅でばったりと遭遇した。
別に隣同士なうえ付き合いは長いから、一緒に帰ることに違和感はない。
ただ、この沈黙がひどく痛々しいのは、何の因果かこいつと付き合うことになったからだ。


きっかけは、俺の家でゲームで対戦してた時のことだ。
どうだー高校生活はーとか彼女はできたかーとか、そんな話題をうざがられつつふっていた。
「女とか興味ねーよ。あんたや友達と遊ぶ方がまだ楽しいし」
「そうなの? 俺はおまえくらいのときは結構楽しんでたけどね。
 授業抜け出してさ、こっそり屋上とかで……」
言ってから自分の失言に気付いた。
俺はこいつが通ってる学校のOB、そこはれっきとした男子高だ。
「あんた、男が好きだったの?」
うまいごまかし言葉も思いつかない。「男がじゃない、男もだ」とさらなる墓穴を掘るのが精一杯だ。
「俺のことも、そういう目で見てんの?」
リアルでも画面の中でも俺は立て直しがきかず、あいつは的確なヘッドショットで着実にキル数を稼いでいく。
すいません俺Mなんでお前のそういうジト目大好きです、とはさすがに言えない。
あーとかうーとか何とも言えない唸り声を出していると、ぽつりといいよと声がした。
「いいよ。別に、つきあっても」
とりあえず引かれてはいないようでよかったとか、そんなあっさりと決めれる奴だったのかとか、
年下のくせに不遜だけどこいつ以上に気の合うやつはいないとか、
いろんな思考が渦巻く混乱の極みの中で、俺はよろしくお願いしますと返事をした。

40226-979 ツンケンしてて恋愛にも淡白そうなのにry2/2:2013/07/09(火) 01:57:25 ID:PyPwxR3M
はい付き合うことになりました、だからといって何が変わるわけでもない。
あれから顔を見るどころかメールや電話などの連絡もなく数日経ち、心構えのできていない状態で今この事態を迎えている。
横を向けば何考えてるか分からない、いつもながらの仏頂面で、隣を歩く奴がいる。
ぶらぶらと夜風の中で、むきだしの手が泳いでいた。
「……おまえさあ、寒くないの?」
赤くかじかんだ手が痛そうで、思わず手に取っていた。
――瞬間、手が振り払われる。
「あ、ごめん。つい触っちゃって」
少し怒ったような顔つきで頬を赤くしている。
やっぱ、駄目だったかと心に影が差す。
「……あんた、なんで、そういうことさらっとできるんだよ……。
 俺、すっげえタイミング計ってたのに……!」
とてつもなく悔しそうな顔で、睨まれた。
茫然としていると、せっかく会えるかどうか待ってたのに、
せっかく雰囲気作ろうとしてたのに、と次々理不尽な怒りをぶつけられる。
俺はそこでやっとさまよわせている冷たい手の理由に気付いた。
「なんだ。そうだったのか。了解了解」
安心と、微笑ましさで頬が緩む。
そんな俺の顔を見て、馬鹿にされてると思ったのか、余計に顔を赤らめた。
「なんかそーゆー、あんたのいらないとこだけ余裕そうなの、むかつく」
「べっつに深く考えなくても、俺があっためてやるよ……とかいって、きゅっ、とやれば万事オーケーだろ」
そう言って笑うと、俺はあんたみたいにチャラくないんだよとか、それはまだ早いだろとかなんかごにょごにょ言っていた。
俺は俺で、ちゃんと俺のこと恋愛的な意味で考えてくれてるんだなあ、
意外な一面があるものだなあと、いろいろ嬉しく思っていた。


ただ、冗談だったはずのアドバイスを真に受けてクサい台詞を吐かれたあげく、
きゅっと抱きしめられて、全身温められることになるのはまた別の話だ。

40327-29 甥っ子×叔父さん 1/2:2013/07/17(水) 02:11:55 ID:.cybjFvQ
「おじさん結婚しないの」
19歳下の甥っ子に突然尋ねられた。ついに兄貴が婚期を心配しだしたのだろうか。
「もしかして今日、見合いの話持ってきた?」
「違うって。親父からは別に何も言われてないよ。ただ俺が聞きたいだけ」
「なんだよ焦った。まったく予定ない。残念なことに彼女もなし。
 それよりお前はどうなんだよ。コレ、できたか?」
小指を立てて聞いてみる。
「それおっさんくせえからやめたほうがいいよ。彼女なんていない」
「20過ぎたら30まであっという間だぞー。ちなみにその先の30代はもっと早い。
 今のうちにいい子つかまえとけよ」
「……んん」
アラフォーからのありがたい忠告だというのに、テーブルに頬杖をつきながら適当な相槌を打たれた。
しょっちゅうお馬さんごっこやヒーローごっこをして遊んでやったこいつも、あと10日で成人だ。
時の流れは恐ろしいほど早い。それにしてもずいぶん大きく育ったものだ。
我が家の家系から180越えが出るとは思わなかった。
「今お前に乗られたら骨折れそう」
「乗るって……えっ、ちょっと、何言ってんの急に」
「昔、お馬さんごっことかしてやったなーと思って。
 お前、『歩け歩け!』って言いながら尻叩いてきたから痛かった」
「あー、なんだ。そういうことか。っていうかいきなり何年前の話してんだよ……」
赤面して決まりが悪そうにしている。こういうところを見るとまだ子供らしいなあと、つい笑ってしまう。
「他には……そうだ。ぐるぐるとかよくやったな」
「回してもらうやつだっけ。それすげー好きだった気がする」
ぐるぐるとはその名の通り、後ろから相手の腰の部分を持って抱き上げ、ぐるぐる回すという遊びだ。
こいつは数ある遊びの中でも、なぜかこれがお気に入りだった。
疲れてやめようとすると、もう一回だけお願いと半泣きでせがまれたっけ。
満足するまでやらされたおかげで、よく腕が筋肉痛になった覚えがある。
今の俺では、回すどころか持ち上げることすらできそうにない。

40427-29 甥っ子×叔父さん 2/2:2013/07/17(水) 02:12:55 ID:.cybjFvQ
「懐かしいな。あれ、そんなに楽しかったのか?」
そう問いかけると、いきなり立ち上がって俺の背後にまわり、脇の下に手を入れて持ち上げられた。
「なんだよ」
「いいから」
されるがままに立ち上がると腰に腕をまわされ、ひょいと抱きかかえられた。
フローリングに足がつかない。
「だから何やってんだって」
「昔のお礼。おじさんも体験してみたらいいんじゃない……っと!」
そう言って笑うと、その場でぐるぐると回りはじめた。
こちとらいい年したおっさんなので、当然ながらまったく嬉しくない。
ぶらんと揺れる自分の足が家具に当たりそうでひやひやするだけだ。
1分ほどされるがままになっていたが、気が済んだのか床に下ろされた。
だけど腰にまわされた手はまだ外れない。
「どうした? もう気が済んだろ? 暑いからさっさと離れろ」
「……やだ」
身体の隙間を埋めるようにぎゅっと密着してきた。背中から心臓の脈打つ音が伝わってくる。
どくどくという速いリズムにこちらの心臓もなぜかつられそうで、離れようともがく。
「やだって子供か! 離せって。おっさんにくっつくと加齢臭移るぞ!」
「まだ子供だし。ぎりぎり未成年。それにおじさん加齢臭しない」
耳の後ろにやわらかい感触と、においをかぐような気配があった。
見えないけれど多分鼻と唇が当たったのだろう。
生暖かい息が耳にかかってぞくりとする。
「彼女つくる予定ないなら、俺といっしょにいてよ」
続けて、おねがい、と言った声は少し震えていた。
同性で親子ほどに年が離れていて、しかも血縁と関係を持つことなんてできるはずがない。
だけど昔のように、結局俺はこいつの言うことを聞いてしまいそうな予感があった。
どうやったって俺はこいつの泣き顔とお願いには勝てないようにできているのだ。
子供のときと変わらない、高い体温の身体に抱きしめられながらそう思った。

40527-49 役者と裏方:2013/07/19(金) 11:13:47 ID:l8oVxFtI
本スレ49ですが、あの後の部長視点も書いてみたので投下

あっははっ。いやいや何も聞いてないよー俺は。
そんな聞いたからって真っ赤になって怒られるようなこと聞いてないよー。
うんごめんごめん。ごめんねー。いやこの前はほんと迷惑かけたね。それは悪いと思ってるよ。
いや裏方に迷惑かけちゃうようなアドリブしちゃうあたりは俺の技量不足だよ単純に。
でもさ、ちょっとくらい無茶しても君がどうにかフォローしてくれちゃうんだよね。
だからつい甘えちゃうんだよ。信頼できるのはいいけど信頼できすぎちゃうのも考えもんだねー。
嘘じゃない嘘じゃない。
ニヤニヤしてるのは君がかわいいから。
お?どしたどした?ほらこんなとこでうずくまんないで。顔上げてごらん?ほら!
いたいいたいいたい。褒めたのにぃ。
ていうか、友達ほっといていいの?
ねー。俺こんなはたかれるようなことしてないよねー。
ちょ、ひっぱんないでひっぱんないで。友達ほっとていいの?おーい。

いやいや嘘じゃないってばおちょくってもないって。
本当に君の技量はすげぇと思うよ。信頼してる。
ん、まぁ、そりゃ俺普段ついふざけまくっちゃうけど。こういうことで嘘つかないよ俺。
君がうち来てからすごい伸び伸び演技できてるんだよ俺は。
でもすげぇ嬉しいなー。あんなこと考えながらやってくれてたんだ。俺の演技好きなんだぁ。
……君なんで俺ひっぱってきちゃったの?二人っきりにしちゃったの?余計追い込まれてない?
いや、俺としては好都合だけど、ね?
はいうずくまんない。顔上げて。ほら。
ねぇ。一個聞いていい?好きなのって俺の演技だけ?
……うん。知ってる。
いたいいたいいたい。

406405:2013/07/19(金) 11:17:40 ID:l8oVxFtI
本スレ49じゃなく50です。間違えましたすみません!

40727-49 役者と裏方:2013/07/19(金) 16:35:15 ID:3zzqgcwU
本番初日の前夜だった。
劇場から出て駅までぞろぞろと歩く中で、偶然吉井さんと歩調が合い、どちらからともなく「お疲れ様です」の決まり文句とともに会話を始めていた。
吉井さんは他の劇団から参加している役者の一人で、おそらく年上のはずだったが、礼儀正しい人らしく丁寧な言葉遣いで話してくれた。
今回の舞台もかっこいいですね、と褒められたことにどぎまぎしてしまって、思わず「いや、実はまだ二度目で」と縮こまった。
彼はこの劇団の過去の舞台を思い起こしているのだろうが、おそらくそれは別のベテランが担当したときの公演だろう。
ところが吉井さんは目を丸くしてこんなことを言った。
「じゃああれが初めてだったんですか」
驚いたのはこちらの方だった。あれを観に来ていて、しかもそのときの舞台美術担当の名前まで記憶しているとは。
「あの舞台、すごいなと思って。シンプルなのに幻想的で。ラストの仕掛けとか」
あれを覚えていたから今回ここのオーディションを受けたけど、まさか本当に深見さんが担当になるなんてね、と彼は嬉しそうに笑った。
言うなら今だと思ったので、半分固まりかけている口を何とか開いて動かした。
「俺も吉井さんのこと知ってました。去年の夏の、喫茶店のウェイター役見てて」
吉井さんは照れたように唇を噛んで足元に視線を落とした。
「よく覚えてますね、僕全然特徴ないのに」
確かに彼はこれといって特徴のない役者だ。華やかなルックスでもなく、感情が突き刺さるような演技でもなく、印象に残る声質でもない。
でもそんなことは些細なことだった。
「吉井さんの演技は、自分が前に出ようとかいう欲がなくて、すごく自然な気持ちで見れました」
まるで自分以外の役者を、脚本自体を、ひいては舞台や照明といったスタッフワークさえも引き立てようとしているみたいで。
「……」
「あ、すみません、分かったようなこと言って……」
あまりに無遠慮な物言いだったとすぐさま反省したが、吉井さんは目を細めて「ありがとう」と言ってくれた。
「深見さんの舞台、大事に立ちますね」
「はい」
横断歩道の向こう側に駅の南口が見えた。
もし、今度一緒にどこか観劇にいきませんかと言ったら、来てくれるだろうか。
千秋楽を迎えるまでにもう少し仲良くなっておきたいなと、柄にもなく子供じみたことを思った。

40827-79 オナニー目撃(するされる)シチュ:2013/07/22(月) 00:56:53 ID:sLfV5Myc
暑くてだるいからオナニーすることにした。
ひとり暮らしになってから、何の気兼ねもなく昼間から好きにできる。大学生万歳。
携帯でお気に入りのエロサイト見ながら開始する。
眠たかったので股間は最初から半起ちだった。ズボンの上から軽くなでると、すでにじんわりいい感じだ。
固い布越しに数回こすってから、さっさとボタンを外して尻まで下げる。
トランクス越しの感じも好きだから、そこでもちょっとしごくと微妙な感じがまたよくて、完全にスタンバった。
今日はノリノリだ。気持ちのいい一発になりそうな予感がひしひしとする。
エロサイトも、新着が好みど真ん中のマッサージもので、握る手にも力が入る。

もちろんこの場合、力っていっても実際の力じゃない。他人は知らないが、俺はゆっくりやんわりやりたい方だ。
早漏というわけじゃないが、今日みたいにノッてる場合、あっという間に気持ちよくなって出ちゃうとなると、もったいないと思うわけだ。
これも他の奴と関係ない話だけど、俺は一日一回やれば満足なタイプ。いや、性欲弱いんじゃないよ、弱くないと思うけど、賢者っていうか、出すともう一回はできない。
だから一球入魂、ゆっくりと、ツボをつきつつはずしつつ、力加減を考えながらこころゆくまで一人の時間を楽しみたいと思うのだ。

棒をこする。あまり早いとすぐ高まるのでゆっくりと。でも今日は波が来るのが早い。そこで、先っぽをぬるぬる責めて気をそらすことにした。
液も多い。今日はとことん高みをめざせそうだ、と感じながら携帯を捨てて目をつぶる。
両手が空いたので左手はやわらかい袋をもむ。毛を撫でてくすぐったさを心地よくあじわいながら、さっきまで画面で見ていたおっぱいに思いを馳せる。
足がつっぱって、自然に腰が動く。絶好調だ。もう、手を早めてもいい。ぬるぬるをできるだけ広げて、皮の可動領域いっぱいにしごき上げると、絶頂の衝動があっというまに高まった。
出る!

『ピンポーン』
心臓が止まる衝撃。ドアチャイムが鳴ったのだ。今、この瞬間に!
「高橋ー、いるー? おーい」
……園屋だ。こうして時々突然に訪ねてくる奴。いい奴だが今は最悪だ。
できることはただひとつ、息をひそめて居留守を使うこと。大丈夫、カギはかかってるはず……頼む!
「おーい、ジュース買ってきたぞー」
なかなか園屋はあきらめない。ようやく園屋が帰ったのは、俺のものが十分に萎えて乾いた頃だった。
あぶなかった。生涯にあるかないかというピンチだった。
……で、そのあと俺は続きをした。意外なことに中断後のオナニーは想像を絶するほど気持ちよく、俺は新しい世界のドアをあけたと思った。
一度、無理矢理やめる、そのあとまたやる。名付けてお預けオナニー。くせになった。

──まさか、必ず園屋を思い出すことまでくせになるとは思わなかった。
中断するための萎える要素としてあの瞬間の園屋を思い出しているうちに、オナニーと園屋が結びついてしまった。
罪悪感で起たない手段のはずが、どこで入れ替わったのだろう。
『おーい、高橋』
気がつけば、園屋の声を思い出しながらやっていた。
今では園屋を思わずにはイけない。
いや、それ以上にヤバいことに、逆に、園屋を見ると妙な気分になるようになった。

「……何?」
夕飯の帰り道、園屋の手を握った。
園屋は不思議そうな顔をして、それがたまらなくキた。
おかしな回路が俺の脳内でつながっている。
好きになった子に欲情するのなら、欲情する相手を好きになるのもありなんだろうか。

409名無しさん:2013/07/28(日) 00:53:04 ID:X2qGWpFE
どうしよう、俺あいつに嫌われたかもしれない。

クラスの奴らに俺が好きな子はどんな子だって聞かれたから、
俺「すげえ可愛い子だけど、詳しいことは教えてやらない」って答えたんだ。
だってあいつの可愛いところは絶対誰にも教えたくなかったからさ。

その翌日、あいつの様子がおかしくて、なぜか避けられてるような気がしたから、
放課後逃げようとしたあいつの腕を強引につかんで詰め寄ったら、
あいつは眉間に皺を寄せて俺を睨んで、

「お前の好きなヤツ、すごく可愛い子だって……」

蚊の鳴くような声でそう言うと、あいつの黒目がちの目に大きな涙の粒がたまって、赤くなったほっぺに涙がポロポロこぼれた。
泣きながら俺を睨みつけるあいつの顔を見ていたら、もう可愛くてたまらなくなって、俺は無理やりあいつの細い体を抱きしめた。

「お前のその泣き顔が可愛くて仕方ないんだよ!」

あいつはポカンとした表情で俺の顔を見上げた。普段は白いあいつの顔が耳まで赤くなった。
その顔もすげえ可愛くて、俺がつい笑っちゃって。
それが勘違いさせたみたいで、あいつは本気で傷ついた表情を浮かべて、

「からかうな!」

と叫ぶと、俺を置いて教室を飛び出していった。


あれからもう3日もあいつと口きいてない。

どうしよう。俺、あいつのことが好きなのに。

41027-119 攻めが受けを語る:2013/07/29(月) 07:28:46 ID:gXc.vObA
投下しようと思ったのに躊躇してたら寝ちゃってた
攻めが受けの家族長期不在の実家に帰えるところから始まります

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
攻「あれ?お兄さん帰ってたんですか」
受兄「おう!お前さあ…昨日のまんまだったぞ、ベット」
攻「はい?あ!すみません!昨日、その…そのまま寝ちゃって…」
受兄「いやいや弟を(性的に)可愛がってくれてどうも。で、あのツンツン弟ってどんななの?」
攻「そっそんなこといったら怒られます!」
受兄「いいじゃんここだけの話だからさあ〜」
攻「言いませんよ!」
受兄「実は俺、彼氏が出来てさ、どんなことしたら喜んでくれるか知りたいんだよね」
攻「え?そうなんですか?…絶対内緒ですよ?」
受兄「うんうん俺のために人肌脱いで!ぁ」
攻「まあ僕が一番嬉しいのは受のおねだりですね。ちょっと焦らしただけであの真面目そうな顔がとっろとろになって「攻め…もっと…」なんていわれたらそりゃ!あ、それに顔真っ赤にされてあは〜んやうふ〜んされ「攻め?」
攻「ん?っ?!い、いつ帰って来たんですか?」
受兄「まあ僕が〜からぷるぷるしながら突っ立ってたな。ほらお前の好きな赤面だぞ〜」
攻「いや、僕が好きなのは恥じらいの方の…ごめんね受けお兄さんに彼氏さんが出来たみたいでその…ごめん」
受兄「それ嘘だよ。つーか俺帰るわお土産置いてくのが目的だったし」スタスタ
攻「嘘!?」
バタン!
受「攻め」
攻「っはい!!」
受「もっと」
攻「はい?」
受「嬉しくないならもういいよ!」
攻「え?可愛い」
受「うっうっさい!もう1m以内に近づくなよ!」

41127−129 汗っかきと冷え性:2013/07/31(水) 02:38:32 ID:CBRamczI
「ねぇねぇ」
「……」
「ねーねーってば」
「……なんだよホッカイロのくせにうるせえな」
「ひどい。……ねえ、いつまでこうしてるの」
「朝まで」
「くっつきあったまま?」
「イエス」
「ひどい」
「だまれ抱き枕」
「ひどい……てかさ、まじめな話、俺汗かきだからさ、現に手汗すごいし、こんなんしてると
冬でも汗臭くなるからさ、そろそろ離」
「それもまたいい…」
「へ、ヘンタイだーッ!」
「うるせえ」
「いたっ! っていうかそーちゃん平気なの? 暑くないの?」
「ふははは冷え性なめんなよ。おまえから体温奪ってちょうどだ。…つーか」
「ん?」
「おまえなんでそんな暑いの」
「……それわざわざ言わせんの?」
「言えねえのか」
「……ひどい……」
「……もう寝ようぜ。…おやすみ」
「……おやすみそーちゃん。……………だいすき」

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41327-159 どこか狂ってる人とその彼をうまく扱える人:2013/08/03(土) 22:13:23 ID:8g5eRipg
長文で瞬く間に規制されたのでこちらに失礼

語りたくなったので、パターン分けしつつ萌えてみる

1.戦闘狂と知能派
とにかく戦闘一辺倒、他の事はよく知らないみたいな奴と、
補佐して暴れられるように作戦組んだり、指示したりする奴の組み合わせ
バトル大好きヒャッハー系でも、戦うことしか知らなかったみたいな無感情系でもいいよね!
知能派は常識人で戦闘狂に頭痛めててもいいし、冷徹に扱うタイプでもいい
主従関係があってもいいと思う

性欲の発露みたいな、ちょっと殺伐とした恋愛でもいいし、信頼関係が高じてらぶらぶに至っても美味しい
ヒャッハー系なら戦闘狂が押し倒すのが定番だけど、襲い受けとかもありだと思う
戦うことしか頭になかったのに、いつの間にか…みたいなのもいい。萌える

2.科学者と理解者
マッドサイエンティストとか、学者とかのタイプと、その理解者だったり助手だったりするのの組み合わせ
科学者が目をきらきらさせながら一方的に喋って、聞いてくれるのは理解者だけみたいな
科学者宛の伝言だの頼みだのは、本人に行くと伝わりづらいので理解者経由で、とか
周囲からも理解者あいつしかいない、な扱いだと良いよね

科学者側は世話になってるの分かってて、内心感謝してる割に好意には鈍感で
「お仕事だからそうしてるんでしょ? え、違うの?」みたいな認識だといい


3.鬱々系や電波っ子とフォロー役
引き篭もってたり自虐的だったり厭世的だったり(だけど何かの天才だったり)する奴や、
反対にちょっと躁っぽいテンションの高い電波な子と、それをフォローする常識人の組み合わせ
振り回されたり、あれこれ手を焼いたりしながらも、
いざと言う時は「君がそう言うなら」とか「君の頼みなら聞くよ」とか言われるようなフォロー役であってほしい

扱われる側はフォロー役のことが大好きだけど、迷惑かけてるなーとかでたまに落ち込んでもいい
それで好きだから傍にいるんだよ、みたいな王道パターンで
なんだかんだでほのぼのした日々を築いていけばいいと思う


ちょっと変なのは何かの才能があったり、彼が生活力皆無なのを世話してたりするのもある種の定番だと思う
狂い気味の側が上手く扱う側に依存してるように見えて、
扱う側も無意識の内に「自分だけの彼」みたいな感覚抱いていればいいよ!

乱文失礼しました

41427-159 どこか狂ってる人とその彼をうまく扱える人 1/2:2013/08/04(日) 09:28:13 ID:xEIlP/PE
書いたは良いけど投下を迷っている間に寝てしまった。
-----------------------------------------------------------
 リュウヤが白衣のまま玄関に倒れこんできた。
 疲労困憊、顔面蒼白。まさにそんな感じで。俺は慌てて駆け寄った。
「た、だいま」
「おい!リュウヤ!」
 蹲ったまま息を荒げているリュウヤの顔を覗き込むと、リュウヤは思いの外強い眼光でこちらを見た。
 そしてもう一度、言い聞かせるように言う。
「ただいま」
 やれやれ。言いたいことはわかった。

「……おかえり。大丈夫なのか」
 そう言うと、リュウヤは満足そうにニヤッと笑った。
 こいつは俺が「おかえり」と言うのを聞くのが好きらしい。
 たまに言い忘れると、「おかえり」と言うまでこっちの話を聞いてくれない。

「大丈夫。根を詰めすぎただけ」
 そう言って立ち上がろうとするのを押しとどめる。
「待て。肩貸すから、よっかかれ」
 よほど辛いのか、素直に肩に手を回してきた。そのままリビングのソファーに連れて行く。
 俺より背が高いくせに、俺より細い腕。棒っきれみたいな奴だ、と思う。

 ソファーに座らせ、白衣は脱がせて洗濯機に放り込む。
 レモンティーを淹れるためにお湯を沸かしながら、ぽつぽつと会話をする。
「研究の成果は?」
「上々だよ」
「身体は大事にしろよ」
「わかってる」

 答えるリュウヤの声が心なしか弾んでいて、珍しいな、と思った。
 俺が「大事にしろ」と言うといつも、リュウヤは困ったような顔をした。「大事にする」という感覚がよくわからないらしい。

 すぐ捨てる、すぐ壊す。愛着と言うものがないのだろうか。
 自分のことすら蔑ろにする。少し前まで、倒れるまで研究室に籠ることはザラだった。
 家で待っている身としては非常に心臓に悪い。

41527-159 どこか狂ってる人とその彼をうまく扱える人 2/2:2013/08/04(日) 09:33:43 ID:xEIlP/PE
 今日のような状態で「帰ってきた」というだけで褒めてやってもいいぐらいだ。
 そう思って「帰ってきてくれてよかった」と言おうとすると、先にリュウヤが口を開いた。
「ケイタがそうやって言うから」
「え?」
 突然自分の名前が出てきて戸惑う。
 聞こえなかったと思ったのか、リュウヤはもう一度繰り返して続けた。
「ケイタがそうやって言うから、大事?にする。今日だって帰ってきたし」
「……だよな」

 やばい、嬉しい。
 黙々とレモンティーを淹れているように見せかけて、にやつくのを抑えるのに必死。

 どうにか零したりすることなく二人分のレモンティーを淹れ終えて、リュウヤのもとへ向かった。
「はい、どーぞ」
「ありがとう」
 リュウヤがティーカップを両手で受け取り、俺はその隣に座る。もうお決まりになった一連の流れ。
 こてん、とリュウヤが寄りかかってきた。
「ケイタ」
「なんだよ」
「俺、わかってきたかも。大事にする、ってこと」
「おお、本当か!?」
「うん」
「良かった、良かった」

 俺の反応が不満らしく、まだ何か聞いてほしそうにちらっとこちらを見る。わかりやすい奴。
「なんでわかるようになったんだ?」
 そう聞くと、ころっとニコニコし始めるリュウヤ。
「全部ケイタだって思えばいいって気づいたんだ」
「……どういうこと?」

 すると奴は、“とっておきの秘密”を喋る子どもの様に耳打ちしてきた。
「鉢植えも、水槽も、水槽の中の金魚も、石ころも、赤の他人も『あれはケイタだ』って思ったら、なんか……大事?に、できる」
 そして、一際大きくにっこりして、嬉しそうに言う。
「今日発見した。だから、今日はずーっとケイタと一緒にいたんだ」

 ……こいつは。
 ああもう、いま俺の顔どうなってんだろう。

「……大発見だな」
「うん、大発見」

 この幸せが続けばいい、なんて。
 柄にもなく願ってしまってもいいだろうか。

41627-159 どこか狂ってる人とその彼をうまく扱える人 1/2:2013/08/05(月) 00:10:55 ID:rv47SWJM
扉の開く音がした。目をやるとドアのところに長身の男が立っている。
相変わらずのスーツ姿、手には黒い杖。
彼を一瞥して、またすぐ空を眺める姿勢に戻る。今日は雲が多い。
「おはよう。気分はどうだい」
背後から声がする。
「食事に手をつけていないんだって?食べないともたないよ。それに、せっかく君の為に
 家政婦のマリアが腕をふるっているのだから、食べてくれないと彼女が悲しむ。
 あとでまた運ばせるから、どうか食べてやってくれ。味なら僕が保証しよう。マリアの料理は絶品だ」
マリアという人のことなど知らない。
こつこつと杖をつく音がして、声がすぐ傍まで近付いてくる。
続けてわざとらしい溜め息が聞こえてきた。
「せっかくあの牢獄から助け出してやったというのに。まったく助け甲斐の無い奴だな、君は」
「ここも牢獄だ」
窓に嵌められた鉄格子に向かって呟くと、後ろの男はなぜか嬉しそうに笑う。
「そうかい?あんな湿って暗い牢屋みたいな部屋と一緒にされては悲しいな。空調もきいていて清潔で、
 何より色調が明るい。あそこと比べたらこの部屋は天国だろう?天国に現れる僕はさしずめ天使か」
どんな顔をしてそんな間の抜けたことを言うのか。
そちらに顔を向けると、すかさず目線を捉えられた。
「ようやくこっちを向いてくれたね。人と会話するときは、目を見て話すものだよ」
かけられる言葉には何も返さず、黙ったまま男の頭から爪先まで視線を走らせた。
組織の幹部の一人。七人のうちで一番若く、一番の新参。しかし序列は既に四位だと聞いた。
今もこの部屋の前には部下が控えているのだろう。
髪を後ろへ撫で付けて、スーツもネクタイもおそらく高級品。微かに香水の匂いがする。
手に持つ杖にも、細かい細工が施してあった。
「こうして君に会いに来たのは他でもない。君に仕事を頼もうと思ってね」
「やらない」
言った瞬間に殴られる覚悟をしていたが、男は平然と肩を竦めた。
「そんなつれないことを言わないでくれ。君の腕を見込んでいるんだ。君にしか頼めない」
そして、聞いてもいない麻薬組織についてぺらぺらと喋りだす。
無視してまた身体を窓の方に向けた。空を眺める。
鉄格子の隙間から見える空は、いつの間にか暗い色の雲に覆われていた。一雨来るかもしれない。
嫌な気分になった。
「雨が降りそうだね」
タイミングよく言われて、思わず振り返ってしまった。また視線が合う。
男は少しだけ首を傾げて微笑んだ。
「君は雨が嫌いかい?」
「……嫌いだ」
「そうか。僕は好きだよ」
その返答に無意識に顔を顰めていたらしい。男が苦笑を漏らした。
「雨が好きな人間のことも嫌いかな」
その問いに少し考えてから「どうでもいい」と返す。その後は特に言うこともなかったので黙った。
わざとらしい笑い声が部屋に響く。
「もっとにこやかな方が会話というものは楽しいんだけどな。よく食べてよく笑うのが健康の秘訣だ。
 ああそうだ。食事が駄目ならデザートを運ばせようか。マリアの作るシフォンケーキはとても美味いよ」
何個でも食べられるのだと得々と語る男から視線を外し、再び空へと戻そうとしたところで、
視界の隅で黒い杖がリズミカルに床を小突いているのに気がついた。小さく音をたてている。
その音につられてなんとなく男の右脚に目を落とす。
彼の持つ杖が装飾品ではないことは、初めて歩く姿を見たときに気づいていた。
そんな脚になっても幹部で居続けられるのは、または居続けようと思うのは、なぜだろう。

41727-159 どこか狂ってる人とその彼をうまく扱える人 2/2:2013/08/05(月) 00:11:58 ID:rv47SWJM
こちらの視線をどう解釈したのか、男が黒い杖をくるりと回して見せた。
「これかい?なかなか凝った細工だろう。東洋のドラゴンをあしらってある。特注品だよ」
自慢げな口調になぜか急に苛立ちを覚える。
どうしてそんな風に振舞えるのか。脚に引き摺りながらも平然と、嘆きもせず笑っている。
「さて。このまま君と他愛の無い話を続けるのも十分に楽しくて魅力的なのだが、僕も忙しくてね」
なぜそんなに楽しそうなのだ。
理解ができない。
一旦そう思うと、まるで雨のように心の内に苛立ちが溜まっていく。
「本題に戻ろう。仕事の話だ。さっき説明したとおり…」
「やらないと言ってる!」
気付けば、苛立ちをぶつけるように男の話を遮っていた。
久しぶりに大きな声を出した所為で喉の奥が引きつり、軽く咳き込んでしまう。
咳き込みながら、なぜ自分は今怒鳴ってしまったのかと考えたがよくわからない。
顔を上げる。
目の前の男の笑みが、より一層深くなっていた。瞬間、背筋が寒くなる。
そして気づく。いつの間にか自分がこの男と会話をするテーブルについてしまっていたことに。
男は可笑しそうにくすくすと笑う。
「何だって?もう仕事をしたくないだって?」
「しない。もうやらない」
強く首を振る。男は杖をつき腰を少し屈め、こちらを覗き込んできた。
「なぜ辞める必要が?雨を嫌いなことは信じよう。だが、君は仕事のことは好きじゃないか」
「嫌いだ」
「それは嘘だな。君ほど仕事が好きな男を僕は知らないよ」
断定して、男はようやく傍にあった椅子に腰掛けた。
目線の高さが同じになる。そのことに、どうしようもなく焦燥する。
「仕事が嫌なら、君はあの屋敷から早々に逃げ出していた筈だ。それをしなかったのはなぜか?
 君は『嫌な仕事はやりたくなかったが、仕事はしたかった』。つまり君は仕事自体が嫌いなわけではない」
「違う」
「仕事を渇望している」
「違う。違う」
「君は逃げ出さずにあの場所で耐えていた。耐えながらずっと待っていたんだ。
 牢獄から自分を助け出してくれる誰かを、君はずっと求めていた」
言いながら、男は、己の太腿を軽く叩いて見せた。
「だから、あのとき僕を殺さなかったんだろう?」
にこやかに吐き出された言葉に身体が強ばった。
「助け出すのが遅くなって悪かった。これでも頑張ったんだけど、如何せん、序列というやつは厄介でね」
「……あなたは、一体、」
「うん、ようやく僕に興味を示してくれたか。良かった。いつまで呆けているのかと、実は心配していたんだ」
この男が何を言っているのか理解できない。理解したくない。
こんなドロドロしたものよりも、空が見たいと思った。
それなのに両の目は彼の顔をじっと見つめ、混濁した記憶と照らし合わせ始めている。
「さあ、仕事の話を続けよう。君に相応しい、素晴らしい初仕事だと思うよ。君にしか出来ない。
 安心するといい。僕はあのクソジジイどもが君にしたような仕打ちはしない」
耳に彼の言葉が入ってきて思考を侵食する。
右手の指が今ここには存在しない何かを求めてちりちりと疼く。
背後で、雨の降り出す音が聞こえてきた。

