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0さん以外の人が萌えを投下するスレ

20122−379 悪落ち→救済(3/3):2011/09/25(日) 18:24:47 ID:y5QL9qos


「これで四人もの人間を惨殺した恐怖の殺人鬼も終幕か。あっけないものだ」
「犠牲者は五人です」
私は訂正する。
「それに、四人目が殺されるまで我々は彼に辿り着けず、結局五人目にも間に合わなかった。
 『あっけない』で終わらせるには、いささか犠牲が過ぎたのではありませんか」
「ほう。それではお前は、この世には過ぎぬ犠牲もあると言うのだな」
面白がるようにそう返されて、私は黙った。
そんな私を見下ろして、自分の上司である男はなぜか愉快そうに笑う。
「本来は向こうの仕事だ。あまりに酷い状況だったからこそ、我々が手を下したのだろう。
 まったく、身内で化物を飼っていたことにも気付かないとは、警察も情けないことだな」
「……この方は、化物などではありません」
彼は立派な人物だった。
そんな彼を何が凶行へ走らせたのか。なぜ狂気へ走らざるを得なかったのか。
それをいくら此処で語ったところで、彼の罪は変わらない。
と、上司が思い出したように「そういえば」と呟いた。
「お前とこの男とは顔見知りだったのだな。やはり、やりたくなかったか?」
「いいえ」
その問いに、私はためらいなく否定を返す。
「こうしなければ、彼は救われないままでしたから」
言いながら、自分でも判で押したような答え方だと思ったが、上司は特に何も言わずただ「そうか」と頷いた。

教会には静寂が満ちている。
ステンドグラスから差し込んだ月の光が、彼の遺体に降り注いでいる。
ほんの数十分前までは生きていて、ほんの数日前までは捜査のついでだと言いつつ教会に顔を出していた男。
元々白かった手袋は、今は彼の血で赤く染まっている。
「……先生」
椅子に腰掛け、自分の両手を見つめたながら、私は上司に呼びかける。
「私の手は、救うに値する手なのでしょうか」
救済は万人に等しく与えられる。たとえそれが罪人でも。
だが、万人が全て、等しく救いを欲するのだろうか。果たして彼は救いを求めていただろうか。
おそらく彼は否と答えるだろう。そう、それを常に求め欲し憧れているのは、他でもない――
「私は値すると思っているからこそ、お前に仕事を任せているのだが」
顔を上げると、すぐ傍まで上司が来ていた。
「それだけでは不足かね?」
そう言って、まるで子供にするように、私の髪をくしゃくしゃとかき回す。
おそらくこの上司は、私の心情を知った上で、尚も面白がってこんなことをしている。
私はため息をついた。
「それは、ありがとうございます」
「さあ、雑談はここまでだ。そろそろ引き上げるぞ。この死体も、このままここに放置してはおけまい」
上司は私の頭から手を離すと、楽しげな表情を引っ込めて、淡々と言った。
「彼の魂の行く先に、安らぎと幸いがあらんことを……」
その言葉に、私も自分の中の下らない感傷を振り払う。
私は、自分のやっている事を忘れてはならない。やるべき事を見失ってはならない。
そして彼の死に顔も、断末魔も、罪も、理由も。
「先生。一つだけ、お願いをしてもよろしいでしょうか」

+++++

世間を騒がせている未曾有の連続殺人鬼は、現時点で実に六人もの犠牲者を出している。
被害者同士には何の繋がりもなく、共通項はただ一つ、遺体が酷く破損していることだけだ。
しかも六人目の被害者は現職の刑事であり、その事実に人々は更に震え上がっている。
今のところ、七人目の犠牲者は出ていないが、警察の捜査は難航を極めているという。


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