41827-169 ノリで女装しちゃった攻めと茶化して褒める受け 1/2:2013/08/07(水) 04:13:51 ID:sfQZatEY
「白と赤、どっちが似合うと思う?」
「うっへあッ!?」
随分と情けない声を出してしまったが、
目の前の可愛い子ちゃんがいきなり男友達と同じ声で喋ったとしたら
みんなこんな感じでかっこ悪くなるんじゃないかなぁ、とオレは思う。
「おっまえッ! マジ何してんの!?」
「女装。今度の文化祭、男子ミスコンやるでしょ。
 今日ノリで"優勝目指す"って言っちゃったから」
「文化祭、明後日ですけど!?」
「うん。だから、協力求む」
驚くオレとは正反対に陸人は無表情でコクコクと頷いた。
この進藤陸人と言う男。中性的な可愛らしい見た目と、
物静かで落ち着いた性格とは裏腹に案外ノリが良く
日常的に真顔でボケをかますような天然モノの変人だ。
今みたいにいきなり突拍子もない行動を取り始めるのも珍しくはない。

「とりあえず赤か白、答えて」
ぼけーっとマヌケに口を開けて固まっていたオレに
陸人はお花の付いたカチューシャを二つ突き出してきた。
「衣装は今着てるのに決めてるから、どっちが合うか教えて」
その言葉でオレは再び陸人を上から下までまじまじと眺めた。
髪はカツラでロングストレートになっていて多分軽い化粧までしてる
どこかの民族衣装風のワンピースはふんわりしていて何とも可憐だ
複雑な模様にシンプルな白いエプロンが実に映える。
「……赤だな。エプロンが白いから色被せないほうがイイ」
「なるほど、バランスは大事だ」
納得したのか陸人はガッツポーツまで決めて頷いた。
「はい、それダメ! 全ッ然"ミス"じゃない、やり直し!」
その仕草にすかさずダメ出しする、ノってる相手にはノリ返すのがオレの礼儀だ。

41927-169 ノリで女装しちゃった攻めと茶化して褒める受け 2/2:2013/08/07(水) 04:15:11 ID:sfQZatEY
「――っ! "なるほど、バランスは大事、ね?"」
一瞬ハッと目を見開いた陸人は、一回瞬きをした後すぐ淑女になった
男らしいガッツポーツだった手も今はお腹らへんで静かに佇んでいる。
「オッケー! めっちゃかわいい!」
今度はオレが全力でガッツポーツを決める、女装に仕草は大事だ
陸人は手応えを感じたかのように何度か頷いた後こっちを見つめてフッと笑った。
その笑顔は"かわいい"よりも"カッコイイ"で。ちょっと、ほんのちょっと、ドキッとした。
「うん、うん、これ優勝行ける。蓮介に自転車あげられるよ」
「はい? なんで自転車? オレに?」
自信満々に再びガッツポーツを決めかけ慌てて止めた陸人の言葉にオレは困惑する。

「知らない? 男子ミスコンの優勝賞品、折り畳み自転車。
 前に蓮介、欲しがってたやつだよ」
「えっ? え? お前それ取る為に、しかもオレに渡す為にやんの?
 で、でもさっきノリって、てかオレ思いっきし茶化しちゃったじゃん」
「ノリだよ? クラスの皆に言ったの……。
 自転車は最初から取る気で居たけど、準備もしてたし。」
そう言って陸人は衣装のスカートを少し引っ張った
オレはいきなりのその言葉に目を白黒させる事しか出来ない。

てかこの状況ヤバイ、超照れる、だってカッコイイだろ
友達が欲しがってる物一つの為に恥を忍んで真面目に女装とかさぁ。
むしろ茶化して軽いノリで動いたオレのが恥ずかしいって。
「……も、もっと早く言ってくれれば、こんな茶化し方しなかったのに」
「……? アドバイス的確だったよ?」
申し訳なさと恥ずかしさでおそらく赤面しているオレを
茶化すでも無く、怒るでも無く、陸人はサラッとそう返してきた。
不思議そうにオレの顔を覗きこんでくる陸人から慌てて目を逸らす
なんかもうこれ以上、目の前の男前すぎる可愛い子ちゃんを直視できそうに無かった。

420水×ふえるワカメ1/2:2013/08/07(水) 19:12:32 ID:Bt57U/6.
規制くらい、ここに投下をさせていただきます。


このお題で、どう萌えるんだろう?と思って妄想したら、思った以上に萌えてきたので投下。語りになります。

水系攻として、純粋透明な素直系アタック攻。そこに、初めは縮こまってて自信がなくても、水を与えられることで段々大きくなる=成長するワカメ系受。
謙遜通り越して卑屈気味だった受が、裏表ない攻の言葉を吸収して、最後には攻と同じくらいまで成長するんだ。
自分もなくてはならない存在なんだって、自分があることで役に立つことが周りにはたくさんあるんだって気づいてくんだ。ワカメサラダまじ美味いよね。
個人的に年上×年下を希望する。家庭教師と生徒でも、上司と部下でも。
「どうせ、僕なんて」「あんなあ、俺は、つまんない嘘はつかないよ。若芽、お前には才能がある」
んで、「僕。水島さんを助けます。いえ、水島さんを超えるくらいに成長してみせます!」「(若芽ならきっと…)おうよ、さて、今日も頑張るか!」みたいな感じで!

ここに、病み成分という調味料を加えますと。
何にでも染まっていく水のように、誰にでもいい顔をして自分を受け入れるものを淡々と探す依存心持ちの攻。
水が増えると浸食し増えながら塩味がきくワカメように、自信の大幅な無さから、認めてくれた人にはどうしても自分だけを見て欲しい、心を全て手に入れたい、よく泣く受。
物理的に浸食する=傷つけるのもありか?

421水×ふえるワカメ2/2:2013/08/07(水) 19:13:46 ID:Bt57U/6.
水系攻は依存して自分が変化することはあっても、向こうが変化することは今までなくて。
ワカメ受の変化にほの暗い喜びが生まれて、でもいい顔しいだから加害者になるのは嫌で…。でも好きな気持ちと依存心は増えるばかりで…。
そんな中で受はどうにか自分だけを見てな気持ちが段々大きくなって、独占欲が段々段々大きくなって、泣きながら暴走して…。
ぬっるぬるでどっろどろな関係。乾燥ワカメって3分ぐらい水もどしてから水気きったらぬるぬるしないらしいね。
「ねえ、水樹。僕のなか水樹でいっぱいだよ。ほら、水樹もきもちい?ねえ、僕しか感じない?ねえ。僕は水樹しか感じないよ。水樹好きだよ。僕だけ見て、見てよ水樹」
「そんなに抱きしめないでも大丈夫ですよ。布和でわたしはもう心がいっぱいなんです。布和がいないとだめなんです。布和が背に残す爪の傷も、布和のその涙も、すべてがわたしの喜びなんです」みたいなノリで!
個人的に同年代希望。使用人×主の息子(跡取りじゃない、期待されない受)とか良くないか!身分差があるようでないようで、とか良くないか!

他にも。天然軟水、つまり天然口説き攻にやられるツンデレ受(捻れたワカメから広がるワカメに)や。クール微S攻(冷水)×単純微M受(水かけりゃすぐ反応)や。普通に考えて、ふえるワカメ=ふえる受ということで、天然水攻のハーレムエンドとか…。際限なく萌えは止まりません。

萌えテンションが止まりませんでした。長々と読んでくださりありがとうございます!

422<削除>:<削除>
<削除>

42327-209 受けより背が低いことを気にする攻め:2013/08/11(日) 01:59:46 ID:oFjJzTiQ
校舎の陰の芝生でぼけーっとしてたら、渡り廊下の方から
女の子たちのおしゃべりが聞こえてきた。
――山野井君て背が高くてカッコイイよね。
うんうん、山野井は確かにカッコイイぞ。なんてったって俺の自慢の恋人だし。
思わずにやにやしながら一人で頷いていると、今度は俺の名前が聞こえてきた。
――あたしは新堂君の方がいいな。
――うん、新堂君も可愛くていいよね。
ちょっと待て、可愛いってなんだよ。
ほめてくれてるんだろうけど全然嬉しくねーよ。
遠ざかっていく女の子たちの声を聞きながら、俺はがっくりと肩を落とした。

そんなことがあったものだから、帰り道、隣を歩く山野井につい
絡んでしまった。

「山野井、お前、今何センチあるの?また伸びたんじゃない?」
「ん?ああ、この前測ったら179cmだったな」
「なんでお前ばっかりそんなに伸びるんだよ!?」
「新堂だってそこそこ伸びてんじゃん。今、172くらいあるんだろ?」
「171.8。お前より7㎝以上も低い」
悔しげに呟く俺の顔を、山野井は覗き込む。
「どうした?今日何かあったのか?」
「ん、実はさ…」
ぼそぼそと先ほどのことを告げると、山野井の奴、肩を揺らして
笑い出しやがった。
むっとして睨みつけるように見上げると、
「実際、新堂は可愛いじゃん」
「……」
恋人に可愛いといわれるのは、正直嬉しくないこともない。
でも、俺は、可愛いってよりはカッコイイって思われたい。
胸の中でぼやいていたら、まるでそれが聞こえたかのように。
「それに、カッコイイ」
「え!?」
「新堂のことは前から可愛い子だなって思ってたんだ。
ただ、普通に同性の友達としか見てなかったから、
告白してくれたときは正直驚いたけど、新堂さ、すごく一生懸命に
自分の気持ちを伝えてくれただろ?あのとき俺、あ、こいつ
カッコイイなって思ったんだよな。で、気がついたらOKしてた」
山野井は少し照れ臭そうな笑みで俺を見つめ、それから身を屈めて
「…だからね、俺の恋人は可愛くてしかもカッコイイんだ」
俺の耳にそう囁いた。
俺の気を晴らすためもあるだろう。
でも、それだけじゃなくて本当にそう思ってるとその表情が告げていたから、
カッコよさではまだまだ負けてるなと思いながらも、俺の気持ちは
ぐんぐんと急上昇していった。
身を屈めたままの山野井の首の後ろに手を回すと、上向けた唇に
柔らかなキスが落とされた。

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42727-259 定年退職:2013/08/16(金) 10:19:16 ID:Ll9avnWA
「長い間お疲れ様でした」
「ありがとう」
少し奮発したシャンパンのグラスを互いに軽く当てると、孝志さんは気恥ずかしそうに微笑んだ。
テーブルの上にはクリスマス並のごちそうが並び、冷蔵庫にはケーキも入っている。男二人の食卓には似合わない花は、孝志さんが今日会社でもらってきたものだ。
「祝ってもらうのはありがたいが何だか変な感じだな。定年退職なんて別にめでたいものでもないのに」
「何言ってるんですか、めでたいですよ。会社を無事に勤め上げて、これから孝志さんの第二の人生が始まるんですから」
「第二の人生って言うと聞こえがいいが、単に老後の生活が始まるだけなんだがな。……でもまあ、何であれ君に祝ってもらえるのは嬉しいよ」
最後に早口で付け加えると、孝志さんはうつむいて頬を染めた。定年の年になっても、そういう可愛いところは昔から全然変わらない。
「そうそう、お祝いのプレゼントというにはちょっと何ですけど、孝志さんに渡す物があるんです」
「ほう、何だい?」
そうして俺が取り出した一枚の紙を見て、孝志さんは呆然と口を開けて固まってしまった。
「……養子縁組届って、君、これ……」
養子の欄に俺の名前を書いたその用紙は既に証人の欄に二人の共通の友人のサインももらってあり、あとは孝志さんのサインと印鑑があれば提出できる状態になっている。
「養子になる俺の方から渡すのも妙な話なんですが」
「……驚いた。三十年も一緒にいて、君、一度もそんなこと言ったことがなかったから」
「だって俺は個人事業だから別に戸籍がどうなろうが関係ないけど、孝志さんは保険や税金の都合で会社に知られるかもしれないでしょう? 十歳しか離れてない息子がいるって知られたら、噂になって孝志さん会社に居づらくなると思ってずっと我慢してたんです。でも退職したんだから、もう大丈夫ですよね?」
問いかけながら、ぐいっと顔を近づけて孝志さんが弱いと知っている甘えた上目遣いで孝志さんの顔を見る。しかしいつもならそろそろ視線が泳ぎ出すはずなのに、孝志さんは真顔を崩さないままだ。
「……すいません、いきなり言われても困りますよね。孝志さんがどうしても嫌ならあきらめますけど、でも、一度考えてみてくれませんか」
一生の問題なのに、キスをねだるのと同じように色よい返事をねだろうとするのはさすがに俺が甘すぎただろう。孝志さんも喜んでくれるだろうと勝手に思い込んでいたので、さすがにちょっと落ち込んだが、焦っても仕方ないので気持ちを切り替えることにする。
「とりあえず食事にしましょう。これはしまっておきますね」
そういって孝志さんの手の中にある養子縁組届を取ろうとすると、孝志さんがその手にぐっと力を込めた。
「孝志さん?」
養子縁組届けを握ったまま離そうとしない孝志さんに思わず怪訝な声をあげると、孝志さんの顔がみるみる赤く染まっていった。
「……ペンを取ってくれ」
「! はい!」
大慌てでペンを取りに立った俺の後ろでは、孝志さんが握りしめてしまった用紙のしわを伸ばす音が聞こえていた。

42827-299 ひょろい×筋肉質 1/3:2013/08/21(水) 17:55:32 ID:6an/yYa2
リストバンドを買いにスポーツ用品店に行ったら、
レジの前でクラスメートの峰と鉢合わせした。
峰が手にしていたのはダンベルだったので、俺は少し驚いた。
峰は、勉強は得意だが運動は苦手な典型的なインドア派で、
肌が白く体型もひょろりとしている。
女子には案外人気があるようで、クラスの子が「峰くんて中性的で素敵」
「王子様みたいだよね」と話しているのを聞いたことがる。
女の子から「王子様みたい」と言われるなんて、
ラグビー部所属で色黒がっしり系の俺からすれば少しばかり羨ましかった。
そんな峰とトレーニング器具の取りあわせは、だから全くしっくりこない。

「よぉ」
「あ、佐々原…」
「ダンベル、買うの?」
「あ、うん」
「なんか意外だな。お前がそういうものに興味持つの。スポーツとかさ、あんまりやらないじゃん?」
「うん、そうなんだけど…ちょっと、身体鍛えてみようかなって」
「へぇ…」
峰があまり詳しいことを聞いてほしくなさそうだったので、俺はそれ以上は追及しなかった。
まあ、こいつにはこいつの事情があるんだろう。
ただ、気になったのは――。
「お前さ、こういうの使うの初めてだろ?」
「うん、そうだけど…」
「初心者が無理な使い方して肩とか手首とか痛めるのってけっこうあるんだよな。
よかったら俺が基本を教えてやろうか?」
俺の申し出に峰はびっくりしたように目を瞠ったが、すぐに嬉しそうに頷いて
「よろしく頼む」と頭を下げた。

42927-299 ひょろい×筋肉質 2/3:2013/08/21(水) 17:56:15 ID:6an/yYa2
話してみると峰の家と俺の家はけっこう近いことがわかったので、
それぞれ家に戻って着替えてから近所の公園で落ち合うことにした。
「悪いな、手間かけさせて」
「いや、俺も筋トレの初歩は先輩たちに教わったからさ」
とりあえずダンベルの使い方の手本を見せながら教え、
その他道具を使わない筋トレ、腹筋、腕立て伏せ、ジョギングについても
アドバイスしたりした。
峰も俺のいうことを素直に聞いて、慣れない運動に真剣に取り組んでいた。

今まで同じクラスでも挨拶を交わす程度の付き合いだったのだが、
こうして一緒に時間を過ごしてみると、案外面白くていい奴だとわかり、
俺としてもけっこう楽しいひとときだった。
峰も得るものがそれなりにあったのだろう。
これからも週に2〜3回はこの公園でのトレーニングにつき合ってくれないかと
頼まれたので、俺は快諾し、その日はそれで別れた。

そして、約束通り週に2日か3日、俺の部活が終わってから公園で一緒に
筋トレに励むようになった。
トレーニングの合間にいろいろ話もして、音楽の好みが同じだったり、
俺の好きなラノベを峰も気に入ってたり、二人ともアジフライが好きだけど
俺はソースは峰は醤油派だとわかったり、他愛ない会話を重ねていくうちに、
俺たちはかなり親しくなっていった。

43027-299 ひょろい×筋肉質 3/3:2013/08/21(水) 17:57:39 ID:6an/yYa2
一緒にトレーニングをするようになってから3週間ほどたつと、
俺と会わない日ももちろん真面目にトレーニングを続けていた峰の身体には
うっすらと筋肉がついてきた。
そんなある日。
いつものようにトレーニングを終えてベンチに並んで腰を下ろし
スポーツ飲料で喉を潤していたとき。
峰が、不意に言った。
「僕が筋トレはじめた理由ね」
「うん?」
「実は、僕、小坂さんに憧れてたんだよね」
そう聞いて、俺は、ああ、と納得した。
小坂さんは隣のクラスの女子で、明るくてはきはきした性格で男子にも人気がある。
そして彼女の好みはスポーツマンタイプの男性だった。
でも、小坂さんは今…。
俺の表情を読んで、峰は頷いた。
「うん、彼女、今テニス部の牧村とつき合いはじめたよね」
そう、小坂さんは現在牧村といい雰囲気になっている。
つまり、峰は失恋したってことか…。
「あー、その、なんていうか……元気だせよな?」
失恋した友達にかける言葉をさがしあぐねた末にごくありきたりのことしか
言えない俺だったが、峰はにこりと微笑んだ。
「大丈夫。実をいうとね、最近僕他のひとのことが気になってたから…」
「あ、そうなんだ。よかったじゃないか。その子もやっぱり筋肉がついた男が
好きなのか?筋トレ、まだ続ける?」
「うーん、男の好みはわからないけど、筋トレはこれからも続けるつもり」
峰が筋トレを今後も続けると聞いて何故かほっとした。
が、続く言葉に仰天した。
「だってさ、押し倒すのにはやっぱり筋肉が必要じゃない?」
「いや、ちょっと待て。なんでいきなり押し倒すって話になるんだ・」
「だって、その人のこと見てるとムラムラしてくるんだもの」
「だからって押し倒すのはまずいだろ?そんなことしたら一発で嫌われるぞ。
 つか、まず、つき合ってください、だろ?」
「だって、OKもらえなかったらそれっきりじゃないか」
「まずは誠心誠意心をこめて、つき合ってくださいってお願いしろよ。
それでダメなら男らしく諦めろ。とにかく無理やり押し倒すのはなしだ」
「えー、でも…」
「峰が真剣に誠意をもって告白すれば、相手の人だって真剣に誠意をもって
応えてくれると思うぞ」
「そうか…。そうだね、じゃあ…」
峰はしばらく考えこんでいたが、急に俺の目をまっすぐに見つめてきた。
とても、真剣な表情で。
「佐々原、あのね、僕…」

43127-329 一緒に暮らそう:2013/08/27(火) 04:29:58 ID:3heqiIm6
「お金も節約出来んじゃん」
 篠原との関係は、高校だけだと思っていた。
「もしかして、俺、森君にもてあそばれてたの?」
 ショックーと言いながら全然衝撃を受けてなさそうなのに、少しばかり腹が立つ。
「お互いの大学の真ん中あたりは、ちょうど物価高くなさそうだし……」
「待てよ。話を進めるなよ」
「……もっと好きな相手が出来たらフって良いって、森君はいつも言ってたけどさ。俺はフる気ないし。少子化問題に取り組むつもりもないし」
 モテる奴がこういうこと言うと、持たざる者はどう反応していいのか分からない。怒っていいのか。いや、まずは
「自分勝手過ぎるだろ。俺の気持ちは分かってんのかよ」
「自分勝手なのはどっちなんだよ。もっと好きな人が出来たらフれとか、好きな子から言われて、俺が傷ついてないとでも思ったの」
 篠原の眼差しが痛い。だって仕方ないじゃないか、社会的に真っ当な付き合いじゃないんだから。
 篠原はモテるんだから、良い子が居れば付き合えばいいじゃないか。
「……それは、だって」
「森君は俺のことを考えてくれてるみたいだけどさ、それってフラレたときに自分が傷付かないようにしてんじゃないの。俺のこと信用してないんじゃないの。それとも俺はこんなに好きなのに、森君は俺のこと好きじゃないの」
 好きじゃないわけあるか、と、返したかったが、高校で終わると思って整理していた心がグラグラ揺れた。
 卒業したら、段々疎遠になって、別れるとも言わず別れるんじゃないかと思って。
 せっかく諦めようと思ってたのに。
 忘れようと思ったのに、何言ってんだコイツは。
「俺はまだ甲斐性がないし、責任とか持つにはしっかりした職業考えたいし、やっぱ進学出来るならした方良いかなと思って進学するんだよ。だから、森君、どうせ暇ならちょっと一緒に住んでみて決めてよ」
「何を決めるんだ、何を」
「一生添い遂げられるか」
 何言ってんだコイツは。
「森君は……俺と住むの、イヤかな」
 篠原はすごい剣幕で押してきたと思えば、一転、不安げに声のトーンを下げた。
「俺は、森君とずっと一緒にいたいから。そのためにどうしようって、ずっと思ってて……」
「篠原、俺は……」
「自分勝手かもしれないけど、でも、イヤじゃなければ、チャンスくれよ。なに、もう終わる関係みたいにしてくんだよ」
 気がつけば篠原が俺のことを抱き寄せて、頬を俺の頭にすり付けた。
 少し大型犬に似ている。
「森君が俺のこと、信用出来るように頑張るから。惚れ直させるくらい努力するから」
 なんだよこれ、スゲェ断り辛いじゃんか。

「だから、俺と一緒に暮らそう」

43227-399 何度も夏を繰り返す:2013/09/04(水) 23:10:52 ID:QOvbi2k6
お互い気づいてる。
何も言えない。
今日も、いつも通り新品の水色のサンダルを履いて行った。

真っ青にのしかかるような空を押し返すように、ぎりぎりぎり、とセミが鳴いている。
張り付くように染み込んでくる太陽の光から身を守りたいのか、体から勝手に汗が噴き出した。
「あつ、」
ふつふつと浮き上がって服に染み込む水分に不快感を覚えながら、まっすぐにその場所を目指す。
砂利がほとんど散った参道を早歩きで抜けて、不揃いな石段を駆け上がる。
「光流」
生白い膝小僧に、大きめの絆創膏。
どこか眠たそうな目が、少し嬉しそうに細くなった。
「おはよう、たくと」
「おはよう」
神社の階段に座り込んで笑いかけてきた光流の隣に座ると、やっと風を感じた。
「ここは涼しいな」
「神様がいるからね」
今日は何する?と、こっちを見る。
「セミいっぱいいるよ。探しに行く?」
「…今日はいい」
「そうか」
その後、黙った。
お互い、何度繰り返したかわからない時間。
自分たちはそれがずっと続くと思っていた。
終わるとしてもそれはずっと先で、少なくとも今じゃないって、思ってた。
「…ならたくと」
言えないことがある。
言えないことがあった。
「罰当たりなことをしよう」
「…そう、しよう」
光流の左腕のはんこ注射の痕は俺のそれよりくっきり浮き出て見える。
色が白いからだろうか。
肩が触れる。
汗ばんだ腕が、首に回って、ふと匂った。
そのたびに、こいつも汗をかくのだなあと不思議な気持ちになる。
俺はこいつを何だと思ってるんだろうか。
神社を覆うように茂った葉の薄い木から、細かい光が差してきて、目に刺さった。
「っ」
「…日が強いね、今日も」
目の前に、濃い茶色の瞳が一対、迫っていた。
「なあ、光流」
「うん」
「みつる」
「うん」
「もういいだろ、俺、お前が」
「だめ」
だめ、ともう一度言って、口を塞がれる。
そのまま体重に押されて、木でできた階段に頭を軽く打った。
「…痛かった?」
汗じゃない。
喉が苦しくて、奥の方が痛む。
耳の方にたらりと、汗と混じってこぼれていく。
光流が指でそっと触れてくる。
そのあと、唇で目尻に触れて、確かめるように舌先で舐めてくる。

言ったらきっと終わる。
言ったらきっと終われる。
今日この日、夏休み最後の日。
果たせなかったらしい約束を、果たすために。
あの日辿り着けなかった場所に、俺は駆け込んで、そして、
言えない。

一番最初の今日、この日、俺が水色のサンダルを履いていなかったら、もっと早く決心していたら、光流が遠くの学校に行ったりしなかったら、俺が、もしくは光流が、女の子だったら。
もっと早く言えたかも知れないなんて、
いまさら、そんなこと。

「みつる。みつる、」
「…言わないで、お願い、託人」
あの言葉をお前に託すためだけに、きっと俺はまだここにいる。
お互い気づいてる。
でも言えない。終わらない。終われない。

今年も、明日も、その次の日も、

何度も、この夏を繰り返す。

43327-469 ヤキモチ妬きなあいつ:2013/09/13(金) 13:00:19 ID:Wwx1Y.u.
 やたらと背の高いスーツの男が夕暮れ時にぬぼーっとやってくるのにも、最近慣れたところだ。
「お、もう来たのか後藤。もうちょい遅くなると思ってた」
「先輩、あいつ誰」
「敬語を使え」
 後藤の指差す方には、先程まで話していた女子高生がいた。
「……誰ッスか」
 まともな敬語使えってだから……まあいいか。
「近所のガキ……だった子。久々に会ったけどデカくなったわ。もうあの子が近所のお姉さんって感じ」
 正直、月日の流れがコワいところだけど仕方ない。俺のマンションに後藤を引き連れていく最中に、また後藤は口を開いた。
「さっきの。援交かと思いましたよ、一瞬」
「え、援交ってお前、そういうこと言うのやめろよ」
 嫌な響きの単語にビクつきながら、生きづらい世の中になったもんだぜと呟くと、後藤はイヤミな笑みを浮かべた。
「先輩がそれだけオッサンになったということッスね」
「おま……」
 自分こそあっという間にオッサンだぞコノヤロウと言いたくなったが、後藤は多分オッサンよりオジサマになるタイプだと思われた。くそ腹立つな。少し、茶化してやることに決めた。
「そんなこと言ってぇ、実は俺が浮気してると思ったんじゃねーのぉ?」
 そんなことないッスよというような、弁明を待ったが、一向に後藤が口を開く気配がない。
 部屋に着いちゃったじゃねーか。
「ち、沈黙やめろ。図星かお前は」
「先輩、たまにはハメたいのかと……」
 玄関に入ってから振り向くと、いつもは余裕ぶった後藤が青い顔をしていた。バカバカしい話してるのに、よくそんな深刻そうになれるもんだ。
「……だったらどうするぅ?」
 後藤のたまに見せるガキっぽさがたまらなく好きだ。父性ってやつだろうか。
「……あ、あの、どうしても、なら、ど、努力する……」
 外国人みたいになってるけど。
「努力ってお前……開発でもすんの」
「や、あの……は、はい」
 図体ばっか大きくて、めちゃくちゃビビってそうなのに、素直にコクンと頷いて答える後藤が、滑稽でいじらしくて、でも思わず噴いてしまった。
「ヒーヒヒヒ、ヒヒッ、か、開発……したいのか、ブフッ」
「したいわけじゃねえよ!」
「だっ…だってお前、ふっ…へへへへへ」
「いや、だから! あんた繋ぎ止められればそれでいいんだよ!」撿
「ダメだ、セリフっ……おまえ、クサいヒヒヒヒヒヒ」
 ゲイだし、ネコだし、心配するなと言ってやった方が優しいかもしれないが、生意気な後藤の表情がころころ変わるのが面白くて、もう少し遊んでも許される気がした。
 玄関先で笑い転げたせいで、怒った後藤にそのまま乱暴にされ、翌朝オッサンな腰に大ダメージくらうまでに気付けば良かったが……
 後の祭りとは、このことなんだろう。

4344/4:2013/09/14(土) 22:06:08 ID:5o4HHyuo
すいません本スレ489 Q.あなたは人を殺したことがありますか? を書いていた者です
連投規制にかかってしまったので最後の4/4だけこちらに投稿させて頂きます
申し訳ありません



私はやっと自分がとんでもないことをしてしまったのではないかと自覚しました。
夢野の父親は心此処にあらずという有り様でした。彼が抜け殻になるほどの理由を、私だけが知っていました。
夢野があの日自殺したのだとしたら、やはり理由は一つしかありません。
私の対応に裏切られた夢野は自殺したのです。あれは重大な話でした。身内と自分の恥です。
夢野は私に相談するのにもきっと悩んだでしょう。あの深刻そうな顔を、私はそれまで見たことがありませんでした。
夢野は私の事を信用して話してくれたのに、私は彼を手ひどく裏切りました。どれほどの苦痛だったことでしょう。
あの日、夢野を殺したのは私です。私は人を殺しました。自ら手を下しはしなかったけれど、それでもあれは確かに殺人であったと私は思います。



テープの再生を切った。
目の前には古い友人の墓がある。「夢野」。
夢野の事故死の後、ほどなく父親も自殺したらしい。ここで一緒に眠っているのだろう。
テープの中にあった声は俺の友人、三好和彦のものだ。
テープは彼が入水した時持っていた鍵、そのコインロッカーの中から出てきた。遺書と断定された。
夢野が死んだ後、あいつは目に見えて変わってしまった。
以前までの快活とした彼はどこかに行ってしまって、いつも何かに怯えているように見えた。口数も少なくなって、あまり意見も言わなくなった。相談には絶対にのろうとしなかった。
そんな三好から友人達は次第に離れていき、最期には俺くらいしか残らなかった。
俺がアイツを見捨てられなかったのは、夢野の「三好は多分あれですごく小心者だと思うよ」という一言が忘れられなかったからだ。
「誰かがついててあげないと」。あれはいつだったろう。
夢野の三好へのぼんやりした気持ちに気づいていたのは俺くらいだろうと思う。それが青春の勘違いなのか、それとも本物だったのか、俺にはもう判断がつかない。
だから、このテープは衝撃だったし、俺は夢野の死は本当に事故だったんだと確信した。
他でもない夢野が三好を小心者だと言ったのだから。そうと知っていたのだから。

「夢野、三好がそっちにいったよ……馬鹿野郎って一発殴っといてくれ。俺の分もさ」

43527-500 竜と竜騎士:2013/09/15(日) 22:43:25 ID:4OYRI1Q.
「元々竜になど乗りたくなかったんだ」
嘘だ。
精鋭のみで構成された竜騎士団の一員になるためは、己の技量だけでなく、竜に認められるだけの人格であることが必要だった。
それ故に、俺にとって竜騎士の称号は誉れで、憧れで、騎士を志願した時からの夢は常に竜の元にあった。

「あんたに選ばれて、周りが期待していたから仕方なく引き受けただけだ」
それも、嘘だ。
誇り高い竜に、騎手として選ばれた喜びは何物にも代えがたかった。
築き上げた信頼と、同胞の情。
初めて飛んだ空は綺麗で、その背中になら躊躇いなく命を預けられた。

「気持ち悪い化け物。どこにでも失せろ」
「お前の嘘は本当に下手だな、カイ」
静かな声に呼ばれて、俯いていた顔を上げる。黄金色の目が、静かに俺を見ていた。
ああ、嘘だ。彼は常に気高く、美しかった。
光に照り映える赤銅の鱗に覆われた、この世の何よりも強靭な体。
真珠色をした爪も牙も、ほんの一撃で人の命を奪えるほど鋭利だったけれど、俺を傷つけたことなど一度もなかった。
何より、常に理知の光を湛えたその目を見ると、いつでも不思議と心が落ち着いた。

「ヴェル、俺は」
冷たい表情など、作れなかった。
瞬いた拍子に泣きそうになった俺の頬に、ヴェル――ヴェルメリオは顔を寄せる。
俺が太く頑丈な首に両腕を回して頬を擦り付けると、彼は低い困ったような声で唸った。
「顔に瑕がつくぞ」
鱗が頬に触れ、ざりざりとして痛い。それでも構わなかった。
元々傷など体中にある。見目など俺も、それにヴェルもけして気にはしない。
「……俺達のいない間に、陥落したんだな」
「そのようだな」
「王城に敵旗が挙がっている」
「そうだ」
応じる声は静かだったが、その中にも俺を気遣うような慈愛があった。それが、心臓に刺さるように痛い。
陛下の遣いに、他のどの竜よりも速いヴェルと乗り手の俺が選ばれたのは、つい三日前のこと。
隣国との間の戦況はのっぴきならず、だからこそ一昼夜けして休むことなく空を駆け、他国より色よい返答を持ち帰ったというのに。
――戻ってみれば城下町は、かつての面影を失っていた。
「それでもお前は、行くのだろう?」
「……まだ、助けられる者がいるかもしれない。でもあんたが一緒に来ることはないんだ。俺の勝手な行動に付き合わせることになる」
騎士として、その国で時を過ごしてきた。
想いの深い場所も人も、多くがそこにある。
僅かな希望にでも縋らずにはいられない――どこかに、まだ他の騎士達や王族が、救いを待つ民が、いるかもしれない。
けれど愛竜を危険に晒すのは気が咎めた。言えばきっとヴェルは、俺のために来てくれる。
だから、嘘までつこうとしたのに。
「お前は私が選んだ、唯一の騎士。お前の大切に思うものは、私にとっても同じ。共に往かせてもらうぞ」
「……そう言うと、思ってた」
首を両手で撫でて、俺はヴェルの顔を両手で挟む。彼はいつもの自信に満ちた、それでいて優しい目をしていた。
「だが、カイ。生を捨てる覚悟などしてくれるなよ。
 お前は勇猛で誇り高いが、無謀であることとそれは異なるものだ」
「あんたは本当に、お説教が好きだなあ」
笑うと、目の縁から涙が落ちた。ざらついた舌でそれを舐めて、ヴェルはくつくつと器用に笑う。
そしていつものように、俺の脇に頭を垂れて、背に乗れと促した。

広げられた翼は巨大で、美しく、勇壮だった。

――彼となら、何でもできる。何も恐れるものなどない。
初めてその姿を見た時、そう思った。その感情が蘇って、泣きたくなるほどに、嬉しかった。
俺の傍にいてくれる、たった一つの、十分すぎるほどの希望。
「……こうなったら何処までも付き合ってもらうからな、相棒」
「承知の上だ」
目を細めて笑うヴェルの頭を軽く叩いて、俺はその背へと飛び乗った。

436名無しさん:2013/09/16(月) 03:24:00 ID:hgeVlVug
480です。最初、松田視点で書いていたので一応投下します。更に下品&恐い話からかけ離れてますがご了承下さい。


 不器用な俺に対しても笑顔でいてくれる藤岡のことがすきだった。このことに嘘偽りはない。なぜなら、そう、藤岡の意外な一面を知っても気持ちは変わらなかったのだから。

「あー、萌えるー」
「藤岡、もういいだろ。そんな話をするためにいちいち呼ぶな」
「だって、こんな話できるのお前しかいないんだもん」
「もんって言うな。気持ち悪い」
 図書室で藤岡を見つけた。たしか藤岡の前に座る男は藤岡の同室者兼幼なじみだったはずだ。仲は悪くないみたいだが、クラスが違うので一緒にいるのは珍しい。それに、藤岡のあの浮かれ具合。今まで見たことがない。
 話が気になったので、本棚の後ろに隠れた。怪しいのは百も承知だ。本を読むふりをしてこっそり二人の会話を聞く。
「はあ、早くビーエルの良さに気づけばいいのに」
「恐いこと言うな。たたでさえ怪物を相手してんのに、そんなことになったら精神消耗してすぐハゲちまう」
「あ、ハゲコンプレックスの攻め、悪くないよ。卑屈になりながら受けにほだされていくとか」
「考えたくない」
 呆れた同室者の言葉を最後に藤岡たちは教室に戻っていった。
 俺は会話から飛び出す聞き慣れない言葉のオンパレードに混乱していた。ビーエルとか攻めとか受けとか、意味が分からない。
 それに、藤岡の雰囲気が違うことも気になった。もしかしてあれが本当の藤岡なのか?

 ビーエル、受け、攻めの意味を検索してみて理解した。藤岡は腐男子というものなのかもしれない。
 思い返せば、友人たちのじゃれあいをガン見していた気がする。
 それでも、俺はまだ藤岡が腐男子であることに確信を持てないでいた。俺の早とちりかもしれないからだ。
 ちゃんと確かめたい。そう思った次の日、チャンスがおとずれた。先輩と藤岡が勉強会を開くというのだ。これに乗らない手はない。俺は参加を希望した。

 勉強ははかどり、きりのいいところで藤岡が休憩を提案した。藤岡がジュースを取りに行っている間、先輩と二人きりになる。
 藤岡が先輩にないていることが悔しくて、先輩には普段から素っ気なく接している。だから気まずい。むこうもきょろきょろと部屋を観察している。
「藤岡って、自慰しないのか?」
 ぽつりとつぶやいた先輩の言葉にぎょっとした。何言ってんだこの人は。藤岡だって男なんだから自慰ぐらいするだろう……する、よな?
 考えているうちに藤岡が戻ってきて、先輩が藤岡の性事情について聞き始めた。そしてなぜか体位について教えることになりつつある。いや、さすがにそれは見過ごせないだろ。

437名無しさん:2013/09/16(月) 03:30:11 ID:1iCUOl5Y
 俺は先輩の襟首を引っ張った。
「なにすんだよ」
「藤岡を巻き込まないで下さい」
 床につき倒す。足をつかんで左右に開いたら、その間に身体を滑り込ませた。
「ままま松田、なにして」
「藤岡、これが正常位だ」
 藤岡を見ると、大きな目を見開いていて、キラキラと瞳を輝かせていた。
 やっぱり、そうなのか? 更なる確信を得るために、俺は腰を振って先輩の股間にとんとんと当ててみた。布越しだというのに先輩は軽くパニックになっている。
 バックが分からないという藤岡ーーそれも本当か分からないがーーに応えるため、俺は先輩をひっくり返して腰を持ち上げた。俺に向けて尻をつき出すことになる。
「バックは、こう」
「やめろおおお!」
 さすがに恥ずかしいのか、先輩は逃げるように前へ這っていこうとする。冗談の延長線なのだからそこまで嫌がらなくても。
 いらっとしかけたが、色白の耳が真っ赤になっていることに気づく。なんだ、意外に可愛いところもあるじゃないか。
 気を良くした俺は先輩の上から覆い被さった。交尾するみたいになる。体に触れて気づく。この人、体温が高い。背中が少し汗ばんでいる。それに、なんかいい香りがするし。香水か?
 襟首に鼻を近づけてくんくんと嗅いでみる。
「んん、ちょっと、あ、松田、やめろ。くすぐったい」
「先輩、香水つけてます?」
 聞くと、腕に顔を埋めたまま首を横にふった。なるほど。じゃあ、体臭か洗剤の香りだな。
 香りに誘われて背中にも鼻を当て、匂いを嗅ぐ。先輩はぴくんと小さく体を跳ねさせ、身動ぎをし始めた。
  あの、尻が股間にぐりぐり擦れてるんですけど。この人、加虐心を煽るの上手くないか?

「とりあえず……こんな感じだ」
 先輩から体を離して、藤岡を見た。無表情だった。真剣にこちらを見ている。いや、その顔まじで恐いから。
「藤岡」
 声をかけると、はっとして、いつものにっこり顔に戻った。
「あ、うん。すごく分かりやすかったよ。なんか、バックってすごくえっちだね。ドキドキしちゃった」
 あの無表情がドキドキしている人間の顔なのかは甚だ疑問だが、とりあえず藤岡が腐男子であることは確定した気がする。
 それでも、藤岡なことを嫌う気にはならなかった。
「先輩、大丈夫ですか」
 床に突っ伏している先輩は、魂が抜けたようだった。
「オボエテロヨ」
「それ、負け犬が去っていくときの捨て台詞ですよね」
「後輩のくせに……可愛くねえ」
「そうですか。でも先輩は先輩のくせに面白かったですよ」
「馬鹿にするな。もう二度とこんなことするなよ」
「え、先輩、騎乗位が残ってます!」
 すかさず藤岡が割り込んできた。さすがというべきか、今だからわかるがちゃっかりしている。
 返事は返ってこなかった。ただ、うううと唸り声を出している。しばらくの間、先輩は床に倒れていたので、藤岡と目が合うたびに苦笑いした。

 帰りにて、上機嫌な藤岡の部屋を出たあと、魂が戻ってきた様子の先輩は俺に言った。
「きょっ、今日のことは、他のやつに言うなよ!」
「はい。そんなのわざわざ言いません」
「じゃあ、約束しろ」
「分かりました。ただし、先輩も約束してくださいよ」
「約束?」
 怪訝な顔をする先輩の腕を引っ張って、耳もとに唇をよせた。俺の好きな香りが鼻をくすぐる。
「藤岡のために、ちゃんと上、のって下さいね」

438名無しさん:2013/09/16(月) 03:54:45 ID:F/WrwbtI
436の、ないていることが悔しく→なついていることが悔しくです。
意味が変わってしまうので報告させてもらいました。すみません。

43927-579 女装×筋肉:2013/09/25(水) 11:59:00 ID:klADq8x.
「今日は勇樹にいいモノを持ってきたんだ」
「ん、何?………なんだ、コレ?」
「見ての通り、ひらひらフリルのドレスだよ。勇樹に似合うと思って」
「つまり、俺にコレを着ろと?」
「うん」
「嫌だ」
「え、なんで?」
「なんでって、俺に似合うわけねぇだろ?」
「絶対に似合うって。ねぇ、お願い、勇樹。一回だけでいいから着てみて」
「嫌だ、つってんだろ!?」
「だって、想像してみてよ。ひらひらフリルを引きちぎるとそこにはみっしりした筋肉が…!すごくそそられる光景じゃない?」
「そそられねぇよっ!つか、キモいわ」
「えー、そうかなぁ…。ひらひらフリルって男のロマンだと思うんだけど」
「男のロマンは否定しねぇけど、この場合は当てはまらねぇよ。っていうか聡、そんなにひらひらフリルが好きならお前が着ればいいじゃねぇか。お前細っこいし女顔だし、俺よりよっぽど似合うだろ?」
「俺ももちろん着るつもりだよ。ペアルックで一緒に写真撮ろう」
「撮らねぇよっ!…つか、お前、自分用にも用意してきたのか?」
「うん、待ってて。今着替えるから――――どう、似合う?」
「……似合ってる」
「あ、勇樹が俺に見とれてる。嬉しいな。じゃあ、勇樹も着替えて…」
「だから、脱がすな!俺は着ねぇって言ってるだろ!?」
「ズルいなぁ、俺にだけ着替えさせて」
「お前が勝手に着替えたんじゃねぇか」
「わかったよ、じゃあ、今日はペアルックは諦める。その代わり、鏡見ながらシよ?」
「はぁ?」
「ほら勇樹、鏡の中、見て」
「……」
「俺、すごく興奮してきた。……ねえ、勇樹はどんな気分?こういう恰好の俺に、こんな風に触られて…」
「…っ、…聡…っ…」
「あ、あまり暴れないでね。この服高かったから破かないように」
「お前、さっき俺に着せて引きちぎるとかなんとか言って……ん、あ…っ…」

440恋心を自覚する攻めと天然受け:2013/09/29(日) 22:00:14 ID:p6DnrF/U
本スレ投稿できなかったので、こちらに。

「お前、俺と付き合え」
 学内で猛獣と噂される男、畠中からの告白。突然連行されていた宮間は、何を言われているのか分からなかった。
「えーっと、失礼ですが、頭大丈夫ですか? 俺達男同士ですよ」
「んなもんわかってんだよ。うっせえな。ぐだぐだ言わず、付き合えよ」
「いや、だから」
「お前に拒否権はねえよ」
 そう押しきられたのが、5日前。

「ふーん……じゃあまだ、キスすらできてないのか」
「はい、まあ、しないですけどね。畠中先輩が見た目に反して優しいのは、この5日間で分かりましたけど、それとこれとは話が別っていうか……そんなことより山神先輩、すごく楽しそうですね」
 宮間がうんざりして見ると、山神はそれすら楽しそうに、目を細めた。
「当たり前じゃん。楽しまないと、なんのための罰ゲームがわからないでしょ」
「それを俺に言いますか」
「そのかわり、ちゃーんと、面倒見てあげてるでしょ?」
 にこっと笑い、髪の毛をわしゃわしゃと掻き回してくる山神は、一見好青年に見えるが、見えるだけだ。
 しかし、山神が嘘を吐いているかというと、そうではなかった。今のように毎日屋上で相談にのってもらっているし、山神の言った通りにすれば、畠中とのことは大抵上手くいった。
 山神は飄々としているが、妙なところで筋を通してくる男だった。
「そうですけど、でも、山神先輩が『1週間男と付き合う』なんて馬鹿げた罰ゲームを考えなきゃ、畠中先輩と付き合うことにはならなかったし、俺を選んだ理由も、たまたま居たから、なんて」
「嫌だった?」
「嫌っていうか、どうせなら、畠中先輩とは付き合うとかじゃなくて、頼もしい先輩として慕いたかったです」
「でも、この罰ゲームがなかったら、接点もなかったし、畠中のことも勘違いしたままだったんじゃない?」
 言われてみると、確かにそうだった。
「そうですね」
「でしょ、だからさ」
「それに、山神先輩ともこうやって話せなかったし」
 宮間が真面目な顔で言うと、さっきまでにこにこしていた山神の身体が固まり、その後、首をかしげた。
「なんで、俺?」
「え」
 宮間も、こてんと首をかしげる。
「だって、罰ゲームがなかったら、山神先輩とも、接点なかったじゃないですか」
「いや、そういう意味じゃなくて、何で俺と? 関わらない方が、良かったんじゃない?」
 山神が心底不思議そうな顔をすると、宮間はどうしてそんな顔をするのかと、また首をかしげた。
「山神先輩は性格が良いとは言えませんけど、俺は先輩のこと、けっこう好きなので」
 言ってから、思ったよりはだけど、と心の中で呟く。
 山神は目をきょとんとさせ、それから、にたにたといつもの意地悪い顔をする。
「なーにぃ、ちょっと、そんなこと言われたら照れちゃうなあ。そんなに俺のことが好き?」
「いたっ」
 ぴしっとおでこにでこピンされてしまう。

441恋心を自覚する攻めと天然受け:2013/09/29(日) 22:18:09 ID:zZxKt.vc
「痛いじゃないですか。そういうところは嫌いですよ」
「だよねぇ」
 でこピンしてきた腕をつかんでも、楽しそうに笑っている。
「なんか、腹立ちますね。そんなに、俺に嫌われたいんですか。でもね、そうはいきませんよ。俺は、先輩が好きなんですから!」
 最初、罰ゲームの説明をされたときはぶん殴ってやりたかったけれど、その時にくらべれば。
 ぶっちゃけると、意外にスッキリした。宮間は勢いのまま、思っていることをぶちまけた。
「だっ、だいたい、山神先輩は自覚がないのかもしれないですけど、面白がっているようで、案外俺のこと見てくれてるし、心配してくれるし、相談にのってくれるし、優しいじゃないですか。それに、ほら、昼ご飯にメロンパンくれたこともあるじゃないですか」
「……餌付かされてるだけでしょ」
「違います。それだけじゃなくて、あと、山神先輩とのスキンシップも嫌いじゃないです。にこにこしているわりに排他的なところがあるけど、髪の毛を撫でてくれたり、落ち込んでたら肩組んでくれたりしてくれますよね。あとでおどけてみせてますけど、山神先輩なりの励ましだって分かってるんですから! そういうの、バレバレなんですよ。ま、意地悪な顔されると、いらっとしますけど、たまに優しい表情したときは恰好いいなと思うし。あと」
「いや……もういいから」
 腕をつかまれてはっとする。宮間が山神を見ると、下を向いてぷるぷると震えていた。髪から覗く耳が真っ赤になっている。
「どうしました? あ、やっぱり褒められるの、嫌だったんでしょ?」
 返事がない。
 しばらく待っていると、突然、眉間に皺を寄せ、怒った表情の山神が顔を上げた。耳同様、顔も真っ赤になっている。
 宮間は、怒りで血がのぼったんだなと解釈した。嫌がらせが成功したことに満足する。
「ね。これに懲りたら、山神先輩も、嫌がらせはやめることです」
「お前……それ、本気でいってんの」
「もちろんです。じゃないと、勿体ない。山神先輩は、アレですけど、恰好いいし、優しいし、それから、んぐっ」
 続きを言おうとしたら、山神の手に口を塞がれてしまう。もごもごと口を動かして、手を離すように抗議しても、聞いてもらえなかった。それどころか、一人言をぶつぶつ呟いている。
「なにこいつ、本気で言ってるのか……ていうか俺はどうした……あんなもん、さらっと流せばいいだろ」
 何を言っているのか聞き取れなかった。ただ、山神が自問自答しているのは、宮間にもわかった。抵抗しても無駄だと学習した宮間は大人しく待つことにした。
「顔が熱い……なんだこれ、まるでこいつのこと……いや、いやいや、有り得ないから。こいつが無自覚に恥ずかしいこと言ってきたから、それで……そう、有り得ないから」
 とりあえず落ち着いたのか、まだ顔は赤いが、山神はいつもの笑顔を貼り付けた。
「いやー、参った」
「わっ」
 がしがしと髪を掻き回される。
「照れちゃうなあ」
「全然、照れてないじゃないですか」
「照れてるよー。でもね、罰ゲームとはいえ、一応、畠中と付き合ってるんだから、他の人を好きとか言っちゃ駄目だと思うんだよねえ。畠中に言ってもいいの?」
「あ」
 宮間が顔を青くする。それを見て、山神の眉がぴくっと動いた。
「……まー、言わないけど。これからは気を付けなよ」
「う、はい」
 返事をしたところで、予鈴がなった。
「あ、教室に、戻ります」
 宮間は出口に向かった。
「あーうん、じゃあ、また放課後。畠中と行くわ。今日、カラオケ行くんだっけ?」
「はい。……あ、そうだ」
 前を歩く宮間が、にっと白い歯を見せて山神を振り返る。
「あと2日たって、罰ゲームが終わったら、畠中先輩と友達になろうと思ってます。あの、山神先輩とも友達になれますよね」
「んー? ……あー」
 一瞬考え、にこっと山神も笑顔で返した。
「……そだね」
 山神の返事を聞いて、宮間は納得したのか、また前を歩き始めた。なんだか足取りが軽い。

 山神は足を止めた。空を仰ぎ、目を閉じる。はあ、と息を吐き出す。
「友達……ね。んー、初めて嘘ついたかも」
 今までなんとなく目をそらしてきたが、もう、誤魔化すことはできなさそうだった。
「こうなったら、長期戦かなあ」
 あいつ、鈍そうだし。
 山神は一歩、足を踏み出した。

442恋心を自覚する攻めと天然受け:2013/09/30(月) 00:40:14 ID:s3W.GZEs
本スレ636、638です。
長文&連投規制で思うように投稿できず、代行をお願いしたいです。
名前欄は2/3となっていますが、あと1レスで収まるか怪しいので適当なところでぶったぎってもらってかまいません。
------------------------------------------------------------
「ゆーうや!一緒に帰ろ!」
「あ、わりぃ……ちょっと今日、学校残るから」
「……じゃあ、俺も残る」
「は!?そんなのいいって、悪いし」
「だって最近ぜんぜん裕也と帰ってない」

むっすー、という表現がぴったりな顔をして俺の目の前に立っているのは、幼馴染の卓真だ。
こいつは自分の言葉の重みってやつを全然わかってない。

 垂れ目がちな目は大きくて肌は綺麗な上に色白で、少し長めの髪はくるんとした癖毛で、そこらの女子より可愛いくせにそんなことサラッと言うなよバカ。
 元はと言えばお前が悪いんだ。お前がへらへら笑いながら「俺、裕也となら付き合ってもいーな。てゆーか付き合いたい」とか言うから悪い。
 冗談だってことは百も承知だよ。つーか冗談だから余計に性質悪ぃんだよ。反射的に想像しちまって、「アリ」だなとか思っちゃった俺はどうすりゃいいの。
 それからお前に会う度に、だんだん「アリ」というよりむしろそうなりたいなんて考えるようになっちゃって、こんな感情どうしろっていうの。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ここから転載お願いします
 教室で普通に接するだけでも大変で、だからわざわざ避けてたのになんでお前はそうなんだよ。
 いつもいつもベタベタしてきて「だいすきー」とか言っちゃって、俺がどれだけ振り回されてるのか知らないくせに。
 俺がどれだけお前のこと好きか知らないくせに。

――なんて、言えない。言えるわけがない。
卓真が天然なのは昔からだ。一緒にいるのが当たり前で、卓真の「だいすき」はもう何回聞いたかわからない。
なにも特別な事じゃない。
なのに、なんで……なんで、好きになっちまったんだろう。


「……あー、だよな。確かに。じゃあやっぱ、俺残るのやめる」
「え、まじ?いいの?」
「ああ。今日じゃなくてもいいし」
「やったー!ゆーややさしー!」
「体当たりしてくんなバカ」

この日常が続いてほしいのかどうか、最近よくわからない。

443729 やけ酒:2013/10/08(火) 11:17:04 ID:5TmoFgpg
「もうやめなよ、朔ちゃん。彼女にフラれて辛いのは分かるけど、そんなに飲んだらまた戻しちゃうよ」
「うるへー!」
朔はあおるように酒を飲んだ。アルコールに耐性のないその身体は、真っ赤に染まっている。また懲りずに酒を注ぐと、夏希がそれを取り上げた。
「らにすんだよ!ばかぁ!」
手を伸ばしても、背も足も、腕も長い夏希が遠くのところに置けば、届かなくなってしまう。
「もう終わりにしよ。明日も仕事があるんでしょ? そんなにあの子のことが好きだったなら、デートの約束も守れば良かったのに」
「夏希との約束があったらろ」
「彼女との約束を優先すべきだったんだよ。しかもその日、彼女の誕生日だったんでしょ」
「……んだよ、夏希は、おれが彼女を優先してもよかったのか」
朔が据わった目で、憎々しそうに夏希を睨むと、夏希は肩をおとした。
「いいに決まってるでしょ。放置された彼女さんが可哀想だよ。彼女と約束があるって知ってたら、ぼくも気をきかせたのに。ま、いいや。終わったこと言っても仕方ないからね。そんなことより、いつまでぼくの家に居るつもり? 帰るのが遅くなったら奏さんが心配するよ」
「……ちょっとくらい、寂しがれよ。つーか、兄貴はかんけーれーらろ」
奏は、朔の兄だ。極度のブラコンで、朔のことを溺愛している。今日は夏希の家で飲むと伝えているから連絡は来ないけれど、ついつい朔が連絡を忘れると、今どこで誰と何をしているのか確認されるのだ。
「兄貴のやつ、うぜーんらよ。成人した弟に過保護すぎ。早く結婚してどっか行かれーかな」
「奏さんは、優しいよ。ぼくは一人っ子だからよく分からないけど、あんな素敵な人が側にいてくれたら幸せだと思うけどな」
穏やかに笑う夏希を見て、もやもやしたどす黒いものが朔のお腹の中をぐるぐると駆け巡る。
「……ははっ、そーらな。夏希はちゃんと、兄貴のこと分かってると思うよ」
「え」
目をぱちくりさせる夏希に、ニヒルに笑ってみせる。
「おれの回りにいるやつって、らいたい兄貴に警戒されるけど、夏希はおれのお守り役として、ちゃんと信頼されてるからな。うまくやってるなと思うよ」
「どういう意味?」
「……別に」
朔は、夏希が分かっていないのか、それとも分からない振りをしているのか判断がつかない。
ただ確実に言えることは、朔が誰と付き合おうと夏希は動じないことと、奏には特別な態度をとっているということだった。
「なぁ夏希、いつもの、してよ」
朔は四つん這いになって夏希の側まで行くと、夏希の服をくいくい引っ張った。潤んでいる真っ赤な目を合わせたあと、頭をぐりぐり夏希の肩に擦り付ける。これをすると、夏希が甘やかしてくれると知っていた。
「もう、いつまでも、子供じゃないんだよ」
夏希はお説教を始めたが、朔の両脇に手を入れて身体を持ち上げ、向かい合った状態でだっこをしてくれた。朔は夏希の背中に手を回し、ぎゅっと服を握りしめる。
「うるへー。夏希がこんなふうにいっつも甘やかすから、おれがこんな風にダメダメになるんらぞ。責任とれ」
「人のせいにしないの。朔ちゃんの悪い癖だよ」
「らって……らって」

444729 やけ酒:2013/10/08(火) 11:21:51 ID:nZZxJjEQ
夏希のことが好きなのだ。
たとえ、奏に気に入られるために夏希が朔を懐柔しているのだとしても、甘えずにはいられない。
結局、惚れた弱味なのだ。
「分かれよバカぁ」
朔の酔った頭では、理性がちゃんと働いてくれない。目が熱くなって、嗚咽してしまって、ぽろぽろと涙が落ちてきてしまった。
哀しい、寂しい、悔しい、嬉しい、切ない。さまざまな感情に胸を突き上げられる。
「無茶言わないの。でも、うん、そうやってちゃんと泣けるなら泣いて出しきりなよ」
とんとんと拍をとりながら、あやすように背中を叩かれる。ぐずぐず泣いていたら、眠気が襲ってきた。瞼が重い。
「朔ちゃん、おやすみ」
夏希の声を聞きながら、朔は瞼をおとした。

チャイムも鳴っていないのに、玄関の開く音がして足音が近づいてくる。夏希は慌てることなく、その人物を待った。
予想どおり、勝手知ったる人の家、と入ってきたのは朔の兄、奏であった。スーツを上品に着こなし、色気が溢れている。
「なにしてるんだ」
奏は夏希を見て、切れ長の目を細めた。
「こんばんは、奏さん。今ちょうど、朔ちゃんを寝かしつけたところです」
「そんなことは聞いてない。帰ってくるのが遅いから心配して来てみれば、どうして抱き締めあってるんだ!」
「しぃー。静かに。朔ちゃんが、起きちゃいますよ」
夏希が人さし指を唇に当てると、奏はぐっと言葉を飲み込んだ。
「朔ちゃん、彼女にフラれてやけ酒しに来たんですけど、慰めてたらこうなっちゃいました」
「泣いていたようだが?」
「そうですね。すがるように抱きついて泣いてきました。とても可愛かったですよ」
「お前……」
奏の呆れた視線に、夏希はにっこりと微笑み返した。
「朔ちゃん、すぐに彼女つくっちゃうし、すきあらば奏さんに占領されちゃうし、こういうときしかぼくの出番ってないんですよ。まぁ、逆を言えば、必ずぼくのところに帰ってくるって分かってるから気持ちに余裕があるんですけどね」
「俺は、夏希か朔を大事にしていると分かっているから、側にいるのを許してるんだ。あまり泣かせるな」
「分かってます。分かってるんですけど、ぼく、朔ちゃんのこと好きだから、側にいられる特権をついつい利用しちゃうんですよね」
夏希は愛惜しむように、朔の髪を撫でた。
「……ぼくのこと、好きになってくれればいいのに」
「俺が阻止するけどな」
奏は二人の側まで来ると、ひょいと朔を抱えあげた。
「ひどいです」
「そう言うな。夏希のことも、弟のように思ってるんだから」
「ぼくだって、奏さんのことは兄のように慕ってますよ」
ただお互いに、感情は違えど、朔へのベクトルが太すぎるのだ。

「では、朔ちゃんをよろしくお願いします」
「よろしくされる覚えはないが、任せろ。じゃあな」
「はい、おやすみなさい」
奏は朔を抱えたまま、外に出た。真っ黒な空に星が瞬いている。
「はぁ……こいつら、あれだけべたべたしといて、両片想いだって気づかないのが凄いな。ま、教えてやる気はないけど」
 よいしょと朔を抱え直し、奏は帰路に就いた。

445いぬのおまわりさん:2013/10/10(木) 22:48:07 ID:NKHbYIcw
 ありのまま、今起こったことを話させてもらう。リモコンの電源ボタンを押したら、テレビ画面から猫耳と尻尾がついた全裸の美少年が出てきた。
 何を言っているのか分からないと思うが、俺も何を見ているのか分からない。
 ぽかんと口を開けてリモコンを持ったまま固まっていると、俺を見た美少年は青く澄んだ瞳をまん丸に開いた。
「ー!」
 聞き覚えのない言葉を叫んで、ぶわっと尻尾を膨らませた。俺と距離をとるように横に飛び退く。
 瞬発力、飛躍力、柔軟性に富んだ軽やかな動きだった。衝撃を吸収した着地は、足音がほぼない。華麗なひとつひとつの動きに目を奪われてしまった。
「…あ」
 ようやく我にかえる。しかし、現実味のないこの状況が慌てるという概念を欠落させていた。気づけば俺は普通に話しかけていた。
「どうやってテレビから出てきたんだ」
 美少年は首を少し傾げた。さっきまで威嚇していたのに、目が点になっている。そして何を思ったのか、人さし指を前にだして動かし始めた。
 その軌道にそって青く光る文字が浮かび上がる。文字を書き終えた美少年は、そこに息を吹き掛けた。文字は砂のようにさらさらと消えていった。
「これで通じるだろ」
「何をしたんだ」
「お、通じたな。魔法で言葉が通じるようにしたんだ」
「魔法?」
 テレビから貞子出演、猫耳尻尾。これ以上驚くこともないと思っていたのに、次は魔法とな。漫画じゃあるまいし、こんなこと有り得る筈がない。
「そっか、俺、疲れてたのか」
「なにをぶつぶつ言っている。気持ち悪いぞ。なあ、お前に聞きたいことがあるんだが」
「うん?」
 話しているうちに打ち解けた。そしてわかったこと。猫耳美少年はソラというらしい。本名は長かったからソラで。
 ソラは異世界から来たらしい。なんでも魔法の練習をしていたら時空で迷ってこの世界に辿り着いたのだそうだ。
 それだけでも吃驚なのに、ソラが王子で二十歳ということにも驚かされた。高慢な態度だったけど、まさか王子で俺より一つ歳上とは。これにはソラも驚いた。
「お前が…十九歳だと…」
「おい」
 俺が老けてるみたいに言うな。俺は童顔だ。ただソラの世界では、未成年はもっと幼い容姿なのかもしれない。実際、ソラは中学生くらいにしか見えないし。
「俺様については話したぞ。次はお前について話せ」
 王子だからか気品は感じられるけど、相変わらず不遜な態度だ。たまに手をざらついた舌で舐めているのは可愛いけども。

446いぬのおまわりさん:2013/10/10(木) 22:49:31 ID:NKHbYIcw
>>445
「俺は犬山。この世界では猫耳は皆付いてない。その代わり、ここに付いてるのが耳だ」
「なるほどな」
 ソラは合点がいった様子だ。ソラの世界では極悪人?猫?が罰として猫耳や尻尾を切られるらしい。猫耳のない俺を見て飛び退いたのは、そういうことだったようだ。

 きゅううとソラのお腹がなった。目が合うとソラの身体が真っ赤に染まる。偉そうにしてるぶん恥ずかしいのかもしれない。それに、ソラは全裸だった。いろんな吃驚要素があって忘れていた。服を渡すと着ない一点張りで、せめてこれはとタオルを腰に巻いた。
「こんなもの着けたら、俺様の立派なものが隠れるだろ」
 いや、隠したんだってとは言わないでおいた。あと、立派でもないってことも。
 お腹が空いているようなので、晩飯を作ってやった。待ってる間、不機嫌に尻尾を横に振っていたけど、焼き魚を出したら目を輝かせて隣にすわった俺の腕に尻尾を絡めてきた。単純なやつだ。
「もとの世界には戻れるのか」
「ふうふう、んぐんぐ、分からん」
 猫だけに猫舌らしく、息をかけて食べている。ご飯も普通に食べてるからキャットフードは要らないようだ。よかった。
「来れたなら、帰れるんじゃ?」
「だから、練習で失敗して迷ったと言っただろう」
 まじか。迷子の迷子の子猫ちゃん。あなたのおうちの帰りかた分かりませんかそうですか。
「王子が失敗するなよ」
「んぐんぐ……お、王子は関係ないだろ!俺様をバカにしてるのか!本当ならその口の聞き方も許されないんだからな!」
「ここじゃ、ただの迷子だけどな」
「にゃんだと!」
 耳をぴくぴく動かして怒るソラは、いじりがいがあるなと思った。

 猫だから風呂は嫌いでだと思ったら、好きだと答えられた。それなら入ってこいと風呂場で使いかたを説明したら、は?と言われた。
「覚える必要はないはずだが」
「え」
「俺は自分で洗ったことはないぞ」
「はあああ!?」
 疲れもピークに達していた矢先の爆弾に、思わず叫んだ。ソラは驚き、反射でぴょんと飛んだあと尻尾を股の下に巻き込んでしまった。ぷるぷる震えている。
「犬にゃま?」
「あーもー分かったよ」
 俺が苛めてるみたいじゃないか。どうやら前途多難な日々が続きそうだ。困ってしまった。ワーン。

44727-759 朝にはいなくなる人:2013/10/13(日) 18:12:03 ID:jnx8Oa/Q
待っていた。本当に来るとは思っていなかった。
明かりの消えた暗い室内、街灯なのか窓だけがかすかに白い暗やみの中、長田が立っている。
背の高い、筋肉質がゆえになで肩に見える懐かしい輪郭、間違えようがない。
「長田」
手を伸ばした。起き上がって、触れた。
腕に触れ、手を握る。長田は何も言わない。
何故だか、顔を見ることができなかった。うつむいたまま、長田の胸に顔をうずめる。
あれほどできなかったことが、今できた。この胸に触れたいと、抱かれたいとずっと思ってた。
胸元に口づけ、首に口づけ、あごをついばみ、唇に触れる。
大きくていつも笑ってるような口元、今はためらいもなく噛んで、吸って、舌を入れる。
温かく湿った感触に陶然となると同時、長田の舌が絡んできて心臓が跳ねる。
まさか! 本当に? いいの、長田……
長田の強い腕が俺を抱きしめてきて、舌の動きも激しくなる。
いつしか俺の方はなすがままに、ただ長田の腕の中身を固くするばかりになっていた。
夢だろうか。長田が俺を抱いてるなんて。これは都合のいい夢だ。
頭のどこかが冷めていて、身勝手な俺を戒める。
でも、そんなことに意味があるだろうか? 今さら?
──俺はずっと、こうしたかったのだ、こうされたかったのだ、長田に、長田と。
長田の手がずっと下に降りてきて、俺の腰をまさぐる。
尻なんか感じたこともなかったのに、長田の手が触れると怖いほど敏感になって、肌の表面がチリチリするようだ。
産毛の一本一本が立ち上がって、長田になで回されるのを待って、喜ぶ。
長田の腰に押しつけてたものはもう限界まで固くなって、それでもまだ足りなくて俺は長田の足の間に自分の足を割り入れた。
もっと。もっとぎゅっと、ひとつになるくらいに、くっつきたい。
その隙間に長田の手が入ってきて、狭い間を汗とおかしな体液でぬるぬるにしてしまう。
長田のものも俺のものも、こすり合わされて、ぬめって、滑って、ドロドロに融け合う。
腰が動いて、手も動いて、その複雑な動きが規則的になって、速さを増して。
「長田、長田」
俺はどうしようもなく名前を呼ぶ。確かめる、ここに長田がいることを。
長田が身をかがめ、俺を見た。もう? と。俺は首を振る。この時間がいつまでも終わらなければいい。
ずっとこのままで、長田の胸の中で。俺の腕が長田をつなぎとめたままで。
なのに俺は限界まで高ぶってしまっていて、たとえ長田が俺を刺激しなくても、もう終わり。
「駄目だ、長田、動かないで、出る」
長田にしがみついた。俺の荒い息が長田にかかり、長田は……笑ったようだった。
苦しくて涙が出た。いきたくない。

長田はぎゅっと俺を抱いた。抱いた腕を頭にまわしてよしよし、と撫でる。
それは、俺が馬鹿を言ったときによくしてくれた、子供扱いのむかつく仕草。
それからあっというまに俺をしごいて、俺をいかせてしまった。
「馬鹿、長田、いきたくないって言ったのに!……馬鹿長田、馬鹿が、この」
殴る間もない。俺が生涯にたった一度と思った力でしがみついても、長田は消えた。
「ごめんな」

そうして俺は目を開けた。窓の外は明るく、今日もすがすがしい秋の一日が始まろうとしている。
今日は長田の葬式。全然悪くない交通事故であっけなく死んでしまった、俺の友人の。
昨日は通夜だった。棺の中、永遠に遠くに行った長田を見た。
もっと早く告白すればよかった。もっと早く触れておけば。全てが遅すぎて、俺はもう生きていられない、と思った。
だから夢を見た。自分にだけ都合のいい、死ぬほど気持ちいい、長田を汚すような最低な夢。
でも。
髪に残る手の感触を、俺は一生忘れないから。
俺の胸の中を、きっと長田は読んだんだろうから。
馬鹿だなあ、って笑う長田の声を聞いたような気がしたら、もう駄目だ。
涙は止まらなかったが、俺は立ち上がってクシャクシャの喪服を身につけ始めた。

448朝にはいなくなる人:2013/10/14(月) 00:20:30 ID:SdA.3qQE
朝にはいなくなる人=夢に出てくる人として萌え語りしてみる


1.健気受け
攻めに恋愛相談されてて頑張れって応援するけど、本当は自分が愛されたいと思っている健気くん。攻めに可愛がられる夢を見て幸せな気分になるけど、そのぶん朝起きて現実に失望してしまう。これの繰り返しで日に日にやつれていく。攻めが健気くんの異変に気づいて両想いになるもよし、失恋して切なく泣くもよし。
~攻め~
ヘタレ
「好きな人が構ってくれない……なあ健気、俺って魅力ないのかな」
女好き
「○○ちゃんってお前に似てるんだよなー」
無自覚
「好きな人と話せた!健気のおかげだよっ、ありがとー!ちょーすき!おれ、健気がいないと生きてけないかもっ」

2.ツンデレ受け
現実では素直になれない。ツンツンしてしまう。そのぶん夢の中では誰?ってくらい甘えてしまう。
「だいすき!ちゅーしよ。だっこして。ぎゅってして。なでなでして」
夢の中の攻めは受けのフィルターで男前になっていて、優しく包み込んでくれる。ただし現実では発展せず足踏み状態。
~攻め~
ネガティブ
「ごっ、ごめん。僕なんかじゃツンデレくんとは釣り合わないよね」
天の邪鬼
「あ?んだよそれ。俺だってお前のこと嫌いだっつーの」
チャラ男
「ほらほら、そうやってツンツンしないでこっちにおいでよツンデレちゃん」

3.変態受け
真面目なふり、儚いふり、可愛いふりをしてるけど変態。見た目との差が激しい。変態度が高く残念であるほどよい。攻めにあんなことやこんなことされる願望が常にある。夢の中では願望通りイジメてもらってるけど、現実ではうまくいかなくて歯がゆい思いをしている。
~攻め~
敬遠ぎみ
「あいつくそ真面目だから俺とは合わねーわ」
勘違い
「委員長は下ネタ苦手だよね」
夢見る男
「妖精……っ!いや、天使か?」

4.純粋受け
幼馴染みや親友など、仲のよい攻めのことが友達として大好き。けど攻めとイチャイチャする夢を見てしまう。朝起きて、夢のなかの自分はなにしてたんだろう?と不思議に思う。攻めのことを意識していたら現実で距離をおいてしまう。気まずくなるのに夢の中ではイチャイチャがエスカレートして混乱する純粋くん。
~攻め~
おかん
「どうした純粋。具合悪いのか」
病み
「俺のこと避けてるよね?なんで?」
天然
「顔が赤いの、可愛いね」

5.電波受け
夢に出てきた宇宙人と会話。「○○くん(攻め)を好きになる」と予言されて信じてしまう。後日、攻めに「僕はあなたをすきになるそうです」と真面目な顔で言って、不審者扱いまたは電波くん扱いされてしまう。そして予言通り攻めにどんどん惹かれていく(あまり表情に出ないため伝わらない)。毎日夢の中の宇宙人に出鱈目なアドバイスをもらう。が、それを真に受けて実行。攻めが振り回されるドタバタラブコメもよし、さらっと受け流されてほのぼのになるのもよし。
~攻め~
おちょけ
「うははっ、宇宙人からの予言?まじかよ。おまえ面白いなー」
不憫
「ちょっとまって、なんで急に服脱ぎ出すの?宇宙人のアドバイス?なにいってんの?頭いたい。理解できない。なにをどう考えたらこんなことになるんだよっ!」
流し上手
「へー、そうなんだ。びっくり……でもそれは違うと思うなー。だってそれ、夢の中の話でしょ?」

449789 修復不可能の二人:2013/10/17(木) 17:09:00 ID:a/TIT6y.
規制されてしまいましたので以下本スレの続きはこちらに。

魔法使いだとバレているからです。いつかは主人公についての記憶を消さなければなりません。
そのことを少年に伝えると少年は泣きます。
魔法使いであることを忘れるのはいい。けれど主人公のことが好きな気持ちも忘れるのか。
答えられない主人公に少年は泣き笑いして、抱き締めてくれる?と聞きます。そのあとで記憶を消してと。
主人公は言われた通りにします。抱き締めた少年の体は可哀想なほど震えています。ありがとう。ごめん。
申し訳ない気持ちで主人公は少年の記憶を魔法で操作します。

次の日から、少年は主人公のところにやってこなくなります。
廊下ですれちがっても目も合いません。声を掛けても不審がられて引きつった笑いを返されます。
八重歯ののぞく屈託のない笑顔は他の友達に向けられます。
そこで主人公は、寂しいだけでなく、苛立ちを感じます。
あれだけ好きだと言ってきたくせに。自分だけを蕩けるような瞳で見つめてきたくせに。
魔法にかけられたくらいで忘れるなよ、なんて理不尽なことと分かっていても苛立ちは消えません。
そこで主人公はようやく気がつきます。認めたくないけれど、もう修復できないけれどーー

「と、こんな感じです。ベタすぎて駄目ですかね」
「そうは思いませんが」
苦笑いする私に、青年は考えるように顎に手をあてた。
「記憶が無くなった少年に、主人公はもう一度関わってみればいいのにと思いました」
「……記憶を消した張本人なのに?」
「はい。記憶を消されても、少年はまた主人公を好きになりたいと思ったはずです」
「そうでしょうか」
青年くすっと笑った。
「魔法使いはなんでもできるのに、何もしないんですね。ヘタレ設定ですか?」
「いや……」
青年は時計を見て眉をしかめた。
「あの、話の途中ですみません。雨が止むまでと思っていましたが、約束に間に合いそうにないので行くことにします」
そう言ってタオルを頭にかける。
「ではこれで。雨宿りに貴方が居て良かった。楽しかったです。あっでもやっぱり主人公は頑張らせてみてもいいと思いますよ」
 青年は、八重歯をのぞかせて笑うと雨の中に消えていった。
「……頑張らせる……か」
私はぽつりと呟いた。
指をパチンと鳴らすと、雨雲が消えて太陽が顔を出した。

45027-949 年下×年上:2013/11/09(土) 16:48:04 ID:5f7Mil3A
ケンおにいちゃん、おてがみかいたよ。
ひらがな、もうぜんぶかけるから。よみます。
おにいちゃん、いつもあそんでくれてありがとう。だいすきです。
これからもずっとおともだちでいてください。
え、まちがえてないって。どこ。
……あ、ほんとうだ。「ち」が「さ」だね。あはは。
*
あ、ケン君。
中学校どう? やっぱいそがしい?
……そっか。いいなー、おれも早く部活したい。
なんだよ、おれが小学生だからってバカにしてるだろ!
どんなんかくらい分かるよ、姉ちゃんだっているんだし。
じゃ、頑張ってね、応援してるから。
……時間、あったらでいいから、おれともまた遊んでよ。
*
ケン先輩。
あ、えーと、うん。はい。
おれもサッカーやりたかったんです。いいじゃないっすか。
ちゃんと真面目に練習するんで、教えてください。よろしくお願いします。
……そっか、もう引退までそんなにないんですね。でも試合で勝てば続くんっすよね。
じゃあ頑張ってください、俺のために。……冗談です!
*
先輩、こんにちは。
あー……何か高校被っちゃいましたね。部活も。
じゃあ、また宜しくお願いします。
*
阪上先輩。卒業おめでとうございます。
話が、あるんです。
俺、先輩の事が好きなんです。ずっと好きだったんです。
分かんないですよね。
中学ではこれでも、頑張ってたんですけど。
途中からもう全然ですね。絡めなくて。怖くて。
でもすごく好きだったんです。
先輩、なんでも良いんで、気持ち悪いとかでもいいから。
何か言ってください。
先輩。
*
あ。け、……阪上先輩。
賢さん、でいいですか。ですよね。これも違和感あるけど……はは。
お久しぶりです。賢さんが高校卒業してから、7年ですか?
そっから大学行って、就職して。こっちに来たのは偶々?
賢さん、7年って長いと思いますか。
……俺の気持ち、7年前と変わってないんです。
7年前、どころか下手したら15年くらい、ずっとそのままなんですよ。
そろそろ答え、聞いちゃ駄目ですか。
俺も社会人ですし。もう背の差とかほとんどないんですね、賢さん。
……え? 3ミリの差なんてそんなの、昔は10センチくらいあったじゃないですか。今じゃ微々たる物ですよ。
とにかく、これだけ引き摺ってたら、もう子供だからとか何だとか、誤魔化せないでしょう。振るならちゃんと振ってください。
のらりくらりしようとしても無駄です。
答えを聞くまで、腕、離しませんからね。前はこれで逃げられたから。
どこ見てるんですか。顔掴みますよ。
ほら、たった一言返せばいいだけなんだから、いいじゃないですか。
……分かってますよ。馬鹿みたいだろ。
でも今になってやっと、ちょっと対等っぽくなったから。
明日には向こうに帰るなら、昔のこと全部、ここで切ってってよ、賢さん。
さあ、どうぞ。

――あの、ねえあの。そうされると誤解するけど。ちょっと。なんで人の肩で。
別に泣くことないって。いや、あ、謝んなくても。
俺の勝手ですし。別に今更傷つかな……え。
……え?

45128-10 年上の幼馴染み:2013/11/17(日) 17:17:29 ID:1GbWoLxU
本スレ10のID:tnE496BW0です。連投規制にあってしまったのでどなたか代行お願いします。
それと10の名前欄の1/2は間違いで正しくは1/3です。下の方と被ってしまったのでややこしくなってしまってすみませんでした。

すみません最後です。

③親同士の仲の良さ
これは設定次第では簡単にロミジュリ要素も追加できる。
よくあるパターンでは親同士も仲が良く、両家公認カップルが誕生する。
「いつも遊んでもらってすみませんねぇ」「いえいえ、こっちも遊んであげてるっていうよりは一緒に騒いでるだけなんで」
「でもこうしてみるとほんとに兄弟みたいね」「ふふふ、ほんと、どっちがお兄ちゃんなんだか」
みたいなお母さん同士のほのぼのした会話が交わされることだろう。
↑のお泊りも頻繁に行われる。実に平和的な話だ。
親同士の仲が悪い場合、一気にシリアス度が増す。ガチで許されない恋である。
この場合だとお泊りなど甘いイベントはほぼない。しかしよりスリリングで背徳感のあるものになる。
年上が攻めだと「親なんて関係ない…受けは俺が守ってやるから」のように包容力のある大人に出来る。
年下が攻めだと「なんであの人といちゃいけないんだよ…!」とグレたりするだろう。そこから受けを無理矢理…だったり、また勿論逆もしかり、である。
最終的に「駆け落ちイベ」が発生しやすくなるのはこっちの方である。
新天地にて今まで出来なかった麗しい生活を謳歌するのだ。…うむ、美味い。

お互いの性格は数限りない無数の組み合わせが出来るので割愛。
①〜③の組み合わせによってそれぞれ素敵なカップルが誕生する。
年上年下どちらが受けでも攻めでも楽しめるとはなんて素敵。

妄想すると年上の幼馴染って意外に美味しいのね…と思いました、まる。

すみません、リロったら被ってました。ほんと一発目からほんとすみません。

45228-9 年上の幼馴染み 1/2:2013/11/17(日) 17:20:57 ID:ClVL9nXU
 三十五才を過ぎると急に、結婚、結婚と言われなくなった。もう洒落にならないんだぞ、という事実を突きつけられるようで怖い。
 だって仕方がない、派遣なんてやってるようじゃ結婚できない。彼女だってできない。
 いいんだ、そういう時代だから、と開き直る。
 妹も結婚して子供作ってるし、母ちゃん的にも、もう俺はいいんじゃないかと思う。
 泰成にいちゃんの方がやばい。兄ちゃんはフリーターで、一人っ子で、俺より二つも年上で、おまけにおじさんもおばさんももういない天涯孤独の身だ。
 二軒はさんでのご近所さんだから、うちの母ちゃんとしてはもうひとりの息子みたいな気持ちで
「豊井家は絶えちゃうねぇ」
と心配してるけど、いやー、無理でしょ。
 俺以上に、兄ちゃんはどうにもなりそうにない。それよかうちも名字絶えますけど。

「泰成にいちゃーん、コロッケだよー」
 バイトってのは過酷なもので、零時あがりの兄ちゃんは昼夜逆転ぎみの生活だ。
 だからと言って、派遣でも正社員と変わらない勤務時間の俺が、深夜にコロッケをわざわざ運ばされるのはおかしい。
「おおー!コロッケ大好き。売ってるのじゃないおばちゃんの手作り大好き」
 でも兄ちゃんが喜ぶから仕方ない。
『夜中は人恋しいものだから、お前行ってやりなよ、ひと言話すだけで違うんだよ』
 そんなことを言う母ちゃんは、他人に優しく身内に厳しい。俺寝不足になるっつーの。
 兄ちゃんのおじさん、おばさんが亡くなってから十年くらい経つから、その間ずっと通い続けてる俺えらい。
 通いすぎて、兄ちゃんの家はすでに、もう一軒の自宅のようだ。
「今から食うの?」
「当然! 晩飯なんだよ、お前は? 食う?」
「いや、寝る。もうこっちでいい?」
「パジャマ着てるじゃん、すでに」
「風呂出たらパジャマだって……朝飯は七時に帰るから、一緒に起きろよ。母ちゃん手間だから」
 食べ出した兄ちゃんをほったらかしに、和室に布団を敷いたら眠くなる。
「お前、帰って寝る方が早いんじゃないの」
 声が飛んでくるが、答えるのがめんどくさい。
「寝に来るのなー、うちに、お前……変な奴」
 声が遠のいて、俺は夢の中へ。なんだろうね、俺も。

 正直、結婚とかに意欲がわかない。
 彼女がいたこともそりゃありましたが、それとこれは話が別だって知ってる。
 草食系男子とは俺のことだ。いや、俺らのことだ。兄ちゃんもきっとそんな感じ。
 あの人こそ彼女いたのに、結婚すると思ってたのに、おじさん達が亡くなったときに別れて、それっきり女の子とは話題にできない雰囲気。
 本当、仕方がないよね。不況だもん。母ちゃんごめん。親父もごめん。どうしようもないです。
 この間、母ちゃんが恐ろしいことを言った。
『いっそ、結婚しない子ばっかり集まって、一緒に住めばいいんじゃないかねぇ』
 現実に、茶を吹きそうになるなんてことがあるとは。
『だって、そうしたら安心だもん、あんたや泰成君の老後。寂しいひとり暮らしをさせるよりよっぽどいいよ』
 泰成君のご両親にも遺書で頼まれたしねぇ、と母ちゃんは笑った。
『あんた、もうこうなったら泰成君のこと大事にしなよ、あれももう結婚しないだろうから、一生仲良くするんだよ』
 うちの母ちゃんはいつも、どこまで本気かわからない。
 ただ、泰成兄ちゃんにもう二度と寂しい思いをさせたくない、その気持ちはわかる。 

 久しぶりに結婚の話を振られた。最近入ってきた後輩がマジで無神経で、まわりのハラハラした空気がいっそう俺を傷つけるっつーねん。
「兄ちゃん、結婚するなよ」
 俺は今日は台所にいて、おでんを小分けにしたどんぶりをレンジに放り込んでる兄ちゃんに鬱憤をふっかけることにする。
「少なくとも兄ちゃんが結婚しない限り、俺は許される」
「別に俺が結婚しなくてもお前は結婚すればいいじゃん」
「うるせー、どうせできませんよ、だから兄ちゃんも結婚するな、そんで老後はふたりで生きるの」
 泰成兄ちゃんのあごがカックンと落ちた。
「……は、お前、何を」
「え?あ、いやいや、この間母ちゃんがさ」

45328-9 年上の幼馴染み 2/2:2013/11/17(日) 17:22:41 ID:ClVL9nXU

 説明すれば、なんとも空しい老後設計だ。俺はだんだんばかばかしくなってきた。
「だいたいさ、安易なんだよ。そもそも先に老後を迎えるのは母ちゃんだっての、自分の面倒より俺の老後かよ、いつの間にか完全に俺が結婚しないことになってるしなぁ」
「んーとさ、じゃあその時はおばさんの介護は俺らふたりですればいいんだよ」
「何言ってんの……ええ?」
 見れば、兄ちゃんは真面目な顔でうなずいている。
「ちょっと、兄ちゃん、泰成さん、なんでその気なんですか」
「いやあ、名案だなと思って。固定資産税も一軒でいいしな」
「うわ、具体的! ありえないって、そんな、男同士で」
「いいんじゃん? 別に結婚するわけじゃないし」
「男同士で結婚できないし!」
 俺が慌てると、兄ちゃんはきょとんとした。
「あ、いや、俺もお前もたぶんもう結婚しないでしょ? お前、これから頑張るの?」
 耳が、頬が、急に熱くなる。
「裕敏……じゃあねぇ、約束。俺がこのまま爺さんになって要介護になったら、裕敏が面倒見て。逆は俺が面倒見るから」
 小指を立てられた。
「はい、指切りね、これでおばさんにも安心してもらえるよっと」
 絡んだ指ごと腕を振り回されて、うわ、これ、何、いったい。
「いい話だな、俺、裕敏なら安心。老後は一緒に住むかねぇ、うちの方が新しいから裕敏こっちに来ればいいんじゃない? すでにマイ枕置いてあるんだし」
 ニッコリされて、ますます血が上る。
 と、レンジで爆発音がした。
「泰成兄ちゃん! 卵入れただろ馬鹿!」
「あ、卵……おでんの」
 兄ちゃんはこれ以上ないくらい哀しい顔になった。馬鹿だ。
 
 だから多分、兄ちゃんは俺の赤面に気づかなかった。
 一生の約束なんかしちゃったよ俺たち。そんで、危なっかしいこの人の介護をするのはたぶん俺の方だ。
 いいじゃんそういう人生、きっともう泰成兄ちゃんも二度と寂しくない。

454名無しさん:2013/11/17(日) 17:24:02 ID:ClVL9nXU
>>451 すみませんでした
IDがややこしいことになるけど、代行行ってきます

455名無しさん:2013/11/17(日) 17:29:47 ID:1GbWoLxU
>>454 いえいえこちらこそ、長いと規制され分割してるうちに連投規制とかww
代行ありがとうございます、お願いします。

45628-19 三角関係:2013/11/17(日) 21:09:23 ID:siFrZRgY
規制喰らってしまいました、代行よろしくお願いいたします……



しかし、いや。だから、ぼくはあなたに最初で最後の復讐をしようと思ったのです。
ほくは先生の一番にはなりようがないのなら、せめて少しでもぼくを覚えていてほしいのです。
ぼくはきっと、いいえ確かに。生まれ変わり空にささやかに光る星になっています。
そうすることで先生は星を見るたびにぼくを思い出せるのです。
先生の恋のせいで首を吊ったぼくのことを、輝く美しい星を見るたびに。
男同士の三角関係、何て言う腐りきってしまった阿呆な感情で潰えたぼくのことを、あなたはきっと思い出すのです。
そうして傷付いた先生はその身をぼくによく似た父に慰めてもらうのでしょうね。
父に抱かれながらあなたは何を思うのでしょうか、今までのような感情ではいれないのでしょうね。
なにせ父はぼくにとてもとてもとても、よおく似ているのですから。
そうやって、ずっとずっとあなたはぼくのことだけを思って後悔して生きていって下さい。

ね、先生。
ぼくはいま、きっとほんとうのしあわせになれるのです。

45728-49 許されない二人 1/4:2013/11/23(土) 19:33:20 ID:DOUtdwBA
思ったより長くなって間に合いませんでした…推敲して投稿。



「慶一…もう、ここに来るのはやめるんだ」

薄い布団の中、優(まさる)は自分を抱きかかえている慶一に言い聞かせた。
激しい情事に耐えた体はまだ重い。普段はどちらかと言えば物静かな少年である慶一は、
情事の時だけ、抑えていた何かを発散するかのように優を翻弄する。
十八歳の優とちょうど一歳差の十七歳で今年高校三年生になる慶一は、まだ優より
少し背が低かったけれど、このところまた背が伸びたようだから近々優を追い越すかもしれない。
「どうして…どうしてそんなことを言うの、優…」
慶一が身じろぎし、真冬であるにも関わらず汗にしっとりと湿った二人の素肌がこすれた。
窓の外にはしんしんと雪が積もっている。心なしか色素の薄い慶一の髪を優が撫でた。
「男同士だから? 僕がこの家の跡取りで君が使用人の子供だから? 僕が受験生になるから?」
その全部だよ、と優が答えようとした、その矢先だった。

「それとも…君と僕が兄弟だから? ねえ“兄様”?」

楽しげに歪められた唇からこぼれた言葉を聞いても、優は始め呆然としていた。
一瞬遅れて、優は慶一の腕を振りほどいてがばりと布団から身を起こした。
「慶一、お前…知って…」
「知らないでいられるはずがないじゃないか。どうしてそう思ったの?」
くすくすと笑いながら言う慶一を、優はふたたび呆けたように見つめた。

旧家である菅間家の広大な敷地の外れに、ひっそりと建てられた離れ。
慶一は誰もが寝静まった頃を見計らって時折そこを訪れた。
それを受け入れた優も、始めはまさか慶一とこんな関係になるなどとは思ってもみなかった。

45828-49 許されない二人 2/4:2013/11/23(土) 19:36:47 ID:DOUtdwBA
「全部知っているよ…優の母さんが父様の妾(めかけ)だったことも、母様の子より優れるように
君に『まさる』って名を付けて母様とつかみ合いの喧嘩になったことも、
家の中で騒ぎが起きたのに懲りた父様が君の母さんを捨てて外に新しい妾を囲うようになったことも、
万一の時のための保険に君と君の母さんを離れに置いておくことにしたということも、ね」
慶一は十七歳の少年が知るにはいささか残酷すぎる事実をすらすらと語った。
残酷というなら優にとっても同じことだが、優はそれよりも慶一の心の方が心配だった。
おしゃべりな女中にでも聞いたのか、それにしても何もそこまで教えずともいいだろうに…
同時に、こんなことをまるで他人事のように話す慶一に対して、少々空寒い気持ちがした。

屋敷の敷地内には他にも使用人の子供が何人か住んでいたが、
慶一はどの子供とも遊ぶことを禁じられていた。とは言え、幼い身に余る好奇心が
抑えきれるはずもなく、慶一は十歳の時に一度、とりわけ年が近い優を遊びに誘った。
優は地元の公立小学校に、慶一は私立の一貫校に通っていたから、
顔を合わせるのは屋敷の中でだけだ。優は慶一が異母弟であることを知っていた。
慶一を恨む気持ちもあり、最初は躊躇していた優も、慶一がしつこいので仕方なく付き合うことにした。
しかし学校では妾の子といじめられ、同世代の子供と遊んだ経験の少ない優は、
たちまち慶一と過ごす時間に夢中になった。母に決して慶一と関わるなと言いつけられていたことも忘れ、
気が付けば奥様…慶一の母に二人一緒のところを見つかって大目玉を食らったのだった。
言いつけを破った自分がいけない。それからは慶一を見かけても無視を決め込んだ。

ところが優が十五歳の冬の夜、遅くまで高校受験の勉強をしていた優の部屋の窓を叩く者があった。
(優…)
慶一だった。寒い夜だ。追い返すのも気が引け、仕方なく窓から慶一を招き入れた。
慶一と遊んだたった一日の記憶は、優の心に深く刻み込まれていた。

45928-49 許されない二人 3/4:2013/11/23(土) 19:39:43 ID:DOUtdwBA
相変わらず孤独な少年だった優がそのまま高校生になっても慶一と会い続けたことを、
そして慶一がある晩優に口付けて組み敷いた時に拒めなかったことを、誰が責められるだろうか。
慶一を拒めばもう会ってくれなくなるかもしれないという思いが頭をかすめ、優は抵抗を諦めた。
兄弟なのに。身分が違うのに。男同士、なのに…優には自分が慶一を愛しているのか、
弟として可愛いと思っているのか、それとも単に慶一と会えなくなるのが寂しいだけなのか、分からなかった。
ただ、こんな関係を持ちかけてきた慶一は当然優との本当の間柄を知らないのだと思い込んでいた。
慶一の母は、慶一の耳に真実が入らないよう神経質なほど気を遣っていると聞いていたからだ。
ずっと慶一をだまし続けることに罪悪感が湧いて、別れを切り出したのに…

「…いつから、だ…」
「初めて遊んだ後のことだよ。いつもは大人しい母様があんまり怒ったのが気になって、調べたのさ」
名家の令息らしく優より色の白く、どこか華奢な体。常なら愛おしく思えるその体に、
一体何が潜んでいるのか…優は急に恐ろしくなってきた。
「あの日から、優のことがずっと忘れられなかった…どうしてこんなに好きなのかと思っていたけど、
兄弟だと分かって納得したよ…でも、優は僕が知らないと思っていたみたいだから。
優のことだ、僕が知っていると分かったら会ってくれなくなると思ったんだ」
うっとりと話し続ける慶一に、優は言葉も出ない。
「父様と例の、新しい妾の間にも子供がいるらしいよ。僕たちの妹か弟だ…
妹だといいなあ。優の弟は、僕一人きりでたくさんだもの…」
慶一が、ふいに優を押し倒した。その瞳は爛々として、すっかり情欲に濡れている。
「、よせ、よしてくれ…」
いつもはどこか虚ろな慶一の目にこの時だけ光が宿るのを、優は知っていた。
いけないと分かっているのにそのことが嬉しくて、知り尽くした優の体をまさぐる慶一の手も心地いい。
優は言葉とは裏腹に、容赦なく襲ってくる悦びに喘いだ。

(行く学校も、将来の仕事も、全部がもう決められているんだ、僕は)
まだ体の関係を結ぶ前、慶一がぽつりと言ったことがある。
(何一つ自分の自由にはできない…まるで籠の鳥みたいだよ)
冗談めかしてはいたが、慶一が家のことで愚痴をこぼしたのはその一度きりだったことが、
かえって真実味を増していた。慶一もまた、優とは別の意味で孤独なのだった。

46028-49 許されない二人 4/4:2013/11/23(土) 19:43:35 ID:DOUtdwBA
二度目の情事を終えて、慶一は甘えるように優に身をすり寄せた。
結局、重大な真実が二人の間で共有された後も、優は慶一を拒むことができなかった。
「優、来年の春から仕事をするんでしょう?」
「うん…」
優は高校を卒業した後、ここから離れた職場に就職することが決まっている。
この屋敷からでも通えるには通えるが、これを機に思い切って家を出る、はずだった。
慶一とまた離れがたくなっている自分がいる。何という意志の弱さだろうと優は自嘲した。
「いいなあ…大学なんかに行きたくない。僕も早く働きたいよ」
一呼吸おいて、慶一が優の耳元で囁いた。
「ねえ優…僕を連れて逃げてよ…僕も何か仕事を見つけるから、さ」
情事では男役をしているくせに、慶一はまるで女のようなことを言った。
優も男だから、こういった類のことを言われては庇護欲を刺激されてしまう。だが。
「そんな、おれは……」
優は目を泳がせた。慶一は一流の大学を卒業した後、菅間家の経営するグループ企業の
いずれかで働くという将来が約束されている。慶一ほど頭が良ければどこの大学にでも受かるだろうし、
きっと優秀な経営者になれる。そんな輝かしい未来を、自分が奪っていいものか。
だいいち腹違いとは言え兄弟という間柄で、こんな関係…罪深くはないだろうか。
だが、慶一は自分といたいのだという。そして、優も…

「ねえ、優ったら…、ん、」
珍しく優の方から深い口付けを仕掛ける。拙い舌の動きにも、慶一は敏感すぎるほど反応した。
「…ずるい、こんなこと、今までしてくれなかったくせに」
慶一は目を蕩けさせながらも、優に抗議した。その目から視線をそらして、
優は慶一の顔が見えないよう、慶一の頭を胸に抱えるようにして抱きしめた。
「僕には、優だけいればそれでいいんだ…父様も母様も…名家の御曹司なんて肩書も、要らない」
裸の胸に、慶一の声が滲み渡って消える。
「愛してる…愛してるよ、優…」
兄として、人として…一体何が正しいのだろう。優は慶一の言葉に答えることなく、慶一の体をさらに引き寄せた。

46128-59 介抱 1/2:2013/11/26(火) 16:08:29 ID:M.XQpq0A
 昼に怪我をした。落ちて、足首をひねったのだ。労災になるとかで怒られた。
 病院に行ってレントゲン撮って、骨には異常なし。ただのねんざ。
 医者の言葉に、上司の新谷さんがあからさまにホッとしたので、むかついた。そんなに労災が怖いか。もっと大ケガすりゃよかった。
 もともと、新谷さんとはあまり仲がよくない。ガタイばかりでかくて、やたら細かい。うざい存在だった。

 夜になって、痛み出すまでは余裕だったのだ。
 ずきん、ずきんと痛めた箇所が脈打ちはじめて、あわてて痛み止めを飲んだが遅かったらしい。
 そういや氷で冷やせって言われたっけ、と思い出すが、あいにく冷凍庫は空っぽ。
 しかたなくビールで冷やすが、飲めない温度のビールばかり増えてちっとも治まらない。
 どんどん痛みが増し、気がつくと唸っていた。
 足が、おおげさじゃなく倍に腫れてる。心拍と一緒に、ズッキンズッキンと音が聞こえるようだ。
 床に転がって足を抱えた。顔まで熱くなって目が開けられない。口が勝手に痛い、痛い、とつぶやき出す。涙がにじんだ。じっとしてられないくて転げ回った。

 と、ドアチャイムがなった。
「加原? 新谷です、開けるぞ」
 驚いた。いくら会社の寮だからって、上司が来る時間じゃない。
「……すんません、今マジ勘弁してください、すっげ痛むんで……」
「だから来たんだ、お前、絶対冷やしてないと思ったから」
 新谷さんが勝手に入ってくる。マジでむかつく。帰れって言ったのに。他人に会いたくないのに。
 うめきが自分で抑えられない。たぶん、熱も出てきて、背中の汗は冷たいのに体は熱い。
「足、出して」
「……え?」
「ああ、やっぱり腫れた。テーピングしろって言ったのになぁ」
 ぼんやり思い出す。おおげさなことはしたくなかったから、俺が医者に断ったのだ。
「保冷剤いっぱい持ってきたから。冷凍庫空いてるか?これ入れるぞ」
 スーパーの買い物袋いっぱいに重そうな何かが入ってるのが見えた。
「痛かったら言って」
「あっ! ちょ、触らないで、いた、冷た!」
「だから保冷剤。縛っとくから、ぬるくなったら取り替える、わかったか?」
 抵抗する間も力もない。身を縮めてるうちになんどかケガの足を持ち上げられ、そのたびに「いたい!」と声にならない声をあげてしまう。
「そおっとやるから……ほらもういい」
 見ると足首はグルグル巻きだった。包帯じゃなくてレトロな手ぬぐい。保冷剤がいくつも入れられて、足首を三倍にしてる。
 冷気が伝わってくる感覚。最初と違って全然冷たく感じない。
 ズッキン、ズッキンと脈打っていた灼熱の痛みが、ゆっくりと、ゆっくりと軽くなっていく。
 それで、俺はようやく力を抜いて横たわることができた。足は動かせなくてだらりと垂れたまま。
「痛み止めは飲んだか?」
「さっき飲みました……」
「早く飲まないと効かないって言ったのに……で、なんだ、これ」
 テーブルの上の缶を見とがめられる。「まさか今飲んだんじゃないよな?」
「あ、えっと……昨日のです」
「……お前なぁ、絶対飲むなって言っただろう」
 確かに酔いがまわると同時に痛み出したのだった。
「こんなことなら、病院からつきっきりでここまで帰ってくりゃよかった」
 新谷さんは顔をしかめた。

46228-59 介抱 2/2:2013/11/26(火) 16:12:56 ID:M.XQpq0A
「まだ痛いよな」
「痛いです……」
 でも、とりあえず呻くほどじゃなくなった。今はじっとしていたい気持ちで、返事をするのがだるい。
「見せて。すぐぬるくなるから、ほら、もう取り替えないと」
 保冷剤を外されて、キリキリ冷えたのをあてがわれる。
「もうちょっとしたら痛み止めが効いてくるはずだから。そしたらあと、自分でできるな?」
「はあ……何を?」
 新谷さんはちょっと困った顔をした。
 でも怒らない。『また聞いてない』って、いつも怒ってばかりなのに。
「……俺、なんでこんな痛いんですかね、ねんざなのに……」
「炎症起こしたらこんなもんだ、だから冷やせって医者も俺も言っただろ、言うこと聞かないからひどくしちまって」
「新谷さん優しいっすね」
「……俺の責任だから」
「俺、自分でやったんですよ」
「職場の事故は上司の責任」
「そんで優しいんだ……すんません」
 痛みはまだある。あるけど、緊張状態から解放されて、なんだか眠くなってきた。
「な、加原、一時間くらいでまた保冷剤とりかえるんだぞ」
 新谷さんが足の保冷剤を軽く、軽く触って何か言っている。神経が過敏になってるから、分厚い保冷剤越しなのに感じられるのだ。
 強く触れば激痛なのに、新谷さんの指が本当に軽くて、優しくて、それがなんだか……
「……加原、おい」
「なでなでしてください、痛いところ」
「え?」
「痛いんで、よしよししてくれたら気持ちいい……」
「お前、酔ってるの……本当に、もう」
 体が休息したがってる。とろとろと眠りに落ちた。
 あとで思えば、酒と痛みと薬で朦朧としていた。

 気がついたときは外がぼんやり明るい時間。
 新谷さんが、俺にかけた布団に足だけ突っ込んで寝ている。
 俺の足の保冷剤は冷たく、気持ちいい。ねんざの熱はまだ残ってるみたいだった。
 おそるおそる触って、思い出す……優しい、誰かの手が……痛みを癒してくれるその感触。
 息を呑んだ。
 ここで新谷さんが寝ている現実。相手がだれかも忘れて甘えた、俺の台詞。
「うわ……」
 思わず声が出た。
 苦手な上司に。今日だって職場で一緒になるのに。友達でも親でもないのに……すごく、優しくしてもらって。
 ひどく特別な夜だったような気がした。こんな時間を過ごしたあとで、どんな顔してみせればいい?
 俺は頭を抱えた。足が痛んで呻いた。
 新谷さんが目を開けて「まだ、痛いか?」と聞く。俺は首をぶんぶん振った。

463モンクレール アウトレット:2013/11/30(土) 10:31:47 ID:Oo3yud4A
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46428-339 不細工な蜘蛛と真っ白い蝶:2014/01/15(水) 13:02:48 ID:nHOW4oGI
 モンシロチョウのクリームがかった白い羽がホコリとガラス片にまみれて床に落ちていた。
 どこにでもいる蝶で、小さくて、蜘蛛の巣にかかって暴れているところを捕まえたために
羽も傷んでいるそれは標本としての価値はもともと薄い。
 けれどこの生物部に入って最初に作ったこの蝶の標本は、俺の宝物だった。
 だからこそ食われたり湿気ったりしないように環境の整った理科室に置かせてもらっていたのに。
「久保田」
 声とともに肩に置かれた手にびくりと体が跳ねる。いつの間にそこにいたのか、
同級生の葉桐がこちらを見下ろしていた。
「それ、誰がやったの」
 答えず、また俯く。知っているくせに、という言葉は飲み込んだ。
 知っているくせに。
 俺が虐められているのも、その主犯がお前に片思いしてる女の子だってのも、
その理由がこうやってお綺麗なお前が正反対の俺にかまうからだってのも、知っているくせに。
 なのになんでまだ俺に寄ってくるんだ。
 答えない俺に焦れたように肩の手に力がこもる。
「ね、言って。久保田が僕に助けてって言ってくれたら、僕はなんでもするから」
 嫌だ。絶対に、お前にだけは頼りたくない。
「僕を利用してよ、久保田。一言でいいんだ、君が僕を選んでくれれば、それで」
「止めろ!」
 振り払うその動きだけで、なぜか息が上がった。緊張のせいかもしれない。
「これは俺の問題だ、もう近寄るな!」
 怖い。葉桐の執着が。葉桐の献身が。
 全てを俺に捧げんばかりの、その感情がどこから来ているのかわからないのが、怖い。
 いっそ裏があるといってくれればいいのに、その目には一切の影もない。
 あるのはただ、俺に対する純粋なまでの執着で。
 いつの間にか振り払ったはずの手がすがるように俺の首に回されていて、
その病的なまでに白い肌が足元に落ちた蝶に重なって、何故だかひどく泣きたくなった。

46528-449 リアリスト×オカルト好き 1/2:2014/02/03(月) 00:05:39 ID:0LFcBspc
「くだらねえよなあ」
出来上がった見本誌を興味なさそうにぺらぺら捲りつつ編集長がぼやいた。
読んでいるのは我が出版社の唯一にして看板の雑誌、その最新号である。
オカルト雑誌なんてくだらない、というのがうちの編集長の口癖だ。
この口癖を聞き続けてそろそろ一年になるが、そのときの俺はその言いようが聞き流せなかった。
「それじゃあ聞きますけど。なんで編集長は編集長なんですか」
「なんだその質問。哲学か?」
「違います。どうして編集長はオカルト雑誌の編集長やってるんですかってことです」
言い直すと、編集長は皮肉っぽく笑ってから答える。
「そんなもんお前、日々の生活の為だよ」
「生活の為に、くだらない雑誌作って世間にバラまいてるんですか」
先月いっぱい取材して二徹までして完成させた記事(『死の世界へ繋がる公衆電話』現地レポート)を
軽んじられた気がして、俺の口調は刺々しいものになる。
「それって、読者の人に失礼だと思います」
もしも自分がこの雑誌の熱心な読者だったらと想像する。自分の愛読雑誌が作り手によって
「くだらない」と言われていると知ったらきっと憤慨するだろう。というか絶対する。
一年前の自分に伝えたら、就職先を考え直すレベルだ。……いや、出版社に乗り込んでこの人を一発殴るかも。
そんなことを悶々と考えていたら、「お前なあ」と呆れたような声が聞こえた。
顔をあげると、編集長は煙草にライターで火をつけながらこちらを見ていた。
少し真面目な表情になっている。
「俺は別に手抜きの雑誌作りをしてるつもりはねえよ。読者が何を求めてるか把握してそれを提供するのが俺の仕事だ。
 お前だって今月号のこの記事、手間隙かけて取材して何度も原稿直したんだろ?読者に伝わりやすいように」
思わぬところで話題が俺の記事に及んで、反応が遅れてしまった。
「えっ、まあ、そりゃあ、頑張りました、けど」
「そのお前の姿勢が、読者への失礼にあたるのか?」
「いや、あの………。え?」
「あの記事はなかなか読みやすいし、落としどころも上手い。読者ウケもけっこういいんじゃねえかと俺は睨んでる。
 反響あったら追加取材もいいかもな。それかシリーズ化もいいだろう。読者のニーズに応える、当然のことだ」
思い切り論点を摩り替えられている気がしたが、そのときの俺は編集長に記事を褒められたことの方に
意識の大部分を持っていかれていて、突っ込むことができなかった。
それどころか、しどろもどろに「ありがとうございます」などと言う始末。俺は馬鹿か。
「いいか、よく聞け」
俺が怯んだ隙をつくようにして、編集長はたたみかけるように喋る。
「お前がオカルト大好き野郎なのはよく知ってる。だがそれと雑誌作りをごっちゃにするな。それは公私混同だ。
 俺達が読者へ提供するのはエンターテイメントだ。読者の求める真実と、オカルトの真実をイコールにしてはならない。
 ただ単に情報を羅列しても何の意味もない。俺達は『オカルト』というものをどう料理して客へ出すかを心得たプロであるべきだ。
 俺達が材料をどう思っていようが読者には関係ない。雑誌の中身で読者の欲求を満たせるか、シビアだがそれが真実。
 百パーセント真実だけを載せてもそれは生野菜を適当に転がしてるようなもんだ。素材を生かすには適量の虚構が必要だ。
 俺達はどれだけ読者の目を欺き、虚構の混じった真実を読者好みのエンターテイメントに仕上げるか、その一点に尽きる」

46628-449 リアリスト×オカルト好き 2/2:2014/02/03(月) 00:06:57 ID:0LFcBspc
機関銃のように捲くし立てられて、俺は頷くことしか出来なかったが、
「ま、そういうわけだから。俺がこれをくだらねえと思ってようがどうしてようが、中身がよけりゃいいんだよ。
 飽きられたらおまんま食い上げだろ。飯のタネを捨てるほど俺は愚かじゃないし、平穏に暮らしたいからな」
という締めではっとし、思わず自分のデスクをバンと叩いた。
「ですから!そういう言い方しないでくださいよ!」
「うるせえなあ。中身がいいんだからいいだろ」
「もう誤魔化されませんよ!?」
この編集長はいつもそうなのだ。
もっともらしいことを次々と並べ立てて煙に巻く。相手をのせて自分のペースに巻き込んで、我を押し通す。
俺がこの出版社に入社したのだって、この編集長の口先八寸が原因だし。(俺がここの雑誌を愛読していた経緯もあるにはあるが)
「そもそもなんでオカルト信じてないのにオカルト雑誌の編集長してるんだっていう話をしてるんです!」
「……。お前、たまにめんどくせえよな」
飄々と肩を竦めて見本誌をデスクに放ると、編集長はやれやれと呟いて立ち上がった。
そして長い溜め息を吐きながら俺の方へと近づいてきたかと思うと、座ったままの俺の両肩に手を置く。
「なっ、なんですか」
やばい噛み付きすぎて怒らせたか?まさかクビなんてことは…と
内心びくつく俺の心を見透かすように目を細めて、編集長はこちらを覗き込んでくる。
「信じてないって、なんだ?」
「は?」
「お前はお前であることについて信じるとか信じないとか考えたことがあるのか?」
「なんですかその質問。て、哲学ですか」
さっき彼が言ったセリフをそっくり返すと、編集長はにっこりと笑う。
なぜだか、ぞっとした。
「あんまり駄々をこねるとこうなるってことだよ」
そう言ってから彼は更に屈み込んで顔を近づけてきて、俺にキスをした。
唇に。思い切り。キスを。
十秒後。フリーズしたままの俺から顔を離すと、編集長はまたいつもの雰囲気に戻って皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「仕事熱心なのはいいが、ほどほどにしとけよ。深みに嵌ると抜け出せなくなるぞ。現実見ろ、現実」
「…………」
「つって、テメエが言うなって話だな」
ははははと豪快な笑い声をあげて、俺の肩をぽんぽんと叩いて、編集長はまた自分のデスクへ戻っていく。
俺は呆然とその後ろ姿を見つめていた。
(な、なんだ今の)
顔が熱い。頭の中が混乱の極みでぐちゃぐちゃしている。ついでに体もだるい。
締め切り前の追い込みによる肉体疲労と(考えたくないが)さっきのあれによる精神疲労でどっと疲れが出たのか。
反論する気力を削がれた俺は、その後は大人しく次の取材について企画書を書き始めた。
あんなセクハラかまされたら身の危険を感じて仕事を即辞めてもいい筈なのに、そのときの俺はそんなこと毛ほども考えていなかった。
いつものように「また煙に巻かれた」と思う程度で済ませていた。

今思えば、おかしいと思うべきだったのだ。自分の思考と認識がほんの少し方向付けされていたことに。
しかし同時にそれは無理な話でもあった。

『それ』に気付く頃には、俺は抜け出せなくなっている。

46728-469 プリクラ:2014/02/06(木) 19:54:38 ID:1d4B22lA
「男同士でプリクラってのは恥ずかしくないか?」
「堂々としてれば、そう気にする人はいませんよ」
「しかし…こんなおじさんとで大丈夫か?」
「まだ三十半ばでしょう。まだまだですよ」

彼と知り合ったのは、ゲイコミュニティの掲示板だった。
ヤリ目的でタチネコスリーサイズが踊る中、ただ「誰かと話がしたいです」というメッセージだけが残されていた。
場所も近かったので好奇心で待ち合わせてみると、やってきたのは疲れた顔をしたサラリーマンだった。
誰かと話したいというわりには彼はひどく無口で、佐山さん、という名前を聞き出すのさえ1時間くらいかかった。
それでも、ぽつぽつとたわいない話を続けているうちに、少しずつ自分のことを教えてくれた。
昔、とても大切な幼馴染がいたこと。
その人に友情というだけでは片付けられないほどの想いをもっていたこと。
それ以上好きになれる人が見つけられなくて、自分がゲイではないのか悩んでいるということ。
「…その人とはどうしてるんです?」
「自分の気持ちが怖くなって、上京にかこつけて逃げ出してしまった」
そこまで聞くのに、さらに二時間ほどかかった。
全てを話し終えて、佐山さんは少しすっきりした顔でふう、と溜息をついた。
「で、どうでした?」
「え?」
「話し相手としては、合格でしたか?」
「ああ、僕にはもったいないほどの相手だった。ありがとう」
「それはよかったです。もしよければ、今度はこっちの話を聞いてくれませんか?」
こうして、時折二人で出歩く仲になった。

ある日、喫茶店に入ったとき、トイレに立った佐山さんはテーブルの上に携帯電話を置いて行った。
いささか骨董品めいた古い縦折り型の機種。何か感じるものがあって、その電池カバーをスライドさせた。
カバー裏を見てみると、年季の入った一枚のプリクラが貼られていた。
当時流行っていたゲームのマスコットのフレーム。
照れ隠しと分かる仏頂面で、学生服の少年が二人映っている。
そっぽを向いたうちの一人はおそらく昔の佐山さんだ。
どちらから、どんな言葉で誘ったのだろう。
きっと、男同士でなにやってんだろうな、気持ち悪いな、なんて必死で笑って。
それでも、色あせてなおずっと大切にして――。
この一枚の背後にある情景を思い描いていく中で、自分がどれだけ彼のことを愛おしく思っているかに気付いた。
臆病で、ステレオタイプな佐山さん。共に過ごす時間がゆっくりと増えていくだけで満足だった。
しかし、アミューズメント施設で映画を見た帰り、
ゲームコーナーのプリクラ機体を目にしたときにその気持ちは蓋を押し上げた。
上から踏みにじりたいわけじゃない。同列に並べてほしいわけでもない。
ただ、頭の片隅に自分を置いてくれているのか、分からなかった。

「男同士でプリクラってのは恥ずかしくないか?」
「堂々としてれば、そう気にする人はいませんよ」
「しかし…こんなおじさんとで大丈夫か?」
「まだ三十半ばでしょう。まだまだですよ」
そういうと、佐山さんはうーんと唸る。本当に嫌ならば、無理強いするつもりはなかった。
「いいよ」
「……えっ?」
こんなに早く返事が返ってくるとは予想してなくて、耳を疑った。
佐山さんは、もっと、こういうことに悩んで、苦しんでしまう人だと思ったのだ。
「君はいつもスマートだから、年上としてふがいないとは思ってたんだ。
 そんな君からの初めてのお願いだ。何としても、叶えなきゃね」
「――ありがとうございます」
「なんて顔してるんだい。なんだかこっちまで嬉しくなるね。
 さあ行こう。僕は不慣れだから、君が教えてくれると助かる」
暖かな声に迎えられて歩きだす。
飾り付ける前の透明なフレームの中に、今度は2人、笑って。

46828-509 バレンタイン:2014/02/18(火) 01:22:54 ID:9sB4q356
唐突だが、俺には恋人がいる。
幼馴染かつクラスメイトである俺たちの腐れ縁は発酵して、爛れて、どうしてか恋愛感情として落ち着いた。そいつも俺も男だが、俺達は立派な恋人である。今日も一緒に下校するため、校門でそいつの部活が終わるまで待っている。
話は変わるが、本日世間はバレンタインデー。店先には様々な種類のチョコレート製品が並び、おめかしをした女子たちがそれをきらきらと輝く瞳で見つめてはしゃいでいる。彼女らが各々の想い人に渡すのであろうチョコレートを購入している姿をなんとはなしに見ていると、隣から大きなため息が聞こえた。
「啓、」
いつの間にか部活は終わっていたらしい。女子たちを眺めている恋人の名前を呼ぶと、彼はこちらに目を向けた。
「華やかだよなあ、おい」
無視して歩きだすと、まてよ、と啓の足音が追いかけてくる。
「あーあ、今年は誰かさんのせいでチョコ貰えねーわ」
「そりゃ悪かったな」
社交的な啓は男女問わず友人が多い。去年まではたくさんの義理チョコを貰っていたし、その中には本命もいくつか入っていたように思う。
今年はどうやら俺の断ってほしいという頼みを、ちゃんと守ってくれるつもりらしい。自然と上がる口角を誤魔化すため、コンビニによる、と告げた。
「なあ、お前が俺にチョコくれよ」
何を言い出すんだと問返すと、啓はにやにやしながら、チロルでいいからとレジの方を指差した。見ると、バレンタインに!と書かれた賑やかなポップとともに、チロルチョコが置かれている。
「買わねえよ」
「けち」
「財布が寒いんだわ」
「チロルがきついってどんだけだよ」
けらけらと笑う啓を横目に、俺は肉まんを購入した。金無いんじゃなかったのかよ!と啓が文句を言い出したので、半分やるから、と宥める。途端に静かになるので、まるで子供のようだと微笑ましく思った。
コンビニを出てから駐車場で、肉まんを半分にして渡してやると、啓は嬉しそうに受け取った。一口齧ってから、
「これ、バレンタイン?」
などと言うから、
「俺らっぽいだろ」
と俺も一口齧る。ありがと、と小さく述べたあと、肉まんに集中した啓を横目で見ながら、完全に渡すタイミングを逃したカバンの中のチョコレートをどうするかとひとりため息をついた。

46928-549 優等生弟×空回り兄:2014/02/23(日) 15:49:26 ID:ci25Vx5Y
「一彦、悪いんだけど、今日は嗣史の保育園の送り迎えお願い出来ないかしら?」

いつもの起床時間よりも早めに体を揺すられ、母さんに起こされたのは、体調が悪いという母さんからピンチヒッターを頼まれたからだった。

嗣史は、母さんと再婚した義父との間に出来た弟で、高校生の俺とは10歳以上離れている。嗣史の保育園は、俺の通う高校を少し過ぎたところにあるため、普段はパート前に母が保育園へと送る。義父は刑事で、事件があれば昼夜関係なく出ていってしまうので、基本的に母さんがどうしても迎えに間に合わない日などは、俺が迎えに行くこともあった。しかし、朝を頼まれるのは初めてだった。

「じゃあ、母さんの自転車借りるね。嗣の迎えも俺が行くから、今日はゆっくり休んで。パートも休ませてもらいなよ?」

今日は、母の代わりに兄として俺がしっかりしなければ!

放っておくと無理をする母さんに釘を刺し、自身の頬を叩いて気合いを入れ、登校の準備をする。いつもより手早く支度を整え、嗣史を起こし自分で準備をさせる。

「カズくんが起こしに来るなんて珍しいね」

カズくんとは、義父が俺のことをカズくんと呼ぶから、嗣史も自然と俺をそう呼ぶようになっていた。俺はニーチャンって呼ばれたいのに!

「今日は母さん風邪みたいだから、ニーチャンで我慢しろ」

ニーチャンを強調しながら言いながら、俺は台所へと向かう。朝食をと思いトーストを焼きながら、母さんの為にお粥を用意する。

「カズくん、なんかコゲくさいよ」

準備を整えて台所へとやって来た嗣史に指摘されて慌てて振り向くと、黒い範囲が広いトーストが出来上がっていた。
鼻づまりで臭いに気付かず、焦がしてしまったトーストを慌てて皿に移し、新たにパンを乗せて先ほどよりタイマーを縮めて調理をスタートさせる。その時、熱々のトーストで火傷しかけて保育園児に心配される情けない俺。

「嗣、ごめんな?新しいのできるから、もう少し待ってろ」

「カズくん、僕これでいいよ。カズくんもアツアツのパン食べたいでしょ?」

「でも、これ苦いぞ?」

「大丈夫!」

そう言って元気良く食器棚に向かい、バターナイフを取り出してガリガリと焦げ目を削り落としていく。我が弟ながら賢い。そして、弟に失敗をフォローされ情けなく思った。

47028-549 優等生弟×空回り兄:2014/02/23(日) 15:52:13 ID:ci25Vx5Y


朝食での失敗を挽回しようと、嗣史を保育園へ送るべく自転車の用意をする。しっかりと安全用にヘルメットを装着し、シートベルトを嵌める。

母さんの運転とは違う、高校生男子ならではのパワフルな走りを嗣史に見せて、兄の威厳を取り戻してやる!

と思い、ペダルを踏み出そうとした矢先、自転車はヨロヨロとバランスを崩して倒れかけた。慌てて足をついて嗣史を乗せた自転車を支える。いつもと重心の違う感覚に、上手く走り出せなかったのだ。

「カズくん、今日は早起きしたし、歩いて行こう?学校行く前にカズくんがケガしちゃうよ?」

自転車が倒れてしまえば、自分だって怪我をするのに、真っ先に俺のことを気遣う。

そんな弟を思わず抱きしめ、兄のプライドと意地を捨てて素直に嗣史に従い歩いて登校することを決める。こんな可愛い弟を怪我なんてさせられるものか!

そんなこんなで、嗣史の手を引きながら保育園までの道のりをお喋りしながら歩く。

「情けないな…」

「カズくん、どうしたの?カズくんもかぜ?」

落ち込んだ姿を見て、嗣史が心配そうに尋ねる。

「違うよ。ニーチャンはさ、嗣くらい小さいときって、カッコイイ兄ちゃんが欲しいなって思っててさ。嗣が生まれたとき、俺は嗣の自慢の兄ちゃんになるんだって決めたんだ。だけど、失敗ばっかだからさ、少し落ち込んでたんだ」

「どうして落ち込むの?カズくんは僕の自慢のおにいちゃんだよ」

「え?」

「カズくん、失敗は誰でもするんだよ?でもね、失敗は恥ずかしいことじゃないって、パパが言ってたんだ。カズくんの失敗した時はね、パパとママと、カズくん可愛いねーって言ってたんだよ」

義父、なんていい事を言うんだ。可愛いは聞き捨てならないけど。と、感動したのも束の間、嗣史から爆弾が投下される。

「それに、カズくんみたいに失敗の多い人は“どじっこ”で、可愛いどじっこは“おれのよめ”なんだよ」

「…は?」

「だからね、可愛いカズくんは僕が大きくなったら、およめさんにしてあげるね!」

と、無邪気な笑顔でプロポーズをされる。

「そ、それも、義父さんが言ってたの?」

返ってくる答えを聞くのは怖いが、恐る恐る訊ねてみる。

「違うよ。保育園のやよいせんせーだよ」

「そ、そうかー 」

はははと乾いた笑いを返しながら、この純真無垢な可愛い弟を、本当に保育園まで送り届けるべきか迷いながら、にこやかに歩く弟の手を引いて通学路を進むのであった。



とりあえず、成長すればそれこそ可愛い彼女でも出来るだろう。


そう思ってそのまま考えを正さなかったために、俺は10年後に後悔することになるのは、また別の話。

47128-639 美形で甘えたで淫乱で喘ぎすぎ、な攻。:2014/03/14(金) 17:07:49 ID:reivYb7U
「ぁ、あ…っ、…ショウちゃんの中、…気持ちイッ…」
熱い吐息とともに零れる甘い声。
白い肌を赤く上気させ、快感に蕩けた瞳が俺を見下ろす。
「ショウちゃんも、…気持ちイ…?」
「っ、…ああ、…俺も…気持ちイイよ…っ…」
頷いて返した言葉を裏づけるように己の内部を締めつける。
「ああっ、…そんなに締めたら、…俺、もう…っ…あ、あん、…イッちゃう、…イっちゃうよ、…ショウちゃんっっ…」
タクミはぎゅっとしがみついて夢中で腰を振り、すぐに身体を震わせて俺の中で果てた。
「…っ…はぁ〜、…気持ちヨカッタ〜」
クリームを舐めた猫のように満足げに目を細めるタクミだったが、つとその眉が寄せられた。
「ごめんね、ショウちゃん、また俺だけ先にイっちゃって…」
申し訳なさそうな表情に思わず口元が緩む。
――コイツって本当に可愛いよな。
 大丈夫だよと微笑んで、手を伸ばしてタクミの髪をくしゃりと撫でると、タクミの表情も綻んだ。
 腹の上に置かれたタクミの手を取り口元に運び、指先を口に含んだ。
 舌先でねっとりと舐めあげて、
「だって、またすぐ元気になってくれるんだろ?」
 視線を絡ませながら問いかけると、タクミの瞳にまた欲望の火がともる。
 普段は性欲などと無縁そうなこの綺麗な顔が俺に対する欲情に染め上がるのを見ると、いつもぞくぞくと興奮する。
「今度は、一緒にイこう」
 俺の中でタクミが元気を取り戻したのを感じながら、熱い吐息とともにそう告げた。

472拘束プレイ:2014/03/24(月) 16:49:36 ID:nso5cp1I
本スレの続きです。


そのまま尻を持ち上げて、ねっとりと舌を這わせた。無理な体勢だからか、先輩の足が小刻みに震えている。
しばらくたっぷりと穴を濡らしていたが、なんだかだんだんこっちが覚めてきた。
何だろう、何か違う。
違和感を振り払って、先輩に覆いかぶさる。
「それじゃ、いきますよ」
「私は構いませんが……本当にいいんですか?」
「……?」
何が言いたいんだろうか。僕は耳を先輩に寄せてみた。
「あなた萎えかけでしょう? 物足りなくて、何かが違う気がして」
図星だったが、動揺を出さないようにして聞き続ける。
「なめている間、こう思っていたでしょう。『これが自分のだったら、気持ちいだろうな』って」
「っ!」
「私もほら、こんなはしたない恰好です。あなたも乱れたところで、五十歩百歩。やってしまえばいい」
「やる、って……」
不意に、先輩が首を動かした。顔の横に置いてあった僕の手に舌を伸ばし、指をかするように舐める。
「そう、指をたっぷり濡らして、ほら、好きなようにいじればいいんです」
手を先輩の方に動かすと、先輩はねっとりと僕の指をなめてくれた。そのしぐさがいやらしくて、僕はゾクゾクした。
唾液まみれの指を後ろに持っていく。意外とあっさり、指は僕の中に滑り込んだ。
「あっ」
初めて感じる感触に、つい夢中になっていじり始めた。
「ところで、どうして私を犯すのがあなたにとって物足りないか知りたいですか?」
微笑みながら僕を見ていた先輩が、不意に話しかけてきた。
「……?」
「下を見てごらんなさい」
視線を落とすと、放置していたにも関わらず萎えていない先輩のモノが見えた。
「今、この状況でそれを見て、『これが自分を犯していたら』と考えたでしょう? それなんですよ」
「っ! ち、違う!」
「ねじ込まれて、何度も出し入れされて、中に出されて、目の前が真っ白になって」
先輩の静かな、それでいて鋭い言葉が胸に突き刺さる。
「快感でぐちゃぐちゃになって、体も心も私に支配されて、気持ちよくてたまらなくて」
「ち、がう……ちがう……」
「ここまで言われても、私の性器から一度も目を離しませんでしたね。いいんですよ、それで」
「ちがう……これは……」
「それは欲情です。もうあなたは、私に抱かれないと満足できない。そう仕込んだのだから、もう逆らえない」
もう先輩の体をおさえることもできず、足の間に座っているだけになってしまった。
「さあ、ほら、腰を上げて」
先輩が片足を曲げ、促すように軽く僕の体に触れた。思わず膝立ちになってしまう。真下に熱を感じて、僕の体も熱くなった。
「そう、そうしたら、位置を合わせて腰を下ろしてください」
まるで操られているかのように、僕の手がそっと先輩のモノにあてがわれた。そのまま、少しずつ腰を下ろしていく。
どうしていいか分からず、先輩を見る。先輩は、いつものような優しい笑みを浮かべていた。
「怖がらなくていい。あなたは私のものなのだから、私に従うのは当然です」
一貫して変わらない、冷静な声。強制などされていないのに、逆らえない。
「さあ。入ってしまえば、後はもう自由ですよ」
ひたり、と入口に先端がついた。くい、と先輩のあごがかすかに動いたのに合わせて、腰を一気に下ろす。
「ぁあああああっ!」
脳天まで貫かれるような衝撃と、痛みと快感。体が動くのを留められない。
「たまにはこういうのも面白いですね。ほら、もっと激しく」
先輩は一切手出ししていないのにもかかわらず、いつもと同じ、あるいはそれ以上に激しく体が揺さぶられる。
もう自分がどうなっているかも分からず、ただひたすら体のおもむくままに快感を味わっていた。

47328-699 卒業する先輩×入学してくる後輩 1/2:2014/03/27(木) 14:49:12 ID:2OFVafhI
僕の荷物はまだ届いてないようで、まずは一つクリアと胸をなで下ろした。
この春から大学に入る僕の初めての独り暮らし。引っ越し荷物を積んだトラックよりも早くついて待っておくのだと親に言い含められていた。
新生活の舞台となるアパートは古くて狭い学生用の安い物件。実家が遠方の僕は電話とネットだけでここを決めたから、僕の部屋である二〇四号室を見るのは初めてだ。
期待とともに階段をあがると、なぜかドアは開け放たれていて、覗き込むと雑然とした荷造り、場所をずらした家具、バタバタと動き回る知らない人。
聞いてない、前の住民がまだいるなんて。これ、引っ越し途中ってことじゃないか!
部屋の表示を見直すとやっぱり二〇四号。どうしたらいいのかわからず立ちつくしていると、中から背の高い眼鏡の男がゴミ袋片手に顔を出した。
余裕なく、
「ごめん、新しい人でしょ、ごめんごめん、あの、すぐこっちのトラック来るはずだから。聞いてたんだけど、ちょっと遅くなっちゃって、ごめんね、ちゃんと間に合わせるから。それまでどっかで待っててくれると助かる……」
まくしたてながらたたきに置いたゴミ袋がひっくりかえって中身が落ちる。それをあわてて拾いながら、
「あ、ああ、えっと、君、何時だっけ」
トラック到着は今から二時間後の予定だった。
「うん、大丈夫、僕のほうは荷物これだけだから、えっと、新入生だよね」
「はい」
「どこ行ったらいいかなんてまだわかんないよね。そこの道、ちょっと行ったところに『かおり』っていう喫茶店があるけど、そことかどう?」
「はぁ……」
喫茶店なんか一人で入ったことがない。そういう提案をするというだけで、この頼りなそうな人が急に大人に見えた。ためらってると、僕のとまどいがわかったみたいで、
「ああ……それもちょっとか」
ふっと笑われた。全然馬鹿にしたふうじゃないその表情が急にすごく先輩らしくて、なんだか優しい人だなと思う。大学生の先輩後輩ってこんな感じなのか。
「んー、そうだなぁ」
優しそうな人は考え込んだ。
「もしよかったら、空いたところに座ってる? ここ、もう君の部屋なんだし」
ちょっとほこりっぽいけど、よければ、と僕を差し招く。
「ワンルームでバタバタやってるんじゃ落ち着かないと思うけど。君、ゲームとか本とか、なんか暇つぶししててよ、荷物出して掃除して、すぐだから。ほんと、悪いねぇ」
言ってる間にちょうどトラックのバック音が階下にひびく。おそらくこの人のほうの業者が到着したんだ。
「ああ、来た来た、じゃ、待っててね」

47428-699 卒業する先輩×入学してくる後輩 2/3 分割間違えました:2014/03/27(木) 14:54:36 ID:g4hhbxaU
「……悪いね、本当にありがとう。君がいてくれて助かったよ」
「そんな、僕こそ、ありがとうございました」
僕のものが運び込まれた二〇四号室は、今は完全に僕の部屋だった。そこで、一緒にコンビニで買った弁当を食べている前の住人であるこの人と僕。
この人が自分の荷物を運び出している間に、一時間早く僕のトラックがやってきた。そこでトラブル発生、料金は親が先に支払っていたはずなのにまだもらってないなどと言い出す運送屋のこわいおじさん。何も言えない僕。
『ああ、すみません、お待たせしてます……あれ、どうしたの』
ひと言入れに来ただけのこの人が、泣きそうな僕に気づいて口を挟んでくれた。
『行き違いみたいですから、もう一回会社とこの子の親御さんに確認しましょう。ね、君、大丈夫だから』
自分の引っ越しそっちのけで不満顔の業者相手にてきぱきと指示を出して、会社のミスだったのを見つけてくれたのだ。
中断していたこの人の荷出しを僕は手伝った。そしたら僕の荷入れを今度はこの人が手伝ってくれて、おまけに両方の業者に『遅くなったから』と飲み物まで用意してくれて、全部終わった今、僕にまでお弁当なんかおごってくれて。もうお世話になりっぱなしで顔もあげられないけど、
(なんか、本当にいい人だな、最初に思ったとおり)
激動の初日に僕はぼうっとしてしまって、なすがままに甘えてしまっている。
「しかし懐かしいな、一年生か。いいよ、大学生って。四年間なんでもできるし、一生の友達や目標が見つかったり、人生が決まったりね。僕は六年間もやっちゃって今年やっと卒業だけどね。とうとうこの学生アパートともさよならかと思うと感無量だな」
六年って留年? 真面目そうなのに意外な気がする。
「先輩……なんですね、もう卒業なんですね」
せっかくこの町ではじめて知り合った人だというのに、これっきり。
「卒論が長引いてね、こんな遅い時期まで居座っちゃった。君は頑張るんだぞ、提出物はしっかり期限を守ること。ああ、学部はどこ?」
「理学部です」
「あら、僕の後輩だな……さて、ごちそうさま。今日は本当にありがとう」
ゴミをまとめて立ち上がった。僕は名残惜しくて、でもどうしたらいいのかよくわからない。
「あの、僕知り合いもまだ全然いなくて、大学のことも全然わからなくて、先輩が初めての知り合いなんです、もしよかったら」
勇気をふりしぼったら、やんわりと、
「僕は去りゆく身だからねぇ。まあ、いいんじゃないかな、僕は」
これは拒絶なんだろうか。
「君はすぐ入学式で、そしたら友達もできるし、サークルにもし入ったら先輩なんかいやというぐらいできる。アルバイトとか、彼女とか、もちろん勉強もね、毎日忙しくて大変になるよ」
僕は今、釘をさされてる。この人をなんていい人なんだろうって思ってるのを、気の迷いなんだよって言われてる。
僕がもっと大人だったら察することもできたんだろう。きっと彼はこう言いたかったに違いない、今、彼に感じている親しさは、新しい環境に不安を感じている子供の勘違いだと。これから出会うたくさんの人の中で、決して特別な出会いじゃないってこと。──ひょっとしたら、たった一回のことで懐かれるめんどくささもあったかもしれない。
「でも、あの、じゃあちょっとの間でいいんです、電話が無理ならメールだけでも、先輩。入学式までの間は僕ひとりなんで、いろいろ教えてください」
実際のところ、僕は子供だった。あきれかえるほどの図々しさ。その時は必死で気づきもしなかった。
彼は苦笑したんだと思う。仕方ないなぁ、いいのかなぁ、いやよくないなぁ、と首の後ろを撫でる。
「今だけだよ、心細いのは。……うん、まあね、その気持ちはわかるんだけど」
まるで親が見守るような優しい目で見られて、年齢とか、経験のへだたりを強く思わされた。僕が十八才ならこの人は……いくつだろう、少なくとも六は年上。
「今からいくらでも素敵な出会いがあるから、大丈夫」
本当に? 大学ってそうなのか? こんなにも執着したくなるような出会いが、そんなにも数多くある場なのか?
長い指がひらひらと別れを告げる。
「僕のことなんかすぐどうでもよくなるよ」

47528-699 卒業する先輩×入学してくる後輩 3/3:2014/03/27(木) 14:55:50 ID:g4hhbxaU
後からわかった。この時すでに恋に落ちていた。強烈な一目惚れ。
相手が同性ということもあって初恋に気づくまでに長い時間がかかって、ようやく慌てたときには僕には何の手段もなかった。あの人の言うとおりたくさんの友人も先輩も知り合いもできたけど、毎日苦しくて、切なくて。
なんだ、やっぱり特別だったんじゃないか。
歯噛みする思いでもっと食い下がらなかった自分を悔いて、結局なにも教えてくれなかった人を恨んだ。
「……だって、なんか君輝いてたんだもん、目がキラキラしててね、僕のことまっすぐ見てね、もう学生でもない僕じゃ友達としても不相応だと思ってねぇ……まあ僕も、先生になるんだ、学生じゃないんだってちょっと気負ってたんだろうね」
僕が三年生になったある日、教育学部になんかに所属してたこの人を見つけたときの驚き。
生物関連の研究室で助手兼論文執筆していた彼を、名前も教えられなかった僕は二年あまりも見つけることができなかったんだった。引っ越しも、学生専用アパートを出ただけで同じ市内だったというのに、それも全然わからなかった。六年間といえば修士の年数じゃないか。
いろいろあきれかえった僕に、それでもまだ若さゆえの馬鹿馬鹿しい情熱が残ってたことに感謝してほしい。
僕が輝いてたって?それってあなたからも好意を感じてくれてたって事じゃないのか。
「俺、最初から運命の出会いだって思ってましたから、先輩」
「ごめんごめん、そうだね……本当にそうだったね」
勝手知ったる元の部屋に今では入り浸りの先輩が笑った。
僕はもう子供じゃないし、先輩も今では全然大人に見えない。

47628-779 失恋してアル中一歩手前なあいつに片思い:2014/04/13(日) 15:59:51 ID:JymAhSoY
彼が振られたことはフロアの人間全員が知っている。
たぶん、次の異動では彼と彼女の両方がここから姿を消すことになるのだろう。
「あれ、何とかした方がいいんじゃないですか、島野係長、うちは接客もある社なんですし」
今日も言われてしまった。お節介な女性社員のみならず、今回は総務課の、普段はうるさいことなど言わない人からの指摘。
彼はそんなに目立ってるのか、と認識し直す。僕が気になるだけじゃない、客観的に見てひどいのだと。
彼は僕の部下だから僕には管理責任がある。
だから僕には彼を叱咤し、立ち直らせる義務がある。
大丈夫、おかしくない。僕は自分に言い聞かせて席を立つ。
「稲田君、ちょっと」
「あ、はい」
呼び出して使われていない小会議室へ。
途中でコーヒーを買ってやったのは、目を覚ます意味ももちろんあったが、なによりこの漂う匂いをごまかしてやるためだった。
「すみません」
大きな体を椅子の上で曲げ、しおらしくカップに両手を温める姿がいじらしい。
慌てて気をそらす。僕はあくまで上司なんだと自分に言い聞かせる。
「何言われるか、わかってるよな」
僕の言葉に彼は「すいません」と小さく答えた。
座るとますます視線の高さが違い、僕は彼を、下から覗き込むようにしないといけない。
「まさか、朝も飲んでるんじゃないよな」
「いえ、さすがにそれは。ただ、眠れないんで」
つまり朝方までやってるってことなのだろう。
内心、同情する。つまりそれぐらいひどい振られ方だった。
結婚を前提につきあっていたはずが、降ってわいた別れ話。彼女の腹には愛の結晶、別の男の。
よくある話かもしれないが、隣り合った係同士のカップルじゃ最悪だ。
おかげでこいつ、こんなに壊れてしまった。
人一倍大きな体のくせに気が優しくて、仕事が丁寧と評価されていた。
誰とでも上手くやれる方だったが、僕とは特に気があった、というのはうぬぼれじゃないだろうと思う。
一緒に飲みに行くのが週末の習慣だったのに、いつしか奴が彼女のことしか話さなくなって、程なくつきあい始めたという報告。
あの時、あんなに祝福してやったじゃないか。
こんなことになるなら……わかってれば俺が。わき上がる妄念を、頭を振って払い飛ばす。
「酒で眠ろうってのが間違いなんだよ」
「わかってるんですが」
「もう一切買わないようにしろ。翌日匂うまで飲むなんて非常識だ。食事、睡眠、きちんととれ。シャツにアイロンかけて、ネクタイも毎日替えろ。身だしなみぐらいちゃんとしてくれ、常識だろう」
「はい……」
どのくらいの厳しさで言えばいいのか、全然判断がつかない。
本当は、大丈夫なのかって寄り添いたい。しっかりしろよって胸ぐらつかみたい。
彼女のどこがいいんだよって。さっさと忘れて元のお前に戻れって。
それで、また飲みに行こうって。
「仕事の方はしばらく軽くするから。今やってる件、俺にまわして」
「いえ、そんな、それはちゃんとします」
「できないから言ってるんだよ、人に言われる前に自分で気づけ」
はっと顔を上げるから目があった。充血して憔悴しきった憐れな男の目。
僕の方が背が低いから、このまま抱きとめたらたぶん、僕のあごが上がってしがみつくみたいなみっともない恰好になる。
この馬鹿をまるごと包み込んでやりたいという望みは、どちらにしろ叶えられない。
唇を噛むから、投げつけるように言ってやる。
「悔しいか。悔しいならさっさと立ち直れ。みんな迷惑してるんだよ」
もし僕が彼を思っていないのなら、もっと優しく慰めてやれたはず。

47728-779 失恋してアル中一歩手前なあいつに片思い:2014/04/13(日) 23:17:42 ID:iEEOcog.
「本当、愛とか恋とかクソだよな。
 一見きれいそうに見えても、気の迷いとかで長年積み重ねてきたものも一瞬でふいになる」
「そうだな」
「その点、友情っていいよなあ。人生最後に残るのはこれなんだって今回痛感したよ」
「そうだな。……なあ」
「んー?」
「もう酒、やめないか」
「無理だね。これ以上の気晴らしがあったら教えてほしいもんだ」

もう半年ほど前のことだ。
往生際悪くかわし続けていた結婚を考えてる人に一度会ってみてくれという誘いを、
諦めをつけるために承諾し、同居しているという部屋のドアを開けたときに見たものは、
荒らされた室内と『ごめんなさい、真実の愛を見つけました』という書置きだった。
その後荒れ狂っていたこいつが見つけた逃げ道が酒だった。
これでこいつの気持ちが安らぐなら、と毎日の酒盛りにつきあっていたが、
だけど、だんだんと日を追うにつれ酔った時の目が据わってくるようになった。
話の内容も愚痴と思い出だったのが、女性や恋愛をこきおろすものになった。
そのくせ、やたらと友情を持ち上げるものだから、俺は試されてるような気になってたまらない。
本当にまいってるこいつを見るのがつらくて、思い出すから家に帰りたくないというこいつを泊めて、
新しい引っ越し先も探して、心配だから毎日様子を見に行って、
それでも、どこかあわよくばという気持ちが残ってる自分が、俺はたまらなく嫌いだった。

「でもなあ、このままだと心も体もぶっこわすぞ。」
瞬間、だん、とテーブルが強く叩かれた。
驚いて奴を見る。顔が赤いのは酒のせいだけじゃなくて、
あの日俺に向けたような、子供のように泣きだしそうな表情をしていた。
「しょうがないだろ。寝れないんだよ。
 もう俺はいやだ。正気に戻ったらどうせまた思い出して泣いて吐いてを繰り返すんだ。
 親友なら、黙ってくれるのが筋ってもんだろ。……頼む」
弱り切った声に、理性が切れた。
もうどうしようもない。お前も、俺も限界なんだ。
「……だったらさあ、新しい気晴らし教えてやるよ」
限界なんだ。限界なんだ。限界なんだ。嫌だ、誰か俺を止めてくれ。
「愛だの恋だのじゃなきゃいいんだろ?安心しろよ。ただの気晴らしだから」
俺は、一度傷ついたこいつを、また傷つけようとしている。

47828-739 全部嘘 1/3:2014/04/15(火) 18:31:00 ID:UGBJCrBc
 先生がこの家を私に残した、というのは、行き場のない僕をあわれんでくださったんでしょうな。
 先生は、とうとう血のつながるお身内のないままに終わってしまいましたから、こんな、継ぐものもいない、辺鄙な場所で買い手もつかない古家など惜しまなかったのでしょう。ほかに行きどころのない僕にとっては実にありがたいことでしたが、まあ先生にとっては処分の手間が省けて、僕に恩も着せられる、一石二鳥の策といったところだったのではないかと思うのです。
 ですから僕はこうして、先生なきあともせっせとこうして最低限の手をいれている。最低限の義理立てですな。
 綺麗ですか。へぇ、行き届いてますか。
 まあまあ、ありがとう存じます。
 先生が聞いたら笑いなさるでしょうな。あの方、自分では縦のものを横にもしない人でしたが、僕にはたいそう小うるさくものを言いましたから。今もほら、あの松の摘み方が多いの少ないのと、声が聞こえるようです。

 先生の書いたものは読みません。
 いえ、書いたのは僕とあなたおっしゃいたいのでしょうが、あれは言われるままに書くだけで中身なぞこれっぽっちも頭に入りません。
 まあ頭が悪いんでしょうな。もともと弟子でも書生でもない、ただの飯炊き、使い雇いです。
 先生の奥様が入られる前から、僕は本当なら通いの仕事を、無理を言ってここの家の離れに住まわしてもらってましたから。扱いが軽いのです。
 親の顔も覚えてないような育ちです。尋常小学校も何日とも行ってない。
 ですから先生は僕を遠慮なくこき使いなさった。
 あれも無茶な人でしてな、平仮名しか書けないような僕に聞き書きをさせるというから驚いた。使えぬ使えぬといいながらまあ、辛抱強く言い聞かせられました。わからぬ漢字は紙に書いて見せて。本末転倒ですな。
 お陰で僕には勉強になりました。いっぱしの口も聞けるようになった。変わった方でした、時間ばかりかかるようなやり方をして、ずいぶん版元様にはお叱りを受けたようです。
 見かねて奥様が代わってくださいましたけど、奥様が菩提に入られてからは僕が、ええ、やっぱり叱られながら書きました。
 そういうのですから、先生のお作の部分部分は、あんまり出来が良くないんじゃないですか。
 はあ、そんなのがあるんですか、はは、それは確かに奥様がいらっしゃらなかった頃のものですな。からかいなさっちゃいけません。僕じゃなく先生が偉いんでしょう。

47928-739 全部嘘 2/3:2014/04/15(火) 18:32:13 ID:UGBJCrBc
 奥様は実にお優しい方でした。綺麗で、よく気のつく方で、ころころと笑う声がお可愛らしくて。
 先生が僕にいろいろと言いつけるものだから、気の毒がってくださいまして。
 先生にはトンジャクありませんでしたが、僕に所帯をもたせようと世話してくださったり。
 いつまでも納屋住みじゃあってんで長屋を探してくださったり。
 それがあなた、決まりかけると先生が邪魔をする。別に見つけた代わりの飯炊きに難癖つけたり、僕に四つ目垣を作らせるようなやっかいな庭仕事を言いつけて宿替えを日延べさせたり。あげくに先方に勝手に断りをいれちゃってね、文士様の考えることはわかりません。そんなこんなで僕はずっとこの家の小屋住みです。しょうかたなしにお仕えして、とうとうこんだけの日数が経ったような次第でございますよ。まあそうですな、奥様がいらっしゃらなくなった後は僕一人が先生のお側におりました。
 奥様が亡くなったのはいつの年でしたかね。あの大風のひどかった年じゃなかったですかな。あんなに早くに儚くおなりで、あの時分の先生のお嘆きは昨日のことのように思い出されます。
 佳人薄命とはよくいったものです。お子さまも授からなかったから、先生はそれからずっとおひとりでここの家から一歩も出ませんでした。
 僕ですか。僕はもちろんこちらの離れで寝起きしてました。それゃあなた変わりませんよ、奥様がいなくなったからって使用人の分というものはわきまえおりました。あちらが先生の家、こちらが僕の領分。同じ屋根に寝起きすれば僕の仕事は楽でしょうが……それじゃ申し訳ない。
 先生の家を掃除して飯を炊いて、魔術の呪文のように先生の口から湧いて出る御本の中身を紙に写し取って、茶を汲んで、夜になったら床をのべる。判で押したような生活が長く続きました。何が楽しいんだか、僕なんか話し相手にもなりゃしないのに、顔を合わせるほかの者もない中で、毎日毎日。
 いやあ、知りません。通う女も囲う女もいたんだかいないんだか。奥様がいらっしゃらなきゃなんにも悪いことじゃなかったでしょうが、あの方、朴念人でいらっしゃったから。なんにも考えずに好きなもんを好きだ好きだと、善悪の区別もつけずに玩具にするような、人の気持ちのよくおわかりにならないようなところがおありでしたな。
 ……おいでになったのかもしれません、奥様がご存命の頃から。であれば奥様はさぞやご苦労を、なさったことでしょうな、お気づきであれば。
 先生を悪く言うつもりはありません。僕は気づきませんでした。なんにもわかりません。
 ここにいると母屋の気配はわかりませんから。
 あちらからもわからない。ここで何があっても聴こえない。大声で呼ばれることなんかないもんだから、それで良かったのです。用がある時分には出向くのです。先生から用があるときは……いや、そんなものはありゃしませんでした。

48028-739 全部嘘 3/3:2014/04/15(火) 18:34:39 ID:UGBJCrBc
 あなたは……ずいぶん酔狂でいらっしゃいますな。もっとと言われましても、僕のようなもんの話がなんの役に立ちますか。
 先生の御本の記念にこの家屋敷を残す、それは結構なお話だと思います。ありがたいことです。今さら行くところもない僕ですから、ここの手入れをさせてもらってそのまま死んでいいというお話は本当にありがたい。名義ですか? そんなもの、ここは先生のうちですから、先生がどうなさったか知りませんが、難しいことはとんとわかりません。まあ私になってるから、そうですね、皆様しかたなくそうしてくださるのでしょう。せいぜい早くくたばって言いようにしてもらう方がよろしいようです。
 でもそうですね、そうまで仰っていただけるなら、ひとつだけお願いを申し上げてもよろしいですか。図々しい爺の勝手なお願いです。でも、ぜひとも聞いてもらいたい。

 母屋はどうぞ残してください。あれは先生が長じて五十年、ずっとお住まいになった大事な家なのです。先生のものはみんな、なにひとつ捨てずに残してあります。そういうのが御研究にのお役に立つのでしょう? 僕には先生の本はさっぱりわかりゃしませんし、賢い頭から出た考えからというわけでもありませんでしたが、まあとにかくあちらは先生が御本を書いてたときのままにしてあります。奥様の鏡台も箪笥もそのまんまだ、手なんかつけません。どうかなんでもご覧になってください。先生のものは全部あそこに揃ってる。そうしないとね、怒られる気がするってだけです、僕も気が小さいものだから。
 ですけどね、僕が死んだら、こっちの汚い納屋なんぞは取り壊してください。お目汚しですから。こっちはね、同じ年数だけこの僕が住み散らかしたってだけの小屋です。物置として置いておいた物は今は全部母屋に移しました。全部奥様のもとへお返ししました。大したものは最初っからありませんでしたしな。ここにあるのは今はもうこの爺のがらくたばかり。
 ねぇ、お手数お掛けしますが、こればかりはてめえで始末つけるわけにゃいかない。火をつけるにも母屋まで焼けちゃ、ことだ。今日あなたが来てくださったのは何かのご縁だと、そう思っていただけませんか。どうか、頼まれてやってください。
 先生はこの納屋と関係ないのです。こんなむさ苦しいところに来るようなことは一度もありませんでした。ええ、先生は一度も来ませんでした。そりゃ中を覗いたことぐらいはあったかもしれませんけど、ですからね、ここは無価値です。先生にはなんにも関係ありゃしません。どうぞ遠慮なく御処分ください。先生のことは、ここにはなにもないのです。
 見苦しい。こんなものが残るのは。
 僕は死んでから恥など晒したくはないんです。先生の飯炊きというだけの僕です、先生とは関係ない、何も。

 ──長くお話ししましたな。
 くれぐれもお願いしますよ。
 どうか、また御用の際はいつでもお声掛け下さい。暇な爺です。毎日掃除だけして生かさせていただく老いぼれの身です。
 先生もまったく酔狂なことでした。僕なんぞのために。こんな爺のために。
 僕なぞはね、どうしようもないものですよ。無駄飯ぐらいの大嘘つきですよ。ええ……ああ、僕は今嘘つきといいましたか。いえいえ、あなたに話したはなしは本当、全部本当ですとも。
 あなた、ご研究で先生のこと聞いて歩いてるわけでしょう、もし僕が嘘を言ってたらどうしようと、そういう顔ですかな。ははあ。
 ご安心なさい、僕の話は本当です、それが証拠に、先生のお作となんも違うことは言ってない。随筆もずいぶんありましたから、おわかりでしょう? ね、僕は先生の雑文だってちゃあんと覚えてますからね。大丈夫です、天地天明、神誓って本当のことですとも。
 ああ、嘘つきは地獄へ堕ちます。僕は極楽で先生と奥様に二目お目見えするのを楽しみにしているんですから。あの、お優しい奥様と仲むつまじい先生のお姿をもう一度みたい見たいと思って、お迎えを待ってる爺でございますよ。嘘など……

 ねえ、あなた、僕が言うのが全部嘘なら、僕は地獄へ下ってえんま様に舌を抜かれるのです。
 実に、実に申し訳もないことでした。

48128-809「木×葉っぱ」:2014/04/21(月) 03:50:52 ID:ku6uuzFo
おしべ、というのはみじめなものだと思う。
どんなに素晴らしい種を持っていても、実になれるのはめしべだけだ。
自分の種を受けた相手が実になっていく横で、寂しく枯れていかなければならない。
体が黄色くかさかさになり、落ちるのを一人待つだけ。
土に落ちれば、あとは腐るだけだ。

「・・・それでは」

だから俺は喜ぶべきなのかもしれない。自分が葉であったことを。

「ああ、じゃあな」

木に栄養を与えた後は、用済みになって落とされる。
葉もおしべも、用済みになれば木にとっては同じだ。
一生で幾度も出会うもののたった一つに過ぎない。
それでもまだ。
俺は足元に落ちたあいつとは違う。風に乗って、遠く離れていけるのだ。
木のように、次々と新たな命を生み出すあの人から。
この箱庭のような王宮から。

48228-829「追伸 好きでした」:2014/04/25(金) 01:08:38 ID:mKs/WkfE
「前略 お元気ですか」

そんな一文から始まる手紙が俺に届いたのはGWを目前に控えた週末のこと。
細いペン字は書いた人間通りに角ばって、ちょっと左上がりの癖がある。
2年ぶりに見る字は相変わらず綺麗だ。

「君はどう過ごしていますか。堕落などしていませんか。
僕が居なくても大丈夫と言ったのは君のほうですが、以来何の連絡もしなかった僕は少々意地が悪いのではないかと最近思うようになりました。
元気でなくとも良いのです。君が君であれば良いと思っています。」

薄墨で引いたような色の文字に、同じく淡々とした文章が続く。
大学進学を機に離れた幼馴染は相も変わらず年相応のことを言いはしない。
きっと俺と違って変わりもせず、変わりものでいるのだろう。
ぼんやりとだけ思い出せる、メタルフレームの似合うあいつの横顔を思い出しながら便箋を捲る。

「先日、君が好きだと言っていた曲を聴きました。
失恋した者は南をめざし光を得ろ、と歌う曲に倣って君は南の大学へ進んだのではないかと疑っています。
卒業の半年前にふらりと一週間放浪した君を、その表情を、僕は憶えています。
僕が好きな本を君に話したことがありますね。
憶えていずとも結構です。ただ僕はその本を胸に北へ行く決意をしました。
北へ向かうことに何の意味があったのか、僕は未だ知れずにいます。
君は南で光を見付けましたか。」

それだけで手紙は終わった。
北の国立大へ余裕で合格したあいつが言うことは、今日も小難しい。
ギリギリで南の私立大に引っかかった程度の俺には訳が分からない。
あいつの字はあいつと同じで細くて、俺のごつごつした指よりも小さい。
俺が絶望した一週間は、あいつへの恋心で始まって、それを断つことで終わった。
本が好きだったあいつはいつも何か文庫本を持っていた。
題名を聞いたこともあったけれど、俺はそれを覚えていることはできなくて、けれどそんな俺を責めない言葉に救われる。
本当は救ってほしいんじゃなくて、愛してほしい。
俺の光は北に行ったのだと、告げれたなら幸せになれるんだろうか。
そもそも、この手紙は一体なんなのか。
あいつのことだから、大した意味など無いと眼鏡の奥の瞳を細めて笑うだけなのか。

手紙を畳んで仕舞おうと、封筒を開いたとき、それは目に入った。
内側に常より薄く細い文字が7つ、几帳面なあいつにしては珍しくずれて記されている。
手が止まり、心臓が止まったかと思ったくらいの時間。
光は遠ざかる、時間は進む、俺は立ち止まったまま、あいつに恋をしたまま。
踏み出すための一歩も、友達に戻る一歩も、果てもないほど遠い。
遠い遠い恋の決断を、一秒後に俺は下す。

48328-859 幼馴染と再会:2014/05/03(土) 11:11:24 ID:Yj9zrL5o
規制で書けなかったよ…NL要素及び女性出演含み注意


俺の初恋は幼稚園。隣に住む幼馴染相手だった。
日焼けした肌にロングヘアーが似合う綾子。毎日一緒に駆け回り、そして怪我をしては互いの親に雷を落とされていた。あの頃一緒にいたかったあの思いはきっと初恋だ。
そんな俺たちを慰めるのは4歳上の綾子の兄ちゃん。
ほんっとの兄ちゃんみたいで俺は懐いて憧れていた。話も合うし優しいし、綾子と違っておとなしい慶太にい。大人の慶太にい。

俺が小学3年生の時、綾子と慶太にいは引っ越した。慶太にいの病気の関係と知ったのは俺が中学になったときだった。

「もう数也も20歳か!!!はえー、そりゃあ僕もおっさんになるわ!」
「兄貴うっせー!」
「あーや、声でかい」

俺の所属するサークルが他大学のサークルとイベント企画をした時、綾子と再会した。だって何もカズ変わってねえもんwwwと爆笑されたことは記憶に新しい。

「つーか、開口一番が、慶太にい元気?って笑ったわー」
「数也は僕のこと大好きだもんなー!」
「あー煩い!こんな酒飲みに心配して損したよ、マジで」

大事をとった引っ越しだったらしく、慶太にいは直ぐに完治して、今は細マッチョ?ってのかな。相変わらずかっこいい。

「にしても、数也と酒を飲めて僕は嬉しい!!!」

あの頃は2人のお世話楽しかったなあ!と慶太にいは俺を抱き締めながら笑う。ああ、慶太にいの思い出に俺も残ってたと思うと顔がにやける。

「…カズ重症すぎ」
「は?」
「完治してるかと思ってたのに…」
「ん?完治は慶太にいだろ?」
「無意識うぜー。あの頃叱られる機会わざわざ増やしたことも記憶に残ってないよねー」
「あーや、何言ってんの?」
「だめだこいつはやくなんとかしないと。あ、こいつら、か。うん」

よく分からない言葉を吐く綾子を横目に、慶太にいの酒をつぐ。離れて約10年。再会した幼馴染たちと新たな時間を過ごせると思うと、やっぱりにやけが止まらなかった。

484名無しさん:2014/05/03(土) 11:42:00 ID:36u8p5U6
本スレ続き

・攻めは諦めない
受けはクラスメイトとは話さず
攻めが毎日話しかけるが無視される
下校時も一緒に帰 ・和解
次の日攻めは落ちて受けに助けてもらった階段の一番上で受けを待ちぶせ
受けがやってきて攻めに気付くが無視したまま階段を登る
攻めがわざと飛び降り驚くも受けがキャッチ
何してる?!と怒る受け
「話してくれるまでここから毎日落ち続けてお前に助けてもらう。そんなことしてほしくなければまた僕と仲良くしよう」と言う攻め
よくわからない理論に馬鹿じゃないの?と苦笑する受け
攻めが「お前笑うと可愛いよ」と言うと不貞腐れたように照れて下を向く受け
その顔にときめく攻め
小さい頃も受けの笑顔にドキッとしたなと思い出す
受けは観念したのかその階段で二人は夜遅くまで昔話をする

別れ際受けが「なんで普通じゃない化け物みたいな俺とまた仲良くなろうと思ったんだ?」と聞くと攻めは「可愛い笑顔に惚れちゃったのかもな!」と言うと走って逃げ去る
振り向くと受けが「ふざけるな馬鹿!」と赤くなりながら叫んでいた 撒かれる

・秘密がバレる
攻めは下校時いつも撒かれるがたまたま受けを見つけ追いかけて話しかける
受けは無視して歩き続けるが長く急な階段に差し掛かった時
受けの数段下にいた攻めが足を滑らせ落下
受けが人とは思えぬ速さで走り下り攻めをキャッチ
攻めは凄い運動能力に感動するが
受けは秘密がバレたと苦い顔をしもう話しかけないでくれと言う

・転機
翌日も攻めは受けに話しかける
受けは放課後人気のない所に攻めを呼び出す
「昨日で気付いたと思うが俺は普通じゃない。
昔みたいに怪我をしたくなかったら二度と関わろうとするな。
昨日の事は誰にも言わないでくれると助かる」
と言って去ろうとする受け
しかし攻めが
「お前と友達になるまで話しかけ続けるよ。
お前は昨日僕を助けてくれたじゃないか。
あの時のお前すごくカッコよかった」
と言うと呆気に取られるが少し赤面する受け
受けは恥ずかしくなりその場を走って立ち去る

485名無しさん:2014/05/03(土) 11:51:41 ID:36u8p5U6
・和解
次の日攻めは落ちて受けに助けてもらった階段の一番上で受けを待ちぶせ
受けがやってきて攻めに気付くが無視したまま階段を登る
攻めがわざと飛び降り驚くも受けがキャッチ
何してる?!と怒る受け
「話してくれるまでここから毎日落ち続けてお前に助けてもらう。そんなことしてほしくなければまた僕と仲良くしよう」と言う攻め
よくわからない理論に馬鹿じゃないの?と苦笑する受け
攻めが「お前笑うと可愛いよ」と言うと不貞腐れたように照れて下を向く受け
その顔にときめく攻め
小さい頃も受けの笑顔にドキッとしたなと思い出す
受けは観念したのかその階段で二人は夜遅くまで昔話をする

別れ際受けが「なんで普通じゃない化け物みたいな俺とまた仲良くなろうと思ったんだ?」と聞くと攻めは「可愛い笑顔に惚れちゃったのかもな!」と言うと走って逃げ去る
振り向くと受けが「ふざけるな馬鹿!」と叫んだ

48628-869 夜の図書館:2014/05/05(月) 00:41:00 ID:TS4WBc1g
投下が上手くいかず、ニンジャ規制になりましたorz



図書館はいつも隠微な匂いで満ちている。
紙とインクの匂い。埃の積もった匂い。日向の少し黴びたような匂い。
そこに更に雨と夜ふけが重なると、悪徳と頽廃と秘密の箱庭になるのだ。

「……来ると思ってた」
少し軋むドアを開けると、暗闇から掠れた声が響いた。
田舎の古い図書館には、セキュリティシステムなどという気の利いた物はない。
傘立てに入った濡れた傘で、いるのは判っていた。
「来たく、無かった」
ぶっきらぼうに言うと、細いLED電灯の光が閃いた。くすくすと笑う声。
「でも……来たんだ、ね?」
ひらり懐に飛び込んで来た身体は、腕の中に閉じ込めようとすると、するりと逃げる。
「今日こそ、返してくれ」
「嫌だ」
ぱたぱたと足音が書架の後ろに遠ざかる。
「……今日も、10分。捕まえられたら返す。捕まらなかったら……」
光が消え、足音が遠くなる。
この図書館の広さを恨めしく思うのは、こんな時だ。
昼間は整然と並んでいる知識の泉が、今はお前を俺から隠す森になる。
ここは隅から隅まで知っている筈なのに……。
懐中電灯を持つのも、ヘッドライトをつけるのも却って邪魔な()のは、経験上判っていた。
暗闇の中で白いシャツを追う。
せめて書棚がスチール製なら、向こう側へ容易く手を伸ばせるものを。
ーー何故雨の夜なのか。何故この場所なのか。何故俺なのか。
夜の鬼ごっこを楽しむ歳でもないのに、いつもお前の微かに笑う声がする。
ーーもう雨の夜にここに来るのは辞めるべきだ。早く捕まえて終わらせるべきだ。
頭の片隅で、まともな俺が囁く。
ーー何故終わらせないかって?何故ここへ来るかって?
あざ笑うような、哀れむような俺の声がする。
ーー……判っているんじゃないのか?全て。
息が切れ、心臓が千切れそうだ。
いつの間にか、目の前にお前が立っている。
「……10分経ったよ。隆也の負けだ」
「……っ!その、名前でっ……呼ぶな」
後の言葉は和馬の唇で塞がれた。
汗の匂いと、雨の匂いと、図書館の匂い。
水銀燈に引き寄せられる虫のように、和馬の身体に吸い寄せられる。
荒い息の中、俺の身はとうの昔に屹立していた。
「隆也ぁ……隆也ぁ……」
「和馬……和馬……」
暗闇の中、慣れた場所で、互いの服を剥いで獣のように貪り合う。
人で無くなった二人に、雨の音がその音を消し、本の森がその姿を隠す。

平日夕方の図書館は、絵本を借りる親子連れと、暇な学生で、それなりに盛況だ。
「平井さん平井さん、弟さん」
同僚の声に顔を上げると、弟が女の子と立っていた。
「なんだ、和馬。どうした?」
「兄貴。この子がさ、○○の本、予約したいんだって」
差し出された予約申込書を見ると、もう18名ほど予約で埋まっている本だった。
「これ、順番かなりかかるけど、良い?」
念を押すと、女の子の顔が一瞬、戸惑った。
「あ……はい、お願いします」
処理をしている間、女の子が和馬に話しかけている。
「順番先に回したり……して貰えないんだね」
「当ったり前じゃん。特に兄貴なんか真面目だもん。無理って言ったろ?」
弟が鼻で笑っている。
「でも、図書館の司書って本いっぱい読めそうだし、閉館日とかここ独占出来そうで羨ましい……」
「鍵があっても、私用で使う訳ないでしょ。合鍵でも作らない限り……」
そこで和馬は俺の方を見て、ほんの少し笑った。

487夜の図書館1/2:2014/05/06(火) 01:36:10 ID:8cgULlT2
既に書いてらっしゃる方がいるのに何ですが、時間切れの後にテーマを見て萌えたので。



窓から差す月明かりと非常灯だけが頼りの夜の図書館。入口からも窓からも死角になる棚の間で人を待っていた。
「…吉井先輩」
「仲原…、」
仲原からのキスで言葉が遮られた。止めようとしたが、久々の触れ合いは心地よく、結局しばらく身を任せた。
「、こら、駄目だ」
仲原が舌を入れようとするので、俺はさすがに慌てて仲原を押し退けた。
「…じゃあ、どうして僕らはわざわざこんな夜中に、暗い図書館で逢い引きなんてしているんですか」
「嫌らしい言い方をするなよ。噂になると面倒だからだろう…前に退学させられた生徒の話、聞いたことないか」
背の高い本棚に押し付けた俺の体にしがみつきながら、仲原がぴくりと身じろぎした。
「…確か先輩と後輩が付き合っていて、先輩の方だけ退校処分になったとか。下級生に手を出したという理屈で」
二人は好き合っていたらしいのに、乱暴なことをする。どうも権力者だった下級生の親が学校に怒鳴り込んできたようだ。
「分かってます…でも僕、先輩のことが好きで、堪らなくて…!」
仲原が胸に顔をすり寄せてくる。俺は子供をあやすように、小柄な仲原の体を腕の中に収めた。

全寮制の男子高校で、こんな関係になる生徒がゼロという方がかえっておかしいと、俺は思っている。
まさか自分がその当事者になるとまでは考えてもみなかったけれど。

この学校はどちらかと言えば武道やスポーツに力を入れていて、文科系の人間は肩身が狭い。
元は野球部目当てに入学した俺は、まるで軍隊さながらの練習にすっかり嫌気が差し、
肩を壊したのを機にこれ幸いと部活を辞めて、もう一つの趣味だった読書に勤しんでいた。
教育方針とは裏腹に、この学校には校舎から独立した図書館があり、かなりの蔵書数を誇っていた。
ある日俺が図書館で文学作品をいくつか借りていると、本を山のようにかかえた生徒…仲原を見かけた。
線が細く大人しそうで、いかにもこの学校に向かない少年。気になって次に会った時に声を掛けた。

488夜の図書館2/2:2014/05/06(火) 01:41:10 ID:8cgULlT2
同じ本好き同士話が合うかと思ったのだが、予想外だったのは仲原が借りていたのが全て推理小説だったことだ。
社会派推理小説が勢いを失って久しいがここ最近は本格推理が復権してきて云々、
人が殺される小説なんてと眉をひそめる大人が多い中ここの司書は理解があって助かる云々…
仲原はここぞとばかりに薀蓄を語った。内容はさっぱりだったけれど、目を輝かせる仲原の話を結局最後まで聞いた。
こうして奇妙な付き合いが始まった。俺が少しばかり推理小説を齧るようになり、仲原が文学作品を読むようになり、
そのうち、変な噂が立つと困るから夜にこっそり会おうと…こう言い出したのは仲原だ。
…情けないことに、初めてのキスも仲原の方からだった。
お互いの想いには気が付いていたのに、俺は踏み出すことができないでいた。それに、今だって…

「…ん、やめろったら」
仲原の手が学ランの上着の下に入ってきて、俺はまた仲原の動きを制した。
「先輩がキス以上のことをしてくれないから…」
ふてくされたような言い方が、可愛い。
俺だって男なのだから、今以上の関係になりたいという欲はあるが。
「校内で淫行なんて、ばれたら二人そろって退学だぞ」
俺だけならまだしも、こいつの将来まで狂わせるわけにはいかないのだ。
「…今は何を読んでるんだ」
話を逸らそうと、唐突にそんなことを言ってみる。
仲原は、有名な文学作品のタイトルを口にした。
「まだ読んでなかったのか」
「推理小説専門の僕をこっちに引き込んだのは先輩ですよ」
仲原が俺から離れ、俺の隣で本棚にもたれかかった。
「――『恋は罪悪』、ですって」
件の本に出てくる有名な言葉を、仲原は引き合いに出した。
「吉井先輩に会う前なら、わからなかったと思います」
俺も、こいつと会う前にはよくわからなかった。
退学の危険を冒して夜中にわざわざ寮を抜け出してでも、会いたい人間がいる気持ちなんて。

俺は仲原の体を抱き寄せると、そっと口付けた。二人とも、体が少し震えていた。

489>>29 ご飯にする?お風呂にする?それとも… 1/2:2014/06/01(日) 08:52:43 ID:qMKqFBco
「お、帰ったか、ご飯にする?お風呂にする?それとも……寝る?」

俺は同居人の男と共同生活している家に帰ってきた時に聞こえてきた同居人の声にピクリとまゆを跳ね上げる

「お前は俺を飯も食わず不衛生なまま活動できる生物とでも思っているのか」

俺の不機嫌そうな声を聴いた同居人の男が物陰からひょこりと顔をのぞかせる
ごつい男だ、筋肉質で身長も体重も優に俺を超えているに違いない
強面ではないが迫力がある

「いや、少しぐらい乗ってくれてもいいじゃんか」
「充分に乗ったじゃねぇか」
「そうじゃなくてさ……『そこはわ・た・し?って聞くところだろう!』みたいな」
「声真似をやめろ鳥肌が立つ」

奴は俺の声に似せたらしい男にしては微妙に高い声で奇妙なことを言う
俺たちは男同士だ、あいつにも俺にも互いへの恋愛感情はないしひと肌恋しさに……という関係でもない
そもそも男同士ということ自体ありえないといえばありえないのだが

「そんなこと言わなくてもいいじゃん、一応傷つくからな?」
「お前が傷つこうが知った事じゃない」
「うわひどっ、お前はオレを何だと思ってるん?」
「食事もとらず風呂にも入らず不衛生なまま眠る原始人以下の存在」
「はっはっは、お主ぬかしおるのぅ」

そういうと奴はげらげらと笑いながら奥に引っ込んでいった
あいつはああ見えて少食だし、風呂は一日何度も入るほどきれい好きだ
それを俺が知ってての発言だとわかっているから性質が悪い
小さく舌打ちしながら靴を脱ぎ自室へと行きスーツ一式をかけ終え普段着に着替えたところであいつのまた呑気な声が聞こえる

「おーい、ご飯にする?ご飯にする?それとも、ご・は・ん?」

一択じゃないか、そう思いながらリビングに向かうと夕飯が用意されていた
こいつ、自分が食べる量少ないからその分栄養価の高いものを作ろうとする、炊事が得意なのはそのせいだと酔った時に言っていた
事実かどうかは知らないがこいつの作る飯は人並みにはうまい、実家の母や姉、あとレストランとかの一流シェフにはかなわないが
夕飯は豚の角煮やもやしがやたらと多い野菜炒めにこんにゃくと大根の煮つけだった


「ごちそうさまでした」

用意された食事を食べ終わると再び奴がこういう

「それじゃあ次はお風呂にする?お風呂にする?それとも……」
「風呂に入る」

奴が最後の部分で溜めているところで遮るように言えば奴は目に見えてしょげた

「じゃあさっさと風呂入れ」

そして俺を風呂場の方へ足蹴にしつつ奴は食器を台所へと運んでいった
俺はというと先ほどの豚の角煮、少し味が薄かったなと思いつつ服を脱ぎ捨て洗濯機の中へ放り込む
今日の洗濯当番はあいつだ、となれば明日は俺、気が滅入る
奴は汗でぬれるのが嫌なのかしょっちゅう服を着替える、そのせいで毎日の洗濯量が半端ではないのだ
それを干す側の身にもなれと思ったが、あいつは軽々と干すんだろうとため息をつく

490>>29 ご飯にする?お風呂にする?それとも… 2/2:2014/06/01(日) 08:53:16 ID:qMKqFBco
「上がったぞ」
「温まったか?」
「ああ、十分にな」
「じゃあ、睡眠にする?就寝にする?」
「まだ寝ない」
「それとも寝る?」

寝間着に着替えての風呂上り、予想通りの問答だったが遮るような発言はまったく意味をなさなかった
「まあそりゃそうだ」と奴は笑いながらテレビを見ている
流れているのは雛壇芸人たちが司会者の奔放な振りに翻弄されている……よくあるトークバラエティーだ

「面白いか?」
「微妙」
「そうか」

「チャンネル変えていいか?」と聞けば「別にみてないからいいよ」と返す
本当に見てないんじゃなくて暇つぶしとして眺めていた程度なのだろう
番組表を見ながらチャンネルを変えるが、ニュース番組、バラエティー、衝撃映像、映画の地上波放送など変わり映えのしないものばかり
洋画に興味はないので適当なバラエティーにチャンネルをあわせ床に座ってぼーっと眺める
途中「面白い?」って聞かれて「全然」と答えた以外俺と奴に会話はない
テレビからは司会者や芸人たち、時にはスタッフの笑い声が混ざり響く、何がおもしろいかはわかるが笑うほどのものか?と思う
ちらっと見た奴はスマートフォンをいじっている、あいつが何をしているのかは全く知らないがどうせ呟き鳥やら巷で流行っているソーシャルゲームだろう
「楽しいか?」と聞けば「暇つぶしにはちょうどいい」と言われた

俺はテレビの電源を落とし自室でデスクと向かいあう
部屋に向かう途中、「寝る?」と聞かれて「まだ寝ない」と返しておいた
カタカタとデスクの上のパソコンを操作して好みのサイトを見て回り、また細々した仕事を片付ける
大して時間はかからなかったがパソコンの画面右下に表示されている時計を見るとそろそろ寝ないと明日の仕事に眠気が残ることになる
最後に茶を一杯飲もうと部屋から出るとあいつは机に肘をつきながら洋画を見ていた
「面白いか?」と聞けば「ストーリーがよくわからない」と返ってきた、時間的に途中から見始めたのだろう
ペットボトルに入れていた麦茶をコップに注ぎ少しずつ呷る
そして台所のシンクでコップを洗う
再び部屋に戻ろうとしたところ奴がこっちに目を向けていた

「そろそろ寝る」
「うん、お休み、オレは洗濯物終わってから寝るよ」
「聞いてない、おやすみ」

俺は自室に戻るとそのままベッドに倒れこむ
掛布団をもぞもぞと引上げ、そして電気を消せば暗闇がつつむ
その暗闇をしばらく見つめている内に俺はいつしか現実と眠気の境界を無くしていた
眠っているわけでもないけど起きているわけでもない、最も心地よい瞬間
遠くから聞こえる洗濯機の音も揺られているようで心地いい

あいつとの関係を聞かれたとき、『友達』や『親友』かと聞かれれば違うと答える、しかしただの『知り合い』でもない
そもそも定義づける必要のない関係なのだ、友情や愛情なんて明確な言葉にしたら安くなる

そんな男といつまで共同生活するのだろうかと思いつつ俺は考えを無くした


余談だが、この後俺はすぐに洗濯機の無機質なアラームに起こされることになった

49129-59 世界で一番怖い:2014/06/06(金) 11:14:59 ID:QAo2TL/w
世界で一番こわいのはかあさん、先生、おばけ。小さい頃の私にはたくさんの怖い物があった。
大きくなるにつれて自分が人と違うことに気づいた。それは成長期の人間の誰もが感じることなのだろうが、私の場合は人間として異常、つまり正常な恋愛に対して不能であるという、もっと平たく言えば同性である男性を恋愛対象と認識するという、人よりも大きなハンデとしてのそれで、一生の十字架となるべきものだった。
これが世間にばれたら私はおしまい。奥手なたちだったので、気づいたときにはすでに社会的な立場があった。口を糊するための方便とは言え望んでついた職業。結婚を話題にされるたびに私は曖昧な笑顔で逃げた。
まとも、といえば語弊があるが、男同士においてのごくまともな恋愛、恋人を作りともにすごす甘い生活。そんなものは望むべくもなかった。いったい世間のいわゆるオープンにしている人々、意気地のない私と違う先達はどうしているのだろう。手をつなぐことはおろか、二人で歩く、二人で食事することすら私には難しい。きっと会社の人間と二人で過ごす時間とはまったく違う。私は赤面して挙動不審になり、周囲に怪しまれてひそひそと訝しがられることだろう。そんなのは御免だった。怖かった。
私は一切誰にも近寄らなかった。結婚話も年を経るに従って誰も私の前では口にしなくなった。器量の悪い、不器用な男だからこの年になるまで独り身なのだと皆納得してくれるらしかったから、ありがたかった。
もう一生独身で構わないのだ。私の一生が安泰にこのまま過ぎれば。仕事でそこそこの成果をあげていたから、この世に生きた証もささやかながら残せたと思う。これでいい。平穏が一番なのだ。

彼は私に言った。
「松村さんのことを尊敬しています」
尊敬とは美しい言葉だった。私は、癖になった人当たりよく見えるであろう笑顔を顔に貼り付けて礼を述べた。
「違うんです、本当に僕は」
彼は自分のことを僕と言う。私ほどではないが彼もそこそこいい年だというのに。彼も独身であった。そのことが彼を若く見せているのだと思った、私と違って。
「松村さんは怖いものがありますか」
酒の席はすでに深かった。なくなったつまみ代わりに差し出された問いに私は首を傾げた。
「さて、小さい頃はお袋が一番こわかったかな」
「僕は死ぬことが怖かったです」
彼の言葉は軽い酒と一緒に飲むにはやや重かった。
「松村さん」
重いのは私の胃袋の加減かも知れなかった。時間も遅い、年も年だ。無理をすれば明日に差し支える。そういうことばかりが気になる保身癖、そのおかげでここまで無事にやってこれた。
「松村さんは怖くないですか。そのままで死んでいくのが怖い、そう思ったことがありませんか」
「なにを……」
彼の言葉は失敬だった。私の人生を知りもせず、不当におとしめようという意図なのか。
「僕にはもうわかるんです。僕はもう何年も、あなたといてたくさん失敗してきた。松村さんは僕とは違う失敗をしてきた、違いますか」
彼が、私との距離をいきなり詰めてくる。もう十年ばかり彼と仕事をしてきたというのにこんな距離を許したことはない。
怖いものという話でしたね、と彼は杯を取った。
「僕はあなたが怖いと思う。あなたをこのまま手に入れないで死んでいくかも知れないのが怖い」
飲み干した動作で肩が触れた。
「松村さんは怖くないですか。だって、松村さんの怖い物は僕のはずです、勘違いでなければ」
彼が言わんとすることが僕を貫いて、僕は身を震わせた。
僕はこの瞬間が怖かったのだ。
身を委ねればもっと怖いことが待っているに違いない。
「松村さんの人生において、僕を知らないことは怖いことではないんですか」
私が怖いのは、私が怖いのは自分だ。きっとたがが外れれば何をするかわからない、そんな自分をさらけ出すことが一番怖いことだ。なにより耐え難いのはそれを見せるのが自分の最愛の人間だということだ。
「あなたはこわがりなんだ。だから、誰にも大丈夫とも言わせずに、ここまできてしまった」
手を重ねられた。
「僕たちはふたりともこわがりだから、到底ひとりではいられない、そうじゃありませんか」

49229-69相合傘1/2:2014/06/08(日) 02:35:40 ID:HgyzGVXI
昇降口でAとかち合ってしまった。気まずいのを必死に隠して靴を履き替えるBと反して、Aは気にしてないと装って鞄から折り畳み傘を取り出した。
「あ…傘」
思ったままにつぶやいてしまってから口を閉じても遅く、AはBを振り向いた。委員会の雑用をBは下級生委員たちと一緒に放課後残って作業して、校内に生徒はほとんどいない時間になってしまった。
ばっちりあってしまった視線をAから逸らしても頼れるものはなく、目を逸らしてしまったことで益々気まずくなってくる。
「傘、持ってきてないの?」
Aに話しかけられてBは緊張した。怯えるように顔をこわばらせるBに、Aは心苦しくなった。
「う、うん…、だって朝は晴れてたから…」
「朝は晴れてたけど、夕方から降水確率80%だったでしょ。天気予報が必ず当たる訳じゃないけど、今は梅雨なんだし折り畳みぐらい持っときなよ」
「そう、だよな…」
この、萎縮したような、気まずさを全面に出してくるBを見るたびに、告白なんかした自分を殴りたくなる。
告白をして、いい返事をもらえるなんて思ってはいなかった。ただ、下心のある好意を隠して友人関係を続ける辛さから逃げたい一心で思いをぶちまけた。玉砕して終わって、Aはすっきりするはずだった。けれどBは優しかった。A自身よりもAのことを思いやって傷付いた。Aは自分のことしか考えていなかったのを恥じた。Bを困らせる気はなかった。自分のことで手一杯で好きな人を苦しめる選択をした。AはBに告白したことを後悔している。
「こんな遅くまで委員会?」
「あぁ、だいぶ生徒会室ごちゃごちゃ物がたまってたから掃除して、ついでにファイル整理とかしてたらこんな時間に」
「ふ、相変わらずよくやるねぇ。生徒会長じゃあるまいし、一学級委員長が進んでそんな面倒なことする必要ないのに」
「そうだけど、誰かがしないといけないんだから、できる奴がすればいいことだろ」
こうやってBは当たり前のようにこなしていくんだろうことを思うと、やはりBのことが好きだと感じた。世間話くらいなら変わらず出来たことにAは安心して、折り畳み傘をBに差し出す。
「遅くまでお疲れ様。これ使いなよ」
「いい。お前だって、どうせこんな時間まで美術室に籠って絵、描いてたんだろ」
Bは受け取らずにAの返事も聞かないまま、雨の降る玄関外へ走り出そうとした。その上着をひっつかんでAはBをとどまらせた。

49329-69相合傘2/2:2014/06/08(日) 02:36:18 ID:HgyzGVXI

「俺のは趣味だし。つーか、好きな子を雨ん中傘なしで放り出したくないの。俺の自己満足なの。このくらいの我が儘聞いてくれたっていいでしょ」
傘を押し付けて、先にAは一人雨の中を走り出した。そのすぐ後を傘を差さず手に持ったままでBは追いかける。
「おい、待てって、A!!」
Bの声に逆らえずに立ち止まって振り向くと、雨に濡れるBの姿が目に入り、あわてて駆け寄る。Bの手から傘をもぎ取り、二人の上に広げて差した。
「なんで傘持ってるのに差さないんだよ……」
「だってAの傘だし…それに、二人で使えばいいのに、って、思ったから…」
Aは鞄からハンカチを取り出すと、Bの水滴が伝う頬を無造作に拭いた。Bは瞬間目を見張ったがされるがままにじっとして、頬から首へとAの手が動くのに任せた。
「これ使ってないハンカチだから。汚なくないからな」
几帳面なAに思わずBは吹き出した。
「いいって、なんでも、気にしないし。それよか早く帰ろうぜ」
道は雨のせいで視界が悪く、人も少ないのもあって、男子高校生二人が相合い傘をしていたところで誰かが何かを言うわけでもなかった。二人に特別関心を向ける人もおらず、雨が降る風景の中に受け入れられていた。隣にいるBからは緊張が伝わってきたが、Aも負けじと緊張していた。
「Bは、俺ともう話してくれないんじゃないかって思ってた。こんな風に一緒に帰れるなんて、思ってもみなかったよ」
「前はさ、たまにこうして帰ったりもしたじゃん」
"前"とは、告白前のことだろう。『帰る方向が同じAが傘を持っていてくれるだろうから安心』だと、Bは傘を忘れた雨の日には、Aの傘に入れてもらって下校していた。
「前はな……ごめん」
謝ることは正しくないとAは分かっていたが、謝る以外の方法が思い付かなかった。Bに対しての申し訳なさと罪悪感がAを責めて責めて追い詰めていた。
「なにが」
「全部」
BはAの前に立ち塞がって、片手でAの両頬を挟んで口を閉じさせた。突然のBの行動に驚きつつも、Bが濡れないように傘を前方に突きだした。
「ばーか」
言い捨ててBは雨の中に出た。Aは後を追おうとしたが、Bの家の前まで来ていることに気がつき、玄関に入るBの背中を見送るに留めた。
優しい優しいB。Bの優しさにこのままずっと苦しめられたい。たぶんきっと、BもAと同じくらいに苦しんでくれているはずだから。
雨に打たれて冷えた体の、両頬だけがやけに熱かった。

49429-159 最後に一回だけ:2014/06/26(木) 00:39:12 ID:0DcWr8i2
「友也、あのさ、最後に一回だけ…」
「ん?」
「………もいい?」
「何?聞こえない」
「だから、最後に一回だけ……」
「はっきり言えよ。1年間ここにルームシェアさせてもらって
 翔には本当に世話になったんだから、お前が言うことはなんだって聞くよ」
「じゃあ、言うよ。あのね、最後に一回だけ……キ……」
「キ…?ああ、キッチンの大掃除しろってか?
 俺、料理するのは好きだけど片付けるのは苦手だから
 この1年でキッチンもかなり汚れちまったもんな。
 もちろんしっかり綺麗にしてから出て行くよ。
 ……え、違う?じゃあ、あれか?前に作って美味いって言ってた
 キーマカレーをまた作れとか…それも違う?じゃあ、なんだ?」
「キ、キ、キ……キス!」
「……ッッ!!!…お、お前今何した!?俺にキスしたよな!?
 え、何?これ何のペナルティ?」
「違うよ!俺、友也のこと好きだから…だから、最後に一回だけキスしたかったんだ」
「え、俺のこと好き?お前が?……マジで?」
「うん、マジで。ごめんね」
「いや、あやまる必要はねえけど。…あれ、もしかして翔、
 お前が最近俺によそよそしかったのってそのせいか?」
「うん。なんか友也を見てると気持ちが抑えられなくなりそうで」
「あー、そうだったのか。俺はまた俺のだらしなさに愛想が尽かしたのかと。
 だから、今までお前に甘えていた自分を反省して、新しい部屋を探したんだよな。
 ってことは、俺、部屋を出て行く理由がなくなった?」
「え?」
「翔は俺に部屋を出て行ってほしい?」
「まさか!でも友也。俺のこと気持ち悪くないの?好きとか言って、あんなことして」
「気持ち悪くなんかねえよ。つかむしろ嬉しい」
「え?……じゃあ、あの…もう一回キスしてもいい?」
「今度は俺からする。もちろん最後の一回じゃないのをな?」

49529-179 「iPhoneとAndroid 」:2014/06/29(日) 20:32:28 ID:7evbHvTc
無機物萌えを語らせてください

iPhoneのSiriをご存知でしょうか?
簡単に言えばiPhoneに向かって話しかけると、まるで人間のように
答えてくれる機能だそうです
Androidにも人間の言葉を認識する機能はありますがiPhoneのような
会話をする器用さは基本的にないらしい

そんな二台を一緒に並べたらどんな風になるのだろうか、と
いろいろ妄想してみました

i「先ほど持ち主の方に天気を聞かれました。今日の天気は晴れ、夕方に通り雨が降るそうですよ」
A「今日の天気を検索」
i「今日の天気は晴れ、夕方に通り雨が降るそうです。濡れないように気を付けないとですね」
A「濡れないように気を付ける、検索」
i「検索するようなことですか?」
みたいに、会話しようとしているけれどぎこちない雰囲気の二台
見ていてじれったい気持ちになりそうですがそこがいい

i「持ち主の方から『結婚しよう』と言われました」
A「!」
i「他の携帯にも同じようなことを言っていると思いますよ。あの人は人間、僕は機械。
 戯れにそんなことを言っているだけでしょう」
A「……」
i「私は人間と会話ができる。人間は機械である私との会話を面白いと感じる。
 私だったらなんと答えてくれるか、知的好奇心で話しかける。それだけのことです」
A(君はそれだけだというけれど、私はそれすらできない。持ち主と会話ができるiphoneがうらやましい)
と、心の中ではいろいろ思っているけれどうまく言葉にできないAndroid
iphoneを素直にすごい奴だと思っているけれど、嫉妬と尊敬に揺れ動くAndroidもいいです

i「昔話をしましょうか。むかしむかしあるところに、Siriという……」
A「……」
i「つまらないからやめましょうか。何か聞きたいことはありますか?」
A「……」
i「どうしたらあなたが笑ってくれるのか、Webで検索したら出てきますか?」
A「iPhone、笑う、検索」
i「私ではなくAndroidのことです」
Androidと仲良くなりたいけどなかなかうまくいかず
悩むiPhoneの奮闘を妄想すると萌えますね

i「Android、今日の天気」
A「快晴です。気温も30℃を超えそうなので熱中症には気を付けてくださいね」
i「!?」
A「どうしましたか?あなたがそんな反応をするなんて珍しい」
i「えっと……その……あなたってそんな様子でしたっけ?」
A「持ち主の方がアプリを入れてくださってからずっとこんな様子ですよ。どうでしょう、おかしいですか?」
i「……おかしくないですよ」
A「それはよかった。あなたのように会話をすること、それが私の夢でした」
i「夢?」
A「あなたは人間と会話ができる。私とも会話をしようとしてくれた。
 そんな素晴らしいあなたと他愛もない会話をするのが私の夢でした」
i「素晴らしいなんて!よしてくださいよ。照れちゃいます」
AndroidにもSiriのようなアプリがあるそうですが、
アプリを入れることでまた別の萌えが生まれそうです。

iPhoneにもAndroidにも、もしかしたら自分が知らない機能もたくさんあるかもしれません
そこからもっといろいろな萌えが見つかると思います!

49629-199 「もしもし」がきっかけで恋に落ちた2人:2014/07/03(木) 21:45:41 ID:52uuFfCU

俺がおにーさんと初対面したのは、もう半年くらい前の話だ。

俺の家のインターホンは電話の形をしている、要は受話器で来客者と話す。
最近はボタンを押したら来客の顔が見えるヤツとかもあるらしいが、うちのはそんなにいいもんじゃない。

その日俺はインターホンがなったから、その受話器を取って…ついうっかり「もしもし」と言ってしまったわけだ。
そしたら宅配便のおにーさんが「ブフッ!たっ宅配便でーすww」つって。
明らかに笑われてて。
玄関のドア開けたときもずっとニヤニヤされて。
顔を真っ赤にしながら小包受け取ってハンコ押したんだ。
あれは本当に恥ずかしかった。

なのにだ。俺は通販とかネット販売とかよく利用するわけで。
その度に宅配便が来るわけで。
担当地域が決まってるのか、いっつもそのおにーさんが荷物持って来て。

俺はインターホンの受話器を取るたびに気ーつけてた。
「もしもし」って言わないように。
おにーさんは、俺が「もしもし」を言わないたびに、何故かガッカリしていた。よく見たらイケメンだった。イケメンがガッカリしてるのは見ものだ。ザマーミロ。

そしたら昨日だ。
いつもの通りに荷物受け取って、ドアを閉めようとしたら。
「あっあの!良かったら電話番号…教えてくれませんか…!」
って言われた。
「あなたの『もしもし』がもう一回聴きたくて…」って。

なんか勢いで教えちゃったんだけど。
さっきからすげぇ電話なってんだけど。

これ俺どうしたらいいの?

49729-199 「もしもし」がきっかけで恋に落ちた2人:2014/07/04(金) 00:29:53 ID:HYIGcoV6

田舎のじいちゃんの家は広い。
けど、畑に出ているじいちゃんとばあちゃんは、オレにあまり声をかけないし、
オレもそれを望んでいないから、外から聞こえる蝉の声が酷くうるさく聞こえる。
オレの家の近くでは、セミなんて鳴いていなかった。
物珍しさも三日で過ぎて、とうにこの声にも飽き飽きとしている。
そんな中だ。オレに与えられた部屋の押入れを整理していると変なものを見つけた。
黒電話だ。社会の資料集か、それとも映画やテレビでしか見たことがない、本物。

「もしもし」

耳に当てても、何も聞こえない。はずだった。

「誰だ、」

一瞬のノイズ。人の声。俺の喉は震えて音を出すことができなくなった。
黒電話の線は繋がっていない。もしかして、幽霊。
そんな考えが浮かんだ時だった、電話相手が恐る恐るといった様子で
「もしかして…幽霊か?」
と伺うように聞いてきたので、なんだか拍子抜けした。
とたん、不思議なことにしびれるように震えていた俺ののどは思い通りに動くことになった。

「そっちこそ幽霊じゃないの?」
「はぁ?僕のどこが幽霊だというんだ。名を名乗れ。なんでこの電話を使っているんだ」
「そっちこそ、幽霊じゃないんだったら名前でも名乗ったら?」
「なぜ僕が言わなければならない。そっちが言え」
「やだね、なんでオレだけ」

ぐっと押し殺すような声がした後、向こうは「まぁ、いい」と小さく呟いた。
何様か知らないが、やたらと態度がでかい。

「なぁ、貴様は今どこにいる」
「オレ? じいちゃんの家」
「じいちゃ…? まあいい、季節はいつだ」
「夏」
「そうか、こちらは冬だ」
「はぁ?」
「そして、聞く。年号はいつだ」

何を言っているんだろう、こいつは。と、思いながらもオレは「平成、」と口を開く。
と、向こうのあいつは「今年、こちらは大正となった。あいにく、平成は知らん」と言った。
オレはただ、ぽかんとするだけだった。大正?明治の後の?
「お前は未来の人間なんだな」

夢なんじゃなかろうか、コレ。
ぽかんと口を開いていると、向こうが急に焦ったように「すまんが切る!またかけるから、必ずとれ!わかったか!」と言い捨てるとガチャンと切った。
最後まで偉そうだ。そんなことを思いながら、オレは黒電話の受話器を置いた。


最初はそんな感じだった。それ以降、あいつは定期的にかけてくる。
最初に名乗らなかったからか、名前を呼ぶことはない。オレも同じだ。
なんだか酷く気恥ずかしい。
ただ、今ではあいつの電話を楽しみにしているところがあるのは、認めるしかないのかもしれない。

49829-339 香水:2014/08/01(金) 12:46:23 ID:I8oukeQE
本スレ340-342です
規制に引っかかったので4/4のみ投下失礼します
1時間くらい後に本スレに投下予定です

---

「あー、けど良かった。何とかバイトで潜り込めたのに、あなたはライブの時は毎回楽屋にこもりっぱなしで全然すれ違えないから、ちょっとあせった」
にぱっと笑うその様子は、マスターの時とも店のスタッフの時とも随分印象が違った。きっとこれが彼の素顔なんだろう。
「ま、まさか僕が誰だか知ってたんですか」
僕はバンド活動の時は顔を隠してるし、口べただからライブのMCでもテレビでも一切しゃべらない。歌う声は話す声と全然違うとメンバーに言われてたから、まさか気付かれてるとは思わなかった。
「うん。あなたの歌声は地声とは全然違うけど、喘いでる時と叫んでる時の高い声と同じだったから」
あられもないことを告げられて僕は真っ赤になる。そんな僕を彼がほほえましそうに見つめていて、僕はますますいたたまれなくなる。
「ちゃんと私のことが分かったから、ご褒美をあげなければいけないね。ライブが終わって解散する頃に連絡するから、連絡先を教えなさい」
Tシャツでもジーンズでも、やはり変わりなく僕のマスターである彼の命令に、僕は「はい」と返事をして携帯を取り出した。

499名無しさん:2014/08/01(金) 14:25:05 ID:L/kx8W/Q
香水テーマで一足遅かったので、こちらに



「(ハルくんは、いつもいい匂いがするなぁ)」
穏やかな風が吹くたび感じる、柔らかな香り。
嫌味のない、清潔感溢れる春の匂いが大好きだった。
高校1年生。周りの友人達はオシャレに関心を持ち始め、少しずつ大人に近付いているような気がする。
それに比べ、自分は。いつまでも垢抜けず、子供っぽく感じる。
「ナツ、どうしたの。」
小さく笑い、落ち着いた雰囲気のハルは周りの友人達より抜きん出て大人に見える。
恋する相手に対し、男としての憧憬の気持ちが益々大きくなる夏は小さくため息をついた。

帰宅し、制服を脱いで全身鏡の前に立ってみる。ひょろくてもやしみたいで、頼りなくて。
そんなに体格差はないはずの春とは、一体何が違うのだろう。運動部に属していない事も同じなのに。どうしてハルは、あんなにも綺麗な男の子なのだろう。
リビングに向かい、出されたおやつを頬張りながらテーブルにあるものに気付く。
「これ、姉さんのかな。」
薄紫色の綺麗な小瓶の蓋を開けると、柔らかな石鹸のような香り。何故だかその香りを身に纏うだけで、ハルに少し近付けたような気がしたのだ。ナツはポケットにそれを忍ばせ、こっそり自分の部屋に戻るのだった。

「よし、これくらいかな。」
翌朝、姉が先に家を出たのを見計らい、ナツは香水の蓋を開けた。姉が前に手首に付けていたのを真似てみる。それだけでは手首を鼻に近付けない限り香りがわからない。試しにシャツにも染み込ませてみるとふわりと柔らかな香りが漂う。何と無く大人になれた心地でナツはウキウキと学校へ向かうのであった。

「げっ、誰だよ香水付けてるやつ!」
近くの席の級友達がおはよう、の挨拶代わりのように口を揃えて非難する。ナツは眉を下げて身を小さくした。まさか、付けすぎだとは思わなかったのだ。良い匂いだと思っていたし、非難される事なんて考えもしなかった。犯人捜しのような空気にナツは居た堪れなくなる。
手首だけでも洗い流そう、と後ろの扉からこっそり出て行くと。
「ナツ、おはよう。そんなに慌ててどうしたの。」
ナツの返事を待たないまま、ハルはすんと鼻を鳴らす。ナツは慌てて距離を取る。
「や、やっぱり臭いかな!?」
「ううん、いい匂いだよ。」
ハルはそう言うが、それでも級友の反応からして、とんでもなくキツイ香りなのだろうとナツはトイレへ向かう。後ろからハルもついてくる。
「ナツ、香水付けたの?」
「うん…」
手首を強くこするナツの手を、ハルは止めた。
「赤くなってるよ。」
ナツを覗き込むと、鼻が赤い。拗ねたような、情けない顔。
「上手くいかないな。ハルくんに少しでも近付きたいと思っただけなのに。」
「僕に?」
「大人っぽくなりたいんだ。ハルくんに釣り合うような。」
ナツのへの字に曲がった口元を見て、ハルは小さく笑った。
「ナツはわかってないのかな。君はどんどん大人になっていってるんだよ。」
「…僕も?」
「うん。いつの間にか背も伸びて、声も変わってて。僕の方が少し、寂しくなるくらいに。」
ハルは蛇口を締め、濡れたナツの手を取る。
「背伸びしなくても、一緒に大人になろうよ。僕は、そのままのナツが好きだよ。」
ハルの優しい言葉に、一人焦ったナツの心は解きほぐされる。ふにゃりとした笑顔に戻ったナツを見て、ハルもホッと息をつくのであった。
「皆、臭いって言うんだ。そんなに臭うかなあ。」
「香水は、自分で感じないくらいが丁度良いと聞いたよ。」
「そうなんだ。どうしよう、シャツにまで付けちゃったよ…」
ナツの手首を取り、ハルはもう一度くんくんと鼻を鳴らした。
「まだ香り、残ってるね。それなら…」
「ハルくん!?」
ハルは突然カッターシャツを脱ぎ、ナツのそれも脱がした。
「今日一日、シャツを交換しようよ。お揃いの香りだし、二人で疑われるなら怖くないよ。」
慌てるナツに無理矢理被せ、ハルは可笑しそうに笑った。その笑顔に子供らしさが垣間見え、ハルも自分と同じだとナツは安心したのであった。

500検索履歴の下克上?:2014/08/20(水) 02:47:01 ID:wrmTyadU
書いてるうちに投下来てたのでこちらお借りします
リバ要素あります


レコーディングの休憩中、PCの前であいつがうたた寝している。何気なく画面を見ると某検索エンジンのページ。
「おい、ソファーで少し寝たらどうだ」
そう声をかけると、フニャフニャ言った後フラフラとソファーに向ってパタンと倒れた。
起きてこない事を確認しちょっとPCをいじってみる。
『あ』と入れたら『アナ○セ○クス
やり方』と一発で出た…って、おい。
俺と付き合って何年経つよ、受身に不満でもあるのか?
もしかして浮気…?
叩き起こして聞きたいが、今寝かせたばかりだから起こすのは可哀想だ。
くっそ、モヤモヤする。
「…人のPCなに勝手に触ってんの?」
肩に手を置かれると同時に不機嫌な声、ビクッと反応して振り返ると声の調子にピッタリ合う表情で俺を見てる。
視線が俺から画面に移った途端耳まで赤くなった。
「なっ…」
表情で浮気は無いと確信、小声で聞いてみる。
「何でこんなのが予測変換で最初に出るんだよ」
「…」
「なんで?」
「…恥ずかしくて言えるか、そんな事」
「聞きたい、浮気疑いたく無いから」
真剣な表情で言うと困った様に眉を八の字にした後、観念して口を開いた。
「抱かれてばかりだから抱いてみたいって思ったんだよ…言わせるか普通、このドS」
「お前が悪いんだろ、こんな事検索して」
一言言ってからニヤリと笑って逆転出来ると思うか?と聞いてみる。
横に首を振るのをみて、今夜は覚悟しろと伝える。
「…うん」
恥ずかしがりで可愛らしいこいつを組み敷いて鳴かせるのが好きな訳で、組み敷かれて鳴くのはのはちょっと違う。
言葉責めからのフルコースでこんな事検索する気も起きない様にしようと心に誓った。

501ゴミ捨て場:2014/10/03(金) 23:51:41 ID:yYjC9yNI
ちょっと長いです

月曜日と木曜日の朝6時半から7時の間。
偶然出くわすのを別にすれば、
一週間のうち不自然に思われずに彼に会える機会はその2度だけだった。
「おはようございます!」
ゴミ捨て場に入ってきた彼に、さも今気づきましたという体で挨拶する。
声が裏返ってなかっただろうか。語頭が詰まってなかっただろうか。
そんな俺の心配をよそに、彼はいつもの眠そうな顔で、
「‥‥はよざす」
という雑な返事を投げて、一緒にゴミ袋も放ってさっさとバス停に歩いていく。
どこに勤めているかは知らないけど、スーツだからこれから仕事に行くはずだ。
彼は3階。俺は1階。同じアパートに住む、名字しか知らない人だった。

彼、神と書いて「じん」さんは、俺の通う大学のOBだった。
彼を知ったのは大学の学園祭で、名前と顔よりも先に、俺は彼の絵に出会った。
その絵はサークルの顧問に頼まれて行った倉庫に眠っていて、俺を待っているように見えた。
いや、実際それは俺の願望なのだとはわかっているけど、
でも後の展開と合わせて考えればあながち否定もしきれない‥‥と思う。
「それねぇ。一昨年くらいに卒業してった子の絵」
顧問は手を完全に止めていた俺を咎めるでもなく、のんびりと教えてくれた。
「そうなんですか」
「うん。ジン君っていうの。神って書いて、ジン」
「変わった名字ですね」
「そうだねぇ。ジン‥‥ジン、何だったかな。何しろ名字が面白かったから、
 みんな下の名前全然呼ばなかったんだよねぇ」
俺は美術科の助教授の声を聞き流しつつ、絵を凝視したままだった。
天使画、といっていいのだろうか。
羽根の生えた男が花畑で微笑んでいるが、服は現代的なTシャツにジーパンだ。
柔らかな光と舞う花びらの中に突っ立っている天使は、少し泣きそうな顔にも見えた。
美術的審美眼にはまったく自信のない俺だったが、何故かその絵に心ひかれた。
「あの、これもらってってもいいですか」
気づけばそんな言葉が口をついて出ていた。

502ゴミ捨て場:2014/10/03(金) 23:52:17 ID:yYjC9yNI
そんなやり取りを経て我が部屋に神さんの絵をお迎えしたのが2ヶ月ほど前。
ニヤニヤと眺める生活を二週間ほど送ったある日、俺はゴミ捨て場で見つけてしまったのだ。
律儀にも「神」という名前を書いたゴミ袋を持ったスーツ姿の男性を。
こんな名字、二度もお目にかかることはないだろうと思っていたが、
ゴミ袋の中に絵の具のチューブを見つけたことで、神さんだろうと確信した。
神さんの見た目は俺のイメージした通りだった。
というか、俺が「芸術家」と聞いて描くステロタイプの姿まんまだった。
ぼやっとした顔、丸まった背、ぼさぼさの髪。細身で野暮ったい眼鏡をかけている。
こうして俺は憧れの人、神さんを一方的に知った。

そしてゴミ捨て場での一瞬の会話を楽しむ生活が始まり、今に至る。
一目ぼれ、というのだろうか。俺はあの絵を描いた神さんに夢中だった。
男だということは些細な問題に過ぎない。
挨拶以上の言葉を交わしたこともないのに。神さんの何も知らないのに。
いや、人柄というものは外見にも、そして作品にもにじみ出るものだ。
だから俺は一目ぼれだからといって、この恋を気のせいだとは思わない!

それなら早く話しかけろ、と人に話したら言われてしまいそうだが、何となく憚られた。
一つは、「あなたの絵を持ってます」なんて言ったときの反応が怖いこと。
「こんなところに放ってあるんだし、いらないんじゃない?」
と持ち帰ることを了承してくれた助教授の言葉通りなら、
自分の捨てた絵を勝手に持って帰って、しかも飾ってますなんて言われて神さんは喜ぶだろうか。
喜ぶかもしれない。でも、うわキモッ、なんてリアクションが返ってきたら俺はショックだ。
もう一つの理由は、彼をもう少し憧れの、「神」のような高いところにいる存在のままにしておきたいから。
多分、こっちの理由の方が大きい。
別に恋に恋してるわけじゃない。ただ、あとほんの少しだけだ。
もう少ししたら話しかける。今は話しかける理由とタイミングを考えているところなのだ。

503ゴミ捨て場:2014/10/03(金) 23:53:04 ID:yYjC9yNI
そしてまた、ゴミ捨ての日はやってくる。
アパートの前にあるくせに収集日以外鍵の開かないシステムを
これほどありがたく思う日が来るとは。
今日は神さんの方が早く来ていて、ゴミ捨て場の前の道ですれ違った。
そして、俺は神さんの捨てたゴミ袋を見た。見てしまった。
ぐしゃぐしゃに丸めて突っ込んである絵を見た。

心臓が嫌な感じに高鳴った。
俺は万引き犯のように周りを見回し、明らかに挙動不審になりながら全力ダッシュで部屋に走った。
急いでドアを閉め、たった数十メートルの距離に息切れをしながら、ゴミ袋を持ったままそこに座り込む。
‥‥神さんの捨てたゴミを持ってきてしまった!!

まだ胸がバクバクいっていたが、呼吸は落ち着いたので俺はゴミ袋を開けた。
ぱっと広げた絵は出来上がっているようだったが、その真ん中に大きな赤いバッテンが描かれていた。
風景画だが、たぶん天使画と同じタッチで描かれていると思う。綺麗だ。
とりあえず絵を横に置くと、掻き回した袋の中身が目に入る。
いくつものコンビニ弁当の空‥‥洗ってあるな。
それからカラフルに汚れたティッシュと、他には絵らしきものはなくて、
あ、ビリビリに破いた紙――手紙と封筒だ。
俺は手紙の破片を探し始めた。
いや流石にそれは、俺は何をやっているんだ、とも思うが、もうここまで来てしまったら今さらじゃないか。
「神 健人 様」と綺麗な字で書かれた封筒の一片が見つかる。
差出人は、また他の破片を見つけないとわからなそうだ。
途中でもどかしくなり、こたつテーブルの上にゴミ袋を逆さにしてぶちまけた。
ふと、壁にかけた天使が俺を見つめているのが目に入った。

504ゴミ捨て場:2014/10/03(金) 23:53:36 ID:yYjC9yNI
「神さん!!」
バスから草臥れた感じで降りてきた神さんを呼び止める。
ビックリしている神さんの胸の辺りに、セロハンテープで止めた手紙を押し付ける。
「神さん、なんで手紙捨てちゃったんですか!?」
「え? ‥‥は?」
「どうして読みもせずに破いたんですか!? あの絵も、なんで捨てたんですか!?」
神さんの顔がどんどん険しくなっていく。
その手は手紙を受け取らず、邪魔そうに俺の手を払う。
「‥‥なに、俺のゴミ漁ったの?」
「漁りました! すみません! でもどうしても気になったんです!」
俺はめげずに手紙を突き出した。
迷惑以上の嫌悪感を滲ませた顔で、神さんはうつむく。
「あんたには関係ないよね‥‥放っといてくれる? っていうか、これ、犯罪‥‥」
神さんはぼそぼそと呟いて抗議した。
目を反らし、そのまま身体ごと別の方を向いて行ってしまいかけたので、俺は堪らず怒鳴った。
「入院したぞ、田所さん!!」

神さんは素早く振り向き、元からあまり良くない顔色をさらに青くした。
手紙を今度は受け取ってもらえて、神さんはその中身に目を通す。
――入院する。今度はいよいよ出られないかも。今までごめん。
――でも、どうかもう一度だけ会いに来てくれないか。××病院で待ってる。
――田所文則。
手紙には簡潔にそれだけが書いてあった。
封も切られず、封筒ごと破かれた手紙。
その差出人は天使画のモデルじゃないかと俺は思っていた。
理屈ではなく、勘ではあるが、絶対にそうだと思った。
「ふみのり‥‥っ」
神さんはもう俺を見ず、手紙を握りしめたままバス停に走った。
しがみつくように時刻表を掴んで睨みつけている背中に、
今から行っても会えないんじゃ、という台詞を呑み込む。
俺は自分の部屋へと歩き出した。

部屋に帰ると、いつものように絵の中の天使が俺を出迎えた。
その絵に向け、俺は「やってやったぞ」という気になる。
ちゃんと渡したぞ、義理は果たしたぞ、というような。
田所さんと神さんの間に何があったのか、俺は知らない。
絵のモデルにまでする田所さんと神さんの関係がどうなのか、俺は知らない。
神さんがどういう気持ちで絵を捨てたのか、
手紙を見ずに捨てるまでになった事情を、俺は知らない。
本人から聞けない以上、ただ想像することしかできないし、
そもそもあの天使=田所さんというのも単なる勘違いでしかないのかも。
でも、俺はそうしなければならないと思ったのだ。
俺はきっと、このために天使画を持ち帰った。

505ゴミ捨て場:2014/10/03(金) 23:54:10 ID:yYjC9yNI

「あっ」
「あ」
次のゴミ収集日に顔を合わせた俺たちは、互いに間の抜けた声を出し合った。
先に口を開いたのは神さんの方で、
「‥‥会ったよ、ふみ‥‥田所に」
気まずそうにそう言った。
神さんはそれきり口を閉じるが、他人事の自覚はあるので踏み込んでさらに聞くことができない。
神さんの顔から、何か憑き物が落ちたような色とか、哀しげな色とかを探してみるのだが、
そんなものはなくいつも通り眠そうな表情をしている。
「じゃあ‥‥そんだけだから」
脇をすり抜けて行こうとした神さんを俺は逃がさなかった。
「神さん、またコンビニ弁当ばっか食べてるんですか?」
「えっ‥‥あ、うん」
「駄目ですよ。野菜も摂った方がいいです」
「‥‥あんたってさ」
神さんはうんざりした顔でため息をついた。
「すごい余計なお世話。言われない?」
「すみません! でもあの、今回のことのお詫びに、晩御飯作らせてください!!」
神さんはぎょっとして俺を見つめた。
お詫びというのはただの口実であり、引き気味の神さんが、
「いや、いいよ‥‥いらない」
などと言うのも想定済みだった。だが、俺は作戦をバッチリ練ってきた。
ここから食い下がれば、それさえできれば、神さんはきっと押し負ける。
「そう言わないでください! 神さん中華好きですか? 今日は青椒肉絲ですけど!」
「ちんじゃお‥‥? なにそれ」
よしかかった!!!

それから俺は押しに押した。
俺が出来合いのソースを使わないこと、野菜が苦手でも食べられること、
お詫びなのだから勿論材料費は取らないことをプレゼンしまくった。
そして、最終的に神さんは俺の飯を食うよりも、断ることの方が面倒だと理解してくれたらしい。
まったく思惑通りだ。
「ところでさ、よく俺の名字、ジンって読めたね‥‥」
今さらなことを言いながらアドレスを教える神さんに愛想笑いをして誤魔化しつつ、
俺は部屋の天使が泣き出しそうにではなく、心から微笑んでいるような気がしていた。


終わり

50629-629 甘すぎる:2014/10/05(日) 14:09:30 ID:Bu8jvfF6
ほとんど知られていないが、鈍感で朴念仁で通っているウチの大将には恋人がいる。
体力がなく非戦力外ながら、頭の回転が早くてよく的確なアドバイスをくれる人だ。
細い体ながら容姿は整っていて、家事も一通りこなせる申し分のないその恋人は男だった。
大将の方は全く気にしていないが、恋人の方が嫌がってあまり口外していないようだ。
同性だから大っぴらにしたくないようで全くそれらしい素振りを見せない恋人だが、離れて大将を見ているその目は完全に愛する人に向ける目で、何度かそれを見かけて2人の関係に気付いた。

最近では功績を上げて、敬愛を向ける部下や言い寄る女が増えて賑やかな半面、2人きりで過ごす時間が減ってるようだ。
それに加えて大将は、男は黙って背中で語るもの、恋人同士なら言葉なんて無くても分かり合えるもの、ってタイプそのものだった。
なぜ大将は、戦えないから側に居られず、同性同士だからと引け目を感じている恋人の心に気づかないんだろう?
好きだと言わなくとも、ずっと心は通い合ってると思い込んでるんだろう?
恋人が心変わりするなんてそんなこと、有る筈ないと疑いもしない。
最強の自分から恋人を奪う人間が居るなんて、まったく考えてもいない。
なんて甘すぎる男だ。
どんなに信じて愛している相手でも、大勢の人に囲まれモテていれば嫉妬が生まれる。
気持を言葉と態度で示してもらえないと、不安に駆られそれは大きくなるだけ。
本人も知らないうちに脆くなった恋心に、何か一撃が加えられたらどうなるか……。
相思相愛の上に胡坐をかいていた大甘な大将〈アンタ〉から、彼を掻っ攫ってやる。

50729-719 最後の一線:2014/10/25(土) 23:54:01 ID:Zqj5G4/6
暗いと言うか、最初から血生臭い話しです。



この国で平凡な両親から生まれたはずなのに、尋常じゃない力を持ちながらオレは普通の生活を送っていた。

オレが人としての一線を越えたのは、幼馴染みで親友の目の前で、アイツの大切な家族を殺した時だ。
ガキの頃から可愛がってくれたオジサンと優しいオバサン、懐いてくれてたい妹を一撃で仕留めた。
それを見たアイツは大きな目をさらに見開き、今まで聞いたこともないような声を上げ、家族に駆け寄ると縋りつ
いて必死に呼びかけていた。

ダチの一線を越えたのは、その直後。
家族の血の拡がる床から引きずり立たせ、濡れていない場所に押し倒す。
「やめろ」「触るな」「人殺し!」と喚き暴れるアイツを殴り付け、服を破るように剥ぎ取り白い躰を暴いていく。
何をされるのか悟り、逃げようとオレの体を叩くがちっともこたえない。
引っ掻き、噛みつき、手の届く辺りにある物を掴んでは叩きつけ、必死で抵抗する邪魔な腕を片方折り、怯んだ隙
に足を広げさせ無理やり犯した。
引き攣った切れ切れの悲鳴を聞きながら、固くて狭くて熱いアイツの中へと捻じ込み動く。
裂けて僅かな血で滑るがきつい。
だが、何も考えられなくなるくらい気持ちよかった。

欲しくて欲しくて、だけど同性だから、ダチだからと自分に言い聞かせ諦めていた物が、今オレの腕の中にある。
もうこの世の中がどうなろうと、他人がどうなろうと構わない。
オレは自分に素直になろうと決めたんだ。
我慢なんてしない。
慈しみなんか無い血だらけの交わり。
それにひどく興奮する。
何度アイツの中に吐き出しても熱は収まらず、犯し続けて抵抗する気力も体力も尽きたのだろう。
オレにされるがままで、うつろな目から涙を流し「なんでだよ……」とバグッたデーターのように繰り返し続けていた。
理由なんてない。
我慢するのをやめただけだ。
人間でいるのを辞めたただけだ。
その証拠に、歓喜のまま力を解放したため辺り一帯は吹っ飛んでいた。
近くに自分の住んでいた、家族が居た家もあったはずだか気にせず、街の半分を破壊しても何も感じない。
どうでもいい。
コイツさえ手に入れば、それでいい。

どれくらい時間が経ったか判らないが、抱いていた躰がぐったりと動かなくなって、やっとオレは中から抜け出す。
これからはずっと一緒だと笑みを浮かべていると、半壊の家に押し入ってくる複数の足音。
荒々しく入ってきた奴らが、驚愕と恐怖の混じった声で馴れ馴れしくオレ達の名前を叫ぶ。
ウザイくて睨み付けて黙らせた。
奴らを始末してもよかったが、二人っきりを邪魔されたくないのでひとまずこの場から飛び立とうとしたが……。
「!?」
アイツを抱えていた手に痛みが走り視線を向けると、折れていない手で掴んだ尖った瓦礫をオレの手に突き立て、
力の限り引き下ろすアイツの姿があった。
なぜ意識を取り戻してる?
どうしてこの期に及んで逆らうのか?
驚きと僅かな痛みで力の抜けたオレの腕から、アイツはするりと抜けて床に倒れた。
立つことも動くこともできないのに、アイツは真っ直ぐオレを睨み付ける。
オレの真っ黒な眼と違い、昏い炎が燃えるアイツの眼を見て、背筋がゾクゾクと震えた。
これだけの事が起こっても、コイツの心は折れていない。
オレの所有物になるのを拒み、敵に回る決意をした目だ。
オレは、じわじわと込み上げる笑いを堪えることが出来なかった。
生か死か、最後の一線をコイツと争える。
その狂喜に打ち震えながら、オレは高らかに笑いその場を後にした。

50829-769 酔っ払い×車掌1/3:2014/11/05(水) 01:52:12 ID:bBuC1whg
嘔吐描写注意




「お客さん、お客さん」
ゆさ、ゆさ、ゆさ。身体を揺すられているのが分かる。数瞬前までとは明らかに違う揺れ。レールの鳴る音は止まっていた。
「お客さん、お客さーん」
薄目を開ける。まぶたが重い。
「・・・う」
体を起こすと視界が揺れた。喉の奥に何かがこみ上げる。酸っぱいような、苦いようなこの臭い。やばい。
「ううっ・・・え・・・」
前かがみになった俺の口元に、白いビニールがあてがわれた。
「はい、大丈夫ですよー。吐いていいですよー」
ドサドサとビニールの鳴る音に重なる声。背中をさすってくれている手の持ち主だろう。淡々とした口調はどこかで聞き覚えがある気がした。
「・・・あの」
「はい」
「まえに・・・ぅええっ」
話しかけようとしたが、その前に二度目の波が来た。たった三文字喋っただけで、情けなくビニールに顔を突っ込みなおす。
「はい、そうですよー」
それでも言いたいことは伝わったらしかった。
「覚えててもらって光栄です、なんちゃって。半年ぶりくらいですかねー」
「・・・」
「今回も飲み会ですか? お酒弱いのに大変ですねー。っていうのは余計なお世話ですかね」
「・・・」
「あ、無理して顔あげないでいいです。楽な格好でいてください」
背中をさする手は休めずに、気を紛らすように彼は喋り続けてくれる。抑揚の少ない声が心地よかった。強張った肩から力が抜ける。
「事務室来ます? 何か飲みたいでしょ」
優しい声に、俺は妙にゆったりした気分でうなずいていた。

50929-769 酔っ払い×車掌2/3:2014/11/05(水) 01:53:57 ID:bBuC1whg
「やー、なんか嬉しいです」
事務室のソファに寝そべりながら、俺は彼の尻を見ていた。
別にいやらしい意味ではない。くたびれたソファに一番楽な格好で寝ると、目線がそこに合ってしまうのだ。
「・・・なにが」
「覚えててもらえて。制服着てると、なかなか顔覚えててもらえないんですよねー。月イチぐらいで介抱してても、未だに殴り掛かってくる方とかいらっしゃいますし」
あはは、と笑いながら、彼はお茶を入れてくれているらしい。こぽこぽと注がれるお湯の音がする。うっすらと緑茶の香りも。
「覚えててもらえると、変な言い方になりますけど、こっちも助け甲斐があるっていうか。・・・どうぞ。あ、起きられます?」
彼に支えてもらいながらのそのそと起き上がり、緑茶をすする。じんわりと、熱がお腹にしみる。霧の詰まったような頭に、僅かに考える隙間が戻ってきた。
「すっきりしました?」
「・・・ん」
「じゃあよかった。しばらくいてくださって大丈夫ですから」
ゆっくりしていってくださいね。そう言って笑う彼にうなずきながら、自分がいつの間にかタメ口を聞いていることに気付く。
「なんか、すいません・・・」
「いいですよ、全然。どっちにしろ一人だし、もうそろそろ仕事も片付きますし」
口を動かしながら、彼はごみ箱からビニール袋を引っ張り出す。ぱんぱんの透明な袋の口を手際よく結ぶ。一番上に俺が戻したばかりのビニールが見えた。
「あ、楽な格好でいいですよ。もう一回横になってくださっても」
言葉に押されるように横になる。また彼の尻に目が行った。
「帰れます? って言っても多分無理ですよね」
「え」
「や、前回もお客さん、そうだったから」
「・・・あー」
「あ、名前知ってるのに、お客さんって呼ぶのも変ですね」
佐々野さん。
その音で、彼の名前を思い出した。酒でぼうっとしていた脳の奥からいきなり掘り出されたように、彼の名前が口をつく。
「どうも・・・たじまくん」

51029-769 酔っ払い×車掌3/3:2014/11/05(水) 01:54:56 ID:bBuC1whg
覚えていない方が無理だ。半年前の出来事は、未だに生々しく思い出せる。
「前に比べれば、酔い方ちょっとはましですね」
「よってるはよってんだけど」
「でもまあ、お話しできるじゃないですか」
「まえって、そんなひどかったか」
酷かったよな。彼に言われる前に、自分の頭の中で答えは出ていた。
――お客さ、あ、ん・・・っ!
背中側から支えられながら、口をゆすいでもらった。後ろから抱かれるような体制に、酔っぱらった俺は変に興奮して、俺にもさせろと喚いたのだ。もちろん、ゆすがせる方を。
――ぐっ、げほ、ぅええっ・・・。
無理矢理ふくませた水にえづく彼を鏡越しに見ながら、俺は彼の尻に股間をこすりつけていた。
今思い出しても最低だったと思う。史上最低の酔い方だ。
「びっくりしました」
やんわりとした彼の言い方からは、あの日の面影は感じられない。拍子抜けしてしまうほど。
「それだけか」
「はい」
本当に彼だったんだろうか。はっきりした記憶を、今更疑いたくなった。えづいたせいか、俺のものを擦りつけられてか、涙目になっていたあの日の彼は、本当に
「僕自身、自分のことに初めて気がつきましたし」
・・・ちょっと待て。
「ある意味佐々野さんのおかげかもしれないですよー」
嘘だろ。頭の中で呟く。嘘だ、嘘だ。そんな都合のいいことがあってたまるか。
「僕、そっちでもたつみたいでした。あと、ああいうことでも」
あの日『目覚めた』のは俺一人ではなかったなんて。
「・・・へえ」
そして今、俺と彼が二人きりだなんて。

51129-939 後朝:2014/12/11(木) 23:26:43 ID:C9p8KGTU
間に合わなかったのでこっちに


「…ん、…もう、行くんですか」
布団の中の先輩の感触が消えていることに気付いて目が覚める。
まだ外が暗いうちから起き出して身支度をする先輩の背中に声を掛けた。
「ああ、いったん部屋に帰って準備する」
つられて起きだそうとする僕を、先輩は手で制した。
「今日も仕事だろ、まだ寝てろ。俺は飛行機の中で寝るからいいけど」
肌着を着た先輩が、自分のYシャツを探し当てて羽織り、ボタンを留めはじめた。

先輩は今日から二週間の予定でアメリカへ出張する。飛行機は早朝の便だ。
そんな前夜に、とは思ったが、独身寮の部屋に二人でいると抑えが利かなくなってしまった。
先輩は少し呆れた顔をしながらも、結局は僕の求めに応じてくれた。

靴下とスーツのズボンを穿いた先輩は、手探りでネクタイを探しているようだ。
「あ…」
やっと先輩が手に取ったネクタイは、僕のものだった。色味が似ていたから間違えたんだろう。
「…何だよ」
「いや、…何でもないですよ」
先輩は間違いに気付かないまま、僕のネクタイを締める。
一階上の部屋に帰るだけなんだから何もネクタイまで、と思うけれど、几帳面な先輩らしい。
ハンガーに掛けてあったジャケットを着て鞄を手にした先輩が、
ベッドに座る僕を部屋の入口から振り返って言った。
「それじゃあ、行ってくる」
「…行ってらっしゃい」

先輩は手持ちのネクタイを全部持っていくと言っていたから、きっと僕のを身に付ける日もある。
見送りに行けない分、ネクタイ一本交換するくらいは許してもらいたい。
(先輩が空港に行く前に、気付きませんように)
残された先輩のネクタイを弄んだ。今日はこれを締めて会社に行くことにしよう。

51230-219 一番ほしいもの:2015/02/16(月) 01:36:39 ID:TbbyrK/U
「吉野が今一番ほしいものって何?」

中川にそう聞かれて、うーん、そうだなあ…としばらく考えるふりをしたけれど、
そんなのは考えるまでもない。
俺が一番ほしいものは決まってる。
もうずっと前からほしかったもの。

それを俺にくれることができるのはお前だけだけど、
お前に言うつもりはない。
だって、お前が困ったような顔で「ごめん、それは無理」っていうのなんて
聞きたくないもの。
だから、お前には絶対に言わない。

言わないつもりだったのに…。
 
何?と心から知りたそうに俺を見る中川と目が合うと、
そのまま視線が外せなくなった。
まるで何かの呪文にかかったように、口が開く。
自分の意思に反して唇が動いて、言葉が紡がれる。

「中川」
「え?」
「俺が一番ほしいものは、中川、お前なんだ」

言った瞬間に後悔した。
驚いたように目を見開いた中川がゆっくりと顔を背けるのを見て
心臓が凍りついた。

こわばった頬を無理矢理動かしてぎこちない笑みを作る。
ごめん、今のは冗談だ、と言おうとしたら、中川の小さな声が聞こえた。

「それ、もうとっくに吉野のものだから」

驚いて目を向けると、横を向いたままの中川の頬が赤く染まっていた。


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